夢のまた夢と言われても (地球の星)
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Quest.1 Smile and Tear

 この作品の主人公の名前は「リベラ」になっています。
 由来は僕自身が大ファンだったニューヨーク・ヤンキースの「マリアノ・リベラ(Mariano・Rivera)」投手です。
 でも、僕は読者がゲームなどでつけた名前を尊重したいと考えているため、好きな名前に置き換えて読んでいただいても結構です。
 また、マンガ版や僕自身の気持ちも踏まえて、主人公のリベラとバーバラがはっきりと両想いの関係になっていますが、ストーリー自体はゲームのエンディングをもとにしています。



 勇者リベラは、仲間であるハッサン、ミレーユ、バーバラ、チャモロ、アモス、テリー、そしてドランゴと力を合わせ、大魔王デスタムーアを倒すことに成功した。

(ドランゴ以外の仲間モンスターについては割愛させていただきます。あしからず。)

 その後、彼ら8人は色々な地域をまわっていた。

 そこでは、世界に真の平和が訪れたことを知った人々から、次々と祝福の言葉をかけてもらった。

 彼らはその度に自分達のやったことの偉大さを感じ取り、この世界の人達の役に立てたことを喜んでいた。

 しかしそんな中、バーバラだけは心の中に不安を抱えており、素直に喜べずにいた。

 それは、大魔王を倒すということは、かけがえのない仲間達との別れを意味していたからだ。

 特に、ボーイフレンドとして見ていたリベラと別れなければならないことへの不安は大きかった。

 でも彼女はそれを決して表に出そうとはせず、これまでと変わらずに笑顔を絶やさずにいた。

 

 レイドック城に戻ってきたリベラは、うたげの中で幸せな雰囲気に浸っていた。

 そして、今は離れ離れになったとしても、時には大切な仲間達のところに行き、これからも楽しく会話をしながら一緒に過ごすことが出来ればと思っていた。

(あっ、そう言えばバーバラはどうしたんだろう?)

 ふとそう思った彼は、「ちょっと失礼します。」と言ってその場から出ていき、バーバラのいるはずの部屋へと向かっていた。

 この時点で彼はまだはっきりと言葉にして伝えたことがないものの、すでに彼女に対しては仲間以上の特別な感情を抱いていた。

 それは彼女も自分に対してそんな仕草を見せる時があっただけに、思い切ってここで告白をしようと考えていた。

 そして、彼女にどんな言葉をかけようかと考えながら、部屋に足を踏み入れた。

 すると、そこにいたのはすでに思いもよらない彼女の姿だった。

(えっ?バーバラが半透明に!?)

 それは全く予想もしていなかった光景だけに、すぐには現実を受け入れることが出来なかった。

 そして、少し間をおいてやっとその理由を理解した。

(忘れていた…。バーバラは夢の世界の人だった。そして未だに実体が無いままだった…。だから大魔王が倒されたとなれば…。)

 やっと現実を理解出来たとはいえ、リベラはそれまでの喜びから一気に現実に引き戻されてしまった。

「バーバラ、そんな…。」

「リベラ、見てしまったのね。出来れば一人でひっそりとカルベローナに帰りたかったけれど…。」

「そんなこと言わないでよ。僕は君が、その…。」

「あたしが…、何?」

「そ、その…、えっと…、一緒にいたいんだ。大切な仲間として、少しでも長く、出来ることなら、いつまでも…。」

「ありがとう。でも…。」

「でも、何?」

「寂しいけれど、そろそろお別れの時が来たみたいね…。」

「……。」

 あまりにも受け入れがたい現実を前に、リベラはそれっきり言葉を失ってしまった。

 バーバラは涙をこらえながら、言葉を続けた。

「さようなら、リベラ…。」

「みんなにもよろしくね…。あたしはみんなのこと、絶対に忘れないよって…。」

 そしてその直後、彼女の姿は完全に見えなくなってしまった。

(バーバラ…。嘘だろ。嘘であってくれ。夢であってくれ。こんなに突然、お別れをしなければならないなんて…。お願いだ。戻ってきてくれ。もう一度会わせてくれ。もっと一緒にいたかった。もっと君の顔を見つめたかった。もっと手をつなぎたかった。そして…、君が好きだということを直接伝えたかった…。ずっと一緒にいたかった…。)

 何という皮肉だろう。心の中では彼女をガールフレンドとして見ていたけれど、今までその気持ちを抑え込んでいた。

 現にバーバラを真っすぐ見つめられるほど、自分はまだ胸をはれる男じゃないと心の中で思っていた。

 今はまだ早い。きっと素直に言える時が来る。その時に本当の気持ちを伝えよう。

 そう思っていた。

 しかし、運命はそこまで長い間チャンスを与えてはくれなかった。

 

 …遅すぎた…。

 …もう、その機会は巡ってこない…。

 …2度と…。

 

 とはいえ、もし仮に想いをすでに伝えていたとしても、いずれ大魔王を倒せば別れの時は来てしまっただろう。

 だったら、言わずに別れてしまった方が良かったのかもしれない。

 だけど、最後まで言わずに、いや、言えずにいたことが、今は耐え切れない程の後悔の念として込み上げてきた。

「バーバラ…、ごめん…。」

 いつしかリベラの目には大粒の涙があふれていた。

 そして彼は崩れるように床に両膝をつき、両手を床に押しあてた。

 まさか、人生で最高の思い出になるはずの日が、こんなことになるなんて…。

 

 その後、リベラが一向に戻ってこないことを気にした父・レイドックと母・シェーラがやってきた。

 彼らは息子が照れ屋だからてっきり戻ってこないのだろうと思っていただけに、仲間を失った悲しみに打ちひしがれている姿はすぐには理解出来ないものだった。

 しかし、リベラから話を聞くうちに少しずつ気持ちを理解し、彼のそばに寄り添い続けた。

「もし自分の思いをはっきりと伝えていたとしたら、別れはもっと辛い、耐えられない程辛いものになっていただろう。そう考えれば、それで良かったのかもしれん。」

「私としては、息子にまだどのような言葉をかければいいのかは分かりませんが、きっとこの悲しみを乗り越えていけますよ。あなたには他にも大切な仲間がいますから。」

 と、せめてもの慰めの言葉をかけた。

 彼らもそれだけで癒すことが出来るような悲しみではないことは十分に承知していた。

 でも、出来ることといえば、それしかなかった。

 

 両親のあたたかい励ましの言葉をもらいながらも、リベラの悲しみの気持ちは一晩中消えることはなく、結局朝まで寝付けないままだった。

 この気持ちをハッサンやミレーユ達に話そうにも、彼らまで悲しませるわけにはいかないという思いが働き、結局行く気にはなれなかった。

 そうなると、この気持ちを話せる人は妹であるターニアしかいない。

 彼はそう考えると、悲しみを懸命にこらえながら朝食を取り終えた後、両親にそのことを伝えた。

「そうか。まあ、一人で抱え込むのもよろしくないだろうからな。」

「あなたがそうしたいのなら、私達は止めません。行ってきなさい。」

 彼らも息子が悲しんでばかりではいけないと思っていただけに、今日中に帰ってくるようにという条件を付けた上でOKを出してくれた。

 

 ライフコッドの村にやってきたリベラは、早速ターニアの住む家にやってきた。

 彼女はリベラが前日、満面の笑みでやってきただけに、その時とはあまりにも表情が違い過ぎることに驚いていた。

 しかし、いつの間にか特別な存在となっていた仲間と離れ離れになってしまったことを打ち明けられると、ようやく気持ちを理解することが出来た。

「そう…。お兄ちゃんはそんな別れを経験したのね。」

「そうなんだ。いつでも会いに行ける別れならともかく、バーバラは夢の世界に帰ってしまった。その世界にはもう行くことが出来ないから、彼女には2度と…。」

「そう…。大切な仲間ともう会えないなんてことになったら、それは悲しいでしょうね。」

「うん…。」

「私がお兄ちゃんのために何か出来ればいいんだけれど…。」

「……。」

 リベラはそれ以上何を言えばいいのか分からず、黙り込んでしまった。

「……。」

 ターニアもそれ以上は何も言わず、ただ兄のそばに寄り添い続けた。

(お兄ちゃん、私じゃダメ?私じゃ、バーバラさんの代わりにはなれないの?)

 彼女は心の中ではそう言いたかった。

 しかし、リベラをますます動揺させてしまうことを気にしたため、言うことは出来なかった。

 2人は重苦しい雰囲気の中にいながらも、兄妹が一緒にいられる時を噛みしめるように過ごした。

 そして気持ちが落ち着いてくると、外に出て散歩をしながらランドをはじめ、色々な村人達と会話をした。

 ランドからは少しギロッとした目で見られたりもしたが、それでもしばらくの間、離れ離れになっていた2人が再会し、並んで仲良く歩いている姿は喜ばしいものだった。

 リベラにとっては、自身がレイドック王子ということもあって、果たしてここになじめるのだろうか、村人達が自分を素直に迎え入れてくれるのだろうかという懸念もあった。

 しかし、ターニアが仲介役になってくれたおかげで、それは杞憂(きゆう)だった。

 

 その日の夕方、ターニアの家に戻ってきたリベラは、その日のうちにレイドック城に帰ることを伝えた。

「お兄ちゃん、もう帰っちゃうの?もっと一緒にいたかったよ。」

「今回は両親から今日中に帰ってくるように言われていたからね。でも、また来るよ。たとえいつも一緒にいることが出来なくても、いつでも会いに来られるんだから。それがどれ程幸せなことかということをバーバラが教えてくれた。だから、彼女への感謝の意味も込めて、また会いに来るよ。」

「分かったわ。じゃあ、私はいつお兄ちゃんが来て、ここに泊ってもいいように家の中をきれいにしておくわね。」

「ありがとう、ターニア。また会おうね。そして僕の気持ちを前向きにしてくれてありがとう。」

「ううん、私はただお兄ちゃんと一緒にいただけよ。それでお兄ちゃんが元気になってくれたのなら、うれしいわ。」

「じゃあ、僕はこれで。今日はありがとう。」

「お兄ちゃん、また会いに来てね。私も機会があればレイドック城に行くから。」

「分かった。その時は城に入れてもらえるように、両親に伝えておくからね。じゃあ、ターニア。」

「バイバイ、お兄ちゃん。」

 ターニアはそう言うと、笑顔を取り戻したリベラがルーラを使って帰っていく姿を見届けた。

(お兄ちゃん、私とはやっぱり兄妹の関係なのかな?それ以上の関係にはならないのかな?もう会えないバーバラさんのことをこれからも思い続けるのかな?)

 兄の姿が見えなくなった後、彼女の心の中にはそんな気持ちがあった。

 しかしその一方で、リベラとバーバラがいつか再会し、いつまでも仲良く過ごすことが出来たらいいねとも願っていた。

 




 この作品ではレイドック王の名前を「レイドック」にしています。
 僕は本名無しがあまり好きではなく、この人物の正式な名前をつけたいとずっと思っていました。
 そうしたら、シェーラが「レイドックが」と言う場面があることを知ったため、これを本名にしてみました。



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Quest.2 ロンガデセオの鍛冶屋

 今回登場するサリイさんの名前表記と一人称は、ゲームに合わせてそれぞれ「サリイ」と「あたい」(マンガ版では「サリィ」と「あたし」)ですが、父親のコブレはマンガ版に合わせて生きている設定になっています。
 僕はマンガの8巻に登場した彼女を見て、一目ぼれする程気に入り、ぜひ登場させたいと思っていました。
 さらにこのQuest.2ではミレーユもバーバラも登場しないため、メインヒロインとして彼女に白羽の矢を立てました。



 あれから時は流れ、人々は平和になった日々に徐々になじんできた。

 リベラ達は転職によって覚えた呪文や特技、そして魔物のボス達をも倒した程の実力を封印した。

 それによって、呪文や特技も基本的にレベルアップやイベント習得によるもののみとなった。

(※一部例外があります。作者は死者を生き返らせる記述をNGにしているため、ザオラルやザオリク、世界中の葉などは除外します。一方で、遊びは使えると思った物を作中でいくつか採用しています。)

 一時は涙が枯れる程泣き続けていたリベラも、ターニアや仲間達の優しさに触れながら少しずつ立ち直っていき、徐々にレイドック王子としての自覚を取り戻していった。

 そんな息子の姿を、父のレイドックと母のシェーラは、時に優しく、時にはいつまでもクヨクヨしないでという感じの厳しさで接していた。

 

 そんなある日、レイドック城の庭では、リベラとハッサンが話し合いをしていた。

 リベラは以前から大魔王を倒した後、実戦の機会が無くなったことで、体がなまってしまうことを気にしていた。

 そのため、せめて懸垂(けんすい)か何かで腕力を鍛えたいと思いを抱いており、ハッサンが遊びに来た時にそのことを伝えた。

 すると彼は「じゃあ俺が鉄棒の支柱部分を作ってやるから、棒の部分はラミアスの剣を作ってくれたサリイさんに依頼しようぜ。」と言い出してきた。

 それを聞いたリベラは「そん、そうしよう。」と同意し、ハッサンと一緒にレイドックとシェーラの前に出向き、その意図を告げた。

「そうか、お前も考えているな。いいだろう。早速そのためのお金と材料の鉄を用意することにしよう。」

「出来上がったらしっかりと体を鍛えるんですよ。そしてお城の兵士達にも使ってもらうことにしましょう。」

 彼らはその場でOKを出してくれた。

 リベラはその費用を自分で稼ぎたいと主張したが、兵士達も使うからという理由で、最終的に公費で作るという提案に同意した。

「やったな、リベラ!自分でお金払わなくて済んだぞ!」

「僕としては何割かだけでも払いたかったけれどな。」

「気にするな。じゃあ、高さや長さをどうするか早速決めに行こうぜ。」

「うん、そうしよう。」

 2人は鉄棒を立てる予定の場所に戻ってくると、細かいプランについて話し合った。

「じゃあ、この場所に2本ってことでいいな?リベラ。」

「うん。じゃあ早速それを紙にまとめておくよ。そしてサリイさんのところに行って、交渉してみる。」

「頼むぜ。じゃあ、俺はこれから支柱の材料をそろえに行くからな。」

「頼んだよ。」

 彼らは会話をしながら、人目の付かない所にやってきた。

 そしてハッサンはキメラの翼でサンマリーノへ、リベラはルーラでロンガデセオへと向かっていった。

 

 ロンガデセオは元々無法者が集まるというだけあって、世の中が平和になったにも関わらず、まだまだ不穏な雰囲気が漂っていた。

 まるでアモスがいつか言っていた「魔王はいませんが、魔王みたいな人はたくさんいます」というような言葉を現実に当てはめたかのようだった。

 入口には野良犬が1匹いて、どうやらえさを探しているようだった。

 リベラは犬を刺激しないように通り抜けようとしたが、こっちを見るなり突然吠え出してきた上に、飛びかかってきたため、戦闘になってしまった。

 

 野良犬があらわれた!

 野良犬はいきなり襲いかかってきた!

 

 1ターン目

 野良犬:通常攻撃(成功)

 

 2ターン目

 リベラ:通常攻撃(野良犬は攻撃をかわした)

 野良犬:吠えた

 

 3ターン目

 リベラ:ひるんだため、1回休み

 野良犬:通常攻撃(成功)

 

 4ターン目

 リベラ:通常攻撃(成功)

 野良犬は逃げ出した!

 

 いきなり戦闘になったため、少しビックリしたリベラだったが、すぐに落ち着きを取り戻すと自身にホイミをかけ、鍛冶屋に向かって歩いていった。

 

 家にたどり着くと、彼は扉をコンコンと叩いた。

 すると、中からは『どなたですか?』という、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 その声はチャモロに違いなかった。

「こんにちは、リベラです。」

『おおっ!リベラさんですか!ちょっと待って。今行きます!』

 すると急ぎ足の音が聞こえるようになり、扉が勢いよく開いた。現れたのはやはりチャモロだった。

「こんにちは。そしてお久しぶりです。リベラさん。」

「久しぶり。ところで君はどうしてここに?」

「私はサリイさんとコブレさんに、鍬(くわ)や鋤(すき)などの農作業道具を作ってもらったんです。」

 話によると、チャモロは仕事が無くて困っている人達を助けるために、ゲントなどでお金を集め(要するにクラウドファンディングです)、そのお金で農作業用の道具を作って無償提供しているということだった。

 家の中に入ると、コブレとサリイはすでに出来上がっていた農作業道具を見ながら、お茶を飲んでいるところだった。

「こんにちは、おじゃまします。コブレさん、サリイさん。」

「よおっ!リベラじゃねえか!久しぶりだな!」

「お久しぶりです、リベラさん。」

 サリイは少しぞんざいながらも元気な声で、コブレは控えめな声であいさつをした。

「あんたもあたい達に何か依頼かい?」

「はい。今日はそのためにここにやってきました。」

 リベラはそう言うと、紙を取り出して開き、要件を説明した。

「へえ、武器じゃなくて鉄棒か。珍しい依頼だな。」

「まあ、以前から体を鍛えたいと思っていましたので。」

「でもあたい達はチャモロからの仕事を終えたばかりで疲れ切っているから、少し休ませてもらうけれどいいかい?」

「大丈夫です。今日は依頼をしに来ただけなので。」

 サリイとリベラが会話をするかたわらで、コブレとチャモロは紙に書かれた内容をじっと見ていた。

「コブレさん、これだと料金はどれくらいになりそうでしょうか?」

「そうですねえ…。材料の鉄は向こうで用意してくれるということですが、仮に木炭をこちらで用意となると、ざっと…、これくらいになるでしょうか?」

「ちょっとかかりそうですね。」

「まあ、木炭も向こう持ちなら、これくらい値引き出来ます。」

「これだったらリベラさんは自分で用意すると言い出しそうですね。」

 チャモロと会話をしながら、コブレはその紙に条件と料金を書き込んだ。

 

 サリイとの会話が一区切りしたリベラは、コブレから料金の見積表を見せてもらった。

 それを見て、彼は「木炭については考えていなかったな。」と言いながら、少し考え込んでしまった。

「まあ、慌てることはないよ。それをあんたの親父に報告して、判断をしてもらえばいいさ。」

「そうだね。そうするよ。あっ、それで、今思いついたんだけど。」

「何だい?」

「今度も作業を手伝った方がいいかな?以前(マンガ版で)、ラミアスの剣を鍛え直してもらった時、みんなで手伝ったように。」

「おおっ!あんたも来るのかい?じゃあ、あたいと親父を含めて4人になるだろうな。」

「4人ってことは、もう一人来るんですか?」

「そう。アモっさんさ。」

「ということは、アモスさん?」

「そう。彼は以前チャモロに誘われてここに来たんだ。そしてここでチャモロと共にあたいと親父の手伝いをしてくれたんだよ。」

「えっ?チャモロ、本当?」

 リベラは驚きながら彼の方を向いた。

「その通りです。私は全部を見ていたわけではありませんが、アモスさんは結構張り切っていましたよ。寝る間も惜しんで働いていましたし、食事の準備や洗たく、お風呂の準備もしていました。」

「へえ、凄いな。これならサリイさんやコブレさんも戦力として認めてくれそうだね。」

「その通りさ。だから今度依頼が来たら、彼に声をかけてみようと思っているんだ。」

「さらにチャモロ君が色々仕事を持ってきてくれたおかげで、お金もたまってきて、やっと人を雇えるようにもなりました。チャモロ君、君には本当に感謝をしています。ありがとう。」

「い、いえ。私はただあなた達がお金に困っていたのを聞いて、何とかしたいと思ったんです。それで、出来ることを色々したまでで…。」

 2人に褒められて、チャモロは思わず照れ笑いを浮かべていた。

「チャモロ。やっぱり君は僕達と一緒に旅をした、大切な仲間の一人だ。コブレさんとサリイさんを幸せにしてくれて、本当にありがとう。ますます見直したよ。」

「リベラさん、ありがとうございます。照れるなあ…。」

 チャモロは恥ずかしがるような表情をしながらも、人の役に立てたことを素直に喜んでいた。

 

 それからしばらくして、リベラは両親と話をしてプランがまとまったら、材料を持ってまた戻ってくることを告げ、鍛冶屋を後にしていった。

 一方、チャモロは出来上がった鍬や鋤を受け取ると、コブレとサリイにお礼を言って、かぶっている風の帽子を使って目的地へと向かって行った。

 そして、それらを人々に手渡すと、今度はモンストルの町へと向かって行った。

 

 モンストルの町では、アモスが以前コブレとサリイに作ってもらった道具を使って、農作業をしていた。

 チャモロは彼に会うと、早速新たな仕事の依頼が舞い込んだことを伝えた。

「なるほど。今度はリベラさんが鉄棒を作ってほしいという依頼をしてきたんですね。」

「はい。多分、仕事開始は1週間後辺りになるでしょう。それまでに体調を整えて、準備をよろしくお願い押します。」

「分かりました。ではそれに備えて、ご飯をいっぱい食べて、不眠不休の作業に耐えられるように準備をしておきます。」

「ありがとうございます。では、私もこの農作業を手伝わせてもらってもいいですか?」

「いや、そんな。チャモロさんはサリイさんのところでの作業を終えたばかりで疲れていることでしょう。気持ちは分かりますが、その気持ちだけ頂いておきます。」

「そうですか。実はそれ程疲れているわけではないんですが、でもせめてお茶だけは入れさせてください。」

「いいでしょう。よろしくお願いします。」

 それを受けて、チャモロは早速お茶の準備をしに行った。

 

 彼が戻ってきた時には、アモスの方も作業が一段落つき、休憩をしていた。

 そして差し出されたお茶を飲むと、「あー、極楽、極楽。」と言って、気持ちをリラックスさせた。

 アモスがお茶を飲み終わると、チャモロはコップを洗いに行った。

 そして戻ってくると、確認のためにもう一度要件を伝え、自分はゲントの町に戻ることを伝えた。

「チャモロさん、そんなにあちこち飛び回ると、移動で出費がかさむんじゃないですか?」

「大丈夫です。確かにキメラの翼を使っていたらそうなりますが、私にはこの風の帽子がありますので、好きなだけ色んな所に飛んで行けるんです。」

「おおっ!それは便利ですね。あっ、それでふと思いついたんですが、私、以前から疑問に思っていたことがあるんですよ。」

「何ですか?疑問って。」

「キメラの翼なんですが、なぜ『キメイラの翼』と言わないんでしょうか?私はキメイラを見たことはあるんですが、キメラは見たことがないんですけれど…。」

「あっ、確かに言われてみれば、私も見たことがありませんねえ…。」

「でしょう。それならなぜこんな名前になったんでしょうか?なまったんでしょうかねえ?」

「うーーん…。もしかしたら、キメイラは別世界からやって来て、『生まれた世界ではキメラと呼ばれていました』と言ったのかもしれませんね。」

「あー、なるほど。」

 というわけで、アモスはその疑問に少しは納得のいく答えを見つけ出したようだった。

 

 でも、何故ドラゴンクエストⅥにはキメラがいないのだろう…。

 




マンガ版の主人公の名前が「ボッツ」ということを踏まえて、ボツシーンです。


 家の中に入ると、サリイはすでに出来上がっていた農作業道具をじっと見つめていた。
「こんにちは、おじゃまします。サリイさん。」
「ん?リベラか。久しぶりだな。今日は何だい?また何か依頼でもするのかい?」
 両親のいないサリイは寂しいのだろう。どこか元気がなさそうだった。
「はい。今日はそのためにここにやってきました。」
 リベラはそう言うと、紙を取り出して開き、要件を説明した。
「…武器じゃなくて鉄棒か…。珍しいな。」
「はい…、以前から体を鍛えたいと思っていましたので。」
「でもさ、あたいはチャモロからの仕事を終えたばかりで疲れ切っているんだよ。ちょっと休ませてくれよ。いいか?」
「あっ、はい…。大丈夫です。今日は依頼をしに来ただけなので…。」
 サリイの少しきつい口調に怖気づいたのか、リベラは少し戸惑うように答えた。
「ああ、分かったよ。でも、料金くらいは分かった方がいいと思うから、ちょっと今から算出してみるわ。ええっと…、材料の鉄はあんたの親父が用意だな。そして木炭をこちらで準備だと、ざっと見…、これくらいだ。」
「ちょっとかかりそうですね。」
「ああ、そうかい。そう思うんだったら、そっちで用意してくれ!」
「はい…。じゃあ、自分達で準備します。」
「じゃあ、料金はこれだ。しっかり用意しておくんだぞ!」
「はい。」
 リベラの同意を受けて、サリイは少し顔をしかめながらその紙に条件と料金を書き込んだ。


※こちらはコブレが登場せず、サリイが一人暮らしをしている方のバージョンです。
 下書きで2パターン書いて、コブレが生きている方を採用しました。


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Quest.3 アモス劇場

 この日、リベラとアモスはロンガデセオの鍛冶屋でコブレ、サリイと共に鉄棒用の棒を作るための作業に参加していた。

 最初はコブレとサリイが中心になって作業をしており、リベラとアモスは見ながら手順を覚えることが中心だったが、途中からリベラが座って熱くなった鉄を火ばさみ越しに持ち、アモスが立ちながら叩く役を買って出た。

 その様子をコブレとサリイは注意深く見守り、時にはアドバイスを送っていた。

「2人ともなかなか覚えるのが早いじゃないか。あたいの予想以上だよ。」

「本当ですか?ありがとうございます。」

「ハア、ハア…。でも、これを休まずに続けるって本当に大変ですね。」

 リベラとアモスはすでに全身が汗びっしょりだった。

「でも、少しでも丈夫な鉄の棒にするためには妥協するわけにはいかん。頑張るんじゃぞ。」

「コブレさん、分かりました。妥協することなく、頑張って叩き続けます。」

「僕も頑張ります。僕が依頼したことですし、鉄の熱さになんか負けてはいられません。」

 2人は息を切らしながら鉄を鍛え続けた。

 

 その頃、チャモロが色々な荷物を持った状態で、鍛冶屋に到着した。

「こんにちは、コブレさん、サリイさん。チャモロです。」

「チャモロ君か。こんにちは。」

「今日は何の用だい?またあたい達に新しい仕事の依頼かい?」

「実は農作業道具をもらった人達が、あなた達へのお礼としてお弁当を4人分作ってくれたので、それを持ってきました。」

「お弁当かね?これはありがたい。」

「じゃあ、早速あたい達が2人分いただくね。」

「どうぞ遠慮なく。それから、その人達の娘さんからあなた達宛にお手紙をいただいてきましたので、これもお渡しします。」

「そうですか、お手紙まで。私達は本当に皆さんから感謝をしてもらっているようですね。」

「それでこそこっちもやりがいが出るってもんよ。後で読もうな、親父!」

「ぜひ読みましょう。」

 2人は喜びながらお弁当とお手紙を受け取った。

「じゃあ、私は次の目的地に行くので、これで失礼します。」

「早いな、おい。今リベラとアモスも来ているんだぞ。」

「そうですよ。2人にあいさつでもすればいいのに。」

「いえ、ちょっと急ぎの用事なので、ごめんなさい。」

 チャモロはそう言い残すと、急ぎ足で鍛冶屋を後にし、風の帽子を使って飛び立っていった。

 

 コブレとサリイは、リベラとアモスが隣の部屋で頑張って棒を叩き続ける音を聞きながら、おいしそうにお弁当を食べていた。

 そして食べ終わると、もらった手紙を広げて読み始めた。

 そこには、彼女が下手ながらも一生懸命書いた字で、次のようにつづられていた。

 

 コブレさんとサリイさんへ

 このたびは、わたしたちのために、のうさぎょうようのどうぐをつくってくれて、どうもありがとうございます。

 どうぐがとどいたときは、ほんとうにうれしかったです。

 みんなでおかねをだしあって、つくってもらったものなので、わたしのりょうしんをはじめ、まちのひとたちは、みんなだいじにつかっています。

 しごとがなくてこまっていたひとたちも、いまはすごくやるきになって、まいにちさぎょうにはげんでいます。

 ほんとうは、ちょくせつあいにいきたいけれど、いまはまだいくことができません。

 だから、りょうしんにすすめられて、てがみをかくことにしました。

 コブレさん、サリイさん、ほんとうにありがとう。

 

 あと、りょうしんにはないしょだけれど、こないだ、てすとでこたえられなかった、ことわざのもんだいをかいておきます。

 Q.1:そなえあれば(  ?  )

 Q.2:いぬもあるけば(  ?  )

 こたえをおしえてください。

 

サリイ「アハハハ…。子供らしいや!どさくさにまぎれて問題に答えてくれってさ!」

コブレ「他に聞ける人がいなかったんでしょうかねえ…。」

「きっと聞いたら恥をかくとでも思ったんだよ。」

「もしくは、自分のプライドが許さなかったのかもしれませんね。」

 

 2人は休憩の後、リベラとアモスと役割を交代することにした。

 その際、チャモロからお弁当と手紙を受け取ったことを話した。

「ありがとうございます。じゃあ、早速僕もお弁当をいただきます。」

「私もいただきます。そしてそのお手紙も読んでみます。」

 リベラとアモスはお辞儀をしながらお礼を言った。

「じゃあ、あたいたちが引き継ぎをするから、あんたたちはゆっくり休んでいてくれ。」

「あと、2人とも汗びっしょりだから、体もきれいにして、着替えておいてくれ。」

「分かりました。では、僕はお言葉に甘えてそうさせていただきます。」

「私は先にお弁当をいただきます。何しろお腹ぺこぺこなので。」

 アモスは早速お弁当箱のフタを開けて、おいしそうに食べ始めた。

 一方のリベラは「コブレさん、サリイさん、頑張ってください。では、僕は着替えた後でいただきます。」と言って、代わりの服が置いてある部屋に向かっていった。

 そして着替えが終わると戻って来て、お弁当を食べ始めた。

 

 食事後、2人はその手紙に目を通した。

「こうやってみんなから感謝されると、僕達にとってもうれしいですね。」

「そうですね。私もやる気がわいてくるってもんです。ところで、どさくさにまぎれて、質問までするってお茶目ですね。」

「これ、アモスさんなら簡単に答えられますよね。」

「確か、『そなえあれば うれしいな』でしたっけ?」

「違いますよ。『そなえあれば うれいなし』ですよ。」

「あっ、そうでしたね。では2問目は、確か『いぬもあるけば

(注:この直後、アモスが言葉を噛んだことが原因で大変な事態になったため、以降の会話はカットさせていただきます。)

 

 それから2日後、努力の甲斐があって、ついに立派な鉄棒が2本完成した。

「ありがとう、サリイさん、コブレさん、そしてアモスさん。あなた達のおかげで立派なものが出来上がりました。本当にありがとう!」

リベラは満面の笑みを浮かべてお礼を言った。

「それはお互い様さ。あたいもあんたの役に立てて良かったよ。仕事の依頼、ありがとうな。」

「これでまたしばらくの間、生活に困らなくて済みます。こちらこそ、ありがとう。」

「良かったですね。リベラさんのそのうれしそうな顔を見て、私もうれしいです。」

 コブレ、サリイ、アモスの3人も疲れてはいたが、それを忘れるくらいの達成感と満足感に満ち溢れていた。

「それじゃ僕はこの棒を持って、今からルーラでレイドックに戻ります。」

「えっ?リベラさん、少しゆっくり休んでからでもいいのでは?」

「多分ハッサンが支柱を用意してすでにレイドック城に到着していると思うので、彼を待たせるわけにはいきません。」

「そうか。それなら仕方がない。じゃあ、気をつけて。」

「はい、分かりました。アモスさん、ありがとうございます。」

 リベラはお辞儀をしながらお礼を言った。

 さらに、コブレとサリイにもお辞儀をしながら「ありがとうございます。」と言った。

「お気をつけて。また来てください。」

「じゃあ、元気でな。また来てくれよ。」

 2人は笑顔でそう言ってくれた。

 そしてリベラは2本の棒を大事に抱えながら外に出ると、早速ルーラを唱えて、レイドック城に向かって飛び立っていった。

 

 一方のアモスはゆっくり休んだ後、鍛冶屋で料理を振る舞ったりしながら、一夜を過ごした。

 そして翌朝、食事を済ませると2人にお礼を言って、徒歩でロンガデセオを後にしていった。

 一人になった彼はぶらぶらと山道を歩きながら、自分のこれまでの発言を色々と思い出していた。

 

ケース1

『私、彼にフラれた後、食べ物がのどを通らなくて…。』

『じゃあ、すりつぶしてスムージーみたいにしたら、通りませんかねえ。』

 

ケース2

『ホリディがお堀でお待ちです。わっはっは!まじめな顔してシャレですか!』

 

ケース3

『バーバラさんの明るさに、胸がキューンとしました。リベラさんがうらやましいです!』

『やだーーっ!アモスさんにそんなこと言われたら、あたし困っちゃうな。』

 

ケース4

『あっ!木こりの人が大事に使っていたオノを壊してしまった!OH, NO!』

ミレーユ『それ、誰かさんが似たようなことを言っていたわね。』

『誰でしょうか?』

『多分、36歳くらいの力自慢な男の人が言っていたと思うわ。』

 

ケース5

『皆様、この度はスタメンだけでなく、馬車内でもその存在感をいかんなく発揮している、パーティーのアイドル的存在のバーバラさんが、誰よりも積極的にホイミを唱えております。30ポイント以上のダメージを受けている方には、馬車から彼女の愛のこもったホイミが飛び込んでくる場合がありますので、呪文の行方には十分にご注意ください!』

一同『アハハハ…。』(+拍手)

ハッサン『いいぞ、アモっさん!』

 

ケース6

女性『この度はモンスターに襲われていた私を助けていただき、誠にありがとうございます。お礼に、このうさみみバンドを差し上げます。受け取ってくれますね?』

『いや、私は男ですから装備出来ませんし、結構です。』

『そんな、ひどい…。かわの帽子よりも守備力が18高いんですよ。受け取ってくれますね?』

『いいえ。』

『そんな、ひどい…。おなべのフタよりも守備力が18高いんですよ。受け取ってくれますね?』

『いいえ。』

『そんな、ひどい…。ただの布きれよりも守備力が17高いんですよ。受け取ってくれますね?』

『いいえ。』

『そんな、ひどい…。とんがり帽子よりも守備力が17高いんですよ。受け取ってくれますね?』

『いいえ。』

『そんな、ひどい…。布の服よりも守備力が16高いんですよ。受け取ってくれますね?』

『いいえ。』

『そんな、ひどい…。かわのたてよりも守備力が16高いんですよ。受け取ってくれますね?』

『いいえ。』

『そんな、ひどい…。』

(※この後、うさみみバンドよりも守備力の低い装備品の名前が延々と出てきます。)

『いいえ。』

『そんな、ひどい…。魔法のたてと同じ守備力なんですよ。受け取ってくれますね?』

『仕方無いですねえ。まあ、装飾品の名前こそないものの、装備品の一覧表も見ずにそこまで言える知識も凄いですし、さらには延々としゃべり続けてのどがカラカラでしょうから、受け取ることにしましょう。』

『本当ですか?うれしゅうございます。ぽっ。』

 

 彼がこれまでの発言を思い出しながらニヤニヤしていると、近くにある茂みのところで、何かガサガサ音がしたような気がした。

(ん?誰かいるのか?モンスターか?それとも?)

 彼は腰にさしていた剣に手をやって身構えた。

 すると次の瞬間、茂みが大きく揺れ、2人組の男女が姿を現した。

「何だ、お前達は?」

「おいっ、お前!武器を捨てろ!」

「有り金とアイテムをよこせ!」

 女性と男性はいきなりアモスを脅してきた。

「あの、その前に名前を教えてもらえませんかねえ?私はアモスと申します。」

 こんな状況になっても、彼は至って冷静だった。

「あたいはトーイ。こっちは弟のレイだ!こう見えても盗賊やってんだよ!」

「そうさ。俺達は一度逮捕された後、脱獄してまたこうして活動をしてんだ!」

(※この2人はマンガ版の第1巻で登場します。)

「あの、わざわざ自分で盗賊だの、脱獄だの言わなくても…。」

「うるさいね!とにかくあたい達はお金とアイテムを欲しがってんだよ!」

「もしくは、俺達の仲間になれ。もし味方になれば、世界の半分をお前にやろう。どうだ?味方になるか?」

「じゃあ、遠慮なく。」

「本当だな?」

「はい。」

「では世界の半分、『世』の字を与えよう!」

「く…、くだらないですね。やっぱり結構です。」

「おろか者め!思い知るが良い!」

 結果的にアモスは誘いを断ったことで、戦闘に巻き込まれてしまった。

 

 1ターン目(2人の先制攻撃)

 トーイ:通常攻撃(成功)

 レイ:盗み(アモスは薬草とアモールの水を盗まれた)

 

 2ターン目

 トーイ:あしばらい(成功)

 アモス:あしばらいのため、1回休み

 レイ:通常攻撃(成功)

 

 3ターン目

 レイ:捨て身(アモスは攻撃をかわした)

 アモス:通常攻撃(レイにヒット)

 トーイ:みかわしきゃく

 

 この後、アモスは通常攻撃とホイミで懸命に応戦していた。

 しかし相手が2人である上に、トーイがあしばらいやみかわしきゃくを駆使するため、当たれば大きいはずの攻撃力をなかなか思うように発揮出来ずにいた。

 さらにその隙にレイが盗みを挟みながら力任せの攻撃を仕掛けてくるため、じわじわとダメージが蓄積してきた。

(このままではまずい。何とか打開しなければ。かくなる上は…!)

 そう思ったアモスは、変身することを選択し、モンスターに姿を変えた。

「ぎょええーーーっ!ちょ、ちょっと待ったーーっ!何だこいつは!!」

「正体はモンスターだったのか!?マジ、降参!こんな奴と戦ったら殺される!」

 トーイとレイの2人は腰を抜かすほど驚き、尻もちをついたまま、とうとう戦闘を放棄してしまった。

 戦いはアモスの勝利に終わった。

 彼は元の姿に戻ると、盗まれたものを返してもらえるよう、お願いをした。

「あわわわ…。分かりました。返します、返します。」

「さらにあたいからはおなべのフタとステテコパンツ、そして120ゴールドを差し上げます。」

「カ、カッコよさ超マイナスなんですが、まあいいでしょう。受け取ります。」

 結果、アモスは盗まれたアイテムに加えて上記の2つと、お金を手に入れた。

 

 その後、アモスは一人でテクテクと歩き続け、その日の夕方にとある町に到着した。

 そこで泊まるための宿を探していると、そこでテリーにばったりと遭遇した。

「アモっさん、どうしたんだよ、こんなところで。」

「いやあ、そろそろ宿で一休みしたいなと思って。テリーさんこそ、ここで何を?」

「同じく、宿に泊まろうと思ってな。でも、ここ、ちょっと高くてな。」

「じゃあ、私は盗賊からこんなアイテムをもらったので、これを売って宿代にでもしましょうか?」

「何だこれは!趣味の悪い盗賊だな。」

「私もそう思います。」

 そうしているうちに辺りは暗くなってきたため、2人は急いで道具屋に向かい、ステテコパンツとおなべのフタを売った。

「ところでアモっさん、うさみみバンドまで持っているじゃないか。何でそんなものを?」

「あっ、これですか?実は以前、モンスターに襲われていた女性からいただいたんですよ。でも私は装備出来ないから、売るしかないかなと思っているんですが…。」

「じゃあ、俺にそれをくれないか?」

「テリーさんも装備出来ないのに、どうしたんですか?」

「そのうちドランゴに会おうと思っているんだ。彼女が以前『私もうさみみ着けたい』と言っていたから、望み通り着けさせてやろうと思ってな。」

「ドランゴさんにそんな好みがあったなんて…。私にはそんな姿、ちょっと想像出来ませんが。」

「ああ。俺も意外だった。」

 2人が話をしていると、宿屋の前までやってきた。

「じゃあ、アイテムを売ったお金もあることですし、これで今日は一緒に泊まりましょうか?」

「アモっさん、いいのか?割り勘しなくても。」

「私は大丈夫です。これで払わせてください。」

「じゃあ、言葉に甘えるぜ。」

「分かりました。」

 こうして2人は宿屋にチェックインしていった。

 

 




 このQuest.3の後半に登場するトーイとレイは、元々ビッグとスモックでした。
 ステテコパンツはその名残です。
 変更した理由としては、回想シーンの後、全然女性キャラが出てこなくて、何だかむさい気がしたからです。

 僕はドラクエに限らず、RPGの敵キャラに女性(またはメス)がもっといてほしいという気持ちを持っていることもあって、スライムベス(英語名:She-slime)はメスと考えていますし、敵キャラのまほうつかいは、中身が女性でもおかしくないと考えています。
 それを踏まえて、次のQuest.4にも女性の敵キャラが登場します。


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Quest.4 占い師

 世界が平和になった後、ミレーユはマーズの館で占い師になるための修行に励んでいた。

 最初はなかなかうまくいかなかったが、グランマーズの指導の下でメキメキと腕を磨き、ついに彼女から占い師としての許可がおりた。

 今日はいよいよデビューの日、彼女に舞い込んだ最初の仕事は、行方不明の肉親をさがしてほしいというものがあった。

 その人の名前や住んでいた場所、特徴など、出来るだけ詳しい情報を聞き出したミレーユは「では、いきますよ。」と言って、水晶玉に手をかざし、その人の行方を占った。

 しかし、結果は依頼人の一番恐れていたものを映し出してしまうという、最悪のものだった。

 依頼人の人はあまりのショックに泣き出してしまい、走ってマーズの館から出ていってしまった。

 ミレーユは「待って!」と言いながらその人を追いかけようとしたが、グランマーズから「おやめなさい!」と言われて引きとめられてしまった。

「どうしてよ!おばあちゃん!」

「これも結果じゃ。占い師というのはいいことばかりではない。こういうことも時として起きるんじゃ!」

「でも、だからって、結果だけ見せておしまいって言うわけにはいかないでしょ!」

「まあ、そうじゃが、やがて結果がはっきりと分かった方が良いという気持ちになる時も来るじゃろう。その時まではそっとしておくべきじゃ。」

「でも…。」

 彼女はそれ以上何も言えなくなり、黙り込んでしまった。

「ミレーユや、お前さんの最初の仕事がこのようなことになったのは残念じゃった。じゃが、このような経験ならわしもしておる。それも数え切れないほどじゃ。その度に胸が張り裂けそうになった。辞めたいと思ったことも何度もあった。それでもわしはあきらめなかった。そのおかげで、うれしいこともたくさん経験してきたぞい。」

「…私にもそんな時が来るかしら?それまでに、悲しいことに後どれだけ触れていくことになるのかしら…。」

「わしがお前さんの未来をこの場で占ってみれば分かるかもしれん。じゃが、未来のことが分かってしまったら、それはそれでみんなから嫌な目で見られることもある。それに、分かってしまったら人は努力をしなくなる。結局は未来のことなど分からない方がいい。これがわしの出した結論じゃ。占い師である以上、悲しいことも、うれしいことも受け入れていくんじゃ。」

「…分かったわ…。ありがとう、おばあちゃん。」

 グランマーズの励ましを受けて、ミレーユはやっと気持ちを落ち着けることが出来た。

 そして30分後に訪れた次のお客さんに対しては、何事もなかったように対応をしていた。

 

 後日、ミレーユは最初の依頼人のところに自分の足でおもむいていった。

「先日はごめんなさい…。こんなことになってしまって…。」

「いいんです。あの時は悲しみのあまりに飛び出していきましたが、もう吹っ切れました。私としては、親の眠る場所が分かっただけでも十分です。これから私はお墓参りに行きます。そして、手を合わせて祈りながら、私を産んでくれたことに感謝するつもりです。」

「分かりました。私もあなたが新たなスタートを切ることが出来るように、祈っています。それから、この度は私の方で花束を用意させていただきました。もし失礼でなければ、受け取っていただけますでしょうか?」

「喜んで受け取ります。ありがとう。必ずこの悲しみを乗り越えてみせますので、ミレーユさんも占い師の仕事、頑張ってください。応援しています。」

「はい、頑張ります。」

 ミレーユはそう言って、深々とお辞儀をした。

 そして依頼人が出発するのを見届けて、帰路に着いた。

 

 彼女がマーズの館にたどり着くと、そこにはリベラと一緒に14歳くらいの男の子がいた。

 グランマーズが出かけていることもあってか、扉には鍵がかかっており、中には入れない状態だった。

 そのため、彼らは外にたたずんでおり、待ちぼうけのような状態だった。

「あっ、2人ともごめんなさい。」

「大丈夫、ミレーユ。そんなに待っていたわけではないから。」

 リベラは配慮するように言うと、続けざまにその男の子についての話を始めた。

 彼の名前はクァド。母親を探しているということだった。

 そこまで聞くと、ミレーユは「後の話は中でしましょう。」と言って、鍵を使って扉を開け、3人で中に入っていった。

「では、クァド君。お母さんに関する話を出来るだけ詳しく教えてね。」

「分かりました。お母さんの名前はクィント。僕が7歳の時に出稼ぎ目的で別の町に行きました。最初は仕送りもあったんですが、次第にその額も減っていき、しまいには仕送り自体がなくなってしまいました。今は自分で何とかするしかなくて、その日暮らしをしています。」

「そう…。大変だったのね。」

「はい。そんな中でも僕はお母さんに関する情報を集めました。でも、もう集める手段が無くなってしまって…。」

「そうなんだ、ミレーユ。そして今日、彼がレイドック城近くの草原で行き倒れ寸前になっているのを兵士が見つけて、城にやってきたんだ。そして食事を与え、元気を取り戻した後で、僕が彼を連れてルーラでここにやって来たんだよ。」

「分かりました。本来は50ゴールドの料金だけれど、何だかクァド君に払わせるのもかわいそうだから、今回は無料で占ってあげようかしら。」

「じゃあ、僕が代わりに払うよ。今、この場で支払えるだけの手持ちはあるからさ。」

「リベラさん、そんな。僕が働いて払います。今はその…、そのお金すら無いけれど…。」

「大丈夫。僕に払わせてよ。困っている人の力になりたいんだ。」

「クァド君、ここはリベラのお世話になったら?」

「でも…。」

「私は大丈夫よ。」

 ミレーユはそう言って、ニッコリと笑った。

 その美しい笑顔を見てクァドはドキッとしたのか、少し顔を赤らめ、そしてリベラの提案に同意することにした。

「では、私が占ってあげるから、クァド君とリベラにはこの場を離れてもらってもいい?」

「どうして?ミレーユお姉ちゃん。」

「そうだよ。以前はその場で結果を見せてくれたのに。」

「私も以前はそうしていたわ。でも、悲しい結末になってしまったこともあったから…。」

 ミレーユはそう言って、今日その人に花束を渡してくるまでの体験談を話した。

「というわけよ。だから、あなた達には一旦離れてもらうことにしたの。ご理解いただけるかしら?」

「…分かりました、お姉ちゃん。」

「じゃあ、一旦外に出るよ。」

 クァドとリベラはそう言って、外に出ていった。

 うつむきながら「お母さん…。」と言う彼の姿を、ミレーユは何も言わずにじっと見つめていた。

 そして自分一人になると、水晶玉に手をかざし、祈るような気持ちでクィントという女性について占った。

 

 10分後、落ち込むクァドをリベラが懸命に励ましていると、館の扉が開き、ミレーユが外に出てきた。

「ミレーユ、どうだった?結果は。」

「お姉ちゃん、お母さんは生きているよね?」

 リベラとクァドはすがるように問いかけてきた。

「2人とも、安心して。お母さん、見つかったわよ。」

「本当?お姉ちゃん!本当だよね!」

「この人で間違いないと思うわ。水晶玉越しに見せてあげるから、ついて来て。」

 ミレーユはそう言うと、やさしく微笑みながら館の方に歩き始めた。

「クァド君、良かったね。お母さん、見つかったって。」

「でも、同じ名前の別の人かもしれないし…。」

 クァドはまだ結果が信じられないようだった。

 館に入ると、ミレーユは水晶玉越しにその女性の姿を映し出してくれた。

 その人は現在40代半ばとは思えないように老けた顔つきをしていた。

 どうやら足が悪いのだろう。杖をつきながらやっとの思いで家の中を歩き、時には転んでしまうことすらあった。

 そして家の中には他に誰もいないのだろう。お皿などの食器は一人分しかなかった。

 さらには肝心の食料も底をついてしまったのだろう。手も足もすっかりやせ細っていた。

「クァド君、覚えている姿とは違うかもしれないけれど、この人で間違いない?」

「…間違い…ない…。やせてはいるけれど…、お母さんだ…。お母さん…、生きていた…。」

 彼は目を潤ませながら言った。

「良かったね、クァド君。水晶玉越しにだけれど、お母さんに会えたよ。」

「ありがとう、リベラお兄ちゃん。」

 クァドはそう言うと、彼の胸元で顔をくしゃくしゃにしながら泣き出した。

 ミレーユは(良かった。いい結果になってくれて。)と思いながら、その様子を見守っていた。

 

 しばらくしてクァドの気持ちが落ち着くと、ミレーユはクィントがいる場所を地図で教えてくれた。

 そこは人里離れたところにある一軒家だった。

「うーーん、これだとルーラでこの町に降り立ってから、かなり歩いていかなければならないな。」

「そうね。しかもこの近辺には以前、強い敵に出会ったことがあったから、ちょっと危険かもしれないわね。」

「それでも僕は行くよ。たとえ強いモンスターがいようと、必ずクィントさんのいる家にたどり着いてみせる。そして、クァド君が会いたがっていますよって伝えてくる。そして、会ってくれるのならルーラでここに連れてくるよ。」

「いいの?お兄ちゃん。」

「うん。僕の仲間であるチャモロならきっとそうすると思う。だったら僕だって。」

「じゃあ…、お願いします…。」

 クァドはすがるようにお願いをした。

「じゃあ、私からこれをあげるわね。いつか、夢見のしずくを取りに行く時に、おばあちゃんがくれたように。」

 ミレーユはそう言って、薬草5個を持たせてくれた。

「ありがとう。じゃあ、行ってくる。クァド君、心配しないで待っていてね。」

「うん、お兄ちゃん。お願いします。」

 クァドはそう言うとペコリとお辞儀をした。

 そしてリベラは扉を開けて、ルーラで出来るだけ近くの町へと向かっていった。

 

 リベラが降り立ってから草原を歩き、橋を渡り、山道を歩く間に、彼は何度も戦闘を経験した。

 相手は突然変異を起こしたかのような野生動物や昆虫といったようなものだった。

 幸い魔王の魔力を帯びているわけではなく、どちらかと言えば自分の縄張りに入ったリベラを侵入者と認識したために、襲いかかってきたというのが実情だった。

 そのため、リベラは主に通常攻撃でダメージこそ与えたものの、決して相手をあやめてしまうことはしなかった。

 とはいえ、1人で複数を相手にしてきたため、時には分の悪い戦闘もあり、逃げるを選択することもあった。

 そして移動中、彼はホイミを唱えたり、ミレーユからもらった薬草を使ってHPを回復していた。

 

 歩き始めてから2時間後、すでに日はかなり西に傾いており、もうすぐ日没になってしまう状況だった。

(何とか早く辿り着かなければ。たどり着いて、クィントさんに会わなければ。)

 彼の心には焦りの色がにじんでいた。

 この時点でMPはかなり減っており、薬草も残り1つになっていた。

 険しく、道なき道を息を切らしながら坂を登り切ると、やっと見通しの良い地点が見えてきた。

 リベラが地図を見ながら遠くを見渡すと、ふと朽ち果てた一軒の建物が目に入った。

「あっ、あれかな。多分あれだと思うけれど。」

 まだ少し距離があるとはいえ、目的地らしき建物が見えたことで、彼の顔には笑顔が浮かんだ。

 しかしその時、辺りで何か物音がしたため、彼ははっとしてまわりを見渡した。

 すると突然3方向から大きなマントをかぶった人物が姿を現した。

 一人は非常に小柄で、一人はかなりの大柄、そして残りの一人は中間程度の身長だった。

「誰だ?お願いだ。僕は君達と戦いたくはない。ここを通してくれ。」

 リベラがそう言うと、「ただではヤダ。あたい達は盗賊。」「持ち物と所持金全て置いていきな。」「それともあたい達と勝負する?」という、女性の声がし、全身を覆っていたマントをとった。

 その正体は覆面をした女性3人で、一番体の大きく、ムキムキの体つきをした人はその覆面から、何だかカンダタを思い出させるような容姿だった。

「カンダタシュガー!」

「カンダタハニー!」

「カンダタショコラ!」

一同「3人合わせて、カンダタレディース!」

 彼女らはそう言うと、それぞれのポーズをとった。

(女性3人か。でも一人は見るからに呪文使い、一人は武闘家、あのカンダタみたいな人は見るからに攻撃力が高そうだ。こちらは1人だから、分が悪いな。こうなったら…。)

 そう思ったリベラは、戦わずに逃げることにした。

 しかし3方向を取り囲まれていることもあって、簡単に回り込まれてしまった。

 そして彼女らはそれぞれの特技で攻撃を仕掛けてきた。

 彼は懸命に攻撃をかわそうとしたが、さすがに呪文だけはかわすことが出来ず、ダメージを受けてしまった。

(せっかく目的地らしき場所があそこに見えているのに、こんなことになるなんて。でも何かをすれば手を引くかもしれない。それならやってみよう。)

 彼はそう考えるとライデインを唱え、ある程度はダメージを与えることができた。

 しかしその後に待っていたのは3人の一斉攻撃で、今度は一度もかわすことが出来なかった。

(まずい。勝とうと思ったら最低でもライデイン3発は叩き込まなければいけないな。でも一番大きな人は果たして3発で勝てるかどうか。最もその間に一斉攻撃されることを考えたらこっちのHPが持たない。ホイミをかけても受けるダメージに追い付かない。かといって、逃げるのは回り込まれるのが怖い。こうなったら、悔しいけれど、取るべき手段はあれしかない!)

 腹をくくったリベラは、3人に攻撃される直前に、緊急脱出としてルーラを唱えた。

(クァド君ごめん!今回のところは許してくれ!)

 彼は心の中で謝りながら、真っ赤な夕焼けが見える大空へと飛び立っていった。

 

 リベラの降り立った場所はサンマリーノだった。

 さすがに緊急脱出だったため行き先まで考えることが出来ず、結果的にここに来ることになってしまった。

 すでに太陽は地平線の下に沈みつつあり、辺りは暗くなり始めていた。

(でもここならマーズの館まで近い。真っ暗になるまでに早く行こう。)

 彼はそう思うと、その場所に走っていった。

 

 マーズの館では、ミレーユが美しい声で歌を歌っていた。

 歌を聞いているクァドはこれまでの辛いことを忘れてしまったように、うっとりと聞きいっていた。

 さらに昼間は外出中だったグランマーズもすでに館に戻っていて、同様に聞き入っていた。

 そのためにリベラはしばらく謝りにくくなってしまった。

 しかし、グランマーズがこちらに気がつくと、「ミレーユや、リベラが到着したぞい。最も、一人でじゃがの。」と言って、歌を止めるように忠告した。

「リベラ、お帰りなさい。」

「お母さんと一緒じゃないの?」

「ごめんなさい、クァド君。目的地の近くまでは行けたんだけれど、そこで強敵に出会ってしまって、一人じゃどうすることも出来ず、引き返すことになってしまったんだ。本当にごめんなさい。」

 リベラは頭を下げて申し訳なさそうに謝った。

「僕は大丈夫です。確かにお母さんに早く会いたいけれど、リベラさんにあまり迷惑をかけるわけにはいきません。」

「でも、あの3人の敵からうまく逃げ伸びることさえ出来れば…。」

 リベラは悔しさを隠しきれなかった。

「まあ、1対3の戦いでは仕方ないじゃろう。やられてしまうよりはましじゃ。」

「確かにやられていたら、持ち物と所持金を全て取られていただろうから、それよりは良かったけれど…。」

「とにかくその緊急脱出は、お前さんにとっての最善の策だったはずじゃ。胸を張りなさい。」

「はい。」

 グランマーズに励まされ、リベラは何とか立ち直ることが出来た。

「リベラ、今日はもう夜だから明日また行くことにしましょう。その際は他に仲間が必要ね。ハッサンやチャモロに協力を要請してみようかしらね。」

「分かった。じゃあ、僕は明日サンマリーノに行って、ハッサンに会ってみる。」

「それなら私は水晶玉でチャモロがどこにいるかを調べてみるわね。」

「助かるよ、ミレーユ。じゃあ僕はこれで帰るから、明日の朝またここで会おう。」

「分かったわ。おやすみなさい。」

「クァド君、またね。」

「うん、お兄ちゃん。また明日。」

 クァドがそう言って手を振る姿を見届けながら、リベラはレイドック城へと戻っていった。

 そして館に残ったクァドはグランマーズの計らいで、ここで一夜を過ごすことになった。

 




 名前の由来
クァド(Quad)、クィント(Quint):
 英語のsingle、double、tripleに続く単語quadrupleとquintupleから命名しました。
 後者は現時点でゴルフのquintuple bogeyや、「5倍になる」という動詞としてしか使ったことがありませんが、前者はフィギュアスケートの「4回転」に該当する単語なので、triple程ではないですが、それなりに使った経験があります。
 Quadrupleの略語であるQuadはニュースで「クアッド」と表記されていますが、僕は少ない数のキー入力で済ませるため、QADOと入力し、クァドという表記になりました。
これはクィントも同様で、QINTOと入力しました。
 


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Quest.5 涙のご対面

 翌日、レイドック城で朝食をとり終えたリベラは、人探しの仕事に行くことを両親に伝えた後、サンマリーノに移動した。

 この日、現地では未明から雨が降り続いており、大工の作業が中止になってしまった。

 そのため、ハッサンはすることがなくなってしまい、朝なのに家の中で晩酌を始めようとしていた。

「あの、ハッサン。」

 リベラが後ろから声をかけると、ハッサンは「げっ!リベラ、いつの間に!」と言いながら、驚きの表情とポーズをした。

 その驚きぶりにリベラも驚いたが、すぐに落ち着きを取り戻した彼は早速要件について話した。

 そして、一人じゃだめだったから、手を貸してほしいことを伝えると、ハッサンは喜んで承諾してくれた。

 そして親に出かけることを告げた後、2人でマーズの館に向かった。

 彼らが扉を開けて中に入ると、そこにはすでにチャモロがいた。

「チャモロ、いつの間に!」

 リベラはそう言って驚きのポーズを見せた。

「おはようございます。この度は私もクァドさんの件に協力させていただきます。」

「そのとおり。実はね、私が今朝、水晶玉でチャモロの居場所を見つけて、キメラの翼でゲントの村に行ったの。そして協力出来るか聞いたら、喜んで引き受けてくれたのよ。」

「そうなんです。以前は仕事の依頼が多くて忙しかったのですが、安定しているわけではないので、することがない時もあるんです。だからミレーユさんからこの話を受けた時、喜んでOKを出しました。そして、これから彼女から依頼があれば、時間が許す限りこのような仕事もしてみたいと思っています。」

「そうか、良かった。ハッサンだけでなく、チャモロも引き受けてくれて。これで頼もしい戦力がそろった。」

 昨日は1人で行って、緊急脱出する羽目になったリベラは、ほっと胸をなでおろした。

「ところで、目的地はどこなんだ?」

「そうですよ。それをまず教えてください。」

 ハッサンとチャモロが質問すると、ミレーユは「早速教えるわね。」と言って、水晶玉にその場所を映し出した。

リベラ「多分この荒れ果てた農場に囲まれた、この朽ちた家にいると思うんだけれど、ここはルーラで行ける場所から離れているから、僕は昨日、かなり歩く羽目になったんだよね。」

ハッサン「なるほど。確かに遠いな。それに雨のせいで山越えには厳しい条件になるな。」

チャモロ「でも、私がいれば心配はいりません。」

リベラ「何か秘策でもあるの?」

「ありますとも。この風の帽子はルーラの効果があるだけでなく、途中でそれを解除して、当初の目的地とは違う場所に降り立つことも出来るんです。だから、先の方に向かって飛び立って、上空で解除すれば、この家の近くに降り立てますよ。」

「うおおおっ!それは便利じゃねえか!雨の中、ずぶぬれにならずに済むし、無駄な戦闘をせずに一気に目的地に行けるぞ!なあ、リベラ!」

「そうだね。それを知っていれば僕は昨日、あんなに苦労しなくて済んだのにな。」

ミレーユ「まあまあ。でも、クァド君にとっては、早く母親のクィントさんに会いたいでしょうから、早く辿り着ける手段が出来るのは本当に助かると思うわ。」

リベラ「それで思い出したんだけれど、クァド君は?」

「今朝食を取っているはずよ。」

「そうか。じゃあ、もうしばらく待つことにしよう。その間、作戦会議をしよう。」

 リベラはそう言うと、早速どのような形で現地に行くのかについて、話し合いを始めた。

 

 それから10分後、朝食を終えたクァドの同意を得た上で、チャモロとハッサンが現地に行くことになった。

 一方、リベラはここにとどまり、30ゴールドを払ってクァドと一緒に水晶玉越しに現地の様子を見ることになった。

ミレーユ「クァド君、お母さんにはここに来てもらう形になるけれど、いい?」

「はい、それで十分です。僕もまだ山道を歩ける程の体力はないですし、文句を言うわけにはいきません。」

「分かりました。ではハッサン、チャモロ。クァド君が書いた手紙は持った?」

「おお、ここにあるぜ。心配は無用さ。」

「しっかりと責任持ってお預かりしました。」

「では2人とも、行ってらっしゃい。」

 ミレーユがそう言うと、ハッサンとチャモロは「行ってきます。」と言って、外に出ていった。

 そして未だ降りやまない雨の中、風の帽子を使って空へと飛び立っていった。

 

 マーズの館にとどまっている3人は水晶玉を眺めながら、2人が朽ちた家の近くに降り立ったのを見届けた。

「もうすぐだね。彼らがクィントさんと会うのは。」

「そうね。何とかいい結果になってくれるといいわね。」

 リベラとミレーユがわくわくしている一方で、クァドは心臓がバクバクする程の緊張感に襲われていた。

(お母さん、どうかOKを出して。僕に会いに来て。)

 そんな心のサインを見逃さなかったミレーユは、「きっと大丈夫よ。2人がいい答えを引き出してくれるわ。」と言って、励ました。

 水晶玉では、チャモロがドアをノックし、ハッサンが家の中に向かって、「入ってもいいですか?」と言っているかのように、何かを語りかける姿が映っていた。

 そしてしばらくすると、チャモロがあの手紙を取り出した。

 声は聞こえないが、恐らく「実は息子さんのクァド君があなたに会いたがっています。今回、彼から手紙を預かってきました。」と言っているのだろう。

 そして紙を広げると、書いてある文章を読み始めた。

 クァドが書いた内容は、次の通りだった。

 

 お母さんへ

 僕はクァド、14歳です。

 7年前、出稼ぎに行ったクィントという女性の息子です。

 お母さん、元気でいますか?

 僕のことを覚えてくれていますか?

 たとえ幼い頃の記憶しかないとしても、僕はお母さんのことを忘れてはいません。

 毎日、お母さんに会える日を待ち続けています。

 この7年間、僕は辛いことを色々経験しました。

 貧しい日々もありました。寂しい日々もありました。

 泣いたことだって、数え切れない程ありました。

 そばにいてほしい時にいなくて、時には恨みたくなったこともありました。

 でも、きっといいことがあると信じて、今日まで生き抜いてきました。

 お母さんもきっと色々辛いことがあったと思います。

 7年間帰ってこなかったのも、きっと色々な理由があったのでしょう。

 だから、僕は恨んだりはしません。

 たとえ今さらと言われても、それでも僕はお母さんに会いたいです。

 今の僕にとって、お母さんが希望の光です。

 どうか会いに来てください。

 お願いします。待っています。

 クァドより

 

 チャモロは手紙を読み終えると、扉に向かって、何かを語り出した。

 それに続いて、ハッサンも祈るようにして何かを語っていた。

 どうやら「息子さんに会ってもらえますか?」または「中に入ってもいいですか?」と言っているのだろう。

 しばらくすると、チャモロが「では、入らせていただきます。」と言っているかのような仕草をして、ハッサンが扉に手をかけ、そしてゆっくりと開けた。

 そして2人はお辞儀をして、家の中に入っていった。

リベラ「彼らはきっとここに来てもらえるように懸命にお願いしているんだろうね。」

ミレーユ「そうでしょうね。今がまさに運命の分かれ道となる時ね。」

クァド「お母さん…。」

 3人は祈るように様子を見ていた。

 その時間は、まるで永遠のようにとても長く感じられた。

 

 しばらくすると、中からチャモロが出てきた。

 彼の手には行きの時には持っていなかった、荷物らしきものがあった。

 そして続けざまに中からハッサンが出てきた。

 彼は両腕で女性を抱えており、何かを語りかけていた。

 内容までは分からないものの、「クィントさん、いよいよ息子さんのところに飛んでいきますよ。」とでも言っているのだろう。

 現に、彼女はボロボロの布切れをハンカチ代わりにして、目の辺りをぬぐっていた。

リベラ「さあ、クァド君。もうすぐだよ。お母さんに会えるよ。準備はいい?」

「うん…。泣いちゃうかもしれないけれど…。」

ミレーユ「大丈夫。泣いていいのよ、そういう時は。涙のご対面になりそうね。」

「うん…。」

 クァドの目頭もこの時点で熱くなっていた。

 それから間もなく、チャモロと、クィントを抱えたハッサンがこちらに向かって飛び立っていった。

 それを見て、リベラは扉を開けて外に出ていった。

 すでに雨は上がっており、雲の切れ目から差し込む太陽光線がとてもきれいだった。

 間もなく彼は館の前に降り立ったチャモロ達と合流し、色々話を聞いた。

 そして話を聞き終わると、一人で館に戻って来て、クァドに母親のその後の日々を話してくれた。

 

 クィントは家族の生活を楽にするために、与えられた農地で身を粉にして働いていたそうだ。

 最初は作物の収穫も安定していて、十分な仕送りが出来たそうだ。

 しかし、その土地をあくどい人に横取りされるような形で取られてしまい、その後与えられたのは、水晶玉で見たような山奥の場所で、土地はやせていたそうだ。

 それでも彼女は他の人達と共に懸命に働き、農作物の栽培だけでなく、山菜を採ったりしながらふもとの集落まで持っていってお金に換え、自分の生活費を切り詰めてまでして仕送りをしていた。

 とはいえ、彼女達の努力だけではさすがに限界があった。

 そのうち、一緒に働いていた人達も離れていってしまい、とうとう彼女一人になってしまった。

 さらに悪いことは重なるもので、彼女は足を徐々に痛めてしまい、仕事に支障が出るようになってしまった。

 やっとの思いで育て上げた作物や採った山菜を運ぶことも、誰かに運んでもらうことも出来なくなり、足を引きずりながらその日暮らしをするのがやっとで、とうとう仕送りが不可能になってしまった。

 最後には作業自体が出来ない程に足が悪化し、はうように外に出ては野生化した野菜や雑草を食べて飢えをしのいでいたということだった。

 

「クィントさんは、自分の体が少しずつ衰弱していく中でも、クァド君のことは決して忘れなかったそうですよ。」

「本当に?」

「うん。いつか誰かが小屋を訪れた時に、クァド君に渡してもらうための手紙を書いており、「○月×日、今日も助けは来なかった。クァド、ごめんね。そしてどうか幸せになって。」という内容をつづっていたそうです。そして絶望感の中でも、もしかしたら誰かが来てくれるかもしれないというかすかな希望を抱いていたそうですよ。」

「お母さん、そこまで僕のことを思っていたんだ…。」

「はい。そして、チャモロは君のその後の日々についても話し、お母さんに会いたがっていることを伝え、会ってもらえますかと問いかけたそうです。」

「返事は?」

「チャモロの話では、『あの子の顔を再び見られるなら、はってでも会いに行きます。そしてこの7年間を心をこめて謝罪し、もし許してもらえるなら、たとえ貧しくても親子一緒に過ごしたいです。』と言ってくれました。だから、君がこの場でOKを出してくれるなら、今からそれを伝えてきます。お母さんに会ってくれますか?」

「はい、お願いします。」

 クァドは首を大きく縦に振って承諾した。

 すると、扉の向こうから「おおい、リベラ。そろそろ開けてくれ。俺達は扉の前で待ちぼうけなんだからさ。」というハッサンの声が聞こえた。

「分かったわ。こちらも今準備が整ったから、扉を開けるわね。」

チャモロ「分かりました、ミレーユさん。好きなタイミングで扉を開けてください。」

リベラ「分かりました。じゃあほら、お母さんだよ。」

 彼はそう言うと、クァドを扉の前に立たせて、扉に手をかけた。

 そしてゆっくりと扉を開けると、そこには涙ぐんでいるチャモロとハッサン、そしてハッサンに抱えられながらすでに泣き崩れているクィントがいた。

「お母さん…。」

「クァド…。」

「お母さーーん!!」

 クァドはそう叫びながら母親のところに駆け寄っていった。

「ごめんね…、7年間も…。」

「いいんだよ、お母さん。ずっと会いたかったよ。」

「私もだよ…。1日として忘れたことはなかったよ…。」

「お母さん…。」

 2人は涙を流しながら再会を喜んでいた。

 その言葉に出来ない程の感動的な様子をリベラ、ミレーユ、ハッサン、チャモロはもらい泣きしながらじっと見つめていた。

 

 やがて気持ちが落ち着いてくると、まずクィントに食事が振る舞われた。

 その際、彼女は椅子に座るのもやっとだったため、ベッドに横になった。

 そして、クァドはスプーンで母親の口に少しずつ食べ物を運び、彼女に優しい言葉をかけていた。

 その光景は、7年ぶりに再会を果たした母と子における、感動的な場面だった。

 

 食事後、リベラ達はこの2人についてこれからどうするのか話し合いを始めた。

「それなら、私の住むゲントの村で療養生活を送ってみてはいかがでしょう?」

「チャモロ、いいの?」

「はい、リベラさん。私がすすんで面倒を見ます。」

 彼はそう言って、誰よりも彼らの世話をすることを約束した。

「そうかい…。こんな私達のために…。」

「チャモロさん、本当に親切にしていただき、ありがとうございます。」

 クィントとクァドは、また涙を流しそうになりながらお礼を言った。

「いいんです。私は困った人の助けになることを生きがいにしていますから。そしてこれからお金を集めて、小さくてもいいから彼らのための家も用意してあげたいと思います。」

「家とくれば、俺の出番だぜ。材料やお金がそろったら、俺が立派な家を建ててやるからよ。」

 ハッサンは待ってましたとばかりに言い切った。

「でもね、建てるってなるとかなりのお金と時間が必要になるわ。彼らの生活を考えると、まずはテントや空き家の改装で済ませた方がいいかもしれないわね。」

「あっ、そうかもしれねえな。でも、いずれにしたって俺が何とかするぜ。」

 ハッサンは2人のために役立とうと、やる気満々だった。

「じゃあ、僕がレイドック城の人達に募金活動を呼びかけてみるよ。住む場所だけでなく、生活費やクィントさんの足の治療費も必要ですから、これから城に行ってみる。」

 リベラも何かしたいという気満々だった。

 そんな仲間達の優しさに触れ、クァドとクィントは何度も彼らに感謝をしていた。

 

 みんなが母と息子が涙の再会を果たしたことを喜ぶ一方、ミレーユは水晶玉で声を聞かせてあげられなかったことを内心では悔やんでいた。

(こういう場合、おばあちゃんだったら映像を出すだけでなく声も聞こえるようにしていたはず。悔しいけれど、私はまだまだ修行が必要ね。もっと頑張らなければ…。)

 彼女がそう思っていると、チャモロが早速ゲントの村に行くことを提案したため、ハッサンが再びクィントを抱え、クァドも加えて4人で外に出ていった。

 リベラとミレーユは彼らに続いて外に出ていき、4人が飛び立っていくのを見つめていた。

 彼らの姿が見えなくなった後、ミレーユは館に戻ろうとしたが、リベラはそのまま空を見上げていた。

 彼の顔には、母と子の再会の喜びをすっかり忘れてしまったかのように、寂しげな表情があふれていた。

「リベラ、どうしたの?」

「…いや、何でもない…。」

「……。」

 ミレーユはそれ以上何も言わなかったが、彼の気持ちを察することは出来た。

(リベラ…、バーバラに会いたいのね。やっぱり彼女が忘れられないのね。分かったわ。じゃあ私、頑張って、夢の世界を映し出してみせるわね。もしそうなったら、必ず彼女の姿をあなたに見せてあげるわ。そして彼女の声も聞かせてあげるから。待っていてね。)

 彼女は会いたい気持ちを懸命にこらえているリベラに向けて、心の中でそう約束をした。

 




 今回のタイトル「涙のご対面」は、昔放送していたテレビ番組のコーナーから取りました。
 タグに主バと書いてあるにもかかわらず、ここではまだバーバラが登場しないため、期待して読んでしまった方、ごめんなさい。
 バーバラはQuest.8で水晶玉越しに登場します。


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Quest.6 テリー外伝 デュランの子供達(前編)

 一緒に宿屋に泊ったアモスとテリーは、朝、ほとんど同時にベッドから起き上がった。

「おはようございます、テリーさん。夕べはよくお休みでしたね。」

「ああ、よく寝た。って、あんたは起きていたのか?」

「そういうわけではないんですが、ちょっと寝つきが悪くて。たまにはこんな日もあります。まあ、もしテリーさんが女の人と一緒に泊まっていたら、違うセリフを用意したかもしれませんが。」

「何だそれは。変なことを言うな。」

「あっ、失礼しました。」

 彼らは朝食をとった後、宿をチェックアウトした。

 そしてお店で薬草や聖水、さらにはお弁当を買った。

「アモっさん、わりいな。あんたのお金でここまで買ってもらって。」

「気にしないでください。昨日の盗賊からもらったアイテムやお金で買ったまでですから。」

「俺から何かお返し出来ればいいんだがな。」

「お返しなんていいです。ここから先はお互い別行動になりますから、準備はしっかりとしておきましょう。」

「まあな。でも俺は強いから別にいいけどな。」

 テリーはキザな笑いを浮かべ、髪をかき上げた。

「あの、テリーさん。いくらあなたが戦士、武闘家、僧侶、魔法使いを極めているからって、油断は禁物ですよ。第一あなたを引換券とディスられないように、こういう能力にしてくれた人に感謝しなければ。」

「……。」

 テリーはアモスのメタな発言に何も言い返せず、額に汗をかいていた。

「では、私はキメラの翼でモンストルの町に戻ります。テリーさん、お元気で。またお会いましょう。」

「ああ、じゃあな。」

 彼らは会話を終えると、ルーラの呪文とキメラの翼で町を後にしていった。

 

 アークボルトに降り立ったテリーは、徒歩で旅人の洞くつへと向かっていった。

 ここにはかつてリベラ達と一緒に冒険の旅をしたドランゴがおり、自らが産んだ卵を見守りながら過ごしていた。

 以前、彼女がここにいた時には、トンネルの工事を遅らせる原因となり、人々に嫌がられる存在であったものの、現在は人間達とすっかり和解し、定住を許された。

 毎日卵を温めるばかりの退屈な日々ではあったが、人々が時々食べ物を差し入れてくれていたため、生活にはそれ程困ることはなかった。

 

 今日も卵を見守りながらじっとしていると、ふと誰かが洞くつにやってくる気配を感じた。

「ギルルン…。誰…かしら?」

 それまで眠気まなこだった彼女はそうつぶやくと、しっかりと目を開いて辺りを見渡した。

 すると「また会えたな。」と言いながら、テリーが姿を現した。

「テリー…。会えてうれしい…。ギルル…ン。」

「あれからまた卵を産んだんだな。」

「そう…。」

「それを見て思い出したんだが、以前、それをつぶしてしまってすまなかったな。」

「ギルル…ン。もう…、過去…のこと…。」

「そうか。俺は今でもあの時の行動を悔やんでいるが、そう言ってくれるのなら、少しは救われた気分だ。正直、到底償いきれるようなものではないが、出来る限りで償いをしたい。もう絶対にひどいことはしないし、ほしいものがあるなら何でも用意してやる。」

「じゃあ、私…、うさみみ…ほしい…。」

「そうか、ちょうどいい。実はそれを今日持ってきたんだ。」

 テリーはそう言うと、袋からうさみみバンドを取り出した。

「うさみみ…、うさみみ…、ギルル…ン。」

 ドランゴは頭をあげ、うれしそうにつぶやいた。

「じゃあ、着けさせてやるよ。」

 テリーは彼女のところに歩みよると、それを頭に装備させた。

「うさみみ…、うれしい…。」

 ドランゴは自分の願いがかなったことを素直に喜んでいた。

 彼女はさらに、お腹がすいてきたから何か食べる物が欲しいというお願いをしてきた。

「何が食べたいんだ?」

「ギルル…ン。町の人…、聞くと…分かる…。」

「分かった。お金はある程度あるから、色々買ってきてやる。」

「うれしい…。やさしい…。」

 ドランゴはそう言うと、洞くつから出ていくテリーを優しい目で見守った。

 

 30分後、テリーはたくさんの食べ物を持って戻ってくると、ドランゴの前にそれを置いた。

 それを見て、彼女は「ありがとう…。」と言って、おいしそうに食べ始めた。

 その様子をテリーは何も言わずにじっと見つめていた。

 ドランゴは食事を終えると、再び卵を温めることに専念し始めた。

「それじゃ、俺はまたすぐに旅に出る。短い時間だったが、じゃあな。」

「ギルル…ン。テリー…、もっと…一緒に…いたい…。」

「わりい。俺も忙しいんだ。」

 テリーはそう言い放つと、ドランゴに背を向けて、早足で立ち去って行った。

「もっと…、一緒に…、いたかった…。」

 彼女の表情はどこか寂しげだった。

 

 洞くつから出てきたテリーは、次の目的地に向かってひたすら歩き続けていた。

 そうしているうちに、ふと見たことのある実のついた木を見つけた。

「あの実は何だ?」

 彼はその木に登っていき、試しに1個取ってみた。

「おおっ!これは命の木の実じゃねえか!でもまだちょっと未熟だな。まあいい。せっかく取ったんだから、とりあえず食べてみよう。」

 食べた結果、渋みがあったが、どうにか飲み込むことはできた。

「とりあえず、次はしっかりと熟したものを取ろう。」

 彼はそう言って、さらに高く登っていき、熟した実がないか探した。

 そして最終的に6個を取り、その場で2個を食べ、残りをカバンの中に入れた。

 

 それから彼は数時間歩き続けた。

 そろそろお弁当を食べようとしていた頃、森の中を歩いていると、ふと誰かがいるような気配を感じた。

「ん?何だ?誰かいるのか?」

 彼はとっさに剣を抜いて身構えた。 

 すると、木の陰から幼い男の子と女の子が現れた。

(子供が2人?そう言えば、こいつら誰かと似ているな。)

 テリーはそう思いながらとりあえず様子を見ることにした。

 すると幼い2人は

「僕達お腹すいた!」

「あたし達に食べ物ちょうだい!」

 と言いながら、いきなり襲いかかってきた。

(ちっ、子供とはいえ、襲いかかって来ては仕方ない。戦うしかないか。)

 結果、テリー対モンスターの2人との戦闘になった。

 しかし、まだ戦い方を教えてもらってないせいか、彼らの動きは大ざっぱで、隙だらけだった。

 そのため、テリーは相手の攻撃をひょいひょいかわし続けた。

 そうしていると、男の子のお腹から「グウゥゥッ。」という音が聞こえてきた。

「食べ物おぉっ!」

 彼はそう言いながら、しきりにカバンに手を伸ばしてきた。

(どうやら俺を倒すわけじゃねえようだな。だが、攻撃をかわしてばかりでは戦闘が終わらねえ。何とかしなければ…。)

 何かいい方法がないか考えていると、ふと自分のカバンをグイッと引っ張られる感覚を覚えた。

 とっさに視線を移すと、そこには女の子がいて、カバンの口を開けて中に手を入れていた。

「お兄ちゃん、食べ物よ!」

 女の子はそう言うと、入っていた薬草をわしづかみにしていた。

「どけ!この野郎!」

 テリーはカッとなって女の子に蹴りを入れた。

「きゃあっ!」

 女の子は突き飛ばされるように後ろ向きに倒れこんだ。それと同時に手に持っていた薬草が辺りに散らばった。

「デュアナ!よくもデュアナを!」

 男の子はムキになって襲いかかってきた。

 しかし、テリーは攻撃をかわすと彼にも蹴りをくらわせた。

「ぎゃああっ!」

 男の子はデュアナと呼ばれた女の子同様に倒れこんでしまった。

 戦闘はあっけなく終わった。

 モンスターの2人はおびえるように立ち上がると、一目散に逃げようとしたが、テリーが大声で「待て!」と叫んだことで、ビクッとして立ち止まった。

「お前達、デュランの子か?」

「えっ?父ちゃんを知ってるのか?」

「人間があたしのパパと知り合い?」

 2人は驚きながらテリーの方を向いた。

「やはりデュランの子供か。俺の名はテリー。お前達の父デュランと一緒に過ごしたことがある人間だ。お前達、確か女の子の名前はデュアナだよな?」

「そう。そして、お兄ちゃんの名前はデュナン。」

「そうか。ではデュナン、そしてデュアナ。まずはお腹がすいているだろう。俺の持っている食べ物を分けてやるから、まずは食事でもしよう。」

「本当?僕達に食べ物くれるの?」

「毒入ってないよね?」

「安心しろ。第一、それだったら俺自身が食えねえだろ!」

 テリーはそう言うと、散らばった薬草を集め、さらにお弁当を2人に与えた。

 彼らはよほど空腹だったのか、次々と食べ物を口の中に放り込んでいった。

 しかしそれでもお腹がいっぱいにならなかったため、ついには命の木の実までも与えてしまった。

 

 食事が終わった後、テリーは2人がどうして空腹状態で森の中にいたのかを問いかけた。

 彼らの話によると、大魔王が倒されてから住み家を失い、あてもなくさまよい歩く日々を送っていたそうだ。

 空腹になった時には人間の住む町に立ち寄り、なけなしのお金をはたいて店で買い物をしようとしたが、「モンスターに物は売れませんわ。お引き取りあそばせ。」と言われて追い返されてしまう有様だった。

 さらには誰もいない民家でタンスやツボの中を調べ、食べられそうなものがあれば何でも口に入れていたそうだ。

 しかし後でお腹を壊したり、人に見つかって殴られたりしたこともあった。

 お金も食べ物も住むところもない。

 そんな日々に耐えながら、2人で肩を寄せ合って生き延びてきたということだった。

(そうか。世界が平和になった一方で、こんなかわいそうな子供達を生み出してしまうことになるとは…。)

 テリーは思いもよらない現実を突き付けられ、動揺を隠せなかった。

 そして、敵対関係の種族でありながら、彼らを見捨てておけなくなってきた。

「分かった。じゃあ、一緒に近くの店に行こう。俺がそこで食べ物を手に入れてくる。」

「テリーお兄ちゃん、本当に?」

「あたし達のために?」

「ああ。ただ、お前達はどこかに隠れていろ。そこから動くんじゃないぞ。」

デュナン「はあい。」

デュアナ「うん…。」

 テリーしか頼れる相手のいない2人は、彼に同意するしか選択肢はなかった。

 それから3人は森から草原に出ると、近くの小さな集落に向かって歩いていった。

 そして彼らは言われたとおり、遠目から集落へと入っていくテリーの姿を見つめていた。

 

 食べ物を目の前にしたデュナンとデュアナは、取り合うようにそれらを手につかんでは、次々と口に運んでいった。

 そして久しぶりの満腹感を感じることが出来たことで、ようやく安堵の表情が見られた。

「お兄ちゃん、ありがとう。」

「あたしからもありがとう。」

「礼はいい。当然のことをしたまでだ。だがお前達、母親はどうしたんだ?」

 テリーは2人の気持ちが落ち着いた時をぬって、気になっていたことを問いかけてみた。

「母ちゃん?母ちゃんは…、その…。」

「ママ…、ママ…。会いたいよお…。」

 デュナンとデュアナはそうつぶやくと、表情が途端に曇り、こらえ切れなくなりそうになってきた。

(そうか。デュランだけでなく母親もいないとなれば、相当寂しくて辛い日々を過ごしてきたようだな。)

 テリー自身も長い間寂しい思いをしてきただけに、2人の気持ちは分かるような気がしていた。

(とにかく、今は俺しか頼れる人はいないようだな。しかもこいつらにとって姉さん達は父親のかたきを討つ相手になってしまうから、行くことも出来ない。そうなると、ドランゴに親代わりになってもらうしかないな。)

 彼は思い切ってそのアイデアを打ち明けてみた。

デュナン「ドランゴ?それってモンスター?」

「ああ。だが、モンスターにも人間にも慕われている。

デュアナ「じゃあ、面倒もみてくれるの?」

「分からない。でも俺の知る限り、頼れるのは彼女しかいない。だから今から向かおうと思うんだ。一緒に行くか?」

「分かった。行く。」

「お兄ちゃん、敵である人間よ。ワナかもしれないわよ!」

「行くしかないだろ!でなきゃ、ボク達は飢え死にしちゃうよ!」

「でも…。」

「父ちゃんと一緒に過ごしたことのある人間だぞ!ワナなもんか!」

「……。」

 デュナンが同意した一方、デュアナはまだ同意出来ずにいた。

「俺はお前達をだましたりはしない。信じてくれ。」

「…分かった。」

 デュアナは渋々ながらも同意をしてくれた。

「よし。では、ドランゴのところに行くぞ。」

2人「はい。」

 彼らの返事を聞いて、テリーはスクッと立ち上がり、ルーラで一緒にアークボルトに飛んでいった。

 3人はそこから徒歩で移動して山に入り、それを超えれば旅人の洞くつというところまでやってきた。

 そして、あと少しで洞くつにたどり着けるという時に、彼らはモンスターの気配を感じ取った。

「誰かいるな。それも、かなり強そうだ。」

 テリーはただならぬ表情で辺りを見渡した。

「強いの?お兄ちゃん。」

「ああ、デュナン。少なくともお前達では勝てない相手だ。俺から離れるなよ。」

「分かった。」

 モンスターの2人は、テリーの背中に隠れて辺りを見渡した。

 すると、左右両側から図体の大きなモンスターが1匹ずつ姿を現した。

「ゲヘヘヘ坊や達。運が悪かったな。」

「おとなしく俺達のエサになってくれ。」

 現れたのは、どちらもボストロールだった。

(くっ、これは強敵だ。よりによって痛恨の一撃を繰り出す奴に出くわすとは。しかもこいつらを守りながら戦わねばならないし、攻撃を避けることは出来ないな…。)

 厄介なモンスターと戦うことになり、テリーは焦りを隠せずにいた。

 一方のデュナンとデュアナの2人はおびえるばかりだったため、テリーだけで相手をすることになってしまった。

 

 ボストロールAがあらわれた!

 ボストロールBがあらわれた!

 

 1ターン目

 テリー:イオラ(両者にヒット)

 ボストロールA:通常攻撃(成功)

 ボストロールB:通常攻撃(成功)

(くっ、この2人さえいなければ攻撃をかわすなどたやすいことなのに、まずいな。)

 

 2ターン目

 テリー:ばくれつけん(Aに1回、Bに3回ヒット)

 ボストロールB:痛恨の一撃(成功)

 ボストロールA:通常攻撃(成功)

(痛恨はこたえるぜ…。くそっ、攻撃は1回お休みだ。)

 

 3ターン目

 テリー:ベホマ

 ボストロールA:通常攻撃(成功)

 ボストロールB:通常攻撃(成功)

 

「テリーお兄ちゃん、怖いよお…。」

「あたし達も殺されちゃうよお…。」

「うるせえぞ、お前ら!黙ってろ!」

A「ゲヘヘヘ…。お前らもエサにしてやるな。」

B「その前に、その人間を始末してやるからな。」

 

 ボストロールの力任せの攻撃に、さすがのテリーも苦戦していた。

(後編に続く)

 




名前の由来
デュナン(Dhunan)、デュアナ(Dhuana)
 デュランの子供ということで、デュナンはデュラン(Dhuran)のrをnに変えて命名しました。
 そしてnとaを入れ替えて、デュアナにしました。


 今回のエピソードは、元々はデュランが再登場し、主人公と再度戦闘をして分かり合うというような形を考えていました。
 しかし、サイトを色々見たところ、デュランは戦闘で死亡したことになっており、さらに僕はたとえフィクション作品であっても死んだキャラを生き返らせないことにしているため、結局登場を断念しました。
(※僕は子供の頃、人は死んでも生き返ると真面目に信じてしまった時があり、一度だけですが、一線を越えそうになったことがありました。幸い未遂に終わりましたが、後ですごく反省をしました。僕が「生き返らせる」をNGにしているのには、2度とあんな考え方をしないようにという思いが込められています。)
 そしてデュラン本人がだめなら子供を出してみようというアイデアを思いつき、ダイの大冒険のヒュンケルと、育ての父バルトスのエピソードを参考にしてこれを書きました。
 その際、デュランの子供達がリベラ達に会ってしまうと、改心前のヒュンケルのようにかたき討ちのような展開になってしまうため、執筆をした2022年3月時点におけるウクライナ情勢を考えると、とても書けませんでした。
 その展開を回避出来るのはテリーしかいないと思ったため、外伝という形で彼を主人公にし、このような形にしてみました。


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Quest.7 テリー外伝 デュランの子供達(後編)

 ボストロール2匹との戦いは、テリーが思っていた以上に厳しいものだった。

 まず幼い2人をかばいながら戦わなければならないため、攻撃を全然かわせないこと。

 時々繰り出す痛恨の一撃のせいで、テリーは2~3ターンに1回はベホマを唱えなければならないこと。

 そしてボストロールがHPの自動回復の能力を持っていることが挙げられた。

 テリーはラリホーを唱え、何とか攻撃を食い止めようとしたが、成功率も50%程度で、どちらか一方しか眠ってくれず、思惑外れになることもあった。

 そうしているうちに、戦いは持久戦になっていった。

(まずいな。残りMPを考えればベホマ3回が精いっぱいだ。イオラをぶっ放してもいまいち火力不足だしな…。)

 彼はそう思うと、呪文はベホマだけに限定し、攻撃は特技に専念することにした。

 しかし、せいけん突きやまじん切りも当たらなければ意味がない。ばくれつけんではダメージが分散されてしまう。

 そういったデメリットが響いてしまい、なかなか倒すまでには至らなかった。

(このままではやられてしまう。かくなる上は、あの技を使うしかないな。)

 腹をくくったテリーは「デュナン、デュアナ、俺から離れろ!物陰に隠れるんだ!」と叫んだ。

「えっ?でも、離れたら。」

「あたし達、狙われちゃう。」

「いいから離れろ!巻き添えを食らうぞ!」

 テリーの大声を聞いてビクッとした2人は、大慌てで逃げるようにテリーから離れていった。

ボストロールA「何だ?あいつらだけでも守る気か?」

ボストロールB「無駄だ。こいつを始末したらあいつらのところに行くぞ。」

「了解だぜ!」

 デュナンとデュアナの2人が安全なところまで離れたのを確認すると、テリーは「デュラン、技を借りるぜ!はああああああっっ!!」と、叫び出した。

 そして次の瞬間、持っている剣に激しい電撃がほどばしった。

「喰らえ、お前ら!!!」

A「何だ、この攻撃は!?これはどこかで見たことがあるぞ!」

B「そうだ!これはデュラン様の必殺技だあっ!ぎゃあああっ!」

 ジゴスパークをまともに受けたボストロール2匹は大きな叫び声を上げ、体を黒コゲにしながらダウンした。

 

 ボストロールを倒した!

 

「厄介な相手だったな。しかし、デュランに教えてもらったあの技がこんな形で役に立つとは。」

 テリーは2匹をキッとにらみつけた。

「あの、テリーお兄ちゃん、ありがとう…。そしてごめんなさい…。」

「あたし達、ただ、テリーお兄ちゃんに迷惑をかけただけだった…。」

 2人は何も貢献出来なかった悔しさで、シュンとしながら力なく語りかけた。

「フン!デュランの子といえども、まだまだ戦えるわけではなさそうだな。だが、お前達もこれから強くなればいい。だがその前に、ボストロールはどうやら宝箱を持っているようだな。ちょっと頂いていくことにしよう。」

デュナン「えっ?あっ、本当だ。何か持ってる!」

デュアナ「テリーお兄ちゃん、開けてみましょう!」

「そうだな。まさかひとくいばこやミミックではないだろうし、開けてみることにしよう。」

 3人はボストロールのところに歩み寄り、箱を開けた。

 中には不思議な形をした杖が入っていた。

テリー「何だ、これは?」

「見たこともないものだな。」

「何かありそうな杖だわね。」

「そうだな。杖だから、何らかの力はありそうだな。」

 テリーは箱からその杖を取り出した。

 しかし、見るからに戦闘には不向きなものだった。

(俺には武器として使うことは出来そうにないな。せめて姉さんだったら装備出来るかもしれないが、攻撃力は低そうだし、道具として使うしかないだろうな。)

 彼はそう思いながら、その杖を振りかざしてみた。

 するとその杖が白く光り出し、テリーの体を包み込んでいった。

「な、何だこれは!どうなっているんだ!?」

 テリーがびっくりする一方、デュナンとデュアナは何も言えないまま、彼をただ見つめていた。

 

 しばらくすると、光はすっかりおさまった。

「フン!何か呪文が発動するかと思えば、期待はずれだったな。売ってお金にするしかないか。」

 テリーがそう愚痴っている一方で、デュナンとデュアナはさらにびっくりしていた。

「何だ?俺の顔に何かついているのか?」

「テリーお兄ちゃんが…。」

「女の人になっちゃった…。」

「女?」

 テリーは思いもよらないことを言われ、自分の体を見た。

 確かに着ている服はすっかり様変わりしていた。

(えっ?どうしてこうなったんだ?)

 びっくりした彼は何が何だかよく分からないまま、自分の頭に手をやった。

 すると、かぶっているはずの帽子がない。さらに、髪の色が金髪になっていた。

 そして剣の刃の部分を鏡のようにして自分の姿を映してみると、見えたのはミレーユの顔だった。

 テリーはようやく自分の身に何が起きたのかを理解した。

「何だこの杖は!俺が変身しちまったじゃねえか!」

 こんなことは今まで未経験だっただけに、彼はすっかり動揺していた。

(どうしてこんなことに?……。もしかして、俺が姉さんのことを考えながら振りかざしたせいなのか?ということは…?)

 彼はまだ動揺しながらも、今度は自分の本来の姿を思い浮かべながら杖を振りかざした。

 

「あっ、お兄ちゃん、元に戻った。」

「あたし達どうなるかと心配しちゃった。」

 2人は元に戻った彼の姿を見て、一安心した。

 それを聞いてテリーは再び剣で自分の顔を映し、元の姿に戻ったことを確認した。

「ふう…、良かった。」

 彼はほっとしながら大きく息を吐いた。

デュナン「ねえ、テリーお兄ちゃんはどうやって変身したの?」

「どうやってって、俺はただ姉さんのことを考えながらこの杖を使っただけだ。そうしたら、本当に姉さんの姿になって…。」

デュアナ「じゃあ、使う時にイメージした人間の姿になれるの?」

「そうかもしれないな。何ならお前達、誰かの姿をイメージしながらこの杖を使ってみるか?」

「うん!使ってみる!」

「あっ、ずるい!僕が先だぞ!」

「やだ。あたしが先に使う!」

 2人はどちらが先かで言い争いになってしまった。

「コラコラ、2人とも。ここはジャンケンで決めてみるか?」

デュナン「ジャンケン?」

デュアナ「何、それ?」

「それも知らないのか。まあいい、教えてやるよ。」

 テリーはそう言うと、一人ジャンケンという形でルールを教えた。

 そしてまずテリー対デュナン、次にテリー対デュアナという形で練習をした後、いよいよ本番になった。

「ジャンケンポン!」

 2人が同時にそう言いながら手を出すと、デュナンはパー、デュアナはチョキだった。

「わーい!じゃあ、あたしママに化けてみる!」

 彼女が杖を振りかざすと、テリーが見たこともない大人の女性モンスターになった。

「すげえ!本当に母ちゃんの姿じゃねえか!」

「うん!あたし、パパの姿はほとんど知らないけれど、ママは覚えていたから!」

「じゃあ、僕は父ちゃんの姿になる。ちょっと杖を貸してくれ。」

「あっ、待って!あたし、元の姿に戻るから。」

 デュアナはそう言うと、再度杖を振りかざし、本来の姿に戻った。

 それを見てデュナンは妹から杖を受け取り、デュランの姿になった。

 しかしそれを見て、テリーは思わず首をかしげた。

(ん?俺のイメージと違うな。やけに若いっつーか…。こんな姿しか思い出せないのか?ということは、デュランは長い間子供達に会わないままだったのか?つまり、家庭をかえりみなかったということなのか?)

 彼がそんな現実を実感していると、デュナンはさらに杖を振りかざし、テリーに変身した後、最終的に元の姿に戻った。

 

 結果、この杖は自分のイメージした人間やモンスターに変身出来る効果を持つことが判明した。

 しかし、戦闘能力まではコピー出来ず、あくまでも姿を変えられるだけだということも分かった。

デュナン「テリーお兄ちゃん。この杖って、何ていう名前なんだろ?」

「分からん。俺も初めて見たからな。」

デュアナ「でも、名前がある方がいいよね。何てつけようかなあ。」

「うーーん。完コピではないが、姿を変えられるという意味ではモシャスの呪文に近いから『モシャスの杖』とでも命名しようかな。」

「じゃあ、今日からは『モシャスの杖』と呼ぼう!」

「あたしも賛成!名前を付けてくれてありがとう。」

「まあ、俺は仮の名前のつもりだったが、いいだろう。今日からこの杖はお前達のものだ。」

デュナン「えっ?いいの?もらっても。」

「ああ、やるよ。この杖で人間に変身すれば、町で買い物も出来るようになるからな。」

デュナン「確かにそうだね。」

デュアナ「これで道具屋に行った時に追い返されることもなくなるね。」

「ああ、そうだ。きっと俺よりもお前達が持っている方が役に立つはずだ。だが、これを決して悪いことに使うんじゃないぞ。」

「分かった。約束するよ。」

「あたしも約束する。」

「ああ、約束だ。お前達は知らないかもしれないが、デュランは汚いことを嫌い、正々堂々と勝負をする性格だった。俺はそんな彼を尊敬している。お前達もそんな彼のようになるんだぞ。そして、出来ることなら人間と分かりあえる存在になってくれ。」

2人「うんっ!」

 彼らはテリーの忠告に対し、大きくうなずきながら答えた。

「分かった。約束だ。じゃあ、俺はこれから旅人の洞くつに入っていき、ドランゴに会う。そして彼女にお前達の母親代わりになってもらえるか聞いてみるつもりだ。」

「本当に母ちゃんの代わりになってくれればいいけれど。」

「心配するな、デュナン。俺の頼みなら多分聞いてくれるだろう。だから、失礼の無いようにな。」

2人「うんっ!」

「では、行くぞ。」

 テリーがそう言うと、3人は一緒に洞くつの中に入っていった。

 

「ドランゴ、そういうわけだ。親もおらず、行き場もないこの子達の面倒を見てくれないか?」

「ギルルン…。テリーの頼みなら、私、受け入れる…。」

「そうか。それはありがたい。」

「でも、人間…来たら、どうする…?」

「大丈夫だ。この子達はモシャスの杖を持っているから、人間に化ければ解決する。」

「ギルルン…。それは…いいアイデア。人間、驚く…しない…。」

「ああ。それにこの子達がアークボルトに買い物に行くことも出来るようになる。そうなれば、お前も差し入れを待つ必要がなくなるぞ。」

「それ…、うれしい…。ギルルン…。」

 ドランゴは喜んでテリーの頼みを受け入れてくれた。

「じゃあお前達、今日からはドランゴが母親だ。彼女に自己紹介をしてくれ。」

「うん、分かった。じゃあ僕からいくね。僕はデュナン、よろしく。」

「あたしはデュアナ。彼の妹なの。今日からはドランゴさんをママって呼んでもいい?」

「ギルルン…。ママ…。いい響き…。喜んで…。」

「わーい!じゃあママ、よろしく!」

「それなら僕は母ちゃんって呼ぶよ。」

「デュナン君…、実の母…、そう呼んだの…?」

「ま、まあ…。今さらママとは言いにくいし、『母ちゃん』が一番言い慣れていたから。」

「ギルルン…。じゃあ、母ちゃん…、呼んでもいい…。」

「分かった!母ちゃん、今日からは僕が息子だよ。よろしくね。」

「良かったな、2人とも。これからはドランゴと、そして生まれてくる彼女の子と一緒に、幸せに暮らすんだぞ。」

デュナン「分かった。きっと幸せになるよ!」

デュアナ「約束する!テリーお兄ちゃんもね。」

「ああ。俺も幸せに暮らす。そして、人間とモンスターが出来るだけ仲良く暮らせるように架け橋になるつもりだ。じゃあ、そのモシャスの杖を大事に持っているんだぞ。」

2人「うんっ!」

 彼らは再び大きくうなずきながら答えた。

「じゃあ、俺はこれで。」

「ギルルン…。待ってテリー…。もう行くの…?」

「そのつもりだ。」

「テリー…、もっと一緒にいたい…。出来れば、一晩でも…。」

「悪いな。俺もやりたいことがある。」

「でも…、テリー…、いつも…同じこと言う…。ギルルル…ン。」

「テリーお兄ちゃん、僕からもお願い。もっと一緒にいようよ。」

「あたしも一緒にいたい。だって今日出会ったばかりだから。」

 ドランゴ、デュナン、デュアナはそろってテリーにお願いをした。

「フン!そこまで言われちゃ、しょうがねえな。じゃあ俺も一晩ここで過ごすことにする。」

「うれしい…。テリー…。」

「わーい、良かった!」

「あたしもうれしい!」

 3人(2人と1匹?)は大喜びだった。

(この雰囲気だと俺は父親代わりになってしまうかもしれんな。でも、誰かに頼ってもらえるのは喜ばしいことだし、これはこれで良しとしよう。)

 テリーは少しため息をしながらそう思った。

「ギルルン…。テリー…。私…、お腹すいた…。食べ物…ほしい…。」

「そうか。じゃあ、俺はアークボルトに買い物に行く。ここで待っていろ。」

「分かった…。ギルルン…。」

 ドランゴがそう言うのを聞いて、テリーは早速洞くつを後にしようとした。

 すると、デュナンとデュアナが「待って!」と言って彼を引きとめ、自分達も一緒に行きたいと言い出した。

 最初はその願いを断ったテリーだったが、人間に化けるからと言って、食い下がってきた。

「分かった。そこまで言うなら、いいだろう。一緒に行こう。」

「やった!」

「わーい!」

 テリーが渋々ながらも同意すると、デュナンとデュアナはばんざいをしながら大喜びだった。

 3人は杖を持ったまま洞くつを出ていき、アークボルトへと向かっていった。

 そして彼らはその後、まるで親子のような雰囲気で一晩を過ごすことになった。

 

 なおこの日、テリーが「モシャスの杖」と名付けたこの杖こそが、後の世で「変化の杖」として勇者の手に渡ることになるアイテムであった。

 

 



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Quest.8 水晶玉越しに見た光景

(リベラ…、バーバラに会いたいのね。やっぱり彼女が忘れられないのね。分かったわ。じゃあ私、頑張って、夢の世界を映し出してみせるわね。もしそうなったら、必ず彼女の姿をあなたに見せてあげるわ。そして彼女の声も聞かせてあげるから。待っていてね。)

 空を見上げて寂しそうな表情を見せるリベラを見ながら、ミレーユはそう心に誓った。

 

 その日の午後、グランマーズが館に戻ってくると、ミレーユは早速その気持ちを伝えた。

「そうか、お前さんもそういう気持ちになったのか。まあ、いつかはそんな日が来ると思っておったがのう。」

「おばあちゃん、分かっていたの?」

「わしを誰だと思っておる。全てお見通しじゃ。じゃが、決して悪いことに使うでないぞ!」

「はい、約束します。」

「では、これから修行の日々を送ることになるぞい。占い師としての仕事と両立となれば忙しくなるが、良いな。」

「はい、分かりました。おばあちゃん、お願いします。」

 その日以来、ミレーユはグランマーズの下で、さらなる修行に励む日々を送ることになった。

 彼女はその合間に占い師としての仕事もこなし、人探しの依頼があれば積極的に占った。

 良いこともある一方、時には恐れていた事態になってしまったこともあったが、それでもしっかりと現実を受け入れ、役目をしっかりと果たしていた。

 

 ある日、ミレーユは水晶玉越しに、レイドック城の入口近くにいるリベラとハッサンの姿を映し出した。

 2人はレイドックとシェーラと城壁の建て替え工事について話し合っていた。

『じゃあ僕とハッサンはこれから手伝ってくれる人を探しに行きます。』

『よし、行ってきなさい。私はこれから働く人達に作業の流れについて伝えておく。』

『私は予算を考慮しながら、彼らに支払う日当などについて考えておきますね。』

『父さん、母さん、ありがとうございます。じゃあ、僕は出かけてきます。』

 リベラは両親に頭を下げると、ハッサンを連れてルーラで飛び立っていった。

(現実世界の相手の声を聞くのは失敗せずに出来るようになったわね。あとは夢の世界も映し出せれば。でも、その前にちょっと2人のその後を見てみようかしらね。)

 ミレーユはリベラとハッサンの姿を映し続けた。

 

 彼らはライフコッドに降り立つとターニアに会い、手を貸してくれないかお願いをした。

 すると彼女は『お兄ちゃんのためなら喜んでやるわ!』と言って、笑顔で引き受けてくれた。

リベラ『良かった、引き受けてくれて。』

『それで、私はどこから通うの?』

『レイドック城に寝泊まりしながら働けるんだ。だから、ここから通う必要はないよ。』

『ええっ?じゃあ私、お城に住めるの?』

『うん、父さんがそう言っていた。』

『きゃーっ、うれしいっ!お兄ちゃんと一緒の場所に住めるなんて、私、幸せっ!』

『じゃあ、明日の朝迎えに来るから。待っていてね。』

『うんっ!』

 

 その後、別の場所に移動した彼らが草原をブラブラ歩いていると、メタルスライムとおどる宝石が姿を現した。

『ぬおおおっ!経験値とお金がガッポリ稼げるじゃねえか!』

 モンスターを見るなり、ハッサンの目の色が変わった。

『でも、ここはおどる宝石に集中しよう。』

『ええっ?お前だってメタルスライムを見た時、目の色を変えていたじゃねえか!』

『以前はね。でも今は違う。経験値よりもお金の方が大事だから。』

『ああ、そうだな。資金が増えればお前の両親も喜ぶからな。俺達の給料も増えるし。』

『そういうこと。』

 2人は攻撃を全ておどる宝石に向けることにした。

 

 1ターン目

 メタルスライム:メラ(ハッサンにヒット)

 リベラ:ルカニ(成功)

 ハッサン:通常攻撃(成功)

 おどる宝石:マホトーン(2人とも成功。ただしハッサンに効いても意味無し。)

 

 2ターン目

 メタルスライム:メラ(リベラにヒット)

 リベラ:通常攻撃(成功)

 おどる宝石:ギラ(2人にヒット)

 ハッサン:せいけん突き(失敗)

 

 3ターン目

 ハッサン:捨て身(成功)

 メタルスライムは逃げ出した!

 おどる宝石:ルカナン(リベラには成功。ハッサンには失敗)

 リベラ:通常攻撃(成功)

 

『それじゃ、あと一撃で倒せそうなので、ここでミレーユの真似をしてみたいと思います!』

『ハッサン、何をするつもりなんだ?』

 リベラが問いかけると、ハッサンは突如『オーッ、ホッホッホッ!私は女王様よ。誰も私には逆らえなくてよ!』と言いながら持っていたこん棒でビシバシ叩き、おどる宝石を倒した。

『やったぜ!…って、リベラどうしたんだ?』

『いやあ、おもしろ過ぎて笑いが止まらなくなっちゃった。』

『そうか、そんなにウケたのか!そいつは良かったぜ!』

『うん。でもそれ、ミレーユの前ではやらないでね。』

『やるわけねえだろ!そんなことしたら俺が相手にされちまうぞ。』

『でも、ハッサンのことだから、叩かれる姿を一度見てみたいけれど。』

『やめてくれ!いくら彼女のことが好きになったとしても、そんな趣味はねえぞ!』

 周りには誰もいないのをいいことに、言いたい放題の2人を見て、彼女は「本来なら『君達、後でちょっと話あるからね。』と言いたいところだけれど、それだと私がのぞき見していたことがバレておばあちゃんに怒られるから、ここは見逃すことにするわ…。」と言いながら、顔を引きつらせていた。

 

 気を取り直したミレーユは、一旦映像を消すと再び水晶玉に手をかざし、力を込めた。

 するとついにカルベローナの景色を映し出すことに成功した。

 これまで何度も失敗を重ねてきただけに、喜びもひとしおだったが、現地の人々の声までは聞くことが出来なかった。

(うーーん、姿が見えたのはいいけれど、これではまだリベラに見せるわけにはいかないわね。もっとも彼は明日から城の工事に取り掛かってしまうから、それからになりそうだけれど…。)

 彼女が笑顔を見せたのはほんの一瞬だけで、その表情はすぐに引き締まったものになった。

 そして声は聞こえなくても、せめてバーバラの姿だけは映し出そうとしたが、いくら探しても彼女を見つけ出すことは出来なかった。

(どこにいるのかしら。もしかして、本当に姿が見えなくなってしまったの?)

 次第に彼女の心には焦りがつのった。

 そして、水晶玉を持って外出しているグランマーズに相談を持ちかけることにした。

『ミレーユはゼニスの城を探してみたかの?』

「ゼニスの城ですか?でも彼女はカルベローナの人ですよ。」

『バーバラはルーラでそこに行っている可能性もある。とにかく調べてみるがよい。』

「分かりました。では早速調べてみます。」

 そのアドバイスを受けて、ミレーユはゼニスの城に照準を合わせた。

 すると、ゼニス王と一緒に歩いている赤毛の少女を映し出すことに成功した。

「この子、間違いない!バーバラだわ!やっと見つけたわ!良かった。元気そうね。」

 ミレーユは満面の笑みを浮かべた。

 しかも2人が会話をしている声も聞こえていたため、彼女はビックリしてしまった。

「えっ?どうして?カルベローナでは声が聞こえなかったのに。」

 状況を理解出来ない彼女は、理由をグランマーズに聞いてみた。

『多分、ゼニスの城は姿が見えないだけで、現実世界の上空を飛び続けているからなのかもしれんな。』

「そういう理由ですか?」

『あくまでもわしの勘じゃがのう。でも姿だけでなく、声も聞くことが出来てよかったのう。』

「そうね。これでリベラの願いをかなえてあげることが出来るわ。」

『じゃが、お前さんの今の実力では、彼女がカルベローナに帰ってしまえば、声が聞けなくなることになる。じゃから、ゼニスの城にいる間に見せてあげねばのう。』

「あっ、そうだったわね。じゃあ私、早速リベラを呼んでみるわね。」

 いてもたってもいられなくなったミレーユは、映像を再度リベラとハッサンに切り替えた。

 すると、偶然にも彼らがチャモロとテリーに会って話をしていたため、彼女はチャンスとばかりにキメラの翼を使って飛び立っていった。

 

 4人は忙しい中、ミレーユの呼びかけに応えてマーズの館にやって来た。

「みんなそろったわね。それじゃ、私は今から水晶玉で、ある光景を映し出してあげるわね。」

 彼女は椅子に座り、水晶玉に手をかざした。

「いい?それじゃ、始めるわよ。」

リベラ「ミレーユ、これから何をするの?何を僕達に見せてくれるの?」

ハッサン「何だよ、何が始まるってんだよ。わざわざ呼びつけてさ。」

チャモロ「シッ、静かに…。」

テリー「……。」

 ミレーユが水晶玉に力を込めると、少しずつそこにある光景が映し出された。

 そして彼らが見たものは…。

 

『どんなのかしら…あたし達の未来は…。あ!生まれるよ!』

 

ハッサン「うおおおっ!バーバラだ!夢じゃねえ!本当にバーバラだ!」

チャモロ「住む世界は違うけれど、彼女は元気に生きているんですね!」

テリー「まさか再び彼女の姿を見られるとはな。しかも声まで聞けるなんて。」

リベラ「バーバラ…。」

 それまで誰もがもう2度と見ることが出来ないと思っていた大切な仲間の姿を、水晶玉越しではあるが見ることが出来、彼らは驚きながらも、心の底から喜んでいた。

「良かった。みんなに彼女を見せてあげることが出来て。頑張っておばあちゃんのもとで修業した甲斐があったわ。」

ハッサン「ところで、バーバラと会話することは出来ないのか?」

チャモロ「そうですね。そうなったらもっとうれしいのですが。」

「残念だけれど、それは無理よ。向こうの人達はこれを知らないわけだから。」

チャモロ「そうですか。さすがにそこまでは高望みでしたね。」

テリー「フン!とはいえ、見られただけでも幸せじゃねえか。」

ハッサン「まあ、そうだな。せっかくミレーユがこうやって彼女を見せてくれたのに、文句言うわけにはいかないよな。そうだろ、リベラ。」

「うん…。」

 彼は両手で鼻と口を押さえており、その表情はすでに泣きそうな状態だった。

「予想はしていたけれど、リベラは食い入るように見つめているわね。そこまであなたにとって彼女は大切な存在だったのね。」

「そうですね。旅している時は気が付きませんでしたが、心の中ではゾッコンだったんですね。」

「もしかして、ルイーダねえさんはそれに気付いていたから、お前とバーバラを引き離さなかったのかもな。」

 チャモロとハッサンはそろってリベラをイジり出した。

 一方の彼は顔を赤らめながら何も言わず、バーバラの姿をじっと見つめ、その声を一言たりとも聞き逃すまいと耳を傾けていた。

 

 みんなが見ていることを知る由もないバーバラは、ゼニス王との会話が終わると、お辞儀をしながら『ゼニス王さん!どうもありがとう。この子が生まれるシーンを見ることが出来たし、あたしはこれでカルベローナに戻ります。』と言いだした。

『こちらこそ。そちらの用事もあるのに、時間を割いてもらってすまなかったね。』

『あたしは大丈夫よ。楽しかったわ。じゃあね、バーイ!』

 バーバラは駆け足でその場を後にしていった。

 

 ミレーユはそれを見届けると、ここで水晶玉の映像を終わらせると言い出した。

「ええっ?これで終わり?」

「リベラ、気持ちは分かるけれどここまでよ。」

 彼女は続けざまに、自分の実力ではカルベローナにいる人の声を聞かせてあげられないことを伝えた。

チャモロ「それでは仕方ないですね。まあ、リベラさんは姿だけでも見たいかもしれませんけれどね。」

テリー「いずれにしても、今日のところはもういいだろ。これで解散だ。」

「そうね。あなた達が忙しい中、わざわざ時間を割いてもらったわけだから、今日はこれで良しにするわ。もしこれからまたバーバラを見たくなったら、60ゴールドで見せてあげるからね。」

ハッサン「ええっ?有料なのかよ!」

「今回は特例よ。私だって仕事でやっているんだから。」

リベラ「それなら、工事が終わって時間が出来たら、お金を持ってここに来るよ。」

「分かったわ。じゃあ、今日はここまでよ。」

 ミレーユはそう言って、映像を消した。

 

 その後、テリーは元々いた場所に戻っていき、ハッサンはアークボルトでの格闘大会に参加するため、チャモロに現地まで送ってもらった。

 チャモロはハッサンと別れると、再度移動してテリーに合流した。

 一方、リベラは他の3人が出ていった後も、その場を離れようとしなかった。

 そんな彼が気になったミレーユは、感想を聞いてみることにした。

「リベラ、バーバラを見ることが出来て、どうだった?」

「ありがとう、ミレーユ。涙が出る程うれしかった。もう2度と会うどころか、姿すら見られないと思っていたから。」

「でも私の実力ではこれが限界なの。せめて彼女と会話が出来ればいいんだけれど…。」

「そんなのはいいよ。もう吹っ切れたから。今までは必死にバーバラを忘れようとしていたけれど、これからは彼女のことを思い出しながら頑張るよ。お金をしっかりと稼いだら、またここに来る。そうしたら、またバーバラを見せてくれ。今日は本当にありがとう。」

 彼はミレーユに感謝をすると、立ち上がって深々とお辞儀をし、館を後にしていった。

(リベラ…、水晶玉越しだけれど、バーバラに会えて良かったわね。だけどこれで終わりじゃないわ。私、これからもっと修業を積んで、彼女がカルベローナにいる時にも声が聞こえるようにしてあげるから、待っていてね。)

 




 このバーバラ再登場のエピソードは、僕自身非常に重要な部分と考えていたため、かなり書き直しをしながら、時間をかけて仕上げました。
 また、発表するタイミングについても、早過ぎると別れの意味が薄れてしまう、遅過ぎると読者が待ちきれなくなってしまうということを考え、Quest.8で固定しました。
 その結果、それまでに入りきらない部分が生じ、アークボルトでブラスト達と戦うエピソードをカットしたため、ハッサンの戦うシーンがないという事態になりました。
 これではまずいと思い、このQuest.8に後付けで彼がリベラと一緒に戦うシーンを入れましたが、それでも納得出来なかったため、ボツになっていたアイデアを大幅に書き換えた上で次のQuest.9に掲載します。


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Quest.9 アークボルトでの格闘大会

 マーズの館からアークボルトに移動したハッサンは、格闘大会に参加するために城内に入っていった。

 この大会には彼の他にブラスト、ガルシア、ホリディ、アモス、セリーナ(※マンガ版の3巻に登場)の計6人が参加することになっており、スコットはケガの治療中ということを考慮して、審判を担当することになった。

 なお、当初はリベラとテリーもエントリーするつもりだった。

 しかしリベラは両親から反対され、テリーは過去のブラストに対する因縁もあって出場禁止処分を言い渡されていたため、断念となった。

 6人のうち、前回優勝のブラストと準優勝のガルシアはシードされて準決勝からの登場となっており、それぞれ1番と6番に固定されていた。

 残りの4人は準々決勝で2人ずつ対戦し、2番と3番の勝者はブラストと、4番と5番の勝者はガルシアと対決することになっていた。

 4人が一斉にくじを引いた結果、アモスが2番、ホリディが3番、セリーナが4番、ハッサンが5番になった。

 試合のルールは武器、呪文の使用は禁止(試合後のHP回復呪文はOK)、特技は素手ならOK。

 ダウンした場合は10カウント以内に立ち上がってファイティングポーズを見せれば試合続行、それが出来なかったり、降参したり、スコットにKOを宣言されると負け。

 なお、両者ともにダウンし、スコットがこれ以上の試合続行は無理と判断した場合は、立ち上がった上で先にファイティングポーズを見せた方を勝者(その場合、カウントは無し。)というルールだった。

 優勝者には賞金2000ゴールド、準優勝者には800ゴールド、準決勝進出の2人には400ゴールドずつ、残りの2人には200ゴールドずつ、総額4000ゴールドが支払われることになっていた。

 

 第1試合はアモス対ホリディ。

「アモっさん、頑張れよおっ!負けんじゃねえぞ!あたいが応援しているからさ!」

 威勢のいい声をかける主はサリイで、現在休暇中の彼女はアモスの応援にやってきた。

「それでは、今から試合を始めます!」

両者「お願いします!」

「では、始め!」

 スコットの号令と共に、2人の試合が始まった。

 アモスは先制攻撃で相撲の突っ張りのように連続攻撃を仕掛け、ホリディは防御しながら反撃の機会をうかがった。

 アモスはその後も攻撃の手をゆるめず、どんどんダメージを与えた。

 ホリディも防戦一方ではまずいと判断し、反撃に打って出た。

 しかし、結果的に与えた以上のダメージを受けてしまい、どんどん劣性になっていった。

「いいぞ、アモっさん!それ、パンチだ!キックだ!」

 サリイの声援を受けた彼は足技も駆使してさらに猛攻を仕掛けた。

 このままでは負けてしまうと思ったホリディは一発逆転をかけしっぷう突きを使った。

 技自体はヒットしたが、アモスがダメージを受けながらも体当たり攻撃をしてきたために突き飛ばされてしまい、床に倒れこみ、ダウンしてしまった。

 ホリディはスコットが10カウントをする間に立ち上がるのが精一杯で、ファイティングポーズが間に合わなかったため、試合はアモスの勝利となった。

「やったやった!アモっさん凄いじゃないか!」

 サリイが満面の笑みで言うと、アモスは「サリイさん。どうもありがとうございます!」と笑顔で返していた。

 

 第2試合はセリーナ対ハッサン。

セリーナ「よろしく。私自身、チャモロのために優勝するつもりでここに来た。全力で行くからな。」

「こちらこそ、よろしく。俺だって優勝するつもりだ。全力で戦うぜ。」

 2人はそういうと、「お願いします。」と言って、お辞儀をした。

 唯一の女性参加者である女戦士のセリーナは、試合開始とともに大きく息を吸い込んだ。

(ん?何をしてくるつもりだ?)

 ハッサンは不思議に思いながらも、通常攻撃でダメージを与えた。

 セリーナは次のターンで「うああああっ!」という声と共に攻撃を仕掛けてきて、ハッサンに大ダメージを与えた。

(ぐわっ!気合ためだったのか!これはこたえるな!動きに惑わされた。)

 彼は一瞬よろめきながらも踏みとどまり、反撃に入った。

 一方のセリーナも通常攻撃で反撃し、ノーガードの打ち合いになった。

 試合自体は見ごたえのある展開になったが、このままでは先にダウンしてしまうと思ったセリーナは、一旦下がって間合いを取ると、再び大きく息を吸い込んだ。

(また気合ためか!今度くらったらまずいな。ここで何とかしなければ。)

 ハッサンはとっさにせいけん突きのモーションに入った。

 そして2人はお互い力いっぱいの攻撃を繰り出してきた。

セリーナ「ぐああああっ!」

ハッサン「ぐおおおおっ!」

 お互い大きなダメージを受け、2人ともダウンをしてしまった。

「大丈夫ですか?では試合自体はここでストップとします。そして立ち上がって早くファイティングポーズを見せた方を勝者とします!」

 それを聞いて、2人は痛みをこらえながら立ち上がり、彼に向ってファイティングポーズをした。

「一瞬早かったのはハッサンでした。よって、勝者をハッサンとします!」

両者「ありがとうございました!」

 2人は痛みをこらえながら握手をし、お互いの健闘をたたえ合った。

「くっ、負けちまったか…。チャモロ、すまねえ…。200ゴールドしか稼げなかった…。」

 顔をしかめて悔しがるセリーナの姿を見て、ハッサンは心の中で(ごめんな。)と謝っていた。

 

 すると、このタイミングでリベラが駆け足をしながら会場に姿を現した。

「ハッサンごめん、遅くなっちゃった。」

「遅いぞ!お前、あの後も水晶玉でバーバラの姿を見ていたのか!」

「見てないよ。ミレーユに感謝の気持ちを伝えた後、空を見上げながらバーバラの笑顔を思い浮かべていたんだ。」

「なるほど、笑顔か。お前、すっかり立ち直ったんだな。」

「うん、彼女は今もきっと笑っていると思ったから。それよりハッサン、ホイミで回復しないと。」

「おお、そうだな。頼むぜ。」

 ハッサンはリベラにホイミを何度かかけてもらい、試合で受けたダメージを回復した。

「君、ホイミが使えるのか。じゃあ、私にも頼む。」

 セリーナの頼みを受けて、リベラは「分かりました。」と承諾し、彼女にもホイミをかけた。

 3人は一緒に並んで座り、次の試合を観戦することにした。

 

 第3試合はブラスト対アモス。

 試合開始と共に、アモスはまた突っ張りで連続攻撃に打って出た。

 しかしブラストは冷静に動きを見極め、ほとんどの攻撃を受け止めてしまった。

 そして隙を見てしんくう波を放ってきた。

「ぐわっ!効きますねえ。さすがです。」

 次のターンでアモスは足払いを駆使し、ブラストに隙を作らせようとした。

 しかし攻撃をかわされると、今度はせいけん突きをお見舞いされてしまった。

「アモっさん、何やってんだ。そこでパンチだ!キック!キックだ!」

 サリイの応援を受けて、何とか反撃しようとしたアモスだったが、防戦一方になってしまった。

「ああっ、もうっ!!」

「つまり…、手も足も出ないってことか…。」

 サリイがいらついている一方、リベラは冷静に腕組みをしていた。

 それから間もなく、アモスはいいところなくダウンをしてしまい、降参を宣言したため、試合はそこで終了になった。

「ごめんなさい、サリイさん。完敗です。」

「なあに。相手が強過ぎただけさ。」

「私みたいに弱い人間でも、いつかパートナーになってくれる相手が見つかるでしょうか…。」

「自分で弱いって言うようならいつかだろうな。でもそれをバネにして強くなってくれれば近い未来になるかもしれないぜ。」

「えっ…。」

 サリイの奥深そうな励ましを聞いて、アモスは思わずドキッとした。

 

 第4試合はガルシア対ハッサン。

 試合開始とともにハッサンはすぐに捨て身の攻撃に打って出た。

 いきなりの先制攻撃だったため、受け身も取れずに攻撃を受けたガルシアはその場に倒れこんでしまった。

 そして素早く起き上がり、反撃に出ようとして身構えたら、目の前にハッサンがいなかった。

 すると後ろからガシッと腹の部分をつかまれてしまった。

「くらえええっ!」

 ハッサンは力いっぱいガルシアを持ち上げ、バックドロップをお見舞いした。

「ズドーン!!」

 まともに技が決まったガルシアは意識がもうろうとしたせいか、すぐに立ち上がれずにいた。

 すかさずスコットからカウントが入った。

 そして10カウント以内にファイティングポーズを見せられなかったため、試合は30秒もせずにあっさりと終了してしまった。

 

リベラ「ハッサン、すぐにこの後試合だけれど、ホイミかけなくて大丈夫?」

「心配いらねえさ。俺はダメージを受けてねえからよ。それよりガルシアにかけてやってくれ。」

「分かった。」

「それじゃ、俺はブラストを倒して優勝してくるぜ。」

 ハッサンはそう言いながら手をバキバキ鳴らしていた。

 

 決勝戦はブラスト対ハッサン。

 ハッサンは準決勝から間髪を入れずに試合となった。

(とはいえ、ブラストもそれ程休憩時間があったわけではなかったが。)

 両者は「お願いします。」と言って、握手をした。

「それでは始め!」

 スコットの合図と共にハッサンはせいけん突き、ブラストは素手でしんくう波で攻撃し、どちらもヒットした。

 次は両者ともせいけん突きを繰り出し、それによって威力を相殺される形になったため、両者ともほぼノーダメージとなった。

(今のところ互角だが、せいけん突きだけではまずいな。そのうちアモっさんのように攻撃を受け止められて反撃をされてしまう。捨て身では受けるダメージが怖いし、飛びひざげりではダメージが増えない。何か他の技も考えなければ。こうなったらセリーナ、技を借りるぜ!)

 ハッサンはそう思うと、大きく息を吸い込んだ。

 その間にブラストはさみだれけんで攻撃し、ハッサンにヒットした。

 彼はダメージを受けながらもそれに耐えると、ため込んだ力を駆使して反撃した。

「ぐわっ!」

 気合ためでかなりのダメージを受けたブラストは勢いで突き飛ばされてしまい、少しだが動きに乱れが生じた。

(隙あり!)

 ハッサンは間髪入れずに再度突撃し、飛びひざげりをくらわせた。

 もちろんブラストも素早く体勢を立て直し、せいけん突きを繰り出してきた。

 両者はともにダメージを受けながらも攻撃を続け、ノーガードの打ち合いになってきた。

「ブラストがんばれ!」

「行けハッサン!」

 試合を見て他の人達は思わず興奮し、ガルシア、ホリディはブラストを、リベラ、アモス、サリイ、セリーナはハッサンを応援していた。

 2人はその後も打ち合いを繰り広げ、試合はますます白熱した。

 しかし体力はどんどん削られていき、両者ともにフラフラになりつつあった。

(多分しんくう波とかせいけん突きをまともにくらったらこっちがKOだろうな。次の一発で決めなければ。)

 すでに額から血がにじんでいるハッサンが意を決した時、ブラストは「くらえええっ!」と言いながらがせいけん突きを繰り出してきた。

(くらってたまるか!)

 ハッサンはすんでのところで攻撃をかわし、その腕をつかんだ。

「どおりゃあああっ!」

 彼は最後の力を振り絞るように一本背負いを仕掛け、ブラストを床に叩きつけた。

「もう必殺技をかける余裕はねえ。これでどうだ。」

 ハッサンは肩で息をし、フラフラな状態だった。

 もちろんそれはブラストも同じだったが、彼は「連続優勝を途切れされるわけにはいかない!」と言いながら、執念で立ち上がってきた。

 そしてファイティングポーズを見せたことで試合は続行となった。

(まだやるのかよ!でも勝つためにはやるしかねえな!うおおおおっ!)

 ハッサンは今度こそ最後の力をふりしぼり、捨て身に打って出た。

 ブラストは攻撃をかわそうとしたが、体がフラフラなこともあってよけきれず、ヒットしてしまった。

 両者はそこで力を使い切ってしまい、床に大の字になって倒れこんだ。

「では、早くファイティングポーズを見せた方を優勝者とします。」

 スコットの発言の後、両者は何とかして立ち上がろうとした。

 しかし体が言うことを聞かず、なかなか立ち上がれずにいた。

 会場からは両者を必死に応援する人達の声がこだまし、彼らもヒートアップしていた。

 

 両者ダウンから1分後、ハッサンは根性で立ち上がり、何とかポーズをしてアピールをした。

「いいでしょう。ファイティングポーズとみなします。勝者ハッサン!よって、優勝はハッサンとなります!」

 スコットの宣言により、初めてブラスト以外の優勝者が誕生した。

「やったぜハッサン!さすがに大魔王を倒しただけのことはあるな!」

「おめでとうございます!私でさえ全く歯が立たなかったのに、凄いですね!」

「ブラストさんに1対1で勝つなんて、やるじゃないか!」

「私との試合ですでにダメージを受けていたにもかかわらず、ここまでやるとはね。」

 サリイ、アモス、リベラ、セリーナはすでにボロボロのハッサンのところにやって来て、彼を祝福した。

 そしてリベラとアモスはホイミをかけ、ハッサンは顔こそ腫れ上がっているものの、何とか元気を取り戻した。

 一方、何とか立ち上がり、あとはポーズを見せるだけだったブラストは力が抜けて尻もちをついてしまった。

「やられた。初めて負けた…。」

 彼は肉体的にだけでなく、精神的にも大きなダメージを受けていた。

「でもすごい試合でしたよ。見応えありました。胸を張ってください!」

「立派なライバルが出来たということですよ。また強くなりましょう。」

 ガルシアとホリディは落ち込むブラストを懸命に励ましていた。

 そしてリベラとアモスは彼にもホイミをかけ、傷を回復させた。

 

 表彰式で、ハッサンは顔にいくつものガーゼやばんそうこうを貼っており、見るからに痛々しそうだったが、満面の笑みで優勝賞金を受け取った。

 そして彼は優勝した特権として次回の大会に参加する場合は第1シードとして自動的に1番になり、参加者が6人や7人の場合は必ずシードされ、準決勝と決勝が連戦にならないという、有利な組み合わせになることが決まった。

(8人の場合は最低シードの人と第1試合で当たることになります。)

 一方、200ゴールドしか受け取れなかったセリーナは、再びチャモロへの謝罪のようなことを言い出した。

「一体どうしたんですか?」

「チャモロのためにどうしてそんなにお金が必要なんだ?」

 彼女が気になったリベラとハッサンは、彼女のところにやって来て、理由を聞いてみた。

「実はチャモロがクィント、クァド親子をはじめ、恵まれない人達のために活動をしていてな。」

リベラ「それなら本人から話を聞いているので、よく知っています。」

「そうか、それなら話は早い。それで、資金難に悩まされているんだ。私も彼のためにここでお金を稼ぎ、何とか手助けしたかったんだが…。」

「だったらよ、俺達の仕事にあんたも参加してくれないか?給料はちゃんと払うからよ。」

 ハッサンは、明日から始まるレイドック城の工事の資金集めとしてこの大会に参加したことを話した。

「どうだい?時間、取れそうか?」

「どうやら体を鍛えることにもつながりそうだな。いいのか?私が参加しても。」

ハッサン「あんたさえ時間を作れるのなら大歓迎さ。人手が足りなくて困っていたんだ。」

リベラ「住むところと食事はこちらで提供します。来てくれれば本当に助かります。」

「じゃあ、ありがたい。私も手を貸そう。では、チャモロから預かった風の帽子を使って彼のところに行き、そのことを伝えてくる。場所はレイドック城だったよな。」

「ああ、そうだぜ。工事自体は明日から始まるが、毎日じゃなくてもいいぜ。来られる日を教えてくれれば、こちらで調整するからよ。」

「分かった。では、チャモロの了解を得た上で、出られるだけ出るつもりだ。また明日会おう。」

 セリーナはそう言うと、右手を差し出してきて、握手を要求した。

 ハッサンとリベラはそれに応え、固く握手を交わした。

「あの、私も明日参加させていただきましょうか?」

「えっ?アモっさん、いいのか?あたい達の仕事も控えているのに。休める時にしっかり休まないと体が持たないぞ。」

 突然アモスが割り込むと、サリイは驚いて止めようとした。

「1日なら大丈夫です。休みの日に遊ぶのと、仕事で日当を稼ぐのでは金額にかなりの差が出ますから。」

「まあ、あたいとしては、こっちの仕事をしっかりやってくれればそれでいいけどさ。お金もあって損はないし。」

「では、明日レイドック城で会いましょう。」

「OK。じゃあ、リベラの両親にセリーナさんとアモっさんが加わることを伝えておくぜ。」

セリーナ「よろしくお願いします。」

アモス「頑張らせていただきます。」

 こうして、明日から始まる作業に2人が加わることになった。

 

 大会終了後、ハッサンは一旦サンマリーノに行き、父親を連れてレイドック城にやって来た。

 そして、工事終了までそこで寝泊りすることになった。

 



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Quest.10 ひとりぼっちのふたり

 格闘大会の翌日、リベラは朝食を済ませるとルーラでターニアとアモスのところへ向かった。

 その間にチャモロがセリーナを連れてレイドック城にやってくると、すでに作業の準備に入っていたハッサンと合流した。

「チャモロ、私の送迎ありがとう。」

「いえいえ、当然のことをしたまでです。仕事頑張ってくださいね。」

「ああ、お前もな。資金的にはまだまだ厳しいが、少しでも何とかしてやるからな。」

「ありがとうございます。私も頑張ります。ではハッサン、セリーナさんをよろしくお願いします。」

「分かったぜ。わざわざありがとうな。」

「どういたしまして。」

 チャモロはお辞儀をすると、風の帽子で飛び立っていった。

「そういうわけだ。私は彼の了解を得た上で、工事終了までフル出場することになった。頑張って働くから、給料はしっかりと払ってくれよ。」

「心配ないぜ。昨日おどる宝石を倒した上に、大会で優勝したことでボーナスが入ったこともあって、リベラの母ちゃんがその分を上乗せして払うって言ってたからよ。」

「それはありがたいな。」

 2人が話をしていると、リベラがターニアとアモスを連れて戻ってきた。

リベラ「ハッサン、セリーナさん、お待たせ。」

ターニア「おはようございます。私も協力させていただきます。よろしくお願いします。」

アモス「私は今日1日だけですが、頑張らせていただきます。」

 彼らがあいさつをすると、レイドックとシェーラ、さらにハッサンの父親がやって来て、これからの仕事の予定について色々教えてくれた。

レイドック「ターニアさんにはみんなの昼ご飯の準備や作業服の洗濯などの仕事を頼みたい。」

シェーラ「もし分からないことがあったら、私が何でも相談に乗ってあげますよ。」

ターニア「ありがとうございます。じゃあ、私頑張ります!お兄ちゃん、そしてみんな、お昼ご飯楽しみにしていてね。」

リベラ「分かった。じゃあ、後でね。」

「うんっ!」

 ターニアは笑顔で城の中へと向かっていった。

 

 作業は古くなった城壁を壊すところから始まった。

「うおおおおっ!」

 ハッサンは大金槌を手に、壁に向かってせいけん突きを放った。

 するとガラガラと音を立てながら壁に大きな穴が開いた。

「じゃあ、次は私がやりましょう。」

「セリーナさんが?大丈夫かよ?」

「私だって戦士です。体は鍛えていますよ。」

 彼女はハッサンから大金槌を受け取ると、気合ためをした。

 そして壁に強烈な一撃を放ち、さらなる穴をあけた。

 続いてリベラとアモスも壁を攻撃したが、通常攻撃だったため、さすがにハッサンやセリーナ程の穴にはならなかった。

リベラ「うーーん、セリーナさんに負けちゃったな…。」

「私をなめてもらっちゃ困る。これでも懸垂を1分間に20回出来るからな。」

「本当に?」

「ああ。何だったら、あそこで証明してやるよ。」

 彼女はコブレとサリイ達が作った鉄棒を指差した。

アモス「ぜひ見たいですね。それに私も1分間に何回出来るか試したいです。」

ハッサン「じゃあ今日の作業が終わったら、みんなで懸垂大会だぜ。」

 彼らが話をしていると、ハッサンの父親から「君達、ちゃんと作業に集中しなさい。」と注意されたため、彼らは黙々と作業をすることになった。

 

 その後、城壁を崩し終えたところでちょうど昼休憩になった。

 すると、ターニアが「みんなー!昼ご飯よー!」と言いながら外に出てきた。

ハッサン「OK!じゃあみんな、1時間休憩だ!」

リベラ「ターニア、ありがとう。今行くよ。」

 作業に携わっていた人達は先を競うようにして城へと向かっていき、彼女の手料理に舌鼓を打った。

 その様子をターニアは満面の笑みで見つめていた。

 

 午後は崩した城壁を片付ける作業をみんなで行い、それが済んだところでこの日の仕事は終わった。

 すると午前中に話した通り、1分間懸垂大会をすることになった。

 参加者はセリーナ、アモス、リベラ、ハッサンで、ターニアは時間を計る係になった。

 最初に挑戦したのはセリーナで、予告通り本当に20回を達成した。

ターニア「すごーい!こんなに出来るなんて!」

セリーナ「ありがとう。だが、これ以上の回数は無理だったな。」

「つまり力を出し切ったってこと?」

「そう考えてよさそうだな。」

アモス「それでは私がその記録を上回ってやりますよ!」

 彼は気合を入れながら懸垂を開始した。

 しかし1回あたりの時間がかかったことが響き、余力を残したまま16回でタイムアップしてしまった。

「あ~あ、回数だけなら間違いなく20回を超えたはずなのに、悔しいです。」

 次に挑戦したのはリベラだった。

 彼は前半から飛ばし、30秒経過時点で12回に到達した。

 しかし後半にガクンとペースが落ちたことが響いて、結果は19回だった。

リベラ「くーっ!惜しい!途中まではいけると思ったんだけどな。」

ターニア「そうね。お兄ちゃんなら絶対に勝てると思ったのにね。」

リベラ「早くやるコツって何かあるのかな?」

セリーナ「さあな、それは私でも分からない。あくまでも自己流で鍛えただけだからな。」

ターニア「残るはハッサンさんですね。頑張ってくださいね。」

「ああ、頑張るぜ。でも俺に『さん』はつけなくていいからよ。」

「えっ?でも…。」

「むしろ、『さん』が2回続く方が抵抗あるんだ。遠慮なくハッサンって呼んでくれ。」

「分かりました…。」

 彼女は恐れ多い気持ちになりながらも、同意をした。

「それじゃやってやるぜ!」

 ハッサンは優勝する気満々で懸垂を始めた。

 しかし大きな体があだとなったのか、思うように回数が伸びなかった。

(うおっ!腕力だけじゃダメなのか?やはり何かコツがあるのか?)

 彼の表情には次第に焦りの色が浮かんできた。

 そして何とか回数を伸ばそうと頑張ったが、体をおろした時に腕がしっかりと伸びていないまま次に行ってしまう行為が目立つようになった。

 それが響いて無効になった回数があり、結果は12回とまさかの最下位に沈んでしまった。

「ウソだろ、おい!俺がこんなことになるなんて!」

 現実を受け止められない彼は、その場で呆然としていた。

 一方、優勝したセリーナは「よっしゃあっ!」と、ガッツポーズをしながら喜んでいた。

 賞金は特に用意していたわけではなかったが、リベラは何かあった方がいいということで、城に入っていき、旅の最後まで使わないままだった賢さの種3つとうつくしそう2つ、そしてアモス用に日当を持って戻ってきた。

「とっさにだったから、こんなのしか用意出来なかったけれど、いいかな?」

「15×3+37×2で119ゴールドか。それでもチャモロはきっと喜ぶだろうから、遠慮なく受け取ろう。」

「良かった。じゃあ、どうぞ。」

「サンキュー。」

 セリーナは喜んで受け取ってくれた。

「それじゃアモスさん、日当です。」

「リベラさん、ありがとうございます。」

 彼は受け取ったお金を手に、リベラと一緒にロンガデセオに向かって飛び立っていった。

 

 リベラ、ハッサン、セリーナはその後もみんなの見本となるべく、他の誰よりも作業に励んだ。

 一方、ターニアは食事の仕込みや洗濯などで彼らを支え、休憩時や作業後はリベラ達と楽しく会話をしながら過ごしていた。

 その後、みんなの努力の甲斐もあって、ついに新しい城壁が完成した。

 それに伴ってチームは解散することになった。

 セリーナは給料を受け取ると、「これまでどうもありがとうございました。」と言って、みんなの前で深々と頭を下げた。

 そしてリベラに送ってもらう形でチャモロのところに戻っていった。

 

 彼が戻ってくるとハッサン、ターニアを加えた3人は、早速マーズの館に向かっていった。

 そこではこの日の仕事を済ませたミレーユが部屋でくつろいでいた。

「こんにちは、ミレーユさん。今お時間大丈夫でしょうか?」

「あら、ターニアじゃない。珍しいわね、あなたがここに来るなんて。」

「実は、私もバーバラさんの姿を見たかったので、お兄ちゃんとハッサンさん…じゃなくてハッサンと一緒にここに来たんです。お願い出来ますでしょうか?」

「いいわよ。私もあれから夢の世界の人の声も聞けるようになったから。じゃあ、3人合わせて60ゴールドだから、一人20ゴールド頂くわ。」

「分かりました。」

 ターニアが20ゴールドを用意すると、リベラとハッサンも割り勘をしながら金額を支払った。

「確かに受け取ったわ。では、占ってみるわね。」

 ミレーユが水晶玉に手をかざして念じると、カルベローナの光景が映し出された。

 ちょうどこれからミニコンサートが行われるのだろう。会場には小規模ながらもステージが用意され、すでにお客さんが集まっていた。

 しばらくすると、バーバラがステージに姿を現し『今日はあたしのために集まってくれて、どうもありがとーーー!みんな盛り上がってるーーーっ?』と叫んだ。

 お客さんも『イエーイ!』と叫びながらノリノリだった。

『それからリベラ、ハッサン、ミレーユ、そしてみんな見てるーーーっ?』

「見てるぜえっ!バーバラ!」(←ノリでつられるハッサン)

『あたしの声、聞こえるーーーっ?』

「聞こえてるよおっ!」(←リベラまで)

『どうもありがとーーーっ!』

 バーバラが突然変なことを言い出したため、会場のお客さん達は思わずきょとんとしてしまった。

「えっ?ええっ??私達本当に見えているの?」

「凄いシンクロね、これ。」

 ターニアとミレーユは目の前で起きたことが信じられないとばかりに驚いていた。

 それから間もなくコンサートが始まり、バーバラは歌いながら踊りも披露していた。

(彼女は確かアイドルになりたいようなことを言っていたけれど、本当にその夢をかなえたんだね。良かったね、バーバラ。)

 そんな姿を見てリベラもうれしくなり、彼だけでなくハッサン、ターニア、ミレーユもお客さんと一緒に盛り上がっていた。

 

 コンサートはあっと言う間に進んでいき、次がいよいよ最後の曲になった。

『今日はスペシャルゲストを呼びたいと思います。ターニア、どうぞ!』

 バーバラがそう叫ぶと、ステージには本当にターニアが姿を現した。

「えっ?ええっ??私がもう一人?」

「あっ、そうか。夢の世界にもターニアがいるんだよね。」

「確か彼女は俺やリベラと違って融合していなかったよな。」

「そして私達の目の前で姿が見えなくなってしまったわね。」

 リベラ、ハッサン、ミレーユは至って冷静だった。

 ステージ上ではバーバラが笛を、ターニアが竪琴を用意し、演奏のスタンバイをしていた。

 そして2人が一緒に『ときは来たれり』と言った後、いよいよ演奏が始まった。

 その曲はとても心に響く曲で、お客さんだけでなくリベラ達4人もすっかり聞き入っていた。

 

 コンサートが終わると、ターニアは照れ屋なのか急ぎ足でステージを後にしていった。

 一方のバーバラは『みんな、今日はどうもありがとーーっ!』とお客さんに向かって叫び、余韻に浸っていた。

 そして『リベラ!あたしからのプレゼント、受け取ってーーーっ!』と言った後、投げキッスをしてステージを後にしていった。

 水晶玉越しにではあるけれど、彼女はリベラの真正面を向いていたため、本当に彼めがけてやった形になった。

「おおっ!バーバラ、積極的だな!って、どうしたんだよリベラ!」

「な、何だか、ドキドキが止まらなくなっちゃって…。どうしよう、ハッサン…。」

「あっ、お兄ちゃん、顔真っ赤だ!本当に投げキッスを受け取ったのね!」

「……。」

 リベラは何も言い返せず、胸の高鳴りを抑えるのに精いっぱいだった。

 

 その後、バーバラはターニアをライフコッドに送り届けるためにルーラを唱え、2人で飛び立っていった。

 それを見てミレーユは「それじゃ、今回はここまでにするわ。」と言って、水晶玉の映像を消した。

 バーバラの元気な姿を見ることが出来たリベラとハッサン、そして彼女に加えて夢の世界の自分まで見ることが出来たターニアは、大満足しながら館を後にしていった。

 

 その日の夜、ミレーユは夢の世界のターニアのことが気になり、水晶玉で映してみることにした。

 彼女はライフコッドの自宅で一人暮らしをしており、自分で作った夕食を一人で食べていた。

 すでに実の兄であるリベラには2度と会えないことを自覚しているのだろう。食器やベッドは一人分しかなかった。

 その表情には昼間のような明るさはどこにもなく、食事を終えて食器を洗い終えた後、悲しげな表情で竪琴を演奏していた。

『お兄ちゃん…、また会えるよねとは言ったけれど、そんなのは夢だよね。夢のまた夢だよね…。2度と会えないよね…。本当にさようならだよね…。お兄ちゃん…。』

 現実世界のターニアはいつでもリベラに会えるのに対し、夢の世界の彼女は実の兄を失ったこともあって、その悲しみは深いものだった。

『私、体が消えたあの時、お兄ちゃんについて行けば良かった。そうすれば、お兄ちゃんと一緒に過ごせたのに…。でもあの時はお兄ちゃん一人と引き換えに、この世界に戻れなくなることが怖かった…。村のみんなと2度と会えなくなることが怖かった…。そしてチャンスを逃してしまった…。もう下の世界には行けなくなってしまった…。私…、悔しい…。本当に悔しい…。』

 その痛ましい姿を見て、ミレーユは何かをしてあげたくなった。

 しかし向こうからはこちらが見えず、こちらの声も聞こえないため、ただその姿を見ることしか出来なかった。

(ごめんね。出来ることなら今すぐにでもこちらのターニアと融合させて、リベラに会わせてあげたい。でも、夢と現実の世界をつなぎ合わせることなど、私には到底出来ない。おばあちゃんでも出来ない。どうか許してね。)

 彼女は心の中で謝りながら映像を消した。

 

 しばらくして、バーバラも気になったミレーユは、水晶玉に姿を映し出すことにした。

 彼女はカルベローナの自分の部屋におり、一人ぼっちで椅子に座りながら、新曲をアカペラで歌っていた。

 彼女もまた昼間の明るさとは打って変わり、ターニア同様に寂しそうな表情をしていた。

 曲が終わると彼女は独り言を色々言い始めた。

『みんな、どうしているのかな…。あたし、自分の実体がなかったために、あたしだけがみんなから引き離されて…。あたし、こんな運命になってしまったことが悔しい…。もう一度みんなに会いたい…。会いたいけれど…、もう2度と会えないのかな…。リベラは今でも会いたいと思っているのかな…。もし会えたら、あたしと手をつないでくれるかな…。今度こそあたしに好きって告白してくれるかな…。』

 そう言うと、彼女の表情がさらに寂しげなものになった。

「バーバラ、リベラもあなたに会いたがっているわよ。あの日、水晶玉であなたの姿を見た時は、泣きそうな顔になりながら食い入るように見つめていたわ。そしてあなたのことを思い出しながら頑張るよって言っていたわ。あなた達は今でも両想いの関係よ。」

 ミレーユは水晶玉に向かって語りかけたが、いくらしゃべったところでその声はターニアの時と同様に、バーバラに届くことはなかった。

『みんなはあたしのこと、忘れてしまったのかな?あたしがいなくても元気に過ごしているのかな?みんなはあたしと別れただけで済んだから、あたし一人いなくても平気かもしれないけれど、あたしはみんなと別れたから、みんなの何倍も悲しい思いをして…。』

 泣きたい気持ちをこらえているバーバラを見つめることは、ミレーユにとっても辛いことだった。

(確かにそうね。もし私があなたの立場になったらどんな気持ちになるか…。とても私では想像出来ない。ごめんね。あなたの気持ちを分かってあげられなくて…。)

 夢の世界でひとりぼっちになってしまったふたり…。

 そんな彼女達の姿を見て、ミレーユは何もしてあげられない無力さを感じずにはいられなかった。

 

 たとえ直接会うことが不可能だとしても、誰でもいいから向こうの人がこちらに気付いてくれれば…。

 そして、せめて会話だけでも出来るようになれば…。

 



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Quest.11 バーバラ外伝 あの人のもとへ

 リベラと離れ、夢の世界に戻ってきたバーバラは、転職を通じて身に付けていた呪文や特技を封印し、普通の魔法少女に戻ることにした。

 結果、彼女に残された呪文はメラからメダパニに加えて、マダンテの12個になった。

 カルベローナではみんなからの大歓迎に笑顔でこたえる一方、心の中では深い悲しみを抱えていた。

 そんな中、仕事でライフコッドに出かけた彼女は、同じ人と別れてやはり深い悲しみを抱えているターニアと意気投合した。

 年齢はバーバラの方が上ということもあって、ターニアは彼女のことを「お姉ちゃん」と呼ぶようになった。

 

 そんな姉妹同然の関係になった2人のもとに、ある日、映画出演の依頼が入った。

 ストーリーは、故郷の村を滅ぼされた女勇者エリーゼの成長を描いたものだった。

 映画の中でターニアは村の少女役を、バーバラはギラ、ラリホー、ベギラマを使えるということで、敵キャラの「まほうつかい」、「まどうし」、「だいまどう」役を演じることになった。

 再び呪文を覚え直せると考えたバーバラは事前にダーマ神殿に行き、魔法使いに転職した。

エリーゼ「バーバラ様、映画とはいえ、世界を救った一人であるあなたと戦うのは恐れ多いですけれど、これからよろしくお願いします。」

「んもー、堅苦しいわね。バーバラでいいわ。あたしはあなたのことをエリーゼって呼ぶから。」

「えっ?でも…。」

「あたしは楽しくやっていきたいのよ。よろしくっ!」

 バーバラはいつものおてんばぶりで、この日が初対面のエリーゼの緊張をほぐしていった。

 その後、2人は戦闘シーンを模擬した稽古を行った。

 結果、メラミを覚えたバーバラは再びダーマ神殿に行き、今度は僧侶に転職した。

 

 撮影は平和な村で、エリーゼとターニアが楽しく会話をしているシーンから始まった。

エリーゼ「こうして寝転がっていると、本当にいい気分ね。」

ターニア「そうね。ねえ、私達、大きくなってもずっとこのままでいられたらいいね。」

 すると、どこからともなくモンスター(実際はそれに扮した人間)が村を襲って来て、彼女達は大急ぎで地下室に避難していった。

 撮影の合間に着替えて女勇者の格好になったターニアは「さようなら、エリーゼ…。」と言い残し、地下室を後にしていった。

 ターニアが元の服装に着替えると、今度はエンディングの撮影が行われ、彼女が旅を終えて戻ってきたエリーゼと再会するシーンを演じて、出演終了となった。

 

 一方、バーバラは普段着の上に灰色のローブを着て「まほうつかい」の姿になり、素手での通常攻撃に加えてギラを唱えながら、初歩的な装備のエリーゼと勝負した。

 その結果、彼女はホイミを覚えることが出来た。

 次に彼女はまどうしのローブに着替え、まどうしの杖(←DQ6には無いけどね)を身に付けて「まどうし」の姿になった。

 そのまどうしはギラに加えてラリホーを唱えるため、バーバラは眠ってしまったエリーゼを一方的に攻撃するという、えげつないキャラを演じることになった。

 ただ、エリーゼがマホトーンを使えるようになると、呪文を封じられたバーバラは無駄行動をするようになり、一方的にやられる立場になった。

 さらにその後、彼女は色違いのまどうしのローブと、まふうじの杖を身に付けて「だいまどう」になり、ベギラマを唱えるキャラになった。

 この時、バーバラはベギラマの威力を敵キャラ用に調整することを忘れ、フルパワーで放ったため、事故的に女勇者の負けイベントを発生させてしまった。

「きゃあっ!」

 予想以上のダメージを受けたエリーゼは、その場に倒れこんでしまった。

「キャーーーッ!ごめんなさいっ!!」

 バーバラはカットの声と同時に悲鳴を上げ、大急ぎでホイミをかけた。

「ごめんね、エリーゼ!やり過ぎちゃった!」

「イタタタ…。びっくりしたわ。死ぬかと思った…。」

「ごめんなさい…。」

 フードを上げて素顔を見せたバーバラは手を合わせながら平謝り状態だった。

 だが、監督からはドラマチックなシーンとして使えるかもしれないとフォローを受けたことで、彼女は気持ちを切り替えることが出来た。

 そして2人は時には草原で、時には廃墟で、時にはラストダンジョンで戦闘シーンを演じた。

 

 バーバラは最終的にベホイミまで覚えることが出来、撮影もそこで終了となった。

「カット!それではあなたの出演シーンは以上です。ありがとうございました。」

「こちらこそ、どうもありがとーーーっ!」

 緊張感から解放された彼女はいつものおてんばぶりを取り戻し、現場を後にしていった。

 その後、彼女はアイドル活動と並行してはがねのムチやメラミ、ベギラマ等を駆使して稽古をしたり、映画での戦闘シーン、ザコ敵との戦闘を通じて熟練度を上げていった。

 

 リベラ達が水晶玉越しに見ていたあのコンサートの翌日、バーバラは再びライフコッドにやってきた。

「やあ、ターニア。お元気いっ?」

「元気よ、お姉ちゃん。でも、夕べはずいぶん一人で悲しい気持ちになったけれどね。」

「それはあたしも同じよ。やっぱり血はつながっていなくても、そこは共通しているみたいね。」

「そうね。お兄ちゃんに会いたいという気持ちを持っているのは同じだから。」

「それでね、今日はその件でここにやってきたの。一緒についてきてくれる?」

「どこに行くの?」

「ゼニスの城!あたしね、実はいい情報をつかんだの。」

「どんな情報?」

「耳元でそっとささやいてあげるね。誰にも聞かれたくないことだから。」

「分かったわ。」

「じゃあ、耳貸して。」

 バーバラはそう言うと、そっとターニアに要件を伝えた。

「えっ?それ、本当なの?」

「100%ってわけじゃないけれどね。でも、どう?行ってみる?」

「ぜひ行きましょう!」

「じゃあ、早速行くわよ。ゼニスの城へ!」

 2人は外に出ると、ルーラでその場から飛び立っていった。

 

 ゼニスの城では、ゼニス王がある道具を持って、あの卵がふ化した場所で待っていた。

 するとそこに、バーバラとターニアが駆け足でやってきた。

「ゼニス王さん、お待たせ~っ!」

「お姉ちゃん、王様にそんな口調でしゃべって大丈夫なの?」

「うんっ!もう慣れてるみたいだから。」

「私には恐れ多いんだけれど…。」

 姉妹同然の関係とはいえ、こういう時にはお互いの性格の違いがはっきりと浮き彫りになった。

「ようこそ。さて、今日ここに呼び出したのは、バーバラ様の願いがかなうかもしれないことについてです。」

「お姉ちゃんの願いって?」

「決まってるじゃない!リベラに会いに行くのよ!」

「そんなこと、出来るの?」

「出来るかもしれないの。」

「出来るかもって?」

「詳しいことはゼニス王さんから聞くことにするわ。じゃあ、お願いね。」

「分かりました、バーバラ様。では早速説明をしましょう。」

 彼はそう言うと、翼のような形をしたものを見せてくれた。

 それは特別な布で何重にもくるまれており、まるで何か大きな力を封印しているようだった。

ターニア「これは一体?」

「これはキメラの翼を大幅に改良したもので、私としては『超・キメラの翼』と呼んでいます。この翼の力を封印している布をほどくと、世界を隔てる壁を乗り越えて、別の世界へと飛んで行けるかもしれないのです。」

ターニア「行けるかもしれないって?」

「まだ誰も使った試しがありませんので、使用後に何が起きるか分からないのです。」

 ゼニス王は続けざまに、成功すればもう一方の世界に行くことが出来る半面、失敗するかもしれないこと、その場合、どこかの空間に閉じ込められてしまうかもしれないこと、もしそこに入ってしまったら出られない可能性があることを教えてくれた。

「もちろん、仮にうまくいっても1つでは行ったきり帰れないことになりますから、2つ用意しました。ですが、失敗は許されません。あなた達はこの世界、そして今までお世話になった人達と別れることになる。再び戻れる保証はない。それでもあなた達は下の世界に行く覚悟がありますでしょうか?」

 ゼニス王が真剣な表情で言った言葉に、ターニアはもちろん、バーバラの表情も曇り、戸惑ってしまった。

「もちろん強制はしません。ここにとどまるのも一つの選択肢です。気持ちが固まったら、またここに来てください。」

バーバラ「…分かりました。」

ターニア「…考えさせて下さい。」

 2人はうつむいたまま、答えを出すことが出来なかった。

 そして重い足取りでゼニスの城を後にしていった。

 

 カルベローナに戻った後、バーバラは自分の部屋でじっと考え事をしていた。

(行けるかどうかは分からない。行っても実体のないあたしはミレーユのおばあちゃん以外、認識してもらえない。それでもあたしは…。)

 彼女は自分がどうなってしまうか分からない不安を抱えながらも、リベラ、そして大切な仲間達に会いたいという気持ちは消えたことはなかった。

 

 もう一度リベラに会いたい。

 きっと行ける方法はある。

 たとえ夢見のしずくがもう効かないとしても、きっと自分の姿が見えるようになる方法はある。

 

 その思いは帰還した直後からずっと持ち続けていた。

 だが、彼女の気持ちを支持してくれる人は、ゼニス王の他にはその城にいる数人と、ターニアだけだった。

 実際、カルベローナにいた人達に本心を伝えた時には

「あなたはカルベローナの長になる方ですよ!」

「たった一人の人に会うために、そんな危険を冒すなんて!」

「私達はあなたを失いたくはありません!」

 と言われる始末だった。

 それでもメラメラと燃えたぎっていた心の火は消えていなかった。

(むしろ、みんなが反対してきたことで、下の世界に行きやすくなったわ。みんなには本当に悪いけれど、あたしはどうしてもリベラに会いたい。やらずに後悔するのなら、やって後悔したい!)

 彼女は揺るがぬ決意をすると、こっそりと外に出て、ルーラでゼニスの城に飛んでいった。

 

「ゼニス王さん、あたしは行きます。どれだけみんなから反対されても行きます。」

「そうですか。バーバラ様は本当に行くんですね。」

「はいっ!それ程リベラはあたしの大切な人なんです。」

「分かりました。私は止めません。あなたの意見を尊重しましょう。でも、相手の人があなたを認識出来ないとなれば、それは不便でしょうから、下の世界の人達にもあなたが見えるようになる方法を用意してあげますよ。」

「そんなことが出来るの?あたしが見えるようになるのなら、喜んでそうするわ!」

「ただし、それと引き換えにあなたは代償を背負うことになります。それでもいいですか?」

「代償って?」

「それは…。」

 ゼニス王はその内容について詳しく話してくれた。

「えっ?本当に?」

「はい、間違いなくそうなるでしょう。ですが、仮に代償を背負っても、あなたの実体を見つけ出して融合すれば、その時点で解除されますよ。」

「でも、あたしの実体って…。」

「恐らく間違いないでしょう。ですから事実上、あなたは2つの選択肢からどちらかを選ぶことになります。とはいえ、あなたの性格であれば、代償を背負ってでも行くでしょう。」

「ま、まあ…。姿が見えないせいで、あたしは本当に寂しい思いをしてきたから…。」

「ですから、私は城の人達とひそかに特別なアイテムを用意することにします。」

「特別なアイテム?何それ。」

 ゼニス王は、それが何かをバーバラに教えてくれた。

「本当?あたしのためにそこまでしてくれるの?」

「はい。ただし、準備にはそれなりの時間がかかります。さらに使えるのは1度だけですから、それは忘れないでください。」

「はーい!分かりました!」

 持ち前の明るさを取り戻したバーバラは、元気よく返事をした。

「では、私はこれからその準備に取り掛かります。出来上がったらお呼びしますので、その時にまた来てください。」

「オッケーイ!じゃあ、ゼニス王さん、まったねえ~。」

 バーバラは威勢よくあいさつをすると、駆け足で城を後にし、ライフコッドに向かっていった。

 

「お姉ちゃんはみんなからどれだけ反対されても行く決心をしたのね。」

「うん。行かなかったらきっと一生後悔すると思ったから。」

 その気持ちは、ターニアの心を大きく揺さぶった。

 

 私はあの時、お兄ちゃんについて行く勇気がなかった。

 そのためにこの世界に取り残され、深い悲しみを背負うことになってしまった。

 もし行かなければ、その悲しみを一生背負いながら生きていくことになる。

 そんなのは嫌。

 もうこんな思いはしたくない。

 兄に会いたい。もう一度会いたい。

 たとえこの世界を捨てることになったとしても!

 

 すると、ターニアの心にもメラメラと火がついてきた。

「お姉ちゃん、あなたが行くのなら私も一緒に行くわ。」

「いいの?」

「うん。お姉ちゃんと一緒なら怖くないわ!」

「分かった。じゃあ、あたしがゼニス王さんから教えてもらったことを話してあげるわね。」

 バーバラは姿は見えないけれど代償なし、もしくは姿は見えるけれど代償ありという2つのパターンがあることについて伝えた。

「どうかしら?仮にあなたの姿が見えなくてもあたしがもう一人のあなたのところまで案内するわ。そして融合してしまえば姿が見える状態になってリベラ達と会話が出来るようになるわよ。」

「分かったわ。じゃあ、私はその方法を選ぶ。でも、それでお姉ちゃんに余計な負担をかけることにならなければいいけれど。」

「あたしは大丈夫よ。妹のためなら喜んでやるわ。」

「じゃあ、一緒に下の世界に行ったら、案内お願いね。」

「うんっ!」

 この時点で、2人の決意は揺るがぬものになった。

 

 後日、ちょうどベホマを覚えた時点でゼニス王から連絡を受けたバーバラは、はがねのムチに加えて、映画撮影時の思い出の品である、まどうしのローブとまふうじの杖を持ってダーマ神殿に行き、僧侶の職を解除した。

 そしてすっかり家を片付けたターニアと合流して、ゼニスの城に向かっていった。

 ゼニス王は下の世界に行くために必要なアイテムとして、超・キメラの翼2つと、何かオーブのような宝玉を用意し、その宝玉の効果について教えてくれた。

 バーバラはそれらを受け取ると、「どうもありがとう。じゃあ、あたし達、行ってきまーす!」と言って、城の外に出ていった。

 ベランダにやってきた2人は(どうか無事に下の世界に行けますように。)と心の中で祈りながら、翼を覆っていた布をほどいていった。

 するとその翼が光り輝いていき、バーバラとターニアの体を包み込んでいった。

 そして2人の体が完全に光に包まれると、光の矢となって下界に向かって降下していった。

 あの人のもとへ。

 彼女達の願いは果たしてかなうのだろうか…。

 




 名前の由来
 エリーゼ(Elise)
 ベートーベン作曲のクラシック曲「エリーゼのために」から命名しました。
 僕自身がとても気に入っている曲で、執筆中もよく聞いています。
 この作品の主人公の名前はリベラですが、もし女性だったらこの名前にしていた気がします。


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Quest.12 The Promised Land

 バーバラと夢の世界のターニアが下界に行くための手はずを整えている頃、リベラ、ハッサン、ミレーユ、現実世界のターニアの4人はレイドック城のベランダにおり、水晶玉でその様子を見ていた。

リベラ「彼女達、本当にこの世界に来るんだね。」

ハッサン「無事にたどり着ければいいけれどな。」

ターニア「たどり着いたら、私はもう一人の私と融合することになるのね。」

ミレーユ「そうなったら、あなたにその覚悟はあるかしら。」

「それは…。お兄ちゃんが融合した後、何だか性格が変わったような気がしたから、何だか不安だわ。お兄ちゃんはあの後、どうだったの?」

「確かに、異なる2人が共存する形になったから、気持ちを整理するのに時間がかかったけれどね。でも、今はこうやって幸せに過ごしているから、これで良かったと思っているよ。」

「そう…。私もそうなればいいけれど…。」

「ターニア、一人で悩む必要はないわ。あなたには私達がいるから。」

「そうだぜ。何かあったら、いつでも俺達が相談にのるからよ。」

「うん。何があっても、君は僕の妹だよ。」

 3人は優しい表情でターニアを励ました。

 その時、バーバラが超・キメラの翼を覆っていた布をほどいた。

 するとその翼が光り輝いていき、バーバラとターニアの体を包み込んでいった。

 そして2人の体が完全に光に包まれると、光の矢となって下界に向かって降下していった。

(どうか上手くいってくれ!)

 リベラは祈るような気持ちで水晶玉を見つめた。

 

 光の矢は凄いスピードで空間を切り裂き、分厚い雲を通り抜けていった。

 そしていよいよ海と地上が見えてきた。

リベラ「あっ、良かった。こちらの領域に入ったようだね。」

ターニア「そのようね。でもすごい勢いで落下しているわね。」

ミレーユ「こんなスピードでどうやって着地するのかしらね。」

ハッサン「確かに…。何だか嫌な予感がしてきた。」

 その予感は見事に的中していたようで、水晶玉から『あたしだってこんなところで死にたくなーーい!!』というバーバラの悲鳴が聞こえてきた。

(※実際はターニアも叫んでいます。)

 そのただならぬ事態を見て、リベラ達の表情も次第に青ざめていった。

『そんな、何とかしてって言われても…!こうなったらイチかバチかよ!どこでもいいからとにかくルーラ!!』

 水晶玉から大声が聞こえると、落下スピードは段々遅くなっていき、速度がゼロになったところで光が消え、バーバラの姿だけがはっきりと見えるようになった。

 そして彼女(実際は2人)の体は空中に舞い上がっていった。

リベラ「良かった…。地面に叩きつけられなくて…。」

ハッサン「本当に死ぬかと思ってハラハラしたぜ…。」

ミレーユ「よくあそこでルーラという発想にたどり着いたわね。」

ターニア「こんな光景、心臓に悪い…。」

 彼らは冷や汗をかきながらも、心からほっとしていた。

 

 バーバラ(とターニア)がたどり着いた場所は、マーズの館だった。

 彼女(達)はまず気持ちを落ち着けた後、扉を開けて中に入っていった。

「ミレーユ、俺達も行こうか?」

「確かおばあちゃんがいるはずだから、きちんと対応してくれると思うけれど。」

「彼女達を見たらびっくりするだろうな。」

「おばあちゃんは何でもお見通しだから、それはないと思うわ。でもこのままだと見ているのがバレるから、ここまでにするわね。」

 ミレーユは映像を消し、このことは内緒にするように忠告した。

(バーバラとターニア、今頃はグランマーズさんに会って、色々話をしているんだろうな。どんなことを話しているんだろう。僕に会いたいって言ってるのかな?その前に記憶を失っていなければいいけれど…。)

 バーバラは最初に出会った時、自分の名前しか思い出せない状態だっただけに、リベラの脳裏にはそのことがフラッシュバックしていた。

 

 しばらくすると、ミレーユが持っている水晶玉が光り出した。

「あっ、おばあちゃんだわ。」

 彼女は再び映像を映し出した。

「おばあちゃん、こんにちは。」

『おお、ミレーユ。それにリベラ達もおるのう。元気かの?』

リベラ「みんな元気ですよ。」

『それでな、今わしのところにお客さんがやってきたんじゃが。』

「バーバラとターニアだろ?」

ミレーユ「バカ!ハッサン!」

ターニア「それは秘密でしょ!」

「あっ……。」

 つい口を滑らせてしまったハッサンは、はっとして自分の手で口をふさいだ。

『ほう。つまりお前さん達はこの子達がこの世界に来る様子を見ておったんじゃのう。』

「あ、あの…、はい…、見ました…。」

 もはや隠すことは不可能と判断したリベラは、正直に白状した。

『そういうことじゃ。リベラ達はお前さん達の運命をかけた行動をミレーユの水晶玉で見ておったぞ。』

バーバラ『ええっ!?あたし達を見ていたの!?』

 リベラ達、そしてバーバラ達にとっては感動の対面になるはずが放送事故のような形になり、雰囲気が壊れてしまった。

「のぞいちゃってごめん…。決して悪気があったわけではないんだ。でも、無事にこの世界に来られてほっとしたよ。」

 リベラはお辞儀をしながら謝った。

 それに続いて、他の3人も頭を下げて謝った。

『まあ、いいわ。あたしのことを忘れずにいてくれたことが分かったんだから。それで、他にあたしのどういう場面を見ていたの?そもそもどうしてこっちの世界を見ていたの?』

リベラ「正直に話した方がいい?」

『うんっ!話してくれたら許してあげる!』

「分かったよ。」

 リベラは自分がバーバラを忘れられずにいたことがきっかけで、ミレーユが夢の世界を映し出してくれるようになったこと。

 自分はゼニスの城で卵がふ化する様子や、カルベローナでのコンサートの様子を見ていたことを打ち明けた。

「それでよ、お前の投げキッス、リベラがしっかりと受け取っていたぜえっ!」

『ええっ!?本当なの!?リベラ!』

「うん…、本当なんだ。あのリアクションを見たら、ドキドキが止まらなくなって…。」

『うそおっ!やだーーーっっ!!』

 バーバラは顔から火が出る程の恥ずかしさに襲われ、両手で顔を覆った。

「そういうわけよ。リベラはあの後もずっとあなたに会いたがっていたの。つまりね、あなた達は今でも両想いの関係なのよ。」

『リベラ、本当?』

「うん…。会いたかったよ…。心の底から会いたかった…。」

『あたしも会いたかったよ。良かった…。こうやって再び顔を見られて、会話も出来て…。』

 リベラとバーバラの顔は次第にくしゃくしゃになっていった。

「おおっと、このままじゃ泣き出しちまうな。2人は気持ちが落ち着くまでゆっくりしていてもらおうか。」

「そうね。まだターニアもいるから。」

 ハッサンとミレーユはリベラと一緒に、少し距離を置いたところに移動した。

 そして、入れ替わるようにターニアが水晶玉の前に来て、もう一人の自分と意見交換をすることになった。

(※夢の世界のターニアは、グランマーズ経由で会話をします。)

 2人のターニアはその後どのような日々を送っていたのかを話し、現実世界のターニアは、もう一人の自分がどれだけ悲しい日々を送っていたのかを知ることになった。

『そういうわけで、彼女は実の兄に会うために、夢の世界を捨てる覚悟でこちらに来たわけじゃ。お前さんは彼女の気持ちに応えてあげられそうかの?』

「……。」

『すぐでなくてもよいぞ。彼女はお前さんの決意が固まるまでここで待つと言っておる。もしだめなら、リベラにこの館に来てもらい、兄の姿を見られればそれでいい言っておるぞい。』

「……。」

 ターニアはまだ決断出来ないのか、うつむいて黙ったままだった。

 他の人達もあえて口出しをせず、彼女の決断を待つことにした。

 

『ターニア、一人で悩む必要はないわ。あなたには私達がいるから。』

『そうだぜ。何かあったら、いつでも俺達が相談にのるからよ。』

『うん。何があっても、君は僕の妹だよ。』

 

(お兄ちゃん達を信じよう。たとえ私の意識が無くなったとしても、きっと私を支えてくれる。私は一人じゃない。それに、私はこれまでお兄ちゃんと幸せに過ごすことが出来た。私だけが幸せになって、彼女は会話も出来ずに過ごすなんて…。)

 ターニアは懸命に考えた末についに決断を出し、同意をした。

『その言葉に二言はないかの?』

「はい。たとえ私の身に何があったとしても、後悔はしません。危険を冒してまでこの世界に来てくれた彼女のために、融合します。」

『おお、分かった。ではバーバラ、今からターニアを連れてレイドック城に行ってもらえるかの?』

『うん、いいわよ。あたしはもう気持ちも落ち着いたし、今からそっちにまいりまーす!』

 すっかり元気を取り戻した彼女は、その前にリベラが立ち直ったかどうかを問いかけてきた。

「バーバラ、僕も立ち直ったよ。いつ来ても大丈夫だからね。」

『OK!じゃあ、ターニア、行くわよーっ!』

『…、…。』(『うん、いいわよ。』)

『それじゃ2人とも、リベラ達のところに行ってらっしゃい。』

『ミレーユのおばあちゃん、行ってきまーす!』

『…、…。』(『おばあちゃん、行ってきます。』)

 2人は勢いよく館の外に出ていくと、ルーラで飛び立っていった。

 それを見て、ミレーユは水晶玉の映像を消した。

 

「リベラ!会いたかったよおっ!」

「僕もだよ、バーバラ!」

 ついに直接の再会を果たした2人は、喜びながらハグをかわした。

 かたわらにいるハッサン、ミレーユ、そして2人のターニアはうれしそうに見守っていた。

 

 しばらくして気持ちが落ち着いてくると、今度はターニアが融合することになり、リベラ達はその様子をやさしく見守った。

 

 融合が終わると、ターニアは「お兄ちゃん、やっと会えたね。」と言いながら、リベラのところに歩み寄ってきた。

 そしてリベラとハグをしながら、願いが現実になった喜びを全身で感じ取った。

 しかし、しばらくするとターニアは緊張の糸が切れたのか、それとも気持ちが整理出来ないのか、少し休みたいと言い出した。

 それを受けて、リベラはみんなを連れて城内に入っていき、以前工事の時にターニアとセリーナが寝泊まりしていた部屋に案内した。

 そして布団が用意されると、ターニアはそこで横になった。

「今はゆっくり休んでね。これからはこの世界でずっと一緒にいられるから、気持ちが落ち着いたら色々話をしようね。」

「うん、分かったわ…。」

 ターニアは葛藤がおさまらずにいたが、それでもうれしそうな表情で兄を見つめていた。

 隣の部屋ではハッサン、ミレーユ、バーバラが会話をしていた。

 その中でバーバラは、姿が見える状態でこの世界にやってきたのと引き換えに、自身が背負った代償について話していたため、その表情にはどこか寂しげな雰囲気が漂っていた。

「あなたがここに来られたのはうれしいけれど、まさか最大HPが減っていくなんて…。」

「でも、たとえ減っていってもよ、その度にホイミをかければいいんじゃねえか?」

「ハッサン、勘違いしているわよ!減っていくのはあたしのHP現在値じゃなくて、最大値!」

「えっ?ってことは?」

「あたしはこの世界にいる限り、段々体が弱くなっていくの。そしてHPの現在値が最大値と同じ場合は、現在値も一緒に減っていってしまうの。だからあたしは最大値が0になる前に、上の世界に帰らなければならないの。」

「つまり、あなたはいつまでもこの世界にはいられないのね。」

「そう。もしここにいる間に実体を見つけて融合すれば減少が止まるんだけれど…。」

 とはいえ、それがかなう確率はあまりにも低すぎるため、現実としては考えにくかった。

「でもよ、ゼニスのおっさんからは対策として何かもらっていたよな。」

「そうよ。これ。」

 バーバラはオーブのような玉を取り出した。

「これは、命の宝玉って言うの。これが光り輝いている間は、最大HPの減少はゆっくりで済むの。だから今は何とか安心していられるけれど、でもゆっくりになるだけで、どんな努力をしても決して止まるわけではないの。」

「それは辛いでしょうね…。せっかく私達に会えたのに…。」

「うん…。そしてね、もし光が消えてしまったら、減少スピードがこれまで以上に早くなるから、そうなったらなるべく早く帰らないと、あたしはこの世界で帰らぬ人になってしまうの…。」

「帰らないと帰らぬ人になるって、言い方はうまいんだけどな…。」

 ハッサンがツッコミを入れたところで、3人を取りまく雰囲気は変わらなかった。

 その時、隣の部屋にいたリベラがバーバラ達のところにやってきた。

「あのさ、それってHPの最大値を増やすことが出来れば解決するんじゃない?」

ミレーユ「最大値を増やすって…。あっ、命の木の実ね。」

「そう。それをたくさん見つけて食べ続ければ、バーバラはこの世界に居続けられるよね?」

ハッサン「そうだな。じゃあ早速これからみんなで探してみようぜ。」

「ありがとう。でも…。」

リベラ「でも、何?」

「それで一時的に増やしたとしても、HPの減少を止められない以上、あたしはたとえ100個食べたって、いつか帰らなければならない…。気持ちはうれしいけれど…。」

「この世界にいれば、その間に何かいい方法が見つかるかもしれないわ。私とおばあちゃんが水晶玉で色々占ってあげるからね。」

「ミレーユ…。」

「僕も君のために出来ることなら何でもするよ。僕がこうやって幸せな気分でいられるのは、君がいるおかげだから。」

「えっ?あたしが?」

「うん。君がいなくなって、はっきりと分かったんだ。僕の幸せは、誰一人が欠けても無くなってしまうんだって。」

「本当に?そんなにあたしのことを思っていてくれたの?」

「うん、ずっと会いたかった。だから僕は、君のためにこれから命の木の実を見つけに行くことにする。」

「あたしのために、そこまで…。」

「俺も、お前に会いたかったぜ。これまでお前のおてんば発言や、笑顔に何度救われたか。本当にお前がいてくれてうれしかった。お前無しには俺も幸せにはなれねえ。だから、俺も協力するぜ。」

「ハッサン…。」

「じゃあ、私はおばあちゃんと協力して、実の有りかを占うことにするわ。そして他の人達にも呼びかけてみるわね。」

「ありがとう…。」

リベラ「みんな、そうと決まれば早速装備を整えよう。僕は今使っている破邪の剣よりもっと強力な武器を使うことにする。」

「OK。じゃあ、俺は自宅で眠っている炎のツメを使うことにするぜ。」

「私はおばあちゃんが持っている月の扇を使わせてもらうことにするわね。」

 こうして彼らは命の木の実を探しに行くことを決意した。

 



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Quest.13 バーバラのために

 バーバラのために命の木の実を見つけに行く決意をした後、リベラは城の中に封印されたままになっているラミアスの剣を使いたいと両親に申し出た。

 しかし、レイドックからあの剣は今の世の中では危険過ぎるという理由で拒否されてしまった。

 さらにシェーラからは工事直後で財政的に少し厳しい状況で、大金を用意し辛いため、今城にある他のもので我慢するように説得された。

 リベラはお金を払うことなくこの場で手に入れることが出来、なるべく攻撃力の高いものとして、考えた末にグラコスの槍を選ぶことにした。

(見た目はちょっとアレだけれど、攻撃力はある程度上がるし、スカラの効果もあるから新しい武器が手に入るまではこれにしよう。)

 彼がそう考え事をしていると、ターニアが部屋にやってきた。

「お兄ちゃん…。」

「ターニア、大丈夫なのか?」

「大丈夫。少しは気持ちも落ち着いてきたから。」

「それならいいけれど、どうしたんだい?」

「私も出来ることならお兄ちゃん達の仲間に加えてくれる?」

「ええっ!?」

 ターニアが戦うなんて今まで想像すらしたことがなかっただけに、リベラは当然のように反対をした。

「そう言われると思ったわ。正直心の中でも2人の私がいて、それぞれが意見を主張していて、どうすればいいのか分からない状態なの。でもバーバラさん…、お姉ちゃんのために何かしたい。彼女がいなかったら今の私はない。お姉ちゃんを放っておいて、私だけが幸せになんてなれないと思って…。」

「そう言われても、戦闘は危険を伴うからなあ…。」

 リベラはその場で決断を出すことが出来ず、他の3人に相談をすることにした。

「ターニアはどうやら映画撮影をしていた時のあたしに影響されたようね。」

リベラ「映画撮影?」

「そう。あたしが映画の戦闘シーンで僧侶の熟練度を上げていた時、ターニアが自分も何か身に着けたいと言ってきたの。そしてダーマ神殿に連れていって僧侶と踊り子に転職して稽古をした結果、ホイミ、ニフラム、みかわしきゃくを身に付けたのよ。」

ハッサン「でも、稽古と実戦は違うと思うぜ。」

ミレーユ「そうね。ダメージを受けることも多々あると思うし…。」

リベラ「僕としても、やっぱりターニアを戦場に連れていくことは出来ない。だけど、僕の破邪の剣を渡すから、これで稽古を積んでくれ。道具使用でギラも打てるから。」

「…分かったわ。じゃあ、剣だけ受け取るわね。そしてライフコッドで毎日素振りの練習をして、腕前を上げておくわね。」

 ターニアは戦力になれず、悔しそうな表情をしながらも、兄に同意をした。

 そしてリベラ達がライフコッドに来た時には、微力ながらもホイミで傷を回復したり、おいしい料理でもてなしたり、寝泊り出来るようにすることを約束してくれた。

「分かった。その時にはみんなで行くよ。それから、バーバラが毎日寝泊り出来るようにベッドを準備しておいてくれ。」

「あっ、そうね。じゃあ、私はバーバラさん…、お姉ちゃんが楽しくこの世界で過ごせるように頑張るわね。」

「うん、頼んだよ。じゃあ、今からライフコッドに送り届けてもいい?」

「いいわよ。夢の世界の私にとってはまだ知らない人達ばかりだから、これからあいさつをしていきたいの。」

「じゃあ、行こう。」

 リベラはターニアを連れて城のベランダに行くと、彼女をルーラで送り届けてあげた。

 

 彼はレイドック城に戻ってくると、今度はハッサン、ミレーユ、バーバラを連れてサンマリーノに向かっていった。

 そしてハッサンが炎のツメを手に入れると、今度は徒歩でマーズの館に向かった。

 館に入っていくと、ミレーユはグランマーズに月の扇を使わせてほしいとお願いした。

 しかしゲントの村に行けばいいアイテムが手に入ることを伝えられたため、4人はそちらに向かうことになった。

 

 ゲントの村に到着すると、彼らはチャモロのいる場所に向かっていった。

 すると彼に加えて、たくさんのお金を持っているテリーに遭遇した。

チャモロ「こんにちは、って、ええっ!?バーバラさんがいる!?」

テリー「夢じゃないよな!?本当に俺達が知っているバーバラだよな!?」

 彼らは2度と直接会えないと思っていた仲間が目の前にいたものだから、その事実を信じられずにいた。

 バーバラは本人であることを打ち明けた後、夢の世界にいる間に転職でメラミやホイミ、ベホイミ、ベホマなどを覚えたこと、そしてここに来られた代わりに最大HPが減っていく代償を背負ったこと、これからみんなで協力して命の木の実を探しにいくことを話した。

「それなら私にもぜひ協力させてください。きっとその実を持っている人がいるはずですから、一つでもたくさん手に入れて、バーバラさんに手渡してあげますよ。」

「俺は以前、その実をつける木を見つけたんだ。だから早速その場所に行ってくる。さらにはその実を持っている敵のアジトに行って、盗賊になったつもりで戦闘をしてくるぜ。」

「チャモロ、テリー。あたしのために、ありがとう…。」

「困っている人がいるのであれば、私は放っておきません。ちょうどテリーさんがおどる宝石狩りをしたり、敵から手に入れた高額な品を売ったりしたおかげで大金が手に入ったので、これで資金難も解消されました。だから今からはバーバラさんのために頑張ります。」

「俺もな、チャモロの目的を果たして、次は何をしようかと思っていたんだ。だからちょうどいいタイミングだ。それからな、姉さんに会ったら渡そうと思っていたものがあるんだ。これからマーズの館に向かおうと思っていたが、その手間が省けたぜ。」

「何を私に渡してくれるの?」

「実は氷のやいばを手に入れたんだ。俺にはらいめいの剣ときせきの剣があるから必要ないし、アモっさんはもっといい武器を手に入れたと言っているし、チャモロはほとんど戦いから引退した状態だしな。」

「確かに私は大魔王を討伐して以降、実戦経験がないですからね。」

「というわけで、引き取り手がいない状況だったんだ。貴重品だから売るのももったいないし、もし姉さんが使えばヒャダルコ使い放題になるから、会えたら渡そうと思っていたんだ。受け取ってくれるか?」

「喜んで受け取るわ。私は今、攻撃呪文がヒャドやイオ程度しかなかったから、本当にありがたいわ。」

「確かにそれじゃ戦力外級の力不足だな(←SFCではあんたに言われたくないけれど。)。まあこれでかなりのダメージになるから、姉さん、頑張れよ。くれぐれも他の奴らの足を引っ張るんじゃねえぞ。」

「はいはい、分かりましたよ。」

 ミレーユは苦笑いを浮かべながら氷のやいばを受け取った。

「じゃあ、俺はこれから出かけてくる。バーバラ、これから命の木の実をたっぷり食わせてやるから、待っていてくれ。」

「オッケーイ!手に入れたらミレーユの住んでいる館に持ってきてね。」

「了解だ。」

 こうしてチャモロ、テリーの2人も協力をしてくれることになった。

 

 リベラ達は彼らと別れた後、再びマーズの館にやってきた。

 入口の扉を開けると、中にいたグランマーズが早速命の木の実がある井戸を教えてくれた。

「おおっ!ばあさん、準備いいじゃねえか!早速行こうぜ、みんな!」

「ただし、ミミックを倒してからじゃがのお。」

「えっ?あのミミック?」

「その通りじゃ、ミレーユ。」

「私達に倒せるかしら?」

「まあ、頭を使えば十分倒せるはずじゃ。」

リベラ「分かりました。じゃあ、みんなで行ってきます。」

「行っといで。幸運を祈っているぞよ。」

 グランマーズはそう言って、外に出ていく4人を見守った。

 

 井戸に入る前に、ミレーユは氷のやいばとハッサンの炎のツメを交換することを思い付いた。

確かにその方がハッサンにとっても攻撃力があがるし、ミレーユにとってもヒャダルコよりメラミの方がミミック単体に与えられるダメージが増えるため、すぐに交換成立となった。

 井戸の中では、確かに宝箱っぽいものが一つ置いてあった。

「どうやらこれね。一見すると本当に宝箱そのものだけれど。」

「そうだね。でも、このままでは実が手に入らないよね。」

「これがミミックって分かり切っているなら、この場で倒すという手もあるけどよ。」

 ミレーユ、リベラ、ハッサンはどうすればいいのか考えた。

「じゃあ、この場で倒しちゃえばいいのね。」

 バーバラは考えようともせずに、率直に言い切った。

リベラ「倒すって、どうやって?」

「こうよ。いくわよーーーっ!」

 彼女は両手を上にかざした。

ハッサン「ちょ、ちょっと待てよ!それはもしや!?」

リベラ「マダンテを使うのか!こんなところでやめてくれ!」

「そうよ!井戸が壊れるわ!それに箱も実も木端みじんよ!」

 彼らが叫んだものの、すでにバーバラは怖い表情で「マアアアァァッ!!」と叫んでいた。

 もはや止めることは出来ないと判断した3人は、目を閉じて防御態勢に入った。

 そして……!!

 

 しばらくすると、辺りはシーンと静まり返り、彼らは目を開いた。

 すると、バーバラは箱を見ながらその場に立っていた。

「大丈夫か?一体何が起きたんだ?」

「もしかして、マダンテ失敗?」

「いや、MPが少ししかなかったとか?」

 ハッサン、ミレーユ、リベラは状況を理解出来ないまま問いかけた。

 すると彼女は途端に笑顔になり「やだーーーっ!あたしマダンテと間違えてマホトラ唱えちゃったーーーっ!」と言ってきた。

 その凄過ぎるフェイントに、3人は思わずずっこけた。

「どういう間違いなんだ!それは!」

「普通、そんな間違いするかあっ!」

「いくらフェイントでも、心臓に悪いわ…。」

 リベラとハッサンが大声でツッコミを入れるのに対し、ミレーユは吹き出しながら苦笑いをしていた。

「アハハハ、ごめーーん!まああたしのMPが増えたから、ミミックで確定したわ。」

 全然反省していないバーバラは持ってきたまどうしのローブを身に付け、さらにマホトラを唱えた。

 すると突然箱がパカッと開き、ミミックが姿を現した。

「キャーーーッ!本当にモンスターッ!」

 思わぬ形での登場に、至近距離にいた彼女はビックリだった。

 ミミックは0になってしまったMPを補充するため、バーバラに向かってマホトラを唱えた。

「あーーーっ!あたしのMP返して!」(←奪ったくせに。)

 バーバラは自分もすかさずマホトラを唱えた。

「しめた!チャンスよ!ミミックが呪文を使えないうちに倒すわよ!」

リベラ「OK!」

ハッサン「行くぜ!」

 まずミレーユがスクルトを、次にリベラがルカニを唱えた。

 続いてハッサンが通常攻撃と追加攻撃をヒットさせた。

 次のターンでミミックはバーバラに連続で通常攻撃をしてきた。

 一発目は体当たりでダメージを受け、二発目はノーダメージで済んだ一方、まどうしのローブを食いちぎられた。

「あーーっ!あたしの思い出の品に何てことするのよ!あったま来た!ベギラマーーーッ!!」

 彼女がやけになって呪文をぶっ放すと、明らかにベギラマより強力な炎がヒットした。

 目にやけどをしたミミックはのた打ち回るように苦しみ出した。

 続けざまにミレーユがメラミをヒットさせた。

 次にリベラが通常攻撃をしたが、槍の使い方に不慣れなせいか、あまりダメージを与えられなかった。

(それでもルカニのおかげで通常ダメージに近い形になった。)

「それじゃ、とどめは俺がさす。格闘ゲーのみんな、技を借りるぜ!」

 ハッサンはそう言うと、ミミックに向かって突進し、強烈な体当たりをくらわせた。

「てつざんこう!!」

 大ダメージを受けて突き飛ばされたミミックは壁に叩きつけられ、さらにダメージを受けた。

 その衝撃でふたが外れ、胴体部分もボロボロになってしまった。

 すると牙、舌、目が消えていき、命の木の実が姿を現した。

「わーい!一つ手に入れた!」

 バーバラはホイミで傷を回復させると、心の底からうれしそうな表情を浮かべた。

 そして実を取り出すと、満面の笑顔を浮かべて食べ始めた。

「これで少しはこの世界にいられる時間が長くなったな。」

「そうね。どれくらいかは分からないけれど、良かったわね。」

 ハッサンとミレーユは噛みしめるように実を食べているバーバラを見ていた。

 

 4人が井戸から出てきた後、リベラはバーバラにいつの間にベギラゴンを覚えたのか問いかけた。

「あれはベギラマよ。今回はメラミと同等のダメージだったかしらね。」

「どうしてあんなベギラマを放てるようになったの?」

「あたし、映画撮影でだいまどうを演じる時に、スタッフからベギラマの火力を3分の2くらいに抑えてほしいと頼まれたの。最初はなかなかうまくいかなかったけれど、役作りのために毎日何度も何度も唱えて練習を繰り返した結果、ついに強弱を調節出来るようになったのよ。」

ハッサン「呪文の威力を変えられるのかよ!すげえな!じゃあ、強力なメラミを放って『今のはメラゾーマではない…。メラミだ。』みたいなことも出来るのか?」

「それは無理よ。今のところ威力を調節出来るのはベギラマだけ。」

「でも、これから強敵に出くわすこともあるだろうから、相当役に立ちそうだな。」

「多分ね。でもどうせならベギラゴン級の威力にして、思いっきり『ベギラゴン!』って叫んでみたいのよね。だから本来ならメラミの場面でもベギラマを唱えているの。それを言うなら、ハッサンだって新しい特技を身に付けているじゃないの。」

「まあな。あれから新たに気合ためや、プロレス技、格闘技の技を使えるようになったからな。」

「すごーい!プロレスラーとして生計を立てられそうね。」

「かもしれんな。以前、アークボルトでの格闘大会で優勝したからな。」

 バーバラとハッサンがそれぞれ身に付けた能力を得意げに話す姿を見て、リベラとミレーユは彼らがまぶしくてたまらなかった。

(バーバラはあれから呪文の数を増やしただけでなく、ベギラマでそんなことも出来るようになったんだね。ハッサンもどんどん新技を編み出している中で、今の僕は5つしか呪文を使えない。勇者だった頃がまるで嘘のように転落しているみたいだ…。)

(バーバラはしばらく会わないうちにかなり成長したのね。私は攻撃でも回復でも負けているし、このまま置いていかれるわけにはいかない。私も何か新たな長所を身に付けなければ…。)

 2人の心の中には危機感が芽生えていた。

 



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Quest.14 ふたりが出会った場所

 チャモロはバーバラのために命の木の実を見つけることを決意した後、色々な場所を飛び回り、人々に実のありかについて聞いて回った。

 多くの人達は実について知識を持っておらず、手に入れるどころか、情報すら集めるのに苦労していた。

 でも、自分の最大HPを削ってまでこの世界に来てくれたバーバラの気持ちに応えるために、彼は決してあきらめることなく、聞き込みを続けた。

 そんな中、アークボルトでブラストから実を一つもらうことが出来た。

 チャモロは彼にお礼を言うと、早速風の帽子を使って、マーズの館にやってきた。

「ミレーユさん、一つ手に入れましたよ。」

「ありがとう、チャモロ。バーバラはきっと喜ぶわ。」

 彼女は笑顔で実を受け取った。

「どういたしまして。それで、バーバラさんはどうしているんですか?」

「彼女はリベラと一緒に月鏡の塔に行ったわ。2人が初めて出会った場所でもあるし、そこに今も住んでいるポイズンゾンビが実を持っていることを伝えたら、間髪入れずに向かっていったわよ。」

「そうなんですか。何だかデートしているみたいですね。」

「みたいじゃなくて、本当にデートよ。2人は手をつないでお互いの顔を見ながら、幸せそうに微笑んでいたわ。」

「うらやましいな。私もそんな付き合いを早くしてみたいな。」

「あなたはセリーナさんと仲良しでは?」

「うーーん…、仲はいいんですけれど、なかなかそこから進まなくて…。そういうミレーユさんは?」

「私は…。」

「ハッサンとの仲もあまり進んでいないようですね。」

「ま、まあ…。お互い様ってところね。」

「そうですね…。リベラさんとバーバラさんにどうすればいいのか聞いてみたいですね。」

 2人は少し顔を赤らめながら会話をしていた。

 

 その頃、久しぶりに月鏡の塔にやってきたリベラとバーバラは、初めて2人が出会った場所である、東の塔の5階にやってきた。

「あっ、あの鏡の場所だね。」

「うん。そこであたしが途方にくれていたところに、リベラ達がやってきたのよね。」

「そうだね。懐かしいな、あの時のこと。」

 

『君は、そこで何をしているの?』

『えっ!?あたしが見えるの?』

『うん、僕達には見えるよ。』

『やっと見つけたわ!あたしの姿が見える人を!』

 

 2人はその場所で、鏡を背にして並んで座った。

「あれから色んなことがあったわね。」

「そうだね。この塔で君を仲間として迎えて、僕達と一緒に旅をしたよね。」

「うん。でも、あたしが打たれ弱かったせいで、みんなに迷惑かけちゃったよね。でも、あたしは他に行く場所もなかったから、絶対に役に立たなきゃって思っていたの。」

「それは痛いほど伝わってきたよ。だから僕は君を放っておけなくて、我慢して君を起用し続けていたし、ムドーの時を除いて最後まで君と一緒に居続けたんだ。」

「ありがとう。あたしのことをそこまで考えてくれて。」

 バーバラはそう言うと、自分の顔をリベラの右肩に乗せてきた。

 そしてリベラは右腕を伸ばして、手をバーバラの右肩に置き、2人で寄り添っていた。

(このまま、ずっと一緒にいられたらなあ…。リベラもそう思っているのかなあ…。)

 バーバラは顔を赤らめながらそう思っていた。

 

 それからしばらくすると、上の階で何か物音が聞こえた。

「何が起きたんだろう?」

「そうね。行ってみましょう。」

「うん、行こう。」

 2人は立ち上がると、手をつないで駆け出していった。

 

 階段の途中で立ち止まり、顔だけを出して6階の様子を見ると、そこでは何とポイズンゾンビが悪魔の鏡と戦っていた。

(モンスター同士が戦闘?)

 思いもよらない光景に、2人は状況を理解出来ずにいた。

 すると、ポイズンゾンビがダメージを受ける度にホイミで回復し、力いっぱいの攻撃で悪魔の鏡の守備力を徐々に打ち破っていき、ついに悪魔の鏡を倒した。

 彼は床に倒れこんだ鏡を拾い上げると、「よし!これでモシャスの能力を手に入れられる。」と言って、さらに上の階にのぼっていった。

「モシャス?変身したいわけなの?」

「あいつ何を考えているんだろう?」

 まだ状況を理解出来ていないバーバラとリベラは6階に行き、さらに上に行く階段の近くまでやってきた。

 すると、上の方から「おい、ばあさん。言われたとおり、悪魔の鏡を倒してきたぜ。これで俺もモシャスを唱えられるようになるんだろうな。」という声が聞こえてきた。

(ばあさんって、誰だろう?まさか?)

 リベラは自分の知っている人を想像してみたが、その人がこんなところにやって来てモンスターと話すとは到底考えられずにいた。

 しかし、続けざまに「そうじゃ。ご苦労じゃった。では、そのモシャスの能力をそなたに移植しよう。そしてお前さんが戦闘を一回経験すればその呪文が使えるようになるぞい。」という声が聞こえると、さすがにそのまさかを信じるしかなくなった。

「あの声、ミレーユのおばあちゃん?」

「ああ、間違いない。グランマーズさんだ。行こう、バーバラ。」

「うん、行ってみましょう。」

 2人は手をつないだまま、7階に上がっていった。

 そこには確かにグランマーズがいた。

「おお、お前さん達。こんなところにいたのかい?」

「お前達、何しに来たんだ?まさか、また俺を倒しに?」

 彼らの問いかけに、リベラとバーバラは何と言ったらいいのか分からずにいた。

「話は聞いていたじゃろう。わしはこいつがモシャスを使いたいという望みをかなえてやろうとしておるんじゃ。」

「そうそう。俺もこの塔から外に出て、他のモンスターだけでなく、人間とも交流を持ちたいからよお。」

 まだ状況が理解出来ていない2人のために、グランマーズはポイズンゾンビのその後について話してくれた。

 彼はあの戦いに敗れた後、傷を直し、再び出番が来た時に備えて準備をしていた。

 しかし、待っていたのは「ドラゴンクエスト戦力外通告 クビを宣告されたモンスターたち」の一人になってしまうという現実だった。

 目標を失った彼だったが、それでも孤独な自主トレーニングをしながら、いつオファーが来てもいいように努力を続けていた。

 そして世の中が平和になった後、もう人間と戦う必要が無くなったことを知ると、彼は敵モンスターとしては引退し、今度は仲間モンスターとしてどうやったら一緒に暮らせるかということを考えるようになったそうだ。

 そんな中、グランマーズが命の木の実のありかを探っていた時に、ポイズンゾンビがその実を持っているだけでなく、そのような気持ちを抱いていることを知ったため、彼女自身がわざわざ出向いてきたということだった。

「でもおばあちゃん、こんなところに単身で来ちゃって大丈夫なの?」

「そうだよ。もしそいつが襲いかかってきたら。」

「お2人さん、心配はいらんぞい。もしもの時に備えて月の扇と星のかけら、星降る腕輪を持っておるし、さらにはいつでもニフラムで消し去る準備はしておる。」

「そ、そればっかりは勘弁してくれ。俺はこんなこころざし半ばで消えたくはないぞ。」

 ポイズンゾンビは命乞いをするように言った。

「まあ、お前さん達も下の階で話を聞いていたのであれば、これで状況は理解出来たじゃろう。どうじゃ、こやつの相手をしてはくれんか?」

「えっ?相手ですか?」

 思わぬ依頼にリベラは顔をしかめた。

 そして話し合いの結果、リベラとポイズンゾンビが武器を使わずに1対1のガチ勝負することになった。

 当初はバーバラも参加を希望したが、リベラは君のために戦うと言って、そこで待っているようにお願いをした。

「じゃあバーバラ。少しの間、この手を離すからね。」

「頑張ってね。負けないでね。」

「うん、君のために頑張るよ。」

 リベラはそれまでつないでいた自身の右手を離した。

「それじゃポイズンゾンビ、勝負だ。」

「おう、坊ちゃん。ホイミ以外の呪文は使うなよ。」

「そっちこそ、猛毒攻撃はやめてくれよ。」

「OK。じゃあ、いくぞ!」

 こうしてリベラとポイズンゾンビの勝負が始まった。

 その様子をバーバラは手を組んで祈るような仕草をしながら見つめていた。

 

 その後、両者は時にはこぶしで、時にはキックで攻撃し、時には相手の攻撃をかわしたり、受け止めたりしながら、キックボクシングのように戦った。

 勝負はお互いなかなか決定打にめぐまれず、しかもHPが減ってくる度にホイミを唱えるため、なかなか決着がつかなかった。

 そして、こう着状態のままターン数ばかりが増えていき、ついに両者のMPが枯渇してしまったため、ホイミをこれ以上唱えられない状態だった。

 すでに2人とも相当ダメージが蓄積して疲れ切ってしまい、とうとうダブルKOに近い状態になってしまった。。

 するとグランマーズが一歩前に踏み出してきて

「もうよかろう。これで十分じゃ。ポイズンゾンビのモシャス使用を認める。」

 と言って、勝負をストップさせた。

「ハア…ハア…。本当ですか?」

「ゼエ…、ゼエ…。やった…。願いがかなったぜ。」

 HPの大きく減少したリベラとポイズンゾンビの2人は、すでに床にへたり込んでいた。

 するとグランマーズが2人のところにやってきて、魔法の聖水でMPを回復してくれた。

 次にバーバラがリベラのところにやってきて、ベホマを唱えてくれた。

「ありがとう、助かったよ。」

「どういたしましてよ。僧侶に転職して、一生懸命頑張って修行して良かったわ。」

 2人が話をしていると、今度はポイズンゾンビが自分にもかけてほしいと言い出してきた。

「ええっ?あんたにもかけるの?恩をあだで返したりしないわよね!?」

「俺はもうあんた達の敵じゃない。約束するぜ。命の木の実をやるからよお。」

「分かったわ。」

 バーバラはポイズンゾンビのところに歩み寄り、彼にもベホマを唱えた。

「ありがとうな。助かったぜ。今日からは俺もあんた達の仲間だ。」

バーバラ「本当に?」

リベラ「仲間になってくれるの?」

「ああ、仲良くしようぜ。今から俺のことはスミスって呼んでくれ。」

バーバラ「分かった。じゃあスミス、これからよろしくね。」

「俺からもよろしく。それから、確かお譲ちゃんは命の木の実を欲しがっていたよな。」

「うん。それを求めてここに来たの。」

「それならそこにいるばあさんに渡したぜ。彼女から受け取ってくれ。」

「本当?おばあちゃんが持っていたの?」

 バーバラは驚きながら振り返った。

「本当じゃよ。ほおれ。受け取りなさい。」

 グランマーズはその実を見せると、バーバラにトスしてきた。

「ありがとう、おばあちゃん、そしてスミス。」

 彼女はお礼を言うと、早速実を食べ始めた。

「じゃあスミス。早速モシャスを唱えてみてくれないか?」

 リベラにそう提案されると、スミスは「そうだな。」と言って呪文を唱え、バーバラそっくりの姿になった。

 

(注:この後、「ぎゃあああっ!あたしもどきの、どこを触ってんのよ!このドえっちいっ!!」というどなり声に続いて、スミスはベギラゴン級のベギラマを受けてしまいました。)

 

「みんは、ひょうは…、へわになっはな…。」

(みんな、今日は世話になったな。)

 元の姿に戻ったスミスは口にやけどをしていたため、言葉を噛みまくりながらリベラとバーバラ、そしてグランマーズにお礼を言った。

 ただ、これでは会話がうまく進まないため、バーバラはベホイミをかけてあげることにした。

 そのおかげで会話もスムーズに出来るようになった。

リベラ「こちらこそ世話になったな、スミス。また会えたらいいね。」

「そうだな。困った時には助けになるぜ。」

「じゃあ、お願いね。それからモシャスの使い方に気を付けるのよ!あたしに化けて盗みのような悪いことでもしたらマダンテ唱えるからね!」

「そ、そればかりはご勘弁を!お譲ちゃん!」

「バーバラって呼んでくれればいいわ。じゃあね。」

「ああ、またな。」

 スミスはお辞儀をすると振り返り、塔の中にある自分の隠し部屋へと向かっていった。

「グランマーズさんもありがとう。それじゃ、僕達はこれで。」

「おばあちゃん、バーイ!」

 リベラとバーバラはリレミトで塔の外に出ていった。

 

 その後、バーバラはルーラであちこちを飛び回りたいと言い出した。

「でも、あちこちの場所を訪れていたら、時間もかかるけれど。」

「訪れるんじゃなくて、リベラと一緒に空を飛びたいの。出来ればお姫様だっこで!」

「えっ?恥ずかしいよおっ。」

「だっこだっこ!お姫様だっこ!」

「分かったよ…(汗)。」

 リベラは顔を赤らめながらも承諾し、バーバラを両手で抱えた。

 すると彼女は両手を伸ばしてハグをしてきた。

 リベラは恥ずかしさのあまりに顔が真っ赤になり、どうしようか考えていると、バーバラはしびれを切らしたのか、自分でルーラを唱え、大空へと飛び立っていった。

「きゃははは!たーーのしーー、これ!わーーいわーーい!!」

 バーバラは幼い子供のようにはしゃぎながら大喜びしていた。

 その表情を見て、リベラにも笑顔がにじみ出てきた。

 

 しばらくすると、目的地が近付いてきたこともあって、2人は降下を始めた。

「じゃあ、この町に降り立とうか。」

「やだ。もっと飛びたい。だから、行き先を変えて、ルーラ!」

 彼女がそう叫ぶと、再び2人の体は上昇に転じた。

「わーーーーっっ!!」

「やっほーーー!こうやって空飛ぶの、さいこーーーっ!」

「バーバラ、どこに行くの?」

「どこでもいいもーーん!あたしはリベラと一緒に空を飛びたいんだから!このまま飛び続けたーい!」

「そうか。じゃあ、一緒に空の旅を楽しもう。」

「うんっ!今は何もかも忘れて楽しみたい!」

 それから2人は何度もルーラを重ねがけしながら、空を飛び続けていた。

 




ボツシーンです。


その1
「リベラさん!バーバラばかりにひいきしてないで、私もちゃんと起用してください!」
「ごめん、チャモロ。つい…。」
「私だって真面目に頑張っているんですから!」
「分かった。じゃあ、これからはローテーションを導入する。」
「ローテーションですか?」
「うん。これからはどんなに活躍をしていても、馬車で定期的に休養を取らせることにする。これでいいかな?」
「分かりました。じゃあ、早速私をスタメン起用してください。」
「OK。じゃあ、バーバラに休養を持ってもらうことにするよ。彼女には無理をさせてきたから。」

その2
バーバラ「リベラって、6人でローテーションを回している時、自分が休む時にはよく馬車内であたしと一緒だったね。」
「…バレた?」
「うんっ!あたしはすぐに分かったよ!」


 いざこのQuest.14の完成形を読み直してみたら、何だかバーバラばかりにひいきをしているような感じがしたので、ボツになっていた部分をここで復活させてみました。


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Quest.15 テリー外伝 命の木の実を手に入れろ

 ゲントの村でバーバラに再会した後、テリーは以前やってきたことのある、命の木の場所にやってきた。

 幸い実りの時期を迎えていたこともあるのだろう、木には熟したものがいくつもあった。

「これならここに来た価値がある。バーバラのためにたくさん取っていくことにしよう。」

 彼は早速木によじ登っていき、まず低いところにある実をいくつか取った。

 そしてどんどん高いところに登っていき、実を取っては袋に入れていった。

 すると、近くの木に止まっていた何羽もの鳥がテリーのいるところにやって来た。

「ん?何だ?まさか俺に襲いかかって来たわけじゃ…。」

 彼の悪い予感は見事に当たってしまい、何羽もの鳥につつかれる羽目になってしまった。

 見たところ、特にモンスターというわけではないようで、単に自分達の食料を取られてなるものかという感じだった。

 鳥達に悪気はないとはいえ、テリーにとっては戦闘に巻き込まれる形になってしまった。

 しかも彼は木の上にいるため、攻撃を全然かわすことが出来ず、少しずつだがダメージを受けた。

「こうなっては仕方ねえ。まずは守備力を上げることにしよう。」

 彼はスカラを重ねて唱え、守備力を大幅に上げた。

 そのため、ダメージ自体はほとんど受けなくなった。

 テリーはそれからしばらく、つつかれながらも実を取り続けた。

 だが鳥達も必死に抵抗したため、次第にうっとうしさがつのっていき、今度はマヌーサを唱えた。

 結果、攻撃がヒットする回数こそ少なくなったが、それでもまだうっとうしさを感じていた。

「俺を倒すわけじゃない以上、ぶっ倒したくはないが、仕方ない。ちょっと眠っていてもらうぜ!ラリホー!」

 テリーが呪文を唱えると、鳥達の動きがどんどん鈍っていき、太い枝の上や地上で眠ってしまった。

「悪く思うなよ。これも大切な仲間のためだ。」

 彼はこの隙にあちこちに移動し、実を取れるだけ取っていった。

 ちょうど取り終わった頃に鳥達が目を覚ましたため、彼はルーラを唱えてその場を離れ、マーズの館に向かっていった。

 その時、たまたまバーバラが居合わせたため、彼女は目が飛び出そうなほど驚いていた。

 そして、リベラはその数を見て喜びながらも、心の中ではがく然としていた。

 

 その後、彼はすでに集めていた他のアイテムを持って今度は旅人の洞くつに向かった。

 入り口近くではドランゴがおり、幼いドラゴンが母親のそばでぐっすりと眠っていた。

「そうか。ついに卵からふ化したんだな。」

「そう…。テリー…会えてうれしい…、ギルルルン…。」

「デュナンとデュアナはどうしているんだ?」

「2人…アークボルトで…人間の…子供達と…遊ぶ…している…。」

「ということは、あの杖を使っているのか?」

「いや、ここ…ある…。今は…、人間達も…彼らは…モンスターと…知ってる…ギルル…ン。」

「じゃあ、モンスターの姿のままなのか?大丈夫なのか?」

「問題ない…。」

 ドランゴの話では、彼らは最初こそモシャスの杖で人間で化けることで人間社会に入っていたが、ある日、人間がこの洞くつに入ってきた時に、彼らがモンスターの姿のままのデュナンとデュアナを見つけてしまった。

 最初、人間達とその子達の間に険悪な雰囲気が漂ったが、ドランゴは一緒に住むことになった経緯を説明し、どうか仲良くしてほしいとお願いをした。

 最初は難色を示されたが、それでも辛抱強く説得を続けた結果、ついに杖で変身しなくても人間と仲良くしてもらえるようになったということだった。

「そうか。そこまで分かりあえる関係になったのか。良かったな。」

「私も…うれしい…、ギルルル…ン。」

「俺の望んでいたことが現実になったんだな。」

 テリーは彼らのいるアークボルトの方向を見つめながら、彼らが人間の子供達と仲良く遊んでいる姿を想像した。

 

 しばらくして、ドランゴはテリーにどのような目的でここに来たのかを問いかけた。

「実は、これまでに手に入れた実や種を持ってきたんだ。彼らに食べてもらって、少しでも強く成長してもらおうと思ってな。」

「どのような実…、そして…種…?」

「不思議な木の実を3個、力の種を2個、守りの種を5個、素早さの種を4個持ってきたんだ。全部均等に分けられるわけではないが、それでも喜んでくれれば幸いだ。」

「きっと…喜ぶ…、ギルルルン…。」

「分かった。そう言うのなら間違いないだろう。じゃあ、これらをお前に渡す。彼らが帰ってきたら食べさせてやってくれ。」

「分かった…。」

 ドランゴはテリーが差し出した実や種を受け取った。

 そして彼女はガルシアやブラストがここにやってきた時に言っていたことを教えてくれた。

 彼らの話によると、大魔王がいなくなった後でも不穏な動きを見せるモンスターは存在し、着々と実力をつけていること。その一方で犯罪や悪事に手を染める人間もおり、ブラスト達は度々討伐に出かけているということだった。

「なるほど。世の中が平和になっても、幸せになれない奴らはいるもんだな。」

「そう…。悪いこと…悲しいこと…無くならない…。それ…悲しい…ギルルルン…。」

「まあ、だからこそ、俺がこうやって旅をしながら今でも戦うことが出来るんだけれどな。」

「テリー…今でも…戦う…。でも…私…もう…戦う…しない…。引退…する…。」

「引退?」

「そう…。実の子…生まれた…。デュナン…デュアナ…いる…。私…、みんなの…成長…見守りたい…。」

「そうか。これからは子育てに専念するわけか。」

「ごめん…なさい…。ギルルン…。」

「まあ、いい。チャモロも慈善活動に専念しているし、それも立派な決断だ。だが俺は戦う。この世界の平和を維持するためにな。」

「テリー…。私…応援…する…。他に…何も…出来ること…ない…。でも…応援だけ…する…、ギルルルン…。」

「それでもいい。お前にはモンスターと人間が敵意をあらわにせず、仲良く暮らせるように協力をお願いしたい。それで十分だ。」

「ありがとう…。」

 テリーとドランゴが会話をしていると、デュナン、デュアナがアークボルトから戻ってきた。

 彼らは「あっ、お兄ちゃん、お帰りなさい!」「あたし達にまた会いに来てくれたのね!」と言いながら、笑顔で駆け寄ってきた。

 テリーとドランゴは笑顔で子供達を迎えると、集めてきた実と種を彼らに与えることにした。

 そして目を覚ましたドランゴの子と一緒に、洞くつの中で一晩を過ごすことにした。

 

 翌日、洞くつを後にしたテリーはアークボルトでアモスと遭遇した。

「アモっさん、久しぶりだな。」

「こちらこそ、久しぶりです。今日はどのような用事でここに?」

「命の木の実を集めているんだ。バーバラが必要としているからな。」

「バーバラさん?あのバーバラさんですか?」

「ああ、そうだ。別世界に閉じ込められるかのしれない危険を冒しながら、それでもリベラ達に会いにこの世界に来てくれたんだ。」

「うれしいことじゃないですか!」

「確かにそうなんだが、喜んでばかりもいられないんだ。」

「どういうことですか?」

 テリーはバーバラに関する経緯を話した。

「そんな…。せっかくこの世界に来られたのに、そんな悲しい代償を背負ってしまうなんて…。」

「ああ。だが、彼女はそれを覚悟した上でやって来たわけだ。俺はそんな彼女のために役に立ちたい。そのために俺は実を持っている敵と戦う。盗賊気分になった上でな。」

「じゃあ、それに私も協力させてください。私もかつて旅をしていた時には盗賊だった期間が長かったですし、アイテムを手に入れたい時には結構頼りにされましたから。」

「そうか。それは助かるな。ところでアモっさんは仕事の方は大丈夫なのか?」

「鍛冶屋の仕事はしばらく私がいなくても大丈夫そうですし、旅する時間も確保出来ました。それにロンガデセオのカジノが倒産してしまった時に、はやぶさの剣を投げ売りしていたので、そのどさくさにまぎれて、格安で購入したんです。」

「以前言っていた強力な武器って、それだったのか。まさかそれを格安で手に入れるなんて。」

「サリイさんのおかげです。彼女が教えてくれなかったら、間違いなく気が付かなかったでしょうし、しかも最後の一本でしたから、彼女に感謝感謝です。」

「ということは、アモっさんはまどろみの剣を上回る武器を手に入れたわけだな。」

「そうです。私はこれからテリーさんのように二刀流を目指そうと思います。」

「あのな、はやぶさの剣を装備すればその時点で二刀流同然だろ。」

「まあ、そうですけれどね。でも、テリーさんがらいめいの剣ときせきの剣の二刀流で、2度攻撃を行う姿はすごかったです。だから私も2本の武器でやってみたくなりまして。」

「フン!簡単に出来るもんじゃないぞ。だが、アモっさんもかなりの戦力として期待出来そうだな。一緒に戦うのであれば心強いな。」

「そう言っていただければ光栄です。では、バーバラさんのために、命の木の実集めに行きましょう。」

「ああ。行こうぜ。」

 2人は早速その実を持っている敵が未だにくすぶっているマウントスノーに向かい、まずホーンテッドミラーと戦った。

 この敵はモシャスを使うため、彼らはまず2度攻撃による速攻でダメージを与えていき、早めに倒すことにした。

 それでも守備力が高いために、二刀流のテリーと2度攻撃のアモスをもってしても、1ターンでは倒し切れず、相手からメラミを受けてしまうことがあった。

 また、いきなり最初のターンで変身してくるケースもあったため、その時はさすがの彼らにも焦りの表情がにじみ出た。

(まずい!俺もどきになったら相当危険な戦闘になってしまう!こうなったら、奥の手だ!)

 テリーはぶっつけ本番で、二刀流でのはやぶさ切りを実践した。

 すると何と4回も通常攻撃をすることが出来、相手が攻撃してくるよりも先に倒すことに成功した。

「全く手こずらせやがって!だが、これで安心してアイテムを探すことが出来るな。」

 テリーは剣をしまうと、アイテムを持っていないか調べた。

 その時は何も見つけることが出来なかったが、その後の戦闘でようやく一つ手に入れた。

「フン!これだけ頑張ってたった一つとは、不毛な戦いだったな。」

「テリーさん、ホーンテッドミラーではちょっと強過ぎますね。リビングデッドにターゲットを変えましょうか?」

「まあ、そうするか。確か近くにいるだろうから、少し移動して、そいつらと戦うことにするか。」

 2人は場所を移動し、リビングデッドの一族が住んでいるアジトに向かった。

 

 アジトの中ではリビングデッドや地獄の門番をはじめとする、いくつものモンスター達が話し合いをしていた。

 その中で彼らは人間世界に攻めていこうというプランを立てており、これからさらにモンスター達を集めようとしていた。

「それではいよいよ出陣だ。者ども、準備はいいか!?」

 大将的存在の地獄の門番は他のモンスター達に声をかけた。

「腕が鳴るぜ。人間達に絶望を見せてやる!」

「明日になればマウントスノーは廃墟だな。」

 部下達は気合満々だった。

 するとそのタイミングでテリーとアモスが姿を現した。

「お前達、話は聞いていたぞ。人間達に絶望を見せるだと?」

「駄目ですよ。大魔王が討伐されたのに、未だに人間の世界を侵略しようだなんて。」

 2人の姿を見て、モンスター達は一瞬驚いたが、地獄の門番が

「やっちまえ!みんなでそいつを殺せ!」

 と叫んだことで、戦闘が始まった。

 テリーはらいめいの剣を使ってライデインを発動させ、アモスははやぶさの剣で2度攻撃をした。

 しかし相手はかなりの数で、地獄の門番は猛毒の霧を吐いてきたため、テリーは猛毒に犯されてしまった。

(ちっ!猛毒はまずいな。こうなったら攻撃は1回お休みだ。)

 そう思った彼はキアリーを唱え、とっさに毒を消した。

 一方、特技が少ないアモスは攻撃力にまかせて、ひたすら2度攻撃を繰り返した。

 だが、相手は数が多いため、攻撃される回数もバカにはならなかった。

 次のターンでテリーは再びライデインを発動させ、リビングデッドをはじめ、HPがあまり多くないモンスターを何匹もダウンさせた。

(よし、これで数が減った。少しは余裕が出来たな。)

 彼がそう思ったのもつかの間で、またも地獄の門番が猛毒の霧を吐いてきて、今度は2人とも猛毒に犯されてしまった。

(まずい。アモっさんがかなりダメージを受けているタイミングで猛毒はきついな。悔しいがまた攻撃が1回お休みだ。)

 テリーはアモスにベホマを唱え、一旦HPを最大まで回復させた。

「ゲホゲホッ!まだ猛毒は治っていませんが、それでもベホマはありがたいです。私は地獄の門番を倒しますので、テリーさんは他の敵を早く!」

「ああ、分かった。ゲホッ!」

 現時点ではキアリーをかけている余裕がないため、せきこむ2人はHPを減らしながら戦闘を続けた。

 次のターンでテリーは自分にベホマをかけ、ひとまずHPを完全回復させた。

 しかし、残っている敵達から次々と攻撃を受け、さらには猛毒のためにHPをどんどん削られてしまった。

 一方のアモスは渾身の2度攻撃を叩きこみ、地獄の門番を倒すことに成功した。

「よし、後は俺がこいつらを倒すだけだ。もう一発ライデインをくらえ!」

 テリーは猛毒による気持ち悪さに耐えながらリビングデッド達に一撃を叩き込んだ。

一同「ぎゃああっ!」

 残っていたモンスター達は一匹残らずダウンしてしまい、ようやく戦闘が終了した。

「厄介な連中でしたね…。ゲホゲホッ!」

「ああ、そうだな…。ゴホッ!だが、まずは猛毒を消さなければな。」

 テリーは即座に自分とアモスにキアリーをかけた。

 そして自分にベホマをかけ、アモスも自分にホイミを重ねがけすることで、減っていたHPを回復させた。

「フンっ!さんざん手こずらせやがって!だが、これで少しは平和のために役立てたな。」

「そうですね、テリーさん。後は命の木の実を手に入れていきましょう。」

「ああ、遠慮なく頂いていくぜ。」

 2人は倒されたモンスター達を調べたり、アジトの中を探索してまわった。

 結果、彼らは命の木の実を8個手に入れ、それ以外にも不思議な木の実を3個、力の種を2個、まもりの種を1個、他にも薬草や毒消し草、やいばのブーメラン、はがねのキバなどのアイテムとお金を手に入れた。

「もうアイテムはなさそうだな。」

「じゃあ、ここはもう用無しですね。」

 テリーとアモスは足早にアジトを後にしていった。

 

 アジトから出てくると、テリーは命の木の実とやいばのブーメラン、はがねのキバを持っていくことにし、それ以外はお金も含めてアモスに渡すことにした。

「これでバーバラさんのために少しは貢献出来ましたね。彼女はきっと喜ぶでしょう。」

「だろうな。俺としても1日でも長くいてほしい、大切な仲間だからな。それに平和のためにも貢献出来たわけだから、その点でも意味のあることだったな。」

「とはいえ、まだまだ不穏な動きを見せる連中っているんですね。たとえ平和になったとしても、戦いそのものは無くなりそうにないですね。」

「そうかもな。だからこそ、俺は戦い続けるんだがな。」

「つまり、私達は世の中の平和を陰で支える隠密剣士ってわけですね。」

「そういうことになるな。」

 2人はこれからも戦闘でダメージを受けるケースがありうることを覚悟しながら、マウントスノーを後にしていった。

 

 



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Quest.16 リベラの約束 ~君がダメージを受けるなら~

 この日、ミレーユとバーバラはミミックを倒しに、とある洞くつに行くことにした。

 それを知ったテリーは、2人だけでは不安ということで、姉のためにきせきの剣を貸してくれた。

「ありがとうテリー!強力な武器が手に入ってうれしいわ!」

「フン!俺が行けばミミックなどイチコロだが、それじゃつまらんからな。」

 彼の態度は相変わらずぶっきらぼうだったが、ミレーユは喜んで剣を受け取った。

 さらに彼女はグランマーズからみかわしの服を、バーバラは星降る腕輪を借り、万全を期して洞くつに向かっていった。

 

 箱の前にやってきた2人は、まずバーバラがマホトラを唱えてみた。

「あっ、MPが増えたわ。これでこの箱がミミックで確定したわね。」

「じゃあ、早速装備を整えましょう。」

「OK。ミレーユはスクルトお願いね。」

 バーバラはそう言うと、まどうしのローブと星降る腕輪を身に付けた。

(※まどうしのローブは以前ミミックに食いちぎられましたが、ターニアに縫い直してもらいました。)

 一方、ミレーユはみかわしの服を身に付けると、早速スクルトを唱えた。

 その直後、箱がパカッと開いて戦闘モードになった。

バーバラ「ルカニ!」

ミレーユ「メラミ!」

 2人が行動をした後、今度はミミックがミレーユに通常攻撃をしてきて、1回目はヒット、2回目は失敗だった。

 次のターンでバーバラは通常攻撃をしてヒット、ミレーユも通常攻撃をしたが、こちらはかわされてしまった。

 一方、ミミックはバーバラにマホトラを唱えてきた。

「よくもあたしのMPを!こうなったらお返しよ!くらえ、ベギラゴン!!」

 彼女が戦闘で初めてこの呪文の名前を叫ぶと、本当にベギラゴンレベルの炎がヒットした。

 次にミレーユが通常攻撃をするとミミックを真っ二つにして倒し、さらに自身のダメージも回復した。

「この剣、ものすごい切れ味ね。ルカニの効果もあったとはいえ、こんな威力だったなんて。」

 ミレーユはミミックを倒したことを喜びながらも、もし下手に人間に使ったら大変なことになってしまうことを自覚した。

 一方、バーバラは大喜びしながら命の木の実を取り出した。

「あなた、本当にベギラゴンをマスターしたのね。」

「うんっ!やっと今までの努力が実ったわ。」

 バーバラは満面の笑みを浮かべながら実を食べた。

 

 洞くつを出てきた後、ミレーユはバーバラのベギラゴンを自分も応用しようと、彼女に質問をした。

「そう言われてもねえ…。出来たとはいえ、ベギラマだけだし…。」

「でも、せめてあなたの体験談を教えて。私は炎のツメを考慮しても攻撃呪文がメラミ、ヒャド、イオだけだし、回復もベホイミ止まりだから、どちらの面でもあなたに遅れを取っているの。だから少しでも今の呪文の威力を上げてみたいのよ。」

「大変な道のりになると思うわよ。」

 バーバラは難色を示したが、ミレーユはそれでも引き下がらなかった。

「お願い。どんな小さなことでもいいから。」

「分かったわ。参考になるのかは分からないけれど…。」

 とうとう折れたバーバラは、役作りのためにベギラマの威力を弱めるように言われてからのことについて話し始めた。

 呪文の威力を変えるというのは、彼女にとってこれまで聞いたことがなく、ノーヒントでのスタートだった。

 しかし撮影のスタートは待ってくれないため、とにかく周りに燃えるものがないところに来ては毎日唱え続け、撮影直前になってようやく下限を元の威力の3分の2にすることが出来た。

 とはいえ、実際はブレ幅が大きくなった結果だったため、上限も上がってしまった。

 そのために火力が強過ぎてNGを出してしまい、女勇者役のエリーゼからは「だいまどうにマホトーンが100%効くようにしてほしい。」という要望を出されてしまった。

 一方のバーバラも「ベギラマを唱えるのが怖い。まふうじの杖を持っているので、マホトーンを使わせてほしい。」と言いだした。

 しかし、スタッフからはそれではつまらないという理由で却下されたため、役作りに悩んだバーバラは一時期、降板まで考えたこともあった。

 幸いエリーゼがその対策として、廃墟で「あくまのきし」を倒すシーンを当初より繰り上げ、ベギラマを軽減するよろいを早めに手に入れてくれた。

 さらに本人が「怖くないと言えばうそになりますが、多少のダメージは覚悟します。」と言ってくれたおかげで、バーバラの精神的負担が減り、降板を免れることが出来た。

 それからは多少威力が狙いと違ってもNGにならなくなり、結果的に役割を全うすることが出来た。

 撮影後、彼女はベギラマの上限がベギラゴン級の威力になるようにしたいという思いを持つようになった。

 そして、MP消費を引き上げながら繰り返し唱え続け、ようやくベギラゴンにたどり着いたということだった。

「つまり、バーバラはベギラゴンそのものを覚えたというよりも、幅を大きくして常に上限近くで打てるようにしたわけね。」

「うん。でもこれまで単体相手でもベギラマだったから、メラミと同じダメージの場合、消費MPで勿体ないことをしてきたの。」

「でも、ベギラゴンを使えるようになって良かったわね。私はベホイミで応用してみるわ。」

「ミレーユは回復呪文で実践するわけね。」

「そう。仮にベホマには及ばなくても、ベホイミの回復量を10ポイントでも上げてみたいと思っているから。」

「少しでもそうなれば、いざという時には助かるでしょうね。頑張ってね。あたしも応援しているから。」

「ありがとう。あなたがこの世界に来てくれて良かったわ。頑張るわね。」

 ミレーユは笑顔でお礼を言った。

 

 彼女と同じ気持ちを持っているのはリベラも同じだった。

 彼はバーバラがミミック相手に強力なベギラマを放った姿が忘れられずにいた。

(このままではいけない。ハッサンも新技を編み出している中で、僕が置いていかれるわけにはいかない。何か新しいものを身に付けなければ…。)

 そう思った彼は以前のミミックとの戦闘後、ミレーユに先だってバーバラに体験談を聞いてみた。

 しかし、そのために試行錯誤を続け、長い道のりの末にようやく身に付けたことを聞いて、そんなに待てないと思い、ライデインでの応用を断念した。

 新しい特技を身に付けようにも、ハッサンのようにはうまくいかず、バーバラのために身代わりを覚えただけだった。

(こうなったら、武器をもっと強力なものにするしかない。)

 そう考えた彼は、両親にもう一度ラミアスの剣を使わせてほしいとお願いをした。

 しかし、待っていた返事はやはり反対だった。

レイドック「あの剣は確かに強力だ。強敵をただ倒すだけならそれも良かろう。だが、相手にも人生がある。家族がいる。倒してしまえば悲しむ者が出てくる。それを忘れないでほしい。」

シェーラ「あなたは大切な人であるバーバラさんを守るために戦うのでしょう。それが目的なら許可を出すわけにはいきません。真の敵が出現するまでは封印しておくことにします。」

 だが、新しい武器を買うための資金であれば多少は出せると言われたため、リベラは2000ゴールドを受け取ることが出来た。

(とはいえ、現実の世界で販売されており、僕が使いこなすことが出来、攻撃力の最も高い武器である炎の剣は22500ゴールドもする。僕の貯金をはたいても到底届かない。何とかお金を稼ぎたい。)

 そう考えた彼はまずテリーに会いに行き、何か高額なアイテムを手に入れたか聞いてみた。

「フン!そんな目的のために俺のところに来たのか!」

「でも、僕としては新しい武器を買うために、どうにかしてお金を貯めたいんだ。」

「だったらお前も戦ったらどうだ。ゴールドを稼げばそのうち手に入る。ただそれだけのことだ。俺に出来るのならお前にも出来るだろ。」

 テリーは以前、チャモロのためにそうやって大金を手にしてきただけに、リベラに対して挑戦状を突きつけるような言い方をしてきた。

 彼はらいめいの剣ときせきの剣を装備して二刀流をこなし、豊富な数の呪文や特技を持っている。

 一方、自分は武器がグラコスの槍で、呪文はスカラを入れてもたったの6つ、回復はホイミ止まりという有り様だった。

 そのため、テリーの姿が眩しくてたまらず、返す言葉もなかった。

「まあいい。俺の持ち物の中で、いらない物があるからお前にやるよ。」

「本当に?」

「ああ、売れば多少は足しになるはずだ。」

 テリーは持っているアイテムを見せてくれた。

 その中にはやいばのブーメランやはがねのキバがあった。

「これらは?」

「先日倒したモンスターのアジトで手に入れたものだ。とはいえ使い道もないからこれでも売りな。」

「いいのか?」

「ああ。チャモロのために力になったのに、お前には無視じゃ不公平だからな。それに、新しい剣でバーバラを守ってやれるのなら、俺は間接的に彼女のために役に立てるからな。」

「ありがとう。助かったよ。」

「礼はいい。後は自分で何とかしろ。」

 テリーは相変わらずぶっきらぼうだったが、仲間を思う気持ちはしっかりと持っていた。

 

 その後、道具屋でそれらを売ってお金にした後、彼はハッサンに会いにサンマリーノにやってきた。

「ハッサン、今何か大工の仕事ってある?」

「おおっ!仕事か!ちょうどいいや。今古い民家の改装中なんだ。手伝ってくれるか?」

「日当を払ってくれるのなら喜んで手伝うけれど。」

「うーん、あんまりは支払えねえな。小遣い程度でも我慢してくれるか?」

「それでもいいよ。今の僕には少しでもたくさんお金が欲しいから。」

「お金って、何を買うつもりなんだ?」

「それは…。」

 リベラは顔を赤らめながら事情を話した。

「そうか!その剣で愛する人を守りたいのか!」

「ハッサン!声が大きいよ!」

「いいじゃねえか。今さら隠すこともねえだろ。そのためなら俺も協力するぜ。お金はちゃんと払うから、頑張って仕事をしてくれよ。」

「ありがとう…、ハッサン…。」

 こうして彼に雇ってもらえることになったリベラは、一生懸命仕事を手伝った。

 そして2日間働いた結果、家の改装が無事に終了した。

「リベラ、ご苦労だったな。それじゃ、お小遣いだ。さらにはおまけとしてこん棒に皮のこしまき、おしゃれなバンダナをやるぜ。」

「ありがとう、ハッサン。少しでも助かるよ。これで炎の剣まであと10000ゴールドだ。まだ先は長いけれど、頑張って稼ぐよ。」

「頑張れよ。じゃあ、俺はこれからマーズの館に遊びに行って、ミレーユとお前の愛するバーバラにそのことを伝えておくぜ。」

「だから声が大きいってば!」

 ハッサンにイジられて、リベラの顔は真っ赤になった。

 その後、彼はもらったものを売ってお金を手に入れた。

 その際、グラコスの槍も売ろうとしたが、店員からこれは値段がつけられないと言われたため、断念した。

 

 レイドック城に戻った後、リベラはそれまでに貯めたお金を見ながら、しきりに考え事をしていた。

(22500ゴールドの炎の剣を買うために、残りをどうやってためようかな…。18000ゴールドのゾンビキラーで我慢するか…。でも炎の剣には追加攻撃もあるから、それも捨てがたいし…。)

 とはいえ、現在の所持金では、それらのどちらも買うことが出来ない。

 色々考えた彼だったが、結局寝る頃には考えることをやめることにし、お金をしまい込んだ。

 

 翌日、リベラはバーバラが寝泊まりしているライフコッドにやってきた。

 ターニアの家の前では彼女が破邪の剣を振りながら稽古をしており、道具としてギラも放っていた。

「ターニア、おはよう。」

「あっ、お兄ちゃん、おはよう。今日はどんな用事で来たの?」

「ちょっとバーバラに会いたくて。」

「バーバラお姉ちゃんならガンディーノに向かっていったわよ。」

「ガンディーノ?珍しいな。」

「そう。昨日、マーズの館でミレーユさんの修業のアドバイスをしていた時、ハッサンがやってきたの。その時、彼と色々話をして、何か引っかかるものがあったのか、帰ってきてから色々考え事をしていたわ。そして今日になって『ターニア、あたし今から出かけてくるね。』と言って、家を後にしたの。」

「何の用事だろう?」

「私も詳しくは分からないけれど、お姉ちゃん、武器として普段は持ち歩かないまふうじの杖も持って出かけたから、何かあるかもしれないわ。」

「まふうじの杖も?ますます不思議だ。何を考えているんだろう。」

「さあ…。でも、出かけてそんなに時間はたっていないから、きっとまだガンディーノにいるはずよ。」

「分かった。今から行ってみる。」

 リベラは真相を確かめるべく、ルーラを唱えて飛び立っていった。

 

 ガンディーノに到着すると、彼は駆け足で辺りを探し回った。

 すると、武器と防具の店の近くでバーバラと遭遇した。

「あら、リベラ。こんなところでどうしたの?」

「どうしたのって、ターニアから君がここに来ていることを聞いたから、それで…。」

「ターニア、あっさりとしゃべっちゃったのね。まあいいわ。ちょうど今10000ゴールドが手に入ったから、レイドック城に行って、リベラに届けようとしていたところだったの。これで欲しかった炎の剣が買えるわよ。」

「そんな大金をどうやって手に入れたの?」

「ええっとねえ…。ナイショ。でも、ここじゃ目立つから、別の場所に移動しましょ。」

 バーバラははぐらかすように笑いながらルーラを唱え、リベラと一緒にレイドックへと移動した。

 

 城の近くに降り立つと、人の気配のない場所にやってきた。

 バーバラは笑顔でリベラにお金を渡そうとしたが、その表情には何か動揺しているような雰囲気が漂っていた。

 しかも出かける時には持っていたはずのまふうじの杖がない。

 確かターニアは『武器として普段は持ち歩かないまふうじの杖「も」持って出かけた』と言っていた。

 つまり、はがねのムチも持って出かけたはずだ。

 しかし、今は武器を持っている様子がない。ということは…。

「バーバラ、まさかとは思うけれど、そのお金って…。」

「うーーん、鋭いわね。まあ、ちょっと打ち明けちゃうと、はがねのムチは買うと7400ゴールド、まふうじの杖は6000ゴールドなのよね…。」

 買うと13400ゴールドと言うことは、売ればほぼ10000ゴールドが手に入ることになる。

「君はそのお金を用意するために…。」

「大丈夫よ。だってあたしはここに来てからベギラマ中心で、あまり通常攻撃をしていなかったし、それにベギラゴンを覚えたからには、火力には困らないわよ。」

 それを聞いて、リベラはガツンと頭を打たれたほどの衝撃を受けた。

(そうだったのか…。バーバラ…。僕のために自分の武器を手放してまで…。)

 彼の手は次第にわなわなと震えていき、目は次第に潤んでいった。

「やあねえ、泣いてるの?あたしは笑っているのに。」

「バーバラ、君は…、そこまで僕のことを…。」

「だって、リベラに守ってもらってばかりじゃ嫌だったから。あたしだってリベラを守りたい。それで、思い切ってこうしてみたの。」

「ありがとう…。そして、ごめん…。君にこんな負担をかけてしまって…、本当に…ごめんっ!」

 リベラは涙をボロボロ流しながらバーバラに歩み寄っていき、彼女を抱きしめた。

「キャッ!どうしたのよ!今日はずいぶん積極的じゃない!」

「バーバラ!僕、約束する!」

「何を?」

「炎の剣を手に入れたら、必ずその剣で君を守る!君がダメージを受けるなら、君のダメージになってやる!」

「……。」

 バーバラは思わぬ告白に、思わず顔を赤らめた。

(ここまで僕のことを思ってくれる人は、バーバラしかいない。世界中を探し回ってもバーバラしかいない。だからこそ、僕は君を幸せにする!代償からも解放させてやる!そのために出来ることがあるなら、何だってやる!どんな強敵とだって戦ってやる!)

 リベラは目の前にいる大切な人を包み込みながら、そう心に誓った。

 

 君がダメージを受けるなら、君のダメージになってやる!

 



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Quest.17 ミレーユの新呪文

 バーバラが自分の武器を手放した後、彼女に加えてリベラ、ハッサン、ミレーユの4人はマーズの館に集まって、これから武器をどうするのかについて話し合いを始めた。

 まずリベラは炎の剣で決定済み。そして彼はハッサンがグラコスの槍、ミレーユは炎のツメ、バーバラは氷のやいばを使うことを提案した。

「とりあえずこれが一番ノーマルな感じだと思うんだけれど、どうかな?」

ハッサン「悪くはねえんだが、俺としては追加効果のある武器を装備したいんだ。この味を覚えちまうと他のやつを使いにくくなってな。」

「ああ、なるほど。確かに攻撃力の高いハッサンだったら、追加効果も強力になるからね。」

「そうなんだ。だから、俺は氷のやいばか、炎のツメにさせてくれないか?」

「そうか…。じゃあ、ハッサンは攻撃力の一番高い氷のやいばで、バーバラにグラコスの槍を渡そうかな。」

「あたしが?」

「うん。炎のツメをミレーユに持たせれば、メラミをダブルで打てるから、かなりの火力になると思っているんだ。だから、君に渡そうと思っているんだけれど。」

「でもあたし、今まで槍を使ったことがないんだけれど…。」

「試しに素振りをしてみれば、使いこなせるかどうかが分かるわ。外に出て、練習してみる?」

「そうね。とにかくやってみる。」

 4人が外に出ると、バーバラは早速グラコスの槍で素振りをしてみた。

 しかしいまいちスイング速度が遅く、ハッサンの見る目は厳しかった。

「うーーん…、正直、隙だらけだな。何だか片手の力だけで振っているような…。これじゃいざ実戦となった時に、攻撃が当たりにくいだろうな。」

「あたしだって真面目に振っているんだけれど…。」

「そうか…。当たれば会心の一撃ってなるんだったら少し譲ってOKを出せるんだが、これじゃメラミ唱える方が圧倒的に良さそうだな。」

「結局あたしじゃ使いこなせないと考えた方が良さそうね。」

 バーバラは悔しそうな表情を浮かべていた。

リベラ「でも、ハッサンは君を責めているわけじゃないんだ。それは分かってくれ。」

「それはあたしだって分かっているわ。正直、ベギラゴンが使えるようになった以上、攻撃はこれかメラミが主体になりそうだし、この槍は相手の攻撃を受け止める時に使うことになりそうね。」

ミレーユ「受け止めるって?」

「あたし、過去に、ひのきの棒を持って映画で共演したエリーゼと打ち合いの練習をしたことがあるの。それを応用すれば何とか防御用には使えるかなって思って。」

リベラ「それだと、バーバラは呪文専門で攻撃をすることになるね。」

ミレーユ「でも攻撃の度に呪文ばかりを唱えていては、MPがどんどん減っていってしまうわね。」

ハッサン「それにこの中でベホマを使えるのはお前しかいないから、回復役としてのMPは必要だよな。」

「そうねえ…。じゃあ、あたしがMPを節約したい時にはハッサンと武器を交換してもいい?」

「氷のやいばとか?」

「うんっ!それだったら何とか使いこなせそうだし、ヒャダルコ唱え放題になるから。」

「俺としては追加効果は是非ともほしいんだけどな。」

リベラ「そこは状況次第で臨機応変に対応しようよ。それにハッサンには色々な特技もあるから、通常攻撃だけが全てじゃないし。」

「あっ、そうだな。俺にはせいけん突きや気合ためなどがあったな。忘れていたぜ。それにこの槍があれば自分にスカラをかけた上で身代わりや仁王立ちというやり方もあるからな。」

ミレーユ「それに、私は新しい武器を手に入れるまでの間、おばあちゃんから月の扇を借りるという手もあるから、炎のツメをバーバラに手渡すのも悪くないわね。こうすればあなたは消費MP無しでメラミを唱えられるわよ。」

「そうなればあたしはMPを回復や補助に回せるわね。結局色々なやり方があるってわけね。あたしとしては楽しみだわ。」

 笑っているバーバラに対し、リベラは複雑な表情を浮かべていた。

(バーバラ…、僕が炎の剣を手に入れられたのと引き換えに、君をこんな目に合わせて、本当にごめんね。この恩は絶対に忘れないよ。大事に使っていくからね。)

 この日の話し合いの結果、ひとまず武器はミレーユが月の扇を借りることになり、氷のやいばと炎のツメはハッサンとバーバラがどちらを持つかをじゃんけんで決めることにした。

2人「せーの、じゃんけんぽん!」

 結果はハッサンがグー、バーバラがパーだった。

「わーい、勝った勝った!じゃあ、あたし、氷のやいばにするっ!」

 その結果、ハッサンは炎のツメとグラコスの槍を掛け持ちすることになり、状況に応じて持ち替えていくことになった。

 

 その後、4人が会話を楽しんでいると、グランマーズがミレーユのところにやってきて、ベホイミの威力を上げる練習を始めようかと言い出した。

 それからミレーユはグランマーズの監修のもとで自分にベホイミを唱え続けた。

 彼女のHPはとっくに最大値になっていたため、一見すると無駄打ちになっていたが、グランマーズは実際に何ポイント回復したのかについてはお見通しだったため、いちいち誰かのHPを減らすことなく唱えることが出来た。

 その甲斐あって、ミレーユは試行錯誤をしながらMPが尽きるまでベホイミを唱え続けた。

「おばあちゃん、どうかしら?」

「まあ、平均の回復量は通常よりも少し上がった程度じゃろうが、最大回復量ならばすでに110と見て良さそうじゃ。もう少ししたらベホイミを超えた新呪文と解釈してよくなるじゃろう。」

「本当に?じゃあ、私もバーバラのように新しい呪文を身に付けられそうね。そうなったらベホマって解釈してもいいかしら?」

「ベホマはあくまでもHP完全回復じゃから、それは違うのう。」

「でもベホイミとベホマの間って(DQ6の世界では)該当する呪文が無いわよね。」

「そうなるのう。それならお前さんがその呪文に名前をつけてみるかのう。」

「えっ?自分で命名するの?」

「そうじゃ。悪くはなかろう。」

「…考えたことなかったわねえ。どうしようかしら?」

「自分でいい名前が浮かばんのじゃったら、みんなに相談してみるかの?」

「うーーん…。そうしてみようかしらね。」

 ミレーユはリベラ達に名前を募集してみることにし、一人ずつ名前を聞いてみた。

 

リベラ「ベホイミとベホマの間だから、僕としては『ベホイマ』でどうかなと思っているんだけれど。」

「うーん…。」

「変な名前だったかな?」

「そういうわけではないんだけれど、ベホマと似ている気がするから、名前を間違えるかもしれないのよね。」

「あっ、そうか。もし噛んだら違う呪文になったり、呪文が発動しなくなったりするかもしれないね。」

「そうなのよ。」

「じゃあ、ベホイムかベホイメかベホイモ。」

「それって、マミムメモを順番に並べていったような感じね。」

「バレた?単純過ぎたかな?」

「大丈夫。立派な名前よ。じゃあ、ベホイミの『ミ』の次に来る文字を取って『ベホイム』でいい?」

「うん、いいよ。」

 というわけで、リベラのアイデアはベホイムに決まった。

 

 次にハッサンが考えたアイデアは「ベホーマ」だった。

「ベホマとかなり似ているわね。」

「そうか?そこはちゃんと区別出来ると思うけれどな。」

「でもいざと言うとき、間違えたら嫌なのよね。」

「分かった。ベホイーマでどうだ?」

「それで決まりにしていい?」

「おお、いいぜ。」

 というわけで、ハッサンとの会話は15秒で終了した。

 

 ミレーユは次にバーバラに意見を聞いてみることにした。

「あたしはすぐに思いついたよ。」

「どんな名前なの?」

「ベホイムーチョ!」

「……。」

「あら、引いちゃった?あたしとしてはいい名前だと思ったんだけれど。」

「…名前、長いわね。7文字?」

「うんっ!マジックバリアも7文字だから!」

「……。」

(ま、まあ、ムーチョという言葉自体はまじめな意味(※muchoはスペイン語で「たくさん」と言う意味です。)だけれど、こうやって聞くと、微妙な感じね。)

 バーバラのセンスのビミョーさに、ミレーユは黙り込んでしまった。

「というわけで、あたしのアイデアはベホイムーチョで決まりっ!」

 

 館の自分の部屋に戻ったミレーユは「ベホイム」と「ベホイーマ」の2つを心の中で何度も連呼し、どちらがしっくり来るかシミュレーションを繰り返した。

 そして最終的にリベラが提案したベホイムを正式名として採用することにし、3人に打ち明けた。

「何だか恐れ多いんだけれど、どうもありがとう。」

「あたしのアイデアは最終候補にも残らなかったのね。」

「バーバラ、せっかく聞いたのにごめんね。でも『ム』の部分が採用されたから、これで許してね。」

「あっ、そうか。それなら納得!」

 こうして、仲間達の了解を得た上で、ミレーユの新呪文の名前が決まった。

 

 そんな彼女を見て、リベラは自分も何か殻をぶち破って、何か新しい能力を身に付けたいと言い出した。

ハッサン「お前は何をするつもりなんだ?」

「そうだなあ…。一つ挙げるとすれば、この剣は道具として使うとイオの効果があるんだけれど、これをイオラにするとか。」

「ほう…。確かにイオラになれば道具使用としての価値も飛躍的に上がるな。」

「そうなんだ。でも…。」

「でも、何だ?」

「この剣で確かに攻撃力は上がったんだけれど、相手を攻撃することが本当にバーバラを守るということにつながるのか気になっているんだ。だから、少し迷っているんだよね。」

ミレーユ「確かに敵を倒すことばかりが必ずしも正しいことではないのは、テリーを見ていて感じたことだから、一理あるわね。」

バーバラ「テリーを見ていてって、水晶玉で?」

「そうよ。」

「ミレーユはテリーのどのような場面を見ていたの?」

「実はね…。」

 ミレーユはテリーがデュランの子供達に出会って仲良くなったこと、彼ら2人が旅人の洞くつでドランゴと一緒に過ごしていること、そしてデュランにも家族がいたということを思い知らされ、彼を倒してしまったことに罪悪感を抱いていたことを打ち明けた。

リベラ「そうか…。あの時は倒さなければならない戦いだったから、倒してしまったけれど…。」

ハッサン「何だかその子供達に悪いことをしてしまったな…。」

バーバラ「もしデュランが改心して戻ってきてくれたらいいんだけれどな…。」

ミレーユ「私もそう思ったわ。だからこそ、私は攻撃呪文ではなく、回復呪文であるベホイミの威力を上げることにしたの。彼らへのせめてもの償いとしてね。そして、いざという時にはたとえ敵対する立場であっても私はベホイミやベホイムを唱えてあげたいと思っているわ。」

 彼女の話を聞いて、他の3人も心を動かされた。

ハッサン「テリーって、普段はあんなにぶっきらぼうだけれど、そんな優しさもあったんだな。改めて彼を見直したぜ。」

「何だか、あたしがベギラゴン覚えたのが恥ずかしくなってきちゃった…。」

「バーバラ、そんなふうに考えなくていいよ。だって、君がいなかったらミレーユのベホイムが誕生することはなかったし、僕も新しい能力について考えることもなかったから。」

「ありがとう…。そう言われて、何だか救われた気がしたわ。」

 リベラはバーバラを励ました後、ミレーユの話してくれたことを踏まえて、みんなを守る方法について考え始めた。

(スカラやスクルトはミレーユとバーバラがすでに使えるし、出来ることなら2人にはない能力を身に付けたいな。もし好きな能力を身に付けられるのであれば、マジックバリアかいてつく波動がいいな。)

 彼の心の中には、新たな目標が生まれていた。

 



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Quest.18 ターニアのデビュー戦

 ミレーユの新呪文「ベホイム」が生まれた翌日、ライフコッドでは今日もターニアが破邪の剣で素振りをしていた。

 すると、家事仕事を済ませたバーバラが家から出てきた。

「おっはよー。」

「あっ、お姉ちゃん、おはよう。」

「ターニアはもうすっかりこの世界に慣れたようね。」

「うん。最初は不安もあったけれど、どうやら2人の私がうまく調和してきたようだし、この世界の人として生きていく自信がついたわ。」

「それは良かったわ。でもあたし、時々思うことがあるんだけれどね。」

「何を?」

「夢の世界の人達は怒っているんじゃないかなって。」

「それは私も気になっているわ。ランドをはじめ、ライフコッドの人達やエリーゼさんはどうしているのかなって。」

「あたしも、エリーゼには悪いことをしたと思っているわ。それに、たとえ戻ったとしても、みんなにあわせる顔がない気がするの。もう以前のようなアイドル活動は無理でしょうし、間違いなく無職になっちゃうから。」

「そうなってしまったら、それは辛いわね。」

「うん。この世界でミレーユが水晶玉で上の世界を映し出してくれることが分かった以上、あたしは帰ったらゼニス王か誰かに下の世界を映し出してほしいと言うつもりではいるけれど。」

「あっ。考えてみたら、そういう手があったわね。それなら直接会えなくても会話が出来るわね。」

「うん。でもやっぱりあたしはリベラ達に直接会いたいの。離れたくない。時が流れるのが怖いって、時々思うのよ。」

「そう・・・。何とかここにいられる方法が見つかればいいわね。」

「うん。って、あたしってばいつの間にかターニアの気持ちを落ち込ませちゃったわね。ごめんね。」

「大丈夫よ。今の私があるのは、お姉ちゃんのおかげだから。お姉ちゃんへの感謝の気持ちは1日として忘れたことはないわ。」

「ありがとう。それじゃ、あたしはこれからマーズの館に出かけてくるわね。」

「今日はどんな用事なの?」

「ミレーユのおばあちゃんに超・キメラの翼と命の宝玉を見てもらって、どうやって別世界に飛んでいくのか、そしてどうやったら光る時間を伸ばせるのかを見てもらうの。」

「じゃあ、何かいい方法が見つかるかもしれないのね。」

「うん。そうなったらいいなって思っているの。それでね、今日は夕方までそこで過ごすことになるから、あたしの氷のやいばとまどうしのローブ、自由に使っていいからね。」

「分かったわ。ありがとう。」

 2人の会話が終わると、バーバラはルーラを唱えて飛び立っていった。

 

 それから30分後、リベラがルーラでライフコッドに降り立ち、ターニアの家の前にやってきた。

「やあ、ターニア。」

「あっ、お兄ちゃん。」

「今日は氷のやいばで稽古?」

「そう。お姉ちゃんが自由に使っていいって言っていたから。」

「じゃあ、その稽古の成果を発揮するために僕と一緒に来るかい?」

「えっ?どこにいくの?」

「月鏡の塔。そこにいるポイズンゾンビのスミスから依頼が来たんだ。」

 リベラは続けざまに詳しい内容について話した。

 スミスの依頼というのは、塔の内部を改装して改心したモンスター達の部屋を作りたいということだった。

 何とか協力してくれる人間かモンスターがいないか探していた時に、ミレーユがその情報をつかんだため、ハッサンにそれを伝え、彼がその役割を買って出ることになった。

 しかし塔の中にはスミスの考えには従わず、未だに人間と戦おうとするモンスターもいるため、退治する必要に迫られた。

 そこでリベラとハッサンに白羽の矢が立ったということだった。

「その際、バーバラがターニアも誘ってほしいって言い出したんだ。」

「えっ?お姉ちゃんがそんなこと言っていたの?」

「そうなんだ。僕は反対したし、ハッサンとミレーユも難色を示していたんだけれど、バーバラはきっと戦力になると言ってね。それで聞いてみることにしたんだ。」

「そう…。お兄ちゃんの役に立ちたいとはずっと思っていたけれど、いざそう言われると何だか、緊張してきたわ。足を引っ張らなければいいけれど…。」

「悪魔の鏡やシャドーなら氷のやいばのヒャダルコと僕達の攻撃で十分に倒せるよ。どう?行くかい?」

 ターニアが戦うというのはこれまで経験したことのないだけに、彼女自身もそしてリベラも不安を感じていた。

 しかし彼女はリベラやバーバラの役に立ちたいがために毎日素振りをしていただけに、勇気を振り絞ってついていくことにした。

「分かった。じゃあ、早速装備を整えよう。」

「うん。分かったわ。」

 ターニアは家の中に入っていき、まどうしのローブを持って外に出てきた。

 そしてルーラでマーズの館に行き、ハッサンと合流すると3人で月鏡の塔へと向かっていった。

(※ミレーユとバーバラは夕方まで館で過ごすため、不参加。)

 

 東の塔の入口ではスミスに加えて、かつてリベラ達が仲間として迎えたことのあるホイミスライムのホイミンがいた。

リベラ「やあスミス。ホイミンも一緒なんだね。」

スミス「そういうことだ。ここに住まないかと聞いてみたら、喜んで承諾してくれたんだ。」

ホイミン「そうなんです。野外で野宿していては悪意を持ったモンスターや山賊の人間に襲われるかもしれないので、安心して住める場所が欲しかったんです。」

「塔にはすでに何匹かの連中が住んでいるんだ。ただ、壁がないと住み心地が良くないという意見が出てな。それで誰か内部を改装してくれないかと思っていたんだ。」

ハッサン「それで、俺が名乗り出たというわけだぜ。なあ、スミス。」

「ああ、そうだ。だが悪魔の鏡とシャドーだけは平和に過ごせないようでな。それでこうすることにしたんだ。」

 彼らが会話をしている中で、ターニアはモンスターの姿を目の当たりにして足がすくんでしまい、黙り込んでいた。

「大丈夫だよ、ターニア。彼らに敵意はないから。それにこれから戦闘になっても、僕達が守るから。」

「う、うん…。」

 リベラに励まされても、彼女の緊張は収まらずにいた。

 ハッサンもその様子に気づき、身代わりや仁王立ちで彼女を守ってやらないとなと思った。

 そして、ターニアがまどうしのローブを装備すると、一行は塔の内部に足を運んでいった。

 床には何ヶ所かで仕切りの線が引いてあった。

 どうやらこの場所に壁を作り、個人の部屋にするのだろう。

 ハッサンはそこを通過する度に、どれくらいの大きさの部屋になるのか、数が大体いくつになるのかをチェックしていた。

 

 しばらく歩くと、悪魔の鏡2体とシャドー1匹に遭遇した。

 ホイミンは回復要員(通称:ホイミタンク)として待機することになり、残りの4人が戦闘に参加することになった。

 

悪魔の鏡A:通常攻撃(リベラは攻撃をかわした。)

リベラ:通常攻撃(悪魔の鏡Aにヒットし、真っ二つにして倒した。追加攻撃はBにヒット。)

ハッサン:通常攻撃(悪魔の鏡Bにヒットし、倒した。追加攻撃はシャドーにヒット。)

ターニア:ヒャダルコ(シャドーにヒットし、倒した。)

 

「すごーい!私がモンスターを倒したわ!」

 ターニアは自分が放ったヒャダルコてシャドーを倒したことに驚いていた。

リベラ「おめでとう!見事なデビュー戦だったよ。」

「ありがとう。こんな私が戦力になれるのかと思っていたけれど、良かった。」

 彼女は緊張感から解放され、自信をつけることが出来た。

 

 その後、5人(4人と1匹)は、塔の中をどんどん進んでいった。

 その中でリベラは炎の剣の通常攻撃で、悪魔の鏡を真っ二つにしてしまったことが気になっていた。

(攻撃力が一気に上がったのはいいけれど、ここまでの威力だなんて。これではあまり下手に切りつけるわけにもいかないな。)

 彼は父、レイドックがいましめの意味で言っていた「相手にも人生がある。家族がいる。倒してしまえば悲しむ者が出てくる。それを忘れないでほしい。」という言葉を思い出し、忘れないように心に誓った。

 

 一つ上の階に行くと、今度はシャドー3匹に遭遇した。

「それじゃ、私が最初に行くわよ!」

 ターニアがヒャダルコを発動させると一気に3匹とも倒した。

「やったわ!今度は私一人で勝てたわ!」

 これで勢い付いた彼女の表情はますます生き生きとしていた。

 

 今度の戦闘では、悪魔の鏡2体とシャドー2匹に遭遇した。

 参加者はここでもホイミンを除く4人だった。

 

1ターン目

 リベラ:イオ(全員にヒット。)

 ハッサン:自分にスカラ

 悪魔の鏡A:モシャス(リベラに変身。)

 スミス:モシャス(リベラに変身。)

 シャドーA:通常攻撃(ハッサンにヒット。)

 悪魔の鏡B:まぶしい光(ターニアは目がくらんだ。)

 シャドーB:通常攻撃(リベラにヒット。)

 ターニアは目がくらんだせいで、行動出来ず。

 

2ターン目

 ハッサン:仁王立ち

 リベラもどきの悪魔の鏡:通常攻撃(リベラをかばったハッサンにヒット。)

 悪魔の鏡B:通常攻撃(ターニアをかばったハッサンにヒット。)

 リベラ:通常攻撃(リベラもどきにヒットし、追加攻撃もヒット。)

 リベラもどきのスミス:ライデイン(悪魔の鏡B以外を倒した。)

 ターニア:ヒャダルコ(悪魔の鏡Bを倒した。)

 

 戦闘後、ホイミンはベホマを唱え、ハッサンのHPを全快させてくれた。

 

 次の戦闘ではターニアがスタメンを外れることになった。

 それを踏まえて、事前に氷のやいばをホイミンに手渡した。

 ホイミンはヒャダルコを発動させて攻撃をし、リベラはイオで全体攻撃をした。

 戦闘後、ターニアはホイミを唱えてHPを回復させてくれた。

 

 その後もリベラ達は何度か戦闘を経験した。

 その中で、ハッサンは炎のツメをホイミンに渡してメラミを使うように促し、自分はグラコスの槍で戦うことにした。

 彼は通常攻撃をしながらも、時には最初から自分にスカラかけて仁王立ちをすると決めていたことがあった。

 ホイミンから氷のやいばを返してもらったターニアは出番の度にヒャダルコを放ち、相手をなぎ倒していった。

 リベラは途中から通常攻撃を取りやめ、イオの効果がどうやったら上がるのかを試していた。

(自分なりに考えてはみたけれど、なかなか威力が上がらないな。やっぱりバーバラに色々教えてもらう必要がありそうだな。)

 彼がそう考えながら歩いていると、一行は最上階である7階までやってきた。

スミス「みんなご苦労。どうやら討伐は以上となりそうだ。これからは安心して改装に入れそうだぜ。」

ハッサン「そうか。じゃあ俺が今から現場監督になってやるよ。これまで歩いてきて、材料がどれくらい必要になるかが分かったから、これからそろえるぜ。」

「それはありがたい。俺は作業を手伝ってくれる連中を集めることにする。」

「頼んだぜ、スミス。」

ホイミン「それから、皆さんが協力してくれたお礼をしなければいけませんね。僕の方から用意させていただきます。」

ターニア「何を用意してくれるの?」

「まず命の木の実です。確か、バーバラさんが実を欲しがっているということを聞きましたので。」

「ありがとう。お姉ちゃんはきっと喜ぶわ。」

 ホイミンはその後、不思議な木の実と守りの種、力の種、素早さの種、そしてお金を用意してくれた。

「どうもありがとう。じゃあ、不思議な木の実は私がいただくわ。」

リベラ「良かったね。これでMPを増やせるから、ホイミを唱えられる回数も増えるよ。」

「うん。今日はここに来て本当に良かったわ。」

 ターニアは達成感と手に入れたごほうびにすっかり満足していた。

スミス「それじゃみんな。今日は世話になったな。また会おうぜ。」

ホイミン「僕もまた皆さんにお会いしたいです。」

リベラ「僕からもよろしく。ベホマやベホマラーが使える君なら十分戦力になるし、また協力出来たらいいね。」

「そうなると僕もうれしいです。」

ターニア「じゃあ、私達はこれで失礼します。」

ハッサン「俺は作業のためにまたここに戻ってくるぜ。その時はまたよろしくな。」

リベラ「じゃあスミス、ホイミン、元気でね。」

 3人はあいさつをすると、7階の出口付近からルーラで飛び立っていった。

 



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Quest.19 エリザと再会

 この日、リベラとバーバラはデートのような感じで、手をつなぎながらトルッカの町にやってきた。

 ここではかつて町長の娘エリザが盗賊のビッグとスモックに誘拐され、身代金5000ゴールドを要求されたことがあった。

 その時、リベラ、ハッサン、ミレーユ、バーバラの4人がその盗賊を退治して、お礼として命の木の実をもらったことがあった。

 久しぶりにエリザに会った2人は、彼女にバーバラの事情を話した後、再び実をもらえるか問いかけた。

「私が持っていた実は裏山に植えて、今自分で育てているの。だからそれ自体は渡すことが出来ないのよ。ごめんなさいね。」

バーバラ「そうなの。他の人達は持っていないの?」

「以前はお父さんが持っていたけれど、ある日、さすらいの剣士を名乗る人に渡したわ。」

「さすらいの剣士?」

「そうよ。銀髪の凄くハンサムな顔をした男の人で、幼い人間の姿をした男の子と女の子、そしてドラゴンの親子を連れていたわ。」

リベラ「間違いない、テリーだ。彼は(杖で人間に変身した)デュナンとデュアナ、そしてドランゴの親子を連れてきたんだね。」

「彼らはそういう名前なのね。」

「それで、彼が命の木の実を欲しいって言ってきたの?」

「いえ。その時、カンダタと名乗る覆面をした大男と、鎧を着こんだ子分みたいな人達がやってきて、お金やアイテムを渡すように要求してきたの。」

「カンダタ?名前は聞いたことはあるけれど、会ったことはないな…。」

「私も初めて見る人だったわ。最初は私もお父さんもどうしようか分からずにいたけれど、テリーという人が単身で戦いを挑んでいったわ。」

 建物の陰で見ていたエリザは、その様子を詳しく教えてくれた。

 

『貴様、この大盗賊カンダタ様と3人の子分に逆らおうってのか?』

『ああ、そのつもりだ。俺が返り討ちにしてやるぜ。』

『何だと?貴様一人で勝てると思うなよ!』

『勝てるさ、余裕でな。それじゃみんな俺から離れろ。』

『分かった…。さあみんな…こちらへ…、ギルルルン…。』

 ドランゴはデュナン、デュアナに加えて自分の子を守りながらテリーから離れていった。

テリー『スカラ!』

一同『何っ?ダメージがさほど入らない?』

『ああ、そうだ。何ならもう一度スカラ!』

子分A『親分、これではほとんど攻撃が通じません!』

子分B『親分、何かいい方法ないでしょうか?』

カンダタ『とにかく攻撃するしかないだろ!』

子分C『そんなこと言われても…。』

『どうした?かかってこないのか!ならこっちから行くぞ!』

 攻撃態勢に入ったテリーは手始めにイオラを唱え、全員にダメージを与えた。

 それに続いてカンダタ達は一斉攻撃をしてきたが、両手に持った剣に阻まれ、仮に当たってもほとんどダメージらしいダメージにはならなかった。

『フン!お前達、その程度の力か。だが、俺は手加減しないぜ。ライデイン!』

 テリーがらいめいの剣を振りかざすと、全員にかなりのダメージを与えた。

『ほらほら、どうした!?かかって来ないのか?じゃあ、続けていくぞ。ばくれつけん!』

 攻撃はカンダタと子分達3人に1回ずつヒットし、子分は全員ダウンしてしまった。

『お前達…。お、おのれ!』

 カンダタは突進するように攻撃をしてきたがテリーは素早くかわし、持っていたオノを弾き飛ばした。

『お、おのれ…。よくも俺様の武器を!』

『降参しろ!』

『な、何だと!』

『さもなければ本気でお前を倒す!』

 テリーはルカニを唱え、カンダタの守備力を大きく下げた。

『これが最後通告だ。降参しないのなら、次のターンでお前はお陀仏だ。』

 彼は大きく息を吸い込み、気合ためのモーションに入った。

 それを見て、さすがのカンダタも青ざめてしまい、完全に戦意を喪失した。

『くっ!やむを得ねえ!ここは退却だ!』

 カンダタはオノを拾いに行こうともせずにキメラの翼を使い、子分達と一斉に飛び立っていった。

『テリー…さすが…。強い…。私…尊敬する…。』

デュアナ『キャーッ!テリーお兄ちゃん、かっこいい!』

デュナン『僕も大きくなったらそれくらい強くなる!』

『じゃあ、何か武器が必要だな。カンダタが落としていったオノでは重いだろうから、それを売ってお前達に使えそうなものでも買うか?』

2人『うん、賛成!』

 

リベラ「テリー、凄い強さだったんだね。」

「そう。私もお父さんもビックリだったわ。そしてお父さんはテリーさんがオノを売って得られたお金で、デュナン君にはブーメランを、デュアナさんにはいばらのムチをプレゼントしたわ。そしてテリーさんには命の木の実を渡したの。」

「あっ、その実ってこの前、彼が持ってきたものに違いないわ。」

「そうなの?じゃあバーバラさんはお父さんから間接的に実をもらえたことになるわね。」

「うん。だから、後であなたのお父さんにお礼を言っておくね。」

「じゃあ、今から家の中に案内するわ。」

「ありがとう!」

「それじゃ、僕もお世話になります。」

 バーバラとリベラはエリザに連れられて、彼女の家の中に入っていった。

 そして町長にお礼を言った後、お茶とお菓子をごちそうになった。

 会話が終わると、3人は町の中を歩き回り、そして町の外に移動して、薬草の材料になる野草や、食べられる実や種などのアイテムを探しに行った。

 

 その頃、チャモロはこの日も慈善活動をしながら、命の木の実を集めるための活動をしていた。

 その中で、アークボルトに行った彼はホリディから守りの種を、ガルシアから力の種をもらった。

 実はこれらは以前、ブラストから命の木の実をもらった時に一緒に提示されたものだったが、その時は断っていた。

 だが、ブラストが「これらもきっと誰かの役に立つはずだ。」と言ってくれたこともあり、今回は受け取ることにした。

 そして彼はマーズの館にやってきたが、運悪く留守だったため、代わりに徒歩でサンマリーノに向かうことにした。

 その途中、彼は運悪く盗賊2人組に遭遇してしまった。

盗賊A「おい、小僧!持ち物とお金を置いていけ!」

盗賊B「それとも、俺達と勝負するか?」

 彼らの目は本気だった。

(どうしましょう?私は久しく戦闘をしたことが無いですし、持っている武器はあろうことか、ゲントの杖しかない。呪文で一応バギマはあるけれど、ブランクが長いから、威力が低下しているでしょうけれど、こうなっては仕方ありませんね。)

 チャモロは意を決して1対2の戦いに身を投じた。

 しかし盗賊2人は先制攻撃をしてきた上に、離れたところから石つぶてを使ってきたため、なかなか彼らのところに近づけなかった。

 チャモロはかくなる上はとばかりにバギマを唱えたが、その威力は思ったよりも低かった。

(これじゃ「今のはバギではない…。バギマだ。」と言っているようなものですね。)

 彼が焦りの表情を浮かべている中、盗賊Aは砂けむりを、盗賊Bは体当たりを仕掛けてきた。

 幸いメガネをかけているおかげで砂けむりこそ効かなかったが、体当たりはヒットしてしまい、チャモロはかなりのダメージを受けてしまった。

(イタタタ…。これではしばらくまともに行動が出来ませんね。こうなったら、もう一度バギマ!)

 彼は倒れ込みながら懸命に呪文を唱えたが、今度はバギにも及ばない威力だった。

 一方、盗賊は隙ありとばかりに攻撃をしてきて、チャモロは立ち上がったものの、サンドバッグ状態になってしまった。

(このままではやられてしまう。悔しいけれど、退却します!)

 追い詰められたチャモロは風の帽子を発動させ、その場を後にしていった。

 

 彼は降り立った場所でベホマを唱えて傷をいやすと、改めて風の帽子を使い、サンマリーノにやってきた。

 町ではハッサンとミレーユが並んで歩いていた。

 チャモロは2人を見かけると、「こんにちは。」と声をかけた。

「よお、元気か?今日はここで慈善活動か?」

「そういうわけじゃないんですけれど、アイテムを届けようと思ってマーズの館に行ったら留守だったので、それでここに…。」

「あら、おばあちゃん、出かけちゃったのね。今日は留守番の予定だったはずなのに…。」

チャモロ「何か急用でもあったのでしょうか?」

「うーーん…。そんな雰囲気はなかったけれど、タイミングが悪かったようね。せっかく来てくれたのに、ごめんなさいね。」

「私は大丈夫です。今日は守りの種と力の種を届けに来ました。命の木の実じゃなくて恐縮なんですけれど。」

「大丈夫。ターニアが欲しがると思うから。」

「そうですか。それなら良かったです。ところであなた達が仲良さそうに歩いているのを見ると、デートですか?」

ハッサン「そう思うのか?」

「だって、そんな感じがしたから…。って、実際どうなんですか?」

「あなたの想像にお任せするわ。」

「…つまり、デートなんですね。」

「想像にお任せだって言っただろうが!」

 ハッサンはムキになってせいけん突きのモーションに入り、寸前で止めた。

「ちょっと!何ですか!」

「冗談だよ、冗談!」

「冗談にしてはきわどすぎます!」

 チャモロがハッサンに食って掛かるかたわらで、ミレーユは水晶玉を起動させて、グランマーズと連絡を取ろうとしていた。

 普段ならそれでつながるはずだが、今回に限っては応答がなかったため、彼女は何か不安を感じるようになってきた。

「ちょっと悪いけれど、私はマーズの館に戻ることにするわ。ハッサン、せっかくのデ…。」

「デ?デ!?今『デ』って言いませんでした?」

 チャモロがイジりだすと、次の瞬間、今度こそハッサンから「ゴツンッ!」とゲンコツが飛んできた。

「痛いなあ。殴ることないじゃないですかあっ!」

「デートじゃねえっつってんだろうが!俺達はただリベラとバーバラが並んで仲良く歩く姿がまぶしかったから、参考にさせてもらっているだけだ!」

 ハッサンはすっかり頭に血がのぼっていた。

(これじゃはっきりデートって言っているようなものじゃないですか。)

 チャモロが心の中でツッコミを入れていると、ミレーユは「それじゃ、種をいただくわね。」と言って、彼から守りの種と力の種を受け取った。

 そしてハッサンに一言謝り、急ぎ足でサンマリーノを後にしていった。

 

 2人になった後、チャモロはここに来る途中で盗賊に襲われたことを打ち明けた。

「私、すっかり油断していたようです。思えば移動の時にはいつも風の帽子を使っていたため、敵に出会わずに済んでいましたが、ひとたび出会ってしまうとこんな苦戦をしてしまうなんて…。」

「確かにマーズの館とここは近い距離だから、歩くのは当然だろうな。運が悪かったんだよ。でも、無事にここまで来られてよかったな。」

「まあ、無事に来られたからそう言えるんですが、平和な世の中になっても戦うことは起こりうるんですね…。」

 チャモロは戦闘が無くならないことを嘆きながらも、自分の非力さを悔しがっていた。

「今の私は武器が攻撃力の低いゲントの杖ですから、通常攻撃では到底太刀打ち出来ません。その上、バギマもあんな威力では戦力不足もいいところです。せめて何か強力な武器が手に入れば…。」

「それならよ、俺が持っているグラコスの槍をお前にやろうか?」

「えっ?グラコスの槍ですか?」

「ああ。俺は武器として炎のツメ、リベラは炎の剣、ミレーユは月の扇、バーバラは氷のやいばを使っていてな。結果としてそれが余っているんだ。どうだ?受け取ってくれるか?」

「いいんですか?私がいただいても。」

「ああ。お前なら装備出来るだろうからな。」

「それならぜひ譲ってください。」

「分かった。じゃあ今から持ってくるぜ。ちょっと待っていてくれ。」

 ハッサンはそう言うと、急ぎ足で自分の家に駆け込んでいった。

 

 グラコスの槍を受け取ったチャモロは、早速素振りをして、自分にも使いこなせることを確認した。

「よし、今日からその武器はお前のものだ。かっこよさは低いかもしれないが、きっと役に立つと思うぜ。」

「どうも。それじゃ、マーズの館に向かいましょうか。ミレーユさん、ちょっと嫌な予感を感じていたみたいですし。」

「ああ、そうだな。」

 2人は徒歩でマーズの館に向かっていった。

 その途中、またあの時の盗賊に出くわしたため、チャモロは早速グラコスの槍で通常攻撃をし、ハッサンはてつざんこうやバックドロップ、仕上げにせいけん突きを駆使して、今度は彼らを降参させた。

 

ハッサン「よお、ミレーユ。気になったんで、来ちまったぜ。」

チャモロ「見た感じ、グランマーズさんはいないようですね。」

 マーズの館に入っていった2人は、水晶玉とにらめっこしているミレーユに話しかけた。

「あら、来てくれたのね。そう、私一人なのよ。おばあちゃんと連絡を取ろうにも、まるでどこか別世界にでも行ってしまったかのように、音信不通なのよ。」

「それは困りましたねえ。」

「そうなの。それともう一つ、私としては気になっていることがあるの。」

ハッサン「気になっていることって、何だ?」

「リベラとバーバラのこと。今彼らはトルッカの町にいるんだけれど…。」

チャモロ「そこで何かあったんですか?」

「そう。これを見て。」

 ミレーユは水晶玉に映し出されている光景を2人に見せた。

 すると、そこには町の近くの森で火災が発生していた。

 

 たまたま森でアイテム集めをしていたリベラ、バーバラ、エリザの3人はあちこちで一斉に火の手が上がるのを目撃した。

リベラ『大変だ!この風向きだとトルッカの町が!』

エリザ『急いで町に行ってみんなを避難させないと!』

『じゃあ、あたしが氷のやいばで今から消火活動をするわ!2人とも、町の人達をお願い!』

 バーバラはそう言うと、消防服としてまどうしのローブを着た。

『分かった。僕はみんなを避難させたら助けを呼んでくる!』

『頼んだわ!リベラ、そしてエリザさん!』

『ええ。バーバラさんも気をつけて!』

 リベラは一刻も早く町に行くためにルーラを唱え、エリザと一緒に移動していった。

『それにしても、この火のあがり方。ちょっと変ねえ。何だか油臭いにおいがするし、一斉に火災が発生したとなると、放火で間違いなさそうね。』

 

 その光景を見て、ミレーユ達もトルッカに向かうことにした。

 



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Quest.20 トルッカを救え!

 トルッカ近郊の森林で火事が発生していることは、マーズの館にいるハッサン、ミレーユ、チャモロのもとにも届いた。

ハッサン「これは大変だ。早く現地に行かなければな。」

チャモロ「でも、まずは役割をしっかりと決めましょう。」

ミレーユ「そうね。水や氷を生みだせる人でなければ消火活動が出来ないから。」

「そうか…。じゃあ俺はリベラと一緒に避難活動になるのか?」

「そうだとは思いますが、私としては町の人がみんな避難してしまうと、嫌なことが起こりそうな気がするんです。」

「嫌なことって?」

「この隙に山賊や盗賊が町に来て空き巣をしていくとか。」

「変なこと言わないでくれ!」

「でも、それは十分にあり得ることよ。さっきバーバラが『油臭いにおいがする』って言っていたから。きっとあちこちで一斉に油をまいて火をつけ、そのどさくさに紛れて盗みをしていくと思うわ。」

「じゃあ、町に行けばたぶん戦闘になりますね。ハッサンは町の見回りをお願いします!」

「おう、分かったぜ。」

「チャモロはテリーにも声をかけてあげて。今、旅人の洞くつにいるわ。彼はヒャダルコを使えるから強力な助っ人になるはずよ。」

「でも、私が出発したらミレーユさんはどうやって移動するんですか?」

「私はこういう時のためにキメラの翼のストックがあるから、その点は大丈夫よ。現地に着いたら私もヒャドで消火活動をするわ。」

「分かりました。ではすぐに出かけます!」

 チャモロはグラコスの槍とゲントの杖を持って飛び立っていった。

 ミレーユは自分も装備を整えようと、月の扇とみかわしの服を取りに行った。

 しかし、それらがあるはずの場所に置いていなかったため、彼女は「えっ?どうして?」と言って、オロオロしていた。

「もしかして、ばあさんが持っていったんじゃねえか?」

「あっ、そうかもしれないわね。でも、それなら装備はどうしようかしら…。」

「ぐずぐずしている暇はねえ。こうなったら装備無しでも行くしかないだろ。」

「そうね…。悔しいけれど、時間は待ってくれないし、早くバーバラのところに行かなければ。」

「ああ。俺達も行くぞ!」

「ええ。」

 2人は外に出て扉に鍵をかけると、トルッカに向けて飛び立っていった。

 

 その頃、リベラとエリザは町の人々を安全な場所に避難させていた。

「これでもう逃げ遅れた人はいないはずだ。」

エリザ「でもこのままじゃ家が燃えちゃうよお…。」

「大丈夫。バーバラががんばって消火活動をしているから。」

「でも一人で消せるようなものではなさそうだけれど、本当に大丈夫なの?」

「僕としては今から彼女のところに向かうつもりだけれど…。」

「向かうつもりだけれど?」

「僕では消火活動の術がないし、どうすればいいのか分からなくて。」

「じゃあせめて彼女と交代で消火活動をしてあげて。」

「あっ、そうだね。分かった。じゃあ、行ってくる。みんなを頼んだよ。」

「うん。頑張ってね。」

 エリザから声をかけられた後、リベラは避難所を飛び出して行った。

 

 彼が町の中を走っていると、ちょうど家の窓から誰かが出てくるのを目撃した。

「どうしました?逃げ遅れたんですか?」

 すると彼らは驚きながら「しまった!見つかった!」「よりによって見回りがいたとは!」と言って、その場から逃げ出そうとした。

 そのしゃべり方や行動からして、明らかに空き巣行為をしていた2人組は、一瞬どうしようか迷った。

 しかし片一方が「スモック!こうなったらやっちまおうぜ!」と言い出すと、スモックも「おう、ビッグの兄貴!」と言い出してきたため、リベラは戦闘になることを覚悟した。

(くっ!1秒でも早くバーバラのところに行きたいのに…。でも出くわしてしまった以上、戦うしかないのか!)

 彼ははやる気持ちを抑え、炎の剣を持って身構えた。

 するとビッグは大きく息を吸い込み、気合ためのモーションに入った。

 そしてスモックは何とメラミを放ってきた。

 以前戦った時、彼らは呪文を使わなかったはずだが、どうやらどこかで炎のツメを手に入れたようだ。

 一方のリベラは通常攻撃と追加攻撃でビッグにダメージを与えた。

 しかし反撃として、彼から力任せの強力な攻撃を受けてしまった。

 リベラはHPをかなり減らしながらも、ビッグをかばったスモックに通常攻撃と追加攻撃をヒットさせた。

(とはいえ、気合ためとメラミは厳しいな。これではHPをどんどん削られてしまう。炎の剣を手に入れて攻撃力は飛躍的に上がったけれど、僕自身は回復方法がホイミしかない。以前の旅を含めてこれまでバーバラと一緒にいた時、彼女に回復を任せていたツケがこんなところで出てしまうなんて…。)

 彼は改めて仲間の存在、特に回復役の大きさを認識させられていた。

(でも、一人でもここは何とかしなければ。確かカンダタと戦った時のテリーはライデインを駆使していた。それなら僕も!)

 彼はそのことを思い出すと、とっさに後ずさりをして距離をとった。

 するとスモックはアモールの水を使ってHPを回復させ、ビッグはどこで手に入れたのか、まふうじの杖を使ってきたため、リベラはマホトーン状態になってしまった。

(し、しまった!よりによって呪文が使えなくなってしまうなんて!)

 頼みのライデインだけでなくホイミ、緊急脱出用のルーラまでも封じられ、彼が動揺していると、ビッグとスモックはそれぞれアモールの水と薬草を使ったため、これまで与えたダメージをどんどんリセットされる状況になった。

(まずい!早く決着をつけないと!)

 リベラは通常攻撃と追加攻撃をスモックにヒットさせた。

 だが、彼をダウンさせるまでには至らず、しかもビッグが大きく息を吸い込み、スモックも炎のツメを構えてきた。

 このままではやられる!

 一瞬そのことが頭をよぎった時、後方から「リベラ!」という声が聞こえた。

「えっ?ハッサン?」

 彼が後ろを振り返ると、ハッサンとミレーユが駆け寄ってきた。

ハッサン「メラミ!」

ミレーユ「イオ!」

 2人が攻撃をするとメラミはビッグに、イオは2人にヒットした。

 するとビッグの集中が乱れ、気合ためがキャンセルになった。

 一方のスモックは助っ人が登場したことに驚き、どうすればいいのか分からない状態になった。

「2人とも、来てくれたんだね!」

「ああ。助けに来たぜ!」

「リベラ、早速傷を回復させてあげるわ。ベホイム!」

 ミレーユが初めて実戦でその呪文を唱えると、HPはベホイミとホイミを合わせたくらい回復した。

「ありがとう、助かったよ。」

「じゃあ、俺も協力するぜ。ミレーユは早くバーバラのところへ!」

「ええ、分かったわ。気をつけてね。」

 ミレーユは現場に走って向かっていった。

 一方のリベラは1対2から2対2の戦いになったことで、状況が一気に好転した。

 そして彼とハッサンは通常攻撃と追加攻撃をビッグに叩き込み、ダウンさせることに成功した。

 相方を倒され、どうすればいいのか分からなくなったスモックは、とっさに逃げ出そうとした。

リベラ「待て!お前達、何か盗んだだろう!」

ハッサン「降参してそれらを置いていけ!」

 怒りの声をぶつけられたスモックは「あわわわ…。奪ったものは置いていきます。命はお助け下さい…。」と言って、降参を宣言した。

 そして炎のツメをはじめ、盗んだものをその場に出していった。

 しばらく気絶していたビッグも気が付くと、まふうじの杖をはじめ、持っていたものやお金をその場に置いた。

 すると心配になって町に戻ってきた町長や、数人の人が通りかかったため、リベラとハッサンは彼らの身柄を引き渡した。

町長「君達、ご苦労様。そしてありがとう。それにひきかえ、お前達は放火に加えて、泥棒までしていたとは。」

ビッグ「ちょっと待ってくれ!俺達は放火なんかしてないぞ!」

「今更何を言っているんだ!」

スモック「本当だ。確かに空き巣は事実だが、火はつけていない。」

「じゃあ、放火したのは別にいるとでも言うのか?」

ビッグ「そうだ。犯人はカンダタとその子分達だ。」

スモック「ああ。嘘ではない。信じてくれ。」

「そして言い方は悪いが、これは空き巣のチャンスと思ってな。」

「それでこの町にやってきたんだ。」

 2人はカンダタ達が森のあちこちで油をまいて、一斉に火をつけたことを告げた。

リベラ「つまり、まだ敵がいるということか。」

ハッサン「そうだな。警戒の手を緩めるわけにはいかないな。」

町長「分かった。じゃあ、君達に町の警備をお願いすることにする。我々はこいつらを連れて行くぞ!」

町民一同「分かりました!」

 こうしてビッグとスモックは逮捕され、盗まれたものを取り返すことに成功した。

 しかし、バーバラのことが心配でたまらないリベラの心は落ち着かなかった。

「僕、彼女のところに早く行きたいのに…。」

「大丈夫だ。ミレーユが向かったし、さらにチャモロとテリーにも応援を頼んでいる。彼らが何とかしてくれるさ。」

「本当に?」

「ああ。だからバーバラのことはみんなに任せて、俺達は見回りをするぞ。」

「分かった。」

 ハッサンのおかげで落ち着きを取り戻したリベラは、いつ敵と遭遇してもいいように見回りをしていった。

 

 一方、バーバラはすでに全身汗だくになり、息を切らしながら一人で懸命に消火活動をしていた。

「ええいっ!ヒャダルコ…。ヒャダルコ…。お願い…。早く鎮火して…。リベラ…、誰か…、誰でもいいから…誰か来て…。あついよお。あついよお…。」

 まどうしのローブで炎の影響は軽減されているとはいえ、彼女はすでに足取りが重くなり、ヒャダルコの威力も明らかに落ちていた。

「お願い…。リベラ…。」

 今にも泣きそうな表情でそうつぶやくと、ふと「バーバラさん、大丈夫ですか?」という声が聞こえた。

「あの声は…。」

 彼女がふと後ろを向くと、そこにはチャモロとテリーが駆け足でやってくるのが見えた。

「来てくれたの…?」

 助っ人が駆けつけてくれたのを見た彼女は、途端に緊張の糸が切れたのか、体がぐらついていった。

「おっと、危ねえ!」

 テリーは今にも倒れそうなバーバラを受け止めた。

「来てくれたのね…。」

チャモロ「はい、ミレーユさんの水晶玉で知りました。」

「リベラは…?」

テリー「あいつはハッサンと一緒に町で見回りをしているはずだ。」

「じゃあ…、ここには来られないんだ…。」

チャモロ「でも、彼の代わりにここは私達が何とかします。後は任せてください。」

「お願い…。」

 チャモロはバーバラから氷のやいばを受け取ると、火の近くに行き、ヒャダルコを出し続けた。

「テリー…、あたし…、水ほしい…。」

 バーバラは苦しそうな声で訴えた。

「すまねえ。そこまでは用意してなかった。でも今姉さんがこっちに向かっているはずだから、もう少し辛抱してくれ。」

 テリーは一言謝るとバーバラを横にした。

 するとミレーユが息を切らしながら走ってきた。

「バーバラ!大丈夫?」

「姉さん、俺は消火活動に行くから、彼女を頼む。」

「分かったわ!」

 ミレーユはバーバラのところにたどり着くと、急いでアモールの水を取り出した。

「よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。」

 彼女はビンのふたを開けると、少しずつバーバラの口に水を入れていった。

(どうやら脱水症状を起こしているようね。こんな状態になるまで頑張っていたのね。ごめんね、もっと早く到着していれば…。)

 ミレーユは心の中で何度も謝り続けた。

 そしてまどうしのローブを外すとヒャドを唱え、出てきた氷のかたまりをぬのきれで包み、バーバラの額やわきの下などに置いていった。

 やがて彼女の症状も和らぎ、落ち着きを取り戻したことを確認すると、ミレーユは自身も現場に行き、ヒャドを唱え続けた。

 

 3人で協力して消火活動をした結果、火はだんだんおさまっていった。

チャモロ「ふう…。どうやら鎮火したようですね。」

テリー「ああ、そうだな。これで町はもう大丈夫だ。」

ミレーユ「私とテリーはMPを使い切ってしまったけれど、おおごとになる前に対処出来てよかったわね。」

 彼らはほっとしながらバーバラのところに歩いて向かっていった。

 するとそこにはまどうしのローブとぬのきれが残されているだけで、本人の姿が無かった。

チャモロ「バーバラさん、どうしたんでしょうか?」

テリー「まさか、リベラのところに向かったのか?」

ミレーユ「まだ安静にしているべきなのに!」

 それまでほっとしていた3人の表情は、一瞬にして変わった。

 そしてチャモロはローブとぬのきれを拾い上げると、3人一緒にトルッカに向かっていった。

 

 時をさかのぼると、町の見回りをしていたリベラとハッサンはカンダタと4人の子分達に遭遇し、戦闘になっていた。

 彼らは事前に守備力を上げていたのか、こちらからの通常攻撃では、なかなかダメージを与えられなかった。

(ズルい、こんな作戦。)

 リベラとハッサンが顔をしかめていると、カンダタはリベラに力任せの攻撃を、子分達は数にものを言わせてハッサンに集中攻撃をしてきた。

 そんな中、回復手段はリベラのホイミしかなく、受けたダメージには到底追いつかなかった。

リベラ「このままではまずいな。どうすればいいんだ。」

ハッサン「とにかく呪文で決着をつけるしかないようだな。」

「僕はライデインで攻撃になりそうだね。」

「それならよ、炎の剣を貸してくれ。俺はイオで攻撃する。」

「分かった。」

 ハッサンが炎の剣を受け取った時、ふと空から「ベホマ!」という声が飛んできた。

 するとリベラのHPが最大値にまで回復した。

「この声は?」

 リベラが声のした方を向くと、空からバーバラが舞い降りてきて、地面に降り立った。

「よかった、間に合って。」

 彼女は次にハッサンにもベホマをかけてくれた。

「バーバラ、来てくれたんだね!」

「お前がいれば百人力だぜ!」

 頼もしい回復役が来てくれたことで形勢は一気に好転し、2人の顔に明るさが戻った。

 そしてリベラとハッサンはそれぞれライデインとイオで全員を攻撃し、バーバラはベギラゴンを唱えて子分全員をダウンさせた。

「くっ!このままではやられてしまう。かくなる上はこれを使うしかないようだな。」

 一人残され、あせったカンダタはとっさに袋を開けて、何かを探し始めた。

 そうしている間にもリベラはルカニで守備力を下げ、バーバラはメラミを、ハッサンは通常攻撃と追加攻撃をヒットさせた。

 すると彼は袋から取り出したアイテムを使い、何かを召喚するという手に打って出た。

 出てきたのは何と2匹の爆弾岩だった。

「それじゃお前達、次はこいつらが相手だ!」

 カンダタは持っていたバトルアックスで両方の爆弾岩をザクっと攻撃した後、キックでリベラ達のところまで弾き飛ばした。

「それじゃ、あばよ!」

 彼は捨てぜりふを言うとともにキメラの翼を取り出して放り投げ、大けがをしている子分達とともに緊急脱出をしていった。

「こら!逃げるな!」

 ハッサンがそう叫ぶとほぼ同時に、爆弾岩は奇妙な声を発しながら激しく振動を始めた。

「まさか、これは!」

「まずいぞ、これは!」

 リベラとハッサンが叫んだその直後…。

 



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Quest.21 バーバラがくれたもの

 カンダタの攻撃を受けた爆弾岩は、奇妙な声を発しながら激しく振動を始めた。

「まさか、これは!」

「まずいぞ、これは!」

 リベラとハッサンが叫んだその直後…。

「2人ともよけて!マダンテーーーッ!」

 バーバラが大声で叫ぶと、彼女の体はまぶしく光り輝き、魔力が一気に暴走していった。

 そして敵のメガンテよりも先にマダンテが着弾した。

 辺りには目がくらむほどの光がほどばしった。

 

 しばらくするとそれはおさまっていき、爆弾岩は跡形もなく消え去っていた。

「お前のマダンテはすげえ威力だな。とにかく助かったぜ。」

「君は僕達の命の恩人だ。本当にありがとう。」

 命拾いをしたハッサンとリベラは、安どの表情を浮かべながらバーバラを見た。

 するとそこにはうつむきながら両腕をだらりとおろし、今にも倒れそうな彼女の姿があった。

「バーバラ!どうしたんだよ!」

 リベラは急いで駆け寄り、彼女を受け止めた。

 幸い息はしているもののすでに意識はなく、ぐったりと目を閉じていた。

 するとそこにチャモロ、テリー、ミレーユの3人がやってきた。

チャモロ「どうしたんですか?」

リベラ「みんな!実はバーバラがマダンテを唱えて…。」

テリー「それは上空から見ていたぜ。確かにすげえ威力だったな。」

ハッサン「ああ。だが、彼女がその後、気を失っちまってな。」

ミレーユ「それは変ねえ。以前なら唱えた後もピンピンしていたはずなのに。」

チャモロ「もしかしたら、彼女が背負っている代償と関係があるのかもしれませんね。」

リベラ「じゃあ、今のバーバラはこれを唱えたらMPだけでなく、意識まで失ってしまうってことなのか?」

「そうかもしれませんね。」

「……。」

 リベラが呆然としていると、ミレーユの水晶玉が突如光り始めた。

 彼女は驚きながらも急いで応答した。

『ミレーユ!』

「おばあちゃん、いつの間に帰ってきたの?」

『先程な。それより、このままではバーバラが危ないぞい。』

「えっ?危ないって?」

『彼女が持っている命の宝玉を見てみなさい。』

「分かったわ。」

 ミレーユは言われたとおりに、宝玉を取り出した。

 すると、その光は今にも消えそうなほど弱くなっていた。

リベラ「どうしてなんだ?トルッカに来て、エリザに見せた時にはもっと強く光っていたのに。」

テリー「多分、マダンテの影響だろうな。」

チャモロ「これも代償と関係あるのかもしれませんね。」

『分かったじゃろう。このままではあと1時間で光は消えてしまう。そうなれば、彼女は3日以内に夢の世界に帰らなければ最大HPが枯渇して、帰らぬ人になってしまうぞい。』

ハッサン「じゃあ、どうすればいいんだ!ばあさん、何とか光を戻す方法はないのかよ?」

『リベラ!ハッサン!お前さん達がバーバラを連れてこちらに来るんじゃ!』

リベラ「どうして僕達なんですか?」

『お前さん達はバーバラに助けてもらった身じゃろう。』

「はい…。確かに彼女のおかげで命拾いしましたから。じゃあ僕はバーバラを連れて、ハッサンとともに直ちに戻ります。それじゃ、みんなも気をつけてね。まだ町に誰かいるかもしれないから。」

チャモロ「分かりました。どうかバーバラさんを助けてあげてください。」

「うん、絶対に助けるよ。」

 リベラが会話をしているかたわらで、ハッサンはバーバラを抱え上げ、テリーはミレーユにきせきの剣を渡して、いつ戦闘になってもいいように備えていた。

 その様子を見ながらリベラはルーラを唱え、ハッサン、バーバラと一緒に飛び立っていった。

 

 マーズの館にたどり着くと、バーバラはベッドに横になり、グランマーズの治療を受けることになった。

 その様子をリベラは憔悴しきったような表情で見つめていた。

(僕、君を守るって約束したのに、守ってあげられなかった…。こんな目にあわせてしまった…。悔しい…。本当に悔しい…。)

 彼が精神的に打ちひしがれていることは、ハッサンにも一目で分かった。

「そんなに自分を責めるなよ。あの状況では仕方がない。もし、あと少し彼女のマダンテが遅かったら、バーバラを含めて俺達3人はもうこの世の人ではなくなっていただろうからよ。彼女に感謝しようぜ。」

「分かっているよ。でも…。」

「でも、何だ?」

「どうしてバーバラばかりがこんな目にあわなければならないんだ…。せめて僕が少しでも代わってあげられたら…。」

「……。」

 ハッサンもそれ以上は何も言うことが出来ず、打ちひしがれるリベラをじっと見つめていた。

 すると治療が終わったのか、グランマーズは「ふう…。」と言いながら大きく息をし、ほっとしたような表情を浮かべた。

ハッサン「ばあさん、バーバラは助かるのか?」

「ひとまず、宝玉の光さえ戻れば命に別状はないぞい。」

「それなら良かったぜ。」

「しかし、ただでさえ代償を抱えている状態でマダンテを唱えたわけじゃから、相当体に負担がかかっておる。たとえこの世界に居続けられるようになったとしても、今後パーティーメンバーとして戦うことはちょっと難しいかもしれんな…。」

「そんな…。バーバラは誰よりも消火活動を頑張ってくれた上に、メガンテを阻止してくれたのによ…。」

「今日、僕と一緒にトルッカに向かった時は、あんなに元気な姿だったのに…。ということは、今まで集めた命の木の実は意味をなさなかったということなのか…。」

「いや、意味はあったぞい。」

「本当にですか?」

「うむ。もしバーバラが実を食べていなかったら、もはや手の施しようがない状態になっていたはずじゃ。じゃから、お前さん達のこれまでの努力が彼女を救ったんじゃ。」

「でも…。バーバラがこんな状態になって、救ったなんて言われても…。」

 グランマーズに励まされても、リベラの気持ちは前向きにならなかった。

ハッサン「とにかくよ、早く宝玉の光を戻してくれ。そのために俺達を呼んだんだろ!」

「そのとおりじゃ。では、今からその方法を話すことにしよう。聞いても驚くでないぞ。」

 グランマーズはその方法を2人に話した。

 

「えっ?それが光を戻す方法なんですか?」

 リベラはその内容に驚きを隠せなかった。

「そうじゃ。お前さん達はそれと引き換えに、これまでの経験値を失い、レベル1になる覚悟があるかの?」

「そ、それは…。」

 ハッサンは信じられない内容を聞いて、それっきり黙り込んでしまった。

 レベルが1になる。

 それはHP、MPをはじめ、全てのステータスが大幅に下がってしまい、呪文や特技を忘れてしまうということを意味していた。

「もしそうなれば、お前さん達は到底戦力にはなれなくなる。バーバラを守ってやれなくなる。しかも…。」

リベラ「しかも、何ですか?」

「お前さん達がそこまでして命の宝玉に光を取り戻したとしても、またいつか消えてしまう。しかも、先日それを鑑定して分かったことじゃが、取り戻せるのは1回だけじゃ。今度はそのような手は通じんし、光が消えれば宝玉は砕けてしまう。それでもやるかの?」

「……。」

 2人は何も言えないままだった。

「リベラ、今回はバーバラを助けても、所詮彼女は夢の世界の住人じゃ。どんなに両想いの関係になったとしても、彼女を人生のパートナーにすることは夢のまた夢じゃ。」

「……。」

「どうじゃ。彼女が意識を取り戻したら、すぐに超・キメラの翼を使わせて、彼女を見送ってやるという手もあるぞい。恐らく彼女は夢の世界に帰れば、ゼニス王か誰かにお願いして、こちらと連絡を取れるようにお願いするじゃろう。それでいいではないか。」

「……。」

「分かったじゃろう。たとえ直接会えなくても、これからは水晶玉で会話が出来るんじゃ。じゃから、悪いことは言わん。バーバラはあきらめい!」

 グランマーズはまるで敵に寝返ったかのような衝撃発言をしてきた。

「ばあさん!リベラに向かって何てことを言うんだよ!」

「わしは事実を言っただけじゃ。殴りたければかかってくるがよい。」

「何だと!」

「よせ、ハッサン。」

 グランマーズのところに向かおうとした彼を、リベラは手を伸ばして制止した。

「何で止めるんだよ!お前はバーバラをあきらめるのか!」

「あきらめないよ。1ミリたりともあきらめてはいない。たとえ世界中の人達に夢のまた夢と言われても、僕はあきらめない。」

「お前、本気か!」

「本気だ。僕、約束したんだ。バーバラを守るって。彼女がダメージを受けるなら、彼女のダメージになってやるって。もし彼女を助けられるのなら、僕はどんな代償を背負ってもかまわない。この命はバーバラがくれたものだから、彼女のためなら喜んでレベル1になってやる。」

「お前、そこまでバーバラのことを…。」

「うん。そして、見つけ出してみせる。彼女の背負った代償を解除して、ずっと一緒にいられる方法を。」

「そうか…。」

「だからハッサン、止めても無駄だよ。」

「止めやしないさ。俺も協力するぜ。俺もレベル1になるぜ。そうすればバーバラがこの世界にもっと長くいられるようになるからよ。」

「本当にいいの?」

「ああ。俺の命も彼女がくれたものだからよ。」

「ハッサン…。」

 リベラは彼の発言に驚きながらも、やがてうれしさがこみ上げてきた。

「そういうわけだ。ばあさん、俺達2人で彼女を助けてやってくれ。」

「その発言に二言はないか?」

「ないぜ。」

「僕も二言はありません。バーバラのために、自分の経験値をささげます。」

「分かった。じゃあお前さん達、こちらに来なさい。」

2人「はいっ!」

 リベラとハッサンは元気よく返事をすると、グランマーズと一緒にバーバラのところにやってきた。

 そして彼女のかたわらに置いてある命の宝玉に手をかざすと、グランマーズが何か言葉を唱え始めた。

(バーバラ、今助けてあげるからね。)

 リベラがそう思っていると、2人の体が光っていき、その光が宝玉の中に吸収されていった。

 

 その後、命の宝玉は再び光を取り戻したのと引き換えに、リベラとハッサンのレベルは本当に1になってしまった。

 さらにこれまで覚えた呪文も特技もすっかり無くなってしまった。

(本当に僕、こんな体になってしまったんだな。これから何て言われるのかな。テリーからは戦力外級の力不足って言われるのかな。再び戦力になれるまでにはどれくらいかかるのかな…。)

 リベラが落ち込みながらそう思っていると、グランマーズは急に「よくぞわしの揺さぶりに耐えたのう。お前さん達の勇気、確かに認めたぞい。ご褒美として、いいアイテムを貸すことにしよう。」と言い出した。

「ばあさん、いいアイテムって何だ?」

「これじゃよ。」

 グランマーズは自分の机のところに行くと、袋から1足のくつを取り出した。

リベラ「それは何ですか?」

「これは『幸せのくつ』じゃ。これを履いて歩けば、戦闘をしなくても経験値を獲得出来るぞい。」

「本当ですか?じゃあ、またレベルアップしていけるんですね。」

「まあ、レベルアップするには1回戦闘を経験する必要があるが、経験値そのものは歩いたり、走ったりすればたまっていく。これで少しずつ能力を取り戻していくとよい。」

 グランマーズはそう言った後、ミレーユと連絡を取り、これを借りるために異世界に出かけて音信不通にしてしまったこと。そして何も言わずに装備品を持ち出してしまったことを謝った。

「おばあさん、ありがとうございます。僕達、早速使わせていただきます。」

「うむ。ただし、1足しかないから交代で使うことになる。じゃから、履いていない時はゆっくりと休むがよい。」

「分かりました。そうさせていただきます。」

「じゃあ、どちらが先に使うかをじゃんけんで決めようぜ。」

「うん。」

 2人がじゃんけんをすると、ハッサンはチョキ、リベラはグーだった。

「というわけで、僕が今から使わせてもらうね。」

「お、おう、分かったぜ。じゃあ俺は今から寝ることにする。」

 ハッサンはそう言いながら、自分のじゃんけんの弱さを悔やんでいた。

「それじゃ、バーバラ。僕は今から出かけてくるよ。少しの間、君を一人にさせるけれど、絶対に強くなって戻ってくるからね。」

 リベラは目を閉じたままのバーバラに向けて言うと、自分の顔を彼女の顔にゆっくりと近づけていき、くちびるをほっぺたに当てた。

「わーーーっ!お前、やっちまったのか!」

「なかなか積極的じゃのう。」

 ハッサンとグランマーズにイジられながらも、リベラはいたって冷静だった、

 そして彼はスクッと立ち上がると、駆け足で館を後にしていった。

 

 バーバラ。助けてくれてありがとう。

 君がくれたこの命、大事に使わせてもらうよ。

 そして、絶対に見つけ出してみせる。君とずっと一緒にいられる方法を…。

 

 



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Quest.22 You're not alone, I'm by your side

 翌日の午後、リベラが幸せのくつを履いて経験値を稼いでいる間、チャモロはエリザ達に会いにトルッカに行った。

 その時、彼女はまずチャモロにお礼を言った後、人々を避難させてくれたリベラや彼と一緒に戦ったハッサン、そして消火活動を頑張ってくれたバーバラ達にお礼を言いたいと言い出した。

 チャモロはリベラ達に口頭で言うことを伝えたが、エリザはどうしても直接会いたいと言って譲らなかった。

 そのため、2人で一緒にマーズの館に行き、まずミレーユに会うことにした。

 館に入っていくと、エリザはまずミレーユにお礼を言った。

「いえ、私はただ、町が危ないと思ったから、助けに行ったまでよ。」

「でも、私は皆さんに感謝をしています。あの時、誰一人が欠けていても、トルッカは助からなかったと思っていますので…。」

「そう…。ありがとう…。」

「それでリベラさん、ハッサンさん、テリーさん、バーバラさんはどうしていますか?」

「ええっと、彼らは…。ちょっとこの場で占ってみるわ。」

 ミレーユはお金をもらおうともせずに水晶玉に手をかざし、まずハッサンを映し出した。

 すると彼はいびきをしながら自宅のベッドで爆睡中だった。

 

 次にリベラを映し出すと、彼は幸せのくつを履いた状態でテリー、アモスと一緒にメタル系モンスターとの戦闘に参加していた。

 しかし、彼はただ防御をするばかりで何の役にも立っておらず、攻撃はテリーの気合ためやまじんぎり、もしくはアモスの通常攻撃にまかせっきりだった。

 そして戦闘が終了すると、リベラのレベルが一気にアップした。

『良かった。これで呪文を一通り覚え直せたよ。』

『それは良かったですね。おめでとうございます。』

『とはいえ、リベラ。お前はまだまだこの程度で満足するわけではないだろう。』

『まあね。今の実力ではまだ戦力不足だから、アモスさん、テリー、もう少し我慢してくれる?』

『リベラさんのためなら私は構わないですよ。』

『今は我慢してやる。その代わり、絶対に強くなるんだぞ。』

『うん。バーバラのために、頑張るよ。』

 次の戦闘ではリベラも攻撃に参加し、戦力として少しずつ復帰を果たしていった。

 

ミレーユ「どうやら彼らに会おうとしたら、あなたは戦いに巻き込まれそうね。」

エリザ「そ、それは勘弁してください…。」

 結局彼女がリベラとテリー、そして睡眠中のハッサンに会いに行くことは取りやめになった。

 

 次にバーバラを映し出すと、彼女はライフコッドの家の前でターニアと一緒にいた。

『お姉ちゃん、お願いだから休もうよ。』

『大丈夫…。やっとメラが放てるようになったし、次は武器を振れるようにならないと…。』

 バーバラは震えるような声で言うと、氷のやいばで素振りをしてみた。

 しかし振った途端に表情がゆがみ、武器を落としてその場にうずくまってしまった。

『もういいよ。私、そんなに痛がる姿、見たくないよ。』

『でも…、このままじゃあたし…、仲間外れになってしまう…。だから…。』

「ダメよ!ますます体を悪くするわ!」

 バーバラはターニアの必死の説得もあって、最終的には家の中に入っていった。

 

チャモロ「バーバラさん、見るからにボロボロの状態ですね。」

ミレーユ「あんなに痛がるなんて、並の痛みではないわね。」

エリザ「どうしてバーバラさんはこんなことに?」

 3人が信じられないような表情をしていると、かたわらにいたグランマーズが「これがマダンテを唱えた代償じゃ。」と言ってきた。

「おばあちゃん。あの痛み、呪文で治してあげられないの?」

「それで治せるならとっくに彼女自身の呪文か、ターニアのホイミで対処しているはずじゃ。恐らく、バーバラはこれからもあの痛みに付きまとわれることになるじゃろう。」

「そんな…。」

 ミレーユは信じがたい事実を突きつけられ、言葉を失ってしまった。

チャモロ「神様は時に不公平なことをするものですね。どうしてバーバラさんばかりに試練を与えるんでしょうか…。」

「私、一旦トルッカに戻ります。戻って、お父さんや町の人達に頼んで、痛み止めの薬を用意してもらうことにします。」

 エリザはスクッと立ち上がり、チャモロに送ってもらえるようにお願いをした。

「まだお礼も言っていませんけれど、いいんですか?」

「お礼も言いたいですが、それだけでは不十分です。せめて何かをしてあげたいです。痛みを一時的にでも止めてあげたいですし、彼女に何か欲しいものがあれば買ってあげたいと思います。だから、チャモロさん、お願いします。」

「分かりました。では、一緒に行きましょう。」

 すると、グランマーズが自分も一緒に行かせてくれないかと言ってきたため、4人はチャモロの風の帽子で館を後にしていった。

 

 ライフコッドに降り立つと、ミレーユはターニアとバーバラの住んでいる家の扉をたたき、「こんにちは。」と声をかけた。

 すると扉が開いてターニアが現れ、要件を聞いてきた。

 ミレーユはバーバラにお礼を言いたい人がいるので、彼女に会わせて欲しいと要求した。

「えっ?あの、今お姉ちゃんは両肩や両腕が包帯だらけで、とても人に姿を見せられない状態だし、痛みとショックで泣いてばかりなんです。だから面会はちょっと…。」

「分かったわ。じゃあ、水晶玉越しにリモートで会話という形でもいい?」

「それでお姉ちゃんが同意してくれるかどうか、ちょっと聞いてきます。少し待ってもらってもいいですか?」

「ええ、いいわよ。」

「では、今から聞いてきます。」

 ターニアは急ぎ足で家の中に入っていった。

 

 バーバラはミレーユ以外に自分の姿を見せないという条件でOKを出してくれた。

「分かった。それじゃ、ミレーユはここにいて、わしらはトルッカからリモートで会話をすることにしようかの。」

 グランマーズの提案を受けて、彼女とチャモロ、エリザは現地に向かって飛び立っていった。

 ミレーユとターニアは3人を見送った後、家の中に入っていった。

「こんにちは、バーバラ。」

「ミレーユ…。」

 バーバラは脇の下から先を掛布団で隠し、その上に両腕を乗せた状態でベッドに横たわっていた。

「ごめんね…。あたし…こんな姿になってしまって…。」

 彼女はこらえ切れなくなってしまい、目からは涙があふれだした。

「大丈夫よ。トルッカを、そしてリベラとハッサンを守ってくれてありがとう。」

「でも、こんな状態じゃ…、仲間外れにされてしまう…。」

「大丈夫。そんなことはしないわ。」

「でもあたし、武器が持てないし、通常攻撃すら出来ない…。呪文もメラですら痛みをこらえないと唱えられない…。とても戦力になんか…。」

「そんなふうに考えないで。あなたは大切な仲間よ。」

 ミレーユは見るからに痛々しい姿を見て、もらい泣きしそうになるのを我慢しながら優しく語りかけた。

 そしてリベラとハッサンが助けてくれたお礼として、レベルが1になるのと引き換えにバーバラがこの世界に居続けられるようにしてくれたこと。彼らは今幸せのくつで再び経験値を稼いでいることを打ち明けた。

「彼らは今懸命にレベル上げをしている最中だから、なかなかここに来られないけれど、あなたに凄く感謝をしているわ。会えたら色々お礼を言ってくれると思うわ。」

「会えたらって言われても…。」

「何?」

「あたし…、こんな自分のみにくい姿見せたくない…。見たら絶対に驚くし、一目で戦力外を宣告されてしまう…。」

 未だ現実を受け入れられないまま、打ちひしがれるバーバラを見て、ミレーユもさすがにこれ以上は何を言えばいいのか分からなくなってしまった。

 

 すると水晶玉が光り出したため、彼女はターニアと協力して壁を作り、バーバラの姿が見えないようにしながら映像を出した。

 そしてトルッカにいるグランマーズ、チャモロ、エリザと彼女の父親に対し、声だけでの会話になることをお願いした。

 4人は事情を理解した上で承諾をしてくれた。

町長『バーバラさん。こんなタイミングで会話をさせてほしいとお願いしてしまい、本当にごめんなさい。でも、せめてあなたにお礼を言わせてください。』

「……。」

エリザ『この度はあなたの勇気ある行動でトルッカを救っていただき、誠にありがとうございました。』

「……。」

エリザ『もし、何か欲しいものがあるなら、出来る限り協力をします。ミレーユさんから聞いた話では、あなたはリベラさんのために、大事に使っていたはがねのムチを手放したそうですから、もし望めば私達が買い直してあげます。』

「あたしの武器は…気にしないで…。こんな腕じゃ…とても使えないから…。」

 一旦は泣き止んでいたバーバラは、再びこらえきれなくなって泣き出してしまった。

『あ、あの…。ごめんなさい…。泣かせてしまって…。私、そんなつもりじゃ…。』

「あたしより…、ミレーユのために武器を買ってあげて…。」

『えっ?』

「私の武器?」

「うん…。」

 バーバラはそれっきり黙り込んでしまったため、ミレーユは自分が専用の武器を持っておらず、借りもので済ませていたことを話した。

町長『それなら炎のツメはどうでしょうか?』

「炎のツメですか?」

『はい。山賊の2人が持っていたものなんですが、持ち主が不明で、引き取り手がいない状態なんです。ですから、ミレーユさんの武器としていかがでしょうか?』

「そうですねえ…。」

 炎のツメ自体はハッサンが既に持っているため、彼女は2つも必要かどうか、しばらく考えこんでしまった。

 でも、たとえ装備出来なくても、道具使用で誰でもメラミが打てるという点は魅力的だったため、最終的に受け取ることにした。

町長『分かりました。では、あなたのために炎のツメを、バーバラさんのために痛み止めの薬を用意することにします。それでよろしいでしょうか?』

「はい、それで十分です。」

「あたしもそれでいいわ。だから、後はそっとしておいてくれる?」

エリザ『かしこまりました。バーバラさん、お邪魔して本当にごめんなさい。でも最後に私からもうひとこと言わせてください。私達はあなたの勇気ある行動を決して忘れません。町を救ってくれてありがとうございました。』

 彼女がもらい泣きしそうになりながら会話を締めくくると、ミレーユは「みなさん、どうもありがとう。あなた達の気持ちは、バーバラの心にしっかりと届いているわよ。」と言って、映像を消した。

 そして彼女はバーバラとターニアに声をかけた後、キメラの翼でマーズの館に帰っていった。

 

 翌日の朝、チャモロは炎のツメと痛み止めの薬、そしてトルッカの人達が書いたバーバラへの寄せ書きを持ってマーズの館にやってきた。

「みなさん、本当にありがとう。この恩は忘れません。」

 炎のツメを受け取ったミレーユは寄せ書きを見ながらお辞儀をすると、チャモロに連れられてライフコッドに行き、ターニアに薬と寄せ書きを手渡した。

 

 その日の昼前、薬のおかげで痛みがどうにかやわらいだバーバラは、両腕と両手の皮膚がほとんど見えないほどの包帯を巻いたまま、ターニアの制止を振り切って稽古を開始しようとした。

 するとリベラがルーラでやってきて、2人の前に降り立った。

「バーバラ、しばらく会えなくてごめん。」

「リベラ…、い、いやあああっ!」

 バーバラは突然悲鳴のような声を上げ、持っていた氷のやいばを落として彼に背を向けた。

「えっ?どうして?」

「あたしを見ないで!あなたにこんなみにくい姿見せたくない!」

 事前にミレーユから近況を聞いていたとはいえ、すっかり心が荒れすさんでしまった彼女を見て、リベラはさすがに驚きを隠せなかった。

 かたわらにいたターニアも兄に向かって帰ってと言うわけにもいかず、オロオロしていた。

「バーバラ、きれいだよ。」

「やめてよ!そんな言い方するの!」

 バーバラは背を向けたままムキになってしまった。

「本当だよ。きれいだよ。僕とハッサンを守ってくれてありがとう。」

「そんな感謝をされたって、あたしはパーティーメンバーに戻れるわけじゃない!言葉では優しいことを言ったって、心の中では戦力外って思っているんでしょ!」

 バーバラは気持ちを抑えられずにいた。

 するとリベラは歩いて彼女の正面にまわると、にっこりと微笑みながらそっと包み込んだ。

「きゃっ!一体何?」

「焦らなくていいよ。僕、パーティーメンバーとしてのバーバラだけじゃなくて、普通の女の子として生きるバーバラも同じくらい好きだから。」

「えっ…。」

 再び思わぬ発言を聞いて、彼女は顔を赤らめた。

「あのね、もしよかったら、僕の頼みを聞いてくれる?」

「何?頼みって。」

「呪文の先生になってくれる?」

「呪文の先生?」

「うん。」

 リベラは両腕をバーバラから離すと、トルッカでの出来事について話した。

 その中でビッグとスモック、そしてカンダタ達と戦っていた時、自分がホイミしか使えなかったために思わぬ苦戦を強いられ、回復役の重要性を再認識させられたこと。

 そして、自分も回復役になりたいという思いを両親に伝え、これから力の盾を用意してもらえることを打ち明けた。

「それでね、僕、炎の剣のイオと力の盾のベホイミを強化したいと思っているんだ。そこで、君に呪文のことについて色々教えてほしいんだ。」

「そんなの、あたしに出来るのかしら。」

 バーバラは自分に自信が持てずにいた。

「出来るよ、きっと。だって君は自身のベギラマをベギラゴンにしただけでなく、ミレーユに色々アドバイスをして、ベホイミの威力を上げてくれたから。だから、僕の先生になってよ。アドバイスをすることなら出来るだろ?」

「うん、多分…。」

「じゃあ、お願いします。バーバラ先生。」

「リベラ…。うん、いいわよ。」

 バーバラはリベラが自分を頼ってくれたことを受けて迷いを振り切り、同意をしてくれた。

 すると、かたわらでじっと会話を聞いていたターニアが突然「あっ、お姉ちゃん、笑ってくれた。」と言ってきた。

「えっ?あたし、今、笑ったの?」

「うん。良かった。目を覚ましてから泣いてばかりだったから、正直、笑い方を忘れてしまったと思っていたの。でも、これで安心したわ。」

「ターニア、ごめんね。迷惑をかけてしまって。」

「私は大丈夫よ。それじゃ、お兄ちゃんをビシバシ鍛えてあげてね。」

「うんっ、分かったわ。」

 バーバラはニッコリと微笑んだ。

「それじゃターニア。僕は彼女を連れてルーラで空を飛びまわってくるね。」

「ちょっとお兄ちゃん。早速呪文の先生になってもらうんじゃないの?」

「まずバーバラにしっかりと立ち直って欲しいんだ。だからまず2人で空を飛びまわりたい。いいだろ?バーバラ。」

「うん。」

「それじゃターニア、僕達は今から空の旅に出かけてくるからね。」

「分かったわ。お兄ちゃん、そしてお姉ちゃん、行ってらっしゃい。」

 ターニアが笑顔で手を振るとリベラはルーラを唱え、2人で一緒に飛び立っていった。

 眼下に広がる景色を見ながら、彼はバーバラの顔もしきりに見つめていた。

 

 バーバラ、忘れないで。

 一人じゃないから。僕が君を守るから。

 

 



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Quest.23 僕のホイミタンク

 リベラはボロボロの体になって打ちひしがれていたバーバラを元気づけた後、ルーラで彼女と一緒に大空へと飛び立っていった。

 2人はお互いの顔を見つめ合いながら空の旅を楽しんだ後、まずトルッカに降り立った。

 前日は自分の姿を見せることを嫌がっていたバーバラだったが、今度は直接エリザと町長に会うことにした。

 彼らは包帯だらけのバーバラを見て一旦は驚きながらも、彼女が立ち直ってくれたことを素直に喜んでくれた。

 そしてまた痛み止めの薬が欲しくなったらいつでも立ち寄って欲しいと告げた後、飛び立っていく2人の姿を見守った。

 

 彼らが次に降り立ったのはレイドック城だった。

「それじゃ僕は両親から力の盾をもらってくるから、ちょっと待ってて。」

 リベラが一人で城の中に入っていこうとすると、バーバラは「待って。」と彼を呼び止めた。

「何?」

「あたしも一緒に行きたい。」

「えっ?でも…。」

「あたしは平気よ。リベラがあたしのことをきれいって言ってくれたから。」

「そうだったね。分かった。じゃあ、一緒に行こう。」

「うんっ!」

 彼らは手をつなぐことは出来ないものの、横に並んで幸せそうに微笑みながら城の中に入っていった。

 

 力の盾を用意していたレイドックとシェーラは、事前にリベラからバーバラの身に起きたことについて聞いてはいたが、いざ彼女の両腕を見るなりビックリした。

 それを見てリベラはどうしようかあたふたしてしまったが、当のバーバラは我慢しながら冷静を保ち続けた。

「あたしは大丈夫。もう立ち直りました。」

「とはいえ、これは見るからに大変なけがですね。もしよかったら、私がマッサージをしたり、薬草で作った塗り薬を塗るなどして、世話をしてあげましょうか?」

「えっ?シェーラさん、いいの?」

「はい。息子があなたのことを話してくれた時『どうしてバーバラばかりがこんな目に…。』と言いながら、打ちひしがれていた時の表情は忘れられません。それを見て、私としてもあなたに何かをしてあげたいと思っていましたから。」

「じゃあ、ぜひお願いします。これまでターニアが一人であたしの世話をしていたから、彼女も精神的に疲れちゃっていたのよ。その負担を少しでも減らすためにも、よろしくお願いします!」

「分かりました。いつでもお待ちしていますよ。」

「ありがとうございます!」

 彼女達の会話が終わると、今度はレイドックが力の盾を用意して、リベラに差し出してきた。

「それではお前にこれを渡すことにする。防具としてだけでなく、自分で回復役になれるように頑張るのだぞ。」

「はい、父さん。大事に使わせていただきます。」

 リベラは深々とお辞儀をしながら盾を受け取った。

「それからこれは兵士から聞いた話だが、最近元々この世界にいなかったモンスターが頻繁に出現するようになってきたということだ。このままではこの世界の平和が脅かされるだろうし、戦闘の機会も増えるだろう。くれぐれも気をつけるのだぞ。」

「はい、少しでも平和を維持出来るように、頑張ります。」

「うむ。兵士達も頑張っておるし、こちらとしても彼らや息子達のためにも出来るだけの支援はするつもりだ。」

「はいっ!」

 リベラは威勢よく言うと、バーバラに「じゃあ、行こうか。」と声をかけ、城の外へ向かっていった。

 

 近くに燃えるもののないところにやってくると、リベラは早速炎の剣を振りかざしてイオを発動させてみた。

 しかし何回やってもその威力は上がらなかった。

「僕、何とかしてこれをイオラにしてみたいんだけれど、ずっとこんな状況なんだ。どうすればいいんだろう?やっぱり道具使用では効果を変えられないのかな?」

「ねえ、リベラはそれを本当にイオラのつもりで放ったの?」

「うーーん…、どちらかと言えば、イオより少しでも強くという感じだったんだけれど。」

「あたしとしては、はっきりとイオラをイメージして欲しいのよね。『少しでも強く』では、何か漠然としている感じがするから。」

「あっ、そうか。じゃあ、バーバラはベギラゴンを覚えようとしていた時は、そんな感じだったの?」

「うん。映画撮影の時は3分の2のベギラマをイメージしていたし、その後は言葉ではベギラマって言っていたけれど、頭の中ではベギラゴンを思い描きながら唱えていたの。」

「目標がしっかりしていたんだね。」

「そうよ。だってそれがあいまいではたどり着けないでしょ?」

「確かにそうだね。でも、そのためにはイオラの威力を前もって見ておいた方がいいよね。確か、イオラを唱えられる人と言えば…。」

「テリーがいるわよ。今度彼に見せてもらったら?」

「分かった。レベルアップのための戦闘を経験する時に、彼にお願いするよ。」

「OK。じゃあ、次は力の盾ね。」

「えっ?そっちも?」

「うんっ!あたしは厳しいわよーっ。」

 バーバラはニヤリと笑った。

「うわーー、先生こわっ。でも、自分で望んだことだから素直に従うよ。」

 リベラは力の盾を両手に持ち、その場で天にかざした。

 しかし結果は何も起きなかった。

「あれ?炎の剣のイオは戦闘中じゃなくても発動したけれど、この盾はダメなのかな?」

 リベラは首をかしげながらもう一度道具使用してみたが、やはり何も起きなかった。

「まいったな。移動中に使えないとなると、どうやってベホイミを伸ばしていこう…。」

「そうねえ…。じゃあ、こんなことしてみようかしらね。」

「何かアイデアでもあるの?」

「うん。ちょっとそれをあたしの足元に置いてくれる?」

「分かった。」

 リベラは言われたとおりに、力の盾をバーバラの足元に置いた。

 彼が何をするんだろうと思っていると、彼女は左足をその上にのせて、「いくわよーーっ!」と言った後、ホイミを唱えた。

「えっ?何、今の!?」

 リベラは思いもよらないものを見て、思わずビックリした。

「あっ、呪文を受け入れてくれたようね。これで移動中でも回復効果が期待出来そうね。」

「バーバラ!足で呪文!?」

「あのね、そっち?」

「う、うん。だってこんなの初めて見たから。どうやって唱えられるようになったの?」

「まあ、あたしとしては、手で唱えられるのなら、足でもって思ったのよね。」

「でも、そんなの僕じゃ全く考えつかなかったよ。」

「あたしだって以前は考えもしなかったわよ。まあ手はこんな状態だけれど、足は無傷だから、それで今回ぶっつけ本番で実践してみたの。でも今回のホイミは通常よりも弱いわね。」

 彼女はその後、足でベホイミとベホマを唱えてみた。

 しかし結果はそのベホイミが通常のホイミ程度で、ベホマに至っては発動すらしなかった。

「うーーん、これから練習を重ねていかないと…。」

 バーバラが不満げな表情を浮かべている一方、リベラにはその姿がまるで奈落の底からはい上がってくるかのようにまぶしく映った。

 すると彼女は力の盾に唱えたホイミとベホイミが役に立つかどうかを確かめるために、歩きながら道具使用してみることを勧めた。

「といっても、少しHPを減らす必要があるんだけれど…。」

「あらそう。じゃあ…。」

 バーバラはそう言うと、自分のスカートをヒラヒラさせた。

「ちょ、ちょっと!」

「ほおら、リベラ。少しだけよ~。」

「やばいって、それ!」

 リベラは慌てながら彼女のところに向かっていった。

 するとバーバラは突如まわし蹴りを披露してヒットさせた。

「痛っっ!!いきなり何するんだよ!」

「きゃははは…、ごめんねえ。まあ、あたしとしては僧侶を極めたら次は武闘家に転職しようと思っていたから、その予行演習にと思ったのよ。」

「とはいえ、そこは手加減してよ!」

「ごめんねえ。でもHPが少しは減ったんだから、その盾を使って歩いてみてくれる?」

「分かったよ。」

 リベラは少しぶぜんとしながらも、力の盾を天にかざして歩き出した。

 するとゆっくりとではあるがHPが回復するのを実感した。

「すごい!本当に移動中に役に立ったよ!」

「よかったわね。じゃあ、これからはあらかじめホイミやベホイミをかけておけば戦闘の合間に回復出来るわね。」

「そうだね。それじゃ僕は力の盾のホイミ効果が無くなったら、君のところにやってきてもいいかな?」

「えっ?わざわざあたしのところに来なくても、寝る前に自分でかけておけばいいのに。」

「確かにそうだけれど、君の呪文で移動中の回復をしたいんだ。そうすれば、君は僕のホイミタンクとして一緒にいられるから。」

「リベラ…。」

 バーバラは告白めいたようなことを言われて、思わず顔を赤らめた。

 そして、自分がリベラの役に立てることを素直に喜び、ホイミとベホイミを繰り返し唱えて、回復量を満タンにしてくれた。

 リベラはそんな彼女の笑顔を見つめていると、ふと大事なことを思い出した。

「あっ、そうだ。僕はあと30分でハッサンと交代で幸せのくつを履くことになっていた…。」

「あら、今休憩時間だったの?」

「そう。僕は昼から深夜まで、ハッサンは深夜から昼までの間に履くことになっているんだ。だから本来、僕は午前中に休んでおくべきなんだけれど、バーバラにどうしても会いたくて、それで寝る間も惜しんでやってきたんだ。ごめんね。」

 リベラは両手を合わせて謝った。

「大丈夫よ。あたしに会いに来て、笑顔にしてくれてありがとう。じゃあ、今度はあたしがリベラを笑顔にしてもいい?」

「ん?何をするの?」

「さっきあたしがスカートヒラヒラとまわし蹴りをした時、見た?」

 バーバラの質問に対し、リベラは一瞬なんのことだろうと思ったが、すぐにその言葉の意味を理解した。

「わーーーーっっ!!!」

 彼はすっかり慌てながら顔をぶんぶんと横に振り、右手で「ない!ない!」のジェスチャーをした。

「あっ、笑った。あたしの思惑通りだったわ。」

「あのね…(汗)。」

「きゃははは、冗談よ。それじゃリベラ、行ってらっしゃい。でも、その前にあたしをライフコッドに送り届けてくれる?」

「バーバラはまだルーラを唱えられないの?」

「今は痛み止めが効いているから頑張れば唱えられるけれど、後でぶり返したら嫌なのよ。それに…。」

「それに?」

「リベラにもう一度お姫様だっこしてほしいな。」

 バーバラは少しもじもじしながら言った。

「分かった。じゃあ、だっこしてあげるよ。」

「うん、お願いね。」

 リベラはバーバラを抱え上げ、ルーラを唱えて飛び立っていった。

 そして彼女が「ターニア、ただいま。」と言いながら家の中に入っていくのを見届けた。

(それじゃ、僕は幸せのくつを履いたらテリーのところに行こう。そして彼にお願いしてイオラを唱えてもらって、しっかりとその威力を焼きつけておこう。)

 リベラはそのアイデアを思いつくと、ハッサンと約束した場所に行く前に、マーズの館に向かった。

 

 そこではミレーユがおり、彼女はリベラを見るなり要件について聞いてきた。

 そして彼は60ゴールドを払ってテリーの居場所を占ってもらうことにした。

 彼はスミスとホイミンと一緒にモンスターと戦っていた。

 

『くらえお前ら!イオラ!』

 リベラの願いが届いていたのか、テリーはその呪文を唱えた。

(そうか、これがイオラの威力か。しっかりと覚えておこう。)

 彼がそう思っていると、スミスもテリーの姿になってイオラを唱えた。

 最終的に彼らは敵を倒し、経験値とお金、そしてアイテムとして毒蛾のナイフを手に入れ、ホイミンが早速それを装備した。

テリー『それにしてもこいつら、今まで見たこともないモンスターだな。』

スミス『やっぱり誰かが異世界からモンスターを召喚しているという噂は本当みたいだな。』

ホイミン『これではこれからますます戦闘の機会が増えそうですね。』

テリー『ああ、そうだな。だが、すでにこの世界に出回っている奴らを倒すだけでは戦闘が終わらねえな。』

スミス『そうだな。召喚している大もとを倒さなければな。それまで戦いは続くだろうから、いちいち変身しなくて済むように、俺にも何か武器が欲しいぜ。』

『だったらアモスにお願いして、彼が持っているまどろみの剣を譲ってもらおうか。』

『おおっ、武器をもらえるのか?』

『ああ、言えば多分譲ってくれるはずだ。』

『じゃあ、彼に会ったら交渉してみるぜ。』

 彼らはルーラでモンストルの町へと飛び立っていった。

 

 ミレーユはそこで映像を消したため、リベラは彼女にお礼を言うと館を後にし、ルーラを唱えてハッサンと約束した場所に向かっていった。

 



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Quest.24 戦力になるために

 リベラがマーズの館でテリーと、テリーもどきになったスミスのイオラを目に焼き付けている頃、チャモロはアモスとともに腕立て伏せをしていた。

 彼は以前、盗賊2人組と戦った時、通常攻撃でもバギマでも実力不足を露呈してしまった。

 そのため、アモスにトレーニングをお願いして体を鍛え、さらには離脱してしまったバーバラの分まで頑張ろうと意気込んでいた。

 しかしこれまで体を鍛えていなかったツケがここでも回ってきてしまった。

「ちょ、ちょっと、アモスさん…。少し休ませてもらえませんか?正直きついです。」

「どうしたんですか?それでは戦力になれませんよ。」

「そんなこと言われても…。」

「あなたはバーバラさんの穴を埋めたいのでしょう。」

「それはそうですけれど…。」

 チャモロはとうとう体力が続かなくなってしまい、自分から腕立て伏せをやめてしまった。

「あーしんど…。」

「それではパーティーメンバーに復帰してもホイミンと立場を争うことになりそうですね。」

「……。」

 チャモロは自分の非力さを思い知らされ、悔しさをにじませていた。

「でも、あらかじめいい人を呼んでおきましたから、この人がいればもっと頑張れるかもしれませんよ。」

「えっ?誰ですか?」

「今から呼んできますよ。」

 アモスは腕立て伏せをやめて立ち上がり、一旦その場を離れると、一人の女性を連れて戻ってきた。

「ええっ!?セリーナさん、どうしてここに!?」

 チャモロは思いもよらない人と出くわしてしまい、ビックリした。

「ちょっとアモスさんに呼ばれてサプライズでな。でもだらしねえぞ。それだったら私がパーティーメンバーになった方が活躍出来そうじゃねえか。」

「うっ、そ、それは…。」

 痛いところを突かれたチャモロは、再び腕立て伏せを再開した。

「よおし、その調子だ。それでは私も付き合わせてもらう。」

 セリーナは自分も腕立て伏せを始めた。

 以前、レイドック城での懸垂大会で優勝経験がある彼女はスイスイ回数を増やしていき、あっという間にチャモロのこれまでの回数に迫っていった。

アモス「おっ、これは私といい勝負になりそうですね。」

「そうか。ならば今から何回出来るか勝負しようぜ。」

「いいですよ。では、よーい、スタート!」

 2人は既にそれなりの回数をこなしていたにもかかわらず、その後もどんどん数を重ねていった。

 そしてアモスが懸垂大会で負けた悔しさを晴らすような形で、今度はセリーナに対して勝利をおさめた。

(私は途中から完全にカヤの外になってしまいましたね。何だか、悔しさすらわいてこないです…。)

 2人の勝負を目の当たりにして、チャモロはいつの間にか腕立て伏せをやめて呆然としていた。

 すると、そこにハッサンが駆け足でやってきた。

「よお、みんな。今日はセリーナもいるのか。」

「ああ、久しぶりだな、ハッサン。あんたもチャモロの特訓にやってきたのか?」

「そういうわけじゃねえんだ。俺は今、幸せのくつで経験値稼ぎをしていてな、もうすぐリベラと交代なんだ。彼とはこの場所でこの時間に会う予定なんだがな。」

「でも、なかなか来ませんねえ…。時間ギリギリまでバーバラさんとデートしているのでしょうか。」

 アモスがイジる発言をすると、そこにリベラが空から舞い降りてきた。

「リベラさん、いつの間に!」

 突如現れた彼を見て、アモスはポーズをとりながら驚いた。

「みなさん、こんにちは。そしてハッサン、待たせてごめん。」

「なあに。俺も今到着したところだから、気にするな。それじゃ交代だ。」

 ハッサンは靴を脱ぐとリベラに渡してくれた。

「どうもありがとう。」

「頑張って来いよ。お前の愛する人のためにもな。」

「だからその言い方やめてよ!」

 みんなの前でハッサンにイジられ、リベラは顔を赤くした。

 そして彼は歩き出そうとすると、ふと水晶玉でテリーが言っていたことを思い出し、アモスに伝えた。

「なるほど。ポイズンゾンビのスミスさんは、私が持っているまどろみの剣を装備したいということなんですね。」

「そうなんです。今度彼に会ったらお願いしてもいいでしょうか?」

「いいですよ。私としても、誰かの役に立つのであれば本望ですから。」

 アモスは喜んで了解してくれた。

 そして、リベラは辺りを歩き回りながらハッサン達の様子を見ることにした。

 

「じゃあ、俺はレベルアップのために1回戦闘を経験する必要があるからよ。誰か俺と勝負してくれないか?」

セリーナ「それじゃ、私とアークボルトでの格闘大会のルールで勝負してみるか?」

「あんたとか?」

「ああ。あの時はあと1秒ファイティングポーズが早かったら私の勝利だったからな。あの悔しさは今でも覚えているし、もう一度勝負をしてみたかったんだ。いいか?」

「分かった。ここにはモンスターもいねえし、俺としても早くレベルアップしたいからな。」

「おう、望むところだ。」

 こうして、ハッサン対セリーナの勝負が始まった。

 

 格闘大会の時は気合ためしか使ってこなかったセリーナは、今回はまわし蹴りを駆使して先制攻撃をしてきた。

 一方、ハッサンは幸せのくつを手に入れて以降、全く戦闘をしていなかったため、レベルは1のままで、特技(バックドロップやてつざんこうを含む)は全くない状態だった。

(くっ!よりによってこんなに弱体化していたとは…。しかもセリーナは手加減無しだ。こんな状況からどうやって勝てばいいんだ。)

 彼が動揺していると、セリーナはいつの間にか気合ためのモーションに入っており、次の瞬間ハッサンに強烈な一撃をくらわせた。

 彼はなす術なくダウンしてしまった。

「何だ?弱いじゃないか!あの強さはどこに行ったんだ。こんな勝ち方をしてもうれしくないぞ!」

 セリーナは不満げな表情を浮かべていた。

 するとチャモロがハッサンの事情を話し、バーバラを助けるためにレベル1になってしまったことを打ち明けた。

「なるほど、そんな事情があったのか。それならまず勝てる相手と勝負して、レベルアップしてから挑んでほしいものだな。」

「分かったぜ。では…。」

 ハッサンはチャモロに背後からそっと近づき、不意打ちでキックをお見舞いした。

 受け身も取れずに攻撃を受けた彼は、その場に倒れ込んでしまった。

 すると途端にハッサンのレベルがアップしていった。

「ちょ、ちょっとチャモロさん、大丈夫ですか?」

 アモスに声をかけられると、彼は目を覚まして起き上がった。

「ハッサン、いきなり何をするんですか!」

「わりいわりい。でもこれでレベルアップしたから許してくれ。」

「私としては許したくないです!」

 自分にベホイミをかけてHPを回復させた後もふてくされるチャモロに対し、アモスとセリーナ、そして遠目から見ていたリベラは思わず笑いだした。

 そしてハッサンはアモスにホイミを重ねがけしてもらってHPを全回復させると、もう一度セリーナと勝負をした。

 今度はさっきよりも見ごたえある展開になったが、結局彼女の気合ためとまわし蹴りの前に沈んでしまう結果となった。

「セリーナ、すまねえ。まだ今のレベルじゃ勝てないようだ。これから経験値を稼いでもっと強くなるから、そうなったらまた勝負しようぜ。」

「分かった。その時、私は特技を惜しまずに繰り出すつもりだ。」

「まじかよ。」

「ああ。あんたは格闘大会の時、私の気合ためを見て、すぐに自分のものにしていたからな。それを踏まえた上で色々技を見せて、あんたにマスターしてもらおうと思っている。どうだ?」

「そうか。それなら納得だ。俺としても、特技を一から覚え直しになってしまったからよ。絶対にマスターしてやるから、また勝負しようぜ。」

「ああ、いつでも相手になる。あんたも早くレベルアップ出来るように頑張れよ。あんたが付き合っているミレーユを守るためにもな。」

「ちょ、ちょっと待てよ!何でお前がそんなこと知っているんだよ!」

アモス「なるほど。ハッサンにも守りたい人がいたんですね。」

チャモロ「やっぱりサンマリーノで2人一緒に歩いていたのは、デートだったんですね。」

 次々にイジられたハッサンは顔を真っ赤にしながら「おい、チャモロ!お前チクったのか!」と迫った。

「私に蹴りを入れた罰ですよ。これくらいやってもバチは当たらないでしょう。」

「お前こそ、セリーナと付き合っているんだろ!」

「ま、まあ、それは…。」

「想像にお任せするぜ。」

 チャモロとセリーナはそろって顔を赤らめていた。

 この後、ハッサンはリベラにサンマリーノまで送り届けてもらい、自宅で食事をとった後、再びベッドで爆睡となった。

 一方、アモスはまどろみの剣を手に入れるためにロンガデセオに行くことになったため、チャモロに送り届けてもらった。

 そして剣を手に入れると再び元の場所に戻ってきた。

(※セリーナはその間に徒歩で帰っていきました。)

 

 しばらくすると、テリーがスミスとホイミンを連れてその場所にやってきたため、アモスは早速スミスにその剣を手渡した。

 素振りをした結果、彼にも装備出来ることが分かったため、それまでモシャスをしなければ素手だった彼は頼もしい武器を手に入れて、大満足だった。

 一方、チャモロはグラコスの槍の攻撃力を加えてもなお、戦力面での不安を露呈してしまうありさまだった。

「私、呪文に活路を見出すしかないんでしょうか…。」

 彼が落ち込んでいると、近くを歩いていたリベラがこっちにやってきた。

「チャモロ、呪文のことならバーバラに聞いてみるかい?」

 リベラは歩きながら会話を続けた。

「バーバラさんに?けがで離脱したはずでは?」

「まあ、そうなんだけれど、僕、彼女に呪文の先生になってもらったんだ。」

「呪文の先生?」

「そう。彼女は自身のベギラマやミレーユのベホイミを強化した実績があるから。それを踏まえて、僕も炎の剣のイオをイオラにするべく、彼女にアドバイスを求めたんだ。」

アモス「それで、イオラは身に付いたんでしょうか?」

「いや、まだなんだ。でも、イオラの威力はすでに見て覚えたから、これから伸ばしていくつもりなんだ。」

 リベラはそれに加えて、バーバラが威力は弱いながらも足で呪文を唱えられるようになったこと。これからはホイミタンクとして貢献しようと意気込んでいることを話した。

アモス「彼女も頑張っているんですね。何だか励みになります。」

チャモロ「私も頑張ります。必ず戦力になってみせます。」

「じゃあチャモロさん、これから夕方までみっちりとトレーニングですよ。」

「ええっ?体もたないですよ!」

「バーバラさんの分まで頑張りたいんでしょう。」

「ま、まあ、そうですけれど…。」

「じゃあ、私もお付き合いしますよ。頑張りましょう。」

「……。」

 チャモロはそれ以上何も言うことが出来ず、体がバッキバキになるまで鍛え続けた。

 

 一方、リベラはテリーにお願いしてメンバーに加えてもらい、異世界からやってきたモンスターのいるところに一緒に向かっていった。

 そして戦闘をしながら炎の剣を積極的に道具使用し、イオの効果を伸ばしていった。

 その姿に即発されたスミスはまどろみの剣でラリホーの、ホイミンは毒蛾のナイフで敵の動きを止める効果を発動させる特訓をするようになった。

 戦闘後、リベラは歩きながら力の盾を使い、事前にバーバラが唱えてくれた呪文でHPを回復させていった。

 

 バーバラ、今は離れ離れだけれど、この盾があれば、心はいつも一緒だよ。

 これからも僕の大切な回復役になってね。




おまけ
 今回はちょっと本編が短いため、おまけとしてQuest.11で出てきた、バーバラ、ターニア、エリーゼが出演した映画について補足します。
 彼女達は試写会でその映画を全編見ることになりましたが、そこで衝撃のシーンが明かされました。


衝撃のシーン
 エリーゼはラストダンジョンで、魔王を名乗る男性と女性のところにやってきました。

エリーゼ「あんた達は私の村を襲った!私の両親を殺した!」
女性「違います。あなたの両親は私達です。」
「嘘よーーーっ!!!」

 そのシーンを見て試写会場は騒然となり、バーバラとターニアをはじめ、その場に居合わせた人達はビックリしていた。
 この影響で、試写会はしばらく中断となった。
 一方、すでにそのセリフを知っていた監督とエリーゼ、そして女性の声を担当した人だけは冷静だった。
バーバラ「ちょっとエリーゼ!あの場面のセリフは『殺したのはあくまのきしです。』だったはずでしょ!どういうことよ!」
「私だって撮影直前にこのセリフを知った時はビックリして監督さんに『ちょっと!嘘でしょ!』って聞き返したわ。さらに彼からかん口令を敷かれていたから、今日までバレないように隠すのは大変だったわよ。」

 このシーンは非常に有名になり、後にパロディー化されるなど、大きな影響を及ぼしました。


 映画のエンディングではNGシーンが流されました。

NGシーン1
 村が襲われ、エリーゼとターニアが地下室に逃げ込み、ターニアが女勇者の姿になった時のシーンです。

「さようなら、エリーゼ…。」
「待って!置いていかないで!」
 エリーゼが泣き叫ぶ声を背に、ターニアは部屋の外に出ると、扉を閉めて駆け出していった。
 タッタッタッ…、ドタッ!
「痛ったああっ!つまずいて転んだ!」
「ちょっとターニア!ここ、めちゃくちゃ大事なシーンなんだから、こんなところでNG出さないでよ!」
「ごめんなさい!」
「はっきり言って演技で泣くの、大変なんだからね!」
「本当にごめんなさい!わざとじゃないの!許して!」


NGシーン2
 村が襲われた後、エリーゼが焼け野原を歩いているシーンです。

「これは…、ターニアがかぶっていたはね帽子…。」
 彼女は風にのって足もとに転がってきた帽子を拾い上げると、涙を流しながら地面にひざをつき、「ターニア…、私のために…。」と言いながら両手で抱え込んだ。
監督「はい、カット。」
「熱ーーい!ひざ、熱ーーーい!!」
 エリーゼは大声を上げながら立ち上がり、その場を駆け回り出した。
 するとターニアが慌ててその場にやってきて、水筒に入っていた飲み水をひざにかけてくれた。
「ちょっとスタッフさん!もうちょっと地面を冷ましてから撮影させてくださいよ!これじゃやけどしちゃうじゃない!」
 エリーゼの忠告に対し、スタッフの人はその場で平謝りだった。

 他にもエリーゼがまどうし(中身はバーバラ)のラリホーで眠らされた時、それまでのハードスケジュールがたたって爆睡してしまい、いっこうに目を覚まさずに負けてしまったシーン。
 だいまどう(もちろん中身はバーバラ)がベギラマを唱えた時、火力が強過ぎてエリーゼが倒れてしまい、「キャーーーッ!ごめんなさい!」と叫んだシーン(Quest.11参照)などが上映され、一同の笑いを誘っていた。


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Quest.25 ハッサン復帰

 あと12時間で幸せのくつを返却する状況になったある日の深夜、リベラはハッサンにくつを渡すと、ルーラでレイドックに戻り、眠い目をこすりながら城に入っていった。

 そして軽食を取り、シャワーを浴びた後、ベッドに横になった。

(はあ…。やっと経験値稼ぎが終わった…。思えば少しでも多くの経験値を稼ごうとたくさん歩いたから肉体的にしんどい日々だったし、戦闘に参加した時にはテリー達に本当に我慢をさせてきたな…。でもこれで一度戦闘を経験すればレベルが十分に上がるし、パーティーメンバーに本格的に復帰出来る。炎の剣のイオをしっかりと伸ばすための時間も確保出来るし、バーバラに会ってゆっくりと会話も出来る。早く会いたいな…。)

 すでに疲れ切っていた彼は、彼女の顔を思い浮かべながら眠りに落ちていった。

 

 リベラからくつを受け取り、12時間歩き続けたハッサンは、最終的にマーズの館に戻ってきた。

「ばあさん、帰ったぜ。」

「お帰り、ハッサン。時間ギリギリになってしまったが、よく頑張ったのう。」

「ああ。少しでもたくさん経験値を稼ぎたかったからな。おかげで疲労はピークだし、眠いし、足がバッキバキだぜ。」

「よかろう。それだけ頑張ってきた証拠じゃ。今はゆっくりと休むがよい。」

「そうするぜ。じゃあ、俺は食事を取って、シャワーを浴びて寝る。あばよ。」

 ハッサンはくつを返却すると、足早にサンマリーノに戻っていった。

(やれやれ。もう少しちゃんと感謝をしてほしかったが、まあよかろう。)

 グランマーズはハッサンを見送ると異世界に行き、持ち主のもとに向かっていった。

 

 その頃、ミレーユは命の木の実と不思議な木の実を持ってライフコッドに行き、バーバラとターニアに手渡した。

「どうもありがとう。じゃあ、あたしは命の木の実を頂くわ。」

「私は不思議な木の実をもらうことにします。」

 2人は早速その場でおいしそうに食べた。

 その後、ミレーユはバーバラにベホイムだけでなく、攻撃面でも何か長所を身に付けたいという希望を打ち明けた。

「そうねえ…。炎のツメをもらったとはいえ、攻撃がメラミ専門になるからねえ…。」

「そうなのよ、バーバラ。相手が耐性を持っていたら不利になるし、私にもちゃんと装備出来る武器があればいいんだけれど…。」

「あっ、それならターニアが稽古の時に使っていた破邪の剣はどう?」

「あの剣?確かに私が過去に一時期使っていたことはあるけれど、ターニアの武器をもらってもいいのかしら?」

「それなら気にしないでください。私よりもミレーユさんの方がきっと役に立つと思います。私は氷のやいばで稽古をしていますので。」

「でも、攻撃力が物足りない気がするのよね。せめてもう少し高くすることが出来れば…。」

 バーバラの発言を聞いて、ターニアはいいアイデアを思いつき、手をポンと叩いた。

「あの、それをサリイさんのところに持っていくのはどうでしょうか?」

「あっ、その手があったわね。それで叩き直してもらえば、攻撃力も上がりそうね。」

「では、ミレーユさん。今からその剣を持ってきます。」

 ターニアは家の中に入っていき、破邪の剣を持って戻ってきた。

「どうぞ、ミレーユさん。」

「ありがとう、ターニア。大事に使うからね。」

 ミレーユは剣を受け取ると、キメラの翼でロンガデセオに向かって飛び立っていった。

 

 現地ではサリイとコブレがいた。

 早速ミレーユは破邪の剣を叩き直して強化して欲しいというお願いをした。

「おおっ!ちょうどいいところに依頼が来たぜ。良かったな、親父。」

「そうですね。私達としても助かります。」

 コブレは早速大体の見積もり表を作り、金額を提示した。

「その金額なら十分に支払えます。では、作業の依頼、よろしくお願いします。」

「分かったぜ。多少時間はかかるけれど、強い敵にも太刀打ち出来る武器にしてやるからな。」

「私としても腕がなります。今から作業に向けて頑張っていきます。」

「サリイさん、コブレさん、ありがとうございます。」

 ミレーユはお礼を言うと剣をサリイに渡し、鍛冶屋を後にしていった。

 ちょうどその支払金額を差し引いても身かわしの服が買えるだけのお金が残ったため、彼女は早速それが販売されている武器屋に向かっていった。

 

 ハッサンは十分に休養を取って体力を回復させた後、リベラと一緒にセリーナのところに向かっていった。

「というわけでセリーナ。俺は幸せのくつで貯めた経験値をレベル上げに繋げるために、再び勝負に来た。お願いしてもいいか?」

「そうか。いいだろう。私もあんたと本気の勝負をしてみたかったんだ。」

「いいのか?」

「ああ。ただ、以前にも言ったが、私の持っている特技は惜しまずに使うつもりだ。簡単に勝てると思うなよ。」

「俺も全力で行くぜ。勝たないとレベルアップ出来ないからな。」

「じゃあ、今から1対1でガチ勝負を開始しよう。」

「OK。リベラ、審判を頼んだぜ。」

「うん、いいよ。じゃあ2人とも向かい合ってください。」

 彼の指示を受けて、ハッサンとセリーナは「お願いします。」と言ってお辞儀をした。

 

 試合が始まると、まずセリーナは素手でのはやぶさぎりで連続攻撃を仕掛けてきた。

 ハッサンは攻撃を受けながら素手での通常攻撃で反撃をした。

 次にセリーナは大きく息を吸い込み、気合ためのモーションに入った。

 一方のハッサンも気合ためを駆使し、次のターンではお互い同じ技で攻撃をした。

 するとお互いの威力を打ち消す形になったため、ダメージはそれほど受けなかった。

 次にハッサンは飛びひざ蹴りで向かっていったが、セリーナは攻撃をうまくかわし、まわし蹴りを叩き込んだ。

 ハッサンは体勢を崩して倒れ込んでしまい、リベラからカウントが入ったが、立ち上がってファイティングポーズを見せたため、勝負はそのまま続行となった。

 次のターンでハッサンがせいけん突きのモーションを起こすと、セリーナもいつの間に身に付けたのか、同じ技を繰り出してきた。

 2人はお互いうまく攻撃をかわし、ノーダメージだった。

(そっちが俺の技を盗むなら、俺もお前の技を使わせてもらうぜ!)

 ハッサンはぶっつけ本番ではやぶさぎりを使い、ヒットさせた。

 するとセリーナもはやぶさぎりで反撃して、こちらもヒットさせた。

 ハッサンはまたもダウンをしてしまい、リベラからカウントを受けてしまった。

(こいつ、本気を出したらこんなにも強いのか。ミレーユやバーバラと全くタイプは違うが、ぜひパーティーメンバーに加わって欲しい逸材だな。)

 彼はそう考えながら立ち上がり、ファイティングポーズを見せた。

 そして捨て身で向かっていき、セリーナに大きなダメージを与えた。

 彼女は突き飛ばされた勢いでダウンしてしまい、リベラからカウントが入ったが、こちらもポーズを見せて試合が続行となった。

 

 ターンが経過するにつれて、お互いのダメージはすでにかなり蓄積していった。

(もう少し俺のレベルが高ければ十分に勝てる相手なのに…。だが、そんなことは言っていられない。とにかく早く決着をつけなければ。)

 ハッサンは大きく息を吸い込み、気合ためを使うことにした。

(これを食らったらダウンするだろうな。だったらその前にこの技にかけてみよう。)

 セリーナは「くらえええっ!」と叫びながらまじんぎりに打って出た。

 決まれば自分の勝ち、外せば負けという一か八かの賭けだったが、ハッサンは攻撃を冷静に見極め、うまく攻撃をかわした。

(悪いな。俺のレベルアップのためだ。この勝負、もらったぜ!)

 彼が勝利を確信しながらセリーナに向かっていくと、何とリベラが試合を止めようと、間に入り込んできた。

「わああっ!」

 すでに勢いがついていたハッサンは攻撃を止めることが出来ず、リベラに気合ためを叩き込んでしまった。

「痛ーーーっ!!」

 受け身も取れないままダメージを受けた彼はその場にバタリと倒れ込んでしまった。

 すると皮肉にもハッサンのレベルが上がっていき、バーバラを助ける以前に匹敵するほどの能力になった。

「おい、大丈夫か!?」

「止めに入ったタイミングが悪すぎたな。」

 ハッサンとセリーナが心配そうに声をかけると、リベラは「だ、大丈夫です…。」と言いながらゆっくりと立ち上がった。

「結果的にはこの勝負、私の負けだが、いい経験になったぜ。これからあんたと勝負しても私はもう勝てないだろうが、言い換えれば、あんたは十分にパーティーメンバーに復帰出来るようになったということになるからな。」

「ああ、それは間違いないぜ。ありがとうな。それにあんたの見せてくれた特技をこれから参考にさせてもらうぜ。」

「頑張れよ。私も応援しているからな。私もせいけん突きを覚えたし、これからチャモロとモンスター討伐に出かける時に早速使うことにする。」

「そうか。お互い頑張ろうぜ。」

 2人はお辞儀をすると、握手をしてお互いの健闘を称えあった。

 その後、リベラは2人にホイミをかけてHPを回復させ、彼らをルーラで送り届けた。

 そして彼は力の盾の道具使用でバーバラから間接的に自身のHPを回復させていった。

 

 ミレーユが破邪の剣をサリイ達に預けた後、彼女は月の扇をグランマーズから借りることになった。

 その際、彼女がとある町でいどまねきが出現し、町民が避難するという事態になったという情報をつかんだため、ミレーユに討伐を依頼した。

 一人では無理と判断した彼女は助っ人を呼ぶために、再びライフコッドに向かっていった。

 現地ではリベラ、バーバラ、ターニアがおり、相談の結果、バーバラを除く3人で討伐に向かった。

 

 現地ではいどまねき2匹が町を我が物顔で歩き回っており、通りかかったリベラ達を見るなり、いきなり戦闘になった。

 リベラはルカニで一匹ずつ守備力を下げ、ミレーユはスクルトを2回かけてこちらの守備力を上げた。

 ターニアは持っていた氷のやいばでヒャダルコを2回発動させたが、相手が強耐性を持っていたため、思うようにダメージを与えられずにいた。

 その間に相手はいしつぶてや、おたけび(失敗)、気合ためからの通常攻撃(リベラにヒット)を仕掛けてきた。

 次のターンではミレーユとリベラが通常攻撃し、ターニアはミレーユから渡してもらった炎のツメでメラミを発動させ、片一方を集中攻撃した。

 一方、集中攻撃されている方のいどまねきはおたけびを使い、ターニアがひるんでしまった。

 もう一方は気合ためをしてきたため、このターンはノーダメージで済んだが、このままではターニアが危ないことを察知したリベラは次のターンでとっさに彼女をかばった。

 ミレーユは集中攻撃されているいどまねきに通常攻撃を叩き込み、ダウンさせた。

 その後は通常攻撃とメラミで残った一匹を総攻撃し、どうにかいどまねきを討伐することに成功した。

 戦闘後、3人はそれぞれ回復呪文でHPを回復させた。

 

 この戦闘でリベラとターニアのレベルがアップし、ターニアはルーラが使えるようになった。

 しかし、いまいち戦力になれなかった彼女に笑顔はなかった。

「ターニア、気にしなくていいよ。バーバラにだってそういう時があったんだから。」

「そうよ。彼女は仲間になってすぐの頃は今のあなたのように悔しい思いをしていたわ。」

 リベラとミレーユはどうにかしてターニアを励まそうとした。

 しかし、彼女の気持ちは好転せず、結局バーバラの穴を埋められるほどの存在にはなれなかった。

「私じゃ戦力にはなれないのかな…。これじゃ種泥棒なんて言われてしまいそう…。」

 それを聞いたリベラとミレーユもどういう言葉をかけてあげたらいいのか分からず、何も言えなかった。

 

 3人がマーズの館に行くと、グランマーズにその悩みを打ち明けた。

 すると彼女は水晶玉でレイドック城を映し出した。

 そこではバーバラが傷ついた兵士の人達に足でホイミやベホイミをかけていた。

「お姉ちゃん、いつの間に?」

「彼女はシェーラに手当をしてもらうために、自力でルーラを唱えてその場所に来たわけじゃ。そうしたら、時を同じくして、兵士達が何人も傷ついて帰ってきてのう。それでこうしているんじゃ。」

 バーバラはただ傷を回復させるだけでなく、兵士達におてんば発言をしたり、持ち歌を歌ったりして、精神面でも彼らの役に立っていた。

 両腕があまり自由に使えないハンデを抱えながらも、まるで看護師のように、そしてアイドルのように行動するその姿はターニアにとっても励みになった。

 するとその時、たまたまレイドック城に来ていたブラストが、彼女にアークボルトに来てもらい、そちらでも兵士達にホイミをかけてほしいという依頼をした。

『うーーん、あたしを頼ってくれるのはうれしいけれど、この後シェーラさんに治療してもらう予定になっているし、MPも残り少ないのよね。代わりにターニアにお願いしたいけれど、彼女はいどまねきの討伐に出かけているし…。』

 バーバラの何気ない発言を聞いて、ターニアの表情が変わった。

(これよ!こういう形で人の役に立てるわね。)

 それを見て、彼女は早速アークボルトに行くことを決め、覚えたばかりのルーラでリベラと一緒にレイドック城に飛んでいった。

 

 城に到着するとターニアはブラストに会い、要件を話した。

 そしてバーバラの代役として彼と一緒にアークボルトに向かっていった。

 城にとどまったリベラはレイドックに会い、ハッサンのために用意してくれたプラチナシールドを受け取った。

 その際、彼は話し合いの中でラミアスの剣を使わせてほしいとお願いした。

「うーーむ…。」

「父さん、お願いします。たとえ武器として使うことが出来なくても、せめてバイキルト用として使わせてください!」

「……。」

 レイドックはしばらく考え続けたが、最終的に「いいだろう。最近手ごわいモンスターも出るようになってきたことだし、まずは道具としての使用を許可する。」と言って、OKを出してくれた。

「父さん、ありがとうございます!じゃあ、早速使わせていただきます!」

 リベラは嬉しそうに返事をすると、その剣が封印されている場所に向かっていった。

(これで僕の呪文にバイキルトが加わった。これから厳しい戦いが待っているかもしれないけれど、絶対にこの平和を維持してみせる。)

 彼はむやみに生き物をあやめないことを心に誓いながらも、素直に最強の剣を使えるようになったことを喜んだ。

 



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Quest.26 精霊との勝負(前編)

 ミレーユから破邪の剣を受け取ったコブレとサリイは、じっくりと時間をかけて鍛え直した。

 完成した剣の攻撃力は月の扇に匹敵する程にまで上昇し、さらには道具使用した時の効果もギラからベギラマに上昇した。

リベラ「良かったね、ミレーユ。装備出来る自分専用の武器が手に入ったよ。」

ハッサン「さらに攻撃呪文もメラミ、ヒャド、イオに加えて、新しいものが加わったな。」

「そうね。それは素直にうれしいわ。でもバーバラがベギラマをベギラゴンにしたように、私もここからさらに威力を上げてみたいのよ。彼女がベホマや強力なベギラマ、そしてベギラゴンを唱えて、私を大きく上回る活躍を見せていた姿がまぶしかったし、あの時の彼女のようになりたいの。」

 ミレーユは新しい武器を手に入れたにもかかわらず、笑顔はなかった。

「それじゃ、またバーバラのところに行くかい?」

「ああ。彼女ならいいアイデアを出してくれると思うぜ。」

「どうしようかしらね。彼女は痛み止めの薬を使いながら、毎日のようにシェーラさんとターニアの治療を受けているし、お邪魔したら悪いような気がするんだけれど…。」

「彼女ならいつでも喜んで協力をしてくれるよ。誰かに頼ってもらえることを凄く喜んでいるから。」

「リベラがそう言うのなら、間違いなさそうね。じゃあ、早速行かせてもらうわね。」

 ミレーユが決意をすると、3人はライフコッドに向かっていった。

 

 現地ではバーバラが氷のやいばを持っていて、腕に負担をかけないように慎重に道具使用しながら、ヒャド程度の氷のかたまりを出していた。

 彼女は3人に気づくと、「おっはよーーっ!」と言いながら笑顔であいさつをしてきた。

ハッサン「今日はお前一人なのか?」

「そう。ターニアはあちこちで傷ついた人達のホイミタンクの役割をしているの。だから夕方まであたし一人なのよ。」

リベラ「ということは、バーバラ一人でも生活出来るようになったんだね。」

「うんっ!塗り薬も自分で塗れるようになったし。」

ミレーユ「でも、お料理とかは大丈夫なの?」

「ターニアがまとめて作ってくれたから、心配ないわ。それに痛みも以前よりおさまってきたから、痛み止め無しで生活出来る日も遠くはなさそうね。あと、足での呪文の威力がもう少し伸びればパーティーメンバー復帰も夢ではないと思うわ。」

「それは良かったわね。でも、無理だけはしないでね。」

「無理なんかはしてないわ。それでみんな、今日はどんな用事でやってきたの?」

 彼女の質問を受けて、ミレーユは強化された破邪の剣の道具効果を上げたいことを打ち明けた。

「そうねえ…。見た感じ、この剣も炎の剣のように何か伸ばせる要素があるような気はするけれど…。」

リベラ「じゃあ力の盾のように、呪文を入れることが出来ないかな?」

ハッサン「そうだな。それが出来ればミレーユの火力もアップするからな。」

「それに今からじっくりとベギラマを伸ばしていく時間はないし、何とか早く威力を上げてみたいのよ。」

「うーーん…。道具効果がベギラマでそれを強化するとなると、必然的にベギラゴンになるから、試しに唱えてみようかしらね。ミレーユ、その剣を地面に置いてくれる?」

「いいわよ。」

 ミレーユが持っていた剣を置くと、バーバラは左手をかざした。

リベラ「えっ?手でベギラゴンを唱えるの?」

「うん。足ではベギラゴンとベホマは発動しないし、それ以外の呪文も以前よりマシになったとはいえ、まだ通常より弱いから。」

「でも大丈夫?せっかくここまで治療したのに。」

「その時はその時よ。とにかく唱えてみるわね。」

 バーバラは人の役に立ちたい一心で呪文を唱えた。

 すると、左手から以前と変わらない威力のベギラゴンが発動し、破邪の剣に吸い込まれていった。

リベラ「凄い!力の盾と同じようなことが起きたよ!」

ミレーユ「これで私にもベギラゴンが使えるってことなの?」

ハッサン「多分間違いないな。」

「それなら強力な切り札になるわね。」

 3人が喜んでいる一方で、バーバラは唱えた時の姿勢のまま顔を上げようとしなかった。

「バーバラ、大丈夫?どうしたの?」

 リベラは彼女の様子に真っ先に気づいた。

「まさか、痛みがぶり返したの?」

 ミレーユが心配そうに問いかけると、バーバラは「大丈夫。」と返答した。

 しかし表情はゆがんでおり、右手で左腕をおさえていた。

「そんな…。せっかくここまで治したのによ。」

 ハッサンをはじめ、他の2人も彼女を痛い目にあわせてしまったことを後悔した。

 そしてミレーユは謝りながら、無駄と分かっていてもベホイミを唱えた。

「とにかく…、これでミレーユにも一発だけベギラゴンが使えるようになったわ…。いざという時の切り札が出来たわよ…。」

「でも、引き換えにあなたをこんな目にあわせてしまって…。ごめんなさい。本当にごめんなさい。」

「大丈夫…。こんなこともあろうかと、左手だけで唱えてみたの…。まだ右手が残っているし、左手もまた治療をすればいいわ。あたしは何度でも立ち上がってみせる…。」

 バーバラは痛がりながらも、あきらめない姿勢を見せていた。

「でもたとえ治っても、これからあなたに再びベギラゴンを唱えてもらうわけには…。」

「それならテリーにお願いすればいいわ…。ミレーユの頼みなら聞いてくれるはずだから…。」

「分かったわ…。ベギラゴンを使ったら彼のところに行くことにするわ。ごめんね、バーバラ…。私、必ずあなたの分まで頑張るから。」

 ミレーユは泣きたい気持ちをこらえながら謝罪をした。

 そして彼女は塗り薬を塗って包帯を巻く役目を引き受け、バーバラと一緒に家の中に入っていった。

 一方、リベラとハッサンは異性である以上、家に入っていくわけにはいかないため、何もしてあげられない悔しさを抱えながらライフコッドを後にしていった。

 

「僕、自分が止めに入らなかったせいで、彼女をあんな目に…。」

「やってみて分かったことなんだから、それは仕方ないさ。今回のことは授業料と考えておこうぜ。」

「でも僕…。」

「そんなに自分を責めるなって。お前はこれまで誰よりもバーバラを元気づけてきただろ。」

「うん…。」

「じゃあ胸を張れよ。俺達では体のケアは無理でも、心のケアはしっかりとしてあげようぜ。」

「うん。」

「それからよ。彼女はこのままだと俺達の役に立ちたいばかりにまた無理をしそうだから、俺達の手で適度にブレーキをかけてやろうぜ。」

「分かった。僕も協力するよ。」

 リベラは相変わらず悔しい気持ちを抱えながらも、ハッサンのおかげで少しは気持ちが前向きになった。

 

 しばらく歩いていると、前方に何やら女性の姿らしき2人が見えてきた。

「彼女達、どうしたんだろう?道に迷ったのかな?」

「そうかもしれんが、異世界からやってきた刺客かもしれんな。」

 ハッサンの発言に対し、リベラは「まさか。」と言い返した。

「だがよ。これまで見たこともない姿をしているだろう。特にあっちの姉ちゃん、水着のようなすっげえ姿をしているしよ。」

「確かにね。あれで町を歩けるのかな?」

「さあな。」

 彼らが会話をしていると、2人の女性が質問をしてきた。

 内容は、以前カンダタと戦ったテリーに会いに来たということだった。

「俺達はテリーじゃないぜ。まあ、カンダタと戦ったことはあるけれどな。」

「ハッサン!そんなことは言わない方がいいよ!」

「えっ?なんでだよ。」

「きっとカンダタがこの世界に刺客を送り込んできたんだよ!彼は僕達が爆弾岩でやられたと考えているだろうから、生きていることが分かったら、きっと狙われるよ!」

「あっ…。」

 ハッサンはうっかり口を滑らせてしまったことを反省した。

「へえ、アンタ達もあの覆面ゴリマッチョと戦ったのね。あいつに勝てるなんてすごーい!」

「私達はそんなカンダタ様の上を行く者の実力を把握するためにこの世界に派遣されたものです。」

「アタシは風の精霊。ヨロシクッ!」

「私は水の精霊と申します。」

 2人のうちの一人はどこかバーバラを彷彿させるようなお調子者で、もう一人は非常に礼儀正しい感じだった。

「とはいえ、結局、僕達は彼女達と戦うことになりそうだね。」

「まあ…、そう考えることになりそうだな(汗)。」

 リベラとハッサンが話し合っていると、風の精霊も「ねえねえ、あの覆面ゴリマッチョと戦った実力をアタシ達にも見せて!」と言ってきたため、本当に戦うことになった。

 話し合いの結果、風の精霊はハッサンと、水の精霊はリベラとそれぞれ1対1で実力を出し合うことになった。

 

 この時点でハッサンの所持している武器は炎のツメ、防具はプラチナシールドだったが、リベラが攻撃力を上げるために炎の剣を、さらにはHP回復のために力の盾を手渡してくれた。

「リベラ、ありがとうな。じゃあ、頑張ってくるぜ。」

「へえ、彼はリベラっていうの。なかなかハンサムじゃない。イイ男5年分の価値はありそうね。」

「あのな。こいつにはガールフレンドがいるぜ。」

「あらそう。残念ね。」

「第一、イイ男5年分ってどういう意味だ?」

「どうだっていいじゃない。それより、アンタの名前なんてゆーの?」

「俺はハッサンだ。」

「じゃあ、ハッサン。アタシ、今から全力で実力を見せてあげるからね!」

「お、おう…。」

 ハッサンはお調子者ぶりを発揮する風の精霊を見て、まるでバーバラと勝負をするような気持ちになっていた。

 

 勝負が始まると、彼女は素早い動きをいかして、早速キックを繰り出してきた。

 しかしハッサンは力の盾で冷静に攻撃を受け止めると、反撃として気合ためのモーションに入った。

 次に風の精霊はしんくうはを繰り出してきて、ヒットさせた。

「それじゃ、強力な一撃をお見舞いするぜ。ケガしても後悔するなよ!」

 ハッサンはまじんのごとく立ち向かっていったが、彼女は素早い動きで攻撃をかわしてしまった。

(ここでまじんぎりはダメだ!通常攻撃をしなくては!どうしたんだハッサン!何のための気合ためだ!これはいけませーーーん!!)

 リベラは2ターンを無駄にしてしまったハッサンに対し、心の中で猛ツッコミを入れていた。

 

(※説明しよう!ハッサンはまじんの金づちを装備した状態で気合ため→通常攻撃をして、会心の一撃が必中になるのを応用したわけだが、気合ため→まじんぎりでは必中にならないのを忘れていたのである。)

 

 風の精霊はそんな隙を逃してくれるはずもなく、チャンスとばかりにかまいたちを繰り出してきた。

「ぐわあああっ!」

 力の盾で防ぎきれなかったためにダメージを受けたハッサンは攻撃を一旦休止し、力の盾でHPを回復させた。

 しかし、風の精霊が切り札としてバギクロスを唱えてきたため、回復量を上回るダメージを受けてしまった。

(ベホイミでは不十分だな。せめてベホマを使える仲間がいれば…。でも攻撃しなければ勝てないわけだし、何か強力な一撃を出さなければ。)

 ハッサンは覚悟を決めるとまじんぎりを繰り出し、今度は会心の一撃を叩き込んだ。

 一方、風の精霊はHP回復手段こそ持っていないものの、しんくうはやバギクロスが強力だったため、ハッサンはその後のほとんどのターンで力の盾での回復に追われるはめになった。

 そんな持久戦の中で、風の精霊の攻撃をうまくかわしたハッサンは、チャンスとばかりにせいけん突きを繰り出した。

 しかし、ほとんどダメージを与えることが出来ず、しかも彼女の反撃でダメージの大きい部分にキックを受けてしまった。

「ちょ…、ちょっとタンマ!」

 思わぬ一撃で顔が青ざめたハッサンは、うずくまりながら勝負を一時中断させた。

「ねえねえ。大丈夫?そんなに痛いもんなの?」

「痛いんだよ!!お前には分からんだろうけれどな!」

 状況を理解出来ない風の精霊に対し、ハッサンは逆ギレするように突っ込んだ。

 

 それから数分後、勝負はようやく再開となり、ハッサンはしぶとくHPを回復させながら少ないチャンスをいかしてはやぶさぎりや捨て身を繰り出した。

 しかしその捨て身で隙が大きくなったところを狙われ、しんくうはを叩き込まれて、とうとうダウンしてしまった。

 風の精霊は性格こそバーバラのように(むしろバーバラ以上に?)お調子者だったが、実力は確かなもので、持久戦の末に勝ってしまった。

「ちくしょう…。悔しいけれど、負けだ。俺を煮るなり焼くなり、好きにしろ。」

「そんなことはしないわよーーん。アタシ達はアンタ達の実力を見たかっただけだから。」

 彼女がこの世界にやってきたのは決して侵略のためではないこと。

 そして戦った相手に勝てばこの世界に居続けられるが、負ければ元の世界に帰らなければならないことを打ち明けた。

「そうか。危害を加えるわけではないなら良かったぜ。だが、お前強いな。完敗だ。」

 ハッサンは仰向けになったまま、リベラにホイミをかけてくれるように頼んだ。

 そして彼のおかげでHP満タンとまではいかないまでも元気を取り戻したハッサンは、炎の剣と力の盾を返した。

(この2人、カンダタよりもずっと強そうだな。心して戦わなければ。)

 彼は水の精霊との戦闘が厳しいものになることを覚悟した。

 




 というわけで、今回はDQ7に出てくる風の精霊と水の精霊が登場しました。
 僕はこの作品を書くにあたり、参考資料として他のドラクエ作品を色々調べましたが、その中で風の精霊のセリフが大ウケで、ぜひ出したいと思いました。
 でも彼女だけでは何だか物足りなかったので、水の精霊とセットで登場させることにしました。
 それにしても、ドラクエのわき役の中で、バーバラのさらに上をいくキャラがいたとは…。


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Quest.27 精霊との勝負(後編)

 異世界からやってきた風の精霊と戦ったハッサンは、持久戦の末に勝負に負けてしまった。

 そして次はリベラと水の精霊が勝負をすることになった。

「リベラさん、よろしくお願いします。」

 彼女は風の精霊とは打って変わって、非常にしっかりとした性格で、礼儀正しくおじきをしてきた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 リベラもつられるようにおじきをすると、勝負がいよいよ始まった。

 

 最初に攻撃してきたのは水の精霊で、彼女の通常攻撃をリベラは力の盾で防いだ。

 次にリベラは炎の剣を道具使用して、彼女にダメージを与えた。

(よし、イオラの威力まであと少しだ。)

 確かな手ごたえを感じた彼は、今度はラミアスの剣を道具使用し、バイキルトを発動させた。

 するとそれを見るなり、水の精霊は凍てつく波動を発動させてきたため、せっかく上げた攻撃力が元に戻ってしまった。

「これは計算外だった。どうしよう…。」

 リベラはとっさに作戦を変更することにした。

 すると今度は水の精霊がマヒャドを唱えてきた。

「わあああっ!」

 強烈な吹雪を目の当たりにした彼は、とっさに炎の剣を道具使用した。

 今度はイオラそのものが発動し、マヒャドの威力をある程度打ち消してくれたが、それでもある程度のダメージを受けてしまった。

(マヒャドとイオラではこっちが不利だな。こうなったらハッサンのように力の盾で回復をしながら、隙を見て攻撃になりそうだな。でも、その前に…。)

 リベラはもう一度ラミアスの剣を道具使用してバイキルトをかけてみた。

 しかしやはり即座に凍てつく波動を使用されてしまい、また攻撃力を元に戻されてしまった。

 もはやバイキルトが役に立たないことを悟った彼は、試しにルカニを唱えてみたが、効果は全くなかった。

 すると水の精霊は隙ありと言わんばかりに特技を駆使してきた。

 先程のマヒャドに加えてダメージがさらに蓄積してきたリベラは、力の盾でHPを回復させた。

 一方の彼女もお付き合いとばかりに安らぎの歌を歌い、HPを回復させた。

 

 両者の勝負は通常攻撃での応戦、特技vs.ライデイン、マヒャドvs.イオラ、安らぎの歌vs.ベホイミという形になった。

 お互いダメージを受けるたびに回復という形だったために、どちらも決定打に欠けてしまい、先程と同様に持久戦になりつつあった。

(しかし、力の盾のベホイミでは回復が足りないな。せめてベホマを使えたら…。)

 彼が厳しい表情を浮かべていると、水の精霊はマヒャドを唱えてきた。

 すかさずイオラを発動させて威力を打ち消そうとしたが、判断が一瞬遅かったため、攻撃をまともに受けてしまった。

(ぐわっ!しまった!)

 刺すような痛みに襲われたリベラはとっさに力の盾を使い、HPを回復させた。

 だが、水の精霊はベホイミを上回るダメージを与えてきた。

(まずい!このままでは押し切られてしまう!また回復だ。でもベホイミじゃ物足りない。こうなったらバーバラ!僕に力を貸してくれ!)

 リベラは足でホイミやベホイミを吹き込んでくれた時の彼女を思い浮かべながら、祈るような気持ちで力の盾を天にかざした。

 するとその願いが通じたのか、HPが一気に最大値にまで回復した。

(えっ!?どうして!?)

 思いもよらないことが起こり、彼は思わずビックリだった。

「何と!あなたは力の盾でベホマを使えるのですか?」

 この光景は水の精霊にとっても意外だったようで、彼女も驚いていた。

(そうか。バーバラ、君なんだね。君が僕に力を貸してくれたんだね。ありがとう。)

 彼女に助けてもらう形になったリベラは気持ちの面でも勢いがつき、次のターンで会心の一撃と追加攻撃を叩き込んだ。

「くっ!あなたがベホマを使う以上、形勢は逆転したようですね。」

 一旦は優勢に立っていた水の精霊の表情は、一気に険しいものに変わった。

 彼女は間合いを取ると、切り札とばかりにマヒャドを唱えてきた。

 リベラはとっさに力の盾で身を守り、受けるダメージを軽減した。

 そしてお返しとばかりにライデインを唱えてヒットさせた。

 段々不利な状況になってきた水の精霊は、安らぎの歌でHPを回復させた。

 すると、リベラがその隙をついてバイキルトを発動させたため、水の精霊はすかさず凍てつく波動を使用した。

 だが、リベラは攻撃力が元に戻るよりも一瞬早く、彼女に強烈な通常攻撃と追加攻撃を叩き込んだ。

 かなりのダメージを受けた水の精霊だったが、未だダウンには至らなかった。

 しかもリベラの攻撃力が元に戻ってしまったため、せっかくの切り札がご破算になってしまった。

(この精霊、HPはかなりあるんだな。一体どれだけダメージを与えれば勝てるんだ?)

 彼は果たして勝てるのだろうかという気持ちを抱えながら、通常攻撃と追加攻撃を叩き込んだ。

 だが、彼女はHPが十分残っているようで、まだまだピンピンしていた。

(これじゃラチが開かない。かくなる上は父さん、母さん。どうかラミアスの剣を武器として使わせてください!)

 覚悟を決めたリベラは鞘を外し、剣を構えた。

「なるほど。あなたはついに本気を出したわけですね。」

「はい。両親からの忠告を破ってしまうことになりますが、勝負である以上、勝たなければいけませんから。」

「そうですか。ではその実力を見せてもらいましょう。」

 2人は短い会話を交わした後、勝負を再開した。

 すると、攻撃力が大幅に上がったリベラの与えるダメージが上昇し、水の精霊をどんどん追い詰めていった。

 彼女は安らぎの歌でHPを回復させたが、それでも受けるダメージは到底追い付かなかった。

 そしてマヒャドを唱えてもリベラは事前にバーバラが唱えてくれた呪文をつぎ込む形で力の盾を使い、ダメージを完全にリセット出来るようになったため、もはや水の精霊に打つ手はなかった。

「どうやらこの勝負、私の負けですね。降参します。」

 それまで戦う姿勢を見せていた彼女の表情は、一転して穏やかなものになった。

「じゃあ、僕の勝ちということでいいんですね?」

「はい。私が人間に負けるなんて思いもしませんでしたが、あなたは強いですね。力の盾でベホマを使えるなんて、初めて見ました。」

「いえ。僕はただ、バーバラに力を貸してくれってお願いをしながら使ったら、結果的にこういう形になったんです。それに、彼女の呪文も使い切ってしまいましたから、これ以上のベホマは無理でした。」

「バーバラとはどなたですか?」

 水の精霊が質問をすると、ハッサンが「こいつのガールフレンドだぜ。」と言いながら、間に入り込んできた。

「ちょ、ちょっと!ハッサン!」

「別に隠すこともねえじゃねえか。」

 ハッサンはそう言うと、水の精霊と風の精霊にバーバラのことを話し始めた。

 そしてそれに続く形で、リベラは彼女と2度と会えない別れを覚悟したこと。彼女が代償を背負ってまで自分に会いに来てくれたこと。カンダタの呼び出した爆弾岩のメガンテを阻止してくれたのと引き換えに、ボロボロの体になってしまい、それ以降、ケガに苦しめられていること。

 そして今のままではどんなに両想いの関係になっても、いずれ別れなければならないことを打ち明けた。

「そうですか。私と風の精霊を呼び出したカンダタは、あなたにとっては因縁の相手だったのですね。」

「はい。僕、今でも悔やんでいるんです。彼女を守ると言ったのに、守ってあげられずにボロボロの体にさせてしまったことを。」

 さらに彼は代償から解放させると言ったのに、未だその手掛かりすら見つけられず、命の木の実で一時的に最大HPを増やすしか手立てがないこと。

 そしてその命の木の実も段々手に入りにくくなってきているために、徐々にHPが減っていることを打ち明けた。

「それなら私にいい考えがあります。」

「何ですか?」

 リベラが問いかけると、水の精霊は自分達の世界に超・命の木の実があることを打ち明けた。

「それは、食べると最大HPがかなり上がるんでしょうか?」

「かなりと言えるのかは分かりませんが、少なくとも命の木の実より上昇幅は大きいはずです。とはいえ、勝負に負けた以上、私は元の世界に帰らないといけませんから、風の精霊に持ってきてもらおうと思います。よろしいですか?」

「ええっ?マジ?アタシ、面倒くさいことイヤ!」

 風の精霊はふくれっ面をしながら依頼を断った。

「そんなこと言わずに、引き受けてくれよ。リベラの大切なガールフレンドなんだぜ。」

「あんたのようなモヒカンゴリマッチョに指図されるのもイヤ!」

「何だとおい!頭にきたぜ!もう一度勝負するか?」

「それもイヤ!アタシ、忙しいんだから!」

 結局ハッサンが何を言っても、彼女の気持ちは変わらなかった。

 こんな態度を見せつけられ、リベラ、ハッサン、水の精霊がどうすればいいのか分からずにいると、ふと空からテリーがやってきた。

「リベラ、ハッサン。こんなところにいたのか。ところで、その女2人は誰だ?」

リベラ「この2人は風の精霊と水の精霊。今僕達2人で1対1の勝負をしていたんだ。」

「そうか。お前達も精霊と勝負をしていたんだな。」

ハッサン「ってことはお前も勝負をしていたのか?」

「ああ。俺、チャモロ、スミス、ホイミン対炎の精霊、大地の精霊という4対2の形でな。」

リベラ「それで、結果はどうだったの?」

「結構強敵だったが、どうにか勝ったぜ。俺は炎の精霊の攻撃をドラゴンシールドで軽減しながらルカニを唱えて守備力を下げ、最大級の攻撃を打ちまくったし、スミスはまどろみの剣で相手を眠らせた後、大地の精霊に変身して会心の一撃を打ちまくってな。そしてチャモロとホイミンはほぼ回復専門だ。」

 テリーはその勝負の後、彼らがまだ精霊が2人いることを告げたうえで、元の世界に戻っていったことを話してくれた。

「そうか。こちらは1勝1敗の状態なんだ。」

 リベラは自分が水の精霊に勝ち、ハッサンが風の精霊に敗れたことを話した。

「ハッサンがこんな女に負けるとは意外だったな。無駄行動の一つや二つでもしたのか?」

「うっ…、そ、それは…。」

「図星だな。女だからって手加減するからこうなるんだ。」

「手加減はしてねえ!ただ、こいつは強いぞ!一瞬死ぬかと思ったくらいだ。リベラだって勝ったとはいえ、途中までは劣勢だったんだぞ!」

「そうか。だが、まだこの水着姿の女が残っているわけだから、俺が片づけてやらねばな。」

 テリーは風の精霊をキッとにらみつけた。

 すると彼女は「キャーーッ!アンタ、ハンサムね!カッコイイッ!ねえねえ、名前何てゆーの?」と、興味津々に聞いてきた。

「な、何だ?いきなり。俺はテリーだが…。」

「テリー君っていうんだ。ねえねえ、勝負するより、アタシと付き合わない?アンタ、イイ男5年分、いや10年分の価値はあるわ!」

「何なんだ、コイツ…。」

 あまりにも意外な展開になったことで、テリーは動揺を隠せず、さらにリベラとハッサンはあっけにとられていた。

 そんな中、水の精霊はこんな彼女にうんざりしているのか、「やれやれ、また始まりましたね…。」と言うと、手を頭に当てながらため息をついた。

「とにかく勝負なんかもうどうでもいいわ。アタシ、今日からあんなムサい覆面ゴリマッチョじゃなくて、テリー君に仕えることにするわ!アタシを仲間に入れてくれる?」

 風の精霊の言っていることは本気で、テリーに積極的にアプローチをかけながら、風のアミュレットを差し出してきた。

「これをアンタにあげるわね。これを使うと、アタシを呼び出すことが出来るから。」

「おいおい、強引過ぎるんだがな…。」

 テリーが受け取るのをためらっていると、リベラは風の精霊に超・命の木の実を持ってきてほしいという理由で、彼に協力を要請した。

「頼む、テリー。バーバラのためでもあるんだ。」

「そうか…。まあ、俺も最近命の木の実がなかなか手に入らなくて悩んでいたんだ。彼女の日々の生活がかかっていることだし、引き受けてやるよ。」

 テリーは渋々ながら、リベラの願いを聞いてくれた。

「キャーーーッ!アタシうれしいっ!じゃあ、はい、これっ!」

 風の精霊は否応なしに風のアミュレットをテリーに手渡した。

「受け取っちまったな…。まあ、これで精霊とこれ以上戦わなくて済んだわけだし、バーバラのために協力してくれる人…っていうか、精霊があらわれたわけだからな。ヨシとしておこう。」

「それじゃ、アタシは一旦自分の世界に帰るわね。そしてバーバラっていう女の子のために役に立つアイテムを用意しておくからね。バーーイ!」

 風の精霊は最後までノリノリの口調でアミュレットの中に入り込んでいった。

「とにかく彼女はあんな性格なんです。苦労も色々すると思いますが、よろしくお願いします。それでは、私もこれで失礼します。」

 水の精霊はそう言い残すと、自分の世界に戻っていった。

リベラ「色々あったけれど、新しい仲間が加わった形になったね。」

ハッサン「勝負は厳しかったが、仲間になってくれれば百人力だな。」

テリー「まあ、俺としては仲間にするつもりはないが、でも危なくなったら切り札にはなりそうだな。」

「じゃあ、戦力として考えているわけだな。良かったじゃねえか。お前はほとんど男ばっかりのパーティーで行動していたから、女性キャラも欲しいだろうしな。」

「何だそれは!」

 テリーはハッサンにツッコミを入れながらも、心の中では女性の協力者が加わったことを喜んでいた。

 



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Quest.28 難民となったモンスター達

 この日、グランマーズはバーバラが持ってきた超・キメラの翼を鑑定し、完全な形にするために必要なアイテムを占った。

 そしてそのアイテムを特定し、それがある場所を突き止めたため、マーズの館に集まったリベラ、ハッサン、ミレーユ、バーバラの4人に伝えた。

「そういうわけじゃ。このアイテムがそろえば超・キメラの翼の完全版が出来上がる。こうなればバーバラは失敗を恐れることなく、夢の世界に帰れるようになる。じゃからお前さん達、取ってきてはくれんかのう。」

リベラ「かしこまりました。」

ハッサン「頑張って手に入れてくるぜ。」

 彼らが気合を入れる中で、左手の握力がほとんどないバーバラはミレーユから止められてしまった。

「あたし、やっぱり役に立てないんだ…。」

「そんな意味じゃないわ。あなたはこれまで十分過ぎるほどに頑張ってきたから、ちょっとブレーキをかけるべき時だと思っているのよ。」

「でも、それじゃあたしは…。」

 バーバラは右手であまり自由のきかない左腕をさすりながら、悔しそうにうつむいた。

 現に彼女はこれまでの治療のおかげで右手は日常生活にほとんど支障が無くなったものの、もしその手で通常攻撃をしたり、呪文を唱えたりすればいつ故障が発生してもおかしくない状態だった。

 そのため、戦力になるには足で呪文を唱えるしか術がなかった。

 その足での呪文もベギラゴンとベホマを差し引いて考えなければならない上に、威力もまだ多少弱かった。

 そして、もしマホトーンにかかったら何の役にも立たなくなってしまうことも不安材料だった。

 結局彼女は他の3人と一緒に行動するわけにはいかなかったが、せめて少しでも役に立つために、力の盾にベホイミを唱え、回復量を満タンにしてくれた。

「それからね、あたしの持っている氷のやいば、ハッサンに渡すわね。」

「えっ?いいのかよ!お前の大切な武器だろ!」

ミレーユ「それに、ターニアも使っているでしょう。」

「まあ、そうなんだけれど、彼女はアークボルトの兵士達へのホイミタンクの役割が評価されて、ブラストさんから破邪の剣を渡されたの。そしてそれをサリイさんのところに持っていって、鍛え直してもらっているから、丸腰にはならないわ。それに、みんなの武器を見た限り、炎系のものが多いから、氷系もないと不利でしょ?」

「確かにそうだな。それに、俺は複数の敵を攻撃する時の手段に乏しかったからな。リベラは炎の剣の道具使用でイオラが出せる一方、俺はイオしか出せねえしな。」

ミレーユ「あら、ハッサンはセリーナさんからまわし蹴りを教えてもらったはずでは?」

「確かに教えてもらったが、どうも彼女の様にはうまくいかなくてな。最初の一匹しかまともなダメージにならねえんだ。だから言っちゃ悪いが、心の中ではマジで氷のやいばを欲しがっていたんだ。攻撃力も炎のツメより上がるしよ。」

「じゃあ、なおさらちょうど良かったわ。はいこれ。」

 バーバラが右手でそっと氷のやいばを差し出すと、ハッサンはそれを受け取った。

「すまないな。そして、ありがとう。お前の分まで頑張るからよ。そして、代わりにこれをやるよ。」

 彼は炎のツメを差し出した。

「でもあたし、こんなの持っていたって…。」

「持っていればきっと安心材料になるさ。」

ミレーユ「確かに丸腰じゃなくなるから、絶対に気持ちの面で変化が出るわよ。」

リベラ「それに、左腕が治ればきっと道具使用でメラミが打てるようになるよ。」

 3人はバーバラにやさしい言葉をかけて説得した。

 それを受けて、彼女は最終的に受け取ってくれた。

「じゃあ、頑張ってね。あたしも応援しているから。」

「うん。君のために頑張るよ。たとえ離れ離れになっても、心はいつも一緒だからね。忘れないで。君はいつでも僕らの大切な仲間だからね。」

 リベラは彼女のところに歩み寄ると、自分の右手でそっとバーバラの右手をつないだ。

「俺もこの命を救ってくれたお前のために頑張るぜ。あの日以来、当たり前のように生きていられることのありがたみは、1日として忘れたことはねえからよ。」

「それに、あなたはもう十分過ぎるほど苦労をしてきたわ。だから、これからはその苦労を私達にも分けて欲しいの。あなたばかりに背負わせたりはしないわ。」

 ハッサンとミレーユも歩み寄ってくると、右手をその上に乗せた。

「みんな、ありがとう…。」

 バーバラは涙が出そうになるのをこらえながら、3人を見つめた。

 そして彼らが手を離した後、マーズの館を後にしていく後ろ姿を優しく見守った。

 

 3人が洞くつの近くまでやってくると、入口にはようじゅつしが2人おり、リベラ達を見るなり「通りたければ倒してから行け。」と言わんばかりに身構えてきた。

「これは戦闘になりそうだね。」

「だろうな。出来ればこのまま走って突破したいけれどな。」

 リベラとハッサンの嫌な予感は見事に的中し、彼らは先制攻撃とばかりにそろってバイキルトを唱えてきた。

「これは危ない!何とかしなければ!」

 リベラはこちらも応戦しようとラミアスの剣を道具使用した。

 するとなぜか発動したのは凍てつく波動だった。

「えっ?何で?僕、バイキルトを発動させるつもりだったのに!」

 思わぬ効果に彼はビックリだったが、相手のバイキルトを解除してくれたため、結果オーライという形になった。

 続いてミレーユは通常攻撃でようじゅつしAにヒット。Aは反撃とばかりにミレーユに通常攻撃をしてきたが、身かわしの服の効果もあって回避した。

 ようじゅつしBはぬけがらへいを呼び出したが、ハッサンが一瞬遅れてはやぶさぎりでBを攻撃し、1ターンで降参させることに成功した。

 リベラは試しにもう一度ラミアスの剣を道具使用し、今度は自分にバイキルトがかかった。

 しかしハッサンが通常攻撃と追加攻撃でAをダウンさせ、続けざまにミレーユが炎のツメで放ったメラミでぬけがらへいをダウンさせたため、結果的にリベラの行為は無駄行動になってしまった。

 戦闘終了後、リベラはなぜラミアスの剣で突然凍てつく波動が発動したのかを考えだした。

 他の2人も同じ疑問を持っており、彼に質問をしてきた。

「どうしてって言われてもなあ…。心当たりと言えば、水の精霊が凍てつく波動を使ってきたことしか考えられないけれど…。」

ミレーユ「それならそのラミアスの剣は一度特殊攻撃を受けることで、次回からそれが発動するようになるということなのかもしれないわね。」

「あっ、そうか。じゃあ、これからは2通りの使い方が出来そうだね。」

ハッサン「それによ、今から敵を召喚している奴らと戦うことになりそうだから、新たな手段が加われば益々心強いな。」

「うん。きっと役に立つだろうね。」

 3人は会話をしながら洞くつに入っていった。

 

 内部では特にザコ敵との戦闘はなく、彼らはスイスイと奥まで進んでいった。

 そしてグランマーズに指示された場所のところまでやってくると、そこにはモンスターの集団がいた。

 その中には大人の男性に加えて、女性や子供達もいた。

 リベラ達は戦闘になった時に備え、とっさに身構えた。

 一方の彼らもリベラ達がやってきたのに気が付くと、どうするか相談を始めた。

 その結果、その中の誰かが持っているアイテムでランプのまじん3人を召喚してきた。

ハッサン「げっ!よりによってこんなタフな奴らを!」

ミレーユ「これは一気にダメージを与えなければいけないわね。」

 そんな中、リベラは短いターンで勝てるように攻撃パターンを指示した。

 戦闘になるとミレーユはベギラマで、リベラはライデインで全員にダメージを与えた。

 ランプのまじんはAが通常攻撃、Bがかまいたちを使い、それぞれリベラとハッサンにダメージを与えた。

 次にハッサンは氷のやいばでヒャダルコを発動させ、やはり全員にダメージを与えた。

 ランプのまじんCはバギマを唱え、全員にダメージを与えた。

「ミレーユ、あれを!」

 リベラはターンの合間に彼女に合図を送った。

「分かったわ。」

 彼女はリベラの思惑を了解した。

(バーバラ、ここで切り札を使わせてもらうわ。あなたの思いを乗せて唱えるからね!)

 ミレーユは彼女が破邪の剣に呪文を唱えて左腕を痛めた時や、治療のために薬を塗ったり、包帯を巻いている時を思い浮かべながら、力を込めて破邪の剣を振りかざした。

「ベギラゴン!」

 彼女がそう叫ぶと強力な炎が飛び出し、大ダメージを与えた。

 ランプのまじんAはバギマで全員にダメージを与えてきたが、直後にリベラがライデインを唱え、一気に全員を召喚アイテムに送り返すことに成功した。

「リベラの作戦が見事に当たったわね。」

 ミレーユはほっとしながら全員にベホイミをかけて傷をいやした。

 

 戦闘後、3人は仁王立ちするようにモンスター達の前に立ち、どのような意図でこのようなことをしたのかを問いただした。

 すると、女性の大人モンスターが前に出てきて、自分達の身を守るためにようじゅつしとランプのまじんを呼び出したことを謝罪した。

 そして、彼女は自分達の世界では争いが絶えず、この世界が平和であることを知ったため、カンダタ一族から召喚アイテムを渡され、これを使って逃げてきた難民であることを打ち明けた。

「そっちにも事情があることは分かったぜ。だがな、この洞くつにやってきた俺達を見て、いきなりモンスターを呼び出すのは納得いかねえぞ!」

「しかもここ最近、異世界からやってきたモンスター達が平和を乱すような行為をするから、こちらは迷惑をしているんですよ!お願いですから自分の世界に帰ってもらえませんか!?」

 相手の気持ちを考慮しても、ハッサンとリベラの怒りはおさまらなかった。

 一方、相手のモンスター達は帰れば命の危険を感じながら過ごさなければならないこと。お金も食べ物もなく、子供達を養えないことを話した。

 さらに別の男性は、どうか悪いモンスター達ばかりではないことを理解してほしいことをお願いした。

 一方、リベラはすでにレイドック城やアークボルトの兵士達があちこちで異世界からやってきたモンスターと戦っていること。自分達もすでにカンダタ一味や精霊達と戦ってきたことを話した。

 それに続くようにハッサンも、そのカンダタが因縁の相手になっていることを話した。

 とにかく自分の世界に帰ってほしいという一点張りの2人だったが、ミレーユはテリーがデュランの子供達を見て助けたこと、そして自分自身が『いざという時にはたとえ敵対する立場であっても私はベホイムを唱えてあげたいと思っているわ。』と言っていた時のことを思い出した。

 そして月鏡の塔ですでに定住しているモンスター達と一緒に過ごしてはどうかと提案をした。

「本当ですか?住む場所を提供してくれるのですね?」

「私達だって、むやみに戦いはしたくありません。」

「平和に過ごせるのであれば、それが一番うれしいです。」

「お兄ちゃん、そしてお姉ちゃん。パパ達のせいで、戦闘になってごめんね。」

 モンスター達はミレーユのやさしさに感謝をしていた。

 しかしその一方で、リベラとハッサンはその優しさがあだになってしまわないかを危惧していた。

「もうこのアイテムでモンスターの召喚はしません。信じてください。」

「お詫びに、このアイテムを差し上げます。どうか命だけはお助けを!」

 男性に続いて女性のモンスターはそう言うと、モンスターを召喚したアイテムをリベラ達に差し出してきた。

「ママ。それがないと、あたし達、元の世界に帰れなくなっちゃうわよ。」

「むしろ、帰らない方が幸せです。これからはこの世界で生きていきましょう。」

「でも、生まれ育った世界が…。」

「私はあなた達を死なせたくはありません。何とかして生き延びていきましょう。」

 モンスターの母親は我が子を懸命に説得していた。

「ではお言葉に甘えて、受け取ることにします。実は私のおばあちゃんがそのアイテムを必要としていますから。」

 ミレーユはその女性のところまでやってくると、そのアイテムを受け取った。

 そんな中で、リベラとハッサンはモンスター達が不意打ちをしてくるのではないかと思い、身構えていたが、それは杞憂だった。

 そして、ミレーユがテリーとデュナン、デュアナとの出会いのエピソードを話すと、やがて双方に和解のような雰囲気が芽生えていき、警戒は次第に解けていった。

 彼らが月鏡の塔に行くことが決まると、みんなで洞くつの外に出ていき、ルーラで現地へと飛んでいった。

 

 塔の中ではスミスやホイミンをはじめ、すでに何人もの仲間モンスター達が定住しており、リベラ達は洞くつで出会ったモンスター達と対面させた。

 そして住むためのスペースがあるか、食料を確保出来そうか、これから彼らと一緒に過ごしていけそうかを話し合った。

 リーダー格であるスミスは、最初こそ難色を示していたが、ホイミンや他のモンスター達に説得される形で許可を出し、最終的に難民となったモンスターを受け入れてくれた。

 一行が安どの表情を浮かべながら喜ぶ姿を見てリベラ達も安心し、これからはこの塔で平和に、そして幸せに過ごしてくれるようにお願いした。

「ありがとうございます。この恩は忘れません。」

「必ず平和に暮らすことを約束します。」

「お兄ちゃん、そしてお姉ちゃん、ありがとう!」

 大人から子供のモンスターまで感謝され、リベラ達はうれしさを噛みしめながらマーズの館に帰っていった。

 

「おばあちゃん。はい、これ。」

「ご苦労じゃったの。」

 グランマーズはミレーユが差し出したアイテムを受け取った。

(※バーバラは館にやってきたターニアに治療をしてもらうためにライフコッドに戻っていたため、不在でした。)

ハッサン「ばあさん、これでバーバラが100%確実に夢の世界に帰れるようになるんだよな?」

「完成すればそうなるのう。」

「あの、その時に…、もし僕がバーバラと一緒に超・キメラの翼を使えば、僕も夢の世界に行けるんですよね?」

 リベラは以前から気になっていたことを思い切って打ち明けてみた。

「まあ、そうなるじゃろう。もしお前さんがこの世界を捨てて、夢の世界の住人として生きる覚悟があれば、ひとまずバーバラと別れを気にせずに過ごすことは可能になるぞい。」

「本当ですか?」

「うむ。ただし、以前も言ったことじゃが、彼女を人生のパートナーにすることは出来んぞい。」

「そうなんですか…。」

 グランマーズの忠告に、リベラは素直に喜べずにいた。

(でも、思えばミレーユが水晶玉でバーバラを映し出してくれる前は、2度と彼女の姿すら見られないことを覚悟していたわけだし、あの時と比べれば十分過ぎるほど幸せな状況になったんだ。とにかく今はこの状況を前向きに考えよう。)

 彼は懸命に自分を励ましながらレイドック城に帰っていった。

 



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Quest.29 復帰要請

 月鏡の塔に異世界からやってきた難民モンスター達が住むようになると、スミスとホイミンは積極的に彼らの世話をするようになった。

 それはテリーやミレーユの耳にも伝わり、塔を訪れた彼らは食料の差し入れをしたり、農作業用の道具を渡したりするようになった。

 テリーは現地でミレーユに鉢合わせした際、風の精霊が持ってきてくれた超・命の木の実3個を彼女に手渡した。

「ありがとう。この仕事が終わったら早速バーバラに手渡すことにするわ。」

「まあ、俺としては当然のことをしたまでだがな。」

 テリーはぶっきらぼうな言い方をしながらも、姉の笑顔を見て満足そうな表情をしていた。

 

 彼らは用事を済ませた後、一緒に塔から出てきた。

 そしてミレーユは、破邪の剣にベギラゴンを入れてもらえるようにお願いした。

「なるほど。姉さんの頼みなら断る理由もないしな。」

「ありがとう。実は以前、私がバーバラにお願いして唱えてもらったけれど、引き換えに彼女が左腕を痛めてしまって…。」

「それで俺に依頼したというわけか。」

「ええ。彼女以外ではあなたしか唱えられる人がいないから。」

「分かった。じゃあ、早速やってやるよ。」

 テリーがベギラゴンを唱えると、炎が剣に吸い込まれていった。

 しかし一部の炎が飛び出してきてしまい、テリーはわずかではあるがダメージを受けてしまった。

「危ねえな、おい!」

「あっ!ごめんなさい。私のせいで…。」

 少しとはいえ、他人に迷惑をかける結果になってしまい、ミレーユは平謝りだった。

「まあ、ちょっと威力は下がるかもしれんが、またベギラゴンが打てるようになったわけだな。」

「でもはね返されるのは意外だったわね。これでは使った後にあなたに頼むわけには…。」

 彼女は今度こそあと一発しかベギラゴンが打てなくなってしまうことを覚悟した。

「じゃあ、いざとなったら俺のらいめいの剣を渡すことにする。これなら攻撃力も相当高い上に、道具使用の効果がライデインだからな。」

「本当にいいの?」

「ああ。きせきの剣も攻撃力が高いし、たとえらいめいの剣のライデインが使えなくても、俺にはイオラやベギラゴンがあるし、特技も色々あるからな。」

 テリーはそう言いながらキザな笑みを浮かべた。

 

 その後、2人は草原を歩きながらそれぞれの近況について話した。

「そうか。姉さんはターニアやリベラの母親と協力しながらはバーバラの治療に励んでいるのか。」

「ええ。私がベギラゴンを使いたいと言ったせいで、彼女を痛い目にあわせてしまったから…。」

 ミレーユがそのことで自責の念を持っていることは、テリーにも理解出来た。

「そしてリベラとハッサンは難民達が呼び出したモンスターとの戦闘後は、パーティーとしての活動を一時休止し、出来る限り彼女と一緒にいるというわけか。」

「そうよ。バーバラはようやく包帯が取れて、左手をグーにすることが出来るようになったばかりだし、もし戦闘に参加したら右手にもいつ故障が発生するか分からない状態なの。それに時々命の宝玉を見ては『時が過ぎるのが怖いよお…。』と言って、すごく落ち込んでしまうことがあるから、2人は彼女の心のケアをしてあげているの。」

「体も心もそんな状態では、彼女は到底戦力にはならんな。」

「テリー!そんな言い方しなくったっていいじゃない!」

「まあ、本当のことだからな。それにチャモロも攻撃面で力不足だし、スミスは月鏡の塔にやってきた難民のモンスターの世話に追われて、パーティー離脱状態だからな。」

「そう…。でも、もう少しみんなのことを配慮してあげてね。みんなそれぞれ苦労をしているの。」

「だが、敵意を持ったモンスター達にとってはそんなことなどお構いなしだからな。」

「……。」

 彼の厳しい意見に、ミレーユはそれ以上何も言えなくなってしまった。

 一方、テリーは異世界からやってきたモンスターとの戦闘を通じて、新たなメンバーがいないと先が厳しくなることを予感していた。

「それで、俺はこれからドランゴのところに行って声をかけてみようと思っている。」

「えっ?でも、彼女は子供の世話で引退したはずでは?」

「確かにそうなんだが、デュランの子である2人が今異世界に行っていてな。今なら彼女に復帰してもらえると思っている。」

 テリーはそれに至る経緯をミレーユに話した。

 

風の精霊『ねえねえ、チャモロ君が持っている武器って、グラコスの槍でしょ?』

『ああ、そうだが、それがどうしたんだ?』

『実はね、アタシの世界にグラコスがいるのよ。』

『そのグラコスって、魚みたいな姿をしたモンスターのことか?』

『あったりーーっ!』

 彼女の話によると、その姿はミレーユ達が海底で戦ったグラコスと全くと言っていいほど同じものだった。

『ということは、彼はアンタのお姉さん達と戦った後、アタシ達の世界に飛ばされてきたのね。』

『そうだといいが、それだけでは本人かどうかは分からん。確かめに行ければいいけれどな。』

 テリーの発言を受けて風の精霊は自分がその世界に行き、本人かどうかを確かめに行くことを伝えた。

『それはありがたい。では彼に会ったら、デュランやジャミラス達とともに、デスタムーアの四天王と呼ばれていたことを伝えて、本人かどうかを確認してほしい。まあ、記憶を無くしているかもしれんがな。』

 そう言うと、ふと彼の脳裏に(もしグラコス本人がいるのなら、デュランもその世界にいるかもしれない。)ということが浮かんだ。

 そして風の精霊と一緒に旅人の洞くつに行き、デュナン、デュアナ、ドランゴにそのことを伝えた。

『テリーお兄ちゃん!父ちゃんはそっちの世界で生きているってこと?』

『そうかもしれん。だが、そればかりは行って確かめるしかないだろうな。』

『じゃあ、あたし達、その世界に行く!行って、パパを探し出してみせる!』

『僕も行くよ!行かなきゃ絶対に会えないんだから!』

 デュナンとデュアナは風の精霊と一緒に異世界に行く気満々だった。

『でも…、2人…行く…。私と別れる…。』

 ドランゴは彼らを実の子であるドラグーン同様に面倒を見ていただけに、寂しそうな表情を浮かべた。

『ドランゴ母ちゃん、心配しないで。』

『あたし達、パパを連れてまた戻ってくるから。』

 2人は明るい表情で声をかけた。

 それを受けて、ドランゴも気持ちが前向きになった。

『分かった…。じゃあ…、精霊さん…。この子達…、世話…よろしく…、ギルルルン…。』

 彼女は風の精霊に、幼い子供達の世話を依頼した。

『オッケーイ!ドラゴンちゃん、アタシにまかせて!』

『私…、名前…ドランゴ…。』

『あっ、ごめんねえ。』

 

「そして2人は異世界へと旅立っていったよ。その後、俺はドランゴにパーティーメンバーに復帰してもらえるように説得したんだ。」

「それで、復帰してもらえることになったの?」

「正直、かなり難色を示していたよ。デュナンとデュアナが旅立っていったとはいえ、まだドラグーンがいるからな。」

「そうでしょうね。子供を残していくのはちょっと難しい決断になるでしょうね。」

「それに、ずっと戦っていないから能力が落ちているかもしれないとも言われたよ。」

「じゃあ、結局断られたの?」

「正直、迷っているようだ。まあ、俺としてはドラグーンを一緒に連れて歩くか、アークボルトに預けるかという提案をしてみた。もし一緒に来るのであれば、俺は責任もってそいつを守るつもりだ。とにかく、俺は彼女に復帰して欲しい。ブランクがあるとはいえ素手でも戦える力は持っているし、激しい炎を使えば毎ターン確定でライデインに近い攻撃が出来るからな。」

 テリーの気持ちは本物だった。

 現にチャモロはグラコスの槍を持ってしても攻撃力はテリーやアモス、リベラ、ハッサンには到底太刀打ち出来ず、呪文も頼みの綱がバギマというありさまだった。

(※ゲームではチャモロがレベルアップでザキを覚えますが、作中では除外しています。理由は安易に生死にかかわることを書きたくないという、僕自身の思いからです。)

 そのため、ホイミンが持っている毒蛾のナイフを彼に渡し、確率で敵をしびれさせる方がいいと判断した。

 そして普段は回復要員としてベホイミやベホマを唱えてもらうことになった。

「というわけで、攻撃要員としては俺に加えてアモッさんとドランゴ。そして回復要因としてはホイミンとチャモロを考えている。それに、チャモロが回復役に専念してくれれば、ホイミンを姉さん達のパーティーに回すことも出来るからな。」

「そうなったら心強いわね。私もバーバラもベホマが使えないから。」

「バーバラは以前唱えていたじゃないか。」

「以前はね。でも、マダンテ以降、唱えられなくなってしまったの。」

「そうか。じゃあ、ホイミンは姉さん達のパーティーに加わってもらうことにするぜ。」

「それは助かるわ。でも、いいの?」

「俺もベホマが唱えられるし、チャモロのゲントの杖をアモッさんやドランゴに渡せば彼らも回復役になれるから、心配するな。」

「そう…。ありがとう。」

 テリーとミレーユはお互いの意見を交わした後、ルーラで移動していった。

 

 その頃、リベラ、ハッサン、バーバラの3人はアークボルトで兵士のホイミタンクをしているターニアに会った後、徒歩で旅人の洞くつの近くにやってきた。

 するとそこにはドラグーンを連れたドランゴがいた。

 彼女はパーティーメンバーとして一緒に戦った時の面影は見られず、純粋に母親としての顔をしていた。

 そしてデュナンとデュアナが父親を探しに異世界に行ったことを伝えてくれた。

リベラ「彼ら2人、お父さんに会えるといいね。」

ハッサン「そうだな。デュランはぜひ生きていてほしい存在だったからな。」

バーバラ「会えたら幸せに過ごしてほしいね。」

「そう…。私も…そう願う…、ギルルルン…。」

 3人と一匹が会話をしていると、ドランゴはテリーからパーティーメンバーに復帰して欲しいという要請を受けたことを明かした。

「でも…私…、子供いる…。この子…ドラグーン…、置いていけない…。戦い…、ずっと…離れたまま…。戦力になれるか…、それ…分からない…。」

 彼女は自分の悩みを正直に打ち明けた。

「じゃあ、僕達が面倒を見るってのはどうかな?」

「ええっ?俺達がかよ!」

「あたし達に出来るの?」

「やってみれば分かるよ。」

 リベラはそう言うとドラグーンのところに行き、「こっちにおいで。」と言い出した。

 その子は最初戸惑っていたが、ドランゴは彼らがかつて一緒に冒険をした仲間であることを伝えた。

 ドラグーンは母親の言葉を信じ、リベラのところにやってきて、彼の手の上に乗った。

 リベラは満面の笑みを浮かべながら「高い高い」のジェスチャーをした。

 一人と一匹はすぐに意気投合し、ハッサンとバーバラも段々仲良しになった。

「君達…、この子の…面倒…、よろしく…。これで…私…、テリーの…要請…、受け入れられる…、ギルルルン…。」

 彼らの姿を見てドランゴもこの3人なら子供を預けても大丈夫と判断し、パーティーメンバーに加わることを決意した。

 

 その後、テリーとミレーユが洞くつのところにやってきて、リベラ達と合流した。

 リベラ達3人はすでにドラグーンと仲良く行動していた。

 ミレーユはバーバラの姿を見ると、すぐに超・命の木の実を差し出した。

「わあっ!ありがとう!本当に持ってきてくれたのね。」

 彼女は実を受け取ると、すぐに食べ始めた。

 その光景を見ながら、ドランゴはテリーに我が子をしばらくの間リベラ達に預けることを伝えた。

「そうか。それならメンバー復帰への足かせが無くなったわけだな。じゃあドランゴ、仲間になってくれ。頼む。」

「分かった…。私…、テリーに…協力する…。」

「ありがとう。じゃあ早速アモッさんとチャモロに合流する。そして、モンスター討伐に出かけることにする。」

リベラ「えっ?今から行くの?」

「ああ。彼らの話では、モンスターがとある村の近くに出現しているようだからな。」

「じゃあ、僕も行くよ。テリー、連れていってくれ。」

「お前はバーバラのそばにいてやれ。今は戦いのことは忘れろ。お前達の話は姉さんから聞いているし、気持ちは理解しているからな。」

「そうか…。テリー、すまない。」

 リベラは彼の配慮に感謝しながらも、申し訳ない気持ちになった。

 それはハッサンとバーバラも同じだったが、ミレーユに説得される形で納得した。

「じゃあ、姉さん。そしてリベラ、ハッサン、バーバラ。今から行ってくるぜ。」

「それなら僕の炎の剣を持って行ってよ。確か、ドランゴはこの剣を装備出来るはずだよね。」

「確かに…私…、過去に…それ…使ったことある…。ギルルルン…。」

「じゃあ、ぜひ受け取ってよ。」

「ありがとう…。」

 ドランゴはお辞儀をしながらリベラから剣を受け取った。

 その後、ハッサンはプラチナシールドを、ミレーユは身かわしの服を、バーバラは炎のツメを手渡すことにした。

「わりいな、みんな。ありがたく使わせてもらうぜ。」

 テリーはそれらを受け取ると、ドランゴを連れてルーラで飛び立っていった。

 

 アモスとチャモロに会った彼は早速プラチナシールドをアモスに、身かわしの服と炎のツメをチャモロに手渡した。

アモス「ドランゴさんがいれば百人力ですね。加入させてくれてありがとうございます。」

チャモロ「それにリベラさん達も優しいですね。自分達の持ち物を惜しまず渡してくれるなんて。」

「彼らも俺達に期待しているということだ。それじゃみんな、行くぞ!」

一同「オーーーッ!」

 彼らは気合を入れてモンスター討伐に向かっていった。

 




名前の由来
ドラグーン(Dragoon)
 ドランゴの子供ということで、シンプルにこのような名前にしました。
 これまで作中にドランゴの子供が登場しながらも、名前が出てきませんでした。
 しかし書いているうちに、それでは申し訳なく思えてきたため、とりあえず仮の名前として考えていたドラグーンをそのまま採用しました。
 ちなみに性別は読者の想像にお任せします。


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Quest.30 ドランゴの実力

 テリーとドランゴは、チャモロ、アモスに合流した後、早速とある村へと向かっていった。

 するとそこにはすでに何匹ものモンスターがいた。

 ほとんどの住民はすでに外に避難していたが、中には「クワ攻撃!カマ攻撃!!」と言いながら戦っている人もいた。

 しかし彼らだけでは対応しきれず、状況は段々不利になりつつあった。

アモス「少し来るのが遅かったかもしれませんね。」

チャモロ「とにかく一刻も早く手を打たなければ。」

「戦う…今から…、ギルルルン。」

「それじゃみんな。気合を入れていくぞ!」

 テリーがみんなを鼓舞すると、住民に助太刀をする形でずしおうまるとバーサクオークと戦闘になった。

 

 先制攻撃はバーサクオークで、いきなり捨て身でアモスに大ダメージを与えた。

 それを見たチャモロはすかさず彼にベホマを唱え、HPを回復させた。

 テリーは隙が大きくなったバーサクオークに二刀流で連続攻撃を浴びせた。

 ずしおうまるは振り回しでテリーを攻撃したが、かわされてしまった。

 アモスは立ち上がるとお返しとばかりにバーサクオークを攻撃し、ダウンさせた。

 そして久しぶりに戦闘に復帰したドランゴは炎の剣で強力な通常攻撃と追加攻撃を行い、ずしおうまるに大ダメージを与えた。

 次のターンでずしおうまるは再度振り回しをしてきて、ドランゴにヒットさせた。

 しかし続けざまにテリーのせいけん突き、チャモロのメラミ(←バーバラが渡してくれた炎のツメ)、アモスの通常攻撃を受け、ドランゴが反撃をする間もなくダウンしてしまった。

チャモロ「ドランゴさん、本当にこれまで引退していた身なんですか?」

「確かに…私…引退していた…。今まで…。」

アモス「それにしては凄い攻撃力でしたけど。」

「それ…多分…体、成長したから…。私…まだ…大人…じゃない…。ギルルルン。」

テリー「おいおい、だったらお前はこれからどれだけ強くなるんだよ!」

「分からない…。」

 ドランゴの底知れぬ実力を見せつけられたテリー達は驚きを隠せなかった。

 

住民A「本当にありがとうございます。」

住民B「おかげで助かりました。」

アモス「いえいえ、無事でよかったです。」

「でもケガをしているようですね。私がベホイミを唱えてあげましょう。」

 チャモロが呪文を唱えると、あっという間に傷が治った。

「ありがとうございます。私達も戦いに参加します。」

「いや、あんた達は安全なところに避難してくれ。」

「家族…心配…している…、多分…。」

 テリーとドランゴがそう忠告をすると、住民の人達は「分かりました。では家族のところに向かいます。」と言って、走って彼らのもとに向かっていった。

 

 その後、彼らは複数のずしおうまるとバーサクオーク、そして魔王のつかいと戦闘をした。

 テリーは全体攻撃の時はライデイン、単体攻撃の時はせいけん突きやばくれつけんを使いながら攻撃をした。

 チャモロは最初のターンでメラミなどで攻撃をして、それ以降は回復に専念した。

 アモスははやぶさの剣でひたすら連続攻撃を行い、チャモロだけでは回復が追い付かない時にはゲントの杖で回復要員も兼任した。

 ドランゴは素早さが低すぎるために相手の攻撃を全くかわすことが出来ず、ほとんど確定でターンの最後に行動していたが、それでも非常に高い攻撃力と激しい炎のおかげで、単体攻撃でも全体攻撃でも大活躍をしていた。

 やがて村からモンスターを撤退させることに成功した彼らは、村人達から大歓迎を受けた。

 そしてごちそうをしてもらいながら、命の木の実などの色々なアイテムをもらった。

 

 彼らが旅人の洞くつの前に降り立つと、外ではリベラが一人でドラグーンの世話をしていた。

テリー「おっ、その子とうまくやっているようだな。」

「うん。楽しく過ごしているよ。」

「ギルルルン、それ…うれしい…。子守り…、お願い…。」

「心配しないで。すっかり自信もついたから。」

 リベラが楽しそうに答える姿を見てドランゴも安心した。

 するとミレーユが水晶玉を持った状態でやってきた。

「姉さん、帰ったぜ。」

チャモロ「無事にモンスターは討伐出来ました。」

「テリー。それにみんな、お帰りなさい。元気で何よりだわ。」

「あと、久しぶりに命の木の実を手に入れたので、届けに来ました。」

「どうもありがとう!」

 アモスが実を差し出すと、ミレーユは喜んで受け取った。

 彼女は今からリベラと交代で子守りをすること、そして他の場所にもモンスターが出没していることを伝えた。

アモス「今度はどんなモンスターですか?」

「それがね…。」

 ミレーユが水晶玉に手をかざしてそれを映し出すと、そこには異世界からやってきたと思われるモンスター達が集団で歩いていた。

テリー「確かに結構強そうな奴らだな。」

「このまま…歩く…、この先の町…、危ない…。」

アモス「もし襲われたら間違いなく町は廃墟になるでしょうね。」

チャモロ「ということは、早く手を打たなければいけませんね。」

「お願いしてもいいかしら?私はこの場を離れられないし、ハッサンは月鏡の塔でスミスやホイミン達の手伝いをしに行ったの。そしてバーバラは休みたいという理由でライフコッドに戻っていったわ。」

「分かった。姉さんがそう言うのなら俺達で行ってやるよ。」

 テリーは渋い顔をしながらも、依頼を承諾した。

 するとそこにリベラがやってきた。

「今度は僕も一緒に行かせてもらっていいかな?」

テリー「お前も行くのか?」

「まあ、あれから色々考えたんだけれど、やっぱりみんなに申し訳ない気がしたんだ。バーバラはすでにベッドに入って眠っていると思うから、今はそっとしておいてあげたいし。」

アモス「おおっ!じゃあリベラさんも一緒に来てくれるんですか!それはありがたいです。」

 こうしてリベラは炎の剣を返してもらった上でパーティーに加わることになり、ドランゴはグラコスの槍を装備することになった。

 

 彼らが現地にやってくると、あくまのきしが部下であるスターキメラ、キラーリカント、ドラゴン、だいまどうを引き連れて、町に近づいているところだった。

 リベラ達がモンスター達の前に立ちはだかると、ドラゴンとドランゴが彼らの言葉で会話を始めた。

 ドランゴは何とかして戦闘をすることなく撤退してくれるように申し出たが、あくまのきしに拒否されてしまい、4匹の部下達も彼には逆らえなかったため、結果的に1対1で戦うことになった。

「ちっ。話してダメなら戦って分からせるまでだな。」

 テリーは顔をしかめながら気合を入れ、戦いに備えた。

 

 1回戦はチャモロ対スターキメラだった。

 先制攻撃はスターキメラで、いきなり火炎の息でダメージを与えた。

 チャモロは毒蛾のナイフで攻撃をしてマヒの効果を狙ったが、その効果は期待出来なかったため、今度は炎のツメを道具使用した。

 しかしかなりの耐性を持っているのか、思ったほどのダメージにはならなかった。

(こうなったら次はバギマで攻撃ですね。)

 彼がそう考えていると、スターキメラは通常攻撃をしてきた。

 チャモロは身かわしの服の効果もあって、直撃は避けられたものの、それでも高い攻撃力が響いてある程度のダメージを受けた。

 両者はお互い火炎の息とバギマをメインに攻撃をした。

(※とはいえ、スターキメラはバギ系に弱耐性を持っているため、バギマの威力もある程度軽減されました。)

 そしてダメージが蓄積してくると、両者はお付き合いと言わんばかりにベホマを唱え、ダメージを完全にリセットさせた。

「これでは戦闘が終わりませんね。それなら!」

 チャモロが試しにマホトーンを唱えると、見事に呪文を封じ込めた。

 一方、回復が出来なくなったスターキメラは本気を出したのか、突如激しい炎を吐いてきた。

 一気にHPが減ったチャモロはすかさずベホイミでダメージをリセットさせた。

 彼はまるで勇者がりゅうおうの第二形態と戦った時のように、地道にダメージを与えながら回復を繰り返すというやり方で戦った末に、どうにか勝つことが出来た。

「良かった、勝てて…。マホトーンが無かったら確実に負けていましたね。」

 チャモロは心の底からほっとしていた。

 

 2回戦はアモス対キラーリカントだった。

 どちらも通常攻撃でダメージを与えるという肉弾戦キャラで、小細工無しの真っ向勝負になった。

 はやぶさの剣を持つアモスは常に2度攻撃が出来るため、当たればキラーリカントを上回るダメージを与えられた。

 とはいえ、時々攻撃をよけられてしまい、その度にアモスの表情に焦りの色が浮かんだ。

 どちらが早く相手のHPを削り切るかという一戦は、最終的にアモスがHPを4分の1以下に減らしながらもキラーリカントを降参させ、軍配が上がった。

 

 3回戦はドランゴ対ドラゴンという、名前が似た者同士の対決になった。

 先制攻撃はドラゴンで、通常攻撃をしてきた。

 一方のドランゴはグラコスの槍で通常攻撃を叩き込み、鋼のように固い体を誇るドラゴンにある程度ダメージを与えた。

 次のターンではお互い激しい炎を吐き、双方にダメージを与えた。

 ドランゴは攻撃こそ確定で後手に回っていたが、攻撃力は相手を上回っていたため、ターン終了時のダメージ量では徐々にリードを奪っていった。

 しかしかなりのHPを持っているドラゴンはなかなかダウンしなかった。

 その間、回復手段を持っていないドランゴのHPは減る一方で、タフな体力の持ち主である彼女にもさすがに焦りが浮かんできた。

(今度…激しい炎…受ける…。それ…危ない…。)

 次の一撃で決着をつけなければと思った時、ふと彼女の脳裏に子供の声が聞こえたような気がした。

 

『ギル、ギルルン。(ママ、頑張ってね。)』

 

 するとそれが引き金になったのか、突如ドランゴが覚醒し、「ギルルルーーーン!!」と叫びながらしゃくねつをぶっ放した。

「ギャフフーーーン!!」

 思わぬ大ダメージを受けたドラゴンは、その場にバタリと倒れ込んでしまった。

「ギルーーーッ!ギルルン!!(キャーーーッ!ごめんなさい!!)」

 ドランゴは悲鳴をあげて謝り、誰でもいいから何とかしてくれるようにお願いした。

 するとスターキメラが大急ぎでベホマをかけてくれたおかげで、おおごとになるのは免れた。

「ギルルン!ギルルルン!(ごめんなさい!やり過ぎました!)」

「ギャフフン…。ギャフギャフ…。(ビックリした…。死ぬかと思った…。)」

「ギルルン…。(ごめんなさい…。)」

 ドランゴは平謝りをした後、スターキメラに向かって頭を下げた。

 彼女は人間には通じない言葉で「当然のことをしたまでよ。」と言って、ドランゴをなだめた。

 

 この時点でリベラ達のパーティーが3連勝し、勝ち越しが確定したことを受けて、ドランゴはどうかこのまま元の世界に帰っていってくれないかお願いをした。

 それを受けて、ドラゴンはあくまのきしに意見を求めたが、彼は残り2戦が終わったら考えるという決断を下したため、勝負はこのまま継続となった。

 

 4回戦はテリー対だいまどうだった。

 テリーは先制攻撃でメラミを唱えたが、だいまどうの身に付けているローブが威力を半分以上軽減したため、少ししかダメージを与えられなかった。

 一方のだいまどうは反撃とばかりにベギラゴンを唱えてきて、テリーにかなりのダメージを与えた。

 次のターンでテリーはせいけん突きをくらわせた。

 一方のだいまどうは通常攻撃でダメージを与えたが、威力はベギラゴンには及ばなかった。

「これで決着をつけてやる!くらえっ!!」

 テリーが二刀流でばくれつけんを使うと、やめられない止まらない連続攻撃となり、あっさりと勝負がついてしまった。

「つまらん戦いだったな。とはいえ、俺が大将ではお前の立場が無いからな。後は頼んだぞ、リベラ。」

「うん。分かった。」

 テリーに肩をポンと叩かれたリベラは大きく深呼吸し、勝負に備えた。

 

 最後の勝負はリベラ対あくまのきしだった。

 先に行動したのはリベラで、自身にバイキルトをかけた。

 しかし、あくまのきしがラリホーを唱えてきたため、リベラはダメージを与えることもなく眠ってしまった。

アモス「眠っちゃダメですよ!」

チャモロ「めった打ちにされてしまいますよ!」

 彼らの心配は見事に的中してしまい、リベラは何も出来ないまま、相手の攻撃を受けてしまった。

 幸い2ターン目に目を覚ました彼はとっさに力の盾でHPを回復させた。

 しかし、あくまのきしはそれを見計らった上でまたラリホーをかけてきたため、リベラはせっかくのバイキルトを全くいかせなかった。

 そうしているうちにHPが危険な領域に入りそうになったため、これ以上傍観するわけにはいかなくなったチャモロはとっさにベホマを唱えた。

テリー「おい、助太刀はルール違反だぞ。」

「だってしょうがないじゃないですか!あんなえげつない手段を使われて、しかも殺気だった攻撃をされたら、もはや勝負ではありません!取り返しのつかないことになってしまいますよ!」

「そうか。だったら仕方ねえ。俺も手助けしてやるよ。」

 テリーは吐き捨てるようにそう言うと、あくまのきしにマホトーンをかけ、呪文を封じ込めた。

 すると彼はターゲットをテリーに切り替えてきた。

「チャモロ、これ借りるぞ。」

 テリーは素早い動きで毒蛾のナイフを奪い取った。

「ちょっと!これじゃルールも何も無いじゃないですか!」

「今さら知ったことか!」

 彼は素早くあくまのきしを攻撃し、追加攻撃で相手を動けなくさせた。

「リベラの恐怖を今度はお前が味わえ!」

 テリーはルカニを2回唱えると、今度はリベラからラミアスの剣を奪い取り、自身にバイキルトをかけた。

「テリー!やりすぎだよ!」

「お前を殺そうとした奴だぞ。」

「でも…。」

「とにかく俺はこいつを倒す!リベラは下がってろ!」

 テリーが鬼のような形相をしながらあくまのきしに向かっていこうとすると、部下達が彼の前に立ちはだかってきた。

「ギャフギャフ!ギャフフフン、ギャフギャフフン!(お願いです!アイテムをあげますから、命はお助けください!)」

 ドラゴンは命乞いをするようにお願いをした。

 テリー達は最終的にそれを受け入れ、これ以上の攻撃をしないことにした。

 

「テリー、ごめん…。」

「フンッ!お前でも1対1では大きな弱点があるってことだな。」

「そうだね…。せめてマホトーンが使えれば…。」

チャモロ「それは巡り合わせが悪かっただけですよ。」

アモス「多分私が戦っていてもこうなったと思います。」

 2人の励ましを受けてもリベラは事実上の敗北だっただけに、気持ちは晴れなかった。

 一方、モンスター達はまじんの鎧と、だいまどうが身に付けていたローブを手渡してくれた後、この世界から撤退していった。

 

チャモロ「このローブは私が装備出来そうですね。これで強力な防具が手に入りましたし、ミレーユさんから借りなくて済みそうです。」

アモス「でも、もう一方のまじんの鎧はちょっと嫌な予感がしますね。」

リベラ「でもこの鎧だったら、ドランゴには役に立ちそうな気もするけれど…。」

「多分…そう…。私…装備…出来る…。ギルルルン。」

 ドランゴは自らもらうことを申し出た。

テリー「いいのかよ。デメリットがあるのに。」

「問題ない…。」

 ドランゴはこれまでほぼ確定で最後に行動していただけに、素早さが0になっても大した影響がないことや、守備力が大きく上がる上に呪文などに耐性がつくことを挙げた。

「そうか。だったらお前にやるよ。これで防具が出来たわけだから、さらに活躍が出来そうだしな。」

「ありがとう…。私…大事に使う…。」

 ドランゴはその場で装備こそしなかったものの、大事に使うことを約束した。

 

 

 




 作中でドラゴンがしゃべっている口調は、スターオーシャン2に登場するアシュトンに憑依したドラゴンの「ギョロ」と「ウルルン」を参考にしました。
 僕はDQ6の主人公&バーバラだけでなく、SO2のアシュトン&プリシスも結構気に入っています。

 また、今回登場したあくまのきし率いるパーティーで、スターキメラをメンバーの紅一点として解釈してみました。


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Quest.31 ふたりに残された時間

 アモス、ドランゴ、テリー、チャモロのパーティーがモンスターを退治して以降、世の中はしばらく平和な状態が続いた。

 その間、ドランゴはパーティーから離れ、ドラグーンの世話に専念していた。

 リベラ、ハッサン、ミレーユ、バーバラのパーティーは相変わらず活動を休止しており、各自で行動をしていた。

 

 リベラはレイドック城で兵士達との稽古に励み、モンスターとの戦闘でけがをした兵士が城に戻ってくると、自らホイミタンクの役割を買って出た。

 そんな中、彼はバーバラが夢の世界に帰る時に彼女と一緒に行くことが出来ないものか、思い切って両親に打ち明けてみた。

 しかし案の定、猛反対をされてしまい、これが決定打となって2人が離れ離れになることが確定してしまった。

 

 ハッサンはコブレとサリイの鍛冶屋が老朽化したため、新しい場所に引っ越しをしたいという要望を受けて、サンマリーノの空き家を改装することにした。

 人手が足りない時にはリベラにも声をかけ、手伝ってもらうこともあった。

 

 ミレーユは連日マーズの館で過ごしており、通常の仕事をしながら、異世界からやってくるモンスターのアジトを探していた。

 その合間には、どうすればバーバラの代償を解除出来るのかについても調べていた。

 

 バーバラは治療のかたわら、チャモロから返却してもらった炎のツメでメラミが打てるように練習をしていた。

 それと並行して彼女は足で呪文を唱える練習を行った。

 その結果、威力はついに手で唱えていた時と同程度になり、さらには自分に唱える時に限り、足でベホマを発動出来るようになった。

 

 ある日、ライフコッドにやってきたリベラはバーバラを誘い、自身の左手と彼女の右手をつなぎながらルーラで空を飛びまわった。

 月鏡の塔の降り立つと彼らはスミスやホイミンに会い、トルッカではエリザや彼女の父親に再会した。

 アークボルトではブラスト達に加えてターニアにも会い、色々な会話をした。

 次に降り立ったのはゲントの村で、リベラはすっかり元気を取り戻したクィントとクァドの親子に会い、ここでも会話に花を咲かせた。

 

 一通り行きたい場所を訪れた後、2人は雄大な景色の見られるところにやってきた。

 その景色を見ながら、リベラはそれまでつないでいた手を離した。

「バーバラ。今日は本当に楽しかったね。」

「そうね。戦いも、けがも、代償のことも忘れて過ごすことが出来たし、本当に楽しかったわ。これで、このままずっと一緒にいられたらいいんだけれどな…。」

「うん。それは僕も同じだよ。」

 リベラがバーバラの横顔を見つめると、その表情には寂しさが漂っていた。

 その理由は彼自身もよく分かっており、バーバラに命の宝玉がどうなっているのかを問いかけた。

「実はね…。」

 彼女がそれを取り出すと、光は以前よりも弱くなっていた。

「それだと、残された時間もそんなに長くはないだろうね。」

「うん…。だからあたし、時が流れるのが怖いの…。リベラと、そしてみんなとずっと一緒にいたい…。」

「僕だってそうさ。君がここにいられる間に何とかして代償を解除してあげたい。でも…。」

 リベラは手掛かりを何も見つけてあげられないことが悔しくてたまらなかった。

「あたしだって、来る時に覚悟していたとはいえ、こんな代償に付きまとわれるのは嫌。ただでさえHPが減っていく上に、けがにも悩まされて…。」

「でも、それって、夢の世界に帰ったら解除されるんだよね。」

「うん。もし帰ればHPの減少も止まるし、この体もきっと元通りになるはずよ。それに、向こうに帰ったらゼニス王さんにお願いして、水晶玉か何かでお互いの世界をつないでもらうつもりだけれど…。」

「本当にそうなったらいいよね。たとえ直接会えなくなっても、会話は出来るようになるから。」

「うん、でも…。」

「でも、何?」

「会話だけじゃ嫌なの。やっぱり直接会いたい。一人ぼっちになりたくない…。」

「僕だってそうさ。もし君がいなくなったら、僕の幸せはきっと無くなってしまうと思う。だから、君を離したくはない。どこにも行かせたくはない。僕達の物語は決して終わらせたくはないよ。」

「あたしだって終わりにはしたくない。でも、あたしは実体がないから、たとえリベラと一緒にいられることになったとしても、そこから先のゴールにはたどり着けないと思うけれど…。」

「それでもいい。たとえ世界中の人達からかなわぬ恋と言われたって、僕はあきらめない。絶対に解決策を見つけてみせる。たとえそれが今すぐじゃなくてもいい。10年先になってもきっとかなえてみせるからね。」

「ありがとう。この世界に来て本当に良かった…。」

 バーバラは泣きたい気持ちをじっとこらえながら笑顔を作った。

 その後、2人は何も言わずに夕日を浴びながら地面に座って、寄り添い続けていた。

 

 一方、マーズの館にいるミレーユとハッサンは水晶玉で彼らの後ろ姿を眺めており、思わずもらい泣きしそうになってしまった。

「本当に2人はお似合いのカップルだよな。心の底から応援したくなるぜ。」

「そうね。もし代償を解除させることが出来たら、どれだけ喜ぶかしらね。」

「ところでよ、そのための手掛かりは見つかったのか?」

「……。」

 ミレーユは何も言わず、ただうつむくばかりだった。

(そう考えると、俺達は本当に幸せだよな。同じ世界の人で、住んでいるところも近いから、会いたくなったらいつでも会えるし。こんな幸せ過ぎるほどの状況を、リベラとバーバラにも分けてやりたいぜ。もしお前達がこのまま引き離されて、俺達だけが幸せになっても、素直に喜べねえからよ…。)

 ハッサンは自分の置かれた状況が申し訳なく思えていた。

 それはミレーユも同じで、彼女は心の中で(ごめんね。何もしてあげられなくて…。)と謝りながら、水晶玉の映像を消した。

 

 しばらくすると、グランマーズが館の中に入ってきた。

「おお、お2人さん。そんな暗い顔をしてどうしたんじゃ?まあ、隠したところでわしにはお見通しじゃがのう。」

「おばあちゃん!」

「知っていたのかよ!」

 ミレーユとハッサンは思わず顔を赤らめながらあたふたしていた。

「まあ、このままではリベラとバーバラには間違いなく悲しい未来が待っているからのう。何とかしてやりたいのはわしも同じじゃ。」

「じゃあ、何かいいアイテムを手に入れてきたのかよ、ばあさん。」

「まあ、いいアイテムと言えばそうかもしれんのう。」

「おばあちゃん、何を持ってきたの?」

「これじゃよ。」

 グランマーズは袋を開けると、中から布に包まれたあるものを取り出した。

「この度、ついに超・キメラの翼の完全版が出来上がったんじゃ。これでバーバラはいつでも夢の世界に帰れるぞい。」

「ばあさん、そっちかよ!俺達はバーバラの代償を解除出来るものを期待していたのに!」

「そう言われてものう…。」

「とにかく、何か手掛かりは手に入れたの?おばあちゃん。」

「それは…、企業秘密じゃ。」

「何よそれ。教えてくれたっていいじゃない。」

「時が来たら伝えるつもりじゃ。それまでは知らない方がいいとわしは思っておる。とにかく、このアイテムをミレーユに渡すことにする。バーバラが来たら彼女に渡してあげるがよい。」

「分かりました。」

 ミレーユは超・キメラの翼を受け取った。

(これを使ったら、バーバラはこの世界からいなくなってしまう…。出来ることなら使わせずに済む方法を考えたいけれど…。でも、たとえ夢の世界に帰ってしまっても、元気でいればきっとチャンスは来るはずだから、それまで我慢してね。私達も決してあきらめないわ。きっとあなた達を幸せにしてあげるからね。たとえそれが10年先でも…。)

 そのアイテムを両手に抱えながら、ミレーユは心に誓った。

 

 その後、グランマーズとミレーユはついに敵のアジトらしき場所を突き止めた。

 その情報を聞きつけたテリーは、早速姉から話を聞いた。

「なるほど。この場所からモンスターが現れているわけか。」

「そうなのよ。多分アジトで間違いない気がするから、ここを抑えてしまえば今より世の中は平和になると思うわ。だから、お願いしてもいいかしら?」

「姉さんがそう言うのなら行ってやるよ。どうせ姉さん達のパーティーはまだ活動休止中なんだろ?」

「まあ、そうなんだけれど、私達にだってそれなりの理由があるのよ。」

 ミレーユはバーバラがもうこの世界に長くはいられないこと。リベラは彼女を励ましながら、少しでも長く一緒にいたいと思っていること。

 そして、ハッサンが大工の仕事に専念していることを話した。

「分かったぜ。今回は俺達のパーティーで何とかしてやる。だが、姉さん達もいずれ戦う時は来るだろうから、その時に備えて準備はしておいてくれよ。」

「もちろんそのつもりよ。でもどうか今は、私達のことをそっとしておいてほしいのよ。」

 ミレーユの申し訳なさそうな表情を見て、テリーはさすがにそれ以上のことは言わず、素直に依頼を引き受けた。

 そして、彼女からせめて役に立てばと、ベギラゴンが使える状態の破邪の剣を渡された。

 

 テリーは館から外に出ていくと風のアミュレットを使い、風の精霊を召喚した。

「ご指名、ありがとーーっ!」

 彼女は相変わらずノリノリの性格を見せながら、要件について問いかけた。

「実はこれからモンスターのアジトにのり込もうと思っている。姉さんの話ではかなりの強敵だろうから、お前の力を貸してほしい。お願い出来るか?」

「全っ然オッケーよ。今デュランの子達は他の精霊と一緒に行動しているから、アタシはちょうど時間があるのよねえ。」

「それならありがたい。パーティーに加わってくれ。」

「ガッテン承知の助よ。その時になったら召喚してねっ。」

「分かった。」

 風の精霊は喜んで依頼を引き受けると、アミュレットに戻っていった。

 

 テリーは次に月鏡の塔に向かっていった。

 塔の周辺ではすでに難民だったモンスター達が地面を耕して作物の種をまいたり、食べられる野草や木の実を探しに行く光景が見られた。

(そうか。すでに彼ら自身で生活しようとしているわけか。これは喜ばしいものだな。)

 彼が感心しながら塔の中に入っていくと、ドランゴがドラゴン系の女性モンスターと会話をしていた。

 言葉自体はテリーに理解出来ないものだったが、どうやらドランゴは「私の子、ドラグーンの面倒を見てもらえますか?」と言っているようだった。

 相手のドラゴンは最初こそどうしようか考えこんでいたが、すでにドラグーンと女性ドラゴンの子が楽しそうに駆け回っているのを見て、最終的には同意してくれた。

 そしてドランゴが頭を下げながら「ギルルルン。(どうもありがとう。)」とお礼を言った。

 テリーはその様子を物陰からじっと見つめていたが、やがてドランゴが気付き、ここにやってきた理由について問いかけてきた。

 彼はこれからモンスターのアジトに乗り込んでいくことを伝えた。

「そう…。これから…大きな…戦い…、ありそう…。ギルルルン…。」

「ああ。だからこそ、俺はお前の力を借りたい。一緒に来てもらえるか?」

「分かった…。これから…準備する…。」

 ドランゴはテリーの頼みを受け入れると、自分の子供に出かけていくことを伝えた。

「ギル、ギルルルン。(ママ、きっと帰ってきてね。)」

「ギルン。ギルルン。ギルギルルルルルン。(大丈夫。心配しないで。あなたはみんなと仲良く過ごしてね。)」

「ギル…。(うん…。)」

 彼女はそう言うとテリーのリレミトとルーラで旅人の洞くつに向かい、グラコスの槍とまじんの鎧を手に入れた。

 そしてテリーと一緒に飛び立っていき、チャモロとアモスのもとに向かっていった。

 



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Quest.32 アジトにのり込むテリー達

 テリーはドランゴを連れてアモス、チャモロに合流すると、これから行こうとしている場所にはどのようなモンスターがいるのかについて話した。

 そしてミレーユから渡された破邪の剣をチャモロに手渡すことにした。

「ありがとうございます。一発だけでもベギラゴンが放てるのは助かります。」

「まあ、多少のダメージを覚悟すればまた入れられるが、大事に使ってくれ。」

「分かりました。」

 チャモロは装備こそしなかったが、ありがたく受け取った。

 

 彼らは準備を整えた後、いよいよミレーユに指示された場所へと向かった。

 その場所は険しい岩山に囲まれており、ほとんど人が足を踏み入れないようなところだった。

アモス「こんなところにアジトを構えるなんて、意外ですね。」

チャモロ「だからこそ、これまで気づかれずにいたんでしょうね。」

テリー「そうだな。姉さんの占いでもなかなか分からなかったのは納得出来るぜ。」

ドランゴ「とにかく…、ここから…敵…現れる…。私達…何とかする…。」

 彼らが戦いに向けて気合を入れていると、テリーは風のアミュレットを取り出し、ここで風の精霊を呼び出した。

「ご指名、ありがとーーーっ!」

 彼女は姿を現すやいなや、相変わらずのお調子者ぶりを発揮した。

 一方、彼女と初めて対面したチャモロとアモスはその姿とその性格に驚いていた。

「みんな、今回はこいつに助っ人として加わってもらうことにした。きっと役に立つと思うぜ。」

「ハーーイ!アタシは風の精霊。この度テリー君の依頼を受けて、戦いに参加することになったから、ヨロシクねっ!」

「こ、こちらこそ、よろしく…。私はチャモロです。」

「私はアモスと申します。お互い頑張りましょう。」

 彼らは対処に困りながらも自己紹介をした。

 

 アジトの入口近くまでやってくると、何やら見張りらしきモンスターが姿を現した。

テリー「こいつらは確か…。」

アモス「デススタッフでは!?」

チャモロ「しかも3匹もいる。」

「これ…、強敵…。ギルルン…。」

 彼らはいきなり厳しい戦いになることを予感した。

 一方のデススタッフはテリー達を侵入者と認識したようで、戦闘態勢に入った。

「ねえねえ。こいつ強いの?」

「ああ。凍える吹雪が強力だ。半端ないダメージだぞ。」

「へえ、吹雪なんだ。じゃあアタシ、あれでいくっ!」

 風の精霊はそう言うと、まず追い風を使った。

 続いてテリーはライデインを発動させ、全員にダメージを与えた。

 チャモロはマホトーンを唱え、デススタッフAとCの呪文を封じた。

 アモスは2度攻撃でAにダメージを与えた。

 ドランゴ以外のメンバーの行動が済むと、今度はデススタッフ3匹の攻撃となり、Aは凍える吹雪を使ってきた。

 装備品による軽減を考慮してもテリー達がかなりのダメージを受ける中で、風の精霊への攻撃は追い風ではね返されたため、Aは大きなカウンターを受けてしまった。

 事前にメダパニを唱えようとしていたCは急遽それをキャンセルし、ドランゴに通常攻撃をヒットさせた。

 唯一呪文を封じられていないBはルカナンを唱えて全員の守備力を下げた。

 そして素早さが0のドランゴはターンの最後に満を持してしゃくねつの炎を吐き、全員にイオナズン級の大ダメージを与えてAを倒した。

 

 次のターンで風の精霊は再び追い風を発動させた。

 続いてテリーがきせきの剣でのはやぶさぎりでBを攻撃して、ダメージを与えると同時に自身のHPを回復させた。

 そしてアモスはBに2度攻撃を叩き込んだ。

 チャモロはここで切り札のベギラゴンを使い、威力を軽減されながらもダメージを与えてBを倒した。

 その直後、デススタッフCが凍える吹雪を吐いてきた。

 テリー達が先程と同程度の大ダメージを受ける中、Cは追い風の影響でカウンターを受けた。

 そしてドランゴがしゃくねつの炎を吐き、これが決定打となってどうにか勝利を収めることが出来た。

 

 戦闘後、彼らは呪文で全員のHPを全回復させた。

テリー「正直言って、マジで危ない戦闘だったな。」

アモス「アジトの中でもこんな強敵がいるんでしょうか。」

チャモロ「これはひとまず立て直した方がいいですね。」

「それ…いい…アイデア…。」

 彼らは一旦その場から撤収し、装備や持ち物を整えることにした。

 

 まずテリーは破邪の剣にベギラゴンを唱え、10ポイント程度の反射ダメージを受けながらも再度チャモロが切り札を使えるようにした。

 次に彼らはマーズの館にやってきて、グランマーズにMPを回復してもらい、彼女の許可を得た上で星降る腕輪と力のルビーを受け取った。

 そしてチャモロが星降る腕輪を装備して素早さを上げ、アモスが力のルビーを装備して攻撃力をさらに上げて、再びアジトへと向かっていった。

 

 内部に入ってしばらく進んでいくと、彼らはバトルレックス2匹に出会った。

 外見はドランゴそっくりだったため、彼女もバトルレックスも驚き、何だか戦いにくい雰囲気が漂った。

 そしてドランゴは彼らと会話をしたいと申し出た。

「分かった。俺達も無駄な戦いはしたくないからな。」

「それに、何かいい情報が得られるかもしれませんし。」

「ドランゴさん、ぜひお願いします。」

 テリー、チャモロ、アモスは交渉を依頼した。

 ドランゴはそれを承諾すると、バトルレックス2匹の前に行き、人間には通じない言葉で会話を始めた。

 

 彼らはオスとメスの双子で、以前リベラ達がデスタムーア討伐に向かっていた当時はまだ修行中で、敵モンスターとしては登場していなかった。

 その後、十分なHPや攻撃力、そして特技を身に付けてやっと戦闘員となったが、その時に魔王が倒されて世の中が平和になったため、彼らは出番を失ってしまった。

 これからどうやって過ごせばいいのか…。

 そんな失意の生活を送っていたある日、彼らが出会ったのは異世界からやってきたカンダタの一味だった。

 そして彼らから戦いの場を与えてやると言われ、この世界にやってきたということだった。

テリー「なるほどな。あいつらは単なる失業者だったわけか。」

アモス「世の中が平和になっても幸せになれないこともあるんですね。」

チャモロ「だからって、ただ戦いたいからというだけの理由で来られても…。」

「そう…。だから…、自分の世界…、戻ってもらう…。それがいい…と思う…。ギルルルン…。」

「こちらとしてはそうしてもらった方がいい。お願い出来るか?」

「分かった…、テリー…。」

 ドランゴは再びバトルレックスのところに行き、交渉をした。

 彼らは最終的に元の世界に戻っていくことに同意はしてくれたものの、せめて一度だけでも腕試しをさせて欲しいと申し出てきた。

「腕試しと言っても、結局は戦闘じゃねえか。でもまあ、話だけでは分からんようだし、致命傷にならない程度にやっつけることにするか。」

 テリーが渋々同意したことで、彼らは試合という名目で戦うことになった。

(※なお、チャモロとアモスは無駄に戦いたくないという理由で不参加となりました。)

 試合が始まると風の精霊がしんくうはで、次にテリーがライデインでダメージを与えた。

 オスであるバトルレックスAは激しい炎を吐いてきた。

 風の精霊にはまともにダメージが入った一方、テリーとドランゴは炎を軽減する装備を持っているため、それなりにダメージが低くなった。

(試合に参加していないチャモロとアモスは無傷で済んだ。)

 メスであるBははやぶさぎりでドランゴに向かってきたが、一撃目はグラコスの槍で受け止め、次の攻撃はまじんの鎧の守備力のおかげでダメージがかなり軽減された。

 そしてドランゴはしゃくねつで攻撃をした。

 2匹のバトルレックスは自分達の攻撃が激しい炎止まりであるが故に、その威力に驚きを隠せなかった。

A「ギルルル、ギルルルルン。(この威力、イオナズン級だな。)」

B「ギルルルルンルルン。(これが毎ターン確定で来るのね。)」

 彼らはしゃくねつがかなりの脅威であることを認識した。

 次のターンで風の精霊は追い風を使い、テリーはきせきの剣でのはやぶさぎりでBを攻撃すると同時に自身のHPを回復させた。

 Bは激しい炎を吐いたが、風の精霊への攻撃がはね返されたため、自身もダメージを受けた。

 Aは通常攻撃をしてきたが、テリーは素早く攻撃をかわした。

 そして満を持してドランゴの出番となり、彼女は2匹の予想通りしゃくねつの炎を吐いてきた。

 結局それが決定打となり、双子のバトルレックスは降参を宣言した。

 そしてこのアジトにいる他のモンスター達を説得して、一緒に元の世界に戻っていくことを約束して、奥へと歩き去っていった。

 そのバトルレックスの説得もあったのだろう。その後は戦闘らしい戦闘もなく、テリー達はさらに奥へと向かっていった。

 

 パーティーが最深部までやってくると、そこには兵士らしき人が3人立っていた。

アモス「ミレーユさんの話ではボス級のモンスターのはずなのに?」

「何だか…拍子抜け…しそう…。」

チャモロ「一見そんな感じですが、油断は禁物ですよ。」

テリー「ああ。人間に化けている可能性もあるからな。」

 彼らは気を引き締めながら兵士に話しかけた。

兵士A「お前達、何をしにきたんだ。」

兵士B「まさか、ここを通りたいのか?」

兵士C「ならば、この私を倒して行くがいい。」

 彼らはそう言うと正体を現し、キラーマジンガの3体の姿になった。

 テリー達は驚きながらも、素早く気持ちを切り替え、戦闘態勢に入った。

 

 最初に行動したのは星降る腕輪を身に付けたチャモロで、破邪の剣でベギラゴンを放った。

 威力はかなりのものだったが、キラーマジンガが強耐性を持っていたため、通常の半分程度のダメージになってしまった。

 次に風の精霊がキックでAにダメージを与えた。

 するとキラーマジンガ3体が一斉に攻撃してきて、テリー、ドランゴ、アモスが大ダメージを受けてしまった。

(くっ!ここまでダメージを受けてしまっては、ライデインは取りやめだ。攻撃しながら回復をしなければ!)

 テリーはとっさにきせきの剣ではやぶさぎりをして、Aにダメージを与えながら自身のHPを回復させた。

 アモスはBに通常攻撃をし、力のルビーの効果もあってでこれまでよりも大きなダメージを与えた。

 そしてドランゴがしゃくねつを使い、全員にダメージを与えた。

 

 ターンの合間にテリーが作戦を考えていると、ふと彼の耳に何か懐かしい声が聞こえてきた。

 

『テリー。子供達のこと、礼を言うぞ。』

 

 その声は間違いなくデュランだった。

 テリーは思わぬ言葉に一瞬戸惑った。

 しかし、すぐに気持ちを切り替えると、彼から教えられた技を思い出した。

「うおおおおおっっ!!!」

 テリーが大声を出しながら武器を振りかざすと、ジゴスパークが発動した。

 そしてすさまじいほどの光が襲い掛かった。

 キラーマジンガAとBは大電流が流れて回路がショートしたのか、体から激しい火花が飛び散り、煙を上げながらドカーンと音を立てて動かなくなった。

 唯一残ったCも動きが明らかに鈍くなり、自身が攻撃する前に風の精霊、チャモロ、アモスの総攻撃を受けて動かなくなった。

「皆さん、やりましたね!」

「私達…強い…。ギルルルン…。」

「これでまた平和に一歩近づいたな。」

 チャモロ、ドランゴ、アモスが喜んでいる中で、テリーは(デュラン、どうして俺に語り掛けてきたんだ?)と、心の中で問いかけていた。

 しかしその後、彼の声は聞こえてくることはなかった。

(デュランはきっとどこかの異世界で生きていて、俺のことを見守っていたということなんだろう。)

 テリーはそう思いながら、彼が子供達に再会出来たことを期待していた。

 

 その後、彼らはキラーマジンガが守っていた扉を開けると、そこにはカンダタとその子分、そして呪文を使えるモンスターがいた。

「くっ!侵入者がここまで来たのか!」

「まずいな。ここまで突破されるとは!」

「ここは退却しましょう!」

 カンダタと子分達は驚き、どうしようかあたふたしていた。

「さあお前達、観念しろ!」

 テリーが叫ぶと、カンダタはとっさに呪文を使えるモンスターにリレミトを唱えさせ、瞬時にアジトから脱出していった。

「何なんでしょうね。戦いもせずにいなくなってしまうなんて。」

「ここまで世の中をかき乱しておいて、実際は臆病なんでしょうかね。」

 チャモロとアモスはカンダタ達があっさりと逃げてしまったことに驚きを隠せずにいた。

「とはいえ、彼らは爆弾岩を召喚した張本人だからな。」

「そう…。バーバラにとって…、因縁の…相手…。ギルルルン…。」

 テリーとドランゴはその爆弾岩のせいで彼女がどんな思いをしてきたのかをミレーユから聞いているため、油断出来ない相手であることは認識していた。

 そしてに残されたアイテムを手に入れた後、テリーのイオラやドランゴのしゃくねつなどを駆使してアジトを壊滅させ、その場を後にしていった。

 



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Quest.33 Let It Be ~君が夢の世界に帰っても~

 この日、リベラはサンマリーノでハッサンと一緒に家の改装工事の手伝いをしていた。

 2人の頑張りの甲斐もあって、ついに改装が終了し、コブレとサリイを迎え入れることが出来た。

 彼らが喜ぶ姿を見ながら、2人は外に出てお茶を飲みながら会話をしていた。

 その中で、ハッサンは仕事中では明るかったリベラの表情がいつの間にか暗くなっていることに気づいた。

「お前、またバーバラのことを考えているのか?」

「うん…。仕事中は平気だったんだけれど、手を止めると、やっぱり思い出しちゃうんだ…。」

「そうか。いい解決策が見つかればいいんだけれどな。」

「でも、未だにその手掛かりが無いままだし、それにもう時間が無いんだ。」

「彼女がここにいられるのはあとどれくらいなんだ?」

「正確には分からないけれど、光の減衰具合からして、消えてしまうまであと1週間かな。そしてバーバラがマダンテを唱えた時、グランマーズさんは『3日以内に夢の世界に帰らなければ、帰らぬ人になってしまう。』と言っていたから、いくら命の木の実を見つけてもあと10日程度だと思う。」

「それはきっとあっという間だろうな。」

「うん。その間に代償を解除するなんて、もう奇跡が起きない限り不可能だと思うんだ。」

「そうか…。」

 リベラが悩む姿を見ることは、ハッサンにとっても辛いことだった。

 もしミレーユとバーバラを含めた4人が普通にパーティーメンバーとしてつながっているだけの仲であれば、こんなに悩み苦しむこともなかっただろう。

 しかし彼らはそれと同時に2組のカップルでもあるだけに、話は簡単なものではなかった。

 さらに、ハッサンとミレーユは何の障害もなく普通にお付き合いが出来るのに対し、リベラとバーバラはほぼ確実に引き離されてしまうという、あまりにも対照的な状況だった。

 そのため、リベラは過去にこの話題になった時、「ハッサンに僕の気持ちが分かるもんか!」と言って当たり散らしてしまい、お互いの関係がギクシャクしてしまうこともあった。

 それでもハッサンは何も言い返さず、リベラの悩み、苦しみを最後まで聞き続けた。

(すまねえな。俺達ばかりが恵まれてしまって…。俺だってミレーユと別れるなんて想像すら出来ねえし、多少なりとも気持ちを分かってやりたいと思っているぜ。そして俺は、俺達2組がそれぞれ手をつなぎながら、みんなの前で祝福してもらいたいと思っているんだ。だからお前達が幸せにならなければ、俺達も幸せにはならねえつもりだ。)

 彼は口にこそ出さないものの、心の中でそう決意をしていた。

 

 それからしばらくして、コブレとサリイが家の外に出てきてお礼を言ってきたため、彼らは素早く気持ちを切り替え、笑顔で対応をしていた。

 そして彼らはリベラのルーラでロンガデセオに飛び、機材を運び込む作業に取り掛かった。

 

 バーバラはこの世界にいられる限界の時が近づくにつれて、段々自分の部屋で引きこもるようになってしまった。

 その姿に心を痛めたターニアはホイミタンクとしての仕事を辞退して、彼女のそばに寄り添うようになった。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「……。」

「ご飯の準備、出来たわよ。」

「…いらない…。」

「私、そばにいた方がいい?」

「一人でいい…。」

 ターニアが何とかして励まそうとしても、バーバラは落ち込むばかりだった。

 その姿を見てターニアは何も言わず、そっと部屋を後にしていった。

 一人で食事をしながら彼女はバーバラに超・キメラの翼を手渡した時のことを思い出した。

 

『あたし、今すぐこれを使ってしまおうかしら。』

『どうして?もし使ったら、みんなにあいさつもしないまま別れることになってしまうわよ。』

『その方がいいような気がするの。リベラ達に会ったら、別れが耐えきれないほど辛いものになってしまうから…。』

『私なら、残された時間をみんなと一緒に過ごしたいと思うんだけれど。』

『あんたはこの世界にずっといられるからそんなことを言えるのよ!所詮あたしの気持ちなんて分からないくせに!』

『そんなつもりで言ったわけじゃないの。』

『とにかく、いつこれを使うのかはあたしが決めるわ!』

『ダメよ!お願いだから今は使わないで!お兄ちゃんだって最後まであきらめないって言ってるんだから!』

 

(お姉ちゃん、けがをした時もそうだったけれど、すっかり性格が変わっちゃったな。こうなると私としてはきついわね。けがは時間をかけて治療すれば治るけれど、今度は時間で解決出来るものではないし、私はどうすればいいのかしら…。)

 ターニアはどうすればいいのか分からないまま、一人で黙々と食事をしていた。

 そして自分の分の片付けが済むと、バーバラの分を持って、彼女の部屋に入っていった。

「お姉ちゃん。お願いだから食事だけはとって。私、少しでもお姉ちゃんに元気になって欲しいの。」

「うん…、ごめんね…。」

 すっかりお腹がすいていたバーバラはゆっくりと手を伸ばし、食べ物を食べ始めた。

 その姿を見ながら、ターニアは超・キメラの翼をしばらくの間、自分が預かることを提案した。

「えっ?それはあたしが使うものよ。」

「大丈夫。大事に取っておくだけよ。私もまだお姉ちゃんと一緒にいたいから。」

「でも、どっちにしたって時間は過ぎるし、別れの時は来てしまうのよ。いつ別れたって、同じじゃない。」

「私としては、この世界での思い出をたくさん持ち帰って欲しいの。私達も笑顔で盛大にお姉ちゃんを送り出してあげるから。」

「本当に?」

「本当よ。それに、私は信じているの。きっと別れは悲しみばかりじゃない。その先に前向きな答えはあるわ。だって、お姉ちゃんはこうやって再びこの世界に来られて、みんなに会えたでしょ?」

「うん。」

「それに、以前の別れの後は2度と姿を見ることも、声を聞くことも出来ないことを覚悟したけれど、これからは水晶玉で姿を見られるし、会話が出来るわけでしょ?」

「うん。」

「じゃあ、帰ったらたくさん会話をしましょう。それに私、エリーゼとも会話をしたいから。」

「あっ、そう言えばあたし達、エリーゼにさよならも言わないままこちらの世界に来てしまったわね。」

「そうでしょ?それはお姉ちゃんが帰ってからでないと出来ないわけだから。」

「うん、そうね。」

「それにお姉ちゃんの体もきっと元に戻るから、また武器を装備出来るし、呪文もこれまで通り手で唱えられるでしょ?」

「言われてみれば、確かにそうね。」

 バーバラは多少なりとも立ち直ったのか、食事をしっかりととるようになってくれた。

 ターニアはそれを見て、にっこりと微笑んだ。

 

 食事後、2人は一緒にいられる間に何かを残しておきたいということで、以前夢の世界でのコンサートで一緒に演奏した曲に詞をつけることになった。

「お姉ちゃん、向こうでまたコンサートをすることになったら、ぜひこちらの世界とつないでくれる?」

「いいわよ。そうすれば、みんなで一緒にこの曲を歌ったり、演奏したり出来るわね。」

「ええ。そして私は事前にそれぞれのパートを決めておくから、みんなで盛り上がりましょうね。」

「うん、分かったわ。」

 2人で詞を書きながら、ターニアはバーバラが徐々に明るさを取り戻してくれたことがうれしかった。

 

 一方、ミレーユはグランマーズと一緒に異世界に来ていた。

 そこで彼女はベホイミとベホマの間にもう一種類の呪文が存在することを知った。

「それにしても、その呪文の名前がまさかベホイムだったとは意外ね。」

「そうじゃろう。これまで黙っていたが、わしはお前さんがその名前に決めた時はビックリしたぞい。」

「本当に凄い偶然だったわね。」

「その通りじゃ。他にもここにはミレーユ達の世界には存在しないものがいくつもあるぞい。」

「それなら、ここでは色々なものを学べるわね。モンスター討伐が終わったら、この世界に留学してみたいわね。」

「ただ、この世界にはまだ魔王がおる。この町はまだ安全な方じゃが、お前さんが旅をすれば間違いなく戦闘に巻き込まれる。それにこの世界ではミレーユ達の世界には存在しないアイテムや技術、そして特技や呪文もあるし、敵も強いから、戦闘は非常に厳しいものになるぞい。」

「そうなの。じゃあ、今回はこの町で情報収集をして帰ることになりそうね。」

「まあ、そうなるじゃろう。もしあの山の向こうに潜んでいる敵と戦ったら、間違いなく勝ち目はないじゃろうからのう。」

「そう。そんなモンスターがもし私達の世界にやってきたら、それこそ大変なことになってしまうわね。」

「そうじゃ。だから、そうならないように食い止めねばならんのじゃ。」

「分かったわ。」

 ミレーユは改めてこれまで自分が懸命にアジトを調べてきたことの重要性を認識した。

 

 彼女は異世界から戻ってくると早速アジトについて調べ、グランマーズの協力もあってその場所を特定した。

 そして間髪入れずにサンマリーノに行き、リベラとハッサンにそのことを話した。

「2人とも、多分近日中に出発することになると思うけれど、心の準備はいい?」

「うん。じゃあ、僕はこれからレイドック城に行って、両親に会ってくる。」

「俺はもう少し作業が残っているから、まずそれを済ませることにするぜ。」

「分かったわ。私はこれからライフコッドに行って、バーバラにそのことを伝えてくるわね。」

リベラ「果たして来てくれるかな…。」

「彼女がどのような答えを出そうと、私はありのままに受け止めることにするわ。とにかく、声だけはかけてみるわね。そしてその後で作戦を考えたいと思っているから、後でマーズの館に集まりましょう。」

「分かったぜ。じゃあ、俺は今から歩いて向かうことにする。」

 3人は会話を済ませると、リベラはレイドック城に、ミレーユはライフコッドに移動していった。

 

 レイドック城に戻ってきたリベラは駆け足で中に入っていくと、早速両親に会いに行った。

「父さん、テリー達のこれまでの戦いを考えると、かなり強い敵と戦うことになりそうだから、どうかラミアスの剣を武器として使わせてください。」

「うむ、そうか。確かにそれは間違いなさそうだし、いいだろう。今回は認めることにする。それに加えて今回に限り、オルゴーの鎧の使用を許可する。」

「ありがとうございます。」

「頼んだぞ。お前なら出来るはずだ。」

「はいっ!」

 リベラはお辞儀をしながら元気よく返事をすると、今度は母親のところに行った。

「母さん、以前はバーバラと夢の世界に行きたいという、無理なお願いをしてしまってごめんなさい。」

「いえいえ。あの時はムキになってしまって、私もレイドックも反省をしています。」

「でも、僕はやっぱり彼女のことをあきらめられません。それだけは分かって欲しいです。」

「それは私達も分かっています。これからどうなるのかは分かりませんが、きっと前向きな答えはあるはずです。悲しい未来にはきっとならないと思いますから、あるがままに現実を受け止めてくださいね。」

「はい、分かりました。」

 リベラは両親との会話が済むと、早速オルゴーの鎧を取りに行った。

 

 彼が再びハッサンとミレーユに会いに行くと、そこにはホイミンがいた。

「あれ?ホイミンも一緒に来てくれるの?」

「はい。テリーさんから、リベラさん達をサポートしてほしいと言われましたので。」

「確かに君はベホマに加えてベホマラーも唱えられるから、強力な回復役になれるよね。」

「そうです。それに今回はいくつかのアイテムをお借りしてきました。」

「どんなアイテムだい?」

 リベラがそう言うと、ミレーユがらいめいの剣とだいまどうが着ていたローブ(通称:だいまどうのローブ)を、そしてハッサンがまじんの鎧を見せてくれた。

ミレーユ「テリー、以前私にこの剣を使わせてやるって言っていたけれど、私の破邪の剣と交換という形で本当に貸してくれたのよ。それにチャモロは炎のツメと破邪の剣を貸してくれたお礼として、このローブを手渡してくれたの。」

ハッサン「そしてドランゴからはこの鎧を渡されたんだ。見た目はアレだし、動きが鈍くなるというデメリットもあるそうなんだが、守備力と耐性は相当あるから、受け取ることにしたんだ。」

「そうか。優しいんだね、彼らは。」

ホイミン「そうです、リベラさん。それを見て、僕も頑張りたいと思いました。よろしくお願いします。」

「こちらこそ。じゃあ、早速武器を整えよう。僕はラミアスの剣を正式に武器として使えるようになったから、炎の剣はハッサンに渡すことにするよ。」

「おおっ!これはありがたいぜ。これで攻撃力は氷のやいばより格段にアップするからな。」

 こうしてハッサンは炎の剣、ミレーユはらいめいの剣、ホイミンはハッサンが持っていた氷のやいばを装備することになった。

リベラ「これで僕達の装備は整ったけれど、バーバラは来ないんだね。」

ハッサン「ああ。もしかして彼女の復帰はかなわないままなのかもしれないな。」

ミレーユ「出来れば、以前のように4人そろってパーティーを組みたかったけれど…。」

「僕ももう一度バーバラと一緒に冒険をしてみたい。でも、彼女にけがをさせるわけにはいかないし…。」

 リベラ達はこのまま離れ離れになってしまうことを覚悟した。

 すると、空から誰かがこちらに向かってくるのが見えた。

リベラ「あれは、バーバラ?」

ミレーユ「間違いなさそうね。」

ハッサン「来てくれたのか?」

 それから間もなく、バーバラが彼らの近くに降り立った。

「みんなお待たせ。心配かけてごめんね。」

 彼女はどこか吹っ切れたような表情をしていた。

リベラ「バーバラ、来てくれたんだね。」

「うん。一時はどうすればいいのか分からずに悩んだけれど、ターニアのおかげで吹っ切れたわ。」

「じゃあ、立ち直ってくれたの?」

「多分ね。正直、みんなと離れ離れになるのは避けられないでしょうけれど、それまでにたくさんの思い出を作って、笑顔でみんなに送り出してもらいたいと思ったの。」

「そうか。じゃあ、一緒に思い出を作ろうぜ。」

「ありがとう、ハッサン。」

「じゃあ、チャモロからもらったローブをあなたに渡すわね。」

「えっ?でもあたしにはまどうしのローブがあるのに。」

「チャモロの話ではそれよりも防御力が高い上に、呪文のダメージをかなり軽減してくれるそうよ。だから、こちらの方が役に立つと思うわ。」

「そうなの。じゃあ、チャモロの好意に応えて、ありがたく受け取ることにするわ。」

 バーバラはそれを受け取ると、早速装備してみた。

「これでみんなの役に立てればいいわね。」

「君ならきっと役に立てるよ。そして僕達が君を守ってあげるからね。」

「リベラ、ありがとう。あたしも頑張るわ。」

 バーバラは笑顔でパーティーメンバーに復帰してくれた。

 ハッサン、ミレーユ、ホイミンは心の底から喜んでくれた。

 そして彼らはバーバラを立ち直らせてくれたターニアにお礼を言うために、ライフコッドに向かっていった。

 その日の夜、一行は現地で泊まることになり、彼らはターニアの作った手料理に舌鼓を打った。

 

 翌日、ミレーユは敵のアジトで大金といくつものアイテムを手に入れたテリーのところに行って、お金と祈りの指輪、はやてのリングを手に入れた。

 その後、もらったお金と自身の貯金と合わせて水の羽衣を買いに行き、再びライフコッドに戻ってきた。

 そして水晶玉でこれから行くことになる場所を映し出し、ターニアにこれから出かけることを告げた。

「お兄ちゃん、そしてみなさん、どうか無事に帰ってきてください。私はマーズの館に行って、グランマーズさんの水晶玉越しに、みなさんを見守ることにします。」

「大丈夫。みんなそろって元気に帰ってくるよ。心配しないでね。」

「はい。信じているからね。」

 リベラ達は超・キメラの翼を大事に抱えているターニアの姿を見届けながら、目的の場所へと向かっていった。

 



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Quest.34 ゴーレムとの対決

 ライフコッドを後にした4人と1匹は一旦マーズの館に行き、星降る腕輪と力のルビーを受け取った。

 そして各自で装備をしっかりと整えた。

 彼らの装備は次のとおりだった。

 

 リベラ … 武器:ラミアスの剣、 防具:オルゴーの鎧と力の盾、 装飾品:星降る腕輪

 ハッサン … 武器:炎の剣、 防具:まじんの鎧とプラチナシールド、 装飾品:力のルビー

 ミレーユ … 武器:らいめいの剣と炎のツメ、 防具:水の羽衣、 装飾品:祈りの指輪

 バーバラ … 武器:炎のツメ、 防具:だいまどうのローブ、 装飾品:はやてのリング

 ホイミン … 武器:氷のやいば、 防具:身かわしの服

 

 それからルーラで目的地の近くの町に降り立ち、そこから徒歩でアジトに向かって歩いていった。

 しばらくするとブリザード4匹に出会い、早速戦闘になった。

 このモンスターは命を脅かす呪文を唱えるため、元の世界の人達からは非常に恐れられていた。

 しかし彼らの攻撃前にミレーユのライデイン、バーバラのベギラマ、そしてハッサンから炎の剣を受け取ったリベラのイオラで一掃されてしまったため、リベラ達はその恐怖を知らないままだった。

 

 次の相手はじごくのハサミとキャットフライ2匹ずつで、いきなり先制攻撃をされてしまった。

 キャットフライは2匹そろってマホトーンを唱え、結果的に全員の呪文を封じ込めた。

 そしてじごくのハサミは2匹そろってスクルトを唱え、一気に守備力を上げた。

 しかしリベラは慌てることなくラミアスの剣を道具使用して凍てつく波動を放ち、スクルトを解除させた。

 バーバラは事実上の通常攻撃である炎のツメのメラミで、ミレーユは通常攻撃でキャットフライAにダメージを与えて倒した。

 じごくのハサミ2匹はスクルトを唱えても無駄と判断したのか、通常攻撃をリベラとミレーユにヒットさせた。

 キャットフライBはバーバラを攻撃してきたが、彼女はうまくかわした。

 ハッサンはキャットフライBに力任せの攻撃を叩き込み、追加効果と合わせて倒すことに成功した。

 次のターンでミレーユはらいめいの剣でライデインを放ち、バーバラはメラミをじごくのハサミBに命中させて倒した。

 そしてリベラが通常攻撃と追加攻撃でAを倒し、戦闘を終了させた。

 その後、ホイミンはマホトーンが解除されたことを確認してからホイミを2回唱え、受けたダメージをリセットさせてくれた。

 

 今度の戦闘はレッドイーターとブルーイーター2匹ずつだった。

 それぞれに弱点はあるものの、それを知る由もないリベラは試しにライデインを唱えてみた。

 結果、強耐性を持っているブルーイーターにはあまり効果がなかったが、耐性の無いレッドイーターにはしっかりとダメージが入った。

 それを見てミレーユもライデインを発動させ、レッドイーターに何もさせないままダウンさせた。

 バーバラは炎のツメでメラミを放ち、ブルーイーターAに命中させた。

 ブルーイーターAとBはリベラに強力な集中攻撃を浴びせてきた。

 それを見て、ホイミンはすかさずベホマを唱え、HPを全回復させてくれた。

 ハッサンはターンの最後にAに通常攻撃と追加攻撃を当てて倒すことに成功した。

 次のターンでリベラはお返しとばかりにBを通常攻撃し、一気に勝負を決めた。

 

 やがて彼らの前にはアジトらしき場所が見えてきた。

 しかしそれと同時に、何か見張りらしき大きな物体も見えてきた。

 彼らがその物体に接近すると、突如それが動き始めた。

「これはゴーレムね。まさかこんな凄いモンスターがこの世界にやってくるなんて。」

 ミレーユは過去に話としては聞いていたが、いざその姿を見て驚いていた。

ハッサン「こいつ、強いのか?」

「ええ。おばあちゃんの話では相当な強さよ。」

バーバラ「じゃあ、戦いたくはないわね。」

「それは無理でしょうね。現に目が不気味に赤く光っているし、明らかに戦う気でいるわ。」

リベラ「じゃあ、HPに気をつけて戦うしかないか。」

「ええ。ここはしっかりと作戦を立てましょう。」

 4人は事前に役割を決め、ホイミンは誰かがダメージを受けるたびに回復役に専念することになった。

 

 戦闘が始まると、ミレーユとバーバラはそろってスクルトを唱えた。

 リベラはラミアスの剣で通常攻撃をしたが、ゴーレムの高い守備力が響いて、少ししかダメージを与えられなかった。

 ホイミンはまだ誰もダメージを受けていないこともあって攻撃をすることになり、氷のやいばのヒャダルコでダメージを与え、呪文なら通ることを証明した。

 ゴーレムはハッサンに強烈な通常攻撃で大ダメージを与えただけでなく、彼を突き飛ばしてそのターンは行動不能にしてしまった。

 ターンの合間に、リベラ達は改めて作戦を立てることになった。

ミレーユ「大丈夫?ハッサン。」

「こいつの攻撃力、半端ないぜ。俺でもこうなるってなると、ミレーユやバーバラがまともにくらえば一発でKOだ。」

バーバラ「じゃあ、もう1回スクルトを唱えるわ。」

ミレーユ「私ももう1回唱えるわね。」

「2人とも、ありがとよ。」

「僕はバイキルトをかけてみる。」

ホイミン「私は今から回復呪文を唱え続けることにします。」

リベラ「頼んだよ。ベホマをコンスタントに使えるのは君だけだから。」

「分かりました。」

 作戦がまとまると、彼らは再びゴーレムに立ち向かっていった。

 ミレーユとバーバラは打ち合せのとおりにスクルトを唱えた。

 リベラはバイキルトで攻撃力を上げ、ホイミンはベホマでハッサンのHPを回復させた。

 ゴーレムはバーバラめがけて強烈な通常攻撃を2回仕掛けてきたが、とっさにリベラがかばってくれた。

 スクルト4回がけにもかかわらずかなりのダメージを受けた彼は、その場に倒れ込んだまま、しばらく立ち上がれなかった。

 ハッサンははやぶさぎりを仕掛けたが、やはり思ったほどのダメージにはならなかった。

 

 ターンの合間になると、バーバラはすぐにリベラのそばにやってきた。

「リベラ、あたしのために…。」

「大丈夫だ。君を守れてよかったよ。」

「でも…。」

「約束しただろ?君のダメージになるって。」

「じゃああたし、回復役になる。」

 バーバラはそう言うといきなりリベラに抱き着き、ベホマを唱えた。

「えっ?ちょ、ちょっと!」

 リベラは彼女の思わぬ行動に顔を赤らめた。

 その姿を見てハッサン、ミレーユ、ホイミンも驚いていた。

「バーバラ!そんなことをしたら、また痛みが!」

「こうすれば他の人に使っても大丈夫かなって。」

 彼女は顔を赤らめながら両腕を離した。

 一方のリベラも顔を真っ赤にしていた。

 

 次のターンでミレーユはさらにスクルトを唱え、守備力をほぼ限界まで上げた。

 バーバラは先程のベホマの影響からか、1回休みになってしまった。

 リベラはバイキルトがかかっていることもあって、ようやくまともなダメージになった。

 ゴーレムはハッサンに2度攻撃をしてきたが、スクルトのおかげもあってか、ダメージは先程よりも少なくなった。

 そして突き飛ばされることもなく踏ん張れたため、彼は反撃として通常攻撃をした。

 しかしまだ満足の出来るダメージにならなかったため、リベラにラミアスの剣を道具使用させてもらえるように申し出た。

 そしてホイミンはハッサンにベホマを唱えた。

 

 ハッサンに武器を渡したリベラは代わりにルカニを唱え、ゴーレムの守備力を下げた。

 そしてミレーユはメラミでダメージを与えた。

(メラミは通るのね。だったら、これを使ってみるわ。)

 バーバラは何かいいアイデアを思い付いたのか、炎のツメを構えながら、右足をゴーレムの方に向けた。

(ん?一体、何をするんだろう?)

 リベラがそう思っていると、バーバラは大きな火の玉を放ち、ゴーレムに命中させた。

「ええっ!?何、今の!?メラミとは段違いの威力じゃないか!」

 彼をはじめ、他の人達はビックリだった。

 その後、ゴーレムは瞑想を始めたため、このターンでは誰もダメージを受けなかった代わりに、これまでのダメージをどんどんリセットさせていった。

 それを見てホイミンはヒャダルコを唱え、ハッサンは自分にバイキルトをかけてラミアスの剣を返却した。

 ターンの間の打ち合わせで、リベラはバーバラにいつの間にメラゾーマを覚えたのか聞いてみた。

「あれはメラミをダブルで放ったのよ。」

「あっ、そうか。炎のツメと足の両方で放ったわけだね。」

「そうよ。ぶっつけ本番だったけれど、うまくいって良かったわ。」

ミレーユ「でも、あの威力はメラミ2発よりも強かったわね。」

ハッサン「そうだな。何か相乗効果でもあったようだな。」

「じゃあ、あたしはひたすらダブルメラミで攻撃をすることにするわ。」

リベラ「でも、そんなことをして、体は大丈夫なのか?」

「……。」

 バーバラは何も答えようとせず、何か我慢をしているような表情をしていた。

「まさか、また無理をしているのか?もしそうならやめてくれ。」

「でもあたし、みんなの役に立ちたいから。」

ハッサン「ダメだ。俺もこれ以上お前の痛がる姿は見たくないぜ。」

「だって…。」

ミレーユ「じゃあ、その炎のツメはホイミンに持たせましょう。そしてバーバラは足で、私とホイミンは炎のツメで一斉にメラミを唱えてみましょう。」

リベラ「そうか。ダブルメラミでメラゾーマになるんだから、トリプルならもっと大きな相乗効果が期待出来そうだね。」

「分かったわ。じゃあホイミン、これ。」

「ありがとうございます。では僕も協力させていただきます。」

 ホイミンはありがたく炎のツメを受け取った。

「それからハッサン、僕達はとにかく大きなダメージを与えよう。」

「そうだな。1ターンでケリをつけないといけなさそうだからな。」

「うん、頼んだよ。」

「ああ。」

 作戦がまとまると、彼らはゴーレムの方を向いた。

 そしてハッサンはまじんの鎧を外し、ゴーレムよりも先に行動出来るようにした。

(この鎧無しでダメージを受けたら、さすがの俺でも一発でKOだろうな。絶対にカタをつけなければ。)

 彼は闘志をメラメラと燃やしていた。

「それじゃバーバラ、ホイミン。一斉に行くわよ。」

「うんっ!」

「了解です。」

 ミレーユの合図を受けて、2人と1匹は一ヶ所に集まり、一斉にメラミを放った。

 すると3つの火の玉は一つに融合し、ゴーレムに向かって飛んでいった。

「ズドーーーン!!」

 メラゾーマをさらに上回る巨大な火の玉は大きな音を立てながら命中した。

「次は僕だ。うおおおおっっ!!」

 続けざまにリベラはバイキルトがかかった状態で強烈な通常攻撃と追加攻撃を叩き込んだ。

「後は頼んだわ、ハッサン!」

「ああ、絶対に決めてやるぜ!」

 ミレーユの声を受けて、ハッサンはゴーレムに強烈な攻撃を叩き込んだ。

「グワアアッ!」

 一気に大ダメージを受けたゴーレムは、うめき声を上げながらゆっくりと仰向けに倒れ込んでいった。

 すると、それまで不気味に赤く光っていた目が元の色に戻っていき、正気を取り戻したようだった。

 そして何かを言い始めたが、リベラ達には何を言っているのかよく分からなかったため、ホイミンが彼のところに行って声をかけた。

 その結果、会話が成立したため、通訳を買って出た彼はどうしてこの世界にやってきたのかを問いかけた。

 話によると、彼はゴレムスという名前で、オークスとピエールという仲間モンスターと一緒に行動していたそうだ。

 その時、異世界からやってきたという人物に出くわして戦闘になり、仲間をかばって何か呪いをかけられ、それから先の記憶が無いということだった。

「そうか。そちらの世界でもカンダタ達が暴れているのか。」

 リベラ達は何としても彼らを倒さなければという思いを感じ取った。

 

 アジトの中に入ってしばらく進むと、オークキングとスライムナイトが姿を現した。

 リベラ達は戦闘に備えて身構えたが、そのモンスター達は戦うことをためらっているようだった。

(どうしたんだろう?)

 リベラが疑問に思っていると、ホイミンが前に出てきて彼らと会話を始めた。

 すると彼らがオークスとピエールということが判明した。

リベラ「じゃあ、君達はゴレムスを追って、この世界に来たわけなんだね。」

オークス「その通りだぜ。」

ピエール「彼を知っているんですか?」

「はい、さっき僕達が呪いを解いてあげました。」

オークス「本当か?正気に戻ってくれたんだな?」

「はい。」

オークス「ありがとう、君達。」

ピエール「早速彼のところに連れて行ってくれますか?」

「もちろんです。一緒に行きましょう。」

 リベラ達は彼らを連れて、アジトの入口まで行った。

 するとそこには瞑想を終えてHPを回復させたゴレムスが起き上がり、こちらを見つめていた。

(※ここから先はオークス、ピエールは人間の言葉をうまく話せないゴレムスのためにモンスターの言葉でしゃべっているため、人間であるリベラ達4人は会話を理解出来ていません。)

「ピエール!オークス!」

ピエール「良かった、無事で。」

「お前達、俺を追ってここまで?」

オークス「ああ、そうだぜ。」

「すまない。迷惑をかけてしまったな。」

「俺達をかばってくれた結果なんだから、それは仕方ないさ。気にするな。」

 オークスとピエールはゴレムスを責めるようなことはしなかった。

 それを見て彼も安心し、再会を喜んだ。

 そして彼らは自分達の世界に帰る前に、仲間モンスターとして協力をしてくれることになった。

「分かりました。一緒に頑張りましょう。」

 リベラ達は4人と4匹という形で2つのパーティーが誕生したことを喜んでいた。

 



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Quest.35 因縁の相手

 ゴーレムのゴレムス、スライムナイトのピエール、オークキングのオークスを仲間として迎えたリベラ達は、みんなでアジトの中を進んでいった。

 入口付近では大したことのないような感じだったそのアジトは、実際に入ってみると迷路のようになっていて、地下深くまで続いているような感じだった。

 その中で、彼らは何度か敵意をむき出しにしたモンスターや人間と遭遇した。

 相手がモンスターの場合はホイミンやゴレムス達が会話をし、人間の場合はリベラ達がまず彼らと話しかけて、ここに来た理由などについて聞いてきた。

 その結果、話し合いで戦闘を回避出来たこともあったが、必ずしもうまくはいかなかった。

 戦闘になった時、単体攻撃を重視する場合はリベラ、ハッサン、ゴレムス、ピエールがスタメンに入り、通常攻撃や特技を駆使した。

 その中でピエールはハッサンから気合ためを教えてもらい、すぐにマスターして使い始めた。

 一方、複数攻撃を重視する場合はリベラ、ミレーユ、オークスが戦うことになり、リベラとミレーユはライデインを、オークスがマヒャドを唱えた。

 残りの一人はハッサンかピエールが入り、ハッサンがスタメンの場合はまわし蹴りや炎の剣のイオを、ピエールの場合はイオラを唱えた。

 途中で回復が必要になった場合はホイミンが一時的に入り、ベホマやベホマラーを唱えた。

 なお、バーバラは体に故障を抱えていることをリベラに考慮されて、敵の呪文や打撃攻撃の当たらないところにいた。

 そのため、ラリホーやマホトーンなど敵にかける呪文が使えず、スクルトやベホイミでリベラ達の援護をしていた。

 

 4人と4匹は戦闘後の敵のドロップや、宝箱からHP、MP回復アイテム、装備品、異世界への移動アイテムなどを手に入れた。

 その際、HP回復アイテムは移動中の回復呪文の節約のために、MP回復アイテムは呪文をある程度唱えたメンバーがその場で使っていった。

 装備品はゴレムス達がその場で装備していき、異世界への移動アイテムはリベラ達とゴレムス達のパーティーで共有していった。

 

 地下4階までは戦闘の連続だった彼らだったが、5階に来ると途端にパッタリと止んだ。

バーバラ「何だかこれまでとは違って凄く静かね。」

ハッサン「そうだな。それがかえって不気味だけれどな。」

ミレーユ「どうやらここからはボスが待ち構えていそうね。」

リベラ「多分そうだろうな。気合を入れていくぞ。」

「僕がみなさんのHPを満タンにしましょう。」

 ホイミンは回復呪文を何度か唱えてくれた。

 

 彼らが歩いていると、突き当り付近にジャミというモンスターがいた。

 リベラ達には面識がないが、彼はゴレムスに呪いをかけてきた張本人であり、ゲマの手下でもあっただけに、ゴレムス達にとっては因縁の相手であった。

「そうか。呪いが解けたのか。どうせならそのままこの世界で暴れまわって欲しかったが、こうなった以上、ゴレムスよ。お前はもう必要ない。オークス、ピエールともども仲良く死ぬがいい。」

 彼は早速自身にバリアとマホカンタを張り、先制攻撃でゴレムスに連続でダメージを与えてきた。

 戦闘にはゴレムス、ピエール、オークスに加えてリベラが飛び入りで参加し、ピエールは気合ためをして、ゴレムスは瞑想でHPを回復させ、リベラは通常攻撃をした。

 しかしバリアのせいで守備力が異常に高く、ほとんどダメージが入らなかった。

 ジャミはバギクロスで全員にかなりのダメージを与えてきたため、オークスはとっさにベホマラーを唱えた。

 次のターンでリベラは自分にバイキルトをかけ、ピエールは力任せの攻撃で多少のダメージを与えた。

 ジャミは凍える吹雪で全員にダメージを与えてきたため、オークスは再度ベホマラーを唱えた。

 そしてゴレムスが力任せの攻撃を浴びせた。

 しかしジャミはHP自動回復の能力を持っていたため、せっかくのダメージが一瞬でリセットされてしまった。

 それを見たリベラはバイキルト状態のラミアスの剣で精一杯の攻撃をした。

 すると剣がまぶしく光り、ジャミのバリアとマホカンタを一気に解除した。

「な、何だと!?」

 とっておきの切り札を封じられた挙句、守備力を下げられたジャミはとっさにリベラに通常攻撃をしてきたが、彼はうまく攻撃をかわした。

 ピエールは再び気合ためのモーションに入り、ゴレムスとオークスは通常攻撃を叩き込んだ。

 この時点でジャミの自動回復や呪文の耐性はすでに失われていたため、この時点ですでに流れはリベラ達に傾いていた。

 その後はミレーユとまじんの鎧を外したハッサンも飛び入り参加して総攻撃を仕掛け、ついにジャミを打ち負かした。

「お、おのれ…。だが、俺はこのままムザムザとはやられん!」

 彼はそう言うと、渾身の一撃とばかりに、何か呪いのようなものを唱え始めた。

「あっ!危ない!」

 ハッサンが叫ぶと同時に、リベラはとっさにラミアスの剣を道具使用した。

 するとバリアとマホカンタが発動し、リベラに向かって放ってきたその呪いをはね返した。

「な、何い!?」

 ジャミは思いもよらない状況を再び見せられ、驚いたまま呪いを浴びてしまった。

 すると彼は少しずつ体が石化していった。

「ま、まさか…。嘘だ…。こんなことに…なる…なんて…。」

 やがて彼の体は完全に石になってしまった。

ハッサン「リベラ、倒せて本当に良かったな。」

「うん、一時は倒せないんじゃないかと思ったけれど、良かったよ。」

ミレーユ「その剣が本当に役に立ったわね。」

「そうだね。バイキルトと凍てつく波動に加えてこの効果も加わるとなれば、本当に頼りになるよ。」

バーバラ「リベラ…。良かった、無事で…。」

「ごめんね、心配かけて。」

 リベラは彼女のところに歩み寄り、両手を彼女の両肩に置いて見つめ合った。

 この後の2人の運命をハッサンとミレーユは知っているだけに、彼らはその光景をうれしそうに眺めていた。

 

 5階の奥には何か旅の扉らしきものがあった。

オークス「ここは俺達が通ってきたところだな。これで元の世界に帰れるぜ。」

ピエール「でも、長くは持ちそうにないようなので、早く帰る必要がありますね。」

ゴレムス「出来ることなら、君達ともっと一緒にいたかったが、仕方がないな…。」

 彼らは名残惜しそうな表情をしていた。

リベラ「でも、異世界に移動出来るアイテムを手に入れたんだから、きっとまた会えるよ。今度ここに来てくれたら、この世界をゆっくり案内してあげるからね。」

ピエール「それはありがたいですね。ぜひお願いします。」

オークス「お前達が困った時には、ぜひこちらの世界に来てくれ。力になるぜ。」

「分かりました。」

 一行が残された時間を噛みしめるように会話をしていると、ゴレムスは自分達が遠い未来の世界からやってきたことを打ち明けてくれた。

 それを知ったハッサンは、これから何が起きたのかについて問いかけてみた。

 しかしピエールはそこまではよく分からないことを伝え、続けざまにオークスはたとえ知っていたとしても、もし教えてしまうと歴史を狂わせるかもしれないからということで、未来のことについては何も語ってくれなかった。

「結局、未来は白紙ってことよ。私達の手で見つけ出していかなければね。」

「分かったぜ、ミレーユ…。」

 ハッサンは自分達2組のカップルがこれからどうなるのかを知ろうとしたが、それは結局出来なかった。

 そしてリベラ達はまた会えることを約束しながら、彼らが元の世界に帰っていくのを見届けた。

 

 階段を下りて地下6階にやってくると、そこにはカンダタと4人の子分達が待ち構えていた。

 それを見て、さっきまでのリベラ達の気持ちは一瞬にして吹き飛んでいった。

「お前達、ここまでやってきたのか。だが、今の俺達は以前とは違うぜ。誰が相手でも負ける気がしねえからよ。」

 カンダタは完全に上から目線で語りかけてきた。

「僕達は出来ることなら戦いたくはない。それ以前に、お前はどうしてこの世界にやってきたんだ!目的は何だ!」

 リベラは怒りに満ちた表情で問いかけた。

「理由?俺達は盗賊だぜ。世界中のお宝を集めてみたいんだ。そして盗賊王に俺はなりてえんだ。」

 カンダタはその後も話を続け、元々住んでいた世界で勇者一行にコテンパンにやられてしまい、逮捕までされたため、その夢が叶わぬものになってしまったこと。

 脱獄後に異世界からやってきたモンスターに出会い、そちらの世界は平和であることで、人々の警戒感が薄れていることを教えてくれたこと。

 その世界なら自分の前歴がチャラになるために思う存分暴れられるし、最終的に自分が盗賊王になれると思ったことで、この世界にやってきたことを教えてくれた。

「というわけだ。最初はテリーやお前達にあっさりとやられそうだったが、その後、ジャミの能力を俺も分けてもらったから、今の俺達は誰にも負ける気がしねえぜ。その実力を今から思う存分お前達に披露してやる!」

 カンダタは自慢気にそう言うと、早速バリアとマホカンタを張ってきた。

(ジャミと同じことをしてきたわけか。だったら、僕はさっきと同じ手を使えば…。)

 リベラは口にこそ出さないが、早速対処法を思い付いた。

 戦闘になると、リベラは自分にバイキルトをかけ、ミレーユとバーバラはスクルトをかけた。

 するとここから相手の怒涛の攻撃が始まり、リベラはカンダタの2度攻撃で大ダメージを受けてしまった。

 幸い鎧とスクルトのおかげで致命傷にはならなかったものの、彼の持っている武器が何かとんでもない攻撃力を秘めているようだった。

 4人の子分達のうち、3人は通常攻撃でミレーユ、バーバラ、ハッサンにダメージを与え、残りの1人はラリホーでハッサンとミレーユを眠らせてしまった。

 ターンの合間にホイミンはリベラにベホマを唱えてくれた。

(ラリホーが厄介ね。まずこれを何とかしなければ。)

 バーバラはスクルトの代わりにマホトーンを唱え、子分達の呪文を封じた。

 すると子分の1人がラリホーをキャンセルして彼女にダメージを与えてきた。

「まず、あの女をやっちまえ!」

 カンダタが指示を出すと、自身も含めて残りの子分達が一斉に集中攻撃を仕掛けてきた。

(やられる…!)

 バーバラは自分がお陀仏になってしまうことを覚悟したその時、リベラが彼女の前に立ちはだかってきて、ダメージを一手に引き受けてくれた。

「リベラ、あたしのために…。」

「君のダメージになるって言ったろ。」

「ごめんね…。」

 バーバラはゴレムス戦の時に続いて、2度も自分を守ってくれたリベラに頭を下げて謝った。

 それを見てホイミンは再びリベラにベホマをかけてくれた。

 ここでハッサンは目を覚ましてくれたが、ミレーユはまだ眠ったままだったため、彼はげんこつで無理やりたたき起こした。

「そうか。ここで全員お目覚めというわけか。だったらちょうどいい。あの時の恐怖を再び見せてやる!」

 カンダタはトルッカで戦った時に使ったアイテムを取り出し、爆弾岩3匹を召喚してきた。

「これでお前達は一瞬でお陀仏…。」

 彼がここまで言ったところで突如「ニフラム!」という声が響いた。

 するとその爆弾岩は光に包まれて、その場からいなくなった。

「な、何?」

 思いもよらないことが起き、カンダタは驚いていた。

 唱えたのはバーバラだった。しかしとっさにだったためか、足ではなく手で唱えていた。

(良かった。あれから爆弾岩の弱点について調べておいて。もしあの時唱えたのがニフラムだったらこんなけがをしなくて済んだけれど…。でも、あの時それを唱えて、もし失敗していたら命はなかったはずだから、確実に切り抜けるにはマダンテしかなかった。でも、今度唱えたらあたしは間違いなく助からないだろうから、対策を練っておいて本当に良かったわ。)

 彼女は両手に多少の痛みが走っていたが、それを表情には出さずにいた。

 続けざまにリベラはラミアスの剣でカンダタを力一杯攻撃した。

 するとジャミの時と同様に剣がまぶしく光り、バリアとマホカンタを一気に解除した。

「な、何だと?これすらも対処するのか!」

 カンダタは切り札をまたも失うことになった。

 ミレーユは再度スクルトを唱え、守備力をさらに上昇させた。

 カンダタ子分達はハッサンに集中攻撃をしてきたが、その守備力のせいで大したダメージにはならず、しかも4回のうち1回は攻撃を受け止めた。

 ホイミンはベホマラーを唱え、ハッサンは自分を取り囲んでいる子分達にまわし蹴りを叩き込んだ。

 

 カンダタと4人の子分達との戦いは、徐々にリベラ達の流れになりつつあった。

 その中で、切り札を2つも失ったカンダタは、先程リベラに強力な2度攻撃を叩き込んだ武器について話し出した。

「お前達、これははかぶさの剣と言ってな、破壊の剣の恐ろしい攻撃力に加えて、はやぶさの剣の2度攻撃をあわせ持つ武器だ。この武器で八つ裂きにしてやる。覚悟しろ!」

 カンダタは懲りる様子もなく、襲い掛かってきた。

 それを見てリベラはこちらから攻撃をせず、代わりに自分の剣でカンダタの攻撃を受け止めることにした。

 攻撃を2回防ぐと、ラミアスの剣は再び輝きだし、その光がはかぶさの剣に乗り移っていった。

「うおっ!?何だ、これは!?」

 カンダタが驚いていると、その剣は2つに分裂し、破壊の剣とはやぶさの剣になった。

「な、何いっ!?俺の最後の切り札がっ!!」

 カンダタは自分が色々しゃべったことがあだとなってしまった。

 その隙にミレーユはライデインで全員にダメージを与え、バーバラはルカニでカンダタの守備力を大幅に下げた。

 4人の子分達はリベラ、ハッサン、ミレーユ、バーバラにそれぞれ行動をしてきたが、リベラとミレーユは攻撃をかわし、バーバラとハッサンは守備力の大幅な上昇もあって、ダメージは少しだった。

 ホイミンは再びベホマラーを唱え、ハッサンははやぶさぎりをカンダタにヒットさせた。

 

リベラ「ミレーユ、メラミ2発でメラゾーマになるんだったら、今度は僕達でライデインを2発同時に放ってみようか。」

「それはいいアイデアね。早速やってみるわ。」

 2人は次のターンで早速ダブルライデインを放ち、全員にギガデインに迫るダメージを与えた。

 続けざまにバーバラは「メラゾーマ!」と叫びながら炎のツメと足でのメラミを2発同時に放ち、カンダタに命中させた。

(あんたは絶対に倒す!あんたのせいで、あたしがあの後どんな思いをしてきたか!)

 彼女は鬼のような表情でにらみつけていた。

 カンダタは破壊の剣で攻撃をしようとしたが、呪いで体が動かなかった。

 子分達はハッサンに集中攻撃を与えてきたものの、相変わらず守備力の高さに阻まれていた。

 彼らはラリホーを唱えようにも、マホトーンで封じられているため、通常攻撃しか術がない状態だった。

 ホイミンとハッサンは先程と同じく、ベホマラーとはやぶさぎりを使った。

 

リベラ「もう少しだ。みんな、頑張ってくれよ!」

ハッサン「ああ、やってやるぜ!」

 リベラとミレーユは再びダブルライデインを放ち、子分達を一気にダウンさせた。

 バーバラは再びメラゾーマを命中させた。

 カンダタははやぶさの剣でリベラに2度攻撃をしてきたが、ラミアスの剣とオルゴーの鎧に防がれてしまい、ダメージを与えられなかった。

 そしてハッサンがとどめとばかりに強烈な一撃を叩き込み、ついにカンダタをダウンさせた。

「やったぜ、みんな!」

「私達、勝ったのね!」

 ハッサンとミレーユが喜んでいる中で、リベラは厳しい表情でカンダタのところに歩み寄ってきた。

「これで勝負ありだ。この世界から出ていってくれ!」

「それは断る。この世界の盗賊王になるまでは…。」

「そのせいでこの世界の人達が、そしてあの爆弾岩のせいでバーバラがどんな思いをしてきたのか分かっているのか!出ていけ!2度とこの世界に来るな!」

「お、おのれ…。」

 カンダタが傷口を抑えながらリベラをにらみつけていると、子分達が目を覚ました。

「お前達、この世界にどうやら俺達の居場所は無いようだ。撤退するぞ。」

「…分かりました…。」

「…仕方ありません…。」

 子分達は悔しそうにカンダタの決断を受け入れた。

「そういうわけだ。俺達はこれから元の世界に帰る。」

「本当だろうな?」

「ああ。嘘は言わねえ。お前ら、撤退するぞ。」

「はい…。」

 カンダタと子分達はとぼとぼと階段を下りていった。

 

 しばらくすると、下の方からかすかに声が聞こえてきた。

 どうやらリベラ達に返り討ちにされたことを誰かに報告しに行ったようだ。

 すると「ご苦労だったな。お前達はもう必要ない!」という声が聞こえてきて、「ぐわあああっ!」という、カンダタの悲鳴が聞こえてきた。

ハッサン「何だ?下の階に誰かいるのか?」

ミレーユ「そのようね。つまり、もう一度戦闘になりそうね。」

リベラ「じゃあみんな、MPをしっかり回復させておこう。」

 彼らはカンダタを超えるボスとの戦闘に備えて気を引き締めていた。

 しかし、かたわらにいるバーバラは…。

 



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Quest.36 ラストメッセージ

 リベラ達との戦闘に敗れたカンダタ一味はこの世界から撤退するために下の階に降りていった。

 すると「ご苦労だったな。お前達はもう必要ない!」という声が聞こえてきて、「ぐわあああっ!」という、カンダタの悲鳴が聞こえてきた。

ハッサン「何だ?下の階に誰かいるのか?」

ミレーユ「そのようね。つまり、もう一度戦闘になりそうね。」

リベラ「じゃあみんな、MPをしっかり回復させておこう。」

 彼らはカンダタを超えるボスとの戦闘に備えて準備を整えた。

 しかし、かたわらにいるバーバラは痛がりながらうずくまっていた。

 それを見て、みんなの表情は一気に変わった。

「バーバラ…。大丈夫?」

 リベラは言葉ではそう問いかけてみたものの、大丈夫でないことは誰の目にも明らかだった。

「お前、こんな状態になるまで頑張っていたのかよ。」

「あなたはもう限界みたいね。これ以上戦わないで。」

 ハッサンとミレーユも彼女のことが心配でたまらなかった。

「あたし…、最後まで戦いたい…。みんなの役に立ちたい…。」

 バーバラは痛がりながらも、懸命に戦力になろうとしていた。

リベラ「でもここで無理をしたら、動けなくなっちゃうよ。」

「夢の世界に帰ればこんなけがも治っていくんだから、大丈夫よ。だから一緒にいさせて…。」

「……。」

「ミレーユ、お願い…。きっと役に立つから…。」

「…分かったわ。じゃあ私が『痛いの痛いの飛んでいけ』って、おまじないをしてあげるわね。」

「それで本当に痛いの飛んでいくの?」

「ええ。それじゃみんな。彼女から離れて。」

「うん、分かった。」

「お前を信じるぜ。」

「ではお願いします。」

 リベラ、ハッサン、ホイミンは後ろに下がっていき、バーバラから距離を置いた。

「それじゃ、バーバラ。肩の力を抜いて。」

「分かったわ。」

 バーバラは深呼吸をしておまじないに備えた。

 するとミレーユがラリホーを唱えてきたため、バーバラは「えっ?どうして…?」と言いながら眠りに落ちていってしまった。

「ちょっと!言っていることと違うじゃないか!」

 リベラは攻めるような口調で問い詰めた。

「私だって本当は唱えたくなかった。正直、こんな悲しい気持ちでラリホーを唱えたのは生まれて初めてよ…。でも、これ以上バーバラを痛い目にあわせるわけにはいかないわ…。」

「でも、夢の世界に行けば、その痛みも消えていくんだよ。」

「たとえそうだとしても、私としては彼女を少しでも元気な状態で夢の世界に送り届けたかったの。彼女が目覚めたら、きっと私は怒られると思うけれど、これが今の私の出来る最善の策だと思ったから…。ごめんね、バーバラ…。」

 ミレーユは両手を震わせながら謝った。

 そして彼女が夢の世界でどんなに元気な体になったとしても、再びこの世界に戻ってきたら、たとえ姿が見えない状態であったとしても、またボロボロの体になってしまうことを打ち明けた。

ホイミン「それなら、確かに無理をさせるわけにはいきませんね。」

 それを聞いて、リベラとハッサンもミレーユの気持ちを理解した。

 そして彼らはぐったりと眠っているバーバラのそばにやってきた。

「バーバラ。お前はこの世界に来てから、強力なベギラマやベギラゴンといった攻撃呪文で活躍してくれただけでなく、ベホマで頼もしい回復役にもなってくれたよな。もしあのマダンテによるけがが無かったら、お前は間違いなく俺達の誰よりも大活躍していたはずだったのに…。どんなに悔しかったろうな…。」

「君は代償を背負ってまで僕達に会いに来てくれた。自分の武器と引き換えにしてまで僕に炎の剣を買わせてくれた。僕達をメガンテから救ってくれた。呪文の先生になってくれた。ホイミタンクにもなってくれた。君がこの世界で残してくれた功績は絶対に忘れないよ。本当にありがとう。もう頑張らなくていいからね。大好きだよ。」

 ハッサンとリベラは泣きそうになりながら彼女をねぎらった。

 そしてリベラは彼女を抱え上げると壁のところまで歩いていき、彼女を床におろして、背中を壁にもたれさせた。

 ミレーユはバーバラの身に付けているはやてのリングを外して自分が装備し、ホイミンは炎のツメを受け取った。

 そしてリベラはラミアスの剣を振りかざしてバリアを作り、彼女を包み込んだ。

 3人と1匹は全員のHPを全回復させた後に祈りの指輪でMPを回復させて、バーバラを見送るように下の階に降りていった。

 

 地下7階。階段からすぐの場所は大広間となっており、そこには石像になったカンダタと子分達の姿があった。

リベラ「敵だったとはいえ、こんな姿になるとなんだかかわいそうだな。」

ハッサン「でも言い換えれば、さらに強い敵がこの先にいるってことだよな。」

ミレーユ「そうね。どうやらこの先に大ボスがいるってことになるわね。」

ホイミン「ということは、そのボスを倒せばまた平和になりそうですね。」

 彼らは気合を入れて、広間の壁にある扉に向かっていった。

 

 扉の近くでは、石像にされたモンスター達が何匹もいた。

「ここ、気味が悪い。悪趣味なボスなんだな、きっと。」

 リベラをはじめ、パーティー一行は不安げな表情をしながら扉を開いて中に進んでいくと、そこには誰かが待ち伏せをするように立っていた。

「うひょひょひょー!!お前達、よくここまで来られたな。」

 そう言ってあざ笑う男は、ドグマだった。

 彼のかたわらにはゾゾゲルがいた。

 この2人は以前のリベラ達の旅の中で唯一勝つことが出来ず、倒せないまま姿をくらましていた相手だった。

 そのため、リベラにとってはその後、どうしてしまったんだろうという疑問があった。

 話によると彼らはあれから別世界に逃げていき、そこでひそかにカンダタやあくまのきし、キラーマジンガ、デススタッフなどに協力をしてもらい、そしてひそかに2ヶ所のアジトを作って機会をじっと伺っていたということだった。

リベラ「お前達、せっかく世の中が平和になったのに、なぜこんなことをしたんだ?」

ドグマ「大魔王デスタムーアがいなくなって、今度は自分達がこの世界を支配するチャンスだと思ったからよ。そしていいところまでその計画が進んだが、テリー率いるパーティーが別アジトをつぶしていったせいでそのプランがかなり遅れてしまった。そこでゴーレムやジャミを連れてきたが、そいつらにも勝てるとはな。」

「お前達の思い通りにはさせないぞ!せっかく訪れた平和を乱されてたまるか!」

「ほう。そう言うのであれば、かかってくるがよい。どうせお前達は以前のように返り討ちにされるのだからな。」

「2度も同じ手は食わないぞ。絶対に勝ってやる!」

 リベラの表情は怒りに満ちていた。

 

 戦闘になると、ドグマは自分の周りにバリアを張った。

(こいつもジャミやカンダタと同じ手を使うのか。だったら、そのバリアを剥がしてやる!)

 リベラは自分にバイキルトをかけた。

 ミレーユはスクルトを唱え、ホイミンは氷のやいばの通常攻撃でゾゾゲルにダメージを与えた。

 ゾゾゲルは五月雨ぎりで全員にダメージを与えてきた。

 そしてハッサンは大きく息を吸い込み、気合ためをした。

 次のターンでミレーユは再度スクルトを唱え、リベラは力いっぱいの通常攻撃を叩き込み、バリアを剥がした。

「ほう。お前さんの剣にはそんな効果があるのか。気に入ったぞ。」

 ドグマは全く動揺することもなく、不気味な笑みを浮かべながら様子を見ていた。

 ゾゾゲルはまわし蹴りでリベラ達全員にダメージを与えた。

 そのタイミングを見計らった上でホイミンはベホマラーを唱え、HPを回復させた。

 ハッサンは強力な一撃をゾゾゲルに叩き込んだ。

 

 その頃、マーズの館では、ターニアがリベラ達の帰りを待ち続けていた。

「グランマーズさん、お兄ちゃん達の様子を見せてもらってもいいですか?」

「どうしたんじゃ?何か不安でもあるのか?」

「はい…。何だか嫌な予感がするんです。本当に無事に帰って来られるのかどうか…。」

「そうか。実はな、わしも同じ気持ちがするんじゃ。最後に待ち受けているボスは、正々堂々とは到底言い難いやり方をするからのう。」

「そうなんですか?じゃあ、お兄ちゃん達は本当に勝てるんでしょうか?」

「やり方次第では勝てるかもしれん。じゃが、その後に待ち受ける現実を彼らが受け入れられるかどうかの方が心配じゃがの…。」

「それはお姉ちゃんと会えなくなることですか?」

「まあそうじゃが…。」

 重い表情でうつむいてしまったグランマーズを見て、ターニアは何か嫌な予感を感じ取った。

「あの…、この後お兄ちゃんがどうなるのかを教えてもらえますか?」

「そんなことをしたら運命を変えてしまうことになる。未来のことは話すわけにはいかん。」

「お願いします!どうか教えてください!」

「お前さんの人生にも影響を及ぼすじゃろうし、未来を狂わせることになるかもしれんぞい。」

「構いません!お願いします!!」

 ターニアの気持ちは本気だった。

「…分かった。では、お前さんには特別に見せることにしよう。」

 グランマーズは渋々と言った感じで水晶玉に手をかざし、リベラ達を映し出してくれた。

 そしてひと足早く未来の光景を見届けたターニアはいてもたってもいられなくなった。

「おばあさん!あのアジトの入口まで私を連れていってください!お願いします!」

「…そうか。よかろう…。じゃあ、今から瞬間移動をしていくぞい。しっかりとわしにつかまるんじゃ。」

「分かりました。」

 グランマーズの了解を得て、ターニアはアジトへと向かっていくことになった。

 

 リベラ達が戦っているさなか、バリアが解除されたのとほぼ同時に目を覚ましたバーバラは、痛みをこらえながら立ち上がり、みんなを探し始めた。

「イタタタ…。みんな、どこ?あたしを置いていくなんて…、ひどい…。」

 すでに両手にはかなりの痛みが走っており、特に左手は握力がほとんどない状態の中で、彼女は時々表情をゆがませながら階段を下りていき、扉の前までやってきた。

 すると、中からかすかに声が聞こえてきた。

「ここね。ここでみんなが…。」

 微力でもいいから何か力になるために扉を開けようとすると、ふと『うひょひょひょ。お前達、よくここまで戦ったな。だが、ここまでだ。あの時と同じようにムラサキの瞳の洗礼を受けるがよい!』という不気味な声が聞こえてきた。

 すると、続けざまに『か、体が…。』というリベラの声が聞こえ、ハッサン、ミレーユ、ホイミンの苦しそうな声も聞こえてきた。

『さあ、苦しめ!身動きが取れない恐怖を味わえ!そして勇者よ。お前のその剣の効果を頂くぞ。これでバイキルトも、バリア剥がしの効果もこちらのものだ。そしてこちらでバイキルトを使い、お前達を滅多切りにしてやる!うひょひょひょ…。』

 ドグマの不気味な声が聞こえ、バーバラはじっとしていられなくなった。

「早く何とかしないと、みんなやられてしまうわ…。」

 彼女はリベラ達を助けたい一心で体に力を込めた。

「あたしはどうなってもいい…。みんな絶対に生き延びて…、平和に過ごしてちょうだい…。ハッサン、ミレーユ。あなた達だけでも、どうか幸せになってね…。リベラのこと、頼んだわよ…。」

 バーバラの声は、本人達の心にも届いていた。

(お前、まさか、あれを使う気か。頼むからそれだけはやめてくれ!)

(そんなことをしたら、あなたは間違いなく夢の世界に帰れなくなるわ!)

(俺達はよ、お前とリベラと一緒に幸せになりたいと考えているんだ。)

(あなた達を不幸にしたまま、私達だけが幸せにはなれないわ。)

 ハッサンとミレーユは最も恐れていたことが現実になることを感じ取った。

 その予感はリベラも感じ取っていた。

(よせバーバラ!僕は君を守るって決めたんだ!君を代償から解放させて、幸せにするって決めたんだ!)

(リベラ…。再びあなたに会えてうれしかった…。たくさんの思い出を、ありがとう…。ひとつ心残りがあるとしたら、あたしのドレス姿を…、あなたに見せてあげたかった…。)

(そんな言い方するのはやめてくれ!絶対に君の夢を叶えてあげるから!)

(ごめんね…。)

 すでに覚悟を決めているバーバラを、リベラは懸命に止めに行こうとした。

「頼む!この体、動いてくれ!動いてくれ!」

 しかし、彼がいくらもがいたところで、体はしびれたまま動かなかった。

「さあお前達、もう言い残すことは無くなったかね?よろしい。では今からその最強の剣そのものを頂くとしよう。お前達の命もあとわずかだ。せめて苦しまないように一瞬でカタを付けてやるぞ。」

 ドグマはムラサキの瞳を解除すると、勝ち誇ったよう笑みを浮かべながらリベラに近寄ってきた。

 するとその時、扉をメラミで壊す形でバーバラが部屋に入ってきた。

「よくもあたしの大切な仲間達を!」

「何だ、まだ一人いたのか?」

「くらえーーーっ!」

 バーバラは驚くドグマを鬼のような形相でにらみつけながら魔力を一気に暴走させていった。

「やめろーーーーっ!!」

 リベラは動けない状態のまま、大声で叫んだ。

(さよなら…。)

 バーバラの心の声がみんなに届いた次の瞬間…。

「マダンテーーーーーッ!!!」

 



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Quest.37 バーバラを助けて!

「バーバラ!起きてくれ!目を覚ましてくれ!」

 ドグマとゾゾゲルが倒されたことでマヒの効果が切れたリベラは、倒れているバーバラを抱え上げ、懸命に声をかけた。

 しかしすでに目は閉じられており、かろうじて息はしているものの、今にも止まりそうな状態だった。

「嘘だろ…。これからみんなで送り出すつもりだったのに、こんなことがあっていいのかよ…。」

「……。」

 ハッサンが信じられない表情をしながら声をかけた一方、ミレーユは何も言えず、両手で顔を覆いながら崩れ落ちるようにひざをついた。

 すると水晶玉が光り出したため、ホイミンが彼女に応答するように促した。

「分かったわ…。」

 ミレーユは震える手でグランマーズの姿を映し出した。

『何をしておるんじゃ!すぐにリレミトを唱えんかい!』

「えっ?でも、もう…。」

『早くするんじゃ!時間がないぞい!』

「……。」

 ミレーユは大声で催促されても、動けないまま呆然としていた。

「何やってんだよ!早くリレミトを!」

「もう…手遅れよ…。唱えたところで何が出来るの、ハッサン…。」

「あきらめるんじゃねえ!ばあさんなら何かいいアイデアがあるかもしれんだろ!」

「ミレーユさん、最後まであきらめてはいけません!」

「…分かったわ…。」

 ハッサンとホイミンの説得もあり、彼女は「みんな、行くわよ。」と声をかけ、涙を流しながらリレミトを唱えた。

 

 アジトの外に出てくると、そこにはターニアがいた。

「ごめん…。僕達のせいで…。」

 バーバラを抱きかかえたリベラは、泣きたい気持ちを必死にこらえながら謝った。

「みんな、早くお姉ちゃんから離れて!」

「えっ?でも…。」

「お願い、早く!巻き込まれてしまうわ!」

「巻き込まれるって…。」

「とにかく離れて!」

「分かった…。」

 ターニアに厳しい言葉を浴びせられたリベラは、バーバラを地面に横たわらせ、彼女から距離を置いた。

「お前、今から何をするんだ?」

「何かいい方法でもあるの?」

「とにかく何とかしてください。」

 ハッサン、ミレーユ、ホイミンはすがるように声をかけた。

 するとターニアは大急ぎで持ってきたアイテムを覆っている布をほどいていった。

「まさか!そんなことをしたらターニア、君も一緒に!」

「お兄ちゃん、来ないで!」

「えっ…。」

 リベラはターニアとバーバラのところに駆け寄ろうとしたが、彼女が怒り口調で叫んだことに驚いて歩みを止めた。

「お兄ちゃん大好き!そしてお姉ちゃんも大好きよ!お姉ちゃんを死なせない!絶対に!」

 ターニアが布をほどき切ると超・キメラの翼がまぶしく光り出し、2人を包み込んでいった。

 そして次の瞬間、光の矢となって上空に飛び立っていき、天空のかなたに消えていった。

 

 それからしばらくたってもリベラ達は現実を受け入れられずにいた。

 ミレーユはひざをついて、顔を隠したまま泣き崩れており、ハッサンは彼女に寄り添いながら、無言で励ましていた。

 そしてリベラは「さよなら」や「また会おうね」さえも言えず、あまりにも突然の別れに涙さえも流せないまま動けずにいた。

 そんな彼らを見て、ホイミンは何とか励まそうとしたが、何も出来ないままだった。

 

 すると、グランマーズがテリーを連れてやってきた。

「姉さん、それにみんな。ずいぶん落ち込んでいるじゃねえか。」

「テリー…。」

 ミレーユは涙をボロボロ流しながら声をかけた。

 しかし彼女は泣いてばかりで会話にならなかった。

 テリーは他の人にも声をかけてみたが、ショックが深すぎるために誰も状況を説明出来ずにいた。

「そういうことか。分かった。姉さん達がこれじゃ、とてもアジトをぶっ潰しにいくのは無理だろうから、俺が協力してくれる奴らを集めた上で、やってやるよ。」

 テリーは打ちひしがれるリベラ達の姿にショックを受けながらも、彼らを連れてルーラで飛び立っていった。

 マーズの館に降り立つと、彼はらいめいの剣とはやてのリング、まじんの鎧を受け取り、破邪の剣をミレーユのそばに置いた。

 そしてホイミンを連れて月鏡の塔に向かって飛び立っていき、スミスとドランゴに会った。

 未だに深いショックを受けたままのホイミンを、ドランゴは優しくねぎらった。

 そしてスミスが代わりに仲間に加わってくれたため、2人で塔を後にしていった。

 彼らはゲントの村でセリーナと一緒にいるチャモロに会い、事情を話した。

 すると、彼らも一緒に来てもらえることになったため、4人で向かっていくことになった。

 テリーはさらにアモスにも会いに行こうとしたが、スミスが早くアジトに向かうべきだと主張したため、この4人で向かっていった。

 

 彼らがアジトの内部に潜入して残されたアイテムを手に入れ、異世界へ旅の扉をふさいでいる頃になっても、マーズの館にいるリベラは深いショックと悲しみの中に沈んでいた。

「バーバラ…。お願いだ。どうか死なないでくれ。夢の世界のみんな、どうかバーバラを助けてくれ。もし彼女が助かるのなら、僕はどんな償いでもする。君と直接会えなくなってもいい。記憶が全て無くなってもいい。2度と元の関係に戻れなくなってもいい。どうか命だけは…。」

 リベラはバーバラが置いていったまどうしのローブを見つけると、それを手に取ってぎゅっと抱きしめた。

ハッサン「ミレーユ。バーバラが無事かどうか、水晶玉で確かめてくれないか?」

「……。」

「なあ、確かめなければ分からないじゃないか。頼むよ。」

「…ダメよ…。私…手が震えて…。怖くてとても…。」

 ミレーユは恐怖のあまり、水晶玉に手を伸ばせずにいた。

 すると館にグランマーズが入ってきたため、ハッサンは彼女にバーバラがどうなっているのかを問いかけた。

「彼女はのう…。きっとゼニス王や城の人達によって、懸命の治療を受けている頃じゃろう。」

「じゃあ、生きているのかよ。」

「まあ、お前さん達が今まで集めた命の木の実のおかげで、マダンテを唱えた後、少しだけ時間が残された。その間にターニアが夢の世界に連れて帰ったおかげで、ひとまず手遅れになるのは免れたが、それでも死の淵をさまよっているのは間違いないじゃろう。恐らく今夜にかけてが山場じゃ。何とか頑張りぬいてほしいがのう。」

「……。」

「……。」

 2人は最も恐れていた言葉だけは聞かずに済んだものの、まだ予断を許さない状況を知り、再び重苦しい気持ちになった。

「私のせいだわ…。あの時すぐにリレミトを唱えていれば、バーバラはそこまで衰弱しなくて済んだはずなのに…。」

「だからやめろって!そんなこと言うのは!」

「だって私…。」

「そんなことを言ったって、バーバラは喜ばねえぞ!誰よりも頑張っているのは他でもない、彼女なんだ!絶対に彼女は助かるさ!俺達を助けてくれた人が、そんな簡単にくたばってたまるか!」

 ハッサンは自身も恐ろしいまでのプレッシャーと闘いながら、懸命にミレーユを励ました。

 そんな彼らを見ながら、グランマーズは事前にターニアに見せた光景を思い出した。

 

 アジトの最深部で泣いてばかりだったミレーユは、ハッサンにせかされる形でようやくリレミトを唱え、地上に出てきた。

 しかし、リベラはバーバラを抱きかかえたまま、どうすればいいのか分からずにいた。

 するとハッサンは怒鳴るように『おい!早くルーラを!』と声をかけた。

 しかし、リベラはバーバラに『目を覚ましてくれ!』と言うばかりで、何も出来ないまま時間だけが過ぎていった。

『早くしろ!』

 ハッサンはさらに大きな声で怒鳴りながらリベラにげんこつを加えた。

『ルーラって…、どこに行くんだよ。』

『マーズの館に決まってんだろ!ぐずぐずしてんじゃねえ!』

『…分かった…。バーバラ。今からグランマーズさんのところに行くからね。』

『早くしろ!手遅れになるぞ!』

 再度ハッサンに怒鳴られたリベラはようやくルーラを唱えようとした。

 するとミレーユがバーバラの体が少しずつ光り始めていることを指摘した。

『えっ?まさか?』

 リベラが彼女を見ると、すでにその光は段々まぶしくなっていった。

『そんな…。バーバラ、死ぬな!死んじゃダメだ!』

 彼の必死のお願いにもかかわらず、バーバラの体はまばゆいばかりの光に包まれていき、やがて跡形もなく消え去っていった…。

『バーバラ…。バーバラ!嘘だ!夢だ!夢であってくれ!彼女が死ぬなんて、そんなバカなことがあってたまるか!バーバラ…。バーバラアアアアアァァッッ!!』

 リベラはひざをつくと、崩れるように地面にうつぶせになり、その場で泣き崩れた。

 彼のあまりにも痛々しい姿を見て、ハッサン、ミレーユ、ホイミンも泣き崩れてしまった。

 そして大切な人を失ったリベラは、その後…。

 

(当初はこうなる運命じゃった。じゃが、もしこうなっていたら、人間であるエルトリオを失った後の竜神族の娘ウィニアのように、どんどん衰弱していき、最後には取り返しのつかないことになったじゃろう。ターニア、その運命を変えてくれたこと、礼を言うぞ。)

 グランマーズは自身が夢の世界に行くのと引き換えに最悪の事態を回避してくれたターニアに感謝をしていた。

 

 やがて日も西に傾き、辺りの景色が赤く染まってきたため、リベラはまどうしのローブを持ったまま、ルーラでレイドック城に帰っていった。

 それから間もなく、テリー達が館に戻ってきた。

テリー「ばあさん、アジトは俺達の手で木っ端みじんにぶっ壊してきたぜ。」

スミス「そして石像から復活した人やモンスター達は元の世界に帰っていったぞ。」

 目的を果たした彼らはほっとしてはいたものの、部屋の奥で未だに打ちひしがれているミレーユと、彼女に寄り添うハッサンの姿を見ると、とても喜ぶ気にはなれなかった。

「ご苦労じゃった。戦いそのものはもう少し続くかもしれんが、今回の件を引き起こした張本人達は退治されたわけじゃから、これでこの世界は平和になっていくじゃろう。」

「そうなってくれるといいんだけれどな。あとは彼らに笑顔が戻ればいいがな。」

「そうですね。バーバラさんがいなければ、私達も幸せになれませんから。」

 セリーナとチャモロもバーバラのことが、そしてリベラ達のことが心配でたまらなかった。

 

 城に帰ったリベラは憔悴した表情のまま、凍てつく波動以外の効果を失ったラミアスの剣と、オルゴーの鎧を返却した。

 彼は両親や城の人達にいくら言葉をかけられても打ちひしがれたままで、食事もほとんどのどを通らなかった。

 彼の脳裏には、バーバラが残していったメッセージや、(さよなら…。)という言葉の後に自分の目の前でマダンテを唱えた時の姿が何度もよぎっていた。

 そのことは夜になっても続いており、彼はまどうしのローブを抱えながらベッドに横になった後も悪夢のようにうなされ続け、結局一睡も出来なかった。

(バーバラ…。どうか命を取り留めてくれ。そして水晶玉越しでもいいから、僕にもう一度その笑顔を見せてくれ。たとえ一緒になれなくてもいい。恨まれたっていい。記憶が無くなってもいい。どうか生きてくれ!お願いだから、誰か…、バーバラを助けて!)

 



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Quest.38 A Dream of Dreams

 バーバラを連れて夢の世界に戻ってきたターニアは大急ぎでゼニスの城に入っていった。

 そしてゼニス王をはじめ、城の人達の手によってすぐに治療が施された。

「お姉ちゃん、どうか頑張って!みんなが無事を願っているんだからね!」

 ターニアは手を合わせながら懸命に祈り続けた。

 

 その作業は夜中になっても続き、とうとう朝がやってきた。

 ターニアはその間、食事もとらず、一睡もしないままだったため、疲労はかなり蓄積していた。

 するとそれまで不眠不休で治療にあたっていた一人の少女がやってきた。

「ターニア、もう休んだら?」

「でも…、お姉ちゃんが…。」

「確かにまだ意識は戻っていないけれど、危険な状態は脱したわ。だから、安心して。」

「本当に?」

「ええ。彼女が意識を取り戻したら、色々なものを調合したお薬を飲ませてあげるつもりだから、きっと少しずつ元気になるはずよ。」

「じゃあ、お姉ちゃんは本当に一命をとりとめたのね!嘘じゃないよね!」

「嘘なんかじゃないわ。だから、あなたは食事をとって、ゆっくり休んでちょうだい。」

「でも、あなたは?」

「私はもう少しやることがあるの。それを済ませたら私も食事をとるから。」

「分かったわ。じゃあ、私はこれで。」

 ターニアはようやく安どの表情を浮かべて部屋を後にしていった。

 一方、バーバラの治療にあたっていた少女は眠い目をこすりながら別室に行き、ゼニス王にお願いして下の世界をつないでもらった。

 するとグランマーズが応答をしてくれた。

「こんにちは。」

『おお、エリーゼか。』

「はい、エリーゼです。」

『お前さんがほっとした表情をしながら、その口調で話しているのを見ると、バーバラは無事だったということになるかの?』

「はい。皆さんがつないでくれたバトンをどうにかつなぎきることが出来ました。正直、プレッシャーもありましたが、本当に良かったです。」

『何をおっしゃる。全てはお前さん達のおかげじゃ。』

「私達だけではありません。皆さんの誰一人が欠けていても、バーバラを助けることは出来なかったでしょう。この場を借りて、お礼を言わせてください。」

『では、わしは今からミレーユをはじめ、みんなにバーバラの無事を伝えてくるぞい。お前さんは徹夜で治療をして疲れておるじゃろうから、ゆっくり休んでおくれ。』

「ありがとうございます。では、今から食事をしてゆっくり休ませていただきます。」

 エリーゼは途端に緊張の糸が切れたのか、連続であくびをした。

 そしてゼニス王にお礼を言って、映像を消してもらい、部屋を後にしていった。

 

 グランマーズは映像を消した後、まず館の寝室にいるミレーユにバーバラの無事を伝えた。

「おばあちゃん、本当に?」

「本当じゃよ。まだ意識は戻っておらんが、一命をとりとめたぞい。」

「そう…。私達の願いが届いたのね。良かったわ…。本当に…。」

 ミレーユは一瞬笑顔を見せたが、次の瞬間、それまでこらえていた気持ちが抑えきれなくなり、一気に表情が崩れていった。

「良かったのう。今は思う存分うれし涙を流すがよい。そしてわしはハッサンやリベラ達にそのことを伝えに行ってくるからの。留守番を頼んだぞい。」

「はい、分かりました…。」

 ミレーユはまだ涙を流しながらも、うれしそうに返事をした。

 それを見届けた後、グランマーズは外に出て別の場所へと移動をしていった。

 

 気持ちが落ち着いた後、ミレーユは水晶玉を起動させて、バーバラの姿を映し出した。

 彼女はまだぐったりと目を閉じたままの状態だったが、確かに息をしており、呼吸も安定していることを確認出来た。

 しかし両肩から両手にかけては包帯がグルグル巻きになっており、左腕に至ってはいくつもの添え木でガチガチに固定されていた。

(これはかなりの重傷ね。代償が無くなったとはいえ、元の体に戻るまでにはかなり時間がかかりそうね。ごめんね。私が悲しみに打ちひしがれたせいで、リレミトを唱えるのが遅くなってしまって…。)

 ミレーユは心の中で何度も謝りながら映像を消した。

 そしてこれまでほとんど一睡も出来なかった反動から、ベッドに入るとたちまち眠りに落ちていった。

 

 その日の午後、彼女が目を覚ますと、館にはハッサンと、まどうしのローブを肌身離さずに持っているリベラがいた。

 彼らも寝付けなかったようで、眠い目をこすっていたが、グランマーズからバーバラの無事を伝えられていたため、安どの表情をしていた。

「ミレーユ、やっと起きたのか。」

「おはよう。いや、こんにちはだね。」

 ハッサンとリベラはあくびをしながらミレーユに声をかけた。

「2人とも、こんにちは。私達の願いが通じて良かったわね。」

「ああ。だが、俺としては彼女の姿を見たいんだがな。」

「うん。僕も、口頭で伝えられただけじゃ満足出来ないから。」

「そうなの。あまりのぞき見はしたくないけれど、分かったわ。私もおばあちゃんから伝えられただけではそうだったから。」

 ミレーユは2人の要望を聞き入れ、水晶玉でゼニスの城の内部を映し出した。

 現地ではターニアがエリーゼにやり方を教えてもらいながら、注射という形で何かを投与していた。

『こんなやり方で薬を飲ませたことになるの?』

『ええ。バーバラはまだ意識が戻っていないし、当然ものを食べられない状態だから、こうすることにしたの。』

 ターニアは注射というものを知らなかったため、彼女のやり方に半信半疑だった。

 それはリベラ、ハッサン、ミレーユも同じで、しかもエリーゼはまだ見たこともない人だったので、余計に信じられなかった。

 

 しばらくすると、代わりの人が部屋に入ってきたため、2人は交代をすることになった。

『じゃあ、ターニア。マーズの館とつないでみましょうか。』

『そうね。誰かいるかもしれないし、いたら色々話をしてみたいから。』

 彼女達は引継ぎの人に看病をお願いした後、部屋を後にしていった。

 ミレーユは一度映像を消して待機していると、再び水晶玉が光りだした。

 そして再度映像を出すと、そこにはターニアとエリーゼが姿を現した。

『こんにちは。』

「ターニア、こんにちは。」

『ミレーユさん、立ち直ってくれたんですね。良かったです。』

「ええ。あなた達がバーバラを救ってくれたおかげよ。」

『そんな。私はただ超・キメラの翼でお姉ちゃんを連れて帰っただけです。ここにいるエリーゼが色々な処置を施してくれたおかげで、お姉ちゃんは助かったんです。お礼なら彼女に言ってください。』

 ターニアはそう言うと、エリーゼと交代した。

「こんにちは、ミレーユと申します。あなたがエリーゼさんですね。」

『はい、エリーゼです。初めまして。』

「確かにこうやって直接会話をするのは初めてですが、あなたのことはバーバラやターニアから聞いています。本当に仲良くしてくれてありがとうございます。」

『ミレーユさんこそ、仲良くしてくれてありがとうございます。そしてこれまで命の木の実をたくさん集めてくれて、バーバラの命をつなぎとめてくれたことは、本当に感謝をしています。ありがとうございました。』

「いえ、私は彼女のマダンテを阻止出来ませんでしたし、リレミトが遅れたために、彼女を死の淵に追い込んでしまった人です。感謝なんてしてもらえる身ではありません。ご迷惑をおかけしてしまったことを…。」

『それはやめてください。あなた達のせいではありません。』

 エリーゼは謝罪をしようとしたミレーユをとっさに制止した。

 そしてしばらく会話をした後、今度はリベラとハッサンが出てきて、エリーゼにお礼を言った。

『あなた達がリベラさんとハッサンさんですね。初めまして。』

「こちらこそ初めまして。僕のことはリベラでいいです。」

「俺もハッサンと呼んでくれ。これから仲良くしようぜ。」

『そうですね。よろしくお願いします。』

 彼らは初対面にもかかわらず、早速会話を弾ませた。

 

 翌日、バーバラはついに意識を取り戻してくれたため、それを伝えたターニアの表情には明らかな笑みが浮かんでいた。

 そして彼女はリベラ達にエリーゼが未来の世界からやってきた人であることを伝えてくれた。

 彼女は過去に自分の住んでいた村が襲われ、大切な人が身代わりとなって敵にやられてしまったという経験があった。

 その身代わりの女性はその場に倒れ、確実に助からない状態だったが、その時マスタードラゴンが瞬時に幻とすり替えた上で天空城に移動させてくれた。

 そしてバーバラが治療を受けたのと同じ場所で懸命の治療を受け、長い間死の淵をさまよった末に生還を果たし、その後は別の場所に移動して療養生活をしていた。

 エリーゼ自身はそれを知らないまま旅をしていたため、もう会えないとずっと思い続けていた。

 そのため、旅を終えて戻ってきた村で彼女が姿を現した時には、夢なんじゃないかとまで思ったそうだ。

 でも、彼女がまぎれもなく本人であり、再び動ける体になるまで時間がかかってしまったために今まで会えなかったことを謝ってくれた。

 エリーゼはその場で涙を流しながらハグをして喜び、仲間達と一緒に再会を喜び合ったことを話してくれた。

『それでね。エリーゼはその後マスタードラゴン達がその友達に施してくれた治療法を教えてもらい、今回お姉ちゃんに実践をしたの。それはこの世界にはまだ存在しない、斬新的なやり方だったから、私も信じられずにいたけれど、あの時はそれにすがるしかなかったの。とにかく助かって良かったわ。』

 ターニアが話をしていると、彼女の後方から扉をたたく音が聞こえた。

『入っていいですか?』

 声の主はエリーゼだった。

『いいですよ。どうぞ。』

『分かりました。』

 エリーゼが扉を開けると、そこには車いすに誰かが乗っていた。

(誰だろう?もしや?)

 リベラがそう思っていると、その車いすはエリーゼに押してもらう形でこちらに近づいてきた。

「バーバラ!本当にバーバラなんだね!」

 彼は驚きながらも、うれしそうに声をかけた。

 しかし、彼女は両腕、両手が包帯でグルグル巻きになっている上に、左腕を三角巾で吊り上げており、さらに目隠しをしていた。

 それを見て、リベラ達はまさかと言いたげな表情をした。

エリーゼ『驚かせてごめんなさい。目が見えないわけじゃないの。ただ、まぶしくて目を10秒以上開けられないという理由でこうしているの。』

リベラ「何だ、そうだったんだね。」

ハッサン「でもその目、治るのかよ?」

『私が元々住んでいた世界にある、パデキアの根っこを使えば治るんじゃないかと思っているわ。だから、私はこれからそちらの世界に出かけようと思っているの。そして色々なアイテムを持って戻ってくるつもりよ。』

「ありがとう。それは助かるわ。」

『それじゃお姉ちゃん、待たせちゃってごめんなさい。今私達はリベラ達と話しているの。早速会話してみて!』

 ターニアはバーバラの乗っている車いすを鏡の近くに移動させた。

「バーバラ!僕だよ。リベラだよ!聞こえるかい?」

『リ…ベ…ラ…。』

 弱々しい声ではあるけれど、その声は確かにバーバラだった。

「そうだよ!リベラだよ!バーバラ、生き延びてくれてありがとう!そして僕達を助けてくれて、本当にありがとう!」

『ご…め…ん…ね…。』

 彼女は懸命に何かを言い続けようとしたが、それ以降声がかすれてしまい、さらには眠ってしまったため、ハッサンとミレーユは会話に参加出来なかった。

 それでもバーバラの口が動き、声を聞くことが出来たことで、彼らの表情には満面の笑みが浮かんでいた。

「ターニア、エリーゼ。バーバラの姿を見せてくれてありがとう。」

「バーバラ、今はゆっくり休んでくれ。元気になったら、たくさん会話をしようぜ。」

「それじゃ、今日はここまでにするわ。つないでくれて本当にありがとう。」

 リベラ、ハッサン、ミレーユは頭を下げながらお礼を言うと、映像を消した。

 

 その日の夜。夕食をとりながら、リベラは両親にバーバラと少しだけ会話が出来たことを打ち明けた。

「そうか。本当に良かったな。お前の大切な人の生きている姿を見られて。」

「これからどうなるのかは分かりませんが、これで未来がつながりましたね。」

「はい、父さん、母さん。本当に良かったです。」

 リベラは涙ぐみそうになりながらも、心の底からの笑みを浮かべて会話をした。

 しかし彼は自分の部屋に行き、まどうしのローブを見つめると、徐々に気持ちが変わっていった。

(昨日は「君と直接会えなくなってもいい。」なんて言ったけれど、やっぱりバーバラと直接会いたい。出来れば代償無しの状態で、ハッサンとミレーユと同じように付き合いたい。こんなことを言ったらみんなから高望みなんて言われそうだけれど…。)

 彼の心の中では、すでにこれまでの喜びは吹き飛んでいた。

 

 翌日、リベラはバーバラのことについて問いかけてみるために、マーズの館に向かった。

 現地ではミレーユ、ハッサンに加えてテリーがいた。

「あれ?今日はテリーもいるの?」

「ああ。アジトで色々なものを手に入れたからな。姉さん達に役立ちそうなものを持ってきたんだ。」

 テリーはカンダタが持っていたはやぶさの剣や、祈りの指輪などのアイテムを見せてくれた。

「すでにアモスさんやチャモロ達には渡したの?」

「ああ。チャモロとセリーナは賢者の石や力のルビー、そして小さなメダルを、アモッさんは鍛冶屋での作業用に大金槌とウォーハンマーをもらっていったよ。それで残ったものがこれらだ。そうしたら、ハッサンがはやぶさの剣をもらうって言いだしてな。」

「ああ。アモッさんが使っているのを見て、俺も欲しいと思っていたんだ。これから練習してこれを使いこなせるようになって、さらにはやぶさぎりを使えば、4回攻撃か出来るぜ。」

リベラ「良かったね。いい武器が手に入って。」

「ああ。ただ、使う機会があるかどうかが問題なんだがな。」

「確かに、そうかもね。」

 彼らが会話を弾ませていると、ミレーユがここに来た理由について問いかけてきた。

 リベラはバーバラに対する正直な気持ちを打ち明けた。

「そう。あなたもそういう考え方になったのね。」

「うん。一度はもう会えなくてもいい、嫌われてもいいなんて言ってしまったけれど、やっぱりそれじゃ満足出来なくなって…。そして出来ることなら、別れを気にすることなく付き合えたらって思っているんだ。もしその方法があるなら教えてくれるかな?」

「そうねえ…。それに関してはこれまでおばあちゃんと色々調べたし、相談もしたわ。そしてね、一つの結論にたどり着いたの。正直に打ち明けてもいい?」

「うん。何か方法があるのなら、ぜひ教えて欲しいんだ。」

「これから私が何を言おうと、受け入れてくれる?」

「う…、うん…。何?一体。」

 リベラはミレーユの言い方に何かあるのではないかと思い、身構えながら問いかけた。

「おい。そんな言い方されたら焦るじゃねえか。何を言いたいんだよ。」

「隠さずに言ってくれ。それがリベラとハッサンのためだ。」

「分かったわ、ハッサン、テリー。では、これまでおばあちゃんやゼニス王さん、そしてターニアやエリーゼから教えてもらったことを話すわね。」

 ミレーユはバーバラが根気よく治療を受ければ右手はやがて日常生活が送れる程度まで治るけれど、呪文は唱えられず、武器も装備出来ないこと。一方の左手はもう手の施しようがないことや、彼女が2度とマダンテを唱えられないために、この呪文は今後忘れられた存在になっていくこと。

 そして彼女は夢の世界でしか生きられないことを教えてくれた。

ハッサン「じゃあ、バーバラはもうこの世界に来られないのか?」

リベラ「それに、これからは左手の自由を失ったまま生きていくの?」

「そうなるわね。」

テリー「でも、夢の世界に帰ったんだったら、元の体に戻るはずじゃなかったのか?」

「多分、2度目のマダンテでその範囲を超えてしまったと思うわ。そして、おばあちゃんやゼニス王さんが言っていたけれど、元の体になるためにはバーバラの実体を見つけて融合するしかないでしょうって。」

「バーバラの実体?でもそれって…。」

 リベラは何だか嫌な予感を感じ取った。

「正直に言うわね。彼女の実体は…。」

「実体は?」

「この世界には無いわ…。」

「えっ…?」

 ミレーユの発言に、リベラは固まってしまった。

「それじゃ、リベラとバーバラが俺達と一緒に祝福してもらう姿は、夢のまた夢ってことなのか?」

 ハッサンも現実を受け入れられず、呆然としていた。

 




 次回が最終回です。


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Quest.39 アシュリンという名の少女

「正直に言うわね。彼女の実体は…。」

「実体は?」

「この世界には無いわ…。」

「えっ…?」

 ミレーユの発言に、リベラは固まってしまった。

「それじゃ、リベラとバーバラが俺達と一緒に祝福してもらう姿は、夢のまた夢ってことなのか?」

「……。」

 ミレーユは何も言わず、ハッサンの顔を見つめていた。

「なあ、本当にバーバラの実体は無いって言い切れるのかよ!本当にこの世界の隅々まで探したのかよ!」

「もう、探す必要は無いわ。」

「それじゃ、隅々まで探しもせずに捜索を打ち切りにするのかよ!」

「……。」

 ミレーユは再び何も言わなくなってしまった。

 すると、リベラはスクッと立ち上がった。

「分かった。この世界に無いのなら、別の世界に行く。」

「お前、何を言ってんだよ!本気で言ってんのか!」

「本気だ。きっとどこかの世界にある。僕はそう信じる。」

「お前なあ。言葉の裏をかいてどうすんだよ!」

「フン。確かにリベラの考え方は一理あるな。」

 ハッサンがムキになっていると、ふとテリーが会話に割り込んできた。

「お前まで何を言ってんだよ。」

「確かにバーバラの実体は『この世界には』存在しないだろうな。」

「じゃあ、カルベローナが攻撃された時に実体が消滅したと見せかけて、実は別世界に飛ばされたとでもいうんじゃないだろうな!」

「そういうわけだ。」

 テリーは冷静に言い放った。

 そして彼は異世界に行ったデュナンとデュアナのその後について話してくれた。

 風の精霊によると、その世界でデュランに関する情報は聞けなかったが、彼の妻、つまり彼らの母親に関する情報をつかみ、2人は最終的に再会を果たしたそうだ。

ハッサン「そうか。それは良かったな。」

「だが、その時点で彼女はすでに重い病を患っていて、余命いくばくもなかったそうだ。それで、彼らは母親を救おうと懸命に看病をしたよ。」

リベラ「それで、彼らの母さんはどうなったの?」

「最終的に『お母さんは立派に成長したお前達に会えて、本当に幸せだったよ。』と言い残し、幸せそうな顔をしながら召されていったよ。そしてデュナンとデュアナは泣いて泣いて泣き続けた末に、形見の品を持ってこの世界に戻ってきたぜ。」

 テリーは彼らが深い悲しみを抱えながらも、母親に会えたことで、新たな強さを身に付けたことを実感していた。

「そうか。死んだんじゃなくて、異世界に飛ばされたんだね。だったら、きっとバーバラの実体もそうなったんだよ。僕はそう信じる。ミレーユ、どうか僕を異世界に送ってくれ。」

 リベラの表情には強い決意がみなぎっていた。

「本当に行く気なの?」

「うん、ミレーユ。」

「そこにはね、この世界には存在しないものがいくつもあるわ。」

「例えばどんな?」

「呪文で言うなら、メラゾーマ、ベギラゴン、イオナズン、マヒャド、バギクロスを上回るものがあるし、アイテムなら特やくそう、超・命の木の実や幸せのくつなどが存在するわ。」

ハッサン「それはすげえな。ぜひその世界に行ってみたいぜ。」

「でもね、敵も強いの。少なくとも、今のあなた達では到底勝ち目はないわ。それに、私達の前で敵を召喚してきて、今は月鏡の塔に住んでいる難民モンスター達も言っていたけれど、その世界には魔王もいるし、治安も決して良くはないの。それでも行く覚悟がある?」

「うっ、それは…。」

「僕は行く。バーバラのためなら、どんな危険な場所だって行ってやる。」

 ミレーユの忠告を聞いて、ハッサンは思わず怖気付いてしまったが、リベラの決意は揺るがなかった。

「その言葉に二言は無い?」

「うん!」

「分かったわ。じゃあ、その世界に行ったら、まずウォルロ村で宿屋を営んでいるリッカという少女に会って、話を聞いてみて。多分そこで記憶も言葉も名前も忘れてしまい、会話も出来ず、字も書けない少女に関する情報が聞けると思うわ。」

 ミレーユはリベラが行こうと思っている世界に関する情報を色々話してくれた。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。お前、何でそこまで知っているんだよ!?」

 ハッサンは思いもよらない発言に思わず驚いていた。

「実は、少し前におばあちゃんと一緒にその世界に行ってきたの。そして、そこでおばあちゃんが水晶玉で占った結果、『アシュリン』という名前をつけてもらって、保護されている少女の姿が映ったのよ。」

「その段階ですでにそこまで知っていたのなら、何で教えてくれなかったんだよ!」

「教えたところで、カンダタのアジトに向かうことになっていたし、それに時間が無かったの。たとえその世界に行ったとしても、すぐに行ける場所ではないし、バーバラが帰らなければならない時が来てしまうから。」

 ミレーユは情報をつかみながら、今まで黙っていたことを謝った。

「僕は平気だよ。バーバラの代償を解除する方法を教えてくれてありがとう。きっと僕が彼女を見つけてみせる。」

「ありがとう。そう言ってもらえて、良かったわ。じゃあ、準備が整ったらあなたがその世界に行けるようにしてあげるからね。それまでに、あなたは月鏡の塔に住んでいるモンスターに会って、その世界についての情報を集めておいてね。」

「分かった。早速行ってくるよ。」

「だったらよ、俺も行くぜ。」

「ハッサン、いいの?」

「ああ。俺もこの命を救ってくれた彼女のために役に立ちたいし、お前とならどこまでもついていくぜ。」

「ありがとう。」

 こうして、リベラとハッサンは一緒に異世界に行くことになった。

 そして2人は外に出るとすぐにルーラを唱え、情報集めのために塔へと向かっていった。

 

 その後、グランマーズがゴレムス、オークス、ピエールがこの世界にやってきたことを突き止めた。

 それを受けて、リベラ、ハッサン、ミレーユ、テリーは彼らに会いに行った。

 以前は人間の言葉をうまく話せなかったゴレムスは、その後熱心に言葉の勉強をしたようで、ある程度人間の言葉を覚え、通訳なしでも会話が出来るようになっていた。

 ゴレムス達はお世話になった人達との再会を喜びながらも、ホイミンとバーバラがどうしているのかを聞いてきたため、リベラ達は彼らの近況について話した。

オークス「そうか。ホイミンは月鏡の塔で元気に過ごしている一方で、バーバラがそんなことに…。」

ピエール「何とか命を取り留めてくれたのはうれしいですが、このままではもう直接会えないんですね。」

ゴレムス「オレタチ…、ナニカ…、キョーリョク…スル…アゲタイ…。」

 彼らはリベラ達に協力を申し出てきた。

「どうもありがとう。実は私達、これから2つの世界に出かけようとしているところなのよ。」

 ミレーユは自分がテリーとホイミンと一緒に、かつてグランマーズの住んでいた世界に行くつもりで、リベラとハッサンがアシュリンという名の少女を探すために、別の世界に行くつもりであることを伝えた。

「でもよ、わざわざ二手に分かれなくてもいいんじゃねえか?」

「そうですよ。みんなで行けば心強いのに。」

 オークスとピエールの質問に対し、リベラ達は一度に行ける人数が4人までに限られていることを挙げた。

 そしてリベラとハッサンは帰りの人数が行きよりも一人増えるという理由で、3人までしか行けないこと。

 ミレーユはホイミンを助手に迎えた上でグランマーズ自身が超・キメラの翼の完成版を作り出す時に利用した錬金の技術を学び、自分でそのアイテムを複数作り出すつもりであること。

 同じ世界にはデュランがいるという情報をつかんだため、テリーが単身で彼のもとに向かおうとしていることを話した。

ピエール「でも、リベラさん達が行く世界には錬金が無いのですか?」

「あるにはあるそうだけれど、場所も、同じ技術なのかも分からないから、ミレーユはグランマーズさんのいた世界に行くことにしたんだ。」

ハッサン「それに、俺とミレーユも、一度離れ離れになってリベラとバーバラと同じ試練を乗り越えたいと思ったからよ。」

テリー「さらに言うとな、最初はデュナンとデュアナも一緒に行きたいと言い出したことを受けて、姉さんは自分と俺を加えた4人で行くことを提案したんだが、俺は反対したんだ。」

「ナゼ…、ハンタイ…スル…?」

「単にそのガキども2人では実力不足で足手まといになると思ったからな。相当修行を積まなければ同行させるわけにはいかねえと思ったんだ。」

 テリーは続けざまに、ホイミンがどうしても行かせてほしいと申し出たため、ミレーユと一緒に錬金を学び、アイテムを集める時には氷のやいばを装備して彼女と出かけるつもりであることを伝えた。

オークス「それならよ。それぞれあと一人ずつ行けるってことだよな?」

ハッサン「ああ、そうだぜ。」

ピエール「それなら僕達を連れて行ってくれませんか?」

リベラ「えっ?いいの?」

「オレタチ…、ツヨイ…。チカラ…、ナレル…。」

 ゴレムス達はアジトでお世話になったお礼として、仲間に加わってくれることになった。

「それはありがたいわね。ただ、各パーティーに一人ずつしか行くことが出来ないから、残りの一人はこの世界に残留することになるわね。」

テリー「だったらよ。残留となる一人はチャモロとセリーナと一緒に慈善活動の旅でもしながらデュナンとデュアナを鍛えてやってくれ。」

「そうか、分かったぜ。」

「じゃあ、協力させていただきます。」

「オレタチ…、ヤクニタツ…。」

 オークス、ピエール、ゴレムスが話し合いでリベラ達のパーティー、ミレーユ達のパーティー、チャモロ達のパーティーに一人ずつ加わることになった。

 そして、ゴレムス達は月鏡の塔に行ってデュナン、デュアナに会い、自己紹介をした後、修行の相手をすることを申し出た。

 デュナンとデュアナは喜んでその依頼を引き受けてくれた。

 

 その後、リベラ、ハッサン、ミレーユ、チャモロ、テリーはこれからのことをバーバラに伝えるためにマーズの館に集まった。

 水晶玉で映像を映し出すと、彼女は相変わらず両肩から両手にかけてはおびただしいほどの包帯が巻かれている上に、左腕を三角巾で吊り上げている状態のままだった。

 しかし目隠しも取れた上に、一人で立ち上がってゆっくりと歩けるまでに回復しており、ゼニス王の部屋の前にやってくると、足で扉をノックした。

 ゼニス王はバーバラを部屋に入れると鏡でこちらの世界をつないでくれたため、お互い会話が出来る状態になった。

リベラ「バーバラ。本当にそこまで元気になってくれたんだね。」

『うん。あれからエリーゼがパデキアの根っことさえずりの蜜を手に入れた上でここに戻ってきて、あたしに飲ませてくれたの。そのおかげで病気も治ったし、声もはっきりと出るようになったの。本当にエリーゼには感謝しているわ。』

チャモロ「でも、その手で食事は大丈夫なんでしょうか?」

『痛み止めが効いていれば、右手でものをつかんでゆっくりと手を動かし、口に運ぶことが出来るようになったわ。それまでは誰かに食べさせてもらってばかりだったけれど、パンならどうにか自分で食べられるようになったわよ。』

 彼女はもう少し右手が治って痛み止めが必要無くなれば、ゼニスの城からカルベローナの自分の部屋に移り、そこで療養生活を送るつもりであることを伝えた。

ミレーユ「でも、今そこにはターニアとエリーゼがいないようだけれど、彼女達はどうしたの?」

『2人は今、ダーマ神殿に行っているわ。そしてターニアはあたしと同様にまず魔法使いに転職して、エリーゼと稽古をしてメラミを覚え、それから僧侶に転職して最終的にベホマまで覚えるつもりでいるわ。』

テリー「ベホマってことは、長い道のりになるな。」

『そうよ。だからターニアはエリーゼの世界に行って、色々修行を積むつもりでいるわ。』

ハッサン「ちょっと待てよ。それじゃ、お前が一人で過ごすのかよ。」

『大丈夫。エリーゼが未来の世界から戻ってくる時に、シンシアとアリーナを連れてきてくれたの。そして交代で一人があたしの面倒を見て、もう一人がこの世界をまわりながら修行を積むことになったの。』

 バーバラはさらに、自分のHPがわずかしかない上に病弱な体になってしまったため、これからも命の木の実やパデキアの根っこが必要であること。

 そして、リベラがまどうしのローブを持っているのを見て、それを使っていいことを話してくれた。

「本当に、僕にこのローブをくれるの?」

『うん。あたしの思い出の品だけれど、役に立つのならあげるわ。』

「ありがとう。じゃあ、これから縫い直してもらって、僕にも装備出来るようにしておくよ。」

『出来上がったら、その姿をあたしにも見せてくれる?』

「うん、いいよ。」

 その後、彼女は右手が少しずつ動くようになってきたので、左手もきっとよくなると信じていることを話してくれた。

(そうか。左手の自由を失ったことを、バーバラは知らないんだ。でも、きっと僕達が夢の世界に行って、その手を治してあげるからね。待っててね。)

 リベラは心の中でそっと誓った。

 

 数日後。彼らが異世界にいく準備が整ったため、リベラはその前にもう一度バーバラに会って話をすることにした。

「バーバラ。僕がまどうしのローブを着ている姿、どう?」

『似合っているわよ。大事に使ってね。』

「うん。君のおかげで手に入った炎の剣と、回復呪文を込められることを教えてくれた力の盾ともども、大事に使うからね。」

『ありがとう。あたしのこと、忘れないでね。』

「うん。一日として忘れないよ。バーバラ。僕達、しばらく離れ離れになるけれど、心はいつも一緒だからね。そして、出かける前に、一つ約束して欲しいことがあるんだ。」

『何?約束って。』

「あのね。僕、君を守るって言っておいて、不幸にしてしまったけれど…。」

『そんなことないわ。あたしは幸せだったわよ。あたし、下の世界に行ったこと、1ミリも後悔なんてしてないからね。』

「本当に?」

『うん。』

 リベラはバーバラのやさしさに、思わず涙ぐみそうになった。

「ありがとう。そのお礼ってわけじゃないんだけれど、僕、アシュリンと呼ばれている少女を連れて、たくさんの命の木の実を持って、超・キメラの翼で夢の世界に行くよ。そして君の代償を解除して、どこにでも自由に行けるようにしてみせる。それがかなったら、もう君を離さない。今までつらい思いをさせた分、今度は君を絶対に幸せにする。だから…。」

『だから?』

「あの…、僕の…。」

『何?ねえ、照れてないで話してよ。』

「僕の…、婚約者になってくださいっ!」

 リベラは顔を真っ赤にしながら告白をした。

『うん、いいよ。』

「えっ?本当に?」

『あたしもそうなれたらいいなって思っていたの。頑張ってね。待っているから。』

 バーバラがにっこりと微笑んでいると、突然ハッサン、ミレーユ、チャモロ、テリー、アモスが押し掛けてきて、リベラをもみくちゃにしながら祝福をしてくれた。

 さらに水晶玉の向こうではターニアとエリーゼがやってきて、バーバラを祝福をしてくれた。

 リベラとバーバラは顔を真っ赤にしながらも、満面の笑みで喜んでいた。

 

 さあ、これから2人が交わした約束を果たすための旅が始まる。

 リベラはまずこの世界に残留し、旅に出かけるチャモロ、セリーナ、デュナン、デュアナ、そして一人の仲間の後ろ姿を見つめた。

 そしてミレーユ、テリー、ホイミンが別の仲間を加えて異世界に向かっていくのを見届けた後、自身もハッサンと残りの一人を連れて、異世界へと向かっていった。

 

 バーバラ…。しばらく会えなくなるけれど、待っていてね。

 必ずアシュリンという名の少女を連れて、君のもとに行くから。

 

(終わり)

 




 最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
 なお、各パーティーがゴレムス、オークス、ピエールの誰を連れていったのかについては、読者の想像にお任せします。
 リベラとバーバラのその後については直接書きませんが、僕自身が書いた詞で想像していただければ幸いです。
 この詞は元々この作品を書き始める前にすでに出来上がっていました。
 作中ではQuest.33でバーバラとターニアが書いたという設定になっており、この作品のタイトルと、Quest.12、38のタイトルはこの詞に由来しています。
 タイトルはありますが、あえて伏せておくことにします。


We have our wings to fly away
Here we go
We can go everywhere beyond the blue sky
Believing in the Promised Land

Now is the time to fly away
Here we go
Even if someone says it's a dream of dreams
Let's make our dream come true

On the way of our journey
Anger, sadness, pain, hate, anxiety
Negative ones possess us
There'd be even hopeless days
Even if so

Nothing to fear
We can do it when we believe
We are always together

We have our wings to fly away
Here we go
We can do anything as long as you're here
Believing in our hopeful days

Now is the time to fly away
Here we go
I am never alone, lonely or sad
Together till the end of our lives

Even when someone says it's a dream of dreams
Let's make our dream come true



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