ようこそしないで魔法使い君 (ゆう31)
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高校生活を始めるぜ

何故か流行ってるしよう実の面白いの見てたら勢いで書いちゃった♡


 

 突然だが俺は魔法使いだ。

 

 いや、年齢=歴的なアレじゃなくて、マジで魔法使いだ、魔力さえあればわりかし何でもできる、一番簡単なイメージとしては手から火を出したり水を出したり、風を起こしたりとまあそんな感じで。

 

 やろうと思えば思考も覗けるし数時間先の未来ぐらいなら見れる、身体強化も出来るし千里眼で気になるあの子のおぱんつも覗ける。

 

 いやいや冗談……とはならない、マジである。とあるUFO目撃記事の正体は実は俺が空飛んでる時だったり、謎の怪奇現象!人が消える!とかは俺が瞬間移動した時だったりする。

 

 いやあお騒がせしました……年頃(14歳)だったモノで……。

 

 あ、なんで俺が魔法を使えるかとかは聞かないでほしい、俺もよくわかってない、なんか生まれた時から使えてた、なんならその事に両親も何も言ってこなかったので、6歳ぐらいまで魔法が使えるのは普通の事だと勘違いもしてたぐらいだ。

 

 まあ、輪廻転生的な、俺の前世がなんやかんやあったんだろう、理解できない事はそんなふわっとした思考で纏めた方が精神衛生上良いのである。

 

 そんな俺も遂に30歳、何か困ったら魔法を使えば大抵解決するからと続けてきた会社も、お世話になっていた上司が辞めたのをきっかけに退職、はてさてこれからどうしようと考えていたある日の事だ。

 

 社会と魔法の酸いも甘いも体験したつもりだが、そんな俺の唯一の心残りがある、魔法使いである俺の心残り_____それは青春。

 

 

 とある事をきっかけに高校から大学にかけての期間、俺は魔法を全力で研究し使い熟す事に専念した事で世の中に溢れている青春時代というものを過ごせなかった。

 

 魔法研究がひと段落着いた頃にはもう気付けば20代、当時は高卒認定なら勉強すれば取れるし、最悪魔法で採用担当者を洗脳染みたことすれば良いしと考えていた事もあり何とも思っていなかった。

 

 だがここに来て「あー青春してえなー」と思ってしまったのである。

 

 ……それが理由の一つ、最大の理由は「彼女作りてえええええぇぇぇ!!!!!」である、魔法使い(真)なのだが魔法使い(童)でもある俺はついに性の限界に達した。

 

 え?風俗?バカ言えよ、俺の魔法で空想にいる理想の女の子を現実に召喚(幻)してスッキリした方がコスパいいだろ。

 

 ……とまあ、とにかく。

 

 そうと決まれば早速行動だ、おいおい教師でもやるのか?否である、生徒になるのだ、青春を取り戻すぞ!

 

 30代のおっさんがなんか言ってるよとづまりしとこ……と普通ならなるかもしれないが俺は30代おっさんの魔法使いだ、30代になってからまた一段階魔力が高まった気がする俺は不可能を可能にする。

 

 そう、結論から言えば俺は若返りの魔法を自分にかけた。

 

 見た目16歳の中身30代おっさんの完成である、ちょっと昔よりイケメンにしたが少しぐらいならええやろ、鼻と目ぐらいだし。

 

 戸籍?魔法で作りました、多分世界で俺しか魔法を使えないと思うから大丈夫大丈夫、ただまあ俺は少し抜けている所があると前々から両親に口うるさく言われていたので、帰省も兼ねて両親に相談してみた。

 

 そしたら「この高校がオススメだぞ」となんととても好印象、その高校に行きたいと言ったら紹介するから俺達も若くしてと言われたので、なるほどこっちが本題かとなったがまあいいだろう。

 

 諸々準備して半年、ついに四月になった今日。

 

 

 俺は念願の青春を味わいにいく為、高度教育育成高等学校に入学するのであった……!

 

 

 余談だが20代ぐらいになった両親達はいちゃらぶ海外旅行に出かけた、母曰く「彼女出来たらダブルデートするわよ!」との事だ。

 

 いやあの……普通に嫌です……。

 

 

 

 

 

 バスにゆらゆらされるグレーアッシュな色した青年がいる。

 

 俺である。

 

 

 高度教育育成高等学校、わざわざ魔法を使って調べる必要がないぐらいには有名な高校だ、政府公認で卒業した生徒は好きな大学、就職に就けるとかなんとか。

 

 まあそんなのは微塵も興味ないけどね、魔法使えばその辺どうにでもなってしまうので。

 

 それに勉強しに来た訳でも無いですしおすし、ビバ青春!恋愛友情努力!そんな展開キボンヌなのだ。

 

 まあ求め過ぎて幻滅するのが一番心が萎えるので、最低でも高校生活で彼女を作る事が第一目標としよう、他は二の次でいいや。

 

 

 それから高等学校につく前に今一度確認しよう、魔法についてだ。

 

 

 はっきり言ってこの力は万物を解決する、今のところ俺だけが使える最強の手段の一つだ、魔力が有れば何でも出来るしその魔力も一日寝れば感覚的に全体の十分の一回復してる。

 

 わかりやすく言えばチートだ、まほぴー鬼TUEEEEE!逆らうやつら全員ぶっ殺していこうぜ!が可能なのである。

 

 いや勿論殺したら問題になるしそれはしないが、犯行の目撃者の記憶を消せばその限りじゃないし、なんでもありだ。

 

 そんな無敵な魔法に頼って送る高校生活に、果たして青春はあるのだろうか?

 

 いや、無い!こんなものは青春とは呼べない!今の所俺しか使えないという厨二病大歓喜な設定(マジ)もまぁ青春ではあるが、俺が送りたいのはそっちの青春では無いのだ。

 

 よって俺なりにルールを決める事にした。

 

 ずばり、可能な限り魔法を使わず物事に取り組む事、である。

 

 中身30代ではあるがセルフ記憶消去で部分的な学力を封印したし、体力作りも青春の為にそこそこやったが常識の範囲内だ。

 

 下過ぎても上過ぎても青春は送れないと思っているのでこれぐらいでいいだろう、例外として犯罪行為に遭遇した時や、自他の生命の危機は魔法を使ってもいいことにする。

 

 それ以外では、使っても月に一度だけの制限を付けることにした、これも魔法で自分自身に魔法で縛りを付けた。

 

 青春を過ごす為の行為ではあるが、改めて魔法の有り難みを再確認するのも良いかもしれない。

 

 

 ……と頭の中で思考を回転させていたら良い暇つぶしになったようで、高等学校に着いたようだ。

 

 バスを降りて歩き出す。

 

 俺の青春はここからだ____!

 

 

「っぶえ!」

 

「あだっ!」

 

 

 わくわくと歩いて数歩、到着早々人間とぶつかった。

 

 嘘だろ?何でだ?俺が常時放っている識別センサー魔法なら俺に人が近づいたら認識するはず……ってああ、そうだった、魔法は制限してるんだった。

 

 うっそだろ?魔法使えないだけでこんなに変わります?

 

 っと、今はそれは置いといて、こっちの不注意でぶつかったんだろうし謝らないと。

 

「悪い、よそ見してて」

 

「あー平気だ、オレの方こそすまない」

 

 

 ぶつかったのは男子校生、至って普通の……?いやまて。

 

 普通の高校生って改めて考えれば、何が普通の高校生なんだ?どういうのが一般的な定義に当てはまる?魔法を使わない人間ってだけで俺の中では普通じゃ無いんだが……。

 

 いや前提が違うか、魔法を使う人間つまりは俺が普通じゃなくて、それ以外が普通か。

 

 そういう事なら目の前のどこか機械的な目をしてて、そこそこ鍛えている俺とぶつかったのに微動だにしてない目の前の多分同級生は普通の高校生か。

 

「あー、その、これも縁だし一緒に行かないか?」

 

「え、いいのか?」

 

「え、だめなのか?」

 

「いやそんなことないぞ、嬉しかったんだ」

 

 俺も嬉しいぞ普通の高校生……あー、魔法使いの思考が抜けれない、こういう時は名前を名乗るんだよな?

 

 社会に属していたって言ってもあれは尊敬してる上司に振られた仕事を個人で受けていたって感じだし、俺って社会人的にはアウトなんだろうなあ。

 

倉上(くらかみ)直哉(なおや)って言うんだ俺の名前、よろしく」

 

「綾小路清隆だ、よろしく倉上」

 

 

 綾小路清隆ね、これも縁だし高校生活初の友達にしてやろう綾小路、俺と一緒に青春送ろうな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 綾小路とクラスが違った、世間話してて分かったが多分気が合いそうだと思っただけにそこそこショックだ。でもまあクラスが違っても会えない訳じゃ無いだろうし、切り替えて行こう。

 

 俺の分けられたクラスは……ここだ、扉を開ければもう何人かはグループを作っていたりしていて、俺の入れそうな枠はないかもしれない。

 

 気付いたんだが、もしかして俺、コミュ症ってやつなのか?それでも社会人時代はちゃんと話せていた筈なんだが。

 

 もしかしてだが若返りをしたことが原因なのかもしれない、あれは肉体だけでなく精神にも影響があったのか。

 

 そんな事を考えながら自分の席に座った、うーんはてさて取り敢えず隣の席の高校生と話してみよう。

 

 そう思って隣の高校生を見つめるが、やばい、どうやって話しかけよう、しまった……話題がない。

 

 くそっ!魔法が使えれば思考ルーチンを俺が知ってる中で一番コミュニケーション能力のある人物に変える事が出来るのに!

 

 いっそやるか?でも入学して僅か数時間しか経っていないのに魔法を使っていいのか?どうする……ッ!

 

 

「……私に何か用?」

 

 うおおお話しかけられたぞ!若干面倒臭そうに言われたがヨシ!この高校生の女の子いい奴かもしれない!

 

「あーいや、用って訳じゃない、隣の席だし挨拶でもしようかなって話す内容を考えていた」

 

「あっそ。そういうのはあっちで話してる人達にやりなよ」

 

「俺にあの輪は少し入りづらいな……」

 

「ふーん?まあ、それはわかるけど」

 

 そう言うと何か思うことがあったのか、最初より身を乗り出して話をしてくれてる気がする、お、おぉ……女の子と話せてる、しかもこの高校生正面から見てみるとめちゃくちゃかわいいやんけ、タイプです。

 

 あいやまたれよ、落ち着くのだ倉上直哉肉体年齢16歳よ、母親曰く邪な気持ちは女に筒抜けなのよと、アドバイスを貰ったじゃないか、気になる女の子とはいっそ無心で話すと良いと父親も言っていた。

 

 よ、よし、やってみるぞっ。

 

 

「気が合いそうだな……えーっと、俺は倉上直哉、同じクラス同士よろしく」

 

「まぁ、よろしく」

 

「それで早速だが名前を教えてくれないか?」

 

「はぁ……姫野ユキ、別に私は仲良くしたいとか思ってないから、もうこれで良い?」

 

「俺が仲良くしたいしこれで良くはないんだが」

 

「は、はぁ?知らないよそんなの」

 

「わかった姫野、直球に言うぞ、友達から始めてくれ」

 

「だから私は____」

 

「正直今俺は一目惚れに近い感情が心にあると自覚しているが友達から始めて仲を深めていこう姫野」

 

「はぁ!?えっいや、何言ってんの?!」

 

 

 話していたら突然姫野が叫んだ、やばい無心になり過ぎて一周回って感情のままに話していた、俺今なんて言ってた?

 

 あれ?なんか一部のクラスメイト俺と姫野の方見てね?なんで?直近で使ったセルフ記憶消去魔法の後遺症か数秒程度記憶が飛ぶことがあるのだが、今まさにそれをした気がする。

 

 あ、顔赤い姫野かわいい。

 

「それで姫野」

 

「あーうるさいうるさい!もう話しかけないで」

 

「え、それは困る、今の所姫野ともう一人しか友達いないし」

 

「勝手に友達にしないで」

 

「……?」

 

「なんで心底疑問に思ってる顔してんのよ!」

 

 何だか疲れたような顔で話てくれる姫野、パーフェクトコミュニケーションではなかろうか!なるほどな……友達同士の高校生はこんな感じで話すのか。

 

「会話が成立したら友達だろ」

 

「全然会話が成立してないし」

 

「じゃあ成立するまで話そう姫野」

 

「やだ、あんたとはもう話さない」

 

「待ってくれ、わかった、じゃあ一回だけほぼ何でも願いを叶えてあげよう」

 

「話しかけないで、それが私からの願い」

 

「無理、他には?」

 

「……」

 

「無視か?それなら俺にも考えがあるぞ、実は俺は心を読むことが出来たりするのだが____」

 

 

 その時、パンっと扉が開いた、格好を見るに生徒ではなく先生のように見える、容姿は……いやあれはちょっと自分のタイプではないっすね。

 

 なんともタイミングが悪い、いや良いのか?あのまま姫野に無視されたら魔法使って思考読んでたかもしれないし。

 

 心惜しいが仕方ない、教師が来たって事はホームルームという奴が始まるだろうし、ここは切り替えよう。

 

 

 終わったら姫野か綾小路と学校探検しよー!

 

 

 




こめんとひょうかしてくれたらいっぱいしゅき


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コンビニ前カップ麺食いは青春だぜ

 ここに10万円があるとしよう。

 

 

 ……いやまあ実際10万円となんら変わらないポイントを今さっきもらったのだが。

 

 プライベートポイントって言うらしいこれはどんなものでも何でも買えるらしい、断言はしてなかったけど多分合ってるだろ、如何にも怪しんでくださいって感じで話してたし。

 

 ただ疑問に思った人がクラスの半数ぐらいだったのが意外だったな、普通の高校生ならこういうイベントは好みなんじゃないのか?うーん、いまいち高校生がわからないな……魔法使い高校生の思考ならめちゃくちゃわかるのだが。

 

 まあそれはともかくとして、今日は10万ポイント振り込んだよーって話でホームルーム終了、確実各々好きにしてねとのことだ。

 

 さて何しよっかな?いやまあもう決めているのだが。

 

 

「姫野、この後一緒に学校を回らないか?」

 

「嫌」

 

「確かに歩くのは疲れるかもしれない、だから疲れたら俺の背中に乗ると良い」

 

「そこじゃない、あんたと居るのが嫌なの」

 

「なるほど、確かに俺は容姿に優れてない上に、思考回転もそう早くない、同性異性から見ても平均的な男子高校生だろう」

 

「あんたが平均的な男子な訳ないでしょ」

 

「褒めてくれたのか?ありがとう、良い子だな姫野」

 

「っ〜〜〜!なんなのこいつ……!」

 

「倉上直哉だが」

 

「知ってる!」

 

 

 おお、覚えていてくれたか、いやあ一向に名前を呼ばれないからてっきり嫌われたのか、忘れているのかなと悲しみそうになったがそうではないらしい、やったぜ。

 

 ……ん?姫野と話している視界の隅に、誰かが教卓に立ったのを目撃した、ストロベリーブロンドのたわわがハンパねぇ美少女だ、美少女過ぎてちょっと近づけない……。

 

 姫野も負けず劣らずだけどな、何というか姫野は話しやすいのである、相性の良さかな。

 

 まあそれは置いておくとして、あの高校生は何かするのだろうか?

 

「はいっちゅうもーく!ごめんみんな、少しだけ私の話を聞いてもらって良いかな?」

 

 ふむ、かわいい、異論を唱える人がいないのを確認した後にその高校生は話を切り出した。

 

「ありがとう、これから三年間一緒に過ごして行くから、自己紹介をしたいなって思うんだ!強制はしないけど、その方が仲良くなれると思うし、どうかな?」

 

 その言葉に大多数が賛成の意を示した、勿論俺も賛成する、なんて素晴らしい提案なのだろうか、この自己紹介を有効活用すれば友達が増えるのは明白だ。

 

「先ずは私から!私の名前は一之瀬帆波、呼び方はどっちでもいいよ〜!仲良くしてくれると嬉しいなっ、三年間よろしくねっ、みんな!」

 

 よ、よし、俺の番になったらやってやるぞっ……と俺が奮起しているとしれっと教室から逃げ出そうとしている姫野を見つけた、おおすごいな……意識を逸らす魔法でも使っているのか?誰も気付いてないぞ。

 

 もしかして姫野は魔法使いなのか?魔力的なアレは感じなかったが俺が感じてる魔力と姫野の魔力が違う可能性もあるしなあ。

 

 いやでも魔法にしてはお粗末だ、意識を逸らす魔法なら存在している認識すら逸らす事はしないのだろうか、もしくは透明になる事は出来ないのだろうか?

 

 うーん、やっぱ魔力的なアレは感じないし、気の迷いか……姫野が魔法使いなら共通点が見つかってもっと仲良くなれるんだけどなあ。

 

 あ、俺の番だ。いっちょやったるぜ。

 

 

「俺の名前は倉上直哉、得意な事はまほんんっととまぁ特にない、苦手なこともない、青春しに高校生になったから、俺と一緒に青春しよう、三年間よろしく!」

 

 

 ……?

 

 何故黙るのだ。

 

 

「そっか!よろしくね倉上くん!」

 

 おお、一之瀬からよろしくされたぞ、こんな可愛い美少女によろしくされるなんて高校生活はなんて最高なんだ……っ!

 

 自分の思考を陽キャにする魔法を使ってないから正直、失敗するかもしれないと思ったが別にそんな事はなかったな!

 

 そんなこんなでまばらな拍手と共に、俺のパーフェクト自己紹介は終わったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 自己紹介を終えた後俺は姫野か綾小路を探すついでにこの学校を見て回る事にした。

 

 なんか青春っぽいイベントが起きるかもしれないし、敷地を知る事は大事だ、例えば急にカラオケに現地集合で!と言われた時、カラオケの場所がわからなかったらどうしようもないし。

 

 学食以外にも喫茶店や、ゲームセンターなどを知るのも青春だろう。

 

 ……ちょっと冷静になって考えてみるが、この高等学校は普通の高校なのだろうか?多分違うと思う、なんか小説とか漫画でみた青春系のやつで勉強した知識と齟齬がある。

 

 まあ、それならそれでいっか、この学校で青春するって決めたの俺だし、俺におすすめって紹介された学校だし、なんか有れば最悪魔法使えば全部解決するし。

 

 時戻しの魔法はかなり複雑で難解だけど半年ぐらいアホほどアホになるぐらいしか支障ないしね。

 

 そんな事を考えながら歩いていたら、なぜかカップ麺を片付けている綾小路を発見した、おいおいまさかコンビニ前でカップ麺を食べたのか?

 

 

 こいつ……っ青春してるッ!

 

 ちょっと悪ぶってコンビニ前でカップ麺啜ってやったぜ、へへっって感じのちょい悪系イベントを消化したってのか!俺より先に!

 

 なんて奴だ、もしかしたら綾小路は魔法使いである俺より高次元に立つ存在なのかもしれない、こうしてはいられない……っ!俺もそのイベント、乗らせてもらう!

 

 

「倉上?奇遇だな、手伝ってくれるのか?」

 

「当たり前だ、友達だろ」

 

「友達……オレと、お前がか?」

 

「ちがうのか?」

 

「いや、嬉しいよ倉上」

 

 お、今ほんの少し僅かにマジで全然わからないぐらいにだけど口角が上がった気がするぞ、俺も嬉しいぜ綾小路、お前みたいな“わかってる”奴が最初の友達で。

 

「……倉上は無料の商品を見たか?」

 

「学食で見たぞついでに食べた」

 

 味はそこそこ、味噌汁が一番美味しかったな……正直あれが無料で食べられるなら全然それでいいけど、俺の場合魔力足りないで使った魔法の代償的なやつで口の中の感覚ぶっ壊しちゃったからなあ。

 

「ま、まじか」

 

「コンビニにもあるのか?無料商品」

 

「ああ、何でだろな」

 

「ポイント節約か無くなった時の救済措置だろ、来月10万ポイント貰えるとは限らないし」

 

「……そうなのか?」

 

「ん?来月も10万ポイントくれるってBクラスの担任は言っていなかった筈だけど、そっちは違うのか?」

 

「いや……言われてみれば、そう明言されてる訳じゃないな」

 

 やっぱDクラスもそうなんだ、じゃあ確定かな。まあ毎月全クラスの生徒一人一人に10万も国家のお膝元だとしても流石に無理だよな。

 

 電子機器に魔法使ってみたことあるしこのポイントの数値も変動出来そうだけどなんかそれやるとお金に困った男子高校生の青春!って感じのが出来そうにないし、やらんとこ。

 

 使い過ぎなければいいでしょ、流石に来月1ポイントも渡されないって事は無いだろうし。

 

「そう考えれば、もしかしたら何らかの行動でクラスに渡されるポイントが変動するかもな」

 

「おおすごいな綾小路、今すごい青春してるぞ俺たち」

 

「本当か?これが青春なのか?」

 

「そうだぞ、楽しくなってきたな」

 

「そうか、俺は楽しんでいるのか……?」

 

 うーんなんだろう、今まであんまり楽しい事がなかったのだろうか?俺は中身30代の非合法男子高校生だが、綾小路は中身10代の合法男子高校生の筈だから、それは少し悲しい話だ。

 

 よし、友達らしくそれでいて年上らしく、ここは年長として綾小路を楽しませてやろう、俺によく尊敬している上司がやってくれた事と同じことを今日はしてあげようではないか。

 

 それはつまり……娯楽である!

 

「この後暇ならカラオケで歌うぞ綾小路」

 

「おう、行こう倉上」

 

 いい返事だ!待ってろ青春!100点目指して頑張るぞ綾小路!

 

 

 

 

 

 

 綾小路とカラオケに行ってそこそこ楽しんだ後、綾小路とは別れて俺はスーパーに来ていた。

 

 それにしても綾小路、採点機の採点方法を熟知しているんじゃないかと思うぐらい完璧な音程とテクニックのバランスだったな、将来は歌手を目指して……るにしては棒読み感は拭えなかったし、それはないか。

 

 個人的に一番の収穫だが、歌う時は魔法で声帯を好きに変えて歌ってたのが影響したのか、魔法を使わなくてもそこそこに歌えた事は嬉しかったぜ。

 

 さて何故スーパーに来たかというとそれは勿論自炊の為である、俺が知る中でもごく僅か、魔法では代用の効かない物が料理なのだ。

 

 魔力で作った料理は食べられる事は食べられるし、その料理を食べた時と同じ味を再現出来るから美味い。

 

 だが魔力で作ってるからか、一切の栄養素が含まれていないし、腹も膨れる訳じゃ無い、これだけは俺も魔法と同等に妥協しなかった、そしたら立派に自炊が趣味になったのである。

 

 

 さーて今日は何を作ってやろうかなあ……おや?スーパーにも無料商品があるのか、今日が賞味期限なら全然保つんじゃ無いか?まあ俺の今の気分はビーフシチューだがはてさて。

 

 食品を物色しているとふと、見たことのあるツインテールがひらひらと前を歩いていた、背後から見てもわかる、これは記念すべき二人目の友達、姫野だろう。

 

「奇遇だな姫野」

 

「ひゃ!……あんたか、話しかけないでよ」

 

 

 何だ今の可愛いな、びっくりしたのか?今度も背後から声をかけようかな、でもちょっと罪悪感を感じたので次はやめようかな、どうしようか。

 

 いやいや、今はそうではない、話しかけた以上話さなければな。

 

「姫野は自炊をするのか?」

 

「何、しちゃだめなの」

 

「いや全然、何作るんだ?」

 

「言わない」

 

「食材のラインナップを見るに肉じゃが辺りか?なるほどな」

 

「うわきも……」

 

「ちなみに俺はビーフシチューを作ろうと思う」

 

「あっそ」

 

 むむ、食いつきが悪い気がする、もしかして姫野は俺との会話を楽しんでくれていないのだろうか、いやそんな事は無い。

 

 確かに見た目は兎も角中身はおっさんではあるが、若返りの魔法で精神も年相応になっているならば、今の俺は肉体精神共に高校生と言っても過言では無い。

 

 ……この年の俺の会話力の無さはまあ、否定できないが、いやしかし……。

 

「ところで姫野、これは提案なんだが、奢るから一緒に飯を食べてくれないだろうか」

 

「やだ」

 

「待て、俺の料理スキルは五つ星シェフにも負けないと自負しているぞ」

 

「あっそ」

 

「まあ今日が無理なら明日、明日が無理なら明後日でもいい」

 

「だから、そういうの嫌いなの!私以外を誘いなよ」

 

「今一番仲が良いのは姫野と綾小路しか居ない」

 

「じゃあその綾小路って人を誘えば良いでしょ」

 

「よしわかった本音を言おう、今一番気になっている女の子と仲良くなりたいから姫野を誘っているんだが」

 

「は、はあ?!」

 

 タイプです。

 

 女の子と一緒に夕飯を食べる、これは青春ポイントが非常に高い、プライベートポイントで例えるならそれこそ10万ポイントは下らないだろう。

 

 あわよくばという気持ちは否定出来ない、魔法で青春を送れなかった俺は拗れている側の人間だと自負している。近付きたい……っ!このツインテ美少女に……ッ!

 

「はあ……ナンパにしてもタチが悪いわよ、あんた」

 

「頼む」

 

「……奢るって言ったのはあんただからね」

 

「お、おお、良いのか……?」

 

「一回きりだから、わかった?」

 

 よっしゃああぁぁ!!!初めて魔法を使わないで上手く行ったぜ!シャア!俺もやれば出来るんじゃねーか!

 

 魔法ありなら会話誘導なり思考誘導なりギアスなりなんなり出来たがそれが一般的な高校生同士の会話では無い事は流石の俺でも理解できるし、魔法使うの原則禁止だし、よかった……ッ!

 

 いやあこれでだめならもう思いつかないから諦めようと思ったがこれは脈アリと思って良いか?良いな!やったぜ、絶対姫野の胃袋掴んでやるからな……!

 

「期待してくれ、俺の料理は父親曰く店を出せるとお墨付きだからな!」

 

「はいはい……はぁ、入学早々何でこんなやつに……」

 

「可愛かったから」

 

「黙って!」

 

 しゅん……ごめん姫野、黙ります。

 

 

 入学一日目、俺は友達を二人作って気になっている女友達にご飯を振る舞うという最高の青春の第一歩を達成したのであった……!

 

 これ両親に言ったらめちゃくちゃ驚くだろうな。

 

 あ、ちなみに姫野は俺の作ったビーフシチューを黙々と食べてくれたので多分気に入ってくれたと思う、やったぜ。ついでにプリンも奢った、何なら姫野の食材も奢った。

 

 そんなこんなしてたら一日で2万pp消えたが、まあ青春の為ならオールオッケー!

 

 高等学校、最高っす!




感想いっぱい欲しいめう。


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水泳授業?男子高校生の青春だぜ

わぁい感想、感想だいすき。評価もちゅき。


 

 高度育成高等学校に入学してから早くも一週間経過した。

 

 この一週間、俺はそこそこBクラスに馴染んだ……筈だ、姫野以外の誰一人として連絡先を知らないが話はするし、未だ個人的に遊んだ事も無ければ集団でボウリング大会なども参加してないが、うん。

 

 いや、なんかね、こう、避けられてる?気を遣われている?うそだろ?俺ってそんな人としての価値無いですか?姫野は女子同士のコミュニティには何回か面倒臭そうに混ざっているのにその点俺は……。

 

 まあ俺には綾小路がいるし?べ、別に寂しくなんて無いんだからね!それに集団行動が苦手なのも本当のことだしな。

 

 社会人として過ごしてた時は仕事だからと公私を分けれたが、若返りの魔法により魔法使いとしての思考がだいぶ強い頃に戻った今の俺はどうも、他人との関わりが苦手なようで。

 

 それこそ、綾小路や姫野といったこちら側に近いと勝手に思っている人物にしか自分から話しかけるのが難しい、年頃の高校生と何話して良いかわからないのもある。

 

 やっぱりコミュニケーション能力の高い人物の思考を魔法でトレースした方がいい気がしてきた、ただ入学して一週間経った今、だいぶ今のBクラスの立ち位置的なのが定着してきてしまったので、ううむ……。

 

 さてはて一週間、今日はなんと水泳があるらしい、一部のBクラスの男子高校生がヒソヒソと大変盛り上がっている。

 

 わかる、わかるぞ。ここのBクラスに限らずこの学校の女子高校生の大半は魔法でも使ってるんじゃないかって疑うぐらいに容姿が優れているからな、うん。

 

 俺も姫野のスク水見たい、それから一之瀬、というか全員。

 

「おはよう姫野」

 

 返事はない、そっぽを向かれている、まぁこれももはや恒例の事になってしまった、最初こそもう一言二言話そうと試みたが、魔法で思考を見なくても嫌がってるのがわかったので、これぐらいが距離感として正しいのかもしれない。

 

 まあ俺が話したいから今日も今日とて勝手に話すぞ姫野。

 

「今日は水泳らしいな、姫野は泳げるのか?」

 

「うるさい」

 

「俺は泳げるぞ、何度か海の鮫と命懸け競争した事がある」

 

「はぁ……嘘つくにしてももう少しマシなのないの?」

 

「嘘じゃないぞ、いやあ案外鮫は強かったな」

 

「あっそ」

 

 むぅ、なかなか信じてくれない……本当の事なんだけどな、海の中でも魔法があれば生きていけるのか検証した時の話だ。

 

 特に一番やばかったのはシャチだな、あいつらに襲われた時は流石の俺も本気で対応せざる終えなかった、さすが海のギャングだ、食われたのが足じゃなくて頭だったら俺は死んでいた。

 

 海での生活は結論として、海底まで行くと俺の魔力が保たない事がわかったが、今ならどうだろうか……検証してみたい。

 

 いかんいかん、魔法は使わないと決めているのだから、初志貫徹しないと。

 

「そうだ姫野、今日の昼食堂に行かないか?」

 

「やだ」

 

「そうか、食堂が嫌なら別の所にしよう」

 

「そっちじゃない」

 

「なるほど?つまり俺の料理の方が良いって事だな、ありがとう姫野」

 

「っ〜〜〜!こいつ本当に……!」

 

 お、姫野と話してたら授業の時間だ、いやあ姫野と話すとあっという間に時間が過ぎるなあ。

 

 ちなみにちゃんと勉強してます、中身30代のおっさんとはいえ高校の勉強範囲を完全に覚えてる訳じゃないし、高卒認定取ったのもかなり前の話だしね。

 

 それにこの学校の授業はとてもいい、高水準だ、その分ついて行くのは難しそうだが、俺の場合復習に近いしな。

 

 はてさて……確か一限は数学だったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 水泳の時間だ!!!!!

 

 父親譲りの表情筋が今は凄い助かっている、それがなかったら今頃俺の顔はにやついて仕方なかっただろう、それはいけない、邪が溢れすぎると魔力的にも危険なのだ。

 

 魔力の暴走は常に感情の昂りと比例する、感情の昂りを表に出しすぎると意図せず魔法を使ってしまう事もあるのだ、まあ流石にそんな黒歴史染みた時期は卒業しているが。

 

「おー倉上、中々鍛えてんだな!」

 

「柴田か、お前こそ」

 

 Bクラスのムードメーカーの柴田に体付きを誉められた、ふふんそうだろうそうだろう、魔力が切れて魔法が使えなくなった時、常に俺を助けてくれたのは筋肉だからな。

 

 モテる為でもあるが、ただの見せ筋って訳ではないぜ。

 

「お……」

 

 女子高校生達がお見えになった、目の保養が過ぎて思わず目から光を放つ魔法が飛び出そうだ、これはなかなか……魔力の暴走を抑えなければ……!

 

 特に一之瀬!どうなっているんだ一体!どう育ったら高校一年生でそのポテンシャルを身につけるというんだ!しかも多分あれは無自覚だし、男子全員がやられていらっしゃるぞ!

 

 それから安藤紗代もなかなかやばい!特にあのたわわがたわわっている、これが普通の高校生の基準なのか?だとしたら基準が高すぎる、どうなっているんだこの学校は。

 

 ならば今一番気になっている超絶可愛い俺のタイプの姫野は……っ居た!

 

 ぐ、グレイト!イグザクトリィ!世の中で一番スク水が似合う女子高校生部門かもしれない、やばいな……もうこれ以上言葉で語ることすら無粋だ。

 

「よし、おまえら集合しろー」

 

 全員揃ったのを確認した後、水泳の担当教師はそう言って生徒を集める。

 

「見学者は……三名か、二人は体調不良でもう一人は軽度の水恐怖症だったな、正当な理由なら問題ない、ただもし正当な理由無しで見学する事は認めないからな」

 

「先生ー、私泳ぐの得意じゃないんですけどー」

 

「そうか。泳ぎに自信のない者は手を挙げろ」

 

 そういうと一人の女子生徒を皮切りに、数人の生徒が手を挙げる、案外泳ぎが苦手だと自己申告する人は少ないな、大多数は泳げるらしい、もちろん俺も。

 

「なるほど、安心しろ、夏までには泳げるようにしっかり指導するつもりだ」

 

「でも私海好きじゃないしなあ」

 

「そう言うな。泳げるようになれば必ず後で役に立つ」

 

 ……?少し言い回しが気になるがまあ良いか、先生は泳げない高校生を集中的に、他は各々準備運動の後に、軽く50メートル泳ぐように指示する。

 

 久々にプールに浸かるな……海での生活も数年前だし、海の上で立つ魔法を編み出して以降は中に入る事も少なかったからな。

 

 ある程度泳いでいると先生が声を出した。

 

「よし……それでは、今から男女別に五十メートルの競泳を行うぞ、種目は自由型だ、男女別で一位を取得した生徒には俺から特別報酬として5000ポイントを進呈しよう、どうだ?やる気が上がるだろう?」

 

 おお、これは太っ腹、是非とも欲しいが魔法無しだと柴田には勝てなさそうだな、見てて分かるがあれは魔法無しの俺より多分運動神経良いだろうし、水泳が得意な男子にも厳しそうだ。

 

 うーむしかし5000ポイント……色々と青春を追いかけていたら既に3万ポイント使ってるし欲しいなあ、でもなあ。

 

 最初は女子から泳ぐらしい、柴田が誰が一番早いんだろうなと話していたが俺の見立てだと安藤か南方かな、パッとみた感じだから水泳部の女子がいたらその高校生だろうか。

 

 姫野はどうだろう?悪くはなさそうだけど本気でやるとも思えないんだよな……お、泳いだ、まあまあ速い、三位ぐらいになりそうだ。

 

 泳ぎ終わった後の姫野に近付く。

 

「おつかれ」

 

「……なに?」

 

「いや、それだけだが、姫野と話したかった」

 

「あっそ、私は話したくないから、離れて」

 

「そうか、ところで姫野、男子なら誰が一番になると思う?」

 

「はぁ……興味無い、柴田じゃないの」

 

「だよな」

 

「……それで?」

 

 お、姫野から話の続きを促したのは初めてじゃ無いか?もしかして進展している?仲良くなってる証拠だよな?勘違いじゃ無いよな?早く会話を終わらせたいようにも思えるけど気のせいだろ。

 

 何てったって姫野は俺と会話を続けてくれる数少ない俺の友達で優しい女子高校生だもんな。

 

「応援してくれ姫野」

 

「やだ」

 

「一位取ったら何か奢ろう」

 

「別に良い」

 

「具体的に言うとこの前物珍しそうに見てたコーヒーメーカーとか」

 

「な、何で知ってんの!?きもいしうざい!」

 

 辛辣すぎる、流石に傷つくぞ姫野……。

 

「この前たまたま見かけて話しかけた時に気付いた」

 

「ほんと最悪」

 

「それで、応援してくれるのか?」

 

「しない!」

 

「そうか……」

 

 悲しい。

 

 まあ切り替えていこう、そろそろ男子の番だし、まあ一位を取れなくてもコーヒーメーカーは奢るつもりだ、なぜって?好感度上がると思うので、確か15000ポイントぐらいしたけどまあ良いでしょ、うん。

 

 俺と同じ番で速そうな奴は……水泳部が一人いるな、うーんどうだろう、勝てるかな、魔法があれば身体強化して一発だけどそれは流石にな。

 

「頑張ろうぜ、倉上」

 

「おう」

 

 水泳部の男子に一言言って位置について、スタートする。

 

 魔法無しで泳ぐ事は久しぶりだがさっきの50メートルで感覚は覚えた、泳ぎ方のフォームは綺麗じゃないと思うけど身体能力は水泳部の男子より俺の方が上か?

 

 ひたすら泳いでゴールした結果、0.7秒差で俺の勝ち、1着だ、よっしゃ、普通に嬉しい、身体能力でものを言わせたが、もう一回同じ条件でやれと言われたら次は負けそうだ。

 

「良い勝負だったな!倉上も水泳部入らないか?」

 

「帰宅部こそ青春に満ちていると俺は思っているから無いな」

 

「そ、そうか?いやまあ、否定はしないけどよ……?」

 

 さて。ここで1着を取れたことで上位五人の内の一人になれた、この五人で1着を決めるぞ。

 

 しかし困った、柴田もそうだけど他の三人にも勝てない気がする、鍛え始めたのは半年ぐらい前だからなあ。

 

 一度長期的に筋肉を魔法で補強した事があるが、最終的に肉体ホルモンが崩れて元の筋力より低くなったし、普段から欠かさず鍛えている者達には一歩二歩劣るよな。

 

「柴田くん頑張ってー!」

 

「みんな頑張れ〜!」

 

 女子の黄色い声援が降り注いだ、俺以外。ぐぬぬ……ま、まあ?俺には姫野がいるし?

 

 姫野が見ているか探してみると、目が合った、少し意外だ。俺の応援はしないらしいし、こういうのに興味無いと思ったから見てすら無いと思ったんだけど。

 

 いや、もしかすると言葉ではああ言っていたけど、実は応援してくれていたりするのか?ん?なんか凝視してたら目を逸らされた、すると何人かの女子が姫野に近づいて話しかけたぞ?

 

 ……なんか真っ赤になって凄い否定している声がする、何話してんだろう、あ、目が合った、めちゃくちゃ睨まれた、ええ……?

 

「よっ倉上、良い勝負にしような!」

 

「あ、ああまあ、そうだな?」

 

「てかよー倉上」

 

 柴田が小声で耳打ちしてきた、えっ何?

 

「ちょいちょい噂聞くんだけど、姫野と付き合ってんの?」

 

「いや違うけど、え、なぜそんな噂が」

 

「いやおまえ自覚無いのかよ……」

 

 はて?いやマジでわからん、そりゃあまあ控えめに言っても超絶タイプなので付き合いたいけどそれはそれとしてなんでそんな噂になってんの?

 

 あれか?放課後とか姫野見かけたら話しかけてるからか?いやでも友達なら見かけたら話さないか?うーん?入学して一週間だけど未だに全然普通の高校生の事がわからない……。

 

「よーしおまえら、そろそろ始めるぞー」

 

 先生が合図をした、まあ魔法無しじゃ負けると思うけどやるだけやるか、あわよくば勝ちたいし。ポイント欲しい。

 

 そう思いながら軽い準備運動をしている時、姫野と話していた女子の一人が少し大声で声を出してきた。

 

「倉上くーん!姫野ちゃんが応援してるってー!」

 

「ちがう!ばか!してないから!」

 

 ゑ?マジ?

 

 そうか、そうかそうかなるほどそうか……。

 

 

「悪い柴田」

 

「お、おう?」

 

「本気出すわ」

 

 

 入学して一週間ではあるが、負けられない理由が出来てしまった、これはもう勝つしか無い、そして勝つには魔法を使うしかない。

 

 いやいやまだ一週間経った程度なのに魔法使うのかよおまえと言われそうだが仕方ない、もう惚れていると言っても過言では無い姫野から応援されてることで完全に舞い上がってしまった。

 

 具体的にいうと女子の水着姿で限界に近かった俺の感情がこの瞬間止められなくなった、魔力の暴走である。

 

 ……いや、まあ。高校生活をするに当たって自分自身に掛けた魔法の制約で、不本意で暴走した魔力は全て酸素として変換して地球温暖化の防止に貢献するようにしているから、魔力の暴走は俺の言い訳だけど。

 

 とにかく、これで俺が下手な結果を取ろうものなら、姫野に幻滅されて友達関係が抹消するかもしれない、まあそうなったら時を戻すだけなんだけど。

 

 心に傷を負うのは確実だろうし、普通に凹む。

 

 そう考えると、月に一回だけ使えるようにしている魔法を今ここで使うのも良いだろう。

 

 四月は使わないと思ったんだけど……やっぱダメだな、潜在的に、生まれた時から持っているものを、そう簡単に制限は出来ないな。

 

 

 位置に着く。

 

 プールに飛び込む瞬間、俺は魔力を解放した。

 

「な____!」

 

 

 魔法での身体強化、シンプル故に極めれば強力だ、想像上の強くなった俺をイメージして魔力を込めれば込めるほど現実に変換される。

 

 流石に全力で魔力を使うと泳ぎの衝撃で周りを泳いでいる生徒が吹っ飛ぶかもしれないからちゃんと自重する。

 

 オリンピック選手程度の、俺からすれば簡単過ぎる身体強化、だけどもまあ、これぐらいでいい筈だ、辛うじて柴田が付いてくるのを見るとやはりこいつは出来るやつだなと再確認する。

 

 ただまあ、俺の方が速い、今の俺の身体能力は世界記録保持者と同等だ。

 

「____っは!」

 

 俺が一位だ、卑怯とは言うなよ、好きな女の子には振り向いて欲しいんだ。

 

「21秒31……!?日本記録とそう変わらないぞ……!」

 

 ぬ、まず間違いなく身体能力は世界記録保持者なのだが、そうか、日本記録に届かなかったか、その辺はやはり水泳のフォームが重要になるのだろうか、だけどもまあ勝ちは勝ちだ。

 

 俺の記録で男女共に騒いでいるがそんなのはどうでもいい、柴田が話しかけてくるがそれよりも姫野だ、どこにいる?見てくれたかな。

 

 あ、いた、驚いてるように見える、初めて見た顔だ、可愛いな……どうどう?俺頑張ったけど、見惚れた?見惚れて?

 

「凄いな倉山、水泳部に__」

 

「興味ないです、それに火事場の馬鹿力です、もう一度やれと言われても出来ません」

 

「そ、そうか……」

 

 そんなことよりだ。

 

 やや離れた所で一人座っている姫野に近づく、一位を取った俺より柴田の方に女の子が話しかけに行ってるのをみるとちょっと思う事はあるけどまぁいいんだ。

 

「ありがとう姫野、応援してくれて」

 

「してない」

 

「姫野の応援が無かったら一位は取れなかった」

 

「してないってば……!」

 

「お礼にコーヒーメーカーを買うから、今日の放課後一緒に見に行かないか?」

 

「いかない、あっち行って!」

 

「え、俺が選んで良いのか?」

 

「だから……っ!あーもう!」

 

 

 これで俺は五月にならない限り、命の危機以外で魔法を使う事は絶対になくなった、予想外の魔法の使用だが悔いはない、反省はしているが。

 

 こうして水泳の授業は終わった、Bクラスの皆から一目置かれたかもしれないがそんなことより、姫野に応援された事が一番嬉しかったぜ。

 

 ちなみに放課後二人でコーヒーメーカー選びした。

 

 ついでに食事も奢ったので、俺のプライベートポイントは5万を下回ったのである。

 

 

 

 ……節約しよ。




水泳イベント、パパッと終わらすつもりだったのになぜ?


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4月ももう終わるぜ

かんそうありがとー!


 

 早いもので、入学してから三週間が経過した。

 

 四月も今週で終わるのかと思うと何となく寂しい気持ちになる、社会人時代に感じてた朝の気怠げな気持ちから始まる時も、その一日の終わりの夜には、もう一日が終わってしまったなと思ったものだ。

 

 特に魔法を研究していた時期など一月が一日より短いと感じた時もある、そう思えばここ高等学校での一日は、俺の人生の中で最も長い一日の過ごし方を更新していると言って良いだろう。

 

 さて入学から三週間、Bクラスで連絡先を知っているのは一之瀬と柴田と神崎、そして姫野と四人だ。姫野以外の連絡先を知っていなかった二週間前と比べればこれはとても快挙と言っていい!

 

 まあプライベートポイントを節約する為、姫野以外のBクラスの生徒とは未だに遊んだ事はないのだが、五月になればそれも解消する筈だ、楽しみだぜ、ボウリング大会。

 

 いや、ビリヤード大会でも良いな……カラオケでもいい、とにかく集団との遊びの予定がいつ来ても良いように空けとかないとな……!

 

 他クラスの友達?綾小路だけだが。

 

 Cクラスの生徒らしき人物とは出会いはあったのだが図書館の道案内程度だったし、Aクラスのスキンヘッドの男とぶつかった時は互いに軽く謝った程度だし。

 

 ああでも、杖を持った女の子とは少し会話はしたなあ、棚の上にある物を取ろうとしてたんだけど難しそうにしてたから手伝ったぐらいだ、その日は綾小路と遊ぶ予定があったから話もそこそこにしてしまった。

 

 チャンスを逃した気がするが、まあ五月にまた会う機会があるだろう、五月にないなら六月とか。

 

 しかし……ここに来て心底思った事がある。

 

 

 俺は今まで魔法を使った生活を過ごしていた、何か困る事は全部魔法を使えば大抵解決したし、自分の持っている手段を使わない理由もないし、俺自身は依存していたつもりはないが、こうして魔法を使わない生活をしてみて改めて気づく。

 

 俺、魔法にめちゃくちゃ依存してたわ。

 

 誰か探すときは探知魔法、水がない時は水魔法、歩き疲れたら肉体回復魔法、眠気を感じたら覚醒魔法と、言ってみればキリがない。

 

 改めて高校生活を過ごして漸く、俺は魔法の使えない人間の気持ちを少しだけわかった気がする、思った事が出来ない不便さは多々あるものの、だからこそその分達成した時の気持ちの上がりようは計り知れない。

 

 入学前から魔法を使う制限をした事は正解だった、そうでなければ人を探してる時のあの手探りの時間も、授業の答えを考える思考も、人と話す時、どう話そうか何を話そうか考える時の楽しさなども、味わえなかっただろうし。

 

 魔法は便利だが便利過ぎる事を心から理解出来た、そして本来、こんなものは人間に必要ないのかもしれない事も考え始めている。

 

 だからと言って俺の生まれ持ったこの、ある意味“力”と言えるコレを手放そうとは思わないけど、魔法ありきで物事を考える癖は抜け出した方が良いのかもしれないとは思い始めている。

 

 ふとした時の会話に「いやそれ魔法で解決しようよ」と考えてしまうぐらいには、魔法に頭をやられている事につい最近になって自覚したのだ。

 

 

「おはよう姫野」

 

 返事はない、三週間毎日欠かさず姫野におはようの挨拶をするが未だ返ってきたことはない、いつかおはようの挨拶を返してくれる時が来たらその日を記念日にするのも良いかもしれない。

 

「姫野、そろそろ5月だけど学校には慣れたか?」

 

「別に」

 

「俺はまだ慣れないな、学校自体が新鮮で毎日浮ついている」

 

「なにあんた、不登校だったの?」

 

「ん?ああ。あー、まあ、うん……興味あるか?」

 

「は?別に興味無いし」

 

 あぶねー、馬鹿正直に「若返りして高校生活送ってます」とか言えないし、高等学校に来る前は何してたの?とか聞かれても何も言えないんだよな。

 

 俺の中学時代とかもう全然覚えてないし、唯一覚えていることと言えば、空を飛べるようになったのを同級生に見られかけた時のあの瞬間ぐらいだ。

 

 あの時は焦って途中で魔法解除して地面に衝突して死にかけたのは良い思い出だ、全身の複雑骨折ぐらいだったから魔法で直ぐに治せたけど、うん。めちゃくちゃ痛かった。

 

「あ、そうだ姫野、ポイントどれぐらいある?」

 

「教えない」

 

「俺は3万ポイントぐらいなんだが、もし5月に1ポイントも振り込まれなかったら今後奢る事は出来ないかもしれない」

 

「別に奢って欲しいなんて一言も……って、え?何、その話」

 

「いや、そのまんまだが」

 

「5月になったらまた10万ポイント振り込まれるんじゃないの」

 

「ん?星之宮先生は10万ポイントを振り込むとは言ってなかっただろ?」

 

 そう言うと姫野が猜疑的な目を向け始めた、え?何かおかしな事言ったか?いやそんな筈ない。

 

 入学初日にSシステムの事やプライベートポイントの説明をしていた時、俺の記憶が正しいなら星之宮先生はポイントが振り込まれると言っていた、10万ポイントを振り込むとは言っていなかった筈。

 

 俺の記憶違いか?いやいや、そのあと綾小路とその事で話した時も、綾小路の所の教師も同じようなことを言っていたと言っていたし、間違ってない筈。

 

「おはよう姫野さん、倉上くんっ、今の話、私も混ぜてくれて良いかな」

 

 一之瀬がやってきた、あいも変わらず美しいプロポーションで大変俺の目の保養に貢献してくれている、それにしても今の話?ポイントのことか?まあ別に良いけど。

 

「おはよう一之瀬、別に大した話じゃない、5月にポイントが振り込まれなかったら奢れないから了承してくれって話してただけだ」

 

「んにゃ?1ポイントも振り込まれないなんてあるのかな?」

 

「多分流石に無い、でも10万ポイントが振り込まれるとは星之宮先生は言っていなかった筈だぞ」

 

「……ああ、そうか、確かにあんたの言う通りだ」

 

「あ、そっか!星之宮先生、ポイントが振り込まれるって言ってたけど、何ポイントかは言ってない!」

 

「でもそれに気付いたなら、何ポイント振り込まれるのか、あんたは聞いたりしなかったの?」

 

「……なるほど確かに」

 

 あー確かに、言われてみれば聞いてみれば良かったな、でも別に大したことじゃ無いだろうし良いかなって思ったのも事実だ。

 

 この学校には無料商品が存在する上に、寮などの家賃も無い、無料なのは食事に留まらず、無地のTシャツなんかもそうだった。

 

 衣食住のライフバランスが最低限保障されているなら、まず間違いなくこの三つの観点から苦しむ事は無いだろうし。

 

「まあ最低限3万ポイント前後は振り込まれる筈だ」

 

「にゃるほど、どうしてそう思うのかな?」

 

「社会人の平均的な娯楽に使う金額が3万程度だからだ、この学校は衣食住は無料で使えても娯楽はそうじゃない、だからまあそう予想した」

 

「なるほど、でも5月のポイントがどうであれ、この事みんなに伝えないとね、少し遅いかもしれないけど、無駄遣いしないようにって注意したほうが良いと思う!」

 

「ああそうだな、じゃあ任せた一之瀬」

 

「ふぇ?自分で言わないの?」

 

「え、なぜ。クラスの中心は一之瀬だろ、一之瀬が気付いた事にしてホームルームの後に話せば良いんじゃないか」

 

 それにちょっと俺、みんなの前に立つとか……恥ずかしいので……。

 

 それに俺が言うより一之瀬が言った方が「一之瀬が言うなら」って納得すると思うんだけど、それに俺は無駄遣い推奨派なので、もう既に7万ポイント使ってるし、いやまあ半分ぐらいは姫野に使ってる気がするけど。

 

 別にそれはいいんだ、俺が良かれと思って使ってるし、ただまあ5月からは流石に控えよう、使い過ぎてるのは事実だからな。

 

「あははー……クラスの中心って、思った事はないけど、わかった!私から言うねっ!それから倉山くんも、無駄遣いしないようにっ」

 

「善処しよう」

 

 ちょうどホームルームの時間もそろそろだ、一之瀬は俺と姫野との会話を終わらせて自分の席に戻った。

 

 さて、俺も一限の準備始めとくか……と思ったけど、何やら珍しく姫野がまだ俺の方に体を向けていたので、何か話があるのかもしれない。

 

 おぉ……朝にここまで姫野と会話が続けられるとは、ありがとう一之瀬、会話に参加してくれて。

 

「……あんたさ、ポイントの事気付いてて私に奢ってたの?」

 

「ん?ああまぁそうなる、それがどうした?」

 

「どうしたって、あんたの話が正しいなら、5月に1ポイントも振り込まれないかもしれなかったんでしょ」

 

「そうなる、だから5月が近づいてきている今、奢る事は難しいかもしれないので話したんだが」

 

「そこじゃない、自分に使えるポイントが減るのになんで私にポイントを使ったの」

 

「え、いや、惚れてるからかな……」

 

「は、はぁ……?!まだ言ってるのそれ」

 

「事実だし……冗談だと思われていたのか?」

 

 そう言うと姫野が呆れと羞恥が混じったようなちょっと俺の心のくらっとくるバカ可愛い表情で固まった。写真撮りてえ。

 

 好きでもないのに奢るわけないだろ、別にお人好しじゃないし、俺なりのアプローチのつもりだったんだけど全然響いていなかったと言うのか?まじかよ。

 

 それにポイントの入手方が月一の振込みだけとは限らないし、水泳の授業の時がそうだったように、期末テストとかで好成績を残せばポイント貰えるかもしれないしな。

 

 テスト以外にも何かありそうだから、5月からはその辺をトライアンドエラーしていこうと思ったのもある。

 

「大丈夫だ、姫野からポイントを借りる事は絶対に無い」

 

「そんな心配してない……はぁ、なんなのよもう……」

 

「……?どうした?」

 

「なんでもない!」

 

 少し大きめの声でぷいっとそっぽを向かれてしまった、何だったんだ?まあその動作も可愛いので目の保養になったのだが。

 

 さてさて、ホームルームだ。5月ももう少し、残りも4月も青春を過ごしていくぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 ホームルームの後、一之瀬は5月に振り込まれるポイントが10万ポイントとは限らない事、その理由と、何かあった時のためにポイントの節約はする事などなどを話した。

 

 その際にその事に気付いたのは俺だと一之瀬がバラしたが、ああうんまぁ……いいけどさ。

 

 話し合いの中でBクラスの一人が「私浪費癖酷いから、一之瀬さんに管理してほしーなー!」って言ったのをきっかけに、神崎がそれならいっその事一之瀬に個人のポイントを半分預けるのはどうだろうと提案が起きた。

 

 つまり倉庫役って訳だな、ここ三週間でBクラスの大多数は一之瀬の人望を認めて、一之瀬は謙遜したり遠慮するものの、クラスの中心として頑張っている。

 

 最近ではBクラス内で役職を決めようと話していたのもあり、ほぼ全てのBクラスの人物がそれに賛成したのである。

 

 俺はそのほぼ全てから外れた内の一人だ、一之瀬がBクラスの全体の金庫番、マンションの共益費のような形式で管理するのは別に構わないが、自分のポイントは自分で持ちたいのである。

 

 余裕が出来たら個人的に一之瀬にポイントを預ける事を告げた、俺がそう言うと姫野も俺の意見と全く同じ事を一之瀬に言ってた。

 

 気が合うな、姫野。

 

 そう言うと「合わない」と言われたがあれは照れ隠しだ、本当に嫌がってるようにも思えたが絶対にそんな事はあり得ない、俺の勘と魔力がそう告げている。

 

 その議題を皮切りに、5月以降に向けて放課後改めて色々話し合おうと言う事でその日の朝は終わった、俺も参加しようと思ったけど、いてもいなくても変わらない気がする。

 

 そう思って断ろうとしたけど一之瀬だけじゃなく他の生徒からも放課後残るように言われたので大人しく従った。

 

 そんなこんなで、5月に向けての話をしたり、放課後に渾身の出来のロールキャベツを俺以外に食べて欲しかったから綾小路を呼んで食べさせたり、やけに絡んでくるロン毛を無視し続けたりしてたら、あっという間に一週間が過ぎた。

 

 5月1日、春と夏の間の始まりである。

 

 

「……なるほど」

 

 

 朝起きて早速ポイントを確認してみると、俺が思っていた以上に振り込まれていた、ただ10万ポイント振り込まれていた訳じゃなかったので、俺の予想は大方正しかった事が証明された。

 

 まあ、同じBクラスでも振り込まれる金額は違うかも知れないから、それは後で確認しないと行けないけど。

 

 では他クラスが振り込まれた金額はどうだろうか?AクラスとCクラスはわからないが、Dクラスには綾小路がいるから早速電話して聞いてみよう。

 

「もしもし、綾小路?今良いか」

 

『構わないぞ、なんだ?』

 

「ポイント幾ら振り込まれた?Bクラス……かは確定してないが、俺は65000ポイント振り込まれたのを確認した』

 

『65000ポイント……そうか、オレは、振り込まれていないか、若しくは0ポイントだ』

 

「うそだろ、まじか、え?ポイント大丈夫か?」

 

『大丈夫だ、節約してたしな、学校側の不備であって欲しいが……望みは薄いだろうな』

 

「そうとも限らないだろ」

 

『いや、Bクラスは知らないが、Dクラスはお世辞にも授業態度が良いとは言えない、普段の行いもな、それを踏まえればポイントがクラスによって変わるなら、0ポイントになるのも不自然じゃない』

 

 

 え、そうなのか?授業態度とかでポイントが変わるかもしれないとかそんな事今初めて気付いたんだが、すごいな綾小路。

 

 でも確かに考えてみれば、その可能性は全然あり得たな、今思い出してみれば、歴史の時間でふと居眠りしてしまった生徒に何やらチェックのような事をしてた気もするし。

 

 もしかして頭良いのか?顔も整ってるし、身体能力も高そうだし、優秀なのか。

 

「他クラスのポイントの確認が出来てよかった、もしポイントが危なかったら言ってくれ、食事ぐらいは持つ」

 

『ああいや、俺もBクラスのポイントを知れたしな、ありがとう、それじゃあ』

 

 綾小路との電話を終わらせた、いやしかし……0ポイント、まじか、未だに信じられない、それ娯楽費無いよな?そんなにポイントが下回る事があるのか。

 

 CクラスやAクラスはどうなんだろうか?今日のホームルームで教えてくれたりするのだろうか、しかしまああれだな。

 

 65000ポイントもくれるなら5月の姫野に充てられるポイントは問題ないな、うん。

 

 まあポイントの話をした放課後に姫野本人から「奢らなくて良い、うざい」と言われたので、自重はしよう、何かあった時にポイントは取っておいた方が良いだろうしな。

 

 

 ……何やら青春が加速するような予感がする、5月も退屈しないで済みそうだ、今から楽しみだな。

 

 さてさて、行きますか。

 

 いざ登校!早速発見!

 

 

「姫野、一緒に登校しよう」

 

「やだ」

 

「まあそう言わないでくれ」

 

「隣歩かないで」

 

「ところで前から思ってたんだが綺麗な髪色だよな、美しい」

 

「っ〜〜〜!どっか行って!」

 

 うおっ、両手で押されて物理的に距離を離されてしまった、俺の硬直の隙に早歩きで姫野が俺を置いて行ってしまった。

 

 うーん何がいけなかったんだろう?5月になっても普通の高校生が喜びそうな会話が出来ていない気がする。

 

 

 会話の勉強しないとなあ。




ぴえー1評価きらいめう、9評価好き、10はもっと好き


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星之宮先生との会話は青春ではない

うえーい赤すき


 

 5月初めのホームルーム、星之宮先生が珍しくまじめな雰囲気を漂わせて教壇の上に立っている。

 

 いやまあ、いつもののほほんとした表情ではあるのだが、うーんあれは俺のタイプじゃないな……

 

「倉上くーん?何か失礼なこと考えてなーい?」

 

「そんなまさか、今日もばかそう失礼、あほ……まぬけ……うん、はい」

 

「ちょっと!酷い子ね!ぷんぷん!」

 

 ぷんぷんっておまえ歳考えろよ……ごめん人のこと言えなかった、俺若返りしてんだった。

 

 星之宮先生がこほん、と咳払いをした後に話を切り替えた。

 

「これからホームルームを始めるけど、何か質問あるかなー?」

 

「星之宮先生」

 

「はい一之瀬さん!何かな?」

 

「えっと、今月の振り込んでくれたポイントの件なんですけど、なんで65000ポイント何ですか?」

 

 その質問に星之宮先生は答えていく、何故65000ポイントなのか、理由は本来は10万ポイント支給される予定だったのだが、遅刻や欠席、授業中の私語や携帯を弄るなどの行為で減点されていき。

 

 結果的に35000ポイント失う事になったと言う事らしい、一部の生徒には思い至る事があったのか「まじか」と言った表情を隠せていない、だけどもこれを咎めることは出来ないだろう。

 

 俺も魔法を制限していなかったらついつい魔法の研究をして授業所ではなかったかもしれないしな、しかしそうか、綾小路の言う通りになったな。

 

 知っていたのかな?いや、知っていたら変えるようにするだろうし、そんなことはないか。

 

 話の流れの中、星之宮先生は厚手の紙を取り出して黒板に貼り付けた、AクラスからDクラスの名前、それからその横に数字の記載。

 

 なるほどそうか、これがクラスに支給される今月のポイントか。

 

 Aクラス940、Bクラス650、Cクラス490、Dクラス0……これに100を掛けた数字が振り込まれるのか?いやそれより、違和感。

 

 綺麗過ぎないか?何かの法則性を感じざるを得ない、俺の疑問と同じ疑問を抱えたのか、すぐさま一之瀬が星之宮先生に質問した。

 

「星之宮先生、なぜクラス毎にポイントの差があるんですか?」

 

「それはね一之瀬さん、優秀な順にクラス分けされているからです、優れた生徒はAへ、ダメな生徒はDへ。Bクラスのみんなは優秀な方だよっ」

 

 ……?

 

 俺は綾小路がDクラスにいる事を知っている、彼の人間関係については知りようがないので省くが、今日の朝一でこのロジックに気づいていた節がある。初対面の時にぶつかった際、体幹がブレてなかった事も体を鍛えている証拠になる。

 

 それがダメな生徒……?俺の知らない所で欠点があるのか?カラオケで俺より高得点を出すあいつが?ちょっと信じられないな。

 

 それに、その話が本当ならAクラスには一之瀬以上に総合的に優れている高校生がいるってことになるんだが、まじか?

 

 Aクラスの940ポイントだけを見ると、それは否定できないが。

 

 ……まあ、それ程考える事でもないか。

 

「それとね、この学校は卒業後に希望の進路を保証しているけど〜、その恩恵は卒業時にAクラスに在籍する生徒のみ受け取れるんだ」

 

 その発言にクラスがざわつく、え、いやそんなにざわつく必要あるか?別に希望してる進路に100%行けなくなるだけで、受けに行くかは自由だろ。Aクラス以下は特定の進路に行けないとか言われてないし。

 

 てか仮にそうだとしたら学校としてどうなの?って話だし、焦る必要はないと思うけど。

 

「このポイントの数値は毎月支給されるポイントに連動する他にも、各クラスのランクに反映されるから、頑張ってAクラス目指そ〜!」

 

 と星之宮先生は言うが、うーん……俺個人としてはどっちでも良いか、卒業後に好きな企業や大学に行く権利は俺の場合いらないし、青春したいだけなので。

 

 いざとなれば魔法使えば良いしね……ってまた魔法で解決しようとしてしまった、これではいかん、卒業後には魔法を使う生活に戻るとは言え、思考停止の原因になりかねない。

 

「それと、この前の小テストの結果貼るよ〜」

 

 そう言って星之宮先生は小テストの結果を張り出した、パッと見て70、80が殆ど、60点台もいるけど50点以下は誰もいない。

 

 まあ簡単な小テストだったしこんなものだよな、俺?90点、最後の3問だけめちゃくちゃ難しかったんだよな。

 

 3問の内の一つは俺が高卒認定を取る時に出てきた問題だったからなんとか思い出して解けたけど他はてんでダメです、絶対高校一年生の範囲の問題じゃないだろアレ、解けるやついんのか?

 

 いたわ、一之瀬95点じゃん、やっば。マジかよ、頭も良くて美貌も突き抜けているってじゃあ一之瀬は何を持たないと言うのだ。

 

 流石いいんちょー、もしかして魔法使いか?知能強化の魔法を使っている?……有りえるな。

 

「赤点は居なかったけど、期末試験では赤点は一教科でも退学だから、気を引き締めるよーに!」

 

 退学の言葉に少なからず生徒達はざわついた、一教科でもか、なかなか手厳しい。俺は多分大丈夫だけど他の人はどうかな?姫野とかどうだろう。

 

 小テストは……お、80点だ、なら大丈夫そうだな。

 

 まあホームルーム終わった後に一之瀬辺りが勉強会とか開きそうだし、俺から何かする事はないか。

 

 ただあれだな、ちょっと気になったし俺からも質問するか。

 

「お、何かな倉上くん?はっ、もしかして私の美貌に……」

 

「んな訳ねえだろ出直してこいよ」

 

「あ“ん?」

 

「地が出てますよ先生」

 

「わあ!ごめんごめん、それで?」

 

「赤点の基準について教えてくれますか」

 

「んー、赤点はねえ、そのクラスの平均点÷2だよ〜」

 

 なるほど、今回の場合は40点前後か。まぁそれならこのクラスの学力なら、勉強すれば退学者は出ないか。

 

 しかしあれだな、退学ってこんな簡単に受理されるのか?これが普通の高校生の暮らしなのだろうか、いや多分違う気がする、もしかしてここは普通の高校生が来る学校ではない?

 

 いやまあ、魔法使えない=普通だし、俺の思い違いか?どうなんだろう、よくわかんねえや、そういうことにしとこ。

 

「他には質問あるかな?……うん、それじゃあ今日も頑張ってこー!おー!」

 

 

 

 

 

 

 

 ホームルーム後、案の定一之瀬が期末試験をどう乗り越えるか、今後どうするかの話し合いを展開した。

 

 結果から言えば、定期的に勉強会を開催すること、ポイントの節約を引き続き続ける事、ポイントに困る事があったりしたらその都度、一之瀬に連絡して預けてるポイントを使うことなどなど。

 

 Aクラスに行くにはどうすれば良いかの話し合いについてだが、学力や先の話だが体育祭、後は部活の大会などで成果を出せばクラスポイントは上がるんじゃないかと一之瀬は結論付けた。

 

 まぁそれも間違いないが……うーん、俺としてはそれ以外にもあると思うんだよな、まあこれをBクラスで発言したら、反感買いそうだし辞めといたが。

 

 とまあ別段良くも悪くも纏まった話し合いになったとは思う、そうして改めてこのBクラスについて気付いたが、このクラスには正統派の考え方が多い。

 

 競い合い、高め合い、正々堂々。それが全体としての流れだ、別にそれに思う事はない、好ましい。

 

 ただどうしても魔法の深淵を触れた身としては、もっと非人道的……って言って良いかは少し俺の常識力が欠けているが、悪どい提案が出なかったのは、個人的にはどうかなと思う。

 

 ほら、例えば恫喝とか……俺が海外生活をしていたときはやったりやられたりだったし。

 

 あとは折角一之瀬がクラス全体のポイントを管理しているのだから、ポイントの少ない、例えばDクラスの生徒達に消費者金融的システムで金貸しをするのも、プライベートポイントを得るには良いと思ったんだが。

 

 わいわいと話してる中にこんな会話を切り出せるほど俺は空気の読めない人間ではないと思っているから、言わなかったけど。

 

 個人的に俺が気になっているのは、プライベートポイントはどこまで自由が効くのかだ、このポイントの自由度は、魔法の研究をしていた時と少し似ている感覚を思い出す。

 

 だからまあ、放課後早々早速俺はBクラスから離れて星之宮先生の元に向かった。

 

 答えてくれるかはわからないが、少なくとも無碍にはしないはず、仮にも先生だし、あんな不健全な空気を漂わせる、ある意味魔法使い染みている女性だけども。

 

 

「……ん?おお、綾小路じゃないか」

 

「倉上?お前も呼ばれたのか?」

 

「いや、教えて欲しい事を担任に聞きに来ただけだ」

 

「なるほどな」

 

「そうだ、綾小路にも聞きたいな、ずばり聞くが、ポイントはどこまで自由が効くと思う?」

 

「わからないな、倉上はどう思うんだ?」

 

「俺もわからん、だから聞きに来た、予想だと例えば、テストの点数とか買えそうじゃないか?」

 

「そうだな、可能性としては十分にあるだろう」

 

 

 だよな、てかわからないって言いながら直ぐに俺の意見受け入れたよな綾小路、やっぱこいつ優秀だろ、え?なんでDクラスにいるんだろう、いや、他のDクラスの生徒誰一人知らないけど。

 

 一度放課後に勉強について聞いたら普通に受け答えしてくれたし学力もあると思うんだけど、なんで?

 

 すっげえ気になるけど、魔法使いとして秘密を抱え過ぎた俺は、自分がされて嫌なように、他人の秘密は出来るだけ探らない様にしようと決めたのだ。

 

 仲良くなって行くうちに向こうから話してくれるだろ、それが友情なんだぜ、そして青春!

 

 教員室の前で話し込んでいるのを不審に思われたのだろうか、教員室の扉が開かれる。

 

「あれー?どうしたの倉上くん、ついに気付いちゃった……?私の」

 

「綾小路、このうるさくて微妙にうざい胸だけは無駄にある色々と残念な教師がBクラスの担任だ、名前は覚えなくて良いぞ」

 

「お、おう?いや。言い過ぎだろ」

 

「殴るよ〜倉上くん?」

 

「よし綾小路、撮影任せた、教師が体罰をした証拠を取って2000万プライベートポイントぐらい踏んだくろう」

 

「冗談だよ?なにマジになってるのかな?かな?」

 

 うぜ。

 

 こんな茶番しに来た訳じゃないんすけど、なんかどうにもこの人弄りがいがあるというか、なんだ、会話しやすいんだよな。

 

 口が裂けても絶対に言いませんけどね。

 

「えー、っと。Bクラスの先生、茶柱先生は居ますか」

 

「サエちゃん?サエちゃんなら〜……あ、おーいサエちゃ〜ん」

 

「何しているんだ星之宮」

 

 廊下の向こうから出現してきたDクラスの教師と思われる先生、見たことあるな、日本史の先生じゃなかったか?Dクラスの担当だったのか。

 

 茶柱先生は綾小路についてこいと言って、ここから離れようとする、それについて行こうとする星之宮先生の背後の襟を掴んで止めた。

 

「ぐえ、何するのよお倉上くん!」

 

「このあほ教師は俺があやしますね」

 

「ふっ、くく……!任せたBクラスの……倉上直哉」

 

「笑われた?!滅多に笑わないのに!」

 

 お、無表情が取り柄の綾小路が僅かに困惑と微笑が混じり合った表情を一瞬だけ見せた様な気がする、どうだ綾小路、俺もユーモアがわかる男だろう?

 

 また近いうちに遊ぼーな綾小路、さてさて切り替えよう、長い時間星之宮先生といたくないのでぱぱっと質問に答えてもらおう、それに早く姫野に会いたい。

 

「先生、ポイントはどこまで自由が効きますか」

 

「どうかな?私からは答えられないな〜?」

 

「じゃあ例えばBクラスの先生を別の先生に変えて貰う事はポイントで出来ますか」

 

「おいっ!例えが酷いよ、ポイント以前に絶対に許しません!」

 

「出来ないとは言わないんですね」

 

 

 俺がそう言うと、のほほんと怒っていた星之宮先生の瞳の奥が光った様に思えた。

 

「こんな廊下で話す事じゃないから、場所を変えない?倉上くん」

 

 俺はその言葉に頷いた。

 

 空気が変わるような感覚、真剣になってきたか?なら俺もこの問答に本腰を入れるぞ、星之宮先生。

 

 さて……魔法を使わない素の状態での俺の問答で、どこまで未知を解明出来るかな?

 

 

 

 

 

 

 

 星之宮先生に大方聞いた俺は、その問答の中で何個かの未知を解読して満足した。

 

 面白い、このプライベートポイントはある種この学校に在学する学生全員が使える一つの魔法だ。

 

 使い様によって姿形を変える所など正に俺の魔法理論に通ずるものがある、まさかここに来て、魔法研究の代わりになれる楽しみを見つけられるとは思わなかった。

 

 青春、そして彼女を作りにきたのは変わらないが、それでも根っからの魔法バカの俺に、このppの仕組みは歯車がカチッとかみ合ったような感覚になる。

 

「ねぇ倉上くん、キミがBクラスの中心になったりはしないの?」

 

「青春が送れればそれで良いんで」

 

「リーダーも立派な青春だと思うなあ、私」

 

「ああまあ、ぶっちゃけると別に野望とか無いんすよね、Aクラスを目指すぞって強く思ってる訳でも無いし、競争心も人並みだ。他の生徒は知らないけど、この学校には楽しみに来ただけなので、卒業後とか心底どうでも良い」

 

 もう話終えたので姫野を探しに行こうと思った時、星之宮先生は俺に問いかけた、解答のお礼として建前抜きに本心で答えたが、その答えに星之宮先生は珍しそうな目で俺を見つめてきた。

 

「初めてだなー、キミみたいな考えの生徒を持ったの」

 

「そうですか?結構普通だと思うんすけど」

 

「普通?あはは!本当に言ってる?」

 

「え、喧嘩?」

 

「んーっ、キミって年相応な感じしないよね、私とそう変わらない歳なんじゃない?なんちゃって!」

 

「ひどい冗談っすね」

 

 正解です星之宮先生、俺の実年齢とそう変わりません、はい。

 

 冷や汗かいたわ、変な所で勘鋭いなこの人、目利きがいいのか?プライベートポイントの問答の時の誤魔化し方といい、なかなか掴ませないな。

 

「じゃあもういいっすか、姫野に会いに行くんで」

 

「いってらっしゃーい、振られちまえー!」

 

「冗談でも言ってはいけない事を言ったな」

 

「はいはい、早く行きな!」

 

 

 くそ、あの二日酔い女め、完全に最後はからかいにいきやがった、いつもなら俺がからかう側だと言うのに隙を見せてしまった。

 

 まあいいや、今日の星之宮先生との対談は実に有意義だった、クラスを上げるのも下げるのも、プライベートポイントの使い方次第だと気付いたのは得難い。

 

 俺は今日得た情報を今の所誰にも教えるつもりはない、独占する理由はさしてないがそれより、それを誰かが知ってしまった時のリスクの方がでかい気がする。

 

 きっと俺以外にも同じ程度プライベートポイントについての考察をする者は現れる筈だ、そいつが表舞台に出るまでは、隠し続けていよう。

 

 

 あ、でも姫野になら教えても良いかも。

 

 話のネタになるし、俺はすげーアピールはモテるって聞きました。

 

 よし!姫野に自慢しよ!

 

 どこに居るかな〜〜〜!




担任メモ「なぜか私に対する当たりが強いし失礼!姫野さんと仲良さげ、応援してるよ〜!でも振られちゃえ!」


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姫野が可愛すぎるぜ

わーいルーキー日刊一位やったー!


 

 ポイントの変動から3日後の昼休み、俺は食堂に居た。

 

 軽く周りを見渡すが、ざっと見た所普通にポイントを払って食事をしている人が6割、0円の山菜定食を食べている生徒が3割、その他の奢られてたり、何故か弁当を学食で食べてたりと特例が1割といった感じか。

 

 思った以上に0円生活をしている生徒は少ないな、いや多いのか?今日はたまたまの場合もある。

 

 交渉するなら山菜定食を食べている生徒、それも上級生が好ましそうだ、ポイントを渡せば欲しい情報をくれる可能性は高い。

 

 まあ、特にそんなのはないんだけど。

 

 そんな事今はどうでも良いんですけど。

 

 

「よう姫野、天ぷら蕎麦か?奇遇だな。俺も天丼を選んだんだ」

 

「近寄らないで」

 

「前座るぞ」

 

「座んな」

 

「ところで姫野、今日の放課後暇か?家電見に行かないか?」

 

「行かない!ご飯の時ぐらい黙って!」

 

「それは確かに、いただきます」

 

 天丼って素晴らしいよな、揚げた海老の下に米あるんだぜ、というかタレが美味い、これ魔法だろ、なんて魔法なんだ、俺も習得したい。

 

 しかし姫野の天ぷら蕎麦も美味しそうだな……というか姫野の食べ方が綺麗でとても絵になっている、おいカメラ取れ、んで俺に送れ。

 

 先に席にいたのは姫野だったが先に食事を終わらせたのは俺である、意図して早食いしている訳じゃないんだけども、どうにも社会人時代に食べ物をささっと腹に入れて仕事に戻るとかいうくそムーブが抜けて切れてないようだ。

 

 ただまあ、食べ終わるのを待つのも楽しいな、姫野、俺のことは気にしなくて良いぞ、いっぱい味わう君が好き。

 

「おい」

 

 じっと見てるのも失礼か?いやでもちょっと目が反らせません、ほぼ間違い無く好きな女の子の食事風景とか目に焼き付けたいよな、青春ポイント的にも。

 

「おい、テメェだよテメェ」

 

 いや魔法使って本当に目に焼き付けようかな、瞼の裏に今のこの光景を保存する魔法なんだが、編み出したは良いものの使う機会が何一つなかったんだけど、今になって使い道が出来てしまった。

 

 でもな〜〜5月に使う魔法それでいいのか?てか5月こそ魔法を使わないようにしたい、使うにしてももっと計画的に___

 

「……あんた、呼ばれてるよ」

 

「ん?」

 

 食事を終わらせたであろう姫野にそう言われて、振り返るとそこにはロン毛の高校生が居た、隣にでけえ黒人とやんちゃっぽい奴、なにこいつ、誰?

 

「やっと気付いたか、倉上。女に夢中で眼中にねぇってか?」

 

「いやそれはそうだろ」

 

「はっ、よほど舐めてるらしいなぁBクラス」

 

 そう言って隣の黒人にロン毛の高校生が目をやると、少し動いた後に、仁王立ちでそこに立った、え、何?

 

 なんでこいつこんな絶妙な位置に移動した?

 

 瞬間、海の中での生活、山の中での生活、とにかく魔法使いとして修行をしてきた際に培われた第六感が働いた。

 

 ロン毛の左拳が俺の顔面を狙って放たれるより早く、第六感に従った俺は直ぐに衝撃魔法を放とうと手を前に___

 

 あ、ヤッベ。魔法使えねぇや。

 

 

「___あぶね」

 

 手を前にした手で顔面を狙う左拳の拳を逸らして事なきを得る、追撃が来るかと思い警戒するが、ロン毛の高校生はニヤついて話しかけた。

 

「は、どうやら身体能力もそこそこらしいなァ」

 

「なんだおまえ」

 

「Cクラスの王だ、覚えとけアホ面」

 

 は?厨二病かよ、何だこいつ、ほら見ろ姫野も困惑して___ってあれ?居ないんだけど、え、嘘。放ってかれた?

 

 は〜〜〜〜〜?????俺と姫野の食事デートをこいつ邪魔しやがった!感情が昂るのを感じる、今めっちゃ感情のままに魔法ぶっ放してえんだけど。

 

「いいかBクラス、俺はお前らを」

 

「うるせえどけ」

 

 突然の俺の行動にロン毛は反応し切れず体をへの字にした、なんて事はない俺の正拳突きだがこんな奴に構ってられるか。

 

「てめぇ!龍園さんに!」

 

「お前らに構ってられる暇無いんで、じゃ」

 

 姫野?!どこに行ったんだ姫野、俺寂しいよ……ってもうこんな時間じゃん!そろそろ昼休みの後の授業始まる。

 

 あ、そうか、授業始まるから教室戻ったのか、なんだよそういう事なら一言言ってほしかったな、いやなんか絡まれたから遠慮したのかな。

 

 あー、なんか殴っちゃったけど大丈夫かな、把握している監視カメラの位置からじゃ俺が殴った事はわからないと思うけど。目撃証言とかは誤魔化せないしなあ。

 

 まあいいよね、魔法使ってないし正当防衛になるよな、そもそも厨二病ーズが絡んで来たのが悪い、うん。

 

 最悪目撃した人達の記憶魔法で改竄させよう、そうしよう。

 

 はあ、せっかく昼休みに姫野と話せたのに……気分が落ち込んだまま食堂から出る。

 

 食堂から出て前を向くと、内に鮮やかな水色のレイヤーを入れた、特徴的な美しい髪色のツインテール美少女がいた。

 

「って、へ?あれ、姫野?教室に戻ったんじゃないのか?」

 

「べつに、忘れもの取りに来ただけ……」

 

「あ、まじか、取りに戻ろう」

 

「いい、教室に置いてたの思い出したし」

 

「おお、それは良かった、じゃあ一緒に教室行くか」

 

「離れて」

 

「それでさっき言いかけたんだが、放課後暇か?家電ついでにお揃いのストラップ買いに行こう」

 

「買わないし行かないしきもい!」

 

 

 運が味方をしてくれたのだろうか、ありがとう女神様!今日はいつも以上に姫野と話せそうだぜ!

 

 俺は自然と隣で歩こうとするがそれを見た姫野が先に一歩進む、むむっ、まぁ良かろうなのだ、後ろ姿の姫野を見るのも目の保養がとんでもないです。

 

「ねえ、あんた龍園と知り合いなの?」

 

 姫野と教室に戻っている途中、珍しく姫野から会話を切り出した。

 

「誰それ」

 

「さっきあんたに絡んできた人」

 

「なるほど、知らないし興味も無いけど、有名なのか?」

 

「……まあ、悪い意味で。一之瀬にでも聞いてみなよ」

 

 へー、悪い意味って事はよく無い噂の持ち主ってことか、いやまあ急に殴りかかってきたし間違ってなさそう。

 

 Cクラスの王とか言っていたけどもしかして厨二病患者じゃなくてクラスを纏めているやつなのか?いや、それはなんというか、どうなんだ……色々と。

 

 Cクラスこぇ〜、近づかんとこ。

 

 ていうかそれって姫野……。

 

「心配してくれたのか?」

 

「は?ちがうし」

 

「ありがとう姫野、最高の女の子だな、好きだ」

 

「このっ……!うざい!どっか行って!」

 

「進む道同じだし無理」

 

「じゃあ消えて!」

 

 むむ、それはつまり魔法を使えと?確かに透過魔法を使えば透明人間になれるけど、まぁ姫野の頼みなら月一で使える魔法ここで使っても良いけど。

 

 あ、もしかして消えろって物理的な意味じゃない?それだと魔力の半分ぐらい使えば、全世界に俺という存在がいる事を消すことが出来る魔法もあるんだが、もしかしてそれか?

 

 いやあちょっと、姫野の頼みでも悩むなあ、第一アレめっちゃ疲れるしなあ、世界に俺という存在を戻すのにも時間かかっちゃうし。

 

「……変なところで黙んないでよ」

 

「え、ああ。ごめん」

 

「別に、怪我とかないの」

 

「へ?ああ、うん。ないけど」

 

「……あっそ!」

 

 姫野に怪我の心配をされた事に呆気に取られてると、姫野は早歩きでBクラスの教室に向かった。

 

 え、何今の。姫野マジで心配してくれてたのか?

 

 ……心に何か温かいものを感じる、ついでに少しだけ顔が赤くなってきた気がする。

 

 やっべー、こういう時なんて言えば良いんだ?

 

 

 魔法より難しい問題に直面したな……。

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとその日は気恥ずかしさで放課後に姫野を誘えなかった、いやあれは……心に矢が刺さった、恋心的な意味で、なおさら好きになったかもしれない、いやなった。

 

 俺のこの感情が止まる事を知らないがそうなると魔力ダダ漏れ酸素ドバドバマシーンになるので頑張って自制した。

 

 こういう時は綾小路に限る、早速電話して遊びに誘ったのだが、なんと勉強会を開催するとの事で時間が取れないとの事だ。

 

 綾小路が開催する勉強会とかちょっと俺も興味あるんだけど、多分俺より学力ありそう、勘でしかないけど。

 

 30年生きてきた人間の勘は結構当たるもんだぜ、と詳細を聞いてみると、綾小路は人をセッティングするだけで教師役はしないらしい、なんだ、じゃあ興味無いや。

 

 てか「オレが教師役は向いてないだろ」とかなんとか言っていたが、少しだけとはいえ俺に勉強教えたの忘れてないか?

 

 まあ綾小路の事は良いや、今日の放課後どうしよう、何しよっかな。

 

 目的もなくふらついていると、金髪の男子生徒を見かけた、あれ多分もしかしなくてもナンパだと思うんだけど、えー……でもなんか女の子嫌がってるように思います。

 

 俺より容姿いい奴のナンパは失敗すればいいと思ってるので飯ウマ出来るかもしれない、近づいてさりげなく会話を聞いてみるか。

 

 姫野がしれっと輪から抜け出す時をイメージして魔法無しで忍び足してみよう……こんな感じか?おお、出来てる気がする。

 

「だから、もう良いでしょ……!南雲くん!」

 

「おいおい、俺は善意で言ってんだぜ、何よりこれがバレたらお前の立場が無いだろ、素直に言う事聞いた方が良い」

 

「___っ!許さないから……!」

 

「言ってな、お前は負けたんだよ」

 

 

 ……上級生の会話か?

 

 断片的な情報だけで何を判断は出来ないが、まぁ多分この行け好かない金髪の上級生が悪い、俺の偏見100%だけど。

 

 にしても負けたって何に負けたんだ?……いや、断定できる情報がない以上幾ら考察しても結論は出ない。

 

 思考をしていると金髪の上級生は女子生徒を連れて、寮に向かって歩き出した、うわっさりげなく腰掴んでるのムカつくな。

 

 あれがモテる男の平均、普通なら俺は普通じゃなくて良いかも、あれが普通とか言わないよな?誰に聞けば教えてくれるんだ、Aクラスの担当教師にでも聞いてみようかな。

 

 うーん……しれっと端末で写真撮ったけど、これ何かに使えるかな、なんとなく撮った一枚だけど、あの金髪に彼女が居るならしれっと教えて修羅場にしてやろうかな。

 

 魔法を使えばあの金髪の彼女がいるかいないか、それが誰か探知魔法で簡単にわかるけどそんなことのために魔法を使うのは流石に4月の時以上に無いのでやめよ。

 

 しかしまあ、負けね。

 

 何を持ってして負けたと思うのは当人次第だが……俺個人としては、人生という長い時間に勝ちも負けも無いと思っている。

 

 究極的な考えになるかもしれないが、死ぬか生きるか。

 

 

 ただそれだけじゃ無いか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 土曜日だ。

 

 学校に行かなくても良い日、つまりは高校生の休日。交友関係の浅い俺には少し退屈な日でもある。

 

 し、仕方ないじゃないか……連絡先を聞き出すまで話の流れを持っていけないんだよ……!

 

 こういう時は綾小路だ、だが綾小路は自分のクラスの事で忙しそうなのを知っているので、次の機会にするとしよう。

 

 となると他に連絡先を持っている人間に遊びに誘う事になるのだが、まず柴田は部活で忙しい、神崎はなんとなく誘いずらい。

 

 一之瀬?いやいや、あのクラスのアイドルに二人きりで遊ぶ?いやあ、ちょっと、怖いっす。

 

 姫野?いやさっきから掛けてるんだけど応答しないんだよね、なんでだろ、でもワンコールで出るとはサンコールぐらい掛けてみよう。

 

 ……ダメだ出ない、うーん。じゃあ姫野の部屋に行ってみるか?場所はわかってんだよな、初日に姫野の分の食材を送った時に把握したのだ。

 

 昨日の感情はリセットしてるから健全な気持ちで会えるし、よし、決めた。行こう。

 

 私服に着替えて寮を歩く、俺にファッションセンスは無いので適当な服を着ているが、うんまあ、別にダサくないよな?普通だよな?

 

 どうしようこれで姫野にダメ出しされたら、結構凹むぞ。

 

 いや待て、なら姫野に服を決めて貰えばいいのでは?おお、めちゃくちゃいい考えだ、今日の予定決まったな。

 

 そんな事を考えていたら姫野の部屋に着いた、ノックしよう。うん、出ない、もう一回。

 

 むむ、だめか。いや待て、でも俺の姫野センサー(魔法使用無し)は部屋にいると告げている、だからここはくどいかもしれないがもう一回!

 

「うるさい!」

 

「やあ姫野、遊びに行こう」

 

「行かない!てかなんで私の部屋に来てんの」

 

「初日に行ったじゃん」

 

「なんで覚えてんの、きもい」

 

「好きな女の子の部屋は覚えるだろ」

 

「っ!」

 

 パタン!

 

 あ、扉を閉じられてしまった、ぴえん。

 

 ……流石に強引すぎたかなぁ、魔法を使えばもっとスマートに誘えただろうか、普通の高校生の事以上に年頃の女の子の思考がわかっていない説はある。

 

 でも俺の尊敬している先輩は高校生ぐらいの時は当たって砕けろが常だって言っていたし、いやよいやよも好きの内とか言ってたし。

 

 いやでもあの人バツ2だったよな、そんな人のアドバイスが果たして有効なのか?冷静に考えてみて、ダメな例なのでは?

 

 姫野の部屋の前で体育座りをしている俺に通り過ぎる生徒が不思議そうな目で見ているのを感じる。

 

 若返りの魔法で精神肉体共に年相応になっているとは言え30歳、年上属性は女子高校生的にはNGなのだろうか……。

 

 

「……何してんの」

 

 うずくまっていたら私服姿の姫野がそこにいた。

 

 パンク系の服を可愛く着飾った姫野は制服姿の時とまた違った印象を覚える、数年前に好きなアーティストのライブに行った時に出会った女性の服装に近いが、姫野が着ると神秘的に感じる。

 

 正直言います、めちゃくちゃかわいい。

 

 

「迷惑なんだけど」

 

「わ、悪い」

 

「……」

 

 じと〜っと見られてる、私服姿で完全に思考を停止しているせいで言葉が出ないんだが、や、やべぇよ、やべえよやべえよ。

 

「どこ行くの」

 

「え、遊びに一緒に行ってくれるのか?」

 

「あんたしつこいから、仕方なく今日だけ……」

 

「お、おお。じゃあ先ずはこの前見かけた喫茶店にいこう、気が変わらないうちに行こう!」

 

 

 神様ありがとう、俺にもついに春が来ました。

 

 嫌そうにしているけど着いてきてくれてるって事は遊んでくれるって事だもんな!やったぜ!

 

 

 よっしゃ〜〜〜〜休日デートだァァァ!!!!!




つづきおそめかも、まーゆっくりまってー


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悪ぶってる奴に絡まれるのも青春だぜ

つづきおそめじゃありませんでした嘘言いました。


 

 休日デートから早くも5日経過した。

 

 シャレでヤングな喫茶店から始まった魔法の研究よりも有意義な時間は、それはもう最高の時間だった……俺がファッション選んでくれと言った時は「いやだ」と言われたけど、次の機会に取っておこう。

 

 別に服選び以外にも休日にオススメな場所はあるからな!カラオケもダーツもビリヤードも二人ボウリングも全部断られたが、ゲーセンは姫野的にはアリだったらしくゲーセンに向かった。

 

 景品取りに必死な姫野くそ可愛かったな……いい所見せようとして俺もやってみた、俺そこそこ上手いんですわクレーンゲーム。

 

 まあ百発百中だし余裕だろ、今まで取った事あるしといざやってみると全然出来なかった、なんで?あ、そうか。魔法使ってねえや。

 

 普段ゲーセンで欲しい景品があった時は魔法でアームの力めっちゃ強化してたのをわすれていた、魔法を使わない俺の力じゃあ景品を取るのに1500ppも使ってしまったが、まあよし。

 

 ゲーセンもそこそこに金曜日に誘う予定だった家電選びで個人的に必要なものと、LEDキャンドルライトを姫野にプレゼントした。

 

 母親の誕生日に送った誕生日祝いの中で食いつきが良かったものだったから選んでみたんだが、果たしてどうだろうか。いらないと言いつつも受け取ってくれたので、使ってくれると嬉しいんだけどな。

 

「……あんたそれ何に使うの?」

 

「お、知りたいか?」

 

「べつに」

 

「備え有れば憂い無しだぞ、姫野」

 

「うざっ……」

 

 

 そんなやりとりも踏まえつつ、無事初の休日デートは成功を収めたのである!

 

 ……いやまあデートだと思ってるのは俺の一方的な認識なんですけどね、姫野曰く「もう休日に連絡してこないで」と言われてしまったので、お気に召さなかったかもしれない。

 

 でも本当にお気に召さなかったら姫野なら途中で帰りそうってか帰る確信があるから、そこそこ満足してくれた筈だ、よって次も誘います、毎週はともかく月一で誘います。

 

 父親曰く恋愛の物事はポジティブに考えれば考えるほど成功しやすいらしい、なので俺は次もある前提で話を進めるぜ。

 

 デート以外だとあれだな、Dクラスの女の子から連絡先聞かれたぐらいか?まあかわいかったし、前以て一之瀬の存在を知っていなかったらしどろもどろになっていたかも。

 

 でもごめん……俺には彼女(予定)がいるんだ……って言ったら残念そうに引いた、もしかしたらあれが都市伝説『逆ナン』だったのかもしれない。

 

 これは……青春か?うーん、審議ですね。

 

 それとあれだな。

 

 

 これは今の状況にも当てはまるのだが。

 

 

「よォアホ面」

 

 

 こいつ、確か龍園って奴。めちゃくちゃ俺に絡んでくるんだけど。

 

 俺だけにっていうかBクラスに絡んでくる、嫌がらせに近い行動もされるので温厚な一之瀬も珍しくぷんぷんしてた、星之宮先生のぷんぷんより気品に満ち溢れていた。

 

 まあそんな事はいいんだ、こいつが言うにはCクラスの王らしいから、上に立つBクラスが気に食わないんだろう、まあそれだけが理由じゃ無さそうだが。

 

 とにかくこいつ、しつこい。朝には神崎に絡んだと思えば昼には俺。放課後は一之瀬とま〜〜〜すごい行動力、正直そこはとても素晴らしいと思う。でもお前がいると姫野どっか行くし邪魔すんなよまじで。

 

 まあおまえがそんなに俺と昼ご飯一緒に食べたいって言うなら仕方なく席を一緒にしてやってもいいけどね。来るもの拒まずですよ。

 

 でもその隣にいる黒人図体デカくてちょっと怖いからもう少し離してくれないかな、海外生活してた時を思い出して衝動的に財布盗りたい気分になんだよな。

 

 まあ財布無いんだけどこの学校。

 

 

「飽きないのかお前」

 

「飽き?はっ、てめぇが言うかよ倉上、よくもまぁ一人の女に執着するもんだな」

 

「惚れてるので」

 

「気持ち悪い奴だな」

 

「喧嘩か?始めるか」

 

「良いぜ?てめぇが負けたら俺の下に付け、三回回ってワンって鳴けよ」

 

「うわきも、まじになってるよ。冗談通じないの社会出たら困るから気をつけな」

 

 あ、ピキった。青二才が、中身30歳に口喧嘩で勝てると思うなよ。

 

 ……なんかごめん、30歳の若返り偽高校生が現役高校生に勝ち誇ってる方がだいぶキツいよな、でもこいつが悪いよこいつが、だって月曜始まって毎日何処からともなく昼休み俺の前に現れるんだぜ?

 

 まあただ龍園に対しての好感度は結構ある、なんたって話しかけてくれているからな、悪ぶってるやつに目を付けられる、これもまた青春だろう。

 

「……チッ、まぁいい、てめえの弱点は知れた、俺のタイミングで倉山、てめえは詰むぜ」

 

「おーそうかがんばれがんばれ」

 

「こいつ……さっきから龍園さんに……ッ!」

 

「よせ石崎。じゃあなァ倉山、腹の借りは倍にして返すぜ」

 

 そう言って龍園は黒人と石崎って呼ばれた生徒を連れてこの場から去ろうとした。

 

 こういうタイプは初めてじゃない、日本では少なかったが海外ではそこそこ居た。あの恐怖を知らなさそうな目を見れば分かる、場慣れをしてるのを見るに、小中と同じように生きてきた感じだろうな。

 

 特に当てはまるのは魔法研究の際に紆余曲折あってヤクザと揉めた時だ、自分達がナメられるのが心底ムカつく性格、思考。

 

 こいつがどうやってCクラスを纏めたか想像が付くな、そして纏め方もまあ、一つのやり方としては間違っていない、俺が4月の時点でCクラスに居たならこいつと遊ぶ青春も楽しそうだと思っただろうな。

 

 良い素質を感じる、上に立つ資質は十分だ。

 

「一つ、忠告をしようか龍園」

 

「あ?」

 

「お前が何をどうしようが構わないし、Bクラスに挑むのも構わない、勿論俺にもな。好きにすれば良い、人間の行動は、人の探究心は誰にも否定も肯定も出来ないからな」

 

 丁度うどんも啜り終えた、美味かったなこのうどん、なんの出汁使ってんだろ、鰹っぽいけどそれだけじゃ無いな。

 

 今度真似して作ってみようかな、姫野に味見してもらおう、そうと決まれば下手なものは作れないから一から麺作るか、この辺魔法で補助するとクソ簡単なんだけどな。

 

 ニヤついて俺の言葉の続きを待っている龍園の目と合う。

 

 

「それで?だからなんだよ、アホ面」

 

 

「お前が俺の弱点だと思ったそれに触れた時がお前の終わりだよ」

 

 

 龍園、お前に俺を測れるか?いや、お前には出来ないよ。恐怖を知らない、恐怖に恐れない人間は、未知を知らない。未知に対する対策が出来ない。

 

 俺が他人に隠している事は多い。魔法使いなのもそうだし、若返りの魔法で高校生やり直してますってのもそうだ、魔法の関係上過去話をあまり出来ないし、仕事上の経験や内容も守秘義務で公には出来ない。

 

 

 俺は善人でも悪人でもない、魔法使いだ。

 

 

 魔法使いが人一人の存在を世界から消す事なんて簡単なんだぜ。

 

 それこそ魔法のように、音も立てず時間もかからずあっさりとな。

 

 

 お前のその目に俺はどう見える?Cクラスの王さま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぁそんな事しないけどね。

 

 魔法使って暴れてた18、19の頃なら兎も角、社会経験を得て30代に突入した若返りエセ高校生の俺がそんなめんどくさい事しませんよ。

 

 そりゃまあ本当に龍園から見た俺の弱点、つまりは多分、姫野に何かしたらちゃんと終わらせるけど。少なくとも今はそんなつもりは無さそうだし、放置で。

 

 本格的にBクラスに何かするにもある程度はcp、それからppの仕組みを解かない以上は大規模な計画はしないだろ、少なくとも衝動と感情だけで何かをするタイプじゃない。

 

 計画を重ねて先を見据えた上で一手を打つタイプだ、そのやり方はどうであれ、一つの集団を束ねるってのは、そういう奴じゃないと出来ないからな。

 

 まああいつの事は今はどうでも良い。

 

 

 龍園からの接触から時間が経って既に放課後、俺はとある場所に向かっていた。

 

 いやまあ隠す必要無いので言うが、図書館である。ちょっと借りたい本があるのでそれを借りに行くのだ。

 

 とまあ借りる前提で話しているがその辺どうなんだろう、一度も図書館を利用……いや一回だけ行ったっけ?案内した時に、まあ覚えてないからあれだけど、利用はしてないので、その辺の仕組み知らないんだよな。

 

 まあ借りれないって言われたらppで借りれるか交渉してみるか、借りるだけなら大したppでも無いだろ。

 

 そんなこんなで図書館とうちゃ〜く。

 

「って、おお。綾小路」

 

「倉上?奇遇だな」

 

 図書館の中に入ると身知った人物がいたのでついつい声をかけてしまった、綾小路の周りには何人かDクラスの生徒らしき人物もいる為、ああなるほどこれは勉強会かと結論付ける。

 

 あれ?でも聞いた話によると勉強会は失敗したんじゃなかったっけ、まあなんとか再開出来たって事ですかね、良かったじゃん。でも俺にも教えて欲しかったな、まあクラス違うから必要無いって思われるのも納得するけどさ。

 

「……綾小路くん、この人は?」

 

「ああ、Bクラスの倉上だ、俺の友達だな」

 

「嘘、あなたに他クラスの友達がいる訳無いでしょ」

 

「そんなことないぞ、そんなことない……よな?倉上」

 

「あるわけ無いだろ、この学校で最初の友達なんだぞ誇れ」

 

「ほらみろ堀北、俺にも友達が居るんだ」

 

「嘘でしょ……?」

 

 

 この黒髪の美少女が堀北ね、堀北か……なるほどな。まあ似てなくは無いけど、どうだろう。思い違いかな。

 

「って、Bクラスの倉上っておい、もしかして……」

 

「ん?」

 

「な、なんでもない何でもない!」

 

 なんだ?ちょっとチャラそうな男子高校生に若干恨みのこもった目をされたんだが、はて。

 

 なんか俺の知らないところで噂立てられてたりする?

 

 すると赤毛の男子高校生が何故か俺の方を睨む、は?何かしたか俺、勉強の邪魔って言われたらまあ確かにそれはそう。ごめん。

 

「Bクラスが何の用だよ?」

 

「綾小路が居たから声掛けただけだけど」

 

「じゃあもう良いだろ、勉強の邪魔すんな」

 

「悪いな、でもお前その数学の答え間違ってるぞ」

 

「あぁ?」

 

「解き方が悪いな、基礎から始めないと数学は面倒くさいぞ」

 

「なんだてめえ……」

 

「暇だし教えてやるよ、良いよな綾小路」

 

「あー……良いか?堀北」

 

「良いか悪いか以前に何が目的?倉上くん」

 

 え、目的?暇つぶしだけど、それ以外何があるんだ。

 

 もしかして勉強教えてやっから何か手伝えとか俺が言うと思っているのか?だとしたら考え過ぎだろ、別に手伝ってもらうこと今の所無いし、一之瀬を見習った模範的な善意なんですけど。

 

 うーん説明すんのもめんどくさいな、わざわざする事でも無いだろ。無視でいいか。

 

「隣失礼、良いか?まずは___」

 

「あー?……おお、こういうことか?」

 

「ちょっと違う、ここが___」

 

「あ?つまりこうか?」

 

「んで、これをこうするとどうなる?」

 

「……これで正解なのか?」

 

「おめでとう、続いて残ってる問題もこのやり方で解けば良い」

 

「お、おお……」

 

 なんだ悪くないじゃん、見た目だけ見ると全然勉強出来なそうってか実際これ中学の基礎の範囲だから勉強出来てないんだけど、飲み込みは早いな、覚える事は不得意って訳じゃないらしい。

 

 これがDクラスの平均って訳じゃないと思うが案外、一番悪いって集められたクラスにしては違和感を感じるな。まあ綾小路がいる事自体が違和感の塊なんだけど、それを置いといても。

 

 何やら意外そう、というか驚きの混じってる目をしている黒髪の美少女と目が合う、どうよ。俺結構教えるの上手いんだぜ、魔法の研究に近い事をした勉強の所限定だけどな。

 

「すごいねっ倉上くん!わたしにも教えてくれないかなあ?」

 

「時間無いし今度な、じゃあ頑張れよ綾小路」

 

「お、おう」

 

「待って、さっきの問いに答えてないわよ」

 

「いや、答えるまでもないだろ。善意だけど、全ての行動が目的のあった行動だったら人生つまらねーぞ」

 

「……理解出来ないわ、他クラスの生徒にわざわざ塩を送って楽しいとでも言うの?」

 

「一教科少し教えただけで敏感だな、視野が狭いのは欠点だから直した方が良いぞ」

 

「なっ……あなた」

 

「綾小路、今度遊ぼーな」

 

 解散解散、そろそろ今日の晩御飯選びをしないといけないのだ、気付けばそこそこの時間だし。

 

 図書館の本を取って借りれるか聞きに行くと、どうやら問題無いらしい、やったぜ。遅れたら遅れた日毎に1000+5000ポイント罰則があるらしいがまあ妥当、ちゃんと返そう。

 

 さて今日の料理どうしよっかな、何しよう。

 

 うーん……電話して聞いてみるか。

 

 

「もしもし姫野?今日の晩御飯迷ってるのだが何かおすすめないか?」

 

『連絡してくんな、うざい』

 

「それと一緒に食べないか?姫乃が食べたいもの作ろう』

 

『いやだ』

 

「あ、もう食べたか?」

 

『……まだだけど』

 

「了解、パスタとかどうだ?最高のボロネーゼを披露してあげよう」

 

『うっさい!』

 

 

 あ、切れた。でも多分食べないとは言ってないから二人分買うか。

 

 美味いパスタ作るからな、胃袋掴んでやるぜ姫野……!




感想いっぱい欲しいな〜って事で次は遅め。明日は書く時間ないからね。


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ギャンブルは魔法使いの嗜みだぜ

うぇーい


 

 五月も半月が経過した。

 

 夏を感じるという表現は違うだろうが、日本が温かくなっていくのを日々感じている、つまりはそう、暑くなってきた。

 

 俺が7歳の時、陽射しが鬱陶しい上にやたらと暑い日が続いたのを魔法で克服してから高等学校に入学するまで、体温の調整を魔法で行なっていたので、暑いと感じるこの感覚を実に23年ぶりに味わっている。

 

 はっきり言って魔法を使いたいぐらいに苛々するのだが、月に一回の制約を自分でしている為、体温を調整しても一日しかこの暑さを変えられないと考えると無駄だと悟る。

 

 この暑さに耐えられる普通の人間やばすぎだろ……どうなってんだ?しかも六月、七月は更に暑くなってくんだろ?俺に最低限の一般的な倫理観が無かったら素っ裸で学校に登校しているぞ、マジで。

 

 自分で決めた事とはいえ魔法を使えない弊害がしっかりと俺の体に伝わっている、自分自身に制約を掛けた魔法を解除する魔法を使うことは出来るが流石にそれでは色々と台無しなので、我慢するけど。

 

 そうそう、テスト範囲変わったんだよね。三日前ぐらい?ホームルームで神崎が「テスト範囲が変わる事はありますか」って質問に星之宮先生が答えてた。

 

 何らかの確証を持った質問の仕方だったから、期末テストの何かに気づいたんだろうけどなんだろうね、上級生とかに聞いたのだろうか、俺は上級生とは関わっていないから分からん。

 

 まあテスト範囲が変わったとはいえそこまで影響のある範囲変更では無かったし、授業の中の範囲内なので元々勉強しているBクラスなら大丈夫だろう。勿論俺も大丈夫である、授業態度良いんだぜ、俺。

 

 そんでもってこれは俺個人の問題なのだが、プライベートポイントを増やそうと思う、というのもこの前「人をダメにするソファー」なるものを発見し、座ってもOKだったので座ったのだが。

 

 あれは魔法より素晴らしいものだ、本当にダメになった。

 

 あまりにもダメになり過ぎたものだから、たまたま通りかかった一之瀬とBクラスの明るい奴筆頭網倉に声をかけられ、ソファーから引きずり出されるまで我を失っていた。

 

 あのダメになる感覚をまた味わいたい、のであるがとにかく人をダメにするソファーは50000ポイントとま〜〜〜高かった、嘘だろってぐらい高いが在庫も少なく仕入れも限られていると言われれば納得せざるをえない。

 

 今の俺のppは70000前後、一つなら買えなくはないが姫野にもこのダメになる感覚を是非とも味わって欲しいので二つ買う必要がある、なんならあの無表情が取り柄の綾小路が人をダメにするソファーに座った時、どんな化学反応を起こすのか知りたい。

 

 よって三つ買うとして、15万ppを至急手に入れなければならない、あれを狙っている輩は多い、今月中に買わないと無くなってしまうかもしれないのだ。

 

 さてここでプライベートポイントをどう増やすかといった話になるのだが。

 

 正攻法で行くならテストの結果や部活などの、学園側から用意された試験にクリアする事だろう。

 

 ただこれだと仮に15万ppを達成出来るとして時間がかかる、よって今回は除外。

 

 一之瀬が預かっているppを借りるのも一応あるがまぁ普通に考えて無理なので除外、上級生などに頼み込むのも手だが上級生に知り合いが居ないので除外。

 

 となるともう正攻法で打てる手はないと言って良い、まあこれらのやり方考え方はあくまで正攻法。やり口を変え、邪道で15万ppを増やすのなら話は変わってくる。

 

 パッと思いついただけでも何通りかはあるが、時間もかからず今日明日にでも集められるとするのならやはり、ギャンブルに限るだろう。

 

 競艇、競馬、競輪と魔法使いなら誰しもが嗜むギャンブルがこの高等学校で出来たなら良かったのだが生憎、そうした賭け事は認められていないようだ、かなしいかな。パチンコもスロットもないし一体どうなっているんだ。

 

 ……いやそもそも高校生がそういったのに手を出すのがあかんのか、俺のこの30代おっさん魔法使いの考え方が間違っているのか。

 

 ギャンブル以外ならAクラスの生徒5人ぐらいにあの手この手で脅したり何なりしてppを増やす手もあるが、個人的すぎる買い物の理由で脅しを決行するのはなあ。

 

 Bクラスの評判も悪くなると考えるとちょっと手が出しづらい、確実に一之瀬に怒られるし姫野の印象も悪くなるだろうし。

 

 これが海外のスクールライフならまだしも、ここ日本だしね、ほどほどにしようほどほどに。

 

 とまあそんな訳で話を戻してギャンブルである。

 

 

「ん、一年生か?どうしたこんなとこ来て、迷子か?」

 

「ここ、ボードゲーム部で合ってます?」

 

「合ってるぜ、もしかして部員希望者か?それなら俺から顧問の方に言って来ようか?」

 

「あーいやそういう訳じゃないですけど、所で先輩、部長だったりします?」

 

「お、わかっちゃう?溢れ出てるのかな、部長オーラって奴」

 

 いや全然そんな事ないしなんなら冴えない一般部員だと思ってたけど、いやまあ、言わんとこ。

 

 しかしまあ部長が居たのは運が良かったな、無駄に時間をかける必要も無くなった。

 

 ボードゲーム部なら基本的な勝負毎に使う競技性のある遊戯はあるだろう、まず間違いないだろうが、はてさてどうかな。

 

 

「それじゃ先輩、やりません?例えばチェスとか」

 

「……へー、でもチェスはこの前痛い目遭ったから別のにして良いか?」

 

「何でも良いっすよ、勝つんで」

 

「おおっ自信満々だねえ、そんじゃあクアルトとかどうかな、三戦勝負。ルール知ってる?」

 

「ああまあ、やった事あるんで」

 

「経験者か、珍しいね」

 

 スイスの数学者が考えたユニークな二人用のボードゲームだ、4×4の盤上に交互にコマを置き、共通の属性を持つコマを4つ一列に並べてクアルトと宣言したプレイヤーが勝者となる。

 

 白か黒か、高いか低いか丸か四角かあるいは、穴が有るか無いか、そのどれかでも四つ揃えれば良い。

 

 このゲームの面白い所は、対戦相手がプレイヤーの置くコマを選べるという所だ。

 

「一応聞いておくけど、普通にやる?」

 

「まさか、どれぐらい余裕あります?」

 

「30」

 

「ならそれで」

 

「おいおい、足りなかったら君の友達からも貰うよ?」

 

「負けないんで大丈夫ですよ」

 

「へえ、俺強いぜ?部長だし、特にこの手のゲーム得意だし」

 

「そんなに強い部長ならぽっと出の一年に負ける筈無いんで、更に毎月2万pp渡し続ける契約も結びますか?」

 

「……舐められたものだな、なら君が負けたらその逆だ」

 

 食い付いた、本当に自信があるらしい、賞でも取ったか?まあどれでも良いか、それより早く始めたい。

 

「それでやりましょう、あ。契約書類はありますか?」

 

「あー良いよめんどいし、その代わりに録音取ってそれを証拠にしよう」

 

「録音?なるほどね、それもありですね」

 

「それじゃあ、本当に良いんだね?」

 

「良いですよ」

 

 

 その言葉を皮切りに、先輩はニヤッと笑った後クアルトの準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 普通にやれば俺が負ける。

 

 相手のフィールドで、さらには言葉の節々に絶対の自信がある事を隠してもいない。まず自分が負ける筈が無いと思っている人間だ。

 

 一勝ぐらいなら何とか取れるかもしれないが二勝は無理だろう、俺自身はクアルトのプロって訳じゃない、何回かやっただけの素人に毛が生えた程度だ。

 

 

 だからまあ、使います。魔法。

 

 

「先ずは一勝ですね」

 

「ラッキーだな、次はどうかな」

 

 最初からこうするつもりだった訳ではないのだが、どう見積もっても魔法無しで勝てそうにない、経験や知識と行った点でもそうだが、何よりこれで負けた時の事を考えた時が恐ろしい。

 

 負けた時のリスクがあるからこそギャンブルなのだが、今回に限って俺は本気を出す事を決断した。

 

 これに勝てば30万ppに加えて月の2万ppが約束される、先程ボイスレコーダーで契約書代わりにしたのでまずこれは反故されることはない。

 

 それを差し引いても上級生が下級生に負けて、尚且つその際に契約した内容を破棄したという事実の方がこの先輩にとってまずい事になるだろう。

 

 人をダメにするソファーは俺に魔法を使ってでも欲しいと思わせてしまったのだ、悪く思うなよ先輩、人ダメにするアレが悪い。

 

 四角形の駒が四つに並ぶ。

 

「やりますね、先輩」

 

「余裕じゃん後輩、次負けるとわかってる?」

 

「それは先輩もですよ」

 

「おっと、そうだったね」

 

 駒の置かれる音が場を支配する。

 

 クアルトの性質上、自分が駒を選択出来る訳ではなく、相手が駒を選択する。場に置くのは自分だが、相手が選んだ駒をどこに置くかとなると中々考えないといけない。

 

 相手に渡した駒が四つの特徴のどれかでも並んでしまったら負けになる、自分で選んだ駒で勝たれると結構悔しいもので、それがまた楽しい所なのだが。

 

 今回は遊びに来た訳じゃ無いんだ。

 

 白の駒が四つ並ぶ。

 

 

「クアルト。対戦ありがとうございました」

 

「……あ、あ!まじかよ嘘だろ?!何で俺……っあ〜〜〜!!!」

 

「迂闊でしたね」

 

「いや、何でだ、普段ならこんなミス……ッ!」

 

 しないだろうな、俺が魔法を使っていなかったのなら。

 

 俺が扱える精神魔法の種類はそれこそ俺の生きて来た経験分種類があるが、その中でも違和感のなく、それでいて俺が確実に勝てるように出来る魔法がある。

 

 思考誘導魔法。

 

 相手の思考を誘導する魔法とまあそのまんまなのだが、今回のボードゲームのルールを踏まえた上で一番相性の良かった魔法であると言える。

 

 この三戦、接戦を演じて一対一の状況を作り、最後に致命的なミスをするように誘導させた。

 

 俺がそうした事に先輩が気付く事はない、後に何で俺はこう思ったんだ?という疑問だけが残る、俺の精神魔法はそういう魔法だ。

 

「払ってもらいますよ先輩」

 

「あーくそ、また一年に……わかった、わかったから少し待て」

 

 また?俺以外にも先輩に挑んだ挑戦者が居たのか、そういえばチェスで痛い目を見たと言っていたが、それか?

 

 まあそれは今は置いといて、これで人をダメにするソファーが買えるぜ!しかも三つ買ってもあと三つ買えるぐらいに余裕が出来た。

 

 前に気になっていたモデルガンでも買おうかな、うーんでも散財しまくってるのをBクラスの生徒に見られたら変に思われるかな。

 

「ポイント渡すから端末見せろ」

 

「はい、2万ppも忘れないでくださいよ」

 

「くっそ〜〜〜……納得いかねえ……」

 

 

 ……よし、しっかり反映されてある。それに先輩が卒業するまで月に2万ppの大きいお釣りも貰えた。

 

 これで五月は魔法を使えなくなったが、魔法を使ってこの結果なら上々だろう、姫野に魔法でオーロラを見せる計画は次の機会にしよう。

 

「あ、そうだ先輩、先輩が一年生の時の期末テストの写しとかあります?」

 

「は?あぁ、そういう事。あるけど5万pp寄越しな」

 

「高過ぎません?1万ppぐらいでしょ、普通」

 

「いーや高すぎないね!まぁ4万ppぐらいにまけといてやるよ」

 

「じゃあボドゲで決めますか、ついでに敗者は一つ何でも言う事を聞く条件をつけて」

 

「ああ言えばこう言うな君!?わかったよわかった、だけど1万5000ポイントだ、小テストも付けとくから」

 

「じゃあそれで」

 

 

 まあこれは有っても無くてもどっちでも良いんだけどね、Bクラスなら期末テストの範囲で退学者が出るとは思わないし。それに上級生が一年生の時の期末テストと、今の一年生の期末テストの範囲が合ってるかどうかは賭けだし。

 

 仮に合ってなくても去年はこういうのが試験として出たんだって事で傾向と対策が練れるから、まるっきり無駄になるかと言われればそうでは無いけど。

 

「ったく……お前Aクラス?」

 

「いやBクラスですけど」

 

「へー意外、南雲みたいになりそーだな」

 

「南雲?どういう意味ですか?」

 

「知らない?二年Aクラスの時期生徒会長候補、元々BクラスだったんだけどAクラスに上がった奴」

 

「へー……いやでも俺、金髪のイケメン嫌いなんで」

 

「なんだ知ってんじゃんかよ」

 

「たまたま見たんすよ、そんな人だとは知らなかったですけど」

 

 

 さて……得れるものは十分以上に得れた。

 

 今日はもうここに用は無いだろう、個人的にボードゲームをしにまた来る事はあるかもしれないが、今度は本気でやることはないな、純粋に遊びに行くかも。

 

 魔法を使わないでこの部長に勝てるように全力を出すのも面白そうだ。

 

「それじゃ、先輩。ありがとうございました」

 

「おう、そんでもってこれは忠告。南雲雅に気を付けな、付くなら学にしとけよ」

 

「学?生徒会長の事ですか?」

 

「そう。俺のダチ」

 

「へー……わかりました」

 

 対立構造が起こってるのを知れたのは思いがけない収益だな、いやあえて教えたのか?まぁ何にせよこの情報は今はいいだろう。

 

 今俺の頭の中にある思考は早くソファーでダメになりたいただ一つだ。

 

 さっ、ダメになりに行くか。うへへ〜〜〜ダメになるソファー、ゲットだぜ!

 




感想嬉しいなあ!いっぱいちゅき


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図書館ではお静かにだぜ

にゃーん


 

 期末テストまで残り一週間となった昼休み。

 

 あまりにも俺が定期的にBクラスがやっている勉強会に来ない事を危惧した一之瀬が、ホームルーム後に勉強会に誘ってきたのである。

 

「倉上くんなら問題ないかもだけど、一度ぐらい来て欲しいなって、だめかな?」

 

「だめじゃないけど良いのか、なんかこう、雰囲気的な意味で」

 

「う、うん?大丈夫だよ、だよねっみんな?」

 

 一之瀬がそう言うとBクラスの生徒は皆頷いた、なるほど。俺は少し誤解していたのかも知れない。

 

「避けられてるかと思っていた」

 

「ええっ、そんな事ないよ、でもそっか、私は倉上くんが避けてるのかと思ってたから、すれ違ってたのかもね」

 

「でもそれなら、なんで話しかけてこないんだ……」

 

「にゃー……んー。えっと、うにゃー……えっ、えっとね」

 

「一之瀬ちゃんっ、だめだよ言っちゃ」

 

「う、うん」

 

 一之瀬と小橋がひそひそと話している。は?おい、なんだそれ。俺本人には言えない何かがあるってことか?もしかして魔法使いだと気付かれたのだろうか、いやそれは無い。

 

 じゃあなんだ?魔法を使わないと検討もつかないな……まあ、うん。避けられては無いみたいだったから、気にしない事にしよう。

 

 それに勉強会も少し楽しみなんだよな、Dクラスの勉強会見てて思ったけど、あれも一つの青春だよな、勉強を教えたり教えられたりする会、良いじゃあないか。

 

 現役高校生の勉強会に若返りの魔法で高校生になった偽学生が紛れ込むという、なかなかなアレに目を向けなければ最高だ。

 

 そしてこの事実も精神年齢も若返ってるから実際セーフって事にすればオールオッケーだ。

 

「それじゃあ倉上くん、今日のお昼図書館にくるよーに!」

 

「うい。という訳だ姫野、一緒に行こう」

 

「は?なんで私まで」

 

「まあまて、俺が手取り足取り教えてあげよう」

 

「うざ、話しかけないで」

 

「そう言うな、そこそこ勉強できるぞ俺」

 

「あんたに教えてもらうぐらいなら一之瀬の方がマシ」

 

「これは手厳しい、という訳で姫野も行くけど良いよな」

 

「いーよー!」

 

「いかな……あーもう……っ!」

 

 

 そんなやりとりがあって今、図書館にいるのである。

 

 しかし昼休みに図書館に来たのは初めてだが、Bクラス以外にも図書館で勉強会を開催しているグループは多いらしい、利用者が多いのは良い事なのか悪い事なのか。

 

「それで姫野、何が苦手だ?教えよう」

 

「一人で出来るし、あっちいって」

 

「なるほど、なら俺は歴史が苦手だから教えてくれ」

 

「あっそ、教えない」

 

「うそだろ。勉強会とは?」

 

「また二人だけで話してるよこの二人……」

 

「ん、何か言ったか浜口哲也」

 

「いや何もって、なんでフルネームなんですか……」

 

 Bクラスの教師役は一之瀬とそれからこの浜口、そして俺。といっても基本一之瀬が教えて手が足りない時は浜口が教えるので俺いりますか案件である。

 

 しかしそうか、魔法を使うなら伝達魔法で一斉に脳内に直接知識を与えれば、まぁちょっと知恵熱で数分ぐらい頭痛くなるけど一瞬で覚えられるのだが、普通の高校生はこうやって勉強会をするよな。

 

 教える側も復習になるので、そこそこ良い効率の勉強会だ、あとは生徒側のやる気次第ではあるがその辺は問題無いようだ、勉強会に参加している人数は15人前後、図書館ではなくBクラスの教室で神崎が中心に教えている所もある。

 

 それにしても一之瀬はなんというか、教え方が上手い、こいつ教師向いてんな。星之宮先生よりは向いてると思います、てかあの人なんで教師になろうと思ったんだ?そこそこ知りたいな、今度暇があったら聞いてみるのも一興。

 

「……で?」

 

「ん?」

 

「歴史のどこが苦手なの」

 

「お、おお……!それはだな____」

 

 手持ち無沙汰でぼけーっとしていると姫野から声をかけられたぞ!やったぜ、ちょっと本当に俺どうしよっかなーって思ってたから本当に嬉しいぜ、これで暇にならなくて済む。

 

 ちなみに何故歴史が苦手だと言うと何故か全然頭に入ってこないのだ、自分でもどうかと思うが、めちゃくちゃに興味が無い。

 

 興味が無さすぎるので覚えられないのだが、姫野に教えてもらうと言う事なら話は別だッ、俺もうね。めっちゃ覚える。

 

 と、やる気満々元気盛り盛りだったのだが、姫野が何かに気付いたようで、少しイラついたような表情に変わった、何事かと視線の方をみると、どうやら揉め事の気配がする。

 

「ん?てかあの赤毛、Dクラスの生徒じゃん」

 

「なに、知り合い?」

 

「まあそう言われればそうではある、ちょっと行ってくる」

 

「……あっそ」

 

 

 さてはて何があったのやら、放課後だけでなく昼休みも勉強会をしているのは良い事だが、図書館ではお静かに。揉めるなんてあっちゃあいけないんだぜ、とはいえ訳を聞かない限りはなんとも言えない。

 

 というか綾小路いるなら止めろよ、なんで止めにかからない、いや。もしかしたら図書館での揉め事は青春ポイント的に有りって思うタイプかも知れない。

 

 俺は逆です、時と場所を考えないとせっかくの青春ポイントもマイナスになっちゃうんだぜ。

 

「よう奇遇だな、どうかしたか?」

 

 口論がヒートアップしているのか、立ち上がって今にも殴りかかろうとしている赤毛の高校生より先に横から言葉を出して牽制する。

 

「あ?いやァ何も?ただちょっと底辺の___」

 

「は?いや誰だお前、お前に話しかけてない。綾小路、勉強会は順調か?」

 

「……まあ、見た通りだな」

 

「ふむ。ところで」

 

「おい、無視してんじゃねえよ!」

 

 は?いや何こいつ、うるせえな。ははーん?読めてきたぞ?この変な奴がDクラスの勉強会に絡んでなんか言ったんだろ、多分ナンパだな、あの茶髪の女の子俺から見ても可愛いし、一目惚れか?

 

 わかるよ一目惚れ、ついついガッツリ行きたくなっちゃうよな、でも時と場所を考えないとダメなんだぜ、ここは図書館、放課後の誰もいないどこか特別感のある図書館ならまだしも、昼休みはちょっとな。

 

 そりゃ赤毛の高校生も席を立って注意しようとするよ、お前は恋愛に対するマナーがなってない、青春もできてない。まぁその二つのどれも俺が口出し出来る問題じゃ無いけど。

 

「……まあいい、底辺同士馴れ合ってろよ」

 

「底辺?俺と比べて確実に頭も悪そうで顔も悪い、運動能力も低そうで言葉遣いがなってないお前。なあ綾小路、どっちが底辺だと思う?」

 

「オレに聞くなよ……」

 

「あァ?てめえ、さっきから」

 

「それとこれは親切心なんだが少し臭うぞ、服洗ってるかお前」

 

「テメェ!」

 

 俺の言葉に図星だったのか食ってかかろうとしてくる、おいおいマジか、短絡的過ぎないか?服洗ってるか聞いただけじゃん、自覚あるんなら洗えよ、洗う時間無いならスプレーシュッてするだけじゃん。

 

「はいストップストップ」

 

「ん?一之瀬、勉強会の方は」

 

「倉上くんは少し黙ってて」

 

「えっ……はい」

 

 うそだろ?あの一之瀬が辛辣なんだが、え?中身姫野になってたりする?入れ替わりの魔法使った?それとも俺一之瀬になんかした?いやいや、まぁ確かに他クラスと話し過ぎてはいるかもだけど。

 

 いやまあ一之瀬の事だから騒ぎを沈静化したかったんだろうけど、いや俺もそうなんだけど。目撃者多数かつ監視カメラもあったから、あのまま殴られても良かったんだけどな。

 

 Aクラスがあそこまで沸点低いとは思わないし、Cクラスでしょ。ちょっかいかけてきたあの生徒。

 

 何やら黙ってるとそのCクラスの生徒が捨て台詞的なことを言って去っていったけどそれよりちょっとキレ気味な一之瀬さんがこわいです、雰囲気がほにゃらら〜〜って感じじゃなくてムカッて感じです。

 

 あ、振り向いた。

 

「倉上くんは後で説教ですっ、それじゃあ君たちも、ここで勉強を続けるなら、大人しくやろうね。以上っ」

 

 悲報、俺説教らしい、なにやらBクラスの方でくすっと声がしたが、え?もしかして俺笑われた?なんでこんな目に、結構ショックだ、それもこれもあのCクラスの生徒が悪い事にしよう。

 

「……貴方も戻ったら?此処にいられても不快なのだけども」

 

「そういうな、もう少し居させろ」

 

「嫌よ、ここから失せなさい」

 

「この黒髪は反抗期なのか?綾小路」

 

「……ノーコメントで」

 

「綾小路くん、殴られたいの?」

 

 バイオレンス過ぎるだろ、言葉の棘がひどい、しかも姫野の愛のあると勝手に感じてる言葉と違って苦しかなさそうだ、もしかして綾小路お前の友達か?まあ確かに顔は良いしな、でもやめといた方がいいぞ。

 

 ただまあここに居てもなにも無いか、実際邪魔だろうし、戻るか。

 

「ああ所で、テスト範囲それじゃ無いぞ」

 

「……まさか、本当に?」

 

「担任に聞かなかったか?それじゃあな」

 

 

 Bクラスの方に戻るとなんだか微妙な目でBクラスの生徒達が俺を見るが、なんだよ。もう、そんな目をしなくても良いじゃ無いか。

 

 いやまあ、よくよく思えば止めに入ろうとしたのにエスカレートさせてしまったから、言いたい事わかるけどさ。

 

 しかし一之瀬からの説教か、説教……うそだろ、俺中身30歳なんだぜ、10以上離れた年下に説教されんの?そう考えるとめちゃくちゃ凹むな、苦しい。

 

 魔法使って時間巻き戻そうかな……あっだめだ、5月はもう使ったんだった、逃げれねーじゃん。

 

「ってあれ、姫野は?……白波、姫野はどこへ」

 

「姫野ちゃんならもう戻ったよー」

 

「うそだろ、一人にされた」

 

 

 

 

 

 

 

 一つだけ言えるのは一之瀬の真剣に俺のことを考えた上での説教は結構効いたとだけ言おう。

 

 今度からはもう少し考えてから言葉を話そうと思う、でもこれは仕方ないのだ、魔法と姫野の事ならまだしも他の、しかもあんなどうでもいいCクラスの生徒に充てる言葉の思考時間は無いのである。

 

 気にはするが多分次あっても似たようなことを言いそう、まあうん、関わらなければいっか。

 

 さて、勉強会も終えて早くも放課後になった、先程綾小路から連絡があったので今日の遊び相手は綾小路だ、とりあえず喫茶店で合流しようと俺から提案すると了承してくれたので行き付けになっている喫茶店に向かう。

 

 姫野に紹介した喫茶店だ、規模も良い感じで知っている生徒が少ないのか、人が少ないのも俺的には好み。

 

「もう居たか、待ったか?」

 

「そんな事はないぞ」

 

 店内に入ると既に綾小路がいたので、隣のカウンター席に座る、そういえば五月に入ってからはあまり放課後に集まらなかったな。

 

 まあ四月での綾小路と遊んだ頻度が多かったのもあるから、本来はこんな感じか、綾小路がどう思ってるのかは知らないが、Aクラスを目指すならBクラスも敵なのは変わらないし。

 

「今日はどうする?まだやってないので言えば、つい先日射的場を発見したぞ」

 

「射的……的当てか?ダーツとは違うのか?」

 

「てんで違うな、そもそも競技ではない」

 

「そうか。所で倉上、少し相談があるんだが、いいか?」

 

「相談?期末テストのことか?」

 

「察しが良いな、それならオレが欲しいものも分かるだろ」

 

「上級生の期末テストが欲しいならタダでも良いぞ」

 

「……それは何故だ?」

 

 少し疑うような目で綾小路は見てくるけど、特に理由がある訳じゃないんだよな、友達だしタダで渡しても良いかなって思っただけだし、まあ1万ppで売っても良いのだが。

 

 今のところ俺、ppに余裕あるし1万ppぐらいなら別に貰っても貰わなくてもあんま変わらないなーって思ってんだよな。

 

 それにDクラスの全体的な勉強力は知らないが、もしかしたら赤点取るかも知れないってのはあるし、そうなるとポイントは多く持っておいた方が良いだろうし。

 

 でもせっかくなら何か条件付けるか。

 

「特に理由はないが、タダで買えないなら条件付きでどうだ?」

 

「聞かせてくれ」

 

「射的ってのは景品を当てるのがポピュラーなんだが、どっちが多く景品を取るか勝負しよう、俺が多く取ったら15000ポイントで売る、綾小路が多く取ったら0ポイントで譲る、どうだ?」

 

「なるほどな、ただ0ポイントで貰うのは心情的な問題がある、オレが多く取ったら5000ポイントにしよう」

 

「それにするか、じゃあ話もまとまったし出るか」

 

「そうだな」

 

 俺と綾小路は喫茶店から出て、射的が出来る場所へと移動する。

 

 綾小路とはこの関係性を保っていたいものだ、どうにも綾小路はオレより知らないものが多い気がする。

 

 だからだろうか、こいつに色々と見せてやりたくなるんだよな、それに綾小路は青春ポイントが高い、こいつといると相乗効果で二割増しに青春を味わえている気がする。

 

「あ、そうだ。人をダメにするソファーどうだった?」

 

「あれは……すごいな……」

 

「だろ」

 

 

 綾小路もダメにされたか、そうだよな。あれは本当に人をダメにする、綾小路がダメにするソファーにダメにされてるのを直で見てみたいし、今度綾小路の部屋に遊びに行くか。

 

 そんなこんなでその日は久しぶりって程ではないが、放課後に綾小路と遊んだ。

 

 しかし射的というのはどうしてこう、当たったのに倒れないんだろうな、あれ絶対やってるだろ。

 

 

 結果?俺の負け、5000ポイントで売りました。

 




乾燥評価よろしくお願いしま〜


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中間テストが終わったぜ

ながくなっちゃったー。


 

 

 当然と言えば当然だが、無事中間テストを乗り越え六月を迎えた。

 

 星之宮先生に全教科100点満点取ったらプライベートポイントを要求しようとも思ったが現状ppに余裕が無いわけではないので、まぁいいかと放置した。というのも全教科100点満点となると少し自信がなかったりする。

 

 上級生から貰った一年生の時のテスト用紙もあるとはいえ、どれか一つぐらいミスしそうだし、特に歴史の人名とか。

 

 そんな貰ったテスト用紙も綾小路に渡す以外に活用性が無かったのは残念だ、コピーしてBクラス全体に渡してもよかったのだが、その必要性も無さそうだったのでやめた。

 

 全体を観察してみて、まず間違いなく赤点を取るような生徒は居なかったし。

 

 俺が余計な事をするより、結束力を高める流れの方が良さそうだ、入学から二ヶ月、Bクラスになってから今日までBクラスの中心にいる一之瀬を観察した結果、Bクラスの中では他の者よりリーダーには向いているだろう。

 

 リーダーの資質が備わっている……わけではないのだが、Bクラスのほぼ全ての生徒と相性が良い、本人の善性と特有の求心力を考えると、Cクラスの王らしい龍園と引けは取らないと見ていいだろう。

 

 それ故の弱点はあるが、これは今は置いといて良い。

 

 

 他クラスの話で言えばやはりDクラスか、綾小路に後から聞いてみた所、渡したものは大いに役に立ってくれたようで、肝心の退学者もゼロに済んだとの事だ。

 

 意外だったのは赤点を取る生徒が居なかった事、ぎりぎりな生徒は多かったらしいが、なんとか赤点のボーダーよりは上に乗れたとの事だ。

 

 これは少し予想外だったりする、Dクラスの生徒を一人一人知っているわけではないが、誰か一人ぐらいは赤点を取ってもおかしくないんじゃないかとは予想していたからだ。

 

 ……わざと点数を落としたか?クラス全体の点数を予想して、赤点のボーダーを下げた?だとしたらまあ、理解は出来るが。

 

 魔法も無しにそんな芸当をできるのだとしたらとんでもないな、尚更Dクラスにいる理由が分からなくなったがはてさて。

 

 Dクラスで知ってるのはこれぐらいだ、Cクラスは興味ないので除外。Aクラスのことも少し知りたかったが機会が無かったので知りようが無かった。

 

 ただ全体的に90点前後の生徒が多かったようなので、確実に今回の中間テストの絡繰に幾つか気付いてると言っていい、個人的に気になってるのはギャンブルをしに行った時に聞いた、ボドゲ部の部長をチェスで倒した人物だ。

 

 当てはまる人物像に最も近いのがAクラスの内の、名前も知らない誰かである事まではわかった、その内会える日が来るだろうか。

 

 とまあ、中間テストが終われば次は何か?と思うかもしれないが、しばらくは特に何もないらしい。学校側からの何かしらの試練は無いというのなら、まぁ俺は気楽に姫野を遊びに誘ってまだ行った所のない場所に行こうと思いますが。

 

 いやあ広いな高等学校、全部の娯楽を一通り楽しむまで半年ぐらいはかかりそうだぜ。

 

「姫野、カフェに行こうそうしよう」

 

「やだ」

 

「なら夕飯を一緒に食べよう、ほら。オムライスとかどうだ」

 

「いや」

 

「なるほどならば探検だ、気になってる建物があるんだ」

 

「いかない、一人でいけば」

 

「姫野と行く方が楽しいだろ」

 

「……私はたのしくないから」

 

 放課後、先程から寮に帰ろうと早歩きで歩く姫野の隣に並走して放課後の誘いをしているのだがどうにも上手くいかない、むむっ。どうしたものか、うんともすんとも言わないので魔法を使うことも視野に入れるべきか。

 

 オーロラ出すとか、季節外れすぎる雪降らすとか出来ますけど、いやそもそも誘いに乗ってくれないと意味ないな、うーんでもなあ、好きな女の子に精神魔法とか使って誘導するのは恋愛に失礼だよなあ。

 

 それに魔法無しでどこまでやれるかって事で魔法を使うのを制限しているんだし、六月早々ここで折れるのはなぁ。

 

 どうやって誘おうかと思考しながら歩いていると、ふと姫野の足が止まった。ん?どうしたんだ、視線を姫野の方から前に戻してみる。

 

「よぉ、倉上」

 

「こんにちは、はいさようなら」

 

「させねぇよ、待てや」

 

 Cクラスの王を名乗っているロン毛こと龍園だ、ついでに黒人……この前一人で食事してた時に興味本位で話した時にアルベルトって名前だっつってたな。

 

 そいつとそれからいつものヤンキーみたいなやつ、こいつは知らん。それに加えて変なのが三人いんな、いつにも増して多い。

 

「うーん。姫野、また後で誘いに行くわ」

 

「おい女、てめぇもそこにいろ」

 

「……は?あんたに命令される筋合いないんだけど、どいて」

 

「くくっ、言うじゃねえかよテメェ、姫野っつったか?」

 

「きもいんだけど、消えて」

 

「あ?」

 

 お、おお……姫野さん?今日機嫌悪いのかな?毒舌ですね、しかし龍園おまえ女の子に少し辛く当てられたからってそんな怒んない方がいいぞ、モテないぞ、いいのかそれで。

 

 女の子にモテないのはつらいぞ、まぁ確かにその凶悪犯みたいな風貌じゃあ第一印象は悪いけど、恋愛は長く続けて相手に自分のことを知ってもらうのがコツなんだぜ。

 

 他人の受け売りだけどな、しかもバツ2の女関係以外は尊敬できる俺の社会人時代の先輩。

 

「そういうわけで、そこ退いてくれ龍園」

 

「……なァ倉上、てめぇは確かに優秀らしいが、この状況で立ち回れると思うか?」

 

「何お前、ここでやる気?監視カメラ幾つあると思ってんだよ、やめときな」

 

「動揺一つしねえか、俺がマジでやらねぇって思ってるってか?」

 

「早く退いてくれ、俺はこの後姫野とカフェ行ってスポット巡って飯一緒に食うんだよ」

 

「……は?!しないし、何言ってんの」

 

「ふざけてやがるなアホ面」

 

 ……いや本当に邪魔だな、何が狙いだ。

 

 魔法で退かしても良いがせっかく俺に何か期待しているみたいだし、少し真面目に考えてやるか。

 

 龍園がBクラスにちょっかいを掛けていた理由は恐らくだが、どこからどこまでがセーフでアウトなのか、その天秤を測っていたと思われる。

 

 俺がやるならやり方は変えると思うけど、クラスポイントの上げ下げの仕組みを知るなら、まぁ無くはない方法だと思う。

 

 上に立つ以上優秀だろうしその天秤は粗方わかった筈だ。

 

 ……成る程。

 

 

「俺を測ろうとするならもう少し考えな龍園」

 

「あ?何言ってんだ」

 

「挑発や脅迫、暴力的行動は楽で良いが、だからって雑すぎる。ものの試しでやってるんだろうが、それを見抜かれたら意味がないぞ」

 

「……くくっ、おもしれェ……結論が出たぜ倉上、一之瀬の後に潰すのはテメェだ」

 

 しかしまぁ、こいつアレだな、良く頑張れるな、そんなにAクラスなりたいか?うーんどちらかというと相手を下に支配したいとかいう厨二病拗らせたようなアレっぽいけど。

 

 そういうのは高校生で辞めとけよな……あっ現役高校生か、まあ三年続くだろう青春の中で矯正していこうな、アレだったら俺も手伝ってやろう。

 

 悪ぶってるヤンキーを真人間に戻す……うーん三年A組!これは青春判定が高いですねとても高い、まじでありだな。

 

 

 俺の問いに満足したようで龍園は腕を上げて道を開けた、はーめんどくさかった、図書館の時といい血の気が多すぎるぜCクラス。

 

 よし、気を取り直して姫野をデートに誘おうそうしよう、まずはそうだな_____

 

 

 瞬間、全神経に警告が走る。

 

 

 

 正直、半分ぐらいはしてきそうだと思ったが。

 

 

 

「_____っ」

 

 

 そうか、龍園。足りないか。

 

 

 パンっ!と、衝動。

 

 何かと何かがぶつかり合った音が放課後の登下校の道に響く、龍園以外の周りを囲んでいたCクラスの生徒達ははやや驚いた様子に見えた、この状況をか、それとも龍園の行動をか。

 

 姫野も目を見開いている、それもそうか。俺ぐらいに姫野と関わってないとわからないが微細に体も震わせているから、恐らく恐怖も感じたはずだ。

 

 しかし、あれだな。そこそこ手のひらが痛いな、魔法で耐性を上げた時はアサルトライフル程度の銃弾ならかすり傷すら付かない体になっていたんだけど、まぁ生身ならこんなもんか。

 

 ……来るな、左ジャブ……いやフェイントか。回し蹴りを繰り出してくるか、あくまで狙うのは姫野か。

 

 ここまでするならクラスポイントを重視している訳じゃないな、今はそれはいいか。

 

 姫野の腕を掴んで引き寄せた後に、迫る回し蹴りに片腕で対応する、やや逸らすように受け流せばそれ程腕に痛みは残らない。

 

 魔法で上げた身体能力だけではどうにもならなかった海外生活中に得た、格闘術、経験則だ。

 

 いいよオマエ。懐かしいよ、アメリカやサウジアラビアにいた時と比べれば余りに程度が低いが、悪くない。

 

 半月前ぐらいに軽く脅しても怯まずに来る、来れる。お前が俺を知らないように、俺もお前を測り兼ねてたな。それは認めよう。

 

「掴んで悪い、姫野」

 

「……大丈夫」

 

 そうは言うがな姫野、目の奥は揺れているぞ……はぁ、失敗したな、今日は遊びに誘えなさそうだ。

 

「龍園!ここで仕掛けるなんて聞いてない」

 

「言ってねぇしな、これはこの前の腹の借りだぜ倉上、次は更に仕掛けるぜ、お前に平穏は無え、常に俺の影を気にする事になる」

 

 ……誰かが来るな、騒ぎを聞いたか?横目で確認すると見知ったBクラスのリーダーの姿、一之瀬か、それに白波と神崎もその後ろにいるな、あの三人の組み合わせとはなかなか珍しい。

 

 

「倉上くん!姫野さんっ、何があったの?」

 

「よォ一之瀬、一足遅かったなァ?」

 

「___!龍園くん……ねえ姫野さん、何があったの?」

 

「……龍園が襲ってきた、私は何ともない、けど」

 

「そっか。なるほどね……龍園くん、これは立派な犯罪未遂だよ、この事を学校に報告しても構わないのかな、停学、若しくは退学も考えないといけなくなるよ」

 

「はっ、言ってろよ。ここに目撃者は居ねえ、Cクラス以外はな」

 

「だとしてもカメラで撮った映像はあるよね、物証がある以上どれだけ言い訳をしても物証以上の証言は出来ないよ」

 

「いつにも増して怒ってんなァ一之瀬?愉快だぜその顔」

 

「怒るよ。私の友達に酷いことをしようとしたんだもん、許せない。今後Bクラスは貴方達Cクラスを敵と見做します。徹底的に戦うよ」

 

「くくっ……怖い怖い……聞いたかお前ら?Bクラスのリーダーサマが宣戦布告だ」

 

「この件について、学校に報告するからね」

 

「やってみろよ、それまで証拠が残ってると良いな?一之瀬」

 

「……そっか。なら私は____」

 

「いい、辞めとけ一之瀬」

 

 

 口論がこれ以上ヒートアップする前に一之瀬の言葉を遮る、徹底的にやるなら恐らく此方が後手に回ってる事を考えた方がいい、それに少し冷静さが欠けているぞ一之瀬。

 

「なんで?倉上くん、私は許せないよ」

 

「監視カメラの映像をppで買うつもりだ、証拠は残らない」

 

「……!そうか、だが倉上、それでお前は良いのか?仮に証拠が残らないとしてもBクラスはこの件に全面的に支援するぞ」

 

「それは嬉しいな神崎。だけど抑えてくれ、何れ不利になる」

 

「……お前が良いなら、俺からはこれ以上何も言わない」

 

「おいおい随分逃げ腰だな倉上?せっかく整えてやった舞台だぜ、乗ってこいよ」

 

「……っ!さっきから黙って聞いていれば、いい加減にしてよ」

 

「あ?おい、姫野だったか?てめえには話してねぇんだよ、モブは引っ込んでろ」

 

 

 ……これ以上はダメだな。年下に噛みつかれた程度だと思い続けているが、これ以上はダメだ。

 

 感情を抑えられなくなってきた、前以て溢れる魔力の放出先を決めていてよかった。

 

 俺はまだこの遊びを続けたい、せっかくの三年間、魔法使いとしての30年間で初めての高校生活、遅咲きの青春。

 

 友達も出来た、好きになっていると、そう思っている女の子にも出会えた。

 

 30年の人生の中でこれ程、自分が有頂天になっているのは、5年間研究を重ねた大魔法を扱えるようになった時と、尊敬している先輩との一年半のドバイ生活時。

 

 そして確信がある、その二つを超える楽しさを、ここでは味わえる筈だと。

 

 俺はここに遊びに来た、勝ってもいいし負けてもいい、三年間楽しんで卒業出来たら最高だ。そう思ってここにいる。

 

 だから、これ以上はダメだ。

 

 

 遊びじゃなくなる。

 

 

 

「龍園」

 

「……っと、くくっ、やっと喋ったか倉上、今になってビビったか?聞かせろよ、テメェの言葉をよ」

 

「どうすればお前は今、ここから黙って居なくなる?」

 

「あ?ハハッ、おいおい頼み事か?マジにビビったかよ」

 

「ああ、頼み事だな。それでどうすればいい?」

 

「おいおい、ガッカリさせんなよ倉上。どうしてもって言うなら……ァ?」

 

 

 聞いてられねぇよ、お前の声。

 

 俺は龍園に近づいて軽く片手で体を押した、魔法も何もない、それほど力も入れてない、だが急だったから、少し龍園がふらついた。

 

 目が合う、龍園の恐怖を知らない目と合う。

 

 良い目つきだ、自分の土俵に絶対の自信がある、それを根から崩さない限り、龍園は折れないだろう。

 

 魔法も使わない俺じゃあ心を折るには、それ相応の準備を整えた上でも半々か、三割程度の成功率か。現役の高校一年生、16歳でこの精神力は褒め称えよう、未来がある青年だ。

 

「それで、どうすれば良い?お前の声で、言葉で、今ここで選択しろ」

 

「……テメェ」

 

「決めろ龍園、その答え次第で俺はこの遊びを終わらせても良い」

 

 仕事上、何回かやってきた、だがプライベートではそれはしないと自分に枷をかけた事。

 

 いつでも出来る、魔法はそれこそ、一瞬だ。

 

 

 抹消魔法。

 

 俺以外の全てから忘れられ、そしてその対象もまた世界から消える、泡のように呆気なく終わらせられる。

 

 お前とはまだ遊んでも良いと思っている、俺はお前を気に入っている、だがそれは大前提、俺の本望を邪魔しない事前提だ、姫野に触れない前提の話。

 

 俺が心の底から嫌うことは、俺が心から最も望んている事を邪魔される事だ、それ以外はどうでもいい、興味もない、やるならやれ。遊んでやるよ。

 

 

 それが出来ないなら残念だが消えてくれ、龍園。

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫くの沈黙、静寂。

 

 いつまでそうしていたか、それを崩したのは俺でも龍園でもない、Cクラスのショートカットの女子生徒だった。

 

「いくよ龍園、もう良いでしょ」

 

「……伊吹、てめぇ」

 

「こんな所でやり合うのは予定に無い、Bクラスとやり合う前にやる事があるって言ったのはあんたでしょ」

 

「……チッ。おいお前ら、帰るぞ!……覚えておけ倉上、テメェはメインディッシュだ」

 

 

 そう言って龍園はCクラスを纏めて、ここから離れていく事を決断した。横槍を刺されて少し冷静になったか。

 

 勘が良いなあの女子生徒、魔力を保持してるようには思えないから魔法使いではないが、一瞬俺を見た視線は俺の周りを見ていたように思えた、俺の溢れていた魔力が見えたか?

 

 ……まあいいや。

 

 俺も落ち着こう、少し大人げない。そして今、先人を生きる者として未来ある者をどうしようもなく終わらせかけた。

 

 遊び心が消えていた。

 

 反省だ。

 

 

 Cクラスが帰った後、静まり返った空間を変える為か、一之瀬が場を切り替えるように少し大袈裟に声を出した。

 

「……っはー!もう、中間テストが終わったから安心してたのに、嫌になっちゃうね!」

 

「そ、そうだね一之瀬ちゃん……私怖くて何も話せなかったよう」

 

「にゃはは、私も強気に出たけど、少し冷静じゃなかったかも。もうCクラス……龍園くんとは仲良く出来ないね」

 

「しなくて良いだろう、今日のような事がないように、俺からBクラス全体に話しておくぞ」

 

「うんっ、よろしくね神崎くん!……んっ〜!なんか疲れちゃった、喫茶店行こっかなぁ」

 

「あ、なら私も行くよっ一之瀬ちゃん!」

 

「ほんとっ?それなら神崎くんも来る?」

 

「えっ、一之瀬ちゃん?」

 

「行かせてもらおう」

 

「……神崎くん!」

 

「ん?どうした白波」

 

「う……な、何でもないけど、何でもないけど!」

 

「そうか」

 

「それならっ、姫野さんに倉上くん、二人もどうかな?」

 

 明るく聞いてきた一之瀬の声の方向に振り返って、表情を観察する。

 

 底抜けの本心、善性だな。初めて見たかもしれない、ここまで欠点が見えないとなると本格的に過去に何かしらある事でしかBクラスに来た理由がわからない。

 

 過去を見るか?一之瀬帆波という人物を完璧に知った上で……それでどうするんだ、それをして何になるよ、俺。

 

 まずいな、思考が魔法使い寄りに行き過ぎている、精神年齢も若返った弊害だな、あの程度の事で取り乱したのも然り。どうにもやはり、魔法というものは難しい。

 

 せっかくの誘いだが断ろう、この思考で人と接する訳には行かない、まず間違いなくボロが出る。

 

「せっかくだが、またの機会にしよう一之瀬」

 

「そ、そっか……姫野さんは?」

 

「悪いけど行かない」

 

「ううん!また誘うねっ……それじゃあ行こっか、神崎くん、白波ちゃん」

 

「あ、うん。ええっと、二人ともまた明日〜!」

 

「じゃあな、倉上。姫野」

 

 一之瀬達が移動して行く、夕日が照らす中、ここにいるのは俺と姫野だけになった。

 

 計らずしも俺と姫野は互いに同じ方向、歩幅で寮に戻る。しかしそうか、姫野はこのまま寮に戻るか。

 

 なら寮に戻るのは時間を置いてからにしよう、姫野としても俺の問題に巻き込まれたのだから、俺に対する印象は好意的ではない筈だ。

 

 それ自体は、まぁ……明日考えてどうにか元に戻せば良いか、今日の俺はダメだ、思考が完全に切り替わってしまっている、誰とも話さない方が良いし、関わらない方が良い。

 

 ……そうだな、一人になるならどこが良いか。

 

 

「ねぇ」

 

 

 寮から別の道に移動しようとした時に、姫野に声をかけられて反射的に振り向いた。

 

 ……やっぱかわいいな、俺を見つめるその目が特に、俺を擽る。

 

「悪い姫野、巻き込んだ」

 

「べつに。あんたのせいじゃないでしょ、なんで謝るの」

 

「いや、俺のせいだ。龍園が俺に少なからず執着するのは気付いていた、その段階で姫野と極力会話をしなければ、今日の事は起きなかった」

 

「……それがなんであんたのせいになるの?」

 

「……え、いや。そうだろ、俺が__」

 

「ああもう……っ!私が許してるんだから、それで良いでしょ!」

 

 

 え、あっ。はい。

 

 お、怒られてしまった、思ってる方とは全然違う感じで、そ、そうなの?俺のせいじゃないの?いや、いやいやそれはおかしくね?

 

 えー……?わ、わかんないな姫野、魔法使い寄りの思考関係なくちょっとわかんない、困った。

 

「……ありがと」

 

 ……?

 

 なんで感謝されてんだ?

 

「なにその顔、言わないとわかんない?」

 

「え、うん」

 

「〜〜っ!守ってくれたでしょ、だから!」

 

「うん?それは当然だ、感謝はしなくていい」

 

「うるさい!」

 

「お、おー……」

 

 えぇ……?好きな人は守って当然では、それに感謝されても、なあ?いやそもそも好きな人を差し引いても、姫野だし、女の子が殴られるの黙って見れないです俺。

 

 しかしまあ、うん。心が穏やかになってきた、思考にも余裕が出てきた気がする、この勢いで遊びに!っとまでは回復してないけど。

 

 姫野すごいな、魔法使いか?魔法使いだろ、俺でさえ感情のブレは魔法を使っても完全に回復させられないのに、姫野の感謝の言葉だけでめちゃくちゃクリーンになってるぞ思考。

 

「じゃ、じゃあ俺はこれで」

 

「なに、付いてこないの?」

 

「え?いや、ああうん、いきます」

 

「ふん……」

 

 ちょっと待って何が起きている?嫌われた訳じゃないのか?だとしたら何で?んん?

 

 俺の魔法使い的思考が完全に機能してない、こっちの方が体感知的になってるんだけど、気のせいでした?まぁ確かに母親には「あんたはあほ!」って正面から言われてますけど。

 

 酷いよな母、でもまあ事実なのかもしれない、認めなければならないのか?屈辱なんだけど。

 

「なんか喋って」

 

「お、おう。そうだな、今日の夕飯揚げ物にしようと思うんだけど一緒に食べる?」

 

「……食べる」

 

「まじか、本当に?嬉しい、え?良いのか?」

 

「うっさい」

 

「ごめん」

 

 

 ……よくわからんが進展している、気がするじゃなく確実に仲が良くなったように感じる。

 

 まじか、わかんねぇ高校生、俺どこで好感度稼いだんだろ、意図せず無自覚系なアレをしているんだけど本当にわからないから困るな、女性経験が無い事がここに来て弊害を生んでいる気がする。

 

 魔法使いしてると彼女なんて作らないんだもん仕方ないじゃん。

 

 まーでもいっか、姫野が可愛いのは事実だし。

 

 えーそれじゃあめちゃくちゃ気合い入れて作っちゃおうかな、揚げ物。

 

 

 胃袋掴んでやるからな〜!




原作一巻分しゅーりょー。まんぞくしました。

次は綾小路くんと姫野ちゃん視点のをだして、暫く休憩。

1、2週間ぐらいしたら再開しようかな。ほな感想まってます


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綾小路清隆の初めてのトモダチ\姫野ユキの憂鬱

前半がきよぽん、後半が姫野ちゃん。


  

 綾小路清隆の初めてのトモダチ

 

 

 

 オレにとって、その出会いは正しく幸運だったと言えるだろう。

 

 

 ホワイトルームから解放され、これから始まるであろう学園生活の初日、ぼーっとしていると背後から衝撃があった。

 

「悪い、よそ見してて」

 

 平均的な身長、白い髪が特徴的な、少し容姿の整っている顔立ちをした学生服をきた青年。

 

 どこか浮世離れしたような雰囲気を漂わせる彼は、オレに似た、だけども決定的に何かが違う無表情でオレを見ていた。

 

 その視線にオレは測られているような感覚を覚えた、ただそれは一瞬、直ぐに彼は言葉を続けた。

 

 

 倉上(くらかみ)直哉(なおや)と彼は名乗った。オレの初めての……友達だ。

 

 

 それからの四月は、放課後に倉上と遊ぶ事が多くなった、Dクラスに馴染めなかったオレにそれはある種助かった。池や山内などといったDクラスの生徒と関わりを持っては居たが、正直に言って彼らと関わるより、倉上と関わる方が楽しいと思えたのは事実だ。

 

 ある意味では気が合うのだろう、性格的な所に似通ったものを感じる、それは俺がホワイトルームで培われた、他人を駒として見る時の気持ちとはまた別な、自分でも気付いていない無意識の所での感情でだ。

 

 ことある毎に「青春をするぞ」と言って先導してくれるのも助かった、基本受け身なオレに対して、積極的に倉上の方から行動をしてくれるのは、その娯楽を知識でしか知らないオレにとって都合が良かった。

 

 何より、倉上の前では必要以上に自分の実力を隠す必要が無かったのもあるのかもしれない。目立ちたくないのは変わらない、ホワイトルームの過去も露見したくはない。

 

 だが、それを知ってか知らずか倉上はオレを「その気」にさせるのが得意だった、それが意図的か無意識かの判断をオレは決めかねたが、この際どちらでもいい。

 

 倉上自身が優秀な部類にいる人物なのも相まって、クラスも違うのなら、ある程度は見せても良いのかもしれないと思ったのもあった。

 

 倉上を通じて得られる情報は多い、人生にはこんなものがあるんだぞと、奇妙な話だがまるで自分よりも年が上の人物と関わっている気分になる。

 

 四月の半ば、その日は確か、Dクラスの水泳授業があった日、放課後に倉上と二人でダーツという、射的競技の一種をやっている時だ。

 

「上手いな綾小路、経験者か?外さないじゃないか」

 

「いや、たまたまだろう」

 

「たまたまでど真ん中に何度も当たるならプロはいらないんだぜ」

 

 そういうものなのか。中心に何度も当てるのは不自然なのか、なら次は____

 

 

「綾小路、遊びは全力でやるものだ」

 

「……どういう意味だ?」

 

「本気を出す、出さないって話じゃないぞ。全力でやるんだ」

 

 倉上のこうした言葉遊びはオレの知的好奇心に響く、こういう時の倉上は一見、大した事を言っていないように見えて、その言葉の裏に隠れているメッセージはオレを以ってして驚く時がある。

 

 ホワイトルームの最高傑作と謳われたオレが思いも付かない思考の外からの、なんらかの経験則か、或いは別の何かか。

 

「良くわからないな、どう違うんだ?」

 

「例えば今俺がダーツで本気を出したとしたら綾小路には、というより誰にも俺に勝てる奴が居なくなる」

 

「随分な自信だな」

 

「事実だしな、それと例えばの話だ」

 

 倉上の恐ろしいのがこの言葉に何一つ嘘偽りがないと言う事だ、オレの心理学、人間観察術などのどの術を使ってもそうなのだから、本当に本気を出したらオレに勝てるのか。

 

 試してみたい、本当にオレを負かせられるのか。

 

「話を戻して、誰にも負けなくなる。綾小路はこれをどう思う?」

 

「良い事なんじゃないのか?」

 

「本当にそう思うか?」

 

 そう問われて改めて考えてみる。

 

 負けなくなるという事はつまり、勝ち続けるという事だ、完全無欠に、一切の敗北もない。それはオレという存在が、ホワイトルームを肯定するという事になる。

 

 ……確かにこれは、アイツを否定したい、しなければならないオレにとって面白くない。

 

「つまんないと思っただろ?」

 

 その問いかけに一瞬だけ驚いた、オレの思考を読んだのか?いや、今倉上はダーツのフォームをとってオレを見ていた訳じゃない、たまたまだろうか。

 

「遊びで勝ち続けてもつまんないんだよ、勝って負けて、その繰り返しで良いんだ、それが遊びだからな」

 

「……なるほどな、それで全力とどう違うんだ?」

 

 倉上がふっ、と投げた矢が18のダブルに当たる。続けて16、最後は大きくズレて黒縁に刺さった。

 

 

「遊びでも負けたくはないだろ?だからどんな結果になっても悔いを残さない様に、全力でやるんだ」

 

「……中々、難しいな」

 

「一度何も考えないで矢を放ってみろ、お前なら分かる」

 

 そう言われてオレの番になる、本気と全力の違い、中々面白い議題だ。

 

 この場合の本気、例えば何処を狙って、どれぐらいの力の強弱で、どう放って限りなく100%中心に刺せるか。

 

 そこまで考えた後に、その全てを放棄して矢を放った。

 

 一回、二回。そうして三回目に、オレは自分で投げたというのにも関わらず、その結果を一度咀嚼し切れなかった。

 

「ダブルブルにまたもダブルブル。そして最後に下にブレて3」

 

「これは___」

 

「無意識に力を弱めたとか、そういう話じゃないぞ綾小路」

 

「なら、これは」

 

「お前は最後に投げる時、今まで考えて投げていたその全てを完全に、本当に放棄した。だからブレた、それが答えだ」

 

 

 ……なるほど。ならこれが倉上の言う全力なのだろうか、確かにオレは最初と二回目こそはまだ思考に「勝つ」事を意識していたと言っていい。

 

 ただ、最後にその執着がブレた。負けたいと思ったわけじゃない、そんな筈が無い。だがこれは、事実としてオレは最後にフォームか、力加減か、何かが崩れたのは事実だ。

 

「見ろ綾小路、おまえがブレたから敗色濃厚だった俺に勝ちの目が見えてきたぞ」

 

 ボーダーに表示されている数字は180。

 

 20のトリプルを三回決めればオレは負ける、ホワイトルームの最高傑作と云われたオレが負ける。

 

「計算してたのか?」

 

「いや、全力でやった結果。こうなったんだ」

 

 倉上の投げた矢がトリプルの20に当たる、流れるようにもう一回、狙いを定めたそれは、またもトリプルの20を決めた。

 

「三回目の最後がトリプルの20に当たれば、俺の勝ちだな」

 

「……そうだな、オレの負けだ」

 

「悔しいか?」

 

「どうだろうな」

 

「仮にこれが当たっても外れても、次がある。俺が当てれば今度は綾小路が俺にリベンジ、外れたら俺が綾小路にリベンジだ」

 

 そう言う倉上は珍しく笑っているように見えた、心無しか目も穏やかで、今のこの状況を心から楽しんでいるように思える。

 

 その表情を見てオレは倉上が説いた問題の、本気と全力の違いの答えが出た。それと同時に、オレのこの思考は倉上の辿り着いたものなのか、はたまた違う結論なのだろうかという疑問も浮かんだ。

 

「これで人生の全てが決まるなら、俺は本気を出すだろう。だけどこれは遊びだ、生死を賭けたモノじゃない。勝っても負けても続くんだよ」

 

 そう言って倉上は最後の投擲をした、投げられた矢は弧を描いて飛ぶ。

 

「楽しいと思わないか綾小路、お前も俺も負けても良いし勝っても良いんだ」

 

「……どうだろうな、ただ____」

 

 

 答えの決まっている倉上に対して、オレはまだその答えを完全に肯定出来なかった、だけどもその日の倉上との会話、遊びは確実にオレの指標の一つを変えたと断言しよう。

 

 そして同時に、あの時あの瞬間、オレは倉上を「駒」として見ていなかった事も否定出来ない。勝つ為に備わったオレの価値観。

 

 最後にオレが『勝って』さえいればそれでいいという指標がブレたのは、事実だった。

 

 

 その日の勝敗の結果を語るのは無粋だろう。

 

 ただ、オレと倉上はその後も何度も遊んだ、5月になってからこそDクラスの問題で遊ぶ機会は4月と比べて減ったが、倉上との遊びは今の所終わる気配は無い。

 

 その終わりの見えないものに、オレは自分でもまだこの気持ちを明言出来ていないが。

 

 

 これが楽しむと言うことなのだろうか。

 

 

 だとしたら倉上、お前と出会えたのはやはり幸運だった。

 

 オレにとっての友人、初めての友達がお前で良かったと告げよう。

 

 

 

 だから倉上、お前が仮に本気になった時。

 

 オレを屠ることが出来ると確信した時。

 

 

 それがオレにとってどうなるか、それはオレにも解らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 姫野ユキの憂鬱

 

 

 

 本当に訳がわかんない。

 

 これから始まる高校生活に少しだけ憂鬱な気分になる中に、隣の席に座ったそいつは私に話しかけた。

 

 まるで色素が落ちたみたいに白い髪をした、無表情のへんなやつ。こんなのと会話なんてしたくないし適当にあしらってたら一目惚れとか何とか言って、つい叫んだ。

 

 叫んで後悔した、こいつのせいで目立った、最悪。もう完全に無視しようとしたのにそいつは話しかけてくるししつこいしうざい。

 

 もういい加減殴ってやろうかと思った時に担任が来たのは幸運だったのか不幸だったのか。

 

 とにかくそいつは、倉上直哉は私に話しかけてきた。ホームルームが終わった後も話しかけて心底うざったかった、何を言っても好意的に受け取って勝手に私を持ち上げるのも、腹が立った。

 

 一之瀬が教壇に立って話し合いを始めたのを良いことにこの男から離れられると、一之瀬には悪いけどその状況を利用して教室から出れた。

 

 教室に出た後に追ってきてるか背後を見ても居なかった事に心から安堵したと思う、なんであんなやつに目をつけられたのか今でもわからない。

 

 まさか本当に一目惚れなのかと思ったけど、そんな筈ない。一目惚れをするにしても一之瀬とか、他に可愛い女の子いたでしょ。

 

 とにかくその日は今日の事を忘れようとしてスーパーで自炊をしようと思った。

 

 そしたら何でかそいつに話しかけられた、さっさと会話を切り上げたかったのにそいつは勝手に話すし勝手についてくる。

 

 本当になんなの、仕舞いには口説いてるとしか思えない事まで言ってくるし、本当に理解が出来ない。

 

 

 ……でも、認めたくないし、認めないけど。悪い気はしなかった。

 

 

 好意だけがそこにあった、私だけに向けていると嫌でも感じられる感情が私をいらいらさせる、だからこれは気の迷いだ。

 

 奢ってくれるなら、ついでに何か買わせてやろうと、それで勝手に幻滅でもしろって思ってもあいつはそれに何も言わなかった、なんなの、本当に。料理はまあ、美味しかったけど。絶対に口には出さないけど!

 

 それからだ、あいつは私が何を言っても、どう拒もうとついてくる、本当にしつこいし、面倒臭くて一度許したらキリがないし、挙句には付き合ってるとか勘違いされるし本当に最悪!

 

 その話の流れで、一人のBクラスの女子生徒が思ってもいない事を私が思ってる事にされてあいつに大声で声をかけたし。

 

 しかもそれで今までと違って嘘みたいな結果で一位取るし、一部の女子はそのやりとりを見て変に持て囃すし本当にうざかった。

 

 本当に理解が出来ない、その後に私が気になっていたものを一緒に見に行こうとか言ってくるし、毎日毎日挨拶するのもうざいし、だるいし。

 

 

 なんでこいつは、私にこんなに関わってくるんだ。

 

 そしてなんで私はそんなサイアクな奴になんだかんだで関わってしまっているんだ、最終的にこっちが折れないとどこまでも誘って来るんだ、だからだ。

 

 私が本当に嫌そうにしている時は話しかけて来なかったが、あいつがそんな気遣い出来るわけない。

 

 ……きっとあの時、初日に心からキッパリと拒めばあいつは今頃関わってこなかったと思う、何であの日許してしまったのか今でも後悔している、その理由は自分でも分からないのもイライラする。

 

 Bクラスのお人好したちも変に誤解して私とあいつが話している時は会話に参加してこないし、その癖あいつが居ない時にこっちに来て「どうだった?」とか「進展どう?」とか聞いてくる。

 

 うざい!これが普通に話かけてくるなら私も軽く受け流せるのに、なんなんだ。

 

 それから暫くして、あいつが私のポイントを聞いた時。

 

 最初にあいつが話していた事を理解した時、本当になんで私に対してポイントを使ったのか理解出来なかった。

 

 だから聞いて、その答えが惚れてるからって……っ

 

 本当に、ほんとううざい。なんなの、それ。

 

 そんな理由で、それだけの理由で?

 

 

 だとしても、そうだとしてもおかしいよ。あいつにとって私がどう映っているのか、どう見ているのか理解できない、少し怖いぐらいだ。うざくてきもい以上に、不気味に見えた。

 

 不気味に見えてから所々の違和感を感じた、何か何処かで抜けているんだ、過去に何かありそうだったのもそれを感じさせた。別に……興味ないけど。

 

 食堂でご飯を食べていたらそいつが食堂に来て、私を見かけるといつものように絡まれて。

 

 そしたらそいつが、悪い意味で噂になってた龍園に絡まれた、嫌な予感がして私はその場から離れて、食堂に出た時、なぜかもやっとした。

 

 気にしないで教室に向かおうとしても、足が思うように進まない、そこで漸く私は自分が、あいつの事を心配しているのに気付いた。

 

 ありえない、私が?

 

 でも、事実だ。意味わかんない、あんなやつ別に何とも思ってない!好きなわけないし、うざったいだけ、なのにどうして私はあいつを待ってるんだ。

 

 自分の思考がぐるぐると回っているとそいつは食堂から出てきた、私がいる事にあの無表情が崩れたのを見て、少しだけしてやった気分になったのを思い出す。

 

 気まぐれだ、気まぐれ。怪我の心配もしたのも、全部気まぐれ。

 

 そしたらその日はあいつから誘いの連絡がなかった、あれだけ言っていたのに誘わないんだと思った、別に。それでいいけど。

 

 ただ、もやっとした。

 

 

 そしたら次の日の土曜日、学校が休みの日にめちゃくちゃ連絡きてうざったい気持ちになった、電話を切ってやったのにあいつは私の部屋が何処にあるのか覚えていたようでうざいぐらいノックするし。

 

 直ぐに扉を閉めた。どうせあいつの事だから、そのうち諦めてどっか行くでしょ。

 

 ……でも何故か、昨日のもやっとしてた気持ちが無くなってた。

 

 だからこれは気の迷いだ。

 

「……何してんの」

 

 こいつの事だから素直に帰ってないのはわかってたけど蹲ってるとは思わなかった、迷惑なんだけど。

 

 呆気に取られてるのを見て、心の中で少しだけ面白がった、私が出てくるとは思わなかったのか、私もこれは気の迷いだし。

 

 どこに行くのか聞くとそいつはきもいぐらいに舞い上がって、喫茶店に行こうと提案した。

 

 知らない場所だ、なんでそんな場所知ってるんだろう、普段こいつ何してんの?別に、興味ないけど。

 

 まぁ、今回だけだ。

 

 

 ……絶対に言わないけどその日は少しは楽しかった。

 

 

 もう休日に連絡しないでって言ったけど、多分あいつ聞いてない、また誘いそうだ、ほんとむかつく。

 

 次は行かないから。

 

 ……行かないから!




うい、てことで1、2週間雲隠れします。またねー


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七月が始まるぞ

競馬負けてくやしいから再開するぞ


 

 早くも七月になった。

 

 他のBクラスの生徒も大小あれどCクラスへの嫌がらせや被害などはあった。そしてあの一件以来、俺個人の件で片付く話じゃなくなり、BクラスとCクラスの隔たりは大きく動いたと言っていい。

 

 まあAクラスを目指すというならば、CクラスにとってBクラスは踏み倒すべき敵であるのは確かであるし、龍園がCクラスの王である以上は、CとBは互いに手を取り合う事は無いだろう。

 

 学校側から指定されたら話は変わるけどな、例えば体育祭とか、わかんねーけど。AクラスとBクラスが共闘するって事は無いと思うんだよね、Aクラスを目指して競争してる訳だし。

 

 まあ正直これはどうでもいい、あの一件以降Cクラスからの嫌がらせはピタリと不気味に感じる程止まったし、びびったのかな?それはないか、龍園の思考を読み解くなら、次はDクラスに何か仕掛けそうだ。

 

 とはいえ俺の予測が当たっている訳とは限らないので、Dクラスの生徒に何か言う事はないが、まあ綾小路にはそれとなく「Cクラスは野蛮だから気をつけなー」とは言ったけど。

 

 さて七月になって、特に何が変わったかというと、俺は特に変わった事はない、連絡先が少し増えた程度で、Bクラスだと白波ぐらいなもんだ、恋愛相談に乗ったのである。

 

 正直俺は、若返って外見高校生とはいえ中身30年間誰とも付き合っていない歴とした魔法使いなので、まあまあ困ったのだが……それっぽいことを言ったら納得してくれたので良し。

 

 告白しようとしている相手について聞きたかったのだが頑なに拒んだのでてんで検討もつかない、そもそも俺は白波というBクラスの女子高校生をよく知らないので、誰と仲が良いかもしらん。

 

 しれっと姫野とお昼ご飯を一緒に過ごしている時に聞いてみたら「……まあ、心当たりはあるけど」と言っていたので、姫野はエスパー能力者である事が確定した。

 

 いやもしかしたら心読魔法の使い手かもしれないけど、うーんでもやっぱり魔力的なアレは感じないので、エスパー能力者だな、心の中で姫野の好きな所を連発して言ってみても表情一つ変えなかったのでとんでもない表情筋だ。

 

 ……いやそもそもエスパー能力者ではない可能性が?

 

 ま、まぁこれは置いておこう。

 

 

 さて連絡先を交換したのは実を言うともう一人いる、というのも俺が社会人時代、一度だけであるがその家の人物に依頼を受けた事がある。

 

 どうにも金持ちというのは大小様々に恨まれる、日本有数の資産家ともなれば身代金目的に資産家の子供や孫などを誘拐するのも、比較的平和な日本といえども起こる時はおきる。

 

 本来の業務とはやや異なったが金額に糸目を付けないその大胆さ、尊敬する先輩からのGoサインで、資産家の子供を狙って誘拐を企てていたグループを壊滅させた。

 

 ちなみに殺伐な事はしてない。同調伝達誘導魔法を使って誘拐グループを一箇所に集めて洗脳魔法で自首させただけだ、ただその際に誘拐を企てた事を一生後悔する魔法を使ったので、再犯の可能性ナシ!

 

 とまあそんなことがあって、その人物がDクラスにいるという事を耳にした俺は、いや嘘だろと噂の審議を確かめに行った所。

 

 Dクラスに居たよ、4、5年前ぐらいだったものだから、一眼見てもピンとこなかったけど。

 

 お仕事モードに伴い、常時魔法を使ってたからその人物を一眼見た事があったのに気づいたよね、なんなら一言二言ぐらい話した気がする。

 

「今日も私の筋肉は素晴らしい……そうは思わないかいmr.倉上」

 

「そうだな、それよりラーメン伸びるぞ」

 

「ふゥ〜ん……伸びた麺というのも乙だろう?」

 

「いや味落ちるし冷めるしさっさ食べた方がいい絶対」

 

「おや失敬、確かに伸びすぎては美しくないねぇ」

 

 日本有数の資産家である高円寺グループ、高円寺六助くんだ。

 

 この六助くん、話してみると案外いい奴である、なんて言ったって無視しない、これがでかい。興味ないものはとことん興味がなさそうだが一度仕事で高円寺グループと関わった俺に比べれば、六助くんはその親より捻くれてない。

 

 ようはつまり面白い話をすればいいのである、とても簡単だ、その証拠に今のところ友好な関係を保っている、「ナンパ勝負しようぜ」と言ったら連絡先を交換してくれたしこいついい奴。

 

 でも俺、姫野一筋だったからナンパ勝負できねえって事でラーメン奢ったら「この麺は美しい」とか言い出した、いやわからん。まぁ気にしないことにした。

 

「高円寺はAとかDとか興味無いのか?」

 

「ナンセンスな質問だねぇmr.倉上、将来を約束されてる以上どこで卒業しても構わないのさ、Dクラスにいる事も学校側が私を測れなかっただけさ」

 

「それもそうか、高円寺は俺と同じような理由か」

 

「ふゥ〜む?興味があるねぇ、聞かせてくれても?」

 

「良いぞ、と言っても簡単だ。俺は此処に遊びに来た、高円寺もそうだと思ったが」

 

「なるほどなるほど、私の場合は一つ訂正しようじゃあないか」

 

「ふむ?」

 

「将来を見据えた人脈作りさ、といっても今の所私の眼鏡に合う者は居ないのだかねェ、一人を除いて」

 

 麺をドカ啜りながらめっちゃキリッてして話すのシュールだな。

 

 まぁ高円寺グループのトップになる事を見据えた上でその目線から合う人間なんてそれこそこの高等学校でも一人、二人いれば良いほうじゃないか。

 

 俺としては綾小路をおすすめするよ、いやまあ言わないけど、なんとなく綾小路は医師を目指すべきだと思う、人体の生き死ににそんなに動揺しなそうだから良さそうなんだよな。

 

 今度それとなく言ってみよう、必要とあったら俺も医師になるための手伝いをしてやらなくも無いな。うん青春。

 

「時にmr.倉上」

 

「なんだ」

 

「私はねぇ、人を見る目があると自負している。そこでこの言葉を贈ろうかmr.倉上」

 

「あーいや言わなくて良い、そんでもって断るぞ」

 

「ほう……断るとは思ったが理由を聞いても良いだろうかね?」

 

「単純に俺は金に困らない。それと三年間を高等学校で遊んだ後は海外に行く予定でもある」

 

「どこへ行くのだね?」

 

「詳細までは決めてないが行き先の予定はチェコだな、良い国だ、美しい街並みと、物価も欧州の中では低い方なのも良い」

 

「ほ〜う、その口振りからすると、海外での生活を何度かした事があるみたいだねぇ、興味深い、聞かせてくれないかね?」

 

「じゃあ後日で、俺はこの後姫野を探しに行かなければならない」

 

「ふぅむ、私との会話より女遊びを選ぶかね」

 

「は?何言ってんだ高円寺、遊びじゃないぞ、真剣なんだ、人生掛かってると言っていい」

 

 そう言うと心底意外そうな顔で俺を見つめてた、というかちょっと引いてね?いやそれは気のせいか。

 

 流石は高円寺グループの御曹司とだけあって中々面白い会話が出来るとは思う、だが最優先は姫野の事だけだ、そんでもって次は綾小路、優先順位としてはうーん、一之瀬との会話より一歩下です。

 

 とはいえ似たような気持ちでここにいるのなら今後話が合う事は多いかもしれない、自分と思考が似ているやつとの会話……青春判定クリア!

 

 ということで十分青春したので、七月の姫野初めしよう、いやまあ朝も会話したし昼も一方的に話しかけたけど、それはそれとして。

 

「じゃあな高円寺」

 

「ああmr.倉上、一つ聞かせてくれたまえ」

 

「いいぞ」

 

 六助くんのいる席へ振り返ると、表情はそのままに、目だけが据わったように俺を覗いていた。

 

「何処かで会った事はないかね?」

 

「さあ、此処では初めましてだな」

 

「ふぅむ」

 

 

 ……へえ、いや本当に高円寺グループの御曹司らしい、何かしらの心理学かあるいは分析力か?その目は知ってるぞ、俺を測ってるな?魔法無しでどこまで俺に触れられる?

 

 自分にとっての未知を既知に出来るか?六助くん。

 

 

「ああすまない、もう行っていいとも」

 

「ああ、じゃあまたな、高円寺」

 

「次回は豪華客船での会食としようじゃあないか、mr.倉上」

 

 

 いやそんな機会学生にはねーだろ。

 

 まぁいいや、さて姫野どーこだ〜〜〜???

 

 

 

 

 

 

 

 

 Aクラス1004、Bクラス673、Cクラス482、Dクラス87。

 

 これが七月時点での全体のクラスポイントだ、1000ポイントを超えたAクラスも大概だが上がり幅を見ればDクラスも中々だ。

 

 Dクラスの場合、元が低いというより、無いに等しい為学校側からの温情といった見方もできるが、これはAクラスには当てはまらない。

 

 そして当てはまらないにも関わらず、先月より70ポイントほどクラスポイントを入手している。

 

 授業態度や普段の行い以上の何かを感じるな、だとしたらなんだ……?正直言って、これは魔法を使わないと自分には解けなそうだ。

 

 魔法で思考を強化していても一握りの天才の中の天才には出し抜かれた経験がある、金融関係の名のある人物だったが、それと同じ類の人物がAクラスにいると言うのだろうか?

 

 だとしたら平均的な高校生の知力をしていないな、俺に出来るのはせいぜいプライベートポイントの入手法を考えられる程度で、クラス全体を上げる方法は見つけられていない。

 

 ああいや、魔法を使わない前提で一つ方法はある、だがこれは現実味も無い上に、まず一之瀬では出来ない、俺もやりたくはない。

 

 まあ、別にいいか。俺姫野さえいればいーし?姫野がAクラスで卒業したいって言うなら2000万pp稼げばいーし?三年の10月か11月に魔法でpp増やせばいーし?

 

 俺の魔法が電子媒体に通用するのは10年も前に検証済みなのでまぁ問題は無いだろう、そのppを何処で入手したか学園側からしつこく聞かれたらちょっと困ることになるかもしれないけど。

 

 さてAクラスとは300程度離れているがBクラスは元気です、仲が宜しいことで、俺もその輪に……は今はいいや、姫野とはーなそ。

 

「なあ姫野、聞くの忘れてたがダメにするソファーどうだった?」

 

「別に、普通」

 

「まじか、すごいな、俺はダメになったぞ。具体的に言うとダメになりすぎて昨日そこで寝た」

 

「あっそ」

 

「しかしそうか、あのソファーでは足りないか……ならどうすれば姫野をダメにできる?いっそ教えてくれ」

 

「何それ……なんかきもい」

 

「ということで放課後寝具を見に行こう、ソファーがダメならベッドだ」

 

「やだ、一人で行けば」

 

「俺が探して見ていいのか?わかったそうしよう」

 

「は?ばか、違うし!てか、いらない!」

 

「そうか布団派だったんだな」

 

「そうじゃない!」

 

 

 え、ならどうやって寝るんだ、魔法を使えるなら空気に浮いて寝るあの感覚もそこそこ癖になるのだが、まさかそれを言っているのか?

 

 或いは地中での睡眠か?いやそれは無いな、一度経験したが二度は良いやってなったし、いやそもそも姫野は魔法使いでは無いはずなので、布団かベッドのどっちかじゃないのか?

 

 あいや、俺の常識が間違ってるかもしれない、そもそも俺は普通の高校生の生活を知らないんだ、それ以外での睡眠の取り方もあるかもしれない。

 

 となるとうーん……ん?一之瀬が近づいてくるぞ。

 

 

「にゃはは、お話中にごめんね?二人ともちょっといいかな?」

 

「こいつ黙らせて一之瀬」

 

「えっ、わ、わかったっ。倉上くん、お話禁止っ」

 

「まじかよ」

 

「って、そうじゃなくって!えーっと……今日のホームルームでのお話なんだけど」

 

 というとCクラスとDクラスの揉め事か。

 

 なんでもCクラスの生徒三人とDクラスの生徒一人が殴り合いの喧嘩をしたらしい、Cクラスが一方的にやられたようだがはてさて。

 

 目撃者を探してると星之宮先生は言っていたがBクラスには居なかった、龍園が命令してやったとするなら、目撃者を見つける事は困難だろうな、まさか上級生が見ているって事もないだろうし。

 

「その話なら、私は知らないし興味もない」

 

「うーんそっか……倉上くんは?」

 

「……」

 

「はにゃ?なんで黙ってるの?姫野さん私変なこと言っちゃったかな?」

 

「……はぁ。喋って」

 

「あ、そっか!もうお話していいよっ倉上くん」

 

 許しを得た、やったぜ。

 

「結論として、俺も知らないな、興味があるかないかと言われると無い」

 

「意外、あんたならあるって言うかと思った」

 

「姫野と話す時間の方が大切だろ」

 

「……あっそ」

 

 ぷいっとそっぽをむかれてしまった、むむっ。なぜなのか、今日はあまり喋る気分では無い?俺はめちゃくちゃ姫野と話したいぞ、このまま放課後まで話そうそうしよう。

 

 しかし、この様子だと一之瀬は他クラス同士の問題にも関わっていきそうだな、実際Cクラスと敵対関係であるのは確かだし。

 

「でも倉上くん、私は少し気になるんだ、あの龍園くんが何か悪いことをして、Dクラスの生徒を陥れようとしたんじゃないかなって」

 

「その考えは正しい。Dクラスに丁度やり易いのがいたんだろうな」

 

「だったら、私としては放っておけないよ、同じ生徒としても、Cクラスに嫌がらせをされた身としても」

 

「そう思うならなんで俺と姫野に聞いてきたんだ?」

 

「んーっ……一番は倉上くんと姫野さんが協力してくれたら、とっても心強いなーって思ったからかな?」

 

「こいつはともかく、私は巻き込まないで」

 

「にゃはは、ごめんねっ。でも倉上くんに話すなら姫野さんにも話さないとなって」

 

 ……?

 

 なんで?

 

「……別に、私に話さなくてもいい」

 

「いやしかし姫野、これはチャンスかもしれない」

 

「は?」

 

「何故なら姫野、俺は最近気付いたんだが、姫野は俺としか基本的に話してないだろ」

 

「あんたとも話したくないんだけど」

 

「はっはっは、ということで一之瀬、姫野が一之瀬と友達になりたいらしい」

 

「は?!」

 

「えっほんとっ?!うれしいよ姫野さんっ!あっ、姫野ちゃんって言った方がいいよねっ」

 

「良くないし抱きつかないでよ……!」

 

「今だっ、白波!」

 

「シャッターチャンス!」

 

 俺と白波の即席チームプレイにより姫野と一之瀬の2ショットが完成した、いえーい!後で送って送ってー!

 

 

「な、ななにとってんの!」

 

「にへへー、やっと姫野ちゃんと友達になれたにゃ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 後から来た神崎によってその場は丸くなり一件落着した。

 

 そんでもってその放課後、俺は一人の生徒を呼び出して、ボウリング場で待っている。

 

 いやまあ隠す必要もないので言うと、綾小路なんだが。今回の騒動に関しては、興味があるかないかだと無いんだけどね。姫野と話す時間の方が大事だしおすし。

 

 一之瀬がこの問題に関わりに行こうとするのは今日の感じを見ればわかった、その事を俺と姫野に相談したのは、同調や同意ではなく、自分の気持ちの再確認の方が強いだろう。

 

 六月初旬の龍園とのいざこざで一之瀬には借りが出来ている、当の本人はそう思っていないだろうが。

 

 当事者に一番近いのはDクラスの生徒だ、だから綾小路に聞くのが手っ取り早い。

 

 まあ、俺が手伝うかどうかは内容にもよるんだが。

 

「悪い、遅れたか?」

 

「いや全然」

 

「そうか」

 

 ちなみに綾小路とボウリングはこれで二回目だ、四月の半ばぐらいにやった初回は俺が勝った、その日は姫野と昼にご飯を食べた日だったからとても絶好調でした。

 

 あと綾小路がボウリングボールの穴に入れた指が抜けなくなったのも面白かった、綾小路も自分に起きた現象に興味津々の様に思えた。

 

 さてっと、遊びながら聞きますか。

 

 

「それで、結論から言ってどっちが悪いんだ?」

 

「単純な加害者と被害者で考えるなら、暴力を振るった須藤……Dクラスが悪いとなる」

 

「つまり単純じゃないって話だ」

 

「ああ、須藤は正当防衛、無実だと言う。方やCクラス側の生徒は一方的にやられたと言う」

 

 綾小路の投げたボールがストレートを決める、ブレのない回転力、狙いも正確、一投目と二投目はスペアだが3、4と今回の5回目でストレート。

 

 俺はというとスペアが四回、8点が一回。スコアに差がついてきたが、まだまだ勝負はここからだぜ綾小路。

 

「何方かが虚偽を吐いているな、綾小路」

 

「須藤は確かに暴力的な性格をしているが、言動に嘘を感じなかった」

 

「答えは出てるじゃあないか、どうするんだ?」

 

「遊びみたいに言うなよ……」

 

「今回は遊びだよ綾小路」

 

 そう言うと綾小路はそれに反応したのか、単純に手元がブレたのかボールがガーターの方へ行く。

 

「プレイヤーになるかならないかは綾小路の好みだな」

 

「……場合によっては退学になるかもしれない問題だ」

 

「いや、有って停学だ。Cクラスの生徒が本当の事を言っている確証も無い上で、何方の証言も変わらないなら、決定的な証拠がない限り、問題は怪我の度合いになる」

 

「停学か……須藤には悪いが、それでも良いかも知れない。一度自分を省みる機会がなければ、変わらない者もいる」

 

「だがそれだとDクラスの負けだ」

 

「……そうか、倉上の言いたい事がわかった。確かにこれは遊びだ」

 

 綾小路は俺のこの問題に対する捉え方の考えに辿り着いたようで、気付いたみたいだ。

 

「だとしたらオレは今回、負けても勝っても良いように動く。おまえはどうなんだ、倉上」

 

「綾小路がプレイヤーになるなら、俺は観戦者に徹しよう」

 

「手伝ってはくれないのか?」

 

「今回に限れば俺より最適な人物がBクラスにいる、その女子生徒に手伝って貰うといい」

 

「そうか。所で____オレの勝ちだな」

 

「……」

 

 そうですね。

 

 俺のスコアが165程度なのに対して綾小路のスコアは200前後ですか、今日は周りに店員以外の人も居ないからか、手抜きもしなかったな綾小路、少しぐらい手を抜いても良かったんだぞ綾小路。

 

 魔法使えば勝てるけど負ける時もありそうだ、俺にそう思わせるんだからプロ目指せるぞ綾小路、いやいや本当にまじで。

 

 これでボウリングは一勝一敗か、なんか次から勝てるイメージが湧かないんだけど、いっそ魔法使ってやろうかな、いやでもそれはちょっと大人気なさすぎるか。

 

「次は勝つぞ綾小路、それで何が欲しい?」

 

「前に見かけた飲み物を飲んでみたい、奢ってくれるか」

 

「わかった、それと俺の作ったカレー余ってるから食うだろ」

 

「食べさせてもらおう」

 

 

 さて。

 

 綾小路は勝っても負けても良いというが、案外負けず嫌いな面があると俺は感じている、負けても損はしない動きをしつつ、極力勝ちに動くだろう。

 

 この場合、対抗の相手は龍園だが、はてさてあいつが綾小路の影を掴むか?俺の予想を超える可能性もある男だ、最後まで油断をさせない。

 

 

 この問題に綾小路はどう導いて、落とし所を何処にするのか?七月の二番目の楽しみはこれだな。

 

 一番?

 

 まだ言ってないし聞いてもないけど姫野とデート!




この時期の綾小路くんかわいいよな(唐突の告白)


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恋愛イベントだぞ

本日にかいめだぜ


 

 綾小路と遊んでから二日経過した。

 

 その二日の間に綾小路は一之瀬と知り合えた様で何より、どうやら特別棟で偶然出逢ったみたいだが、なるほど特別棟が事件が起きた場所か。

 

 あの辺は暑いからデートスポットに向かないんだよな、姫野を連れて行く前に一人で行ってよかった、この時期にあそこは行きたくない。しかしあの場所となると……俺ならやや悪どいやり方でCクラスを追い詰めるが、はてさて。

 

 まあ事件の話は良いだろう、俺としてはそんなに興味が無いからな、綾小路がどう解決するのかは興味あるけど。まぁ一之瀬もいる事だし、その辺に不安はない。

 

 龍園の誤算はDクラスを舐め過ぎた事だな……いや?あいつなら、Dクラスの眠れる獅子、まだ表立って居ない人物を炙り出す目的もあるかも知れない、綾小路がそれに付き合うかはわからないが。

 

 ともあれ、そんな考えは今の状況に何一つ意味のなし得ない話である。

 

 

「……今日告白します」

 

「待つんだ白波。姫野、言ってやれ」

 

「うるさい」

 

 あっ、登校してしまった。

 

 呼び止める間も無くすたすたと行ってしまっては仕方ない……それよりである、白波がおかしくなってしまった。

 

 いやこの女子高校生の普段を何一つ知らないし対して興味もないのでこれが平常運転なのかもしれないが、登校早々俺の姿を見て邂逅一番こんな事を言われたら魔法使いでも困惑する。

 

 はてさてどんなロジックがあってこんな事になったか、魔法を使って知りたい意欲が少しだけ起きたが我慢しよう。

 

「とりあえず、そうだな。あのベンチで話そう」

 

「え、いや登校遅れますけど」

 

「まだ時間はあるはずだ」

 

「まあそうですけど」

 

 はてさて今日告白するらしい青春ポイント高めなこのイベントだが、なぜだろう。そんなに青春ポイントが高くない気がする。

 

 兎にも角にも、まず話を聞かなくては。

 

「なぜ今日なんだ?六月下旬に相談したよな、早すぎないか」

 

「他の人に告白されてでもしたらどうするんですか、あんなに素敵な人がされないはずないでしょ。今行かないと……うう」

 

「待て、恋は遊びじゃない。それはわかってるか」

 

「分かってます!」

 

「なら白波、お前は仮に告白が成功した後の10年先のビジョンまで見通せるか」

 

「うっ……それは」

 

「俺はできるぞ、まず卒業した最初の二年は互いを更に知る為に同棲から始めるとする、立地は駅から15分圏内の9万前後、その間に互いの両親の了承を得る、三年目の間に結婚式をする、日本でやるなら神前式だな。相手が嫌うならしなくても良い、四年目以降は海外生活だ、チェコが理想だがそこは互いに決めるとしよう、それから___」

 

「わ、わかりました、もうわかりましたから……この人絶対やばいよなんか頭のネジ的な、大丈夫かな姫野ちゃん……

 

「なんか言ったか」

 

「い、いえ何も」

 

 ふむ。何やら物凄い引かれている気がするが、気のせいにしよう、そうした方が俺が傷つかなくて済む。

 

 しかし実際、ある程度の未来に対する展望がなければいざ成功しても中途半端に終わってしまうと尊敬するバツ2先輩が言っていた、重みが違うだろ?なのでこれはちゃんと参考にしている。

 

 告白が失敗するなら別にそれでいい、何故ならもう一度告白すればいいからだ、それでダメなら三度目の正直、それすら通用しないなら四度目のなんちゃらだ。

 

 基本的に人間という種族は魔法使いである事を抜きにしても、好意に対して上下あれど無碍にする事が出来ない、何度も当たって砕けても魔法で再生していくべし。

 

「それで白波、告白した後はどうするんだ、まず何をする、どう向き合う、それを確定出来ないなら、付き合っても別れを切り出されるぞ」

 

「う、うう……正論だ……まるで歳上に諭されてるみたいです……」

 

 うんそれは気のせいじゃないです、君が相談しているのは若返りの魔法を使って青春をたのしー!してる30代のおっさん魔法使いです。

 

 と言えるわけがないので黙っておこう。

 

「でももう私は止められませんよ誰にも」

 

「なんでブレーキを忘れてしまったんだ」

 

「ラブレターを送ってしまいました」

 

「何処からそんな行動力が、お前は白波なのか?」

 

「失礼ですね!」

 

 まじかよ、こと恋愛に関して勢いは大事だと学んだがそれにしても猪突猛進が過ぎないか、気持ちが前のめりになり過ぎてないか。

 

 魔法で心やられてんのか?こいつ、いや確かに原初の魔法は恋であるといやいやおまえぜってー魔法のこと知らねーだろって名前も忘れた本に書いてあったが。

 

 え?まじなんですかアレ。

 

「でも、倉上くんの話を聞いてたら、何だか私……考え無しが過ぎましたね……」

 

「本当にな」

 

「うっ」

 

「だがこうなってはもう進むしかない、そのラブレターの相手はちゃんと来てくれるのか?」

 

「絶対来てくれると思いますっ、優しくて、可愛い人だから」

 

「なるほど……」

 

 可愛い人?ああうん、確かに女子は男に対してよく可愛いっていうもんな、そんな感じか?中性的な顔立ちの男子高校生なのだろうか、俺が記憶している限りは……んー当てはまらないな。

 

「それで何時の場所は何処だ」

 

「えっ何でいう必要あるんですか」

 

「不本意だが相談を受けた以上最後まで責任を持たなければならない」

 

「やだ、イケメン」

 

「……白波に言われてもなあ」

 

「何ですかそれ!」

 

「ということで教えろ」

 

「あー……えっとー、うーん……無理です」

 

 

 何言ってんだこいつ。

 

 無理って何だ無理って、俺が放課後に姫野と遊ぶ予定を蹴ってまで告白の手伝いをしてやるって言ってんだぞ、そんな我儘言う女子高校生には魔法使うぞ白波、魔法使えば簡単に分かるんだからな。

 

「……Bクラスなんです、告白相手」

 

「あっそう。それで場所と何時か教えろ」

 

「え、いや普通そこは引きませんか?」

 

「告白成功すれば嫌でも目立つだろ、隠す必要あるのか?」

 

「まあ確かに、いやでもちょっと……言いづらくて」

 

「は?なんだ?同性に告白でもするのか白波」

 

「え?!」

 

 え?

 

 まじか、図星かよ。

 

 ああいや、サンフランシスコのとある地区では珍しい話ではないから、いやいやそうじゃない、ここ日本です。いやまあ俺では同性婚を否定することも肯定することもできない。

 

 魔法使いでも困惑しています。

 

 てかちょっとまって?Bクラスの女の子?あんなに素敵な人で可愛くて優しくて可愛い……?

 

 

「おい姫野に告白するのなら全力で阻止するぞ」

 

「違います帆波ちゃんですっ!」

 

「え?一之瀬?まじかよ」

 

「あっ……言っちゃった」

 

「俺以外聞いてないから大丈夫だぞ」

 

「……あ、そういえば、その。学校……」

 

 ……。

 

 やべえ、後5分だ。

 

 俺と白波は互いに目を見合わせ、すぐさまベンチから立ち上がって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 危なかった、危うく魔法を使って時間を朝起きた時まで戻そうかと思ったぐらいだ。

 

しかし時間を巻き戻る時に記憶保持魔法、精神安定魔法を掛けないと万が一俺はドロドロに溶けたスライムみたいになってしまう時があるので、なんとか踏み止まった。

 

 姫野にも呆れられたしかなりショックだ、恋に悩む女に振り回される経験はなかったので青春ポイント的には高いのだが、これでは何も良くない。

 

 しかし。そうか、人の数だけ恋愛のあれこれはあるがまさか、女子高校生が女子高校生を好きになるのをこんな間近で見るとは。

 

 衝動的に動く程突き動かされるものがあるのなら、それがどんな形であれ恋であるだろう、いや俺恋について語れる魔法使いじゃないけど。

 

 はあ、俺の生きてきた30年間でも中々面倒くさい相談を受けてしまった、しかも相手が相手だ。

 

 俺の見立てでは一之瀬の恋愛観はノーマルだ、一般的な価値観を持つ相手……まず間違いなく振られると思うんだが。

 

 若返りの魔法使いでもそう思ってしまうのだから、これはどうするべきか。

 

 とりあえず白波と昼に作戦会議を開始する事になったのである。

 

 

「もう全部バレたので言いますけど今日の夕方4時、体育館裏です」

 

「潔くなったな白波」

 

「もう何も守るものがないですからね、えへ、えへへへ」

 

 こわいなこいつ、この俺が恐怖を感じただと。

 

 さて昼も限られた時間しかない、俺は白波に嫌われたところであんまり問題ではないと考えるからズバリ言ってやるか。

 

「先ず間違いなく振られる」

 

「そんなこと……」

 

「強く否定出来ない時点で薄々気付いているだろ」

 

「でも……っ、好き。だから、諦められない……」

 

「……?いや諦めろって言ってないが、あほだなお前」

 

「あほ?!」

 

「白波が考えないといけないのは二度目、三度目だ。ぶっちゃけお前の恋愛とかこの際言うと今起きてるCクラスとDクラスの問題と同じぐらいどうでも良いんだが」

 

「いくら何でも言い過ぎじゃないですか?」

 

 全然言い過ぎじゃない、というより魔法を使っても使わなくても俺には少し荷が重い相談だ。

 

 これが例えば依頼と言う形なら洗脳魔法でどうにでも出来るが、それをしたら俺はこいつと友達をやめる事になる。それは少し勿体無いからな。

 

「でも、そっか……そうですよね、何度も告白すれば!」

 

「いや三回ぐらいやって無理ならもう無理だと思え」

 

「何でさっきからそんな酷いこと言えるんですかっ」

 

「一般的な恋愛観を持っている人物に対して全く異なる恋愛観を押し付ける事になるんだぞ、俺じゃなくても姫野でも同じ事言うぞ現実見ろ」

 

「すいませんでした……」

 

 シュンっとする白波、側から見たら虐めてるみたいじゃねーかふざけんな。

 

 さて二度目三度目の事を考えろと言われても、今パッと思いつく事は中々出来ないだろう、だからこいつにはまず最初に失恋の味を知ってもらわないといけない。

 

 つまり振られてこいだ。

 

 いや俺失恋の味なんて知らないけど、味とかあるんですか?あるとしたらクソ苦そうだな、吐き気やばそう。

 

「それと白波、俺も見に行くぞ」

 

「えっ困ります」

 

「お前の相談を受けた者として見届ける義務がある」

 

「困ります」

 

「何かあったらどうするんだ、何かあったら」

 

「とか言ってその状況を楽しみたいとか思ってませんか」

 

「そう問われれば是と答えよう」

 

「最低っ!」

 

「その代わり可能な限り告白の手助けをしてやろう」

 

「素敵ですね倉上くん、あっ何か奢りましょうか?」

 

「じゃあ寿司」

 

「えっ嫌です」

 

 

 そんなこんなてんやわんやと白波の告白についての作戦会議は進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ということで体育館裏の隠れられそうな場所で隠れているのである、姫野も誘いたかったが、白波の「あまり他の人に伝えないでください、特にBクラスの皆には絶対」という言葉を苦渋の決断で守った。

 

 しかし、アレだな。人の告白を見る機会が来るとは、女の子同士であるから、一般的な告白シーンとは違うが。

 

 これは青春イベントと言えるのだろうか?なんか別のやつな気がする、いや魔法使いである俺でもわからんのだけども。

 

 さて、正直結果は分かるがはてさて、万が一億が一という事もある、可能性は0ではない、とはいえ四捨五入したら0なのは確かだ。

 

 俺は一之瀬が誰と付き合おうが白波が誰と付き合おうが、というか姫野以外の誰が誰と付き合おうが否定も肯定もしないとしている。

 

 今回は白波に相談されて俺はそれを受けたので、白波の味方ではあるが、今の気持ちは何で軽はずみに受けてしまったんだろうと言った気持ちが五割ぐらいある。

 

 残り四割はさっさと姫乃に会いてーなーって気持ちで残り一割が愉悦である。シチュエーションは青春イベントだからな、中身がちょっとアレなだけで。

 

 ……ん。そろそろ時間だ。

 

 

「これ、オレがいない方がいいんじゃないか?」

 

 

 ……ん??

 

 ちょっとまって何でいるんだ綾小路、え?付き合ってんの?いや、いやいやそれはない、だとしたら運命的な赤い糸で結ばれてるとしか思えない。

 

 それって俺と姫野の関係では?割とあるな、え、付き合ってんの?

 

 あ、なんか一瞬こっち見た気がする、気のせいとも思えない、いや違うんだよ俺じゃねーぞ綾小路、なんか引いてたけど。

 

 おいなんかこれもう魔法だろ、俺今どんな魔法的状況にあっているんだ?

 

 もしかして混沌魔法?それともこれはあれか?混乱魔法でも使われたのか?だとしたら一体誰が?もしかして俺が無意識に魔法使ってこの状況を作り出した可能性もあるのか?

 

 あっ白波来た。

 

「あの……その人は……?もしかして、彼氏……?」

 

「あ、え……と」

 

 え、まじで彼氏なのか?うそだろ綾小路、俺に黙って……まあそれはいいけど、いつ何処でどうやって何が起きてどうして付き合ったんだ?魔法使って調べていいか?

 

 やばい、まじで知りたくなってきた、使っちゃおうかな。

 

「ただの友達だ」

 

 おおおあっぶねー、今まじで魔法使いかけたぞ、そうかただの友達だったか、いやそれなら何でここにいるんだって話になるが冷静になってきたぞ。

 

 これ多分あれだな、一之瀬がどうしたらいいかわからなくて綾小路に彼氏のフリするよう頼んだな?まさかと思うが恋愛に疎いのか?うそだろ?今までモテてきただろ、絶対。

 

 ……えっいや、そうだよな?一之瀬の容姿で誰にも告白された事がないってそんなことあり得るのか?

 

 今日だけで俺は何回困惑しているのだろうか?

 

 俺が14歳の時に父親が十字架の如く吊るされて母親が金属バットを持ってフルスイングしようとしている中、近所の人が平然とそれを受け入れている光景を見た時だ。

 

 ……いや今思い出しても意味わからん、魔法で解明できないものもある。

 

「その必死の想いに、告白される側は答えなきゃならないんじゃないか?こんな状況を作って場を濁したら互いに後悔するだけだ」

 

 考え事で半分ぐらいしか聞いていないが、綾小路が良い事言ってこの場から去った。去り際に俺の方を一瞥してアイコンタクトをした気がする。

 

 ああうん、そうだな。ここは綾小路の意図を汲んで空気を読むか、俺は確かに相談を受けた者だが、この先の事は俺が聞くべきものではないからな。

 

 ……はあ。

 

 なんだか疲れたな。

 

 

 

 

 

 その日の夜、ふっーっとため息をついた後にソファーでダメになろうと寝そべる。

 

 結論から言うと、白波は振られた。

 

 鬼電してきて仕方なく電話したらめちゃくちゃ泣きながら色々言われる俺の身になってくれ、これは青春とは呼びたくないぞ俺は。

 

 だがまあ、思いの丈をぶつけると言う事は、そういうことなのだろう。白波は最後に「ぜっだいあぎらめま“せん”!」と言っていたし、あの出来事は必要な事だったのだ。

 

 今回の出来事で俺は白波千尋という人物を少しだけ尊敬した。あほだが、逃げなかった、そして振られても簡単に諦めなかった。

 

 何より、どれだけ勝算が低かろうと挑むその姿勢はそれこそ過去の、まだ魔法も満足に使えず、テレポートを間違えて森の中で過ごし生き抜いた時の自分を思い出した。

 

 

「起きてるか姫野」

 

『もう寝るから』

 

 そんな白波に当てられてか、無性に姫野の声を聞きたくなった俺は姫乃に電話した。

 

 綺麗な声だ、少し眠そうな声なのは、まあそれなりに時間の経っている今の時間なら当たり前か。

 

 電話が繋がった事は嬉しいのだが、何も話す事を決めていなかったからか、言葉が出てこない。

 

「……そうか」

 

『……何?』

 

「ああ、いや。なんでもない」

 

『なにそれ』

 

「ただ、声が聞きたくなった」

 

『切るから』

 

 斬られるらしい、明日は防刃ジョッキを身につけようと思う。いや好きな女の子に斬られる経験も中々ないので生身で体験するのも良いかもしれない。

 

 生命の危機に陥ったら自動再生魔法を使えば元通りになれるしな、うん。

 

 うーんだめだ。なんか、気恥ずかしい?いつにも増して言葉が出ないな、もっと話したいのだが、本当に言葉が出てこない、こんなにも出てこないとは。

 

 

『……おやすみ』

 

「え、ぁあ。おやすみ姫野」

 

『ん』

 

 

 電話の切れる音が響いた、心ここに在らずといった感じで黙っていたからか、少し気を遣わせてしまったかもしれない。

 

 …ああでも、良いな。今の。

 

 

 やっぱ好きだ、姫野。

 

 

 

 何年ぶりだろうか、今日は正しい意味で眠れる気がする。

 

 




二巻の内容はそこそこ端折るし直ぐ終わるかも〜


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杖使いの女子高生に話しかけられたぞ

エタってはないっピ!


 綾小路に聞いた所、CクラスとDクラスの話し合いは明日行われるらしい。

 

 一之瀬も例の告白の件で綾小路に借りが出来たからか、いつにも増して張り切って動いていた、具体的にやったことといえば匿名掲示板での情報集めや、張り紙などか。

 

 一之瀬が預かっているBクラス全体のppから何ポイントか経費で使われているが、その事に俺から何か言う事は無いだろう、微々たるポイントだしな。

 

 綾小路も何やら目撃者を見つけたらしいし、証拠があると言うならCクラス側が一気に不利になるか。

 

 今回は俺から何かする事は特にない、綾小路がどう解決するのか見たいという好奇心が強いが、それ以上にこれはあくまでDクラスとCクラスの問題だ。

 

 一之瀬の場合立場と周囲の認識がその辺りの追求を上手く誤魔化しているが、本来部外者である一生徒が関わり過ぎても問題になる、特に興味もあんまり無いしな。

 

 Cクラスの生徒、Dクラスの生徒。どっちがどうなってもどうでもいい。

 

 さてそんな月曜日の昼休み、姫野と一緒に昼休みを共にしようとまず探す所から始めた俺は食堂に来ていた。

 

 ……そういえばまだスペシャル定食頼んだ事なかったな、スペシャルと言うのだから多分絶対美味いぞ、もしかしたら魔法的なスパイスが掛かっている可能性も否定出来ない。

 

 今でこそ魔法を使わない生活をしているから機会は無いが、魔法で俺が思い描く調味料を作る時があった、食事そのものではなく、隠し味程度ならば料理に魔法は使える結論が出た時である。

 

 よし決めた、飯食ってから姫野に会いに行こう。

 

 スペシャル定食を頼んだ俺は近くの席に座って食べ始める。

 

 

 これは……美味いぞ。流石はスペシャル定食だ、スペシャルな風味、スペシャルな味付け、スペシャルな量。

 

 これが……1000ポイントを超える料理か……っ!

 

 ものの数分で完食である。ご馳走様でした。

 

 

「ふふ」

 

「ん?」

 

「ああ、すいません。楽しそうに食べていたので」

 

 

 正面を見てみるとそこには小柄な女子高校生が俺を見ていた、見た事がない生徒だ、上級生か?或いはAクラスの生徒か。

 

 しかし顔が良いな、この学校の顔面偏差値はどうなっているんだ?こんなに美男美女がいる事が許されているのなら、俺も若返った時にもう少しイケメンにしても良かったかもしれない。

 

「私は坂柳有栖と言います、一年Aクラスの生徒です」

 

「ご丁寧にどうも。倉上直哉だ」

 

「倉上くん、そうですか。あなたがBクラスの……」

 

 え、何。なんで知られてんの?

 

 もしかして女子ネットワーク的なアレで噂になってんの?だとしたらちょっと怖い、もしかしたら悪口言われてるかもしれん、いやそんな事はないと思いたい。

 

 しかしそうかAクラスの生徒か、この学校に入学して三ヶ月程経過したが、こうしてAクラスの生徒と話すのは初めてだったか。

 

「覚えてますか?あの時はありがとうございました」

 

「ん?……ああ、思い出した。気にしなくて良いぞ」

 

 そういえば会ったことあったわ、四月に棚の上にある物を取ろうとしてたんだけど難しそうにしてたのを見て手伝ったんだった、もう殆ど忘れていたが、思えばこんな感じの女子生徒だったな。

 

 Aクラスの生徒だったのか、身体的な問題を抱えてもAクラスに分けられたと言う事は、それ以外の頭脳的なところは優秀だったりするのだろうか。

 

「少しお話しませんか?」

 

「いいぞ」

 

 俺はこの独特の雰囲気を持つ少女に少し興味を持ち始めていた。

 

 既視感。

 

 天才特有の雰囲気、生まれ持ったカリスマ性の片鱗を感じている。

 

 このタイプは人によって好みが分かれるらしいが、俺は特に嫌悪感はない、まあ顔が可愛い女の子だからってのもあるが。

 

 いや?それを自分でも多少理解して、あえてカリスマ性を下げることをしていないのか?だとしたら中々、面白いじゃあないか。

 

 今から姫野を探しても見つかるとは思えないしなあ、放課後こそは見つけに行こう、そんでもって遊びに連れて行くぞ。

 

「と言いましても、何からお話ししましょうか」

 

「なら俺から話そう。好きな趣味は?」

 

「趣味ですか?……チェスは少々、嗜んでいますね。倉上くんの趣味は何でしょうか?」

 

「ま……研究だな」

 

 あっぶねー魔法って言いそうになりました。

 

 咄嗟に研究と言ったが、まぁ間違ってないのでヨシ!

 

「研究ですか?」

 

「ああ、俺の分野は少し人に言えるものじゃないが、案外楽しい、といってもこの学校にきてからは殆どやらなくなった、その代用としてppについての研究は中々良いぞ」

 

「……なるほど、気が合いそうですね?」

 

 雑談が一通り回った後に、坂柳はふっと顔を笑わせた後、俺の目を見て話始めた。

 

「倉上くんは天才とは、どの様に考えますか?」

 

「生まれつき備わった優れた才能」

 

「正解ですね、でもそれは倉上くんの考えではなく、世間一般的な考えではないでしょうか」

 

「正解、そしてそれを見抜いた坂柳はそっち(天才)側だろうな」

 

「ふふ、ありがとうございます」

 

「俺は天才では無いから、天才を指す指標を具体的に決めろと言われても難しい問題になる」

 

 そうだ、俺は天才なんかでは無い。

 

 俺は魔法使いだ、30年生きてきた中で今の所俺以外に存在を確認できていない、魔法を使える人間だ。決して天才なんかではない。

 

 30年間生きてきた人生分の経験はある、だが生まれ持った特別なモノは何一つない、そして魔法は俺の中では特別でもなんでも無い、あって当然のモノだ。

 

 魔法使いである俺が魔法をあって当然と思うように、天才には天才が考える自分にあって当然と思うものが存在する。

 

 そう言った意味では、そっち(天才)側にいる者と、魔法使いである自分は少し近しい隣人のような感覚だ。

 

「俺が天才と認めたのは三人、その三人に共通したモノの一つは“未知を既知として理解する”ことだ」

 

「それは、自分の常識の外の事を知ると言う事でしょうか?」

 

「半分正解で不正解、そしてこれは俺の口からは言わない。宿題だな」

 

 そう言うと、坂柳は面白そうな表情をして目をぎらつかせた、なるほどこの子は攻撃的な性格をしているらしい、支配欲が高いのか?それ以上はわからないな。

 

 暗に「お前を天才としては見ていない」事を直ぐに察したのだろうか、まあ実際そうだし。そもそもこの子のこと特に知らないし、Aクラスの中でそこそこの立場なんだろうけどね。

 

 俺から見てこの少女は天才の卵だ、六助くんと同じだな。

 

 

「ふふっ……私に宿題ですか、いいでしょう。その宿題を解いたら、倉上くんは何かしてくれますか?」

 

「何して欲しい?」

 

「そうですね……それは、後々の楽しみにしてもよろしいでしょうか?」

 

「俺は今好きな子に全力で好きになって貰おうとしているのだがそれを邪魔しないならなんでも良いぞ」

 

「……そ、そうですか」

 

 あれ、引かれた?いやそんなことないか、至極当然のことを言っただけに過ぎないからな。

 

 しかしやはりAクラスには居たか、これは中々……一之瀬も苦労するな、BクラスがAクラスに上がるにはこの少女を倒さないとならないぞ。

 

 俺はBとかAとか興味無いから手伝ってくれって言われたらやれるだけやるけど、はてさて。

 

「今日はありがとうございました倉上くん、連絡先を交換しても良いでしょうか?」

 

「かまわないぞ」

 

 昼休みもそろそろ終わりの時間になってきた所で、坂柳と連絡先を交換した、坂柳が席から立とうとする前に立ち上がって手を差し出すと、やや驚いた顔で、少し嬉しそうな顔で俺の手を取って立ち上がった。

 

「一人で歩けるか?」

 

「はい、近くにお友達もいらっしゃるので」

 

「そうか、じゃあな坂柳」

 

「ええ、また。倉上くん」

 

 

 ……坂柳か。

 

 とすると、彼女がこの学園の理事長である坂柳理事長の娘だろう。今さっきの少ない時間での関わりでも、優れた知力を感じた。

 

 海外を起点に活動していた時こそ関わりはなかったし、日本に戻っても名前以上の事は知らなかったが、やはり親にして子。中々ユニークな人物だと考察できる。

 

 これも青春ではあるな、中々良いポイントです。

 

 坂柳有栖は青春をわかっているかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、CクラスとDクラスの話し合いが行われる日になった。

 

 一之瀬は「やれる事はやったつもりだけど……」と少し心配していたがそこまで気にする必要も無いだろう、何方が勝つにしろ負けるにしろ、Bクラスに何かが起きる訳じゃ無い。

 

 一応、友達として綾小路に大丈夫そうか?とは聞いてみたが、返信は「問題ない」の一言だったし。

 

 それ相応の手答えは感じている筈だ、俺としてはどこまでCクラスに圧力をかけるのか見ものだが、どうだろうか。

 

 Dクラスの中での綾小路は何やら影を薄くして、存在を目立たせていない様に感じたから、その辺の塩梅をどうするかは俺が綾小路と同じ立場になっても少し悩まざるを得ないな。

 

 さて。放課後になったので姫野に話しかける、当然の様に無視されるがずっと隣で歩いてたら施設に着いた、ゲーセンだ。

 

「珍しいな姫野、何をする?同行しよう」

 

「こないで」

 

「いやいや俺は役に立つぞ、クレーンゲームは任せろ」

 

「私より下手でしょ」

 

「何を言うんだ、同じぐらいだぞ」

 

「は?うざっ……」

 

 姫野の目に火がついたような気がした、かわいらしい小さいぬいぐるみを景品にしているクレーンゲームを遊ぶらしい。

 

 さてどうしよっかな、魔法使ってそれとなく支援しても良いんだけど、この前姫野とゲーセンで遊んだ時、一番ポイント使ったの多分クレーンゲームだし。

 

 いやここは俺が一発で取って良いところを見せてやろうかな?魔法使えば確実に取れるぞ、アームの力強くすれば良いだけだからな、ただ強くしすぎて景品が潰れた時があるから、その辺の魔力加減を調整しないと悲惨になるが。

 

「……」

 

「俺に任せろ姫野」

 

「やだ、どっかいって」

 

「むむ」

 

 どうやら自分で取りたいらしい、これは仕方ない……譲りそうも無いのでここは素直に他のゲームをプレイするか。

 

 俺がゲーセンに入り浸ってきた時は主に格ゲーをしていたのだが、魔法のアシスト無しで格ゲーをした事は無かったな。

 

 やってみるか?ものは試しだ、魔法を使った時は百戦錬磨だったがはてさて……。

 

「……面白いの?それ」

 

 いつの間にか背後に来ていた姫野にそう問われる、難しい質問だ、魔法を使って格ゲーをしていた時はそれこそ負ける事が無かったので、楽しい楽しくないといった感情も無かった。

 

「どうかな、久しぶりだし」

 

「ふーん……」

 

「やるか?」

 

「やらない」

 

 はてさて対戦相手が揃いいざプレイ、いざ始まってみるとこれはなかなか、面白いじゃないか。

 

 アーケードコントローラーと言えばいいのだろうか?これ結構難しいな、でもおお、楽しいぞ、これでコンボが決まるのか。

 

 やばい、これはハメ技というやつでは?負けるのでは、なんだこいつ、相手魔法使ってんだろ、俺が負ける……?

 

 あっ。

 

「よわっ」

 

「こんな呆気なく負けるのか、まじかよ。認められん」

 

「まだやるの?」

 

「あーいや、うん。今度一人で行くか、それより姫野、二人でできるゲームをしよう」

 

「やだ」

 

「ほらアレとかどうだ、ゾンビを撃つやつ」

 

 しかし姫野と遊ぶのは楽しい、時間が早く経っている感覚がする、名残惜しいと言う反面、明日も明後日も似た事が出来るかと思うと素晴らしいことだと再確認する。

 

 そう考えると綾小路は災難だな、七月始まってやる事が自分のクラスの問題とは。

 

 今のCクラスとDクラスの問題が終わったら遊びに連れて行こう、ついでに気になっている女の子は居ないのか、青春ポイントが非常に高い恋バナもするか。

 

 ……綾小路が付き合うなら誰か。

 

 これは中々難しい問題だぞ、正直俺には思いつかない、でも綾小路は無表情なだけで顔立ちは良いし、そこそこ気遣いも出来なくはないし、全体的な能力は魔法を使わない俺より高いと思ってるから、その気になればモテそうだ。

 

 案外ギャルっぽい女子高校生とかに好かれそう、そんな感じする。

 

「真剣にやって!」

 

「ごめん姫野、しかしこれ案外怖いと思わないか」

 

「思わない!」

 

 

 そんなこんなで姫野と遊んで、今日を有意義に終わらせたのであった。




ゲームやったり飲んでたりしてて普通に忘れてた、ごみくずですすいません許してください!なんでもしません!


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青春は始まったばっかだぞ

うぇーい


 

 人間の結末は常に突然とやってくるものだ。

 

 

 少し息を切らせて家電量販店の搬入口に辿り着いた俺は、その光景を見て、少しの思考停止。

 

 現実に戻って、改めて物事を客観的に捉える。

 

 

 こうなった責任は誰にも無い、あると言うのならおそらく、俺の目から少し離れた所で横になって伸びている小太りの男ただ一人だ。

 

 あえて何かを言うのなら、俺にはどうしようもなかった。そもそも俺はDクラスの生徒では無いし、傍観を決め、事実この騒動の結末の大方は俺の予想の範疇に過ぎなかった。

 

 結局の所、龍園は負けた、Cクラスが訴えを取り下げたのはここに来る前に知っている。

 

 綾小路は勝ったのだろう、詳しいやり取りはまだ聞いていないが、この状況は俺にとっても綾小路にとっても計算外。遊びの中ではなく、外で起きた出来事の筈だ。

 

 

「____倉上くん!」

 

「少しどけ一之瀬」

 

 俺は一之瀬に一言だけ言ってそこにいる人物に近づく、俺は医者でも何でも無いが魔法使いではある。仕事上、そして30年間の魔法使いとしての人生から、この傷は致命傷だとわかる。

 

 当たり所が悪過ぎる、綾小路もそれを分かっているからか、突き刺されたナイフを外していない。それで良い、変に外すと失血で死ぬ。

 

「ぁ…あゃ、のこうじくんが……っ、わたしを、か、かばって、それ、それで」

 

「いい、何も言うな」

 

 近くに蹲って顔面を蒼白とさせている女子生徒にそう言って、視線は綾小路に固定したまま思考を続ける。

 

 

 今日の放課後、いつも通り姫野とどこに遊ぼうかスタスタと歩く姫野についていきながら話している途中、一之瀬からの電話を受け取った。

 

 その時には既に気が動転していたのか、要領を得なかったがその錯乱の仕方に俺は考えるより先に場所を聞いて全速力で向かった。

 

 着いた時にはこの状況になっていた、詳しい事は何も知らない、綾小路がナイフで急所を刺されているその状況だけが確かな事実だ。

 

 綾小路の実力なら素人レベルなら簡単に制圧出来るはずだ、それが出来ない程あの小太りの男が綾小路より上だった事は先ず無い。実際あの小太りの男は重たい一撃でも食らったのか、地面に寝ている。

 

 庇ったと蹲る女子生徒は言う、ならば……運が悪かったか、或いは自分を犠牲にしなければ間に合わない状況だったか。

 

 

 まあ、いい。これを考えても何も意味はない。

 

 

 このままなら綾小路は死ぬ。

 

 適切な治療を行えば命は助かるだろうが、学校にまた入学出来るのは軽く見積もって夏の終わり、それだけじゃない、人の命に関わる問題だ、学校も何かしら慌ただしく動くだろう。

 

 考えるにそれは、俺の青春が失われる事になる。

 

 俺は善人じゃない。だからと言って悪人でもない、魔法使いだ。

 

 魔法でこの状況をどうにか出来るかと言われれば、はっきり言って簡単だ。

 

 この学園で初めて作った友達、何れは親友になれるかもしれないと思っている人物を助けない理由はない。

 

 なにより、こんな終わりはお前も俺も望んでいない。

 

 だから俺は魔法使いとして、今からお前を助けよう。

 

「一之瀬、学校には言ったか」

 

「……ぁ、ご、ごめんなさい、まだ」

 

「いやそれで良い、考える事がひとつ減った」

 

「え……?」

 

 最初に、俺は魔法を使うルールの例外として犯罪行為に遭遇した時や、自他の生命の危機は魔法を使ってもいいことにしている。

 

 今のこの状況を完全解決するまで俺は30年間共に歩んできた魔法を無制限で使える。

 

 

 

 さて、始めよう。

 

「倉上くん、それはどう____」

 

「悪いな、寝てくれ」

 

「え……っ?」

 

 俺は手を向けて一之瀬と、それから近くに蹲って泣いている女子高生に睡眠魔法を掛ける、効果は5分ぐらいで良いだろう。

 

 眠っている間に混乱魔法を掛けさせて貰う。

 

 少しの間の記憶を混濁させる、これは10分前後にしておこう、綾小路が刺されたという事だけが綺麗消えていればそれで良い。

 

 ……いや、この女子高生はそれだけだと脳のフラッシュバックで錯乱する可能性があるか、当事者らしいし根強く記憶に残るだろう。

 

 混乱だけでは足りないなら改竄魔法、助けられたと言うのは事実だろうから、刺されたという事実を、この女子高生には完全に無かった事に改竄する。

 

「……倉上、何を」

 

「安心しろ」

 

 綾小路にも睡眠魔法を掛ける……待て、様子が変だ。もう既に死に体か?いやそうじゃ無いな、だとしたらこれは。

 

 そうか、そういうことか。こんな状況だと言うのに俺は思わず笑みを浮かべているのを感じた。

 

「何をしようと、いや。しているんだ、これは」

 

「綾小路おまえ……凄いな、俺の魔法が抵抗されるのは何年振りだ?」

 

「魔法、だと?」

 

「ああ、俺は魔法使いなんだ。安心しな、まだお前は遊べる」

 

 

 再度睡眠魔法を重複させて眠らせる、二回目は抵抗できなかったか、それはそうか。重傷なのも加味すれば十分凄いやつだ。

 

 さて、綾小路にも記憶の改竄をさせて貰おう、刺されたという事だけ忘れていれば、あとは脳が勝手に処理してくれる。

 

 それから、そうだな。ここ一帯の監視カメラなどの記憶媒体も不味いか。

 

 周囲……そうだな、範囲を600mに設定して、監視カメラを全てハッキングして内容を弄らせて貰おう。

 

 電脳支配魔法。今この周囲にある全てのコンピューターは俺の支配の下にある。

 

 これで隠蔽は出来たか。他にやる事は____ああ、三人に俺が魔法使った事は忘れさせないとな。

 

 ……よし、これでいい。事細かいことは隠し通せないかもしれないが。

 

 魔法使いの痕跡を理解出来る人間が果たして何人いるかな。

 

 家電量販店の搬入口で良かった、これがもう少し人通りの多い場所だったら、面倒臭かったからな。

 

 さて、あとは綾小路の傷を完全に治して終わりだが。

 

 

「う……」

 

「お前は要らないな」

 

 

 蹲って意識を取り戻そうとしている小太りの男、おそらくだがこの家電の店員を見下ろす。

 

 良かったな、オマエの存在は世界に最後まで記録されるだろう。

 

 

 ソレに手を翳して魔法を使用する。

 

 

 店員と思われるソレは意識を取り戻し、無言で移動した。

 

 

 これで良い。

 

 さて_____遅くなって悪いな綾小路。

 

 

「再生……」

 

 

 俺は綾小路の傷を完全に癒やす、後遺症も残らない、お前が受けたこの傷を覚えているのは俺だけだ。

 

 ここに目撃者は居ない、念の為再生魔法で傷を癒している間に、探索魔法と索敵魔法を合わせて使ってみるが特に問題無し。

 

 仮に探索と索敵魔法を使う前に他人に見られてしまってもそこまで困らないだろう。

 

 結局の所。未知を既知として理解出来る人間はこの学校には誰も居ない。

 

 俺が魔法使いだと知られる事はないだろう。

 

 

 完全に治ったのを確認、それと同時に緊急用の魔法が使えなくなった事を理解する。

 

 俺は、ふっーっと一息した後に壁にもたれて、懐にある煙草____っとと。

 

 ここに来るまでの仕事のルーティーンをしそうになった、そもそも煙草は無いし、いや教員用に売っているのを目撃しているから、やろうと思えば盗んで吸えるけど、それはさておき。

 

 二ヶ月振りに何回も魔法を使ったが、やはり強く、そして便利だ。

 

 だからこそそれに驕ってはいけない、溺れてはならない、その想いを忘れないようにしなければならない。

 

 感じている全能感に身を任せるな。

 

「んにゅ……」

 

 地面で眠っている一之瀬がそろそろ起きそうだ。

 

 それを見て俺は、魔法使い側に寄っていた思考を切り替える。

 

 

 ところで。

 

 

 今日、姫野と遊べるかなあ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の話をしよう。

 

 眠りから覚めた一之瀬、綾小路。それから佐倉愛理と名乗った女子生徒は自分の記憶があやふやなのに?を浮かべていたが、俺が来た時既に眠っていたぞと少し揶揄う感じで言って誤魔化した。

 

 どう誤魔化しても俺に追求される事はないだろう、この状況になった発端の男は俺が通報して連れて行った事にしたし。

 

 そうすれば三人共通して多少違和感はあるけど何とかなった、という事実だけが残る。

 

 その事に綾小路は深く考えていた様で、時折俺の目を探る様に見てきたが、やがてそれも無くなった。

 

 俺から見て綾小路に魔力らしいものは感じられない、だが魔法に抗えたと言う事は、何かのきっかけで魔法使いになれる可能性があるかもしれない。

 

 過去にも何人かいた、その誰もが魔法を使う事は出来なかったが、綾小路の場合、魔法を既知として理解出来る可能性はある。

 

 こいつは確実にあっち(天才)側の人間だからな。

 

 ……これは青春とは違う、卒業後の楽しみになる可能性が出て来たな。

 

 それはさておき、この話はもう良いだろう。

 

 

 綾小路、それから一之瀬から改めて今回の事件について聞いてみると、どうやら監視カメラを買って特別棟に設置し、そこに呼び出して訴えを取り下げる様脅したようだ。

 

 なるほどそのやり方か、と少し意外だった、何が意外と言うと一之瀬がそれに賛同したからだ、他に思いつかなかったのだろうか。

 

 それでもやはり意外だ、そうか……案外、こういうところは善性でも悪性でも無いのかもしれない。

 

 相手が正々堂々とやるなら自分達もそうする、相手が不正をするのなら、已む無ければこちらも同じ事をする。その考えを一之瀬が出来る事はBクラスがAクラスを目指すのなら、収穫だろう。

 

 俺?俺なら監視カメラは買わない、魔法を使うならそれを使うが、使わないなら、そうだな。

 

 ボイスレコーダーを使って相手の隙を突いてから言及を始めるかもしれないな、複数のボイスレコーダーを持って使い分ければ、こちらに都合の良い音声を合成してそれを提出するかもしれない。

 

 他には、龍園と同じ土俵。つまりは暴力で解決する手もある、これは諸刃の剣にも近い行動だから、いざやるかと言われるとそこまでではないが。

 

 

「それじゃあ私はここでっ、呼び出してごめんね倉上くん」

 

「大丈夫だ」

 

「あ……なら私も、その。ありがとうございました、綾小路くん、一之瀬さん。それから、倉上さん」

 

「じゃあな佐倉、何かあれば。連絡してくれ」

 

「うんっ……ありがとうね、綾小路くん」

 

 

 一之瀬と佐倉は各々それぞれの方向へ向かっていく。しかしあの佐倉という女子生徒、メガネ絶対外した方が可愛いと思うんだが。

 

 いや、かわいいからストーカーされたのか?具体的な事は聞かなかったが、容姿が原因の問題事は社会人時代にも何度かあったから、怖いな。

 

 さてどうするかと思い、ふと俺が動かないのを立ち止まって見ている綾小路と目が合う、てっきり綾小路も何処かに行くかと思ったのだが。

 

「不可解な事がある、だが……今は良い」

 

「そうか、それでこの後はどうするんだ?」

 

「生徒会室に行って、見届けて終わりだ」

 

「どうだった?この遊びは」

 

「そうだな……はっきり言って、倉上との遊びよりは楽しめなかった」

 

 お?何だーこいつ、可愛いやつめ。

 

 しかしそうか、やはりそうか。綾小路は心底、AクラスとかDクラスとか、自分の心情的にはどうでも良いのだろうな。

 

 綾小路なら、訴えを取り下げる以外の方法でも出来た筈だ、俺の様に魔法を使う事は出来ないだろうが、監視カメラを取り付けるやり方まで行き当たるなら、もっと攻撃的な思考を展開する事も出来るはず。それをせず現状維持に止めるか。

 

 一之瀬の言葉からは堀北という女子生徒がこの騒動を止めたと言っていたがそれはまずあり得ない。

 

 あり得るとするなら、綾小路がそれとなくその堀北に助言したのだろう、自分の思考を隠しながら、一言二言話せば、勘や思考力の高い人間は勝手に察する。

 

 ……そうか。

 

「綾小路、今回で次の遊び先は見つかったか?」

 

「……遊びと言えるかは、まだ確定出来ない」

 

「そうか。ちなみに綾小路はあの佐倉とかいう女子を狙うのか?」

 

「狙う?」

 

「彼女にするのか?」

 

「え、いや。待ってくれ……確かに佐倉はかわいい、容姿が優れている」

 

「ああでも綾小路、これはただの勘だけどギャルっぽい女の子からその内好かれそうだし、それもありだぞ」

 

「まじか、嬉しいな。いや違う、何でそんな話になった?」

 

「恋バナは青春ポイントが高いんだ、そして綾小路。俺はお前に彼女が出来て、その頃には俺も姫野と付き合っているとする。するとだな」

 

「お、おう」

 

「ダブルデートができる」

 

「ダブルデートだと」

 

「そうだ、これは……もう言わなくても、わかるな」

 

「倉上、オレに彼女は出来るのか……?」

 

「お前は俺より容姿が良い、そして綾小路、しっかり聞いてくれ」

 

「な、なんだ」

 

「女の子は……ギャップに弱い。なんか良い感じな所でちょっと凄いところ見せたら、お前は彼女ができる!」

 

 そう俺が声を高々に言うと、綾小路は無表情ながらも若干ほんの少しだけ目を見開いたような気がする。

 

 ちなみに俺はこのギャップを上手く扱えていない気がする、なので綾小路、この技はお前に託した……ッ!

 

 

「倉上、オレはやるぞ」

 

「ああ、所で生徒会室は行かなくて良いのか?」

 

「……もう行かなくても良い気がしてきたが、一応行ってくる」

 

 綾小路はそう言って心なしか少し機嫌がいい様に見える様な歩き方?様子?で生徒会室に向かい出した。

 

 俺もついて行っても良いんだけど、自分達が負けた事に疑問を持った龍園が生徒会室に寄りそうだ、その時にDクラスとBクラス……いや、少し違う。俺もDクラスの生徒に関わりがある事を知られたくないからな。

 

 その内知られるかも知れないが、その時はその時に考えよう。

 

 こんな思考はただの言い訳だ、本音?

 

 魔法連発で使ってほんのちょっと気持ち的な疲れを癒しに姫野に会いに行きますよ〜行くぜ行くぜ!

 




実際ストーカー何しでかすか分からんしナイフ持ってたら刺されてたかもね、てことで二巻終了でづ。
明日ぐらいに投稿しま。


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どうやらバカンスのようだ

三巻突入するおー


 

 人生とは苦である。

 

 

 であるからこそ、苦である人生をどう楽しむかでその人生の価値が決まるのだ。

 

 過去、仏教を説く僧侶から言われた言葉だ、当時の魔法を十全に扱えず、また精神的にも未熟であった俺にとって天啓とも言えるべき言葉であったと今でも思う時がある。

 

 全く持ってその通り、人生とは基本的に苦の連続だ、いっそここが地獄だと言われれば俺は当たらずも遠からず、隣人であると言うだろう。朝起きるだけでも苦痛を感じる時があれば、特に理由も無いのにも関わらず、苛立ちを覚える時もある。

 

 こんな事を考えるのは知能、言語を習得した人間だけと言うが、最近の研究結果では地面に生えるキノコにも言語があると言うでは無いか、そもそもとして自分自身すら全て理解出来ている人間の方が少ないと言うにも関わらず、種全体を理解するなど不可能では無いだろうか。

 

 少し脱線したが、とにかく俺は、あの時から何事も楽しむ事を始めた、今では上手く楽しめるようにはなったと思う、割とはっちゃけてるし、だがそれでも、魔法の深淵を覗く時。その力を扱う時。

 

 

 どうしてもそれだけは素直に楽しめなくなる、30年生き、若返りという生命の引き伸ばしすらも可能としてしまったコレは、高等学校に入学して四ヶ月となった今、疑念から確信の変わった。

 

 

 コレは、理の外にある力だ。

 

 

 無から有を作り出し、人の命を左右し、時間すらも操れれば、この世に居てはいけない、ならないものすら呼び出せる。

 

 魔術に触れ、その深淵を深める度に世界の裏を知っていった、失うものは多かったが得るものは計り知れなかった。

 

 そして、それも俺の中では一息付けた、一息付けたからこそ、失ったものをまた得る機会を、この高等学校で得ようとしている。

 

 そしてそれは魔法で手に入れるべきではないのだ。

 

 魔法は万能で究極的に出来ない事は何一つない、そんな絶対で究極な、約束された“勝利”に何の価値もないのだ。

 

 確かにコレは俺の持っている力だ、だがそれでは楽しめない。

 

 人生は苦であり、だからこそどう楽しむのかで価値が決まるのなら。

 

 今のこの状況、三年間の高校生活は、如何に魔法を使わずに楽しめるかで価値が決まる。

 

 

 コレはある種の挑戦だ。

 

 俺からこの力を取った時、俺に残るものはあるのか?この疑問に、この学園はどう答えてくれるのか。

 

 

 理由はさておき既に何回か魔法を使ってしまっている現状に、そう簡単には捨てられない力であるとはっきり理解している。

 

 この学園での生活も四ヶ月になった、だからこそここで決めようと思う。

 

 

 結論から言おう、俺は巻き戻る魔法を禁止する事にした。

 

 

 過去14回時間を巻き戻し、その14回中3回失敗して異世界に飛ぶ事もあれば、致し方無い理由で5回並行世界へ移動し、そして今に至ったこの俺がいる世界だが、それらに干渉する魔法を今後使う事を止める。

 

 

 八月一日、朝に俺は時間に関わる魔法を禁止する魔法を使った。

 

 

 これで魔法の制約により、俺がこの魔法を解除する魔法を使わない限り、一生世界は巻き戻る事もなければ、俺と言う存在が並行世界に行く事もない、異世界という正史の世界から離れ、異界と化した世界に飛ぶ事も無いだろう。

 

 

 前々から思っていたんだ、如何に俺が魔法使いであっても、この魔法は魔法の深淵を理解した俺でも手に余る力であると。

 

 だから捨てよう、戻る事を止めよう。

 

 本来人生とは、戻る事の出来ない、たった一度のモノなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常夏の海。広がる青空、澄み切った空気……そよぐ潮風は優しく体を包み込み、真夏の猛暑を感じさせない太平洋のど真ん中。そう、ここはまさにシーパラダイス。

 

 とか誰か思ってそうだなあ。俺は暑くてムカついてます、太陽うぜえ〜〜〜!太陽光俺にだけ適用しないような魔法使いてぇ〜〜〜!

 

 アニメとかでも魔法使いは日光に弱かったりしたけどソレは正解、俺は太陽に弱い、冬の方が好きです……ん?これ吸血鬼の方が当てはまるな?

 

 

「いやしかし、この年で豪華客船に乗るとはな……」

 

「わかるぞ神崎、過去何度も乗った事はあるが高校生になって乗る日が来るとは思わなかった」

 

「過去何度もって、すごいですね倉上くん」

 

「当たり前だ白波、俺はお前より凄い」

 

「なんでそんな言い方するんですか?!」

 

「はて?」

 

「むかっ!」

 

 何だこいつ、いかにも怒ってますみたいな表情でバカそうな言葉を放つ生物がこんな所にいるとは、写真でも取っておこうか。

 

 冷静に考えて写真を撮る価値も無かった、ちょっと離れてる所で黄昏ている姫野の方が絵になるわ。

 

 いやしかし本当に驚きです。まさか六助くんはこれを知っていたのだろうか?ありえそうだ。上級生と何度か食事をしているのを見かけた事がある、その上級生が口を滑らせてバカンスがあると言ったかもしれない。

 

 うーんしかし髪が風に揺れて靡いている姫野がなんと美しいことか、えっこれで魔法使ってない美貌ってマジすか?!悪い、俺心臓麻痺しそう……ってなってもおかしくない。

 

 正直言うと見惚れて言葉をかけるのもなんかあれなのである、あれとは?つまりはそう、あれだ。

 

 

「付き合いてえな……」

 

「えっ無理ですごめんなさい」

 

「お前じゃないが」

 

「おい、まさか……俺か……?!」

 

「嘘だろ神崎、マジかよ神崎。しっかりしてくれ神崎、お前がアホになったらBクラスはお終いだ」

 

「あ、あぁ……すまない、倉上の事だから、姫野の事だろうが」

 

「えっ、まだ付き合って無いんですか?嘘でしょ?」

 

 そう言うと白波は何やらバカにしたような心底驚いてるような面白がってるようなよくわからんバカ面を披露した、ムカついたので即座に端末を取り出して写真を撮った。

 

「一之瀬に送るか……」

 

「わー!わー!ごめんなさいごめんなさい!」

 

「1万ppで消してやろう」

 

「たかっ!え、高いですよ!安くして下さい」

 

「俺が姫野を彼女にする手伝いをしてくれるならタダで消すぞ」

 

「友達のお願いは聞きますよ!ねっ神崎くん?」

 

「え、いや、俺もか?すまないが何一つ手伝える気がしないのだが」

 

「いや神崎は別に良い」

 

「なんかごめん神崎くん」

 

「あ、あぁ……そろそろ部屋に戻る……」

 

 見るからに傷つけてしまった、が俺は謝らないぞ神崎、何故ならお前はそこそこ顔がいいからだ、つまりはイケメンである。

 

 俺の敵といっても過言では無い、性格が良いから敵視してないが恋愛感情に疎いこの男がいつ姫野に惚れるかわかったもんじゃ無い、よって俺は警戒しなければならないのだ。

 

 この論でいくと綾小路もイケメンだが、前にも言ったけどギャルっぽい子か佐倉か意外にも正統派の黒髪ロングの女子高校生と付き合いそうだから敵ではない。

 

 何なら腹黒そうな美少女かも知れないし文学少女かも知れない、あれ?あいつめちゃくちゃ恋愛運強くね?モテ期なの?いやまあ俺が勝手に妄想しているだけなのだが、なんだろう、近い内に現実になりそうな予感がする。

 

 確信に近い、魔法を使ってないのにこんなにセンサーが働くのは何故なんだ。

 

 

「あれ〜?なんだか面白い話してたかなぁ〜?」

 

「あっ、星之宮先生!」

 

 とかなんとか考えてたら変な女が現れた。我らがBクラスの担任、星之宮女史である。

 

 

「この前別れたばっかりの星之宮先生じゃないですか、哀れですね、なんですか?慰めませんよ」

 

「もうっ、失礼しちゃうわねっ自分で振ったのよ!」

 

「そんな事してる年ではないのでは?」

 

「白波さん?」

 

「所で星之宮先生32歳」

 

「もう少し若いわよ!」

 

「そうなんですか?」

 

「白波さん??」

 

「どうすれば俺は姫野と付き合えると思います?」

 

「星之宮先生に聞いても意味ないと思います倉上くん」

 

「白波さん???」

 

「あ、私そろそろ戻りますね、さようなら倉上くん、星之宮先生」

 

「ちょっと待って白波さん?あっ」

 

 星之宮先生の言葉は空に消えていった。

 

 言い過ぎだろ白波……いやそうでもないのか?俺とした事が、この先生に相談とか……魔法使ってない弊害かもしれない、思考力が落ちている気がする、絶対碌な事言わなそうだし。

 

「……こほんっ!しーかーたーないのでっ、教師らしくアドバイスをしてあげましょう」

 

「やっぱ良いですさようなら」

 

「ちょっと!」

 

「はぁ〜〜〜……じゃあ言ってみて下さいよ星之宮先生」

 

「ああもう……!はぁ、では心して聞くよーに!」

 

 そう言って星之宮先生は俺にごにょごにょと耳打ちしてきた。やめろ近え、なんだこいつ。

 

「夏は恋の季節。好きな子に告白するなら、こういう綺麗な海の前が効果的かも?」

 

「つまり?」

 

「この二週間でパパッと告ってささっと付き合っちゃえ!」

 

 

 こいつバカなのか?仮にも同じぐらい人生歩んでるとは思いたくない。

 

 ……いや待て。

 

 確かにこのバケーションは良い、海の上でのプロポーズ、割とありかも知れない、俺の尊敬するバツ2先輩も最初のプロポーズは海の上でやったと聞いた事がある。

 

 そしてそれは成功したとも聞いた事がある、夏は恋の季節というのも適当ではないのかもしれない、星之宮先生は独身だが異性と付き合った回数は多そうだ。

 

 星之宮先生なりの実体験を元にしたデータがあるのだとしたらバカに出来ない。

 

 

「……よし、偶には役に立つんだな星之宮先生」

 

「偶には余計よ!って、ありゃ?」

 

「プランを考えなければ……とりあえず部屋に戻って作戦を考えるぞ……!」

 

 

 ちきちき!プロポーズを成功させよう大作戦!必ずこの手で掴み取ろう……っ!青春をッ!

 

 俺はやるぞ!やるんだーーーッ!

 

 

 

 

「……うっそ〜〜?本気にしちゃった?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ分かっていたがただの豪華客船バカンスで終わるはずが無く。

 

 

「ではこれより、本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 

 という事らしい、Aクラスの担任である真島先生の説明を要約するしようか。

 

 一週間の間、八月七日の正午に終了となるこの試験の内容は無人ている島での集団生活を行い過ごすという事だ。

 

 スタート時点で各クラスにテントが二つ、懐中電灯を二つ、マッチを一袋……生理用品は置いておくとして、この支給だけで一週間の生活はまぁ無理だな。

 

 まぁそれをどうにかするのが試験専用の300ポイントであり、そのためのマニュアルだ、マニュアルに載っている物はポイントで買える、基本的なものは全て揃っているようだ。

 

 だが試験後に残っているポイントは全てクラスポイントに変換される、使い過ぎたらクラスポイントが増えるのは微々たる物になるだろう。

 

 はてさてBクラス、いや他のクラスもだが……この試験、最終的にどこまでポイントが残るだろうか。

 

 兎にも角にもまだ説明不足だ、思考を一度止め、説明があるだろう星之宮先生の話を聞くとしよう。

 

 俺個人としてはBクラス、というより一之瀬がAクラスを目指そうが構わないし、頼るならやれる事はするつもりだ。

 

 

 だがそう簡単に行くかな。

 

 

 

 この試験が開始する前、俺は一つの相談を受け、それとは別にもう一つ相談を受けた。

 

 俺はその二つの相談に対して意見を言った後に、ある程度は協力すると約束した。

 

 約束した以上、それを反故にする事は俺は絶対にしない。

 

 約束とは契約、契約とはつまり、執行しなければならないモノだ。

 

 

 俺はBクラスの味方だが、だからといって他クラス、Bクラス以外の生徒の敵である訳ではない。

 

 この試験は諸々の思想が絡み合う試験になる。

 

 

 果たして勝者が誰になるのか、一週間後が楽しみだ。

 




二巻よりは流石に長くなりそう、みんな大好き無人島回ですしおすし


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どうやら無人島パラダイスのようだ

しんやとうこうですっ!


 

 まずこの無人島試験について整理しよう。

 

 目指すべきは一週間、出来るだけ多くのポイントを入手した状態での試験終了、Aクラスを目指すならば撮るべき手段は基本的にこれだ。

 

 Aクラスを目指すだけでなく、毎月支給されるppを増やす目的だとしても上記の通りである。

 

 そして出来るだけ多くポイントを入手した状態で試験終了をするのなら、追加ルールである、島の各所にあるスポットを占有する必要があるだろう。

 

 占有する為の占有権の効力は8時間、スポットを一度占有するごとに1ポイントのボーナスを得れる。

 

 だがスポットを占有するには専用のキーカードが必要であり、キーカードを使用できるのはリーダーとなった人物に限定される。

 

 そして最終日の点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられる、よって多く占有すればそれ相応のリスクが付き纏うという事だ。

 

 言い当てられたら50ポイント失い、当てた側は50ポイント得る。つまり100のポイントの差が出るというハイリスクハイリターン。

 

 リーダー当ては自由、やっても良いしやらなくても良い、リーダーを当てられない様に、スポット占有は程々にしてもいい。

 

 総括すると。いかに効率よく、リーダーを悟られずスポットを占有し、そして他クラスのリーダーを見破るか。これが試験の鍵となるだろう。

 

 

 ……こんな所か。

 

 

「んーっ、どうしよっかみんな、何か意見あるかにゃ?」

 

「……なら俺から良いだろうか、先ずはスポットを探さないか?此処にずっといる訳にも行かない、探している間に意見をまとめて、見つけたらそこで議論するのはどうだろう」

 

「良いと思うけど、リーダーは決めとかない?」

 

「それとシャワーとかは必要だと思うんだけど〜」

 

「それを言うならトイレも必要だよ、流石にあの段ボールを使うのは嫌だなぁ」

 

「ワイトもそう思います」

 

「二度と墓地から出てくんな」

 

「アヒン!」

 

 ディエリストが居る?まじかよ、那珂ちゃんのファン辞めます。

 

 とまあそんな事はさておき、このままだと神崎の意見が流されそうだ、軌道修正するか。

 

「すとーっぷ!そういうのも含めて、神崎くんの言う通り先ずはスポットから探しにいこう!」

 

「賛成です帆波ちゃん!」

 

「おっけー一之瀬、それなら俺、ちょっと心当たりあるから先導していいか?」

 

「うんっ、任せたね柴田くん」

 

 ……するまでもなかったか、これは俺より一之瀬の方が向いている、舵取りが上手いと言うべきか?一度吐き出させた後に行動させる、なるほどこれなら不満は無い、こういう所は実にリーダーをしているな。

 

 にしても柴田がスポットに心当たりがあるとは幸先がいい、やはりと言うか……機転思考力……というより、判断力?が高い、直感に近いモノが魔法を使ってない俺と同じか一歩上か、下か。

 

 まーここは全部任せよっと、俺から言う事はとくになーし。

 

 

「……ねえ」

 

「ん、どうした姫野」

 

 

 そうしてBクラスが移動を始め、後方で付いて行っていると同じく後方から付いて行ってる姫野に話しかけられた。

 

 珍しいな?なんだろう、愛の告白?あいや待たれよ流石に浮かれ過ぎた、ていうかそれは俺がする予定だ。

 

「話に参加してなかったけど」

 

「……?」

 

「何か考えてないの?」

 

「ああ、なるほど」

 

 そう言うことか、話に参加してない俺を不思議と思ったんだな?いやでも、俺は本来こんなんだぞ、Aクラスには興味が無いから、こういう時は頼られない限りは黙ってる。

 

 まあ一之瀬が話を切り替えて居なかったら俺から切り替えたりとかはするつもりだったが、その必要もないからな。

 

 とはいえ、ある意味これは俺の意見が聞きたいってことなのだろうか、いずれにせよ姫野と話す口実になるなら話そう。

 

 

「あるにはあるが、今は別に良いと思った、一之瀬達に任せてる方が良い」

 

「あっそ。でもあんた、Aクラスに興味無さそうね」

 

「ん?言ってなかったか?ないぞ、姫野はあるのか?」

 

「どうだろ、言われれば、そうでもないかもね」

 

「そうか、似た者同士だな」

 

「……さいあく」

 

「何故だ、俺は嬉しいぞ姫野」

 

「私は嬉しくない」

 

「はっはっは、照れるな」

 

「照れてないし……都合良すぎ、あんたの耳」

 

「はて?」

 

 そうやりとりしていると、柴田がスポットを見つけたようだ。

 

 周りに木が多く、そして井戸がある……成る程な、これはあれか、たまたま見つけちゃった系か、だってほら、柴田びっくりしているし。

 

「えーっと……心当たりの場所此処じゃ無いけど、とりあえず、休憩がてらここで議論するか!」

 

「おっけいっ、それじゃあ第一回、無人島生活どうしようの議論、始めよー!」

 

 元気良く一之瀬はそう宣言した、AクラスやCクラス、Dクラスも今はスポット探しや話し合いで忙しいだろう、誰にも聞かれる心配はないな。

 

 さて____

 

 

「一之瀬、悪いがスポットを探しに行って良いか、見付けるのは早ければ早い方が良い、話し合った結果は後で聞く」

 

「えっ、うーん……でも、ここを占領するとは限らないよ?それにリーダーが居ないとスポットは使えないよ?」

 

「占有が出来ないだけだ、見つけるのはリーダーでなくても良い、それに一先ずの拠点を此処にするのは理由がある。井戸があるのは良い、水を確保したも同然だからな」

 

「待ってくれ倉上、この井戸の水が飲めるとは限らないぞ」

 

「水質汚染を危惧してるならそれは無いな、スポットとして活用出来る場所にわざわざある事を考えれば分かるだろ、神崎」

 

「倉上はリーダーにならなくて良いのん?」

 

「別に良い、それは任せる」

 

「でも勝手すぎない?倉上くん、そういう所多いよね、今はまだ何も決まってないし、色々決めてからじゃダメなの?」

 

「だめじゃないが今が一番良いタイミングだ、情報のアドバンテージは大事だ」

 

「待って、一人で行く理由は何?」

 

 とまあBクラスの皆んなに色々言われたのだが……まさか姫野にも質問攻めされるとは、今日の姫野は何かと俺と話してくれるな。

 

 _______その時、俺の脳裏に電流走る。

 

 誘うなら絶好のタイミング……!ここだっッ!

 

 

「いや特に一人で行く理由はない、という事で姫野、一緒に行こう」

 

「は?」

 

「賛成します、二人で行くなら私は問題無いと思います」

 

 そう言って俺の方にアイコンタクトを送る白波、おまえ____!やるじゃないか!この試験が終わったら好きなだけ豪華客船の料理を振る舞ってやるぞッ!

 

「まぁそれなら、姫野さん、倉上のこと頼んだよー」

 

「倉上くん一人なら不安だけど姫野さんと行くなら、私もオッケー」

 

「意義なーし、爆発しろ

 

「えぇ……皆んながいいなら、まあ、いいのかにゃあ?」

 

「まって……!行くなんて言って」

 

「さあ行こう気が変わらない内に行こう今すぐ行こう」

 

 

 姫野なら着いて来てくれるだろうし、時間は有限だ、そこそこ速度でスポット巡りを始めるか。

 

 それと同時に違和感と疑問を解消出来れば良いのだが、まあ最もその一つはこの出来過ぎた(・・・・・)スポットを見て解消したが。

 

 

「____っ、ああもう……っ、一之瀬!」

 

「うにゃ?!は、ひゃい」

 

「あのばかと戻るまでに色々決めて、分かった?!」

 

「う、うん、頑張るねっ姫野ちゃん」

 

「ちゃん付けしないで、後それから……あのバカが言わないから私から言うけど、リーダーは一之瀬、あんた以外にして」

 

「ふぇ、えっと、なんで?」

 

「……自分で考えて」

 

「あ、まってまって姫野ちゃん!」

 

「うっさい、それじゃ行くから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 やや離れて姫野を待っていると、予想よりも少し遅くやって来た、様子から見て小走りで来たようだ。心なしか少し、いやそこそこ怒っているように見えるが気のせいだろう。

 

 ……気のせいだよな?

 

 

「はぁっ……ああもう、柄じゃないことしたし……」

 

「ん、一之瀬に何か言ったのか?」

 

「リーダー決めの事」

 

「姫野が言いそうな事といえば、一之瀬以外にリーダーを任せるようにしたか?」

 

「だったら何」

 

「いや、ただ珍しいと思っただけだ」

 

「あんたが言わないからでしょ……」

 

 ジト目で目を合わしてそう言われる……ふむ。

 

 やっぱり姫野は何だかんでBクラス全体を見ている、そして思考力も高い、四ヶ月ほぼ毎日話して関わっているから流石に姫野の事は多少なりと分かったつもりでいる。

 

 その上で言うなら、当初の想像通り、姫野は極力、思う事があっても面倒だから言葉に出さない、そんなタイプだ。

 

 だからこそそのイメージとは少し離れた行動をした理由までは解らないな、とても気になる、クラス争いにもそこまで興味がないなら尚更、自分の意見を発言しないと思うのだが。

 

 

「ねえ、何か隠してる?」

 

「隠してると言えばまぁ否定しないが、それより移動しよう」

 

 俺はそう言って歩き出す、すぐ隣で姫野も着いて来てくれてるのを確認して心なしか気持ちが弾む。

 

 走る必要は無いだろう、少しでも長く姫野と二人きりの無人島デートを楽しむ理由が7割近いが、そうでなくても、今から行動するなら走る必要は無い。

 

 さて、スポット巡りとは言ったがそれは半分正解で、正確に言うならスポット巡り+各クラスのリーダーを予測する為の情報集めだ。

 

 あわよくばスポットを占有している所を目撃したいが、どうだが。

 

 

「隠してる事知りたいか?」

 

「別に、言いたく無いならいい」

 

「わかった、結論から言えば俺は今回Aクラスのリーダーを当てる動きをする」

 

「……あっそ、自信あるの?」

 

「今後次第だが、俺だけで無理そうならCクラス、というより龍園と手を組む、そうすればAクラスがこの試験でトップに立つ事は無い」

 

「何それ、なんで龍園?」

 

「今一番高いクラスポイントを持っているのは当然Aクラス、Cクラスとのポイントの差を考えれば、一個上のBクラスよりもAクラスの方が攻撃の優先度が高い」

 

「何で?」

 

「目標がAクラスなら、Aクラスとのポイント差を縮めた方が近づく。それに此処でAクラスのポイントを減らさないと、500近いポイントの差は中々埋まらない」

 

 ……まぁ最も、短期でAクラスに行くなら話は別になるが、どうもあの男はそれを理解した上で、実践するとは思えない。

 

 自らをCクラスの王と名乗ることと、龍園の性格を考えた上でだが、まぁこれは良い、根拠も乏しい半ば妄想だ、自信があるわけでも無いし、これを明確にしたとしてだからどうしたという話だからな。

 

 

「____っと、ここはスポットか……姫野、紙はあるか?地図を描いた経験は?」

 

「どっちもない、何?描けって?」

 

「無いなら良い、ここは今Bクラスが居る場所とそう遠くないし、記憶していれば問題無いか」

 

 ミスったな、時間を気にする余り紙を用意し忘れた、まぁそれをするならポイントを使う必要があったので、どのみちか。

 

 見るからに畑、掘って一つ取ってみるが……成る程、芋か、これは中々良い。

 

「ちょ……勝手に取って良かったの?」

 

「スポットが占領されていたなら問題だが、占領されてないなら別だ、取っても問題は無いない」

 

「……例えば、全部取ってここを荒らした後に占領されても、占領される前から荒らしてるから、ポイントは減らない?」

 

「鋭いな姫野、多分そうだが……推奨しないぞ、単純にこれを全部取る苦労に合わない」

 

「別に、言ってみただけ」

 

「気付いた事は言っていこう……次に行くか」

 

 まぁ、火を付けるなら別だが。

 

 学園的にそれはNG行為だろうし。あぁだけど、ルール的にはグレーゾーンなのか?検証してみたいがそれでBクラスが警戒されるのは俺の本意じゃ無いし、この思考は辞めておこう。

 

 次行くところは少し思うところがあったところだ、これはスポットとして使えるか微妙だが、豪華客船に乗っている時に気付けたのだから、他の人物が気付いた可能性は高い。

 

 運次第だが____さてどうかな。

 

 

「……洞窟?」

 

 そう呟いて洞窟を確認しようと踏み出そうとして、俺より前に歩こうとしていた姫野の腕を掴んで引いて物陰に隠れる。

 

 引かれた事に驚いた姫野は抗議の顔をしてこっちを見たが、直ぐに俺の行動を理解して、目で「腕を離して」と言ったように思えた。

 

 ……名残惜しいけど仕方ない、俺は腕を離して、改めて状況を確認し、観察する。

 

 

 観察して気付く。

 

 微かだが、俺と同じように隠れている人間がいる、誰かまでは分からないし、人数も特定できないが……一人か二人?俺と姫野が気づかれてるかまではわからないな。

 

 ただまあ、今はいい、それより洞窟から出てきた男子高校生だ。

 

 一人目の男子高校生については特徴、人相共に該当なし、だがもう一人の、あのスキンヘッドの男は知っている、坂柳から聞いた。Aクラスのリーダーの内の一人、葛城康平だ。

 

 ツイてるな……あの手に持ってるのは、キーカードか?幸先が良い、Aクラスのリーダー当ての難易度が急激に下がった、やはりこのタイミングで自由行動して良かった。

 

 

 ____さて、どうする?

 

 

 このままあの二人が去るまでここで大人しくする、或いは知れる事は知れたので気付かれる前に迅速に去る。

 

 色々有る、魔法を使うならそれこそ無限大だが、今回魔法は使わない、この試験で使ってはいけない。

 

 ていうか使えないんだよねてへぺろ☆八月一日に使っちゃってるし、あれ月一の制約に含まれてますしおすし。

 

 だから今回の試験は本当の意味で、俺は魔法を使わないで乗り越えないといけないって事だ。

 

 この事に俺は少しだけわくわくしている、過去無人島を魔法修行として経験したことがある身としてはこの島は少し、物足りないが、それでも高揚は隠せない。

 

 

 いっそここは打って出るか____?

 

 そう思うのと、姫野が俺の裾を軽く掴んだのは同時だった。

 

 じとーっとした目が俺を覗く……その目に吸い込まれそうになるのを抑えて、何を言おうとしているのかを考える。

 

 多分、何もするなって言っている、余計なことをして自分が巻き込まれるのが嫌なのだろうか?巻き込むつもりはないから杞憂だが、まぁ、俺たち以外の目もあるのなら、ここは大人しくするのが吉か。

 

「お喋りはここまでだ。いくぞ弥彦」

 

 その言葉が聞こえ、足音が遠くなっていき、やがて聞こえなくなる。俺たち以外に隠れているであろう気配はまだある。

 

 ……ふと姫野の方を見てみると、さっさと離れたそうにしているし、俺から離れるか。

 

 さて、ここに居たもう一つの二人組か、単独の生徒は誰だったのだろうか?Bクラスでないのは確定、CクラスかDクラスか。

 

 どちらにせよ……得るものは得た。

 

 

 一つ目の相談の約束は果たせそうだ。

 

 さて……最初にBクラスが見つけたスポットの方に戻りつつ、もう少し姫野と無人島デートを楽しむか。

 




感想まってるゼ!


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どうやら早くも二日目のようだ

つづきどーぞ


 

 話は少し遡る。

 

 

 7月30日、あと残り数日で八月に突入する日に俺は放課後、一人の女子生徒に呼び出された。

 

 呼び出されたからと言って行く理由は特にないが、断る理由の方も無いので、まぁこれも青春かと素直に待ち合わせの場所に向かう事にする。

 

 洒落た店内、その中にある完全個室の一室、そこに入ると、既に俺を呼んだ少女は座っており、その隣で面識の無い女子生徒が座っていた。

 

「お待ちしておりました、倉上くん、どうぞ座ってください」

 

「ああ、それで早速だが要件はなんだ?」

 

「ふふっ、その前に少し、お話ししませんか?私の隣の“お友達”もご紹介したいですし」

 

 お友達ねぇ……様子から見るに、純粋な友達って訳ではなさそうだ、なんか弱みでも握ってるのだろうか、まぁ別に関係無いからいいか。

 

「神室真澄……よろしく」

 

 と言ってそれきり口を閉ざした、どう考えてもよろしくする気が無いが、まあ俺もそこまで興味はない。

 

 にしても美少女だな、俺の脳内フィルターが魔法でやられてなければ、この学園にはほぼ全ての女子生徒が容姿に優れているのだが何事だ。

 

 まあいいや、可愛くないより可愛い方がテンション上がるし。

 

 

「CクラスとDクラスとの決着は少し予想外でした、Dクラスにも面白い方が居るかも知れませんね」

 

「かもな、俺としては少し物足りない結果だったが」

 

「理由を聞いても?」

 

「重箱の隅をつつけばCクラスをもう少し追い詰められた、まぁ最も、Cクラスがそれをされてただ黙ってる訳では無いだろうがな」

 

「龍園くんは中々、ユニークな考え方をしますからね?」

 

 

 訴えを取り下げた後、別の事件を作る、そうしてCクラスと再度争う……綾小路がもう少し積極的に表に立っていたらそうしても良かった、だが綾小路はそれをしなかった、最も本当に不味い犯罪事件が起きたのだから、それをする時間が無かったのもあるかもしれないが。

 

 綾小路の考えが少しだけわかる、恐らくだが、Dクラスを成長させていこうとしているのだろう、だが表立ってリーダーをしないのは効率が悪い気がする、何か理由があるのか?

 

 まあ過ぎた話はこの際考えないようにしよう。

 

 

「倉上くんにはお願いしたい事があります」

 

「聞くだけ聞いてみようか」

 

「ふふっ、ありがとうございます……近日中、特別試験がある噂を聞きました、豪華客船でのバカンスみたいですよ?」

 

 まじ?

 

 そういえば星之宮先生が夏は島でのパカンスよ〜!みたいなこと言っていた気がする、成る程ね。特別試験……無人島でも行かされるのか?

 

 しかしそれで、俺に何して欲しいのか全く読めないな。

 

「そこで起きる試験で、Aクラス……正確には、私と別の派閥のリーダー、葛城くんを窮地に立たせて欲しいのです」

 

「ふむ、訳は?」

 

「リーダーは二人も要らないでしょう?」

 

 そう言ってくすくすと笑った後に紅茶を飲む様は実に絵になる、しかしそうか、坂柳はAクラスのリーダーになりたいらしい。

 

 いやもうなっているのか?それで、もう一人のリーダーが邪魔だから排除したいのか、中々独善的だな。協力し合えばいいと思うのだが、見るからにプライドが高いタイプの天才だし、自分一人がリーダーじゃないと落ち着かないのだろうかね。

 

 さてどうするか。

 

 Aクラスを攻撃する、つまりはBクラスにとっての理でもある。現時点でAクラスは唯一、四桁のクラスポイントを保持している、正直いえば一強だ。

 

 このポイントのアドバンテージを失ってまでも自分の派閥を増やすような動きを取るというのは中々、先を見据えているな。

 

 

「報酬は?」

 

「倉上くんが何をしようと、私達の派閥は何もしません、それどころか協力もしますよ、足りませんか?」

 

「足りないな、俺はクラス同士の争いに左程興味が無い、明確に提示できるモノが無いなら葛城という男を攻撃する理由にならない」

 

 

 そういうと神室と名乗った女子生徒は少し驚いた様子で見つめてくる、Aクラスの特権に興味の無い無い生徒に会ったのは初めてか?結構いるけどな、特に俺が一番仲良いと思ってるDクラスの友達はそれに当てはまるし。

 

「Bクラスはそれでいいわけ?」

 

「さぁ?俺は俺だしな」

 

「呆れた、そんな心構えでこの先やっていけると思ってるの?」

 

「挑発して俺から言質を取ろうとするならもう少し攻め口を変えた方が良い」

 

 この言葉に坂柳の表情が一瞬だけ変わった気がする、早過ぎて錯覚かと思ったが、これは多分、前以て指示されてたか?

 

 それを悟られないような話の切り出し方はなるほど、この神室という女子生徒は芝居が上手そうだ、案外女優とか向いてるんじゃ無いだろうか?

 

「分かっていましたが、倉上くんを都合良くは動かせなさそうです……」

 

「それで?俺を試すのは終わっただろう、俺に何を報酬としてその依頼を受けさせる?」

 

 

 坂柳有栖、今度は俺がお前を試す番だ。

 

 

 俺の求めてる青春とは少し逸れるが、まだまだ高校生、成熟し切った天才達との会話は何度かしてきたが、天才の卵と交渉するのは俺が記憶している限り、これが初めてだ。

 

 その天才性は、魔法使いとして30年以上生きてきた俺をどこまで楽しませてくれる?

 

 

「20万プライベートポイントはどうでしょう?」

 

「待って坂柳、それは幾らなんでも多過ぎでしょ」

 

「決して多過ぎではありませんよ神室さん、それで倉上くん、返答は?」

 

「俺はポイントに困ってない、よって拒否しよう」

 

「今後Bクラスが何かあれば、どのような事でも一度……いえ、二度協力すると言うのはどうでしょう」

 

「それを交渉として使うなら、俺ではなく一之瀬にするべきだな」

 

「では一度だけ何でも言うことを聞く権利というのは?」

 

「それを受けるとして、その発言に責任は持てるか?生殺与奪を俺に渡すことと同じだぞ」

 

「おや、私にひどいことをしたいのですか?」

 

「俺が四月最初に一目惚れしたのが坂柳だったならあり得たかもな」

 

「それはそれは……好意的に捉えるとしましょう」

 

 そう言って紅茶を飲んだあと、坂柳は悲しそうな表情をした、そこに嘘も偽りもない、本当に悲しんでいる表情に見える(・・・)

 

「……意地悪ですね、倉上くん」

 

「そうでもないぞ」

 

「倉上くんは私のお願いを全然聞いてくれませんね……?」

 

「聞くさ、俺が満足する報酬をくれるならな」

 

「倉上くんが私のお願いを聞いてくれるなら、私、倉上くんの言うことを聞くと言っているのに、それもだめ。悲しいです……」

 

「それは申し訳ないな」

 

「私で満足出来ないなら、神室さんはどうですか?」

 

「ちょっと、嘘でしょ坂柳……!」

 

「論外」

 

「それはそれでムカつくんだけど……」

 

 

 泣き落としで俺が動揺しないのを理解したのか、直ぐに表情が元に戻った、やはり演技だったか、素晴らしい表情の作り方だ、自分の容姿を理解してなければ、あれだけ真に迫る顔は作れない。

 

 俺という人間の習性、行動。原動力を理解出来るなら俺が欲しい答えはすぐに解る、それに対するヒントは既に坂柳は知っている筈だ。

 

 先ずはそれに気付けるか、ここまでは茶番のようなもの、坂柳が俺に対して自分の実力の一部を見せているだけだ。

 

 

「……所で、前回のお話の時の宿題について、今答えてもよろしいでしょうか?」

 

「聞こうか」

 

「未知を既知として理解する。私にとっての未知とは何か考えました、この世で私がまだ知らないこと、宇宙や、生命について、そう言ったものについてです。でもこれは、倉上くんが求めてる答えでは無いと判断しました」

 

「それで?」

 

「倉上くんが私に求めてる答えを考えても、私は核心まで至れませんでした。その上で私は倉上くんの宿題に対してこう答えます」

 

 

「私にとっての未知は、倉上くんが私に求めている答えそのものである、と」

 

 

 

 なるほど。

 

 

 面白い解釈だ。

 

 

 未知を既知として理解する、これに対する俺の答えは「魔法が存在すると理解する」ということだ、俺にとっては未知でもなんでもないが、魔法使いではない人間から見れば、これほど未知に満ち溢れているものはない。

 

 化学では説明の付かない超常的現象、その最たるモノだと魔法を使った俺を既知として理解した天才の一人はそう解釈した。

 

 合気道を極めた天才は魔法を見ても一切動揺しなかった、超常的現象を自らも起こせる程に合気道を極めたからこそ、瞬時に未知を既知に出来た。

 

 俺を二度、窮地に立たせた天才である男は、自らに起きる怪奇現象、超常的現象に対して自らの手で暴き出した、魔法を魔法として理解する、これが出来た人間は今の所あの男しか居ない。

 

 

 そして今目の前の少女は、俺の答えそのものが未知であると解釈した、ある意味これは正解で、そして不正解ではある、だが、その発言に生まれ持った天才である証を俺は感じた。

 

 

 ここで俺が魔法を使えば、この少女はどう解釈する?

 

 

 興味がある。

 

 

 だがそれを確かめるのは無粋だ。

 

 

 一先ず、俺はその答えに満足したのだから。

 

 

 

「私のお願い、聞いてくれますか?」

 

 

「改めて聞こうか坂柳、俺に何をして欲しい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人島生活二日目。

 

 朝起きた俺はまだ寝ているクラスメイトを起こさないように静かにテントから出た後に、はてさて今日はどうするか、井戸の水で顔を洗った後に現状を整理した。

 

 

 結論から言って、Bクラスは井戸のあるここをベースキャンプにする事を決めた、何人かのアウトドアに知識のある生徒が主体となって暮らしやすい様にしていく様だ。

 

 このベースキャンプから近くにある俺の見つけたスポットと、もう一つ神崎が見つけたスポットを占有しつつ、基本的に他クラスの偵察などは最低限、確証が無い限りはリーダー当てに参加しないという事を一之瀬は決めた。

 

 悪くは無い手だ、リーダーを白波にしたのは、俺としては少し不安だが、あほ娘なので。

 

 まぁ占有の際は十数人で動いて、誰が占領したかわからない様にするとの事なので、余程人間観察の得意な人物じゃなければ見抜けないだろうけど。

 

 俺と姫野が拠点に戻って大きな問題はやはり、Cクラスから流れてきた一人の男子生徒だった。

 

 明らかに暴行の跡があり、本人曰くCクラスと揉めた際、龍園に殴られたと言っていた、殴られた事は事実だろう、その痕は誤魔化せない。

 

 一之瀬なら疑いながらもほっとけないと言ってBクラスに囲うと思っていた。

 

 Cクラスの男子生徒が一人で過ごすと言った時に、一之瀬は明らかに何か言いたそうにしていた。

 

 それでも一之瀬はそのCクラスの生徒がBクラスの拠点から離れて、姿が見えなくなるまで声を掛けなかった。

 

 

「……どうしても金田くんがスパイかもしれないって思うと、ね。龍園くんなら、こういうことやって来そうなんだ」

 

 

 少し暗い表情でそう言った一之瀬の判断は正しい、善性の塊であるとはいえ、一度龍園と表立って争う一歩手前まで行った経験がここに来て警報を鳴らしていたのだろう。

 

 これを成長と捉えるには少し、一之瀬の人物像と比例しない、如何に危険性があろうと一之瀬帆波という人物は、怪我を負った生徒をそのままにするとは思えない。

 

 Cクラスを危険と見てるのか、Bクラスを守りたいのか、Aクラスに上がりたいのか、どれも有りそうだ。

 

 有りそうだからこそ掴めない、魔法の使わない俺の眼は30年の人生経験以上の事は解らない、30年の人生を長いか短いかどう捉えるかは人によるが、あくまで“魔法使いとして”に限る。

 

 魔法使いとしての人間観察で見通せないならこれ以上はお手上げだ。

 

 

 これ以上の思考は無駄になるから、これはもういい。

 

 一通り整理し終えると、テントからBクラスの面々が現れた、神崎が俺の方の近づいてくる。

 

「おはよう倉上、寝起きが良いな」

 

「無人島は初めてじゃないからな」

 

「そうか……気にはなるが今話す話題でもないか、それより、今日は何をするつもりだ?」

 

「その言い方だと、まるで俺が何かするんじゃないかと言ってるように聞こえるな」

 

「その通りだ、信用していないわけじゃないが、お前はどうも、掴み所が無いからな」

 

 そう言ってフッと笑う、こ、こいつ……顔が良いからって……っ!

 

 一日目である程度欲しい情報は得れたし、今日はBクラスの手伝いをしようと思っていたが……そうだな。

 

 ここは神崎に選ばせよう、俺をどう扱う?

 

「選択肢は何点かあるが、悩んでいる。俺の行動をお前が決めて良いぞ、神崎」

 

「倉上が何をしたいのかの内容によるな、聞かせてくれないか?」

 

「Cクラスへ接触するか、Bクラスで手伝いをするか、俺からの選択肢はこれだ」

 

「Cクラスに接触してどうするつもりだ?」

 

「行ってから決めよう、最も何処のスポットにいるかは解らないがな」

 

「……倉上。お前を信用している上で言う、Cクラスの動向を見てきてくれ」

 

 

 なるほど。

 

 

「そうか、諸々が終わったらBクラスの手伝いを始めるとしよう」

 

「そうしてくれ、俺は昨日探索不足だった方を軽く見た後に一之瀬の手伝いを始める」

 

「わかった、それじゃあな」

 

 

 さてはて、情報も無しにCクラスが何処にいるかを推察するのは難しいが、龍園翔という人物像を考えれば何点かは候補が上がる。

 

 半ば直感のようなものだが、どうだろうか。

 

 

 少し考え、俺は昨日と違って単独で行くことにした。

 




ランキング乗ってたみたいじゃーんいえーい。
多分明日は上げない(暇でない)ままえやろ、ほな寝ます(不健康)


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どうやら俺より青春しているようだ

GW終わるなもっと流行れ


 

 森を抜け、そこから見える浜辺には大勢のCクラスの生徒がいた。

 

 仮設トイレやシャワー室、日光対策のターフやバーベキューセットにチェアーやパラソルなど、娯楽に必要なありとあらゆる設備が備えられていた。

 

 肉を焦がす煙と笑い声、沖合では水上バイクが駆け抜け、海を満喫する生徒が悲鳴を上げながら楽しんでいる。

 

 

 その様子を見て、俺は敗北感を味わった。

 

 

 こいつら誰よりも青春してんじゃねえか!!!!

 

 

 は?こんな青春過ぎるでしょ、おいマジかマジですか、龍園翔___きさまッ、やりやがったな!

 

 俺が相談事を受けてなかったらまず真っ先にBクラスに提案していたであろう思考を、きさま!

 

 ちくしょう、どうしようもなく悔しい、これが特別試験とかそう言うの抜きにしたらここにいたのは俺と姫野かもしれなかったのに……っ!

 

 その時、突然脳内に溢れ出した。俺と姫野がきゃっきゃうふふする存在しない記憶。

 

 

 龍園、今回の特別試験、俺はお前に青春ポイントの差ではっきりと負けたと断言しよう。

 

 俺はお前がここまでやるやつ(・・・・)だと思わなかった……!

 

 そんな感じで呆然と見ていたら、一人の生徒が俺に近づいてきた。

 

「あの、龍園さんがお呼びです」

 

「わかった」

 

 俺は二つ返事でその生徒について行く事にした、水着姿でチェアーに寝そべり肌を焼き、グラサンを付けた龍園がそこにはいた。

 

 龍園はグラサンを外し、俺を見てにやりとしたり顔で挑発するように見つめてきた。

 

「よう倉上、驚いたか?」

 

「正直に言って俺も混ざりたい」

 

「はっ、他の奴なら良いがてめぇは歓迎しねェな、何されるかわかったもんじゃねえ」

 

「……まあわかってはいたさ」

 

 

 かなり落ち込んだが、まぁ、まあいい、もう青春力では負け濃厚だが、俺は俺で青春ポイントを稼ぐ当てはあるのだ、いや。見方によってはこれは一大イベント、青春どころか人生にも左右する。

 

 そうだ、そう考えれば俺はまだ龍園に負けていない、いやむしろ勝ってすらいる、この男に恋愛イベントはまぁまずあり得ない……有り得ないよな?

 

 いや、特定の女の子はこういう男に弱い、しかも割とすぐそういう関係になりやがる、でも待て落ち着け、だからどうした、こいつが誰と付き合おうと、俺が付き合えば勝ちだ。

 

 ……なんだか混乱してる気がする、思考を一時中断しよう。

 

「それで?何故来た?偵察か?」

 

「そう言われれば、そうだな」

 

「で?何か得れたかよ、アホ面」

 

「羨ましいぐらいだな。そういえばCクラスの……金田だったか?随分手荒いじゃないか」

 

「あぁ?ああ、躾のなってなかったからな、なんだ?Bクラスにでも転がり込んだか?」

 

「案外一人で過ごすと聞かなくてな」

 

「ははっ、そりゃあザンネン(・・・・)だな」

 

 俺は龍園から視線を外して改めてCクラスの様子を見渡す。

 

 これだけのポイントの消費だ、今日か明日か、数日でこのバカンスは終わるだろう。好きなだけ楽しんで、後はなにかと理由をつけてリタイア。客船に戻って終了。

 

 そんなところか、だがそれで終わるほどCクラスの王を名乗る男は京楽に生きていないだろう、何かしら行動はするだろうな。

 

 さて、何をしてくるんだか____と考えていると、二人の男女が近づいて来た、片方はどこかで見たことがあるかもしれない、もう片方は何を隠そう、俺の友人だ。

 

 綾小路は俺の存在に少し目を見開いた、すると龍園が口を開く。

 

「よう。こそこそ嗅ぎまわってると思ったらお前だったか。俺に何か用か?」

 

「随分と羽振りが良いわね。相当楽しんでいるようだけど」

 

「見ての通りだ、俺たちは夏のバカンスって奴を楽しんでるのさ」

 

「倉上くん、あなたはBクラスの人ではなかったかしら、何故ここにいるの?」

 

「その前におまえは誰だ、名を名乗れ」

 

「……」

 

「あ?なんだ、知らねえのか倉上?意外だなぁ、俺から教えてやるよ、こいつは」

 

「堀北鈴音よ」

 

「ん?……ああ、思い出したぞ、反抗期の黒髪か」

 

「あぁ?ハハッ、なんだそりゃ、おいおい気になるじゃねえか」

 

「……不愉快ね、貴方も倉上くんも」

 

 

 いやいや仕方ないだろ、記憶にねーんだもん。

 

 しかし龍園、この堀北鈴音とやらが来てから随分テンション上がってんな、何?こう言うタイプが好みなん?いやまあそれにどうこうは言わないけど。

 

 もしかしてMなん?嘘だろ、その風貌で?俺のこと笑わせに来てる?だとしたら相当ギャグセンス高いな、こいつ。

 

 俺は今、龍園の新しい一面を垣間見たのかもしれない。

 

 

「……まさかとは思うけれど、BクラスとCクラスは協力し合っている、とは言わないわよね?」

 

「はっ、有り得ねぇな、それの何処にメリットがある?もう少し考えて発言することだな、鈴音」

 

「気安く私の名前を言わないで貰えないかしら、不快よ」

 

「そうだぞ龍園、距離の詰め方を間違えたら叶う恋も叶わないぞ」

 

「わかってねえな倉上、強気な女には強引に行く方が良いんだよ」

 

「ダメだな、よしんば付き合えたとして半年程度で解消されるのがオチだ」

 

「てめぇの技量がそこまでだって事だ、倉上」

 

「なるほどお前は俺を見くびっている、この試験が終わったらナンパ勝負でもするか?負けるつもりは無い」

 

「馬鹿かテメェ、どうして俺の勝ちが約束されてる戦いを挑んできやがる?」

 

「綾小路くん、今すぐこの二人の口を縫い合わせて貰えないかしら」

 

「無茶言うなよ……」

 

 そういって明らかに「オレ無害です」アピールする綾小路、おまえなら出来そうだけどな、まぁ俺はともかく、龍園にはあんまり目をつけられたくはなさそうだ。

 

 最も龍園は俺と堀北との会話に夢中で、綾小路は眼中に無さそうだが。

 

 

「いいわ、戻りましょう綾小路くん。ここに居ても気分が悪くなるだけよ」

 

「待て堀北とやら、そっちにCクラスの男子生徒が行かなかったか?」

 

「……いえ、ただ女子生徒は来たわ、あなた、伊吹さんは知ってるわね?」

 

 そう言って堀北は龍園を睨みつけて問いただす、なるほどな、DクラスにはDクラスでもう一人、別のCクラスの生徒が行ったか。

 

 BクラスにもCクラスにも一人ずつ、成程な、これは一之瀬の直感はほとんど正しかったと言って良いだろう、十中八九……ただ、それをDクラス、というより綾小路が気付かない筈がないが。

 

 まあ、綾小路には綾小路なりの思考があると言われればそうだろうから、俺から何か言う事もないか?

 

「伊吹がお前らのところにいるならさっさと追い出したほうがいいぜ。耐えられなくなればココに帰ってくる。土下座でもすれば許してやるさ。寛大な心で」

 

「短絡的な思考ね。今はポイントの恩恵を受けているだけ。豪遊しきった後はどうするつもり?その後で食料を集めようと思っても苦労するだけよ」

 

 

 ……?

 

 まさかと思うが、この堀北という女子高校生は気付いていないのか?

 

 どう考えてもこの豪遊が終わった後にこの無人島に止まっているわけが無いんだが?ちらっと綾小路の方を見てみるが、その無機質に近い瞳は俺の視線に反応を示さない。

 

 読めないな、しかしそうか。綾小路と一緒にいると言うことは、綾小路が共に行動する何かがこの堀北鈴音にはある筈だ。

 

 綾小路はこの少女に何を見出したのだろうか、はてさて。

 

 堀北が龍園に背を向けて去ろうとし、それを追って綾小路が去ろうとする。

 

 その前に一言伝えるために、綾小路が振り向いて桟橋に停泊した客船を見たタイミングで近づいて、綾小路に声をかける。

 

「四回目に客船で食べた林檎のフルーツは美味しかったな、綾小路」

 

「そうだな。夜には限定のメニューがあるらしいぞ」

 

「特別試験が終わったら食べに行くか」

 

「ああ、じゃあな倉上」

 

 綾小路は今度こそ少し小走りで堀北を追いかけてCクラスの拠点から去っていた。

 

 

 ____さて。

 

 

「なんだ?あの腰巾着とお友達ってか?」

 

「そうだな。それより龍園、おそらく。俺とお前で今回の試験に共通の認識がある筈だ」

 

「あ?んなもんねぇよ」

 

「お前がするなら俺はそれを邪魔しない、好きなだけするといい」

 

「何言ってっかわかんねぇな」

 

「ただ、お前が失敗するなら俺が掠め取るぞ」

 

「……くくっ、そうかよ。ならてめぇもせいぜい気を付けな、蛇は神出鬼没だからな」

 

「知ってるか龍園、蛇は天敵が多いんだ」

 

 大胆不敵に笑う龍園に背を向ける、確かにお前は神出鬼没だ、今回の特別試験で俺と争うのか、それとも争わないのか、少なくともその時が訪れるまで俺は断言する事が出来ない。

 

 気付いた時には既に毒の牙を立てている、そういうやり方を実に好みそうだ、ただどうやら、お前の矛先は既に定めているらしい。

 

 それを確認出来た事で俺は自らの行動にゆとりが出来る、そこを狙ってきそうなものだが、どう出る?良いぞ、その遊びには乗れる。

 

 まだ二日目、始まったばっかだ、言わばこれは準備期間、その間にどれだけ行動できるか。

 

 アクション。この試験でどれだけ有利に進められるかは、偏に行動力だろうか。

 

 まあ最も、誰よりも行動したものが勝てるかどうかは、最後までわからないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「倉上くんっ!堀北さんに失礼な事言ったでしょ」

 

「誤解だ」

 

「今日一日重いもの運ぶ刑です!わかった?」

 

「嘘だろ」

 

 

 一之瀬に怒られた、これで二回目か三回目なんだが、このやりとりも慣れてきた。

 

 いや、慣れたくない、何が悲しくて実年齢13、4離れた女子高校生に怒られなければならないのか、確かに少しばかり非は認めても良いかもしれないが。

 

 嘘である、絶対俺のせいじゃない、どう考えても愛想の無い女子の方が悪い。どう考えてもデレが無さそうなあの黒髪の女子が悪い、俺は悪くない。

 

 ……いや特定の男子にはデレそうだが、その特定は俺では無さそう、別にそんなイベントは求めてないので良いのだが、姫野一筋なのでね☆

 

 まあ、甘んじて受けようではないか、こんな事もあろうかと入学前にそこそこ鍛え用意した筋肉をここで使わないでどうする……ッ!

 

 さぁ、俺に指示を寄越せ____一之瀬ッ!

 

 

「あ、じゃあ倉上くん、こっち手伝ってください」

 

「……はあ」

 

「ため息?!」

 

 

 何が悲しくて白波に顎で使われなければならないのか、魔法使いは悲しんだ。

 

 いっそ魔法で豪邸でも建てようか、俺は建築士ではないが一級建築士並みの豪邸を建てることが出来るぞ、具体的には再現魔法を使う、これは俺が見た事のある物体、現象を再現し、そこに存在させる魔法だ。

 

 過去俺はこの魔法を使って何かとケリたがるスイーツ系お姫様の豪邸を建てたことがある、いやあ思い出すとあのケリ技は魔法染みていた、いやもう魔法だろあれ。

 

 なんか知らんけどドラゴンみたいなのも現れたし、一瞬異世界に飛ばされてたのかと思ったぞ。

 

 まぁそんな話は良いだろう、今月魔法使えねーし。

 

「所で進捗どうですか?」

 

「この特別試験中は無理そうだ」

 

「ヘタレ?」

 

「は?」

 

「嘘です嘘です、その握り拳を収めましょう倉上くん」

 

「はて、なんのことやら」

 

 そういうと逃げるようにどっかに行った、まるで兎だな、まぁ実際の兎は凶暴だったが、そう考えると全然兎じゃねえな。あれはもうそういう一種の動物かもしれん。

 

 しかしまあ、気に入ってはいる。30年間、あのタイプとは関わることはなかった、意外にも話の相性がいい、星之宮先生と似た感じだ、より俺の、魔法使いとして歩んだ人生とは違う、“あったはず”の自意識を引き出してくれているように思える。

 

 そう考えれば、この高等学校で作ることの出来た友達(・・)は俺にプラスとして左右していると言っていい。

 

 Aクラス、Cクラス、おそらくDクラスにも無い、この独特の雰囲気は一之瀬による尽力が多いが、それを抜きにしても人格者の多い生徒が集まった結果、相乗効果として魔法使いである俺にも影響を与える程だ。

 

 この先次第だがこのBクラス______

 

 

 そこまで考えた後に軽く笑った。

 

 

「……何笑ってんの」

 

「おお姫野、何でもない。何かようか?」

 

「あれ、やって」

 

「任せろ」

 

 

 うおおぉぉぉお!俺は馬車馬魔法使いライダーだぜ!ヒュイGO!!!

 

「倉上くん!今です!」

 

「秘技____光魔法、かっこいいポーズ!」

 

 説明しよう!光魔法かっこいいポーズとは、光魔法の代表的な魔法で、少年誌の表紙を飾れる程かっこいい(?)ポーズを取りながら空中に浮かび、光を放ち、魔物の動きを封じる技である!

 

 なお魔法を使っていないのでただのかっこいいポーズである!

 

 

「きゃー!倉上くん、全然かっこよくないですね!」

 

「本当にかっこよくねえな!」

 

「ダサ過ぎて逆に……いや無いわ」

 

「倉上くん楽しんでるなあ〜かっこよく無いけど」

 

「ひどいポーズだね、Bクラスしか居なくてよかったね」

 

「にゃはは〜……ノーコメント」

 

 

 俺はべしっという効果音(?)と共に姫野がいた方へウィンクする。

 

 姫野はそこには居なかった。

 

 

 俺は泣いた。

 




GWもっとバズって馬車馬の如く続いて


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