楽しむ有希。振り回されるアリサ。SAN値が限界の政近 (M N)
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楽しむ有希。振り回されるアリサ。SAN値が限界の政近

ここは、私立征嶺学園。

 

日本トップレベルの偏差値を誇る、中高大一貫学校。

 

数々の政治家たちを輩出してきた、超名門校でもある。

 

私立征嶺学園高等部の1年B組。

 

そこには、少し歩けば、誰もが振り向くような美貌を持つ銀髪のハーフ女子高生が在席している。

 

スポーツ万能。

 

成績優秀。

 

まさに、非の打ち所がない完璧超人。

 

本名、アリサ・ミハイロヴナ・九条。

 

陰では、アーリャやアリサ姫なんて言われている。

 

謂わば、クラスの孤高のお姫様的存在だ。

 

何人もの男子がアタックしては、砕け散っている。

 

そのアリサの隣の席を1年以上もキープしている男子生徒___久世政近。

 

ただ、政近はアリサとは正反対で忘れ物が多く、授業中に良く居眠りをし、アリサに小言を言われ続けている。

 

所謂、問題児だ。

 

「すまんっ!アーリャ。現社の教科書忘れた!」

 

そして、今日もまた忘れ物をしている。

 

政近が忘れ物に気付くのは、何時も授業が始まるほんの数分前。

 

他クラス友達に借りにいくには、遅すぎる時間だ。

 

だから、何時ものように隣人のアリサに席をくっ付けて見せて貰っている。

 

「はぁ~。また」

 

呆れた様子で、教科書を見せるアリサ。

 

スマン、スマンとおどけながら謝る政近。

 

他のクラスメイトも見慣れた光景だ。

 

「симпатичный(可愛い)」

 

席をくっ付けた政近に、聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさでロシア語でボソッとデレるアリサ。

 

「何か言ったか?」

 

「『何時になったら持ってくるのかしら』と言ったのよ」

 

にやけるのを我慢して、何時も通りの表情で答えるアリサ。

 

「へいへい」

 

そう返した政近だったが____政近は、ロシア語が分かっている。

 

アリサが時々、デレるのも聞こえているし意味も分かっている。

 

アリサは、政近がロシア語が分かることは知らない。

 

政近にとっては、羞恥プレイをさせられているだ。

 

ロシア語でデレるアリサと、意味を分かりながら過ごしている政近。

 

これは、そんな2人の何とも甘ったるいストーリーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼食を終えたアリサは、ルンルンと鼻歌を歌いながら、廊下を歩いていた。

 

何故、アリサが機嫌が良いかと言うと、『初恋』相手である政近に、当然のようにアリサのことを女友達と言ったからである。

 

政近から友達認定され、ノリノリである。

 

そう、孤高のお嬢様、アリサ・ミハイロヴナ・九条。

 

この女、意外とチョロかったりする。

 

暫く、気持ちを落ち着ける為に廊下をうろちょろと歩いていると、先ほど昼食を共にした、周防有希と再開する。

 

「あら、アーリャさん。どうかなされましたか?随分と、機嫌がよろしいようで」

 

周防有希。

 

口調で分かる通り、元華族の旧家に生まれた正真正銘のお嬢様であり、この征嶺学園の生徒会広報を務めている。

 

そして、この物語の主人公の1人、政近の実の妹でもある。

 

とは言ったものの、学校では幼なじみの設定をしている。

 

周防家と政近には、とある角質があるが、それはまた別の話である。

 

「そうかしら?」

 

アリサは、機嫌が良い理由なんて教えることなんて出来るわけも無いので、惚けた表情をする。

 

「政近くん関連ですか?」

 

「えっ?」

 

惚けた表情は何処へやら、図星をつかれたアリサは、すっとんきょうな声を上げ、固まってしまう。

 

有希は、薄々、アリサが政近に対して恋心を抱いていることに気づいていたのである。

 

思考が停止し、固まっているアリサを見ていた有希の心情はというと…

 

(グヘヘ。アーリャさんよぉ。幾らなんでも、分かりやすすぎるぜ!でも、お兄ちゃんの魅力を感じとったことは、評価してあげるぜ)

 

周防有希。

 

学校では幼なじみという設定であるが、実は政近のオタク仲間であり、重度のブラコンである。

 

「ち、違うわよ。そ、それはそうと、久世くんの生徒会での様子を教えて貰えるかしら?」

 

思考が再び動きだしたアリサがとった次の行動は、思いっきり話を反らすことである。

 

恋愛経験の無いアリサにとって、これ以上の話はテンパるだけと判断したからだ。

 

質問内容が再び『政近』関連であることは、突っ込まないでおこう。

 

ちなみに、政近は今の生徒会には入っていない。

 

ここでいう生徒会での様子というのは、中等部の時のことである。

 

昼食の際に政近が元生徒会副会長であることを、聞いていたのだ。

 

「ふふっ。気になるのですね。良いですよ」

 

有希は、お上品に笑いながら、答える。

 

「そうですね…生徒会での政近くんは、『縁の下の力持ち』まさに、この言葉が当てはまる人物でしたよ」

 

「縁の下の力持ち…」

 

「私たちの学年でも覚えている人は、少ないんじゃないでしょうか?政近くんが生徒会副会長だったことを」

 

生徒会副会長だったことを忘れられている理由としては、今の政近が、アリサに良く注意される不真面目な生徒というイメージがあるというのもある。

 

「他は…そうですね、生徒会とは離れますが、学業の方も優秀でしたよ。今はあれですが、ちゃんとやればトップ5は確実でしたし」

 

今の政近は、赤点を取らない最低限の努力しかしていないが、中等部の頃は、生徒会副会長に就任しているだけあって、毎回のようにトップ5に入っていた。

 

正しく、やれば出来る生徒である。

 

「я так много знаю(それくらい知っているわよ)」

 

小さくロシア語で呟くアリサ。

 

そう、アリサは、有希に対して嫉妬しているのだ。

 

その様子を見ていた有希の心情はというと

 

(グヘヘ。可愛いぜ。アーリャちゃん。完全に嫉妬してやんの。こりゃ弄りがいがあるぜ~)

 

やはり、裏では淑女の面影が一切無い。

 

「そういえば、政近くんは、オタクと公言していますが、彼の部屋にオタクグッズはあんまり無いんですよ。部屋も綺麗だったですし」

 

政近の部屋にはオタクグッズは殆どなく、有希用のオタクグッズと共に別の部屋に置かれている。

 

とはいえ、何故いきなりこんな話をしたかというと

 

「えっ?有希さんは、久世くんの家に行ったことがあるの?」

 

「えぇ。何回も」

 

さも当たり前のように話す有希。

 

実際、血の繋がった兄妹なので当たり前なのだが、そんなことを知るよしも無いアリサは、内心かなりテンパっている。

 

(えっ!?久世くんの部屋に何回も!?やっぱり、久世くんと有希さんは、つ…付き合っていたりするのかしら?)

 

「ふふっ。アーリャさんは何か勘違いをされているようですね。私と政近くんは、付き合ってなどいませんよ」

 

アリサの心情を見透かしたように、そう口にする。

 

「えっ!?でも、久世くんの部屋に…」

 

「それくらい、普通ですよ(兄妹だからな!)」

 

(えっ!?普通なの?えっ?)

 

アリサの頭がショートする寸前、救い船がやってきた。

 

「話しすぎだ。有希」

 

ポンッと有希の頭を叩いて黙らせた男こそ、話題の中心に上がっていた久世政近である。

 

食堂で昼食をとり、教室に戻っていたが、食堂に忘れ物をしていたのに気付き、取りにいっている最中に、2人の会話を目撃したということだ。

 

「俺と有希が付き合っているわけ無いだろ?」

 

「でも、部屋に当たり前のように入るって…」

 

アリサの言葉を聞き、余計なことを言ってくれたなと有希をジト目で睨む、政近。

 

(いやぁ~。つい、アーリャちゃんの反応が面白くて)

 

(どうしてくれるんだ。この状況)

 

(ここはお兄ちゃん。この私に任せなさい!)

 

(頼むよ。本当に)

 

視線で、そんなやり取りを繰り返した後、パッと手を叩き、有希が話し出す。

 

「アーリャさんも政近くんの部屋に行ってみてはいかがでしょうか?こう見えて、部屋は綺麗ですし、心配することは無いと思いますよ」

 

「「えっ?」」

 

有希の提案に対して、2人の声が奇跡的にハモった。

 

(えっ!?私が、久世くんの部屋に!?凄く行ってみたいわ!)

 

(おいぃぃぃぃぃ~!!!!妹ぉぉぉぉ~!なんちゅう提案してくれとんねん!!そして、何でアーリャは顔を赤く染めてんだよ!!)

 

お互いに内心では、かなり荒れているのである。

 

「もし2人っきりが心配なのでしたら、私もご一緒させて貰いますよ」

 

(いやっ!そういう問題じゃないだろ!)

 

「そ…そうね、有希さんは忙しいだろうし、別に着いてこなくて良いわよ」

 

顔を真っ赤にして言うアーリャを見ながら、政近の内心は大荒れである。

 

(何でそうなるの???何でokしちゃうの???そんな流れだった???しかも、さらっと有希は断られているし)

 

「別に無理して来なくて良いんだぞ?」

 

(そもそも来るなよ!!!俺、恋愛経験0だよ!!全く無いんだよ!!部屋に女子が来るなんて、ギャルゲーしか知らないよ???)

 

「久世くんは、勉強をやれば出来るみたいだし、監視がてらに教えてあげるわよ」

 

監視は兎に角、勉強を教えるのは、単なる口実である。

 

(何で、やれば出来るの知ってんの???妹ぉぉぉ、何だ?その顔。テヘッじゃねぇんだよ!!!後、監視って何???怖いんですけど)

 

「ふふっ。決まりみたいですね」

 

(いやいや、決まってたまるか!!!ここは、丁重にお断りを………いや、何だよ!その表情。うるっとした目に、ほんのり赤い頬。オタクに刺さるな!くそっ!断れねぇじゃねぇかっ!!)

 

「じゃあ、今週の土日ぐらいに…」

 

「весело(楽しみ)」

 

(急にくるの止めて貰いませんか!!ダイレクトアタックしているんですよ。止めてください)

 

何とか表情に出るのを抑える政近。

 

「При этом всего два человека(しかも、2人っきり)」

 

(もう無理…)

 

政近の前が真っ暗になった。

 

政近のSAN値は切れたようだ。

 

無になった政近と、政近の部屋にお邪魔することが出来ることになりご機嫌のアリサの差は、後に1年B組で語られることになるが、それはまた別のお話である。

 

 

 



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