平凡メイサーの異世界冒険譚 (えんてぃ)
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〜転移編〜
第1話『穏やかな日常の終わり』


━━━━━━━━━━━━━━もし、あなたの存在を無かったことにできて、異世界に転移し2度目の人生を歩むことが出来る。と言われたらあなたはどうしますか?大切な人がいるから嫌?忘れられるのは嫌?でも、神はそんな感情など気にかけてくれる訳もなく━━━━━━━━━━━━━━


ㅤ夕暮れ時、空を飛ぶカラスの鳴き声が響き渡り、一日の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

「ふあぁ…………帰るか〜。」

 

ㅤ夕焼け空を見ながら今年高三の俺、焔咲 結翔(ほむらさき ゆいと)は、帰宅するため荷物をまとめる。

 

「ん?おい焔咲、もう帰んのかー?これからみんなでカラオケ行くんだ、お前も来いよ。」

 

ㅤクラスメイトからそんな誘いを受けるが行く気は無い。そもそも歌は上手くないし大人数は苦手なんだ。それに、

 

「わりぃ、今日は妹と約束あるんだ。先に帰らせてもらうぜ〜。」

 

「なんだ、またVRMMO、とかいうやつか?全感覚遮断してゲーム内に、なんてよく出来るなおめえ。俺ァ怖くて無理だ!はは。」

 

ㅤそう、妹の紅葉(もみじ)と家でゲームをする約束がある。

フルダイブ型VRMMORPG、『ソードアート・オンライン インテグラル・ファクター』、通称SAOIF。

ㅤ︎︎元は人気作品のスマホMMORPGだったのだが

10周年を記念してついにフルダイブ型MMORPGとしてリリースされた。データはもちろん引き継ぐことが出来、俺も紅葉もどハマりした。やはり自分の体を動かして冒険をするというのは楽しいものだ。

 

「1回やって見るとそーでもないぜ?あの爽快感1度味わうと辞められなくなるぞきっと。」

 

「いやいやそれが怖ぇんだよ!?依存性抜群じゃねえか……現実を疎かにしそうで怖いんだよなあ。」

 

ㅤ確かに、このゲームにハマって現実に影響が出た人も少数だが居る。長時間フルダイブによる栄養失調、現実とゲームの区別がつかなくなり事故。そんなニュースはちょくちょくある。だがそれでもこのゲームはなくならないのだから、それほどまでに人気なのだ。

 

「まあ、そんな不安なら無理強いはしねえけど……気が向いたらやってみてくれよ。わかんないことあったら教えてやっから。」

 

「あ、ああ。万が一やろうと思った時は色々聞くとするよ。……っと、呼び止めて悪かったな。可愛い妹さんと約束なんだろ?早く帰ってやれ。おつかれさん。」

 

「おう、おつかれ。またな。」

 

ㅤそう言うと足早に帰路についた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ただいま〜。」

 

ㅤ俺が玄関の扉を開くとタタタタタと足音が聞こえ、懐にものすごいスピードで何かが飛び込んできた。

 

「ごふぁ!?」

 

ㅤ後ろに倒れてしまいそうになりながらも何とか踏みとどまり、飛び込んで来たもの━━━紅葉を見る。

 

「んへへ、お兄ちゃんおかえり!」

 

ㅤ満面の笑みで笑いながら頭を擦りつけてくる。もう高一なのだからそろそろ兄離れして欲しいのだが……可愛すぎて怒れない。ダメだ、このままじゃダメだ……次頑張ろう。

 

「おー、ただいま紅葉。でももーちょっとゆっくり来てくれ、当たりどこによっちゃ兄ちゃん吐く。マジで。」

 

「はーい!」

 

ㅤこのやり取り、もはや何回やったか分からない。治る気配?あるわけないよそんなもの……。

 

ㅤその後、夕飯や風呂を済ませて自部屋に向かう。そしてアミュスフィアを被り……

 

「おい、紅葉。」

 

「なぁに?お兄ちゃん。」

 

「なぁに?じゃねえ!なんで当たり前のように俺の部屋にいる!?」

 

ㅤ︎︎紅葉はさも当然のように俺の部屋に来てアミュスフィア(フルダイブするためのハード)を被りベッドにスタンバっている。自分の部屋があるのにも関わらず、だ。

 

「あのなぁ、お前も高一なんだからそろそろ兄離れというかなんというか」

 

「?そんなことより早くifしよ!」

 

「……はぁ、わかったよ。」

 

ㅤこれ以上話しても埒が明かないし、何より俺も早くifしたかったため諦めて同じベッドでログインすることにした。

ㅤ並んで仰向けになり、フルダイブの合言葉を唱える。

 

「「リンクスタート!!」」

 

ㅤ感覚が遮断され、いつもの映像が流れる……はずだった。その映像の途中でノイズが走り出し、何も無い白い空間に俺と紅葉は飛ばされた。

 

「お兄ちゃん、何、今の……。」

 

「俺も分からない……。」

 

ㅤ紅葉は怯えたように震えて俺にひっついている。当然の反応だ。こんな時に兄離れしろなんて言うほど俺は馬鹿じゃない。紅葉の体を抱き寄せ軽く背中をさすってやる。俺だって怖いが妹は絶対に守らなければ、と思いながら。

 

「おや?1人の予定でしたがまさか二人もいるとは……いかに神の力といえど、イレギュラーというものは必ず起こりうるものなのですねぇ?」

 

「っ!?誰d」

 

「口を開くな人間。」

 

「!?……!……?……!?」

 

ㅤ突如現れた謎の人物(?)の目を見た瞬間体が思い通りに動かせなくなった。声も出せない、声帯を震わせることすら出来ない。紅葉も同じ状態らしい、先程から戸惑っている気配はする。

 

「いやまあ、私神々のひとりなんですけどね。この服装と雰囲気と今起こってること、色々ひっくるめて察してるとは思いますが。」

 

ㅤその人物は神、と名乗った。確かにこんなことが出来るのは人間が理解出来る範疇を超えた存在としか考えられない。ならば神という説明もある程度納得できるものであった。しかしこんなことをして一体何を……

 

「ふむ、今から私がしようとしている事だが、今神々である世界に異世界人、今この場で言う君らの事だが、それを放り込んだらどう影響を及ぼすか観察。そして予想するゲームをしよう、という話になってね。光栄なことに君たちはその対象に選ばれたってことだ。本来は君、男の方だけの予定だったが何故か付属がついてきたみたいだね。まあそれはそれで面白いので送り込むけど、2人同時に送ったことは無いからなんかおかしくなったらどんまいってことで。」

 

ㅤ自称神さんが訳の分からんことを長々と言う。異世界?観察ゲーム?頭の中がこんがらがって何がなにやらさっぱりだ。

 

「あと、この世界に存在しなかった事にしといてあげるから心配される〜とかそういうのは気にしなくていいよ!あとは……まあ、後のことは転移したらわかると思うから早速行ってみようか!」

 

「「!?」」

 

ㅤ自称神さんが指を鳴らすと俺たちの体は光に包まれそして……意識は暗い闇の中に落ちていった。




1話はここで終わり!
いかがでしたか?
転移したあと楽しみ、転移雑だなあとか色々思うかもしれませんが暖かい目で見てもらえると嬉しいです!

次回

第2話『自由な魔王?現る』

お楽しみに!


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第2話『自由な魔王?現る』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━神のきまぐれにより異世界に飛ばされた結翔と紅葉。彼らは一体この世界でどんな経験をすることになるのだろうか━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ㅤ︎︎自称神を名乗る者によって異世界に飛ばされた結翔と紅葉。

 

「ってぇ……くそ、ここはどこだ……。」

 

ㅤ気づけばそこは森の中だった。とてもゲームの世界とは思えないリアリティ。森の香り、土の感触、動物の動き。

こんな高クオリティな映像をプレイヤー全員に提供していたら、確実にサーバーが落ちるだろう。つまり……

 

「ここはほんとに異世界……ってーことになるよな。姿は……ゲーム内と同じ、か。」

 

ㅤ紫髪のショート、赤眼にに黒の執事服、片眼鏡を装備した完全に執事さん状態。腰には愛用の必死にレアドロップ狙って作った片手棍。これが結翔のアバターで名前は『焔斗』(えんと)。

 

「どうやらこの世界では焔斗として生きた方が良さそうだな……。」

 

ㅤ自称神さんが言ってた行けばわかる、というのはこの辺りのことだろう。ちなみに、紅葉の方は紫髪のおさげ(長さは肩につくくらい)に紫眼、メイド服を着たこちらは完全にメイドさん状態。本人には黙っているが焔斗は結構好みの見た目なので一目見ようと後ろを振り返る。

 

「おい、紫紅〜。ぶ……じ……か……?……あれ?」

 

ㅤそこに居ると思っていた最愛の妹の姿は……どこにも、無かった。なぜ、と考えたがある言葉を思い出す。

 

『2人同時に送ったことは無いからなんかおかしくなったらどんまいってことで。』

 

ㅤなんかおかしく、というのが今のこの現象だとして。最悪のケース、紫紅は転移の際に消滅したという考えたくもないようなことを省く。となると、予定していた座標とは別に送られたと考えるのが妥当か。そもそも同じ場所に転移させるとは言ってないので意図的かもしれないが……

 

「なんにせよ、俺が転移してきた場所が正規の座標とするなら紫紅はどこに……。まさか、最初に行くべきではないような危険なところにいるのか……?くそっ!」

 

ㅤそう考えると立ち止まってはいられなくなり、駆け出そうとした次の瞬間。

 

「ガァウ!」

 

「なっ!?」

 

ㅤ森の影から狼型のモンスターが襲いかかってきた。持ち前の反射神経で何とか回避することが出来たが危なかった。しかし狼となると定番は……

 

「まあ、そうくるわな……。」

 

ㅤ森の影から次々と狼が姿を現す。彼らの縄張りだったのだろうか、それとも狩りの時間に重なってしまったのか。どちらにせよ、自分がどこまでの力を持っているかわからない状況で群れに囲まれるというのはあまりよろしくないケースだった。

 

「でも、やるしかねえか。……っ!」

 

ㅤ見事に連携の取れた動きで狼達が襲いかかってくる。ゲームの時の勘を頼りに何とか躱しながら自慢のメイスでぶん殴って各個撃破していく。

 

「よし、意外とやれるな……。ふっ!」

 

ㅤ流石にソードスキルは発動してくれないが、なんとか戦えていた。しかし、優勢の状況は長く続かなかった。狼達の親分と思しき狼が遠吠えをしたかと思うと、焔斗の10倍、いや。20倍程のサイズに巨大化し、2足立ちになったのだ。巨大な人狼……とでも言えばいいだろうか。

 

「いや、さすがにそれはやばっ!?」

 

ㅤ驚いてしまったというのもあるが、完全に回避が遅れた。大きく振られた腕に直撃し、吹き飛ばされる。

 

「ぐがっ……!?」

 

ㅤ木を何本かへし折りながら吹き飛ばされた俺は、あまりの痛さに声も出せずうずくまった。

 

(い、痛すぎる……!嫌な予感がしたから攻撃を受けずに戦ってたけどやっぱ痛覚はあるのか……!出血も多い、このままでは……)

 

ㅤここは異世界、痛覚無効システムなんて都合のいいものは無い。怪我をすりゃ痛いし、出血が多けりゃ意識は朦朧として死ぬ。そして焔斗も意識が薄れゆく中、迫ってくる人狼をうっすらと捉えて、ああ、こんな早くゲームオーバーか。と悔しく思った。そして意識が途切れる少し前、視界に紫の何かが映り、人狼を消滅させた。それがいかに不思議なことかと認識する余裕もなく、意識を失った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「……っ!」

 

ㅤ気づくとそこはベッドの上だった。一瞬今までのファンタジーな出来事は全て夢で、今目が覚めたのかと思ったが違った。見たことの無い部屋、必要最低限のものしか置かれてなく宿屋の一部屋と思われる。しかし……

 

「なんでだ?俺は確かに……」

 

ㅤそう、焔斗はあの絶体絶命の状況で意識を失った。つまり生きているわけが無いのだ。もう一度何が起こったか思い返していると最後の光景に違和感を感じた。というより、その一瞬が今生きている理由なのだと確信できた。

 

「紫の光、消えた人狼……。一体あの時何が……?」

 

ㅤ戸惑いながらも何故か傷は完治していたため、部屋から出る。宿主さんによれば、昨晩俺を背負った黒マントの人が急に来て、宿代と俺を置いて止める間もなく去っていったらしい。一体誰が助けてくれたのだろう、そしてどうして正体を明かさず消えたのだろうか。

 

ㅤ分からないことは多いが、とりあえず近くの村を教えて貰って宿を出た。ここは旅人が寄れるように建築された宿で、武器屋等は無いそうだ。資金的な問題らしいが、旅人が寄るのだから道具屋くらい置いて欲しいと思うのは当然のことだろう。

 

「近くの村は……ジーマ村。この辺は魔物もそこまで強くないらしいけど、気をつけていかないと。」

 

ㅤいくら相手が弱かったとしても痛覚が遮断されてないこの状況。痛みとはほぼ無縁の平和な世界で育った焔斗にとって痛さに弱いというのは最大の弱点となる。安全に確実に戦うようにしなければ次は本当に死ぬことになるだろう。

ㅤ宿主から聞いたとおりに川沿いを下りに向けて歩くこと約20分。ここまで何度か戦闘はあったが何とか無傷で乗り越えられている。

 

「……そこに誰かいるか?」

 

ㅤ魔物とは少し違う謎の気配を感じ木の陰に問いかける。

 

「……ふん、俺の気配には気づけるのか。なのに何故あんな狼ごときにやられた。それに、予想より回復が早いじゃないか。その身に纏う異色の気配以外ただの人間だったはずだが?」

 

ㅤ木の陰から黒マントにフードの被った何者かが現れた。この見た目の特徴と言い、先程の言動と言い、まさか……

 

「あんたがあの時俺を……?」

 

「正確には違う。あの場所にいるべきではない変異種の魔物が出たから処理しただけだ、お前はたまたま転がってたから助けた。纏う雰囲気もまるでこの世界の人間ではないような感じだったしな。謎の魔力を感じて調べに来たのと関係があるかと思ったんだ。」

 

ㅤ言ってることはだいたい理解出来た。同時に、焔斗達が転移してきたことは少なからずこの世界の住人知られている可能性が高いということも今の言動でわかった。謎の魔力が出ていた、というならそれを感じ取れるのがこの者だけということは無いだろう。しかし、まだ疑問はある。

 

「……あんたの言ってることはだいたい理解出来た。偶然とはいえ助けてくれたこと感謝する。だがひとつ聞きたい、なぜ正体を隠してまで俺から離れる必要があった?」

 

ㅤそう、仮に国からの依頼等で調べに来て助けたのであれば正体を隠す必要は無いはず。むしろその場にいた重要人物を助け、情報を聞き出すチャンスだったはずだ。しかしそんな俺の疑問はすぐに解けた。

 

「……人間に自分から危害を加える気は無いが、それでも恐れられてる存在だからな。そうするしか無かったんだよ。」

 

ㅤ人間に恐れられ正体を知られちゃいけないような人型の何か。つまをそれは……

 

「俺の名前はレーヴァテイン。”現界の放浪魔王”レーヴァテインだ。」

 

ㅤ彼が本来は人と敵対すると思われる存在であるということだった。

 

 




本日はここまで!

いかがでしたか?今回はレーヴァテインっていうキャラがSAOIF民の方のモチーフで作られています!ツイートでタグ付けします。

少し展開を急ぎすぎているかな……?でも自分の好きなようにやるって決めたからいっか!

次のタイトルは

第3話「禁忌の焔剣」

おたのしみに!


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第3話『禁忌の焔剣』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━異世界に転移させられた焔斗(結翔)と紫紅(紅葉)。紫紅が居ないことにきづいた焔斗だったが、巨大な人狼の攻撃により死にかける。謎の人物に助けられたがその人物は”現界の放浪魔王”レーヴァテインと判明する。彼の目的は一体━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ㅤ魔王。宿主から聞いた情報からすればある特例を除き魔王は二人いる。特例というのは今は既に封印されている魔王たちだ。そしてこの世界には天界、現界、魔界がある。魔王は現界と魔界に1人ずつ居て、現界の魔王が今対峙しているレーヴァテイン、という訳だ。この魔王は魔王故に教会など聖騎士連中には敵対視されてはいるものの、自分から人間に対して敵対はしない。攻撃されたら相手を無に返すが、実は優しい魔王なんだという人も居るそうだ。だったらなぜ魔王なのか、と思ったがそれは誰にも分からないらしい。

 

「……なるほど、納得。で、わざわざ俺の前に姿を現したってことは、なにか聞きたいことがあるんだろ?」

 

「話が早いな。それじゃあまず1つ、お前は何者でどこから来た?記憶が無いなんて嘘は聞かねえぞ。記憶を無くした者がこんなにハッキリと行動できるはずがないからな。自分の名前も覚えているんだろ?」

 

ㅤ誤魔化すことは不可能だと悟った。そもそも誤魔化す気はないのでなんの問題もなかったが。

 

「俺は焔斗。なんだかよくわからん神さんに強制的に異世界転移させられた異世界人だ。見た目はこんな格好だが誰かに仕えてる訳でもないぜ。」

 

「名前。」

 

「?」

 

ㅤ名前がどうしたんだと思った。知り合いにいたのか?それとも聞き取れなかった……そんなはずはないと思うが。

 

「だから俺の名前はえん……」

 

「違うだろ?」

 

「なっ……」

 

ㅤ名前が違う?一体どういう事だろう。名前は間違いなく焔斗でこれはゲームの……ああ、そういことか。

 

「すまない、本当の名前は焔咲 結翔。でも嘘ついたわけじゃねえぜ?前の世界じゃこの姿の時は焔斗を名乗ってたんだ。」

 

「この姿?お前は変身タイプの人間なのか?」

 

ㅤ予想通りの反応だ。逆の立場だったら同じ考え方をしていただろう。

 

「いや、違う。そうだな……詳しく説明すると、だ。」

 

ㅤ焔斗は前の世界の世界観、種族、及びゲームのこともわかりやすいように伝えた。専門用語を使わずに説明するのはなかなか難しいものだった。

 

「なるほどな。これでだいたい謎は解けた。お前がなぜ変に戦闘慣れしているのか、そして慣れているにも関わらずあそこまで痛みに弱いのはおかしいと思っていた。全て前の世界の環境が原因か。」

 

「そういうことになるな。」

 

ㅤここであれ、と思った。焔斗が痛みに弱いのは倒れているのを見ていたから知っているとして、なぜ戦闘時の動きがわかっているのか。もしかして転移してきた時点で観察されていたのではなかろうか。先程の名前の件も嘘を見破るスキルか何か無ければ何も言えないはずだ。最初から見ていたとしたら納得がいく。この世界では焔斗として生きる、と最初に口に出していたからだ。

 

「それで、お前はこれからどうする気だ?」

 

「妹を探しに行く。」

 

ㅤそう、紫紅の居場所は未だわからず再会できていない。俺の予想が正しければ、という所までは来ているが行ってみなきゃ分からない。

「あてはあるのか?」

 

「ある。さっき宿主からこの世界には層のように天界、現界、魔界があると聞いた。そして天界に干渉は基本的に不可能。だとしたら魔界の高さを省いた俺と同じ座標に転移している可能性がある。問題はその魔界の行き方、だ。それを探すために旅をしようと思う。」

 

ㅤそう、直接的に階段等で繋がっている訳では無いが層のように3つの世界があるのだ。仮に横方向縦方向の座標が同じで上下の座標だけおかしくなったのだとすれば、焔斗の予想は行動を起こすには十分すぎる。

ㅤ焔斗がそう言うとレーヴァテインは予想外のことを言ってきた。

 

「俺は仮にも魔王だ。魔界への扉くらい開ける、と言えばどうする?」

 

「何っ!?それは本当か!?」

 

ㅤしかしよくよく考えてみればそうだ。相手は魔王、魔王ならそのくらいのことぱぱっと出来てもおかしくはない。ならば、

 

「だったら連れて行ってくれ!今すぐにだ!」

 

ㅤ行かない以外に選択肢はない。即決だった、迷うことなんてひとつもない。早く妹と合流したい、その一心での答えだった。だが、

 

「断る。」

 

「は?」

 

「断ると言ったんだ。聞こえなかったか?お前、今の状態で魔界に行ってそもそも妹のところに辿り着けるとでも思っているのか?お前をぶっ飛ばしたあの狼。魔界の中で弱いやつでもあいつより数倍強い。その意味がわかるか?」

 

「くっ……。」

 

ㅤ確かにその通りだ。あの狼でさえ焔斗は油断していたとはいえ一撃であのザマだった。それの数倍強いのが最低ライン?とても勝てる気がしない。しかし、だ。

 

「だとしても!そこに妹がいるのだとしたらそれこそ不安だ!痛み?そんなもん知るか!妹を助けるためなら痛みなんざどうってことねえんだよ!」

 

ㅤそう、もし本当に紫紅が魔界に飛ばされていたのだとすれば、それは相当危険だということになる。一刻も早く助けが必要なくらい。

 

「安心しろ、今焦って行ったところで普通なら死んでる、仮に生き延びる力があったのだとすれば今急いでいかなくても大丈夫だ。むしろお前が足を引っ張るぞ。それでもいいのか?」

 

ㅤこれが現実だ。レーヴァテインの言うことは至って正論、反論なんて出来ない。

 

「くっそ……じゃあどうすれば……。」

 

「強くなれ、そしてまずは自分の弱さを思い知れ。俺が相手してやる。」

 

ㅤなんと、レーヴァテインから決闘の申し込みをされた。俺が負ける前提のようだが。おまけに、

 

「そうだな。万が一にもないが、もしこの戦いで俺に力を示すことが出来れば、魔界に連れて行ってやる。どうだ、やるか?」

 

ㅤ上手く行けば魔界にも行ける、という願ってもない条件だった。どこまでやれるか分からないが、やれるだけやってみるしかないだろう。

 

「分かった……。その勝負、受けさせてもらう。」

 

「決まりだな。いつでもいいぜ、かかってこい。」

 

ㅤその言葉を聞き、焔斗はメイスを構える。対するレーヴァテインは仁王立ちのまま微動だにしない。相当な自信か、それとも何か訳ありか。いずれにせよこちらから仕掛けなければ何も始まりそうになかったので、攻撃を開始する。

 

「はぁあああ!」

 

ㅤ腰を上手くひねりながら渾身の一撃を撃ち込む。まともな一撃が顔面に入った。だが、ピクとも動かずダメージを受けた様子もなかった。メイスが肌にくい込んですらいない。

 

「くっそ!」

 

ㅤ遥かに強いのは分かっていたが想像以上の実力差に焔斗は悪態をつきながら何度も何度も撃ち込む。様々な角度で、色々試しながら。しかし結果は同じ。なんのダメージも、攻撃されているという感覚すらも与えることが出来なかった。

 

「想像以上に弱いな。もういい。」

 

「!?」

 

ㅤレーヴァテインが背中の剣に手をかける。身の危険を感じた焔斗は瞬時にバックステップで距離を取った。しかし、気づいた時には影に溶けるようにレーヴァテインの姿は消えており、背後に現れていた。抜剣も納剣した様子もなかった。それでも嫌な予感がした。

 

『影纏・影嵐』(かげまとい・えいらん)

 

「がっ……!?」

 

ㅤ彼が技名を口にした瞬間、体のありとあらゆるところに激痛が走った。あまりの痛さに膝をつく。出血は大丈夫かと気になったが出血している様子はなかった。

 

「死んでもらっちゃ困るからな。剣は抜かずにやらせてもらった。どうだ、これで序の口の技だ。これに対応できるようになってやっと、最低ラインの魔界の魔物に勝てるくらいだな。もう一度言うぞ、お前は弱い。諦めろ。」

 

ㅤ抜剣してない状態で何度も叩きつけられたらしい。道理で出血はないわけだ。しかし何発叩き込まれたかも分からないくらいに痛い。

 

「……だ。」

 

「ん?」

 

「まだだ……まだやれる……!」

 

「ほう……。」

 

ㅤ焔斗は深紅のオーラを纏い立ち上がる。まだ心の灯火は消えていない。

 

(やつは、俺を感知した時に魔力と言っていた。つまりそれは俺にも魔力がある道理。あとはイメージして出せるかどうかだが……やるしかない!)

 

「行くぞ!レーヴァテイン!」

 

「ぶつけて見せろ、貴様の本気。」

 

ㅤメイスに深紅の焔を纏わせ、前に突き出し手元で回転させ渦を作る。そしてその焔の渦を空間に維持したままにし、メイスでぶっ叩いて射出する!!!

 

『くらえ!螺旋、、、焔ああああああああぁぁぁ!!!!』

 

ㅤ焔が渦を巻きながらレーヴァテインを襲う。彼は避ける素振りも見せずまともに受けた。

 

「こ、これで……どう……だ……っ!?」

 

「生温い焔だな。だが面白い、魔力操作が上達すれば相当の威力になるだろう。」

 

ㅤ無傷。本当に今焔斗は技を撃てたのか疑問に思えてくるくらい何も無かった。背後の木々が焦げて消し飛んでいることで先程の事は現実だったと認識できる程度だ。

 

「くっ……そ……。」

 

「しかし良い色をしている焔だった。貴様ならあるいは……。ふん、まあいい。魔界には連れて行けんがこちらもお礼にいいものを見せてやろう。これが真の禁忌の焔だ。」

 

ㅤレーヴァテインは抜剣し、その剣に紫の焔を纏わせる。大気の色が変わったと錯覚するほどの魔力量。

 

「動くんじゃねえぞ。」

 

「なっ……!」

 

ㅤ動きたくても動けない。焔斗の身体は既に限界を超えている。このままだと、死ぬ。そう思った。

 

『禁忌の焔剣・紫焔一閃』(きんきのえんけん・しえんいっせん)

 

ㅤ直後、焔斗のすぐ隣の地面が深く抉れ、紫の焔が燃え上がった。次第に焔はレーヴァテインの体に吸われるように戻っていき、消え去った。

 

「殺すわけがないだろう。当てたら死ぬから動くなと言ったんだ。それに、今は弱いが貴様は俺といい勝負をするまで育つ可能性が見えた。せっかく面白いやつを見つけたんだ。死んでもらっちゃ困る。」

 

ㅤ何故かは分からないが気に入られたらしい。殺されずに済むのは助かるが、しかし強くなると言ってもどうすれば……

 

「……ジーマ村で回復薬等を用意できたらそのまま西に進め。シンレ館という建物がある。きっとお前を成長させるきっかけになるはずだ。じゃあな。」

 

「あ、ちょ待てよ!」

 

ㅤ俺の制止も聞かずに魔王は姿を消した。最終的には助かったが、何だかよくわからないやつだったと冷静になって思うのだった……。

 

「よし、なんにせよとりあえずはジーマ村だ。……待ってろ紫紅。ぜってぇ迎えに行ってやっからな!」

 

ㅤ痛む体に喝を入れ、歩き出した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ魔界にて。

 

「はぁっ!はぁっ!てやぁ!」

 

ㅤ紫紅は自慢のメイスをふりまわし、なんとか生き延びていた。実際のところ、ゲームのステータスも紫紅の方が遥かに上だったため、何とかやれているのだろう。しかしそろそろスタミナも限界に近かった。

 

(まずい……このままじゃ……。)

 

ㅤ飲まず食わずで丸一日。いつ倒れてもおかしくなかった。目の前の悪魔型の魔物を倒し、他に敵が居ないことを確認する。敵の気配はなかったので近くの岩にもたれかかり小休憩をとる。

 

「ここ……どこよ……全く……お兄ちゃん、も居ないし……」

 

ㅤハァハァと息を切らしながら回らない頭を回そうとしたその時だった。岩の反対側から声が聞こえ、足音がこっちに向かっている。

 

「確かこの辺り……なんですが。戦闘の跡がありますね、それも新しい。謎の魔力の残滓も伺えます。」

 

「やっぱりこの辺?でもどこにいるんだろう、感じる?トモ。」

 

ㅤ謎の魔力というのは紫紅のことだろう。これまで出会ってきた魔物とは違うみたいだが、念の為出会いたくはない。しかし情報が得られそうな貴重な人語を話す何か……。

 

「居ました。ここです、春輝様。」

 

「っ!?」

 

ㅤ急に隣から声が聞こえたので驚き飛び退いた。しかし飛び退いた後に背後から気配。

 

「なっ!?」

 

「わぁ♪女の子だね♪」

 

ㅤ春輝と呼ばれた男が、嬉しそうに笑うのだった。




今回はここまで!いかがでしたか?
なんか話数事に文字数が増えてますがそういうチャレンジしてる訳では無いので勘違いなさらず(笑)

今回のif民モチーフは前回に引き続きRevatainnさんと、
ラストの2人、トモ犬さんと春輝さんです!またツイにタグ付けしますね!

次回
『第4話ㅤ魔界三銃士』

おたのしみに!


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第4話『魔界三銃士』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━魔王レーヴァテインと一戦交え、自分の弱さを改めて知った焔斗。一方その頃、紫紅は魔界にて謎の二人に出会っているのだった。彼らは一体━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

「わぁ♪女の子だね♪」

 

ㅤ春輝と呼ばれた男が嬉しそうに微笑み、抱きしめようとしてくる。紫紅はギリギリのところで脱出し、仕掛けてくるならばと反撃を開始した。

 

『紫雷槌!!!』(しらいつい)

 

ㅤメイスに紫の雷を纏わせ、脳天から叩きつけようとする。しかしその渾身の一撃は春輝に片手で止められてしまう。

 

「くっ!」

 

「もー、ちょっとは落ち着きなよ〜、可愛いんだからさ♪」

 

ㅤメキ、バキ、バーン と、春輝の握力だけで元の世界のゲーム内では最高レベルの強さを誇る紫紅の紅いメイスが粉々に砕け散った。

 

「そ、そんなっ!」

 

「ふふ……♪」

 

ㅤ次元が違いすぎる。そう察した紫紅はせめて逃げようと全力で走り出すが、

 

「申し訳ありませんが、逃げられたら困りますので大人しくしてもらいますね。」

 

ㅤ先程トモと呼ばれていた男に前を阻まれ目が紅く輝いた。それを見た瞬間体が金縛りにあったかのように硬直し動けなくなってしまった。

 

「う、うごけな……」

 

「少し話を聞いて欲しいんです。お時間頂けますでしょうか?異邦のお方。」

 

ㅤ丁寧にお辞儀をする彼をよく見て、敵意がないことを確認した。春輝の方は殺意はないが、別のやばい感じがするのでとりあえず離れておきたい。

 

「……わかりました。聞くわ。だからこの縛り外して、逃げないから。」

 

「……いいでしょう。」

 

ㅤ紫紅の言葉が嘘でないと分かったからか、割とすんなり金縛りを解除してくれた。目の色が黒になる。どうやらあの技を使う時だけ目が紅くなるらしい。

 

「やっと警戒を解いてくれたね♪じゃあゆっくりと話を……」

 

「ごめんなさい、あなたは近づかないでください。反射的に逃げそうです。」

 

「……俺だって傷つくんだよ?」

 

ㅤ案の定、春輝が近づいてきたのできっぱりと断る。少し涙目になっていて可哀想と一瞬思うが、騙されてはダメだと自分に言い聞かせる。

 

「……それで、聞きたいこ」

 

ㅤグギュルルルルルルルルルル

ㅤ紫紅が何を聞きたいのか確認しようとした時、盛大な音が鳴り響いた。……お腹の。

 

「……お腹、空いてるんですね。」

 

「……ごめんなさい、もう一日以上飲まず食わずで……。」

 

ㅤ紫紅の腹の音だった。この世界に来てから何も口にしていないのだ、無理もないだろう。

 

「……はあ、これを。一応現界人も飲める水です。食事は城に戻ってとってもらいましょうか、今の状態で話すのは頭も回ってないのでおすすめ出来ません。」

 

「それがいいね♪トモの料理は美味しいし♪」

 

「……正直不安だけど、仕方ないわね。」

 

ㅤ紫紅はトモから水を受け取り飲んだ。別に変な味はしない、問題は無さそうだ。しかしさすがに疲れていたのか歩こうとするとふらついてしまう。

 

「ぁ……」

 

「おっと、仕方ありませんね。少し失礼しますよ、ええと」

 

「紫紅……」

 

「……紫紅さん。」

 

ㅤ紫紅が倒れそうになるとトモが体を支え、抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこだ。とはいえ、紫紅は頭が回ってないため歩かないで良いなら助かる、という程度の認識しか持ててないが。

 

「いいなぁ♪僕にも抱っこさせてよ♪」

 

「申し訳ありません春輝様。その場合紫紅様が疲れてしまいますので、今は御遠慮下さいませ。」

 

「ちぇ♪しょうがないなぁ♪」

 

ㅤ一行が出発してから少し、紫紅は少し霞む目で2人の容姿を再確認した。春輝は魔界には似合わぬ白を基調としたいかにも白馬に乗って姫様を助けに来そうな服で、羽付きの白ハットを被っている。顔はまあイケメンだと思う、物語で出てくるだけなら女性からの人気も高いだろう。少し伸ばした銀髪に赤い目、口角は常に少し上がっており、見た目をいつも気にしていそうな感じだ。

ㅤ一方トモは、赤を基調としたデザインは完全に執事服。赤のショートヘアに黒目、赤枠の片眼鏡とワントーンながらいい雰囲気を出している。焔斗は普通の黒執事のため、何だか兄がそのまま赤くなったみたいで変な感じだ。

 

「っと、看板が見えてきたのでもう少しですよ。紫紅さん、もう歩けますか?」

 

「……ええ、ありがとうトモさん。」

 

ㅤ紫紅は下ろしてもらいながら看板を見た。看板には、

 

《この先魔王の城

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤナンバン城ʕ 」•́؈•̀ ₎ 」シャキン》

と書いてあった。ʕ 」•́؈•̀ ₎ 」シャキン……。

ㅤ紫紅は深く考えることをやめた。多分深く考えることでは無いはずだ。これを書いた人がこの2人より上の位の人でないことを祈っ

 

「兄さんの看板はいつ見ても愉快だね♪」

 

「シハク様は、魔王としてかっこよくありたいのでしょうか。仲間として面白くありたいのでしょうか。私でもたまにわからなくなります。」

 

ㅤ……上の人だった。しかも魔王らしい、え?

 

「魔王!?魔王って何よ!?そんなのいるの!?ていうか絶対序盤に出会っちゃダメよね!?ね!?」

 

ㅤあまりに衝撃的過ぎて紫紅は声を上げてしまった。その反応に2人はキョトン、としてから

 

「ああ♪なるほど♪君の状況が少しだけ読めた気がするよ♪」

 

「ええ、本当に。この世界の常識ですら知らない、と。やはりあなたはこの世界の住人ではなさそうですね。」

 

ㅤ詳しく話を聞くと、そもそも謎の魔力を感じて調査に来ていたらしい。そしてその地点の近くに紫紅が居たため、原因が紫紅であると確信したらしい。そもそも、普通の人(ここで言うと現界人)は、基本的に1人で魔界で生きられないらしい。理由は至極単純で、ここの魔物が現界の魔物より遥かに強すぎるからだ。来るとすればそれこそ知名度の高い人物しか来ないため、見たことも聞いたことも無い紫紅が居た事によりほぼ確信していた、ということだ。

 

「ふぅん……つまり、あたしからはどこからどうやって来たのか。その魔王様含めて話を聞きたいわけね。と言ってもあたしもよく分かんないわよ?経緯は話せるけど……」

 

ㅤそう、紫紅だって何が何だかさっぱりなのだ。いきなり神だのなんだの言われて転移させられて、ただ兄の焔斗とゲームがしたかっただけなのに……。

 

「そういえば、お兄ちゃんは知らない?トモさんと同じ執事の格好をしてるんだけど。あ、服色は黒で、髪は紫色で目は赤よ。」

 

ㅤ転移して即戦闘だったため考えないようにしていたが、兄の焔斗が居ないのだ。魔力どうこう言ってたので何か知っているかと思って聞いたのだが……

 

「その人物に見覚えも聞き覚えもありませんが……」

 

「謎の魔力、ということなら現界の方でも感じたからそっちにいるんじゃないかな♪」

 

ㅤ現界。ここより魔物は遥かに弱く、現界の魔王に喧嘩さえ売らなければ、大して生き苦しむことも無いであろう魔界より上の座標に存在する世界。それならば安心だと紫紅は思ったが、当の本人は死にかけるわ現界の魔王とお近づきになるわと散々であった。そんなことは今知る由もないのだが。

 

「っと、着きましたよ。ここが私共の城、ナンバン城です。」

 

ㅤそう言われて、足元を見て歩いていた紫紅は顔を上げる。そこには魔王城です、という雰囲気抜群のお城があった。やっぱ最初に来るとこじゃないよここ……と思いながら2人について行き中に入る。

 

「……早かったじゃないか、2人とも。」

 

「ただいま兄さん♪」

 

「ただいま戻りました、シハク様。こちら、客人の紫紅様でございます。」

 

「……初めまして、メイサーの紫紅です。」

 

「ふむ、我は”魔界の紅凍魔王”、シハクだ。大魔王を目指してそこの2人とともに”魔界三銃士”として活動している。」

 

ㅤ魔王。その名に恥じぬオーラを纏っていた。戦おう、逃げよう、なんて思う余裕すらない。目の前に存在しているだけで精一杯だ。

 

「シハク様、申し訳ありません。この者、異世界から来たようで何もわからず。そして今は1日以上何も食しておらず、とりあえず何か召し上がってもらおうかと戻った次第でございます。」

 

「……何、腹が減っているのか。それはいけない、早く何か食べさせてあげなさい。……というよりちょうどいい、みんなで夕飯にしよう。トモ、夕食の準備を。その前に軽くつまめるものを紫紅さんにお出しするんだ。」

 

「かしこまりました。では用意して参りますので、お座りになってお待ちください。」

 

ㅤトモは紫紅の席を案内し、一礼してから部屋から去った。厨房へ向かったのだろう。一体どんな料理が出てくるのだろうか……。やっと食事を取れる喜びと未知の世界での料理に一抹の不安を抱く紫紅であった。

 




今回はここまで!いかがでしたか?

今回のif民モチーフのキャラは3人!

魔界三銃士の、
シハクさん、トモさん、春輝さんです!
ツイにタグ付けしますね。

次回

第5話『紅き氷』

おたのしみに!


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第5話『紅き氷』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
魔界に転移させられていた紫紅は、トモと春輝に出会う。二人に殺意がなかったことから話し合いを受け入れるが、お腹が減りすぎてひとまず2人の城に戻り食事をすることに。しかし、その城というのは”魔界の紅凍魔王”シハクの住む魔王の城で、3人で魔界三銃士。とかいう鬼やばメンツだったのだ。執事のトモが食事を作ってくれることになったのだが、どんな物が出てくることやら。そして、いきなり魔王城に入るという順序おかしい事になってしまった紫紅の運命やいかに
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「さて、料理ができるまでの間少し話をしようか、紫紅さん。」

 

「……わかったわ。なんでも聞いてちょうだい。でも、あたしも分からないこと多いから全てに答えられる訳では無い、ということは予め了承しておいて貰えると助かるわ。」

 

ㅤ紫紅だってこの世界に来る前のこと、兄のこと、謎の何かが起きてなんか来ちゃったこと、くらいしか言えないのだ。本当に訳わからない事だらけで、考え直そうとしても答えが見つからない。

 

「構わない。この状況はお互いにイレギュラーであり、よく分からないということであろう?でなければ、ボロボロになってまで魔界の一定の場所で戦闘を繰り返す、なんておかしなことになるわけが無い。」

 

ㅤどうやら話がわかるタイプの魔王だったらしい。冷酷で残忍な魔王だったらどうしようと不安な紫紅だったが、少し安心した。

 

「ここに来るまでに看板は見たかい?」

 

「あの、ʕ 」•́؈•̀ ₎ 」シャキンのやつなら……見ました。」

 

ㅤなんとなく顔文字の雰囲気を出そうと顔とポーズを真似しながら言ってみた。同じく席に着いている春輝が吹き出した。紫紅が睨みつけると「ごめんって!いやだって真似するとは思わないじゃん!あはは♪」と腹を抱えて笑っている。少し恥ずかしくなってきたので話を戻した。

 

「えと、もしかしてあの看板になにか深い意味が……」

 

「ないよ。」

 

「ないんだ……。」

 

ㅤならなぜ聞いたのか、この魔王は少し変わっているのかもしれないと思った。

 

「ただ、今はかっこよくありたい気分だからあれは忘れて欲しい。」

 

「はぁ……。すみません、多分無理です。」

 

「やっぱし?」

 

「はいぃ……。」

 

ㅤ春輝が笑いをこらえてプルプル震えている。今にも爆発しそうだ。なんだか腹が立つので殴ろうかと思ったがメイスがなかった、というより破壊された事を思い出す。なんでこの人あんなに強いのだろう、と少し悲しくなるのであった。

 

「紫紅様。いきなり食べるとお腹を壊す可能性がありますのでこちらをお飲みくださいませ。人が飲んでも大丈夫なものなので警戒なさらず、ゆっくりと。」

 

「あっ、ありがとうございますトモさん。」

 

(気配を感じなかった……もしこの人と戦うってなった時は注意しておかないと。)

 

ㅤ一応、助けてくれているので最大警戒まではしてないが、それでも万が一があるため警戒はしていた。それでも気配を感じさせず横に現れそっとグラスを置く。隠密に置いてかなりの手練だと思った。紫紅を探しに来た時は隠れる必要性がなかった、もしくは春輝の存在が強すぎて隠れても意味がなかったのだろう。気配を消した様子はなかったが。

 

「いただきます……」

 

ㅤこの世界でも言うのかは分からないが一応いただきますを言ってからゆっくりと飲み始めた。その飲み物は透明で水かと思われたが、飲んでみると滑らかな舌触りというか若干とろみのようなものがあり、フルーティな味わいだった。モヤモヤした心もリフレッシュしてくれるような、そんな味だ。温度もぬるめで、胃に優しく作られている。入っているものに害がないのであれば完璧だ。

 

「んっ……。美味しい、ありがとうございますトモさん。」

 

「お口にあったようで何よりでございます。それでは食事の方用意して参りますので、今暫くお待ちくださいませ。」

 

ㅤ再び一礼してからトモは姿を消す。この目で見ても彼が移動するために行動したという実感がなかった。

 

「さて、君は異世界人、という認識でいいのかな?」

 

「ええ、間違いないわ。そして名前は紫紅。……と、紅葉。話すと長くなるのだけど━━━━━━━」

 

ㅤ紫紅は転移する前の世界でのこと、転移する時のこと、転移したあとのことを順番に話した。とは言っても、転移する時含めその後はもはやよく分かってないのでそこまで重要な話はできなかったが。

 

「神々……か。それは天界に居る神どもの事なのか、それともさらに上の……それこそこの世界そのものを創世した神々がいるのだろうか。すまないが我々にも分からないことだな、それは。」

 

ㅤ意外と真面目に考えてくれていたらしい。そこまで悪い魔王では無いのだろうか。いや、そもそも悪かったらここで話してることすら怪しいなと思うのだった。

 

「正直なところ、魔界で、恐らく現界でも天界に行ったことあるという人はいない。天界が存在するということだけは何故か文献などで周知されているが、残念ながら天界に行ったという話は聞いたことがない。」

 

「それは……、ほんとに存在するの?」

 

「分からない。しかし歴史の文献に天界、つまり神が関与してなければ到底起こりえない事象もいくつか残っているのだ。それも歴史の遺産として残っているものもあり、見たことは無いがあるのだろう、というのがこの魔界と現界の住人の認識だ。」

 

ㅤ確かに、その歴史で発生した産物、遺物がある。そしてそれが現界と魔界の住人の手では作りえないもの、だとすれば。仮に行ったこと、見たことがなくとも天界があると思うのも当然だろう。

 

「ふむ、これ以上得られる情報はなさそうだね。それじゃあそろそろ料理も出来たみたいだし、頂くとしようか。」

 

「お待たせ致しました。」

 

ㅤシハクの言葉が終わるタイミングでトモが料理を運んでくる。見た目は……めちゃくちゃ普通だった。悪い意味ではなく元の世界でも、よく見るものだった。

 

「雑……炊?お米……あるんだ、ここ。」

 

ㅤさすがに具とかまで全くおなじではなく、所々紫の何かが入ってたりするが、匂いは間違いなく雑炊だった。

 

「ああ、そちらの世界にもあるのですか。それなら安心です。胃にも優しく、栄養も取れてちょうど良いかと。本当は召し上がっていただきたい物があるのですが、今はこれで我慢して下さいね。」

 

ㅤ微笑みかけながらトモが言ってくる。この人元の世界に居たらめちゃくちゃモテただろうな……と紫紅は思った。ちなみに、シハクと春輝の所には鳥料理が運ばれていた。これは……

 

「本日は”鳥のナンバン仕立て”でございます。タレ等が衣服等に付着すると落ちにくいため、気をつけてお召し上がりくださいませ。」

 

「おお!今日はナンバンか!大好物だよ!」

 

「ね、ねぇトモ?お、俺……じゃない、僕は……肉は苦手だっていつも言ってるじゃないか♪な、なんで、」

 

「たまには肉も食べないと体に悪いですよ春輝様。それに、比較的筋肉になりやすい鳥肉なんです。我慢して食べてください。」

 

ㅤチキン南蛮じゃん!というツッコミを紫紅はぐっと堪えた。ツッコンだらめんどくさい気がする。それにしても、肉嫌いなのにあの握力なのか、と本当に怖くなってしまう。体の組織構造から違うのかもしれないが、それでも先程のトモの言動通りだと、少なくとも筋力増強に肉はいいはずなのだ。なにはともあれ、春輝以外には楽しい食事が始まった。

 

「あ……美味しい。」

 

「お口にあったようで何よりでございます。」

 

ㅤ本当に、この殺伐とした魔界でどうやったらここまで美味しい食材が手に入るのか。肉はまだ見た目があれでも美味しい線があるが、問題は野菜だ。移動中、森のような場所はなかったはずだが。

 

「野菜はこの城で育てていますよ。気候がアレなので色々試行錯誤しましたが、聞く限り野菜も豊作で高品質な世界から来たあなたが美味しいと食べる。ということは大成功のようですね。嬉しい限りです。」

 

「ええ、本当に、美味しいわ。」

 

ㅤもぐもぐと食べる。必死に食べる。なんせ久しぶりの食事が美味い飯。お腹が減っていたため美味しさ倍増、美味しさカーニバルである。舌の上でとろけるように崩れる鳥肉。体に染み渡るような優しい出汁。ほくほくと芯まで出汁の染みた野菜。出汁に浸かっていながらも柔らかくなりすぎることなくしっかりと形のあるご飯。本当に最高の雑炊だった。

 

「ふう……ご馳走様でした。」

 

「ご馳走様、トモ。魔王にふさわしい食事だったよ。」

 

「ニク……モウイヤ……。」

 

「皆さんお口にあったようで何よりです。」

 

「俺の言葉聞こえてる!?」

 

ㅤ春輝が思わず素に戻って声を上げる。今気づいたが、春輝はカッコつけてる時は一人称が僕で、素の時は俺になるらしい。無理してカッコつけなくてもいいのに、と紫紅は思うのであった。

 

「さて、今日は食後の運動はいかが致しましょうか。いつも通りバトルロイヤルにしますか?それとも紫紅様も居ますしいつもとは少し違う形の催し物にしますか?」

 

「僕は今日はパス♪無理♪死ぬ♪」

 

「紫紅さんも居るし、そうだね。紫紅さん、今はフルパワー出せる?」

 

「っ……。気づいて、居たんですね。」

 

「そりゃもちろん。会話と伝わってくる魔力から、魔界に来てからスタミナ維持重視でセーブして戦ってた。ということくらいは分かるよ。なんだって魔王だからね。」

 

「私も気づいていましたよ、シハク様。」

 

「こら!そういうことほんとでも言わない!」

 

「これは出過ぎた真似を。」

 

ㅤそう。紫紅は力をセーブしていた。と言っても、転移してきて魔力量がデカすぎる上に、自分でも使い方がイマイチ分かってない状況。その中でなんとなく生み出したのが春輝に撃った『紫雷槌』。しかし、あれはさすがに丸1日戦い続け魔力の限界が来ていたため、本来の威力の10パーセントも出せていない。

 

「2つ、聞かせて。1つ、この世界の魔力の使い方はイメージと魔力量。そのふたつさえあれば身に余る魔力でなければ扱える?2つ、この戦いで殺されたりはしないわよね?」

 

ㅤ疑問に思っていた魔力についてと、この試合についての最低限のルール確認をした。答えは

 

「もちろん、両方ともYESだ。魔力に関する認識は今はそれでいい。死ぬであろう攻撃は寸止めしてあげるし、あれだ。2人が見てるから止めに入る。死ぬことは99パーセントないよ。」

 

ㅤ両方ともYESだった。魔力の認識があってるなら試したいことがある。ならばと承諾しようとしたが、ある重大なことに気づく。

 

「……あの、武器、そこのチャラ男に壊されたんですが。どうしましょ。」

 

「あ〜、それについては本当に申し訳ありませんでしたこのとおりです許してください。」

 

「ふむ、破片でもいいから何かあるかい?その残骸。」

 

ㅤ春輝が土下座謝罪という、キラキラ王子様系の土下座を見るという超レアケースを見れた紫紅はとりあえず許した。そしてメイスの欠片を取り出す。

 

「一応……ありますけど……。」

 

「少し貸してくれるかな?」

 

ㅤ何をするのか分からないがとりあえず渡した。悪いことはしないだろうと信じてのことだ。するとシハクは何かを唱えた。そして……

 

「なっ!?」

 

「これで元通り。どうぞ?」

 

ㅤなんと紫紅のメイスを瞬時に復元して見せた。驚きを隠せないまま受け取る。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「破壊から1日以上たっていなければ、無機物っていう条件付きで直せるよ。今からやる戦いでももし壊れたら直してあげるから遠慮なく振り回すといいさ。まあ、さすがに手を抜かせてもらうよ。得意で好きなのはレイピアだが、今回は槍で行く。」

 

ㅤ復元能力。なんと素晴らしいのか。しかし、復元能力に頼って物を粗末にするのは間違ってる気がするので、二度と壊すものか、と心に誓った。それに、手を抜かれちゃ、一泡吹かせたくもなるものだ。

 

「ええ。全力で行かせてもらうわ。」

 

「それでは、御二方、準備はよろしいですか?」

 

「いつでも。」

 

「いいわよ!」

 

ㅤ2人が承諾し、トモの「始め!」の号令とともに戦闘が開始する。

 

「『紫雷槌』!!」

 

「『魔王覇気』」

 

ㅤ小手調べの『紫雷槌』。しかしそれは魔王の覇気だけで押し返されてしまう。

 

「くっ!」

 

「『闇飛沫。』」

 

ㅤシハクが槍を一振りすると水飛沫の如く闇が迫る。そのまま受けるのはまずいと直感した紫紅は、体とメイスに魔力を纏わせ、叩き落とし、躱していく。案の定闇が触れた物は闇に呑まれ消えていったので魔力を纏っておいて正解だった。

 

「やっぱ本気出さないと一歩すら動いてくれないのね。」

 

「逆に本気出さずにこの魔王を動かせるとでも思ったか?舐めるなよ、異世界人。」

 

「だったら……フルパワーで打ち込ませてもらうわ。」

 

「待ってやる。来い。そーいうのはわかるタイプなんだ俺は。」

 

ㅤフルパワーで叩くには時間が必要だったが、待ってくれるらしい。

 

「ありがとう。ご期待に添えるよう、がんばるわ、ね!」

 

ㅤ魔力解放。筋力増強、思考加速、紫雷纏装、防御貫通、予知。とりあえず同時にイメージできる限界で能力を付与し、魔力を解放する。

 

「はぁああああああーーーー!」

 

ㅤ紫紅の目が紅く染まり、紫雷を纏う。そして、紅いオーラをまとい、髪の色が紫と赤のグラデーションとなる。

 

「ほう……?」

 

「うわぁ♪すっごいんだねあの子♪」

 

「これはなかなか……面白いですね。」

 

ㅤ三銃士が感嘆の声を上げる。

 

「くらえ!『紫雷華激』!」(しらいらんげき)

 

ㅤ具現化した4つの雷のメイスを従え、目にも止まらぬ速さで突撃する。総数49連撃。高速でメイスを叩きつける。

 

「これで……終わり、だああああああ!」

 

ㅤ最後の一撃が炸裂した瞬間、一際大きなクレーターができた。紫紅の渾身の技。今考えたにしては中々のものだったはずだ。だが、

 

「やるじゃないか……このシハク様に、かすり傷をつけるとはな。」

 

「わぁ♪兄さんが怪我してる♪」

 

「見た目以上の威力、という訳ですね。お強い方だ。」

 

ㅤ防御貫通は付与したはず。ならば、ダメージ軽減効果だろう。思ったようなダメージは与えられていなかった。

 

「うーん、やっぱダメかぁ!」

 

ㅤまだフルパワー状態のままだが、今のような大技は出せない。せめて次の攻撃を受けきるくらいはしたいところだが。

 

「よくやる方だよ……ほんとに。2人以外に傷をつけられたのは久しぶりだ。お礼に少し本気を見せてやろう。」

 

「ありがと!かかってきて!」

 

ㅤすると、シハクの槍に凍気が纏われる。しかし凍気と言っても紅い。紅き凍気を纏い、紅いの氷が現れ始める。そして、槍を構え、投擲の準備。くる、と思い紫紅は魔力を最大限纏い、受けの準備。

 

「行くぞ異世界人。」

 

「ん!」

 

「我が技の前に屈するがいい!『凍血ノグングニル』!!」

 

ㅤシハクの手から槍が高速で投擲される。デカい紅い氷の結晶の中心から凍気を纏い飛来する槍。紫紅は全力で受けることに決めた。

 

「『紫雷結界・五重』!!!」

 

ㅤ紫雷の結界を五重で展開する。逃げない、止めてみせると意気込む。槍が結界を1枚、2枚、3枚と割り、残り1枚まで迫る。

 

「負けるもんかああああああああぁぁぁ!」

 

ㅤピシ、ピシと、結界にヒビが入り始める。

 

「トモ♪」

 

「承知致しました。」

 

ㅤパリン、と結界が破れ槍が紫紅を貫くと思ったその瞬間。赤い影が紫紅を攫い、槍から逃がした。

 

「っ!?はあ、はあ。」

 

「きゅるるぅ!」

 

ㅤ紫紅を助けたのは紅くモフモフの毛皮を持つ小竜だった。

 

「お見事です、アル。これほど育てばそろそろ外に連れて行っても良さそうですね。」

 

ㅤアル。トモのペットらしい。あの一瞬で自分も怪我することなく救出するとは。かなりの速度だったろう。

 

「助けてくれてありがとね。」

 

「きゅぅ〜♪」

 

ㅤ紫紅が撫でてやると嬉しそうに頭を擦り寄せてきた。ずっと魔物という見た目の悪いものばかり見てきた紫紅にとって、この可愛さは反則だった。体の傷は癒えないが、心が癒される。

 

「よくあそこまで耐えた。褒めてやる。なかなかに楽しい戦いだったぞ、紫紅さん。」

 

「それはどうも。……なんで戦闘中は異世界人って呼んだの?」

 

「雰囲気だ。」

 

「あ、そう。」

 

ㅤどうやらこの魔王は雰囲気第一らしい。気持ちはわかるがほんとに大事な戦いの時大丈夫なのだろうか、と思うがそんなこと考えても仕方ないと割り切る。

 

「ほんと凄かったよ♪兄さんにあそこまでやるなんて♪」

 

「ええ、驚きました。本当に。」

 

「あはは、ありがと。完敗したけどね〜。」

 

ㅤタハー、と床に倒れ込む。頭が着く直前にトモが枕を敷いてくれた。気が利きすぎて逆に怖いくらいである。

 

「それで、提案なんだが。」

 

「ん?何〜?」

 

「この魔王城で修行しないか?対価はその服装通りメイドとして働く、でいい。安心しろ、師はトモだ。春輝じゃない。」

 

「どういう意味かな兄さん!?」

 

ㅤ修行。魔界から現界に行くには特定のフィールドでボスを倒す、もしくは魔王はゲートを開けるらしいが、そんな甘ったれたことはしたくないらしい。まあ、当然の反応だろう。そして修行の師はトモ。優しいけど修行になったら厳しそうだな、と思いつつも師にするにはおそらくこの中で最適。使う武器が違うのが懸念されるが、それは誰が師になっても同じことだ。魔王の元での修行。対価はメイドとして働く、悪い話じゃないと思った。

 

「そういうことなら、遠慮なく、そうさせてもらうとするわ。よろしくお願い致します。」

 

「ああ、よろしく。紫紅。」

 

「わぁ♪僕と一緒に暮らしたいだなんt……そんな怖い顔しないでよ♪」

 

「よろしくお願いしますね。紫紅様……弟子になるなら呼び捨て……いやせめてさん付けですね。紫紅さん。」

 

ㅤこうして、紫紅は魔王の元で修行することになったのだった。




今回はここまで!いかがでしたか?
いつもより長くなっちゃった……てへ♡←あたおかなう

今回は前回に引き続き魔界三銃士のみなさんの登場でした!
またツイにタグ付けしますね。

ちなみに前回言い忘れましたが、
春輝さんはカッコつけてる時は一人称僕、素の時は俺になります!ややこしくてすんません!

そしてトモさんのペット、”アル”という名前はご本人命名で、ラテン語で紅き翼という意味の”アラルブラ”から”アル”と名付けたそうです!かっけぇ。

いやはや、書くの楽しいけど難しい!

次回!第6話『ジーマ村にて』

おたのしみに!


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第6話『ジーマ村にて』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
色々あって魔界の魔王の元で修行することになった紫紅。
一方その頃現界では焔斗がジーマ村に到着しようとしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「そろそろ、か。」

 

ㅤ魔王レーヴァテインとの戦闘後、足を引きずりながらもジーマ村に到着した焔斗。到着するなり村人がすごい形相で走りよってきた。

 

「お、おいそこのあんた!どうしたんだ大丈夫か!?すごい怪我だぞ!」

 

「あ、どうも。焔斗って言います。ここでいろいろ買いたいのとシンレ館について聞きたくて……」

 

ㅤとにかく早く強くなりたい焔斗は食い気味に質問する。自分の怪我のことより妹、急ぎすぎるのは良くないが焦ってしまうのも仕方の無いことだろう。

 

「バカタレ!んな事言っとる場合か!けが人は大人しくしとけ!おい!スリクさんに治療薬持ってくるよう伝えてくれ!あと、丁度いいとこにいた!シイさん、この人診てやってくれ。すぐそっちに運ぶから!」

 

ㅤだが、焔斗の怪我は常人には計り知れない程深かった。出血こそ無いものの骨は何本か折れ、立っているのがおかしいと思えるくらい痛々しい姿だった。

 

「シイさん、どうですか。治りますかね、この人。」

 

「骨折による内出血が酷いですが、スリクさんの薬があればなんとか、と言った所でしょうか。外出血がないのが救いです。数時間で回復できるかと。」

 

ㅤシイはこの村で一番の医者だった。銀髪ショートの銀眼で、高身長のスラッとした女性だ。王国に住む医者と比べても遜色ないほどの診察力と治療の腕の持ち主で、正直なぜこの辺境の村にいるのか分からない。以前村人がそれとなく聞いたことがあるが、このような辺境の村でも人は人。その命を見捨てたくないから、と言われたらしい。本心だとしたらめちゃくちゃいいひとである。

 

「待たせたな、薬だ。とりあえず効きそうなもんで、同時摂取しても大丈夫な物だけ持ってきた。これで効き目があるといいが。」

 

ㅤ治療について会話をしているとスリクが薬を持ってきた。濃い緑の髪のロングで、目の色は赤で細く、眼鏡をかけている高身長の男性だ。こちらも王国お抱えになっててもおかしくない薬剤師なのだが、森が近くにある方が良い治療薬が作れるし、素材も良質なものが取れる、と言ってこの村に滞在している。

 

「おお、スリクさん、ありがとうございます。これだけあれば充分です。あとは私の回復魔法でどうにか出来ます。一気に治すことも可能ですが、それだと体の細胞に負担がかかりすぎるので、今回は低速の継続回復魔法にしておきます。先程も言った通り数時間もすれば完治するかと思われます。」

 

ㅤ落ち着きを取り戻した焔斗は、村人達の会話を静かに聞いていた。『螺旋焔』が使えた時点でこの世界に魔法という概念があることは決定的だったが、回復魔法もあるらしい。自分に覚えられるものなら覚えたいが、医者という専門職がある時点でこの世界における回復魔法はゲームのような単純なものでは無いのだろう、と考察できた。

 

「それでは、治療を始めますね。焔斗さん、でしたか。しばらく動かないでくださいね。」

 

「はい、お願いします。」

 

ㅤシイによる治療が開始される。素人目なので良くは分からないが、とても器用な魔力の流し方だとは思った。各所同時に回復魔法を使っているのにもかかわらず、出力が全て調整されている。所々スリクが持ってきた薬を使いながら丁寧に手際よく治療が進められていった。

 

「よし、これでいいでしょう。あとは付与した継続回復に自然回復で治るのを待ちましょう。焦って体の傷を治しても細胞が疲れるのでどちらにしろ動けなくなってしまうんですよ。もちろん、戦いの時などはそんなことになってしまえば意味が無いので、解決策があるにはあるのですが……。それは即戦わなければならない場合のみ、です。元気の前借りみたいなものなので。」

 

「はあ、わかりました。ありがとうございますシイさん。」

 

ㅤ言ってることは理解できるが何せ疲れて頭が回ってないし、そう言えばこの世界に来てから何も食べた記憶が無い。そろそろ何か食べたいな、と思っていると先程村に入った時に心配してくれたおっちゃんが何か持ってきた。

 

「おい焔斗さんよ。腹減ってんだろ?今は治療中だからガッツリしたもんは食わせてやれねえが、せめてこれは食え。腹減ってちゃ怪我の治りもおせえからな!」

 

ㅤガハハ、と言いながらおっちゃんはお粥のようなもの……というかお粥を出してきた。名前はガルフ、というらしい。ファンタジー系でよく見るおっちゃんという感じの、おっちゃんだ。伝わるだろうか。

 

「こ、米……だと……!?」

 

ㅤ米だ。そう、米である。日本の主食、米である。米なのだ。もしかしたら二度と食えないかもとまで思っていたものがこんなにすっとでてきたのだ。焔斗はいただきますと言ってからがっついた。味は悪いかもと覚悟していたが全然そんなこと無かった。ただのお粥でお湯とお米しか入っていないのにも関わらず、この米にはしっかりとした甘みがあり、口の中を幸せで満たした。身も心も温まる食事。本当に美味かった。

 

「おーおー、お粥をそんな美味そうに食うやつは、なかなか見た事ねえぜ。焔斗さん、相当腹空かせてやがったなぁ?」

 

「ご馳走様でした。」

 

ㅤ一瞬で食べ終わってしまった。口の中にほんのり残ったご飯の甘味を堪能しながら礼を言う。

 

「ほんと、ありがとうございます。」

 

「いいってことよ!」

 

「いってえ!?」

 

ㅤ喝を入れる気だったのだろう。ガルフに背中を叩かれ、全身に激痛が走る。当たり前だ、骨が何本折れてると思っているのか。

 

「ガルフさん!?怪我人に何してるんですか!治療が遅れるだけならまだマシですが、治療中の過度の刺激は下手すりゃ命に関わるんですよ!?」

 

「お、おっとすまねえ、ほんと、悪かった。」

 

ㅤシイにめちゃくちゃ怒られるガルフ。そんなに怒ることないじゃん、とも思ったが話を聞く限り冗談じゃ済まないみたいだ。

 

「まったく……。ところで、焔斗さん。あなた一体何者ですか?治療の時に分かりましたが不思議な魔力ですし、それに自然治癒力も一般人に比べてかなり高い。先程数時間と言いましたが、この調子なら1時間程度で完治するでしょう。」

 

「ああ、ええと、一から説明するとですね……」

 

ㅤ焔斗はこれまでの事を全て話した。この説明をあと何回しなければならないのだろうと思いながら。

 

「こりゃあ、なんというか俺にはついていけねえぜ……。」

 

「すみません、スケールが大きすぎると言いますか……にわかには信じがたいことだらけで、頭の中が混乱しています。」

 

「その世界の薬は、重宝されたんかな?でも魔法がないとは不便やなあ。」

 

ㅤなんだか一人だけ注目点が違う気がするが、やはり理解が難しいらしい。それもそうだ、いきなり異世界どうこう言われても理解しろという方が酷というものである。

 

「まあ、その話については一応飲み込む、ということにしておきましょう。我々が理解し判断する範疇を超えてます。それこそ王国に行って原因解明して欲しいところですが……。」

 

「いや、それより妹と合流するのが先です。そのために強くなるので、もし王国に着くまでに目標ラインに達せれば、直ぐに魔界に向かいます。」

 

ㅤきっぱりと言ったが、そこで村人達がキョトン、とした。

 

「魔界に行くってもよ。どーやって行く気だ?焔斗さん。」

 

「魔王レーヴァテインをぶっ潰す。そして、連れて行かせる。それが俺の目標です。」

 

「「「はぁ!?!?」」」

 

ㅤ全員が驚愕の声を上げた。それもそのはず、相手は魔王なのだ。それをぶっ潰す上に命令を聞かせる、といったことを平気で口にしてる。驚かない方がおかしいのだ。

 

「お、おい焔斗さんよ……。正気か?」

 

「正気です。まあ、この傷はその魔王の超手抜き状態にやられちゃったんですけどね!あはは!先は長そうです。」

 

ㅤいや笑い事じゃねえだろ……。とその場にいる全員が思った。魔王に挑んで生き延びている点、ボコボコにされてもまだ魔王に挑もうとしている点、色々おかしい奴だと誰もが思って当然である。

 

「そういえば、シンレ館について場所とか情報お聞きしたいんですけど、何か知りませんか?」

 

ㅤもう突っ込む気力も失せた村人達は質問にただ答えることにした。そうしないと気がもたない。

 

「シンレ館は試練の館、とも呼ばれている。その名の通り、腕の良い冒険者等がさらなる力を求めて試練を受ける場。館の主は魔女で、名前はしゃろんと言う。が、それ以上の情報はない。なぜなら、その館に行って帰ってきたものは居ないからだ。つまり、その館の試練に打ち勝ったものは未だかつていない。そんなところだ。」

 

ㅤ魔王レーヴァテインから教えられた場所だから薄々嫌な予感はしていたが、どうやら思ったよりやばいところだったらしい。生還者ゼロ?それはいくらなんでもキツすぎるのでは、と思ったが、そこを乗り越えるほどでないと魔界には行けないということならば納得出来た。

 

「それと、そこに行くまでの道中に狐耳の獣人がいると思う。赤髪赤目に眼鏡をかけているから、すぐ分かるはずだ。狐とは言うが、こいつがなかなか戦闘狂でな。おそらく自分たちの国に帰省しているタイミングでもない限りは避けては通れぬだろう。」

 

ㅤ獣人族。何時かどこかで会うのだろうかとは思っていたがこんなに早く出会えるとは。しかし、穏やかでない出会いになりそうだが。

 

「わかった。傷も癒えたみたいだしそろそろ俺は行くよ。ほんとありがとうございました。」

 

「困った時はお互い様だぜ、焔斗さんよ!また顔出してくれよ!今度は怪我なく、な?」

 

「私も治しがいのある治療をさせて頂き感謝致します。治しがいはありましたが、くれぐれもお怪我のないように。」

 

「即効で効く薬や。少ししかやれねえけど、持っていくといいさ。役に立つはずだ。」

 

ㅤ俺が出発しようとすると皆暖かい言葉をかけてくれる。それに無料で治療薬が手に入るのは嬉しい。この世界の金銭はまだ持ってなかったので、どうしようかと思っていたのだ。

 

ㅤ村の人達に別れを告げ、シンレ館に向けて出発する。恐ろしい程の痛みを受けたせいか、多少のダメージならなんてこと無くなっていた。

 

「へぇ……。おいあんた、あたしと遊ぼうぜ?」

 

「?……なっ!?」

 

ㅤ木々のどこかから声が聞こえたかと思った瞬間、炎の斬撃が焔斗を襲った。

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?

オリキャラいっぱい出したけどネーミング単純すぎましたわ( ˇωˇ )

今回登場したif民のモチーフの方はお話だけに、レーヴァテインさん、しゃろんさん。

そして最後チラッとせつこさんが登場しました!

次回

第7話「焔vs炎」

お楽しみに!


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第7話『焔vs炎』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ジーマ村にて、村人の暖かい歓迎により傷も癒え、情報も得ることが出来た焔斗。
目的のシンレ館に向けて出発したが、道中謎の斬撃に襲われる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「っ、誰だ!」

 

「へぇ……今のを防ぎ切るんだぁ……なかなかやるじゃないの、あんた。」

 

ㅤ木々の間から飛んできた炎の斬撃を叩き落とした焔斗。すると木の陰から狐耳、赤髪ロングに赤目で片手直剣を持った獣人が出てきた。メガネもかけている。おそらく、というかほぼ確定でこの獣人が村人達が言っていた者だろう。

 

「あたしは節狐(せつこ)……。獣人の戦闘好きさ。とにかく強い奴と戦いてえ、そしてシンレ館はやべえ噂だらけ。ならば、シンレ館に繋がる一本道のここを通る奴はほぼ確定でお強いわけだ。」

 

ㅤ戦闘好き。情報通りだった。ただ意外だったのは少し取り巻きが居ることだ。てっきり一人で行動するタイプだと思い込んでいたが、対多数は焔斗の苦手とする状況である。

 

「戦闘好きと言う割に、取り巻きに頼ってんじゃねえよな?まあ見た感じ、あんたほど強いわけじゃなさそうだけど。」

 

「ああ、安心しな。こいつらはあたしのお目付け役、というかなんというか。なんにせよ、戦いの邪魔はしてこないからさ。邪魔したら、あたしが許さねえしな。」

 

ㅤどうやら別に全員で襲いかかってくる訳では無いらしい。それなら助かると思いながら、焔斗は武器を構えた。

 

「悪いけど俺も急いでる。とっとと終わらせてもらうぜ。」

 

「舐められたもんだねえ…… 」

 

「『お世話の時間』(執事タイム)!」

 

「は?」

 

ㅤ魔王には通用しないだろう、とその時は使わなかった技を使用した。『お世話の時間』(執事タイム)。指を鳴らした後3秒ほど時を止めて行動できる技だ。圧倒的格上には通用しないのと、同じ時止めの技を使う敵には効果が無いため、割と使うことは少ない。

ㅤ焔斗が指を鳴らした瞬間。節狐の体にメイスがめり込んでいた。

 

「カハッ……。」

 

「時間はかけたくない、そう言っただろう?」

 

ㅤ全力で吹き飛ばす。一応、魔力もメイスに込めていたので威力はそこそこあるはずだ。木々をへし折りながら、節狐は吹っ飛ぶ。

 

「節姐さん!!!」

 

ㅤ取り巻きが心配そうに名前を呼ぶ。さすがに、この程度で倒せるとは思っていないが、少なくともダメージは入ったはずだ。

 

「やってくれるじゃねえか……今のはちと効いたぜえ?」

 

「まあ、さすがにそこまでダメージはないか……。」

 

「ったりめぇだろ?獣人なめんなって。」

 

ㅤほとんど無傷だった。そう、ほとんど、である。つまり何度も何度も打ち付ければ倒せる。幸い、時止めを使えばそこまで時間を取られることも無い。

 

「『お世話の時間』(執事タイム)。」

 

ㅤもう一度時を止める。そして殴りこもうとした瞬間だった、止められた時の中で節狐は動いたのだ。

 

「なっ!?」

 

「そうちまちまと、つまんねえ戦い方してんじゃねーよ!」

 

(こいつ、気合いで時止めを破りやがった!?)

 

ㅤ節狐は戦闘狂である。バチバチとぶつかり合う派手な戦闘が大好きだ。それが出来ない戦闘なんて、真っ平御免。ましてや相手は、もっと派手な戦いができるくせに、あえて針でつつくような戦い方をしている。そんなのは認められない、その一心だけで焔斗の『お世話の時間』(執事タイム)を破ったのだ。

 

「ははっ!これでもくらいな!『爆殺炎舞』!!」

 

「チッ……めんどくせぇ!」

 

ㅤ片手剣に炎を纏わせ、狂ったように舞う。放たれた炎の斬撃が物に触れた瞬間、大爆発を起こす。そこは森だったはずなのに、いつの間にかクレーターだらけの土地になっていた。怖いのは、その爆発に節狐自身が巻き込まれても気にしていないという点だ。取り巻き達は何やら防御結界を張って凌いでいるが、彼女にその様子はない。そこまでダメージ喰らわないとしても、一応はできるだけ自分には当たらないようにするのが普通だ。こういうところが、戦闘狂と呼ばれる所以だろう。

 

「逃げてばっかじゃつまんねえ!どうしたどうしたぁ!?もっと攻めてこいよォ!」

 

「くっそ、喰らえ、『螺旋焔』!!」

 

ㅤなんとか攻撃の隙を見つけて『螺旋焔』を放った。渦上に真紅の焔が節狐に迫る。

 

「いいねぇ!そう来なけりゃ楽しくねぇ!……!?」

 

ㅤ節狐は『螺旋焔』をあえてよけずにくらう。かなりのダメージの様だったが、彼女の戦意は全くもって下がっていない。だが、何故か驚いた様子だった。

 

「おいあんた、今の炎の色。ガチの紅だったじゃねえか……!なんでただの人間が……。」

 

「?この色って、魔力によって色が変わるとかじゃねえのか?」

 

「んなわけあるか!常識だろ!」

 

ㅤ怒られてしまった。間違えていたらしい。それにしても、先程から出てくる単語が気になって仕方がない。

 

「なあ、もしかして俺の焔の色ってなんか特別なの?」

 

「知らねえのか……?」

 

「知らねえっすね。」

 

ㅤそう答えると節狐は「あはは!」と笑い、魔力を込め始めた。

 

「お、おい!質問に……」

 

「”真紅の焔”。俗に言う炎とはまた別種の属性。燃やす、という点において変わるところはないが、”禁忌の焔”に対抗する手段と言われている。そんなやべーの使うやつと戦えるなんてよ……。全力で行かなきゃ勿体ねえよなぁ!」

 

「な、なに?」

 

ㅤ”真紅の焔”。これが焔斗が使っている焔の呼び名らしい。そしてそれは、魔王レーヴァテインの使う”禁忌の焔”に対抗する手段、と彼女は言った。なぜ、と思ったが、魔王レーヴァテインが俺に向かって言った言葉に説明がついた。彼は、自分の焔に対抗する焔を使う相手を見つけた。だからこそ殺さずに、強くなれと言ったのではないだろうか。

 

「この世界丸ごと燃やせそうなくらい、魔力が高まるぜぇぇえええええ!!いくぞ!『本能かいほ……」

 

「節狐様!お待ちを!」

 

「!?」

 

ㅤこれは本気でやばい、と思った、その瞬間だった。取り巻きの中でもリーダー格と思われる人物が出てきて、制止の声を上げた。

 

「なんだァ!?邪魔はすんなって言ったよな!?」

 

「節狐様!お聞きください!もう出発しなければ帰省する時間に間に合わなくなりますぞ!」

 

「何?もうそんな時間なのか?……ったく。タイミングの悪い。」

 

ㅤ焔斗には何が何だか分からなかったが、どうやら戦う気は無くなったようだ。溜め込まれていた魔力が霧散し、節狐の雰囲気も普通に戻った。

 

「……やらねえのか?」

 

「あたしも、やりてぇんだけどよ。流石にお国の決まり破るのは不味いんだよ。だからよ、またどこかで絶対戦おう。なんだかあんたとはまたどこかで会いそうな気がするからよ。……絶てぇ死ぬんじゃねえぞ!?わかったな!?」

 

「あ、ああ……。」

 

ㅤそれだけ言い残すと、節狐一行は出発してしまった。ちなみに、先程の戦闘で引火した木々は会話中に、取り巻き達がしっかり消火していた。

 

「……嵐のようなやつだったな。さて、気を取り直してシンレ館に行くとするか!」

 

ㅤそこから歩いて五分くらいだろうか。意外と近かったのか、シンレ館に到着した。「よし……。」と気合いを入れ直し、焔斗は扉を開ける。

 

「試練を受けられると聞いてきた!焔斗という!誰かいないか!」

 

ㅤ薄暗く広い玄関。ここからでも見えるおびただしい本棚にびっしりと詰まった本。しばらく待っても返事がなかったので、もう一歩踏み込んだその瞬間。

 

「っ!?」

 

ㅤ首筋にものすごい悪寒が走り、全力でその場から飛び退いた。その瞬間、今まで焔斗が居た場所に一筋の線が走った。気づいていなければ首から上が飛んでいただろう。間一髪だった。

 

「え〜?避けちゃうのぉ〜?ひっさしぶりに人が来たから生首取れると思ったのにぃ〜。まあ、戦いも楽しみたいってのもあったから、これはこれでいいけどね♡」

 

「あんたが……しゃろんさん、ですか?」

 

ㅤ焔斗がそう問いかけると、目の前の魔女っ娘(?)はニヤリと笑って答える。

 

「その通り!私こそがこの館の主にして、魔女のしゃろん!お兄さん、私を楽しませてね♡」

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?

今回のif民モチーフは、お話だけにレヴァさん、

そしてメインでせつこさん。

最後にちらっとしゃろんさんが出てきています!

次回
第8話『思い込みをぶち壊せ』

お楽しみに!


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第8話『思い込みをぶち壊せ』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
戦闘狂獣人、節狐との戦い。決着こそつかなかったものの、この世界に来て初めて力の程度が近い相手と戦えて少し楽しかった焔斗。そしてシンレ館に到着し、早々に魔女しゃろんに首を狙われるのであった
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……ここで、試練を受けられると聞いて来たのですが。」

 

ㅤ突如襲いかかって来た魔女っ娘に問いかける。なぜ、魔女っ娘が暗殺者みたいな襲い方をしてきたのかはよく分からないが。

 

「ん?試練?……あー、たしかにそんな設定だったね、ここ。うん、受けられるよー?クリアすれば、能力も段違いに上がること間違いなし!まあ、クリアした人今までに居ないから、なんとなしに奇襲かけて、それで殺せれば終わり、回避すれば戦って殺して終わり、で試練ぽいことは結局できてないけどね♡」

 

ㅤ少し青みがかった銀髪のショート。少し鋭めの赤目に、頬にはタトゥーのような模様。魔女の帽子から覗くその見た目は、可愛いイメージではなく、かっこいいという雰囲気だった。無邪気に笑えば可愛いのだろうが、とてもそんな事をしそうな様子はない。

 

「試練を受けに来た。正式な順序で受けさせて欲しい。」

 

「いいよ〜♡なんだかあなたからは、不思議な魔力を感じるし。気になるからね♡」

 

ㅤとりあえずただの殺し合いではなく、試練として挑戦できるようで焔斗は少し安心した。

 

「んじゃ早速。あなたの目的は、魔界にいる妹さんに会いに行くこと、合ってる?」

 

「……合ってる。」

 

ㅤなぜ知っているのだろうかと思ったが、魔女っ娘なのでそんなこと知ってて当たり前、と言われたらたしかにとしか答えられないので敢えてつっこまないことにした。

 

「でも、魔界の魔物はこの現界より遥かに強い。あなたの妹が生きてる保証なんてほぼないけど、それでもあなたは信じてる。それはなぜ?」

 

「悔しいが、妹は俺より強いから。生きてると思えた。それに、本気になった時の女の子は強えしな。」

 

ㅤ苦笑しながらそう答えた。前の世界でもゲームの中はもちろん、リアルの方でも普段は焔斗に完全に負けてるのに、本気になった時はほぼ互角まで詰めてきたのだ。

 

「あはっ♡お兄さん分かってるぅ!よし、じゃあ最初の試練、決まり!」

 

ㅤそう言うとしゃろんは杖を振り、空間を変えた。先程までは戦ったら本が燃えてしまうのでは、と懸念していたが、完全に戦うためのステージに変わっていた。

 

「あれ〜?あんまり驚かないね。こういうのは慣れっこ?」

 

「慣れてはないけど、こういう描写の物語は沢山あったから。何となく想像できただけだ。」

 

「そっか〜。残念♡ま、いっか!それじゃ試練、行ってみよー!」

 

ㅤそう言った瞬間、しゃろんはステージの観客席のような所に飛び、焔斗の死角から”紫の雷を纏ったメイス”が迫ってきた。

 

「な!?」

 

ㅤバチィィィ!と、ギリギリで反応できた焔斗が自分のメイスで防ぐ。焔斗を襲った者の正体、それは、

 

「し、紫紅!?なんでっ」

 

ㅤずっと再会を望んでいたはずの、紫紅だった。見間違えるはずがない、完全に同じの容姿。違っているとすれば、雰囲気が焔斗の知ってるいつもの紫紅では無い、というところだろうか。

 

「紫紅……じゃない?いやでも……っ!?」

 

ㅤ少し考えてる間に、目にも止まらぬ速度で接近してきた。紫紅のメイスが、焔斗を吹き飛ばす。

 

「がはっ……!」

 

(速すぎる……!一体どうなってるんだ……!)

 

ㅤ防戦一方で戦っている焔斗に、しゃろんが笑いながら解説する。

 

「あはは♡それはね、あなたが思い描く妹ちゃん!本物じゃないよ!そこは気づいてるみたいだけどね。こう言っちゃなんだけど、自分より圧倒的強者と思う相手である以上、君に勝ち目はないよ♡でも、見てる私を楽しませてね♡」

 

ㅤなるほどそういうことか、と焔斗は思った。どうりで何も喋らないし、目にも生気がないように見える。自分の心からの具現化、それも戦闘能力だけというのなら納得がいった。

 

「くっそ!『螺旋焔』!」

 

ㅤ攻撃の合間を上手く見つけて、『螺旋焔』を放つ。が、紫紅はそれをものともせず突っ込んでくる。魔界での紫紅を焔斗は知らないため、技こそ打たないものの、その基礎能力だけで遥かに圧倒されていた。一撃一撃が重く、体力がゴリゴリと削られていく。このままでは、死ぬのも時間の問題だろう。

 

(なにか……何か手はないのか……しかし戦ったら絶対に負けるようなやつと戦ってるのに……こんなに妹にボコられる日が来るなんて……ん……?)

 

ㅤそこで違和感を感じた。猛攻をなんとか凌ぎながらの思考なのでかなりゆっくりだったが、やがて焔斗は答えにたどり着いた。

 

「きゃはは!きゃはは!殺れー殺れー!殺っちまぇー!あはははは!」

 

ㅤ見ているしゃろんはとても楽しそうだ。ここに人が来るのが相当久しぶりだったのだろう、怖いと言えば怖いが、なんだか微笑ましかった。

 

「紫紅……は!」

 

ㅤ猛攻を受けながら、声を絞り出す。

 

「兄ちゃんに暴力なんて、ふるわねえええええええええええええ!!」

 

ㅤそう叫んだ瞬間、心から作り出された紫紅の動きがピタリと止まり、霧散した。消える寸前、心無しか彼女は少し微笑んでいるように見えた。気のせいだとは思うが。

 

「おお〜!見破ったね!すごいすごーい!あはは!」

 

「考えてみれば単純だったよ……。」

 

ㅤ今の紫紅は、焔斗の思い込みから生まれた存在。その思い込みのせいで強かった。それは考えていたのが強さだけだったからだ。そう考えるように、開始前のしゃろんとの会話で誘導されていたのである。そのせいで、激強で勝てない妹、という存在が生まれた。だが、思い込みで左右されるなら、思っていることを変えればいい。弱くないものを弱いと思うのは難しい。ならば、事実である上に効果的な考えを持てばいいだけの話だった。今回の場合、《紫紅は兄ちゃんである焔斗を本当に傷つけるようなことは絶対にしない》と思い込むことで、攻撃を止めることに成功したのであった。

 

「うんうん!じゃあ次の試練に進む前に、少しお茶にしようか!」

 

「え?いいのか?」

 

ㅤ意外だった。てっきりこのまま連続で戦闘が行われると思っていたからだ。

 

「うん!だって試練の後の次の部屋とかって、結局進まなきゃ休憩できるよね?だったら休憩も挟まないと!強くなるのは大事だけど〜、焦って無理してもダメ!それに、あなたの事も聞きたいし、ね?」

 

ㅤそうすると、しゃろんは指を鳴らす。すると、その場がティーセットのあるオシャレな部屋に変わる。物語とかではよく見た演出だが、実際に体験するとなかなか不思議な気持ちになる。彼女は、ティーカップに紅茶?を注ぐ。

 

「紅茶もあるのかこの世界……。」

 

「お?そっちの世界にもあったの?なら良かった。紅茶はお好き?」

 

「ええ、好きです。」

 

ㅤそして、紅茶と茶菓子を頂きながら焔斗は今までの経緯を話す。ちなみに紅茶は、香りがよく、ほんのりと口の中に爽やかな後味が残る。いい紅茶だ、と思った。

 

「ふぅ〜ん、異世界、神、ねえ?天界が関係してそうだけど、歴史の文献以外に、全く情報がないからな〜。その歴史の中にも転移者、なんて記述はないし……。ん〜わっかんないなぁ?わっかんないから面白いなぁ♡」

 

「はは、なにか分かったら教えますよ。」

 

「お、ありがと♡」

 

ㅤそのまま軽く雑談し、ティータイムが終わる。しゃろんが立ち上がり、指を鳴らす。

 

「さて!休憩も終わったし、次の試練と行こうか!次は、2個目で最後。私との戦闘、だよ♡」

 

ㅤ思ったより早く、しゃろんと戦うことになるらしい。焔斗は覚悟を決め、集中する。

 

「……わかりました!よろしくお願いします!」

 

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したのはしゃろんさん!
ありがとうございました!

今回から設定を変えて、ハーメルンにログインしてなくても感想をかけるようにしました!自分が、感想言ってるの恥ずかしい〜とか、なかなか面と向かって言えないミス見つけた〜とか、遠慮なくどうぞ!

次回
第9話『黒炎』

お楽しみに!


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第9話『黒炎』

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最初の試練を無事乗り越えた焔斗。意外と優しいのか、ティータイムの休憩を挟み、遂にしゃろんとの一騎討ちが始まろうとしていた
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ㅤしゃろんとの一騎討ち。館に入った時の攻撃でも、かなりの格上と思っている。そもそも彼女は魔女っ娘、魔法を得意とするはずなのだ。ならば、一気にこちらから詰めて近接攻撃で攻めれば落とせるはずなのだが。

 

(館に入ってきた時の動きから察するに、おそらく近接戦闘もかなり慣れているはず。気をつけないと……)

 

ㅤあの時の動きは、手慣れたものだった。まるで今まで何度もそうしてきたことがあるかのように。

 

「じゃあ、はじめよっか♪」

 

「ああ。」

 

ㅤ俺が答えると同時に突撃しようとする。先手必勝、少なくとも遠距離よりかは近距離の方が勝ち目があるはず。そう思っての行動だった。

 

「おっそ〜い!」

 

「っ!?」

 

ㅤしかし、距離を詰めたのは焔斗ではなくしゃろんだった。焔斗の腹に杖が突きつけられている。

 

「しまっ」

 

「ゼロ距離ドッカーン♡『爆撃』」

 

ㅤまずいと思い、距離を取ろうとしたが、それよりしゃろんが魔法を撃つ方が早かった。ゼロ距離での爆発系統魔法。焔斗は盛大に吹き飛ぶ。

 

「くっ……!」

 

「お?お〜!すごい!体勢立て直すなんて!」

 

ㅤ焔斗は、吹き飛ばされながらもなんとか体勢を立て直し、着地した。しかしダメージは尋常ではなく、少しふらつく。

 

「マジかよ……、いわゆるバーサークマジシャンってか?」

 

「その呼び名が何なのかは良く分からないけれど、魔法ってなんでみんな遠距離で打つんだろうね?ゼロ距離で打った方が威力そのままだし、命中率高いし、良いことづくしなのに♡」

 

ㅤたしかに理論上はそうだ。だが、リスクもある。基本的に魔法使いは防御が低い……というのは魔法が便利すぎるが故に設定されたゲームのものだとしても、あの距離で爆発系統の魔法は自身にも被害が及ぶ可能性がある。余程魔力コントロールに長けた者でも、爆風にあおられるのは必須だろう。

 

(発動と同時に自身にバリア付与、か。なるほど、もうなんでもありだな。)

 

「たしかに、しゃろんさん程魔術に長けていればその理論は確定されちゃいますね……」

 

「でしょ?わかってるぅ♡」

 

「でも負けない!」

 

ㅤ焔斗は突撃した。おそらく、今までの全てのバトルで詠唱などが存在していないことから、魔力の使い方は『螺旋焔』の時のやり方で間違っていないはず。ならば

 

「『螺旋焔・散』!!」

 

ㅤ焔の渦を一方向に飛ばすのではなく、拡散させあらゆる方向から襲わせる。一直線だと避けやすく対策されやすい上、先程のしゃろんのバリアは前方向だけだったからだ。複数方向なら攻撃が届くのではないか、と焔斗は考えた。

 

「うっそぉ!?そんなこと出来るの!」

 

「よし!」

 

ㅤ焔斗を少し知っていたのが、逆に弱点となった。技が発動して飛ぶまでは、動きが全く同じ。前情報で『螺旋焔』を知っていれば、拡散するとはとても思わない。流石に全て命中とまでは行かなかったが、2、3回ほどヒットさせることに成功した。

 

「いってて〜。そう来るか〜」

 

ㅤしゃろんは流石に少しダメージを受けた様子だった。と言っても、決定打になってないのは明らかである。

 

「ちっ、やっぱきついか。」

 

「そんな甘くないよ〜。……それにしても、今のは凄かったね!魔力をコントロールして拡散、それも拡散しても元の火力から低下しないように魔力を込め直してた。それに、飛来速度も後ろに回って来るのと前方から来るので、全く同じタイミングに直撃するように調整されていた!」

 

「……さすが。よくわかってらっしゃる。」

 

ㅤそこまで見破られると、もう撃ちたくないと思ってしまう。対策もバッチリしてくるだろう。そうなれば他の手を考えるしかない。

 

「じゃあ私も、ちょっと本気出しちゃおっかな?正直、合格レベルには来てるから殺すまではしないよ?でも、やられっぱなしも嫌だしね♡」

 

ㅤしゃろんがそう言うと、空中に浮かび出した。そして、そこそこの高さで静止する。

 

「ふぅ……『黒炎纏装』。」

 

「んなっ!?」

 

ㅤしゃろんが黒い炎を纏い、髪の色も僅かに黒みがかる。逆に目は今までより紅く輝き、絶大な魔力が放出される。

 

(待て待て待て待て!これ殺す気だろ!そうだろ!)

 

「一応信じてるけど、ちゃんと対策しないと死ぬから。その時は自業自得ってことで♡」

 

「ちっ!『紅焔纏装』!」

 

ㅤ意味を成すか分からないが、何もしていないよりかはマシだろうと、焔斗も紅の焔を身に纏う。

 

「いいぜ来い!」

 

「あっははは!逃げないんだ!いいね!いいね!大好きだよ焔斗くん!じゃあ、全力で行くよ!『黒炎魔砲』!」

 

ㅤ杖の先に込められた特大魔力が打ち出される。黒炎の塊。あの黒い炎がどんな効果をもたらすのかわからないが、避けないで受ける。そう決めた焔斗に迷いはなかった。

 

「『深焔の壁』!!」

 

ㅤ自らの焔を壁のように前に張り、黒炎を防ごうと試みる。特大の黒炎球と、焔斗の作った壁がぶつかり、ものすごい熱風を発生させる。

 

「あはっ!敢えて立ち向かうその姿、嫌いじゃないよ!でも残念、私の黒い炎は、炎をも燃やすの!……あ、れ?」

 

ㅤ黒炎。それは何でも燃やし尽くす呪いのような炎で、腕の立つ挑戦者もここで敗北し、死んでいた。殺す気は無いとは言っているが、黒炎を使ってる時点で殺す気満々なのである。だが、今回は焔斗の焔を燃やすどころか、むしろ飲み込まれていた。

 

「……なるほど、これが、禁忌の焔に対抗しうる力。私の黒炎ですら、こんなザマになっちゃうんだね……。」

 

ㅤやがて黒炎は飲み込み尽くされ、黒みがかって深い紅色になった焔は、焔斗に戻った。

 

「っ!?……ぐ……!」

 

ㅤ焔斗の全身に、燃えるような痛みが走る。いくら焔が優秀とはいえ、それを受け入れるまでの力が今の彼の体には無かった。

 

「っ!いけない……!焔斗くん!その魔力溜め込まないで放出して!身が滅んじゃう!」

 

「な……に……?」

 

ㅤ実際、焔は黒炎を飲み込んだが、焔斗の体は黒炎の効果を無効にするような体質を手に入れてなかった。本来この吸収は段々と慣らしていくのだが、最初に飲み込んだのが強力な黒炎だったため、対応しきれていないのだ。

 

「でも、これ……放出したら……ここがタダじゃすまなく……」

 

「いいから!気にしないで、私が何とかする!私を信じて!全部出してーーーーーー!」

 

ㅤその言葉を信じ、焔斗は溜め込まれた魔力を放出する。と同時に、しゃろんは焔斗の体から魔力が抜けきった瞬間に彼の全身に防御結界を何重にも張り、そして、放出される魔力がさらに外に漏れないよう、自分を巻き込まないように幾重にも結界を張る。

 

「止まれぇぇえええええ!」

 

ㅤ結果的に残った結界は一枚。その一枚ですら、割れる寸前だった。

 

「焔斗くん!大丈夫!?」

 

ㅤいつの間にやら名前呼びになっているが、認められた、ということなのだろうか。しゃろんが心配そうに飛んでくる。

 

「は、はい。大丈夫で……」

 

「わっ!?」

 

ㅤ生きてはいたものの、全魔力を放出したため力が入らず、倒れそうなところをしゃろんに支えられた。

 

「お疲れ様!試練は合格、というか、この試練ですごく強くなれたんじゃないかな?とにかく、今日はもう休もっか。部屋は貸すからさ。」

 

「……ありがとう、ございます。サイコパスだと思ってましたが……意外と普通なとこ、あるんですね……。」

 

「こら、一言余計だぞ!私は認めた相手には殺意は抱かないの!まあ、それでも死ぬかどうかの戦いは大好きだから何時でも待ってるよ♡」

 

ㅤやっぱりこの人サイコパスだ、と思いながら焔斗は目を閉じた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━翌朝。

 

「ん……。ここ、は……。ああ、そうか、俺。」

 

ㅤ目を覚ました焔斗は、少しだけ見覚えのある天井を見ながら、昨日の出来事を思い返す。試練、どうにか乗り越えて意識を失ったところまで思い出して記憶は大丈夫だと再確認する。しかし、問題は今の状況だった。右腕に感じる重さ。微かにかかる吐息。恐る恐る横を見ると、そこにはしゃろんが寝ていた。焔斗の右腕を枕にして。

 

「!?……?……!?!?」

 

ㅤたしかに昨日は、あの後意識を失っていたはず。そして部屋を貸す、と言われていたから別の部屋があるのかと思っていたのだが、ここはしゃろんの部屋なのだろうか。いやだとしても、この状況は一体何なのか。

ㅤ焔斗が困惑して、ほのかな女の子の匂いと感触に心臓をバクバク言わせていると、扉が開き、「お?起きた?おはよー!」と、”しゃろんが”部屋に入ってきた。……ん?

 

「え?あ、おはようございます……え?」

 

ㅤ部屋に入ってきたしゃろんと、横で眠るしゃろんを交互に見て困惑していると、部屋に入ってきたしゃろんが笑いだした。

 

「あはは!あー、それ?それね、魔法でできた私。いや〜焔斗くんお疲れだから起きた時に横に美少女が居たら癒されるんじゃないかな〜と思って!どう?癒された?」

 

ㅤその説明をしているうちに、ゆっくりと横に寝ていた魔法しゃろんが薄くなり霧散した。

 

「いや紛らわしいわっ!!心臓に悪いっ!すっごく悪い!」

 

ㅤ焔斗がガバッと起きながらそう叫ぶ。しゃろんはそれを見て腹を抱えて笑っていた。ああ、この湧き出てくる感情が殺意か、と焔斗は思った。

 

「あはっ!面白すぎるよ君!それに……分身だけど、私のことちゃんと女の子として見て、ドキドキしてくれたんだね……。」

 

ㅤ急に少し頬を赤らめてそんな事を言うしゃろん。もうからかっているようにしか見えなかった。

 

「はあ……なんにせよ、ありがとうございました。」

 

「礼はいらないよ!また今度殺し合いさせてね♡」

 

ㅤ認めた相手は殺す気ない、と昨日言っていたはずなのだが。と思ったがつっこまないことにした。

 

「あ、服と体も魔法で洗っといたよ!……安心して、魔法だから脱がせてないし触ってないから。」

 

「ど、ども……。」

 

ㅤ見られてないし触ってないと言われても、自分の体が知らぬ間に女の子に洗われたとなると、どうしても少し気にしてしまう。男の子だもの。

 

「次は……どこ行こうか……。」

 

ㅤよくよく考えたら焔斗には、この後行くあてがなかった。魔王レーヴァテインには「シンレ館に行け」としか言われてなかったため、本当に手詰まりである。

 

「んー、行くあてがないならここから少し離れたところにある、商業街ミカルコってとこに行けばいいと思う。ちょうどそこで、魔界から来たアイドルの2人組がライブしてたと思うから。」

 

ㅤ魔界から来た、それだけで充分会うべき相手だと思った。魔界の情報は今のところ無いに等しい。ならばミカルコに行くしか選択肢はなかった。

 

「ありがとう、行ってみるよ。」

 

「はーい!行ってらっしゃい!いつでも殺し合いに戻ってきて良いからね!」

 

「物騒な……」

 

ㅤだが、なんだか慣れてしまった自分にすこし恐怖を感じたのであった。

 

「ハグしてあげよっか?」

 

「んなっ」

 

ㅤ突然そんなことを言い出すので少したじろぐ。ハグ?いやいやいや、と思っているとしゃろんが笑い出す。

 

「あははは!初心だねほんと!からかいがいがあるよー!」

 

「るっせぇ。」

 

「でも、ちょっと心配。そのアイドルの片方はサキュバスだから気をつけてねー?」

 

ㅤサキュバス、なるほど。絶対苦手な自信があると焔斗は思った。

 

「もう片方は?」

 

「ごめん、そっちはよく分からない、なんか特殊な魔力の子ってくらいしか。」

 

ㅤ特殊な魔力。俺と同じような転移者なのだろうか?それともまた別のなにかなのだろうか、まあ会えばわかるだろうと考えるのをやめた。

 

「そうか、まあ、行ってくる。」

 

ㅤそう言って扉を開けて、焔斗は商業街ミカルコに向けて出発した。

 

「ふぅ。行ったね。ほんとあなたって隠れるの得意よね?”放浪魔王”さん。」

 

「ふん……。影の魔法が少し得意なだけだ。別に隠れるのが好きってわけじゃないさ。」

 

ㅤしゃろんが館の陰に向かって話しかけると、魔王レーヴァテインが出てきた。実はあれからずっと焔斗をつけているのだ。

 

「あなた、暇過ぎない?」

 

「暇じゃなきゃ”放浪魔王”なんて呼ばれてねーよ。」

 

ㅤそりゃごもっとも、と答えながらしゃろんは焔斗が向かった方角に目を向ける。

 

「焔斗くん、相当強いよ。まだまだ力残してる。ううん、可能性、と言った方が正しいかな。」

 

「だから俺も殺さなかったし、後をつけてる。」

 

「ストーカーよ?それ」

 

ㅤしゃろんの指摘にレーヴァテインは押し黙る。どうやら返す言葉もないようだ。しゃろんは魔王を黙らせたことにちょっと満足したのだった。

 

「さて、そろそろ行くか。殺さないでくれて助かった。」

 

「はいはーい、見つかんないようにねー。」

 

ㅤレーヴァテインがその場から去った。陰に溶け込むように消えるその様は、いつどこに潜んでるか分からない人には恐怖でしかない、と思った。

 

「さてと……、」

 

ㅤしゃろんは部屋に戻り、通信魔具を起動し、魔話をかける。通信が繋がる。

 

「あっ、もしもし”シハク様”?今日、いや昨日もか!めっちゃ珍しいことがあったんだよー!聞いて聞いて〜!」

 

ㅤ焔斗が居なくなり少し寂しくなった部屋に、楽しそうな声が響くのであった。




今回はここまで!
いかがでしたか?

今回登場したのは前回に引き続きしゃろんさん!
そして最後にちらっとレーヴァテインさん!

ありがとうございました!

次回
第10話『闇華(ヤミカ)と来羅(ライラ)』
おたのしみに!


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第10話『闇華(ヤミカ)と来羅(ライラ)』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
シンレ館での試練(というか殺し合い)を乗り越えた焔斗。商業街ミカルコに魔界から来たアイドルがいる、という情報をしゃろんから得て出発した。そして到着し
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「みんな〜!今日はライブ来てくれて、あっりがとね〜!」

 

「次のライブもおたのしみに〜!」

 

ㅤ結果論から言うと、ミカルコにで二人を探さなければならない、なんてことは無かった。ちょうどライブ中で、めちゃくちゃ目立っていたからだ。流石に、ライブを邪魔してまで声をかけるほど焔斗はアホでは無いので、途中からだったがライブを観ていた。だが問題があった。

 

(人気あるだろうなとは思ったけどこれはありすぎるでしょ……。声掛けれんの?無理くね?)

 

ㅤそう、めちゃくちゃ人気があり、おびただしい観客に、ステージ付近には恐らく警備の衛兵。めっちゃ厳重だった。しかし、そんな心配は不要だった。魔界の人物である以上、魔力は高いし、感知能力もある。そんな彼女達が、異様な魔力を纏う焔斗に気づかないはずもなく、向こうから興味を示してくれたからだ。

 

「さて……どうしたもんかな……。」

 

ㅤ途中で焼き鳥のような何かを買って食べ歩きをしながら、焔斗は考える。あの二人にどうやって話しかけるべきなのか。

 

(それにしてもうめぇなこれ……)

 

ㅤ何故かは分からないが、この世界には前の世界と似たような料理が沢山ある。さすがに完全に同じとまでは言わないが、味の特徴などよく似ているのだ。例えばこの焼き鳥っぽい何か。炭火で焼いたのだろうか、炭火焼ならではの美味さを感じることが出来た。肉は驚く程にジューシーである。歯を使わずとも食える、とまでは言わないが、噛めば噛むほど味が出てきて美味しいのだ。ついているタレも、程よい甘辛さで食欲をそそり、何本でも食えると思える一品だった。塩の方も絶妙な塩加減が最高だ。この世界の食事が、全部こんな感じなのであれば、焔斗は妹と再会したあと食いすぎて太るかもしれない、と少し不安になるのであった。

 

「あ、やべ、ここ来るとこ間違えてね?」

 

ㅤ気づくと人通りの少ない道に来てしまっていた。彼女達に会いたいのなら、恐らくこのまま進んでも意味がないだろう。引き返そう、と焔斗が振り返り歩こうとした次の瞬間。右からピンク色の影が飛んできて、焔斗諸共路地裏に吹き飛ばした。

 

「かはっ!?」

 

「捕まえたーーーーー!あなた何者!何しに来たの?」

 

「んな、あんたは……!」

 

ㅤピンク髪のロングにパッチリとした緑がかった目。スタイルは抜群で、大体の男なら絶対に目を奪われるだろう。服装はピンクのアイドル衣装。そう、この街でライブしていたアイドルの1人である。名前は来羅(ライラ)。

 

「君の魔力はおかしい……。私たちを狙ってるなら、白状しなさい!」

 

ㅤ紫髪のロングにキリッとした少しピンクがかった目。すらっとしたスタイル。服装はピンクのアイドル衣装で、やけに太腿の露出が多い。名前は闇華(ヤミカ)。

 

「い、いや、俺はたしかに君達に用はあったけど、そんな物騒なことは考えてないって!魔界のむぐっ!?」

 

ㅤ魔界のことを知りたいだけ、と言おうとした焔斗の口が来羅によって塞がれた。よくよく考えれば今は来羅に抑え込まれてる状況で、色々と当たっていて危ない。意識しないようにしながら焔斗は塞がれた口を開こうとする。

 

「私達があっちから来たことを知っている……。場所を変えましょ、ここじゃどこに耳があるか分からないわ。」

 

「うん!分かったよヤミちゃん!じゃあ、そーれ!!」

 

ㅤ突然来羅は焔斗の体をぶん回して空の方に投げ飛ばした。街からどんどん離れていき、岩のゴツゴツした荒れ地に落ちていく。

 

「のわあぁぁあぁぁあぁぁ!」

 

ㅤ咄嗟に下に向けて魔力を放ち、落下速度を軽減する。充分速度が緩まったところで、足から着地する。

 

「ふぅっ……あっぶね〜……。」

 

「わ!この人凄い!生きてる!」

 

「来羅ちゃん、殺す気で投げちゃダメだよ……。」

 

ㅤどうやら殺す気だったらしい。この世界には殺すのが好きなやつしかいないのだろうか。勘弁して欲しいの焔斗は心底思った。

 

「で、私達が魔界から来ているのを知っているのは何故?」

 

「そうだよ!なんで?しっぽも魔力も隠してるし、ただの人間には分かるはずないんだけどなぁ?」

 

ㅤ情報源を隠すべきか迷ったが、隠したところで意味は無いだろうと判断して、焔斗はしゃろんから聞いたことを彼女達に話した。ついでに、自分から異様な魔力が流れ出ていることについても説明した。

 

「しゃろん……?魔女の見た目、黒炎……まさか、魔王様の……」

 

「え……?」

 

ㅤ魔王様、そういったのだろうか。あのしゃろんが魔王と繋がりを持っていた……?どっちの魔王だろう、と聞こうとしたが闇華に遮られた。

 

「いえ、なんでもないわ。あなたの状況はだいたい分かった。それで、知りたいことは魔界のことかしら?」

 

「……ああ。魔界にいるはずの妹を助けに行くために、行く手段に関してはあてがあるのだが、魔界そのものの情報が少なくてな。もし良ければ教えて欲しい。」

 

ㅤそう言うと、来羅が駆け寄ってきて思いっきり抱きしめてきた。

 

「うお!?」

 

「疑ってごめんね〜!妹思いの優しいお兄ちゃんだったなんて!情報なら任せて!お手伝いもいっぱいするよ〜!」

 

「く、くるし……」

 

ㅤ柔らかい感覚もあって、男としては羨ましい状況なのかもしれないが、問題は来羅のパワーだった。強く抱きしめられすぎて体が真っ二つになりそうだ。魔界にはこんなヤツらがうようよいるのか、と思うと少し不安になる焔斗であった。

 

「来羅……離してあげて……。」

 

「わ!ごめんね!力加減って難しいね……えへへ。」

 

「ゴホッゴホッ……だ、大丈夫ですよ。油断した俺が悪いので……。」

 

ㅤそう言ってから少しだけ焔のオーラを身に纏う。敵意がないのはわかっているが、無邪気に殺されたんじゃ浮かばれない。

 

「……不思議な焔ね。」

 

「よく言われます……。」

 

ㅤ軽く雑談した後、魔界の情報について話をした。要約すると、魔界に人口は少ない。人口と言っても、純粋な人ではなく、自我のある人型の見た目の魔物のことだ。現に来羅はサキュバスらしい。抜群のスタイルにも納得である。

 

「それに、これは知ってると思うけどもちろん魔王もいるわ。”魔界の紅凍魔王”シハク。紅い氷を使う魔王よ。もし彼に見つかって無礼を働いたのだとしたら、あなたの妹も無事ではないでしょうね。」

 

ㅤ実際の紫紅は、なんか色々あって魔王の下で修行をすることになるという、どちらかと言えば安全圏にいる。しかし、現界にいる二人にそんな最新情報はもちろん入っていない。

 

「なるほどな……。もし捕まってるだけなら魔王すら倒さなきゃならないかもしれないわけだ……。こりゃ本気で修行しなきゃヤバそうだな。」

 

「戦う気、なのね。まあ、そこは自由にしてもらって構わないわ。でも、修行というなら」

 

「私達が少しだけ鍛えてあげよっか?ふふ。」

 

ㅤ彼女達曰く、焔斗の魔力の扱い方は荒すぎるらしい。まだまだ本当の威力を出せていないし、魔力効率が悪いらしい。魔界ではほぼずっと戦闘が続くと考えられるため、もっと上手に魔力を使わなければスタミナ切れで倒れてしまうと言われてしまった。そう言われたら、お願いする意外に選択肢はない。

 

「頼む。」

 

「……まあ、教えると言っても、私達と戦って、観察して、体で覚えてもらうしかないんだけどね。『暗雷の調べ』。」

 

「よーし!じゃあ行っくよー!『風の調べ』!」

 

ㅤ二人の体の周りに、穏やかで規則正しい魔力が漂う。調べ、というワードがあるからか、ちらほら音符が飛んでいる。魔力の流れ、放出するのではなく、自分の中を通じて周りに流れを作っている感じだ。確かにこれなら魔力消費は微々たるものだろう。

 

「なるほどな……。『紅焔纏装』。」

 

ㅤ焔斗は、魔力の流れをイメージして魔力を纏ってみた。二人ほど上手くは行かないが、なんとなく感覚は掴むことができた。

 

「へえ、なかなかセンスあるじゃない。それじゃあ、行くよ!」

 

「覚悟してね!」

 

「っ!」

 

ㅤ少し不思議な見た目をした片手直剣を持った闇華と、緑に光る両手斧を持った来羅との戦闘が始まった。




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは

Yamikaさんとララさん!ララさんの方はそのまま出すとあれなので設定を少し考えてもらいました!

ありがとうございました。

次回

第11話『堕天使』

お楽しみに!


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第11話『堕天使』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
なぜ、こうもバトルバトルとなるのだろうか。と思う焔斗。しかし、戦闘経験は今の彼にとって必要不可欠。疲れるけどこれも仕方ないと、目の前のアイドル二人に集中するのであった
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「えいっ♪」

 

「くっ!」

 

ㅤ来羅の斧が高速で振り下ろされる。先程の可愛らしい掛け声とは全然マッチしていない。焔斗は盾で受け踏ん張るが、あまりの衝撃に地面が陥没する。

 

「なんてパワーだ……!」

 

「うっわぁー!すごい!これ正面から受け止めるんだね!」

 

ㅤそうしている間に背後に気配を感じる。闇華だ。彼女の片手直剣だが、不思議な見た目だけでなく、重さも異常だった。とても片手直剣とは思えない重さなのだ。確かに少し太めな気はするが、ここまで変わるものなのだろうか。

 

「そこ……!」

 

「ちっ、『焔後盾』!」

 

ㅤ背後に魔力のシールドを生成し、闇華の剣を防ぐ。斬られるのは防げても、衝撃までは緩和しきれずに焔斗はバランスを崩す。そして、今まで盾で受けていた来羅の斧を止めるものが無くなり、焔斗に迫る。

 

「っ!」

 

ㅤ焔斗は斜め前に脱出し、なんとか斧の直撃を避けることが出来た。だが、斧が地面に激突して生まれた衝撃波により吹き飛ばされる。

 

「うあっ……!」

 

ㅤ吹き飛ばされた焔斗は壁に打ち付けられる。痛みで止まってる暇なんてない、すぐに闇華が距離を詰めてくる。やっぱ太腿出しすぎだと思った。

 

「ふっ!」

 

「えっ?」

 

ㅤ思わず声が出たが、それほど謎な攻撃だった。剣を振りかぶって攻撃しようとしているのはわかるが、その距離が明らかに遠く、剣のリーチ的に届くはずがないのだ。斬撃波系の何かをする様子もない。しかし、嫌な予感がピリピリした焔斗はすぐさま横に転がって逃げる。次の瞬間、”片手直剣の数倍はある長さと太さの大剣”が彼の居た場所を深く抉っていた。

 

「はぁ!?」

 

「初見でこれを察知して避けるなんて……。あなた、戦闘の勘はなかなかのようね。」

 

ㅤそう言った後、彼女の大剣はもとの片手直剣の長さに戻る。不思議な機械構造の形をした剣だなとは思っていたが、まさか変形型とは思わなかったため、焔斗は驚いていた。

 

「スキありー!」

 

「っ!『螺旋焔』!」

 

「わっ!『魔風波動』!」

 

ㅤ速攻で放った焔斗の『螺旋焔』が、来羅の『魔風波動』の豪風により防がれた。

 

(かき消しただと!?)

 

ㅤ『螺旋焔』をかき消された上に、豪風の余波が焔斗を襲い、地面に押し付ける。

 

「がっ!?」

 

ㅤ真上からの風に、焔斗は押さえつけられて身動きが取れなくなっていた。

 

「終わりよ。『地獄の雷』。」

 

ㅤ闇華が腕を上に振り上げる。次の瞬間、”地面から空に落ちる雷”が焔斗を襲った。

 

「ぐあああぁぁぁ!!」

 

ㅤ地面に押さえつけられた状態で、それを避けることが出来るはずもなく、焔斗は直撃をくらった。

 

 

「……降参、リザイン、まいった。」

 

ㅤ『紅焔纏装』(こうえんてんそう)を解除しながら負けを認める。それを聞いた二人もそれぞれ纏っていた魔力を解除し、武器をしまうのであった。

 

「……ちょっと自信ついてたけど、やっぱ勝てないか〜……。」

 

「でも君すごいよ!あれだけ力があれば魔界の魔物相手でもそこまで苦労することないと思うな!」

 

「ええ、同感よ。魔力に関することもそうだけど、戦闘の勘が良い人はかなり強いのよ。ただ、最初も言ったように魔力効率を考えておかないと、途中でバテちゃうわね。」

 

ㅤ魔王レーヴァテインと戦った後の二戦。節狐戦は向こうの本気が出る前に終わったためどうなっていたか分からないが、しゃろんの試練ではかなりの能力アップを感じられた。それでもここまで一方的にやられたのだ。

 

「それにしてもあなた、前線向きじゃないでしょ?動きがなんだか慣れてない感じがしたわ。それに、対複数は苦手ね。何故かしら?」

 

「まぁ、いつもは隣に妹がいたからなぁ……」

 

「戦闘に影響が出るほど……うぅ、早く再会できる事を祈ってるよ〜!」

 

ㅤ来羅が、今度は抱きしめすぎないよう優しく抱擁をしてくる。それはそれで色々危ないので、そっと離れた。

 

「くっそ……、あの神、天界にいるのか?」

 

ㅤ焔斗が”天界”というワードを使った瞬間、空気が変わった。明らかに二人の表情が暗くなり、目配せをしたあと何かを覚悟したかのように頷いた。そして闇華が口を開く。

 

「その、天界のことなんだけれど、少しは情報を提供できると思うわ。」

 

「何?それはほんとうか!?……いやでもなんで?」

 

ㅤここで焔斗は警戒した。天界に関する文献はほとんど無い。遺物や、出来事などはあてにならないので天界はどんな所か、なんて誰も知らないはずなのだ。それはつまり、知っているのなら天界に関係する者の可能性が高い。警戒するのも当然だろう。

 

「警戒しないで!ちがうの、ヤミちゃんはね、その、」

 

「いいわ来羅。自分のことは自分で言うから。……あのね、私は、元天界人。今は堕ちた”堕天使”なの。」

 

ㅤそう言った後、闇華の背中から黒い天使の羽が現れる。”堕天使”。そんな存在までいるのか、と焔斗は思った。それに文献がないのは恐らく、

 

「なぜ、秘密を俺には話す?それ、そう言っていい事じゃないでしょうに。」

 

ㅤ秘密にしていなければ、今頃天界のことは広く伝えられただろう。もちろん、信じてもらうためにはかなりの苦労があるかもしれないが、それでも何かしらの文献は残ったはずなのだ。それがないのに目の前には堕天使。秘密にしていたのを焔斗だけに明かすのは、意味がわからなかった。

 

「理由はあるわ。天界の掟にこうあるの。一つ、天界側から現界、魔界への干渉は一切禁止する。許されるのは鑑賞のみ。ただし一つの例外を除く。……この例外っていうのが問題なの。もし、あなた達の転移が天界によるものだとしたら、と思ったけどそれはありえない。何故なら干渉しては行けないから。つまり、この出来事は天界に住む者達にとっては、想定外の世界からの干渉。つまり異常事態なのよ。そして、この異常事態によるけど、現状監視を一年続け、現界と魔界に大きく影響を及ぼすかどうか、というのを見極めるの。そして、大きく及ぼしすぎると判断された場合、天界がこの世界に攻め入り、その異常事態の原因、それとその原因に深く関わった者たちを永久に抹消しに来るのよ。」

 

「.......なるほど、つまり一年後、判断次第では俺と紫紅は命を狙われる、ということか。.......でもいいのか?今の話が本当だとすると、この話をしてしまった君達はもう.......。」

 

ㅤそう、先程までの戦闘なら問題はなかったかもしれないが、今この話をした以上、ある意味一番関わっていると言っても過言ではないだろう。つまり、もしその時がきたら彼女達も狙われるということだ。

 

「いいわよ、別に。私は既に堕ちた天使、何かしらの方法で狙われる可能性は大いにあった。.......私が堕ちた時に助けてくれた来羅を巻き込んじゃったのは、申し訳ないけど、ね。」

 

「そんな!そんなことは気にしなくていいよヤミちゃん!一緒に、一緒に頑張ろうね!」

 

ㅤそう言って闇華の手を握りつつも、その手は少し震えていた。先程焔斗をボコボコにした来羅ですら、天界の事は怖い。つまり、それほどまでに強いということか。いや、未知の存在に対する恐怖と言った方が正しいのかもしれない。

 

「ありがとう来羅。一緒に頑張ろうね。」

 

ㅤ震える来羅の手に自分の手を添えて闇華はそう言った。二人は本当に深い絆で結ばれているんだなと思えた。

 

「ありがとう、本当に助かる情報だった。でも、今は妹と再会することが最優先だ。」

 

「ええ、分かってるわ。だからしばらくの間」

 

「私達が鍛えてあげる!」

 

ㅤ焔斗はサキュバスと堕天使に弟子入りしたのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━魔界

 

「もっと冷静に、的確に。」

 

「くっ!」

 

ㅤ紫紅はトモの指導の元、日々鍛錬を続けているのであった。




今回はここまで!
いかがでしたか?

今回登場したのは、
Yamikaさんとララさん!
ありがとうございました!

次回
第12話『春輝の弟子』

おたのしみに!


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第12話『春輝の弟子』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
現界で闇華と来羅に出会い、魔界とついでに天界の情報も手に入れることが出来た焔斗。色々ありこの二人の下で鍛えられることになった。そのころ、紫紅は魔界で修行に励んでいたのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「遅いです。『竜撃乱舞』」

 

「わっ!」

 

ㅤトモの短剣を使った重く速い超連撃。回避しようとしても手数が多すぎて避けきれない上、距離をとってもお得意のスピードで詰めてくる。

 

「『紫雷爆撃』!」

 

「くっ.......。」

 

ㅤそこで紫紅は防ぐのでも避けるのでもなく、攻めに出た。自身の紫雷を爆発するように解放させる。さすがに攻めきれずに、トモが一旦距離をとる。

 

「『紫雷牢獄』!!」

 

「なっ!?」

 

ㅤ予め隠して設置しておいた魔法を発動させ、トモを檻の中に閉じ込めた。そして、

 

「『無限紫雷棍』」

 

ㅤ閉じ込められたトモの周りに無数の雷の片手棍を出現させ、回転させながら彼を襲わせる。魔力尽きるまで永遠に。

 

「はああああああ!」

 

ㅤ攻撃が止まる、魔力はもうない。今の紫紅に出来るありったけを全てトモにぶつけた。まだそこまで修行した訳ではないが、確かに能力の上昇を実感できていた。

 

「60点、と言った所でしょうか。まあ、マシにはなりましたね、紫紅さん。」

 

「やっぱりそう?だめか〜〜」

 

ㅤバタッ、と仰向けに倒れる。するとトモが視線を逸らしながらボソッと言う。

 

「あと、もう少し淑女らしく、というか、今みたいに仰向けになると丸見えになりますよ.......。」

 

ㅤそれを聞いた瞬間バッ!とメイド服のスカートを抑える。さすがに恥ずかしいので頬も熱い。

 

「.......見た?」

 

「隅々まで。」

 

「なっ、ヘンタイ!」

 

ㅤ普通は見てても見てないと言うものだろうと、変に正直者なトモを睨みつけながら紫紅は思った。そんなやり取りをしていると修行場の扉が開けられ、春輝が入ってきた。

 

「あれ?使ってたんだ〜♪」

 

ㅤいつも通り陽気に振る舞う彼の隣に、春輝の白い服装とは真逆の黒めの似たデザインをした服装。銀髪のショートに少し紫がかった目。身長は春輝より低い。なんだが不思議な雰囲気を感じられる人物だった。

 

「ええ、ちょうど今終えたところです。お使いになるならすぐに退散しますね。」

 

「いや♪いいよ、せっかくだし僕の弟子の戦い方も観戦してみたらどうかな♪」

 

ㅤどうやら横にいるのは春輝の弟子らしい。紫紅の方に近づいてくる。

 

「やぁ、俺はサトシ!君を虜にするよ♡」

 

「.......うわぁ。」

 

「.......師匠、俺なにか間違ってました?」

 

ㅤ予想は付いていたが、あまりに予想通りすぎるナルシストだったため、紫紅は本当に嫌そうにドン引きした。サトシは悲しそうに春輝を見る。

 

「うん♪この娘は最初からこんな感じだよ♪僕にもぜ〜んぜんなびいてくれなかったしね♪でも、強いて言うなら初対面から虜にする、とかストレートに行くんじゃなくて、もっと女の子に寄り添う感じで♪この人なら頼れる、身を任せたい♡て思われるようにするといいよ♪」

 

「なるほど!勉強になります師匠!」

 

ㅤいや、そのアドバイスは大したアドバイスになってないのでは。と紫紅は思ったが黙っておいた。この二人には何言っても多分無駄だからだ。

 

「紫紅さん。」

 

「ん?何かしら」

 

「性格はああですが、サトシ様もなかなかの手練。それに、珍しい戦い方をします。それも悪魔と契約しているからこそなせる技なのですが、私も対策を見つけるまでは苦労しました。」

 

ㅤ悪魔との契約。異世界あるあるというか、前の世界ではファンタジーの世界観で、現実味のなかったことばかり現実として現れるので楽しい反面ちょっと飽きてきた。

 

「それで?戦ってみろってこと?魔力戻ってないわよあたし。」

 

「それなら大丈夫です。動かないでください。」

 

ㅤそう言うとトモは紫紅の頭の上に手を置き、「『魔力供給』」と呟く。すると、彼の手から紫紅の体に魔力がぐんぐん送られてきて、すぐに回復した。

 

「ほわぁ.......なんかいっぱいきたぁ.......はっ!こ、こんなことも出来るのね.......。」

 

「そんな顔もできるのですね。.......ええ、仲間の魔力が枯渇したら大変でしょう?そういう時用です。まあ使い方を間違えれば即死攻撃になるのですが。」

 

ㅤ慣れない感覚に変な声が出てしまったが、たしかに魔力が戻っている。不思議なものだ。最後のは恐らく送り方を間違えたり、送りすぎたりすると殺っちゃうということだろう。怖い。

 

「春輝様。せっかくの機会です。サトシ様と紫紅さんの試合形式の戦闘はいかがでしょうか。」

 

「お?うんうん♪それいいね♪乗った♪」

 

ㅤなんやかんやでサトシと戦うことになった。何を使うのかも分からない。見た感じ片手直剣以外は何も装備していないように見える。

 

(珍しい戦い方、って何かしら。それに悪魔との契約ってことは妨害的な何かをしてくる可能性もあるわね。それなら)

 

「よろしくね、お嬢さん!」

 

「女の子が好きならお手柔らかにね?」

 

「甘いね、勝負は別だよ!」

 

「それを聞いて安心したわ!」

 

ㅤこの世界に来てわかったことがある。みな好戦的で目が合ったら〇〇〇〇バトルみたいな感じで絶対戦ってる気がするのだ。お互いに武器を抜き、戦闘を開始する。

 

「小手調べよ!『紫雷散華』!」(しらいさんか)

 

「小手調べなんて余裕あるの、かな!」

 

ㅤ華が散るように美しく撒き散らされる紫の雷。一回の威力は高くないが、断続的にくらう可能性がある上に雷のため普通は動きも少し鈍らされる。もしゲームの敵が使ってきたら麻痺耐性なしではやってられないだろう。サトシはその散る雷の合間を縫って紫紅に接近する。

 

「甘すぎるよっ!『闇陰ノ斬撃』」(あんいんのざんげき)

 

ㅤ闇を纏った剣を振ったかと思うと、紫紅の周囲四箇所からも同じ軌道で陰の斬撃が迫る。

 

「っ!『紫雷結界』!」

 

「へぇ.......!」

 

ㅤ紫紅は結界を張りその全てを防ぐ。そのまま、

 

「爆!」

 

「なっ!」

 

ㅤ結界に使っていた雷を、爆発するように弾けさせる。接近しきっていたサトシに躱せるはずもなく、直撃した。

 

「.......やるじゃん!」

 

「大して効いてないくせに、お世辞は結構!」

 

ㅤ大して効いてはいないが、少し動きが鈍った所に紫紅は追い打ちをかける。体を回転させ遠心力をのせ、腰を使って全力でメイスを振る。さすがにこれは直撃し、サトシを吹っ飛ばして壁にうちつける。

 

「かはっ!?」

 

「ふっふ〜ん。これは効いたでしょ!」

 

「.......ほんと、思ったよりやるね。それじゃあ俺、本気だそうかな。」

 

ㅤサトシがそう言った瞬間、彼から禍々しいオーラが溢れはじめる。

 

「.......なに、この感じ.......。」

 

「『悪魔ノ力』」(チカラヲカセ)

 

ㅤそして、空間と時が歪んだ。




今回はここまで!
いかがでしたか?
今回登場したif民モチーフのキャラは
久しぶりに、
トモさん、春輝さん。
そして新しくサトシさんが出ています!

ありがとうございました!

次回
第13話『力の代償、紫紅の覚醒』

お楽しみに!


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第13話『力の代償、紫紅の覚醒』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
魔界にてトモの下で修行をしていた紫紅。
その後春輝とその弟子、君を虜にする系男子サトシが現れ、模擬戦を行うことになる。若干紫紅が優勢にみえたが、サトシの雰囲気が一気に変わる
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「.......何、これ。」

 

ㅤ言葉では表せない変な感覚。行動できないほどではないが、空気がガラッと変わった。サトシは謎のオーラを纏ったまま動かない。

 

「っ.......『紫雷球』。」

 

ㅤとりあえず何かしなければと、紫紅は紫雷の球を撃ち出す。しかしそれはすぐに消え、彼女の背中に衝撃が走る。

 

「きゃ!?」

 

ㅤ前に放ったはずの技が、自身の背中に直撃したのだ。自分の技で吹き飛ばされる、それもサトシの方に。

 

「『崩壊ノ鎮魂歌』」(ほうかいのれくいえむ)

 

ㅤ空間が歪む。急な気圧の変化に紫紅は頭痛と目眩、吐き気を催す。

 

「う.......あ.......」

 

ㅤバランスを崩した彼女にサトシの闇を纏った片手直剣が迫る。空間を操り敵を鈍らせ攻撃する。そんな技だった。一応種族的にはただの人間である紫紅には、この空間変化は天敵と言っていいほどに辛く苦しいものだったのだ。

 

「トモ、止めに.......」

 

「不要です。」

 

「え?」

 

ㅤさすがにまずいと思った春輝が止めに入ろうとするが、それをトモが止めた。その顔に焦りはない。つまり紫紅がこの状況を突破できる、そう確信している顔だった。

 

バチィ!

 

「!?.......。」

 

「あっぶないわね.......ったく.......」

 

ㅤ紫紅はバランスを崩しながらも、紫雷をシールド代わりに纏っておいた。何かが当たれば弾けて距離を取れるように。紫紅は再びサトシに接近しメイスをぶつけようとする。が、当たる直前に空間に呑まれた。咄嗟に右腕を減速させつつ左腕の盾を後ろに構えた。直後、彼女の背後の空間から現れたメイスが盾にぶつかった。

 

「やっぱり空間系なのね!めんどくさい!」

 

「わかったところで何も出来ないだろ?」

 

「やってみなくちゃ、わっかんないわ、よ!『紫雷拡散』!」

 

ㅤひとつの攻撃だと空間転移を使って返される可能性がある。そこで、複数を同時に転移できない事を祈っての全方位から攻められる拡散技を選んだのだ。しかし

 

「無駄だよ。」

 

「でしょうね!」

 

ㅤなんと拡散したもの全てが空間転移で紫紅に返された。予想はしていたため何とか対処出来たが、未だに変化したサトシに攻撃を加えられていないのは事実である。このままではいずれやられてしまうだろう。

 

「くっ.......まず.......『亡者ノ嘆』」(もうじゃのなげき)

 

ㅤ今度は紫紅の周りの空間が歪み、ゾンビのような手が伸びてくる。先程と同じように気圧の変化もついている。

 

(なんでこう、遠距離の戦い方をするの?)

 

「何度も同じような手が通じるとでも!?『紫雷纏装・反撃』」

 

ㅤ紫紅は自分の纏っている紫雷の流れを変え、守るだけではなく触れたものにそこまで威力はないが反撃するようにした。この攻撃にはこれで充分だった。雷に弾かれた手が空間の裂け目に戻る。サトシは先程から立っている位置が動いていない。これほどの異常なオーラなら、近距離で攻めてもいいはずだ。先程まで近距離戦だったのだ、それに腕も悪いわけじゃない。

 

「くっ、どうなっても知らないよ!」

 

「来た.......!」

 

ㅤそう思っていた矢先、サトシが動いた。接近したとおもった瞬間、彼が消える。

 

「後ろっ!」

 

「残念!」

 

ㅤ確かに彼は後ろに現れた。しかし、紫紅がメイスを振り抜く瞬間に、もう一度転移し上に移動したのだ。ギリギリを攻めたフェイント。さすがの紫紅も対処しきれなかった。

 

「『時空ノ闇撃』。」(じくうのあんげき)

 

「えっ?今斬って.......きゃあああ!?」

 

ㅤサトシに斬られた、と思ってから直ぐに感覚がなかったため戸惑いがあったが、少しの間を空けて、一気に衝撃が走った。時差攻撃。名前的にもそんな感じだろうか。SAOのベルクーリのような技で、頻繁に使えるとしたらかなりまずいと思った。

 

「さて、もう終わっ」

 

「待ちなさいよ。」

 

「!?」

 

ㅤ先程の攻撃で、完全にダウンしていたかに見えた紫紅。ここで立つのにはトモにも予想外だったようで、珍しく驚いた表情を見せている。ちなみにサトシは、悪魔の力の代償でそろそろタイムアップだ。今使っているのは約二十パーセントで、正気を保てるギリギリなのだ。修行で少しずつ解放できるようにしているが、約五年かかって十パーセント上昇したくらいだ。それほどまでに悪魔の力を宿すというのは大変なのである。

 

「待ちなさいって、いってる、でしょ。」

 

「.......もうやめた方がい」

 

「黙れ!」

 

(早くお兄ちゃんに会いたい.......!こんなところで、こんなザマで、倒れてるわけにはいかないんだっ!)

 

ㅤ異世界転移。兄とは離れ離れになったが、とりあえず住むところが見つかったことで新しい刺激を楽しんではいた。元の世界では出来なかったこともここなら出来る。でも、修行していく中で兄と会いたいという気持ちは日々高まっていた。なぜ、ここより弱い世界に行くために強いボスを倒さなければならないのかは分からない。でも、それが兄に会うための最短ルートなら、やるしかない。早く強くなって、兄に、お兄ちゃんに抱きつきたい。あったことを語り合いたい。だから、

 

「だから、あんたなんかに.......!簡単に負けてやる訳には、いかないんだーーーーーー!『紅雷纏装』!!!!!」(こうらいてんそう)

 

ㅤ紫紅を紫ではなく”紅い”雷が纏う。髪の毛は紫から紅く染まり、目も紅くなる。頬にあったハートマークは少しいかつめの刺繍に変わり、左頬に現れる。所々破れていたメイド服は、まるで戦える王女のような紅きドレスに変わる。紅い雷は紫紅を纏うだけでは飽き足らず、バチバチと周りにも落雷する。

 

「と、トモ!なんなのこれ!?」

 

「分かりません。何せ、私もあのような紫紅さんを見るのは初めてです。」

 

「やるしか.......なさそうだね。.......二十五パー」

 

「馬鹿っ、やめろサトシ!」

 

ㅤ春輝の制止を聞かず、サトシは限界を超えて悪魔の力を解放する。たったの五パー。されど五パーだ。さらに空気が重くなる。紫紅の魔力とサトシの悪魔の影響で空間が揺れる。

 

「これは.......ここ一帯だけでなく、魔界全体が震えています.......!この先が気になりますが止めなくては.......!」

 

「わかってる!けど、サトシの空間魔法のせいで魔法は使えない!接近しようとしてもコントロール出来てない状態だとどこに空間転移が設置されてるかも分からないし、簡単に近づけないぞ!」

 

「ガハッ.......!」

 

ㅤサトシが吐血する。当然だ、本来使える悪魔の力の限度を超えて使用している状態。このまま続ければ、体のどこかに後遺症が残る可能性がある。力の代償、というならば紫紅も同じだ。アレはどう考えても魔力の使いすぎである。いかに秘められていた魔力が解放された、と言っても、この魔力の負荷にまだ体が慣れていない。こちらもこのままだとまずいだろう。

 

「俺が、解放させてしまった、なら.......!俺が止めるんだ.......!もっと、もっとチカラヲ.......!」

 

「あなたを倒して、あたしはもっと強くなるんだ.......!」

 

ㅤ為すすべなしか、もうこうなったら自分たちも隠しておいた力を解放して止めるしかない、そう思った瞬間だった。

 

「はい君たちやりすぎっと。」

 

「あっ!?.......」

 

「うっ!?.......」

 

ㅤ突如魔王シハクが現れ、紫紅の首後ろを手刀で打ち気絶させ、直ぐにサトシにも同じことをする。2人は気を失いその場に倒れる。紫紅の姿は元に戻っているし、サトシも悪魔のオーラは完全消えていた。

 

「シハク様!」

 

「兄さん!」

 

ㅤ突然現れたことも驚きだが、あれに接近できたことに驚いていた。シハクの実力が二人より上、ということは理解出来ているが、実際彼らもシハクの全力は見た事がないのだ。

 

「.......弟子の面倒くらい、しっかり見ておきなよ。あと、サトシは早く悪魔の侵食を止めなきゃね。このままだとまずい。紫紅の方は、ベッドで休ませてやりなさい。.......服がボロボロだからって興奮しちゃダメだよ、トモ。それと、晩御飯は鳥のナンバン仕立てがいいな。」

 

「.......かしこまりました。お任せくださいシハク様。」

 

「サトシ、直ぐに治してやるからな!」

 

ㅤこうして、何とか最悪のケースは逃れたのであった。

 

 




今回はここまで!
いかがでしたか?

今回のif民モチーフは
魔界三銃士の

シハクさん
春輝さん
トモさん

それと、
サトシさん

が登場しました!

ありがとうございました!

次回
第14話『お兄ちゃん、あたしにも妹が出来ました?』

お楽しみに!


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第14話『お兄ちゃん、あたしにも妹が出来ました?』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
春輝の弟子、サトシとの戦いで新たな力に目覚める紫紅。しかし、サトシも限界を超えた力を使って対抗しようとする。お互いに流石にやりすぎなため、どうにか止めようとする春輝とトモ。そこに魔王シハクが現れ、二人を止めるのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ん、う、……?ここは……」

 

「お目覚めになられましたか、紫紅さん。」

 

ㅤ紫紅が目を覚ますと、そこは自部屋のベッドの上だった。昨日何があったかを冷静に振り返りながら、今の自分がどうしてこうなっているかを理解する。

 

「ああ、ありがとう。運んでくれたのね……。」

 

「師匠で、執事ですので。ですが流石に女性の方の服を着替えさせたり、体を洗ったりするのは申し訳なく、傷の手当だけしてそのままベッドに寝かしつけさせて頂きました。私はここを離れますので、ご入浴とお着替えが終わりましたらまたお声掛けくださいね。」

 

ㅤそう言うとトモは部屋から立ち去る。てっきり、体の隅々まで洗われてしまっていると思っていたので、少し安心した。パンツは隅々まで凝視するのにそういう所は紳士なのね、と思うのであった。

 

「うわぁ……これは相当ね……。」

 

ㅤ鏡の前に立ち、自分の姿を改めて見てそうこぼす。メイド服はボロボロになり、胸の谷間とか、パンツとか。脚もめっちゃ見えてるし、肩も丸出しだ。傷が治っているせいもあり、痛々しさは全くなく、まるでそういうことのために作られたかのような艶めかしさを醸し出していた。

 

「まあ、とりあえずお風呂ね。お風呂。」

 

ㅤお風呂とはいえ流石に湯は沸いて……た。トモが沸かしてくれていたのだろうか。だとしたらなぜこんなに沸いたばかりの温度なのか。いやそこは魔法あるしどうにかなるのか、と思いつつ、申し訳程度になった服を脱ぎ捨てる。何故か下着は無傷だったのは謎だが。風呂を沸かすのは面倒だったので、シャワーで済ませようとしていたのだが、沸かしてくれていて助かった。さすがは執事と言ったところか。

 

「んっ……ふぅ……。」

 

ㅤ髪や体をしっかりと洗ってから湯船に浸かる。疲れが溜まっていたのだろう。一瞬で表情がふにゃっとなってしまう。

 

「やっぱ風呂よね〜。染みるわぁ〜……。」

 

ㅤ極楽極楽、と思いながらサトシとの戦闘を思い出す。彼が使った悪魔の力は凄まじかった。空間支配と言ってもいいほどの転移魔法の扱い。それに追加して時をも操る。時止めなどの技なら対処法が思いついたが、まさかベルクーリの『時穿剣』ようなことをしてくるとは思わなかった。空間に残される斬撃。それに無防備に突っ込むことの恐ろしさはよく知っている。本当に戦いづらかった。アレで二十パーセントとか知りたくなかった。それに、

 

「あたしのアレ、結局なんだったんだろ……。」

 

ㅤその時こそ勢いで『紅雷纏装』なんてかっこつけて叫んだが、紫紅自身あれが一体なんなのか分かっていない。あの時強い意思を抱いたことは覚えているが、それ以外はさっぱりだ。記憶が無いわけじゃない。しっかりと覚えてはいる。紅い雷、変わった服装。魔力の強さによって発生する風でゆれる自分の髪は紅かったような気がする。ものすごい魔力だった。あの時なら何にも負ける気がしなかった、それほどに。

 

(まあ、その後一撃で仕留められてるからそんなことは無かったんだけどね。)

 

ㅤいくら不意をつかれたとはいえ、あの状態の二人に大して手刀一発ポン、で終わりである。止めてもらえなければ危なかったのかもしれないが、さすがに自信を無くしそうになる。

 

「ま、いいわ。とりあえずはあの力の研究ね。トモさんにも色々聞かないと。」

 

ㅤ気持ちを切り替えたところで、風呂から出る。紫紅の風呂の時間は基本三十分から一時間だ。それ以上はのぼせてしまう。体を拭き、髪を乾かす。この世界は便利だ、魔法ですぐ乾かせる。

 

「よいしょっと……。」

 

ㅤこの世界に来てからメイド服の替えは作っておいた。戦闘がある以上ボロボロになることも想定している。本当はほかの服も来てお洒落したいのだが、別に紫紅は服を作るのが得意という訳では無いので、既にあるメイド服を参考に作ることしか出来なかった。それに、観光に行くところがある訳でもなし、デートする訳でもないためしばらくは必要ないと思ったのだ。新しいメイド服に着替え、部屋を出る。

 

「トモさんは……と、その前に」

 

ㅤ紫紅は廊下を歩いていて目に入った、春輝の部屋を訪ねようと思った。サトシはこの部屋で休んでいる、というか治療していると思ったからだ。

 

「失礼します〜。サトシ、だっけ。体調は大丈夫なの?」

 

「おや、可愛い子猫ちゃん♪わざわざ僕の弟子を心配してきてくれたのかい?ありがとう♪でも、僕だけに会いに来てくれてもいいんだよ♪なんなら今から別の部屋で僕と……」

 

「あたしは犬派よ。」

 

ㅤ予想はしていたが、やはりウザすぎる絡みにうんざりしながら部屋に入る。サトシはベッドで寝ていた。不思議な魔力に纏われているが、そこまで大事にはなっていないようだ。

 

「……大丈夫なの?」

 

ㅤ紫紅がそう聞くと、春輝はカッコつけた動作をやめ、真面目に答え始める。普段からそれでいいのに、と心から思った。

 

「大丈夫だ。少々悪魔の力に侵食されていたが、それは全て治療した。ほんとに徐々に慣らしていかないとダメなんだよ、あの力は。悪魔の力に完全に侵食されたら暴走してしまう。そうなると魔界全体が危険なんだ。」

 

「ちょっと待ってよ。悪魔ってこの魔界の生物でしょ?なんでそれが暴れただけで魔界全体が危険になるのよ。おかしいわ。」

 

 

ㅤそう、もし彼が使っているのが悪魔の力で、それがいかに強大だったとしても。全ての力が解放されるだけでなぜそんな危険なことになるのか。

 

「……。ここまで知ったら教えた方が良さそうだね。これは現界に住む者たちは魔王含め皆知らないことだ。それに、魔界でも俺達三銃士とサトシ、それともう一人しか知らない。天界が存在するなら、そこに知られているかは分からない。……悪魔はね、この魔界より下に存在する世界、”冥界”に住む者なのさ。」

 

ㅤ紫紅は耳を疑った。冥界、彼は確かにそう言った。冥界とは死後に行く世界のはずだ。そこになぜ悪魔が……

 

「待って、冥界って死後の世界でしょう?何故そこに悪魔がいるの?悪魔は魔界にいるのが基本でしょう?」

 

「……それは君の元いた世界での概念だろ?ここでは違う。そもそも悪魔は精神生命体。こっちでは冥界に溜まった悪の死者の魂が集まって構築されるのさ。」

 

ㅤ確かに、ゲーム等のせいで魔界=悪魔という概念が生まれているが、実際悪魔説なんて色々あるのだ。紫紅はそれを全部知ってるわけじゃないし、どれが本当か、そもそも本当の説はあるのかすら分からない。

 

「その、悪魔の件は納得するわ。でもね、疑問はまだある。なんでそんなあなたたち以外知らないようなところに行けたの?そしてどうして。どうして、いつもカッコつけて自信満々なあなたが震えているの?」

 

「っ……。震えて、いたか。まだ恐怖心は抑えられないようだね♪……はは。」

 

ㅤ流石に、震えているのはダサくて嫌だったのか無理やりカッコつけているが、やはり少し元気が無さそうだ。

 

「教えて、何があったの一体。」

 

「説明が面倒だから、どうやって冥界に行ったかは省くね。簡単に言うと、冥界に入る、悪魔に襲われる、三人でもあの数の悪魔には敵わず、ボッコボコにされたんだ。もちろん全員当時の本気だったさ。それでも敵わなかった。」

 

ㅤ紫紅は息を呑んだ。あの絶対的な強さを持つこの三人ですら敗退する程の敵。数がと言っていたが、余程強くなければ彼らに数が多くても大した問題では無いはずだ。当時は、今よりいくらか弱かったのかもしれないが、それでも恐怖を植え付けられる程の敵、悪魔。

 

「待って、じゃあなんでサトシは悪魔の力を使えるのよ。今の話だと、とても友好的じゃないわよね?それがなんで」

 

「悪魔に魅入られた。しかもサトシはその時何も知らなかった。だから契約してしまった。そりゃ、今は害はないさ。サトシがどう動くか、悪魔は見て楽しみ、求められればその分力を貸す。体への代償は無視してるけどね。だから、少しずつ慣らしていかないと一気に悪魔の力に飲み込まれてしまう。それと、悪魔が飽きる時、サトシの体は悪魔に完全に乗っ取られるだろう。」

 

ㅤ想像以上に重い話だった。まだこの世界のことすらよく分かってない紫紅には、頭の痛くなるような情報の嵐。

 

「分かった。いや、完全に理解した訳では無いけれど、大体のことは、ね。」

 

「うん、聞いてくれてありがとうね。じゃあ、トモも待ってると思うし、行くといいよ♪今度は僕だけに会いに来てね♪」

 

「はいはい、じゃーね。」

 

ㅤそして紫紅は扉を開けて部屋を出ようとする。扉を閉じる前に

、一つ気になったことだけ彼に聞く。

 

「ねえ、その話をなぜあたしに?そんなに周りに言えるようなことじゃないでしょう?」

 

「さあ、なんでだろうね。君は……君には、異世界人だし、何か感じたのかもしれないね。僕にも分からないや♪」

 

「そ。」

 

ㅤ今度こそ完全に扉を閉じ、紫紅はトモを探しに厨房に向かった。

 

「お、いたいた。」

 

「おや、ご入浴は終わりましたか?……ちょうど朝食が出来ましたので、運ぶのを手伝ってもらってもよろしいですか?」

 

「はーい。」

 

ㅤ今日の朝食はホクホクご飯に、白身魚の塩焼き。ほうれん草のようなもののお浸しに、味噌汁のようなものだった。言うなればめっちゃ和食みたいだった。

 

(なんでこの世界の食事は、本当によく似ているわね。いやまあ、助かるんだけど。口に合わないゲテモノを出されるなんて真っ平御免だしね。)

 

ㅤ目を覚ましたサトシ含む、全員で朝食を食べる。ホクホクとしたほんのり塩味のする白身魚。適度な味噌の濃さのあたたかい味噌汁。程よい醤油?加減のお浸し。何よりこの世界に来て炊きたての白いご飯が食べられると思っていなかったため、毎日幸せである。

 

「そういえば紫紅さん。今、魔力は使えそうですか?」

 

「ん?使えるわ……あれ?使えない……。」

 

「やはりそうですか。数日間は使えないと思います。あの『紅雷纏装』により魔力を使いすぎましたね。しばらく練習して、魔力効率を良くすれば大丈夫だとは思いますが、今は《急性魔力欠乏症》の状態です。」

 

ㅤ『紅雷纏装』。あの時に使った、見た目さえ変わる技。自分でもよく分からずに絞り出した魔力。あれのせいでしばらく魔力が使えないと思うとショックだった。

 

「まあ、そう気を落とさないでください。あなたの今の戦闘能力なら、その辺の魔物は魔力無しでも問題ありませんよ。気晴らしに散歩に行っても大丈夫です。」

 

「……そう。じゃあ、そうさせてもらうわね。」

 

ㅤ半信半疑ではあったが、トモの言葉は事実だった。全く魔力を使わずにメイスで軽くぶん殴るだけで魔物が爆散する。

 

(……強くなりすぎじゃない?あたし。というかここまで強くなっても勝てないあの人たち一体何なの?そしてその彼らでも勝てない冥界の悪魔。)

 

ㅤ気晴らしと言っても、こんな荒んでしまった世界では気が晴れるのか分からない。しかし、少なくとも外の空気を吸うという点では、少しスッキリはした。

 

「っ!そこ……!?人!?」

 

ㅤ気配を感じて、後ろにメイスを振り下ろそうとしたが、走ってきていたのは人、少女だった。紫紅と同じメイド服を着ていて、猫耳がある。片目に髪のかかった少し薄い黒髪のショートヘアで、目も同じ色だ。服に着いたリボンは青ではなく赤色だが、それ以外の服は紫紅とそっくりだった。

 

「ちょ、き、君は……?」

 

ㅤ戸惑いながら、抱きついてきた少女に問う。すると、少女は不思議そうに首を傾げながら紫紅を見上げ、言う。

 

「?……私はのぞみ、だよ?おねーちゃん?」

 

ㅤ拝啓お兄ちゃん。あたしにもいつの間にか、妹ができていたみたいです。




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフの方は
魔界三銃士
シハクさん
トモさん
春輝さん

サトシさん

そして
初登場の
のぞみさん、でした!
ありがとうございました!

次回
第15話『この世界に来てやっと癒しが出来ました』

お楽しみに!


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第15話『この世界に来てやっと癒しが出来ました』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
サトシとの戦闘後、自部屋で目を覚ます紫紅。風呂などを済ませ、サトシの様子を見に春輝の部屋に行くが、そこで冥界の話を聞くことになる。現在の紫紅は《急性魔力欠乏症》で、魔力が全く使えないのだが、これまでの修行のおかげで魔力無しでも魔物を倒せるまでに成長していた。せっかくなので外の空気をと魔界を散歩していたのだが、そこで謎の少女に抱きつかれ、お姉ちゃんとよばれて
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「お姉ちゃん?え、あたしが?」

 

ㅤ戸惑いながら抱きついてきた少女、のぞみに問いかけると彼女は嬉しそうにコクコク、と首を縦に振る。もちろん紫紅に妹なんていないし、ネットで姉妹みたいな関係を作った記憶もない。だがこの少女は、紫紅のことをお姉ちゃんと呼んで聞き返しても迷いなく肯定するだけだ。

 

「っ!?しまっ」

 

ㅤ突然の出来事に気を取られ、周囲への警戒が弱まっていた。背後から迫る人型の魔物に気づかず、ゴツゴツとした棍棒で殴られそうになる。だが、

 

「おねーちゃん危ない!『地烈衝波』!」(ちれつしょうは)

 

「えっ」

 

ㅤのぞみが紫紅の後ろに飛び出し、メイスを振り下ろす。すると、その魔物はもちろん爆散し、衝撃波で大きなクレーターが出来上がった。それも紫紅が巻き込まれないように、バリア(足場付き)を貼ってくれるという手の込んだ仕様だ。

 

(この子見た目に反して強すぎない……?それに、攻撃と守るべき対象へのバリア付与を同時に……。何者なの、一体。)

 

「えへへ、大丈夫?おねーちゃん!」

 

「え、ええ、ありがと……。」

 

ㅤ紫紅が考えていると、のぞみは戻ってきてまた抱きついてきた。そして頭を胸にすりすりしてくる。トモのペットのアル以外に今のところ癒しのなかった紫紅。そしてこの世界に来て何気に初めての女の子である。もう考えることを放棄して、抱きしめてよしよしすることしか彼女の頭にはなかった。

 

「んー!ありがとうのぞみ!いいこいいこ、よしよし!」

 

ㅤのぞみを抱き返して、頭をわしゃわしゃと撫でて褒める。こんなに可愛い少女にお姉ちゃんと呼ばれる、悪くないいやむしろ良いと紫紅は思った。

 

「えへへ〜。でもおねーちゃん、あだ名で呼んで欲しいな〜。のぞみんって呼んで欲しい!」

 

「あら!そーお?わかったよのぞみん!」

 

「わーい!」

 

ㅤとても、強力な魔物のはびこる魔界で出すような雰囲気じゃない二人。紫紅はのぞみを魔王城に連れていくことにした。道中ももちろん魔物に襲われるが、彼女達の強さには何の意味もなさずに爆散していく。

 

「お、戻りましたか紫紅さ……その方は?」

 

「のぞみん!あたしの妹よ!ふんすっ!」

 

「はじめまして、のぞみと言います!いつも、おねーちゃんがお世話になっております!」

 

ㅤ紫紅が腰に手を当てドヤ顔で紹介し、のぞみは丁寧にお辞儀をしながら、元気に挨拶をした。

 

「ほう……また不思議な魔力の方ですね。一体どこから?それに妹とは、紫紅さんにはお兄さんしかいなかったはずでは?」

 

「あたしにも分っかんない!でももう考えない!この子強いんだよ?こんなに可愛いのに強いんだよ?最高か?」

 

「も〜、おねーちゃん褒めすぎだよ〜!えへへ〜。」

 

ㅤ紫紅がのぞみをべた褒めして撫でる。それを受けてのぞみは幸せそうに微笑む。魔界には似合わぬ、お花畑ワールドが彼女達の周りに開園していた。

 

「それにしてもあたしたち歳近いのかな?あたしは十六歳。のぞみんは?」

 

「わたしは十四歳!えへへ、ふたつ違いだね、おねーちゃん!」

 

ㅤ元の世界だと中学二年生くらいの年齢だった。のぞみは元気にトモの方に行き抱きつこうとする。が、瞬間トモが消え、紫紅の背後に現れる。

 

「あれぇ?」

 

「ちょっと、何逃げてんのよ!」

 

「すみません。可愛すぎてちょっと距離を置きたいと思いまして。彼女のお世話は紫紅さんにお任せします。」

 

ㅤそう言うとトモは完全に消えた。

 

(ロリコンなのかしら、あの人……)

 

「おねーちゃん?」

 

「んー?トモさんはね、急いでやらなきゃいけない仕事があるんだって!だから許せのぞみさん、また今度な。って言ってたよ!」

 

ㅤテキトーに誤魔化しつつ、完全にトモ逃がさないように言い回す。とりあえず皆に挨拶に行こうかと、のぞみを説得して春輝や魔王シハクに挨拶に行く。春輝言わずと知れたいつものアレである。

 

「おお♪可憐なお嬢さんだね♪どうだい?良ければこれから僕と二人で」

 

「『地裂衝波』」

 

「おおっと♪危ないな〜♪」

 

ㅤ声をかけられた瞬間、あののぞみでさえ殺意MAXで攻撃を仕掛けた。しかしその一撃も片手で止められる。嫌な予感がした紫紅は全力でのぞみをメイス含めてこちら側に引き寄せる。

 

「危ない、また武器壊す気だったでしょう!あたしのメイスの時のように!」

 

「えっ!?この人そんな強いのおねーちゃん!?というか酷いねこの人!?」

 

「いや壊そうとしてないし、そもそも先に仕掛けてきたそっちが悪いと思うけどね!?」

 

ㅤどうやら、壊そうとはしていなかったらしい。しかし紫紅にとっては、あの片手でぶっ壊されたのは軽くトラウマになっていたらしい。

 

「まあ、良いけどね♪可愛いから許すよ♪」

 

「おねーちゃん、なんかこの人すっごくムカつく。」

 

「分かる、分かるけど今は抑えて。」

 

ㅤ今にも春輝に全力攻撃しそうになっているのぞみを全力で止める。彼女が強いのは分かっているが、同時に春輝の強さも上限が知れない。もし全力で戦った場合、死んでしまったらどうしようもなくなってしまうのだ。

 

「失礼しま〜す。」

 

「失礼しまーす!」

 

「ん?紫紅さんと、そちらは?」

 

ㅤトモや春輝にした説明をシハクにもした。すると、シハクは顎に手を当て考える。が、すぐに頭を振り考えるのをやめた。

 

「いや、今考えてもわかる事じゃないな。ただ、その子のように猫耳を持つ種族は確かに存在する。ただし紫紅さんとほとんど同じ服装に、その強さ。服装は被ることがあるかもしれないけど、これほどに強い子が居るなら普通我々が気づくはずなんだよね。」

 

ㅤ確かに、のぞみの強さは異常だ。この世界に来たばかりの紫紅なら勝てなかったかもしれないレベルなのだ。そんな存在がいて彼らが認知していないわけが無い。しかし、今はどちらにしろ何も分からないので考えないことにした。

 

「おねーちゃんおねーちゃん。」

 

「ん?なーにのぞみん?」

 

ㅤ三人への挨拶も終わり、とりあえず部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、のぞみが顔をのぞきこんで聞いてきた。

 

「おねーちゃんは、何を焦っているの?」

 

「!?」

 

ㅤ気づかれた、と思った。魔力欠乏症のせいで何も出来ないとはいえ、お兄ちゃん、焔斗と早く再開したいのは事実。それなのに修行も出来ないし、他になにか出来ないかと必死に考えつつ動いていたのだ。そしてのぞみはそのことをまだ知らない。それなのに気づかれてしまった、焦っていることに。

 

「えっとね、」

 

ㅤ紫紅はこの際だから全て話すことにした。兄のこと、前の世界のこと。そしてそれは必然的にのぞみイコール妹を否定することになる。それを避けるために言ってなかったのだ。

 

「と、いうことなのよ。黙っててごめんね、のぞみん。」

 

ㅤ説明を終えるとのぞみは目を輝かせて嬉しそうな顔をしていた。予想外の反応に首を傾げる紫紅に、彼女は嬉しそうに語りかける。

 

「え、つまり、わたしにはおにいちゃんがいるってことだよね!?会いたい!めっちゃくちゃ会いたいなあ!」

 

ㅤ紫紅には兄がいる、というところしか聞いていなかったらしく、本当に嬉しそうにはしゃいでいる。完全に理解してショックを受けられるよりかは全然いいので、少し助かった。

 

(というか、のぞみんの本当のお姉ちゃんはどこにいるのよ。)

 

ㅤ急にお姉ちゃん呼ばわりされて抱きつかれただけで、のぞみがどこから来てなぜあそこにいたのかも分からない。たまたま紫紅が姉に似ていた?もしそうなら、すでに違うことに気づくはずである。

 

「ね、ここがおねーちゃんの部屋!?入っていい?いい!?」

 

「ふふ、いいわよ。でもそんな期待するようなものはないわよ?最低限生活できるようなものしか、ね。」

 

ㅤうきうきしながら紫紅の部屋の前に立つのぞみ。こんな無邪気な姿を見せられたら、今考えていることなんかどうでもいいと思えた。せっかく姉として慕ってくれているのだ。こちらから突き放すのも可哀想というものであろう。

 

「はい、どーぞ。」

 

「わー!」

 

ㅤ紫紅がドアを開けてやると、のぞみは両手を上げて中に入る。こういう姿を見ていると、ひょっとすると十四歳より下なのではと思ったりもする。

 

「ふかふかおふとぅん!」

 

「っと、ストップストップ。まずお風呂はいってきなさい、汚れてるでしょ?」

 

「あ、ほんとだ、はーい!入ってきます!」

 

ㅤビシッと敬礼してからのぞみは風呂場に走っていった。この間、誰も入ってこないように紫紅は最大限に警戒する。春輝等はドアから入ってくるが、トモはたまに気づいたらそこにいたりする。なので、ほんとに気を張っていないと気づけないのだ。

 

「おねーちゃーん!」

 

「わっ!?」

 

ㅤ風呂から上がったのぞみが後ろから抱きついてきた。幸い、なぜか身長や体型は同じくらいなので、紫紅の予備のメイド服も違和感なく着れている。あたしって小さすぎない?と少し不安になるが、ここは異世界だからそもそも平均身長も違うはず、と自分に言い聞かせる。

 

「ふかふかおふとぅん!」

 

「ふふ。」

 

ㅤベッドにダイブしてごろごろするのぞみ。それを見て和みながら紫紅は彼女の頭を優しく撫でる。すると、少しして寝息が聞こえ始める。その愛らしさにほっこりしながら、紫紅は今ここで寝られると自分のベッドが無くなることに気づいた。慌てて起こそうとするが、幸せそうな寝顔を見てそんな気も失せる。仕方ない、と毛布を引っ張り出し、部屋の端で眠ることにした。この世界に来てからずっと男としか話してなかったため、はじめて同性と出会って嬉しかった。しかもめちゃくちゃ可愛いため、癒される。トモのペットのアルにも癒されるが、それとこれとは別だ。この世界に来て、やっと癒しができた、思いながら眠りにつくのであった。

 

 

 

ㅤ現界。

 

「いいよ、その調子。落ち着いて、でも激しく魔力を練るのよ。」

 

「はい……!」

 

ㅤ焔斗は闇華と来羅の修行の元、新たな纏装魔法に挑戦していたのであった。




今回はここまで、
いかがでしたか?
今回登場したのは前回に引き続き
魔界三銃士
シハクさん
春輝さん
トモさん。

そして
のぞみさん

最後に少し
Yamikaさん
ララさん
モチーフのキャラが登場しています!

次回
『隠された力を呼び覚ませ!これが新たな紅焔纏装だ!』

おたのしみに!


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第16話『隠された力を呼び覚ませ!これが新たな紅焔纏装だ!』

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魔力欠乏によりしばらくまともに戦えなくなった(しかし魔物はワンパン)紫紅。謎に彼女を姉と呼ぶ可憐な少女のぞみ。その可愛さに癒されている頃、現界では焔斗が修行の末に紅焔纏装を極めようとしていた。
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「そう、そして全身の隅々まで高密度の魔力が行き届いたと思ったら、解放するのよ。」

 

「はい……。」

 

ㅤ闇華と来羅に見守られながら、焔斗は魔力をコントロールして全身に張り巡らせる。徐々に指先などに流れているのを感じられた。

 

「ふぅ……、はあ!!」

 

ㅤそして、魔力を解放する。髪が紅く染まり、ただの紅焔纏装よりも高密度の魔力が彼を纏う。だが、

 

「くっ……!はぁ……はぁ……。」

 

ㅤその魔力はすぐに霧散し、焔斗は疲れきった様子で倒れ込む。一瞬だけ、明らかに違う強力な紅焔纏装になるのだが、それを維持するのがまだ出来なかった。

 

「ん〜。まだ無理か〜、行けると思ったんだけどな〜?」

 

ㅤ来羅が残念そうに呟く。とはいえ、結構無茶ぶりをされているのだ。魔力のコントロールが少し上手くなったと思ったところで、この二段回目の纏装の仕方を教えられ、やってみてと言われたのである。少し前にやっと魔力の効率を考えられるようになったばかりなのに、一発目で成功させるなんてほぼ不可能である。

 

「まあ仕方ないわよ。でも、初めてにしては良いとこまでいってたわ。このまま続ければ、もしかしたらかなり早くマスターできるかもね。」

 

ㅤ焔斗に手を差し伸べながら闇華が呟く。その手を借りて立ち上がる。

 

「すみません、ありがとうございます……。」

 

ㅤその後、すぐに食事をすることにした。いつもはレストランなどでひっそりと食事をするらしいが、たまに見つかると騒ぎになるらしい。それに、今回は焔斗もいる。要らぬ誤解をされては面倒だ。それならと、焔斗は食事は別行動でと提案したのだが、断られてしまう。

 

「待って!私が作るよ!」

 

「来羅ちゃん、落ち着いて。いい?よく考えてみて。そもそも私達が別行動で食事を済ませるのは、ファンに見つかった時に誤解されないためよ?それなのに手作り料理なんて披露して、それが誰かに見つかったらどうするの?それこそ変な誤解を」

 

「わ、わかった!わかったよ闇華ちゃん!わかったからすとーっぷ!」

 

ㅤ自分が料理を作って、それをみんなで食べると提案した来羅に

、闇華が説教じみたことを言い出す。来羅がギブアップしているが、どうにも焔斗には〈来羅が料理を作るとなにか大変なことが起こるから〉止めているように感じられた。気の所為かもしれないが。

 

ㅤそんなこんなで結局、別行動で食事をすることになった。焔斗は、ミカルコで歩いていた時に気になっていた店に行ってみることにした。パッと見た感じステーキ屋で、香ばしい匂いが漂ってきていたのだ。この街に来てすぐは、来羅と闇華を探すのに必死だったためスルーしたが、今は別だ。ちなみに、お金の方は大丈夫である。ここに来るまでの道中で狩ったモンスターの素材を売ったのだ。正直その場の売値が高いか安いかは、まだ焔斗には分からなかったが、とりあえずお金が無いと何も出来ないので売り飛ばしたのだ。その辺の知識は今後身に付けるべきだが、今は妹最優先なのである。

 

ㅤ店に入り、注文を済ませ、料理が運ばれてきた。何の肉かは分からないが、ジュージューと音を立てながら芳ばしい香りを漂わせてくる。前回の食事は怪我していたためお粥だったし、ここに来てからも美味い焼き鳥のようなものは食べたが、まともな食事はこの世界に来てからこれが初めてである。

 

「いただきます。」

 

ㅤステーキをナイフで切ると肉汁が溢れ、鉄板の上でさらに音を立てる。その切ったステーキを口に頬張る。口の中で広がるスパイスの効いた味に、こってりしていない、あっさりとした肉汁。修行の疲れもあり、その美味さが体にしみわたり満腹度と幸福度を満たしてゆく。ステーキを口に入れライスも頬張る。肉汁がライスに絡み、お米の美味さも相まって味覚を刺激する。鉄板の上で肉汁と共に焼かれた野菜。肉汁の染みたこの野菜がまた絶品だった。

 

「ご馳走様でした。」

 

ㅤなるべくゆっくりと思っていたが、気づいたら食べ終わってしまっていた。それほど美味かったのだ。代金の支払いを済ませ、店を後にする。

 

(そういや結局何の肉だったんだろうなぁ。ま、いいか。美味かったし。)

 

ㅤ何肉、というかこの世界の固有名称で書かれていたため、これが牛っぽいのかどうかは焔斗には分からない。しかし美味かったので気にしないことにしたのだ。街を歩いていると、クッキー屋?のような行列のできた店があった。店の名前は『Dream

Canola flower』。

 

(夢の.......きゃのーら?なんだっけ、最後は花だけど。んー、忘れた!まあいいや!)

 

ㅤ焔斗は英語が苦手である。発音は割とカッコつけて言ったりするのだが、英文とかさっぱりなのだ。テストも平均以上は取れるものの、満足いくようなものではなかった。それよりも驚いたのは、この世界に英語が存在するということ。もちろん日本語も通じているので、この世界に来て意思疎通が出来ないと言うことにはならなかったのだ。これも焔斗達をこの世界に送り込んだ(拉致した)神の仕業なのだろうか。それにしても、

 

(きゃのーらは分からないけど、夢の花?って、クッキー屋と言うより花屋って感じがするな.......このネーミングの意図が知りたいぞ。今は行かないけど。)

 

ㅤクッキー屋らしいし、妹と無事再開出来たら一緒に来るか、と思いながら。焔斗は修行していた場所に戻った。さすがに早すぎたようで、2人はまだ戻っていないらしい。食べてすぐ運動するのは、あまりよろしくないので少し座って休憩することにした。したかったのだが。

 

「っ!誰だ!」

 

「あぁん?あたしの匂い忘れたのかい.......?ああ、そうか。普通の人間は匂いで人を判別できるほど、嗅覚が発達していないんだったっね。こりゃ失礼。」

 

「せっ、節狐.......!」

 

ㅤしゃろんのいるシンレ館に行く道中、その時に出会い一戦交えた節狐が岩陰から現れたのだ。もちろん、取り巻きの獣人もいる。

 

 

「久しぶり.......でもないか?まあ、んなこたどうでもいい。」

 

「何の用だ。」

 

「何の用?そんなの決まってんだ、ろ!」

 

ㅤ節狐が、一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けてくる。やはりこの獣人の目的は戦闘らしい。

 

「今そんな場合じゃ、くそ、めんどくせえ!『紅焔纏装』!」

 

「はは!そうこなくっちゃねぇ!」

 

ㅤ相変わらず無茶苦茶な戦い方をしてくる。その割に隙がないのだから大したものだ。攻撃は最大の防御、ってことだろうか。それにしても

 

「なんか、前より強くなってないか!?」

 

「そりゃこっちのセリフだよ!あたしも鍛えたってのによ、こんなについてこられるなんてさぁ!」

 

ㅤ節狐は、しゃろんに鍛えられる前の焔斗で互角か少し強いかくらいだった。最後何かをしようとしていたが、結局止められていたので発動していない。しかし今回、それを発動した様子はないため、通常状態でこの強さだということになる。

 

「『螺旋……』」

 

「遅せぇよ!!」

 

「なっ!?」

 

ㅤ焔斗が『螺旋焔』を使う前に、節狐は前回使ったことのある『爆殺炎舞』をほぼゼロ距離で使用した。もちろんこれも威力が上がってはいたが、前より纏装が上手くなっていた上に、一応同系統の(厳密には違うようだが)属性なので、そこまでダメージを受けることは無かった。しかし、ひとつ気になることが。

 

「技名言わずに出せるのかよ……。」

 

「あぁ?何当たり前のこと言ってんだおめぇ。」

 

ㅤ節狐曰く、技名を言いながら戦うのはお遊び、または小手調べの時のみで、本気の戦いや殺し合いの時は言わないのが基本らしい。どうしても言わないとイメージできない技や、特別な詠唱を必要とするものを除いて、だが。

 

「待て待て、その理論で行くと今のこれ殺し合いか!?」

 

「ったりめぇだろ!命かけてえ戦いなんかつまんねえから、なっ!」

 

「くっ!」

 

ㅤ技名を言わなくなる。それはつまり、発動までの時間が短縮されることになり、反応するのが難しくなる。さらに焔斗はこの世界での戦闘にそこまで慣れていない。そんな中、相手の動きを見て次何するか予想し動く、というのは分かっていても行動する時に迷いが生じてしまう。その一瞬の迷いが隙となり、節狐の攻撃が入る。唯一の救いは同じ炎系統(厳密には違うようだが)のため、そこまでダメージが入らないことだろうか。

 

「オラオラどうしたァ!その程度か!?」

 

「ちっ、この、なめるなよ!!!」

 

「うお!?」

 

ㅤ盾を投げ、斬りつけてきた節狐の腕を左手で掴み、思いっきり振り回してなげとばす。節狐は壁に打ち付けられ、その岩壁にクレーターができる。

 

「かはっ」

 

「イメージだけで行けるなら……!」

 

ㅤ節狐が怯んでいる隙に、焔斗は食事前に練習していた纏装を試そうとする。とは言っても、やり方は全く別。張り巡らせるのではなく爆発させる。前の世界で読んでたバトル漫画をイメージし、その漫画でのエネルギーを魔力と思えば何とかなるかもしれない、そう思ったのだ。

 

「はぁあああああ……!」

 

「な、なんだ?何をする気だ?」

 

ㅤ節狐が興味津々と言った様子で見ている。先程の攻撃、さすがにダメージは入ったようだが、まだピンピンしている。しかも、邪魔をしてこない。全力の焔斗と戦いたい、ということだろうか。

 

「かぁっ!」

 

「くっ……!?」

 

ㅤ焔斗は魔力を爆発させる。そして溢れ出る魔力を徐々に纏装して行き、無駄な漏出をなくす。この時点で彼の髪色は紅に変わり、纏装が完了すると、服装も変わった。フードとマントがついてより旅人感が増している。顔の右には謎の刺繍のような痣まで現れていた。

 

「へぇ……!それがあんたの本気ってことかい!おもしれぇ……!」

 

「『獄焔纏装』(ごくえんてんそう)とでも言っておこうか。何せ初めてだからな。魔力切れが怖いからとっとと行かせてもらうぞ!」

 

ㅤこうして、見事に新しい纏装を成功させた焔斗と、未だ力を隠した節狐のバトルが再開したのであった。




今回はここまで!
いかがでしたか?
……お久しぶりです!笑
結構ダラダラ書いちゃいました(の割に長さは変わらないという)

今回登場したif民モチーフは

Yamikaさん(闇華)
ララさん(来羅)

せつこさん(節狐)

でした!ありがとうございました!

次回
第17話『』……タイトル考え中です!
おたのしみに!


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第17話『魔力の共鳴』

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来羅達と別れて食事を済ませた焔斗。彼女たちより先に戻ってきてしまい、少し休もうと思っていたところに、節狐が現れる。前よりも格段に強くなった彼女に苦戦しながらも、焔斗はついに殻を破った。この勝負、一体どうなる━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

︎ㅤ焔斗が『獄焔纏装』を発動した頃、来羅と闇華はまだ街にいた。

 

「っ!?闇華ちゃん!」

 

「ええ、分かってるわ!戻るわよ!」

 

ㅤ食後のデザートを買って、戻ってから焔斗も含めてみんなで食べようと思い店を見ていた二人。しかし、焔斗が『獄焔纏装』を発動したことにより、莫大な魔力の気配を感じ取った。

 

「「『魔翔』!」」(ましょう)

 

ㅤ魔力を利用した飛行法、『魔翔』。魔力の扱いが上手くなれば使用するのは簡単だが、使える人はそう多くない。それゆえ、これで飛んでいるととても目立ってしまうので多用はしていない。

 

(何よ今の魔力·····いや、今の爆発的なものは恐らく彼が成功した証。それはいいのだけれど、一緒にいる魔力が気になる。もし戦っていてギリギリで覚醒したのだとしたら、まずいわ。初めての纏装なんて、魔力切れまで何分持つか·····!)

 

「飛ばすよ!来羅ちゃん!」

 

「うん!」

 

ㅤ2人は急いで焔斗のいる場所に向かうのであった。

 

 

 

 

「ちっ!あんた強くなりすぎだっ!?」

 

「悪いな。俺もこれ程とは思わなかった。」

 

ㅤ節狐に片手棍をぶち込みながら、焔斗は余裕の表情で言う。実際、戦況は拮抗から圧倒へと変化していた。節狐が手も足も出ない。

 

「く、そ·····が。」

 

「なんだ、もう終わりか?どうやら修行で差がつきすぎてしまったらしいな·····。」

 

ㅤ焔斗は節狐を圧倒していた。それほどまでに『獄焔纏装』は強力だったのだ。だが同時に、

 

(魔力のコントロール、一応してはいるが。出力が多すぎる。こんなの後何分持つかわかんねえ·····!早く決着をつけないと·····)

 

ㅤ魔力切れ。それが迫っていることを自分でも感じとっていた。これでも節狐が立ち上がってくるようなら、本当はしたくないがとどめを刺すしかない、そう思った。そして、案の定節狐は立ち上がる。こちらを睨みつけ、戦意は未だ消えていない。焔斗は覚悟を決めた。

 

「すまないな、殺らなきゃ殺られるんだ!もう容赦しないぞ!」

 

ㅤ焔斗が節狐に迫る。あと少しで節狐にとどめの一撃が入る、と思った瞬間。

 

「なめんなよ·····!『本能解放』!!」

 

「くっ!?」

 

ㅤ以前、シンレ館に行く道中で戦った時に、最後に使おうとした技。焔斗はすっかり忘れてしまっていたが、節狐にも切り札はあったのだ。絶大な魔力を纏い、尾が九本生える。九尾の狐、ファンタジー系ではお約束ではあるが、大抵こういう奴は強い。今は戦いたくない相手だった。

 

「行くぜェ!」

 

「ちっ、こいyっ!?」

 

ㅤてっきり剣で攻撃してくるものだと思っていたが、違った。拳だ。節狐の拳がみぞおちに食い込む。仮に剣での攻撃だったとしても、速すぎて対処出来たかは不明だが。

 

「ぐふっ·····!」

 

「あたしにもこれくらい出来るんだぜ?ふんっ!」

 

ㅤそのまま思いっきり吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられる。ぶつかった衝撃により岩壁が崩れ、焔斗を埋めて行く。

 

「なんだ?たった1発で終わりかい?そんなわけないよなぁ?もしそうならガッカリだよ。」

 

「ご期待に添えたようで何より·····だぜ。」

 

ㅤ崩れた岩の中から焔斗が出てきた瞬間、節狐は面白い、こうでなくてはとニヤつく。だが、焔斗はもう満身創痍。『獄焔纏装』も解けてしまい、通常状態だ。

 

(諦めるしかないのか、ここで死ぬんだ、俺は。どうせ、妹より弱かった俺に出来ることなんてなかった。むしろここまでよくやった方だよ·····。)

 

「ああん?あんたまさか、もう戦えないって言うんじゃないよな?」

 

「戦えねえよ、もう立ってるのでやっとだ。」

 

ㅤチッ、と舌打ちした節狐がゆっくりと歩み寄ってくる。とても失望した、と言った表情だ。

 

「あんたみたいな強いやつは、初めてってわけじゃなかったが。『真紅の焔』を使うあんたに期待してたあたしが馬鹿だった。所詮、この程度だったなんてな。ガッカリだ。……もしかしたら鍛えりゃもっと強くなるのかもしれねえが、これは戦いだ。悪く思うなよ。」

 

ㅤ節狐は焔斗に向かって手をかざす。この至近距離で魔力弾でも放つのだろうか。どんな攻撃であれ、きっと助からないだろう。

 

「……じゃあな。」

 

「させないよ!『魔風衝波』!!」

 

ㅤついに殺される、と思った瞬間、覚えのある風の魔力が節狐を吹き飛ばした。

 

「『闇ノ迅雷』!!」

 

ㅤ直後、これまた覚えのある雷の魔力が節狐を襲った。来羅と闇華がようやく到着したのだ。ギリギリセーフのタイミングである。

 

「大丈夫?怪我……はしてるけど生きてるみたいだね!よかった!」

 

「ここは私たちに任せて、あなたは下がって回復してなさい。あの狐さん、ヤバいわ。二人がかりで勝てるかどうか……。」

 

ㅤ来羅と闇華の2人がかりでも厳しい戦いになる。闇華はそう言った。彼女達程の実力者でも、今の節狐を相手にするのは厳しいらしい。

 

「ちっ、邪魔しやがって!あたしとそいつの戦いだろーが!」

 

「うそぉ!?全然効いてないよ!?結構本気でやったのになぁ?」

 

ㅤ先程の2人の攻撃は節狐にはノーダメージの様子だった。

 

「悪いけど、弟子を死なせる訳には行かないのよ。私たちは全力であなたを倒す。」

 

「そーゆーこと!覚悟してよね!行くよ!闇華ちゃん!」

 

「「『魔力協奏』!!」」(マジックコンツェルト)

 

ㅤ闇華と来羅の魔力が共鳴し、増幅する。風と雷の協奏曲。その様子を見ながら焔斗は下がり、少しでも体力を回復させる。

 

(修行したのに、結局助けてもらって……。何か、なにか俺にできないのか。俺にしかできないようなこと、何か……。)

 

ㅤある重要な事を焔斗は忘れてしまっているのだが、それにはまだ気づかない。

 

「ったく、せっかくの真剣勝負邪魔しやがって……。邪魔なんだよ!あんたら!」

 

「行くわよ!覚悟して!」

 

「負けないんだからー!」

 

ㅤこうして、闇華と来羅対節狐の戦いが始まるのであった。

 




今回はここまでです!
いかがでしたか?
ほんとにお久しぶりです!笑
最初期と比べると更新ペースガタ落ちしてますが、
マイペースにゆっくりやっていくので
応援よろしくお願いします!

今回登場したif民モチーフの方は

Yamikaさん(闇華)

ララさん(来羅)

節狐さん(節狐)

でした!

ありがとうございました!

次回

第18話
『今の俺に出来ること』

おたのしみに!


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第18話『今の俺に出来ること』

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『獄焔纏装』を新たに会得するも、節狐の本気には全く叶わなかった焔斗。殺されるかと思ったその瞬間、闇華と来羅が到着する。魔力の共鳴による『魔力協奏』をした彼女達ですら、勝てるかどうか怪しいと言う。満身創痍の焔斗に出来ることはあるのか。彼は本来……
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━━━ここは天界。俗に言う神や天使の暮らす場所。

ㅤ神々しさ、まさしく天国のような雰囲気。この世界に夜はなく、神々並びに天使も睡眠を必要とせず。そんな世界のとある場所。現界の様子を見る天使たちがいた。

 

「どう?異界人の様子は。」

 

ㅤ雲に囲まれたモニターのようなものを見つめる天使に問いかけるのは、青髪ショートに青目で童顔。そして青と白を基調とした騎士服を身にまとった少女……にしか見えない青年の、ねこま。

 

「やってくれてるよ、ほんとに。もうこの様子じゃあ天界の干渉は確定だね。」

 

ㅤそう答えたのは、銀髪青眼の天使、ロイル。彼は研究も得意としており、天界に住むものが持つ”神力”を使わなければ作れないようなものを作ったりしている。今もある物……いや、生物を製作中だ。

 

「……そっか。もう天界から誰が降り、異界人含め関係者を葬り去るか、決まっちゃってるけど……。ほんとにこれでいいのかな?異界から来たから殺す〜……なんて。ほんとに殺戮を繰り返してたりしてたら分からなくもないけど。」

 

「そうか、お前は前回の降臨を知らないのか。それで文献だけ見て育ち、強くなったわけだ。そりゃ疑問もでるだろうよ。……まあ、かと言って、神様の代表様がお決めになったから従うしかない、としか言えないのだがな。」

 

ㅤこの世界には3つの種族がいる。神、天使、そして、天界の力を宿した天界人。ここにいる2人の場合、ねこまが天界人で、ロイルが天使の部類になる。しかし、種族差で上下関係などはなく、実力主義の世界である。ロイルは研究に没頭するタイプのため、天使でも戦闘力はそこまで高くない。逆にねこまは優秀な戦闘力を持った天界人である。戦闘試験である程度の基準とした序列が決められるのだが(相性などもあるので下の位の者に負けることもある)、ねこまは序列7位である。10位以内に入るのは彼が最年少なのだ。

 

「んー、でも、まあ、仕方ないかあ〜。ところで、さ?前言ってた例のアレ、進捗はどうなの〜?」

 

ㅤ例のアレ、というのはロイルが作っている生物のことだ。今回ロイルは侵攻はしないが、その生物……人間を送り込む手筈で進めているのだ。

 

「順調だよ。神力もいい感じに蓄積されてきた。ベースにしようと思ってた子がいなくなったのは痛かったけど、それでも全然問題はなかったね。」

 

ㅤいなくなった子、というのは、まだ神力すら宿っていない赤子のことである。赤子は集中的に管理され、専用のカプセル(ロイル作)で、ある程度まで育てられるのだが、故障で一機、それも期待値の高かった子が下界に落ちてしまったのだ。幸い、神力も宿っていないため、天界からの干渉というタブーには辛うじて触れなかったものの、結局どこに行ったか分からないのでお手上げである。

 

「”神造人間”、だっけ〜?このカプセルの中の子がそう?女の子ベースなんだね〜。」

 

「ああ、そうだよ。おかしなところが見つからないよう、魔力じゃなくて神力ってこと以外は完璧な人間さ。下界の人間に近づけて神力を宿す。どこまで完璧に出来るか試してるんだ。女の子ベースにしたのは、可愛い女の子の方が注目されやすい上、色々と融通が効いたりする。男はバカだからね。ああ、下界の大多数のことだよ。君じゃない。」

 

ㅤ男がバカと言われてムスッとするねこまをみて、慌てて訂正する。”神造人間”はピンク色の髪をした小さな女の子だ。

 

「この子の名前は?決めてるの〜?」

 

ㅤそう問いかけるねこまに対して、ロイルは果肉の白い果実を食べながら答える。

 

「もちろん。この子の名は……。」

 

ㅤ彼の口から”神造人間”の名前が告げられた。

 

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「『闇雷蓮華』!」(あんらいれんげ)

 

ㅤ闇華の剣撃が華やかに、激しく舞い、節狐に迫る。が、それはいとも容易く全て弾かれてしまう。

 

「はっ!その程度かい?」

 

「そこ!『魔風ノ刃』!」

 

ㅤ死角からの来羅の魔法攻撃も、軽々と受け流される。このような細かい攻撃は、不意打ちだろうが意味を成さないようだ。

 

「『狐火』。」

 

ㅤ節狐が指を鳴らすと、来羅の体の至る所から炎が燃え上がる。瞬時に風の魔力で弾き飛ばしたため、それほどダメージを受けることは無かったが、節狐が遠距離戦も出来るとなると、接近戦を選んだ方が、彼女達の得意分野であるため戦いやすい。

 

「一気に決めるよ!来羅!」

 

「もちろんだよヤミちゃん!」

 

「ははっ!いいねぇ!来いよ!踊ってやる」

 

ㅤ闇華と来羅が急接近する。彼女達のお得意な連携攻撃の始まりだ。威力の高い斧を使う来羅が、範囲的に強く攻撃し、それに対応を追われているスキをついて、闇華が剣で攻める。単純なようで、彼女達の戦闘力でやられたらたまったものでは無い。経験している焔斗も分かる。あの時は彼女達は本気ではなかったが、今回は本気の本気である。どれほど恐ろしいかは想像したくもない。

 

「ちっ、ちょろちょろとめんどくせえな!」

 

「これが私たちの」

 

「戦い方よ!」

 

ㅤ来羅の斧攻撃を無視する訳にも行かず、かと言って生半可な対応ではダメージを受ける。だが、それを防ぐことにより、闇華の攻撃をもろに受けている。そんな状況だった。

 

「調子に乗るんじゃないよ!はぁ!!」

 

「へ!?きゃ!?」

 

「来羅っ!くっ!?」

 

ㅤこの連撃の対処法、節狐は”力でねじ伏せる”ことを選んだ。文字で表すと単純だが、そう簡単にやれることじゃない。来羅の攻撃を受けつつ、力と魔力で動きを抑え込む。そして、スキをついた闇華の攻撃にも対応、反撃するという脳筋プレイにも程があるやり方だった。これも、彼女の体が頑丈だからこそできる芸当だろう。いくら鍛えていても、普通の人間にはできるわけが無い。

 

「今度はあたしの番だ。覚悟しな!」

 

ㅤ連撃というのは流れに乗ればとても強く、流れを止められたらスキだらけになる。それも1人は抑えつけられ、もう1人も迂闊に攻撃できない。彼女達の魔力も多い上、扱いにも慣れているから無駄も少ない。だが、無限では無いのだ。彼女達にも限界が来てしまう。その前に決着をつけなければならない。

 

(師匠達でも、あそこまで苦戦するなんて……。くそっ!俺に、俺に何か出来ることは……!)

 

ㅤその戦いを見ながら、焔斗は何一つ力になれない自分にいらだちを覚えていた。自分にもっと力があれば、一緒に戦えたかもしれない。あの時、調子に乗っていなければ、勝てていたかもしれない。そんなことばかり考えてしまう。

 

「遅せぇよ!あははは!」

 

「ぐっ、この……!」

 

「来羅、だめ!引いて!」

 

ㅤ今まで、力でねじ伏せられたことはほとんど無かったのだろう。来羅は既に心に余裕がなく、引くべきところで攻めに出てしまう。節狐からすればいい的だ。炎を纏った斬撃を来羅に打ち込む。

 

「きゃあああ!?」

 

「来羅!……くっ!」

 

「あんたも突っ込んでくんのか?無駄なのに、な!」

 

ㅤ闇華にも斬撃を浴びせる。さすがに分かっていたため、闇華は対処していたが、それも節狐の連撃の前では限界があった。まともに1発が入る。

 

「うぁっ……。」

 

「もう諦めな!あたしにゃ勝てねーよ、あんたらじゃな。」

 

(『魔力協奏』まで使ったのに、これほど押されるなんて……。この人ほんとに現界勢なの!?平均値的に魔界より数段弱いのが現界のはず……。いや、そうか。”平均値”だから弱い人が多ければ低くなる。稀に強い人がいても何もおかしくはない、わね。)

 

ㅤ闇華は、もうひとつの切り札を出そうか迷っている。それを使えば色々めんどくさいが、このままでは殺されるだろう。しかし、堕天使の力を解放する、『堕天降臨』を使えば確実に勝てる自信があった。もう使うしかない、そう思った瞬間、体の底から力が溢れてきた。

 

「え!?」

 

ㅤこれは来羅も同じようで、驚いた様子だ。この魔力の感じには覚えがあった。というか、覚えしか無かった。彼女達の弟子、つまり焔斗の魔力である。

 

「成功……したのか?」

 

━━━━━数十秒前のこと。自分に出来ることはないか、と考えていた焔斗はあることに気づく。

 

(この世界にもバフスキルがあれば、俺もサポート出来るのに……!……いや、待てよ。想像を具現化したのがこの世界の魔法だよな。と、いうことはまさか、支援魔法も出来る……?)

 

ㅤそう思った焔斗は、慎重に2人の方向に向かって手をかざし、自分の魔力で能力を底上げするイメージをする。上手くいってくれと願いながら、魔法を確立するために唱える。

 

「支援魔法、『焔ノ鼓舞』。」

 

ㅤ焔斗の魔力が、彼女達を包み込んだ。

 

━━━━━そして今、焔斗の支援を受けた2人によって、形勢が逆転していた。

 

「な、なんだ!?あんたら、どこからその力湧いてきたんだ!?」

 

「わっかんなーい!けどお返しだよ!」

 

「このまま押し切る!!」

 

ㅤパワーもスピードも上がった彼女達は、節狐を圧倒していた。反撃を許さぬほどに押し込んではいるが、決定打にはなっていない。節狐も驚いてはいるが、じきに慣れて反撃をしてくるだろう。そうなると厄介だ、今のうちに攻め切らなければならない。

 

「来羅!あれ、やるよ!」

 

「おっけーヤミちゃん!」

 

ㅤ節狐を岩壁に突き飛ばした後、来羅が闇華の隣に行く。

 

「雷よ轟け!」

 

「風よ唸れ!」

 

「「『轟唸風雷』!!!!」」(ごうてんふうらい)

 

ㅤ闇華と来羅の合わせ技、『轟唸風雷』。風の魔力と雷の魔力が合わさり、絶大な威力を持って節狐を襲う。岩壁を消滅させるほどの威力だ。彼女も無事ではないだろう。

 

「ま、まだだ……まだあたしは戦えるぞ……!」

 

ㅤしかし、節狐はまだ立っていた。やる気の消えないギラギラした目で2人を睨みつける。

 

「こっちもまだだよ!」

 

「何!?……!?あんたっ……!」

 

ㅤ今の一瞬で、焔斗は節狐の懐にまで接近していた。既に『獄焔纏装』状態である。支援強化は自分にも効果があったのだ。

 

(俺はバファーだ。なにも支援が嫌いな訳じゃあない。けど、ここぞと言う時に攻めもできる、そんなバファーになりたかった。この世界でなら、そんな存在になれる……!)

 

「仕方ないから、いちばん美味しいところは、」

 

「弟子に譲ってあげるよ!」

 

「我が焔に朽ち果てろ!『終末ノ焔撃砲』!!!!」(しゅうまつのえんげきほう)

 

(俺は……攻撃も支援もこなす、”バーサークバファー”だ!!!)

 




今回はここまで!
いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは
東方ねこまさん(ねこま)←初登場

節狐さん(節狐)

Yamikaさん(闇華)

ララさん(来羅)

です!ありがとうございました!

ロイルですか?あれはオリキャラです!

次回

第19話『魔王再び』

お楽しみに!


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第19話『魔王再び』

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突如始まった節狐との戦闘。殺されそうになる焔斗の元に闇華と来羅が駆けつける。2人の力を持ってしても苦戦を強いられたが、焔斗の支援魔法により形勢は逆転した。彼の全力『終末ノ焔撃砲』が炸裂する
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 ‌焔斗が放った『終末ノ焔撃砲』は、節狐に間違いなく直撃し、吹っ飛ばした。死んではいないが、彼女の尾も1本に戻り、満身創痍である。どうだ、と様子を伺っていると、節狐は急に笑い声を上げた。

 

「あっはは!だーめだ、あたしの完敗だよ。こうやって立ってるのでやっとだ。1歩も動けやしねぇ。やるなぁ、あんたたち。」

 

 ‌どうやら、今度こそ節狐は完全に諦めたらしい。警戒を完全に解くことはしないが、ひとまず皆ほっとした。

 

「そっちも強すぎだよ。はっきり言ってここまで圧倒されるとは思ってなかった。なんなら、闇華さんと来羅さんが来ていなければ俺はとっくに死んでいたし、な。」

 

「ほんとにギリギリ間に合って良かったわ……私達もここまで強いとは思ってなかったけど。」

 

「ねー!焔斗君の魔力が一気に減った時は、もうダメかと思ったよ〜。」

 

 ‌警戒の少し解けた3人だったが、節狐と付いてきていた獣人達は逆に警戒度が上がっていた。それを感じとって不思議に思う3人だったが、次の節狐の一言でその疑問は解決した。

 

「どうした?早くトドメをさせよ。」

 

 ‌節狐は俺たちが今からトドメ、つまり殺しにくると思っていたらしい。そういえば殺し合いって話だったかと思いつつ、全くもって不満な様子を見せないところを見ると、約束は守るしっかりとした人……狐なんだなと思った。彼女がそう言った瞬間、付いてきていた獣人達が飛び出して来て、節狐を守るように焔斗達の前に立ち塞がった。

 

「や、やらせませんぞ……!我々が命をかけても節狐様をお守り致します!!」

 

 ‌と、必死の表情で武器を向けてくる。しかし、その体は震えている。先程までの戦いを見ていたため、怖いのだろう。焔斗達も魔力が尽きかけていて、もうほとんど力が出ないので彼らでも倒せるはずなのだが、植え付けられた印象というのは恐ろしいものだ。限界を超えて何度か立ち上がったぶん、もしかしたらまだ底力があるかもしれないと警戒されているのだろうか。

 

「おい、あんたら!やめな!これは正々堂々とした勝負なんだ!約束は守らなきゃ戦士の恥さ!実際、あたしはあいつを殺そうとしたんだよ!」

 

「それなら!それなら、こいつらだって助っ人が来たじゃないですか!だったら我々が割り込んでも何も問題ないはずです!」

 

 ‌節狐がやめさせようとするも、そう言い返される。確かに彼の言う通りだ。反論のしようがない。元々1対1の戦いだったはずだが、色々あって3対1になっていたのだ。そして付き人の彼は更に衝撃発言をした。

 

「それに、国王の1人娘であるあなたが、こうも簡単に命を投げ出さないでくださいよ!そりゃあ、不満があるのも聞いていますので分かりますけどもね!せめて自分の命は大切にしてください!」

 

「そ、それは……」

 

 ‌なんと、節狐は国王の娘だったらしい。彼女達は獣人なので、おそらく獣人の国の話だろう。これまで確かにそんな雰囲気はちらほらあった。と、いうか付き人を連れてる時点でお偉いさんのオーラは出てしまっていた。

 

「ま、まあ待てよ。俺たちは殺す気なんてないぜ?そもそも殺し合いなんて反対だったからな?」

 

 ‌焔斗がそう言った瞬間、節狐含む獣人達はきょとん、としたあと焦る節狐と安心する付き人になった。

 

「ちょ、ちょっとまて!それじゃあいくらなんでも悪すぎる!あたしはあの時、あんたを確実に殺そうとしたんだぜ!?」

 

 ‌と、自分を殺せと言ってくる。せっかく助かるのだからそこまで律儀にならなくてもいいのにと思いつつ、焔斗は答える。

 

「いやいや、あれは俺が弱かったのが悪いし、生殺与奪の権利は勝った側が貰うものだ。そんで今回俺はあんたを殺さない。理由もあるぜ。」

 

 ‌焔斗はニヤつきながら理由を告げる。

 

「今回、3対1で勝ってしまった。けど、最後の『獄焔纏装』と『焔ノ鼓舞』を合わせた状態。あれなら、1対1でも勝てるかどうか試したい。お互い万全な状態で、な。」

 

 ‌そう、今回は2人に助けに入ってもらった中での覚醒だった。だが、最後の自分の状態でお互い万全な状態で戦えば、勝てるだろうか。いや、

 

「俺の予測では勝てる。余裕だぜ?」

 

 ‌焔斗の言葉を聴きながらきょとん、としていた節狐は、最後の一言で苦笑した。

 

「おいおい、流石になめすぎじゃないかい?あたしも流石に、あんた1人に負ける気は無いよ。それに、次戦う時も同じ強さだと思わないことさ。あたしだって鍛えるんだからねぇ?」

 

 ‌どうやら殺されることは諦めてくれたようなので、ひとまず胸を撫で下ろす。

 

「鍛えるのはそっちだけじゃないだろ?俺だって鍛えるさ、だから次会った時に、またやろうぜ。」

 

「へっ!あたしを生かしといたこと、後悔すんなよ!またな。」

 

 ‌最後に拳をコツンっと当ててから、節狐は付き人に支えられながら去っていった。

 

「ふぅ〜〜。おわっ……た……。」

 

「おっと、危ない。」

 

「焔斗君大丈夫??」

 

 ‌節狐の姿が見えなくなると同時に、緊張が完璧に解けて、焔斗は倒れそうになる。そこを闇華が支え、何故かひざ枕の体勢に。

 

「あ、いや確かに立てませんけどなぜ。なぜひざ枕……。」

 

「あら?嫌だったかしら?」

 

「嫌では無いですけど……。」

 

 ‌焔斗自身嫌ではない。むしろ少し嬉しいまであるのだが、いかんせん血縁以外の女性との関わる機会がほぼ無かったため、反応に困っているのだ。

 

「アイドルのひざ枕なんて、生きてて経験できる様なものじゃないわよ?遠慮なく堪能なさい?」

 

「どっちにしろ動けませんし、そうさせていただきます……。」

 

 ‌5分くらいそのままで居ると、動ける程度には体力が戻ってきたので、焔斗は起き上がる。もったいないなあ、と闇華に言われたが気にしない。嬉しさより申し訳なさが勝つのだ。

 ‌これからどうしようかと3人で話し合った結果、とりあえず闇華と来羅が隠れ住んでる場所(アイドルのため注目されている上、元の世界ほど治安が良くないため隠れ住む必要がある)に移動し、ゆっくりしながら話し合おうということになった。

 

「ここが隠れ家よ。秘密基地っぽくていいでしょ?」

 

「まあ、隠れ家だから言い方を変えれば秘密基地みたいなものなんだけどね〜。ふふ。」

 

「いや隠れ家にしちゃ目立ちすぎじゃね?」

 

 ‌思わず、心の声をそのまま素で出してしまう焔斗。だがそれも仕方の無い事だった。場所は森、そしてかなり深くまで進んだ人が通った気配もないと言っていい場所。木は高く生い茂り、何かを隠すにはもってこいだろう。だが、

 

「いくらこの辺に人が来ねえからって、もうちょい、あったんじゃ……。」

 

 ‌問題の家は、洋館みたいな豪華なものだった。綺麗に手入れされているため、壁などに汚れは全くなくピカピカだ。森の隠れ家と言えば、木造で目立たないようにしてるはずなのだが、何故か洋館だった。これでは木々の間からちらっと見えたら気になってしまう。そのことを伝えるとクスリと笑われた。

 

「まだ前の世界の感覚が抜けてないのね。この世界には魔法があるのよ?当然こんなことも、ね!」

 

 ‌闇華が指を鳴らすと、洋館は消えてなくなった。いや、見えなくなったという方が正しいのだろうか。そこにあったはずの洋館は見えず、木々が生い茂るばかりだ。

 

「目には消えて見える、って思ってる?なら、さっきまで隠れ家があった場所に行ってみて?」

 

 ‌来羅に言われた通りに、焔斗は先程まで洋館、隠れ家があった場所に歩く。見えてないだけならぶつかると思い、1歩手前くらいで止まってしまうが、意を決して足を踏み出した。

 

「え……?」

 

 ‌ぶつかった衝撃を覚悟していた焔斗だったが、そんなものが来ることはなく、普通に歩くことが出来た。隠れ家のあったところに生えている植物に触れてみるが、すり抜けるなどということはなく、普通に実在しているかのように触ることが出来る。

 

「どういうことだ……?」

 

 ‌わけも分からず呆けていると、闇華と来羅も近くに来て、説明をしてくれた。これは、2人で編み出した魔法であり、完全にそこにあったものを無いことにしてしまうらしい。もちろん相手は物限定で、対人では使えない。それに、その対象物にも入念な魔法陣が必要となるため、戦闘に利用することは出来ない。

 ‌例えば、爆弾が無いことにしておいた場所に敵を誘き寄せ、出現させて爆発、なんて芸当は不可能である。何せこれを作るのに半年かかったらしく、作り方がわかった上でも数ヶ月は確実にかかるとの事だ。

 ‌その代わり、こういう隠れ家等を完璧に隠すにはもってこいの魔法と言えるだろう。組むまでは魔力をかなり使ったらしいが、オンとオフの切り替えは魔力をほとんど必要としないらしい。全く便利なものである。

 

「さ、そんなことは置いといて、早く中に入ろ!」

 

 ‌さすがに、今いる場所で出現させると事故ってしまうので、隠れ家のない場所まで戻ってから、隠蔽魔法を解除する。するとさっきと同じく洋館のような隠れ家が出てきた。中に入ろうとしてあることが気になって、焔斗は2人に問いかけた。

 

「なあ、これって結局、人に使えないなら中に入ってる時隠せないんじゃないのか?」

 

「いや?そんなことは無いわよ?人や動物に魔法陣を描いて隠すことは出来ないけど、その魔法陣で隠されるものの中、例えるなら隠す箱の中に入れば、一緒に隠れることが出来るのよ。もちろん、ドアを開けたりすると解けてしまうわ。だから、隠してる間は外に出ることが出来ないわ。」

 

「なるほど、ね。便利すぎないか?」

 

 ‌つくづく便利なものだと思った。製作時間的に、戦闘に使えるようなものでは無いが、魔法はこんなことまで出来るものなのかと感心する。

 

「さ!中に入って!ほらほら!」

 

「お、押すなって!」

 

 ‌来羅に急かされながら中に入る。よくよく考えてみれば焔斗は今、アイドルの家にお邪魔しているのだ。前の世界では考えられないことである。かなりドキドキしながら家の中を見た。結論から言うと、2人しか住んでいないのに広すぎた。部屋が何部屋あるのか分からないが、普通に考えて2人で住む広さではない。もしかして他のアイドルとシェアハウスしてるのでは、と疑うレベルだ。一応聞いてみたが、そんなことは無いらしい。使ってない部屋もあるのだとか。

 

「私も来羅も張り切っちゃって……。つ、作るって楽しいから!う、うん。」

 

 ‌てっきり来羅だけがはしゃいで、こんなに広くしてしまったのかと思ったが、闇華も共犯であった。2人ともブレーキが効かなくなったらそりゃこうなるだろう、と焔斗は納得した。

 

「とりあえず、リビングに行きましょう。……いや、そういえば……。」

 

「ヤミちゃん、先お風呂入りたいよー!体汚れすぎ!」

 

「了解、俺は森から出ておくよ。」

 

 ‌さすがに、入浴してるアイドルが居る家にいるのはストレスで胃がなくなりそうなので、焔斗は退散しようとする。が、

 

「そこまでしなくていいわよ、来て。」

 

 ‌と言われ、闇華にズルズルと引きずられて1部屋の扉の前に来る。ここは使ってない部屋らしく、2人が風呂に入っている間ここに閉じ込めておくらしい。施錠は外からのみ、魔法で複雑にするらしく、出られないようにするとのこと。若干怖いが、そこまで対策してくれるなら、こちらとしても変な濡れ衣を着せられる不安がないので安心できる。

 

「で、これ。読んだことは無いんだけど、タイトル的に多分あなたの焔についての文献だと思うわ。ずっと待ってるのもつまらないだろうから、読んでるといいわ。」

 

「あ、ありがとう、ございます。」

 

 ‌焔斗が礼を言うと、闇華はクスッと笑いながら返す。

 

「今更、そんな畏まらなくていいわよ。たしかに戦い方を教えたりするのは師弟みたいだけれど、そんな関係じゃなくて、友人、仲間みたいなものでしょ?もっとフランクでいいわ。」

 

「あ、ああ。分かった。ありがとう闇華さん。」

 

 ‌闇華は軽く手を振り、部屋から出て扉を閉める。魔法で頑丈に鍵をされる気配を感じた。

 

「さて、と。」

 

 ‌改めて部屋を見渡す。使っていないとは言っていたものの、簡単な机と椅子はあるようだ。掃除もしっかりとされているようで、埃が溜まっているなんてことは無かった。助かったと思いつつ、椅子に座り、本を開く。本のタイトルは『禁忌ノ焔・真理ノ焔』と、この2つについて説明しているのがよく分かるものだった。

 ‌内容を大事なところだけ抜粋するとこうだ。

・禁忌ノ焔はいかなる魔法も通用せず、無効化する。(同系統の魔力は例外である。)

・禁忌ノ焔は真理ノ焔によって、”抑制”と”解放”、そして”??”(字が擦れて読めない)が可能である。

・”抑制”……禁忌ノ焔は真理ノ焔により、無効化、封印することが出来る。ただし、真理ノ焔を使う側にも相応の強さが必要である。基準としては、禁忌ノ焔を使う者より強くなければならない。

・”解放”……文字通り、前述で封印していた禁忌ノ焔を解き放つことができる。再び封印する必要もあるが、解放後、時間が経ちすぎていなければ、再封印に使う力は微量で可能である。

・”??”(以降文字が擦れて読めない)

 

・真理ノ焔の特徴は前述した通りだが、禁忌ノ焔に対抗する他に力がある。それは”吸収”である。炎系統限定ではあるが、相手の使う炎を吸収し、魔力に変換することが出来る。吸収者の体が耐えられる魔力量と、相手の魔力の質によって相性があるため、質次第では吸収できず、暴走を起こす場合があるため注意が必要である。

 

 ‌といった感じだった。節狐の話からなんとなく想像はしていたが、”真理ノ焔”はやはり、”禁忌ノ焔”に対抗しうる焔らしい。封印等と書いているが、条件が相手より強くなければならない、という点。あの理不尽な強さの魔王より強くなるのは必須、だということだ。

 

(流石に厳しくないか……?あの魔王、相当強かったぞ。一応俺も強くなってるから、前のように簡単にはやられないとは思うが。いやしかし、魔界で通用するか見てもらうのであって勝て、とは言われていないよな?勝とうとするのは当たり前だが、一応、魔界から来ている2人の戦闘についていけているから合格を貰える説もあるのだろうか……?)

 

 ‌現状、あの魔王に楽勝できるか、と聞かれたとすれば、「無理」と返すだろう。だが、いい勝負ならできるのではないだろうか、とも思っている。魔界に行く条件は勝利では無いため、今戦っても大丈夫な気もする。しかし不思議と、その時になったら向こうから出てきそうと思っているのだ。

 

「とりあえず、できそうな修行……は、これ、かな。『紅焔纏装』。」

 

 ‌『獄焔纏装』ではなく、その前の『紅焔纏装』を発動させる。焔斗が野郎としているのは、この纏装状態の”維持”だ。できれば24時間切らさず、この状態が当たり前であるレベルまで持っていきたいところである。まずは一段階目のこの纏装に慣れることで、『獄焔纏装』になった際、魔力の無駄な消費を抑えたいのだ。それに、常に魔力を消費しているため、使い切って回復すれば魔力の最大量も上がる……気がした。確定では無いが、纏装状態に慣れるに越したことはないので、実践することにしたのだ。

 

「お、思ったよりきっついなこれ……。」

 

 ‌普段は、纏装状態になる時は戦闘時、もしくは修行の時、と何かと戦ったり、体を動かしての修行の時ばかりだ。それ故に、常に力んだ状態で、戦闘も何もせずただ普通に暮らそうとしている。そうなってくると、まずは力加減が大変だ。移動速度が速くなったりする分には、壁に激突したりしなければ問題は無い。だが、なにかものを持ったりする際の力加減は必要だ。普段の感覚で掴めば、破壊してしまうだろう。椅子や机を動かすのですら難しい。力はほぼ使ってないので肉体的疲れは無いが、精神的な疲れがかなりあった。しかし、それも最初だけだ。1時間ほどすれば次第に慣れていき、意識はしなければならないが、そこまで精神を使うほどではなくなっていた。

 

「焔斗君、開けても大丈夫かしら。」

 

 ‌ドアがノックされ、扉越しに闇華の声が聞こえた。そろそろ風呂も上がり、ドライヤー(この世界だと魔法で済むのかもしれないが)と着替えが済んだ頃だろうと思っていたので、ちょうど良かった。

 

「大丈夫っすよ〜。」

 

 ‌焔斗がそう答えると、扉の鍵が外される音がして、開けられる。来羅もいるようだ。2人とも風呂上がりでさっぱりしている。彼女達が俺の姿を見ると驚いたような表情を見せた。

 

「纏装状態かな?それ。いや、にしては落ち着きすぎているような……?」

 

「なるほど、そういう修行方法もあるのね。ありがとう、勉強になったわ。」

 

 ‌来羅は疑問に思い、闇華は見抜いて納得し、感心しているようだ。この纏装状態に慣れる修行、というのは彼女達もやってはいなかったらしい。

 

「まあ、いいわ。あなたも風呂に入ってきなさい。もちろん、掃除もしてお湯も張り替えてるから安心して。その服もボロボロだから、新しい服も脱衣所に置いてるから、それに着替えるといいわ。」

 

 ‌そう言って風呂場へと案内された焔斗は、とりあえず風呂に入ることにした。この世界にもしっかりとした風呂の文化はあるらしく、多少デザインは違えど、慣れ親しんだ風呂場がそこにあった。

 

(もしかしたら、風呂に浸かれない世界かもと覚悟していたけど、これなら安心だな。まあ最悪の場合、自分たちで作ればいいんだけどな。)

 

 ‌焔斗は男性にしては長風呂な方だ。普段は30分ほど風呂に浸かっている。とりあえず頭髪、顔、体を洗ってから浴槽に入る。

 

「ふ〜……。」

 

 ‌この世界に来てから本当に色々あって疲れていたからだろうか、前の世界で入る風呂より数段気持ちよく感じられた。

 

(さて、これからどうするか……。)

 

 ‌焔斗は、風呂に浸かりながら今後のことについて考えることにした。修行については、今やってる事以外思いつかない。基本的な体力作りくらいだろうか。闇華と来羅の修行も、『獄焔纏装』を習得したことにより、おそらくクリアしている。あとは、魔力を安定させたりと課題は残ってはいるものの、それもまずは今やっている纏装に慣れる、というのが第1歩だ。魔界で通用するなら行かせてくれる、という話だったので、今魔王レーヴァテインと戦ってもいいのだが、どちらにしろ彼の居場所が分からない。しかし、焔斗はなんとなく、その時になったら現れるのではないだろうか、とも感じている。

 

「さて、そろそろ上がるか。」

 

 ‌なんやかんや考えていると30分くらいたった気がするので、もう風呂から上がることにした。彼女達とも話をしたいし、何より先程見せてもらった、焔に関する文献について考察、相談したいのだ。

 ‌脱衣所に戻ると、置いておく、と言われていた服を改めて見直す。用意された服は、暗い藍色と薄い紫を基本として、民族衣装の模様のようにデザインされたシャツと、半袖の上着。模様が少し派手に見えそうだが、色合いのおかげで落ち着いたイメージを持たされている。指の出るタイプの手袋も置いてある。ズボンはスラッとした黒の長ズボン。肌触りが良く、いい生地が使われているようだった。なぜ、サイズがピッタリなのかという疑問はあるが、とりあえず気にしないことにした。

 ‌体を拭いて髪を乾かし、用意された服に着替えて言われていた部屋に、ノックしてから入る。

 

「お、来たわ。意外と長風呂なのね、あなた。」

 

「まあ、風呂は好きなので……それに浸かるの久々でつい……はは。」

 

 ‌案の定、風呂のことに突っ込まれながらも、指定された場所に座る。もちろん、先程読んでいた本もここにある。

 

「で、この本には何が書いてあったの〜?」

 

「あんたも読みなさいよ……。まあ、いいわ。」

 

 ‌焔斗と闇華で、来羅に本の内容を簡単に説明した。主に、”真理の焔”の性質についてだ。

 

「ふむふむ、なるほど!何となくわかったよ!」

 

 ‌本当にわかっているのか不安ではあるが、とりあえず伝えはしたので良しとした。

 

「それにしても、焔斗君が使ったあの強化魔術??みたいなものは性質には書いてなかったんだね?」

 

 ‌どうやら、この世界で強化系の魔法を使う人はほとんど居ないらしい。というのも、この世界での回復や支援など、他人に干渉しながらも攻撃では無い系統の魔法は、相当難しいらしい。ジーマ村でシイも言っていたが、1歩間違えれば必殺の魔法となってしまう。仲間を助けようとして殺してしまったんじゃ、本末転倒どころの話では無い。

 

「それは多分、この焔の性質とかじゃなくて。俺が前の世界にいた時にやってたことをイメージしてやったんだ。その時ほど簡単なわけも無いから、相当精神使ったけど、成功してよかった。あの時は、何だかできる気がしたんだ。」

 

 ‌焔斗は元の世界ではバファーだった。と言ってもゲームの中だが、イメージするくらいはできる。あとはもう、できる気がするという気持ちだけで押し切ったのだ。今思えば、この世界に来てからほとんどノリと勢いで来てしまっている気がする。今は成功しているから良いが、しっかり考えて動かないと、そのうち取り返しのつかないことになるような気がした。

 

「ふぅん、バファー、支援役、ね。あなた前の世界じゃそんなことしてたのね。もっと脳筋かと思ってたわ。」

 

 ‌闇華のツッコミに脳筋じゃない、と否定したいところではあったが、この世界に来てからの自分の行動を思い返してみると、どう考えても脳筋寄りの立ち回りばかりしてきた気がするので、否定したくても出来なかった。

 

「まあ、1人でしたし、俺が戦わなきゃ意味ないって言うか。支援する相手もいないのに、支援の練習しても意味が無いじゃないですか。まさか、イメージどおり自分含め味方全員に効果があるとは思いませんでしたしね。」

 

 ‌そう説明すると、2人は納得したように頷いた。形は違えど、経験があるのであれば、今回の件も起こりうることだと思ったようだ。

 

「それはそうとして、どうなの?今の状態でその、魔王より強くなれてると思う?」

 

「いえ全く。あれは次元が違いすぎます。確かに僕も強くなりましたが、勝つ自信があるかと言われると完璧に無理ですね。封じるのも結局、魔力で勝ってなければならないみたいですし。」

 

「んー、じゃあ当分修行だね!!!いつでも相手になるよ!」

 

 ‌来羅が嬉しそうに言ってくれるが、そういつでも相手できるほど暇じゃないだろう、と思った。彼女達はの本職はアイドルだ。各地でライブをしている。それについて行くわけにもいかないし、様々な場所に行くため、常に会える訳でもない。

 

「ん〜。じゃあどうしよっか?」

 

 ‌焔斗が思ったことを闇華が指摘し、来羅は納得して悩み始めた。

 

「いや、1人で修行するよ。色んなこと教えてもらいましたし、自分流の修行も見つけました。焔についても不明点は多いですし、ほかの街にも行ってみようと思います。その途中で魔王と再会できるならそっちの方がいいですが、ね。」

 

「なんで?勝てないんじゃないの?」

 

 ‌来羅の疑問も当然だ。勝てもしないのに出会って戦えば、殺されるだけである。焔斗は、魔界に行く条件について魔王に言われたことを、詳しく話すことにした。

 

「なるほど、ね。それならもう、今のあなたでも充分合格ラインじゃないかしら?私の見た感じ、魔界の魔物ごときなら苦もなく勝てると思うわよ?」

 

「あたしもヤミちゃんに同意見だよ〜。それなら、焔について調べたり、修行しながら、その魔王さんを探す方が良さそうだね!!」

 

 ‌2人の見立てでは、今の焔斗でも魔界で魔物に殺されてしまうことはないだろうという事だ。特殊な攻撃をしてきたりする相手には気をつけなければならないが、基本的な戦闘能力では大丈夫との事だ。

 

「それを聞いて少し安心しました。魔界の強さの基準が分からないので、魔界から来た2人の言葉だと信用もできます。」

 

 ‌焔斗自身も、何となく行けるのではないだろうかとは思っていたが、不安はもちろんあった。そこでこの2人の言葉だ。実際かなりほっとしたのである。

 

「じゃあ、そろそろ俺は行きますね。今までご指導ありがとうございました!また、妹と再会出来たらライブ見に行きますね。」

 

「そう、ね。確かに、これ以上あなたが私達と一緒に行動する必要性はほとんどないわ。お金も魔物の素材を売れば問題なく手に入ると思うし、なんなら自分で狩って調理してもいいし、ね。こちらこそ誰かに教えるというのは初めてで、色々楽しかったわ。またどこかで会いましょうね。」

 

「焔斗君またねー!ライブに来てくれるの楽しみにしてるよ!あ、今度こそ手料理もご馳走してあげるね!」

 

「あ、それは遠慮しときます。」

 

「なんでーー!」という来羅の声を聞きながら、焔斗はこの隠れ家をあとにした。

 

 ‌とりあえず森を抜けるため、考えながら歩き始めた。途中途中魔物が襲ってくるが、今の焔斗は武器を抜くまでもなく、1発殴るだけで倒せるようになっていた。もはや現界での魔物は彼の相手にならない。

 

(どうしよう、とりあえず森を抜けて街を探そうと……ああ、近くの街聞いておけばよかった……まあ、いいか。とりあえず進もう。それにしても、なんだか嫌な空気だな。)

 

 ‌見た目は別に変わったところの無い森なのだが、なんだか嫌な感じがする。それこそ、最初に……

 

(っ、そうか!この気配まさか!)

 

 ‌焔斗がなにかに気づいた瞬間、影から斬撃が彼を襲った。その攻撃を察知して、咄嗟にメイスを抜き防ぐ。剣とメイスがぶつかった音が響きわたり、押し切られそうになるも何とか防ぎきった。

 

「……この不意打ちに気づき、対処できる程度の実力は身につけたようだな。」

 

「へっ、あれから必死こいて鍛えたもんで、な!」

 

 ‌剣を防いでいたメイスで押し返し、突き飛ばした。不意打ちの相手は空中で受け身をとり、何事も無かったかのように着地する。

 

「時間が無い。早くお前の力を見せてみろ、焔斗。」

 

 ‌焔斗の前に現れたのは、”現界の放浪魔王”であり、”禁忌の焔”の使い手、レーヴァテインだった。

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?
今回はちょっとボリュームアップを頑張りました!
登場したif民モチーフは

節狐さん(節狐)

Yamikaさん(闇華)
ララさん(来羅)

そして
Revatainnさん(レーヴァテイン)

でした!
ありがとうございました!

次回
第20話『禁忌vs真理』

お楽しみに!


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第20話『禁忌VS真理』

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節狐との戦いに辛くも勝利し、闇華と来羅の隠れ家で少しの休息をした焔斗。自身の”真理ノ焔”についても少しわかったところで、2人と別れて旅を再開する。しかし、すぐ後に”現界の放浪魔王”レーヴァテインが現れ、力を見せろと要求される。なにやら急いでいるようだが、いったい……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……時間が無い?一体どういうことだ?」

 

︎ ‌いきなり現れて、時間が無いなどと言うレーヴァテインに対して、焔斗は武器を構えながら問いかける。

 

「そのままの意味さ。少々、急いで魔界に行った方が良いと判断した。」

 

「なぜだ……?」

 

 ‌一瞬、天界からの侵略の件かと思ったが、それはないと判断する。なぜなら、彼は天界の事を知らないはずなのだ。魔王ということもあり、もしかしたら知っているのかもしれないが。

 

「厄介な奴が魔界に降りた。だから急いだ方がいい。」

 

 ‌厄介な奴。それはつまり、妹の身に危険が迫っていると遠回しに言われたようなものだ。

 

「ま、待てよ!そんなやつ魔界に降ろしたのか!?」

 

 ‌もしそうだとするなら、ほんとに急いだ方がいい。彼がそう言うのも納得出来る。

 

「……何か勘違いしているようだが、魔界への扉を開けられるのは俺だけじゃない。それに扉なのだから、向こう側からも開けれるわけだしな。」

 

 ‌よくよく考えてみればその通りだ。彼以外に扉を開けられる者が居ることは驚いたが、確かに魔界側から招くのであれば、向こうから開けてやればいいだけの話。強くなることが必要なのは当たり前だが、他にも魔界に行く方法はあったのかもしれない。

 

「……妹は、無事なのか?」

 

「さぁ。それは知らない、向こうを見れるわけじゃないからな。ただ1つだけ言えるのは、命を奪われるようなことにはならない。少なくともな。」

 

「なぜそう言い切れる?」

 

 ‌彼が厄介な奴と言うくらいなのだから、弱いなんてことは無いはず。ならばいくら俺より強い妹(現状はどうか分からないが)とはいえ、多少なりとも命の危機はあるはずだ。それをないと断言したのだ。

 

「一応、知り合いだからな。こういう時に奴が何をするのを好むか位はわかってる。」

 

「……そうか。まあ、いい。こうして話してる暇じゃないってことは伝わった。……行くぞ。」

 

「いいぜ来い。」

 

 ‌なぜ、彼がここまで自分達の事を気にかけてくれるのかは分からない。今回の件も助かりはしたが、彼にメリットがない。焔斗をやる気にさせる、という意味なら分からなくもないが、そんなのは今更だ。妹と離れてしまっている時点でやる気はMAXである。

 

「ふっ!」

 

 ‌思い切り地面を蹴り接近する。『獄焔纏装』はまだ使わない。体力面での心配もあるし、なにより、今の普通の自分で(常時紅焔纏装ではあるが)あれからどのくらい強くなったか確かめたかったのだ。

 

「……ッ!」

 

 ‌レーヴァテインはこの攻撃を”弾いた”。そう、弾いたのだ。あの時は、そのままほぼ全てノーガードで受けて無傷だったのに。彼が防御という選択肢を選んだ。つまり、その位は成長しているということだ。攻撃が届いていない時点でまだまだではあるが、それは1つの自信に繋がった。

 

「……俺相手に小手調べとは、舐められたものだな。」

 

「俺も強くなったってこと……さ!」

 

 ‌レーヴァテインの視界から焔斗が消える。刹那、彼の腹部に衝撃が走った。

 

「ぐっ……!?」

 

「なるほど、今の俺なら”止められるんだな”。」

 

 ‌焔斗は『獄焔纏装』状態になり、時止めの技『お世話の時間』(執事タイム)を使用したのだ。かつて最初に節狐と出会った時に使用し、破られた技。自身の力が相手の力に負けていると、時止めは成功しない。レーヴァテインはまだ本気を出していない、という理由もあるが、今の彼にはこの技が通用したのだ。そのままレーヴァテインは吹き飛ばされ、木を何本かなぎ倒してから、その後ろの木の幹に打ち付けられる。

 

「どうだっ!」

 

 ‌焔斗が自信ありげにそう叫ぶと、レーヴァテインは大してダメージを受けた様子もなく立ち上がる。それはそうだ、焔斗だって分かってる。この程度でダメージを与えられるような甘い相手では無いことくらいは。それでも、ちょっとくらいダメージ受けた様子見れたらな、と思ったのだ。

 

「まあ、そうだよなぁ。」

 

「少しは腕を上げたようで何よりだ。正直想像以上だぞ。今の1発が”本気ではない”のだからな。」

 

「……そりゃどうも。」

 

 ‌そう言った後、レーヴァテインは”剣を鞘から抜いて構えた”。最初出会った時は、剣は最後の”禁忌ノ焔”を見せる時以外は鞘に納めたまま、焔斗をボコボコにした。抜く必要がなかったからだ。つまり今回は、剣を抜いて戦うほどの相手と認められたわけである。まだ戦いは始まったばかりだが、焔斗はそれが少し嬉しく思えた。

 

「影の刃にてちぎり飛べ。『影剣・黒影刃』!」(えいけん・こくえいじん)

 

 ‌前回戦った時に使われた『影纏・影乱』とはまた別の技だ。すれ違いざまに斬り刻むのではなく、無数の影の斬撃を飛ばしてきた。それを、なんとか躱したり弾いたりして凌ぐ。だが、その間待っていてくれるはずもない。背後に殺気を感じ、気配を頼りに左腕の盾を後ろに回す。ギィンッというぶつかる音と共に、衝撃が焔斗を、襲った。

 

「ほう、これを止めるか。」

 

「ぐっ!?」

 

 ‌剣は防ぐことが出来ても、衝撃までは相殺しきれなかった。盾ごと押されて飛ばされてしまう。そして、目の前にレーヴァテインはいるはずなのに、足元から殺気を感じた。

 

「影の追撃。『影追乱舞』。」(えいついらんぶ)

 

「っ!?」

 

 ‌足元、焔斗の影から影の斬撃が襲いかかる。なんとか反応し、斬撃から逃れるように立ち回るが、全て受けきれなかった。ところどころに斬撃が掠り、傷をつけていく。

 

(分かってはいたけど、”禁忌ノ焔”なしでこの強さかよ!)

 

 ‌レーヴァテインはまだ”禁忌ノ焔”を1度も使っていない。何かしらオーラを纏ってはいるが、あれは今している影の纏装術だろう。焔斗はずっと気になっていることがあった。これまでずっと、魔王以外は1属性しか使用していなかった。しかし、現に今目の前で魔王は影の魔力を使っている。”禁忌ノ焔”という属性があるにも関わらず、だ。つまり、この世界では適性魔力はあれど、1人1属性しか使えない縛りなんてないのでは無いか、と考えたのだ。

 

「……試してみるか。」

 

 ‌影の斬撃をなんとか耐え切り、レーヴァテインの方を見て手をかざす。

 

「……まだ倒れないか、そして、戦意も消えていない。ほんとに強くなったな、お前。」

 

「そりゃどうも。……これならどうだ?」

 

 ‌1番脳に焼き付いていてイメージしやすい式句を口にした。

 

「システムコール。ジェネレート・クライオゼニック・エレメント!」

 

 ‌SAOアリシゼーション編での、神聖術だ。

 

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 ‌その頃、魔界では紫紅の体力も回復し、『紅雷纏装』のコントロールにも慣れてきた頃だった。魔王城のメンツとも以前より打ち解け、ここが家のような雰囲気をだしていた。

 

「あ、いけません。果物が足りないですね。ここで育てているものももう少し熟したいですし……。」

 

 ‌トモが冷蔵庫(のようなもの)の中を覗きながら、困ったようにそう呟く。

 

「え、そうなの?じゃあ、野生で成ってるの採って来た方がいいかしら?」

 

 ‌その声を聞いたトモは、すぐに頷いた。

 

「ええ、もし良ければお願いします。この荒れた地では探すのは苦労するかもしれませんが……。」

 

「気にしないで。行ってくるわね。ある程度集めるか、しばらく探して見つからなかったら戻ってくるわ。」

 

「お気をつけて。遠くに行き過ぎないでくださいね。大丈夫だとは思いますが。」

 

「ええ。分かってるわ。」

 

 ‌そう言って紫紅は魔界の地を走り出す。『紫雷纏装』で雷のごとく早く移動できるため、探索面でもすごく便利なのである。移動速度で言えば、空間転移には明らかに負けるが、こういう探し物をする際には目で見られないと意味が無い。

 

(何度見ても、荒廃しきってるわね、魔界って。)

 

 ‌走りながら改めてそう思う。幾らか町や村があり、亜人等が暮らしているとは言えど、どこも食料はギリギリか、もはや足りていなくて餓死してしまう者もいるほどだ。SAOアリシゼーションでのダークテリトリーの風景を思い出す。

 

「っと?」

 

 ‌視界の端に、果物の成る木がある小さな森ちらっと見えたため急停止する。先程述べた町や村の近くは、その住民が採り尽くしていたり、これから採る予定のものが多い。そもそもそんな所から奪えば、その人たちが飢えてしまうかもしれないので、狙うのは辺りに何も無い所にある果物だ。しかし、何も無いという所はむしろ魔物も多いということになる。狩る者がいないので繁殖しているのだ。

 

「よっ、ほいっと。ごめんなさいね、少し貰っていくわよ。」

 

 ‌襲いかかってくる魔物を、片手棍で爆散させながら熟した果物のある木を探す。

 

「お、この辺のが良さそうね。」

 

 ‌ちょうどいいくらいに熟した果物を採取する。この魔界の果物は種類がほとんどない。だが、トモの手にかかれば色んな料理になって食べる人を飽きさせない。ちなみに、最初に紫紅が飲ませてもらったフルーツウォーターのようなものにもこの果物の果汁が入っていたらしい。

 

「あれ、また飲みたいなあ。」

 

 ‌あの時は、極度の空腹状態だったというのもあるとは思うが、口の中に広がるあのフルーティな味。疲れを癒すようにしみ渡る程よい甘さが忘れられない。今度またお願いしてみようかと楽しみに思いながら採取を続ける。

 

「よし、このくらいでいいかな。」

 

 ‌あまり取りすぎても次のものがなくなってしまう。この場所を覚えておいて、また足りなくなった時見に来てもいいだろう。木を1本引っこ抜いて、持ち帰って植えることも考えたが、どう考えても怒られる未来が見えたのでやめておいた。

 

「きゃあああ!」

 

「え!?」

 

 ‌採取が終わり、木から降りると女性の悲鳴が聞こえた。さすがに放って置けないので、声のした方に全力で走る。すると、

 

「ひ……だ、だれか……」

 

「グルルルル……」

 

 ‌狼型の魔物に囲まれた、典型的な魔女の格好をした女性が目に映る。帽子は転んだ際に落としたのか、もしくは魔物に飛ばされたのか、少し離れたところに落ちている。誰かは分からないが、助けない理由は、ない。

 

「もう、大丈夫ですよ。我が雷よ、魔の者を撃ち滅ぼせ!『滅魔雷槌』!!」(めつまらいつい)

 

 ‌紫紅は女性のところに駆け込み、周囲の魔物全てに対して、雷のメイス複数出現させてを打ち込む。以前トモとの練習で使っていた『無限紫雷棍』の応用だ。あれは魔力尽きるまで、無限に相手に雷で形成された片手棍を打ち込んでいたが、これは広範囲複数の敵に対して、確実に1撃を入れるようにしている。ちなみに、今回は生き残った魔物は居なかったが、もし生き残っていれば続けて2発、3発と撃ち込まれるようになる。一瞬の火力は劣るが、片手棍使いが苦手とする対多数での戦闘向きの技だ。

 

「あ、ありがとうございます……。」

 

「どういたしまして。怪我、してますよね?軽い傷なら、あたしでも治せます。」

 

 ‌魔物の攻撃が掠ったのであろう傷と、転んだ時にできた擦り傷もあったのでそう提案し、了承したのを見て治療をする。

 

「これでよしっ、と。立てます?」

 

「は、はい……。大丈夫です。」

 

 ‌どうやら、歩いたりするのに支障があるほどのダメージは受けていなかったようだ。外傷はなくても、何か特殊な攻撃を受けていたら何らかの障害が出ることもある。今回はそんなこともなかったようで安心する。

 

「えっと、どこから来たんですか?」

 

「あ、ここから遠くの小さな町から、修行のために出てきてて……。」

 

 ‌この近くには町等は無かったはず。そう思い問いかけてみたが、どうやら旅人だったようだ。

 

「んー、もし良ければ、1度あたしの居る所に来ますか?まあ、あたしも居候みたいなものなんですけどね。」

 

 ‌苦笑しながらそう提案してみる。この近辺に町等はない。それならいっその事、一緒に城に戻るというのもありだと思ったのだ。

 

「!いいんですか?そこまでお世話になっちゃうのは、ちょっと申し訳ないのですが……。」

 

 ‌修行のために旅に出たと彼女は言っていた。それもあって他人に頼りすぎるのに抵抗があるのだろう。だが、先程の魔物にやられそうになるようであれば、ここで別れたところですぐに危険が襲うだろう。むしろ、遠くからここまで来れたことが奇跡だと思えた。

 

「気にしないで大丈夫ですよ~。命あっての修行です、死んじゃったら意味がありません。自分のペースでいいんですよ、こういうのは。」

 

 ‌そう言って説得する。紫紅自身、トモとの修行で自分のペースが大事ということは、痛いほど理解していた。

 

「じ、じゃあお言葉に甘えて……。で、でもっ、道中の魔物との戦闘は基本的に任せてください!もし、ほんとにダメそうだったら、助けてください……。面倒と思うかもしれませんが、私も強くなりたいのです。」

 

「うん!そういうことなら任せてください!……というか、もっと砕けて話しませんか?こう畏まったの苦手で……。」

 

 ‌相手の提案に頷き、もっとフランクに話すように促してみる。これから帰るまで一緒に行動するなら、ずっとこの口調だと空気が固すぎる。相手へのストレスにもなりかねない、かもしれないと思った。

 

「あ、わかりまし……わかったわ。そうし……そうするね。」

 

「ん!ありがと!あたしは紫紅、よろしくね!」

 

「私はしゃろん。こちらこそよろしくねっ。」

 

 ‌こうして2人は、魔王城への帰路を進むのであった。

 

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 ‌場所は戻り現界。こっちの世界では、イメージが魔法となる。つまり、詠唱はその魔法をより強くイメージできる言葉で良いのが幸いし、焔斗は神聖術を連発していた。

 

(ちっ、こいつ、”真理ノ焔”だけじゃないのか!?にしても、属性がありすぎる!どうなってやがる……。)

 

 ‌レーヴァテインは、襲いかかる神聖術(この世界では魔法)を難なく対処しながらも、驚きを隠せないでいた。

 

「バーストエレメント!」

 

 ‌焔斗は風素を利用して一気に加速し、レーヴァテインに迫り連撃をお見舞する。

 

「焔よ舞え!『焔槌乱撃』!」(えんついらんげき)

 

「ぐっ……!?」

 

 ‌急な接近、そして今まで見せたことのなかった技に、レーヴァテインは対処しきれず、何発かモロにくらってしまう。

 

「がはっ!」

 

「ここだ!『終末ノ焔撃砲』!!!!」

 

 ‌少し怯んだところを見逃さず、すかさず『焔ノ鼓舞』を自分にかけ、現段階最大火力の技をゼロ距離で放つ。森が燃えて大火事にならないよう、角度は上の方に向けて木に当たらないようにしている。普通の魔法位の威力ならすぐに消せるが、これは焼け野原にしてしまうからだ。

 

「俺相手に……よくここまで……」

 

「ッ!やっぱダメか!」

 

 ‌煙だっているため、前の視界は見えていなかったが、レーヴァテインの声がした瞬間、一気に距離を取る。彼は無傷……という訳でもなかった。”禁忌ノ焔”をやっと解放し防いだようだが、直撃だったために、所々に傷が見受けられる。

 

「褒めてやろう、俺を本気にさせるとはな。」

 

「……そうこなくっちゃ。」

 

 ‌ここからが勝負どころだ。正直今までのも、ここまで出来るとは思っていなかったが、相手が”禁忌ノ焔”を解放した時点で、焔斗の”真理ノ焔”との戦いになるわけだ。今の焔斗にどこまで”禁忌ノ焔”に対抗できるか。

 

「禁忌の力に飲まれて燃え尽きろ!『禁忌ノ焔剣・紫爆焔刃』」(きんきのえんけん・しばくえんじん)

 

 ‌最初に見せてもらった一閃とはまた別の技。”禁忌ノ焔”を纏った無数の刃が、焔斗に襲いかかる。

 

「くっ、でもこの程度なら……!」

 

 ‌”禁忌ノ焔”は強力だが、”真理ノ焔”はそれに対する対抗魔力みたいなもの。いくら強いとはいえ、影の刃を対処した時と同じ程度の難易度だった。もっとも、対抗魔力使ってもそこまでしか簡単にならないと考えると怖いが。

 ‌レーヴァテインの攻撃を凌ぎ、体勢を立て直す。そして、”禁忌ノ焔”を封じるように、改めて考えた技を放つ。

 

「禁忌の力よ、我が真理の力にて沈黙せよ!『真焔縛陣』!」(しんえんばくじん)

 

 ‌レーヴァテインの足下に魔法陣が浮かび上がり、その端々から”真理ノ焔”を纏った縄が伸びる。それは彼の手足を縛り、”禁忌ノ焔”を徐々に抑え込んで行った。

 

「くぅ……!」

 

 ‌抑え込んではいるが、まだ完全ではない。と、いうのも、あと少しのところで抑えきれないのだ。まるで、腕相撲であと少しで勝てそうなのに押し切れない、そんな感じだ。無論、相手は余裕の表情である。

 

「はぁっ!」

 

「っ!?」

 

 ‌レーヴァテインが一際強く”禁忌ノ焔”を解放したことにより、せっかく縛っていた”真理ノ焔”が吹き飛ばされてしまう。やはり今の技量では、封じることは不可能なようだ。

 

「なら叩くまでだっ!」

 

 ‌封じられないなら倒すしかない。そう考えて、一気に攻め込む戦闘スタイルに変える。紅い焔と紫の焔が何度もぶつかり合い、激しい戦闘を繰り広げる。

 

「やっぱ強え……!」

 

「お前の方こそ、この短期間でよくここまで伸びたものだ。」

 

 ‌最初は互角のように見えたが、やがて徐々に焔斗が押され始める。魔力が減ってきたのだ、いくら効率よく使うように修行したとはいえ、まだ完璧じゃない。それに、そもそもの魔力量が違うのだ。無理もないことだろう。

 

「こうなったら……!」

 

「む?」

 

 ‌焔斗は一旦、レーヴァテインから距離を置く。そして、魔力を最大限まで高める。長期戦になってじわじわと負けるくらいなら、ここで全ての力を出し切ってしまおうと思ったのだ。これで倒せるとも思えないが、地味に負けるよりはマシだ。

 

「我が焔の渦に呑まれろ!『激流爆焔撃』!」(げきりゅうばくえんげき)

 

 ‌思い切り地面を蹴り、正真正銘最後の一撃をレーヴァテインに撃ち込む。彼の纏う焔を撃ち抜いて、焔斗の攻撃が届いた。

 ‌隕石でも落ちたかのような大きな音が響き渡る。煙が立ち込めて、周囲は見えない。

 

「へへっ、さすがに効いたみたいだ、な……。」

 

「ふん、や、やるじゃねぇか……。」

 

 ‌焔斗の攻撃が”禁忌ノ焔”を貫いた際、咄嗟に体を庇った左腕から血を流しながら、レーヴァテインは笑う。確かにダメージは与えたが、決定打では無い。しかしそれは、確実に成長した証となった。

 

「まだ、だ、まだ戦……え……。」

 

 ‌ドサッ、と焔斗は地面に倒れる。魔力切れもあるし、そもそも体力が切れたのだ。傷も負いながらだったため、見た目以上にダメージが蓄積されていた。

 

「……ったく、この短期間で、こんな強くなるなんてな……。どんだけ妹好きなんだよ、このシスコンやろー。……合格だよ。」

 

 ‌自身の傷を癒し、その辺の木で即席のベッド(もちろん、毛布は無い)と椅子を作り、そのベッドに焔斗を横たわらせる。自分は椅子に座って、焔斗の治療を開始する。治療が終わって、目を覚ましたらすぐに魔界に向かう予定だ。戦闘が終わり、静かになった森にいる彼らを、爽やかな自然の風が包み込む。

 

 




今回はここまで!
いかがでしたか?

登場したif民モチーフのキャラは、

Revatainnさん(レーヴァテイン)

トモさん(トモ)

しゃろんさん(しゃろん?)

でした!
ありがとうございました!

次回
転移編最終話

『お兄ちゃん』

お楽しみに!


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転移編最終話『お兄ちゃん』

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現界にて、見事レーヴァテインに認められた焔斗。
傷を癒した後、魔界に向かう予定であったが、すでに最愛の妹、紫紅には魔の手が迫っていた……
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‌ ‌しゃろんを助けて、共に魔王城に戻ろうとしている道中のこと。

 

「あ、そうだ、紫紅さん……ちゃん?」

 

「紫紅でいいわよ、どしたの?」

 

 ‌砕いて話す、とは言ったものの、上手く砕け切れてないしゃろんに苦笑しつつ問いかける。

 

「えっと。これ、さっき助けてくれたのと今連れて行って貰ってるお礼……なんだけど、こんなつまらないもので良ければ。」

 

 ‌そう言って彼女が取り出したのは、マフィンのようなお菓子だった。

 

「マ、マフィン!?」

 

 ‌トモが出すものも、もちろんデザート等もあるが、こういったマフィン等の洋菓子系は出ていない。基本的にフルーツをどうこうしたものであった。それも、もちろん好きなので文句などは無かったのだが。

 

「マフィン……?このポムポムのことを言ってるの?似たお菓子がそちらにも……?」

 

 ‌どうやらこの世界でのマフィンはポムポムと言うらしい。何とも可愛らしいネーミングだ。

 

「え、ええ。あなたのとこだとボムポムって言うのね、覚えておくわ。ところで、ほんとに貰ってもいいの?」

 

 ‌この魔界でお菓子を作る、それは決して、言葉ほど簡単なものでは無いはずだ。紫紅自身、トモにこの系統のお菓子のこと、分かるものは作り方を伝えたのだ。しかし、材料集めが極めて難しく、諦めざるを得なかった。そんなものなのだ、ここじゃどれだけ高級になるかわからない。

 

「うん!もちろん!命の恩人だし、これくらいどうって事ないよ!」

 

 ‌そこまで言われたら断ることなど出来ない。遠慮なく頂くことにした。

 

「じゃあ、頂くわね。ありがとう!」

 

 ‌そう言ってマフィン改めポムポムを1口食べる。フルーツは入っていない、ほわほわとした生地、知っているマフィンよりふわふわしたイメージだ。そして口の中に広がる、程よい甘み。フルーツの甘みとはまた違う甘み。ここしばらくの疲れもあり、その甘さが体全体に染み渡るような感覚になる。1口ずつゆっくりと食べていたつもりだったが、気づいた時にはもう無くなっていた。渇いた喉を持ってきていた水で潤す。

 

「ご馳走様!すっっっごく美味しかったわ!」

 

 ‌満面の笑みで、礼を伝える。元の世界で味わったマフィンとは少し違いはあったが、ポムポムの味に懐かしさを覚えて、少し気持ちがほっこりしたのだ。

 

「喜んで貰えたようで何よりだわ。私の特製だったから自信はあったけど。」

 

 ‌ふふ、と笑いながらそう告げるしゃろんに紫紅は驚いた。先程のポムポムは、この魔女の自作だった。何となくドジっ子な気がしてたので(出会った時転んでたせい)、お菓子作りができるとは意外だったのだ。

 

「これ、自分で研究して作ったの?」

 

 ‌気になってそう訊ねると、しゃろんは首を横に振りながら否定した。

 

「まさか!これを教えてくれたのは母さんだよ!小さい時からたまに作ってくれてて、ある時教えて欲しいってお願いしたら教えてくれたの!」

 

 ‌どうやら、しゃろんの母直伝だったらしい。たまに、と言っている所からやはりそうそう手に入る材料では無いようだ。

 

「よし!じゃあそろそろ休憩終わり!行こっか!」

 

「うん!」

 

 ‌そう言って立ち上がり、紫紅としゃろんは再び歩き始めたのであった。

 

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 ‌その頃魔王城では、トモが夕飯の用意をしていた。

 

「さて、紫紅さんはそろそろ戻ってくる頃でしょうか?どれ……。」

 

 ‌トモは、対象に自身の魔力を少し分けることで、その者の居場所をある程度特定できるようにしている。無論、普通の魔力探知でも可能ではあるが、こちらの方がより正確なのだ。ちなみに、これをする際、対象の人物には包み隠さず説明をして了承を貰うようにしている。

 

「ん……?おかしいですね。」

 

 ‌おそらく、果実を見つけて採取し、帰路についてるはずなのだが、何やら速度がおかしい。いつもの彼女なら、こんな遅いわけが無い。むしろ、歩いているような感じがした。

 

(何かあったのでしょうか……?)

 

 ‌疑問に思いながらも、普通の魔力探知に切り替える。紫紅の他に、誰かいるのかもしれないと推測したからだ。魔力を分けていない者の気配は、魔力探知でなければ補足できない。切り替えなければならないのが、この探知術の難点だ。

 

「魔力がひとつ、一緒に居ますね。誰でしょう?どこかで感じたことがあるような魔力ですが……。」

 

 ‌そしてもうひとつ、不思議なことが起こった。紫紅達の魔力が、魔王城に向かっていたのにも関わらず、突然、九十度曲がって別の方向へ行き始めたのだ。紫紅は、別に方向音痴という訳でもなく、これまで何度も1人で外に出向いては帰って来れていた。それが、見当違いの方向へ走っているのだ。そして、

 

「……消えた!?」

 

 ‌魔力探知から2人の魔力反応が消滅した。急いで元の紫紅限定の探知に切り替える。こちらは消えてることはなく、しっかりと補足することが出来た。その事に安堵しながらも、一度連絡を取ろうと魔力通信をかける。しかし、

 

「っ!?弾かれた?」

 

 ‌なにかに妨害されたのか、繋ぐことが出来ない。相手が対応せず繋がらないこともあるが、今回のはそんな感じではなかった。それに、

 

(こんなことが出来るのはおそらく……だとすると、まずいですね。)

 

 ‌魔力通信は、そこまで広まってる技でもなく、コントロールが難しいため、使える人はそうそういない。受ける側は使える必要は無いのだが、それでもその通信を妨害できるほどの技量を持った人物。そうなると、大体は特定出来る。

 

「速くなった!?これは急がないと……!」

 

 ‌魔王城とは違う方向に、紫紅が全速力を出したのだろう。ものすごいスピードで移動していく。トモは急いで魔王城を出て、自分の全速力で追いかける。

 

(間違いであることを祈りますが、もし勘違いでなければ、おそらく紫紅さんが危ない……!)

 

 ‌空間跳躍のできるサトシに移動をお願いする手も考えたが、あの技は彼自身が魔力を感じることが出来なければ意味が無い。そのため、自分の足で追うしか無かった。

 

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 ‌その頃、紫紅達は。

 

「なんだ、結構速く走れるんだね!あたしの全速力についてこられるなんて!」

 

「魔物の時は情けないとこ見せたけど、私だってこのくらいできるよ!」

 

 ‌少し急いだ方がいいと思った紫紅は、しゃろんに対して走ること、もし追いつけないのであれば背負っていくことを伝えると、スピードには自信があると自慢気に答えられた。その様子に、試してやろうという気持ちになった紫紅は、雷も使った全速力で移動を始めたのだが、なんとしゃろんはぴったりと後について来ていた。

 

「これなら早く着けそうね!ちょっと遅れ気味だったから不安だったのよ!……それにしても、そんな速度出せるならさっきの魔物に囲まれていたのも脱出できたんじゃ……?」

 

 ‌そう問いかけると、しゃろんは少し恥ずかしそうに答えた。

 

「い、いや、確かに脱出できたと思うけれど、ビビっちゃって動けなくって……。」

 

 ‌おそらく、このしゃろんという子は、力と技量はあるが、精神的な力が足りないのかもしれない。どれだけすごい力と技を持っていても、気持ちが動揺して使えないのなら意味が無い。

 ‌そんなこんなしているうちに、感覚的に魔王城がもうすぐというところまで来た。ここまで来て、紫紅は異変に気づく。

 

「あれ?……ここ、どこよ?」

 

 ‌紫紅としては、真っ直ぐ魔王城に帰っているつもりだった。これまで道を間違えたことなどなく、自信を持って走っていたのだが、目の前にあるのは魔王城ではなく……

 

「館……?こんなとこ来たことないわ……。」

 

「道、間違えたの?」

 

 ‌しゃろんが不安そうに聞いてきたので、笑いながら返す。

 

「あはは、そうみたい。これまで間違えたことなんてなかったんだけど、何故かしら?疲れてたのかな?とりあえず師匠に……あれ?」

 

 ‌紫紅は、トモに教えてもらった魔力通信を試そうとしたが、そもそもトモの魔力を捉えられない。それどころか、他の人たちの魔力も、いつも感じているのに感じられない。あの館が影響しているのだろうか。

 

「とりあえず、道も分からないならこの館に誰か居ないか見に行こう?もし居たら道が聞けるかも!」

 

 ‌そう言って、不安ながらも笑顔で提案するしゃろんに元気づけられながら、「そうね。」と頷き、館に入ることにした。

 

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 ‌その一時間程後、トモもようやく館の前に到着した。実は、紫紅は雷ということもあり、トモより速度が速い。そのため追いつけなかったのだ。そして、その館はトモですら見たことの無い建物だった。

 

「……こんな所にありましたっけ、こんな立派な館。いや、それより今は。」

 

 ‌トモは急いでサトシに魔力通信をして、この場所に来てもらうことにした。通信切断後、程なくして空間が裂け、サトシが現れる。

 

「っと、こんなに急いでどうしたんですか?トモさん。っていうか、ここ、どこです?」

 

「サトシ様、来てくれてありがとうございます。すみませんが、説明している時間はありません。サトシ様はここで、城への空間跳躍をすぐに出来るよう待機しておいて欲しいのです。」

 

 ‌もし、紫紅が危険な目にあっていた場合。まだ元気なら二人で走って逃げることも可能だとは思うが、気絶などさせられていた場合、逃げるのが難しくなってしまう。逃げなくとも、守りながらというのは大変戦い難い。そのため、館からでたら直ぐに転移できるよう、待機しておいてもらうのだ。

 

「よく、分からないけど、急いでるってことと、大変なことになってるのは分かりました。何があったかは後で聞かせてください。」

 

「ええ、もちろんです。ありがとうございます、頼みましたよ!」

 

 ‌そう言ってトモは館の方に全速力で向かった。扉から入り、気配を探る。

 

(紫紅さんは……右ですね。)

 

 ‌入ってすぐ右側の通路を進む。紫紅と、もうひとつの魔力の気配はこちらからしている。

 

(それにしても、何なんですか、この嫌な魔力は……。)

 

 ‌紫紅達の魔力。その他に、術式の魔力だろうか?生物の発する魔力では無い、とても嫌な感じのする魔力だった。

 

「この部屋、ですね。」

 

 ‌その部屋にたどり着き、警戒しながらゆっくりと開ける。鍵がかかっているかと思ったが、そんなことも無く、扉はあっさりと開いてくれた。

 

「っ……!やはり、あなたでしたか、大魔女しゃろん様……。」

 

 ‌その部屋には、魔女であるしゃろんと、四肢を鎖で縛られ、魔法陣の上に吊るされた、眠っている紫紅がいた。

 

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 ‌トモが来るまでの、一時間の出来事。紫紅達は誰かいないか探すために、館に入った。幸いなのか、鍵はかかっておらず、玄関から入ることが出来た。

 

「すみませーん!どなたかいらっしゃいませんか〜?」

 

 ‌紫紅が、声を上げてそう問いかけてみるが、全く反応がない。聞こえてない訳じゃないのなら、ここには誰もいないということになる。

 

「誰もいないみたい……ね。私は右側のの通路の方見てくるね。」

 

「じゃあ、あたしは左の方を、何かあったら思いっきり叫ぶのよ?」

 

 ‌そう言って、ひとまず二手に別れることにした。紫紅の方は色んな部屋があったが、特に目立つようなものもなかった。本が何冊もあるので、どれか読みたいという衝動はあったが、今はそのときではないとぐっと堪えた。

 

「誰も住んでいない……訳ではなさそうね。」

 

 ‌人の気配こそ無いが、館内は綺麗に清掃されており、どの部屋も目立って埃が溜まっている様子もなかった。つまり、この館は実際誰かが生活している、というわけだ。もしかしたら、家を放棄してすぐなのかもしれないが、それは今は考えないでおく。

 

「っと、ここまでかな。」

 

 ‌ざっと調べて行ったが、行き止まりになった。これといって何もなかった上、もちろん人っ子一人居なかった。

 ‌しゃろんが調べに行った方に、紫紅も向かう。すると何やら料理の香りが漂ってきた。誰かと会ったのかもしれない、と急ぎ足で向かう。

 

「しゃろん?誰かいた……の……え?」

 

「あ、いや、こっちには誰もいなかったから、キッチン借りて、ご飯作ってたの〜。」

 

「あなた、やっぱりすごいわね、色々。」

 

 ‌誰もいないからと、勝手にキッチンを借りて料理をするなんて普通に考えたらできない事だ。いや、この世界ではその辺のマナーが少し違うのかもしれないが。

 

「いや、でも、帰ったらししょ……トモさんの夕飯があるし、今ここで食べるのは、まずいと思うわ……。」

 

「確かにそうかもしれないけど、気づいてる?紫紅ちゃん。ここ、外の魔力が全く感じられない。」

 

「なっ!?……ほんとだ。」

 

 ‌道を覚えているつもりだったため、魔力探知は一切行わずにここまで来た。そのせいでここに来てしまったのかもしれないが、改めて探知してみると、いつも魔力が多くて分かりやすい魔王城のメンツの魔力すら感じられない。

 

「どういうことよ、なにかの妨害?そもそも、ここまで来たことすら誰かの策略なのかしら……?」

 

「それは、分からない。けど、こうなった以上、そう簡単には出られない気がするの。だからご飯を食べて、体力を回復させておかないとと思って。あ、毒とかなにか仕掛けがあるかは調べといたから、そこは大丈夫!安心して食べてね。」

 

「ええ、ありがとう。そうね、食べましょうか!」

 

 ‌ここは気持ちを切り替えて、とりあえず食事をすることにした。メニューはポトフのようなものに、パンだ。ポトフはどうやって作ったのか分からないが、おそらくここの食材を借りたのだろう。パンはおそらく、しゃろん自身が持ってきて来たものだろう。この世界は魔法があるため、多少のものは旅に持ち出しても魔法によって保存が効く。

 ‌じっくりと煮込まれたポトフのようなものを一口食べる。あっさりとした味付けで、口の中に温かさが広がり、緊張を解す。不可解なことが多すぎて気疲れもしていたが、少しその疲れを和らげることが出来た。

 ‌そのまま黙々と食べ続ける。ふと、紫紅はしゃろんが料理に全く口をつけていないことに気づく。

 

「あれ?……しゃろんはたびぇにゃいの……?はれ?……なんか、ねむ……」

 

「紫紅ちゃん、お疲れでしたもんね。ここは私に任せて、ゆっくりおやすみ下さい……♪」

 

 ‌喋っているうちに、急激な眠気が紫紅を襲い、そのまま眠りに落ちてしまう。しゃろんは、その紫紅を魔法で浮かせて別の部屋に運ぶ。

 

「あはは!もしかしたら気づかれるかも、って思ってたけど、警戒心無さすぎて助かったわ。元の世界とやらは余程甘い世界だったのね?私……いや、あたしのあんな演技に騙されるなんて!」

 

 ‌ここは、しゃろんの魔界での家、つまり別荘みたいなものだ。いや、元々魔界の民なので、こちらが実家と言った方が正しいのだろうか。

 

「ちょっと、いや、かなーり苦しいと思うけど、長い夢を見てもらうね?紫紅ちゃん?あはは!」

 

 ‌そう言いながら、部屋に用意しておいた魔法陣の上に、四肢を魔法の鎖で縛って吊り上げる。それが完了すると同時に、魔法陣が怪しく光り輝き始める。

 

「なるべく早く崩壊してね?めんどくさいから。『絶望ノ夢路』」(ぜつぼうのゆめじ)

 

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 ‌自慢気に話すしゃろんの説明を聞いて、トモは大体の流れを理解した。しかし、

 

「……どうやってここまで誘導を?」

 

「あはは!そんなの簡単じゃん!最初に渡したポムポムにちょこっと細工しておいたのよ!この子、魔力探知も使わず、自分の記憶で帰ろうとするから、騙すのも簡単だったわよ?ふふ。」

 

 ‌余裕の表情。もう終わったことで、種明かししても問題ないため、しゃろんは隠す素振りもなく全て説明する。

 

「……なるほど、わかりました。それにしても、あなたらしくないやり方ですね?戦闘狂と恐れられたあなたが、こんな回りくどい倒し方をするなど。いやそもそも、放浪しているとはいえ、魔王シハク様に仕える者でしょう?紫紅さんも、今は我々の管理下にあるようなもの。こんな勝手なことが、許されると思っているのですか?」

 

 ‌実は、しゃろんも魔王シハクの配下の一人だったのだ。その戦闘力は、春輝やトモにも引けを取らない強さで、配下でいる以上こんな勝手なことは許されない。

 

「ああ、その事なんだけど。安心して?シハク様には、許可もらってるから。あはは!」

 

「なっ!?」

 

 ‌驚くトモを見ながら、しゃろんは楽しそうに言葉を続ける。

 

「あたしも、無断でやるほど不良じゃないわよ?だからね、シハク様に聞いたの。あの娘、あたしの好きなようにしてみてもいい?って。そしたらね?もし、それで屈してしまうなら、彼女はその程度だったということ。この世界では実力がないと生きていけない、だからそこで終わるならそれも運命だ。だから好きにしろ、ってね!」

 

「そんなことが……。い、いや、それだとしてもやはりあなたにしては回りくどい!あなたの性格上、こういう時は直接戦うのかと思いますが?」

 

 ‌許可云々については、よく分かった。そうなっているなら仕方の無いことだ。だが、眠らせたりするなど彼女らしくなかった。何が狙いなのか探ろうとする。

 

「あのね?あたし、現界でこの子のお兄ちゃんに会ったの。少しばかり修行もしてあげたわ。伸びがありそうだったから殺さずに、強くなってからまた楽しもうと思ってね?」

 

 ‌焔斗と戦った時、しゃろんは全力の半分も出していなかった。まだまだ伸びしろのある焔斗を、ここで殺すのはもったいないと思ったからだ。

 

「でもね?そのまま直接戦うより、さ。操られた妹ちゃんに殺すって言われて、それに戸惑いながらも戦うしかなくって。二人とも本心では戦いたくないはずなのに、殺しあってる。そんな、最高のシチュエーションが見たくなったの!だから、少し面倒だけど慣れない芝居もしたのよ?あはは!」

 

 ‌狂気の笑みで笑いながら、しゃろんの狙いが明かされる。今の言葉を聞く限り、紫紅を洗脳しようとしているらしい。

 

「……洗脳、ですか。それで、夢と言っていましたが、紫紅さんにどんな夢を見せているのです?」

 

「ん?えっとねぇ、心に洗脳する隙を作るために、不安定にさせたいの。だから、お兄ちゃんが自分を守って死ぬ、って夢を何度も何度も、死ぬまでの流れを変えながら見せてるよ?お兄ちゃんが目の前で死んで、目が覚める。夢か、と安心していたら、結局そこでもお兄ちゃんは死ぬ。それでまた目が覚める。お兄ちゃんが死ぬ。その繰り返し!」

 

 ‌単純ではあるが、最大級に辛い夢だ。紫紅はこの世界に来て、兄である焔斗と出会えずにいる。それに、おそらく前の世界でも兄が一番好きだったのだろう。稀に、兄のことを語る彼女の横顔からは、なんとも言えない寂しさが感じられていた。

 

「もういいです、よく分かりました。全力で阻止させていただきます。」

 

 ‌トモが短剣を抜いて構える。ここまで信じられないと思って聞いていたが、どうやらこれが事実らしい。人の気持ちを踏みにじるような行為は許せない。それに、今現在も弟子が傷つけられていることに、激しい怒りを覚えた。

 

「あはっ!あたしと殺るの?いいよ!それも計算済、あなたと戦うのも楽しそうだからね!」

 

 ‌ここまでトモが追いかけてきて、戦闘になるのもしゃろんの計算の内。そのためにあえて、紫紅に付けられていたトモの魔力の感知は出来るように調整したのだ。戦闘狂であることは変わらないのである。

 

「『竜撃乱舞』。」

 

「そんな技は通用しないよ!」

 

 ‌トモはしゃろんに急接近し、『竜撃乱舞』で目にも止まらぬ速度で斬りつけるが、彼女はそれを躱したり、杖で防いだりして凌ぐ。

 

「『黒炎爆撃』!」

 

 ‌今度はしゃろんが、接近したトモの腹部に向かって黒炎の魔力弾を放つが、それは彼によって軌道をそらされてしまう。そのまま、反撃をする。

 

「さすが、やるね!でも、そんな攻め方じゃ、あたしは倒せないよ!」

 

「そんなことは分かっていますよ。あなたを倒すことが、今の目的では無いですからね。」

 

 ‌この攻防の中、トモは少しずつしゃろんを魔法陣から遠ざけ、自分の背後に魔法陣が来るように誘導していた。

 

「くっ、そういうことか!でも、この攻防の中で紫紅ちゃんの方に行くのは無理でしょう?」

 

 ‌確かに、この激しい攻撃の続く中でしゃろんに背を向けることは自殺行為だ。そのため、トモ自身が紫紅のもとに行くことは出来ない。”トモ自身なら”。

 ‌しゃろんの攻撃を防ぎながら、トモは自分の片眼鏡を外し、紫紅の方へ投げ捨てる。しゃろんは不思議に思ったが、ここから大きく動けないのは彼女とで同じ。攻撃の手を緩めれば、反撃を受けてしまう。

 

「頼みましたよ!!」

 

「なっ!?」

 

 ‌投げ捨てられた片眼鏡が、紫紅のもとに近づいたと思った瞬間、空間が裂けた。空間転移術のゲートだ。

 

「『闇陰ノ斬撃』」

 

「やめ……!」

 

 ‌サトシは、館の外でトモと会話した際に、彼の片眼鏡に転移ポイントを設定しておいたのだ。これがあれば、その向こう側のことも大体は把握出来る上、魔力を感知していなくても転移が可能になる。トモが急いでいたため、説明をする暇はなかったが、彼なら気づいてくれると信じて設置したのだ。

 ‌空間転移で現れたサトシの斬撃が、紫紅を縛る鎖を斬りつける。しかし、

 

「え!?」

 

 ‌その斬撃は、鎖をすり抜けてしまう。もちろん、鎖には傷一つ付いてはいない。

 

「……なーんてね!あはは!その鎖はね、普通の攻撃じゃ斬れないよ。」

 

「そんなっ!」

 

 ‌せっかくの奇襲攻撃も、これで無意味となってしまう。魔法陣の近くには、数々の設置魔法トラップがあるため、サトシの斬撃が終わった後、それに襲われているのだ。そしてトモも、しゃろんへの攻撃を押し切れずにいる。

 

「さあどうするの?あたしを殺せば魔法は消えるけど、出来るかなあ?」

 

「やってみせますよ。」

 

 ‌サトシの方は、トラップ全てに対処できた様子で、ひとまず安心する。

 

(トモさんが苦戦している……。でもどうしよう、しゃろんって人を倒さないと助けられないなら加勢するべきだよね……。なら、悪魔の力で一気に……)

 

「やめてくださいサトシ様!ここでその力を使うのは危険です!」

 

「えっ!?」

 

 ‌悪魔の力を使って、トモに加勢しようとしたサトシだったが、発動する前にトモが気付き、止められてしまう。

 

「ど、どうして!?」

 

「悪魔の力は強大ですが、空間に大きな影響を与えます。技として使えるほどに。そんな力を今ここで使えば、精神攻撃のようなものを受けている紫紅さんに悪影響が出ます!逆効果です!加勢するなら、その力無しでしてください!もしくは、退路の確保をお願いします!」

 

 ‌紫紅との戦いの時のように、サトシの悪魔の力は空間に影響を及ぼす。相手の感覚をおかしくするレベルだ。そんなものを今使えば、紫紅の精神が不安定になりかねない。そんなことになれば、しゃろんの思うつぼである。

 

「わ、わかりました!それじゃあ、何時でも撤退できるよう、空間転移の用意をしておきます!」

 

 ‌今の状態の二人ならまだしも、この後おそらく本気を出しての戦いになる。そうなってしまえば、悪魔の力を使えないサトシではむしろ足でまといになってしまう。そう判断したため、退路の為の空間転移を用意しに行った。

 

「何?本気でやるの〜?あはは!」

 

「無論です。『竜鱗纏装』」(りゅうりんてんそう)

 

 ‌トモの皮膚が竜の鱗のように固くなり、防御力はもちろん、竜の身体能力もその身に宿す。

 

「久しぶりに見たよ、それ。楽しくなりそうだね!『黒炎深纏装』!」(こくえんしんてんそう)

 

 ‌焔斗と戦った時よりも、強力な纏装術。黒い炎が濃く彼女を包み込む。

 

「すぐに終わらせますよ……!『華竜旋光迅』!」(かりゅうせんこうじん)

 

 ‌華やかで、かつ激しい斬撃が、しゃろんを襲った。

 

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 ‌”どうして?まだ、続くの?また、繰り返すの?”

 

 ‌しゃろんによって見せられる夢のループ。そろそろこれが、自分の夢ではなく、なにかの干渉を受けて見せられているのかも、という推論に辿り着いてきた頃だ。しかし、この夢を終わらせる方法は紫紅には分からず、目が覚めては兄と幸せな時間を過ごし、毎回違うシチュエーションで、紫紅を守って死ぬ。酷い時には、紫紅自身のミスで殺してしまう、なんて夢もあった。例え、それが夢だと気づいていたとしても、こんな夢を永遠と見せ続けられて、平常心で居られるはずがない。

 ‌また、夢の中です目が覚める。今度はどんな方法で兄が殺されるのだろう。自分に助ける術はないのだろうか。考えはすれど、夢は決まった方向へと進んでゆく。自分の意思があるようで、自由はそこにはない。目の前の兄の死。死。死。死。見慣れたくも無い光景に嫌気がさす。

 

 ‌”お兄ちゃん……ごめんなさい……あたし、のせいで……”

 

 ‌例え、それが現実でなくとも、こんな思考に陥ってしまう。自分のせいで兄が死んでいる。自分がいなければ……と、徐々に心が壊れてゆく。

 

 ‌”いい?これは予知夢だ。いつか君たちは再会しても、こうなる運命なのだよ。”

 

 ‌不思議な声が聞こえる。この声は、しゃろんに似ていると思った。

 

 ‌”どうして?未来が決まっているとでも言うの?こんな、お兄ちゃんが死ぬ未来が。”

 

 ‌謎の声の主にそう問いかけると、クスクスと笑いながら返事が返ってくる。

 

 ‌”未来というのは確かに不確定。その理論は認めるわ。でもね、確たる条件が揃った中で、死ぬ可能性がほぼ百パーセント。そりゃ、絶対なんてものはないわ。でもね、今見せてるのが、色んな条件を元にシュミレーションされた夢。わかってると思うけど、未来がわかってたら助かる、なんてことは無いわよ?わかってた場合のシュミレーションも見せたはず。”

 

 ‌こんな話、普通は信じない。しかし、この時の紫紅は見た目以上に、心にダメージを負ってしまっていた。しっかりと考えることが出来ない。

 

 ‌”お兄ちゃんが、助かるには、どうしたら、いいの?”

 

 ‌だからこそ、信じてしまう。そして、相手の思う通りの答え、質問をする。

 

 ‌”あなたの手で殺すの。”

 

 ‌”え……?”

 

 ‌耳を疑った。今、声の主は紫紅に、兄を殺せ、と言ったのだ。助ける方法を聞いているのに。

 

 ‌”なん、で……”

 

 ‌”いい?この世界の魂の仕組みはね、殺された者は殺した者の元に一回近づくの。消える前、一瞬ね。そこで、魂を確保する魔法を使って、後に蘇生をするのよ。わざわざ殺す理由だけど、死なないように振舞ったって、意味が無いことはさっき説明したわね。で、わかったと思うんだけど、あなたのお兄ちゃんは命を狙われているの。だから、殺される前に、一度殺して、死んだことにすることによって、ターゲットを無くすの。ほとぼりが冷めたら蘇生、よ。あなた自身が狙われている訳ではなくて、お兄ちゃんを殺すために利用されてるだけだから、そこは気にしなくて大丈夫よ。”

 

 ‌全て嘘である。しゃろんが作り上げた嘘の夢に嘘の魔法。魂の話も、付け焼き刃で作った嘘である。

 

 ‌”それで、お兄ちゃんを助けられるなら……”

 

 ‌一瞬そう考えて、いや、これはさすがにおかしいと、思考を振り払おうとした瞬間。そんなことはさせないというように、兄を殺さないと、という感情がどんどんふくれあがる。

 

 ‌”なん、で……?い、いや、嫌!!!!”

 

 ‌嫌と思えば思うほど、振り払いたい思考が侵食してくる。自分が自分で無くなる、そんな気配をひしひしと感じる。かすかに、先程の声の主の笑い声が聞こえた気がした。

 

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「ああぁぁぁぁぁ!!」

 

「!?、紫紅さん!?」

 

「隙あり☆」

 

 ‌今まで、静かに眠っていた紫紅が悲鳴をあげる。それにトモが驚いてできた隙に、しゃろんが黒炎弾を打ち込む。

 

「ぐあっ!?」

 

「あ〜、やっと、心揺らいでくれたわね。意外と時間かかったわ。余程お兄ちゃんのこと好きなのね。あはは!」

 

 ‌そう言うしゃろんを見ながら、耳で紫紅の苦しそうな声を聞く。嫌だ、助けて、と繰り返している。

 

「くっ……!」

 

「残念だけど、時間切れみたい。また今度、殺り合いましょう?まったね〜!あはは!」

 

「っ、待て!」

 

 ‌トモの制止も聞かず、しゃろんの姿が消える。と、同時に紫紅の下にある魔法陣も消え、鎖から解き放たれた紫紅がドサリ、と倒れ込む。

 

「紫紅さん!」

 

「たす……け……、おに……ゃん。」

 

 ‌助けてお兄ちゃんと言っているのだろうか。その言葉に心を痛めながら、紫紅を抱きあげようとする。その次に紫紅が呟いた言葉に、トモは鳥肌が立った。

 

「おに……ちゃんを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ‌︎ ‌ ‌ ‌ ‌ ‌ ‌「 ‌殺 ‌さ ‌な ‌き ‌ゃ。 ‌」




今回はここまで!
いかがでしたか?
まずは、転移編終幕です!まだまだ物語は終わりませんが(笑)

今回登場したif民モチーフの方は、
しゃろんさん(しゃろん)

トモさん(トモ)

サトシさん(サトシ)
でした!
ありがとうございました!

次回
再会編第1話
『魔界への一歩』
お楽しみに!


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〜再会編〜
再会編第1話『魔界への一歩』


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色々とありはしたものの、何とかレーヴァテインに認められ、魔界に行けるようになった焔斗。しかし一方で、紫紅はしゃろんの魔の手に堕ちる。再会してからも一波乱ありそうな予感、一体どうなるだろうか……
再会編、開幕!
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「……いい加減起きろ。」

 

‌ ‌そう言いながら、レーヴァテインが焔斗の顔に冷水をぶっかける。……バケツ三倍くらいの量だ。

 

「!?っ、ごぼっ!げほっ、!?」

 

「やっと起きたか。」

 

「やっと起きたかじゃねーよ!?目が覚めた瞬間もう一回眠りにつくとこだったわ!」

 

 ‌あの戦いの後(今思い返すとずっと戦ってばかりだ)、レーヴァテインの治療を受け、傷は治ったもののずっと目を覚まさなかった焔斗。暫くは様子を見ていたが、我慢の限界になり、近くの川で水を魔法で収納してここで開放した、ということだ。

 

「……あ?……あー、そうか俺、」

 

「理解が追いついたか?」

 

「ああ、すまない。」

 

 ‌空は暗くなり、明るい月が見える。この世界の月はどうなっているのだろうか。この上に天界があるのだとしたら、この世界の太陽や月とは一体何なのだろうか。そんな疑問も浮かぶが、今はそれどころではない。

 

「……魔界には行ってもいいのか?」

 

「もちろんだ、お前は見事に認められた。案内してやる。」

 

「あー、そりゃどうも。ところで、そのお前ってのやめてくれねえか?焔斗って名前があるんだよ俺は。」

 

 ‌それを聞いて、少し驚いた様子を見せたレーヴァテイン。少し考える素振りを見せた後、口を開く。

 

「長いこと人と話すことなんてなかったから、相手の名前なんて気にしなくなっていた。すまない。じゃあ、そうだな……呼びにくいからえんてぃって呼ばせてもらうよ。」

 

「いやポ○モンかよ。……ま、まあいい。予想の斜め上行きまくった答えだったが。」

 

 ‌学校の友達が付けそうなあだ名を付けられて、少々驚いてしまったが、この際なんでもいいやと割り切ることにした。

 

「じゃあ、早速魔界に行かせてくれ。あんたから妹が危ないって聞いてから気が焦って仕方ないんだ。」

 

「……その割には、ぐっすり寝てたな。」

 

「言わないでくれ、これでも気にしてる。」

 

 ‌ここまでろくに休んでなかったとはいえ、妹がピンチと知りながらあそこまで熟睡してしまった。兄として結構気にしているのだが、疲れた状態で助けに行っても、失敗率が高くなるだけだと自分に言い聞かせた。

 

「まあ、いい。それなら直ぐに出発しよう。なに、ここからそんなに遠くない。おま……えんてぃなら、この辺の景色に見覚えがあるだろ?」

 

「ん?……ここは、最初俺が転移してきた……。」

 

 ‌あの時は昼だったため雰囲気はまるで違うが、確かにそこは焔斗が元の世界から転移させられた場所だ。狼の魔物に負けた、苦い記憶が蘇る。

 

「魔界への扉は、ここからそう遠くない。恐らく、えんてぃが転移してきたのがこの場所だったのも、別世界への扉がある場所の近くだったからこそ、じゃないだろうか。」

 

 ‌確かに、この世界の中でも三個ある世界(普通の人は天界を知らないので二個と思っているが)で、その異なる世界を行き来する扉があるのだとすれば、完全異世界から来た焔斗達を転移させるのにちょうどいい次元の歪み的ななにかがあるのかもしれない。

 

「……こっちだ。」

 

「ああ。」

 

 ‌森の中を歩いて進んでいく。急ぎたいのは山々だが、案内人が歩いているから従うしかない。それに夜の森は危険だ。下手に急いで魔物に襲われたら時間を取られてしまう。もう恐れる相手ではないだろうが、無駄な戦闘は避けたい。

 

「……俺の接し方が急に、普通の人間っぽくなったのに違和感を感じてるか?」

 

「?……あ、ああ。実を言うとそうだな。特に、あだ名の件。」

 

 ‌何故、こんな話を今するのかと疑問に思ったが、突っ込まずとりあえず聞くことにした。

 

「別に隠すことでもないから言うけどな。俺は、人型の魔族でもなんでもない、元は人間だった魔王なんだ。」

 

「なっ、普通の人間だったのか!?」

 

 ‌レーヴァテインから告げられた事実に、焔斗は驚いた。あの圧倒的で、いかにも敵の感じの魔力や技。魔王と言うくらいだから、魔族だと思っていた。

 

「元、な。ある日、俺は理不尽に大切な人を失った。その時の悲しみと怒りと、憎しみ。まあ色々感情はあったさ。それでこの力に目覚めた。まあ、この力を調べてたってのもあるかもしれないがな。」

 

「そう、だったのか……。」

 

 ‌思っていたよりも重そうな過去に、どう返せばいいのか思いつかない。安い同情なんて要らないだろう。

 

「えんてぃは疑問に思ったんじゃないか?いかに特別な力を持っていたとしても、なぜ殺さないのか。」

 

「まあ、な。強くなるやつがどうこう言ってはいたが、どうもそれだけじゃない気がしていたぞ。」

 

 ‌それが何かは分からなかったが、実際に何かは感じていた。妙に優しい気がしたのだ。

 

「今のえんてぃは、大切な人、家族である妹を救うために戦っているだろう?最初の出会いと言い、なんだか他人事に思えなかったんだ。だから最初から殺すつもりなんてなかった。どうにかして協力しようと思ったんだ。でも、優しくしすぎると意味が無い。この世界の過酷さを知ってもらわなければならない。だから、魔王という立場を利用して悪のように振舞った。」

 

「……なるほど、な。実際、そうして貰えてすごく助かったよ。ありがとう、レーヴァテイン。」

 

 ‌素直に礼を言う焔斗に、少し驚いた様子を見せたレーヴァテインだったが、すぐに苦笑する。

 

「礼を言うのは、まだ早いぜ。どうしても言いたいのなら、妹さんを助けてから、また聞かせてくれ。」

 

「ああ、そうだな。そうするよ。」

 

 ‌そんな会話をしながら歩いていると、少し開けた場所に出た。何かあるわけではないが、何となく空気が重い気がする。

 

「着いたぞ、ここだ。」

 

「え?でも何も……。」

 

 ‌てっきり、禍々しい扉が待ち構えていると思っていたため、辺をキョロキョロと見渡す。そんな焔斗を見て、レーヴァテインは呆れたようにため息をついた。

 

「あのなぁ、こんな森の奥、開けた場所に扉だけ置かれててもおかしいだろ?いつ見つけられるか分かったもんじゃない。もしそうなれば、魔界に行こうとする力も無いバカ共が来て終わりだよ。扉と言っても、空間の裂け目を開いて移動するイメージなんだ。」

 

「そ、そうか、それもそうだよな。すまない……。」

 

 ‌異世界に来て少し浮かれていたのか、その辺の判断がにぶっていたようだ。少し恥ずかしくて頭を掻きながら答える。

 

「あと、俺も魔界に行く。気にするな、俺も用があるだけだ。」

 

「用?……分かった、あんたの力に頼りきる気はないが、いてくれると助かる。俺は、魔界の知識もほとんどないしな。」

 

 ‌この世界に来て、大した情報も得られていない。闇華と来羅から聞いた情報はあるにはあるが、地図を持っている訳でもない。そのまま行けば、道に迷うこともあっただろう。

 

「ああ、道案内なら任せてくれ。……えんてぃの妹がどこにいるかはだいたい予想がついてる。恐らく、お前同様に変わった魔力を持っているはずだから、それを辿ることも出来るだろう。」

 

「そうか、なら考えているほど時間はかかりそうにないな。もっとも、今言ったのが外れてたらどうしようもないが。」

 

 ‌そんな会話をしながら、開けた場所の中心へと近づく。ここが魔界と繋がる場所と知らなければ、黄昏れるのにちょうどいいのかもしれない。

 

「さあ、開くぞ。」

 

 ‌レーヴァテインが手をかざし、魔界への入り口を開こうとする。

 

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 ‌魔界。

 

「……ん、あ……?」

 

「紫紅さん!?目が覚めたのですか!?」

 

 ‌しゃろんとの戦闘の後、紫紅を抱えてサトシと共に魔王城に戻ったトモ。色々気になることはあるが、とりあえず目を覚まさない紫紅をベッドで休ませていた。数日は目を覚まさないと思っていたのだが、数時間で目を覚ました。

 

「……トモさん?あれ、あたし、何を……?」

 

 ‌完全に心を失っている可能性も考慮していたが、何事も無かったかのように普通である。一安心したいところではあるが、館から出発する際、”お兄ちゃんを殺さなきゃ”と言っていた点が気になったため、意を決して質問をする。

 

「紫紅さん、急ですみませんが、お兄さんのことについて聞かせてくれませんか……?」

 

「え?お兄ちゃん?……見つけた、訳じゃないよね?なんで?探すの手伝ってくれるの?」

 

 ‌返答も至って普通。に見えるが、少し引っかかったため、質問を続ける。

 

「ええ、早く会いたそうにしていましたし、私もどんな人か会ってみたいです。一度食事もご一緒したいですね。」

 

 ‌そう質問すると、紫紅は少し悩む素振りを見せながら、こう答えた。

 

「んー、会うのは出来ると思うけど。食事?は無理じゃないかな。だって殺すもん。」

 

 ‌やはりこうなったか、と思いつつ、どうにか今の紫紅がどんな思考で動いているのか探ろうと、質問を続ける。

 

「……何故、家族であるお兄さんを殺すのですか?」

 

「へ?助けるためだよ。前にも言ったじゃない、しゃろん様からの教えで、必ず死んでしまうお兄ちゃんの未来を変えるために、蘇生の準備を整えてあたしが殺すの。そして蘇らせれば、その未来を変えられる。」

 

「……!……っ、ああ、そうでしたね。すみません、ちょっと忘れてました。」

 

 ‌もうしっかりしてよね、と言われながら、トモは大体の紫紅の現状を理解した。

 

(なるほど、記憶改竄までしていましたか……。確かにそこまでしないと操るのは難しい。でも、ここで紫紅さんだけの記憶を改竄した所で、様々な矛盾が生まれるはずですが……。しかし、ここで慎重に説得すればもしかしたら解けるかもしれないですね……。やってみましょう。)

 

 ‌そう考え、紫紅を本当の意味で目覚めさせるために口を開こうとしたその瞬間、脳内にあの声が響いた。

 

(余計なことはしない方がいいよ〜?今矛盾を指摘しても、心が、魂が傷つくだけ。それに、もし何かしようとしたら、あたしが仕掛けた魔法が発動して、彼女の魂を完全に砕くよ?あはは!そうなったらほんとにただの機械みたいなもの。お兄さんを殺そうとすることは辞めないけれど、助かる道はもうないだろうねえ……。ま、それはあたしとしても嫌だからやめて欲しいわけ。)

 

 ‌しゃろんだ。どこからかは知らないが、魔力通話を繋いできた。彼女の言うことを信じるなら、下手に刺激しない方がいい。恐らく、普段感じる矛盾位なら大丈夫なのだろうが、追求したらダメだ。

 

(……わかりました、手は出しません。あなたの思うようにならないにしても、紫紅さんが壊れるのは私にとっても最悪の状況です。)

 

(あはは!さっすが執事さん、理解が早くて助かるよ!じゃ、そゆことで〜。あ、ちなみに、その子のお兄さんは近いうちに来るから。こちらから探す必要はないよ〜。)

 

 ‌そう言い残して、しゃろんは魔力通話を切った。どうやら、何らかの手段で、紫紅の兄の状況を把握しているらしい。

 

(紫紅さんのお兄さんが無事、ということは今のでわかりました。そして、ここに来るのであれば、紫紅さんの正気を取り戻すには彼の力が必要になるでしょう。……このまま様子見なんて、嫌ではありますが……。今は我慢です。)

 

 ‌仮に行動を起こすなら、紫紅の兄、焔斗が来てからだと心に決め、普段通りの執事の業務に戻る。

 

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 ‌現界、商業街ミカルコ。クッキー屋《Dream Canola flower》にて。

 

「んー!今日も完売!」

 

 ‌そう言いながら背伸びをするのは、この店の看板娘であり店主の夢菜(ゆな)。身長は百六十センチくらいで、ファンタジー界の精霊術師のような服装に、胸ポケットに二本の菜の花を添えた焦げ茶色のエプロンをしている。肩までの銀髪に薄いピンクの目だ。この菜の花は、ある日常連の親子の女の子が「ぷれぜんと!」と持ってきて以来、さし込んでいる。魔法で落ちないようにしている上、鮮度も保たせている。店の名前から想像がつくだろうが、菜の花は店内にもいくつか飾っている。蜂対策はしているので、その辺は大丈夫だ。

 ‌店内は黄色、オレンジ基調で、差し色に茶色が使われている。暖かい色味だ。客からは実家のように落ち着く、等と評判である。クッキーも高価ではなく、子供がお小遣いで買えるレベルだ。そのくせ美味いので客が途絶えない。多い時は、店の外まで行列ができる。そんな人気店だ。

 

「お疲れ、夢菜。こっちも明日の準備が終わったぞ。」

 

 ‌奥にある厨房から出てきたのは、彼女の兄である魄夢(はくむ)。身長は百六十五センチくらいで、焦げ茶色のパティシエ姿だ。短めの銀髪に、薄いピンクの目をしている。

 

「はーい!じゃあ、あとはこっちの掃除だけだね!すぐ終わらせるね〜。」

 

「いや、急がなくてもいいけど……。ん?おい。」

 

「ん、何?」

 

「どうした?何かあったか?」

 

 ‌いつも通り明るくしていたつもりだったが、やはり兄の目は誤魔化せなかったようだ。いつもと少し違うと感じられたらしい。隠すのは諦めて話すことにした。

 

「うん、あのね……仕事中、三、四時間前かな?に、すごーーーーーーく嫌な夢の気配を感じたの。見てる人の心を壊しそうなレベルの。」

 

「何?それほどまでか。」

 

 ‌夢菜の魔力属性は『夢属性』。ほとんど居ないタイプの魔力なのだが、起きてる間もたまに、他人の夢を感じ取ってしまう体質になっている。もちろん、内容までわかる訳では無いが、幸せな夢、嫌な夢、くらいはわかる。

 

「多分、だけど……。自然に見る夢じゃなくて、人為的に見させられた夢。それで、心が壊れていくのを少し感じたの。気になっちゃって……。」

 

「なるほどな……。でも、それじゃあどこの誰とか分からないし、今考えても仕方ない、としか言えないな。……もし辛いなら明日は休むか?」

 

 ‌夢の気配を感じるだけなので、個人の特定など出来ない。それでモヤモヤしても仕方の無い事だ。それは夢菜も分かっていて、いつもなら全然気にしていないのだが、今回はなんだか違うらしい。しかし、話してスッキリしたのか、ふぅ、と一息つくと、呆れたように返事をした。

 

「もう、私が休んだら、接客はどうするの?あ、もしかして、明日こそ接客の練習してくれるの?やったー!」

 

「あ、いや、そういう訳では……。」

 

 ‌このまま夢菜に押し切られて、次の日、魄夢は接客の練習をすることになるのだが、出来なさすぎてお客さんを捌ききれなかった。そのため、途中で夢菜に交代だ。ちなみに交代の瞬間、女性客はしょんぼりとし、男性客は喜んだ。本人たちは気づいていない。

 

(それにしても、あの時感じた嫌な夢見せられた子、近いうちに会いそうな気がする……。って、そんなわけないか!)

 

 ‌考えても仕方ないことを考えるのはやめて、いつも通りの日常に戻る。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ‌天界、ロイルの研究所。

 

「ふむ、ほぼ完成に近いですね。あとは最終調整、テストを終わらせて問題がなければ、すぐにでも動かせます。」

 

 ‌そして、神造人間の調整をしていたロイルの部屋に、ノックしてから入る者がいた。

 

「ロイルさん、大事な話が。」

 

「ん?おや、珍しいじゃないかベル君。君がここに来るなんて。」

 

 ‌銀髪ロングを後ろでたばねた、高身長の天界人だ。彼も、今回の降臨メンバーの一人である。自分に自信を持てないが、実力はほかから認められている。戦闘時に発動する技が、性格を変えるほど強力なのだ。序列は六位。あのねこまの、ひとつ上だ。

 

「えっと……その、降臨、というか。下界に干渉してもいい時期がかなり早まって、あと一、二ヶ月後には干渉してもいいって、唯一神様が。」

 

「なんだって!?それは本当か!?」

 

「!?……う、うん……。あと、ベルじゃなくて、ベル=燦=グロピウスってフルネームで呼んでほし……聞いてないね。はぁ。」

 

 ‌ベル=燦=グロピウス……略してベルの訴えもロイルには届かず。ロイルは今の驚きで思考に入っていた。

 

(あと一、二ヶ月後だって……!?いくらなんでも早過ぎないか……?その時はまだ半年経ったくらいだぞ……!?元々一年様子見ということなのに、特例すぎる……。たしかに、これまでの異世界人に比べて、下界に与えた影響は今の時点で大きい。)

 

 ‌そんな彼を見て、ベルはさらに声をかける。

 

「えっとね、まだ唯一神様が仰ったことがあるんだ。最近、ロイルさん下界の様子は見てる?今まあまあ凄いことになってるんだ。」

 

 ‌その言葉を聞き、ロイルは急いで下界監視モニターを起動させる。この声は届くんだ……と肩を落としてるベルは眼中にない。

 

「なるほど、理解しました。つまり唯一神様は、今のこの兄妹が再会して、潰しあって終わるならそれでよし。もし、両方、もしくは片方が生き残るのであれば、少し様子を見て決める。その期間が今言った期間ってことですね。」

 

「さすがロイルさん、理解が早いや。そうだよ、その解釈であってる。それとね、唯一神様が、ロイルさんに個別に話したいことがあるって言ってたよ。」

 

 ‌個別に話したいこと。一体何なのかさっぱり分からないが、ベルはこんな嘘をつくような人では無い。わかった、と返事をしようとした瞬間、さらにもう一人部屋に入ってくる者がいた。

 

「ロイルさーん、って、なんで君もいるのさ、ベル。」

 

「俺は……唯一神様のお言葉を伝えに来ただけ……。」

 

 ‌入ってきたのは、ねこまだ。正直言ってこの二人は仲が良いとは言えない。

 

「まーだそんなオドオドしてんの?戦う時はあんなに気が強い癖に、バカにしてんの?」

 

「し、してないよ……。それに、そんなに強くな」

 

「まただよ!またそんなこと言うんだ!僕に勝っておきながら!それが煽りってわかんないわけ!?」

 

 ‌どうやら、戦闘時は技で豹変して相手をボコボコにするのに、普段は気弱で自信ない、というのが気に食わないらしい。技の影響というのは彼も分かってはいるが、実際そんなギャップを見せられると思うところがあるのだろう。

 

「まあまあ、二人とも仲良くしなさい。同じ降臨メンバーだろ?私は、唯一神様のところに行くから。部屋で暴れないでよ?今最終調整中なんだから。」

 

 ‌それだけ言って、ロイルは唯一神様のところに向かう。天界の中心、空中に建てられた城に唯一神様はいる。普段は天界の誰でも入れる訳では無い。無論、ロイルだって普通にふらっと入ったりはできない。が、今回は唯一神様からのお呼びのため、門番に話して身分証明をすればすんなり入れた。先に門番に話を通して置いてくれたのだろう。

 ‌案内人に連れられ、城の中を歩く。据付には来れて居ないが、ちらほらロイルが作ったものが見受けられて、少し嬉しい気持ちになる。

 

(こうして、自分が製作したものが実際に使われているのを見るのは、いつになっても嬉しいものですね。)

 

 ‌そんなことを思っていると、唯一神様のいる部屋の前に着いたらしい。「どうぞ。」と案内人が扉を開けて言う。ロイルは心を引き締め、部屋へ入る。

 

「来たか、ロイルよ。」

 

「はっ、ロイル、ここに。」

 

 ‌基本的に、唯一神様の顔を謁見することは出来ない。オーラで隠されているため、顔を上げても見えないのだ。見たことがあるのはおそらく、もっと近しい天族、もしくは唯一神様が出るほどになった敵。後者に関しては生きているわけが無いが。

 

「どうだ、神造人間の件は。順調か?」

 

「はい、現在最終調整の段階に入っております。遅くとも、あと一週間程度で完成になるかと。」

 

「ふむ。それは良かった。そこで提案なのだが……。」

 

 ‌ここで唯一神様から告げられた提案は、本当に驚くものであった。思わず伏せた顔の口角が上がる。

 

「承知致しました。そのような特権を頂き、誠に感謝申し上げます、唯一神様。」

 

「うむ。この件については天界全体に、こちらから広めておく。要件はそれだけだ、下がって良いぞ。」

 

「はっ。失礼致します。」

 

 ‌唯一神様の部屋から退室し、また案内人に連れられて城を出る。城から出た後も、口角が下がることは無かった。

 

(まさか、このような特権を頂けるとは……。長年生きてきましたが、ここまで心躍るのはいつぶりでしょうか。クク、楽しくなってきましたよ……。ククククク……)

 

 ‌帰る道中の彼を見た者は皆、どうしたのだろうと不思議に思ったが、この後発表された彼が得た特権を聞いて、納得したのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ‌現界、魔界への扉。

 

「よし、入れ。」

 

「ああ。」

 

 ‌レーヴァテインが開けた魔界への扉、空間の裂け目のような所に入る。中は真っ暗だが、不思議と真っ直ぐの感覚はわかる。レーヴァテインと共にその中を歩く。

 

「すぐに魔界に出る。出たら魔物もいるかもしれないから、油断するなよ。」

 

「了解。」

 

 ‌そうして歩いていたら、出口と思えるような裂け目が見えてきた。そこに向かおうと急ぎ足になったその瞬間。

 

「キャハハハ!」

 

「!?」

 

 ‌謎の魔物が、複数体現れた。戸惑う焔斗と魔物の間にレーヴァテインが入り、紫焔で焼き払う。しかし、まだ魔物は湧いてくる。

 

「す、すまん助かった。なんだ、こいつらっ。」

 

「……ちっ。あの魔女、使い魔を残していきやがったな。おい、次焼き払ったあと、えんてぃは出口から出ろ!遠く見えるがすぐそこだ!この中でこの扉を操れない者が、もし攻撃を受けたら、一生ここに閉じ込められるぞ!俺はこの雑魚どもを片付けてから行く、いいな!」

 

 ‌ここに敵がいる、というのは相当やばいらしい。完全に理解できた訳では無いが、ここはレーヴァテインに従うことにした。

 

「よし、行け!」

 

 ‌そう考えている間にレーヴァテインが第二波を焼き払う。その隙を縫って、焔斗は出口に駆け込んだ。それを確認して、レーヴァテインは出口側に回り込み、使い魔が外に出ないよう立ち塞がる。

 

「おおかた、えんてぃだけ魔界に送ると思ってたんだろうが……。残念だったな、こんな雑魚じゃいくらいても五分も要らない。」

 

 ‌そう言いながら禁忌ノ焔を纏い、使い魔達を殲滅し始めた。

 

「……ここが、魔界か。」

 

 ‌裂け目から出ると、魔界の景色が一気に広がった。ダークテリトリーに似ている、というのが最初の感想だ。次に、現界より明らかに強い空間魔力の中で、いっそう強い魔力を感じた。数人が同じ場所にいるようだ。その中の一つに、何故か親近感の覚える魔力があった。

 

(紅葉……紫紅の、魔力か?)

 

 ‌居てもたってもいられず、その魔力のある場所へ移動を開始した。




今回はここまで!いかがでしたか?

おまたせしてすみません、再会編開幕になります!

今回登場したSAOif民モチーフは、

Revatainnさん(レーヴァテイン)

トモさん(トモ)

しゃろんさん(しゃろん)

夢菜さん(夢菜と、魄夢考案者)(初登場)

ベル=燦=グロピウスさん(ベル=燦=グロピウス)(元if民)(初登場)

ねこまさん

でした!ありがとうございました!

次回
再会編2話『』……タイトル考え中です!お楽しみに!


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第2話『短き道のり』

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各々の場所で変わっていく状況。レーヴァテインと行動を共にすることになった焔斗。果たして、紫紅と再会し、洗脳から解き放つことは出来るのだろうか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

「っ!この魔力は!?」

 

‌ ‌紫紅、そしてしゃろんとの会話の後、いつも通り家事に戻ったトモ。しばらくして、異質な魔力を持つ者が魔界に現れたのを感じ取った。紫紅が魔界に現れた時と同じような感覚。つまり、紫紅の兄である可能性が高い。

 

(狙ったかのようなタイミングですが……来ましたか。……っ!?)

 

 ‌その魔力が、高速移動を始めたすぐ後に、絶大な魔力を持つ者も現れた。こちらは単純に魔力が強い、強すぎる。

 

(今度はまさか現界の……?状況が上手くつかめませんが、今はお兄さんと思われる魔力の方ですね。)

 

 ‌そんなことを考えていると、トモの居る部屋の扉をバンッと開けて春輝が入ってきた。

 

「トモ!今の魔力感じたよね!?また女の子かな!?」

 

 ‌そう目を輝かせながら嬉しそうに話しかけてくる。ちなみに、余計な混乱を招かぬよう、紫紅のことは伝えていない。そのため、春輝は今回の件を全くもって知らない。

 

「いえ、この感じだと紫紅さんのお兄さんでは無いでしょうか。異質な魔力、というのもありますが、何より魔力の質がよく似ています。」

 

「ちぇっ。なんだ男か〜。じゃあいいや♪……ところでさ、」

 

 ‌いつも通りの反応を見せたあと、急に真面目な表情になり、トモに質問をする。

 

「トモ、何を隠してる?」

 

「っ……いえ、何も。」

 

「俺に隠し事が出来ると思っているのか?舐めるなよ、どれだけ一緒にいると思っている。」

 

「……はぁ、そうですね。すみません、私としたことが少し慎重になりすぎていたようです。」

 

 ‌トモは普段身内に隠し事などしない。それもあって、隠すのが苦手だ。それゆえに見抜かれたのだろう。いや、ずっと一緒に暮らしていたら、もしかすると上手くても見破られるのかもしれない。春輝に事情を全て話すことにした。

 

「……なるほど、そんなことがあったのか……。確かに妙な魔力の動きは感じていたけど、まさかそこまでの事が起きていたとはね……。女の子を洗脳して操るなんて……許せない……。」

 

 ‌春輝の怒りで魔力が溢れ出し、今いる部屋が凍り始めた。慌てたトモが指摘して気づいたのか、落ち着きを取り戻してそれ以上凍ることは無かった。しかし掃除が大変である。

 

「はぁ、こうなると思って隠してたのもあります。お願いですから先走らないでくださいよ、あとのぞみさんには絶対言わないこと。おそらく突撃するので。」

 

「あ、ああ、すまない♪女の子のことになるとついね♪あれ?しゃろんも女の子だけど……うーむ、でも悪いことした子にはしっかりお説教しなきゃね♪」

 

「そうですね。しかし、ここが分かっているにしても時間はかかりますね……。サトシ様にお願いしてみましょうか。」

 

「僕は兄さんと話してくるよ♪あの兄さんが黙認ってなにか引っかか……いや意外とあるな。……とにかく、確認してくるよ♪味方は多い方がいいしね♪」

 

 ‌そう言って二人はそれぞれ動き始める。一応、しゃろんの監視下にはされているようだが、このような行動は制限をかけたりはしてこない。皆がどう動いてどうなるか、というのを楽しみたいらしい。趣味がいいとは言えないが、おかげで割と自由が効くのでありがたい。

 

「サトシ様、修行お疲れ様です。いかがですか?最近の調子は。」

 

 ‌サトシは修練場にいるだろうと予想して来てみたが、どうやら当たりだったらしい。この前の紫紅、そしてしゃろんとの戦闘から、以前より熱心に修練に取り組んでいる気がする。よほど悔しかったのだろう。

 

「トモさん……。んー、強くなっていっている実感はあるよ。実際、悪魔の力もだんだん使いこなせるようになってきた。でも、今は悪魔の力に頼らず、自分の力ってのを鍛えようとしてるんだ。ほら、何事も基本って言うでしょ?悪魔の力使うにも、基本の俺自身の体が弱いんじゃ意味が無い。ある程度鍛えておくのも、力の代償に耐えるためには必要だと思ってね。」

 

 ‌なかなかいい着眼点だ、とトモは思った。無論、気づいてはいたが、あえて指摘していなかった。まだそこまで教える程じゃないし、そもそも春輝の弟子だ。外から首を突っ込むのもアレだろう。自分で気づけたのなら、それは凄くいいことだ。

 

「なるほど、いいですね。どんな強化魔法も、基本の力が弱ければいくら強化したところでしれています。仮に同じ強化魔法を発動するとしたら、確実に基本の力がついている方がパワー的には上になります。あとは頭脳戦、作戦、地理、属性相性などもあるので戦闘結果はその時によりますが。……と、お疲れのところ申し訳ありませんが、少し頼まれてはくれませんか?」

 

「ん?どうしたんですか?もしかして、さっきの魔力の件ですかね。」

 

 ‌先程の魔力はサトシも感じ取っていたらしい。ならば話が早い、と、トモは頼み事をした。

 

「迎えに行く?別に構わないけど、もし、お兄さんと違ったらどうするの?」

 

「その時はその時です。さらっと帰ってきてください。」

 

「き、気まずいな……。まあ、いいや、紫紅さんのためだもんね。行ってくる。」

 

 ‌そう言って、転移するために空間を裂く。サトシも、あの時何も出来なくて悔しかったのだ。別に好きとかそう言うのではないが、せっかく出来たライバル的存在が、良いように利用されて何も感じないわけが無い。

 

「兄さーん♪今いいかい?」

 

「ん?どうした春輝。」

 

「えっとね♪」

 

 ‌春輝は事の経緯を説明した。魔王シハクのことだ、知っているかもしれないが念の為に。特に、黙認した、という点を強調して。

 

「え?そんなこと聞いてないが?んー?」

 

「えっ。」

 

「ああ、そういえばあの時、部屋の内装変えてたんだよ。あともう少しでいい感じになりそうだったから、ほとんど聞かずに返事してたかもしれん。」

 

「何やってんだよ兄さん!?」

 

 ‌予想通りというかなんというか、意図的に黙認した訳では無いことを知ってほっとしつつも、シハク側にも問題があったことに変わりはないので思わずつっこんでしまう。

 

「ふむ……。だが、人質?魂質?を取られてるからには迂闊には動けないか。トモの言う通り、その兄が来るまで待つしかないだろう。しゃろんの思惑通りに、兄妹がぶつかってからが本番だ。」

 

「その兄かもしれない人を今サトシが……ってことは気づいてるみたいだね兄さん。もちろん協力してくれるよね?兄さん???」

 

 ‌笑顔で圧を放ちながら、春輝が問いかける。春輝がこんなことをするのは滅多にない。……こともない。女の子が絡むとだいたいこうだ。しかし、色んな女の子に思わせぶりな態度を取るせいで、なんやかんや敵も多い。

 

「いや、今回は俺抜きでこの件を解決してくれ。」

 

「は?♪なんだって♪」

 

 ‌春輝の笑顔がより怖いものへと変わるが、シハクは気にすることなく続ける。

 

「いや、来るのが兄の焔斗?だっけ。それだけならいいのだが……。どうやら、とんでもない奴も付いてきてるみたいだ。俺は、そいつの相手をしなきゃならないかもしれん。」

 

「ふーん♪それってこのバカでかい魔力の事だよね?誰なのか心当たりがあるのかな♪」

 

 ‌そう聞く春輝にシハクが重々しく答える。

 

「”現界ノ放浪魔王”レーヴァテイン。あいつが来た。恐らく、今回の件を理由にこっちに来て、一戦申し込んでくる可能性が高い。そうなると、戦闘の規模的に場所を変えた方がいいし、手助けも出来なくなる。」

 

「この魔力、魔王なの!?そんなのヤーヴァテインじゃん!」

 

「面白くないぞ。ちょっと上手いけど」

 

「ごめん。」

 

 ‌こんな状況下でも、少しふざけられるくらい二人は余裕がある。それだけ強いし、自信があるのだ。

 

「よし♪じゃあ兄さんはそっちに集中してよ♪こっちは僕らで頑張るからさ♪」

 

 ‌そう言って、春輝は部屋から去る。そろそろ、サトシが二人の元に着く頃だ。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ‌魔界、道中。

 

「思ったより遠いな……!」

 

「……もっと飛ばさないのか?」

 

 ‌魔力をセーブしながら、本気で紫紅の元に向かう焔斗に、レーヴァテインがそう問いかける。

 

「レヴァさんと一緒にするな!そんな無限とも言える魔力持ってねえよ!セーブ……制限しながら飛ばないと、すぐにバテて、たどり着いても戦えない!」

 

 ‌そんな会話をしながら飛んでいると、前方に村のようなものが見えた。ここまでこっちかも、という感覚で飛んできているため、少し情報が欲しい。なので、立ち寄ってみることにした。

 

「……ゴブリンの村か?」

 

 ‌典型的ではあるが、そこはゴブリンが暮らしているらしい村だった。基本的に雑魚敵と描写されることが多いが、SAOのアンダーワールドでは雑魚というほど弱いわけでもなかった。(最強格かと言われれば全然そうではなかったが。)

 

「ギギッ!人間だ!人間が来たぞ!」

 

 ‌紫の肌をしたゴブリンが、焔斗達を見て騒ぎ出す。やはり、普通の人間というのはここでは珍しいらしい。その騒ぎを見ながら歩いていると、一際ガタイが大きく、強そうなゴブリンが奥から歩いてきた。もし彼がこの村の長なら、向こうから出てきてくれるなら話が早い。村内で流れる噂レベルの情報より、上に位置する者の持つ情報の方がいくらか正確性が高い。戦闘は、避けられないと思うが。

 

「……あんたがここの頭か?急に来てすまないが、聞きたい事があるんだ。」

 

 ‌かと言って、こんなところで戦闘している余裕なんてないようなものなので、出来れば無しで行きたい。一応交渉を試みる。しかし、返ってきた返答は、予想とは大きく違うものだった。

 

「……ギギッ、強き者よ……一体我々ごときに何をお聞きになるのでしょうか。」

 

「……へ?あ、ああ、強き者って俺たちのことか?えっとな、俺と同じ髪の色で、紫目の女の子。髪は両サイドでくくってて、肩から前に下ろしてる。そんで、多分メイド服?白と黒を基調と来た服を着ている、俺より頭一つか二つくらい小さい子を見たことないか?妹でな、探してるんだ。」

 

「そのような強き魔力を放っておきながら、ご謙遜なさるとは……。この謙虚さも強さの秘訣なのでしょうか。……ご質問の件ですが、紫紅、という可憐で鬼強な少女の目撃情報は得ております。なんでも、魔王城に出入りしているとか……?」

 

 ‌急に膝をつき頭を下げ、周りの仲間もそれに倣ったので本当にびっくりしたが、どうやらまともな知性のあるゴブリンらしい。情報も得られたが、まさか魔王城に出入りしているとは思わなかった。

 

(流石というかなんというか……この短期間でトップと知り合って普通に城に出入りできるようになるなんて……。いや、今回に限っては俺と似たようなものか。)

 

 ‌ちら、と後ろにいるレーヴァテインを見ながらそう思う。彼だって魔王だ。普通はこうして行動することなどありえないだろう。

 

「……情報提供感謝するよ。あと、顔上げなよ、堅苦しいのは嫌いなんだ。」

 

「は、はっ!」

 

「まだ緊張してるな……まあいいや。んっ、ありがとな!」

 

 ‌そう言って握手しようと手を差し伸べる。するとゴブリンは、戸惑う様子を見せた。

 

「えっ、あの……。」

 

「ん?握手だ握手。どうせ、この魔界にもお世話になることあるだろうし、こっちに来て初めて出会ったんだ。情報もくれたしよ。友達?つーか、なんつーか、そんな感じだ!」

 

「醜いゴブリン、と言わないのですか……?」

 

「あ?ああ、そんなこと気にしてたのか。見た目はそりゃ俺たち人間とは違う。当たり前だ、種族が違うんだからよ。それに、容赦なく襲いかかるような知性の低い怪物だったら、俺だってこんなことしない。お前らは、ちゃんと話が出来て、頭も回る。実力も理解出来てるし、使う言葉も同じ。種族、見た目が違うだけで、俺たち人間と変わらねぇじゃねーか?」

 

 ‌そう言うと、ゴブリンは少し泣きそうになりながらも、その手を取った。ゴブリンらしい、というのも初めて見るので変かもしれないが、ゴツゴツとした力強そうな手だった。

 

「よし、じゃあ俺は急ぐからもう行くな。妹と再会出来たら、またここに立ち寄るよ。」

 

「はい!無事再会できる事を祈っております!その時はぜひお祝いさせてください!」

 

 ‌こんなに屈強な見た目のゴブリンに、こんなかしこまられると違和感が凄い、と思いながら、焔斗達はその村から去った。

 

「……待て。」

 

「ぐえっ……何すんだよ首しまるわ!」

 

 ‌普通に飛んでいたら、急にレーヴァテインに襟を引っ張られて止められる。当然、首が締まって一瞬死ぬかと思った。

 

「なにか来るぞ。」

 

「あ?……?」

 

 ‌そう言われて気づいたが、目の前の空間に違和感を感じる。その違和感はだんだん大きくなっていき、やがて、空間が思いっきり裂けた。

 

「なっ!?現界への扉か!?」

 

「いや違う。これは……」

 

 ‌その空間の裂け目から、黒を基調とした服装で、銀髪の少年が出てくる。そして、こちらを見て少し気まずそうに問いかけた。

 

「えーっと、焔斗さん……で、あってます?」

 

「?……ああ。なんで俺の名前を?」

 

 ‌何故、焔斗の名前を知っているのか。まさかとは思いつつも、冷静に訊ねてみる。

 

「よかった、人違いじゃない!俺と来てください!紫紅さんを助けるために!」

 

「は?えっちょっ」

 

 ‌こちらから空間の裂け目に入るのではなく、現れた少年が指を鳴らした瞬間、その裂け目が拡がって焔斗達は飲み込まれた。そして、気がつくと大きな城の前にいた。

 

「こ、ここは……?」

 

「魔王城、ナンバンです。説明は歩きながらします、ついてきてください!」

 

「っておい待て!あーもう、なんだってんだくそ!」

 

 ‌訳が分からないが、少なくとも紫紅について何か知っているようだったので、とりあえずついて行く。レーヴァテインも別に止めはせず、ついてきたので大丈夫だろう。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「っ、来ましたか。事情を説明するために、あえて入口に転移しましたね。いい判断です。さて、」

 

 ‌サトシが戻ってきたのを感じ取り、もう一度意識を目の前に戻す。

 

「さあ、紫紅さん。お兄さんはもうすぐここに来ますよ。だから落ち着いてください、焦ってもいいことは無いです。」

 

「……ふんっ、分かったわよ。あたしも感じたわ、お兄ちゃんの魔力。大人しく待ってやろうじゃない、あのまま迷子にでもなられたら困るから焦っただけよ。」

 

 ‌焔斗が魔界に来て、その魔力を感じてから、紫紅はすぐに城を出て焔斗を殺しに行こうとしていた。しかし、もし外で戦いになった場合、今城にいるしゃろんとの距離が離れる上、どこかの村の近くで暴れられたら被害が怖い。焔斗と紫紅がぶつかり合うと同時に、しゃろんの方も制圧したい今回の動きにおいて、どちらかが監視外にいるのは避けたいのだ。

 

(一先ず、これで紫紅さんが先走ることはなくなりましたね。あとはお兄さんの戦闘力次第ですね。紫紅さんの心を取り戻すために倒そうとはしなくても、彼女の猛攻を凌げるレベルの強さは必須です。もう一人がどう動くつもりか知りませんが、先程春輝様から聞いたように魔王なのであれば、協力は難しいでしょうね。)

 

 ‌今回の作戦では、焔斗と紫紅の一騎打ちになる。というのも、恐らくしゃろんがこのふたりの戦いへの介入を許してくれないからだ。彼女は、この兄妹喧嘩を楽しみにしている。そのステージに、部外者が登ることは許さないだろう。

 

(トモ〜♪こっちは、準備できたよ♪)

 

 ‌春輝からの魔力通話だ。どうやら、しゃろん制圧の為の準備が出来たらしい。

 

(承知しました、春輝様。そのまま待機してください。タイミングはこちらで合図します。……その時がきたらよろしくお願いします。)

 

(おっけ〜♪任せろ、あいつは許さない。)

 

 ‌落ち込んだ時以外は、滅多に見せない素の春輝。いや、この場合怒りの春輝と言った方がいいだろうか。今の彼は本気だ、そして本気になった彼の恐ろしさはトモもよく知っている。とりあえず、魔力通話を切る。

 

(さて、と。今回は本気を出すのは春輝様だけではありませんがね……。)

 

 ‌トモだって、まだ日は浅いとはいえ、自分の弟子がこんな風に駒のように使われて怒っているのだ。普段は本気で怒ったりするのはないのだが、今回は本気である。

 

「潰してあげますよ。しゃろん様。」

 

 ‌暗い部屋の中、赤く鋭い目が強く輝いた。

 

 




今回はここまで!少し短いですが、いかかでしたか?

今回登場したif民モチーフは
トモさん(トモ)

春輝さん(春輝)

シハクさん(シハク)

サトシさん(サトシ)

Revatainnさん(レーヴァテイン)

でした!ありがとうございました!

次回
第3話『紫紅奪還及びしゃろん制圧作戦開始』
お楽しみに!


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第3話『紫紅奪還及びしゃろん制圧作戦開始』

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魔界へと降り立った焔斗達。道中、ゴブリンから情報を貰いながら紫紅の元に向かおうとしていた。しかし、突如謎の少年サトシが現れ、紫紅のいるという魔王城へ空間転移で直行した。同時に進む、しゃろん制圧への準備。こちらも準備が完了し、あとは焔斗と紫紅が再会するのを待つのみとなった。各所で戦いの幕が上がる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

「……以上です。と、とりあえず落ち着いてください。」

 

「これが、落ち着いていられるか?……はあ、でもそうだな、ここでイラついても仕方ない。とりあえず紫紅を助ける方法を考えないと……。」

 

︎︎︎ㅤサトシに連れられ、魔王城を走る焔斗。ちなみにレーヴァテインは、「……俺の用があるやつは少し離れたとこにいるみたいだ。俺はそっちに行くぞ。兄なら、妹の一人くらい助けて見せろ。じゃあな。」と言って、別の場所に飛んでいってしまった。おそらく、離れた場所に感じる膨大な魔力の持ち主の所へ行ったのだろう。これでも抑えている感じがする。さすが魔界、恐ろしいところだと思った。

 

「……そうだ、行く前に。紫紅の戦い方というか、その辺のことを教えてくれ。聞いてるかもしれないが、元いた世界じゃこんな戦いも魔法も無かった。だから、戦いの癖とかは分からないんだ。」

 

「そう、でしたね。では軽く説明しますね。紫紅さんが使うのは主に雷属性。『紫雷纏装』でしたっけ。近距離ももちろんのこと、雷のメイスを生成して遠距離も対応してきます。もちろん、拘束技も持ってます。そして、さらに本気を出すと『紅雷纏装』となり、雷や髪、目が紅くなって莫大に魔力が上がります。この状態は当時まだ慣れてませんでしたが、完成してると仮定するとかなり危険です。お気を付けて。」

 

「……さすが俺の妹だな。って、今回は感心してる場合じゃないな。やっべ強そ〜、何とか耐えないと。」

 

ㅤ話を聞く限り、多分勝てないかも、と思った。というのも、相手が妹というのもあり本気で殴るなんてとてもできないし、恐らく軽く見ても焔斗と互角だ。その中で呼びかけながらどうにか洗脳を解く方法を探さなければならない。

 

「……すみません、俺達が介入したら、紫紅さんの心の核?のようなものを壊されてしまうので。こちらはこちらでその核の奪還に向かいます。同時に、しゃろんさん……しゃろんを潰します。」

 

ㅤ昔からの知り合いだったのだろうか、さん付けから呼び捨てに変わっている。おそらく、以前まではこんな酷いことをする人だと思っていなかったといったところだろうか。

 

「ああ、頼む。正直信じられない事ばかりだけど、今は信じるしか無さそうだ。」

 

「はい、この扉のむこうです。では俺はこれで。」

 

ㅤある大きな扉の前に着くと、サトシはそう言い残し空間を裂いて消えた。

 

「さて、と。この向こうに……紫紅、紅葉がいるのか……。随分長いようで早かったな。まあ、平和な再会じゃなさそうだけど……。兄ちゃんが助けてやるからな。……よし!行くか!」

 

ㅤ色々と不安はあるけれど、焔斗は自分を鼓舞して、扉を開ける。もちろん、不意打ちに備えて纏装状態だ。慣れるために常に張ってたものではなく、しっかりと戦闘用の。

ㅤ部屋に入ると、そこは修練場のような広い場所だった。戦うにはちょうどいい、それは逆に、戦うしかないということでもあった。

 

「……紅葉、いや、紫紅のほうが、いいか。久しぶり。」

 

ㅤ背を向けて立っていた、元の世界では見なれていたメイド服に紫髪おさげの小さな女の子。こっちに来ても見間違えるはずもない、大切な妹。

 

「お兄ちゃん……、やっと、来てくれたんだね……。」

 

ㅤ久しぶりに聞く声。どこか寂しそうな声、やっと会えたと嬉しそうでもある声。本当に洗脳されているのだろうか、そう疑いたくなるほどの落ち着き。だが。

 

「……、紫紅。なぜこっちを向かない?」

 

ㅤ焔斗の知ってる、紫紅なら。いつもの自立できない妹ならば。再会できた時には、笑顔で突進して抱きついてくるはずだ。それが、無い。明らかに落ち着きすぎている。今の、今の彼女は焔斗のしってる妹では、ない。

 

「……っ、それはね、お兄ちゃん。」

 

ㅤゆっくりと紫紅が振り向く、そして、怪しくギラついた目に、ニヤついた口元が見えた。その、刹那。

 

「がっ!?」

 

「やっとお兄ちゃんを殺せるって思うと、ニヤけが止まらないからよ!」

 

ㅤ目にも止まらぬ速度で接近され、腹に紫紅のメイスがめり込む。そのまま振り抜かれて吹っ飛ばされた。

 

「ふふ、どうお兄ちゃん?あのゲーム基準でこの世界に来たなら、あたしに勝てるわけないもんね?」

 

「それは、どうかな……俺も、鍛えた、からな……。」

 

ㅤ口ではそう言うものの、心の中は想定以上の実力差に驚いていた。

 

(は、速すぎる……!雷だし速いとは思ってたけど、師匠より速いとは……。一応、来てるっていう認識はできたから、時止め系では無い……純粋なスピード……。)

 

「傷つけちゃいけねえって、手抜いてると、ほんとに殺されるな、これ。『獄焔纏装』!」

 

ㅤ流石に小手調べする余裕もなさそうだったので、初めから全力で行くことにした。これも、紫紅が全力を出してきたらお手上げかもしれないがやるしかない。

 

「無駄だよお兄ちゃん。『紫雷纏装』。」

 

ㅤ聞いた話では、まだこの上に『紅雷纏装』があるはず。それなのに今の『紫雷纏装』で来るということは、焔斗の『獄焔纏装』にそれで勝てる、と思ったからだろう。

 

「まったく……洗脳されてなきゃ、褒めまくってたのによ……。」

 

(絶対兄ちゃんが助けてやるからな、紫紅。ちょっと痛くても我慢してくれよ!)

 

ㅤしゃろんが望んだ対決が今、始まった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ魔王城から少し離れた荒野。その一角の陰に造られた建築物。その中でしゃろんは戦いを見ていた。

 

「あはは!始まった!いいね、これから楽しくなるよ〜!」

 

ㅤ流石に、紫紅を洗脳した時の館は遠すぎるため、近くに急遽拠点を作ったのだ。急造とはいえ、魔法があるためそこそこの完成度である。

 

「……で、そんなところで何してるのー?春輝さん?あはは!バレバレだよ〜!」

 

ㅤしゃろんは、物陰に隠れていた春輝に呼びかける。春輝は、大して驚いた様子もなく、スっと陰からでてくる。

 

「やぁやぁ♪流石にバレるよね〜♪やっぱりすごいな♪」

 

「あっはは!おだてたって無駄だよ?何しに来たのさ?」

 

ㅤ紫に光る玉を左手の上に浮かせながら、春輝に問いかける。

 

「心の核、かなにかわからないけど、とにかく、それを取り返しに来た。」

 

「ああ、これのこと?取り返すって言うか、魂じゃなくて起動装置みたいなものなんだけど……まあ確かに、コレ作るのに時間かかるから、取られるのは嫌だなあ。」

 

ㅤ左手の上の光玉をふよふよさせながらそう答える。どうやら、あれを奪えればひとまず、しゃろんから紫紅の心を壊すことは出来なくなるらしい。それが分かれば充分だ。

 

「じゃあ、とりあえずそれから奪わせて貰うよ。その後、たっぷりとおしおきタイムだ。『蒼氷纏装』、『蒼キ氷ノ凍奏演舞』!」(そうひょうてんそう)(あおきこおりのとうそうえんぶ)

 

ㅤ春輝が魔力を纏い、技を放つ。地面に突き刺した蒼氷剣・薇絶(そうひょうけん・らぜつ)を基点に、しゃろんに向かって地面が凍りついてゆく。地面から無数の氷も突き出しているため、拘束だけでなく殺傷力もある。無論、光玉の件があるので牽制程度だが。

 

「おおっと!相変わらずめちゃくちゃするよね!危ない危な」

 

「サトシ!」

 

「!?」

 

ㅤしゃろんが、氷を避けようと空中に浮遊して逃げる。その後、しゃろんの左側の空間が裂けて、サトシが現れ、光玉を奪い裂け目に戻って裂け目を閉じた。今回のサトシの役目は、これを奪い、取り返されないよう、空間の狭間で所持し待機すること。起動、とは言っていたが、これを破壊する事で起動するものだった場合も考慮すると迂闊に破壊できないのだ。

 

「『竜撃天翔舞』!」(りゅうげきてんしょうぶ)

 

ㅤ次に、別の陰からトモが飛び出し、しゃろんに攻撃を仕掛ける。まんまと不意をつかれたしゃろんはもろに攻撃を受け、吹っ飛ばされた。ここまでで、作戦の第一段階は終わりだ。これを成功させるのが大前提だった。あの光玉を奪えてなければ、とても大きい不安要素を残すことになるからだ。

 

「……ぃったいなぁ!もー、不意打ちとかずるいよね!」

 

「どの口が仰っているのでしょうかね?」

 

ㅤ実際、紫紅を洗脳し、人質紛いのこともしたのだ。そんな奴に不意打ちがずるいなんて言われる筋合いはない。紫紅を洗脳する時も不意打ちだったはずだ。

 

「あなたはもう、許しませんよ。『竜鱗纏装』」

 

「あはは!その状態で前押し切れなかったのに、どうしようってのさ!『黒炎纏装』!」

 

ㅤこう言って煽ってはいるが、実際今は光玉をかっさらっていったサトシを除けば二対一。しかも、相手は魔界三銃士のうちの二人。軽く見てもしゃろんが劣勢である。

 

「やれるね?トモ。」

 

「春輝様こそ、女性だからって手加減なんてしないでくださいよ。」

 

「もちろん♪さーて。やるか。」

 

「ええ。」

 

ㅤ二人並んでしゃろんと対峙する。やけに余裕そうなしゃろんだが、魔力を練っている感じ、手抜きでどうにかなる相手では無いとは思っているようだ。

 

「あっはは!いいよ、来なよ!踊ってあげる。」

 

ㅤ不気味にニヤつくしゃろん。そして、その言葉を合図にお互いが衝突した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ魔王城から離れた、また別の場所。岩の上に優雅に座る魔界の魔王シハクの元に、現界の魔王レーヴァテインが到着した。

 

「やはり、こっちに来たか。」

 

「予想通りなら何よりだな。じゃあ、これから何するかも分かってんだろ?」

 

「ああ、もちろん。」

 

ㅤシハクは立ち上がり、紅氷の魔力を纏い始める。レーヴァテインも同じく、禁忌ノ焔を纏う。

 

「それにしても意外だな、わざわざ速度を合わせて来ているくらいだから、もしかしたら向こうに加勢するのかと思ってたよ。」

 

「ふん、少しは同情したが、あれは自分の力でやらなきゃなんねぇ。そのくらい出来ないと今後この世界じゃ生きて行けねぇよ。」

 

「くく、それもそうだな。まあ、俺も現界の魔王というのはどの程度なのか気になっていたところだ。楽しもうじゃないか。」

 

「そうこなくっちゃ、なっ!」

 

ㅤ現界の魔王と魔界の魔王が今、ぶつかり合う。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ魔王城、修練場。

 

「『螺旋ほむっ!?」

 

「だ〜から〜、遅いんだっ、て!」

 

ㅤ焔斗と紫紅の兄妹の戦いは、紫紅が優勢のまま続いていた。段々と慣れてはきたが、未だに紫紅の速さについていけていないのだ。またもやメイスを叩き込まれる。纏装状態だからこそ、致命傷までには至ってないが、それでもかなり危うい。

 

(くそ、ダメだ。このまま持久戦になったらこっちがバテる!『焔ノ鼓舞』使ってもいいが、なにか糸口が……そうだ!)

 

「紫紅!なんで俺を殺すんだ?理由を聞かせてくれよ!」

 

ㅤ洗脳と思って会話は無理と考えていたが、よくよく振り返ってみれば、しっかりと会話は成り立っていた。ならば、ただ単に殺すではなく、何かしら理由、思考を植え付けられてる可能性がある。

 

「ん?お兄ちゃんを助けるためだよ?だから早く殺されてよ?」

 

「は?待て待て、俺を助けるために殺す?意味がわからないんだが?」

 

「はぁ……わかった、何も分からず殺されるのも嫌だろうし、話すね?でも時間ないかもだから、手短に。」

 

ㅤそう言って紫紅は、しゃろんに植え付けられた考え方を説明し始める。普通に考えておかしい事なのだが、洗脳されているのでそこは気にならない。指摘されなければ。

 

「待て待て待て!そんな蘇生魔法ホントにあるのか?そもそも、その見た未来っていうのはホントに未来なのか?助けるために殺すって、もし運命ならそんなんで回避出来るわけないだろ!?」

 

「だから!回避できるからお兄ちゃんを助けるの!お兄ちゃんを殺……して……?あれ?あたし、何を……」

 

ㅤ一瞬迷ったような顔を見せ、直ぐに頭を横に振り、元の好戦的な顔に戻る。

 

(随分と荒い洗脳だな……こんなの、矛盾を突かれたら揺らぐじゃねえか……。そもそも、俺たちを戦わせることだけが目的か?でも、これが分かったところで、今の指摘じゃ意味が無さそうだし……ここはもう全力を出すしか……)

 

ㅤそう考えていると、紫紅の魔力がジワジワと上がっていることに気づいた。

 

「っ?何をする気だ!」

 

「もう迷わせないで!こうなったら、こうなったら一気に決めてやる!『紅雷纏装』!!!」

 

ㅤ紫紅がついに、『紅雷纏装』を使った。髪が赤くなり、左目の横のこめかみ辺りから頬にかけてタトゥーのような赤い模様が現れる。服装はメイド服から変わり、赤を基調とした服へと変わる。背中からはALOのサラマンダーの羽に似たものが出現した。その名の通り、紅い雷を纏っている。

 

(しまった、先に全力を出された!こっちも『焔ノ鼓舞』で……)

 

ㅤ焔斗も『焔ノ鼓舞』で自身にバフをかける。紅い焔がさらに深く紅く輝く。

 

「よし、止めさせてもらっ!?」

 

「今の感じだと、追えないんだね、今のあたしの速さ。ふふ。」

 

ㅤいつの間にか焔斗の背後にまで来ており、すれ違いざまに無数の攻撃を当てられたらしい。体の各所に、猛烈な衝撃と痛みが発生する。

 

「ぐっ……!?」

 

「終わりだよお兄ちゃん。さよなら。いや、またね、かな?」

 

ㅤ魔力の込められた一撃が、焔斗を襲う。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

(まずいですね……。)

 

ㅤしゃろんと戦いながら、彼女が焔斗と紫紅の戦いを見るために設置した、水晶に映る映像を横目に見ながらトモは思う。

 

(お兄さんも、相当の実力をおもちだったようですが……完全に押されてますね。やはり、相手が大切な妹だと攻撃に躊躇いが出ているのでしょうか。)

 

「考え事なんてしてる暇あるの?『黒ノ炎禍』」(くろのえんか)

 

「くっ、!」

 

ㅤよそ見をしている隙に、しゃろんが攻撃を放つ。その攻撃はトモに届く直前で蒼い氷にかき消された。

 

「トモ!心配なのは分かるけど、今は集中しろ!思ったより強い!」

 

ㅤこんなに本気な春輝は滅多に見ない。それほどまでに、しゃろんは強かった。何せ、この二人を相手にここまでやり合えているのだ。正直この強さは計算外である。前回、全力を出せなかったのもあって、甘くみすぎていたようだ。

 

「早く終わらせましょう、春輝様。全力で。」

 

「っ、はは、わかったよ♪……やるぞ。『蒼氷薔薇纏装』。」(そうひょうばらてんそう)

 

「ええ。『竜帝ノ加護』。」(りゅうていのかご)

 

ㅤ春輝は、蒼い氷の薔薇が装飾された服とマントになる。いかにも王子様キラキラオーラだ。対してトモは、今よりさらに竜の鱗の強度が増し、服装も執事服から竜の模様が刺繍された、暗殺者風の装いになる。

 

「あはは!とうとう本気かな?焦ったかな?……んー、ちょっと、ヤバいかも……『深黒炎纏装』!」

 

ㅤさすがに今のままだと対処出来ない、と判断したしゃろんは、纏装をさらに強くする。黒より黒い、という表現はここで使うのが正しいのだろうか。魔女服等も全て真っ黒に変わり、黒い炎を纏っている。

 

「こっちも本気だよ。アハハ!」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ天界。夢の間。天界の一部に設けられた、夢ノ神専用の敷地。そこで一人、魔界の様子を観察する夢ノ神、ユメがいた。

 

「魔界に、夢を使った技を使う人がいるって聞いたから、興味本意で見てみたけれど。大したことないじゃない。それに、この技は性質的に私が使うのとは全くの別系統。少しガッカリだわ。」

 

ㅤ緑の髪で童顔な彼女は、溜息をつきながら肩を落とす。夢に関する魔法を使った下界人がいると聞いて、興味津々だったのだが、それは期待していたようなものでは無かった。

 

「夢って言ってもこれじゃ、ただの精神攻撃じゃない。夢魔法と言うよりは、幻惑魔法ね。」

 

ㅤまあ厳密に言えば私たちが使うのは魔法じゃないけど、と呟きながら、ふわふわと浮かぶ雲に座る。

 

「それにしても、この兄妹といい、魔女といい。低レベルな戦いね。唯一まともなのは……。」

 

ㅤそう言いながら、ユメは視線を魔王同士の戦いが映る水晶へと向ける。降臨メンバーであり、序列九位の彼女にとって、下界のことを探っておきたいのは当たり前のことであった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ魔界から離れた荒野。二人の魔王がぶつかり合っていた。

 

「『紅キ氷ノ円舞曲』」(あかきこおりのわるつ)

 

ㅤシハクがそう言うと同時に、彼を中心に紅い氷が辺りを埋め尽くす。無論、レーヴァテインを巻き込む形で、だ。

 

「ふん、こんな氷、俺には効かんぞ!」

 

ㅤそう言いながら、禁忌ノ焔で氷を溶かして砕く。氷は彼にとって相性が良すぎるのだ。……普通なら。

 

「!?ちっ、さすがだな。」

 

ㅤ最初は、レーヴァテインの焔が氷を溶かしていたのだが、やがて氷がその焔を凍らせはじめた。相手だって魔王だ、このくらいのことは出来る。

 

「この程度の焔で俺の氷は溶かせんぞ?……ちょっとだけ溶けたけど。」

 

ㅤ魔王なのだから当たり前だが、やってる事が常人離れしている二人。そもそも、これで小手調べなのだ。全く本気を出していない。

 

「そろそろ、準備運動は終わりにしようぜ。俺の焔で焼き尽くしてやる。」

 

「いいだろう。我が氷で永久に眠らせてやろう。」

 

ㅤ現界の魔王と魔界の魔王の本気の対決が、今始まった。

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは、

サトシさん(サトシ)
春輝さん(春輝)
トモさん(トモ)
shihakuさん(シハク)
Revatainnさん(レーヴァテイン)
しゃろんさん(しゃろん)

初登場の夢さん(ユメ)

でした!
ありがとうございました!

次回
『最後の切り札』

お楽しみに!


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第4話『最後の切り札』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ついに再会した兄妹。
各所で起こる戦闘。
果たして、紫紅を取り戻すことは出来るのか。
劣勢にも関わらず、逃げないしゃろん、その謎の余裕の理由とは……。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「終わりだよ、お兄ちゃん。さよなら。いや、またね、かな?」

 

ㅤそう言いながら、最後の一撃が焔斗の身体に打ち込まれる。あまりの衝撃に、左腕と右足がちぎれて吹っ飛ぶ。

 

「あ、ごめんお兄ちゃん。手と足ちぎれちゃった……あはは。でも大丈夫だよ。復活させれば手と足も戻ってくるからね……ふふふ。」

 

ㅤ不気味に笑いながら、手足のちぎれた焔斗にゆっくりと近づく紫紅。少し、やりすぎたと思ったが、再生させれば問題ないと自分に言い聞かせる。これで、これでお兄ちゃんの運命を変えられると歓喜する。そして、その手が焔斗の亡骸に触れようとした瞬間。

 

「っえ!?」

 

ㅤ焔斗の亡骸が紅い焔へと変化し、うねり出す。そのまま、紫紅の足元に魔法陣が構築され、焔の糸で紫紅を拘束する。

 

「昔から、こういう搦手は苦手だもんな……紫紅。」

 

ㅤ崩れた瓦礫の影から、焔斗が出てくる。初手、吹っ飛ばされた際に立ち上がらせたのは、焔斗が作った焔の分身だった。無論、声やセリフは言わせてるので、そこは遠隔操作している。

 

「ふふ、さすがお兄ちゃん。しぶといなぁ。頭使うよね、いっつも。ゲームでそこだけは叶わないもん、でもさ。」

 

ㅤ紫紅は、紅雷で一気に拘束をぶち破った。切られた焔の糸が霧散し、魔法陣も消滅した。

 

「こんな拘束、意味ないわよ!」

 

ㅤそう言って、再び焔斗をぶっ飛ばそうと力を込めた瞬間。

 

「がっ!?げほ、ごほ……なに……げほ、これ……。」

 

ㅤ急に呼吸が苦しくなった紫紅が咳き込みだし、そのまま呼吸困難で膝を着いてしまう。

 

「そんなことも、予想しないわけが無いだろ?今のを破られるのは想定済みさ。だから、あの焔に少し細工をしたんだ。まあ、煙を吸った時くらいだと思うぜ。害もない、安心しろ。」

 

ㅤ焔の糸が破られた際、完全には消滅せず、霧状になって紫紅の呼吸器官の中に侵入させた。先程も言ったように、煙を吸ったようなイメージだ。毒性の害は無いが、呼吸がまともに出来なければ何も出来ない。意図的に息を止めていたならまだしも、突発的な出来事のため、そんな暇はなかった。

ㅤそんな状態では『紅雷纏装』も維持出来ず、通常に戻ってしまう。そこまで見たところで、焔斗は紫紅に接近し、優しく、しかし強く抱きしめた。

 

「一人で寂しかったろ?ごめんな、一人にして。ほら、お兄ちゃんだぞ紫紅。やっと会えた、再会できたんだ。何をどうやって刷り込まれたのかは知らないけど、戻ってこい、紫紅!!」

 

「や、だ……はな、げほ、して……こほ。」

 

ㅤ力も入らないが、なんとか雷を出して焔斗を弾き飛ばそうとする紫紅。だが、そんな痛みに屈することなく、焔斗は紫紅をぎゅっと抱きしめる。そして、自分の魔力を紫紅に送りながら語りかけることで、より深く思いが伝わるようにする。

 

「兄ちゃんが死ぬわけないだろ?そんな嘘に騙されないでさ、ほら、危なかったら守ってくれよ。俺も、紫紅を守るからさ。」

 

ㅤ段々と、雷が弱まっていく。紫紅の心が、記憶が、少しずつ戻っていく。

 

「お兄……ちゃ……ん?」

 

ㅤ自分を抱きしめる、よく知った懐かしい感覚。お兄ちゃんの暖かさ。お兄ちゃんの声。

 

「お兄ちゃん!……おにい……ちゃん。」

 

ㅤずっと、ずっと会いたいと思っていたお兄ちゃんを必死に抱きしめる。もう離さないと言わんばかりに、ぎゅっと。そして、自分が何をしてきたかを思い出す。

 

「あ、ご、ごめんなさいお兄ちゃん……あたし……あたし……」

 

ㅤやっと会えた、解き放たれた嬉しさと、お兄ちゃんにした事の申し訳なさで、両目から大粒の雫があふれる。

 

「大丈夫だ、紫紅。そりゃちょっと痛かったけど、別に大怪我なんてしてないし、ほら。ちゃんと生きてるだろ?」

 

ㅤよしよし、と愛する妹の頭を撫でながらそう語り掛ける。大怪我は無い、とは言ったものの、最初の一撃で骨は何本か折れている。それが分からない紫紅では無い。撫でてもらいながらも、涙を流す。こうして、紫紅の洗脳は完全に解けたのであった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「『黒嵐炎』。」(こくらんえん)

 

ㅤしゃろんが放つ黒い炎の嵐が、トモと春輝を襲う。が、二人はそれをなんなく切り抜ける。

 

「っ、やっぱきついなぁ!」

 

「『竜帝ノ鉤爪』」(りゅうていのかぎづめ)

 

「『氷薔薇ノ鎮魂歌』」(ひょうばらのレクイエム)

 

ㅤトモと春輝の反撃の技が、しゃろんを襲う。深く切り裂く竜の爪の如く斬りかかってくる短剣、氷の薔薇がその斬撃から逃がすまいと逃げ場を埋めつくしていく。

 

「ちっ、めんどくさいなぁ!」

 

ㅤしゃろんは背後に向かって思いっきり黒炎を放ち、氷の薔薇を溶かす。そして後ろに退避した、その瞬間。

 

「ぐっ!?」

 

ㅤ背中に衝撃が走る。見てみると、先程斬撃を放ったトモの前と、しゃろんの背後に空間の裂け目が出現している。サトシだ。空間転移を利用して、本来届かなかったトモの斬撃を見事しゃろんに当てることに成功した。そして、サトシが戦いに介入してきたということはつまり、

 

(紫紅さんは、無事正気を取り戻せたようですね!良かった。)

 

ㅤサトシには、光玉を奪った後、空間の狭間でいるようにと指示していた。下手に裂け目を開いて戦いに参戦すれば、その隙に入られ、光玉を取り戻してしまうかもしれないからだ。戦いに参加するのは、紫紅が本当に助かったと確信した時のみ。

 

「くっ、なんで!?完璧な洗脳だったはずよ!?それがどうして……」

 

「完璧なわけないでしょう!あんな無理矢理差し替えられた記憶、感情なんて、兄妹の絆の前じゃ無力同然です!」

 

ㅤトモが感情を露わにして叫ぶ。春輝でさえ少し驚くほど、彼が感情を露わにするのはとても珍しいことだった。大抵は笑顔の圧をかけてくるくらいなのだ。それはそれで怖いのは変わらないが。

 

「ですが、これでほんとにあなたの命を狙えますよ。もし、洗脳が解けなければ、拷問してでも吐き出させるつもりでしたからね。」

 

ㅤさらっと怖いことを言っているトモだが、その目は本気だった。本気でしゃろんを潰そうとしている。もちろん、それは春輝も同じだった。

 

「家族の、兄妹の、絆を弄んだ。今回のはやりすぎたよ、しゃろん。俺でも本気で怒っちゃうくらいには、ね。」

 

ㅤ冷気を身に纏いながらそう言う春輝。そんな二人を見て、流石のしゃろんもたじろぐ。

 

「くっ、こんなとこで、死ぬ訳にも行かないのよ!我が命、力となれ!『生命ノ黒炎』!」

 

ㅤしゃろんが、自分の寿命を削り更なる魔力上昇をする。その炎は、その黒い闇に対象を取り込みながら、確実に灰にしていく。

 

「うっ、ダメだトモ!これ、俺の氷も意味無いよ!」

 

「そのようですね……!厄介ですよ全く!『竜ノ翽』!」(りゅうのはばたき)

 

ㅤこの世界の生物は、魔力の得意属性はあるものの、なにもそれ以外が全く使えない訳では無い。現界で焔斗がやったように、空間にある魔力を消費し別属性魔法を放つ、いわゆる神聖術のようなこともできるが、自分の魔力でも、余程適性がない限りは他属性も使うことが可能だ。今、トモが使った『竜ノ翽』は、属性的には竜と風。こういった合わせ技も、もちろんあるのだ。

 

「風なら、何とかなるようですね!」

 

ㅤトモが巻き起こした風は、黒炎の侵略を遅らせる程度には機能していた。

 

「春輝様!この炎は私がなんとか食い止めますので、あとは、お願いします!」

 

「ああ、任せ……ろっ!」

 

ㅤ地面を強く蹴り、しゃろんに急接近する春輝。それに気づいたしゃろんが、慌てて黒炎を放つ。しかしそれを優雅に回避し、左手から氷の薔薇を射出する。

 

「そう簡単に、やられるかっ!」

 

ㅤその氷の薔薇をも、身に纏った黒炎で焼き払う。その隙に、更に春輝が接近する。眼前に迫る春輝に、仰け反りながらも黒炎の盾を前に展開する。が、

 

「焦ると単純になるよね、生物ってさ。」

 

「っ!うし、」

 

ㅤ瞬時に背後に回った春輝が、薇絶を振り下ろす。

 

「『断罪ノ蒼薔薇』」(だんざいのあおばら)

 

ㅤ今度こそ、攻撃が確実にしゃろんに当たり、深く傷を入れた。

 

「ぐっ、う……。まだだ!」

 

ㅤその深い傷を、しゃろんは無理矢理炎で焼いて止血する。そしてそのまま、春輝に向かって全力の魔法を放つ。

 

「『黒キ終焉ノ炎禍』!」(くろきしゅうえんのえんか)

 

「っ!?くっ、」

 

ㅤ流石に、この距離で放たれる予備動作無しの魔法を避けるすべはない。春輝は、少しでもダメージを減らそうとより強く魔力を纏う。

 

「『風魔・天翔竜』!」(ふうま・てんしょうりゅう)

 

ㅤその間に、下から舞い上がるトモの斬撃。それは恐ろしいほどの豪風を発生させ、しゃろんの魔法を吹き飛ばした。無論、それほどの風なので春輝としゃろんも吹っ飛ばされる。

 

「弟子を……傷つけることも、奉仕するべき相手である……春輝様を傷つけることも、私が……許すわけが無いでしょう……!」

 

ㅤ強く言っているものの、トモも今ので魔力を使い果たしている。纏装は解け、元の執事服に戻っている。

 

「ふふ、あはは!そうかい!じゃあこれも止めれるんでしょうね?今の状態だと無理そうだけど、ね!」

 

「なっ!?」

 

ㅤ吹き飛ばして、バラバラになったかに見えた黒炎。それが再び集まり、春輝の傍で元の形へと戻る。そして、そのまま春輝の方へと射出される。今回も急なゼロ距離、だが。

 

「春輝様!」

 

「過小評価しすぎだよ。『蒼氷・烈円舞』」(そうひょう・れつえんぶ)

 

ㅤ予備動作無しでくりだされた春輝の技が、しゃろんの炎を今度こそ完全に消し去る。そして、全方位に向かって氷の刃が射出される。しゃろんを狙っている訳でも無く、大して意味が無い攻撃に見えた。しかし、

 

「!?、しまっ、」

 

ㅤ確かに、春輝が放った氷の刃はしゃろんを狙えておらず、四方八方に飛んでいた。だが、その飛んで行った氷の刃が物にぶつかってしまう寸前。各々の場所で空間が裂け、それを飲み込み、同時にしゃろんの周囲に、空間の裂け目が現れる。サトシが、あらゆる所に飛来する春輝の氷の刃を回収し、全てしゃろんに届くよう空間転移させたのだ。

 

「ぐっ、がはっ!?」

 

ㅤもちろん、しゃろんに回避する術などなく、全ての刃が直撃する。その数おおよそ百と言ったところだろうか。回避不可能の包囲攻撃。逃げ場なんてものはなかった。

 

「う……。」

 

ㅤしゃろんは倒れて動けなくなっていたが、それでもあれだけの攻撃を受けて生きているのが不思議なくらいだ。

 

「しゃろん様、当然の報いですよ。戦闘狂で自分で戦うのが好きなあなたが、何故こんなことに興味を持ったのかは知りませんが。大切な仲間や友人、そういう関係の者が傷つけられた時の怒り、それが生み出す力というのは計り知れないものです。今まで観察してきた割には、その辺は疎かったようで。ですが、あなたを許すつもりなんてないので。ここで、消えてもらいます。」

 

ㅤトモがしゃろんに向かってゆっくりと歩き始める。距離は近くは無いが、仮に罠が設置されていれば、急ぐと魔力がない今、回避が出来ないかもしれない。だからこそ慎重に歩くことを選んだ。━━━━━それが、間違いだった。一気に詰めてとどめを刺すべきだった。

 

「あ、はは!これ、なーんだ?」

 

ㅤそう言いながら、しゃろんは手を掲げて紅く光る光玉を出現させる。真紅というのがお似合いの紅さだ。

 

「っ!?それは!?いや、でも誰の?」

 

ㅤニヤリとしゃろんが笑う。春輝も嫌な予感を感じ取ったのか、今出せる全力で走ってくる。サトシは、さっきの大技のせいで転移がもう少しの間使えない。転移魔法は、術者にもそれほど負担がかかるのだ。ふと、こんな中でも壊れなかった水晶玉が目に映る。向こうでは、焔斗が紫紅を慰めて元気付ける為に頑張っていた。自らの魔力を使って、手の上で焔を操り、ちょっとした芸を見せていた。決して上手い訳では無いが、必死にやっている焔斗の姿に、自然と紫紅も笑顔になる。微笑ましい場面だった。焔斗が使っている焔の色は、”紅”、それも”真紅”と言うにふさわしい色。

 

「まさかっ!?」

 

「あたしが接触したのは、妹だけじゃないって、言わなかったっけ?忘れたけど、まあ、もう一局見せてよ!あはは!」

 

「待てっ……!」

 

「ちっ!」

 

ㅤ春輝とトモが、今出せる全速力で阻止しようと向かう。やっと転移が使えるようになったサトシが、空間を裂いて現れようとする。しかし、あと一歩のところで。

 

「さよなら、焔斗君?あはは!」

 

ㅤ最後の切り札、と用意していたしゃろんの持つ光玉が、砕け散った。━━━━それは同時に、焔斗の心を壊すための魔法が作動したことを意味した。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ほれっ、あれ?んー、そりゃ!……んー?」

 

ㅤ魔王城の方では、紫紅を元気づけるべく、やったことも無い魔法でやる芸を披露しようとしていた。もちろん、やったことがないので上手くいく訳もなく。SAOIFのアバターを焔で作り、モーションをさせようとしたのだが、思ったように行かない。この世界の戦闘では、なんやかんやイメージでゴリ押しできていたため、もしかしたらと思ったがどうやらそう簡単には行かないらしい。

 

「ふふ、お兄ちゃんったら、やったことないのにできると思ったの?もう。でも、ありがとね。」

 

ㅤ座り込んで成功させようと頑張る焔斗の横に座り、そっと寄り添う。少し気も落ち着き、今の焔斗のおかげで、少し笑顔にもなれた。

 

「落ち着いてきたみたいだな。よかった……。」

 

ㅤ芸をやるのをやめ、大切な妹の頭を撫でる。ふにゃ、と和らぐ可愛い妹。やっと、やっと再会出来たんだと嬉しくなる。そして、今一度抱きしめようとした、その瞬間。

 

ドクンッ

 

「!?、く……!?」

 

ㅤ突如、胸が苦しくなり、後ずさる。

 

(なん、だ……?これ、苦しい……。)

 

「お兄、ちゃん?」

 

ㅤ視界に、心配そうにこちらを見る紫紅を捉え、早く立ち直らなければと思う。恐らく彼女は今、自分が与えた傷が悪影響を及ぼしているのではないかと不安になっているだろう。兄としてそんな不安は拭ってやらなければ。だが、そんな意志とは別に、意識が遠のいていく。これは、感覚的に傷や疲れがどうこうではなく、別の何かが起こっているようだった。心が、魂が崩れていく。そんな感覚。

 

(やば……い、これは、)

 

「お兄ちゃん?、だ、大丈夫?」

 

ㅤ紫紅が心配そうに近づいてくる。ダメだ、近づくなと言おうとしたが、口が思うように動かない。いよいよ心配になった紫紅が、焔斗の肩を掴んだ時、焔斗の意識も完全に消えた。

 

 

「お兄ちゃん?、お兄ちゃん!!ねえ、お兄ちゃんってば!」

 

ㅤ必死に呼びかける紫紅。もしや自分が傷つけたものが、今になってと思うと、気が気でならない。しかし、焔斗は頭を下げたまま、微動だにもせず。

 

「お兄、ちゃん?」

 

ㅤせめて表情を見ようと、更に焔斗に近づいた瞬間。

 

ドゴッ

 

「……え?」

 

ㅤ無防備な紫紅の体にめり込んだ、焔斗のメイス。そのまま思いきり振り抜かれ、吹っ飛ばされた。




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは、

トモさん(トモ)
春輝さん(春輝)
しゃろんさん(しゃろん)
サトシさん(サトシ)

でした!ありがとうございました!

次回
第5話『サトシ&のぞみ&アル』
お楽しみに!


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第5話『サトシ&のぞみ&アル』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
紫紅の洗脳も解け、しゃろんとの戦いも終わり。
これで解決だと思った時、しゃろんの最後の切り札によって、焔斗の心が破壊される。この先、一体どうなるのだろうか。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

「『紅キ氷ノ五月雨』」(あかきこおりのさみだれ)

 

「『禁忌ノ焔剣・紫焔鳴衝斬』」(きんきのえんけん・しえんめいしょうざん)

 

‌ ‌紅い氷と紫の焔がぶつかり合う。シハクのレイピアから降り注ぐ紅氷の雨を、レーヴァテインの禁忌の焔が薙ぎ払う。ここまでの勝負は全くの互角。平均的に弱い現界に住む魔王も、魔界の魔王と対等に渡り合えた。

 

「キリがないな……!そろそろ全力で……。」

 

「いや、辞めよう。」

 

 ‌全力の戦い方はしていたものの、魔力を全力で放っている訳では無かった。そこで、そっちも全力を出そうとしたレーヴァテインをシハクが止める。

 

「何故……?」

 

「現界の奴だからと、少し過小評価しすぎていたようだ。今の俺たちが全力の魔力を出せば、魔界の大半が無事ではない。そんなことは避けたいからね。」

 

「……なるほど、納得。」

 

 ‌確かに、本来この二人は戦うべきではない。その力が膨大すぎて、ぶつかれば周りに及ぼす影響が多すぎるのだ。二人は纏装を解除して終戦とした。

 

「さて、あっちはどうなってるかな。……ほう。」

 

「あの馬鹿、あっさり自我を失いやがって。」

 

 ‌魔王城としゃろんの方に意識を向けて、状況をある程度把握する。妹を助けると言って意気込んでた焔斗が、逆に自我を失って妹を殴り飛ばしているのにレーヴァテインは呆れた。

 

「助けに行かないのかい?」

 

「俺が行ったらそりゃ、すぐ解決になるとは思うけどよ。でも、それじゃダメなんだ。これは、あいつらで解決しないと……。」

 

「そうかい。」

 

「あんたこそ、行かなくていいのか?」

 

 ‌今助けに行ける者と言うなら、横にいるシハクだって同じだ。レーヴァテインの問いかけに苦笑しながら、シハクは答える。

 

「私は傍観者なのでね。別にどっちの味方に着く気もないよ。まあ、仲間が傷つけられたら話は別だけど、彼女は別に仲間って訳でもないしね。」

 

「ははっ、そうかよ。」

 

「だが。」

 

 ‌そこでシハクが少し真剣な表情になり、言葉を紡ぐ。

 

「しゃろん、あいつは少し引っかかる。そっちの様子は見に行くとするよ。」

 

「へえ、まあ、好きにしろよ。俺は手伝わねえぞ。」

 

「助けなど要らん。分かってるだろ?」

 

「へっ、まあな。」

 

 ‌その会話を最後に、魔王達は別れ、シハクはしゃろんの元へと向かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ‌魔王城としゃろんの館の間の道。

 

「トモ!無理するなよっ!」

 

「くっ、ですが……!」

 

 ‌水晶玉で、焔斗達の様子を見たを見た春輝とトモは、急いで魔王城に戻ろうとしていた。だが、トモの魔力はほぼ残っておらず、まともに速度をあげることも出来ない。春輝はトモほど枯渇している訳では無いが、それでも辛いところだった。ちなみに、サトシは空間転移を使えるようになり次第転移する予定だ。彼は魔力が完全にある訳では無いが、二人よりは温存できている。大技を使ったせいで空間転移に制限がかかっているが、それももうすぐ解ける。

 

「し、仕方ありません、ここは……。」

 

「馬鹿っ!それはやめとけ!魔力がほとんどない状態で使えば暴走することくらい分かるだろ!」

 

「う……。」

 

 ‌しゃろん戦では、奪還というのもあり使わなかったトモの最後の切り札、『竜化』。文字通りの技なのだが、魔力が残っていないと理性を保てなくなり、ただの破壊衝動しかない竜となる。それでは意味が無い。

 

「大丈夫だよ、サトシも向かってるし、ほら。まだ頼れる者がいるじゃないか。」

 

「そう、ですね……。」

 

 ‌まだ、戦っていない者達を思いながら、トモは彼らに託すと決めた。

 

(頼みましたよ、サトシ様、のぞみさん、そして、アル。)

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「お兄ちゃん、なん、でっ!」

 

 ‌紫紅は不意打ちの一撃を受け、左腕が折れてしまったが、それでも何とか纏装を使って焔斗の猛攻を回避していた。

 

「答えてよ、ねえ!」

 

 ‌そう呼びかけるも、焔斗から答えは帰ってこない。仕組みは分からないが、自分と同じように洗脳されていると思った。しかし、違うようだ。洗脳されただけなら、何か話すはずだ。先程までの紫紅のように。だが、目の前の焔斗はずっと黙り込んだまま、無表情で目に気力もなく。ただ心の無いロボットのように、紫紅を襲う。

 

「っ、やば、!」

 

 ‌流石に、左腕が折れているのと、この状況への戸惑いから動きのキレが落ちてしまっていた。それだけでは無い、焔斗もさっきまでより明らかに強くなっている。右脚に一撃、焔斗のメイスによる攻撃が命中した。

 

「あっ……!?」

 

 ‌確実に骨の折れた音がした。そのまま、回転しながら吹っ飛ばされて壁に激突する。

 

「あ、脚が……!くっ、!」

 

 ‌脚まで折れてしまっては、もう回避することも出来ない。もちろん、魔力による飛行は出来るが、スピードはそこまで出ないので意味が無い。ゆっくりと、焔斗が歩いてくる。

 

「あ、やめ、て……おに、ちゃん……。おこっ、てるの?謝る、からさ。許されないことやったって、分かってる。けど、償うから、許して、お兄ちゃん……。」

 

 ‌焔斗からの反応はなく、同じ速度で近づいてくる。動けなくなって、より恐怖が押し寄せた。

 

「お兄……ちゃ……ん。ごめんなさい……!」

 

 ‌そこで紫紅は、ふと思った。

 

(違う、許してもらう必要なんてないんだ、そもそも、許されることじゃないから。むしろ、これは、これこそ償いなのかもしれない。洗脳されて、お兄ちゃんを殺そうとした罰。そうよ、それなら、それならあたしは……)

 

 ‌そう考えることで、恐怖という感情は薄れていき、体の震えも止まる。これは、自分への罰だと、そう思うことによって、今の状況を受け入れてしまったのだ。

 ‌紫紅の目の前まで来た焔斗が、大きくメイスを振りかぶる。あれが振り下ろされたら、恐らく紫紅の命はないだろう。

 

「ごめんね、お兄ちゃん。ありがとう、罰をくれて。」

 

 ‌振り下ろされるメイス。流石に、直撃の瞬間は恐く、目を瞑る。しかし、聞こえてきたのは、

 

「きゅるーーー!!!」

 

 ‌聞き覚えのある鳴き声。上から潰される感覚ではなく、横から押し出される感覚が体を襲う。そして、

 

「おねーちゃんに、何してるのーー!!!『地烈衝破』!!」

 

 ‌聞き覚えのある声が、焔斗に迫り、そのまま何かがぶっ飛ばされる音が聞こえた。

 

「え……?」

 

 ‌おそるおそる目を開けると、そこにはトモのペットのアルと、自称妹ののぞみがいた。

 

「おねーちゃん、大丈夫!?あいつ、なんなの!?とりあえずぶっ飛ばしたけど、なんか、」

 

 ‌似てる、と言いたいのだろう。だが、目の前で紫紅がやられていた相手を似ている、とは言いたくなさそうだった。

 

「うん、お兄ちゃん、だから。」

 

「えっ!?」

 

 ‌驚くのぞみだったが、ゆっくり考える暇もなく焔斗が再び攻撃を仕掛ける。一撃目は何とか凌いだが、ここで体制を崩してしまい、ニ撃目を対処出来そうになかった。

 

「『闇陰ノ斬撃』!」(あんいんのざんげき)

 

 ‌そこに、空間転移で現れたサトシが割って入る。なんとかそのニ撃目を凌ぎ、焔斗から距離をとる。

 

「アル、は知ってると思うけど、後の二人には軽く説明するよ!今の彼、焔斗さんは、しゃろんに心を壊された状態なんだ!それを操っているのか、単に破壊行動をするだけの殺戮者になったのか、それは分からないけど、ね。」

 

「そ、そんな……!それって、心って、戻る、わよね……?」

 

 ‌おそるおそる紫紅が問いかける。もし、これでもう焔斗は元通りにならない、なんてことになったら耐えられる気がしない。それこそ、兄を追って……なんてことにもなりかねない。返ってきたサトシの答えは、大変ではあるものの、全く希望が無いわけでもなかった。

 

「いや、確かに心を治す方法なんて知らないし、分からないけど。でも、焔斗さんに関する記憶や想い、絆があれば治せる、そんな気がするんだ!」

 

「そ、そんな感情論な!」

 

 ‌思わずのぞみが声を上げる。それもそうだ、治るかもとは言ってるものの、不確定だし、記憶だの絆だの、具体的な方法が無いものばかり述べられても困る。

 

「ごめん、俺も分からないんだ。こんなことを知ってるのはしゃろんくらいだろうし、アレはもうやっつけてしまったからね。でも、こういう時は可能性のあることはやらないと、ね。」

 

 ‌一瞬、しゃろんが倒されているのになぜ、と思ったが、心が壊されているなら、それは洗脳では無いので、元に戻るわけもない。そう納得した上で、紫紅は立ち上がろうとした。

 

「っ!?あ、う……。」

 

 ‌紫紅の左腕と右脚の骨は折れたままだ。戦力にはなれそうにない。不幸にも、ここには回復魔法が使える者もいなかった。

 

「大丈夫だよ、おねーちゃん。わたしたちが、おにーさんを止めてみせるから。」

 

「きゅい!」

 

「うん、だから取り押さえた時、とにかく焔斗さんの正気が戻りそうなことを、片っ端からやって欲しい。」

 

 ‌彼らからそう言われ、紫紅も決心がついた。一瞬病みかけたが、もう大丈夫だ。焔斗の心をを取り戻すために、全力を尽くす。

 

「わかったわ。任せたわよ、みんな!」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ‌しゃろんの館。倒された彼女の体が床にころがっている。そこに、物陰からしゃろんが現れた。

 

「はあ……一番魔力込めてた個体で負けるなんて……。まあ、相手があの二人じゃ仕方ないか。それにしても……あはは!念の為にしかけておくものだよね〜やっぱ!今回のは紫紅ちゃんとは違うよ〜?何せ、心壊したから、ね♡」

 

 ‌しゃろんは生きていた。トモと春輝が戦ったのは、彼女が作った分身であり、能力こそほぼ完全にコピーしておいたものの、分身のため本体には全くダメージがない。

 

「まあ、そのせいで今のあたしの魔力もほぼ枯渇してるけど……。命あってなんぼだもんね!魔力はまた練り直せばいいよね!あはは!」

 

 ‌そう言いながら、水晶玉を手に取る。その中に映る光景を見ながら、最高にニヤつく。

 

「さあ、焔斗君?あたしの命令通りに動く奴隷と化した君。妹を殺しちゃいなさい?そして、抗う紫紅ちゃんの姿、戸惑う姿を見せなさい!あはははは!」

 

 ‌ボロボロになった急設の館に、しゃろんの邪悪な笑い声が響き渡った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「流石に強いな……!」

 

 ‌空間転移のゲートを複数開きながら、サトシが苦しそうにぼやく。今回の戦闘スタイルは、とにかくのぞみとアルに合わせて空間転移ゲートを開き、確実に攻撃が焔斗に、当たるよう仕向けること。これが、いつも一緒に戦う人が相手ならやりやすいのだが、アルはまだしも、のぞみとは一緒に戦ったことがない。彼女の無茶な戦い方にヒヤヒヤさせられながら、なんとかテンポを合わせていた。

 ‌普段の焔斗相手なら、これだけの戦力があれば充分制圧できる。だが、今は心を壊されたことにより力のリミッターが外れており、身体への負担を完全に無視して戦っている。その上、黒い魔力、つまりしゃろんの魔力による強化が入っている。とにかく被弾だけはしたくなかった。今戦っているメンツが一人欠けただけで、戦線維持不可となる。悪魔の力は出来ればこれ以上の出力で使いたくない。

 

(でも、しゃろんは死んだはず……、なのになんで……。生きてるって言うのか……?あれだけの猛攻を受けて……?)

 

 ‌戦闘とは関係ない余計なことを考えてしまったからか、ゲートのテンポが少しズレた。

 

「やばっ!?」

 

 ‌ゲートを信じて突っ込んだのぞみが、転移されることなく、焔斗に突っ込む。あれでは反撃を受けてしまう。焔斗が反応し、高速で片手棍を振り払う。直撃するかと思われた瞬間、のぞみはその攻撃を生身の腕で受け、流した。

 

「生身で受け流した!?」

 

「目を覚ましてよ!このバカーーーーーー!『天地崩落』!!!」(てんちほうらく)

 

 ‌そのまま反撃に出たのぞみが、渾身の一撃を焔斗の脳天に打ち込む。空中に跳躍していたため、思いっきり地面に叩き落とされる。大きなクレーターが出来上がった。

 

「きゅー!」

 

 ‌叩き落とされ、身動きが取れない焔斗をアルが魔法で拘束する。力を入れられないよう工夫された拘束方法だ。トモの直伝である。基本的にトモが動かないことなんてないので、今回が初披露となったが、やはり教えていて良かったと後にトモは思った。

 

「きゅ〜。」

 

 ‌アルは紫紅に近づき、背中に乗せて焔斗の元まで運ぶ。サトシ達は警戒状態を保ちながら、その様子を見守る。紫紅は、拘束され動かなくなった焔斗の顔を、自分にもよく見えるように覗き込む。先程の一撃で流血はしているが、既に止血しているようだ。その開かれた目に光は無く、虚ろな目をしている。死んでいないのは分かるが、その見た目は紫紅の心を苦しめる。

 

「お兄ちゃん……あたしに傷つけられるのも、辛かったはずなのに、あたしを傷つけるなんて、絶対に嫌なことまでさせられて……。うう、ごめんね。でも、助けに来てくれてありがとう。今度は、あたしが……。」

 

 ‌言葉を紡ぐより、心で訴えかけた方がいい。そう判断した紫紅は、焔斗を片腕でぎゅっと抱きしめ、そして、その顔に片手を添え、そっと、顔を近づける。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「なんでよ!、なんで動かないの!この拘束どうなってんの!?」

 

 ‌しゃろんの館にて、拘束された焔斗を無理やりにでも動かそうと命令を出したり遠隔操作をしているしゃろんだったが、動かせなかった。トモの拘束だけでなく、別の力が邪魔している気がした。

 

(まさか、少しだけ心が残っているって言うの!?確かに、急ごしらえのやつだったけど、充分な破壊力だったはずよ!?)

 

 ‌そう焦っていると、唐突に背後に気配を感じた。

 

「なるほど、話だけ聞くと本当に狂ったのかと思ったが……いやはや……。」

 

「魔王シハク……!?」

 

 ‌しゃろんは、一応全体を監視していたのだが、焔斗の心を壊してからは魔王城の様子しか見ていなかった。そんな時に、魔力を抑えた魔王が動いても気に留めることなど出来るはずがなかったのだ。

 

「くっ、この、『黒炎……」

 

「遅い。」

 

「がっ!?」

 

 ‌シハクの右腕が、しゃろんを貫く。抜いた手に握られていたのは、黒い光玉。焔斗の心を壊す装置のようなものではなく、単に操るためだけの装置。

 

「まさか、私の右腕とも呼べるほど強い君が、洗脳なんかにかかるとはね。どんな奴が裏で動いているんだか……。それに、いつ仕掛けられた。ちっ。」

 

 ‌光玉を破壊しながら、舌打ちをする。確かにしゃろんは戦闘狂ではあったが、こんなことをするような奴ではなかった。ほんとに狂っていたならトドメをさしていたが、原因がわかったのでその必要は無い。シハクは、気を失ったしゃろんをベッドに寝かせ、目が覚めるのを優雅に座って待つことにした。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ふむ……。バレた上に、解かれてしまったか。まあよい。」

 

 ‌しゃろんの館とは比べ物にならない規模の魔女の舘。しかし、この館は空間ごと切り離されており、現界に居ても魔界に居ても、見ることは出来ない。その一部屋で、大きな水晶玉を眺めていた魔女がいた。彼女は、数ある魔女たちの中の女王。名を、メフィー。長い銀髪に、鋭い目。凛とした姿、いかにもトップらしい美貌であった。

 

「魔界ばかりは飽きてしまった。そうだな、現界にも手を出してみるとするか。そういえば、面白い者が居たな。獣人の国の者だったか。……なら、次の遊び相手は獣人の国にしましょうか……。ふふ、ふふふふふ。」

 

 ‌彼女しかいない部屋に、不気味な笑い声が響き渡った。

 

 




今回はここまで!
いかがでしたか?
正月休み満喫して更新遅れました_(:3 」∠)_
まあ、マイペースって言ってるし大丈夫、よね?w

今回登場したif民モチーフは、

shihakuさん(シハクさん)

Revatainnさん(レーヴァテイン)

春輝さん(春輝)

トモさん(トモ)(アル名付け)

サトシさん(サトシ)

のぞみさん(のぞみ)(元if民)

しゃろんさん(しゃろん)

でした!

メフィーはオリキャラです!

次回

第6話『お兄ちゃん、大好き。』

お楽しみに!


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第6話『お兄ちゃん、大好き』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
‌ㅤ心を壊された焔斗。暴走する彼をなんとかサトシ、のぞみ、アルの三名でくい止める。完全に拘束された状態、ここから彼の心を取り戻せるのだろうか……。
ㅤまた、黒幕と思われていたしゃろんの背後に、本当の黒幕が存在した。魔女王メフィーが次に目をつけたのは現界。次は一体どんな波乱がおこるのだろうか……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

ㅤ魔王城。拘束された焔斗の心に訴えかけるべく、紫紅は焔斗にゆっくりと顔を近づけていた。

 

「お兄ちゃん、あたしの、大好きなお兄ちゃん。帰ってきて、お願い……。ん……。」

 

ㅤそう言って、焔斗の唇に自分の唇を重ねる。強く思いを込めて。一度ではなく、何回も。焔斗への兄妹愛を、記憶を、思い出を頭の中で描きながら、焔斗の心に流し込むようにイメージして、キスを続ける。

 

「く……んむ?……?……!?ぷはっ!?し、紫紅!?」

 

「へ……?お、お兄ちゃん!目が覚めたの!?ほ、ほんと!?夢じゃないよね!?」

 

ㅤ意識が戻ったら可愛い妹にキスされていたのだ。驚くのも無理は無い。それに、元の世界とは見た目が違うので妙にドキドキしてしまう。

 

「な、なん、っつ!?」

 

ㅤ戸惑っていたら、急に頭痛が襲ってきた。体に無理させられていたのもあるが、最後の一撃、のぞみの『天地崩落』がかなりのダメージだった。それもそうだ、頭にメイスを直撃させられて何も無いわけが無い。

 

「お兄ちゃん!?まだ、心戻りきってないのかな……まかせて。チュ」

 

「んむ!?いや、大丈夫!戻ってるよんむ!?」

 

「あれ……?そう?なら良かった!!」

 

ㅤ紫紅が焔斗をキスから解放する。その様子を見て、もう大丈夫と判断したアルが、焔斗の拘束を解く。焔斗は各所痛むところに顔を歪めながらも、紫紅を改めて見て顔を青ざめさせた。

 

「紫紅……?腕と、脚……まさか、折れてる、のか?」

 

「え……?あ、うん……お兄ちゃんの心が治って嬉しくて忘れてた。えへへ。」

 

ㅤそう言って微笑む紫紅。だが、焔斗はうっすらと残る記憶からこれが自分がやったものだと分かった。助けに来たのに傷つけた上、助けられた。兄失格だ、と落胆しながらも、紫紅に近づいてぎゅっと抱きしめる。

 

「お兄ちゃんのぎゅーだ……えへへ。」

 

「ごめんな、紫紅……ほんとにごめん。……『不死鳥ノ焔』。」

 

ㅤ紅く優しい焔で、自分と紫紅を包み込む。紫紅の折れた骨や、傷、そして焔斗が負った傷もだんだんと癒えていく。

 

 

 

「お兄ちゃん……癒される……気持ちいい……。」

 

「俺も癒されるよ紫紅……。」

 

ㅤそして、焔が消える頃には二人の傷は完全に癒えていた。流石に、魔力まで元通りなんてことにはなってないが、これで身体的には回復した。

 

「凄い……何この魔法?」

 

「分からない、なんかできる気がしてやってみた。」

 

「さすがお兄ちゃんだね……。ぎゅー♪」

 

ㅤ腕も脚も治った紫紅は、今度こそ思う存分焔斗に抱きつく。大好きなお兄ちゃんの胸に頭をスリスリする。流石にキスは少し恥ずかしかったので照れ隠しでもある。嬉しくて涙を流しながら、二人は抱き合う。

 

「よしよし……。」

 

ㅤそんな可愛い妹の頭を優しく撫でる。今度こそ、大丈夫だ。やっと、妹と再会できたんだ。いつもは甘えてきて自立しろと思っていたが、久しぶりに会うと数倍可愛く思えてくる。俺の妹ってこんなに可愛かったっけ、と疑問になるくらいだ。

 

「良かったです。二人とも無事で。」

 

ㅤサトシがクレーターの中に降りてきて声をかける。なかなか声を掛けづらい状況だったが、このまま放置する訳にも行かない。

 

「おねーちゃん、良かったね!」

 

ㅤ続いてのぞみも降りてきて、笑顔で紫紅にそう呼びかける。さすがに空気を読んで抱きついたりはしていない。

 

「……?おねーちゃん?」

 

ㅤ事情を知らない焔斗は、不思議な顔をした。それもそうだ、確かに、相応の歳の女性をお姉さん等と呼ぶことはある。だが、紫紅はそれほどでは無い。次に浮かぶのは、義理の妹。つまりまさか、知らない間に結婚したのか……!?とオドオドしてると、紫紅本人から説明があった。

 

「な、なんだ、びっくりした……。」

 

「結婚とか興味無いよ〜。あたしはお兄ちゃんと暮らせたらそれで幸せだよ?」

 

ㅤそう言って上目遣いで語りかけてくる。めちゃくちゃ可愛いのだが、さすがに突っ込んだ。

 

「いや、それ俺が結婚したら無理だろ……。」

 

「へ?……うーん、お兄ちゃん結婚できるの?」

 

「失礼だな!?確かに言いたいことはわかるけども!」

 

ㅤ可愛い妹だが、たまに直球ストレートでこんなことを言ってくる。焔斗の心にぐっさりと刺さった。

 

「んー、まあでも、もしそうなったら仕方ないかな?あ、でもたまに甘えさせてね♡」

 

「お、おう……。」

 

ㅤそのたまに、というのがどのくらいの頻度なのか、そして言い方があざとすぎてドキッとしてしまう自分に苛立つ。

ㅤそんな会話をしていると、新しい足音が二つ近づいてきた。

 

「よかった、無事だったんですね。」

 

「やっほ〜♪傷ついた女の子は僕の胸に……あれ、完治してる。」

 

ㅤトモと春輝だ。魔力切れのため走ってきたのでかなり時間がかかった。本当は途中、少し回復したら飛ばすつもりでいたが、その時には感じられる魔力的に大丈夫だと判断し、全てをサトシたちに託した。それでも、この目で確認するまでは不安は残るものだ。

 

「トモさん、師匠。しゃろんの死亡は確認しましたか……?」

 

ㅤ先程感じた違和感の正体を探るべく、サトシは二人にそう質問する。すると二人は、少し考える素振りを見せ、こう答えた。

 

「いえ、確かに脈までは見てません……魔力を感じなくなり、動かない。何よりあれだけの攻撃を受けて無事なはずがない、と。それに、最後に起こったのがアレですから。そちらに気を取られていましたね。」

 

「僕も同じくかな♪」

 

ㅤそんな二人を見て、サトシは自分の推測が正しいかもしれないと思い、それを伝える。

 

「恐らくですが……しゃろんは、生きています。先程焔斗さんが自我を失っている時、しゃろんの魔力を微量ながら感じました。確か、術者が死ねば仮に心は壊れて暴走していても、操れはしないはず。そして、操っていなければ、焔斗さんからしゃろんの魔力を感じることも無い、と思うんです。」

 

ㅤそれを聞き、一同は驚きの表情を浮かべる。トモと春輝は確認を怠った事に悔しそうな顔をし、アルは悔しがる主人にそっと寄り添う。そして、紫紅が焔斗を抱きしめる力が強くなり、怖さで体が震えている。逆に、焔斗はそんな紫紅の様子を見て、怒りに震えた。のぞみは、驚いたものの、詳しいことは知らないためなんの事やらさっぱりという顔だ。

ㅤそして、次にサトシが口を開こうとした瞬間、それを遮るように足音と声が聞こえた。

 

「みんな、話がある。」

 

ㅤ魔王シハクだ。そして、歩いてくる彼の横には、見慣れた魔女の装いの……しゃろん。

 

「っ……!『紅焔槌』!!!」(こうえんつい)

 

ㅤしゃろんを視認した瞬間、焔斗が今出せる全力で殴りかかった。みな驚いていたため、誰も止める者がいなかった。魔王を除いては。

 

「っと、落ち着け。まずは話を聞くんだ若者。」

 

ㅤ体力が不足しているとはいえ、全力で振り下ろしたメイスを、シハクは指一本で難なく受け止めた。

 

「くっ、わかったよ……。」

 

ㅤ焔斗がシハクと会うのは初めてだが、雰囲気で魔王と分かった。それに、しゃろんの雰囲気もどことなく変わっている。今のところ許すつもりは無いが、一緒に戦った魔王陣営のトップだ。本当に事情があるのだろうと思った。

 

「単刀直入に言えば、しゃろんも洗脳されていたんだ。」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

ㅤその場にいた全員が驚く。しゃろんをよく知らない者は単に驚き、しゃろんをよく知る者は、あのしゃろんが洗脳を!?といった驚きだ。

 

「その……ごめんなさい。洗脳されていたとはいえ、やったことは消えないから。たしかに、あたしは戦闘が大好きよ。だけど、洗脳とかそういうのは嫌いなの……。」

 

「許す……なんて、すぐには言えない。操られていた、という面なら俺も紫紅もお互いを傷つけた。だから、どうしようもないのも分かるし、申し訳なくなるのもわかる。でも、紫紅が怖がってしまってる。恐怖を植え付けられてるんだ。復讐しようとまでは思わないけど、好んで関わろうとは思わないね。」

 

「それでいい……。ありがとう……。」

 

ㅤこの後、詳しく話を聞くと、しゃろんを操っていたのは魔女王であり、仕掛けられたのは焔斗と出会う数日前の可能性が高い、との事。というのも、魔女王は別空間を形成しそこに暮らしているため、普段会おうとしても会えない。そして、なぜかは分からないが、しゃろんは招かれた。魔女として美しく振る舞う、というのが出来ておらず、見た目は魔女でも魔女として認められていなかったしゃろん。別に、認められる必要も無いので放置していたが、なぜそんな自分を呼んだのだろう、と疑問だったらしい。

ㅤそして、魔女としての自覚を持てだの、珍しく説教された後、大したことも言われないまま帰された。当時は本当に謎だったのだが、今となってはこのために呼んだのだと推測できる。

 

「別空間……また、めんどくさいのが来たな……。」

 

「魔女王に挑むつもりかい?」

 

ㅤ顎に手を当て考える焔斗に、シハクがそう質問する。しかし、焔斗は苦笑して首を横に振った。

 

「いや、たしかに許せないし目の前に出てきたらぶん殴りたい。けど、こちらから探したところで見つかるのに時間がかかるだろうし、今回の件はこれで解決してる。警戒してる相手にそうそう手は出さないだろう?だから、今は大切な妹と再会できたことだし、現界に戻って暮らそうかなと思ってる。異世界から転移させられてバタバタしてたけど、帰る方法の手がかりも何も無い今、拠点、寝床が欲しい。こう言っちゃ悪いけど、現界の方が美味しいものも多いからな。」

 

ㅤ移動中にざっと見た風景を思い出しながらそう答える。来たばかりの焔斗の目から見ても、作物はもちろん、家畜なども育ち辛い環境だと一目で分かった。スイーツ好きな紫紅もいる事だし、環境や治安的にも現界の方がまだいいと判断した。

 

「まあ、紫紅が魔界にいたいって言うなら話は別だけど、どうする?」

 

ㅤそう言って横に居る紫紅に問いかける。紫紅はきょとん、としてから微笑んで答える。

 

「あたしは、お兄ちゃんが行きたいとこについて行くよ?まあでも、確かに現界も旅してみたいし、ここにはお世話になったけど、行きたいな?」

 

ㅤ二人の意見が一致し、その場にいた面々にも反対する人はいなかったため、とりあえず明日、出発することになった。ちなみにいつの間にかしれっとレーヴァテインも混ざっている。あえて突っ込まないでおいた。

 

「では、まずは焔斗さんの部屋にご案内します。今まで使っておらず、今日だけですがお使いください。もちろん、掃除はしておりますしお風呂も付いておりますので。」

 

「え、マジっすか。いいっすね部屋風呂!」

 

ㅤ必然的に、部屋の位置は紫紅の部屋の隣になった(のぞみは向かいの部屋だった)ので、隣にいると思えば幾分か安心できる。

 

「さて、と。」

 

ㅤボロボロになった服は、カゴに入れて布をかぶせ、部屋の外に置いておけば、洗って修繕してくれるそうだ。さすが魔王の執事だと思った。代わりに用意された客人用の服も用意されている。まずは風呂だ、と服を脱ぎ、カゴに入れる。なぜかは分からないが既に湯は張られていた。用意周到すぎて言うことがない。

ㅤ全身をしっかりと洗い、浴槽に浸かる。暖かい湯が、全身の疲れを解していく。

 

「あぁ〜……。極楽〜……。」

 

ㅤ妹と再会できて、ひと悶着あったものの、無事解決した。やっと張り詰めていた神経が楽になった。今はしっかりと休息を取らなければ。どうせ、拠点を探すにも時間がかかる。そのための体力を養わなければ。

ㅤしばらく浸かった後、のぼせる前に風呂から上がる。体を拭き、用意された服に着替える。よくホテルにあるような無地の寝間着のようなものだ。

 

「焔斗さん、いますか?」

 

ㅤちょうどベッドに座ったところでコンコンコン、とドアをノックされ、トモの声が聞こえる。

 

「ん、はい〜。居ますよ〜。」

 

ㅤすると、失礼しますと言い、トモが入ってくる。サービスワゴンに料理がのせられており、食欲をそそる匂いが嗅覚を刺激する。

 

「本当は、皆さん集まって食事としたかったのですが、焔斗さんや紫紅さんはもちろん、各面々疲れておりますので、自部屋でゆっくりと食事、とさせて頂くことにしました。」

 

ㅤ確かに、相当疲れている。というか、疲れているからと腹を満たさずに、お風呂を先に入ったせいで空腹で死にそうである。

 

「でも、それならトモさんも同じでは?」

 

「いえいえ、確かに疲れていますが、これが性分なもので。皆さんをおもてなしすることで、私の疲れも取れるのです。」

 

ㅤなんと有難い性分、そして体質だと思った。こんな人が仲間に一人いたらすごく助かるだろう。まあ、だからといって何もしない訳では無いが。

 

「そ、そうですか。申し訳ないという気持ちもありますが、せっかくですし今回は甘えさせていただきます。料理ありがとうございます。しっかり味わって頂きますね。」

 

「ご理解、ありがとうございます。食事が終わりましたら、服と同じように隣に台がありますので、そこへ食器を出しておいてもらえればと思います。」

 

「わかりました。」

 

ㅤそして、失礼しました、と一礼してドアからトモが出て行く。こんな扱いには慣れてないのでムズムズするが、不快感はない。友人とのノリでやるようなバカにした感じがないからだろう。

 

「さて、と。」

 

ㅤ本当は食事してから風呂に入るのだが、今回は逆になってしまった。しかしもう気にしない。目の前にある料理を堪能する。

ㅤ運ばれてきた料理は雑炊のようなもので、横にはお茶と、何かは分からないがフルーツが置いてある。胃に優しいものを用意してくれたのだろう。本当によくわかっている人だと思った。

 

「いただきます。」

 

ㅤまずはかわいた喉を潤すためにお茶を口に運ぶ。てっきり、あったとしても紅茶等だろうと思っていたので、こういう料理と合うか不安だったが、しっかりと緑茶風味だった。しかも焔斗好みの苦めのお茶。この少し口に残る感じの苦さが好きなのだ。

 

「こういうのもあるのか……助かる。」

 

ㅤ次に、雑炊をスプーンですくい、ふーふーと少し冷ましてから口に運ぶ。米の形は潰れておらず、しっかりと粒を感じられる。出汁がしっかり絡み、温かく口の中に風味が広がる。野菜も入っており、出汁が染みてて最高だ。少し熱いのではふはふとしながら食べる。これまでの食事も美味しかったが、気が張っていたためそこまでしっかり味わってはいなかった。だが、今は気も緩まっているため、しっかりと味を堪能できた。疲れた体に美味しさと栄養が染み渡る。

 

「美味ぇ……。」

 

ㅤ急ぎすぎないように食事をする。体と心あったまる、とても良い時間だった。

ㅤ食事を終えた後、外に置いてから歯磨き等をすませ、ベッドに寝転がる。ふかふかベッドで寝るのは久しぶりだ。朝起きれるだろうか、いや起きなくてもいいか。と思いながら、眠気が襲い目を閉じて眠りにつこうとした瞬間、コンコンコン、とドアノックされて意識が戻される。

 

「ん……?またトモさん?」

 

ㅤ開けてこないところを見ると、なにか大きなものでも抱えているのかと思い、扉を開けに向かう。一言も声が掛けられていないのに違和感を覚えながら、扉を開けた瞬間、寝間着の紫紅が飛び込んで抱きついてきた。

 

「うお!?……なんだ、紫紅か……。どした?」

 

ㅤ寝る時は流石にお下げは解いているため、髪を下ろし、枕を抱えた紫紅が上目遣いで懇願してくる。

 

「お兄ちゃん……一緒に寝たい……。ダメ?」

 

ㅤうるうるとした目で見上げられながら、そんなこと言われたら、断る訳にも行かない。元の世界では自立させるために断固拒否していたが、こんなことがあった後だ。不安も多いだろうし甘えさせてやろうと思った。

 

「ったく……いいよ。今日は一緒に寝るか。」

 

「っ!うん!」

 

ㅤぱぁっと表情が明るくなり、元気に頷く紫紅。そんな可愛い妹の頭を撫で、ベッドに向かう。とはいえ、シングルベッドのため少し狭く感じてしまうが、まあ兄妹だし問題ないか。と割り切る。

 

「お兄ちゃん……ぎゅー。」

 

ㅤベッドに寝そべり、掛け布団を被ると同時に、紫紅がぎゅっと抱きついてくる。よほど寂しかったのだろう、と焔斗も抱き返し、頭を撫でる。

 

「えへへ……。おやすみお兄ちゃん。チュ。」

 

「!……おう、おやすみ。」

 

ㅤ顔を上げて頬にキスをしてきたので少し驚いたが、お互いおやすみの挨拶をして眠りについた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ふむ、どちらも生き残ってしまいましたか。」

 

ㅤ天界、ロイルの研究所にて、下界の監視モニターを見ながらロイルが呟く。神造人間の調整は終わり、あとは起動、命を宿すだけだ。結局この戦いがどう転ぶかを見ていたが、やはり降臨するのは確定したようなものだ。あの兄妹と、それに関わった者たち。全てを殺さなければならない。既に相当な数だが、ここから様子見をする必要はあるのだろうか。いや、もしくは。

 

「唯一神様は、下界を滅ぼし、作り変えようとしているのかも知れませんね……。」

 

ㅤこのまま関わった人数が増えれば、自ずと殲滅対象も増える。そして、多すぎると影響を消すのが難しくなるため、滅ぼそう、となる。そのレベルになるまで待っているのかもしれないと推測した。

 

「まあ、仮にそうなったとしてもやることは変わりませんがね。」

 

ㅤそう言いながら、ロイルは神造人間の起動準備にとりかかる。




今回はここまで!
いかがでしたか?
今回登場したif民モチーフは、

トモさん(トモ)

春輝さん(春輝)

Shihakuさん(シハク)

Revatainnさん(レーヴァテイン)

のぞみさん(のぞみ)

サトシさん(サトシ)

しゃろんさん(しゃろん)

でした!ありがとうございました!

次回
第7話『兄妹の絆』

お楽しみに!


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第7話『兄妹の絆・前編』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ついに本当の意味で再会できた兄妹。ゲーム内アバの姿とはいえ、久しぶりに見る大切な家族に自然と心が和む。
黒幕はしゃろんではなく、その後ろにいた。この件に関しては深追いせず、焔斗達は現界に戻ることを決意した。
果たして、二人に安息の時は訪れるのだろうか。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

「ん……う……。」

 

ㅤ翌朝(太陽がないので朝というのかは知らないが)。疲れが溜まっていたからかいつもよりぼけーっとした目覚めになる。腕の中で眠る可愛い妹、紫紅。幸せそうな表情で眠っている。ちらりと視界に映る育ち盛りの胸元から目を逸らしながら、彼女の頭を優しく撫でる。すると、気のせいかもしれないが、すこし微笑んだ気がした。一晩明けて、改めて再会を実感する。元の世界の現実世界と見た目が違うため(どっちにしろ超絶美少女ではある)、妙にドキドキしてしまうのが困りものだ。早めに自立させた方がいいかもしれない、という気持ちと、暫くはこんな日々を過ごしたいという気持ちが心の中でバチバチとバトルを繰り広げる。

ㅤ埒が明かないので一旦休戦させて、起きようとする。が、よくよく考えたら腕の上に紫紅が乗っているため、下手に動けない。彼女が起きるまでこの状態で過ごさなければならない。というか、腕が痺れている気がする。紫紅が重いという訳では無いが。

 

(……可愛いなぁ……。俺の妹こんなに可愛かっただろうか。)

 

ㅤこのままではシスコンになってしまう、と深く考えないように思考を振り切る。たしかに可愛いしめっちゃお世話したいが、それでは紫紅のためにならない。今でも料理洗濯掃除は一通り出来るようにはなっているが、油断は禁物である。人はだらけて止まらなければどんどんダメになる。

 

「んう……ん……?」

 

ㅤそんなことを考えていると、紫紅も目を覚ます。「おはよう。」と声をかけると、パチクリ、と目を瞬かせながら、ぼーっと焔斗の顔を見つめる。そして、ふにゃっと微笑み、

 

「おにーちゃん、おはよぉ〜。」

 

と言いながら、ぎゅ〜っとハグをしてきて頭をスリスリしてくる。可愛い。

 

「ほら、多分もう朝の時間に近いと思うぞ。起きてくれ、動けない。」

 

「うん〜、えへへ。」

 

ㅤうんと言いながらもまだ動かない。まだ、頭が覚醒してないらしい。それなら、と少し申し訳ないが、目覚めてもらうことにした。

 

「システムコール・ジェネレート・クライオゼニック・エレメント。ほいっ。」

 

ㅤイメージさえしっかりしてればアンダーワールドの神聖術も使えると、現界のレーヴァテイン戦で気づいた。そこで、凍素を生成して、紫紅の後ろ首に近づけた。

 

「んぴやぁぁぁぁぁ!?」

 

「ごふぉ!?」

 

ㅤ想像を遥かに超えるリアクションをされ、紫紅に突き飛ばされる焔斗。そのまま壁にぶつかり少しへこむ。

 

「はぁっ、はぁっ、な、何!?」

 

「お、おはよう……紫紅……いてて。」

 

ㅤ想定外のダメージを受けたが、なんとか紫紅を目覚めさせることが出来たようだ。何事かと、トモが扉から高速ノックの後入ってくる。「お、おはようございます……」と苦笑いで焔斗が声をかけると、トモはだいたい察したようで、へこんだ壁を見ながら困ったように首を振りため息をつく。

 

「おはようございます。……お願いですから、あまり暴れないでくださいね。」

 

「す、すみません……。」

 

ㅤ自分たちが要因では無いとはいえ、昨日あそこまで暴れ回って城内はそこそこ壊れていた。広さゆえにあまり実感は湧かないが、あの修練場付近は凄いことになっていたそうだ。それを治すのもトモの仕事。そしていつもの業務もこなしながらとなると、想像以上の苦労があるだろう。そんな中で彼の仕事を増やすのはいじめでしかない。

 

「あ、トモさんおはよ!そして、お兄ちゃんのばかっ!びっくりしたじゃない!」

 

「だ、だって起きねぇんだもん!仕方ないだろ!」

 

「もっとあまぁく起こしてよ!……紫紅?ほら、朝だぞ?……とかさ!」

 

ㅤそんなので起きてたらとっくに起きてるだろ、と思いながらもトモさんも来てる手前、この辺でやめておいた。紫紅もそれは察したようで、これ以上焔斗を責めることはなかった。

 

「まあ、着替えも用意してるので、その他諸々終わりましたら、食事処まで来てください。朝食をご用意しますので。」

 

「「はい……。」」

 

ㅤそう言って部屋から出るトモ。さすがに落ち着きを取り戻した兄妹は、それぞれ自部屋で着替えなどを済ませ、食事処に向かう。もちろん、手は繋いでいる。

 

「ここの料理、どのくらい凄いんだ?」

 

「え?あー、もうね、ものすっごいよお兄ちゃん。」

 

「そ、そうか……」

 

ㅤものすっごいとだけ言われても、いまいち掴めない。どうすっごいのか。普通に美味しすぎるのか、見た目が受け付けがたい意味ですっごいのか。昨日の感じだとおそらく前者だとは思うが、何せ魔界だ。味は美味くてもどんなゲテモノ(俺たちから見れば)が出てくるか分かったものじゃない。よし、と覚悟して部屋に入る。

 

「お待ちしておりました。こちらへ。」

 

「は、はい……。」

 

ㅤこんな、畏まったような食事の席は慣れておらず、オドオドしながら席に着く。横で紫紅が笑いを堪えているが気にしない。こいつ、後でくすぐってやる。

 

「本日の朝食になります。」

 

「ピザパン……だと!?」

 

「?……ぴざぱん、というのは分かりませんが、もしやお嫌いでしたでしょうか?」

 

ㅤ思わず声に出てしまったのを、苦手だと勘違いされてしまった。慌ててそうでは無いと否定する。目の前にあるのは、素材こそ違うかもしれない。だが見た目は完全に、チーズとろけるピザパンだ。ごくり、と生唾を飲む。よくよく考えたら、現界でもパン屋等にはいっていない。心のどこかで異世界のパンは固くて水分が取られる、と偏見を抱いていたのかもしれない。反省である。

 

「どう、お兄ちゃん。すっごいでしょ。」

 

「ああ、すっごいな。」

 

ㅤ兄妹で語彙力を失くし、最早この二人以外何言ってるのか分からない。だが、とりあえず嫌がってる訳では無いというのは伝わるので、深く聞くのはやめにした。

 

「ではみなさん揃いましたので、どうぞ召し上がってください。」

 

ㅤいただきます、と言い、朝食をいただく。味はどうなのだ、と身構えて口に運んだが、これは見た目通りのピザパンだった。とろとろにとろけたチーズに、ケチャップ?の旨味。適切に焼かれたパンは香ばしい。元の世界でもこんなリッチな朝食はほとんど食べない。というか、そもそも朝食を食べない。焔斗は少食で、朝どころか昼まで抜いたりもしていた。めんどくさいという理由だけで。無論、紫紅にその話をした時はぷんぷん怒ってパンを口にねじ込んできた。心配してくれるのはありがたいが、あの時は窒息死を覚悟した。

 

「う〜ん♪やっぱりトモの料理は最高だね♪」

 

「春輝様、ありがとうございます。ではご昼食は腕によりをかけて特製ステーキをご用意させていただきます。」

 

「……え。」

 

ㅤなぜ、ここで顔を青ざめさせるのか不思議に見ていると、横から紫紅が「お肉系ダメなのよ、あの人。」と教えてくれた。お肉が苦手、というなら焔斗も高校生になって文化部に入ってから、前ほど食べられなくはなったが、それでも全く無理という訳では無い。こっちの人々の好みは知らないが、ここにいる面々の反応から見ても春輝の好き嫌いは珍しいのだろう。

 

「師匠って、割と自爆しますよね。」

 

「サトシ!?」

 

ㅤそんな、面白い師弟に思わず笑いが出る。緊張していた精神が解れてゆく。魔王城らしさ、というなら全然だが、こういう面では彼のような者が必要だ。

 

「ほらのぞみん。ほっぺについてるよ。」

 

「ん……ありがとうおねーちゃん!」

 

ㅤ横で紫紅がのぞみの頬を拭く。謎に姉呼ばわりされているが、彼女も謎が多い。トモ辺りに聞いても詳しいことは知らないとのことだ。現時点で敵対してる感じは全くないが、一応警戒しておいた方がいいのかもしれない。

 

「さて。」

 

「!?」

 

ㅤ黙っていたシハクが、口を開いたと思った瞬間指を鳴らす。すると、焔斗とシハク以外の空間の時が止まったかのようにみえる。

 

「プライベートな話をしようか。異世界人。」

 

「……なんでしょう。」

 

ㅤ時止め系の魔法なのかなんなのか分からないが、この世界、皆それぞれ属性を決めてる割には多芸すぎると最近思うようになった。

 

「君は侵略者、という訳では無いよね?この世界を終わらせるための。」

 

「……?そんなわけない、です。俺たちだって被害者なので。何を思って転移させたのかは知らないですけど。」

 

ㅤ唐突にそんなことを聞いてくるので、ありのままで返す。質問の意図が分からない。そもそも、この話は紫紅としているはずではなかっただろうか。

 

「そうか、ならいい。……君らが来てから色々ありすぎてね。」

 

ㅤそう言いながら、焔斗達が転移してから起きた目立ったことを並べていく。その中でも一際謎なのがのぞみが何者か、だ。どうやらこの魔王ですら把握出来ていないらしい。

 

「おまけに、しゃろんまで操られる始末。わけがわからないよ。まあ、いいさ。魔女に関しては俺が調査することにする。じゃあそろそろ」

 

「待ってください。せっかくプライベートな時間、それならお話したいことが。」

 

「ほう?」

 

ㅤ少し悩んだが、天界について闇華から聞いたことを話すことにした。彼女の言うことを信じるなら、もちろん彼らも狙われると思ったからだ。だがもちろん、闇華が堕天使ということは上手く隠して話す。

 

「ふーむ……。」

 

ㅤ話を聞いたシハクは少し考え込む。それもそうだ、信頼性なんてほぼ無いに等しいし、もともと無いとされていた天界が実在します。異世界人と関わったので殺しに来ます、なんてそうそう納得できるものでは無い。

 

「嘘、では無さそうだね。わかった信じるよ。実際、そんなに強いのがいることすら信じられないけど、気にはとめておく。……この情報、魔王城内では共有したいけど、いいかな?」

 

「それでいいです。ありがとうございます。共有は構いませんが、そこから更に広まってしまえば、関係ない者まで巻き込まれる可能性があります。まあ、内容的にこの空間で言いましたが、ここにいる全員は知ってていいでしょう。どう考えても対象です。」

 

ㅤそうだな、とシハクが頷き、指を鳴らす。すると、謎の状態は解け、みな普通に動きだした。そして、皆が食事を終えた後、シハクより先程の天界についての話があった。これは紫紅も知らないことで、当然驚いていた。

 

「そんなことなら……。」

 

「気にするな紫紅。大丈夫、この中にそんなこと考えるのは一人も居ないよきっと。」

 

「お兄ちゃん……。うん、ありがとう。」

 

ㅤ紫紅は、自分が関わった者達に被害が及ぶなら、関わってしまったことに申し訳なさを感じていた。それを敏感に感じ取った焔斗がフォローをしたが、まだモヤモヤはしているようだ。表情が暗い。焔斗だって少しは思うところもある、だがこればかりは考えても仕方ない。紫紅の頭を優しく撫でてやる。すると少し驚いた反応を見せたが、少しだけ表情が明るくなった。

 

「……また、壊されるんですかね……ここ。」

 

ㅤトモが虚ろな目になりながらボソッとつぶやく。確かに、殺しにくるのならこの城も無傷とは行かないだろう。確実に迫るさらなる労働に気が遠くなりそうなようだ。かける言葉もない。というか、

 

「力になれるかは分かりませんが、修繕、手伝いますよ。今回はもうこの後出発するので申し訳ないですが、天界の件が終わった際には。」

 

「……助かります焔斗さん。でも、おそらくその頃にはできている現界での拠点も大変そうなので、そこまで期待はしないでおきます……。」

 

ㅤそういえばそうだった。どうなるかは分からないが、その頃には拠点もしっかりと見つけられているだろう。天界の狙いのメインは俺達だ。当然、現界での拠点が無事とは思えない。出来れば人里離れたところで暮らしたいが、それだと仕事に困る。今までは野宿等でどうにかなっていたが、ここからはしっかりと暮らしていかなければならない。紫紅と二人で、になるか、仲間が増えるかは分からないが。

 

「急に旅立つことになっちゃったけど、あたし、まだお礼もできていないわ。何か出来ることは無いかしら?」

 

ㅤそう紫紅が提案する。それを聞きながら、焔斗も闇華達に、ジーマ村の人々にお礼ができていないなと思い、現界に帰ったら何かお礼をしようと心に決める。

 

「ふむ、ならちょうどいい願いがある。それに、二人はこっちの世界に来て共闘してないだろう?連携の練習にもなることだ。」

 

ㅤ絶対戦う系のなにかだ、と思いつつ内容を聞く。なんでも、現界への扉に向かう途中、少し外れたところにある魔物を封じているらしい。封じている理由は、決してシハクの手に負えない魔物だからではなく、何となくその時は面倒だから閉じ込めてそのまま放置していたらしい。ほんとにこんな感じで大丈夫なのかと不安になるが、実際大丈夫だからこそ今があるのだろう。

 

「面倒、なんだよね。わざわざあそこまで行って勝ち確の戦いして帰ってくるの。」

 

「は、はあ……。」

 

ㅤ勝ち確と断言するのもなかなかだが、言っているのがこの魔王シハクというのが説得力がある。ほんとにそうなんだろうな、と思えるほどの実力なのだ。

 

「それならあたしたちに任せてよ!そんなの、やっつけてあげる!そしてそのままお兄ちゃんと現界よ!」

 

「……。少し調子に乗りすぎかもしれないですが、やらせてください。必ず、成し遂げてみせます。」

 

ㅤそう言って、シハクからの依頼を引き受け、そのまま現界に向かうことにした。

 

「お待ちください、これを。」

 

ㅤトモが運びやすく包まれた弁当箱を差し出してくる。現界に行くまで、この二人で全力を出せばそこまで距離は無い。が、その前に戦闘もあるので、その際の栄養補給用だ。

 

「バランスの良い食事は大切ですので。」

 

「なんで僕を見ながら言うんだい♪」

 

ㅤ春輝をチラ見しながらそう言うトモが、彼の反応にため息をつく。普通、野菜嫌いでの悩みが多そうだが、肉を食べてくれない(一部除く)なんて悩み、そうそうないだろう。

 

「ありがとうトモさん。今までも本当に助かったわ。それじゃ、行ってくるわね!」

 

「失礼します。」

 

ㅤ二人が魔力で空に舞い上がり、まずは封印されているという地へ向かう。「お兄ちゃん緊張しすぎだよ〜!」「仕方ないだろ!紫紅は、数ヶ月一緒に居たから慣れたかもしれないが、俺は初対面だぞ!?しかも魔王相手!俺別に紫紅みたいに可愛い女の子じゃないからね!?」「か、関係ないでしょ、か、可愛いとか……ばか。」等と他愛もない会話がうっすらと見送る魔王城の面々にも聞こえてくる。

 

「またいつでもいらしてくださいね。」

 

ㅤそうトモが呟く。魔界の重い風が、今日は少し軽やかに吹いている、そんな気がした。

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?
勝手ですみませんが、『兄弟の絆』は前編・後編の構成にさせていただきます。

今回登場したif民モチーフは、

シハクさん
トモさん
春輝さん
サトシさん
のぞみさん(元if民)
しゃろんさん

でした!ありがとうございました!

次回、第8話『兄弟の絆・後編』
お楽しみに!


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第8話『兄弟の絆・後編』

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再会後、一先ず一件落着となった焔斗と紫紅は、魔王城ナンバンで休息をとる。次の日には出発するという早いスケジュールではあるが、いつまでもここでお世話になる訳にも行かない、と判断した。魔王からの討伐依頼。簡単なように言われていたが、そう簡単には何故か思えない二人。そんな疑問を抱えながら、封印の地へ向かう。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


ㅤ魔界の空を、兄妹で手を繋いで飛んでゆく。別に飛行に必要な訳では無いが、二人とも何となく手を繋いだ。確かに隣に愛する妹が、兄がいると強く実感するために。ちなみに、地面の影の中にはしれっとレーヴァテインがいる。現界に戻るメンバーで扉を開けるのは彼だけなので同行してもらっている。影にいるのは空気を読んでいるからか、単に隠れたいだけなのかは分からない。

 

「封印されてる魔物、一体どんなやつなんだろうな。」

 

「んー、あの魔王シハク様が面倒って言うくらいだし、そこそこは強いんじゃない?あたし達の敵にならないような魔物を練習台に選ぶはずないと思う。」

 

ㅤ確かに、紫紅の言う通りだ。シハクは練習になると言った。ならば、それ相応の強さでなければ困る。勝てないことは想定していな……いや、それは分からない。むしろ生死をさまよう激戦になることも予想される。それなりの覚悟は必要かもしれないと思った。

 

「あ、そうだ。寄りたい所あるんだけどいいか?」

 

「?どっち?」

 

「大丈夫、このまま行ってれば視界に入る。」

 

ㅤわざわざ止まって方向を聞いてくる紫紅に、焔斗はそう答える。紫紅を助けに行く際にお邪魔した、ゴブリンの村に連れていこうと思ったのだ。

ㅤしばらく飛んでいると、焔斗に見覚えのある村が視界に映る。

紫紅に合図して地上に降り立つ。

 

「ここ?随分小さい村だけど……。住んでるのは、ゴブリン?」

 

ㅤそう問いかけてくる紫紅に、ここのゴブリン達とあったことを簡単に話す。

 

「なるほど、ね。それはあたしもお礼しなきゃ。」

 

ㅤそう呟く紫紅に、ここに突っ立っててもなんだからと村に入ろうと促す。しかし、村に入るより先に、向こうから迎えがあった。

 

「強き者よ。無事、再会できたようで何よりでございます。」

 

ㅤ片膝をつき頭を垂れるめちゃ強そうなゴブリン。やはり、この状況はいつになっても慣れない気がする。

 

「結局、ここで暮らしててもそこまで魔界に住んでる人達とは関わり持たなかったけど、あたし達のイメージのゴブリンとは違うわね。」

 

「だろ?あ、一応紹介しとく。この可憐な美少女が俺の妹、紫紅だ。よろしくな!」

 

ㅤそう言って紫紅の肩を抱き寄せながら紹介する。

 

「も、もう、やめてよお兄ちゃん。何その紹介の仕方、はずかしいよ〜。」

 

ㅤ恥ずかしがりながらも、嫌ではなさそうな紫紅。可愛いなあ。

 

「いやはや、噂には聞いておりましたが、本当に可憐なお嬢様ですな。我々にはむしろ目に毒かもしれません。」

 

ㅤそう言ってガハハと笑うゴブリンの長。ちらほらと後ろに見える男ゴブリンは、紫紅に見惚れているような者もいる。可愛いもんね、わかる。

 

「言っとくけど、紫紅は俺より魔力が強いからな。可愛いのはわかるけど下手に手出したらどうなっても知らないよ。」

 

「お兄ちゃん以外興味ないから気をつけてね〜?」

 

ㅤそれはそれで心配なのだが、とりあえずゴブリン達は顔を青ざめさせてささっと消える。一応、魔力を感じればわかるはずなのだが、可愛さゆえに感じるのを忘れていたらしい。仕方ないね、可愛いもの。

 

「そういえば、あんたの名前は?」

 

「あ、申し遅れました。ここのゴブリンの長、メーゴスです。」

 

ㅤ改めて握手を交わして挨拶をする。相変わらずごっつい手だなと思った。ちなみに、紫紅を見つめていたゴブリンがいたので、彼女が悪戯心でウィンク投げキッスをしたら、そのゴブリンが幸せそうにぶっ倒れていた。魅了スキルでも手に入れたのかな。

 

「これから、二人でちょっと強めの魔物を倒しに行くんだ。ちょうど道中だったし寄ったんだよ。」

 

「なるほど、大丈夫だとは思いますがお気を付けて。」

 

ㅤなかなか、この固い感じ消えてくれないなあと思いながら会話する。本当はもっと砕けた会話がしたいのだが。

 

「なんか、何もせずにここにいるのも悪いし、もう行くよ。ってか、意外と妹にメロメロになってる奴もいて、これ以上被害者増やさないように。」

 

ㅤ焔斗は苦笑しながら、紫紅が可愛くてノックアウトされたゴブリン達を横目に見る。これにはメーゴスも苦笑し、「そうですね。」と答える。

ㅤ短い時間ではあったが、ゴブリン達に別れを告げ(倒れるのが面白いのかウィンク投げキッスでさらなる被害者を増やす紫紅)、今度こそシハクからの依頼の地へ向かう。

 

「ゴブリンさん達面白かったね!」

 

「あんまりからかってやんなよ……。」

 

ㅤ触れることなく可愛さだけで何人ものゴブリンをノックアウトさせた紫紅がくすくすと笑う。あまり調子に乗りすぎるとそのうち痛い目に合いそうなので、早めにやめさせた方が良さそうだ。

 

「……近いな。ってか、あれか?」

 

ㅤしばらく飛んでいると、前方に闘技場のような施設が見え始める。てっきりもっと封印っぽいところかと思ったので拍子抜けだ。しかし、その闘技場には魔力の壁のようなものが球場に貼られており、恐らくあれが封印なのだろう。

 

「……似てるね。」

 

「ああ。」

 

ㅤその闘技場は、SAOでキリトとヒースクリフが、一回目に戦った闘技場に酷似していた。この世界に来てから思ったのだが、所々SAOと似ているところがある。これが、何を意味するのかはまだ分からない。

 

「見えないな。」

 

「そうだね、やっぱり中に入らないとダメなのかな?」

 

ㅤシハク曰く、とてもよく動き回るため、もし封印を解いて戦うとなると色々と面倒なことになるとのことだ。そこで、逆に封印の中に二人が入り討伐。後に封印している結界を解除してしまえばいい。

 

「行けるか?紫紅。」

 

「いつでもいいよお兄ちゃん。」

 

ㅤ紫紅と頷き合い、シハクから教えてもらったように、結界に魔力を流し込む。すると、人一人通れる分の穴ができる。紫紅を先に通して、焔斗も中に入り結界を閉じる。

ㅤ闘技場の中の通路を歩いてゆく。コツ、コツと二人の足音が響き渡る。そして、戦闘フィールドに出る。その瞬間、

 

「キシャァァァァァァ!!!」

 

「!?……なっ!?」

 

「お兄ちゃん避けて!」

 

ㅤ封印されていた魔物の見た目に驚き、一瞬動きが止まる。紫紅の声がなければ、回避出来なかったかもしれない。ひとまず二人で空中に退避する。

 

「スカル……」

 

「……リーパー?」

 

ㅤ封印されていた魔物は、SAOの七十五層フロアボス、スカルリーパーに酷似していた。少し違うと言えば、骨の翼が付いていることくらいか。そして、翼があるということはつまり───

 

「来るぞ!」

 

「ん!」

 

ㅤ地面から飛び上がり、そのまま焔斗達の所へ急接近する。あれだけ脚のある奴が飛んでまで接近してくると、とても見た目気持ち悪い。

ㅤ大きな鎌の付いた両腕で二人を切り裂こうと、猛烈な攻撃が始まる。正直、知っているスカルリーパーの攻撃速度よりかなり速い。この攻撃がどこまで脅威か分からないので回避に徹しているが、このままだとジリ貧だ。

 

「紫紅、俺が受ける。その隙を攻めろ!」

 

「っでも……、分かった!」

 

ㅤ心配なのか何か言いたそうだったが、そんな暇はないと分かったのか強く頷く。

ㅤ鎌が焔斗に振り降ろされる。それを盾で正面から受け止める。が、空中に浮きながらとなると衝撃に耐えきれず、下に叩き落とされる。

 

「ぐっ……重いな!紫紅降りろ!空中じゃダメだ、慣れて無さすぎる!」

 

ㅤ恐らく、ずっと空中で戦うのに慣れている者であれば耐えれるだろう。だが、まだ飛べるようになったばかりの二人では、普通の戦闘はまだしも、今のような状況では魔力のコントロールが難しい。ここは大人しく地上戦が無難だろう。

 

「お兄ちゃん、あんまり舐めてちゃだめそう?」

 

「ああ、様子見なんてしてる暇なさそう、だっ!」

 

ㅤ会話している間にもスカルリーパーに似た魔物はどんどん攻撃を仕掛けてくる。それを回避して一旦距離を取り、纏装を発動する。

 

「『獄焔纏装』!」

 

「『紅雷纏装』!」

 

ㅤ二人は息を合わせて魔物に接近する。魔物は少し驚いた様子を見せたが、すぐに目の前の二人を殺すべく、鎌を振り降ろす。それを、焔斗が受け止め弾き、紫紅が追撃してさらに体勢を崩させる。

 

「やるよお兄ちゃん! 」

 

「任せろ!」

 

「「『焔雷激光』!!!」」(えんらいげきこう)

 

ㅤ紅い焔と紅い雷の猛攻が魔物を襲う。焔と雷が触れる度爆発を起こし追加で傷を与えてゆく。無論、その爆発には巻き込まれないように戦っている。

 

「キシャァァァァァァ!!!」

 

「なっ!?」

 

「きゃ!?」

 

ㅤこのまま押し切ろうとしていたが、魔物が甲高い雄叫びを上げ、強力な魔力の波動を起こして焔斗達を闘技場の壁まで吹っ飛ばす。

 

「ぐ……。」

 

ㅤ闘技場の壁を貫通することはなく、埋まる程度に叩きつけられる。この二人にダメージを与えるほどの攻撃なら、普通の壁は貫通するはずだ。だが、ここは余程固い素材で作られているのかそんなことは無かった。貫通して衝撃が逃げない分、体の内部に衝撃をモロに受けることになった。

 

「お兄ちゃん!逃げて!」

 

ㅤダメージは受けたものの、焔斗ほどでは無い紫紅が壁からの脱出を試みながら叫ぶ。そもそも、この二人は力に差がある。紫紅の方が圧倒的に強いのだ。戦い方を紫紅に合わせて攻撃は出来ても、受けた時のダメージは桁違い。焔斗は未だ動けずににいた。そして、弱った者から仕留めるのが魔物というもの。魔物の鎌が焔斗の心臓を貫こうと迫る。

 

「くっ!」

 

ㅤ焔斗は自身の魔力を爆発させ、無理やり壁から脱出する。迫り来る鎌を上手く躱し、紫紅の元へ飛ぶ。

 

「大丈夫?お兄ちゃん!」

 

「もちろんだよ紫紅、もう一人になんてしない。」

 

「……っ!うん!」

 

ㅤパァっと笑顔になる紫紅。今の言葉に元気をもらったのか、「よぉーし!」とストレッチをしながら魔力を練り上げる。

 

「紫紅、俺のバフ、掛けるぞ。」

 

「え、できるの!?お願い!」

 

ㅤその返事を聞き、『焔ノ鼓舞』を発動させる。紫紅を焔斗の焔のオーラが纏う。数々のバフ、この世界では支援魔法が紫紅の能力を底上げしていく。

 

「お兄ちゃん、こっちでもバファーなんだ!」

 

「ほんとはもっと戦えるといいんだけどな。今の実力差だと、こっちの方がいいかなって。まあでも、俺も自分にかけられるし戦えるからな。」

 

ㅤ支援役も攻撃役になれる、それは敵にとって厄介なことでしかない。今現状での唯一の救いは、この支援魔法を自身にかけても、元の紫紅の強さほどでは無い、ということくらいか。技術で差がないように見せてはいるが、割とギリギリなのである。

 

「行くよ!『菖蒲雷撃』!(しょうぶらいげき)」

 

ㅤ焔斗の支援魔法もあることから、魔力の消費が激しい『紅雷纏装』を解き、『紫雷纏装』状態で攻撃を仕掛ける。この状態でも、支援魔法なしの『紅雷纏装』より威力が上がっている。それほどまでに、焔斗の支援魔法はチート級だった。

ㅤ紫紅のメイスが、魔物の骨をどんどん砕いていく。さすがに一発で破壊とまでは行かないが、それでも確実にダメージを与えていた。

 

「やっぱりお兄ちゃんは凄いや!力が溢れてくるよ!」

 

ㅤ笑顔でメイスを振り回し、対象を破壊していく様はどう考えてもヤバい奴にしか見えないが、一応まともである。

 

「キシャアアアアア!」

 

ㅤ魔物が素早く後ろに撤退し、口を大きく開く。紫紅は構わず距離を詰めようと突っ込む。

 

「紫紅、気をつけろ!なにかしてくるぞ!」

 

「わかってるよお兄ちゃん!」

 

ㅤ魔物の口内で高速に練り上げられた魔力弾が、紫紅に向かって放たれる。もしかしたらこれを結界に当てたら出られるんじゃないだろうか、と思えるほどの威力だ。だが、紫紅には無意味だった。

 

「そんなのであたしは倒せない!」

 

ㅤ飛んできた魔力弾を、メイスで思いっきり打ち返す。その際、紫紅の魔力も込めたサービス付きだ。雷の速さで迫る魔力弾を躱せるはずもなく、魔物に直撃し、爆散する。ボロボロになった魔物が、地響きを立てて倒れ込む。

 

「やった!やったよお兄ちゃん!倒した!」

 

「ああ!……いや、待て紫紅、まだかもしれない。」

 

「え?」

 

ㅤ一瞬喜びかけたが、肝心の魔物の魔力の気配がほとんど衰えてないことに気付く。紫紅を一旦焔斗の傍まで下がらせて様子を見る。

 

「っ!動いた!」

 

「やっぱりまだか!」

 

ㅤゆっくりと起き上がる魔物。そして、

 

「キシャアアアアアアアアアア!」

 

「う!?」

 

「うるさ!?」

 

ㅤ耳をつんざくような雄叫びを上げながら、今まで受けた傷が再生していく魔物。嘘だろ、と見守る中、再生が終わると一際大きな雄叫びを上げ、全身が黒く変色した。白い骨の時より目の赤い光が際立つ。

 

「強化か?気をつけろ!」

 

「う、うん!」

 

ㅤ雄叫びも止み、動かずに止まっている魔物。いつだ、いつ仕掛けてくると内心に焦りがではじめる。すると、微かに動いたか、と思った瞬間、魔物の顔が目前にいた。

 

「な!?」

 

「速すぎるわよ!?」

 

ㅤ距離をとっていたのは約百メートル。それを、ずっと見ていたのにも関わらず、接近されるまでの動きがまるで見えなかった。冷や汗をかいてくる、本当に勝てるのかと不安になる。どうにかこの時の攻撃は躱しきったが、本当にギリギリな上、そこまで連撃をしてきていない。本気を出されたらやばいかもしれない、と思う。

 

「お兄ちゃん狙われてる!」

 

「くそっ!」

 

ㅤ厄介な支援魔法を掛ける焔斗から仕留めようと、魔物はターゲットを焔斗に固定する。目に捉えられぬ程の速さで接近、攻撃を繰り返す相手に、焔斗は限界を感じていた。

 

(まずい、このままじゃ押し切られる……!)

 

「お兄ちゃん!いまたすけ、きゃ!?」

 

「無理するな!大丈夫だ!」

 

ㅤ無理に間に割り込んでサポートしようとする紫紅。だが、焔斗の所にたどり着くまでに、魔物の多い足や、尻尾そして翼に邪魔をされ、思うように近づけない。

 

「ちっ!」

 

ㅤ埒が明かない、と焔斗は一旦大きく飛んで空に逃げる。この選択が、不味かった。魔物も飛べるが、そっちはそこまで速くないだろうという推測で動いてしまった。

 

「嘘だろ!?」

 

ㅤまるで瞬間移動かのような速度で、空中にいる焔斗の背後に回る魔物。そのまま回転しながら、尾で薙ぎ払うように攻撃を仕掛ける。もちろん、尾の先には鋭い刃がついている。

 

「ぐっ!」

 

ㅤ何とか防ぎはしたものの、空中では踏ん張ることも出来ずにそのまま吹き飛ばされてしまう。地面にたたきつけられて怯んでいるところに、急接近してきた魔物が鎌を心臓目掛けて振り下ろす。

 

「させない!」

 

ㅤ焔斗を吹き飛ばしたことにより、間に入る隙が出来たことを見逃さなかった紫紅が、魔物の攻撃を防ぐ。しかし、弾き返すほどの力は出せず、受け流すような形で対応する。焔斗に当たるかどうかスレスレのところに鎌が突き刺さる。このまま反撃しようと構える紫紅、その瞬間。

 

ㅤグサッと、後ろでなにかが刺さる音が聞こえる。恐る恐る振り返ると、体を海老反りのようにした魔物の尾が、焔斗の胸に突き刺さっていた。

 

「お、お兄ちゃ……ん?」

 

ㅤ突き刺さった尾が引き抜かれて、鮮血が吹き出る……ことは無かった。焔斗の体が焔となって消える。

 

「なめんなよ骨野郎!『狂焔ノ槌樂』(きょうえんのついらく)」

 

ㅤ魔物の脳天から思いっきりメイスで叩き込む。不意をつかれた魔物はもろにそれを受け、顔面を地面に叩きつけられる。

 

「一旦離れるぞ!」

 

「う、うん!」

 

ㅤさすがに今ので倒せる訳もなく、無理に押しても危ないので一旦退く。そして、焔斗は紫紅に手を差し伸べる。

 

「紫紅、やれるか?」

 

「もちろん!倒そう、二人で!」

 

ㅤ二人で頷き合い、手を繋ぐ。お互いの魔力を共鳴させ、高め合う。

 

「「『紫雷紅焔纏装』!」」

 

ㅤお互いが、紫の雷と紅い焔を同時に纏う。こうなれば手を離しても大丈夫だ。もしかしたら出来るかもと思っていたが、無事成功した。

 

「『焔ノ鼓舞』」

 

ㅤ更に、焔斗による支援魔法で能力が底上げされる。二人とも第一段階の纏装術の掛け合わせだが、完全に第二段階の纏装より強くなれている。

 

「やるぞ、紫紅。」

 

「おっけー、お兄ちゃん。」

 

ㅤ立ち直った魔物がこちらを見て、一瞬たじろぐような様を見せる。が、直ぐにあの高速な動きで二人を始末しようと接近してくる。

 

「「遅い。」」

 

「キシャアアアアア!?」

 

ㅤバキッと音がなり、魔物の両腕の鎌が粉砕される。焔斗と紫紅が軽く一発、鎌の腹部を叩いただけで粉砕された。続いて後ろに回り、尾の刃も粉砕する。

 

「「たぁ!」」

 

ㅤ魔物を二人がメイスでぶん殴りぶっ飛ばす。先程までとは形勢逆転、完全に魔物を圧倒していた。

 

「最後は決める?」

 

「うん!一緒に!」

 

ㅤボロボロにされ虫の息の魔物に向かって、トドメの一撃を撃つべく、二人は魔力を練り上げる。

 

「終わりだ(よ)!『紅蓮竜胆雷焔撃』!」(ぐれんりんどうらいえんげき)

 

ㅤ練り上げられた魔力による、二人の合体技。魔力の共鳴なんてものは、普通の人にはできない。余程寝食を共にしたものか、兄弟などの血縁。そしてその上に、相手への絶対的な信頼が必要となる。ブラコンとシスコンの兄弟愛による絆が、この絶大な力を生み出したのである。

ㅤ雷焔に飲まれて跡形もなく魔物が消滅する。下手すりゃ死ぬくらいのめちゃくちゃ相手だったが、なんとか勝ててよかったと安堵する。もう一度大丈夫なことを確認して、結界を完全に解く。

 

「……。」

 

「……ん?どうした紫紅。頬膨らませて。」

 

ㅤちら、と紫紅の方を見ると、なぜかは分からないが頬を膨らませて黙り込む姿が目に映った。一体何なのか分からず問いかけると、怒ったように答えた。

 

「お兄ちゃん、心臓に悪いからあーいうのは事前に言ってよね!!!死んじゃったこと思ったんだから!!!」

 

ㅤ恐らく、先程の刺された時のことであろう。そんなこと言われても、咄嗟にやった事だから伝えようにも出来ないのである。と説明すると、魔力による念話的なのがあると教えてもらった。これで魔力を感じれる距離なら、何時でも通話のようなことが出来るらしい。ちなみに、今はそれを使って紫紅がトモに依頼達成の連絡をしている。便利なものだ。

 

「よし、おっけー!行こっかお兄ちゃん!」

 

「ああ、だけどその前に腹ごしらえにしよう。」

 

ㅤ魔力回復も兼ねて、一先ずトモから貰った弁当で食事にすることにした。あまり焦りすぎるのも禁物だ。追わない、と決めたが、例の黒幕はどう動いてくるかも分からない。もしもの時に対応できるよう、休憩も大切である。弁当箱を預けておいたレーヴァテインが影から出てくる。

 

「……お前ら、俺は荷物持ちじゃないぞ……。」

 

「う、ごめん。戦闘中に落としたりして食べれなくなったら嫌で……。」

 

「まあいい……。食べ物を粗末にするのはダメだからな……。」

 

ㅤそう言って、焔斗に弁当箱を渡すと、再び影に潜り込んだ。彼は食べないらしい。

 

「あの人、現界の魔王?だっけ。強いのはわかるんだけど、なんか……。」

 

「まあ、元人間だしな。強さの面での恐ろしさは戦ってみればわかると思うけど、今はやめとけ。」

 

ㅤ首を傾げる紫紅にそう説明し、トモからの弁当でしっかりと休憩をとった。




今回はここまで!
いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは、

Revatainnさん(レーヴァテイン)

でした!ありがとうございました!

次回、第9話

『ただいま現界、初めまして現界』

お楽しみに!


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第9話『ただいま現界、初めまして現界』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ㅤ想像以上に苦戦はしたものの、なんとか魔物討伐の依頼を達成した焔斗と紫紅。腹ごしらえを済ませ、現界へ向かうべく旅立つ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「いやー、美味しかったね!弁当。」

 

「ああ。凄いな、あの執事さん。」

 

ㅤ元いたの世界の弁当とは違い、魔法があるため保存的な意味では物凄くやりやすい。やりくりすれば弁当の中が水蒸気で濡れてしまうことも避けられる。ただ、それはかなり魔力の扱いが器用でないと不可能である。今回の弁当は、外はカリッ、中はジューシーで噛めば噛むほど味がでる唐揚げ(肉が鳥なのかは分からないが美味かった)等が入っていて本当に美味しかった。

 

「そろそろだぞ。」

 

「お、出てきた。」

 

「人をモグラみたいに言うんじゃない。焼くぞ。」

 

ㅤ影で移動していたレーヴァテインが、影の中から出てきて飛行状態になり焔斗達の後ろにつく。兄妹水入らずの場を楽しませるために隠れていてくれたのだろう。戦力的には規格外すぎるが、こういうところを見ると案外普通の人なのかもしれない、と思った。元人間、というのを魔界に来る前に聞いたのもあるが。

 

「お、あそこじゃないか?」

 

「ああ。」

 

「ん、あそこ?確かに何か少し違う雰囲気がある……。」

 

ㅤ焔斗は一度見ているのですぐに分かったが、紫紅はむむむ、と目を細めてみている。一度この雰囲気を感じて覚えていないと見つけるのは困難なのだ。

 

「よし、開くぞ。もう邪魔は無いと思うが、もし何かあったら来た時と同じだ。攻撃食らうんじゃないぞ。」

 

ㅤそう言って現界へと繋がる扉を開くレーヴァテイン。その中をゆっくりと歩く。さっきの言葉がさすがに怖かったのか、暗いのもあってなのか、紫紅が焔斗の服をギュッと掴む。いくら強くてもまだ中学生なのだ、怖くて当然である。

ㅤしばらく歩いていると外への光が見えた。あれが現界への出口だろう。予想通り、邪魔は入らなかった。それでもやはり怖いのか、先に行くよう促すと紫紅はふるふると首を横に振った。仕方ないので、一緒に通ることにした。少し狭いが、焔斗は細身で紫紅も小さいので問題なく通ることが出来た。

 

「わあ……!緑だーーーーー!」

 

「ここが現界だよ、紫紅。」

 

ㅤ現界も日が昇っており、森を明るく照らしていた。木々の間から差し込む日光が心地良い。紫紅はこっちの世界、魔界に来てからずっとあっちに居た。果物などはあったりしたものの、木々の生い茂った森、というのは見てなかっただろう。久しぶりのザ、自然の景色に感嘆の声を漏らす。

 

「結構遠いけど、街もあるんだ。師匠とはそこで出会った。それに、紫紅を連れていきたい菓子屋もあるんだ。」

 

「お菓子!!!!!!!」

 

ㅤパァァァァと顔を輝かせる紫紅。後でたらふく食わせてやろう、と心に誓う。無論、食べすぎない程度にだ。

 

(そういや見かけただけで食べてないけど、まあ、行けるだろ。行列出来て人気そうだったし、うん。)

 

ㅤ肝心の下見をしていない焔斗であった。

 

「まあそれはさておき、レヴァさん、本当に色々ありがとうございました。」

 

「ありがとうございました!」

 

ㅤ二人でレーヴァテインに礼を言う。彼がいなければ、これほど早く再会することは出来なかったであろう。もし再会出来たとしても、今回よりずっっと遅いタイミングになる。その間、お互い無事かどうかも分からない。

 

「別に、礼を言われるようなことじゃない。俺が勝手に興味を持って、勝手に絡んだだけだ。気にするな。」

 

ㅤ「じゃ、もう行くぞ。」と言いながらレーヴァテインは影に溶けるように消え、その場を去った。

 

(再会出来てよかったな。……だがなんだ、この胸騒ぎは。天界のことと関係あるのだろうか。……少し鍛え直した方がいいかもしれないな。)

 

ㅤ必ず来ると予想される天界からの侵略。話に聞く限り、相当強い相手だと思われ、心踊ってはいたが、未知なる敵に少し怖さも感じているのかもしれない、と思った。だからこそ修行をしようと、魔界で自分と同等レベルの魔王と戦って分かった。まだまだ上には上がいることを。そして何より、自分の力の衰えを。強いやつが居ないか探して戦うだけじゃダメだ。しっかりと鍛え直さなければ。

 

(天界から来るのがどういう奴かは知らないが……返り討ちにしてやる。)

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤそんなレーヴァテインの心境はいざ知らず、焔斗と紫紅は歩いて街に向かっていた。別に飛べば早いと言えば早いのだが、久しぶりの緑の自然、小動物に目を輝かせる紫紅を見て歩こうと提案した。途中、魔物を狩って素材を売れば、資金にもなる。働くところが見つかるまではお金に困るだろうし、その方が良い。

 

「ねえお兄ちゃん見て!リスさんみたいな子がいる!かわいーーーー!」

 

ㅤキャッキャと騒ぐ紫紅。年相応、より少し幼くも見えるが、すごく笑顔で楽しそうだ。こちらまで楽しくなってきて思わず微笑んでしまう。だが、そのリスに似た動物はどこかで……

 

「……っ!紫紅!そいつは魔物だ気をつけろ!」

 

「へっ?」

 

ㅤ見た目は可愛らしいリスに似ているのだが、人が近づくとその小柄な見た目からは想像もできないほど大きく口を開けて噛み付いてくる魔物だ。焔斗も道中遭遇したことがあるが、如何せん普通のリスに似たただの動物もいるので紛らわしい。魔物の鋭い牙が、紫紅の喉を狙って大きく開かれる。

 

「シッ!」

 

ㅤ今にも噛みつかれると思ったその瞬間、閃光のように鋭い攻撃が、魔物に直撃して貫いた。

 

「あ、わ。」

 

「……大丈夫?」

 

ㅤそう言って尻もちをついた紫紅に手を差し伸べる女性。白を基調とした、動きやすそうな布地の服装。髪は銀髪のロングで、目は少しつり目で色は深い緑。水色の槍を持った槍使いのようだ。

 

(は、速過ぎる……!魔物に気を取られていたとはいえ、紫紅を助けてくれるまで気づかなかった……!)

 

ㅤ「あ、ありがとうございます。」と言いながら、女性の手を借りて立ち上がる紫紅。見た感じ怪我もないようだ。あそこまで接近した魔物を、あの速度で、助ける対象に影響が無いように仕留めるとはなかなかの手練だと思った。

 

「す、すみません。ありがとうございまっ!?」

 

ㅤ何はともあれ、助けてくれたことをお礼しなければ、と焔斗が歩み寄ろうとした瞬間、先程と同じような閃光が見えたと思えば、首元に槍を突きつけられていた。

 

 

「ぐっ!?」

 

「ここは森ですよ。それも深い。こんな所に遠足気分で来るなんて、あなた達死にたいの?見たところ、弱いわけじゃなさそうだけど、油断しすぎよ。今この瞬間も、私が味方かどうかなんて分からないのに無警戒で……。!?」

 

ㅤ焔斗に向かって説教をしていた謎の女性。だが、その途中で自身が逆に追い詰められていることに気づく。多数の紫雷のメイスが、少しでも動けば当たるように女性を囲んでいた。

 

「助けてくれてありがとうございます。でも、そういうこと言うってことはもちろん、こういう状況も警戒してるんですよね?その割には、随分と楽に包囲出来ましたけど。……お兄ちゃんに手を出したら許さない。」

 

ㅤバチィッと雷を鳴らしながら紫紅が女性を睨みつける。

 

(いつの間に……!?それに、油断していると思ったけど、それは私の方だったみたいね……。)

 

ㅤ紫紅は先程の魔物に驚き、今のこの状況にも驚き、頭の整理が追いつかないだろう、と思っていた。だが、そもそもそこで推測で動いたのが間違いだった。自分もまだまだだと反省する。

 

「紫紅、やめろ。この人に殺る気はない。」

 

ㅤ実際、殺ろうと思うなら今の寸止めではなく、確実に喉を貫いている。ここも含めてただの説教なのだ。

 

「でも……、分かった。」

 

ㅤ少し不満そうではあったが、焔斗の言葉に頷き、包囲している紫雷のメイスを消滅させる。

 

「……ありがとう、分かってくれて。」

 

ㅤさすがにここでまた油断だ!等と言ってくることはなく、女性も武器をしまう。

 

「改めて助けてくれてありがとうございます、ええと、」

 

ㅤ名前がわからず、言葉に迷っていると、女性は少し微笑みながら自分の名を名乗った。

 

「私は、ジン。ただの槍使いよ。」

 

ㅤどう考えても”ただの槍使い”なんてものでは無いだろう、とは思いながら、手を差し伸べてきたので握手を交わす。

 

「ありがとうございます、ジンさん。」

 

ㅤそうしていると、何故か少しムスッとした紫紅が握手している手に自分の手を重ねる。この後普通に握手すればいいのに、と思ったが、ジンがふふ、と笑ったのでまあいいかと思った。

 

「これから何処へ?」

 

「ああ、商業街ミカルコに。」

 

「へぇ。まあ、気をつけるのよ。さっきみたいな魔物も居るから。」

 

ㅤそう言って去ろうとする彼女に問いかける。

 

「そういえばジンさんは、何処に向かってるんですか?」

 

「何処でもないわ。私は自由が好きなの。まあ、装備衣服類は街に買いに行くこともあるけどね。」

 

ㅤなんかかっこいい、と思いながらその言葉を聞く。先程の実力も、この自由な旅の中で厳しい経験から得られたものなのだろう。焔斗達は魔力量的には飛び抜けて優れているが、いかんせん経験値が足りない。バトル漫画の真似をしてみたりと感覚でやってはいるが、本当に戦闘技術を鍛えた者には魔力量が圧倒的に低い相手だったとしても負けるかもしれない。この世界での戦い方ももっと学ばなければ、と改めて思った。

 

「じゃ、次もし会う時は魔物に襲われそうになってないことを祈るわ。またね。」

 

「はい、また。」

 

ㅤ今度こそ完全にジンは去った。去る時はやはり閃光しか見えず、恐ろしい速さだった。

 

「現界、すごい人もいっぱいいるんだねお兄ちゃん。節狐さん?のことは話には聞いてたけど、今の人も……。」

 

「ああ、そうだな。あんまりナメてると俺達も危ないかもしれない。これからは修行しながら行こう。我流にはなってしまうけど、何もしないよりはマシなはずだ。」

 

「うん!お兄ちゃんと一緒に頑張る!」

 

ㅤそう言う紫紅の頭を撫でてやる。気持ちよさそうに目を細める可愛らしい妹にまた癒された。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ん、闇華ちゃん!」

 

「うん、気づいてるわよ来羅。帰ってきたみたいね、彼。」

 

ㅤとある街でライブの後片付けをしていた闇華と来羅。焔斗と紫紅が戻ってきたのを魔力で察知する。

 

(今回は帰ってきたのが分かったからいいけど、魔力の抑え方も教えとくべきね……。今のままじゃ目立ちすぎよ。)

 

ㅤ魔力を感じるというのは、何も全力を出している時に強く感じるのではなく、普段の状態でも魔力は出ていて、それが強ければ強いほど感じることが出来る。なので、それが強すぎると位置がバレバレになり、何なら魔物と勘違いされて他の人が逃げる、もしくは討伐に向かってくる可能性がある。

 

「ま、今の彼の魔力量相手に喧嘩を売るような人はそうそういないだろうけど、ね。多分妹さん?の魔力量も凄いし。何あれ。」

 

「ん〜?闇華ちゃん何か言った〜?」

 

「いいえ、何でもないわ。」

 

ㅤゴソゴソと道具を片付ける来羅。その様子を見ながら、闇華は考え事をする。

 

(それにしても、まだ先だとは思うけど、天界からの降臨へ対策を考えないと……。なるべく彼らが他の人にかかわらないようにする?いや、それは無理ね。必ず人との繋がりは増えてしまう。それならいっその事、天界についてみんなに話してしまおうか?その上で戦える人全員で天界勢に対抗する。……いや、駄目ね。数でどうにかなるような相手では無いわ。選出するとしても、かなりの実力者のみ。そんな人を探して事情を説明するしかないかしら。いちばん厄介なのは聖騎士連中だけど、彼らも無駄に強いから。……信じてもらえる人だけでも募るべきね。前戦った節狐って獣人は協力して欲しいところよ。)

 

「やーみーかーちゃーん?何ぼーっとしてるの?片付けしよ!」

 

「あ、ああ。何でもないわ、ごめんなさい。」

 

ㅤ珍しいねー?と言いながらせっせと片付けをする来羅。それに加わりながら、今後の行動についてある程度固める闇華。遠いとはいえ、確実に近づく天界からの侵略への対策が始まる。

 

「闇華さん、これはここでいいですか?」

 

「ん?ああ、そうね。いいわよ、ありがとう、”桃歌”。」

 

「はい!」

 

ㅤせっせと二人の片付けを手伝う少女の名は、桃歌。ピンク色の髪をおさげにしていて、目は緑で童顔。何個か前のライブの時、新人アイドルとしてライブしていた彼女とはち合わせ、色々あって合同ライブ。その後、一緒に行きたいと希望されて断る理由もなく同行している。実際、一緒に歌って踊るというよりは、交代でやる感じだ。彼女のスタイルは闇華達とは違う。無理に合わせるよりはそっちの方がいいし、観客も飽きない。最初は交代した時に観客が減らないか懸念していたが、桃歌は自慢の可愛さで観客をメロメロにしていた。ファンを取られた訳では無い。皆、どちらも好きになってくれたのだ。

ㅤとは言え、もちろん人気で負けるつもりは無い。仲間でありライバル、そんな関係だ。それに、桃歌は戦闘がほぼ出来ない。そもそも魔力が皆無なのだ。それはそれで特異体質なのだが、一応空間魔力を使って簡単な魔法を放つことが出来る。でもそれだけだ。アイドル活動で各地を移動するなら、必ず魔物との交戦にもなる。護衛を雇ってもいいが、お金はかかるし、防衛戦がどれだけ大変かは言うまでもない。それならいっそ、同職の人と一緒にいる方が安全である。

 

「にしても、今日のあなたのライブも良かったわね、桃歌。」

 

「っ!はい!ありがとうございます!」

 

ㅤ闇華と来羅が可愛さと美しさを良い割合で兼ね備えたアイドルとするなら、桃歌は可愛さ全振りのアイドル。二人とはまた違った魅力で、観客を釘付けにしていた。可愛いだけではなく、歌も上手いので侮れない。

 

「よし!終わったー!次はどこ行く?闇華ちゃん!」

 

「そうね、受け入れてもらえるかは分からないけど、獣人の国、『リベルタ王国』へ。」

 




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは、

Revatainnさん(レーヴァテイン)

ジンさん(ジン)(初登場)

Yamikaさん(闇華)

ララさん(来羅)

でした!ありがとうございました!

桃歌はオリキャラです!

次回
第10話
『獣人の国、リベルタ王国』
お楽しみに!


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第10話『獣人の国、リベルタ王国』

━━━━━━━━━━━━━━
現界に戻った焔斗と紫紅。
一方その頃、闇華達は桃歌と出会い、天界への対抗戦力確保のため、獣人の国、リベルタ王国へと向かっていた。
━━━━━━━━━━━━━━


「桃歌、大丈夫?」

 

「っ、は、はい!大丈夫で、す!はぁ、はぁ。」

 

「んー、少し休憩にしよっか!いいでしょ闇華ちゃん?」

 

ㅤ獣人の国、リベルタ王国へ向かう闇華一行。だが、やはり体力的な差で、桃歌がバテてきた。闇華達は全然大丈夫なのだが、ここで無理して急ぐこともない。一刻も早く天界への対策を、とも思うが、推測でもまだ半年以上残っている。闇華は焦る気持ちを抑え、休憩を受け入れた。

 

「ふぅ……やっぱり凄いですね、皆さん。あたしバテちゃって申し訳ないです。」

 

「仕方ないわよ、気にしないで。あなたは戦闘向きに鍛えた、とかでは無いし、魔力量も少ないんだから。」

 

ㅤ少ないどころか皆無なのだが、無い、なんてキッパリ言うのはさすがに辛いだろうと言葉を濁す。本人曰く、桃歌は生まれつき魔力がないらしく、空間魔力を利用した魔法でどうにかしてきたらしい。もちろん、空間魔力を極限まで上手く使えば攻撃魔法にも出来るのだが(自分の魔力と空間魔力を合わせて攻撃魔力消費を軽減させるようなテクニックはある)、普通の人はせいぜい生活に便利な魔法が使える程度だ。火を出したり、水を出したり。風を吹かせて洗濯物を乾かしたりと言ったくらいである。

 

「でもでも、もうすぐ着くよ!リベルタ王国!だから元気だして行こ!闇華ちゃん!桃歌ちゃん!」

 

「あなたは元気すぎるわよ……。」

 

「あはは……。」

 

ㅤえー?と首を傾げる来羅に苦笑しながら、休憩時間を過ごす。

 

「さてと、そろそろ行きましょうか!」

 

「はい、少し回復しました。もう歩けます。」

 

「リベルタ王国へれっつごー!」

 

ㅤ二人一組のアイドルと、一人のアイドルが、リベルタ王国へ続く森へ入っていく。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ天界、首都『瑠天ノ都』白を基調とした建物の並ぶその都市で、一人の天界人が買い物に出歩いていた。

 

「あとは……いや、もう買いきったね。僕も早く帰ろう。……あんまり出歩きたくないし。」

 

ㅤ首都で食料などを買いに来ていたねこま。彼は優秀で皆から羨望の眼差しで見られているため、あまり街には出たがらない。少し外を歩けば声をかけられてしまう。それは、天界の序列上位の者たちは一部を除いて皆同じで、天界人の注目の的なのだ。

 

「あれっ、もしかしてねこま様ですか!?」

 

ㅤ通行人の女性の天界人に話しかけられ、バレた、と思いすぐに逃げようかと迷ったが、ねこまは優しいのでそれが出来ない。

 

「う、うん。そうだよ、何かな?」

 

ㅤ極力嫌がっているのを顔に出さないようにしながら、頼むから騒がないでくれ、と念じてほほ笑みかける。が、そんな念が届くはずもなく。

 

「きゃーーーーーー!ねこま様ですね!本物!わっわっ、どうしよう心の準備が!」

 

「あ、いや、ちょっ」

 

ㅤやはり大声を上げられ、その通りに居た人達が何事かと集まってくる。そして、ねこまを視認するや否や、「ねこま様だ!」「おお、珍しい!お目にかかれて光栄です!」等、全方位から声をかけられる。

 

(またやってしまった……。帰れないよこれ……。)

 

ㅤなんとなしに対応しながら、どうしたものかと頭を悩ませていると、

 

「あ!みんな見ろ!序列二位のサキラ様だ!」

 

ㅤねこまよりも上、序列二位のサキラが現れた。彼の種族は神。純白の長髪に、漆黒の瞳。高身長な彼は、その存在と相まってとても目立っていた。存在と種族差は関係なく、ただの天界人でも努力すれば上位に行けるのだが、彼は別格である。まさしく神にふさわしい実力の持ち主だ。ねこまですら、どう足掻いても彼にだけは勝てる気がしなかった。

 

「やあ皆さん、そう集まらないでください。今日はプライベートですので。」

 

(悔しいけど、今回は助かったよ。今のうちだね。)

 

ㅤスっ、と皆の注目がサキラに向いているうちに、ねこまはその場から退散する。

 

「ふぅ、目立つのは嫌だけど、強くならないのも嫌だしな。困ったものだよ。」

 

ㅤ足早に自分の家へ帰還する。序列上位の者たちには、あのような街や都以外で見かけても、重要な用がない限りは話しかけてはならない(挨拶は可)という法律があるため、家に突撃されるようなことは無い。

 

「よし、ライメン食べよう。」

 

ㅤ先程買ってきた素材で料理を始める。焔斗達が元いた世界だと、ラーメンによく似た料理だ。黄金色の麺、スープ、肉、野菜などで構成された逸品物。

 

「ふむ……。」

 

ㅤライメンが出来上がり、麺を啜って食べる。食事をしながら下界をモニタリングしているモニターを見る。

 

(やっぱ、着実に強くなってるよね〜。ま、僕らには適わないんだけど。にしても、どこかの堕天使のせいでこっちのことダダ漏れじゃないか。なんで放置してたんだろうね。期間がすぎたのか何か知らないけどさ。完全に解く必要は無いけど、やっぱり無干渉なんてやめた方がいい気がするけどな。)

 

ㅤ獣人の国、リベルタ王国に向かう闇華一行を見ながらそう考える。

 

(戦力を少しでも増やすつもりかい?そんなことしても無駄だけどね。だけど、魔王達はさすがに別格だね。少しは楽しませてくれそうだ。どっちか僕に殺らせて欲しいなぁ。)

 

ㅤ転移者に深く関わった者を滅する。それが降臨する理由なので、焔斗に出会い導いた魔王レーヴァテインと、紫紅を自身の城に一時的とはいえ住まわせた魔王シハクも殲滅対象なのである。

 

(ま、どうなってもいいけど。僕が勝つのは変わらないし。)

 

ㅤライメンのスープを飲み干しながら、自身の勝利をイメージする。今の状態なら、最悪の展開を考えても負けることは無い。

 

(でも、かと言って何もしないのは性にあわないんだよね〜。)

 

ㅤ食事の片付けをし、ねこまは自身専用の修練場へと、さらに強くなるために向かった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「もうすぐ、のはずだけど……すごく深い森ね。飛べなければ、道中しっかりと分かるしるしを残しておかないと帰れないレベルだわ。」

 

ㅤ一応、道のようなものはあるのだが、地図を開いてやっとこれが道と分かるレベルである。

 

「この森全部、私の風で吹き飛ばしたいなあ……。」

 

「冗談ってのは分かるけど、やめなさいね。絶対。」

 

「うん〜。」

 

ㅤ闇華は木々の生い茂る道を進みながら、後ろを振り返り桃歌に声をかける。

 

「桃歌、大丈夫?さっき休んだばかりだけど、この道は疲れるでしょう。休憩したい時は遠慮なく言ってね。……まあ、」

 

ㅤ木々の間から襲いかかってくる魔物を、剣で斬り捨てる。そして、背後から襲いかかる魔物を、来羅が斧で叩き潰す。

 

「体は休まっても精神は休まらないと思う、けどね。」

 

ㅤ人があまり来ていないからだろう、森の中は魔物で溢れかえっていた。獣人も来ているとは思うが、そんなに頻度は多くないのかもしれない。もしくは、単にここが魔物にとって住みやすいのか。

 

「きゃ!」

 

「桃歌ちゃん!っ、邪魔!」

 

「多すぎるわよ!?」

 

ㅤ遂に、魔物が桃歌まで襲い始める。減らすより増えるほうが多いこの状況。はっきり言ってかなりマズイ状況だ。桃歌も一応、自身のメイスで応戦しているが、いつまで持つか分からない。下手に暴れて、闇華の雷で火事になっても困る。来羅の風は強力だが、別の魔物を呼ぶ可能性がある。派手に動けないのは彼女達にとって、とても戦い辛かった。

 

「あっ!」

 

ㅤメイスを魔物に弾き飛ばされ、丸腰になる桃歌。盾はあるが、それだけじゃ防ぎ切れるわけが無い。魔物の攻撃が桃歌を絶命させようと迫る。

 

「『獣躍焼脚』!」(じゅうやくしょうきゃく)

 

ㅤ間一髪の所で、横から飛んできた炎を纏った脚が魔物を蹴飛ばす。周りに飛び火して火事にならないよう、火力が調整されており、木々に引火するようなことはなかった。闇華達の方も、数人の獣人が助けに入り、ようやく魔物が出てこなくなった。

 

「あんたら、大丈夫か!こんなところで何やってるのか知らないが、って、その身なり、そうか!話に聞いてたアイドルってやつか!」

 

「え、ええそうよ。ごめんなさい、助かったわ。」

 

「気にするなってことよ!こっちこそ、迎えに行くべきだった。こういう場面はなかなか無くてな、慣れてないんだ。言い訳になっちまうがすまない。」

 

ㅤおそらくこの団体のリーダーと思われる、黒豹の獣人が頭を下げる。獣人は、節狐のように人に容姿が寄り、耳やしっぽ等が獣人である証の者。そして、今この目の前にいる獣人のように、動物が二足歩行になって人型になった、顔などはそのままの見た目の獣人の二種類存在する。彼は後者で、黒豹の顔をしている。

 

「気にしないで、こちらこそナメすぎていたみたい。今回は護衛対象もいるのに、無理しすぎてしまったわ。」

 

ㅤ桃歌が申し訳なさそうに表情を暗くし、顔を俯ける。「気にしないでいいよ!」と来羅が彼女の頭を撫でながら慰める。

 

「おお、そうだ。可愛いお嬢さん、さっきは間一髪だったが、俺の攻撃が掠ったりしてないか?一応調整はしたが、ギリギリのタイミングだったからな。もし掠ってたら申し訳ねえ。」

 

「は、はい!大丈夫です!助けてくれてありがとうございます。ええと、」

 

ㅤ桃歌が頭を下げながら礼を言う。名前を聞いていなかったので、なんと呼べばいいか迷っていたら、獣人が察して元気よく名乗る。

 

「ああ!名前か!すまない、自己紹介が遅れちまった。俺はリベルタ王国国土偵察兼防衛隊隊長、クロリアだ。んでこいつらは隊員な。よろしく!」

 

「よ、よろしくお願いします!あたしは桃歌、でこちらの方々が、」

 

「闇華です。」

 

「来羅だよー!」

 

ㅤお互いに軽く自己紹介をして、リベルタ王国に向かうことになった。ここも一応縄張りではあるが、町にはまだ遠いらしい。入り組みすぎてて地図も当てになっていなかったため、そのような情報でも嬉しかった。

ㅤ闇華達も強いが、ここはこの土地をよくわかっている自分達に護衛を任せてくれ、と提案してきたので、遠慮なく承諾する。悔しいが、ここでは実力の半分も出せない。彼らに任せた方が無難だろう。

 

「そう言えば、来客に慣れていない、という話だったけれど。ステージ用のスペースは大丈夫なのかしら。」

 

「ああ、その辺は大丈夫だ!ちゃんと指定通りのスペースを用意させてもらったぜ!まあ、機材とかは何も無いと思うが、素人が何か無理に手伝おうとしても邪魔になるからな。用意はあるって聞いてたからほんとにスペースだけだ。もし何かあれば教えてくれ、できる範囲なら協力するぜ!」

 

「ええ、充分よ。ありがとう。」

 

ㅤ深い森を一時間ほど歩いただろうか。日も沈みかけて来ていよいよ走った方がいいかと思っていたが、どうやらもうすぐ着くらしい。賑やかな声が聞こえてくる。

 

「なるほど、道理で急ごうとしないわけだわ。近かったのね。」

 

「お、さすがにバレたか。はは、そうだぜ!もうすぐ街だ!深い森を抜けた時、街の景色が眼前に広がる感覚を味あわせてやりたかったが、やっぱ賑やかだからな!がはは!」

 

ㅤどうやら、到着した時の心躍るような感情を味あわせたかったらしい。確かに、辛い道を抜けて目的地に到着した時の感覚は素晴らしいものだ。それが良い景色なら尚更のことである。

 

「もうすぐだ。しっかりと目開いとけよ!」

 

「ええ。」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

ㅤ各々クロリアの言葉に頷き、森を抜ける。どうやら少しこちら側が坂の上側になっていたようで、眼前に広がる街の景色を一望できた。様々なところで様々な獣人が、楽しく会話したり、必死に働いたり、戦闘の鍛錬をしたりしている様子が目に入る。

 

「いい景色ね。」

 

「わあ!いろんな獣人さんがいっぱい!」

 

「ここで、ライブ……!」

 

ㅤ見渡していると、明らかにひらけた場所が見受けられた。恐らく、あそこが今回のライブの為に用意してくれた場所だろう。それににしても、街自体がとにかく広い。というのも、国内で色んな街がある、ではなく、リベルタ王国そのものが一つの大きな街なのだ。全獣人がそこで暮らしているため、必然的に規模も大きくなる。真ん中には大きな城が建てられており、黒光りする瓦が夕日の日光を反射していた。ごく一般的に見る城とはかなりイメージの違う見た目をしていた。街の家なども同様で、独特なデザイン、構造をしている。

 

「時間帯、そして天気が良かったな!この景色は王国の自慢の一つだ、早速見せることが出来て嬉しいぜ。」

 

ㅤ夕焼けもあって、なんとも素晴らしい景色だった。日が暮れるまで、ずっと見ていたいくらいである。

 

「さて、行きましょうか。」

 

「ああ、先ずは国王陛下と節狐様に挨拶をしてもらうぞ。あの今見えてる城まで案内するからついてきてくれ。」

 

ㅤそう言われ、闇華達はクロリア率いるリベルタ王国国土偵察兼防衛隊に連れられて、街の中心にある城に向かう。こんなに簡単に連れて行っても大丈夫なのだろうか、と不安になるが、節狐とは一応面識もある。そもそも彼女の強さなら、半端者などひとひねりで返り討ちにするだろう。

 

「あ!クロリアさん!お疲れ様です!」

 

「おう、お疲れ!今日も新鮮で美味そうな肉があるじゃねぇか!この後の帰りに買いによってもいいか?」

 

「もちろんです!お待ちしております!」

 

ㅤ住人に明るく話しかけ、歩きながらも軽く雑談を交わしていくクロリア。国民からも愛されているのがよく伝わってきた。

 

「よし、着いたぜ。」

 

ㅤしばらく、かなり歩いたあと、城前に到着した。もう既に日は沈み、夜になっている。まだ遅い時間とは言わないが、やはり景色で見た通りかなり広かった。城前の兵士と挨拶を交わし、クロリアと共に中に入る。

 

「随分緩いのね、もっと厳重にした方がいいんじゃないかしら。」

 

ㅤ一応、何が目的で来国したか等、基本的な情報は聞かれたが、それ以外持ち物検査や、武器の押収なども無くすんなり入れて貰えた。クロリアが居るのもあるとは思うが、やはり警備が甘すぎる。

 

「ん?ああ、人からしたらそうかもな。でも俺たちはあれでも充分チェックを入れられてるんだぜ?」

 

ㅤ来羅と闇華は人間では無いが、というツッコミを抑えて、クロリアの話を聞く。

 

「俺達は獣人だ。色んな動物の獣人がいるだろ?目の良い奴、耳の良い奴、鼻の良い奴。そんな中、嘘をついているかどうか見抜ける奴もいる。ここに来るまで、あの城前や門をくぐる時とかによ、しっかり見られているのさ。」

 

「……なるほど、不思議な視線は感じてたけど、そういう事だったのね。」

 

「獣人ってすごーい!」

 

ㅤ感嘆の声を上げる来羅を見ながら、クロリアはニヤついて言う。

 

「もちろん、危険じゃないっていうことの確認だけじゃなく、あんたら二人が人間じゃあないってことも気づいてるぜ。」

 

「……他言無用でお願いね。」

 

「おうよ!任せとけ、客人の秘密は守る。勝手に探ったんだ、その位は当然さ。」

 

ㅤそんなこんなで話しながら歩いていると、明らかに雰囲気の違う部屋の扉に辿り着いた。恐らくここが、

 

「さて、着いたぜ。節狐様とはもう会ってるらしいが、陛下は初めてだろう。心の準備はいいか?」

 

「もちろんよ。」

 

「いつでもおっけー!」

 

「ひ、ひゃい!大丈夫でふ!」

 

ㅤ約一名怪しい者が居たが、クロリアは無視して扉をノックし、開く。二段ほど上の位置に、白い狐の獣人が座っている。その一段下に、この間戦闘した節狐が座っていた。

 

「おー!久しぶりじゃねーか!……じゃない、お久しぶりです、闇華様、来羅様。そして、初めまして、桃歌様。私は節狐、と申します。本日は遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます。ささ、どうぞお座りくださいまし。」

 

ㅤ節狐の態度にポカン、となる闇華と来羅。それもそうだ、前あった時はあんなに勇ましい様子だったのだから。彼女を知らない桃歌だけが、「あ、失礼致します。」と言って座る。ちなみに、立ったままの二人に気づき、自分が間違えたのかと不安になって冷や汗を流している。

 

「……節狐よ。既に崩した状態で話したことがあるのなら、無理にかしこまらなくて良い。」

 

「本当か!?はーーー、じゃ、いつものでいかせてもらうよ〜。」

 

ㅤ今度は桃歌がポカンとする番だった。

 

「よし、腹減ってんじゃないかい?まずは飯にしよう。」

 

ㅤ節狐が指を鳴らすと、獣人が料理を運んできた。いそいそと闇華と来羅は先程言われた場所に座る。

 

「んで、アイドル活動?てのが表の理由で、なんの話があってきたんだい?」

 

ㅤ料理が運ばれている中、そんな質問をズバッと入れてくる。流石というか、見抜かれていたらしい。

 

「ええ、そうね。桃歌も初めて聞くとは思うけど、関わっちゃった以上知るべきだわ。話させてもらうわね。」

 

ㅤそう言って、闇華は天界について説明を始める。




今回はここまで!いかがでしたか?

今回登場したif民モチーフは、
Yamikaさん(闇華)

ララさん(来羅)

ねこまさん(ねこま)

節狐さん(節狐)

でした!
ありがとうございました!
サキラとクロリア、その他キャラはオリキャラです。

次回
第11話『天界対策』

お楽しみに!


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第11話『天界対策』

━━━━━━━━━━━━━━
森をクロリア達の手を借りて抜け出し、ようやくリベルタ王国に到着した一行。街並みを見て楽しみながら、城へ行き、この国の代表達と話し合いを開始する。
━━━━━━━━━━━━━━


 

「初めまして、私は狐郭(こかく)。節狐の父親で、この国の王、ということになっている。」

 

「ふぉっふぉっふぉっ。謙遜しなさんな国王陛下。今は主がこの国の頂点じゃろうて。おっと、申し遅れましたな。儂は幸菴(こうあん)。今はもう国王を引退した老いぼれじゃ。」

 

ㅤ節狐がいきなり質問をしてきたが、ひとまずそれを止め、同じ部屋にいた二人が自己紹介をしてくる。闇華達も自己紹介をし、ペコリとお辞儀する。

狐郭は、節狐と同じ赤い髪、目をした狐の獣人。キリッとした顔立ちをしており、短髪が似合っている。

幸菴は、傷を負った白い狐耳に、白髪のいかにも老人といった風貌だ。目だけは赤く輝いているのが威圧感を放っている。歴戦の雰囲気も感じられた。

 

 

「幸菴の爺ちゃんはな、ああ言ってるけど、今は兵士の育成役をやって貰っているのさ。これまた厳しくて、兵士の戦力増強に凄く助かってるんだよ。現にあたしも昔、物凄くしごかれたよ。今もたまに模擬戦に付き合ってもらってる。」

 

「まだまだ鍛えがいがあって嬉しい限りですじゃ。もっと戦闘中は冷静にならねばのぉ?」

 

「うぐ、はい……。」

 

ㅤどうやら、あの圧倒的力を持った節狐でさえ、この老狐には勝てないらしい。経験値が違うのもあるだろうが、幸菴の戦闘センスが高いのだろうと思った。

ㅤ闇華達は、振舞われた食事に舌鼓を打ちながら、天界について話し始める。

 

「へぇ……まさかあの焔使いがきっかけで、そんな大事になるなんてねぇ。関わった人達、かい。随分大雑把な対象だね、人によって捉え方が違う。」

 

「……そうね。その理由としては、降臨した際に対象を縛りすぎると、殺せない者、が出てくるの。急遽助けに来た人とかね。もしそこで、”異世界人の殲滅”となっていれば、その人が盾になったら殺してはいけない。」

 

ㅤ話していることに対して、色々とツッコんでくるが、疑っている様子はない。それも彼らが嘘を見抜けるからであろう。これが本当のことだと分かっているのだ。

 

「ふぅん、それならさ、”異世界人の殲滅とその邪魔をする者の抹消”、とかなら良いんじゃないか?」

 

ㅤ節狐が最もな代案を提示してくる。しかし、そんな単純な話じゃないのだ。

 

「……お恥ずかしい限りだけど、天界に住む者達って、言うほど温厚じゃないのよ。要するに、関わった者を全て殺す、というようにしていればある程度自由に動けるの。さっき言った解釈の仕方が多いから、例えば戦ってるところを見た者を関係者、とみなすことも出来るの。そんな、そんなのもいるのよ、天界にはね。」

 

「へぇ、思ったより物騒じゃないか。あたしは嫌いじゃないけどね。でもそうなると、」

 

「兵士をもっと鍛えた方が良さそうじゃのぉ。そう思うじゃろ?クロリア?」

 

「うげっ!?じゃなくて!は、はい!もちろんです、幸菴様!」

 

ㅤキラン、と目を輝かせて待機しているクロリアを見る幸菴。それに冷や汗を流しながら返事をするクロリア。あれほど強いと言うのに、この反応。相当厳しいのだろうと思える。

 

「んで、あんたらはアイドル活動?てのとそのついでに、あたしにその天界勢に対抗する戦力になって欲しい、と頼みに来たってことかい?」

 

「ええ、そうよ。あなたは本当に強い。見れば、ここの兵士さん達もなかなかの手練よね。天界勢は一筋縄では行かないわ。降臨してくるのはおそらく、序列二十位よりは確実に上の者。そうね、最低でも魔王に匹敵するレベル、と言えばわかりやすいかしら。」

 

ㅤそう言った瞬間、部屋の空気が重くなる。今の一言で、事の重大さが更に身に染みてきたのだ。

 

「……魔王に匹敵、ね。面白いじゃないか。だけど、何人来るんだい?」

 

「私が把握している彼ら兄妹が関わった人数だけでも、そうね。少なくても五、かしら。」

 

「魔王に匹敵するような奴が五人!?はっ、失礼しました!」

 

ㅤ思わず声を上げるクロリア。普段ならお叱りの言葉を受けるが、今回ばかりは仕方ない、と誰も咎めなかった。

 

「……各場所に一人、それが増えれば増えるほど降臨の数は増える……ということですかな?」

 

「ええ、そうね。その解釈で合ってるわ。」

 

ㅤ狐郭が深く考え込む素振りを見せる。それもそうだ、節狐が関わった時点で、ここに降臨されるのは必然。となれば、それに対抗する戦力を用意しなければならないし、住人の避難もしなければならない。

 

「……ところで、その降臨がいつ来るか、というのは分かっているのかな?」

 

「……あまり信じないで欲しいのだけど、恐らく半年後、かしら。でもそれは、私が天界にいた時の法であって、今はどうなってるか分からないわ。だからほとんど分からないと思ってもらった方がいいわね。」

 

ㅤその答えに更に難しい顔になる狐郭。いつ来るか分からない魔王級の敵。鍛えるのも大事だが、常に警戒態勢というのは士気に関わる。疲労した状態での戦いは避けたい。

 

「でも確実に言えるのは、あと二ヶ月は来ない、ということ。いくら何でも今動くのは、天界にしては判断するのが早すぎるわ。」

 

「それも推測に過ぎないだろう……しかし、それを信じるしか無さそうだ。となると、この話を聞いた者は別の場所にて仮設国を作り、この会話を避ける。関係したもの、というが現時点では民や関わっていない兵士は対象外のはず。」

 

ㅤ随分と思いきった答えを出すものだ、と思った。ここにいるのは皆、国の重要人物。いなくなってはいけない存在なのだ。それを本国から離れ、来る時までそこで隔離されたように過ごすなど、半端な気持ちで言えるものでは無い。まあ、話さなければ良いので会っても良いと言えばいいのだが……。天界の法律がアバウトすぎることに頭を抱える闇華であった。

 

「いや、しかしそれでは兵士の育成に問題がありますぞ?儂もここから離れるとはいえ、こちらの戦力をわざわざ遠方に向かわせて修行させる訳にも行きますまい。それこそ、国の防衛が危うくなりますぞ?」

 

ㅤ随分と話し合った結果、ここに留まり、この件は口外禁止。兵士育成はそれとなく理由をつけて実行。そして、天界勢が降臨した際には、上手く誘導して国への被害を最小限に抑える。という結論に至った。

 

「もぐもぐ、美味しいね桃歌ちゃん!」

 

「は、はい……そうですね。」

 

ㅤこんな真剣な空気なのに、バクバクと食事を楽しむ来羅にちょっと引いてる桃歌。はあ、と溜息をつきながら、闇華も食事を楽しむことにした。焼いた川魚に汁。炊きたて(ちょっと冷えた)白ご飯に漬け物。どれも絶品で優しい味付けだった。来羅はいっぱいおかわりしていた、もう少し遠慮を……と思ったが、節狐達はむしろその食いっぷりが気に入ったようだった。

 

「美味そうによく食うじゃねーか!美味いし気持ちはわかるが、食いすぎて腹壊すんじゃねぇよ?あはは!」

 

「だって白ご飯だけですら美味しんだもん!いくらでも行けちゃうよ!」

 

ㅤ沢山食べる来羅を見て、流石に節狐とは別の面での心配をした桃歌が声をかける。

 

「来羅さん、その、太りますよ……?」

 

「残念ね桃歌。妬ましい限りだけど、この子、”いくら食べても太らないの”。なんででしょうね、はあ。」

 

ㅤ来羅はほとんどの女性が羨ましがるであろう、”いくら食べても何故か太らない”体質だった。以前、「アイドル活動でいっぱい動いてるから大丈夫なんだよー!」という来羅の話を鵜呑みにし、闇華も我慢せずたらふく食べてみたのだが、結果は言わずもがな。普通に太ってしまい、ダイエットするはめになった。以降、以前より食べる量、栄養分を意識して食事をするようになった。このような場で出されたものは、拒否すると失礼なので断らず、その他の食事、運動で調整している。

 

(もう、太るのは嫌なのよ……!)

 

ㅤ桃歌も、来羅を羨ましそうに見ているので恐らく同じなのだろう。というか、太らない方がおかしいのだ。無駄なカロリーはどこへ……?

 

「桃歌ちゃんも遠慮せず食べなよ〜!アイドル活動でいっぱい動いてるから意外と大丈夫だよ?」

 

「それで私が太ったのを忘れたのかしら!?」

 

ㅤ以前、闇華に言った文言と同じことを桃歌に言う来羅に、思わずツッコミを入れてしまう。節狐達は笑ってくれたが、少し恥ずかしかった。

 

「いつもの闇華さんはかっこいいのに、今は可愛い……。はっ!これが、ギャップ萌え……!?」

 

ㅤ頬を赤らめて、少し恥ずかしがる闇華を見て桃歌が何か騒いでいる。闇華にはよく分からない。だが、可愛いというのは何となくやめて欲しいと思った。

 

「さてさて、いつ来るかも分からない天使様達の話はここまでにしよう。ここでライブするんだろう?その話をしないかい?」

 

「ええ、そうね。私もそう思っていたところよ。」

 

ㅤ食事を終えた後、今回のライブについて話が始まった。今度は来羅も会話に積極的に参加している。ご飯がないのもあるが、先程もこのくらいの姿勢でいて欲しかったものだ。

 

「んで、場所は取ったんだけどよ……。肝心のどーいう物を用意して置けばいいか全く分からなくてね。使いそうな物は一応見繕ってまとめさせてはいるんだが、その辺はお願いできないかい……?素人がやっても下手なもん作っちゃあ悪いしね。」

 

「うん!その辺はクロリアから聞いたよ〜!任せて、力には自信あるし大丈夫だよ!」

 

「あたしには負けるけどねぇ?」

 

「むむっ。」

 

ㅤ少し煽ってくる節狐に対して、本気に受け取る来羅。まあまあとなだめて話を続ける。

 

「その辺は来羅も言った通り任せてもらって構わないわ。それで、ほかのことを頼みたいんだけれど、いいかしら。」

 

「ああ、いいよ。出来ることならサポートするさ。」

 

「ありがとう。その、この国の人達の品位を疑ってるわけじゃないんだけど、観客側に設けられてるスペースから飛び出てきたり、ましてやステージに上がったり。そういう人が出ないよう、警備員を配置して欲しいの。こちらで手配しても良かったのだけれど、あの森を抜けなきゃだし、何より獣人って平均的に強いから、普通の警備員じゃ物足りないと思って。」

 

ㅤそこまでゴリ押す程の人は居ないとは思うが、念には念が必要だ。どこかの誰かわからない人が警備しているより、ここで名の知れた手練の兵士が警備している方が、適度な緊張感を与えられるだろう。

 

「なるほど、そういうことなら任せときな!そうだね、クロリア達でもいいが、彼らは森の見回りにも出なきゃならない。となると、首都の防衛隊に任せた方が無難だろうね。クロリア、獅裂(しさき)を呼んできてくれないかい?あと、呼んできたら今日は下がって構わないよ。あと、くれぐれも天界の件は他言無用だからね、隊員にも話すことを禁じる。」

 

「はっ!おまかせを!失礼します!」

 

ㅤそう言ってクロリアは一礼して部屋を去る。獅裂を呼びに行くとの事なので、暫くはかかるだろう。いや、首都防衛隊ならそんなに遠くにはいないかもしれない。とにかく、別の話をすることにした。

 

「対応ありがとう。それで、観客なのだけれど、どのくらい見に来る人がいるかは分かるかしら?」

 

「ああ、それなら事前に全住民に聞いて集計を取ったよ。およそ千五百人かな。」

 

「場所は足りそう、ね。でも通りすがりで見たくなった人とかいるかもだから……二千人は考えておいた方が良さそうね。」

 

「まぁ、どちらにせよ場所の幅は充分じゃ。儂らが予定人数揃えて実際に立ってみたからのう。あの感じだとあと五百人、いや千人増えても問題ありますまい。」

 

ㅤ場所が足りているかの確認だけで、そんな人数が整列していたらシュールでしかないが、幸菴曰く、実際にやってみないと気づけないこともあるからやったとの事だ。それはそうなのだが、よく千五百人も動かせたものだと思った。

 

「そ、そう。ありがとう、なら問題なさそうね。その人数と広さなら、音量調整も……うん、何とかなりそうだわ。さてさて、時間は無いし早速準備に取り掛かろうかしら。来羅、桃歌、疲れてるとは思うけど行ける?」

 

「もちろん!」

 

「はい、任せてください!」

 

ㅤ実は、結構なハードスケジュールとなっており、この長旅の後休日なくライブなのだ。というか、森で時間がかかり、予定より遅く着いてしまったのが原因である。ライブを遅らせることも提案されたが、待ってくれている観客、それも前からファンの人なら受け入れてくれるかもしれないが、今回は初めての人ばかり。そんな大事な第一印象を悪くしたくはない。

 

「力仕事があるなら、獅裂達にも手伝ってもらうといいさ。ああ、そういやまだ来てないね。直接現地に行ってもらうことにしよう。呼びに行ってくれたクロリアには悪いけどね。黒兎(こくと)、頼めるかい?」

 

「はっ、お任せを。」

 

ㅤ今まで何も無かった場所から黒いうさぎ(目も黒)の獣人が現れ、こちらに返事をしたあと、こちらに一礼をしてすぐに姿を消した。

 

「もちろん、ライブはあたしらも見に行かせてもらうよ。楽しみにしてるぜ?」

 

「ええ、期待に応えてみせるわ。」

 

ㅤ決して戦う訳でもないのに、二人の間に火花が散った気がした。




今回はここまで!
いかがでしたか?
今回登場したif民モチーフは、

節狐さん(節狐)
Yamikaさん(闇華)
ララさん(来羅)

でした!ありがとうございました!
次回
第12話「Music START」

お楽しみに!


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第12話『Music Start』

長らくおまたせしました!
更新です!スランプ入っててほんとすみませんw
これからもこんなことあるかもですが、読んでくれると嬉しいです。

それでは本編、どうぞ!


「ええ、そこでいいわ。いや、やっぱりもう少し角度を……」

 

「はいよ!このくらいかい?」

 

「うん、いい感じ。ありがとう。」

 

ㅤ闇華達のライブのため、獣人も協力して準備を進める。

 

「あ、闇華ちゃん!獅裂さん?が来たよ!」

 

ㅤ来羅の声に振り返ると、その向こうからやや急ぎ足で獅子の獣人が歩いてくる。

 

「お客人、誠に申し訳ない。少々用があったので遅くなってしまった。既にお聞きになっていると思うが、私が獅裂である。以後よろしくお願いする。」

 

「ええ、よろしくお願いするわ。」

 

ㅤ二人は挨拶を交わす。そして、そこにいた来羅はもちろん、桃歌も呼んで自己紹介をした。

 

「ふむ、今回のだが、ですが」

 

「無理に畏まらくていいわよ。気にしないから、普通に話してくれていいわ。私だって緊張はしてるけど、無理な態度は頭の回転を下げるから。」

 

ㅤ客人が来ることは珍しい、とクロリアは言っていた。獅裂は上の立場の者と話すこと以外の状況に、距離感に迷っているのか、先程から話し方がぎこちなかった。

 

「す、すまない、恥ずかしいところを見せた。では、遠慮なくお言葉に甘えさせてもらう。」

 

「ええ、そうしてちょうだい。」

 

ㅤ話し方が普通になってからは、とてもスムーズに会話が進んだ。当日の警備はどうする、客のスペースの人同士での間隔はどのくらい確保した方がいい等、明日のライブに向けての打ち合わせをする。ちなみに、来羅はそんなことあまりやらないので、今のうちにステージの方の準備にかかっている。桃歌も打ち合わせに参加しても良いが、今回の主役は闇華なので、来羅について手伝うことにした。

ㅤ獣人の協力もあり、ほんの二時間程度でステージの準備が完了した。人手はやはり大事である。

 

「ふぅ〜!おわったー!みんなありがとねー!」

 

「ありがとうございました!」

 

ㅤ︎二人がお礼を言うと獣人たちがサムズアップする。魔力強化がある上、来羅はパワー型なので獣人にも引けを取らない筋力なのだが、獣人達ならではの特殊な体質がとても役立った。

 

「うん、大体の事はこれで決まったわね。今日の明日で大変だとは思うけどよろしくお願いするわ。」

 

「ああ、任せとけ!」

 

ㅤ︎そうして、打ち合わせとステージの用意が終わり、用意された寝室で各々眠りについた。

 

 

ㅤ︎翌朝。用意されていた部屋に泊まり、桃歌は目覚める。少し昨日の旅と準備の疲れを感じるが、大丈夫だろう。朝のルーティンを手早く済ませ、ライブ衣装に着替える。

 

(大丈夫……あたしなら出来る。あの二人にはまだまだ追いつけないけど、あたしだってあたしなりの魅力がある。……アイドル活動、やってきたけれど。このまま続けていいのだろうか、人気になる必要はあるのかな。)

 

ㅤ︎決意したそばから、マイナス思考が心に入り込む。

 

(このまま人気になったとしても、どうせ最後、”あの日”になれば……)

 

ㅤ︎そこまで考えたところで頭を横に振り、余計な感情を振り払う。着替えが終わったところで、よし!と気合いを入れてから部屋を出る。ちょうど来羅達が部屋を出たタイミングに合ったらしく、挨拶を交わす。

 

「あ、おはようございます」

 

「ん、桃歌ちゃんおはよー!ふぁぁ」

 

「桃歌、おはよう。……ちょっと来羅、ちゃんと寝たんでしょうね?」

 

ㅤ︎一人だけ眠そうな来羅に闇華が呆れた顔で問いかける。

 

「寝たよぉ〜、楽しみでちょっと寝るの遅くなっちゃったけど……」

 

「まったく……。」

 

ㅤ︎ちなみに、これはいつもの光景である。若干寝不足っぽい来羅が大丈夫なのか、心配な時もあったが、なんやかんやでライブでは元気いっぱいだし、その他支障は全くない。まあ、いつかボロが出てもおかしくないので、闇華からはキツく言われているが。

 

「ライブ、楽しみですね。……まだ少し、緊張しますが。」

 

「緊張しなくていいわ。いつも通りやるだけよ。」

 

「そーそー!元気に行こー!」

 

ㅤ︎そうは言ってくれているものの、今回は順番的に先に桃歌が歌う日だ。そして、相手はアイドルファンという訳でもなく、アイドルをよく知らない者も多い獣人(もちろん、一部やけに詳しい者もいたが)。桃歌のライブで心を掴まなければ、来羅達の出番までに客が減るだろう。もしそうなったら……、いや。

 

(これは、むしろチャンス。今までは、アイドルの二人を知ってる人たちが観客に沢山いる所でいっしょにライブしてたけど、今回は、アイドルも知らない人達ばかり。なら、あたしのライブで好きになってもらおう、そして、観客のみんなとライブを楽しむんだ……!)

 

ㅤ︎舞台裏の待機所に着き、軽く事前の準備を済ませる。そして、ライブ開始の時間となり、桃歌はステージへと上がる。

 

『はーい!みなさん初めまして!桃色アイドルの〜桃歌です♪今日はライブ見に来てくれてありがと〜!』

 

ㅤ︎定番の挨拶を終えたあと、アイドルについて知らない人もいるので、長くなりすぎないように簡単に説明をする。

 

「桃歌ちゃん、大丈夫かな……。」

 

「来羅が不安になってどうするのよ。大丈夫よ、桃歌はしっかりやれるって今までのライブでも分かってるでしょ?」

 

「……うん、そうだね……。がんばれ、桃歌ちゃん!」

 

ㅤ︎声を大きくしすぎないように、ひっそりと応援をする来羅。桃歌はちらっと目線をそちらに向けて微笑む。

 

『と、いう感じだよ!だから今日は桃歌と盛り上がっていこー!』

 

ㅤ︎何となく雰囲気がわかってきた獣人たちが、「おー!」と声援を返す。これならとりあえずは大丈夫だろう。

 

『それでは聞いてください、《桃色everyday》!』

 

ㅤ︎そして、桃歌のライブが始まる。歌って踊る彼女に、獣人達はまだノリきれない雰囲気を出していたが、一部のオタ……熱狂的なファンが盛り上げているのにつられて、段々と歓声のボリュームが上がる。その歓声を受けて、桃歌もだんだんノリノリになり、ライブがさらに盛り上がる。

 

「わ〜、盛り上がってるね!大成功だよ!」

 

「ふふ、そうね。さ、私達も準備するわよ。」

 

ㅤ︎桃歌の後は闇華と来羅の出番だ。最後の身だしなみチェックをする。ライブを楽しむことはもちろんだが、桃歌に負けてられない。

 

「そろそろね、行ける?来羅。」

 

「もっちろん!いつも通り全力で楽しもう!」

 

ㅤ︎そう声を掛け合い、桃歌との交代のタイミングを待つ。

 

『みんな〜〜!ありがと〜!それじゃあ、熱の冷めないうちに、闇華さんと来羅さんに交代するよ!それ!』

 

ㅤ︎ポンッと桃色の煙を出して桃歌が消える。もちろん、彼女は魔法が使えないので魔法道具を使っての演出だ。そして、その煙が渦巻く風によって吹き飛ばされた。なびく風、そして少しバチバチと弾ける闇雷。煙が晴れた所には、桃歌ではなく、闇華と来羅が立っていた。

 

『みんな〜!桃歌ちゃんのライブ、楽しんでくれたかなー?』

 

『ここからは、私達のライブよ!盛り上がっていきましょ!』

 

ㅤ︎闇華の言葉に、観客が大きな声援で応える。地響きが起こっているのかと錯覚するほどの盛り上がり様だ。

 

『それじゃあ行くよー!』

 

『『《風雷crossing》!』』

 

ㅤ︎そして、闇華と来羅のライブが始まる。桃歌のふわふわとした明るく可愛い曲とは打って変わって、キレのあるかっこいい曲。風の魔力と闇雷の魔力を上手く使いながら、ライブの演出もしている。魔法があるゆえの工夫だ。無論、魔法がなくても桃歌のクオリティも負けてはいないが、迫力で言うならば断然こちらが上だろう。

 

「はっはは!すげぇ〜!これがアイドルってのかい!?戦うわけじゃないのに何が面白いのかって、正直思ってたが。これは引き込まれるね……!」

 

ㅤ︎観客に混じって見ている節狐達も感嘆の声を上げている。もちろん、その他の観客もとても盛り上がっている様子だ。

 

ㅤ︎二人のパフォーマンスは激しさを増していく。時に協調し、時に競い合うかのように観せる。それが観客の心を掴んでいた。

 

『さ〜!みんなもっと盛りあがっていこー!』

 

『ついてこられるかしら?』

 

ㅤ︎二人のその言葉に、歓声が更に沸き立つ。節狐も楽しんでいたが、唐突に魔力通話が届く。

 

(節狐様!今、お時間よろしいでしょうか!)

 

(なんだい、せっかく盛り上がってるってのに……。急ぎかい?そうじゃないなら後にしてくれないかい?)

 

(はっ!承知いたしました!)

 

(せっかくだ、あんたもこっちに来てこのライブを見るといいさ。まあ、裏で動いてもらってる分、目立たないように、だけどね。)

 

ㅤ︎そう言って魔力通話を切る。今のは分かりやすく言えば衛兵、よりも隠密行動に特化した部隊の者だ。主に気になったこと、不審に思ったことの調査をしている。今回の件は、依頼はしたが余程ではない限り、急ぐ報告にはならないはずだ。だからこそ、”急ぎなのか”という質問をした。本当に急ぐべき調査結果なら、この時点で聞けるし、そうでないなら急ぐこともない。彼らのことは信用しているので、その辺の判断は任せている。

 

『『『ありがとうございましたー!』』』

 

ㅤ︎そうして、何回か交代しながら(闇華ソロや来羅ソロもあった)ライブは無事に終わった。帰っていく観客からは様々な感想が聞こえてくる。

 

「いやー、あの二人組の魔法演出は凄かったね。そういえば、桃歌って子自身は魔法使ってなかったけど、なんでだろ?」

 

「その理由は分からねえが、なんというかそっちの方は俺は好きだったぜ!こう、なんていうか技術じゃなく体と気持ちでぶつかってきてる感じがしたからな!漢だぜ!」

 

「いや女の子でしょ。」

 

ㅤ︎あちこちで今のライブの話で盛り上がる獣人達。この国の音楽と言えば、心を落ち着かせるような穏やかな音楽しか無かったため、こういうものに抵抗があった者も多少居たようだが、結果的にはこれはこれでいい、となったらしい。つまりライブは大成功である。

 

「お疲れさん、あんた達、いいライブだったよ。戦いでもないのに、心踊っちまった。」

 

「それなら良かったわ、最高のライブを見せられて、ね。」

 

「大成功ー!」

 

「褒めていただきありがとうございます!」

 

ㅤ︎桃歌だけまだ若干セリフが堅いが、仕方ないことだろう。こういう真面目な所も彼女の魅力だ。

 

ㅤ︎そのあとは、大成功を祝して軽い宴会をした。獣人達と食事を楽しみ、闇華たちも疲れているからと、そこまで遅くならないように切り上げてくれた。意外と、演出にそこまで頼ってない桃歌にファンになった者が多く、頻繁に話しかけられていた。

 

──────翌朝。

 

「じゃ、まったねー!」

 

「失礼するわ。」

 

「お世話になりました!」

 

ㅤ︎各々挨拶の言葉を交わし、闇華達アイドル一行は、次の目的に向けて旅立つ。

 

「ふぉっふぉっ、元気な若者たちでしたなあ。年寄りにはちとついていけんかったわい。」

 

「ええ、新しい文化に触れることが出来ました。」

 

ㅤ︎幸菴がそう零し、狐郭が相槌を打つ。節狐は、もちろんライブも楽しかったが、また彼女たちと戦える日を楽しみにしていた。

 

「さて、報告を聞こうか。」

 

「はっ!」

 

ㅤ︎しばらくして節狐がそういうと、どこからか黒いイタチの獣人が現れる。”隠隊”の隊長、隠飌(いんふう)だ。彼女たちが来てから、あることを探ってもらっていた。

 

「報告ですが、対象、桃歌に対しての読心術を使用しても、彼女の心の奥を読むことはできませんでした。大変申し訳ございません!表面上、例えば無表情でも食べてるものを美味しいと思っていたり、そういったものは読み取れるのですが……。」

 

「……そうかい。気にしなくていいさ、何せ、あたしらでも読み取れなかったんだからねぇ。」

 

ㅤ︎闇華達がここに来た時、各所で獣人達は探りを入れていた。どんな思考を持っているか、どんな人物なのか。だから、闇華と来羅がただの人間でないことは既にバレている。しかし、それを隠していても、根が悪い者ではなく、害はないと判断したため通した。同じく桃歌も探っていたのだが、どうしても心の奥が読めない。仕方が無いので、言動行動全てを観察し、”現状害はない”という判断に至ったため、ライブも認めた。どれだけ上手く隠そうが、行動を起こす時は必ず少しは表面に出てくる。

 

「さーて、あんたは一体何者なんだい?桃歌。この世界に、”魔法が全く使えない”なんてやつは、聞いたこともない。あの転生者?とやらならまだしも、ね。」

 

「いかがいたしましょうか、節狐様。」

 

「そうだねぇ、監視を続けろ、と言いたいところだけど、流石に国を出てまで追跡していれば、バレるリスクもあるし、今はもういいよ。」

 

「かしこまりました!それでは失礼します!」

 

ㅤ︎そう言って、隠飌は姿を消す。いつもの持ち場に戻ったのだろう。節狐は酒を飲みながら、朝焼けを見る。

 

「本当に、あんたは何者なんだろうねえ。あの感じは一体……」

 

ㅤ︎もちろん、節狐も桃歌の心を覗いている。そして、奥まで読もうとした時、なにかに弾かれたのだ。魔力でもない、謎の力に。だが、それは節狐に異様な違和感を感じさせた。鳥肌が立つ程に。

 

「ははっ、そう思うと、通したのは間違いだったのかねえ……。まあ、結果今は何も無かったことだし、いいとするかな。」

 

(まさか、自然に魂を授かった生命じゃない、なんてことはないだろうねえ……。)

 

ㅤ︎ちなみに、この後朝から飲んでいることが狐郭と幸菴にバレ、めちゃくちゃ怒られた。

 




今回はここまで!いかがでしたか?
めっちゃ更新止まっててすみません。スランプに入ったのと好きなアニメできて追いかけまくってましたw

また、タイトルが前回の、次回予告でSTARTの間に点が入ってたと思いますが、ある有名グループの曲と全く同じだったので、念の為点なくしてます。そりゃ変換に出てくるよなあ

作中に出てくるもので何かと同じ名前あっても関係性はありません。ご理解くださいませ。

今回登場したif民モチーフは、

闇華さん(Yamika)

来羅さん(ララ)元if民

節狐さん(節狐)

でした!ほかはオリキャラですー!

次回、第13話『凄く美味しいクッキー屋さん』

お楽しみに!


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第13話『凄く美味しいクッキー屋さん』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
闇華達のライブは大成功に終わった。一方その頃、焔斗達は商業街ミカルコに向かっているところであった。今後のことも考えなければならず、一体どうなるのだろうか……
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

「ん〜、ね、お兄ちゃん。」

 

「ん?なんだ紫紅。」

 

ㅤミカルコへ向かう道中、もうすぐ着く辺りで唐突に紫紅が問いかけてくる。

 

「お父さんも、こっちの世界に来てたりするのかな。」

 

「っ……。いや、無いだろ。」

 

ㅤ実は、元の世界での家族は、この兄妹と母だけなのだ。父は、まだふたりが幼い時に行方不明になった。死んだ訳でもない、死体が見つかっていないのだ。突如として消滅した。そんな父が、もしかしたら異世界転移したのかもしれないと思ったのだろう。いなくなってから長い月日が経ち、気にしなくなってはいたものの、こう非現実的なことが起こると、ふと気になるものだ。だが、

 

「そもそも、俺達がなんか無理やり転移させられた時にあいつが言ってたじゃねーか。存在自体を無かったことにするだのなんだの。それなら、俺らの父親は他の誰か、最悪神が作った辻褄の合う男にすり替えられ、失踪なんてしてないはずだ。ほんとに失踪してない限りは、な。」

 

「うーん、そっか。そうだよね〜。」

 

ㅤ紫紅は少し落胆した様子を見せる。当時まだ幼かったとは言えど、しっかり記憶に残っている父親だ。もしかしたら、と考えてしまうのは無理もないだろう。焔斗だって、会えるものなら会いたい。何があったのか、何してたのかを話したい。

 

「ま、んなことよりさ。もうすぐ着くから飯……はさっき食ったな。なら、おやつタイムと行こうぜ。前に来た時に美味そうなクッキー屋があったんだ。」

 

「クッキー!?!?何!それ!魔界にはなかったよ!!!」

 

ㅤそりゃねえだろ魔界だもん、というのは偏見なのかもしれないが、仮に作れたとしても材料調達が大変なのは容易に想像がつく。まあ実際のところ、トモなら教えれば作ってしまいそうではある。

 

「クッキークッキー♪美味しいクッキー♪」

 

ㅤクッキーのことを教えてからとても上機嫌な紫紅。楽しみで仕方ないのだろう。魔界の方で食べたお菓子も、結局は罠だったらしい(味は良かったそうだが)。これは魔界での戦いの件に関わるので、なるべく話さないようにしている。

 

「わっ!ちょ、なんでこんなところに熊の魔物がー!?」

 

ㅤ二人でのんびり歩いていたところに、悲鳴じみた声が届く。内容から察するに、魔物に襲われているらしい。焔斗と紫紅は顔を見合わせて頷き、声の方へ全力で駆ける。木々をぬけていくと、少し開けた場所になぎ倒された木、焔斗と紫紅の間くらいの身長の黒髪の女性が、腰が抜けたのかぺたりと座り込んでいた。そこに、大きな熊の魔物の腕が振り下ろされる。

 

「くっ!」

 

ㅤ死を覚悟した女性は、強く目を瞑りその時を待つ。が、彼女の体に感じられた感覚は、ふわりと抱きかかえられる感覚、そして、目の前で恐らく魔物の腕とぶつかりあった鈍い音が鼓膜を揺らす。

 

「え……」

 

ㅤ恐る恐る目を開くと、自分よりも小さい女の子が、軽々と抱えあげて退避していた。魔物のいた方に目をやると、この少女と同じ髪の色をした青年が、手に持っているメイスで、魔物の腕を弾き飛ばしていた。

 

「もう大丈夫ですよ!お兄ちゃんやっちゃって!」

 

「言われなくても!『螺旋焔』!」

 

ㅤ木々に燃え移らないよう、範囲を狭め、下から斜め上に向けられた焔斗の『螺旋焔』が、魔物の上半身を焦がす。魔物はそのまま、ズシーン、と後ろに倒れ込む。

 

「す、すごい……。」

 

「怪我は無いですか?」

 

ㅤ一瞬で何倍もの大きさのある熊の魔物を撃退した青年に感嘆の声を零していると、自分を抱えあげて運んでくれた少女が問いかけてきた。

 

「あ、はい!大丈夫、です。あの、ありがとうございます!えっと、」

 

ㅤなんて呼べばいいか、救世主様という言葉が頭をよぎったが、それは何か違う。言葉に詰まっていると、少女は名前を教えてくれた。

 

「あ、あたしは紫紅っていいます。紫紅でいいですよ、お姉さん。それで、あっちはお兄ちゃんの、」

 

「焔斗です、はじめまして。お怪我なかったようで何よりです。」

 

ㅤ青年の方も、魔物を仕留めたことを確認した後、こちらに近づいて来て名前を教えてくれた。呼び捨てでいい、とは言われたものの、それはむず痒いので、

 

「改めてありがとうございます、焔斗さん、紫紅さん。ええと、慣れるまではこれでお願いします……。わ、私は、シキって言います。よろしくお願いします!」

 

ㅤそう言いながら女性─シキは、深々と頭を下げる。黒髪のショートに、見る者を引き込むような青い目。青を基調とした服装をしており、正直森では少し目立つ。身長は紫紅と同じくらいで小さめだ。

ㅤ焔斗達としてはそこまで畏まられてもむずむずしてしまうのだが、彼女の気持ちも分からないわけじゃない。ここは無理強いするようなことでは無いので、受け入れる。

 

「シキさん、こちらこそよろしく。」

 

「よろしくね!」

 

ㅤそれぞれ握手を交わし、お互い何をしていたのかを話す。

 

「私は、路上での人形劇を生業としています。ですが、魔法の糸でものを操ることが出来る、というのは一般の方には少々受け入れ難いらしく……。そこまで、その、食べて行けるほどの稼ぎがないんですよね。ですから、こうして森に来て果物を取ったり、簡単な獲物なら私一人でも倒せるので、狩って売ったりと。その段階で今助けて貰った通りのことになってしまったんですが……。普段、ここにはあれほど強力な魔物は来ないはず……。」

 

ㅤどうやら、シキは少し特別な魔法が使えるらしい。しかし、そのせいで気味悪がられてしまったのだろう。実際、操りの糸なんて使える人間がその気になれば、人を操って何かをさせることも出来るわけだ。それなら、対抗策のない一般人からは避けられてしまうのも仕方ないのだろう。

 

「えー!何それもったいない!ね、今度見せてよ!次はどこでやるの?」

 

「え?……えと、怖くないんですか……?まあ、お二人の強さなら……」

 

ㅤシキにとっては、意外な反応を見せた紫紅。それに戸惑う彼女だったが、紫紅はキッパリと言う。

 

「え?だって、普通の人にはできないことが出来るんでしょ?だったらそれは凄い事じゃない!あたしなら、興味津々で見ちゃうなあ……!」

 

「は、はあ……。」

 

「ま、そゆことだ。俺も興味があるから良かったら教えてくれないか?」

 

ㅤ焔斗も同じ気持ちなので、便乗して問いかける。シキはまだ少し戸惑っては居たようだが、上手く呑み込めたようで、コクリと頷くと笑顔で話し出す。

 

「ありがとうございます!ええと、ここから少し進んだところにミカルコって商業街があるんですが、次はそこでやる予定なんです!実は何度か来たことがあって、大抵の地理は分かるので、何かあったら気軽に聞いてください!」

 

ㅤ偶然、焔斗達の目的地と同じ街だったらしく、その事を伝えると一緒に行くということになった。そちらの方が安全だ。

 

「あ、さっきの熊の魔物、あとで売るといい値がつくと思いますよ!あんなに簡単に狩れるような魔物じゃないので……。肉もそこそこ美味しいそうですし。あ、でも重いですし値が高くつきそうなところだけ剥ぎ取って……え? 」

 

ㅤシキがそう説明している間に、紫紅が軽々と熊の魔物の亡骸を片手で持ち上げていた。

 

「お兄ちゃ〜ん、全然持てるけど、無駄に大きいから全部持ち上げられないよ〜。引きずって傷ついたら値が落ちるよね多分。」

 

「そうだな。それなら、」

 

「そ、それなら私に任せてください!」

 

ㅤ焔斗が何か言うよりも先に、シキが手を上げる。信じられないことの連続だが、そもそも先程の時点ですごいことを目の当たりにしている。なら、もう気にしたら負けだ。

 

「私の魔法の糸で縛り上げるので、それを運んでください!『蒼糸束縛』(そうしそくばく)!」

 

ㅤそう言いながら、シキは熊の魔物の亡骸に向かって両手を広げる。すると、指先から透き通った青色の魔法の糸が飛び出て、亡骸がなるべく丸くなるように包んで縛っていく。すごく慣れた手際で、あっという間に紫紅が持ち上げても(そもそも普通は重くて持ち上げられないが)、体の一部が地面に擦れることがなくなった。

 

「わ〜!ありがとー!これで持って行ける〜!」

 

「おい、別に俺が持つぞ?」

 

「お兄ちゃん、あたしよりパワーないでしょ?」

 

「うぐっ」

 

ㅤ先程、熊の魔物をほぼ一撃で屠った焔斗が、この可愛らしい少女よりパワーが劣る。そんな馬鹿なな会話が目の前で繰り広げられているが、もう気にしないと割り切ったシキは無敵である。

 

「それじゃあ、行きましょう!」

 

ㅤシキの掛け声を合図に、少しの距離だが、これからは三人でミカルコに向かうのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ天界。夢の間。天界の一部に設けられた、夢ノ神専用の敷地。ユメは、自身の夢の世界を見ていた。

 

「ふぅ……、あの転移者の記憶を探り、そこからそこにいる人物のいる世界に接続。そこから人を私の夢の世界に攫う。思いつきでやっては見たけれど、想像以上に骨が折れたわね。まあ、成功したからいいけど。」

 

ㅤ実際に言うと、この行為は禁忌に当たる。が、こんな事できる者がいた事が無い上、隔離先がユメしか自由に見られない夢の世界だ。降臨までの暇つぶしにと、わざわざ引き込んだのだ。無論、本来の世界で彼らは実際に生きている。簡単に言えば、その人物そのものを複製し、夢の世界に貼り付けたということだ。彼らが自分の作った夢の世界でどんな物語を描くか、それを観察するために実行した。が、ユメの作った世界はまだまだ未完成でふわふわとしており、彼らは戸惑うだけで目立った動きは見せなかった。

 

「……失敗、か。はあ、もっと人間どものことを知らないとダメね。まあ、あんな汚らわしい奴らのことなんて知りたくもないけど。」

 

ㅤこの考えがあるからこそ、ユメは正常な世界を作れない。夢は作れるが、それは今のようにふわふわしたものになる。彼女は溜息をつきながら、苦労したのでこのまま消すのはもったいないと、観察はやめたが、世界は残しておいた。夢の世界には、剣士の青年、少女。そして歌を歌う女性が残された。彼等はその世界で必死に生きる。

 

「すや……すや……ふゆふゆ〜。」

 

ㅤそんな夢の横で、すやすやと眠る神がいた。ふゆ神、ユキである。幼い見た目に純白の髪。今は眠っているので閉じているが、目は白銀色だ。彼女は、ユメかねこまに呼ばれるか、ユメに身の危険が迫った時に目覚める。名前の通り、非常に強い氷の力を持っている。

 

「よしよし。私に身の危険が迫ってあなたが目覚めること、あるとすれば今度の降臨かしらね……?まあ、期待できないけど。」

 

ㅤユメは、ユキの頭を撫でながらそう呟いた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「……は?」

 

「いやだから、これ、買い取ってくれるって聞いたんだ。買い取ってくれ。」

 

ㅤシキとともにミカルコに向かい、何度か戦闘はあったものの、難なくたどり着いた焔斗達。魔物系の素材を売るなら、冒険者ギルドが手っ取り早く、相応な値で買い取ってくれると聞いたため持ってきたのだが、持ってきたものが持ってきたものなので、受付のお兄さんは拍子抜けた声を漏らした。

 

「えと、冒険者登録してないですけど、お願いします〜。」

 

「あ、あなたはシキさんじゃないですか!てことはお仲間さんですか?一体何が……」

 

ㅤ説明を求めるお兄さんに、シキが何があったかを嘘偽りなく、説明する。彼女もここで買い取ってもらうことも何度かあったため、顔を覚えてくれていたらしい。ここでは忌み嫌わている様子もなく、焔斗達は少し安心した。

 

「ははは!このサイズの魔物を一撃?いくらシキさんでもそんな嘘見え見えなこと言わないでくださいよ〜!……え、まじすか?」

 

「まじです。」

 

ㅤそう答えたシキに、同じくギルドにいたほかの冒険者達もどよめく。「あんなひょろいやつが……」等、そんな言葉が聞こえてくる。

 

(やっぱり意外なんだ〜、まあ、それなりに強くなってるような気はしてたけど。)

 

ㅤ必死に説明をしている焔斗とシキを少し離れたところで見る紫紅。熊の魔物の亡骸は大きく、扉を通らなかったので一旦外に置いているのだが、それを見張ることの出来る位置にいるのだ。

ㅤそこに、彼女が片手でそれを持ち上げて来たことを知らない冒険者が、声をかけてくる。

 

「よぉ可愛いお嬢ちゃん。ちょっとあっちで俺たちと話そうや。」

 

ㅤそう言っていかにも弱そうな装備(紫紅目線)をしたガタイのいい三人が取り囲むようにしてそう言う。明らかに人目につかない影に来い、と言ってるあたり、まともな話では無いだろう。

 

「……お断りよ。」

 

「おーおー、なんて言ったか聞こえねぇぜ?ま、なんでもいいからとりあえずこっち来いよ!」

 

ㅤそう言って紫紅の腕を掴んで連れていこうとした刹那。

ドゥグッと鈍い音を立て、紫紅の小さな拳が、紫紅を連れていこうとした一人のみぞおちにめり込む。

 

「なんだ、見た目だけなのねこの筋肉。豆腐みたいに柔らかいわ。」

 

「コイツっ!」

 

ㅤ一瞬唖然としていたが、紫紅が馬鹿にした瞬間、他の二人も無謀な攻撃をしようと武器を構える。が、

 

「あっれー?俺の妹に、何かごようですか〜?」

 

ㅤこの騒動に焔斗が気づかない訳もなく、二人の背後から声をかける。肩を掴んだ手からは、ミシミシ、と骨の軋む音が聞こえる。

 

「ひぃっ!す、すみませんでしたー!」

 

ㅤそう言って、先程の紫紅パンチでのびている一人を抱え、ギルドから逃げるように去っていった。

 

「すみません、いるんですよ、あーいうの。こちらも色々対策はしてるんですが……。本当に申し訳ないです。」

 

ㅤ近づいてきた受付のお兄さんが、そう言いながら頭を下げる。どうやら相当苦労しているようだ。

 

「とにかく、買取の件ですが。外に置いてあるものと、先ほど提示していただいたものの合計で、この程度になります。」

 

「ひゃ、こんなにですか!?」

 

ㅤ金額の数値を見て、シキがとても驚いた様子を見せる。正直、今まで妹を探すことに必死だった焔斗、そして、ずっと魔界にいた紫紅は、この世界の金銭感覚はそこまで分からない。焔斗に関しては魔物を狩る、売る、店で食べるというのは何回かしたが、他は狩る、調理、食べるのサバイバルだったので、そこまで詳しくない。袋いっぱいに詰められたお金を渡される。確かに、今まで売っていた場所で受け取った量より、比べ物にならないほど多い。米粒一個と茶碗一杯のご飯くらいには。ちなみにこの世界の通貨は『シント』という。今受けとったのは二十万シントだ。これを元の日本の円にそのまま変換するとなれば、相当な金額だとは思う。

 

「ところで、冒険者になる気は……」

 

「「ない。」」

 

「ですよね〜。」

 

ㅤ焔斗達は別に冒険したい訳でもない。それに、冒険すればするだけ関わりが増える。天界のことも考えるなら、あまり広い範囲で関わりは増やしたくない。それだけ被害が広がる。強力な助っ人を見つけることも出来るかもしれないが、地理もよく分からない歴史もよく分からない焔斗達には不向きだ。もし何かやるなら、闇華達が動いているはずだ。

 

「ん〜、やっぱ厳しそうですか。では、討伐ありがとうございました。正直、そんなに近くにここまでの魔物が来ているとは思いませんでした。あなたがたが討伐していなければ、どんな被害が出たか想像したくありません。」

 

ㅤどうにか強い二人を冒険者にしようと、あの手この手で勧誘をしてきたが、全て断ったのだ。今は良くても、自分たちと関わったせいで被害にあった、なんて思いたくない。

 

(まあ、ここはもう関わったことになるんだろうけどな。ったく、どれだけ自己中なんだよ天界。)

 

ㅤどうなるか分かったものじゃないが、できるだけ守りたい、とは思った。それはそうと、

 

「シキさん、はいこれ。」

 

「へ?」

 

ㅤ焔斗は受け取った金額の半額を袋に分け、シキに差し出す。

 

「?シキさんの取り分だよ。」

 

「いやいやいやいやいやいやいやいや!おかしいですって!倒したのはお二方ですし、こんな、頂けません!」

 

「でもお金には困ってるんだよね?」

 

「うぐっ、でも、これはさすがに……」

 

ㅤ何となく予想はしていたが、やはり受け取りを拒絶される。しかし、熊の魔物を倒せたのも、あの場にシキが居たからで、傷なく運ぶことが出来たのも彼女がいたからだ。冒険者ギルドも紹介してくれたし、このお礼として受け取って欲しい。

 

「うう、わ、分かりました、そういうことにしておきます、ありがとうございます!!!このご恩は一生忘れません!!!」

 

ㅤその辺りを説明すると、何とか受けとってはくれた。押しつけのようになってしまったが、お金はあって困るものでは無い。紫紅とも相談した上での事なので問題は無い。はずだ。

 

「えっと、劇までまだ時間があるんですけど、このあと何か予定ありますか?」

 

「ん?いや別n」

 

「お兄ちゃんクッキー」

 

「クッキー食いに行く。」

 

ㅤ何も無いと言おうとしたところで、紫紅に速攻ツッコまれた。すっかり忘れていたなんて言えない。比喩でもなんでもなく雷が落ちる。

 

「ん?そのクッキー屋さんってもしかして、《Dream Canola flower》ですか?」

 

「ん、そうだよ。よく分かったな。」

 

ㅤクッキーという単語だけで、店の名前まで当てられた。何故だろうと思っていると、彼女の口から答えが出た。

 

「あ、やっぱりですか!あそこ人気ありますし、私も何度か行ったんですよ〜!あそこはオススメです!あと何故か私覚えられてます!」

 

ㅤその付近で人形劇をしたことがあるのならそれだろうな、と思いつつ、焔斗はやはりあの店はハズレではなかった、と安堵していた。

 

「あ、そうだ!助けていただいたお礼に是非そこのクッキーを奢らせてください!お値段も手頃なのでご遠慮なくというかそのくらいさせてください!」

 

ㅤこのまま助けられっぱなし貰いっぱなしがよほど嫌なのか、すごい圧だった。これまた気持ちはわかるので断れない。場所もはっきりとは覚えていないので、案内があるのは助かる。

 

「わかった、じゃあ一緒に行こう。」

 

「クッキー♪」

 

ㅤ上機嫌な紫紅を連れて、街を歩く。商業街と言うだけあって、辺りは多種多様な店があり、行商人も沢山歩いている。もし何かを買う時はしっかりと見極めた方が良さそうだ。ここにレストラン的な店を構えられたなら、それはなかなかの売上が見込めるだろう。競走は多そうだが。

ㅤしばらく歩くと、焔斗が見たことあるような風景がちらほらと見え始めた。どうやら、前回とは別方向から街に入ったらしく、ここまで見覚えのあるような所はなかったのだ。そして、見覚えのある物が見えてきたということはつまり、

 

「あ、見えましたね!あそこです〜!」

 

ㅤ《Dream Canola flower》。その看板が見える大人気なクッキー屋さんが目に入った。横で紫紅が、「どりーむきゃのーらふらわー?夢の菜の花?お花屋さんみたい。」とつぶやく。そうだ、キャノーラは菜の花だ。まさか、妹に英単語の意味を教えられることになるとは思ってもみなかった。焔斗は英語が苦手なのだ。

 

「前見た時より、客が少ない気がするな。」

 

「そうなんですか?ならそれは多分、時間帯ですね!」

 

ㅤ基本的にどの店もそうだが、比較的客が来る時間と、そうでも無い時間がある。焔斗が前見かけた時の大体の時間を教えると、その時は本当にここは客が多くなる時間で、今は割と落ち着いている、つまり急ぎでないのなら狙い時らしい。

 

「ということで行きましょう!」

 

ㅤそう言って、店に入るシキ。それに焔斗達は続く。

 

「いらっしゃいませ〜。三名様ですか?こちらのお席へどうぞ〜♪、ん?」

 

ㅤネームプレートに夢菜(ゆな)、と書いた店員さんが案内に来る。席を指示した後、チラ、と紫紅を見た時に一瞬フリーズして、彼女を見つめる。なんとなく、恥ずかしかった紫紅は、焔斗の背中に隠れて顔を半分だけ出して夢菜を見る。そこでハッとなった夢菜は、違和感なく接客を再開する。だが心の中は、

 

(え、待ってこの子可愛い!紫の髪のおさげで、お兄ちゃん、かな?と来てて。あ、じっと見てたら恥ずかしいのかお兄ちゃんの後ろに隠れちゃった!でも影からチラチラ覗いてきてる!可愛い!)

 

ㅤもちろん、シキのことも認識しているが、頭の中は”この兄妹見てたら絶対癒される、特に妹の方!”という思考になっている。しかし今は仕事中、抑えなくてはならない。

 

「どれにしようかな〜。」

 

「あんまり食いすぎんなよ」

 

「分かってるよ!」

 

ㅤ一通り説明をした後、店員さんは一度下がる。クッキー屋だし、てっきりカウンターで持ち帰り限定かと思っていたが、店内でも食べられるらしい。しかも、

 

「やっす。」

 

「そうなんですよ、ここ、安いんですよ〜。そして美味しいんですよ〜!」

 

ㅤクッキー屋とはいえ、ここまでしっかりしてればさぞかし高いのだろう、とメニューの値段を見ていたが、一品10-50シントとかそのレベル。物価が違う可能性を考慮せず、思わず元の世界の感覚で呟いたが、どうやらシキの反応を見るに、こちらでも安いらしい。メニューの内容に関しては至ってシンプル。素朴な感じだが、きっと美味しいのだろう。

 

「にしても落ち着くな、ここ。」

 

ㅤ店内は黄色とオレンジ基調で、差し色に茶色が使われている。今は客が少ないからなのか、普段からなのか。静かな雰囲気でとても過ごしやすい。各テーブルには菜の花が飾っており、実家のような安心感、というのだろうか。何せそんな感じである。

 

「うん、決めた。やっぱり普通のにする。色々ちょっとしたアレンジはあるけど。最初はノーマルでいく!」

 

ㅤどうやら紫紅は決まったらしく、シキも「初心に戻って〜」とか言いながら普通のクッキーにした。つまり全員普通、ノーマルである。

 

「かしこまりました、少々お待ちください。」

 

ㅤチラチラと紫紅を見ながら、注文を受けた店員さんがまた戻る。少しして、お皿に可愛く盛られたクッキーが運ばれてくる。

 

「わあ……美味しそう!」

 

ㅤ紫紅が目を輝かせる。それを見た店員さんは一瞬うっとりとした表情になり、直ぐに営業スマイルに戻った。理由は分からないが、接客も大変だなと思った。

 

「いただきます!……美味し〜!適度な甘さえ美味しくて、疲れが癒されすぎて生き返るどころか死ぬ!」

 

「いや生きろよ。」

 

「くすっ、あ、すみません。見てて微笑ましくて。」

 

ㅤ紫紅と焔斗のやり取りに、シキがそう感想を言う。ちなみに、クッキーは本当に美味しい。サクっ、となりながら、ホロホロと口の中で崩れ、すっと溶けていく。甘すぎない爽やかな甘味が口の中に広がり、日々の疲れを癒してゆく。一緒に出された紅茶にもマッチしていて最高なのだ。

 

「二人とも、美味しそうに食べますね。」

 

「だって美味しいもん!」

 

「俺、そんなに顔に出てるのか?」

 

ㅤ焔斗はそんな自覚なかったので不思議だったが、思っているより顔に出ているらしい。そう考えるとなんだか少し恥ずかしくなってきた。

 

「コホン、それはそうと。これからどうするかな。」

 

「ん〜。どうしよう。」

 

ㅤお金は手に入ったとはいえ、こんなものはすぐに尽きる。宿に泊まってもいいが、どれだけもつか分からない。今回のように魔物を狩っても良いが、そう都合よく高額な魔物ばかりとも限らない。なら、なにか決まった仕事につくのがいいだろう。しかし、焔斗も紫紅も元は学生。高卒で就職を考えていた焔斗ならまだしも、紫紅はイメージも湧かないだろう。

 

「シキさん、何かいい仕事ないかな?あー、冒険者以外で。」

 

ㅤきっと言われるであろう選択肢は先に潰しておく。それを聞いたシキは、考える素振りを見せて難しい顔をする。

 

「うーん、中々厳しいと思いますよ。お二人の実力なら力仕事が向いてそうですが、なんだか人の関わりを避けてますよね?となると……」

 

ㅤやっぱり避けてるのはバレてるか、と思いながらどうしたものかと考える。すると、いつの間にかテーブルの横に先程の店員さん、夢菜さんが立っていた。

 

「ん?あ、長居しすぎましたかね……?」

 

ㅤ食事後の雑談が長すぎて退店して欲しいのかと思い、そう聞いたのだが、店員さんは何故かプルプル震えると、急にテーブルをバンッ!と叩いてこう言った。

 

「あ、あの!仕事を探してるならうちで働きませんか!!!!!」

 

ㅤその声を聞いた後、厨房の方からガッシャーン、と調理器具を落としたであろう音が聞こえた。




今回はここまでです!いかがでしたか?
思いのほか少し長くなっちゃいました

今回登場したif民モチーフは、

シキさん(シキ)(初登場)

夢さん(ユメ)

ゆきさん(ユキ)

夢菜さん(夢菜(ゆな))

でした!ありがとうございました!

次回、再会編最終話、『動き出す魔女と天界』

お楽しみに!



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再会編最終話『動き出す魔女と天界』

シキと出会い、ミカルコに無事ついた焔斗達。
紫紅と約束していたクッキー屋《Dream Canola flower》に入り、美味しいクッキーを頂きながら、今後のことについて話していると、その店の店員からいきなりここで働かないかと食い気味に提案される。
また、魔女や天界も、侵略と降臨に向けて準備が進んでいた
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 

「ええ、と......?」

 

ㅤ唐突に、食い気味にそう言ってくる店員、夢菜さん。後ろの厨房で大きな音がしたのもあって、反応に困っていると、夢菜の笑顔が少し引き攣る。

 

(魄夢、落としたな〜??後で説教!うん!)

 

ㅤどう考えても夢菜の行動のせいで起こった事なのだが、そんなことには気づいていない。仕方ないので厨房の方に行こうと夢菜が振り向いた時、これまた鬼のような速度で厨房から人が出てきた。黒いパティシエ衣装を着た青年が、夢菜の所まで来て「ちょっと来い。」と言って連行する。

 

「私、ここの厨房の人、初めて見ました。」

 

「えっ?そんなにレアなの?」

 

ㅤ周りの客の反応を見ると、どうやら本当に珍しいらしく、「え、何あのイケメンやば。」だの「あんなかっこいい人が作ってくれてたの!?やばい嬉しすぎて死んじゃう」などと聞こえてくる。思わず「いや生きろよ。」とツッコミそうになったが堪えた。

 

「本当に、ここの厨房の人は謎が多くて。あの店員さんが接客してるから、もちろん作る人は別にいるんだろうとみんな分かってはいたんですが、姿を見た人はいなくて。いや、噂程度には流れてましたよ?でも誰も信じれなくて。これは、とっても貴重な体験をしました……!」

 

ㅤシキは心底嬉しそうに語る。そんなにレアだったのか、と二人は唖然としながら、先程のことも何かよく分かっていないので、もう少し居ることにした。

 

━━━━━━━━━━━

 

ㅤ《Dream Canola flower》厨房。

 

「ちょっと何?魄夢!ていうかさっき調理器具落としたでしょ!しっかりしてよ、いつもこんなことないのにどうして?」

 

「……ほとんど夢菜のせいだよ。なぜ急に人を雇おうとする!?」

 

ㅤ客席側に聞こえないように、声を抑えながら口論する。

 

「いーじゃんだってあの女の子可愛いよ!看板娘できるよ!人手だって実際欲しいし、お兄さん?の方はついでだけどさ!」

 

ㅤそれ聞いたら泣くぞ、と思いながら魄夢は言い返す。

 

「だからってあんな誘い方は無いだろ。他の客もいる前で。本人達も戸惑っていたじゃないか。」

 

「うぐっ、それは……そうだけどぉ……。だって、あのまま会計して帰っちゃったらって思うといても立っても」

 

「じゃあ会計の時に言えばよかっただろ。」

 

「はっ!その手があったか!いやでも、後ろに他のお客さん並んでたら無理じゃん!」

 

「……確かに。いやでも、どちらにしろ今のはダメだろ。」

 

ㅤ客が少ない上に注文の品は全て出しているので、こんな会話が出来るが、普段はできない。今も魔法で食器を洗っているというのもあるが。あれだこれだと話していると、会計を呼ぶ鈴が鳴った。

 

「あ、はーい!……とにかく、あの二人は誘うから。」

 

「……はあ、分かったよ。ったく。」

 

ㅤ結局、焔斗達を仕事に誘うことになった。雑用でもいいから人手が欲しかったのは事実なので、最終的に魄夢が折れた。いつも魄夢が折れているなんてことはない、多分。

 

━━━━━━━━━━━

 

ㅤさすがに随分戻ってこないので、焔斗達は会計をしようと店員さんを呼ぶ。結局これをすれば店員さんが出てくるので問題は無いはずだ。

 

「すみませんお待たせしました〜!……あ。」

 

「会計、と、さっきの件について詳しく聞かせて欲しいんですけど。」

 

「あ、会計ですね!その件についてはお客様が増える前に中で……。」

 

ㅤ会計を済ませた後、店員さん、夢菜に促されるまま、恐らく休憩室であろう部屋に入る。ちなみに、話には関係ないがシキもついてきた。時間はまだ大丈夫らしく、何よりレアな魄夢を見られるかも、とのことだ。そんなに見る価値あるかな、と失礼なことを思いながらも、別に邪魔な訳では無いので了承した。

 

「えっと、まずは先程は驚かせてしまい申し訳ありませんでした。」

 

ㅤ焔斗達を席に座らせ、紅茶を用意した後、夢菜が深々と頭を下げる。

 

「そんな、大丈夫ですよ。お気になさらず、それより、詳しい話を聞きたいんですが……。」

 

ㅤ焔斗がそう答えて話を進める。夢菜は焔斗を見て話す中、チラチラと隣にいる、慣れない雰囲気にモジモジとしている紫紅を見ている。

 

(かーわいい……♪)

 

「あの、聞いてます?」

 

ㅤたまに上の空になっているように見えて、合間でそう問いかける。すると夢菜はハッとして元の真剣な顔に戻る。この店員大丈夫なのか、と少し心配になった。悪い人では無い、とは思うが。

 

「……と、いうわけでこのお店で働いてみませんか?」

 

ㅤ話された内容を簡単にまとめると、今現状なんとかなってはいるものの、雑用でもいいから人手が欲しい。だが、変な人は嫌だ。また、このご時世、まともな人は働ける年齢になると何かしら職を持って働いている。冒険者も職業のひとつだ。最近は魔物も少し増えてきたことから、作物の収穫も、目立たない程度ではあるが減ってしまい、益々飲食店で働きたいという人が減っている。そんな時に、先程の焔斗達の会話が耳に入り、思わず飛び出してしまったらしい。

 

「いいですよ。な?紫紅。」

 

「う、うん。働いたことは無いけど、精一杯頑張る!」

 

「本当ですか!」

 

ㅤ夢菜が目を輝かせるが、焔斗はすかさず「だけど」と制し、

 

「そうなるとこっちの事情も知ってもらう必要があります。訳も分からない人を雇う訳には行かないですよね?」

 

ㅤ信じてもらえるかどうかは大変怪しいところだが、ここで隠し事をしても仕方がない。焔斗と紫紅は包み隠さず全て話す。

 

「……と、いうわけなんです。それでもいいんですか?」

 

ㅤある程度関わった人がターゲットになる天界の話をする時は少し怖かったが、夢菜は「それは仕方ないことだよ。」と言ってくれた。そう言って貰えるとこちらとしても安心できる。というか、

 

「天界なんて、よく信じられましたね。かなり非現実的な話だと思うんですが。」

 

ㅤそう問いかけると、夢菜は「うーん」と少し悩む様子を見せて、「ま、いっか!」と言うと説明を始めた。

 

「これこそ信じてもらえるかわからないですけど、私、ある程度の嘘なら見抜けるんです。特に、今みたいな非現実的な事は尚更。心を読める、とは違うんですが。何となくわかるんです。」

 

ㅤこういうことを聞いていると、やはりここは異世界なんだなと実感する。というか、関わった人なんて曖昧な対象、本当に誰が考えたのだろうか。どこからがアウトなのか分からないので困ってしまう。

 

(積極的に関わる気はないけど、もう深く考えるのはやめよう。完全に断ち切るなら誰もいない森の中で隠れて暮らすのが正解なんだけど。俺だけならいいが、紅葉……紫紅にまでそんな暮らしをさせたくはない。)

 

ㅤそんなことを考えながら、夢菜と今後のことについて話す。途中、魄夢が入ってきたので彼にも事情を説明すると、巻き込むなと少し険悪な雰囲気になったが、何とか納得させた。

 

「えっと、じゃあ早速明日から色々教えていただくということでよろしくお願いします!」

 

「よろしくお願いします!」

 

ㅤ焔斗と紫紅は頭を下げながらそう言う。と、そのついでに聞いてみることにした。

 

「あ、ちょっと聞きたいんですけど、この近く、いや少し離れててもいいのでお手ごろな値段で評判の悪くないホテ……宿屋って知りません?」

 

「……それなら少し離れたところに」

 

「魄夢ちょっと待って。」

 

「え。」

 

ㅤ魄夢が何処か紹介してくれそうな雰囲気だったのだが、何故か夢菜に遮られ、何やらコソコソと話し始める。魄夢が険しい表情になるが、何やら説得している様子だ。一体何を話しているのだろうか。

 

「よし!じゃあ決まりね!」

 

ㅤ嬉しそうにそう言う夢菜がこちらを向き、笑顔でとんでもないことを提案してきた。

 

「二人とも、今日からここに住もっか!」

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

ㅤ別空間。メフィーの魔女の館。

 

「さて……そろそろ動くかね。」

 

「本当に、メフィー様自ら動かれるのですか?」

 

ㅤひっそりと様々な準備を整え、ついに動き出そうとするメフィー。しかし、彼女自ら動くのは本当に珍しく、魔女達も戸惑っていた。

 

「何、外は嫌いだが、たまには体を動かさねばのう……。まあ、表立って動くのはお主らであるし、目立った動きをすることは無い。」

 

「さ、左様ですか……。承知しました。我々魔女一同、全力で取り組ませていただきます。」

 

ㅤそう言ってメフィーの前に跪く、総勢五百名の魔女が動き出す。──────リベルタ王国に向かって。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「さて、降臨の日まで近くなってきましたね。」

 

ㅤロイルは自分の研究室でねこまとベルと雑談しながら研究を進めている。

 

「そういえば、いつ開くの?天界会議。」

 

「うう、あれ緊張するんだよな……。」

 

ㅤ天界会議。それは不定期に行われており、基本的に会議が必要なほどの何かがあると開かれる。今回の議題はもちろん、降臨についてだ。誰が、誰を始末するか、それを決める必要がある。そのために、降臨メンバーを全員招集して会議を開かねばならない。

 

「ええ、それは来週か再来週あたりに、全員の日程が合う日に行う予定ですよ。なのでお二人も都合の悪い日があれば教えてくださいね。」

 

ㅤ笑いながらそう言うロイル。そんな彼に二人は苦笑しながら答える。

 

「僕、言うほど忙しくないし、何時でもいいよ。」

 

「お、おなじく……。どうせ暇だし……。」

 

ㅤお茶を飲みながら、ねこまがロイルに更に問いかける。

 

「そう言えば、アレは上手くいってるの?特例貰ってたやつ。いいよね〜、羨ましい。」

 

「はは、ご心配なく。既に動いてますし、とても順調ですよ。自分でも怖いくらいにね。ただ、少し自由な自我を持たせすぎたかもしれません。しかし、それ無くして完璧な人間とは呼べず……。」

 

「僕も少し見たけどさ、ほんとにすごいよね。人間共と大して違いがわからなかった。上手く”紛れてる”。」

 

ㅤその言葉にロイルは嬉しそうにニヤつきながら、今の様子をモニターで映す。

 

「ええ、やはりここまで違和感を無くすには仕方の無いことでした。あとはやる時にやってもらうだけです。それより、あなた達も、万が一にも敗戦する、なんてことはやめてくださいよ?」

 

ㅤ悪い顔をしながらロイルが二人に語り掛ける。ねこまは再び苦笑し、余裕の表情で答える。

 

「安心してよ、これでも基礎トレーニング、戦闘シュミレーションは怠ってないんだ。誰が相手になるかまだ決まっては無いから具体的な対策はまだだけど、大体のことは理解してるし、なんとなく対策も考えてるよ。」

 

「ね、ねこまはすごいな。とても真似出来ないよ。」

 

「……あのねえ、だからそれ煽ってるんだって。」

 

ㅤもはや恒例となった言い合い(というよりねこまの一方的な攻め)が始まり、今度はロイルが苦笑する。

 

(ま、異世界人がどこまで強くなるかも分かりませんし、ある程度は対策した方がいいですね。備えがあるに越したことはないですし。)

 

ㅤ今回の降臨メンバーなら、というか、天界勢なら負けることなどありもしないが、ロイルの性格上、やれる事はやっておいてもらいたかった。

 

ㅤ現界と魔界が、神と天使と天界人に攻め入られる日が、刻一刻と迫る……。

 

 

 

 




今回はここまで!いかがでしたか?
今回登場したif民モチーフは、

夢菜さん

シキさん

ねこまさん

ベルさん

でした!

大した動きもなく、フラグ立て回のようになりましたが、再会編はここまでとなります!次回から新編!と、言いたいところですが、正直今誰が出ていてどうなってるか、あと見た目がどうかとか、能力が何だとか。分からなくなってる人も多いと思います!
なので、ちょっと時間かかるかもですがやります。

次回
『現時点登場キャラ紹介並びに新キャラ紹介』

お楽しみに!


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〜天界勢侵略編〜《黒魔女の章》
現時点登場キャラ説明(1部除く)と、今後の展開について


もはや一年越しじゃね?とか思ってる方
安心してください、半年ぶりです。(安心とは)
長らくおまたせしました。まとめの苦手さを噛み締めました。

今回は説明回になります。
今までの登場キャラのまとめ、
最後に今後の流れの予定について記しています。
それでは、どうぞ!


今回の説明キャラ数、計32キャラ

 

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〇1.焔斗(えんと)《焔咲 結翔》(ほむらさき ゆいと) 性別:男 年齢18

if民、えんてぃ(本作作者)モチーフキャラ(男アバ)

 

●説明

本作の主人公。高校三年生で、SAOIFのフルダイブゲームにハマる。妹といつもプレイしていたが、ある日、ログインしようとすると、謎の神により異世界に転移させられてしまう。その時の姿がゲーム内アバター《焔斗》だったため、この名前を名乗って行くことに決める。

 

紫髪の短髪に紅い目。少しだけ幼さの残る顔立ちに、身長は175無いくらいで、体重も55程の痩せ型である。妹にはもっと食えと言われている。人のこと言えないと思っている。

 

●異世界での戦闘能力

 

武器:片手棍、盾は気分によって持つかどうか決める。

 

得意魔法属性:炎

※焔斗の場合、特殊な『真理ノ焔』と呼ばれる焔を扱う。

序盤、節狐が『真紅ノ焔』と言っているが、あれは節狐の勘違いであり、真理が正式名称だ。

 

 

「俺は……、バーサークバファーだ!」

 

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○2.紫紅(しぐれ)《焔咲 紅葉》(ほむらさき もみじ) 性別:女 年齢:16

if民、えんてぃ(本作作者)モチーフキャラ(女アバ)

 

●説明

焔斗の妹。高校一年生で、兄が超大好き。高校生にもなってお兄ちゃんお兄ちゃんというのは流石に、と周りからは思われているが、そんなものは気にしない。

兄と同様、SAOIFのフルダイブゲームにハマっていたが、謎の神により異世界に転移させられてしまう。しかも、兄が転移した現界の下、魔界に。

こちらも見た目がゲーム内アバター、《紫紅》だったため、この名前を名乗っていくことに決めた。

 

紫髪のおさげに、紫目。中学生に間違われる幼さの残る顔立ちに、身長は150センチ程度。体重とスリーサイズは秘密である。もう少し女性として魅力のある体つきになりたいとは思っているが、現状の可愛さが失われるのはどうだろうと悩んでいる。

 

●異世界での戦闘能力

 

武器:片手棍、盾は気分によって持つかどうか決める。

 

得意魔法属性:雷

※彼女の場合、色は紫。

 

 

「お兄ちゃんみたいになるには……お兄ちゃんのそばに居るためには……どうすれば……。」

 

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○3.”現界の放浪魔王”レーヴァテイン 性別:男 年齢:不明

元if民、Revatainnさんモチーフキャラ

 

●説明

焔斗達が転移した異世界のうち、現界の魔王。圧倒的な戦闘力を誇り、人々に恐れられているが、好んで人殺しをしている訳では無いために、そこまで危険視もされていない。

ただし、魔王に覚醒した際に一国を滅ぼしているため、近づいていい存在なんて言う者は居ない。

元は人間だったが、ある事件をきっかけに大切な人を亡くし、憎悪から魔王へと覚醒した。

普段は森にひっそりと暮らしている。

 

薄い紫の髪に、赤いつり目で片目に黒い眼帯をしている。見た目の年齢は若く、魔王にふさわしいオーラを纏っている。身長は180センチ程度。服装はちょっとした装飾のある黒を基調とした服に、マントを羽織っている。

 

 

●戦闘能力

 

武器:片手直剣、盾は持たない。

 

得意魔法属性:炎

※彼の場合、『禁忌ノ焔』という特殊な焔を扱う。

 

「その程度か、貴様の炎は。」

 

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○4.ガルフ 性別:男 年齢:50

オリキャラ

 

●説明

ジーマ村に住む、頼れる爺さん。まだまだ若者には負けてられないと、日々農業や、村のためになることを率先して取り組んでいる。村長では無いが、この村の顔と言ってもいいだろう。

 

身長は160センチ程度、無精髭を生やし、髪等はもう白になってしまっている。少しお腹が出ているが、日々の仕事で筋肉はついており、健康体そのものである。

 

「何事も元気が1番だ!」

 

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○5.スリク 性別:男 年齢:25

オリキャラ

 

●説明

ジーマ村に住む薬剤師。村一番の、と言いたいところだが、この村に薬剤師は彼一人である。

彼の技術は本物で、王国でも仕事が出来るレベルである。勧誘は何度か受けたが、森が近くにある方が良い治癒薬がつくれ、素材も良質で新鮮なものが取れる等、様々な理由をつけて断っている。

 

身長は180センチ程度、濃い緑の髪のロングで目の色は赤で細目。眼鏡をかけている男性。

 

「ふふ、この薬草とこの死骸を上手く調合すれば、いい薬ができるかもしれませんねえ……。」

 

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○6.シイ 性別:女 年齢:23

オリキャラ

 

●説明

ジーマ村に住む医者。村一番の医者で、その腕は王国に仕える医者と遜色ない。彼女にも王国から勧誘はあったが、このような辺境の村でも人は人。その命を見捨てたくない。と断ったらしい。

 

身長は175センチ程度で、銀髪ショートに銀目で、スラッとしたスタイルの女性である。

 

「身分がなんであろうと、命を救うのが私の責務だから。」

 

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○7.節狐(せつこ) 性別:女 年齢:不明

if民、節狐さんモチーフキャラ

 

●説明

獣人の国、リベルタ王国 国王の娘。物凄い戦闘好きで、よく国を出ては強者が通りそうな場所に張り込んでいる。修行になるとはいえど、一国の王の娘を一人で外出させる訳にも行かず、何人かを傍付きとして同行させている。正直なところ、彼らは節狐より弱いので、万が一の時に囮になる役である。

しかし、節狐は仲間を囮にして逃げるなどということは大嫌いだ。

 

狐耳、赤髪ロングに赤目でつり目。メガネもかけている。カッコイイ姉御肌と言った印象を受ける。

 

●戦闘能力

片手直剣、拳(本能解放時)

 

得意魔法属性:炎

 

「あたしの炎で、こんがり焼いてやるよ!」

 

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○8.しゃろん 性別:女 年齢:不明

if民(休止中)、しゃろんさんモチーフキャラ

 

●説明

現界にあるシンレ館に住む魔女。力をつけようと試練を受けに来た者たちをことごとく返り討ちにし、全員殺している。そのせいで、この試練に挑む者はほぼ皆無となっていた。

彼女の正体は、魔界の魔王、シハク(後に説明あり)の配下で、自分の趣味で現界で暮らしていた。再会編で、焔斗達に対する悪行は魔女王(後に説明あり)による洗脳のせいだと発覚する。

今は魔王シハクと共に、その魔女王の居場所をつかもうと探りを入れている。

 

少し青みがかった銀髪のショートヘア。少し鋭めの赤目に、頬にはタトゥーのようなものが描かれている。服装はよくある魔女服で、可愛いと言うよりはかっこいいよりのイメージ。

 

●戦闘能力

武器:杖

得意魔法属性:炎

※しゃろんの炎は黒炎で少し特殊。

 

「ゼロ距離魔法こそ至高♡高火力こそ正義♡あははは!」

 

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○9.闇華(やみか) 性別:女 年齢:不明

元if民、Yamikaさんモチーフキャラ

 

●説明

元天界の天使。諸事情で堕天使となり、魔界に落ちる。その時に来羅と出会い、共に行動するようになった。今は二人でアイドルユニットを組み、現界にてアイドル活動中。

焔斗達異世界人の来訪を察知、接触し、今は各地でアイドル活動をしながら、来たる天界からの攻撃に備えるため、各主要人物に警告、対策案の提示をしている。

 

見た目は、紫髪のロングにキリッとした少しピンクがかった目。すらっとしたスタイル。服装はピンクのアイドル衣装で、やけに太腿の露出が多い。

 

*

●戦闘能力

武器:片手直剣

得意魔法属性:雷(彼女の場合、闇雷)

 

「元天使として、何としても阻止しないと。仮に無理だったとしても、何もしないなんて、出来ない。」

 

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○10.来羅(らいら) 性別:女 年齢:不明

元if民、ララさんモチーフキャラ

 

●説明

種族は小悪魔(悪魔とは別系統)。所謂サキュバスだが、えっちぃのは嫌い。

魔界を彷徨い、斧を振り回したりして修行する日々に飽き飽きしていた時、近くに堕天した闇華が落下して来たのを助ける。

それを機に、闇華と共に楽しいことをたくさんし、今は二人で現界に行き、アイドル活動をしている。

 

 

見た目は、ピンク髪のロングにパッチリとした緑がかった目。スタイルは抜群で、大体の男なら絶対に目を奪われるだろう。服装はピンクのアイドル衣装。

 

●戦闘能力

武器:両手斧

得意魔法属性:風

 

「任せてよ!風と力なら負けないから!」

 

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○11.桃歌(ももか) 性別:女 年齢:自称16

オリキャラ

 

●説明

種族は人間。魔力を全く持たない、極めて珍しい体質で、魔法は空間魔力を操ってできるもの(アリシゼーションで言うところの神聖術の類)以外は全く使えない。一般使用の魔道具は使えるが、起動に魔力が必要な時はもちろん使用不可。

新人アイドルとして活動していた時に闇華達と偶然出会い、行動を共にする。

 

ピンク色の髪をおさげにしていて、目は緑で童顔。身長は小さくて可愛らしく、天使のような可憐さ。

 

●戦闘能力

 

武器:片手棍(念の為の護身用。そんなに意味は無い。)

得意魔法属性:なし(ただし、空間魔力を使用した簡単な魔法は可能)

 

「今は楽しい。でも、あの日が来れば、この日々も……。」

 

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○12.シキ 性別:女 年齢:17

if民、シキさんモチーフキャラ

 

●説明

種族は人間。糸系の魔法使いで、人形を操れることから、一般人からは忌避の目で見られがち。だが、それに挫けることなく、世界各地に自身の人形劇を披露して回っている。

戦えなくは無い(むしろちゃんとやれば強い)が、自分の糸魔法が人々に恐怖として認識されていることから、魔物と戦う時ですら、本気を出すことを躊躇い、恐怖してしまう。

また、彼女の使う糸魔法は、凄惨な過去を持つ。

 

黒髪のショートに、見る者を引き込むような青い目。青を基調とした服装をしており、身長は紫紅と同じくらいで小さめだ。

 

●戦闘能力

 

武器:なし

得意魔法属性:糸

(青い糸を使う)

 

「私の活動で、少しでも糸魔法に対する誤解がとけたらいいな……。」

 

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○13.ジン 性別:女 年齢:不明

if民、ジンさんモチーフキャラ

 

●説明

種族は人間。閃光の槍使いで、未だ謎多き人物。

各地を放浪としており、彼女の槍の技術は極めて高い。実は、ある目的のために動いているという噂もあるが……?

 

 

白を基調とした、動きやすそうな布地の服装。髪は銀髪のロングで、目は少しつり目で色は深い緑。水色の槍を持った槍使い。

 

●戦闘能力

 

武器:槍

得意魔法属性:光

 

「神滅ノ槍……どこにあるの。」

 

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○14.夢菜(ゆな) 性別:女 年齢:21

if民、夢菜さんモチーフキャラ(女アバ)

 

●説明

クッキー屋【Dream Canola flower】を、双子の兄と営んでいる女性。

幼少期から夢魔法という特殊体質を持っており、

人の見る夢に敏感で、影響を受けやすい。

慣れる事で、なんとか普通の夢に関しては意図的に抵抗できるようになった。

だが、仮に強制的な夢を見せられている人等が居れば、その者がどこにいようが察知してしまう。

無論、その夢が悪夢なら、気分が悪くなってしまう。

あと、かわいい女の子好き。(癒しの対象)

 

身長は百六十センチくらいで、ファンタジー界の精霊術師のような服装に、胸ポケットに二本の菜の花を添えた焦げ茶色のエプロンをしている。肩までの銀髪に薄いピンクの目だ。この菜の花は、ある日常連の親子の女の子が「ぷれぜんと!」と持ってきて以来、さし込んでいる。魔法で落ちないようにしている上、鮮度も保たせている。

 

●戦闘能力

 

武器:レイピア

得意魔法属性:夢

 

 

「紫紅は、紫紅だよ。焔斗くんになろうなんて思わなくていいの。」

 

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○15.魄夢(はくむ) 性別:男 年齢:21

if民、夢菜さんモチーフキャラ(男アバ)

 

●説明

クッキー屋【Dream Canola flower】で働く、夢菜の双子の兄。

夢菜のことが大好きな所謂シスコン。

菓子作りの腕は非常に高く、Dream Canola flowerのクッキーの味は彼と夢菜によって保たれている。

顔に感情を出すのが苦手で、接客が向いておらず、基本的に厨房に居るが、稀に表に出ることがある。

そのクールでイケメンなところから、その瞬間をいつか見るために来ている女性客も多い。

 

身長は百六十五センチくらいで、焦げ茶色のパティシエ姿だ。短めの銀髪に、薄いピンクの目をしている。

 

●戦闘能力

 

武器:なし(拳)

得意魔法属性:なし(身体強化魔法を使う)

 

「様子見、後手に回ったのがお前の敗因だ。」

 

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○16.クロリア 性別:男 年齢:29

オリキャラ

 

●説明

種族は獣人。リベルタ王国の国土偵察兼防衛隊隊長。

気さくなところや、親しみやすい性格の彼は王国住民からの信頼も厚い。無論、信頼に見合うだけの実力を持っている。

 

 

2種類居る獣人のうち、動物が二足歩行になって人型になった、顔などはそのままの見た目の獣人。黒豹の顔をしている。

 

●戦闘能力

 

武器:野太刀(格闘も可)

得意魔法属性:炎

 

「俺たちの国の領土に変な奴は居ねぇよ。何せ、俺ら防衛隊が偵察してるからな。」

 

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○17.幸菴(こうあん) 性別:男 年齢:不明

オリキャラ

 

●説明

リベルタ王国所属、国王の父で節狐の祖父。

国王の座を息子に託してから、国の兵士の育成に務める。年の功で培ってきた数多の戦術を、これからの時代を担う若者達に伝授している。

本人も変わらず鍛錬を行っており、まだまだ若者に負ける気は無い。

 

傷を負った白い狐耳に、白髪のいかにも老人といった風貌だ。目だけは赤く輝いているのが威圧感を放っている。

 

●戦闘能力

 

武器:刀

得意魔法属性:炎・風

 

「なぁに、まだまだ若者には負けられんわい。」

 

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○18.狐郭(こかく) 性別:男 年齢:不明

オリキャラ

 

●説明

リベルタ王国現国王。節狐の父親で幸菴の息子。

若いながらその実力を認められ、父から王座を受け継いだ。その父からはまだまだ青い、などと言われてはいるが、現時点で国内最強の戦闘能力を持っている。

ただ、早くも娘の節狐に実力負けしそうな現実に

焦りを感じている。

 

節狐と同じ赤い髪、目をした狐の獣人。キリッとした顔立ちをしており、短髪が似合っている。

 

 

●戦闘能力

 

武器:刀

得意魔法属性:炎

 

 

「この国の国王として、貴殿の狼藉は見逃す訳には行かない。」

 

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○19.獅裂(しさき) 性別:男 年齢:24

オリキャラ

 

●説明

首都防衛隊隊長を任されており、その実力は確か。

真面目な性格で、礼儀正しいが、友人や気を許した相手、もしくは堅苦しくなくて良いと言ってくれた相手にはかなりフランクに話すことが出来る。

 

名前に獅があるとおり、獅子の獣人で、クロリアと同じく獣の要素が強く出ているタイプ。

 

 

●戦闘能力

 

武器:大剣

得意魔法属性:風

 

「動け……!この国を守るのは、俺の責務だ……!動けっ!!」

 

 

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○20.黒兎(こくと) 性別:男 年齢:14

オリキャラ

 

●説明

リベルタ王国の影の守護者達をまとめる頭領。いわば忍者のようなもの。

隠密性に優れており、その手慣れた情報収集、及び暗殺術には目を見張るものがあり、もし彼が裏切り、暗殺にくれば、警戒を解いた瞬間自分の命はないだろう、と節狐が評価するほど。

 

見た目はクロリア、獅裂と同じ獣寄りの獣人で、名前の通り黒いうさぎだ。

耳が邪魔なのでは、という意見もあるが、任務中は基本折りたたんでいるためそこまで支障はない。

 

●戦闘能力

 

武器:短剣

得意魔法属性:影・闇・毒

 

「私に隠し事など出来ない。私から逃れることも出来ない。」

 

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○21.シハク 性別:男 年齢:不明

元if民、シハクさんモチーフキャラ

 

●説明

魔界の魔王で、”魔界ノ紅凍魔王”というふたつ名を持つ。

また、魔界三銃士の1人でもある。

戦闘能力は圧倒的で、何も知らない人は冷酷で厳しいイメージを持つ反面、

実際はかなり気さくで自由気ままなオシャレ好き。

 

 

見た目は銀髪のショートに赤い目。

目元には蜘蛛の糸のようなタトゥーがあり、いかにも魔を統べる者といった風貌。

黒を基調とした革製の服を着ており、

左肩には金色の肩当をしている。

また、頭には小さな王冠(青と紫のグラデーション)を身につけている。

 

 

●戦闘能力

武器:レイピア(メイン)、槍(サブ)

得意魔法属性:闇、氷(紅色)

 

「トモ、今日の夕食はナンバン仕立てかな?」

 

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○22.トモ 性別:男 年齢:不明

if民、トモさんモチーフキャラ

 

●説明

魔界三銃士の1人。魔王シハク、その弟春輝、その又弟子のサトシに仕える敏腕すぎる執事。

家事はもちろん、邪魔者の掃除もお手の物。

その紳士的な立ち振る舞い、容姿の良さから、イケメンモテモテ春輝よりも、ファンが多いという噂もある。

紫紅を弟子にして、戦闘について様々な指導をしていた。

 

見た目は赤髪ショートに紫紺の目。キリッとした顔立ちで、赤枠の片眼鏡をしている。

服装は赤い執事服で、そのどこかに短剣を

忍ばせており、いつでも戦闘態勢に入れるようにしている。

 

●戦闘能力

武器:短剣

得意魔法属性:竜

 

「春輝様にはもっと肉類を食べてもらわなければ。」

 

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○23.アル 性別:雄 年齢:3

if民、トモさん考案ペット

 

●説明

トモのペットの小竜。赤くモフモフの毛皮を持つ。

トモ達ほどでは無いが、そこら辺の魔物には引けを取らない戦闘能力を持っている。

 

「きゅ!」

 

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○24.春輝 性別:男 年齢:不明

元if民、春輝さんモチーフキャラ

 

●説明

魔界三銃士の一人。シハクの弟。

何をするにもカッコつけ、女の子を堕とすことを考えている。一人称は僕だが、素に戻ると俺になる。

野菜は好きだが肉類全般が苦手で、よくトモに肉を食わされているシーンが見受けられる。

戦闘能力に関してはかなり高い。戦闘中の冷静さも持っている。

 

春輝は魔界には似合わぬ白を基調としたいかにも白馬に乗って姫様を助けに来そうな服で、羽付きの白ハットを被っている。顔はまあイケメン。物語で出てくるだけなら女性からの人気も高いだろう。少し伸ばした銀髪に赤い目、口角は常に少し上がっており、見た目をいつも気にしていそうな感じだ。

 

●戦闘能力

武器:片手直剣。盾は持たない。

 

得意魔法属性:氷

彼の氷は深い蒼色。

 

「わぁ!女の子だね♪」

 

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○25.サトシ 性別:男 年齢:15

if民、サトシさんモチーフキャラ

 

●説明

マサ〇タウンは関係ない。

春輝の弟子で、過去に悪魔と契約してしまい、絶大な力を手に入れる代わりに、その力を身に余る量解放してしまうと、体を蝕み滅んでしまう。

紫紅の良きライバルになりそうな予感……?

 

見た目は銀髪のショートで、目の色は青。穏やかな顔立ちをしている。

服装のデザインは春輝とほぼ同じで、彼とは違い真っ黒な配色となっている。

 

●戦闘能力

武器:片手直剣

得意魔法属性:時間、空間、闇

 

「おい、悪魔……!もっと力を寄越せ……!」

 

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○26.のぞみ 性別:女 年齢:14

元if民、のぞみさんモチーフキャラ

 

●説明

突如紫紅の前に現れた謎の少女。

紫紅を姉と慕ってくるが、紫紅に妹がいた事実などない。

記憶もほとんどなく、自分の名前と年齢くらいしか覚えていないらしい。

彼女の正体は一体……

 

見た目は紫紅と同じメイド服を着ていて、猫耳がある。片目に髪のかかった少し薄い黒髪のショートヘアで、目も同じ色だ。服に着いたリボンは青ではなく赤色だが、それ以外の服は紫紅とそっくりだ。

 

●戦闘能力

武器:片手棍

得意魔法属性:地

 

「おねーちゃんは、おねーちゃんだよ!」

 

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○27.メフィー 性別:女 年齢:不明

オリキャラ

 

●説明

魔女を統べる、魔女王。裏でしゃろんを操り、焔斗達に混乱を巻き起こした。

普段は異空間に閉じこもっているが、今回は珍しく、その空間から出て直接とある国を潰しにかかる。

狙われた国の運命やいかに……

 

見た目は長い銀髪に、鋭い水色の目。凛とした姿、いかにもトップらしい美貌。黒魔女と同じく黒い魔女服を着ているが、その美しいデザインで彼女が魔女を統べる者であるとひと目でわかる。

 

●戦闘能力

武器:杖

得意魔法属性:心、糸

 

「この魔法があれば、全て我が手中も同然。」

 

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○28.ロイル 性別:男 年齢:不明

オリキャラ

 

●説明

天界に住む天使。

研究が大好きで、様々なものを創造している。

戦闘能力そのものはそこまでだが、(それでもリベルタ王国の隊長くらいには強い)様々な創造物で補っている。

今回、下界への侵略用に、神が造る完璧な人間、神造人間を製作した。

また、天界を統べる唯一神からとある特権をもらい、密かに実行に移している。

 

見た目は銀髪のショートに青い目。高身長の痩せ型だ。

前回の降臨の時もいたため、かなり老いており、神々しさ、というものはあまり感じられなくなっている。

 

●戦闘能力

武器:なし(創造物はある)

得意属性:光、聖天、創造

 

「神造人間……、こんなにも早く試運転ができるとは!」

 

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○29.ねこま 性別:男 年齢:不明(天界で若手ということはわかっている)

if民、ねこまさんモチーフキャラ

 

●説明

天界に住む天界人。

天界の中では比較的若手だが、序列7位に入る手練。10位以内に入っている天界勢の中では最年少であり、その才能が伺える。

若さゆえか、少々油断しやすいのは玉にキズ。

今回の降臨メンバーではあるが、この殺戮に意味はあるのか、と心の奥底で少し疑問を抱いている。

 

見た目は青髪ショートに青目で童顔。そして青と白を基調とした騎士服を身にまとった背の低い少女……にしか見えない青年。

 

●戦闘能力

武器:弓(メイン)、短剣(サブ)

得意属性:水

 

「下界じゃそこそこ強いのかもしれないけど。僕の敵じゃないよ、君ごとき。」

 

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○30.ベル=燦=グロピウス 性別:男 年齢:不明

元if民、ベル=燦=グロピウスさんモチーフキャラ

 

●説明

天界に住む高身長の天界人。

自分に自信を持てないが、実力はほかから認められている。戦闘時に発動する技が、性格を変えるほど強力なのだ。序列は六位。彼も降臨メンバーだ。

 

見た目は銀髪ロングを後ろでたばねており、目の色は赤。すらっとしているが、性格上常にビクビクしているため、どちらかと言えばオーラがなく気づかれない。

 

●戦闘能力

武器:片手直剣

得意属性:風、光

 

「こ、こんな力の無い天界人が選ばれるなんて、聞いてないよ……!」

 

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○31.ユメ 性別:女 年齢:不明

if民、夢さんモチーフキャラ

 

●説明

夢を司る神。基本的に攻撃的な技は少ないが、それでも序列は9位。今回の降臨メンバーの一人。

夢界という自分だけの世界を作ることが出来、今回、焔斗達の記憶から読み取った異世界から人の複製を召喚し、実験している。

見た目は、緑の髪のポニーテールで童顔。身長は中くらいで、白いローブを身にまとっている。また、これは天界勢全員に可能なことではあるのだが、彼女はあえて常に浮いている。

 

●戦闘能力

武器:杖

得意属性:夢、光

 

「夢の世界へようこそ。永遠にお眠りなさい、罪人たちよ。」

 

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○32.ユキ 性別:女 年齢:不明

if民、ゆきさんモチーフキャラ

 

●説明

冬を司る神。自分の意思で、ユメに眠らせてもらっており、常に寝ている。ユメがピンチになると目覚め、その力を解放し絶対零度の氷で敵を殲滅する。

もしくは、ユメかねこまが起こすと起きる。

ユメ以外ではねこまとは仲がいい。

 

常に寝ているため、序列決定戦には参加しておらず、序列を持たないが、その実力は確実に10位以内クラスだと言われている。

 

見た目は、幼い見た目に純白の髪。目は白銀で、身長はもちろん小さい。

 

●戦闘能力

武器:レイピア

得意属性:氷、光

 

「ふゆふゆー!」

 

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──────

 

今後の展開の予定

 

大まかな編の名前は【天界勢侵略編】とし、

 

 

その前半少しに

 

《黒魔女の章》として、これまでに匂わせていたメフィーの行動、そこから起こる事件、戦いを描こうと思っております。(序盤の話は焔斗達のクッキー屋で働くお話になります。)

 

また、この時の注目キャラクターは、魔女や、リベルタ王国の面々、そして、シキさんです。

 

《降臨の章》では、ついに天界から侵略が始まります。また、この作品は大元SAOの二次創作というのもあり、ここであるキャラが登場する予定です。

名前は出てないですが、既に文章で少し描写を入れています。

 

《黒魔女の章》予告文はこちらになります。

 

──────

闇華から天界のことについて聞かされた節狐達。その対策として、念の為、民には内密にしながら今まで以上の兵力増強に取り組んでいた。しかし、そのリベルタ王国には、別の魔の手が伸びようとしていた。

魔女王メフィー率いる魔女達の襲撃を受けるリベルタ王国。

偶然、リベルタ王国に来ており、巻き込まれてしまうシキ。

しかし、彼女とメフィーにはとある因縁があった。

 

シキ「貴女だけは……、私がっ!倒す!」

 

波乱の黒魔女の章、始動。

 

 

 

 

 




今回はどこから後書きにしようか迷いましたが、この辺で後書きに入ります。
今回登場したif民モチーフの方々は現時点でのオールスターなので、
省略させていただきます。

次回がいつ、というのは言えませんが、気長に待って貰えると助かります。
また、抜けてるキャラとか居たら構わず指摘してください。
まだまだ謎のままだったり、ほんの少ししかでてなかったり、今後の登場頻度をそこまで予定していないキャラは省いていますが、
指摘されたキャラでその枠のキャラがいたらそう答えます。

以上、よろしくお願いいたします

次回
【天界勢侵略編】《黒魔女の章》
第1話
「魄夢のテスト、奮闘の焔斗」

お楽しみに!


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