【悲報】私ちゃん転生したっぽいけどこの世界ってばディストピア臭がぷんぷんストリーム! (鬼百合ぴょんぴょん丸)
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第一章 フェアリードロップ
第一話 とりま転生したっぽい?


 

 

 

 この世界はおかしい。

 もしくは、私の頭がおかしいのか。

 

 私には生まれつき妙な記憶があった。

 それがいわゆる前世の記憶なのか。輪廻転生した際の不具合なのか、それとも単なる妄想か。

 

 そういった考えが泡沫の如く浮かぶように、私は誰に教えられたわけでもない知識を持ってこの世に生を受けた。

 その記憶にかつての私を示す手掛かりはなく、体験したであろう出来事も全てが無機質な情報でしかなかった。

 

 そんなおかしな記憶を持った私の脳味噌は、この世界をおかしいと断じ続けている。

 例えば、そう。

 

「どしたの? しーちゃん」

 

 絶世の美幼女が私の顔を覗き込む。

 そんな幼女に対して私は「なんでもないよ」と適当に追い払う真似をすると、彼女は何が可笑しいのかきゃっきゃと笑いながら駆けて行った。

 

 その揺れる後髪は染めたわけでもないのに緑に発色しており、辺りを見渡せば赤青茶金銀その他色取り取りの髪色をした美幼女達がわらわらと広場で遊んでいた。

 

 その様子も、何か変だ。

 保育園児程度の年齢の子供など猿みたいな物だと記憶は告げている。

 

 子供とは本来もっと汚くて、やかましくて、本能剥き出しの獣みたいなもの、らしい。

 けれど今目の前で遊ぶ幼女達は、無邪気ではあるものの確かな統率が取れており、そこにはちゃんと理性が存在していた。 

 

 みんな私と同じ妙な記憶持ちなのかと思ったが、どうにも違うっぽい。

 早熟というか、素のスペックが高い気がする。まぁ私が本気を出せばちょちょいのちょいなんだけど、と幼女相手にマウントを取ってみる。悲しみ。

 

 あと全員顔が良い。

 別に冗談ではなく、造形が整っている。幼さからくる丸っこさはあるが、それがより可愛らしさを強調している。

 

 それが一人二人ではなく三十人超ともなれば、平均値が高すぎて逆に誰が誰だか見分けがつかないレベルだ。

 幼い頃可愛いからといって将来美人になるとは限らないらしいが、彼女達を見ていると、どうにも将来を約束されている様にしか見えなかった。 

 

 ちなみに、もれなく私も美幼女だ。

 特別な手入れをせずとも天使の輪っかの浮かぶ銀の髪に紅玉のような瞳、整った顔立ちは美幼女達の中でも中々良い線いってるのではないかと自惚れたりもするが、記憶のせいで審美眼が狂っている可能性が無きにしも非ず。

 

 ロリコンとやらなら、ここが天国だと歓喜するのだろう。地獄に落ちればいいのに。

 そして私はロリコンではないようで、記憶から生じる違和感が強すぎて若干気持ち悪いくらいだった。

 

 私に刻まれた記憶との齟齬。

 幼女しかおらず、男子とやらがいないのも妙だった。

 ちなみに私はショタコンでもない。

 

 思い返せば、そもそも生まれてこの方男という存在を見た覚えがなかった。老いも若きも関係なく。

 やはり変だと記憶は告げる。ち〇ち〇はいずこに。いや、別に見たいわけじゃないが。

 

 ちなみに私が今いる場所は「ようせいじょ」らしい。

 養成所、だろうか? それは果たして何の? ぱっと記憶に引っかかるのは声優だの役者だの、芸能関係の養成所だった。

 なるほど、確かにここの美幼女達なら……いや、ないな。

 

 この施設はぶっちゃけ孤児院とか救護院とか、そういう感じの施設だと思う。

 私を含め、ここにいる子供達の親らしき存在をみた事がない。代わりに監督者のシスターと、お世話をする人形達がいるくらい。

 

 シスターといっても宗教関係のそれではなく、単純に年長者としての意味でシスターというらしい。 

 保母さんというか先生というか、主に私達を見守っている存在であり、私はどうにもこのシスターが苦手で、監督者としてのイメージが強い。

 

 そしてシスターを補助するお世話人形達。

 驚いた事に機械仕掛けの所謂ロボットだった。

 

 丸いフォルムをしたブリキの人形達は、この施設における実務の殆どを熟しており、掃除洗濯調理と私達に必要な細々とした雑事を一手に担ってくれている。

 シスターは基本マジで見守ってるだけなので、私の中では怪しさが爆発している。こわっ近寄らんとこってな感じにもなる。

 

「しーちゃーん! おにごっこするよー!」

 

 違和感を脳内で整理していると、先程とは違う幼女が遊びに誘ってくれた。

 ちなみに「しーちゃん」とは私の事だ。髪が白っぽいからしーちゃん。安直である。

 

 ちなみにここにいる幼女、私を含めて名前がない。その時点で何かやべぇってなもんである。

 まぁそれはそれとして相手を識別するのに不便なので、みんな適当な渾名で呼んでいる。

 余談だが私の他にもシロちゃんやしぃしぃやハクちゃんがいる。キャラ被りが激しい。ハゲじゃないが(激寒ギャグ)。

 

 正直今は考え事をしていたい気分だったが、少し離れた所からシスターが微笑みを浮かべて私を見ている。ふふっ、怖い。

 私は空気を読んで「いーよー!」と幼女達の輪に飛び込むと、がむしゃらに走り回ったのだった。

 

 ふははっ、この私、幼女相手だろうが容赦はせん! だって私も幼女だから!

 

「しーちゃんはやーい!」「つかまらんーっ!」「かこめかこめー!」

「あまいあまい! 速さが違うのだよ速さガー!」

 

 ちなみに今回はタッチしたら鬼が増えていくルールだったのだが、時間制限がなかったせいで最終的に三十五対一になってしまい、最後は捨て身の幼女タックルを喰らって撃沈してしまった。オイオイ物理的に回避できるかよあんなん。ウォール幼女とか容赦なさ杉。

 

 突発的に言語を狂わすミーム汚染された記憶を持っている私だったが、そこそこ現世をエンジョイしていた。  

 恐らく私の心配し過ぎで、多分ここは妖精所とか、そんな感じのメルヘンワールド……だといいなぁと思いました。まる。

 

 私も含めてここの幼女達なんか変だし、記憶にある常識が全然役に立たないし、シスターとかくっそ怪しいけど、今が楽しければまぁまぁ幸せなのだと思う。

 まぁとりあえずの所、怪しいシスターに近寄らなければ何も問題は――。

 

「はい、今日の頑張ったで賞は……鬼ごっこで活躍したしーちゃんです! ぱちぱちぱちー! ご褒美の飴を差し上げますねー!」

「わーい、飴ちゃんらー!」

 

 飴ちゃんには勝てなかったよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 見切り発車なう。


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第二話 幼女ちゃんは泣かないもんっ!

 

 

 

 私、しーちゃん。さんちゃいです!

 

 生まれた時から自意識があって妙な記憶を持ってるだけの銀髪美幼女ちゃんな私だけど、そんな私に負けず劣らず我が同胞たる幼女達もかーなーりおかしい。

 まず手足が短いくせに体幹がしっかりしすぎ。ドタバタ走ってスッテンコロリ、えーんえーんと泣くのが幼児という存在だろう。等身のバランス的にそれは仕方ない事のはずだ。

 

 だというのに、ここの幼女達は犬のような俊敏さで地を駆け、バッタのように跳躍する事が可能だった。どんな筋骨してんのってなる。私もできるけど。

 無様に転がるいたいけな幼児などいなかった。おまけに転んだとしても普通に受け身を取るのだから、やっぱこの幼女達は何かおかしい。

 

 ちなみに自分の身長以上の高さまで跳躍余裕ですとばかりぴょんぴょん気軽に跳ねる事も可能だった。

 ただし迂闊に跳ねて逃げようものなら迎撃余裕からの着地確殺KOとばかりに撃沈させられるので、遊び中での安易な跳躍は敗北と同義なのだが。

 

 私も最初こそ立ち位置やら障害物やらを工夫して有利に立ち回っていたのだが、そんなもん速攻真似られて対策されてからのスペック勝負に持ち込まれてしまった。こいつら頭良すぎ。天才の安売りかよ。

 そうなってしまえば同じ幼女ボディ、結局物量こそが勝敗を分けるのだと現実の非情さを教えてくれる。

 

 なので最近の鬼ごっこではもっぱら鬼スタートです。ワルイゴイネガー!

 一人で三十五人に勝てるわけないだろ! 最後まで逃げ切るのは体力的につらたんなので最終的な勝者が約束されてる鬼スタートが最近のトレンド。おまけに最初の鬼に立候補する事で立場的にもうま味です。

 

「ララ班はあっち! ミィ班は先回り! そんで残りは私と狩りじゃオラ―ッ!」

「おらー!」「らー!」「きゃー!」

 

 テンション上がって蛮族めいた物言いになってしまうが許して欲しい。

 狩りごっこたーのしー!

 

 最初は辛いが人手が増える事に選択肢が増えて楽になる。

 ちょこまかと端の方に居る面倒な奴らは目端の利く幼女をリーダーにして任せ、幼女密度の高い本丸へと吶喊する。

 

 すると連中、草食動物的な連携を発揮して見事なほどバラバラに散開しやがった。

 おまけに数人ほどこちらに遅滞戦闘をしかけて殿なうしてきたもんだから、私自ら処理してやる事にする。

 

「みんなにげろー!」「うおー!」「まけないもんっ!」

 

 ちなみに本ルール上、手のひらで相手の胴体にタッチしないと鬼へと洗脳できない仕様なので、防御的近接戦闘が稀によく成立する。

 急所への攻撃や武器類の使用は禁止、頭部狙いも急所に含み、蹴り技も禁止。タックル可。と、色々細かなローカルルールが定まっている。

 

 まぁでも、掴みが禁止されてない時点で攻撃側超有利なんですけどね。

 しんがり幼女ちゃんのお手々を握って開いた脇腹に優しくチョップ。その一連の動作を刹那に行い切り捨て御免って感じで駆け抜ける。

 

「ぐわー!」「しーちゃんつえー!」「あいやーっ!」

 

 その勇気に敬意を払おう。

 無駄な犠牲だったがな、ガハハッ!

 

「たあいなし」

 

 幼女がしちゃいけない悪逆スマイルを浮かべるクソ幼女ちゃんの姿が、そこにはあった。ちなこれ私。

 

 その後、鬼に寝返った幼女達も加わった本隊による強襲幼女ジェノサイドによって、本日の第三次鬼ごっこは勝利に終わったのだった。

 

 敵は一人もおらず、みんな鬼の仲間。

 であればこれは、みんなの勝利と言えよう。

 

 我が軍の勝利である。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話 エへ顔ダブルピース余裕です!

 

 

 一つ言い訳をさせて欲しい。

 何故推定前世の記憶持ちである私ちゃん様が、素直に幼女生活をエンジョイしちゃってるのかについてだ。

 

 生まれた時から自意識があった私は、この世界がおかしいとすぐに思った。別にわかった訳ではないのがポイント。

 

 何かにつけておかしいと反射的に思ってしまうし、そう思う理由もよくよく考えれば納得はできる。やはり我が同胞たる幼女達は、何度見ても私含めちょっと異常なのでは?と思ってしまう。

 

 だけど目の前にある現実は変わらないのだから、おかしいのは自分の頭の方ではないかとも思ったりする。何せ、「前世の常識、今世の非常識」な事が多すぎた。

 

 例えば私は、生まれてこの方親の顔を見た覚えがない。生誕直後は視覚がはっきりしなかった事もあり、気付けばこの施設にいた。

 そこで初めて目にした人間こそがシスターマリーで、最初は彼女が自分の母親なのだと思ったりもした。

 

 まぁかなり若過ぎるとは思ったけれど。

 それ以外に年長者の姿が見えないのだから、消去法でそう考えるのも致し方なし。

 

 しかし割とすぐに我が同胞たる赤子達の存在に気付き(私のママンは子沢山やな……)と現実逃避するのも空しく、ここが何かの施設で、マリーママンはそこの職員的な存在なのだと理解してしまった。

 

 泣くわこんなの、だって赤ちゃんだもの。

 信じたママンがただの美人なチャンネーだったショックにギャン泣きし、釣られた同胞たちが加わって泣きの大合唱。

 

 主催は私。

 なんだか初めて絆、感じちゃったね。

 

 ちなみにシスターはあらあらと困り顔だったが、お世話に忙しかったのはロボ達だったので何だかもにょっとした。

 

 そんなこんなでシスターに見守られつつ、人形達にお世話され、同胞たる赤子達とすくすく成長していった私ちゃんだったが、暇な記憶持ちの特権とばかりに今後の人生設計を立ててみたのだ。

 ちょっとばかり早スギィ!な気もするが、漠然とバブバブしてるよりはずっと建設的だと思う。

 

 とりま大前提として、生まれたからにはなるべく長生きしたい。

 何故生きるのか? そんなのはただ生きたいからでいいじゃんってなもんよ。

 生まれた意味とか、そんなの暇な人だけが考えればいいと思う。

 

 短命であるよりは長生きの方がお得感あるし、充実した生を送りたいと願うのは生き物として真っ当なものだと思う。

 「生きるのがつらたん」「人生は牢獄」「もぅマヂ無理。リスカしょ」とか、そんなネガティブマッハな意見は参考にしちゃ駄目だと思います。

 

 健康に長生きする。

 その為に必要なのモノ、それは――そう圧倒的なパワーッだね!!

 

 いや、別に冗談ではなく。

 生きる為、自分の身を守る為に、障害を排除する為に。ありとあらゆる苦難を乗り越える為に必要不可欠な要素。

 

 それこそが筋肉。

 筋肉イズパワー!

 

 金? 権力? それも力ではあるが、本質からちょっと外れているように思う。

 本当に必要なのは本質的な力、そう純粋な暴力こそが原初の魔法にして頂点!

 

 筋、骨、肉が生み出す魔法の力、それこそがパワー!

 パワーこそが世の全てを解決するのだ!

 

 なので身体を鍛え、圧倒的なパゥワァーをこの幼女ボディに宿すべく、全力で同胞達と遊んでいる私に一切の油断も妥協も存在しないのだ。

 だから私が一見無邪気にエンジョイしているように見えても、それは必要な修行なのである。

 別に遊ぶのたーのしー! って脳汁垂れ流してる訳じゃないので、そこんとこよろしくお願いする所存。

 

 

 

 今日はそんな脳筋幼女ちゃんたる私の一日をご紹介しよう。

 

 私ちゃんの朝はそこそこ早い。

 大体日の出と共に起き上がって太陽光を摂取する事から始まる。

 

 この施設における我が居城は六人部屋であり、ララ、ミィ、チー、レニ、ドジの五幼女と一緒に寝起きしている。

 それぞれの渾名の理由は適当オブ適当というか、自己申告と周りのノリでたまに変わったりもするので、あんまり覚える意味はない。呼ぶ方も適当だし。

 

 最後のドジちゃんだけドジっ娘だからドジと言ばれているが、何かイジメ臭いので私は「きみ」とか「あなた」とか呼んでる。

 これもメッチャ他人行儀でアレだけど、(私は)特に困ってないので放置安定。

 

 イジメ臭くても見た感じ呼んでる方に悪意とかなさそうだしね。

 呼ばれてるドジちゃんがどう思ってるかは知らんけど。

 

 それにドジっ娘とは言っても、周りのスペックが異常に高いせいでこの娘も十分おかしいし。

 ただ性格的にちょっと引っ込み思案なだけで、それで遠慮がちなもんだから何かと反応が遅れちゃってるっぽい? あるいは考えすぎてるのか。

 幼児ならもっと猿になってもええんやで?

 

 そんなこんなで幼女ちゃん達を見守るお姉ちゃんポジション(自称)な立ち位置の私は、室長として寝起きを嫌がる駄々っ子達を床に放り投げ、きびきびと朝の支度を整える。おらあくすんだよ!

 

「おはようございます! 今日も一日元気いっぱいにいきましょう!」

「うえー」「ねむー」「zzz」「ふぁああ」「……ぅぅ」

 

 未練がましくベッドに戻ろうとする幼女ゾンビ達を阻止しつつ、朝からプロレス(意味浅)に励む頃にはキャッキャッと幼女達も目が覚める。

 そして洗顔やら歯磨きやらベッドメイクやら朝の体操やらを終えた頃には、朝食を報せるシスターマリーの「みんな~、朝ごはんですよ~」と恒例のくっそ眠たくなる声が放送される。

 これで起きて集合できない幼女達にはお世話ロボが突入して音響爆撃してくるので、最悪な一日を迎えたくなければ時間前行動が安心安全の大正解だろう。

 

 ちなみに私達幼女は部屋毎に班別けされており、六人六班36人が私を含む幼女達の総数だ。

 そこにシスターマリーを加えた37名がこの施設内の人員全てで、あとは見分けの付かないお世話ロボ達がたくさんいる。

 

 シスターはぶっちゃけ見守ってるだけなので、ロボが万能すぎる性能を発揮して幼女達の世話をしていた。

 そんなこんなで定刻には幼女達は全員朝食の席に着いており、中には頭が爆発している寝癖幼女ちゃんも数名いたが、シスターは特に指摘したりもせず、厳かな面持ちで食前の祈りを捧げる。

 

「世界平和と人類の恒久的な存続の為に」 

「「「せかいへいわと、じんるいのこーきゅーてきな、そんぞくのために」」」

 

「ラーレ」

「「「ラーレ!」」」

 

 クソデカ主語のクソ長お題目だが、この施設の理念なのか毎食欠かさず唱和している。

 それと最後の「ラーレ」だが私は「いただきます」だと解釈している。たぶん微妙に違うと思うが。

 

 そして肝心の朝食メニューは、いつものパンとスープとミルク、以上! 終わり!

 字面にするとやべぇシンプルになってしまうが、別にそんな悪い食事内容ではない。

 

 まずは何といってもパンのおかわりが自由! これは素晴らしい!

 餓えた鬼と書いてメスガキと読む(嘘)くらい、子供の燃費は最悪の一言だ。

 なんといっても成長に必要な栄養素をぐんぐん取り込み、カロリーをじゃんじゃか燃やす小さな焼却炉のような存在だ。

 

 なので食える時に食えるだけ食うのは必要不可欠である。屋内で禄に運動もしてない幼児にやったら子豚のような有様になるだろうが、私達はアホみたいな運動量をしているため、質も大事だがまずは何よりも量が必要だった。

 

 そしてお次の味の方はまぁ、ちょっとコメントに困るくらい普通。

 というか生まれてこの方これが主食で、味覚の基準がこれになっている。

 

 そのせいでこのパンよりうまかったらうまい、不味かったら不味い、という風に舌が調教されてしまっていた。

 胡桃やら豆やら、あとよくわからない物が練り込まれており、おかわりせずとも結構お腹に溜まる。わりと固めのパンなので噛んでると満腹感も出やすい。幼女達の中にはスープに浸して食べている者も結構おり、私も気が向けばそうしてる。

 まぁバカみたいにおかわりするのは私くらいなものだが。

 

 そしてスープ、これは日替わりで変わるので実質おかずみたいな物だ。基本は野菜スープみたいな奴で、たまにコーンスープが出てきた時は幼女達もテンション高い。コーンの甘味に餓えているのだ。

 

 そして最後に謎の白い液体。たぶんミルク。

 だけど私の記憶にある牛乳とかじゃない。味はほとんどしないし、喉越しもサラサラでほぼ水。記憶にある豆乳って奴だろうか? 

 

 ちなみに私の記憶にある味覚はあてにならず、絵と字を見て味を想像しているような状態だ。なので確信が持てない。

 例えば『白い液体』の画像と『ケフィア』という字を見て、味を知らない者がそれを想像するのは正直無理ゲー。

 

 考えれば考えるほど怖くなり、何だかこれの正体を突き止める勇気が出なくて。

 以来私は、この謎の白液をずっと唯のミルクだと思う事にしている。

 

 ちなみにこれもおかわり自由なので、何だかんだでゴクゴク飲みまくってるが。

 ミルクならタンパク質入ってるっしょ。そうだね、プロテイン代わりだね!

 

 そして朝食の後は二時間ほどお勉強の時間だ。基本は読み書き計算で、たまにシスターのお話が入る。

 ちなみに読み書き計算を教えるのは専用の教育ロボがいる。シスターェ……。

 

 私から見ればくっそ怪しい看守みてぇなシスターだが、幼女達からは好かれている。

 どうにもポンコツ疑惑が抜けない胡散臭いシスターなのに何故? やはり幼女達も母性を求めているのか? ちなみにシスターマリーのおっぱいは無駄に大きかったりする。

 美人でおっぱい大きくていつもニコニコしてるから、幼女達に好かれるのか?

 

 それもなくはないだろうが、ここの幼女達は普通じゃあない。

 親が恋しくて夜泣きしたなんて話は聞いた事がないくらい、私の記憶とは別物の、幼女の形をした何かだ。

 

 そんな幼女達が、彼女に好き好きオーラを放つ理由。

 それは彼女が――飴ちゃんをくれるからである。

 

 コーンスープで大はしゃぎするような純粋無垢な幼女達である。

 そりゃ好かれるよ。私だって媚びるもん。

 

 普段の食事に関して、質も量も特に文句はないのだが、唯一不満を上げるなら圧倒的に甘味が足りない事だろう。

 甘いデザートなんて御伽噺、スウィーツなんて伝説の存在だ。

 

 そこへ与えられた純粋な甘味、砂糖の暴力。

 そんな甘露の結晶たる飴ちゃん様を与えられた幼女ちゃん達は、そりゃもう即オチ2コマのエへ顔ダブルピース余裕ってなもんよ。かわいい。

 

 シスターは頑張った子にはよく飴ちゃんをホイホイくれるので、そりゃもう真面目に勉強するし、テストなんか絶好のアピールチャンスになってる。

 

「みんな頑張ったね~。満点の子がなんとぉ……二十五人もいました! 良くできた子も、今回惜しかった子も、よく頑張ったので飴ちゃんをあげましょ~!」

 

 とはいえ基本褒めて伸ばす方針っぽいシスターなので、全員が貰える機会も多い。

 頑張れば飴が貰える。そう条件付ける事で幼女達を操っているのだ。

 

 なんて悪辣な。

 鞭役は全てロボに任せ、自身は飴役に徹することで幼い少女達の信頼を勝ち取る。

 

 やはりシスターマリーこそ、この施設の――。

 

「しーちゃんはイチゴ味が好きだったよね? 満点おめでとー!」

「きゃーっ! いちごの飴ちゃん!! わたしらいしゅきーっ!!」

 

 

 女神やな!!(手の平クルー) 

 

 

 

 

 



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第四話 飴ちゃんしか勝たん!

 

 

 

 飴ちゃんを口の中でコロコロ転がしながら、私は飴ちゃんフィーバーでエキサイトしちょる幼女共を眺める。

 

 正直忘れそうになるけど、私達三才児だよね? やっぱおかしくなーい?

 学習速度が異常過ぎる。ついこの間みんなで「いーち、にー、さーん」とか数の数え方を教わったかと思えば、もう掛け算割り算普通にこなしてるんだが。三倍速くらいで生き急いでない?

 

 最初は記憶持ちな私めっちゃ有利じゃんとか思ってたけど、逆に足を引っ張ってる可能性出て来たなこれ。

 知識チートキタコレ!とかも特になかったです。あはれ私ちゃん。 

 

 肉体的な成長速度も異常だけど、脳力も異常に思える。天才の安売りかよと思った事は多々あるけど、読み書きもすぐ普通に出来ちゃうのなんなん?

 これでみんな私みたいな記憶持ちじゃないって逆におかしい。なんなら私が習得速度一番遅いまであるよマジで。

 

 だって他の幼女は自習とかしてないけど、私自由時間とかにちゃんと予習復習しててこれだからね。

 記憶とは主言語が違ってたとはいえ、はーつっかえってなもんである。

 スペック的には同等だと思うんだけど、やっぱり前世の記憶が足を引っ張ってる可能性大。

 

 とはいえ、そんな悲しみもお口の中の飴ちゃんは癒してくれる。

 やっぱ飴ちゃんなんだよな~。飴ちゃんしか勝たん。

 

 飴ちゃんは正義。飴ちゃんおいしいれす。

 私飴ちゃんと結婚したい、しよ、ってかした(鋼の意思)。

 

 しかし幸福は永遠には続かない。

 深く甘いベーゼは終わりを迎え、雪のように儚く消えていってしまう。

 でも悲しくはないよ。だってあなたと一つになれたんだもん(ヤンデレ並感)。

 

 あっという間に既婚者幼女から未亡人幼女へとクラスチェンジした私ちゃん。

 その脳内ではもう次の飴ちゃんの事に想いを馳せていた。とんだビッチである。

 

 そしてお勉強の時間が終わったらお昼まで自由時間。

 お外の広場で遊んだり、室内で本を読んだり玩具で遊んだりする。

 私ちゃんは午前中を勉学にあてると決めているので、読書や粘土遊びをしたりしている。

 

 感性は鍛えられる! 芸術はパワー!

 なので粘土を捏ねて打って引きちぎって前衛芸術にしてやるのが最近のマイフェバリット。

 

「しーちゃんなにこれー?」「おばけ?」「わかった! これうん〇だ!」

 

 なにがう〇こやねん! 紛れもなくコブラじゃねーか!

 私ちゃん渾身の力作やぞ! ヒューッ!

 

 ……どうやら無知な幼女達に私ちゃん様の芸術はまだ早かったらしい。

 そんな感じでバラバラに遊んでる私ら幼女達全員をシスター単独で見張るのは不可能なので、要所要所にお世話ロボ達が配置されてたりする。

 

 ロボちゃん達酷使されすぎ。ロボに人権はないとばかりのブラックさが見える見える。

 もうシスターマリーは飴ちゃんだけ置いて帰ってもいいよ(鬼畜)。

 

 そして朝食と特に変わり映えのしない昼食を軽く終えると、二時間ほどお眠の時間。

 きちんと歯磨きをしてお昼寝部屋でスヤァと体力を回復させる。寝る子は育つ、ジッサイ睡眠は大事。

 

 そして寝起きの体操後は全員参加のレクリエーション。普段の鬼ごっことかもこの時間にやってる。

 幼女達のスペックの高さもあって私ちゃんも全く油断できない。

 

 テストと同じくらい飴ちゃんをよく貰えるボーナスタイムなので、割と本気で勝利を獲りに行く。

 シャッオラッ! 私のあめちゃんちょーだい! はーやーく! やくめでしょ!

 

 そして泥だらけになった幼女達を大浴場で丸洗いし幼女汁を煮出した後は、ほかほかの湯上り幼女ちゃん達の出来上がり。

 天使みたいに面の良い美幼女達がいっぱいおりゅ。なんだァここは……天国かよ(半ギレ)。

 

 ちなみに私達の服装は基本シンプルな上着と短パンオンリー。体操服みたいなもろに大量生産された感じの奴で、お洒落度はかなり低い。

 着ているのが美幼女達なのでそれでもサマになってるのが何とも言えぬ。むしろこれが良いという変態もいそう。いやないな、男おらんし。

 

 そして夕食を食べた後は歯磨きをしてトイレに行ったりして、寝る準備を整えたら、シスターマリーによる有難いのかよく分からんご本の読み聞かせ会が始まる。

 薄暗い大広間の中で、相変わらずゆったりとしたクッソ眠たくなる催眠ASMR音声を聞かされた幼女達は次々と意識を失ってノックダウンしてしまう。

 それをロボ達が順次回収していき、それぞれの部屋に収納しにいった。これで朝までぐっすりコースだ。

 

 だがいくら幼女とはいえ記憶持ちの私ちゃんとしては、まだまだ寝るのが早すぎるッピ!

 

 そういわばこれは最後の試練。催眠バトルロワイヤルなのだ。

 最後まで起きている者こそが勝者。

 

 敗者は眠り、勝者は覚醒する。

 それこそが世の理というもの。

 

「――そうして、私達は戦い続けるのです。世界の平和の為に、人類の恒久的な存続の為に」

 

 シスターの語るお話はなんとも現実感に乏しい。

 世界観は共通しており、なんでも世界に大穴が開いただとか、異界から化け物が出たとか、ものごっついファンジー。

 

 それをやっつける正義の少女達が主人公で、彼女達のお蔭でこの世界は無事なんだとか。

 シスターのお話はそんな少女達の活躍を語るシリーズ物なのだが、あれだね、ぷ〇きゅあみたいなもんだよね。女児向けっぽい感じの。

 

 で、話のオチは? って感じで私ちゃんとしては、いつももにょっとしてしまうのだ。

 それってつまり私達の戦いはこれからだエンドってことですよね? 

 

 いつも最後があやふやというか中途半端な気がしていたが、私が途中で寝ていたせいではなかったらしい。 

 ようやく最後の勝者となった私は、シスターマリーに尋ねてみた。

 

「たたかいはおわらないの? ずっとたたかってるの?」

 

 その時のシスターの様子は部屋が薄暗かったせいか、いつもとちょっと違う気がした。

 なんだかずっと遠くを見ている様な。

 

「……そうですね。いつか終わる日が来ますよ、必ず。それが私の、いえ、私達の祈りです」

 

 あっあっ、困ります困りますっ! シスター困りますっ! 

 ただでさえ眠気マックスなのにそんな優しく頭ぽんぽんなんてされちゃったらっ!

 

 ふぁぁあああらめええぇぇ……。

 眠気がやばくて……瞼がおもっ……すぴー……ぐごー……。

 

「おやすみなさい、しーちゃん。ラーレ」

 

 

 遠ざかる意識の中、私は思った。

 

 ……食べないでー。

 

 

 

 そうして私ちゃんの一日は終わるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話 魔法少女ってマ?

 

 

 

 

 私、しーちゃん! 四さいになりました!

 

 毎日幼女達に混ざって遊んでたら、いつの間にか年を越していた。 

 ここにいる幼女達は私含めみんな誕生日不明なので、年初めに一斉に上がる仕組みになってる。

 

 そして特にお祝いとかはなかったです。

 はー、ほんと……はーって感じで萎え萎えしてしまった。

 

 誕生日パーチィーだとかお正月祝いだとか、記憶にあるような素敵イベントが全くないのはすごく残念だった。え、ないの? って素でしょんぼりしちゃったわ。

 

 なので代わりとばかりに、シスターマリーにおねだりしてケーキもどきを作ってみる事にした。

 ちなみにその際、私ちゃん禁断の駄々っ子バーサークモードが発動していた。

 

 やだやだやだ私ちゃんお祝いのお菓子作るの! お祝いイベントしたい! だからみんなのぶん作るの! だからそれっぽい材料ありったけちょーだいちょーだい! ぎゃーす!

 

 というクソガキっぷりを見事に発揮し、シスターマリーをどうにか泣き落とす事に成功したのだ。ゴネ得ゴネ得。

 

 そして調理開始。普段はロボが作業している一画を借りて、レッツクッキングタイム。

 ちゃんと幼女ちゃん用の足場も用意して、適当な布切れでエプロンと頭巾を着用。すると幼妻風幼女の出来上がり。

 

 肝心の材料は主食のパン屑と謎ミルクと飴ちゃんを粉砕して出来た砂糖を用意。とりあえず試作として私ちゃんの分だけ作ってみる。

 初めは超余裕と思っていたのだが、出来上がったのは無残な消し炭だった。なずぇぇ??? 

 

 ……はい、正直お菓子作り舐めてました。

 これちゃんとしたレシピないと私ちゃんじゃムリムリかたつむりだわ。

 

 うろ覚えの記憶だけじゃクッキーもどきですら無謀な挑戦だった。小麦粉固めて焼いたらできると思うじゃん?

 小麦粉はパン屑、繋ぎは謎ミルク、砂糖は飴ちゃん。ほら完璧だと思うじゃん?

 

 けど実際やるとオーブンの温度ってどうすりゃいいの? そういえばなんとかパウダーとかあったよね? 砂糖ってこんな焦げやすかったん!? とか終始やばたにえんなう。

 

 そんなこんなでドタバタしている内にレフェリーストップが入ってしまった。

 後ろで見守っていたシスターに「もー、食べ物で遊んじゃメッですよ?」と叱られてしまった。ぴえん。

 

 そしてシスターがロボに何事かを指示すると、ほんのちょっとで、なんとケーキが出てきた。はえっ???

 もしかしてこの短時間で作った? ロボちゃんちょっと未来の猫型ロボットの親戚だったりせーへん??

 

 というかケーキ。ケーキである。

 お前様、今まで一度も姿見せなかったやん! この世界に生きとったんかワレェ! って滅茶苦茶ビックリした。

 

「ふぁあっ!? ケーキ様おったん!?」

「ふふっ、おったんよー。しーちゃんが作りたかったのってこれ?」

「あい! それです!」

「そっかぁ……うーん、プログラムにない事はほんとは駄目なんだけど。毎日似たようなメニューばっかりじゃ皆も飽きちゃうよね? 今日は特別にこれでしーちゃんのいう、お祝いベントー? にしよっか」

「やったー!」

 

 シスターってば素敵! 抱いて! 

 やっぱマリーちゃんってば女神様やん!

 

 私ちゃんはコメツキバッタの如くマリー姉ちゃんの豊満なお胸にぴょんっとダイブし、幼い体全体で好き好きアピールする。

 今の私に尻尾があったらぶんぶん振ってる。今こそ全力で媚びれ、媚びるのだ! 

 

 そんな私を優しく抱き止めたマリーは、私の耳元でいつものおっとりASMR声で囁いた。

 

「――ところで、しーちゃんはどこで知ったのかな? こういうの」

 

 ヒェッ!?

 私は脊髄反射的に誤魔化そうとする。

 

「ご、ご本で読みました!」

「どんなご本? なんてタイトル? 私の知る限りじゃ、ここでしーちゃんが手に出来るご本の中に『ケーキ』なんて存在は出てこないよ?」

 

 しかしシスターは誤魔化されてくれない。確実に追い込んでくる。

 

 ちょおっ!? 怖いんですけどぉぉぉっ!?

 

 いつもの微笑みが逆に怖かった。

 その確信的な物言いが、私に有無を言わせない。

 

 ふぇぇっ……おしっこチビっちゃいそう。

 

「ふぇぇ、わかんないよぉ……っ」

 

 必殺幼女の真似! うん、いつもと変わらん!

 でも私ちゃんが変な記憶持ちってバレたら、なんか……なんかヤバそう!!(クソザコ語彙)

 

「うーん、別に怒ってるわけじゃないんだよ~? ただ不思議だなって。怖がらせちゃったかなぁ?」

 

 あ、これいける? いけるこれ? 誤魔化せる?

 お目目うるうるいたいけな幼女アッピルで何とかその場を凌ぎたい私。控え目に言ってクズである。

 

 そんな私をマリーはいつもの困ったような笑みで見ると、ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。

 

「しーちゃんは不思議な子だねぇ」

 

 正直自分でも、私は頭がおかしいと思います。

 

 私がおかしいから世界がおかしく見えるのか、世界がおかしいから私がおかしくなったのか。

 何だか分からないので、本能のまま生きたいと思ってます(思考停止)。

 

「でも案外、しーちゃんみたいな子が【サヘナ】になるのかも知れないね」 

「……サヘナって?」

「この世界を守ってるもの達の中でも、ものすごく強くて、貴い人達の事だよ」

 

 あー、寝る前に読み聞かせしてるアレねアレ。理解した。

 おK把握。つまりサヘナ=魔法少女って事ね!

 

「なら私、魔法少女(サヘナ)になるね!」

 

 レッツぷり☆ゅあ!

 

 私の将来の夢は魔法少女です! なんちって!

 

 

 その後、初めて開催されたお祝いイベントでケーキ様がご降臨されたのだが。

 その純白の御姿に目を焼かれ、その甘美に幼女達が狂乱したのはもはや語るまでもなく。

 

「おぉおおおっ!」「あまぁあああ!」「なんりゃこああぁあ!」「うまし! うまし!」

 

 ――サバトが始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――後になって思う。

 何の覚悟も、一欠片の信念もなく。

 ただ勢いのままに軽々しく口にしたそれが、どれほどの重さを持っていたのか。

 

 当時の私は、あまりにも愚劣だった。 

 

 

 

 

 



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第六話 やはりパワー! パワーこそが全てを解決する!

 

 

 

 四歳になった私ちゃん達を取り巻く環境は、ちょっとずつ変わっていった。

 まずレクリエーションで全員参加のものが減り、その分チーム毎に別れた内容が増えた。

 全員でわちゃわちゃするのではなく、集団単位で競い合うのがメインになっている。

 

 遊具も増え、当たっても痛くないゴムみたいな棒とかボールとか、それを使ったサバゲ―みたいな事もするようになった。

 その戦場はもっぱら最近解放された森林エリア、というか施設裏手にある雑木林で行った。

 

 迷子や行方不明者は今の所ロボやシスターに捕獲されているので、幼児には危ないんじゃないかという私の心配は杞憂に終わっている。

 あとついでに、障害物が多くて生傷や擦り傷もやばいのではとも思ったのだが、ここの幼女達は普通じゃなかった。

 ちょっとやそっとの事じゃ怪我をしないという極めつけの異常さを披露してくれた。

 

 どんなに受け身の達人だろうが、地面に頭からスライディングしたり跳躍しながら空中戦しといて、擦り傷一つできないのはおかしいと気付くべきだった。

 

 ぷにぷにと太腿と二の腕を触ってみる。

 うーむ、この珠のようなぷにもち幼女肌がガンダムばりの装甲してるとは思わんやん。

 

 まぁ幼女達の異常は今に始まった事でもないので今更だ。 

 それよりも重大な事、それは飴ちゃんの供給量が増えた事にある。

 

 最も勝利数の多いチームには、優勝の飴ちゃんを各自一個ではなく五個も貰えるようになったのだ。かつてない大盤振る舞いである。やはりマリーは女神。やマ神。

 特に撃破数の多かったMVP幼女ちゃんには、更に追加で飴ちゃん五個倍プッシュ! きたぜ、ぬるりと……!

 勝つしかないだろ……っ! こんなの……! どうあがいても乗るしか……!

 

 しかし私が成長しているように、同胞幼女達の成長も著しい。チームでの勝利こそ安定しているが、MVPは狙って獲れるようなものじゃなかった。

 とはいえそこそこ獲得できているので、飴ちゃん獲得ランキングがあるなら確実に上位に入ってるはずだ。

 

 そして何より、飴ちゃん十個でケーキ様と交換できるという神サービスが始まったのだ! 

 それを知った幼女達の意気込みといったらもう、幼女の皮を被った狩人そのものだった。

 

 今の私達にとって飴ちゃんこそが全てを支配する通貨であり、この世で最も信用できる黄金となった瞬間である。

 むしろ食べられないし甘くもないクソ重軟弱ゴールド君はもっと飴ちゃん様を見習って?

 

 そんな訳で現在の施設では、飴ちゃんを沢山持つ者こそが偉くて強かった。

 飴ちゃんは寂しがりやさんだから、強き者の元により多くの飴ちゃんがやってくるのだ。 

 これぞ資本主義の本質である。知らんけど。

 

 そしてチーム戦以外でも、何かとペアでの行動を指示されるようになった。

 はい、二人一組になってね~とシスターに言われた時には、謎の頭痛に頭が割れそうになった。うっ頭ガッ!

 

 そして私の相方になったのはルームメイトのドジちゃんである。

 何故か私ちゃんに対してはシスターからのお願いという形の強制だったので、特に拒否権とかはなかった。まぁ別にいいのだけど。

 

 ただ最近、ドジちゃんの方から距離を取られてる可能性が微レ存。いや嘘。めっちゃ避けられとる。どぼじでごん”な”ごどずる”の”ぉおおお!

 

 そんな人間関係の拗れとかくっそ面倒なので、ダイレクトアタックしたった。

 私のだいしゅきホールドから逃げられると思うなよ?

 

「はけー! はくのだー! 私のことが嫌いなのかー!?」

 

 するとドジちゃんはあたふたしながら、やがて諦めてぽつぽつとその内心を語り始めた。

 やはりパワー! パワーこそが全てを解決する!

 

「……しーちゃんの方こそ、わたしのこと嫌いじゃないの?」

 

 はにゃ? 別に嫌いじゃないよ?

 じゃあ好きかと言われると、若干もにょるけど。

 

 この世界に生まれて、私が唯一愛してるのは飴ちゃんで、崇拝はケーキ様。

 ロボちゃん達は、いつもお世話してくれてありがとうの感謝の念。

 シスター? ああうん、あの飴ちゃんくれる人ね(酷)。

 

 そして同胞たる幼女達の事は身内というか、自分の半身のように思ってる。

 私はきみで、きみは私。同じ幼女、そこに何の違いもありはしないだろうが!

 

 だから好きとか嫌いとか、そういう次元で考えた事がなかった。

 逆に、なんで私が嫌ってると思ったのか。

 

 そう尋ねると「なまえ、呼んでくれないし……」と悲し気に返されてしまった。

 

 あっ(察し)。原因これかぁ……距離感、感じちゃってたのね。

 でもでも私らに名前ないじゃーん! 適当な渾名だけっしょー! とか爆笑して揚げ足を取れる雰囲気じゃなかった。

 

 お、おおぅ……空気が重い。とはいえ、しょうがなくない?

 私ちゃんきみの事ドジって呼ぶの、心理的に抵抗あんだけど?

 

「きみはドジって呼ばれるの、イヤじゃないの?」

 

 私がそう言うと、なぜかドジちゃんは綺麗なお目目をまん丸にした。

 その鳶色の瞳と明るい茶髪は、カラフルな幼女達の中では地味な方に入る。

 

 とはいえ幼女達の平均値がおかしいだけで、彼女もまた絶世の美幼女。

 むしろ他の幼女達にはない儚げな雰囲気を好む者は多いのではなかろうか。

 

「わたしがドジなのはほんとうだから、イヤってわけじゃ……」

「自分の事、卑下するのよくないよ」

 

 私ちゃんの頭がおかしいって自虐はあれよ、天才と何とかは紙一重的なアトモスフィア。

 私ちゃんだって同胞と同じく美幼女でかわいくて、そしてパワーもつおい。

 周りの天才幼女達と比べちゃうと凡でしかないが、私ちゃんだって中々イケてるという自尊心がある。

 

 ろくな名前もなかった私達。

 あの優し気なシスターですら、最初は個の区別を付けていなかった。

 私達が自然と渾名で呼び合う様になってから、初めて私達を個として認識した節すらある。

 

 ならば適当に付けられたこの渾名こそが、自らを証明する真名と同義である。そこに違いなんて殆どないだろう。

 

 まだ何者にもなれず、何者にでもなれる私達の可能性。

 それをまだ幼女である同胞が、勝手に狭めるのは正直見ていられなかった。 

 

「じゃあ私が新しい渾名、つけてもいい? これから私達パートナーになるんだし。私ちゃんが呼びたいようにするね!」

「えっ!?」

 

 相手に許可を取っている様に見せかけてその実決定事項。お願いしている様で強制してる。人間社会ではよくあるよくある。

 とはいえ無理矢理は良くないので、ちゃんと受け入れてもらう必要がある。

 

「お願いー! 変な渾名は付けないから! 拒否権は認めるからー!」

 

 彼女は最初「ふええ……(ドン引き)」状態だったけれど、やがて観念したのか「……いいよ」と頷いてくれた。ぐへへっ、勝ったな。

 

「うーんと、それじゃあねー……シトちゃん」

 

 あまり掛け離れた音だとこれまでの呼び名から脈絡がなさ過ぎて、うまく馴染めないかもしれない。

 なのでドジから可愛くない濁点を抜いて、トシ。男臭くて草。新選組副隊長とかやってそう。

 

 そこで反転して、シトにしてみた。

 天使みたいな幼女だし、あと考えるの得意そうだから。使徒、思考する者という意味を込めてシトちゃん。

 

「私のしーちゃんとちょっぴりお揃いでシーシト、いや語感的にシトシーコンビって感じでどうでしょう!?」

「……いいの? しーちゃんはそれで」

「? 私ちゃんがダメな理由とかあります? シトちゃんは同じルームメイトですし、コンビにもなったんですから、これからもっともっと仲良くなりましょう!」

 

 シトちゃん呼びを定着させるべく早速既成事実を積み上げていく。

 拒否権はあると言ったな? 嘘じゃないけど嫌がってる様子はないので、奴さんはお亡くなりになりました。

 

 シトは「シト……シト……」としばらく確認するように呟いていた。しとしと湿ってきたな?

 けれどやがて、それまでの曇り顔が嘘のように晴れ渡る。

 

「うんっ、わたし……ドジじゃなくて、シトが良い!」

 

 そしてシトは、太陽のような笑みを浮かべた。

 四歳になった私に出来たパートナーは、そんな笑顔の素敵な女の子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第七話 糖分の誓い!

 

 

 シトちゃんとの真なるコンビ結成記念に、私の飴ちゃん貯蓄を崩してケーキ様を二つ手に入れる事にした。

 

 ちなみに飴ちゃんは色彩豊かな装いに包まれており、その包み紙をコレクションしている幼女達も結構いる。私ちゃんにはよくわからないブームの一つだった。

 中にはレアな包み紙と飴ちゃんを交換するという、私ちゃんからすれば本末転倒な行為をするマニアもいた。ちなみに私もよく要らない包み紙をトレードしているので、非常に有難いマニア幼女達であった。

 

 ちなみに現在の私の飴ちゃん富豪っぷりからしても、飴ちゃん二十個は中々懐に痛い出費ではある。

 だがここでケチった方が私ちゃんの精紳に大打撃だと簡単に予想できてしまう。

 しかも後悔という不治なる後遺症の恐れがあるともなれば、最早やらない理由がなかった。

 

 そもそもこういう時に我慢しない為に、私は普段の飴ちゃん摂取を(多少は)我慢しているのだ。

 

「えと、悪いよ、しーちゃん。ケーキは飴玉たくさんいるでしょ? 私も出すよ」

 

 私がお祝いのケーキ代を全て工面する事を告げたら、シトちゃんは遠慮していた。

 こういう奢り、奢られる問題は非常に面倒臭く、時に繊細な問題だった。

 

 気持ち良く奢りたい人もいれば義務感とか場の流れで嫌々奢る人もいるし、奢られる方もそれは同じ。プライドやらマウントやらでくっそ面倒臭いことになりがちである。

 そして相手や状況によって幾らでも反応は変わるので、その辺の見極めは難易度が高い。

 

 だけどまぁ、シトちゃんは別に飴ちゃん欠乏症というわけでもない。

 なにせ私ちゃんと同じルームメイトで、よく同じチームになって勝利しているのだから。

 

 多少目端の効く子なら貯蓄に回しているのだし、貰ったすぐそばから消費するような子は実は少数派だ。宵越しの飴ちゃんは持たねぇ主義の江戸っ子幼女ちゃんもいるにはいるけど。

 

 そしてシトちゃんは堅実な貯蓄家の部類に入る。

 そんな五分の盃を交わす相手に、初手奢りというのもちょっと違うか。

 

「じゃあ一緒に飴ちゃん出そっか! シスターのとこ行こっ!」

「……うんっ!」

 

 一緒に手を繋ぎながら、シスターの元へケーキ様を交換しにいく。

 ちなみに現在時刻は朝の勉強が終わった後の自由時間。お昼がちょっと入らなくなるかもだけど、ケーキ一個くらいは余裕で消化可能だ。おかわりするパンが一個少なくなる程度である。

 

 そして昼食の後はお昼寝からの激戦が待っているので、行くなら今しかなかった。

 別に食堂で堂々と食べてもいいのだけど、なんだか二人だけの秘密な感じにしたかったので、シトちゃんの同意を得ていざ鎌倉! シスターに許可をとってキッチンにある小テーブルを占拠する。

 

 そしてこの小テーブル、何だか新しいと思ったら、交換サービスを始めてからケーキをその場ですぐに食べられるよう設置したとのこと。幼女専用秘密のカフェというわけである。偽物を疑うレベルでシスターが有能である。

 

 そしてついにテーブルへと降臨されるケーキ様。

 サービスのドリンクは相変わらずの謎ミルクだったが気にもならない。

 

 神たるケーキ様を前に、我ら二人は糖分の契りを代わす。

 ついでに傍であらあらと微笑んでいるシスターもいるが、見届け人として許してやろう。

 

「誓いの言葉をここに」

「しーちゃん? どうしたの急に?」

「ケーキ様にお祈りすると、御利益があるんだよ」

「そうなの?」

 

 そうなのだ(大嘘)。

 

 けれど神前の契約には意味がある。代表的なのは結婚だろうか。

 それは決して違えてはならぬ戒めとして、不可侵の証を立てるため、神の名の下に交わされる神聖なる契約。

 

 そして今の私にとって、ケーキ様こそが神である。

 ならばケーキに誓いを立てるのは、私にとっては厳かな誓約であった。

 

「私は、シトちゃんともっと仲良くなります」

 

 我ら二人、生まれも育ちも時を同じくする同郷の同胞(はらから)にして、日々同じパンとスープとミルクを食みし者。

 これより富たる飴ちゃんを分け合い、共に神たるケーキ様を食し、崇め、奉じる戦友となる。

 

「……わたしも、しーちゃんともっと仲良くなりたい、ですっ」

 

 同年同月同日に生まれたかよく分からん我らだが、同年同月同日を生き、願わくば同年同月同日に死す。

 そんな真なる血族、魂の姉妹となるのだ。

 

「「ラーレ!」」

 

 初めは「いただきます」だと解釈していたその言葉は、やはり微妙にニュアンスが違っていた。

 

 それは願いであり誓い。物事への感謝。そういった諸々の要素を含んでいる。

 私の記憶は、それを神への祈りのようだと判断していた。

 

 そんな私のクソ病み激重ムーブな内心など一切知らず、シトちゃんは無邪気にケーキを頬張るのであった。 

 

 

 

 ケーキ様うんまぁあああああああ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話 やっぱこの世界ってばディストピア臭がぷんぷんストリーム!!

 

 

 

 ケーキ様による糖分の誓いを果たした我らシトシー義姉妹は、苛烈なシュガー紛争の只中へと飛び込む事となった。

 秘密裏に取り引きされる飴玉達。「おれんじ味といちご味の交換レートは今どないなっとる?」「あなたってみるく味派なの? おこちゃまね」

 一度知れば二度と元には戻れないケーキ欠乏による深刻な禁断症状。「ケェェキィィイイイッ!!」

 

 日々錬成される幼女達の体力と戦闘技能により、戦場は日々激化の一途を辿っていた。

 

 そしてついに、長きに渡り一強であり過ぎた我ら「しーちゃん連隊」は、他部隊からの徹底的なマークによる消耗を余儀なくされていた。

 正面からの短期決戦では分が悪いと見た他部隊の幼女達は、あろうことかゲリラ戦をしかけてきたのだ。

 

 脳筋主戦力である私ちゃんとは真っ向勝負せずに、不意打ち、潜伏、挟撃と森林エリアにおいて悪魔の如き戦法を駆使していた。

 そして恐ろしい事に、このバトルにおいて禁則事項はないのだ。環境を利用した罠なども仕掛けてあり、もうとっくに遊びの範疇を超越している。

 気分は非対称戦に参加する一兵卒。ここは地獄の二丁目。三度の飯よりシュガーこそが尊ばれる。

 

 だが装備、人員共に同じであるなら、こちらもまたそれに対応すればいいだけのこと。

 ゲリラにはゲリラである。泥沼の抗争の始まりであった。 

 

 ちなみに支給された謎ネックレスが超技術による致命傷判定を行っており、ピカピカ光ったらすぐさま死体にならねばならない。

 ゾンビ行為はNGであり、審判ロボのジャッジによっては仲間を対象に死の宣告を下され、冥府へと道連れにされてしまう事になる。なので潔く死ぬが良き。介錯はフヨウラ!

 

 普段の生活であまり実感することはないが、ロボを筆頭に色々謎な技術が随所に光っている。隠す気が一切なさそうな超技術に驚くのは、私のような変な記憶持ちくらいだ。

 他の幼女達は新しい玩具が出たとばかりにキャッキャッしてる。

 

 最近では私ちゃんも何が出てきても驚かなくなってしまった。私の中にある記憶がただの時代遅れな代物というだけかも知れないと、元々の使えなさ加減に拍車が掛かっている。

 

 そんな私ちゃんの脳味噌加減はともかく、最近の幼女ボディは異常とかそういう次元をとうに超えており、生半可な衝撃では傷を負わないようになっていた。

 なんだか物理法則さんが息をしてない気がする。

 

 やっぱりこの世界はおかしいと記憶が悲鳴を上げているが、そんなすぐに解決できない疑問など戦いの前にはただの雑音でしかなかった。

 

 森林エリアでのチームバトル戦。

 私は敵のアンブッシュ幼女の気配を察知、すぐさま先制攻撃を行う。

 

「シッ!」

 

 そこそこ固いゴム弾を私のハンドパワー(物理)で投擲、幼女が出しちゃダメな剛速球はしかし、鼠の如き俊敏さで飛び出た敵幼女に回避されてしまう。

 だがしかし、もとより飛び道具で安易に仕留められるなどとは思っていない。

 小柄で敏捷性が高く、目も勘も良い我が同胞幼女達を仕留めるには、生半可な攻撃は牽制にすらならなかった。

 

 短剣を手にしたアサシンスタイルの幼女が地を這う様な低姿勢で疾走してくる。

 それを迎え討とうする私だったが、更に背後から迫る風切り音を感知。囮、挟撃、新手の接近、そこまで察した瞬間、反射的に私は回避行動を取る。

 

 その場で棒立ちになるのは最悪の一手であり、また安易な逃走はより大きな敗北を招く。

 なので私は背後を無視して正面の敵へと突進する。死中にこそ活あり。チェストでごわす!

 

 とはいえスピードはあちらの方が乗っている。武器も長物の私に対して、向こうは取り回しの良い短剣タイプ。

 まともにぶつかったら私ちゃんのパワーを活かし切ることは出来ず、その間に私は致命傷を受けてしまうだろう。 

 

 私は主武装である腕の長さほどのゴム棒を、下から掬い上げるようにして振り抜いた。

 しかし力の乗り切らなかったそれはステップ一つで軽く回避され、逆に私の足は止まってしまう。

 

 背後からの気配も濃厚になり、短剣幼女の口端が孤を描く。

 狩るか狩られるか、状況は私の圧倒的な不利。相手は勝利を確信した事だろう。

 

 だが私の足はただ止まったわけではない。次の動作の為に留まったのだ。

 しゃがむような低い体勢から全ての勢いと筋力を解放させ、私は直上へと跳んだ。その高さはおおよそ十メートルほど。マンションなら三階程はある高さだ。

 

 脳筋幼女たる私ちゃんの身体能力は同胞の中でも頭一つ抜けている。

 とはいえ同胞達も八メートルくらいは余裕で跳ねられるので、そこまで大した差ではない。

 

 私に釣られて跳ぼうとする短剣幼女を、背後から迫っていたもう一人の挟撃幼女が制止する。

 私が逃げた空は掴まる枝も足場もないただの虚空であり、救いの糸なき袋小路。

 

 意味のない跳躍、罠に嵌った愚かな獲物の最後の悪足掻き。

 そんな考えなしの跳躍をしたアホの狩り方を、敵の幼女達は身体で覚えていた。

 

 着地の際にどうしても生じる僅かな硬直。衝撃を吸収したその刹那に刈り取る為、二人の幼女が武器を構える。

 そしてそれこそが、私の望んだ最大の好機でもあった。

 

「――シト!!」

 

 飛来した二つの矢が襲撃者を襲う。もちろん先端はゴムっぽい何かである。

 

「きゃー!?」「ちょっ!?」

 

 死角になっていた挟撃幼女の方は倒せたものの、僅かに視界に捉えていたのか短剣幼女の方は飛来した矢を切り払い、バク転で距離をとった。アイエエ!? ニンジャ!? ニンジャ幼女ナンデ!?

 

 だがその間に着地していた私はその衝撃を撃鉄にし、第三の矢となって残敵を仕留めに掛かる。イヤーッ!

 

 矢が飛来した方向、向かって来る私、短剣幼女は素早く位置取りを計算すると、覚悟を決めたのか私ちゃんを迎え撃つ体勢に入った。

 そしてタイマンならば、私ちゃんこそが現在最強である!

 

「うらぁあああああっ!!」

 

 速力と筋力と遠心力と衝撃力とついでに幼女パワーが織り成すパワーの原石。それを繊細な技術で武の結晶へと昇華させる。

 時にシスターやロボ達から助言を貰い、得物をぶんぶん振り回してきた私の一撃は、短剣幼女の得物を弾き、その身体をズバッと打ち抜いたのであった。

 

「ぐわぁああっ!!」

 

 ナムアミダブツ! スピードも戦ジツも見事なワザマエだったが、貴様にはまだまだパワーが足りなかった。インガオホー! オタッシャデー!

 そしてこれが相手チーム最後の幼女だったので、今回の戦いは私達「しーちゃん連隊」の勝利である。

 

「やったね! しーちゃん!」

「シトもナーイス! タイミングが最の高だった!」

 

 私を囮にアンブッシュしていたシトが姿を現す。

 そこにかつてあった卑屈さはなく、我が相棒に相応しい自信を備えていた。

 

 私達の連携は日々の戦いで練磨されていた。そんなシトに手には弓が握られている。

 弓はぶっちゃけ不人気な武器だった。理由は簡単で、相手幼女を倒せないからだ。

 よほどの近距離でもなければ見てからの回避、あるいは打ち払い余裕の幼女達にとって、弓は複雑で手間ばかり掛かる割に効果の薄い玩具でしかなかった。

 

 的当て遊びでなら大人気だが、今現在行っているシュガー戦争は遊びではない。

 確実に相手に勝てるガチ装備こそがシュガー廃人達に求められていた。

 

 そんな訳で素早い幼女達に人気なのは短剣二刀流スタイルであり、後は好みの長さの近接武器を各自愛用している。

 私ちゃんは割と節操無しなので色々変えたりしていたのだが、最近ではパワーを生かせる長めの物を仕様していた。

 

 そしてシトもまた色々と試行錯誤していたのだがその結果、彼女に一番合っていたのは弓であると判明したのだ。

 シトは近接戦が苦手だ。できないわけではないし年齢を考えれば十分過ぎると思うのだが、周りの幼女達と比べると明らかに劣ってしまっている。

 

 それは一見短所に思えるが、よくよく観察すると長所でもあった。

 彼女は悩みがちだが、それは裏を返せば考えを深く巡らせる事ができるとも言い換えられる。

 そしてシトは目が良かった。視力もそうだが観察力が優れている。その為他人よりも視覚から取得する情報量が多く、それ故に刹那の判断を苦手としていた。その為刹那の判断を要求される前衛ではなく、場を俯瞰できる後衛としての距離ならば、その才を十全に生かす事ができた。

 

 肉体性能に比べて頭の回転が速いからこそ、空回りしてドジと呼ばれる事になっていたのだろう。

 今では精神的に落ち着く事もできその能力を活かせる環境を整えた事で、彼女は強力な戦力となっていた。

 

「あー、やられちゃったなー。しーちゃん強すぎー」

 

 先程ぶちのめした短剣幼女のノノちゃんが、頭に葉っぱを付けながら復帰してくる。

 ロボによる終了の笛が鳴り、死体だった幼女達が蘇生してきたのだ。正にデウスエクスマキナ。

 そしてノノちゃんの他にも我がチームメイトのララ達もぞろぞろと集結し、それぞれ感想を述べていく。

 

「最後のやつ受け流してからの反撃ーって思ったんだけど、そのまま持ってかれちゃったよー。相変わらずの馬鹿力だよねー」

「最初にしーちゃん落とせなかったのは失敗だったよねー」

「でも前回の時、あっさり落とし穴に引っかかってたのは思わず笑っちゃったよね」

 

 なにわろとんねん(半ギレ)。くっそ巧妙な場所に落とし穴作った奴が悪いってあれは。我ながらシュールストロングな光景過ぎて黒歴史入り不可避。

 その時は私ちゃんを欠いたままでも結構粘っていたのだが、結局チームは敗北してしまった。

 なので今回はリベンジ成功の意味合いもあった。敗北の味は勝利でしか濯げないのだ。

 

 それぞれの反省点を指摘し合ったり、良かった点を考察していく。

 元は私ちゃんが適当に始めた事だったが、なんだか習慣になってしまっていた。今では他のチームも真似している。こういうとこが普通じゃないのだけど、今更過ぎてもう麻痺している。

 

 そしてキル数こそ控え目なものの、生存率とサポート率の高いシトの最近の活躍は特に目を見張るものがあった。 

 

「これからも背中はお願いね、シト」

「うんっ、任せてしーちゃん!」

 

 高まる相棒感に、私ちゃんのテンションも上がる。

 

 すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。

 風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、私達のほうに。

 

 シトも頑張ってるし、私ちゃんも頑張らないと。

 

 最近のここはゲリラ養成所みたいな感じがしないでもないけど、何だかんだ言って平和だし、とりあえず問題なさそうなのでヨシッ!

 

 

 

 

 

 

 そう思ってた時期が、私にもありました……。

 

 それは私ちゃん達が五歳になった年始めのケーキパーティーが終わる時の事。

 閉会の挨拶と共に、シスターマリーから重大なお知らせが告げられた。

 

「これからみんなにセヘル適合を飛躍的に高めてくれるデバイスをプレゼントしますねー。ゲンニのみんなはこれから下級ガラドの間引きが主なお仕事になりまーす」

 

 相変わらずのニコニコ笑顔で、くっそ不穏かつ意味不明な寝言を聞かされた。

 

 待って待って待って。お願いだからちょい待ち。タイムです。

 本当に寝言なら良かったのだけど、突如飛び交う専門用語。いや私ちゃんも意味はわかるよ? 勉強の時間に教えてくれたやつでしょ?

 

 セヘルってのはあれでしょ? 魔力的なあれっぽいセヘルって謎元素。正直神話的なアガペー的なあれそれだと思ってたんだけど実在してたのん? 時に猛毒だったり奇跡の粒子だったりで中々イミフな超元素だったからスルーしてたんだけど。わけがわからないよ。

 

 で、それへの適合を高めるデバイス? 魔法少女のステッキ的なあれってこと? この時点で字面がもうやばやばのやば。

 そしてゲンニって御伽噺に出て来る妖精さん的な存在じゃなかった? つまり私ら幼女達は妖精だった……ってコト!?

 

「ゲンニとは私達セヘナ適合を遺伝的に高めた人類種の一つですねー。セヘナ人種とも言いますが純人の方々はもう殆ど残っていないので、現在の主力人種でもありますよー」

 

 質問した私ちゃんに、シスターがにっこにっこで教えてくれるが逆に怖い。

 これアレかな? 「今まで教えてきたでしょ? 馬鹿なの死ぬの?」って意味の笑顔? こっわ。

 

 なんなのこのシスター。やっぱりポンコツ黒幕サイコ女神(錯乱)だったの?

 シスターマリーは私ちゃんのママになってくれたかも知れない飴ちゃんくれる女神だと信じてたのに! そりゃあ最初からめちゃくちゃ怪しかったけどさぁっ!!

 

 薄々感じてたけど! やっぱこの世界ってばディストピア臭がぷんぷんストリーム!!

 

 

 

 

 

 



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