りっく司令、提督になる (ピギヤンマ)
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着任

艦これとりっくじあーすの世界観を混ぜ混ぜした俺得物語です

拙い文章力ですが良ければ読んで貰えれば&評価やコメント頂けるとモチベーションが上がりますのでよろしければ


 かつて人類はマグマ軍と呼ばれる謎の生命体に侵略されていた。

日本陸軍本部はそれに対抗する為、人型でありながら戦車や戦闘ヘリと同等の戦闘力を持つ『武器娘』の開発に成功。彼女らを用いてマグマ軍に占領されていた地域を次々と解放していった。

 武器娘による反撃から約2年後、一部マグマ軍が人類側へ亡命した事件を切っ掛けに戦況は大きく傾き、人類とマグマ軍の戦争は人類側の勝利。そしてマグマ軍と和平を結んでこの戦争は終結した。……だが人類に牙を向いたのはマグマ軍だけではなかった。

 戦争終結から約1年後、海から突如として現れた深海悽艦と呼ばれる生命体によって人類は再び窮地に追い込まれた。

深海悽艦が現れて間もない頃武器娘とマグマ軍による攻撃が行われたが、こちら側の攻撃が通用せず一方的に攻撃され壊滅。人類は制海権を奪われた。

 その後制海権奪回の為に軍部が下した決断はマグマ軍襲来の際解体していた海軍の復活と海戦に特化した武器娘の開発であった。

それから数日後陸軍の約半分と一部マグマ軍によって再編された新生海軍が発足。更に数ヵ月後、海戦専用の武器娘の開発に成功。海軍は彼女らを『艦娘』と名付けた。

 そして艦娘の手により、海沿いの地域とその周辺の海域の奪還に成功、人類の反撃が始まろうとしていた……。

 

 

艦娘が運用されはじめてから数日後、とある場所の鎮守府の門前

 

「ここが今日から俺たちの新しい駐屯地か……」

 

目の前に佇む施設に思わず感嘆の声を洩らしてしまう。

古巣であった陸軍司令部と遜色ない建造物。目に前の門には『横須賀鎮守府』と刻まれている。

……そういえば海軍の施設はそう呼ばれているんだった

 

「閣下。駐屯地ではなく、鎮守府というらしいです」

 

「ぬ……それを言うなら俺も閣下ではなく提督らしいぞ」

 

横には自分と同じく陸軍から異動してきた元マグマ軍武器娘『アルマータ』

元々は敵だったのだがとある戦闘で鹵獲し、今に至る迄様々な困難を乗り越えてきた戦友の1人であり大切な妻の1人だ

アルマータと門をくぐる。建物に向かって歩きながらも、思わず物珍しそうに辺りを見回してしまう。

ある程度建物に近づいて行くと入り口の前に誰かが立っているのが見えた。女性だ。

女性も此方に気付きこっちに向かってきた。

 

「今日付けで鎮守府に着任される提督とその副官殿、ですね?大本営から派遣されました。大淀と言います」

 

提督「元陸軍部隊司令の提督だ」

アルマータ「同じく元陸軍部隊副官のアルマータと言います」

 

大淀と呼ばれる女性と挨拶を済まし、早速建物内へ足を踏み入れる。

 

大淀「では、これから執務室の方へ案内しますね」

 

大淀の案内で執務室へ通される。中はシンプルながら使われている机や来客用ソファ、資料を保管する棚はどれも一級品だとわかる。

 

大淀「こちらでお待ち下さい。今他の者も呼びますので」

 

自分に敬礼をし、大淀は執務室から出ていった。

それを見届けた後、自分は提督用の椅子に腰掛け、アルマータは執務室に設置されている本棚のファイルを眺める。

数分後ドアがノックされ、入るように促すと二人の少女とピンク髪の女性と割烹着姿の女性、そして大淀が入ってきた。

 

暁「暁型一番艦、暁よ!」

響「暁型二番艦、響」

明石「開発、建造任務担当の工作艦、明石です!」

間宮「ここでの食事を担当しています。間宮です」

 

提督「提督だ。今日からよろしく頼む」

アルマータ「副官の重戦車014號アルマータです」

提督「…それにしても、まさかこんな小さな子が艦娘とはな」

暁「私は一人前のれでぃーなんだから子供扱いしないでよね!」

 

自分の呟きに怒る暁。その顔はプンスカという擬音が似合う可愛らしい顔だった。

武器娘でこんな小さな子はいな……いや、何人かいたか?

 

提督「あはは…すまんすまん」

暁「うぅぅ…撫で撫でするなぁ~!」

 

あまりにも微笑ましかった為、思わず暁の頭を撫でる。だがアルマータの刺さるような視線を感じすぐに止めた。これくらい許してほしい。

 

 

提督「ご、ごほん!顔合わせは一先ず済んだな!では、明日から本格的に運営を開始する。では解散!」

 

艦娘たちは敬礼をし、執務室を後にしていった。

 

アルマータ「閣下…?まさかあんな子供に手を出したりなんて、しませんよね?性的に」

提督「あ、当たり前だ!俺はロリコンじゃないし、お前とケッコン済みだろ」

アルマータ「うふふ、そうでしたね♪では閣下、一緒に施設を見て回りましょ?」

提督「おう」

 

アルマータは仲間になって以降自分に対して盲目的に好意を寄せるようになってしまい、それが原因で何度か……いや、何百回か駐屯地内で諍いがあった。

今でこそ彼女の扱い方になれたが、当時は死にかけた……戦闘中でもないのに死にかけた。

そんな昔の出来事を思い出しながら鎮守府を見て回る。

艦娘が住む寮、食堂、娯楽室、訓練所、酒保…多少の違いはあれど駐屯地の施設とあまり変わっていない。これならすぐに慣れそうだ

そして最後に工房へと向かった。

 

明石「あ、提督とアルマータさん!何か御用ですか?」

提督「ちょっとした見学だよ。で、これが建造機か……武器娘の頃より少しデカイな」

 

明石に軽く挨拶し、建造機を眺める。

 

アルマータ「あら、投入する項目が1個多いのね。ボーキサイト?」

明石「ボーキサイトは主に空母を建造したいときに投入する物です。他にも空母に搭載する艦載機の開発、補充にも使われます」

 

アルマータの疑問に丁寧に答えていく明石。アルマータも興味津々に聞いている。

 

アルマータ「あと最後に1つ……艦娘の装備を武器娘や我々マグマ軍が使用する事は出来る?」

 

その問いに思わず明石を見つめる。しかし彼女の申し訳なさそうな表情で察しがついてしまった。

 

明石「現段階では無理ですね…。私達艦娘と陸軍の武器娘では根本的な違いがあってどうしても運用出来ないんですよ……」

 

やはりか……。

陸の時は式神だったが、資料を見たところ艦娘は妖精を使用しているらしい……ここら辺に違いが出てしまっているのか…

 

提督「じゃあ、今武器娘達の装備を艦娘の装備に近付ける事は出来ないかな?」

明石「うーん……どうなんでしょう……そちら側の装備の仕組みは解って無いので何とも言えませんね……。ただ可能性としてはありかもしれませんね」

 

明石の答えを聞いてアルマータは顔を見合わせた。

 

アルマータ「閣下…!」

提督「あぁ!アイツを呼んでみるか…!」

 

自分たちのやり取りに戸惑いを隠せない明石。

 

提督「俺がいた部隊にその手の専門家がいたんだ。彼女を呼べばもしかしたらと思ってな」

明石「本当ですか!?是非会ってみたいです!」

提督「わかった。アルマータ、彼女に連絡を入れてくれ。あと向こうに保管してある装備も幾らか持ってこさせよう」

アルマータ「わかりました」

 

明石に礼を言って工房を後にし、アルマータは件の人物に連絡をとる為に執務室へ戻り、電話をかける。

 

プルルル…プルルル…ガチャ

 

『はい、こちら市ヶ谷駐屯地です』

 

アルマータ「お久し振りです市ヶ谷さん。アルマータです」

市ヶ谷『ア、アルマータさん!』

 

アルマータが電話を掛けた相手は、かつて自分達と共にマグマ軍と戦った軍人『市ヶ谷愛』。

市ヶ谷はアルマータの声を聞くや否や、驚きと喜びが混ざったような大声をあげていた。

 

市ヶ谷『司令官もそちらにいるのですか!?いきなり二人が海軍に編成されたんですから皆混乱してたんですよ!!』

アルマータ「ごめんなさいね。こっちもごたついてて、今朝ようやく鎮守府へ着任出来たの。閣下も今他の所へ見廻りをしているわ。それで、本題なのだけれど…」

 

軽く近況報告した後電話を掛けた経緯を説明。

 

市ヶ谷『成る程…1日程時間を頂けますか?彼女、一時的に古巣の方に居ますのでこのあと連絡を入れて、そちらの方へ向かわせます』

アルマータ「ありがとうございます。閣下に伝えておきますね」

市ヶ谷『司令官によろしく伝えておいて下さいね。では…』

 

通話が切れたのを確認すると受話器を戻し、アルマータは執務室を後にした。

一方自分は食堂で暁と響と話していた。

これから戦っていく仲間だ。少しでも彼女達の事を知りたいし仲良くしていきたい。

 

提督「成る程、艦娘にも色々種類があったんだな」

 

二人から艦の種類や運用について聞いている。

 

響「陸の方じゃ違ったのかい?」

提督「こちらも似たような感じだったかな。歩兵から始まって戦闘車・中戦車・重戦車に戦闘ヘリ…」

暁「アルマータさんは重戦車だっけ?」

提督「そう。艦で例えるなら…重巡や戦艦ってとこかな?彼女には助けられっぱなしだよ」

暁「でもあの人ちょっと恐いのよね……」

 

気まずそうに手を弄る暁。確かに初見じゃ無理もない。

そんな彼女の手をそっと握り、微笑みながら話す。

 

提督「確かにアルマータは元々マグマ軍だっただけあって冷酷で俺でも未だにヒヤッとする所もある。……でも彼女は仲間を文字通り身体を張って守ろうとする素敵な人だよ。今は会ったばかりで恐いかも知れないけど、少しずつ彼女の事を理解してくれると嬉しいな」

 

暁の目を見て不安を和らげるように優しく語りかける。暁は顔を紅くし、モジモジしながらも頷いた。

 

暁「わ、わかったわ…が、頑張るわ」

提督「ありがと、暁」

 

 

響「それより司令官」

 

空気を変えるように響が話しかける。

 

提督「ん、なんだい?」

響「言うタイミング逃して言えなかったけど、さっきからアルマータさんが後ろに……」

提督「……」

 

場の空気が凍りつくのがわかる。恐る恐る後ろを向くと、アルマータが殺気の篭った笑顔を自分に向けながら立っていた。

あぁ、この表情久しぶりに見たなぁ……人気投票でアルコナに入れた時以来か?

 

アルマータ「閣下……?私がいない間に何をしているのでしょうか?」

提督「ま、待てアルマータ……これは親睦を深める為であってだな……」

暁「う…ふぇ…やっぱり怖い……グスッ」

 

冷や汗を流しながら説明するが、彼女の笑顔の圧がどんどん強くなっている……。

その時だった。

 

間宮「皆さーん!今日のお昼はボルシチにしましたぁ!」

 

冷えきった空気をぶち壊すように厨房から香しい香りと共に間宮がやってくる。

 

アルマータ「まぁ!良いわね!」

響「ハラショー。こいつは良い」

アルマータ「あら貴女、ボルシチの良さを分かるなんて素晴らしいわ」

響「ボルシチもそうだがピロシキなんかも好物だ」

アルマータ「気に入ったわ!貴女とは仲良くなれそうだわ♪」

 

アルマータと響が談笑しながら間宮からボルシチを受け取りに向かう。

 

提督(間宮さん…助かった…!!)

 

先程の修羅場のような空気を吹き飛ばした間宮にひっそりと感謝する。

その後大淀も合流し、5人で食事をすることになった。

 

提督「そうか。あいつ向こうへ戻ってたのか」

アルマータ「ええ、明日改めて連絡がある筈です」

 

ボルシチを頬張りながら、市ヶ谷と話した報告を聞く。

 

暁「そういえば司令官とアルマータさんってどういう経緯で一緒になったの?」

大淀「確かに。確かマグマ軍って元々人類の敵だったんですよね?」

 

アルマータとのやり取りを見て改めて不思議に思った暁が首を傾げながら提督に聞く。

 

提督「俺が駐屯地の司令になりたての頃の話になるな。当時まだ武器娘の量産が充分じゃなくてね。マグマ軍の兵器を鹵獲、運用するっていう作戦が本部から送られて来たんだ」

大淀「随分無茶な作戦ですね…」

提督「俺もそう思ったさ、しかも上はご丁寧に鹵獲用の鎖を送ってきてな。半ばやけくそになりながら仲間達と鹵獲作戦を決行したんだ」

アルマータ「それで捕まったのが私ってわけ」

暁「よく司令官に味方しようって思ったわね」

響「確かに。敵側に運用されるなんて屈辱だった筈」

アルマータ「えぇ。最初は抵抗したり運用されるふりをして後ろから撃とうとすらしたわ。でも閣下と接している内に…」

響「惹かれた?」

アルマータ「そうなるわね」

提督「その後も色んなヤツを鹵獲しては仲間にして、今じゃ他の武器娘達より多くなってな」

アルマータ「閣下の人柄のせいか、他の連中も閣下になついて…」

暁「そのうち深海悽艦とも仲良くなったりして!」

提督「あはは!そうだと良いんだけどなぁ!」

 

その後も5人で楽しく食事を過ごし、暁達と別れアルマータと再び工房へ向かった。

 

アルマータ「何故、また工房へ?」

提督「戦闘に出られる艦娘が二人と考えるとやはりどうしても不安でさ。実験も兼ねて建造しようかなって」

 

建造機の前に立ち、備え付けられているタブレットに必要資材量を入力していく。

 

提督「これで良しっと……どうやら夕食頃に出来そうだな。それまでは書類仕事としよう」

アルマータ「はい、閣下」

 

その後執務室へ戻り、夕方まで執務をこなしていった。

そして夕食時間の少し前、執務室の扉がノックされる。

 

提督「どうぞ」

「おう、入るぜ」

 

扉が開く。そこには眼帯をし、刀をもった少女が。

 

天龍「オレの名は天龍。天龍型軽巡洋艦の一番艦だ」

提督「おぉ、軽巡洋艦か。提督だ、よろしく頼む」

アルマータ「アルマータと言います」

 

お互いに挨拶を済ますと天龍が怪訝な表情をする。

 

天龍「アルマータ?そんな艦いたか?」

提督「彼女は元々マグマ軍だ」

天龍「マグマ軍ってあの深海悽艦みてーなヤツじゃねえかっ!?」

 

刀に手を掛け、警戒する天龍。

アルマータは少し呆れ気味だがこれはマズイ……説明しなくては。

 

アルマータ「はぁ…一緒にしないで欲しいわ」

提督「とりあえず彼女は敵じゃないから刀を下ろしてくれ!これから一緒にやっていく仲間だ」

 

アルマータに敵意を向ける天龍に説明し、天龍も納得したのか渋々剣を納めた。

 

提督「やれやれ…そういえばこのあと夕食なんだ。他の皆への紹介も兼ねて一緒に行かないか?」

天龍「そうだな。じゃ、案内頼むぜ!」

 

3人は食堂へ向かい暁達に紹介し、夕食を済ませた後、明日の予定を確認。

その後解散し、執務室へ戻った。

 

提督「明日から忙しくなるな」

アルマータ「そうですね。でも、私達には閣下がいますから」

提督「はは、期待に応えられるよう頑張るよ」

 

そして夜が更け、自分とアルマータの着任初日は終わった。



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着任、その2

翌日、食堂にて

 

提督「皆おはよう。昨日確認したように天龍旗艦に暁、響は鎮守府周辺の警戒任務。そして先程連絡があって1230に来客がある予定だから大淀は彼女の案内。明石は装備の開発を頼む。以上」

 

今日の予定を伝え、朝食を食べ終えアルマータと共に執務室で仕事を開始する。

内容も陸軍時代とあまり変わらず、大本営からの書類の確認及び返信、資材の確認、攻略海域周辺の情報整理等々。

 

それから数時間経ち、時計を見ると12:30になっていた。

タイミングを見計らったように扉がノックされ、入室を許可すると大淀と彼女が入ってきた。

 

提督「久し振りだな。急に呼び出してすまない。奈良」

 

「気にしないで下さい。私も久しぶりに司令官に会えて嬉しいのですから」

 

先日市ヶ谷に連絡をいれ、来てもらったのは『SSNO装備』や『式神』の発見及び運用の第一人者である少女『奈良 あかり』

 

奈良「ご用件の方は伺っています。私の力がお役に立てるのであれば、是非」

提督「あぁ、助かるよ!これからよろしく頼む!」

奈良「あぁ、それと市ヶ谷さんから伝言がありまして『彼女達を抑えるのに限界だったのでそっちに向かわせました』と」

提督「彼女達?」

 

市ヶ谷からの伝言を伝え終わると奈良はスススと横にずれた。

その行動を理解する前に扉が勢いよく開けられ、自分の視界いっぱいに金色の美しい髪と大きなおっぱい。そして今にも食われるんじゃないかと思ってしまう程大きな口とこれまた大きなおっぱいが飛び込んできた。

 

「司令くぅぅぅぅぅぅぅうん!!!!」

「我が君ぃぃぃぃぃぃぃいいいい!!!!」

 

人は死が迫ると周りがスローモーションになるというが、今まさにおっぱいとおっぱいがゆっくりと迫ってきていた

 

あー懐かしいなぁ……今夜はスッポン鍋かなぁ……

 

しかし顔面にダブルおっぱいがぶつかるか否かの刹那、ダブルおっぱいの背後から何かがエンジン音を轟かせながら自分の身体を抱き締めた。

それは自分の身体を抱き締めると同時に急ブレーキを掛けるが、止まりきらずに更に抱き締めた事でバランスを崩し自分を押し倒した形で数メートル程進みようやく停止した。

 

「フヒッ…!しし、司令官だぁ~!4ヶ月13日5時間53分2秒以来のほほほ、本物の、し、司令~!フシューッ!フシューッ!」

 

提督「よ、よう16(ヒトロク)暫く会えなくてすまんかったな…」

 

今自分の胸に顔を押し付け狂ったように深呼吸しているのは『16式機動戦闘車』。陸軍時代の部下でありアルマータ同様妻の1人だ。

 

そしてアルマータとは別のベクトルで……いや、ある意味一緒で愛が重い子でもある

 

そして

 

 

提督「雪子にソーニャも…久し振り」

 

16をくっ付けながら立ち上がり、先程のダブルおっぱい……もとい16同様妻である『大和雪子』と『ソーニャ』の元へ向かう。

 

大和「会いたかったわ司令君……この日をどれだけ待ち望んだか…!もう絶対離さないわ…!」

ソーニャ「あぁ…相変わらずステキです…!このソーニャ、また愛しいあなたのお側に!」

 

自然と抱き付いている16を引き剥がし、抱き付いてくる2人。

端から見ると感動の再会なのだが……

 

アルマータ「おい。閣下に気安く抱き付くな!」

大和「は?司令君はアンタだけのモノじゃないでしょ。ねー司令君?」

16式「ワタシと司令の邪魔するヤツ……消し飛ばす……」

ソーニャ「下がりなさいよ下等生物どもが!!我が君はこれから私とうどんを食べに行くのよ!!!」

 

 

ぜーんいん愛が重いんだよなぁ……あれ?自分がケッコンしてる子皆そうだったりする?

ていうか奈良?笑顔でこの光景眺めてないで助けて。

 

「あーあ、やっぱりこうなっちゃうかぁ」

「し、司令官閣下様。大丈夫ですか…?」

 

更に後からメガネを掛けた『鯖江 静香』と元マグマ軍『歩兵(名前が無いからほっへと呼んでいる)』が入室する。

 

提督「お前達まで来たのか」

鯖江「私や大和さんは本部からの指令だよ。ソーニャと16は勝手に着いてきた」

歩兵「それでですね司令官閣下様、指令というのは」

 

そこへ警戒任務に就いていた天龍達が戻ってきた。

 

天龍「今戻ったぜ!お?誰だそいつら?」

暁「きゃぁぁぁぁあああ1つ目オバケェェエエエェェエエエ」

歩兵「ピギィッ!そんなに怖がらなくてもぉ~…」

ソーニャ「アッハハハハハ!!アンタ見た目が怖すぎるのよ!!!!」

暁「ぎゃあああぁぁぁぁぁああああ口裂けオバケもいるぅぅっぅうううううううう!!!!」

ソーニャ「誰がオバケよっ!?」

響「ハラショー。個性的なお客さんだね」

提督「お帰り。彼女達は陸軍時代の俺の仲間だよ」

 

任務帰りの3人に紹介し、ソーニャと歩兵を見て号泣する暁を慰めながら天龍の報告を聞くことに

 

天龍「駆逐級と2回位戦闘になったが、被害なく殲滅。補給もさっき済ませたぜ!」

提督「お疲れ様。じゃ、皆で飯にしようか」

 

天龍や大和達を引き連れ、食堂へ向かう。

道中明石と合流し、開発結果の報告を聞く。

 

提督「開発出来た装備は電探が2つか。じゃあ暁と響に装備させよう」

暁「分かったわ!」

響「任せてくれ」

 

食堂へ到着し、間宮から今日の昼食をもらい席に着く。

 

ソーニャ「ふ~ん、和食ねぇ。頂きます……っ!」

鯖江「驚いたね…駐屯地の食堂より美味しいよ…!」

大和「司令君の胃袋を掴むには、これくらいしなきゃダメね…」

歩兵「とっても美味しいですっ!」

間宮「よかった!皆さんのお口に合って何よりです!」

 

間宮の手作り料理に思わず顔を綻ばせる。

その後も食事をしながら報告や談笑が続いた。

 

提督「えっ!?鯖江達が憲兵!?!?」

鯖江「市ヶ谷さんが根回ししてくれてね。全員はまだ無理だからとりあえず私達を異動させてくれたんだ」

大和「またこれからも一緒よ…ずっとね」

16「もう逃がしませんからねぇ……フヒッ」

 

そうか、今の陸軍は海軍のサポートにまわってるんだったか。

今回の異動の件も納得がいくな。

 

ーーーーー

鯖江「大淀さん…貴女、良いメガネね」

大淀「鯖江さんこそ。よく手入れされていますね。メガネ愛を感じます」

 

数秒間の沈黙の後、固い握手を交わす2人。

メガネ使いは惹かれ合うのか…。

 

ーーーーーー

 

明石「貴女が開発に協力してくれる方ですね?明石と言います!」

奈良「奈良あかりです。これからよろしくお願いいたしますね」

 

明石と奈良も握手を交わす。

 

提督「そういえば奈良駐屯地で何をしていたんだ?」

奈良「深海悽艦に関してこちらでも研究をしていたのです。行き詰まった所に市ヶ谷さんから連絡を受けて今に到るといった所です。丁度対人型深海悽艦用の装備を試作してまして、よかったら」

 

その瞬間、鎮守府中にサイレンが鳴り響く。

深海悽艦の侵攻を報せるサイレンだ。

 

提督「第一艦隊は抜錨、敵を迎撃!奈良達は念のため避難してくれ」

天龍・暁・響「了解!」

奈良「私達も司令室へ連れて行ってください。何かお手伝いがしたいのです」

提督「…わかった!」

 

天龍達は出撃し、提督達は執務室へ戻る。

執務室へ戻ると提督は無線機を手に取り迎撃に向かった天龍に連絡を入れる。

 

提督「聞こえるか!?状況は!?」

天龍『ヤベェぜ…!軽巡級1、駆逐級2…あと空母が居やがる!』

提督「空母だと!まさかこの海域に出てくるとは…!」

提督(まずいな…彼女達の錬度では危険だ…!)

奈良「どうやら早速私の出番のようですね」

提督「…どういうことだ…?」

奈良「食堂での続きですが、対マグマ軍用捕縛鎖をベースに対深海悽艦用の捕縛鎖の試作品を作ったのです。これで空母級を捕獲を試みます」

提督「なんだと!?」

奈良「まだ深海悽艦相手に使用していないから正直効果はわかりません。けどその表情を見る限り今回の戦闘は此方側が不利……試してみる価値はあると思います」

提督「だが艦娘は全て出撃している!大淀と明石には武装もない!」

奈良「私達が出ます。まだその鎖は艦娘用に調整していないので。使えるとしたら私達だけです。そして今回持ち込んだ装備の中にヘリがあります」

提督「奴等は通常の武装は効かないんだぞ!!」

奈良「奴等の目を、特に空母級の意識を彼女達に向けてくれれば……」

天龍『こちら天龍!駆逐級は沈めたがこっちは響が大破!正直ヤバい…!』

奈良「司令…!」

 

成功率は低い……しかしここで撤退命令を出しても今度はここを襲撃される……。

腹を決めるしかないか…!

 

提督「ヘリはすぐ出せるのか…?」

鯖江「5分あれば出発出来るよ」

提督「3分だ…これより、深海悽艦空母捕獲及び第一艦隊の援護を行う!アルマータと16はここで俺の指揮の補佐を、奈良·鯖江·歩兵·ソーニャ·大和は装備をヘリに詰め込んだ後出撃!!」

 

全員「はっ!」

 

執務室を出て、鎮守府の外に停まっているヘリへ向かう奈良達。

 

全員帰ってこいよ…!



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戦闘

ソーニャ「歩兵はさっさと私の対海水スーツを持ってきなさい!私達は運転にまわるわ!」

歩兵「こちらにあります!」

 

海水に弱いマグマ軍兵士用に作られたスーツを着たソーニャと歩兵がそれぞれヘリの運転席に乗り込む。

奈良はヘリの近くに停まっているトラックの荷台から深海悽艦用の捕縛鎖を取りだし半分を大和と鯖江に渡す。

 

奈良「使い方は一緒です」

大和「だったら簡単ね。さて、さっさと終わらせましょう」

 

3人はそれぞれソーニャと歩兵が運転するヘリの後部席に乗り込み、ヘリは天龍達がいる海域へ出発した。

 

鎮守府正面海域にて(天龍視点)

 

大破した響を守るように暁と砲撃するが、軽巡から放たれる砲撃と敵艦載機からの爆撃でじわじわと追い詰められていく。

クソッ!このままじゃジリ貧じゃねえか…!

 

提督『第一艦隊聞こえるか!?』

天龍「提督!」

提督『今から空母捕獲作戦を決行する!第一艦隊は残った軽巡の撃滅と艦載機を出来るだけ減らしてくれ!!』

天龍「捕獲ぅ!?」

 

コイツ正気か!?深海悽艦を捕獲するなんて聞いたことねえぞ!?

 

提督『このまま夜戦へ持ち込んでも勝てる可能性は低い!…正直一か八かだか頼む!』

 

その時、鎮守府の方向からヘリの音が聞こえてきた。……マジでやる気なのかよ…!

 

天龍「はは…マジかよ……やるしかねぇっ!暁と響は艦載機の相手を頼むぜ!!」

暁「暁の出番ね!」

響「大破しててもこれくらいは…不死鳥の名は、伊達じゃない…!」

 

 

ソーニャ「見えてきたわね…。歩兵は右から回り込んで!私達は左側から責めるわ!」

歩兵「了解しました!」

 

戦闘海域の手前でヘリは2手に別れる。挟撃する気か。

オレ様は軽巡目掛けて突撃、撃破に成功したけど1発良いのを貰っちまって中破しちまう。

 

暁「天龍さん!」

天龍「心配すんな!この天龍様がこの程度でやられるかよ!」

響「残るはアイツだけだね」

 

その時あかりから通信が入る。

 

奈良『3人共に聞こえますか!?』

 

天龍「あかり!」

 

奈良『今から空母に仕掛けます!皆さんは空母に威嚇射撃しつつ後退を!』

 

指示を聞きすぐさま機関砲で弾幕を形成しつつ後退する。

 

歩兵「第一艦隊の後退を確認!」

鯖江「…行くよ!」

 

ヘリは海面すれすれまで高度を下げ、空母を挟み込むように突撃する。

 

奈良「2人とも良いですか?」

鯖江「ババーンと、いっちゃうよ」

大和「司令君見ててね…!」

 

空母の真正面、真後ろまで接近した瞬間、後部席から深海悽艦用捕獲鎖を射出する。

 

空母「!?」

 

鎖の先端に付いている針が空母の身体に見事突き刺さる。

 

奈良「刺さった…!今ですっ!!巻きつけて!!!」

 

奈良の言葉を合図にヘリは反時計回りで空母に鎖を巻き付けていく。

空母級は予想外な出来事に状況を飲み込めていないのか困惑しているみたいだ。

 

天龍「す、すげぇ…」

暁「あんな至近距離でお互いのヘリが海面ギリギリでお互いにぶつからないように動いてる…!」

響「…ハラショー…としか言いようがないな…」

 

憲兵組の洗練されたコンビネーションにオレ達は思わず魅入られていた。

 

そして2機のヘリは互いの距離を空け、上昇し始める。

 

空母「ッ!」

 

空母の体が浮き上がり始めた瞬間、空母は自分が何をされてるのか察し、力いっぱい暴れ始める。

 

大和「きゃぁ!」

ソーニャ「なんて馬鹿力なのよ…!」

歩兵「こ、このままでは海面に墜落してしまいます!」

 

暁「あっ!ヘリが!!」

天龍「…流石にすんなりいかねえか……けど」

 

単装砲を暴れている空母に向ける。

その数メートル周辺には空母の力でふらついているあかり達のヘリもあるが、オレ様にかかればこれくらい撃てらぁ!

 

天龍「そのお陰で天龍様の見せ場が出来たぜぇっ!!」

 

撃った砲弾は空母の頭部、艦載機が発着陸する艤装に見事に着弾。

その衝撃で脳震盪を起こしたのか空母級は気絶、ヘリも態勢を直し再び上昇する。

 

鯖江「……あの状況から鎖を巻かれていない頭部へのピンポイント射撃…。しかも私達のヘリへの被害も最小限に抑えて……あの娘、ただ者じゃないわね」

大和「あれが、新しい武器娘の……艦娘の力……」

奈良「皆さんご無事ですか?」

鯖江「ええ、もちろん」

奈良「今司令官に連絡を入れました。帰投します」

鯖江「了解」

 

空母をぶら下げたヘリは鎮守府の方向へ飛び去っていく。

 

暁「天龍さんすっごい!かっこよかった!!」

響「一緒の艦隊で良かったと感謝している……スパスィーバ」

 

先程の砲撃を見て興奮気味の暁達。

そんな尊敬の眼差しで見るなよ~気持ちは分かるけどよぉ~~?

 

天龍「ふっふーん!ったりめーだろ!世界基準軽く超えてっからな!!」

 

提督『皆、無事か!?』

 

天龍「おう!オレも中破しちまったが航行に支障はねぇ!このまま帰港するぜ!」

提督『わかった。損傷した天龍、響は補給後入渠。必要なら高速修理材も使っていいぞ。あと、奈良から聞いた……天龍、良くやったな…ありがとう』

天龍「いいって事よ!にしても提督、お前のいた部隊ってすげぇんだな…」

 

あの洗練された動き…相当修羅場をくぐってやがる。アイツらを指揮していたのが提督なのか…。

さっきは暁達にあぁ言ったが、オレはあのレベルまで強くなれるだろうか…。

 

提督『あぁ、自慢の部下であり大切な家族だ。…そしてお前達もその一員だ』

 

オレ達もか…クソ、たった一言なのにそれだけで何故か自信が付いちまったじゃねえか。

 

天龍「……そうか、そうだな!」

 

やってやる…!ここで、全員生き残って深海悽艦を1匹残らずブッ潰してやるよっ!



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尋問

翌日08:45。

天龍、暁、響、間宮、大淀、鯖江、大和、歩兵、ソーニャの9人は食堂に設置されたモニターを見ていた。

そこには鎖でしっかり拘束され、椅子に座らされた空母。そして提督である自分は彼女の正面にパイプ椅子を置いて座り、彼の左右に護衛としてアルマータと16式、そして敵の情報を得たいと志願した奈良と明石がその後ろに立っている。

 

 

提督「さて、これより尋問を行う」

アルマータ「抵抗しようと無駄だ。艤装も無い、ましてや陸上で私に勝てると思わない事だ」

16式「司令に指一本でも触れてみろ……消し炭にしてやる…!」

 

2人の高圧的な態度を前に、表情どころか身動きひとつ取らない。

かといって怯えている訳でもない…興味ないといったところであろうか。

 

提督「さて、先ずは君の名前を聞こうか」

ヲ級「……ヲ級……」

 

どこかエコーがかかったような声で呟く。

どうやら言葉は通じるようだ。

 

明石「ヲ…級?」

アルマータ「おそらく型番のようなものかと……014號と同じような」

提督「ふむ、では君達深海悽艦の目的は?」

ヲ級「目的ナンテ無イ……目ノ前二ヒトガイタカラ、沈メヨウトシタダケ……」

明石「…何よ……それ……」

奈良「マグマ軍のような目的をもった侵略ではない…本能とでも言うのでしょうか……?」

提督「……深海悽艦を束ねている存在は?」

 

ヲ級の発言に動じず、冷静に尋問を続ける。

知能があるならブラフの可能性もある…それを見極めなければ。

 

ヲ級「知ラナイ……頭ノ中デ声ガシテ、ソレニ従ッタ…………デモ、今ハモウ聞コエナイ…応エテクレナイ……」

 

ヲ級の表情が少しずつ曇る。

……こいつ、まさか……

 

提督「……最後に1つだけ答えてくれ。今でも俺達人間や艦娘を沈めたいと思うか?」

 

その問いを聞いて更に表情が曇っていく。

 

ヲ級「ワカラナイ……ナンデソウ思ッテイタノカ…!ワカラナイ…ワタシハ…ナンナノダ…!?ワカラナイ…ワカラナイ!…ッアァァァアアッ!!!!」

 

突如泣き叫び、椅子をガタガタと激しく揺らし始める。

それを見て危機感を感じたアルマータと16式は主砲を構えるがそれを手で制した。

そしてイスから立ち上がりヲ級に歩み寄る。

 

アルマータ「閣下何を…!?」

 

アルマータの問いにただ無言で首を横に振り、再びヲ級を見た。

 

ヲ級「ワカラなイ……!暗イ…!寒い…!!恐い…恐い恐い…!!!」

 

体を震わせ、怯えるヲ級。

あぁ、この娘はもう大丈夫だ。

 

確信を得た自分は震えるヲ級の背後に回り鎖を外した。

 

16式「ししし司令!?」

アルマータ「閣下!!」

明石「何をやっているのですっ!?」

 

思わず叫ぶ3人。奈良は何かに気付いたのか観察するようにその光景を見つめている。

 

ヲ級「っ!」

 

拘束が解かれた瞬間、ヲ級は四つん這いで部屋の隅へ移動しうずくまる。

 

明石「提督!拘束を解くなら一言仰って下さい!!何かあったらどうするんですか!?」

提督「すまない…。だけど、もうあの娘は大丈夫だと思うよ」

明石「何を根拠に」

アルマータ「…はぁ」

 

怒る明石の肩に手を置くアルマータ。

 

明石「なんですかアルマータさん!」

アルマータ「閣下が大丈夫と仰ったなら、もう安心ですよ。……この状況、何度も経験しましたから」

 

複雑そうな笑みを浮かべるアルマータ。

明石もそれが何なのかを察し、怒りを鎮めるがまだ納得出来ていないといった表情だ。

 

無理もない。一歩間違えればここにいる全員の命が危うかった。あとでちゃんと謝らないとな。

 

それはとにかく、収穫はあった。

これ以上は彼女の様子を見る限り難しそうだ。

 

提督「尋問は終わりだ。執務室で報告書を纏めるから16とアルマータは手伝ってくれ」

アルマータ「はい閣下」

16「は、はいっ!フヒヒ……司令と一緒にお仕事……!」

 

自分達は独房から出たのだが、奈良だけその場に残っていた。

 

奈良(彼女の声…エコーがかかっていた筈なのに怯えた辺りからエコーが消えた……いったい何故…?)

 

提督「奈良?どうした?」

 

独房の隅で怯えているヲ級を改めて眺めた後、彼女も自分の呼ぶ声に答えて独房を後にした。

 

場所は変わり食堂にて、一部始終を見ていた一行。

 

天龍「暴れるだけ暴れて捕まったら怯えやがって……ガキかっつーの」

間宮「なんだか複雑です……あの感じ、本当に怯えてしまってます」

暁「なんだか可哀想になってきた」

響「でも油断は出来ないよ。艤装が無いとは言え、用心するべきだと思う」

鯖江「確かにね。あの空母は私達憲兵側で監視をしようと思う。何かあったら連絡するわ。それじゃ私は一度司令官の所に行って監視の許可を取ってくるね」

 

鯖江が食堂を後にするのを機に他の者達も各々の持ち場に戻っていった。

 

 

 

(以降奈良あかり視点)

それから約1時間後、工房で私と明石さんはヲ級が装備していた艤装と中に入っていた艦載機の解剖を行っていました。

私達が見ているのは顔のように見える艤装前面部。天龍さんの砲撃で右目付近が吹き飛んでいますがその他は無事でした。

 

明石「これは…!?」

奈良「生物的な見た目だと思っていましたが……」

 

正面より少し上、人間で言うおでこの部分を解剖した結果、出てきたのは手のひらサイズの脳でした。

『艤装が生きて活動していた』。その事実に驚く私達。

その後も更なる情報を求めて解剖を続けていきます。

 

明石「…消化器官が無い事以外は生物となんら変わりませんね…。艦載機の方はそれに加えて弾薬を生成すると思われる臓器も」

奈良「いえ、もう1ヶ所特徴があります…艤装裏面、ヲ級の頭部と触れていた所を見てください」

 

裏面を見るとヲ級の頭部が触れていた部分に数本の縫い針の様な細長いトゲが付いていました。

 

奈良「このままヲ級のように装着したらどうなると思います?」

明石「トゲが刺さってしまいますね。この長さだと脳にまで達して…ちょっと待って下さい!」

奈良「気付きましたか……これは仮説ですが、これは寄生生物の類いで…。トゲを介して宿主を操っていた。ヲ級が言っていた声とはこの艤装の信号だった……そう考えられませんか?」

明石「ではヲ級は…ヲ級自身は一体……!?」

 

明石さんの問いに私は申し訳なさそうに首を振るしかありませんでした…。こればかりは私にも見当がつきません。

 

しかし、明石さんは何かを思い出したのか突然ハッとし、更に顔の血の気が引いていきます。

一体何を……?

 

明石「…ドロップ艦現象……」

奈良「え?」

明石「あかりさんはドロップ艦という現象を知っているか?」

奈良「いえ…それが…?」

 

ドロップ……『落とす』?そんな現象がそんなに危ない現象なのでしょうか…?

明石さんは額から滲み出る冷や汗を拭いながら私に説明を始めます。

 

明石「聞いたことがあるんです……。戦闘後、気が付いたら所属不明の艦娘が倒れていて保護したという事例が相次いで、RPGゲームに例えてドロップ艦現象と呼ばれていると」

奈良「……じゃ、じゃあヲ級は……」

明石「試験運用中に襲われたか、はたまた何処かの鎮守府で運用されていた艦娘…。もう今となっては艦種の特定も難しいでしょう…。あの体つきだと軽巡以上…もしかしたら戦艦だったという可能性も……」

奈良「なんてこと…」

 

私が立てた突拍子もない仮説、しかしそれの一部を明石さんは裏付ける現象を知っていた。

 

私達の間に長い沈黙がおりる。

 

2分?いや、10分も経ったのでしょうか……そんな沈黙を破ったのは明石さんでした。

 

明石「と…とりあえず艤装の解析結果と、この仮説を提督に報告しに行ってきます」

奈良「は、はい。お願いします」

明石「また明日から、改めてこれの解剖と鎖の調整、艦娘以外でも使用出来る対深海悽艦兵器の開発しましょう。…それでは」

 

そう言い残し、工房を後にする明石さん。

私は動く気になれず、しばらくヲ級の艤装を見ていることしか出来ませんでした。




いつも読んで頂きありがとうございます

評価&コメントを頂けるとモチベーション維持に繋がるので宜しければ


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正体

執務室にて、自分達は艤装の解析結果と奈良·明石の仮説を聞いていた。

 

大淀「そんな…!」

明石「あくまで仮説ですが…」

 

動揺を隠しきれない大淀。そりゃそうだよな……。

…それに大淀ですらこんな反応になるのにこれが前線に出てる天龍達に言ってみろ…士気がガタガタになるし最悪撃つことに躊躇いが出る可能性だってある。

 

 

……戦場で躊躇ったら…その先は…

 

 

提督「……この事は天龍達には伝えないでくれ」

明石「えぇ。確証はないですし、何より前線で戦う皆を不安にさせたくないですしね」

提督「うむ、じゃあ今日はもう休んでいいぞ」

明石「では、失礼いたします」

 

明石が執務室を後にする。

 

提督「……寄生された艦娘か。それが本当なら闇堕ちより質が悪いな……」

アルマータ「閣下…」

 

心配してくれているのか、寄り添ってくれるアルマータ。

そんな彼女の頭を優しく撫でる。

 

提督「大丈夫…敵として立ちはだかったなら、撃破するだけさ…。それよりも、そろそろ飯の時間だ。行こう」

アルマータ「はい」

 

こんな重い空気じゃダメだ。

気分を切り替えるべく食堂へ向かう。

 

間宮「あら、提督。今日はカレーです!」

提督「おぉ、良い匂いだ」

間宮「あの、そう言えば提督…あの深海悽艦は食事をとるのでしょうか?」

提督「…確かに」

 

ふと、視線を動かす。天龍達がテーブルでカレーを美味しそうに頬張っている姿を見つける。

 

提督「…食べるかもしれませんね。持っていってみます」

 

間宮からヲ級用のカレーを受け取りアルマータの方を見る。

 

アルマータ「…私はここで閣下のお帰りを待ってます」

提督「えっ?」

 

意外だな。

ついてくるとばかり思っていたが。

 

アルマータ「私がいると、きっとあの娘怯えてしまいますから…」

提督「…わかった。戻ったら一緒に食べような?」

アルマータ「…はいっ!」

 

笑顔で見送るアルマータを背にヲ級がいる独房へ歩きだした。

 

独房にて

 

朝と変わらず部屋の隅でうずくまっているヲ級。

そんな彼女を部屋の外で歩兵が彼女を監視していた。

 

提督「…監視お疲れ様」

歩兵「司令官閣下様!お疲れ様です!!」

 

ビシッと敬礼をする歩兵のお腹からグゥっと大きな音が鳴った。カレーの匂いに反応したな。

 

歩兵「ギュピッ!」

提督「あはは!こんな良い匂い嗅げばそりゃ鳴るよな!そろそろ交代が来る筈だ。もうちょっと頑張ってくれ」

 

恥ずかしそうにお腹を抑える歩兵の頭を軽く撫で、部屋の中に入る。

入った途端、ヲ級がビクッと反応するのが見えた。

 

提督「腹、減ってないか?良かったら食べな?」

 

怯えるヲ級にカレーを差し出す。

ヲ級もカレーの匂いに釣られたのか、顔を上げてカレーを凝視する。

 

提督「大丈夫。毒物なんて入ってないよ」

 

それを聞いてもやはり不安なのか恐る恐るカレーを手に取るヲ級。

そして震える手でスプーンを持ち、カレーを一口食べる。

その瞬間ヲ級の目から大粒の涙を流し始めた。

 

ヲ級「っ!……うっ……うぅ……!!」

 

泣きながらカレーの頬張るヲ級を少し離れた所で眺める。

 

そしてヲ級はカレーを残さず完食し、泣いて腫れ上がった目で自分を見た。

 

提督「旨かったか?また夕飯の時間に持ってくるよ」

 

空になった食器を持って独房から出ていく。

 

ヲ級「あっ……あうぅ…」

 

食堂にて

 

間宮「提督!そのっ…どうでした?」

 

ヲ級からの反応が余程気になっていたのか帰ってきた自分を見つけるなり駆け寄ってきた。

 

提督「よほど旨かったのか泣きながら食べてたよ」

間宮「そうですか…良かった」

 

空になった食器を見て安堵の笑みを浮かべる間宮。

その後、アルマータや交代で戻ってきた歩兵と共にカレーを食べてアルマータは執務室へ、提督は戦力を増やすために工房に訪れた。

 

提督「…少し多めに投入するか。……お?2人か」

 

タブレットに2つ建造時間が表示される。

誰が来るのか思いを馳せているとアルマータがやって来た。

 

アルマータ「閣下」

提督「ん、どうした?」

アルマータ「市ヶ谷さんから電話です。また憲兵として部隊メンバーが来ると」

提督「ほう!わかった、行こう!」

 

小走りで執務室へ戻り、受話器を手に取る。

 

提督「市ヶ谷か!?」

市ヶ谷『司令官!お久し振りです!!』

 

市ヶ谷の声を聞き、思わず笑みが溢れる。

 

提督「アルマータから聞いたぞ!根回ししてくれてありがとう!」

市ヶ谷『いえ、なんとか皆がバラバラになる前に司令官の元へ送ろうとしたのですけど…それでも数名、別の鎮守府へ異動になってしまいました……』

提督「そ…そうだったのか……」

市ヶ谷『あぁ司令官は別に気にしなくて大丈夫です!……それで今回そちらに行くメンバーはですね……』

ーーーーーーーーー

提督「ふむ、わかった。到着時間は0900だな」

市ヶ谷『はい。では失礼しますね』

 

電話を切り、アルマータに内容を伝える。

 

アルマータ「あら、彼女達も来るのですね」

提督「あぁ、久し振りにアイツらの顔が見れるぞ…!」

アルマータ(私は閣下と2人きりが良かったのだけれど……ハァ……)

 

その後何事もなく執務が終わり気が付けば夕食時になっていた。

 

 

アルマータ「閣下、またヲ級の所へ?」

提督「あぁ、そのつもりだ。もしかしたら何か話してくれるかもしれないしな…そうだ」

 

パソコンを操作し、艦娘達が使う艤装の写真をプリントアウトする。

 

アルマータ「これは…艦娘が使う武装の写真?」

提督「明石達の仮説を完全に信じる訳じゃないけど。何かしら反応してくれるんじゃないかと思ってさ」

 

そんな淡い期待を背に、写真をポケットにしまい食堂へ向かう。

そして間宮から料理を受け取り、独房へ向かった。

 

独房にて

 

部屋の扉を開けるとヲ級が部屋の隅にいるのが見えた。

だが昼とは違いうずくまっておらず、怯えた様子もない。

 

提督「ほら、夕飯だ」

ヲ級「……あり……がと…」

提督「っ!お、おう、どういたしまして」

 

お、お礼を言われるとは思っても見なかった……。

 

そしてヲ級は食器を受け取ると無言で食べ始め、瞬く間に完食した。

 

提督「ん、食い終わったか。それで、少し聞きたいんだが……これを見て何か思い出さないか?」

 

ポケットから数枚の写真をヲ級に渡す。

そこには駆逐艦や軽巡が使用する連装砲と魚雷の写真、重巡や戦艦が使用する主砲の写真、空母が使用する弓と艦載機の写真の3枚。

 

ヲ級「…………」

 

1枚1枚じっくり眺めるヲ級。

そして最後の1枚、弓と艦載機の写真を見た途端大声を出した。

 

ヲ級「あぁぁっ!あぁぁああああああああ!!!」

提督「っ!?どうした!?」

大和「司令君大丈夫!?」

16「司令っ!」

 

危険を察知して外で待機していた大和と、どこからともなくやって来た16式が部屋に入る。

ヲ級は写真を両手で持って、涙を流していた。

 

大和「何があったの!?」

提督「…もしかしたらと思って試してみたが……まずったか…?」

 

 

ヲ級「はぁ…はぁ……驚かせてしまって…ごめんなさい……」

 

先程とは違い、落ち着いた様子のヲ級。

だが俯いたままで表情が見えない。

 

ヲ級「……1人にさせて下さい…………何かしたら沈めても…構いません…お願い…します」

 

震える声で懇願するヲ級を見て、自分達はただ唖然としていた。。

 

ヲ級「それと…ごはん……ありがとうございました…………」

 

そう言って静かに食器を目の前に移動させる。

自分は食器を手に取ると2人に目配せをし、無言で部屋を後にした。

 

ヲ級「思い出した……あの時…………私は……」

 

16「ししし司令、大丈夫ですかっ!?何かされていませんか!?」

提督「だ、大丈夫だから。落ち着けって」

 

不安そうに体をまさぐる16式を引き剥がす。しれっとどこに手を入れようとしてるんだこの娘は。

 

提督「驚かせてごめんな?あの娘は……いや、とりあえず引き続き、監視を頼む」

大和「任せて。あ、そうだ。今日司令君のお部屋に行っても良い?」

提督「アルマータと喧嘩しなければな」

 

苦笑いしながらそう言い残し、食堂へ向かう。

食堂に着くと天龍達に混じって見慣れない2人が居ることに気が付いた。

 



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提督「ん?君達は?」

 

「おぉ!お主が提督か!」

 

「執務室にいないから探し回ったんですけどー」

 

見慣れない2人は敬礼をし、自己紹介を始めた。

 

利根「利根型重巡の一番艦、利根である!」

鈴谷「最上型重巡、鈴谷だよ。これからよろしくね!」

提督「提督だ、重巡洋艦が2人とは心強い。よろしく頼む!」

 

その後明日の日程を伝え利根達と食事をしていると、少し離れた席で明石の姿が見えた。

独房での出来事を報告するべきだな

 

食事を済ませ、明石の元へ向かう。

 

提督「明石」

明石「あ、提督。今から食事ですか?」

提督「いや、食事はさっき済ませた。それよりも例の説について話がある。あとで執務室に来てくれ」

明石「はい、わかりました」

 

 

明石に用件を伝え、自分の食器を片付け始める。

 

鈴谷「提督食べるの早いね~!」

提督「このあともやることがあるからな」

利根「秘書艦とやらは付けんのか?」

提督「普段はアルマータと、たまに16や大和達とやってるから今のところは大丈夫かな。それに前線で戦う君達に余計な負担をかけたくないってのもある」

アルマータ「それに私がいる限り、執務の方は大丈夫よ。さ、閣下、行きましょう」

提督「あぁ、それじゃ」

 

アルマータと一緒に食堂を後にする。

鈴谷はその後ろ姿を不思議そうに見つめていた。

 

鈴谷「ねーねー、あの2人ってデキてんの?」

天龍「あぁ、ケッコンってやつしてるんだとさ」

暁「あと大和さんと歩兵ちゃん達ともしてたわね」

利根「ジュウコン、というやつじゃな。全く…節操の無いヤツじゃのぅ」

鈴谷「ホヘー?誰それ?」

 

辺りキョロキョロ見回す。

 

暁「ほらあそこで食べてる子」

 

暁が指差す方向を見ると歩兵が少し離れた席でちょうど、夕食を食べようとしていた。

鈴谷は彼女を見るなり立ち上がる。

 

鈴谷「なにあの娘ちょー可愛いんですけど!!」

歩兵「ピギ?」

鈴谷「チィーッス!私、鈴谷って言うんだ!よろしくね!!」

歩兵「は、はぁ……よ、よろしく…」

 

歩兵の元に駆け寄り挨拶する。歩兵もそのテンションの高さに少し困惑しながら返事をすると、その姿がさらに可愛く見えたのか、歩兵に抱き付く。

 

鈴谷「あぁー可愛いなぁーもう!!!」

歩兵「な、なんなんだこいつはーー!!」

利根「やれやれ…」

 

ピギィィィィイイイイイイイイイ…………

 

提督「ん、なんか聞こえなかったか?」

アルマータ「いいえ?気のせいでは?」

 

執務室に戻ってから数十分後、扉がノックされ明石が入室する。

 

明石「失礼します」

提督「わざわざすまないな。実は夕食前に独房に行って、この写真を見せたんだ」

 

明石に改めてプリントアウトした空母の艤装の写真を渡す。

 

明石「……これを見て彼女は?」

提督「一時的に錯乱したけどすぐに沈静化。その後1人にさせてくれと頼まれたんだが…その姿はとてもじゃないが深海棲艦には見えなかったんだ…」

明石「…まるで、1人の女性…いや、艦娘と話しているようだったと…?」

 

明石の問いに無言で頷く。

 

明石「……わかりました。明日、彼女に朝食を持っていく時は同行させてもらえませんか?」

提督「もちろんだ。あと奈良にも声を掛けておく」

明石「お願いします。では失礼します。また明日」

提督「あぁ、おやすみ」

 

翌日07:00

独房へ向かった自分の代わりにアルマータが日程の確認をしていた。

 

アルマータ「第一艦隊は天龍旗艦に艦隊、砲撃演習。午後は鎮守府周辺の警戒。そして0900に新たに憲兵が配属予定です。以上」

天龍「なぁ、あの空母はどうなるんだ?」

アルマータ「おそらく本日中に処遇が決まるかもしれないわ」

利根「なんのことじゃ?」

響「2人が来る前の戦闘で、空母級を捕獲したんだ」

鈴谷「まじぃ!?」

天龍「ま、おおかた大本営で実験動物になるか解剖だろうけどな!」

アルマータ(元々貴女達と同じ艦娘と知っても、同じ事が言えるのかしらね…)

 

同時刻、自分と明石、奈良の3人はヲ級のいる独房にいた。

 

ヲ級「おはよう、ございます…」

提督「おはよう。さて、覚えている事を話してくれるかな?」

 

ヲ級は深呼吸した後、意を決して話し始める。

 

ヲ級「私の本当の名前は、第二航空戦隊、飛龍」

明石「…っ!そんな…」

奈良「…予想はしていましたが、なんという……」

提督「飛龍……君に何があった?」

ヲ級改めヒリュウ「生まれてすぐ大本営の指示で艤装の試運転で近くの海域に出撃していました」

明石「大本営って事は…貴女は飛龍として初めて建造された個体って事じゃないですか!?」

ヒリュウ「…そう、らしいわね」

奈良「どういう事です?」

提督「武器娘とは違って、艦娘は同じ見た目の娘が何人も存在しているらしいんだ。そしてこのヒリュウは飛龍として世界で1番最初に建造されたってことだ」

奈良「なるほど」

ヒリュウ「そこで補給ワ級と会敵、ヤツに補食されたんです」

明石「補給級って武装が無い筈では」

ヒリュウ「えぇ、私もそれで油断していました。艦載機の攻撃を次々に避けながら接近してきて……」

提督「喰われた、と?」

ヒリュウ「はい、その後の事は覚えていません……」

提督「空母ヲ級に改造されて今まで戦ってきた、か」

明石「提督…どうしますか?天龍さん達に伝えるべきなのか……」

 

全員の視線が自分に集まる。

伝えるべきなのか……いや、前にも考えたがこれで海域攻略に支障が出てはマズイ。……何より天龍達の命にも関わる。

 

提督「……これは現時点で天龍達に伝えるべきでは無いな。だが情報提供者として制限付で鎮守府内での生活を許可しようと思うのだが、どうだろうか?」

明石「そうですね…艤装も無く、無力化したと他の艦娘達に伝えれば納得して下さるかと」

奈良「鯖江さん達憲兵にだけ説明して、監視の名目で付き添わせるのもどうでしょう?」

 

気が付けばヒリュウを差し置いて様々な案を出して盛り上がってしまっていた。そんな自分達にヒリュウはオドオドと声をかけてきた。

 

ヒリュウ「あの、私……深海棲艦ですよ…?もう艦娘じゃないのに…」

奈良「司令官はおかしな方なのです。敵だった異種でも保護して守ろうとする方なのですよ」

提督「おかしいとか言うなよぉ。ま、そういうことだ。今までマグマ軍だったのが深海棲艦に変わっただけだ。敵意が無いなら保護、協力してくれるならもう仲間。それが俺のやり方さ」

 

涙を流し始めるヒリュウと目線を合わせるために少し屈みこむ。

 

提督「ヒリュウ……君は、どうしたい?」

ヒリュウ「私…この部隊に入りたいです……!ヲ級じゃなく、飛龍として生きたい!!」

提督「決まりだ。ようこそ……鎮守府へ…!」

 

涙を拭い、笑顔で敬礼するヒリュウにつられて自分達も笑顔で敬礼を返す。

 

奈良「それでは部屋に案内しますね。憲兵用の寮でよろしいですか?」

提督「あぁ、そこで大丈夫か?」

ヒリュウ「えぇ、問題ありません。よろしくお願いします」

 

各々独房から出てそれぞれの持ち場へ向かう。

 

この時間だとちょうど彼女達が来ているハズだ。

久し振りの再開だというのに待たせるわけにもいかない。

 

少し足早に執務室へ向かい、扉を開けた。

 

 

「このあたいを待たすなんざ、良い度胸だなおい?」

 

「司令!ひっさしぶり~!スーパーなアタシが来たからにはもう大丈夫だよっ!」

 

「元気そうで何よりだ。また貴様の指揮下に入れて嬉しいぞ」

 

「閣下……この日を待ちわびておりました…!」

 

提督「あぁ、待たせたな…!皆元気そうで何よりだ!」

 

今時珍しいスケバン少女、飯塚椿。

 

スーパーなヘリ娘『AH-1W』ことスーパーコブラ。

 

元マグマ軍中将、今はたこ焼き屋のオバチャン(自称)のミーシャ。

 

メイド服と身体の一部からはみ出ているムカデのような触手が特徴の元マグマ軍ベレーザ。

 

どの娘も共にマグマ軍との戦争を戦い抜いてきた大事な仲間だ。




この先の展開に向けて色々下準備中だよ

次回辺りは物語が進む(かも)


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亀裂

(天龍視点)

 

天龍「……今、なんつった……?」

 

 

午前中の演習を終えて暁や新入りの利根達と食堂にオレ達は向かった。

 

そこには静香達憲兵メンバー、そして見慣れない4人……朝アルマータが言ってた新しい憲兵だろうか……いや、そんなことはどうでもいい。

 

な ん で 鹵 獲 し た 空 母 が い や が る

 

 

提督「……もう一回言うが、彼女は協力者として本日から一部制限付でこの鎮守府に住むことに決定した」

 

アルマータや明石は妙に落ち着いていやがる……理由を知っているのか?

そんなことどうでもいい…!敵を首輪も付けずに鎮守府内に住まわせるなんてなに考えてんだ!!!!

 

怒りで肩が震える、そして見えちゃいないが表情がどんどん怒りで歪められていくのがわかる。

 

天龍「ざっけんじゃねえ!!何考えてやがる!!!こいつは深海悽艦だっ!オレ達の敵だぞっ!!!」

利根「提督よ。流石にこの処置は納得しかねるぞ」

鈴谷「それはちょっとどうなのよ?」

 

当然利根、鈴谷も納得出来ない様子で提督を睨んでいる。

一方暁と響はどうすれば良いかわからずオロオロしている。

 

明石「彼女の艤装も解体してあるのでもし…」

天龍「そういう問題じゃねえ!!!」

 

明石の説明を遮り、刀を提督に向けた。

 

大淀「っ天龍さん!!」

アルマータ「貴様っ!!!」

 

刀を向けたと同時にアルマータを筆頭とした憲兵組がオレに銃を向ける。

だが、提督はアルマータ達に銃を下ろすように命じ、そのままオレが構えた刀の切っ先を自分の首に当てやがった。

 

提督「今は納得出来ないのは承知している…。だけど、いずれちゃんと話すよ。それでまだ納得出来ないなら…その時は容赦なく俺を斬ると良い」

 

 

天龍「っ!……わかった…今だけは信じてやるよ」

 

渋々刀を納める。そうするしかなかった…コイツの目は本気で斬られても良いってツラだった。

 

提督「……すまない。あとは新しく着任した憲兵達だが…」

飯塚「あー…そこはアタイ達がテキトーに済ませるから気にすんな」

提督「…すまん」

 

その後提督、ヒリュウ、アルマータ達数人は間宮から食事を受け取り食堂を後にしていく。

 

こんな空気じゃ喰えねえわな。

 

 

だけどオレ達は午後も軽い哨戒任務がある手前、意地でもハラに詰め込まなければならなかった。

 

間宮さんからメシを受け取り近くの椅子に乱暴に腰掛ける。

 

天龍「くそ…なんだって深海棲艦と一緒に…!」

 

イライラしながら乱暴に昼食を口に運んでいく。

 

飯塚「隣、座るぜ」

天龍「あぁ?勝手にしろ」

 

新しく来た憲兵…どうやら飯塚椿って言うらしい。

飯塚はオレの隣で笑いながら昼食を食べ始める。

 

飯塚「お前、中々度胸あるじゃねえか。気に入ったぜ」

天龍「…」

 

絡んでくるんじゃねえ。さっさと食って離れよう。

 

飯塚「あんたと提督のやり取り見てたら昔のアタイを思いだしちまったよ!」

 

……なんだよそれ…?

少し気になってしまい手を止め、横目で飯塚を見る。

 

飯塚「あたいも昔、マグ公が大っ嫌いでさぁ。あいつらを仲間にしてるアイツと何回もタイマン張ったんだ」

天龍「…」

飯塚「結果はあたいの完敗。攻撃の隙をついて1発でのされちまった…。そしてアイツは勝負がつく度に言ったんだ。今の君に彼女達の何がわかる?って…」

 

気が付いたら顔を向けて真剣に話を聞いていた。

 

 

飯塚「最初は意味わからなくてよぉ。言われる度にんなもん知ったこっちゃねぇ!って言い返してたんだ。だけど20連敗した辺りから、やけくそでアイツらを傍で見て、話してみた。提督を負かす為にって意気込んでさ。………最初はギュイギュイうるせー虫女共だなって思ってたんだけどよぉ、あいつらと話してときどきタイマン張って…気が付いたらマグ公のダチが出来ちまった。だから」

天龍「…だから深海悽艦ともダチになれるってか?ふざけんじゃねえ、オレは御免だ」

 

アイツらは倒すべき敵だ。深海悽艦とダチだなんてクソ喰らえだ。

残りのメシを一気に口の中に入れる

 

あんな話を真面目に聞いてた自分がバカらしい。そう思いながら食堂を後にした。

 

 

 

飯塚「あ~クソっ。もうちょい上手い言い方が出来ればなぁ…」

ミーシャ「ふ、前に比べれば充分器用になっているぞ」

 

近くの席で天龍とのやり取りを見ていたミーシャがフォローを入れる。

飯塚はちょっと照れ臭く頬を掻く。

 

飯塚「そ、そうか…」

ミーシャ「それに以前の貴様だったら、他人をあんな風に気にかけようとせんよ」

飯塚「…だけどよぉ。あいつに上手く伝えられてねぇよ」

ミーシャ「今は、あれだけで充分だ。いきなり全てを教え説こうとしても無駄だ」

飯塚「さすが元中将様だな、言うことに説得力があるこって」

 

(提督視点)

 

 

提督「……まぁ、こうあるよなぁ……」

 

食堂から出てとりあえず執務室で昼食をとることにしたものの、先程のやり取りが思いの外参ってしまっていた。

 

食事に手が着かず、天井をボーッと見てしまう。

 

ヒリュウ「ごめんなさい……私のせいで……」

提督「いや、誰のせいでも無いさ……ただ色々とタイミングが悪かったんだ」

 

アルマータ「閣下に刃を向けるとは……あの小娘には教育が必要ね…」

 

アルマータ筆頭に何人かは天龍に対して敵対心を持たせてしまっていた。

こんな事で仲間割れは笑えない。

 

提督「天龍の言い分はもっともだ。だからこの件は不問だ。いいな?不問だからな?」

 

釘を刺しておかないと本当に殺りかねん……。

 

そんな中ノック音が聞こえ、扉が開かれる。

入ってきたのは大淀と明石であった。

 

提督「ん、どうした?」

 

明石「憲兵用の対深海悽艦装備の作成と捕縛鎖の強化の申請書の許可が欲しくてですね」

 

明石から申請書類と銃の仕様書を受け取り、目を通す。

 

提督「わかった。試作品が出来次第手が空いているメンバーに声を掛けてくれ」

 

申請書類にサインし、明石に返す。

そして再び執務を再会しようとしたのだが、明石と大淀はどこか落ち着きがなく見えた

 

提督「他に何かあるのか?」

 

大淀「その、提督…」

 

大淀の表情を見るととても深刻な表情だった。

 

大淀「明石からヲ級の…ヒリュウさんの事を聞きました。…提督はこれからも深海悽艦を捕獲していくつもりですか…?」

提督「いや、全ての深海悽艦を鹵獲して仲間にする気はないよ。敵として襲って来る以上基本的に撃滅する。例えそれが元艦娘であってもだ。そしてその中でチャンスがあれば捕獲、無力化していくってだけさ」

 

大淀の問いに迷うことなく即答するが、2人はそれを聞いてもなおどこか納得できない表情でいた。

 

明石「なぜ、そこまでハッキリと言えるのですか…?正直…答えに迷ってしまうかと…」

提督「……ちょっと昔の話になるな。座ってゆっくり話そう」

 

椅子から立ち上がり、来賓用のソファへ促す。

 

ヒリュウ「…私も聞いて良いですか?」

提督「あぁ、もちろん。コーヒーでいいか?」

 

3人の了承を得てコーヒーを4つ淹れ、それぞれの前に置く。

 

明石「あ、ありがとうございます」

大淀「ありがとうございます」

ヒリュウ「ど、どうも」

 

提督「さて、と」

 

3人と対面になる場所に座り、コーヒーを啜る。

 

提督「まだマグマ軍との戦争中だった頃、俺の部隊に10式戦車っていう武器娘がいたんだ。だがある場所で戦闘中にマグマ軍に鹵獲、闇墜ち状態になって俺達の部隊に襲い掛かったんだ」

3人「……」

提督「俺も初めての事態だったからさ。前線に出て説得しようと試みた……」

明石「どう…なったんですか…?」

 

コーヒーを一度啜り、深呼吸をして話を続けた。

 

提督「何度叫んでも彼女は一向に元に戻らなかった。終いには彼女が撃った砲弾が近くに着弾して、俺は身動き出来なくなっていた。……それでも希望はあると、そう思いながら彼女の名前を叫び続けた。その結果、俺は大事な部下を失った」

ヒリュウ「え……?」

提督「61式戦車……その作戦で一緒に出撃していた武器娘。彼女が俺を庇って…目の前で死んだ……ケッコンを間近に控えていた娘だった。…気が付いたら俺は10式を撃ち殺していた……弾倉が空になるまで。俺は自分の甘い考えのせいで部下を2人、殺してしまったんだ」

 

コーヒーを一気に飲み干し、空になったカップを静かにテーブルに置く。

 

明石「そんな事が、あったんですね…」

提督「それ以降闇墜ちした武器娘と会敵しても基本撃破、可能なら捕獲という方針に決めたんだ。……まさかここでもそうなるとは、思わなかったけどさ」

 

思わず苦笑いを浮かべてしまう。

遠くで聞いていたアルマータや大和はその時にはもう居たからその時の状況を知っているため、辛そうに目を背けている。

 

 

大淀「教えてくれてありがとうございます。…私も提督の方針に異議はありません」

提督「…ありがとな」

明石「では、私も失礼しますね」

 

 

(それから約2時間後、天龍視点)

 

天龍「オラオラァ!!」

 

哨戒任務で出撃していたオレ達第一艦隊ははぐれ艦隊と戦闘していた。

 

昼での提督とのやり取りのせいでイライラしているのもあったが……今深海悽艦を見ると無性に沈めたくなっていた。

 

問答無用で突撃して斬って撃って……手当たり次第攻撃していた。

 

利根「こら天龍!旗艦であるお主が隊列を乱してどうする!?」

 

後ろから利根の怒鳴り声が聞こえる。

振り返ると隊列からだいぶ離れていた。

 

天龍「…ちっ!」

 

流石にこれ以上は危険だな…。

仕方ねえから渋々隊列に戻った。

 

響「マグマ軍と仲良くなった司令官なんだ。きっと何か考えがあるんだよ。きっと」

天龍「…だとしても、オレはぜってぇ認めねぇ…」

利根「お主の言い分はわかったから落ち着くのじゃ。そんな事で隊列を乱されてはこちらとしては良い迷惑じゃ」

 

利根の意見はもっともだ……オレの八つ当たりでこいつらを危険な目に合わせたくねえ。……おかげで少し頭が冷えた。

 

天龍「…そうだな…すまん」

利根「うむっ!じゃあ改めて指揮をしてくれ!」

天龍「あぁ!艦隊前進!」

 

両頬を軽く叩いて改めて任務を再開する。

 

 

 

暁「天龍ちゃん…」

響「……」

 

そんな彼女を暁と響は心配していた。

そして鈴谷もそれを感じ、2人を安心させようと宥める。

 

鈴谷(提督……ちゃんとした理由があるんだよね?…じゃないと、私達も流石に黙ってないよ……?)

 

夕方(提督視点)

 

ジリリリリリリリリリリッ

 

夕食を終えて執務室に戻った矢先に電話が鳴り響く。

 

こんな時間に誰だ?

 

提督「こちら横須賀鎮守府、提督です」

 

『お久しぶりですわ、司令官』

 

提督「おまえ、麗香か!?」

 

電話の主は駒門麗香。静香や椿と同様共にマグマ軍と戦った部下だった。

 

彼女から直接電話とは珍しい。駐屯地で何かあったのだろうか。

 

提督「久し振りだなぁ!どうした?麗香も憲兵に異動か?」

 

駒門「フフッ違いましてよ」

 

フフフと何かを企んでいるような笑い声を出す駒門。

 

駒門「実は私、鎮守府で提督をやっておりましてよ!!」

 

ほぅ提督か~、自分と一緒だ……え?

 

提督「提督ぅぅぅうう!?」

 

思わず大声を出してしまった。

何処からともなくアルマータや16式が飛んでくる。どこにいたんだ君達は。

 

駒門「大声出しすぎてよっ!!!ビックリしましてよっ!!!!」

 

提督「あぁぁああすすすすまない!!あまりにも意外過ぎてな…!」

駒門「まぁ私も驚きましたわ。人手不足とはいえ、私に白羽の矢が立つなんて」

 

提督「そうだったのか…。どうだ、そっちは?」

駒門「今のところ順調ですわ。それで本題なのですが……どうやら私と司令官の鎮守府は結構近くにあるらしいんですの…フフッ」

 

まーた、さっきみたいないたずらっ子のような押し殺した笑い声が聞こえる。

 

駒門「そこであなたの艦隊と私の艦隊で合同演習を申し込みますわっ!!!!」



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演習

響「で、対抗演習することになったと」

提督「あぁ」

 

駒門から電話があった翌朝、天龍達を執務室に呼び演習の事を伝えた。

 

提督「日程は一週間後、場所は向こうの鎮守府だ。演習とは言え、気を抜くなよ」

鈴谷「鈴谷達なら楽勝だよっ!……って言いたいとこだけど鈴谷達全員で5人しかいないんだよね」

利根「流石に6人揃えておきたいところじゃのう…」

 

艦隊は最大6人で運用することが出来るのだが現在天龍、利根、鈴谷、暁、響の5人で枠が1つ空いている状態だ。

 

だがそこは抜かりはない。

 

提督「そう、そこで昨晩1人建造しておいた。入ってくれ!」

 

自分の合図と共に暁や響と同じくらいの背丈の少女が入室する。

 

龍驤「龍驤やっ!これからよろしゅうな!!」

 

快活な笑顔を見せて自己紹介する龍驤をまじまじと見ている一同。

うん、多分皆同じことを思っているんだろうなぁ。

 

そしてそれを口にしたのは暁だった。

 

暁「駆逐艦?聞いたことない子ね?」

龍驤「ちゃうわっ!ウチは軽空母やっ!!」

 

暁の言葉に咄嗟にツッコミを入れる龍驤。

その途端外から誰かが走ってくる音が聞こえてくる。

 

あ、やっべ

 

ミーシャ「何やら西の空気を感じたぞっ!」

 

案の定龍驤のツッコミから発せられた関西オーラを察知して、ミーシャが扉を乱暴に開けて入ってきた。

 

なにしてんねん

 

龍驤「うおっ!?なんやねん自分!?」

ミーシャ「通りすがりのただのたこ焼き屋のオバチャンや」

龍驤「アンタみたいなたこ焼き屋のオバチャンがおるかっ!!!止めさしてもらうわっ!」

ミーシャ「どうも、ありがとうございました~~」

 

一通り漫才を終えたミーシャは満足そうに「ほんわかぱっぱ」と口ずさみながら退出していく。

信太山がこの場にいなくてよかった……いたら龍驤を巻き込んでトリオ漫才が始まるところだった。

 

提督「すまん。彼女は関西に思い入れが強くてな、気にしないでくれ」

 

唖然とする天龍や龍驤達にミーシャの寄行に対し軽く謝った後、本題に戻す。

 

提督「さて、今回から龍驤を入れて航空戦も視野に入れた戦術を行う。各員はこれから哨戒任務をこなしつつ演習で連携をとれるようにしてくれ」

 

自分の言葉に皆は敬礼で返し、退出していく。

その後執務をある程度こなした後、残りを一時的にアルマータと大和に引き継がせ艦娘達が出撃するドックへ向かう。

そこには明石と奈良、そしてヒリュウが自分を待っていた。

 

提督「よう、来たぞ」

明石「提督!お忙しい中ありがとうございます!」

提督「いや、今回の実験は俺も気になるからな」

 

明石の提案で行うことになったとある実験。

それは深海悽艦の身体になってしまったヒリュウが艦娘の艤装を扱えるのかというものであった。

 

上手くいけばこのまま戦力の1人として前線に立たせる事も出来るし、ダメであれば現在開発中の憲兵用対深海悽艦装備を持たせて後方支援出来そうだ。

 

自分と明石、奈良の目線の先には空母用の艤装である弓と矢を持ったヒリュウが何時でも出撃出来る状態になっていた。

 

明石「それでは実験を開始します。出撃お願いします!」

ヒリュウ「はいっ!二航戦ヒリュウ、抜錨します!」

 

ヒリュウが体勢を低くすると同時に水飛沫を上げて発艦する。

 

そしてある程度進んだ所で停止し、弓を構え矢をつがえる。

 

ヒリュウ「お願い……翔んでっ!」

 

放たれた矢は見事に航空機へと姿を変え、ヒリュウの頭上を旋回している。

実験は成功といえた。

 

ヒリュウ「やった…!」

明石「おめでとうございますヒリュウさん!」

提督「おめでとう。今の状況的に滅多に前線へ出すことは無いけど、いざと言う時の切り札として頼りにさせてもらうよ」

ヒリュウ「はいっ!よろしくお願いいたします!」

 

実験が成功したおかげか、はたまた艦娘の艤装が使えたおかげか今迄見たことのない満面の笑みを見せるヒリュウ。

 

これからもその可愛らしい笑顔を見せられるように自分も頑張らなきゃな。

 

その後帰還したヒリュウは明石と共に艤装の調整を行うという事で工房へ戻っていった。

 

奈良「そう言えば司令官さん。今更なのですけどなぜ駒門さんが提督の座に就くことが出来たのでしょう?」

提督「ん?」

 

唐突な質問に思わずすっとんきょうな返事をしてしまう。

 

奈良「いえ、彼女の器量を疑っている訳ではなくてですね。提督として艦娘を指揮するのであれば師団長クラスや、もっと言えば特戦群の方等……人材は他にもいたはずでは…?」

 

これに関しては結構前に多少なりとも情報が行ってた筈だが……彼女の事だ、月詠機関で研究に忙しくてそれを知る暇がなかったんだろう。

 

提督「戦場が海に変わっても、本土を守るためにある程度戦力を陸に留まらせる必要があったんだ。マグマ軍との戦争は一応終わってはいるけど一部勢力が残党としてゲリラ活動をしてる。それを抑制する為に各師団長が動き回っているんだ。…一部を除いてね……。それと特戦群は陸軍の最重要戦力の1つとして各師団長だけでなく大和や飯塚達憲兵を纏める立場になっているんだ」

奈良「それで駒門さんが提督に…」

提督「おそらくだが彼女の場合彼女の家柄と、彼女が持つ独自の派閥が要因の1つなんじゃないかと思ってる」

奈良「機甲教導連隊ですね?」

提督「そう。クセの強い彼女達を纏め上げる手腕が買われたんだろうさ」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして約束の1週間後

 

駒門が指揮している鎮守府にヘリで天龍ら第一艦隊と自分、そして運転手として鯖江が同行し無事到着した。

 

……今朝誰が操縦するかで大和やアルマータ達が揉めそうになって一番無難な彼女を選んだのはここだけの話。

 

ヘリから降りると見覚えのあるメイド服を身に付けた3人組がこちらを出迎えてくれていた。

 

「司令官さまっ!お久しぶりです!!」

 

「ようっ!変わってなさそうで何よりだぜ!……っじゃない、ナニヨリデス」

 

「ようこそ、麗香様の鎮守府へ。歓迎するザマス」

 

出迎えてくれたのは機甲教導連隊の3人。

 

大和とはまた違った明るめの金髪と蒼い瞳が綺麗な少女『16式機動戦闘車』

 

紅いポニーテールと眼帯が特徴で少しガサツな少女『74式戦車』

 

藍色の髪とメガネ、そして何よりザマス口調が特徴の女性『90式戦車』

 

提督「久し振りだな!16、74、90」

 

暁「へ?16さん?」

 

暁が16の名前を聞いて首を傾げる。

そうか、皆は武器娘のこの仕様は知らなかったな。

 

 

提督「ちゃんと説明してなかったな。武器娘は使った建造機や所属している部隊によって見た目や性格が大きく変わっているんだ。今俺たちの鎮守府にいる16も『16式機動戦闘車』だが、ここにいる16も機甲教導連隊所属『16式機動戦闘車』なんだ」

 

暁「えぇぇぇぇっ!?」

龍驤「こりゃ、たまげたでぇ…!」

鈴谷「同じ個体…でいいのよね?こんなに違うなんて……」

 

皆珍しそうに16をまじまじと見ている。

一方見られている16は恥ずかしそうにモジモジしていた。

 

90「そろそろよろしいザマスか?麗香様がお待ちザマス」

 

緩い空気を引き締めるように少し冷たく自分達に声を掛ける90式。

駒門第一なのは相変わらずだな。

 

提督「あぁすまん、案内頼む」

 

90式はくるりと踵を返し歩き始める。

自分達は彼女の後をついていくかたちとなり、16は自分達一行の後ろに、74は自分の隣を歩いている。

 

74「全く、久しぶりの再会だってのにあのザマスメガネは……」

 

ザマスメガネこと90に聞こえないように小声で話し掛ける。

74の性格のせいか引率されながらこういうやり取りをしていると学生時代の修学旅行を思い出すなぁ。

 

提督「ま、相変わらずで安心したよ。74もまだメイド修行中だってのも分かったし」

74「う、うっせーよ…!いつもはこうじゃねぇし…」

 

とは言うものの目が泳ぎまくってるぞ…。

 

90「さ、着いたザマス。それと74は"お話"があるのでちょっと来るザマス」

74「ヒエッ」

 

グッバイ74フォーエバー74……

 

引き摺られていく74はさておき、海岸を背に1人の少女と6人の艦娘が控えているのが見える。

 

その姿は紛れも無い『駒門麗香』であった。

 

駒門「ごきげんよう、こうして会えて嬉しいですわ」

提督「久し振り、元気そうで何よりだ」

鯖江「元気だった?」

駒門「静香さん!貴女もいらしてたんですね!!」

 

懐かしの仲間に出会えて思わず盛り上がってしまうが、今日はあいにく同窓会じゃないんだよなぁ。

 

提督「紹介するよ、彼女達が今の俺の部下だ」

 

天龍達が駒門に敬礼し各々自分の名前を言っていく。

 

駒門は彼女達を見て何故かしたり顔だ。

 

駒門「龍驤さんがいる以外この間電話で仰っていた通りの構成ですわね」

 

この間の電話のやり取りの際、まだ戦艦や正規空母が居ないから水雷戦隊で攻略している事を言ったが…まさか……

 

駒門「皆さんこれからよろしくお願いいたしますわ。さて、今度はこちらの番ですわね」

 

駒門の合図と共に後ろに控えていた艦娘達が前に1歩出た。

 

長門「戦艦、長門だ。皆、今日はよろしく頼む」

 

金剛「金剛型1番艦金剛デース!」

 

比叡「同じく金剛型2番艦比叡ですっ!」

 

北上「球磨型3番艦、北上だよ~」

 

木曽「球磨型5番艦、木曽だ」

 

蒼龍「二航戦、空母蒼龍です!よろしくお願いいたします!」

 

おいおいおいおい…!

これ見よがしに戦艦と正規空母を編成してるじゃないか!!!

 

何とか表情に出さないように努めていたが、駒門にはすっかり見抜かれているらしくイヤな笑顔をこちらに向けている。

 

駒門「お相手がどんな編成であれ、こちらも全力で相手をしないと…お相手に失礼……でしたわよね?」

 

その言葉どこかで…………

 

あっ

 

 

昔戦競で『FTC評価部隊』に編成された駒門達を全員SSNO装備で固めたメンバーで……その、ボッコボコにした時に自分が言った言葉だ……。

 

駒門「どうされました?まさか、今さら止めるなんて言いませんわよねぇ?」

 

あーこの笑顔めっちゃ根に持ってらっしゃるぅっぅぅぅぅううううううう!!!!

 

ちくしょー!今更取り下げられないし承けるしかねぇ!!!!

 

提督「…まさか。30分のブリーフィングの後に開始で良いか?」

 

駒門「よろしくてよ。あちらの部屋をブリーフィングに使って構いませんわ。ではまた後程」

 

長門や16式達とその場を後にする駒門を見送った後、自分達も彼女が用意した部屋に入る。

 

鈴谷「よりによって戦艦とかぁ~…」

 

暁「強そうな人達だったわね…」

 

提督「……だが、ある意味良い機会だと思う。実際の戦闘だとこちらが不利の状態なんて当たり前だ」

 

天龍「だな、ウダウダ言ったって始まらねえ…やるしかねぇ…!」

 

自分のフォローと天龍の一言で何とか士気を上げる事には成功したものの……これから彼女達に自分の身から出た錆びの尻拭いをさせる事に申し訳なさを感じてしまう。

 

……やる以上勝たせてやりたいが、どう動かせば戦艦相手に立ち回れる…?考えろ……遊撃要塞相手に6人で立ち向かった時どういう作戦をとった…?…地理的に出撃出来るメンバーに制限があった中、どうやって戦死者を出さずに地域を解放した?……自分が出来る最大限の戦術は…………

 

 

提督「皆……これから俺の言う作戦を聞いてほしい」



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演習 その2

(長門視点)

 

ブリーフィングが終わり、各艦隊は演習場の端で陣形をとる。

演習場は今回の対抗演習用に広く設定しており、両端に位置すると互いの姿が見えない程となっている。

 

麗香提督と向こうの提督、そして90式達は演習場全体を見下ろせる場所へ移り私達の勝負の行方を見届ける事になった。

 

90『これより対抗演習を開始するザマス!各部隊、配置の方はどうザマス?』

 

 

長門「こちら第1艦隊、準備完了」

天龍『こっちもOKだ』

 

審判役となった90式の無線に準備完了の返事をする。

 

90『演習始め!』

 

長門「まずは制空権を頂くとしよう」

蒼龍「了解!艦載機発艦!」

 

開始の合図と同時に艦載機を放ち偵察兼制空権確保に動く。

 

蒼龍「見えました!相手は輪形陣、龍驤ちゃんの艦載機発艦を確認!」

長門「ふむ、妥当な判断だ…ではこちらも進むとしよう」

 

私が低速艦な為一気に間合いを詰める事が出来ないのがもどかしいが、ゆっくりと進んでいく。

 

蒼龍「敵軽巡、駆逐艦の対空砲火、艦戦の抵抗激しく制空権拮抗!…そんな」

長門「どうした!?」

蒼龍「艦載機、艦攻艦爆全機撃墜されました!どうやら龍驤ちゃん艦戦だけ搭載してたみたい!こっちの艦戦の被害甚大、撤退させます!」

金剛「ワオッ!思い切りましたネー!」

長門「だが逆に我々は空からの攻撃を警戒しなくてもいいということだ」

 

艦載機は大きく3つに分かれている。艦を攻撃する艦功、艦爆。そしてそれらを撃ち落とす艦戦だ。

おそらく向こうは空からの攻撃を警戒し、持てる艦載機を全て艦戦にしたようだが……我々を空から攻撃する手段が無いということを意味している。

 

木曾「だとしたら残るは砲撃と雷撃か」

北上「なーんだ楽勝じゃん」

 

そして空戦があった場所に向かっていくと、そこには龍驤が1人だけポツンと立っており、彼女の周辺には艦載機の残骸が辺り一面に浮いていた。

 

どういう事だ…?周りの残骸に足を取られたのか?

だとしたら相当な練度不足ということになるが。

 

北上「えっと…降参かな?」

木曾「罠…かもしれないぞ」

金剛「どういうことネー?」

 

皆が龍驤の行動に注目する。

彼女だけを見てしまい、視野が狭まってしまっている事に気付くのが遅れてしまった。

 

木曾「くっ!」

北上「ちょっとぉ!!」

比叡「っ!?」

 

突如何処からか機銃を撃たれ、木曾は小破、比叡はかすり傷程度に済んだが、北上は魚雷管に命中して爆発、轟沈判定を受けてしまう。

 

北上「まだ何もしてないのにー!」

長門「何処から…まさか!」

 

周りに漂っている艦載機の残骸に目を向けると、そこには瑞雲が数機無傷で浮いているのが確認した。

 

してやられた……艦載機を持てるのは龍驤だけではない。

 

長門「重巡2人の瑞雲か!」

龍驤「あちゃーバレてもうたか。利根!鈴谷!」

 

龍驤が叫ぶと同時に瑞雲が離水。

 

蒼龍「うそ、きゃぁ!」

 

龍驤の合図と共に全ての瑞雲が離水と同時に蒼龍目掛け爆撃。

突然の事で蒼龍も対応出来ず中破判定を受けてしまう。

 

長門「蒼龍!」

金剛「シィット!」

 

さらにその一瞬だった。その一瞬全員の意識が瑞雲と蒼龍に移り、目の前にいる龍驤が対空機銃を構えたのに気遣くのが遅れてしまった。

 

龍驤「空母でも砲を積めるん忘れてたんか?」

木曾「しまっ」

 

全速力で木曾に突撃し、機銃を撃つ。

機銃と言えど至近距離からの攻撃に大破判定を受けてしまう。

 

なんなのだこの戦術は……!?

 

艦隊は普通6人纏まって行動するものだ…!誰かが突出して列から離れるなど自殺行為にも等しい。

 

比叡「っこの!」

龍驤「っ!あっちゃ~…」

 

咄嗟に比叡が迎撃してくれたお陰で、龍驤を轟沈判定にすることが出来た。

 

長門「本隊は、天龍達は何処だ!」

鈴谷「ここだよー!」

 

声がする方向を向くと鈴谷が水飛沫を上げながら突撃してくるのが見える。

だがよく見るとその後ろに鈴谷と水飛沫に紛れ暁、響が見えた。

 

長門「…なるほど。鈴谷は囮、本命は後ろの2人か。金剛!」

金剛「イエース!いっくネー!」

 

突撃してくる鈴谷と、その背後にいる暁達目掛け砲撃を開始する。

 

鈴谷「2人共避けるよ!」

響「了解」

暁「え、ちょ…きゃぁ!」

 

鈴谷と響には避けられるものの暁だけ対応に遅れ、被弾。轟沈判定を受ける。

 

長門「よし!」

 

これで相手の攻撃は未然に防げた…!

 

……ハズであった。

 

隣で大きな水柱が立ち、金剛達を包み込む。

 

金剛「ホワッツ!?」

比叡「っ!!!」

木曾「ぐぁ!」

蒼龍「いやぁ!」

 

金剛は大破、比叡は中破となり、木曾と蒼龍は轟沈判定を受けてしまう。

今の水柱は…雷撃…!?何故だ!?

未然に防いだ筈だ!!!

 

 

長門「……まさかあの突撃をする前からもう魚雷を放っていたのか…!それを悟らせない為にあの水飛沫と…作戦を誤認させる為に背後に駆逐艦を……」

 

くそ…やってくれるじゃないか…!

 

更に間髪入れず後ろの方角から砲撃を受ける。

振り向くと天龍、利根、そして合流した鈴谷と響が向かってくる。

 

天龍「やっぱ戦艦が残っちまったか!」

利根「じゃがまさかこんな戦法を思い付くとはのう。空戦で相手の航空戦力を潰す事だけに専念し散開、その後も色んなところに注意を向け不意を突くとは」

天龍「だがもうそれも通用しそうにねえ…!だったら正面からやってやらぁ!!」

 

どうやら先程迄の奇策が尽きたのか、通常の艦隊行動へ戻っていく天龍達。

 

長門「策が尽きて正面から来るか!まだまだだなぁ!」

 

互いに砲撃戦を開始。

私は中破、金剛と比叡が轟沈判定となってしまうが、天龍・利根は大破判定、響・鈴谷は轟沈判定にまで追い込んだ。

 

天龍「まだまだぁっ!」

利根「数ではまだこちらが有利じゃっ!!」

 

勇ましくこちらに食らい付いてくる2人。

…中々根性があるじゃないか。気に入った…!

 

長門「来いっ!この一撃で終わらせてやる!!」

 

その時鎮守府全体から警報が鳴り響く。

 

深海悽艦が接近している合図であった。

 

(提督視点)

 

90「演習中止ザマス!!!敵が接近中ザマス!!!!」

 

教導連隊のメイド達の動きが慌ただしくなる。

なんということだ…出先の鎮守府で敵が接近中とは。

 

16「確認出来ただけでも相当な数が接近しています!!」

駒門「なんてこと…!長門達を急いで出撃させて!!!」

提督「天龍!俺達も出撃するぞ!急いで準備だ!」

駒門「っ!?司令官さま…!」

提督「この状況で任せっきりは性に合わないのは知っているだろ?」

駒門「ふふ…そうでしたわね。弾薬や燃料はこちらが負担致しますわ!」

提督「ありがとう」

 

その時スマホから着信が入る。こんな時に誰だ…!?

画面を見るとどうやら鎮守府からのようだった。

 

提督「俺だ」

アルマータ『閣下!現在此方に深海悽艦が接近中です!』

 

なん……だと…!?

 

最悪のタイミングだ。

既に天龍達は長門達と共にブリーフィングに向かう所だ……それに今から戻っても迎撃に間に合うかどうか怪しい……。

 

提督「今こっちの鎮守府でも敵の大部隊が接近中だ」

アルマータ『そんなっ!』

提督「天龍達も迎撃に向かうことになったから戻るのは難しい…敵の規模はわかるか?」

アルマータ『今大淀から情報が入りました……戦艦級を旗艦に1部隊規模とのことです!……ちょ!』

明石『提督!聞こえますかっ!?』

 

アルマータから受話器を引ったくったのか一瞬の物音と共に明石の息を切らした声が聞こえた。

 

提督「どうした!?」

明石『つい先程あかりさんやミーシャさん達用の対深海悽艦装備の試作品が出来ました!!』

提督「っ!!!」

 

どうやら今できる最良の選択肢は1つのようだ。

 

明石『提督!』

提督「ナイスタイミングだ明石!戦車砲はどうだ!?」

明石「すみません設計図は出来ているのですが組立てが出来ておらず…」

提督「わかった。とりあえず椿達に装備させて迎撃させてくれ!ただし絶対に無理はするな!!」

明石『はいっ!ではまたアルマータさんに戻します!』

 

アルマータ『話しは聞かせてもらいました。編成が完了次第出撃させます』

提督「頼む。それと指揮も任せられるか?」

アルマータ『ご期待に御応え致します』

 

やれることはこれが全部だろうか……いや、まだ一手残ってる。

 

提督「それと…ヒリュウも出撃だ」



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迎撃

(ミーシャ視点)

 

提督の鎮守府のヘリポート。

深海悽艦接近の報を受け、各ヘリの運転席にいる歩兵、大和、ソーニャがエンジンを起動させる。

各後部席には私、飯塚、主砲を外し銃を持ったベレーザの編成で座っている。

 

大淀『提督からの出撃許可下りました!ヒリュウさんも出撃です!』

 

ヘリの無線から大淀の指示が入る。

ほう、早速彼女も前線行きか。

 

ミーシャ「了解した。おいヒリュウ!貴様も出撃だそうだ!準備しろ!!」

 

無線を切り、弾薬の積み込みの手伝いをしていたヒリュウに叫ぶ。

 

ヒリュウ「っ!わかりました!」

 

ヒリュウが出撃ドッグへ向かったのを見届け、各員に出撃指示を出す。

3人が先に起動準備を終えていた為、すぐにヘリが離陸し、敵がいる海域へ飛んでいく。

 

ヒリュウ「お待たせしました!」

 

離陸から間もなくして、艦娘用の艤装を付けたヒリュウが合流。

偵察と先制攻撃をするため艦載機を放つ。

 

ヒリュウ「イ級、ホ級、ル級の編成ね。艦載機で先制、数を減らします!」

 

ヒリュウの合図と同時に前方で水柱が幾つか上がる。距離はそう遠く無い。

 

そして敵の部隊が視認できる距離になってきた。

 

ミーシャ「見えてきたな…総員射撃準備!」

 

敵艦隊を中心に円を画くように旋回するヘリ。

ヒリュウの攻撃でイ級2体撃沈、ホ級1体が大破している。

 

奈良『試作品の為、何が起こるかわかりません!くれぐれも扱いにはご注意をっ!!』

 

鎮守府に残り、主砲の開発を急いでいる奈良から通信が届く。

急遽支給された対深海悽艦装備は見た目は何処かかつて遊撃要塞の素材を用いて使われていたキメラ装備に似ているが、それなりに大きくかなりの重量がある。その重さのせいでベレーザ以外持ち上げる事が出来ずヘリに直接取り付ける事になり、スーパーコブラに至っては飛ぶことが出来ず今回は待機となった程だ。

…全く、こんなのをぶっつけ本番とはな。

 

ミーシャ「各員構え!……ってぇ!!!!」

 

私の合図で各ヘリから銃撃音が発せられる。

そして放たれた弾丸は見事深海悽艦の身体を貫通、ダメージを与えていく。

 

飯塚「っしゃあ!効いてるぜ!!」

大和「明石さんとあかりに感謝しないとね」

ミーシャ「各員銃に異常は無いか?」

ベレーザ「今のところは問題なしですわ」

 

上空から確実に敵を仕留めていく。

そして残るはあと1体まで追い込んだ。

 

ソーニャ「あとは戦艦級ね!」

ベレーザ「戦艦名乗るだけあってやるじゃない…!」

 

ル級に一斉射撃を行うが、頑丈な艤装で防ぎ合間を縫って砲撃や機銃で応戦している為中々倒せずにいた。

 

ソーニャ「危なっ!」

 

ル級が放った砲撃がソーニャのヘリの横を掠める。

 

ミーシャ「気を付けろ!ヘリの装甲も強化したが軽巡級の砲撃を耐えるのがやっとだ!」

ソーニャ「そんなことわかってるわよ!」

 

大和「どうするの…?あいつ本体に当てなきゃ…!」

飯塚「あいつの顔面に一発かませりゃ良いんだけどよぉ!」

 

上空からの攻撃を上手く避けるル級。

ヒリュウも艦載機で援護するが、練度不足のせいか上手く当てる事が出来ずにいた。

 

ヒリュウ「……ミーシャさん、私でもその銃使えますか?」

ミーシャ「使えんこともないと思うが……何をする気だ?」

ヒリュウ「ル級に接近して至近距離で撃ちます」

 

突撃か…。

 

ヒリュウの提案は確かに打開策としては有効性はあった。だが危険の方が高く下手をすればヒリュウが轟沈、最悪全滅もあり得た。

 

ヒリュウ「こうしてる間にも天龍さん達が…提督が危険です!………お願いです、やらせてください!」

 

その間にもル級の攻撃が続く。

提案を受け入れるしかなかった。

 

ミーシャ「しくじるなよ?」

ヒリュウ「…二航戦の名に懸けて…!」

ミーシャ「歩兵!ヒリュウの真上に来るように合わせろ!」

歩兵「了解しました!」

 

ヒリュウの動きに合わせるようにヘリが動き出す。

ル級も何かを感ずいたのか我々を攻撃しようとする。

 

しかし、飯塚とベレーザの援護射撃によって防がれる。

 

飯塚「おらおら突っ立ってんじゃねーぞゴルァ!!」

ベレーザ「じゃないとその頭撃ち抜くわよ?」

 

残りのヘリがル級の左右に分かれ援護してくれる。

更にヒリュウの艦載機の攻撃が加わりヒリュウ達への注意が逸れた。

 

ミーシャ「受けとれ!」

ヒリュウ「っ!重いっ…!けどっ!!」

 

後部席から銃を落とし、ヒリュウはバランスを崩しかけるものの見事キャッチ。

ル級目掛け突撃していく。

 

ル級「!?」

 

迫ってくるヒリュウを見て、咄嗟に艤装を前に出してガードするが、その瞬間左右から艦載機の攻撃を受ける。

 

ル級「ッギャア!」

 

痛みで思わずガードを解き、苦悶の表情を浮かべる。

 

ヒリュウ「そこぉっ!」

 

その隙を突いてル級の喉に銃を突き立て引き金を引いた。

弾丸は見事ル級の喉を貫通。その威力で数秒宙に浮き、着水。そのまま沈んでいった。

ヒリュウは沈んだ場所を見て、放心している。

 

ヒリュウ「はぁ…はぁ………やった…?」

 

大淀『敵艦隊全滅を確認しました!』

ヒリュウ「……ハッ!天龍さん達は!?」

大淀『未だ戦闘中とのことです!』

アルマータ『今閣下から正式に許可が下りたわ。各員はそのまま進軍、天龍達と合流しなさい』

ヒリュウ「了解しました!……ん?」

 

アルマータの通信を聞いて進軍しようとするが、ヒリュウが目の前に何かが浮かび上がって来るのを見て立ち止まる。

 

ヒリュウ「ミーシャさん!」

ミーシャ「…これは」

 

浮かんできたのは黒髪の女性……艦娘だった。

 

ミーシャ「これが噂のドロップ艦現象か…さっき戦艦級だった者か…」

ヒリュウ「どうします…?このまま放置という訳にも…」

ミーシャ「私が保護し、鎮守府に送り届けよう。その後合流する。皆もいいか?」

 

私の提案に同意し、一行はドロップした艦娘を任せて進軍をはじめる。

 

そして私は戦艦級だったと思わしき艦娘とヒリュウに渡していた銃を後部座席に乗せ、鎮守府へ向かった。

 



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連合艦隊、抜錨

約2時間前 駒門管轄鎮守府

 

駒門「恐らく敵は先日南西諸島を攻撃した仕返しをしに来たのでしょう。貴女達を巻き込んで申し訳ないのですけれど長門達と連合艦隊を結成、これを殲滅してもらいますわ」

提督「天龍達は前衛として敵戦力を減らしてほしい。はじめての連合艦隊で慣れないと思うが気を引き締めていけ!」

 

天龍「へっ!上等じゃねえか!」

長門「頼もしいな。よろしく頼むぞ」

天龍「おうよ!天龍、第一艦隊!出るぞ!!」

長門「第1艦隊、抜錨!」

 

連合艦隊を組んで出撃した一行。

 

 

駒門「…まさかここでもあの戦い方をするとは思いませんでしたわ」

提督「あぁ、向こうでも基本6人編成だったろ?だからやってみたんだが…負けたよ、お前の部隊は強いな。流石だ」

駒門「当然ですわ!誰かさんの指揮で生き抜いた女が提督をしているのですから!」

提督「…強くなったな、麗香…。それと、戦競の事まさか未だに根に持ってるとは思わなかったぞ……」

駒門「当然ですわよもう!!…でも、もう良いですわよ…。意趣返し出来た事ですし許してあげますわ!」

 

16「蒼龍さんと龍驤ちゃんが確認したところ、駆逐級20、軽巡級13、重巡級8、戦艦級4!!!」

提督「中々の大部隊だな…!」

駒門「空母級がいないのが救いですわね」

 

その時提督のスマホに着信が入る。

画面を見ると自身の鎮守府からだった。

 

提督「俺だ」

アルマータ『閣下、こちらの海域に接近してきた敵は殲滅完了致しました。この後彼女達も其方に合流させようと思うのですがいかがでしょう?』

提督「…ん。わかった許可する」

アルマータ『かしこまりました。では』

 

現在 戦闘海域にて(天龍視点)

 

 

提督『状況は!?』

龍驤「敵戦力駆逐級5、軽巡級9、重巡級3、戦艦級4や!」

利根「じゃが皆最低でも小破しておる…それに比べ、向こうの戦艦級は無傷ときた…」

 

駆逐級の雑魚は減らしていけているものの、敵の物量はもちろん、重巡級と戦艦級の強さにオレ達は苦戦を強いられていた。

 

天龍「くっそ、雑魚が多くて本命にいけねえ…!」

長門「数を減らすことの集中するんだ!」

 

んなこたぁわかってる…!けどこのままじゃジリ貧じゃねえか!

 

金剛「だけど、あの戦艦級その隙を上手く突いてくるネー」

北上「木曾や暁ちゃん達と雷撃してもまだ居るんだもん…ウザすぎ…」

 

その時何処からかヘリのローター音が聞こえてくる。

そして同時にノイズ混じりの無線が聞こえてきた。

 

大和「聞こえる?こちら横須賀鎮守府所属憲兵、大和。今から援護するわ」

長門「憲兵だと?」

 

音が聞こえてくる方向を見るとヘリが2機向かってきている。

……ちょっとまて……なんで捕獲した空母を引き連れていやがる!!!!????

 

金剛「なんで空母級を引き連れてるネー!?」

提督『その空母級は味方だ。繰り返す、彼女は味方だ』

天龍「あの野郎……」

鈴谷「まさか実戦に出すとはねぇ~…」

 

この戦いが終わったらマジで問いたださねえと納得出来ねえ…!

 

動揺する長門達をよそに、アイツは艦載機を放ち、椿やベレーザも援護射撃を行っていく。

 

ってか何で空母用の弓と矢が使えてんだよ。

 

木曾「おいおい…憲兵の銃撃が効いてるぞ…!?」

比叡「しかも空母級が空母の弓を使って………何なんですかぁ!?」

長門「だが、奴らも動揺して乱れているぞ…チャンスだ!」

 

深海悽艦内でも艦娘じゃない只の人間の銃撃が効くとは思っていなかったのか、その攻撃で轟沈していく駆逐級と軽巡級を見て陣形が乱れはじめる。

 

長門「これより敵重巡級、及び戦艦級に突撃する!私に続け!!」

 

穴が空いた陣に突撃する長門達。

残った駆逐級や軽巡はそれを阻止しようとするが、そうはさせねぇ!

 

天龍「テメーらの相手はオレ達だ!」

 

(長門視点)

 

 

長門「ようやくお前達と殴り合えるな…」

 

予想外な援軍が来て少々戸惑ったが、お陰で敵主力と対峙することができた。

そんな中例の憲兵から通信が入る。

 

ベレーザ「援護しますわ」

長門「いや、その必要はない」

 

主砲を戦艦級の1人に向ける。

 

長門「戦艦同士の殺り合いなら、得意なのでな」

 

轟音と共に艤装から砲弾が放たれる。

そして砲弾は戦艦級に直撃、跡形も無く消し飛ばした。

 

飯塚「はは…マジかよ…あたいら束になってやっと勝てた奴を一撃かよ…」

ソーニャ「感心するのは後っ!来るわよっ!」

 

砲弾がヘリの装甲を掠める。

海上を見ると重巡級2体、対空射撃を行っていた。

 

蒼龍「やらせない!」

 

艦載機を放って、ヘリの護衛に入る蒼龍。

味方…?の空母級もそれに続く。

 

ヒリュウ「私も手伝うわ!」

蒼龍「え?あ、ありがとう…?」

 

一方木曾と北上はもう1体の重巡級の相手をしていた。

だが木曾は北上を庇って大破してしまう。

 

北上「木曾!」

木曾「問題ない!まだ撃てる!」

 

重巡級は弱っている木曾を集中的に攻撃していく。

 

北上「にゃーろー…流石にこの北上様も怒ったよぉ…?」

 

単装砲を撃ち、左右に動きながら一定の速度で接近していく。

重巡級はその動きに対応して、予測射撃を行う。

しかし

 

北上「あらよっと」

 

砲撃を避け今度は一気に加速。重巡級に突っ込んでいく。

重巡級は艤装を前面に向け、砲撃する。

だが北上は今度は滑り込むような動きで、重巡級の左に回り込む。

 

…この動き方、まさか

 

北上「へへーん…ビビった?」

 

更に振り向いた重巡級の頭部に一撃、砲撃を与える。

単装砲で威力が低めだった為か、相手は流血程度のダメージの様だ。

血を拭い、怒りを露にしながら北上を探す重巡級を、また距離を空けた所でこちらを見ていた。

 

北上「さっきの演習で面白い戦術見て試してみたけど…」

 

彼女を見つけ艤装を構える重巡級。だが足元で何かが光ったことに気付き、視線を下げる。

そこには北上の魚雷が数㎝先まで迫っていた。

 

北上「相手の注意を色んなところにやって最後にズドン。いや~こりゃぁ良いね~」

 

魚雷で爆散する重巡級を見ながらニヒヒと笑う北上。

 

面白いことをするじゃないか。

そこに木曾が駆け寄る。

 

木曾「やるじゃないか姉さん!」

北上「どうだい?これがスーパー北上さんの実力よ!」

木曾「オレも改二になったらやってみるよ!さて、蒼龍達の援護に行こう!」

北上「そうだね!いっちょやりますか~」

 




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連合艦隊、戦闘

(ヒリュウ視点)

 

蒼龍と雪子さん&椿ちゃんは重巡ネ級と戦闘を開始したものの、蒼龍は中破。またソーニャのヘリも被弾し撤退を余儀なくされていました。

 

蒼龍「なんでよりによって飛行甲板に被弾なのよ…!」

 

蒼龍をやらせる訳にはいかない…!所属する鎮守府は違うし私はこんな身体になっちゃったけど……同じ二航戦だから!!

 

ヒリュウ「蒼龍下がって!」

飯塚「テメーの相手はアタイだぁっ!」

 

追撃してくるネ級に応戦する私と椿ちゃんだけど対空射撃で残った艦載機は全滅、ヘリも被弾してしまう。

 

ヒリュウ「そんなっ!」

大和「流石にヘリの機動力じゃ限界があるわね…!」

 

ネ級は煙を上げ、不安定な飛行をするヘリに照準を定める。

それを阻止する為に北上さん、木曾さんが合流してくれる。

 

北上「させないっての!」

 

残っていた魚雷全てを発射するけど、命中したのはそのうちの2,3本で撃沈には至らなかった。

攻撃を食らったネ級は目標を北上さんに変え、砲撃を開始する。

 

北上「やば…ぐぅっ!」

 

まともに直撃はしなかったものの中破してしまう。

 

どうしよう…艦載機がなきゃ何も…!

 

その時、ふと隣にいる蒼龍を見た。

その矢筒にはまだ矢が……艦載機があった。

 

ヒリュウ「蒼龍、艦載機を貸して」

蒼龍「はぁ!?」

ヒリュウ「私が貴女の代わりに江草隊を出すわ。だから」

蒼龍「ふざけないで!!」

ヒリュウ「っ!!!」

 

私の提案に激昂する蒼龍。

その顔には嫌悪感がこれでもかと発せられている……。

 

提督があれだからたまに忘れてしまうけど、私は深海悽艦なんだ……拒絶されるのは当然ね……。

 

蒼龍「江草隊は私の大事な艦載機よっ!それをあんたに…深海悽艦になんか死んでも貸すもんですか!!!」

ヒリュウ「…蒼……龍…」

 

蒼龍の反応は当然…当然だ。

……だけど…彼女の想像以上に強い怒りと拒絶に動きを止めてしまった。

 

大和「避けなさい!」

ヒリュウ「っ!」

 

その隙を突かれ砲撃を受け、大破してしまい艦載機の発着が不能になってしまった。

更に最悪な事にヘリの燃料漏れが発覚、撤退せざるを得なくなってしまった。

 

大和「無様ね…撤退よ…!」

飯塚「ちくしょう…!覚えてやがれよっ!!!」

 

北上「…これってピンチじゃない?」

 

航空援護が無くなり、残る対抗手段は北上さん、木曾さんの持つ単装砲のみ。

二人の頬に冷や汗が伝っている。

 

その時だった。

 

ミーシャ「すまない。待たせたな」

ヒリュウ「…ミーシャさん…!」

 

ミーシャさんが乗っているヘリが駆け付けてくれた。

 

北上「あー、そこのマグマ憲兵さん?」

ミーシャ「ぬ?私か?」

北上「私らの火力じゃこいつを倒しきれないんだけど…なーんか手はない?」

ミーシャ「ほう…本当に良いタイミングだったな」

 

北上さんの質問に思わずにやけるミーシャ。

何か打開策があるのかしら?

 

ミーシャ「早速出番だ。16」

16「……」

 

16ちゃんが後部席から身を乗り出して構えたのは、戦車砲だった。

だけど彼女が普段装備している戦車砲ではなく何処と無く深海悽艦が持つ主砲に似ている。

 

……まさか対深海悽艦用の戦車砲が完成したの…!?

 

ミーシャ「明石と奈良が急ピッチで組み立てた砲だ。外すなよ?」

16「シレイノテキシレイノテキシレイノテキシレイノテキシレイノテキシレイノテキシレイノテキ…」

ミーシャ「やれやれ……」

 

あ、16ちゃんの脳内が提督のことでいっぱいになってるわね。

…いつもの事だけど。

 

ミーシャ「普段はただめんど……厄介だが戦闘中にこうなると頼もしいものだぞ」

 

今面倒って言いかけましたね……。

だけど、確かに彼女が発する威圧感は凄まじく、彼女と戦車砲を見て身の危険を感じたネ級が主砲を構える。

 

だがそこへ北上さんと木曾さんが単装砲で妨害してくれた。

 

北上「へいへーい」

木曾「よそ見するんじゃないぞ!」

 

2人の妨害で意識がヘリから逸れる。

そして狙いを定めた16ちゃんが冷たい目でネ級を見下ろしていた。……うわこっわ。

 

16「司令の邪魔をする奴は……私が消す…!」

 

16ちゃんが放った砲弾が見事ネ級に命中、海中に引き摺られるように沈んでいった。

 

16「あ゛っづい゛!!!」

ミーシャ「ぬ、やはり試作品ではこうなってしまうか」

 

戦車砲に欠陥があったのか、排熱が上手くいかず砲内に溜まった熱が16ちゃんを焼き始めていました。

砲身の熱に耐えられず、慌てて投げ捨てるように外す16ちゃん。

 

16「ヒィィ……し、しし司令官にふ、フーフーしてもらわなきゃぁ~…し、司令の息で……フヘヘヘ…」

 

うわこっわ……

 

彼女から目を背けるように辺りを見回して戦況を確認する。

残る敵は長門さんや金剛さん達が相手をしている戦艦と……天龍さんが戦っている軽巡級だけだった。



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発覚

(金剛視点)

 

ワタシと比叡、そして長門は戦艦級1体を撃沈。残り2体と対峙していまシタ。

ケド、比叡は中破。ワタシと長門も小破してしまっていまシタ!少しピンチデース!

 

長門「2人は向こうを。私はあれをやる」

金剛「OKデース!」

比叡「気合、入れて、行きます!」

 

二手に別れ、2体の戦艦級を分断するように動く。

 

金剛「比叡、いっくヨー!?」

比叡「はい!お姉様!!」

 

ワタシと比叡は副砲で牽制しながら高速で接近。

戦艦級も応戦しますが2人の速さに追い付いていないようデス!

 

金剛「ファイヤー!」

戦艦「ッ!」

 

戦艦級はワタシの攻撃を間一髪で後ろに避け、先程までカノジョがいた場所に大きな水柱が立つ。

シカァーシ!その水柱を突き破るように比叡が突撃、戦艦級の至近距離で主砲を放った!

 

比叡「ってぇー!」

 

咄嗟に艤装でガードし致命傷を避けたようデスガ、衝撃で宙を待ってしまいマス。

 

これはまさしくチャンス到来デース!

 

比叡「お姉様今です!」

金剛「バーニング…」

 

宙に浮いている戦艦級に狙いを定め、そして

 

金剛「ラァブッ!!」

 

砲撃!!!!

 

宙に浮き、更に比叡の攻撃で艤装を損傷してしまった戦艦級に防ぐ術は無く直撃!!

炎の塊となって着水、そして沈んでいきまシタ!イェース!

 

一方長門は戦艦級と一進一退の攻防をしていまシタ。

お互いに至近距離での撃ち合い……なかなかハードな光景デース…!

 

 

長門「なかなかやるな……だがっ!」

 

戦艦級は間合いを取ろうと一歩後ろに下がると、長門はその隙を見逃すまいと一歩踏み出しその勢いで殴り付けマス!

まさかのインファイト!

 

長門「もう一発っ!!」

 

更に続けて殴り飛ばす長門!

 

余程威力が凄まじいのか殴られた勢いで戦艦級が水面に転がりマス!

 

 

長門「さて、流石に遊んでいられんのでな」

 

起き上がれずにいる戦艦級に静かに狙いを定め、主砲を発射する!

 

流石ビッグセブン!頼りになりマース!

 

長門「麗香提督に……私達と事を構えたことを、あの世で後悔するんだな」

 

戦艦級だった僅かな残骸にそう言い捨てると、状況を確認する長門。

 

長門(残るは天龍が相手をしている軽巡級のみか)

 

(ヒリュウ視点)

 

長門さん達が戦艦を倒してくれたことにより、残るは軽巡ホ級のみとなったのですが……なんだか様子が変でした。

 

天龍「このっ!さっきからちょこまか避けやがって!!」

 

なかなか攻撃が当たらずイライラしながら砲撃を繰り返す天龍さんですがホ級はそれを避け、間合いを空け続ける。

そして妙な事に、天龍さんにだけ攻撃をしていなかった。

 

利根「何なのだあの軽巡級は…?吾輩や龍驤達を大破にまで追い込んでおきながら、何故天龍にだけ攻撃しない?」

 

一方的に攻撃する天龍さんとそれを避け続けるホ級。

その様子を私は少し離れた所で見ていました。

 

ヒリュウ「…あのホ級…何か変…」

 

ホ級の行動に異変を感じていたその時、風向きが変わり天龍さんの声がより鮮明に聞こえるようになってきた。

 

天龍「埒が明かねえ…だったら!」

 

刀を構え、ホ級目掛け突撃する天龍さん。

その時、水飛沫の音に混じって何かが聞こえてきた。

 

テ……ン……

 

ヒリュウ「え……?」

 

明らかに異質な小さな音。

天龍さんとホ級の場所に集中して耳を傾ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒリュウ「っ!!!!」

 

 

知ってしまった……私だけが…それに気付いてしまった…………。

 

ヒリュウ「だめえええええええええ!!!!!」

 

天龍さんを止めようと走り出す。

だけど天龍さんはそれに気付き、私の足元を砲撃する。

 

ヒリュウ「っ!!」

天龍「邪魔すんじゃねえ!沈めるぞ!!」

 

攻撃が当たらない苛立ちと、私に邪魔されそうになった苛立ちで完全に頭に血が昇ってる…!

 

ヒリュウ「ダメっ!天龍さん!!」

天龍「くたばれええええええええええええええ!!!!」

 

天龍さんの叫びと共に刀が、ホ級の頭部に深々と突き刺さってしまった。

 

ヒリュウ「っ!!!」

天龍「はぁ、はぁ、ざまあ……み…」

 

勝利を確信して、冷静さを取り戻しはじめた天龍さん。

そして、ホ級から発せられているそれを…彼女も聞いてしまった。

 

『テン……リュ………ン』

 

天龍「え…?」

 

エコーが掛かったその声を聞いて、天龍さんの顔が真っ青になっていくのがわかる。

そして頭部に付いている艤装が割れ、ホ級が……ホ級の素顔が露になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍「龍……田…?」

 

 

 

 

 

 

 

『テン……リュウ……チャ…ン……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ白な腕を伸ばし、天龍さんの頬を撫でようとしたそれは、天龍さんの頬に触れる直前に力尽き、ゆっくりと沈んでいった……。

頭部に突き刺された刀を残して。

 

90『深海悽艦全滅を確認したザマス!よくやったザマス!!』

 

無線から向こうの鎮守府の方の声が響いてくる。

しかしそれを見た艦娘達は、無線に答える事無くただ茫然と立ち尽くしていた。

 



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意志

(提督視点)

 

翌朝、鎮守府。

清々しい朝に反して食堂内には、重い空気が流れていた。

 

提督「…おはよう。天龍は…?」

 

いつも騒がしい天龍の席が空いており、それがより一掃食堂内の空気が重苦しいものになっているのを感じた。

 

利根「何度呼び掛けても部屋から出て来ぬのじゃ…」

提督「…やはりか……」

 

 

あの後、全てを話した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

時間を巻き戻し、前日戦闘後。

帰港した天龍は自分に刀を向けた。

切っ先をガタガタと揺らしながら、どうしようもない怒りと哀しみが混ざったような目で、こちらを睨んでいた。

 

また鈴谷、利根も天龍程ではないがこちらを睨み、暁と響は不安そうに見つめている。

 

そしてその周りには麗香達をはじめ長門、ヒリュウ達がいる。

 

天龍「提督……深海悽艦って何なんだよ……?」

提督「……」

天龍「なんで…龍田が……深海悽艦になってんだよぉおおおおおおおお!!!」

 

日が傾き、紅く染まる空に天龍の叫びが響きわたる。

 

龍田……確か天龍型二番艦だったか……。

…………そうか……この子は妹を……。

 

提督「…そうだな……知る限りの事を、話すよ」

 

奈良と明石がヲ級の艤装を解剖して『艤装が寄生生物』の類いということが判明したこと。

艤装が艦娘に何らかの方法で寄生することによって人型深海悽艦になるということ。

そしてヲ級として捕獲した彼女は元艦娘、正規空母飛龍だということ。

 

その場にいる全員にしっかりと説明していく。

天龍をはじめ、皆信じられないといった表情になっていく。

 

天龍「なんだよ……それ…なんで分かった時点で言ってくれなかったんだよっ!!言ってくれたら」

提督「言っても信じたか……!?それに分かったとしてその後の戦闘で、その砲を!刀を!奴等に向けられたか!?お前達の姉、妹かもしれない人型深海悽艦をっ!お前は知ってて沈められるかっ!!??」

天龍「っ!」

 

思わず感情的になり、大声を出して反論してしまった……。

自分の言葉に反論する術が無く、膝から崩れ落ち俯いてしまう天龍。

目元はわからないが悔しそうに歯を食いしばり、涙をながしているのがわかる。

 

鈴谷「…熊野…」

利根「……筑摩」

北上「大井っちや球磨姉かもしれないやつを……」

木曾「沈める…」

暁「うっ……いや……いやぁっ!」

 

鈴谷や利根をはじめ姉妹艦を持つ何人かの艦娘も同様の反応を見せる。

 

 

 

金剛「そ、そんなのウソに決まってるデース……!」

ヒリュウ「いいえ、金剛さん…。残念だけど…私が、深海悽艦になってしまった私がここにいる事が…何よりの証拠です……」

金剛「……」

 

 

気丈に振る舞おうとした金剛もヒリュウの言葉に砕け、へたりこんでしまう。

 

蒼龍「そんな…飛龍……なの……!?」

 

口元を抑え、信じられないといった……いや、絶望した表情でヒリュウを見る蒼龍。

 

ヒリュウも申し訳なさそうに彼女から目を逸らす。

 

ヒリュウ「ごめん、蒼龍…」

蒼龍「いや……いやっ!!」

 

その場から逃げるように去っていく蒼龍。

ヒリュウはそんな彼女を黙って見ている事しか出来なかった。

 

その後の事は正直思い出したくもない…。

葬式のような沈んだ空気で麗香と事後処理を行い、鯖江と一緒にへたりこんだまま動かない天龍をヘリに押し込んで鎮守府へ帰投。

録に日程確認も出来ないまま夜が明け、今に到る。

 

そして現在、鎮守府食堂にて。

 

言いたくはないが…昨日真実を打ち明けた以上、改めて彼女達に戦う意思を問う必要がある。

 

提督「皆…辛いと思うが、答えてくれ。これからも深海悽艦と戦う覚悟があるか?」

 

静かに、ハッキリと問いかける。

問いかけてから数秒で手が挙がる。

 

提督「龍驤…」

龍驤「うちは戦うで。まぁ、姉妹艦がいないってのもあるけど、そもそも深海悽艦と戦うのがうちら艦娘の使命でもあるわけやし」

提督「ありがとう…」

 

正直悩んですぐに答えが出ないだろうと思っていたから、真っ先に龍驤が戦う意思を見せてくれた事がありがたい。

 

 

 

また何処からか手が挙がる。

 

提督「鈴谷…?」

 

震えた手を挙げ、少し怯えた様子の鈴谷。

 

 

鈴谷「ゴメン…提督……。今は、戦う覚悟が無いや……ちょっち、考えさせて……」

提督「構わないさ。覚悟が出来ないのも分かるし、覚悟が無い娘を無理矢理戦場に出す気も無いよ」

 

鈴谷も姉妹艦を複数人持っている娘だ。躊躇ってしまうのも無理はない。

 

暁「司令官……」

提督「ん?」

暁「暁も…雷と電の事を考えちゃうと…」

提督「分かった」

 

今にも泣きそうな暁を撫でる。

 

わかってはいたが…ここで彼女達が離脱するのは戦力的に大きな痛手だ…。

 

響「私は…戦うよ。司令官」

提督「響…」

響「怖くないって言ったら嘘だけど…。これ以上誰かが傷付くのは見たくない」

利根「そうじゃな…。吾輩も覚悟を決めたぞ、提督よ」

 

覚悟を決めた強い眼差しでこちらを見る響と、彼女の決意に感化され、覚悟を決めた利根。助かる。

 

提督「ありがとう、2人共」

 

更にヒリュウが手を挙げた。

 

ヒリュウ「私も艦隊に入れてください」

提督「俺は構わんが、どうだ?皆?」

 

大丈夫だと思うが昨日の件もあり、3人の反応を伺う。

 

龍驤「うちはええで!」

響「もう敵では無いんだ。構わないさ」

利根「戦力は多い方が良いからな。頼むぞヒリュウ」

ヒリュウ「…はい!」

 

ヒリュウを受け入れる利根達を見て内心ホッとしたと同時に、こんな状況じゃ無かったらと思わず悔やんでしまう。

 

……悔やんでばかりじゃダメだ。自分が皆を引っ張っていかなければ…!

 

提督「……よし。この後建造もして、昨日ミーシャが保護した艦娘がいるから彼女を加えて、利根を旗艦とした艦隊で運営していく予定だ」

ヒリュウ「そういえばその保護した艦娘は?」

提督「まだ目覚めていないから、紹介は後になるな。あと暁と鈴谷は鎮守府内の業務を手伝ってもらう。いいな?」

暁「うん」

鈴谷「それくらいはね?」

 

そして今日の日程を改めて伝えて解散、その後執務室へ戻り、電話をかけた。

 

提督「俺だ」

74『よう、昨日は散々だったな…』

 

電話の相手は教導連隊の74式。

最初は麗香に電話を掛けてみたのだが、忙しいのか掛からなかった為電話に出られそうな彼女に掛けて今に至る。

昨日の件もあり、どことなく真剣な様子が声から感じられた。

 

提督「麗香達はどうしてる?」

74「今は結構忙しそうだが…安心しろ、特に変わらねえよ」

提督「すまなかった……君達にもあの話を聞かせてしまって…」

74『……あんなの……責める気にはなれねえよ』

 

ハァ…と受話器から74式の溜め息が聞こえる。

気を遣わせてしまってるなと、少し自己嫌悪に陥ってしまう。

 

提督「艦隊の様子は?」

74『長門と蒼龍が参っちまった。今金剛が必死に皆を引っ張ろうとしてる』

提督「…すまない」

74『…謝んじゃねえ……』

提督「すまない…」

74『だから謝んな…!こっちには16やザマスメガネがついてるし、こっちでも奴等についてデータを集めて浄化剤が出来ないか研究してみる。だから……あんたもそんな情けない声出すんじゃねえよ…』

提督「……あぁ、ありがとう…!」

74『それでいい。それじゃ、また何かあったら連絡する』

提督「わかった。こっちでも研究を続けるよ」

74『おう、じゃあな!そろそろ戻らねえとメガネにドやされちまうからな!』

 

 

まさか、あいつに元気付けられるなんてな…。

 

そんな感傷に浸っていると扉がノックされ鈴谷が入ってきた。

 

鈴谷「保護した娘、目が覚めたから連れてきたよ」

提督「ありがとう。入ってくれ」

 

「失礼いたします」

 

提督「ここの鎮守府を任されている提督だ。よろしく頼む」

 

こちらの挨拶に対し、長い黒髪が美しい彼女は礼儀正しくお辞儀をしてから自己紹介をはじめた。

 

扶桑「扶桑型航空戦艦、姉の扶桑です。よろしくお願いいたします」

 

姉、という単語に思わず眉が動いてしまう。

 

提督「扶桑、姉ということは妹が?」

扶桑「ええ、山城という妹が。えっと…なにか?」

提督「……聞いてくれ」

 

扶桑に深海悽艦について一通り説明していく。

そして、扶桑も先日襲い掛かってきた戦艦級であった事も。

 

 

 

扶桑「そんなっ…!」

 

 

こちらの話に驚く扶桑。

そして今朝の問いを、彼女にもぶつける。

 

提督「扶桑……この事実を聞いた上でも、戦えるかい?」

扶桑「……」

 

目を閉じ数秒考えた後、静かに深呼吸する扶桑。そして

 

扶桑「はい。例え出会った敵が山城であったとしても、戦います」

 

提督「…ありがとう」

 

しっかりとこちらの目を見て、ハッキリと答える。

その瞳から確かな決意を感じられた。

 

提督「じゃあ鈴谷、彼女の案内役頼めるかな?」

鈴谷「え…?あぁ任せて!扶桑さん、行こ?」

 

ボーッとしていたのか突然仕事を降られてハッとなる鈴谷。

 

そして鈴谷と扶桑は自分に挨拶した後、執務室を後にしていった。

 

(鈴谷視点)

 

執務室でのやり取りが、鈴谷にはどうも気に食わない部分があった。

扶桑さんの言っている事は別に間違っているわけじゃないんだけど……鈴谷達がこんなに迷っているのに、あそこで即決められた事が妙に腹が立った。

 

鈴谷「ねえ」

扶桑「はい?」

 

廊下を歩きながら声を掛ける。だが顔は廊下の先に向けたままだ。

 

鈴谷「なんであんなに即決出来たの?」

 

自分でもビックリするくらい、トゲがある言い方をしてしまった。

扶桑はそれを感じ、思わず黙ってしまう。

 

鈴谷「答えてよ…?それとも口任せだった感じ?」

 

段々言葉に怒りが篭っていってしまう。けど彼女に対する苛立ちが止められなかった。

 

そして終いには立ち止まって彼女を睨む。

 

鈴谷「それとも実感が無いの?そりゃそーよね?扶桑さん、"艦娘としての"実戦経験まだ無いもんね?…ねえ…黙ってないで答えてよ?」

 

 

捲し立てるように次々と言葉が出てしまう。

 

 

扶桑「…私は、深海悽艦になってしまった艦娘の不幸を無くしたい。そう思ったから決意したのよ」

 

怒りを隠さない鈴谷に静かに言い放つ。

 

鈴谷「…沈めて楽にしてあげるって事…?」

 

そんなの言うのは簡単だけど、実際に出来る訳ないじゃん。

 

扶桑「寄生されて意思を、自由を奪われて苦しんでいるなら…それは艦娘としてこれ以上の不幸はないと思うの…。だからこれ以上不幸にならないように楽にしてあげる事が、深海悽艦だった私の使命だと感じたわ」

鈴谷「…」

 

何も言い返せなかった。

それでも何とか反論しようと口を開けるが、何の言葉も出てこなかった。

 

扶桑「そして沈めて、彼女達の無念と不幸を背負って戦い続ける。それが私の戦う意思よ」

鈴谷「でも……助けられるかもしれないじゃん…………沈めちゃったら…もう、終わりなんだよ……?ヒリュウも扶桑さんも助けられたじゃん…!なんとかなるはずだよ…!」

 

もう反論じゃなく願いに近いものだった。

けど扶桑さんは容赦無く現実をぶつけてくる。

 

扶桑「皆さんは今日迄何体の人型深海悽艦と戦ってきたか、わかりますか?」

鈴谷「……そんなの知らないよ…!」

扶桑「では質問を変えましょう…。私のように艦娘として戻ってきた娘は居ますか?」

鈴谷「……」

 

答えられなかった。

 

これまで数えてはいないけど結構な数を倒してきたことは覚えてる。

 

けど、その中で扶桑さんのようなケースは今迄無かった。

 

扶桑「助けられるかもなんて、甘い事は言ってられないのよ…」

鈴谷「でも、でも…」

扶桑「そこで躊躇ったら…姉妹艦を更に苦しめる事になる。私は、そう思うわ…」

 

その言葉に、鈴谷は反論出来なかった。

 

ただ俯いて、受け止めるしか出来なかった。



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外伝 油断

前話から数日後のお話


とある海域にて。

穏やかな海を駆け抜ける艦隊の姿があった。

 

駒門麗香が指揮する鎮守府所属、金剛改二を旗艦とし、比叡改二・那智・木曾改二・北上改二・加賀で構成された主力艦隊だ。

 

 

金剛「こちら第1艦隊!現在順調に進軍中デース!!」

 

無線で駒門に状況を報せる。

辺りを見回すが敵影の姿は今のところ確認出来ない。

 

駒門『奥で陣形を固めて待ち伏せてるかも知れませんわ。艦載機や電探を逐一チェックしてくださいまし』

金剛「了解デース!ヘイ加賀ー!!」

 

隊列最後尾にいる空母、加賀に声を掛ける。

一航戦、加賀。戦線離脱した蒼龍の穴を埋めるべく建造された空母だ。

 

加賀「任せて」

 

弓を構え、艦載機を飛ばす。

それから間もなく艦載機から情報が送られてくる。

 

加賀「いたわ。戦艦級1、軽巡級2、駆逐級2、軽空母級1」

那智「ふむ、戦力的にはこちらに分があると見るか」

 

妙高型重巡洋艦、那智。彼女も戦力増強の為に加賀と同時期に建造された艦娘である。

 

 

金剛「敵艦隊発見!皆サーン、行きますヨー!!」

 

戦闘体勢に入り、主砲をまだ遠くにいる敵艦隊に向けながら接近していく。

加賀も改めて攻撃隊を発進させ、制空権確保に動く。

 

加賀「敵もこちらに気付いたわ。けど、制空権はもうこっちのものよ」

 

深海悽艦がいる場所に水柱が幾つか立っているのが見える。

その中に軽空母級が沈んでいく姿も発見した。

 

金剛「戦艦級は私と比叡が相手しマース!」

北上「じゃ、私達は残り物を片付けますか~。木曾~」

木曾「任せろ!」

 

艦載機の攻撃で陣形が乱れている軽巡級と駆逐級に砲撃で牽制しつつ、北上と木曾は魚雷を発射する。

魚雷は見事命中、大きな水柱が前方に立った。

 

北上「やーりぃ」

那智「いや、まだだ」

 

水柱を突き破って軽巡級が1体飛び出し、攻撃を始める。

 

木曾「くそっ!」

那智「ふん、詰めが甘いぞ?」

 

砲撃を避けて一撃を加えると、軽巡級は煙を上げて今度こそ沈んでいく。

 

比叡「てぇーっ!」

 

一方金剛と比叡も戦艦級を大破にまで追い込んでいた。

 

比叡「お姉様、止めを!」

金剛「バーニングゥ…ラァブ!!!」

 

金剛の掛け声と共に主砲が放たれ、戦艦級は断末魔をあげながら沈んでいった。

 

金剛「…周囲の状況はどうデス?」

加賀「周囲に敵影は無いわ」

木曾「潜水級の反応も無しだ」

 

再び穏やかになった海を見渡しながら、駒門に無線を入れる。

 

金剛「こちら第1艦隊、敵艦隊を撃破」

駒門『お疲れ様でした!帰投してください!』

 

無線を切り、改めて戦艦級が沈んでいった場所を見る。

 

金剛「……せめて安らかに眠ってくださイ」

 

誰にも聞かれないように静かに呟き、帰路につく。

数十分後、木曾の電探に反応が表れる。

 

木曾「敵かっ!?9時の方向に反応あり!」

加賀「偵察させます!」

 

一行は立ち止まり、艦載機からの情報を待つ。

 

加賀「来ました。補給級5です」

比叡「どうします?お姉様…?まだ弾薬と燃料には余裕がありますが…」

 

全員が金剛に注目する。

金剛は目を閉じて数秒考えた後、指揮を下す。

 

金剛「見付けた以上、見逃せないデス。艦隊、戦闘準備!」

 

補給級目掛け前進していく、そして難なく射程内に捉えた。

 

金剛「ファイヤー!!!」

 

一斉に補給級へ砲撃を開始し、武装していない補給級は成す術もなく次々と沈んでいく。

そして5体全て沈め、緊張が解かれ始めたその時だった。

木曾の電探が再び反応を示す。

 

木曾「また反応!?近づいてくるぞ!」

那智「数は!?」

木曾「…1。1体だけだ…!」

北上「…もしかして、あれ…?」

 

北上が指差した方向には補給級が1体、こちらに向かって来ていた。

 

だが先程とは違い、金色のオーラのようなものが身体から発されていた。

 

那智「1体だけで向かってくるとはな…沈め!」

 

接近する補給級に主砲を放つが、紙一重で避けられる。

 

那智「何だと!?」

金剛「全艦攻撃開始デス!」

 

次々と砲撃、雷撃、爆撃していくが全て避けられていく。

 

比叡「当たらない!?」

北上「さっきの奴等とは全然違う…!」

加賀「…頭にきました」

 

弾幕を厚くするが攻撃を次々と避けて接近してくる補給級に一行は怯み始める。

どんどん迫って遂には目の前までくる補給級。

 

金剛「退避!」

 

金剛の叫びと共に左右に別れる。

その間を補給級が凄まじい勢いで通り過ぎた。

 

木曾「アイツ体当りでもする気か!?」

那智「また来るぞ!」

 

スピードを維持したままUターンし、再び金剛達に接近してくる。

 

金剛「補給級は武装は持っていまセン!落ち着いて対処を」

 

その時だった。

補給級は級に立ち止まり自身の下半身、球体になっている部分の左右側面から単装砲を出して金剛に砲撃、一撃で大破に追い込んだ。

 

金剛「っ!?」

比叡「お姉様!!」

加賀「一撃であの威力…!?」

 

更に1発、もう1発と放ち北上と加賀に的確に命中させる。

 

北上「っあぁ!!」

加賀「そんなっ…!」

 

金剛同様一撃で大破された2人。

 

金剛「補給級が武装を持ってるなんて…Shit……総員撤退デス!」

 

異常な強さを持つ補給級にこれ以上は危険と察した金剛が指示を出す。

そして隊列を組み直すと同時に比叡、那智、木曾が大破した3人を庇うように補給級の前に立ち塞がって砲撃をする。

補給級はそれを避けながら単装砲を仕舞うと再び突撃してくる。

その先には最後尾になった比叡がいる。

 

那智「さっきより速い!」

木曾「比叡っ!」

比叡「っ!」

 

比叡の目の前まで迫った途端大きく跳び跳ね、下半身の球体部分が4つに裂ける。

そしてそのまま比叡に覆い被さり一気に呑み込んだ。

 

那智「なっ!?」

加賀「比叡さんが…」

木曾「喰われた…!?」

 

目の前で起きた出来事に全員が固まる。

そして比叡を捕食した補給級は踵を返し、何処かへ去ろうと動き出した。

 

金剛「…待つネー…!比叡を……比叡を返しなさぁい!!!」

那智「金剛っ!」

 

悠々と去ろうとする補給級を単身追い掛ける金剛。

動く砲を動かし、砲撃するがあっさり避けられる。

 

那智「待て金剛!その体じゃ」

金剛「逃がさない!!」

 

怒りで頭に血が上り冷静な判断が出来なくなっている金剛を止めようとするが、そんな那智の制止を振り切って追い掛けようとする。

その時補給級が急に立ち止まり再び単装砲を出し金剛に狙いを定める。

 

那智「まずいっ!」

 

単装砲を向けられているにも関わらず突撃する金剛の体を掴み投げ飛ばす。

だがその反動で単装砲の射線に入り被弾、大破してしまった。

 

那智「がぁぁっ!」

金剛「っ!……那智…!」

 

大破してしまった那智を見てようやく我に帰る金剛。

その時、駒門から無線が入った。

 

麗香『木曾から聞きましたわ!艦隊は即撤退!!これは命令です!撤退しなさい!!!』

 

金剛「っ!……了解デース……」

 

怒りや焦りが混ざったような駒門の大声が金剛の耳に響く。

 

金剛「比叡っ…!」

 

未練がましく補給級が去った方向を見つめながら、金剛は渋々鎮守府の方向へ戻りだした。



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外伝 出撃

(木曾視点)

 

数時間後、鎮守府にて。

補給級との戦闘で大破した金剛達は入渠し、唯一無傷だったオレは執務室で提督と16式に状況を伝えていた。

 

駒門「…金剛さん達を1発で大破させる補給級……」

16「それに比叡さんを、艦娘を補食するなんて…にわかには信じられませんね……」

木曾「ホントの事なんだよっ!実際に比叡が食われて…皆やられて!!」

 

今までに無い事態な為困惑している2人。

そんな2人に苛立ち、思わず提督の机を叩いてしまった。

 

駒門「落ち着いてくださいましっ!!」

 

大きく目を見開いた提督の声が執務室に響き渡る。

 

らしくない迫力に圧されて、オレも流石に頭が冷えた。

 

木曾「…すまん」

駒門「気持ちは分かりますわ。でも異常事態だからこそ対応を選ばなければ、それこそ比叡が危ないですわ」

16「普通なら砲撃なり雷撃して沈めにくる筈……。なのに比叡さんを捕食して、尚且つ大破した金剛さん達は見逃した……まさか」

 

何か思い付いた16式。

提督もその表情を見てすぐに分かった。

 

駒門「……ヒリュウさん…!」

木曾「ってことは…比叡は…!」

 

ヒリュウの名前を聞いて自分の血の気が引くのがわかった。

つまり……奴らの仲間になるってことか…!

 

駒門「急いだ方が良さそうですわね…その補給級はどの方向に去っていきましたの?」

 

16式が海図を開き、机に広げる。

オレはそれを見ながら当時の状況を思い出す。

 

木曾「確か……こっちの方角だった筈だ」

駒門「ここって…」

 

指差した方角を辿るとそこにはトラック泊地と記載された島があった。

 

駒門「…トラック泊地……行ってみるしか無いわね」

16「編成はどうなさいますか?比叡さんが抜けた部分をどう埋めましょう?」

駒門「第2艦隊を支援にまわしますわ。皆さんを呼んできてくださいまし。それと木曾さん、一応…彼女にも伝えてきて下さい」

木曾「わかった」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

数分後、執務室に6名の艦娘が集まった。

 

五十鈴、阿賀野、加古、不知火、雪風、海風。

遠征任務を主に行い、第1艦隊をサポートするために新たに建造された6名だ。

 

五十鈴「どうしたの提督?」

阿賀野「ついに阿賀野達の出番ですかっ!?」

加古「そろそろ本格的な実戦に出してくれよ~?眠くてたまんねえ~」

 

緊張感のない阿賀野と加古に駒門は溜め息を吐きながら、説明を始める。

 

駒門「先程の出撃で第1艦隊の比叡さんが、敵に拉致されました」

 

その言葉を聞いて、五十鈴達に緊張と衝撃が走る。

張り詰めた空気の中、駒門は静かに説明を続けた。

 

駒門「配属したての時に話しましたが、深海悽艦は寄生生物の可能性が高いです」

海風「じゃあ比叡さんは…!」

駒門「そうなる前に、総力を上げて比叡さんを救出しますわよ!」

16「貴女達第2艦隊は第1艦隊と連合艦隊を組み、前衛として戦って頂きます」

駒門「作戦開始は1時間後。入渠を終えた第1艦隊にも伝えておきます。気を引き締めて行ってくださいまし!」

6人「了解!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(再び木曾視点)

 

その頃、オレはある人物の部屋を訪れていた。

 

木曾「…よう、長門…少しやつれたか?」

長門「…何の用だ…?」

 

その部屋の主は長門。

あの一件以来戦えなくなって部屋に籠りがちになっていた。

 

薄暗い部屋に入り、カーテンを開ける。

窓から入ってくる光に、長門は目を細めた。

 

木曾「比叡が…深海悽艦に捕まった」

長門「っ!?」

木曾「もう一度、オレ達と戦ってくれないか?」

 

長門の目を見据えるが、返事が返ってこない。

そのまま数分の沈黙が部屋を支配する。

 

長門「…私に、戦う資格なんてない」

木曾「…何故だ?ビッグセブンと呼ばれたお前なら!」

長門「私はっ!わからなくなってしまったんだ……。私達がやって来た事は正しかったのか……」

木曾「なっ…」

 

長門のカミングアウトに言葉を失ってしまった。

 

長門「敵だと思っていた人型深海悽艦が寄生された仲間だっただと……?じゃあ私達がやってきた事はなんだったんだ…!ただ仲間内で殺し合って、本当に倒すべきモノの掌で踊っているんじゃないか……そう思うと…………」

 

生真面目な奴だとは思っていたが、まさかここまで悩んでいたとはな…。まぁ、わからなくもない。

 

木曾「……一つ言っておく。オレは自分達がやって来た事が正しいだなんて、思ってない」

長門「…え?」

 

意外な言葉に驚く長門。

オレは彼女の隣に座り、続きを話し出す。

 

木曾「オレもあの後、自分のやって来たに疑問を持った。それで提督に相談したんだ。そしたらアイツ、『血を流してる時点で正義や正しさなんてないですわ。そんなモノを掲げる位なら自分の信念を掲げなさい』って…」

長門「信念……彼女がそんな事を……」

木曾「多分、誰かさんの言葉なんだろうけどな。けどそれでオレは正義や正しさがどうとか考えずに、この鎮守府の仲間を護りたい…その想いだけで戦ってる」

 

窓から見える空を眺めながら、半ば独り言のように話す。

 

長門「正義じゃなく、信念か…」

木曾「オレも人の事言えないけど、真面目に考えすぎなんじゃないか?考えすぎてドツボにハマって正義だのなんだの考える前に、今迄戦ってこれた本当の理由ってのを見落としているんじゃないのか?」

長門「…私が戦ってきた理由……」

 

オレの言葉を聞いて、自分が戦ってきた理由を思い出そうとしているようだ。

…よかった。どうやらこの表情を見れただけでも、ここに来たかいがあった。

 

木曾「ま、そう言うことだ。出来れば早めに答えを出してくれよ?そろそろ準備しなきゃ」

 

長門の肩を軽く叩いて、オレは部屋を後にした。

 

それから約1時間後、陣形を組んだ第1艦隊及び第2艦隊が鎮守府正面に待機していた。

 

だがそこに長門の姿は…いなかった。

 

……まだ、踏ん切りがつかねえか…。

 

アイツが皆の前に現れない事に軽く肩を落としていると、提督から無線が全員に入った。

 

駒門『これより比叡救出作戦を開始致します!彼女を奪還し次第即撤退、彼女の保護と全員の帰還を最優先して下さいまし!』

金剛「了解デース…!比叡を絶対に救いだしマース!!」

駒門『連合艦隊出撃!!』

 

提督の合図で一斉に動き出す。

トラック泊地目指して全速力で進み、特に会敵することなく目的地が見えてくる。

 

五十鈴「…見えてきたわね」

阿賀野「水上爆撃機を飛ばすよ!流石に敵もいるだろうし!」

 

水上爆撃機を2機、トラック泊地目掛けて飛ばす。

それと同じタイミングで加賀の艦載機も飛んでいった。

 

加賀「…敵艦隊捕捉」

阿賀野「いっぱい居るよ!皆気を付けて!」

 

前方で艦載機が戦っているのか、小さな爆発と水柱が見える。

 

五十鈴「見えたわ!駆逐、軽、雷巡級多数!」

加古「ここはあたしらに任せな!」

海風「金剛さん達は奥へ!比叡さんを頼みます!!」

 

五十鈴を筆頭に砲雷撃を繰り出し敵の陣形に穴を開けてくれた。

 

金剛「絶対に…連れて帰りまス!」

木曾「皆も無理をするなよ!?」

 

乱れた陣形の隙間を全速力で通り抜ける。

その後も軽、重巡級や空母級の艦隊が襲ってくるが弾薬の節約の為あまり相手をせず、ひたすら奥へ進んでいく。

 

加賀「…艦載機より入電、前方に比叡らしき影と戦艦級2」

金剛「っ!?比叡!!!」

 

目の前に立ち塞がる空母級らを沈め、前へ進んでいく。

そして情報通り比叡の姿とそれを警護するように左右に戦艦級が立っていた。

 

よかった……間に合った…!!

 

金剛「複縦陣に変更!ワタシと木曾は左、那智と北上は右の戦艦級を撃破してくだサーイ!加賀は両サイドの援護を!!」

那智「任せろ!」

加賀「了解」

 

それぞれ分散し、臨戦体勢に入った戦艦級に接近していく。

 

金剛「比叡に…妹に近寄らないデェェェエエエエエエ!!!」

 

戦艦級の砲撃を掻い潜り、その顔面に右ストレートを繰り出す。

更にその威力で仰け反った所に砲撃をくわえて吹き飛ばす。

 

金剛「木曾!」

木曾「おうよ!」

 

金剛の合図と共に魚雷を戦艦級が吹き飛んだ方向へ放ち、止めをさした。

一方那智達も戦艦級を沈める事に成功。そのままオレや加賀と周囲の警戒に入り、金剛は比叡の元に駆け寄っていた。

 

金剛「比叡迎えに来たデース!」

 

比叡を抱き締める金剛。だが比叡は何一つ反応を示さない。

 

金剛「比叡?どうしまし………」

 

比叡の顔を覗き込んだ金剛の顔の血の気が引いていくのが見えた。

抱き締めていた腕を放ち、一歩後ずさる金剛。

 

いったい何をやっている…!?

 

金剛「ひ、比叡…?」

木曾「どうした金剛!?」

加賀「道中無視した敵が迫っています…早く!」

 

オレ達の急かす声が、金剛の耳に届いていないようだった。

 

彼女の様子が気になり比叡の元へ向かったのだが……そこでようやく、オレ達も気付いた。

 

目の前にいる比叡から…寒気を催す程の殺気が発せられていたからだ。

 

金剛「比叡ワタシです金剛デース!!」

比叡「金…剛…?誰、だっけ…?誰……」

 

その瞬間、比叡の背後に巨大な水柱が立ち上がり何かが浮上してくる。

その轟音にオレ達全員の視線が水柱の中にいる物体に向く。

 

比叡「あぁ、思い出しタ……」

北上「ちょ、何あれ…!?」

那智「あれも深海悽艦だというのか!?」

 

水柱が消え中から出てきたのは、巨大な顔のような艤装であった。

そして艤装の顔の部分が割れ中から無数の触手が飛び出し、比叡の身体に纏わり付いていく。

 

比叡「金剛…艦娘……私ガ倒スベキ敵…」

 

腕に、腰に、脚に、艤装がどんどん装着されていく。

 

ヒエイ「コノワタクシガ叩キノメス敵ッ!!」

 

金剛「……比叡っ!」

木曾「嘘…だろ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅かったか



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外伝 変貌

(木曽視点)

 

ブロンドの髪が黒く染まり、肌が蒼白く変色していく。

その様子をオレ達はただ見ている事しか出来なかった。

 

ヒエイ「気合…入レテェ……沈メテヤルゥッ!!」

 

主砲をオレ達に向け、容赦なく撃ってきた。オレと金剛は間一髪回避出来たものの、北上、那智、加賀が被弾し大破。その威力で気絶してしまっていた。

 

木曾「くそっ…間に合わなかったのか…!」

 

 

金剛「比叡…止めるデース……そんなの、あなたらしくないヨ…?」

 

作戦失敗を悟り、オレは大破し倒れた3人のフォローに入ろうとする。

だが一方金剛は目の前の現実が受け入れられず、比叡に歩み寄って行くのが見えた。

 

なにやってんだバカ!!!!

 

木曾「バカっ!戻れ!!もうソイツは比叡じゃない!!!」

 

しかし金剛にオレの声は届いていなかった。

 

金剛「さぁ、比叡…帰りまショウ…?」

ヒエイ「…」

 

ヒエイに手を差し伸べる金剛。

 

ヒエイ「…貴女……」

 

金剛に近付いていく比叡。

それを見て金剛の表情も明るくなっていく。

 

金剛「ひえ」

ヒエイ「敵ヲ前二シテ随分余裕ネ?」

 

嬉しそうな表情を浮かべる金剛の胸ぐらを掴み、思いっきり殴り飛ばした。

 

金剛「あぁっ!」

 

水切りした小石の様に水面をバウンドする金剛。

更に追い撃ちとばかりに砲撃し、彼女を大破させる。

 

金剛「ひ……え…い…」

ヒエイ「アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

ボロボロになって浮かんでいる金剛を嘲笑う比叡。

そこに他の深海悽艦達がオレ達を囲う様に現れやがった。

 

木曾「さっき無視した奴等か……最悪だ……」

ヒエイ「サヨウナラ、間抜ケナ艦娘サン?アハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

ヤツは高笑いを浮かべながら深海へ沈んでいく。

オレは周りを囲んでいる深海悽艦らを睨みながら、打開策を考えていた。

 

考えろ考えろ考えろ…!このままじゃ全滅しちまう!

 

 

だがこの数相手じゃ……

 

 

 

 

 

 

あぁ……ダメだ………………

 

 

 

 

フッと構えていた単装砲を下ろし、全てを受け入れようと目を閉じる。

 

その時一部の深海悽艦が爆発し沈んでいく。

目を開きその場所を見るとその背後から五十鈴ら第2艦隊が来ていた。

 

五十鈴「各艦、ありったけの火力を持って援護射撃!!」

阿賀野「本気でやっちゃうんだから!」

加古「加古スペシャルを喰らいやがれぇ!!!」

不知火「…沈めっ!」

雪風「幸運艦の実力を見せる時です!」

海風「皆さん、無事ですか!?」

 

砲撃を中心に、敵の包囲を崩していく。

 

あぁ、そうだ……こんなところで諦めていられるかっ…!!

 

オレもそれに続き、包囲してきた敵を一掃する事に成功した。

 

木曾「……話は後だ。とにかく金剛達を連れて帰還するぞ」

五十鈴「そう……わかったわ」

 

気絶した金剛達を背負い、オレ達はトラック泊地を後にした。

 



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外伝 失意

(駒門視点)

 

鎮守府、執務室にて

夕陽が差し込める室内は重苦しい雰囲気が漂っていました。

来賓用に置かれた椅子には木曾、五十鈴、阿賀野、加古、雪風ちゃん、海風ちゃん、不知火ちゃんが暗い表情で座っていて、私も執務椅子に腰掛けていました。

 

駒門「そう…比叡が…」

五十鈴「間に合わなかったのね…」

海風「こんなのって…あんまりです…!」

 

涙を拭う海風ちゃん。

雪風ちゃんもまた涙を流して、不知火ちゃんがそれをハンカチで拭って慰めていました。

 

そんな中執務室の扉が乱暴に開かれ、金剛と彼女を引き留めていたであろう74式と16式が入ってきました。

 

16「金剛さんいくら高速修理材を使ったとはいえ無茶です!!」

74「落ち着きやがれ紅茶狂い!!」

 

2人の静止を無言で振り切り私の前に立つ金剛。

 

その表情はいつもの明るい快活な表情ではなく、鬼をも殺してしまいそうな威圧感のある表情でしたわ。

 

金剛「出撃許可を下サイ」

駒門「そんなの許可出来るわけありませんわ」

 

彼女が入ってきた時点で何を言いに来るのかわかっていました。

ここを指揮する提督として、彼女の進言を即刻却下すると、険しい表情がより一掃恐ろしくなっていきました。

 

金剛「ならワタシ1人で行きます……っ!!!」

 

怒気を孕みながらそう言い捨て、部屋を後にしようとする金剛。

そこへ遅れて入室してきた90式が彼女の行く手を阻みました。

 

今の金剛にはわからないでしょうけど、90式は彼女に対して臨戦態勢をとっていましたわ。

 

金剛「退いて下サイ」

90「メイド長として、それは出来ないザマス」

金剛「ならっ!」

 

90式に掴み掛かろうとする金剛ですが、90式がそれを払いのけ逆に金剛を組伏せます。

 

90「陸で私に勝とうだなんて100年早いザマス!」

金剛「離しテッ!!こうしている間に比叡はっ!!!!」

 

組伏せられてもなお暴れる金剛。

いえ、それどころかどんどんヒートアップしていき、16式と74式も彼女を抑えるのに加わる始末。

 

金剛「邪魔しないデッ!!!これ以上手を子招いているなんて嫌デスッ!!!!」

16「だからって1人で向かってどうするんですかっ!」

74「そうだぜ沈むだけだっ!!!」

金剛「貴女達に妹が敵になったワタシの気持ちがわかるんですかっ!!!!!!!!!!!!!!!」

16·74「っ!!!」

 

金剛の迫力に思わず黙り込んでしまう2人。

 

金剛「貴女達に姉妹なんていないから家族を失う恐怖なんて知らないだけデスッ!!!!それともマグマアーミーとの戦争でも同じ事をしたんデスカッ!?仲間が闇墜ちになってもっ!!!平然としていられたんデスカッ!!!!」

 

 

駒門「…っ」

 

 

ドォォン!

 

金剛の口から発せられる呪詛を止めるかのような轟音が鳴ったと思ったら、彼女の顔の真横に大きな銃痕が出来ていました。

 

そして、今の金剛と同じ…いえ、それ以上の殺気を発するメイド達3人の機関銃が彼女を捉えていました……。

 

74「おい…それ以上言ってみろ…」

16「その先は解体じゃ済まされませんわよ……」

90「私達ならいざ知らず、麗香様によくそのような戯れ言を言えたザマスね……」

金剛「っ!」

駒門「お止めなさいっ!!!」

 

ここで止めなければ確実に金剛を撃ち殺していたでしょう…。

3人は渋々機関銃をしまい金剛を開放しました。

 

駒門「金剛、貴女に今日一日自室での謹慎を言い渡します。艤装の稼働も提督権限で停止します」

金剛「でもっ」

 

パァン!

 

尚も食い下がろうとする金剛の前まで行き、彼女の頬に平手打ちをしました。

 

きっと、あの方なら言葉で止められたかもしれません……けど私にはこうするしかありませんでした…。

 

 

駒門「頭を冷やしなさいっ!!!!!!」

 

金剛「…っ」

 

90「さぁ、来るザマス」

 

90式と74式に引っ張られるように執務室から出ていく金剛。

 

先程の喧騒が消え、執務室内がシンと静まり返る。

 

木曾「その……これからどうするんだ…?」

 

木曾の声を聞いて彼女達がこの部屋にいることに気が付きました。

失態ですわね……駆逐艦達が恐がっていますわ……。

 

駒門「……明日迄には考えをまとめておきますわ…。皆さん今日はもう休んで下さいまし…」

五十鈴「…わかったわ。行くわよ、皆」

 

五十鈴と木曾が駆逐艦達を執務室から出していき、その後自身も部屋から静かに出ていきました。

 

先程の殺伐とした空気から解放された私は、大きなため息と共に執務椅子にどっと腰掛けました。

 

16「麗香様、差し出がましい事をしてしまい申し訳ございませんでした!」

駒門「……いえ、あそこで貴女達が動いてくれなかったらと思うと…むしろ感謝しますわ。流石私のメイドですわね」

 

土下座をする16式を宥めつつ、今後の事を考えていました。

救出するにしても倒すにしても、もう猶予はないですわ。

 

やるなら明日、再び艦隊を動かすしかありませんでした。

 

しかし、現状の戦力では今日のような結果になることはわかりきっています。

かと言って、この間のように司令官の艦隊の力を借りるわけにもいきません。彼の艦隊にも攻略するべき海域があるのに私の都合で振り回す訳にもいきませんわ。

 

そう考えている内にとある考えが思い浮かぶと同時に、あの人物の顔が思い浮かんできました。

 

電話を取り番号を打っていく。

 

正直あの方が苦手ですし、なによりあの戦い以降会うことはありませんでしたから、電話に出てくれるかどうか……

 

1コール

 

 

 

2コール

 

 

 

3コール

 

 

 

用心深いあの方の事です、もうこの番号は使っていないのでしょうか……諦めかけたその時、コール音が途切れました。

 

 

『この番号を知っているとは、誰だ…?』

 

 

あぁ、出てくれました…!

しかしある意味ここからが本番でもありますわ。

 

駒門「お久し振りですわね。駒門麗香ですわ」

 

『おやおや、これは珍しいお相手だ…。それでなんの用だい?』

 

駒門「そちらのツテで、至急明日迄に調達してきて欲しいモノがありますの」

 

『ほぅ…何が欲しいんだい?』

 

駒門「ーーーーーーー」

 

私が欲しているモノを告げると受話器から大きな笑い声が聴こえました。

 

『ハッハッハ!こいつぁとんでもない要求だな!!!……高く付くぞ?』

 

さぁ、ここですわ。

法外な値段を吹っ掛ける彼女を納得させるだけの報酬を提示させなくては。

 

駒門「報酬は対深海棲艦用装備のデータで如何です?私達でも奴らに対抗できるようになりますわよ」

 

『ほう、悪くはないがあれだけの代物を速達させるには足りないなぁ……?』

 

ほんっっとガメツイですわね…!なら奥の手でしてよ…!!

 

駒門「彼の直近の様子を映した映像」

 

『OK、成立だ』

 

相変わらず彼にゾッコンですのね……でも、お陰で安く済みそうですわ。

 

『あ、料金は別だからな?』

 

そう言い残しガチャリと電話が切れました。

……やはり彼女が苦手ですわ。

 

しかし、あの様子ですと調達してくれそうですわね。

残る問題は、私の作戦……皆さんの為、なにより金剛の為に……絶対に成功させますわ…!



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外伝 失意 その2

(木曾視点)

 

オレは自室へ戻ろうとする最中に長門とバッタリ出会ってしまった。

 

長門「木曾…」

 

オレの面を見て心配する長門。

けどオレはそんな彼女に対して怒りを感じてしまっていた。

 

木曾「…なんで」

長門「え…っ!?」

 

オレの肩に手を置こうとした長門であったが、思わず呟いてしまった一言でピクリと一瞬動きが止まる。

 

あぁ、もう我慢出来ない……。

 

その瞬間オレは長門の胸ぐらを掴み壁へ追い込んでいた。

 

木曾「なんで来てくれなかったんだよぉ!!??お前が!お前が居てくれたら!!」

長門「っ!」

 

気付いたら涙を流していた。

それでも構わず長門を睨み付ける。

 

完全な八つ当たりだってわかってる。

だけどもし、こいつがいてくれたら……この結果が変わっていたんじゃないか……?そう思うといてもたってもいられなかった。

 

そんなオレに反論出来ずコイツはオレから目を逸らしていた。

 

木曾「何がビッグセブンだっ!何が戦艦だっ!!お前が…お前が…!!」

長門「…すまない」

木曾「謝んじゃねぇ…!……いつまで迷ってんだよ…!?お前の信念は…こんな事の為にあんのかよ…!?」

長門「……すまない」

木曾「っ……もういい……!」

 

これ以上無駄だ…………。

 

そう思い、反論出来ず黙りこくっている長門から手を離し、トボトボと部屋へ歩く始める。

 

後ろから壁を殴る音が聞こえたが、オレにはもう興味がなかった。

 

長門「私は…!」

 

 

(加賀視点)

 

同時刻、蒼龍の部屋の前。

 

何度か扉をノックするが、返事がない。

けど彼女がここにいるのはわかっていました。

 

返事を待たず強引に入室するとそこにはやはり彼女がいた。

 

加賀「入るわよ」

蒼龍「勝手に入らないでよ……」

 

何処か自棄になってベッドに座っている蒼龍に対し、すこし呆れた表情をしてしまう。…どうせ彼女にはいつもの仏頂面に見えているのでしょうけど。

 

加賀「いつまでそうしてるつもりかしら?」

蒼龍「…はぁ?」

 

私はあまり会話が上手くないから率直に本題に入る。

私がくる前の経緯は粗方提督達から聞いた。

 

彼女に同情はします。けれどいつまでもこうして逃げて良い理由にはならないわ。

そして今、少しでも戦力が欲しい。

 

……なにより、今の彼女が心配でならなかった。

 

加賀「いつまでそうやって逃げているのと聞いているの。深海悽艦との戦いから、そしてヒリュウから」

蒼龍「…何よ…!」

 

立ち上がって私を睨み付ける。

 

怒る元気と気力はあるようね。

 

蒼龍「あんたに何がわかるのよ…!」

加賀「そうね、確かにわからないわ。目の前の現実から目を背けるだけでなく逃げてしまった艦娘の気持ちなんて」

蒼龍「あんただって!大事な相方を深海悽艦にされれば良いのよっ!!そうすればそんな顔していられなくなるわっ!!!」

 

感情に任せて私の胸ぐらを掴んでくる。

……全く五航戦でもここまで駄々をこねないわよ。

 

それに赤城さんが敵になっても私のやるべき事は変わらない。

 

加賀「いいえ」

蒼龍「…はぁ!?」

加賀「例え赤城さんが深海悽艦として立ち塞がったなら、私は彼女を沈めるわ」

蒼龍「口先ではなんとでも!」

加賀「恐らく逆の立場になったとしても赤城さんは私を沈めてくれると思うわ。これが私達の…一航戦としての誇りと使命だから」

蒼龍「っ!」

加賀「貴女には無いのかしら…二航戦としての誇りが」

 

私の問いに答えられず、悔しそうに黙ってしまう蒼龍。

 

きっと貴女にもあるはずよ。

それを思い出してほしい。

 

加賀「今の貴女は五航戦以下よ。誇りと使命がない空母なんて先が知れてるわ」

蒼龍「…うるさい…!」

加賀「だったら立ち上がってみなさい。二航戦の誇りはそんなもので」

蒼龍「うるさいうるさいうるさい!!!!」

 

もう聞きたくないと言わんばかりに私の話を強引に止めて、力任せに私を部屋から追い出した。

 

加賀「………」

 

…ダメね、私は…。

後輩の為にと思ってやっているけれど、口下手なせいで逆効果になってしまっている。

 

それが悔しくて、私はしばらくそこに立ち尽くしていた。

 

ーーーーーーーーーー

(加古視点)

 

場所は変わり、鎮守府から少し離れた場所。

執務室を後にしたあたしは、普段昼寝をする場所へ向かっていた。

鎮守府から少し離れたところに広場があって、そこに植えられている木々の内の1本の下。そこは海辺と鎮守府を一望できて、あたしにとってちょっとした特等席だった。

 

だけど、木の近くまで行くと既に先客が横たわっていた。

 

加古「北上…?」

北上「よっ」

 

北上はあたしを見るなり手をヒラヒラさせて挨拶する。

なんで彼女がこの場所を知っているんだろう…。そんな疑問を抱きながらも彼女の隣に寝転ぶ。

 

加古「入渠終わってからずっといたのか?」

北上「ん、まぁね。皆執務室に行く様子無かったし、いいかなーって」

 

お互いに顔を見ることなく、空を眺めながら話す。

北上は口調は変わらないけれど、声のトーンが少し低く感じた。

 

やっぱり、今回の事引き摺ってるのかな?

 

北上「私ねぇ~今まで色んな深海悽艦を沈めてきたわけよ。金剛や木曾達も」

加古「まぁ…だろうな」

北上「けどあの事件があってからさ。皆何処か深海悽艦を沈めるのを躊躇ってるんだよねぇ。それまでその戦果を自慢してたのにさ~?」

加古「……」

 

あたしがくる前に起こった出来事…。

正直あたしは実感がわかなくって、人型相手でも普通に戦っていたつもりだった。

 

けど北上や金剛達は、やっぱり辛かったんだろうか?

 

北上「そんで今度は身内が深海悽艦になったら撃てませんときた……。これってさ、今まで沈めた相手にすごく失礼じゃないかなって…思うわけよ」

加古「…何となく、言いたいことは…わかるかな…?」

北上「だから…私は沈める覚悟で行く。金剛達に恨まれたって構わない。…だって、これ以上手を子招いていたら比叡は…誰かを沈める。それだけは絶対させたくないから」

 

なるほど、北上は北上なりの覚悟があるってことね。

確かにこの戦いは甘いものじゃない。そういう覚悟もないとこっちが危ないしね。

 

加古「…良いんじゃねーの?ま、提督がどんな作戦を立てるかによるけど」

北上「ま、そ~なんだけどねぇ~。でも、誰かに聞いてほしくってさ」

加古「あたしにはそういう覚悟とか決意なんてのはいまいちよくわかんないけど。北上のその思いは間違ってないと思うし、もしそうなったらあたしも援護するよ」

北上「サンキュ~加古っち。やっぱ持つべきモノは友だねぇ~!」

 

北上の声のトーンがいつもの調子に戻っていく。

あたしはそんな調子に戻った北上の声を聞いて思わず微笑んでいた。

 

加古「ははっ、ふあぁ~~……ったく、真面目な話聞いてたから眠くなってきたぜ…」

北上「風も気持ちいいし…ちょっと一眠りと洒落混みますかぁ~…」

 

ーーーーーーーーー

(金剛視点)

 

金剛・比叡の部屋にて

 

金剛「比叡……」

 

部屋に連行されてから動く気力も無くて、ベットに横たわっていまシタ。

 

ふと視線を動かすと、その先には比叡と撮ったツーショット写真が入った写真立て。

 

これを見ていると自然と比叡との思い出が甦ってきマス。

一緒に訓練した思い出、間宮サンのスイーツを一緒に食べた思い出、改二になって一緒に喜んだ思い出…様々な思い出がワタシの脳裏を過っていく。

 

金剛「こんなお別れ、嫌デス……」

 

静かな部屋にワタシの悲痛な思いだけが響き渡る。

 

その時、扉をノックする音が聞こえまシタ。

 

16『金剛さん…?16です…』

 

ヒトロク……なんの用デス…?

またさっきの続きですカ…?

 

気にはなったけど返事をする気力も無くて、ワタシは居留守をしまシタ。

それでも彼女はお構いなしに話を続けマス。

 

16『その、先程は私達も感情的になってしまって申し訳ありませんでした……』

 

さっき……執務室でのやり取り……もう思い出したくもないデス…。

 

16『けどどうしても金剛さんにも麗香様の想いを知って欲しくて……』

 

……そんなの知ったところで、どうなるというんデス……

 

 

16『……麗香様にも…私達にも喪ってしまった方達がいたのです…。だからこそ、麗香様は比叡様を絶対に諦めない筈です…!だからもう少しだけ、信じてついてきて下さいませんか…!?』

 

金剛「……」

 

正直何か言葉を返そうとしまシタ。

 

……けれど、今どんな返事をしても、自分の思いではない言葉が出てしまうような気がして何も言えませんでシタ。

 

そしてワタシからの反応が無いせいか、足音が遠ざかっていく……帰ったのでしょうカ。

 

レーカを信じる……そうすれば比叡は、無事戻ってくるのでしょうカ……?

 




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外伝 再起

(駒門視点)

 

翌朝、朝食を終えた第1艦隊、第2艦隊のメンバーは作戦会議室に集まっていました。

彼女達の表情を見ると、決意を固めた子もいれば迷いを抱えた子もちらほらと見えました。

そんな彼女達は正面の作戦ボードの前に立っている私の言葉を待っている。

 

駒門「集まりましたわね。現時刻、0830をもって戦艦級比叡捕獲作戦を決行いたしますわ」

金剛「捕獲……」

 

救出ではなく捕獲という言葉に俯く金剛。

 

そんな彼女を気に留めながら説明を始めようとしたその時、突然会議室の扉が開かれました。

 

長門「待ってくれ!」

 

入って来たのは長門と、彼女を止めていたのでしょうか、息を切らしている74式でした。

 

90「何事ザマス!」

74「すまな…すいません麗香様!こいつが作戦会議中に」

駒門「…どうしましたの?」

 

冷や汗を流しながら謝罪する74式を下がらせて、長門を見る。

長門は私の前に立つと深々と頭を下げた。

 

長門「急にすまない……私も、作戦に加えてくれ」

木曾「っ…!」

 

長門の言葉に木曾を初めとした数人の艦娘達がどよめきだす。

私も顔には出しませんでしたが、正直動揺しました。

 

彼女が急に復帰するなんて…いったい何が…?

 

長門「もう迷わない…もう躊躇わない…だから、戦わせてくれ…!」

駒門「…」

 

…全く、決めるのが遅くってよ。

 

…けど

 

少しだけ眉間を抑え、再び長門を見る。

 

駒門「…さっさと座りなさい。時間がありませんの」

長門「……ありがとう…!」

 

ここで長門が来てくれた事は嬉しい誤算ですわ。

 

長門は近くの席に座り、再び作戦ボードの前に立つ私の言葉を待っている。

 

駒門「…それじゃ、改めて概要を説明しますわ。作戦目標は比叡の確保、及び捕獲です。…もう彼女は艦娘ではなく深海悽艦。説得等は無駄と判断しましたわ」

 

金剛を初めとした出撃メンバーに酷しい現実を突きつけていく。

金剛や木曾、雪風らは悔しそうに歯を食い縛っているのが見える。

 

駒門「だけどこのままじゃ終われませんわ!捕獲して元に戻せるように彼のいる鎮守府と協力してなんとかしてみせますわっ!」

雪風「しれぇっ…!」

五十鈴「そうこなくっちゃ!」

駒門「この作戦が彼女を止める最後のチャンスですわっ!比叡が深海悽艦として完全に敵に回ってしまう前に何としても捕まえますわよっ!!」

 

私の言葉に先程まで沈んでいた数人の表情が少しですが明るくなっていきました。

 

そんな彼女達を見て力強く頷き、改めて作戦ボードを使って説明を続けます。

 

駒門「まずは比叡を深海悽艦たらしめている艤装の破壊、その後人型深海悽艦用捕獲鎖で彼女を確保する戦法ですわ」

木曽「向こうの提督がくれた鎖だな」

駒門「えぇ。次に出撃メンバー。第1艦隊旗艦……金剛」

金剛「…イエス」

 

昨日の件があったせいか声に覇気が無く、それどころかこちらを疑うような…いえ、どちらかといえば試すような目線を送っていました。

 

駒門「金剛、昨日はああするしかなかったとは言え、辛い思いをさせてしまってごめんなさい……。けど、私も最後まで足掻いて協力しますわ。だから…気合い入れて行きなさい!」

金剛「っ…わかりまシタ…!連れて帰りマスッ!!」

 

私の言葉で納得してくれたのか、先程までの表情も消えていき、私が知っている何時もの金剛が少し戻ってきてくれました。

 

駒門「次、那智、木曾、北上、五十鈴、加賀」

 

五十鈴「えっ?」

 

自分がまさか第1艦隊に選ばれると思っていなかったのか、彼女すっとんきょうな声を上げましたわ。

 

駒門「貴女の能力なら第1艦隊に入れても問題ないですわ。頼みましたわよ」

金剛「よろしくデース!」

木曾「お前なら背中を預けられるぜ。よろしくな」

五十鈴「…えぇ、五十鈴に任せて!」

加古「じゃあ第2の旗艦って誰なんだ?」

 

加古の質問に舞い上がっていた五十鈴達も確かにと顔を見合わせる。

 

駒門「第2艦隊旗艦は、長門…貴女ですわ。次に加古、阿賀野、雪風、不知火、海風の順ですわ」

長門「なっ…」

 

旗艦の指名に驚く長門。そして次第に不安気な表情へ変わっていく。

 

駒門「何を今更不安になっていますの?元第1艦隊旗艦。さっき見せた覚悟で皆を引っ張って行きなさい」

長門「しかし…私が旗艦で本当に良いのか…?」

 

不安気に第2艦隊メンバーである阿賀野や雪風達の方を見る。

 

加古「あーあ、折角あたしが旗艦になれると思ったのになぁ~」

長門「っ…」

加古「でも、長門さんなら仕方ないか」

 

ニシシと笑い、納得した様子の加古。

そして他のメンバーも納得し、歓迎していました。

 

長門「…ありがとう…!皆の期待は絶対裏切らない!!」

 

拳を強く握り締め、加古達に清々しい表情で宣言する長門。

 

おかえりなさい、長門。

 

私もその様子を見てどこかホッとしましたが、直ぐ様気を引き締めて金剛や長門達に言い放ちます。

 

駒門「では皆さん、準備に掛かってくださいましっ!艦隊、出撃!!」

一同「了解!!」

 

全員起立し敬礼した後、会議室を後にする。

 

金剛「第1艦隊、出撃デース!!」

長門「第2艦隊、出るぞっ!」

 

トラック泊地へ進んでいく一行を私は執務室の窓から見送っていました。

 

 

 

絶対に全員生きて帰って来てください。

 

 

 

その時、執務室の扉が開き16式が入室してきました。

 

16「麗香様っ!彼女から連絡が入りました!」

駒門「来ましたわね…!例の準備をさせてくださいましっ!」



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外伝 イレギュラー

(長門視点)

 

私達は目的の海域まで数百メートルまで近付いてきていた。

五十鈴と加賀はそれぞれ水上偵察機と艦載機を飛ばして偵察を行っている。

 

五十鈴「敵艦反応あり!…これって…!」

長門「どうした!?」

 

険しい顔の五十鈴と加賀を見て、緊張感が高まっていく。

 

加賀「敵艦隊多数…前方、およそ60…」

金剛「ホワッツ!?」

 

加賀の報告に、私も含め皆信じられないと目を見開く。

五十鈴を見るが、五十鈴も同じ結果だったのか静かに頷く。

 

木曾「なんて数だ…!」

不知火「奴等も警備を厳重にした…!?」

那智「だが、退くわけにはいかない…!」

五十鈴「そろそろ見えてくるわよ!」

長門「くそっ…総員、砲雷撃戦用意!!」

 

主砲を構え、戦闘準備に入りながらも前進していく。

そして情報通り敵深海悽艦の姿が見えてきた。

空母級20、軽・雷巡級15、戦艦級20、駆逐級5の大部隊を前に私と金剛は冷や汗を流していた。

 

こんなのとまともにやりあっていたら比叡にたどり着く前に消耗してしまう…!

だが、やらなければそもそも突破すら出来ない…!

 

せめて第1艦隊だけでも!!

 

長門「大歓迎だな…!第2艦隊、総員主砲構えっ!!」

駒門『その必要は無いですわ』

 

狙いを定め、撃とうとした瞬間提督から無線が入る。

それと同時に私達の後方上空から複数のミサイルや砲弾が通過していき、前方にいる艦隊を攻撃した。

 

金剛「な…!」

長門「これは一体…!?」

 

全員の視線がミサイルを放った物体に集まる。

その正体に思わず足を止め、驚愕の余り数人が口をあんぐりと開けている。

 

なんだこれは…!?

 

駒門『間に合いましたわねっ!遊撃要塞ブレストですわっ!!』

 

『遊撃要塞ブレスト』たしか資料で見たことがある……意思を持ったマグマ軍の巨大移動要塞で様々なタイプがあったと聞くが…。

 

提督や90式達はこんなのと戦っていたのか……!?

 

 

駒門『雑魚はコイツに任せてくださいまし!貴女達は早くと比叡を!』

金剛「レーカ…!サンキューデース!!」

駒門『さぁ、お行きなさいブレスト!久し振りに大暴れしちゃって!!』

ブレスト「ギュイイイィィィイイイイイィィイイイイイイイイ!!!!!」

 

雄々しい雄叫びと共に左右の巨大な連装砲が火を吹き、深海悽艦を吹き飛ばしていく。

私達はブレストの攻撃で出来た艦隊の隙間を全速力で進んでいく。

 

加賀「艦載機より入電。前方に反応あり…比叡です」

金剛「っ!……了解デース…!」

 

加賀の報告からしばらくして、前方に1つの影が見えてくる。

それは紛れもない深海悽艦と化した比叡の姿であった。

 

ヒエイ「……来タカ、艦娘共……」

 

金剛「比叡…今度こそ連れて帰りマスッ!!」

ヒエイ「連レテ帰ル……?」

 

戦闘態勢に入っている金剛を睨み付ける比叡。

 

ヒエイ「ナラワタシハ……アンタ達ヲ沈メテヤル……!」

 

その瞬間、艤装から砲弾が放たれる。

私達は、第1及び第2艦隊で別れて比叡を包囲するように回り込み、反撃を開始する。

 

金剛「ファイアー!!」

長門「主砲一斉射!ってぇ!!」

 

金剛との合図で同時に主砲を射っていく。

加賀も艦爆を発進させ、比叡目掛け爆撃を開始する。

 

だが比叡はその場から動くこと無く、砲撃と爆撃を一身に受ける。

 

金剛「シィット!…あれだけ攻撃したのに掠り傷しかついていまセン…!」

五十鈴「なら、雷撃ならどうかしら…!?木曾!北上!阿賀野達も行くわよ!!」

木曾「おうよっ!」

北上「りょーかい!!」

不知火「不知火達も続きます!」

 

比叡から放たれる砲弾を避けつつ、五十鈴を始めとした軽巡・雷巡・駆逐艦のメンバーが比叡に接近していく。

私や金剛、那智は副砲で彼女達の援護に回る。

 

そして五十鈴・木曾・北上は比叡の左側から。阿賀野・雪風・海風・不知火は右側から接近し、そしてすれ違い様に魚雷を放っていく。

 

魚雷は見事命中、水柱が比叡を包み込み小さな虹が出来上がる。

 

木曾「これだけの魚雷を食らったらひとたまりもない筈だっ!」

長門「油断はするなっ!艦隊、陣形を再編し距離をとれっ!」

 

各々陣形を組み直し、降り注ぐ水飛沫の中を凝視している。

 

金剛「まだデスね」

長門「あぁ、まだまだだ」

 

水飛沫が減っていき向こう側がうっすら見えてくる。

そこには黒い影が佇んでいるのが伺えた。

 

ヒエイ「調子二乗ルナ…!!」

 

その時だった。

比叡の足元から大きな水飛沫が上がり巨大な腕が飛び出してくる。

 

長門「なんだ!?」

ヒエイ「アナタ様ハ…!」

 

「随分楽シソウナ事ヲシテルジャナイ」

 

比叡が足元から現れたそれに膝まずく。

その正体は黒髪の女性……いや、深海棲艦なのだが……艤装が今迄見たことの無いタイプで、一言で言い表すのであれば『化け物』という言葉が良く似合うものであった。

 

だが、それだけじゃない……この深海棲艦……喋っている…!

『言葉を話す』ただそれだけの事なのに、異質であると同時に他の奴等とは違う威圧感を感じた。

 

戦艦「コノ戦艦棲姫モ混ゼテモラウワ」

艤装「オオォォォォォォォォオオオオ!!!!」

 

凄まじい咆哮をあげる戦艦棲姫の艤装。

 

金剛「来マスッ!」

長門「各艦警戒しろっ!!」

 



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外伝 ヒエイ

(金剛視点)

 

比叡はワタシがいる第1艦隊が、新しく現れた戦艦棲姫は長門率いる第2艦隊が相手をすることになりまシタ。

 

ヒエイ「アァ、ソノ顔……!ソノ顔ヲ見テルトイライラガ止マラナイッ…!」

金剛「っ!比叡っ!!!」

 

水飛沫を上げながら突撃してくる比叡。

ワタシも副砲で牽制しつつ、比叡に突撃していくネ。

 

そしてお互いすれ違い様に主砲を撃ちますが紙一重の所で避ける。

 

ヒエイ「チィ!」

金剛「シィット…!」

 

Uターンして再接近を図ろうとする比叡、ですが那智の砲撃と加賀の艦載機に阻止されマス。

 

那智「大破にさえ追い込んでしまえば!」

加賀「航空隊、攻撃開始。沈める気で行きなさい…!」

 

砲撃しつつ、魚雷を放っていく那智と艦攻による雷撃をする加賀。

ケド比叡は高速戦艦故の機動力で砲撃を避けて、副砲で水中を進んでいる魚雷を撃ち抜いていくネー!

 

ヒエイ「邪魔ヲ……スルナァァァァァアアアアアア!!!」

 

更に上空を飛んでいる艦載機目掛け砲弾を放つ。

放たれた砲弾は上空で破裂し、小さな弾丸となって艦載機を撃墜させていく!

 

 

加賀「…三式弾…!」

ヒエイ「オ返シヨ……!!」

 

撃墜し墜落してきた艦載機を一機掴んで、加賀目掛けて急接近してくるネ!

 

ヒエイ「ハアッ!!!」

 

そして加賀の顔面に艦載機を叩き付けたネ!

 

加賀「っがぁ…!!」

那智「加賀!!」

ヒエイ「ソンナニコイツガ心配……?」

 

今度は顔を覆って苦しんでいる加賀を蹴り飛ばす。

その先には飛ばされた加賀を受け止めようと手を伸ばしている那智がいまシタ。

 

ヒエイ「ナラ一緒二沈ミナサイッ!!」

 

那智が加賀を受け止めた瞬間を狙い、主砲と副砲を一斉に放つ。

放たれた砲弾は二人の体に着弾し、爆煙が上がりマス!!

加賀、那智は大破してしまいまシタ…!

 

金剛「二人は退避してくだサイ!五十鈴と木曾と北上の4人で何とか止めマス!!!」

北上「ほーら、こっちだよー!」

木曾「比叡っ!お前の相手はオレ達だっ!」

五十鈴「来なさいっての!」

 

ワタシ達は比叡目掛け主砲を放っていきマス。

そして比叡はそれを察知して、直ぐ様回避行動に移りマス。

 

ヒエイ「ソンナニ沈ミタイカッ!」

 

比叡の反撃を何とか避けていきますが、このままだと徐々に押されて全滅してしまう事を全員感じていたネー…!

 

木曾「北上姉ぇ…魚雷は?」

北上「あと1回分…そっちも…同じっぽいね」

五十鈴「五十鈴も後1発…」

 

まともな雷撃のチャンスは1回だけ……ケド、やるしかないネ…!

 

金剛「了解デース…!陽動はワタシに任せてくだサイ!!」

 

主砲を放ちながら接近してくる比叡の前に立ち塞がる!

 

金剛「HEYカモーン!!」

ヒエイ「マズハオ前カッ!!」

 

お互いに至近距離で主砲を撃ち合い、至近弾が互いの体に小さな傷を作っていきマス…!

けど、比叡の注意は確実にワタシだけに向かれていまシタ。

 

ヒエイ「ハァアァァアアアア!!!」

 

 

今っ!!!

 

 

主砲を放とうと狙いを定めている比叡から急速離脱!!!

 

 

ヒエイ「今更怖ジ気ーー」

 

突如比叡の足元から轟音と共に水柱が立つ。

その正体は木曾・北上・五十鈴が射程ギリギリで放った魚雷でシタ。

 

五十鈴「魚雷全発命中…!」

木曾「あとは鎖で縛り上げるだけだ!!」

 

ワタシの元に合流した3人は、水柱が消えるのを待つ。

その時、水柱の中から砲弾が飛び出し木曾の体にヒットしたネー!!!

 

 

木曾「がはっ!」

北上「木曾っ!!」

 

更に1発、先程同様砲弾が飛び出し、今度は五十鈴の体にヒット!!

 

五十鈴「きゃぁぁあ!!!」

金剛「…そんな…!」

 

一撃で大破してしまった二人を見て戦慄するワタシと北上。

そして今度は撃った本人、比叡が中破し傷だらけになった体で現れまシタ。

 

 

ヒエイ「…ヨクモ……ヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモヨクモ!!!!」

 

怒りを露にし、大破した木曾と五十鈴目掛けて攻撃を始めマス!

 

これ以上攻撃を受けたら轟沈は避けられまセンッ…!!

 

北上「マズッ!木曾!!」

金剛「五十鈴!!」

 

二人を庇おうと動き出すワタシと北上。

ワタシは何とか五十鈴を抱き抱え、砲弾を避ける事に成功したけれど、北上は間に合わないと判断して、砲弾を自らの体で受け止めまシタ…!

 

木曾「北上…姉ぇ…!」

北上「あはは……やっちゃったわぁ……」

 

木曾を庇い大破してしまった北上。

残された戦力はワタシだけになってしまいまシタ……。

 

金剛「……3人も離脱を…ワタシがケリをつけマス…!」

ヒエイ「ッ!コノッ!!」

 

比叡を3人から遠ざけるべく体当たりし、そのまま最大戦速で北上達から引き離す。

 

金剛「比叡…これ以上やらせません!!!」

ヒエイ「ホザキナサイ…!アンタダケデ止メラレルト思ウナ!!!!」

金剛「止めマス…止めてみせマス!!金剛型一番艦金剛!気合い、入れて、行きマスッ!!!!」



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外伝 戦艦棲姫

(長門視点)

 

長門「主砲一斉射、ってぇ!!」

 

迫りくる戦艦棲姫に主砲で攻撃していくが、奴の艤装がその太く強靭な腕で飛んできた砲弾を防いでしまう。

 

海風「なんて防御力なの…!」

 

海風は艤装の見た目通りの圧倒的防御力を前に思わず恐怖してしまっていた。

そんな海風の隙を戦艦悽姫は見逃さず、狙いを海風に定めて襲ってくる。

 

戦艦「アラアラ、可愛イ顔ヲ見セチャッテ!」

阿賀野「海風ちゃんっ!」

海風「ひっ…!」

 

海風の目の前に戦艦悽姫の艤装の腕が迫ってくる。

間一髪阿賀野が恐怖で立ち竦んでいる海風を突き飛ばすが、自身の頭部を掴まれ海面に叩きつけられてしまう。

 

阿賀野「か…は…っ!」

 

更にその状態で戦艦悽姫は走り出し、彼女を引き摺りまわし始めた。

 

海風「阿賀野さぁん!!」

不知火「阿賀野さんを…返せっ!!」

 

海風と不知火はその後を追い、阿賀野を巻き込まないように主砲を放つ。

戦艦悽姫は瞬時に彼女等の方へ向き直り主砲を避けると掴んでいた阿賀野を海風目掛けて投げつけた。

 

海風「っ!阿賀野さん!!」

 

阿賀野を受け止め、ホッとする海風。

だが同時に戦艦棲姫の艤装はそんな彼女を攻撃すべく跳躍し、両手を合わせ振り下ろそうとする。

 

不知火「海風!」

海風「え…?」

 

気付いたときにはもう遅かった。

 

顔を上げた瞬間艤装の拳に阿賀野もろとも叩きつけられ、まるで魚雷が命中したような水柱が立ち上がる。

 

加古「てめぇ…!許さねえ!!」

不知火「援護します!」

 

主砲を放ちながら奴の注意を向けようと攪乱する加古と不知火。

陽動は成功し、艤装は狙いを二人に定めて突進してくる。

 

加古「行くぞ不知火!」

不知火「いつでも大丈夫です!!」

 

戦艦棲姫を引き付け、魚雷を放つ二人。

魚雷は見事足元で爆発し水柱が奴の姿を包んでいく。

 

立ち上がった水柱から一定の距離を保ちながら周囲を回る加古と不知火。

だがその時、水柱の中から飛び出した砲弾が不知火の体を吹き飛ばす。

 

加古「不知火!っ!?」

 

今度は多少の傷を被ったヤツの艤装が中から飛び出し、加古の頭部を掴もうと腕を伸ばす。

加古は咄嗟に右腕で防ぐが、掴まれた右腕が彼女の艤装ごと握り潰されていく。

 

加古「があぁぁぁぁああああ!!!!」

長門「加古っ!!!!」

 

右腕を潰されかけ苦しむ加古を助けるべく、艤装の頭部へ砲撃を開始する。

艤装は少しだけ怯んだものの、未だ加古を離さない。

 

長門「くそっ!」

 

だがその時、艤装の背後が爆発した。

艤装は今まで以上に苦しみだし、思わず加古を離す。

 

戦艦「チィッ!」

艤装「オオォォォォォォォォオオオオ!!!」

長門「今のは…雪風か!?」

 

加古を抱えながら移動し、艤装を攻撃した雪風を見つける。

 

雪風「加古さんを助けようと主砲を撃ったら…想像以上に痛かったみたいです…」

 

雪風自身もここまで通用するとは思っていなかったのか、少しだけ唖然としている。

 

だが流石幸運艦だ…!おかげで攻略法が見えてきた!

 

長門「…どうやら背中が弱点のようだな」

雪風「あっ!だから今までの攻撃があんまり効かなかったんですね!!」

長門「弱点は解った…あとはどうやって背中を向けさせるか…」

 

加古を離脱させ、長門と雪風は視線を一点に向ける。

そこには背中を攻撃され、怒りで更に凶暴化している艤装とそれと同様に先程の余裕が無くなった戦艦悽姫の姿があった。

 

戦艦「小賢シイ真似ヲシテェッ!ソンナニ沈ミタイノカシラッ!?」

艤装「オオオォォォォォォォ………………!!」

 

 

くそ…あぁなってしまった以上、厳しいが…やるしかない…!

 

 

駒門『…なるほど、背中を狙えば良いのですわね?』

 

突如提督から無線が入り、その瞬間艤装の背中が上空から攻撃を受ける。

 

戦艦「ギィヤッ!」

艤装「オオォォオオオオオオオッ!!!」

 

長門「これは…!」

 

空を見上げるとブレストがミサイルや三連砲で攻撃していた。

 

というかあの数の敵を倒して来たのか……!?

 

 

長門「提督!」

駒門『雑魚は皆沈めましたわ!!あとはコイツだけですわねっ!!!』

 

ブレスト「ギュイイィィイ!」

 

ブレストが奴に目掛けて攻撃を仕掛けるが、着弾時の爆煙や水柱で艤装の姿が見えなくなってしまう。

 

長門「やりすぎだ……!敵の姿を見失ってしまう…!」

 

その時、爆煙を突き破って戦艦棲姫を肩に乗せた艤装がブレスト目掛け跳躍し掴み掛かった。

 

駒門『嘘でしょ!?』

長門「あれだけの攻撃を受けてなんでそこまで動ける…!?」

 

ブレストは艤装を引き離そうともがくが、艤装は掴んでいる手の力を強め、もう片方の手でブレストの武装を破壊していく。

 

ブレスト「ギュアアアアアアアアアアア!!」

艤装「オオォォォォォォォォオオオオ!!」

 

互いに獣のような雄叫び上げながら宙を不安定に舞っている2体。

 

駒門『…仕方ないですわ…!長門っ!ブレストごと撃ってくださいましっ!!』

長門「なっ…!?」

駒門『安心してください!コア部分さえあれば修復出来ますわ!!急いで!!!』

 

提督の指示に多少困惑するものの、深呼吸し主砲を動かす。

雪風もそれに続き、主砲を構える。

 

長門「雪風…いくぞ…!」

雪風「…はい…!」

 

狙いをブレストを攻撃している艤装と、その肩に乗っている戦艦棲姫に定める。

 

長門「…てぇっ!!!」

 

長門の合図と共に、主砲を一斉に放つ。

砲弾は戦艦棲姫と彼女の艤装の背中を中心にブレストの翼や体の一部に着弾していく。

 

戦艦「ギヤァァァアアアアアッ!!!!」

艤装「オオォォォォォォォォオオオオ…………!!!」

 

 

翼を撃ち抜かれ浮力を失ったブレストと一緒に海に叩き付けられる戦艦棲姫。

主砲を全弾撃ち尽くし様子を観察する私と雪風だが、2体が落ちた場所からそれがゆらりと立ち上がる姿を見つけてしまった。

 

まだ…立つのか…!

 

戦艦「オノレ……オノレオノレ…!!」

 

全身から血を流し満身創痍な状態になりながら、こちらを睨み付ける。

 

不味いぞ……こっちは雪風含めて弾切れの状態。

これ以上の戦闘は困難だった。

 

長門「雪風は下がってくれ…あとは、私に任せてくれないか?」

雪風「……わかりました」

 

雪風を退避させ、戦艦棲姫に弾切れになった主砲を向ける。

 

しょうもないハッタリだが、これが今やれるせめてもの抵抗だった。

 

戦艦「クソ……コンナヤツニ…!」

長門「……」

 

それからお互い一歩も動くこと無く時間が過ぎていく。

 

そして最初に動き始めたのは戦艦棲姫の方だった。

 

戦艦「ソノ顔……忘レナイカラ…!」

長門「!」

 

てっきり向かってくるのかと思っていたが、奴がとった行動は撤退だった。

 

戦艦棲姫同様血塗れの艤装を立ち上がらせ、深海へ沈んでいく。

 

……勝ったのか…?

 

一瞬そう思ったが、私を含め艦隊の状況を見ればこちら側の敗北なのは明らかだった。

 

しかしこの作戦の成否は奴を倒すことではない。

 

長門「…金剛…!」

 

今回の目的は比叡を取り戻すことだ。

奴との決着は、またいずれ付けてやる!



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外伝 解放

(金剛視点)

 

比叡とワタシの戦いは熾烈を極め、互いに1歩も譲らないデッドヒートが繰り広げられていまシタ。

ケド…ワタシの弾薬が尽きて、状況は一気に不利になってしまってまシタ。

 

金剛「っ!弾が…!!」

ヒエイ「ハッ!モウ終ワリ!?……ッ!」

 

弾薬が尽きたのを見て比叡は勝利を確信してたケド、突然頭を抑えながら苦しみ出したネー。

 

ヒエイ「ガッ…!アァァッァアア!!!」

金剛「比叡…!?」

長門「金剛!」

 

一体比叡に何が起きたんデス……!?

 

困惑するワタシの元に長門が合流したネ。

 

金剛「長門、戦艦棲姫はどうなりまシタ!?」

長門「何とか撃退したが…こっちは弾切れだ…」

ヒエイ「グガ……ア…!オ、オネエ……サマ……!!」

金剛「っ!!!」

 

今ワタシの事を呼んでくれた…!?

 

そう思うのも束の間、比叡の苦しみ方が更に激しくなっていったネ。

 

ヒエイ「アァッ!ヤメロォッ!!コノ身体ハモウワタシノモノダァ!!!イイ加減二消エロォォォォオオオ!!!!!!」

 

遂には見境無く砲撃して暴れまわる比叡。

暴れながら放った砲弾がワタシ達の近くに着弾し水柱を立てていく。

 

長門「くっ…!これじゃ近付けない…!!」

金剛「デモあと少し!あと少しなんデスッ!!」

 

 

何か方法はないかと必死で思考を巡らせる。

その時、レーカから無線が入った。

 

駒門『……ブレストの主砲の1つがまだ生きていますわ…!彼女の元に向かって!!』

金剛「っ!レーカ…!!」

 

急いで辺りを見回し、ボロボロになって水面に浮かんでいるブレストを見つけまシタ。

ブレスト自身も自分のやるべき事を理解しているのか、三連砲を動かそうともがいているようデス。

 

ワタシと長門はブレストの元に駆け寄り、三連砲を暴れている比叡に狙いを定め始めマス。

ケド比叡もそれに気付いて、苦しみながらもワタシ達目掛けて突撃してきマス…!

 

ヒエイ「艦娘ゥゥゥウウウウウ!!!艦娘!艦娘!カンムスカンムスカンムスムススススススススス」

 

攪乱状態で主砲を放ちながら突進してくる比叡。

そんな中ワタシとブレストは未だ狙いを定めきれずにいまシタ。

 

 

金剛「早く…早く…!!」

 

あと少しで狙いが定まるという瞬間、比叡から放たれた砲弾がコッチに飛んできたネ!

 

金剛「っ!」

長門「させるかぁ!!!」

 

長門が瞬時にワタシの前に出て砲弾を自らの体で受け止めまシタ!

そのお陰で狙いが定まって、大破した長門に避けるように促しマス。

 

金剛「ヘイブレスト…準備は良いデスネ…?」

ブレスト「ギュギイ…!」

駒門『OK…って仰っていますわ』

 

奇声を叫びながら突撃してくる比叡とは対称的に、ワタシとブレストは静かに彼女を見据えていまシタ。

 

金剛「バーニングゥ………」

ブレスト「ギューギィ…………」

 

 

 

 

 

ヒエイ「シ、シシシズズ……!沈メメメメメメメメメ!!!」

 

 

 

 

 

 

金剛「ラァァァァァァアアアアアアアヴッ!!!!!!!!」

ブレスト「ギャァァァァアアアアアアウ!!!!!!!」

 

ワタシ達の叫びと共に放たれた砲弾は比叡の身体にヒット、大きな爆発と共に比叡の身体が水面に転がっていきまシタ!

 

長門「今だっ!鎖で!」

金剛「ハイッ!」

 

急いで比叡の元へ駆け寄り、鎖で拘束していきマス。

 

長門「提督……作戦は…成功…比叡を奪還したぞ…!」

駒門『…了解…!よくやりましたわね…!帰投してください…それと、ブレストの回収もお願いしますわ』

金剛「…比叡……」

長門「…先に行っているぞ」

 

ワタシに気を効かせたのか長門がブレストの本体部分を担いで、先に他の皆と一緒に帰路へついていきマス。

そんな中ワタシが比叡をそっと抱き上げると、なんと比叡の目が開いてコッチを見つめまシタ。

 

比叡「お姉……さま…?」

金剛「っ!?比叡!」

 

姿は深海棲艦のままデスが、比叡はワタシの事をしっかりと呼んでくれていまシタ!

 

金剛「比叡…!比叡っ!!」

比叡「お姉さま…痛い…です……」

 

思わず抱き締める力が強くなってたみたいで、ワタシは慌てて力を緩めて彼女を縛っていた鎖を解きまシタ。

 

金剛「ソ、ソーリー…!比叡……良かった…!良かったデース…!!」

比叡「お姉さまの声が…聴こえてきて……気が付いたら、ここに…私は……どう…なって……?」

金剛「もういい……もう、いいんデス…!お帰りなさい…比叡…!」

 

ゆっくりと比叡を起こし上げる。

艤装も大半が壊れていたケド、航行に支障は無いようでシタ。

 

そして比叡はワタシの少し後ろを着いていくようにして、ワタシ達2人はゆっくりと皆の所へ向かって進み出したネ。

 

金剛「ホントに良かったネ!これでまた一緒に過ごせマース!」

比叡「そうですね、お姉さま……」

 

その時比叡の返す言葉に何処か生気が無いように思えまシタ。ケド、あの戦闘の後デス。きっと疲れ果てているんデース。

 

比叡「……金剛お姉さま?」

金剛「ん~?」

比叡「ありがとうございます……」

金剛「大事な妹を助けただけデース!気にしな」

 

 

 

 

『気にしないでくだサーイ!』

 

そう続けようとしたんデス……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比叡「ごめんなさい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金剛「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き間違いであって欲しかったネ……。

咄嗟に後ろを振り向いて比叡の姿を確認しようとしたネ……ケドそこには、海が広がっているダケで…………比叡の姿はどこにもいませんデシタ。




これにて一度外伝は一区切りとなります(続きはまたいずれ)

次回から再び提督の鎮守府へ戻ります


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回想録 悪夢

リアルが忙しくて遅れたンゴ


(提督視点)

 

そいつらが現れたのは本当に突然だった。

 

マグマ軍との戦争が終結してから暫くして、沿岸部から後の駆逐級·軽空母級·軽巡級が出現し船舶を攻撃しているという報告が相次いだ。

 

謎の生命体出現の報告を受けた陸軍は、中隊規模の部隊を編成し、情報収集も兼ねて出撃させた。

 

しかしその後、彼女達からの報告は無く本部から『隊員全員の死亡及び消息不明』の報告が届いた…。

 

正直信じられなかった……彼女達の練度は全員100を超えているベテランだ。

マグマ軍との戦いでもそうそうやられることが無かった皆が……死んだのだ。

 

 

それから約1週間後、再び出現。

前回より数が多く前回見られなかった人型の個体も多く見受けられた。

 

 

本部は前回の反省を踏まえ敵勢力の倍以上の人員を派遣。味方マグマ軍含め大隊規模での戦闘が起きた。

 

 

しかし結果は『大敗』。出撃した人員の8割を損失した。

そしてこの戦闘で通常火器が意味を為さない事が判明し、本部の御偉方がキレ散らかしていたのは今でも覚えている。…正直自分も流石に頭を抱えた。

 

 

だが、決して無駄な戦闘では無かった。

『SSNO』の装備が現状唯一奴らに対してダメージを与える事が出来ていた事が判明し、本部は清算度外視で月詠機関にありったけの装備の開発を依頼、それと同時に海上での戦闘に特化した武器娘(後の艦娘)の開発に着手した。

 

そして奴らの名称もこの段階で『深海棲艦』に決定し、以降それで統一された。(第一案がアクア軍だったらしいが、マグマ軍皇族から反発されて没になったらしい)

 

 

そして3度目の戦闘が勃発。陸軍及び味方マグマ軍の総兵力を投入した総力戦が始まった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

総力戦から数時間後、司令室

 

提督「第6部隊応答しろっ!!」

 

自分は返事が返ってこない無線に必死に呼び掛けていた。

 

着弾の衝撃でひび割れた頭上のモニターには現在の戦況、そして出撃している隊員の状態が表示されていた。

だけど自分はそのモニターを直視することが出来なかった。

 

そこには大半の隊員の状態が『LOST』と表示されていたからだ。

 

そんなはず無い…機械が壊れただけだと信じながら無線の周波数を弄りながら各部隊に呼び掛けていた。

 

提督「もういいっ!本部から撤退命令が出ている!!!誰でもいいから返事をしてくれ!!!!」

 

また1つ…また1つと警告音と共に隊員に『LOST』の表示が増えていく……。

 

その時今までに無い大きな衝撃と共に部屋の一部が倒壊し、外の様子が…地獄が直接目に入ってきた。

 

提督「……ウソだろ…!?」

 

先程の衝撃の正体は遊撃要塞が近くに落ちたのが原因だった。

そしてその付近には巻き込まれたであろう陸軍兵士や整備士、マグマ軍兵士の亡骸が転がっていた。

 

 

提督「…なんなんだ…!くそったれっ……!!」

 

 

成す術も無く只立ち尽くすしか出来ない自分に腹が立つ。

 

アルマータ「閣下!!」

 

 

突如聞こえたアルマータの声で我に返った。

彼女も全身傷だらけで至る所に出血、特徴的だった頭部の角も折れていたが……生きていた…無事だった…!

 

提督「無事だったか!?他の皆は!?」

アルマータ「私の部隊は本部からの撤退命令を聞いたので撤退させましたっ!」

提督「よくやった!アルマータは動ける隊員と一緒に怪我人の運搬を頼む!!」

アルマータ「はっ!」

 

敬礼した後直ぐ様行動に移るアルマータ。

 

その直後に再び近くで敵の砲撃が着弾し爆発、その勢いで自分は瓦礫に吹き飛ばされてしまった。

 

 

アルマータ「閣下っ!!あぁ……なんて事…!!」

 

衝撃で頭を打ったせいか意識が朦朧とする中、爆発を聞いてUターンしたアルマータに抱き抱えられる。

彼女の表情を見たところ相当大怪我を負ってしまったんだろう。

 

 

 

市ヶ谷「大丈夫ですか司令!……酷い傷……!運びますよ!」

 

 

別の部隊の指揮を取っていた市ヶ谷も隊員を撤退させた後爆発を見てこちらに合流してくれた。

そして2人に運ばれ撤退用に用意されたヘリの後部席に寝かされ離陸、ヘリは撤退を始める。

 

それと同時に陸側からジェット音が聞こえてきた。

 

市ヶ谷「航空隊…!?」

 

ヘリとすれ違うように海へ飛んでいく複数の戦闘機。……おそらく撤退の時間稼ぎの無人飛行機だろうか。

そして深海悽艦目掛け爆撃するが、SSNO装備では無いため相手は傷一つ負わないのは見なくても分かった。

そして仕返しとばかりに艦載機と対空砲火で次々と撃墜されていく音が外から聞こえてくる。

 

うっすらと聞こえる爆発音とそれを見て絶望する市ヶ谷を横目で見ながら自分の意識はだんだん遠退いていった。

 



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目覚め

(提督視点)

 

提督「っはぁ……!」

 

飛び起きるとそこは鎮守府の自室。

時計を見ると午前4:40。汗だくになった自分の体の隣には大和が寝息をたてていた。

あぁ、そうだ……昨日は彼女と寝たんだっけ…。

 

そんなことよりまた…あの夢だ……深海悽艦と戦闘したときの……。

 

あの時の悪夢が未だに鮮明に思い出してしまい思わず頭を抱えてしまう。

 

あの演習から1週間……あの日から、またこの夢にうなされる事になるとは……。

 

 

大和「んぅ……司令…君…?」

 

 

自分が動いた事で起こしてしまったのか、大和が目を覚まして、目を擦りながら自分を見つめていた。

 

大和「どうしたの…?」

 

……彼女には嘘がすぐバレてしまうから嘘はつけない…正直に話すしかないか。

 

提督「…最近、またあの夢を見るんだ……」

 

まだ日が完全に昇っておらず部屋が薄暗かった為、彼女に表情を視られる事はなかったが、どうやら声で察してしまったらしい。

 

大和「そう、あの日の…」

 

何も言わずそっと自分を抱き締める。

抱き締められて初めて気付いたが、自分の身体が震えていた。

 

提督「…情けない……天龍達に覚悟を聞いておきながら、当の自分はあの日の惨劇に怯えてる……なんてざまだ…」

大和「……」

 

この時間がずっと続けば良かったのだが、生憎こうしている内に起床時間となってしまった。

 

大和にお礼を言ってベッドから立った瞬間、突如視界が歪んで真っ暗になった。

 

大和「司令君っ!!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(大和視点)

 

突然倒れた司令君を急いで医務室に運んで医療スタッフに診てもらった結果『過労と精神的疲労』で倒れたみたい。

 

確かにあの日以降、司令君の仕事量は目に見えて増えていたわ。

おおかた天龍を筆頭に艦娘のケアに関する試行錯誤とか深海棲艦に関するレポートの作成が原因ね。

 

そしてそこに、あの夢……倒れちゃうのは当然だわ…。

私が傍に居ながらなんて不甲斐ない…!

 

司令君の『正妻』としてしっかり彼を支えなきゃいけないのに…!

 

 

その時どこで嗅ぎ付けたのか、司令君の容態を知った例の虫達が群がってきた。

 

アルマータ「閣下!ご容態は大丈夫なのでしょうか!?」

ソーニャ「我が君ぃっ!ワタシを置いて逝っちゃ嫌ぁっ!!!」

16「しししし司令!!誰にヤられたんですか!?そこのメスですか!?」

 

 

 

はぁ……。

 

殺してやろうかしら?

 

 

おっと、いけないいけない!一応…いっっっちおうこれも司令君の妻(笑)だもんね!殺しちゃったら司令君が悲しんじゃうもんねっ!雪子~?正妻の余裕を見せるのよ~?

 

 

 

アルマータ「『正妻』である私がお傍に居ればこんな事には…!」

ソーニャ「ここは我が君の『正妻』のワタシが看病してあげますからねっ!」

16「フヒッ!これからは…し、司令の『正妻』のわ、私がずっと憑いてますからねぇ……!」

 

 

はぁ~~~~殺す。

絶対殺す。

 

正妻は私だから。あんた達は練度の限界突破の為に司令君が仕方な~~~~く指輪渡しただけなのに、なに勘違いしてるのやら。

 

 

っと、いけない……今回ばかりはそれどころじゃないのよね。

 

 

 

 

 

大和「またあの日の夢、見たらしいのよ」

 

 

このたった一言で、3人の動きがピタリと止まった。

 

 

大和「体調の事は私だって心配だけど、原因があれだから…そっとしておきましょう」

アルマータ「…そうね」

ソーニャ「司令、何かありましたらすぐに呼んで下さいね?」

16「しれぇ~……」

 

私も含めて、司令君が寝ている部屋から退散する。

 

 

あの日、私達は背中を預けあった仲間を、司令君を巡って争った恋敵をたくさん喪った。

 

生き残った娘達も大なり小なりトラウマを抱えてしまったのだけれど、一番重症だったのが司令君だった。

 

 

それ以降私達4人は誰が言い出した訳でもなく、自然と協力して司令君を支えるようになった。

認めたくはないけれど、3人の司令君に対する想いは本物だから信用できた。

 

そして、支えた甲斐あってか司令君も何とか復活してくれた。

そう思っていたのだけど……やっぱりこういうのは中々克服出来ないものね…。

 

大和「…お互い持ち場に着きましょ?私達が動かなきゃ司令君が起きた時また苦労を掛けちゃうわ」

ソーニャ「そう、ね」

 

そして各々動き出す……のだけれど、先ずは今日の日程の確認と朝食を取るためにどちらにしろ全員食堂へ向かうことになる。

 

ソーニャと16が足早に先に向かって、私とアルマータが自然と一緒に向かう事になった。

 

けれど

 

 

大和「……」

アルマータ「……」

 

 

いつもはこんな状況になれば司令君を巡って喧嘩は当たり前だった。…けれど今はそんなことをするような気分にはお互いにならなかった。

 

 

 

 

大和「……あの日の事、覚えてる?」

 

アルマータ「ええ、今でも鮮明に覚えてるわ……」

 

あの日の事を思い出しているのか、ギリリと歯を食いしばって顔をしかめている。

 

大和「病院で目覚めた時は…ほんとに悲惨だったわね」

アルマータ「皆、絶望していたわね…。無理もないわ。SSNOや神装をもってしても防衛戦は完敗、軍の戦力の4分の1が喪失…」

大和「部隊内の戦死者リストを見た時も…市ヶ谷さんや智香が気を失ってたわね」

アルマータ「…」

大和「…」

 

またお互い暫く無言になってしまう。

しかし、次に沈黙を破ったのはアルマータだった。

 

アルマータ「私は…もう閣下にあのような思いをさせたくない」

大和「…そうね。その為にも艦娘も、私達も強くならなくちゃ」

 

そして私達2人は食堂へ到着。

既にほぼ全員集まっていて、司令君を待つだけだったみたい。

 

利根「2人が揃って来るとは珍しいのう」

扶桑「いつもは、提督と一緒に来ますもんねぇ?」

 

アルマータと一緒なのを見るや否や意外といった表情をする。

同席している扶桑も司令君がいない事に疑問を持ったみたい。

 

大和「司令君体調を崩しちゃったから休ませてるわ」

 

 

 

 

「ややっ!?それは一大事ですっ!」

 

 

 

声が聞こえた方を見ると先日新たに建造された艦娘、青葉がカメラを持って立ち上がっていた。

 

アルマータ「私が代理を勤めるから問題ない。それと、今閣下の所に行くようなら……?」

青葉「あわわわわわ……失礼しましたっ!」

 

彼女の気迫に圧され、直ぐ様カメラをしまって着席する。

 

全く……とんでもないパパラッチ娘が建造されたものだわ……凛子を呼んで指導させようかしら?

 

 

その後、天龍以外全員集まり日程の確認を始める。

 

アルマータ「本日閣下が体調を崩された為、私が代理を勤めさせてもらう。前日閣下が伝えた通り鈴谷は青葉に訓練指導を。利根旗艦の第1艦隊は今後行う予定の北方海域攻略の為の航路確保を行ってもらう。そしてヘリ部隊も16、ベレーザ、奈良を残して艦隊と共に出撃。……以上だが質問は?」

 

淡々と日程を伝え終わり、皆を見渡す。

すると利根が手を挙げていた。

 

利根「ヘリ部隊が着いてくるという事は鹵獲もアリと捉えて良いんじゃな?」

アルマータ「航路の確保と全員の無事が保証されるなら。これは現場の判断に任せるわ」

利根「わかった!その時はよろしく頼むぞ?」

コブラ「任せてくださいよ!今度こそスーパーな活躍見せちゃいますから!!」

鯖江「この前の戦闘の後、改めて1から訓練をしたんだもの。やってみせるよ」

明石「装備一式もあかりさんと一緒に改良もしました!」

アルマータ「あーコホン。あくまでチャンスがあったらよ?基本殲滅、これが閣下のご意向でもあるんだから」

 

咳払いし、盛り上がりだした一行に釘を刺す。

 

利根「わかっておる。無計画に鹵獲しようとはせんよ」

アルマータ「期待してるわ。では朝食後、行動開始」



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発見

(アルマータ視点)

 

 

 

 

 

各々食事を済ませた後、第1艦隊とヘリ部隊は出撃、残った者は鎮守府内で各々作業を、そして私は閣下に代わって執務を開始していた。

 

コンコン

 

執務を始めて数時間後、控えめなノックが響く。

入室を促すと入ってきたのは暁だ。

暗い表情で入ってきた暁を見て、私は用件を察してしまった。

 

アルマータ「…どうだった?」

 

答えが解りきっているが、一応聞いてみる。

彼女は無言で首を横に振る……やはり、そうでしょうね。

 

暁「天龍ちゃん……やっぱり部屋から出て来なかったわ……」

 

暁の用件は、軽巡ホ級…もとい龍田を自分の手で殺めてしまった天龍の事だ。

執務を一時中断し、暁をソファーへ促す。

 

アルマータ「…そう…食事のほうは?」

 

ソファーに座った暁の所にお茶を出し、私自身も専用の椅子に腰掛ける。

 

 

 

暁「この間利根さんや椿さんが無理矢理食べさせて以降、少しだけど食べるようになってるわ」

アルマータ「ツバキから聞いたわ。部屋に入ったら衰弱してたらしいわね…」

暁「天龍ちゃん……ずっとあのままなのかなぁ……?」

 

 

正直、私達に出来る事は祈る位しかないだろうと思う…。外で私達が何を言っても、実際に立ち直るかどうかは彼女次第なのだから……。

 

でも、閣下が指揮する鎮守府に居るのだから絶対に立ち直る。

私はそう信じているわ。

 

……全く、昔の私なら『閣下以外虫けら同然』と気に掛けていなかったけれど、気が付けば仲間意識というのかしら……彼女達を気に掛けるのが当たり前になっていた。

 

ふふ、閣下のお側にずっと居たせいなのか閣下の影響を受けてしまったようね。

 

アルマータ「今は、信じて待つしかないわ…そこから立ち上がるかどうかは天龍自身が決める事だから……ごめんなさい……今は、こんなことしか言えないわ」

暁「グスッ……ううん…そう、よね…」

アルマータ「…落ち着くまでここに居るといいわ。この件は閣下にも伝えておくから、きっと大丈夫よ」

 

暁を慰めた後、再び執務を再開しようと立ち上がる。

そこへ大淀が入ってきた。

 

大淀「アルマータさん!」

アルマータ「ノックもせずにどうした?」

 

急いで入ってきたのか少し肩で息をしている大淀。

 

大淀「救難信号をキャッチしたんです!ここから南東、本土から数キロ離れた所に位置する孤島です!」

アルマータ「ここから南東…?」

 

場所を地図で調べる。

そしてその場所を見て思わず目を見開いた。

 

アルマータ「あの戦いがあった場所…!」

 

……このタイミングで閣下や私達に因縁のある場所なんて…!

 

アルマータ「艦隊の状況は?」

大淀「現在予定海域で作戦行動中。帰投予定時刻は1530です」

 

机に置いてある時計に目をやると1201を表示している。

第一艦隊が帰還して直ぐに再出撃すれば行けそうだが、閣下のいない状況でこのような作戦をとっても良いのか悩ましい…。

 

他の鎮守府に頼むべきか…?いや、他の鎮守府からだと距離が遠過ぎる。

 

アルマータ「……艦隊帰還後、その海域に向けてすぐに出撃させるわ」

 

大淀「艦隊の疲労度合いにもよりますが、連続出撃は……」

アルマータ「わかってるわ……。この作戦の責任は、私が全て負います」

 

全ては閣下の為に。

 

 

アルマータ「現在の敵の動きは?」

大淀「今の所大きな反応はありません。ただ、信号は現在も発信されているため気付かれてしまうかと」

 

利根『こちら第一艦隊じゃ。作戦は成功、損害も無しじゃ』

 

丁度いいタイミングで艦隊から作戦の成功の報せが届く。

このままいけば時間通りに帰還出来そうね。

 

 

アルマータ「今すぐ帰投を。戻り次第ブリーフィングを開いて補給が済み次第再び出撃させる」

利根『なっ!?急にどうしたのじゃ!?』

アルマータ「鎮守府から数キロ離れた海域で救難信号を拾ったのよ。場所的に一番近いのが私達よ」

利根『……そういうことならば仕方がない。わかった、出来るだけ急いで戻る!』

アルマータ「頼むわね」

 

そして15:08。

事情を知って急いで帰投した利根達を、大淀が出迎えてくれた。

そして彼女から軽く説明を受け、こちらにやってくる。

 

利根「艦隊帰投したぞ!」

アルマータ「よし、概要を説明する」

 

執務室に出撃メンバーが揃い、作戦概要の説明を始めた。

 

アルマータ「先ずは作戦ご苦労。ゆっくり休ませたい所だがそうは言ってられなくなった。南東の方角にある孤島…ここで救難信号がキャッチされたわ」

 

地図を指しながら説明していく。

 

ヒリュウ「なんでそんなところに…?」

アルマータ「…以前、そこの近辺で陸軍と深海棲艦の戦いがあったのよ。もしかしたらその生き残りの可能性もあるわ。これより第一艦隊とヘリ部隊は補給完了後出撃、救助任務を行ってもらう。連続の出撃で辛いと思うけど頼むわね…!」

 

敬礼する一同。

そして各自補給と間宮から受け取った軽食を食べ終え、配置に着く。

 

利根『艦隊何時でも出撃OKじゃ!』

 

利根から無線が入る。

それに続くようにヘリ部隊の方でも出撃準備完了の無線が届いた。

 

アルマータ「了解。今回は夜戦になる可能性が高い。各自索敵に気を配るように。……出撃!」

利根『第1艦隊抜錨じゃ!』

鯖江『全機離陸するよ!』



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孤島

とある孤島。

 

そこは本土に近いものの海に囲まれている為かつての戦いの傷跡が修復されず放置されており、流れ着いた戦車や戦闘機の残骸が辺り一面に転がっていた。

 

私達はその残骸の1つ。砂浜に落ちている比較的損傷が軽い戦闘機の操縦席で基盤を弄っていた。

 

「いけそう?」

「これがだめならもうチャンスはないわね。…この信号が最後の希望ってとこかしら」

 

操縦席で基盤を操作している私の様子を見ているのは元山岳レンジャー、松本亜衣璃。

 

そして私は『特戦群』と呼ばれる陸軍特殊部隊に所属していた出浦信(あき)。

 

私達は基盤がいくつか剥き出しになっている操縦席を弄りながら会話を続けていた。

 

(出浦視点)

 

松本「この数ヵ月これを治す為に頑張ってきた…」

出浦「そうね…あなたの知識には何度も助けられてきたわ」

 

島に漂着してからの数ヶ月、私達は亜衣瑠の知識で食料の調達から寝床の確保まで何かと助けられてきた。

私も一応同じ部隊の仲間だったしのぶから何回か教わっていたけれど、付け焼刃の知識じゃ彼女の知識と経験には敵わなかった。

 

 

松本「それにしても、あの時……あの爆発でここに漂着なんて、運が良かった…」

出浦「……本当、運が良かったわよ…」

松本「…?」

 

含みのある言い方をする私を不思議そうに見る亜衣瑠。

 

彼女には言っていないのだが、当時のこの近辺は今以上に深海棲艦が徘徊していたわ。

私もそうなのだけど、その中を掻い潜ってここ迄流されたのは本当に運が良かった。

 

その時島の奥から何者かが音を立ててやって来る。

と言っても誰かなんてのはすぐに察しがついた。

 

松本「収穫はどう?」

 

操縦席から顔を出し、出てきた人物を見る。

そこには服に付いた葉っぱを払い落とすAH-64D改と両手いっぱいに果物を抱えたOH-1改がいた。

2人とも亜衣瑠と同じ部隊にいたらしく、撃墜されて私達が流れ着いた場所の反対側の場所に不時着したらしい。

そして無事だったのは良かったけれど装備が大破して飛べなくなったとのこと。

 

 

OH「意外な穴場を見つけました!ほらっ!」

 

差し出された両手いっぱいの果物に目をやる。見たことのある果物から見た目が怪しいものまで色とりどりだ。

 

64「わたしは魚っ!!」

 

流れ着いたボロ布で作った風呂敷には十数匹の大小の魚が包まれていた。

 

今夜は久し振りに満足に食べられそうね。

 

松本「日も落ちてきたし…食事にする…」

 

操縦席から飛び降り、食事の準備に掛かる。

 

私が火を起こし、亜衣瑠がサバイバルナイフで魚を捌いていく。

これまで何度もやって来たお陰か、日が落ちる前に目の前にこんがり焼かれた魚にありつけた。

 

 

出浦「それじゃ、いただくわ」

 

串に刺し、焚き火で焼いた魚を食べはじめる私達。

最初は64が不満を溢したりOHが不安で泣いたり大変だったけど今日まで生き延びられた。

 

今もなお発信され続けている救難信号。

あとはこれを誰かが拾ってくれれば……。

 

 

その時だった。

 

松本「何か来る…!」

一同「!?」

64「救援……!?」

出浦「だとしても早すぎるわ」

OH「奴等に気付かれたみたいね……!」

出浦「ついてないわね…火を消して森の中に隠れるわよ」

 

急いで焚き火に水を掛け、森の中に身を隠す。

そして手頃な木に登って双眼鏡を覗きこんだ。

 

そこには瞳をライトのように光らせている深海棲艦の部隊が3つほど確認出来た。

 

 

出浦「囲まれてるわ」

松本「こっちでも確認した…ちょっと厳しいかも」

 

今迄も何度か奴らが接近してくることはあったけれどこんなに多くやってくることは無かった。

このタイミングでこんなに来るなんて、私達が発した救難信号を受信したとしか思えないわね。

 

 

 

深海悽艦の瞳がこちらを見付けようと島の至る所を見ている。

その時別の方向からライトの光が深海悽艦の身体をを照らしだした。

 

利根「敵艦隊発見!夜戦じゃ、いくぞっ!!」



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脱出

リアルが忙しかったり、暇になってもモチベーションが上がらずうだうだしてました。めんご


(出浦視点)

 

利根「敵艦隊発見!夜戦じゃ、行くぞ!!」

 

どうやら本命が来てくれたみたいね。ヘリが数機と、海面を滑るように移動する人影が見えた。

 

ミーシャ「龍讓!ヒリュウ!敵の座標はそっちに随時送ってある!艦載機を出せ!」

龍讓「おー!夜でも艦載機を飛ばせるってええなぁ!」

ヒリュウ「それじゃ遠慮なく!」

 

見慣れない人影から放たれた攻撃に深海棲艦が沈んでいく。

 

OH「奴等にダメージを与えてるわっ!」

64「信じられない……なんなのあの人達…!?」

 

その様子を見た2人は驚きつつ興奮気味に戦闘を見ている。

 

出浦「どうやら新型の武器娘の開発に成功したようね」

 

その時私達から少し離れた場所が上空から照らされ、そしてそれが不規則に動き出した。

空を見ると上空のヘリがライトでこちらを探し始めているのが見える。

 

出浦「どうやら私達を探してるようね…行きましょう」

 

ヘリに分かりやすく、尚且つ戦闘に巻き込まれにくい場所を探しながら、私達はヘリに手を振ってアピールをする。

そして暫くしてようやくライトが私達を捉えた。

 

鯖江「こちら鯖江静香、目標を見付けたわ。信じられないかもしれないけど……松本亜衣璃·AH-64D改·OH-1改がいるわ…」

大和「う…そ…!」

鯖江「あと1人…あれ、特戦群がいる」

ミーシャ「こちらも肉眼で確認した。……4人か、私と鯖江のヘリに収容する。大和は援護を」

大和「了解」

 

3機のヘリのうち1機は少し離れた所で周囲の警戒を始める。

そして2機は私達の前にゆっくりと降りてきた。

 

ミーシャ「生きていてくれて嬉しいぞ。まさか信号を発信したのが君達だったとは」

OH「ミーシャさん!?」

 

ヘリから降りてきたマグマ軍のヒトに歓喜の声をあげるOH。

 

ミーシャ「話は後だ。重量の問題があってな、OH-1改とAH-4Dはこのヘリに。残りは今降下するヘリに乗ってくれ」

OH「わかりました!」

64「ふぅ、ようやくこのサバイバル生活が終わるのね~…」

 

促されるままに乗り込む2人。

 

そしてミーシャ達を乗せたヘリが上昇し、入れ替わるようにもう1機のヘリが降下する。

 

鯖江「ほら乗って!」

松本「静香……!」

鯖江「司令官が待ってるよ!」

 

私達もヘリに乗り込み全員乗った事を確認し、上昇をはじめる。

 

鯖江「こちら鯖江。救助は完了したわ」

利根『了解じゃ。こちらもそろそろ片付く』

 

無線で連絡をとりながらヘリを動かす鯖江。

すると突然彼女が無線機をこちらに投げてきた。

 

鯖江「雪子が用があるんだってさ」

大和『まさか特戦群の貴女がいたなんて…驚きだわ』

出浦「私も、まさか救援に来てくれたのがあなた達の部隊だなんて思わなかったわ…それよりも、これから彼に会えるんでしょ?」

大和『司令君に何かしようとしたら…殺すから』

出浦「お好きにどうぞ」

 

 

 

利根『こちら利根。少々手こずったが殲滅完了じゃ。……それと……オープンチャンネルで喧嘩せんでくれ』

出浦「あらホント…失礼」

 

こうして私達の長いサバイバル生活が終わり、彼がいるという鎮守府へ向かう事になった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

そしてそれを少し離れた所で何者かが見ていた事を、私達は知らなかった。



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邂逅

(提督視点)

 

提督「…ぁ」

 

目が覚めると医務室のベッドに寝かされていた。

首を動かし時計を見ると8:40。窓から入る太陽の日が部屋を照らしていた。

 

「……おはよ」

 

その声にハッとなり、反射的に反対側を見る。

 

……自分はまだ夢を見ているのか……?

 

そこにはあの時死んだはずの松本亜衣瑠が自分と同じようにベッドに横になっていた…!

いや、それだけじゃない……!OH-1改とAH-64D改もいるじゃないか…!!

 

提督「お前達…!?」

 

思わずベッドから飛び起きる。

病み上がりで一瞬だけ頭がぐらついたがそんなことどうでもいい。

 

ただ目の前の光景が幻じゃ無いことを確かめたかった。

 

松本「司令官、ただいま」

OH「お恥ずかしながら、帰って参りました」

64「その、心配掛けさせたわね……」

 

提督「あぁ…!おかえり…おかえり!!」

 

 

3人の声を聞いて思わず3人に抱き付いてしまう。

 

亜衣瑠とOH-1改は恥ずかしそうに顔を赤らめながらもその感触を噛み締めるように受け、AH-64D改も「気持ち悪い!」と悪態をつきながらも振りほどこうとはしなかった。

 

「あら、私には熱いハグは無いのかしら?」

 

提督「え?」

 

 

別のベッドから声が聞こえ、体を起こすと向かい側のベッドでこちらを呆れとも羨ましそうともとれる表情で見ている女性がいた。

 

どっかで会った気がするが…思い出せない…。

 

出浦「私は何時でも大歓迎よ?」

提督「君は確か…特戦群の……」

出浦「出浦信よ。……何度かそっちに出向していたじゃない」

提督「あぁそうだった、すまない。…それはそうといったいなんで君達が……?」

 

出浦達から今迄の経緯を聞いた。

あの数ヶ月よく生きていられたなと感心してしまった。

 

その時扉がノックされ、アルマータが入室する。

 

アルマータ「あぁ閣下!お体の方は大丈夫ですか!?」

 

起きている自分を見て涙目になりながら駆け寄る。

そんなアルマータに笑顔を向け、頭を撫でる。

 

提督「あぁ、心配かけた。それと彼女達を救うために艦隊を指揮してくれたんだってな?ありがとう……お前はやっぱり最高の妻だよ」

 

彼女が判断してくれなかったら今頃彼女達の命は無かった筈だ。

お礼も兼ねておもいっきり抱き締める。

 

アルマータ「あぁっ!ありがとうございます!これ以上無い幸せでございます!!!」

 

あ、絶頂してる。やりすぎた。

 

出浦「全く、人前でお熱い事ね」

64「全くよ!私室でやってなさいよ見境無いんだから!」

松本「……発情期」

 

うっ……確かに64の言う通りだな。いやはや、病み上がりで尚且つ寝起きのせいかここら辺の判断力が鈍ったかなぁ。

 

 

出浦「それはそうと、これから私達はどうなるの?」

 

OH「確かにそうですね…私達は死亡判定になってると思いますし、また軍に戻れるんでしょうか?」

 

確かに当時の戦死者リストに載っていたな。

 

提督「…確かに3人とももう死んだ事になってるな…」

出浦「…ってことわ私もね」

 

面倒な事になったと言わんばかりにため息をつく。

でも妙に他人事に見えるな。

 

提督「だけど生きていたなら復隊出来るはずだ。君達さえ良ければこっちで掛け合ってみるけどどうだ?」

OH「本当ですか!?ぜひお願いします!」

松本「こっちも」

64「まぁアンタがそこまで言うならやってやらない事もないわよ!」

 

良かった、3人ともは快諾してくれた。

出浦は何か考えているようだが…。

 

出浦「……ま、悪くないかもね。じゃ、暫くやっかいになるわ」

提督「ん、それは構わないが特戦群は良いのか?」

 

てっきり彼女は古巣の方に復帰したいと思っていたんだが……。

 

出浦「そっちはきっと生き残ったみんながなんとかしてくれるから大丈夫よ。…それより、ダメかしら?」

 

スススとこちらにすり寄って上目遣いでこちらを見てくる。

…なんかイヤに調子が狂うな。

 

提督「いや、構わないが…」

出浦「ふふ、良かった。じゃあ早速お願いがあるのだけど?」

提督「なんだい?」

出浦「ケッコンしてくれないかしら?」

提督「へっ?」

アルマータ「あ゛?」

大和「は?」

16「……コロス」

ソーニャ「ドロボウ猫の臭いがしたっ!」

 

出浦から発せられたとんでもない単語で平和だった医務室が突如戦場の最前線にいるようなピリピリとした空気になった。

というかアルマータはともかく3人はどっから来たの?いつからいたの?居るなら言ってよ怖いから。

 

提督「え、えーっと…」

出浦「ふふ、限界突破の方よ。可愛いんだから」

 

そう言いつつも更にすり寄って来るのはなんでかなぁ!?

後ろ見てアルマータ達が人前じゃ見せられない表情してるよ!!!!

 

提督「と、とりあえずわかったから!し、申請しておく……」

出浦「ありがと、届くのを心待ちにしてるわ」

 

ようやく離れてくれた……これで少しは平和に

 

出浦「あ、そうそう。彼女達じゃ物足りなくなったら私がいつでもお相手するわよ?」

 

そう言ってどこから出したのか数着のコスプレ衣装を見せてくる。ナースに忍者服、バニースーツに黒いドレス…いやウエディングドレスか?それに水着……どれも彼女が着たらスゴく魅力的になりそうな服ばかりだ。

 

というか最後にとんでもない爆弾置いていくな!アルマータと16式はともかく大和とソーニャがとんでもないダメージ受けてるから!!!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

その日の夜。

灯りも付けず薄暗い演習場に佇む天龍の姿があった。

 

(天龍視点)

 

天龍「ハァ……ハァ……」

 

冷や汗を拭い震える足をひっぱたきながらゆっくりと的が設置されている場所へ前進する。

 

天龍「フゥーッ……!フゥーッ…!」

 

別に立ち直った訳じゃない……だけど夜中に部屋にいるとあの日の光景がフラッシュバックして思わず部屋から飛び出して来ちまった……。

 

それから特にあてもなかったオレは暇潰しで演習場に来て、久し振りに艤装を起動した訳だが……。

 

天龍「くそっ……海に立つだけで、こんなに震えるなんて……」

 

牛歩のようにゆっくりと前進し、月明かりに照らされた射撃訓練用の的の前に立つ。

 

天龍「……」

 

深呼吸を何回かして、単装砲を動かす。

狙いが定まるにつれて身体の震えが強くなって、息遣いが荒くなっていくのがわかる。

 

天龍「フーッ……フーッ……い、いくぞ…!」

 

 

そして狙いをつけたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-----テンリュウチャン……-------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天龍「ヒッ…!」

 

 

 

クソ、またこれか…!

 

龍田の最期の言葉が鮮明にフラッシュバックして、反射的に頭を抱えその場にしゃがみこんじまう。

 

あの言葉の後に

 

アナタヲユルサナイ

 

と恨み言が続いていたんじゃないんだろうか……そんな気がしてならなかった。

オレは最期までアイツに気付いてやれなかった…そんなアホな姉を怨むのは当然だ…!

 

だからその後オレがすることは部屋にいた時から変わらなかった。

 

天龍「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい………」

 

 

ただひたすらあの日にやってしまった過ちを誰もいない空間にただひたすら謝る事。

 

そして謝り続けてその記憶が薄らぐのをひたすら待ち続ける。

 

それがオレに出来る唯一の行動だった。

けどあの日の光景は薄らぐどころか更に鮮明になってきやがった。……いつもなら消え去っても良いのに…!

 

まるで死んだ龍田が忘れることは赦さないと言っているように感じた。

 

それでもオレはもう既にいない龍田に謝り続けるしか出来なかった。

 

天龍「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

ちくしょう……あの光景が全然消えやがらねえ…!

オレは……もうどうすれば良いんだよ…………。

こんな思いを続けるくらいなら……いっそ……。

 

 

 

 

 

「そこには、誰も居ないよ?」

 

 

 

 

突然背後から聞こえた声に思わず振り向く。

そこにはピンクの髪をした女の子がオレを見つめていた。

 



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デ ア イ

(天龍視点)

 

天龍「だ、誰だっ!」

 

思わず尻餅をついて後ずさってしまう。

さっきまで気配なんて感じなかったぞ…!?

 

春雨「春雨は……白露型の春雨。…春雨って言うの」

 

情けない姿を晒しているオレに笑顔を見せる春雨と名乗った女の子。

背格好から見て駆逐艦か…?なんでこんな時間に…。

 

天龍「な、なんでここに居るんだよ!もう消灯時間だろ!」

春雨「消灯時間?そうなの?春雨、ここの艦娘じゃないからわかんない」

 

ここの所属じゃない?だとしたら尚更なんでここに居るんだよ……?

 

天龍「は、はぁ…?じゃあなんでここに」

春雨「迷っちゃった、かな?」

天龍「……はぁ?」

 

な、なんなんだコイツは…?

 

いたずらっ子みたいにエヘヘと笑う春雨。

すると何かを思い付きオレの元へ駆け寄ってきた。

 

春雨「あ、そうだ!春雨に艤装の使い方教えて?」

 

慣れない手付きで駆逐艦用の連装砲や魚雷を取り出してオレに見せてくる。

確かに艤装に使った後は見られないけど……なんでこんなに傷が付いているんだ…?

 

天龍「…は?お前、使い方知らないのか?」

春雨「うん、春雨生まれたばかりなの」

 

建造されたばっかって事か…?

 

次々と疑問が思い浮かび、だんだん彼女に対して不信感が募ってくる。

 

 

春雨「…ダメ?」

 

考え事で無言になっていたオレに首を傾げてみせる春雨。

その仕草でさっき迄の不信感がバカらしくなってきた。……それほど迄に彼女が無防備で無垢に見えた。

 

天龍「ハァ……わかったよ…」

春雨「やった!」

天龍「じゃあ、まずは……」

 

はしゃぐ春雨に艤装の使い方を手取り足取りで丁寧に教えていく。

最初は渋々説明していたオレだったが、気が付けばノリ気になっていた。

 

春雨「こう?」

天龍「おぉっ!そうだっ!飲み込みが早いじゃないか!」

春雨「エヘヘ、やった!」

天龍「ははっ!良いぞぉ!」

 

……今、オレ笑顔になってる…?

 

口元に手を当てて、口角が上がっている事に気が付いた。

…こんな気持ちになるのは久し振りだった。

 

春雨「エヘヘ!どうっ!?」

天龍「お、おう!良い調子だ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

天龍「……魚雷はこんな感じだ!どうだ?なんかわかんねえ事、あるか?」

 

あれから1時間程たった辺りだろうか。

魚雷の扱い方を教えてふと春雨を見ると、彼女はオレの顔をじっと見つめていた。

 

どっかわからない所があったか?

 

天龍「お?どうした?」

春雨「さっきの顔より、今の顔が似合ってるよ」

天龍「っ…」

 

意外な言葉に、表情が固まり言葉が詰まる。

 

春雨「…さっき、誰に謝ってたの?」

天龍「……妹だ……深海悽艦になっちまって、それに気付かねえで……沈めちまったんだ」

春雨「……」

天龍「それまで深海悽艦は只の倒すべき敵としか考えて無くて…それを知った瞬間、武器を構えるのが……怖くなっちまったんだ」

 

今まで抱えてた思いを少しずつ話していく。

春雨もオレの方を見て、親身になって聞いている。

 

今迄誰にも話せなかったのに、何故だか彼女には打ち明けられた。

 

天龍「さっきもあの的に向けようとした瞬間、あの的が、龍田に……妹に見えて…!」

 

言い切る前に涙が溢れてしまい、俯いてしまう。

情けないところを見せるオレを春雨は静かに俺を抱き締めた。

 

春雨「……誰にも言えなかったんだね…?仲間にも、司令官にも」

天龍「うっ…!…くっ…!」

春雨「良いよ?春雨が全部聞くよ?春雨も一緒に考えるよ?」

天龍「…なんで…?なんでそんなに……お前、初めて会ったヤツになんでそこまで…?」

春雨「おねーちゃん優しいから。春雨に艤装の使い方を教えてくれたから」

天龍「あぁ……あぁ…!!」

 

優しく抱き締める春雨を震える手で抱き締め返す。

そのまま声を出して泣き続け、時間が過ぎ空が明るくなりはじめる。

 

春雨「……そろそろ行かなきゃ」

天龍「あぁ…すまん。その、ありがとな…」

春雨「また、会いに来ても良い?」

天龍「もちろん…!待ってるぜ!」

 

涙を拭い、笑顔を見せるオレに手を振ってどこかへ去っていく。

そして春雨が見えなくなったのを確認すると、オレも演習場を後にした。

 

 

何時振りだろうなぁ……明日が楽しみに思えるなんて。

 



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ヘ ン イ

(天龍視点)

 

春雨と出会ってから数日後…深夜の鎮守府、演習場にて

 

天龍「ほら、もっと動けっ!その速度だと狙い撃ちされるぞ!」

春雨「う、うん!」

 

春雨はあれからどんどんレベルアップしてオレと模擬戦が出来る迄に成長していた。

あの日以来、オレ達は深夜に出会っては春雨の訓練と他愛ない世間話をする仲になっていた。

 

春雨「えぇい!」

天龍「うぉっ!?」

 

春雨の砲撃がオレの体を掠めて海中に沈んでいった。

あぶねえ……今のが実戦だったらヤバかった…!

 

天龍「今の凄く良いじゃねーか!」

春雨「はぁ…はぁ…ありがとう!」

天龍「ふぅ~…!今日はこんなもんか。休憩しようぜ?」

春雨「うん。じゃあまたいつもの場所で」

 

笑顔でそう言い残し、春雨は演習場を後にする。

いつも思うけど…春雨も艤装外して中に入ればいいのによ…。

変に律儀というかなんと言うか…。

 

頭を掻きながら艤装を外しに行き、近くに設置されてある自動販売機で飲み物を2人分買う。

 

そうだ、明日はお菓子でも買ってみるかな…?あいつ何好きなんだろ…チョコとか甘いやつの方が良いかな?

 

おやつで笑顔になる春雨を思い描き、思わずにやける。

アイツと接していると自然と心が安らいでいくような感じがする。アイツがオレをねーちゃんって慕ってくれるならオレも妹のように可愛がってやりてぇ……あいつに、龍田に出来なかった分まで…!

 

 

鎮守府の近くにある海岸、そこが2人のいつもの場所だった。

振り返れば数十メートル先に鎮守府の裏口や窓から中の様子もうっすら見える。

春雨は鎮守府に背を向けるように海岸に腰掛け、夜の真っ暗な海を眺めていた。

 

天龍「待たせたな」

春雨「おかえり。そんなに急がなくて良かったのに」

 

クスりと笑う春雨の言葉で、オレは無意識に走ってきた事に気付いた。

春雨に会いたいからとは言え、照れ臭くなっちまう。

 

天龍「い、良いじゃねーか!ほれ、ジュース」

春雨「えへへっ、ありがと」

 

照れながらジュースを手渡し、天龍も春雨の隣に座った。

お互い飲み物を飲んで一息つく。

 

天龍「ふぃ…春雨も随分強くなったな。これなら此方にいる暁や響と互角にやりあえるぜ!」

春雨「天龍おねーちゃんのお陰だよ!ここまで艤装の使い方を分かりやすく教えてくれて…もしかしたら、先生の才能あるんじゃない?」

天龍「あははは!何言ってんだ!春雨の飲み込みが早かっただけさ」

 

春雨の言葉に大笑いするが、ふぅ…と一呼吸置くと真剣な表情に変える。

ずっと気になっていた事があったんだ。

 

天龍「…前から思ってたんだが、なんで艤装の使い方知らなかったんだ?着任してから訓練とかしなかったのか?」

 

オレからの踏み込んだ質問に一瞬だけ表情が固まる春雨。

まずったか……?

そう思ったが向こうも腹を括ったのか話し始めてくれた。

 

春雨「……春雨がいた鎮守府は、そんなことさせてもらえなかった。戦果と資材にしか興味が無くて、春雨達は使い捨てにされてたの」

天龍「ブラック鎮守府ってやつか……青葉の新聞で見たことがあんな…」

 

前に1度だけ部屋を出た際、掲示板に貼られていた新聞の記事を思い出す。

艦娘を道具として使い潰すクソが運営する鎮守府の総じてそう呼ばれているらしい。

新聞だと陸の特殊部隊の1つが検挙に力を入れているらしいが、撲滅する迄にはいっていないんだとか。

 

春雨「春雨も着任してすぐ解体されそうになって」

天龍「なっ……!」

春雨「けど春雨を匿ってくれたおねーちゃんがいたの!」

 

先程とは違い、とても嬉しそうに言う。

 

天龍「ねーちゃん?姉妹か?」

春雨「ううん。重巡の艦娘なんだけど天龍おねーちゃんみたいに頼れるヒトだったんだよ!おかげでこうして自由にもなれた!」

天龍「そうか……良かった」

 

ブラック鎮守府から解放されたと知って安心し、春雨の頭を優しく撫でる。

 

春雨「えへへ…!天龍おねーちゃんも、優しい」

天龍「ったりめーだろ?大事な妹分なんだからよ?」

春雨「妹…うん!」

 

余程嬉しかったのかその後も噛みしめるように妹という単語を呟く春雨。

その後、夜が明けてきた為オレ達はまた会う約束をして解散した。

 

朝、鎮守府食堂にて

 

(提督視点)

 

提督「うーむ」

利根「ふーむ」

飯塚「ほーん」

 

自分をはじめとした一行の視線はただ1人。朝食をガツガツと食べている天龍に向けられていた。

 

数日前に朝食に来た時も自分も含め皆驚いたが、天龍自身は何も語らず、食べるだけ食べて自室に帰っていく。

…そろそろ話してくれると嬉しいのだが。

 

提督「な、なあ天龍?そろそろ何があったか教えてくれないか?」

天龍「んぁ?何でもねーよ……ごっそーさん。そんじゃおやすみ」

 

完食し、食器を返却するとすぐさま部屋に戻っていく。

 

利根「またじゃ…朝食後すぐ寝とる…」

暁「きっと夜に仔猫の世話でもしてるのよ!」

ベレーザ「そうだと良いのだけど」

提督「……」

アルマータ「…閣下」

 

 

 

その日の深夜

 

(天龍視点)

 

春雨に会うためにこっそり外へ抜け出す。春雨が喜びそうなお菓子が入った袋を持って。

 

アイツ、喜んでくれるかなぁ?

 

その時オレは油断しきっていて、尾行されていることに気付きもしなかった。

 

アルマータ「閣下」

提督「あぁ」

 

数分後何時もの待ち合わせ場所に佇んでいる春雨を見付けた。

 

天龍「お~い春雨~!」

春雨「天龍おねーちゃん!」

 

相変わらず元気な表情を浮かべてこっちに手を振る春雨。

合流して適当な海岸へ腰掛ける。

 

天龍「今日は訓練の前にこれでも食わないか!?」

春雨「天龍おねーちゃんこれって……?」

天龍「な、なんだよ…?お菓子だよ」

 

喜ぶと思ったら意外な反応を見せられて思わず戸惑っちまう。

…まさか知らないとは…。

 

春雨「ごめんなさい…こういうの食べたことなくて…!」

天龍「気にすんなよ!ゼッテー気に入ると思うぜ!!」

 

戸惑う春雨の口に一口サイズのチョコを放り込む。

春雨は最初は驚いて固まったけれどゆっくり咀嚼していくうちに表情がドンドン明るくなっていくのがわかった。

 

春雨「お、おいしい…!」

天龍「へへ、だろー?」

春雨「も、もう1個食べても良い?」

天龍「おう!色んな味があるから楽しんで食いな!」

 

春雨に袋を渡し、中身を見て無邪気に喜ぶ姿を見つめているとふとした違和感に気付いた。

 

……今日の春雨、何かが違う……。

なんだ?雰囲気や言動は確かに春雨だ……。

オレは何に違和感を覚えた……?姿も月明かりで細部は見れないが春雨のはずだ…。

 

そんなことを考えていると春雨が笑顔でこっちを向いて、オレにもチョコを食わせようとしていた。

 

春雨「おねーちゃん!あーんして?」

 

その時違和感の正体に気付いた。

 

天龍「春雨…お前、目が…」

春雨「っ!!!」

 

その時だった。

鎮守府から大音量の警報が鳴り響く。

 

深海悽艦接近の警報だ。しかもこの音……最接近された時の一番ヤベーヤツだ!!!!

 

天龍「春雨はそこにいろ!!!敵が近くまで来てやがるっ!!!」

 

春雨を守るように彼女の前に出て艤装を展開する。

…ちくしょう……今カチ会ってもやりあえる自信がねぇ…!でも、春雨を守るためにやってやる!!!!

 

その時だった。

 

 

提督「天龍!!!」

 

背後から提督の叫ぶ声が聞こえてきた。

アイツなんでこんなところに……?けどちょうどいい、春雨を保護してもらおう。

 

天龍「提督かっ!?ちょうどいい、そこにいる駆逐艦を保護してやってくれ!!!!」

 

これでひと安s

 

提督「レーダーが反応したのはここだっ!!彼女がっ!!!深海悽艦だっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭が真っ白になる。

 

こんな時に提督は何を言っているんだ?

 

そんなハズはない。

 

ゆっくりと振り返る。

 

そんなハズは……!

 

 

 

 

春雨?「ッ……!」

 

天龍「な……!!!!」

 

 

 

そこにオレが知る春雨はいなかった。

同じ顔を持った深海悽艦が悲しそうに佇んでいた。

 

 

 



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