深淵卿……?いいえエルデの王です (gnovel)
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番外編
番外編 一切の自重を捨てた結果がこれだよ!


閲覧ありがとうございます!

今回は前回予告していた通り番外編となります。

簡単に内容を要約すると『異世界デストロイヤー』


~異世界転生RTA編~

 

「遠藤!!危ない!!!!」

「え?」

 

ドゴォン!!

 

……薄れゆく意識の中遠藤は考えていた。

 

おかしい。俺は今日光輝ちゃんとの話(デート)をするためにいつものカフェに行く予定だった筈……その時俺は通り道にある横断歩道を渡る際に念の為にと『右見て、左見て、もう一度右見て』×2をやった筈だ

もちろんその時に車の影も形も無いことは確認していた。

 

 

だが、俺は車に轢かれた

 

なんで?(純粋な疑問)

そんなことを考えていると意識が落ちていった。まぁ……復活出来るし、次は大丈夫だろうと思っていた矢先

 

 

「という訳でお前さんは死んでしまった」

「は?(唖然)」

 

どこだよここ

死んだあと家に戻るかなと思っていたら……まさかの異世界転生しやがった

 

「……俺は死なない筈なんだが?」

「……マジ?ちょっと待ってね…………アッ」

 

「完全にこちらの不手際で殺っちゃった…………すみません調子乗りましただからマジでその手に持っている神すら殺せる短剣のようなもの(黒き刃)を向けるのを辞めてくださいお願いします」

能書きは良いさっさと元の世界に帰せ。それか死を選べ」(えげつない殺気と到底人に見せられない表情)

「ヒィッ!で……ですが……その……」

「なんだ」

「じ……実は……」

 

この邪神曰く

 

この世界にいる魔王を倒さない限りこの世界から抜け出すことは出来ず、これまで数多くの転生者を送ってきたが、どれもハーレムを作ったり各々好きにしているから全く魔王討伐が進んでないとのこと

だからこそどこかに強い存在が居ないか探っていた所偶然俺にたどり着いたそうだ

 

ふざけているのか!(マスク並感)

 

「要するに……魔王倒せばいいんだな?」

「はいぃ……そうですぅ……」

 

この瞬間、俺は持てる力全てを用いて元凶をぶち殺すことにした

 

「……2時間」

「へ?」

「2時間で終わらせてやる」

「……うえっ?!」

「その時は必ず、必ず俺を元の世界に帰せ良いな?(凄まじい圧)」

「わ……分かりました!!そ……それでは、あちらから……ってもう入ってる!?」

 

 

――この時転生神は知る由も無かった……

まさか本当に2時間どころか1時間足らずで魔王を殲滅するとは思いもしなかった――

 

 

魔王を生かして帰さない(君をぶち殺す)RTAはーじまーるよー』(CV.若本)(例のBGM)

 

 

◆◆◆

 

――魔王城(犠牲者の住処)

 

「ふぅむ……勇者とやらは中々来ないものだな」

「そうですな……異世界から召喚された転生者はどれも現地で妻を娶っていたり、好き勝手している連中ばかりですからな」

「その癖やたら強いのが質が悪いったらありゃしない」

 

この世界に蔓延る転生者に対しての愚痴をこぼすのは本日の犠牲者である『魔王』とその側近の執事であった。

 

彼らはまだ知る由もない……これから訪れる存在(自重を捨てた褪せ人様)が現地の転生者など比にならないレベルでやばいことを……

 

「全くですな……ん?」

「どうした?」

「……魔王様何者かがこの城に猛接近している模様です」

「遂に来たか勇者たちが……」

「いえ……その……」

「どうした?」

 

執事が手に浮かべていた球体を真上に上げ、大きくさせるとそこに映っていたのは

 

「1人なんですが……その……」

「……一体どうしたのだ?」

「……馬に乗った重装備の変態が信じられない程の速さで城下の魔物を蹴散らしていってます……」

「え?」

 

やたら堅牢そうな鎧……『大山羊』一式を身に纏いその手に握る『巨人砕き』や『壺大砲』で文字通り真っ直ぐ突き進んでくる褪せ人の姿がそこに映し出されていた。

 

進路上に存在する魔物は勿論のこと家やその他の建物さえもぶち壊していきながら目標地点まで最短距離で突き進むその姿はまごうことなき変態であった。

――この進み方をする塾が日本にあるとかないとか

 

「なんじゃこりゃぁああああ!?」

「あぁ……!四天王の1人『業火のフレイム』が一撃で死にました!!」

「ファッ!?」

「も……もう間もなく魔王城に到達します!!」

「の、残りの四天王を招集し、魔王城の門を閉ざせ!!」

「駄目です!既に門の中に入られましたぁ!!」

「ゑゑぇ!?」

 

魔王にとってこのような事態は前代未聞であった。まさか自分の誇る四天王の最強の一角である『業火のフレイム』を一撃で消し飛ばしただけでなく、文字通り魔王城までの最短ルートで城下を突っ切ってくるなどそこいらのイノシシも驚きの事案である。

 

執事の球体に映し出されたのは魔王城内にて召集された残りの四天王が、褪せ人を取り囲んでいる場面だった。

 

『ここから先は通さんぞ!!人間如きが!!』

『フレイムを倒したのは褒めてあげる』

『だが、俺たちはそう上手くいくかな!!』

 

「よしそのまま倒せ!」

 

魔王は確信していた。流石に四天王3人と数多くの手練れの魔物相手には勝てないだろうと……実際彼らは『転生者殺し』の異名を持つ者ばかりで数百年もの間四天王の座に君臨していた存在なのだ。

だが、そんな魔王の希望を打ち砕くがごとく褪せ人はとあるものを取り出した

 

『……スッ』(『霊呼びの鈴』を取り出した音)

『なんだ……鈴……?』

 

そして鈴が鳴らされると……突然褪せ人の隣に液体のようなものが滴った。

 

『な……なんだ……?!スライムを召喚したのか!?』

『ま、まて!何か様子がおかしい!!』

 

やがて形を変えたスライム……『写し身の雫の遺灰』はいつの間にか装備を変えて手に『竜餐の印』×2を装備した褪せ人の姿を真似て写し身が姿を変化させた。

そして……自らの頭部を竜にしたかと思うと

 

『『『『……え?』』』』

 

『【プラキドサクスの滅び】』×2

 

……次の瞬間四天王含めた精鋭たちが蒸発した。

 

「……やばくね?」

「えぇっと、既に魔王様の部屋に向かってますね……あっ探知できなくなった」

「えっ、我あれと対峙すんの?」

「……骨は拾います」

「骨すらも残らなさそうなんですけどぉ!?」

 

 

――数分後

 

「……」

「……」

「来ないな……」

「来ませんね……」

「……ちょっとお前の得意分野の占いをしてくれないか?」

 

魔王がそういうと執事はどこからともなく水晶玉を取り出し、魔力を籠め始めた。

 

「…………あっ」

「どうした?」

「……既に死が間近に迫ってるとのこと」

「え?…………そういや何か後ろで物音が……ッ!?」

「魔王様?!」

 

 

――魔王と執事が最後に見た光景は、背中に朱い花のような物(朱きエオニア)を展開しながらこちらに突っ込んでくる褪せ人の姿であった。

更に言えばその手には『マリケスの黒き剣』が握られ、その黒い大剣が魔王の背中に突き刺したと同時に

 

……巨大な朱い花が魔王城から突き破るようにして咲き乱れた

 

余談ではあるが、第二形態を持っていた魔王だったが、朱い腐敗のえげつないスリップダメージと『運命の死』のダブルパンチで完全に滅ぼされた模様

 

 

「わー!綺麗な赤い花!!」

「……え?うん?……あれ魔王城じゃね?」

「何があったの……?」

 

偶々魔王城が見える場所でピクニックに来ていたとある子持ちの転生者は何が起こったかわからなかったが、気にすることなく今日も前世で味わえなかった家族との団らんという至福のひと時を過ごすのだった……

 

 

「終わったぞ」

「ほ、本当に2時間以内って言うか……約50分で終わらせやがった……」

「約束だ俺を元の世界に帰せ」(『黒き刃』を構えながら)

「わわわ分かりました!それではごきげんよう!!」

 

 

 

「……知らない天井d「うわぁあああああん!!ごめんなざい!ごめんなざい!!ボクが、ボクが無理やり誘った所為でうわぁあああああん!!!!」Oh……」

 

――高校1年生のこの日以降光輝ちゃんの依存度が爆上がりして暫くの間半径3m以内から俺が離れるとグズってしまうようになってしまったのでした

 

「あー……光輝ちゃん?ちょっとトイレに行ってくるだけだから……その……」

 

ギュー

「……嫌……離れないで……ボクも……一緒に行く……」(涙目で必死にしがみつく光輝)

「えっと……でもね?」

「グスッ……」(涙目)

「Oh……」(後ろの惨状に目を逸らしながら抱きしめる)

 

 

「ふふふ……」(不敵な笑みを浮かべる雫)

「……」(静かに圧を掛ける香織)

「光輝?」(黒いオーラを放つはじめ)

DEATH()」(尊さで死んで希望の花を咲かせている恵理)

 

「……帰りたい」(偶然居合わせた清水)

 

 

 

正式タイムは49:59:05秒だったとか(移動が8割を占めた)

あと魔王城跡地に残された朱い腐敗に冒された転生者の1人が後に『腐敗の剣士』として名を馳せることは誰も知らない……




な ん だ こ れ

次回からは普通に戻ります

因みにこの後褪せ人様は光輝ちゃんに首輪とリードを渡されて褪せ人の所有物にして欲しいと言い放ち(当然褪せ人は断った)周囲からの視線が痛い物になったとか
他のヤンデレ達も後日首輪とリードを持って押しかけて来たとかなんとか


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番外編 狩人召集!尚間違いな模様

閲覧ありがとうございます


UA90000突破したので今回は番外編ということでたまたま原作時空に繋がっちゃった褪せ人様のお話です

感想・評価・誤字報告本当にありがとうございます!


【別世界に召喚されています】

 

「あっ」

「どうしたの浩介?」

 

ユエとオルクス大迷宮を探検していた頃、俺は脳裏に浮かんできたメッセージ――【別世界に召喚されています】が過った瞬間やってしまったと思った。

 

「あー……『青い秘文字の指環』つけっぱにしてたんだった……」

「なにそれ?」

「うーんとね……ごめん! ユエ! ちょっと世界救ってくる!」

「は?」

 

そういって俺はどこかの世界に転送された。あとでオフにしとこ……

 

 

 

 

 

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

 

その言葉に、ハジメは口元を歪めて不敵な笑みを浮かべる。

 

「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かn「は? ここ何処?」――ッ!?誰だ!」

 

魔族の女――カトレアに止めを刺そうとしていたハジメのすぐそばで何者かの声が聞こえた。〝気配感知〟に引っかからなかったことに驚きつつ慌てて距離を取るハジメ。――そこにいたのは見慣れない甲冑を纏った騎士だった。

 

「あ……あんたは、一体……」

「は? ここもしかしてオルクス大迷宮? そんなことある?」

「何を言ってやが……ッ!?」

 

ハジメは目の前の騎士の実力を本能で感じ取った。目の前のこの謎の存在の底知れぬ実力にハジメが呆然していると、騎士はカトレアを見つめて唸っていた。

 

「うーん……どう考えてもこいつが討伐対象じゃないよな……?」

「何を……言っているんだ……?」

「うーむ……そうすると……?いやでもこいつしかいないよなぁ……? まぁ、いいや耳寄越……違うな、ルーン寄越せ

「ッ!?」

 

突然目の前の騎士から放たれる膨大な殺意に、距離があるクラスメイトも思わず竦みあがる。そして騎士がまるで血のように真っ赤に染まり刃が波打つ異様な刀を抜刀するや否やカトレアに斬り掛った。

 

「ガァッ……」

(――ッ!? なんだあの刀は!?)

 

ハジメの意識は謎の騎士が取り出したあの禍々しい刀に向いていた。刀から感じられる途方もない怨嗟と濃密な血の匂いからあれがただの刀ではないことに気づき、ドンナーを構える。

カトレアは斬られ、絶命した。

 

そしてあっさりとカトレアを斬り殺した騎士が何かが可笑しいと言わんばかりに頭に『?』を浮かべていた。

 

「……あれ、こいつじゃないのか? 戻れんな……やっぱり侵入者がいるのか?」

「……お前は一体……?」

「うん? あぁ、そうかこの世界では男だったのか。成程成程」

「男……? どういうことだ? まぁいい、死ね」

 

ドパンッ!

 

ハジメは躊躇なくドンナーの引き金を引いた。油断しているその隙を狙っての卑劣な一撃だったがハジメにそれを躊躇するような精神性は無かった。

――だが、

 

「あー……やっぱそうなる?」

「――ッ!?」

 

目の前には甲冑に傷があれど無傷な様子の騎士が佇んでいた。

 

「うーん……このまま大人しく殺されて帰還するのもありだけどなぁ……やられぱなしはな……軽くあしらってさっさと元凶探すか」

「あしらう……だと?」

 

そういって騎士は刀を消すと、今度は両手に花弁のような鎖の鞭(ホスローの花弁)を二つ取り出した。ぱっと見工芸品と言われてもそのまま信じてしまえるくらいには美しい鞭だった。

 

そして自分を軽くあしらう程度と抜かした騎士に対しての殺意を高めたハジメはドンナーの照準を騎士に向けた。

 

「じゃあ、殺さない程度にするから」

「ほざけッ!!」

 

ハジメのドンナーを素早い身のこなしで回避したことを皮切りに戦いが始まった。

 

 

 

――数分後

 

「はぁ……はぁ……」

「やっぱ、体力があるもんだね……こんだけ出血してるからそろそろ『指切り』も視野にいれるか……?」

 

「ハジメ君!」

「ハジメ!」

 

ハジメは全身を縦横無尽に飛び交ってくる鞭で切り刻まれていた。傷口からは血が流れ、満身創痍であった。

 

一方騎士の方は、ハジメの弾幕を物理法則を無視したような挙動で全て回避し、確実にハジメに傷を負わせていた。傷ついたハジメを見て香織とユエが叫ぶ。

 

「……うーん。しかし本当にどこにいるんだか……」

「――喰らえッ!」

「ちょっ」

 

隙を見てハジメが騎士の顔面目掛けてドンナーをぶち当てた。今度こそ確実に殺した。そう思っていたが、騎士の物らしき声が聞こえた。

 

 

「マジか……冑飛ばされたな」

 

「あ……あれは……俺?……だよな?」

「あれ、遠藤君?」

 

冑の下の素顔を見てこの世界の遠藤浩介は驚愕し、それに釣られるように一同は遠藤浩介と騎士の顔を見比べた。二人の顔は殆ど同じであり、まるで鏡を見ているような気分に陥らせた。

 

「どういうことだ……?」

「あっ、ごめん、この世界のハジメ。『黄金樹の回復』」

「傷が……?」

「何で俺が回復魔法を使えるんだ!?」

 

黄金の光に包まれたハジメの身体は癒えていき、さらにその回復量が神水並であることと何よりこの別世界の遠藤浩介がなぜここまで強いのかについても疑問が湧いていた。

 

「はぁ……それにしても対象はいつ現れるのやら」

「な……なぁ」

 

別世界の遠藤浩介……褪せ人と呼ぶ。褪せ人は遠藤に声を掛けられた。

 

「うん? あぁ、こっちの俺か」

「順応性高ッ!?」

 

それから遠藤は褪せ人と情報交換として二人で話をすることにした。周りではクラスメイトが褪せ人と遠藤が交わしている会話の内容を聞いていた。

 

「ほい、これが俺のプレート」

「は、はぁああああああ!? ステータス高ッ!! 光輝の何十倍も強いじゃねぇか!! それに『魔法剣士』!?」

(――俺より高い、だと?)

 

褪せ人のプレートを盗み見たハジメはそのステータスが自信を上回っていたことに気づき驚愕していた。

 

「というか、この世界の光輝は男なんだな」

「……え?」

「ファッ!?」

「ぼ、僕が……何だって!?」

 

唐突に落とされた爆弾に遠藤は呆然とし、ハジメは思わず素が出て、光輝は頭に宇宙を背負った。また、それだけでなく光輝の周りも光輝をしきりに見て困惑していた。

 

「なんならハジメも男か」

「……?」

「え」

「???????」

 

追い打ちで完全に思考が停止した遠藤とハジメに加えて、この世界の香織は真っ白になり虚無っていた。

 

「そ……それはどういうことなの……?」

「ほい写真」

 

そういって渡された写真には、僅かに光輝とハジメの面影がある女子が写っており、ふわふわした印象を与える光輝らしき少女とハジメらしき小柄な少女がそこにはいた。

そしてそれを見たハジメと光輝は頭が真っ白になり――そして吐き出した。

無理もない何せその写真の二人は褪せ人の腕に絡みつき表情を柔らかくしており、所謂メスの顔をしていたことに精神が持たなかった。

 

「「オロロロロロロロロ……」」

 

二人は四つん這いになり遠くで胃の中の物を残らず吐き出した

 

「わぁああああああ!! 吐くな吐くな!!」

「え……え……え?」

「どういうことなの……?」

「……やらかした☆」

「『やらかした☆』じゃねぇよ!! ホントにこれが俺なの!? 嫌なんだけど!?」

ぶち殺すぞヒューマン(ガチトーン)」

「お前も人間だろ!?」

 

そして二人がある程度吐き終えた所で遠藤が褪せ人から詳細を聞き出した。

 

「……なるほど、つまりお前は確かに遠藤浩介であるけど、別世界の遠藤浩介なんだな?」

「そうそう」

「……そっちの皆はどうなってる?」

 

そういうと褪せ人は少し考えた後口切れ悪そうにしながら話し始めた。

 

「うーん……元気……だけど……」

「だけど?」

「次会ったら、多分四肢をもがれて監禁でもされるんじゃないかな……?」

 

褪せ人の口から発せられた内容に全員絶句した。そして遠藤が気が進まない中、深堀をしていった。

 

「……何て?」

「四肢をもがれて監禁」

「……誰に?」

「香織と雫と恵理と光輝とはじめに」

「ファッ!?何したらそうなるんだよそっちの俺ぇ!!」

 

そういうと褪せ人は考える素振りを見せて、話し始めた。

 

「うーん……そうだな……悩みを聞いてあげたり、家庭の問題を解決したり、あとは困っている人、助けを求めている人全員に手を差し伸べて助けていたら、こうなった……のか?」

「何で曖昧なんだよ!?」

 

『我が王、聞こえるか?』

「あっ、ラニ様!」

「「「!?」」」

 

突然虚空から聞こえてくる女性の物らしき謎の声に全員が動揺する。だが褪せ人はどこか嬉しそうにその声に返答した。

 

「ラニ様! よくここが分かりましたね!」

『こっちの世界から我が王が突然消えたのが気になってな、痕跡を辿っていたらここに繋がったんだ』

「流石ラニ様! そこに痺れる憧れるぅ!!」

「あのー……ラニ様って誰?」

 

内心嫌な予感がするものの聞かなければならないと思った遠藤が褪せ人に尋ねた。

 

「俺の伴侶」

「は、伴侶ぉ!!?? お前既婚者なのかよ!? ……待てよ、お前学生で、妻いるのにしかも妻以外の子に監禁とかされてたの!?」

「そうなるな」

『我が王。その件については後程聞かせてもらおうか』

「ヒエッ」

 

次々と襲い来る情報の暴力に遠藤は項垂れた。まさか向こうの自分が既婚者で尚且つ女体化した知り合いに監禁されるほどの狂愛を向けられていたとは思いもしなかった。

普段は自動ドアにすら認識されない程に影が薄い遠藤だが、この時ばかりはクラスメイトも流石に同情して憐みの視線を向けた。その中には項垂れている筈のハジメや光輝の視線も含まれていた。

 

「……別世界の自分が、妻がいるのにも関わらず女体化したクラスメイトを含めたハーレムを築いていて俺はどうすればいいのでしょうか……」

「う、うわぁ……」

「これは、流石に……同情する……」

「なんだこれ……新手の地獄か?」

 

そして一行が絶望の淵に沈んだ遠藤を慰めていると何やら話終えたのか、褪せ人の身体が光に包まれていくのが見えた。

 

「うーん。ま、短い間だったけど俺は元の世界に帰るとするよ」

『あれは時空が揺らいだ影響で起きた不具合だったのでな。この世界とたまたま繋がってしまったわけだ』

 

「アッ……ソウスカ」

「こ……声すら死んでいる……」

「謝罪と言っては何だけど……こっちの俺に渡したいものがある」

「ナンスカ……?」

 

そう言って褪せ人は『黒き刃』セット(黒き刃やタリスマンも含めた)を遠藤に渡した。遠藤は力なく受け取ったがそれらには尋常ではない力が込められていることに気づき、ハッと顔を上げた。

 

「お、お前は一体……!?」

「――俺は『王』だ。遠藤浩介」

 

そう言って褪せ人の身体は光となって消えた

 

――その後、遠藤浩介は自身の天職である『暗殺者』と完全に噛み合った性能をした『黒き刃』を身に纏い後に『深淵卿』という二つ名と共に『黒き死』という二つ名も授かることになったのはまた別の話……

 

 

「どこ行ってたの」

「いやですねその」

「今日は寝かさない」

「」




そりゃあ自分の同位体がまさか、ハーレム(危険度MAX)を築いていただけでなく妻もいるとか精神崩壊もんですわ……

因みにこの後はちゃんと檜山が断罪されて原作通りになりますが、遠藤に関しては『黒き刃』とタリスマンの効果も相まって普段よりも影が薄くなったとさ

閲覧ありがとうございました


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番外編 小ネタ集

閲覧ありがとうございます!

UAが100,000を突破致しましたので、番外編を投稿いたします

それと沢山の感想と評価ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!

それではどうぞ


~イレギュラーな召喚~

 

【別世界に召喚されています】

 

「ファッ!? え? え? なんのこと!?」

「どうしたのユッキー!?」

 

突然頭の中に響いた謎の声に動揺してペンを落とす俺、清水幸利。

 

隣にいた谷口さんも俺の並々ならぬ様子に気づいたのか声を掛けてくれる。

 

「い、いや何か……頭の中で召喚されてますとかなんとか……」

「本当にどうしたの!? ……って、ユッキーの身体が消えてない!?」

「ヘアッ!? え、マジでどうなってんの!?」

 

谷口さんが俺を引き留めようとするが、既に俺の身体は蒼い光に包まれ、そして消えた。

 

(どこに連れてかれるんだ俺はぁああああああ!?)

 

 

 

 

「……し、清水君……どうか、話を……大丈夫……ですから……」

 

狂態を晒す清水に愛子は苦しそうにしながらも、なお言葉を投げかけるが、その声を聞いた瞬間、清水はピタリと笑いを止めて更に愛子を締め上げた。

 

「……うっさいよ。いい人ぶりやがって、この偽善者が。お前は黙って、ここから脱出するための道具になっていればいいn「……ぁぁぁぁああああああ!?」!?」

「今度はなんだ……ファッ!?」

「え、清水君が……もう一人……!?」

 

「え?何ここ……というか、え?」

 

愛子を締め上げている清水の眼前に突如蒼い光が立ち込め、中から……清水が出てきた。

 

「な……なんで俺がいるんだ……?」

「そ、そ、それは俺のセリフだ!」

「というかお前……愛子先生に何やってんだ!?」

 

推定清水……幸利は、黒いフード付きのローブに身を包み、白い手袋を身に着けていた。そしてその右手には螺旋を描くような刃先が特徴の剣(神狩りの剣)を握りしめており底知れぬ異質さを醸し出していた。

 

「何なんだ……一体……」

 

自分対自分の構図を見せられているハジメ達は訳が分からず混乱していると

 

 

「ッ!? 避けて!」

 

そう叫びながら、シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並みの高速移動をし、愛子に飛びかかった。

 

突然の事態に、清水が咄嗟に針を愛子に突き刺そうとする。しかしその手は幸利に咄嗟に振り払われ、針を落とす。本来ならその水流に巻きこまれて重傷を負う清水だが、

 

「『黒炎の儀式』」

「なんだッ!?」

「これは……火!?」

 

周囲に黒い炎の壁が出現し、蒼色の水流を蒸発させてしまった。周囲の人間は幸利の使った黒い炎に目が行った。

そして当の本人は、水流が飛んできた方を見つめ

 

「……成程、あそこか……あいつを倒せばいいんだな……」

 

そう言って幸利はおもむろに左手を掲げ、黒炎を徐々に槍の形に変化させた。そして槍が生成されるや否や投擲体制に移行し、遥か遠く目掛けて槍を投擲した。

 

「『黒槍(こくそう)』」

 

手から放たれた槍は凄まじい熱を発しながらまるで竜の顎のように遠くの大型の鳥のような魔物目掛けて喰らいつきに行った。

 

魔物に乗っていた魔族は回避しようと試みるが、咄嗟に軌道を変えた槍にあっけなく貫かれ、そのまま灰も残らず燃え尽きた。

 

「大分、精密さもあがったか……後は数を増やすだけ……」

「お前は……一体……」

 

幸利が黒炎を放った手を触って確かめていると

 

ドパァン!

 

……幸利に向かって発砲音がした。撃ったのはハジメだ。しかし幸利は振り向きざまに神狩りの剣を振るい、全て撃ち落とした。

 

「誰だか知らないが……俺に攻撃したってことは……覚悟はできているんだろうな?」

「こいつ……ッ!」

「えっ……一体……」

「お前は寝てろ」

「ヒィッ!?」

「清水君!?」

 

声を荒げようとした清水の足元に『黒炎の刃』でエンチャントされたナイフを投擲した。刺さった箇所からは黒い火柱が飛び出し、たまらず清水は情けない悲鳴を上げた。

 

「どうやって帰るのか分からないが……俺に喧嘩を売った以上ただでは済まさないぞ」

 

ボウッ!

 

そういうと幸利は神狩りの剣に黒炎を纏わせ、更に左手全体を覆い隠すほどの黒炎を纏い、いつでも炎を炸裂させられるという一触即発になりつつあった。

 

――だが

 

「ハジメ! こいつあそこにいる奴とは違う!」

「……ん? え? ハジメ? お前まさか……南雲はじめ?」

「……そうだが?」

「え? 性別は……?」

「見ての通り男だが?」

「え?」

「え?」

 

……黒炎が消滅し、両者の間に張り詰めていた緊張の糸が緩んだ。

 

「……あー、すまん何でもないわ」

「待て」

「アー早く帰れないカナー、今日の晩飯は何カナー…………逃げる」

「待てって言ってんだろうが!」

 

踵を返して猛ダッシュで逃げようとする幸利をハジメは全速力で追いかけた。しかしハジメの持てる最高速に対して幸利は背中からまるでロケットエンジンのように黒炎を出して、ハジメの最高速を上回った。

 

時折ハジメから銃撃が飛んでくるが、幸利は体を捻ったり、黒炎で防御しながら紙一重で避けていた。

 

ドパンッ!ドパンッ!

 

「待て!」

「待てと言われて待つ奴がどこの世界にいる!」

「クソッ! 変態的な軌道で避けやがる!」

 

「というか早く帰らしてくれませんかねぇー!!」

 

 

 

ピピピ! ピピピ! ピピピ!

 

「はっ!?」

「おはようユッキー!」

「あ、あれ? 俺は、何を……?」

「どうしたの? 今日はブルックの町に行く予定でしょ?」

「……あぁ、成程、そういうこと……ちょっと谷口さん、先に外で待ってて」

 

幸利がそういうと鈴がドアを開け、外に向かった。

 

「……今までの全部夢オチかよぉオオオオオオオオ!!」

 

――浩介と再開するまであと数時間後

 

 

 

 

~褪せ人様の中学生時代~

 

夏休みの或る日

 

「……ん? ここは……?」

「おはよう浩介♡」

「あぁ、おはようはじめ。で、ここはどこ?」

「ここ? 僕たちの家だよ?」

「そうか……じゃあ、この鎖は何?」

 

ジャラッ

 

「だってこうしとかないと浩介はすぐ他の雌のところに行っちゃうじゃない」ハイライトオフ

「アッハイ」

「じゃあ、待っててね? 今、朝ご飯持ってくるから♡」

 

そう言ってはじめはドアから出ていった。

 

「……えーっと……昨日は何してたんだっけ?」

 

そう、夏休みに入ってすぐ俺ははじめの家に遊びに行って……帰り際にはじめから渡されたアイスティーを飲んで、気づいたらここにいたと

 

「なぜ気づかなかった俺、というかあれだな……確か今日は清水とゲーセンに行くんだったな…………脱獄すっか」

 

清水との約束を思い出した俺は、有り余る筋力を用いて鎖を粉砕する。鎖はたちまち引きちぎれ、俺は自由になった。

そしてはじめの机の上に置かれた俺のケータイと財布を持って堂々と部屋の扉を開け、玄関に向かった。

 

「ふふふ……これを混ぜれば浩介は理性を失う……そしてそこでふふふふふふ……」

(怖い(直球))

 

俺は物音を出さずに家から出ることに成功した。

 

 

時刻は午前6時。約束の時間は12時な為、一応親に連絡を入れることにした。

 

「もしもし?」

『あっ、浩介。はじめちゃんの家はどう?』

「え? 何でそれを」

『だってはじめちゃんから連絡があったのよ? 『お義母さん、浩介は僕の家に泊まるそうです♡』って』

「バチクソ嘘吐かれてた!」

 

それから一旦電話を切ってどこかで時間を潰すことにした。とはいっても6時間もあるんだから家に帰ろっかな……

俺は近くの公園のベンチに座り、熱い光を浴びせてくる日光を恨めしく思いながらも、どうやって時間を潰そうか考えていた。

 

 

 

 

「やぁ遠藤君」

 

突然俺のすぐ真後ろからこれまでの夏の暑さが全て吹き飛ぶような声が聞こえ、俺は冷や汗を流した。

 

「……や、やぁ……香織(お、俺が背後を取られただと……!?)」

 

ギギギと首を動かして後ろを振り返るとそこには満面の笑みを浮かべた香織が俺のすぐ真後ろに佇んでいた。

明らかにやばい雰囲気を醸し出しており、ナニをされるか分かったもんじゃなかった。

 

何故なら香織の目が笑っていなかったからだ

 

(このままだと……喰われる!?)

 

「じゃ、じゃあ……俺はこれで……」

「はじめちゃん」

 

ピタっ

 

(ば、馬鹿なッ!? 何故香織がそれを知っているんだッ!? ま、不味い!!)

 

「何が不味い? 言ってみてよ」

(こいつ……ッ!? 俺の心を……!?)

 

俺は今すぐベンチから立ち上がりたかったが、肩に置かれた手がメキメキという音を立てて俺を押さえつけており、逃げたらナニかをすると言わんばかりの念を感じたため、俺は立ち上がることが出来なかった。

 

「逃げたら襲うよ?」

「何で心が読めるんすかァ!?」

「愛の力よ♡」

「愛で心が読めてたまるか!」

 

(ま、不味い早く逃げねばッ!!)

 

「じゃあ……私の家に行こうか♡」

「あ、熱くなってきたから俺はそろs「ここで私に襲われてパパになるのと、素直に家についていくのどっちが良い?」家について行きます……(屈服)」

「じゃあ行こっか♡」

 

ジーザス(畜生め)……

 

「で、香織の家はどこに……」

「えいっ♡」(スタンガン)

「あばばばばばばば! ……ガクッ」

「ふふふふふふ……♡」

 

俺が意識を落とす寸前に見た光景は、光悦とした表情をする香織の姿だった……

 

 

 

 

「はっ!? ここはだれ!? 俺はどこ!?」

「ここは私の家で、貴方は私のお婿さん♡」

「Oh……」

 

ま た か よ

 

俺のすぐ眼前にはハイライトの消えた目で俺を覗き込んでくる香織の姿がそこにあった。そしてふと両手を動かそうとして動かないことと鉄特有の冷たさを感じるとまたしても手錠を掛けられていることに気づかされた。

 

「あのー、今何時でしょうか……?」

「今は8時よ」

「俺2時間もここにいたのかよ!?」

「ふふふ。最低でも700800時間はいてもらうからね♡」

「まさかの80年ッ!?」

 

ヤバい……このまま行くと拉致監禁コース待ったなしだが(既に手遅れ)、どうする……このままでは……

 

「じゃあちょっと薬……んんッ! 朝ごはん作ってくるね。……大人しくしててね? ね?(威圧)」

「アッハイ」

 

バタン

 

不敵な笑みと共に香織がドアを開けて出ていった……

 

それを見た俺は即座に

 

「……パワー!!(筋力99)」

 

バキン!!(鎖が砕ける音)

 

「良し、行くか。このままだとえらいことになるのは確定的に明らか」

 

俺は脱がされた衣服を着て、持ち物を確認し静かにドアを開け、玄関に向かった。

 

するとキッチンから香織の口ずさむ声が聞こえてきた。

 

「これで、遠藤君は私の物に……他の人には絶対渡さない……!」

(ひえぇええ……)

 

こうして俺は再び脱獄に成功した。途中俺の携帯に不在着信と『どこにいるの?』とか『逃がさない』等のラ●ンがえげつないほど来たが見なかったことにした。後が怖いなー(他人事)

 

 

「はぁ……はぁ……取り敢えずまだ8時だが……このまま外にいるのは不味いッ! は、早く家に帰らなくては……!」

「浩介君」

「アッ、雫さn」

「セイッ!!」(首絞め)

「ウッ……」

 

俺は何が起こったか分からないまま、再び意識を落とした。

 

 

 

 

「見知らぬ天j「おっはよー浩介君♡」最後まで喋らせてもろて?」

 

目が覚めると案の定雫の家に拘束されていました。本日3回目の拉致監禁ですね

そろそろ慣れ……ねぇわこれ!

 

今回は俺の腕、そして足にも枷が掛けてあった。死刑囚か何か?

 

「あのー雫さん。今何時で……?」

「今は浩介君が香織ちゃんの家にいた時から3時間後の11時よ」

「3時間経過してるぅ!? というか何で香織に閉じ込められてたこと知ってるんすか!?」

「……知りたい?」

「イイエ結構デス」

「あ、あともう直接薬盛るね?」

「せめてもうちょい取り繕って!?」

 

そう言って薬を取りに行った雫。一刻も早く脱獄しなければ俺は何されるか分かったもんじゃない!

 

「ぐ……ぐぐぐぐッ……! さ、流石にキツイか……ッ!?」

 

 

すると俺の脳裏に天啓のような物が舞い降りた。

 

『我が弟子……褪せ人よ……聞こえるか?』

「ハッ!? その声は……セレン師匠!?」

 

突然脳裏に石膏の頭を被った魔女……セレン師匠が思い浮かんできた。そして師匠は俺に告げた

 

『今こそ……狭間の地で培った力を解放するのだ……(魔術)』

「狭間の地で培った……力(筋力)」

『我が弟子?』

「ウォオオオオオオオオ!! (筋)力こそ! パワー!!」

『おい』

 

ガシャーン!

 

「はぁ……はぁ……や、やったぞ……流石はセレン師匠……!」

 

何処かからか『違うそうじゃない』という声が聞こえた気がするが、枷を全て破壊した俺は即座に服を着て、荷物を持ち……窓を開けて飛び出した。

靴は家の外から回収するので問題なし!

 

 

「ヨシ! 今度こそ家に「遠藤……?」ホァアアアアアア!?」

 

雫の家を飛び出して数分も持たない内に胴着を着た光輝ちゃんと遭遇した。どうやらこの時間から道場で稽古をするらしい。

 

「じゃ、じゃあ俺は急いでいるんで……」

「何で雫の家から出てきたんだ?」

「あー……えーっとですねぇ……「待ってて。って言ったのに逃げるんだ?」嫌ぁアアアアアア!!(日本兵)」

 

前門の光輝ちゃんに後門の雫

 

これは……詰んだか?

 

「雫、何故遠藤が君の家から出てきたんだ? 納得のいく答えを出してくれ。じゃなきゃ今すぐここで叩き切ってくれる」

 

光輝ちゃんが木刀を取り出し雫に向けて構える。それに対して雫は

 

「あら、簡単よ。浩介君は私の家に泊まってたのよ」

「い……いやちg「ほう? 遠藤が自分で雫の家に泊まったと?」」

「えぇ、そうよ」

「……嘘をついたな?」

 

そして二人はにらみ合いを始めた。その間に挟まれている俺は二人の絶対零度の視線をもろに受けているため、体が冷えるような思いでただ立ち尽くしていた。

 

(やべぇ……どうする……? このままだと文字通り血で血を洗う争いに発展する……あれをやるしか……!?)

 

俺はそう思い、最終手段を行使することにし……クラウチングスタートの構えをした。

 

「浩介君!?」

「遠藤!?」

 

 

――そして駆け出した

 

「逃げるんだよォオオオオオ!」

「待って! 浩介君……速ッ!?」

「ええっ!?」

 

「ごめんよ二人とも! 後で必ず時間は作るから今日は勘弁してくれぇ!!」

 

大声で後ろに呼びかけて俺は雫の家から全速力で離れた。

 

 

 

「――とここまでが今朝起こったことだ」

「お前よく生きて帰ってこれたな……あ、俺の勝ちな」

「強っよ……」

 

あれから何とか待ち合わせ時間に間に合わせた俺は清水とゲーセンで遊んでいた。

 

「というかお前の話から推測すると……このままだとお前この後が怖いんじゃ……」

「……あっ」

「それとさ……さっきから信じられないペースでお前のスマホの通知がなっている音がするんだわ。俺もてっきりゲーセンの音かな? とは思ったけど、流石にどこにいても聞こえるからお前で確定何だわ」

「」

 

この後結局それぞれの家に一日ずつ監禁されることになりました。

 




この次から暫くは本編を投稿いたします

実はソウルシリーズの五人(全員中身は同じ)でトータス蹂躙という話を考えていたんですが、どう考えても番外編だけでは済まないので断念致しました


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第零章
エルデの王と書いてラニの王と読む


閲覧ありがとうございます

エルデンリング完結記念に何か書いてみたいと思って書きました。悔いはありません

褪せ人様のスパダリポイントが高すぎるのがいけないんや……

それではどうぞ


「我が王よ……起きたまえ……」

「う……ううん……なぁに?またマレニアの刃のラダーンがニーヒルしたの……?」

「我が王よ混ざりすぎだぞ」

 

青年を王と呼ぶその声の主は『魔女 ラニ』

 

彼女は『満月の女王 レナラ』と『黄金律 ラダゴン』との間に産まれた神人で、その姿は蒼い肌の4本腕の女性だった。もっともその姿とは別の本来の姿があるのだが、王と呼ばれた青年との思い出が詰まっているためその姿でいるのだ。

 

そしてそんな彼女に王と呼ばれた人物は通称『褪せ人』と呼ばれている。この青年は大いなる意思こと『二本指』によって『エルデンリング』を求めることになったのである。

 

その道中は決して楽な物ではなかった。狭間の地に召集されていきなり体中が人間の寄せ集めで出来ている『接ぎ木の貴公子』に訳も分からず殺されたり、黄金に輝く騎乗兵『ツリーガード』に数十回は殺されながらも何とかたどり着いた近くの教会にて後の『魔女 ラニ』である『雪の魔女 レナ』と運命の出会いを果たしたのだった

 

「それにしても驚いたぞ。私と出会った時のことを……覚えてるか?我が王よ」

 

漸く眠気が取れた青年が懐かしむように反応する

 

「覚えてるよ。だって……開幕一言目で求婚したもんね」

 

そうこの男は、ラニに対して一目惚れをしたのだった。

 

『……はじめまして、褪せ人よ。私は魔女 レナ……霊馬を…』

『俺とお付き合いしてください(即答)』

『……聞かなかったことにしてや『貴女に一目惚れしました』……ッ!?』

 

それから時は進み……

 

『……ほう、久しぶりだな。忘れもしない出会いだったが……』

『あの時は確かレナと名乗っていたか……』

『それで……?褪せ人よ、何用があってやってきたのだ?』

 

青年はその場に跪き、迷うことなく言葉を言い放った

 

『貴女の傍に居させてください』

『……またそれか……まぁいいこれも何かの縁だ、私に仕えると良い』

 

それから青年はラニの願いを叶えるために狭間の地を走り回ったのだった。その道中には数々の苦難が待ち受けていたが、ただ一人の恋した存在に夢中になっている彼にとって苦難では無かった。

 

 

『……お前が私の王だったのだな』

『忠告など、無駄なことだったか』

『だが、悪い気はしない……お前は王の道を行きたまえ……何か言いたげだな?』

 

『あぁ……分かっているとも、君の思いは変わっていないことを』

『だが、それは全てが終わってからにしようじゃないか』

 

 

……そして遂に青年は全てを終わらせた

 

『……すべて終わったのだな』

『ラニ……俺は終わらせたよ』

 

『ふふっ……相も変わらずだな。だが、嫌いではない……』

『さて……祝言といこうじゃないか』

 

彼らの口からこれからの未来、そして祝福が述べられて言った

 

『……永遠なる私の王よ』

『……永遠なる俺の姫よ』

 

 

『『いざ、星の世紀へ』』

 

 

「本当に懐かしいなぁ……」

「あれから幾年立ったのかもわからない程だがな」

 

彼らが他愛のない会話をしていると、突然一際大きい謎の存在が銀河を横切るのを目の当たりにした

 

「うわっ、何だあれ……」

「……厄介ごとだな」

「……そうみたいだね」

 

その彗星のようなものからはかつて存在した『デミゴッド』とは比較にならない程の弱さを感じたが、その内に秘めた性質の厄介さに青年とラニは思わず険しい顔をした。

 

「はぁ……せっかくラニとゆっくりしているのに……」

「……正直私もあれには少し腹が立ったな」

 

「じゃああれ壊しに行ってくるよ」

「大丈夫か?我が王、あの異物は別の世界にたどり着いてしまったようだが……」

「うーん……そしたらそこと繋がるであろう次元に行こうかな」

 

彼らはこうして偶にやってくる彼方より来たる『異物』を排除しているのだ。そうしなければ後々厄介なことになるのが目に見えているからだ

 

しかし今回の場合は捕捉した時には既に別世界に入り込んでしまったのだ。さらに言えばその別世界に接続しようとしてもどうやらロックされているのか入れなくなってしまったのだ

 

「仕方ない、不本意だけど繋がりやすい次元に転生してくるかな」

「まぁそれしかないな……だが王よ、私が直接転生したとしても逆にあちら側に捕捉されては敵わない。ここは王だけ行くことになるな」

「それが嫌なんだよ!」

 

心からの本音をぶちまける青年だった。それに対してラニは

 

「ではこれを持っていくがよい」

「ラニの……人形」

「これさえあればいつでも私と話せるぞ」

 

そうこうしながらも青年は準備を進めた。エルデの王としてラニの王として異物を排除するために今再び青年は剣を取るのだった

 

「じゃあ……行ってきます」

「いってらっしゃい……我が王」

 

そういうと青年は光に包まれその場から姿を消していた

 

「……無事を祈っているぞ我が王よ」

「出来ることは少ないが、せめてお前から教わったこれをつけておくとしよう……」

 

こうして星の律を生きる褪せ人は異世界へ流れ込んだ異物を掃う為に人としての生を歩み始めることにしたのである。その異物が流れ着いた世界の名は……【トータス】

 

青年にはその世界に覚えがあった。何故なら……

 

「まさか……【ありふれた職業で世界最強】の世界に赴くことになるとは……」

「まぁ、【エルデンリング】の世界に転生したことを考えるとこれが2回目か……」

 

その青年はかつて転生者であったからだ

 

 


 

「産まれました!元気な男の子ですよ!遠藤さん!!」

「はぁ……はぁ……あなた……」

「良くやった……!ありがとう……!」

 

とある病室にて新たな命の産声が挙げられていた。この場にいる全ての人物が祝福を挙げているのは明らかなことだろう

母親の手に抱かれた赤子を見て父親が思わず涙を流した。

 

「……ん?この子の背中に何かある……?」

「どうしたんだい?」

 

ふと母親がその赤子の背中を見てみるとそこには

 

「これは……?一体何かしら……?」

「何かの……模様かな……?」

 

()()()()とその後ろに重なるように刻まれた()()()()()()()が赤子の背中に刻まれていたのである。夫婦はその光景を目の当たりにしても

 

「あら!かっこいいわね!」

「きっとこの子は……神様に祝福されてるんだよ!」

 

その赤子を受け入れたのである。そして名もなき赤子に夫婦は名前を刻むのであった

 

「この子の名前は浩介。遠藤 浩介」

「良い名前ね……あなた」

 

 

そして一連の流れを聞いていた赤子、否青年は

 

(今、遠藤 浩介って言った……?マジで……?俺よりにもよってネームドキャラに転生したのかよ……)

 

元青年はこの世界にくるに当たって本来の『遠藤 浩介』と仲良くなりたいと思っていたので、割とショックを受けていた

 

 

しかし元青年……現遠藤 浩介は聞き流していたが自身の背中に刻まれたその模様はまさに『回帰性原理』のそれであることをこの時は知らなかった。

 

更に言えば『回帰性原理』の性質である『あらゆる状態異常と、特殊な効果を消し去り、あらゆる擬態の正体を暴く』という効果が発揮されており、これにより『遠藤 浩介』の『影の薄い』という特性が打ち消されていることも彼はまだ知らないのであった。

 

(まぁ……影が薄いという特徴を使えば『異物』を取り除きやすくなるからヨシ!)

 

まったくヨシ!ではないことを知るのもまだ当分先の話であった




今作の遠藤はエルデの王であった影響なのか、背中に回帰性原理の模様がありますが、無力化してるのは基本的に『影の薄さ』だけなので悪しからず

それを知らなかったこの褪せ人様はどうせ忘れられる、そもそも認識されないだろうという考えで無自覚に救済しています。

これにはラニ様も4本の腕で頭を抱える始末

閲覧ありがとうございました!


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王、最初のやらかしをする

閲覧ありがとうございます

何気に初めてTS要素を取り入れてみました。

その結果がこの作品です

それではどうぞ


――俺が転生してから暫く経ち中学生になった。

 

その間も様々な出来事があったのを思い出す。まず結論から言えば原作介入をしてしまったかもしれん……

 

やっちまったぜ

 

 

というのもそもそも俺は原作をアニメとかじゃなくて小説で読んでた方だからキャラの名前は知ってても容姿についてはいまいち判らなかったのは仕方ないと思っている。

 

だからこそ起きた出来事なんだけどな……

 

あれは俺が小学生6年の頃にとある公園に行った時のことだった

 

 


 

「おい!なんとかいえよネクラぁ!」

「気持ち悪いんだよ!なよなよしてて!」

「弱っちい癖によぉ!」

 

「や……やめて……」

 

公園に入った瞬間目の前で行われているイジメの光景を見て俺はとりあえずいじめられているあの子が可哀想だったので、

 

右手に『猟犬のステップ』の戦灰を付けた『セスタス』と左手に『パリィ』の戦灰を付けた『セスタス』を装備しながらいじめっ子に近寄った

 

「やぁ、君たち!ここで何をしてるんだい?」

「うおっ!?な……何だお前!?」

 

おうおう、挨拶も返せねぇのかと思い俺は、圧を掛けながら話すことにした

 

「質問に答えてくれないか?」

ここで、何をしてるんだい?

「「「ヒイッ!」」」

 

……俺そんなに怖いかなぁ。今の俺の顔は笑顔を浮かべている筈なんだけど……

 

「お……お前には関係ねぇよ!!」

「いや、関係あるとも」

「な……何だよ、お前はこいつの味方をするのかよ……!こんな弱っちい奴なんかを!」

 

「弱いからっていじめる道理はないんだけどね」

「お、おいっ!こいつやっちまおうぜ……!こっちは3人だ!」

「に……逃げて……」

「あー……見知らぬ子。それなら大丈夫!なんでって俺は王だからね!!」

 

いじめられている側なのに他人を思いやれるいい子だ……だからこそここで守らなきゃな

 

「ぷっ……!ギャハハハハハハ!!おい聞いたか王だってよ!ギャハハハハハハ!!」

「「ギャハハハハハハ!!」」

「プッチーン」

 

理解させる(わからせる)かこのオスガキ共……

 

「はいちょっとドスってしますねー」

「うわっ!いつの間に!?」

「痛かったら両手を上げてくださいねー」

 

俺は目の前のリーダー格の奴の胸元を掴んで……

 

「命! 奪! 拳!」

「ギャアアアアアアアア!」

 

勿論『命奪拳』をほんとに打ってるわけではない。『命奪拳』のモーションに合わせて手繰り寄せてぶん殴っただけだ

 

目の前のガキ大将(笑)は今の一撃でダウンしていた。やっべちゃんと加減できてるかなぁ……(筋力99並感)

 

「う、うわあああああ!!逃げろぉおおお!!」

「あんな頭の可笑しい奴に殴られたくないよおぉおお!!」

「貴様ら本気で殴ってやろうかぁああああ!!」

 

まったく……人を化け物扱いしよって、あ、俺『エルデの王』だったわ。一応あいつらの言っていることは正しかったのか……?

 

……今度会ったら『雷の羊(飛鳥文化アタック)』か『命(を)奪(わない代わりにこの)拳(を喰らえ)』をしてやろうか?

 

「あ……あの、」

「うん?……おお君か!大丈夫?怪我はない?」

「う……うん、僕は大丈夫……」

 

俺が色々と考えている最中にこのいじめられていた子が俺に声を掛けてくれた。というか痣が出来てやがる!あいつら次会ったら『特攻野郎たち』の刑に処してやる……

俺は『指の聖印』を取り出して『回復』をすることにした

 

「あー……ちょっといいかな?」

 

俺は目の前の子の手を掴む

 

「えっ、何?」

「これから起こることは秘密にしてくれるかな?『回復』」

 

俺の周囲に黄金の光が集まり解放されたと同時にこの子の傷が消えていった

 

「今のは……一体」

「しーっ……これは俺との約束。良いね?」

「うん!」

 

それから俺はこの子と話すことにした。何でも周りが『女のくせに男みたいな髪型で気持ち悪い』とか『服も変だ』とか言っていじめて来るらしい。なんて奴らだ『巨人の火をくらえ』をぶち込んでやろうかと本気で思ったくらいには腹が立った。

 

そしてどうやら明日いじめられるかもしれないと泣き始めてしまった

 

「うぅっ……また僕はいじめられるんだ……」

「……」

 

取り敢えず……この子を落ち着かせるか、泣いてばっかじゃあ話が出来ないからね。そう思い俺は子供受けしそうな見た目の杖である『結晶杖』を取り出しながらこの子に語り掛ける

 

「こっち見て」

「グスッ……なぁに……」

「『輝石のつぶて』」

 

俺は宙に向かって『輝石のつぶて』を放った。空に向かって青白い光が突き進んでいった。隣の子は目がキラキラしていた

 

「うわぁ……きれい……」

「まだまだ、『結晶連弾』」

 

杖から放たれた輝石の結晶片が次々と放たれる光景を見て更に目を輝かせる。

 

「もっと見せて!」

「しょうがないなぁ……大盤振る舞いだ!『彗星アズール』!!」

 

俺は一旦この子から距離を取って杖に魔力を集中させる。そして杖から星空の奔流たる極大の彗星……という名の極太ビームが飛び出す。

俺のFPが枯渇しそうになったところで俺は構えを解いた。

 

「すっごぉおおい!!君はもしかして魔法使いなの?!」

「まぁ……そうだね」

「すごいなぁ……僕も君のようになれたらなぁ……」

 

(うーん、何かしてあげたいけどな……あっそうだ)

 

俺は何かしてあげたい一心である物を渡すことにした。確かこの辺りだったが……?

 

「キミ、これあげる!」

「えっ、これ、すごい……綺麗な金色……」

 

俺はこの子の素性を知らないからこの子の学校を知らない。だけど、この子に勇気を持たせる意味を込めて『恵みの雫のタリスマン』を首飾りを付けて渡した。

 

「俺はこれしか出来ないけど……これだけは忘れないで、君は一人じゃない」

「……うん!」

「君の家族は優しいかい?」

「うん!お父さんもお母さんも優しいんだ!」

「何かあったら家族に相談した方がいいよ。君の言う通りの家族ならきっと助けてくれる筈さ」

「ありがとう!ありがとう!!僕の、僕だけの魔法使い!!」

 

そうこうしている内に良い時間帯になったので帰ることにした。

 

「……ごめん。俺、帰らなくちゃ」

「えっ、そんな!!」

 

この子の目からまた涙がこぼれそうになる。俺はハンカチを取り出してその子の涙を拭いてあげた。

 

「心配しないで。またいつか会えるさ」

「少なくとも俺はそう信じている」

「う……うん!ありがとう!僕頑張るね!!……あ!魔法使いさんの名前は!?」

 

うーん教えても良いんだろうか?迷った挙句俺は教えることにした。まぁ多分この子は原作キャラじゃなさそうだし大丈夫大丈夫(※大丈夫じゃありませんでした)

 

「俺は浩介、遠藤 浩介だよ」

「浩介……浩介!!僕、いつか君に会いに行くよ!!」

「楽しみにしてるよ」

「うん!!じゃあね!!」

「じゃあね……『見えざる姿』」

 

そうして俺は雰囲気に飲まれて魔法を使った。(だって魔法使いって言われたらねぇ)

それから姿を消しながら俺は公園を後にした。あっ、名前聞くの忘れた。

 

 

……今思えばこれが最初のやらかしだったかもしれない

 

 


 

~???視点~

 

「あぁ……浩介君会いたいよぉ……」

 

僕はあの日の思い出を呼び起こすように彼からもらったこの御守りを布で綺麗に磨いていた。あの日いじめられていた僕を助けてくれた僕だけの魔法使いさん

いじめられていた僕の前に颯爽と現れていじめっ子たちを返り討ちにした僕だけのヒーロー……

 

浩介君が見せてくれたあの魔法の数々は今でも鮮明に覚えてる。僕の傷を治してくれた魔法に青い光を放つ魔法、そしてあのビームのような魔法……僕たちだけの秘密だけどね

 

僕の容姿は中性的でよく小さい頃は皆に馬鹿にされていたけど、浩介君は僕を馬鹿にしなかった。

浩介君と出会って別れた日に僕はこれまで受けてきた仕打ちを僕の両親に勇気をだして伝えた。そしたら浩介君の言う通りに僕の為に怒ってくれた。お父さん達がすぐさま先生に言いにいってから僕の日常はとても平穏なものになった。

 

中にはちょっとした嫌がらせもあったけどその度に僕はあの御守りと浩介君のことを思い出して耐えてきた。だけど流石にあの御守りを取られた時は今だかつてない程に怒り狂ったことは覚えている。

気が付いたら僕の目の前にいたその主犯格が怯えていたのも覚えている。……本当はもっと酷い目に合わせたかったけど、浩介君に合わせる顔が無いから僕は抑えたんだ。

 

 

それから1年が経って中学生になった時遂に僕は浩介くんと再会することが出来た。嬉しさで今にも舞い上がりそうだった

 

「君は確か……」

 

この数年で僕の容姿はあまり変わらなかったけど、君の隣に立つために僕は努力をした。前までならあまり使わなかった美容液も使ったり髪も綺麗に整えたりして……そんなことをしていくうちに僕に告白する人が出始めたけど、生憎僕には既に心に決めている運命の人がいるんだ。といつも断っていた

 

 

目の前の浩介君は僕の名前を言おうとしてるけど……そうだったあの時名前を伝え忘れてたんだった。

だから僕は笑顔で自分の名前を伝えた

 

「久し振りだね!浩介君!!僕の名前は……」

 

「南雲 はじめ だよ!宜しくね!浩介君!!」

 

やっと伝えることができた……あれ!?どうしたの!?浩介君?!頭を急に抱えて!?

 

え?大丈夫?それならよかったぁ……でもね浩介君

 

その女達は誰?

 

浩介君の隣に立つのは僕だ




どうやら褪せ人様は既に他にも(無自覚に)落としていた模様

流石はあのラニ様を惚れさせるだけのことはあるぜぇ!!

ちなみに褪せ人様ははじめちゃんに名前を教えてもらった時点で自分のやらかしに気づかされて精神的に死にかけてます


閲覧ありがとうございました!


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王、再びやらかす

閲覧ありがとうございます!

褪せ人様はまじで歴代屈指のスパダリなのでヤンデレ製造機になっても仕方ないよね!ということで大体病ませます

戦闘が終わったら会話イベントがあるのがいけないのでね

それではどうぞ


「そうだ!娘は預かった!身代金を持ってこい!!それと逃走用の車だ!!」

「ひぐっ……たすけてぇ……」

 

(さーて、どうしようかな……)

 

俺の目の前には、相手に身代金を要求している誘拐犯の主犯格とその誘拐犯に誘拐された少女がいる。

 

今の俺は『黒き刃』一式を身に纏い、『見隠しのヴェール』に『クレプスの小瓶』を付け、更に念の為に『見えざる姿』を使用している状態にある。そのせいかこの場にいる人間は俺に気づいていない。

……なんでこうなったのだろうか?

 

それは一時間前に遡る

 

 

この日俺は少し遠出をして本を買いに来ていた。とは言っても精々自転車で行ける距離だったので両親も承諾してくれた

 

「ありがとうございましたー」

 

俺は本屋で星座についての本を買った。理由は単純

 

「これでラニとの話のレパートリーが増える……!」

 

空を見上げると満点の星空というか宇宙なんだが、それでも星座について知っておくとラニとの話がより面白くなると考えた俺はこれを買いに来たのだ

 

「さーて帰りますk「いやっ!離して!!」……え?」

 

声のする方に顔を向けるとそこではまさに誘拐される1秒前と言ったような現場があった。

連れ去られていたのは同じぐらいの少女で、その顔には恐怖が浮かび、涙が出ていた

 

(おいおいおいおいおい!!)

 

車が発進する寸前俺は『見隠しのヴェール』と『クレプスの小瓶』を付け、『黒き刃』一式を纏い、更に『暗部の歩法』を使い、車の上に乗った。足音が出ないこともあってこいつらのアジトまで直行だった。

俺は車の上から耳を澄ませて中の様子を伺った

 

「へへっ、やったなぁ!!」

「ついにやってやったぜ!!」

「あとはアジトに連れ帰って……グフフフフフ……」

 

(うわぁ……)

 

耳を澄まして聞こえたのは男たちの汚い欲望とわずかに聞こえる少女のすすり泣く声だった。

 

(どうする……?こいつらを殺すことは容易だが、殺して少女に変な噂が立ったらどうするんだ?!)

 

俺は一際強い風が吹いたので指に力を込めて車に張り付く

 

……指? あっ(思いついた)

 

 

あれから暫くして誘拐犯のアジトについた俺は一先ず様子を伺い、確実に一人ずつ沈めていくことにした。

 

「よし、じゃあ見張りたのんだぞ」

「あとで俺にもやらせてくれよw」

「あぁ、もちろんさ」

 

それから奴らが1人を残していったのを確認して早速行動に移ることにした。

 

 


 

「ふわぁ~あ……」

 

誘拐犯の一員である見張りの男は入り口に立っていた。彼の頭にはあの少女を汚すことしか無く、口からは下卑た笑い声が飛び出す

楽しみでしかたない……そんな男を覆う大きな影が現れた

 

「……ああん?なn……だ……」

 

 

それは指というにはあまりにも大きすぎた

大きく

分厚く

重く

 

そして『紫』だった

それはまさに

 

「ちわーす。爪弾き(デコピン)の時間でーす」

「ウボォア!!!!」

 

指輪指(ネタ武器)』と呼ばれていたのだった

 

 

『ウボォア!!!!』

「ああん?なんだ?」

 

入り口から謎の声がしてきたためグループの一人が様子を見に行くことにした。

そこには見張りの男が気絶してたのだった。

 

「おい!何寝ぼけてn」

「一名様追加でーす」

 

「アバァア!!!!」

 

また一人デコピンの犠牲になった。

 

 

「おい。あいつはどうした?」

「あん?そういやいねぇな。おい入り口見てこい」

「わかった」

 

直ぐに戻ってくるはずの一人が戻ってこないのを不審に思った一人が様子を見に行った。

 

「たくっ……あいつどこ行きやがった?」

 

入り口についた男は見張りの役がいないことに気づきつつも辺りを見渡しながら煙草を吸い始めた。

 

「おっと、ライターが……「ハァイ、ジョージィ」……!?」

「お前も浮かんで(発狂して)みないか?」

 

そこには目が黄色く光ったフードの人物がいた。そして男を掴むと

 

「な……なんだおま……ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!」

 

……『発狂伝染』を行ったのである。男は発狂し、そのまま倒れこんでしまった。

 

「さて……これで三人……次いくか」

 

 

「お……おいっ!?何か様子が変だぜ!?」

「お前ら!!どうした!?」

 

先程から少し時間が経ち、誰も戻ってこないことに疑念を抱いた二人組が()()()倒れこんでいる人物たちに駆け寄った。

だが、それが罠だとは気づく由も無かった。

 

「おい……はやくリーダーに知らせ「二名様追加入りまーす」グハァ!!!!」

「アガッ!!!!」

 

背後から迫る『指』に気づけなかったのである。

 

「さーて……これであと一人か?」

 

 

これが一連の流れであった

 

「よーし……ほらいい子にしてな?お嬢ちゃん」

「ヒイッ……!来ないで!!」

「ガキだが、まぁ楽しませてくれるだろう」

「やめて!!!!」

 

男が事を致そうとしたとき突然周囲に『暗闇』が出現したのだった

 

「……?なんだ?まだ昼間の筈だが?!」

「ハァイ、ジョージィ」

「なんだ!?」

 

聞こえてくるのはまるで大きな何かを引きずる音だった。それとまるでこちらに語り掛けてくるような声だった。

 

「お前も(物理的に)浮かんでみないか?」

 

「グハァ!!!!!」

 

こうして男は浩介の『巨人砕き』による『踏み込み(斬り上げ)』を喰らい、天井を突き破った

誘拐犯たちは人知れず全滅したのだった。

 

 


 

あーすっきりした

 

悪人は物理的にしばくに限るな。さて、この少女を助けないと……

 

「大丈夫かい?」

「た……助けて……」

「すっかり怯えているな……一先ず怪我してるかもしてないし『大回復』」

 

怪我を治す意味もあるが一先ず落ち着かせるために『大回復』を使った。少女も少し落ちついたようだ

 

「あ、ありがとう。魔法使いさん」

「礼には及ばないよ……あとこのことは秘密ね。この人たちは()()()倒れただけだって伝えればいいよ」

「うん!ありがとう!!」

 

あぁ^~美少女ちゃんの笑顔はかわええな~。あいつらも見習……想像して発狂しそうになった……とどめさした方が良かったか……

 

「あ……あの……」

「うん?何だい?」

「どうしたらそこまで強くなれるんですか?」

 

少女ちゃんの話によると

 

自分はとある剣道の道場の門下生で、家族からも将来を期待されているんだけど最近思ったように戦績が良くなくて、このままじゃあ家族にも見放されるんじゃないかと思っているとのこと。そしてそんな家族に対して重荷のような感じを覚えてしまっている自分が嫌になっているとのこと

 

うーん……家族間の問題は……当人たちの問題だしなぁ……うーむ……

 

「私も……あなたのように強かったら、こんな悩みを抱えることはなかったんですが……」

 

「……少女ちゃんこれあげる」

 

俺は少女ちゃんに『有翼剣の徽章』をあげた。

 

「えっ……でも良いの?こんなにすごい物貰って……」

 

「……俺も以前君のように周りに相談できない悩みを抱えた子と会ったことがあるんだ」

 

俺は公園のあの子のことを思い出しながら少女ちゃんに語り掛ける。

 

「みんなまだ君の事を子供だと思っているんだ。だけどそれは事実」

「だからこそ今君が出来ることは、家族としっかり話すこと!全部、自分の思っていることを話して本気でぶつかるんだ!」

「!!」

 

「子供の訴え程大人に効くものは無いからね。大事なのは自分だけで解決しないこと!周りには頼れる人がいるんだ。」

「うん!」

 

『警察だ!大人しく投降しろ!!』

 

やっと警察が来たか……面倒なことになる前に退散するとしますか

 

「おっと……それじゃあ俺はこれで……」

「まって!!せめて名前を教えて……!」

 

少女ちゃんが名前を教えてと言ってくるが、申し訳ないけど……教える訳にはいかない

前回の場合はまだよかったけど、今回はそうはいかない。

 

「……ごめんよ……じゃあね……『見えざる姿』」

「まってぇ……」

「……また会えるかもね」

 

心が痛い……泣き崩れる少女ちゃんの姿を横目に俺は建物から出て、家に帰った

 

何か忘れてるような……

 

 

……なんかやらかした気がするがヨシ!

 

 

その後俺は本の栞をどっかで落としてきたことを知る。まったくついてねぇぜ……

 

 

尚そのやらかしによって俺が原作ブレイクしたことと助け出した少女の名前が『八重樫雫』であったことを知り『心が折れそうだ』になりそうになったのは2日後だった。

 

 


 

~八重樫雫視点~

 

「うっ……ううぅ……」

 

今日私は誘拐された。本を買いに来たら男の人たちに車に連れ去られ、廃墟に放り出された。

とても怖かった……泣き叫ぼうとしてもあの男たちが恐ろしくて声も出なかった

 

だけど私が男に襲われる直前、突然暗闇が部屋中を満たした。

男が言っている通りまだ昼のはずなのにどうして……?

 

私が未知の現象に怯えていたら暗闇が消えて、そこには気絶している男とその後ろに立つフードを被った人がこっちに近寄ってきた……

 

「大丈夫かい?」

 

声からして男の人のような感じがして思わず後退りしてしまう……だけどその様子を見たフードの人が何かを唱えると周囲を黄金の光が包み込んだ……

 

私が連れ去られる際についた擦り傷が治っていることに気が付いて私はお礼を言おうとした。

 

「あ、ありがとう。魔法使いさん」

 

魔法使いさん(仮)は、私に優しい言葉を掛けてくれて思わず、私の悩みまで打ち明けちゃった……

だけど魔法使いさん(仮)は私の話を真剣に聞いてくれた。そして一通り話した時私に、羽と剣が重なったペンダントのようなものを私にくれた。

 

魔法使いさん(仮)の『自分の思っていることを話して本気でぶつかるんだ!』という言葉を聞いて私は、今すぐにでも家族と話したいと思えるようになった。

 

 

だけど……警察がきたらしく魔法使いさん(仮)が帰ることになった。

嫌!まだ名前も聞いていないのに!!私を助けてくれたお礼もまだしたり無いのに!!

 

 

魔法使いさん(仮)の姿が消えたかと思うと私は泣きじゃくってしまった。だけど……落ちていたある物に目が行った

 

「これは……栞……?名前が書いてある……」

 

『○○小学校 遠藤 浩介』

 

「この……学校……私の通っている学校!」

 

私は栞をポケットにしまって、浩介君からの贈り物のペンダントを握りしめた

 

「ふふっ……これでまた会えるね……」

 

それから私は家族に本音を打ち明けた。私が話し終わった時の静寂が怖かったけど……何とか和解することが出来た。私はその時も思いっきり泣いたなぁ

 

本音を打ち明けてからの私は、普段よりも力がみなぎっている気がした。そしてそれは目に見える成果としても現れるようになった。

 

「私を助けてくれた浩介君、私の家族まで助けてくれた浩介君……私に力をくれた浩介君……」

 

「ふふっ、楽しみだなぁ……次に学校に行く時、浩介君はどんな顔をするのかなぁ……」

 

鏡に映る私の顔は、光悦とした表情になっていた。それは恋する乙女というより得物を追い詰めている猛獣の表情だった

 

 

 

それから2日後に学校に行って早速浩介君の下駄箱を探して、書置きを入れて放課後に呼び出した。

 

「え~っと……『放課後屋上に来てください』って書かれてたから来てみたけど……」

 

アハッ♪ 来た♡

 

()()()()!浩介君!!」

「えっ?!いや……始めましてでは……?」

 

浩介君は既にチェックメイトに陥ってることを知らないから……私はそれを教えてあげた

 

「これ、なーんだ?」

 

私が取り出したのは……あの栞だった

浩介君の目が開いて、驚愕しているのが手に取るように分かった。まるで知られたくない秘密を知られたかのように

 

「え……?それって……俺の……?」

「そうだよ!()()()()()()()()()()()()()()()!」

「……まじかよ……」

「わかっているよね?この意味が……」

 

……これで浩介君の秘密は私が握ったも同然、卑怯な真似かもしれないけど、私は彼を手に入れるためにはどんな手も使って見せる。

だから浩介君、私はあなたを

 

絶対逃ガサナイ

 

 

少女……八重樫雫の目は暗く深い……澱みのような輝きに包まれていたという

 

 

そして浩介は

 

(あー……うん、やらかした。……まだこれ以上の原作ブレイクは起きてないよね?!)※起きてます

 

目が死んでいた




ラニ「我が王……(憐みの目)」

褪せ人「やめてください(原作と自分の精神が)死んでしまいます」


褪せ人様心配はご無用です!……トータス行ったらまた増えるので……

褪せ人「……(無言の自爆霊薬)」


閲覧ありがとうございました!


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えっ?この状況(修羅場)からでも入れる保険があるんですか?!

閲覧ありがとうございます!

小説の流れ的にこのまま褪せ人様には小説のネタになってもらいます

そこにイベントがあるのがいけないからネ!仕方ないね

それではどうぞ


「あぁ……酷い目にあった……」

 

昨日は酷い目にあった……まさか、俺が助けた少女がまさかの原作キャラの『八重樫雫』だったとは……いやまぁ、誰でも助けるつもりだったんだけど

 

それにしても怖かったな……あのハイライトの無い目で見つめられながら()()()()()抱きしめられるのは……

 

『ねぇ……何で私から逃げたの?』

『私はもう貴方との秘密を握っているの。この意味が分かる?』

 

……そこから自分でもなに話したのか忘れたが、取り敢えずあの場は何とかなったと言っておこう

 

ただ一つ言えることは間違いなく俺がやらかしたことだろう

 

『ふーん……まぁ、いいわ。明日から宜しくね♪』

『逃げたらユルサナイカラネ』

 

 

それから俺は他の人に秘密にしてもらう代わりに雫の願いをある程度聞くことになってしまった

 

あぁ……やばいことしてしまったな……このままいけば天之川とかいう勇者(笑)に狙われる……あぁ、頭が痛い……

これほどまで苦しんだのはあの無敗(笑)の剣士(マレニア)と『エルデの獣』以来だ……

 

「はぁ……全く……まだトータスにすら到達していないのに……」

「おらぁ!!泣いてんだ!!うるせぇぞ!!」

 

 

誰かが不良に絡まれているらしい、ふと視線を向けるとそこでは男の子とおばあさんが絡まれていた。

 

(……またかよ!治安悪すぎだろ!この町!!米花町(日本のヨハネスブルク)じゃねえだろ!?どうなってんだ?!)

 

そう思うのも無理はない程に俺の周りではイジメ、誘拐、そして恐喝が起きている。可笑しいな……俺なんかしたか?

 

(あー……何かしたというより……やっちゃいけないことなら大体やったけどさ……)

 

(それでも前世のことだぜ?!ここで落とし前を付けに来るのかよ!)

 

今にも不良が殴り掛かりそうだったので俺は素早く『セスタス』を両手に持って割り込んだ

 

「あっ失礼(パリィしながら)」

 

「なんだッ?!」

 

不良の拳が当たりそうになった瞬間に俺が割り込んでパリィをした。不良が体勢が崩れたのを見ながら俺は拳を振りかぶった

 

「暴力はいけません!」(セスタスで致命を入れながら)

「それお前が言えたことじゃ…ブゲェ!!!!」

 

何か言っていた気がするが、ヨシ!

 

そして俺は他の不良に対してもセスタスを向けながらゆっくりと首を向けて

 

「次 は お 前 だ」(満面の笑み)

「うわぁあああああ!!逃げろぉおおお!!」

 

(……意気地なしすぎん?)

 

何か知らんが全員逃げたので、ヨシ!

不良は(全員)倒せませんでしたが、男の子とおばあさんを助けられたのでOKです

 

「ありがとうございました……」「ありがとう!お兄ちゃん!!」

 

「いえいえ……そんな滅相も無い……」

(半分以上胡散晴らしでしたので……)

 

俺は

 

しかし男の子とおばあさんねぇ……

 

(うん?不良に絡まれた男の子とおばあさん……そして『ありふれた職業で世界最強』……?)

 

あっ、すごく嫌な予感がする。具体的には原作でもやばいヒロインが近くにいる気がする……

 

(これ以上……原作をブレイクする訳には……)

「ね……ねぇ?あの……?」

「……はい!?」

 

後ろを振り返るとそこには見る者の目を惹きつけるような美少女がいた。

 

このシチュエーション……この容姿……間違いない……!この子は『白崎香織』だ!!

俺はそれを確認すると即座に逃げの態勢に移った

 

「あーおれこのあと塾あるんだったー(棒)」

「えっ?!ちょっと!!」

「では失礼」

「待ちなさいよぉ!!……速っ!!」

 

 

俺はある限りのスタミナを使って走って家に帰った。タリスマンが無かったら終わっていた……え?逃げるな卑怯者!だって?

 

知るかバカ!そんなことより原作ブレイク阻止だ!※既に手遅れ

 

 

そして俺は白崎香織に顔を見られていたことを思い出した。

 

「クソ……せめてフードで顔を隠せばよかった……!」

「……まぁ次に会う時は高校生になっているだろうから……問題ない」

 

 

この後俺はもう一度白崎香織と邂逅することになり、その際に彼女からロックオンされた事実を受け止められなかった

Q. どうして?どうしてですかね?俺はただ……原作を遵守したかったのに……(電話猫)

 

A.これも褪せ人(フロム主人公)の定めなり。褪せ人風情が、不遜であるぞ……(by接ぎ木おじさん)

 

 

「どう思います?ラニ様?」

「……我が王よ、もしかして無自覚なのか?」

あっち(狭間の地)でやってたみたいにひたすら他人の話を聞いて、悩みを解決してあげただけなんですが」

「……我が王……なぜ……分からないのだ……?」

 

 


 

~白崎香織視点~

 

「うわーん!!」

「おやめください……おやめください」

「おらぁ!!泣いてんだ!!うるせぇぞ!!」

 

路地裏から響き渡る子供の声とおばあさんの声。私がたまたま近くを通った時に起きた出来事だけど、私はどうにかしなくちゃいけないと思っているのに……体が動かなかった

 

(子供が泣いているのに……!なんで動けないの?!私!!)

 

このままあの子とおばあさんを助けに行っても私一人ではどうにもならないことは分かり切っている……なのに周りの人たちは見て見ぬふりをしている

外を歩いていた他人の私にはいかがわしい視線を向けるくせに……

 

「うるせぇんだよ!!黙れや!!」

「……!危ない!!」

 

おばあさんが殴られる……!その考えが過った時その不良の前に一人の自分と同じくらいの男の子が立ちふさがったのを見た

 

「失礼」

「なっ!?なんだっ!?」

(え?)

 

男の子が不良の拳を払いのけるとすかさず腹にパンチを入れた。おばあさんを殴ろうとした不良は崩れ落ちて悶えている。

 

「次はお前だ」

 

――男の子から発せられた大きな威圧感に残りの不良たちも、私も竦みあがってしまった……不良たちの男の子を見る目は恐怖の一色に染まっていた

 

それから不良たちが走り去っていくとおばあさんと絡まれていた子が男の子にお礼を言っていた。……男の子は優しい笑顔を浮かべながら帰ろうとした。

私は彼のことが気になって追いかけた……!だけど、

 

「では失礼」

 

彼はどこかに走り去ってしまった。彼と少し話をしたかったんだけどなぁ……

気が付けば私は見知らぬ彼の事を考えながら過ごしていた

 

 

――そんなことがあった数日後今度は私が絡まれた。

 

「離してください」

「まぁまぁ、そんなこと言わずにさ、俺たちと遊ばない?きっと楽しいよw」

「嫌です。失礼します」

 

土曜日の休日に近くのデパートに買い物に来ていたらチャラチャラしただっさい男たちに囲まれていた。相変わらず周りは知らんぷり

まぁ、仕方ないよね……この人たち怖いもんね。

 

そう思いながら早くこの場を切り抜けたいなと思っていた矢先、聞き覚えのある声が聞こえた

 

「お巡りさん!あいつらです!少女を襲う変態不審者さんです!!」

「げっ!?……クソッ!お前ら逃げるぞ!!」

「やべっ!逃げろ!!」

 

遠くの方からあの男の子の声がして振り向いてみると男の子が誰かの服を引っ張っているように見えた。それを見た男の人たちは即座に逃げたんだろう。

 

「あ……あの!」

アッじ……じゃあこれd「待って!!」ぐえっ」

「あっ、ごめん」

 

思わず逃げようとした彼の襟元を掴んじゃったけど……これでようやく彼と話せる……

そして彼が掴んでいたものを見ていると私は驚いた

 

「えっ……これ……」

「うん?あぁ……そうだよ……マネキンだよ」

「あいつらマネキンを見て勝手に逃げ出して馬鹿だねぇ~アッハッハッハ……」

 

そう笑いながら徐々に私から距離を取る……だけど私は彼の襟元を再び強く掴んだ

……どうして私の顔を見るなり逃げだすのかしら……?

 

「なんで逃げるの?」

「あー……うん……えーっとね……」

 

言葉を濁し続ける彼に私は少し腹が立ったので、近くのカフェで話をすることにした

 

「あそこで話そっか」

「え?いy…「いいね?ハイ!

 

 


 

それから私は彼から話を聞いた。

 

まず彼の名前が遠藤 浩介であることと私と同じ小学校に通っていたこと。等々聞いたけど本命について聞くことにした

 

「遠藤君はなんであの時助けられたの?」

 

周りの大人でさえ、助けに行かなかったあの男の子とおばあさんのことを思い出しながら遠藤君に言った。すると遠藤君は

 

「助けを求めていたから」

「……それだけの理由で?」

「うん?人を(良くも悪くも)助けるのはダメなのかい?」

「……」

 

……私は遠藤君から嘘を感じなかった。遠藤君のまるで当たり前といった表情で分かった。

 

遠藤君は……本当に優しいんだね……

 

「じゃあさ……もし、私が助けてって言ったら助けに来てくれる?」

 

私は遠藤君を試すように言った。何故かは知らないけど私を避けているように感じた遠藤君にとって意地悪な質問だと思う。だけど……

 

「勿論助ける」

「……遠藤君は強いんだね」

 

遠藤君は即答した。彼の表情は先程の苦虫を嚙み潰したような表情ではなく、至って真剣な表情だった。

私は彼に恋をした

 

 

……だけど次の言葉に私から表情が消えた

 

「まぁ……ラニに顔向けできないからなぁ……」

ラニって誰?

「あっ……やべ……」

答えて!!

「えっとね……え「女?」あー……うん」

 

……更に遠藤君を問い詰めるとそのラニって人は遠藤君の初恋なんだとか……ふーん……私なんかよりその子の方が良いっていうんだ……

 

ムカツク

 

彼の笑顔を独り占めにしていたであろうその存在にムカツク

私の知らない彼を知っているそいつがムカツク

 

確かにポッと出の私だけど……彼のラニとやらを語るその表情に僅かな笑みがこぼれているのがなおさらムカツク!!

 

「……覚えておきなさい」

「へ?」

「遠藤君を振り向かせて見せるから……」

「あ……あの……?」

「……学校で楽しみにしてるね?」

 

遠藤君を私色に染めて見せる

 

私はまだ見ぬライバルに嫉妬の炎を燃え滾らせながら学校の日を待った。

 

 

 

「……なんか悪意を感じたんだが……我が王よ、何か知らんか?」

「……あー……うん……えーっとね……実はね……」

 

「なんてことをしてくれたんだ我が王よ」

「まじで申し訳ありませんでし「だが」」

「……私もその小娘なんかに我が王をそうやすやすと渡さぬ」




この後滅茶苦茶ラニ様の機嫌を取り戻させた

ラニ様的には自分の伴侶を奪いに行くと宣言されたも同然なので、もし相まみえたら指輪をちらつかせる所存のようです

怖いねぇ……(他人事)

閲覧ありがとうございました!


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まさかの伏兵 一体いつからハジメだけTSだと錯覚していた?

閲覧ありがとうございます!

かなり稀なTS要素があります

後悔はしていません(鉄の意思)

それではどうぞ


「……」

「……へぇ……これはどういうことかな?遠藤君?」

 

(あぁ……誰か助けて……)

 

――月曜日

 

俺はいつものように学校に行ってクラスに入っていつものように雫(名前で呼べって言われた)が俺に嬉しそうに抱き着いてきたと思ったら

突然聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

『……へぇ、雫ちゃんに遠藤君……そういう関係だったんだ……』

『……香織ちゃん。何の用……?』

(あっ、やべ)

 

隣のクラスから白崎香織がハイライトを消しながらやってきて、互いに威圧し始めた。

 

俺は一先ず放課後に話そうと提案した。

 

『ふーん……遠藤君がそういうならそうするけど……逃ゲナイヨネ?』

『……勿論』

『浩介君これはどういうことかな?説明シテクレルヨネ?』

『……後で必ず説明するので……今は勘弁を……』

 

生きた心地がしない一日を過ごした俺は放課後に学校の屋上に行った。そこには既に白崎さんと雫が睨み合っていた

……俺ここに入りたくない……帰りたいなり……

 

「あっ、来たね!()()浩介君♡」

「……何言っているのかしら?雫ちゃん。()()()

「あーもう滅茶苦茶だよ(諦観)」

 

それからまた睨み合ったため、俺が二人にそれぞれであった経緯を話していった。……もう帰りたくなってきた。

 

……このまま一人でトータス行って、『彗星アズールや滅びの流星ぶっぱ大作戦』や『トータスを朱い腐敗塗れにしてやろうぜ大作戦』等々の思いついた作戦を実行したくなってきた……

異物もそうだが、邪魔になるであろうエヒトは『死のルーン』の力があればぶち殺せるだろう……

ワンチャン、自分一人で忍び込んで殺しに行くか……?

 

 

等と現実逃避している俺だが、何やら二人で話し合っているみたいだ。

恐らく碌な内容じゃないだろう。だって『共有』とか『監禁』とか物騒な単語が聞こえるんだよなぁ……

 

俺の人権はどこ?って思ったのは仕方ないことだろう

……そうだと言ってくれ……(切実)

 

 

「「浩介/遠藤君」」

「はい(諦め)」

 

二人揃って俺の横を固めた。嫌な予感が的中したか……

 

「……今は浩介君の言う通りに待つけど」

「でもいつかは必ず」

「「選んでね?」」

 

……取り敢えず目下の脅威は去った!ヨシ!(現場猫)

 

 

 

まぁここまでいっておいてなんだけど、この世界の使命を果たしたらラニ様の元に戻っちゃうんだけどね……

……こっちにいる間はある程度二人の好きにさせるとしますか……

 

 


 

 

――あれから暫くしてから二人の行動は以外にも目立ったことはしなくなった。

目立ったことはしなくなっただけで例えば休日には必ず俺の家に集まって家族との外堀を埋めようとしたり、弁当を作ってはどっちが俺に上手いと言わせるかだったり、学校に登校する時や下校するときは常に俺の両方を占領するようになった。……割と痛い力で腕を締め上げてくるのは、やめてほしかったが……

 

 

後は……これは俺にも予想外と言うか……その……何と言いますか……

 

 

天之河が天之河君じゃなくて

 

 

――天之河ちゃんでした

なんで?!(動揺と驚愕)

 

 

というのも、雫との会話に出てくるやたらと付き纏ってくる子がいるって言われて

『遂に天之河もちょっかい掛けてくるのか……』と思ってたけど

 

久し振り(1ヶ月振りの1人での)の休日で公園にて遭遇して、いざ対峙してみると

 

「雫に付き纏うのはお前か!!」

(……あれ?……なんか……細くない……?それに……心なしか……雫や香織と同じくらいの身長しか無くね……?)

 

目の前の少年?の発言からして天之河君だと思ったが、何処か可笑しい違和感が俺を襲った。

……喉仏が男のそれとは言い難いような……?成長期が遅いだけかもしれないが……でも着ているものは男物だしな……うーむ……

 

困った俺は名前を聞いてみることにした

 

「あー……えーっと……どちら様で?」

「ボクは天之河 光輝だ!!」

(……?あれ……だよね……?取り敢えず……聞いてみるか……)

 

なんかやけに体の線が細いような……声も同年代の男子に比べたら高い方だし……そう考えながら俺は失礼を承知で性別を聞いてみることにした

 

「……一応聞きますけど……天之河さん?」

「なんだ!!」

「……あなたの性別って……『男』ですよね?」

「何を言っているんだ!ボクは『女』だ!!失礼なことを言うな!!!!」

「???????????????」

 

 

あれっ……この世界って……『ありふれた職業で世界最強』の世界ですよね?(困惑)

『ありふれた百合で世界最強』じゃないですよね????(大混乱)

 

……え?これどうすんの?てか何で雫たちにそれほど入れ込んでいるんすか?!

性別が男で雫たちに惚れるなら分かる。

だが、なぜ!女と男の時の雫に対する態度に差が無いんだ!?

 

 

……ふぅ(冷静)落ち着け

 

取り敢えず公園では人目につくので近くのカフェで話し合うことにした。天之河ちゃんもそれに了承してくれた。

 

 

◆◆◆

 

カフェに着いた俺は天之河ちゃんから事の顛末と身の上話を聞きだすことに成功した

 

まず、雫に関してだが

 

どうやら最近同じ道場に通っている同年代の子……雫の様子がどこか変なことに気づいたらしい。どうもフワフワしていて危険な香りを醸し出しているらしい

何やってんすか?!雫さぁん!!?

 

……話を戻して

 

同年代で割と親しい天之河ちゃんからすれば雫が浮ついているのが本気で心配になった為話を聞いてみたら俺に行きついたらしい

それで……雫が可笑しくなったのは俺の所為だと……

 

うん、反論の余地なし!!全く持って正解です!!制裁の神(信仰99の御方)が来ても可笑しくないな!!!!

 

 

――で、だ

 

身の上話を聞いてみたところ。どうやら天之河ちゃんの両親は男の子を期待していて『光輝』と名付けたかったが、生まれたのは女の子。

でもせっかく考えたこの名前がもったいない。ということでそのまま名付けられたそうな。

 

うーん、この何とも言えない家庭事情……

 

また男物を着るようになったりしたのは祖父の影響だと。

そろそろこの世界をあの『原作』と定義するのが難しくなってきたぞ……!?

 

 

……まぁ、何はともあれ天之河ちゃんも苦労しているってことで

 

「な……何をする……?!」

 

無言で頭を撫でることにした。ぶっちゃけ子供が背負うには重いんだよなぁ……家庭の事情って奴は……

 

「……ッ!やめろッ!!」

「おっと……これは失礼」

 

どうやら怒らせてしまったようだ。流石に子供とはいえ……これはあんまりだったか?

 

「ッ……///」

(うん?)

 

顔色が赤くなっている……熱か?そう思った俺は手を天之河ちゃんの額に当てた

 

「ヒヤッ!?///」

「あー……大丈夫かな……?」

「も……///もういいだろ!!!!」

 

ますます赤くなったが、本人が大丈夫そうなのでヨシ!(現場猫)

 

「お……覚えてろよ///」

「また来な」

「……ッ!!」

 

天之河ちゃんは早足で店を去っていった。

 

……もしかして俺が代金(1200円)支払うの!?おのれ天之河……!嵌めやがったな!!

 

財布が少しだけ軽くなった休日でした。本が買えなくなったよ畜生め

 

 


 

~天之河 光輝視点~

 

「はぁ……はぁ……何なんだ!あいつは!!」

 

最近同じ道場に通っている雫の様子がおかしいと思って、その元凶を問い詰めようとしたらまさか……あんな辱めを受けるなんて!!

 

急に頭を……撫でてきたと思ったら……今度は僕の額に手を置いて……

 

「……最後に撫でられたの、いつだっけ……」

 

ボクは……女であるのにも関わらず男物の服が好きだ。ボクの尊敬するおじいちゃんを真似して男物の服としゃべり方になった。

 

だけど……それが原因でボクはいじめられていた……女の癖に男の服を着るなとか……誰もかれもがボクを否定してきた。

あの遠藤って奴もあいつらと同類かと思った。見かけだけでしか判断せず、中身を見ようともしない……ボクのおじいちゃんは違うけど

 

あいつがいきなり性別を聞いてきた時もボクはいつものように胸を張って自分が『女』だと言い張った。

また馬鹿にされる……こんな奴が雫を……!!とこの時のボクは思った

 

 

――だけど違った

 

あいつからは……馬鹿にするような目線や感情を感じなかった……初めてだった。同年代の子供がボクを馬鹿にしなかったのは

 

あいつに誘われて近くのカフェで雫について話した。あいつは時折顔に手を当てて上を向いてはいたけど、話を真剣に聞いていた。

……本当に初めてだった。他人と違うところを見つけては冷やかし、嘲笑う、同年代の『猿』とは違ってどこか落ち着いた雰囲気でこちらの話を促すのは……ボクは一瞬あいつにおじいちゃんを重ねてしまった

 

『……ッ!なんかの気の迷いだ!!』

『えっ!?どうしたの?!天之河さん?!』

『あっ……いや……その……何でもない……』

 

初めてだった。おじいちゃん以外の男の人と話すのが楽しいと思えたのは

 

初めてだった。心地いいと思えたのは

 

……初めてだった

 

こんなにも、顔が熱くなるなんて




はい、という訳で天之河ちゃんでした

やったね!褪せ人様!!ヒロイン候補が増えるよ!!

褪せ人「や め ろ」


閲覧ありがとうございました


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崇拝系ヤンデレの爆誕――褪せ人は二度死ぬ

閲覧ありがとうございます!

キャラ崩壊が特に激しい物になりました(事後報告)

それではどうぞ


あれから雫と香織(こちらも名前で呼べとおd……言われた)の二人に束縛されたり、嫉妬したラニ様から『彗星アズール』をぶっぱされたりされましたが私は元気です(聖杯瓶を飲みながら)

だけど……

 

「おい!遠藤!ボクと話をしろ!!」

「あー……一週間後でいい?」

「えっ……(絶望した顔)」

 

「……この後あのカフェに行くか」

「……!(パァァア)約束だぞ!?今度こそ雫を助けるからな!」

(あれぇー?この子幾ら『原作』と性別が違っていてもこんな性格だったっけ?!)

 

俺は今二つの悩みを抱えている

 

一つは見ての通り最近天之河ちゃんが『雫を正気に戻す』という建前で俺とカフェに行きたがっていること。断ろうとしたり次回までの期間が空くとまるでおもちゃを取り上げられた子犬のようにしょんぼりするのだ。

 

これに関してはまぁ、何とかなる。だが二つ目の問題は……

 

「ねぇ?浩介君?随分と光輝ちゃんと仲が良いみたいだけど……?」

「へぇ……遠藤君()()女の子を引っかけたんだ……」

「……そのようなこはあろうはずがございません(早口)」

 

天之河ちゃんに構っていると今度は雫と香織の二人のハイライトが消えることだ。

勘弁してください……(切実)このまま高校生になるとどうなるんだ……?

 

「じゃ……じゃあ俺約束あるから……(逃亡)」

「……土曜日が楽しみね」

「……そうね」

(このままいくと……刺されそうだな俺……)

 

一抹の不安を抱えながら俺はあのカフェに行くことにした。

 

 


 

「来たか……!遠藤!」

 

声に若干の敵意を感じるものの、その顔には笑みが浮かんでいた。お前本当に原作ブレイクにもほどがあるぞ?!

……というか天之河ちゃんに犬耳と尻尾が見える気がする……

 

「こっちはさっさと帰りたいんだ(嘘)」

「えっ……」

「嘘です(即答)」

「~ッ!!!!」

 

ポカポカ殴ってくるが……あいつら(雫と香織)に比べたらまだマシ、まだマシ……

 

「で、話って何だ?」

「ヒャイッ!?」

 

俺は未だポカポカ殴ってくる天之河ちゃんの手を包みながら話を促す。

……天之河ちゃんの頬が赤くなった気がしたが、大丈夫でしょう!

 

「えっと……その……ふ……」

「ふ?」

「ボクに……合う……服を……探してくれないか……?」

「あっ、いいっすよ(即答)じゃあ、行くか(行動力の化身)」

「うえっ!?」

 

それから俺は天之河ちゃんの服を選んであげたり、カフェに戻って数時間話(ほぼほぼ天之河ちゃんの悩み相談)をしたりして、いつものように家に帰った。……また家族の手伝いをしなきゃ(財布の中身)

そう思いながら帰宅する途中

 

「……」

 

……最近天之河ちゃん以外の気配を感じるんだよなぁ……

 

 

これが雫や香織なら……

 

雫『やっほー!ここで会えるなんて偶然だね!楽しかった?光輝ちゃんとのデートは

 

こうなって(絶望)

 

香織『ふーん……私とはデートしてくれないのにあの雌とはデートするんだ?

 

こうなるな(YOU DIED)

 

 

絶望しか無くて草も生えないんだが?まぁ実は……既に一度言われているんだよね(事後)

 

 

その後ラニ様から

 

『我が王には私の伴侶という自覚がないようだな』

 

て言われて『黒き刃』を複数刺された時もあったけど、生きている()のでノーカンです

 

 

うーん……でも本当に心当たりが無いんだよなぁ……マジで……

 

それに天之河ちゃんと話すようになって二回目から既にこの気配を感じていたが、その時は(自分に向けてではないんだけど)殺意のようなものが込められていたけど、五……六回目くらいだろうか、その視線が殺意とはまた別の感情が混じっているような気がしたんだよね……

 

強いていうなら……『崇拝』?

いやそれしか思いつかんのよ、あの『白面のヴァレー』の俺に対して見せていたあの感情に近いって言うか、何と言うか……そう『狂気』と『信仰』みたいな……?

 

「……実害がないだけまだマシか。帰ってあの二人の機嫌を取らなきゃ(命の危機)」

 

俺の感覚が狂っているのか分からないが、命の危機でもない限り放っておくことにした。

まぁ、最悪どうとでもなるだろう!

なんとかなれーッ!(屍山血河(ち い か わ)

 

 

――そう思っていた時期も私にはありました

 

「浩介君?光輝ちゃんとデートしたって本当?(光輝から送られた写真を見せながら)」

「アッ」

「へぇ……ずるいなぁ……光輝ちゃんだけ……(目を細めながら)」

 

 

「……土曜日、みんなで……行きましょうか……」

「ふふふふふ……楽しみにしてるね♡」

「もし約束を破ったら……ドウナルト思ウ?

「……ゆるして」

「「ダメ♡」」

 

「あーっ!!お客様方!!困ります!!お客様方!!お客様方ぁ!!

おやめなされ!おやめなされ!!俺の服を掴むのはおやめなされ!!かといって俺の首に噛みつくのもおやめなされ!!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!(断末魔)」

 

……何とでもなりました(回避成功)

 

 


 

~???視点~

 

僕の王様……

 

僕が生きることに絶望して飛び降り自殺しようと橋から飛び降りようとした時に現れた貴方は忘れられない

 

『おいッ!待て!!早まるな!!』

『うるさい!!!!』

『なっ……!間に合え……!!』

 

確かに僕は飛び降りた筈だった。だけどいつまでたっても来ない死に疑問を持った僕が目を開けると

 

 

『……間に合った』

 

――まるで夜みたいに黒いフードと、絵本の中でしか見ないような銀色の防具を身に着けた僕と同年代の位の男の子が僕を抱えていた

そして、橋の上に僕を下ろすと

 

『……なぜ、こんなことを……?いや、一先ずは落ち着かせるか』

『……?何を……?』

 

次の瞬間僕は信じられないものを目の当たりにした

 

『『黄金樹の恵み』』

『なに……これ……』

 

男から金色の光が発せられたかと思うと僕は暖かい光に包まれた。体の底からじんわりと傷を癒すように放たれた黄金の光に僕は見とれていた

 

それから彼から『これをお食べ』って言われてゆでたエビをくれた。

 

『……!美味しい……!!』

『……エビ好きに悪い奴はいない……とある人物の言葉だけどね』

 

僕は初めてまともな物を食べることができた。エビをゆでただけらしいけど、それでもその味は今でも鮮明に残っている。

 

『もっと食べるかい?』

『……うん!』

 

それから僕は一頻り満足するまでお腹いっぱいに食べた

 

『……あの、ありがとう……』

『気にしなくていいよ。それより……何かあったのかい?良かったら俺が相談に乗るよ?』

『実は……』

 

僕は既に彼の事を信じていた。だから僕は彼に自分の境遇を話した。

実の父親が死んで母がおかしくなってしまったこと、母から暴力を受けてきたこと……母が連れてきた男から怖い思いをさせられそうになって家を飛び出したこと

 

『……とても、辛い目にあったんだね……』

『わたしっ……もう戻りたくない!!』

『……』

 

泣いている私の耳にチリンと何かの鈴の音が聞こえた。僕が顔を上げるとそこには

 

『わぁ……クラゲ……?』

『……この子の名前は『クララ』。大丈夫、危害は加えないよ』

『♪』

 

僕の周囲をゆったりと漂うクラゲ……クララちゃんを余所眼に彼が続けた

 

『……君の両親の事だけど……俺が立ち会ってこようか?』

『えっ……大丈夫なの?』

『大丈夫!なんたって俺は『王様』だからね!』

『王さま……?『ここにいたか!!』ヒイッ!!』

『……』

 

僕を探しに来たのか、あの糞野郎が怒りの表情で僕に迫ってきた。

 

(こわいこわいこわいこわいこわいこわい)

 

『あ?なんだてめぇは?』

『……子供に暴力を振るいあまつさえ、その汚き欲望に身を任せた愚か者は貴様か』

『てめぇには関係ねぇ!!』

『人を助けるのに理由は必要ない。俺がこの子を助けたいから助けた』

 

気付けばあのクララちゃんが消えていた。そして彼が……もう一度あの音を鳴らした

 

『『黒き刃ティシー』』

『な……なんだてm…ガァ!!?』

 

今度現れたのは彼と同じ服装をした人だった。ティシーと言われた人があの糞野郎の首元に特徴的なナイフを当てている。完全に竦みあがっているその様を見て僕は徐々に落ち着きを取り戻していった

 

『お前は殺さない』

 

彼の手が黄色く光り始めたと同時に徐々に近づいていく

 

『だが、恐怖は植え付ける。二度とこの子の前に現れないようにな……』

『……!!』

 

『狂気を味わえ『発狂伝染』』

『あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!』

 

彼があいつに近づいて顔を掴むと突然あいつが叫び始めた。……その顔から黄色い光を発しながら

そうして一頻り叫び終わり、正気に戻ったのか僕に視線を向けたあいつだったが、

 

『ひぃっ!や、やめろ!来るな!!』

『この子の元から去れ』

 

『ひっ……うっ、うわぁああああああああああ!!!!』

『……さて、大丈夫だったかな?』

『う……うん!ありがとう!!』

 

振り返った彼を見た僕は……この人が僕の『王』であることになんの疑いも無かった

 

 

それから僕の母の元に行った彼は腕を構えたかと思うと

 

『正気に戻れ『回帰性原理』』

 

足元に幾何学的な模様が現れたかと思うと……突然お母さんが泣き崩れてしまった

 

『私は……私はなんてことを……ごめんなさい……ごめんなさい……!』

『……謝るのは俺じゃない……自分の子だ』

『お……お母さん……?』

『ごめんね……!ごめんね……!お母さん……!なんてことを……!ごめんなさい!!』

 

……お母さんはすっかり正気を取り戻したのか、いつもの暴力性は消えていた。

 

『……これを渡しておこう』

 

そういって彼はお母さんに先っぽが青い釣り針のような飾り物をお母さんに掛けた

 

『……君にもこれを渡しておこう』

 

そういって僕に赤色の幾つもの宝石がついたメダルをくれた

 

『では……俺はこれで……あとは大丈夫でしょう』

『ありがとうございます!!ありがとうございます!!』

『待って!私の……僕の『王様』!!』

 

そういう間もなく彼……王様はまるで霧のように消えてしまった……

 

それからの日常は以前と様変わりした。いや……本当の意味で元に戻ったのかな

 

あれからお母さんはお父さんの墓参りをして、僕にこれまでのことを全て謝罪してきた。それからは、暴力を受けることなく美味しいご飯も食べられるようになった。

 

『恵理……いい?』

『なぁに?』

『私達を助けてくれた子……いるでしょ?』

『うん!王様のことだよね?』

『恵理、絶対彼の事は逃がしちゃだめよ?』

『うん!もちろん!』

 

この日から僕は、あの王様の特別になるために努力した

 

 

そしてある日立ち寄ったカフェで僕は……王様と再会した。

 

(あの声と匂いは……間違いない!王様だ!!)

 

 

だけど……そこには王様に無礼な振舞いをするやつがいた

 

(は?何あれ?僕の王様に向かって、罵声を浴びせている?)

 

僕は言い様のしれない激情に支配された。だけど王様のどこか余裕そうな表情を見て

 

(……嫌じゃないの?僕の王様……)

 

 

それからというものの僕は王様の後をつけていった。その時に王様の名前が『遠藤 浩介』であったことを知れたのは良い収穫だった。

 

だけど、王様の周りには常に女狐たちがたむろしていた。

 

(王様が困り果ててる……!あの女狐共が!!!!)

 

 

そして、気づいたことがあった。あの王様に罵声を浴びせているように見えていたあの男みたいな女が、王様と合うにつれて徐々にその身なりが可愛らしい物になりつつあるのを

 

……そいつと話している時の王様がどこか優し気な表情を浮かべていることを

 

(あぁ……あれが王様の……王妃ってものなのかな……)

 

 

確かに正妻の座を狙っていたけど……僕はそれでも傍に居させてほしいと思うようになった。

 

(例え愛人でもいいから……僕ヲ見捨テナイデ、僕ノ王様……)

 

 

暫く経ち、中学生になった僕は漸く王様に謁見することが出来た。……傍にはあの女狐どももいるけど、王妃もいる……

それから僕は王様と王妃の傍にいるようにした

 

 

王様と王妃の邪魔はさせない!!

 

……それが私の存在理由!!




今作における中村絵里
……褪せ人様に『崇拝』と『信仰』を向ける『褪せ×光』過激派(同担拒否)となりました

なんだこの激重感情は!?原作とは影も形もないじゃないか!一体だれがこんなことを……(すっとぼけ)

因みに褪せ人様は天之河ちゃんとの会話では、ただただ微笑ましく思っているだけで、特に恋愛感情は抱いておりません


……あーっとラニ様が『黒き刃』を複数刺した後『打刀』を渡して『切腹』を命じた!
褪せ人様いたたまれず『切腹』をした!!

褪せ人「いかなる罰をも受けましょう」
ラニ「そうか、では私からの愛(彗星アズール)を受けてもらおうか」
褪せ人「喜んで」
YOU DIED


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Q.中学生になるとどうなる? A.知らんのか?褪せ人が死ぬ

閲覧ありがとうございます!

見境なくTSすると後が怖いので流石に自重しますた

dieジェストは次回からになります

それではどうぞ


「……どうしてこうなった」

 

あれから俺たちは小学校を卒業して中学生となっていた。中学では、他の地域の子たちもここに来るからかなり面子が変わることもあって俺は前々世中学生だったことを思い出して少し心を躍らせていた。

 

……だが蓋を開けてみればそこは地獄だった

 

 

まず、この世界に転生して最初に俺の魔術を見せた子供がまさかの『南雲 はじめ』……ちゃんだった

 

なんでさ

 

やめてくれよ……これ以上原作ブレイクしないでよ……(切実)

しかも、俺に張り付いていた雫と香織に対して喧嘩を売りに行っている所を見る限りもう駄目みたいですね(諦め)

 

更に言えば……

 

 

「……遠藤?雫たちとはどういう関係なのだ……?」

 

ハイライトが消えた瞳でどこか縋るように俺に問い詰めてくる天之河ちゃんも加わってもう滅茶苦茶や

周囲からは嫉妬の目が向けられてはいるが、俺の周囲の様子に気づいた奴らは顔を青ざめて逃げるように校舎に向かって行った。

 

賢明な判断だ。ジュースをおごってやろう(blnt並感)

 

 

あー……これも無視しようとしていたんだが……他の皆には聞こえていないだろうけど……

 

「……王様の傍にまた弁えない雌共が……!!」

「そこは……王妃様の場所だろうが……!!」

 

(こっわ!!)

 

あの時助けた少女……中村 恵理が怨嗟の籠った視線で俺の周りにいる雫や香織、はじめちゃんを睨んでいた。

……王妃って誰だ……?

 

それから紆余曲折あって、俺のクラスには天之河ちゃんとはじめちゃん、そして雫と香織に中村さんがいた。

うっそだろ?!ここは普通……誰かが別々になるんじゃないのかよ!?

 

 

そんなこともあったが、『清水 幸利』と接触出来たのは意外だった。

 

「えーっと……君は……」

「俺は遠藤浩介。君は?」

「俺は、清水 幸利……君が噂の『女誑しの王様』だね?」

「その話を詳しく」

 

何か不名誉なあだ名をつけられている事実に驚愕しながらも清水と話した。

それと性別は男だった……良かったあああぁああ!!!!マジで!!!!(安心感)

 

その後は清水の誤解を解いて、普通に交流を深めていった。

同年代かつ同じ性別だからか、割と気安く話しかけることが出来た。

 

「……俺はハーレム物も好きだったけど、遠藤を見てたらちょっと……苦手になったわ……」

「本当に申し訳ない」

 

俺たちは軽口を叩けるレベルまで仲良くなった

 

「……まじで同情する。が、お前この数ヶ月でどれくらいの人を惚れさせているか知っているか?」

「……聞きたくないけど、聞かなきゃいけない気がした」

「まずお前が所属している生徒会と……「待って」どうした?」

 

清水の口からとんでもない事実を聞いてしまった俺は思わず待ったを掛けた

 

「お前……まじで女誑しっうか人誑しなんだな……」

「だって……困ってる奴や悩んでいる奴がいたら話しかけちゃうんだもん……(褪せ人(フロム主人公)の宿命)」

「……こいつはやべぇ……悪意が一切感じられないのが質が悪い……」

「人を爆弾か何かだと勘違いしてないか?」

「爆弾だろ。それも大分質が悪いタイプの」

「解せぬ」

 

俺は基本困っている奴や悩み事を抱えている人の悩みを聞いて解決しているのだが、その所為か生徒会に候補されてしまい、生徒会に入ることになったのだ……

……俺はただいつも(狭間の地)のように孤立している人やあからさまに悩みを抱えている人に話しかけていただけなのに……(クソ鈍感)

 

「……確認するけどお前って、生徒会の行事や部活の後片付けや準備は進んでやる方だよな?」

「そうだな(空き時間があるから)」

「……生徒だけじゃなくて先生の手伝いも率先してやるよな?」

「そうだな(困っていたから)」

「……そのうえ成績もいいよな?それに運動も出来る」

「そうだな(全ステカンスト)」

「……はぁー、この糞鈍感無自覚最強系主人公がよ……!だからお前のファンクラブが作られるんだよ!!」

「あんだって?いや、まだ顔は……普通だから……(震え声)」

「お前は何を言っているんだ(真剣な表情)」

 

 

俺は基本ラニ様の伴侶として恥ずかしくない様に常に最高最善であり続けていたのだが、どうやらそれが裏目に出たらしい。このことをラニ様に報告したら……

 

『……我が王よ……確かにその心がけは嬉しいぞ?……だが、これは、何といえばいいのだ……?怒ればいいのか……?』

『あのー……ラニ様?』

『だが……それが我が王の良き所なんだが……結果として周りに小娘共がたむろして……』

『ラニ?(人形を撫でながら)』

『はっ!?……我が王!?』

 

それからラニ様は苦渋の決断といった感じで、常に本気であれと言われたのでそうすることにした。この後ラニ様に手作りのケーキを捧げた

ラニ様は喜んでくれたけど……ケーキを食べられないことに気づいた途端絶望に染まっていたので俺はラニ様をイメージしたオルゴールを捧げた。大変喜ばれましたまる

 

 


 

~清水 幸利視点~

 

「あんだって?いや、まだ顔は……普通だから……(震え声)」

「お前は何を言っているんだ」

 

目の前でふざけ散らかしたことを言っているバカと出会ったきっかけは体育の授業でペアを組むことになったときだった。俺のペアが見つからないという時に同じくペアが見つからないこいつを見て俺は遠藤の噂を思い出していた

 

なんでも『生まれる次元を間違えた男(真実)』だとか『見た目は子供頭脳は大人を地で行っている奴(事実)』とか『女誑しの王様(半分事実)』だとか言われていたのはこいつだったかと思いつつ名前を教えた。

 

 

それからだった遠藤と話すようになったのは

 

最初はどんなろくでなしかと思ったが、話してみればそういった悪評とはかけ離れた人物だったことに気づかされた。

遠藤を一言で表現するとすれば

 

『ぼくのかんがえたさいきょうの主人公』

 

だろう。いやそれしかないと思った。

 

 

遠藤はとにかく俺が持っていない物を全部持っていた奴だった。

学力も運動神経も、何もかも優れていた

 

一度遠藤にこんなことを言ったことがあった。

『お前は俺なんかよりよっぽどすごいな。お前ほど完璧な奴は羨ましい』と

 

そしたら遠藤は

 

『犬、ザリガニ、カラス、クマ、蟻……』

『は?』

『これら全部は俺が苦手とするものだ』

『俺は完璧な存在ではない。清水が思ってる程俺は完全ではない』

 

遠藤は続ける

 

『清水は清水、俺は俺。それは間違いない』

『俺は一度たりともお前を下に見たことは無いし、これからも見るつもりは無い』

『……』

 

『お前はお前だ』

 

 

『それにもし俺が完璧な存在なら……』

『……存在なら……?』

『俺は、こうしてヤンデレに囲まれてないだろう(震え声)』

『あっ』

 

……台無しだよ畜生め

 

『いやマジでこのままいくと高校生になる前に(精神的にも肉体的にも)死ぬ気がする……』

『あっ……その、ご愁傷様です……』

 

俺は思わず苦笑してしまった。そして遠藤の弱みを知ってしまった。

……なんか馬鹿馬鹿しくなった。他人と比較してどうこうするのが、肩の荷が下りた気分だった

 

 

それからは遠藤とアニメや漫画について話したり、遠藤の周囲のヤバさを見てドン引きしたりした。いやマジでこいつ女運が無さすぎるだろ

あと何故かはわからないけど遠藤の困り果てた顔を見ながら飲む飲み物がうまいと感じるようになった。

……これが愉悦か

 

遠藤が聞いたら『しばくぞ』とでも言いそうだなと思いつつ、自分の存在の大きさに気づいていないこの生徒会長さまに追撃を加えた

 

「それとお前宛てにファンレターを貰ったぞ」

「勘弁してください……また皆に問い詰められる……胃が……」

「ワロタw」

「屋上いこうぜ……久々にキレちまったよ……」

「そっちのハーレムに目を付けられたくないんで止めるわ」

「……それもそうか。命拾いしたな」

 

こうして今日も俺は遠藤をからかい続けるのだった。




この後褪せ人様はファンレターを確認してこれがあと3年続くのか……と絶望しましたとさ

……清水TSルート欲しい人どれくらいいますかね……?


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dieジェストと……不穏な事態

閲覧ありがとうございます!

漸く次回からトータスに転移することになります!
それに間に合わせるために大分駆け足になりましたが……許して

それではどうぞ!


~はじめちゃんと~

 

中学校に入学してから数ヶ月が経過したころ

 

「浩介!」

 

俺を呼びかける声に意識を向けるとそこには、はじめちゃんがいた。そして俺に抱き着いてくると何やら匂いを嗅いでいた。

……やばくね?

 

というのも……数分前に

 

『遠藤君……』

『あのー?香織さーん?いつまで抱き着いているんですかね……?』

『……また他の雌の匂いがする……』

『えぇ……(困惑)』

 

はじめちゃんと同じように香織に抱き着かれていたのだが、俺の服についている匂いが気に喰わなかったらしく仕切りに俺に抱き着いてくる

 

『……マーキング(ボソッ』

『なんて?』

『ううん!何でもないよ!』

 

それから暫くして今度は雫が来て

 

『……ふーん。この匂い……香織ちゃんの物だね?』

『あっ、はい』

 

ハイライトが入っていない瞳で見つめられたら嘘は付けなかった。というか何で匂いで分かるんですかね……(困惑)

 

『愛の力ね』

『……心を読まないでください』

『ふふっ……じゃあ、分かってるよね?これから私がすること……』

『……はい、どうぞ』

 

この後しばらく匂いを上書きするように抱き着かれた

更に雫が飲み物を買いに行ったその後すぐに

 

『……遠藤』

『ん?光輝ちゃんか。どうした?』

 

内心またか……と思いつつ光輝ちゃんの方を向いたすぐ後

 

『……ッ//えいっ!!』

『……ほぁあ……?』

 

顔を赤らめながら俺に抱き着いてきた光輝ちゃんに思わず虚無になった俺だが、光輝ちゃんがゆっくりと話し始めた。

因みにここは生徒会室で基本他の生徒は入れないのだが、光輝ちゃんは俺と同じ生徒会のメンバーなので自由に入れる。

 

え?香織や雫は生徒会のメンバーじゃないから入れないだろって?

 

 

……それについて他の生徒会のメンバーに聞いたら

 

生徒会1『あっいっすよ(快諾)あともげろ(中指を立てながら)』

生徒会2『……いいっすよ(怯え)あともげろ(殺意)』

生徒会3『同人誌のネタになるのでオッケーです(曇りなき笑顔)あともげろ(真顔)』

生徒会4(清水)『あー……うん……オッケーで……あともげろ(微笑)』

光輝ちゃん『……』

 

哀れ光輝ちゃん。4対1という数の暴力で意見を通されてしまったのだった。

ちなみに生徒会3と清水には割ときっつい仕事を割り振りました

 

 

それはさておき光輝ちゃんが言うには、雫や香織ばっかり抱き着いてずるいとのこと

……あ^~かわええ……癒される バタン(どこかで誰かが倒れる音)

 

俺は知らない。生徒会室の近くで誰かが倒れたなんてことは……その誰かから血の匂いがするなんて

……十中八九、中村さんだろうな……

 

 

そうして数分抱きしめた結果が今の俺になっております

 

……やばいな

 

で、案の定

 

「浩介……誰に抱き着かれてたの?」

答えて!

 

こうなったので

 

「まぁまぁ」

「ヒヤッ!!///」

 

逆に抱き返しました。はじめちゃんがショートしてしまったのでなんやかんや言いながらはじめちゃんの機嫌をおだてていきました。

 

「うぅ……///曖昧にされた気がするぅ……///」

「また来な?」

「……その言葉忘れないでよね?」

 

言ってから気づいた。俺まーた何かやらかしたか

 

「どう思う?清水?」

「全身余す所なく刺されれば良いと思う(中指立てながら)」

「殺意高めの返事だなおい(中指立て返しながら)」

「それか無数のカラスにつつかれればいいと思う」

「すいません。それだけは勘弁してください(震え声)」

「お前本当にカラスが苦手なんだな……」

 

ほっとけと清水に返した俺だった

 

この後度々ハグを迫ってくるはじめちゃんにえげつない殺気を向ける雫たちを目にした俺はそれぞれ全員に『(可能な限りで)何でもする』約束を取り付けて大惨事(誇張無し)になったのは別の話

 

 

 

~神出鬼没~

 

「やっべ……トイレットペーパーねぇじゃん……」

 

ある日の部活中に便意を催した俺はトイレに駆け込んだ。だが、生憎俺が入った場所はトイレットペーパーがほんの一切れしか無くトイレットペーパーがあるのは手洗い台の付近にしかないことを思い出しどうしようか悩んでいた

 

「王様!これを!」

 

その時俺の部活のマネージャーとしてついて来た中村さんの声が聞こえたかと思うとトイレの外からトイレットペーパーが投げられた。

俺は感謝を述べて気分よくトイレを後にした

 

「ふぅ……助かった…………」

「…………ん?」

 

他にも

 

「あっ、しまったシャーペンの芯切らしてたな……」

 

生徒会室にて書類を作成していたらシャーペンの芯を買ってなかったのを思い出し、仕方なく鉛筆で良いかと探していた時も

 

「王様!これどうぞ!」

「おっ、ありがとう」

 

何処からともなく現れた中村さんが俺にシャーペンの芯を箱ごと渡してきた。俺は箱の中から一つだけ受け取り、中村さんに感謝を伝えると頬をわずかに赤く染めながら生徒会室から出ていった。

 

「……なんで俺の使っているシャーペンの芯が2Hだってわかったんだろ……?」

 

 

「てなことがあったんだよ」

「……俺は『意味がわからなくても怖い話』でも聞かされてるのか?」

「僕も同じような体験をしたことが何度もあるけど……」

 

生徒会室にて清水と光輝ちゃんにその話をしたところ

 

清水にはドン引きされ、光輝ちゃんはいつもの事だと言われた

 

 

 

~何気ない会話と~

 

「で、どうすんの?遠藤?」

「何がだ?」

「もう俺ら3年になるけどよ……進路はどうすんだ?」

 

あれから色々(軒並み大惨事)あったが3年になった俺らは進路について考えなければならない時になった

 

「進路といえば……遠藤。こんな噂が流れてきたんだが……」

 

 

『では、遠藤君。キミの進路についてだが……』

『はい、エルデの王です』

『……え?』

『……間違えました。天文学者です』

『あぁ!そうだよね……ビックリさせないでくれよ!』

『はっはっはっすいません(冗談ではない)』

 

清水の話は紛れもない事実であった。これに関しては俺が悪い。無意識に『エルデの王』と答えてしまうくらいににはエルデの王をやっているのだ

 

「まぁ……これは事実だな」

「……お前まじか。だがまだあるぞ」

「え?俺他になんかしたっけ?」

「お前ではないんだがな……」

「……あっ(察し)」

 

俺は清水の口からもたらされた衝撃の内容に頭を抱えることになった。

 

『えーっと……香織さんは……』

『遠藤君のお嫁さんです♡』

『(絶句)』

 

『……雫さんは(嫌な予感)』

『浩介君の奥さんです♡』

『(絶句)』

 

『……はじめさんは(不安)』

『……浩介と同じところで』

『』

 

『……光輝さんは(諦め)』

『はい。具体的には…………って!?どうしたんですか!?先生?!突然泣いたりして!?』

『……いや、何でもないんだ(感涙)』

 

 

「て事があったらしいんだが?」

「4人中3人アウトじゃねぇかふざけんな。どうりで先生から呼び出されて愚痴聞かされた訳だ」

「……好奇心で聞くが、先生はなんて?」

「えーっと……確か……」

 

 

『まったくどいつもこいつも揃ってお前の嫁になりたいだとふざけ散らかしたこと言いやがって!』

『先生酒飲みましたか?』

『中学生が色気づきやがってよぉ!!私もそんな完璧な彼氏欲しかったわ!!』

『あのー、先生……?』

『どうじでわだじの周りにば碌な男がい゛な゛い゛の゛(カリスマブレイク)!!!!私も彼氏が欲しい!!!!何なら彼女だって欲しい!!!!(横暴の極み)』

『駄目みたいですね(諦観)』

 

 

「……てことがあったな」

「……大人になりたくないとこれ程までに思ったのはこれが初めてかもしれん……」

 

清水は頭を抱えながら普段とは様子がかけ離れた先生に対して遠い目をしていた。そしてふと俺は中村さんがどうなったのか知るために清水に尋ねてみた

 

「中村さん……あぁ……特には問題を起こしてないから俺の耳に入ってこなかったな」

「安全枠が1人増えたか」

(危険枠の間違いなんだよなぁ……)

 

そんなことを考えながら俺はこれまでの三年間を振り返ることにした。

 

「中学校に入ってから……色々あったな……」

「……色々ありすぎの間違いでは?」

「まぁ、そうなんだけど……いやー、まさか夏休み中、事実上の監禁をされてたとはな……」

「……それを知った時奴ら遂にやりやがったなと思ったが、お前が何事も無く次の日俺と遊んでたという事実の方が信じられなかったぞ」

「まぁ……その後が怖かったんだけどな(震え声)」

「こいつさては馬鹿だな?」

 

夏休みか冬休みに入ると毎回俺を自分の家に連れ去って勉強会と称して何日も閉じ込められた時もあった。俺が『これ監禁じゃね?』と気付くのも遅かったが害は無かったので放置していた。

更に言えば長期休暇の際には全員の家に必ず行ったが、その際に外堀を埋められた気がしたのも気のせいだろう(多分)

 

因みにこの後ラニ様に数年間星の外に連れ出されたが、こっちの世界では数時間の出来事だったのでヨシ!(なにも良くない)

 

「……なんでこいつ未だに刺されてないんだ?」

「なんてこと言いやがる」

「……お前長期休暇中の完全な自分だけの休みはどれくらいとれた……?」

「うーん……3日?」

「それ以外あの誰かしらのメンバーの所にいたのかよ」

「お前も含めてやぞ」

「思う訳ねぇだろ!?まさか今遊んでる相手のスケジュールがぎっちぎちだってことなんか!」

 

中学卒業前でこれだけのんきに話しているのにはまぁ……どうせ高校が同じだしな……『原作キャラ』だしな……

 

「まぁ……あれだ……中学お疲れさん」

「はぁ……お疲れ」

 

盃代わりにコップに注いだ飲み物を飲む俺たちだった

 

 

「……そういやこれいつ用意したんだ……?」

「……あれ?お前が用意したんじゃないのか?」

「え?」「え?」

 

 


 

――トータスの神域にて

 

「……なんだお前は!?どうやってここに入ってきたんだ!?」

 

『神域』にて本来はエヒトしか存在できない筈の空間にて『鉄の編み笠』を被った謎の存在がエヒトの空間に存在していた。

その笠の内側には……黄色く、また禍々しく光る炎が見えていた

 

かの者の名は『シャブリリ』

 

かつて、初めて『狂い火』の病を発症し、歴史上もっとも憎悪された男である

 

「そんなことはどうでもいいでしょう。あなたにはこれから『狂い火の王』を呼び覚ますための贄になってもらうのですから」

「何を言っている?!『狂い火』とは何だ!!エヒトルジュエの名において命ずる――消えr」

「うるさいですね……『三本指』様今です」

「……なに!?ガァアアアアアアアアア!?」

 

エヒトの背後にはいつの間にか焼け爛れたような歪な『三本指』がエヒトを強く握りしめた。

そして握りしめていくうちに徐々にエヒトの目から『狂い火』が漏れ出し……やがて炭になった。炭からは『狂い火』が燃え続けている

 

「では……これより我らを別け、隔てる全てを侵し、焼き尽す『狂い火の王』をお迎えいたしましょう……」

 

シャブリリがそう告げると『神域』全体に『狂い火』が走った。

 

世に混沌のあらんことを!

 

アッハハハハハハ……!!

 

 

 

――魔人族の国、魔国ガーランドのとある独房にて

 

「あがっ……」

 

ドスッ

 

「助けっ……」

 

ドスッ

 

「あ……」

 

ぐちゃぁ

 

……魔国ガーランドにおいてとある異常事態が発生していた

 

それは、所謂無差別殺人が横行していることなのだが……問題はその死体にあった

 

「……」

 

角や瘤が露出している赤い鎧を身に纏うその悍ましき存在……狭間の地にて『忌まわしき糞喰い』と呼ばれている存在が手にもつ『ミエロスの剣』で殺した死体を更に切り付けていた。

そして『忌まわしき糞喰い』に殺され、穢された死体からは『苗床の呪い』が生じていた

 

この『苗床の呪い』の厄介な点は、その死体が悍ましい呪いに包まれるこれに尽きるのだ。現在の魔国ガーランドにはこの呪いが蔓延り、様々な疫病や良くない感染症が広がりつつあった

さらに、その『苗床の呪い』により、魔人族が突然凶暴化し、異形の姿に変貌するという悍ましい病も蔓延していたのである。

 

「……呪ってやる」

 

「……穢してやる」

 

「……全て、呪われるがいい」

 

『忌まわしき糞喰い』は今も、善も悪も関係なしに無数の命を奪い、そして穢していっているのだ。

 

――全ては呪われた世界の為に

 

呪ってやる

 

 

 

 

――星の外にて

 

「なんだこれは……!」

 

ラニはトータスに送り込まれた異物の様子を探ろうと監視をしていたが……その混沌とした状況に驚きを隠せなかった

 

「……『狂い火のシャブリリ』に『忌まわしき糞喰い』……だと?!それに……あちらの世界にいた『外宇宙』の奴らまで!?」

「まさか、あの異物は……狭間の地から奴らを呼び出したのか!?」

 

ラニは遠目からでも感じるその異常現象に驚きを隠せずにいられなかった。

ふとトータスを見渡していたラニはある異質な存在に気づく

 

「あれは……確か『金仮面卿』と呼ばれてた奴だったか……?」

 

とある山に金の太陽を模したような仮面を被った褪せ人『金仮面卿』がトータスの空を見つめていた

だがラニはこの異常事態に対処すべく策を講じようとして、あまり気にも留めなかった

 

「……まずい!こうして居られない!幾ら我が王とはいえ、『狂い火』の連中と『忌まわしき』の奴らでは……!」

「……こうなれば……!遅かれ早かれ我が王のもとに行くことは決意していたが……!」

「やむを得ない……!」

 

こうしてラニは自身の伴侶の元に向かう為の準備を始めた。元々あちらの世界に着いてから召喚される予定だったが、この異常事態でいざあちらの世界に行こうとしても行けなくなったらと考えたラニは大急ぎで準備に取り掛かった。

 

「何とか間に合わせて見せる……!」

 

 

――とある場所にて

 

「どうしたのじゃ?金仮面殿?」

「……」

 

トータスを見渡せるとある北の山脈にて『金仮面卿』は空に向かって腕を動かしていた。傍にいる黒竜……ティオ・クラルスは不思議そうにその光景を見つめる

 

「……」

 

……彼の手振りからは誰もその意図を感じ取ることは出来ないが、敢えてそれを言語化するならこうだ

 

星の世紀を創りし褪せ人よ、今こそこの世界の律を守るときだ

この世界の律が穢されれし時……天よりの異物が瞬く間にあらゆる世界、そして次元に拡散するだろう

 

だからこそ金仮面卿は待ち続ける

 

……かの褪せ人を

 




『狂い火』の連中……褪せ人に『狂い火の王』になってもらってあらゆる世界を『狂い火』で燃やそう!

『忌まわしき糞喰い』……ただただ呪われろ。『絶望の祝福』全裸待機中

『外宇宙』の連中……星の律を我らの手に 『星の世紀』乗っ取り画策

『金仮面卿』……このままだとトータスどころか色々な次元がヤバいから褪せ人ヘルプ

……トータス壊れないかなぁ……(他人事)

因みにこの所為でトータスにはあちこちに隕石のような衝突痕とか目から黄色い炎をたぎらせた魔物だったり、体中から『苗床の呪い』が飛び出した異形の魔物が現れ始めました

怖いねぇ(現実逃避)


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第一章
誰だ俺を『現代のダビデ王』とか言った奴......言い返す言葉もありません.


閲覧ありがとうございます!

漸くトータスに転移できました(遅い)

エルデンリング要素を漸く出すことが出来ます。やったぜ

それではどうぞ


――時は経ち、とある月曜日

 

「おはよう~!浩介!……浩介……?どうしたの?」

「あぁ……はじめか、いや、何でもないんだ……うん」

「……まさか、あの雌共が何かしたの!?」

「いや、ちょっと……朝食を焦がしただけなんだ」

 

あははは……と笑っている俺だが、当然そんな理由で落ち込んでいるわけじゃない。というのも、最近というか高校生になってからラニ様との連絡が取れなくなってしまったのだ

ラニに限って連絡を忘れるなんてことはないし……と思いつつ何かあったのではないかと心配になっている

 

今日はラニ様と会話が出来なくてちょうど2年経つのだ

 

最後に会話した時にラニ様は

 

『いずれ会おうではないか……我が王よ』

 

って言ってたからもしかして既にトータスに潜り込んでいるのかなと期待しつつそれでも久しぶりの孤独だから気分が落ちるのは仕方ない

はぁ……どこ行ったんだろ……?

 

そんなことを考えていると次々と俺の周りにみんなが集まってくる。……口には出してないが、互いにバチバチに睨み合っている。

雫は睨みをきかせながら、香織は笑顔を張り付けた能面のような表情で、はじめちゃんは真顔で睨みあっていた。……周囲から人が遠ざかっていく、ははっいつものことだ(慣れ)

 

「……///」

 

……光輝ちゃんは無言ですり寄ってくる。その様子はまるで撫でて撫でてとせがんでくる愛玩動物のようだった。

それに応えるべく俺はいつものように頭を撫でてあげる

 

「……♪///」

 

口にこそ出してないがその表情は柔らかく、とろけ切っていた

そこでふと撫でるのを辞めると……

 

「あっ……」

 

可哀想なのでもう一度撫でてあげると更に密着してきた。……誰かが尊死した音が聞こえた気がした(確定で一人は判明)

そして背後からの殺気を感じた為残りの3人も同じく撫でることにした。

 

 

とそこへ清水がやってきて

 

「お前のせいで口の中がグラブジャムン(※世界一甘いお菓子)食ったみたいに甘すぎて仕方ないからコーヒー代おごれ」

「……あー、申し訳ない。ほらよ(500円渡しながら)」

「……多いんだが?」

「残りは好きに使え」

「あざーす!」

 

……現金な奴め

こんなことをしておいてなんだが、恐らく清水は俺の分の飲み物を買ってくる。これはいつもの流れだ

 

「……ちっ」

 

今教室の端で舌打ちをしたのは原作でも屈指の屑キャラこと、『檜山 大介』だ。原作だったらハジメに突っかかってくるが、如何せんはじめちゃんなので俺にヘイトが向くのは当然だった。

だが生憎俺はまたしても生徒会に所属することになったりして先生方や生徒たちの信頼を得ている現状、俺に手出しすることは良くないと分かっているのか、こうして舌打ちしかしてこないのだ

 

……一度大介を消すかと考えたが、奈落に行くためにはこいつが必要だったことに気づいて放置している

何かあったら即『慈悲の短剣』による致命を取ればいいやと考えているので問題なし

 

少なくとも原作のように魔物に喰われるよりかはマシだろう……いや……待てよ?

ここに『セルブスの秘薬』があるじゃないか……!と考えた所で先生が来たので意識を向ける。俺の傍からみんなが離れていく

 

 

「はい!皆さんおはようございます!」

 

教室に入ってきたのは『畑山 愛子』先生だ。生徒からは『愛ちゃん』や『愛ちゃん先生』と呼ばれているが、俺がそう呼ぶと特定多数の懐疑の目を向けられるため『愛子先生』と俺は呼んでいる

 

「今日はですね!なんと!転校生が来ているのですよ!!」

「ウォオオオオオオ!」「マジかよ!愛ちゃん!!」「男?女?」

 

教室から歓声が鳴り響く……あれ?転校生なんていたっけ?

 

そして愛子先生が周囲の喧騒を納め、転校生に入ってくるように促した。

次の瞬間俺は凍り付いた

 

 

「――初めまして。()()()()()()と申します。以後お見知りおきを」

 

「……え?」

 

……俺の見間違いと聞き間違いでなければ、その転校生は……間違いなくラニ様だった

声はいつものあの声で間違いないし、流石に腕は4本ではないが、月のような蒼色の長髪に、陶磁器のように白い肌……香織とは別ベクトルでの美人だろう

 

俺は目の前の事実を受け止めきれず、頭に『?』を無数に生やしているだろう

 

「ラニさんは家族の仕事の都合で日本に来ることになったそうなのですよ」

「でも日本語はペラペラなので仲良くして挙げてくださいね!」

 

 

俺を見つけたラニ様は俺に微笑みながらゆっくりと……右手に嵌められた『暗月の指輪』を見せびらかした

そして……ゆっくりと俺に近づいて

 

「お待たせしたな……我が伴侶よ♡」

 

「「「「え、えええええええええええ!?」」」」

 

「……」「……え、え……」「……え」「……はぁ?」

 

(えげつない殺気を感じるんですが……!?やめてラニ様挑発しないでください)

 

……昼になったら俺死ぬんじゃないかな……?

そう思うくらいには無数の殺気の籠った視線を感じた。『無敵』の準備するか……

 

おいやめろ清水、俺をうさみちゃんみたいな目で凝視するな怖いって

 

 

◆◆◆

 

 

「「「……」」」「……遠藤……?」「ギリギリギリギリ……」「ふふふ……」

 

「」「……帰りたい……帰って二次元に浸りたい……」

 

おかしいな……春の日差しが当たる暖かい校舎の筈なんだが……ここだけ『巨人たちの山嶺』になってないか……?

 

 

昼休みになって俺の傍に当然のようにいて不敵な笑みを浮かべるラニ様とラニ様に対して殺意の籠った視線を向ける雫と香織、はじめちゃんに加えて、涙目になりながら俺に縋りつく光輝ちゃん。

そしてそんな光輝ちゃんの傍で歯軋りをしている中村さん。偶然俺の席に近くて女性陣の殺意を感じ取ってしまった清水は現実逃避しながら飯を食っていた。

 

周りの連中は……死んだ目で飯を食っていた。……檜山含めたあの4人はまるで得体のしれない何かを見ているかのような目をしていた。

 

 

「……であなたは遠藤君の何なの」

 

香織がラニ様に威圧感を籠めながら質問した。

するとラニ様はあっけらかんと

 

「伴侶だ」

「……面白い嘘をつくじゃない」

「嘘では無いぞ?この指輪が証拠だとも」

 

(やめてラニ様これ以上刺激しないでください……)

 

クラスの視線が痛く感じてきた。……頼むから俺を指さしながら『昼ドラも真っ青な光景』とか『現代のダビデ王』とか『嬉しくないハーレム』だとか言わないでくれ。全部事実なのは否定しないけど

 

「……略奪愛ってのもあるんだよね」

 

濁らせた瞳をしながらはじめちゃんが呟く。本当に原作の影も形も無いじゃないか!一体だれがこんなことを……俺だよ!!(半ギレ)

 

「はっ、燃え盛り輝く炎(我が王)に惹かれただけの存在(むし)が……言うじゃないか?」

「……ッ!!」

 

ラニ様が冷徹な表情をしながらはじめちゃんの言葉に対してえげつない返しをした。

……この世界に法律という物が無かったら即座に血で血を洗う争いになってただろうなぁ……

 

「……グスッ……」

 

光輝ちゃんが無言で涙を流している。……本当にごめん。俺はとんでもないろくでなしでした(自覚)

 

「……諦めないから」

 

燃え滾らせた決意を固めた雫がそう告げる。他の子たちもそのつもりのようだった。

 

 

その後はこの殺伐とした空気を和ませるために飯を食うことを提案したが、ここでふと思い出した

 

 

(あれ、今日が転移の日じゃね?)

 

 

――そう思い出した瞬間

 

俺たちの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様の魔法陣が現れクラスを包んだ

 

「皆!教室から出て!」

 

と愛子先生が叫ぶも魔法陣が爆発したかのように光り、俺たちの視界を埋め尽くした

 

 

 

 

(……さて……ようやくか)

 

俺は光に包まれながらかつての自分……『褪せ人』としての自分を呼び起こし来たる時に備えた。

傍目にはいつものあの服装と杖を構えたラニが見えた。どうやらラニも準備を整えたようだ。その顔には先程までのとは違う真剣な表情が浮かんでいた

 

 

 

 

――『王立図書館』にて

 

「ッ!!……この感じ……成程……君が来たか」

 

王立図書館のある一室……本や資料が山積みにされている空間にて一人の男がある存在を感知していた

 

「……まぁ、そうだろうな……君があの『狂い火』の連中や『糞喰い』、『死王子』の連中、そして……『外宇宙』の奴らを放っておく筈が無いか……」

「いかがなさいましたか?『百智卿』殿」

 

『百智卿 ギデオン=オーフニール』……それが彼の名前であり、彼の呪いともいえる名前でもあった

 

「なんでもない。少し一人にしてくれ」

「はい……かしこまりました」

 

従者が部屋を出ると、ギデオンは独り言のように話し始めた

 

「……嘗ての私は……恐れてしまった……ある筈のない終わりを……」

 

ポツリ、ポツリとギデオンはしゃべり始める

 

「……だからこそ君があの黄金律ではなく……『星の律』を創ったことには驚かされた」

「まったく……『百智』の名が廃れるじゃないか……」

 

どこか自嘲気味に語りだすギデオンだった。

 

「……嘗ての私は……あらゆる外法に手を染めてきたことは自覚している……だからこそ……今、この世界は不味いことになっているのは言うまでもないことだ……」

「……私が恐れるのは『知らぬこと』……そして」

 

「『知ることは疎か、予測することすら出来ないこと』だとも」

 

「……まったく想像がつかないとも……『狂い火』に『絶望の祝福』、『昏き者達』……そして『星の世紀』の奪取……」

「まぁ……これが碌でもないことは誰にだって分かる」

 

はぁ……っとため息をついたギデオンはトータスに召喚されたであろうかの『褪せ人』に向けての言葉を呟いた

 

「……『褪せ人』よ一先ず『円卓』を目指すのだ……『円卓』まではこの地の祝福が導くであろう」

「再び会えるのを楽しみにしているとも」

 

そう言ってギデオンは再び書物を読み漁さるのだった

 

 

 

 

――同時期、とある場所にて

 

「あぁ……英雄さま……貴方様もこちらにいらしたのですね……」

 

黒いレースに身を包んだ女性……『死衾の乙女、フィア』もかの『褪せ人』の来訪を感じていた

フィアの足元には無数の屍が積みあがっており、既にその死体の熱は無く、冷え切っていた

 

そして、フィアの背後には朱い稲妻を迸らせている竜……『死竜フォルサクス』が佇んでいた

 

「……狭間の地では無し得られませんでしたが……どうかもう一度あの熱を……」

「そして……どうか、死に生きる者たちの王に……」

 

……フィアは嘗ての英雄に『王』になってもらう為に

 

死竜は、かつての友、『ゴッドウィン』の完全なる死を願っていた

 

 

 

 

――とある墓所にて

 

「……ふん!」

 

ギャアアア……

 

「た……助かりました!貴方は……一体……」

 

アンデットに襲われていた所を助けられた村人は特徴的な鎧をきた男に礼を述べていた。男に斬られたアンデットは即座に消滅していた

 

 

「俺は……」

 

……その鎧は金と銀の双児を象った異様な物であり、しかしその剣に纏わせている聖なる光がその男の異質さを際立たせていた

 

「――俺はD。死に生きる者を狩り、昏き者たちを殺す存在だ」

 

 

 

……異物がもたらしたのは世界を脅かす存在だけでは無かった。かの狭間の地にてそれらの脅威に抗った者、それに付き従った者まで無差別に呼び出したのだった




『死王子』の連中:あの褪せ人に王になってもらって、死に生きる者も存在できる世界を!

『フォルサクス』:そんなことは良いから早く友の死を……

『D』:死王子連中絶対殺すマン

『ギデオン』:この世界やば……(ドン引き)現在トータスの魔法やら何やらを習得中


『その他の褪せ人達』:各地で活動中

ちょっと死王子関連が可笑しくなったかな……?そこは後々修正するかもしれないので御理解の程を

流石に敵勢力だけなのはハードすぎるので……(震え声)


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ちょっとしたシリアスと……修羅場と

閲覧ありがとうございます!

という訳でトータスの難易度がフロム(最大級の難易度)になりました。
……これ褪せ人様以外死ぬんじゃないか……?

次回から本格的に戦い始めます

ぜひご照覧あれ!



――はじめside

 

「こ……ここは……?」

 

光が開けるとそこは神殿のような場所に自分たちがいることに僕は気づいた。周りを見てみるとあの時教室にいた生徒や先生がおり、あの時教室にいた全員が巻き込まれたことを知った。

 

だけど僕を含めた一定多数(ヤンデレ達)は、浩介の存在を確認するとすぐさま浩介の傍に寄った。僕は安心したけど……同時にその隣に当然のように居座る雌を見て僕は一瞬で心が凍り付く感じがした。

 

だけどそれ以上に浩介の様子がおかしいことに気づいた。

 

(……あれ?浩介……どうしたの……?)

 

浩介はこれまで見たことが無い程に真剣な表情をしていて、一瞬別人のように研ぎ澄まされた表情をしていて心配しちゃった……

 

「浩介……?大丈夫?」

「……あぁ……大丈夫だよはじめちゃん」

 

僕たちの安否を確認した時にはいつもの調子に戻っていたけど、うーん……大丈夫なのかな……?

 

 

それから僕たちは浩介の周りに陣取り、互いに睨み合っていた。

僕はふと改めて周りの様子を観察しているとどうやらここが日本でないことは間違いないという結論に至った。

 

そして目の前にいるただならぬ気配を漂わせる老人が話しかけてきた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

イシュタルと名乗った老人が怪しそうな微笑を浮かべた瞬間、僕は浩介がイシュタルを射殺すような視線で見ていたことに気づくことは無かった。

 

(……そういえばこの灰みたいな匂いはなんだろう)

 

 

◆◆◆

 

それから僕たちは召喚の間から長いテーブルのおかれた食堂に移動した。この間も浩介は無言だった。

 

(……本当にどうしちゃったんだろ……)

 

いつもの様子とは違う浩介の様子に雫や香織たちも気づいたようでオロオロしているけど、そんな僕たちに向ける視線と声はいつも通りだったから気にしすぎたかな……?と思いつつイシュタルの説明を聞くことにした。

 

……浩介の事を誘惑しようとしているメイド服の雌共を睨みつけながらイシュタルの説明は始まった。

 

 

イシュタルによると

 

この世界『トータス』は人間族、魔人族、亜人族の大きく分けて3つの種族に分かれているのだけど、この内の人間族と魔人族は数百年も戦争を続けているとのこと

人間族と魔人族の力は個人の力や数の違いはあるものの数十年間拮抗していて大規模な争いは起きていないとのこと。ここまでは良かったらしい

 

……だけど最近になって魔人族が魔物を使役したり、これまで見たことのない勢力が台頭し始めたせいでその拮抗が崩れているらしい。

魔物を簡単に言うと

 

『野生動物が凶暴化して強力な魔法を扱うようになった害獣』

 

……とのこと

 

そんな魔物を魔人族は何十匹も使役するようになったせいで人間側の優位性の1つである『数』が消失してしまい、人間族の存続は免れないとのこと

 

 

さらに言えば、ここ最近になって台頭し始めた【()()()()()()()】という人間族と魔人族、果ては亜人族までもが混在している国が現れたらしい

 

【モーグィン王朝】は『血の君主、モーグ』を王とする新勢力で、人間、魔人、亜人を問わず、ひたすらに血なまぐさい殺戮を繰り返しているためこれも人間族を脅かす危機になっているとのこと。

 

そして付け加えるようにトータスの各地にて異常現象が多発しているらしく、例えば屍が蘇って人々を襲っていたり、黄金に輝く樹が突然生えたり、空から降り注いだ隕石から生じた魔獣らしきものが人々を脅かしていたり、死体が呪いで穢される謎の大量殺害事件が多発していることと……目から黄色い火を放つ異常な病『狂い火』と呼ばれる病が種族問わず流行しているとのこと

 

そしてこれに対してイシュタル達が崇める『エヒト』は、最後の手段として異世界から強力な人間を連れてきて人間族を救ってもらおうということが今回の全貌らしい

 

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

愛子先生が猛然と抗議をし始める……だけど

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

そう言われて愛子先生が絶句するけど、イシュタルが更に続ける

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

イシュタルの言葉を聞いて動揺を隠せない生徒たち……だけどその時浩介が地響きがなるくらいまで大きな足ふみを行った

 

「あわてるな皆。確かにこの世界に召喚されたのならそれはどうしようも無い」

 

だけど……と浩介が続けた

 

「皆に言いたいことは1つ、絶対に死ぬな」

「浩介……?」

「だから……例え心が折れそうになったとしても、どうか生きること、進み続けることを諦めないでくれ」

「遠藤君……」

 

……浩介がそういうとクラスの皆が先程までの動揺が嘘のように静まり返り、表情も絶望ではなく希望が見えていた。

 

(やっぱり……君はかっこいいよ……浩介君……)

 

 

 

 

その後の僕たちは『ハインリヒ王国』の王城に移動して王族や大臣たちからの挨拶があったり、その後の晩餐会では浩介に色目を向けないように僕と香織たちが浩介の近く(ほぼ密着状態)に集まっていると何やら嫉妬の目を浩介に向けてきた奴がいた。名前は……何だっけ……ランデル……だっけ?まぁいいや

 

そいつが浩介を睨んでいたけど、全く気にも留めていない浩介を見てぐぬぬといった表情をしていたのが印象深い

さすが()()浩介!

 

……浩介に取り入ろうとするこの世界の女狐どもを牽制していたけど、あの視線の中に浩介を利用してやろうという魂胆が見え透いていたのも僕たちが浩介の近くにいた要因の1つ

まぁ……8対2の割合で僕が浩介の近くに居たかっただけなんだけどね

 

 

その後は王宮に用意されたそれぞれに用意された部屋で休むことになったんだけど……

 

「「「「あ」」」」

 

……浩介の部屋に行こうと考えていたのは皆同じだったみたい

 

「……香織ちゃんはどうして浩介君の部屋に来てるの?」

「それは雫ちゃんも同じでしょ?そこをどいて?」

「……ぼ、僕は……そ、その……遠藤と……///」

「……」

「……王様と王妃の時間を守るのは僕の役目……」

 

こうして睨み合っていると

 

「……あのー……?とりあえず入ったら……?」

 

中から浩介君が直接入れてくれた。どうやら少し五月蠅かったらしい……

 

「一応言っておくけど……何もしないよね?」

「「「「「……」」」」」

「何か……何か言ってくれ……!」

 

まぁ、本当はナニカをしたかったけど……浩介の頼みなら、我慢するよ……でも、

 

(我慢できるかな……?僕……)

 

それから僕たちは何故か大きく用意されていた浩介のベッドで寝た。……浩介が部屋を抜け出している間に誰が隣に寝るかを決めるのにじゃんけんをすることになったけど結果として光輝と香織が勝者になった。

 

「やった……///」

「やったよ……遠藤君……」

「……ガクッ(膝から崩れ落ちた)」

「うッ(喜ぶ光輝ちゃんを見て無事YOU DIED(死因 尊死))」

「……うごごごご(現実を受け止めきれない)」

 

こんな……こんな筈では……!

 

「ただいまー……え?殺人現場か何か?」

「……なんだこれは」

 

……2人はどこに行ってたんだろ?

 

 

 

◆◆◆

 

――遠藤side

 

「で、少なくとも『モーグィン王朝』と『狂い火』に『糞喰い』、『死王子』そして『外宇宙』の連中がいることは確定か……」

「それに私が探知できなかっただけで恐らく『火山館』や他のデミゴットもいる可能性が高いな……我が王」

「分かってる……あの『黄金樹』もどきは看過できない」

「あれの正体は恐らくあの『異物』なんだろう……何を企んでいる……?」

 

俺は、はじめたちが部屋に来た時に部屋を抜け、人目のつかない場所でラニ様とこの世界に現状について話していた。

 

「……狭間の地の奴らが全員来たと仮定して動いた方が良いか……」

「そうだな我が王」

「これじゃあ、あっちでやってたことと何ら変わりないじゃん……」

「……全く以てその通りだな」

 

正直憂鬱になる。まだ『狂い火』の連中や『モーグィン王朝』の連中だけなら良いと思ってたけど、あろうことか全員集合とかどうなってんだよ……!

トータス壊れるだろうが!!……もう壊れてるといっても過言ではないか……ははっ、笑えねぇ……

 

「我が王、お前は私の決められたあの忌々しい運命を壊し、星の世紀を創造したではないか」

「……そうですね」

「――定められた運命を壊すことの難しさは我が王でもご存じであろう?」

「……!」

 

あぁ……なるほど……そういうことか……

 

「我が王よ。奴らをもう一度葬ることはできるな?」

「……運命を覆すことに比べたら、これぐらい……簡単なことですよ」

 

何を恐れることがあったんだろう。簡単なことじゃないか

あの狭間の地でやったことをもう一度すればいいだけじゃないか!

 

「ふぅ……さて、とはいえこの先どうしますかね……」

 

「……我が王よ一先ず、あのサインについて教えてくれないか?」

「……えぇ……晩餐会の際に見つけたあのサインですね……」

 

俺は晩餐会の際にトイレに行ったのだが、ふと気になる部屋があったので褪せ人として本能の赴くがままに部屋に入ったらそこには狭間の地で死ぬほど(誇張無し)見た文字で

 

大図書、その奥深くに訪れたまえ

 

と書かれたサインを見つけたのだ。だけどこのサインを見つけてからしばらくしたら消えてしまった

 

「大図書……一先ず明日、他の者がいない時訪れてみるか」

「そうですね……あとラニ様相談が……」

 

それから俺は、ラニ様にしか頼めないことを相談した。

 

「ふむ?…………………………我が王よ……」

「分かってます……だけど、これを任せれるのはラニ様だけなんです……」

「しかし……幾ら我が王の頼みとは言え……」

「お願いします……!ラニ様……!」

「……良いだろう」

「……!ありがとうございます!!」

 

そうして俺は……幾つかの装備とそれぞれに宛てた手紙をラニ様に託した

 

「……これらをあの小娘共と清水という奴に渡せば良いのだな?」

「そうです……ですが」

「分かっている。我が王が1()()()奈落に落ちた後にだな?」

「……そうです」

「……はぁ……全く我が王は……」

 

俺は、はじめちゃんをあの奈落に落とさせはしない。それにこうした状況なら猶更だ。俺は1人で奈落に落ちるつもりだ

はじめちゃんが『神水』の場所まで辿り着く前に殺されないという確証はない。それに……奴らを殺せるのは現時点で俺しかいない

……何、1人で戦うことは慣れている

 

死んでも祝福から生き返れる。これは俺だけの特権にして、命綱。

……俺の世界の都合に、あいつらを巻き込むわけにはいかないからな

 

(俺1人が……戦って、傷ついて……死んで……奴らを殺せばいいだけなんだ)

 

俺はその決意を抱き、部屋に戻ることにした。

 

 

 

(我が王よ……その在り方はもはや人のそれでは無いぞ……?自分がどれほど大きな存在なのかが分からないのか……?)

 

遠藤……褪せ人の後ろを歩くラニは自身の伴侶のその在り方を危惧した。だけど彼女は自らに与えられたことをやり遂げることのみを考えていた。

 

 

――空には青い満月とその満月に寄り添うかのような黄金樹が輝いていた




フロム主人公ってあんだけ死にまくっているから命の価値の1つや2つ狂っていても不思議ではないヨネ!

という訳で今作の褪せ人様は『どうせ俺復活するし、皆には傷ついてほしくないし全部俺が解決したる』の精神で狭間の地の連中をまとめてしばきに行く模様

……なおこれがヤンデレ達に知られるとそれはもう、すごいこと(形容する形容詞が無い)になります(確定)

まぁ、自分たちが愛している人が命を投げ捨ててでも(誇張無し)自分たちを守っていることに気づいたらねぇ……(恐怖)

……しかしこの褪せ人、奈落に落ちるのは考えているものの奈落の底にいる吸血姫のことを忘れている模様(致命傷)


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恒例のステータスと褪せ人包囲網

閲覧ありがとうございます!


前回のあらすじ
1人で奈落に落ちる判断を下した褪せ人様はそれをすることで今後えげつないことになることをまだ知らないのだった……

褪せ人様「へーきへーき、なぁに俺が死ぬだけなんだ。犠牲が少なくっていいじゃないか!」

ヤンデレs「……」

偶々居合わせてしまった清水「ヒエっ」




「いやぁアアアアアアア!!!!」

「待て!!遠藤を追うな!!」

「離して!!浩介が、浩介がぁああああああああ!!」

 

 

……はじめちゃんの悲痛な叫びを聞ききながら俺は奈落に落下していった。

 

(一先ずは……第1の目標達成か)

 

奈落に落下していく俺だが、既に後のことはラニ様に任せているため俺は、自分が為すべきことを為すためにこれからのことを考えていた。

 

(さて……ここからが正念場だな)

 

 

――2週間前

 

 

異世界に召喚された次の日から早速訓練と座学が始まった。

 

訓練所に集められた生徒たちに掌ぐらいの大きさの銀色のプレートが配られた。配られたプレートを不思議そうに見つめていた生徒たちに騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明をした。

 

本人曰く

 

『むしろ面倒を副長に押し付ける理由が出来て助かった』

 

と豪快に笑いながら言っていたが当の副長はその際メルドに対して青筋を立てながら笑顔で綺麗な『一本指(中指)』を立てたとか……

 

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

非常に気楽に話すが、この時遠藤は脳裏にとある壺の戦士(アレキサンダー)を思い浮かべていた。豪快に笑うその様と性格が何となく似ているな……と思っていた。

 

そしてメルドからそのプレートに血を垂らすことで所有者として登録されることを伝えた。

説明を聞いた生徒たちは各々ステータスプレートに自分の血を垂らして表示されるステータスを確認していった

 

 

===============================

■■■■■■ ■■■歳 男 レベル:713

素性:素寒貧

生命力:99

精神力:99

持久力:99

筋力:99

技量:99

知力:99

信仰:99

神秘:99

===============================

 

(何で俺だけ『狭間の地』方式!?……てことは、ラニ様も?!)

 

俺はステータスが自分だけ『狭間の地』仕様になっていることに内心死ぬほどビビり散らかし、念の為にラニ様のステータスを見せてもらうことにした

 

 

===============================

ラニ 計測不能 女 レベル:■■■

天職:半神(デミゴット)

筋力:■■■■■■

体力:■■■■■■

耐性:■■■■■■

敏捷:■■■■■■

魔力:■■■■■■

魔耐:■■■■■■

技能:計測不能

===============================

 

 

(よし改竄するか)

 

この間わずか0.5秒

 

明らかに厄ネタになるえげつないステータスだったためラニ様に頼んでステータスを改変してもらうことにした。俺もそうだけど、デミゴットはあかんでしょ……

幸いにも皆光輝ちゃんのステータスに夢中になっている。光輝ちゃんは原作と変わらず『勇者』だった。

 

……そういやエルデンリングにも素性『勇者』があったなと思いつつラニ様からステータスを渡された。

どうやら周囲の人たちを参考にして一瞬で俺と自分のステータスを改変してくれたらしい。流石ラニ様略してさすラニ

 

 

そして出来たものがこちらになります

===============================

遠藤浩介 17歳 男 レベル:1

天職:魔法剣士

筋力:150

体力:150

耐性:150

敏捷:150

魔力:150

魔耐:150

技能:魔術[+輝石魔術][+源流魔術][+カーリア王家魔術][+夜の魔術][+氷の魔術][+ゲルミアの溶岩][+結晶魔術][+重力魔術][+茨魔術][+泥人魔術][+死の魔術]・祈祷[+二本指][+黄金樹][+黄金律原理主義][+王都古竜信仰][+巨人][+神肌][+獣の祈祷」[+血の祈祷][+三本指][+竜餐]・万物を殺す者・満月の寵愛・霊馬呼び・遺灰・狭間の地を制した者・星の律を宿せし者・言語理解

===============================

 

『(……あのーラニ様?)』

『(何だ我が王)』

『(一応聞きますけど……誰を参考にしました……?)』

『(あの勇者の小娘だが?)』

『(……俺のステータス全部光輝ちゃんより上なんですが……)』

『(……あの小娘……いや、他の奴らより我が王が劣っているなど耐えられんからな)』

 

『(それに……本当ならもっと改変したかったがな)』

 

ラニ様の愛が垣間見えた所でクラスの注目が俺に移った。どうやら一通りクラスの皆のステータスを見終わりあとは俺とラニ様だけのようだ。

俺はメルド団長にステータスプレートを渡した。

 

「どれどれ……おお!ステータスが軒並み100を超えてる!!それに……俺の知らない技能が幾つも……!」

 

メルド団長の驚くような声にクラスメイトが俺を見て羨望の眼差しとどこか希望に満ちた視線を向けたのを感じた。……一部からは嫉妬の視線もあったが、まぁ……奴らだろうな

俺はちらりと檜山たちから視線を外し、隣で得意げな顔をしているラニ様を見て癒された。

 

……はじめちゃん達がハイライトの消えた目で俺を見てきたのは、言うまでも無かった。

 

「そして……『魔法剣士』か!いいじゃないか!!魔法も使えて剣術も使える……バランスの取れたいい天職じゃないか!こいつは……大物になるな!」

(もうなってるんだよなぁ……)

 

実際は『魔法剣士』とは程遠い『グレートソード』二刀流による脳筋戦法(筋力99の暴力)だったり、

『屍山血河』や『エレオノーラの双薙刀』による出血戦法(神秘99の暴力)

『長牙』と『マレニアの義手刀』による開幕『切腹』からのタリスマンのバフで最終的に手数で攻める(技量99の暴力)という戦い方をしてきたのだ。

 

Q.『魔法剣士』とは一体……?

A.『彗星アズール』と『滅びの流星』をぶっぱして『月隠』をブンブンする人の事です。要するに知力99の暴力です

 

(やはり暴力……!暴力は全てを解決する……!)

 

ただし指紋石の盾チク腐敗マン、貴様はダメだ(戦績ボロクソ並感)

 

 

余談だがラニ様の天職は『魔術師』でしたまる

 

◆◆◆

 

「あー……ごめん皆ちょっと訓練所に忘れ物してきたから取ってくるね」

「「「「はーい」」」」

 

……訓練を終えたその日の夜、俺は『大図書』に1人向かっていた。『大図書』に近づいた時、俺は普段愛用していた『失地騎士』一式に身を包んだ。

しばらく歩いて『大図書』に入ると、昼に足を運んだ時には無かったサインが光っていた。

 

回帰が君を導くだろう

 

大図書の一角……大きな本棚の手前にサインが続いていた。俺はすかさず触媒を取り出し『回帰性原理』を行使した。

すると本棚が幻のように消え、奥深くへ続く通路が出てきた

 

「この先か……」

 

 

俺は真っ暗な通路を進んでいた。ふと通路の両端に立っている物を見つけた。

 

「……なるほどな」

 

俺は……普段愛用している冷気派生した『失地騎士の大剣』を2本構え、通路に立っている物……擬態しているインプ目掛けて飛び掛かった。飛び掛かり攻撃で1体目を倒した直後に遅れて2体目が起動したが俺は軸足を反転させ、駒のように体を回転させながら力任せに大剣を振りかぶり、2体目のインプを斬り捨てた

 

「……随分と物騒な門番だな」

 

まだ先があることに気づき、『携帯ランプ』を付けながら少し歩みを速めた。

 

 

 

「ここか……」

 

暫く歩いた俺を待ち受けていたのは書物が積み重なった小汚い部屋だった。だが、その光景には見覚えがある俺は、ここに俺を呼んだ張本人が誰かを察することが出来た。

俺は薄暗い小部屋に響くように

 

「……いるんだろ?『百智卿 ギデオン=オーフニール』」

「あぁ、ここにいるとも」

 

書物に囲まれた中心に位置する椅子に『百智卿 ギデオン=オーフニール』が座っていた。

 

「久しぶり……と言えばいいか?」

「好きに言いたまえ」

 

軽い挨拶を交わしながら俺とギデオンはこの世界で起きていることについて情報を交わしながら、これからについて話すことにした。

 

「一先ず俺は奴らをもう一度殺しに行くが……流石に『円卓』は無いか……」

 

俺はこれまでの旅で幾度も助けられたあの『円卓』には流石に行けないかと思っていたが

 

「……結論から言えば『円卓』はある」

「あるのか?!」

「……あくまで『円卓』に似た物だがね」

 

俺はふと『円卓』を管理していた存在である『二本指』の事を思い出していた。あの空間は『二本指』が管理しており、

 

「……もしかして『二本指』の管理下に無いからか?」

「その通りだ。今は私の管理下にあるが……じきに君の管理下に置かれるだろう」

「……俺が?」

「或いは……月の魔女か……」

 

「そうだろうな」

「ラニ?!」

 

はじめたちを見ていることにしたラニから渡された『小さなラニ』が声を上げた。

……正直インプよりビビった

 

「我が王、『円卓』の管理をお前がするのも良いがこうしたことは私の適任だろう」

「……万が一君に何かあれば『円卓』も影響を被るだろう……私としては彼女が適任だと思うがね……」

 

『黄金樹』が燃えた際に『円卓』も燃えたことを思い出した。確かにその理屈でいけば大本である俺に何かがあれば最悪『円卓』が消える可能性もある。

 

(確かにそうだな……)

 

「……ラニ様頼めます?」

「了解した我が王よ」

「……決まりだな」

 

……本当にラニ様には頭が上がらない……そんなことを考えているとふと『円卓』へはどう行けばいいのか気になった。

前は『メリナ』が誘導してくれて祝福から座標を辿れたがどうなるんだ……?

 

「祝福に関しては心配いらない」

「本当か!?どうすればいいんだ?!この城にあった祝福はどれもつながらなかったぞ!?」

「……この城に貼られている結界のような物……それが邪魔しているだけだ」

「つまり……この城の外に行けば!」

「君たちは少ししたら【オルクス大迷宮】に向かうんだろ?その時に実行すればいいさ。……君もちょうど目的を果たせるからな」

「……それもそうか」

 

 

 

それから俺は話を終え、大図書を後にした。

 

「ただいm「「「「ドコイッテタノ」」」」Oh……」

 

ドアを開けたらハイライトを消したはじめちゃん達が待ち構えていました。新手のホラーですか?(震え)

……ラニ様は寝ていました。

 

さーてなんて言い訳しようかな(正座しながら)

 

「……遠藤君?」

 

……雫から尋常ではない気迫が顔を見なくても伝わってくる

やばいな(冷や汗だらだら)

 

「浩介君?」

 

……素直に言葉の圧を掛けてくる香織の背後に無数の腕に『巨人砕き』やら『ギーザの車輪』やら『ゴーレムの斧槍』等の殺意に満ち溢れた得物を持ったスタンドらしきものが見えた気がした。これが俺の死のイメージか……

やばいな(命の危機)

 

「……嘘ついたの?ダメだよ?」

 

……的確に俺の心をへし折る言葉を投げかけてくるはじめちゃん。でも俺には分かる。その表情は正に虚無であることを

やばいな(精神的ダメージが)

 

「……」

 

……止めて光輝ちゃんここで君が無言になるのは一番応えるから。ちらっと手を見ると、握りこぶしになったまま震えていた

やばいな(罪悪感が)

 

「……ふぅん」

 

……恐らくこの中でもダントツにやばい視線をぶつけてくる恵理(下の名前で呼んでくださいと言われた)に俺は身がすくむ思いになった

やばいな(思考停止)

 

こうなっては仕方ない最終手段を使うとするか……

 

「……時間があったら1人1人全員の時間を作るので勘弁を……」

「「「「もちろんなんでもするよね?」」」」

「……可能な範囲であれば」

「「「「……楽しみにしてるね」」」」

 

(今度こそ死んだかもしれん……と言うか俺また何でもするって言ったよ……学べよ俺……)

 

 

 

――一方そのころ

 

「……遠藤が理不尽な目にあってる気がするな」

「どうしたの?清水君?」

「……いや、なんでもない……ちょっとトイレ行ってくる……」

 

 

 

「スッキリした……そういやここ遠藤の部屋か……ちょっと覗いてみ……る?!」

 

清水が遠藤の部屋を覗いてみると……そこは控えめに言って地獄のような有様だった

 

「……う、うーん……」(女性陣に抱き枕にされている)

(うわぁ……)

 

寝苦しそうにしている遠藤の周りには女性陣がえげつない力で抱き着いていたのだった。むしろそれで起きないのが凄いなと清水は思った。

そして部屋に戻りおもむろにグラスとジュースを取り出し椅子に座った清水は外の景色と先程の光景を思い浮かべながらジュースを飲みほした。

 

「愉悦」

 

すっかりその状況を楽しむ清水だった。清水は自分の天職が『闇術士』なことに当初は疑問を抱いていたが、自分のこういう有様を鑑みると確かに闇だわと自分の天職を受け入れたのだった

 

「……明日訓練相手になってやるか」

 

ただの愉悦部で終わらないのが清水だった。




次回は番外編の予定です

褪せ人様の装備が『失地騎士』一式なのは単なる作者の趣味です。リアルでも最後まで『失地騎士』で駆け抜けました

かっこいいよね……『失地騎士』……『戦鬼』や『カーリア騎士』も良いけど、個人的には『失地騎士』がスコ

皆さんの好きな一式はなんですかね?

閲覧ありがとうございました!


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え?なんでオレグさんかって?……かっこいいからだろ言わせんな

閲覧ありがとうございます!

次回奈落行きです(確定)

果たして褪せ人様はこの先生き残れるのか……無理だな(断定)

それではどうぞ


あれから暫くして遂に【オルクス大迷宮】攻略を明日に控えている前夜

 

訓練期間に檜山含めた4人が喧嘩売ってきてセスタスでボコボコ(ガチ)にしたり、クラスメイト全員のカウンセリングを愛子先生の代わりに行ったりしてある程度の自立を促したりした。

……なぜなら俺は明日、このクラスを離脱するからだ。だからこそ俺が居なくなってもやって行けるようにとクラスメイト一人一人に心の余裕を持たせたのだ

 

カウンセリングと言っても一人一人の悩みと緊張をほぐしたり、励ましたり、時には訓練に付き合ってあげたりしただけどね

 

それに、清水には予め俺が万が一居なくなった後の後釜を頼んである。清水は縁起でもないこと言うなと言ってたけど、実際に俺が居なくなるのだから後釜は必要だろう。

 

「いよいよ明日だね遠藤君!」

「あぁ……そうだね」

 

「皆で生き残ってあっちに帰ろうね!それから……ふふふ……」

「……」

 

……俺は雫も、香織も、はじめも、光輝も、恵理も、皆をおいていく事になる。だけどそれを悟られてはいけない

だから今日一日は全員となるべく一緒にいることにした

 

「浩介君は、死なないよね?私達の前から消えないよね……?」

「……もちろんだよ」

 

嘘をついた

 

「明日は頑張って皆でまた戻ってこようね!浩介!」

「……そうだね」

 

また噓をついた

 

「遠藤、僕だって頑張れるところを見ててくれ!……その、頑張った後撫でてくれないか?」

「……約束するよ」

 

……ごめんね光輝ちゃん、叶わない約束をしちゃって

 

「王様……いざとなったら私が王様と王妃を御守り致します……ですのでその、僕の頭を撫でてくれませんか……?」

「……大丈夫、俺が皆を守るから。ほらこっちに……」

 

……ごめんね、君には辛い思いをさせるかも

 

 

「で、どうよ遠藤明日の【オルクス大迷宮】は」

「……死人が出ないことを祈るばかりだな」

「ははは……お前らしいな。それにしても驚いたぜ、お前が居なくなった後のことを頼まれたんだからよ。……まさかお前が死ぬなんてことはないだろ?」

「……どうだかな」

 

死にはしない、そう死にはしないだけ。……後は頼んだぞ、清水

 

それからは何時ものように皆と同じベッドで寝て明日を迎えた。

 

 

 

「……ラニ様、後の事は手筈通りにお願いします」

「……やれやれ我が王は人使いが荒いじゃないか?……後の事は私に任せろ」

「ありがとうございます……ラニ様」

「ふん……それにしても我が王は残酷な選択をするものだな」

「言い返す言葉もありません」

 

 

 

――そして迎えた【オルクス大迷宮】攻略当日

 

 

現在俺たちは【オルクス大迷宮】の正面入り口前の広場に来ていた。

広場には様々な出店が立ち並んでおり、まるでお祭り騒ぎだ

 

そして入り口には、入場ゲートのようなものと制服をきたお姉さんが笑顔で受付を行っていた。

 

どうやらここでステータスプレートをチェックし、人の出入りを記録することで、死亡者数を正確に把握しているとのこと

……俺とラニ様のステータスプレート偽造だらけ(ラニ様8割、俺10割偽造)なんですけど、大丈夫ですかね?

 

あと、別にお姉さんたちに見ほれたわけじゃないのでどうかお姉さんたちを睨まないであげて、かといって俺に思いっっっっきり抱き着かないでください1人ならまだしも複数で全力で来られると流石の俺も死にかけるから

おいこら清水今俺を見ながらジュースを飲んで愉悦って言いやがったな

 

 

それから俺たちはメルド団長を先頭にして狭間の地の兵士のようについていった。……もうちょいマシな例えが思いつかなかったのは内緒だ

 

 

◆◆◆

 

【オルクス大迷宮】の中は外とはまるで違っていた

 

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

……何か既視感があると思ったら『結晶洞窟』か。何か似てる気がするんだよな

 

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

 

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

「獣は殺す」

「浩介!?」

 

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

……キモさで言えば狭間の地の奴とどっこいどっこいか。たまに俺の世界に侵入しては筋肉を見せびらかすように頭だけ壺頭の全裸の奴もいたな。あいつ等割と強くて苦戦したな

 

そんなことを考えながら俺は『黒弓』を構えて即射殺した。獣は殺す……うん?これエルデンリングじゃなくてブラボか……まぁいいか

え?弓wでw獣wにw挑wむwとwはwだって?

 

黙れ小僧(一本指)

 

そうこうしているうちに更に多くのラットマンがうじゃうじゃ出てきた。あれ……こんな光景……ストームヴィル城で見たことあるような

 

「また来たぞ!構えろ!!」

リュウガワガテキヲクラウ!(連続射撃)

「浩介!?!?」

 

『黒弓』から放たれた連続の射撃がラットマンを次々と射貫いていった。ラットマンの体力は低いので一発眉間に打たれただけで死んだ。

この後メルド団長に単独行動が過ぎると怒られた。むぅ……

 

「というか……お前『魔法剣士』なんだから魔法とか使わないのか?」

「FPがもったいないので」

「FPってなんだ!?」

 

 

そしてその後はひたすらな蹂躙劇が繰り返されていった。

 

え?何でかって?

 

光輝ちゃんや雫を筆頭としたメンバーだけじゃなくてクラスメイト全員がマジで強くなっていたからだ。

……なんでだろうな(犯人)俺がやったことは……精々俺が皆と訓練したぐらいか?(原因)

 

光輝ちゃんに関しては光属性の性質が付与されていて、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている〝聖剣〟の性能と原作と異なり慢心や油断が消えているためか凄まじいことになっていた。……あの剣ちょっとほしいかも

 

雫は、うん、まぁ……今の雫に『マレニアの義手刀』を渡しても何か普通に使いこなしそうだなと思うぐらいにはマジで強くなってやがる。というか既に『水鳥乱舞』染みたことをやってやがる……おまけに俺が前に渡した『有翼剣の徽章』の効果も相まってその相乗効果がやばいものになっている

 

清水は……うん、お前いつの間にそんなえげつない魔法を使えるようになったん?魔物を洗脳して、同士討ちを始めさせて疲弊したところを魔法でドカン

……敵にしたくねぇな

 

意外だったのは、はじめちゃんだった。原作通り『錬成師』で尚且つ原作のあの貧弱ステータスだったはじめちゃんに重点的に接して訓練をした結果原作よりもレベルが上がったのだ。……依存度も上がった気がしたがな!

何はともあれ、幾らか余裕が出来たのかそこいらの魔物に落とし穴やトラップ等の妨害工作や《錬成》で俺の弓矢を定期的に補充してくれるのはありがたかった。

 

……さて、目を必死に逸らしてきたが、そろそろ現実を見るか

 

「うりゃあああ!!」

「そっちいったぞ!」

「喰らいなさい!《火球》」

 

はい、原作では影も形も無かったクラスメイトが嬉々として魔物を狩っています。それこそ雫や光輝ちゃんに負けない位には

……ま、まぁこの先俺いなくなるし……こ、これぐらいが良いのかなって……

 

 

そんなことを繰り返しながらたどり着いた二十階層

……ここからが正念場だな

 

ん?……あれ?ちゃんと檜山あれに触れてくれるよね?!ていうか光輝ちゃん〝天翔閃〟使ってくれるよね?!大丈夫だよね!?

そんなことを考えていると例のロックマウントが現れた

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

カメレオンとゴリラを混ぜるとこうなるのかーと思っていたらロックマウントが早速クラスメイトのに蹂躙されていった。Oh……

しかし、悪あがきと言わんばかりに近くの恵理に向かって岩を投げてきた

 

「恵理!危ない!!」

「あっ……」

「『猟犬ステップ』……間に合った」

 

恵理の間に割り込み左手に持ってた『失地騎士の盾』で防御するが、投げられたその岩がロックマウントであり、そのまま俺をぶん殴ってきた。盾受けしていたためダメージは殆ど無かったが、少し後ずさりしてしまった。

 

「ほんじゃまぁ……喰らって貰おうか?」

 

俺はすかさず殴られた衝撃を利用して即座にロックマウントに斬り返した……所謂ガードカウンターって奴だ

ロックマウントは、縦に両断されて死んだ

 

しかしその光景を見ていた光輝ちゃんが冷徹な表情を浮かべながら魔力を漲らせ

 

貴様ァ!……よくも遠藤を……!!万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!!!!」

(あれ……威力高くね?……これグランツ鉱石無事……だよね?(願望))

 

その瞬間迷宮内に強烈な光と共に爆音が鳴り響いた

 

「ふーっ……!ふーっ……!」

 

興奮したような息をしながら執拗にロックマウントがいたであろう場所をひたすら攻撃する光輝ちゃん。死体蹴りはマナー違反ですよ!?

 

「あー……その……狭い所で大技は使わないように……うん」

 

メルド団長ドン引きしてんじゃねぇか!!……ホントにすいません

 

「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

香織が光輝ちゃんの大技で崩れた壁を指さした。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

……あれ香織ちゃん全然興味なさげだけど

 

「……キラキラしたものなら浩介君のこれで良いもん……」

 

そう言って香織は俺が渡した『青琥珀のタリスマン』を手で包み込んだ

え?いつ渡したかって?

 

……中学の時に雫やはじめちゃんだけ持っててずるいってことで渡しました。もちろん光輝ちゃん達にも渡しましたよ?だって俯きながらちょっと悲しそうにしてたんですもん……

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。うん……まぁ……ちょっと削れてるが……珍しいな」

 

すいませんうちの光輝ちゃんが……そう考えていると

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

知 っ て た

 

「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

……さて、準備しますか

 

案の定檜山が取りに行った時、出現した魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。

 

視界が明けるとそこは巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える

 

……俺は即座に装備を付け替え全身を『失地騎士』一式にした。そして霊体を呼び出せることに気づいた途端に鈴の準備もした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

他のクラスメイトが迅速に動き出すが……俺は静かに皆の向かっている方向とは逆の方を向いて奴を待った

 

「遠藤!?何をしている?!」

「浩介!?」

 

……そして階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現して更に通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……現れた

 

(待ってたぜ……ベヒモス!!)

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

メルド団長の呟きを聞きながら俺は『霊呼びの鈴』を構え、俺の持ちうる遺灰の中でも信頼を寄せているある人物を呼び出した

 

「頼むぜ……『失地騎士、オレグ』さん」

 

俺の隣に俺と全く同じ装備の霊体……『失地騎士、オレグ』が腰に付けた二つの『失地騎士の大剣』を抜刀しながら現れた

 

 

――さて、何処までやれるかだな




『失地騎士、オレグ』

かつて、嵐の王の双翼として知られた一方
失地騎士となったオレグは、祝福王に見出され
百の裏切り者を狩り、英雄として還樹を賜った


叶わぬ約束をしてしまった褪せ人様、果たして再会した時にどうなるのか、どうなってしまうのか……

絶望しかないでしょうな(震え声)

ちなみにオレグさんを出した理由は、投稿者が一番召喚して尚且つ即+10にしたお気に入りだからです。

というか『失地騎士』装備を付けるようになったのも『失地騎士大剣』を二刀流し始めたのもオレグさんが原因ですねぇ!

投降者の欲望が詰まった回でした。
皆さんは霊体の中で誰が一番好きですかね?


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奈落の底へ落下……なお褪せ人は死ぬ模様

閲覧ありがとうございます!

やっと……やっと、ここまで来ました……

曇らせタグを追加しようか悩みましたが、後の展開(再会した時)を考えて保留にしました。

え?褪せ人様はどうなるって?
……まぁ、良い奴だったよ

それではどうぞ


階段側である小さな無数の魔法陣からは、百体を上回る骸骨の魔物“トラウムソルジャー”が溢れ、しかも一メートルほどの魔法陣はその数を減らすことなく、未だに骸骨を呼び出し続けている。

“トラウムソルジャー”は空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。

 

しかし、反対側の通路側から出現した魔物は誰の目から見てもヤバイと思わせる物だった。

 

体長十メートル級の四足に瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っている魔物〝ベヒモス〟は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げ……ようとした

 

「グルァァァ「ふん!」ギャアァアア!?」

「浩介!」

(さーて……やろうじゃないか)

 

何を隠そう俺が、咆哮を上げようとしたベヒーモs……間違えたベヒモスの顔面目掛けて両手に持った2つの『失地騎士の大剣』を叩きこんで咆哮キャンセルをしたからだ

 

……卑怯とは言うまいな()

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 僕達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 僕達も……何より遠藤が!!」

 

「……オレグさん任せた」

「……」コクッ

 

後ろの“トラウムソルジャー”はオレグさんが何とかしてくれるだろう……いや何か既に一部蹴散らされてるんだけどね?!

 

「あ……貴方は一体……」

 

メルド団長がオレグさんが何者かを訪ねたので俺が代わりに答えた。

 

「メルド団長!その人は味方です!その人と一緒に行動してください!!」

「……分かった!だが、遠藤は!?」

「……大丈夫です!少し相手したらそっち行きますんで!!」

 

“トラウムソルジャー”を巧みな剣術でバッサバッサと蹴散らしていくオルグさんを一瞥して大丈夫と判断した俺はベヒモスに意識を向けた

 

「グルルルル……!」

「怒り心頭……って言った感じか?……ボスとして出るなら【暴獣、ベヒモス】と言った所か?」

 

俺はメルド団長に宛てた手紙を『スローイングダガー』に括り付けてメルド団長の足元目掛けて投擲した

 

「グルァァァァァァァァァ!!!!」

「……行くぞッ!!」

 

俺は2本の『失地騎士の大剣』を胸の前で交差するように構え、切り開くようにしてベヒモスに向かって行った。

 

 

◆◆◆

 

「す……凄い……!!」

「遠藤もそうだが……遠藤と同じような装備をしたこの騎士は一体……?!」

 

メルド達は上階への階段を目指して撤退しようとしていた。しかし彼らの意識は、遠藤浩介と彼が呼び出したと思われる騎士に向いていた。

 

襲い来る無数のトラウムソルジャーに果敢に立ち向かい、その嵐のような剣技で持っていともたやすくトラウムソルジャーを葬るその姿は正に英雄と呼ぶにふさわしき存在だろうとメルドを含めた戦闘のベテランたる騎士たちさえもその剣技に思わず舌を巻いた

 

また、たった1人でベヒモスを相手取っている遠藤にも注目が集まっていた。

 

確かにステータスプレートに書かれていたステータスはクラスの中では一番だったが、いかにステータスが高かろうと彼は争いを経験したことが無い子供の筈だ。

しかし、ベヒモスの攻撃を難なく回避してはそのすれ違いざまにお返しと言わんばかりに連撃を叩き込むその姿からは歴戦の勇士であることを彷彿とさせた。

 

……彼らは知る由もない。遠藤浩介(褪せ人)地獄の鬼も裸足で逃げ出すような魔境(狭間の地)で様々な猛者たちを相手取りそして打ち勝ってきたことを。数々の異形の生物や半神(デミゴット)、果てには神に等しき存在(黄金律)まで打ち倒した正真正銘の英雄であることも彼らは知らない。

 

遠藤たちの活躍にあっけにとられていたクラスメイトも、トラウムソルジャーを殲滅しているオレグの後に着いていく事にした。その際オレグが討ち漏らしたトラウムソルジャーをクラスメイトは確実に倒していった。

 

「うわぁ!?」

「危ない!!」

 

クラスメイトの1人がトラウムソルジャーの凶刃を喰らいかけた時

 

ガキン!

「……」

「あ、ありがとうございます……」

 

其処に割り込んだオレグが片方の剣で受け止め、即座にもう片方の剣で斬り返してトラウムソルジャーを処理した。そして再びトラウムソルジャーの群れに1人で突っ込み、蹴散らしていった

 

「かっ……かっけぇ……!俺も……あんな風になりてぇ……!」

 

……余談だがこの名も無きクラスメイトは後に憧れたオレグの姿を真似して二刀流を習得しようと必死に鍛錬をしたとか

 

「活路は開いた!皆階段へ向かえ!!」

「待って下さい! まだ、遠藤君が!!」

 

撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。

 

「遠藤の作戦だ! あの騎士がソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん遠藤がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間に遠藤が帰還したら、上階に撤退だ!」

「なら私も残ります!」

「ダメだ! 撤退しながら、香織には他のクラスメイトの治療をしてもらわなきゃならん!」

「でも!」

 

メルドは遠藤から投げられた手紙付きのスローイングダガーに書かれていた内容を思い出し、命令を出した。

 

香織の視線の先には今なお1人でベヒモスに立ち向かい、メルド達にヘイトが向かないようにひたすら攻撃を続けている遠藤の姿があった。

そしてその様子を感じ取ったのか遠藤がベヒモスの攻撃を『猟犬のステップ』で回避しながら大声で叫ぶ

 

「俺なら大丈夫!!香織たちは撤退の準備を!!メルド団長!!お願いします!!」

「……わかった!」

 

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

 

しかし、オレグの存在と何より遠藤の戦っている姿を見て自分たちのやるべきことを理解したクラスメイトは清水の掛け声も相まって比較的冷静に剣だけでなく魔法も使ってトラウムソルジャーを処理していったのだった。

光輝や雫、清水なども持てる力を使って活路を開こうとしていた

 

そして、遂に階段への道が開ける。

 

「皆! 続け! 階段前を確保する!」

 

光輝が掛け声と同時に生徒たち全員が走り出す。ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。オレグは後方に回りクラスメイトの後ろを守った

 

そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせないと光輝が魔法を放ち蹴散らす。

 

その行動にクラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。

 

「皆、待って!遠藤君を助けなきゃ!遠藤君がまだたった1人で戦っているの!」

 

香織のその声を聴いて全員の意識が今なお1人でベヒモスを足止めしている遠藤へと向いた。

クラスメイトは、それを見るや否や遠藤を助けなければ!と意見が合致した。

 

 

……1名を除いては

 

檜山大介。彼は自分の仕出かした事とはいえ、本気で恐怖を感じていた檜山は、他のクラスメイトと違い、直ぐにでもこの場から逃げ出したかった。

 

しかし、ふと脳裏にあの日の情景が浮かび上がる。

 

それは、迷宮に入る前日、ホルアドの町で宿泊していたときのこと。

 

緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。

初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、香織は檜山に気がつかずに通り過ぎて行った。

 

気になって後を追うと、香織は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……遠藤浩介だった。

檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。檜山は香織に片思いをしていたのだ。

 

……原作であればここで『南雲ハジメ』に対して憎悪を向けていただろうが、今回の場合は違った

 

檜山の知る遠藤浩介は、限りなく完璧に近い、自分に持ってない物を全部持っている存在という認識だった。

ここで遠藤が香織と付き合っていたのなら檜山は間違いなく諦めがついていたし、納得していただろう。※なおそうなった場合は血で血を洗う大惨事か遠藤共有化監禁ルートになっていた模様

 

しかし、当の本人の周りには香織に負けず劣らずの美少女達を侍らせるだけでなく、クラスメイトだけでなく学校中の人物からの信頼を勝ち取っていたのだった。

 

……ここで檜山に湧いたモノこそ『嫉妬』と『狂気』だった。

 

自分に持ってない物を持っているだけに飽き足らず、香織の必死のアピール(実際は相当えぐいアピール)を受け流しているにも関わらず、周りの女性陣に現を抜かす(本当に抜かしていたらやばい)『暴君』に檜山は思えた。

 

……捕捉をするが、檜山がそう思っているだけで実際は、ちゃんと全員に隔てなく平等(たまに折檻をされるが)に接しており、現を抜かしている訳ではない。てかしてたらマジでやばいことになってた

 

そしてこのトータスに召喚されて力を持った檜山はこう思った

 

『あの『暴君』を殺せば、香織が俺の物に……』

 

どう考えても頭が可笑しくなったような考えだが、異世界に召喚されたプレッシャーと訓練時に遠藤に返り討ちにされた苛立ちからこうした狂気の考えに至ったのだ

ただでさえ溜まっていた不満は、すでに憎悪にまで膨れ上がっていた。香織が(一瞬だけ)見蕩れていたグランツ鉱石を手に入れようとしたのも、その気持ちが焦りとなってあらわれたからだろう。

 

その時のことを思い出した檜山は、たった一人でベヒモスを抑える遠藤を見て、今も祈るように遠藤を案じる香織を視界に捉え……

ほの暗い笑みを浮かべた。

 

しかし、それに気づけた人物はいなかった

 

 

 

 

(……愚かな)

 

――ただ1人、月の魔女を除いて

 

 

◆◆◆

 

「グオォォォォォォ!!」

「意外にしぶといもんだな……」

 

俺があまり有効打を与えられていないのか、割としぶといベヒモスの攻撃を『猟犬のステップ』で回避しながら時間を稼いでいた

 

(まだか……? いや、準備は出来たようだな……)

 

ちらりと後ろを見ると多くのクラスメイトがそれぞれの魔法を行使しようとしていた。

目の前のベヒモスは正直瀕死の一歩手前だが……やりすぎたか?

 

(……さて、始めるか)

 

次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

俺はそれを確認するとクラスメイトの方に向かって行った。

 

 

……そしてこちらに向かってくるある物を視界に入れると俺は檜山の方を兜越しに見た

 

(案の定、やりやがったな)

 

無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。やったのは当然檜山だ。その表情は下卑た物でとても見ていられるものでは無かった

幾らでも回避する術はあるが、俺はそれを敢えて何もせずに受けた

 

「グッ……!割と威力あるのなこれ……」

 

衝撃で仰け反った俺を待っていたのは最後の悪あがきと言わんばかりにひたすらに暴れまくるベヒモスだった。既に壊れかけの橋でそんな重量の持ち主が暴れたらどうなるのか。答えは明白だった

 

「グウァアアア!?」

 

当然崩れるに決まっている

 

(チッ……なまじ橋の中心付近で戦ってたからどうあがいても向こうにはいけねぇか……ごめんな、皆)

 

俺は心の中でクラスメイト(檜山を除く)と雫、香織、はじめ、光輝、恵理、そして清水に謝った。……最もこの心の声は誰にも届かないがな

 

一番近くにいたはじめちゃんがメルド団長と清水に押さえつけられながら叫んでいた。……清水も悲痛な表情を浮かべながら感情を押し殺して必死にはじめちゃんを押さえていた。

他にも俺の耳は、はじめちゃん以外の悲痛な叫びを捕らえていた

 

「いやぁアアアアアアア!!!!」

「待て!!遠藤を追うな!!」

「離して!!浩介が、浩介がぁああああああああ!!」

 

 

……はじめちゃんの悲痛な叫びを聞ききながら俺は奈落に落下していった。

 

 

さーて、どう落とし前をつけさせてくれようか?

 

俺は届くはずのない本気の殺意を檜山に向けながら落下の衝撃に備えた

 

 

(……あれ?待てよ?これ普通に死ぬんじゃね?)

 

原作とは違ってかなりの重量がある『失地騎士』一式を身に纏い、尚且つ褪せ人(フロムゲー主人公)である俺が高所から落下したらどうなるか

 

 

Q.フロムゲー主人公が高所から落下したらどうなります?

A.死にます(無慈悲)

 

 

「(あーハイハイ成程。詰まる所即死k)(断末魔)」

 

次の瞬間俺の意識は暗闇に沈んだ。

 

YOU DIED




何となく最後のシーンでエルデンリングのチュートリアルを思い出した投稿者でした

褪せ人様が落下した後のはじめちゃん達が悲惨なこと(誇張無し)になるのはは言うまでもありません

ラニ「……阿鼻叫喚とは正にこのことだな……」

これが次回の惨状を見たラニ様の反応です。既に嫌な予感がしてますが、何とかしてくれるでしょう(投げやり)


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原作の数百倍はハードモードだと言い切れる自信がある by数の暴力を受けた褪せ人

閲覧ありがとうございます!

今回はオリジナルのアイテムが登場しますが、その分褪せ人様のトータス攻略難易度が跳ね上がるので問題ありません

初っ端からオリジナルの視点があります。

それではどうぞ


――??side

 

……暗い

 

もうどれだけここにいるのかもわからなくなってきた。裏切られてからどれだけ長い間封印されてきたのかもわからなかった。

……国の為に頑張ってきたのに家臣の皆からも、そしておじ様からも裏切られ、殺すことができないからって私をここに封印してからどれだけの月日が流れたんだろ?

 

光一つない真っ暗闇の中で私はあとどれだけいればいいの?

 

だれか、助けて……

 

 

……そんなことを考えていたある日、私が封印されている扉の外が何やら騒がしいことに気づいた

 

なんだろ……と考えていると私を封印していた扉がゆっくり開き始めた

 

「マジで真っ暗闇だな……先が殆ど見えん……」

 

そう言いながら扉の中に入ってきたのは、両手にそれぞれ大きな槌を持った騎士のような人間だった。腰にランタンのような物を付けているから少し明るかった。

 

「……だれ?」

 

思わずそう尋ねた。気づいて欲しくて、助けてほしくて

するとその人が近寄ってきて私に話し始めた。

 

「……君は一体」

「私は……」

 

それから私は自分がなぜここにいるのか、そして私の知っていることを教えた。……話終えた時に私は必死に助けてほしいことを伝えた。

 

もう一人は嫌!

 

何でもするとも言った。それだけ私は彼を逃したくなかった

 

 

するとその彼は、すぐさま私の傍に来ると

 

「もう大丈夫だ!」

 

そう言って私を封印していた立方体のような物に触れ、彼が苦悶の声を上げながら声を掛けたその時、

 

「……なぜかって?!」

 

私を封印していた立方体のような物が一瞬でどろっと液体のように融解して、地面に落ちた。

そして彼は力強く私に言ってくれた

 

俺が来た!

 

……これが私と彼……浩介との出会い

暗闇に光が差し込むようなそんな出会いだった。

 

まるでおとぎ話のような展開だった。

 

囚われの私を助けに来た騎士である浩介……私は二度とこの光を手放さないことを決めた。私だけの救い

 

……正直不確定要素しかない筈の私を何の疑いも無く助けたのはなぜ?と浩介に聞いてしまった。

 

嫌われるかもしれない……

その心配は無用だった

 

「うん?何で助けたかって?君が助けを求めていたからかな」

「……私が怖くなかったの?……あんな部屋に封印されていた私を……」

 

……私は怖かった、この人に捨てられるのが。助けてもらったのにこれはあんまりではないかと思っていた矢先

 

「別に?怖くないよ?(もっと怖いのがいたから)」

「で……でも……」

 

「……何より君が一番怖かったんじゃないか?」

「……ッ!」

「暗闇の中でただずっと独りぼっちで長い間封印される……正直俺もそれは怖いかな(死ぬのは良いけど封印は勘弁)」

 

 

そう言って浩介は、私を抱きしめながら頭を撫でてくれた。

 

「大丈夫。もう君は独りじゃない。俺が着いている

 

……私は嬉しさのあまり、久しぶりに涙を流した

 

「名前……」

「え?」

「……名前、付けて、私の」

「……良いのかい?」

 

「もう、前の名前はいらない。……浩介の付けた名前がいい」

「うーん……」

 

浩介が真剣に考えてくれている(※何回目のやらかしかと思っているだけ)

 

私の事で必死に悩んでる(※原作通りに付けるべきか否かを考えているだけ)

 

その事実が、私を震わせる。私という存在が彼に刻み込まれていることを実感した。

 

「……“ユエ”君の名はユエだ」

 

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

「俺の(二番目の)故郷で“月”を表すんだ。理由は……そうだね、君の綺麗な金色の髪と紅い眼から連想したからかな(大嘘)」

 

この時を以て私は“ユエ”になった。浩介の考えてくれた名前でこれからずっと浩介の傍に……そう考えると胸の内が温かくなってきた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

「よろしくユエ……取り敢えず、これ着てくれるかい……?(『黒き刃』一式)」

「……?」

「え?何で首を傾げてるの……?」

 

……?私に恥ずべきところは無いし、浩介に見せても別に問題ない。って言っても浩介が懇願してきたので仕方なく着る。むぅ……

 

「……また後で良い物を見繕うから取り敢えずそれで我慢してくれる?」

「……♪」

「あれ?聞いてる?!ちょっ……聞いて(懇願)」

 

これは浩介からの贈り物、着替えることはあっても絶対手放さないことを誓った。

 

 

 

――この日私は浩介という救いを得た。浩介と一緒ならどんな困難でも乗り越えられる自信が、いや確信があった。

浩介の隣に立つのは私だけだ。他人が入り込む余地など存在しないし作らせない

 

 

だから……

 

私の浩介に寄るな有象無象共が

 

 

 

◆◆◆

 

――褪せ人side

 

奈落に落ちて無事YOUDIEDした俺は、冷たい感覚で目覚めた。どうやらあのままYOUDIEDした後川に流されていたようだ

……その時の様子はどこぞの『ヒ●ロ・ユイ(つづく)』のようだったとか

 

お陰様で全身がびしょ濡れだが、返り血に濡れるか水に濡れるかの些細な違いだったため無視した。まぁ、風邪ひいても最悪どうにかなるからと放っとくことにした

 

「さて、行きますか……」

 

ゆでエビを1つ取り出して食べた俺は、まずは『神水』を目指すことにした

 

「ここの奴は何落とすかな……楽しみだ」

 

疼く収集癖に身を震わせながら俺は探索用の装備に着替え通路を進み始めた

 

それから暫くして例のウサギが現れた。原作でも頭の可笑しい蹴りを見せたこの蹴りウサギだが、案の定俺を見つけるや否や蹴り掛かってきた。

 

「俺を殺したければ数の暴力で来るか、ルーンベアとか連れて来るべきだったな!!」

 

 

……それがフラグになったのか通路のあちこちから無数の蹴りウサギが湧いてきた。たちまち周囲は無数の蹴りウサギで覆われ俺は思わず天を仰ぎ見た

そして俺は兜の下でどこか悟ったような表情をしながらとある言葉を言った

 

F●ck(クソが)

 

次の瞬間俺に向かって無数の跳び蹴りが殺到した。

 

(あっ、この光景既視感あると思ったら【モーグィン王朝】の動物たち(畜生共)に囲まれた時と同じだナー)

 

……なんやかんやあってその後俺は『猟犬のステップ』を駆使してこの理不尽な包囲網から抜け出すことに成功し、一本道で『彗星アズール』をぶっぱすることで何とか切り抜けられた

 

「はぁ……はぁ……何とかなっt「「「……グルルル」」」……マジで?」

 

声がした方を振り返ると原作でハジメの左腕を切り落とした爪熊がスタンバってた。……しかも3匹。なんで?(殺意)

 

(……もしかして俺トータスじゃなくて狭間の地にいるのでは……?)

 

現実逃避をしていた俺だが、爪熊が3匹同時に襲い掛かってきた為半ばやけくそ気味に『屍山血河』を握りながら叫んだ

 

「「「グルァァァァァ!!」」」

「やってやる……!やってやるぞ!!この畜生共めがぁああああああ!!!!」

 

この後ひたすら『死屍累々』した

 

 

 

◆◆◆

 

――数時間後

 

「……チカレタ」(疲労困憊)

 

あの後更に追加で爪熊が2匹参戦し、久しぶりに感じた理不尽に半ば絶望しながらもあの状況を切り抜けた俺は既にボロボロだった。FPは既に枯渇し、『聖杯瓶』も『霊薬瓶』も枯渇した。

そんなこんなで数の暴力を退けた俺は『祝福』を見つけて触れた。俺は既に真っ白に燃え尽きていた。

 

「……こんなにマゾかったっけ……?明らかに難易度が壊れてるんだよなぁ……絶対……」

 

そしてふと足元を流れる水のような物が気になりその先に視線を向けると、そこにはバスケットボールぐらいの大きさの青白く発光する鉱石が存在していた。

その鉱石は、周りの石壁に同化するように埋まっており下方へ向けて水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう

 

……はいどう見ても『神水』です。本当にありがとうございました

 

「……まだまだ先が長いな…………心が、折れそうだ……」

 

 

『神水』を眺めていた俺はふと思いついた

 

「……あれ?これ聖杯瓶に混ぜたら効果上がるんじゃね?」

 

神水を飲んだ者はどんな怪我も病も治るという。欠損部位を再生するような力はないが、飲み続ける限り寿命が尽きないと言われており、そのため不死の霊薬とも言われている。

……だったか

 

「これほどまでの再生力……そりゃあ原作でも重宝するわな。褪せ人でいう『聖杯瓶』のような物だからな……」

 

「……混ぜるか」

 

そして神水を汲み取り、『聖杯瓶』に混ぜた結果……見事『聖杯瓶』が+12から+13になった俺は思わず飛び上がって歓喜した。

さらに原作でもやっていたように『神水』単体を詰めておくことを決めた俺はその場に座り、『壺』や『調香瓶』で培った経験を生かして新たな瓶を創り始めた。

 

 

……それから暫くして

 

「……出来た……名づけるなら『神水瓶』といった所か……」

 

背後にはアイテム製作の過程で使い物にならなくなったり、ゴミと化した素材が山のように積まれていた。だが、それでも『聖杯瓶』サイズの『神水瓶』が出来たのだ。

 

「……まぁ、上出来だろう。ここに『祝福』が通っているし、いざとなればまたくれば良いか」

 

よっこいしょ……と立ち上がり、探索を続けることにした。

 

「……今の俺は負ける気がしねぇ!!」

 

この後明らかに原作より多くの魔物の集団に襲われたり、追い打ちをかけるかの如く爪熊の群れに遭遇し、肉体的にも精神的にも死にかけることになった。

……世の中そんなに甘くないのな(瀕死)

 

「もう熊は見たくない」

※この後更にもう6回ほど熊の群れ(他の魔物のおまけ付)に遭遇しました。ガッデム

 

 




『神水瓶』

褪せ人が壺や調香瓶を製作してきた過程で得られた技術を結集して作られた瓶

神水を満たし、使用することでHP、FP共に回復する
しかし祝福で休んでも補充されず、また飲み干した際は直接汲みに行く必要がある

奈落の底に落ち、理不尽の果てに待ち受けたその液体は
その名の通り嘗て神がこの液体を以て民の傷を癒したという逸話に恥じぬ効力を有するだろう
最も、その神が本当に『神』であるかは不明だが


聖杯瓶のフレーバーテキストを参考にして書いてみました。ゲームだと一回しか使用できず、また作るためにはもう一度指定の場所に行かなきゃ手に入らない仕様になりますね。

要するにダクソでいう『女神の祝福』ですね

こんなチートアイテムを出したので褪せ人様には原作のハジメより肉体的にも精神的にも苦しんでもらいます(無慈悲)

褪せ人「え?」
背後にいるヤンデレs「……」

またしても目撃してしまった清水「帰りたい(切望)」


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回復!吸血!か、回復!吸血!!……もう勘弁してください

閲覧ありがとうございます!

今回は視点がかなり変わるのでご注意ください

褪せ人様って『祝福』に触れると全回復するんだよな……あっ(察し)ふーん……

それではどうぞ


「はぁ……はぁ……やっと着いたぞ……クソが……」

 

息も絶え絶えになりながら漸く50階層まで到達した俺。既に体がボドボドになっているが、漸くたどり着いた……

まさかあの後追加の爪熊の群れに襲われたり、階層にいる魔物の抗争に巻き込まれるとは思わなかった(瀕死)……やはり『霜踏み』は偉大だった

 

でももう、勘弁してください(悲願)最後に『祝福』に触れたのは40階層なんです……

 

「……でだ、ここが例の場所か」

 

俺の目の前にある脇道の突き当りにある空けた場所には、高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していた。

……ボス戦ですねこれは

 

「……差し詰め【双璧のサイクロプス】といった所か」

 

正直こいつらは、あの吐き気を催す邪悪こと『神肌のふたり(ふたりは神肌)』よりかはマシな部類だと言える。いや断言できる。

 

「……聖杯瓶も残り少ない……じゃあゴリ押すか(IQ低下)」

 

俺は片手に『巨人砕き』をもう片方に『腐敗した大斧』を持ち、ポケットには『勇者の肉塊』そしてタリスマンはジャンプ攻撃を強化するいつもの構成にした。

そしてゆっくりと扉の部屋に進んでいった。

 

「神肌よりはマシ……神肌よりはマシ……」ブツブツ

 

 

【この先筋肉があるぞ】

 

 

◆◆◆

 

――第三者side

 

扉の部屋にやってきた遠藤は油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

そして遠藤は主に『勇者の肉塊』をほおばり、『黄金樹に誓って』をしてゆっくりと扉に触れた。

 

バチィイ!

「痛っ!」

 

扉に触れた瞬間に扉から赤い放電が走り遠藤の手を弾き飛ばした。そして

 

――オォォオオオオオオ!!

 

扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようと遠藤の方に視線を向けた。

 

だがその瞬間を見計らって遠藤は跳躍しながらサイクロプスに向かって……

 

「こんにちわ死ねぇええええええ!!!!」

「!?」

 

ドッグォオオオオオン!!!!

 

途轍もない速度と共に振り下ろされたその殺意の塊は、たちまちその場にクレーターを作り、サイクロプスは肉片残らず消滅した。まるで隕石が衝突したかのような跡地には拳大の魔石しか残らなかった。

そしてその様子を見ていたもう片方のサイクロプスが辿った末路に恐怖しながらも遠藤の殺意に漲った視線に怖気づき、逃げ腰になった。

 

 

おかしい、絶対可笑しい。なんだあれは、なんだあの殺意の化身は!!誰か助けて!!

 

 

しかしそんなサイクロプスの願いが届くはずもなく、遠藤が笑顔を浮かべながら逃げ腰になっているサイクロプス目掛けて跳躍して……

 

「(死の)お届け物でぇええええす!!!!」

「オオオォオオオオオオ!!(く、来るなぁあああああ!!)」

 

ドッグォオオオオオン!!!!

 

 

「……やはり暴力……!!暴力は全てを解決する……!!」

 

な ん だ こ れ

 

 

◆◆◆

 

あれから俺は、()()()無事だった二つの魔石を組み合わせました。それにしてもよく形状を保てたなこの魔石……

まぁ、砕けた所で今度はこの扉に矛先が向くわけで……運が良かったな

 

そして案の定魔石はピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸ほとばしり魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

「マジで真っ暗闇だな……先が殆ど見えん……」

 

あらかじめランタンを付けていたが、普通に松明でも良かったか?……いや二刀流出来ないから良いか(脳筋)

で、確かここには例のヒロインがいた筈だが……

 

「……だれ?」

 

うおっ!素直にビックリしたぞ……

 

そう思いながらも目の前の少女……ユエの話を聞いた。ここら辺は原作通りだな……(気になる人は原作を読んで、どうぞ(唐突のダイマ)。)

それから俺はユエを助けることにした。

 

え?裏切られる心配があるだろって?

 

大丈夫大丈夫。裏切られた程度では動揺しないから(前例あり)それに万が一裏切られて殺されても復活できるしヘーキヘーキ(脳裏に過るギデオンとの闘い)

……ただあのハゲ(パッチ)は許さん(脳内に過る例の場面)

 

話を戻して……俺は原作と同じくユエと名付けた。それから目のやり場に困るためパッと浮かんだ『黒き刃』一式を渡したら、まさかの拒否された。

……あれ?原作でこんなことあったっけ?

 

そんなことを考えていると褪せ人としての本能からユエを抱えてその場から跳んだ。俺が跳んだと同時に天井から降りてきたのは例のサソリだった。

 

(そういやこいついたな……)

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。

 

このサソリはいわば最後の防衛装置といった所だろう。今ここで俺がユエを手放せば逃げられる。そういう仕組みなんだろう

……ここまで言っといてなんだが、当然逃げるつもりは無い(断言)

 

「……名づけるなら【猛毒の番人】といった所か?」

「浩介……?」

「ユエ、捕まっててくれ」

 

俺はユエにしっかり捕まっておくように伝えた。……すぐさま凄まじい力と共に俺に抱き着いてきた。あれ?やっぱりどこかおかしいような……?

 

まぁいい(良くない)

 

このサソリは全身が硬い甲殻で覆われているから切断では無理か……かといってユエも背中に背負っている状態で二刀流はちとキツイか。有効になるのは属性……じゃあこいつの出番か

 

「カモン『王家のグレートソード』『金装の大盾』」

 

俺の手に握られたのはカーリア王家の意匠が施されたグレートソード……元々の持ち主はラニ様に仕えていた『半狼のブライブ』の物だが、使わせてもらうことにした。

FPも殆ど無くて、青雫の聖杯瓶もあと1個しかない状況だからこそ短期決着を狙うことに決めた

 

盾に関しては、『猟犬のステップ』用と咄嗟の防御用に且つはユエを覆えるだけの大きさを持つこいつを採用した。

 

「キィシャァァアア!!」

「さぁて……やろうか!!」

 

フロムでも稀に見る鬼畜連戦が始まった。

 

 

◆◆◆

 

――ユエside

 

「キィシャァアアア!!」

「はあぁああああ!!」

 

ガキン!

 

私を背負っている状態でも目の前のサソリモドキと互角以上の戦いを繰り広げる浩介を見て私は素直に驚愕していた。

 

(強い……!まるで修羅場をくぐり抜けてきたかのように……!)

 

時折浩介から放たれる強烈な冷気を纏った一撃をサソリモドキに与えつつ、サソリモドキから放たれる散弾針と溶解液を素早い身のこなしで躱しつつダメージを与えている。だけど……

 

「はぁ……はぁ……流石にキツイか……!」

 

どうやら浩介の魔力が尽きかけている様で、さっき浩介が飲んでいた青色の液体さえも枯渇してしまったことを考えると、これ以上は幾ら浩介でも不味い……!

サソリモドキも尻尾が切断されていたり、全身に凍傷らしき傷が見えていて互いに限界といった所なのは一目瞭然だった。

 

加えて浩介はここに来るまでに相当消耗していた筈……だとすれば今の浩介はかなり危ない!

私は思わず、浩介にどうしてここまでしてくれるのか抱き着きながら聞いた。浩介は息も絶え絶えに私に言ってくれた。

 

「はぁ……はぁ……言っただろう……?俺が着いていると!

「!!」

「大丈夫。例え俺が死んでもユエだけは外に逃がして見せる」

「浩介……!」

 

守られてばっかりでいいの?自分を必死に守ってくれている人におんぶにだっこでいいの?……このまま浩介が死んでもいいの?

 

そんなの良くない!!

 

「キィシャァアアア!!!!」

「ぐうッ……!」

「浩介!!」

 

サソリモドキの鋏の連撃を躱していたいた浩介だけど、遂に()()使()()()鋏を受け流すことをし始めた。しかし疲労困憊の浩介では完全には受け流せずダメージが蓄積し始める

既に浩介の魔力は限界にきている筈……その証拠にさっきまで使っていた瞬間移動に等しい回避を使わなくなった辺りからもう限界が近いことが分かる。体力は浩介が飲んでいた赤い液体で回復されたようだけど……

 

恐らくあの一撃をもう一度放ったら浩介の魔力は枯渇する……だから私は浩介を助けるための行動をした。

 

「浩介……信じて」

「……元より信じてるよ」(HP1500/2100 FP40/450)

 

私は浩介の首元に噛みついて血を吸った……

 

(何これ!?何この味!!これまで感じたことが無い程美味しい!!)

 

浩介の血を吸った瞬間脳にこれほどまでない程の快楽が襲った。血の一滴一滴にまで全身に染み渡ってくる快楽の暴力……この感じを表すなら『極上の美味が絶え間なく襲ってくる万人が病みつきになるような味』だった。

もう私は、浩介の血以外を飲んでも不味いと感じる……絶対そう言い切れるほどに浩介の血は熟成されていてこれ以上の無い程の快楽を私にもたらした。もうこれは責任を取ってもらって嫁にしてもらうしか……

 

「あ、の……ま……だ……?」(HP1/2100 FP0/450)

「あっ、ごめんもう大丈夫……ありがとう浩介」

 

……どうやら吸い過ぎてしまったみたい。浩介は息も絶え絶えになっていて顔色も青ざめていた

 

そうして私は全身にみなぎる魔力をサソリモドキにぶつけた

 

「〝蒼天〟」

 

その瞬間、サソリモドキの頭上に直径十、十一メートルはありそうな巨大な青白い炎の球体が出来上がる。

ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、既に瀕死のサソリモドキに直撃した。

 

サソリモドキが声を上げる間もなく着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。

やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。跡には、サソリモドキがいたであろう痕跡すらなかった。

 

(……あれ?こんなに強かったっけ?)

 

私は〝蒼天〟を撃ったはずなのにまだ余力があることから浩介の血がそれだけ凄まじいものだったことを改めて認識して浩介にお礼を言おうとしたけど……

 

「コヒュー……コヒュー……」(瀕死)

「浩介えええええ!!!!」

 

そこには既に今にも死にそうな1秒前(別名オワタ式)と言った感じの浩介の姿があった。さっきまでの戦いぶりが嘘のように酸素すらまともに取り込んでいないような息遣いをしていてもう正に死にそうになっていた。

 

「……い、今、何されても……死ぬ……気が、する……」

「浩介ぇええええ!!死んじゃ嫌ぁああああ!!」

「あっ……不味……い、意、識が……あ……祝……福」

 

この後サソリモドキがいた場所に座ったかと思うと、突然回復した浩介を見て、心配させた罰として更に血を吸った。

 

「……ごちそうさま♡」

「……可笑しい……『祝福』で回復した筈なのに……もう、瀕死に戻ったんだが……?」(HP1/2100 FP0/450)

 

浩介によるとその『祝福』という物は『褪せ人』という存在にしか見えないらしく、『褪せ人』である浩介がそれに触れると全回復するそう。

 

……へぇ……?

 

つまりは無限に血が吸えるってこと? と言ったら青ざめながら

 

「どうか、本当に必要な時だけでお願いします(涙目)」

「……考えておく」

「検討もしてください……」

 

――これで実質私達は夫婦になった。

 

浩介()()を助けて、()浩介()を助ける。まさに理想の夫婦像。

 

誰にも邪魔はさせない




この後もう2回絞られた

ユエ曰く褪せ人様の血は依存性が極めて高く、かつ極上の味が絶え間なく襲ってくるちょっとヤバめのお薬よりも更にやばいとのこと

そしてなんだこの無限ループはたまげたなぁ……(畏怖)

ちなみに褪せ人様の血を吸った所為で原作よりステータスが可笑しいことになってます

そりゃあ狭間の地を巡って様々な死闘を繰り広げて美味いもんを喰ってきた褪せ人様の身体と血はヤバくなるでしょうよという考えの下今回の話が展開されました。



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一方そのころ地上は地獄と化していた

閲覧ありがとうございます!

今回は褪せ人様が落ちた後の地上の様子になっております

流石に褪せ人様だけでこの難易度フロムの世界全域をカバーするのはほぼほぼ不可能(やろうと思えばできる)なので味方側を強化することにしました。

それではどうぞ


「「……」」

 

遠藤がユエと共にサソリモドキを攻略していた頃とある一室にて清水とラニは無言で佇んでいた。……いや現実逃避していたの間違いだった。

 

「どうしてどうしてどうして遠藤君どうしてどうしてどうして遠藤君……」

 

雫は現実を受け入れられず虚ろな目をしながら帰ってくるはずのない問いかけを延々と繰り返していた。しかし雫はまだマシな方であった。

 

アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」(SAN値0)

 

香織に至っては狂気の笑い声をこちらも虚ろな目をしながら部屋に響かせていた。どうやらSAN値が0になり発狂してしまったようだ。

回復が出来るのは今はここにいない遠藤のみである(無理難題)

 

「浩介何とか生き残れたね!あれ、浩介?何で返事しないの?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ……

 

はじめに関しては、啓蒙が高まりすぎたのか知らないが、どうやら遠藤の姿が本人には見えているらしく虚空に向かって喋りかけていた。

アメンドーズもビックリである

 

「……」

 

一方光輝は、遠藤の服や荷物を自分の周りに敷き詰めそれに蹲っていた。具体的に言うなら遠藤が使っていた枕に顔を埋めながら遠藤の上着を毛布のように掛けて、包まっていた。

こちらが無害な分まだいい方だと思っているが、こっちも十分おかしいのである(正気)

 

「ブツブツブツブツ……」(部屋の隅でブツブツと呟いている)

 

恵理は部屋の隅に頭を打ち付けながら何かをブツブツと呟き続けている。こわい(直球)

 

……この一室には凝縮された地獄が展開されていた。その光景を目の当たりにした清水は

 

「俺も発狂していいか?」

「貴公はせめて正気であってくれ」

 

 

 

――時は遡って遠藤が落下した直後

 

ハイリヒ王国王宮内、召喚者達に与えられた部屋の一室では……混沌が発生していた。

 

「し、しっかりしてください……皆さん……(泣)」

 

アハハハハハハハハハハハハハハハハ!!

キャハハハハハハハハハハハ!!

 

愛子先生が泣きながら見つめる先には、泣き叫びながら狂乱する雫と香織が、そしてはじめは

 

「ま、待て!早まるな!!おい!誰か手伝ってくれぇ!!」

「離して!!早く浩介の下に行かせてよぉ!!!!」

「おぃいいいいいいいい!?誰かぁ!もっと、もっと人手をおぉぉぉぉぉ!!!!」

 

ボロボロと涙を流しながら剣の刃先を首元に押し付けて今にも自害しそうになっていた。それを必死になって止めているのはメルドといち早く復帰した龍太郎であったが予想以上の力で押し込まれるそうになる刃に大苦戦を強いられていた。

 

「……グスッ」

「はぁ……はぁ……漸く眠ったか……」

 

一方光輝もはじめと同じく自害しようとしていた為同じくいち早く復帰した清水の闇魔法によって眠りについていた。しかし元々高ステータスであり魔法耐性を持っていた光輝を眠らせるのに清水は全魔力を使用した為【オルクス大迷宮】にいた時よりも疲れていた。その光輝は眠りながらも涙を流しており、その光景を見て胸を痛めるクラスメイト達が多発したのだった。

 

……ちなみに今の光輝が見ている夢の内容は、『これまでの出来事が全て夢であり、いつもと変わらず楽しくデートをしている自分と遠藤』という目が覚めたら覚めたで発狂案件な内容になっていることはまだ闇魔法に精通していない清水にも計り知れないことである。

 

「あのー、中村さん……何してます?」

「んー!!んー!!」

 

一方恵理は今回の大戦犯こと檜山を縄で縛りどこかで見たことあるような魔法陣らしき物を描いていた。口を塞がれている檜山は俯いている恵理の表情が見えているのか恐怖で引きつった顔をしながら必死に藻掻いていた。

そして恵理は両手で印を結びながら魔法陣に魔力を込めだしていた。魔法陣には遠藤の物らしき髪の毛が添えられていた。

 

「……王様が読んでた漫画にね、生きている人に死者を憑依させる術があってね……」

「まさかの穢●転生!?待って待って待って待って!?流石にそれは洒落にならないって!!」

「辰……掌……これで……」

「だ、誰かぁあああ!!中村さんを止めてぇええええ!!」

 

そうこうしているうちに印を結び終えた恵理は『穢●転生の術!』と宣言したが、魔法陣には変化が無かった。

 

「……まだ未熟ね私も」

「んー!!んー!!!!(こんなはずでは……こんな筈では……!!)」

「と、止められたことを喜ぶべきか……そうでないべきか……!?」

 

 

あの日、迷宮で死闘と喪失を味わった日から既に四日が過ぎている。

あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。

 

クラスメイトは心の支えを失い皆沈んでいたが、それ以上にやばいこと(発狂、自害未遂、生贄…etc)になっている特定多数を見て正気に戻り互いにメンタルケアを試みる、自分がしっかりしなければと明日への希望を何とか見出した者もいた。

 

 

清水もその内の1人だった。

 

『後のことは頼んだ』

 

それが最後にした会話になるとは思わなかった。もっと沢山馬鹿をやりたかった。もっと何気ない日常を噛み締めたかった。……何時か一緒に酒も飲んでみたかった。

等々悔やんでも悔やみきれないことばかりで気を落ち着かせるためにいつも飲んでいたジュースを飲んでも

 

「ははっ……不味いな……塩っぱくて飲めたもんじゃねぇや……」

 

己の舌が感じるのはグラスに注がれるジュースの味と……涙の味だった。ふと顔を上げて鏡を見るとそこには普段よりも顔色を更に悪くした自分が写っていた。

 

「……あいつにどやされるな……こんな顔……ははっ……」

『後のことは頼んだ』

 

「……あぁ……いいさ、やってやるよ……」

 

ゆっくりと立ち上がりながらドアを開けて今頃あいつが居た部屋に押し入っている皆を正気に戻すために魔力を漲らせた。

 

……原作においても負の感情で強くなった清水だが、今の彼はそれに近い状態にまで彼の力は進化の一途を辿っていた。今の自分なら彼女たちを少しでも正気に戻せるだろう。そんな確信と漆黒に輝く目を持ちながら清水は部屋を後にした。

 

「俺が、あいつらも……皆も守る……!」

 

 

――そして冒頭に戻る

 

「で、どうしよう……まさかこれ程までに悪化してるとは……え?俺の闇術通じんの?これ?」

「……ちょうど貴公も来たし、始めるとするか」

「え?なんの話!?」

 

明らかにやばいことになっているであろう遠藤の部屋に入る前に遠藤の伴侶を名乗っていたラニという人物が警告するように清水に言ってきたが、約束を果たすためと告げると素直にドアを開けた。

……その先には自分の想像の数十倍ものの地獄が展開されていたことに心が折れかけた清水だが、ラニの声で正気を取り戻せた。

 

そして、ふと清水がラニを見ているとその両手にかなりの大きさの袋が清水を含めた人数である6つ分の袋がそれぞれの近くに落とされた。

その音や大きさから察するに何やら武具のような物が入っているようだ。

 

「……ここで見た物、聞いたことは多言無用だ。さぁ小娘共そして貴公、我が王からの贈り物を受け取るがよい」

「「「「!!」」」」

「浩介の……?俺にもあるのか……?」

 

試しに清水が袋の中から取り出したのは何やら杖のような物だった。

 

「なんだこれ……?ねじれてるが、剣か……?それにこっちは……何かのペンダント?か……?」

 

その杖は狭間の地にて『神狩りの剣』と呼ばれている剣と『神狩りの聖印』と呼ばれており、それらを手に持った瞬間清水の脳裏に膨大な情報が流れ込んだ

 

「ガアッ……!?なんだ、これ……?!『黒炎』『薙ぎ払う黒炎』『黒炎の儀式』『黒炎の護り』?!……なんだよ……!これ……!!」

 

清水の脳裏には『神狩りの聖印』で強化される『神狩りの祈祷』の使い方が刷り込まれたのだった。これは清水の天職から習得できるのではと判断した遠藤が選んだのだった。

袋の奥にはそれを更に強化するタリスマンやその他のアイテムが入っていた。

 

そしてふと周りを見てみると、同じように遠藤から何かしらを貰っているのが見えた。

 

その中には柄のない特徴的な刀(マレニアの義手刀)のような物だったり、何やら特徴的な形状の聖印(黄金樹の聖印)であったり、クロスボウや(壺)大砲とその弾丸や、二振りの大きな大剣(星砕きの大剣)のようなものだったり黒く先端に琥珀の石がある杖(死王子の杖)であったり等々

 

どれも遠藤が予め選んでいたであろう装備が詰め込まれていた。そして袋の奥にあった手紙にはそれぞれに宛てた内容が記載されていたようで部屋のあちこちからはすすり泣くような声と大声で泣く声が聞こえてきた。

 

「俺にも……あるのか……中身は……」

『マイフレンド清水へ お前がこの手紙を読んでるということは俺が予め渡した装備を既に受け取っている頃だろうZE☆』

 

「ノリが軽いッ!!なんだマイフレンドって!?」

『多分今頃マイフレンドってなんだ!?って言っているのが目に見えてるぞ』

 

「怖っ!?なんで分かるんだよ!?」

『あんまり長々と掛けないから結論だけ言うと、俺は生きてる』

 

「……は?」

『まぁ、色々言いたいことはあるだろうが、俺はトータスで起こっている異常事態を解決しなきゃいけねぇ。あれは俺にしか出来ないことだからな』

 

「……なんだよそれ。なんで俺たちに言ってくれないんだよ……何で……頼ってくれないんだよ……!」

『……申し訳ないことをしたのは分かる。だが、どうか皆を守ってくれないか?現状お前にしかこれは任せられないからな』

 

清水は文章を目で追って行くうちにだんだんと視界がぼやけているのが分かった。清水の目には涙が浮かんでいた。

 

どうして誰にも言わなかったんだ。どうして誰にも頼らなかったんだ。どうして……俺にも言ってくれなかったんだ。と遠藤に対する怒りと自分の不甲斐なさに腹が立った。

 

『じゃあ、いずれまた会おう 遠藤より』

 

「……お前はいつも勝手に人の内側に入り込んで散々かき乱して、居座るよな」

「初めて会った時もそうだった……お前がクラスで孤立していた俺に話しかけて来て、そこから友達になったんだよな……」

 

そして清水は目を閉じて暫く上を見上げるとかッと目を開き涙をぬぐった

 

「……お前の勝手に、わがままに、付き合ってやる。だから、後でぶん殴らせろ」

 

――この清水の思いに共鳴するかの如く黒炎が少しだけ巻き上がった。

 

 

「……だけど、遠藤……お前……次あったらマジでやばいことになることは分かっているのか……?」

 

若干震えた声で清水は先程の喧騒が嘘のように静まり返った雫たちに視線を向けた。それぞれが遠藤からもらった武具を握りしめて何かを呟いていた。

 

「……次あったら監禁……」

「……既成事実……」

「……手足を切断すれば……逃げないよね……?」

「……絶対逃がさない」

「……心配させた罰受けてもらいます」

 

(怖っっっっわ!!)

「……底知れぬ何かを見た」

 

全員が全員、目に淀んだ光を宿しながら手紙を見つめていた。その光景を見た清水は純粋に恐怖を覚え、ラニは遠い目をしながら遠藤の無事を祈った。

 

「「「「また雌が寄りそった気配が!!」」」」

 

「なんで察知できるんだろう……」

「……ひとえに愛の力という奴だな」

 

……将来付き合う女性はしっかり選ぼうと考えた清水であった

 

 

◆◆◆

 

一方そのころ

 

「『プラキドサクスの滅び』!!」

 

「「「「「「「「「「「「ギャアアアアア!!」」」」」」」」」」」」

 

「強靭!無敵!最強!フハハハハハハ……ハァッ!?」

「どうしたの?浩介?血吸う?」

「い、いや何か悪寒が……アッ待って、今の状態で血を吸うのは流石に勘弁……「ガブッ」ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」(汚い悲鳴)

 

とある階層にて二百体近くの魔物を一掃していた遠藤だが、突然言い様のしれない悪寒に襲われた上にユエの吸血で精神的にも肉体的にも瀕死になっていたのだった。

 

「はぁ……♡美味しかった♡」

「はぁ……はぁ……可笑しい……味方がいないんだが……?!」(HP1/2100 FP0/450)

 

この後聖杯瓶をがぶ飲みした




数日後……そこには、狂ったように魔物を蹂躙していくヤンデレ達の姿が!!
そして清水の胃は死ぬ

ベヒモス「く、来るなぁああああああ!!」
ヤンデレs「殺す。そして糧になれ」
清水「あーもう滅茶苦茶だよ」(神狩りの剣を振り回しながら)
メルド「なんだこれは……」(困惑)
檜山「」(十字架に吊るされ中)

なんだこのカオスな空間は……


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次回褪せ人死す!……何だいつもの事か(感覚麻痺)

閲覧ありがとうございます!
それと感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます!

主人公があれなので大体蹂躙で終わってしまうので話を先に進めやすいなと気付きましたが、許してください

あと大体使う魔術や祈祷が同じものになってしまうのが現状なので何とか他の物も有効活用してあげたいと思うので次回からはそうしていきたいと思います。


それではどうぞ


エセアルラウネを見事爆☆殺☆し、更に5回ほど血を吸われてから数日が経った。その間何度も自分が褪せ人で良かった……と実感したか……

 

……え?エセアルラウネとの戦闘シーンが無いって?

だって……

 

「「『滅びの爆●疾風弾(プラキドサクスの滅び)』!!」」(俺と写し見)

「ジュッ」(エセアルラウネ諸共魔物が蒸発する音)

 

「粉砕!玉砕!大喝采!」「強靭!無敵!最強!」

「「……あ?」」

 

「自分同士で喧嘩しないで……」

 

 

まじでこんな感じだったので……因みにぶっぱしすぎたせいでその階層が影も形もない程に焦土と化しましたが俺は元気です(瀕死)環境破壊は気持ちいいZOI!(DDD)

あと、原作通りユエが寄生され掛けて攻撃されたりしましたが、『回帰性原理』したら治りました。……状態異常回復は強いってはっきりわかんだね。まぁユエから魔法を食らってしまったが死んでないのでヨシ!

 

 

……でもそうは行かなかったのが現実ッ……!

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…』

『あー、うん……気にしないで良いよ?もうあいつはいないんだし……』(全身黒焦げになりながら)

『……本当に捨てない?浩介に攻撃した私を捨てない?お願い……殴っても蹴っても斬っても叩いても良いから……捨てないで……お願い……』

『Oh……』

 

この後慰めとして血を吸わせながら優しく抱きしめたら()()()発情したような顔をしながらこの日だけで血を5回吸われました。流石に死んで復活しました(2回目の死)

 

 

そして遂に、次の階層で最初にいた階層から百階目になるところまで来た。その一歩手前の階層にいる俺は霊薬瓶の中身の入れ替え(自爆用から別へ)や『勇者の肉塊』や『調香瓶』等のバフアイテムを制作していた。

 

……相変わらずユエは飽きもせずに俺に正面から抱き着きながら顔をうずめて居る。流石にここで血を吸うのは勘弁してもらいたいと伝えたら何処かシュンとした表情をしたので一回だけ許可したら案の定限界まで絞られました(半ギレ)

 

またユエは隙あらば俺に抱き着いて吸血するか、俺の首元を舐めたり、吸血せずに首元に吸い付いて所謂キスマークをつけてくるのだ。まぁ、殺されてルーンをネコババされるよりは良いので好きにさせてる。

 

……お前の事だぞゴストーク

 

 

因みにこの時点でのステータスはこちらっ!

===============================

■藤■介 1■歳 男 レベル:■■■

天職:魔■剣■

筋力:■■■■

体力:■■■■

耐性:■■■■

敏捷:■■■■

魔力:■■■■

魔耐:■■■■

 

技能:魔術[+輝石魔術][+源流魔術][+カーリア王家魔術][+夜の魔術][+氷の魔術][+ゲルミアの溶岩][+結晶魔術][+重力魔術][+茨魔術][+泥人魔術][+死の魔術]・祈祷[+二本指][+黄金樹][+黄金律原理主義][+王都古竜信仰][+巨人][+神肌][+獣の祈祷」[+血の祈祷][+三本指][+竜餐]・万物を殺す者・満月の寵愛・霊馬呼び・遺灰・狭間の地を制した者・星の律を宿せし者・言語理解・吸血姫の寵愛

 

===============================

 

はい(諦め)バグりました。ラニ様と長い間会ってなかったから仕方ないね。

多分その内『魔力』じゃなくて『知力』になったりして徐々に狭間の地方式に戻るとは思う。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ」

「うん。わかった」

 

しばらくして、全ての準備を終えた俺たちは、階下へと続く階段へと向かった。

 

その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。どこか荘厳さを感じさせる空間だった。

 

しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。柱は俺達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

その光景を見た俺は手に持った『ルーサットの輝石杖』を構えながら準備を整えた。そして二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「……凄い、もしかしてこれが――」

「ここがあの反逆者のハウスね」

「浩介?」

「……なんでもないです。つい浮かんできたネタですはい……」

 

いかにもラスボスの部屋といった感じだ。……言っちゃあ何だが、俺の目には例の霧が掛かって見えるからボス部屋だってわかるんだよなぁ……

ユエはこの先のボスの気配を感じているのか、うっすらと額に汗をかいている。

 

「ま、漸くたどり着いたんだ。何時もより気を引き締めていけばいけるいける(慢心)」

「……うん!」

 

俺たちは覚悟を決めた表情で一歩を踏み出した。

二人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越える前に……俺は『写し身の雫』を呼び出した。

 

そして俺たちが柱を踏み越えたその瞬間、俺達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

(まぁ、忘れもしないよなこのトラップは)

 

トラップ自体はベヒモスの時と同じものだが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「さて、行くか」(霊薬を飲みながら)

『……』(杖を構える写し身)

「浩介……行くよ!」

 

そして魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする俺たち。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 

体長三十メートル、赤、青、黄、緑、白、黒の色とりどりの六つの頭と長い首を持った鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

例によって名づけるとしたら【六つ首、ヒュドラ】になるんだろうな

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 

先手必勝!!喰らえぇえええええええええええ!!」(『彗星アズール』を放ちながら)

『『アステールメテオ』!!』

「〝蒼天〟!」

 

「「「「「「クルゥァァアアアアアア!?」」」」」」

 

動揺するような声を上げるヒュドラ。それもそうだろう自分たちが顔を出した瞬間にいきなりとんでもない火力をブッぱされたんだから。『彗星アズール』がヒュドラの身体を貫いていき、虚空から降り注いだ『アステールメテオ』がヒュドラの首に直撃したり、更に強化された〝蒼天〟をくらったヒュドラは悲鳴を上げながらもだえ苦しんでいた。

 

ヒュドラはたまらずダウンするがその内の白色の首が他の首を回復させようと必死に蠢いて回復魔法を掛けようとしてくる。

……それを逃す俺ではなく

 

「リュウジンノケンヲクラエ‐!!」(『黒き剣』を絶え間なく撃っている)

『『アステールメテオ』』

「さらに〝蒼天〟〝蒼天〟そして……〝蒼天〟!!」

 

倒れた白色の首目掛けてひたすらに『黒き剣』を放ちながらくるくる回る俺と絶え間なく隕石を落としながらヒュドラの体力を奪って行く写し身に、ヒュドラの真上に幾つもの巨大な青白い炎の球体が出現してヒュドラを見事に焼いた。

 

なんだこれは……酷い……誰がこんなことを……(※作戦立案者は遠藤)

 

だって……(言い訳タイム)体力バーが出る前から殴れるんだもん……

 

「クルゥァアア……ア……ア」

 

既に虫の息というかあと何されても死ぬ状態のヒュドラ、すでに白色の首を含めた幾つかの部位は『黒き剣』で切り落とした上に傷口も死の力で汚染されているため、再生することはないだろう。加えて巨体なのが災いして『アステールメテオ』を全弾被弾したヒュドラの全身はボロボロになっており、ダメ押しのように放たれたユエの鬼の〝蒼天〟連打にこんがり焼かれて生きている方が不思議だ。

 

しかし体力が残っているということはリゲイン(回復)する可能性があるということなので……

 

「死にさらせぇえええええええ!!『フォルサクスの雷槍』!!」

「グゥルアアアア!!?」

 

最後の止めとして両手に顕現させた紅い雷の槍をヒュドラに突き立てた。哀れヒュドラ、銀頭すら出せずに死んでしまうとは……

等と考えていたら……最後のあがきとして銀頭を出してユエに標的を絞って極光を放った。

 

「グ……ア……アアアアア!!」

「やべっ!?ユエ!!」

「あ……」

 

ユエは幾ら俺の血で強化されたと言っても流石にあれだけの魔法を連発した影響か、その場から動けずにいた。

 

俺は咄嗟に『猟犬のステップ』でユエを覆い隠すようにして、ヒュドラに背を向けた。

直後俺の背中に強烈な痛みが走る

 

「うぐぉおおおおおおおおお!!?熱っちぃいいいいい!!」

「浩介ぇええええええ!!」

「グ……ア……」

 

……ヒュドラが死んだようだが俺の背中は鎧に覆われているのにも関わらず、隙間等から入ってきた極光が俺を焼いた。さらに兜が溶け出した為、即座に兜を脱ぎ捨てた。

 

クソッ……『失地騎士の兜』が……次あったらもっとひどい目(朱い腐敗塗れ)に……もういないのか……

 

「浩介!しっかりして!!嫌……嫌ぁあああああ!!」

(はぁ……はぁ……ヒュドラの野郎……まじでしつこ過ぎるだろ……)

 

ユエが明らかに錯乱しており、恐らく切り落とし損ねていた黒の首による精神干渉を銀頭の極光と同時に行っていたんだろう。やってくれる……

ユエは目に見えて怯えており、しきりに「捨てないで……」とか俺の名前を叫んでいる

 

(一先ず……ユエを落ち着かせるか……)

 

 

◆◆◆

 

――ユエside

 

 

暗闇の向こうから何かがやってきた

 

……それは私が忘れたい記憶

 

私が裏切られて封印された時の記憶だった

 

これに関しては、まだいい方

……その後に私が最も恐れているイメージが襲い掛かってきた

 

『ユエ、今日でお前とはお別れだ』

『ま、待って!浩介……!!』

『じゃあな』

『嫌……嫌、嫌ぁああああああ!!』

 

私はそのイメージに耐え切れず泣き叫んでしまった。例えイメージであっても浩介に捨てられることに耐えきれるはずも無かった。

 

私はその場に崩れ落ちてしまった。

 

 

その時私を暖かい何かが包み込んだ

 

「……大丈夫か、ユエ」

 

眼を開けるとそこにはいつもの兜を外した浩介の姿があった。浩介が私を暖かく抱きしめてくれている……

私は……この熱を享受して良いのだろうか

 

「言っただろう……?俺が着いていると。だから安心しろ……」

 

そう言って私の頭を優しく撫でて、私が求めている言葉を掛けてくれる。そして私は吸血をせずに浩介に正面から抱き着いていた。浩介の心臓の鼓動を聞くように……

 

私はこの熱を享受していた。この時間、この熱は私だけのモノ

 

 

……多分今の私の顔はこれ以上ない程ににったりとしているそんな気がした。

 

 

 

――それから数分が経った頃

 

「あたたかい……」

「あのー……そろそろ行こうかなと……」

「やー!」(()()で抵抗)

「カヒュッ……首が……し……絞まってる……から……し……死ぬ……」

 

この後私は浩介に抱き着いたまま浩介の言う『祝福』がある場所に移動した。そして回復した浩介から、さっきまでの戦いで失った魔力と浩介の熱を求めるように血を吸った。

 

「はぁ……♡はぁ……♡こうすけぇ……♡」

「……」

「あれ……浩介?…………死んでる……!?」

 

YOU DIED

 

 

――褪せ人は死んだのだ。過剰なまでに愛を求めたユエの吸血により体から全ての血を抜かれて死んだのだ。

その体からは色が抜け落ち、真っ白になり爽やかな顔で死んでいたのだった。

 

 

「……やっぱり死なないって……メリットだけじゃないんだな……手塚●虫先生は正しかった……(火の鳥)」

「……」ギュー

 

その後しばらくは吸血を控える(1日3回から1日1回になっただけ)ようになったという。どちらにせよ褪せ人により一層依存したユエであった。




やっぱり不死って碌なことにならないんですねぇ!(フロム主人公を見ながら)

ちなみに当初の予定はエセアルラウネ戦で洗脳されかけた褪せ人様が自爆用の霊薬を飲みながらエセアルラウネに突撃する予定でした。

褪せ人「我が魂はラニ様と共にありぃいいいい!!」(自爆まで秒読み)
エセアルラウネ「(オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ!!)」

ユエ「ラニって誰?(威圧感)」
褪せ人「ひえっ」

……てなる予定でした

あとヒュドラをしぶとくさせたのはユエをより一層褪せ人様に依存させる為ですね



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捕食者と被食者……狂い火を添えて

閲覧ありがとうございます!

今回から徐々に敵勢力が動き始めます。そろそろ動かさないとね……?
それと、評価、感想ありがとうございます!

それではどうぞ


――清水 幸利side

 

夢を見ている

 

空は真っ黒で、星のような物が瞬いている。足元はまるで水面のように透き通っていた

……一際大きな蒼白い『満月』が水平線の向こうに見えていた。

 

 

そして満月の中にたった一つ、たった一つの『玉座』が据えられていた

 

玉座と呼ぶにはあまりにもボロボロなものだったが、そこにはただ一人が、歴戦の戦いで歪に変形した鎧を纏った【王】らしき存在が腰掛けていた。その顔は玉座の影に隠れて見えなかった

 

また、玉座の横には背後に見える()()()()()()()()()()()()()()が立てかけられていた

 

 

俺はそれを遠くで見ているだけ

 

――だけど、その王と相対するように現れた存在がゆっくりと、ゆっくりと近づいていく

 

その手には剣先が螺旋状になっている剣を携え、もう片方には黒い炎を滾らせている

 

 

……俺だ

 

 

そして、夢の中で俺は『王』に対して剣を突きつけた。……表情は影に隠れて見えなかった

 

――やがてゆっくりと『王』は立ち上がり玉座に立てかけてあった剣を握りしめる

 

そして……剣を俺に突きつける

 

……月光に照らされて『王』の顔が見えr「起きて!!ユッキー!!

 

 

「あぁ……谷口さん、おはよう……」

「おはよう!ユッキー!みんな待ってるよ!!」

 

さっきまでどんな夢を見ていたんだっけ……と考えるもどうにも思い出せず、一先ず訓練の準備をすることにした。

 

……だけど一つ言いたい

 

「あの……谷口さん?」

「うん?どうしたの?ユッキー?」

「……できればそのユッキーって言うのはやめていただきたい……」

 

遠藤じゃああるまいし、ヤンデレに酷い目に合わされそうなあだ名はちょっとやめて欲しいかな……

 

「うーん……じゃあ!シミミンで!!」

「…………………………ユッキーで良いです(諦め)」

 

酷い二択(染みかヤンデレの被害者か)を迫られた朝だった。……なんて日だ

 

 

◆◆◆

 

――遠藤浩介side

 

「――ここが反逆者の住処か」

 

ヒュドラを倒した後祝福で休んでいる()と突然扉が独りでに開いたので、褪せ人の本能に従って躊躇なく中に入ると中には、広大な空間に住み心地の良さそうな住居があったのだ。

 

頭上には円錐状の物体が浮かんでおり、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、確かに原作で太陽みたいだと言ってたのが分かる気がした。

 

次に、注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。動物の気配はしないのだが、そこには種やら野菜やらが保存されていた。水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

「これは、また凄いな……」ウズウズ

「?浩介どうしたの?」

 

石造りの住居は全体的に清潔感のある白く石灰のような手触りだ。エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのだが……言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているような不思議な光景だった。

 

俺たちはより警戒しながら進む。更に奥へ行くと再び外に出た。更に奥へ行くと再び外に出た。其処には大きな円状の穴があり、その淵には魔法陣の彫刻が刻まれておりその隣にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。試しに日色が魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。どうやら水を吐くのはライオンというのがお約束という決まりらしい。

 

褪せ人として戦っていた頃は全身が血まみれだったりして石鹸を使用したことはあるが、基本的に風呂なんてものは入ったことは無い自分からすればこれは素直に嬉しいものだった。

 

「ほう、風呂ですか……大したものですね……」ウズウズ

「……浩介と入りたい」

「……流石に駄目です」

「……ショボン」

 

それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。本当は筋肉式解除術をしたかったが、流石にやめることにして探索を続ける。

 

俺たちは三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

(狭間の地ではいつものことなんだがな)

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか……

 

(ま、その意図が重要だったりするんだがな)

 

この魔法陣がどういうものか知っていた俺は何の躊躇もなく魔法陣に足を踏み入れたのだった。ユエは相変わらず抱き着いたままなので必然的に一緒に魔法陣に入ることになった。

そして、魔法陣の中心に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

まぶしさに目を閉じる俺だが。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

やがて光が収まり、目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。

 

中央に立つ俺の前にいるこの青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

そうして語られた内容を簡単に要約すると、こうだ

 

自分たちは【反逆者】ではなく【解放者】であること。そして神々が人を駒にして遊戯のつもりで戦争を促していた。

それに耐えられなくなった【解放者】のリーダーは同志を募り、【神界】へ攻め込むも洗脳された人々によって討たれてしまったそうだ

 

 

成程……つまりは神をぶっ殺せばいいのか(IQ低下)

 

本来はこれだけで終わる筈だが、生憎この世界は『狂い火』や『糞喰い』、『死王子』等の勢力がごちゃ混ぜになっているため、それらの討伐も並行して行わなきゃならないのが褪せ人の辛い所だな

一応ユエに俺の旅についていくかを聞いたところ

 

「?なんで離れる必要があるの?」

「アッハイ」

 

爆速で返答されました。怖い(直球)

 

それから俺は『生成魔法』を入手したことを確認して今後の方針を軽く話してオスカーの遺体は墓に埋めることにした。

――とここまで大人しくしていた俺だが、そろそろ疼く収集癖を抑えられずにいた

 

「――さて、漁るか♠」

「浩介?!」

 

俺は即座に『オスカーの指輪』を使って入れる場所に入り、目のつく限りのアイテムを手に入れていった。たまらねぇぜ(光悦)

 

「これも……使える……これも使える……これも、これも……」

「浩介が生き生きとしてる……!」

 

その日は夜までアイテムを漁り続けてたのは言うまでもなかった。

だって……そこにアイテムがあるんだもん……

 

 

◆◆◆

 

「風呂に入るのも悪くはないな」

 

己の収集癖に散々翻弄されながらも漸く得ることが出来たつかの間の休息、俺は風呂に浸かっていた。ぶっちゃけ体力を回復するだけなら祝福に触れるだけでいいのだがなと思っていると突然何かを感じ取った。

 

(な……なんだ!?このプレッシャーは……!?)

 

同時に風呂の扉が開いた音を聞いた。ここには俺とユエしかいない……ということは

 

(ま、まさか……!?)

 

ヒタヒタと足音が近づいてくるに従って俺は冷や汗をかき始める。生憎防具は外してあるため今の俺は防御力が皆無に等しいのだ

 

タプンと音を立てて湯船に入ってきたのはもちろん

 

「んっ……気持ちいい……」

(しまった……に、逃げられん……!詰んだか……?!)

 

視線を逸らしているため分からないが、恐らく一糸まとわぬ姿で俺のすぐ隣……それも俺に寄り掛かる様にしな垂れくるユエがそこにいる

 

「……あ、熱くなってきたからそろs」

「駄目」

「……うっす」

 

即時撤退をしようとしたが、体全体に風魔法か何かで押しつぶされるようにして湯船に戻される俺の姿がそこにはあった。

 

「……浩介の身体……凄い……」ペタペタ

「……こそばゆいので止めていただきたい……」

 

この世界に転生して武器を振ったり、スタミナの続く限りの運動をしている内に同年代と比べてもかなりの筋肉質になってはいると自負しているが……触ってて楽しいのだろうか?

 

「……こっちも」

「それ以上いけない」(懇願)

「いいや限界だッ!!ヤるね!!」

「ユエさん!?ちょ、待っ」

 

徐々に息遣いが荒くなったと思ったら遂に遅いかかってきやがった!オレのそばに近寄るなああーーーーーーーーーッ!!

 

 

――数時間後

 

「はへぇ……♡しゅごぉい……♡」

「はぁ……はぁ……勝った……」

 

ナニがあったかは具体的には言えないが、フィジカルの限りを尽くして何とか夜の戦いを制した俺の姿がそこにはあった。

……まぁ、ひたすら俺の血を飲ませまくったのが勝因でしたね

 

「はうわっ!!?」

 

ま……またプレッシャーが!?それに今度は複数?!

 

 

◆◆◆

 

一方そのころ

 

「……勘弁してくれよ」(恐怖)

「え、えりりん……?ちょっと、いや、本当に怖いよ!?」

 

たまたますれ違った清水と谷口はなんてことはない会話をしていたのだが、突然遠藤がいた部屋の向こうから感じた途轍もないオーラに驚愕し、何事かと扉を開けるとそこには

 

「……」

 

無言で『マレニアの義手刀』を磨き上げる雫の姿と

 

「ふふふ……なぜだろうね?今なら神すら殺せそうだよ」

 

両手に雷を滾らせ殺意の籠った笑顔で虚空を見つめる香織と

 

「……何か大切な物を獲られた気がする」

 

遠藤から貰った武器を起点として作った武器に弾丸を詰め込み始めるはじめと

 

「……何かを奪われた気がする。……だったら取り戻す。僕は『勇者』なんだから……」

 

辺りに紫の電気を放出しながら重力波のような何かを発している光輝と

 

「……」

 

死のオーラを漂わせながらどこか不機嫌そうに横になっている恵理の姿がそこにはあった。

 

その異様すぎる光景に清水は膝を突きうなだれ、谷口は清水を慰めた。

 

「胃が……胃が……」

「し……しっかりしてユッキー……」

 

――しかしこの時の彼らは気づいていなかった。今この場にはあと1人足りないことに

 

 

◆◆◆

 

「さて……そろそろ檜山を傀儡にするとするか」

 

月明かりに照らされるラニはその手に『セルブスの秘薬』を携え、王の障害となる檜山を傀儡にする為に檜山の部屋に向かって行った。

 

「む?ここにはいないのか……?」

 

しかし、部屋の中はもぬけの殻で誰もいなかった。ラニは周辺を見渡していると

 

「……いた」

 

そこにはどこかおぼつかない足取りで彷徨っている檜山の姿を見たラニは周囲に誰もいないことを確認して檜山の下へゆっくり近寄って行った。

……その時だった

 

ゾクッ

 

(何だ……!?この気配は……!!)

 

ラニはどこか得体のしれない気配を感じ取った。その気配の先には……檜山がいた。

そして……

 

 

【【シャブリリ】に侵入されました!】

 

 

「これは……!『狂い火』の連中か!!」

「な……何だお前!?」

 

『話は後です。【三本指】様が貴公をお呼びです……行きましょう』

 

そう言って檜山の手を掴み何処かへ逃げ去って行こうとする鉄笠の男……シャブリリをラニが逃すわけもなく

 

「逃がさん!」

 

咄嗟に『夜の彗星』でシャブリリを撃ち抜こうとしたが、そこに割って入ってくるかのようにまたしてもあの気配を感じたのだった。

 

 

【【指痕爛れのヴァイク】に侵入されました!】

 

 

「こ……こいつは……!」

『……』

 

――その褪せ人は、かつてエルデの王に最も近づいた1人であった。だが結果として彼は『狂い火』に焼け爛れ今や【三本指】の配下として仕えているのだ。

 

その鎧は焼け爛れ、また両の手に持つ二本の戦槍はヴァイクと同じように黄色い狂い火に内側から蝕まれていたのだった。ヴァイクがラニの魔術を受け止めている隙にシャブリリは檜山を連れて撤退してしまった。

 

『良くやりましたヴァイク。さぁ、戻りましょう』

『……』

 

「待て!!」

 

【【シャブリリ】が元の世界に帰還しました】

【【指痕爛れのヴァイク】が元の世界に帰還しました】

 

「おのれぇ……!!」

 

……こうして檜山はシャブリリに誘拐されたのだった




果たして清水が見たのは夢か、あるいは……
とはいえ、まだ気にしなくてもいいです……今の所は


あと、ユエは返り討ちに遭いました。

ユエ「吸血姫に勝てるわけないだろ!大人しくしろ!」(発情)
褪せ人「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!」(筋力99)(体力99)

ユエ「勝てなかった……♡」
褪せ人「……普通逆では……?」

何 だ こ れ


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こうして褪せ人様の危険が増えたのだった

閲覧ありがとうございます!

今回はオリジナル要素成分が多々あります。ご注意ください
いつも感想、評価、誤字報告ありがとうございます!とても励みになります!
そして気づけばお気に入り登録者様が800件!?素直に嬉しくてモチベーションが高まります!
それではどうぞ!


「さて、そろそろ出発するので……吸血は一旦止めようか」

「……ん。分かった。あと少しだけ」

「いや、その少しが少しじゃn「ガブリ」オァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

ユエに(性的に)襲われたので褪せ人としての全力(生命力持久力筋力99)で返り討ちにしてから1か月とちょっと経過した。風呂に入るたびに真横に座り、自分を捕食対象(意味深)として見られ続けている現状に悩みながらも少しばかりの休息を堪能していた。そして今は風呂上がりのユエの髪を乾かして綺麗にしている最中だ。

 

……心なしか髪を整えている最中に『ん♡』とか『あっ♡』とか喘ぎ声に似た何かを毎回言ってくるので最初こそ頭を抱えたものの、今はすっかり慣れてしまった。慣れって怖いなぁ()

 

 

また、ここを漁っていると色々と収穫があった。

 

例えば原作のハジメが着けていた義手のアーティファクトだが、俺も原作に習って独自に改造した結果……別ゲー(SEKIRO)になっちゃった……(やらかし)流石に奈落に落ちてない以上この義手が使われることは無いと信じたい(フラグ)……俺の腕がこれになるとかないよね?(SEKIRO並感)

 

更に指輪型アーティファクトである〝宝物庫〟であるのだが……正直俺は必要としないので後ではじめにあげるとしよう(大惨事フラグ)

 

因みに俺が『生成魔法』だが、どうも俺には適性が無い様でうんともすんとも反応せずに『生成魔法』を使えなかったのだ。しかしユエが普通に使えるのを見て何とも言えない気持ちになって少し横になったことは置いておくとしよう。

 

『生成魔法』が使えないことを考えると、やはり他の神代魔法も扱えないのではないかと考える。

 

……そもそも『生成魔法』を習得した際も何やら異物が身体の中に入り込んだような感覚もあったことから恐らく俺はこの世界の()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()と考えられる。……恐らく【概念魔法】すら扱えるか怪しい所ではある。

 

単純に適性がなさすぎるのか、或いはもっと本質的な部分……それこそ幾つもの大ルーンと律によって変成した魂やらなにやらが影響しているのかは、不明な部分がある。

 

とはいえ別に使えなくても困るわけではないしな……と思いつつそろそろ血を吸いながら俺に体を擦り付けてくるユエを止めるのであった。

 

「ユエ?そろそろ行くよ」

「ん……♡待って……もうそろそろイけるから……♡」

「やめないか!」

 

俺は危うくR18な展開になりかけたユエの脳天に黄金律パンチ(只のげんこつ)をかました所でそろそろここから抜け出すことにした。

 

「うぅぅ……痛い……」

「後で幾らでもやっていいから、今はここを出よう(提案)」

「幾らでもヤっていいの!?」

「アッ」

 

俺の明日はやってこないかもしれない……

 

 

◆◆◆

 

一方そのころ

 

クラスメイト達は清水を中心に訓練により一層励むようになり、各々の戦闘力が格段に向上したのだった。その成長速度に思わず指導している側のメルド達もこれには目を疑った。

 

 

リーダーであった遠藤の死でメルド達も戦えない者が現れることを確信していたが、結果はまさかの脱落者が1()()を除いて全員がやる気に満ちていた。……言わずもがなその1人は檜山であったのだが、彼は行方不明になっていた。

 

檜山が何者かに連れ去られたという報告をラニから受けたメルドは警備を増やして、対応をすることにしたのである。しかしラニからすれば、彼らでは『狂い火』の連中、ましてや遠藤と同じ褪せ人のヴァイクに太刀打ちが出来るとは思えなかったのである。

 

だがそれを黙って見過ごすラニではない為、ラニも密かに夜な夜な周囲の監視を行っているのである。ラニにあるのは、自分の伴侶の敵を逃がした事実に対する自分への怒りだった。

 

この時のラニの心境は

 

『次は無いぞ……!我が王の手を煩わせおって……!!』

 

であり、また遠藤がはじめ達を含めたクラスメイトに思い入れがあることを知っていたラニは周囲の安全と並行して彼らの安全をも守護しているのであった。

 

 

そして、一方のはじめ達は最初こそ部屋で絶望に明け暮れていたが、遠藤からの贈り物と手紙により見違えるほどになっていた。

 

まず雫は遠藤から渡されたマレニアの義手刀に慣れるために訓練期間中はひたすらその刀を振り続けた。その際の彼女の表情は修羅に片足を突っ込んだような表情だったと愛子先生は涙ながらに語った。

 

香織は戦闘職で無かったが、こちらも遠藤から託された数々の祈祷を扱えるようになり、回復も去ることながら『雷の槍』や『光輪』等の攻撃手段を手に入れた彼女はもう守られるだけは卒業したと語った。

 

そしてはじめは、『壺大砲』や『手持ちバリスタ』だけでなく独自に『錬成』で作成した手榴弾や拳銃等を使うようになり、『最弱』と言われていた頃とは段違いな程に成長していた。

 

光輝は、『星砕きの大剣』を扱う為に血のにじむような鍛錬を重ねていた。その際に時折涙を流しながらも必死な表情で剣を振るうその姿にクラスメイトが止めに入ったこともあった。

その際『僕が、強くならなきゃ……僕が……僕が……』とうわ言のように言っているその姿を見て清水が遠藤に会ったら確実にぶん殴ることを決意させた。

 

そんな光輝の鍛錬に『星砕きの大剣』が応えたのか、ある日光輝は『星砕きの大剣』の本領である『星呼び』を行使できるようになったのだ。……尚その際の訓練場の被害状況を見た副長は後処理を任せてきたメルドをぶっ殺しかけて部下に止められたこともあったとか

 

副長『やろう!ぶっ殺してやる!!』(ごつい斧を持ちながら)

部下『副長!落ち着いてください!落ち着いてください!!』

メルド『ヒエッ』

 

 

恵理は順調に遠藤から託された『死の魔術』を完全に物として、更に『死の魔術』と己の天職を組み合わせて新たに作った技能も幾つか習得したのである。本人曰く『死の魔術』が自分にしっくりくるとのこと

 

そして清水も光輝に負けず劣らずの鍛錬で『神狩りの剣』を何とか制御できるまでに落ち着けた。訓練の最中に何度か剣から放たれる黒炎に身を焼かれそうになったが、その度に黒炎を振り払おうとせず敢えてその炎を受け入れたのだった。そして暫くそれを繰り返していると次第に『神狩りの剣』だけでなくその『黒炎』を物にすることに成功したのだった。

 

……炎を拒絶することなく、己の身に宿し物にした清水だったがその影響か『神狩りの剣』を握っていた右腕全体に黒い炎の痣が鎖のように腕全体に巻き付いていたのだった。尚当の本人は、その右手の痣を見て『これほぼ邪●炎殺黒龍波じゃねぇか!』と内心驚きつつも暫くしてオタクとして本能故か『これはこれでアリ』という結論に落ち着いたとか

 

これらのようにはじめ達は以前とは比べ物にはならないどころか、天と地ぐらいの力の差をつけたのだった。

 

 

そうして彼らは再びあの【オルクス大迷宮】に挑んだわけだが、結論から言えば成長した彼らに魔物は軒並み蹂躙されていた。

 

「「「キィイイッ!!」」」

「邪魔」

 

雫は無数に襲い来るラットマンを目にもとまらぬ剣裁きで瞬く間に両断し、その斬られたラットマンも自分が斬られたことに最後まで気づかずに殺されたのだった。

 

ドゴォオオン!!ズドドドドド!!

 

「「「ギィアアアアアア!!」」」

「うるさいな。とっととくたばってよ」

 

はじめの手元から放たれる大砲とバリスタの嵐がけたたましい音と質量と共に魔物たちを襲った。『錬成』で落とし穴や壁を作って銃器をぶっ放すその姿を見た者ははじめのことを『戦場返りの兵士か何か?』と思ったそうな。

 

また、ある程度階層が進んで現れたロックマウントの群れに囲まれた光輝に関しては

 

「「「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」」」

「ふうぅ…………」

 

息を深く吸うと共に辺りに紫の閃光と魔力が集まり始め……

 

ウワァア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!

 

後方にいるはずのメルド達も思わず耳を塞ぐような大声と共に光輝を中心として強力な引力が発生し、ロックマウント達は一気に光輝の下に引き寄せられた。そしてこの様子に危機感を覚えたロックマウント達は即座に離れようとするが、既に光輝の両手に握られ、紫電を纏った『星砕きの大剣』が振り下ろされた。これぞ『星呼び』である。

 

ドグゥオォオオオオオオオオン!!!!

 

ロックマウントだけでなく吸い寄せられた他の魔物がまとめて消滅したその様子にメルド達やクラスメイトは冷や汗が止まらなかった。

 

『光輝が味方で良かっっっったぁああああ!!』

 

 

そして……遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた。

 

「気を引き締めろ! ここのマップは不完全だ。何が起こるかわからんからな!」

 

しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする一同。

 

その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。それは、とても見覚えのある魔法陣だった。

 

「アイツは……ッ!!」

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

 

いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに部下が即座に従う。だが、肝心の光輝たちは怨敵を見据えており、撤退の意思は無いようにメルドは感じられた。しかしメルドも今の光輝達なら大丈夫だろうと考え目の前に現れるであろうその存在に不敵な笑みを浮かべた。

 

そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。

 

全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す女の子が一人。

 

香織である。香織は確かな意志の力を宿らせた声音で宣言した。

 

「あなたには死んでもらう。あなたを倒して……私は彼の元へ歩みを進める!」

 

今、過去を乗り越える戦いが始まった。

 

◆◆◆

 

――黄金樹の麓にて

 

「……ご報告は以上でございます」

「良くやった。()()()()()よ。長旅の疲れを癒すがよい」

「はっ……勿体無き御言葉」

 

黄金樹の根元付近の広大な空間にて、とある2人が存在していた。

 

1人はモーゴットと呼ばれた異形の大男で、その頭には『忌み子』の象徴たる異形の角が生えていた。しかし彼はかの狭間の地にて『忌み王』として名を馳せた王の1人であり、ただ1人の為にその玉座を守り続けた王である。

 

そしてそのモーゴットが頭を垂れている相手こそ、モーゴットが尊敬してやまない存在……そしてモーゴットの父たる王『最初の王、ゴッドフレイ』と彼に付き従っている半透明の獅子で宰相の『セローシュ』であった。

 

「フム……あの戦士、褪せ人がこちらに来てから連中の動きが活発化しているか」

「……我が兄『モーグ』率いる『モーグウィン王朝』とやらの動きも目に余るほどに……」

「……『狂い火』に、そして我が息子『ゴッドウィン』の死体に群がる連中もだな……」

「いずれにせよ『赤獅子』と『接ぎ木』には、引き続き連中の掃討を命じておきます」

「そうだな……では頼むぞ、モーゴットよ……」

 

彼らの口からは褪せ人の敵勢力や味方と思わしき勢力の現状が飛び出した。しかしモーゴットが兄と呼ぶモーグについて話す際にはどこか複雑な表情をしながらゴッドフレイに語り掛けていた。

そして一頻り話終えた所でモーゴットが玉座の間を離れ、再び王の任務を果たすために動き始めたのだった。

 

「……律はここにあらず、褪せ人の下にある……か。戦士よ、再び見えようぞ」

『グォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

玉座に腰かけたまま不敵な笑みを浮かべ、闘気を漲らせるゴッドフレイの内面を代弁するかのようにセローシュが吠えた。

そしてゴッドフレイは背後にそびえたつ黄金樹……のようなナニカを一瞥した。、

 

「私は、貴様の傀儡になんぞならんぞ……いずれ貴様を打ち砕いてくれる……!」

 

――かの王は望む。自分たちを傀儡としあの褪せ人から律を奪わんとする存在に一矢報いることを

 

ゴッドフレイは少なからずあの結末に納得していた。

 

『力こそ、王の故』

 

彼自ら掲げた言葉。自分を上回る力を持つに至った褪せ人に敗れたこと自体には納得していた。そしてあの褪せ人が得た律についても言うことは無かった。

 

だが、褪せ人のその勝利と力、そして得た物全てを無かったことにして自らの薄汚い欲望で褪せ人から力を奪わんとする存在に彼は憤慨していた。わざわざ黄金樹に似た何かを作ってまで盤面を整え、自分たちを駒とするその所業にゴッドフレイは勿論『黄金樹』勢力も憤っていたのだった。

 

彼らからすれば栄誉の戦いも、栄光も何もかもやり直させられ、あまつさえ最初の王たるゴッドフレイさえも自らの目的の為だけに呼び起こしたその所業は、到底許せぬ行為であった。

 

 

しかしこうした憤怒の中で、ゴッドフレイは、否ホーラ・ルーは再びかの褪せ人と戦えることを心の底で楽しみにしていた。そしてその願いは彼だけが持っているものでなかった。もう一度あの戦いを彼を含めた多くの人物は密かに望んでいた。

 

 

――接ぎ木の王は、かの褪せ人を今度こそ打ち倒し、その力を『接ぐ』ために

 

――星砕きの英雄は、自らを討ち取った英雄に感謝をささげ、全盛の力を取り戻した自分と戦ってもらいたいと願った

 

――忌み王は、自らの王を討った褪せ人に対する雪辱を果たすために

 

――蛮地の王は、血肉湧き出る真の闘争を望んだ

 

 

 




ゴッドフレイからしたら自分が認めた褪せ人様から卑怯な手で何もかも奪おうとする奴は許せないよねってことでこの黒幕にバチバチにキレてます。

描写はされませんでしたが香織は『雷の槍』や『三なる光輪』を回復の合間で撃ちまくっているため戦えるヒーラーと化しています

次回は遂にあの駄ウサギが……さーてどうやって褪せ人様の精神を壊しに行こうかな……


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第二章
ヒドイン追加!(絶望)褪せ人は死ぬ!


閲覧ありがとうございます!

遂にUAが80000を突破致しました!ありがとうございます!

エルデンリングの作品が増えてウレシイ……ウレシイ……

それではどうぞ


魔法陣を通ってオルクス大迷宮を抜けた先に待っていたのは、【ライセン大峡谷】だった。地上を照らす暖かい日差しと穏やかな風が鎧の中にも伝わってくる。

 

「ようやく、返ってきたぞ……地上に!」

「んっーー!!」

 

思わず膝を地面に付けながら両手を天に掲げて喜ぶ俺に抱き着きに来たユエ。俺は体勢を崩し仰向けに倒れた。かなりの期間地下に居たので地底人にでもなった気分だ。……俺はブラボをやっていたのか?(地底人並感)

 

とここでユエの様子が可笑しいことに気づく。体勢的には俺を押し倒しているよ……う……な……アッ()

 

「あ、あのー……ユエさん……?」

「浩介……あの時言ったこと覚えてる?」

「あの時……?」

 

俺は記憶を振り返り、ユエに約束したことを思い返す。そして青ざめた

 

「『後で幾らでもヤっていいから』って言った」

「ニュアンスが……ニュアンスが違う……!」

「問答無用、骨の髄まで搾り取ってあげる♡」

誰か助けてぇ!!(他力本願)」

 

すると俺の助けが届いたのか、魔物が迫ってくる気配がした。……其処にいたのはオルクス大迷宮で散々俺を苦しめた爪熊だった

 

「グルルルル(呼ばれた気がして)」

「クソッ!考える限りで最悪の奴が来やがった!!」

「邪魔ァ!!」

「グォオオオオ!?」

 

ユエが鬼のような形相をしながら近くにあった俺の『失地騎士の大剣』をぶん投げた……ぶん投げた!?

 

そして投げられた失地騎士の大剣が爪熊の脳天に直撃し、そのまま絶命した。

 

「チッ、邪魔が入った」

「……このように魔物が介入してくるのでここで襲うのはやめてね?」

「…………分かった」

 

俺は儚い犠牲になった爪熊に感謝の念(積年の恨み)を込めて、更にその死体を剣で突き刺してぐちゃぐちゃにした。

 

「対戦ありがとうございました」(中指を立てながら)

「……残念、でもまた今度……」

 

何かを企んでいるユエを気にしない振りをして、俺はこのライセン大峡谷の特徴である『魔法が使えない』ということをユエと確認することにした。

 

「……ところで、やっぱりここでは魔法は使えない?」

「……分解される。でも浩介の血を吸ってからなら力づくでいける」

 

ユエは俺の血を吸ってから爆発的な火力と燃費の良さを手に入れたが、このライセン大峡谷ではやはりどうしても普段よりも多量な魔力を消費することになる。そう考えた俺は持ち物から『ショートボウ』と幾つかの矢を取り出し、装備した。俺も魔術や弓が扱えない以上、やれることは物理攻撃だけだが、わざわざ近寄って倒しに行くのもあれなんで弓で風穴を開けた方が楽だと気づいて装備したのだ。

 

「それで……浩介ここから歩く?」

「いや、こいつを使う」

「……?何それ?」

 

ユエがこの先の移動方法について話してきた。ライセン大峡谷が東西にまっすぐ伸びた断崖であるが、その距離はかなりの物だ。それこそハジメのような魔力駆動二輪が無いと厳しいだろう。というかあれが便利すぎるんだよなぁ……

 

かといって俺がこれから取れる移動手段が歩きのみになるわけではない。そう考えた俺はポケットから金の輪っかのような『霊馬の指笛』を取り出し、息を吹きかけた。

 

ピィーッ!

 

「これは……!?」

「トレント、久しぶりだな」

『ブルルル』

 

狭間の地では散々お世話になった俺の愛馬こと霊馬『トレント』が霊体から実体となって俺のすぐそばに現れた。ユエは虚空からいきなり現れたトレントに驚いていた。『獅子の大弓』でなく『ショートボウ』を選択したのはトレントに乗りながら弓を撃つためだった。

 

「おーよしよし……ほらレーズンだ」

『ブル……』

「……かわいい」

 

トレントを撫でながらロアの実から作成した『ロア・レーズン』をトレントに食べさせた。トレントはご機嫌の様子でそれを食べていた。そしてユエもトレントに近寄りモフリ始めた。トレントもそれを拒む様子も無く受け入れていた。

 

「じゃあそろそろ行きますか」

「おー!」

『ブルルル』

 

俺はいつもの定位置に座り、ユエは俺の後ろに座った。そしてトレントは二人くらいどうってことは無いといいたげな視線を俺に向けながら自信満々に鼻息を一つ立てた。

 

「で、行先だが……一先ず樹海側に向けてだな」

「……なんで、樹海側?」

「樹海側なら町にも近そうだし、なによりいきなり砂漠横断はメンドイ(直球)から」

「……隠す気のない本音。だけど嫌いじゃない」

 

ということでトレントの手綱を握り、走らせた。道中の悪路に関しては『狭間の地ダービー』最速レコードを叩き出したトレントにはなんてことはなかった。また、遠方の魔物に関しては弓で射殺したり、近くに来た魔物はトレントの跳躍で回避するか武器で斬りつけていったため、特に支障はきたさなかった。

 

「……トレントって、ほんとにただの馬?」

「どちらかと言えば……UMAだね」

「なるほど」

 

そうして暫くトレントに乗っていると、それほど遠くない地点から魔物の咆哮が聞こえてきた。トレントに無視されたり俺に瞬殺されてきた奴らよりかは強そうだ。

 

そう考えている内に突き出した崖に回り込むとその向こう側に大型の魔物が現れた。オルクス大迷宮でエセアルラウネごと粉☆砕されたティラノモドキに似ているが頭が二つあった。双頭の雷r……双頭のティラノサウルスモドキがそこにいた。

 

だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に逃げ惑っていた。双頭ティラノは体を動かしながら今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。そしてそのウサミミ少女が俺たちに気づき助けの声を上げた。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

「OK!(即答)」

「……浩介?」

 

生憎俺は、助けを求められたら(基本的に)誰であろうと助ける口なので即承諾した。

そしてトレントから降りてコンポジットボウから『獅子の大弓』に切り替え、紫電をわずかに放つ『ラダーンの槍』をつがえ……双つの頭が重なる瞬間を見計らって矢を解き放った。

 

ズドン!!

 

「ひぃいいいいい!?ダイヘドアの頭が消し飛んだぁああ!?」

 

ウサミミ少女の目の前で双頭のティラノサウルスモドキの首が丸ごと消し飛び、やがて力なく倒れた。ウサミミ少女は突然の衝撃に耐えきれず怯えてしまった。まぁ、目の前で自分よりも何倍も大きい魔物の首が消し飛んだら誰だってビビるだろう。一先ず気さくに挨拶をしに行った

 

「あのー、大丈夫?」

「あ……さ、先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

「ずぅずうしい害獣が……!そんなんで浩介が助けるとd「話を聞こう」……浩介?」

「ユエ、俺は基本的に助け(イベント)を求められたら助ける質なんだ。それに……この少女の仲間とやらは恐らく俺たちの進路上にいるからどっちみちこうなるのは目に見えているだろう?」

「……それもそう。……浮気は許さない」

「ヒイイッ!!」

 

ギッとシアを睨むユエを宥めながらシアの話を聞くことにした。

 

 

◆◆◆

 

――フェアベルゲンにて

 

【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木……その周辺には様々な亜人が密かに暮らしており、そこは正に別世界と表現するにふさわしい空間だった。

 

直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。木と木の間には人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそうである。

 

そのとある一室にてとある巨躯の半狼が意味深にうなり声を上げた

 

「……む」

「どうしました?『ブライヴ』様」

「……何でもない」

 

フェアベルゲンの一角にて頭が狼で毛皮のような物がついた鎧を身に纏い、背中に『王家のグレートソード』を付けた亜人が何かを感じたかのように視線を上げた。

 

……彼の名は『半狼のブライヴ』、かつて二本指からラニへと授けられた召使いであった彼は、ラニに仕えた獣人であった。ただ、主人の為にと闘い続け、正気を失ったところを褪せ人に葬られたブライヴだったが、気が付くとフェアベルゲンの近くで目が覚めたのだ。

 

『どこだ……ここは……』

 

『うわぁああああ!!や、やめろぉ!!』

『おい!見ろよ!奴隷候補が増えたぜ!!』

 

ブライヴが目覚めた時、その近くでは数十人の帝国兵がたむろしていた。彼らは剣や槍、盾を構えているが装備の質からして斥候の役割を担っている連中だとブライヴは遠目ながら判断していた。そして彼らは狼のような獣人を捕らえようといたぶっていた。そしてその獣人の目に涙が浮かび始めた時ブライヴは狼の同胞を見過ごすわけにはいかないとして斥候の一人を背後から斬り捨てた。

 

『な……なんだこいつは!?』

『あ……貴方は……!?』

『酷い匂いだ……さっさと死ね』

 

そして亜人族を捕らえようとした帝国兵は、ブライヴの動きに翻弄され、彼の手で一人残らず皆殺しにされた。その後助けた狼の亜人から同じ同胞のよしみと仲間を救ってくれたとして亜人族にフェアベルゲンに招待され以来、フェアベルゲンの傭兵として生活させてもらっている。

ブライヴは狭間の地でもかなりの強者であり、時折樹海の外に赴いては亜人族を襲う魔物や帝国兵をなぎ倒していった。時には同胞に稽古をつけていたりもした。結果として彼は亜人族の中で一目置かれる存在になっていた。

 

そんな彼だが、今日何か懐かしい何かを感じ取った。向かいに座っていた森人族の男性アルフレリックに何でもないと返した彼だが、彼には確信があった。

 

(……わずかに感じたあの感覚……間違いない、あいつが来た)

 

ブライヴはあの褪せ人を、そして指の使命に背いたラニを恨んでも憎んでもさえもいなかった。指の意思のままにしか動けなかった自分と違って己の運命を切り開く為に足掻き、遂に切り開いてみせた二人のことを尊敬していた。

 

(なるほど……遂に本格的に動き始めたか……)

 

そう思いながらブライヴは席を立ち、アルフレックに見回りに行ってくると伝え、樹海の外にでた。そして、一際大きな木の天辺まで飛び乗るとまるで何かを呼び寄せるかのように遠吠えをした

 

 

ウォオオオオオオーン!!

 




何が何でもR18にはさせまいと動いたり祈る褪せ人様ですがいつか、描写されないだけで裏では……何てことも

トレント君は癒し枠

ブライヴ君からすれば同胞(しかも狼の亜人)が襲われていたらそりゃあ助けるよなってことでこうなりました。

閲覧ありがとうございした!


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ヤバいと思ったが、既に手遅れだったかもしれません

閲覧ありがとうございます!

ちょっとリアルが忙しかったので遅れてしまいました。

それではどうぞ


「で?それで俺たちのことを知ることができたのか」

「は……はい」

「近い!」

「はぃいいい!?」

 

俺たちは今、トレント君の上に三人で乗っかってシアの家族の下へ向かっている。シアは俺の後ろに、ユエは俺の前……というか俺に抱き着いている。流石に重装備でかつそこに二人追加となればトレント君が可哀想なので装備を脱ごうと上半身の防具を消したら……

 

『ちょちょちょちょちょ!いきなり何で脱いでいるんですか!?』

『いやー、だって流石にトレント君が可哀想だし……だったら俺の防具を取ろうかなって……それに、これが俺の故郷(フロム)の正装だし……』

『やることが極端すぎます!!それにそんな国はありません!……無いですよね?!ほら!ユエさん!何か言っ……て……』

 

『はぁ……♡はぁ……♡』

 

『女の子がしちゃいけない顔になっていますぅ!!』

『――やっぱり軽めの防具にするか(震え声)』

『チッ』

 

シアが見ている目の前で美味しくいただけれるどころか骨の髄まで貪られ(R-18&R-18Gな展開になり)そうになったので、急いで防具をつけることにして、その中で割と軽めで防御力がある『戦鬼』にした。

 

……狭間の地では何も言われなかったが、そういやこっちではユエと言う名の不穏因子がいたことを完全に失念していた。

 

 

それで、シアの話をまとめると

 

樹海の奥の亜人国【フェアベルゲン】でシアを含めたハウリア族は暮らしていた。ハウリア族は亜人族の中でも立場が低く、他の亜人族からは格下だと見られているとのこと。

 

そんな中でハウリア族の間にある日、亜人族に備わっていない筈の魔力を持った異端児が生まれた。これこそシアであった。

さらに、シアは固有魔法〝未来視〟を持っていたシアは、ハウリア族の手によって秘匿されていた。

 

だけど些細なことでそれがバレてしまい、一族総出で北の山脈に向かわざるを得なかったと。

 

しかし不幸は連続して、樹海を出てすぐに帝国兵に見つかり、必死に逃げた所ライセン大峡谷に逃げ込んだ。だがそこでもモンスターに襲われて今に至る……と

 

「お願いです。私たちを助けてください」

「良いよ、早速そこまで案内してくれ。ユエもついてきてくれるよね?」

「……浩介が言うなら」

 

迷わず即答した俺にシアは仰天とした表情を見せた。そしてすぐに調子を取り戻すと背中から強く抱きしめられた。……言っては何だが、その年齢に不相応な程に実った二つの果実が鎧越しとはいえ、俺に押し付けられ「浩介?」おっと俺の死が近づいたようだ。参ったね☆

 

「……私の方が抱き心地は良いし」ギュー

「ふふーん!私の方が胸は大きいのですよ!本当に抱き心地が良いのはどちらですかね?」ギュー

アァ!?

「ヒエッ」

 

「ハァアアアア……!(畏怖)」

「ブルル(お労しや我が主)」

 

すっかり調子を戻したというか、調子に乗り始めたシアに対して瞳を濁らせながらガチの殺気をぶつけたユエとの間に挟まれた俺。何だこの板挟みは……(畏敬)

 

……心なしかシアの俺を見る目がその……病む三歩手前というか、そんな気配がしたような……?まぁ、いいでしょう(お寿司フォース)

 

「……」

 

 

◆◆◆

 

「そ、そういえば!御二方は魔力を直接操れたり、固有魔法が使えるのですか……?」

「とは言っても、主にユエなんだけどね」

「どやぁ」

 

「……ぺったんこ」

殺す

「ヒエッすいません!失言しましたぁ!!」

「なぜ地雷の上でタップダンスなんかするのだ……これが分からない」

 

トレントに乗ってから暫く経った頃、俺たちはシアの案内の下、残りのハウリア族のいる方向に向かって行った。

 

するとシアがなにやら神妙な声で俺に尋ねてきた。

 

「……浩介さんは、私達の家族を助けて下さるの……ですよね」

「うん、そうだよ」

「あの……こう言ってはなんですが……何故、あっさりと引き受けてくれたのですか……?それに……私は亜人ですよ……」

「あぁ……」

 

まぁ、あんなにあっさりと自分の家族を無条件で助けてくれると言われても逆に心配になったか……そう考えた俺は、自分の心をそのまま伝えた。

 

「……俺はとある場所で、王をやっているんだ」

「うえっ!?浩介さん王だったんですか!?」

 

俺は脳裏に、仕立て屋の亜人(亜人のボック)半狼の亜人(半狼ブライヴ)鍛冶師の亜人(ヒューグ)勇敢な壺の戦士(アレキサンダー)……狭間の地で出会った彼らを思い浮かべた。

 

「……俺はそこで、君のような亜人の助けを得たんだ。……皆、皆、良い人たちだった。俺も何度彼らの力を借りたのか分からない位には……返しきれない恩があった……何度心が折れそうになったか、でも、彼らの助けが無かったら間違いなく俺は正気を保てなかった」

「私が……もしそのような人達じゃなくて、裏切ってたりしたら……どうするつもりだったのですか……?それでも今回のように助けてくれるのですか?」

 

俺は断言する

 

「助ける。それが裏切りだろうが、何だろうが。俺は手を差し伸べる、最後の最後まで」

「……浩介さん」

「だから安心して、君の一族も、君も助ける」

「……はい!」

 

 

「……邪魔が増えた」ボソッ

 

◆◆◆

 

それから数分後、トレントに揺られていた俺たちの耳に悲鳴と怒号が聞こえてきた。その声のする方向に目を向けるとそこには、ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めていた。

あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 

そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

肩越しにシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは〝ハイベリア〟というらしい。ハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。そしてその内の一体が狙いを定めて襲い掛かろうとしていた。

 

「こ、浩介さん……」

 

シアが襲われかけている同胞を助けて欲しそうに俺に声を掛けるが、既に準備は出来てる。覚悟はいいか?俺は出来ている

 

「リュウジクンガワガテキヲクラウ!」

「リュウジくんて誰ですか!?」

 

『黒弓』の連続射撃で放たれた矢は六本残らずすべてハイベリアに命中し、絶命した。ハイベリアはまるで蚊のように地面に落ちていった。

 

(ちっ……何も落とさなかったか……)

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

「……マジでウサミミだらけなのな……」

「……ちょっと不気味」

 

そしてシアの父親らしき人物が出て来て、シアの無事を確認しているようだ。……なにやら仕切りに視線を感じると思ったら、老若男女問わず俺に視線を向けていた。

 

「あれは……帝国兵……?」

「違う!あれは白馬……?の騎士様だ!」

 

「トレントを白馬と言うにはまぁ無理があるな」

「……同感」

 

そんなことを話していると如何やら一頻り話が終わったようで、シアの父親が近づいてくる。

濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得だこれ。……一部の層には人気があるかと考えていると

 

「浩介殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「気にしなくていいですよ。貴方の娘さんの頼みなので」

「おぉ……シアの言っていた通りだ……」

「それで……物は相談なのですが……」

 

そう言って俺は樹海への案内をカムに頼み込んだ。すると案内自体はできるが、その為には他の亜人族の許しを得なくてはならないと言われた。……うーむ。

 

(どうすっかな……確か原作では……どうだったっけ?)

 

大分自分の記憶が摩耗していたことに気づかされた所で一先ず、何とかすると伝えた。

 

(……最悪拳を行使するか(脳死)……待てよ、『誘惑の枝』があるか……(天啓))

「浩介……いざとなれば私が何とかする」

「……それ多分皆死ぬよね?ユエ?」

「……浩介以外要らない」ハイライトオフ

「さぁ行きましょうか皆さん(震え声)」

 

俺は現実逃避をするかのようにハウリア族の先頭に立ってライセン大峡谷を抜け出すことにした。ハイライトの無い瞳で淡々と言ってのけたユエが怖いからではない。……そうではない(大嘘)

トレントにレーズンを食べさせて、トレントをひっこめた俺は歩くことにした。その隣にはユエが陣取っていた。

 

 

「ふふふ……」

 

……ハイライトが消えかけていたのはユエだけでは無かったことを思い知ることになったのは、まだまだ先だった。

 

 

 

さらに数十分後

 

「あの……まだ帝国兵はいますかね?」

 

シアが谷の先を見据えて不安そうに俺に話しかけてきた。……ユエの反対側に陣取りながら。ホいつ間に!?

 

「まぁ、いるだろうなぁ……」

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……浩介さんは……どうするのですか?」ギュー

「話し合い(物理)で分からせるか、拳(物理)で分からせるかの二択だな」

「浩介、それどっちも同じ。あとそこの駄ウサギ邪魔」ギュー

「へぇ~……だったらユエさんが離れたらどうですか?」

 

(……俺まーた何かしたか)

 

そんなやり取りを繰り返しているため、一旦ユエに腕を差し出す、そしてユエが俺の腕に噛みついて血を吸い始めた。そしてユエの表情に安らぎのような表情が見られた。

 

(ふぅ……一先ず安心……ッ!?なんだ……!?このプレッシャーは!?発生源……は……)

 

「……」

(ま……まさか……!?そ……そのようなことがあり得るのか……!?)

 

横目にシアを見ると、そこには薄目でありながら圧を掛けてくるような表情をしたシアがいた。

 

Q,ば……馬鹿な!?一体俺が何をしたっていうんだ?!

A,シアの望む言葉を掛け、更に襲われかけていた家族を迅速かつ無傷で助け出して、尚且つシアを全肯定して『君を守る』と言ったからです。

 

(……マジで俺、体の部位を分割されて所有されかねないぞ……あ、死ねるから復活するか!)

 

違う、そうじゃない。と清水の声が聞こえた気がするが……気のせいか

 

 

◆◆◆

 

シアside

 

(何ででしょうか……浩介さんの腕に噛みついて、光悦な表情をしているユエさんを見ると……ムカムカします……)

 

私と家族を助けてくれた騎士こと、浩介さん。

 

私がみっともなく助けを求めていた所に駆けつけて、あのダイヘドアの頭部を二つ同時に撃ち落としたあの姿に私は見ほれていました。その姿は紛れもなく『英雄』と形容するに相応しかった。

いざ浩介さんと話してみると、とても気さくで私の話を真剣に聞いてくれて相槌も打ってくれたりと好青年な感じがしました。

 

……そして浩介さんはここではない世界で『王』をしていると聞いて、納得しました。彼からは王の器量も風格も感じ取ることが出来ました。そして浩介さんからここでは差別の対象になっている亜人の助けを得て王になっているとだから今でも彼らに感謝をしていることを聞いて思わずこう思ってしまいました。

 

羨ましい

 

あの優しくて、誰とでも隔てなく、接することが出来るあの王に仕えることが出来た方たちはどれだけ幸せだったのか

 

私は酷く、その亜人達の事が羨ましくなってしまいました。私も彼の王に仕えたかった……浩介さんが語ったその旅について行きたかった……!例えどんなに険しい旅だったとしても……

 

……私は悪い子なのでしょうか?

 

浩介さんのそばに居るユエさんが、浩介さんに抱き着いているのを見ると……つい引きはがしたくなってしまいます……

 

私の中に黒い何かがうずめき始めている

 

私は……あの人に仕えたいと……所有物になりたいと……亜人としての本能が、今も私を突き動かそうとしています。

 

 

あぁ……シアは、シアは、仕えるべき主様を見つけ致しました♡




忠誠心MAX従属願望ヤンデレの完成です。

……どうしてこうなった?

褪せ人様は亜人族だろうが獣人だろうが、何だろうが助けを求めていたら声を掛けるどころか全部解決()までしてくれるので大分質が悪いですね……

この褪せ人様は、亀助けて竜宮城に行ったら乙姫達の悩みを全部解決して帰ってくるようなタイプです。


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親公認だよ!良かったね!褪せ人様!

閲覧ありがとうございます!

感想、評価、誤字報告ありがとうございます!

タイトルから既にオチてますが、まぁその通りです


一行は、階段に差し掛かった。俺を先頭に順調に登っていく。暫く飲まず食わずだったハウリア族にゆでエビやら干し肉やらレーズンをあげて体力を回復させたお蔭か、ずいぶん顔色が良くなった。

 

そして、遂に階段を上りきり、俺たちはライセン大峡谷からの脱出を果たそうとしていた。

 

登りきった崖の上、そこには……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えていた。だが俺を見るなり連中は驚いた表情をして話しかけてきた。

 

「おい、あんた。どこの所属だ?そんな大層な甲冑を身に着けて……まぁ、いい。ほら、後ろの奴らを渡してくれねぇか?」

 

にやにやと笑いながら口々にハウリア族を品定めしているその視線をうっとおしく思った俺はどうやってこいつらを調理してやろうかと考えていた。

 

 

……その時だった。

 

ゾクッ

 

「この感覚は……まさか!?」

「浩介?どうしたの?」

「浩介さん……?」

 

体中を駆け巡ったこの感覚……狭間の地で散々味わった不快としか言えない感覚を覚え、すぐさま弓を外し、白く輝く特徴的な刀である『名刀月隠』を構える。

 

……そしてその時は来た

 

【【糞喰い】に侵入されました!】

 

『……漸く見つけたぞ』

「グァアアアアアアア!!」

「な、何だ貴sギャアアアアアアアアアア!!」

 

「よりにもよって……お前か!『糞喰い』!!」

 

侵入者特有の赤い霊体の姿で俺に向かいながら兵士を殺している存在は、狭間の地において【忌まわしき糞喰い】と呼ばれていた呪いの存在。全身に赤黒く錆と腫瘍に覆われた甲冑を纏いながらその手に人間の背骨のような禍々しい大剣『ミエロスの剣』で帝国兵を斬り刻んでいた。

 

それから帝国兵の抵抗も虚しくものの数分足らずで帝国兵は全滅して、その死体には『苗床の呪い』が発生していた。

 

その光景を目の当たりにしたユエ達は『糞喰い』の異様さに各々の反応を見せるが、共通しているのは『恐れ』であった。

 

「な……何、あれ……」

「ヒイッ!!い……嫌、来ないで……怖い怖い怖い怖い!」

「ユエ!シアを連れて下がれ!!こいつは俺が殺る!!」

 

『お前を殺してやる……後ろの奴らも残らず殺して、殺して、殺して穢してやる』

 

ユエは『糞喰い』から発せられるその異常なまでの殺意と憎悪に顔を顰めていた。シアや他のハウリア族達は亜人としての本能か、目の前の存在の危険さにいち早く気づくも『糞喰い』から発せられる膨大なまでの負の感情に圧倒されて腰を抜かしているようだった。シアに関しては咄嗟にユエに指示を飛ばし、下がらせた。ユエも事の重大さに気づき、咄嗟にシアを抱えて後方のハウリア族の方に向かった。

 

そして帝国兵の血と肉で汚れた剣を振り払う様子も無くそのまま近づいてくる『糞喰い』を前に俺は月影を鞘に収め、迎え撃つ準備をしていた。

 

『お前を穢し、そして、全てが呪われた世界を!!』

「『束の間の月影』!」

 

ミエロスの剣が振り下ろされると同時に俺も月隠を居合抜刀し、刀身から放たれる青い刃状の光こと『束の間の月影』を解き放った。

 

 

◆◆◆

 

三人称side

 

 

互いに一撃を見合ったところで浩介が糞喰いを蹴りつけ、遠くへ弾き飛ばした。

 

『グゥ……グッ……グゥオアアアアアアアアア!!』

 

糞喰いは仰け反りながら体に悍ましいオーラを貯め、それを解き放った。『王家の忌み水子』である。

 

無数に飛んでくる複数の呪霊の塊が浩介を追尾する。

 

「厄介な……!」

 

それを見るや否や浩介は刀を収めたまま走り出した。追尾を振り切るために糞喰いを中心として半円を描きながら迫りくる呪霊を回避していった。

 

やがて浩介はある程度の距離が離れた所で糞喰いの下へ駆け出した。糞喰いはミエロスの剣を構え、迫りくる浩介に向けて乱雑に振り下ろした。浩介は月影を鞘に収めたまま近づいた。

 

『オォオオオオオオ!!』

「――シッ!」

 

ガキィン!

 

縦に振り下ろされた月影とミエロスの剣がつばぜり合いになった。

 

僅かに浩介の力が押していたその時、糞喰いはミエロスの剣の本領を発揮した。

 

ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!

「チィッ!」

 

辺りに悍ましい叫び声と共に悍ましい何かが糞喰いの身体から飛び出した。

 

『ミエロスの絶叫』をまともに受けた浩介は全身が衰弱するような感覚に襲われた。そして浩介を縦に両断するべく迫りくる刃を間一髪左に跳び、回避した。

 

『死ね、死ね、死ね』

「それしか言えんのか?」

 

怨嗟の声をあげながら凡そ剣技と言えないような剣の振り方をする糞喰いに軽口を叩いた浩介だったが、次々と振るわれる刃を紙一重で躱していった。

 

そして魔術が使えることを確認した浩介は『ルーサットの輝石杖』を構え、魔術を行使した。

 

「『滅びの流星』」

『グゥ……! お、オォオオオオオオ!!』

「――なッ!? ならば!」

 

杖から放たれた十二の暗い流星は確かに糞喰いに直撃した。しかし当の本人は意に帰さない様子でひたすら浩介との距離を詰めてきた。まるで狂戦士のようだった。

 

思わず驚く浩介だが、すでに次の魔術の詠唱を開始していた。

雄たけびを上げながら迫ってくる糞喰いに向けて杖を、眼前にまるで武器のように掲げ……冷たい魔力を纏った魔力の大剣を形作った。そして、

 

「『アデューラの月の剣』!」

『アァアアアアアアア!!』

 

左下に向けて斬り払うと同時に、杖から冷気の刃が放たれた。

 

糞喰いは避けるそぶりも見せず、ひたすら前へ、前へ、突き進んでいた。そして直撃した。

 

糞喰いの鎧はひしゃげ、左腕が切り落とされていた。その断面は凍り付いており、決して安くないダメージを負っていたのにも関わらずミエロスの剣を右手の力と足の加速の力だけで右からの袈裟斬りを行った。

 

『死ね! 死ね! 死ねぇええええ!!』

「――ッ! 『束の間の……

 

浩介は杖を投げ捨て咄嗟に鞘に手を添えた。糞喰いは相変わらず醜くく恐ろしい怨念を放ちながら浩介を殺そうとしていた。

 

ミエロスの剣が浩介の身体に振り下ろされるその刹那――浩介は目にもとまらぬ早業で月影に魔力を込め、抜刀した。

 

……月影』!!」

 

冷気を纏った光の刃が糞喰いの右脇から直接右腕と頭部を切り離した。月影の刃と浩介の甲冑には糞喰いの血と肉片がこびりつき、やがて勢いを殺しきれなかった胴体は浩介の後方に前のめりに倒れた。やや遅れてミエロスの剣を握ったままの右腕と頭部が近くに落ちた。

 

『……いずれ……お前を殺してやる』

「来ないで貰えるとありがたいんだがな」

 

最後の言葉を残した糞喰いの身体は、赤い光に包まれ、その場から消え失せた。

浩介は月影を鞘に収め、一つため息をついた。

 

「全く……厄介だな」

 

辺りには糞喰いに穢され『苗床の呪い』に冒された三十もの帝国兵の死骸だけが残った。

 

 

◆◆◆

 

 

まさか糞喰いが来るとは思わなかったが、なんとか撃破できた……

 

一先ず鎧にこびりついた肉片やら血を石鹸で洗い流していると

 

「「浩介/浩介さん!!」

「えっ? ちょっ……ウォアアアア!?」

 

ユエとシアが飛びついてきた。しかし俺は足元の石鹸で滑り、転んでしまった。ユエとシアは、転んだ状態の俺にひたすら抱き着いてきた。

 

「良かった……! 本当に生きてて良かった……!」

「浩介さん……! 心配したんですよ……本当に……怖くて、死んじゃうかもって……!」

 

不安そうな表情と泣きそうな声をしている二人の頭を撫でながら、二人の安否を確認した。

 

そして視界の端にハウリア族が見えたのでそちらも無事だったことを悟った。一先ず二人を抱き返しながら起き上がる……起き上がれない!

 

「……あのー?」

 

一先ず一旦慣れるようにユエ達に話しかけるが……一向に離れん!

 

「……このままでいい」

「え?」

「……私も」

「え」

 

助け舟を出してくれんと言わんばかりにとカム達に視線を向ける。だが……

 

「浩介殿、娘を頼みますぞ。それと私が言うのもなんですが、見ていて冷や冷やさせられましたぞ……あのような戦い方は……」

「ゑ」

 

俺は味方がいないことを悟った。だが、戦い方についていつもあんな感じだと答えると……驚愕の視線と共にますます俺の拘束が強くなった。まるで蛇のようだな!(現実逃避)

 

「浩介さんは自分を大切にしなさすぎです」

「自分を犠牲に皆を守れるならそれでいいじゃないか」

 

何時もの事、何時もの事と答えると、ユエとシアが視線を合わせた。

 

「……ユエさん」

「……ん」

 

「ふ……二人とも……?」

 

俺を見上げるようにして二人の視線が俺に向けられる。その眼はハイライトが消失しており、少し恐ろしさを感じさせられた。

 

「……その体に分からせる」

「ヱ?」

「……私達がどれほど心配させられたかを、そして私たちがどれほど浩介さんを必要としているか」

「Eh?」

 

そうして俺の鎧と冑を引きはがそうとしてくる二人。咄嗟に二人の手を掴むが……力強ッ!? 

 

ヘルプミー!ハウリア族!!

 

「……ゴホン。シア、今は樹海に行こう。ここにいてもまた帝国兵が来るかもしれん」

「か……カムさん……!」

 

「その後なら浩介さんを好きにしてもいいからな」

「What?」

「……仕方ありませんね。ではユエさん、また後で()()しましょう」

「……ん」

 

「おぉ……(ラニ様)よ……なぜ私にこのような試練をお与えになるのですか……(絶望)」

 

できる事ならすぐに円卓に行って暖炉の傍で横になりたいと思った。……これはもう逃げられないなと感じました。




褪せ人様「他人の命は絶対守るけど、自分はどうせ復活できるし自分の命は投げ捨ててええやろ!他の人が助かるならそれでおけ!!」

ヤンデレs「は?」

関係ないですが、不死身の存在が何時ものように死にかけて、本人は軽く流しているつもりでも周りがそうは行かないというシチュエーションが好きですねぇ!

褪せ人様に限らず他の主人公も二つ返事で連帯保証人になってくれる感じがしてなりません


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獣はもはやとめどなく……え?作品が違う?

閲覧ありがとうございます!

最近エルデンリングのアップデートが沢山来てますね
DLCが来るのか不安になってきましたが待つことにしました()

いつも感想と誤字報告ありがとうございます!よろしければ評価していただけると幸いです

それではどうぞ


七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、俺とユエとシアを乗せたトレントが先頭に立ち、その後ろを数十頭の馬が追尾していた。気分はさながら戦国武将か呂布である。(トレント君は赤兎馬だった……?)

 

トレントの中心には俺が座り、前をユエが後ろをシアが占拠している。いざ移動するとなった時シアが前に乗りたい()と言ったことを皮切りにユエがドスの利いた声で威圧をし、危うくキャットファイト(R-15)に発展しそうになったが、最終的にこの位置に落ち着いたのだった。

 

因みにまだ戦鬼一式であるが、武器は『名刀月影』と異彩を放つもう一振りの刀『隕鉄の刀』を装備している。どちらも魔法剣士には持って来いの武器であり、これらには助けられたものだとしみじみ思う。

 

『ウォオオオオオオオ!! 『束の間の月影』『束の間の月影』『束の間の月影』!!そして……『束の間の月影』だぁアアアアアア!!』

 

……あれ? これ隕鉄の刀いる?

 

そんなことを考えているとシアが

 

「あ、あの二人のことを、教えてくれませんか?」

「うん?それはさっき話したけど?」

 

「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、あと、浩介さんが王だった時の話も聞きたいです」

「別に俺は良いけど……突然どうしたの?」

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。みなさんに出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとみなさんのことを知りたいといいますか……何といいますか……」

 

「まぁ、そう言われたら話すよ。少し長くなるけどね」

「浩介の昔話。私も聞きたい」

「あれは……そうだね……」

 

それから俺は狭間の地での出来事(主に道中の苦難や世話になった人達の話中心)から今ここに至るという感じで話を終えると……シアもユエも無言で俺にしがみついてきた。はて? どこか気に障る話でもしたかな?

 

「え……どうしたの?」

「……うっさい」

「……黙って私達に抱かれててください」

「??????」

 

この後暫く口を聞いてもらえなかった。あと仕切りに『半神を殺すには……』とか『このまま奴隷にしてもらえれば……或いは……』とか呟いているのが聞こえてきたけど、やめてね?フリではないよ!?

 

 

◆◆◆

 

一方そのころ

 

「ひぃえええ……」

「うわぁ……(ドン引き)」

「こ……これ程だとは……!?」

 

ハイリヒ王国のとある場所にて勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が行われていた。

 

前人未到の六十五層を突破しさらにベヒモスを寄せ付けない圧倒的な勇者を試すという名目で行われた模擬戦であるが、文字通り一瞬で片が着いてしまった。

 

「ガッ……ガハッ……」

「……」

 

光輝の対戦相手は、なんとも平凡そうな男だった。しかしこの世界の人間の中では決して弱い方では無かった。むしろ下手をすれば()()()()クラスメイトの中でも勝てる人物は限られてくるだろう。

――だが、恐ろしいまでの力を手にした光輝の敵では無かった。

 

その惨状に愛子は怯え、清水は死んだ目でドン引きし、イシュタルを含めた多くの人物はただひたすらに驚愕していた。――そして、()()()()()()()()()()()()()()は、ただ当然の結末だったと言わんばかりに光輝を見つめていた。その他の香織と恵理も同様の目線で事の成り行きを見ていた。

 

この男は実のところ、光輝を殺す気で挑んだ。まだ剣を握って半年もない子供、彼にとって自分よりも年下の存在しかも、争いを経験したことが無い奴に負けてたまるかと対抗心を燃やしていた。

 

だが、現実はどうだ。男は壁にめり込み敗北していた。一方の光輝は無傷であった。それから光輝は手に持った一本の(片手持ち)『星砕きの大剣』についた男の血と瓦礫を鬱陶しそうに振り払うとイシュタル達の方に振り返り、一切の感情を感じさせない無表情で

 

「――殺せなくて残念でしたね」

「ッ!!」

 

今回の模擬戦闘を仕組んだ元凶ことヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーが光輝の射殺すような視線を受け、思わず萎縮した。

ガハルドは勇者を侮っていたことを認め、

 

「勇者め……まだ本気を出しておらぬな……! 面白い!」

(いやな奴に目を付けられちまったな……光輝)

 

清水はガハルドの獰猛な笑みを横目に厄介なことになりそうだとため息をついた。

 

ちなみにこの後クラスのまとめ役であった清水も模擬戦を申し込まれたが、開幕から『黒炎』を独自に改良して速度を向上させた『黒槍(こくそう)』により相手がダウンし、結果として清水も一目置かれることになった。

 

「あぁ、やっちまった……目立ちたくねぇのに……」

「でもユッキー。自室であんなに魔法の名前を呟いたり叫んでいたからある意味目立ってたけど……」

グハァ!!(吐血)」

「えぇ!? なんで!?」

「コロシテ……コロシテ……」

 

余談だが、右腕を失っても尚鬼のような鍛錬を重ねている雫を見て皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘った瞬間、皇帝の背後の壁に雫が無数の斬撃を飛ばし警告するハプニングがあった。その際清水は雫を(物理的に)沈め代わりに謝った。しかし当の皇帝は、雫を沈める際の力を持つ清水を近衛兵にならんかと誘うほどには気分が向上していた。

 

 

◆◆◆

 

それから数時間して、遂に俺たちは【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。霧……ねぇ……

 

「それでは、浩介殿、ユエ殿、中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「そうですね……あと二人ともそろそろ離れてもらっていいかな? ちょっと動きづらいし……」

「「……(無視)」」

「駄目みたいですね(諦観)」

「……シア、いい加減離れなさい」

 

カムさんが言ってくれて漸くシアが離れた。ユエもそのままにするわけにはいかないので可哀想だけど筋力で引き剝がすことにした。

 

「む~」

「はいはい、また後でね」

 

それから俺とユエは気配を押さえてもらうようにと言われたので『見えざる姿』を使い完全に隠れた。しかしあまりにも完全に隠れてしまったため逆にカム達が見失うということになった為『身隠しのヴェール』で移動することになった。

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの号令と共に準備を整えた俺たちは、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 

(慣れって奴か……)

 

順調に進んでいると、突然カム達が立ち止まり、周囲を警戒し始めた。魔物の気配だ。当然、俺たちは感知している。どうやら複数匹の魔物に囲まれているようだ。樹海に入るに当たって、俺が貸し与えた武器を構える兎人族達。彼等は本来なら、その優秀な隠密能力で逃走を図るのだそうだが、今回はそういうわけには行かない。皆、一様に緊張の表情を浮かべている。

 

「――シッ!」

 

俺は両手に扇投暗器を持ち、気配の感じる箇所に素早く投擲した。

 

ドサッ、ドサッ、ドサッ

 

「「「キィイイイ!?」」」

 

三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊りかかってきた。俺は再び扇投暗器を両手に補充し、複数の猿に向けて投擲した。

 

猿は何が起こったか分からずに脳天に暗器が突き刺さり、絶命した。少し遅れてたらヤバかったな……と内心思いつつ無事を確認した。……まだ一匹いたか

俺は振り向きざまに暗器を素早く投擲した。

 

「――シッ!」

「キィイイイイ!?」

「うわぁ!」

 

一匹残っていたようで危うくハウリア族の子供(男の子)が襲われるところだった。俺はその子に近寄り無事を確かめた。

 

「大丈夫か? 坊や」

「うん! 僕は平気だよありがとう! お兄ちゃん!」

 

しかし、樹海に入って数時間が過ぎた頃、今までにない無数の気配に囲まれ、思わず歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

(獣臭い匂い……あぁ、成程ここでか)

 

その相手の正体は……

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。




尚雫とはじめの腕を斬った人物のヒントとしては、『一振りのとある刀を使う』『血狂い』です

まぁ、せっかく褪せ人様が義手フラグを立ててくれたので回収はするつもりでした。
これも葦名の為……

閲覧ありがとうございました!


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亜人族と半狼と

閲覧ありがとうございます!

エルデンリングの公式アップデート内容の項目の多さに思わず驚愕した投稿者でございます
全然知らなかった不具合もあって思わずポカーンとしてしまいました。

それではどうぞ


目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達に裏切り者を見るような眼差しを向けていたことから人間が亜人族と共に歩いていることは彼らにとってはタブーのようだ。

その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ

 

「あ、あの私達は……」

 

カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

「はいストップ」

「なッ……!?」

 

俺は虎の亜人の()()を取り、肩に手を置いた――ただしとびきりの威圧感を込めて

 

すると虎の亜人は石のようにその場に固まり、周りの奴らも動くに動けないと言いたげな表情で戸惑っていた。

 

「まぁ、落ち着けよ。な?」

「な……何が、目的だ……!?」

 

俺は樹海の深部へ向かう旨とその道中でハウリア族を助けたことを伝えた。すると虎の亜人は一頻り悩んだ後、

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

「国や同法には危害を加えるつもりは毛頭ないから安心してくれ」

「……俺の背後を取れるお前が言うと説得力に欠けるのだがな……」

「ははっ、そうだな」

 

その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

「勿論」

 

二つ返事でそう返すと亜人の部下が長老を呼びに行ったらしく、俺も威圧感を解いてユエ達の方に歩き出した。

 

「あ、そうそう。俺を殺したいならいつでもどうぞ? そこの皆さん方」

 

そう言葉を返してユエ達の下に戻った。そしてその場に座り込むと、武器を落とした数名の亜人族が見えた。

 

(やっぱり狙ってたな)

 

 

それから重苦しい雰囲気に飽きたのかユエとシアが俺の傍に寄って俺の前後に張り付いた。

 

――張り付いてきた

 

「「「!?」」」

 

あちら側の亜人族が驚愕したような視線を向けてきた。それはそうだろう何せ亜人族のシアが俺の背中に張り付いて今もこうして音を立てながら匂いを嗅いでいるからだ。

 

「はぁ~相変わらずいい匂い……かぶりつきたい……」

「匂いも漂ってきますね……興奮してきました(ド直球)服を……」

「やめないか!」

 

「し……信じられん……人間に自ら媚びるなど、亜人族の恥じさr「うるさいですよぉ?」……ヒエッ」

(もうちょい頑張って欲しかったナー)

 

シアに睨まれた狼の亜人はまるで蛇に睨まれたカエルのように竦みあがり、耳を垂らしながら仲間の後ろに行った。捕食者と被食者の立場が完全に逆転してやがる……!

 

それから俺は長老が来るまで重苦しい雰囲気を緩和する意味で、亜人族の一人に勇者の肉塊をぶん投げて渡した。渡された亜人はその肉から漂う香ばしさに喉を鳴らし、食べた。

 

「う、うんまぁあああああい!!」

「そんなにか!?」

「ゴクリ……じゃ、じゃあ俺も……」

「俺も……」

 

それから長老が到着するまでの間肉を喰ったり、身の上話を聞いたり、自分にも亜人の友がいたことを話すと何かの琴線に触れたのか、割と気に入られました。

 

やっぱりまずは胃袋を掴むのが先なんやなって……

 

 

◆◆◆

 

それから暫くして

 

霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。

 

流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、森人族いわゆるエルフなのだろう。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

「遠藤浩介です……」

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」

 

そう言われたのでオルクス大迷宮で強d……徴収した物品とオルクス大迷宮での出来事を伝えた。その時に虎の亜人がオルクス大迷宮の鉱石やらを見て驚いていたりしていた。

 

そしてアルフレリックが何かを考える素振りを見せた。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

アルフレリックの言葉に、虎の亜人が猛抗議をするが、周囲の亜人は生憎餌付けしたので、別に良いのでは……? という意見が散見された。計画通り(ニヤァ)

 

「じゃあ、俺ら大樹に用があるのですが……」

 

しかし目的を話したところでアルフレリックの方が困惑したように返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

「えっ」

「あっ」

 

ちょっとした圧を込めてカムに問いただした

 

「カムさん?」

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

「ほーん」

 

しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、俺とユエの視線に耐えられなくなり逆ギレした。

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は浩介さんのことしか考えていませんでしたし、それにそもそも周期の事ぐらい族長である父様なら知ってて当然なのではありませんか!? 族長の姿ですか? これが?」

「グァアアアアアアアアアアアアアアアア!!(吐血)」

 

「それに父様は周期のことそっちのけで私に異種族婚姻について教えているから、てっきり周期のことも承知の上だと思っていました!」

「ちょっと待って?」

「は?」

 

所々聞き捨てられない単語が聞こえてきて思わず俺は口に出し、ユエは威圧を込めた視線をシアにぶつけた。

周囲に再び緊張が走る。原因は間違いなくシアとユエなんだがな……それからは泥沼の責任のなすりつけ合いが始まる

 

 

――その時だった

 

 

ウォオオオオオオン!!

 

 

どこか聞き覚えのある狼の遠吠えが辺りに響いた。まさかと思って長老に聞いた。

 

「――ッ!? アルフレリックさん! 今のは!?」

「あ、あぁ……今のはブライヴ殿が……」

「ブライヴ!? ブライヴって言ったか!? わりぃ! ちょっとそこまで行ってくる!!」

「浩介!?」

 

 

俺は脇目も振らず声の鳴る方に駆け出した。ブライヴの名前を聞いた時点で俺は既に駆け出していたんだが、そんなことはどうでもいい

 

「狭間の地で聞きなれたあの声……間違いない!」

 

そして暫く進み、たどり着いた場所は一際大きな樹木が生えている空間だった。

 

「浩介……どうしたの……?」

 

ついて来たユエと見張りの為に来た虎の亜人が俺の異様な様子に驚きを隠せないでいるようだ。

 

狼の遠吠えは、この樹木の上から響いてくる――俺は右手を天に向け、指を鳴らした。『指鳴らし』だ。

 

「貴様……一体何を……?」

 

 

――すると目の前に黒い影が舞い降りてきた。

 

俺の二回りはあるであろうその体躯と、毛皮の鎧、王家のグレートソード、そしてその狼の顔……俺はそこで確信した。

 

「久しぶりだな……ブライヴ」

「フン、そっちこそ相も変わらずといった所か、褪せ人。いや、ラニの伴侶か……今は」

 

狭間の地で、俺が最期を見届けた半狼 ブライブがそこにいた。

 

 

 

 

 

――同時刻

 

 

「な……なんだこいつらは……っ!?」

「だ……駄目だっ! 押し返される!! 数ではこちらが勝っている筈!?」

 

トータスの遥か彼方にて魔人族の軍勢がとある軍勢と争っていた。魔人族側の目的は土地の侵攻であった。その為に無数の魔獣を従え、更に敵の兵の数を上回るほどの兵士を戦線投入していたのだった。

 

――これもすべて神の為

 

 

しかし、それでも彼らは押されていた。他でもない『赤獅子』の軍勢に

 

「皆の者、恐れるな! 戦いたまえ! 我らには将軍ラダーンがついておられる! 剣を取れ! 戦え!!」

 

赤髪の兜飾りが特徴的な騎士たちの前に立ち、波打つ剣を掲げ彼らを鼓舞する存在がいた。

 

――彼の名は『客将 ジェーレン』

 

かつて狭間の地にて、朱い腐敗に冒され正気を失った将軍ラダーンを介錯するための戦祭り『ラダーン祭り』を開き、古今東西の豪傑を集結させ、ラダーンの名誉ある死を約束させた張本人である。

彼の背後には無数の赤獅子の軍勢が隊列を為して襲い来る魔獣や魔人族の猛攻を凌ぎ、着実に進軍していている。

 

――彼らこそ誇り高き『赤獅子』なり。彼らには恐れはあらず。ただ戦うのみ

 

「クソ……ッ! せめてあの爺だけは……!!」

 

一人の魔人族が周囲の部下に命じて客将たるジェーレンを確実に殺すべく、魔法の詠唱準備を行った。

 

 

――だが、彼らは知らぬ。空より飛来してくる隕石、否

 

赤獅子の英雄のその有り様を

 

 

詠唱を終え、後は放つのみとなった時彼らの上空からけたたましい音が聞こえ、空が赤に染まった。

 

「――ッ!? なんだ急に空が赤n」

 

一人の兵士が空の様子に気づき、見上げるも眼前には既に流星が迫っていた。

 

 

師よ! どうかご照覧あれ! 今こそ、我流星とならん!!

 

 

ドグォオオオオオオオオン!!

 

彼らの中心に途轍もない質量が衝突した。その爆発により魔法を放とうとした軍勢を中心として周囲の魔人族や魔獣は須らく消し飛ばされた。

 

――そして彼らは知ることとなる

 

「――なっ!? なんだ、あれは!?」

 

遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ!!

 

大地が揺れるほどの大声が戦場に響き渡る。巨人のごときその体躯に不釣り合いな痩せ馬に乗り、黄金の獅子を象った兜と鎧を身に着け、二刀一対の大剣と大弓を携えた武人が、声高らかに叫ぶ。

 

我こそは【星砕き】!【星砕き】の赤獅子、ラダーンなりィイイイイ!!

 

――【星砕き】の名を




※この後魔人族側は敗走しました

全盛のラダーンに加えて統率力と戦力が爆あがりしている赤獅子の連中とか戦いたくもない……

え? この全盛極まったラダーンと褪せ人が戦うんですか?

褪せ人「……何回死ぬかな」
ラニ「全盛の兄上だからな。まぁ数百で済めばいい方だろうな」
褪せ人「」


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開幕発狂!全部褪せ人のせい!

閲覧ありがとうございます!

気が付けばUAも100,000間近でお気に入り登録者様が900!?
ありがとうございます!!

感想もありがとうございます!

それではどうぞ


ねぇ?どうして?なんで私以外に既に女がいるの?浩介?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ?

これって裏切りですヨネ?まさか既に伴侶がいるだなんて聞いてませんヨ?説明してくださいよねぇ、ねぇ!!

 

「」

「……お前、相当厄介な奴らに好かれたもんだな……てっきり、既に話していたかと思っていた……済まん」

「「「ガクガクガクガク」」」

 

 

数分前……

 

「久しぶりだな……ブライヴ」

「フン、そっちこそ相も変わらずといった所か、褪せ人。いや、ラニの伴侶か……今は」

「まぁ、そうだn「はぁ?」アッ」

 

BLOOD LOSS(血が出た!)

 

この直後ユエは俺の首元に牙を立て、かぶりついた。かなり強めに噛んだらしく首の一部が削れ、そこから血がまるで噴水のように飛び出した。

 

薄れゆく意識の中、俺は聖杯瓶を飲みながらひたすら回復し続けた。

 

「おい!? 大丈夫なのか!?」

「あ……あぁ、うん大丈夫……ちょっと血を失い過ぎただけだから……」

「凡そ人間が出していい血液の量ではないぞ!?」

 

「フーッ! フーッ!!」

 

ユエは興奮しながらあふれ出る俺の血液をがぶ飲みしていた。そろそろ聖杯瓶が尽きるから次は神水瓶の出番か……と思いつつ呼吸を整える。

 

ブライヴは王家のグレートソードを構えながらユエを斬るべきかそうでないべきかを視線で問い合わせるが、俺はそれを手で制止した。

 

「何で……ッ!? 私の他に伴侶がいるの!? 浮気? 浮気なの!?」

「何を言っているんだこいつは……!?」

「うーん……これに関しては俺の自業自得カナー……アッそろそろ不味いことに……悪いけどブライヴ。俺をあっちまで運んでくれる?」

「……分かった……クソ……血の匂いで鼻が駄目になる……!!」

「フーッ! フーッ!」

 

ブライヴがユエごと俺を難なく担ぎ上げ、シアたちが待つ場所に向かってくれた。本当に済まない……

濃い血の匂いに顔を顰めながらも運んでくれるブライヴには感謝しかなかった。

 

 

暫くして長老たちが待つ地点に着いた時亜人族は驚愕していた。

 

「こ……これはブライヴ殿!? ウッ!? なんですかこの血の匂いは!?」

「えっ!? ユエさん!? 何してるんですか!!」

「……浮気者に鉄槌を下してた」

「は? 浮気者……? どういうことですか?」

 

ユエがシアに近寄ってさっきの話をしている。ブライヴはやらかしたかという表情で俺に憐みの視線を向けてくる。

そしてユエに、俺のことを話されたシアはというと……

 

「へぇ……?」

「シ……シア?」

 

目がカッと見開かれ、辺りにいた亜人族はブライヴ以外怯え切った。

……本来はどちらかと言えば被食者の立場な筈のウサギが、ヒエラルキーの上位に立っているとか考えたくもないですなはっはっはっ(現実逃避)

 

 

――そして冒頭に戻る

 

 

ユエとシアのあまりの変貌ぶりにハウリア族のみならず他の亜人族がまるで生まれたての小鹿のように隅で震えていた。ブライヴは申し訳なさそうに項垂れていた。

 

尚俺は吸血姫とウサギ(の皮を被った何か)に眼前から迫られていた。ユエもシアの目にはハイライトは入っておらず、目をカッと開けながら俺に迫っていた。

この状況を例えると……世界一怖い三者面談。これに尽きる

 

 

だけどこのままにするのは流石に他の亜人族が可哀想になってきたので、勇気を出して二人の説得を試みた。

 

 

「……あの、一先ずフェアベルゲンに行きません……? 後で(できる限りで)なんでもするんで……」

 

「「忘れないで」」

「……褪せ人……お前……」

 

ユエとシアは息を合わせ食い気味に俺の提案に答えた。だけどそれを見ていたブライヴは顔に手をあてて居た堪れないといった表情で俺を憐れんでいた。

 

物理的にも性的にも食われかねないこの殺伐とした空気の中、俺たちは足腰が震えているアルフレリックを他の亜人族が支えながら虎の亜人ギルの先導で進み始めた。

 

「誰だよ……ハウリア族が弱いだなんて言ったのは……」

「いいえ、シアが例外なだけですハイ」

 

一人の亜人族の嘆きともとれる呟きを即座に否定するカムであった。

 

 

◆◆◆

 

 

濃霧の中を虎の亜人ギルの先導で進む。

 

行き先はフェアベルゲンだ。ハウリア族、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めて既に一時間ほど歩いている。ブライヴは最後尾にいて周囲の警戒をしていた。

尚その間俺はユエとシアに万力のごとき力で腕を締め付けられながら歩いていた。

 

「……あれウサギじゃなくて蛇なんじゃ……」

「おい馬鹿止めろ……俺だってまだ死にたくねぇんだよ……」

 

……こそこそと聞こえる会話を無視しながら歩いていると、俺たちは霧が晴れた場所に出た。

そしてふと霧の周りをよく見れば、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められている。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようだ。

 

「あれは、フェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は〝比較的〟という程度だが」

 

だが、とアルフレリックが付け足した

 

「ブライヴ殿がたまに寄り付いてくる魔物や帝国兵を蹴散らしてくれるお蔭で最近はその心配もあまりないんだがな」

「マジかブライヴ」

「……とはいえ、やっていることはいつもと変わらんがな……後は精々訓練をつけてやったりが主だな」

「それでも俺たちはあんたに感謝している。でかすぎる借りだが、いつか返そうと思う」

 

まさかブライヴがここまで亜人族に慕われているとは思わず、驚愕する俺だった。

 

「そういえば……お前はどこでブライヴ殿と知り合ったんだ? どうにも初対面には思えないんだが……」

 

「うーん……まぁ、ここではない遠くの場所で知り合ったな」

「……そんなところだ」

「ここではない場所か……なぁ、そこは一体どんな場所だったんだ? ブライヴ殿のような亜人も他にいたのか?」

 

ギルが俺に狭間の地のことを尋ねてきた。それに対して俺は正直に答えた。

 

「まぁ、ブライヴのような亜人は割と珍しい方だったな。他の亜人は皆正気を失ってて、俺や現地の人々に襲い掛かっていたな」

「……成程、理性があるだけまだこっちの方がマシか……」

「……理性があるのが、幸せとは言い難いんだがな」

 

ブライヴがどこか消極的な感じで呟いた。恐らく自分が辿った最後について考えを巡らせているんだろう。

 

 

――理性があることが果たして救いなのか、俺はイレーナ(殺された娘)エドガー(その父)の事が頭をよぎった。

 

「……あれはブライヴが悪いわけではないさ」

「お前が許しても、俺自身が気にするものだ」

「難儀だな」

「……それが俺だからな」

 

 

そうこうしている内に、眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも三十メートルはありそうだ。亜人の〝国〟というに相応しい威容を感じる。

 

ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて門が僅かに開いた。周囲の樹の上から、ハジメ達に視線が突き刺さっているのがわかる。人間が招かれているという事実に動揺を隠せないようだ。アルフレリックがいなければ、ギルがいても一悶着あったかもしれない。おそらく、その辺りも予測して長老自ら出てきたのだろう。

 

門をくぐると、そこは別世界だった。直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそうである。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

俺はその景色に見とれていたらしく、ギルが得意げな表情で俺に話しかけた。周りのハウリア族や亜人も得意げな表情をしていた。

 

「……すまん、普通に見とれていた。あぁ……綺麗だ……」

「ん……綺麗」

 

狭間の地の地下深くにある【永遠の都】の夜空も綺麗だったが、こっちもまた自然の調和という良さがあり、俺は思わず冑を取り、感嘆のため息をついた。

 

「あぁ……綺麗な空気……自然との調和……素晴らしい……」

「こ、浩介殿?」「浩介さん……?」

 

――星の外にいた時はずっと満天の星空だった。それも悪くなかったが、こうした自然あふれる物を見ると、どこか感傷深くなってしまう、人の営みと自然が相反することなく調和がとれているこの光景に俺は息を漏らした。

 

「狭間の地でも、こんな景色は見られなかった……」

「浩介……完全にトリップしてる……」

「戻ってこい褪せ人」

 

そういってブライヴが俺の頭を軽く叩いた。

 

「……少し、感傷的になりすぎてた」

「い、いえ、私たちの故郷を気に入ってくれてなによりです……」

 

俺の反応が予想外だったのか、シアを含めた亜人族が若干の戸惑いを見せつつ嬉しそうな表情を浮かべていた。

そして俺たちは好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 

(浩介のあの表情……初めて見た……少し、ドキッとさせられた……食べたい(意味深)

(浩介さんのあの顔は……本当に見惚れていた表情だった……綺麗だったなぁ……今すぐひん剥いて襲いたい

 

なんだ……通常の二倍の寒気が……!?

 

 

◆◆◆

 

 

――???にて

 

 

「……足りぬ」

 

どこか寂れたような印象を受けさせる城内にて、それはいた。

 

「……まだ、足りぬ」

 

城内の一室――そこは薄暗くも立派な構造をしており、明かりさえあれば荘厳な雰囲気漂う一室になっただろう

 

 

――だが、その景観をぶち壊すように数多くの死体が並べられてあった。

 

「これでは、あの褪せ人に勝てぬ……! もっと……もっと強き力を……!」

 

死体の山に共通しているのは、どれも腕や足と言った部位が無いことだ。そしてその行き先を示すかのように地面を這う血はその醜い巨躯に向かっていた。

その死体は主に魔人族であったり、大柄な魔獣等であり、それらはこの城『ストームヴィル城』に攻め入った際に敗北した連中であった。

 

「今一度得たこの命を以て……あの褪せ人を、父祖を打ち倒したあの褪せ人を……!」

 

そういって異形の男……【接ぎ木のゴドリック】は魔人族の腕を()()()

 

ゴドリックのその姿は狭間の地にいた時よりもさらに巨大になり、接がれた腕や足は歪ながらも機能しており、それぞれの手には武具が握られていた。

更に、嘗て竜を接いでいた部位には相も変わらず竜が接がれていたが、その竜にはトータスの魔物の腕が接がれており、かぎ爪のような悍ましい何かが作られていた。

 

更に背中からはまるで蜘蛛の足のように無数の腕が伸びており、それらも剣や斧、槍果てはバリスタ等を持ち合わせていた。

 

 

――歪な千手観音

 

こう表現するのにこれほど相応しい光景はないであろう

 

「待っておれい……今度はそうは行かんぞ……!」

 

 

――貪欲に力を求める老醜なる接ぎ木の王は、褪せ人を打ち倒すだけの力を蓄えていた。……最も、それが実を結ぶとは誰も言ってないのである




王になってから見ていた景色……満天の星空、のみ!

褪せ人「自然……いいなぁ……(遠い目)」
ブライヴ「……」(何となく察している)

良い光景を目の当たりにして大分ナイーブになっていた褪せ人様。普段のギャップにやられてとある二名がアップを始めました。ダレダロウナー

UA100,000行ったらまた番外編を出したいと思います



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シリアスと企みと

閲覧ありがとうございます!

今回執筆していて気が付けば7000文字突破しておりました……自分でも驚いています

少しシリアス要素と独自解釈要素が強いですが、ご注意ください

それではどうぞ


「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

現在、俺たちはアルフレリックと向かい合って話をしていた。内容は、オスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思って尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。

 

神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。

 

「どこの世界も……そう教会というのは腐敗を招くもんだな」

「全く以てその通り……」

 

その後アルフレリックはフェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

「随分と抽象的というか、曖昧と言うべきか……」

「……変に曲解して伝わらなかっただけマシだな」

 

ブライブがそう返す。いわば伝言ゲームのような物である口伝であるなと思いつつアルフレリックの話の続きを聞いた。

 

【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 

そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「なるほどねぇ……それで俺は資格を持っていると」

 

『おい! やめろ馬鹿! 落ち着けぇ! やめろぉ!!』

『俺はまだ死にたくねぇ! クソッこんなところに居られるか! 俺は自室に戻る!』

 

「……なんだ?」

 

話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。俺達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。

 

「そういえばこの事情を他の亜人族にも話したのか?」

「……話す暇が無かったので」

「とにかく行くぞ」

 

俺たちは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。

 

 

階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。しかしどうにもハウリア族を睨みつけているようだが、どこか怯えが見えるような……?

 

……まぁその原因は今にも血祭りにしてやらんと言わんばかりに拳を振りかぶろうとしているシアだろう。現にシアに対峙している亜人族の多くは怯え切った表情をしている……俺からは表情が見えないが恐らくそこには『鬼』がいるんだろう

 

 

そして俺が階段を下りたことに気づくと一斉に俺目掛けて鋭い視線と助けを求める視線を送ってきた。一部の目には敵意が込められており、今にも襲い掛かってきそうだ

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ……それにブライブ殿も何故その人間を殺さないのですか……!」

 

 必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでおり、俺の隣にいるブライブに何故人間を殺さないのかを問い詰めていた。

 

しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

どうやらフェアベルゲンは、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

「浩介さん!」

 

いきり立った熊の亜人が突如、俺に向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。

アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

一瞬で間合いを詰めた男は、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な豪腕が、俺に振り下ろされる。

このまま何もしないでいれば俺に恵まれた体格から繰り出される拳が直撃するだろう。

 

 

――最も、まともに受けてやるつもりなどないがな

 

 

パァン!

 

「な……ッ!?」

 

拳が当たる寸前、俺はパリィを繰り出した。熊の亜人は体勢を崩し、無防備な胴体を晒した。

 

「……言い忘れていたが、その人間は俺の数倍は強い……そしてそれにお前たちは牙を向いた訳だ。この意味が分かるな?」

「「「!?」」」

 

ブライブの口から飛び出した一言は亜人族に衝撃をもたらすのには十分すぎた。まさか亜人族の中でもトップクラスに強いブライブの数倍強い人間がいるとは思いもしなかっただろう。彼らの表情は驚きに満ちていた。

 

「――ッならば!」

 

そして体勢を立て直した熊の亜人が今度は俺を掴みにかかった。

 

「良い判断だ、合理的だな」

「うぉおおおお!!」

 

 

チリン

 

だが無意味だ

「グッ!? な、なんだお前は!?」

『グルルルルルルル……!』

 

熊の亜人の喉元に刃を押し当てうなり声をあげる四足歩行の騎士鎧を着た霊体……『猟犬騎士フロー』がうなり声と共に鋭いかぎ爪を見せつけ熊の亜人諸共他の亜人族を威圧した。

 

そしてフローが今にも飛び掛かりそうな勢いだったためフローを制止させる。目的はあくまで事の沈静化だからな

 

「待て。フロー」

『グルル』

 

……当初はマジで手が付けられない狂犬ぶりを発揮していたが、王になってからは俺を主と認めたのかある程度いうことを聞くようになった。

 

「し……信じられん……ブライヴ殿より強いだと……!?」

「なら、ここで俺が褪せ人と戦って、ただの肉塊になってやろうか?」

「止めろブライヴ、流石に俺もあれの繰り返し(最期)は勘弁だ」

 

その後アルフレリックが何とか執り成し、話を続けられるようになったので俺の意思を伝えることにした。

 

「でだ、俺たちは一先ず大樹の下に行きたいんだ。別にここで俺を殺しにきても構わないが、重要なのは大樹の下にたどり着くことだ。だが、忘れるな。別に俺はどうだっていいが、邪魔立てをするなら……」

「……時点で?」

 

俺は()()()()の殺意と威圧感を込めながら言い放った。

 

「ここら一帯を全て更地にする。無論皆殺しだ。男も、女も、老人も、子供も、赤子も全て残らず皆殺しだ」

「「「!?」」」

『グルルルルル……!』

 

そう言い放つと背後に控えていたフローが同調するかのようにうなり声をあげた。

 

「――とはいえだ。俺もこんな手荒な真似はしたくないし、そもそもこれは本当の最終手段だがな」

「……ブライヴ殿、あの人間の言うことは……」

 

「すべて事実だ。褪せ人の言うことに嘘偽りはない。それに言っただろう、俺が立ち向かったところでいとも容易く殺されるだけだ」

 

亜人族の間に緊張が走っているのが目に見えた。

 

しかしそこに変な意地を見せたのか虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

「だ、だがお前が幾ら言おうともハウリア族は罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている!」

 

ゼルの言葉に、流石のシアも泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。

 

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

 

 

……はぁ、どいつもこいつも……

 

 

そんなに死にたいのか

 

 

貴様らは所詮獣に過ぎなかったか

 

「な、なんだお前! やはり敵だったnヒィッ!!」

「待て! 褪せ人!」

「浩介!」

「浩介さん!?」

 

ブライブやユエ、シアが声を掛けるが正直ここで痛い目に合わせておくのが得策と考えている俺には響かなかった。

 

俺は最大級の殺気と共に屍山血河を勢いよく抜刀し、刃先を突きつけた。

 

「ここで死n「お待ちを! わが王!!」」

 

そういって俺たちの間に割り込んできたのは、鼠のような亜人、そして狭間の地出身の小柄な亜人『ボック』だった。

 

「……ボックか。お前もここにいたとはな。会えてうれしいぞ」

「い、いえ……此方こそわが王がここにいらっしゃるとは……そ、それと、どうか彼らの粗相をお許しください!」

「なぜだ?」

「え……えっと、その……か、彼らは、これまで帝国に酷いことをされてきたことで、人間を信じられないだけなのです……!」

「……」

 

ボックの話を聞いて少し頭を冷やし、刀を収め殺気を消した。瞬間部屋の空気が少しだけ緩和された。

 

「……流石に感情に流され過ぎたな。すまなかった」

「い……いえ、こっちこそ……だが、どうする……ハウリア族は……」

 

「ならば、彼の奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

「アルフレリック! それでは!」

 

完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた。

 

「ゼル。わかっているだろう。この男が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか……長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

「だが……」

 

 

「……そもそもなんだが、ここを滅ぼせる俺とユエがいる時点で今更なのでは……」

「それでも危険だと言うなら、俺がこいつらの旅に監視と言う形でついて行くぞ」

 

ブライヴの後押しもあってか長老会議は進んだ。そしてアルフレリックが疲れたような感じで

 

「ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である遠藤浩介の身内と見なす。そして、資格者遠藤浩介に対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、遠藤浩介の一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 

「特にないが……いや、ブライヴとボックには用がある」

「なんでしょう?」

「そろそろ【円卓】に向かおうと思ってな」

「――ッ! そうか!」

 

ブライヴとボックは驚愕した表情を見せた。そろそろ円卓に行って彼らと再会を果たしたかったのもあるし、いい加減ラニ様からクラスメイトの情報も欲しかったのもある。……皆無事かなぁ……

 

 

そうして俺はハウリア族の自由を勝ち取った。ここだけ見ると逆転裁判か何かだな……

 

(……やれやれ、久しぶりに感情的になっちまったな……人間に転生したことで肉体と精神年齢の乖離が起き始めているな……いや、今更か)

 

この後俺は自分の言動を反省した後、ハウリア族から心底感謝された

 

 

◆◆◆

 

――シアside

 

元々、〝未来視〟で浩介さん達が守ってくれる未来は見えていた。

 

しかし、それで見える未来は絶対ではない。自分の選択次第で、いくらでも変わるものなのだ。私は浩介さんに甘えつつも突然手の平を返されないかビクビクしていた。

 

でもそれは杞憂だった。

 

浩介さんは私のみならず一族の皆の自由を勝ち取ってくれた。

……まさか伴侶が既にいるなんて未来は予測できなかったけど……

 

フェアベルゲンで浩介さんに仕えていたであろう二人の亜人と出会ったことは衝撃でした。鼠の亜人……ボックさんは再会の場が緊張に包まれてはいたものの心の底から慕っているように見えました。

 

そしてあの半狼の亜人ブライヴさん。

確かに亜人の友がいると聞いていたのですが、軽口を叩きながら話すその姿は、正に友と言った感じでした。

 

正直あのブチ切れた浩介さんは、怖かったですが、ハウリア族の為に怒ってくれていたことは伝わってきて、とても嬉しかった……

 

だからあの未来は多分見間違いだったのでしょう!

 

 

――浩介さんが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()光景は

 

 

◆◆◆

 

 

「ふふふ……さて、ヒヤマ。君は何度殺しても蘇ってくる不死身の化け物にはどう対処すればよいでしょうか?」

 

トータスの元【神域】にてシャブリリがヒヤマこと檜山大介に質問を投げかけていた。それに対してヒヤマは

 

「……どうすればって……そいつに心があるなら心を壊す……とか?」

「正解です!」

 

乾いた拍手が空間に響き渡る。シャブリリは上機嫌な様子で話し始めた

 

「あの褪せ人は、確かに無敵です。それこそ何度死んでも蘇ってくるのですから」

 

しかし。と付け加える

 

「今の褪せ人は()()()()()です。それこそつけ入る隙や弱点は、狭間の地にいた頃よりも格段に増えました……全く皮肉なものですねぇ。王として君臨したことで民を守らなければならず、その所為で余計な足枷まで身に着けてしまったのですから!」

「で……何が言いたい?」

 

ヒヤマが狂い火に侵食されたクレイモアを片手に答えを待った。

 

「まず大前提として……あの褪せ人は()()()()()()()()のですよ」

「……というと」

 

シャブリリは声高らかに発言した

 

「あの褪せ人の心を壊し、我々の王に、狂い火の王にさせるのです!」

「……あいつの心を壊せるだけの材料があるとでも?」

「くくく。見つけてしまったのですよ……彼の心をへし折るほどのモノがですねぇ!!」

 

そういうとシャブリリは懐から一本の無垢金の針を取り出した。不思議なことに狂い火で満たされた空間だが、その針を中心に狂い火が避けていくのだ。

 

「狂い火が……ッ!?」

「これは……【ミケラの針】と言いましてね……これを見つけた時何故か、あの褪せ人の気配を感じ取ったのですよ……恐らくは彼がこの針を完成させるだけさせておいて放置しておいた針の」

「何……!?」

「これこそが、この事実こそが彼を追い詰める切り札になるのです!」

「そのミケラってのが、あの褪せ人だとでもいうのか!?」

 

ヒヤマがシャブリリに問い詰めるとシャブリリは抑揚のない声で

 

いいえ? 全く関係しておりませんとも

 

「は? それじゃあ、何故それが切り札に!?」

「まず……我々の勝利条件は()()()()()()()()()()()です」

「疑念……?」

「えぇ、彼が心無い存在ならばこの策は通じませんでした……()()()、他者との交流を通じてより()()()()()()()()()()()()()()通じるのですよ」

「ほう……」

 

シャブリリは針を仕舞い、話を続けた。

 

「人間と言うのは……一度抱いた疑念というのをなかなか振り払えぬものなのです。ましてやそれが自分の根幹にかかわってくるとなると尚更です」

「で、どういう大嘘をつくんだ?」

「……話は変わりますが、この針の下になった存在、【ミケラ】は最も恐ろしき神人でした……何せ、〝愛することを強いることが出来る〟のですから……」

「――ッ!? なんだそれは……!」

 

ヒヤマがミケラのその恐ろしすぎる能力に体を震わせた。

 

そう、どんなに嫌いな相手でも、どんなに憎い相手でも愛することを強いらせることが出来るということは、洗脳よりも質が悪いそれにヒヤマは冷や汗を流す。そして気づくこのシャブリリの悪魔のような企みを……ただの詭弁が致命的な一撃になりうる恐ろしい策を

 

「……まさか!?」

「えぇ。そうです……褪せ人にこの針を見せびらかし、こう言うのです……」

 

 

――お前はミケラの生まれ変わりだ。お前が愛されるのはその力の恩恵に過ぎない。お前の人生は全て無意味なもの、ただのお人形遊びに過ぎない

 

 

とね?

 

シャブリリは悪魔のような笑みから繰り出された悍ましい狂笑が空間を響かせた。




狂い火の勝利条件:褪せ人の心を折る

今のヒヤマの防具は焼けただれた鎧と兜を纏い、右手に狂い火に冒されたクレイモアを持っています

ミケラの針を見せる→褪せ人それがミケラの針と気付く→そこでミケラとの関連性(大嘘)をぶちまける→褪せ人信じ込んでしまう

過剰なまでの愛を向けられてた奴が、それらを含めた全てが自分の力ではなく、他者から与えられた力に過ぎなかったと思い込んだ時……果たして正気でいられるでしょうかねぇ……

次回はシリアルになります


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シリアルと義手

閲覧ありがとうございます!

リアルが少し忙しくなってきたので投稿頻度が落ちるかもしれません……申し訳ございません……

合間を縫って執筆しておりますのでどうか気長にお待ちください

それではどうぞ


「今から君たちには殺し合いを始めてもらいます」

「「「?????」」」

「褪せ人、せめて過程とそれに至った経緯を説明しろ」

「あっ、ごめん」

 

現在のハウリア族は俺の庇護下にあることにはなっているが、俺がいない間に血の気が多い亜人族や魔物が襲ってきたらひとたまりも無い為、訓練をすることにした。という経緯を伝えた。

 

「さ、最初からそう言ってくださいよぉ! いきなり殺し合いとか言われてもビックリするじゃないですか!」

「殺し合いというのはあながち間違いではないんだけどね」

「え」

「……おいまさか()()を……」

「ま、それはさておいて……ハウリア族の皆はこのままで良いのか? このままただただ蹂躙されるだけの弱者のままで、せっかく助かったその命を散らされるだけの存在のまま終わることを良しとするか?」

 

俺がそういうと、多くのハウリア族はうつむいた。そしてハウリア族の中から声が上がる

 

「そんなものいいわけがない」

 

その言葉に触発されたようにハウリア族が顔を上げ始める。シアは既に決然とした表情だ。

 

「そうだ。それでいい。ただただ蹂躙されるような命で終わっていい筈がない。ならば戦うのみ」

「……ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族のような強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません……とても、そのような……」

 

兎人族は弱いという常識が俺の言葉に否定的な気持ちを生む。自分達は弱い、戦うことなどできない。どんなに足掻いても自分たちを助けた俺のように強くなれない、と。

 

「……こう言ってはなんですが、浩介殿のように最初から強かったわけじゃあ……」

「いや俺も最初はクソザコだったぞ? それこそ裸にこん棒だけ持たされてのスタートだったしな」

「え」「え?」

 

シアとユエが固まったかと思うと、やがて顔をにやけさせ、頬を赤らめさせた。……何で?

 

「……そう言えばラニが半裸の褪せ人に遭遇したとか言ってたな……あれはお前の事だったのか」

「え、俺そんな風に伝わってたの?」

「「は?」」

「……すまん失言だった」

「さてはブライヴ俺に恨みでもあるな?」

 

「「話は後で聞こうか?」」

「ま、ま、まぁ、それは後で、取り敢えず今はハウリア族を鍛える旨を話そうと思うんだけど、それまで勘弁してくれませんかねぇ!?」

 

 

この後《言いくるめ(後回し)》に成功して何とかやり過ごすことが出来ました。

 

 

◆◆◆

 

 

あれからハウリア族に()()()()()()()を伝授したところで、俺はブライヴとボックを呼び出した。

 

「さて、一先ずブライヴとボックは円卓に向かうか」

「そうだな」

「承知致しました。わが王」

 

俺はフェアベルゲンの近くにある祝福に触れ、円卓……ひいてはそこにいるであろうラニ様の気配を辿った。

 

「……ここか。良し、二人とも捕まって目を瞑ってくれ」

 

凡その座標を掴んだ俺はそういって二人に俺の身体に触れさせ、目を瞑らせた。そして俺はラニ様のいる場所に向けて入り込むようなイメージで、円卓に向かって行った。

 

俺たちの身体を祝福の光が包み込むとたちまち視界が真っ暗になり、やがて……大祝福がおかれている円卓が視界に映った。

 

「着いたぞ、目を開けてもいいよ」

「……ここが、円卓……初めてだなここに来るのは…………ここにラニがいるのか……」

「これは……何とも……」

 

ブライヴとボックは初めて訪れる円卓に興味津々の様子で辺りを見渡していた。

 

すると円卓の脇の扉――元々は二本指がいた部屋からゆっくりとラニ様が出てきた。

 

「……ッ! ラニ!」

「おぉ……ブライヴか、久しいな。息災で何よりだ」

 

ブライヴはラニ様を見つけると、すぐさまラニ様の傍に行き跪いた。心なしかラニ様の表情や声は穏やかなように思えた。

 

「……最後のことは、悔やんでも悔やみきれん……正直俺はどの面を下げてここに来れば分からなかった……!」

「ブライヴ。お前が気にする必要はない。むしろよくあそこまで私に仕えてくれた。二本指の支配下にあったお前が狂っても尚、最後の最後まで私のいた塔にいたこと我が王から聞いている。――良くぞ最後まで忠義を尽くした」

「あ……あぁ……!」

 

ブライヴが感極まって頭を上げた。

 

「そして……どうする? 再び私ひいては私達に仕えるか? 今のお前は自由だ。どちらを選んでも構わん」

「……既に決まっている。俺をもう一度仕えさせてくれ」

「良いだろう。では、今一度忠義を尽くすが良い……」

 

ブライヴの決意の籠った言葉を聞いてラニ様は微笑みながらブライヴを認めた。イイハナシダナ-

 

「でだ、我が王」

「はい?」

「少し、この先に行こうか」

 

そう言ってラニ様が指さしたのは、戦闘禁止区域から外れる場所に通じる廊下だった。

 

「え……? ラニ様……え……?」

「話をしようか」

「え」

「良いな?」

「……ハイ」

 

 

 

 

ギィヤァアアアアアア

 

「なんだ? やけに聞きおぼえのある悲鳴だな……」

「ヒューグ様! この声はあの御方ですよ!」

「ほう、やけにつんざくこの悲鳴はあ奴か。まぁいい、儂は武器を打つだけだ」

 

 

◆◆◆

 

 

「わかったか? 我が王。確かに我が王は、狭間の地でも変な輩との縁を手あたり次第結んでた……それはまだいい。だが、人間に転生してから少し羽目を外し過ぎではないか?」

「(止まるんじゃねぇぞポーズで串刺しにされている褪せ人)」

「……ラニ、褪せ人は串刺しになっているから答えられてないぞ……?」

「む、仕方ない。祝福で回復させるか」

 

 

「ぷはぁ!?」

「お目覚めか我が王」

「ハッ!? 俺は一体何を……!?」

「……思い出さない方が吉だな」

 

俺は先の光景を思い出そうとするがなぜか本能が警鐘を鳴らしており、思い出すのは良くないことを悟ったため、振り返らないことにした。

 

「今ので記憶が吹き飛んだか……まぁいい、我が王に悪い知らせと悪い知らせがある。どっちを先に聞きたい?」

「どっちも悪い知らせなんですけど!?」

 

 

絶対碌なことじゃねぇと思いつつ、一先ず一つ目の悪い知らせを聞くことにした。

 

「まず、『モーグウィン』の連中が動き始めた」

「遂にか……」

「そしてこれに付随して更に悪い知らせがある」

「……何があったんです?」

 

 

「『翁』があの小娘共の下に現れた」

 

俺はその名を聞いて絶句した。

 

『翁』……俺の使っている屍山血河の本来の所有者である老人を象った面を被った異国の地の侍であり、一度は共闘したこともある奴だった。

しかしその本性は血狂いそのものであり、奴はモーグウィンの傘下に下り、遂には俺の前に立ちふさがってきた。

 

「奴は手練れの剣士……はじめ達は大丈夫なのか!?」

 

ラニ様が言いよどむことに俺は最悪の未来を想像してしまった。そんな……まさか……

 

「……幸いにも死者はいなかったが、小娘の内、はじめの左腕と雫の右腕が切り落とされた」

「なんだと……ッ!?」

「……済まぬ。私も奴を相手取ろうとしたが、奴が連れてきた無数の白面に結界のような物を張られていたその間に翁は小娘たちの腕を切り落としていた……」

「……マジかよ」

(嘘だろ……? まさかここであいつらが介入してきただと?)

 

俺は目の前が崩れ落ちる感覚に襲われて、近くの椅子に腰を落とし、頭を抱えた。

 

そしてはじめ達の現状をラニ様に聞いた。

 

「だが、心配は要らぬ。あの小娘共は血は幾らか失いはしたものの一命はとりとめた」

「それは良かった……! だが……腕、か…………義手が必要か」

 

ふと俺は思い出した。

 

オルクス大迷宮で拾ったままにしていたあの義手の事を

 

「……ラニ様、ちょっと渡してもらいたい物があるんですが……良いですか?」

「あの二人の小娘にだな? 何を渡せば良い?」

「それなんですけど……ちょっと待っててもらっていいですか? 試したいことがあって……」

 

そう言って俺は彼がいるであろう部屋に向かった。

 

 

カーン カーン

 

槌が武器を打ち付ける鍛冶特有の音に懐かしさを覚えながら俺はその奥にいるであろう人物に挨拶をしにいった。

 

すると全身にフジツボのような何かと棘が生えた老人……鍛冶師 ヒューグがいつものように鍛冶仕事をしていた。

 

「やはりお前さんか」

「ヒューグ爺さん。お久しぶりです」

「あぁ! 貴方様!」

「ローデリカ!」

 

ヒューグの向かいに赤い頭巾を羽織った女性……調霊師 ローデリカがヒューグに続く形で俺に言葉を掛けてきた。

 

「二人とも大変お久しぶりです。ヒューグ爺、早速ですがやってもらい事がありまして……」

「ふん、鍛冶仕事か。ならさっさと出せ」

「こちらなんですけど……」

 

そう言って俺はオルクス大迷宮で拾った義手と……ミリセントの義手を取り出した。

 

「お前さん……これは……義手か」

「これを調整してもらえるか? 俺じゃなくて少女でも使えるように」

「……はぁ、久しぶりの鍛冶仕事かと思ったらそういうことか……まぁいい。ほらさっさと寄越せ調整ついでに強化してやる」

「マジか! ありがとうヒューグ爺!」

「調子の良い奴め……ホラ、鍛石を寄越せ」

 

俺はありったけの鍛石を出して鍛えてもらった。

 

暫くして最大強化し終わった二つの義手が台に並べられた。

 

「ほれ、こっちの銀の義手はお前さんの要望通りのサイズに調整して取り付けられていた武器もしっかり固定した。これでいざって時にすっぽ抜けることもない。そしてこっちの金色の義手も要望通りに調整して、刃を取り付けれるようにしたぞ」

「おぉ……すっげぇ……!」

「とはいえ、慣れるにはやはり時間が必要じゃが、時を見計らって調整しにこい」

「綺麗な義手ですね……」

 

ローデリカもその義手の出来栄えに見惚れていた。

 

「ふん、武器じゃなかったがいい仕事をしたぞ。今度はもっとマシな武器を持ってくるんだな」

「ありがとう! よし早速……ラニ様ー!」

 

タタタ

 

 

「……相変わらずせわしない奴じゃな」

「でも、とても人間らしいというか、生き生きとしていましたね」

「……果たしてそれが良いことだと言えるかの……」

「ヒューグ様?」

「……忘れろ。ただの老人の世迷言にすぎん」

 

 

◆◆◆

 

 

三人称side

 

 

「それで、それらを渡せば良いのだな?」

「はい、そうです……あと心配を掛けさせたこととか……それと……ラニ様?」

 

するとラニが褪せ人の肩に触れたかと思うと褪せ人は突然どこかに飛ばされた。

 

「おっと手が滑って我が王を転送させてしまった」

「ラニ!?」

「なに、少し小娘共が哀れに思えてきたのでな。あぁ、大丈夫だ事が済み次第すぐに回収しに行くし、そもそも教会の連中に感知されぬように魔術を掛けてたさ」

「……そうか」

 

ブライヴは褪せ人について考えることを放棄した。考えれば考えるほど深淵に近づいている感覚がしたからだ。

 

 

「こ……ここh「浩……介?」はじめ……?」

 

はじめの目の前に突然現れた褪せ人こと浩介。はじめは目を何度もぬぐい、目の前にいる浩介が自分の幻想でないことを知ると、泣き付いた。

 

「うわぁああああああん!! 浩介、浩介……!! 本物だぁ……本物の浩介だぁ!!」

「……ごめん今まで会えなくて、あとその腕も……」

「グスッ……僕……左腕を失って……浩介からの指輪を付けれないって思ったら……絶望しちゃって……何度も自殺を考えそうになって、皆に迷惑を……!」

「ごめん……ごめん……」

 

 

暫くの間泣きはらして幾分か落ち着いた頃を見計らって、浩介は訳有ってこの後すぐ戻らなきゃいけないことと本来の目的である銀の義手を取り出した。

 

「これは……義手……?」

「……まだここでは言えないけど、手に入れたんだ。かなりの高性能に仕上がったけど……付けてもらえるか……?」

「……! うん!」

 

そこからは切り落とされた部位に接続するようにしてはじめに義手を取り付けた。すると赤い線が走ったかと思うとやがて義手が動き始めた。

 

「どう……?」

「少し……違和感があるけど……何とか扱えるようにしてみるよ! ありがとう! 浩介!」

「それは良かった……さて、後は……「待って」……?」

 

はじめは義手を駆使して浩介を抱きしめると、浩介の腹部に顔を埋めた。

 

「……知らない雌の匂い……だけど浩介の匂いがあるからいいや……落ち着く……もう少しだけこうしていても良い……?」

「……少しならね」

 

そして最後に大きく息を吸い込むとはじめは

 

「……また会えるよね?」

「あぁ、まだ先になるけど」

「じゃあ、その時にこの知らない雌の匂いについて説明してもらうカラネ?」

「……ウッス」

 

ハイライトの消えた瞳に見送られるまま浩介は不可視の魔術を掛け、部屋を後にした。

 

 

「……はぁ♡ 浩介からのプレゼント……スラッとしているデザインで良い……これなら結婚指輪を嵌めれるかも♡……あれ? これなんだろ?」

 

ジャキッ(斧が飛び出る音)

 

「……うえっ!?」

 

 

 

そうとは露知らず浩介は雫の部屋の前に立っていた。

 

「さて、雫の部屋はここだったか……」

 

コンコン

 

『誰?』

「……俺だk「入って」ハイ」

 

コンマ一秒でドアを開けた雫に思わずビビった浩介だが、雫は浩介を自室に即座に引き込んだ。驚きの吸引力である。

 

「し、雫?」

「……どこに行ってたの」

「……ごめん、今は言えないんだ」

「とても寂しかった。生きていると言われても会えないのがずっと嫌だった。ずうぅーっと我慢してた……それで、私は腕を斬られちゃって……それで、」

「……もういいんだ、散々辛い目に合わせちゃって、そしてそこに居なくてごめん」

 

そうして雫を軽く抱きしめ、雫は残された左腕で抱き着き、そして泣いた

 

 

それから暫くして、雫も落ち着いたところで浩介は本題の義手を取り出した。

 

「金の……義手……?」

「つけてみて」

「……! もちろんよ!」

 

こちらも同様にしっかり付け終わると雫は手を開いて閉じてを繰り返して義手の具合を確かめていた。つけ心地に満足しているとふと義手に取り付けられたパーツに目が行った。

 

「……あれ? 浩介君……これは一体……?」

「それなんだけど……雫、俺の渡した刀はある?」

「えぇ……ここに……」

 

そう言ってベッドの上に置かれたマレニアの義手刀を取り出した雫は頭に疑問符を思い浮かべながら浩介に手渡した。

 

「ちょっと失礼するよ。義手の方の手を皿にしてくれる?」

「う……うん」

 

手のひらが上を向くと、浩介は義手刀を取り出し……謎の部位に刀を嵌めた。

 

ガシャン!

 

「こ……これは!?」

「おぉ……! 上手く嵌った!」

「刀が……義手に!?」

 

金の義手に取り付けられた謎の部位に刀がかっちりと収まり固定された。雫はその光景に目を奪われ、軽く素振りをして感覚を確かめていた。

 

「良い義手をありがとう! 浩介君!」

「今はこれしか出来ないけど……またいつか会おうね」

「そうね! ……その際見知らぬ雌の匂いについても教えてもらうカラネ?」

「ミ゛」

 




ヒューグ爺は普通の剣以外にも『縋りつく手骨』だったり『指輪指』とか強化できるから義手も行けるよねということで強化されました。

尚この後浩介から義手を貰ったことを自慢された光輝ちゃんが辺り一面をひっくり返したり香織が雷を滾らせていたりしたけど清水の胃が犠牲になって事なきを得ました。

清水「死 に そ う」


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不死の伝統ある訓練方法

閲覧ありがとうございます!

久しぶりにダクソ3をやりましたが、ファランの大剣が楽しくてつい一周をファランの完コスでクリアしてました……

その結果が今回の内容です

それではどうぞ


死ねぇ! この野郎ォ! 死ねぇ!!

「良い魔物は死んだ魔物だけだ! 貴様ら薄汚い魔物風情が一体死のうが一兆体死のうが知ったことではない!!」

「なぁ、お前、魔物だろ? 素材あるんだろ? 落とせ。残らずすべて落とせぇええ!!」

ぶるぅぅうアアアアアアアアアアアアアアア!!(狂乱)」

 

「あの……ハウリア族の皆は何処に行ったのですか……?」

「目の前の蛮族がハウリア族です(無慈悲な宣告)」

「」

 

俺の目の前で魔物相手に嬉々として殺戮を繰り広げる異常者共は、紛れもなくハウリア族だ。彼らはその身に赤い布切れが着いた軽鎧とハウリア族の耳を保護するような独特な形状をした鉄兜を纏っていた。……どう見てもダクソ3の『不死隊』一式だがこれには訳がある。

 

まず装備の条件として、軽くて尚且つハウリア族の動きに対応できる装備はどんなのが良いかとヒューグ爺とアイデアを出していた時の事だった。

 

『……どっかで見たことあるような……』

『何がだ? たしかに要望通りに‶軽く〟‶人間離れした動きに対応〟そして‶一定の隠密性〟という条件を加味しただけだが?』

『……で、ハウリア族のスペックを最大限発揮できる武器が……』

『そうだ、これだ』

 

そう言ってヒューグ爺は、刃先が獣のかぎ爪のような形状をした短剣を出してきた。

ヒューグ爺曰く、ハウリア族の機敏な動きを無駄なく発揮するためには大きな武器よりもなるべく小さくそれでいて致命傷を与えられる武器が望ましい、とのことでダガーを改造して作ってくれたのだ。

 

『名前はお前さんがつけな』

 

と言われたので無難に『ハウリアの短剣』と名付けた。

そしてどうやら戦灰が着けられるとのことなので全てに『猟犬のステップ』を付けた。この際喪失の戦灰がえげつない勢いで減ったが必要経費だと自分に言いつけ、事なきを得た。

 

また、身体能力が高い数人には『猟犬の長牙』を渡したのだ。尚最初の方で魔物を蹂躙していた奴らが猟犬の長牙の所有者だったりする。

 

 

しかしシアは目の前の現実を受け止めきれずに白目をむいてしまった。

何が駄目だったかと言われれば多分全部駄目だったんだろうけど、取り敢えず俺がやってきた訓練の内容を思い返した。

 

『という訳で君たちを十日で殺戮兵器【HAULIA】に改z……げふんげふん。稽古していきたいと思います』

『殺戮兵器の部分を隠さないのですか!?』

『では……この稽古に当たって俺の故郷で盛んに行われていた名誉()ある方法をそのまま取り入れようと思います』

 

そう言って俺は円形の広場に皆を移動させて、一度その様子を見てもらうことにした。そして俺は写し身を呼び出して作戦を伝えた。

 

『何が始まるんだ……? 二人向かい合って……』

 

俺の正面に写し身が来るようにして円形の中央に立つと、まずは一礼して……

 

『――死ねやオラァアアアアアアアア!!』

『貴様こそオオオオォオオオオオ!!』

 

互いに『束の間の月影』を解き放った。

 

『『『えぇええええええええ!?』』』

 

そう、俺が行っているのは不死の伝統ある稽古こと――【道場】である。

 

 

やり方は至ってシンプル。

まずは一礼をして、次に殺意剥き出しにして持てる全てを使い、相手を殺しにかかる。以上。

 

()()()()()()殺し合いが出来るのに加え、勝った時は勿論、負けた際の死に際に見る一礼や煽りに対して殺意を抱くことで、必然と相手を確実に殺すための動きが洗練されて行くことから、不死の間では大人気()の訓練なのである。

 

道場には【黒い森】や【サリ裏道場】等が挙げられるが、俺がいた所ではリエーニエの学園前の円形広場がホットスポットだ。今も学園前の夥しい数の血痕と赤サインが脳裏に浮かんでくる位馴染み深い。

 

しかしこれらの稽古は()()()()不死であることを前提とするため、当たり前のことだが死んでも生き返れないハウリア族にはこの稽古は、普通に考えて無理である。

だが、生憎俺はこの道場で対人戦を鍛えられたこともあり、どうにかして組み込めないかと考えた結果、ある悪魔的な発想に思い至った。

 

『『はぁ……はぁ……こ、これが道場です……流石に殺し合いはしませんが……HAULIAの皆さんには殺し合い一歩手前まで行きます……』』

 

『ひぇえええええ!!』

『無理ですよぉおおお!!』

 

ハウリア族が顔面を蒼白にしながら俺に拒否の意思を示した。

 

『では、このまま野垂れ死にする気か?』

『うぅ……で、でも……』

『――じゃあ、こうしよう。この道場で成果が出ない奴は……』

『ゴクリ……や、奴は……』

 

 

全身の毛を余すところなく脱毛してやる

 

 

俺がそう宣告した瞬間

 

『恨みはない……ここで散れェエエエエエエ!!』

『貴様こそ! ここで散るがいい!!』

『私の毛の為にも……お前が朽ち果てるがいい!』

『迷いはない……躊躇いも無い……だから僕は負けないッ!』

 

『……あれ思ったより君たち殺意高いね? 追い詰められたジャッカルは手ごわいと聞いたけど……』

 

俺が渡した訓練用の武器と持ち前の脚力を駆使して一斉に蹴り技をかますハウリア族に若干ドン引きしながらも訓練になっているのでヨシ! と考えて後をブライブに任せていたら……

 

「これもハウリアの為……」

「また一体死にましたね……」

「喝采を! 我らの殺戮に喝采を!!」

 

「お前に言われた通り白兵戦と暗殺技術は叩き込んだが……予想以上に仕上がったな」

「以前までのあの面影はいずこに……」

「浩介殿、情けだけではハウリアを救えないのです」

「誉を捨てた侍みてぇなこと言ってんな、カムさん」

 

もはや以前までのあの臆病なハウリア族はおらず、ついこの前の、少数の亜人族が攻めてきた時なんかはもっと酷かった。

 

 

『ドーモ。レギン=サン。カムです』

『……?』

 

次の瞬間カムの膝が熊の亜人レギンの顔面を陥没させた。この間わずか0,02秒。

 

『挨拶を返さんかァ!!』

『ギヤアアアアアアア!?』

 

『な……なんだこいつ!?(正論)』

『逃げるんだぁ……勝てるわけがn『どこへいくんだぁ?』ほぉおお!?』

 

亜人族側もただやられ放しでは無かったが……

 

『こ、この野郎!』

『甘い!』(パリィ)

『ファッ!?』

『沈めぇえええ!』(腹パン)

『ブゲラァ!!』

 

『うわぁ……(ドン引き)』

 

結局数分も持たずして襲撃してきた亜人族は全滅した。一人は顔面が陥没して、一人は岩盤に叩きつけられ、またある奴は全力の腹パンにより胃の中身を全部吐き散らした。

 

俺はその地獄絵図にドン引きしているとハウリア……いやHAULIAが集まってきて

 

『我らが新王様! 私達はこれ程までに成長いたしました! これも全て新王様のお蔭です!』

『あぁ……うん……』

『そこで私達は献上品として、この亜人族の首を』

『流石にそれはNG』

 

何でそこまで張り切っているのか、と聞いたところ。どうやらシアから俺の旅路の事を聞かされ、守られているばかりでは俺の足手纏いになってしまう、と躍起になっていたのが要因らしい。

力をつけて貰ったのは良いが……何とも言えない感情に襲われる今日この頃

 

後は無暗矢鱈に力を行使したら俺が直接ぶち殺しに行くことを割と強い圧を込めながら忠告するとHAULIAから一転してハウリアになり、決して無益な殺生はしないと固く誓ったのである。

 

 

「それで……そっちのウサギはどうだったんだ?」

 

ブライブがシアについて聞いてきた。そう、シアは俺の旅についていく為に俺とユエが鍛錬を付けていたのだ。

 

そのことも含めて俺はブライブに話をすることにした。

 

 

『というわけで、俺たちの旅について行くに当たって十日でえげつない強さに仕立て上げます。なので手加減はしません。てか出来ません』

『お……お手柔らかに……』

『はできる保証がないので、早速行きましょう。手始めにユエに一撃を与えることからスタートです(無慈悲)』

『』

『浩介……こいつ白目向いてる』

 

開幕早々白目をむいて絶句しているシアをさておいて俺は懐からある物を取り出そうとした。

 

『ちなみに鍛錬を行うに当たってシアに俺からプレゼントg『プレゼント!!?』はいこちらになります』

 

そう言って俺は懐から『獣爪の大槌』を取り出し、シアに渡した。明らかに懐から出せる質量じゃないが気にしてはいけない。

シアは獣爪の大槌を受け取ると、ぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねていた。

 

『わーい! わーい! アッ!?』

 

シアが転んだ衝撃で、獣爪の大槌がその本懐である『獣王の爪』を炸裂させた。

大地を大きく引き裂く五本の獣爪が地を走り、木々を切り裂いていった。その様子にシアは驚愕し、ユエも大きく目を見開いていた。

 

『アッ……あわわわわわ……』

『浩介……あれは一体……?』

『……ちょっとした友人?の贈り物でね……じゃあ、それに慣れるのも含めて稽古、しようか』

 

僅かに悟りかけた表情をしていたシアだが、大槌を握りしめて決意を露にした。

 

『ヒエッ……い、いえ、私はここでユエさんに一撃を与え……浩介さんの旅について行くのです! そしてその後は浩介さんの所有物に……ふふふ』

『……ここで消しておけばリタイア……』(黒き刃を構えながら)

『やめなさい』(指をユエの口に突っ込みながら)

『ひゃい♡すみまへんへひた♡』

 

ユエが俺の指に牙を立てて血を吸っている光景を見てシアが殺意を漲らせた。

 

『……早くやりましょうよ、今すぐその綺麗な顔面にこの槌を叩き込んでリタイアさせてやりますよ!』

『やってみろダメ兎ィ!』

『大変元気がいいですね(白目)』

 

 

その後はというと……

 

『や……やりました! やりましたよ! 浩介さん!!』

『……こいつやばい』

『マジで一撃与えられるレベルになりやがった……』

 

まさか獣爪の大槌を使いこなせるレベルにまでなって、ましてやユエに一撃を与えられるレベルに成長するとは思わなかった。ユエも信じられないと言った表情でシアを見つめていた。

元から持っていた身体能力に加え、獣爪の大槌の『獣王の爪』による遠距離攻撃を獲得したことで結果としてユエに一撃を与えることに成功したのだった。

 

『いやー。偶々良かったですね! 爪にバラバラにされなくて! バラバラにされればよかったのに……

『殺す』

『ストップ』(右手を口に突っ込みながら)

『ふぁい♡』

 

その後はシアが『これで浩介さんの独占はできなくなりましたね……』と挑発したことでガチの殺し合いになりかけたため、ちょっとお灸をすえる意味も込めて『言うことを聞かないと嫌いになるよ』と伝えたら

 

『い、嫌ぁアアアアアアアア!! 浩介に嫌われるのは嫌ァアアアアアア!!』

『うそ……噓ですよね……? お願いです! なんでもしますので、どうか……私を嫌いになっても良いですから……傍に仕えさせてください……殴ってもいいです、蹴っても首を絞めてもいいです……だから、だから……』

 

『……やらかした』

 

その後慰めるのに一日を費やし、俺は噛まれたり、血を吸われたり、締め上げられたりされたけど、無事だったことをブライブに話した。

 

 

「――なるほど、だからそいつらはお前に引っ付いているんだな」

「そうそう、俺の前に引っ付いているユエが俺の首元にかぶりついていたり、後ろに引っ付いているシアが白目向きながら俺を締め上げているけど、特段問題ない」

「……死ななきゃ安いという精神が魂の根底にまで染み付いてるな」

「死んでも生き返れるから、その気になれば体中の血を抜かれても大丈夫だ」

「命の価値も低すぎる……」

 

ほっとけ、とブライブに返した俺は一先ずハウリア族の戦果を認め、大樹の下に向かうことにした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

「……大樹枯れてね?」

 

ハウリア族の案内で大樹の下に着いた俺たちを待っていたのは、すっかり枯れた大樹だった。

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

カムの話を聞きながら、俺は大樹の根元に近寄り辺りを物色した。しかし何も無かったので『巨人の火をくらえ!』をしようとした所ユエが何かを見つけた。

そこには、アルフレリックが言っていた通り石版が建てられていた。

 

石板には七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた。さらに情報を得るべく石板を見まわしているとオルクス大迷宮で拾った指輪と同じ文様の位置に小さな窪みが空いていたことに気づいた。

 

「ここに指輪を入れれば……」

 

指輪を嵌め込むと石板が淡く輝きだした。

 

何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

〝四つの証〟

〝再生の力〟

〝紡がれた絆の道標〟

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「うーむ……察するに四つの証とは、他の迷宮の証のことで……再生の力と紡がれた絆の道標とは……」

「う~ん、紡がれた絆の道標は、あれじゃないですか? 亜人の案内人を得られるかどうか。亜人は基本的に樹海から出ませんし、浩介さん達みたいに、亜人に樹海を案内して貰える事なんて例外中の例外ですし」

 

そう言われると確かに例外なのもいいところだろう。何せ亜人の友や、臣下がいる、とかこの世界じゃ考えられないだろうな。

 

「……浩介が常に例外中の例外なのは当たり前」

「否定できねぇ……」

「まず何度も生き返れる時点で生き物としての例外でもあるんですけどね……」

「何も言えねぇ……」

 

確信を突かれた俺はその場に項垂れながら今後のことを考えた。

 

まずこの後はライセン大峡谷に行くことは原作どおりである。摩耗した俺の記憶でもそれは覚えていた。そしてその旨をハウリア族に伝えると、

 

「新王様! どうか我々も新王様のお供に付いていかせて下さい!」

「えっ! 父様達も浩介さんに付いて行くんですか!?」

 

シアが驚いていたが、俺は、

 

「……なら王として命じる――ここを守れ」

「そ、それは!?」

「遅くはなるが、いずれ俺たちはここに戻ってくることは確定事項、ハウリア一族総出で俺が再びここに来るまでこの大樹を守れ」

 

俺が覇気を出しながらハウリア族に告げると

 

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

「‶王に偽りなし〟と誓っておこう。後の事は、ブライブに任せる」

「了解した。褪せ人。その任務を全うさせてもらおう」

 

それから俺たちはハウリア族の見送りを受け、樹海を旅立った。背後には俺がヒューグ爺に創ってもらった装備を纏ったハウリア族が手を振っていた。

 

「……まんま不死隊なんだよなぁ……」

 

 

◆◆◆

 

 

――ブルックの町にて

 

「……!」

「どうなさいましたか? 兄上」

 

双尾を花で飾った銀鉄の兜を被り、銀鉄を赤で飾った豪奢な胴鎧を纏った兄弟……『ユーノ・ホスロー』とその弟『ディアロス・ホスロー』が町の警護にあたっていた。

ユーノは、はるか遠くからこちらに近づいてくる懐かしき猛者の気配を感じ取り、ディアロスにその旨を伝えた。

 

「おぉ! あの男がこちらに! であれば……あの接ぎ木の王と相まみえることに……」

 

こくり、と頷くとディアロスは忌々しいようにブルックの町の遥か彼方を見つめ、ため息を付いた。

そこには遠目からでも分かるほどに巨大で、荘厳な城の一角が見えていた。

 

 

――それこそ『ストームヴィル城』であった。

 

「あん? どうしたよお二人さん」

「おぉ、パッチ殿か」

「……」

 

パッチと呼ばれた丸刈りの男はにやけた笑みを浮かべながらホスローたちに寄ってきた。ユーノは己の得物である『ホスローの花弁』を見せつけると

 

「あぁ! 待ってくれ! 頼むよ! 俺はもうやったりはしないって!!」

「……」

「ふぅ……でだ、どうしたんだよ」

「実はな……」

 

ディアロスがこの町に褪せ人が近づいている旨を伝えると、パッチは驚いた表情をした。

 

「へぇ! あのお得意さんが! よぉーし! 今の内に商品を仕入れておくとするかね!」

「……また、私にやったみたいにぼったくり価格で売りつけたり、罠に掛けたりしないだろうな?」

「へへっ。俺はそれで痛い目に遭ってんだ。二度も同じ轍は踏まねぇ」

「……」

 

ユーノは己の愛する弟がパッチの罠にかかったことを思い出してため息を付いた。そして顔を上げその瞳に――闘志を映した。

 

――血潮の騎士は、かつてあの褪せ人に敗れた。

 

故に、血潮の騎士はもう一度あの褪せ人と戦うことを望み、それが成就されようとしていた。

 

 

――ホスローは血潮で物語る

 

今一度それを見せてやろう、褪せ人よ




ディアロスはパッチの罠に全部気持ちいいくらいにかかって、それをユーノが助けるという構図になってそうだなーと思いました。

そしてここから怒涛のオリジナル展開になりますのでご注意を……


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血潮の騎士と壺師と

閲覧ありがとうございます!

少し間が空きましたが私は元気です。
このペースで行くとえげつない話数になりますが頑張りたいと思います。

それではどうぞ!


「町が見え始めてきたわけなんだが……何か見覚えのある城が遠くに見えるんだよなぁ……」

「……平原に不釣り合い。だけどとても豪華」

 

トレントに乗っていた俺たちの視界に周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町が見え始めた

街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろうが……その町のはずれの方にやたら見覚えのある巨大な城――『ストームヴィル城』が見えた。

 

「えぇ……しかも何か大樹? みたいなのが生えてるし……何なんだこれ……」

「浩介さんあの城に見覚えがあるのですか?」

「うん……出来れば思い出したくない奴でね……」

 

脳裏にかつての思い出が過る。

 

狭間の地で初めて戦ったデミゴット……【接ぎ木のゴドリック】がいた城で俺は何度も死んだ。いい意味でも悪い意味でも思い出深い場所なのだが、それがトータスに生えていることが何よりの不安要素でしか無かった。

 

「で……その首輪はきつくない?」

「いいえ、絶対外しません(鋼の意思)」

「アッハイ」

 

シアの首元には黒い首輪が嵌められており、これは亜人族且つ愛玩用としての人気の高い兎人族が愛玩用として知れ渡っていることが原因だ。おまけに異性を魅了するそのスタイルや美貌はそれこそ格好の良い奴隷として狙われるのは目に見えている為、俺が首輪を嵌めたのだ。

 

それをシアがひどく気に入り絶対外さないとハイライトを消しながら言ってたので今に至るという訳だ。また、露出度が高かった服はボックに依頼して露出を抑えた服に仕立ててもらった。肌の露出は抑えながらも体の動きを阻害しない程度に調整してもらったので、本人も気に入っている様子だった。

 

「それで……浩介、あの城はどうする?」

「取り敢えず後回しで……今は一先ずあの町に行くとしよう」

 

 

 

それから門の近くに来た俺たちを待ち受けていたのは……

 

「お前達は……!」

「おぉ! 君か! 久しぶりじゃないか!」

「……」

 

門の前に番人のように佇んでいたのは、ユーノ、ディアロス兄弟だった。ディアロスの方は相も変わらずと言った様子で俺に手を振っていた。ユーノの方は無言ではあるもののどこか俺を歓迎しているようにも見えた。

 

「また浩介の知り合い?」

「む? そちらのお嬢さん方は?」

「あぁ、こっちはユエ「浩介の正妻」……旅の付き添い」

「そ……そうか。では、そちらの少女は?」

「こっちはシア「浩介さんの奴隷」……従者」

「……そ、そうか! うむ……そうか、英雄色を好むと言うしな。はっはっはっはっは……」

 

ディアロスが思考停止気味になりながらも無理やり納得した様子で俺たちを村の中に向かい入れた。ユーノもディアロスに続いた。

 

「あれ良いのか? こういうのって身分証明するもんじゃないのか?」

「君が連れてきた従者だろう? ならそれで大丈夫さ。それに……今はそんなことを気にしている余裕がないんだ……」

「……あのストームヴィル城のことか?」

「ッ! そうだ……」

 

俺がストームヴィル城の事を告げると、ディアロスの表情は陰りを見せ、やがて憤怒の表情に染まった。

 

「……あの城にいるのはあのゴドリックで間違いない……」

「この町の人たちは大丈夫なのか?」

「あぁ……それに関しては兄上のお蔭で今のところは犠牲者は出ていない……」

「そうなのか? ユーノ」

「……」

 

ユーノはコクッと頷き、鞭を見せた。どうやらほぼ一人でこの町を守り抜いていたらしい。しかしディアロスは心底悔しげな表情を見せ、

 

「だが……あの城に壺たちが……人質として連れ去られてしまったのだ!」

「壺たちが!?」

「あぁ……私も尽力したのだが……ッ! 奴らは人質と言わんばかりに壺たちを連れ去ってしまった! なんと情けないことか! 私の力不足によってまたしても彼らを守れなかったのだから!!」

 

ディアロスの拳は固く閉ざされ、震えていた。

 

 

「あ、あのー……壺って、あの置物の壺のことですか……?」

「あぁ……そうか、この世界には生きた壺がいないんだったな」

「生きた……壺……?」

 

シアとユエが頭に宇宙を背負い始めた所でギルドに案内された。そこは割と綺麗な場所で俺たちが入ってくるのをみると大勢の冒険者が視線を向けてきた。

 

そして恰幅の良い女主人がユーノに話しかけてきた。

 

「ユーノさん! ディアロスさん! いつもありがとうね! それで、彼らは一体……?」

「あぁ、彼らは兄上の客人だ」

「あら、これは失礼」

 

どうやら血の気がありそうな冒険者の間でも彼らは慕われているようだ。ユーノ達に尊敬の視線が向けられていることからそのことが伺い知れる。

一部ユエやシアに向けて好色の視線を向けていた奴らもいたが、ユーノの客人であることを知るや否やその視線も直ぐに消えた。

 

「それで、美少女たちを侍らせている男は何者だい? ただの冒険者じゃないね?」

「彼こそ……以前語った、唯一兄上を打ち倒した戦士だ」

「あ、あんたがかい!?」

 

ディアロスがそう言い放つと、ギルドのあちこちがざわざわとし始めた。

 

「おい……マジかよ……あの男が、ユーノさんを打ち倒した奴だって!?」

「おいおいおい……あんな極上の美少女と奴隷を侍らせているのがか……」

「クッソ……俺あの奴隷狙っていたのに……」

「お前どうすんだよ……俺たち全員を相手取って無傷だったあのユーノさんを倒せる奴だぞ……? 勝てる訳ねぇだろ……」

 

聞き取れた内容からはやはりユーノが一度冒険者全員を相手取って打ち勝ったことが伝わってくる。狭間の地でも散々苦戦させられた相手が賞賛されているのは何か嬉しいものだ。

 

 

「随分と騒がしくしてしまったな……場所を変え……兄上!?」

 

ディアロスが俺たちを別の場所に案内しようとした矢先、ユーノが俺に向けて鞭を構えた。――『ホスローの誓い』である。

 

「まさか、兄上!?」

 

「……褪せ人よ、俺と闘ってくれ」

 

兜の下から男の声で俺に挑戦を申し込んだユーノ・ホスロー。どうやら俺の存在を感知してからずっと戦いたかったらしい。俺に向けて凄まじい闘気が向けられ、周りの連中は静まり返っていた。

 

その様子を見たユエとシアが戦闘態勢に移行するが俺は手で二人を制してた。

 

「浩介さん! 私m「待て」で、でも!?」

 

「……ユーノ・ホスロー。お前はあの日の雪辱を果たしたい。そう言いたいのだな?」

「……そうだ。俺はあの日、お前に敗れた。そして今再び相まみえることが出来た……どうか俺ともう一度闘ってくれ」

「これが……人間の出せる闘気なのですか!?」

「こんな人間……浩介以外に見たことがない……!」

 

ユーノは隠す気がない己の闘志をむき出しにして俺に威圧を掛けた。俺の傍にいるシアは目を見開き緊張していた。ユエも尋常ではない力を持つユーノに警戒心を高めていた。

 

周りの連中も

 

「お、おい……まじかよ……」

「あのユーノさんが声を出す所なんて初めて見たぞ……?」

「それにこの闘気……俺たちに見せた時よりも格段に濃いぞ……!」

 

「……ディアロス。あの広場に案内を」

「あ、兄上。分かりました……では、褪せ人よ。健闘を祈る……」

 

そうして俺らはブルックの町にある大広場に案内されることになった。

 

 

 

「ほーん……あのユーノ・ホスローと旦那が戦うのか……これはビジネスチャンス!」

 

 ――どこかの禿げ頭が儲け話を見出したとか

 

 

◆◆◆

 

 

三人称side

 

 

広場に案内された褪せ人……遠藤浩介と血潮の騎士、ユーノ・ホスローが向かい合っていた。

その手にはそれぞれ同じ剣や鞭が握られていた。

 

浩介の手には毎度おなじみの『失地騎士の大剣』が、

 

対するユーノ・ホスローの手には『ホスローの花弁』が、

 

彼らは広場の中心で勝負の時を今か今かと待っていた。彼らの放つ威圧感と闘気に観客も固唾を飲んでいた。

 

そして浩介の(自称)正妻ユエは浩介の勝利を、そして浩介の(自称)奴隷シアも己の主の勝利を願っていた。

 

「――ではこれより、褪せ人……遠藤浩介と血潮の騎士、ユーノ・ホスローの決闘を開始する」

 

そう仕切るのはディアロス・ホスローであった。

 

「……始めぇ!」

 

 

先手を切ったのはユーノであった。

 

「――シッ!」

 

浩介よりも洗練された鞭裁きから繰り出される不可避の一撃が浩介に襲い掛かった。

 

浩介はその場から体をよじって鞭を回避した。しかし完全には回避しきれず、鎧に切り傷が着いた。

続けざまに両手から放たれる鞭が再び襲い掛かった。片方は浩介の胴体へ、もう片方は頭部へと不規則な軌道を描きながら襲い掛かった。

 

逃げ場がないと判断した浩介は両手に持った大剣をそれぞれの軌道の先に向けて振り払った。

 

「――ッ!」

 

だが鞭の刃先が浩介の両腕を切り裂き、腕からは鮮血が流れ出した。浩介の顔に僅かな苦痛の表情を見せた。

鞭を捌いた浩介はユーノを射程圏内に収めようと走り出した。――真っ直ぐにだ

 

「おい! あれじゃあ!」

 

観客の一人が言ったとおりにまだ円状に走っていれば鞭を回避することは出来たであろうが、浩介はそんなことお構いなしに真っ正面からユーノに突っ切った。

両腕を顔の前に組み、多少の被弾どころか被弾を気にしない無謀な戦い方だった。

 

しかしそれを見たユーノは僅かに動揺した。

 

ここで攻撃を加えれば確かにダメージは与えられる。しかし()()()()なのだ。彼を仕留めるだけの火力は鞭では出し切れない。このまま突っ切って大剣の一撃を貰えばただでは済まないことを一瞬で判断したユーノは、後方へ足を進まさせながら鞭を振るう作戦に出た。

 

「ふん!」

 

ユーノが鞭を振るうたびに浩介は大剣で鞭を叩き落としていく、胴体に向かう刃を時には跳びあがって回避し、両脇から同時に迫る音速の鞭はスライディングの要領で回避して行く。

そして一撃を与えようと跳びあがって両手を振り下ろすが、ユーノはその場から瞬時にステップで回避した――『猟犬のステップ』である。浩介の大剣が地面に亀裂を走らせる。地面が抉れ、土が飛び散ることからもその威力は計り知れないことが知れた。

 

そしてその隙を逃さず鞭が振るわれる。それに対し浩介は……

 

「シィッ!」

「――ッ!」

 

大剣をユーノに向けて投擲した。回転しながら飛来するその剣は浩介の怪力によって途轍もない回転力を生み出した。当たればただでは済まないそれに、ユーノは上半身を反らして回避した。しかし浩介の身体には鞭の傷がつけられ、左肩と首もとに切り傷を残した。

 

浩介は残り一本の剣を握りしめてユーノに向かって跳びあがり、上空から斬り下ろした。

 

ユーノは咄嗟に体を反らしたまま両手を地に着き、体を後方に回避し、更に鞭の連撃を浴びせた。

 

「『二連切り』!」

 

浩介の前方に×を描くように放たれた二連撃が縦横無尽に飛び掛かってくる鞭を切り払った。再び突き進む浩介。ユーノも一定の距離を保ちつつ鞭の連撃を浴びせてくる。

 

空を切る音と肉を切り裂く音が響く中、浩介はユーノに食らい付きにいった。その間も後退しながら鞭のの応酬を繰り出していく

しかしユーノは壁際にまで追い詰められそうになることを悟り、壁と離れようと『猟犬のステップ』を行使しようとした。

 

だが、その進路に向けて浩介は剣を勢いよく投擲した。剣はユーノの進路上に向かって一直線に突き進んでいった。

 

このまま猟犬のステップを行使すれば、剣が直撃することを直感したユーノは浩介に向き直る。今の浩介には武器は無い……筈だった。

 

「――フッ!」

 

何と浩介は最初に投擲した剣を地面から引き抜き、そのまま横一線に剣を振りかかったのだ。

 

あまりにも接近までのタイムラグが早すぎる。

 

そう思ったユーノだが、浩介の剣に埋め込まれた戦灰が自分と同じ『猟犬のステップ』であることを見抜き回避しようとする。

 

しかし唯一の逃げ場であった場所には剣が突き刺さって妨害しており、その反対側からは迫りくる浩介の剣があり、どう考えても絶望的な状況であった。

 

 

だからこそユーノも浩介と同じ選択肢を選んだ。

 

「――ッ!?」

 

そう、ユーノは猟犬のステップを行使した。()()()()()()()

 

そのまま浩介の懐に入ったユーノは浩介の足に向かって足払いを掛けた。これにはたまらず浩介も仰向けに倒れ込む。そしてユーノは両手の鞭を天高くから勢いよく振り下ろした。

ぎょっとしながらも浩介は咄嗟に体を起こして鞭の一撃を回避した。

 

地面には鞭によって抉られた二つの痕が見受けられ、あれを喰らえば鎧自体を両断されていたことは自明の理であった。浩介の額に冷や汗が流れる。

 

(これだから……鞭は厄介なんだよな……パリィも出来ねぇし、ましてやあの猟犬ステップ……隙が無ぇ)

 

(これを回避するか……先程の剣の投擲と言い、身のこなしといい、相変わらず厄介だな)

 

奇しくも同じような感想を抱いた二人だったが、再び己の得物を構え向き直った。

 

 

「――行くぞ」

 

今度は浩介がユーノに向かって突っ切った。ユーノは胴体を両断する勢いで鞭を振るった。

 

だが、

 

 

「グゥオオオオオ!!」

「な……ッ!?」

 

浩介は勢いよくその場で回転しだしたかと思うと……鞭を体に勢いよく巻き付け始めた。

 

「――ッ!!」

 

身体に巻き付けられていく刃に鎧が傷つき、やがて肉が切り裂かれ激痛が走るが、それに伴ってユーノが焦りを見せた。

 

(鞭を体に巻き付け……俺の攻撃を封じただとッ!?)

 

ユーノの鞭はいずれも浩介の身体に巻き取られ、びくともしなかったのである。不味いと考えていると、今度は浩介が鞭の刃先を握りしめ――勢いよく引っ張った。

 

「――しまっ」

「オラァアアアア!!」

 

次の瞬間ユーノの兜目掛けて強烈な拳の一撃が加わり、ユーノはその場で縦方向にきりもみ回転をしながら勢いよく地面に叩きつけられた。

ユーノは一瞬意識を持ってかれ、直ぐに立て直そうとしたとき

 

ザン!

 

……顔の真横に剣を突き立てられた。

 

「……なるほど俺の負けか」

「そうだ……俺の勝ちだ」

 

ユーノは降参し、再び浩介が勝ったのである。

 

そして観客からは、惜しみない拍手と賞賛の声があがった。

 

「「「うぉおおおおお!!」」」

 

「やっぱユーノさんすげぇや!」

「あぁ! それにあいつも中々いかれた戦い方をしやがるぜ……こっちまで冷や冷やさせられたぜ……」

「あの剣捌き……あの身のこなし……すげぇな……どんな鍛錬を積んだらあぁなるんだよ!」

 

 

「よかった……浩介が勝った……! あぁ……濃厚な血の匂いがプンプンと……♡」

「よ、良かった……! 流石は浩介さんだぁ……!」

 

負けはしたもののユーノの眼にはまたリベンジの機会を待つ決意がみなぎっていた。




この後滅茶苦茶吸血されたり、風呂場に突入された。

マジでこのペースで行くとはじめちゃん達との再会(修羅場)が当分先になるため、字数を増やしつつテンポを速めていきたいと思います。





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接ぎの王と星の王 前編

閲覧ありがとうございます!

色々と事情が込み合いましたが、何とか投稿することが出来ますた。

今回ちょっとグロ注意なのでご注意ください。

それではどうぞ!


「……」

「な……なぁ、あんた。俺を信じてくれよぉ……もう流石に騙しはしねぇよ……」

「浩介が、キレている……!?」

「こ、この二人に何があったのでしょうか……!?」

 

俺の眼下には、革の鎧を纏った丸禿げ頭の男こと『フーテンのパッチ』が僅かに動揺したような表情を見せていた。その足元には箱満杯に収められた金と、紙切れのような物が紐で纏められていた。

そうこのパッチは、俺とユーノの闘いの際に観客に賭けを持ち込んでいたらしく、それが上手くいきぼろ儲けしやがったのだ。

 

 

パッチとの出会いは、ディアロスに案内された宿屋に向かう途中の路地裏で聞き覚えのある声がしたから覗いてみた結果、

 

『へっへっへ……随分と儲けたぜ……ちょろいちょろい』

 

卑しい表情をしながら儲けたであろう金の総額を数えているパッチを発見したのだ。

 

『ひ さ し ぶ り(威圧)』

『……や、やぁ……アンタか……ビックリさせねぇでくれよ……』

 

で、今に至るわけだ。

 

「……あ、そうだ! アンタの為に良い品物を仕入れてきたんだぜ? 見てってくれよ!」

「話を逸らしやがって……まぁ、良い見せろ」

「「買うんだ……」」

「へへへっ。さぁこれだ!」

 

そう言って広げられたパッチの品物を見てみる。

 

「ほう『喪失の戦灰』に『扇投暗器』、『鳥脚の黄金漬け』……他にもあるな」

「で、どうする? 買うかい?」

「通貨は」

「へっへっへ……そりゃ勿論ここの通貨だぜ?」

「むぅ……」

 

困ったな。ルーンなら腐るほどあるし、即全買いをするんだが……流石は商売をしているだけはあるな。

 

「しゃあねぇな……ギルドっていう所に行って換金してもらうか……」

「へへっ、まぁアンタならすぐだろうよ」

「良し、善は急げだ。ユエ、シア行くぞ」

「おー」

「はい!」

「待ってろパッチ。後で俺が全部買い取ってやる」

「ヒュー! 相変わらず太っ腹で!」

 

この後意気揚々とギルドに素材の換金を依頼しに行き、トータスで拾った魔物の素材や狭間の地で拾ったアイテムを換金しようとした所

 

『こっちの魔物の素材は売れるけど、そっちのアイテムは……ちょっと……うん……』

 

と言われた。むぅ……『星光の欠片』も『さざれ石』も売れないとは……

そしてなんやかんやあって大量の金をもって再びパッチの下に行き、全部買った。ちなみにこの際ユエとシアがパッチから何かを買っていたが(パッチの顔面は若干恐怖に染まっていた)、特に気にも留めなかった。

 

 

それからはディアロスの案内で一際大きい宿屋に泊まることになった。

 

尚そこでは風呂に突撃されたというか気づいたら背後にいたり(めちゃくそビビった)、夕食の際には明らかに精の付くであろう料理をたらふく食わされたり、「アーン」をしようとしてくるシアとまさかの口移しで食わせようとしてくる二人の間で軽い小競り合いがあった。

 

で、いざ眠りに着こうとしたら案の定、目をギラギラさせた二人に襲われる数秒前に陥っていた。

今の俺の両手両足は、恐らく昼間パッチから買ったであろう頑丈な紐で拘束されており、夕食の際に盛られていた薬の効果が遅れて効いていたのか身体が熱くなり始めた……やばい(語彙力喪失)

 

「……救いは」

「「ない♡」」

「そっか……」

 

「――(エルデの王)を無礼るなよ

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

――次の日

 

「やぁ! 昨日は眠れたか?」

「まぁ……それなりには、な?」

「そうか! ……所であの二人は……?」

「……まだ、正気を取り戻すにはもう少し時間がかかるだろう」

「……聞かなかったことにするとしよう」

 

ユーノとの死闘やそれに追い打ちをかけるかの如く振舞われた精を付けにきた料理の数々……そしてそこに盛られた薬は、疲れ切った俺を確実に仕留めに来るという気概を感じさせた。

 

――その結果として、朝起きたて気づいたら凡そ美少女がしてはいけない表情をしたユエとシアが横で突っ伏していた。

 

「……聞かなかったことにするとは、いっても……何だ、その……せめて匂いはどうにかしてくれないか……?」

 

ディアロスが申し訳なさそうに俺に話した。

 

自分でもすんすん。と嗅ぐ。むせかえるような()()()匂いと鉄臭さが混じった匂いが鼻を貫いた。うっわ……確かにこれはキツイ。後で石鹼で洗い流すか……

そうこうしているうちに遅れてユエとシアがやってきた。……最も、そのおぼつかない足取りと若干乱れた服装と、何より荒い息使いに加えて林檎のように真っ赤に染まった顔をしながらだが

 

「英雄色を好むとはあるが……キミ、本当に何があったんだい……?」

「……まぁ、理解させたと言えばいいか?」

「……私は先にギルドに行っているとしよう。それでは」

 

逃げるようにディアロスが宿から出ていった。残されたのは俺と、

 

「はぁー♡、はぁー♡……しゅ、しゅごかった……♡」

「まだ体がガクガクですよぉ♡ あのギラギラした目つき、捕食者だった筈の私達が、逆に食われることになるなんて……♡はぁ……♡」

 

大分酷いことになっているユエとシアだった。そして背後から感じるその視線に俺は振り向けなかった。昨日のことは断片的にしか覚えていない為、俺がナニをしたのかは想像しにくいが恐らくヤリすぎたんだろう。

 

ガシッ

 

(う……動けんッ……! ば……馬鹿な……!?)

 

「また……今日も、ね?」

「何なら……今ここでも……♡」

 

「さ……流石にやることがあるので……今日は勘弁……」

「「えー」」

 

「もうやだこの娘たち!」

 

 

 

 

一方そのころ

 

 

ゴシャア!

 

「こ、光輝ちゃん!? どうしたんですか!? 急に鉱石を握り潰して!?」

「……浩介に新たなメスがすり寄った……気がする」

「あわわわわわわ……落ち着いてください!? ひえぇええええええ! 紫電があちこち飛び散ってますぅううう!?」

 

この他のヤンデレsも、何かを察知したのかある者は銃を魔物に向けてひたすら乱射して肉の塊にしたり、またある者は勢い余って魔物ごと地面に亀裂を生じさせるほどに刀を振り下ろしたり、ある者はうっかり雷を降らせたり、ある者は死の怨霊をばらまいたり等をしていた。彼女達に共通しているのは自分の大切な何かにすり寄るどころか一線を越えた、という確信だった。

 

 

そして……ある者は

 

パリン

 

「ユ、ユッキー!? グラスが!?」

「……あいつが何かやらかした気がする。俺の胃がそう告げている。絶対ぶちのめす。というかあいつは死んでも復活すると聞いた。なら一回くらいは誤差だろう。うん、そうだな」

「待って待って待って!? それ以上いけない!」

 

一人の人物を愛する者たちの暴走とその元凶が何かをやらかしたことを察知した清水は、全身から黒炎を滾らせながら砕け散ったグラスをさらにドロドロに溶かした。――徹夜三日目の出来事である。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「それで……ここがストームヴィル城なわけだが……何か、思ったより樹が侵食してないか……?」

 

俺はあの後、ディアロス達に見送られてからトレントに乗ってストームヴィル城にやってきた。

しかしストームヴィル城の正門前についた俺が目にしたのは、樹の根が壁や床に侵食しているという異常極まりない光景だった。

 

「それに……何だこの死体の山は……! どれもこれも、手や足を失ってやがる……!」

 

また正門の近くに両手両足……果ては両眼さえも失った帝国兵や魔獣、魔人族の死体が無造作に転がっていた。

 

不気味だったのはこの死体から血の匂いがしないことと、やはりその死体の多さだ。

 

「うっ……これは酷い……」

「何が……起こっているの……」

 

シアとユエも思わず顔を顰める。辺り一面に打ち捨てられた死体の有様に周りにほとんど興味が無いユエと言えど、流石に目に余るようだ。

 

「……ゴドリック……まさか」

 

恐らくこいつらは、ゴドリックの『接ぎ』の材料にされたんだろう。だが前回と違うところは、血や内臓すらも抜き取られていることだ。

 

狭間の地でのゴドリックの姿は異形そのものだったが、今はどうなっているかも想像がつかなかった。

 

「……ここでたちどまっても仕方ない。行くぞ……」

「……うん」

「……はい」

 

俺たちは既に開けられた正門をくぐりながら、中に入っていった。

 

 

 

中に入った俺たちを待っていたのは、異形の生物の群れだった。

 

かつてのストームヴィル城にいた兵士たちはおらず、代わりにトータスの魔物の腕や顔が無理やり接合されたような獅子が俺達に立ちはだかった。

 

「――シッ!」

「〝緋槍〟」

「このッ!」

 

俺とシアが獅子の部位を切り落としたり、叩き潰し、ユエの魔法で止めを刺しているが、如何せん数が多く中にはもはや生物と呼んでいいのか怪しいフォルムをしたドロドロのスライムもいた。

 

どう考えてもブラボの世界から来たとしか考えられない奴らだが、接ぎを行った影響によるものなのか生命力が高く、魔法を行使する奴も所々見受けられたのでかつてのストームヴィル城の面影は完全に消え失せたと言っても過言ではないだろう。

 

『『『グゥオオオオオオオオオ!!』』』

 

「数が……多いッ!」

「『アステールメテオ』」

 

虚空から呼び出された小隕石が次々と異形の生命体を破壊していくが…………それでも数が減らない

 

「〝天灼〟」

 

複数の雷の弾を敵の上空に出現させ、範囲内の奴に雷を浴びせる雷属性の最上級魔法を放ったユエ。その範囲攻撃の効果も相まって大分削れた。

シアも獣爪の大槌を振るいながら時には叩き潰し、時には切り裂いていった。

 

……これ俺が強化してなかったら大分ヤバかったんじゃあ……

 

そんなことを考えていると、漸くゴドリックの待つ広場へ通じる通路が見えてきた。そしてその通路の脇には、失地騎士の鎧を纏った壮年の男……エドガーがいた。

 

「……ああ、貴公か」

「エドガーか……壺たちは?」

「彼らなら心配いらない。この先の通路で私が保護している」

「……ゴドリックは」

 

そういうとエドガーはうつむいた。

 

「……ゴドリック様は……もう、正気を失ってしまわれた。私が誰かすらも判別が出来ないようだ」

「そうか……」

「……ゴドリック様はこの先の広場にてお待ちだ。……どうか、あの狂ってしまったゴドリック様を……頼む」

 

 

「……行こうかユエ、シア」

「……うん」

「……はい!」

 

俺は厳重に掛けられた扉を押し開け、中に入っていった。そこに待っていたのは衝撃的な光景だった。

 

「これは……大樹……?」

 

かつてゴドリックと対峙した際は空が見える吹き抜けの空間だったが、今や空を覆い隠すほどに巨大な大樹のような物が蠢いていた。

 

「……これ、本当に樹なの……?」

「何と言うか……不気味ですぅ……」

「……ゴドリックは……?」

 

その時だった。

 

 

ズル、ぐちゃ ズル、ぐちゃ

 

待っておったぞ……褪せ人

「「「!!?」」」

 

声のする方に視線を向けるとそこには――凡そこの世の物ではない異形がいた。

 

 

「我は……もう……負けぬ……負けるはずなどない……!」

 

ぐちゃ ぐちゃ

 

その図体はもはや人型を為していなかった。

 

前あった時よりも一回りも二回りも大きなその巨躯には、まるでケンタウロスのような下半身……正確には腕や脚、そして魔物の胴体で出来た接ぎはぎが、歪ながらもその機能を果たしゴドリックの脚となっていた。さらに尾にあたる部分にはこちらを睨みつけるように狼や蛇の魔物の首が幾つも備わっており、今も俺たちに向かって口を開けて威嚇している。

 

そして蹄にあたる部分は、ぱっと見普通に見えた。――否、四本の脚全てが文字通り『脚』で構成されており歪に絡みあってそう見えていただけだった。

 

「我は貴様を……倒し、その力を……もらい受ける……!」

 

胴体には()()()()()と反対側には不気味に胎動する竜の生首が接げられており、その首にはまるでかぎ爪のような形で魔物の鋏や爪が腕ごと取り付けられていた。

 

そして右手にはそれぞれ見覚えのある戦斧の他に長剣や長槍が握られており、それが一層不気味さを醸し出していた。

 

「さあ……我に寄越せ……お前の……その力を……!」

 

背中を丸めたかのような動作をして大きく雄叫びを上げたかと思えば、まるでクジャクの羽のようなナニカが背中に展開された。……よく見るとそれも大量の腕がひしめき、枝分かれしていただけという悪夢のような光景だった。

 

それぞれの手にはボウガンやクロスボウ、そして杖が接着されており、それに装填された矢らしきものが人間や魔物の骨であることにも気づいてしまった。もはや面影があるのはゴドリックの頭部だけとなっていた。

 

「あ……え……?」

「え…………」

 

ユエもシアも言葉が出ないようだった。はっきり言ってしまえば俺も言葉を失って呆然としている。

 

そしてゴドリックは黄金の戦斧を地面に叩きつけると……

 

我こそは……黄金の君主……黄金の君主なりィイイイイイ!!

 

身体に接げられた魔物や竜が雄叫びを上げ、同時にゴドリックの胴体に無数の眼を一つに纏めたような大きな眼が開眼した。

それぞれが虫の複眼のように視線をキョロキョロさせていると――やがて全ての視線が一斉に俺に向けられた。

 

「マジかよ……お前……」

「さぁ……我が力の糧になるが良いッ!!」

 

そういってゴドリックは歪な蹄の音を鳴らしながら俺たちに襲い掛かってきた。

 

 

――()()のゴドリック】




接ぎのゴドリックを簡単に説明すると

・馬の下半身(ただし全部腕や脚、胴体で構成)
・尻尾(狼や蛇などの魔物で構成)
・クジャクのような羽(ただしry)
・新たに四本の腕

が通常のゴドリックにくっつけられたというイメージです。

……グロイですね()

閲覧ありがとうございました!


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接ぎの王と星の王 後編

閲覧ありがとうございます!

大変遅くなりましたぁあああ!!

課題やらレポートに追われていたので、遅くなってしまいました……申し訳ないです。

あと今回はオリジナル要素があるので(今更)ご注意ください

それではどうぞ!


「――シャアァアアッ!」

 

黄金の戦斧が真っ先に浩介に向かって振り下ろされる。横に跳んで回避する浩介だが、その胴体に向けられてゴドリックの背中から赤、青に他にも様々な色に輝く矢が放たれる。

その矢には多種多様な魔力が込められていることから、どうやら接いだ人物たちが得意としていた魔法をゴドリックは扱えるようだ。

 

そうして射出された矢の雨が浩介に牙を向く。

 

(盾で防御……いや、回避が得策、か……)

 

盾で防御しようとしたが、数の暴力ともいえる矢を受けた所で逆に勢いに負けて仰け反り、隙を晒してしまうことになると考えた浩介。浩介は迫りくる矢を華麗な身のこなしと猟犬ステップによって容易く回避していく。しかし浩介が回避した先を狙って放たれた矢に思わず驚愕する。矢が己の兜に掠ったこととこの現象に考えを巡らせていた。

 

(猟犬ステップの先を読まれた……? ……なるほど、あの目か)

 

続けざまに飛んできた矢と自分を追尾してきた矢を巧みな剣裁きで一つ残らず撃ち落とした浩介はゴドリックの胴体と身体に着いた無数の目が自分を追っていることに気づいた。どうやらあの目で常に浩介を補足しているようだ。

常にその瞳孔が向けられていることに若干肌寒さを感じつつ重量がある大剣では不味いと考え、装備を変えた。

 

そして浩介を狙っている隙を狙ってユエが魔法を放つが、その有り余る機動力で翻すようにして回避された。着地の隙を狙ってシアが大槌を叩きつけようとするが、身体に取り付けられた無数の腕がシアの一撃を完全に無力化してしまった。そして大槌を掴み、シアを投げ飛ばした。投げ飛ばされたシアは凄まじい勢いで壁にぶつけられた。

 

「シア!」

「貴様の相手は……」

「……ッ!」

「この我であるぞッッ!!」

 

シアを心配浩介だが、こちらに矢の雨を降らせながら武器を振り下ろしてくるゴドリックの猛攻をひたすら凌ぐことに徹底するしかなかった。戦斧の一撃やこちらに噛みついてくる左手の竜を紙一重で回避しつつ、月隠の刃ですれ違いざまに斬りつけていく。しかし表面を斬りつけただけでは、直ぐに傷が塞がってしまった。

 

そして背後から飛来してくる魔法矢に対して結晶を拡散させる『放たれる結晶』を振り向きざまに放ち、次々と消滅させていく。しかしその背後に向けて戦斧が振り下ろされようとしていた。

 

「〝緋槍〟!」

「チイッ!」

 

ゴドリックの腕に向かって放たれた魔法が直撃し、浩介への軌道をずらした。戦斧を持っていた腕がはじけ飛ぶ。

 

しかしゴドリックが落ちた腕に向かって断面を向けると――木の根と肉が合わさったような何かが断面より現れ、切り離された断面と接着してしまった。

 

「コイツ……!」

「我は、もう破れぬ……ッ! 我が父祖よ! 今一度、」

「不味い……!」

 

ご照覧あれぇいいい!!

 

ゴドリックの左手の竜と尾につけられた魔物の首が胎動したかと思うと、竜が業火を、魔物が怨嗟の咆哮をあげた。天に向かって放たれた業火に向けてゴドリックは無数の矢を発射した。そうして浩介たちに向けて炎を纏った矢と拳大サイズの炎塊が次々と降り注いだ。

 

凄まじい形相と勢いでゴドリックが剣を、槍を、斧を向けて突進してきた。その速度から生み出される破壊力を想像した浩介は冷や汗を流しつつ、回避を試みる。

 

だが、

 

「ッ!? 足が!?」

 

いざ回避しようとしたその瞬間、足元に木の根のような物が絡みついた。よく見るとゴドリックの身体から飛び出した触手が地面に潜り込んでおり、それが原因であることが分かった。猟犬ステップを発動出来ない。その現実を突きつけられた浩介は咄嗟に巨大な石板のような大楯『指紋石の盾』を構えた。しかし、浩介は前にばかり意識を取られていたことに後悔することになった。

 

「浩介!!」

 

ユエの叫びに気づいた瞬間。浩介は背後から串刺しにされた。

 

「なに……ッ!?」

 

浩介の身体を貫いているのは、鋭く尖った木であり、僅かに燃えていた。貫かれた浩介を見て悲鳴に似た

 

(まさか……! あの炎塊の中に!)

 

そう、ゴドリックは炎を吐き出した時にとある物も周囲にまき散らしていた。それは例えるならば『種』であった。種が地面に着弾すると中から木の根がゴドリックの命令で飛び出し対象に突き刺さる。まさに初見殺しといっても過言ではなく、これは接いだ物から得た魔法をふんだんに使った狂気の産物でもあった。

 

兜の下で吐血して思わず盾を手放してしまう浩介。その無防備な胴体に向けてさらにゴドリックの追撃が入ろうとしていた。

 

「死ねぇい!!」

 

 

その時だった。

 

「『黄金の……」

 

浩介の身体に黄金の光が満ち溢れ始めたのだ。浩介の左手には既に聖印が握られており、溢れんばかりの光を解き放とうとしていた。それを見たゴドリックは急いで体を翻そうとする。しかし

 

「〝凍柩〟」

「せやぁああああ!」

 

「き、貴様らァアアアア!!」

 

水属性の上級魔法の凍柩で足を氷に閉じ込められたゴドリックに先程のお返しと言わんばかりのシアの大槌が尾の魔物を叩き潰した。ゴドリックは憤怒に染まった表情でユエとシアに罵声を浴びせる。

一際強い輝きが浩介の方から発せられたことに気づき前を振り向くゴドリック。そこには黄金の波動が、怒りのようにして解き放たれる祈祷が発動しようとしていた。

 

 

「……怒り』!!」

 

浩介の身体から解き放たれた黄金の波動は巻き付いていた蔦や身を貫いていた木を纏めて消し飛ばし、近くにいたゴドリックにもその影響は及んだ。

 

「グ……グォオオオオ!?」

 

咄嗟に背中の腕すらも防御に回したが、それすらもまとめて吹き飛ばし、幾つかのパーツがひしゃげ、身体から切り離された。今のゴドリックは幾つもの体の部位を傷つき、失ったことにより尋常ではない痛みに襲われていた。通常の人間で例えるならば体の四肢が同時に千切れる感覚を幾つも味わっている状態なのだ。

 

一方で浩介は鎧や胴体に無数の空洞が空きそこから大量の血が表に出ていた。更に肺や心臓などの重要器官を貫かれ、破壊されていた。兜の中では吐血しておりどう考えても即死ともいえる傷だった。

 

(か……回復を……!)

 

何とか手を聖杯瓶に伸ばそうとするが失血が酷く、どしゃりとその場に倒れ込んでしまった。辺りは血の海と形容すべき地獄の有様であり、それでも死んでいないのはひとえに浩介が褪せ人(不死の怪物)であるからであろう。

 

「浩介さん!」

 

シアが駆けつけ、聖杯瓶を取り出して口元に近づけ、飲ませた。浩介の身体の傷は即座に塞がり剣を地面に突き立てて、ゴドリックを見据えた。

 

「すまない……シア」

「良いですよ! これぐらい後d「余所見厳禁。何かおかしい」!!」

 

回復した浩介が目の当たりにしたのは、身体が所々崩れたゴドリックであった。しかしユエの言葉通りどこか様子が変で、身体が蠢き、胎動していた。まるで何かを呼んでいるかのように体の節々から木の根が伸び始めていた。

 

「我は渇望する……貴様を打ち倒せるだけの力を……我が、本物の『王』になるための……力を……」

 

「な、なんですか!? この揺れは!?」

「……! 大樹が!」

「……」

 

地響きのような物が鳴ったかと思えば、大樹の麓から何かが飛び出した。樹木のような姿をした竜や蛇に似た異形の怪物――『爛れた樹霊』であった。それが二体出現したのだ。

 

見たことも無い生物に驚愕するユエとシア。しかし浩介はただ無言で俯いていた。

 

そして二体の爛れた樹霊がゴドリックの左右に並んだかと思うと――

 

「クァアアアアアアア!!」

 

なんと爛れた樹霊に背中から伸びた管を突き刺した。樹霊が悲鳴に似た叫び声を上げると、徐々に溶けるかのように解け始め、やがてゴドリックをまるで繭のように包み込んだ。

繭と呼ぶにはあまりにもおぞましいそれにユエ達は絶句していた。

 

そして幾ばくかの胎動と共に、繭の内側から蹴破るように()()()()で地面に立った。

 

「これが……我の全て……これぞ我が『接ぎ』の全てである!!」

 

これまでの異形の形態を捨て去って顕現したのは、二本の足、二本の腕を持ち、長い尾をもつゴドリックであった。体格はかなりの大柄であり、一見するとまともに見える。しかしそれを否定するかの如く徐に右手を掲げると、右手全体が巨大な塊になったり、ゾッとするほどに光輝く刃に早変わりするなど明らかに常軌を逸した力を見せつけるゴドリック。

 

さらに左手も同様に掲げると今度は大柄なゴドリックすらも飲み込まんとするぐらいの大きさを誇る竜の顎が現出した。それを見たゴドリックは不敵な笑みを浮かべ、地面に突き刺さった戦斧を尾で絡めとると浩介に構えた。

 

「これで後は……貴様を取り込めば……我は、完全になれる……! 漸くあの星砕きに、あの女に、そして父祖に……並び立てる……! 我は認められるのだ……!!」

 

それはまるでゴドリックの嘆きのようで、悲願とも受け取れた。そして姿勢を落とし、足に力を込めたゴドリックはまっすぐ浩介に向かって行った。

 

「浩介!」

「浩介さん!」

「喰らえぇええええええい!!」

 

刃に変形した腕が浩介を両断せんとして振るわれる。

 

 

「認められたい……か。そうかそうか……」

 

 

浩介が何かを呟いたかと思えば、ゴドリックの腕を……素手で受け止めた。

 

「なッ!?」

 

「――何とも、実に人間らしくて……実に、良い……だが

 

刃を握る手に尋常ではない力が入り込み、やがて亀裂を走らせた。浩介の口からこれまでのとは比べ物にならない程の威圧感と、僅かな羨望が浮き出ていた。

 

 

それではまるで足りない。俺……いや、()()()まるで

「ぐわぁあああああああ!?」

 

ゴドリックの腕は握りつぶされ、砕かれた。飛び散る肉塊と血が浩介の兜を真っ赤に染める。その兜の隙間から見せる瞳は――星空の色を指していた。

 

それから浩介の纏う雰囲気がまるで別人のように変化し、浩介という【人間】からエルデの王たる【褪せ人】へと変貌を遂げたのであった。

ユエとシアもその光景に固唾を飲んだ。それから徐に両手を胸の前で十字に交差させると

 

 

「こい――『暗月の大剣』そして――『陽日(ようじつ)の大剣』」

 

 

浩介……否褪せ人の手には薄く青く光る大剣『暗月の大剣』と、対照的に太陽を具現化したように光輝く大剣が握られていた。

それぞれが纏う光と魔力は尋常ではなく本人の変貌も相まってゴドリックは怖気づいていた。

 

(わ、我が恐れるだと……!? 二度も……!? 否、否! 否!! 我は確実に強くなった……強くなったはずだ……!!)

 

「き、貴様……! それは一体なんだ!?」

 

ゴドリックは震える指で燃え盛る剣を指さした。

 

「これか? なに、ラニから貰い放しなのは嫌だったからな。かつての古き慣習(ラダゴンとレナラ)に倣って作った物だ。よくできているだろ? 知り合いの鍛冶師に協力してもらったのだ」

 

そう言って大剣と言うよりはまるで墓標のようにも思える長方形の大剣をブン、と振り下ろした。それだけで辺りに火の粉が飛び散り、ゴドリックの残した火を、逆に食らいつくしていった。

 

 

――あれは駄目だ

 

 

ゴドリックの直感が告げていた。あれは、己は疎か一切合切全てを、悉く燃やし尽くす刃、すなわち神殺しの剣であると。

 

凍える剣と対を為すようにして燃え盛る大剣は余りにも恐ろしく、そして――冷酷なまでに美しかった。

 

「こ、浩介……!?」

「そ、それは……!?」

 

「確かにゴドリック、貴公は確かに強くなった。狭間の地とは比べ物にはならないほどには……しかし、それだけなのだ」

「なんだと……ッ!?」

 

褪せ人はゆっくりと立ち上がり、右の暗月の大剣を天に掲げ……振り下ろした。

 

「私を殺すには、全くを以て足りん」

「ッ!? グォオオオオ!?」

 

その瞬間視認できるのかすら怪しい程の速さで振るわれた大剣から、暗月の冷気が斬撃となってゴドリックを切り裂いた。ゴドリックは咄嗟に再生させるが、身体の動きが鈍くなったことから凍傷を起こしたことに気づいた。

 

しかしゴドリックもただやられるだけでなく、変形させた腕から無数の槍を解き放つが、全て弾き落とされた。叩き落とされた槍は地面に落ちるや否やまるで氷細工のように砕け散った。

 

「ば……馬鹿な!?」

「さぁ、ゴドリック。私を超えてみろ。貴公が目指した物はここにあるぞ」

 

そういって褪せ人は胸元を指さした。その間もゆっくりとゴドリックへ足を進めて行く褪せ人。反対にゴドリックは冷や汗を流しながら左足を後ろに、右足を前へ姿勢を落とし、思い切り飛び掛かった。

無論それは常人にはまず対処できない速さであるのには間違いなかった。現に今のを目で追えるのは狭間の地でも数えるほどしかいないだろう。

 

だが、今の褪せ人は

 

「――『陽光剣』」

 

ゴドリックとすれ違い様に太陽のように燃え盛ったその大剣で胴体を切り裂いた。傷口は一瞬で焼かれ、ゴドリックは苦悶の表情を浮かべた。

しかし傷口を何とか他の部位で補うようにして塞ぎ、再び振り向きざまの一撃を叩きこもうとした。褪せ人も同様に振り向きざまに灼熱の刃を振り抜いた。

 

ゴドリックの戦斧と刃の手が、褪せ人の灼熱の刃が、互いに衝突する。

 

――結果は

 

 

ドガァアン!!

 

「グゥ、グオオオオオオオオ!!?」

 

褪せ人の刃が小規模の爆発と共に、黄金の戦斧も、刃の手も根元まで一瞬で灰にした。ゴドリックは体の内から焼けただれるような感覚と身体の芯を凍えさせるような冷気に苛まれることになった。

そして褪せ人の両手から極寒が、灼熱が、ゴドリックを両断せんと振り下ろされる。ゴドリックは全身から生やした触手で武器を形作り、迎撃した。

 

「――食らえ」

「舐めるなぁアアアア!!」

 

 

次の瞬間、辺りを極寒と灼熱が同時に襲った。

 

褪せ人が剣を振るうたびに地面は燃える、凍る、燃えたまま凍る、凍ったまま燃える、まさに天変地異が具現化したといっても過言では無かった。

ゴドリックの抵抗も虚しく全ての触手が燃え尽きて、砕け散った。仕舞いには竜の顎すらも正面から両断され、片方が焦げ、もう片方が氷に閉じ込められた。

 

そしてゴドリックの両肩に剣が突き立てられた。

 

「ガアッ!?」

「チェックメイトだ。ゴドリック」

 

ブチブチ!!

 

そう言って褪せ人はゴドリックの僅かに残った人間部位を無理やり引きずり出し、引き抜いた。ゴドリックの顔は褪せ人に握られていた。剣が突き刺さった醜い胴体は静かに消滅していった。

 

 

「さて、このまま消滅させても良いが……いるんだろ?   モーゴット」

 

『……貴様、やはり化け物か』

「「!!」」

 

ゴドリックを掴んだまま褪せ人……浩介が城壁に顔を向けると、そこには異形の角を持つ大男『モーゴット』が佇んでいた。

モーゴットは先程の戦闘を見て、明らかに強くなっていた褪せ人を見て化け物め、と口にし、飛び降りた。

 

「……いつから気づいていた」

「『俺』から『私』に切り替わった時からだな」

「……成程、それが貴様の本性か。幾数千もの時……いや果てしないほどの時の流れが貴様を傲慢に、不遜に仕立て上げたか」

「ははっ、それでも俺は人間であり続けるさ」

「……まぁ良い、目的はそれの回収だ」

 

そう言ってモーゴットはゴドリックを指さした。

 

「……またコイツに接ぎをさせるつもりか?」

「いや、それについては既に手は打ってある。――『満月の女王』がな」

「ほう! レナラ(お義母さま)か!」

「……聞かなかったことにしてやる」

「ゴドリックは渡す。だが、もし再び同じことをするようであれば…………俺が乗り込んでやるから覚悟しておけ」

「肝に銘じておく」

 

モーゴットはゴドリックを抱えると、どこかへ跳躍して消えていった。残されたのは浩介達だけとなった。

 

「わ、私達、勝ったの……ですか?」

「うん。勝った……浩介? 浩介!?」

 

「あー……しんど。久しぶりに本気中の本気出したから……もう、すんごい疲れた……」

 

浩介は床に寝そべり、うめき声をあげていた。声色からも心身ともに完全に疲れ切っていることが分かるほどには

 

「……一先ず、宿に行きません?」

「賛成」

 

先程までのシリアスがなんのその。今の抵抗が出来ない浩介を見て口角を上げるシアとユエに対して浩介は兜の下で目を開き、冷や汗を流していた。

 

「ちょ……まっ……まって……」

「さぁ、行きましょう。目的は達せられました。あとは宿で……ね?」

「前回は負けたけど……今回は勝てる」

「だ……だれか……」

 

シアに米俵のように抱えられていく浩介は力ない声で周囲に助けを求める。しかしストームヴィル城にきていたディアロスやパッチは先程の浩介とのあまりにも乖離したその有様に脳の処理が追い付かず、宇宙を見ていた。尚壺たちは救助され、ディアロスは再び壷師に戻った。

 

 

「……何時の時代も女傑は恐ろしいものだ」

 

一部始終を見ていたエドガーは、心底同情し、ストームヴィル城の死体を片付け始めた。

 

そしてその日の夜の内に浩介は二体の獣に貪られることになった。もう昼間の威厳も雰囲気も台無しである。また時刻を同じとしてどこかで少女たちが暴走し、とある一人が数時間かけて鎮圧したとか。

 

「頼むから……寝させろ(半ギレ)」

「ユッキー、魔王か何かなの?」

 




『陽日の大剣』
暗月の大剣を貰ったから、自分も何か送ってあげたいなと思い、褪せ人がヒューグ爺と協力してある限りの至高の武器と素材を混ぜに混ぜて出来上がった大剣。

戦技は炎を纏うエンチャントをするのは暗月の大剣と同じですが、R2攻撃で地面に叩きつけ、周囲に爆発をまき散らしながらを前方に遺跡の大剣のような赤い波動を起こします。

イメージはダクソ3の罪の大剣がもう少し重厚になって紅く発光している感じです。

ラダゴンがレナラから送られた大剣『黄金律の大剣』を作った→じゃあ、褪せ人も何か作るんじゃね? といったノリで誕生しました。


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