NEXT TIME 8人のジオウ! (祝井)
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本編
EP1「漂流学園2018」


時系列は拙作「NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト」のエピローグから1ヶ月後になります。
まだそちらをお読みになっていない方は、是非ご一読ください。
それにしても、何故原作から一人増えたのか……


 

 荒れ果てた地に蔓延る異形の化物。

 襲われる高校生を助けたのは、"ライダー"の文字を象ったピンク色の複眼が特徴的な戦士"達"。その姿どころか身に纏っていた人相すらも、その二人はほぼ瓜二つで。

 

 女学生に手を差し伸べた、アロハシャツに短パン、黒いキャップが似合う青年はこう名乗る。

 

「俺は花園学園三年、常磐ソウゴ」

 

 化物からカップルを守った、灰色のブレザーと眼鏡が知的な印象を与える青年はこう名乗る。

 

「覚えときィ。俺の名前は美沢高校三年、常磐ソウゴや」

 

 

 

 

 

 離れた場所から双眼鏡で制服を着ている普通の青年のことを覗く少年、宇都宮澄春。

 

「光ヶ森高校三年、常磐ソウゴ」

 

 ウールというあだ名を持つ彼は、うっとりと顔を緩めて独り言。

 

「いつからだろ、ソウゴ先輩を好きになったのは」

 

 先程の、そして昔からの。ソウゴのことを思い浮かべる。

 

 長いまつ毛。キラキラとした瞳。ゆるい笑顔。

 そして何より、王様になりたいっていうおバカな夢。

 

「かっ、カワイッ──」

 

 そんなウールの顔に水がバシャっとかけられる。強制的に黙らせられた。

 

「いつまでうっとりしてんのよ」

 

 呆れたように水道に肘をついているのはウールの先輩でありソウゴの同級生、大森愛良。あだ名はオーラ。先程ウールにかかった水は彼女のかけた水道水のようだ。水を使ったウールへの攻撃は十八番である。

 

 しどろもどろになるウールにはいっ、と手紙を押し付ける。ラブレターのようだ。

 

「ほらっ」

 

「なんか僕、緊張しちゃって」

 

「女は度胸! 行く時は行くの、ほら早く!」

 

 オーラに胸ぐらを掴まれ、連行されていくウール。ウールの美貌も相まってどっちが女なのかわからない。

 

 しばらく校舎を探し回り、ついに英語の単語テストについて話すソウゴとオーラのターゲットである明光院景都、通称ゲイツを発見する。

 

「ゲイツ!」

 

「ソウゴ先輩!」

 

 これ、読んでください。勇気を出して差し出された手紙を、ソウゴとゲイツはそれぞれ受け取る。

 

「何だ、またラブレターか?」

 

 ゲイツは呆れたような顔になる。オーラはゲイツにラブレターをずっと送っているのだ。最低でも三年前から。

 

「今がどんな状況か分かってるのか」

 

 愛がこもったそれをビリビリに破り捨てるゲイツ。長年の経験でわかってはいたけど、オーラは不貞腐れないわけにはいかなかった。

 

「ええっ、ラブレター?」

 

 一方のソウゴは受け取ってすぐに封を開ける。そして読んでくれる。嬉しそうにウールははにかんだ。

 ゲイツの困惑した顔にもソウゴは笑顔で返す。

 

「いやラブレターなんか貰うの初めてだからさー」

 

「馬鹿かのぼせるな」

 

 ゲイツは浮かれたソウゴを一蹴。ウールの性別にも言及しつつ、ソウゴを強引に引っ張っていく。

 

 やいのやいのと騒ぎながら四人は教室に向かう。その途中で、全ての生徒と先生が食堂の窓から何かを覗いているのと出くわす。当たり前の日常だった。

 

 ソウゴ達も窓際に近づいて外を見る。目に入ってきたのは、生徒が化物に襲われている光景。

 

 馬鹿な奴らだ、と吐き捨てる唯一の教師を尻目に、ソウゴは唯一使えるウォッチを取り出す。

 が、ゲイツに抑えられる。

 

「もう間に合わん」

 

 事実だった。

 断末魔をあげながら、生徒達は食い殺されていく。

 

 ウールは惨劇を目の当たりにしたショックでうずくまり、頭を掻きむしる。

 ゲイツはやるせなさそうに食堂を去っていく。

 オーラはそんなゲイツに声をかけられなかった。

 ソウゴは最後まで目を逸らさなかった。救えなかった者から。

 

 

 

 

 

「これで何人目かな──」

 

 唯一の教師、月読織次。自称スウォルツは、先程苦しみもがき死んでいった生徒達の机に、淡々と赤いバツ印が描いてある紙を叩きつけていく。

 

「──無駄に命を落とした奴は」

 

 だがァ、とスウォルツは生徒達の心配を断ち切るように叫ぶ。

 

「同情するには及ばんッ! 奴らは校則を破った!」

 

 外に出てはならない。他ならぬスウォルツが作ったものだ。他の教師が死んだ今、生徒達を導くのはスウォルツにしかできなかった。

 

「でも、彼らの気持ちもわかります」

 

 反論したのはソウゴ。一体何が起こっているのかわからないまま学園に閉じ込められて早一ヶ月。外は何故か、化物だらけの荒野。

 

 状況は悪くなる一方。外に希望を見てしまうのも、仕方ない気がする。

 

「現実を見るからいかんのだァッ!」

 

 そんな言葉から始まったスウォルツの意見は、学園生活を楽しみ、現実逃避をするというもの。化物は校舎内に入ってこない、それは今のところ絶対なのだから。

 

 そこで新たな現実逃避として、恋愛部なるものが設立されることになる。無茶苦茶である。しかし一ヶ月間一人で生徒を見守り続けているのだから、スウォルツの狂気もむべなるかな。

 その中で、ウールがソウゴ大好きっぷりを見せたり、オーラが恋愛マスターを自称したのはまた別の話。

 

 ソウゴを始めとした他の生徒は一連の騒ぎをドン引きして見ていた。

 

 

○○○

 

 

 夜。未だに化物は活動を続けている。

 

「せめてグランドが使えたらな……」

 

 仮面ライダージオウの最強戦力、グランドジオウはいかなる理由なのか、その力が封じられている。

 

「無いものねだりしてる場合でもないだろ。今は救えるやつを救うしかない」

 

 それはゲイツマジェスティ、更にはゲイツリバイブも同様だった。

 

「……そうだね」

 

「で、スウォルツ先生は何か言ってたか?」

 

「えーっと、いつも通りね──」

 

 

 

 

 

「──現実逃避に恋愛部か。やっぱり気に食わないな」

 

 話を聞いたゲイツはそう感想を述べると、夕食のクラッカーをかじる。

 

「俺的にはアリだと思うな」

 

「なんだと?」

 

「だって他にどうしようもないし、どうせなら今を楽しんだ方がいいかなって。……恋愛部はともかく」

 

 一ヶ月前と変わらず楽観的に見えるソウゴにゲイツは呆れる。その笑顔の下で無理をしているのはわかるが、それはそれとして釘を刺しておく。

 

「お前なぁ、それが王を目指す者の言う台詞か? 情けない」

 

 そう言い終えて残りのクラッカーを丸ごと口に入れる。

 

 そんなゲイツの言葉が聞こえているのかいないのか、ソウゴはクラッカーをしげしげと眺める。

 

「なんかさぁ、給食が出るのはありがたいんだけど、だんだん量が少なくなるんだよね……」

 

「お前人の話聞いてるのか」

 

 少し口籠もりながらもソウゴは肯定の返事をする。

 

「じゃあ救世主になりたいゲイツは、どうすればいいと思うのさ」

 

 続けられた意趣返しに数秒悩み、ゲイツは「規律だ」と答える。

 

「こういう時こそ、軽はずみな行動を防ぐために規律が必要なんだ」

 

 そう説明し終えるとゲイツはスープをおかわりに行く。

 

「じゃーあ、俺は、皆のために楽しいことするよ!」

 

「なんだそれは。お祭りでもするのか?」

 

 ゲイツの適当な指摘にソウゴは目を輝かす。

 

 確か、文化祭で使うはずだったセットが残っているはず。

 

「いいねそれ!」

 

「ふざけるな……」

 

「別にふざけてないけどなぁ」

 

 なお、ゲイツの「ふざけるな」はスープが残っていなかったことに対してだ。ソウゴはソウゴで大して気にしていないが。

 

「あー、こんな時にツクヨミがいてくれたらなんて言うかなー」

 

 無事でいてくれたらいいけど、と呟いたら戻ってきたゲイツがすぐに反応する。

 

「無事に決まってるだろ。ツクヨミは学校を休んでたんだからな。確か、恵まれない子供達へのボランティアへ参加するとか。……まぁ、前の世界にいるだろ」

 

 妙に細かい情報をさらりと話すゲイツに、ソウゴはふぅんとにやけ顔。

 

「何だその目は」

 

「いやぁ、なんか妙にツクヨミのこと詳しいなぁってね」

 

「別に、お前より記憶力がいいだけだ。他意は無い」

 

 はいはい、とゲイツの言い訳を適当に流しつつ、ソウゴは自分のクラッカーをかじった。

 

 

 

 

 

 和やかな時間が流れる一方、同時刻。

 

「食いもんだ! 食いもん寄越せ!」

 

 三人の生徒が生徒会室に人質と共に立て篭もった。その場に呼ばれたスウォルツは良心に訴えかけるが、そんなことお構い無しに生徒達は牙を剥く。

 

 竹刀と金属バット。前者は奪われ、後者は擦りもしないままそれらを持っていた二人は地に伏せる。

 

「ほんとに刺すぞ!!」

 

 カッターナイフを人質に刺そうとする最後の一人にも、スウォルツは「止せ!」と呼びかける。

 

「こんな真似をすれば、ますます腹が減るだけだぞ」

 

「もういい……もう嫌だぁ!!」

 

 最後の一人は人質と凶器を投げ出し、自分の身さえも投げ出した。まさかの行動にスウォルツは目を剥く。

 

 生々しい衝突音に生徒達は叫ぶ。落ちた生徒は足が折れて逃げられないまま、捕食されてしまった。

 

 

 

 食糧も残り少ない。生徒達も限界を迎えている。逃走や立て篭りが増えているのがその証拠。

 

「やるしかないな」

 

 スウォルツは拳を強く握った。

 

 

○○○

 

 

 翌日。光ヶ森高校──ではなく、花園学園。

 

「本当に行くんですか、生徒会長」

 

「ああ。いつまでも閉じこもってるのは性に合わん」

 

 投げたウォッチが愛機、ライドストライカーと化し、荷物をくくりつけていく。

 不安そうな生徒──臣下達に、常磐ソウゴは力強く呼びかける。

 

「安心しろ、必ず助けを呼んでくる」

 

 ライドストライカーの調子を確かめていると、昇降口から物音がする。

 

「ソウゴ何やってんねん」

 

 校舎から出てきた少女は、ソウゴ最愛の女性。

 

「ミサ」

 

「ウチに黙って、それは無いやろ」

 

 これから言うことは予想できた。

 

「ウチも行く」

 

「止せ。危険すぎる」

 

「せやから行くんや。

 死ぬ時は一緒やで、ソウゴ」

 

 そう言ってチューを投げてくる。

 ああ。やはり俺が惚れた女だ。

 

「勝手にしろ」

 

 そう言いながらも、笑みを抑えることはできなかった。

 

 

○○○

 

 

 同時刻。今度こそ光ヶ森高校。

 

 恋愛部、設立。

 

 部員はやることもないからという理由で集まった生徒ばかりである。

 顧問であるスウォルツは歓迎の挨拶を述べた後、恋愛部の概要を話していく。

 

「こんなご時世だ。諸君には是非、大恋愛に励んでもらいたい。更に進んで、結婚、出産。大歓迎だ」

 

 意外と引いている者は少なく、むしろ興味津々な者もいる。

 

「学園を挙げての大イベントになるだろう!」

 

「けっ、結婚……!?」

 

 ウールは口を押さえて妄想だ。

 

「さて、記念すべき第一回目の講義だがズバリ──」

 

 赤色チョークで書かれた『女心を鷲掴みにする方法』をハートが先端に刺さった指し棒でなぞり、復唱する。

 

「女心を掴むには、女の意見を求めてはならない。それに尽きる」

 

 女子部員らの視線が悪くなる。妥当である。男子部員も心配になってくる。

 

「弾丸のような男の一念でただ、女のハートを貫くのだ!」

 

 こんなのが顧問で大丈夫なのか……という部員達の心中。

 

 そんな少年少女達を救うため、ここに恋愛マスターが降臨する。

 ガラッと開けられた扉から出てくるのは、ピンクの服と眼鏡を着た色気ムンムンな女性。

 

 男子も女子も、その女性に多少なりとも魅了される。そんなことにならなかったのはウールとスウォルツだけだ。

 

「マスター!」

 

 ウールの声、そして部員達の心の声に応えるように、オーラは時代遅れなスウォルツに対峙する。

 

「失礼ですが、先生はまるで女心をわかっていませんわ」

 

 カツ、カツ、カツとハイヒールが音を立てて教壇に近づいていく。

 

「女性というのはデリケートなもの。ちゃんと段階を踏んで、気持ちを大事にしなくっちゃ」

 

 その通りである。

 

 決着がついたと思ったウールは勢いよく手を挙げる。

 

「男心を掴むにはどうすればいいでしょうか!」

 

 無論ソウゴ攻略のためである。

 

「それは……色気よ。オトコなんてたーんじゅん」

 

 そう断言したオーラはウールに近づき、艶やかに彼の顔を撫でる。

 

「ピンクの色気で、もうメロメロ」

 

 ウールは胸を押さえ、実際メロメロに。いつもなら絶対にしないことなのと、ソウゴ一筋じゃなければ危なかった。

 

「ンフフフ、馬鹿なッ」

 

 その理論を邪悪な顔で嘲笑うのはスウォルツ。

 

「男はそんな単純ではない」

 

「そうかしら」

 

 オーラがその嘲笑に返したのは、投げキッス。その魅力でスウォルツは黒板に身を委ねる。指を咥えていじらしくなる始末。

 

 男なんて単純でした。

 

「すごい!!」

 

 ウールは大拍手。しかし残りの部員はこれどうしようね、と顔を見合わせあっていた。

 

 

 

 

 

 更に同時刻。とある空き教室。

 

「らっしゃいらっしゃーい! 楽しい楽しいお祭りだよーっ!」

 

 ハッピを着て、一人声を張り上げるソウゴ。そんなお祭り会場にそっと入ってきたのは地味めの生徒、山田ゴロウ。

 

「来てくれてありがとう!」

 

 押しの強いソウゴにゴロウは少し後ずさる。

 射的、金魚すくい、輪投げ、その中でゴロウは金魚すくいをやってみることにした。銃はちょっと恐かった。

 

 手渡されたポイをゆっくりと水に沈めていく。

 

「楽しいでしょ」

 

「別に……」

 

 そもそもやり始めたばかりである。まずは一匹持ち上げるが、真ん中に空いた穴にするりと吸い込まれていく。

 もっかいやりな、と渡されたポイを顔を見ないように受け取って再開する。

 

 その時、聞こえるはずのない音が聞こえる。バイクの音だ。

 

 ソウゴはベランダに出て、とりあえず助けようとハッピを着たままジオウに変身。飛び降りて、近場の化物に殴りかかる。

 

「ソウゴ!」

 

 戦っている途中でゲイツも協力してくれる。それに初めて見るカラフルなライダーもいる。そのおかげで、早くケリをつけられそうだ。

 

 

 

 

 

 

 建物に着いたソウゴとミサ。まずは安全を確保しようとドライバーとウォッチを取り出す。

 

〈ジ・オウ!〉〈オーズ!〉

 

「チューだミサ!」

 

「はいよっ!」

 

 ソウゴはミサからのチューを受け取り、その右手でベルトを回す。

 

「変身!」

 

〈ライダー──〉〈アーマー・タァイム!〉

 

 ドライバーから飛び出した機械仕掛けの動物達が化物を跳ね除けていく。

 

〈タカ!トラ!バッタ!〉

 

 その音声の通り鷹と虎と飛蝗を模した機械達は縦に三体合体し、一つのアーマーとなる。決してハートではない。

 

〈"オーズ"ぅ〜!〉

 

 アーマーはソウゴが変身したジオウに装着される。

 

 誕生するは仮面ライダージオウ・オーズアーマー。

 

「俺とミサと映司さん。愛のコンボの力、お前らに見せてやるよ」

 

 飛蝗の脚力で化物達を跳ね飛ばしつつ、右手のトラクローZで正確に始末していく。

 

 他に初見の赤いライダーも参戦したことで数は更に減っている。何故か俺の名前を呼んでいたが、まぁそこはいい。この分だと早くケリをつけられそうだ。

 

 

 

 

 

「うん……?」

 

 ゲイツは見間違いだと思った。もう一回見る。

 

「えっ!?」

 

 ジオウが二人いる、というアナザー鎧武の件以来の事件。二人は互いに気づいていないのか、それぞれ必殺技の体制に入る。

 

〈フィニッシュ・タイム!〉

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈オォーズ!〉

 

 普通のジオウはジカンギレードに自分のウォッチを装填し、オーズアーマーはドライバーを回し跳び上がる。

 

〈ジオォウ!〉〈ギリギリスラァーッシュ!〉

 

 時計の針のようなエネルギー波が伸び、大量の化物達を切り裂いていく。

 

〈スキャニング!〉〈タイムブレーク!〉

 

 三枚のハート型メダルをくぐり抜け、多くの化物達を貫いていく。

 

「よっしゃー!」

 

 ミサの声にガッツポーズで応えるジオウオーズアーマー。

 

「え?」「え?」

 

 と、そこでようやく当人達が気づいた。

 

 とりあえず変身解除してみると、変身者も瓜二つ。

 

「嘘やろ……」

 

「俺……!?」

 

「な、何ぃ! ソウゴが二人ぃ!?」

 

 そんなカオスな状況で人影がまた一人。

 

「もうやっとついたわァ……」

 

〈"ビルド"ォー!〉

 

「まっ、またジオウか!」

 

「まさか……」

 

 そのジオウ・ビルドアーマーも変身解除。やはり彼もソウゴと瓜二つで。

 

「俺が一、二、三人……はぁ!?」

 

 指差し確認した後、驚愕するビルドアーマーを纏っていたソウゴ。お前のせいでもあるんだよ。

 

「オイオイオイオイオイ、何がどうなってんだよ!」

 

「わっかんないよ」

 

 一同が困惑する中、オーズアーマーを纏っていたソウゴだけは好戦的に笑う。

 

「面白ぇ」

 

 

 

 

 

「……とりあえず中で話聞くか」

 

「そうだね。着いてきてもらってもいいかな」

 

 ソウゴは残り二人のソウゴとミサに声をかける。

 

「わかった」

 

「ウチはソウゴに着いてくだけや」

 

「まぁそのつもりで来たからなァ」

 

「じゃあ案内するから──」

 

 ソウゴの言葉は中断された。一人の背後に忍びよっていた化物によって。

 

「危ない!」

 

「え」

 

 狙われたのは、ビルドアーマーのソウゴ。戦闘直後で油断していたのもあり、簡単に押し倒されてしまう。

 

「嘘やろ……!?」

 

 その牙が首に届きそうになるその瞬間、化物が吹っ飛ぶ。

 

「うん!?」

 

 バッと立ち上がって化物から遠ざかるビルドアーマーのソウゴ。もう化物は死んでいる。

 

「ありがとな皆さん。お礼は後々──」

 

 と言ってからライダーの変身者達の手元を見る。ゲイツとソウゴは何も持っておらず、オーズアーマーのソウゴはジカンギレードを持っているがそれは剣モードである。

 

「どういうこっちゃ」

 

「こういうことだよ」

 

「うわっ!?」

 

 ビルドアーマーのソウゴの隣に急に怪物が現れる。いつも見る化物とはまた別の禍々しいもの。

 

 しかしソウゴとゲイツは以前見たことがあった。

 

「アナザーディエンド!? どうして!?」

 

 アナザーディエンド。明光院ゲイツから力を奪い救世主になろうとした男、白ウォズが変貌したもの。

 その事件での印象が強いのか、ソウゴはウォッチを構える。

 

 しかし、その手を押さえたのはゲイツその人だった。

 

「何やってんだ、加古川」

 

「え?」

 

 他の三人が誰それ、となっている中で、アナザーディエンドは元の姿へと戻る。軽く手を上げるその青年は、以前とは違って夏用の制服を着ていた。

 

「久しぶりだな、常磐ソウゴ」

 

「えっと……久しぶり、飛流」

 

 随分と気まずい再会になったもんだな、とゲイツは苦笑いした。

 

 

○○○

 

 

 数時間前。あるいは、二週間と数時間前。

 

 月読有日菜。光ヶ森高校の生徒会長であり、ソウゴやゲイツ、オーラやウールと幼馴染であり、スウォルツの妹だ。

 そんな少女は今、光ヶ森高校を脅かしている化物達に囲まれていた。森の中で。

 

 奇襲を避けながらドライバーを装着、ウォッチを装填。

 

「変身!」

 

〈ツ・ク・ヨ・ミ♪〉

 

 有日菜はツクヨミに変身、我先にと群がってくる化物達を時に同士討ちさせながら倒していく。しかし、数は減らない。

 

「一体何がどうなってるの……!?」

 

 海外から帰ってきたと思ったら兄はいないし。久々の学校だと思ったら、森の中で化物退治。

 

「兄さん、オーラ、宇都宮君……!」

 

 大切な家族や友達の元に行くために、ツクヨミは戦う。

 

「常磐君、明光院君……!」

 

 大丈夫だと思うけど、無事でいて。

 





B:オーズ→原作通り(ギリギリスラッシュで使っていた)
C:ビルド→平ジェネFOREVER冒頭のソウゴに似ているから

 展開自体はほぼ原作の「7人のジオウ!」chapter1ママですね。ちょこちょこ直してはいますが。
 この時間軸だとレギュラー組が幼馴染だったりするのが主な要因ですね。オーラも有日菜のことはピナ呼びだったりします。
 あとはアーマータイムの活用ですね。原作での各ソウゴのキャラの違いも楽しかったのですが、ここでも個性を見せて欲しかった……(わがまま)
 そして飛流も何故せっかく手に入れたライダーではなくてアナザーディエンドなのやら……


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EP2「キャスト集合2018」

 

「俺は美沢高校三年、常磐ソウゴ。んまとりあえずよろしくゥ」

 

「花園学園三年、常磐ソウゴ」

 

「えっあ、光ヶ森高校三年、常磐ソウゴ……です」

 

 校長室。ふかふかな椅子にぐったりともたれかかり天井を見るスウォルツ。

 それは恋愛部で無様を晒したからなのか、目の前の光景から目を逸らしたいからなのか。

 

「ソウゴ先輩がいっぱい……萌える〜!」

 

 アホなことを言うウールはオーラの拳を喰らった。この二人は扉を小さく開けて覗いている。

 

「なるほど。我々以外に学園が存在し、生存者がいるということか」

 

「問題はそこじゃないですよ!」

 

 同じ名前、同じ顔の常磐ソウゴが三人いること。常磐ソウゴにとっては大問題である。

 

「確かに分かりにくいな」

 

 合点が入った、とばかりにスウォルツは立ち上がり、光ヶ森高校のソウゴをソウゴA、花園学園のソウゴをB、美沢高校のソウゴをCと便宜上名付ける。それでいいのか。

 

「だからそうじゃなくて──」

 

「ちょっと待ってよっ、なんでウチのソウゴはソウゴBなんや」

 

「変えられるならOがいいな、俺は」

 

「じゃあBは俺が貰うわ。ええか?」

 

 いやそういうことでもないんだけど。口に出したらこじれそうなのでソウゴAは心の中で留めておく。

 

「いやそうじゃなくてな。ソウゴはな、いずれは世界の王になる身なんや」

 

「くすぐるねェ、俺と同じやん」

 

 ソウゴCはニヤケ顔で同意。勿論ソウゴAも同じである。

 

「……一つ聞きたい」

 

「何だ、名称についての意見は求めんぞ」

 

「それはいい。この学園の生徒会長は誰か知りたいんだ」

 

 訝し気に目を細めるスウォルツ。一瞬だけソウゴBの真意を考えたが、まあいいかと答えることにする。

 

「月読君はボランティアで海外に行っていてな。今はいない」

 

「ならば、俺はたった今からこの学園に転校する。そして生徒会長になろう」

 

 何言ってんだこいつ。ソウゴAとスウォルツの心境が一致した。

 

「王たる者に相応しい役職だ」

 

「ええぞ、ソウゴ!」

 

「待てや」

 

 盛り上がるソウゴBとミサに口を挟むのはソウゴC。

 

「そういうことなら俺がやるわァ」

 

「選挙だッ!」

 

 急に叫んだスウォルツに全員の目が向く。

 

「光ヶ森高校の生徒会長の座を賭け存分に争えソウゴA・B・C!」

 

 勝手に宣言した後スウォルツは後ろを向きしめしめと笑う。

 

「これも、現実逃避の大イベントになろう……!」

 

 それが本音だったようだ。とりあえず現実逃避できれば何でもいいらしい。

 

「俺もぉ……?」

 

 机に突っ伏すAを気にせずバチバチに睨み合うBプラスミサとC。

 

「勝つのは俺に決まってる」

 

「俺や。俺が王や」

 

 そのまま俺俺合戦が始まる。Aは突っ伏したまま、なんとなく違和感を感じていた。

 

「誰に投票しよう……悩むなぁ」

 

 更にアホなことを言うウールの頭をオーラはペチンと叩く。一途でいてくれの念を込めて。

 

「……何やってんだか」

 

 部屋の外壁に寄りかかって、一連の流れを聞いていた飛流は呆れたようにぼやいた。

 

 

 

 

 

 屋上。ソウゴから一連の話を聞いたゲイツは呆れたように大声で感想を言う。

 

「──何が選挙だ。大体何なんだあのソウゴB、Cは」

 

 何なんだと言いつつも、しれっとB、C呼びをしているのは適応能力の高いゲイツらしかった。ちなみに先程いなかったのは何人ものソウゴを見ると混乱しかねないから、とのこと。

 

「要するに俺の偽物ってこと?」

 

「それは違うよ、我が魔王」

 

「ウォズ……」

 

 相変わらず急に現れる男、ウォズ。思えばこの怪現象に巻き込まれてから一ヶ月間、ずっと現れていなかった。ゲイツは文句でも言ってやろうかと思ったが、とりあえず話を聞くことにする。

 

「彼らもまた、生まれた時から常磐ソウゴ」

 

「ありえなくない?」

 

「ありえるんだよそれが」

 

「飛流」

 

 どこ行ってたの、というソウゴの問いに「ちょっとな」と返す。

 

「あの常磐ソウゴ達は別の並行世界のお前だ。並行同位体とでもしておくか」

 

「並行同位体……」

 

「俺は奴らについて探るためにここに来たんだ」

 

「何でお前がそんなこと……」

 

「俺は愛と正義のタイムパトロールになることを決めたからな」

 

 飛流がさらっといった言葉にソウゴとゲイツは目を合わせて、その直後に笑い出す。

 

「あっ、愛と正義のぉ、ハハハ」

 

「たっ、タイムパトロールぅ、ククク」

 

「お前らだって王様と救世主だろ」

 

 あっ、とソウゴとゲイツの笑いが止まる。そうでした。どこからか鳩時計の音がした気がする。

 

「……いいかな、加古川飛流」

 

「悪い」

 

「この本を見ても、まるで未来が見えないんだ。

 あるいは、未来が無いのか……」

 

 全員の顔が険しくなる。

 

「この荒廃した世界は、無数の次元が融合した結果。今や世界は滅亡の危機に瀕している」

 

 あの時と同じか、とゲイツと飛流は思い出す。かつてのスウォルツ──アナザーディケイドが引き起こした二十の世界の融合、そしてアポカリプス。この場でその惨劇を知らないのはソウゴだけだ。

 

「そして、世界存続のキーとなるのは──」

 

 ソウゴとゲイツの喉がゴクリと鳴る。飛流は続く言葉をなんとなく察していた。

 

「──常磐ソウゴ」

 

 そう言い終えた後、健闘を祈ると言い残してウォズは消えていった。

 

「オイ、ちょっと待て!」

 

 こうなったら、とゲイツはソウゴの肩を強く掴んで強く揺さぶる。

 

「なんとしても選挙で勝て! ソウゴ! な!!」

 

「選挙なんてくだらんと言ってたやつの台詞じゃないな……」

 

「思ってはいたが言ってないぞ。想像で喋るな加古川」

 

「思ってたら実質正解でいいだろ。それと選挙にうつつを抜かすのもいいが」

 

 飛流はピシッと人差し指を伸ばし、中庭にも蔓延っている化物達を指差す。

 

「アイツらをどうにかすることも考えなきゃな」

 

「そうだよ加古川!」

 

「えっ急に何お前」

 

 ゲイツが急に興奮しだすので飛流はビビる。ソウゴは長年の付き合いだしとっくに慣れている。

 

「お前の力なら奴らを全滅させるのだって夢じゃないだろ!?」

 

「悪いが無理だ」

 

 飛流は二つのものを取り出した。ヒリュウウォッチとアナザータイマー。どちらとも石化している。

 

「……使えないのか?」

 

「悪いがアナザージオウIIも無理だ」

 

「アナザージオウならどうだ、あの力でアナザーライダーを増やせば──」

 

「できなくはないが、この学園の生徒をアナザーライダーにしなきゃいけない」

 

 それは駄目だな、とゲイツは手を上げて降参のポーズ。自分達と同じく時と場合を見てこっそりと戦うことになるだろう。

 

 と、ここでソウゴがおずおずと手を挙げる。

 

「……えっとさ、じゃあアナザーディエンドの力で怪人を喚び出してもらうのは?」

 

「怪人は三体しか喚び出せない。カッシーンは数に限りは無いがいかんせん耐久力が紙だ」

 

「でも怪人で校舎付近の警備ぐらいならできるよね?」

 

「出来るだろうな。怖がられて他のソウゴに倒されるのがオチだろうが」

 

「なら話通せばいいじゃん。それに不気味なやつじゃなくてヒロイックなの喚べばいいと思うけど」

 

「……それぐらいならなんとかなるか」

 

「よーし」

 

「話はお前が通せよ。提案したのはお前だからな」

 

 選挙で有利になるかもしれないし、と飛流はまだ言えなかった。

 

「じゃあ早速怪人選びを──」

 

「お前は許可取りと選挙活動だ。選定は加古川と俺でやる」

 

「……はーい」

 

 俺発案者なのに、としょんぼりとしたソウゴは渋々階段を降りていった。と思ったらすぐに戻ってきた。

 

「なんだソウゴ、お前のわがままは聞かんぞ」

 

「いやそうじゃなくてあの、どう他の俺や先生に説明すればいいかな……?」

 

「わかった、着いてってやる。加古川、後でやるぞ」

 

「ああ」

 

 ソウゴとゲイツは連れ立って今度こそ階段を降りていく。それを少し羨ましげに見てしまう飛流。そんな権利は俺なんかにないのにな。

 

 ネガティブになりがちな思考を振り解きながら、飛流は背後を向く。

 

「……ウォズ、まだいるんだろ」

 

「なんだい、加古川飛流」

 

「今回はやけに非協力的じゃないか。他のソウゴに肩入れしてしまいそうになるからか?」

 

「別にそんなことはないよ。今回は私の出る幕では──」

 

「それとも真実のソウゴに逆らうのが怖いか?」

 

 ウォズは思わず目を見開く。アタリか、と飛流は薄く笑う。

 

「そりゃわかるに決まってるだろ。門矢士だって動き出してるからな」

 

「門矢士が……?」

 

 何、と飛流は眉を寄せる。ウォズは既にかの存在を察知していると思っていたのだが。

 

 それにしても、

 

「せっかくQuartzerから解放されたのにまた変な役割に束縛されるとはな」

 

 何故飛流がそのことを知っているのかわからないが、ウォズは開き直ることにした。

 

「……いいのさ、私は"常磐ソウゴ"の従者だからね」

 

「なら決めておくんだな、どちらに付くか」

 

「では君は──聞くまでもないか」

 

 自分のウォッチと裏の王たらしめるものを犠牲にしてまでこの世界に来て、真っ先に光ヶ森高校にやって来たのだから。

 

 

○○○

 

 

 何はともあれ、生徒会長選挙スタート。

 

 食堂で生徒達に群がられているのはソウゴC。

 

「はいはいはいィ、焦らへん焦らへん!」

 

 正確に言えば、生徒達が群がっているのはソウゴCの前に置かれたダンボール箱。その中にはガムや飴、チョコレートといったお菓子がたくさん入っている。それが取り放題だというのだから驚きだ。

 

 食料不足を嘆いていた生徒はもちろん、甘味に飢えていた生徒達の心をソウゴCはガッチリ掴んだ。

 

「この俺、ソウゴCに一票を!」

 

 その教室の壁に貼られているソウゴCの選挙ポスターには、『経済力は圧倒的やで。』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 一方のソウゴB。いくらでもある空き教室の一つを丸ごとクラブハウスへと改造してしまい、毎日毎日ディスコディスコ。

 

 ミラーボールは回り、生徒達は跳び、ミサは露出の高い衣装で艶かしく踊る。

 

 彼はどこからか、スウォルツの掲げる現実逃避の話を聞きつけたらしい。

 実際、生徒達の多くは食料と同じぐらい娯楽に飢えていた。何せ唯一積極的に提供してきていたのはスウォルツである。彼の作った部は一日か二日で自然に消えてしまうのがいつものことだった。

 

「みんな〜、清き一票をよろしくなぁ〜」

 

「よろしくぅ!」

 

 自分は踊らずDJに徹するソウゴBはマイクを使ってその旨を伝えた。

 

 ソウゴBのマニフェストは『ノリとバイブスでブチアゲろ!!』だ。

 

 

 

 

 

 そして、堂々と『生徒の皆を守りたい。』と宣言したソウゴAはというと──射的をしていた。他にはいつも来て金魚すくいをしているゴロウしかいない。空気砲の乾いた音がやけに響いた。

 

「また来てくれて嬉しいんだけどさ……正直飽きない?」

 

「いいんだ。僕、友達いないから」

 

 微妙に答えになってない気もするが、ソウゴは目を伏せる。ゲイツや有日菜と会う前の一人の自分を思い出したから。

 

 目の前で金魚を掬おうとしても逃げられてしまう彼は、誰かに寂しいと伝えられるのだろうか──と考えたところで思考が遮られる。ゲイツと飛流がやって来た。ゲイツはソウゴへまっすぐ進むが、飛流はきょろきょろと飾り付けられた教室を見渡している。

 

「お前、まだこんなふざけたことやってんのか!? ソウゴBもCもやりたい放題してるんだ!」

 

「それにあの提案だって、明光院が言ったことにしたらしいじゃないか」

 

「このままだとお前、勝てないぞ!」

 

 またゲイツに肩を掴まれたソウゴは、その手を掴み返して肩から離す。

 

「俺、よく分からなくなったっていうか」

 

「何がだ」

 

「皆、俺が俺がって言うでしょ。まぁ、ある意味俺が、俺俺俺って」

 

「はぁ?」

 

 "俺"のゲシュタルト崩壊。ゲイツは首を捻った。

 

「王様になろうって者が、そんなんでいいのかなって」

 

 そう言ってから、ソウゴはゲイツにポイを差し出す。

 

「話にならん。俺はもうお前のことは知らん!」

 

 ゲイツは肩を怒らせてお祭り会場から去っていく。そして、もう一人はというと。

 

「……えっと、飛流?」

 

「見て分からないか、輪投げだ」

 

 飛流は話の途中で飽きたのか、輪投げを始めていた。しかも案外楽しそうだ。

 

「えっと、金魚すくいは?」

 

「後でやる」

 

 手持ち無沙汰になったポイは、ちょうど穴の空いたゴロウのものと交換された。

 

 

○○○

 

 

 同時刻、森。助けを呼びに行けと無理矢理自分の学び舎、鳥羽学園から追い出された常磐ソウゴ。彼は今──

 

「ああああああああああ!!」

 

 ──ジープに追いかけられていた。昭和でも滅多にしないぞ。

 草むらに飛び込んで逃げようとしたが、すでに袋小路。木が密集し、壁のようになっている。

 

 ジープから出てきたのは、長身の男。ソウゴには悪魔のように見えた。

 

「俺が何したっていうんだよぉ!」

 

「お前の罪は、お前が"常磐ソウゴ"だということだ」

 

 どういうことだ。俺が学園から追い出されたのも、ジープに殺されかけるのも、俺が俺だからだというのか。

 

 顔をくしゃくしゃに歪ませるソウゴを冷たく見据え、男──門矢士は、ライドブッカーからカードを二本指で引き抜く。

 

「変身」

 

〈KAMEN RIDE──DECADE!〉

 

 二十一体の虚像が一つに重なり、Oシグナルが紫に妖しく光る。士が変身したのは、世界の破壊者の真の姿。仮面ライダーディケイド・激情態。軽く手を叩き合わせ、ソウゴを仮面越しに睨む。

 

 その悪鬼のごとき姿にソウゴは怯え震えながらも、ドライバーとウォッチを取り出す。

 

「永夢、せんせえ」

 

〈"エグゼイド"〜ッ!〉

 

 ソウゴはジオウ・エグゼイドアーマーに変身。ガシャコンブレイカーブレイカーで、ディケイドの胸部を叩く叩く。

 

「俺の運命は、俺が変えてやる!」

 

「できるといいな」

 

 胸に『ヒット!』のエフェクトが出ながらも、ディケイドは微動だにしない。ドライバーのバックルを開き、左手でカードを取り出して、ドライバーに入れる余裕すらある。

 

「たとえできたとして……」

 

〈ATTACK RIDE──PAUSE!〉

 

「その運命も俺が破壊するけどな」

 

 入れたカードは、仮面ライダークロノスがクラッシャーに人差し指を当てた様子が描かれたもの。

 

 バックルが閉じた瞬間、ジオウの猛攻が止まる。否、止めさせられる。時そのものが止まったのだ。その中でも、ディケイドはゆっくりと動きだしていく。

 

〈ATTACK RIDE──THOUSAND JACKER!〉

 

〈ATTACK RIDE──CLUSTER CELL!〉

 

〈FINAL ATTACK RIDE──A A A ARK-ONE!〉

 

 色とりどりの動物達が。視界を覆い尽くす程の量の金属の飛蝗達が。足の踏み場を無くすように広がる黒い液体が。未だ動かないジオウに押し寄せる。

 

〈ATTACK RIDE──RESTART!〉

 

 そして時は動き出す。

 

 ライダモデルに蹂躙され、クラスターセルに噛み砕かれ、スパイトネガに呑まれる。

 

 そしてジオウ──ソウゴは悲鳴すらあげられず、破壊される。

 

 スパイトネガが消えた跡に残されたのは一枚のカード。ジオウ・エグゼイドアーマーが描かれたもの。

 

「……悪いな」

 

 ディケイドはカードを拾い上げ、ライドブッカーから取り出した束に加える。

 

 残りは、五枚。

 

 

○○○

 

 

 丑三つ時の光ヶ森高校。化物以外は寝静まったそんな時に、ソウゴは目を覚ます。何か、物音が聞こえたような気がする。生々しい音だ。

 

 もぞもぞと寝袋から音を立てないように抜け出し、ランタンを持って教室を出る。音はまだ聞こえていた。

 音の出どころは調理室だった。扉を開けてこっそり覗く。

 

 まず見えたのは肉。これが包丁によって切られるのが音源だった。次に見えたのは──スウォルツ。エプロンを律儀に着けていた。

 

「何してるんですか先生!」

 

「先生は止めてくれ。……見ればわかるだろう、料理だ」

 

「……すごい肉ですね。何の肉ですか」

 

「知らん、拾った肉だ」

 

 食糧が尽きかけているのはソウゴも薄々わかっている。なら、この肉は何だ。まさか、死んでいった生徒ではないのか。そんな考えが、ソウゴの脳を支配した。

 

 観察してみようと下を向くと、明らかに人のものではない鉤爪や頭蓋骨が。

 

「……まさか、化物の!?」

 

「しっ、皆の眠りを妨げてどうする」

 

 スウォルツは口に人差し指を当て、扉に顎をしゃくる。

 

「閉めてくれ」

 

 ソウゴは素直に従った。人肉でなくて安心したのもあるが、ちょっと怖かったのもある。

 

 扉を閉めても、未だにそれを軽く睨むように見ているスウォルツに、おずおずとソウゴは先程の質問を続けようとする。

 

「いやでも、これどうやって……」

 

「言っただろう。お前が喚び出させた怪物共が拾ってきたんだ。奴らは同族争いが激しいらしい」

 

「へぇ……ってえ!?」

 

「だから静かに」

 

 スウォルツの指摘にソウゴは口を押さえ、数秒間深呼吸。ボリュームを再び下げて問う。

 

「何で分かったんですか」

 

「どれだけの付き合いだと思ってる」

 

 一言で済まされた。なんか、少し嬉しくなる。

 

「用は済んだか」

 

「いや、あの……手伝います。スウォルツさんと久々に話もしたいし」

 

 スウォルツは険しい顔を緩める。笑っているように見えたのは、ソウゴだけだろうか。

 

「助かる」

 

 

 

 

 

 ソウゴとスウォルツは包丁を動かしながら色々な話をする。とはいえほぼソウゴが一方的に話し、スウォルツは聞き役だ。選挙のこと。友人のこと。恋愛のこと。叔父さんの料理のこと。有日菜のこと。

 

 昔みたいだな、とソウゴは思った。昼休みに社会科準備室や進路指導室で色々と喋ったのが昔のようだ。

 

 しかし今のスウォルツは一人でこの高校全員を導かなければならない。そのせいでスウォルツはほぼ狂気じみた人間に見えてしまっていた。それはソウゴも同じで。

 

「……ごめんなさい」

 

「なんだ、どうした」

 

「みんな、スウォルツさんに任せっきりで──」

 

「いいんだ」

 

 え、と思わず声を出してしまう。

 

「たとえ道化に堕ちようと、お前達子供を守るのが大人の仕事だからな」

 

 そう言い切ったスウォルツはカッコ良く見えた。ソウゴは玉ねぎを切っていないのに目が潤んだ。

 

「さて、と」

 

 スウォルツはフライパンを取り出し、油を垂らして火をつける。

 

「もう焼くんですか?」

 

「少しだけな」

 

 他のものより小さく切ってある肉片を何個か、フライパンに落とす。

 

「まぁ、つまるところ毒味だ」

 

「ですよね」

 

「食わないでいいぞ」

 

「……いや、俺も食べます」

 

「お前には俺がどうにかなった時に誰か──明光院や加古川あたりを呼んでもらおうと思ってたんだが」

 

「だって、大人と子供で毒の効き方が違ったらどうするんですか?」

 

「……一理あるな」

 

 スウォルツは渋々二つの小皿に肉を分ける。

 

「だが、先に俺が食べる。意見は求めん」

 

 スウォルツの心気を無下にすることはできない。ソウゴは頷く。

 

 スウォルツの口に、熱々な肉が放り込まれる。噛み砕かれる。しばらく噛まれた後、喉に通っていく。

 

「どうですか……?」

 

「美味い」

 

「へ?」

 

「特に痺れも無いな。外見はどうなってる」

 

「え、特には」

 

「そうか」

 

 次、ソウゴ。

 

「もし俺に何かあったらよろしくお願いしますね」

 

「ああ」

 

 ソウゴはゆっくりとちょっと冷めた肉を口に運ぶ。ぎこちなく噛む。時間をかけて噛んだ後、喉に通っていく。

 

「どうだ、外見は問題無いが」

 

「……普通に美味しいですね」

 

「だろう」

 

 スウォルツは少しドヤ顔をして肉を冷蔵庫に運ぶ。ソウゴは料理器具を洗い始めた。まずは菜箸から。

 

「ソウゴ」

 

「なんですか?」

 

「お前は優しくて勇気のある者だ」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

「明日──いや、もう今日か。今日のメニューは串焼きにすることを決めていたが」

 

 なんだろう、とソウゴは少し首を傾げる。

 

「明日からのメニュー。お前の意見を聞くのも、やぶさかではない」

 

「いいんですか?」

 

「その代わり下拵えは参加してくれ。人手は常に足りんからな」

 

「……はい!」

 

 すき焼きを提案したら、風ならできるだろうと妥協案が出た。ソウゴ的には、スウォルツに認められたようで少し嬉しかった。

 

 

 

 スウォルツはソウゴとの親交を楽しみながらも、外に気を向けていた。

 

 それもそのはず、彼らの団欒を盗み聞きしていた人間が一人いたからだ。そしてその痴れ者は状況を見計らって、こっそりとベランダの扉の鍵を下ろした。ソウゴが帰りに通るであろう道だった。

 

 

 

 久しぶりに話せて良かったなぁ。ソウゴはニコニコしながら廊下を歩く。

 

 そんな雰囲気をぶち壊すように化物が現れる。ソウゴは驚きながらも化物を窓から蹴り落とした。

 

「……言いたくないなぁこれ」

 

 窓はバリンバリンに割れている。あの後でやらかしを言いに行くのは気まずい。

 

 幸い、こんなことはほとんど無かったため事務室にガラス自体は残っているが、このままガラ空きにしておいてもまずいのは確かだった。

 

 そんなことを考えていたら不意に人影が階段を降りるのが見えた。ソウゴは抜き足差し足で向かう。そこにいたのは──

 

「しくじったみたいやなァ」

 

 ──ソウゴC。誰かに話しかけているようだ。

 

「だから言うたやん。悪魔の科学者の一番弟子のこの俺がやるって」

 

 問題は、その相手が見えないこと。

 

「次こそはァ、俺がこの手で……必ずゥ」

 

 ソウゴCは悪辣な笑みを浮かべて更に下へ降りる。

 

 ソウゴもとりあえず人の気配が無くなった後、調理室に向かう。もしいなくてもスウォルツの寝場所は職員室だ。

 

「ターゲットは俺、か」

 

 何か、嫌な気分になった。

 

 

○○○

 

 

 数時間後、朝食。生徒達は久々の肉に大はしゃぎだ。スープは更に薄くなった気がしたが、肉の追加に比べたら些事である。

 

 ソウゴは生徒達と共に列に並び、それらをもらう。もちろんソウゴも笑顔だった。久々の肉が嬉しいのもあるが、更に嬉しいのは皆の笑顔だった。

 

 よくよく考えてみれば、これも現実逃避の一種なのかも? そんなことを考えながら席を探す。

 

 ちょうどその時、Cの後ろ姿が目に入ってきた。隣の席は空いている。というか、誰も同席していない。当然といえば当然だが。

 席を確保しつつ、昨日のことについて少し揺さぶりをかけてみることにする。

 

「ちょっといいかな?」

 

「なんや」

 

「俺、昨日校内で化物に遭って」

 

 先程まで動き続けていたスプーンが止まった。

 

「偶然やなァ、俺もや」

 

 声は少し上擦っている。

 

「いや倒そう思てんけど、逃げられてもうて。でもあんま騒がん方がええで」

 

 そう言うが否や、残りのスープをかき込んでお盆を持って立ち上がる。

 

「センセェには俺が言っとくわ」

 

「もう昨日のうちに言っといたから大丈夫。

 それとさ、せっかく俺と同じ常磐ソウゴ同士出会ったんだ。どうせなら仲良くしたいなって」

 

 所詮生徒会長程度の選挙なのに、何故俺を殺そうとしたのかはわからない。正直、怖い。

 でも、その言葉も本心だった。

 

「おう、俺もや」

 

 少し笑って、彼は去っていった。先程の笑みは嘲笑に見えなくもなかった。

 

 ソウゴはもやもやした気持ちを誤魔化すように肉をかじる。毒見した時と同じく美味しかった。

 

 

○○○

 

 

「結局恋愛部で残ったのは私達だけか」

 

 恋愛部室。沢山の椅子が並んでいる中で使われているのは二脚だけ。オーラとウールだ。オーラは未だに恋愛マスターなコスチューム。

 

「マスター質問!」

 

 オーラは無言でそちらを向く。ウールの椅子は化粧台代わりに使われていた。

 

「男が男を好きになるって、やっぱり変ですか」

 

 ウールの心には、ゲイツが性別について言及したことが大きなしこりとなって残っていた。

 

「そんなこと無いわよ。恋愛に男も女も関係無いし」

 

「そうですよね!」

 

 と喜びつつも、ウールは鏡を見る。自分には色気があるように見えなかった。その旨を伝えると、オーラは首を小さく傾げる。

 

「そうかな……見方によっては案外あるかも」

 

「本当!」

 

 実際オーラは一学期、何人かの女子が「ウール君×××××だよね〜」と話しているのを聞いてしまったことがある。その時は柄にもなくドン引きしてしまった。

 

 その記憶をオーラは必死に振り解きながら、ウールの椅子の上の口紅を手に取る。

 

「可愛くしてあげる」

 

 丁度メイクが終わる頃、扉が開く音をウールは聞いた。

 

「何か用」

 

 ハッと後ろを向くと、そこにはソウゴが。その顔が困惑に変わるのをもちろん気づけず。

 

「私が呼んでおいたのよ。さ、頑張んなさい」

 

「そういうオーラはゲイツ先輩とどうすんの、恋愛マスターなんでしょ」

 

「私はいいの、さぁ早く!」

 

 オーラに押し出されウールはソウゴに急接近してぶつかる。

 

「あの、ソウゴ先輩。あの、僕、男かもしれないんだけどゆくゆくは結婚とか出産とか考えてて、子供は二人ぐらいかなぁって──」

 

 突拍子もない話にソウゴは混乱し、教室から逃げ出してしまった。

 

「ちょっと待って!」

 

 ウールはソウゴを追う。オーラははぁ、と溜息を吐く。これで吊り橋効果も切れればいいけど。

 

 それはそれとして。

 

「……ゲイツについては私にも計画があるのよ」

 

 

 

 

 

 足音で追ってきているのはわかっていた。ソウゴは外の通路に出て、階段の踊り場にこっそりと隠れる。

 

 胸を押さえて呼吸しながら、ウールのことについて考える。化粧を施した顔は、元の顔も相まって素晴らしい美貌と化していた。

 でも、ソウゴからしたらウールは仲の良いかわいい後輩だ。恋人、とはどうしても見えない。あと話が飛躍し過ぎてたと思う。

 

「どないしたんや」

 

 かけられた声は自分のものと同じで。関西弁ということはソウゴCだ。

 

「隠れんぼかいなァ」

 

 ソウゴはしーっと少し大きめな声を封じ、同じ背丈の男を屈ませる。

 その瞬間、ウールもやってくる。しかし二人のソウゴに気付くことなく階段を上がっていった。

 

「はッはァーん、なるほどなァ」

 

 モテる男は大変や、とソウゴCはニヤニヤ笑う。

 

「いやなんていうか、あんまりそういう気持ちは無いんだけど……」

 

「おっしゃ、俺に任しとき。その代わりィ──」

 

 

 

 

 

 一方、オーラもウールを探すことにした。ソウゴを見つけてまた告白したのか、それとも見つけられずにべそべそしているのか。どちらの展開もありえるので教室一つ一つを見て回る。

 

 なお慰めるつもりは無い。

 

 屋上に行ったかな、とそこへ繋がる外の通路に出ると、ウールの叫び声が聞こえる。その直後、ウールが仮面の戦士と共に落ちてくる。

 

「戦えソウゴォ。早よせんとコイツ化物のエサなるでェ」

 

 二色の装甲を付けた、見たことのないタイプ。仮面を纏う人物の正体はその関西弁でわかる。ソウゴCだ。

 

「お、来た来たァ」

 

 大声につられて化物達が寄ってくる。オーラはウールを助けようと階段を降りようとするが、その前にまた一人仮面の戦士が現れる。よく噂になる二人のうちの一人。

 

 ソウゴCの言葉からわかるのは、隣の戦士はおそらく残りのソウゴのどちらか。ウールが狙われたということは、この仮面の戦士はAだ。

 

 オーラは一瞬でそんな思考を組み立てながらも、身体が止まった。結構長い時間を共に過ごしてきたつもりだけど、そんなこと知らなかったから。

 

「どういうことだよ! 何考えてんだ!」

 

 ウールに近づく化物を殴り倒しながらソウゴA──ジオウはC──ジオウ・ビルドアーマーに叫ぶ。

 

「遊びの時間は終わりっちゅうこっちゃ……!」

 

 ビルドアーマーのジオウは普通のジオウの装甲を、右手に装備されるドリルクラッシャークラッシャーで削っていく。ジオウはそれを受け止めながら跳びついて殴る殴る。ジカンギレードを振り回すよりもそちらの方が速い。

 

 二人のジオウはウールから離れていく。それすなわち、ウールを守る者もいなくなるということで。

 

 怯えるウールの周りに集まってくる化物達。更に悪いことに、ちょうどオーラも下に到着してしまう。

 

 近寄る化物からウールを守るために、オーラはとっさにその華奢な身体に覆い被さった。

 

 ──その時、オーラは身体から迸ろうとするなにかを感じた。オーラは無意識に手を化け物に向ける。力は解放されて、化物達を次々に消滅させていった。

 

「……オーラ?」

 

 その光景を見たウールは唖然としている。オーラは自分の手を見つめるばかりだったが、やがて立ち上がって先程出てきた場所を見上げる。そこにはスウォルツが。

 

「行って」

 

「……え?」

 

「常磐のことが気になるんでしょ」

 

 ウールは戸惑う。確かに先輩のことは一番気がかりだけど、でも先程のオーラの力についても同じぐらい気になっていて。

 

「行きなさい」

 

 いつになく頑ななオーラに、ウールは頷くしかできなかった。

 

「オーラ。ようやく思い出したようだな」

 

「……久しぶりね、スウォルツ」

 

 オーラに睨みつけられても、スウォルツの笑みはますます深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

 校庭で、二人のジオウは殴りあう。片方のビルドアーマーは解除されていた。パンチという形で放たれたタイムブレークには流石のアーマーといえども耐えられなかった。

 

 化物達の体液や足跡によって凸凹になった校庭は滑りやすく、殴られればすぐに体勢を崩してしまう。どちらがAなのか、Cなのか、判別することは困難だった。

 

 ジオウが殴り合う中でひっそりとジープが侵入してきたのは、ようやく辿り着いたウールにしか気づけなかった。

 

 殴り合い殴り合い殴り合い、渾身のパンチが互いの胸を捉える。

 

 距離が離れた二人のジオウはそれぞれ必殺技の態勢に入る。一方はベルトに装填されたウォッチを起動させ、もう片方は二本の剣を合体させる。

 

〈タイムブレーク!〉

 

〈キィング!ギリギリスラーッシュ!〉

 

 巨大な光剣が振り上げられ、その刃の根元に蹴りが突き刺さる。

 

 膠着は呆気なく終わる。光剣の振りの勢いでジオウは吹っ飛ぶ。地面を転がり変身解除したのは、ソウゴA。

 

「先輩!」

 

 ウールは迷いなくソウゴに近づく。

 

「しっかりして──ッ」

 

 顔を覗き込んだウールは慄きながらも肩を揺するのだけは止めない。そんなウールの胸にソウゴは何かを押し付け、消滅した。

 

 地面にほろりと落ちたものを掴んでみる。くしゃり、と音を立てたのは紙切れだった。

 

 ウールは変身解除したソウゴCを睨む。その迫力は、スウォルツにも劣らないものだった。

 

「何すんだ」

 

「……しゃあないやんなぁ。弱い奴はやられるんや」

 

 その様子を見て、ジープから出てきていた男は笑っていた。所詮お前達もその程度か。

 

「なんや、どうしてん」

 

 ソウゴBとミサもやってくる。ただならぬ様子に、それ以上何も聞くことはできなかった。

 

 ──その時。自転車のベルの音が鳴る。現れたのは、また新しいソウゴ。天然パーマで、自転車のカゴにはなんとテディベアだ。

 

「ソウゴ様が到着だぁ!」

 

 更に新しいソウゴだ。赤いシャツに学ランを羽織り、頭を丸めて肩には金属バット。随分と古風なヤンキーだ。

 

「え?」

 

「嘘やろ」

 

「おめぇら誰だ。同じ顔しやがってこの野郎」

 

「また増えたで……」

 

 昨日と同じく困惑するソウゴ達。そんな様子をジープから見つめる門矢士。カードを数えながらぼやく。

 

「これで役者は揃ったな」

 

 そんな男を見つめる者が二人。アナザーディエンドの力で透明になり、こっそりと見つめる加古川飛流。

 

 そして、校門に背をもたれる男──海東大樹。

 

 

○○○

 

 

 夜の森の中。結局森を抜けられず、制服のまま眠りにつく有日菜。

 

 その前にふらりと一人の子供が現れる。浮世離れした雰囲気の男の子だった。

 男の子は有日菜に近寄ってつんつんと人差し指でつつく。起きた有日菜はガバッと上半身を上げる。

 

「誰!?」

 

「お姉ちゃんは、だれ?」

 

「……私は、有日菜」

 

 最低限の自己紹介をした後、有日菜は男の子に何故ここにいるのか、ここがどんな場所なのかを訊く。返事代わりに男の子は首を振る。

 

 それどころかまた質問を返してくる。

 

「ぼくは、だれ?」

 

 男の子は、記憶喪失のようだった。

 

 

 

「じゃあ、本当に憶えてないんだ。名前も、ご両親のことも」

 

「うん」

 

 有日菜は水筒の中のお茶を差し出す。ぬるいが、無いよりはマシだろう。

 

「ごめんね、力になってあげられなくて」

 

「……私も、どうしていいのかわからなくて」

 

 大きくなっていく不安が、口から溢れてしまう。男の子は、受け取ったお茶を見つめるだけだ。

 

 苦手なのかな、と有日菜はカバンを漁ってポーチを取り出す。その中から飴を摘み出し、男の子に差し出す。

 

「これ食べて」

 

「……お姉ちゃん」

 

 男の子は受け取らない。

 

「ぼく、家に帰りたい」

 

「それは、そうしてあげたいんだけど」

 

 有日菜は自分の不甲斐無さが悔しくなる。と、男の子が急に腕と人差し指を伸ばす。

 

「向こうの方」

 

「憶えてるの、お家の場所」

 

 自分の名前や親のことは忘れているというのに。

 

「なんとなく」

 

 再び顔を下げてしまう男の子。有日菜はよし、と決意を固める。

 

「行ってみようよ」

 

「え?」

 

 この子を家に帰すために。

 





F:エグゼイド→髪の毛の色

 原作7ジオでも大概盛られてたのに、それ以上に良い人度マシマシな今作のスウォルツ先生とソウゴの料理シーンが我ながら好きです。原作でもあのギャグみたいな行動にはそういう意図があるんじゃないかなーと。
 それにしても脚本家繋がりとはいえオーバーキルすぎたネオディケイド激情態さん。反省してます。


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EP3「増えた1日2018」

 

 スウォルツは髪を掻きむしりくにゃくにゃと動き回る。奇妙な行動だが、目の前にいる者達のことを考えれば仕方ないかもしれない。

 

「日立学園三年常磐ソウゴ」

 

「室井高校三年常磐ソウゴ」

 

 今度はソウゴ達を指差し続ける。鬱陶しい。

 

「花園学園三年常磐ソウゴ」

 

「えっと──」

 

「もういい美沢高校三年常磐ソウゴォーッ!」

 

「はいっ」

 

「一人ソウゴが減って、二人増えたというわけだな」

 

 新しく増えたソウゴにスウォルツはまたDEと便宜上名付ける。EFと間違えて、ミサに訂正されてはいない。決して。

 

「えー、今我が校ではソウゴ達が争っている。生徒会長の座を賭けてな」

 

 まさか命を懸けてのものになるとは思わなかったが。

 

「前の学園は化物に襲われて壊滅したが、こっちの方が楽しそうだ。なあオイ」

 

 ニヤニヤと笑うのはソウゴDと名付けられたヤンキーだ。ソウゴEのテディベアにちょっかいを出したりもしている。遠ざけられた。

 

「では存分に競い合うといい。なるべく血を見ない方向性でな」

 

 まぁDがいる時点で無理だろうが。スウォルツは内心そう思って苦笑いした。

 

 

○○○

 

 

「融合した世界の数だけ常磐ソウゴは存在していました。そのほとんどは真実のソウゴその人により選別されましたが、そのお眼鏡に叶う者はいなかったようです。

 しかしそのうちの一人、凄まじき戦士の力を継承した者は真実のソウゴに喰らい付くほどの力を見せました。その戦いの影響で真実のソウゴは更に弱体化し、彼による選別は現在行われていません」

 

 誰に解説しているのか、ウォズは誰もいない屋上で一人囁く。

 

「残った四人の中で、最も優れた常磐ソウゴが世界を救う鍵になる。でもその優劣を、一体誰が決めるのか。意外と生徒会長選に意味があるのかもしれません」

 

 さて、とウォズは目を閉じて深呼吸。

 

「私も選択しなければいけませんね」

 

 

○○○

 

 

 空き教室に一人、ゲイツはぼぅっと座っている。オーラは程よい距離にある机に腰掛けた。

 

「らしくないわね。どうかした?」

 

「……ソウゴが、死んだ」

 

「知ってる。ウールから聞いただけだけど」

 

「俺のせいだ」

 

「んなわけないでしょ。殺したのはCなんだから」

 

 C、というアルファベットを聞いたゲイツはビクリと震えた。

 

「そういえば騒ぎになってたわね。殴ったのゲイツだったんだ」

 

 小さく首が動いた。肯定の証。

 

「俺はただ八つ当たりをしただけだ」

 

「私は正当だと思うけど」

 

「……アイツは『好きなだけ殴ってくれてええ』と言った。俺はそれに甘えただけだ」

 

「そう」

 

 少しの静寂。ねえ、とそれを破ったのはオーラ。

 

「何であんたのせいなのよ」

 

「俺はアイツを見放したんだ。選挙に不真面目だからって」

 

 ゲイツらしいといえばらしい。オーラは小さく溜息を吐いた。

 

「俺を親友と呼んでくれたアイツにかけた言葉があれなのかふざけてる──」

 

 癇癪は止まらない。いや急に止まった。再び項垂れたゲイツはポツリと呟く。

 

「やめる」

 

「何を」

 

「救世主だ」

 

「はぁ?」

 

「ソウゴがいないこんな世界を救う必要なんて──」

 

 ゲイツは最後まで言い切れなかった。オーラに頬を叩かれたからだ。

 

「ふざっけんな」

 

 シャツの襟を掴み、オーラはぐいっと顔と顔を近づける。

 

「あんたはどうして救世主になろうと思ったの、常磐を魔王にしないため? 世界を救うため? 違うでしょ」

 

 怯んだままのゲイツにオーラは言い放つ。

 

「人を救いたいからよ。一人を救えなくてメソメソ泣くのはいいけど、だからって残りを全て見捨てるの?」

 

 それなら最低最悪の魔王と変わらないわ、とオーラは吐き捨ててゲイツを放す。

 

「せめて守ってみなさいよ、彼の民を」

 

「……だが俺はアイツらを見捨てたんだぞ、小和田もそうだ」

 

「今日はとことんネガティブね。そんなクヨクヨ悩んでる暇あるなら一人ぐらいは救えるわよ」

 

「いやクヨクヨするのはいいけどって言ってなかったか!?」

 

「言ってない。メソメソ泣いてもいいとは言ったけど」

 

 まぁつまり、とオーラは口に出しながら言いたいことをまとめ始める。

 

「あんたはあんたらしく、悔やみながらでも最善を尽くせばいいのよ。それが常磐のためにもなる」

 

「……そうか」

 

「それでも自分のやってることに引っかかることがあるなら私に相談しなさいよ。私だって常磐やピナ程じゃないけどあんたのこと見てるんだから」

 

「……助かる」

 

 ゲイツはようやく笑みを見せる。オーラもそれを見て口元が緩む。

 

「そういえば何で知ってるんだ」

 

「アンタの夢の理由のこと? ピナに聞いたから」

 

「いやそっちじゃなくてソウゴが魔王になりかねないって──」

 

「ここにいたか」

 

「スッ、スウォルツ──先生」

 

「うーわ出た」

 

 扉から唐突に現れたのはスウォルツ。オーラは顔を押さえて天井を仰ぐ。

 

「お前がソウゴCを殴ったと聞いてな。話をしにきたんだ」

 

「本人は反省してますし説教とかはあんまり……」

 

「ゲイツならそうだとは思ったが、ソウゴが生きていることは伝えておこうと思ってな」

 

 二人は「は?」と同時に信じられないものを見る目でスウォルツを見た。

 

 

○○○

 

 

 同時刻。化粧を落としたウールはソウゴBと接触していた。わざわざディスコの終了を待ってまで。

 

「どしたんや。アンタはAのシンパと違うの?」

 

「いや、ソウゴ先輩、死んじゃったし」

 

「あ、そか。かんにん」

 

「……俺の民になりたいって話だったが。Aのこと好きだったんだろ。いいのか」

 

 Aへの好意に触れられたウールはぎこちなく笑う。

 

「別に。ソウゴ先輩は僕の愛を受け止めてくれなかったから」

 

「だから鞍替えするってわけか」

 

 ウチはええで、とミサはウールの頭を撫でる。愛されない気持ちはすごくわかる。

 

「……ソウゴの素晴らしさはこれから仕込んでいけばええしな」

 

「ミサがいいなら歓迎しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

 頭を下げたウールの掌には、くしゃりと潰れた紙切れがまだ握られていた。

 

 通りがかったソウゴCはそんなウールを見て寂しげに笑った。自嘲しているように見えた。

 

 

 

 

 

 壁にもたれかかったソウゴCは制服から封筒を取り出し、その中の便箋を読んでいた。

 

「何読んでるの?」

 

「なんや、Eか」

 

 素早く便箋を折り畳み仕舞うソウゴC。Eは首を傾げて質問を繰り返す。Cは渋々答えることにした。

 

「……ラブレターや。屋上で告白するんで来てくれぇってとこか」

 

「付いてっていい?」

 

「何言っとんのや、嫌や」

 

「俺魔法使いだから、演出とかできるよ」

 

「んなもん要らん。断るしなぁ」

 

 スタスタと歩いていくC。またEは首を傾げるのだった。

 

「そっちは屋上じゃなかったはずだけど」

 

 まいっか、とEは自分に与えられた空き教室に戻ることにした。クマちゃんを待つ生徒達は少なくないから。

 

 

 

 

 

 階段を下るソウゴC。そこに二人の生徒が駆け込んでくる。Cが思わず跳び退いた直後、現れたのはソウゴDだ。

 

「オイゴラァ!!」

 

 生徒と生徒の頭をぶつけ、腹部に蹴りを入れる。壁に叩きつけて襟を掴んだ。

 

「オイお前ら。分かってるよなこの野郎」

 

 俺に投票しろよ、という言葉にボコボコにされた生徒は頷くしかなかった。

 

「Cじゃねぇか。よぉ兄弟」

 

「何が兄弟や。恐喝まがいなことしよって」

 

「お前も同じだろ馬鹿野郎。Aってのをブチ殺したんじゃねぇのか、ん?」

 

 話にならない、とCはそのまま下りようとするが。

 

「なぁ兄弟。今夜Bのタマ取りに行かねぇか」

 

「やめとくわ。やらなきゃならんことがあってなぁ」

 

 そう言い捨ててCは今度こそ下りていった。

 

「……ダチになれると思ったんだけどな」

 

 見当違いか、とDは笑った。

 

 

 

 

 

 ソウゴCはようやく目的地へと辿り着く。扉にセロテープで雑に貼られた紙には「ソウゴC」と書かれている。元々は化学実験室として使われていた教室だった。

 

 ソウゴCは再び封筒から便箋を取り出す。また読んでから、扉に手をかける。

 

 中は数日前と然程変わりはない。変化といってもせいぜい、机の上にお菓子が、床に寝袋が敷いてあるぐらいだ。

 

 扉を慎重に閉めたCは眼鏡を外し、教卓にそっと置く。隣に便箋も置く。ラブレター用に製造されたであろうそれには、『化学実験室の冷蔵庫』と書かれていた。あと簡単な関西弁の例も。

 

『おっしゃ、俺に任しとき。その代わりィ、俺に協力してくれなァ』

 

「協力って何なんだよ、俺……」

 

 ソウゴC、否AはCが遺した言葉を思い出して軽くぼやいた。

 

 少し悩んだが冷蔵庫を開ける。ソウゴの背丈ぐらいなら入れるかもしれない大きさ。普通だったら実験に使う液体が冷蔵されているはずの中には、暗闇が広がっている。

 

 おずおずと手を突っ込むと、引っ張られる感覚。気づけば、ソウゴは知らない場所に出ていた。背後を見てみると、白い扉。開けてみると先程までいた実験室。

 

「何これ……」

 

 困惑しつつも中を見渡す。色々な機材で足の踏み場が無いが、唯一パソコンに繋がる道だけは確保されていた。掌の上で転がされている感覚を覚えるも、パソコンの前へ向かう。

 

 とりあえずパソコンを起動してみる。パスワードはさっきとは別の便箋に書いてあった。一瞥しただけでは意味不明な文字の羅列だった。

 

 読み込みが終了した途端に動画が再生される。

 

『よォ、ソウゴA』

 

 映っていたのは当たり前だがCだ。

 

『この部屋は俺の師匠が設計したのを俺が再現したんや。保温は万全だし防御力も高い。つまるところ簡易的なシェルターみたいなもんやな__』

 

 そのままこの部屋の話が続く。理系は専門外どころか壊滅的な成績のソウゴにはちんぷんかんぷんだった。

 

『__悪ィ悪ィ、つい話しすぎてもうたわ。こんな話を聞いてくれる気の置けない奴は死んでまったからなァ』

 

 ここからが本題や、とCの顔が引き締まる。

 

『俺はここに来る前にこの怪現象の黒幕に会ったんや』

 

 ソウゴは思わず身を乗り出す。誰もが知りたい情報だった。

 

『俺はソイツにようわからんけど選定されて、失格になった。んで、殺されかけた』

 

 サラッと言うことではない。

 

『でも俺は別の俺__ソウゴKとしとくか。Kに助けられたんや。黒くて刺々しいアーマーを纏っとった。

 Kと黒幕は相討ちになったんやろな。俺は死んでないし、その後Kとは会ってないしなァ。

 で、俺は決意したんや。Kに報いようってな。俺に何ができるかって考えたら、アイツの計画をぶっ潰すことしか思いつかんかった』

 

 まずは黒幕を探そうとしたが、化物達に阻まれ失敗。ならば他のソウゴを探すことにした。

 

『アイツやKの言動から、アイツは俺達"ソウゴ"を何かの基準で選定しとることは分かってた。だからとりあえず高校を目指した。化物も恐いしな』

 

 そして光ヶ森高校に辿り着いたというわけか。二人もソウゴがいたのは幸運だった。Cが死んだ直後に更に増えたけど。

 

『お前に目ェ付けたのはアレや、Bよりも信用できたからや。……増えた自分に困惑したのがどこまで本当なのかわからんところはあったけど。

 んでBの女とも一時的に組んで、今にいたるっちゅうこっちゃ』

 

 Bの女とはすなわちミサのことだ。あの時話していたのはミサだったのか。

 

『悪かったな、お前を殺すようなことに加担して』

 

 全くだ。

 

『んで計画通りいけば俺はAとして死んだことになってて暗躍しとるはずやけど……違う?』

 

 初めてカーソルが出てきた。マウスを引っ掴み、迷いなく『していない』をクリックした。少し読み込みの時間が経った後、Cは芝居がかった動きで落ち込む。

 

『マジか、俺死んだんか。加減せェよ俺ェ……』

 

 いや、とソウゴは首を振る。俺は加減した。サイキョウジカンギレードは持ち出したがそれでもギリギリまで調整したつもりだった。

 

『でもお前に限ってやらかしはせんか。噂に聞くだけでもお人好しの度が過ぎてるからなァ』

 

 そこがイイトコなんだろけどな、とフォローしつつも話を続ける。

 

『まぁこうなったら何もできんな。自由にいけ自由に』

 

「っていうか黒幕についてもっと教えてよ」

 

『そうそう、アイツについては教えられん。先入観は視界を狭めるからなァ。ソイツの名前が分かったら話は別やけどな。コイツに打ってみィ。あとは任せたで、ソウゴ』

 

 プツリと動画が閉じる。せめて別ルートの動画を見たいので再起動するが流れなかった。

 

「いや、えぇ……」

 

 ポジティブなことを考えれば、この部屋そのものと、黒幕が存在することとその目的とCとミサが仮初の協力関係にあったことがわかった。ただそれだけだが。

 

 すごいこと押し付けられたなぁ、と溜息を吐く。

 

「……とりあえず片付けよ」

 

 ごちゃごちゃとした周りを見て独りごちる。万が一は無い方がいいが、あった時に困らぬように。

 

 

○○○

 

 

 気づけば夜だった。冷蔵庫から出てきたソウゴは暗闇に一瞬驚く。どれだけ散らかってたんだあそこは。一呼吸吐くと、急に腹の減りを自覚する。

 

 電気を付けて時計を見ると、もう消灯時間を過ぎていた。食堂には何も残っていないだろう。だからといってお菓子を食べる気にはならなかった。

 

「……どうしようかなー」

 

 とりあえずカーテンを閉めながら考える。といっても、取る選択肢は二つしかない。

 

 ソウゴは勇気を出し、寝るという選択肢を放棄した。

 

 

 

 

 

「……何だソウゴC」

 

 スウォルツの視線は怖かった。当然だ、と思うのは自惚れだろうか。

 

「え、Aに聞いたんや。先生が深夜に仕込みしてるって」

 

「……そうか。閉めてくれ」

 

 ソウゴは言われるままに閉めた。

 

「明日はお前のリクエスト通りすき焼き風にするつもりだ」

 

「そうなんや──え?」

 

「どれだけの付き合いだと思ってる」

 

 昨日と同じ台詞だった。

 

「えっ、気付いてたならどうして指摘とかしなかったんですか……?」

 

「わざわざゲイツやウールを騙してまでCに扮しているのだろう。ならそれなりの理由があるはずだからだ」

 

 頷きたかったけど、結果的にはあんまり頷きたくなかった。ソウゴの微妙な顔に気付いて、スウォルツの顔も微妙になった。

 

 

 

 

 

 料理をしながらCに扮することになった経緯と先程得た情報を包み隠さず伝える。ソウゴがライダーだということもバレてる気がするし。

 

「確かにゲイツやウールを騙してでも得たかったものではないだろうが、重要な情報だ」

 

 特にフィルターの存在は大きい。それとなく生徒達に示唆することにしよう、とスウォルツは決めた。

 

「……俺、ゲイツやウールに許してもらえますかね?」

 

「真摯に話せばなるようになるだろう」

 

 話は変わるが、とスウォルツは続ける。

 

「ウールがお前──というかソウゴCを探していたんだがどういうことだ? それにあれからずっとソウゴBと行動していたが」

 

「ウールはソウゴBに付いたところを見たので、多分ミサの指示じゃないですかね」

 

「……情勢が混沌としてきてるな」

 

 頭を抱えたくなりながらも手は止めない。

 

 肉を薄くスライスするのはソウゴの方が得意だったので、スウォルツはタレを作る方にシフトした。そっちはそっちでソウゴは甘くし過ぎてしまうところはあったから。

 

 

 

 

 

 料理を終え、手を洗うスウォルツ。ソウゴは遅めの夕食を食べた後に実験室に戻っている。そんな調理室に現れたのはアナザーディエンド。飛流に戻ると、調理台に腰を乗せる。

 

「ソウゴと何か話してたみたいだが」

 

「真実のソウゴの目的がわかった。とはいえ真意にまでは辿り着いていないがな」

 

 先程聞いた話を要点だけ噛み砕いて話す。

 

「逆にどうしてそこまで辿り着いたんだよアイツは」

 

「とにかく、門矢士の目的が更に分からなくなったな」

 

 

○○○

 

 

「大変だな、せーんせ?」

 

「止せやめろ。お前にそう呼ばれるのは気まずい」

 

 ソウゴ達プラスミサが去った後、校長室に現れたのは加古川飛流。飛流はソファにどっかりと座り込み、上下反転したスウォルツを見る。

 

「防音は問題無いだろうな?」

 

「ああ。音符眼魔の力でな。……気付いてるか?」

 

「ソウゴがCを装っていることだろう」

 

「それもそうだが門矢士がこの高校に侵入してきた」

 

 何、と目を見開くスウォルツ。やはり気付けてないか、と飛流は声を漏らす。

 

「ウォズでさえもこの世界に門矢士が侵入してきたことに気付いていなかった」

 

「それ相応のバックがいるということか?」

 

「おそらく。黒幕である真実のソウゴにせよ、もしくはその野望を阻止する者にせよ」

 

 前者の場合、そちらに着いているウォズが感知できないのが変だが。裏切りを警戒しているのかもしれない。

 

 後者には心当たりがある、というかその場合、飛流のバックと同じなのは間違いない。だが、行動がおかしい。一部メンバーの独断で、この多重世界にやってきた飛流に接触してこないのは仕方ないが。

 

「……ソウゴは自分を殺せると思うか?」

 

「何だ藪からスティックに」

 

「お前そんな軽いキャラだったか?」

 

「あんたに一番言われたくなかったわそれ。……ソウゴに並行同位体の自分が殺せるかってことだろ」

 

 まさか、と飛流は一笑に付す。今回一番選挙活動に非積極的だったのはソウゴだ。むしろゲイツの方が熱かったし。

 

「物理的な戦いにしても最後の最後で奴は手加減するだろう。そして相手に訴えるはずだ、自分の想いをな」

 

「ならば何故、ソウゴCは死んだ?」

 

「自分でもわかってんだろ。門矢士だ」

 

「……できるのか、奴に」

 

「近くで観察してみて初めて分かったことだが、奴は激情態に至っている」

 

 激情態、と眉をひそめるスウォルツに飛流は説明をする。曰く、ライダーの破壊者として覚醒したディケイドの真の姿。曰く、彼に破壊されたライダーはカードとなり、彼の力となる。曰く、彼が死んだ場合破壊されたライダーとその世界は再創造される。

 

 それも、これまでの力は初期型ドライバーの時の力。ネオドライバーで激情態に覚醒した今、彼は破壊していないライダーの力であっても自在に使えるらしい。

 

「ジオウ以外で限りなくオーマジオウに近い存在、と言える」

 

「そんな凄まじい力で奴は何をしようとしている」

 

「……これは個人的な予想だが、奴はかつてのライダー大戦を再現しようとしてるんじゃないか?」

 

 ライダー大戦。全ての仮面ライダーとディケイド激情態が殺し合った惨劇。

 

「ライダー大戦の原因は世界の融合であり、その目的は世界をあるべき姿に戻すためだった。

 それに奴は十五枚のライダーカードを手に入れていた。ジオウの各アーマーのな」

 

 先程束に加えられていたのはビルドアーマーのカードだった。

 

「無かったカードはオーズ、フォーゼ、ウィザード、そしてディケイドアーマー」

 

「Dからはフォーゼ、Eからはウィザードの力の気配がしたな」

 

「便利だなお前」

 

 Bは言わずもがなである。

 

「となるとソウゴはディケイドアーマーに当てはまるわけか?」

 

「どうだか。もしかするとソウゴはジオウそのもので、もう一人ディケイドアーマー担当がいるのかもしれない」

 

「……とにかく、証拠は揃っているわけだな」

 

「ああ。この仮説が正しいなら奴は真実のソウゴと対立している可能性が高い」

 

「ことが済んだ後に世界を再生させようとしている可能性も否定はできないが……そこまで考えると堂々巡りだな」

 

「とにかく俺達がやるべきはソウゴを生き残らせること。この仮説は外れててもおかしくない」

 

「ソウゴと俺達は一連托生だからな」

 

「まぁお互いできることをしていこう」

 

「ああ」

 

 ディケイドとディエンド、二つのアナザーウォッチを持つ男達は前腕を打ち合わせた。

 

 

○○○

 

 

「──なるほどな、門矢士が真実のソウゴの代わりに選定の役割を担っている可能性も出てきたか」

 

「門矢士に話を聞きだせれば手っ取り早いが……」

 

「無理だろうな。せめてライダーの力が使えれば……!」

 

 飛流が悔しげに呟いたその時、外から音がする。扉に近かった飛流から外に出る。少し走って見つけたのは、手刀を鋭く伸ばしたディケイド激情態と床に倒れるソウゴ。

 

 飛流の行動は早かった。体内のウォッチを起動させてアナザーディエンドに変貌、ディケイドにタックルを喰らわせる。

 

「……ディエンドのアナザーか」

 

「頼んだぞスウォルツ!」

 

 アナザーディエンドはそう叫ぶな否やガラスをぶち破ってディケイドごと落ちていく。残されたスウォルツは頷いてソウゴを背負う。そして化学実験室を目指した。

 

 

 

 

 

 ディケイド激情態対アナザーディエンド。アナザーディエンドが劣勢なのは言うまでもなかった。

 

 巡回中の怪人を差し向けたが、サソリの触手から滴る毒やマシンガンのように放たれる紅の羽根ですぐに倒されてしまい、その後も召喚する隙を得られない。

 

 分身やバリアは一瞬で消され、追尾弾も盾で受け止められてしまう。

 

「キッツイなぁ、オイ!」

 

 高速移動で肉弾戦を挑んでも、更にそれを上回る高速移動で対策される始末。とうとう地べたに倒れてしまう。

 

「随分と手間を掛けさせてくれるな」

 

「アイツを殺されるわけにはいかないからな……!」

 

「だがそれも終わりだ」

 

〈FINAL ATTACK RIDE──ZI ZI ZI ZI-O!〉

 

 アナザーディエンドの周りに十二個の"キック"の文字が踊る。それらが一つになり、跳び上がったディケイドの右足にくっついていく。

 

 アナザーディエンドはせめてもの抵抗にバリアを出す。しかしそれは必殺技を受け止めるには心許ない小ささと薄さで。

 

 そのままその蹴りを喰らえば飛流は死んでもおかしくない。だが無慈悲に足はアナザーディエンドに近づいていく、はずだったが。

 

「おっと。それは趣味が悪いねぇ、士」

 

 ディケイドが空中でそのままの体勢で止まる。そんなことをできるのは記憶を取り戻したオーラとスウォルツと──

 

「海東大樹……!?」

 

「士。君が戦うべきディエンドは僕だけだよ」

 

「何をっ、ほざく……!」

 

「逃げたまえ、タイムパトロール君」

 

「恩に着る」

 

 アナザーディエンドはオーロラカーテンを喚び出してその中に消えていった。

 

 大樹はタイムブレークが当たらない距離まで遠ざかると時止めを解除。ディケイドの蹴りは地面に突き刺さるだけだった。

 

 変身を解いた士は大樹を睨む。

 

「お前はまた俺の邪魔か」

 

「殺される必要の無い者を助けるのが邪魔だって言うなら、そうじゃないかな?」

 

 相変わらずのへらず口だな、と士は吐き捨てた。

 

「これ以上邪魔をするならお前でも破壊するぞ」

 

「それも悪くは無いけど……取引しないかい?」

 

「取引だと?」

 

「君が僕の質問に一つ答える代わりに、この世界で僕は君の邪魔をしない」

 

 どう、と大樹は笑う。守られればローリスク・ハイリターンだ。守られるかどうかは別だが。

 

「……まぁ、いいだろう」

 

「じゃあその質問は明日させてもらうよ」

 

 もう夜遅いしね、と大樹はオーロラで消えていく。

 

「……まったく」

 

 そんなことを言いながらもこの奇妙で歪んでいる関係を楽しんでしまっている自分を、士は戒めるように自嘲した。

 

 

 

 そして、夜が明ける。

 





K:クウガ→凄まじき戦士ならどうにかオーマジオウを倒せずともどうにか弱体化までには持ち込めるのではないか

 EP3にもなると流石に原作から分岐してきましたね。ゲイツのシーンについては、原作ではソウゴAが死んだと聞かされたゲイツの反応が無かったので書いてみましたが、やはり明光院ゲイツは書くのが難しい。
 あとソウゴCは色々と盛りすぎた気がします。


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EP4「最後の校則2018」

 

 ソウゴがディケイドに襲われた翌日早朝。ある空き教室は数人の女子と一人の男子に占められていた。

 

「可愛い〜! 名前は?」

 

 女子に囲まれたソウゴEははにかむ。

 

「クマちゃん」

 

「やだ平和! でも可愛い!」

 

「ねー。……家にもテディベアいるんだけど、会えないから寂しいんだ」

 

 私も、と同意が上がる。

 

「じゃあお茶会しようよ」

 

「え?」

 

「お茶会って……」

 

「何にも用意されてないけど……?」

 

 女子達の困惑の声にも可愛い笑みで返すソウゴE。

 

「できるよっ、魔法でね」

 

「魔法?」

 

「いやいやそんなの──」

 

〈ドレスアップ・プリーズ!〉

 

 どこからか聞こえた呪文が女子の言葉を遮る。その瞬間、彼女達は綺麗なドレスを身にまとっていた。ついでにクマちゃんも。

 

 Eは燕尾服を着ていた。服に着られているように見えるが、それもそれで庇護欲を誘う可愛らしさ。

 

「待ってね、お茶出すから」

 

〈コネクト・プリーズ!〉

 

 呪文と共に魔法陣が現れ、机を通過していく。すると机の上にはティーセット。

 

 Eはティーポットを持ち上げ、高い位置から紅茶を注ぐ。机がびちゃびちゃになることはない。

 

 先程の可愛らしさと優雅な動きとのギャップで女子達はもうメロメロだ。

 

「清き一票をよろしくね」

 

 女子達は全力全開で頷いた。

 

 一方、廊下で悲鳴が聞こえる。またDが生徒に恐喝をしているのだろう。

 

「だんだん常磐ソウゴの質が落ちてきたな」

 

 Bの言葉にミサはほんまやなぁ、と頷いた。傘下に降ったはずのウールはいなかった。

 

「でもEのやり方はアンタと似とる気ぃするけどなぁ」

 

「一緒にするな。俺達も始めるぞ」

 

「うん」

 

 ミサはBに返事をしながらもその背に付いて行かず、未だCに扮したソウゴに声をかける。

 

「ちょっとええか?」

 

 頷いたソウゴはミサに付いて行く。着いたのは空き教室の一つ。

 

「なんやねん急に」

 

「ええからっ」

 

 ソウゴは死角に引き摺り込まれ、ミサの整った顔と真っ正面から向き合うことになる。肩を軽く掴まれ、ソウゴは戸惑う。

 

「ご褒美や。ソウゴAを倒し──痛ぁ!?」

 

 ミサは悲鳴をあげてソウゴから跳び退く。

 

「スネは無いやろスネはぁ!」

 

「ファーストキスを奪おうとした報いさ。行こ、ソウゴ先輩」

 

「ウール……どうして……?」

 

 ミサの脛を蹴ったのはウールだった。ウールはすぐに空き教室からソウゴを引っ張り出して説明し始める。

 

「Cが『33』って書いたメモを残してたんです。最初は単純にソウゴ先輩をCとあの女が共謀してソウゴ先輩を殺そうとしたんじゃないかなって」

 

 半分は合っている。Cはそのつもりは無かったようだが。

 

「でもゲイツ先輩がソウゴCを殴った時に聞いた台詞で、先輩がCのふりをしてるんだなってわかったんです」

 

「そう、だったんだ」

 

「そんな状況で僕がやれることはあの女について周りで調べることかなって」

 

 結局何もできませんでしたけど、とウールは肩をすくめる。

 

「でもありがとう。黙ってるのつらかったでしょ。あとえーっと、オーラと離れて寂しかったとか……」

 

「それはないです」

 

 きっぱりと断るウールの背後から声が聞こえる。ソウゴの名を呼ぶ声。

 

「……ゲイツ! オーラ!」

 

「ソウゴぉっ!!」

 

 走ってくる勢いで抱きついてくるゲイツ。ソウゴ諸共床に倒れ込む。

 

「痛い痛い痛い!!」

 

「ったく、何の騒ぎかって皆集まってきてるわよ」

 

「……悪い」

 

 急にパッと離れるゲイツ。二人は顔を伺いあって、同時に頭を下げる。

 

「すまんソウゴ!」「ごめんゲイツ!」

 

 えっ、と同時に顔を上げて驚く二人。漫才でもしてんのかあんたら、とオーラは眉間を揉む。こんな時ピナなら、と今はいない親友のことを思い浮かべる。

 

「常磐はどうして謝ったの!」

 

「ソウゴCのふりをしてたのを言わなかったことです!」

 

「この件についてゲイツはどうするの! 許すの!?」

 

「許しますっ!」

 

「ゲイツはどうして謝ったの!」

 

「殴ったことと見捨てたことだ!」

 

「常磐はどうするの! 許すの!」

 

「許すも何もゲイツは悪く──」

 

「どうなの!」

 

「許しまーす!」

 

 スピード解決。よし、とオーラはドヤ顔だ。確かにごちゃごちゃせずに本音を言い合えたのはいいことだけどさぁ、とウールは心の中でぼやいた。

 

 拍手が聞こえる。そっちの方向を見てみると、赤シャツに学ランを来た青年。

 

「いい友情劇だな、うん? 人殺しがやるにはいい芝居だな」

 

 ソウゴD。否、残りのソウゴも集まっている。Bは無関心そうに。Eは対照的に興味津々で。そしてDは凶暴な笑みを浮かべていた。

 

「C殺しといてそれは無いだろこの野郎、あぁん!!」

 

「そ、それは──」

 

「それは違うぞチンピラ」

 

「飛流!」

 

 震えていたソウゴの肩を叩き、お前じゃないと囁く。

 

「コイツにはそんなことはできないだろ。それに俺もあの場にいたが、割り込んできた下手人がいてな」

 

「下手人?」

 

「そうだ。お前らだって昨日見ただろ」

 

「ジープ……?」

 

「正解だッ──!?」

 

 Eを称賛した飛流の顔の真横を黄色の光弾が掠める。

 

「追尾弾なんてちゃっちいもん使ってないで出てきたらどうだ。門矢士ァ!」

 

 門矢士。その名を聞いた多くの生徒の中で二人だけが耳を疑う。ゲイツとオーラだ。

 

「負け犬の遠吠えだな。安心しろ、俺が破壊するのは常磐ソウゴだけだ」

 

 声が聞こえる。ベランダからだった。真っ先に辿り着いたのはミサ。足がモデル並みに長い男に問いかける。

 

「あんたがC殺したんか?」

 

「そうだ。そしてこれからAもBもDもEも関係なく破壊するつもりだ」

 

「んだお前、何が破壊するだこの野郎。ぶち殺すぞゴラァ!」

 

 残りのソウゴ達もベランダの前の廊下に集まってくる。それを見て士は落下防止用の塀から脚を離す。

 

「戦争の始まりだ。お前達ソウゴ、全員に挑戦する」

 

「……何が目的だ」

 

「真実のソウゴを倒すため。そして世界を創造するため」

 

「真実の、ソウゴ」

 

 動画の中のCの言葉が思い出される。ソウゴの選定。まさかCの言う黒幕は──

 

「何かよくわかんねぇが、売られた喧嘩は買ってやるよこの野郎」

 

「俺も」

 

 意外にもDと並んでドライバーを構えたのはEだった。

 

「根性あんなお前。これから俺とお前は兄弟だ」

 

〈フォーゼ!〉

 

「……ま、いいけど」

 

〈ウィザード!〉

 

 ベルトに継承したウォッチが装填される。士に向かって駆けながらベルトを回す。士もカードを素早く入れてバックルを閉じる。

 

〈"フォーゼ"ェーッ!〉〈"ウィザード"!〉〈──DECADE!〉

 

 三人は変身した直後に衝突、もつれ合いながら落ちていく。

 

 その光景を見ていたソウゴもウォッチを起動しようとする。が、飛流に止められる。

 

「今のディケイドは究極を超えている。行ったところで無駄死にするだけだ」

 

「でも……!」

 

「俺はお前に死んでほしくない。皆同じだ」

 

「……あの二人は俺じゃないの?」

 

 ソウゴの問いに、ゲイツやオーラはやるせなさげに息を吐いた。ウールは窓の外を見つめるだけ。

 

「俺達にとってのソウゴはお前だけだ」

 

 結局飛流が皆の心中を代弁した。ソウゴはウォッチを下ろさざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 ジオウ・フォーゼアーマーとジオウ・ウィザードアーマーは今、かつてない強さに圧倒されていた。

 

 数の利で圧倒できるかと思いきや、ディケイドは八人に増えた。逆に数で圧倒されることになる。

 

 更にその八人が使う技はそれぞれ奇々怪々なもので、一つに対抗できても残り三つの技によりダメージを喰らう。

 

「へへ、やべぇなこれ」

 

「……そうだね」

 

「ならもう抵抗するのは止めてもらおうか。そうすればちょっとくすぐったい程度に終わらせてやる」

 

「誰が止めるかこの野郎、なぁ兄だ──」

 

 隣にいたはずのウィザードアーマーは消えていた。

 

「……またか」

 

「同情するよ。俺も見捨てられた身でなぁ」

 

「悪いが同情されるのは一番気にくわねぇんだよッ!!」

 

「おっと」

 

 急射出されるブースターモジュールを避けるディケイド。その隙にジオウはベルトを回す。

 

〈リミット!〉〈タイムブレーク!〉

 

 ブースターモジュールが腕に戻った瞬間、フォーゼアーマーが変形しロケット型になる。ジオウは回りながらブースターを噴かし、ディケイドに突っ込む。

 

「ライダーロケットドリルぅーッ!!」

 

「せめて蹴れ」

 

〈FINAL ATTACK RIDE──E E E EVOL!〉

 

 ディケイドはマンホール程度の大きさのブラックホールを生成。ジオウは止まることも出来ずに吸い込まれていく。消えゆくブラックホールが吐き出したのは、ジオウ・フォーゼアーマーが描かれたカード。

 

 それを掴み取った瞬間、ディケイドはオーロラに包まれた。出てきた場所は校外の森。加古川の仕業か、それともスウォルツか。

 

「……面倒だな」

 

 今日はここまでにしておいてやろう、と襲いかかる化物にライドブッカーを突き立てた。まだまだたくさん化物はいた。

 

 

 

 

 

 化物狩りの時にスウォルツにオーロラの使い方習っといて良かった、と飛流は指を折り曲げる。

 

「ひとまずこれで時間は稼げるだろうが……」

 

「どこに送ったんだ」

 

「化物が特に多く住み着いてる場所だ。だがこれが使えるのは今回だけだな」

 

「次が決戦だということか。……ソウゴ?」

 

 崩れ落ちたソウゴを優しく引っ張り上げるゲイツ。Bはそんなソウゴに呼びかける。

 

「どうした、戦いが恐いか?」

 

「……痛いんだよ。常磐ソウゴが──俺がやられたんだから」

 

「変わってるなお前」

 

 そう言い残して、Bはミサと連れ立って去っていった。

 

「……あんたの優しさは美徳だけど、今は捨てた方がいいかもね」

 

 オーラはそう忠告して去っていく。

 

 残った三人はソウゴが動けるようになるまでずっと待っていた。

 

 

○○○

 

 

 夜。調理室。ハンバーグの種を一緒に作りながら、ソウゴは弱気になってしまった。

 

「スウォルツさん、今日で一緒に料理作るのもこれが最後かもしれないです」

 

「……何を言っている。校則を忘れたか」

 

 校則、校則、とぶつぶつ言い始めるソウゴにスウォルツは優しく言う。

 

「俺がこの一ヶ月間、校則を定め続けてきたのはお前達に生き残ってもらいたかったからだ」

 

「……確かに、そうですね」

 

「察しの悪い生徒もいるようだから最後の校則をここで定めよう。……『生き残れ』」

 

 意見は求めんぞ、と付け加えたスウォルツにソウゴははい、と言うことしかできなかった。

 

 これから作るハンバーグを食べるだろう人は、そのしょっぱさに違和感を覚えるかもしれない。申し訳ないけど許してほしかった。

 

 

 

 

 

 もはや朝夜で恒例行事になっているスウォルツと飛流の相談会。今回はどこか口数が減っていた。

 

「……Cの言葉が正しければ、ここに真実のソウゴはいない」

 

「門矢士にそれを伝えたところで止まるか?」

 

「なら実物を見せればいい」

 

「いや無理だろそれは」

 

「……この高校に五人ものソウゴが集まった。それは偶然か?」

 

「運命とでも言うんじゃ無いだろうな」

 

「だが類似例はある。お前もよく知っているはずだ」

 

「アナザーライダーの性質か」

 

 アナザーライダーはアナザーライダー同士惹かれ合う。それと類似することがソウゴ同士で起こっているのではないか。スウォルツはそう考えた。

 

「それにソウゴも残り少ない。舞台は整っている」

 

「運命サマがよだれ垂らして齧り付きそうなクライマックスだな」

 

「おっと、運命は信じないのではないのか?」

 

「そこまでは言ってない。信じたくないのが本当のところだ。

 ……ならせめて、運命の掌で全力で踊ってやろうぜ」

 

「そうするとしよう」

 

 二人はそれぞれの寝床を目指して散った。

 

 

 

 

 

 ソウゴとスウォルツがハンバーグを仕込んでいた同時刻。ソウゴBは寝床として与えられた空き教室からジープを見下ろしていた。

 

「チューだ、ミサ」

 

「なんやねんいきなり」

 

「戦争が始まるからな」

 

 奇襲攻撃で仕留められれば、これで終わる。できなければ終わるのは自分の命だ。ソウゴBは決断していた。他のライダーの計画に乗りたくは無かった。どちらにせよ確実性に欠けるなら、自分の意思で戦いたかった。

 

 その意思はミサには伝わらなかったようだ。

 

「……アホか」

 

 その後の投げキッスに愛は無かった。これでは勝てる可能性も尽きたも同然だった。

 

 ミサのことを考えないなんて、焦りすぎたか俺は。Bは開けていた窓を無言で閉めた。

 

「悪い」

 

 

 

 

 

 士はジープの運転席でカードを何回も何回も見続けていた。破壊してきた三人のジオウと、この世界に来る前に渡されたジオウ達のカード。後者は真実のソウゴの選定の結果だった。

 

「士」

 

「海東」

 

 しれっと後部座席に滑り込む大樹。約束は守ったよ、といつも通りの口調だ。

 

「だな。……なんでも聞いていいぞ」

 

「そうさせてもらうよ」

 

 そう言いながらも海東はその質問を口に出すのに時間をかけた。

 

「士はどうして、光写真館に戻らないんだい?」

 

 士は溜息を吐いた。誰にも話さないつもりだったが、お前にはしてもいいかもしれない。

 

「俺が大ショッカーの偉大なる大首領に返り咲いた時のことは覚えてるな?」

 

 海東は頷いた。忘れてはいない、いや忘れてやるもんか。

 

「あの時、夏みかんとユウスケには本当のことを話してたんだ。当然というべきか、反対された」

 

「喧嘩したんだ」

 

 いつものことだね、とは流せなかった。結果的に士は写真館を出ていって、それからずっと帰っていないのだから。

 

「一人で旅をしてる途中にウィザードの世界に喚ばれ、ますます足は遠くなった」

 

 仲直りできないまま時間だけが過ぎていく。

 

「紘汰や巧、翔太郎に晴人。平成ライダー達という仲間と一緒にバダンと戦ったことは、俺にとって救いだった」

 

 その際、仮面ライダー1号──本郷猛には「死に場所を探す旅をしてたんじゃないのか」と問われ、仮面ライダーZX──村雨良には「死に場所を探す旅が俺の生きる場所だと分かった」などと言った。

 

 実はそうだったのかもしれない。その一方で、自分の旅が終わることは無いだろうとも思っていた。

 

「きっかけはわからないが、俺は終わらない旅をしていていいのか迷うことがあった」

 

 その度に鳴滝や大樹に説得される。時には対話で。時には物理で。

 

 夏海やユウスケがどう思うか。会わなくなった期間が長くなって、想像すらできなくなってきて。

 

「俺の中で死への期待が燻ることもあった。だが俺が死にかける時は大体世界の危機ばかりだ。見過ごせなかった」

 

 そしてゼロワンの世界を旅した直後、ある存在がコンタクトを取ってきた。その身を犠牲に世界を救わないか、と。

 

 その時幸か不幸か、大樹は白ウォズに力を奪われていて、鳴滝はQuartzerの後処理を行なっていた。鳴滝が駆けつけた時には、士は既に最後の役割を引き受けていた。

 

「話が逸れたが、俺は写真館には戻らない。アイツらだって、自分の世界に戻ってるんじゃないか?」

 

「理由になってないよ、士。それは君の理由じゃないじゃないか」

 

「いや、理由にはなってる。要は積み重ねだ。時の重なりが俺達を阻んでる」

 

「……そんなことない、って言っても君は耳を傾けないだろうね」

 

「ああ。そしてお前は俺を邪魔できない。俺の死に場所である、この世界でな」

 

 そう言った士は大樹にカードを一枚投げる。

 

「やるよ。この世界のお宝だ」

 

「これは……」

 

「使えと言われて渡されたが、これが無くても問題ないからな」

 

 そう言い残して士は目を瞑った。

 

「そんなことないだろ」

 

 大樹はそう吐き捨てて、ジープから出て行った。

 

 

○○○

 

 

 翌日。ソウゴはいつもの屋台から外を見ていた。ゴロウはいつも通り金魚をすくっている。

 

「いつも来てくれてありがとう。でも、今日でここを閉めようと思ってるんだ」

 

 自分もポイとカップを持ってゴロウの隣に屈む。え、と声を漏らすゴロウにソウゴは続ける。

 

「それでさ、友達がいないって話だけど──」

 

 ソウゴは器用に金魚をすくう。ゴロウはいつも通り取りこぼしている。

 

「──俺じゃだめかな」

 

「……だめ」

 

 え、と次に声を漏らしたのはソウゴだった。無言で穴の空いたポイと水しか入っていないカップを返してゴロウはのっそりと教室を出て行く。

 

 入れ違いにゲイツが入ってくる。ゴロウのことをチラリと見ながらも、その彼が座っていたところに座る。

 

「ちょっと遊ばせてくれないか」

 

「どうしたの、馬鹿にしてたのに」

 

「……これで最後かもしれないからな」

 

「なわけないでしょ。っていうかここで遊んでて大丈夫なの?」

 

「飛流の放ったカッシーンが門矢士の動きは無いと報告してたから問題ないだろ」

 

 差し出されたポイとカップをゲイツは受け取り、金魚すくいをし始める。小学校三年生以来だ。

 

 意外とゲイツは熱中し、昼前までずっとやっていた。飛流が途中で輪投げをしに来たのにも気付かないほどに。

 

 

 

 

 

 食堂。三人のソウゴは同じテーブルで昼食を摂っている。昨日作ったハンバーグはソースがかかっていないが美味しかった。Eだけはプレーンシュガーのドーナツを食べていたけれど。

 

 三人は同時に食べ終え、食器を片付けようとする。その時、ミサが走ってやってきた。

 

「来たで、あのピンク色の悪魔が」

 

 三人は周りの生徒にお盆を渡して走り出した。ミサにマゼンタだと訂正する暇はなかった。

 

 途中で生徒会長選の用紙が配られているのを見た。良いおとりになってくれれば良いけど。ソウゴは柄にも無く祈った。

 

 

 

 

 

「やはりここに来たな、門矢士」

 

「常磐ソウゴを全員出してお前達はここに閉じこもれ。さもなくば生徒達は化物の餌食だ」

 

 昇降口の前で入口を開いたり閉じたりする士。ミサにソウゴ達を呼びに行かせ、スウォルツはそんな彼を冷ややかな目で睨む。

 

「貴様は変わったな」

 

「そっちこそ。意外とまともな教師やってんだな」

 

「おかげさまでな」

 

 そう皮肉りあっている間にソウゴ達はベランダに到着した。ゲイツと飛流、オーラは万が一のために生徒達を防衛する役割を担っている。

 

「来たな。さぁ、戦争を再開しよう」

 

〈KAMEN RIDE──〉

 

「……頼んだぞ」

 

 スウォルツの言葉に三人のソウゴは頷く。

 

「俺達が、最後の希望」

 

〈オールッ・ドラゴン!〉

 

「王たる者として、お前を討ち倒す。チューだミサ!」

 

「……はいよっ!」

 

〈タジャドルコンボ!〉

 

「……一ついいかな」

 

「何だ」

 

 ソウゴは、ディケイドがソウゴDを破壊した後に得た情報を思い出す。得たといっても、ソウゴCのパソコンに『真実のソウゴ』と打ち込んだことで開示されたものだ。

 

 

○○○

 

 

『ようやく辿り着いたかァ。そうや。真実のソウゴこそ、並行世界の融合を引き起こし俺達ソウゴを選定する黒幕や』

 

 Cの隠し部屋にはソウゴ三人とゲイツ、ミサ、ウール、オーラ、飛流、そしてスウォルツが集まっていた。部屋は九人が集まっても普通に広く、下手したらこの高校の生き残りぐらいならギリギリ入りそうな大きさだった。

 

『真実のソウゴは自称やな。本人曰く、自分こそが存在すべき唯一のソウゴっちゅうこっちゃ。自分でそないなこと言うなって話やろ?』

 

 冗談のようにCは言うが、誰も笑えなかった。ミサは俯いた。自分もBに対してそう思っていたから。

 

『……んで聞きたいのはそれが誰がやろ。実はこの目で見たんや』

 

 皆が更にパソコンに近寄る。一番前にいて操作していたソウゴは、腹が圧迫されてぐぇっと呻き声を漏らした。

 

 そして語られた真実のソウゴの正体に、皆絶句した。

 

 

○○○

 

 

「……俺達は真実のソウゴじゃない。真実のソウゴは高校生じゃなくて子供なんだ」

 

「吐くならもっとまともな嘘にしろ。それにたとえ本当だとしても、俺のやることは変わらない」

 

「……戦うしかないのか」

 

 自分のウォッチを起動しようとするソウゴの顔に、黄色と緑色の物が投げられる。オーズウォッチ。

 

「これって」

 

「無いよりはいいだろ。後で生きて返せよ」

 

「……わかった。君も生きて受け取ってね」

 

〈ジ・オウ!〉〈オーズ!〉

 

 変身。四人の声が重なる。バックルが閉じ、ドライバーが回った。

 

〈──DECADE!〉

 

〈ファイナルターイム!〉〈オール・ドォラゴォーン!〉

 

〈タカ!クジャク!コンドル!〉〈タッ・ジャドォルぅ〜!〉

 

〈タカ!トラ!バッタ!〉〈"オーズ"ぅ〜!〉

 

 二組の"オーズ"と一組の"ウィザード"の文字を模した複眼と七枚のライドプレートがぶつかり合い、変身者の頭部へはまっていく。

 

 変身完了。三人のジオウは跳び、各々の武器をディケイドに振りかざす。

 

〈ATTACK RIDE──MELON DEFENDER!〉

 

〈──GOURA GUARDNER!〉

 

〈──DEFEND!〉

 

 しかしトラクローZはメロンを模したメロンディフェンダーに、ジカンギレードは亀の甲羅を模したゴウラガードナーに、ドラゴヘルクローZは黄色の魔法陣に食い止められる。

 

 この程度か。仮面の下で士は笑う。オーズアーマーのジオウが叫ぶ。

 

「お願いします!」

 

 ディケイドの背後にオーロラが発生する。ディケイドはもがくが、三人のジオウはシールドはおろか自分達ごとオーロラに押し込んだ。

 

「……さて、ゲイツ達も行かせてやらねばな」

 

 スウォルツはジオウ達を見届けた後、校舎に入る。まっすぐ生徒会長選を行なっている教室に入る。そこに四人が待機していることになっている。ミサも既に合流しているはず。

 

「行くぞ二人──」

 

 スウォルツの声を悲鳴が遮る。生徒達を襲うのは、先程までいなかったはずの化物。

 六人は生徒に群がる化物を引き剥がしながら動き出す。廊下いっぱいに落ちた投票用紙で足を滑らせそうになるが、どうにか持ち堪える。

 

「どういうことだ! ちゃんと送ったんだろうな!?」

 

「しっかりと送ったとも! ならこれは……」

 

「真実のソウゴかもな……! 明光院は前に行け、殿は俺とコイツだ!」

 

 飛流がアナザーディエンドの力で喚び出したのは愛の伝道師・ラヴリカバグスター。しかしその態度は気怠げだ。

 

「なぁんだい君は。ボクは君みたいな男に従う義理は無いんだけどねぇ?」

 

「……じゃあ女になら従うんだ?」

 

「いや従うというか守るというか──」

 

 オーラの投げキッスにラヴリカは撃沈した。すかさず飛流は化物の鉤爪をその身体で防ぐ。

 

「……頼めるか」

 

「これが終わったらさっさと消しなさいよ」

 

「悪いな」

 

 ラヴリカという無敵の盾が手に入ったことで避難も順調に進み、生徒は皆冷蔵庫に入っていく。

 

 最後の一人になった時、その生徒はスウォルツに一枚の紙切れを渡す。

 

「……これは」

 

「よろしく、お願いします」

 

 生徒──ゴロウは、頭を下げて冷蔵庫に入っていった。ゲイツはその後ろ姿を見つめていた。

 

「……選挙の結果を伝えねばな」

 

「だがどうする、今はラヴリカだけで足止めできているがいつ突破されてもおかしくないぞ」

 

「なら俺が残ろう」

 

 人々を守るのが救世主だからな、と言ったのはゲイツ。私も、とオーラも続く。

 

「私がいなきゃ、あいつも働かないかもしれないし」

 

「ウチも残る。ソウゴは必ず戻ってくるから、その帰る場所を守らんとな!」

 

「よし、行くのは俺達ふた──」

 

「僕も連れてってください」

 

「ウール……」

 

 近寄ろうとするオーラをゲイツは止める。

 

「……良いだろう」

 

 三人をオーロラが包み込んで消し去った。その瞬間、扉からドンドンと激しい音が鳴る。数が増え、ラヴリカが対応できなくなってきている。

 

〈ゲイツ!〉

 

「お前ら、覚悟はできてるな!」

 

 ウォッチを起動したゲイツにオーラは勝気な笑みで、ミサはバースバスターを取り出すことで応えた。

 

「変身!」

 

〈ライダー・タイム!〉〈カメン"らいだー"ァ・ゲイツ……!〉

 

 扉を跳ね飛ばして我先にと争う化物に"らいだー"の文字を模す黄色の複眼が命中し、それが跳ね返って顔面に貼り付く。

 

 ゲイツはライダーに変身。そのままジカンザックスで化物に斬りかかる。

 

「ここから先は通さんッ!」

 

 

○○○

 

 

 ジオウ三人とディケイドが送られたのは大きな崖に面した荒地。化物は少ない。

 

 三対一であっても、ディケイドの強さは圧倒的だった。戦えば戦うほど消耗するばかり。

 

「アイツらを待ってる余裕はない、一気に決めるぞ!」

 

 タジャドルアーマーのジオウの言葉に反論はなかった。二人が同時にベルトを回す。

 

〈ギガスキャン!〉

 

〈フォーメーション!〉

 

 タイムブレークの音声が重なる。孔雀の羽を模したエネルギーボムが、四属性の力を秘めたドラゴンが、ディケイドに殺到し爆発する。

 

〈オォーズ!〉〈ギリギリスラァーッシュ!〉

 

 そしてジカンギレードの一閃が、空間ごと爆発を斬った。空間の裂け目が直ると、爆発は更に大きくなる。

 

「やった、か?」

 

 爆発が晴れる。ディケイドは無傷だった。

 

「アレでも歯が立たないのか……!?」

 

「流石に危なかったが……」

 

 バックルを開いてその中のカードを見せる。記されているのは『ATTACK RIDE HYPER MUTEKI』。

 

「これを使えば俺は十秒間だけ文字通りの無敵でな」

 

「そんなの、あり……?」

 

 オールドラゴンアーマーのジオウは戦意を失ったかのように崩れ落ちる。

 

〈FINAL ATTACK RIDE──S S S SNIPE!〉

 

 新たなカードが装填され、現れたのはコンバットゲーマ。ガトリングから放たれる炸裂光弾とミサイル弾がジオウ達を襲う。

 

 煙が消えると、アーマーが消えたジオウが一人とアーマーが健在なジオウが二人。全員倒れているが、ディケイドから近いのはアーマーが消えたジオウ。先程までオーズアーマーを装着していたジオウだった。ダメージが一番大きかったらしく、ほとんど動けていない。

 

「逃げろA!」

 

 痛む身体を押してタジャスピナーZやドラゴスカルZから火炎弾を放つも、ディケイドには軽く払われる程度で通じていない。

 

 ジオウも取り落としたジカンギレードをどうにか手繰り寄せようとするが届かない。

 

「終わりだ」

 

 無防備なジオウにマゼンタ色のオーラをまとったライドブッカーが振り下ろされる。

 

 二人のジオウは目を背ける。しかし、破壊音はいつまでも訪れることはなく。ライドブッカーはジオウの仮面スレスレで止まっていた。

 

 その瞬間、ジオウは動いた。ようやく手がジカンギレードに辿り着くと、それを横薙ぎしてからの突き。ライドブッカーの切先は逸れてディケイドは軽く後退した。その隙に二人のジオウは低空飛行でジオウを回収する。

 

 お互いの状態を確認しあっていると、ディケイドが手を見つめているのが見えた。

 

「またか。また俺は……」

 

 ディケイドが咆哮する。ブームボイスから放たれる高周波の弾丸に吹き飛ばされそうになりながらも、ジオウ達はそれぞれの得物を構えた。

 

「今度こそ……破壊してやる……!」

 

 ライドブッカーを振り上げた肩に上から小さな弾丸が命中する。しかし三人のジオウが撃ったものではない。

 

「常磐君!!」

 

「ツクヨミ!? 無事だったの!?」

 

 この場の全員が振り返ると、高場には本来の生徒会長である月読有日菜。そしてその傍らには──

 

「子供……?」

 

「まさかあの子は……」

 

「真実の、ソウゴ」

 

 この世界には高校生以上の存在しかあり得ない。もし子供がいるとしたら、それは真実のソウゴだと思え。Cからの伝言が頭を過ぎる。

 

 同じような結論をディケイドも頭の中で組み立てたらしく、ブッカーの切先を下げてジオウ達に近寄ってくる。

 

「まさかお前の言っていたことは──」

 

 刹那、子供から衝動波が広がって四人のライダーを襲った。

 





D:フォーゼ→ヤンキーだから
E:ウィザード→……クマちゃんを使い魔に見立てた?

 門矢士と海東大樹の関係性はこれくらいでいいと思っています。ここもここで難しかったですね。
 しれっと強化フォームアーマーも出ていますね。必殺技が原作通りすぎるのはソウゴとしてはどうなのだろう、と思いつつも理屈は用意してあります。


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EP FINAL「2018:インサイド・アウト」

 インサイド・アウト。意味は裏返し。


 

 有日菜は男の子を背負い、開けた道を歩いていた。部活を引退し体育の授業も去年より減ったことで筋肉や体力は若干衰えていたが、やるしかなかった。

 

「ねえ、ほんとにこっちで合ってるの?」

 

「うーん」

 

 呑気に唸る男の子だったが、ふと後ろを向いて「お姉ちゃん!」と叫ぶ。有日菜もそっちを向いてみると、目に飛び込んできたのは跳び込んできた化物。

 

 引き離される有日菜と男の子。化物はまた仲間を呼び、有日菜と男の子の分断を加速させる。

 

 とりあえず有日菜は用意しておいたファイズフォンXで化物を怯ませて変身。

 

 化物達をばったばったと蹴り倒していくツクヨミだが、何体かの化物に連携されて右脚を何度も何度も引っ掻かれ、地面に転がされてしまう。無傷の脚で踏ん張ろうとしても、中腰が限界だ。

 

 仕方ない、とツクヨミはドライバーのウォッチを起動。

 

〈タイムジャック!〉

 

 ドライバーが回る。ツクヨミの手にエネルギーが集まって弾となる。化物達はそれを喰らって呆気なく爆散した。

 

 そのまま変身が解除されてしまい生身の身体を晒す有日菜。先程の技は強い代わりに体力を消耗してしまう技だが、早めにケリを付けないと男の子まで危なかった。

 

 有日菜は立とうとするができない。体力の消耗もあるが、問題は先程集中攻撃を受けた脚だ。黒いソックスを下ろすと、深い傷跡から血が流れていた。

 

「お姉ちゃん、大じ──」

 

「カバン取って!!」

 

 男の子は初めて聞く有日菜の大声に慄きながらも頷いて指示通りにする。男の子はカバンを有日菜に渡すと、その怪我の状態が初めてわかったのか騒ぎ出す。

 

「血、血だよお姉ちゃん! 血が出てるよ!」

 

「男の子でしょ! しっかりして!」

 

 泣き言に構ってはいられないと、叱咤しつつも有日菜は包帯を巻いていく。

 

「痛くない、痛いよね!」

 

 いや、泣き言ではないのか。この子は血が怖いんじゃなくて、私が傷ついたことが恐いんだ。

 

 その姿に、長い付き合いの友人をなんとなく思い出した。いつもゆるゆるでふわふわしているけれど、土壇場では他人を優先してしまうような危なっかしい友人。

 

「大丈夫だよ」

 

 安心して顔が緩む男の子の頭を有日菜は撫で続けた。

 

 

 

 

 

 夜。足を怪我した後は然程進めなかったが、幸いなことに再び化物と会うことはなかった。

 

 焚き火を起こし、有日菜と男の子はそれを囲んでお喋りをする。といってもほとんど話すのは有日菜で、男の子は完全に聞き役だった。

 

「ソウゴさんに、ゲイツさんか」

 

 他にも色んな人の話をしてもらったけど、男の子が気に入ったのはその二人との話だった。

 

「お姉ちゃんにはおもしろい友だちがいるんだね!」

 

「二人は特に個性的でね」

 

「ぼくも名前ほしいなぁ……」

 

 ぼくに名前付けてよ、という要望に有日菜は答えかねた。元の名前と乖離しすぎてても困るし。

 

 だが、「お姉ちゃんの友だちと同じ名前がいい!」と続けられた言葉にハードルが下がった。

 

「君は誰かっていわれると"ソウゴ"かな」

 

「じゃあ、今からぼくは"ソウゴ"だ!」

 

 ニコニコと笑う"ソウゴ"だったが、有日菜の脚の傷を見てからすぐに有日菜の身を案じた。

 

 そういうところが似てるんだよ。有日菜はそう心の中で言って、"ソウゴ"の頭を撫でた。

 

 

 

 

 

 ようやく森を抜け、開けた土地に出た。するとジオウがピンクのライダーに襲われているではないか。有日菜は迷いなくファイズフォンXで撃った。

 

「常磐君!!」

 

「ツクヨミ!? 無事だったの!?」

 

 わんやわんやと騒ぐ彼を指差して、"ソウゴ"に教える。

 

「彼が本当のソウゴよ」

 

「本当の、"ソウゴ"?」

 

 その時、"ソウゴ"の目が赤く光る。

 

「──思い出したぞ!!」

 

 その小さな身体から衝撃波が放たれ、近くにいた有日菜は倒れて気絶し、四人のライダー達の変身は解けてしまった。

 

「本当にお前が、真実のソウゴ……!?」

 

「そうだ。この娘が付けた名前は、合っている」

 

 幼く高い声から、老人の声へ変貌していく。

 

「私は、ソウゴ。真実のソウゴだ」

 

「ならば何故、子供の姿を……!?」

 

「私は王として、多くの世界を破壊し創造した。その結果力を消耗し、身体が子供へ退行を始めたのだ。

 私は新たな命を手に入れなければならない」

 

 それが、常磐ソウゴの選定の真実。

 

「そんなこと、させない」

 

 Eが立ち上がり、再びオールドラゴンウォッチを起動する。Bの「止せ!」の声を無視して再び変身した。

 

 回転しながらドラゴクローZを突き出す。しかしそれは届かない。真実のソウゴが手を翳すだけで太陽から圧縮された熱線が降り注ぎ、寸前でジオウを蒸発させたからだ。ウィザードアーマーが描かれたカードがふわりと落ちてくる。

 

「私は最も優れたソウゴを探すために、数多の次元のソウゴを集めた」

 

 士を睨みつける真実のソウゴ。

 

「ディケイドよ。候補者を減らした罪は重い。その報いはいずれ受けることになる」

 

「自分で減らすのはいいのか」

 

「元より、記憶を失う前は私が選定を行っていたからな。さて、残りは二人」

 

 ソウゴとBはお互いを見合った。また衝撃波が飛んでくるのかと思ったが、そんなことはなく。

 

「戦え。生き残った方が、私と一つになる」

 

 勝手にドライバーが腰に巻きつく。ソウゴは外そうとするができない。

 

「この世の王となる夢が、叶うぞ!」

 

 Bは震えながらウォッチを構える。それを見た士はライドブッカーに手をかけるが開かない。変形もしない。これ以上の邪魔はさせぬぞ、という声が聞こえてくるようだった。

 

「いいの? あれは俺達が目指す王様なの!?」

 

「俺の世界を救うには、あの力が必要だ。許せ」

 

 ウォッチを回し、ドライバーに装填する寸前。その時だった。

 

「待て!」

 

 オーロラが広がり、中からスウォルツと飛流、そしてウールが現れる。飛流はすぐに有日菜を回収しに走り出していた。

 

「お前達がいなくなった後、校内に化物が出た。その状況下で生徒会長選に投票した勇気ある者がいた」

 

 スウォルツはゴロウから渡された投票用紙を開いて読み上げる。ソウゴ、A。

 

「この一票を以て、生徒会長はソウゴAに決定する」

 

「……その一票は、一万票にも匹敵する。俺の負けだな」

 

「待てお前ら、何でこんな時に選挙なんか──」

 

「お前が最も優れたソウゴか」

 

「それでいいのか……」

 

 士は途方に暮れていた。流れがおかしい。

 

「ではその命を差し出してもらおう」

 

 真実のソウゴはどこからか黄金のドライバーを取り出して丹田に当てる。

 

「変身」

 

〈祝福の刻……!〉

 

 地面が割れ、巨大な時計を形作る。

 

〈最高!最善!〉

 

 真実のソウゴの幼い身体を黄金のバンドが何本も囲み、強制的に成長させていく。

 

〈最大!最強王!〉

 

 地面から流れるマグマが刺々しい"ライダー"の文字に固まり、顔面へ音を立ててはまっていく。

 

〈逢魔時王!!〉

 

 時の王者たるオーマジオウが今、この世界に降臨した。

 

「あれがオーマジオウ……!」

 

 オーマジオウが手を上げ、ソウゴに向けようとしたその時。一人の男が虚無から現れる。海東大樹だ。

 

「さて、出番だよ」

 

〈FINAL KAMEN RIDE──〉

 

 シアンカラーの召喚機がスパークを出しながら起動する。幾多もの幻影が重なり、オーマジオウの前に現れた者は。

 

〈──OHMA ZI-O〉

 

 もう一人のオーマジオウ。オーマジオウはオーマジオウの拳で後ずさる。受けた胸の装甲から火花が散る。

 

「なるほど。王としての在り方を放棄した、多くの"私"の内の一人か」

 

「アンタこそ、民の意思を省みない最低最悪の魔王だろ……!」

 

「あのような箱庭を創造した者の台詞ではないな。それに私はより多くの世界を良くしたいだけだ」

 

 皮肉り合う間にも二人のオーマジオウは殴り合う。倒れ立ち上がりまた拳を振り上げる。

 

 大樹の召喚したオーマジオウの声はもう片方のオーマジオウと同じではなく、ソウゴAと瓜二つだった。

 

 拳と拳がぶつかり合い、離れる。片方のオーマジオウの拳からはスパークが散り、もう片方は拳を軽く振った。

 

「ディエンドライバーでの召喚に加え、元々の力が私以上に弱まっているか。よく私の前に現れられたものだ」

 

「それでも世界を、民を救うのが王だ!」

 

〈ビルドの刻!〉〈ボルテック・フィニッシュ!〉

 

 黄金のグラフが現れてオーマジオウを捕らえる。その上を滑りながら蹴りの体勢に入るオーマジオウ。

 

 しかしオーマジオウはグラフを引きちぎって背を向ける。

 

〈カブトの刻!〉〈ライダーッ・キーック!〉

 

 跳び蹴りと回し蹴り、二つのキックが激突する。勝ったのは真実のソウゴが変身したオーマジオウ。召喚されたオーマジオウは吹っ飛んで地面に這いつくばる。

 

 脱力したオーマジオウはスパークを散らす脚をチラリと見ながらも、あらためてソウゴの方を向く。

 

「邪魔は入ったが、今度こそお前の命を貰おう」

 

 再び手をソウゴに向ける。ソウゴはそのプレッシャーで動けなかった。その他の面々も同様だ。動いたのはオーマジオウ、そして──

 

「ソウゴ先輩!」

 

 ──ウール。突然走り出したウールをスウォルツも飛流もBも止められない。ソウゴはウールに突き飛ばされ、地面を転がった。破壊音が荒地に響き、煙が広がる。

 

「ウール!!」

 

 煙が晴れる。そこにはウールの姿があった。無傷の。安堵しウールの元へ駆けるソウゴだったが、他の面々はそれどころではなかった。それは助かった本人も例外ではない。

 

 ウールの前には赤いドラゴンがいたのだ。おそらくコイツがウールを光弾から庇ったのだろう。

 

「ええっ!?」

 

「何だアレは……?」

 

「ドラグレッダーでも、ウィザードラゴンでもない……」

 

 ソウゴBの疑問に答えるわけではないだろうが、飛流は自分の知識と目の前の神獣を照らし合わせる。しかし、該当するような存在はいない。

 

 形容するならまるで王道ファンタジー小説にそのまま出てきそうなドラゴン。尻尾が剣になっているわけでもなく、魔法陣を背負っているわけでもない。

 

 すなわち、ライダーでは今までにいなかったタイプ。

 

 一方スウォルツは自分の手の中に収まっているものが光っていることに気づいた。

 

「まさか、な」

 

 ソウゴBと飛流の困惑をよそに赤いドラゴンは吼える。そしてオーマジオウの周囲を飛び回り、彼に炎を吹きかける。オーマジオウは思わず腕で庇う。

 

 そしてドラゴンはウールの掌に飛び込んでライドウォッチと化す。

 

「わっ!?」

 

〈セイバー!〉

 

 オーマジオウは少し焦げた腕を見る。即座に再生して黄金の輝きを取り戻す。とはいえ、オーマジオウにそのような傷を与えること自体が恐るべきことだ。

 

「……その力は危険だな」

 

 ウールの手の内のウォッチを見る。さて、新しい命と新しい障害。どちらを優先すべきだろうか。オーマジオウの暗中模索を手助けする者はいない。

 

 一方、オーマジオウの動きが止まったことをソウゴは見逃さない。

 

「スウォルツさん、飛流! あともう一人の俺!」

 

「何だ」

 

「ちょっと話したいので時間稼いでもらえませんか」

 

「分かった。ただし手短に済ませろ」

 

〈DECADE……!〉

 

「……やるか」

 

〈DIEND……!〉

 

 ソウゴの頼みに迷わずアナザーライダーとなるスウォルツ。飛流も溜息を吐きながら続く。

 

 しかしBは渋い顔だ。ソウゴは拾っていたオーズウォッチを見せる。

 

「約束、守ってくれないの?」

 

「それに敗者は勝者に従うべきだ」

 

「……そうだな、仕方ない」

 

 使いたくは無かったが、と紫と金のウォッチを取り出す。破壊者の力を守護者として使える自信は無かった。だが、やるしかない。

 

「……ねぇ、ウール──」

 

 ソウゴがウールに話しかけた時、不意にオーマジオウが動きだす。一跳びでソウゴ達の前に着地し、拳を振りかぶる。が、それはアナザーディケイドとアナザーディエンドにギリギリで受け止められる。

 

「……ほう」

 

 オーマジオウは感心したように声を漏らすが、驚いているのはアナザーディケイド、ディエンド両名も同じだった。

 

 理屈はわかる。先程のオーマジオウとの戦いとあのドラゴンの炎で、更にオーマジオウは力を消耗したのだろう。そしてスウォルツにはかつて吸収したオーマジオウの力の残滓がある。

 

 しかし、まさか無事に受け止められるとは。良くて腕、最悪自分の存在が犠牲になるだろうと思っていたのだが。

 

 とはいえ膠着はすぐに終わる。オーマジオウのもう片方の拳を突き出す。

 アナザーディケイドは無理を承知で片手を伸ばそうとするが、その直前に現れた手が拳を一瞬受け止め、ガラ空きになった胸部にパンチがヒット。オーマジオウは後ずさる。

 

〈恐竜王・"オーズ"ゥ!プ・トォ!ティラァ!!〉〈プテラ!トリケラ!ティラノ!〉

 

 拳を受け止めたのはジオウ・プトティラアーマー。そして__

 

〈KAMEN RIDE──ZERO-ONE!〉〈──A jump to the sky turns to a rider kick.〉

 

 パンチを入れたのはディケイドゼロワン。

 

「まさか貴様が助太刀するとはな」

 

「あの力なら真実のソウゴに勝てる可能性がある。なら今は守るしかない」

 

「それにしても、何だその姿は」

 

 アナザーディエンドの問いにディケイドは肩をすくめる。

 

「令和の象徴にして始まりのライダー。対オーマジオウの切札の一つってところだ。おい、来るぞ」

 

 

 

 

 

 ソウゴとウールは近距離で向き合っている。険しい表情のソウゴからウールは目を逸らさない。

 

「──何で庇おうとしたの、死んじゃうかもしれなかったんだよ!」

 

 ソウゴの叱責にウールは動じない。

 

「だって先輩が死んだら、これ読んで貰えないじゃないですか……!」

 

 ウールが差し出したのは、ラブレター。前貰ったものとはまた別のカラーリングのそれは、ソウゴの手に押しつけられる。

 

 書かれていたのはたった一行、『ずっと、一緒に。』と。

 

「……正直、僕はソウゴ先輩に恋しているのか分からないんです」

 

 オーラが断定したように、吊り橋効果なのかもしれない。

 

「でも、この想いは本当です」

 

 どんな関係であろうと、一緒に笑っていたい。

 

「……そっか。でも俺、不安なんだ」

 

「何がですか」

 

「ここ数日でさ、色んな俺に出会ったじゃん」

 

 王になりたいという欲望が強い自分。

 

 人を騙しながらも人のために力を使う自分。

 

 人を従えるために暴力を用いながらも、真の友を求める自分。

 

 可愛いと思いきや結構強かな自分。

 

 そして他人を、そして自分を躊躇なく犠牲にしておきながら痛みを感じない自分。更に彼は世界を良くしたいと言っていて。

 

「あんな魔王になっちゃって、自分勝手に皆のことを傷つけちゃうんじゃないかなって」

 

「そう思えるお前が、そんな最低最悪の魔王になるか」

 

 急に割り込んできたのは、門矢士。変身解除し転がってきていたのだ。

 

「確かに未来はわからないし、お前は間違った選択をするかもしれない。だがお前には友が、仲間がいる。

 そいつらと一緒なら、王道を歩もうが覇道を歩もうが最高最善の魔王になれる。未来を変えられる。……お前ならな」

 

 急に始まった熱弁。それに圧倒され、納得しながらも困惑は隠せない。だって会ったばっかりだしまともに話してないし。

 

「えっと……アンタは何なの?」

 

 俺は、と士は言い淀む。自分をどう形容すればいいか、少し迷った。

 

 まぁ、最期くらいはいつも通りでいいだろ。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えなくていい。俺の旅はここで終わるからな」

 

 旅は終わる、という言葉に不穏なものを感じながらも、ソウゴは宣言する。

 

「俺なるよ。ウールの想いが叶うような世界を創れる、最高最善の魔王に」

 

「ならまずは、あの最低最悪の魔王を倒さなくちゃな。ソウゴ」

 

「ああ」

 

〈ジ・オウ!〉

 

 ウォッチを起動し、ドライバーに装填。ドライバーのロックを外し、腕を大きく回す。

 

「変身!」

 

〈ライダー・タイム!〉

 

 腕を勢いよく振り落とし、ドライバーを回す。時計の針が回る。世界も回る。

 

 そして、あるべき場所で停止する。

 

〈カメェーン"ライダー"ァー!ジ・オーウ!〉

 

 "ライダー"の文字を模したピンクの複眼が仮面に音を立ててはまっていく。

 

「祝え!!」

 

 背後から聞こえる声に、ウールは振り向く。もう一つの崖の上にウォズが立っている。ウォズは片手に本を抱え、もう片方の手を大きく振り上げる。

 

「全ライダーの力を受け継ぎ、時空を越え、過去と未来をしろしめす時の王者!

 

 その名も仮面ライダージオウ。まさに生誕の瞬間である!」

 

「……ウォズに初めて祝ってもらった!」

 

「そうだね、我が魔王」

 

 きゃっきゃしているジオウにウールはウォッチを差し出す。

 

「これ、使ってください」

 

「ありがとう」

 

 受け取って見てみると、ウォッチに表示された西暦は2020。二年後の未来。

 それを横から覗いた士は内心でほう、と唸る。士にとってさえ未知のライダーだった。

 

 この力なら真実のソウゴを打倒できる。士は確信した。

 

 オーマジオウは三人を吹き飛ばしながらウォズを見据える。

 

「私を裏切るか、ウォズ」

 

「元より私の我が魔王は彼でしてね」

 

 頬を釣り上げたウォズはストールを伸ばし、化物に襲われかけたウールと有日菜を回収する。

 

「ツクヨミとウールをお願い!」

 

「お任せを」

 

〈ウォズッ!〉

 

「変身」

 

〈フューチャー・タイム!〉〈カメン"ライダー"ッ・ウォズ!ウォズ!!〉

 

 ウォズはライダーに変身、背後から忍び寄る化物にジカンデスピアを突き立てる。

 

 彼なら大丈夫だ、とジオウは視線をオーマジオウへ向ける。まだ心と身体は震えている。でも、逃げない。

 

 士はジオウの隣に立ち、懐から携帯端末を取り出す。もちろん、ただの携帯端末ではない。ディケイドが最強の力へ至るための秘宝。それがケータッチ21。

 

〈K-TOUCH 21!〉

 

「鳴滝、使わせてもらうぞ」

 

 士はケータッチ21に指を滑らせていく。それぞれのライダーズクレストは触れる度に輝いていって。

 

〈W!OOO!FOURZE!WIZERD!GAIM!DRIVE!GOAST!EX-AID!BUILD!ZI-O!ZERO-ONE!〉

 

 ドライバーからマゼンタ色のバックルを外し、代わりにケータッチ21を取り付ける。

 

〈FINAL KAMEN RIDE──DECADE COMPLETE 21!〉

 

「変身!」

 

 いつものように、士にいくつもの虚像が重なりディケイドへ変身。

 

 いつもならここで変身完了だが、今回は更にライドブッカーからカードが溢れ出し、それが新たな装甲とマントとなってディケイドに装着される。

 

 まるでカード屋のようなその姿は、ディケイドの物語の集大成。仮面ライダーディケイド・コンプリートフォーム21。

 

 先程戦っていた三人とともにジオウとディケイドは攻撃をしかける。が、オーマジオウはその場から動くことなくジオウとディケイド以外を吹き飛ばし、代わりに化物を何体か引き寄せる。

 

「お前達はこの者らと遊んでいるがいい」

 

 そう言うとオーマジオウは化物達にエネルギーを注ぎ込んでいく。化物達の筋肉は更に盛り上がり、体色は灰色から黄金になり、禍々しい角が一対生えてくる。変貌した化物はエネルギーの供給が終わるや否やアナザーディケイド、アナザーディエンド、プトティラアーマーのジオウに襲いかかる。

 

「これで邪魔者はいなくなった」

 

「俺は邪魔者じゃないのか?」

 

「貴様は特別だ。私が直々に罰を下すのだから」

 

「なるほどな」

 

 ジオウとディケイドは顔を見合わせて頷き、それぞれの得物でオーマジオウに斬りかかる。オーマジオウはそれを片手で防ぐ。斬る、防ぐ。斬る、防ぐ、衝撃波。

 

 吹き飛ばされたジオウは、ウールから渡されたウォッチを取り出す。

 

「だったらこれで──ッ!?」

 

 ドライバーに装填しようとするが、ウォッチが反発して入らない。

 

「入れッ、入れよ!」

 

 懇願も虚しく入らない。オーマジオウはディケイドの相手をしながら鼻を鳴らす。このままでは使えぬか。

 

 しょうがない、とディケイドは黄色のカードを取り出す。ずっと自分を支えてきた、自分のライダーズクレストが描かれたもの。

 

〈FINAL ATTACK RIDE──DE DE DE DECADE!〉

 

 跳んだディケイドは五枚の黄色のカードで作られた円を四つ通り抜ける。その蹴りはオーマジオウが咄嗟に張った時計型バリアを破り、本人にも若干のダメージを与える。

 

 隙ができた。ディケイドはすぐにジオウに近寄る。未だに悪戦苦闘中だった。

 

「これを使え」

 

「え?」

 

「それと一緒にな」

 

 投げ渡されたのはマゼンタカラーのライドウォッチ。形は基本的なものやグランドジオウ、ゲイツリバイブなどと異なっている。

 

 ジオウがキャッチしたのを見るとすぐに、ディケイドはオーマジオウの元へ駆けていった。

 

 ジオウはその指示の通り、ドライバーにディケイドウォッチを装填して回す。

 

〈アーマー・タァイム!〉〈"ディケイド"ォ〜!!〉

 

 ジオウ・ディケイドアーマー、継承。そしてウールから渡されたウォッチを更にディケイドウォッチに装填する。

 

〈ファイナルフォーム・タァイム!カ・カ・カ・カメェーンライダァー!〉

 

 ディケイドアーマーの顔と胸と両肩のモニターが変化する。顔は交差した二本の炎を複眼とした仮面が、右肩には"セイバー"、胸部から左肩にかけて"ブレイブドラゴン"の文字が表示される。

 

 未だ次々に現れる化物と戦っていたウォズはその姿を一目見ると声を張り上げる。

 

「祝え!!」

 

「えっまた祝うの!?」

 

「未知なるライダーの力を継承した時の王者、仮面ライダージオウ・ディケイドアーマーセイバーフォームが誕生した瞬間を!」

 

 本には載っていないので、アドリブである。

 

〈ライド"ヘイセイバー"!〉

 

 長剣、ライドヘイセイバーを手に喚び出して構えるジオウ。ウォズの祝福連発に少し困惑しつつもオーマジオウへ注意を戻す。

 

 ディケイドと組み合う背中に斬りかかる。ヘイセイバーは烈火をまとい、オーマジオウへ多大なダメージを与える。

 

「……予想以上の力だな」

 

 ディケイドを掌底で吹き飛ばし、ジオウの一手一手に注意する。ジオウの攻撃は当たらない。いずれオーマジオウは行動パターンを見切り、ジオウへの反撃を開始するだろう。

 

「ま、やっぱりそうなるか」

 

 ならやるしかないよな、とディケイドは言い訳するように呟いた。

 

〈ZERO-ONE!KAMEN RIDE──〉

 

 ケータッチ21のライダーズクレスト、その内の一つをタップ。すると黄色と赤色、二体のホッパーライダモデルが現れる。その二体はオーマジオウに跳びかかった後に融合し、一体のライダーへ変身していく。

 

〈──ZERO-TWO〉〈It's never over.〉

 

 ディケイドが召喚したのは、人とAIが共に歩む証、仮面ライダーゼロツー。

 

 ディケイドとゼロツーはすぐさまオーマジオウの元へ跳躍。一糸乱れぬ動きでオーマジオウに攻撃し、いつの間にか両腕を捕縛する。

 

「何をするつもりだ……!?」

 

「さっき言ったな、俺に報いを受けろと。今がその時だ!」

 

 オーマジオウはディケイドの行動の意図を悟ったのか、拘束された腕からエネルギーを放出して引き剥がそうとする。しかし、そうしてもディケイドとゼロツーは一瞬姿がブレるだけで元の位置に戻っている。

 

「ソウゴ、コイツを俺ごと倒せ!」

 

「俺ごとって……まさか」

 

 旅の終わりとは、そういうことだったのか。

 

「駄目だ! そんなことしなくたって──」

 

「そんなこと言ってる場合か!」

 

 ゼロツーの「複数の可能性を同一世界上に展開する能力」でどうにか捕らえ続けているが、それもいつまで持つか。

 

 膠着状態が続く中、光弾がジオウとオーマジオウの間を通過する。その方向を見ると、立っていたのは一人の少女。

 

「やめて常磐君! "ソウゴ"!!」

 

 有日菜だ。ファイズフォンXを震える手で構えている。ジオウもオーマジオウも思わずその姿に仮面の下で目を見開いた。

 

 未だ強化された化物に手こずっているアナザーディケイドは「アイツ……!」とすぐさま彼女の元へ駆け出す。ファイズフォンXを下げさせ、更に身体も下げさせようと踏ん張る。

 

「何をしている!」

 

「何なのあんた!!」

 

 あっ今の俺怪人じゃん。でもこの力持ってるのバレたくないしどうしよう。

 

 困ったアナザーディケイドは一瞬で言い訳を考え、アナザーディエンドを指差す。

 

「俺はだな、アイツが喚び出した怪人でな──」

 

「何でアナザーディエンドが!?」

 

「更に混乱させてどうすんだ!?」

 

 ごめん。アナザーディエンドの泣き言にアナザーディケイドは心の中で謝った。

 

「存分に戦えソウゴ! 勝てるのは今だけだ!!」

 

 最後にそれだけ言って、アナザーディケイドは有日菜を抑えるのに集中した。そうでもしないとキツい。変身するかもしれないし。

 

 更に悩みが深まるジオウ。

 

「お前、最高最善の魔王になるんだろ!!」

 

 ディケイドの再度の言葉。

 

「……わかった」

 

 左手の親指をディケイドライドウォッチのスターターに添える。

 

「物語の結末は、俺が決める」

 

 なんでか、ふと口から出てきた謎の言葉。その言葉に応えるべく、セイバーウォッチは輝いた。

 

〈カ・カ・カ・カメェーンライダァー!〉

 

 聞こえる音声に、ディケイドは頷く。そして足を更に踏ん張り──

 

〈FINAL ATTACK RIDE──ZE ZE ZE ZERO-TWO!〉

 

 バックルがカードを読み込み、ディケイドとゼロツーの足とホッパーライダモデルが一瞬重なる。踏ん張っていた足はオーマジオウを空へ蹴り上げる。

 

 ディケイドとゼロツーは空中のオーマジオウに何度も何度も蹴りを喰らわせる。反撃する暇も、ドライバーに触らせる暇もないほどの頻度で。

 

 そして最後に、ジオウが待つ方向へオーマジオウを蹴り押す。

 

〈ファイナルアタック・タイムブレェーイク!!〉

 

 ジオウはヘイセイバーをX字に振るい、炎の斬撃を放つ。その火炎はセイバーの複眼を形取り、オーマジオウに直撃する。

 

 二つの強力な必殺技をその身体で受け止めたオーマジオウは荒野を転がっていき──

 

 

○○○

 

 

 数十年ぶりに地面へと転がったオーマジオウ。その胸にあるのは怒りや悔しさではなく、納得だった。

 

「良くやった」

 

 おそらくあのソウゴには、自分が持たないものがあった。共に未来を歩む仲間。

 それは真実のソウゴが得られなかったもので、得なければならなかったもので。

 

「これでいい」

 

 それを持ち得ず、果てには他者からそれを奪った自分が負けるのは道理だった。なんと、自分の愚かなことよ。

 

「だが、忘れるな」

 

 気まぐれに、警告してやりたくなった。こんな最低最悪な魔王になるなと。だがそうなる可能性は満ちあふれているのだと。

 

「お前は、俺だ」

 

 柄にも合わない警告。そんな自分がおかしくて、笑ってしまう。笑っているうちに、限界が来て──

 

 

○○○

 

 

 ──言葉をいくつかと笑い声を残して、爆散した。同時に化物達も粒子に還っていく。

 

 有日菜は頬を濡らして崩れ落ちる。アナザーディケイドがそれに寄り添う。

 

 校舎で、荒野で化物達と戦っていた者達は歓喜する。ソウゴも変身解除し、ふぅと息を吐く。

 

「……どうしてだ」

 

 だが、その中で一人。喜びでも安堵でもなく、哀しみでもなく、一人だけ信じられないという顔をしている。真実のソウゴを打倒したことではない。もっと個人的なこと。

 

「どうして……!」

 

 ソウゴの肩が一人の男に掴まれる。門矢士。

 

「どうして俺を終わらせなかった……!!」

 

「いやさっきのはお前がヘタレただけ──」

 

「違う。あの時俺は本気で、奴と共に死ぬつもりだった」

 

 飛流の反論を静かに否定し、ソウゴが持っているウォッチを奪い取って鼻の先に突きつける。

 

「どうして俺の、ディケイドの物語の結末を変えた」

 

 ソウゴはウォッチを奪い返す。

 

「さっき言ってたじゃん。仲間がいる限り俺は最高最善の魔王になれるって。アンタも俺の仲間だ」

 

「お前を破壊しようとしたのにか。お前だけじゃない、他の生徒達だって巻き込もうとしたのにか」

 

「……それでもだよ」

 

 ソウゴは士から目を逸らさずに告げる。士はその力強さに目を逸らす。

 

 言いたくなかったが、と思いながらも士は俯いたまま最後の札を切る。

 

「俺が破壊されていれば。お前の世界もアイツの世界も、融合した世界全てが元通りになったのにか」

 

「やはりライダー大戦を再現するつもりだったのか」

 

 大体そんなところだ、と飛流に返す士。ライドブッカーを剣に変形させてソウゴに柄を差し出す。

 

「やるしかない。俺か世界か、二つに──」

 

「その必要は無いよ、俺」

 

 カラン、と軽い音がする。ライドブッカーが地面に落ちたのだ。

 

 急に現れてライドブッカーをはたき落としたのは、オーマジオウ。だが真実のソウゴではない。先程大樹が喚び出したオーマジオウだ。隣には大樹がいる。

 

「二つから一つを選ぶ必要はない。二つとも取れるんだから」

 

「元はと言えば、お前が──」

 

「話は後で。俺、セイバーウォッチを貸してくれる?」

 

 ソウゴはオーマジオウに言われた通り投げ渡す。何か、いける気がした。

 

「融合した二十の物語。彼らの結末は破滅じゃない」

 

〈セイバー!〉

 

 オーマジオウがウォッチを起動すると、落ちたままのライドブッカーからカードが十七枚飛び出していく。ソウゴとBからもカードが生成されて飛び出していく。

 

 二十枚のカードは一旦円になって回った後、遠く遠く飛び去っていった。

 

 すると光が一瞬世界を包みこみ、その直後に荒野が街へと戻っていく。

 

「これは……」

 

「戻った、のか」

 

「──そうみたいやなァ」

 

 その声は。その少しムカつく関西弁は。

 

「C……!」

 

「エニグマ改で見てきたけど、アンタの世界も、他の世界もみィんな元通りや」

 

「あっそうなんだ──ってええ!?」

 

「エニグマが復活しているだと……!?」

 

 飛流は頭を押さえてふらりと倒れそうになる。そんな主人に急に現れたカッシーンが肩を貸す。便利。

 

「それにしても、まさか世界の再生までできるとはな……」

 

「彼の助けでどうにかね」

 

 アナザーディケイドの声に応えたオーマジオウ。その手のひらの上のウォッチにヒビが入り、赤いドラゴン──ブレイブドラゴンへと姿を変える。ブレイブドラゴンは空に吠えて、滲むように現れた異世界へと消えていった。

 

 彼とはまた会えるだろう、遠くない未来で。

 

「これで良し、と言いたいところだけど」

 

 消滅するセイバーウォッチを見つめていたオーマジオウが声を上げる。

 

「もう一人、物語の結末を変えなくちゃいけない人がいる」

 

 オーマジオウの赤い視線の先にいたのは、先程まで若き自分と言い争っていた男。

 

「あなただ、門矢士」

 

「ソウゴのせいで変わったんじゃなかったか?」

 

「今の物語はね。でもあなたの心は変わってない。続いた物語の中、通りすがった世界でまた命を燃やし尽くしかねない」

 

 士は視線を逸らす。図星か。大樹は呆れたように溜息を吐く。

 

「だからさ、叱らせてもらうね」

 

 かつて叔父から受け取った言葉だった。

 

「寂しい時は、痩せ我慢せずにちゃんと寂しいって言いなよ。言う前から諦めるな! 仲間から、自分から逃げるなよ!」

 

 でもそれは今、自分の言葉だった。

 

「……お前が言えたことか」

 

 士が言いたいのは自分に命じた破壊への非難ではなく、彼が選んだ王道への犠牲。もちろんオーマジオウは言葉の意図をわかっていて。

 

「俺は良いんだよ、これで」

 

 ネガティブな言葉なのにポジティブに聞こえる不思議な口調だった。

 

 オーマジオウは時空に裂け目を入れる。その先に見えるのは古びた建物。ちょこんと置かれた小さな看板には『光写真館』。

 

 外堀を埋められた。

 

 だが士は最後まで抵抗するつもりだった。

 

「……元はと言えばお前がこの役割を与えたんだろ。『その身を犠牲に世界を救わないか』ってメッセージとともにな──」

 

「いや言ってないけどそんなこと」

 

「は?」

 

「え?」

 

 見つめ合う二人。片方は仮面で見えないが、双方ともに困惑の表情を浮かべていて。

 

「お前じゃなかったのか」

 

「元々士にやってもらおうとしたのは、真実のソウゴの探索と選定された"俺"達の残滓の回収だけだったから」

 

「ならどうしてお前のメッセンジャーは……」

 

「……これ以上俺の力が消耗するのを抑えようとしたのかもね」

 

 余計なお世話だ、とオーマジオウは吐き捨てた。自分の力よりも、仲間の命の方が大切なのはわかっていただろうに。

 

「これでわかってくれたと思うんだけど、俺は士に生きててほしいんだ」

 

「……傲慢だな、お前は」

 

「だって俺魔王だし」

 

「違いない」

 

 士はようやく笑って、時空の裂け目へと歩き出す。

 

 そしてマゼンタカラーのドライバーを取り出して腰に押し付けようとするが──

 

「ここまで来て逃げるのは良くないと思うな、士」

 

「またか! またお前は……!」

 

 ──その手にドライバーは無かった。その代わりに大樹の手に握られているのはディケイドウォッチ。

 

「取引はどうした!」

 

「何を言ってるんだい士、僕は君が写真館に帰る邪魔なんてしてないけど? ほら、王様君」

 

 大樹が蚊帳の外だったソウゴにウォッチを投げ渡すと、二つのウォッチは一つに融合する。

 

「二つのウォッチが……一つに……!?」

 

「それは士がまたこの世界に来れるようになったら、返してやってくれたまえ」

 

「海東ォ……!!」

 

「はいはい、行くよ」

 

「クソぉまだだ!」

 

 残された左手でケータッチ21を操作しようとする士。しかしその切り札も取り上げられる。

 

 持っていたのはチューリップハットの男だった。いつ現れたのかわからないその男は、士に笑いかける。

 

「鳴滝……」

 

「ディケイド、私が開発したケータッチ21は役に立ったかな?」

 

「ああ。だから返してく──」

 

「悪いが断ろう。君は夏海君やユウスケ君に会うべきだ」

 

「……四面楚歌だ」

 

 何を今更なことを、と鳴滝も大樹に加わる。

 

 じゃあね、と大樹は士のことを押しながら時空の裂け目へ消えていった。

 

 それを見届けたオーマジオウは長く息を吐き出した。これで俺のやるべきことはひとまず終わりだ。

 

「さて、俺も戻ろうか」

 

「待って!」

 

 背を向けたオーマジオウに呼びかけるソウゴ。

 

「俺もなれるかな、あなたみたいな最高最善の魔王に」

 

「…………どうかな。でも一つだけ言えることはある。

 俺みたいにならない未来を創ってくれよ」

 

 そう言い残して、オーマジオウは消えた。

 

 三人のソウゴは顔を見合わせる。その周りに、皆集まってくる。

 

「……とりあえず、片付けしよっか」

 

 

○○○

 

 

 校内及び校庭の片付けを終え、Cがシェルターも回収し終えたらすっかり夕焼けが綺麗な時間になった。それぞれの居場所に帰る時間だ。

 

 校門。エニグマ改に二台のライドストライカーを接続するC。Bとミサは荷物を括り付けている。ソウゴはBに近寄って、借りていたものを差し出した。

 

「これ、ありがとう」

 

 オーズウォッチを受け取ったBはソウゴの手を握って笑う。ソウゴも握り返した。

 

「出会えてよかった。もう一人の俺と。王とは何なのか、再確認できたしな」

 

「どうするの、これから」

 

「なるようになるさ。……ま、ミサがいればなんでもいい」

 

 そういうことや、とミサも快活に笑う。

 

「お前も挨拶ぐらいしろよ」

 

「これの調整めっちゃ大変なんやてェ……」

 

 作業を中断させられるC。頭を軽く掻きながらソウゴに向き合う。

 

「まぁなんつゥか、迷惑かけて悪かったなァ」

 

「でもCがいなかったら皆のこと守れなかったかもしれない。ありがとう」

 

「そりゃどォも」

 

 そういえばさ、とソウゴはふと湧いた疑問を問う。

 

「何でCって王様になりたいの?」

 

「決まっとるやろ、ラブアンドピースや」

 

 悪魔の科学者の一番弟子を名乗る人間らしからぬ台詞に、ソウゴは少し首を傾げる。それを気にせずCは続ける。

 

「科学の力で、愛と平和を胸に生きられる世界をビルドする。それが俺のなりたい王の形や」

 

「なれるといいね」

 

「ああ」

 

 Cは笑って、エニグマ改へ戻っていく。Bとミサは既に自分達のライドストライカーに跨っていた。

 

「もう行けるか?」

 

「お前が中断させたんやろ!? ……それにしてもニケツか、俺もそんなベストマッチなヤツ欲しいわァ」

 

 ぼやきながらも三分で調整を完了させるC。ヘルメット付けェ、と自身も被りながら二人に促す。

 

「じゃあな」

 

「またなァ」

 

 エニグマ改のブースターが火を吹き、三人は空へと飛んでいった。消えていくエニグマ改を見届けるソウゴの背中を、ゲイツと有日菜とウールは見ていた。三人は昇降口に繋がる長い階段の下側にいた。

 

「それにしても気になるなぁ。『お前は俺だ』っていう、真実のソウゴの最期の言葉」

 

 ウールの小さな呟きに、有日菜は小さな声で応える。

 

「……私には、戒めに聞こえた。俺みたいになるなって」

 

「どうだかな。……まぁ、安心しろ。ソウゴが最低最悪の魔王になるようだったら、俺が倒してやる」

 

「うん、頼むよ。救世主サマ」

 

 聞こえてたのか。三人は少し固まる。空気を変えるために真っ先にゲイツは絡みにいく。

 

「オイお前、愛と正義のタイムパトロールみたいにちょっと馬鹿にしただろ」

 

「いやしてないよ、本気だよ本気」

 

「お前そういうとこだぞ──」

 

 じゃれつく二人。ちょっと笑いながらその様子を見る二人。

 

 そんな四人を見るのはオーラ、スウォルツ、飛流。三人は階段の上側にいた。服装は学生服とスーツのままだ。

 

「……ウールは?」

 

「思い出さないなら、思い出さなくてもいいだろう」

 

 スウォルツは何を思っているのか、オーラにはわからなかった。

 

「これからお前達はどうするんだ」

 

「どうするって……」

 

「俺はとりあえず、年度いっぱいは教師を続けるつもりだ」

 

 スウォルツの言葉に飛流は眉を上げる。

 

「意外だな。タイムジャッカーに再就職するもんかと」

 

「教師もやり甲斐があってな。あとタイムジャッカーは、職業ではない」

 

「ほぉ……で、お前は?」

 

 オーラは答えを出せずううんと唸る。咄嗟にスウォルツがフォローに入る。

 

「まぁオーラは俺と違ってまだ高校生だ。進路はいくらでもある。おいおい考えればいいだろう」

 

「……教師みたいだな」

 

「みたいではなく教師だ」

 

「……教師みたい」

 

「お前まで言うのかオーラッ!?」

 

 こっちもこっちでわちゃわちゃしだす三人。

 

 そんな七人を見つめるのは昇降口の前にいるゴロウ、そして屋上にいるウォズ。ウォズは跳び降りてゴロウの隣に着地。ビビるゴロウにウォズは問う。

 

「混ざらなくて良いのかい?」

 

「……いい、です」

 

 ボソリと呟かれた返事にウォズはそうかい、と返して続ける。

 

「でも君には勇気がある。その使いどころは見極めた方がいい」

 

 そう言い残して、ウォズは主人の元へと馳せ参じた。ゴロウは少しその背中を見つめた後、決意したように頷いた。

 

 

 

 

 

「お腹空いたねー」

 

「ああ。特にツクヨミは早急に食べさせないとな」

 

「さっきちょっと食べたし大丈──」

 

 くぅ。有日菜のお腹が小さく鳴った。そりゃ当たり前である。むしろ普通に動けてるのがすごい。ライダーとはいえども。

 

「……付き合ってよツクヨミ。おじさん食べ切れないぐらい料理作りそうだし」

 

「……仕方ないなー、行ってあげる」

 

 よし、とソウゴとゲイツは目線を交わした。

 

「僕もいいですか?」

 

「もちろん。なら折角だし皆で食べない?」

 

「それはいいがどうする? 流石の順一郎さんも、こんなに大勢の料理をすぐには出せないだろ」

 

「バーベキューはどうだい、我が魔王」

 

「あ、ウォズ。来るの?」

 

「勿論だとも」

 

「タダ飯タカリに来やがって」

 

「そんなこと言わないの明光院君」

 

「……流石に食材は買ってこようかな」

 

 ぼやいたウォズの肩をスウォルツが叩く。

 

「なら俺とウォズで買い物に行っておこう。お前達は帰って準備してくれ」

 

「よーし、一ヶ月ぶりのごちそうだー!」

 

 こうしてソウゴ達八人はクジゴジ堂へ仲良く連れ立って行くのだった。

 

 順一郎から一日しか経ってないのを聞かされて、困惑したりほっとしたりしたのはまた別の話だ。

 














「なぁ」

 時空の狭間。Bの世界を目指す中、BはCに話しかけた。ミサはBの背中に抱きついて寝ていた。

「何や」

「どうしてあの時、お前は『またな』なんて言ったんだ?」

 並行世界はその名が示す通りそれぞれの世界は並行線。交わることはほとんどない。

「またAと会う未来がやってくる、そんな気がするんや」

「それだけか」

 Bの追求にCは真面目な顔をして話し始める。

「あのオーマジオウ──世界のソウゴとでもしとくかァ。アイツが気にかかるんや。
 多くの世界の破壊と創造に力を注いだ真実のソウゴ以上に弱体化している、らしい。何でやと思う?」

「……ただの世界の破壊と創造じゃないから、しか思いつかないな」

「なら破壊の後、どう創造したんやろなァ?」

 まさか、Cがオーマジオウを世界のソウゴと呼んだ理由は。

「まさかお前、あのオーマジオウが世界そのものとでも言いたいのか」

「ビンゴ。そりゃ部下も一人のライダーぐらいで済むなら生贄にしたくなるわなァ」

「そして、この事件で更に奴は弱体化した」

「そう。つまりあの世界に何があってもおかしくないっちゅうこっちゃ。現に並行世界から敵がわんさか来てるらしいで」

 聞く限りでもアナザーワールドの白ウォズ、フィーニス。そして真実のソウゴ。まだ行動を起こしていないだけで、まだいるかもしれない。

「なるほどな。そんな奴らが引き起こす大惨事の解決のために、俺達も参戦するってことか」

「まぁするやろ? 俺もするし」

「ああ。世界を救われた借りは世界を救って返す」

「そうこなくっちゃなァ」

 二人は顔を見合わせて笑う。いや笑い事じゃないな、とすぐに前を向く。それでもまた、笑ってしまうのを抑えられなかった。


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EPilogue「2018:多重露光」

 

 真実のソウゴが引き起こした事件が解決してから二週間後。光ヶ森高校では無事に文化祭が行われることになった。

 

 高校最後の行事にソウゴ達は全力で取り組んだ。厳しくつらかった一ヶ月を取り戻すかのように。まぁ実際に取り戻せたのだが、言葉の綾である。

 

 そして当日。あの事件の時と同じ教室に、また同じように屋台が設置されていた。流石に予算は増えなかったが、出し物は二つ増えた。

 

 その一つは太鼓だ。ソウゴの「祭りといえば太鼓じゃない?」という言葉が発端となり、若干の協議がありつつも採用された。部屋の大きさを考えて小さめのものだ。なお盆踊りはしない。

 

 もう一つ、お面だ。一つ一つ手作り。ジオウやゲイツ、ウォズやツクヨミ、ヒリュウ。そしてディケイド。種類こそ多くはないがいいアクセントになった。余談だが、一つだけアナザーディケイドのお面が紛れている。誰が作ったかは言うまでもない。

 

 ソウゴとゲイツは皆よりも早めに来て最終チェックを行っていた。輪投げ、金魚すくい、と見ていって最後の一つでゲイツは溜息を吐く。

 

「これ置くなって散々言っただろ」

 

「だって豪華賞品みたいなの必要じゃん。絶対取れそうもないやつ」

 

 ゲイツがソウゴに詰め寄る。ゲイツが指差しているのはディケイドウォッチ。置かれているのは射的の棚、その頂点。

 

「それに固定してるし取れないよ」

 

「万が一倒れたらどうするんだ」

 

「じゃあゲイツやってみて」

 

「後悔しても知らんぞ」

 

 ゲイツは慣れた手つきで弾を込めて銃を構える。レジスタンス仕込みである。

 

 妙に様になってるなぁ、とソウゴは不思議に思った。

 

 ピンと張られた人差し指が曲がり、弾が射出される。中心に当たるがピクリとも動かない。

 

「……もう一回だ」

 

「お客さんと同じで五発までだからね」

 

「分かった」

 

 撃った。右端に命中するが倒れない。

 

 撃った。左端に命中するが倒れない。

 

 撃った撃った。二発ともディケイドの顔に命中するが倒れない。

 

「ほらね?」

 

 ドヤ顔にムカついたが倒れなかったのは事実。ぐぬぅ、とゲイツは唸る。どう固定したんだ。

 

 そこに有日菜とオーラ、ウールがやって来る。バッグを持っているので登校してそのまま来たようだ。

 

 おはよう、とそれぞれ挨拶する。その中でも注目を集めていたのはやはりディケイドウォッチだった。

 

「大丈夫なの、こんなことしちゃって」

 

「ゲイツだって落とせなかったし大丈夫だよ」

 

「どんな固定の仕方してるの……?」

 

 オーラがゲイツと同じくディケイドウォッチを落とそうと試みたり、皆で一緒に再度チェックをしたりしていると、最後の一人が現れる。

 

「お、おはようございます」

 

 山田ゴロウ。ソウゴがやっていたお祭りに唯一ずっと来ていた生徒。

 

 ソウゴは最初から彼を誘うつもりだったが、その前に彼からやって来た。九十度腰を折った。皆が驚き戸惑う中、最初に声をかけたのはウールだった。

 

「よろしくお願いします、先輩」

 

「……よろしくお願いします」

 

 そんなこんなで仲間入りである。

 

 ゴロウの担当は金魚すくい。挨拶を終えた後すぐに桶に近寄ってポイと器を確認。それが終わったら泳ぐ金魚達を眺めていた。

 

「……大丈夫なの?」

 

「いける気がする」

 

 準備やスウォルツの対処をしているうちに、時間はあっという間に過ぎた。

 

 チャイムが鳴る。さぁ、文化祭の始まりだ。

 

 

○○○

 

 

 最初に来たのは飛流とその友人達だった。いたのはソウゴとゲイツ、ゴロウ。

 

「ツトム久しぶりー」

 

「久しぶり、ソウゴ。……お、太鼓あるじゃん」

 

 軽く太鼓を叩いていると、飛流とアタルが輪投げをやっているのが見えた。輪投げて。

 

「ツトム、射的やろうぜ」

 

「より多く取った方が奢りな」

 

 しれっとゲームに持ち込みながら銃を取る。射的は久々だった。ここ数年は祭りに行っても太鼓をずっと見ているだけだったから。

 

「ならあのピンクのやつ六個分でいいか」

 

「いいぞ」

 

 タクヤも銃を取る。久々だ、と呟きが漏れる。最後に行ったのは十歳の時に姉さんとだった。

 

 二人は同時に撃った。一方はお菓子の箱に、片方は一番上の謎のピンク色に。どちらとも落ちない。

 

「一人五発だよー。あとそれピンクじゃなくてマゼンタね」

 

 マゼンタって何、と二人は顔を見合わせた後に撃った。お菓子の箱が落ちる。

 

 撃った。別の箱がぐらつく。マゼンタはピクリとも動かない。

 

 撃った。箱が落ちる。マゼンタはピクリとも動かない。

 

 撃った。更に箱が落ちる。マゼンタはピクリとも動かない。

 

 勝者──鼓屋ツトム。

 

「何だよあれ全然動かない……!?」

 

「よくあるだろそういうの」

 

 タクヤからワンコインを徴収しつつツトムはお菓子を受け取る。ソウゴにお金を渡しつつ飛流とアタルの方を見る。

 

 飛流は一枚の、アタルは五枚のお面を被っていた。もはやアタルのお面は頭ではなく首まで下がっていてお面の役割を果たせていない。

 

 それでもまだアタルはお面達を見つめていた。

 

「アタルすごい買ってんな……」

 

「オタク魂、なのかもな」

 

「いや紛れもないオタク魂だろ」

 

 飛流の呟きにタクヤはツッコむ。

 

「アイツ何悩んでんの?」

 

「もう一枚買うか買うまいか悩んでるらしい」

 

「どれ?」

 

「あれ」

 

 飛流が指差したのは他の一応ヒーローっぽいのとは全然違うお面。祭りで売っているというよりも変な店で売ってそうな禍々しいお面だった。悪鬼と呼ぶべきか、悪魔と呼ぶべきか。

 

「場違いすぎないかあのお面」

 

「でも買いたいなら買えばいいのにな」

 

「金が無いんだとさ。今使ったら明後日の食玩が買えないらしい」

 

「また争奪戦らしいから悩んでるってところか」

 

 しばらくするとアタルもやってきた。お面は、五枚。皆が肩をポンと叩く。お金貸して、と言わないのが良いところでありいじらしいところであり。

 

「よし、行こう」

 

 アタルは一番に切り出した。多分このままここにいたらこの瞬間の物欲に負ける。

 

 じゃあな。またね。お互いに手を振ったり振らなかったりして飛流達は去っていった。

 

 

 

「どうして握手をお願いされたのかな。ゲイツならともかくさ」

 

「……さぁな」

 

 

○○○

 

 

「ごめんくださーい」

 

 ゲイツが休憩中に来たのはセーラー服の少女だった。同年代に見えた。その顔を見てソウゴはぎょっとする。

 

 ソウゴBの最愛の女、久遠ミサに瓜二つだったからだ。もしかしたら並行同位体かもしれない。

 

「ウチ、顔に何か付いてます?」

 

「あっ、いや別に」

 

 ならええわ、と少女は快活に笑った。そして笑みをそのままにソウゴをジロジロ眺め始める。

 

「何ですか……?」

 

「ふふっ」

 

 少女の手が伸び、少し挙動不審なソウゴの顎の下を撫でる。

 

「かわいいなぁ」

 

「えっ──」

 

 少女の言動がソウゴの初恋センサーに反応、ソウゴの顔がみるみる赤くなる。腰が抜けて崩れ落ちてしまう。

 

「だ、大丈夫かいな!?」

 

「あ、ありがとう」

 

 差し伸べられた手を取って立ち上がる。手はすべすべだった。

 

「何かごめんなぁ。でもほんとかわいくて」

 

「えっと……ありがとうございます?」

 

 ツッコミはいなかった。飛流は帰ったしゴロウはそんなことできない。空気悪くしそうだし、とゴロウは思っている。

 

「ソウゴ、お前ちゃんとやってるか──ってどうした?」

 

 帰ってきたゲイツにゴロウが一連の流れをごにょごにょ。あー、とゲイツは納得したような声を出す。

 

「そうそう、ウチの名前は久遠ミサや。おおきに!」

 

「う、うん!」

 

 そうこうしているうちに少女──ミサは去っていった。

 

「……何しに来たんだろ」

 

「道聞きたかっただけ、らしいよ?」

 

「んなわけあるか!?」

 

「あと実家のお好み焼き屋の紹介してた。大阪の」

 

「二階でやれ!」

 

 なお補足しておくと、京都・大阪への修学旅行を控えた二年生の持ち場が二階なのである。

 

 

○○○

 

 

 その後ちょくちょく客が来たり来なかったりし、昼食を終えて午後。

 

 ウォズがやって来た。一人の子供を連れて。

 

「何だその子は」

 

「ここを探して迷っていたようでね」

 

「ありがとう、お兄ちゃん」

 

「どういたしまして」

 

 ウォズは子供の頭を撫でると、部屋を見渡してお面を注視する。

 

 ライダーウォズのお面を見つけると、顔を綻ばせた。

 

「これをいただけるかな、我が魔王」

 

「うん。気に入ったの?」

 

「勿論だとも」

 

 お面を受け取ったウォズは早速それを着ける。

 

「ありがとう我が魔王。大切にするよ」

 

 そう言い残してウォズはストールで去っていった。もう少し遊んでいけばいいのに、とソウゴはぶーたれながらも彼が連れてきた子供の方を見る。子供は金魚を見つめていた。

 

 その視界に別のものが入ってくる。ポイとカップ。

 

「……どうぞ」

 

 子供はこくりと頷いて受け取る。椅子に座ってポイを構える。恐る恐るポイを沈め、持ち上げるが大きな穴が空いてしまう。

 

「__た、大切なのは」

 

 新しいポイを渡しながらゴロウは一語一語しっかり話す。

 

「勇気を出すこと」

 

「勇気……」

 

 子供は思いっきりポイを沈め持ち上げる。カップの中には、赤い金魚が。思わず拍手するゴロウ。

 

 そんな二人を見てソウゴは嬉しそうに笑った。

 

 と、その時。ちょっと大きな音がした。何かが落ちたような──

 

「あっ」

 

 振り向くと、ディケイドライドウォッチが無くなっていた。正確には落ちていた。

 

 急いで拾って言い訳をしようと撃ち落とした人物の方を向く。その顔を見て、ソウゴは目を見開く。

 

「まったく、こんなことに使いやがって」

 

 嫌味を言いながらも、彼は笑っている。

 

 後ろにいる連れであろう、白いコートの青年。オレンジのシャツの上に、緑色のチェック柄の薄い上着を羽織った青年。そして妙齢の女性。彼らも笑っている。

 

「返してもらうぞ、俺の物語を」

 

 差し出された掌に、ソウゴも笑ってそっとウォッチを置いた。親指がウォッチを起動して、封じられた力が元ある場所へ戻っていく。

 

「……良かった」

 

 門矢士にかけたのはそんな言葉だけだった。

 

 そんな言葉で十分だった。

 

 その言葉が聞こえたのか、士はマゼンタカラーのカメラを片手で構えた。カチリ、と小さな音が鳴る。

 

 レンズを通した常磐ソウゴの周りには、たくさんの仲間がいた。その中には士も混じっていて。

 

 また士は笑うと、自分のお面を買って仲間と一緒に去っていった。

 

 彼の旅は、終わらない。

 

 

○○○

 

 

 あれが仲間か。ジオウのお面を被った子供は金魚片手に思索する。

 

 あの様な尊いものを破壊してきたという自戒の苦しみと、その概念を良く知れた喜びとが共存している。

 

 何故自分が生を拾ったのかは未だ分からない。だが意味はあるに違いないのだから、と今日ここに来た。意味はあった。

 

 この生は罰だが祝福でもある。敗者には罰を、求める者には祝福を。

 

 この命がどこまで保つかはわからないが、来たる終わりまでは苦しみ、楽しませてもらおう。

 

「お前の描く新たな未来を魅せてもらおう。"俺"」

 





 ついに完結しましたね。まだカットシーンや間話がありますが。
 この作品は2021年の3月初めから4月末にかけて執筆されました。要素だけつまんで別作品を書く、という選択肢もあったのかもしれませんが、スウォルツ先生が良すぎたので書かざるを得ませんでした。

 では、「NEXT TIME 仮面ライダーツクヨミ、トゥルース」でいずれまた。


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ボーナス・コンテンツ
EP FINAL・カットシーン


 ジオウに変身したソウゴと、ディケイド・コンプリートフォーム21に変身した門矢士を合わせた五人で攻撃を仕掛ける。

 

 が、真実のソウゴはその場から動くことなく俺達三人を吹き飛ばし、代わりに化物を何体か引き寄せる。

 

「お前達はこの者らと遊んでいるがいい」

 

 真実のソウゴはそう言うと化物達にエネルギーを注ぎ込んでいく。化物達の筋肉は更に盛り上がり、体色は灰色から黄金になり、禍々しい角が一対生えてくる。

 

 変貌した化物はエネルギーの供給が終わるや否や俺達に襲いかかり、ソウゴと門矢士、真実のソウゴから引き離していく。

 

 その勢いを止めようと目の前の化物に拳を入れる。しかし拳は筋肉に跳ね返され、化物そのものも怯む様子は無く進み続ける。

 ならばと掌を胸に当てて光弾を何発か撃ち込む。これでようやく止まるが代わりに鉤爪を振り回す。

 

 当たらないように回避していると肩が何かにぶつかる。アナザーディケイド──スウォルツの肩だ。スウォルツの肩もジオウ・プトティラアーマー──ソウゴBの肩にぶつかった。

 

「……包囲されてないか?」

 

「いや、後ろには化物はいない」

 

「まだ、な」

 

 スウォルツはチラリと背後を見る。そう遠くない場所でウールと気絶したツクヨミ、そして二人を守るウォズが化物達と戦っている。

 

「ここでコイツらを倒す。意見は求めん」

 

 スウォルツは一方的にそう言い放つと、拳から光剣を生やして強化された化物に斬りかかる。

 続いてソウゴBも右腕から生えた紫色のヒレで化物に襲いかかる。

 

 二人の相手の筋肉がざっくり斬れる斬れる斬れる。ある程度再生しているとはいえ、確実にダメージを与えられている風に見える。

 スウォルツの斬撃の方がより深く裂けている。オーマジオウの力の残滓の影響だろうか。

 

 とりあえず俺は光弾を撃っておいたが、然程効いている様子はない。

 

 やっぱり剣か。さっきみたいに殴っても効かないだろうしな。

 

 そう判断した俺はアナザーディエンドの力でガンマイザー・ブレードを喚び出す。異世界の十五体の守り神、その一体。その姿は太い大剣だ。

 

 更に召喚するのはグレングラファイトバグスター。狩猟ゲームのラスボスである龍戦士。

 グレングラファイトは背から得物であるグレングラファイトファングを引き抜き、化物の腹を切り裂く。

 

 俺もブレードを化物に振り抜く。化物の腕が吹っ飛ぶ。胸を狙ったはずなのに。当たっていれば流石の化物も死んでいたはず。

 

 くそ、重い。思わず舌打ちしてしまう。アナザーディエンドに向いていない武器だった。

 

 アナザーディエンドの基本的な戦術は遠距離攻撃と召喚怪人、オーロラカーテンなどでの撹乱及び支援。今回のように真っ向勝負ばかりなのがおかしいんだ。

 

 でもそうしなければ負けてしまう。そう言い聞かせてどうにか大剣を持ち上げ、振り下ろす。

 

 化物の頭が弾け、倒れる。爆発はしなかった。

 

 ようやくか、と重すぎる大剣を下げる。とその瞬間、グラファイトに突き飛ばされる。

 

「お前、何を──」

 

 顔を上げると、化物が化物を食べている光景が見えた。一分も掛からずにペロリと平らげると、倒れているグラファイトにもその牙を向ける。

 不味い、と俺はグラファイトを消滅させる。

 

 助けてくれたのに、申し訳なかった。

 

「コイツら、共食いするぞ!」

 

「まさかあの言い訳が本当になるとはな……」

 

「えっ何だそれ」

 

「悪いな、独り言だッ!」

 

 スウォルツは光剣を化物に突き刺す。光剣が更に輝いたその瞬間、スウォルツは光剣を勢いよく引き抜く。

 

 その直後、化物は爆散した。

 

「エネルギーを流し入れて内部から爆発させたのか」

 

「ああ。ついでにオーマジオウの力の一端も回収しておいた」

 

「ちゃっかりしてん、な!」

 

 少し話そうとする間にも、化物は襲いかかってくる。

 Bの方を見ると、奴も奴で苦戦している。

 

「外部から力は奪えないのか?」

 

「できたらやっている」

 

 そりゃそうか。

 

「なら役割分担して撃破した方がまだいいか」

 

「……役割?」

 

「俺とBで妨害に徹する。そしてお前が全部倒す」

 

「俺だけ負担大きくないか」

 

「オーマジオウの力の一端を受け取れるんだから安いもんだろ」

 

「正直言って今の俺にはその力は必要無いんだが……」

 

 その時、誰かが通り過ぎて行った。スカートは控えめに広がり、そこから筋肉の付いた脚が覗いている。

 

「えっ──」

 

「ちょっ──」

 

「やめて常磐君! "ソウゴ"!!」

 

 月読だ。ファイズフォンXを二人のソウゴに向けている。

 

「アイツ……!」

 

 スウォルツはすぐさま彼女の元へ駆け出す。ファイズフォンXを下げさせ、更に身体も下げさせようと踏ん張る。

 

「何をしている!」

 

「何なのあんた!!」

 

 急な質問に困ったらしいスウォルツは何故か俺を指差す。

 

「俺はだな、アイツが喚び出した怪人でな──」

 

「何でアナザーディエンドが!?」

 

「更に混乱させてどうすんだ!?」

 

 叫び返したがスウォルツはスルー、ソウゴに一言言ってから月読を抑え込むのに集中し始める。

 

 ウォズは何をしている、と後ろを向くと化物の鉤爪が俺の胸を抉る。軽く吹っ飛ばされながらも、ウォズが大量の化物に囲まれている様子がかろうじて見えた。

 

 ヤバい。早く加勢しなければ。

 

 焦る俺に駆け寄ってきたBが問いかける。

 

「オイ加古川、お前怪人喚び出せるんだよな」

 

「ああ」

 

「ヤミーはどうだ」

 

「……まさか」

 

 右腕のメダガブリューZ。オリジナルのメダガブリューと同じ能力が備わっているのならば。

 この戦局をひっくり返せる。

 

「できるのか」

 

「やるさ。俺はアイツから返して貰わなきゃいけないものがある」

 

 仮面の下でBが笑ったように思えた。

 

「わかった」

 

 俺はガンマイザー・ブレードを化物の方へ投げ捨ててクワガタヤミー、カマキリヤミー、バッタヤミーを喚び出す。

 無理矢理三体喚び出せたが、そのせいで耐久力は無い。まぁ、耐久力は必要無いが。

 

 Bは三体のヤミーを一気に斬り裂く。血のように噴き出したセルメダルをメダガブリューZはバリボリと貪る、貪る、貪る。

 

 プトティラウォッチが発光し、メダガブリューZが肥大化していく。紫色の怪しい輝きを増していく刃。

 

〈フィニッシュ・タイム!〉〈オォーズ!〉

 

 Bは天に吠える。そして荒々しくドライバーを回した。

 

〈プトティラァ〜ノッ!〉〈タイムブレーク!〉

 

 化物達の足が凍る。与えられた力で溶かそうとするが、もはや手遅れだ。

 

 奴らの身体を、紫の巨大な刃が断った。

 

「ぐっ……」

 

 化物の切れた上半身がずるりとズレると同時にBも膝をつく。アーマーも解除されてしまう。

 

 それでもBは立ち上がり、よろめきながらウォズの方へ向かおうとする。

 

 やっぱりお前も、常磐ソウゴだな。

 

 肩を貸してやると、Bは意外そうにこっちを見た、ように思えた。

 

「行くぞ」

 

「ああ」

 

 ジカンギレードの銃弾と掌の光弾で牽制しつつ、俺達はウォズに加勢した。

 

〈ファイナルアタック・タイムブレェーイク!!〉

 

 化物との小競り合いの最中。その音声と大きな爆破音で、俺はこの戦いの終焉を知覚した。

 



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資料集

 

○仮面ライダー

 

・仮面ライダーディケイド激情態(ネオディケイドライバーVer.)

〈KAMEN RIDE__DECADE!〉

身長:192.0cm

体重:89.0kg

パンチ力:20.0t

キック力:45.5t

ジャンプ力:48.2m(ひと跳び)

走力:3.0秒(100m)

登場話: EP2「キャスト集合2018」、EP3「増えた1日2018」、EP4「最後の校則2018」、EP FINAL「2018:インサイド・アウト」

 門矢士がネオディケイドライバーを用いて変身した姿。従来の激情態と違う部分はドライバーのみ。

 スペックは従来と比べて大幅に向上。従来の能力に加え、破壊していないライダーの力もアタックライドカードで行使できるようになっている(現時点では1号〜ゼロワンの世界のライダーのみ)。

 劇中で使用したライダーの能力はカブト(クロックアップ)、オーズ・ブラカワニコンボ(コウラガードナーの召喚)、フォーゼ(シールドモジュールの召喚)、ウィザード・ランドスタイル(ディフェンドの使用。ただし今回は魔法陣型)、斬月・メロンアームズ(メロンディフェンダーの召喚)、スナイプ(コンバットゲーマの召喚・使役)、仮面ライダークロノス(ポーズ&リスタート)、ハイパームテキガシャット(10秒間無敵状態)、エボル・ブラックホールフォーム(ブラックホールの生成)、ジオウ(タイムブレークの発動)、ゼロワン・メタルクラスタホッパー(クラスターセルの召喚・使役)、迅・バーニングファルコン(ゼロワン35話で見せた羽根マシンガン)、滅・スティングスコーピオン(アシッドアナライズの行使)、サウザー(サウザンドジャッカーの召喚及びサウザンドブレイクの発動)、アークワン(スパイトネガの行使)。

 

 

 

・仮面ライダーディケイドゼロワン

〈KAMEN RIDE__ZERO-ONE!〉〈跳ォッ・び上がライズ!ライジング・ホッパァーッ!!__A jump to the sky turns to a rider kick.〉

登場話: EP FINAL「2018:インサイド・アウト」

 門矢士がネオディケイドライバーに『カメンライド・ゼロワン』のカードを装填して変身した姿。スペックは仮面ライダーゼロワン・ライジングホッパーと同等。

 

 

 

・仮面ライダージオウ・タジャドルアーマー

〈タカ!クジャク!コンドル!〉〈タッ・ジャドォルぅ〜!〉

身長:206.0cm

体重:117.0kg

パンチ力:14.7t

キック力:34.0t

ジャンプ力:95.4m(ひと跳び)

走力:4.5秒(100m)

登場話:EP4「最後の校則2018」、EP FINAL「2018:インサイド・アウト」

 ソウゴBがジクウドライバーとジオウライドウォッチ及びオーズタジャドルコンボライドウォッチを用いて変身した姿。

 右腕に装備されたタジャスピナーZが武器。劇中ではジカンギレードも使用している。

 必殺技はギガスキャンタイムブレーク。大量のエネルギーボム(一つ一つに『クジャク』と書かれている)を相手に殺到させる。

 

 

 

・仮面ライダージオウ・プトティラアーマー

〈恐竜王・"オーズ"ゥ!プ・トォ!ティラァ!!〉〈プテラ!トリケラ!ティラノ!〉

身長:213.0cm

体重:125kg

パンチ力:26.6t

キック力:59.4t

ジャンプ力:120.1m(ひと跳び)

走力:4.2秒(100m)

登場話:EP FINAL「2018:インサイド・アウト」

 ソウゴBがジクウドライバーとジオウライドウォッチ及びオーズプトティラコンボライドウォッチを用いて変身した姿。

 武器は右腕全体に装備されたメダガブリューZ。オリジナルと同じくセルメダルを取り込むことで能力を向上することができる。

 必殺技はプトティラーノタイムブレーク。敵の足元を凍らせ、身動きができなくなった隙に巨大化したメダガブリューZで斬りつける。

 

 

 

・仮面ライダージオウ・ウィザードアーマー

〈プリーズ!〉〈"ウィザード"!〉

身長:198.1cm

体重:124.0kg

パンチ力:9.4t

キック力:21.3t

ジャンプ力:35.2m(ひと跳び)

走力:4.8秒(100m)

登場話:EP4「最後の校則2018」

 ソウゴEがジクウドライバーとジオウライドウォッチ及びウィザードライドウォッチを用いて変身した姿。ゲイツ・ウィザードアーマーよりもスペックが向上している。

 ゲイツ・ウィザードアーマーと同じく魔法の行使ができるが、劇中ではテレポートを使用している。

 必殺技はストライクタイムブレーク。劇中では披露していない。

 

 

 

・仮面ライダージオウ・オールドラゴンアーマー

〈ファイナルターイム!〉〈オール・ドォラゴォーン!〉

身長:205.1cm

体重:149.0kg

パンチ力:14.8t

キック力:26.3t

ジャンプ力:42.2m(ひと跳び)

走力:4.2秒(100m)

登場話:EP4「最後の校則2018」 、EP FINAL「2018:インサイド・アウト」

 ソウゴEがジクウドライバーとジオウライドウォッチ及びウィザードオールドラゴンライドウォッチを用いて変身した姿。

 胸部のドラゴスカルZ、両腕のドラゴヘルクローZ、背中のドラゴウイングZ、腰のドラゴテイルZが武器。

 必殺技はフォーメーションタイムブレーク。四つのエレメントを秘めたドラゴン型エネルギーを相手に殺到させる。

 

 

 

・仮面ライダージオウ・ジーニアスアーマー

〈ファイナリィー・タァイム!〉〈超天才!"ビルド"・ジィ~ニアァ~ス♪〉

登場話:NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト EPilogue「21人のジオウ!」

 ソウゴBがジクウドライバーとジオウライドウォッチ及びビルドジーニアスフォームライドウォッチを用いて変身した姿。

 必殺技はジーニアスタイムブレーク。

 

 

 

・仮面ライダージオウ・アルティメットアーマー

〈凄まァじき戦士!"クウガ"ァ~・アルティメェットォ~ッ!!〉

登場話:NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト EPilogue「21人のジオウ!」

 ソウゴKがジクウドライバーとジオウライドウォッチ及びクウガアルティメットフォームライドウォッチを用いて変身した姿。

 必殺技はアルティメットタイムブレーク。劇中では披露していない。

 

 

 

○怪人

 

・化物

登場話: EP1「漂流学園2018」、EP2「キャスト集合2018」、EP4「最後の校則2018」、EP FINAL「2018:インサイド・アウト」

 真実のソウゴが創り出した異世界に蔓延る人食いの怪人。見た目は初級インベスであるが、真実のソウゴによってヘルヘイムの要素は取り除かれている。それによって食することが可能。

 元はフィーニスが生み出したアナザー鎧武の影響で発生したアナザーヘルヘイムのインベス達。アナザーヘルヘイムの蛇であるシルフィーとの交渉で真実のソウゴに譲り渡されたのである。

 

 

 

・黄金の化物

登場話:EP FINAL「2018:インサイド・アウト」(カットシーン含)

 上記の化物が更にオーマジオウの力を注ぎ込まれたことによって強化された怪人。スペックも幹部怪人級となっている。

 

 

 

○アイテム

 

・クウガアルティメットフォームライドウォッチ(※)

・オーズライドウォッチ

・オーズタジャドルコンボライドウォッチ

・オーズプトティラコンボライドウォッチ

・フォーゼライドウォッチ

・ウィザードライドウォッチ

・ウィザードオールドラゴンライドウォッチ

・エグゼイドライドウォッチ

・ビルドライドウォッチ

・ビルドジーニアスフォームライドウォッチ(※)

 

 ソウゴB、C、D、E、F、Kが使用した(※が付いているものは前作「NEXT TIME 仮面ライダーヒリュウ、ファースト」のEPilogueにて使われた)ライドウォッチ。

 真実のソウゴが創り出した異世界で、彼らがこれらのウォッチを使えたのは、自身で力を継承・略奪したものであるためである。

 ソウゴAのグランドジオウライドウォッチは、あくまでも未来ノートの力で世界のソウゴから借り受けたものであるため使用できなかった。

 また、ゲイツのゲイツリバイブとゲイツマジェスティライドウォッチ、ウォズのシノビ、クイズ、キカイ、ギンガミライドウォッチは、真実のソウゴが常磐ソウゴ達の選定を邪魔されないようにするために使用不可能となった。しかし、最低限身を守れるように通常形態のウォッチは使用可能となっている。

 ヒリュウのヒリュウライドウォッチ、アナザータイマー、アナザージオウIIウォッチが使えなかったのは、真実のソウゴが創り出した異世界に入り込むための代償である。どちらにせよ、ヒリュウが使う昭和ライダーの力はオーマジオウの弱点を突きかねないため、代償が無くても使用不可になっていたものと思われる。

 スウォルツがアナザーディケイドに変身できたのは、スウォルツに残されたオーマジオウの力の一片によるものである。

 

 

 

・ファイナルカメンライド オーマジオウ

 門矢士がQuartzerから受け取ったライダーカード。士から海東大樹に譲渡され、彼によって使われた。

 ネオディエンドライバーで用いることで、世界のソウゴが変身したオーマジオウを召喚することができる。しかしドライバーにかける負担が大きく、使用後のネオディエンドライバーは機能を停止してしまった。

 

 

 

・セイバーライドウォッチ

 ソウゴ、ウール、ゴロウの勇気に応えたブレイブドラゴンが姿を変えたライドウォッチ。

 ディケイドライドウォッチと併用することで、ジオウをディケイドアーマーセイバーフォームへ変身させる。

 二人のソウゴの願いを受け、物語の結末を変えた。

 

 

 

○世界のソウゴ

 ソウゴAの世界にもう一人存在する常磐ソウゴであり、TV版仮面ライダージオウの主人公である常磐ソウゴその人。

 しかしTV版と同じく世界の破壊と創造を行ったものの、TV版とはまた違った選択をしており、そのせいかソウゴAにはグランドジオウの力が継承されていない。

 また、「2058:ANOTHER DECADE×BARLCKXS」においてリーダーと大幹部を失ったQuartzerを手下につけている。

 真実のソウゴ以上に力を消耗しているらしいが、彼の選択のせいなのか__?

 





 最初は真実のソウゴをはじめとした21人のソウゴについても全て書こうかと迷ったのですが、キリがないし、A、B、C、D、E、F、K、真実以外は設定もそんなに詰めてないのでやめました。
 あとライダーカードについても全て書くか迷いましたが、激情態の欄に使った力一覧載せてるのでまぁ良いかな、と。


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