DOG DAYS ~桜の花が舞う頃に~(凍結中) (緋奈桜)
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1話 終わりと始まり

現在書き直しております。前回と変わっている部分も多々ありますが、よろしくお願いします。


 3月も下旬となり春を感じさせる爽やかな風が開け放った窓から吹き込む中、身支度を整える姿があった。そこには、茶色が混じった黒い髪の少年がいた。少年は髪の毛が長いため後ろで束ねてから制服に袖を通して昨日の夜に準備しておいたバックを肩にかけ、机に置いてあったブレスレットと携帯電話を手に取り玄関へと向かった。玄関で腕時計とお守りがあるのを確認して友達の家へ向かうために外に出て駆け出した。

 

「遅刻する~」

 

俺は此花(コノハナ) 雪花(セッカ)。日本の紀ノ川市に住み、紀ノ川インターナショナルスクールに通う中学1年生だ。現在爆走中です。理由は単に遅刻しそうだから……とはいってもまだ始業開始までは、まだ30分もあるのだが……。

 

「シンクと約束なんぞしなければよかったな……。それに、ベッキーがいるんだから特に必要ないだろうに」

 

 シンクことシンク・イズミとベッキーことレベッカ・アンダーソンは俺の友人である。2人ともちょっとした出来事で知り合い、今では気軽に話ができるようになった。あの時はいろいろあったなぁ……。

 

シンクの家が見えてきたところで前方からチリンチリンという音と一緒に元気な声が聞こえてきた。

 

「おはよう。雪花」

 

「ベッキー、おはよう~。シンクはまだ出てきてないのか?」

 

「ううん。上々」

 

 ベッキーの声につられて上を向いてみるとちょうどベランダから跳躍しようとしているシンクの姿が目に入った。

 

「おはよう。セッカ!」

 

「おはよう。シンク」

 

 挨拶を交わした後に、勢いよく跳躍したかと思うと、空中でくるくると回転し見事着地を決めた後に跳躍する前に投げていたのか、真上から降ってくるバックをキャッチした。

 

「はい、おみごと~」

 

「あいかわらず、ベランダからの登校かよ」

 

「ははは……」

 

 苦笑いをするシンクをよそに俺たちは学校に向かって歩き始めた。

 

「そういえばさ、明日から春休みだけど2人ともどこかへ行く予定とかあるの?」

 

「ん~父さんと母さん、あいかわらず出張から帰ってこないしなぁ……。僕は里帰りでもしようかなって」

 

そう言ってシンクはガードレールに飛び乗った。

 

「里帰り? イギリスの方?」

 

「そっ! コーンウォールの方。向こうはアスレチックの練習できる場所もたくさんあるしね」

 

シンクは器用にガードレールの上を後ろ向きで歩いていると思っていたら今度はバックを後ろに投げた後、華麗にバク転を決めた。

 シンクはあいかわらず器用だよなぁ。俺なら、確実に足を踏み外してるぞ……。

 

「俺は今のところは誰かと会う予定ないし、久しぶりに山籠もりでもしようかな~」

 

「雪花は今時の若者にしたら山籠もりとか……ホントーに物好きだけどさ、シンクもシンクで相当な、アスレチック好きもとい、アスレチック馬鹿だよね~。」

 

「え? なんで今言いなおしたの? そりゃあまぁ、楽しいからね」

 

「え? 違うのか? まぁ、俺はシンクと違ってただの暇つぶしだよ」     

 

 時代劇に影響されてっていうのもあるけど……やっぱり一番の理由としたら体を動かしたいっていうのが大きいのかもなー。

 

「雪花も山の中で体動かしているんでしょ? だったらシンクと一緒にアイアンアスレチックだっけ? 出てみればいいのに」

 

「そーだよ、セッカ。今年こそ一緒に出ようよ。体育の授業とかを見てると僕としては結構いい線いくと思うんだよねー」

 

「それってアスレチックの大会だろ? おだてられてもアスレチックや大会とかには興味ないんだよな……」

 

「セッカってば、いつもこれなんだもん。例えば、うーん。そう! 腕試しと思ってさ」  

 

「腕試しかぁ……。それはいいかもしれないけど……」

 

「まぁ無理にとは言わないし、出たくなったらいつでも言ってね?」

 

「あいよ」

 

そう、今の俺が……山籠もりで鍛えた俺自身がどこまでいけるのか。その腕試しはしてみたいとずっと思っていた。なんせ、実力を試すにも野生の動物ばかりが相手だったからな。だけど、大会(・・)ってものが気にいらない。そもそも、あの大会は障害物をいかに早く進めるかだしな。俺がやりたいのは時代劇のような刀を使った戦闘がやりたいだけだし。剣道だと、防具とか付けるからなー。爺さんとの稽古はいつも防具無しでやってるから、しっくりこないし。やはり、時代劇の見すぎか……。

 

「実際現代じゃ、そういう機会が全然ないんだよなぁ……」

 

 はぁ……。

 

「「どこか、思いっきり暴れられる場所(機会)があればいいんだけど」」

 

「「え?」」

 

 考えていたことがいつのまにか口にでてしまっていたらしい。しかもシンクと内容が似ていた。

 

「セッカも暴れたいの?」

 

「もって、俺は別に……。ただ、時代劇とかにでてくるような戦場を駆け抜けたいなってね。シンクこそ暴れたいの? いつも街中を駆けまわってるのに?」

 

「紀ノ川市はいいとこだけどさ、ちょっと物足りないというか……。うん。それを聞いて益々思ったけど、やっぱり出ようよ。アイアンアスレチックに!」

 

「いや、だから出ないって」

 

 これでは堂々巡りになりそうだったのでここらで話を打ち切った。いつの間にか学校の目の前まで来ているし、ちょうどいいや。

 

「あぁそうだ、忘れてたよ。」

 

「何?」

 

「ん?」

 

「春休みの最後の3日間。2人とも……あぁ、ベッキーの家はお父さんとお母さん暇?」

 

「ん……どうかな? なんで?」

 

「俺は暇だよ」

 

「その時はうちの父さん母さんが戻ってくるから、一緒に和歌山の別荘に行かないかってさ」

 

「あぁ、本当?」

 

「うん。ナナミもくるんだって」

 

「いいわねぇ、素敵」

 

「シンクのとこって別荘あるのか。てか、ナナミ……?」

 

「あれ? セッカにはどっちも言ってなかったっけ?」

 

「あぁ、特に聞いたことはなかったかな」

 

「ナナミの方は今度別荘に来た時にでも紹介するよ」

 

「シンクの紹介なら、うん。よろしく頼むよ」

 

「それでね。ちょうどお花見の季節だし、お父さんとお母さんが忙しそうなら2人だけでもって」

 

 お花見かぁ……。花見なんて、いつ以来だろ? 朧げだけど母さんと見たときぐらい……か。せっかくだし、行ってみるかな。

 

「そ……そう。でもやぁよ、いつかみたいに私をほっぽってナナミとシンクだけでアスレチック遊びとか、棒術ごっこばっかりとか……ん?」

 

「そんなことがあったのか……。シンク、いくらなんでも誘っておいてそりゃないだろ?」

 

 するとシンクは、目を輝かせて

 

「平気! 前日までにボロボロになるまで特訓しとくから!」

 

「あんまり無茶苦茶しないようにね」

 

「ははは……ボロボロって、やりすぎないようにな」

 

「「「お」」」

 

 そんな話をしているといつの間にか玄関の近くまで来ていたらしい。気が付くとちょうど始業開始の予冷が鳴った。

 

「それじゃあベッキー……それと、セッカも予定確認しといてね~」

 

「うん。メールする~」

 

「俺はついでかよ! まぁ確認するまでもないけどな。大丈夫だよ」  

 

 さぁて、終業式に出ますかねぇ。そういや今日シンクは途中で抜けて空港行くとか言ってたよな……。式は面倒くさいし俺も途中で帰っちまうかな。ついでに空港まで一緒について行くか。

 

 この時近くの草むらからこちらの様子をうかがっている犬がいた。ただし、誰もその犬には気づかなかった……。

 

 

 

 

 よし、帰るか! 出席はとったしどうせ式なんて校長とかお偉い人たちの話を延々と聞くだけだしな。

 

「あれ? 雪花も帰るの?」

 

「おう。調子が悪くてさ、じゃあ先に帰るわ」

 

 と言い訳をベッキーに向けてそそくさと体育館を後にした。教室に戻るまでに先生に会わなかったのはラッキーだった。無事に教室につき、帰る支度をしているとシンクがやってきた。

 

「あれ? どうしてここに……? あぁ、もしかしてサボり?」

 

「バレたか。これから空港なんだろ? せめて友達の見送りくらいはさせてくれよ」

 

「え? もしかして僕をダシに使ったの? でも、見送りはうれしいかな」

 

「悪いな。俺は支度できたから先に外で待ってるわ」

 

「うん。僕もすぐに支度していくよ」

 

 シンクに一旦別れを告げて、玄関まで走り出した。早く行かないと先生に見つかる恐れがあったからだ……。思えばこの時から、もしかしたらずっと前からミスをしていたのかもしれない……。これが、雪花の運命を変える出来事になるなど、この時は露ほども思っていなかったのであった。

 下駄箱に置いてある靴を履いて、教室に忘れているものがないか頭の中で考えながら外に出てみるとちょうどシンクが教室の窓から出てくるところだった。

 

「またかよ。学校ぐらい玄関まで下りてくればいいのに……お?」

 

 ふと前を見るとワンコがこっちに近寄ってきた。首にマフラーが巻いてあるところを見ると、どうやら飼い犬らしい。野良犬だった場合、人に懐いていないと吠えたり、追いかけまわされたり、噛まれたり。と碌な目に遭っていないために、雪花の場合は、まず最初に野生動物かそれとも飼われているかを確認する癖がついていた。

首輪の変わりにマフラーを巻いてるのか? この犬の飼い主は変わってるなー。ん? よく見るとこのワンコ……かわいい……けど、なんで背中に短剣なんて背負ってるんだ? 益々飼い主のことがわからんぞ。でも、かわいい……撫でても平気かな? 噛まれたりはしないよね? よし、撫でるぞ!おぉ、久しぶりに動物と触れ合えたー。しかも、モフモフだー。

 

雪花にとって動物と触れ合える貴重な経験を不意にするなど論外な事なので、シンクが来るまで。と思い撫でているとふいにワンコが上を向いた。撫でられすぎて機嫌を損ねてしまったか!? と内心思いながら、表情には出さずにつられて上を向くとちょうど朝と同じように、だけど今度は学校の窓からシンクが飛び降りるところだった。

 

「ワン!」

 

 先程のワンコが一鳴きしたかと思うと、ワンコの口には先程まで背負っていた短剣がいつの間にか咥えられていた。そして、徐に地面に突き刺した。

 

「へ?」

 

 そう言ったのは雪花自身だったのか、はたまた窓から飛び降りたシンクの方だったのかは解らないが、次の瞬間には、雪花の足元にいろいろな文字が描いてある絵、後で知ることとなる紋章が広がっていた。()()()()()()()()()……。

 これはなんかヤバイ! 急いで離れないと……そう思った時にはもう後の祭りであった。

 

「マジかよぉぉぉ!」

 

「え……えぇ……えぇぇぇ!」

 

「「うわぁぁぁ!」」

 

 こうして、俺とシンクはワンコが開けた穴へと落ちていった。

 

 これが、俺たちの……俺にとっては忘れようにも忘れられない物語の始まりであった。

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いかがでしたか?

拙い文章なので、悪い点などありましたらご指摘宜しくお願いします。





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2話 ここはどこ? え? 異世界!?

 えぇー、俺は只今空にいます。いや……落ちています。はい、落下中です。2()()()1()()で。

 

「「うわぁぁぁぁぁ」」

 

「俺空にいるよ! 浮いてるよ!」

 

 もうパニック状態です。だって、下に広がっている場所がもう大自然だもの。家は? 建物は? あっ! なんかそれっぽい物があった。でも数が少ない? ていうか、島が空に浮いてない? 日本にこんな場所あったかなぁ……。       

 

「こんなことなら滝からのバンジージャンプとかをやっておくんだったぁぁ」

 

「ねぇ、これどうなってるの? それと、バンジーやってたところで関係ないよね!?」

 

「知るかー。俺が聞きたいわぁ! それもそうか……あ、シンク飴なめるか?」

 

「えぇぇぇ! この状況で? くれるんだったらもちろん貰うけど」

 

 俺は現実逃避をすることにした。だって、考えたってしょうがないことってあるよね? 例えば、朝から天気が良いから急遽ピクニックに出かけたけど、帰りに土砂降りに遭って雨具がなかったためにずぶ濡れになって帰ったり……楽しみにしていた遠足の当日に高熱を出してしまって行けなくなってしまったりとか……

そんなことを頭の片隅で思いつつポケットから飴玉を取り出して、手足をばたつかせなんとかシンクのいる場所まで近寄り、飴玉を手渡した。渡した拍子にシンクの手とぶつかってしまい、日頃から手首に付けていたブレスレットが外れてしまった。

 

「あっ……」

 

 落下中ということも忘れて、外れてしまったブレスレットに手を伸ばす。必死にもがくとなんとかブレスレットに手が届き、それをもとあった場所――手首に付け直す。するといきなりブレスレットから桜色――淡紅色の光が溢れ出した。

 

「ごめん! セッカって、えぇぇぇ!」

 

「次から次へとなんなんだぁぁぁ!」

 

 つぶやいた言葉もむなしく俺は桜色の光に包まれた。

 

 

 

 

 気が付くと石碑の前に俺は倒れていた。

 

「いててて、ん? ここは?」

 

 起き上がって改めて周りを見てみると、そこは森であった。ただ、今いる場所だけが少し開けており、ちょっとした公園ぐらいの広さがあった。その真ん中には、桜の木と石碑が建っており、石碑を囲うように周りには色とりどりの花が咲き誇っていた。

 

「ここにも桜ってあるんだ……。てか、もう咲いてるんだ」

 

 などとしみじみ思っていると、自分の置かれた状況をだんだんと思いだしてきた。

 

ええっと、確かシンクと一緒に穴へ落ちて、そしたら空中に投げ出されて……自棄になったから飴でも舐めようと思って、シンクにも飴を渡した時にブレスレットが外れたんだよな。そして、ブレスレットに手が届いたから付け直した……と。うん、そこまでは良い。ん? シンクがいない……が、まぁ問題はブレスレットがいきなり光りだした事だよな。シンクは、頑張ってくれ……

 

「あれ? 今は光ってないのか。さっきの光の色ってどこかで見たことあると思ったらこの桜の花びらと一緒だったんだな」

 

 そういやぁ確かベッキーってこんな感じのファンタジー物語が好きなんだっけ? こんな体験をベッキーに話したら目を輝かせて寄ってくるんだろうなぁ。っと、そういや石碑の前に座りっぱなしだった。なんの石碑かわからないけど、まずいよね。

 

 そう思い立ち上がってから、何の石碑なのかと気になって見てみると石碑には何やら文章が書かれていた。

 

「これ、なんて読むんだよ……。さっぱりわからねぇ……ん?」

 

 石碑には、ほとんどわからない文字? で書かれており全く読めなかったのだが、最後の方に小さな文字で……俺にもわかる文字で書かれていた……そう、(・・)(・・)(・・)で。

 

 

 ――あなたがこれを読んでいるということは帰ってきたのですね……これからあなたには苦難が待ち受けているはずです。その中で、様々な出会いや別れがあることでしょう……中には悲しいこともあるかも知れません。それでも、ここは皆暖かい人達ばかりです。詳しいことはダルキアンに頼んでいるので、まずは桜の木の奥を目指しなさい。すぐに大きなお城が見えてくるはずです。まずは、そこへ向かいなさい。あなたに幸あらんことを願っています。――

 

 

 石碑に書かれていた文字は、風化したのか所々擦れており、わからないところもあった。そのため、誰宛に書かれたものなのか、誰が書いたものなのかわからなかったが、少なくとも日本人に向けて書かれたものということまではわかった。

 これを書いた人が誰に伝えたかったのか解らない……だけど、ここのこともよくわからないしとりあえずダルキアンって人に会えばいいのかな?

 

「まぁ、書かれていた通りにあの奥を目指しますか」

 

そういって雪花は桜の木の奥にそびえ建つであろうお城を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 その頃シンクはというと……。

 

「うぉぉ、飛んでるー」

 

「飛びますよー。ハーランは飛ぶの上手なんです」

 

 戦場の上空をハーランと呼ばれるセルクルの背中に女の子と一緒に乗ってお城に向かっていた。

 

「あ!姫様が、勇者様を連れて帰ってくるであります」

 

「「「おぉぉ」」」

 

 お城から戦場を覗いていた小さな女の子は、目の前に現れたセルクルに乗っている人物を見つけて叫んだ。

 

『今! 大変なニュースが入りました!!』

 

『ミルヒオーレ姫がこの決戦に勇者召喚を使用しました! これはすごい! 戦場に勇者が現れるのを目にするのは私も初めてです! 』

 

『さぁ! ビスコッティの勇者はどんな勇者だ!』

 

 勇者ことシンクはお城に到着した後、メイドの皆さんに着替えさせられてあっという間に颯爽と戦場に降臨していた。

 

「姫様からのお呼びに預り、勇者シンク只今見参!」

 

 

 

 

 放送? 何かの実況と思われるものが聞こえてきたときには雪花はようやく森を抜け出したところだった。桜の木から奥に進んでいくと次第に建物がよく見えるようになってきたので間違ってはいないな……と思いつつ歩くこと約20分。やっと抜けたと思ったら目の前に広がっていた光景に驚いた。

 

「ここは、ホントどこなんですかねー」

 

 目の前にはどうみても日本で見るようなアスレチック広場みたいなんだけど、みんな手に武器を持ってるし……というか戦っていた。その上空には立方体の箱のようなものが浮いており、そこには映像が映っていた。よく見ているとそこから音も聞こえているようだった。

 

「さっき聞こえてきたのはこれかぁ」

 

 さて、どうしよう。ここを突っ切って行かなければ奥の建物につかないし、かといって道が分からないから回り道もできないし……。しょうがない、腹を括りますかー。山で熊から逃げるのに比べたらこの中を駆け抜けるのは楽だよな……きっと。あの時は、ホント焦ったなぁ。これも稽古の内じゃ! とか言いながら山に連れてきて自分は颯爽といなくなるんだもんな。

 

 そう腹を括ってからの雪花の行動は速かった。万が一に備えて捻挫とかしないように軽く準備運動を済ませ、いつも鞄の中に入れて持ち歩いている足袋に履き替えてから建物に向かって一直線に駆け出した。最初のころは人数がまばらだったので軽く避けて進んでいたのだが少し進むと人数が増えてきた。増えてきただけならまだよかったのだが、正体不明の乱入者が現れたことでみんなの意識がこちらに向いてしまった。

 すると、なぜかみんながこちらに向かってくるので避けるのも一苦労となり雪花はいったん足を止めた。

 

 駆け抜けたほうが楽だと思ったのになぁ……失敗だったかも……。でも、ここまで来てしまったらとことん進むしかない……よね……? ん?

 

 立ち止まったことにより、周りの様子がよく見えた。それに伴い今まで見えていなかった物にも気が付いた。なんと、周りの人がみんな頭に獣のような耳が、お尻のあたりには尻尾が生えていた。これには流石の雪花も驚いた。

 

「な……なんで、耳と尻尾が生えているんだよぉぉぉ!」

 

 穴に落ちたり、いきなりブレスレットが光ったり、そして今度は耳と尻尾かよ!? さすがに容量オーバーで頭がパンクするぞ……。もういろいろと諦めた方がいいのかな……。こんなに続いてたら先が思いやられる…

 

「貴様ぁ! 呆けていないで質問に答えろ! どこの者だ!」

 

 どうやら考え事をしているうちに、なにか聞かれていたらしい。なんて答えればいいんだろ? とりあえず言葉は通じるみたいだし、余計なこと伝えて怒らせてもしょうがないし……。よし、決めた。はぐらかそう。

 

「ええっと、さすらいの旅人……です」

 

「んなわけあるかー!! そのような恰好の者見たことないわ! ビスコッティかそれともガレットの者か!」

 

 ビスコッティ? ガレット? なんじゃそれ? 御菓子? とは言え、そんなに俺の恰好が不思議か? 髪の毛は普通。服は、学生服……じゃなくて着替えたんだった。今は稽古の時の服だから、うん。まんま和服だね。これか! この和服がいけなかったのか? でもなぁ、動くときはいつもこの恰好だからなぁ。最初はなぜ和服? って思ってた時期もあったけど、いつの間にか違和感なくなってたし……もう付き合いきれん。てか、話を信じてくれないだろうし、殺されたりしたらそれこそ嫌だ! ってことなんで、強硬突破で進むしかないか……。

 雪花の恰好は、下は黒の袴を穿いており、上には中に黒いインナー。草色の長着を着てその上から水色の羽織を着ていた。そして、変な恰好ともいえるもの。そう、雪花が穿いている靴。――足袋である――と背中に背負った見たことがない鞄。これのせいで、変な恰好と見られていた。こちらの世界にも、足袋のようなものはあるのだが、それはあまり戦などでは使用されていない。それに加え見たことがない鞄。これが余計に気になったのである。両陣営からしてみれば、相手――敵国の秘密兵器ではないのか? という疑惑を高めるのには十分なものであった。それでなくても、先程聞こえてきた『勇者』という存在も大いに関係していた。

 

 

「えぇっと、ひとまず通しては頂けないでしょうか?」

 

「どちらの間者か分からぬ上は、ここを通すわけにはいかん」

 

「ですよね……では、押して参る!!」

 

「なん……だと! やはり貴様敵国の……は?」

 

 驚くのも無理はなかった。話していた相手が急に目の前から消えたのだから。それも、自分に向かって突撃してくるものかと思っていたものだから……。

 消えた本人……雪花はというと相手に接近はしたのだが、攻撃もせずに横を通り抜けただけだった。雪花は暇さえあれば山に籠り、ひたすら熊と追いかけっこしていたおかげで足は速かった。それもそのはず、野生の熊は特に()()()()()()なんかは子供を守るために本気で仕留める気迫でこっちを襲ってくるため、ひたすら走ることしか逃げ道はないのだから、生きるために走っていれば知らぬうちに速くなるというものである。

 とはいえ、雪花自身は今まで自分の足の速さに気が付いていなかった。爺さんと稽古をしていても、いつも雪花のことを追い抜いたり、目の前から消えたりなどしょっちゅうあることだった。そのため、この時あっさり駆け抜けられたことに()()()()()()よりも驚いていた。と同時にわくわくしてきたのである。

 

「あれ? なんかあっけないな。ん? 爺さんが異常だったのかな?」

 

 そう呟きながら戦場を駆け抜けていった。避けきれない相手だけを殴ったり蹴りを入れたりしながら。するとボンッと音がしたかと思うと小さい玉みたいになった。驚いている暇もないので気にしないことにして突き進むことにした。

 

 

 



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3話 耳と尻尾と女の子

 戦場を駆け抜けること約10分。またまた訳のわからないとこに出てしまった。今度は目の前に大きなすり鉢……蟻地獄のような場所に出てきた。ここに来るまでもそうだったが、この中でも戦闘が繰り広げられている。

 

「こりゃあ落ちたらなかなか上がれないなぁ」

 

 呆けて中を眺めているとダチョウのような鳥に跨っている女性が目の前を華麗に飛ぶところであった。雪花はその光景に目を奪われていると、緑色の髪をしたやはり耳が生えている女の子だろう……と一緒に見知った顔が、騎乗している女性に向かって跳躍してきた。だが、2人の攻撃は当たらずに振り下ろした武器同士がぶつかり合い女の子が使用している双剣と思われる武器が欠けてしまった。

 

 女性は2人の攻撃を躱した後、何やら手にいきなり斧のような武器をどこからともなく出して、手の甲が光ったかと思うと2人に向けて斧の先から閃光を放った。2人は空中にいたため避けることができずに閃光に打ち抜かれて地面に叩きつけられた。

 

「うわー、なんかすげぇ。てか、何故シンクが戦っているんだ? っと」

 

 とりあえず、訳が分からなくてもどうやら友達がピンチっぽいので助太刀に入ることにした。すり鉢状の坂を滑り降りてシンクと女の子が叩きつけられた場所まで向かう。すると、女の子を押し倒すようにシンクが上に倒れていた。

 

「いったぁ……」

 

「シンクー。お前はいったい何をやってんだ! このやろう!」

 

「勇者! お前は何なん……だ。……え?」

 

 女の子が驚くのも無理はない。いきなり現れた第三者にシンクがぶん殴られて吹っ飛んだからだ。第三者とは雪花である。女の子をシンクが押し倒したわけではないのだが、目の前の光景に戸惑ってつい手が出てしまったのである。つい、で済ませていいかはよくないが、やってしまったものは仕様がない。

 

「あー……すまん、シンク。やりすぎた。っと大丈夫ですか?」

 

 そう言って女の子に手を差し出すと一瞬戸惑ったみたいだが

 

「すまん」

 

と言って差し出した手をつかんで立ち上がった。

 

「ところで、貴様は……!! いかん、避けるぞ!」

 

「獅子王……炎陣!」

 

 何事かと思い後ろを振り返ると、先ほど2人を打ち抜いた女性が今度は地面から炎を吹上げ、上空からは炎を纏った岩が降り注ぐところだった。周りにいた人たちはその威力を知っているのだろうか。一目散に急いで逃げている……がそれでも巻き添えをくらって玉になっている。後で知ることができたのだが、この玉の状態を(けもの)(だま)というらしい。これは一定のダメージを与えるなどをすると獣玉になるとか……。

 

 俺と女の子が跳躍しながら避けているといつのまにか復活したシンクも回避をしながらこちらへ近寄ってきた。

 

「セッカ! いきなり殴るのってひどくない? それといきなり光ったと思ったら、いなくなっちゃったから心配したんだよ!」

 

「あーわりぃ。まぁ、いろいろあってさ。それに、こうして会えたんだし結果オーライってことで」

 

「おい、貴様ら! 悠長に話しているのはいいがレオ姫の紋章術は桁が違うのだから倒されたくなければとにかく逃げるぞ!」

 

 いろいろ聞きたいことはあったのだが、紋章術と呼ばれるものが今まさに展開されているので女の子に従うことにした。俺は持ち前の足を活かしてなんとか坂を駆け上がりすり鉢の外に逃れた。ちょうどその時、

 

「大・爆・破!」

 

 と声がすると同時に、後ろで爆発が起きた。あのまま下にいたら巻き添えをくらって死んでいただろう……。シンクと女の子は逃げられたかな? などと考えていると実況が聞こえてきた。

 

『爆破ー! レオンミシェリ閣下必殺の、獅子王炎陣大爆破! 範囲内に入っている限り立っていられる者はいないという。超絶威力の紋章砲! 味方も巻き添えにしてしまうのがたまに傷ですが、それにしても相変わらず凄い!』

 

「フランボワーズ、確認せい。勇者とタレミミはちゃんと死んだか?」

 

『あ~、はい。……えぇっとですね……ん? おぉっと! その前に立っているものがおります! これは……一体……誰でしょう? 』

 

 箱の映像を見ながら実況席からの放送を聞いていると、なぜか俺の映像が映った。

 

「へ? いやぁ、誰でしょうねぇ?」

 

 流石に自分が映されるとは思っていなかったので、冷や汗をかいた。なんと言ったらいいのかわからなかったので、苦笑いを浮かべていたら下から声が上がった。

 

「お主、無傷じゃと? 何をやったのじゃ!」

 

「ただ、全力で走って逃げただけですが……」

 

 そう答えつつ、瓦礫を避けながら坂を滑り降りた。すると、上空から声が聞こえてきた。

 

「そう簡単に、やられるかぁぁぁ」

 

「にしても高すぎない? ねぇこれ高すぎない? あ、でも最初に落ちてきた時の方が高かったかな?」

 

『そ……空ぁ! なんと、勇者と親衛隊長無事です!……だがこれでは、レオ閣下の的だぞぉ!』

 

「あぁ、上に逃げていたのか」

 

「お主に聞きたいこともあるがひとまず、勇者とタレミミの相手をせねばならぬかのう」

 

 そう言った後、レオンミシェリという女性は斧を手に取り、体勢を整えた。

 

 

 

「あまり貴様と手柄を分けたくなどないが、二人でかからねばどうにもならん」

 

「へ?」

 

「協力だ! さっきのタイミング、今度は外さん!」

 

「オーライ!」

 

 顔を引き締めシンクが答えると、女の子は上空で体をひねり、シンクを……蹴った。

 

「よぅし! では、行ってこい!」

 

「おぶっ……ひでぇぇぇ」

 

『蹴ったぁぁぁ。なんと! 親衛隊長は勇者を蹴りましたー。勇者は無事でしょうか?』

 

 蹴られた瞬間こそびっくりしたが、シンクは蹴られた勢いを利用して上段から武器を叩きつけた。対するレオンミシェリはそれを下から振り上げた斧で受け止める。と同時に2人の武器から火花ならぬ閃光が漏れた。シンクは上空からの勢いを利用したものの、押し返されてしまい後方に飛ばされた。

 飛ばされながらも空中で体制を立て直し、地面に着地する。それとタイミングを同じくレオンミシェリの後方に女の子は着地して、シンクと2人でレオンミシェリを挟撃する形を取った。

 

 そして、シンクと女の子は同時に走りだし、各々の武器を繰り出した。レオンミシェリはそれを盾と斧で防ぐが攻撃に耐えきれず壊された。その際に、女の子の欠けていた武器も壊れてしまった。

それを見てシンクと女の子は一旦後ろに下がり、体勢を立て直し再度突進。レオンミシェリはその攻撃を屈んで交わしたが、すかさず繰り出された2度目の攻撃は避けることかなわず、2人の攻撃をくらってしまった。

 

 2人の攻撃を受けたために、身に着けていた防具が破壊され身に着けていたマントがはらりと落ちた。

 

「ふぅ~む、チビ勇者とタレミミ相手と思うて少々侮ったか。このまま続けてやってもよいが、それではちと両国民へのサービスがすぎてしまうのう」

 

「レオ閣下、それでは……」

 

「ん、ワシはここで降参じゃ」

 

そう呟いた後、どこに隠してあったのか白旗を上げた。その瞬間、待ってましたと言わんばかりに勢いよく光が上空に上がり、花火のように空に咲いた。これを見たからだろうか各所で歓声が沸き起こった。

 

『ま、まさか……まさかのレオ閣下敗北! ここで総大将撃破ボーナス350点が加算されます』

 

『今回の勝利条件は拠点制圧ですので戦終了とはなりません。ですが、このポイント差は致命的! ガレット側の勝利はほぼ無いでしょう』

 

 

 

 

しばらくするとどこからか撮影班がやってきた。上の箱のようなものに映っているのはこの人たちが撮影していたのであろう。そして、これからインタビューなるものをやるらしい。レオンミシェリは撮影班にマイクを受け取り

 

「勇者よ、親衛隊長の助けがあったとはいえ、わしに一撃入れたことは誉めてやろう! だが! 今後も同じ活躍をできるなぞ思うなよ?」

 

 そう言った後、レオンミシェリは振り向きざまシンクにマイクを投げた。どうやらシンクにも喋れということらしい。マイクを受け取ると

 

「ありがとうございます、姫さ……」

 

 姫という単語が出るとレオンミシェリは、尻尾を逆立てて。

 

「閣下!」

 

 どうやら、姫とは呼ばれたくないらしい

 

「はい! 閣下!」

 

 すると、満面の笑顔でレオンミシェリ()()

 

「うむ」

 

「閣下との戦い、怖かったけど楽しかったです」

 

 すると今度は、閣下が尻尾で女の子の方を指した。シンクはマイクに目を落とすと女の子に向かって投げ渡した。

 

「撮影班、タレミミに寄れ。良い画が取れるぞ」

 

 閣下の言葉を聞き、そばにいた撮影班が女の子に一斉にカメラを向けた。……女の子がマイクを手に取った瞬間……

 

「おぉっと……」

 

ビリッ! という音と共に女の子の服がパンツ残しに破れてしまった。

 

「ビリッ?」

 

「ぁ……ぁぁ。……はっ!?」

 

女の子は涙目になり、顔からはダラダラと汗が滴り落ちていく……。

 

「ちょっ!」

 

 俺は急いで女の子に背中を向けた。勢いよく体を捻ったせいか首を痛めてしまった。女の子の裸を見続けるよりはマシだと思い、首の痛みと()()()()は我慢することにした。中学1年生には刺激が強すぎた……。

 

『勇者! 何と自軍騎士に誤爆ぅ! 防具破壊を超えて服まで破壊してしまいました! 先程撮影していた物を確認してみましょう。お、これですね』

 

 先程の戦闘の映像を確認しているとどうやら最後の戦闘の際に、シンクが女の子にまで攻撃を加えていたらしい。女の子はしゃがみ込んで大声を上げていた。

 俺は自分の上着である水色の羽織を脱いで女の子に投げて、渡し

 

「それ、よかったら使ってくれ……」

 

「うっ……ありが……と」

 

 女の子は羽織を受け取った後、少し戸惑ったようだが何もつけないよりはマシと判断したらしくそそくさと羽織ってから、一緒に投げ渡した羽織紐ではだけない様にしっかりと留めていた。衣擦れの音が聞こえなくなってからようやく振り返った雪花だったが、またすぐに後ろを向くことを余儀なくされた。

 ……というのも雪花が来ていた羽織が女の子の膝の少し上までしかなく、またまた刺激が強すぎたのである。

 

その光景を立って見つめていたシンクだったが、ようやく事の重大性と自分の失態に気が付いたのか物凄い量の汗を流しながらゆっくりと後退し始めるが、瓦礫に躓いて音を立ててしまった。

女の子はその音を聞き逃すはずがなく、垂れている耳がピクッと動いたかと思うとキッとシンクを睨み付けて壊れていない武器を手に取りシンクを追いかけ始めた。

 

「ははははは。ではな、また来るぞ!」

 

 レオンミシェリはビシッとシンクを指さして、

 

「今度はきっちり侵略してやろう!」

 

『ここでレオ閣下、堂々のご退場です!』

 

 実況の声が言った通りレオンミシェリはすたすたと振り返り歩いて行き、俺の目の前でピタッと止まった。なんだろうと思いレオンミシェリの方に向き直ると

 

「お主、見かけぬ顔だがどこの者じゃ?」

 

「ええっと、さすらいの旅人……です」

 

「さすらい? 戯けたことを申すでないわ。ワシを誰じゃと思うておる。それに……そのような恰好の者なぞ、ここフロニャルドではあまり見かけぬわ」

 

 どうやらこの女性には真面目に答えねばならぬ雰囲気を感じた。雪花は冷や汗を流しながらもきちんと答えることにした。

 

「誰じゃと言われても、失礼ながら名前を存じませんので……」

 

「おぉ! 名乗っておらなんだか……それは、すまなかったのぅ。ん? いや、まて。何故知らんのじゃ? まぁ、よいか。ワシはガレット獅子団の領主、レオンミシェリ・ガレット・デ・ロワじゃ。気軽に閣下と呼ぶがよいぞ!」

 

「俺は、此花 雪花です。えぇっと、ですね。知らないのは、そこにいる馬鹿の知り合いで違う場所からきたせいですね」

 

 レオ閣下が、挨拶をしてくれたので自己紹介で返すと閣下は顔に皺を寄せた。何事かと思っていると

 

「ふむ、勇者と同じ世界から……か。しかし、コノハナ……もしや、いや……そんなことはあるまい。セッカと言ったか? お主カヤという名前に聞き覚えはないか?」

 

「え?」

 

 今、レオ閣下が言った人に、カヤという名前には聞き覚えがある。もし、俺の考えている人と同一人物ならば……俺の……。

 

「おい。お主、涙がでているようだが大丈夫か?」

 

 あれ? 俺は泣いているのか。人前で泣くのは久しぶりだな……。

 

 雪花は、手で目を擦ってからレオ閣下の方を振り向いた。雪花が呆然としている間レオ閣下は、突然涙を流す雪花を見てあたふたとしていた。そのためなのか、雪花がレオ閣下の方へ顔を向けた際には先程の戦闘の時からは、とても想像できないようなかわいらしい表情をしていた。雪花は、目の前のレオ閣下の様子におかしくなってしまい気付かないうちにくすりと微笑んでいた。

 

「なんじゃ、泣いたかと思えば笑ってみたり。可笑しいやつじゃ」

 

「すいません。お恥ずかしいところをお見せしてしまって。その、レオ閣下があまりにも可愛かったものでつい」

 

「な……何を言うか、この戯けが!」

 

 レオ閣下は面白い人だなー。さっきの戦闘の時は凛々しい顔つきだったけど、こうあたふたしていると可愛らしいや。っといけない。また、変なこと考えていると怒られそうだ。

 

「それで、その……カヤという人は、もしかして此花 カヤというのでしょうか?」

 

 

 

 



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4話 ここはフロニャルド

 戦場ではまだ戦いが繰り広げられているが、その一角とある場所では勇者と女の子が追いかけっこをしていた。先程まで、激しい戦闘を繰り広げており少なくない疲労もあるはずなのにこの場の風景を見る限りでは、そんな雰囲気はまったく感じられずむしろ先の戦闘時よりも激しい運動量――逃走劇を繰り広げていた。心なしか女の子の目は怪しい輝きに包まれていた。

また、その近くでは女の子が追いかけ、赤い髪をした男の子――勇者が逃げ回るといった光景を眺めながら会話をしている人影があった。片方は、銀色の髪の毛をしている女性。もう片方は、勇者の友人という肩書をもつ1人の男の子である。

 

 

 

「それで、その……カヤという人は、もしかして此花 カヤというのでしょうか?」

 

 雪花は、レオ閣下の言葉が気になった。異世界の人が自分の名字を呟いて考え込んだかと思えば、このような場所――異世界で自分が知っている名前を発言したからだ。

 

「おぉ、そうじゃ。知っておったか。それで、お主とカヤ殿とはどういう関係なのじゃ?」

 

「カヤ殿ですか。カヤは……俺の母さんです」

 

 カヤ殿……いったい母さんはここでどんな呼ばれ方してるんだよ! というか、なんでこの場所に知ってる人がいるんだ?

 

「何!? カヤ殿の息子じゃと? そうか、そう言われてみれば先程ワシの技から逃げおおせたのも納得じゃの。それに、よく見ればどことなくカヤ殿の面影もあるしのう。ふむ、あのカヤ殿の息子ならば致し方あるまい」

 

「え? そんな理由で納得しちゃって大丈夫なんですか? それはそうと……なぜ、母さんのことを知っているのですか?」

 

 母さん……何をやらかしたらこういう認識されるんだよ……。母さんの息子って肩書きだけでありえない誤解とかされそうで先が思いやられるんだが……。もしかして、この先々で会う人それぞれになんかしら言われるんだろうか? それじゃなくても、ここに来たばかりでもう大変なのに、俺無事でいられるのかなー? いずれにしろ母さんのことは何をやったのかをよく聞いておかないといけないね。……まさか、恨みを買っているとか言わないよね?

 

「そうじゃのう……なんといえばいいかのう。カヤ殿は、ワシにとって……いやガレット領・ビスコッティ領それぞれに住む人々にとっての恩人じゃの」

 

「恩人……ですか」

 

 今まで行方不明だった母さんのことがわかったんだ。それだけでも、ここに来れたことに感謝しなくちゃいけないな。恨みを買ってるんじゃなくてよかったー。しかし、恩人か……いったい何をやったんだろう?

 

「うむ。まぁあまり戦場で、長々と喋っているのもなんじゃなぁ。あやつらもまだじゃれ合っておるようじゃし、詳しい話はまた今度してやろう。話は城の者へ通しておく故今度ワシの所へ来るがよい」

 

「それもそうですね。まぁ、僕としては母さんの話が聞けただけでも十分にうれしかったです。欲を言えばもっと詳しく聞きたかったのですけれど。あいつらを放っておくのはまずいですよね」

 

 ん? 待てよ。母さんがここの恩人なんだろ? てことは、だ。普通に考えてここの出身? というとアレか? 俺にも実は獣耳があるのか!? あんな素敵耳が俺にも!? でも、男に獣耳ってなぁ……だが、ううむ。悩ましいな。あったらあったで、聴力とか上がりそうだしな。そうなると、俺もここ出身になるのか?ん? それだと、あそこに書かれていた石碑の言葉って……

 

「のう? セッカよ。聞いておるか? 行くところがないのなら我が国に来ぬか?」

 

 どうやら、またレオ閣下の言葉が耳に入っていなかったらしい。

 

「え? はい、そうですね……そう言って頂けるのはうれしいのですが探さねばならぬ人がおりまして、それにシンクともゆっくり話をしたいもので」

 

「そうか……。して、尋ね人とはまた妙なことを申すではないか? そなた、勇者と同じ場所から来たのであれば尚のこと、この世界に知り合いでもおったのか? あぁ、カヤ殿は母上であったな」

 

「いえ、そのようなことではないのですが。この戦場に来る少し前に託された言葉がありまして、ダルキアンという人に会え……と。先程の母の話を聞くと尚更会いに行かねばならない理由もできましたし」

 

「ダルキアン……じゃと!? 誰から託されたのかはわからぬが、それならば犬姫のところで聞けば教えてくれるであろう。勇者と話したいということでもあるし、今日のところは犬姫の世話になるがよいぞ。ただし、ワシはまだお主のこと諦めておらぬからな? 忘れるでないぞ。では、必ず近いうちにガレット城に寄るのだぞ」

 

 そういい残し、レオ閣下は去っていった。レオ閣下によって石碑の手掛かりが増えたことは雪花にとって何よりの情報であった。

 雪花がレオ閣下と話しているうちにどうやらシンクと女の子の追いかけっこは終わったらしく、近くに伸びていた。伸ばされたといった方が正しい。最後はシンクが蹴り飛ばされ終わったようだ。雪花がそちらへ目を向けると屍と化したシンクが目を回していた。

 

 

 

 

 シンクをノックダウンさせた後、女の子は茶色の髪に()()()()()()が持ってきた服に着替えを済ませ、雪花の方に歩いてきた。女の子は綺麗にたたまれた服を両手で持ち、雪花の目の前まで来ると頬を赤らめて顔を背けた。

 

「さっきはこれのおかげで助かった。……感謝する」

 

「女の子が裸のままというのは、よくないから咄嗟に渡しちゃったけど匂いやらサイズとか、そもそも男が着ていた物だけど平気だった?」

 

 すると、女の子は一段と頬を染め

 

「へ……平気だ。とりあえず、洗って返すから待って……あ! そういえば、見かけぬ顔だな?」

 

「うっ……そうでした。挨拶がまだなんだった。俺は此花 雪花。まぁいろいろあって、そこに寝ているシンクと同じ場所からここへ来た」

 

「ん、そうか。私は、エクレール・マルティノッジだ。な……今、なんと言った?」

 

 先程までの顔が一転し、険しい顔つきになった。

 

「何か、まずいことだった?」

 

 やっぱり服を貸したのがいけなかったのかな? なんせ今までろくに女の子と係わったことないからわからないけど。女の子はデリケートって聞いた気もするし……やばい、また変な汗が出てきたよ。

 

「たしか、姫様が召喚したのはそこのバカだけのはず……なのになぜもう1人異世界から召喚されたのだ? 私も詳しいことは知らないが召喚の儀自体、滅多なことでは行われないから謎に包まれているというし……えーい! わからん。いずれにせよ一旦城に戻り確認を取らなければいけんようだ。……ってあれ?」

 

 雪花は、エクレールが自分の発言を聞いていなかったと思い、近くにある壁に寄りかかて、体育座りをして地面に丸を書き始めた。すると、いつ復活したのかシンクも雪花のそばで体育座りをして、暗い雰囲気を漂わせていた。

 

「アホ勇者まで何をやっているんだ? ほら、2人とも行くぞ!」

 

「え?」

 

「帰れない~帰れない~」

 

「ほら、さっさと来ないと置いてくぞ」

 

「あー、今行くよ。ほれ、行くぞシンク」

 

「う……うん」

 

 何があったのだろうとシンクの手を引っ張りながら雪花は思った。エクレールのそばに行くまでシンクはずっと元気がないままだった。

 

 

 

 

案内されるままに雪花とシンクは城下町まで歩いて行った。町の広場まで来ると、エクレールは近くの柱に腰かけ2人には椅子に座るよう促した。

 エクレールは主に雪花に対して、ここフロニャルドのこと。ひいては自国ビスコッティ共和国のことを説明した。説明がどんどん進むにつれ雪花の表情は輝いていった。するとシンクは、携帯を取り出して

 

「まぁそうだよなぁ……異世界だもんなぁ。帰れないんだよなぁ」

 

「まったく、覚悟もないのに召喚に応じたりするからだ」

 

「覚悟ッ! 覚悟も何もこのワンコが! ……踊り場から降りようとしたら落とし穴を仕掛けてぇ」

 

「落とし穴ぁ? タツマキが?」

 

「そうそう、このワンコを撫でてシンクを待っていたらいきなり落ちてったんだよなー」

 

 すると、雪花の横……椅子のそばで雪花に撫でられていたワンコ――タツマキがブンブンと抗議するかのように首を振って地面に小さな陣を出して、ちょこんとそこへ足を置いた。ここを見ろと言いたげな雰囲気から、その小さな陣を3人はそれぞれ覗き込んで、唯一こちらの文字が読めるエクレールが読み上げた。

 

「何々? ようこそフロニャルド、おいでませビスコッティ……」

 

 途中まで読んだところでタツマキが前足でちょんちょんと指し示す。よく読めということらしい。そこには小さな文字で何やら書かれており……。

 

「注意、これは勇者召喚です。召喚されると帰れません。拒否する場合は、この紋章を踏まないでください」

 

 シンクの顔から血の気が引いて真っ白になってしまった。雪花はというと、落ち着いた様子でエクレールの言葉を聞いていた。シンクは項垂れていたかと思うと、頭を抱えながらがばっと起き上がり

 

「こんなんわぁかるかぁーい!」

 

「知るか! 私に言うな! ふん! まぁ貴様を返す方法は学院組が調査中だ。時期に判明するさ。」

 

「だといいけど……」

 

「それにしてもセッカはやけに落ち着いているな」

 

 シンクの様子を見守っていた雪花に向けてエクレールが話しかけてきた。

 

「うん? まぁなんていうか、俺は別に帰らなくても平気だからさ。心残りは多少なりあるけど。それに、ここでは存分に腕試しできそうだしね。せっかく来たからには満喫しなきゃ。やるべきことも出来ちゃったし」

 

「とりあえず……まぁ、その……なんだ。阿呆とはいえ、貴様は賓客扱いだ。ここでの暮らしに不自由はさせん。ひとまずはこれを受け取っておけ」

 

 そう言って、エクレールは巾着袋をシンクに差し出した。

そして、彼女は()()1()()袋を取り出して雪花の方に差し出した。シンクの袋と比べても大きさは変わらなく、雪花が受け取ると金属音と共にずしりと重さが伝わってきた。なぜ、貰えたのか不思議だったために疑問符を浮かべていると彼女が説明しだした。

 

「戦場での活躍報奨金だ。受け取りを拒否などすれば財務の担当者が青ざめる。そして戦場には、兵士たちも楽しいから参加している者も多いだろうが、この報奨金の支給は自分がどれだけ戦に貢献できたかの大切な目安だ。少なくとも、参加費分は取り戻したいというのも本音だろうしな」

 

「「参加費!?」」

 

「というか、俺はそもそもなんで貰えるわけ? 戦には乱入……になるのかな? しちゃったけれど、そもそもシンクみたいに召喚されたわけじゃないから賓客でもないんじゃない?」

 

 一度は受け取った雪花だったが、エクレールに袋を戻そうとした。

 

「あー、それはだな。財務のところに報奨金を取りに行ったときに、セッカの分も渡されたんだよ。なんでも、相当数の敵を撃破したとかって言っていたが心当たりはないのか?」

 

「「え?」」

 

 なぜか当人ではないシンクも驚く。思い返してみると、シンクと合流するまでに避けきれなかった時に攻撃していたかと思い納得した。……したのだが、手はエクレールの方に突き出したままになっていた。

 

「心当たりはあったけど、そんなに倒した覚えはないよ? それに、これって多いんじゃないの?」

 

「相当数とは言ったが、身元不明だったからだとは思うのだが見合った額じゃなかったのでな。その……さっきのお礼も込めて足しておいた」

 

 それで思い出してしまったのか、エクレールの頬が赤く染まった。

 

「別に、気にしなくていいのに……。そういうことなら、ありがたく頂戴します」

 

「じゃあ、これから町でも案内しながら2人にいろいろ教えるからついてこい!」

 

 そういうとエクレールは立ち上がって歩き始めた。それから、屋台を眺めたりお金やら食べ物などから、フロニャルドについての様々なことを教えてくれた。

 

 

 



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5話 自由騎士誕生

 エクレールにフロニャルドに関することを教えてもらった後、城下町を後にしてお城へと向かった。なんでもお城にある学院に行くという。正式にはビスコッティ国立研究学院、通称『学院』だとか。ここまでいろいろなことがあって忘れていたが、ふと自分の荷物のことが気になった。

 

「そういや、シンク。俺の荷物、この鞄以外の物なんだけど、知ってるか?」

 

「セッカの? あー、それなら大丈夫。僕の荷物と一緒に落ちてきたから部屋に置いてあるよ」

 

「よかったー。あれにはいろいろと入っていたから助かったよ。後で取りに行くわ」

 

 あの鞄には、サバイバル用品が入っていたからシンクが見つけてくれてよかったぁ。無くしたと思っていたからな……シンクの荷物と一緒ってことは、あの落下の時か! こっちの鞄は背負ってたから落ちなかったのか? それにしても、中身は無事かな? あの高さから落ちたんじゃなぁ……。

 

 落ちてきた時のことを考えて、雪花はふと空を見上げた。空には昼間にも関わらず星が瞬いていたり、島が所々浮いていたりして幻想的だった。

 

 フロニャルドかぁ。偶然とはいえこんな場所に来られたんだ、折角だから満喫しますかねー。そういえば、今まで旅行とかしたことなかったからちょうどいい機会でもあるしな。まぁ、まずは俺の立場を最優先に考えないといけないよなぁ……。今のところ不法入国になっているだろうし。まぁ、母さんのことがばれなきゃいいか。レオ閣下の反応を見ると、大変なことになりそうで怖いんだが……

 

 そんなことを考えている間に、3人と1匹は大きな門のところまでたどり着いた。門をくぐり建物の中に進むと、そこは長い廊下が続いており本を抱えた人たちが忙しなく歩き回っていた。奥の部屋まで来ると、小さい女の子がいそいそと大量の本を抱えていったり来たりしていた。

 

「リコ。召喚について何か分かったか?」

 

「エクレ! 来たのでありますか。それが……申し訳ないであります。現在、学院が総力を挙げて調査中なのであります」

 

 あたふたしながら白いローブを纏った女の子は、エクレールとシンクに頭を下げ続けていた。

 

「リコ落ち着け、私も勇者もそんなにすぐに見つかるとは思っていない。その召喚についてなんだが、もう1つ頼みたいことが増えたんだ」

 

「……なんでありますか?」

 

「勇者召喚の際に巻き込んでしまった者がいるのだ。それが、こっちのセッカなんだが……巻き込まれた場合の処置はどうなるのかわかるか?」

 

「此花 雪花です。えぇっと……」

 

「私は、リコッタ・エルマールであります。ここ国立研究学院の主席を任されているのであります」

 

 そういい、リコッタは敬礼をした。リコッタたち学院組は、制服の上に白いローブを羽織っていた。

 

「主席!? ってことは頭いいんだね。凄いなー。じゃあさリコッタ、俺の立ち位置ってどうなるかわかる?」

 

 すると、雪花の褒めるような発言を聞いて頬を赤らめた。がすぐに顔を引き締めて考え始めた。少しするとリコッタは

 

「召喚に巻き込まれたのであれば、一応お客様という扱いになると思うであります。ですが、姫様にお伺いするのが得策であります」

 

「ありがとう、リコッタ」

 

 こちらの会話が終わると、何やら忘れていたらしいエクレールが

 

「そういえば勇者、期限について何か言ってたな? いつまでだ?」

 

「えっと、春休み終了前には戻らなくちゃいけないし、その3日前にベッキー達とお花見があるから……あと、16日」

 

「16日!? それならご帰還方法を探すには希望が湧いてきたであります」

 

「うん、お願いね。……でも、その前に……。召喚された場所に行ったら、電波繋がったりしないかな?」

 

 そういうと、シンクは携帯を取り出して画面をリコッタに見せた。リコッタは、携帯を見つめて目が輝いていたが聞きなれない単語のところで首を傾げた。

 

「電……波?」

 

 どうやら、ここフロニャルドの人には電波というものが分からないみたいでリコッタはもちろんのことエクレールもシンクの隣で首を傾げていた。そこで、シンクは電波について簡単に説明していた。説明を聞いた後に、リコッタは何か思いついたらしく準備を始めた。

 

 

 

 

 ところ変わって城内にある一室でお茶を飲む姿があった。1人はピンク色の髪をした女の子。もう1人は女の子のそばで待機してお盆を持って、メイド服を着ている女性。そして、机を挟んで向かい側に座る少年……雪花の姿があった。なぜこのような場所にいるのかというと――

 

 リコッタが準備を終えたあたりで、姫様にお会いになられてはいかがでありますか? という言を受けて近くにいた学院生の案内によってこの部屋に連れてこられたという次第である。学院生はというと、雪花を部屋に案内した後一言二言、中にいる人物と会話し帰って行った。

 

「私は、ここビスコッティの領主でミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティと申します。こちらは、メイド長のリゼルです」

 

「メイド長をしております。リゼルと申します」

 

「俺は、此花 雪花です。よろしく、お願いします」

 

「それで、ええっと……。セッカさん、ごめんなさい!」

 

「え!? 何がですか? というか姫様? 頭を上げてください!」

 

「勇者召喚が初めてだったとはいえ、巻き込んでしまったものですから。帰ることもできない事を知らなかったとはいえ、こちらの落ち度です。本当にごめんなさい!」

 

 そう言って、姫様はまた頭を下げた。雪花は、やはり戸惑っておりあたふたしていた。なんせ一国の領主である姫が頭を下げているのである。これまでの人生で、目上の方から頭を下げられ、謝罪を受けるなどなかったのでそれはもう盛大に慌てていた。それを見かねたリゼルが2人をなんとか落ち着けた。

 

「それで、セッカの処遇についてなのですが……先の戦を拝見しまして、ぜひ自由騎士として我が国を手助けしては頂けないでしょうか?」

 

「へ?」

 

 てっきり、先の戦に乱入したためにお叱りを受けるものとばかり思っていたので拍子抜けしてしまい変な声を上げてしまった。

 

「えぇっと、それでは乱入したお咎めとかはなしですか?」

 

「お咎め? 何故ですか? 先の戦ではレオ様の紋章術から逃れたりしていたじゃありませんか。それに、聞いた話だと相当数の敵を倒したとか……戦を盛り上げていただいたのに、その様な方を叱る理由がありません! むしろ、褒めて差し上げたいくらいです」

 

 言うや否や姫様は机に手をついて身を乗り出して、雪花の手を取り、目を輝かせていた。雪花は戸惑いながらも姫様の手を握り返した。

 

「ありがとうございます。……ところで、自由騎士になった場合どのようなことをすればよろしいのですか?」

 

「それは、戦があった場合に勇者様とご一緒に参戦していただければ大丈夫です。自由騎士は、その名の通りに国に縛られることもありませんので平時などはご自由に過ごしていただければよろしいです。それから、詳しいことはリゼルに聞いて下さいね? それと、この自由騎士を考えたのはレオ様なのですよ」

 

「ふぇ? え? もう一度よろしいですか?」

 

「ご自由に過ごしてよろしいです?」

 

「えっと、その後です」

 

「ん? これを考えたのはレオ様ですよ?」

 

 おぉう。やられた……お叱りはないと油断させておいてから追い打ちをかけるとは、この姫様侮れん。それに、レオ閣下仕事早いですねー。てことは、母さんのことがばれているのか。聞きたいことはあるし、それはいいんだけど。俺も変な目で見られたりするんだろうか? ふぅむ……自由騎士かぁ、さすらいの旅人と名乗るよりは絶対いいよな……。それに戦にもきちんと出てみたいし、せっかくのお話だし受けてみよう。

 

「姫様!不肖此花 雪花、自由騎士の話を謹んで受けさせていただきます」

 

「よかったぁ。ずっと黙っていたので断られたらどうしようと思っちゃいました。それに、考えているのは分かったのですが、青くなったり白くなったりとおまけに汗がダラダラ流れて見てて面白い方ですね。それでは、後日授賞式があるのでそこに出席してください」

 

「それでは姫様、お時間ですのでそろそろ。あと雪花様、お部屋のお外で少々お待ちくださいませ」

 

 とそれまでほとんど立っていたリゼルは姫様に時間を告げる。なので、雪花は部屋を後にした。少し待っていると中からリゼルが出てきて雪花に後についてくるよう促した後、別の部屋に案内してくれた。

 

「雪花様、滞在中はこの部屋をお使いくださいませ。先程の姫様がおっしゃられていた通りほとんどの時間を自由に過ごしていただいて構いませんので、ご自由にお過ごしくださいませ」

 

「あの……リゼルさん? 様はちょっと慣れないのでやめていただけませんか? そんな呼び方されたことないのでもっと気軽にお願いします」

 

「あら? でも勇者様と同じで召喚されたのですから、それにカヤ様のご子息でもあるわけですし。そして、私どもはメイドですのでお気になさらず。どうしても、と言われるのでしたらそのようにお呼びいたしますよ」

 

「では、どうしてもお願いします」

 

「はい、かしこまりました。あと、先程の自由騎士についてなのですが、今回の自由騎士とはその名の通りに国に縛られません。一応ビスコッティ・ガレットの両国で急遽決まったことでして、戦の参加権などは両国ともにございます。最初の戦はこちらで参加していただき、次はガレット側での参加。と、このように持ち回りで参加していただくようになります。ここまでで何かご質問はありますか?」

 

 うっ……まぁ様って呼ばれるよりはマシかなぁ。でも年上の人にさん付けで呼ばれるのもちょっとなぁ、まぁ文句を言ってもしょうがないか。文句を言うとしたら、母さんにだな。

 ふむ、自由騎士って今回作ったようなものなのかな? ビスコッティとガレットの両国での取決めとなると、最後にレオ閣下と会話したのが決まる切っ掛けになったのか? 戦は両国順番での参加か。むしろこれはありがたいな。ビスコッティとガレットの両国で情報収集できるわけだし。この辺も考えてくれてたのかな?

 

「いえ、今のところ大丈夫です」

 

「あとはそうですね。両国ともに自由に行き来してよろしいので、もしガレットに行きたくなりましたらお声をおかけくざさい。自由騎士については、おおまかにこのくらいですね。それと、こちらで何か御用がありましたらいつでもメイド達にお声をかけてください。それでは、失礼いたしますねセッカさん」

 

 

雪花は、部屋に案内された後、鞄を置いてからベットに腰かけ一息ついていた。

それにしても、これからどうしようかなぁ……暇だから外にでも……出て……み……。

――そこで、雪花の意識は無くなった。

 

 

 

 

 ふと、雪花が目を開けてみると窓から見える景色が真っ暗になっていた。どうやら、疲れて眠ってしまったようだ。どうも、床に倒れる形で寝ていたようで体が痛かった。ベットに腰かけていたのだからベットに倒れ込めばよかったものをなぜ床に倒れ込んだのか不思議でならなかった。一先ず、床から起き上がり背伸びをしてから窓を開ける。すると、涼しい風が部屋の中に吹き込んできた。

 

「ちょっと散歩でもしてみるか」

 

 開け放った窓を閉めた後、雪花は部屋を抜け出した。とりあえずもう一度町に行こうと考えていた雪花であったが、知らない場所なので迷ってしまった。なにせお城なのである。しかも、ここへ来るまで緊張続きで道を覚える余裕は雪花にはなかった。それに、今までここまで広い建物には入ったことがなく、入ったとしても精々デパートぐらいである。一般家庭に住んでいた身としては大きさの桁が違うため仕方がないといえばそれまでであるが……。

 所々壁に案内図が書いてあるのだが、雪花はフロニャルドの文字が読めないのでお手上げ状態であった。このまま勝手に進んでもいいのだが、二次遭難になる可能性があったために案内図の前で立ち止まって雪花が百面相をしていると、見知った顔が近づいてきた。

 

「セッカ様、こちらで何をしているのでありますか?」

 

「傍から見ると面白い顔をしていたぞ」

 

「ちょうどよかった、暇ならこの案内図について教えてもらえないかな? あとリコッタ、様付けはやめてほしいかなー」

 

「私はこれから用事があるから、リコに教えてもらうといい。ではな」

 

「了解であります。それでは、セッカ……さん。私のことはリコでいいであります。それで、ここはですね」

 

 エクレールは、すたすたと歩いていったしまった。残された俺はリコに案内図について教えてもらって、ついでに町までの案内を頼んだら了承してもらえたので一緒に繰り出すことになった。

 

 

 

 

町についてみると、今日の戦興業が成功したおかげか祭りムード一色に染まっていた。見渡す限りに屋台が立ち並びいい匂いが漂ってきた。雪花は、朝ご飯以降何も口に入れてなかったためキューっと顔に似合わずかわいい音を出してしまった。隣にいたリコはその音を聞いて近くの屋台まで連れてきてくれた。

 

「セッカさん。ここの屋台がおすすめでありますよ。おひとついかがですか?」

 

「見たことない食べ物だけど、美味しいの?」

 

「はい! とても美味しいであります!」

 

 リコッタが薦めてくれた食べ物は、クレープのような生地で野菜やお肉が挟んであり赤いソースがかけてある食べ物だった。それをリコと一緒に買って、近くの椅子に座って食べてみた。すると、酸味が少し効いておりお肉が入ってるのにもかかわらず、さっぱりとしておりなかなかに美味しい食べ物だった。

 

 食べ終わって一息ついていると、隣に座っていたリコッタがそわそわしていた。

 

「ところで、セッカさん。勇者様に聞いたのでありますが、携帯電話というものをお持ちではないでありますか?」

 

「携帯? シンクから聞いたの? 一応持ってはいるけどシンクの物と比べるとあまりいいものではないよ?」

 

 雪花は携帯を取り出しながらリコッタに説明した。雪花が持っている携帯は、年寄りが使うような簡単なものだった。というのも、これまで連絡をとりあうような人もいなかったためにあまり使う機会がないため電話ができればいい、という考えのためであった。いろいろ説明していると、リコッタは目を輝かせながらローブで隠れている尻尾をパタパタと動かしていた。

 

「そんなに気になるなら、あげようか?」

 

 がたっと勢いよく椅子から立ち上がったかと思うとこちらに身を乗り出してきた。

 

「よ…よ…よろしいのでありますか? 勇者様はホショウがどうのとおっしゃっていたのでありますが、セッカさんはその、ホショウは大丈夫なのでありますか?」

 

「おっと、そんなに身を乗り出さなくても……大丈夫だよ。俺は、あまり使わないし中古で手に入れたものだから」

 

「感激であります! では早速戻ってこれを分解して、中の構造がどうなっているかを……ハッ!! どうも、私は見知らぬ機械を見ると我を忘れてしまうようでありまして」

 

「リコ落ち着いて、そんなに慌てなくても携帯は逃げないから」

 

「では、さっそく学院に戻り……携帯の調査を……あれ?」

 

「ん?」

 

 ふと前を見ると、先の戦の時のように箱が空中に現れた。そしてそこに映っていたのは3人組の女の子と手足を縛られて身動きのできない姫様であった。すると、

 

「我らガレット獅子団領!」

 

「ガウ様直属、秘密諜報部隊!」

 

「「「ジェノワーズ!!!」」」

 

 三者三様にポーズをとり、名乗りを上げたところでいつ準備していたのか煙幕が立ち上った。



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6話 はじめての紋章

「え?」

 

 いやぁ、これは誘拐なのか? 誘拐するのに放送してもいいのだろうか? 説明聞いたときも思ったけど、フロニャルドの戦ってのんびりしてるよなぁ。まぁ、本物の戦じゃないだけいいのかもしれないけど……。

 

雪花が考え込んでいるうちに話はどんどん進んでいき、ジェノワーズと名乗った3人組は、大陸協定に基づく要人誘拐奪回戦なるものを持ちかけてビスコッティの勇者ことシンクがそれを受けてしまったことで急遽開催されることになった。

 

「……さん。セッカさん!」

 

 気が付くと隣にいたリコッタが焦りながら雪花の肩を揺すっていた。そこでようやく気が付き、リコッタの方に振り向く。

 

「ん? 何か言った?」

 

「さっきから言っていたのであります。これから、お城に向かいエクレ達と合流して戦に向かうのであります。なので、急いでついてきて欲しいのであります」

 

「わ…わかった。とりあえず、リコについて行けばいいんだね」

 

「はいであります」

 

 それからリコッタと雪花は急いでお城に向かうと、そこにはエクレールに怒られている勇者――シンクの姿があった。エクレールは、リコッタと雪花の姿を確認すると怒るのを一旦やめてこちらに向かってきた。

 

「急な戦興業のため、とりあえず今ここにいる者で先行し砦に向かう。リコとセッカはすぐに準備を済ませてくれ」

 

「了解であります」

 

 リコッタは準備に向かったが、雪花はいきなりのことだった上に準備と言われても何を用意すればいいのかわからないため、少し考えてからとくにすることもないな、と結論付けてからエクレールに声をかけた。

 

「あのさ、エクレール」

 

「なんだ?」

 

「準備って言われても、俺やることないんだけど……」

 

「武器ぐらい用意しないのか? って、そういえば先の戦では生身だったな。こちらで用意できるものであれば準備するが、得物は何を使うんだ? まさか……素手なのか?」

 

 武器ねぇ、うーん。そうだなぁ……山籠もりしていた時は自分で作った木刀で鍛錬していたし木刀でいいか。爺さんとの稽古の時はアレも使ってたけど、今回は用意できないだろうし……そもそもフロニャルドに木刀ってあるのかな?

 

「いや、素手はちょっと……エクレール。木刀ってある?」

 

「木刀? 確か鍛錬で使用するものがあったはずだが、そんなものでいいのか? 遊びや稽古ではないのだぞ?」

 

「んー、戦についての説明を聞いていた限りでは行けると思うんだよね。要は、相手に一定のダメージを与えればいいんだろ?」

 

「まぁそうだが……ふむ、なら少し待っていろ。今持ってきてやる」

 

 そう言って、エクレールは木刀を取りに行ってくれた。その間に雪花は、足袋に履き替えて準備運動をしていた。すると、エクレールとリコッタが準備を終えたらしく戻ってきた。エクレールは、木刀と一緒にダチョウのような生物も人数分連れてきてくれたようだった。

 

「ほら、これでいいか? あとさっさとセルクルに騎乗しろ」

 

「ありがとう。うん、これなら長さも申し分ないかな。セルクルって? あぁそうか、このダチョウみたいなのがセルクルっていうのか」

 

 雪花が受け取ったのは、どこにでもあるような木刀だった。刀身の長さは2尺5寸程でその場で軽く振ってみると、普段使っている物と重さも長さも大して変わらない。木刀の握り具合などの感触を確かめた後、腰の帯に差し込みセルクルに乗ろうとしたのだが……

 

「エクレール、こいつにはどうやって乗ればいいんだ?」

 

 どうやらエクレールにとって今の質問は、難しかったようであった。昔から親しみのある生物で、当たり前のように移動手段として使っていればわざわざ聞かれないことであるのだから。それでも、どうにか捻りだした言葉が、

 

「どう……と言われてもな、手綱を掴んで跨るとしか言えんぞ」

 

 というわけなので、雪花は言われた通りに、実践してみたが案の定転げ落ちてしまった。それでも、何回か挑戦していると乗れたので助かった。シンクはというと、運動神経が良いせいか1発で乗れていた。――なぜすぐに乗れるんだ?

 

「よし、乗れたみたいだな。それでは行くぞ!」

 

 

 

 

 セルクルに乗って小半時ほど進むと砦が見えてきた。どうやら今回の奪還戦の目的地のようだった。そこで、リコッタと別れて残りの3人はそのまま砦に向かうとこになった。なんでもリコッタは――

 

「戦場では砲術士をやっているのであります」

 

 とか、なので援護射撃をするそうなのでそちらは任せて残りは突撃隊というわけだ。砦のそばに着くころにはリコッタの砲撃が間に合ったため、敵の間を縫うように門まで進みなんとか中に侵入することはできたのだが……

 

「リコからの砲撃が止まっちゃたけど、どうしたの?」

 

「無理もない……砲術士は歩兵に詰められれば無力なんだ。むしろここまでよく持ってくれた。それよりも、セッカはどこに行ったのだ?」

 

「え? ここにいないの?」

 

シンクはあたりを見回してみるが、人が多すぎてわからなかった。見える範囲にはいないようだ。

 

 

 

 

 その頃、雪花はというと門の外にいた。なぜこのような場所にいるのかというと、なんとかここまではセルクルに乗って来れたのだが、リコッタの砲撃が着弾する音に驚いたのかそれまで走っていたセルクルが急停止したためにセルクルの上から放り出されたのだった。――うん、ここまで来れたのが上出来だしね。急に止まられたら落ちるしかないよな。

 

「しまった……置いていかれた……」

 

 そう呟きつつも、敵の残党をすれ違いざまに袈裟切りにした。最初は、木刀ということで相手と打ち合うとこちらの武器が壊れてしまうかもと考え当てる場所を考えつつ戦っていたのだが、途中から考えるのが億劫になり相手の横をすり抜けざまに斬りつけていった。

 

「どれ、紋章っていうのを使ってみますか」

 

 たしか、自分の紋章を出してから気合を込めるんだっけ? そもそも自分の紋章をどうやって出せばいいんだ? とりあえず、念じてみようか? 口頭で説明されただけではわからないよなー。ま、何事もやってみないとわからないし、やるだけやってみますか。

 

「紋章発動!」

 

 あ……出た。ていうか、口に出して言ってしまった……。で気合を込めるんだっけ? っと。

 

 すると雪花の後ろに桜色――淡紅色の紋章が現れた。雪花の紋章は真ん中に日本刀を模した形があり、日本刀の鞘と抜身の刀がクロスしておりその周りには桜の花びらが舞っていた。

 

「せやっ!」

 

 木刀を下段に構えてから気合を発して斜め上に薙ぐ、すると木刀が描いた剣線上に閃光が放たれた。それが、相手にあたると一斉に獣玉化した。――と同時に桜の花びらが舞った。

 

 うおっ!! なんだこの威力……これが輝力を使った紋章術か。思っていたのより凄いもんだなぁ。それに、紋章って疲れるんだねー。今の俺だとこれは連発できないなー。さて、暇になってしまった……シンク達と合流したいがこの壁高いしなぁ。どうすっかな?

 

 門の入口付近にいた敵を倒したので、雪花がどうやって中に入るか考えていると後ろから駆けてくる人の足音を聞いた。何事かと思い後ろに振り返り木刀を構えなおす。すると、駆けてきた人物がこちらの様子を察知し足元に紋章を発動させたかと思うと一瞬で間合いを詰められた。

 

 紋章ってこんな使い方もできるのか……って呑気に考えてる場合じゃないな。

 

 相手は懐から短刀を引き抜いて、そのままの勢いで切り上げてきた。雪花は、すかさず左足を軸にして右足を少し後ろに引き上体を捻ると同時に構えていた木刀を下段に変え相手の胴を狙った。相手は切り上げた短刀を持ち直して、こちらの木刀が当たる寸前に短刀を滑り込ませた。が、受け流すことはできずにそのまま後ろに飛ばされた。

 

「痛ゥ……。いやぁ凄いでござるな。アレを躱しただけでなく反撃もするとは、相当やるようでござるな」

 

そう言って何気ない顔で起き上がった。

 

「いきなり攻撃はどうかと思うが……。かかってくるなら容赦しないぜ?」

 

「望むところでござる! あっ……そういえば名乗るのを忘れていたでござる。拙者、ビスコッティ騎士団隠密部隊筆頭ユキカゼ・パネトーネにござる」

 

 ふむ、何やら聞き間違いかもしれないが名乗られたならばこちらも応えねば礼儀に反するし、応えるのが道理だな。よし、さっそくアレを名乗らせてもらおう。

 

「ビスコッティの自由騎士、此花 雪花だ。いざ、参る!!」

 

 相手の名乗りに応えたからには立会いと思い、木刀を構えなおし駆け出す。すると、どうしたことか隠密筆頭は呆然と立ち尽くしたままだった。不思議に思ったが真剣勝負には何ら問題はないと考え、木刀を下段から切り上げにかかったところで意外なところから声が届いた。

 

「セッカさん~。ユッキー待つのであります~」

 

「「へ?」」

 

 雪花はその声を聞き、振りぬこうとしていた木刀を慌てて止めた。木刀はユキカゼの顎の手前でぴたりと止まっていた。もしも、声が遅れていたのならば……雪花が声を聞いていなければ、木刀は綺麗な形で当たっていたであろう。木の刀と書いて木刀である。つまり、刀なわけだ。いくら木刀だとはいえ、当たれば痛いどころでは済まない。当たり所が悪ければ骨折などの怪我を簡単に作ることもできるのだ。ここフロニャルドの戦で死にはしないと言っても、いくら攻撃をくらえば獣玉になるとしても、危ないことには変わりない。

 

「2人とも仲間うちで戦っては元も子もないでありますよ~」

 

 そういえばビスコッティ騎士団ってちゃんと名乗っていたな……。いきなり斬りつけられたからなぁ。頭に血が上ってたか。それはそうと……。

 

「すなまい、ユキカゼさん。急に攻撃されたもんだから、つい反撃してしまった」

 

「いやいや、こちらこそセッカ殿が敵かと思い攻撃してしまい申し訳ない。それと、ユキカゼでいいでござるよ?」

 

「こちらも殿はいらない。それと、聞きたいことができたんだがいいか?」

 

「なんでござるか?」

 

 隠密筆頭ことユキカゼは、リコッタのそばまで行って何やら袋を受け取りながらこちらに振り向いた。

 

「えっと、俺に突進してきた時足元に紋章がでてたよな? したらいきなり間合い詰められたんだが。どういうことだ?」

 

「紋章は身体強化などにも使えるのでござるよ。セッカは知らないのでござるか?」

 

 事情を知らないユキカゼにリコッタが説明をした。すると、最初は物珍しそうに雪花のことを眺めていたのだが話が進むにつれて驚きの表情に変わっていった。

 

「セッカは紋章なしでレオ閣下と渡り合ったんでござるか! どおりで拙者の攻撃は当たらないわけでござるなぁ」

 

「いや、あの時は必死に避けただけなんだけど。じゃあさ、俺もユキカゼみたいに瞬発力を上げられるわけなのか? ……ちょっとコツとか教えてもらえないかな?」

 

「いいでござるよ。まずは……」

 

 リコッタは2人が話し始めたので、これを機に最初の印象を払拭出来ればなどと考えながら聞いていたのだが、今は奪還戦の真っ最中だということを思い出し慌てて2人に駆け寄った。

 

「なるほど、つまり紋章の使い方が根本的に違うのか」

 

「そうなんでござるよ。それにしても、本人の口からレオ閣下の時は紋章を使っていないと直接聞くのでは感じ方が違うでござるよ」

 

「2人とも! 今は奪還戦の真っ最中なのでありますよ。あまり長話はできないであります。今すぐ、砦の中に向かうでありますよ」

 

「「あ」」

 

 そうだった。今は戦の最中だったな。しかし、この壁どうすればいいかなぁ。

 

「リコは拙者の背中に乗るでござる。セッカは先程教えた通りに、さすればこの壁ぐらい抜けて砦内に入れるでござるよ」

 

「おう、わかった。えっと、まず紋章発動して……」

 

 身体強化の紋章は、砲撃と違い奇妙な感覚だった。体をやさしく包まれるような、形容しがたい感覚だった。隠密筆頭――ユキカゼは先に跳躍したので、遅れまいと雪花は自分の足元に紋章を発動して、脚に力を込めて跳躍をしてみた。――結果、砦内に侵入することは可能だった。

 

「ちょっとまったぁぁ、跳び過ぎだぁぁ」

 

 ……だったのだが、そう結果は……。初めての紋章、先程の砲撃というよりも斬撃がうまくいったため安心していたのか、はたまた油断していたのか、雪花は勢いよく塔の高さまで上昇してから体勢を立て直せずにそのまま広場に―詰まる所戦場に―砂埃を巻き上げながら落下したのであった。

 




以上、書き直したものはここまでになります。


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