ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る (天狐空幻)
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プロローグ
001


ストブラ書き終えていないけど投稿してしまった。後悔はしていない。
さて、今回はブラブレとデジモンのクロスです。最初は無難にロイヤルナイツかなっと思いましたが、それだとありきたりなので少し変えてみました。
では、本編をどうぞ。感想なども書いてくれるとやる気がでますので、宜しくお願いします。


 荒野に一人の少年が歩いていた。

 小さな身体を覆うほどにフードを着込み、強く差し込む太陽光を避けるために頭や顔全体に布を巻いている。その眼には疲労の影が差し込んでおり、呼吸も荒れており視線を地面にジッと向けたまま歩いており、今にでも倒れそうである。

 歩いていた少年は何かに気付いたのか地面に向けていた目線を上げる。視線の先には荒野には似つかわしくない霧が発生しており、風に乗って霧が少年に向かってきていた。天を覆う霧は速度を上げて少年を襲う。

 顔全体に巻いていた布を手で押さえて襲ってきた霧と風に耐えるように身体を丸めて縮こまる。霧と風が過ぎるのを待つ、すると温度と雰囲気の変化した事に少年は気付き目線を再度上に向ける。

 霧が晴れる。そこには今まで荒野だった風景画が一編して廃墟に変わっていた。その変化に少年は驚きを隠せずに眼を見開いた。

 

「ここは……町? いや、廃墟か」

 

 立ち上がって周囲を見渡す。

 放置されて何年も経っているのだろうか鉄が雨で塗らされて赤錆が浮かび上がっている。コンクリーも雨でボロボロの削られている。先程まで自分が居た場所とは正反対もいい所程に変わってしまった事に少年は驚きながらも全身に篭る熱に眉を顰める。

 

「熱いな。それに、日差しもそこまで強くないし……脱ぐか」

 

 巻いていた布を解き、着込んでいたフードも脱ぎ捨てる。

 中肉中背。黒髪に複数の紫色のラインが刻まれ、身長から見て小学生程度、フードの下に来ていた衣服は若葉色の着物に黒の羽織を被った姿。

 荒野にも廃墟にも似合わない出で立ち。その少年は袖からスマホを取り出し、投げ捨てた布やフードに画面を向ける。すると、布やフードは淡く光って粒子となりそのままスマホに吸い込まれてしまう。

 少年はそれを確認した後、周囲を見渡す。

 少年の目に最初に飛び込んでいた物は大きな建物。天高く聳え立つ黒々とした長方形の建造物、それも1個だけではなく幾つも存在している。あの建造物は何なのか不思議に思いながら高層ビル群に目線を向けた。

 

「……日本。まさか、帰って来た? いや、ありえないしあんな超高建造物なんて知らないし」

 

 少年は目を細めながらビル郡に向かう事にした。すると、スマホのランプが数回点滅する。それに気付いた少年は少しだけ微笑みスマホを撫でるように叩く。

 

「大丈夫。危なかったら頼む」

 

 少年に耳に荒々しい獣の息潜めた唸り声が響く。

 その唸り声が子守唄の様に微笑みを浮べながらビル郡に向かって歩き出した。歩いて30分ほど歩き続けると住宅街に到着、だが目的は此処ではないので更に都心に向かっていく。

 進むにつれて人が多くなり、数人程度が少年の出で立ちに興味を示すがその程度で直ぐに興味を無くして去っていく。

 

「やっぱし日本。……でも、何……この違和感、んっ?」

 

 歩いていた少年は何処からか歌声が聞えた。透き通った綺麗な歌声に少年は興味を示して、その声が聞える場所に向かって歩き出し数分、その人物を見つけた。

 汚れたケープを羽織る少女、托鉢用の椀を持ち道行く人に向かって歌いかけている。そして、その少女の隣に置かれた板切れには『私は外周区の"呪われた子供たち"です。妹を食べさせるためにお金が必要です。どうかお恵み下さい』と書かれていた。

 

「呪われた子供たち……」

 

 その言葉の意味が判らない少年。

 言葉の意味を考えながら遠くで少女を見ていると、ある事に気付いた。それは、少女の目が一向に開かないことだ。眼でも怪我して見えないのだろうかと考えていると、周囲の通り過ぎていく人間の負の感情を少年は感じ取った。

 

「憎しみに満ちた眼、他にも幾つか……"呪われた子供たち"って何だ?」

 

 まるで仇を見るかの眼。少女が何をしたのか不思議に思っていると複数の若者――少年から見て高校生ぐらい――が少女を取り囲むように集まった。そして――

 

「アッ!」

 

 少女を蹴り飛ばした。持っていた椀がその衝撃で飛ばされ、丁度少年の足元に転がった。その光景に冷静に見守っていた少年は驚きが隠せずに眼を丸くする。

 急な出来事。だが、その光景を道行く通行人たちは取り巻きで見守るも誰一人として止めず、そして誰も携帯で警察などに連絡はしなかった。

 

「この化け物が!」

 

「貴様らなんて死ねばいいんだ!」

 

 思い思いの罵声。だが、ケープの少女は微笑を絶やさない。

 そこで、少年はその微笑の意味を理解した。あの微笑みは、感情などで出してるものではなく、自身を守るための防衛的適応での微笑み。

 少年の眉間に皺が寄る。少女は未だに周囲の若者達に暴行を振られ、殴られ蹴られる少女は微笑を絶やさず耐えている。

 そこで、少年は袖からスマホを出す。片手に椀、もう片手にスマホを持ったまま少女に近付いてく。

 周囲の取り巻きを押しのけていき、そして暴力を振るう若者たちも押しのけた。

 

「……大丈夫?」

 

「えっ?」

 

 膝を折り、少年は倒れている少女を手を差し伸べて立ち上がらせた。持ってきた椀を少女に持たせて、転がって泥やゴミなど汚れたケープを綺麗に払っていく。

 すると、少年の肩に若者の手が握られた。

 

「おいガキ! 何してやがる!」

 

「邪魔すんなよ! お前も"呪われた子供たち"か!?」

 

「だったらお前もボコボコにしてやる!」

 

 若者が掴んでいる手に力が篭る。少年の着物に皺が寄り、苦痛の表情を浮べた瞬間、肩を握っていた若者が吹き飛ばされた。

 

「ゴホッ!」

 

 数メートルほど吹き飛ばされ壁に叩き付けられる。若者は吐血して、壁にズルズルと下がっていき地面に倒れる。

 吹き飛ばされた若者。その結果を周囲の者たちが認識して理解するには、ある程度の時間が掛かった。そして、理解した瞬間、周辺に居た者たちは顔色を恐怖に染まる。

 

「はい、これキミのお椀だよね」

 

「あっはい、そうです。彼方は……」

 

「自分はゼツ。キミは?」

 

「私は――」

 

 少女が名前を答えようと発そうとした瞬間、何人か近付いてくる足音に気付いたゼツと名乗る少年。一度、少女の口に手を置いて喋らないようにして、近付いて来るものに目線を向けた。

 向ってきたのは警察官。小太りで年齢から見て三十後半の男性、それに同行する二十台後半の男性が2人。

 周囲の取り巻きを退けてゼツと少女に向ってきた。

 

「貴様ら何をしている!?」

 

 先頭で駆けて来た小太り警察官が怒鳴る。

 そして、次に向けた視線はケープの少女だ。だが、その瞳には憎悪を宿している事にゼツは一瞬で気付き、眼光を鋭くした。

 

「このクソ餓鬼が!」

 

 小太りの警察官は少女の胸倉を掴み乱暴に引こうとする。だが、その手は引かれなかった。その掴んだ警察官の腕にゼツが握り締めて止めていたからだ。

 

「貴様、何をする!? 公務執行妨害だぞ! 掴まりたいのか!?」

 

「…………」

 

 ゼツは何も言わない。だが、それでも警察官の腕を放そうとしない。小太りの警察官は後ろに同行している二人の警察官に視線を向ける。その視線に二人の警察官はゼツに近付き取り押さえ様とする。だが、

 

「邪魔だ」

 

 小声でゼツは呟いた。

 同時に持っていたスマホの画面が輝き、そして何か見えない物で取り押さえ様としていた警察官2人が吹き飛ばされる。その光景を眼前で見た小太り警察官は驚きの表情を浮かべ、そしてゼツは更に呟いた。

 

「失せろ」

 

 小太り警察官は何を言っているのか分からなかった。だが、それを理解する前に警察官は何かに握られるように身体が圧迫され、そして宙に浮いた。

 

「あああぁぁぁ!?」

 

 小太り警察官は圧迫される痛みに苦痛の声を上げる。その苦痛を上げる警察官を少年ゼツはまるでゴミを見ている眼で見つめていた。その少年の姿に周囲に未だ居た者たちは恐怖を覚え、我先にと逃げていく。

 

「うるさいから捨てろ」

 

 悲鳴が耳障りになったゼツは捨てる様に言うと、小太り警察官は見えない何かに投げ捨てられる様に飛ばされた。これで、ゼツと少女の周辺から静寂が訪れた。

 その一部始終を傍で聞いていた少女は驚きを隠せずにぽかっとしていた。

 

「そこに、何か居るんですか?」

 

「……分かるんだ」

 

「はい。まるで彼方を守るように……大きい何かが」

 

 眼が見えない少女は、気配や雰囲気で何かが居ることを見抜いた。

 少年ゼツは驚くことも無く微笑みを返す。そこで、ゼツは改めて少女の名を問うた。

 

「私は瑠璃(ルリ)と言います」

 

「そう、ルリちゃんか。妹さんは?」

 

「妹は璃亜(リア)って言います」

 

 やっとの事で互いは自己紹介を終えた。

 そして、ゼツは続けて少女ルリにある事を訊いた。"呪われた子供たち"とは何か。何故、眼を瞑っているのか。何故、ルリみたいな少女が迫害を受けているのか。他にも色々と質問した。

 それらの質問をすると、ルリは驚いた表情を浮べる。

 

「知らないんですか?」

 

「うん。少し色々と事情があってね……ダメかな?」

 

「うんん。最初は驚いたけど大丈夫だよ。えっと……」

 

 ゼツの質問にルリは知り限りの事を教えた。

 "呪われた子供たち"とはガストレアウィスルを宿している事、周囲を囲んでいるの超巨大建造物は"モノリス"と呼ばれる物、そのモノリスがガストレアと呼ばれる化物の進行を止めている事、眼は鉛を流し込んで潰している事、他にも色々と聞いたゼツはこの世界を大まかだが理解した。

 

「ありがとルリちゃん。凄く役立ったよ」

 

「それなら良いんです。でも、何で知らないんですか?」

 

 少女ルリが今まで疑問に浮べていた事を質問した。ゼツはどう説明しようかと悩み、そして答えた。

 

「自分が異世界人だからかな」

 

「異世界人……」

 

 以外過ぎる答え。

 オウムの様に呼び返すルリ。その様に呆然とするルリが可愛らしくて見詰ていると、遠くからパトカーのサイレンが耳に入ったゼツは舌打ちをする。そして、ゼツは呆然としていたルリをお姫様抱っこをする。

 急な事にルリは悲鳴をもらし驚く。

 

「そろそろ、此処も厄介そうだし離れよっか」

 

「でっでも、どうやって?」

 

「それはね。……飛べ"ディアボロモン"」

 

 2人の後ろに一体の巨体が現れた。

 黄色の鬣。グレーに近いゴミ質的な身体。肩と胸、頭と両手に青紫の鋼鉄鎧に似た装甲。そして、両手足と背中にに血を吸ったルビーの様な鉤爪。

 人間世界では絶対に見られる事のない異形の存在・ディアボロモンは2人を優しく両手で掴み、空高く飛び跳ねて姿を消した。

 

 




さて、原作なら三巻、アニメなら八話に出てきた眼を鉛を流し込んだ"呪われた子供たち"の少女です。名前が出ていなかったのでオリジナルとして勝手に名付けてしまいました。
っで、主人公のパートナーデジモンは皆様のトラウマ『ディアボロモン』です。あの子、見た目はあれだけど強いでしょ?
タブーを幾つか犯していますが、ウォーグレとメタガルとの2対1でもそこそこ頑張って戦ってましたし。
さて、これからどうなるのか楽しみにして下さい。


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002

少しだけ長くなってしまいましたが、大丈夫でしょ。
さて、パートナーデジモンはアニメみたいに人語を喋ったりはしません。
ではどうぞ……


 東京エリア上空に一体の化物が飛んでいた。

 名はディアボロモン。デジモンと呼ばれるモンスターの一体にして最終進化の究極体。そのディアボロモンの右肩に2人の子供が座っていた。

 1人はディアボロモンのパートナーである少年ゼツ。もう1人はケープを羽織った"呪われた子供たち"である少女ルリ。

 

「うあぁ、風が気持ち良いです」

 

「そう、良かった」

 

 少し高い高度にいる為に風は冷えるが気持ち良い風が吹いている。

 そんな気持ち良い風を堪能しながら外周区と呼ばれる場所に向かってディアボロモンは安全運転で飛行していた。

 ルリは丁度隣にあるディアボロモンの顔に手を置いて撫でる。それに気付いたディアボロモンは「ケケケッ」と多少は不気味に聞える声で笑う。

 

「この子、なんて名前ですか?」

 

「ディアボロモンって名前。さっき言ったけどデジモンって進化する度に名前が変わるからね」

 

「ディアボロモン。ありがとうね」

 

「ケケケケケケッ!」

 

 お礼の述べてルリはディアボロモンの頭を撫でると、やっぱし不気味に笑う。その笑い声にルリは不気味がらずに微笑みながら撫で続けた。そうしていると目的地である外周区に到着した。

 ゆっくりとディアボロモンは地面に着地してルリを優しく手で包み地上に降ろす。ゼツは1人で地面に飛び降りた。

 

「すまんディアボロモン。警戒の為に姿隠して護衛頼む」

 

「ケケケケッ」

 

 笑ってディアボロモンが姿が霞みやがて肉眼では見えなくなる。だが、ルリは周囲にディアボロモンが護衛してくれているのを肌で感じとっていた。

 ルリを先導するようにゼツは手を持って歩いていく。途中でルリに道筋を確認しながら歩くこと十数分後、目的地に到着した。

 足元にあるマンホール。ルリはそのマンホールの蓋を数回ノックすると1人の少女が姿を現した。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ただいまリア」

 

 出て来たのはルリの妹のリアであった。

 髪質や顔質は姉のルリに良く似ているが、雰囲気的には妹の方が活発的であるとゼツが思っているとリアと視線が合った。ゼツは手を振って挨拶をすると、それに釣られて頭を下げたリア。

 

「お姉ちゃん。この人、誰?」

 

「私の恩人かな」

 

「恩人って、何かあったの!?」

 

 慌てるリア。だが、それをルリは待ったを掛けた。

 

「話は中でしましょ。それで良いですよねゼツさん?」

 

「大丈夫だ」

 

「リア、案内お願いね」

 

「うっうん」

 

 3人はマンホール内に入って奥に進んでいく。すると、淡い蛍火が見えてきた。

 大きさにして畳み四畳半程度の広さ。そこには色々な物が置かれており、奥の窪みには水が入ったペットボトル――2リットル――が数本置かれており、別の窪みには衣服が数枚置かれている。

 ゼツから見ても衛生面では宜しくない場所。そこで生きるしかない"呪われた子供たち"の配偶に怒りを覚える。

 

「あの、飲物は水しか出せませんけど……」

 

「いや、気にしなくて良いよルリ。此処での生活って何年目ぐらい?」

 

「かれこれ二年目です」

 

「そうか……」

 

 この環境下で二年か。そう思うゼツ、すると可愛らしい音がマンホール内が響く。その正体はリアの腹の音だった。リアはお腹を押さえて恥かしくなり顔を真赤にそめてしまう。

 そこでルリは悲しげな表情を浮べる。

 

「ごめんねリア。今日は……」

 

「分かってる。ご飯食べられない事なんて今まで何度もあったし。それよりもお姉ちゃんが無事で帰って来てくれるだけで、私は嬉しい」

 

「リア」

 

「…………」

 

 無事に帰って来てくれた姉に微笑むリア。そんな優しい言葉に感動の表情を浮かばせ今にも泣きそうなルリ。それを無言で見詰ていたゼツは袖からスマホを取り出して操作する。そして何かを押した瞬間、3人の丁度中央に発光して何かが出てきた。

 

「なっ何!?」

 

「えっ?」

 

 急な発光に驚くリア。眼の見えないルリは、その驚きの声でやっとの事で驚く。そして、3人の前に現れたのは出来立てホカホカのオニギリだった。

 

「食べるか?」

 

「「…………」」

 

 リアは唖然とする。ルリは鼻腔を刺激されて、それが食べ物だと判断して驚く。ゼツのその質問に2人は少しだけ間を空けて頷いた。

 オニギリは計10個。2人の姉妹は申し訳無さそうに食べるが、途中で行き良いよく食べだしていき姉妹の胃を満たしていく。

 

「ご馳走さま」

 

「美味かった」

 

「こんなにお腹一杯食べたの久しぶり!」

 

 ゼツは1個。姉が4個で妹は5個を食べた。リアはお腹を擦りながら横に倒れ、ルリは口元をテッシュで拭く。

 ある程度落ち着き、ルリは頭を下げてお礼を述べた。

 

「ありがとうゼツさん。オニギリを恵んでくれて」

 

「良いさ。気にしてないし」

 

 2人はそう述べると、倒れていたリアが起き上がりゼツに問い質した。

 

「ねぇ、彼方って何者なの?」

 

 真っ当な質問にゼツは隠す事無く説明した。

 その説明を聞いたリアは胡散臭そうな眼で見られるもの、先程のオニギリを出した光景を見ていたのである程度は信じた。だが、

 

「その、デジモンだっけ。何処に居るの?」

 

「外だよ。普段は姿を消してもらってるけど」

 

「何で?」

 

 姿を消している理由を問われたゼツは頬を掻きながら口篭る。そして、決心したのかゼツはその疑問に答えた。

 

「見た目がな。その……怖い、だよ」

 

「えっ怖い?」

 

「そう、急に見たら怖く感じるんだよ。自分はそう感じてないけど。それに、かなり大きいから周囲からは化物扱いされるからね」

 

 ゼツは空笑いしながら述べ、自身のパートナーであるディアボロモンの顔を思い浮べていた。そして、やっぱしお世辞にも可愛いの分類ではなく怖いか不気味の分類の顔だと再認識した。

 

「ねぇ、そのディアボロモンだっけ。会ってみたいけど良いかな?」

 

「こら、リア。無茶なお願いを言わないの」

 

 デジモンと呼ばれる生物が気になって仕方がないリアは会わせて貰う様にゼツに頼む。その横で話を聞いていたルリは流石にお客相手に失礼だと思い停止させようとする。だが、ゼツは大丈夫だと述べて会わせる事にした。

 一度、皆は外に出てゼツが名前を呼んだ。

 

「出て追いで」

 

 ワクワクしながら待つリア。そして、ディアボロモンは姿を現した。リアの眼前で顔をドアップ。

 

「ヒッ!?」

 

「ケケケケッ」

 

 その後、リアの甲高い悲鳴と共に倒れてしまった。

 

「……ディアボロモン」

 

 溜息を吐きながら頭を抑える。そしてゼツはディアボロモンが元来、悪戯好きである事を思い出す。そのゼツの隣ではリアの急な悲鳴に驚いてオロオロしているルリ。

 

「あの、リアは?」

 

「大丈夫。急にドアップで顔を見てしまって驚いて気絶しただけだから」

 

「はぁ。ディアボロモンて悪戯好きなんですね」

 

「ケケケケッ!」

 

「お前なぁ~……」

 

 腹を抱えて笑うディアボロモンに呆れ顔で見ながら苦笑するゼツ。

 そんな出来事が起きながら、ゼツは異世界での初日の一日が過ぎていった。

 

 

  ◆

 

 

 空が闇に染まった時刻。

 ゼツは姉妹のご好意に甘んじて一緒にマンホール内で就眠していた時であった。薄れていた意識が眼を覚まし、寝かせていた身体を起き上がらせる。

 ルリリア姉妹がゼツの左右を挟んで眠っているので、それを起こさない様に立ち上がり外に出て、夜空を見上げる。

 

「ディアボロモン」

 

 呼び掛けにディアボロモンは一瞬でゼツの背後に姿を現して、ゼツを抱き寄せた。そのままの状態で都心に向かって飛んで行く。

 

「ケケケッ」

 

「んっ。あぁ、目的はガストレアと呼ばれる存在を見にね。アイツから現れたって連絡が入ったし」

 

 飛び続けて30分で都心に辿り着き、高層ビルの屋上で立つ。目的は、この辺りが一番周囲を見渡すことが出来るからである。

 そのままビル屋上で待っていると銃声と悲鳴の声が、静寂の夜に響き渡る。それが合図とばかりにディアボロモンに乗って、その聞えた場所にゼツは向った。

 目的地には10分も経たずに到着。

 建物の上から見下ろしながら、人間とガストレアと呼ばれる化物との戦いをゼツは見物していた。

 

「あれがガストレア。あの姿だとモデル・スパイダーか」

 

 一見して蜘蛛そのものを巨大化させたような生物。

 頭胸部に八本の足、真紅に輝く八つの瞳、袋状の腹部。身体は黄色で、その巨体はゼツが想像してたより大きいことに多少は驚くが、恐怖は感じる素振りは見せていない。

 

「でかい。だが――」

 

 それだけだ。

 ゼツはそう呟きながら特に何かを思う事無く、面白く無さそうな表情で見詰る。すると、ゼツの視線が別の方に向かれる。

 黒色の刀身の大剣を持った大男がガストレアを一刀両断にする。っで、その後ろで少女が銃で大男の支援射撃をしている。

 

「アレが民警か。確かプロモーターとイニシエーターか」

 

 ルリからの話で聞いていたゼツは、"呪われた子供たち"の余りにも不遇な存在だと思う。人間達に迫害され殺されて、それでいて人間の為に戦うが認められない。本当に人間とは身勝手な存在だな、そう思わずにはゼツはいられなかった。

 すると、戦っている民警の背後から闇に紛れて近付いてくる存在にゼツは気付いた。細長い胴を唸らせて民警たちに近付いていく、その姿は蛇。タイプ・スネークだ。

 どうやら民警たちは気付いていないらしい。そして、そのタイプ・スネークが最初に目標にしたのは後方支援射撃をしているイニシエーター。

 

「……いけ」

 

「ケケケッ!」

 

 見てしまった以上は無視できないと判断したゼツは、背後に待機していたディアボロモンに行くように合図を送る。ディアボロモンは軽く笑った後に上に飛び跳ねて暗闇に姿が掻き消える。

 

 

  ◆

 

 

 私、千寿夏世はこの後、このタイプ・スネークに食い殺されるのだろう。蛇のガストレアの顎が私を捉える為に開かれ襲い掛かってくる。

 会社から依頼された任務は、モノリスを抜けて侵入してきたタイプ・スパイダーを狩る事だった。比較的簡単でプロモーターの将監さんは詰まらないと愚痴ていた。

 炙り出したタイプ・スパイダーを将監さんがバラニウム製の大剣で一刀両断、その一撃が顔を足を同時に切り裂き、ガストレアは苦痛の悲鳴を上げる。そんなガストレアの反撃をさせない為に後方から射撃して動きを止める。

 このまま無事に仕事が終えると思った時でした。背後からヌメッとした嫌な感じに襲われ、背筋に震わせながら振り返る。そこには長い胴体を唸られて襲ってくるタイプ・スネークのガストレア。

 気付くのが遅すぎた。あぁ、ここで死ぬんですね。そう思ってショットガンを持っていた手に力が抜ける。

 鋭い牙、それが私に襲おうとした瞬間、タイプ・スネークは四散しました。

 

「えっ?」

 

 何でガストレアが四散したのか意味が分からず唖然としてしまいます。最初は将監さんが助けてくれたのかと思いましたが、将監さんにはガストレアを四散させる方法は持っていない事に気付き、周囲を見渡す。

 そこで、一つの影が見えました。その影の形は到底、人間には見えない事に気付いた私は銃口を影に向ける。影は徐々にこちらに近付き、月明かりで全容を現しました。

 

「ガストレア、じゃ……ない」

 

「ケケケッ」

 

 不気味に笑う化物の様な存在。ガストレアは皆特徴として瞳が赤く染まっている。だが、この化物は瞳は赤ではなく黄色で輝いてもいない。

 その存在に驚愕してると、背後から将監さんが近付き私に問い掛けてきた。

 

「おい、アレは何だ?」

 

「将監さん。いえ、私にも何が何だか……」

 

 アレが何なのか私も知りたいです。

 不気味に笑うその化物は、高く飛び上がり一回でビル屋上に着地した。その着地した場所には私と歳変わらない年齢の男の子が立っていた。その化物は少年の傍で未だに不気味に笑い続けており、少年は私達を見下ろしていた。

 

「おい、そこのガキ。お前、何者だ?」

 

 私の疑問を将監さんが代わりに答えてくれました。

 男の子は無言でそのまま足を一歩前に進ませる。足の先には建物などなく、男の子はそのまま落ちてきた。

 

「あっ!」

 

 私は声を漏らす。

 このまま地面に落ちてしまったら少年は想像通り、悲惨な最期を迎えてしまう。私は咄嗟に目を両手を覆うとした瞬間、少年は地面に落ちる5メートル一歩前で宙に浮く。

 宙に浮く少年に私は驚きながら眼を凝らして見て、更に驚くことになった。

 四本の腕、兜の様な頭部、機械の大砲を背中に背負った化物。その化物が落ちてきた少年を手で受止めていた。

 

「なんだありゃぁ……」

 

「…………」

 

 私も将監さんもその化物の存在に何と言えばいいのか判らず黙って見守る。

 少年はその四本腕の化物から降り、私たちに向かって歩いてきて1メートルあたりで足を止めて私を見詰、少年は問い掛けてきました。

 

「大丈夫だった?」

 

「私、ですか?」

 

「そう。危なそうだったからディアボロモンに助けるように頼んだけど。怪我とかしてない?」

 

 ディアボロモンとはどれを言っているのか分かりませんが、どうやらガストレアの襲撃を助けてくれたのは彼のようです。すると、将監さん大剣を地面に叩き付けて怒鳴りだしました。

 

「てめぇ、何を無視してんだ!?」

 

「将監さん」

 

 無視して私に話しかけてきた少年に将監さんは威嚇する。だが、少年は何の反応も見せる事無く溜息を吐いて踵を返した。

 それは、まるで私が無事かどうかを確認する為だけにビル屋上から降りて来たのだと私は思ってしまう。

 ですが、その行動は将監さんの感に触れてしまったようで、持っていた大剣を構えて一気に少年に襲い掛かります。

 

「だから無視してんじゃねー!」

 

「あっ、将監さんダメです!」

 

 私は将監さんを止まるよう呼び止めようとしますが、将監さんは脳筋なので一度頭に血が上ると周囲の声など聞えなくなってしまいます。

 それに、あの少年の後ろに控える二体の化物、アレは私の憶測ですがガストレア以上の化物で将監さんでは絶対に勝てない。そして、その予想は当たりました。

 先程の不気味に笑っていた化物がありえない程に腕を伸ばし、将監さんが構えていた大剣を一瞬にして粉砕して、追撃の如く四本腕の化物が咆哮して将監さんを吹き飛ばします。

 

「将監さん!?」

 

「ぐっ!」

 

 私はすかさず駆け寄る。どうやら将監さんは大きな怪我をしていない様で、安堵の溜息を吐く。そして、改めて相手の化物二体の尋常ではない程の存在だと認識しました。

 あの化物たちは本気など出していない。もし、最初から本気で来られていたら将監さんは既に、この世には生きていない筈です。

 少年はもう一度私に視線を向け、そのまま闇夜に去っていきました。アレは何だったのでしょうか……。

 

 




夏世ちゃん可愛いよ夏世ちゃん。
さて、今回は最後に夏世ちゃんが出てきました。この子が死ぬ場面は涙物です。
これから夏世ちゃんとゼツはどの様に触れ合うかお楽しみですね。
では、次もお楽しみに……。後、感想とか書いてくださると嬉しいです。


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003

 廃墟に陽射しが差し込む。

 東京エリア。その外周区に二体の化物たちが立ち尽くしていた。

 四本の腕、背に機械の大砲、兜の様な頭部、千年魔獣と呼ばれる凶悪合成デジモン・ミレニアモンが大きな欠伸をしており、その隣でディアボロモンが「ケケケッ」と笑っていた。

 そんな二体の凶悪デジモンをまじかで見たリアは唖然と見詰ていた。

 

「これ、ゼツのパートナーなの?」

 

「そう、四本腕がミレニアモンで、その隣のリアを脅かしたのがディアボロモン」

 

「ミレニアモンとは今日が始めて会いますね」

 

 昨日の夜。

 ゼツは目的であったガストレアの実力を調べに向かった。そして、ガストレアはパートナーである二体のデジモンには脅威にならないと判断した。

 勿論、未だ見ぬ凶暴なガストレアが居るかもしれないので決断しきれずにはいるゼツは、無事に姉妹がいるマンホールに帰ってきた。だが、そのマンホールの外には姉妹が出ており声を上げてゼツを呼びながら探していたのだ。

 姉妹の傍に着地して降りてくると姉妹は泣きながらゼツに抱きついてきた。何故、泣いているのか分からずに困惑するゼツは姉妹の言葉を聞いて納得した。

 姉妹の言葉から「寂しかった」や「怖かった」、「何処にも行かないで」など悲痛の言葉をもらしてゼツにしがみ付いていた。そんな泣きじゃくる姉妹にゼツは、背中を優しく撫でてやった。

 そこで、この姉妹は異常なまでに自身に依存してしまっている事を知った。だが、それは仕方ないのかもとゼツは思う。

 今まで誰一人として優し手を差し伸べられず、迫害され続けてきた。そんな中で、同年代で優しく接してくれた子供が居れば依存するのも無理からぬ話かもしれない。

 姉妹にとってゼツは既に掛替えのない存在にして、兄の様な存在でもあった。

 ゼツはお詫びとしてもう一体の相棒であるミレニアモンを紹介して、豪華な朝食を準備してあげた。そこで、リアが不思議に思っていたことをゼツに質問した。

 

「昨日は訊かなかったけど、それ何なの?」

 

「ん? あっコレか」

 

 リアが指差すそれはスマートフォンと呼ばれる携帯電話機の一種だった。それは、ゼツが小学生に入学した頃に親からプレゼントとして渡されたスマホ。だが、それは過去の話。

 デジタルワールドに飛ばされた時そのスマホは変化が起こり、あらゆる物を収納できるアイテムボックス的な役割と、パートナーである二体のデジモンを納めるハウス的な存在に化けていた。

 デジタルワールドでは人間が持つ端末機をデジヴァイスと呼ばれる代物であった。

 そんな話を訊いたルリリア姉妹は面白そうに触って弄っていた。

 

「この中に今は何入ってるの?」

 

「食料や生活道具なんかは入ってるけど」

 

「昨日のオニギリもこの中に入っていたんですか?」

 

「そうそう」

 

 姉妹は「便利だ」と感想を述べる。

 確かに姉妹の言うとおりに便利なアイテムではあると、ゼツは今更ながら思った。そして、ゼツは改めてそのデジヴァイスの恩恵に感謝した。

 嘗て、パートナーであるディアボロモンがタマゴから孵って幼年期のクラモンだった頃は、生き延びるので精一杯であったゼツ。予め備わっていたアイテムボックスの中身には色々な便利道具が収納されており、それを駆使して野生デジモンから生き延びてきた。なので、デジヴァイスに感謝する暇など無かった。故に、ここで改めてゼツは自身が持っているデジヴァイスに感謝するのだった。

 ゼツとルリリア姉妹での3人の朝食を終えて、これから如何した物かと考えているとリアがある提案を述べた。

 

「他の所の"呪われた子供たち"に会いに行かない?」

 

 他の場所の子供たちに会いに行く。その提案にルリも嬉しそうに手を合わせて同意した。

 ゼツは周囲の子供たちの迷惑ではないかと懸念するが姉妹が強引に連れていく。その強引に連れていく姉妹にゼツは苦笑しながらなすがままに連れられて行かれた。

 到着した場所は姉妹たちが居る場所と風景は一切変わらない。周辺は廃墟。何一つとして手入れされていない場所。

 嘗ては道路であったアスファルトは罅割れ、その隙間から雑草が生え放題になっている。そんな場所でルリが屈み、足元にあるマンホールの蓋を数回ノックする。

 

「もしかして、此処に居るのか?」

 

「そう。雨風凌げて、それでいて冬は暖かいし」

 

 そのゼツの疑問にリアは答える。

 そこで、ゼツはある推測をしていた。この様に幾つも存在するマンホールなら何処に子供たちが隠れているのか相手には分からなく出来る。都心から"呪われた子供たち"を排除しようとする人間達から身を守る術なのだと。

 待つこと数分、1人の子供が出てきた。この子もガストレア特有の赤目である。

 

「あっ、ルリちゃんです」

 

「マリアちゃん、お久しぶりです」

 

 どうやら知り合いなのだなっと思うゼツ。すると、マンホールから出てきた少女マリアの視線がゼツに向けられた。

 

「ルリちゃん、ボーイフレンドですので?」

 

「ちっ違うよ! 今は……」

 

 その検討ハズレの言葉に反論するルリ。だが、その最後の部分はゼツには聞えていなかった。っで、そのマリアに導かれながらマンホールの下水道を歩いていき奥に進んでいくと、1人の男性が居た。

 メガネをかた撞木杖を持ち、物腰柔らかそうな少し老いた男性。その男性は一度だけゼツを見た後、嬉しそうにルリに話しかけた

 

「おやおや、キミがルリちゃんの彼氏さんかい?」

 

「ちっ違います! もう、マリアちゃん!?」

 

「えへ、なのです」

 

 あのマリアと呼ばれる少女は悪戯好きか。その辺りはディアボロモンと良い勝負をしそうだと、割とどうでもいい事をゼツは考えていた。

 ゼツは今一度周囲を見渡した。何人もの赤目がゼツに興味を示しながら遠めで観察している。

 

「(警戒してるな。無理もないか)…………」

 

 ルリリア姉妹に連れられたとはいえ、他の"呪われた子供たち"が警戒を解くことは早々ない。ゼツは知らないが、そうやって優しく接して急に変貌して襲ってきた事例は幾つも存在している。

 故に、例え子供たちが連れて来た相手であろうと警戒は解かない。

 

「彼方は?」

 

「私はこの子たちの面倒を見ている松崎と言います。君は……」

 

「異世界であるデジタルワールドのデジモンテイマー。名はゼツ」

 

「異世界……ですか」

 

 その様なゼツの自己紹介に松崎と名乗る男性や周囲の子供たちは驚き、そして不信な目で見つめる。確かに急に異世界から来ましたと子供が言ってきたら不信感を募るのは仕方なかった。っで、そこに待ったを述べたのがルリリア姉妹だった。

 

「長老、ゼツが言ってる事は本当なんです」

 

「そうよ。だって、私達この眼で見たもん。二体のデジモンと呼ばれるモンスターに!」

 

 必死に弁解する姉妹。

 だが、皆は一向に信じようとしなかった。そこで、ゼツは皆に信じてくれる為に袖からスマホを取り出して操作、そして何かを出した。

 取り出されたのは一枚のカードで、それに描かれているのはオレンジ色の二足歩行の子供の恐竜の姿。恐竜型、成長期、名はアグモンである。

 ゼツはそのカードを持って、

 

「ベビーフレイム」

 

 そう唱えた。持っていたカードは光の粒子となり、同時に掌に大人の頭ぐらいの火球が出現した。

 その手品みたいで摩訶不思議な現象に周囲の、ルリリア姉妹すら驚きの声を上げた。

 コレがゼツが持つデジヴァイスの恩恵の一つ。デジタルワールドに彼方此方に散らばっているカードをデジヴァイスに納めれば、そのカードを犠牲にする代わりとして描かれているデジモンの必殺技を一度だけ使用する事が出来る。

 出した火球をゼツは指を鳴らして消失させる。

 

「これで証明になるだろうか?」

 

「いやいや、疑ってすまないねゼツくん」

 

「気にしていない。無理もないだろうし」

 

 謝る松崎に顔を横に振ってやんわりとゼツは述べた。

 その後、ルリリア姉妹からでは知られなかった現在の日本、そして世界状況を松崎に尋ねるゼツ。その質問に松崎は愉快に受け入れて、2人は穏やかに会話を続けた。

 

 

  ◆

 

 

 私、夏世は不機嫌な顔を浮べている将監さんの隣で立ち、私達が所属している民間警備会社である社長・三ヶ島さんの前で報告しています。

 報告している内容はガストレアを瞬殺した化物を従える少年。その話を三ヶ島さんに報告した所、何を馬鹿なと言われました。

 私だって馬鹿なと言いたいです。ですが、現に私は助けられ、ガストレアを一瞬で葬り、将監さんを咆哮で倒したのです。

 

「ふむ……実はその日、三名の警察官が何者かに襲われたと小耳に挟んだ」

 

「はぁ? それがどうした?」

 

 三ヶ島さんが溜息を吐きながら、警察官が襲われたと述べました。将監さんは相変わらず脳筋なので何を述べてるのか不機嫌に尋ねますが、私は何となくですが三ヶ島さんその話を切り出した理由を見切りました。

 

「周辺の取り巻きたちがガストレア以外の化物を見た、と報告が入っている。その中に"呪われた子供たち"と将監、君が見たという子に似た子も居たそうだ」

 

「なに!?」

 

「…………」

 

 やはり、そう私は思います。でも、あの化物を従えている少年は何者なのでしょう。ですが、もう会うことも無いでしょう。そう思っていたら三ヶ島さんがレポートらしき物を取り出して渡してきました。

 私にも渡され、それに書かれている内容よ読んで驚きました。そこには『公務執行妨害及び傷害罪で捜索対象』と書かれていた。私みたいな"呪われた子供たち"みたいな子供ならともかく、普通の子供に逮捕令状が出るなんて。

 

「不思議に思うだろ。子供相手にいくらなんでも大袈裟だと……。だが、警察官三名の内、1人がかなりの重傷を負っている。まるで、巨大な何かの手で握られたような、ね」

 

「それは……」

 

 あの二体の化物なら可能でしょう。ですが、何故この様な事を私たちに説明するのでしょう……まさか!

 そこで脳裏に嫌なことが思い浮かびました。そして、それと同時に三ヶ島さんが言いました。

 

「将監、夏世。君達ペアと他の社からの民警での合同捜査の依頼だ。場所は――外周区だ」

 

 私は心臓を鷲掴みされた感覚に襲われました。あんな化物を従えた少年を捕まえろと言っているのだ。まともに戦って勝てる相手ではない。

 今回の依頼を放棄しようと進言しようとするが、

 

「へっ! あの時の借りを返してやる」

 

 あぁ、もうダメです。この脳筋、ヤル気です。

 昨日、折角助かった命がこれで無くなってしまいます。内心で私は号泣しました。

 

 

  ◆

 

 

 場所変わって雑貨ビル『ハッピービルディング』、一階にゲイバー、二階にキャバクラ、四階に闇金、そして三階に人知れずに存在する民警『天童民間警備会社』に2人の人物が居た。

 真黒のロングヘヤー、黒のセーラー服、黒のハイソックス、上から下まで黒一色の女子高生。その女性の前には、これも黒色のスートを着込んだ若い男性が立っていた。

 女性の名前は天童木更、男性は里見蓮太郎と呼ばれる人物だ。

 

「里見くん。警察から依頼が来てるわ」

 

「珍しいな、警察が民警に依頼なんて……っで、何の依頼なんだよ木更さん」

 

「仕事場では社長と呼びなさい。コレが依頼書」

 

 蓮太郎はその報告書を見て、驚きの表情を浮べた。その依頼には逮捕令状、それも普通の子供が対象と書かれていた。逮捕相手の特徴は着物を着た男の子と記載されていた。

 

「おい、これどういう冗談だよ」

 

「本当にね。でも、被害が出れいるのは確かなのよ」

 

「どんな被害だよ?」

 

「ガストレア以外の化物が警察官一名を握り締めたそうよ」

 

「ッ! マジかよ」

 

 顔を歪める蓮太郎。

 そんな顔を見て木更は言葉を続けた。

 

「今回の依頼は複数の民警との合同よ。気をつけなさい」

 

「……了解した」

 

 前途多難な思いをする蓮太郎。

 だが、蓮太郎は思い違いをしていた。相手が化物と呼ぶには、あまりにも凶暴な存在である事を……。




さて、これでプロローグは終了です。
ゼツの二体目の相棒はミレニアモンでした。これでも十分世界情勢の軍事バランス崩壊確定ですね。
アニメではそれ程まで特徴的ではありませんでしたが、原作では印象的なマリアちゃん。何故、アニメではしなかったのか不思議でなりません。

ゼツが持つスマホ、デジヴァイスには色々な機能が備わっています。それが、今回に出てきたカードに宿った力を使える方法です。カードでの必殺技の行使は何ランクは下がった威力にはなっていますが十分な攻撃力を持っています。

さて、この後はゼツはどうなるかお楽しみに……。


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動き出す世界
004


お待たせしました。
皆さん、色々な感想ありがとうございます。
では続きをどうぞ!


 廃墟のみが残る場所、外周区にゼツが刀を振っていた。

 その銀の線が空に描かれ、それが更に描かれその姿は演舞をしているかのようだった。刀の訓練をしているゼツ、その姿を少し離れた場所で眺めているルリリア姉妹、それとマリアと呼ばれる少女たち。

 刀による素振りの練習を終えたゼツは刀を鞘に戻して、深い溜息を吐く。それが合図とばかりに見守っていた少女たちは近付いてきてタオルと水が入ったペットボトルを渡してくる。

 

「ありがと」

 

「お疲れ様ですゼツ」

 

 お礼を述べ、流した汗をタオルで拭くゼツ。そんな姿にリアが質問してきた。

 

「何でこんなに訓練してるの? 戦うのってデジモンでしょ?」

 

 それはルリとマリアも疑問に思ってた事であった。

 少女たちは以前、長老である松崎の所で会話の中でデジタルワールドでどのような旅をしていた事を、ゼツは話していた。

 デジモンはまともな戦闘が出来る世代・成熟期になると人間の兵器では歯が立たなくなる事を聞いていた。ならば、ゼツは必然的に見守る事しか出来なくなる。

 それなのにゼツは訓練を休む事無く続けていた。

 

「確かにね。でも、それは人間の兵器だった場合だよ」

 

「人間の兵器だった場合?」

 

「コレで戦う」

 

 取り出したのはカード。それカードにデジモンではなく剣が描かれており、名は『フラガラッハ』と明記されていた。

 

「これって……」

 

「盟友スレイヤードラモンが携えていた剣だ。これなら完全体以上でも、生身の人間でも相手が出来る」

 

「見せて!」

 

「見せてなのですので!」

 

 見たがるリアとマリア。特に嫌がる事も無くゼツは二人にカードを渡す。

 2人はそのカードを眺めながら話に花を咲かしていた。そんな2人を微笑みながら見詰るルリはある事を思い出した。

 

「あのゼツ」

 

「ん?」

 

 先程の微笑みは消え、不安な表情を浮べていた。その不安な顔に何か嫌なことでも、それとも厄介事でもとゼツは思いながらルリの話を聞いた。

 

「最近、この辺りに民警さんがうろついてるんです」

 

「なに……」

 

 ルリの言葉に眉を顰めるゼツ。

 民警とはガストレアなどを相手をする存在だ。そんな存在が何故、この外周区をうろついているのか分からないゼツ。だが、それと同時に嫌な予感もゼツは感じていた。

 少しだけ眼を閉じた後、小声で相棒であるディアボロモンを呼び寄せた。

 

「何があるか調べてくれ」

 

「ケケッ」

 

 姿を現さなかったが不気味な笑い声でディアボロモンは返事を返して、その声は遠ざかっていった。そのやり取りを傍で聞いていたルリは微笑みむ。

 

「ディアボロモン、優秀なんですね」

 

「まっ、アイツがその気になれば世界中の電子情報なんて閲覧できるからな」

 

 核ミサイルだって勝手に撃つことも出来るだろう。っと言葉をゼツは加えた。そんな話をしているとスマホが昼であることを告げるアラームが鳴り、皆で朝食を食べる事になった。

 ゼツはスマホを操り、簡単な料理が少女たちの前に出現させる。

 

「凄く便利なのです」

 

「本当だよね。片手で操作するだけで簡単に料理が出来るんだもん」

 

「でも、これだと料理人は不用になっちゃいますね」

 

「あくまで簡単だからな。本物の料理だと味の差がでるからな」

 

 出された食べ物はサンド。

 ツナマヨやタマゴ、ハムなどが大皿にカラフルに並べられており、コップも用意されて中にはオレンジジュースが注がれていた。

 

「簡単と言ってますけど美味しいですので」

 

「うん。不味いって感じはしないよ」

 

「そうですね。美味しいと思いますよ」

 

「いや、サンドイッチは流石に美味い不味いってないんじゃないか?」

 

 他愛のない話。

 周辺は廃墟ではあるが、その一角だけは華やかに見えた。そんな中、無粋な存在が近付いてきていた。それに一番早く気付いたのはゼツであった。

 

「何か用ですか?」

 

 急な言葉に食事をしていた3人の少女は驚きながら近付いてきていた人物の気配に気付いた。

 口元をフェイススカーフ、背中には黒き刀身の大剣を背負った大男。その隣にはワンピースとスパッツを着た少女。その2人組みにはゼツは見覚え所か覚えていた。それと同時にゼツの袖に入れていたスマホが震え、それを取り出しその画面に浮かび上がった文字列を読む。そして、ゼツは舌打ちした。

 

「成程、あの時の騒動が厄介事を起こしたか」

 

「えっ、それってどう言う意味ですか?」

 

 ゼツは不思議がる少女たちに説明をした。

 以前、ルリを助ける際に警察官を重症に遭わせたことで警察から指名手配を受けたこと、そして民警にも捜索依頼が出たこを。その説明を聞いた最初に怒ったのがリアであった。

 

「何よそれ。お姉ちゃんもゼツも関係ないじゃない!?」

 

「そうなのですので!」

 

「そんな、私のせいで……」

 

 ルリは顔を真青に染めて酷く落ち込んでいた。そんなルリに頭を優しく撫でてゼツは微笑み、自身を攻めているルリに優しく否定した。

 

「いや、ルリは関係ない。それに、騒動を起こさないように配慮すべきだった」

 

「でも」

 

「とにかく、ルリは皆を連れてマンホール内に逃げていて……直ぐに終わらす」

 

 そう述べて立ち上がり、近付いている民警に向く。

 少女たいもゼツに言われた通りに離れて、姉妹が生活しているマンホールに向って走っていった。

 この場にゼツと将監、そのイニシエーターである夏世の3人だけが残った。

 将監は鋭い眼光をゼツに向け、その隣の夏世は複雑そうに見詰ていた。その対極的な視線にゼツは何食わぬ顔で見詰返していた。

 

「おいガキ……」

 

「……何か?」

 

「あの化物出せ。ぶった斬ってやる」

 

 化物、デジモンを出すように要求する将監。そんな言葉に一番反応したのは夏世であった。驚き、そして恐怖に染まった夏世の表情に、ゼツは複雑な気分になっていた。

 どんな理由であれミレニアモンもディアボロモンもゼツにとっては家族的存在である。それを恐怖に染まった表情で見られるのはゼツは不快感を感じながら、半分仕方ないと思ってしまう。

 

「……断る」

 

「何だと」

 

 眼を閉じ、そして将監の申し出を拒否したゼツ。そんなゼツに将監は不機嫌になり、そして瞳の奥に怒気を孕ませだす。

 

「出さねぇとガキ、テメェから殺すぞ?」

 

「将監さん、今回の依頼は殺すのではなく捕まえる任務で」

 

「黙ってろ! 道具が俺様に命令してんじゃね!」

 

「ッ!?」

 

 警告する夏世、それを怒号で閉じさせ将監は睨む。その睨みに夏世は息を飲み黙ってしまった。

 その2人のやり取りを見詰ていたゼツは、瞳を絶対零度の如くに冷えた眼で見ていた。

 ゼツは、その大男である将監に怒りを覚えだしていた。将監の瞳には少女の、夏世を道具の様に見詰ている、その眼がゼツは気に入らないでいた。

 

「…………」

 

 ゼツは思う。

 未だ後ろで待機させているミレニアモンに一言述べれば、あの大男を瞬殺することは容易いであろう。だが、それでは自分自身の腸煮える怒りが収まらないと……。

 故に、ゼツは袖からソマホを取り出しカードを一枚を出して、

 

「フラガラッハ」

 

 唱え、それと同時にカードは輝きゼツの前に一振りの大剣が現れた。

 その急な大剣の出現に民警の2人は眼を丸くして驚く。そんな表情を浮べる二人にゼツは気にもせずに地に刺さった大剣・フラガラッハを抜いて無形の構えをとる。

 

「そんなに戦いたいなら、自分を潰してからにしろ」

 

「ッ! ガキ風情が」

 

 あからさまな挑発に将監は額に青筋が浮かぶ。将監は背負っていた大剣を抜いて地面に叩き付ける。そして、

 

「ぶっ殺してやる!」

 

 最初に動いたのが将監だ。

 その見た目とは反して素早い動きで一気にゼツに近付き、その巨大な剣を片手で軽々しく振り回し一撃を放つ。だが、それをゼツは一歩も動く事無く、大剣の強烈な一撃を受止めた。

 貴金属の甲高い音が周辺に響き渡る。

 表情を変えないゼツ、そんな姿に将監は内心驚きが隠せなかった。

 将監は自身が放った一撃が受止めれる筈がない、そう思っていたからだ。だが、現にゼツは受止められた。だが、そこは別に何も思わない訳ではないにしろ、その強烈な一撃で、体格でも筋力でも劣っている子供が押し切れずに均等するなど、ありえないと将堅は思う。

 その強靭な一撃を後ろに後ずさる事もなく平然とするゼツに将監は怒りを覚えていた。

 今まで睨んだ相手は例外なく怯えて卑屈になる。それでも抵抗的な眼をする者は全て、このバラニウム製の大剣で屈してきた。それで自身が上であると優越感に浸っていた。

 だが、睨みも大剣もどちらにも屈しない存在に今まで築き上げてきたプライドを粉々にされた気分を味わう将監は、依頼など忘れて子供を殺す事に頭を一杯にしていた。

 せめぎ合っていた大剣同士を将監は一度離れて再度、剣を構えて斬りかかる。

 ゼツはまた同じかと思いながらフラガラッハで受止めようろした瞬間、剣を掴んでいなかった片手を拳にして将堅は殴りかかってきた。

 大剣での防御では遅いと感じたゼツは、その顔に目掛けて襲ってくる野球ボール並みの拳を紙一重で避ける。だが、そこから将監の大剣が襲い掛かる。

 避けた事で態勢を崩していたゼツは、剣で受止める事は良しとせず回避に専念した。ゼツの前髪が将堅の大剣が通り過ぎ、斬れた髪が宙に舞う。

 

「フラガラッハ」

 

「ッ!?」

 

 小さな呟き。

 そのゼツの呟きに将監は聞え、言い知れない恐怖を感じて後方に飛ぼうとした。だが、下がろうとした場所には鋭い剣先が丁度、将監の後頭部に現れた。

 

「何ッ!?」

 

「将監さん!」

 

 夏世の悲鳴に近い警告、それと同時に将監は頭を咄嗟に避けた。

 身体を転がすように避けた将監は身を屈めた状態で警戒態勢で大剣を構える。そして、ゼツが持っている大剣を睨むように見詰る。

 ゼツが持っている大剣、それは鞭の様に唸りながら元の大剣に戻った。

 

「良く避けた。感は獣並に鋭いようだ」

 

「何だ、その剣?」

 

「蛇腹剣。見るのは初めてか?」

 

 スレイヤードラモン。

 クロンデジゾイドの鎧鱗(がいりん)で身を包んだ竜人型デジモン。

 竜型デジモンだけが挑戦できる『四大竜の試練』と呼ばれる修行を修了した者だけがたどり着ける姿だといわれている。そのデジモンが携えた蛇腹大剣・フラガラッハ。

 

「また変哲な剣を使ってくるとわな……」

 

「変哲とは酷いな。盟友の剣を……さて、どうする?」

 

 まだやるか。そう、尋ねるような瞳をゼツは浮べる。

 尋ねる瞳に将監は睨む目で続行を意を見せる。唾を吐き、屈めていた身体を起こしだ大剣を再度握り締めて構える。

 

「ガキ、予定変更だ。お前を潰して、その大剣を俺様の物にしてやる」

 

「無茶を仰る。……参る」

 

「来いや!」

 

 互いに踵を蹴り、一気に斬りかかり鍔迫り合う。

 剣同士を互いに滑らすように流し、ゼツが一歩後ろに下がる。それを見た将監は一気に前に出て上段から大剣を振り下ろす。だが、それをゼツは身体を回転させて避け、持っているフラガラッハを鞭のように伸ばす。

 

「壱之型『天竜斬破』」

 

 身体を巻き付くみたいに円を描くフラガラッハの刀身。そして、大剣を将監に脳天目掛けて振り下ろす。

 回転によるエネルギーが刀身に宿り、凄まじい勢いで将監に襲い掛かる。だが、将監は大剣を腹で受止めてそのままの状態で斜めに傾かせ、受け流した。

 

「チッ、鬱陶しい!」

 

「ッ!?」

 

 フラガラッハの一撃を将監は大剣で力尽くで弾き返す。その勢いでゼツは身体はぐら付き、その隙を見た将監はチャンスと分かり身体全身で体当たりをした。

 完全に態勢を崩してしまったゼツ、将監はそのままゼツを押し倒そうと足に力を込める、

 

「参之型『咬竜斬刃』」

 

 刀身を伸ばしたフラガラッハの刃、それが将監の身体を蛇のように絡みつく。その想定外なゼツの攻撃に将監は身を引く事を止めそのまま大剣の剣先を突きつける。

 眉をしかめる。将監が回避や防御ではなく、攻撃に転じてきた事が想定外だったためにゼツは身体を捻る。

 将監の大剣は地面に刺さり、ゼツの業は回避行動をしてしまったため不発になってしまう。ゼツは覆い被さってきていた将監の腹に鋭い蹴りを放ち脱出した。

 互いに間合いを取って身構える。

 

「図体の割には身軽だね」

 

「テメェもガキの癖して良い一撃、放つじゃねぇか」

 

 蹴られた腹を擦りながら不適に笑みを浮べる将監。

 ゼツは倒れてしまい汚れた衣服を払いながら、此方も不適に笑みを浮べている。そんな不適に笑う二人を少しだけ離れた場所で夏世は、殺しあってるのに何故笑っているのか不思議と思いながら呆れた顔で見守っていた。

 すると、此方に近付いてくる人影が見えた。

 

「なにやってんだあんた等は!?」

 

「おぉ、アレが木更が言っていた子供か?」

 

 天童民警会社唯一の社員、里見蓮太郎。そのイニシエーターである藍原延珠だった。




将監が将堅って間違えて一からやり直した。面倒だなぁ~。

さて、今回はデジモンが所持している武器を扱って将監と戦いました。ゼツくん強いよ~。
スレイヤードラモンは自分が好きなデジモンの一体でもあります。カッコイイよね。
ゼツくんが何故スレイヤードラモンを盟友と呼んでいるのかは、別の機会に書かせてもらいます。

戦闘シーンを書くのは少し疲れますね。でも、頑張って書きます。
それと、こんなデジモンの武器もいいかもっと思われたら感想に書いてみて下さい。出せるように頑張ってみます。


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005

色々と感想ありがとうございます。
さて、ゼツくんと蓮太郎のエンカウントです。これからどうなるか本編をどうぞ。


 黒のスーツに身を纏った男性・里見蓮太郎は意味が分からず混乱してた。

 蓮太郎の上司である天童木更の渡された依頼通り、着物を着た小学生ぐらいの男の子を外周区をくまなく探していた時であった。

 ツインテールで見た目が小学生の少女。彼のイニシエーターであり同居人且つ家族である藍原延珠と共に探していると、その延珠が何らかのぶつかり合う金属音を聞き取った。

 

「蓮太郎。何処からか戦う音が聞えるぞ!」

 

「なっ、何処だ延珠!?」

 

「あっちだ!」

 

 "呪われた子供たち"特有の高い身体能力で、普段の人間では聞き取ることの出来ない音を聞き取った延珠は、自身のパートナーであり自称ふぃあんせの蓮太郎に教える。

 そして、延珠の案内のもと金属音のした場所に向かうと依頼書の記載されていた特徴が合致する子供と、別会社の民警らしき2人組みの内、大剣を持った男――プロモーター――が戦っている現場に遭遇した。

 蓮太郎は最初は意味も分からなかったが大声で戦いを停止するように呼びかけた。

 

「なにやってんだあんた等は!?」

 

 蓮太郎の呼び掛けに、戦っていた2人の刃にふら付きが現れる。そして、将監はあからさまに不機嫌な表情を浮べて呼びかけた蓮太郎に怒りの目線を送った。

 その眼差しにたじろぐ蓮太郎ではあったが意思をしっかり持って睨み返した。

 

「あんた、何処の民警かは知らないが今回の依頼内容知ってるか? 捕縛だ。殺す事じゃない」

 

 依頼書に書かれていた内容はあくまでも対象の捕縛である。生死問わずの逮捕ではないのだ。そう、蓮太郎は述べるが将監はそれを鼻で笑った。

 

「そんなの関係ねぇな。俺はこのガキをぶった切る、それだけだ」

 

「なっ!?」

 

 そのあまりにも無茶苦茶な言葉に、蓮太郎は驚きの声を上げる。

 無論、蓮太郎は民警の中には元犯罪歴のある人物が隠れ蓑にして身を置いている事は知っている。だが、ここまであからさまに殺すと公言する存在に驚きを隠せなかった。

 次に、蓮太郎は依頼で記載されていた特徴と合致する子供に目線を向けた。

 

「なぁキミ、頼む。自首してくれないか?」

 

 優しく子供・ゼツに語り掛ける。

 だが、ゼツは顔を横に振って否定した。

 

「何処の何方かは知らないが、その申し出には否定させてもらう。自分は間違ったことはしてないのでね」

 

 これまた蓮太郎は驚く。

 警察官の1人を重症に追い遣ったのに、自身のしたことに誤りは無いと述べたのだ。驚くのも無理ないのかもしれない。

 すると、先程まで黙っていた延珠がゼツに声を掻けた。

 

「お主、名前はなんと言うのだ? 妾は藍原延珠、そして隣にいる蓮太郎は、里見蓮太郎と言うのだ」

 

「えっ延珠!?」

 

 急に名前を教える延珠に驚きながら目線を向ける蓮太郎。

 相手が何者で敵対する存在なのかすら分かっていない状態で、自分たちの情報を公開するなどあってはならない行為だった。それに叱ろうと声を出そうとするが、延珠は真剣な眼差しで見詰返した。

 

「相手が何者であれ、妾たちが敵ではないと心を開いて訴えねば相手には伝わらぬ」

 

「でも……」

 

「ここで意見が食い違い揉めては、本末転倒であろう」

 

 真っ当な正論に蓮太郎はぐうの音も出せないでいた。

 そんな2人のやり取りを見ていたゼツは、すっかり戦う意思が消えて大剣・フラガラッハを地面に突き刺し、相手をしていた将監もまた戦う意欲が失意してしまい大剣を背中に収めていた。

 

「これはご丁寧にどうも。名はゼツ、苗字はないのでゼツと呼んでほしい」

 

「そうかゼツだな。妾は延珠で構わぬ。それで一昨日、警察官一名が重症を負ったそうなのだが、犯人はお主で構わぬか?」

 

 名を聞いた延珠は嬉しそうに笑顔を浮べた後、本題に切り出した。

 ゼツが警察官を重症に追い込んだのか。何故、そのような行為に転じたのか延珠を尋ねた。ゼツは、その質問に丁寧に答えた。

 若者に襲われた"呪われた子供たち"のルリを助け、その場に駆け込んだきた警察官が状況も聞かずにルリに手を出そうとした所を助け、その際に警察官の1人を重症にしたこと、それらを包み隠さず答えた。

 その回答に、一番驚いていたのが"呪われた子供たち"である延珠と夏世だった。どの様な理由であれ"呪われた子供たち"を助ける為に国家機関である警察に楯突いたのだ。それも、見た目は子供たちと変わらない年齢の子供が。

 その事実に驚いているのは呪われた子供たち"の2人だけではない。その2人のプロモーターである男性たちも驚く。

 態々、道具を助ける為にバカなことをすると思う将監。国家機関を敵に回しても子供たちを助けようとするなんて、そう思う蓮太郎。

 

「何故、助けたのですか?」

 

 皆が思う疑問を夏世が代弁して問う。

 警察を敵に回してまで何故助けたのか。そうまでして、助ける意味があったのか。何のメリットがあったのか。夏世は胸奥に募る疑問を、ゼツにぶつけた。

 そして、ゼツは簡潔に答えた。

 

「助けたかった。ただ、それだけだ」

 

「……それだけ、ですか?」

 

「転んだ子に手を差し伸べるのに、理由などないだろ」

 

「…………」

 

 迷い無く、当たり前に答えるゼツに皆は愕然とする。皆が愕然としていると、ゼツは何かに気付いたのか視線を、何も無い廃墟に向けた。

 その動作に皆も一斉にゼツが向けた視線の先を見る。そして、最初に気付いたのは延珠であった。

 

「ッ! 将監さん、ガストレアです!」

 

「それも、かなり大きいぞ蓮太郎!」

 

「どれだけ大きい、延珠!?」

 

「少なくとも5メートル以上の大きさですね」

 

「ハッ! ガキとの決着つかずのストレスを晴らしてやらぁ!」

 

 ゼツは突き刺したフラガラッハと抜いて構え、将監は背負ってた大剣を構える。

 蓮太郎と夏世はホルスターから愛用の銃を準備して、延珠は踵を地面に蹴って身構える。

 皆が皆、其々準備を終えて待ち構える。そして、近付いてくるガストレアが肉眼で捉えられた。

 四足歩行、背中には鋭い棘がびっしりと生え、蛇の様に長い首、ワニの様に長い口、色々な因子が交じり合った、最低でもステージⅢ以上のガストレアが砂煙を上げてゼツたいに目掛けて走っていた。

 その姿に皆が戦慄が走った。これ程までに巨体のガストレアがモノリス内に潜入してくるなど想像もしておらず、更に皆が持っている武器はあくまで護身用としての準備だった為に手持ちの武器は少ない。

 

「何でこんなステージⅢなみのガストレアが潜入してんだよ! 上の連中は気付いてないのかよ!?」

 

「どうするのだ蓮太郎。足止めに向うのは構わぬが、妾ではそれ程時間を稼げぬ!」

 

「クソッ! これだったら本格的に実戦準備してけばよかった!」

 

 蓮太郎は持ってきたカートリッジを数えながら悩む。延珠もまた、これ程までに巨体なガストレアと相手するのは初めてな為に焦っていた。

 勿論、夏世も焦っていた。夏世はゼツたちのデジモンを目撃していた為に多めに銃弾を用意はしているが、相手がガストレアのステージⅢ以上は想定しなかった為に耐え切れるか不安を浮べていた。

 

「ハッ! 鬱憤晴らしで相手してもらうぜッ!」

 

「ッ!? 将監さん、1人で猛進してはダメです!」

 

「道具は黙ってろ! あんな化物なんぞ俺様1人で十分だ!」

 

 夏世の制止を聞きもせずにガストレアに突撃していく将監に、やっぱし脳筋のお供は嫌ですね、そう思うのだった。

 猪突猛進で走り出した将監、その姿に蓮太郎は頭を悩ませた。互いに連携して生き延びて増援を呼ぼうとプランを考えていた蓮太郎であったが、初期で断念する事になった。

 これからどうすれば、そう悩んでいた蓮太郎の傍に夏世が近付いてきた。

 

「少し宜しいですか?」

 

「えっと……」

 

「お主は何者だ?」

 

「まだ、自己紹介を終わらせてませんでしたね。私は千寿夏世、モデル・ドルフィンで先程突撃していった伊熊将監さんのイニシエーターです」

 

「そうか。それで、俺たちに何か用か?」

 

「お力を貸して頂けませんか。アレでも私の相棒ですので……」

 

 小さくお辞儀する夏世、その姿に蓮太郎は頭を掻いて考える。

 どうであれ、ここは戦って生残るのが先決である。その為なら、あの将監に嫌々ながらも手伝うのが鉄則であろう。幸い、白兵戦が2人に支援射撃が2人と丁度均等が取れていた。

 夏世の申し出に許可を出した蓮太郎。それを聞いた夏世は軽くお辞儀をしてゼツに向って近付いた。

 

「……お力、貸してはくれませんか?」

 

「…………」

 

 ゼツは突撃した将監に視線を向けたまま沈黙し続けた。そのゼツにお辞儀をしたまま、じっと返事を返すのを夏世は待った。そして、

 

「良いよ」

 

 夏世の協力の申請にゼツは受け入れ、そして下げていた夏世の頭を撫でた。

 その急な行動に驚きながらも、夏世は嫌がらずにされるがまま受け入れた。その暖かな手に、夏世は今まで感じた事のない安らぎを感じていた。

 撫でていた手を離すと夏世は少しだけ物足りなさそうな表情を浮べた。そして、ゼツは一歩後ろに下がり息を大きく吸って、

 

「ディアボロモン! ミレニアモン!」

 

「ケケケケッ!」

 

「ガアァァァ!」

 

 大声でゼツの相棒である二体のデジモンを呼んだ。

 ゼツの背後の左右から雄叫びに近い声を上げながら二体のデジモンが姿を現した。その急な出現に蓮太郎たちは驚きの声を上げる。だが、夏世は一度だけ見た事があったために驚きは少なかった。

 

「行くよ」

 

「えっと、はい」

 

 差し伸べられたゼツの手に、夏世は戸惑いながらも握った。ゼツに導かれ夏世はディアボロモンの掌に乗る。未だに驚きが抜けないでいた連太郎と延珠、その2人にはミレニアモンが手で握る。そして、その状態のままで突撃しに向った将監を追いかけた。

 

 

  ◆

 

 

「ほぉ、そこに居たか……手始めに挨拶としようか……」

 

 淡く青い水晶が光る。

 水晶にはゼツたちが映し出されており、それを真紅の瞳をした者が眺めていた。その者は手をくいっと動かすと水晶は強く発光、それを見たその者は滑稽に笑う。

 闇に、その者の滑稽な笑い声が充満していくのだった。

 

 

  ◆

 

 

 ゼツと夏世、蓮太郎と延珠、その四名を乗せて低空飛行で先行した将監をデジモンたちは追いかける。

 呆然としていた蓮太郎と延珠は正気に戻り、デジモンたちに付いて問い質した。

 

「この化物何だよ!?」

 

「大きいな蓮太郎!」

 

 その巨体なミレニアモンに延珠は直に驚き、蓮太郎は指差して問う。隣でガミガミ言われるのに少しだけうざく感じたゼツは自身が何者で、このデジモンたちの事も説明した。

 話を聞いた蓮太郎は未だに信じきれない表情でゼツを見詰ており、傍に居た夏世も同じく驚いていた。驚いていなかったのは延珠だけだった。

 そんなこんなで前方で既に戦闘を開始していた将監に追いつき、ゼツは声を上げた。

 

「飛び降りろ!」

 

「何ッ!?」

 

 言葉の意味を理解する前に蓮太郎はミレニアモンの手から離され落ちていく。それに気付いた延珠はミレニアモンの手を踏み台にして蹴り飛び、地面に落下する前に蓮太郎をキャッチした。

 ディアボロモンに乗っていたゼツは、傍にいる夏世を抱き寄せて飛び降りた。急な抱かれて身体を強張らせながら驚きながらも、やっぱし抵抗らしい事もせずにされるがままであった。

 皆が無事に地面に着地し、急いで将監の援護の為に向かった。

 

「将監さん、援護します!」

 

「クソッ! 色々と頭がこんがらかってきた……コレよりステージⅢらしきガストレアを確認、援護射撃に移る。延珠、頼むぞ!」

 

「任せろ蓮太郎!」

 

「ッ! ディアボロモン、ミレニアモン、近付いてくる団体にお出迎えをしろ」

 

 夏世はホルスターからショットガンを取り出し、蓮太郎は愛銃であるXD拳銃の残弾を確認してスライドを引いて弾丸を薬室に込めて構える。

 延珠はガストレアに向って飛び蹴りを放つために高く飛び上がっていた。

 ゼツは視線を別の場所に向け、舌打ちをして二体のデジモンに向わせる様に命じた。ディアボロモンたちは軽く頷くと、ゼツが視線を向いていた場所に飛び立っていった。それを確認したゼツはフラガラッハを取り出し、延珠を追いかける。

 最初に先制攻撃を放ったのは飛び蹴りを放った延珠だ。

 鋭く生えた背中の棘を物ともせずに蹴り飛ばし、続いて将監の大剣がガストレアの長い首を切り裂く。怯んだガストレアにすかさず蓮太郎のバラニウム製の弾丸が放たれ目元を射抜く。そして、夏世は背後に回ってガストレアの後ろにショットガンを放った。

 苦しむガストレア、そこで側面からゼツは眼を閉じて深呼吸をしてフラガラッハを構える。そして、

 

「弐之型『昇竜斬波』!」

 

 闘気が宿ったフラガラッハは淡く輝き、それを確認したゼツは有らん限りの気合と共にフラガラッハを下から上にへと切り上げる。切り上げると同時に見えぬ衝撃破が地面を抉りながらガストレアに向い、その胴体を一刀両断にぶった切った。

 強烈な一撃。ガストレアは断末魔を上げ苦しみ悶える。皆が一瞬、身体を固まらせた。その圧倒的な力に驚き恐怖したからだ。

 だが、ガストレアは絶命していなかった。斬られた前方と後方がそれぞれ別の生物かのように動き出した。

 後方の身体は尻尾部分から牛らしき頭部が生え、その左右の側面から猿らしき腕が生え、切られた部分には魚らしき尾が生えた。

 前方のは足が鳥らしき足に変わり、背中からは棘は抜けてイソギンチャクらしき触手が生えた。

 

「うえっ、キモッ」

 

「うわぁ~……」

 

「気持ち悪いです」

 

「分裂して動いた……アメーバか何かか?」

 

「上等だコラァ!」

 

 醜い醜態を見た皆は其々愚痴ながらも臨戦態勢を解かずに構えると、同時に遠くから大きな爆発音が響き渡った。ゼツ以外の者達が一斉に爆発音を響き渡った場所に視線を向けると、そこには原爆でも落ちたのかと思うほどのキノコ雲が発生していた。

 

「なっ何が?」

 

「何か落ちてきたのか?」

 

 蓮太郎と延珠が不思議がる。そんな中、夏世は自然と視線をゼツに向けていた。

 夏世は気付いていた。ゼツの傍に居たデジモンと呼ばれる化物が何処かに向かって飛んでいった事を……。それが、何なのか理解出来なかったが、何かの目的で向わせたのは薄々分かっていた。だが、結果がこうなるとは想像もしていなかった。

 

「何をしたんですかゼツさん?」

 

「こっちに向かってくるガストレアの群れにディアボロモンたちに迎撃するように命じた」

 

 別の場所にガストレアの群れが向って来ていることに驚く夏世。もし気付いていなければガストレアに囲まれて死んでいたかもしれない。

 そう想像してゾッと背筋を凍らせる夏世に、ゼツは背中を軽く叩いた。叩かれた事に驚きゼツに視線を向ける。

 

「死なせない。だから、確りしろ」

 

「……はい」

 

 優しげな瞳を浮べて述べられた言葉。それに夏世は安心感を覚え、持っていたショットガンに込めていた力を緩める。大丈夫だ、この人が傍に居てくれるなら。

 夏世が安らぎに心を満ちていた時だった。先程戦っていたガストレアに変化が現れた。

 0と1の数字の配列が並べられた緑色の帯がガストレアたちを包んでいく。その現象にゼツは初めて顔色に焦りを浮かび上がらせた。

 

「まさか!?」

 

 ゼツの叫び。それと同時に帯に包まれたガストレアは光の繭に閉じ込められ、次に姿を現したのは別の化物だった。

 巨大な恐竜をそのまま白骨化させた形状、胸元中央には心臓が脈り、顔が付いているミサイル型の肉塊を背中に背負っている。

 四足歩行で牛などの足、バッファローを思わせる顔にサーベルタイガーの鋭い牙が生えており、そして一対の翼、だがその全ては白骨化した姿で隙間から白い何かのラインが輝いていた。

 

「スカルグレイモン、スカルバルキモン」

 

 世界が加速する。




ガストレアの群れが出現、それと同時に何者かがゼツを発見して仕掛けてきました。
最後に出てきたデジモンたちは詳しくは語りませんが知っている人は知っているでしょう。

さて、感想に色々な武器について書いて下さりありがとうございます。これを参考に書いて行きます。

次も楽しみに待ってて下さい。


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006

今回は民警VSデジモンです。まず、絶対に民警では勝てません断言できます。
それでも、どこまで蓮太郎たち民警は耐え切れるか……。
それでは本編どうぞ!


 ゼツ脳裏に戦慄が走る。

 目の前には本来、存在する事のない二体のデジモンが雄叫びを上げて、ゼツたちに的を絞って睨みかけていた。

 スカルグレイモン。凶悪な完全体、ウィルス種。戦闘本能の赴くまま周囲を破壊尽くす破壊の化身。

 スカルバルキモン。完全体のデータ種。哺乳類の化石データ、それに幾つかの化石データで偽造され蘇生された。そこには感情という物は存在せず、反射的に獲物を狙い容赦も加減も無い攻撃を自らが動けなくなるまで繰り返す。

 どちらも危険な存在にゼツは、咄嗟に傍にいた夏世を抱きしめてその場を離れた。その寸分違わぬ場所にスカイバルキモンの、鋭い前足が振り下ろされた。

 踏まれた地面は陥没、それでも失われない強力な衝撃は周囲の地面に伝われり、皹が入りそして爆ぜた。夏世はそんな一撃を見て顔を青褪めた。もし、ゼツが助けれくれなければ一瞬で肉片になっていたっ、と。

 

「全員逃げろ!」

 

 今まで感じた事のない焦りの雄叫び。

 ゼツの叫びを聞いた周囲の者たちは、ガストレアと戦って培ってきた経験で本能的に相手が危険な存在だと気付き、叫びと同時に一気に前線を離脱する。

 前線を離脱。だが、それを許すまいと咆哮を上げて全速力で逃げようとするゼツたちを追いかけてきた。蓮太郎と夏世は撤退しながら射撃でスカルグレイモンの足を止めようとするが、逆にスカルグレイモンを更に興奮する結果になってしまう。

 

「何だよあの骨の化物!?」

 

「あれはガストレアではなのか蓮太郎!?」

 

「ガストレアはあくまで生物の遺伝子が急変して生まれる化物だ。だから、あんな骨だけの生命体ですらない存在は決して生まれない!」

 

「話している場合ではありません! 上から!」

 

「チッ! 全員散開しやがれ!」

 

 将監の言葉と同時に全員が四方に散る。

 空から襲ってきたのはスカルバルキモン。前の足を前方に突き刺すように向けた格好で突貫してきた。幸い皆は一斉に避けて直撃はなかった。だが、その圧倒的な威力は地面を潰し、その威力は周囲の空気を押しのけてゼツたちを吹き飛ばす。

 

「うあぁ!?」

 

「蓮太郎!」

 

「きゃっ!」

 

「グオッ!?」

 

「ッ! 夏世!」

 

 強風でゴミが舞い散るか如くに皆は薙ぎ飛ばされ。

 延珠は態勢を崩され吹き飛ぶ蓮太郎を助けようと、一緒に吹き飛んでいる岩の瓦礫を足場にして飛び受止める。

 ゼツも夏世を助ける為に延珠と同じく舞う瓦礫を足場に一気に駆けつけて抱きしめる。

 

「ゼツさん!?」

 

「喋るな噛むぞ! ディアボロモン!」

 

 頬を少しだけ桃色に染めながら夏世は驚く、だがそれを気にしている程にゼツには余裕がなかった。自身のパートナーであるディアボロモンを呼ぼうとする、だがディアボロモンが居るであろう場所には0と1の緑色のデジコードが暴風の如く吹き荒れていた。

 

「アレは……結界。こんな姑息な方法を取るのはアイツか!」

 

 苦虫を噛み潰したような表情を浮べながらゼツは、この危険な状況を打破する方法を模索する。すると、ゼツの袖に入れていたスマホが震えた。

 自然とゼツの視線が袖に向けられると同時にボコッと袖の中が膨れた。その現象に抱き寄せられている夏世も驚く。そして、

 

「クルッ」

 

「くっクラモン!?」

 

 紫色のスライムみたいな姿に、クリッとしたつぶらな瞳が一つあるデジモン。ディアボロモンの幼年期であった姿、クラモンであった。そんなデジモンを見た夏世は不意にも可愛いと思っていた。

 

「おっお前、そうか分裂したのか……頼めるか?」

 

「クルッ!」

 

 泡を吹いて返事を返したクラモンは、ポヨンと効果音が聞えそうな飛び方をする。

 

――EVOLUTION――

 

 クラモンを包むかのように緑色のデジコードが現れる。そして、デジコードが消えると姿が変化していた。

 サナギの様な形、頭部には赤い角が生え、腕部分から三対で触手が生えた姿、成熟期であるクリサリモンである。そのクリサリモンの姿にゼツは舌打ちをする。

 

「今では成熟期が限界か……夏世、頼みがある」

 

「なんですか?」

 

 急に呼びかけられるも夏世は慌てる事無くゼツに尋ね返す。

 

「悪いけど骨の恐竜をそちらの民警だけで相手をしてほしい」

 

「ゼツさんは、如何するんですか?」

 

「自分はコイツと一緒に骨の獣を倒す。骨の恐竜は倒さなくてもいい、時間稼ぎが出来ればいいんだ」

 

「……あの化物をご存知なのですか?」

 

 沈黙で夏世の問いにゼツは肯定する。

 色々と思う所があるが夏世は頷き後、急いで将監たちに向かった走っていった。それを確認した後、ゼツは一度フラガラッハをカードに戻して別のカードを取り出す。

 新たに取り出したカードには金属のハンマー。四角い面、その反対に進むに連れて細く尖っている。

 

「トールハンマー」

 

 ゼツの片手に重量級の金属製ハンマーが現れた。

 トールハンマー。ズドモン、二足歩行のカメ型デジモン。そのデジモンが携えているクロンデジゾイド製のハンマーである。

 重量級のハンマーを両手で持ちスカルバルキモンに迎え撃つ。

 先制攻撃をしてきたのはスカルバルキモン。鋭い前足の一撃がゼツに放たれる、それを許すまいとクリサリモンの三対の触手が一斉に前足に絡みつき動きを鈍らせる。完全にはスカルバルキモンの前足の一撃を止められないが、その隙をゼツが触手で受止められている前足に飛乗り、そのままスカルバルキモンの頭部まで駆け上がり、そして、

 

「ハンマースパーク!」

 

 有らん限りの雄叫びと共に、雷を纏ったトールハンマーが振り下ろされる。

 強烈な一撃、それはスカルバルキモンの頭部の骨を砕くには十分すぎる一撃であった。だが、スカルバルキモンは屍のデジモン。既に痛覚など無く、痛みで怯む事を失ったスカルバルキモンはゼツに鋭い頭突きを放つ。

 ゼツはトールハンマーを盾にして頭突きを防ぐ、強度の高いトールハンマーは砕ける事無く守り抜くが衝撃までは伏せきれずゼツは吹き飛ばされた。だが、それを咄嗟にクリサリモンの触手が受止め、地面にゆっくり降ろされる。

 

「ナイスだクリサリモン。さて、骨狩りをしようか」

 

 頭部の片目部分が砕け散り穴があいてしまうスカルバルキモンは憤怒を思わせるように雄叫びを上げてゼツたちに殺意を向ける。そんな姿をゼツは不適な笑みを浮べてトールハンマーを肩に担ぎ、傍に居るクリサリモンに呼びかける。

 クリサリモンはゼツの言葉を返事を返すように三対の触手を勢い良く振り回して答える。

 

 

  ◆

 

 

 一方、夏世は将監たちと合流してゼツの託を伝えた。

 伝えられた夏世以外の者たちは驚きの声を上げる。たった一人であの化物一体を相手するなど正気の沙汰ではない、死ぬきか、そう思う蓮太郎、だが将監は何も言わずに大剣を構えてスカルグレイモンに向く。

 

「良いじゃねぇか。あのガキが1人でやるって言ってるんだ、任せれば良い。それなりの覚悟あっての事だろうよ」

 

「だけど……」

 

「それよりもこっちを何とかしねぇと死ぬぞ!」

 

「ッ!?」

 

 将監の怒号に自然に蓮太郎の視線が上を向く。

 そこには緑色の瞳が蓮太郎たちを捕らえ、長い腕と指の骨がギギギッと唸り襲い掛かろうとしていた。その姿に舌打ちをして今の現状の最悪に悪態を付きながら傍にいる延珠に振向く。

 

「延珠、あの骨の化物をさっさと潰してあの子の援護に向かうぞ!」

 

「うむ任せろ! 骨など妾の蹴りで粉々するのだ!」

 

「延珠さん、サポートします。その代りに将監さんのこと、お願いします」

 

 夏世の頼みに延珠は頷いて承諾してから一気にスカルグレイモンに向って駆け出した。ショットガンの弾丸を確認した後、夏世は傍にいる蓮太郎に視線を向ける。

 

「ご指示を、それに従います」

 

「いいのか?」

 

「構いません」

 

「そうか、なら眼を狙うぞ」

 

「眼をですか?」

 

 眼を狙う。そう言った蓮太郎に夏世は不思議に思う。何故、眼だけをピンポイントに狙うのか疑問に思っていると蓮太郎がその疑問に答えた。

 

「さっき前線で逃げる際に足止め代わり数発、あの骨恐竜に撃ったんだが簡単に弾かれた」

 

「只の骨、て訳ではなさそうですね……」

 

「あぁ。普通の弾丸、それもバラニウムすら効かない。なら、俺らが出来るのは前線で戦っている延珠たちに的を絞らせないように眼を狙って攻撃に邪魔するんだ」

 

「成程、分かりました。ですが、見かけによらずに頭が切れるんですね」

 

「おい!?」

 

 酷い言われように蓮太郎はツッコミを交えて怒鳴る。

 兎にも角にも、蓮太郎と夏世は銃を構え前線で戦っている延珠と将監のサポートを向う。振舞わすスカルグレイモンの腕の攻撃を避けながら戦う前衛二人、だが斬戟も蹴りも効果なく弾かれる。

 

「かっ硬いのだ!?」

 

「斬れねぇ!」

 

 愚痴る2人。弾かれた二人に反撃をしようと腕を振り上げるスカルグレイモン、だがそこに目元に弾丸を打ち込まれて腕攻撃の標準がぶれ、その隙に前衛に戦っている2人は回避を成功させる。

 だが、目元に弾丸を受けたスカルグレイモンに決定的なダメージにはならず、更に暴れさせる結果になってしまった。

 

「クソッ、やっぱしダメージは通っていないか……。ダイナマイトみたいな爆弾があれば良かったが、無いもの強請っても仕方ないか」

 

 愚痴りながら援護射撃を続ける蓮太郎は、自身が予備として持ってきていたマガジンを手に触れ、ある方法を思い浮かべる。成功すればダメージが通る可能性があるが、その逆に失敗すれば攻撃手段を大きく削ぐ事になる。

 考えた末に持ってきたマガジンを手にする。

 

「奴の右股関節に集中攻撃だ! 動きを封じる!」

 

 大声で周囲の者たちに聞えるように叫んだ蓮太郎はマガジンを持ち、スカルグレイモンの右股関節に投付ける。スカルグレイモンも投付けてきたマガジンを叩き落とそうと腕を振るおうとする。だが、それを凄まじい飛び蹴りで妨害する延珠。

 マガジンは目的のスカルグレイモンの右股関節に当たる。その瞬間、蓮太郎はそのマガジンを自身の愛銃であるXD拳銃で打ち抜く。

 打ち抜かれたマガジンは大爆発。スカルグレイモンは予想以上のダメージに雄叫びを上げる。痛みで苦しむスカルグレイモン、その隙を見逃さずに将監が凄まじい速さで一気に近付き手、ダメージを受けているであろう右股関節に大剣に一撃を放つ。

 今まで弾かれていた大剣は少しだけ通る。そして、その大剣に向って延珠の蹴りを叩き込む。まるで釘という大剣に、金槌という蹴りが放たれるが如く。

 効果は絶大で大剣は骨の中央部分まで刺さり、スカルグレイモンも苦痛をもらす。更なるスカルグレイモンの隙に誰かが近付く。夏世だ。

 

「将監さん、延珠さん、離れて!」

 

 その声を聞いた2人は一気にその場を離れると同時、夏世がショットガンをスカルグレイモンの大剣が深く刺さった右股関節に銃口を密着させ、トリガーを引く。

 凄まじい炸裂音と衝撃。ショットガンの銃口は破裂、その衝撃は夏世を遅い吹き飛ばされるが延珠が受止めて大事にはならなかった。

 決定的な大打撃。

 スカルグレイモンは肘を地面に着かせて苦しみながら蓮太郎たちを睨みつける。その瞳には闘争本能を灯らした真紅へと変えていた。両手を地面に付いて、獣のように四つん這いになる。そして、

 

「グオオオオォォォォ!」

 

「ッ!?」

 

 蓮太郎たちも何か嫌な予感が脳裏に走る。だが、その時には既に遅かった。

 スカルグレイモンは蓮太郎たちにロックオン、そして背中に背負っている有機体ミサイルを撃ち放つ。放たれたミサイルは奇声を叫びながら蓮太郎たちに向かって突き進む。

 

「逃げっ!」

 

「蓮たっ!?」

 

「あっ!」

 

「チッ!」

 

 逃げようとする。だが、反応が一歩遅かった。

 そして、スカルグレイモンの有機体ミサイル『グラウンド・ゼロ』は直撃する寸前で大爆発を起こし、爆風を蓮太郎たちを襲った。

 

 

  ◆

 

 

 一方、スカルバルキモンと激戦を繰り広げていたゼツは、既に相手を行動不能に追い込んでいた。翼は片方をへし折られ、前の片足は粉々に砕かれ、腹部の骨も粉砕されて内部の神経データが露出している。

 ゼツは衣服に埃などの汚れがあるも無傷でいた。その背後では繭姿のクリサリモンが、蜘蛛みたいな姿に変化していた。完全体のインフェルモンだ。

 戦いの最中で完全体に進化したインフェルモンは一瞬にしてスカルバルキモンを撃破したのだ。

 

「これで終わりだ。――ハンマースパーク!」

 

 倒れ伏せていたスカルバルキモンの頭部に、ゼツは力一杯にトールハンマーを叩き落す。その一撃でスカルバリキモンは断末魔の雄叫びと共に0と1のデータの粒子となり消滅した。

 撃破を確認したゼツは夏世たちを助けに行こうと反転しようとした時、凄まじい爆風に見舞われた。

 

「これは、グラウンド・ゼロか!」

 

 爆風に吹き飛ばされないようにインフェルモンが風除けになる為にゼツを覆い被さる。そんな何気ないフォローにゼツは内心、嬉しく思いながらインフェルモンの腹部を擦る。爆心地をゼツは睨みながらスマホを取り出す。

 

「備えあれば憂い無しっか。忍ばせて良かった」

 

 スマホには太陽の様な絵が描かれた盾が浮かび上がっていた。

 

 




スカルバリキモン即刻退場です。いやぁゼツくんも強いね(勿論、クリサリモン――途中でインフェルモンに進化してますが――も手伝ってますから余裕です)。
さて、今回は皆さんお気づきかもしれませんがディアボロモンの分裂、してみました。そもそも、これが目当てでディアボロモンですからね(笑)
では皆さん、『クラモン大漁』で連想する答えは?
まっ、答えなんて言わなくても知ってますよね。楽しみに待ってて下さい。

ゼツくん色々と用意周到です。
そもそも、デジモン戦初の夏世たちを何の保険無しで突っ込ませたりしません。突っ込ませるだけの準備をしています。その結果は次回で判ります。って、分かる人は直ぐに分かるか……。


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007

この話を正式に採用して、このまま話を続けさせてもらいます。
宜しくですよ。


 グラウンド・ゼロの爆発に巻き込まれた蓮太郎。だれもが死んだ、そう思い皆が身体を丸めて顔を腕で覆い被せる。だが、それから一向に来るであろう衝撃波や熱、痛みが身体に襲って来ないのに疑問を持ち、蓮太郎はゆっくりと腕をのけて視線を前に向ける。そして、その光景に驚く。

 最初に眼に入ったのは橙色の輝きに、太陽を思わせる文様。その輝きは蓮太郎や他の者達を包み、爆発などを凌いでいた。

 

「これは……」

 

「蓮太郎、これは何なのだ?」

 

「いや、俺も知りたいし」

 

 その摩訶不思議な現象に驚いていると夏世の衣服から淡く発光している物が見えた。それに気付いた蓮太郎や延珠はそれを指摘する。夏世もその指摘されてようやく衣服の中に何が光っている事に気付き、それを取り出した。

 それはカード。蓮太郎たちを包んでいる光に浮かび上がっている同じ文様が刻まれた盾の様な絵が描かれている。

 名はブレイブシールド。グレイモン系最終形態と呼ぶべき究極体デジモン・ウォーグレイモン、その背中に装備されているのがブレイブシールドである。

 そのカードを見た夏世は直ぐに誰が渡したのか理解した。

 

「ゼツさんが忍ばせていた……」

 

 何かが起きても守れるようにゼツが忍ばせたカード。ゼツにもゼツの戦いがあるのに、それでも夏世たちを思い密かに忍ばせたカードに嬉しく思い、そのカードを胸元に抱きしめる。

 

「ありがとうございます。ゼツさん」

 

 お礼を夏世が述べる。それと同じくして爆風は失い、蓮太郎たちを包んでいた橙色の光のドームは消失、砂煙が晴れるとスカルグレイモンは驚きを浮かべていた。

 

「どうやら骨野郎も驚いてるみたいだな。あのガキに助けられたのは癪だが、一気に叩き込む!」

 

「よし、流れは俺たちにある。行くぞ延珠!」

 

「任せろ!」

 

「動けない今がチャンスです!」

 

 一斉に攻撃を開始する。

 未だに股関節のダメージが回復していないスカルグレイモンは腕や尻尾で攻撃をするが、その攻撃は遠距離で戦う蓮太郎や夏世には通じず、その大振りな攻撃では接近戦で戦う将監や延珠には当たらない。

 コレなら勝てる。周囲の者たちは思った。だが、その慢心が油断を生じさせた。

 突如としてスカルグレイモンの周囲に機械の端末らしき物が出現した。その端末は高さ三メートルまで急上昇、そして――

 

「ガアアア!」

 

 スカルグレイモンの雄叫びと共に端末から青白い光が地面に向って照射、その状態のまま周囲に拡散するかのように移動、放射された地面に一気に赤くなって爆発を起こした。

 急な攻撃、それに対処できなかった蓮太郎や延珠、将監や夏世は吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。

 

「何だ……今のはよぉ……グオッ!」

 

「将監さん、無事……ですか?」

 

 大剣を支えにして立とうとする将監ではあったが、予想以上のダメージに立ち上がれずに倒れてしまう。それを心配しながら傍に近付こうとする夏世も体中が傷まみれで思い通りに動けないでいた。

 

「クッ! 延珠、大丈夫か!?」

 

「妾は大丈夫だ。それより蓮太郎は?」

 

「命には別状はない。でも、足を」

 

 先程の凄まじい光線を回避するも、避け切れなかった蓮太郎の足には傷を負っており身動きが取れないでいた。

 皆が苦しむ中、スカルグレイモンは負った股関節の傷を意識を集中させて治癒に専念した。意識を集中され、股関節の傷口は目に見えて明らかに癒され、そしてスカルグレイモンは立ち上がった。

 皆は絶望の表情を浮かべる。闘争本能の真紅の瞳は、1人の人物を捕らえた。

 

「あっ」

 

 夏世とスカルグレイモンの眼が合う。それに気付いた夏世は顔が引き攣り、真青に染まる。徐々に近付いてくるスカルグレイモン、その表情は不適な笑みを浮かべているように夏世は見えた。そして、スカルグレイモンは夏世を手で持ち上げて握り締めた。

 

「あっ! アアアアアアッ!」

 

 握り締められ苦痛の悲鳴を上げる。誰かに助けを求めようと苦しいながらも視線を動かし周囲を見渡すが、逆にそれが絶望を与えた。

 蓮太郎や延珠は悔しそうに懸命に立とうとするが、先程のダメージで身体を支えられないでおり、将監もまた立てられずにいた。

 夏世は思う。もう、助からない。心残りは、プロモーターとして将監さんを助けれなかった事、そして……。

 

「もう少し……ゼツさんと話したか、ったな……グアッ!」

 

 脳裏に浮かぶゼツの顔を思い浮かべて眼を閉じた。その瞬間だった。

 

「夏ァ世オォォォ!」

 

「ッ!?」

 

 自身を呼ぶ幼き男性の声。

 閉じていた眼を開かせ、その叫び声に視線を向ける同時、赤き弾丸がスカルグレイモンを打ち抜いた。それはインフェルモンの技の一つである繭形態で敵に突進する『コクーンアタック』である。

 凄まじい『コクーンアタック』の衝撃、その一撃でスカルグレイモンは夏世を手放し、宙に吹き飛ばされた夏世をゼツが空中でキャッチして着地した。

 

「大丈夫か!?」

 

「ぜっゼツさん?」

 

 抱きしめているゼツの存在に夏世は一瞬、誰なのか理解できなかった。徐々に抱きしめている人物を理解して夏世は、目元が熱くなりゼツを抱きしめた。

 急な抱きしめにゼツは最初は驚きながらも耳元から夏世の泣き声が聞え、そこで理解したゼツは背中を優しく撫でる。

 

「もう大丈夫だ。だから泣くな」

 

「……泣いてません」

 

「だったら顔を見せろ」

 

「嫌です」

 

 泣いている事にゼツが指摘するが、それを夏世は泣いていないと否定。なら見せろとゼツが要求するが、それを夏世は再度否定した。傍から見たらいちゃついている様に見える。

 そんな事をしている間にもスカルグレイモンは立ち上がり、インフェルモンと戦いを繰り広げていた。

 

「夏世、悪いけど振り落とされないよう強く抱きしめてくれ」

 

「えっ? あっはい!」

 

「よし。一気に叩き込む」

 

 一枚のカードを取り出す。

 カードには、顔は狼、背中には戦闘機の翼を思わせる飛行ユニットが装着され、右手には巨大な銃身、左手にはリボルバーランチャー、下半身はスラリと細く上半身がゴテゴテと機械で固められ、全身を水色装甲で覆われている。十闘士の力をも超えると云われる、光の能力を持つ超越種デジモン。マグナガルルモンが描かれていた。

 カードは強く輝き、そして、

 

「マシンガンデストロイ!」

 

 輝くカードから一斉に幾つもの重火器やレーザーが放たれる。凄まじい衝撃で身体が後ろに押され、カードを翳している腕に負担が掛かり激痛でゼツの表情を歪ませる。

 ミサイル、ランチャー、レーザー、それらの攻撃を一斉に受けたスカルグレイモンは苦痛の雄叫びを上げ吹き飛び地面に叩き付けられる。叩き付けられ砂煙が舞う中、傷付きながらもスカルグレイモンは起き上がり真紅に染まる瞳をゼツを睨み、咆哮と共に四つん這いになり背中に背負う有機体ミサイルをロックする。そして弾丸を放とうとした瞬間、スカルグレイモンに影が差す。

 

「やれ、インフェルモン」

 

 影の正体はインフェルモンだった。

 スカルグレイモンの真上に現れ、読み取れない表情の顔を真下に向けると口元が開き銃口が現れる。そして、その銃口から幾つもの弾丸が放たれた。必殺技のヘルズグレネードである。

 無防備状態の背中にエネルギー弾が幾つも叩き込まれ、断末魔を上げて四つん這い状態でスカルグレイモンは倒れ込み、赤く輝いていた瞳は光が失せ0と1のデータ粒子と化す。

 データの粒子になっていくスカルグレイモンを見詰めながら、やっと戦闘が終わったと思うゼツは胸を撫で下ろした。

 

「あっあの」

 

「えっあぁ悪い、今降ろす」

 

「えっいえ……はい」

 

 抱きしめていた夏世を開放するゼツ。だが、開放された夏世は少しだけ残念そうな顔を浮かべるが直ぐに無表情に戻した。

 これで――無傷ではないにしろ――全員無事に生還できた。誰もが緊張の糸を緩め、胸を撫で下ろした。だが、さらに絶望が襲う。

 

「ッ!?」

 

「どうしたんですか?」

 

 眼を見開き何かに驚くゼツに疑問を問い掛ける夏世。だが、その言葉に反応する事無くゼツは後ろを振向く。そこには確かに消失したスカルグレイモンのデータ、そのデータ残留が集まりだしており、更に別の方からもデータ残留を飛んできていた。

 

「スカルグレイモンとスカルバルキモンのデータが……まさかッ!」

 

「えっゼツさん!?」

 

 二つのデータ残留の粒子が一塊に集まる。その現象に気付いたゼツは凄まじい速さで一塊になろうとしているデータに向って駆け出す。袖からスマホを取り出し、カードを取り出す。そのカードに描かれているのは獅子そのものを二足歩行した姿のデジモン。レオモンである。

 カードは消失、それと同じくしてゼツの右手は橙色に輝く。

 

「獣うぅぅ王おぉぉケェェーー!」

 

 ゼツの右手に闘気が宿り、それは獅子の顔へと変貌する。そして、ゼツは今まで吐き出した事もない大声でその獅子顔の闘気を打ち出す。打ち出された獣王拳、それは一直線に進んで一塊に集まるデータを捕らえ、大爆発を起こした。

 大爆発を起こした爆心地をゼツは瞬きせずに睨むように見詰る。そして、ゼツの顔は苦虫を噛み潰した表情に変わる。

 爆心地にはデジコードに包まれたタマゴ、そして孵る。

 

「バオォォォ!」

 

「……スカルマンモン」

 

 巨大なマンモスを白骨化した姿、腹部には輝く紅玉、鋼鉄化された顔前面と牙と鼻。アンデッド型でありながらワクチン種の究極体。ウィルス種を殲滅する、ただそれ一点を生存本能に従い戦い続ける。それがスカルマンモンである。

 本来ならウィルス種ではない存在には見向きもしないデジモンではあるが、その瞳にはゼツたちを捕らえ闘争の炎を滾らしている。

 

「クソッ! インフェルモン!」

 

 叫びと同時にインフェルモンが手足を体内に納め、繭姿の状態でスカルマンモンの突貫する。インフェルモンの『コクーンアタック』、それをスカルマンモンは正面から受止め弾き返した。

 インフェルモンは吹き飛ばされるが、その動作でスカルマンモンに隙が出来たのをゼツは見逃さない。一瞬にしてスカルマンモンの顔正面にゼツは現れ、未だに輝く右手を振り下ろす。

 

「獣王拳!」

 

 顔に直撃。爆発の煙が立ち込められる中、閃光が見えると同時にゼツが何かに吹き飛ばされた。スカルマンモンの鼻で吹き飛ばされた。それを理解するにはあまりにも一瞬の攻撃でゼツは身動きも出来ずに薙ぎ払われたのだ。

 スカルマンモンはゼツを直接狙った訳ではない。煙で視線を覆われて的を絞れなかった為、力任せに前方を振り払ったのだ。ただ、それだけ。

 たったソレだけで人間は何も出来ずに倒されるのだ。それが、デジモン世界での最終進化形態・究極体の力なのである。

 上空5メートルぐらいまで吹き飛ばされたゼツは受身を取ろうとする。だが、スカルマンモンの鼻で振った暴風はゼツの身体のバランスを奪い身動きを奪う。そして、受身も出来ずに地面に叩き落された。

 生々しい音が周囲に響く。

 吐血、全身に激痛、苦しい声も上げられずに悶絶して動けなくなる。それを一部始終を見ていた周囲の者たちは顔色を青褪める。ゼツは民警でも早々見れないほどの実力者、それが攻撃を見切る事も出来ずに薙ぎ払われたのだ。

 苦痛の声を漏らすゼツ、それに近付く影が見えた。夏世だ。

 傷付いた身体を引き摺りながらゼツに近付き、そして覆い被さった。その行動に薄目ではあるが見ていたゼツは痛みで引き攣る顔を浮かべながら夏世に視線を向けた。

 

「なに……してんだ……ッ!?」

 

「あの時、助けたお礼まだでしたよね?」

 

 微笑の表情を浮かべる夏世はそう述べた。

 あの時のお礼。それは初めて夏世と出合った時、蛇型ガストレアに襲われそうだったときに助けた事である。

 そう答えた夏世に目を丸くしてゼツは驚く。

 

「バカ……逃げ……ガッ!」

 

「痛みますよ? 守り、ますから」

 

 そんな2人を嘲笑うかのように一歩近付くスカルマンモン。それを許すまいとインフェルモンが顎を開いて銃口からエネルギー弾を何発も撃ち放つが、それらの弾丸はスカルサタモンの黄金装甲で弾かれ効果がない。それでも打ち続ける。

 ダメージは無いがいい加減に邪魔だと感じたスカルマンモンは、背中に背鰭に生えた骨を高回転させて撃ち放つ。それはスカルマンモンの必殺技『スパイラルボーン』である。

 直撃を受けたインフェルモンは身体の装甲を傷付け後ろ足は一本が千切れ、そして後方に一気に吹き飛ばされた。

 強烈な一撃、それで身動きが出来なくなったインフェルモン。それを横目に確認しながらスカルマンモンは徐々にゼツたちに近付き、そして踏む一歩手前に来て前足を大きく振りかぶる。そして、

 

「ゼツさん!」

 

「クソッ!」

 

 もうダメだ。

 皆がそう思った瞬間、スカルマンモンが横に急に吹き飛ばされた。見えたのは赤い閃光の軌跡、それが一瞬でスカルマンモンの打ち抜き一気に吹き飛ばす。そして、複数の火炎弾が吹き飛ばされたスカルマンモンに向って飛来して直撃と共に大爆発を起こす。

 蓮太郎や延珠、将監たちは何が起きたのか分からず呆然と眺めていた。すると、ゼツと夏世の傍に二体の影が降り立った。

 

「この、二体は……」

 

「ハハッ、来るのが遅いぞ」

 

 ゼツのパートナーである二体のデジモン。

 ディアボロモンとミレニアモン、その二体がやっとの事で結界を突破してゼツたちを助けに現れたのだ。普段は不気味に笑っているディアボロモンは一切笑わず、ミレニアモンは唸りながら臨戦態勢を崩さず、二体のデジモンは吹き飛んだスカルマンモンに鋭い眼光で睨み付けていた。

 二体のデジモンは怒りを覚えていた。

 自身が不甲斐ないばかりに守らなければならない主を傷付けてしまった自身の失態に、そして主を傷付け苦しめた敵に対して、二体のデジモンは一気に襲い掛かる。

 スカルマンモンも身体を起き上がらせ必殺技『スパイラルボーン』を撃ち放つ。放たれた高回転の背鰭骨が二体に襲い掛かるが、ディアボロモンは胸部の発射口から強力な破壊エネルギー弾――カタストロフィーカノン――を発射する。

 互いの必殺技が激突、爆発を起こし周囲が煙で立ち込める中でもミレニアモンは一直線に突貫、そして煙を抜けて眼前にスカルマンモンと捕らえると共に四つある腕を一気に殴りかかる。

 右から2発同時のパンチ、続けて左から2発同時のパンチ、それらを交互に繰り返して殴り続ける。それは戦略でも作戦でもない。ただ、戦闘本能に任せた暴走である。

 だが、スカルマンモンも負けまいと殴り付ける拳を顔前面と牙と鼻まで覆った鋼鉄製の鎧で受け止めてダメージを最小限に抑える。そして、ミレニアモンが次の拳を振るう寸前で鋼鉄化さえた鋭い角で突き刺そうとする。

 だが、その牙を回避してミレニアモンは逆に噛み付きミシミシと亀裂音を響かせて、その鋼鉄化された牙を噛み砕く。片方の鋭い牙を失ったスマルマンモンは数歩後ずさりよろめく。

 咥えていた鋼鉄製の牙を離し、闘気の宿った瞳を輝かせてミレニアモンは睨み続ける。そして、背中の機械砲をスカルマンモンに向けて砲口から凄まじいエネルギー砲――∞キャノン――を放射する。

 その砲撃を身体全体で受止めて耐えるスカルマンモン、だが上空からディアボロモンのカタストロフィーカノンが何発も打ち込まれた。究極体と言え、同世代のデジモン二体の必殺技を同時に受ければ一溜りもなくスカルマンモンは断末魔を上げながら0と1のデータ粒子にと散っていった。

 敵であったデジモンが消失した事が分かった二体のデジモンは勝鬨の雄叫びを上げる。

 

「相変わらず強いな……イテテッ、あまり圧し掛かってくるな。痛い」

 

「すっすみません。気が抜けて、腕に力が入らなくて」

 

 圧し掛かる重みで全身に痛みが走るゼツは夏世に注意するが、その夏世も腕に力が抜けて身体を支えられなくなりゼツに全体重を乗せている状態だった。

 夏世の今の状況を訊いたゼツは仕方ないと思い、そのままの状態でいる事にした。そして、全身の痛みを感じながら生きている事をゼツは実感する。

 

「あぁ、そうか。まぁ……生きてるよな?」

 

「はい。ゼツさんはどうなのですか?」

 

「流石に……究極体の一撃は、効いた。直撃は……していないのが、唯一の救いだな」

 

 もし受けていれば死亡は免れない。そう思うとゼツは全身に嫌な汗が溢れ出し、今頃になって恐怖を感じるのだった。恐怖に身体を僅かだが震えている事に気付いた夏世は、優しくゼツの頭を撫でるのだった。

 急に撫でられて驚くも、その暖かな手に少しだけ落ち着いたゼツは痛む身体を無理して周囲を見渡した。

 蓮太郎を介護する延珠、大剣を支えに立ち上がる将監、どうやら皆は無事である事を理解したゼツは深い溜息を吐いて胸を撫で下ろした。

 これが民間警備会社『民警』とデジモンたちとの最初の戦いだった。

 

 

  ◆

 

 

 その戦いを水晶でずっと傍観していた真紅の瞳を持った存在。その者は顎を撫でながら、その戦いを分析していた。

 

「ほうほう、中々どうして強いではないか。これは楽しみだ」

 

 影は不適に笑うと、水晶に挟んで向かい側に何者かが現れた。その影は何やら不機嫌で、荒い口調で喋りだす。

 

「おい! あのガキは見つかったか!?」

 

「おぉ、此処で彼方が来るなど珍しい。それで、何用ですかな?」

 

 芝居掛かった喋り方に、後から来た影は更に不機嫌となる。

 

「いい加減にしろ! それで、例のガキは見付かったかと訊いているのだ!」

 

 振りかぶった手を思いっきり水晶に殴りつけた。その一撃は見事に水晶は粉々に砕け散り、真紅の眼の者は悲鳴の雄叫びを上げる。

 

「おまっ水晶ガアァァ!?」

 

「あっすまない。手が滑ってしまった」

 

「わざとだろう!?」

 

「手が滑ったと言ってであろう!」

 

「あの水晶、原石高いのだぞ! それに、貴様が言っていたガキの居場所も映していたのだぞ!」

 

「何ッ!? 今直ぐ出せ!」

 

「貴様が粉砕したんだろぉが!?」

 

 先程の闇に潜む壮大な威厳は何処へやら無様な殴り合いが開始された。だが、その拳一撃一撃が核弾頭並み以上の威力を秘められており、周囲を粉砕されていく。

 

「だから貴様はあの十なんちゃらに封印されるのだ!」

 

「お前こそ影薄いだろ!」

 

「切札出して即行潰されてた若造が!」

 

「この老害! 悔しかったらテ○ビに出てみろ!」

 

「今度こそワシがラスボスぞ!」

 

「プチられるのが落ちだよ!」

 

「言うな!」

 

 見苦しい争いである。



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008

今回は戦いの後のお話です。
では、どうぞ!


 デジモンとの激闘の末に全員無事に帰還できたゼツたちは、先ずは傷付いた身体を治療する為にマリの住みかであるマンホールに来ていた。

 ゼツのスマホから傷薬や包帯、ガーゼなどをしまってある救急箱を取り出しそれをリアが皆に配り治療を手伝いを、マリは沸かしたお湯とタオルを傷付いた皆に配り終えてゼツの手当てを手伝っていた。

 

「ッ! あぁ染みる……」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「んっ。直接攻撃は受けていないとは言え、地面に叩き付けられたのは痛かった」

 

「無茶、しないで下さい。帰って来た時、凄く驚いたんですよ? リアが皆がボロボロだって言うから」

 

「悪いな」

 

「そう思うなら怪我しないで下さい」

 

 上着の着物を脱いだゼツの身体に湯で濡らし絞ったタオルで丁寧に拭き、終えたら傷薬と傷口を塗ってから包帯で巻いていく。その際に、傷口に触れるたびにゼツは顔を歪ませる。

 皆がある程度の治療を終えてゆっくりと休んでいると、蓮太郎がゼツに声をかけた。

 

「なぁ少し良いか?」

 

「……何か?」

 

 包帯を巻き終えたゼツは上着の着物を着直して蓮太郎に向く。

 その瞳は何を訴えているのか、ゼツは何となく理解していた。そもそも、あんな化物を従えている子供に疑いの目を向けないものは早々いないだろう。

 

「あの化物、デジモンだったか? 何なんだ、お前は?」

 

「…………」

 

 やっぱり、そう思うゼツ。

 説明することはゼツにとっては別に問題のない事である。だが、それが政府などの上役などにデジモンの存在、戦闘力を知られれば悪用される恐れがあった。故にゼツは説明を渋っていた。

 どの様、説明しようか考えていると蓮太郎の隣に座っていた延珠が待ったをかけた。

 

「蓮太郎、そうガミガミと問いてもゼツが答え難くなるではないか?」

 

「延珠、でもな流石にコレは訊かない訳にもいかんだろ?」

 

「確かに蓮太郎の言っている事は分かる。だが、これ以上はこの者たちが黙ってはおれんだろう……」

 

「えっ? あっ……」

 

 その言葉の意味は判らずに頭を傾げる蓮太郎。傾げている蓮太郎に溜息を吐きながら延珠は指を差して見てみるように述べ、その言葉に従って蓮太郎はその場所を見て理解した。

 そこには庇うかのようにゼツに抱きついて、少しだけ睨むかのように見詰てくるルリリア姉妹とマリア。その姿を見て蓮太郎は頭をかいて視線を逸らした。

 

「なっ、ここは黙って見逃すほか無いだろう?」

 

「確かに、此処で攻められたら無事じゃすまないだろな」

 

 此処で襲われては堪ったものでない。そう思った蓮太郎は質問を取り消して頬をかくのだった。すると、先程まで横になっていた将監が起き上がってきた。

 

「おいガキ、決着を付けるぞ」

 

「傷を癒して出直して来い」

 

 再戦を申し込んだが、それを一刀両断して返事をゼツは返す。だが、その返事が気に入らなかったのか将監は青筋を浮かべ、傍に置いていた大剣を手にしようとした瞬間であった。将監の喉元に一本の剣――獅子王丸――が突きつけられていた。そして、冷えた眼差しで見詰ている。

 

「出直して来い」

 

 同じ言葉を繰り返した。

 急な武器の出現に蓮太郎や将監どころか"呪われた子供たち"ですら反応することが出来なかった。

 

「分かったか?」

 

「クソが……」

 

 大剣に伸ばそうとした手を戻して悪態を付く。その姿にゼツは未だに冷たい眼差しで見下ろし、目を一度閉じて開けると普段の瞳に戻っていた。

 マンホール内の温度が数度下がったと錯覚してしまう程の強烈な殺気に、蓮太郎どころかルリたちも顔を強張らせていた。

 

「……腕を上げてからまた来い。そしたら遊んでやる」

 

 そう述べて蓮太郎たちに向く。

 先程の殺気はないが一度体感してしまった以上、蓮太郎たちは警戒してしまう。そんな姿を苦笑した表情を浮かべながら話し出す。

 

「あんた等はだうする? 俺を捕まえるか? それなら全力で抵抗させてもらうぞ……」

 

「……はぁ、分かった俺らは手を引く」

 

「良いのか蓮太郎? 木更に怒られないか?」

 

「ここでこの子と敵対関係にはなりたくない。そうだろ延珠?」

 

「確かにあの2体のデジモンだったか、敵対はしたくない」

 

 直に延珠は答えた。

 敵対しても此方にはデメリットしかないと判断した蓮太郎は、この出来事は社長である天童木更には報告はするも、敵対的な行動は慎むよう進言しとおこう。そう心に誓う。

 すると、ある事に気付いた蓮太郎は携帯を取り出した。

 

「蓮太郎?」

 

「延珠やばい、タイムセールが終わる!」

 

「なっなんだと!?」

 

 急な行動に延珠は不思議に思いながら蓮太郎を見ているとセールが終わってしまうと告げた。それを聞いた延珠は驚きの表情を浮かべた。ついでに延珠のツインテールが跳ね上がった、ように見えた。

 

「ヤバイ。これじゃ今日の夕飯は無しだ!」

 

「そんなぁ」

 

「それも今からスーパーに向っても間に合うか……絶望的だ」

 

「蓮太郎、妾の夕飯はなしか?」

 

「……あぁ」

 

 項垂れる蓮太郎は夕飯無し宣告を訊いた延珠は、見た目から分かる程に落ち込んでいた。

 2人のやり取りを見ていたゼツは苦労してるんだな、そう思っていると袖を引っ張るて視線をそちらに向けるとルリがいた。

 

「どうした?」

 

「あの、この人達に料理を出しませんか?」

 

「えっ」

 

 急な提案にゼツは少しだけ驚き、何故そのような事を言ったのか問うと簡単に可哀想だと述べてきた。それを訊いたゼツは溜息を吐き、将監たちに振向いた。

 

「お前らも飯、食うか?」

 

「宜しいんですか?」

 

「あぁ、どうする?」

 

「……私は構いませんが。将監さんが……」

 

「へっ誰がガキの飯なんぞ。帰るぞ!」

 

 そう述べて大剣を背負って出て行こうとする将監。だが、そこでゼツは小さく呟いた。

 

「再戦しないぞ」

 

「ッ!?」

 

 呟きが聞えたのか将監は足を止めてゼツに振向き睨む。その睨みにゼツは顔を背けて何食わぬ顔を浮かべる。

 将監はギリッと歯をかみ締める音を経てた後、寝そべっていた場所に戻り座った。付託された表情を浮かべる将監に、夏世はどうすれば困っていた。

 

「さっさと用意しやがれ」

 

「……だってさ。食べていきな夏世」

 

「あっ、はい!」

 

 先程のやり取りを夏世はようやく理解した。

 ゼツは再戦をダシにして帰宅しようとする将監に足枷をかけたのだ。そうすれば、将監も仕方なく従わなければ成らない。それらが全て、夏世と一緒に食事をする為に方法だと。

 夏世は微笑みながらゼツの申し出を受けた。

 それを確認したゼツは再度、蓮太郎たちに向き話を切り出した。

 

「あんた等も食べていくか?」

 

「えっ、良いのか?」

 

「……苦労、してそうだしな」

 

「うがっ!?」

 

 蓮太郎に見えない矢印が刺さったように見えた。そんな姿に延珠は励ますように語る。

 

「大丈夫だぞ蓮太郎。危なかったら妾がお金を出すのだ!」

 

「最低だな」

 

「延珠、頼むから余計な事は言わないでくれ」

 

 子供に養わされる少年って、そう思わずにはいられずに最低だと呟くゼツ。それが余計に蓮太郎を空しくさせてしまう。更に落ち込んだ蓮太郎を見て不思議に思う延珠だった。

 それからゼツは軽くスマホを操作して食事を用意した。

 一瞬の出来事。ゼツが懐から出したスマホを操作した瞬間、皆の前に食事が出てきた。その光景を見ていた蓮太郎たち民警は驚きの表情を浮かべていた。

 

「蓮太郎、今の見たか?」

 

「あっあぁ、見た」

 

「手品か?」

 

「流石にこれは手品とは……」

 

 そんな表情を見て、自分たちも同じ感じで驚いていたのかなっと思うルリリア姉妹たちは思いながら苦笑する。

 今回、ゼツが用意したのは『すき焼き』である。出汁が取れたシープを鍋に入れて暖め、その中に色々を具を入れて煮込む、日本伝統料理の一つ。皆其々にホクホクの白米が入れられた茶碗が用意され、受け皿とタマゴ1個も用意されている。

 

「蓮太郎、これ程に豪華な料理、妾初めて食べるのだ」

 

「俺も久しぶりだよ」

 

「美味しそうですね、将監さん」

 

「へっ」

 

 不貞腐れる態度を見せる将監。だが、実は美味しい匂いに鼻腔が刺激されてお腹が鳴ろうとしれいたが、それらを周囲の者達――主にゼツ――に見せないように我慢していた。

 兎に角、皆で食事を開始した。

 

「あっ、おいその肉俺の!」

 

「速いもん勝ちだってんだ!」

 

「将監さん、行儀悪いです」

 

「そう言って肉はちゃっかり確保しれるな、夏世」

 

「ゼツさん、隙ありです」

 

「確保なのです!」

 

「マリア、あんた取りすぎ!」

 

「蓮太郎、気付いたら肉がないのだ!?」

 

 一斉に思い思いに肉を取り合う。

 そこから更にヒートアップ、何処から出たのか酒が入った瓶が出現。その酒をガブガブと飲む将監、それを止め様とする夏世ではあったが黙らす為に無理矢理に酒を飲まされダウン。酒が美味しいのかと試しにリアが飲んで笑い上戸になり意味分からず笑い出し、ルリも何時の間にか飲んでおりゼツに抱きついて淫靡に誘っており、それを見せまいと延珠の目を手で塞ぐ蓮太郎。前が見えないと文句を言う延珠の隣では未だにすき焼きを食い尽くしているマリア。

 もう、滅茶苦茶であった。

 それから程無くして全員がノックダウン、マンホール内で皆が眠りに付いていた。そこで1人だけ目を覚ましたのがゼツであった。

 ゼツは身体を起こしマンホールから出て、既に暗くなって夜空を彩る星空を眺めていた。その傍にはディアボロモンとミレニアモンが伏せている。すると、マンホール内から誰かが出来ていた。

 

「何をしてるんですか?」

 

「夏世か。いや、夜空を見てただけだ」

 

「そうですか。……隣、良いですか?」

 

 良いとゼツは返事を返すと夏世はそっと隣に座り一緒に夜空を眺める。何かを話す訳でもなく静かに夜空を眺めていると夏世が何かを思い出し、喋りだす。

 

「そう言えば、こんな夜空が綺麗に出てた時でしたね。私とゼツが出会ったのは」

 

「……2日前だったな」

 

「はい。当初、私は怖かったんですよ。このデジモンたちが」

 

 後ろで伏せて待機しているデジモンたちを横目で見て、素直にその様に述べた夏世。ゼツも特に咎める事無く聞く。

 

「今日はありがとうございます。こんなに楽しい食事は初めてでした」

 

「……あの筋肉達磨は作ったりは?」

 

「将監さんがそんな器用な事はしません。そもそも、私達はそんな仲良しな関係ではありません。ただ利用され、私はその代りに侵食抑制剤でガストレア化を防いでますから」

 

 『侵食抑制剤』、知らない単語を聞いたゼツはそれが何なのか尋ねると夏世は直に答えた。イニシエーターは戦う際、ウィルスの能力を使わなければたならいが、使いすぎるとウィスル侵食率が上がる為、それを抑える為にIISOから定期的に渡される薬剤だと説明した。

 それを訊いたゼツは何か思う所があったのか思い詰めた表情で考え込む。そのままの状態で更にIISOのに付いても夏世に尋ねた。

 IISO。国際イニシエーター監督機構(International Initiator Supervising Organization)の頭文字から取って呼ばれる通称。名の通りにイニシエーターである"呪われた子供たち"を管理監督し、プロモーターとのマッチングや、ペアのランキングなどを行っている組織である。

 その話を訊いたゼツは、やっぱし人間とはろくでもない存在だと思う。

 

「ルリさんから聞いたとおり、何も知らないのですね」

 

「……まぁ、なっ」

 

「……何も、教えて下さらないんですね」

 

 ゼツは自身に付いて一切に答えない。そんな姿に夏世は悲しくなってしまう。

 勿論、ゼツが自身の事を何も言わないのは夏世は察しは付いていた。味方か敵か、それすら分かっていない存在に迂闊な事を言って脅迫される恐れがあるから。

 理解はしている。だが、心の何処かでは教えてくれるのではないかと淡い気持ちを描いていた。だが、やっぱし越えられない線は確かにゼツと夏世の間にはあった。

 

「もう、寝ますね」

 

「…………」

 

 席を立ち、マンホール内に戻っていった夏世。

 それを確認したゼツは苦虫を噛み締めた表情で地面に向かって一発、殴りつけた。

 

「人間は嫌いだ。……自分も」

 

 そう呟きながら夜空を眺め続けた。

 朝を向え、将監は夏世を連れてさっさと帰っていった。帰る間際、ゼツに再戦宣告を叩き付けた。蓮太郎も別れを述べて延珠と共に帰っていった。

 マンホール内に静けさが戻った。

 

「ゼツさん、これから如何するんですか?」

 

 これからどの様に生活するのか、それをゼツに問うルリ。ゼツも何か思う所があるのか少し考えた後に答えた。

 

「……少しばかり東京エリアをぐるっと回ってみる」

 

 エリアを回る。

 それはこのマンホールから出て行くのか、そう思ったリアは悲しげな表情を浮かべてゼツにしがみ付いた。

 

「えっ、出て行くのゼツ兄ィ?」

 

「……待て、そのゼツ兄ィとは?」

 

 悲しむであろうと予想はしていたゼツではあったが、まさかの別な呼び方をされるとは思っていなかった為に驚きの表情を浮かべてリアに視線を向ける。

 リアも何故、そこまで驚いているのか不思議な表情を浮かべてキョトンとしていた。

 

「私、お姉ちゃんは居るけどお兄ちゃんって居なかったから……ダメかな?」

 

「……いや、好きに呼んでくれ」

 

「うん!」

 

「では、私もゼツ兄さんとお呼びしたほうが良いですね」

 

「……待て、何故そうなる?」

 

 ルリもリアの兄宣言に乗じて自身も兄呼びすると言い出した。流石にゼツは焦りながら問うと、ルリは微笑みながら答えた。

 

「リアのお願いは訊いて、私のお願いはダメですか?」

 

「いや、その……あぁもう、好きに呼んで構わん!」

 

「では、私は兄様と呼ぶですので」

 

 更にマリアが乗じだし、これによりゼツは3人の兄的存在になった。

 その後、話を戻す。

 ゼツは少しばかり東京エリアの裏を知ろうと思い出かけると述べた。このまま、ルリたちと共に過ごすのは構わないが、何も知らないでノウノウと生きれば何か取り返しの付かない出来事に巻き込まれる恐れがあるかもしれない。そうゼツは判断した。

 

「帰ってくるよね?」

 

「まぁ、俺はお前らの兄貴分だからな。必ず帰る」

 

「……気を付けて下さいね?」

 

「あぁ。それとルリ、これを渡しておく」

 

 懐から出したのはスマホ。だが、そのスマホはゼツが普段使っている型とは少し違っていた。渡されたルリは不思議そうに見詰ていると、ゼツが説明をする。

 

「これは俺のスマホに繋がっている端末だ。これを使えば何時でも調理された料理が出せる。これで、ルリが一々都心に出て出稼ぎする必要はない筈だ」

 

「良いんですか?」

 

「構わん。リア、目が見えないルリの為に頑張って操作を覚えろよ?」

 

「うん、任せて!」

 

 驚きの表情を浮かべて驚くルリに構わないの述べたゼツは、眼が見えない代わりに操作を覚えるようにリアに言うと、リアは嬉しそうに承諾した。

 そして、ゼツはマンホールを後にして東京エリア都心に向った。自身が出来る事を探して……。そして、このエリアで起きるであろう出来事に対処する為に……。

 

 




さて、ゼツくんはマンホールを出て行きます。
目的は色々とある様で、何処に向かったかは次の話でわかります。
では、次回をお楽しみに!


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009

大変お待たせしました。
色々と考えた結果、やっと完成しました。
ゼツくんはある場所に向いますよーー!


 東京エリア。その都心にゼツは居た。

 最初の目的は手軽に金を稼げる事、そして必要な情報を瞬時に手に入れる事、これらが同時に出来る事は何かと思い最初に思い浮かべたのはガストレア討伐を生業としている『プロモーター』であった。

 ガストレアを倒せば報奨金が貰え、IP序列も上がれば『機密情報へのアクセス権』も手に入る。正しく一石二鳥。

 だが、そこで幾つかの問題が生じてしまう。

 最初はプロモーターになる為の試験を受けなければ成らない。だが、ゼツは自他共に認める子供であり、そんな子供が試験を受けられるか。答えはノーである。

 他にも『身元保証がない』、『イニシエーターと手を組むこと』。これら2つもゼツにとっては問題だらけであった。

 色々と頭を悩ませた結果、ゼツは自身のパートナーであるディアボロモンにある事を頼み、ディアボロモンは軽く頷き承諾して行動に移した。

 ディアボロモンは自ら幼年期に退化、その状態で電脳空間に潜入した(究極体の状態では容量が大きすぎて電脳空間に入れない為、一番低い幼年期に退化した)。

 電脳空間に潜入したクラモンは増殖を繰り返し、各重要施設が存在する電脳空間に侵入していき掌握していく。そして、目的の国際イニシエーター監督機構(IISO)に潜入したクラモンは一気にメインコンピューターを掌握、そのまま改竄を施した。

 『名はゼツ、11才。異例としてイニシエーターを持たぬプロモーター、公式IP序列12万4000位。ただし、緊急時のみ非公式IP序列20位相等の『機密情報へのアクセス権』を行使可能』と、クラモンからの報告をメールで見たゼツは目眩がした。無茶苦茶しすぎだと……。

 

「まっ結果、問題なく許可証は貰ったんだけど……」

 

 受付の係員からは怪しい目で見られながらもプロモーターの証である許可書を手にしたゼツは、行動を次に移した。

 1人、都会を歩くゼツの姿に通り過ぎていく通行人は不思議そうに見詰ていく。だが、その様なことは一切気にする事無くゼツは歩き続け、目的の場所に到着した。

 少しだけ本道から外れた五階建ての雑貨ビル、名は『ハッピービルディング』。穏やかに歩を進めるその動きは不自然さはないが、一階の門前に居るゲイバーの店員は通り過ぎるゼツには気付く事はなかった。そのまま階段を上り目的の三階に到着、扉を数回ノックする。

 奥から若い女性が返事の声が返ってきた。そして扉は開かれ出て来たのは、上から下まで黒色の女子高生。天童木更と呼ばれる、天童民間警備会社の社長である。

 視線が真直ぐ見ている木更、だがゼツの身長は低い為にその視線の先には何も無く壁だけが捉えられる。木更は不思議そうな表情を浮かべ、次は怒りに満ちた表情に変わった。

 

「何、悪戯!? 良い度胸じゃない!」

 

「…………」

 

 自身は子供の為に仕方ないと思う反面、気付かない事にイラッともするゼツは視線を足元に向け、そして木更の脛に向かって軽く蹴りを入れた。

 天童木更は天童式抜刀術の免許皆伝の剣鬼である。だが、流石に殺気もない一撃では気付くことも回避することも出来ない。不意の痛み、それも脛な為に激痛が木更を襲う。

 涙目になりながら身体を屈め、蹴られた脛を押さえる。

 

「痛ッ!?」

 

「……大丈夫?」

 

 自分でしたのに心配するゼツ。

 涙目な視線を上げてゼツに向ける。現れたのが子供だった為に驚きの表情を浮かべ、そして疑問の顔を浮かべる。

 

「だっ誰よ?」

 

「里見蓮太郎から聞いてない? 化物を従える子供って」

 

「……それってもしかして」

 

 その言葉で木更の脳裏に一昨日の蓮太郎からの聞かされた報告を思い出す。

 子供の名はゼツ、従えている化物はデジモンと呼ばれ、その子供の実力は上位IP序列者と同格であると。

 木更は背筋に嫌な汗が流れる。報復しに来たのかと思い、手を動かすが腰には自身の愛刀である殺人刀・雪影を持って来ていない事に後悔する。そして、ゼツが手を動かす所を見てビクッと身体を揺らして身構える。そして、

 

 

  ◆

 

 

「あぁ、木更さんに怒られるな」

 

「まぁそう愚痴るな蓮太郎!」

 

 天高く上がっていた太陽が沈みだし、橙色に染まりだす時間に蓮太郎と延珠の2人が歩いていた。蓮太郎は不幸顔が更に不幸な表情を浮かべ、そんな表情を見て爛漫に笑う延珠。

 今回、ガストレア出現で出向いていた2人ではあったが不幸にも蓮太郎の愛銃・XD拳銃が弾詰まり(ジャム)ってしまいガストレアに止めを刺すことが出来ず、他所の民警に奪われてしまった。未だに今月の収入0であり、このまま帰れば木更の雷が落とされてしまう。そう思うと蓮太郎は自ずと足取りが遅くなり、憂鬱な気分に苛まれてしまう。

 止めを刺せずに落ち込む蓮太郎に横で並び歩いている延珠も励まそうと思うが、良い言葉を思いつかず空笑いで受け答えしていた。

 

「そう落ち込むな蓮太郎。妾をハグして元気をだすのだ!」

 

 両手一杯に広げて目を輝かせる延珠。

 それを見た蓮太郎は軽く溜息を吐く。

 

「遠慮する」

 

「なっ!? れでぃの誘いを無下にする気か!」

 

 遠慮の言葉を聞き、驚きの表情を浮かべた延珠は周囲の通行人にも聞えるぐらいに大きな声を荒げた。その声を聞いた周囲の人間たちは蓮太郎を不審者を見る目を向け、「ロリコン?」「警察呼ぶ?」「不幸顔だな」っと思い思いの感想を述べられた。

 衆人の視線に不幸5割増の表情を蓮太郎は浮かべる。

 

「……頼むから、衆人観衆の前で俺を冥府に送り込む発言は止めろ」

 

 切実に、そう思う蓮太郎であった。

 歩くこと数分、目的の天童民警会社がある雑貨ビルに到着、一階の出入口に居るゲイバーの店員に軽く挨拶をして階段に上り、三階の扉を開けて中に入る。

 

「ただいま、木更さん」

 

「今帰ったのだ!」

 

 未だに憂鬱な感じで挨拶して部屋に入る蓮太郎。逆に延珠は元気である。

 自然に視線はいつも木更が座っているであろう社長席に向けるが座っていない事に気付いた。何処かに出かけたのだろうかと思いながら視線を見渡すと、奥の応接間に木更の背中が見え誰かお客でも来ているのかと思い、応接間に足を向ける。

 

「木更さん、誰か来てるのか?」

 

 徐々に応接間の全体が見え、そして来ている相手を見て蓮太郎は大いに驚き、隣で一緒に来た延珠も目を丸くして驚く。

 若草色の着物、その上に黒色の羽織を着た延珠と歳変わらない子供、ゼツが応接間に居た。

 

「あっお帰りなさい里見くん」

 

「えっあっ、あぁただいま……じゃなくて!?」

 

「おぉ昨日ぶりだなゼツ!」

 

「昨日ぶり、延珠ちゃん」

 

 帰って来た蓮太郎に木更は振向きお帰りと挨拶を述べる。蓮太郎はよどみながら返事を返すが、慌ててゼツに指を差す。一方、延珠は元気に挨拶を述べるとゼツも挨拶を交わした。

 

「里見くん、おめでとう! 後輩が出来たわよ!」

 

 一瞬、何を言われたのか理解出来なかった蓮太郎は口を開けてポカッとしてしまう。

 少しだけ間を置き、木更が言った言葉を繰り返しリピートしてやっと理解して、そして驚きの表情を浮かべた。

 

「ちょっ、えっ、マジ?」

 

「マジよ!」

 

「考え直せゼツ!」

 

「それどういう意味よ里見くん!」

 

 意味を全て理解した蓮太郎はゼツに向って考え直すように言い放ち、その言葉に木更は立ち上がり怒る。少しだけ不安そうな表情を浮かべている延珠はゼツに近付き、警告を述べた。

 

「なぁなぁ、ゼツは本当にここで働くのか? 給料は安いぞ?」

 

「そうだ!」

 

「ちょっと延珠ちゅんも里見くんも酷いじゃない!」

 

 化学反応のように社内は一気に騒がしくなり、それを見続けたゼツは可笑しくなり吹いて笑い出してしまう。

 喧嘩しだした3人は急に笑い出したゼツに視線を向けた。仏頂面で笑みを中々浮かべなかったゼツが声を上げて笑う姿に驚く蓮太郎、それは延珠も同じであった。

 一通り笑ったゼツは浮かべていた涙を拭き、木更たちに視線を向けた。

 

「名はゼツ、イニシエーターを持たぬ異例のプロモーター、IP序列12万4000位。宜しくお願いします……里見先輩」

 

「おっおう」

 

 笑顔を向けあれた蓮太郎は驚きながらも返事を返した。

 こうして、ゼツは天童民間警備会社の一員となった。

 

 

  ◆

 

 

 社長である木更からの許可も下りてゼツは正式に天童民警会社の社員となったゼツ。そこで、ゼツは蓮太郎にある事を頼んだ。

 

「何? 家に泊まらせてくれだ?」

 

 身元保証がない、ましてや子供のゼツではマンションやアパートなど部屋を借りる事は出来ない。だからといって外周区まで戻って寝泊りするには遠すぎる。

 ならば誰かの家で居候する方法しかないと判断したゼツは最近になって知合った蓮太郎に頼む事にした。もう1人、将監の家も候補に上がったが論外として即刻外した。

 蓮太郎は困ってしまう。

 只でさえ延珠と言う存在が既に居候している状態、そこに更にもう一人居候されては里見家は火の車状態になってしまう。そんな不安げな表情を浮かべている蓮太郎にゼツは袖からスマホを出して、そこから何かを取り出した。

 

「泊めてくれるなら謝礼金としてこれを渡す」

 

「こっ、これは!」

 

 渡したのは札、厚さからして20万ほどである。それを見た蓮太郎は驚き、喉を鳴らして札を見詰る。そんな姿を見たゼツはニヤリッと笑い更に言葉を続けた。

 

「これは謝礼金、泊めてくれるなら月10万を払う。どうだろうか?」

 

「お前、このお金どうした?」

 

「そこは企業秘密って事で……」

 

 ゼツが渡したお金。それはクラモンたちが集めたお金であった。

 例えガストレアと呼ばれる化物に襲われ敗戦しようとも、人間の闇は止まる事を知らない。やはり、不正で集められたお金などは存在しており、それに着目したクラモンたちは一斉にデータに侵入改竄を繰り返し、ゼツのスマホにお金を送り込んだのだ。無論、足取りなども完璧に消しており、例えお金が失った事を相手側は知っても不正で集めたお金を捜索依頼など警察に申しだす事は出来ない。

 そして、ゼツのスマホには保存されている物を具現化できる機能が備わっている為にATMなのでお金を下ろす必要もない。こうして、ゼツのスマホ内では膨大なお金が保存されている。

 そんな事は露知らない蓮太郎は困惑しながら困っていると、横から延珠に袖を引っ張られ視線を向ける。

 

「なぁ、泊まらしてやろう連太郎!」

 

「だがなぁ~……」

 

 未だに踏み切れない蓮太郎。そんな性格だから自身の本音が言えないヘタレなのだが、これも蓮太郎の持ち味なので強くは言えない。

 煮え切れない連太郎、そこでゼツは呟いた。

 

「甲斐性なし」

 

「…………」

 

「不良面」

 

「…………」

 

「根性なし、ロリコン、変態、ヘタレ、ペド」

 

「だぁー! 分かったからそれ以上、俺を罵るな!」

 

 ある事ない事、中傷の言葉を呟き続けるゼツに流石に我慢できなかった蓮太郎は叫びながら居候の許可を出した。その言葉を聞いた延珠は喜び、ゼツの両手を握って万遍の笑みを浮かべる。

 

「やったなゼツ!」

 

「うん、ありがと延珠ちゃん」

 

「はぁ~……」

 

 2人を見ながら蓮太郎は深い溜息を吐いた。

 既に夕刻を過ぎているので社を後にして木更と分かれた3人は先ずスーパーに向った。今日の夕飯の食事を買う為だ。

 蓮太郎と延珠は馴れた感じで安い食材を探しながら献立を考えていると、蓮太郎が何かを思い出したかのようにゼツに振向いた。

 

「なぁ、ゼツは食器とか持ってるのか? なかったら買わないといけないが……」

 

「あっそれは大丈夫、ここにね」

 

 袖から取り出されたのは便利グッツのスマホ、それを見た蓮太郎は昨日の事を思い出し納得した。

 

「本当に便利だよな、それ」

 

「まっ、凄く助かってるのは確かだけどね」

 

 優しき瞳を浮かべ、ゼツは持っているスマホを見詰る。

 そんな雑談をしながら3人は買物を終わらせ、蓮太郎たちの住んでいるアパートに来た。そして、そのボロすぎる二階建てアパートを見たゼツは無言で見詰る。

 見詰て黙っているゼツに蓮太郎もなんと言えば良いのか判らず黙ってしまう。

 

「いい、お住まいだね」

 

「何か文句あるのか?」

 

「いえ」

 

 流石のゼツも頼んでいる身である以上は文句など言えない。だが、もう少し何とか出来なかったのだろうかと疑問を過ぎらせる。

 所々錆びている階段を上り奥に進み、少しばかり古びた木製の引き扉、その先には八畳一間の質素な部屋だった。基本的な家具のみが置かれており、これと言って特徴的な物は一切無い。だが、その部屋からは蓮太郎と延珠の楽しげな生活を思わせる雰囲気を醸し出している事を肌で感じたゼツは無意識に頬を緩ませる。何と、暖かな家なのだろうっと。

 居室に待っている様に蓮太郎に言われたゼツは延珠とテーブルを挟んで畳みの上で座る。暇になったゼツはスマホからクラモンを呼び出して膝に置き、そのモチモチした感触を楽しんでいた。そんな動作をしているゼツに延珠は自然と視線がクラモンに向けられる。

 

「なぁゼツ、触って良いか?」

 

「あぁ、大丈夫だ。生きているから優しくな?」

 

「任せろ!」

 

 渡されたクラモンは特に暴れる事無く延珠の両手に収まった。プニプニとそんな柔らかな感触に触れ、少しだけ押すとプゥと泡を吹く。

 

「おぉ~、面白いな! これもデジモンなのか?」

 

「名前はクラモン、産まれ立ての幼年期だな。あの腕長いディアボロモンの幼い頃の姿だ」

 

「デジモンとは奥が深いな」

 

 クラモンで遊ぶ延珠を見ながらゼツは待っていると蓮太郎から料理が出来たと報告が聞えた。遊んでいた延珠は一度クラモンを放して食事を並べるのを手伝う。放されたクラモンはコロコロと転がりゼツの足元で止まる。止まったクラモンを再度、膝に乗せて待つ。

 

「ゼツ、待たせたな」

 

「いや、それ程でも……」

 

 準備された料理がテーブルの上に並べられる。

 モヤシ炒め、モヤシの御浸し、モヤシの味噌汁、そして白米。スーパーで買物を見ていたので特に驚く事もなくゼツは出された料理を見詰る。そして、その視線を蓮太郎に向けた。

 

「分かってる。でも、今家の生活費は火の車なんだ」

 

「いや、泊めて貰う身としては文句は言わないけど……もう少し頑張れ」

 

 特に栄養面でのバランスとか。っと、ゼツは思う。

 皆でいただきますっと挨拶を述べて食べだす。密かな調味料の味が口一杯に広がり、モヤシ特有のシャリとした歯応えが伝わり食欲を引き出す。

 食べているとゼツが進ませていた箸を止め、テーブルに出されている料理を見詰る。それに気付いた蓮太郎は不安そうにゼツに尋ねた。

 

「不味かったか?」

 

「んっいや……ちょっとな、こう手料理をテーブルで囲んで食べるのは……本当に久しぶりでな。物思いに耽ってしまった」

 

「…………」

 

 寂しげな瞳を浮かばせるゼツに、蓮太郎はどう答えたものか困って沈黙してしまう。

 蓮太郎は未だにゼツの全容を把握しきれないでいた。謎の生物デジモンを二体を従わせ、普通の子供でありながらにして"呪われた子供たち"と同等に渡り合う事が出来る身体能力、そして偶に見せる闇とも光とも分からぬ瞳の色を浮かべさせる。

 

「んっ。ゴメン、空気を悪くしたかな」

 

「いや、いいけどよ」

 

 空笑いを浮かべながらゼツは食事を続ける。

 夕食を終え、ゼツを最後に皆は風呂に入り寝ようとした時だった。ゼツは敷かれた布団で眠る事を否定して、居室の隅で座りながら眠る事を提案したのだ。

 

「んっ? 何故、一緒に寝ないのだ?」

 

「風邪引くぞ?」

 

 2人はそう述べるがゼツは頑なに布団で横になって眠る事を拒否し続け、最後には2人が折れてしまった。布団に敷かれた部屋で2人は眠り、ゼツは隣の居室に壁に背を置いて眠った。

 こうして、騒がしい一日が過ぎていった。

 

 




さて、ゼツくんは皆さんが思っていた通りに民警になりました。そして、蓮太郎たちの会社の社員に就職、更に蓮太郎の家に居候することにもなりました。

実は将監の家でも良かったのですが、流石に原作主人公と絡みが無くなるのは面倒なのでこうしました(この小説はアンチとか無いようにしたいし)。
では木更さんの場所も良かったのですが、流石に蓮太郎から寝取られはしたくないので駄目にしました。

さて、次回から原作突入です。
次回もお楽しみにしてくださいね。


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神を目指した者たち
010


とうとうアニメ『ブラック・ブレット』が放送終了してしまいましたね。
見ていない人も居ると思うので此処では深くは内容を言いませんが。次はなんのアニメを見ようかな。
さて、このSSもやっと原作に突入しることになりました。
ゼツくんはどうなるか。


 ゼツが里見家に居候してからある程度の月日が流れた。

 普段、朝からは蓮太郎と延珠は学校に向かい、ゼツは1人で民警会社の留守番をしていた(木更も朝から学校に向かっている)。

 時にはスマホからガストレア出現の警報を届いたらゼツは素早く行動を開始する。片手には木製の和弓を、腰には鏃から全てが黒色の矢を入れた矢筒を腰に提げ出現ポイントに向って出向する。

 スマホ内で待機しているクラモンを呼びかけ、出現したガストレアの移動ルートを算出、その移動ルートから弓矢で射れる射撃ポイントを割出し、その場所の最短ルートをスマホのマップに表示させる。マップに赤いラインが描かれており、その描かれたラインを沿うように走り、目的地には十数分で到着した。四階建マンション、その三階と四回の間の非常階段である。

 弓を扱うには足場は悪い場所、だがゼツは一切気にもせずに非常階段から眺める町並みを見詰る。

 

「此処か……タイミング、頼むよクラモン」

 

 クラモンはゼツの足元にコロコロと転がりながら傍で止まる。

 矢筒からバラニウム製の矢を取り出して番え、弓を押し弦を引いた状態でゼツはピクリとも動く事無くその態勢を維持したままで待機する。

 風が吹き、ゼツの着物の袖や前髪が靡く。瞼を閉じ、クラモンからの合図をジッと待ち続け、そして

 

「クルッ!」

 

「ッ!」

 

 鳴き声による合図。それが聞えた瞬間、瞑っていた目を開き矢を放つ。

 黒色の閃光が空を翔ける。残光でも残るではないかと思うほどの鋭く速い矢は、建物の隙間を縫うように進み、500メートル先にいた移動中のタイプ・ベアのガストレアを打ち抜く。

 打ち抜いた場所は頭部、その一撃でガストレアは苦痛の雄叫びを上げる。そんな姿を遠目で見ていたゼツは、矢筒から次の矢を取り出して番えそして放つ。

 タイプ・ベアの頭部に刺さっている矢、その上から二本目の矢が刺さる。初弾で刺さっていた矢が更に内部に深く刺さり、そしてガストレアの脳を突き抜けた。

 例外は幾つかあるも再生能力が高いガストレアとて生物の原則までは変わらない。脳や心臓、それらをバラニウムで撃ち抜かれてはガストレアとて只では済まず、そして絶命は免れない。

 

「クラモン、確認を……」

 

「……クルッ」

 

「そうか、なら帰ろっか」

 

 討伐出来たかをクラモンに確認、鳴いて返事を返した。どうやらタイプ・ベアは討伐出来ているようだ。溜息を吐きながら非常階段を下りて行き、天童民間警備会社にゼツは帰っていった。

 

 

  ◆

 

 

 「この、お馬鹿ッ!」

 

 天童民間警備会社の社長・天童木更が社内を大喝が響き、鋭いパンチが繰り出される。だが、それを寸前で蓮太郎は避ける。避けられた木更は噛み付くような表情を浮かべながら蓮太郎を睨む。

 

「なんでかわすのよ腹立たしいはねッ」

 

「無茶苦茶言うなよ!」

 

 何故、木更が蓮太郎を怒っているかと言うとそれは数時間前に遡る。

 警察からマンション一室にガストレアが潜伏している恐れがあるとして、民警出動の要請が舞い込んできた(実際には法律でガストレアが潜伏している場所に民警が居なければ原則潜入は出来ない事になっている)。木更はその要請を受諾、社員である里見蓮太郎と藍羽延珠が自転車で向ったのだが、途中で二台に乗せていた延珠を落としてしまい蓮太郎1人で突入しなければならない事態に陥った。

 でっ、現場に到着した時には警察数名が勝手に突入、死亡しており更にガストレアの影もなく、その一室に住んでいた男性が感染者で街中をうろついている事が分かって探していると逸れていた延珠がガストレア――感染者――と戦闘しており、そこに蓮太郎が加勢してガストレアを撃破するも肝心の報酬を受け取る事無くスーパーのタイムセールのモヤシを買いに去ってしまった。警察に報酬を渡して貰うように要求するが突っ撥ねられたそうだ。

 

「つまりこういうこと? 君はそこの机の上に乗ってるタイムセールの商品を買うために急いだら、途中で警察から報酬をもらい損ねたことを気付いた、と」

 

「……ああ」

 

 不貞腐れた態度を見せる蓮太郎。

 

「連絡したけど警察には払ってもらえず。それで君はモヤシだけは二袋買ってきた?」

 

「…………アンタも食べるか? 木更さん」

 

「仕事してるときは社長と言いなさい」

 

 話題を逸らそうとするも蓮太郎を睨みながら名前を社長と呼ぶように木更は注意しながら社長席のテーブルを一発叩く。

 

「ちょと里見くん、今月の収入全部ゼツくんが頑張ってくれてるのよ。それなのに先輩の里見くんが収入0なんて面子丸潰れよこの甲斐性無し、最弱、お馬鹿。それと君の中では社長への仕事の報告よりスーパーのタイムセールを優先されるの?」

 

 小学生で守られている会社とは何とも言えない。

 社員の先輩たる蓮太郎が今月収入0に注意しながら、報告無視で更に睨む。そして、

 

「――なにより、どうして私にもタイムセールのこと教えてくれなかったのよッ!」

 

 スーパーのセールを教えていない事にも怒りで怒鳴る。すると木更の腹部から空腹の合図がなる。

 

「もう駄目、ビフテキ……食べたい」

 

「俺だって食べてぇよ」

 

 お腹を押さえ、ビフテキを食べたいと要望を口ずさむ木更に蓮太郎も同じく食べたいと要望をもらす。すると、唯一の出入口の扉が開かれ入ってきたのは若草色の着物を来た小学生ぐらいの子供、その手にはスーパーのポリ袋が持たされていた。

 

「ただいまー」

 

「あらお帰りゼツくん」

 

 この世界で1人しか居ないデジモンテイマーであるゼツだった。帰って来たゼツに返事を返す木更にゼツは一度頷き、蓮太郎の傍に寄って持っていたポリ袋を渡した。入っていたのはステーキ用の肉だった。

 

「お前、これどうした?」

 

「んっ、ガストレアに襲われそうな人を助けたらお礼に貰った」

 

 丁度肉は4枚。良いタイミングで現れたゼツに2人は唖然として、ゼツは木更に振向く。

 

「今回の仕事、下水道に潜んでたタイプ・マウスのガストレアの討伐を確認、報酬は時期に警察から天童民警会社に振り込まれるって……報告終了。これでいい?」

 

 綺麗に要点だけを報告するゼツの姿に木更は、隣で立っている甲斐性無しの先輩社員の蓮太郎を睨みつける。その眼は、「後輩はちゃんと報酬貰って報告しに来ているのよ。里見くんがちゃんとしないでどうするのよ」っと訴えているようだ。いや、訴えているのだろう。

 

「んっ、何か間違えた?」

 

「いえ、大丈夫よ問題なし。今の会社はゼツくんで支えられてる状態……会社経営って思ったより大変なのね。それもこれも里見くんの甲斐性無しのお馬鹿のせいね」

 

 何か報告に間違えがあったのか少しだけ不安な表情を浮かべたゼツに、間違っていないと優しい表情を見せて述べて、テーブルに項垂れ愚痴を零す。

 

「事務所の立地のせいじゃね?」

 

「わかってないわね。本当に良い会社なら立地なんて関係ないのよ」

 

「でも、一階ゲイバーに二階キャバクラ、四階は闇金……うん、一般人なら来たくないよね」

 

 本当に立地は悪いとゼツは思う。下手したら三階に行く前に客が一階二階に吸い込まれるんじゃないかと思うばかりに……。

 現在、ゼツは一階二階四階の人間らにそれなりに気に入られている。ゲイバーからはその懸命に働く姿に、キャバクラからはその愛らしい姿に、闇金からはその腕っ節に、其々の理由からゼツは『ハッピービルディング』の人達には人気である。

 すると、蓮太郎が何かを閃いたのか項垂れている木更に向く。

 

「木更さんがメイド服とか着てビラ配りゃいい」

 

「私は『天童』よ! この私が女給のような低位な人間の真似をしろって言うの? 私はいや!」

 

「なら自分がしようか?」

 

 そうゼツが述べると2人は妄想してみた。ゼツがメイド服を着て会社名を書いた看板を持ちながら通行人に懸命に会社をアピールする姿、それは確かに萌えるのだが……。

 

「駄目よ! 誘拐されちゃう!」

 

「止めとけ、ゲイバーの店員に本当に誘拐されるぞ」

 

 2人は力強く拒否されてゼツは驚く。木更は視線を蓮太郎に向けて指を刺す。

 

「それよりも里見くんが天童民間警備会社ここにありって叫びながら衆人観衆の中、燃えるか爆発しなさい!」

 

「それじゃテロだろ」

 

 それは迷惑だな、ゼツはそう内心で思う。

 すると、木更が難しい表情を浮かべながら起動しているPCを睨みつける。

 

「きみが倒したガストレアって感染者だったのよね?」

 

「感染源には遭遇しなかったけど……。とっくに他の社が見つけて始末してんだろう」

 

「駆除どころか目撃報告すら一件もないわ。ゼツくん、そっちのクラモンたちはどうなの?」

 

「少し待って……うんん、網には掛かってない」

 

 急な木更の問いにゼツはスマホ内のクラモンたちに目撃情報やそれらの詳しい情報を探るように頼む。そして、クラモンから該当無しと返事が返ってきて、それを木更に教える。それを聞いた蓮太郎は険しい表情を浮かべる。

 

「どうして政府は警報を出さない」

 

「政府は無能じゃないけど非難警報とかはほとんど取らない、だから私ら民警に仕事があるのよ」

 

 政府は混乱などを避ける為に報道規制、及び警告も最後まで取らない。それが民衆の混乱や誤報などを避ける為でもあるが嫌なものである。ゼツもそれは理解している、だからと言って納得している訳でもなかった。兎に角、一刻も早く感染源を狩らなければ感染爆発(パラドックス)が起きる恐れもある。

 

「クラモンたちから監視強化させとく」

 

「専門家の意見が必要だ、これから『先生』に話を聞いてくる」

 

「私も同業者に探りを入れてみるわ。里見くん、ゼツくん、残る感染源も私たちが狩るわよ、可及的速やかに」

 

「わかった」

 

「了解」

 

 ゼツはそう返事を返すと、踵を返して出入口に戻っていった。その急な行動に蓮太郎たち2人は不思議に見据えていた。

 

「どこか出かけるのか?」

 

「んっ、少し野暮用、夕飯までには帰れると思う」

 

「遅くなるなよ?」

 

「わかった」

 

 蓮太郎との話をそこそこにゼツは会社を後にして去って行った。

 そのゼツの後ろ姿を見据えていた木更も帰る身支度を整える。傍に置いていた学校指定鞄を肩にかける。すると、錬太郎が少しだけ頬を赤く染めて木更に話しかける。

 

「帰るなら途中まで送るぞ」

 

「今日は血液透析の日だから病院に行かないと」

 

「ああ、そいやそうか」

 

 天童木更は腎臓の持病で定期的に血液透析を受けており、その為に長時間の戦闘は不可能。すでに社から出て行ったゼツは何故、木更が腎臓を本格的に治療しないのかは知らない。そもそも、知ろうとはしなかった。

 

「もう一年になるのね、君がプロモーターになり、延珠ちゃんと出会ってから」

 

「『まだ』一年目だ。俺もアンタもまだ目標の半ばに過ぎない」

 

「里見くん、本当に変わったわ。よく笑うようになったし、料理もするようになった。昔の里見くんからは、ちょっと考えられない」

 

「そんなことねぇよ」

 

「ねぇ里見くん、君のいまの目的ってなんなの?」

 

「えっ?」

 

「延珠ちゃんの両親を捜してあげること? 里見くん、君のお父さんとお母さんのことはもういいの? 子供の頃よく言ってたわよね。『お父さんとお母さんは必ず生きてるから探し出すんだ』って。だも最近聞かない、いまでも本当にそう思ってるの?」

 

「かんけーねーだろ――」

 

 蓮太郎と木更の話。その話は深く関わった者でしか分からない闇が潜む、その話を帰ったフリをして扉越しでゼツは聞いていた。『誰もが胸の内には闇が潜んでいるものだ……』。そう内心で思いながら本当に社を後にした。

 

 

  ◆

 

 

 蓮太郎に野暮用といって出ていったゼツではあるが、目的など一切なかった。ただ、1人でいたい、そう思う感情が沸々とゼツの胸奥から湧き上がってくるのだ。人混みから離れ、細道を歩き続け気付いたときには周囲には人っ子一人いない場所に出た。そこで、ゼツは睨むように視線を斜め上に向ける。

 

「隠れてないで出てきたら?」

 

「おや、バレていたのかね」

 

 建造物の上に2人の影が現れる。

 燕尾服の格好にシルクハット、笑顔模様が描かれた仮面を着けた男性。青に近い短めの髪、腰には二振りの剣、そして"呪われた子供たち"特有の赤目の少女。

 その2人組みを見てゼツは何処かの民警なのかと思う。だが、男から感じられる雰囲気、そして仮面越しで見られるその瞳には狂喜を感じたゼツは、その2人組みを普通の民警ではないと判断した。

 

「始めまして、私は蛭子影胤(ひるこ かげたね)だ。そして、私のイニシエーターにして娘の」

 

蛭子小比奈(ひるこ こひな)、10才」

 

「蛭子っか」

 

 自己紹介してきた蛭子親子。そこで、ゼツは名乗った苗字、『蛭子』に反応した。最初にイメージしたのは日本神話の『イザナギとイザナミの最初に生まれる骨のない不具の子《蛭子神》』である。《蛭子神》は後にいらぬ子として島流された不幸の子である。少なくとも苗字に付ける名ではない。

 

「それで、その蛭子さんが俺になんの用事だ?」

 

「私が君を見た瞬間、猛烈に仲間に加えたいと思ったのだよ」

 

「……序列六桁台でイニシエーターもいない俺をか?」

 

 仲間に加えるなら最低でも三桁台の人物を誘うべきだ。では、何故この影胤は自身を誘うのか分からず呆れた表情を見詰る。すると、仮面越しから狂気を孕ませた瞳がゼツを捕らえた。

 

「君のその瞳、人間に憎悪を宿しているね?」

 

「ッ!?」

 

 そこでゼツは初めて目に見えて動揺した。

 見開く瞳、それを見た影胤は不適に笑いを零す。

 

「ふふっ動揺したね。さて、君は"呪われた子供たち"をどう思う? この東京エリアの在り方もどうかね?」

 

「……何故、そのような事を子供である俺に聞くんだ?」

 

「なに、単純に疑問に思っただけさ」

 

 ゼツの脳裏に浮かぶのは権力者達の闇。出世の為なら非人道的なことは幾等でも繰り返す。そして、一般市民も己の行き場のない怒りを罪無き"呪われた子供たち"に発散する姿、それを正常と呼ぶには余りにも歪んでいる。

 確かに大戦に生残った"奪われた世代"とってはガストレア全ては憎むべき存在、そのウィスルを持つ"無垢の世代"たちは排除すえべき。言い分も判る。だが、それを承認するつもりはゼツにはなかった。

 

「そうだな……人間は醜いと思うよ」

 

「ほう、やはり私が思っていた通りだ。君も私と同じ側の人間だ」

 

 狂喜の笑いを零す影胤。すると、持っていたアタッシュケースをゼツに前に投げる。その中には札束が敷き詰められており、ゼツはその大金を見て視線を戻した。

 

「これは?」

 

「仲間になるならばこの大金をゼツくん、君にあげよう。君は愚かな人間達に虐待を受けている子供たちを何度も助けて、保護しているようじゃないか。その子供たちの為にはお金が必要ではないかね?」

 

「そこまで調べていたか」

 

 ゼツは蓮太郎たちの民警会社に雇われてから秘密裏に、都心にいる子供たちを保護して外周区のある場所に行くよう説得して戻している。

 ある場所とはルリたちが居る住処である。ルリに渡しているスマホ内には簡単には消費しきれない程に備蓄を溜めている。だが、それは無限ではないので密かに食料を都心で買い、それをスマホ内経由で送っているのだ。

 どうやらスマホの事は知られていないと判断したゼツは、自身の手の内を曝さないように話を続けた。

 

「でっ、この東京エリアで何をする気だ?」

 

「大絶滅」

 

 『大絶滅』。

 その単語にゼツは内心、大きく驚いていた。簡単に言えばモノリス崩壊、或はゾディアック襲撃によってエリアがガストレアで消滅する現象を指す。

 

「この東京で起こす気か?」

 

「いかにも」

 

「狂ってるな」

 

「私が正常だと思うかね?」

 

「……確かに」

 

 狂気に溢れる影胤、それを訝しい視線をゼツは向ける。

 そして影胤は建物から降りてゼツに近付き、右手を差し出す。その差し出された手にゼツは視線で物言う『コレはなんだ?』と。

 

「来たまえゼツくん。大絶滅の後、生き残れるのは子供や我々力あるものだけだ」

 

「…………」

 

 差し出された手をゼツは見詰ながら静かに自身の手を上げる。

 その姿を見た影胤は狂喜に満ちた笑みを浮かべた。

 

 




ゼツくんが普段ガストレアで使っているのは弓矢です。目立たず、それでいて最低限の動きで最大限の効果を発揮するために一撃必中の戦い方です。勿論、ヤバイ場合は躊躇なくデジモンたちの力を使いますが。

現在、天童民間警備会社を支えているの実質、ゼツくんです。

で、とうとう来ました蛭子親子。
仲間にならないかとスカウトしてくる影胤にゼツはどうするか……。

次回もお楽しみにしてください。


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011

 影胤に差し出された手にゼツは、払った。

 

「……これは決別、でいいのかね?」

 

「悪いな。人間は醜く嫌いだ……それでも」

 

 袖に入れていたスマホを操作してレオモンの剣・獅子王丸を具現化、袖から剣を出したように影胤たちに見せかける。袖から急に剣が出てきたことに影胤や待機していた小比奈は驚きを見せる。

 

「信じたい存在でもある」

 

「愚かな選択を犯したねゼツくん。小比奈、殺りなさい」

 

「はい、パパ!」

 

 影胤の背後で待機していた小比奈は一瞬にして前に現れ、ゼツを切り裂こうと一対の剣を振り抜く。その動作に肉眼で追えたゼツは両手で確りと獅子王丸の柄を握り締め、衝撃に備える。

 薄暗い小道、貴金属が弾き火花が散る。ゼツによる横一閃、それを小比奈は屈んで回避すると二振りの剣をX字を描くように下段から上段に向かって切り上げる。X斬り、それを半歩後方にゼツは下がり回避、前髪が少しだけ切れ宙に舞う。

 舞う髪を気にする事無く持っている剣を逆手持ちにして、薙ぎ払うように振る。だが、その一撃は空を切るだけだった。

 

「……避けられたか」

 

「ほう、小比奈相手に白兵戦で負けないとは……それに、その剣ただの剣ではなさそうだ」

 

「パパ、あのちっさいの強い!」

 

 ゼツを監視しながら後方で傍観している影胤。だが、内心では驚いていた。

 影胤が事前に調べた調査結果では珍しくバラニウム製の矢を使った後方タイプと判断していた。だが蓋を開けた瞬間覆された。娘であり"呪われた子供たち"である小比奈と互角以上に接近戦で渡り合い、普通の子供とは思えないほどの冷静力。その結果に影胤は自身の目に狂いは無かった判断する。

 

「成程、実力を隠していたのかい。照れ屋なのだね」

 

「自身の手の内は早々出さないものだ」

 

 ゼツは獅子王丸を逆手で持ち構える。その姿に子比奈は踵を蹴って凄まじい速さでゼツに突貫する。そのスピードとパワーの乗った一撃はゼツの想像以上のものであり後方に押し切られる。

 押す力が弱まると二刀流特有の眼にも止まらぬ素早い連続切りが繰り出される。繰り出された連続切り、それを全て獅子王丸で受止めるが次第に押し切られだしてしまう。

 ゼツは焦る。余りにもこの子供は強いと。

 

「小比奈ちゃんは、強いな」

 

「……名前」

 

「えっ?」

 

 連続で放たれる剣戟をゼツが受止めながら小比奈を評価すると、急に小比奈が名前を問うてきた。急な問いにゼツは驚きながらも直に答えた。

 

「ゼツ、苗字は、捨てた!」

 

「私は、蛭子、小比奈!」

 

 斬り合いながらの会話。

 余りにも普通から懸離れた風景、だがその2人はダンスを待っている様にも見えた。だが、そのダンスも終わりを迎えようとしていた。

 急に小比奈の剣が外に大きく弾かれる。

 

「えっ!?」

 

 それに大きく驚いているのは小比奈自身であった。

 確かに押していた。相手ゼツが反撃する隙すらも与えぬように絶え間ない攻撃を続けていた筈、それなのに何故自身が押し返されているのか。それに理解出来ない子比奈は始めて焦りの表情を浮かべる。

 一方ゼツは小比奈の動きに完全に捕らえていた。最初は何か裏の攻撃方法でもあるのかと思いながら凌いでいたゼツだが、小比奈の攻撃は単調にして素直、ただ単に自身のスペックをフル活用しているだけのゴリ押し。それを理解したゼツは、反撃に移った。

 左から来る剣戟を剣で往なし、その状態から右から来る剣戟を柄頭で弾く。そして、空いている腕で小比奈の喉元に肘突き。その肘突きを小比奈は驚きながらも回避、だがそこから膝蹴りを放つ。

 

「ぐあっ!」

 

「劣化・獅子羅王漸!」

 

 強烈な獅子王丸の一撃。膝蹴りされて怯んだ小比奈は必死に二本の剣で防御を固めるが、その一撃は防御させた剣を砕き、後方へと弾かれ吹き飛ばされる。

 娘である子比奈が破れた。その結果に影胤は大いに驚き、そして狂喜した。あの"呪われた子"に勝てる子供が居ようとは、そう思いながら吹き飛ばされた子比奈を回収する。

 

「見事だよゼツくん。君は私が想像するより遥か頂に居るようだ。大丈夫か娘よ」

 

「うっ」

 

 片手で担がれた小比奈は苦痛の表情を浮かべながらゼツを見詰る。

 ゼツも勝負あったとして身体を楽にして蛭子親子を見詰る。だが、いつ攻撃されても良いように警戒は解いていない。

 

「次、必ず殺す!」

 

「……待ってるよ、小比奈ちゃん」

 

「ッ!」

 

 睨むように次は殺すと答える子比奈に対し、ゼツは笑顔を向けて手を振った。その想像していなかった態様に小比奈は驚く。

 影胤もまた予想外の受け答えに驚きながらもその場を後にした。

 去った蛭子親子、完全に居なくなった事が分かったゼツは大きく溜息を吐いた。

 

「さて……大絶滅か。はぁ、本当にここは」

 

 闇が深い。

 内心そう思いながらゼツもその場を後にして去っていった。

 

 

  ◆

 

 

 蛭子親子襲撃から数日経ったある日、公園の芝生に横になって昼寝をしていると一通の電話がスマホを鳴らす。浅く眠っていたゼツは寝そべった状態でスマホを取る。

 

「はい、どちらさま?」

 

『ゼツ君、ちゃんと画面見て電話相手事前に知ってから出なさい』

 

 電話越しに聞える声の主が誰か理解したゼツは瞼を擦りながら起き上がる。

 

「むにゅ……あぁ、木更さんですか。どうしたの?」

 

『もしかして寝てたの? 兎に角、仕事よゼツ君、今直ぐに防衛省に来て』

 

「……はっ?」

 

 一瞬、木更が何を言っているのか分からなかったゼツは唖然としてしまう。そこで、ゼツは聞き返す。

 

「防衛省って国を担ってる汚いお偉いさんの巣窟?」

 

『何故かしら。訂正したいのに出来ないこの遣る瀬無さ……兎に角、里見くんはこっちで拾うから1人で防衛省前に来て、二十分前に』

 

「二十分って……」

 

 現在、ゼツが居る公園は防衛省から軽く一時間以上は掛かる所にいた。どれだけ頑張って向っても間に合わない。流石に無理だと判断したゼツは木更に間に合わない述べようとするが、

 

『じゃっ待ってるから』

 

「あっ待っ…………切りやがった」

 

 スマホから聞えるのは空しい不通音。顔を歪めながらスマホを睨むゼツは一旦溜息を吐いて立ち上がる。周囲を見渡し、ある場所に目に入る。

 それは公衆電話ボックス。携帯電話などの普及に連れて数を減らすその電話ボックスにゼツは中に入る。ボックスに入って周囲に人影が無いことを確認したゼツはスマホを取り出し、そして

 

「ゲートオープン」

 

 ボックス内が光に満たされる。そして、次にはボックス内にいたゼツの姿が消えていた。

 今のゼツの周囲は電話マークや数字の羅列などで埋め尽くされた空間に居た。此処はネット内、その電話系統の中に存在した。

 

「こうやってネット内に入るのはこの世界に来て初めてだな……さて、ディアボロモン」

 

 自身の相棒であり家族であるディアボロモンを呼ぶ。だが、中々姿を現さない事に不思議に思いながら待っていると耳元から何かの声が聞えた。

 

「モシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシモシ」

 

「だぁーうるせーなー!」

 

 ゼツの背後に逆様になって「ケケケッ」と笑うディアボロモン。

 悪戯大好きなディアボロモンの姿にゼツは少しだけ苦笑してポンッと頭を叩いてやる。

 

「さて、防衛省近くの場所まで頼む」

 

「ケケケケッ」

 

 ディアボロモンはゼツを肩に乗せると一気に駆け抜ける。

 デジタル空間を上や下、左から右にと縦横無尽に突き進む中、ゼツは口元を押さえる。どうやらゼツは酔ったらしい。

 進んで数分、ある場所にで到着する。そこは入った場所と同じ電話マークと数字の羅列さえた空間だった。どうやら出口もまた公衆電話ボックスのようだ。

 

「ありがとディアボロモン」

 

「ケケッ」

 

 デジタル空間を後にしてゼツは現実世界に戻る。

 公衆電話ボックスに出てゼツは周囲を見渡す。誰一人人影が見られないことが分かったゼツは溜息を吐く。もし、こんな場面を目撃されたら厄介な事になる。故にゼツはこの移動手段は使いたがらない。

 ボックスから出て顔を上げると防衛省のビルが肉眼で見られる。そのビルに向って歩くこと五分、目的の防衛省の出入口前に到着してスマホを出して時間を確認、そこには木更から電話してから十五分ほど経過していた。

 

「丁度、かな」

 

 スマホを袖の中に戻してゼツは待っていると蓮太郎を連れた木更がこっちに向かって歩いて来ていた。どうやら連太郎たちも気付いたのか手を振る。

 

「おうゼツ、もう来てたのか?」

 

「つい先程ね」

 

「うんうん、時間厳守。先輩も見習ってほしいわね」

 

「うぐっ」

 

 ニヤッとした笑みを浮かべて蓮太郎を横目で見る木更。此処に来る前に何かあったのか、ゼツはそう思う。すると、防衛省の出入口から職員らしき若者が現れた。

 

「天童民間警備会社の方々ですね?」

 

 若者からそう聞かれた木更は顔を引き締めて向き直し、毅然とした態度で答える。

 

「社長の天童木更です」

 

「その社員の里見蓮太郎だ」

 

「同じくゼツ」

 

「お待ちしておりました。こちらに、ご案内させてもらいます」

 

 完結的に答えるゼツたち、それを訊いた職員はそのままゼツたちを案内する。

 ロビーを過ぎてエレベーターに乗り込む。何かを話す事無く目的の階に到着、エレベーターを降りて廊下を歩くこと一分、ある部屋の扉の前で案内していた職員はゼツたちに振向き一礼、そのまま去っていった。扉の上には第一会議室と書かれている。

 木更が先頭に扉を開く。その中を見た瞬間、蓮太郎たち――ゼツは除く――は息を飲む。

 広い部屋、中央には細長い楕円形の卓、奥には巨大なELパネルが壁に埋め込まれている。そして卓の席には一度は見たり聞いたりしたことのある、東京エリア民警トップクラスの社長格の人物が座っていた。

 

「木更さん、こいつは……」

 

「ウチだけが呼ばれたわけではないだろうと思ってたけど、さすがにこんなに同業の人間が招かれているとは思わなかったわ」

 

 これ程の同業者が居るとは思っていなかった木更と蓮太郎は驚きながらも奥に進む。すると、壁際に待機していたプロモーターやイニシエーターの中から1人の人物が近付いてきた。口元をスカーフで隠した厳ついプロモーターの男、その人物に蓮太郎は心当たりがあった。てか、知っていた。

 

「てめぇ、やっと見つけたぞ!」

 

 急な男の出現に木更は驚く。

 そして、木更の後ろに待機していたゼツは手を振って挨拶をする。

 

「久しぶり筋肉達磨」

 

「ぶっ殺すぞ!」

 

 ゼツの軽いジャブを怒鳴り散らす将監。

 数ヶ月前、デジモンなどの一連で出会った人物である。

 ゼツも久しぶりの再開に嬉しくなり手を振って罵声を浴びさせる。それにカチッと来た将監は額に青筋が浮かぶ。

 

「ちょっと、知り合いなの?」

 

「あぁ、以前にな」

 

 木更の疑問に蓮太郎が答える。すると、将監は蓮太郎の顔を睨むように見詰て何かを思い出したように目を丸くする。

 

「てめぇは……あぁ、あの時にいた不幸面のガキ」

 

「誰が不幸面だ!」

 

 急な罵倒に流石の蓮太郎も怒る。

 だが、そこで将監に援護が送られる。

 

「不幸面は蓮太郎のデフォだから仕方ない」

 

「そうだな、デフォじゃ仕方ない」

 

「お前ら実は仲良いだろ!?」

 

「「……まさか~」」

 

 何故か殺伐とした空気が一変して和やかに、そして2人から詰られる連太郎。

 それに付いて行けない木更は困惑していると、少女がこちらに近付いてきた。長袖のワンピースにスパッツ、その少女は伊熊将監のイニシエーターである夏世だった。

 

「お久しぶりですゼツさん」

 

「夏世」

 

 夏世の姿を見たゼツは抱きしめた。

 急な抱きつきに流石の夏世も驚き、頬を赤く染める。実際、ゼツはかなり夏世の事を心配していた。

 この業界、何処で不祥事が起きて死ぬか分からぬ世界。常にIISOにハッキングして夏世の生存を確認しているからといって五体満足であるとは保証は無かった。故にゼツは最初に出合った頃と一寸の変わらない夏世の姿に喜んだのだ。

 夏世もまたゼツに出会えて嬉しく思っていた。民警に所属している以上、私情で勝手に動けなかった理由もあるが、出会う口実も思いつかなかった理由もあった。兎に角、夏世は懸命に心臓音をゼツに聞かせないように冷静になろうとしていた。

 

「久しぶり。怪我とかしてない?」

 

「あっあの、はい大丈夫です。ゼツさんも変わり無いようで、民警に入られたんですね」

 

「そう、でもイニシエーターは居ないけどね」

 

 一度、ゼツと夏世は離れ話に花を咲かせていた。

 すると、ゼツの頭に大きな掌が置かれた。ギギギッと効果音が聞えそうな感じで無理矢理にゼツの視線を後ろに向かせられる。その手は将監のものだった。

 

「勝手に無視して夏世と話に花咲かせるな」

 

「イカ臭いだけど?」

 

「臭かねェ!」

 

 鼻を摘まんで嫌な顔を浮かべるゼツに更に額に青筋を1個プラスされる将監。

 そこで、ゼツはある事に気付いた。以前、将監は夏世のことを道具などよ呼んでいたのに、今では夏世と名前で呼んでいた。どうやら、以前と比べて関係が良好になったのだろうとゼツは内心嬉しく思う。

 

「将監、いい加減に戻りたまえ」

 

 卓側に座っている一人の若者が呆れた表情を浮かべながら将監に注意する。名は三ヶ島影似と呼ばれる人物で、将監と夏世のペアが所属している大手民間警備会社・三ヶ島ロイヤルガーターの代表取締役でもある。

 流石の将監も社長命令では仕方ないと思い舌打ちをする。

 

「チッ。ガキ、逃げんなよ」

 

 ゼツに警告を述べる。だが、ゼツはそんな言葉など聞かずに夏世に向いていた。

 

「夏世、後でお話しようか」

 

「はい」

 

「だから無視するなって言ってんだろうが!」

 

 結局は振り出しに戻っていた。

 その場を収まるのに約十分程度の時間を労した。




遅くなって申し訳ありません。やっと話が完成しました。
ゼツVS子比奈の戦い、勝敗はゼツ君が勝ちました。勿論、影胤が加わっていないので勝ちましたが、二対一では勝敗は分かりませんが。

さて、ディアボロモンと言えばウォーゲームです。そして、ウォーゲームと言ったらネット空間です。ネット空間は常に光の速さで繋がっているので移動手段では持って来いです。でも、デメリットとして、周囲に見られる恐れがあります。

さぁさぁ将監・夏世ペアに出会いました。
将監はあの態度ですが何気にゼツ君のことは認めてます。だから自分の手で倒したいっと願望があるので、あんな態度を見せました。

では、次回もお楽しみに!


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012

 ゼツと将監とのコントが終わり木更は指定されている卓側の椅子に座り、その後ろに蓮太郎が立って待機する。一方のゼツは何故か夏世の傍にいた。

 ゼツと夏世が仲良く話し、それを将監が横目で睨む。

 

「ゼツ君と親しげに話してた相手、将監って言ったわよね。それで三ヶ島ってことは伊熊将監、確かIP序列1501位だったわね」

 

「……あの筋肉、千番台だったのか?」

 

「知らずに話してたの?」

 

「いや、自己紹介とかしなかったし。訊く事もしなかったしさ」

 

「だから里見くんはお馬鹿なのよ」

 

 木更に呆れられ、蓮太郎はぐうの音も出せずに沈黙した。

 そんな2人が話していると制服を着た禿頭の男性が部屋に入ってきた。卓に座る社長クラスの者たちが立ち上がろうとするが、男性はそれを手を振って席に促した。男性には階級章が掛けられている所を見ると幕僚クラスのようだ。

 

「本日集ってもらったのは他でもない、諸君等民警に依頼がある。依頼は政府からのものと思ってもらって構わない」

 

 何か含みのある言い方をする禿頭は周囲を見渡し、空席の見つける。

 

「空席一、か」

 

 空席は1つ、その前に置かれている三角プレートには『大瀬フューチャーコーポレーション様』と刻まれている。

 

「本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席してもらいたい。依頼内容を聞いた場合、もう断ることができないことを先に言っておく」

 

 政府からの強制、ゼツは嘆息して呆れた表情を浮かべる。それは既に依頼ではなく任務と言うのだ。そう思いながら隣にいる夏世の頭を撫で続けていた。夏世もまた頬を少しだけ染めながら成すがままに、そしてそれを呆れた表情を浮かべる将監。

 兎に角、木更ふくむ社長格の者たちは立たずに座っていた。それを見た禿頭の男性は一度頷く。

 

「よろしい、では辞退はなしということでよろしいか?」

 

 禿頭の男はもう一度、卓に座る者たちを見渡す。それでも立たない事を確認した男は「説明のこの方に行ってもらう」と言って身を引いた。

 すると、背後の特大パネルに1人の女性が映し出された。

 

『ごきげんよう、皆さん』

 

 映し出された女性の姿に周囲は者たちはどよめき、木更ふくむ社長格たちは勢い良く立ち上がった。

 イメージカラーは何色だと問われれば『白』としか言い様が無いほどの白一色の女性――聖天子が映し出されていた。

 蓮太郎もまさか、これ程の大物が出てくるとは思っておらず泡を食らった表情を浮かべ、そして次に視線を聖天子の背後で付かず離れず待機している老人に向ける。名は天童菊之丞、木更の祖父であり蓮太郎の義父にもあたる、そしてこの3人には深い因縁がある。

 ゼツもまた、その老人に鋭い視線を向けていた。

 

『依頼は2つあります。1つは昨日東京エリアで感染者を出した感染源ガストレアの排除、もう1つはそのガストレアの体内に取り込まれているケースを無傷で回収すること、以上です』

 

 別ウィンドに銀色のスーツケースのフォトがポップアップされ、隣には依頼報酬の金額が表示された。その膨大な金額を見た社長格の者たちは驚きのどよめきが生まれる。

 ゼツはその膨大な金額に見合った危険性があると判断、そして聖天子が自ら依頼するほどの貴重なナニか……数秒後、そこでゼツは顔を引き攣った。脳裏に浮かんだのは以前、色々と情報を探っていた時、東京エリアのメインサーバーで最高セキリティで守られ保存していたデータを思い出した。だとすれば、これだけの金額を出すのに納得がいったゼツは睨むように聖天子を見詰た。

 すると、木更が挙手する。

 

「ケースの中身、聞いても宜しいですか?」

 

 その質問は周囲の社長格たちも知りたかった疑問であった。はからずも木更が全員の意見を代弁した形になった。

 

『あなたは?』

 

「天童木更と申します」

 

 聖天子は木更の名を聞くと驚きの表情をした。

 

『……お噂は聞いております天童社長。ですがプライバシーに触れますのでお答え出来ません』

 

 平然とした態度で聖天子は中身を教えないと述べた。だが、木更は食い下がらずに話を続けた。

 

「感染源はモデル・スパイダー。その程度ならウチのプロモーターたちの1人でも倒せます。何故それを民警トップクラスのお歴々に依頼するのか、破格の依頼料に見合った危険がケースの中にあるのでは?」

 

『それは知る必要のないことでは?』

 

 聖天子と木更の間には睨みあい火花が散るように見えた。どれだけ木更に睨まれようとも聖天子は何食わぬ顔で中身を教えない。そこで木更は無理だと判断した。

 

「そちらが手札を伏せたままなら、ウチはこの件から手を引かせていただきます」

 

『……ここで席を立つと、ペナルティがあります』

 

「覚悟の上です。そんな不確かな説明でウチの社員たちを危険にさらすわけにはまいりません」

 

 政府の直々の依頼を聞いた後で反故するとはゼツは内心驚く。

 民間警備会社と言われているが、結局のところ上には政府が居り各社の手綱を握っている。故に民警と言えど政府の依頼は反故には出来ない。だが、木更は政府との関係を悪化する覚悟で社員保護を優先したのだ。

 政府との関係が悪化すれば依頼が入らなくなる恐れもあり、聖天子もまたペナルティがあると言っている。それを覚悟で反故する木更にゼツは初めてその後姿がカッコイイと感じた。すると、不気味な笑い声が部屋に響き渡る。

 

『誰です?』

 

「私だ」

 

 それと同時にゼツは袖から剣を出して投付ける。

 金属音の弾く音

 急な行動に傍にいた将監と夏世は驚き、顔の横を通り過ぎた剣に驚きの表情を浮かべながらゼツを見る木更と蓮太郎。

 

「フハハハハ、良く気付いたねゼツくん。1つ疑問だが、何処で気付いたのだね?」

 

 ゼツの視線の先は空席、そこには燕尾服を着て白い仮面をした男が卓に足を乗せて空席の椅子に座っていた。その急な出現に傍に座っていた社長格は驚きながら離れ、そしてその姿を見た蓮太郎は「お前は……そんな馬鹿なッ!」と驚いている。

 皆が驚く中、ゼツはその人物の疑問に直に答えた。

 

「最初から気付いてた。その程度のハイディングで俺を騙せると思った? それと、隠れてないで小比奈ちゃんも出てきたら?」

 

 ゼツは言うと同時に首筋に鋭い二刀が放たれ、それを難なく避ける。何度も放たれる鋭い剣戟、それをゼツは肉眼で捕らえ軽やかに避けている。

 急な戦闘に周囲は意識が追いついて来れず唖然としてしまう。

 

「止めたまえ愚かな娘よ」

 

「うぅ~……はい、パパ」

 

 ゼツの首を襲ってきた少女は悔しそうな表情をしながら、男性の言う事を聞く。

 男性は「いよっと」の掛け声で身体を反らしながら跳ね起きると、土足で卓の上を踏み上げる。

 男は卓の中央まで歩き足を止めて、聖天子に相対する。

 

『……名乗りなさい』

 

 男は被っていたシルクハットを取って身体を2つに折り畳み礼をする。

 

「失礼。私は蛭子、蛭子影胤という。お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿」

 

 相手を小馬鹿にした態度を見せる影胤。

 蓮太郎は拳銃を取り出し銃口を影胤に向ける。

 

「元気だったかい、里見くん、我が新たな友よ」

 

 影胤の言葉。それを聞いたゼツはこの2人は何処かで出会っていたのかと思う。

 

「何処から入ってきやがった!?」

 

 怒鳴りに近い感じで蓮太郎は訊く。その質問に影胤は答えた。

 

「正面から堂々と――寄ってきた小うるさいハエは処分したがね。そうだ、丁度良いタイミングだ私のイニシエーターを紹介しよう。小比奈、おいで」

 

「はい、パパ」

 

 未だにゼツに睨みを利かせている小比奈は影胤の言う事を聞き、影胤の傍に駆け寄る。先程までゼツが戦っていた子供がそうだったとはと蓮太郎は思う。

 卓に上がった小比奈は聖天子に向かい、スカートの裾をつまんでお辞儀した。

 

「蛭子小比奈。十歳」

 

「私のイニシエーターにして娘だ」

 

 そこでゼツは不意に場違いな事を思った。それは「小比奈、何気に礼儀正しいな。やっぱし影胤が躾けたのか?」っと本当に割りとどうでもいいことを考えていた。

 すると、小比奈は拳銃を向けている蓮太郎を無視してゼツに視線を向けた。

 

「パパ、ゼツ切りたい。切っていい?」

 

「よしよし、だがまだ駄目だ」

 

「うぅ……パパァ」

 

 駄目と言われて拗ねるように唇を尖らす小比奈。そこにゼツは手を振って「駄目だったね。また今度だね」と答えると、小比奈は笑みを戻した。

 

「なんの用だ」

 

 蓮太郎は銃口をそのままに空いている手で傍にいる木更を下げさせる。

 

「私もこのレースにエントリーする事を伝えたくてね」

 

「エントリー? なんのことだ」

 

「『七星の遺産』は我々がいただくと言っているんよ」

 

「七星の遺産? なんだ、それは」

 

「君等が探す事になっていたケースの中身だよ」

 

「昨日、お前があの部屋にいたのは――」

 

「その通り。感染源ガストレアを追って部屋に入ったのだが、肝心の奴がどこかに消えているし、ぐずぐずしてたら窓を割って警察隊が突入してきてね。うっかり殺しちゃった」

 

 そこでゼツはやっとこの2人が何処で出合ったのか理解した。

 数日前、マンションの住人から上の階から血の雨漏りがすると警察に通報があり、情報を総合してガストレアがいると判断され天童民警会社に連絡が入った。その時、ゼツは下水道に住み着いてたタイプ・マウスのガシトレア討伐でいなかった為に残っていた蓮太郎が向ったのだ。そして、蓮太郎がマンションに突入、そこで影胤と出合ったのだ。

 

「ルールの確認をしよう。私と君たち、どちらが先に感染源ガストレアを見つけ七星の遺産を手に入れるかの勝負。掛け金(ベット)は君たちの命でいかが?」

 

「――黙って聞いていれぐだぐだとうるせぇんだよ!」

 

 するとゼツの傍にいた将監がバラニウム製のバスターソードを構え一気に突っ込もうとする。だが、

 

「はい、そこまでぇ~」

 

「グハッ!」

 

 将監はその場で派手に転んだ。

 ゼツが足で将監の足を引っ掛けて転ばしたのだ。その行動にさすがの影胤は驚き呆然としてしまう。あれだけ良い啖呵を吐きながら突っ込もうとした人物がそっこうに転ぶ姿はなんとも言えず、周囲の者たちも何を言っていいのか判らなくなる。で転んだ本人は、

 

「何するガキィ? 死にてぇのか?」

 

 ゆっくりと起き上がりゼツの頭を鷲掴み。そして、額に青筋が浮かび血走った眼で将監はゼツを睨む。睨んでくる将監にゼツは「アハハハハ! 無様に転がってやんの!」と笑っていた。ある程度笑った後、ゼツは普通の顔に戻して将監に向く。

 

「下手に突っ込むな。相手の力量を測った後でも遅くないだろ?」

 

「……チッ」

 

 将監はゼツの素直な警告に舌打しながら納得して手を離す。すると、隣にいた夏世がハンカチを取り出して将監に渡した。

 

「大丈夫ですか?」

 

「夏世、大丈夫に見えるか?」

 

「いえ、結構派手に顔からいきましたしね」

 

 真赤になった鼻を渡されたハンカチで押さえる。それを一部始終見ていた影胤はさらに不適な笑いを零す。

 

「フハハハ、流石だよゼツくん。そんな猪武者を手懐けるとは!」

 

「誰が猪だ!」

 

「お前だよ」

 

「何だとガキィ!」

 

「だからイカ臭いだって」

 

「臭かねぇ!」

 

 先ほどと同じコントが始まる。だが、それは長く続かなかった。

 三ヶ島が「撃てッ!」っと叫び影胤を中心に360度から一斉に拳銃を発砲しようとする。だが、そこでゼツが大きく叫んだ。

 

「撃つなッ!」

 

 急な叫びに誰もが一斉に引金(トリガー)に添えていた指を止める。何故、撃つなと言ったのか分からずに周囲の人間たちはゼツを不思議そうに睨む。

 そこに、影胤が問い掛けた。

 

「何故、撃つなと言うのだねゼツくん」

 

「……新人類創造計画」

 

「ッ!」

 

 ゼツは周囲に聞こえるように呟いた。そして更に言葉を続けた。

 

「陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊……影胤、それがお前が元いた部隊なのだろ?」

 

 そこで初めて周囲はどよめいた。ガストレア大戦時に結束された対ガストレア用特殊部隊。その都市伝説に近い部隊名を聞いた周囲は驚きの眼差しを影胤に向ける。

 だが、その中で唯一別の場所に視線を向けている者がいた。それは蓮太郎だった。

 蓮太郎はゼツに驚きの視線を向けていた。何故、その単語を知っているのかと……。

 

「調べたのかね?」

 

「あの後少しね。IP序列は剥奪されてたけど、残ってたデータをかき集めた。そして、詳しく調べた結果『新人類創造計画』って言葉を知った。バラニウム製の機械を身体に植え込んで作り出した機械化兵士……生まれた時期はガストレア大戦で人道を捨て狂気に落ちた時期、仕方ないと思うけど正気の沙汰ではないし、その付けが今になって返ってきている」

 

 ガストレア大戦。それは正しく地獄と言って相違いない時期。

 人間たちは生き残る為に人道を投げ捨て、多くの非道を幾度なく繰り返し生み出した。毒ガス、地雷、そして機械化兵、それらでも氷山の一角で未だに表沙汰に出来ない非道は幾等でもある。

 

「イヒヒヒ、先程のゼツくんの言うとおりだ。改めて名乗ろう、私は内臓の殆どをバラニウムの機械に詰め替えた、元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤。能力は斥力フィールド『イマジナリー・ギミック』だ」

 

「対ガストレア用特殊部隊。実在するわけが……」

 

 三ヶ島がありえない表情を浮かべながら呟く。それは周囲の者たちも同じ意見だった。

 

「信じる信じないかは君たちの勝手だよ。すまないね里見くん、あの時は本気ではなかったのだよ」

 

 影胤は視線を拳銃を構える蓮太郎に向ける。そんな影胤にゼツは疑問を投掛けた。

 

「……能力を教えていいのか?」

 

「調べた、なら君は知っているはずだ。この場で君だけが知っているのは不公平だと思ってね」

 

「その余裕、自身の首を絞めなければいいけどね」

 

 自身の能力を周囲の者達を教えた影胤。すると、影胤は一枚の白い布を掌に被せるとマジションのように布を退けると箱が掌から出てきて、その箱を足元に置いた。

 

「これは私からのプレゼントだ。では民警の諸君、滅亡の日は近い。いくよ小比奈」

 

「……はい、パパ」

 

 すると、窓が急に割れると蛭子親子はその窓から飛び降りていった。

 誰もがそれを追いかけよとはしなかった。視線だけで殺せるほどの狂気を孕んだ眼差しは周囲の者達を萎縮させるには十分だった。すると、扉から誰かが慌てて飛び込んできた。

 その人物は今回の会議で欠席していた大瀬社長の秘書だった。その表情には焦りと困惑の浮かべている。

 

「大変だ。しゃ、社長がああああッ! 自宅で殺されて、死体のくっ首がどこにも」

 

 そこでゼツは影胤が置いていった箱の中身を理解した。成程、確かにプレゼントだ。絶望の……。すると三ヶ島は怒りを露にして視線を特大パネルに向けた。

 

「天童閣下ッ。新人類創造計画はッ――あの子供と男がいっていることは本当ですか?」

 

『答える必要はない』

 

 巌のような菊之丞は毅然とした態度で即答した。だが、菊之丞の視線がゼツに睨むように向けており、それに気付いているゼツだが無視した。

 無表情だった聖天子も焦りの表情を僅かに露にして言葉を紡いだ。

 

『新たに達成条件を加えます。あの男より先にケースを回収して下さい。ケースの中身は、悪用すればモノリスの結界を破壊し、東京エリアに大絶滅を引き起こす。封印指定物です』




今回はアニメ通りで、少しだけ変化した話でした。
どれ程に硬く強固なプロテェクトでも、ゼツ君の前では紙装甲です。さぁさぁ、本格的にガストレアとの戦争が始まります。
主人公ゼツ君の実力を知るがいい!

では、次回もお楽しみに!


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013

 あの蛭子親子の宣戦布告してから数日、いまだに雀が囀る時刻に蓮太郎たちが住んでいるアパートの裏の空き地に少年少女の計八名の子供たちが集っており、その子供たちは瞳を輝かせて蓮太郎を見詰ていた。ゼツと蓮太郎らは子供たちの顔に見覚えがあった。延珠のクラスメイトたちだ。

 

「お前らは俺の弟子入りしたい、と?」

 

「「「そうで~す!」」」

 

 元気に返事を返す子供たちにゼツは欠伸を噛み締めながら眺める。

 蓮太郎もまた欠伸を噛み締めながら、その見詰てくる子供たちに困惑の表情を浮かべて隣にいる延珠を見遣る。

 

「このガキ共を丁重にお帰りいただきたいんだが、どうしたらいい?」

 

「良いではないか、稽古をつけてあげるぐらい」

 

 この事の発端は延珠が学校で蓮太郎のことを『格闘技の達人』と言い触らしたのが始まりだ。それを聞いたクラスメイトたちは興味を持ち教えもらおうと、休みで午後まで眠ろうと決めていた蓮太郎を延珠を叩き起こしたのだ。

 

「ししょー、視線だけでヒグマをショック死させたって本当ですか?」

 

「ししょー、素手で海兵隊の一個団体を壊滅させたって本当ですか?」

 

「ししょー、核弾頭受け止めて投げ返したって本当ですかぁ~?」

 

 とんでもない程に尾鰭が付いていた。

 延珠の話では蓮太郎は海兵隊を殺して核弾頭を受け止めたらしい。で、それを信じているガキ共にゼツは呆れ顔を浮かべた。

 蓮太郎は頭を掻いて覚悟を決めたのか一回頷く。

 

「よく集ったなッ。俺が噂の里見蓮太郎だぜッ!」

 

 沈黙。

 居た堪れない空気が完成。目蓋を素早く瞬かせて蓮太郎はヘルプコールを延珠に送るのだが親指を立てて笑うだけで伝わっていない。次にゼツに向ってヘルプコールの視線を向ける蓮太郎ではあったが、ゼツはそれを親指を立てて下に向かって振った。

 

「ゼツお前。んんっ……えーとだなお前ら、期待を裏切るようで悪いが初段の俺に出来る事は限られてるぜ。俺程度じゃ伝授してもらえない奥儀はいくつも――」

 

「――そんなのどうでもいいので、必殺技教えて下さい」

 

 流石は子供、純粋にカッコイイ必殺技が使いたいのだろう。それこそ特撮ヒーローやアニメ主人公のような一撃必殺みたいなものを子供たちは求めていた。

 蓮太郎もそれは知っているので仕方なく溜息をつく。そして、空き地に生えているカエデの木の前に立つ。

 

「天童式戦闘術一の型三番――」

 

 天童式戦闘術にはパンチの一の型、キックの二の型、その他の三の型、計三つの型が存在する。蓮太郎はパンチ技の一の型を選び、短く息を吐き拳に回転エネルギーを加える。

 

「――『轆轤鹿伏鬼』ッ」

 

 放たれた拳は重く音と共にカエデの木を大きく揺らし、数枚の葉が落ちてくる。蓮太郎は息を吐き構えを解く。

 

「ど、どうだ?」

 

「速すぎて見えなかった~」「ただのパンチじゃん」「なんかショボいね?」「生木を叩き折ってよ~」「金かえせ~」「あすほーる、あすほーる」

 

 蓮太郎は頭を抱えたくなった。どうしよう殴りたい。そう物騒な事を思う蓮太郎に、ゼツもまた子供たちをウザったく感じてきていた。

 

「いまのはウォーミングアップだよ。次はとっておきの技、天童式戦闘術奥儀の1つ二の型十一番『隠禅・哭汀(いんぜん・こくてい)』」

 

「おお~」「ちょっとだけ格好いい」「名前だけジャン」「見てみないとなんとも、ね」

 

 蓮太郎は今度こそと思いながらカエデの木に向き直す。蹴り技で今度こそへし折る気迫を持って高くジャンプする。ジョンプした蓮太郎に追いかけるようにゼツも視線が向ける。

 

「天童式戦闘術二の型十一番――」

 

 気合の篭った意思を見せる蓮太郎。すると、隅っこでつまらなそうにサッカーをしていた少年が急に蓮太郎に向かってボールを蹴り飛ばしてきた。急なことで技の出掛かりを潰され態勢を崩し、頭からドブが詰まっている側溝に突き刺さる。

 それを見た子供たちはどっと笑い出し、ゼツもまた噴出してしまう。

 

「超だぁせぇ。そんなへなちょこキックじゃゴミ虫も殺せないよ」

 

「まったくだ」

 

 あの程度で集中が切れるとは情けないとゼツは溜息混じりに呟く。すると、周囲の子供たちはゼツに視線を集めた。子供たちのリーダー格らしき男の子が前に出て指を刺す。

 

「お前誰だと?」

 

「指すなガキ」

 

「お前だってガキじゃん!」

 

「格が違うは」

 

 あからさまに延珠のクラスメイトたちを馬鹿にした態度を見せるゼツに、リーダー格らしき子供が再度指を刺す。

 

「何だよ偉そぉーに。だったら格の違いとか見せてみろよ!」

 

 「「「そーだそーだ」」」と周囲の子供たちがリーダー格に賛同してゼツを挑発してくる。そこで、ゼツは軽く溜息を吐きながら連太郎が蹴ろうとしていたカエデの木に近付いて太い大木に手を添える。

 

「見てろ。すぅ~……はぁ~……――ハッ!」

 

 深呼吸した後、全身の力を大木に添えている手に送り込む。深く、そして重い音が周囲に響くと同時にゼツは木から離れていく。それを見ていた周囲の子供たちは大木になんの変化が無いことに不満と挑発の声を漏らす。

 

「何だよ。何もないじゃないか、この嘘吐きめ」

 

「格好つけ!」

 

「ダサいよねぇ」

 

「ねぇ」

 

 ここぞとばかりにゼツを攻め立てる子供たち。だが次の瞬間、カエデの木の全ての葉っぱが風船が破裂したかのように散った。急な出来事に、流石の蓮太郎や延珠たちも驚きの表情を見せ、それを見たゼツは不敵に笑みを見せて、

 

「これが格の差だ」

 

 それだけを述べて空き地を去って行った。

 

 

  ◆

 

 

 子供たちは蓮太郎の無様な姿をみて飽きたのか、空き地を去っていった。

 子供が去った後、蓮太郎は寝直すにはすでに時間がかなり経過しており寝るのを止め、延珠とともに買物に出かける事になった。そこで、ゼツもまた延珠に誘われて付いて行くことになった。

 蓮太郎たちの後を追いかけるようにゼツは歩き、アニメグッツコーナーにて延珠は足を止める。そこで、延珠がハマッているアニメ『天誅ガールズ』を蓮太郎は内容を聞いた。

 

「知りたいか?」

 

 そこで蓮太郎は瞳輝かせる延珠を見て後悔した。っで、内用はと言うと義父・浅野を殺された大石内蔵助良子(魔法少女)が復讐を誓い、全国の四十六士を集めて吉良邸に討ち入るまでを描いた壮大な長編アニメだそうだ。『赤穂浪士系魔法少女萌え』がコンセプトだそうだ。

 

「魔法少女なのに復讐譚なのかよ」

 

「ふふん、そこが良いではないか」

 

「そ、そうかぁ? ゼツ、お前はどうだ?」

 

「…………びみょ~」

 

 ゼツも微妙な顔を浮かべ、視線を大々的に映しているテレビ画面に向ける。「死ねぇぇ!」と少女が叫びながら凶悪な表情を浮かべブレードステッキを振り回する主人公魔法少女のPV(プロモーションビデオ)。どこの層を狙っているのか分からなくなるゼツである。

 欲しい物を買い終えた延珠、玩具のブレスレットを腕に嵌めて嬉しそうに歩いている。序でに蓮太郎も同じブレスレットを嵌められている。

 

「何だコレは?」

 

「天誅ガールズたちが嵌めているブレスレットだ。仲間を欺いたり、嘘をついたりするとひびが入って割れるのだ」

 

「まるで『破鏡』みたいだな」

 

 破鏡。離れて暮らすことになった夫婦が、鏡を二つに割ってそれぞれの一片を持ち愛情の証としたが、妻が浮気を働いたためにその一片が鳥となって夫の所へ舞い戻り、離婚してしまう昔話。それを蓮太郎は教えるが延珠に教訓の答えを聞くが「浮気はバレないようにしろ、です」と微妙に間違った答えを返した。

 

「っで、何で俺はコレを嵌めてんだ?」

 

「ペアルックだ!」

 

 互いに嵌めているブレスレットを重ねる。

 

「これで蓮太郎は妾を欺くことは出来んぞ。木更のおっぱいに見惚れたとしても割れるぞ」

 

「えー、ワタクシ里見蓮太郎ハ藍原延珠ヲ愛シテイマス…………割れねぇな」

 

「事実だからだろ」

 

「チクチョウそう来たか。その返しは予想してなかった」

 

 微笑ましい雑談。それを見ていたゼツもまた頬を上げて微笑む。

 この風景、『奪われた世代』と『無垢の世代』の未来がこうあって欲しい切にゼツは思う。すると、蛮声がゼツたちが歩いている商店街に響き渡る。

 

「――そいつを捕まえろぉ!」

 

 視線が蛮声する方に向く。煤だらけの顔、所々に修繕された後が見受けられる衣服、両手には盗品らしき飲食品を抱えて少女は走っている。そして少女の瞳は赤、呪われた子供である。

 その少女は懸命に追手から逃げ、立ちはだかる位置にいた連太郎と延珠を見て、はっと立ち止まる。蓮太郎たちは金縛りにあったように動けなくなる。だが、その停止が追手に追いつく事になり少女は掴まってしまう。

 大人達の複数の腕が少女を力任せに取り押さえ、少女の身体から骨が軋む陰惨の音がはっきりとゼツたちに聞える。

 

「放せぇ!」

 

 地に舐められた少女は顔をゆがめ、猛禽の鋭い瞳を浮かべさせ牙を向かせて暴れる。観衆は誰一人として少女に同情を寄せない。

 

「泥棒め、貴様等は東京エリアのゴミだ」「よくやった! ざまぁ見ろガストレアめ」「喚くなうぜぇんだよ、この人殺しが」「貴様ら『赤目』が俺の親戚を皆殺しにしなければ」「くたばれ、『赤鬼』!」

 

 鬼の形相を浮かべる民衆、それを見ていた蓮太郎は手近にいる一人に肩を叩く。

 

「おい、あいつがどうして……」

 

「盗みを働いて、声をかけた警備員を半殺しにしたんだ!」

 

 事情を聞いたゼツは視線を延珠に向ける。今は2人の背後にいる為に顔は見えぬが、青褪めているに違いないと思う。すると、捕まえられている少女は手を伸ばして延珠に助けを求めようとする。

 どうやら延珠を自身と同じ『呪われた子供』であると知っているようだ。その動作を見ていた延珠は震えながら手を差し伸べようとする。だが、その腕を蓮太郎が掴む。

 急に腕を掴まれた延珠はハッと視線を蓮太郎に向ける。その顔には悲痛の表情を浮かべている。蓮太郎もまた、その少女を助けたいと思うが下手に手を出せば延珠が外周区の"呪われた子供"であると露見する恐れがる、故に関わらないようにしていた。

 すると、蓮太郎と延珠の2人を割って一歩前に出たのはゼツであった。

 

「邪魔」

 

 その一言。

 一言、ゼツが述べると少女を取り押さえていた大人達が見えない何かで吹き飛ばされた。飛ばされたと言っても一メートルもない、精々打撲程度の怪我はあるかもしれないが大きな怪我人は居ないだろう。

 吹き飛ばされた大人達を横目にゼツは少女に近付き、屈んで起き上がらせる。起き上がらせ、地に取り押さえられた時に付いたであろう泥や汚れを払い綺麗になると少女に笑顔をゼツは向けた。

 

「大丈夫?」

 

「なっ何で……」

 

 少女は驚愕な顔をゼツに向けた。それは周囲の者たちもそうであった。

 そして、少女を取り押さえていた大人の1人がゼツを指差して怒鳴る。

 

「何だお前、そのガストレアの仲間か!?」

 

「まさか人殺しのゴミを助けに来たのか!」

 

「おい、誰か民警に連絡しろ!」

 

 周囲が更に騒ぎ出す。

 この状況はヤバイと判断した蓮太郎、この場を後にする為にゼツの肩を掴もうと手を伸ばす。だが、肩を掴む寸前、急激な寒気に襲われた。

 

「黙れ」

 

 ゼツは少女を引き寄せて抱きしめた後、殺気を孕んだ言を発した。

 殺気を孕まされた言葉は周囲にいた者達にも確かに感じられ、騒いでいた大人達は顔を青褪めて黙ってしまう。

 

「先程からグチグチと訳分からん事を述べて、それでも大人か? 恥を知れ愚かな塵芥共」

 

「ヒッ!?」

 

 ゼツの正面に倒れこんでいる大人達は瞳に恐怖を見せる。

 蓮太郎と延珠は後ろに要るためにゼツの表情は見えないが、大人が怯えるほどの形相を浮かべているのかと思う。

 

「この少女は生きる為に盗みを働いた。だが、その様に追い込んだのはお前達大人たちの責任だと分かって言っているのか?」

 

「なっ何を」

 

「そんなにガストレアが憎いならモノリス外に出ればいい、だがお前達塵芥にそんな勇気も無かろう。故に力ない子供に手を出して自身の無力を誤魔化そうとする。ふん、これだから敗戦者の塵芥は醜くて嫌いだ」

 

 見下す瞳で大人達を塵芥と罵声する。その罵声に周囲の見ていた観衆たちは反論しようとするがゼツの鋭い眼光で黙らせる。

 

「貴様等一体何をやっている!」

 

 観衆を割って二人組みの警察官が入っていき収拾にかかる。

 蓮太郎は内心でこの騒動が鎮火すると思いながら胸を撫で下ろす。だが、ゼツは一向に殺気を抑える事無く、警察を睨みつけていた。

 警察たちはゼツに抱きしめられている少女を睥睨すると、状況を悟ったのか冷たい眼差しをむける。

 

「少年、その少女を渡しなさい」

 

「断る」

 

 警察の申し出に、ゼツは真正面から否定した。

 その予想外の言葉に警察たちはうろたえるが、直ぐに平常を取り戻し今度は怒鳴るようにゼツに命令口調で答える。

 

「公務執行妨害で君を捕まえる事だって出来るのだよ?」

 

「では、この少女は何故捕まえるのか答えてもらおうか?」

 

 物を盗む、それは窃盗罪という歴とした罪だ。だが、だからと言って何も述べずに少女を、冷め切った瞳を浮かべて捕まえるのは話が違う。

 確かに少女は罪を犯した、だがそれらは全て今の大人達の原因だとも言える。

 

「…………」

 

「答えないか。お前達警察は、"呪われた子供"だと判断して何も言わずに逮捕しようとした。――それが法と秩序を胸とする警察官のやることか!」

 

 ゼツの雄叫び。

 それと同時に待機していたミレニアモンがゼツの背後で実体をあらわす。ミレニアモンの咆哮は商店街全域に響き渡り、警察や周囲の観衆、蓮太郎たちすら怯ませるものだった。

 

「ば、化物!?」

 

「がっガストレアだ!」

 

「おっおい、ゼツ!?」

 

 流石にやり過ぎだと判断した蓮太郎はゼツを呼び掛ける。だが、ゼツはそんな蓮太郎を侮蔑した視線を向ける。そんな瞳に、蓮太郎は息を飲む。

 

「蓮太郎、あまり俺をガッカリさせるな」

 

 それだけを述べたゼツは少女と共にミレニアモンに掴まって、商店街を後にして飛んで行ってしまった。残された蓮太郎は何も言えず、去っていったミレニアモンの後を見詰た。




アニメの二話あたりのお話でした。
名前の知らない、蓮太郎が助けた後は病院に運び込まれてそのままフェードアウトした少女、その子を今回はゼツ君が助けました。

さて、ゼツ君は何処に行ったかと言うとそれは次回にわかります。
次回は少しだけご都合主義みたいな事になってしまいますが、ゼツ君の存在がご都合主義なので仕方ないよね!

では、次回も宜しくですよ!


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014

 ゼツは助けた少女を優しく抱きしめてミレニアモンの腕の中にいた。

 既にミレニアモンは透明化しており、飛行中に誰かに発見されて通報される事はなかった。そのままの状態で飛行すること十数分後、外周区に来たミレニアモンはある場所で着地して抱えているゼツたちを解放した。

 

「ご苦労様ミレニアモン。下がって良いよ」

 

「グゥゥゥーー……」

 

 頭を撫でられたミレニアモンは気持ち良さそうに目を細めた後、姿が透明になって消えた。それを一部始終見ていた少女は未だに唖然とした表情を見詰ていた。

 

「おっお前、何なんだよ」

 

「まっその話は後にしてこっちに来て」

 

 それだけ言って少女の手を握って引っ張っていく。少しだけ歩くと急に周囲が霧で霞みだし、光が見えたと思うと霧が消えてそこには大きな木製建造物が建たれていた。

 昔の校舎を思わせる木製の建造物。周囲にはブランコや木製の遊具、石製の小山に滑り台、どこか小学校とも思える。そんな場所には多くの子供たちが遊んでいた。

 

「此処って……」

 

「ほら」

 

「あっおい!?」

 

 急に引っ張られた少女はそのまま導かれていく。途中、遊んでいた少女たちがゼツの姿を見て集ってくるも「後でね」とだけ述べて建造物に入っていく。そのまま歩いていき、ある場所の扉の前で止まる。

 

「失礼する」

 

 ノックすると扉の奥から返事が返ってきて、その返事を聞いたゼツは扉を開ける。

 部屋は約六畳の広さ、木製の机に壁には絵が飾られソファーとテーブルも置かれている。その部屋には老人が1人、机の前で作業しておりその手を止めてゼツたちに視線を向けた。

 

「おやおや、ゼツ君じゃないかね。久しぶりだね」

 

「お久しぶりです。何から何までお任せっぱしで申し訳ありません」

 

「いえ、ゼツ君が謝る事ではありません。彼方は良くやっている方です」

 

「それなら良いのですが……あぁ、それと申し訳ないが」

 

 ゼツは後ろに隠れている助けた少女の背中を少しだけ押して老人に紹介した。

 助けた経由、どの様な状況だったか。大まかな事を説明すると老人は軽く頷いた。

 

「分かりました。始めまして、子供たちからは長老と愛称で呼ばれてますが、名前は松崎といいます」

 

 松崎。ルリリア姉妹の案内と共に出合った、"呪われた子供たち"を普通の少女として接している数少ない人物である。少女は未だに怯えながら疑いの瞳を宿しながら松崎とゼツを見比べる。

 

「ここ、何なの?」

 

「ここはゼツ君が生み出した空間・霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)。君たち"呪われた子供たち"の平穏に暮らせる場所だよ」

 

 

  ◆

 

 

 助けた少女を松崎に預けたゼツはある目的の場所に向っていた。歩くこと数分で目的の部屋の前に来た。ゼツはその扉を数回ノックすると、置くから少女らしき返事が返ってくる。

 

「はい、ってゼツ兄ィ!」

 

 扉が開かれ出て来たのはリアであった。

 リアは驚きの表情を浮かべると同時にゼツに抱き付く。ゼツも抱き付いてきたので優しく受け止める。

 

「お帰りゼツ兄ィ!」

 

「うん。ただいまリア」

 

 抱き付いてきたリアの頭を優しく撫でていると、部屋の奥に2人の少女がゼツに視線を向けていた。1人はリアの姉であるルリと、ルリリア姉妹の友達である少女マリアだ。

 ルリの目元には包帯は巻かれておらず、その双眼にはスカイブルーの綺麗な瞳が出していた。

 

「ゼツ兄さん、お帰りなさい」

 

「お帰りなさいなのです!」

 

 そのままリアに引っ張られゼツは部屋に入る。

 部屋には二段ベットが2つ左右の壁際に置かれ、正面の窓は2つ、下には絨毯が敷かれており、四つの勉強机、扉側に左右にはクローゼット、そして真中にはテーブルが置かれている。

 

「いつ帰って来たの?」

 

「今さっきだよ。ちょっと揉めてた子を助けてね。松崎さんに預けた所」

 

「また、ですか」

 

「まっ直ぐにどうにかなる問題でもないしね」

 

 他愛のない話をしながらマリアが準備した座布団にゼツは座る。

 ここ、霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)は松崎が述べた通りゼツが生み出した空間である。正確には建造物に霧の結界を張った空間。

 ルリリア姉妹やマリア、その他の子供たちの現状をどうにかしなければと考えたゼツは松崎と相談して校舎みたいな建造物を建てないかと相談したのだ。

 だが、そこで問題になったのが建造物を建てる為に費用である。他にも電気、水道、ガス、問題は色々と存在しており手詰まりの状態であった。

 そこで、ゼツはある方法を使って建造する方法を提示した。

 それはゼツが持つ《デジヴァイス》だった。デジヴァイスの『アイテムボックスに保存している物を使って、完成した状態にして出す』機能、これをフル活用すれば家を一軒建てられるではないのか。試した事の無かったゼツではあるものの、やってみる価値有りと判断して建築に必要な物資をかき集める事になった。

 だが、ゼツは子供であり建築の知恵など一切無い。そこで頼りになったのが松崎と、ゼツのバラニウム製の矢を提出しているとある人物であった。建築方法を徹底的に頭に積め、松崎ととある人物の助言を聞き試験錯誤して建築データをデジヴァイスに保存、そして必要に資材もある人物に用意してもらいプレハブを一軒だけ作り出した。実験成果は成功である。

 次に問題なのは水道とガスと電気であった。だが、これは直ぐに問題は解決した。

 ガスポンベなどはとある人物経由で渡してくれる事になり、水道も地下水をろ過装置を通してくみ上げることになった。電気もまた効率化されたソーラーパネルで十分に賄えられた。無論、全ての費用はゼツが払った。

 次に、そんな建造物を建てれば周囲の人間たちが黙っていないのは分かりきっている。なら、それらはゼツが持つカードで結界を展開すれば侵入することは出来なくなる。

 これにより、霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)は完成。校舎兼寮として活用することとなった。

 

「今日は如何なさるんですか。お泊りで?」

 

「…………」

 

 ルリに質問にゼツは沈黙で答えた。その沈黙、不思議と感じた3人の少女は互いに見合ってからルリが代表して問う。

 

「……何か、不機嫌なことでもありましたか?」

 

「……いや、何でもない。今日は泊まっていくよ」

 

 ぎこちない笑顔を向けるゼツに流石の3人も何かを隠していると思うが深く追求はしなかった。だが、それはそれとして3人はゼツが泊まっていくことを知り嬉しく思う。

 更に新たに1人の少女が家族として迎えられると知った子供たちは歓迎パーティーを開く事になった。

 一階にある厨房、そこには複数の少女たちがパーティー用の料理がせっせと準備され、厨房の隣にある食堂には子供たちが紙なので作られた飾り付けを飾られ、横長いテーブルには食器などが並べられていた。そして、時刻は夕方になり少女たちは一斉に指定されている椅子に座る。

 全ての少女が座り終えたことを確認した松崎は一度頷いて、少女たちに視線を向ける。

 

「えぇでは、新しい家族を紹介します。ほら、入っておいで」

 

「……はい」

 

 松崎がそう述べると食堂の出入口に少女が入ってきた。

 全身を綺麗に洗われ、髪も整えられ、清潔な服を着ているために一瞬誰なのか分からなくなってしまうが、その子は確かにゼツが助けた少女であった。

 

「えっと……恵美沙(えみしゃ)です。エミって……呼ん、で下さい」

 

 エミシャ。エミは俯きながら頬を赤く染めて呟くように自己紹介を言う。

 自己紹介を聞いた少女たちは一斉に「いっせ~の~でっ」と述べた瞬間、

 

「「「ようこそエミちゃん、これからよろしくね!」」」

 

 一瞬、この建物が揺れたのかと思うほどの大声で歓迎の言葉を述べて拍手する。

 それを見たエミは目を丸くして白黒してしまうが、歓迎されている事を知ると目に涙を溜め、泣き出してしまった。

 それは悲しみではない、それは歓喜の涙。今まで1人で生抜き、辛き時も耐えてきた。そんな中での楽園みたいな場所に出会い、暖かく迎えられたエミは涙を流して嬉しさを現すのだった。

 エミも席に座り暖かな食事を口にして、左右に挟んで座る子供たちと楽しく雑談を楽しんでいた。そんな姿を見てゼツもまた頬を上げて微笑む。

 

「一件落着、かな」

 

「そうですね」

 

「また子供を押し付ける感じになってしまった。申し訳ない」

 

「いえいえ、気にしていませんよ」

 

 自身は子供、故に大人に力を借りなければ出来る事など高々知れている。ゼツは自身の無力に悩み、そして大人の松崎に苦労を押し付けていることに罪悪感を感じていた。

 その罪悪感を感じている事に気付いている松崎もまた、この様な子供に重たい思いをさせてしまう自身の無力に嘆いていた。互いに無力に悩ませる。

 パーティーも終わり、片付班たちは残り他の子供たちは一斉に大浴場に向かう。だが、そこで一悶着が起きた。

 

「ゼツ兄ィ、一緒に入ろ!」

 

「兄様、一緒に入るですので!」

 

「いや自分はちょっと、松崎さん助けて!?」

 

 リアとマリアは力を解放して無理矢理に大浴場にゼツを連れて行こうとする。流石のゼツも力尽くで振り払えば二人に怪我をさせる恐れがあるので解こうにも解けず、傍にいる松崎に助けを述べる。だが、

 

「グットラックですよ」

 

「彼方はそんなキャラではないでしょ!?」

 

 急に壊れた松崎にゼツは絶望する。

 更にリアとマリアの後ろに複数の子供たちが面白半分で引っ張り出し、ゼツ1人では抗う事も出来ずに徐々に大浴場に引き摺られ飲まれていく。

 誰か助けを求めないと思い見渡すと微笑んでいるルリがいた。ゼツはルリに助けを請う。

 

「ルリ、助けて!」

 

「ふふ」

 

「……えっと、ルリ?」

 

 微笑を絶やさずに笑顔を向ける姿に、流石に可笑しいと思ったゼツは恐る恐るルリを呼んでみる。するとルリが近付いてきて、そして、

 

「頑張りますね」

 

「何を!?」

 

「その、上手く出来るか自信はありませんが……でも、ちゃんと満足させます!」

 

「だから何を!?」

 

 コレはピンチと判断したゼツは待機しているデジモンを呼ぶ。だが、スマホで返ってきた返事は『グットラック(ディアボロモン。グッバイ(ミレニアモン』であった。

 

「お前らもかぁぁぁぁあああぁぁぁーーー!」

 

 家族であるデジモンたちに見捨てられたゼツは、誰にも頼らずに自力で脱出を試みようとする。だが、自身の足に絡み付いている物に気付いた。白くネバネバとした糸、それは間違いなく蜘蛛の糸であった。どうやら、蜘蛛の因子を持った少女が脱出させまいと張っていたようだ。

 こんな場所で使わなくても、と思うゼツはその糸を切ろうと武器を取り出そうとする。だが、

 

「させません!」

 

「って、力強ォ!?」

 

「私はタイプ・ゴリラの因子持ちです。ですので力勝負では負けませんよ」

 

 武器を取り出す為にスマホが入っている袖に手を伸ばすが、その手をゴリラの因子を持つ少女が止める。視線を手を掴んでいる少女に向ける。

 

明日深(あすみ)ちゃん!?」

 

 三つ編みの髪を左右の肩の前に垂らした少女の名はアスミ。

 以前、若者達のリンチされている所をゼツが助けた少女であり、この場所の子供たちの年長組の1人である。

 

「男女七歳にて同居せずって言葉知らない!?」

 

「大丈夫です。責任取ってもらいます!」

 

「アレ、アスミちゃんって真面目な子だったでしょ!?」

 

「正攻法は無理そうなので路線変更です」

 

「知りたくなかったそんな事実!」

 

 助けた当初は礼儀正しい子だと思っていたがネコ被って偽っていたアスミ。だが、それでは狙いのゼツは捕まえられないと判断したのか強行手段に出た。

 更に自身を絶望に追い込む事実を知って焦るゼツは、力尽くで糸を千切ろうと試みるが。ゼツの鼻腔に甘ったるい匂いに襲われる。

 

「この匂いって、まさか!?」

 

「はぃ、私ですぅ」

 

胡蝶(こちょう)ちゃんまで! じゃぁ、この匂いって」

 

「麻痺……です」

 

「やっぱし!」

 

 薄紫のロングヘヤーに手元にはクマのぬいぐるみを持った少女。名前はコチョウでありモデルは蝶、髪に体内で色々な毒性を持った燐粉を精製して生み出すことができる珍しい子。

 普段は大人しい少女だと認識しており、まさかこのような事に力を使うとは思っていなかったゼツはコチョウを見詰る。

 

「あのぉ、手伝ったら『はぁ~れむぅ』に入れるぅって言ってたからぁ」

 

 誰だ、そんなデマ吹き込んだの。

 軽くショックを受けたゼツは、この絶望の状況でも屈指ずに脱出の機会を窺う。すると、今日助けた少女エミに偶然に視線が重なる。

 

「たっ助けて!」

 

「えっ、えっと……頑張って?」

 

「嘘だぁーーーー!」

 

 疑問系で答えるエミにゼツは雄叫びを上げながら大浴場に吸い込まれていった。

 この後、大浴場から出たゼツは身体中がピカピカに磨かれ白く燃え尽き、逆に少女たちは肌がツヤツヤだった。大浴場内で何が起きたのかは定かではない。

 白く燃え尽きたゼツはそのままルリリア姉妹の部屋に運ばれ、運ばれ終えた所で正気に戻った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……アレ、お風呂は?」

 

「あっ記憶飛んでるね」

 

「都合が良かったです。このまま、忘れるのが吉ですから」

 

「やりすぎたね」

 

 姉妹は互いに苦笑しながら小さく舌をだす。

 ルリが用意した麦茶をゼツは一口飲み、温まった身体を冷やす。すると、ゼツの隣にルリが座ってゼツの瞳をジッと見詰た。

 急な何なのかと疑問に思っていたゼツだが、ルリから話が切り出された。

 

「何があったんですか?」

 

「何をって……」

 

 見詰てくる瞳にゼツは視線を逸らすが、ルリはその顔を両手で掴み無理矢理に視線を戻させる。そしてもう一度「何があったんですか?」と問い詰めた。

 流石にこれは隠しきれないと判断したゼツは、溜息を吐きながら話した。

 エミを助ける際に、居候している蓮太郎にキレていたとはいえ酷い事を言ってしまった。その事が後悔、自己嫌悪で落ち込んでいた。その話を聞いたルリは呆れ顔をむけた。

 

「なら、次は謝らないといけませんね」

 

「……今更か?」

 

「はい。今なら関係が拗れる前に修復できますから」

 

「自信ない」

 

 四つん這いになって落ち込むゼツの姿にリアは笑う。

 

「ゼツ兄ィはネガティブだよね。ズバッて言っちゃえばいいのに」

 

「リアは無駄に考えないしね」

 

「あっルリ姉ェ、それって私が馬鹿ってこと!?」

 

「考えなしって所はあるでしょ? 前だってアスミが気にしていた事を指摘して喧嘩になったでしょ」

 

「そっそれは……」

 

「気にしている事?」

 

「ゼツ兄さんが知る必要はありません」

 

「?」

 

 頭を傾げて疑問に思うゼツではあったが教えないなら無理に聞くことは出来ないだろうと判断した。

 

「とにかく。実際問題、リアの言うとおりさっさと謝れば許してくれるでしょ」

 

「……だよな」

 

 頭をガシガシと掻きながら溜息を吐く。

 すると、消灯のアラームが鳴った。それを聞いた3人は寝る事になったのだが。

 左右の二段ベットのうち、片方の下のベットに3人が寄り添って眠る事になった。真中にゼツ、左右にルリリア姉妹が横になる。

 

「……熱い」

 

「我慢して下さい」

 

「最近、会う事も少ないんだから我慢してよ」

 

「……了解」

 

 文句を言うゼツにたいし、姉妹は左右から頬を引っ張って怒る。

 コレ以上何か言えば何されるか分かったものではないので、何も言わずにゼツは眠りに付いた。




今回出てきた"呪われた子供たち"の住居・ミスティツリーズに聞き覚えのある方も居るでしょう。そう、これは初代デジモンワールドで出てくるエリアの名前です。
霧包まれし楽園《ミスティツリーズ》とは呼びませんが、雰囲気的には良いかなっと思って採用してみました。
住居の建造に付いて色々と書いてはいますが不自然な点は幾つもあるでしょう。ですが、前の後書きでも『ご都合主義』と書かせて貰ってますのでお許しを(汗)

後、本編には書いてはいませんが【霧の結界】を発生させているのはジュレイモンと呼ばれるデジモンの効果だと思って下さい(ゲームもそんな風に描かれていましたし)。勿論、ジュレイモンにその様な効果があるかは分かりません。

では、次回もお楽しみに!


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015

 ゼツが生み出した結界の中で密かに鎮座している霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)

 朝日が大地を照らす時刻、朝食料理担当の子供たちが起き上がりせっせと調理を開始していた。そんな中、着物を纏う少年ゼツが外に出て都心に向かう準備をしていた。

 着物を正し、黒の羽織を纏うゼツの隣で弁当箱を持ったルリが準備が出来た事が分かると、持っていた弁当箱をわたす。それを受け取ったゼツはお礼を述べてから待機していたミレニアモンの手にのる。

 

「じゃっ行ってくる」

 

「気を付けて下さいね」

 

 ルリは持ってきた火打ち石を擦って火花を散らさせる。それは厄除けのまじないで、何も出来ないルリがせめての目で見えるまじないとして出かけるゼツにするようになったものだ。

 その火花を見てから一気に都心に向かう。

 都心に向かうと言ってもミレニアモンにずっと乗っていく訳ではなく、人気のない場所で降りてから徒歩で行くのだ。

 人気ない場所に到着、降りてからミレニアモンはそのまま姿を透明化して消える。消えた事を確認したゼツは歩きだす。

 目的地は里見家。目的は昨日のことを謝ることだ。だが、ゼツは自身が発した言葉に悪いとは思っていなかった。何故なら、それが本心で偽りないゼツ自信が思ったことだからだ。

 

「もう少し、優しく言えばよかったかな……」

 

 ゼツは蓮太郎が精神的に微妙である事は薄々ではあるが感じ取っていた。そして、天童木更の精神もまた何処か壊れだしている事も気付いていた。

 

「木更さんのアレ……似てるんだよな」

 

 脳裏に浮かぶのはゼツと同年代の少年の姿。

 背景が紅蓮の炎、その前で少年が涙を流しながら高笑いする光景。

 

『アヒャヒャヒャヒャ。ゼツ、これが答えなんだよ。これが……世界の』

 

 少年が残した最後の言葉。それを思い出したゼツは口元を押さえ、込み上げてくる吐気を耐える。自身に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返して呟く。

 吐気が治まると大きく深呼吸を数回して荒れている精神を落ち着かせた後、目的地に歩き出す。

 既に多くのゼツと同年代らしき子供たちが学校に登校している。登校する子供とは正反対に歩くゼツはやはり目立ってしまい、周囲の子供たちは訝しい視線を送る。

そんな視線を無視して歩き続け、次の角を曲がって行こうとした瞬間、何者かにぶつかってしまった。

 誰とぶつかったのか確認して直ぐに誰なのかをゼツは理解した。

橙色のツインテール、黄色いコートにミニスカの少女。見間違える筈のない、藍原延珠だ。だが、何か雰囲気が違う事に気付いた。

 

「延珠ちゃん?」

 

「ッ、ゼツ!」

 

 天真爛漫を絵に描いた存在である延珠の瞳には涙が浮んでいることに気付いたゼツは目を丸くして驚く。延珠もまた、ここでゼツと出会うとは思っていなかった為に驚きの表情を浮かべた。

 

「泣いてるの?」

 

「あっ違う。これは、そう眼にゴミが入っただけなのだ!」

 

「……嘘、だよね」

 

「……アハハ。ゼツに隠し事は出来ぬな」

 

 誤魔化そうとする延珠ではあったがゼツが一発で看破する。

 そこで誤魔化せないと判断した延珠は空笑いした後、明らかに落ち込んだ表情になる。

 ゼツは溜息を吐いて延珠の腕を掴み歩き出す。急に掴まれ歩き出された事に延珠は驚きながらも抵抗することなく歩いていく。

 歩くこと数分、人通りが少ない横道に到着してゼツは掴んでいた手を離す。

 

「でっどうしたの?」

 

「…………」

 

 沈黙。何も答えないので流石のゼツも何を言いていいのか分からず頭を掻いて溜息をはく。すると、延珠は小さくボソボソと呟くように話し出した。

 

「学校で妾が、"呪われた子供"だと、知られた」

 

「……それで」

 

「それで皆、妾を、ガストレアって……っ!」

 

「そっか」

 

 説明を終えて延珠の瞳にはまた涙がうかぶ。

 事情を理解したゼツは、延珠の頭を撫でてる。そこで、ゼツは更に質問を続けた。

 

「でも、何で急に延珠ちゃんの素性が」

 

「……あの仮面の男が明日になれば判ると言っていた」

 

「蛭子影胤か」

 

 脳裏に蛭子親子の姿が浮ぶゼツ、そこで何処で出会ったのかを延珠に訊くと答えた。

 昨日、ゼツと離れた蓮太郎と延珠たちは多少口喧嘩してしまうも一緒に帰宅していた時、あの影胤親子に遭遇したそうだ。

 影胤たちは蓮太郎をゼツと同じく仲間に引き入れようとした。だが、蓮太郎もまたゼツと同じく否定した。だが、そこで影胤は引く際「明日、学校に行ってみるがいい。現実を見るんだ」と言い残して去っていった。

 その話を訊いてゼツは表情を歪ませる。

 

「成程、蛭子の奴は延珠ちゃんの正体を暴露したんだな」

 

 蓮太郎の精神に付け込んだか。そう思いながらゼツは悩ませる。

 今の学園は"呪われた子供たち"を入学を拒否する所が多い。他にも疑わしい生徒は直ぐにIISOに送られ、例え呪われた子ではないと判断されても居辛くて転校する生徒もいる。

 

「……どうするの?」

 

「妾は今、蓮太郎の家には帰れぬ」

 

「そう……それなら」

 

「んっ?」

 

 不思議に頭を傾げる延珠に、ゼツは笑顔を見せた。

 

 

   ◆

 

 

 ゼツは来た道を往復するかのように延珠と一緒にディアボロモンに乗って空を翔ける。

 有無言えずに強引に連れられる延珠は、困惑しながらもゼツに導かれていきそして、目的地である霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)に到着した。

 最初は霧の出現に驚くも、次の校舎らしき建造物を見た延珠は眼を丸くして驚く。

 

「あっアレは何なのだ!?」

 

「秘密だよ」

 

 ゼツたちを乗せたままの状態でディアボロモンはグランドの中央に着地、身体を伏せてゼツたちを降りれやすくする。

 降りた延珠は周囲を見渡しながら校舎らしき建造物を眺める。

 

「コレは……」

 

「密かに建造した建物。"呪われた子供たち"が安心して暮らせる場所だよ」

 

「もしかしてゼツ、お主もこの建築に携わっておるのか?」

 

「まぁね。建築提案したの俺だし」

 

「成程な。一ヶ月前ぐらいに家に中々帰って来なかったのはコレの所為なのだな」

 

 苦笑しながらゼツは歩みだし、それに続けて延珠も後を追う。

 向った場所は長老と愛称で呼ばれている松崎が居る部屋、その部屋にゼツが入ったのだが住人たる松崎が居なかった。

 

「あれ、おっかしいなぁ……。何処行った?」

 

 頭を掻きながら部屋内を見渡しながら部屋に入っていく。

 室内に入るものの誰も居ない事を確認したゼツは、そのままソファーに座る。

 

「座って」

 

「んっ」

 

 向かい側に座った延珠はそのまま、膝を抱えて丸くなって座る。

 特に会話らしきものは無く、その状態が続く。部屋には静寂が続き、所々に子供の笑い声が聞える。

 

「何も訊かんのだな……」

 

「……訊けば答えてくれるの?」

 

「それは」

 

「こういう場合は、何も言わず聞かず傍に居るのが適切だと思ってね」

 

 勿論、何か慰めの言葉を述べる冪なんだろう。だが、それは自分ではなく常に傍にいた蓮太郎の役目だと思うゼツは何も語らずに黙りこむ。それからある程度の時間が過ぎた後、部屋に誰かが入ってきた。

 

「おや、ゼツくんではありませんか。都心に向われたのではないのですか?」

 

「予定が狂ってね」

 

 入ってきたのは、この部屋の住人である松崎だった。

 部屋に入るとゼツが居た事に驚きながらも疑問を問い掛けて、その後にもう1人の客人に視線を向けた。

 

「そうですか。彼女は?」

 

「藍原延珠。今ホームステイしている所の子だよ」

 

「あぁ、ゼツくんが話していた向日葵みたいなイニシエーターの子ですか」

 

「そう」

 

 以前、ゼツが話していた内容を思い出して松崎は頷いた。だが、話で聞いていた向日葵のように元気は無く、暗い表情をしている事に気付いた松崎はゼツに視線で訴える。

 その視線に気付いたゼツは落ち込んでいる内容を説明する。

 

「そうですか、お辛いですな。今の学園は彼女達には厳しすぎます。ましてや、子供たちみたいな純粋な者ほど……」

 

「"呪われた子供たち"が自ら手を下している訳でもなく、只単にガストレア因子を宿しているだけで疎まれる。本当に嫌な世の中だ……」

 

 延珠に向けていた視線を逸らすゼツは、苦虫を噛み締めた表情を浮ばせる。松崎もまた悲痛の表情を浮ばせた。

 

「それで、彼女のプロモーターは?」

 

「さぁね。でも、もしかしたら外周区を廻って探してるかもね」

 

「どうしますか?」

 

「……少しだけ試してよっかな。延珠ちゃん」

 

「えっ?」

 

 急に呼ばれた延珠は伏せていた顔を上げる。

 

「少しだけ手伝ってくれる?」

 

「なっ何をだ?」

 

「里見蓮太郎の本心を聞くために」

 

 

  ◆

 

 

 場所は外周区。

 周囲は廃墟のままで手を加えられていない場所。そんな場所にゼツは目蓋を閉じてじっと立ったままで居る。すると、1人の人影がゼツに近付いてくる。

 

「……ゼツ」

 

「来たか」

 

 目蓋を開け、その視線にはゼツの見慣れた人物が神妙な趣で見詰ていた。

 藍原延珠のプロモーターである里見蓮太郎だ。

 

「ゼツ。メールで延珠を見つけたって連絡があったけど、何処なんだ?」

 

「……里見蓮太郎」

 

「ッ!」

 

 ゼツの両腕に橙色の鍵爪が衣服の上から出現した。相手をフルネームで呼び、そして武器を出現した事に流石の蓮太郎も驚き身構える。

 

「何で、武器を出すんだよ?」

 

「構えろ。じゃないと――死ぬぞ?」

 

「ッ!? クソッ!」

 

 ゼツが出した武器はグレイモン系最終形態と呼ぶに相応しい竜人種の究極体『ウォーグレイモン』。その『ウォーグレイモン』の両腕に装着しているドラモン系のデジモンに圧倒的な効果を示す武器『ドラモンキラー』である。

 互いの刃部分をぶつけて火花を散らして一気に蓮太郎に襲い掛かる。その鋭いゼツの瞳を見て、相手がその気で来ていると判断した蓮太郎はホルダーから愛銃を取り出し構える。

 だが、構えると同時にゼツの姿がブレて消える。

 

「何ッ!?」

 

 目標を失った蓮太郎が周囲を見渡すがゼツの姿を目視出来ない。すると、自身に影が差したことに気付いて視線を上に向ける。

 そこには空中前方一回転しながら踵落しをすようとするゼツの姿。

 回避行動に移るには既に避ける時間も失っており、蓮太郎は腕をクロスしてゼツの踵落しを受け止める。

 子供の体重とは思えないほどの破壊力ある一撃に連太郎は歯を食い縛って耐える。だが、その防御している上からゼツは両手を互いに握り締めて殴り付ける。

 

「グオッ!」

 

 腕をクロスしていた防御は攻撃の上から崩されうつ伏せに地面に叩き付けられる蓮太郎。地面にダウンしている蓮太郎にゼツは無慈悲の如くドラモンキラーの刃を振り下ろす。

 串刺しになれば無事では済まない。蓮太郎はその場で横に回転して仰向けの状態で銃を構えて弾丸を放つ。

 

「ッ!」

 

 反撃に流石のゼツは後ろに飛び跳ねて避ける。

 一旦距離をゼツが取った事で、蓮太郎は近付いてくる前に立ち上がり銃口を向ける。

 

「急に何なんだよ!?」

 

「…………」

 

「クソッ! 何とか言えよ!」

 

 何も語らずドラモンキラーを構えるゼツ、その姿に悪態を付いて顔を歪ませる蓮太郎は冷汗を流す。

 ゼツは"呪われた子供たち"と渡り合える程の実力者。愛銃のみ使用して勝てる相手ではない、だからと言って自身の切札を使う訳にもいかない。

 突貫してくるゼツに対して蓮太郎は通常弾を放つが、それらの弾丸は全てドラモンキラーの装甲で弾かれる。そして、蓮太郎を攻撃範囲に入ると腕を大きく振りかざしドラモンキラーを振り下ろす。

 蓮太郎はそれを横に飛んで回避する。だが、それと同時に余っていたドラモンキラーをゼツは投付ける。

 

「うおっ!?」

 

 身体を仰け反りながら回避、前髪が切れて宙に舞う。

 回避されたドラモンキラーはそのまま突き進み地面に突き刺さる。回避出来たことに安堵の溜息を吐くが、顔に強烈な衝撃が襲われる。

 声無き叫び。急な痛みに耐えながら視線を襲ってきた衝撃の先に向ける。そこには、ゼツの膝があった。

 

(膝蹴りされたのか!)

 

 地面に数回転がり仰向けで倒れる蓮太郎。そして、喉元にドラモンキラーの刃が寸止めの状態で止められていた。

 

「もう、お終い?」

 

「……何で」

 

 襲うのか。その疑問を投掛けようとする蓮太郎。だが、その前にゼツが話し出す。

 

「今日、偶然ね。延珠ちゃんに会ったよ」

 

「ッ、延珠にか?」

 

「ねぇ。蓮太郎にとってさ延珠ちゃんみたいな"呪われた子供たち"って何なの?」

 

「それは」

 

 急な質問に蓮太郎は困った。

 延珠は自身や木更を変えてくれた掛替えのない家族。何故、その様なことを聞いてくるのか蓮太郎は疑問に思う。

 

「昨日、あの時の子供を何故助けなかったの?」

 

「それは、俺の手じゃ余るから。それに、あそこであの子を助ければ延珠にも被害が及ぶ。だから」

 

「だから、その他の子供は助けなくて良いって?」

 

「ッ、違う!」

 

「何が違う!」

 

 蓮太郎の首横にドラモンキラーだ突き刺さる。

 地面に突き刺したドラモンキラーをそのままに腕を抜き、蓮太郎の胸倉を掴む。

 

「もし延珠ちゃんの事を思うのであらば全てを救う、それぐらい言いのけるぐらいの甲斐性を見せてみろ!」

 

「ッ!」

 

 数ヶ月とは言え、今まで見せた事もないほどの剣幕を見せるゼツに息を飲む。そして、その無茶苦茶な内容に蓮太郎も反論する。

 

「全部救うなんて無理に決まっているだろ!」

 

「そんなの百も承知だ! それでも延珠ちゃんにとって里見蓮太郎とはヒーローなんだ。そんなヒーローが無理だ無茶だなんて言っていたら、そのヒーローの背中を見て育つ子供たちは何を信じて生きれば良い!? もう一度言うぞ里見蓮太郎。無茶を押して道理を引っ込ませて全てを救ってみせろ! それが先人として生きる大人の役目、もし出来ないであるなら最初っから人に優しくするな!」

 

「うあっ!?」

 

 ゼツは胸倉を掴んだ状態で仰向けに倒れている蓮太郎を背負い投げの要領で投げ飛ばす。そして、投げ飛ばされた蓮太郎を確認して袖から一枚のカードを取り出した。

 

「エネルギーボム」

 

 カードは粒子となり、粒子は左手に集りエネルギーの塊が形成されていく。

 カードに描かれていたのはメタルマメモン。完全体であり"スマイリーボマー"の異名を持つマメモンが更に強力に進化したサイボーグ型デジモン。体の9割は機械化されており、左腕に装備されたサイコブラスターが装備されている。

 

「ぶっ飛べ」

 

 エネルギーの弾は蓮太郎に向かって放たれた。

 

 

  ◆

 

 

 藍原延珠は2人の戦いを少し離れた場所で眺めていた。

 コートを強く握り締め、今にも助けに行きたい気持ちを堪えながら一部始終を見詰る。

 

「蓮太郎……」

 

 IISOで出会った2人は当初、お世辞にもいい関係ではなかった。

 藍原延珠は人間不信、里見蓮太郎は不幸の日々。互いの不運が呼び合いそして出合った。

 不幸顔で荒い口調ではあったものの、パートナーとなった延珠の関係を良好にするために出来ない料理を必死に勉強して腕を上げた。

 結果として半年で良好な関係となり、人間不信であった延珠は誰にでも万遍の笑顔を見せる向日葵な少女にへと変わった。自身を人へと戻した里見蓮太郎に自然と恋に落ちるのは仕方なき事かもしれない。

 恋して病まない存在。その蓮太郎がゼツの鋭い猛攻に攻められる。

 今にも助けに行きたい。だが、それではゼツとの約束を破る事になる。駆け出したい気持ちを堪え、見守り続ける。

 

「エネルギーボム」

 

「ッ!?」

 

 ゼツの左手からのエネルギー弾が蓮太郎を捕らえ吹き飛ばす。どうやら直撃は避けているようだが攻撃の余波は強く、蓮太郎はゴミの様に宙に舞って地面に叩き付けられる。

 身動きが出来なくなる蓮太郎。それを確認したゼツは一歩ずつゆっくりと近付く。

 

「もう、終わりか?」

 

「グッ!」

 

 苦痛の声を漏らす蓮太郎。その姿を冷えた眼で見詰るゼツ。

 

「なぁ、蓮太郎。もう一度訊くけど、延珠ちゃんは蓮太郎の何?」

 

 大本を触れる話。それを隠れて傍で聞いていた延珠は身体をビクッと反応する。

 

「俺にとっての延珠……」

 

 動かすだけでも苦痛である蓮太郎は身体を起き上がらせようとする。

 

「延珠は、俺にとって掛替えのない存在だ。IISOで初めて会った延珠は今とは想像も付かない程に人間不信で、俺を仇を見る目で見ていた。それを見て、俺は延珠を助けたいと思った」

 

「それで」

 

「出来ない料理を懸命に覚えた。最初は失敗ばかりだけど、徐々に上手になって延珠が美味しく出来た料理を食べて笑顔を浮かべた時、救えたと思った」

 

 語られる延珠に対する蓮太郎の思い。それを隠れながら聞いていた延珠は言葉と共に蓮太郎と過ごした日々を思いだす。

 楽しかった事、面白かった事、嬉しかった事、そんな有触れた日々の日常を延珠は噛み締める。

 

「では、改めて……里見蓮太郎は藍原延珠をどう思う?」

 

「延珠は俺の家族だ」

 

「なら、その家族が涙流すモノが現れたなら蓮太郎はどうする?」

 

「倒す!」

 

「それが強大な敵であってもか!?」

 

「あたりまえだ!」

 

「……なら、延珠ちゃんを救ってやれ。それが家族としての勤めだ」

 

 ゼツは隠れて忍んでいる延珠の場所を指差す。

 指差す場所に視線を向ける蓮太郎。物陰に身体を隠してはいるが、ツインテールの髪がはみ出ていた。

 

「延珠」

 

「じゃぁね。今度こそ、失望させないでね」

 

 それだけを述べてゼツは踵を返して去っていく。

 残された蓮太郎と延珠。互いに沈黙して何を言い出せばいいのか迷う。

 

「れっ蓮太郎。妾は……」

 

「話は聞いた。悪いな、辛いときに傍に居てやれなくて」

 

「妾は、人だ」

 

「あぁ延珠、お前は人だ。誰かがお前をガストレアと呼ぼうとも延珠、お前は人間だ!」

 

「蓮、太郎」

 

 延珠の瞳に涙を溜める。

 溢れ出す感情を堪えられなくなった延珠は駆けだし蓮太郎に抱き付いた。抱き付いてきた延珠を愛しく思いながら蓮太郎は憂さしく抱きしめる。

 

「ちゃんと、家に帰って来い。あの家は、俺とお前の家なんだからな」

 

「うむ、もう逃げたりせぬ」

 

 涙流す延珠に微笑を浮かべる蓮太郎。蓮太郎と延珠、その2人は収まるべき場所に収まった。その光景と遠い場所で眺めていたゼツ。

 

「ふぅ、これで大丈夫……かな」

 

 頬を掻きながら2人の見詰ながら満足の結果に微笑みを浮かべる。




何も言うまい。もう疲れた。
キャラの心象を表現するのがここまで疲れるとは想像もしていませんでした。

ゼツ君に言わせている内容が正論すぎて臭い。世の中、正論ばっかじゃないのに……。まっご都合主義って事で……。

さて、そろそろ蛭子親子の激戦もまじかです。

次回も頑張ります。


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016

8/1。
この日はデジモンにとって大事な日です。
そう、初代デジモンアニメであるデジモンアドベンチャーの主人公達がデジタルワールドに飛ばされた日です。

いい加減、デジモンアドベンチャーを再放送しないかな……。


 蓮太郎と延珠の騒動から翌日。

 ゼツは霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)の食堂のテーブルに項垂れて倒れていた。延珠と蓮太郎の仲は改善された、だがゼツ本来の目的だった謝罪を述べていない事を思い出し、本当に謝る場面を失ってしまった。

 

「怪我、は……してないと思うけど」

 

 打ち身などはしてるよね。そう思うと更に罪悪感に悩まさせる。

 兎に角、当分は里見家には帰れないな。そう思いながらゼツはダラダラしていると傍に誰かが近付いてきた。

 

「まだ落ち込んでいるのですので?」

 

「マリアちゃんか」

 

 語尾に独特な喋り方をするマリアが隣の椅子に座る。

 隣に座るとゼツの頭を撫でる。

 

「ナニコレ?」

 

「慰めているのです」

 

「そっか」

 

「もう少しリアクションが欲しいのですので」

 

「ゴメンね。今、リアクションする気力がなくて」

 

 苦笑しながらまたテーブルに項垂れてしまう。

 そんな不甲斐ない姿にマリアは何かを思ったのか、項垂れてしまっているゼツの身体を自身に向けさせ、そのままゼツの顔を胸に抱きしめた。

 

「ッ!?」

 

「ジッとするのです」

 

「いやでも!」

 

「動いたら噛むですので」

 

「……噛むって何処を?」

 

「…………」

 

「いや、黙らないでマリアちゃん」

 

 そのままの状態が続き、マリアは子守唄らしき歌を歌いだす。何処か聞き覚えが有るような無いような、不思議な歌がゼツの耳に届く。

 瞳を細めてマリアの歌を聴きながら心が落ち着いていき眠気に襲われる。

 精神的にも安定したゼツ、そんな時であった。

 

「うん? 電話が鳴ってるですので」

 

「そうだね。……木更さん?」

 

 相手を確認したゼツは電話に出る。

 スマホから聞きなれた女性の声が聞える。

 

『ゼツ君、仕事よ。例のケースを持ったガストレアの居場所が分かったの。里見君たちは別で向ってるから現場で合流、出来る?』

 

「座標教えて、そこで落ち合う」

 

『お願いね』

 

「了解」

 

 電話を切り、少し待つとスマホ画面から地図が表示され赤い点滅が現れる。

 場所はこの場所からかなりの距離にある。普通の手段で向っては時間が掛かり過ぎる判断したゼツはデジモンで行く事にした。

 

「マリアちゃん、行ってくる。後、子守唄ありがと」

 

「行ってらっしゃいなのです」

 

 マリアはそう言ってゼツの頬に軽くキスをしてきた。

 流石のゼツもこの行動には驚きが隠せずに後ずさって顔を赤くする。だが、更にそれを大食堂の出入口でルリリア姉妹が見ていた。

 

「何、してるの?」

 

「ちょっとマリア、抜け駆け禁止でしょ!?」

 

 ハイライトとが消えた瞳で見詰るルリと、憤怒して顔を真赤にしているリア。

 自身は何かやましい事などしていないのに何故か罪悪感に攻められるゼツは、冷汗を流しながら空笑いを浮かべる。

 

「出かけるのですね。でしたら」

 

「私達も!」

 

 両脇から一気にルリリア姉妹が襲い掛かり両頬からダブルキスをする。

 キスされた事で流石のゼツも顔を真赤に染めて逃げ出すように霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)を出て行った。

 

 

  ◆

 

 

 ディアボロモンに乗って空を翔ける。

 冷たく刺す風がゼツの頬を襲う。それを気にする事無くディアボロモンに飛行加速を上げるように命令する。

 そこで、ある場所でディアボロモンを停止するよう命令した。

 

「あの子は……」

 

 地上に視線を向けたゼツ。

 視線の先には里見家であるアパート、その出入口に1人の少女が姿があった。その少女にはゼツは見覚えがあった。

 少しだけ気になったゼツは空き地にデジモンを待機させ、その少女に話しかけた。

 

「何をしてるの舞ちゃん」

 

「ッ!? えっと、ゼツくん?」

 

 その少女の名前は舞。延珠のクラスメイトであり友達だった少女である。

 舞の両手には赤色の小学校指定のランドセルを持ち、戸惑った表情を浮かべている。

 

「うん。どうして此処にいるの?」

 

「あの、コレ忘れていったから」

 

「それは、もしかして延珠ちゃんのランドセル」

 

 手渡されたランドセルを受け取ったゼツ。それは確かに延珠が普段使っていた鞄であった。

 何故、このランドセルが舞が持って来たのか分からずゼツは頭を傾げる。

 

「あの、延珠ちゃんが、ランドセルを学校に置いていってお仕事行ったから」

 

「そう……」

 

 顔を伏せてボツボツと答える舞。

 延珠のお仕事、その言葉を聞いたゼツは核心してしまった。この子は延珠が"呪われた子供"である事を知っている。そうゼツが思っていたら一枚の手紙を渡してきた。

 

「あのゼツくん、延珠ちゃんにお仕事頑張ってて伝言、お願いできますか?」

 

「……相手は"呪われた子"だよ?」

 

「…………」

 

 事実をゼツは付きつける。

 舞は何も述べずに沈黙する。そして、顔を上げた瞳には涙を浮かべる。

 

「それでも延珠ちゅんは――友達、だから」

 

「……了解した。舞ちゃんの託、確かに伝えるよ」

 

「ゼツ君もお仕事頑張ってね」

 

「ありがとう。延珠ちゃんを友達だと言ってくれて」

 

 深々とゼツは頭を下げた。

 数少なくとも、理解して友と言ってくれる存在が居る。それだけでも、ゼツもまた救われた気持ちになる。

 そして、空き地に待機させているディアボロモンを呼ぶ。

 

「行ってくる」

 

「延珠ちゃんの事、宜しくね!」

 

 ディアボロモンの肩に乗り、目的地に向って翔け飛ぶ。

 今まで感じた事のない高揚感に、ゼツは初めてこのエリアを守りたいと思う。確かに、此処だけではなく各地のエリアには闇が巣くっている。だが、それでも闇の中に光明があるのも確かだ。

 その光明、絶やすわけにはいかない。守らなければならない。

 

「ディアボロモン、我に力を!」

 

「ケケケッ……GAAAAAAA!」

 

 ゼツの高揚に反応するかの様にディアボロモンも不気味な笑い声から獣染みた雄叫びを上げる。その背後に一緒に飛行するミレニアモンも雄叫びを上げる。

 飛行すること数十分、空が雨雲で敷き詰められ光が欠けだす頃、ゼツの肉眼でドクターヘリが目視できた。

 ならばこの辺りに居るであろうとゼツは目を凝らして周囲を見渡す。すると、葉と葉の隙間に蓮太郎の顔が見えたゼツは飛び降りた。

 木々の枝が顔に刺さらないように腕で隠しながら地面に着地、屈んだ態勢から一気に駆け出す。無造作に生える草や茂みを潜り抜け、目的の場所に到着する。

 到着して最初に目に入ったのは腹部を一対の刀で刺されている蓮太郎だった。

 

「疾ッ!」

 

 見ると同時にゼツは行動に移した。

 身体を極限まで前かがみに下げた状態で駆け、蓮太郎の腹部を刀で刺している小比奈に猛烈な拳を放つ。

 小比奈も急な一撃に態様出来ずに殴られ吹き飛ばされて大木に叩き付けられる。

 急な来客に蓮太郎と影胤は驚く。

 

「おや、ゼツ君ではないか?」

 

「影胤」

 

 影胤を睨むように見詰ながら蓮太郎を背にしてゼツは庇うように立つ。庇いながら今の最悪の状況を分析していく。

 

「ゼツ、お前」

 

「喋ると傷口に染みるよ。延珠ちゃんは?」

 

 急なゼツの出現に蓮太郎も驚きの表情を浮かべる。だが、ゼツはそれを遮り延珠は如何して居ないのか手短に問う。

 蓮太郎も多少冷静になったのか溜息を吐いて状況をゼツに説明した。

 ケースを持ったガストイレアを倒した。だが、そこに蛭子親子に襲撃された。全滅を避ける為に延珠には増援を呼ぶように逃げした。その説明を聞いたゼツは呆れ顔になった。

 あの影胤の純粋な戦闘能力は遥か蓮太郎を上回っている。更に延珠と互角に渡り合える小比奈も居て、一対二など自殺行為に等しい。

 よくもまぁ自分の命を天秤に乗せれるな。そう思うながらゼツは現在の蓮太郎の容態を確認する。

 肩下に撃ち抜かれている銃弾痕、身体全身に押し潰されたように傷、そして腹部に刺された刀傷、これで良く生きているなとゼツは思う。

 だが、放置すれば間違いなく命の危険性がある。この蛭子親子を退けて病院に連れて行っても間に合わない恐れがあと判断したゼツは溜息を付きながら傍に待機しているであろうデジモンを呼ぶ事にした。

 

「ミレニアモン、蓮太郎を安全な場所に連れて行け!」

 

「GAAAAAAA!」

 

 ミレニアモンの出現に蛭子親子は驚く。ゼツはそれを無視して蓮太郎を安全地に連れて行くように命令するとミレニアモンは二本の腕で蓮太郎を捕まえて飛び立つ。

 飛び立ったミレニアモンを確認した後、ゼツは袖に入れていたスマホを取り出してカードを出す。

 カードに描かれているのは一振りの大剣。

 だが、その大剣には膨大なエネルギーが内包されていた。

 

「出て来い『龍魂剣』!」

 

 カードは光、その中から一振りの剣が出現する。

 十闘士すら超越し、炎の能力を持つ超越種デジモン『カイゼルグレイモン』。

 大地(ガイア)の九つの龍脈のパワーを宿し、龍の魂を封じられているカイゼルグレイモンの象徴たる大剣。

 流石のゼツも内包された膨大なパワーと大剣以上の大きい大剣のため、両手に襲う重量に額に汗を浮ばせる。

 ガストレアとは違う化物、カードから出された武器、それら体験も見たこともない現象に影胤は訝しげな目でゼツを見つめる。

 

「ゼツ君、君は何者なんだ?」

 

「答える義理、我に無し!」

 

 影胤の質問を無視して龍魂剣を振るう。

 ゼツはその超重量級の大剣を一振りするのが精一杯だった。だが、その一振りは衝撃破と斬撃を飛ばす。

 蛭子親子は危険だと判断して回避するが後から襲ってくる衝撃破に薙ぎ払われ、斬撃はゼツを中心に全ての大木を両断する。更に、両断された全ての大木は紅蓮の炎に包まれた。

 

「ちっ重いな!」

 

 超重量級の重みにゼツは愚痴りながら振り回せる身体を懸命に支えて耐える。ゼツを中心に全ての森が燃え上がる。

 その光景を見た影胤は大いに笑う。今の化物は何なのか。その武器は何なのか。それらの疑問を吹き飛ぶ程に大いに狂気して笑う。

 

「見事だゼツ君! 私は益々君が好きになった!」

 

「凄い! ゼツ、切りたい!」

 

 蛭子親子は不適に笑い喜ぶ。

 一通り笑った後に影胤は冷静になる。その影胤の手には例のケースが握られていた。

 

「もう少し君と戯れたかったが……時間のようだ。また会おうゼツ君!」

 

「今度こそ決着付けよゼツ!」

 

 それだけ述べて蛭子親子は去っていった。

 気配が遠ざかり追えないと判断したゼツは、肩で担いでいる龍魂剣をカードに戻して傍にいるディアボロモンを呼ぶ。

 

「ディアボロモン」

 

「ケケケッ」

 

 ゼツはディアボロモンに乗り、蓮太郎を連れたミレニアモンの後を追う。

 

 

  ◆

 

 

 都心に帰ってきたゼツは人気のない場所に降りて蓮太郎が運び込まれた病院に向かう。

 歩いて数分で病院前に到着、その出入口前には木更が待っておりゼツを出迎えていた。

 遠くからゼツを確認できた木更は手を振るう。

 

「お帰りゼツ君、そして里見君を助けてくれてありがと」

 

「うんん。それで蓮太郎の容態は?」

 

「無事、峠を越したわ」

 

「そうか」

 

 現状報告を聞き、蓮太郎は無事である事が分かったゼツは安堵の溜息を吐く。もし、この様な場所で蓮太郎が死んでしまえば天童会社は分解する恐れがある。

 

「そう言えば延珠ちゃんは?」

 

「あぁ延珠ちゃんなら里見君の所よ」

 

「やっぱしか」

 

 この後の話は追々として木更の案内で蓮太郎が寝ている病室に来た。ベットには痛々しく傷付いた蓮太郎が寝ており、その隣に椅子に座って心配している延珠の姿があった。

 扉が開く音が聞えた延珠は視線を扉に向け、そこにゼツが居る事が分かると駆け寄る。

 

「ゼツ、蓮太郎を助けてくれてありがとうなのだ」

 

「うん。それと、コレを」

 

「ん。何なのだ?」

 

 ゼツから渡された一枚の紙。

 不思議に思う延珠は折り畳まれた紙を広げて中を見て瞬間、息を飲んで驚く。渡された紙とゼツを交互に見詰返す。

 

「コレは」

 

「舞ちゃんからの託を言うね。お仕事頑張ってだって」

 

「ッ!」

 

 その言葉を聞いて延珠は涙を浮べ、声を殺して泣き出した。渡された友達である舞の手紙を胸に強く抱きしめながら。

 急に泣き出した事に木更は驚くが、ゼツは困惑する木更を連れて一度病室から出た。

 

「ゼツ君、延珠ちゃんに何を渡したの?」

 

「何も、ただ普通の友達からの手紙だよ」

 

「手紙って」

 

 扉越しに聞える泣き声。

 その声は悲しみは感じられず、只単に嬉しく喜びに満ちた泣き声。その声を聞きながらゼツはこの光明を守りたいと思う。

 すると、木更の携帯に着信のメロディが流れた。

 

「少し失礼するね」

 

「どうぞ」

 

 廊下の奥に去っていく木更の背中を見詰ながらゼツは傍にある椅子に座る。

 すると、蓮太郎の病室の扉が開かれた。

 

「すまぬ。急に泣き出して」

 

 泣いて目は充血している延珠だが、その表情には暗い影ではなく天真爛漫の向日葵の笑顔が戻っていた。

 その笑顔を見たゼツも笑顔で返して病室に入る。

 用意されている椅子に座り、互いに話す事無く沈黙が続く。そんな沈黙を破ったのはゼツだった。

 

「延珠ちゃん」

 

「んっ何なのだ?」

 

 急な呼び掛けに延珠は驚くも返事を返す。

 

「延珠ちゃんが"呪われた子"だと言って迫害される事は、はっきり言ってずっと続く。でも、その手紙みたいに延珠ちゃんを延珠ちゃんとして見てくれる人もいる。だから、全てを絶望で見ないでほしい」

 

「ゼツ、お主」

 

 語られる内容を聞く延珠。ゼツはそのまま語る。

 

「人間は極端に弱い。そして、また強くもある。強さも弱さも双方を併せもつ、脆い存在が人間だ。だから、一部だけ見て判断しないでほしい。人間は、強くもあれる」

 

 延珠に向ってゼツは頭を下げる。急なゼツの行動に流石の延珠は驚く。

 その真剣な言葉に延珠は少し迷いながら答えた。

 

「妾は、蓮太郎が好きだ。木更もゼツも、舞ちゃんも皆大好きだ。だから、人間を嫌ったりせぬ。だから、頭を上げてくれ」

 

「……ありがとう」

 

 互いに笑顔を向ける。

 すると、扉が開かれ木更が病室に入ってきた。

 

「2人とも、私は今から防衛省に向かうわ。護衛はゼツ君、彼方が来て」

 

「……七星の遺産、それの詳細の説明か?」

 

「良く気付いたわね」

 

「大体予想が付くよ」

 

「妾はどうすれば良いのだ?」

 

「延珠ちゃんは里見君の看病をお願い」

 

「うむ、任せろ!」

 

「じゃっ行くわよ」

 

「了解した」

 

 ゼツは病室を後にして木更の護衛に付いて行く。徒歩で駅まで向かい、電車に乗って防衛省近くの駅で降りて徒歩で進む。

 以前とは違う場所の部屋に案内されて入ってみると、先日集められた民警の代表たちが集っていた。木更は指定されている席に座り、その後ろでゼツが待機する。

 

「これで全員ですね。では、今回の本当の依頼内容をご説明させてもらいます」

 

 防衛省のお偉いさんらしき人物が出てきて民警代表たちを見渡した後、説明が開始される。

 『七星の遺産』とはゾディアックガストレアを呼び出す触媒であり。蛭子親子は元IP序列百三十五位の実力者である。それらを聞かされた民警代表たちは気丈に耐えたが、数名の者達は顔を真青に染めて洗面所に駆け込む。

 

「嘘でしょ」

 

「大丈夫?」

 

「えぇ、自信は無いけどね。まだパニックにはなっていないわ」

 

「どっちかって言うと衝撃が大き過ぎて受け止められないって所かな」

 

 周囲の代表達と同じく顔を青褪める木更にゼツは問う。声を震わせ木更も気丈に耐える。

 一方、ゼツは冷静で状況分析しながら今後の事を考えていた。

 あらかた説明を終えて代表達は去っていき、木更も蓮太郎の様子を確認しようと防衛省を後にして去ろうとした時、誰かに呼び止められた。

 

「待て」

 

「ッ!」

 

 木更の表情が硬くなる。

 呼び止めたのは天童菊之丞、その前には聖天子が居り、後ろには聖室護衛隊たちも随行している。

 今まで見せた事のない殺気が木更から放たれる。

 

「何でしょうか?」

 

「貴様ではない。その小童に用がある」

 

 菊之丞の鋭い眼光、それに対抗するようにゼツも睨み返す。睨み返していたゼツだが、隣から凄まじい殺気に気付いた視線を外して木更に向く。そして、溜息を吐いて木更の足を思いっきり蹴った。

 

「痛ッ!?」

 

「冷静になれ社長。用事があるのは俺のようだし先に行ってて」

 

「ゼツ君」

 

 涙目になりながらゼツの意を汲んでその場を後にして1人で木更は去っていく。それを見送ってゼツは聖天子に向きなおす。

 最初は菊之丞、次に聖室護衛隊たち、最後に聖天子を見渡した後、ゼツは話し出す。

 

「それで、俺に何のようだ?」

 

「小僧、聖天子様の前で無礼だぞ!」

 

 聖室護衛隊のメガネを掛けた男が怒鳴り散らす。

 たった一言述べただけでこの反応、面倒臭い。そう思うゼツだが、聖天子が腕を上げて怒鳴った聖室護衛隊を宥める。

 

「構いません。ゼツ君、で構いませんか?」

 

「お好きに」

 

「ではゼツ君と……。ゼツ君、彼方はどうやって新人類創造計画の事を知ったのですか? アレは高位の機密情報で今の彼方ではアクセスなど出来ない筈です」

 

「人の口に戸は立てられない。噂なんかを探れば色々と情報は手に入るよ?」

 

「そうですね。ですが、少なくともIISOのメインサーバーに侵入するのは並大抵ではないでしょう」

 

「……何が言いたい?」

 

 聖天子の清んだ瞳はゼツを姿を映す。

 

「ゼツ君、彼方は何者ですか?」

 

「……何者かっか。そうだね、黙っとくのも面倒だし……改めて名乗るよ。デジモンテイマー、それ以上でも以下でもない存在だよ」

 

「デジモン、テイマー?」

 

「じゃっ、帰るから」

 

 知らない単語を聞いて顔を顰める聖天子だが、それを無視してゼツはその場を後にした。

 聖天子は呼び止めようろするが何も言わずにゼツの後姿を見送った。その隣で待機している天童菊之丞は未だに険しい表情でゼツを睨んでいた。




今回、舞ちゃんが出てきて延珠ちゃんのランドセルを持ってきた話が出てきました。
これは小説にもアニメにも描かれておらず、コミックのみ映写されたシーンです。延珠ちゃんが少しでも救われるように配慮しました(コミックでは舞ちゃんがランドセルを持ってきたことは延珠ちゃんは最後まで知る事はありませんでしたが)。

さぁさぁゼツくんと影胤との戦いが少しだけ披露されました。
使った武器は『龍魂剣』、デジフロでの神原拓也が炎・氷・風・土・木のヒューマンとビーストの計十個のスピリットでの進化で出てきた超究極体に分類されるカイゼルグレイモンの武器です。
本来は人間には扱えない程にでかいためにゼツくんは振り回されている設定です。

ゼツくんと聖天子様の会話、短いですよ(涙)
菊之丞は少しだけゼツくんに警戒している状態ですかね。

今回、遅くなって申し訳ありません。
頑張って続きを書いていますので、次回もお楽しみにです。


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017

 蓮太郎が眠っている病室。

 未だに眠りから覚めない蓮太郎を心配そうに見詰る木更、そこから少しだけ離れた場所で壁に凭れかかって見詰ているゼツの姿があった。

 すると、蓮太郎から呻き声が聞えて2人が反応した。

 

「里見くん!」

 

 その呼びかけに反応するかの様に蓮太郎は重たそうな目蓋を開ける。

 蓮太郎が最初に視界に入れたのは涙目の木更だった。

 

「よう、木更さん」

 

「お帰りなさい、里見くん」

 

 未だに半ボケ状態ではあるが相手が誰で何者かをハッキリしている所を見ると障害らしき物はなさそうだ。

 蓮太郎は視線を天井に向けて木更に問い掛ける。

 

「どれくらい寝てた?」

 

「丸一日くらい。ゼツ君がデジモンを使って一直線に病院に運んでくれたから大事には至らなかったわ。後でゼツ君にお礼を言わないとね」

 

「そうか。ゼツ、居るのか?」

 

 蓮太郎の呼び掛けに背中に凭れかかっていたゼツは立ち上がり、見える立ち居地に立つ。

 ゼツは呆れた顔で見詰て、その視線に蓮太郎は苦笑いを浮かべる。

 

「悪い。助かった。ありがとう」

 

「死ぬと延珠ちゃんたちが泣くからね」

 

 肩を竦めて述べたゼツは、また壁際に向って壁に凭れた。

 すると、木更が神妙な表情を浮かべる。

 

「あのね里見君、わたしたち、死ぬかもしれない」

 

「なに?」

 

 木更の急な告知に蓮太郎は訝しげな視線を向ける。

 訝しげに浮かべる蓮太郎に教えられた内容は、目的のケースの中身にはガストレアⅤ《ゾディアックガストレア》を呼び出す触媒である事、蛭子親子が元序列百三十四位である事、それらを聞かされ驚愕の表情を浮かべる。

 

「蛭子影胤はたちは現在モノリスの外『未踏査領域』に逃げて、ステージⅤを東京エリアに呼び出す準備に入ってる。いま政府主導で大規模な作戦が計画されてる」

 

「俺が寝ている間にそんなことが……」

 

 信じられない内容を聞かされた愕然とする蓮太郎ではあったが、痛む身体を動かして起き上がろうとする。それを制止しようとする木更だが、それでも起き上がる。

 

「それで奴らを止められなければ東京エリアは……」

 

「ッ、行く気なの? 勝てるの?」

 

 握り締めた蓮太郎の拳を見た木更は驚きの表情を浮かべながら問う。

 

「勝たなきゃ駄目なんだ」

 

「死ぬわよ?」

 

「覚悟の上だ!」

 

 再度問うが返事は同じく覚悟を決めた瞳を浮かべる。それを見た木更は溜息を吐きながら微笑を浮かべた。

 

「君、絶対安静なのよ。本当は……」

 

「……悪い。木更さん」

 

 視線を逸らし、謝る蓮太郎。

 だが、木更は「私の前に、謝る相手が居るでしょ」と言って蓮太郎が被っている布団を捲る。そこには安らかに眠っている延珠の姿があった。

 あどけない眠る少女の姿に、先程の荒れていた心が落ち着いた蓮太郎は微笑を浮かべて傍に眠っている延珠を優しく撫でる。

 すると、木更の携帯に着信音が鳴った。木更は二言三言話したあと蓮太郎に携帯を渡し、それに出る。

 

『里見さん、私です』

 

「……何の用だ。聖天子様?」

 

 出たのは聖天子であると気付いた蓮太郎は携帯を話してマジマジと見詰たあと、携帯を耳元に戻す。

 

『里見さん、蛭子影胤追撃作戦が始まります。私は、あなたにこの作戦に参加してほしいと思っています』

 

「どうして俺なんだ?」

 

 蓮太郎の疑問をぶつける。聖天子はその質問されることがわかっていたのか平然と冷静に返事を返す。

 

『それは、あなたが一番よくわかっていると思いますよ』

 

「アンタ等のためにやるんじゃないこと忘れるなよ」

 

『ご武運を、里見さん』

 

 憎まれ口を叩きながら蓮太郎は携帯を切った。

 それを見ていた木更は険しい表情を浮かべる。

 

「何言っても無駄そうだから止めたりはしないけど……。社長として命令します。影胤・子比奈ペアを撃破してステージⅤの召喚を食い止めなさい。君は私のために百倍働いて。私は君の千倍働くから」

 

「絶対に止めてみせます。あなたのためにも!」

 

 蓮太郎と木更が盛り上がっている中、仲間外れみたいになったゼツは病室を出て病院出入口前の待合室で座っていた。すると、1人の白衣を着た女性が近付いてきた。

 ゼツは近付いてくる気配に敵意がないと判断して、身動きせずに視線を向けないままの状態で話しかける。

 

「何か御用ですか?」

 

「君がゼツ君かい?」

 

 話しかけてきた女性、そして女性はゼツの事を知っていた。

 流石に不思議になったゼツは顔を向けて、話しかけた相手を肉眼で捕らえた。

 

「あなたは……」

 

「おっと、初めましてだね。私は室戸菫、蓮太郎君から話は聞いていないかい?」

 

「あぁ、蓮太郎が言っていた先生か」

 

 この2人は蓮太郎を経由して名前だけは知っていたが顔を見せ合うのはこれが初めてだった。

 最初に菫を見た感想は『何か全てを絶望した表情』とゼツは評価して、菫は『何か不思議な雰囲気を持った少年』とゼツを評価した。

 互いに自己紹介をしたあと、ゼツは疑問を持ちかけた。

 

「あなたは何故、此処に? 蓮太郎のお見舞い?」

 

「それもあるが、これを渡しにね」

 

 菫が持っているバックを見せる。見せられたバックに視線を向けたゼツは鼻に刺す臭いに顔を歪ませる。その臭いはゼツは嗅いだ記憶があった。

 

「火薬、蓮太郎の武器か?」

 

「当たりだ。この距離で火薬の臭いを嗅当てるとは、規格外の肉体スペックだね」

 

「褒めてる? 貶してる? どっち?」

 

「どっちでもある。君の想像に任せるさ」

 

「そう」

 

 菫の評価に『胡散臭い』とゼツは追加させた。

 2人の話はそれで終え、菫は蓮太郎の病室に向かって待合室から去っていった。去ったのを確認したゼツは1人愚痴る。

 

「あの人が蓮太郎の、そして……」

 

 呟いた後、ゼツは深い溜息を吐きながらスマホを取り出して画面を操作する。

 色々なアイコンが表示され、その中から1つのアイコンをクリック。映し出されたのは『カードホルダー』とタイトルが打たれた画面だった。

 

「……最悪、ゾディアック相手にはこのカードを使わないといけないか?」

 

 画面に表示されているカード。

 金色の鍵爪、真紅の翼、凶暴な赤目、西洋龍を思わせるシルエットをしたドラゴンが描かれており、そのカードをみたゼツは顔を歪ませる。

 

「このカード、一枚しかないからな使いたくはないけど……」

 

 背に腹は代えられないか。そう愚痴ってスマホの画面を消したゼツは立ち上がって病院の出入口前に立つ。

 病院の奥から2つの影が近付いてきた。

 橙色のツインテールの少女、黒色の学生服の青年。蓮太郎・延珠ペアが覚悟を決めた表情を浮かべて歩いてきた。

 

「覚悟は……言わなくて良いか」

 

「あぁ。行くぞゼツ」

 

「頑張ろうなゼツ!」

 

「うん」

 

 

  ◆

 

 

 軍隊が用意されたヘリコプター『ブラックホーク』に其々の民警の人たちが乗り込んでいく。その中、ゼツは蓮太郎と別行動に出た。

 急な別行動宣言に流石の蓮太郎も驚いたが、耳元に小さく「蓮太郎たちの傍にはミレニアモンが護衛させてりから」とだけ呟いてゼツは去っていった。

 目的はとある人物が乗り込んだ『ブラックホーク』だった。

 その人物を発見したが既にヘリコプラーに乗り込んだあとで、今にでも扉を閉めて飛び立とうとしていたのでゼツは待ったを掛けて無理矢理に乗り込んだ。

 急な子供が入ってきた事にヘリコプラーに入って待機していた民警の者たちは視線をゼツに向けるが、当の本人はそんなことお構いなしにある人物を発見した。

 

「見つけた」

 

「ゼツさん!?」

 

「クソガキ!?」

 

 とある人物とは将監・夏世ペアの2人だった。

 急な登場に流石の将監たちは驚きの表情を浮かべるがゼツはその様なことを気にせずに夏世の隣に座った。それと同時にヘリコプターは飛び立った。

 夏世はいそいそと髪を整えて服装を正し、隣に座ったゼツに質問する。「何故、こちらのヘリコプターに定席したんですか?」その質問にゼツはシンプルに答えた。

 

「心配だから。それじゃ駄目?」

 

「えっ、いえそう言う訳では……」

 

 真直ぐに瞳を見詰ながらゼツは答えたものなので、夏世は頬を染めて照れてしまい顔を俯いていしまう。すると、夏世の隣にいた将監の手がゼツを捉える。

 

「テメェはどうして、そう何度も俺様を無視して夏世と話に花咲かしてんだ?」

 

「いいじゃん。滅多に会えないんだし」

 

「あの不幸面のガキはいいのか?」

 

「それはもう一体に任せてある」

 

「どっちだ?」

 

「四本腕」

 

「アレか」

 

 将監の脳裏に浮かぶのは、機械の大砲を背負った四本腕の化物。

 あの化物ならステージⅣが出ても対抗出来るだろうと思いながら将監は手を離して踏ん反り返り、黙って座りなおした。

 どうやらこの場ではゼツにどうこう言う気は無いようだ。

 それが分かったゼツはそのまま夏世と話を続けた。

 

「夏世は緊張してない?」

 

「はい、大丈夫です。将監さんも居ますし」

 

「……頼りになる。この脳筋?」

 

 指差して述べるゼツ。その言葉を聞いた将監は鋭い眼光を向け、それに気付いた夏世は苦笑して誤魔化す。すると、ゼツが睨むような視線に気付いて隣に振向く。

 ウェーブのかかった金髪ツインテールにスレイブチョーカーや皮製ベスト等、スレた格好した"呪われた子供"。

 

「えっと、なに?」

 

 何故、睨まれているのか疑問を浮かべるゼツは問うと少女は更に眼光を強める。

 

「緊張感ないね。遊びじゃないんだよ」

 

「えっと、ご注意ありがとう?」

 

「バカにしてんのよ! 後、何で疑問系!?」

 

 怒り孕んだ顔を浮かべて怒鳴る金髪少女。

 流石のゼツも初対面にそうまで言われて何を言ったらいいのか分からず困惑していると、その少女の隣に座っている黒のカーゴパンツにフィールドジャケット、金色に染めた髪にサングラスをかけた男性が話しかけてきた。

 

「まっ落ち着けマイスウィート、肝が据わってるんだろ。または神経がイカレてるんだろ」

 

「イカレてるとは酷いね。お兄さん?」

 

 イカレていると言われて苦笑を浮かべながら男性に視線を向ける。

 格好が似ており互いに金髪、男性は少女をマイスウィートと呼ぶって事は兄妹なのだろうと憶測を浮かべるゼツに、男性は話を続けた。

 

「そうだろ。こんな大作戦にユーはヘラヘラしてらぁそう思われるだろ。家に帰ってママァの乳でも吸ってろ」

 

「ッ!」

 

 ママ、との単語に誰から見ても分かるようなガタッと反応を見せた。。

 表情を暗く影が射し、明らかに落ち込んでいる事が分かる。それを見た夏世は不思議に思いゼツの肩に手を置く。

 

「どうしたんですか?」

 

「……うんん。何でもないよ」

 

 無理をしている。誰から見ても分かる。

 それでも大丈夫と述べて視線を逸らしたゼツに、夏世は何も言わずに互いの間を埋めて取り添った。

 急な夏世の行動に驚くがゼツは振り払う事無くそのままの状態で維持し続けた。

 

「ケッ」

 

「兄貴ィ」

 

 急に落ち込み黙り込んでしまったゼツに居た堪れなくなった二人の兄妹、兄は両手を組んで頭後ろに置いて背中に凭れかかり妹はバツ悪そうに兄に近付いた。

 微妙な空気がヘリコプター内で続くと、アナウンスが流れた。

 

『目的地まで後五分です。民警の方々は準備して下さい』

 

 アナウンスを聞いた民警たちは思い思いの武器を持ち直して出動の準備をする。ゼツもまた、両頬を叩いて気合を入れて準備をする。

 ブラックホークはモノリス外『未踏査領域』、そのヘリコプターが降りられる開けた場所に着地すると、ハッチが開かれ次々と民警たちが出て行く。

 

「行くぞ夏世」

 

「はい。ゼツさん、後ほど」

 

「うん」

 

 大剣を背負った将監はヘリから降りて森奥にへと進んで行き、夏世も後を追っていく。

 金髪の兄妹も一度だけゼツに視線をくべた後はそのまま森に、最後にゼツがヘリから降りるとハッチを閉めて飛び立っていった。

 此処は既にモノリス外、何時までもヘリが現場に居続ければガストレアに襲われる危険性があるのだ。目的を果たしたらそそくさと飛び立つのは仕方ない事である。

 飛び立ったヘリを眺め、周囲に誰も居ない事を確認したゼツはディアボロモンを呼び寄せる。

 

「ディアボロモン、蛭子親子を探せ」

 

「ケケケッ」

 

 不気味に笑った後、暗き闇夜の空に飛び立って姿を消す。

 開けた場所、暗闇の森の中でゼツは一人で立っているとスマホが震えた。袖から出されたスマホを見ると画面にゼツを中心にマップが表示され、ディアボロモンのSDキャラがケケケッと笑ってある場所に指差していた。

 

「此処か……」

 

 スマホを袖に戻して目的地に向って歩き出した。

 だが、ここは未踏査領域。多くのガストレアの住みかであり、この様な場所で1人子供が歩いていれば……

 

「んっ」

 

 森奥から真紅の閃光が所々から放ち、ゼツを見詰るかのように発光している。

 その発光体がガストレアの赤目である事に気付いているゼツは一枚のカードを取り出した。取り出されたカードは二対の剣が描かれていた。

 

「顕現せよ『菊燐(きくりん)』」

 

 東洋のコンピュータで発見された信じ難い戦闘回数と戦績を持つ、グレイモン系の亜種である竜人型デジモン『ガイオウモン』の剣。

 具現化された菊燐の柄同士を合わせ弓状に変形させる。

 

「ゴメン。今、気が立ってるから」

 

 筒からバラニウム製の矢を取り出し番え、構えると矢に淡い光が灯る。そして、

 

「燐火撃」

 

 一斉に襲い掛かるガストレアに対して一条の閃光が放たれる。

 襲い掛かるガストレアは放たれた矢の閃光に飲まれていき、痛みを感じる事無く姿を掻き消される。

 

「さて、指示された場所に向おっか」

 

 合体させていた菊燐を解除して一気に森の中を駆け抜けていく。

 途中、襲い掛かるガストレアは通りしなに首を切り飛ばして突き進む。だが、倒せど倒せど絶え間なくガストレアは出現してくる。

 

「邪魔邪魔邪魔邪魔……邪魔だって!」

 

 夜行性のガストレアは絶え間なく四方八方から襲い掛かってくる。

 ゼツは気付いていなかったが、周囲に居たガストレアは直感的に危険な存在――ゼツ――を排除しようと襲っていた。

 襲い掛かるガストレアの所為で進むに進めないゼツはストレスが溜まっていき、そしてキレた。

 

「邪魔なんだってぇー!」

 

 一枚のカードを力強く空に投げ飛ばす。

 カードは発光、呼び出されたのはバイクだった。だが、それは普通のバイクではなかった。

 七つの大罪【暴食】を司る七大魔王の一柱・ベルゼブモン。そのデジモンの愛車と呼ぶべき意思を有した大型バイク型マシーン『ベヒーモス』である。

 ゼツはハンドルには一切に手を付けず、両手には菊燐を持ったままの状態で座席に座る。

 

「目的地までお願い」

 

 呼びかけられたベヒーモスはエンジンを吹かせて返事を返すと、後輪を一気に回転させて突き進む。

 その凄まじい速さ、前方の障害物など物ともせず粉砕していく。

 ガストレアたちは襲おうとする。だが後方から襲おうにも速すぎて追いつけず、前方からではベヒーモスが踏み潰し、横からではゼツが菊燐で切り裂かれていく。まさに動く要塞化したゼツは目的地に向って、文字道理一直線に突き進む。

 このまま一直線に進もうとした時であった。急な爆発音が夜の森を襲った。

 

「ッ!? ベヒーモス、あっち!」

 

 ブロロロッ、エンジンが吹くと同時に自動でハンドルが切られゼツが指差した方角に方向転換、爆発音がした場所に向う。

 進む事数分、見覚えのある後姿が見えた。

 

「筋肉達磨?」

 

「あぁ何でこんな場所でバイクが、てっテメェか!」

 

 大剣を背負った伊熊将監だった。

 既に先行してもっと奥に進んでいると思っていたが中盤あたりで立ち往生していた事に驚きながらもゼツは、傍に夏世が居ないことに気付いた。

 

「筋肉達磨、夏世はどうしたの?」

 

「夏世か。逸れた」

 

「何で?」

 

「ガストレアの畜生にしてやられた……」

 

 将監から聞かされた内容はこうだった。

 森奥からライトパターンが見え民警だと思い近付いたがガストレアだった為に、夏世は驚き手榴弾を投げてしまったのだという。その爆発音で周囲の眠っていたガストレアたちを起こしてしまい襲われ逃げ惑っていたら別れてしまった。

 

「夏世の奴は無事だと思うが……イルカの因子だからな。再生能力、そこまで優れてねぇのが欠点だ」

 

「何処に逃げたのか分からないの?」

 

「この暗い森の中で分かるかよ」

 

「まっそれも確かか……」

 

 この暗闇では別れてしまえば探すのは難しい。それに、四方八方からガストレアが襲ってくる可能性がある以上、下手に動けない。

 すると、将監の視線がバイクに向けられた。

 

「テメェ、豪華な物乗ってんな……」

 

「乗せないよ」

 

 ケッと唾を吐く将監は、無線機を使って夏世を呼び出すが返ってきたのは雑音のみであった。その雑音を聞いた舌打しながら眉間に皺を寄せる。

 

「おい、ガキィ。お前ならあの仮面野郎の居場所を知ってるか?」

 

「……ここに居るよ」

 

 マップ表示されたスマホを将監に見せた。

 それを見た将監は場所を確認した後、その場所に向って歩き出した。

 

「おい」

 

「んっ?」

 

 歩き出そうとする将監だが、一旦足を止めて視線だけをゼツに向ける。

 呼び掛けにゼツは返事を返す。

 

「夏世の事、頼めるか?」

 

「……急だね。そんなに心配なら自分が行けばいいのに」

 

「急がねぇと他所が仮面野郎を倒しちまうだろう。テメェならこの森中でも見つけられるだろう」

 

「はぁ~……正直じゃない人」

 

 愚痴を零したゼツはベヒーモスを降りてバイクを叩く。すると、ベヒーモスは独りでに進み将監の隣で停止する。独りでに動いた事に驚く将監だがゼツでは仕方ないと思いながら視線で「何だコレは」と訴える。

 

「使って良いよ。ただし約束して」

 

「何だ?」

 

「死ぬなよ」

 

「ヘッ、俺様が死ぬかよ。だが、コレは使わしてもらう」

 

 ベヒーモスに跨って乗る将監ではあったが、ゼツがあることを思い出し合掌する。

 

「それ気性荒いから気を付けてね」

 

「はっ? 気性が荒いってどういう意味だぁてっ、ウオオオォォォオオオォォォーーー……!」

 

 何かいけなかったのかベヒーモスは勝手に動き出して将監を振り落とす勢いで突き進み、叫ぶ将監の声がエコーするように森の中に消えていった。

 消えていった将監の後ろ姿を眺めた後、ゼツのスマホから一通のメールが届いた。

 

「何々、ミレニアモンか。えっ、夏世が蓮太郎に保護された?」

 

 メール文からは「蓮太郎・延珠ペア、負傷した夏世と遭遇」と書かれていた。

 その文を読んだゼツは急いでマップでミレニアモンが居るであろう場所を表示させる。此処から少し離れた場所に赤点滅が表示されていた。

 その場所に向ってゼツは走り出す。




皆さん、遅くなって申し訳ありません。執筆に凄く時間をかけてしまいました。

今回は室戸菫と片桐兄妹との出会いでした。片桐はアニメでも所々出てたので早めに会わせてみました。まっこの後はどうなるかはお楽しみに。
さて、ゼツ君が出したバイク《ベヒーモス》を乗り回してガストレアを踏み潰していきました。ガストレアざまぁwwww

さて、次回はいよいよ蛭子とのバトルですね。
頑張って一部を終わらせます。それで、一部と二部の間に数話程度ですが番外編を書こうと思います。
それもデジモン騒動系にしようと思います。まっ面白い話が出来れば良いのですが……。では、次回をお楽しみに!


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018

 未踏査領域。

 モノリス外、崩壊したビル郡や鬱蒼と茂った木々。人の手入れが施されていないアスファルトは亀裂が入り雑草が生茂っていた。

 そんな場所に爆音を上げながらライトで前方を照らし走る自動二輪が一台通り過ぎていく。

 

「うおおおぉぉぉおおおぉぉぉーーー!?」

 

 二輪に座っている将監は懸命にハンドルを握って振り落とされないように踏ん張って耐えていた。

 ブレーキを握ろうが反応せず、ハンドルは回しても反応を見せない。そこで、将監はつい先程別れたゼツの言葉を思い出した。

 

『気性が荒い』

 

 その言葉の意味、即ちこの自動二輪は普通ではない。

 合いも変わらず不思議にガキだと思う将監は、始めた会った事を思い出す。そして、それの原因で自身のことも思い浮かべた。

 あの子供と出会ってから将監は、自身の性格が徐々に変わっていく事に気付いていた。

 以前までは道具と思っていた夏世を気にかけるようになり、戦い方も少しだけ変化も見られた。

 自身の性格が変わることに恐怖はなく、逆にそれが心地よく思う時があった。あの子供が原因だと思うと癪に触れるが、今では感謝している部分もある。だが、それは決してガキには絶対に言わないと将監は心に誓った。

 

「たくっ、何時までも身勝手に動いてんじゃねぇーぞッ!」

 

 ガンッ。

 硬い拳がハンドル中央部分に振り下ろす。

 すると、今まで荒々しく暴れまわって走っていた自動二輪が大人しくなり目的地に向って一直線に進むようになった。

 

「ケッ、あのガキから渡された物だと思うと嫌になるがぁ……このバイクは気に入ったぜ!」

 

 アクセルを回すとエンジンが爆音を上げて速度を上げていく。

 速度を上げると上空から幾つものガストレアが襲い掛かる。襲い掛かるガストレアに将監は背負っていた大剣を片手で持って構えて振りかぶる。

 振り下ろされた大剣の刀身は一気に伸び、ガストレアを串刺しにして滅ぼしていく。

 

「本ッ当に癪だ」

 

 バラニウム製大型連結剣『アンサラー』。

 ゼツが扱っていたフラガラッハをモデルにして製作された試作品。完全にゼツを意識して生み出された武器ではあるが、未完成部分があり、更に将監は未だに連結剣を上手く扱えないでいた。

 

「待ってろよ仮面野郎ッ!」

 

 襲い掛かるガストレアを薙ぎ払いながら目的地に向って自動二輪を暗い森を走り抜けていった。

 将監がベヒーモスで蛭子影胤に向かっている一方、ゼツは暗闇に染まった森の中を走り抜けていた。すると、罅割れボロボロに壊れているトーチカをゼツは発見して、その建造物から灯りが点っていた。

 内部が灯されたトーチカ、その出入口より少し離れた場所に不貞腐れた表情を浮かべた延珠が胡坐をかいて座っていた。

 何故、不機嫌なんかゼツは分からずに聞いてみた。

 

「延珠ちゃん、何で不機嫌なの?」

 

「ゼツ、妾は夏世を認めんぞ!」

 

「はい?」

 

 何を何で認めないのか意味分からずにゼツは頭を傾げる。

 不思議に思っていたゼツに、延珠はゆっくりと視線をゼツに向けて驚きの顔を見せた。

 

「何故、ゼツが居るのだ?」

 

「今更だね」

 

 そんな問い掛けた疑問をゼツは説明した。

 将監と会い、夏世と逸れたと聞き、ミレニアモンから夏世が蓮太郎たちと合流したとメールで知り、この場所に向ったのだと。その説明を聞いた延珠は納得した顔を浮かべた。

 

「そうか。夏世なら建物の中に居るぞ」

 

「じゃっ失礼するね」

 

「うむ」

 

 延珠と分かれて松明で照らされたトーチカに入る。

 内部はボロボロで到底人間が住める場所に適していない空間、その中で蓮太郎と夏世の二人が座っていた。

 出入口に背を向けていた蓮太郎は気付いていないが、正面に向けている夏世は直ぐにゼツが入ってきた事に気付き、そして何故ここに居るのか分からずに不思議な表情を向けた。

 

「ゼツさん」

 

「えっゼツ?」

 

 急な登場に夏世はゼツの名前を呟く。

 その呟きが聞えた蓮太郎も驚きながら夏世が向けている視線の先を辿り、自然に目線を出入口に向けた。そして、そこにゼツが居る事に驚く。

 

「お前ッ、いつから!?」

 

「今だよ。夏世、無事なの?」

 

 蓮太郎の疑問に即座に答えたゼツは、そのまま建物内に入り夏世の傍に近付く。

 傍に近づいたゼツは屈むと夏世の腕に包帯が巻かれている事に気付き、視線を合わせる。

 

「怪我、したの?」

 

「あっはい。でも、蓮太郎さんが手当てをして下さいましたし。ガストレアに注入された体液も少量なので侵食率の上昇はありません。ご心配かけました」

 

「……そう、なら良いんだけど」

 

 現状を聞いたが未だに心配そうに見詰るゼツ、それを心苦しくなるも逆に嬉しくもなる夏世は頬を染める。そこで、夏世は逸れてしまった将監に会わなかったかゼツに問う。

 

「会ったよ。今、蛭子親子の所に向かってると思う」

 

「そうですか。無事なら良かったです」

 

 将監が無事であると聞かされた夏世は頬を綻ぶ。

 すると、無線機から雑音が混ざりながらも男の声が聞えた。

 

『お……よ。聞えてるか夏世!』

 

 雑音が無くなり男性の、将監の声がハッキリと聞こえ出した。

 夏世は急いで返事を返した。

 

「ご無事でしたか」

 

『当然だ。それより、そこにガキは居るか?』

 

「ガキ……ゼツさんですか?」

 

『そうだ。既にお前と合流してる筈だろう』

 

 無線機に向けていた視線を近くで聞き耳を立てていたゼツに向ける。

 視線を向けられたゼツは軽く頷く。

 

「はい。傍にいます」

 

『そうか。なら、そのガキと一緒に今からいうポイントに来い。他の民警どもが早まって特攻しやがった』

 

 それを聞かされた夏世たちは驚きの表情を浮かべた。

 蛭子影胤は元IP序列百桁台の実力者、並みの民警たちが束になって相手しても傷付けられる保障がない。

 

『俺様は少し離れた場所で待機している。ガキ連れてさっさと合流しろ』

 

「分かりました。直ぐに向います」

 

『それとだ』

 

「はい、何ですか。将監さん」

 

 無線を切って出発準備を取り掛かろうとするが将監が呼び止められ、無線機に耳を傾かせる夏世。だが、呼び止めるが将監はなかなか言い出さずに黙り込んでしまう。

 

「どうしたんですか?」

 

 急に黙り込んでしまった事に心配になり呼び掛ける。すると、少しどもった感じで将監は喋りだす。

 

『けっ……あ~……怪我、をだな……』

 

「怪我を負ったのですか?」

 

 なら急いで向わなければと思う夏世だが、それを待ったを将監はかける。

 

『いや、怪我はしてねぇ。あ~……おっお前は怪我、して……ないか』

 

「…………。はい、大丈夫です。心配、ありがとうございます」

 

 最初は何を言っているのか分からなかった夏世だが、意味を理解したとき自然と頬が上がり嬉しく思う。ぶっきらぼうではあるが、それでも心配してくれるだけでも嬉しく思う。

 

『そっそうか。ならいいいんだ、さっさと合流しろ!』

 

 そう述べた後、無理矢理な感じで通話を切った。

 夏世は持っている無線機を優しく抱きしめ、改めて心配してくれた将監に感謝の思いを心中で思う。

 

「アイツ、変わったな」

 

「本当だねぇ~」

 

 夏世を暖かく見詰ながらゼツと蓮太郎はそう呟いた。

 将監から指定されたポイントに向って進みだす三人。睡眠しているガストレアを起こさないように慎重に、時には迂回しながら目的地に向う。途中、夜行性ガストレアはミレニアモンとディアボロモンが一瞬にして首を両断していく。

 街までの直線には身を隠せる場所がないと判断した蓮太郎は、迂回ルートで向かい将監が指定したポイントに到着する。その場所では風に運ばれた潮の匂いが鼻腔を刺激する。

 指定されたポイントで待っていると急にライトに照らされた蓮太郎たち。腕で目元を隠して眩しくならないように照らしてくる光源に視線を向けると、そこにば自動二輪――ベヒーモス――が此方を照らしていた。

 

「おう。遅かったな」

 

「眩しいだけど?」

 

 愚痴るゼツ。その言葉に反応したのかベヒーモスはライトを消す。

 大剣を持った将監は蓮太郎たちに近寄ると、無人のベヒーモスは独りでに動きだす。その姿に蓮太郎たちは驚きの表情を浮かべる。

 

「おう。お前も居たか不幸面」

 

「不幸面じゃねぇ。里見蓮太郎だ。それより、そのバイク」

 

「ガキ関係の代物だといえば納得するだろ」

 

「すっげぇ~納得した」

 

「何故、そこで納得するかな」

 

 訝しげな視線を独りでに動く自動二輪に向ける。それに気に入らないのかエンジン音を吹かして威嚇するベヒーモス。

 この二輪は何だと質問する蓮太郎に、将監は呆れた顔を浮かべながらベヒーモスを撫でているゼツに視線を向けて戻して簡単に教えると、こちらも呆れた顔を浮かべながら蓮太郎は納得した。

 その勝手に簡単に納得して訝しげな視線を向ける二人にゼツは愚痴る。だが、

 

「「張本人は黙ってろ」」

 

 同じセリフを被りながらゼツに呆れ顔を向ける。

 それがショックだったゼツは傍で一緒にベヒーモスを触っている夏世に助けを求める。

 

「ひでぇ。慰めて下さいな夏世ちゃん」

 

「えっと、よしよし。これで良いですか?」

 

 夏世はどうしたら慰めれるか分からず簡単にゼツの頭を数回撫でる。

 ゼツのサラッとした綺麗に整えられた髪を触れた事にラッキーと夏世は思う。

 

「うん。凄く勇気でた」

 

「だ・か・ら。一々そうやって話しに華を咲かせるな!」

 

「折角、夏世が撫でた頭を鷲掴みしないでよ。臭いんだけど」

 

「以前と同じく、臭かねぇ!」

 

 頭を鷲掴みにして怒る将監、それを嫌な顔を浮ばせるゼツ。すると、遠くから銃声や雄叫びらしき声がその場にいる皆の耳に届いた。

 高台から町並みを眺める。他の建造物より少しだけ大きい白色の建物、教会らしき場所に火が照らされて銃を撃った際に起きる光も幾つも見られる。

 そして数分、銃撃と叫びが止んだ。

 

「どうなった?」

 

「……突撃した民警全員、死んだ」

 

 蓮太郎の疑問に傍に立っていたゼツが答えた。

 将監と合流した後、ゼツはディアボロモンに偵察・監視を命じていた。そして、その戦闘をスマホを通してゼツは見ていた。結果、特攻した民警たちは絶滅した。

 その報告を聞いた蓮太郎は苦虫を噛み締めた表情を浮かべる。

 

「あの馬鹿共、早まるなとは忠告はしてやったんだがな……」

 

「無駄みたいでしたね」

 

 目を瞑って溜息を吐く将監。

 そんな反応を見せた将監に夏世も悲しげな表情を見せる。

 

「蓮太郎、どうするのだ?」

 

 延珠の問いに蓮太郎は考えこむ。

 周囲には他の民警たちはいない。居たとしても合流するのに時間も掛かるし、協力して戦えるかと言えばNOとしか答えられない。

 現戦力でどこまで戦えるか、そして可能的速やかに『七星の遺産』を回収できるか。そう、色々と考えていた蓮太郎。だが、現状は一刻一刻と過ぎていた。

 

「おい。不幸面」

 

「だからぁ」

 

「話は後だ。後ろ見てみろ」

 

「えっ?」

 

 将監にまたしても不幸面と呼ばれてイラッとする連太郎は訂正しようとする。だが、将監は険しい表情を浮かべ視線を自身の後方に向けており、その表情をみた蓮太郎は自然と後ろを見て険しい顔を浮かべた。

 ゼツたちから後方、漆黒に包まれた森に赤き発光体がこちらに視線を向けていた。数にして約五十以上、その赤き発光体はまぎれもなくガストレアの赤目だった。

 

「誰かが此処で足止めが必要だな。不幸面、お前が仮面野郎の所にいけ」

 

「なっ何だよ急にそんな……」

 

 急に言われた困惑する蓮太郎。

 将監も狙いは仮面野郎こと蛭子影胤のはずだ。なのに何故、それを譲るように言ってくるのか分からず、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。

 だが、将監は一度だけ視線を蓮太郎にくべて言葉を続けた。

 

「因縁らしきもん、あるんだろ」

 

「ッ!?」

 

 因縁。

 確かに蓮太郎には蛭子影胤に浅からぬ因縁らしき物は存在した。だが、その様なことは一度も言っていないのに言い当てた将監に驚きの顔を浮かべる。

 逆に将監はあからさまな反応を見て「やっぱしな」と呟いた。

 

「早く行きやがれぇ。じゃねぇ~とここのガストレア全部潰した後、俺様が勝手に仮面野郎を倒しちまうぞ」

 

「行って下さい里見さん。ここは私と将監さんで食い止めます」

 

 夏世も先に蓮太郎を進ませるように述べる。それを聞いた蓮太郎は悔しげな表情を浮かべながら踵を返した。

 

「あの蛭子影胤を潰したら助けにいく。お前らも危なくなったら逃げろよ!」

 

「ハッ! さっさと行きやがれ。夏世、援護任せたぞ?」

 

「はい。将監さんには一つも手出しさせません」

 

 将監は大剣を取り出して構え、夏世も用意していた銃を構える。

 蓮太郎は傍にいる延珠とゼツに視線をくべる。

 

「行くぞ延珠、ゼツ!」

 

「了解なのだ!」

 

「分かった!」

 

 延珠の力強い返事、それを聞いた蓮太郎は恐怖を拭いて影胤が居るであろう教会にむかう。

 走り出した蓮太郎たちを追いかけようとするゼツだが一度だけ足を止めて後ろにいる夏世たちに視線をむけた。

 

「ミレニアモン、あの二人のサポート頼める?」

 

 ゼツの傍にミレニアモンが現れて低く唸る。それは大丈夫だという返事だと直ぐに理解したゼツはミレニアモンの頭部を優しく撫でる。

 

「宜しくね」

 

 それだけ述べてゼツは走り出すと、その隣にベヒーモスが追いかけてくる。

 ベヒーモスが追いかけるように走り出すのを横目でみてゼツは飛乗る。そして、アクセルを回すと爆音のようにエンジンが吼える。

 爆音上げながら走るベヒーモスはあっと言う間に先行して走っていった蓮太郎たちに追いつく。

 

「蓮太郎、延珠ちゃん。足じゃ遅い、こっち乗って!」

 

「ゼツ!? 分かった。延珠!」

 

「分かった!」

 

 ベヒーモスに座って運転しているゼツの後ろに蓮太郎が座り、その蓮太郎の腕の中に延珠が入りこむ。二人がベヒーモスに座ったことが分かったゼツは、一気にアクセルを回し、加速を上げていく。

 ベヒーモスを走り出して数分も経たずに街に入り、目的地である教会に目指す。

 すると、ベヒーモスが走っている整備されていない道路に何らかの影が見えた。それに反応したベヒーモスがゆっくりと停止して、その道路に落ちている物体の前で停止した。

 

「何だ?」

 

「……人の腕だ」

 

「ッ!」

 

 落ちていたのは人体の腕だけ。

 腕からは真紅の血溜りが出来ており、傷口は引き千切られた様な跡になっていた。すると、ベヒーモスは周囲にライトで照らしていく。

 驚愕の表情が張り付いた顔だけが転がっており、防衛省で見たことのあるイニシエーターとプロモーターも積み上げられており血溜りが出来ている。

 その地獄絵図の光景が教会前に広がっていた。

 ベヒーモスのライトは教会を照らして徐々に上にへと上がっていき、頭上の十字架に二人の影が見えた。

 

「パパァ、ホントに生きてた」

 

 頬を吊り上げて笑みを浮かべ赤目を蓮太郎たちに向ける小比奈。

 その小比奈の傍には燕尾服の袖を通して仮面を掛け、シルクハットを被る狂気の怪人・蛭子影胤。

 

「影胤。……ケースは、どこだ……ッ!?」

 

「来ると思っていたよ」

 

 仮面越しに見せる瞳がゼツたち三人を捉え、二挺拳銃を持って影胤は手を広げる。

 

「幕は近い。決着をつけよう、里見くんにゼツくん」

 

 

  ◆

 

 

 場所は変わって東京エリア第一区の作戦本部、日本国家安全保障会議。その場所では、蓮太郎たちと蛭子親子の対峙を高度八百メートルから偵察飛行無人機から見下ろした映像をモニターにてリアルタイムで映し出されていた。

 その会議室の者たちは静まり返ってモニターに視線を釘付けになっていた。

 長椅子に座っている内閣官房長官や防衛大臣たちは表情を青褪めながら周囲の者達をちらみしていた。

 つい先ほどまで十四組、計二十八名の民警たちに蛭子影胤に挑みて返り討ちにあった映像を見たばかりである。

 現在、二組と一名の五名が対峙して戦闘開始を待っている映像が上空から俯瞰して映っていた。

 

「現在、付近に他の民警は?」

 

「一番近いペアでも、到着までに一時間以上はかかるかと」

 

 聖天子の問いに防衛大臣が答える。

 防衛大臣は困った顔をしてハンカチを使って額に浮かんだ汗を拭取る。

 芳しくない答えを聞いた聖天子はゆっくりと視線を隣で巌のような顔を浮かべている天童菊之丞に向けた。

 

「聖天子様、ご決断を」

 

「では――」

 

 聖天子は黙考した後、席を立ち上がって決断を述べようとする。だが、それは会議室の外に立たせていた護衛官が動揺して声荒げているのが聞えた。

 そして、ルームの扉が開かれて数名の人間がなだれ込み、先頭にいる少女に聖天子は驚きの顔を浮かべた。

 

「何事です!」

 

 先頭に立つ少女、天童民間警備会社社長、天童木更は肩で風を切りながら、部屋の中を横切ると居並ぶ面々に一枚の紙を突きつける。

 紙にはサークルが引かれており、サークル外側に寄せ書きのように直筆の名前と判が押してある。

 聖天子はその紙を覗き込んで思わず息を飲んだ。傘連判だ。百姓一揆の固い団結を約束すると同時に、首謀者を隠すために円状にしたものだ。

 周囲の視線が自然と、無数の名前の中から一点――防衛大臣の名前に集められる。その大臣の名前を見た周囲の他の高官たちはその人物から後ずさる。

 

「ご機嫌麗しゅう。轡田大臣」

 

「こ、これはなんの冗談だ!」

 

「あなたの部下が面白いものを持っていまして、その連判状に書かれている通りです。あなたは蛭子影胤の背後で暗躍した張本人、そして七星の遺産を盗みださせ、マスコミにリークしようとしていた」

 

「そんな馬鹿な……」

 

「直筆で傘連判、古風なことをなさるおかげで計画に加担した人間を一斉検挙できそうです」

 

 聖天子は目を細めながら、これ以上黙って木更の行動を黙認することができなかった。

 

「この室内は国防を担うべく置かれた超法規的な場です。土足で踏み込まれては困ります」

 

「そうだ。貴様は所詮薄汚い民警のイヌにすぎん! どこで手に入れてかは知らんがとっとと失せろ!」

 

 聖天子の尻馬に乗って大臣が吼えるが、木更は涼しい顔で聞き流す。

 

「聖天子様の仰ること、我が意を得た思いです。しかしこの事実を知って、一刻も早くお知らせねばと居ても立っても居られず馳せ参じた次第です。聖天子様もスパイが居ては落ち着いて議事を進められないのではないでしょうか?」

 

 上手い弁を使う。聖天子は菊之丞に合図を送る。菊之丞は冷ややかな大臣を見る。

 

「連れていけ」

 

「そ、そんな……。天童閣下ッ。私はッ――私はああああああッ!」

 

 護衛官に両脇を抑えられながら大臣は室内の外に連れ出されていった。

 連れ出されていった大臣を見送った木更は頭を下げて去ろうとする。

 

「私もこれで失礼します」

 

「それはいけません」

 

 踵を返そうとする木更は動きを止めて、半分だけ振り返る。

 

「仰りますと?」

 

「この作戦が終了するまで、あなたをこの建物から出すわけには参りません。この部屋で監禁させてもらいます」

 

 木更は少しだけ考える。

 

「ならば仕方ありませんね」

 

「木更よ……よくもここに顔を出せたな」

 

 怒気を露にしかけた菊之丞に、木更は泰然と微笑む。

 

「ご機嫌麗しゅう、天童閣下」

 

「地獄から舞い戻ってきたか」

 

「枕元に這い回るゴキブリを排除しにきただけです。ここに居合わせたのは偶然にすぎません。気の回しすぎではございませんか?」

 

「そのような戯れ言を……」

 

 菊之丞、木更の二人の冷たい視線が衝突させて火花を散らす。

 

「天童はすべて死ななければなりません、天童閣下」

 

「貴様……」

 

 祖父と孫、その家族の温かみは一切無く、険悪な空気を生み出した二人に聖天子は額に汗を浮ば生きた心地がしない。

 

「二人ともその辺で。天童社長、モニターを見たならある程度状況は把握しておいでのはず。意見を聞いてよろしいですか?」

 

 




遅くなって申し訳ありません。
お盆の後、色々と立て込んでいて投稿できませんでした。次も頑張って投稿したいと思うのですが、次も遅くなる恐れがあります。
一週間以内には投稿したいと思いますので宜しくお願いします。

今回は、将監の強化、ガストレア足止めは将監ペア、会議室内の色々でした。
将監が使ったアンサラーはフラガラッハの英名です。ゼツが以前使ったフラガラッハを意識して作った武器としています。

後はアニメでは尺の都合上省かれた会議室内の色々なやりとりでした。
今回は中途半端に終わらせてしまいましたが、この辺りじゃないと止めあれないのであえて此処で止めました。

では、次回も頑張って投稿しますので宜しくです。


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019

 騒動が一旦止んだ日本国家安全保障会議。

 モニターには蓮太郎たちと影胤たちが対峙する映像が映し出されている。

 

「天童社長、里見ペア及びゼツ君の勝率はいかほどですか?」

 

 聖天子の問いに木更は冷静に答えた。

 

「私の期待を勝率を加味して良いなら。勝ちます。――絶対に」

 

 その答えに周囲の高官たちは小馬鹿したような反応をした。

 

「はぁ! 相手は『新人類創造計画』の生き残りだぞ。社員の強さを信じたい気持ちはわからなくはないが。勝てるはずがない!」

 

「十年前、私の家にガストレアが侵入して父と母を食い殺されました。私はその時のストレスで腎臓の機能がほぼ停止しています。その時、里見蓮太郎は私を庇って右腕、右足、左目をガストレアに奪われました。瀕死の彼が運び込まれたのはセクション二十二、執刀医は室戸菫」

 

 急に自身の過去を語りだす木更、そして最後に出てきた名前に周囲の高官たちは驚きの表情へと変貌した。

 

「室戸菫……まっ、まさか!?」

 

 

  ◆

 

 

 場所は変わりモノリス外『未踏査領域』、その港らしき町の教会に一触即発の雰囲気を醸し出されていた。

 険しい表情を浮かべて額に汗を浮ばせる蓮太郎、それに感化されて緊張で体を強張らせる延珠、それらの二人を後ろに教会の屋根上の人物を睨むゼツ。

 現れた三人を見下ろす仮面にシルクハットと燕尾服を袖を通しだ蛭子影胤、バラニウム特有の黒い刀身の二振りの刀を携える蛭子小比奈。

 

「君はケースを取り戻せない。何故なら、私たちが立ちはだかっているからだ!」

 

 教会の屋根の上に立っていた蛭子親子は地に降り立ちて勝利宣言を述べた。

 

「二度の敗北、仲間の全滅。あぁ、願ってもない状況だこの野郎ッ!」

 

 気合の入った雄叫びとともに蓮太郎は拳を上げた身構える。

 

「貴様を排除する!」

 

 蓮太郎の身構えに影胤は不適な微笑を浮かべて指を鳴らす。不可視の斥力空間『イマジナリー・ギミック』が影胤を中心に展開される。

 

「――天童式戦闘術一の型三番ッ、『轆轤鹿伏鬼(ろくろかぶと)』ッ!」

 

 弾丸の如く、蓮太郎は地を蹴り回転しながら影胤に向って鋭い拳を放つ。その拳はイマジナリー・ギミックによって防がれる。

 だが、蓮太郎は防ぎられようとも一歩も引かずに更に拳に力を込めて雄叫びを叫ぶ。すると、放たれた腕の尺骨神経部分から黄金色の空薬莢が弾き飛ぶ。

 空薬莢が弾け飛ぶと同時に、火薬の爆発力による推進力を得た拳は凄まじい程の威力を備えてイマジナリー・ギミックを打ち破り、影胤の顔を殴りつける。

 

「イマジナリー・ギミックを破っただと!?」

 

 ありえない威力の拳に影胤は初めて焦りを覚える。

 強烈な拳を放った蓮太郎に視線を向け、影胤は更に驚く。

 蓮太郎の右腕と右足の青白く燃えて機械の義肢が顕になり、左目には機械仕掛けの瞳孔が動く。

 

「バラニウム製の義肢、だと……? 里見くん、まさか君も」

 

「俺も名乗るぞ影胤。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』里見蓮太郎」

 

 バラニウム製の義肢を見た影胤は、やっとこの時に自身が里見蓮太郎を気に入ったのかを理解した。自身と同じ存在、その同じ存在が惹かれ合ったんだと。

 全てを理解した影胤は笑う。

 

「……クク、ハハハ、フハハハハッ。うぐっ、私は痛い、私は生きている、素晴らしきかな人生、ハレルゥ~ヤァッ!」

 

 生きている事に実感を覚え、影胤も叫ぶ。

 すると、父親である影胤にダメージを与えられた事に怒りを覚えた小比奈は、初めてそこで憤怒の表情を浮かべて突っ込んできた。

 

「パパァをいじめるなああああッ!」

 

 振り下ろしてくる二振りの刀、それらは影胤を攻撃した蓮太郎に振り下ろされる。だが、その一撃を同じく二振りの剣で受け止めて弾き返す。その影の正体はゼツだった。

 

「小比奈ちゃん、悪いけど相手は自分だよ。蓮太郎、影胤は任せた」

 

「大丈夫か?」

 

「さっさと因縁終わらして来い」

 

 心配そうに見詰る蓮太郎は微笑を見せるゼツは二振りの剣『菊燐』を構える。

 蓮太郎と延珠は影胤に向って突貫する。先手を打ったのは延珠だった。

 ラビットの因子を持つ延珠の岩砕く蹴り技、その一撃はガストレアを一瞬にして肉片に出来る。その鋭い一撃を影胤は二挺拳銃『スパンキング・ソドミー』と『サイケデリック・ゴスペル』をクロスして止め、後方に下がった延珠を狙って発砲する。だが、発砲された弾丸をバック回転して回避して避ける。

 狙われる延珠、それを援護するように影胤に向かって蓮太郎は拳銃の弾丸を放つが、あたる寸前で影胤は避けられる。

 一方、ゼツは小比奈と鋭い剣舞を舞っていた。

 互いに持つのは二刀流。その特性は瞬きもする暇が無いほどの連続攻撃、互いに強弱の斬戟を組み合わせながら隙を窺う。

 

「ゼツ、今は邪魔ッ!」

 

「ゴメンね。でも、手出しはさせない!」

 

 父親である影胤を助けたい気持ちが一杯でゼツとの戦いに集中出来ない小比奈は見て明らかに焦っていた。だが、その焦りをゼツは見逃すわけもなく一瞬の隙が見えた瞬間に小比奈に鋭い斬戟を放つ。

 相手の命を刈り取るほどの鋭い一撃を前髪を散らしながら回避した小比奈は渋った表情を浮かべる。すると、海辺に放置されていた貨物船らしき廃棄船から影胤と蓮太郎の会話の声が聞えた。

 

「我々は殺す為に作られた。ガストレア戦争が始まれば、我々の存在意義が証明される」

 

「まさか貴様、そのために」

 

「君のイニシエーターが"呪われた子供たち"だと露見したとき周りの反応はどうだった? 祝福されたか? 鳴りやまぬ歓声に心は洗われたか?」

 

 蓮太郎が蛭子親子に二度目の敗北を決した少し前、延珠は学校に登校したときであった。

 小学校の生徒達に延珠を"呪われた子供たち"であると噂で知っており以前はクラスメートたちだった子供たちは一斉にガストレア扱いされて罵声を浴びせられていた。

 影胤の事実を突きつけられた蓮太郎は、苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 

「彼らと我々の望む世界は違うのだよ。我々は選ばれた者……さぁ、私と共に来い!」

 

「ザケンじゃねぇクソ野郎ッ! 貴様が語る未来ッ、断じて許容出来ねぇ!」

 

 蓮太郎は雄叫びを上げる、すると蛭子影胤の死角から黄色のコートを着ている延珠が強烈な蹴りを放たれた。だが、影胤はその一撃に気付いてイマジナリィ・ギミックの斥力場を展開して攻撃した延珠を弾き返した。

 蹴りとしての一撃を全て返され、逆に強烈な一撃を貰った延珠は苦痛の声をもらす。予想以上にダメージを受けた延珠、その隙を影胤は見逃さずサイケデリック・ゴスペルの銃口を向ける。

 それを見ていた蓮太郎は助けるために一気に駆け出して延珠を助けようとする。そして、サイケデリック・ゴスペルの弾丸は放たれ延珠を襲おうとするが、命狩る弾丸は全て蓮太郎のバラニウム製義肢で受け止めて弾く。だが、それは影胤の前には大きすぎる隙だった。

 延珠を狙われた弾丸を受止めるために人体に急所である頭部や心臓を守るために視線を腕で遮ってしまう蓮太郎は、一瞬だが影胤に視線を逸らしてしまう。

 

「従えないのなら。死ねぇッ!」

 

 一瞬にして近付いた影胤は腕を伸ばして蓮太郎の腹部に掌を当てる。それと同時に蓮太郎の腹部に強烈な一撃が放たれた。

 見えぬ不可視の大砲の弾丸でも腹部を突き破ったのかと錯覚してしまう一撃に蓮太郎は吐血しながら吹き飛ばされる。

 掌から圧縮された斥力を槍状に放出させて目標を貫通させる『エンドレス・スクリーム』と呼ばれる影胤の技である。だが、蓮太郎がその技を知る余地もなかった。

 

「そ、ん……な……」

 

 予想外の一撃に思考停止してしまう蓮太郎は着地には成功するも、そのまま両膝を崩してしまう。

 打ち抜かれた腹部から大量の血が流れ落ちる。あまりにも致命的な一撃、このままの状態では戦う前に出血多量で助からない。

 

「君の、負けだ」

 

 流血を止める為の手立てもない。薄れゆく意識の中、蓮太郎は勝ち誇る影胤の声を聞きながら重たくなる目蓋を閉じない為に耐える。すると、遠くから聞き覚えのある声が聞えた蓮太郎は、ほんの少しだけ意識を取り留めて視線を前に向ける。

 そこには狂うほどに愛おしい家族である延珠がいた。赤目に染まった瞳には滂沱と涙を流しながら蓮太郎に手を流して叫んだ。

 

「蓮太郎、妾を一人にしないでくれ!」

 

 その切実な声。それともう一つの叫びが蓮太郎の落ちゆく意識を止めた。

 

「立て! 守るのであろう、家族を!」

 

 ゼツの叫び声。

 少し前のにゼツとの約束を思い出す。

 落ちる意識を耐え、蓮太郎は懐から数本の注射器を取りだした。

 それは、蛭子影胤に討伐前に担当医である室戸菫から渡された試験薬である。

 『AVG試験薬』。

 ガストレアウィルスによって精製された、ガストレアの再生能力を人間に与える。だが、二割の確率でガストレア化してしまう危険な薬品である。室戸菫が選別として渡したが、使う事をオススメしなかった。

 この危機的状況を打開するため、ガストレア化の危険を冒す覚悟で蓮太郎はAVG試験薬の注射器を全て腹部に突き刺して注入する。

 

「ッヅ、――あああああああああッッッ!」

 

 凄まじい程の激痛に蓮太郎は雄叫びを上げる。

 体が熱く、頭痛や嘔吐、身体中に不快感が襲われる蓮太郎。瞳はガストレア特有の赤目が点滅している。だが、傷付けられた腹部の凄まじい程に再生を開始される。

 

「里見くん、君は一体……」

 

 怪我の再生、凶眼を向ける蓮太郎の姿に影胤は凍りつく。

 蓮太郎は小さく「賭けに勝ったぞ」と呟いた後、天童式戦闘術『水天一碧の構え』をとる。構えた後、蓮太郎は義肢の足のブーストを吹かして一気に影胤に突っ込む。

 

「天童式戦闘術一の型十五番ッ――」

 

 回転した蓮太郎は義肢の右腕の拳を放とうとする。急な反撃に影胤は凍りついた意思を動かしてイマジナリィ・ギミックを展開して防御しようとする。

 

「――雲嶺毘湖鯉鮒(うえびこりゅう)!」

 

 蓮太郎の拳、影胤の盾、その二つが衝突する。

 互いに凄まじい衝撃が襲われる。だが、蓮太郎は引き下がらず義肢の腕から空薬莢が吹き出て豪腕の火薬の推進力が加わる。それも一度ではなく何度も火薬の推進力を加えていき、陰胤のイマジナリィ・ギミックが悲鳴を上げていく。

 そして、斥力フィールド・イマジナリィ・ギミックが打ち破られた。

 打ち破った蓮太郎はそのまま影胤を顎に目掛けてアッパーで打上げ、浮き上がった影胤に向って蓮太郎は足のスラスターを吹かして同じ高度まで飛び上がる。

 同じ高度に達した蓮太郎は身体を半回転、頭を下にしながら脚部の薬莢をふかす。

 

「天童式戦闘術二の型十一番――」

 

 脚部のスラスターは凄まじい程に吹かされ力が加えられる。

 半回転する蓮太郎と影胤の目が合う。影胤は諦めたように居富を浮ばせる。

 

「そうか……私は君に、負けた、のか――」

 

 蓮太郎、乾坤一擲。

 

「『陰禅・哭汀・全弾撃発(アンリミテット・バースト)』ッ!――――墜ちろよッ!」

 

 振り下ろされた一撃は仮面を砕き、下に影胤を海に叩き落す。

 落とされた影胤は水柱を上げながら海中の中に沈んでいく。ゼツとの戦いから退けてた小比奈は海に沈んだ影胤に向って手を伸ばし悲しげに呟く。

 

「そんな……パパァ、パパァァ」

 

「……小比奈、ちゃんッ」

 

 悲しげに絶望な表情で涙を流す小比奈にゼツは伸ばそうとする手を止めた。東京エリアを救うためとは言え、彼女の実の父を殺す手伝いをしたのだ。

 ゼツは何も言わずに踵を返した。

 延珠は喜びの表情を浮かべながら蓮太郎に抱き付く。その姿を見詰ながら今の勝利を噛み締めていたゼツだが、肌にざわつく感覚に襲われた。

 すると、蓮太郎のスマホに一通の着信が届く。

 

『生きてるみたいね、里見くん』

 

 相手が誰なのか直ぐに分かった蓮太郎は熱い涙に襲われる。

 

「終わったよ。約束通り勝ったぜ木更さん」

 

『見てた。でも君に一つ、悪いニュースを伝えなきゃいけないわ』

 

「悪いニュース……?」

 

『落ち着いて聞いて――ステージⅤのガストレアが姿を現したわ』

 

「えっ?」

 

 

 絶望の知らせに蓮太郎は唖然としてしまい、先ほどの木更が知らせた意味が解らなくなる。決死の覚悟でやっと元凶である蛭子ペアを撃退したのに、手遅れとなり止められなかった。

 蓮太郎はこの世の終わりの顔を浮かべる。

 

「お終いなのか? 東京エリアは助からねぇのかよ?」

 

『まだ終わらせない! 私の作戦、聖天子様からお許しを頂いたわ。答えは君から見て南東方向にある』

 

「……天の梯子」

 

 蓮太郎と延珠、そしてゼツの視線の先には天高く聳える矛が鎮座されていた。

 線形超電磁投射装置――直径八百ミリ以下の金属飛翔体を亜光速まで加速して撃ちだすレールガンモジュール。通称『天の梯子』。

 ガストレア大戦末期に作られた遺物だが、陣地放棄のために一度たりとも試運転されずに放棄された超巨大兵器。

 

『あなたたちが目標地点に一番近いわ。時間がないの、君がやるのよ、里見くん』

 

 それを聞かされた蓮太郎たちが急いで向った。だが、それに合わせたかのように周囲のガストレアたちが一斉に襲い掛かる。

 数はザッと二桁は越えており最低でもステージⅢ以上のガストレアの群れ。この場で足止めなどされていればゾディアックが東京エリアを破壊尽くしてしまう。そう判断したゼツは『天の梯子』に向っていた足を止めて踵を返した。

 

「ゼツッ!?」

 

「ゼツ、お主なにを!?」

 

 反転して襲い掛かるガストレアたちに向いて身構えるゼツに、二人は焦りの顔を浮ばせるがゼツは袖の中から一枚のカードを蓮太郎に向けて投げた。

 投げられたカードを蓮太郎は慌てながらもキャッチする。

 

「行って。足止めは自分がする」

 

「だがッ!?」

 

「もたもたするなッ! 東京エリアを滅びしたいのか!?」

 

「ッ!」

 

 蓮太郎たちには視線を向けずに迫ってくるガストレアたちを睨むゼツは怒鳴る。その怒鳴り声で蓮太郎は身体をビクッと震わせ、ゼツに向けていた視線を『天の梯子』に戻した。

 

「行くぞ。延珠」

 

「蓮太郎、良いのか?」

 

「俺たちが早く『天の梯子』を起動させなければ東京エリアが大絶滅する恐れがあるんだ。だったら、俺たちがするのは只一つ、ゾディアックガストレアをさっさと倒してゼツを助けぬ向うだけ。……ゼツッ、死ぬなよ!」

 

「心得ている。……行って!」

 

 ゼツの言葉を合図に蓮太郎たちは『天の梯子』に向って走り出す。だが、それを追いかけようとするガストレアが居た。

 

「止めろディアボロモン」

 

「ケケケッ!」

 

 収縮自在の腕が伸び、真紅に染まった鍵爪が追いかけようとするガストレアを狩る。狩り終えたディアボロモンはゼツの背後に下りて不気味に笑う。

 狩り終えたことを確認したゼツはスマホから二挺拳銃を取り出した。

 

「さぁ、狩りの時間だ。ガストレアども、デジモンの力、その身に刻んで逝けッ!」

 

 ショットガン型「ベレンヘーナ」。

 究極体、魔王型、七大魔王《暴食》を司るデジモンである『ベルゼブモン』の愛銃である。その一撃は並みの成熟期では抗う事も出来ずにデータの塵にしてしまう威力を備わっている拳銃だった。

 引金(トリガー)を引いて、銃口から弾丸を火を噴かせてガストレアたちを葬り、ディアボロモンと共に突貫した。

 

 

  ◆

 

 

 迫ってくるガストレアの群れをゼツに任せた蓮太郎たちは、レールガンモジュール内部に入って携帯から送信された内部構造マップを見ながら地下二階の中央電算室に向った。

 内部は入り組んではいたものの目的地に漸く到着した蓮太郎はドーム状に広がる室内で中央コントロールパネルの前の椅子に座って携帯のパネルを外部接続させた。

 パスワード入力を求められるも携帯から聞える木更の指示道理にパスワードを入力していくとリンク完了の文字が浮かび上がった。

 

『地下に埋設された無人変電所からの電力供給は異常なし、送電網にも異常はみられない。液体ヘリウム保存用のデュワー瓶も異常なし。いけるわ。発射シークレントはすべてこっちで行います』

 

 木更からの言葉を聞いた蓮太郎は深い溜息を吐いて椅子の背凭れに全身の体重を乗せた。その隣で一緒に聞いていた延珠は呆れた表情を浮かべていた。

 

「後は見ているだけでいいのか?」

 

「……やれって言われても出来ねぇよ」

 

 そんな会話をしていた二人、するとレールガンモジュールが大きく揺れて動き出した。

 レールガンモジュールの矛先が徐々に下がっていき、固定していたワイヤーが数本ほど切れる。そして、矛先は東京エリアに向けられ主モニタにズームされた映像が映っていた。

 

「あれが、ステージⅤなのか?」

 

「……ステージⅤ、またの名はゾディアックガストレア・スコーピオン。十年前、世界を無茶苦茶にした一体だよ」

 

 映し出された映像を見て延珠は額に冷汗を浮かべる。蓮太郎もまた、その恐ろしい姿に険しい表情を浮かべていた。

 黒茶けたひび割れた肌は疱瘡にかかったようにイボだらけになり、そこから突起状の物体が生えている。計八本の逆トゲが生えた鎌状の異形の物体が首、頭、右目と場所を選ばず体を突き破って伸びていた。

 頭部は異常なまでに肥大しており、クチバシ状の湾曲した物体が口元にみゅっと突きだしている。残った左目は悲しいほど小さい。

 二足歩行で歩くおぞましい姿が映し出されていた。

 

『不味いは里見くん、チャンバー部に異常を伝える表示が出てる』

 

 携帯から焦りを思わせる木更の声を聞いた蓮太郎は慌てながら意味を聞く。

 

「どういう事だよ!?」

 

『もしかしたらバラニウム徹甲弾が装填されてないのかも!』

 

 意味を聞かされた蓮太郎は驚きと焦りで一瞬、思考が停止しそうになる。だが、直ぐに思考を切り替えた蓮太郎は延珠と共にチャンバー部に向って走り出した。

 チャンバー部に到着すると、内部では赤く点滅してエラーを知らせるアラームが鳴り響いていた。

 そして、主モニタには弾丸が無いと表示されたいた。

 

「クソッ! 撃つ出す弾丸がない!」

 

「どうする蓮太郎ッ!?」

 

 焦り悔しがる蓮太郎の姿に延珠も何をしていいのか焦る。

 だが、更に最悪の状況が蓮太郎たちを襲った。

 

『磁場の影響で……里見くん、遠隔入力を受け付けないの…………里見くん』

 

 雑音交じりの木更の声、その言っている内容を理解した蓮太郎はどうすれば良いのか焦りながら視線をある場所に向けた。

 自身の右腕。超バラニウム製と呼ばれる特殊混合金属。これなら弾丸にしても申し分ない。

 蓮太郎は右腕の三頭筋部分のボタンを探し当て、そのボタンを押すと仮定していたロックが解除され、腕を逆時計周りに回して右腕を引き抜こうとする。

 傍で見ていた延珠は不安そうに見詰ながら、蓮太郎が何をしようとしているのか理解した。

 

「蓮太郎。まさか、お主」

 

 本来なら神経などの接続を解除しなければ引き千切られた痛みもダイレクトに蓮太郎を襲うのだが、神経接続を解除する施設もなければ時間もなかった。

 そのまま神経が接続されたまま右腕を引き抜く。

 予想以上の痛みに蓮太郎は声を荒げる。だが、激痛に耐えている暇などなかった。

 

「俺の右腕を弾丸に使う。超バラニウムなら問題ないはずだ!」

 

 蓮太郎は超バラニウムの右腕をコンパネの横にあるユニバーサルボルトに入れて閉鎖ボタンを押す。電子音から『バラニウム装填完了』のアナウンスが流れた。

 蓮太郎は痛む右腕を抱えながら中央電算室に戻る。

 すでに木更から遠隔操作が出来ないと連絡を聞いていた蓮太郎は主モニタ前の椅子に座り操縦桿らしきデバイスが出ており引金があった。

 意を決して操縦桿を握ると、腕と身体を固定するものが出てきて蓮太郎を固定した。

 

「距離50キロの目標に、手動で当てっのか」

 

 狙撃では一キロさきの目標を当てれば神業と呼ばれる。例え目標が巨大であろうとも当てれる確率など一%もないだろう。

 拳銃を使う蓮太郎はその事を良く知っており額に汗を浮ばせパネルに映し出されているゾディアック・スコーピオン。

 ゾディアックと自衛隊の攻防。だが、どれほど弾道弾ミサイルを撃ち込もうとも強烈な再生能力の前では歯が立たず、触手鎌で一瞬にして周囲を切り裂いて破壊していく。

 急がねば東京エリアが、そう思いながらパネルを睨み続ける。そして、

 

「駄目だ…………やれない、俺は…………」

 

 逃げ出したい気持ちで一杯になる。すると、蓮太郎の左手に小さい暖かな温もりに伝わる。隣には延珠がおり、優しさに満ちた微笑を浮かべていた。

 

「蓮太郎、妾がいる」

 

「外したら、俺らは終わりだ」

 

「当たるに決まっている」

 

「弾丸が東京エリアに逸れて、未曾有の大災厄を齎すかもしれない」

 

「でも、蓮太郎なら当てる」

 

「……延珠」

 

 延珠はゆっくりと蓮太郎に近付き優しく抱擁する。

 

「蓮太郎だけが世界を救える。……他の誰でもない、蓮太郎だけが」

 

 延珠の暖かな温もりが蓮太郎を包んでいく。焦りや不安で押し潰されそうだった心は落ち着きを取り戻し、苦しかった呼吸も落ち着いていた。

 大きく深呼吸して精神を落ち着かせる。

 

「延珠、俺は絶対にお前を失いたくない」

 

「今のはプロポーズ的な解釈で良いのか?」

 

「アホか。今のは家族的な解釈をしろ。十歳のガキが愛を語るんじゃねぇよ」

 

「もう、怖くはないな?」

 

「あぁ、終わりにするぞ」

 

 二人でパネルを見詰、そして眩い光が世界を包んだ。

 




本来なら影胤相手はデジモンにしようかと迷いましたが原作どうりにしました。じゃないと蓮太郎の覚悟やら延珠の涙シーンが再現できない。
基本的には原作通りに進ませましたが、最後にゼツが蓮太郎に何かを渡しましたが、これが何なのかは次回で分かると思います。

さて、まずお詫び申し上げます。
投稿出来なくてごめんなさい。少しずつは執筆してましたが全然出来なくて、途中投げ捨てようかとしてました。
それでも感想なので続きを読みたいとリクエストなどが書かれており、頑張ってヤル気メーターを上げて執筆を続けています。
実際にはリアルで時間が取れないのも理由ですかね。

頑張って一部だけでも終わらせます。
次は二部の間に以前言ってあったデジモン編を書きたいと思います。
後、コレは未だに決まっていないのですがティナちゃんを蓮太郎の嫁にするかゼツのヒロイン候補で迷ってます。どっちがいいか感想などで教えて下さい。
では、次回も頑張って執筆します。では!


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020

 蓮太郎たちがレールガンモジュールを使ってゾディアックを撃破した時刻、蓮太郎たちと分かれた伊熊ペアたちはガストレアを全て葬り、ゆっくりまったり休んでいた。

 将監たち周辺はガストレアの亡骸の山が積み重なり、大地はガストレアの血で染まっていた。そんな中にシートを広げ、弁当箱を開けて将監たちは食事をしていた。

 

「将監さん、お茶とお握りです」

 

「おう」

 

 片手にお握りを一口ぱくっと食べ、夏世から渡してくるお茶が注がれ湯気が立つマグカップを将監は受け取ってズズゥと一口飲む。

 お茶の苦味が口内に広がり眠気が引いていくなか、夏世は申し訳ない表情を浮かべて将監を見詰ていた。

 

「でも、良かったんですか? 助けに向かわなくて?」

 

「別に良いだろう。あのデカ物が動くって事はそういうことなんだろう」

 

 レールガンモジュールが動き出し、白き閃光を見届けた将監はある程度の事態の状況を把握して、隣に座っている夏世も同じく把握していた。

 何らかの方法で蛭子ペアを撃退。だが、肝心のゾディアック召喚を阻止できなかった為、レールガンモジュールを使って撃破した。

 撃ち終えた『天の梯子』を詰まらなそうに見詰る将監は、空になったマグカップを夏世に渡してお代わりを要求する。

 

「夏世、茶お代わり」

 

「はい」

 

 空になったマグカップを受け取った夏世は、水筒を取り出してマグカップにお茶を注ぐ。注がれていくマグカップに緑茶の良い匂いが二人の鼻腔を刺激、ガストレアで戦って荒れていた精神が落ち着いていく。

 マグカップにお茶を注ぎ終え、零さないように夏世はゆっくりと将監に手渡す。

 手渡しを終えた夏世は立ち上がってお握りを片手に持って、二人の後方で伏せて待機していたミレニアモンに近付いた。

 ミレニアモンは詰まらなそうに目蓋を閉じて寝息を立てていたが、夏世が近付いてきたので片目だけを開けて近付いてくる相手を見詰る。

 

「ミレニアモンさん、どうぞ」

 

「GUUuu……」

 

 持っていたお握りを夏世が見せると、ミレニアモンはゆっくりと大きな口を開け『投げ入れる』ことを夏世に要求する。それに気付いた夏世は、持っていたお握りを口内に目掛けて投げ入れた。

 お握りが口内に入った事が判ったミレニアモンは開けていた口を閉じてモグモグと噛み締めて、最後にゴクッと飲み込んだ。

 食べ終えたミレニアモンは、開けていた片目を閉じて寝息を立てだした。その見た目は恐怖に駆られるが大人しい性格のミレニアモンに、将監は訝しげな視線を送っていた。

 

「相変わらずその化物、強いな」

 

「はい。半数以上は全てミレニアモンさんが狩りましたからね」

 

 二人の会話の通り、襲ってきたガストレアの半数以上はミレニアモンが狩り尽くしていた。

 背中の大砲など使わず、何か特殊な方法を使った訳でもなく、四本の豪腕を使って只力任せにガストレアを肉片に変えていったのだ。そこには戦略も戦術もなく只々、理不尽なまでの暴力を振るっていた。

 その姿を近くで見ていた二人は、冷汗を流しながら破壊し尽くすミレニアモンの姿を眺めていた。

 

「ッ!?」

 

 二人がミレニアモンの暴力的姿を思い出していたとき、ミレニアモンが何かに感付き閉じていた目蓋を開けて起き上がる。そして、周囲を一度だけ見渡したのちにミレニアモンは急に将監たちを覆い被さり、体を丸めた。

 その瞬間、暗闇の森から赤く染まるナニかが近付いてきた。

 

「なッ!」

 

「将監さんッ!」

 

 周辺に転がるガストレアの肉片や、大地に染みた血、草木や木々を紅蓮の劫火が焼き払いながら将監たちを襲った。

 

 

  ◆

 

 

 日本国家安全保障会議。

 ゾディアック・スコーピオンを撃破したことを主モニタで確認できて会議内は、歓声に溢れていた。

 聖天子も安堵の表情を浮べ、木更も強張っていた表情を緩めた。

 

「良くやったわ里見くん」

 

 大絶滅を退けて歓喜に溢れてきた時であった。

 急に室内にアラームが鳴り響き、主モニタの画面に見知らぬマークが浮かび上がっていた。

 

「何事です!?」

 

 急なアラームに驚きながらも状況報告を求める聖天子の声に、周囲の者たちは一斉に調べだす。だが、どれだけ調べても何一つ理解できず困惑の表情を浮かべていた。

 

「何の警告なのか判りません!」

 

「一切の操作を受け付けません!」

 

 全てのモニタに円の線、その中に三角が描かれておりその角にも三角が描かれ赤く輝いていた。

 意味の解らないマーク、意味の解らないアラーム。一体全体、何が起きているのか解らずに困惑する会議内で、木更は咄嗟にある人物に連絡を入れた。

 

「……早く出て」

 

 ガチャと相手と繋がった音がした。

 

『どうしたの?』

 

 ゼツの声が議会内に響く。

 その声を聞えた聖天子や高官たち。そこで何故、この子供に木更は連絡したのか判らず困惑の表情を向ける。だが、木更は何か確信めいた直感があったのだ。

 

「ゼツくん、良かった無事ね。ゼツくん、こっちはゾディアックを倒し終えたのだけど急にアラームが鳴り響いたの」

 

 今の状況をかなり省きながら説明した木更。その説明にゼツは困惑の声色を含みながら聞き返した。

 

『アラーム? 他には?』

 

「モニタには意味不明のマークが浮んでるの。丸い円の中に三角が描かれていて、その角にも逆三角が描かれてるの」

 

『ッ! バカな!?』

 

 今までに聞いた事のないゼツの慌てた声。

 冷静沈着、そう字を書いたように落ち着いた雰囲気を持ったゼツが初めて焦り慌てた声に、木更は逆に驚いた。そして、ゼツはボソボソと呟いた。

 

『デジタル……ハザー……ドだと』

 

「デジタルハザード?」

 

 言葉を繋げて木更もオウムの様に呟き返した。

 そのデジタルハザードとは何なのか、なんの意味なのか。木更はそれを聞こうと訊き返そうとするが、電話からは不通音が返されていた。

 

 

  ◆

 

 

 木更から聞かされたマーク、それをゼツは実際に見た事があった。

 デジタルハザード。デジタルワールドのみならずリアルワールドにも破滅的被害を及ぼす危険なマーク。何故、そのマークが木更たちの会議室のモニタに映し出されたのか判らないでいた。

 

「デジタルハザード……ってことは何処かに発生源がッ!」

 

 今の現状を纏めて自身がどの様に動けば良いのか色々と考え、発生源を探す事を思い浮かべた。だが、それと同時に地震を思わせる大地の揺れと、弾道弾ミサイルでも落とされたのかような錯覚してしまうほどの爆発音と衝撃破がゼツを襲った。

 一体全体、何が起きているのか周囲を見渡し、ある一点に視線を止めた。

 

「あ……あれはッ」

 

 夜の象徴たる暗闇、それら全てを照らすが如く燃え滾る劫火の炎。

 火炎旋風と呼ばれる現象、その渦が天を穿たんが如く焔を舞い上げ、空すらも焼かんとばかし燃えていた。

 そして、その火炎旋風が発生している場所は夏世たちが居る場所でもあった。ゼツは唖然として止まっていた思考を、無理矢理に動かす。

 

「ディアボロモン!」

 

 力強く相棒のディアボロモンを呼び、腕の中に掴まって火炎旋風が起きている場所にゼツは向った。

 ディアボロモンに抱きしめられながら発生場所に向おうとするが、近付くに連れて灼熱によって熱せられた熱風がゼツを襲う。

 火にも当たっていないのに肌が焼かれた痛みにゼツの表情を歪ませる。そして、近付いて目的地近くに何らかの影が見えて、その影の正体を見た瞬間、ゼツは表情を凍らせた。

 正体を見て、何故あの存在がこの様な場所に居るのか意味不明で困惑する。

 

「何故……アイツが、この場所に……」

 

 未だに困惑を隠せないゼツ。

 すると、周囲の木々を巻き込んで炎を拡大を続けていた火炎旋風、その中心から黄色にエネルギー弾の閃光が走ると同時、炎は四散して鎮火された。

 それがミレニアモンの背中に装備されている大砲、その大砲から放たれる必殺技・∞キャノンを使って火炎旋風を衝撃鎮火したのだろうと瞬時に理解したゼツは、急いで丸まっているミレニアモンの傍に駆け寄った。

 

「夏世!」

 

「ッ!? ゼツさん!」

 

 ディアボロモンから降りたゼツは急いで夏世たちの傍に駆け寄った。

 将監と夏世、二人の衣服には焦げ痕は幾等かあったものの大きな怪我などはないことが判ったゼツは安堵の溜息を吐いた。

 逆に二人を庇ったミレニアモンは酷い有様であった。

 火傷を負っていない場所を探すのが困難と言えるほどの大火傷、ミレニアモンが究極体であるからこそ消滅せずに生きていられるが、これが完全体なら完全にデータの塵になっていただろう。

 ゼツの言葉『二人のサポート』を忠実に従い、ミレニアモンは我が身を盾にして二人を助けた。だが、結果としてミレニアモンは大きく傷を負ってしまった。

 その場で横に倒れてしまうミレニアモンに今にも涙を流しそうな表情を浮かべながらゼツは傍を寄りそう。

 

「ミレニアモンさんが、私達を庇って」

 

「ミレニアモンッ!」

 

 夏世からの説明を聞きながら痛々しく焼き爛れたミレニアモンの肌を見詰る。

 普通の炎では決して焼かれる筈のないミレニアモンの肌、それを焼くとなると人間の兵器では不可能。デジモンの、それも同世代である究極体の炎でなければ無理である。

 自然とゼツの視線がある一点に向けられる。

 大地は焼かれ、その熱で蜃気楼が起こし周囲が歪ませる。それでも、ゼツの睨みつける視線は動じない。そして、相手の名を呟く。

 

「メギ、ドラモン……」

 

 木々は未だに燃え、その焔が周囲の闇を照らし、巨大な影の全貌が照らされる。

 理性など一欠けらも感じさせない狂気の瞳、紅蓮の一対の翼、両手の甲には鋭い刃物が生え、胸にはデジタルハザードマーク、下半身は蛇の様に尻尾が伸びている。

 究極体、邪竜型、ウィスル種。世界を破滅に導くとされているデジタルハザードを起こす恐れのある凶悪デジモン・メギドラモン。

 

「知ってるのか?」

 

 顔を歪ませて険しい表情を浮ばせながらゼツに問う将監だが、ゼツはその言葉に耳を傾けている余裕がなかった。

 相手はメギドラモン。その凶暴性は知っており、存在そのもの世界を破滅に導くデジモン。それが何故、この様な場所にいるのか判らず困惑しているとメギドラモンの傍に小さな影が現れた。

 背格好から小学生、ツンツンに固まった髪形、額には安物らしきゴーグル、竜の顔を思わせるイラストが描かれたシャツ。

 

「なんだぁ、あのガキ?」

 

「もしかして、ゼツさんと同じ……ゼツさん?」

 

 『巨大な化物を従える子供』。

 それと全く同じシチュエーションであるゼツに視線を向けた夏世だったが、ゼツの様子が可笑しいことに気付いた。

 奥歯をカチカチを鳴らし、顔は青褪めており、表情からはありえない物を見ている瞳を浮かべていた。

 見たこともないゼツのその表情に疑問を浮かべていた夏世。すると、ゼツは小さく呟いた。

 

「タっ……クマ」

 

「久しぶり。ゼツ兄ィ」

 

 互いに名前で呼び合い、相手は兄と呼んできた。

 兄弟なのだろうかと思ったが、殺伐とした雰囲気を醸し出している二人に夏世は違うと判断、ならこの二人の関係は何なのだろうと疑問を浮かべる。

 タクマと呼ばれる子供はゼツを微笑みを浮かべて見詰ており、逆にゼツは睨むように見つけ返していた。そして、ゼツが大きく深呼吸をした。

 

「タクマ、生きてたんだな」

 

「まぁね。痛かったよ」

 

「っで、何しに現れた?」

 

「ゼツ兄ィに会いに来たんだよ」

 

「出会いがしらの挨拶がメギドラモンの必殺技か? ミレニアモンが庇っていなかったら夏世たちは死んでいたぞ?」

 

「アハハハハッ。それがどうしたの?」

 

「……そうか、やっぱし変わってはいないのだな」

 

 ゼツはスマホからカードを一枚だして空に投げた。

 カードは強く発光すると光の粒子となってミレニアモンに降注いだ。光の粒子はミレニアモンの傷口に集り、そして傷を癒していった。

 

「ギガヒールだね。治癒系カード、やっぱし持ってたか」

 

「タクマ……覚悟はいいな?」

 

「フフ……アハハ……アヒャヒャ……やっと、やっとゼツが見てくれたッ! 出て来いラストティラノモン!」

 

 タクマの手にはゼツと同じくスマホが持っており、その画面が輝くと空から巨大な物体が落ちてきた。

 恐竜の形のした機械、各所の機械部分には赤錆が浮かび上がっており全身が赤く見られる。そして背中には巨大な主砲らしきものが背負われている。

 究極体、マシーン型、ウィルス種。デジタルワールド創生から長岐に渡る激戦を、進化とともに潜り抜けてきたティラノモンの正統な究極体。

 

「ラストティラノモン。また厄介なデジモンを……相手をしてやれミレニアモン!」

 

「打ち砕けラストティラノモン!」

 

 ゼツとタクマの二人同時の合図に二体のデジモンは一斉に動き出した。二体は相手するデジモンに向って全速力で突っ込み、そして衝突する。

 衝突により衝撃破は周囲の者達を襲い、行き場のない衝突の力はデジモンの足元の地面を陥没させ皹を入れて破裂した。

 二体のデジモンは互いに掴みかかり押し合う。だが、ミレニアモンには残り二本の腕があり、その腕でラストティラノモンを殴りつける。

 振り下ろされた拳はラストティラノモンの頭部を当たるものの鋼鉄の装甲には多少の陥没程度しかダメージを与えられなかった。逆にラストティラノモンの背中に装備されている主砲をミレニアモンに向けてぶっ放した。だが、その主砲の銃口をミレニアモンは無理矢理に残り二本の腕で曲げて逸らす。

 背中の主砲では当てられないと判断したラストティラノモンは顎を開いて息吹を吹く。それはラストティラノモンの必殺技『ラストブレス』である。『ラストブレス』を受けたミレニアモンは苦痛の呻きを上げるが、それを我慢してラストティラノモンの首筋に噛みつく。

 急な反撃にラストティラノモンは苦痛に悶えるも、片方の腕を外して噛み付いてくるミレニアモンの顔を殴りつけて吹き飛ばす。そして、吹き飛ばされたミレニアモンに対してラストティラノモンは背中の主砲を向けて『テラーズクラスター』を放った。

 ミレニアモンを『テラーズクラスター』を相殺するために背中のムゲンドラモンの主砲を向けて『ムゲンキャノン』を撃ち放つ。

 二つの必殺技は互いに衝突、凄まじいエネルギーの奔流を生み大爆破とを起こす。

 

「きゃっ!」

 

「うおっ!」

 

 急な大爆発に将監と夏世は身体を屈んで衝撃に耐える。

 その二体の尋常ではない戦いに見入る将監たちは呆気にとられていた。一体、何が起きているのか、何故この二人は争っているのか、意味も判らず二人は見守る事しか出来なかった。

 一方、ゼツとタクマは互いに睨みあって微動だにしていなかった。二人はゆっくりと腕を上げると、残っていたデジモンたちが身構える。そして、

 

「電脳世界の異端児・遊戯神『ディアボロモン』」

 

「四大竜の暗黒邪竜・破壊神『メギドラモン』」

 

「「相手を葬れッ!」」

 

 互いの合図と同時にディアボロモンとメギドラモンは空に飛び上がった。

 先ほどの二体のデジモンがパワー勝負なら、此方はスピード勝負。

 凄まじい速さで空を翔け、収縮自在の腕を使いディアボロモンの真紅の鍵爪がメギドラモンお襲う。だが、襲い来る鍵爪にメギドラモンは怯む所か突貫してディアボロモンの攻撃を弾いた。そして、そのままディアボロモンに向って突撃して吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたディアボロモンはそのまま地面に叩き付けられ身動きが出来なくなる。そこにメギドラモンが襲い掛かろうとする。そこで、ディアボロモンは腹部の銃口をメギドラモンに向けてエネルギー弾――『カタストロフィーカノン』――を撃ち放った。

 急な反撃にメギドラモンは刃を持った甲で弾き返し、返された『カタストロフィーカノン』は明後日の方向に吹飛び、森中で着弾すると大爆発を起こした。

 

「……タクマ」

 

「……ゼツ」

 

 ゼツは白銀に輝く刀身を持つ日本刀を取り出した。レイブモンと呼ばれるデジモンが腰に携えている刀で銘は『烏王丸』と呼ばれる業物。

 タクマはスカルグレイモンの口から刃が生えた大剣。タイタモンと呼ばれるデジモンが持ち多くの怨念が宿った『斬神刀』と呼ばれる邪剣。

 互いに腰を深く落として自身の獲物を構え、そして、

 

「「ハアアァァアアァァーーッ!」」

 

 刃が激突する。

 

 

  ◆

 

 

 ディアボロモン対メギドラモン、ミレニアモン対ラストティラノモン、そしてゼツ対タクマ。

 木々や大地を抉り、周りにいたガストレアたちを巻き込み、周囲の地形を変えていく激戦。その激戦を無人観察機で撮影、それを映し出されたモニタを見詰ながら日本国家安全保障会議の者たちは唖然としていた。

 アレは何だ。あの子供たちは何者だ。高官たちが小声で呟きながら、その戦いを見詰ていた。

 

「ゼツ君、こんなに強かったんだ。普段から全然見せないから……」

 

 木更が呟く。

 刀らしき獲物で相手の大剣を受け流しながら鋭い連続斬りを放つゼツ。だが、それを相手は大剣の背で受け止めて距離を離し、一枚のカードをゼツに投付けた。

 投付けられたカードは急にミサイルさしき物に変化して、ゼツに向って追いかけるように突き進む。それに気付いたゼツも懐からカードを一枚取り出してミサイルに向って投付け、そのカードもミサイルに変化して相手のミサイルと衝突させる。

 衝突したミサイル同士は大爆発を起こし、周囲の木々や岩、ガストレアたちを纏めて吹き飛ばしていく。爆発で周囲が砂煙を舞って視界が悪くなるも、その砂煙の中では時折、金属が弾いた火花が散っており視界不良のなかでもゼツと相手は戦っていた。

 そして、砂煙の中から光が一瞬輝いたと思った瞬間、砂煙から二人が出てきた。だが、その二人の背中には、ゼツに白い翼、相手には黒い翼を生やしていた。翼を生やした二人は急スピードで空を翔け、空中戦を繰り広げだす。

 

『何故、ここにお前がいる!?』

 

『言ったでしょ。ゼツに会いにだよ!』

 

『タクマ。お前は一年前、死んだはずだ!』

 

『そう、でもボクは蘇った!』

 

 二人の会話を無人観察機で拾い、日本国家安全保障会議にいた者たちは耳を傾けていた。そして、その中である単語に皆は聞いた言葉を疑った。

 

『蘇った? ふざけるのも大概にしろ。死者は蘇らない、それはどの世界でも同じ事……誰に魂を売った!?』

 

『アヒャヒャ……ゼツがよく知っている相手だよ』

 

『……まさか』

 

『そのまさかさッ!』

 

『ッ!?』

 

 目を見開いて驚くゼツの隙に、相手は一気に襲い掛かる。

 大剣を上段から一気に振り下ろし、それを紙一重で避けて離れようとするゼツではあるが相手はそれを見逃さない。

 カードを三枚取り出して投付ける。

 

『『デッドリーボム』『ビットボム』『アイスアロー』』

 

 悪魔のような翼と触覚が付き、悪戯好きな顔が貼り付けられた弾。赤い弾に出っ張りのイボが生えている弾。そして氷が鋭く尖った槍。その三つが一斉にゼツ目掛けて襲い掛かる。だが、ゼツはカード三枚に対して一枚だけカードを取り出し、襲い掛かる物体に投付ける。

 

『『インフェルノゲート』』

 

 ゼツの前方に空間が横に裂けて、徐々に広がって綺麗な円が現れる。円の中は底が見えない程に暗闇が広がっており、その中を覗き込んだ高官たちは背筋が凍るほどに嫌なナニかを感じて額に冷汗を浮かべる。

 二つの弾と、氷の槍、その三つはそのまま円の中に入ると円は徐々に閉じていき最後には消えてしまった。

 

『へぇ、『インフェルノゲート』。良いカードを持ってるね』

 

『お前は出し惜しみはなしか』

 

 互いに睨みあう。

 ゼツは明確的な殺意を、相手は不敵な笑みを、対極的な瞳を浮かべる二人。その激闘に見入っていた聖天子はやっと正気に戻り、一緒にモニターを見ていた木更に問い掛けた。

 

「天童社長、これは何なのですか?」

 

「…………」

 

 聖天子の問いは周囲にいる高官やオペレーター、天童菊之丞に聖室護衛隊たちも思っている感想だった。その視線の圧力に木更もどう答えたいいものか悩んでいた。

 木更はデジモンに付いてゼツに深く追求などはしなかった。

 何故なら、ガストレア以上の力を持ち人間の指示に従う化物、そのことが組織上層部など知られれば悪用されるのが落ちだと判っていたからだ。それに、デジモンをひた隠しにしようとしていたゼツの思いも酌んでのことでもあった。

 だが、これほど不特定多数にデジモンの姿を曝してしまった以上、説明無しでは相手は納得しないだろう。ましてや、あの天童菊之丞がいるのでは相手が下手な言い訳も効かないだろう。

 

「……説明はしますが、あくまでゼツくんから聞かされた内容なので真偽のほどが定かではありません。それでも構いませんか?」

 

「構いません。知る限りの内容をお教え下さい」

 

「判りました」

 

 木更は小耳に挟んだ程度の内容を説明した。

 デジタルモンスター、略してデジモンと呼ばれる存在。デジモンはネットワーク内に存在するデジタルワールドと呼ばれる異世界に生息しており、ゼツはそのデジモンを従えているデジモンテイマーと呼ばれる存在である。

 デジモンは色々な進化系統を持ち、生まれたてのデジモンを幼年期と呼び、成長期、成熟期、完全体、究極体、と徐々に進化していき、完全体になれば単体の必殺技を使えば核弾頭以上の威力を秘めている。

 ゼツから聞かされたデジモンの内容を説明した。そして、それらを聞かされた高官や菊之丞、聖天子さえも唖然とした表情を浮かべていた。

 

「なっ何だ、その出鱈目はッ!」

 

「我々を馬鹿にしているのかッ!?」

 

「異世界だと? 言い訳ならもっとマシな内容を説明しろ!」

 

 誰もが木更の説明した内容を馬鹿にした。それは説明した木更も同じ思いでもあったが、空を翔けて戦闘している映像を映し出されているモニターを木更は指差した。

 

「では、あれをどう説明するお積もりですか?」

 

「…………」

 

 指差したモニターを周囲の者たちは見詰て黙ってしまう。

 どれ程、否定しても現実にその戦いを見てしまった以上、夢物語ではないことは明白である。

 皆の視線がモニターに集るなか、聖天子は別のことを考えていた。

 

「(何故、ゼツくんはあれ程に怒りを露にしているのでしょう?)」

 

 聖天子がゼツと会ったのは防衛省で一度だけ、それも会話など十分もしていない。だからゼツの性格など詳しい事は解らない、それでもアレほど怒りを露にする態度に違和感があった。

 ゼツの頬が大剣で切られ血が流れ落ちる。その痛々しい傷口に聖天子は心の奥に小さなトゲに刺さったような痛みに襲われる。

 

「(これは……一体)」

 

 周囲に悟られないように表情を固く結び、心の奥でゼツの無事を祈る聖天子。そして、ゼツとタクマの戦いに決着が見え出した。

 

 




はい、今回はゼツとは違うテイマーが現れました。
名前はタクマ。パートナーデジモンはメギドラモンとラストティラノモンです。
お分かりだと思いますが敵です。味方ではありません。その内、味方とかだせたら良いな~……なんて考えたりもしています。
実力の腕もゼツ君波に強いです。さぁ、ゼツとタクマの因縁はなんなのかは楽しみに待ってて下さい。

ティナちゃんのヒロイン化はまだ考えてます。決まったら報告しますね。
ではでは、これで失礼。


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021

 レールガンモジュール。

 そこには蛭子ペア撃退、ゾディアック撃破、この二つの事柄を乗越えた里見ペアが腰を下ろし目蓋を閉じて休んでいた。そんな中、急な大きな地震に襲われて目蓋を空けて周囲を見渡した蓮太郎は、主モニタに映し出されている光景に唖然としてしまう。

 

「何だよ。これ……」

 

 ゼツが空を翔け、ディアボロモンとミレニアモンがデジモンと思わしき化物二体と相手をしている。その戦いは嵐そのもので、何人たりとも近付けさせない暴風の戦争が繰り広げられていた。

 

「おい延珠、起きろ!」

 

「うぅ~蓮太郎……夜這いか?」

 

「違うわ! 寝惚けてないで起きろよ!」

 

 トンでもないことを口走る延珠に怒鳴り気味で起こそうとする蓮太郎。だが、何度も肩を揺さぶっても起きる気配がなく蓮太郎は溜息を吐きながらモニタを再度見てみた。

 刀を持ち空を飛ぶゼツの姿、その表情は今まで見たこともない怒りに満ちた顔であり、その姿はどこか復讐を果たそうとする木更のダブって見えた蓮太郎は、顔を左右に振って先ほの既視感を振り払う。すると、別のウィンドで映し出されている映像に視線を向けて蓮太郎は身体を凍らせた。

 

「そっ……そんな……」

 

 受け入れがたい事実に蓮太郎は後ずさる。

 ウィンドに映し出されているのは先ほど討伐したゾディアックがいた海域、その海が徐々に盛り上がっていき、けたたましい雄叫びが連太郎たちを襲った。

 皮肉にも雄叫びで正気に戻った蓮太郎は急いで木更に連絡をとろうとスマホを操作して電話をかける。電話相手の木更との連絡は直ぐに繋がった。

 

「おい木更さん、大変だ!」

 

『えぇ解ってる。ゼツくんのことね』

 

「違うッ!」

 

『えっ?』

 

 勿論、ゼツの事でも大変なのは蓮太郎も解っている。だが、それ以上に大変な事が起きているのである。それを木更たちは未だに気付いていなかった。

 蓮太郎は大きく深呼吸、そして答えた。

 

「ゾディアックが生きてるッ!」

 

 

  ◆

 

 

『ゾディアックが生きてるッ!』

 

 木更や聖天子、菊之丞に高官たち、皆の背筋を凍らせる台詞に日本国家安全保障会議の空間が静かになる。そして、最初に声を荒げたのは聖天子であった。

 

「ゾディアックの生存を確認して下さい!」

 

「あっはいッ!」

 

 透き通った声が唖然としていたオペレーターたちを正気に戻させ、会議室内は一気に騒がしくなる。オペレーターたちは迎撃に当たっていた艦隊たちに繋いでゾディアックの生死を確認するようにと連絡していく。そして、

 

「ステージⅤゾディアックガストレア・スコーピオン、生存を確認しましたッ!」

 

「凄まじい速さで各箇所を修復しています。このままでは三十分もしない内に完全復活を遂げますッ!」

 

「何故生存しているかは未だに不明です。各艦隊から迎撃要請を待ってますッ!」

 

「直ちに迎撃を、ゾディアックに止めを刺して下さい!」

 

「ハッ! 各艦隊、迎撃を開始して下さいッ! 繰り返す、迎撃開始ッ!」

 

 主モニタにゾディアックガストレアが映し出されている。

 体は最初に比べて半分以上失っているが、傷口から再生していき徐々に元に戻ろうとしているのが目に見えて明らかにわかる。

 ゾディアック周辺の艦隊たちが一斉に持てる火器で攻撃を行うが焼石に水、攻撃を負うそばから再生していき、傷を与える倍以上に再生を行っていた。

 

「駄目ですッ! 止めを刺すどころか再生を遅らせるのが精一杯ですッ!」

 

「ゾディアック尚も再生を、あっ触手鎌が一本完全に再生、艦隊たちに攻撃してきますッ!」

 

「戦力の消耗65%を切りましたッ! このままではッ!」

 

 高官たちはこの世の終わりのような青褪めた表情を浮かべ、聖天子もまた悔しげにゾディアックを映し出されているモニタを睨みつける。

 木更はこの危機的状況をどう打開するか思考を巡らせていた。

 

「艦隊の迎撃では倒せない。ならもう一度レールガンモジュールで……駄目、弾丸が無いじゃない。どうすれば、どうすれば……」

 

 色々な撃破方法を模索するも良い案が浮ばなく苦虫を噛む潰す。すると、会議内に男性の声が響いた。

 

『聞えてるか木更さん!』

 

「里見くん?」

 

 相手は蓮太郎だった。

 大声で荒げる蓮太郎に不思議になりながらも耳を傾けた。

 

『レールガンモジュール、まだ動かす事出来るか!?』

 

「レールガンを? えぇ動くし後一回程度なら打ち出すことは出来るけど。でも、里見くんも知ってると思うけど弾丸は無いのよ?」

 

『いや、一発だけある。それも確実にゾディアックを葬る一発を……』

 

 木更は意味が解らずに困惑の表情を浮かべる。

 まだ弾がある。それもゾディアックを一発で葬る事が出来る弾丸、それは一体何なのか解らず木更は聞き返した。

 

「もしかして足の義肢を使うの?」

 

『いや、それだと俺が移動出来なくなる。使うのはゼツから預かった物だ』

 

「ゼツくんから預かった物?」

 

 何を預かったのか知らない木更は訝しげな顔を浮べ、それでも蓮太郎が一発で葬れると答えたい以上信じるしかない。それに、他の方法など今はないのだから。

 蓮太郎、そしてゼツ、その二人を信じた木更は撃つ許可を出してもらう為に聖天子に振向く

 

「聖天子様、レールガンモジュール再使用の許可を頂けませんでしょうか?」

 

「…………」

 

 聖天子は顎に手を置いて悩む。個人的に許可を出しても構わない。だが、最高責任者として簡単に許可を下ろして良いのか迷っていた。しかし、現段階でソディアックを葬る方法もない以上はそれに賭けるしかなかった。

 

「解りました。レールガンムジュール再使用の許可を申請します」

 

「感謝します聖天子様。聞いたわね里見くん、許可が降りたわ。それで、弾丸は何を使うの?」

 

『……カードだ』

 

 

  ◆

 

 

 レールガン再使用の許可が下りた後、蓮太郎の直ぐに行動に移した。

 眠っている延珠を起こし、自身の愛銃から一発の弾丸ろ取り出した後は解体していく。内部に詰まっていた火薬を捨て、その場所に何重に折り畳めたカードを無理矢理に入れる。それは延珠に任せ、入れ終えた弾丸を元に戻してユニバーサルボルトに投げ入れた。

 

「蓮太郎、コレは飛ぶのか?」

 

「微妙だな。だが、これ以外だと俺の脚だけだからな。仕方ないだろう」

 

「しかし、蓮太郎。何故、このカードを使おうと思ったのだ?」

 

 レールガンモジュール出入口前にて別れたゼツから渡されたカード。

 これが一体何なのかは詳しくはゼツからは聞かされていない蓮太郎。だがその使い方、その破壊力、それらを蓮太郎は理解していた。

 ゾディアックが復活がわかり木更に連絡をしていた時であった。急にカードが淡く発光すると蓮太郎は見たこともない映像が脳内に駆け巡った。

 巨大な竜が空を翔け、顎を大きく開き黒き物質を放つと地上は暗黒空間に包まれ全てを焼き払う。他にも、日本の町並みに三本の角を生やした恐竜が居て、恐竜が竜を襲おうとするがそれを鷲掴みにしてノートパソコンを開けている子供に向けると、恐竜がパソコン内に吸い込まれる。

 他にも色々とあるが、蓮太郎はそのカードの破壊力を映像内ではあるが理解した。そして、その一発は確実に負傷したゾディアックを葬れると……。

 

「大丈夫だ。あのゼツが渡したカードだ。信じるさ」

 

「うむ、ゼツが最後に変なのを渡すとは思えぬしな」

 

「さて、問題なのは。コレだな……」

 

 また、此処からゾディアックを狙撃しなければならない。

 またしても奇跡を二度も起こさなければならない。だが、二度も起こらないのが奇跡なのだ。蓮太郎の額に汗を浮ばせ、傍にいる延珠も不安げな表情を浮ばせる。

 

「当てるぞ」

 

「妾がいる。だから大丈夫だ」

 

「どこから出て来るんだよ、その自信は……」

 

「妾の愛だ!」

 

「そうかよ」

 

 座席に蓮太郎が座ってもう一度、レールガン発射専用のトリガーに手を掛ける。その手の上に延珠の手が優しく包む。

 

「今度こそ……」

 

「確実に……」

 

「「消し飛べェェェエエエェェェーーー!」」

 

 二人の声重なり、もう一度レールガンモジュールは光に包まれた。

 

 

  ◆

 

 

 蓮太郎たちがゾディアックの生存を知る少し前、ゼツの激しい争いを蚊帳の外状態にされてしまった将監たちではあったが此方も色々と厄介事に巻き込まれていた。

 デジモンが地上で戦っている為にその衝撃や流れ弾が周囲に眠っていたガストレアたちを起こしてしまい、一斉に寄り集っていたのだ。

 

「クソッ! そっちは大丈夫か夏世ッ!」

 

「ハイッ! でも、数が多すぎて……」

 

 ステージⅡやⅢは当たり前、Ⅳもゴロゴロと寄り集まっており将監たちを襲うが、それらを懸命に捌いて抵抗していた。だが、物量には勝てずに徐々に後退を余儀なくされる。

 すると、将監たちの前方に誰かが降りてきた。

 

「ゼツさんッ!」

 

「夏世たち伏せてッ!」

 

 急な登場と合図に驚きを隠せない将監たちではあったが、急いで頭を下げて伏せた。それと同時に、鋭い剣戟から黒い稲妻の刃が放たれた。

 

「『天之尾羽張(あめのおはばり)』ッ!」

 

 黒き稲妻が周辺に集まったガストレアを葬っていく。だが、その絶対的な隙を相手タクマは見逃さず襲い掛かる。がら空きの背中に凄まじい速さで突貫しるタクマだが、横から急に何かが襲い掛かる。

 

「チッ!?」

 

「このガキは俺様の獲物だッ!」

 

 将監のアンサラーが蛇の如く襲い掛かるが、それを斬神刀を使って巧みに弾き返して逆に使っている将監に襲いかけるようにする。その鋭い剣先が将監に襲う寸前で銃弾に弾かれて逸れる。

 

「無事ですか?」

 

「あぁ……アイツ、ガキみてェに剣捌きが上手ェな。完全に不意を突いたのに弾いて逆に反撃しやがった」

 

「はい。それに戸惑いがないですね」

 

「気にくわねぇな」

 

 即死狙いの眉間への剣先の返し、その一切の戸惑いのない姿に将監は気に入らなく舌打ちをする。

 睨み付ける視線にタクマは気付き、視線を落とす。

 

「……邪魔しないでよオッサン」

 

「あぁ? 見下してんじゃねェぞ糞ガキがッ!」

 

 黒き翼で浮きながら見下ろすタクマに、額に青筋を浮かべさせながら睨み返す将監は身構えながら相手の隙をうかがう。だが、ただ浮いているだけなのに一寸の隙も見せないタクマにイライラを募らせる。

 

「(あのガキといい、このクソガキといい、どうしてこのガキどもはこれ程に手練なんだよッ!?)」

 

 将監の額に汗を浮ばせていると二人の間にゼツが現れる。

 

「無理しなくてもいい。タクマの相手は俺がする」

 

「ガキィ……」

 

 ゼツとタクマ、二人の視線が衝突させ中間に火花が散らせる。すると、遠くから爆発音らしき轟音が響き渡る。

 

「ッ!?」

 

「……お苦労様、ミレニアモン」

 

 タクマは驚きの視線を向けた。

 そこには各所傷付きながらも闘士の宿った瞳を浮ばせるミレニアモン、その手にはボロボロに破壊されて動く事のなく瞳に光を失ったラストティラノモンの姿があった。

 

「役立たずめ」

 

 倒されたラストティラノモンの姿を見下ろしながら冷たい言葉を呟いたタクマに、ゼツはキッと睨みつけた。例え敵とはいえ懸命に戦ったデジモンに対してあまりにも冷たい言葉にゼツは怒りを覚える。

 

「それが……懸命に戦った相棒に掛ける言葉か?」

 

「別に……アイツは完全体の時に拾ってやって、色々な強化プログラミをインストールさせて無理矢理に究極体に進化させただけのデジモン。まっ途中で理性が飛んだけど究極体に進化させてやっただけありがたいと思ってほしいね」

 

「タクマ、お前」

 

 冷徹非道。デジモンを道具の様に扱い、使えなければ破棄する。その姿にゼツは脳内が沸騰するかの如く怒りに滾っていた。

 タクマは視線だけで殺さんとばかりのゼツを無視して手を掲げる。すると、戦っていたディアボロモンを無視してメギドラモンが一気にタクマに向って近寄ってきた。

 

「ラストティラノモンを拾ってこっちに来い」

 

「ッ! 逃げろミレニアモンッ!」

 

 ゼツの掛け声を聞いたミレニアモンは掴んでいてラストティラノモンを離し、その場を離れた。それと同時にメギドラモンが突貫してラストティラノモンの頭を鷲掴みにしてタクマの所まで引き摺りながら持ってくる。

 その間にミレニアモンとディアボロモンはゼツの背後に待機する。

 

「……お前、何をするきだ?」

 

「んっ。使えないデジモンにはそれ相応の罰を与えないとね」

 

 不適に笑みを浮かべたタクマは何かを取り出した。

 紫色に輝く球体、中にはデジコアらしき小さい球体が浮いておりXの字を描いていた。その球体を倒されたラストティラノモンの頭にタクマは思いっきり押し付けた。

 その瞬間、凄まじい衝撃波がゼツたちを襲った。

 光の柱が天を穿ち、周囲の木々を薙ぎ払い、暴風が周囲の雲を払う。ラストティラノモンからは苦痛の叫びを上げ、瞳には涙を流す。その尋常ではないナニかにゼツは焦りの表情を浮ばせる。

 

「タクマ、一体何をッ!?」

 

死のX-進化(デクスリューション)

 

「ッ!」

 

 タクマが呟いた言葉、それが聞えたゼツは顔を青褪める。

 ラストティラノモンの身体全身に0と1の数字列が並び、それらの数字列の帯がラストティラノモンの身体を拘束して侵食していく。未だにラストティラノモンは苦痛の叫びを上げて身悶えるが、数字列の帯は更に暴れるラストティラノモンの身体を串刺しにしていき、そして帯にて包まれて一個のタマゴになる。

 

「おいィ。一体何が……」

 

「ゼツさん、これは……」

 

 将監たちの問いにゼツは何を答えずタマゴを睨みつけるように視線をくべる。そして、タマゴに皹が入り中から何かが出てくる。

 腕らしき物がが出てきて、次に足が現れ、最後に翼らしき物が現れる。

 その姿を見たゼツは出てくるデジモンを確信して将監たちに視線を向けた。

 

「悪いけど……逃げて」

 

「えっ?」

 

「何を言ってやがる?」

 

 険しい浮かべる中に恐怖らしき物も混じった表情を浮かべるゼツに、流石の将監たちも只事ではないと判断した。あのゼツが恐れる何かとは一体、そう思っているとレールガンモジュールが動いて光の閃光を空を切り裂いた。それと同時に残りのタマゴの殻を砕き、中からデジモンが現れた。

 西洋竜の姿、紫色のボディ、黒の皮ベルトで身体中を包み、真紅に濡れた翼、目部分らしき物はなくギラリと輝かせる牙、その姿を見た将監と夏世は恐怖に駆られ身体中を硬直させる。

 究極体、アンデット型、ウィルス種。デジコアを求め捕食本能の赴くままに残虐に進化したアンデッド。自分が進化し続けるために他者のデジコアを喰らい続ける"電脳核捕食者(デジコアプレデター)"となって彷徨い続けている最悪凶悪デジモン。

 

「デクス……ドルゴラモン」

 

「フフフッ、さぁ最後の戦いだよゼツ。メギドモランX-進化(ゼヴォリューション)

 

 メギドラモンもまた、数字列の帯に包まれていく。

 デジコアの配列がXを象り、そして帯から姿を変えたメギドラモンが姿を現した。

 嘗ては体だった部分は尻尾の先まで溶岩を思わせるものに変化されており、翼膜は炎に変化、荒々しく獣らしい姿に変貌していた。

 

「メギドラモンX抗体」

 

「フフッ、凄いでしょ?」

 

 地面が微かに揺れだした事にゼツは気付き、ゆっくりと地を見詰た。

 デジタルハザードが現実世界にも影響を与えだしている事にゼツは焦りの表情を浮ばせる。相手は究極体の中でも凶悪にして最悪のデジモン、それを二体を連れており並大抵の方法では倒す事は不可能に近く、倒すにしても時間が掛かりすぎる。

 

「筋肉達磨……蓮太郎たちと合流して逃げろ」

 

「逃げろって……」

 

「今、皆を守りながら戦う余裕は俺にはない」

 

 ゼツは震える足を一歩踏み出し、凶悪の二体のデジモンを睨みつける。

 そして、計四体のデジモンが衝突する。

 先ほどの戦いとは逆、ミレニアモン対メギドラモンX、ディアボロモン対デクスドルゴラモンの戦いに展開された。だが、結果としてゼツの二体のデジモンが完全に押されていた。

 四本の腕を使ってメギドラモンXを押し返そうとするミレニアモンだが、力比べでは相手が強くために押し負けて地面に叩き付けられる。

 ディアボロモンも素早い動きでデクスドルゴラモンを撹乱するが、視界ではなく本能に近い感覚でデクスドルゴラモンは相手の動きを捉えディアボロモンを殴りつけ吹き飛ばす。

 

「アハッ、嘗てはデジモンワールド中に名を馳せた『ノーネーム』リーダー・ゼツ。それが今ではボク程度に負けるなんて形無しもいいところだよ」

 

「ッ! ディアボロモン、ミレニアモン、無事か?」

 

 傷付きながらもディアボロモンとミレニアモンは唸りながら返事を返した。闘士を宿した瞳を浮かべながらタクマのデジモンたちを睨みつけている。

 相手を小馬鹿にした態度を見せる相手にゼツは苦虫を噛み潰した表情を浮かべながら、この状況を打開する方法を考えていた。だが、考えて浮かび上がる答えは全てが最悪の結末しか迎えていなかった。

 そして、溜息を吐きながら色々な方法の中から自身とっては最悪の悪手を選んだ。

 

「ディアボロモン、将監たちを連れて蓮太郎と合流の後にモノリス内に避難させろッ!」

 

 その台詞に一番驚いたのはディアボロモンであった。

 変える事のない不変の表情から明らかに戸惑いを浮かべていた。それは、出会ってままならない将監たちにもハッキリと判るほどだった。

 

「行って」

 

「…………」

 

「行けッ!」

 

 雄叫びと同時にディアボロモンは飛び跳ねて将監たちの背後に飛び降りて二人を抱えると、蓮太郎たちが居るであろうレールガンモジュールに向って飛び立っていった。

 飛び立ったディアボロモンには一瞥する事無くゼツは相手を睨みつける。

 

「……どういうつもり?」

 

「ミレニアモン、キツイと思うがデスクドルゴラモンの相手、頼めるか?」

 

「グルルル……」

 

 相手の質問に無視してミレニアモンの頷き返すのを見たゼツは『烏王丸』の剣先をタクマに向ける。

 

「こい。『ノーネーム』元リーダー・ゼツがお相手仕るッ!」

 

「……なっ、なめッ――舐めるなッーーー!」

 

 究極体と相手できる数少ない一体を他の相手の救出に向かわせ、二人だけで相手をしようろするゼツに、タクマは額に青筋を浮かべさせて初めて感情を露に怒り狂う。

 

「もういい、メギドラモンX抗体、殺セ」

 

「ガアアアァァァーーー!」

 

 マグマ滾る翼を全開に広げたメギドラモンは襲い掛かる。

 突っ込んでくるメギドラモンに対してゼツはカードを一枚取り出して発動させる。

 

「メタルガルルモン『コキュートスブレス』ッ!」

 

 片手に構えられたカードからは絶対零度の息吹が放たれ突貫してくるメギドラモンに降注ぐ。

 メギドラモンとコキュートスブレスが衝突する。

 一瞬、メギドラモンが押されるも直ぐに押し返す。そのままブレスを受け続けながらも進み続け、目と鼻の先まで近付いたメギドラモンはその豪腕でブレスを放出しているゼツごと吹き飛ばす。

 大地を抉るが如くの一撃、それを見たゼツは咄嗟に『烏王丸』で防御をする。だが、

 

「がはっ!?」

 

 防御の為に盾にした『烏王丸』は一瞬にして粉々に砕かれ、ゼツの胸元にメギドラモンの甲に生えている刃に切り裂かれる。

 切り裂かれ、豪腕の暴風で吹き飛ばされ木々に叩き付けられる。

 ミレニアモンも助けに向かおうとするが、デスクドルゴラモンに阻まれて迎えないでいた。

 

「人間が究極体……ましてやX形態のデジモンに適う訳ないのに……嘗ての『ノーネーム』のリーダーも形無しだね」

 

 未だに身体全身に痛みが走り身動きが出来ずに横に倒れているゼツを、酷く冷たい視線で見下ろすタクマ。そして、視線を外してメギドラモンに向けた。

 

「もういいや、焼いて」

 

 メギドラモンは顎を開き、一個の火球を生み出した。

 それは塵一つ残さず全てを焼き尽くすことが出来る悪魔の劫火球。並みの究極体では耐え切ることなくデータの粒子と化す一撃、そのようなモノを生身の人間が受ければ結果は自ずと判ってしまう。

 そして、火球はゼツに向けられて放たれた。




さて、ここでゼツ君が蓮太郎に渡したカードの正体ですが、インペリアルドラモンDモードの必殺技・メガデスです。
メガデスの効果は『超質量の暗黒物質を撃ち放ち、すべてを無に帰す』ですので凄まじい威力を誇るでしょう。ですので、ゾディアックなどは一瞬で消し飛びます。

とうとうタクマが本気を出してしまいました。
メギドラモンXとデスクドルゴラモンです。ここで何故、ラストティラノモンがデスクドルゴラモンに進化したかと言うと、進化アイテムで無理矢理進化させたからです。ですが、無理矢理の進化の為にデスクドルゴラモンの実力は十全には発揮されていません。
まぁそれでも強いですけど。

さぁ、とうとうラストバトルに突入です。
ゼツとミレニアモンだけで何処まで戦えるか……次回をお楽しみに!


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022

 ディアボロモンは将監たちを抱えて森を駆け抜けて蓮太郎たちが居るであろうレールガンモジュールに向っていた。途中、襲ってくるガストレアたちは腕で薙ぎ払いながら進んでいた。

 

「ゼツさん、大丈夫なんでしょうか?」

 

「…………」

 

 夏世は悲しげな表情を浮かべながら呟き、将監は先ほどゼツと戦っていた二体のデジモンに付いて色々と考えていた。後から出てきた二体のデジモン、あれらは普通の存在ではないと将監は確信を持っていた。

 

「(あのガキィがアレほど警戒するってことは、最悪の事態も想定しなければダメェか……)」

 

 最悪の事態。

 それはあの二体のデジモンにゼツが負けて、後に東京エリアを襲うという場面だった。一体だけでも退けるか分からないと言うのに、それが二体もいる。

 ガキィがいて、その相棒たる二体もいて、俺様と夏世が居れば退ける事は可能かもしれない。だが、現状は最悪に近かった。

 色々と考えているとレールガンモジュールの近くにディアボロモンは降り立った。

 

「夏世、あの不幸面を呼んでこい」

 

「はい。無茶はしないで下さいね」

 

「へぇいへぇい」

 

 ぶっきら棒に返事をする将監の少しだけ苦笑しながらレールガンモジュール内に夏世は入っていた。それを見届けた将監は背負っていたアンサラーを抜いて地面に突き刺して周囲を警戒する。

 そろそろ夜明けが近付いており空には軽く明るくなりだしていた。虫の鳴き声が静かな森に響き渡る。

 

「暇だな」

 

「…………」

 

 愚痴りながら視線を隣で静かに佇むディアボロモンに向けた。

 静かに瞳を閉じてジッと動かないディアボロモンに多少なりとも不気味さを感じさせる。この存在は今にでもゼツを助けに行きたいのだろうが、それでも動かずに待機を続けている。

 

「助けに行かねぇ~のか?」

 

 何もする事もなく暇潰しに問い掛けるとディアボロモンは閉じていた瞳を開き将監に向けた。すると、将監が持っていた携帯が鳴り響いた。

 このタイミングで誰が連絡してきたのか分からずに携帯を取り出して見てみた。差出人不明のメール、内容文は『黙っていろ』だった。

 そのメール文を見た将監はゆっくりと視線を隣で佇んでいる存在に向けた。

 

「お前……っか」

 

 表情を一切変えないディアボロモン、だがこの時だけは睨むような表情にも見えた。

 するとレールガンモジュール内から数人の足音が聞えて視線を向けると、内部から不幸面の男性と橙色のツインテールの少女と夏世の3人が出てきた。

 

「将監さん、何事もありませんでしたか?」

 

「あぁ大丈夫だ。さっさと此処を撤退するぞ」

 

 相変わらず心配性だなと感じながら将監は我先にとディアボロモンの近付こうとすると、蓮太郎に呼び掛けられ足を止めた。少しだけ憂鬱そうな表情を見せながら将監は呼び止めた蓮太郎に向けた。

 

「何だぁ?」

 

「ゼツはどうした?」

 

「あのガキィの希望だ。俺たちはさっさと東京エリアに避難させたいんだろ」

 

「見捨てろと言いたいのかッ?」

 

 明らかに怒気を孕ませた言葉を吐く蓮太郎に傍にいた延珠は不安げな表情を浮かべており、それは更に隣にいる夏世にも伝わっていた。だが、そんな怒気孕んだ言葉に将監は我関せずな態度を見せながら視線をディアボロモンに向けた。

 

「じゃぁ不幸面ァ、オメェが助けに行けば状況が好転すると思ってるのか?」

 

「ッ!?」

 

 その言葉に蓮太郎はビクッと身体を震わせて反応してしまう。

 蓮太郎もまた理解していた。あの戦いは既に人間どうの、ガストレアどうのと言えるような戦いではないと、それでも後輩であるゼツを助けに行きたい。仲間なのだから。

 

「あの戦いは既に俺たちが関与してどうこう出来る話を既に逸脱している。今居る俺らだけで一体だけ相手をしても互角に渡りあうどころか押し負けるぞ?」

 

 その真実を言い付けられて蓮太郎は苦しげな表情を浮かべる。そして少しだけの沈黙の後に蓮太郎は顔を上げてディアボロモンに視線を向けた。

 

「ディアボロモン、俺を連れてゼツの元に連れてってくれ!」

 

『ッ!?』

 

 蓮太郎の急な申しでに周囲にいた延珠や将監たちは驚く。そして、ディアボロモンは静かに申しでた蓮太郎を見詰返した。

 

「不幸面ァ、それ本気でいってるのか?」

 

「あぁ。俺は絶対に見捨てたりしねぇ」

 

「……はぁ、夏世。今の手持ちの武器でどこまで戦える?」

 

「えっ……あっ、弾丸なども十分ありますので戦えます」

 

「そうか、なら行くぞ」

 

「はい」

 

 将監はアンサラーを背中に背負ってディアボロモンに向い、その後を夏世を追いかける。急な行動に蓮太郎は目を丸くして驚いていると将監は視線を向ける。

 

「おら、助けに行くんだろ?」

 

「でもお前」

 

「助けに行かないとは言ってねェだろ?」

 

 その言葉に蓮太郎は唖然としてしまう。確かに言ってはいないが屁理屈だ。

 だが、蓮太郎は苦笑してしまう。まったく素直ではないなっと思いながらも口にはしなかった。

 

「行こう連太郎、ゼツを助けに!」

 

「あぁ!」

 

 

  ◆

 

 

 メギドラモンの必殺技『メギドフレイム』。

 全てを焼き尽くす劫火球が襲いくる中、ゼツは懐からカードを取り出して効果を発動させる。

 

「『オファニモンの盾』ッ!」

 

 ゼツのミレニアモンの前にユニコーンが描かれた西洋風の盾が出現してメギドラモンの攻撃を防ぐ。

 火球と盾が衝突、その衝撃破は周囲を巻き込んで吹き飛ばす。突進でくる火球を防ぐ盾ではあるが表面が溶け出し、何時壊れるか分からない。

 盾の状況に苦虫噛み締めて苦い表情を浮かべるゼツだが、そんな時に巨大な影が覆い被さってきた。それはミレニアモンだった。

 四本あった腕の一本がもぎ取られ、背中に背負っていた大砲は半壊していた。どうやらデスクドルゴラモンから身を犠牲にしてまで助けに来たのだ。

 助けに来たと同時に盾は完全に蒸発崩壊、残りの劫火球がゼツたちを襲う。

 

「グウウゥゥゥアアアァァァーーー!」

 

 火球の劫火が襲われ苦痛の声荒げ、過ぎ去るとゼツは片膝を地に付けた。身体全身に襲う激痛、胸元から流れ続ける出血、このままでは本当に生命の危機に迫られていた。それでも、その瞳には闘志は消えていない。

 だが、ミレニアモンだけは耐えられる事が出来ず、横に倒れてしまった。

 腕を一本失い、背中の大砲も半壊、それに続いて全身の大火傷。これで死んでいないだけ奇跡であり、その前にも夏世たちを守る為に大火傷を負っている。

 

「止血剤なんて用意してないからな……『ギガヒール』」

 

 切り裂かれた胸元を押さえながら立ち上がり、つい先程と同じ治療系カードを取り出してミレニアモンの傷を癒す。

 傷が癒えたミレニアモンは苦しみながらも立ち上がり、相手の二体のデジモンを睨みつける。例えカードの恩恵によって傷が癒えようとも失った体力や気力までが回復するわけではない。

 

「この場を凌げる方法などアレしかないが、今の俺の状況じゃ最悪その場で倒れて気を失うな。そんな隙をタクマは見逃さないだろうし……さぁ、この状況どうしようか……」

 

 自身の最悪の状況に額に汗を浮かべて笑う。

 この最悪の状況でよくも笑っていられるな、と呆れながらも吊り上がった頬を元に戻らない事に気付き、再度自身に呆れた。

 何故、笑っている?

 死に掛けているのに……。相棒であるミレニアモンも死ぬかもしれないのに……。

 

「いや、言い訳は止そうか。この状況に俺は……」

 

 楽しんでいる。

 最悪の状況下の中で身体が熱くなり、相手を倒したい葬りたいと衝動が思考を埋め尽くす。それに感化したのかミレニアモンも唸りあがり涎を垂らし、瞳も真紅に染まっている。

 

「何が楽しいの? もしかして頭の中でもイカレた?」

 

「イカレた……っか。そうだな、狂ってるかもな。何せ――今、興奮してるんだからな」

 

「ッ!」

 

 タクマに指定されて自身が狂いだした事に素直に答える。その姿に流石に可笑しいと感じたタクマは訝しげに睨む。

 そして、ゼツは大きく深呼吸して身を守っているミレニアモンに視線を送る。決意したその瞳に、真紅に染まったミレニアモンの瞳が重なる。

 

「いけるな?」

 

「…………」

 

 沈黙して何も答えないミレニアモンだが、その瞳には決意を決した意思が宿っていた。そのれを見たゼツは、少しだけ微笑んだ後スマホを構える。

 スマホを構えた姿にタクマは警戒する。

 ゼツのスマホの画面にデジモン文字が浮かび上がり次々と字が選ばれていき、三文字のデジモン文字が浮かび上がる。

 

「古の時代より伝えられし予言の一文《赤黒の双頭龍》。今此処に汝の枷を解放ち、千年魔獣の『なぞり』に従いその姿を変えて我が眼前にて顕現せよ――」

 

 そして、神話が紡がれた。

 ミレニアモン全身に数字列の帯が現れて包まれていき、最後には一つのタマゴが出来上がる。そのタマゴに亀裂が入ると赤色と黒色の焔の様な腕がタマゴから突き破り姿を現す。

 

「『終焉の千年魔獣(ズィード=ミレニアモン)』ッ!」

 

 残りのタマゴを吹き飛ばして中から一体のデジモンが出現した。

 赤色の焔、黒色の焔、その二つの焔が捻りあい複数の数字列がその二対を結び固定している。その焔の二頭四眼の瞳が相手のデジモンを睨みつけ唸る。

 ズィード=ミレニアモン。究極体にして邪神型デジモン。

 時間と空間を超越して飛び交い、あらゆる時間と世界を破壊しようとする邪悪なる王。

 

「「RUAAAAAAAA!!」」

 

 突然のズィード=ミレニアモンの出現に勝ち誇っていたタクマは凍りつき、連れている二体のデジモンもまたズィード=ミレニアモンに驚きを隠せなかった。

 

「……ミレニアモン、あの劣化デスクドルゴラモンを消し去れ」

 

「RUAAAAAA!」

 

 赤き邪龍がデスクドルゴラモンに視線を向けて腕を握るように拳をつくる。すると、デスクドルゴラモンは何かに圧迫されるように潰され倒れこむ。そして、その背後に空間が避けるように切れ目がはいり謎の空間が露になる。

 

「ッ!? 逃げろデスクドルゴラモンッ!」

 

 タクマも慌てながら退くように命令する。だが、タイミングが遅かった。

 逃げ出そうとするデスクドルゴラモンだが、裂けた空間は相手を逃がさまいと急激に物質を吸い寄せる。そして、

 

「ギャアアアァァァーーーッ!?」

 

 抵抗も逃走も出来ないままデスクドルゴラモンは裂けた空間に吸い込まれた後、裂け目は元に戻りそこには最初から何もない空間に戻っていた。

 その結末にタクマは唖然と見詰ていた。

 これは何だ?

 一体何が起きた?

 デスクドルゴラモンは何処に消えた?

 あのデジモンは何だ?

 

「タクマ」

 

「ッ!」

 

 呼ばれて身体を震わせながら呼ばれた声に場所に視線を向ける。そこにはゼツが立っていた。今までの憤怒の表情が嘘かのように冷静に、それこそ能面のような表情を浮かべるゼツに恐怖を感じる。

 

「流石のお前も知らないよな」

 

「何だよ……それ」

 

「ズィード=ミレニアモン。俺が『ノーネーム』を脱退した後に進化させたミレニアモンの最終形態だ。先ほどの現象は必殺技≪タイムデストロイヤー≫」

 

 ズィード=ミレニアモンの名を聞いたタクマは色々と記憶を探っていく。そして、何処かで聞いたような名前を思いだす。

 

「確か……碑文の一文」

 

「おっ、知ってたか以外だな。そう、その碑文で書かれている一文『終焉の千年魔獣』だよ」

 

「嘘だ。アレは伝説だけの御伽噺で……実在なんて……ましてや居たとしても人間が制御できるデジモンじゃない」

 

「……これでも結構無茶はしている方だからな。何せ、コイツを出すとなると俺自身ヤバイ状況に追い込まれるから」

 

 呼吸が荒くなり胸元の出血も酷くなっていく。そんな中、額から血が一滴流れ落ちてきた。流れ落ちた赤い液体を手で無造作に拭って振り下ろした。

 

「脳内の血管が数本切れたってことは時間も無いか。ミレニアモン、残りの相手を消し去れッ!」

 

「主命である! 全力を持って俺を助けこの場を離脱せよッ!」

 

 赤と黒の焔の腕がメギドラモンに襲い掛かろうとする。だが、それよりも早くタクマの命を聞いたメギドラモンは自身が出せる最大加速で飛行を開始してタクマを抱えてその場を離脱する。

 

「逃がすと思うか!」

 

 ズィード=ミレニアモンは両手を掲げるとメギドラモンの逃走ルートに裂けた空間を大量に出現させて退路を断とうとする。

 あっちこっち空間に裂け退路を阻まれていくがメギドラモンは一切に速度を下げることなく飛行する。例え、空間に尾や翼をもぎ取たれようとも。

 このままでは逃げられないと判断したタクマはスマホを取り出してかざす。

 

「強制ゲートオープンッ! 飛び込め!」

 

「グオオオォォォッ!」

 

 何もない空に緑色に輝く円が展開される。

 タクマは有らん限りの声を荒げ、その円の中に飛び込むようにメギドラモンに命令を下す。それに従いメギドラモンはその円に飛び込むと、円は一瞬にして消滅してしまった。

 それを見届けたゼツは軽く舌打ちをしながらタクマが消えた空を睨む。すると、遠くから誰かが近付いてくる気配に気付いたゼツは後ろに振向く。

 

「あれ、逃げろって俺は言ったろ?」

 

「助けに来たんだが、全部終わってるぽいな」

 

 そこには呆気に取られている蓮太郎や延珠、将監や夏世たちだった。

 あいも変わらずお人好しだなとゼツは苦笑を漏らすと、皆の視線があるズィード=ミレニアモン一点に注がれている事に気付いた。

 

「なぁゼツよ。これは何なのだ?」

 

 皆の疑問を代表して聞いてくる延珠にゼツは説明しようとするが、全身に駆巡る激痛に答える事が出来ずにその場に倒れてしまう。

 急なゼツが倒れた事に周囲の者たちは驚き駆け寄る。そして、ゼツの身体に起こっている異変に周囲は気付いた。

 

「コレって、体中から血が流れ落ちてるじゃねぇか!?」

 

「呼吸は荒く、熱も高いです!」

 

「おい、やべェぞッ!」

 

 明らかに普通ではない状態のゼツに皆は如何したらいいか混乱していた。すると、その皆を一気に抱え込んだのはズィード=ミレニアモンだった。

 急に持ち上げられたことに驚きはするが、次の瞬間には既にある場所に移動していた。そこは、数時間前まで蓮太郎がお世話になっていた場所――

 

「一瞬で病院前……だと」

 

 皆が驚きの表情を浮かべている中、ズィード=ミレニアモンは手に持ち上げているゼツたちを下ろして一歩後ろに下がった。すると、ズィード=ミレニアモンは光に包まれて徐々に縮んでいきミレニアモンの姿に戻った。

 ミレニアモンに戻った光景を見ていた蓮太郎たちは更に驚きの浮かべる。

 

「アレってミレニアモンだったのだなッ!」

 

「そうだな……って言ってる場合じゃない! 病院に運ぶぞ延珠!」

 

「うむ、任された!」

 

 ゼツを担いで蓮太郎たちは病院に入っていった。

 担ぎ込まれていったゼツを見届けた将監は深い溜息を吐いて踵を返した。夏世もまた将監の後を追いかけようとするが、

 

「今日の仕事はコレでお終ェ~だ。後は好きにしろ」

 

「えっ?」

 

「後は休むなり誰かの看病したり好きにしろ」

 

「……あっハイ!」

 

 将監の意図を知った夏世は微笑を浮かべてお辞儀をした後、ゼツが担ぎ込まれた病院に入っていった。それを確認した将監はもう一度溜息を吐いて、本当にその場を後にした。

 

 

  ◆

 

 

 全身の火傷、胸元の傷、出血多量。そんな誰もが見ても重症を負っているゼツを執刀医したのは室戸菫であった。

 手術時間は約2時間。

 大手術を為し終えた室戸菫は手術室を出ると、そこには蓮太郎や延珠、木更に夏世の四人が心配そうに見詰ていた。

 

「先生、ゼツは……」

 

「一言、言わせて貰うと手術は成功だ」

 

 成功の言葉を聞いて大きな安堵の溜息をついた。そんな四人に菫は少しだけ微笑むと、訝しげな表情を浮かべた。その表情にいち早く気付いた夏世は心配そうに視線を向けた。

 

「あの先生。どう、なされたんですか?」

 

「いやね。私も多くの患者の相手をしてきたが、アレは異常だよ」

 

「異常、ですか?」

 

 一体何が異常なのかと周囲は耳を傾け、話は続いた。

 

「火傷、胸元の傷、それらの傷を治療した後から再生していたのさ。尋常じゃない程の早さで……」

 

「再生だと。それって……」

 

「ハッキリ言って、あの再生速度は延珠ちゃんみたいな"呪われた子供"と同等以上だよ。普通ではありえない。蓮太郎くん、あの子は何者だい?」

 

 その問いに蓮太郎はどう答えたら良いのか判らずに言葉を詰まらせた。すると、手術室の扉が開かれ包帯だらけのゼツが姿を現した。

 急な登場に驚く周囲だが、ゼツは少しだけ歩いて菫の前に立つ。そして、その場で頭を下げた。

 

「手術、感謝します」

 

「アレだけの大怪我でその手術後で動けるとは、本当に君は何者なのだろうね?」

 

「それは、改めてこっちから教えるよ」

 

 呆れた顔にゼツは苦笑しながら答えた。

 話を終えて身体に巻かれている包帯を急に外しだした。その行動に周囲は驚き止めようとするが、それを聞き受けることなく包帯を全て外した。

 

「お前、その身体」

 

 蓮太郎の指摘。

 本来は包帯の下には火傷痕が存在する筈、だがその肌には痕は存在しておらず綺麗な肌の状態だった。流石にコレは可笑しいと周囲は視線を向ける。

 

「ズレが酷いかな。後で調整しないと……蓮太郎、帰ろう」

 

「おっおい!?」

 

 返事も聞かずに外にむかって歩き出すそのゼツの姿に、蓮太郎たちは驚きながらも後を追いかけていく。その場に残った室戸菫はその去っていく後姿を眺めながら訝しげに見詰ていた。

 

 

  ◆

 

 

 スマホで二台のタクシーを呼んでゼツと夏世、蓮太郎と延珠と木更でタクシーに乗り込み、蓮太郎の家に向うように運転手に頼んだ。

 十数分後。蓮太郎のマンションの門前に到着、二人分のタクシー代をゼツ一人で払い蓮太郎の家に向った。だが、階段を上っているときに胸元に傷の痛みに足を止めるゼツ、それに気付いてすかさず傍に寄って肩を貸した。

 肩を貸してくれた事にお礼を言って、その状態で蓮太郎の扉を開いて家に上がった。

 上がった後、ゼツは戦闘によってボロボロになった黒の羽織を脱いでスマホを取り出して何かをしだした。

 

「なぁ何をするきだ?」

 

「んっ、少し待ってて」

 

 皆が思っている疑問を問い掛けるがゼツは、視線をスマホから外すことなく操作を続けていた。そして、スマホは淡い光の粒子を放ちだしそれがゼツの身体を包んでいく。

 そこで、皆の視線がある事に釘付けになった。

 

「ゼツさん、その身体……一体……」

 

「嘘でしょ」

 

「こんなの……あるのか?」

 

「ゼツ、お前……」

 

 皆が唖然としてしまう。

 右胸から右腕全体、左足から脇腹までが数字列に包まれて透けていた。その透けている部位にスマホから溢れ出す粒子が次々と注ぎ込まれていき、やがて透明だった部位は肉体になっていた。

 

「あのね蓮太郎、俺は右腕周辺と左足は本来無いんだよ。デジモンに食われてね」

 

「くわっ食われたッ!?」

 

 急なカミングアウトに周囲は驚きの声を上げた。

 その驚きの表情を見たゼツは苦笑しながら内容を皆に教えだした。

 

「まだデジモンテイマーとしては駆け出しだった頃、強敵に遭遇してね。その強敵に右腕周辺と左足を持っていかれた。だから、身体の半分近くをデジタル化してるんだよ」

 

「デジタル化って……」

 

「まっそのお陰なんだけど、通常ではありえない程に身体能力を得たけどね。これが、この歳でもガストレアに勝てる秘密なんだよ」

 

 隠された秘密を暴露すたゼツに、周囲の蓮太郎や延珠、木更に夏世たちは驚きながらも納得した。

 ゼツは延珠や夏世みたいにガストレアの呪いなどは無い。だが、それ以外の力を持って戦っていたのだ。

 

「デジタル化ってサイボーグみたいな感じなのか?」

 

「似ても似つかないかな。機械が出せる能力は100とするなら、肉体のデジタル化は精神状態にも左右されて100でも150でも出せるようになる。更に機械に起きる磨滅とか劣化とかは存在しないし、感覚もあるからね」

 

「マジか」

 

「ゼツくんの強さってコレだったんだ」

 

 不思議な視線を向けながらゼツの右腕に触れてみる。

 それは確かに体温があり、血管も通っている。だが、先ほどの話が真実ならこれに触れている右腕は偽物なのだ。だが、どう見ても本物にしか見えない。

 

「でも、これにも弱点があってね。何らかのダメージを受けたらデジタル粒子が徐々に減っていき、最後には形状が維持できずに消滅してしまう。だから、このようにスマホに保存されているデジタル粒子を注入して増やさないといけない」

 

 スマホから光は消えていき普通の状態に戻った。

 それを確認した後、スマホを操作して淡い青色の着物を取り出した。出した着物を片手に持って隣の部屋に移動しだした。

 

「どうするんだ?」

 

「着替えるの。流石にこのボロボロの状態は流石に居たくないしね」

 

「そうか。手伝おうか?」

 

「着付けの仕方なんて知らないでしょ?」

 

「あっ私は知ってるわよ」

 

「いや、流石に女性に着付けされるのは……」

 

 頬を赤く染まってしまう姿に流石の木更も苦笑しながらゼツの後姿を見送った。それから数分、着替え終えたゼツは襖を開けて出てきた。

 淡い青色の和服寝巻、帯びには深緑を巻いている。

 

「寝巻なのですね」

 

「今から着物に着替えても意味がないからね。変じゃない?」

 

「はい。落ち着いた感じです」

 

「そう、それは良かった」

 

 夏世の感想に満足すると、蓮太郎の方に視線を向けた。

 

「そろそろ解散しない? もう、朝日は上がってるけど流石に眠いし」

 

「そうだね、俺も眠い」

 

「私もそろそろお邪魔しようからしら。そうそう、今日はお仕事お休みだから、今日一日ゆっくり休むのよ。明日から後処理とか大変なんだからびしびし働いてもらうから」

 

「うむ妾も今日はくたくたなのだ。夏世はどうするのだ?」

 

「私もそろそろ帰ります。ゼツさん、あまり無茶はしないで下さいね」

 

「うん。心配かけてごめんね」

 

 心配かけた皆に謝罪をして頭を下げる。

 皆はその謝罪を受け取って、それぞれ帰るべき家に帰っていった。

 




少しだけ走りすぎな書き方かもしれませんね。

さぁ、皆さんも思っていた通りって言うかは、大体の人は分かっていたと思いますが神話降臨ズィード=ミレニアモンが此処にて爆誕です。
この小説での設定上ではズィード=ミレニアモンはデジタルワールド創世記にて一度デジタルワールドを滅ぼしたデジモンです。
ですので今のデジタルワールドの遺跡などでズィード=ミレニアモンの名前が記載されています。
通常では人間には従えて御する事は不可能といわれているデジモンなのですが今回の本文にも記載している半分をデジタル化しているゼツくんだからこそ扱える存在なのです。

それと上記にも書きましたがゼツ君の身体の半分はデジタル化されています。通常より身体能力が高いのも、デジモンの攻撃を受けても耐えられるのもコレらが理由です。でも、実はこれ以外にも目的があるのですが、それはもう少し進ませてからです。

【用語】
『肉体デジタル化』
失われた部位などをデジタルで補うデジタルワールド限定の治療法。
メリット
:繋目などは一切分からない。
:神経の感覚がある。
:義肢などの磨滅や劣化などがない。etc
デメリット
:神経などが繋がっているため痛覚があり。
:一定以上のダメージを受けた場合は消失してしまう。etc

まぁ、こんな感じで……(汗)
次回で第一章が終わります。次回をお楽しみに!


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023

 蛭子影胤事件はゾディアックガストレアが消失した事によって事態は沈静化していった。途中、謎の存在であるデジモンたちの激戦も起きたが大きな被害は起きなかった。

 そして、その翌日後にゼツは聖天子の向き合う位置にて椅子に座っていた。

 嘗ては皇居があった場所、そこに建てられている聖天子が責務を行なう場所にて呼び出されていた。ゼツが座る左右には蓮太郎と木更が座り、向かい合った場所には聖天子が座っていた。その聖天子の一歩背後には菊之丞が巌の様に佇んでいる。

 

「……先ずは、任務お疲れ様です。身体は大丈夫ですか?」

 

「まっ痛いのは痛いけど、動けないほどではない」

 

「そうですか」

 

「それが言いたい為に態々このような場所に呼んだ訳じゃないよね?」

 

「そうですね。では、デジモンに付いて色々と聞かせてもらいます。ゼツくん、彼方のこともです」

 

「ふむぅ……」

 

 顎に手を置いて複雑な表情を浮かべながらゼツは考える。そして、顎に置いていた手を離して自身の隠していた秘密を語りだす。

 その内容は蓮太郎たちも聞き覚えのあるものから、聞き覚えのないものまでもが含まれていた。

 自身の地球にはガストレアはいない。ネットワーク内には異世界と呼んでもいいデジタルワールドがある。デジタルワールド内を旅をしていたら何時の間にかこの世界にいた。

 教えられた内容に聖天子や菊之丞たちは終始、表情を変えることもなく耳を清ませて聞いていた。そして、ある程度の説明を終えて少しだけ溜息を吐くと聖天子が何かを決意したような表情を菊之丞に向けた。

 

「……説明御苦労様です。色々と分からず納得出来ない部分もありましたが、先ず最初に今後デジモンの力を無闇に扱わぬよう此方で監視したいと思います」

 

 ゼツの眉間に皺が寄りだす。だが、直ぐに怒鳴る事もなく黙ってきく。

 

「勿論、ゼツくんにとってはデジモンは家族と同義的な存在ですので愉快に思わないでしょう。ですが、一体だけでもエリアを破滅できる力を内包した存在を東京エリア統治者である私が管轄出来ていないとなれば、周囲から要らぬ誤解を招く恐れがあります」

 

 ゼツ自身もそれに付いては色々と考えていた。

 このガストレアで蹂躙された世界ではデジモンの力は人間の希望にもなるし絶望にもなる。そんな存在であるデジモンが統治者ではない民警一個人が持っていい戦力ではない。

 

「周囲のエリアの軋轢を起こさないため、デジモンの戦力投入は私の許可なしではしないで下さい」

 

 それは統治者である聖天子の許可なしでは使用できないと言う意味でもあった。各民警たちの手綱が聖天子にあるように、ゼツのデジモンにも手綱を繋ぎたいのだろう。それは致し方ないと思うゼツではあったが、

 

「断らせてもらう」

 

 意味も理由も全てを理解しながらゼツはその申し出を拒絶した。

 その言葉に左右に座っている二人の額には嫌な汗が浮び、菊之丞は射抜くようにゼツを睨みつける。だが、その中で聖天子だけは一切表情を変えなかった。

 

「……では、東京エリア統治者の聖天子ではなく、一個人としてゼツくんに相談があります。デジモンの投入を控えてはくれませんか?」

 

 微笑を浮かべて両手を顔の前で合掌しながらゼツにお願いする聖天子。序でに首をコロンとかしげた。

 その表情は色々なメディアに見せた冷徹に徹した表情ではなく、歳相応の愛らしい可愛い表情だった。

 

『……はっ?』

 

「…………ゑ?」

 

 一瞬、その場の空気が凍った。

 菊之丞と蓮太郎、木更は素頓狂の表情で口をポカァと空けて唖然としており、ゼツも遅れて頭上に『?』を浮ばせる。そして、最初に反応したのはゼツだった。

 身体を丸めて肩を震わせ、笑い声が聞える。どうやら笑いを堪えているようだ。だが、結局は我慢が出来ずに今まで見たことのないような腹を抱えながら爆笑しだした。

 

「アハハハッ! ヒィーヒィー、少し……待っ……笑いが、止まッ……アハハハッ!」

 

 足をバタつかせて腹を押さえて笑いを抑えようとするゼツではあるがツボに入ってしまったのか一向に収まらない。それから二分ほど存分に笑ったあとゼツの目元に涙を浮かべながら聖天子を見詰返す。

 

「ふふっ良いよ。一個人のお願いじゃ仕方ないかな」

 

「出来れば一度だけ連絡を入れてくださると私的には嬉しく思います。ダメですか?」

 

「あはは。うん、その程度は構わないよ。後で連絡先教えてね」

 

「はい。それでは後ほどお教えしますね」

 

 他三名を無視して勝手に話が決まってしまった。

 そのやり取りは政治的なのは一切なく、まるで友達と相談しているようにも見えた。だが、それを良しとしないのが一名いた。天童菊之丞であった。

 

「お待ち下さい聖天子様ッ! そのように勝手に決められては困ります!?」

 

「何が困るのですか菊之丞? ゼツくんは先程デジモンの使用を抑えて下さると言ったではありませんか。当初の目的は達成されました」

 

 先ほどの微笑を消して聖天子は振向いていけしゃあしゃあと述べた。だが、それでは菊之丞は納得しなかった。

 

「いいえ、本来の半分の達成されていません! あの様な危険な存在を我等の管轄から離れて好き放題動くなど、周囲のエリアから付け入られる恐れがあります! 本来の目的であった化物の全権を我等の手に!」

 

「菊之丞。それはゼツくんから家族を取り上げろと言うのですか?」

 

「あの様な化物を家族など」

 

「口を慎みなさい菊之丞。ゼツくんを東京エリアの敵に回したいのですか?」

 

「ッ!?」

 

 菊之丞に二つの影が射した。

 獣の唸り声が耳元から聞えてくる。凄まじいほどまでの殺気に蓮太郎や木更は背中から冷汗をかき、菊之丞は強烈な殺気のありまりに身動きは出来なかった。

 

「あっ自分は何も指示なんてしてないからね」

 

「この二体は家族想いですね」

 

「苦楽を共にしたからね」

 

 室内全体に満ちる殺気のなか、聖天子は平然としておりゼツと話を続けた。だが、このままでは話が続かないと聖天子は少し困った表情を浮ばせる。

 

「このままでは話が出来ませんので殺気を引かせても?」

 

「それは良いけど。次は何を仕出かすか分からないからね」

 

「お願いします」

 

 パンパンっと二回ほど手を叩くと室内に満ちていた殺気が失せ、二つの影は蜃気楼のように消えてなくなった。

 空間に圧し掛かっていた殺気と言う名の重圧が無くなり、三人は深い溜息を吐きだす。菊之丞の呼吸が落ち着いた後、聖天子は話を続けた。

 

「菊之丞、私は最初に述べました。縛りはする、ですがそれは緩いものだと」

 

「ですが……」

 

「まだ分かりませんか? 私たちの様な権力者から命令した所でゼツくんは決して屈する事は無いでしょう。ましてやゼツくんに何かが起きれば二体のデジモンは黙ってはいない。ならば一個人として、お願いや約束ならば従ってくれるでしょう」

 

「無茶なお願いじゃなければねぇ」

 

 手をヒラヒラして返事を返すゼツに微笑みで返す聖天子。

 菊之丞は悔しげにゼツを睨むが、その当人は飄々とした態度を見せて平然としている。神経が図太いのかふてぶてしいのかさて置き、流石にこれでは二体のデジモンを抑えるのは不可能と判断した菊之丞はその場を引いた。だが、それでも菊之丞はデジモンの力を押さえ込み我が手中に納めるために虎視眈々と狙いを定めていた。

 

「じゃっ帰って良いかな?」

 

「はい。後日改めて連絡先などをお教えしますので宜しくお願いします」

 

「りょ~か~い。じゃっ帰ろっか蓮太郎に木更さん」

 

「あっあぁ」

 

「そっそうね」

 

 未だにデジモンの殺気に当てられて身動きが出来ない二人、その姿にゼツは少しだけ苦笑混じりな顔を見せて動けるのを待つのだった。

 それから数分程度の時間をえて二人は動けるようになり、その場を後にして玄関前に待っていた延珠と合流して彼等の会社に戻ってきた。

 会社に帰って木更は何時もの場所の椅子に座って大きな溜息をつき、蓮太郎も同じく近くにあった椅子に座って同じく深い溜息をついた。その二人に不思議そうに見詰る延珠にゼツはその理由と訳を説明すると、空笑いをする。

 

「流石に仕方ないのだ。デジモン、それも完全体以上の殺気は妾ですら恐怖を感じる」

 

「そうなんだ。完全体程度の殺気なら怖くは感じるが、竦むほどじゃないんじゃない?」

 

「それはゼツがデジモンに対して馴れているからであろう?」

 

「あっ、そっか。その差があるのか」

 

「ゼツだって最初は恐怖したりはしなかったのか?」

 

「流石に最初はしたよ。完全体に会ったのは2~3年前ぐらいの頃だったし、相手がヴォルクドラモンだったから最悪だったな」

 

「ヴォルクドラモンとはどの様なデジモンだったのだ?」

 

「簡単に言えば活火山の身体を持ったブラキオサウルスかな。普段は大人しく争いは好まないんだけど、タイミングが悪かったのかすっっっっっごく機嫌が悪かってさ大暴れしてて、標的にされて攻撃を受けた。その頃はディアボロモンは成熟期のクリサリモンだったし、ミレニアモンは未だに居なかった状態だったから必死に逃げて逃げて、最終的には海に逃げ込んだ」

 

「さっ災難だったな、ゼツ」

 

「今では相手して負けないだろうし竦むことな無いだろうけど、その当時は俺は涙目で逃げてたのは覚えている」

 

 次はゼツが深い溜息をついた。

 その姿にどれだけ災難な目にあったのか想像も出来ない延珠は空笑いしてご愁傷様だと思うのだった。

 それから延珠が準備した緑茶を飲んで一服していると木更が真剣な表情を浮かべてゼツに視線を向けた。

 

「さて、色々と立て込んでいて聞きそびれてたけど……あの子は何者なのゼツくん?」

 

「タクマ、の事か……」

 

 皆が脳裏に浮ぶのはゼツと同じくデジモンを従える子供――タクマ――の姿。そして、あの異様なまでのゼツの怒り具合であった。

 

「そう……だね。少しだけ話そっか」

 

 ゼツとタクマ、その二人の浅からぬ因縁を語りだした。

 

 

 

 

 デジタルワールド。

 数多のネットワークが混ざり合って構築された世界。そこにはデジタルモンスター、略してデジモンと呼ばれる生命体が跋扈していた。

 その世界では弱肉強食。弱者は強者の糧となり、糧を得たデジモンが新たな進化を遂げていった。そんな中でゼツは一つのタマゴとスマホを持ってデジタルワールドに降り立った。

 当初は右も左も分からなかったゼツは、不安に押し潰されそうになりながらもタマゴから孵ったばかりのクラモンを抱えて逃げ隠れするしかなかった。

 やがてクラモンはツメモンに、次にケラモンへと進化を遂げた。その頃から色々な所にカードが落ちており、そのカードを具現化させられることを知ったゼツはケラモンと共にデジタルワールドを生き延びた。

 たとえ、火の中水の中草の中森の中土の中雲の中……兎にも角にも戦い生き延びやがてはケラモンは究極体のディアボロモンに、途中から仲間になったミレニアモンを供にしてデジタルワールドを旅を続けていた。その頃、自分と同じくしてデジモンをパートナーにしてデジタルワールドに降り立った子供が複数居ることを知った。

 ゼツは彼等に接触してデジタルワールドの仕組みや生き延びる術を教えていった。

 一人助ければ二人、二人助ければ三人、それが続きやがては一つの団体が出来上がった。それが後に最強グループ一角と呼ばれる様になる『ノーネーム』である。タクマはそのメンバーの一人だった。

 タクマはお母さん子だった為かデジタルワールドに迷い込んだ当初はずっと泣き続けていた。泣いて、疲れては寝て、起きては泣いての繰り返して周囲のメンバーも困っていた。そこでゼツはタクマを面倒を見ることとなり、やがてはゼツを兄と慕い一角のテイマーへと成長していった。タクマのパートナーはギルモンであり、聖騎士であるデュークモンに進化が一番近かったペアだったが、ある"事件"が起きてしまいグループから離反して『人類滅亡』を第一に動き出した。

 そして、ゼツは自身の二体のデジモンを連れ、タクマとそのパートナーのギルモン共々消滅させたのだった。

 

 

 

 

 社内は重たい空気が漂う。

 だが、肝心のタクマがゼツと敵対関係になった"事件"に付いては触れられていなかった。それに不思議に思った蓮太郎はそのを問うと、渋ったような顔を浮かべるゼツは顎に手を置いて口を開いた。

 

「事件って言うのは簡単に言えば政治関係の話だよ」

 

「政治関係?」

 

「タクマの家庭は病弱な母親一人の母子家庭だった。そのお母さんがある日、殺人罪の罪で警察に捕まった。タクマのお母さんは無論無実を訴えたが聞き入れてくれずに有罪、刑務所に入れられた。その原因なのかは知らないが病弱だった身体は一気に悪化していって最後には息を引取った」

 

「亡くなったのか」

 

「うん。だけど、そこから一気に荒れた。その逮捕が誤認逮捕だったのが後に分かってね、それを企てたのは国会議員の一人だった。理由は単純明快、その議員の息子が殺人の真犯人でそれを隠蔽する為に無実の人間に擦り付けた。その標的が偶然にもタクマのお母さんだった」

 

 それを聞かされた三人は驚きの悲痛の表情を浮かべた。そんな三人を無視して話を続けた。

 

「当時はこの真実をタクマに聞かせまいとしたが、何処からか手に入れた情報でその事実を知ってタクマは暴走。ギルモンを連れて現実世界で完全体のブラックメガログラウモンに進化させて都心中央で大暴れさせた。それを止める為に当時『ノーネーム』リーダーだった俺自身が先頭に立ってタクマを鎮圧させた」

 

 両手をギュッと握り締めて歯を食い縛って握った手を見詰ながら、今にも泣きそうな瞳を固く瞑って言葉を呟く。

 

「その戦闘は荒れに荒れた。デジモンの存在は未だに現実世界では隠匿すべき事柄で、直ぐに結界班がタクマ中心半径五キロに亘って封鎖、説得を試みた。だが、結果としては失敗して最終手段としてタクマを殺した。確かに……殺した筈なんだ。この手で……アイツの胸元を剣で……でも、生きていた。それも『奴』に魂を売ってまで」

 

「『奴』とは、誰のことだ?」

 

 冷えてしまった緑茶をゼツは啜りながら苦虫を噛み締めた表情を浮ばせ、『奴』の事を思い浮かべて殺気を放つ。そんなゼツの姿に蓮太郎は『奴』が何者かを問う。

 少しだけ教える事に迷ってしまうが、ゼツは『奴』の事を蓮太郎たちに教えた。

 

「奴って言うのは『アポカリモン』。一年ちょっと前あたり、『第一次闇黙示録戦争』の頭であり既に討伐されていた筈だったデジモン」

 

「だった?」

 

 過去形として話すので延珠が首をかしげる。

 その疑問にゼツは直ぐに話を続けた。

 

「だったて言うのはね、誰かがアポカリモンの残骸データを回収して復活させたんだよ。その誰かは、結局分からずじまいで調査を打ち切ったけど。俺的には七罪(アホォたち)かメフィスモン、あるいはグランドラクモンかはたまたオグドモンか……全部憶測だし、証拠もないけど……まっ、どれにしたって相手にはしたくないね」

 

 苦笑混じり笑みを浮かべるゼツの姿に他三名は何とも言えなかった。

 今までゼツの強さは何処から来ていたのかと色々と疑問を浮かべていたが、これで疑問は氷解した。デジモンと呼ばれる存在が跋扈する世界デジタルワールドで生き延びたのだ、そりゃ強くなるわけだと蓮太郎たちは思う。ソレだけではなく、話的には大戦らしきモノに参戦している雰囲気の話もしていた。

 

「まっ色々悩んだって結果は変わらないし。そろそろ俺は帰るよ」

 

「帰るとはアッチにか?」

 

「そうアッチにね」

 

 余った緑茶を一気に飲み干すとゼツは会社を後にして出て行った。

 

 

  ◆

 

 

 ビルから出て、少しだけ離れた場所でディアボロモンを呼んで霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)に向うように指示して外周区に飛び立った。

 目的地である霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)に到着、ディアボロモンを下げて自身の部屋に向かった。

 少しだけ長い廊下を歩きながら肉眼で自室の扉が見える距離に近付くと、扉の前に誰かが立っていた。

 

「ルリちゃん」

 

「お帰りなさい」

 

 立っていたのはルリだった。

 微笑を浮かべルリは帰ってきたゼツを出迎える。空の様に綺麗に輝くスカイブルーの瞳には優しさが満ちており、それを見たゼツは微笑みで返す。

 

「うん。ただいま」

 

「はい」

 

 ルリの手に引かれて自室に入ると妹であるリアが居らず、友達であるマリアもいなかった。そんな疑問に気付いたルリは答えた。

 

「二人なら今日は調理当番ですから」

 

「そっか」

 

 ゼツが座ると、その隣にルリが座る。

 特に何も言わず聞かず黙ってゼツの前にお茶を置く。お茶を出してくれたことに礼を述べてから一口飲んで深く溜息をつくと、隣に座っていたルリが膝をポンポンと叩いた。

 意味が分からずに不思議そうにするゼツに、じれったいと感じたルリは少しばかり強引にゼツ頭を掴んで無理矢理に自身の膝に置いた。

 膝枕である。

 

「あの、ルリさん?」

 

「今日はゆっくり出来そうですか?」

 

「えぇ~っと、どうだろう」

 

 聖天子には後日改めて会いに行かないといけないし、明日もまた民警として働かないといけない。此処に要られるのも今日一日程度だろう。

 そう答えるとルリは少しだけ目を細める。

 

「なら今日はゆっくり休んで下さい」

 

 一線だけ紫色のある黒髪をルリは優しく撫で始める。

 ゆっくりと優しいテンポで撫でられる事でゼツは一気に眠気に襲われる。

 

(あぁ、こうして撫でられるのは母さん以来か)

 

 記憶の奥に仕舞ってあった母の思い出を思い出しながら目蓋をゆっくりと閉じていく。

 

「色々と……あったけど、今日は……ゆっくりと……」

 

「今日だけは、ごゆるりと……」

 

 優しく微笑むルリの顔を見ながらゼツの意識は眠りに落ちた。




これで第一章は終わりです。
何か聖天子が壊れた気もするけど気のせいです。はい。

現在、デジモン騒動編を書いている途中ですが、こちらは今のところ次に投稿出来るのは未定みたいな感じです。
プロットはある程度は出来ていますが、それを文にするのは大変です。まぁそれでも執筆中ですけど。

では、次回も楽しみに待ってて下さい。


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