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1話

病院のベットで彼女は静かに寝ていた。本当に静かだ。いつもの賑やかな彼女からは想像できない。

 

私はどうしてあの時…

 

 

 

最近、私はおかしい。ココアと接すると今までとは違う妙な気持ちになる。抱きつかれると幸せな気分になり、ココアがチノに抱きついたりしているのを見ると焦りのようなものを感じるようになった。そのあとはそっけない態度をとってしまう。

「なんなんだ…これは…」

もしかして私は……いや,そんなことは無い。

 

 そんなある日。

「リゼさん、最近ココアさんと何かありましたか?」

「えっ…?」

チノにココアとの関係について尋ねられた。

「どうしたんだ急に?」

「ココアさんから、最近リゼさんががそっけない気がして何かしてしまったのか。と相談されました。ココアさんすごく気にしていましたよ」

正直に言ってしまおうか?そうすればすっきりするかもしれない。

「いや、最近ココアのことが妙に気になって会話に身が入らないんだ」

「そういえば最近よくココアさんを見ていますね、何か気になる事でもあるんですか?」

「…いや…なんでだろうな」

気になるわけじゃない。ただ、見てしまう。それだけだ。

「リゼさん、もしかして…」

「まあ大したことじゃないよ」

「いえ、とりあえずみなさんにも相談してみましょう」

「え?大げさだって」

「いいから行きますよほら」

相談するほどのことだろうか?いや、もしかしたら皆もココアについて何か気になることがあって、私もそれを気にしているだけかもしれない。

 

 

 

「あら、チノちゃん、リゼちゃんいらっしゃい」

「リゼ先輩、チノちゃんこんばんは」

「千夜さん、シャロさんすこしよろしいでしょうか?」

「ええ、ちょうど閉店時間だし」

「私もバイトないしいいわよ」

「ほらリゼさん」

本当に相談すべきだろうか、チノがやけに積極的なのが気になる。まあ皆もなにか気になっていることがあるのならそれで解決だ。。

「…実は最近ココアが気になってしまうんだ」

「ココアちゃん?」

「ああ、それで皆も何かココアについて気になることがあるんじゃないかと思って」

「うーん…特には思い当たらないわね」

「私も特にはありません」

皆は気になることは無いのか。収穫が無いのは残念だがまあ大したことでは無いだろうしいいか。

「そうか、いや時間をとらせて悪かったな」

「…リゼさん違いますよね」

「え…?」

そう言ったチノからは怒りのようなものを感じた。

「え?どういうこと?」

「チノ!?私が聞きたかったことは今ので」

「ずっと気になっていることがありました」

チノ、まさか…気づいていたのか。

「なぜリゼさんはこの話を直ぐ終わらせようとするんですか?」

「それは…大したことではないから」

やめてくれ、これ以上は…

「違いますよね?本当は何か心当たりがあるんじゃないですか?」

違う。

「相談の時あえて言わなかったことありますよね」

違う。

「最近、ココアさんが私に抱きつくのを見るとき動揺していますよね?」

違う、この想いは違う。

「本当はココアさんが好きなんじゃないですか?」

「違う!」

『!?』

分かっていた、ココアに対するこの想いに。

「そんなわけないだろ!」

でも、認めるわけにはいかない。

「大体何でチノはそんなに聞いてくるんだ!関係ないだろ!」

認めるわけにはいかないんだ。

「ココアさんはすごく悩んでいたんですよ!」

「!」

「嫌われたちゃったのかって気にしていました。泣きそうでした。」

「だからそういうわけではないって…」

「だったらココアさんと今までどおり接してくださいよ!無理ですよね?」

「2人とも落ち着いてください!」

シャロが仲裁に入ってきた。

「リゼ先輩!チノちゃんはココアのことを心配してるんです。ココアのためにも真剣に考えてあげてください」

「…」

「チノちゃんも言い過ぎよ」

「…すみません」

そうだ私の行動でココアは悩んでいるんだ。でも…。

「リゼちゃん相談に乗るから正直に話してみて?」

でも…

「仕方がないだろ…」

この気持ちを伝えるのはだめだ。

「ココアにとって私は友達なんだ」

ココアが私のことを大切に想ってくれていることは分かる。でも私は…

「でも私は恋人になりたくって…そんなことを伝えてしまったら友達ですらいられなくなるかもしれない…」

それは嫌だ。

「リゼさん…」

「3人とも頼む、このことはココアには言わないでくれ」

「でも!」

「ちゃんと今まで通りココアと接するように心がけるから」

 

 

 

ここ数日、リゼちゃんがおかしい。いや、その前から急にそっけなくなったりしてたけど、ここ数日は顔を見て話もしてくれない。何か嫌われるようなことをしちゃったのかな…

「嫌だよ…」

リゼちゃんに嫌われるなんて…だってわたしはリゼちゃんが…

そんなある雨の昼下がり、ちょうどリゼちゃんとわたしは休憩中だ、思い切ってリゼちゃんに聞いてみよう。

「ねえ、リゼちゃん」

「どっ、どうしたココア?」

「最近リゼちゃん変だよね?私何かしちゃった?」

「え?いっいや別に」

やっぱりなんか変だ。

「じゃあ何で私の顔をみて話してくれないの?お喋りしようとしてもすぐに話を切り上げちゃうし。」

教えてよ…嫌だよこんなの…せめて…

「だからなんでもないって」

「嘘だよ!ちゃんと話してよ私たち友達でしょ!」

せめて今までどおりの友達の関係に…

「…!」

「リゼちゃん!?」

「ごめん用事があるから帰るな」

「あっ、待って!」

気づけばリゼちゃんは扉を開けて走っていった。

「待ってよ!」

追いかけなきゃ!

「待ってよ!リゼちゃんっ!」

このままじゃずっと…

「行かないで!」

だんだん小さくなっていくリゼちゃん、公園の階段を駆け下りてなお走ってゆくのが見える。追いかけなきゃ。

「きゃあ!」

体が宙に舞った、かと思えば強い衝撃が体につたう。

「…え?ココア?」

リゼちゃんがこっちに駆け寄ってくるのがわかる。

「ココア!おい!ココア!」

意識が水たまりに溶けていくみたい。

「リ…ゼ…ちゃん……」

お願いだから…逃げないで…一緒に…

 

 

 

 

病室でココアが寝ている。静かだ。呼吸による体の上下だけがココアが生きていることを教えてくれる。

「ココアさんっ!」

「チノか…」

「リゼさん!ココアさんは、ココアさんは大丈夫なんですか!?」

「医者によると命に別状はないって。ただ頭を強く打って気を失っているらしい。数日で目は覚めるだろうって」

「そうですか…でもどうして?」

「…私のせいだ」

「え?」

「私がのせいでココアは…ココアは!」

そう、私のせいだ。あの時逃げてしまったから…いやその前からずっと……ココアを好きになってしまったから。

「落ち着いてください。とりあえず場所を変えましょう」

 

 

場所を移してほどなくしてシャロと千夜も来た。

「リゼちゃん、とりあえず何があったか教えてくれるかしら?」

「…昼頃、ココアに最近の私の態度について聞かれたんだ。それで、言い訳できなくなって逃げてしまった」

「え?逃げたんですか」

「それで追いかけてきたココアが階段から落ちた」

本当に嫌になる。私の勝手な想いでココアを苦しめて、怪我をさせてしまった。

「…リゼさん、この前言ってましたよね普段通りココアさんと接するように心がけるって」

「…」

「ここ数日様子を見ていましたが、以前よりもさらに悪化していましたよね!」

「すまない…」

「謝るのは私にじゃないでしょう、ココアさんから逃げ続けた結果ココアさんは怪我をしてしまったんですよ!」

逃げ続けた。確かにそうだ私はココアからも自分の想いからも逃げ続けてしまっていたんだ、逃げ続けたのは私なのにココアが怪我をしてしまった。不幸にしてしまった。本当に自分が嫌になる。

「リゼさん」

「…」

「お願いですリゼさん、もう逃げないでください。ちゃんと向き合ってください」

私はココアと向き合ってよいのだろうか?きっとまた不幸にしてしまうだろう。

「私にはもう…ココアと一緒にいる資格なんて…」

「リゼさん!これ以上ココアさんを悲しませるようなことをしないでください!」

「!」

ココアが悲しむ…確かにココアは友達を大切にする娘だ、だからこそココアはずっと悩んでいたし追いかけてきたんだ。私がココアの前からいなくなったらさらにつらい思いをさせてしまうだろう。そういう優しい娘なんだ。「

「ココアちゃんならリゼちゃんの想いを知っても離れたりなんてしないわ」

「そうですよ、ココアにとってりぜ先輩は大切な存在なんですから」

「リゼさん、今度こそ素直に向き合ってください。大丈夫ですココアさんも向き合ってくれますよ」

「…みんな」

そうだ、ココアは友達想いで、優しくて、素直なんだ。まっすぐ私に向き合ってくれた。だったら私も素直に向き合おう、もう逃げたりなんかしない。

「…ありがとう」

「よかったです」

「ああ。悪かったな。もう逃げないよ、ちゃんと伝える」

「その意気です!」

 

 

 

ココアはまだ目が覚めずに入院している。学校や店を休むわけにはいかないので夕方までお見舞いには行けない。そんなもどかしい気持ちでいると

「リゼさん、早めに上がって大丈夫ですよ?」

「いや、しかし…」

「父から早めに閉めて大丈夫とのことです。私もお見舞いに行きますしリゼさんも行きましょう」

「ありがとう」

「お礼なんていいですよ」

 

 

「チノ!りぜ!」

お見舞いに行く道中、焦燥とした血相のマヤがこっちに走ってきた。

「マヤさん、どうしたんですか?」

「はぁ…はぁ…さっきメグとココアのお見舞いに行ったんだけど…」

「!ココアに何かあったのか!?」

嫌な予感がする。

「…目を覚ましたんだけどなんか変なんだ!」

それを聞いた瞬間、走り出していた。

「急ごう!」

「はい!」

 

 

「みんな…」

「メグ!ココアは!?」

病院につくとロビーにメグがいた。だがその様子は良いと言えるものではなかった。

「今…検査中で…とりあえず検査が終わるまで待っててって…わたしどうしたら…」

メグは酷く動揺しているようだ。それだけで胸が張り裂けそうな思いになる。

「マヤ、ココアはどんな感じだったんだ」

「…」

「マヤさん?」

「…私たちのことを…覚えていなかった」

「「…え…?」」

 

 

 

 

 

「えっと…チノちゃん、リゼちゃん、マヤちゃんそれとメグちゃん…?」

「はい、みなさんココアさんの友達です。覚えていませんか?」

「…ごめんなさい…」

「いえ…謝る事では」

信じたくなかった。だが、目の前の少女は間違いなくココアだ。

「…ねえリゼちゃん?」

{どうした?}

「リゼちゃんはわたしの家族か何かなの?」

「え?違うが何で?」

「なんか、不思議な感じがするというか…まだよくわかんないや」

ココアはもしかしたら何かを覚えているのか?完全に忘れたわけじゃないのなら…

「ココア」

「なに?」

何とか出来る可能性があるのなら…

「ココアごめん!」

「え?」

私はもう逃げない

「詳しいことはまだ言えないがこうなってしまったのは私の責任なんだ」

「リゼちゃん…?」

「記憶がないのに謝られてもわからないかもしれない、だけど、ココアの記憶は何とかして見せる」

「リゼさん…」

そうだ、私は逃げない。素直に向き合うんだ。今の現実から…

「怪我をさせた張本人なんて言われたら怖いかもしれない」

そして…

「でも、私はココアに伝えなきゃいけないことがあるんだ。だから、私を…」

そして…自分の想いからも。

「リゼちゃん、頭を上げて?」

「ココア…」

「ありがとう。何があったかわからないけど、でも、リゼちゃんが良い娘だってことは分かるし、私、リゼちゃんのことを信じるね!」

ああ、やっぱりココアはこういう娘なんだ。記憶を失ってもそれは変わらない。優しくて真っすぐだ。

「ありがとう…私頑張るから」

「うん!」

「…2人とも私たちのこと気づいてる?」

「千夜!?それにシャロもいつから!?」

「リゼ先輩が謝っているあたりから居ましたよ」

「気が付かなかった」

「この人たちは?」

「ああ、千夜とシャロだ。2人ともココアの友達だ」

「ココアちゃん大丈夫?」

「体は大丈夫だよ。でも記憶があやふやで千夜ちゃんもシャロちゃんも覚えていないや…」

「さっき教えてもらったわ。一番大変なのはココアちゃんなんだし気に病まなくて大丈夫よ」

「ありがとう」

「ところでこれからどうするの?」

「えっと、さっき先生からとりあえず数日したら退院で日常生活を送ってくださいとのことです」

 

 

 

数日してリゼちゃん、チノちゃんと一緒にわたしが住んでいるラビットハウスという喫茶店に来た。

「ここがラビットハウス?」

「はい、覚えていませんか?」

「ううん、わからないや」

でもなんだろう…この気持ちは…

「とりあえず中に入るか」

お店に入ってからリゼちゃんとチノちゃんから案内された。リゼちゃんがラテアートを披露してくれたり色々あった。なんか懐かしいような感覚だった。それになんだろう?リゼちゃんに感じるこの気持ちは?

「それじゃあ私は帰るな」

 

(待ってよ!)

 

「あ…」

「?どうしたココア?」

リゼちゃんが帰ろうと扉を開けたとき焦りと一緒に自分の叫び声が聞こえた。

「あの…その…」

苦しい、悲しい。そんな気持ちが湧き上がって来る。そして…

「どっどうしたココア!?」

涙が頬をつたうのが分かった。なんで?どうして?わからない。でも…

「待って…」

「!ココア…」

「待ってよ…」

自分の口から言葉が出てくる。

「ココアさん…」

なにかをなぞるように。

「待ってよ、リゼちゃん。もっとお話ししよ?もっと仲良くなりたいよ」

「…わかった。チノいいか?」

「はい、もちろんです」

 

 

ここはどこだろう。

「あれ?」

リゼちゃんだ、なんかすごい勢いで走ってる。何かから逃げるように。

(待ってよ!リゼちゃんっ!)

わたしだ、わたしから逃げてるんだ。なんで…?

(行かないで!)

あれ?なんか意識が…

なんでわたしはリゼちゃんを追いかけていたの?。

訳が分からないよ、これは何?ものすごく胸が苦しくなる。

(リ…ゼ…ちゃん……)

 

「うっ…」

いつの間にか寝ちゃってたみたい。あたりは真っ暗だ。

「今のはいったい…」

今のはわたしの記憶?公園で事故にあったらしいけど、でも、だったらなんで…?

「ん?」

チノちゃんの部屋から声が聞こえる。

「でも良かったです。リゼさんがちゃんと向き合ってくれて」

「もう逃げないよ」

なんの話だろ?

「ココアさんもリゼさんについてなんらか覚えているみたいですし」

「ああ、希望はある」

わたしの話?

「もし、記憶が戻ってもココアさんから逃げないでちゃんと向き合ってくださいね?」

「もちろんだ、2度と同じ失敗はしない。覚悟を決めた」

逃げる?覚悟?なに?わからない。もしかしてわたし、リゼちゃんになにかしちゃってたのかな。だからリゼちゃんはわたしから逃げていたの?でも、そうだとしたらわたしの記憶を失った原因を言えなかったのも納得がいく。リゼちゃんは優しい娘だから言えなかったんだ。

「そろそろ晩御飯の用意をしましょう」

「そうだな。手伝うよ」

「ありがとうございます」

そっか。わたしリゼちゃんを困らせていたんだ…

「おっココア起きたのか」

「あ…うっうん」

「タカヒロさんに頼んで泊めてもらうことにしたんだ。晩御飯作るから待っててくれ」

「あっありがとう…」

わたしはもしかして貴女にとって迷惑な存在なのかな……

 

 

 

ココアの元気がない気がする。退院してからだろうか、いや退院した日の夜からだ。晩御飯を食べていた時も上の空だったし、食べ終わったらすぐに部屋に戻っていった。時折チノやシャロ達と楽しそうに話している姿を見かける。ただ私がいるとどこか遠慮しているようなそんな雰囲気だ。

「ココア」

「なっなにリゼちゃん?」

「何か悩み事でもあるのか?」

「え?いっいや別に…」

「本当か?もし何かあるならいってくれよ。協力するから」

「…ありがとう。リゼちゃんは優しいね」

やっぱりココアは何か悩んでる。でもそれがなにか分からない。問い詰めてしまうとココアに苦しい思いをさせてしまうかもしれない。

「もう少ししたら言うよ」

「…わかった」

今は待つしかないのか。

 

 

 

また、夢を見た。

(ねえ、リゼちゃん)

(どっ、どうしたココア?)

(最近リゼちゃん変だよね?私何かしちゃった?)

(え?いっいや別に)

(じゃあ何で私の顔をみて話してくれないの?お喋りしようとしてもすぐに話を切り上げちゃうし。)

(だからなんでもないって)

(嘘だよ!ちゃんと話してよ私たち友達でしょ!」

(…!)

(リゼちゃん!?)

(ごめん用事があるから帰るな)

(あっ、待って!)

…そっか…リゼちゃんに感じていたこの気持ちは…

「好き…なんだ…」

この気持ちががリゼちゃんに苦しい思いをさせていたんだね。今だってそう…記憶をなくした今でも好きで…

それでリゼちゃんを苦しめてる。だったらちゃんと謝ろう。謝って…どうなるか分からないけど、リゼちゃんをこれ以上苦しませるわけにはいかないもんね。

 

「終わらせよう。この気持ちを」

 

 

 

今日はラビットハウスも休みだしココアを誘ってどこか行こうかそう思っていた。

「ねえ、リゼちゃん、ちょっとお出かけしない?」

そしたら、ココアの方から誘ってきた。

「どこか行きたいところでもあるのか?」

「うん、ちょっとね…」

どこへ行くのだろうか。

「行こ?」

「わかった」

2人道を歩く。隣ののココアは何も話そうとしない。話しかけることも出来なかった。

「…」

ふと空を見るとぽつぽつと雨が降ってきた。あの日を思い出す…振り返るとすべてが終わっていた…あの日を。

「なあ小雨が降ってきたし戻らないか?」

記憶が頭を駆け巡る。

「ついたよ」

「えっ?ここって…」

公園だ。あの日の…何で?

「遊びたいのか?」

「うんうん。違うよ」

もしかして…

「ねえ、リゼちゃん」

何か覚悟を決めたようにこちらに向いた。

「ここ何日か夢を見たの」

夢?

「夢でね、わたしはリゼちゃんを問い詰めてた。それで、追いかけてた」

「!思い出したのか!?」

「やっぱり本当なんだね…ごめんね思い出したのは夢で見たことだけ」

「そうか…」

ココアはあの日のことを夢で見たのか、何を思ったのだろう。

「ごめんね。リゼちゃん」

「え?」

なんで謝ってるんだ?思い出したんだろ?

「わたしが気持ちを押し付けちゃったせいでつらい思いをさせちゃったね」

「なにを言って…」

本当に何を言っているんだ。わからない。押し付ける?何を?気持ちを?

「苦しいのに記憶を失ったわたしを支えてくれてありがとう。もうあんなことしないから安心して?」

「まってくれ、違うんだ」

「え?」

もう、逃げられない。

「私があの日逃げたのはココアのせいじゃない!」

言うしかない。じゃないとどこかへ行ってしまう。

「あれは…私がココアのことを好きな気持ちを打ち明けることが出来なかったから」

「好きな気持ちを伝えてココアとの関係を壊したくなかったから逃げ出したんだ」

もう戻れない。逃げれない。いや、逃げない。

「うっうそだよ!」

「嘘じゃない!」

そうだこの気持ちに偽りはない。私の素直な想いだ。

「でも、だって」

「ココア」

「ごめん!わたしちょっと頭を冷やしてくるね!」

「あっココア!」

このままだとだめだ。そういう予感がした。離れるわけにはいかない。今度はちゃんと…

「きゃあ!」

一緒にいるんだ。

「ココア!」

なんとか手首を掴んでこちらへ引き寄せることが出来た。

「リゼ…ちゃん?」

 

 

 

リゼちゃんを公園へ呼び出して今までのことを全部謝ろうとした。でもなぜかリゼちゃんは違うって言ってそれで…

「好きな気持ちを伝えてココアとの関係を壊したくなかったから逃げ出したんだ」

「うっうそだよ!」

「嘘じゃない!」

リゼちゃんがわたしを好き…それはわたしの願望だよ。。

「でも、だって」

わたしが傷つかないように気を遣ってるの?それとも本当に…

「ココア」

「ごめん!わたしちょっと頭を冷やしてくるね!」

わからなくなってきた。とりあえず一旦気持ちを落ちつかせよう。ぐちゃぐちゃだ。

「あっココア!」

闇雲に走り出したのがよくなかったのかな。

「きゃあ!」

あ、まただ、またわたしは落ちるんだ…また記憶なくなっちゃうのかな?でもこの気持ちがなくなったほうが楽に…

「ココア!」

後ろから引っ張られる感覚がした。。

「リゼ…ちゃん?」

気が付くと体はリゼちゃんに包み込まれていた。

 

 

…………

 

あれ?なんだろこの感じ…あれ?

 

 

「思い…だした!」

「え?」

「リゼちゃん…思い出したよ全部!」

思い出したよ。何もかも。

「リゼちゃん…リゼちゃん!」

それにこの気持ちは…

「良かった。本当に良かった」

この気持ちは変わってないんだ。

 

2人でたくさん泣いた。

 

 

「ココア」

「なに?」

「好きだ。私はココアが大好きだ」

「リゼ…ちゃん」

「私と付き合ってくれ!」

また、涙があふれてきた。

{うん…うん!わたしもリゼちゃんが大好き!}

リゼちゃん。逃げずに勇気を振り絞って想いを伝えてくれて。ありがとう。

「一緒にいてくれてありがとう」

 

 

空には虹が架かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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