FF14と原神って親和性高そうだよね (PNPcon)
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Ver 0; 序章
Ver0.1; あなたはヒカセン


修正内容
5/10
・脚注追加。FFXIVプレイヤーのエセ二人称、実際は単一三人称で進むため、原神の固有名詞やシステム等は地の文に説明あり。よってFFXIV関係の単語のみに限定して追加
・軽微な表現変更


 あなたは冒険者だ。

 

 数多の冒険を乗り越え、世界を救った冒険者だ。

 

 自分の世界だけに飽き足らず、並行世界を救い続けている冒険者だ。

 

 ~~♪ 

 

 マイハウスで1人、音楽を奏でながらいつもの"音"を待つ。

 

 ~~♪ 

 

 今あなたが奏でている音楽は、とある吟遊詩人の仲間から教えてもらった曲だ。

 何やら曰く付きらしく、他の人には絶対に聞かせちゃいけないよと、その仲間からは強く釘を刺されている。

 確かにここ、エオルゼアでは聞いたことない音楽だな、とあなたは思う。もしかしたら、最後まで聴くと変なデバフが付いてしまうとか、一音でも間違えたらスタンするとか、そんな呪われた音楽なのかもしれない。

 

 ~~♪ 

 シャキーン!! 

 

 あなたはハッとした顔でギターをしまう。そう、待ち望んでいた"音"はこれだ。あなたと並行世界の冒険者が、世界越しに接続する準備が整った音。

 あなたはいそいそと白魔道士の装備に付け替えて、準備を整える。

 

 準備が完了したあなたは、他の並行世界の冒険者を待つ間に考え込み始めた。

 

 今回は世界接続準備(マッチング)時間が長かったな。

 もしかしてヒーラーは供給過多*1なのでは……? まあ火力メンバーは間違いなく過剰供給されてるはずだから、タンクが過疎ってるのかな? 次は暗黒騎士を出そうか。でもなぁ……タンク慣れてないし、第一に他の人からヒールを貰うことに慣れてないんだよなあ。

 

 あなたは根っからのヒーラーだった。もちろん冒険はグリダニアから始め、帝国への強襲しかり、竜詩戦争しかり、解放戦線しかり……幾度の冒険には白魔道士で臨んできたのだ。

 他のジョブにも手は出し始めてはいるが、なぜか身が入らない。

 ヒーラー、特に白魔道士に固執しすぎて、他のジョブの装備は持っていても、技量(レベル)がついて来れていないのだ。

 

 あっ、1人消えた……

 

 そうして待っていたのだが、1人が辞退。また待つことになった。

 あなたは、すぐに集まるだろうと思っていたが、なぜか例の"音"は鳴らない。

 そんなこともある。そう思っていたが、待てど暮らせど一向に鳴らない。

 

 世界の異常(バグ)かな? 

 

 そう考えたあなたは一度接続を切ってみた。

 そうして再度接続しようとすると、見たことのないダンジョンが解放されていることに気づいた。

 

 …………

 幻想世界テイワット攻略

 冒険ランク 16以上

 制限時間 無し

 1人専用コンテンツ

 …………

 

 あなたは首を傾げた。

 見たことがないダンジョン、誰に依頼されたクエストかも分からない、というかそもそも冒険ランクってなんだ? 時間制限無しっていいのか? 

 目を細め、顎に指を乗せる。

 申請は……出来る。

 

 まぁいっか! 行ったことないなら行ってみよう! 

 

 あなたは好奇心は人一倍高く、警戒心は人一倍薄かった。

 頭に浮かんだ面白そうな冗談はいつでも言ってきた冒険者だ。平然とヤシュトラママ!! なんて言い放ったあなたが、こんなことに臆するわけがなかった。

 

 いざ申請! 

 シャキーン!! 

 

 あなたはいつも通り世界を渡った。

 真っ暗な世界の狭間を渡り、その流れに身を任せ、進んでいった。

 

 ────────────

 

 ──────

 

 ──

 

 

 7つの元素が絡み合う幻想世界テイワット

 遥か昔、人々は神々へ信仰を捧げ、元素を操る力を手に入れた世界

 

 そのテイワット北東部に位置するは、自由の城モンド

 そこには、風神バルバトスの祝福と恵みを一身に受ける人々が豊かに暮らしている

 

幻想世界テイワット攻略(A Fantasy World "TEYVAT")

 

 

 ──

 

 ──────

 

 ────────────

 

 

 いつものムービーを終えたあなたは、無事、幻想世界テイワットに到着したようだ。

 周辺は草木に覆われ、左斜め前方には一際大きな、それは大きな樹が見える。

 エオルゼア、特にグリダニアでは、あのサイズがゴロゴロ生えてるから感覚が狂うが、あれはあれで十分大きそうだ。

 

 しかしあなたはここで気づく。いったい、どこへ行けばいいのか分からないのだ。

 今までなら、ああいう目立つ物が大体ゴールだったりするのだが、それもこれも世界からのガイドや道があるから確信するのであって、ガイドは無い、進路を阻む謎の壁も無い、どう見ても行けないと分かる崖や山も無い。

 そんな状態では、どこに向かえばいいのか、見当もつかない。

 

 あなたは少しだけ怒った。

 どうして世界に呼ばれて来たのにガイドも道*2もつけてくれないんだ。

 どこに行けばいいのかも、何を倒せばいいのかもわからないじゃないか! 

 

 あなたは、今までに何度も理不尽な目を受けたことがある。一体どうすれば解決するのか、見当もつかなかったときだってあった。

 しかしどんなときでも、とりあえず何をすればいいのか、目先の目標は常に分かっていたのだ。今回の冒険にはまるでそれが無い。となれば困ってしまうのも当たり前の話である。

 

 

 ──いや、待てよ。

 

 あなたは閃いた。

 

 時間無制限、つまりそれすらも探すダンジョンということでは……? 

 そして、この見渡す限りの大地を、好きなだけ冒険できる……? 

 

 あなたは悪だくみな表情をした。

 

 ──ちょっとくらい、一人旅してもいいよね……? 

 

 あなたは決めた。この世界を、冒険するまで帰らない。

 

 この世界に呼ばれたってことは、世界が、テイワットが危機を迎えているはずだ! 間違いない! 

 

 そう確信したあなたは意気揚々と大樹へ歩き始める。

 そう、冒険とは、まずエーテライト*3探しから始まる。場所はあなたには分かっていた。あの大樹の下だ。

 

 さぁ! かむおん! 私のチョコボ! 

 冒険がわたしを待っている! 

 

 

 もちろん、チョコボを呼ぶときにはちゃんと止まってから呼んだ。

 

 

 ──

 風立ちの地(Windrise)

 

 止むことのないそよ風が、この野原を撫でている。かつての英雄が残した巨木が微かにざわめく

 ──

 

 

 あなたはなんのトラブルもなく、大樹の元にたどり着いた。

 道中、見たことのない丸形生物が居たが、エーテライトと交感することが先である、と考えたあなたは、どんな敵対モンスターも無視して駆け抜けてきた。

 時間にして数分もない。意外と早かったものである。

 

 しかしまたここで問題が発生する。

 駆け寄る間にも気づいていたが……エーテライトが無いのだ。いや、正確には、あなたの知る形の、エーテライトが無いのだ。

 

 台座に乗った石像。どうやらそれがこの世界のエーテライトの形らしい。

 

 台座まで含めたら高さ4メートルと少し……もしかしたら5メートル弱くらいだろうか。あなたは、元々同性間では身長が高くない種族である上に、同種族同性の中でも低い方なため、正確には分からなかった。

 自分の3倍以上はあるかな、という予想である。

 

 普通のエーテライトといえば大きさはずっと離れていても見えるくらい大きいし、質感もキラキラしていて、いかにも「私! エーテライトです!」みたいな見た目をしているものだ。

 街によって多少の違いはあれど「エーテライト感」というものはどれも持っていた。

 

 しかしこれはどうだ。

 ただの石像にしか見えない。しかもなんだかヒビも多く、今にも崩れそうな見た目である。

 あなたは、本当にこれで大丈夫なのか……? と訝しんだ。以前経験した、テレポによるエーテル酔いが起こるのだけは勘弁である。

 

 あなたは警戒心を高めた。

 しかしそれもつかの間。あなたは2秒で考えることを放棄し、石像に手を伸ばす。

 

 まあどうにかなるよね。

 

 あなたは今までもそんな気持ちで、本当にどうにかしてきてしまったのだ。今回もどうにかなると確信(過信とも言う)しつつ、交感*4を行った。

 

 気持ちの良い風。さわさわと風が葉を撫でる音。

 

 あなたの考えの通り、何の異常もなく交感できた。しかし、この風を感じたまま、もうすこし目を閉じていたいと思った。

 あなたは初めての冒険を思い出す。

 そう、初めて冒険者4人で行った、あの洞窟だ。

 もはやよく覚えていないが、サンゴの色がどうとかあった気がする。黄色い四足モンスターを倒して、やたら逃げ回る海賊を叩きのめして、最後には人魚(ひとざかな)を叩いた。覚束ない立ち回りで、杖を振り回して、投石機同然だったのも、今となっては懐かしいあなたの思い出だ。

 

 あなたは考え込む。そんなとき、声が響く。幼い声だ。

 だが、考え込むあなたには聞こえない。

 

 そういえば風のうわさで、平行世界の冒険者と協力しなくても良くなったとか聞いたな。ああいうまるで知らない、言葉もまともに通じない初心者マーク4人*5でウロウロするのも面白いと思うんだけどなあ……。

 

「おーい! 聞いてるのかー?」

 

 あなたは聞こえている。

 

「おいっ! 聞こえてるだろ!!」

 

 あなたは耳を塞いで首を振る。

 

「聞こえてるんじゃないか!!」

 

 あなたが後ろを振り向けば、そこには女の子と……モーグリ?*6が居た。

 しかし流暢に話すモーグリだとあなたは思った。モーグリが話す言語は、あなたが知るものではない。だが、ここのモーグリは語尾にクポクポつけるわけではないことは分かった。

 

 一方、女の子の方については、あなたと 同じ部類(PC)だと分かった。一般人(NPC)同類(PC)の違いは感覚で掴める、あなただから出来たことだ。

 

 さて、PCにはまずは挨拶だと相場は決まっている。あなたは最近使っていなかったマクロ「初ID挨拶」*7を呼び出した。

 まずはお辞儀をして──

 

「【初めまして。】【こんにちは。】 【ここに来るのは初めてです。】」

「おう! オイラはパイモンだ! そしてこいつは旅人! お前は何て言うんだ?」

 

 なるほど分からない。あなたは首を傾げた。

 仕方がない。定型文辞書*8で話しかけているのに、相手が使ってくれないことはままあることだ。

 

「パイモン、待って、この人……」

「なんだ? 旅人」

 

 どうやら相手の女の子、旅人はあなたが言葉に不自由なことに気づいたようだ。

 

「この飛んでる生き物の名前、分かった?」

「おい旅人! オイラを生き物なんて言うな! オイラはパイモンだ!」

 

 あなたにはモーグリが女の子に怒っている様子しか分からない。

 もちろん女の子に言われていることは分からないし、なぜ怒っているのかも分からない。

 こんな時に言うことは決まっている。

 

「【答えたいけど表現がわかりません。】」

「あ、やっぱり」

「ん? なんだお前、もしかして、話せるのに言葉が分からないのか?」

 

 あなたは、言葉が通じないことを知ってもらえたことに安堵する。

 これで定型文辞書を使ってくれればいいのだけど……と淡い期待を抱くあなただが。

 

 旅人は自分とパイモンを交互に指さして言う。

 

***、パイモン、***、パイモン」

 

 あなたは相手の名前が***とpaimonであると分かった。

 伊達に今まで非母国語話者を相手してきた訳ではない。定型文辞書を使わないパワースタイル系冒険者を相手にしても、どうにかしてきた実績があなたにはあるのだ。

 

***、paimon 【よろしくお願いします!】」

「おう! 何か変な呼び方だけどよろしくな! それで? お前は何ていうんだ?」

「パイモン、それじゃ分からないんじゃない?」

 

 あなたは何かを聞かれているのは分かった。あなたの過去の経験からして、ここは名前を聞かれているはずだ! と考えた。

 しかし、どう答えようかとあなたは悩む。あなたの名前をそのまま言っても、おそらく読みにくいし、長すぎる。ファーストネーム、ラストネームの文化が無さそうだ。

 代わりに思いついた、光の戦士。しかし、ずっとそう呼ばれるのはあなたの性に合わないし、なにより名前らしくない。もちろん意味すら伝わらないだろう。

 

 さてあなたが考え始めた途端に、旅人はどうやって伝えようか、悩み始める。

 しかし旅人が動き始める前に、あなたはここでの名前を決めた。

 

 胸に2回、右手をあててアピール。あなたは口を開く。

 

「hikasen 【よろしくお願いします!】」

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

*1
FFXIVでは特殊な場合を除いてパーティのヒーラー・火力(DPS)・タンクの人数が決まっている

*2
FFXIVのコンテンツは基本一本道で寄り道は無い

*3
FFXIVにおけるファストトラベルポイント

*4
ファストトラベルポイントを有効化する儀式のこと

*5
初心者には全てのプレイヤーから見える葉のマークがつく。通称: 若葉

*6
FF世界に存在する宙に浮く謎生物。頭から球が生えており「〇〇クポ」と話す

*7
アクションやチャットなどを前もってまとめておき、ワンクリックで一連の動作を連続で行えるようにしたもの

*8
相手の言語で表示される、特別なテキストチャットのこと。用意されたリスト内から選択し非母国語話者とも簡単なコミュニケーションが可能。本家とは表示が異なるが本小説では【】で示す




なおヒカセンと蛍ちゃんのユーザーネームはこの話以降二度と使うことはないです。

その他脚注
1. ヒカセン: 光の戦士のこと。FFXIVではプレイヤーは光の戦士と呼ばれるため、ユーザーからは親しみを込めてヒカセンと呼ばれるが、実はヤミセンの時代もあった
2. ユーザーネーム: FFXIVではユーザーネームは半角英文字。ユニークなファーストネームとラストネームを設定する。原神におけるUIDのような扱い
3. つづく: FFXIVで本編終了スタッフロールの後に表示される文字。ユーザーは次のアプデ(パッチ)を待つことになる


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Ver 1; モンド城
Ver1.0; 自由都市モンド城


修正内容
5/10:
・脚注追加・描写追加(あらすじに影響無し)・誤字修正





 

 旅人、パイモンと出会ったあなたは、彼女らの勧めで、知らずままモンド城へ歩いていた。

 話を聞くところによると、おそらく旅人も、あなたと同じく外の世界からやってきたらしい。

 それも、あなたとは違い、様々な世界を旅してきたのだという。

 

 あなたは、この世界の話など完全にそっちのけで、旅人の話を聞いていた。固有名詞が多く、話のほとんどがジェスチャー(エモート)であり、あなたには半分も伝わっていなかった。だが、あなたは根っからの冒険者だ。自分の知らない話は大好物の、それは好奇心旺盛な冒険者である。自分がここにいる限りいつでも聞けるテイワットの話より、今なら旅人の冒険録を聞くべき、あなたは強くそう思っていた。

 一方旅人らは、言語が分からないのだから、外の世界から来たんだろう、とは流石に結びつかず、ずいぶん遠いところから来たんだな、と思うばかり。遠い外国からやってきたとはいえ、モンドの事も知らずここまでやってきているとは考えられず、モンド、ひいてはテイワットの話をする必要性を考慮していなかった。

 つまりあなたは、旅人たちがモンド城に向かっていることも知らず、なんの目的も無いまま旅人達に同行しているのだった。

 

「あ、スライム」

 

 旅人が指さした先には丸型生物が2体。大きさは直径約2メートル弱というところか。

 赤色、水色に染まっていて、いかにも火属性、水属性の攻撃を繰り出してきそうなモンスターである。

 

 旅人は剣を取り出してあなたに見せる。

 その様子は「戦える?」と訊いており、あなたは杖を取り出して、大きく頷いた。

 それを見た旅人は、前は任せろと言わんばかりに全力ダッシュ。タンクでもそうそう見ない勢いっぷりである。

 しかしあなたから見た旅人は、剣だけ……? というのが正直な感想である。もっと盾とか水晶玉とかは出さないのかな? と思ったのだ。なんか物足りない感じがするが、その装備からして被弾をよしと出来る装備でも無さそうだし(ミラプリ*1をしているなら別だが)、火力系ジョブであることは明白である。

 であれば、自分にも攻撃が飛んでくる前提の動きのほうがいいだろう。

 そう考えたあなたは、近づきながら旅人のファーストアタックを待つ。

 旅人から残り2メートル。スライムもあなた達に気づいたようだ。

 

「ハァッ!!」

 

 旅人が攻撃した直後にリジェネ、即効性は無いが、時間経過で回復する魔法をかける。

 あなたがパイモンにちらっと目を向けると、空から様子を伺っていた。どうやら、パイモンは戦えるわけではないらしい。

 

 異世界からの旅人・冒険者の共闘(マルチプレイ)が始まった。

 

 

 

 ────────────

 

スライム(Slimes)

 

 どこにでもいる、丸いゼリー状の元素生物。

 異なる元素のスライムで作られたスイーツが異なる味わいがする。

 知能は極めて低いが、放っておくと小さな災害を引き起こす。

 

 ────────────

 

 

 

 さて、初バトルを終えたあなたは衝撃を受けていた。

 別にモンスターが倒せなかったわけでも、誰かが大怪我をしたわけでもない。

 むしろ順調そのものだったといえよう。

 

 なにがあなたを驚かせたのか──旅人がノーダメージだったのだ。

 スライムの体力は低く、あなたの無属性魔法、グレア*2で吹き飛ぶ程度のレベル差があったとはいえ、ダメージとは受けるものである。あなたにとって戦闘とは、見える攻撃*3はともかく、敵視(ヘイト)*4を貰ったら攻撃(オートアタック)は常に受けるものだと考えていた。

 これを旅人はすべて躱していた。だからこその軽装なのだ。これはあなたにとって革命だった。

 

 しかし、冒険者を続けてもう数年を経たあなたにとって、この戦闘(プレイ)スタイルを変えることなど出来ない。

 

 ──じゃあいいか。このままで。

 

 難しい問題を放棄するのは、あなたの悪い癖だった。

 

 さて、ここであなたは気づく。はて、どこに行っていたんだっけ。

 

「【どこに行きますか?】」

「モンド城、モンド城。ご飯にしよう」

「ごはん! やったぜ!」

 

 言葉が通じないあなたへの扱いが慣れた旅人。あなたはモンドジョウという場所に向かっていることが分かった。

 手を口に近づけるエモートから、モンドジョウで、ご飯にしようということも分かった。

 

 あなたは喜んだ。料理に関しては全くの専門外であるあなたは、お腹が空けばりんごを齧っていたのだ。知り合いから何故か大量に押し付けられた赤いりんごだ。そんな生活をしばらく続けてきたあなたにとって、人の作ったご飯であること、それだけでご馳走なのだ。

 

「【やったー!】」

「やったー!」

 

 あなたとパイモンはハイタッチをした。ぐるぐるまわるパイモン。両手を上げて喜ぶあなた。

 一方旅人は、モラを持っていないだろう旅人を見て、パイモンほど食い意地を張るタイプじゃなければいいんだけれども。と少しだけ頭を悩ませた。

 

 

 ────────────

 

 ──────

 

 ──

 

 風は蒲公英(たんぽぽ)の種と詩歌と物語を遠くへ運び

 穏やかな旅人を連れてくる

 

 モンドへようこそ。

 

自由都市モンド城(A city of freedom "Mondstadt")

 

 

 ──

 

 ──────

 

 ────────────

 

 

 湖に囲まれた都市、モンド城。数多の都市を駆け巡ってきたあなたには、サイズが少し小さく感じたが、この街からは活気を感じた。行く街々でトラブルに当たってきたあなたには、それは珍しくも冒険の幸先としてとても良いものを感じた。

 

「パイモン、私は冒険者協会に今日の報告をしてくるね。ヒカセンと一緒にいてあげて。あとから鹿狩りでご飯にしよう」

「おぅ! わかったぜ! ご飯待ってるからな!」

「私は待ってくれないのね……」

 

 すっと肩を落とす旅人。3メートルほど離れた緑のカウンターの受付嬢が、旅人をなぐさめている様子があなたには見えた。

 すわトラブルか……? 言葉が分からないあなたは、旅人について行こうとする。

 

「待て待て! 旅人は成果を報告しに行ったんだ! オイラたちは一足先にご飯に行こうぜ!」

 

 あなたへの気遣いが全く無い話し方だが、パイモンはついて来い、というエモートをしている。

 正規ルートはこっちか。

 そう感じたあなたは、旅人を置いてパイモンについて行くことにした。

 

「そうだ! 話がわかるじゃねーかお前! サラの作る料理は美味いんだぞー! 旅人が来るまでにメニューを決めておこうぜ!」

 

 ややテンションの高いパイモン。あなたはパイモンのその大げさなアクションから、ご飯を食べに行くことが分かった。

 しかし街に来たのに何もすることが無い。街に行けば何かしら問題があって、それに対処する。そういう生き方をしてきたあなたにとって、何だか変な感覚だった。

 もしかしてこの街は、もう旅人によって問題は解決されたあとなのかもしれない。そう思ったあなたは、パイモンに質問をした。

 

「【助けはいりますか?】」

「ん、旅人のことか? それともご飯の味のことか? 大丈夫! すぐに来るし、ご飯は絶品だぜ。何も心配いらないぞ!」

 

 グッジョブ! と右手を突き出すパイモン。あなたには問題ないことが伝わったが、どうにもまだこの街にはなにかある。冒険者としての勘がそう囁いている気がしてならない……気がする。

 なお重要でない場面においてのみだが、あなたの勘が仲間たちから全くあてにされていなかったことを、あなたは知らない。あなたは決めるべき時には決めてくれる光の戦士として定評がある一方、フラフラと歩き回る、浮浪者のようにどこでも寝る(寝落ち)、よくギャンブルをする、酒に目がない……そんな減点を重ね続け、普段は()()()()()()()として見られていたことも事実。一時期は場所もわきまえずシャンパンをふりかけまくり、たまたま先にいた例の双子の妹にヒット。死んだふりをするも、そのまま正座させられ、カンカンに叱られたのも懐かしい記憶である。双子の兄の方が宥めていなければ、あなたの足は使い物にならなくなっていたかもしれない。

 

 閑話休題。

 

「ヒカセン! もう見えてるあれが鹿狩りだ! サラー! 3人だ! 旅人はあとから来るんだけど、いいかー?」

 

 あなたの左手に見える店、鹿狩り。そこのスタッフに向けてパイモンは手を振りながら叫んだ。

 サラと呼ばれたカウンターのスタッフは笑顔で手を振りなおし、大丈夫ですよ! と言った。

 あなたには言葉の意味は伝わらなかったが、席は確保できたということは察した。

 

「ここに座ろうぜ。メニューは……」

「はい、鹿狩りのメニューです。来るときにも見えていましたが、珍しい種族の方ですね。ここに来るのは初めてですか?」

 

 パイモンにメニューを渡しながら、あなたの身体を眺めるサラ。褒められた態度ではないが、それほどあなたの身体が珍しいようだ。しかし、あなたにとって値踏みされる視線は珍しいものではないし、自身も他の冒険者の服装や装備、ミラプリを観察……どころか特定までしていたものだ。今更何も失礼に当たることは無い。

 そんなことは知らないサラ、ハッと気づいた様子で頭を下げる。

 

「失礼しました。何しろ珍しいもので」

「すっごく遠い場所から来たらしい。エオルゼア……とかいう場所らしいんだ。言葉も、簡単な言葉なら話せるけど、聞くのは慣れていないらしい」

「【はじめまして。】」

 

 あなたは片手を上げて挨拶をする。

 

「はじめまして! ではぜひともモンド(いち)の料理を味わってもらわないといけないですね! 注文は後ほどにしましょうか?」

「おう! しばらくしたら旅人が来るから、その時に頼むぜ! ありがとな!」

「承知しました。ではまたお呼びくださいね」

 

 サラは小走りでカウンターに戻っていった。パイモンはさっそく貰ったメニューを机に広げる。

 

「いいか? オイラのイチオシはここの漁師トースト、それとこの串焼き! 最高に美味いんだ! それからこのサラダもシャキシャキで新鮮! それにだな……」

 

 メニューを1つづつ指差しながら、解説をするパイモン。

 笑顔でヨダレが見えてしまっているが、あなたにはそれだけここの料理が美味しいんだろうということはよく伝わった。

 あなたは一息で料理を説明しきったパイモンを見て、メニューを指差して言った。

 

「【なるほど。】【お願いします。】」

「冷製肉盛り合わせだな! オイラはどれにしよっかな~」

 

 ペラペラとメニューを行ったり戻ったりしながら考えるパイモン。そんな中、あなたは旅人がこちらに来ているのが見えた。

 しかしパイモンはメニューに夢中になっており、気づいていない様子である。あなたはどう声をかけるべきか迷っていたが、旅人が来てしまえば一緒だろうと思い、小さく旅人に手を振った。

 旅人は一瞬だけ目尻を緩めてあなたを一瞥(いちべつ)したが、すぐにパイモンに目を向き直し、静かにその後ろで止まる。

 

 ああ、ちょっとだけ怒ったクルルさんはこんな感じだったか。静かに気づくのを待ってから、子供に言い聞かせるような話し方をしていた。

 あなたは遠い目でそう思い出した。一体どれだけ世話になったか噛み締めながら。

 

 一方パイモンは気付かない。そうして、大声でトリガーを引いた。

 

「よぉし、オイラはここからここまでにしよう! ヒカセン! 急いでサラを呼ぶぞ! 注文してしまえばこっちのもんだ!」

「パイモン」

 

 かくして炸裂した爆薬。あなたからすれば、見えてる地雷を踏んだパイモンだった。

 ヒィ! と引きつった声を上げるパイモン。まるでギギギギと聞こえるかのように振り返って、旅人と向き合う。空中で後ずさるというなんとも奇妙な事をしながら、言い訳を話し出す。

 そんなに食べるつもりなの? いや、お前もきっと腹を空かしているだろうと思ってだな……

 たとえ言葉は通じなくても、仲良しな二人だな、と笑みを浮かべざるを得ない、そんなあなただった。

 

 

 ちなみにあなたにとって、料理はとても美味しかった。

 酒という単語をすぐにでも覚えなければ、とあなたが危惧するほど。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

*1
見た目のみを変える装備セットのこと

*2
無属性魔法のこと。白魔道士の主な火力ソース

*3
主に赤い範囲で示される範囲攻撃

*4
敵からの警戒度。パーティ内で1番高い人が優先的に攻撃される




ヒカセンの種族・性別は好きにご想像ください。
便宜上、アウラ♀(西洋竜を擬人化したような種族。尻尾と一部表皮に鱗を持ち、頭部両耳辺りから角が生えている。♀は身長はやや低い〜普通、身体つきは華奢)を想定しております。
種族に対する反応で話を大きくすると、軸がブレて話が脱線しそうなので、もれなく5行程度で済ませます。
原神でもメインストーリーではそれほどそういうネタはありませんし。
(覚えてる限りで仙人、煙緋くらい?)


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Ver1.1; 自由都市モンド城

投稿直後にタイトルミス気づいたので変更しました。

5/16
・表現の修正:原神の世界の地理と異なる表現があったので修正。原神世界の日が暮れる時刻と差異があったので時刻修正。
・脚注追加


 サラがカウンターを務める鹿狩り。そこで腹ごしらえを終えたあなた。

 美味しい料理を食べることが出来た時は、非常に良い気分であったが、支払いの際に問題が発生した。

 

 まず前提として、鹿狩りは前払いシステムである。そのため、先に旅人がカウンターまで赴き、注文と合わせてまとめて支払いを行っていた。その様子を遠目から見ていたあなた。旅人にご馳走になるつもりは無かったので、食後にギルを返そうとしていた。

 

 世界が違う第一世界でも通じた、エオルゼア共通通貨ギル。もしかしたら違う通貨を使用しているかもしれない、という考えはあなたにあったが、貴金属としての価値はあるだろう。あなたはそう考えていた。

 エオルゼアの通貨ギルは、それそのものに価値がある本位貨幣通貨。どこかの誰かが価値を保証する管理補償通貨ではない。従って、ギルそのものを売ることができるのだ。

 

 しかしあなたの考えは裏切られることになった。

 ギルが、エオルゼアでの貴金属が、ここモンドでは何の意味も持たなかったのである。

 あなたは知らなかったが、ここテイワットでの共通通貨モラに目がないパイモンでさえ、綺麗だな〜という反応。多くの世界を旅した旅人は硬貨だと認識するものの、綺麗なコインだね、という反応だった。

 ギルの通貨としてどころか、そのものの価値すら認められなかったのだ。

 そんな仕打ちを受けたあなたは、肩を落としながら旅人に謝る。

 

「【ごめんなさい。】」

「モラのこと? いいよ、パイモンよりずっと安く済んでるし」

「……えへっ」

 

 右手を頭にコツンと当てるパイモン。旅人はそれを横目に重いため息を一つ。

 

 さて、ギルがギルとしての役割を果たせないことが判明した今、非常にあなたは悩んだ。今回、旅人は許してくれたようだが、今のあなたはいわゆる素寒貧。手っ取り早く現地通貨を手に入れるには、リテイナー*1を呼び出すベルも無いので(鳴らしても来てくれないだろうが)、手持ちにある数少ないアイテムを質に入れるしかない。しかしそれも価値を見出してくれるか分からない。いざとなれば街のど真ん中で野宿も(いと)わないあなただが、目の前の料理が食べられない、そんな状況に陥らない為にも、どうにかここの通貨を手に入れる必要があった。

 

「【お金を稼ぎたいです。】」

「モラを稼ぐ方法が知りたいのか? お前は戦えるようだし、お前も冒険者になればいいと思うぞ!」

「パイモン、多分すぐに欲しいんだと思うよ」

「そんな方法あるならオイラが教えて欲しいぞ!」

 

 うーん、と首を傾げて悩む2人。どうやら意味は伝わったように見えたあなただが、悩む時点で楽な方法は無いんだな、と察した。デイリーのルーレット*2でもやれば早いか、と頭によぎったあなた。だが悲しいかな、行ったところで貰えるのは、テイワットではなくエオルゼアの通貨である。

 やはり手持ちの物を売りに出すしかない。あなたがそう結論づけるのは早かった。

 

 あなたは腰に下げたポーチからフェニックスの尾を取り出し、旅人に見せて尋ねる。

 

「【フェニックスの尾】【買ってくれませんか?】【値段:】」

 

 赤い尾羽、フェニックスの尾。瀕死となり、戦闘不能になったプレイヤーを蘇生する効果がある。

 お守り程度にひとつ持っておくか、レベルの考えで、数年間ずっと握りっぱなしになっていたアイテムだ。

 

「これは……?」

「うーん、モラが欲しいからって羽根を渡されてもなぁ……」

 

 やはり価値が無い様子。瀕死の仲間を蘇生できると言ったところで信じてもらえないかもしれないし、まずあなたの定型文だけの会話では、どうやっても伝わらない。瀕死の人を連れてきて実践するのも土台無理な話。それに、あなたが持っているのはこれ1個だけ*3である。

 残念だが、まだ使うのは先になりそうなフェニックスの尾。あなたはポーチに戻す。

 

「やっぱり元素を持ったものじゃないとな」

「そうだね。何に使うのか分からないから、物の価値が私たちには分からない」

 

 あなたには元素というものが分からない。エオルゼアで言う属性のようなものだが、それが重要であることが伝わっていない。

 またお使いでもこなすことになるかな……。

 別にあなたにとっては苦でもないのだが、ID*4中にお使いクエストを受注するとは、思っていなかったあなただった。

 

 

 さて、諦めの表情のあなた、悩む表情の旅人とパイモン、双方会話をすること無く階段を登り、上へ上へと歩いていく。

 時刻は18時過ぎ。日もだいぶ傾いてきた頃だ。

 

 あなたはいつもどおり、何の目的も無く旅人たちについて行く。しかしあなたの心には、ここらが潮時かな。という思いが出始めていた。

 ここに来て初めて出会った旅人とパイモン。特に旅人には面白い話も聞けたし、冒険の手助けをしてもらった。何も返せないままお別れ、というのは申し訳ないと感じるあなただったが、このままついて行けば、しばらく旅人のヒモになるのは目に見えている。今お礼を言って離れるべきだと結論付けた。

 

 そうして旅人が止まった場所は、巨大な石像前。両手をお椀のように胸の前に出して直立する、それは大きな天使像だ。

 ちょうどいいタイミングだ、あなたが声をかけようとするが、旅人は石像の足元を凝視している。

 足首程度の浅い水に囲まれた石像の台座。そこにはハープのようなもの持った、吟遊詩人が立っていた。緑色と白色を基調とした服、中性的な顔立ち、それほど身長は高くない。

 石像を眺めているように見える。しかしあなたには、詩人がどこかもっと遠いところを見つめているようにも見えた。

 

 旅人がいきなり止まったことに対して不思議そうにしていたパイモンだが、その人物に気づいた途端、大声を出す。

 

「あーっ! 吟遊野郎っ! お前、もう大丈夫なのか!?」

 

 吟遊詩人は手に持ったハープを消し去り、こちらに向き直ってはにかみながら声を出す。

 

「やあパイモン、旅人。そして……ん? 初めて見る顔だね。名前は?」

「こんにちは、ウェンティ。こっちはヒカセン。ずっと遠いところから来た、私と同じ異邦人。言葉が違うみたいで、私達の言葉を聞き取るのが苦手みたい」

 

 ウェンティは軽やかに水を飛び越え、台座から降りる。

 そうしてあなたの目の前までやってきたウェンティは、片手を上げてあなたに挨拶をした。

 

「こんにちは、ヒカセン。僕はウェンティ。遥々モンドへようこそ」

「hikasen 【初めまして。】【こんにちは。】 【ここに来るのは初めてです。】」

「あはは、すごい変な喋り方だね。こちらこそよろしく」

 

 無事に挨拶を終えたあなた。そして、またもやパイモンの大声が炸裂する。

 

「そんなことより! お前、もう身体は大丈夫なのか? えーと、あれ、あの神の目じゃなくて……そう! 神の心! ファデュイに取られてからそれっきり会えなかったじゃないか! 心配したんだぞ」

 

 ビシィ! と音が鳴りそうなくらい勢いをつけてウェンティを指差すパイモン。ウェンティは困ったような顔をして、うーん、とだけ声を出す。ウェンティの目線は空を仰ぎ、ゆっくりと下がる。そうして止まった目線の行き所は、あなただ。

 あなたは自分を指差し、首を傾げる。

 ウェンティはそんなあなたに一度微笑んで、パイモンに目線を向け直す。

 

「まあ、詳しいことは言えないけど。大丈夫だよ、心配させてしまったね」

「本当なのかぁ?」

 

 訝しむような表情を向けるパイモン。だがそんなパイモンを見かねた旅人がそっと耳打ちをし、ハッとあなたを見て慌てだす。

 

「い、いやこれはだな! あれだ、ちょっと前にコイツが大怪我……みたいな、そう、それの治療で……」

「パイモン、そんな説明じゃ分からないって」

 

 手を振って全力の言い訳をするパイモン。頭を抱える旅人。困ったように肩をすくめるウェンティ。またしても何も知らないあなた。

 旅人はウェンティに目線を移し、真剣な眼差しで尋ねる。

 

「ウェンティ、大丈夫なんだね?」

「大丈夫だってば。パイモンが口を滑らせたほうが大丈夫じゃないよ」

「それは大丈夫。ヒカセン、本当に言葉が分かっていないようだから」

 

 そうなの? とあなたを見るウェンティ。言葉が全く通じないほど遠いところから来た異邦人は、ウェンティにとってとても興味深いものらしい。

 

「話せるのに聞けないって本当に珍しいね……。それに言葉も通じないくらい遠いところなんて。君も遠いところから来たんだったよね」

「うん、居なくなった家族を探してる」

 

 ふむ……、と考え出すウェンティ。そうして、あっと声を出す。

 

「どうしたんだ吟遊野郎。まさか、まだどこか痛むのか?」

「いや本当に大丈夫だってば。1つ、いいことを思い出したんだ」

 

 そう言って人差し指を立てるウェンティ。旅人はじっとウェンティを見つめる。

 

「旅人、七神を探すって前に言っていただろう? それについて、手がかりになるかもしれない。ここ、モンドから南西に行ったところに、璃月(リーユエ)という国があることを知ってるかい?」

 

 頷く旅人。

 

「その璃月で一番栄える璃月港、そこで迎仙儀式(げいせんぎしき)という催しが年に一度、開催されるんだ」

 

 顎に指を乗せるあなた。正直何も分かっていない。

 

「そこでは、岩神モラクスが降臨して民に国の方針を伝えるんだ。つまりそこで、岩神に会うことが出来る。もうそろそろの時期だったと思うよ」

「はっ! そんなことをよく今まで黙っていたな! いくぞ旅人! ヒカセン!」

 

 パイモンは旅人の手を引いて、連れて行く。あなたも今はついて行って、落ち着いたあたりで離れることを伝えようと考える。

 しかしそこに待ったの声がかかる。ウェンティだ。

 

「えーと、ヒカセン、だったかな。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

 

 あなたはhikasenの発音が聞こえたので、その場に止まる。しかし、それ以外の言葉の意味はわからない。

 

「【答えたいけど表現がわかりません。】」

「ああ、そっか。じゃあいいかな。引き止めてしまってごめんね」

 

 パイモンの手を振り払った旅人が、ウェンティに向き直って言う。

 すでに10メートルほど連れて行かれていた旅人だが、静かに、それでいてやけに通る言葉だった。

 

「大丈夫だよ、ウェンティ。ヒカセンは、いい人だ」

 

 その言葉を聞いたウェンティは、きょとんとした顔を見せるが、決壊するのは一瞬だった。

 ウェンティは笑う。歯を見せて、大声で笑う。

 

「ぎ、吟遊野郎が、ついに壊れた……」

 

 奇妙なものを見るかのような表情のパイモン。ぽかんとした表情を見せる旅人。

 そうして笑い終えたウェンティは、隠しきれない笑みを浮かべたまま言う。

 

「君が言うならそうだろうね! 心配した僕がバカみたいじゃないか! 僕は道化じゃなくて、詩人なんだよ。分かってるかい?」

「【どうすればいいですか?】」

 

 あなたには何もわからない。話している言葉も。なぜウェンティが笑っているのかも。

 それを聞いた当の本人は、まだまだ笑みを残しながらも、しっかりとした発音で、一語一語伝える。

 

「そうだね、伝えるだけ伝えるよ。君は、君たちには、ありのままで旅を、冒険を、して欲しいんだ。旅の終わりが来ても、それまでの旅を振り返って見れるように。それと、君にはこれを」

 

 ウェンティは両手を合わせて集中する。ものの3秒ほどで、直径50センチ程度の緑色の球が出来上がった。

 

「風の力を込めた元素だ。君の冒険の後押しをしてくれることだろう」

 

 あなたは驚く。それはエオルゼアでも見た、あの風脈の泉だった。サイズは小さいが、見た目はまんま同じだ。

 あなたはウェンティに目を向け頷くと、ウェンティも笑顔で頷く。

 

「旅人と同じように、しばらく僕の力を貸してあげるよ。君なら、上手く使えるだろうね」

 

 さて、いつも通り交感したあなたは、旅人に向き直った。もう離れることを伝えるためである。

 だがあなたより先に、旅人が声を発した。

 

「ヒカセン、璃月、一緒に、行こう」

「行こう!」

 

 パイモンがあなたの手を引っ張り、言う。

 しかしもうヒモになる訳にはいかないあなた。

 

「【お金がありません。】【あなたにあげられる物はなさそうです。】」

「大丈夫だ! 璃月港ならお前の物がきっと売れる! あそこは商人の街だって有名だからな!」

「行こう、一緒に、璃月に」

 

 よく分かっていなかったが、とにかくついてこいと強く言われれば、こっちが正規ルートかな? と考えるあなただ。離れることは一旦置いておいて、今はとにかくついていくことにした。

 そうしてあなたは、旅人とパイモンに連れられ階段を降りていく。

 

 あとに残された吟遊詩人、ウェンティ。

 

 

 日が沈む。

 

「さて、これで風神の時間は終わり。これからはウェンティの時間だ」

 

 今までも、そしてこれからも、風神無きモンド。

 

「今日も一杯やろーっと!」

 

 陽気な風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、あなたはモンド城を去ることになった。

 モンド城滞在時間、約2時間程度。とんでもない速さでの観光だった。

 

 隣の旅人、そしてパイモン。

 

 しばらく一人旅では無さそうである。あなたは、まだまだ旅人に世話になることになるだろう。

 

 冒険はまだ始まったばかり。まだまだ次の目的地(パッチ)は来る。

 次の目的地は商業と契約の国、璃月(リーユエ)

 

 あなたの冒険はこれからが本番だ。

 

 

つづく

*1
FFXIV世界でプレイヤーがゲーム内で雇用できる倉庫兼売り子のNPC

*2
原神でいうデイリーミッション

*3
フェニックスの尾は1個までしか所持できない

*4
インスタンスダンジョンの略。原神で言う秘境



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Ver1.0α; もしもヒカセンが①

タイトル通り、IF閑話

5/23
軽微な表現変更


 ●もしもヒカセンが【風魔龍トワリン討伐戦】

 

 

風龍廃墟(Stormterror's Lair)

 

 かつては街があった、という痕跡を残すものの、今に残るは瓦礫の山。

 その中央には、天に(そび)え立つ塔。

 その塔の頂上では巨大な龍、トワリンが舞う。その背には紫色の棘、500年前の古傷が光る。

 トワリンはその巨体に見合う咆哮を響かせながら飛ぶ。

 何かを恐れるように、その暴風をもって周りのものを拒絶する。

 

 塔の頂上で対するは、4人組のパーティ。モンドの民を守る為、友を救う為、空の暴君に対峙する。

 

 

 ──────

 

 ──

 

 モンドの「四風守護」の一柱、東風の龍トワリン。

 長い年月と無限の暗闇の中、かつて澄んでいた宝石も埃で暗くなり、誇り高き龍も侵食され、憎しみに満ちた。

 もはや彼の知るモンドは何処にも無い。

 アビスの手を取るのは、きっと必然だったのだろう。

 

風魔龍(Stormterror)トワリン("Dvalin")討伐戦

 

 ──

 

 ──────

 

 

「トワリンが……苦しんでる」

 

 ウェンティは消えるような声で言った。

 紫の棘は、より一層トワリンを暴走させる。トワリンは叫ぶ。暴風はさらに強くなる。

 

「旅人! 頑張れよっあわわわわわわわっ!!」

 

 ついに耐えられなくなったパイモンが空に飛ばされる。いくら空を飛べるパイモンでも、この暴風には耐えられなかった。あのままでは、バランスを取り直す前に、地面へ叩きつけられてしまうかもしれない。

 

「【救出】paimon」

「わわわわっ!? あ……あれ? ここは……」

 

 しかし、飛ばされるのも一瞬のことだった。先程まで宙を舞っていたパイモンは、瞬く間にパーティの元に戻っていた。

 

 あなたが助けたのだ。

 救出──周りの仲間を自分の近くまで呼び寄せるアクション。次の救出まで長いインターバルが必要だが、危険な仲間を助けられる、非常に有用な技の1つだ。

 さて、パイモンが無事なことを確認したあなたは、またパイモンが飛ばされないよう、その胴体を左腕で脇挟む。パイモンは、細くともそのしっかりとした腕に、ガッチリとホールドされる。

 数秒経ち、自分が安全な場所にあることに気づきたパイモンは、あなたに言った。

 

「た、助かった……お前が助けてくれなかったら危なかったぜ」

 

 大きく頷くあなた。しかしパイモンの表情はどんどん不満げなものに変わっていく。

 

「それはそうと、オイラが文句を言える立場じゃないことは分かってる……。でもこんなのってないだろ!」

 

 まるで小さな樽でも抱えているかのように、脇に抱えられたパイモンは、側から見れば相当に間抜けな格好だった。

 

「パイモン、危ないから逃げてて」

 

 風魔龍の暴挙を止める、その強い意思を宿した異邦人の戦士、旅人。

 油断無き目でトワリンを観察し、剣を逆手に構える。

 いくら間抜けな格好のパイモンが居たとしても、ここは戦場。一切の気を抜かない戦士の鏡である。

 

「分かったぞ! 3人ともっ気をつけろよ!」

 

 脇に抱え込まれたまま、叫ぶパイモン。強く頷く旅人とあなた。

 パイモンはあなたの腕からするりと抜けて、空中で一回転。姿を消す。

 これで、ここには旅人とウェンティ、そしてあなたの3人だけになった。

 

 一方空をのたうち回るように飛ぶトワリン。今となっては、彼にウェンティの姿など見えていない。

 

 ここでウェンティは問う。いつもの軽口は控えめに、それでも詩人らしい言い回しで、旅人に問う。

 

「さて、僕とトワリンの問題に、異邦人たる君を巻き込んでしまって申し訳ないんだけど、協力してもらって、いいかな?」

「そのためにここにきた」

 

 旅人はウェンティを見るまでもなく答える。その手はモンドいちの鍛冶屋の自信作、笛の剣を握りしめている。

 

「それじゃあヒカセン。君もいいかな?」

 

 あなたは杖を構えて地面に叩きつける。タンク無しチャレンジはヒーラーの腕の見せ所だ。やる気十分のあなただった。

 言葉が無くとも、戦意を十分に感じたウェンティは、弓を構える。

 

「さぁ! いくよ!」

 

 空を飛ぶ相手には、旅人は手も足も出ない。自然とファーストアタックは、ウェンティの矢、それとあなたの魔法になる。

 

 暴風の中を突き抜けるウェンティの弓矢。矢に風の力を乗せているのか、その矢は真っ直ぐと、逸れることなくトワリンへと飛ぶ。

 まずはトワリンを地上に落とす。そして紫の棘を叩くこと。これが今回の目標だ。

 当初、トワリン自身に攻撃することは躊躇ったウェンティだが、ここまで来てしまえば背に腹は変えられなかった。

 

「トワリン……ごめんね」

 

 一方あなたは、まずディアを放った。射程距離限界だ。詠唱が必要なグレアはなかなか打てない。

 

 2人の攻撃を受けたトワリン。直後、のたうち回るような飛び方をやめ、あなたたちの方を向く。あなたたちを敵として認識したのだ。

 すぐに急旋回をして空高くへ飛んでいくトワリン。厚い雲で姿が見えなくなる。

 

 ひと時の静寂。だがすぐに、風の声を聞くウェンティが異常を察知する。

 トワリンが、来る。

 

「ここから走って!」

 

 あなたたちの正面、雲の奥からトワリンが飛び出してくる。

 とんでもない速度で、その巨体をもってあなたたちを轢くつもりだ。

 

 旅人とあなたは同じ方向へ走る。ウェンティは逆サイドへ走る。

 足が速い旅人に置いていかれそうになるあなた。すぐにスプリントを使用して全力で走る。

 一直線にあなたたちに向かって飛翔するトワリン。ぐんぐんと速度を上げて、その鋭い爪を地面に擦りつけながら突撃してくる。ガリガリと地面の石が弾き飛ばされ、地面には深い溝が残された。もしあれに轢かれれば、挽肉になることは間違いない。

 全速力で走ったあなたと旅人は、無事に攻撃範囲から脱することができた。振り返ってみれば、ウェンティも無事に躱すことが出来たようだ。

 

 あなたは思う。もはやここまで大きければ質量兵器、トワリンの攻撃全てが極大の範囲攻撃だと。

 トワリンが誰を狙っているかなど関係ない。まずは地上に引きずり落とすことからだ。

 

 塔をぐるりと旋回してあなたたちを再度視認したトワリン。そのまま塔中央の崩壊した部分に陣取る。

 

 動きが少なくなったトワリン目掛けて、あなたとウェンティは攻撃を行う。一方で遠距離攻撃の手段を持たない旅人は、トワリンの様子を伺い攻撃のチャンスを見計らう。

 

 滞空するトワリン。ここで羽の動きが変わる。巨体を少し持ち上げ、その顎を開く。噛みついてくる気だ。

 あなたとウェンティは、先の突進と同じくそれぞれ両サイドに走る。

 しかし旅人、トワリンに向かって一直線に走り始めた。

 

 あぶない! 異変を察知したあなたは驚いて声を出す。真っ先に救出が頭をよぎるが、パイモンに使ったばかりだ。まだ使えない。

 

 仕方なしに、あなたは旅人へディヴァインベニゾン*1をかけながら走る。もし旅人が当たっても、塔から落ちなければいくらでも復帰させてやる! そう強く思って、後追いの回復を意識する。

 だがあなたの意に反して、旅人は横へ大きくステップ、華麗にトワリンの大顎を躱した。そして走るスピードを緩めることなく、逆手に持った片手剣をトワリンの側面に突き立て、その巨体スレスレを走り抜けた。

 誰にも当たらない攻撃を犯したトワリンはスキを晒す。トワリンの前足付近で止まった旅人は、そのまま何度も追撃を加えていく。

 

 あなたは安堵のため息を漏らす。旅人はヒーラーの肝を冷やすのが上手い。

 安全圏まで大きく逃げたあなただったが、もちろんこのチャンスを逃しはしない。ウェンティは背の棘を、あなたはトワリンへ攻撃を加えていく。

 

 あなたたちが乗る台に、その前足が引っかかるような体勢となったトワリン。あなたたちの猛攻に晒されながらも、なかなか空へ飛び立てない。不安定な足場で、その巨大な身体を持ち上げるだけの揚力を得るのには、時間がかかるようだ。

 数秒の時間をかけて、身体の半分を台の上に持ち上げるトワリン。その大きな羽を限界まで広げた。飛び立つ気だ。

 

「風よ」

「逃げようなんて思わないでよね」

 

 ここで旅人、ウェンティの二人は、意図せずして同時に風の元素を打ち込む。

 これにはトワリンも耐えられない。必死に落ちまいと前足を台に引っ掛けるものの、翼の力は抜け、その頭を地面に叩きつけた。

 

 チャンスだ。

 

 トワリンの棘を壊すため、トワリンの頭へ近づくあなた。しかしここであなたは、トワリンの背の棘から違和感を感じる。

 何の違和感だ。あなたは悩みながらもさらに距離を詰め、気づいた。

 あれはただの棘ではない。毒だ。呪いのように強烈な怨念が籠もった劇毒が、棘のように結晶化し、トワリンの身体を蝕んでいるのだ。

 

 であればあなたのやることは1つ。あなたは白魔道士。白魔道士が最も得意とするもの、それは癒しだ。

 あなたは誰よりも先にトワリンの背へ飛び乗り、背の毒棘(どくきょく)に手を当てて浄化を始める。

 

 ウェンティは弓の射線上に飛び出してきたあなたを撃ち抜かないよう、弓を下げる。最初は一体何を始めるのかと懐疑心を持ったが、すぐに驚愕の表情に変わり納得した。目に見えて毒が浄化されていく。

 

「まさか旅人の他に、あの毒を浄化できる人物が居たなんて……」

 

 みるみるうちに毒棘は小さくなる。紫色の粒子が空へと飛び上がり、その分だけ棘は小さくなっていく。

 トワリンは動かない。その身体を横にしてしまえば、ちっぽけなあなたは、すぐにこの塔から放り出されるのに。

 

 もうこの時点でトワリンは気づいていた。自分の身体から、毒が抜けていっていることを。自分を拒絶するためではなく、この苦しみから解き放つために、この3人は挑んできたことを。

 

 トワリンが暴走した理由、それは恐れ──人々から、モンドの民から、自分のことが忘れられることだった。

 500年前、神に命じられたトワリンは、身を挺してまでモンドを救ったのにも関わらず、今では災いを呼ぶ風魔龍と呼ばれ疎まれた。

 その満たされない心の奥底に手を伸ばしてきたのは、アビス教団。トワリンの心のスキマを埋めるように入り込み、堕落させた。

 しかしその恐れも、アビスの計略も、いま潰えた。

 

 暴風が止まる。

 

 トワリンの毒はまだ消え去っていない。しかしもう彼の憎しみは消え去った。ならばその嵐は消えるが道理。

 

 穏やかな風が吹く。

 

 空にはライアーの音色が響き渡り、吟遊詩人は詠う。

 

 詩は、風に乗って運ばれ、空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

「こうして、モンドの四風守護の一柱、東風の龍は、正気を取り戻して空を飛んだとさ。めでたしめでたし!」

「ほぉ……。今回は、変わった詩だな」

「えへへ、たまにはこういうのもいいでしょ?」

 

 ここは酒場の野外席。酒場には場を盛り上げる詩人がつきもの。

 

「そうだな、たまには、こういう冒険談も悪くない」

「おっ、分かってくれるかい?」

 

 ウィンクを飛ばす吟遊詩人。隻眼の男は、それを受け止めること無く、後ろを振り返って言う。

 

「まあもし、それを為したのがアイツだって言われたら、酒の肴程度にはなるなだろうな」

「ふふっ。人は案外、見かけによらないものだよ?」

 

 2人の目線の先には、机に角を突き刺して、よだれを垂らしながら伏す人物。その周りにはワインの空ビンが並ぶ。

 

「それで」

「ん?」

 

 隻眼の男は、空を見上げ、天に指差す。

 

「続きがあるんだろう」

 

 その言葉を聞いて、同じく空を見上げる詩人。

 しばらくして、僕の独り言だけどね、と前置きを入れてから話し始める。

 

「彼は、自由になったんだ。今はそれが分からずとも探しているんだ。この風が届くところで、きっと」

 

 隻眼の男は頬を緩ませ、目を細める。

 男は先程の詩人と同じく、俺の独り言だが、と前置きして続ける。

 

「少なくとも、自由の行き先がアレではないことを、祈るだけだ」

「……ヒック」

 

 2人は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 四風守護の一柱、東風の龍トワリン。今となっては、彼にその肩書は要らない。

 いつか"自由"の、本当の意味を見つけられるまで。

 

 だがそれも、すぐに見つかるだろう。

 

 ()の神は、自由の神なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

*1
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