AIが二次創作を書くそうです (りらたま)
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序章
接触


(最近の技術って)はぇ^〜すっごい


 中央暦1639年1月24日

 クワ・トイネ公国軍の竜騎士マールパティマは北東方向の上空の警戒任務についていた、隣国ロウリア王国との緊張状態が続いているため、こうした何もないところからの奇襲に備えて公国軍は多方向に哨戒騎を飛ばしているのだ。

 

「今日も異常なし」

 

 そう呟くと同時に相棒であるワイバーンが翼を広げて上昇していく。

特に何事もなく哨戒任務が終わるであろうと彼は考えていた。

 その時だった──突如として何かが彼の視界に映る。

最初は鳥かと思ったのだが違うようだ。それは巨大な物体でこちらに向かってきていた。

 

「なっ!?なんだあれは!!」

 

 見たこともない形状をした物体であった。

明らかにこちらに向かって来ており、その速度はかなり速い。

 彼は慌てて司令部に緊急連絡を入れる。

 

「未確認の飛行物体を発見!正体不明です!」

 

 そうしている間にも距離はどんどん縮まり、ついには彼でもはっきりと視認できるほどにまでなった。

その物体はまるで神話に出で来る空飛ぶ船のようだった。

 ついに空飛ぶ船とすれ違った。そして彼ははっきり見た。翼と胴体であろう部分に赤い丸、太陽の印が示されているのを。

 これが最初の接触であった。

 

◆◆◆

 

 翌日1月25日 北東海域

 

 クワ・トイネ公国軍は数を増やしてワイバーンと海軍による哨戒を行っていた。

 

「昨日のは見間違いだったか?」

 

 クワ・トイネ公国海軍の中佐ロドリスは昨日遭遇した謎の飛行物体のことを思い出していた。

結局あの後、正体不明の飛行物体はどこへ消えたのかわからなかった。

もしやと思い周辺海域を探したが見つからなかった。

 まああんなものが空に浮かんでいたらすぐにわかるだろうから、おそらく海の底に沈んだかどこか別のところに行ったのだろうと彼は考えた。

その時だ。

 

「ん?あれは……」

 

 沖合いの方で何か大きな影が見えた気がした。

目を凝らすとやはり気のせいではないようだ。近づいていくとその正体が明らかになる。

 

「馬鹿な……こんなところに太陽神の使いの大型艦艇だと……? なぜここにいるんだ!?」

 

 彼は驚愕する。それも当然だ。

大型艦艇といえば、この世界でいえば戦列艦以上の規模のものを指すからだ。

それが2隻も現れれば誰でも驚くに違いない。しかも両方とも太陽神の象徴である赤い丸が描かれているではないか。

 

「いったいどういうことだ……まさか我々を攻撃に来たのか?」

 

 一瞬そんな考えが脳裏をよぎるが、すぐにそれを否定する。

太陽神の信徒である自分たちを攻撃するなどありえない話だからだ。

ならば何故現れたのかと考えるが答えは出ない。

ただただ疑問だけが残った。

 

 クワ・トイネ公国軍第7艦隊旗艦〈ベナーク〉 その艦長ラガスは部下からの報告を聞いて唖然としていた。

 先ほど突然現れた2隻の巨大艦から通信が入ったという報告を受けたからである。その報告によるとどうやら彼らは友好的な態度を示しているようで、できればそちらの代表に会いたいと言っているらしい。

正直に言えば何を言っているんだこいつらはという気持ちしかない。

 

「艦長、どうしますか?」

 

「う~ん……とりあえずは会うだけあってみるか」

 

「わかりました」

 

 しかしこのまま無視して帰すわけにはいかないため、一応会うだけは会ってみることにした。

その後、小型艇に乗り込んでやって来た相手と交渉を行う。

 相手の数は3名のみ、しかも全員が若い男性だった。そのうちの1人はおそらく司令官なのだろう。隣の2人とは違った真っ白い服を着ていた。

彼等は『日本国』から来た人間であり、この世界とは別次元に存在する国の住民であると言った。

 その言葉を聞いた時、ラガスたちは信じられないという表情を浮かべた。

別次元の国が存在するなんて聞いたことがないし、仮に存在していたとしても自分達の世界と交流があるとは思えなかったのだ。

だが現にこうして目の前にいる以上、信じるしかなかった。

 そして彼等はクワ・トイネ公国に技術支援を行いたいと申し出てきた。

最初は信用できなかったが、彼等の話を聞くにつれて徐々に信じ始める。確かに技術力の差は歴然で、クワ・トイネ公国は彼等の援助を受けなければ立ち行かない状況に追い込まれていた。

そのことはラガスたちも理解していたため、この申し入れを受け入れることにした。

 

 そして話は進み、最終的にクワ・トイネ公国は彼等の技術提供を受ける代わりに食糧を供給することになった。

 ちなみに、隣国のクイラ王国には大量の資源があると聞いた彼らは大急ぎで向かっていった。




AIが書いたんだぜ、信じられるか?


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迫る危機

AIが割と戦闘狂


 中央暦1639年3月24日

 トラック泊地がこの世界に来てから2ヵ月が経った。当初は不安もあったが、今となってはこの世界にすっかり慣れてしまった。

 クワ・トイネ公国は相変わらずの緊張状態が続いているが、泊地側の予想に反して今のところ特に何も起きていない。

 転移と共に欧州戦線からやってきたUボートが哨戒任務に当たっているが、現在のところは何も発見できていないようだ。

 クワ・トイネ公国では新たにロウリア王国の侵攻に備えて戦力を増強しているらしい。といっても、元々の兵力はそこまで多くなく、新しく徴兵された兵士も訓練期間が短いため、本格的な戦闘に耐えられるかどうか怪しいところだ。

 

 泊地工兵隊は現在、公国内での飛行場建設、道路整備、港湾施設の建設などを行なっている。

 公国からの正式な要請はないが、インフラの整備は急務であるため、できる限りの協力をしている。

 また、クワ・トイネ公国の陸軍により多くの武器を提供してほしいと要望があり、戦車や野砲をクワ・トイネ公国に提供している。

 クワ・トイネ公国軍は泊地が提供した武器により、急速に戦えるレベルまで成長していった。

 しかしそれでも列強諸国を相手にするにはまだまだ心許ないので、引き続き協力していくつもりだ。

 

 ちなみにクワ・トイネ公国に提供された武器はアメリカ軍が使用した兵器がほとんどであった。

 そのため、一部の将兵妖精からは「アメリカ製兵器ばかりじゃないか!」と不満の声が上がったものの、数ある種類の武器の性能を見て納得せざるを得なくなる。

 

「なんなんだあの威力は……! あんなものを喰らったら一撃で木っ端微塵になるぞ……」

「それに連射性も高いな……あれなら弾幕を張って敵の接近を防ぐこともできる」

「しかし……あれだけの数を揃えるとなるとかなりの金がかかるはずだ。それなのに我が国に提供するということは……」

「ああ、我々のことを気遣ってくれているんだろう」

「そうだな。今は少しでも味方を増やすべきだ。我々は感謝しなければならないだろう」

 

 彼等はそう言って納得する。

 クワ・トイネ公国軍の兵士達も、自分達に供与される兵器の数々を見れば、その性能の高さを理解することができた。

 そして、自分達は幸運なのだとも思う。

 

◆◆◆

 

 3日後の3月27日、緊張状態が一段と高くなった。ロウリア軍が国境付近に集結しつつあるという情報が入ったからだ。

 さらに哨戒中のU‐96がロウリア王国の港に大規模な艦隊が集結中であることを発見する。

 どう見てもこれから戦争を始めますよといった感じである。

クワ・トイネ公国は急遽防衛体制を整え始める。

 泊地もクワ・トイネ公国に協力するために、部隊を派遣することを決定した。

 

 さらに4日後の3月31日 ロウリア王国の王都、ジン・ハーク。

 街の中心にある、ハーク城の一角にある会議室に国王ハーク・ロウリア34世はいた。

 

「陛下、準備は全て整いました」

 

 ロウリア王国軍の総司令官、パタジンが王に報告する。

 

「うむ……では、作戦を開始せよ」

「はッ!! 全部隊に通達、作戦行動を開始する!!」

 

 パタジンは通信兵たちに命令を出す。

 

 すると、通信兵が大声で叫んだ。

 

『全軍、行動開始!!』

 

 翌日の4月1日、ロウリア王国の宣戦布告なしにクワ・トイネ公国への侵略が始まった。

 クワ・トイネ公国の兵力はおおよそ3万程度であり、対するロウリア王国の兵力は最低でも10万を超える。

戦力差は歴然だった。

 同日、クワ・トイネ公国 ギムの町が陥落し、100人を残して全ての住民が殺されてしまった。




本当はパタジンが作戦計画を説明する予定だった


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海戦前

描写はないですが提督はちゃんと働いてる


 中央歴1639年4月12日 トラック泊地 講堂

 

「作戦計画概要をご説明いたします」

 

 何回聞いたかわからない大淀のセリフと共に、今回の作戦計画が説明される。

 

「現在クワ・トイネ公国領内に侵入したロウリア王国軍は、西部方面に侵攻しています。また哨戒中のU-505からの報告によると4400隻の艦隊が経済都市マイハークに接近しているとのことです」

 

 大淀の説明を聞きながら、集まっている艦娘たちは作戦計画書を読んでいく。

 

「敵艦隊の予想進路はこちらになります」

 

 大淀はそう言うと地図を指さす。

 

「敵艦隊は、おそらくこのルートを通ると思われます」

「なるほどね……」

 

 加賀はそう呟きながらも、地図に書かれた敵の予想進路を見る。

 

「それで、私たちの役目は何なのかしら?」

「はい。まずは航空支援を行ってもらいたいと思います」

「了解しました」

 

赤城は少し嬉しそうな顔をしながら答える。

 

「敵の数が多すぎるので航空攻撃だけでの殲滅は厳しいでしょうが、それでもある程度は何とかできるはずです」

「ええ、任せてちょうだい」

「続いて、主力部隊の編成を行います」

 

 今度は大淀がそう言い、持っていた資料の中から一枚の資料を取り出す。

 

「編成は空母機動部隊を主軸とした部隊となります」

 

 説明はしばらく続いた。

 

 数時間後の経済都市マイハーク、クワ・トイネ公国海軍司令部

クワ・トイネ公国軍第2艦隊、第7艦隊はマイハークを守備するために集結していた。

 しかしその数は100隻にも満たない。しかし、彼らは絶望していなかった。それは、頼もしい友軍の存在がいたからである。

 マイハークの沖合には巨大な艦影が見える。

 

「おお……あれが日本の船ですか……」

 

 艦隊司令、パンカーレは双眼鏡を使い、艦のシルエットを確認する。

 

「あれが……噂に聞く日本製の戦艦……!」

 

 パンカーレが感嘆の声を上げる。

マイハーク沖に泊地空母機動部隊がきれいな輪形陣を敷きながら停泊している。

その数およそ12隻。

 

「あれほどの数の正規空母……! 日本は本気だな……」

「はい。我々にとってこれほど心強いことはありません」

 

 幕僚の言葉を聞きながら、彼は再び艦影を見つめる。

 

「あの艦が我々の切り札となるのだな」

「はい。あの艦があれば列強諸国を相手にしても互角以上に戦えることでしょう」

「ふむ……しかし、あの艦はいったいどういう原理で動いているんだ? あんな鉄でできた船が水に浮いているなど信じられん」

「それが、我が国の技術をもっても理解できない技術が使われているようです」

「そうか……」

 

 パンカーレは空母機動部隊を見つめる。

ちなみに、艦隊の陣容は

正規空母「赤城」(旗艦)

    「加賀」「Intrepid(イントレピッド)」「Franklin(フランクリン)

戦艦  「金剛」「Scharnhorst(シャルンホルスト)

軽巡洋艦「阿賀野」

重巡洋艦「摩耶」

駆逐艦 「秋月」「照月」「涼月」「雪風」

の計12隻である。

 艦隊は明日の早朝、出撃した。

 

◆◆◆

 

 ブルーアイは観戦武官として空母「赤城」に乗艦していた。

彼は乗り込んだ「赤城」に大変驚いていた。

 船の中なのに明るかったり、陸地で出されるような食事だったり、クワ・トイネの軍船より寝心地の良いのベッドだったり……。

 朝食後、彼は格納庫へと案内された。そこにはワイバーンのような何かがあった。

 

「これが、ニホンの兵器ですか!?」

 

彼の言葉に艦長である赤城が答える。

 

「はい。我々はこれを飛行機と呼んでいます」

「飛行機……?」

「はい。この機体を使ってロウリア王国軍の艦隊を攻撃するのです」

「攻撃……そんなことができるのですか!?」

「ええ。我々が使っているのは魔法ではありませんからね。ロウリア王国軍がどんな武器を使っているのかは知りませんけど、少なくともこれで敵艦隊を撃破できるはずです」

「はぁ……」

 

 ブルーアイは目の前にある航空機を見て思う。

 

(こんな鉄の塊が空を飛ぶなんて……)

 

◆◆◆

 

 その1時間後、「加賀」から発艦した偵察機「彩雲」からロウリア艦隊を発見したという連絡が入る。

「赤城」、「加賀」、「Intrepid」、「Franklin」は攻撃隊の発艦準備を始める。

 エレベーターを使い格納庫から飛行甲板へ出ると、すでに多くの戦闘機や爆撃機が並べられていた。

 

「第一次攻撃隊、発艦してください!」

「五航戦の子なんかと一緒にしないで」

 

 合図とともに攻撃隊が次々に発艦していく。

「烈風」30機、「流星」40機、「彗星一二型甲」50機、「F4U-1D」40機、「F6F-5」50機。

計200機近くの攻撃隊が編隊を組んで敵艦隊に向かっていく。

 




オリジナル艦娘をどのくらい出そうか悩んでる


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海戦(絶望)

さあ、艦隊解体ショーの始まりや


 中央歴1639年4月13日

 

「あぁ^~たまらねぇぜ」

 

 そのうちの1隻の上で、艦隊司令官・海将シャークンが呟いた。

見渡す限り船が多すぎて、海面が見えないくらいであった。

 その一隻一隻に多くの水夫や海軍陸戦隊を乗せて、艦隊はクワ・トイネ公国の経済都市マイハークを目指す。

 6年をかけた準備期間、パーパルディア皇国からの軍事援助を経て、ようやく完成した大艦隊。これだけの大艦隊を防ぐ手立ては、ロデニウス大陸には無い。

 もしかしたら、パーパルディア皇国でさえ制圧できそうな気がする。

 

(いや……パーパルディア皇国には、砲艦という、船そのものを破壊することが可能な兵器があるらしいな……)

 

 彼は一瞬野心を覗かせたが、理性で野心を打ち消した。

 

「ん?」

 

 その時、彼の視界に小さな影が入った。

それは、鳥のようにも見えたが、どう見ても鳥ではなかった。

 その物体はぐんぐん近づいてきて、やがて、はっきりとその姿を見せた。

 

「なんだあれは!?」

 

 思わず声が出る。

 

「てっ……敵騎!!」

 

 少なくとも100騎を超える飛行生物が、艦隊を目指して飛んでいる。

 

「敵襲!」

 

 シャークンは叫ぶように命令を出す。

 

「通信士、司令部にワイバーンの航空支援を要請しろ!」

「了解しました! 」

 

 通信士は魔信で司令部に連絡を取る。

 

「敵、来ます!!」

 

 見張り員の声が響く。

 

「来るぞ!」

 

 F4U-1DとF6F-5が降下しながらHVARロケットを発射する。

発射されたロケットは、帆船に次々命中していく。

 木片をまき散らしながら炎を吹き上げる。

 

「うわぁー!! 助けてくれぇ!!」

 

 水兵の悲鳴が聞こえる。

 

「畜生め!」

 

 ロケット弾を打ち尽くしたF4U-1Dが、機銃掃射を行う。

ガレー船の甲板にいた者はバタバタとなぎ倒されていった。

 流星と彗星一二型甲が急降下し、爆弾を投下する。

爆発があちこちで聞こえる。

 さらに流星の20mm機関砲が弾丸の雨を降らせる。

 

「ぎゃああああっ!!!」

「うわああああ(発狂)なんだなんだなんだなんだなんだ!!」

 

 血まみれになりながら、ロウリア王国海軍陸戦隊員が逃げまとう。

その様子を見て、ロウリア王国海軍の将兵はパニックに陥っていた。

 

「敵があんな化け物を持っているとは聞いていないぞ!」

 

 ワイバーンは導力火炎弾や火炎放射で燃やすことしかできない。

しかし、今回の敵はその常識をひっくり返すような、圧倒的な攻撃力を持っていたのだ。

 ある1機のF6F-5が12.7mm機銃のシャワーを浴びせる。

シャワーを浴びた船は油の入った壺に引火したのか、火災が発生した。

 流星の20mm機関砲でミンチになる者もいた。

火が服に燃え移ったのか、海に飛び込む者もいる。

 その光景を見て、恐怖に駆られた陸戦隊員も海へ飛び込む。

 

「おい! お前ら逃げるな!」

 

 指揮官らしき男が部下に怒鳴りつけるが、もはや統制など取れなかった。

その船にも60㎏爆弾が命中し、大穴が開く。そして、そこから大量の海水が流れ込み、船は沈んでいった。

 やがて弾薬切れになった流星や彗星一二型甲が帰還していく。

 それと同時に航空支援のワイバーン350騎が到着する。

ワイバーン隊は背を向けた流星や彗星一二型甲に狙いを定めて追いかける。

 だが、その動きは遅かったため、F4U-1DとF6F-5によって撃墜されていく。

さらに上空で待機していた烈風が襲い掛かる。

ワイバーンの翼を引き裂き、海へと叩き落とす。

 

「何だあの空戦は……」

 

 シャークンはそう呟いた。

援護に駆け付けたワイバーンが何もできずに落とされていく。

数の差があるのに敵騎は1騎も落とせていない。

 烈風の20mm機関砲でワイバーンと共にミンチ肉になる竜騎士もいた。

肉片と血の雨が降り注ぐ。

 

「なんて奴等だ……」

 

 彼は震えていた。

 

「艦長! 敵が撤退していきます」

「なに?」

 

確かに、艦隊に向かってきたはずの飛行生物は、撤退を始めている。

 

(どういうことだ?)

 

 彼は首を傾げた。

ロウリア軍のワイバーン隊と艦隊は半数近くまで減らされていた。

 

「……このままマイハークまで進撃する」

 

シャークンはそう命令を出した。艦隊がゆっくりと進む。

 

「敵艦隊発見!」

 

 見張り員の声が響く。

 

「何だと!?」

 

 シャークンは双眼鏡を手に取り、前方を見る。

そこには、巨大な敵艦がいた。

 

「な……なんだあれは!?」

 

 彼の知る限り、あんな大きな鉄の塊は見たことが無い。それは、まさに鋼鉄の城であった。

ワイバーン隊が先陣を切る。

 地上や船からの攻撃ではワイバーンを撃ち落とすのは非常に難しい。だから、まずはワイバーンによる航空攻撃である。

 竜騎士の誰もが、味方艦隊の仇を打とうと意気込んでいた。この後の運命も知らずに……。

 

「行け!」

 

 ワイバーン隊の隊長は命令を出す。

一斉に180騎を超えるワイバーンが敵艦隊へ向かう。

 

 

「撃てぇ!!」

 

 艦隊の高角砲、両用砲が火を噴き、空に灰色の花が咲く。

飛竜は飛竜でしか落とせない。その常識を覆すようにワイバーンが次々と撃ち墜とされる。

 何とか死の花を潜り抜けた者に待っていたのは、対空機関砲の暴風雨だった。

「Scharnhorst」に搭載された2cm 四連装FlaK 38改が凄まじい勢いで空薬莢を排出する。

次々と放たれた40mm機関砲弾がワイバーンの胴体を貫き、バラバラにする。

25mm機銃弾が、翼を切り裂き、海面へと叩き落とす。

 

「ぎゃあああっ!!」

「うわぁぁっ!!」

「!?!?」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図。

ロウリア王国海軍は混乱に陥っていた。

 

「畜生め!」

 

 ロウリア王国海軍の士官は悪態をつく。

敵は強すぎた。

ワイバーンが全く歯が立たない。

 艦隊から離れてみれば空の色が変わるほどの攻撃だった。

絶叫と爆炎が、青空を彩る。

 気づけば空を飛ぶものはいなくなっていた。

 

「何という事だ……」

 

 シャークンは自分の眼を疑った。

今まで、ワイバーンが一方的に狩られる戦いを見たことがない。

 まるで、悪夢を見ているようであった。

 

「艦長、どうしますか? 我々は撤退すべきです」

 

 副長の言葉にシャークンは首を横に振る。

 

「まだだ! 敵は我々よりも数が少ない! 今なら勝てるはずだ!」

「しかし、我々のワイバーンは全滅しました。もはや、制空権は完全に向こうのものですよ」

 

 ワイバーン隊は全滅し、まともに戦える船は半数近くにまで減っていた。

撤退すれば無能の将軍との烙印を押され、歴史書に無能の将軍として名を記されることだろう。

 だが、このまま突撃すればワイバーンを撃ち落した武器で攻撃してくるだろう。そうなれば全滅は免れない。

 

「……」

 

 シャークンは沈黙する。

彼は決断を下す。

 

「撤退だ! 全軍、撤退せよ!」

 

 その言葉に全員が息を呑む。

 

「艦長、何を言っているんですか!? ここまで来て引き返すなど……」

「馬鹿者!! 貴様らは、ここで死ぬつもりなのか!?」

 

シャークンは怒鳴りつける。

 

「敵の兵器は異常だ。この海域に留まることは危険すぎる。撤退するぞ!」

 

 シャークンの判断は正しかった。

敵の航空攻撃によって艦隊は半壊まで追い込まれたのだ。

 これ以上、ここに留まれば全員海の藻屑になるだけだ。

 

「わかりました」

 

 ロウリア軍の艦隊は反転し、撤退し始める。

 

 

「敵艦隊、撤退を開始しました」

機動部隊からは反転するロウリア軍の艦隊が見える。

「追撃は?」

「必要ありません」

「わかったわ。全艦隊に通達。これより、生存者の救助活動を開始してください」

「「「了解」」」

 

「阿賀野」「秋月」「照月」「涼月」「雪風」は生存者の捜索と収容を開始する。

 こうして、ロウリア王国海軍との戦いは終わった。




(艦隊決戦は)ないです


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海戦後

 中央歴1639年4月15日 ロウリア王国 ワイバーン隊本陣

 航空支援のため飛び立った350騎のワイバーンは、帰還することはなかった。

 司令部は混乱していた。ワイバーン隊が全滅したという知らせが届いたからだ。

 

「どういうことだ? 何故、ワイバーン隊が負けたんだ?」

 

 司令官は首を傾げる。

 

 ワイバーンは最強の飛竜種である。そのワイバーン隊が敗北するなど信じられなかった。

 

「敵は強力な魔導砲を装備していたようです。ワイバーンはその餌食になりました」

 

 部下の報告に司令官は顔をしかめる。

 

「そんな馬鹿なことがあるか!」

「事実です。現に、敵艦隊の旗艦と思われる巨大な鉄の城には大量の砲が搭載されていました。あれではワイバーンは近づけません」

「……そうか」

 

 司令官は頭を抱える。

 

「一体、何が起きている……。我が国の最強戦力がこうも簡単にやられるとは……」

 

 彼はロウリア王になんと報告したらいいのか分からず苦悩する。

 

 ところ変わってクワ・トイネ公国

 

「……以上が、報告となります」

 

ブルーアイは海戦の結果をありのままに報告した。

 

「つまり、敵の飛竜は全て撃ち落としたのか」

「はい、間違いありません。我が方の航空機、及び対空兵器は敵のワイバーンを一方的に撃墜できる性能を有しています。今後の敵航空兵力は脅威にならないでしょう。また、ロウリア海軍はしばらくの間、行動を控えるでしょう」

「そうか。次は陸での戦いだな。奴らの陸上部隊はどうなった?」

「城塞都市エジェイ付近に野営地を設営しています。歩兵の数は1万ほどと思われますが、正確な数は把握できていません」

「分かった。引き続き、情報収集を続けてくれ」

「承知しました。それでは失礼いたします」

「ああ」

 

 

 一方そのころ、ロウリア王国王都ジン・ハーク ハーク城

 

 ハーク・ロウリア34世は、海将シャークンの戦闘報告を聞き、呆然としていた。

 

「ばかな……」

 

 信じがたい報告だった。

ワイバーンが一方的に全滅した? そんなことがあり得るはずがない。

 

「何かの間違えではないですか?」

 

 側近の一人が尋ねる。

 

「ワイバーンは最強種です。ワイバーンと互角に戦える存在は列強諸国でも限られています。それが、全滅だなんて」

「私だって信じられんさ。だが、現実に起きた事なのだから受け入れるしかないだろう」

 

 シャークンの報告書によると、ワイバーンを一撃で粉砕する威力を持つ武器が存在したらしい。

 

「そんなものが存在するのか? 魔法のような物だろうか?」

 

 シャークンは嘘をつかない男である。彼が見たものは真実であろう。

 

「シャークン殿は優秀だ。あの男は物事を客観的に見ることができる。そんな男が、このような大法螺を言うわけが無い」

「では、その武器とは何なのでしょう?」

「わからん。だが、我々にとっては危険な代物であることは確かだ」

 

 シャークンの報告にあった「ワイバーンを一撃で葬り去ることのできる兵器」というものの存在は、王にとって大きな不安要素であった。

 ロウリア王国の軍事力は圧倒的だ。しかし、それはワイバーンという圧倒的な力によって支えられている。

 そのワイバーンを一撃で撃破する手段があるとするならば、その優位は崩れることになる。

 

「……対策が必要だな」

 

 王は呟き、考え込む。

しかし、その答えが出る前に事態は動き出すことになる。

 

 

 4月18日 クワ・トイネ公国、城塞都市エジェイ付近

 ロウリア王国陸軍第3軍団 軍団長パラード将軍は、自軍の状況を見て愕然とした。

 

「これは酷いな」

 

 彼は思わず言葉を漏らす。

第2軍、第4軍は壊滅状態であり、残った部隊も疲労困ぱいの状態となっていた。

特に酷かったのは騎兵だ。

 ロウリア王国の主力兵科は歩兵だ。

歩兵が主力ということは、当然、騎馬兵も主力ということになる。

 しかし、今回の戦いにおいて、騎馬兵は活躍の機会がほとんどなかった。

というのも、敵の陸戦兵器が強力すぎたのだ。

 敵は謎の兵器を多数装備しており、それらが猛威を振るったのだ。

光弾を発射する兵器は連射力が凄まじく、とてもではないが近づけない。

 そのため、ロウリア王国自慢の騎兵隊は活躍の場がなかったのだ。

 

「こんな時に、何のための騎兵だ」

 

 パラードは愚痴をこぼすが、敵には通用しなかった。

 

「我々は、本当に勝てるのでしょうか?」

 

 部下の言葉は、全員の疑問でもあった。

今回の戦いはロウリア王国側が劣勢だと誰もが感じていた。

 敵は強大な兵器を有しており、その攻撃は苛烈を極めた。

このまま戦い続けていれば、いずれロウリア王国は敗北するのは目に見えていた。

 

「敵は化け物みたいな強さです。我々では歯が立ちません」

「ああ、そうだな」

「ここは一度撤退しましょう。敵は追撃してこないようですし」

「……確かに、撤退すべきだな」

 

 彼は決断を下す。

 

「全軍に通達! これより撤退する!」

 こうして、ロウリア王国軍の撤退が始まった。

 

◆◆◆

 

 クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ

ロウリア軍が撤退したという報告を受け、クワ・トイネ公国軍は歓喜に包まれた。

 

「勝ったぞ!」

「我々の勝利だ!」

「我々はロウリア王国の侵略を防いだ!」

「万歳!」

「クワ・トイネ公国ばんざーい!」

「クワ・トイネ公国ばんざーい!」

「クワ・トイネ公国ばんざーい!」

 

 人々は歓声を上げ、お祭り騒ぎになった。そして、今回の戦闘に参加した全ての将兵を労うため、ささやかな宴が開かれた。




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ギム奪還

 中央歴1639年4月19日 占領されたギムの町

 

「さて、そろそろエジェイへ向かいますかね」

 

 ギム虐殺の首謀者である副将、アデムは出撃準備を始めていた。

 

「エジェイには、どんな美味いものがあるのかなぁ」

 

 彼は、エジェイにいるであろう美女達を思い浮かべ、顔を緩ませる。

 きっとまた、この世の天国のような光景が広がっているに違いない。

 彼はそう思い、鼻歌を歌いながら準備を進める。

すると、伝令兵が駆け込んできた。

 

「大変です!北から飛竜の大群が接近中とのことです!」

「なんだと!?」

 

 アデムは慌てる。

 

「数は?」

「およそ100ほどと思われます!」

「ちっ!迎撃態勢を整えよ!急げ!」

「はいっ!」

 

 アデムは舌打ちする。

 

「全く、空気を読まない奴らだ。せっかくいい気分だったのに」

 

 彼はイラつきながらも、部下達に指示を出す。

 

 

 「Do217M」と「Ju87D」は護衛機の「Bf109G」と共にギムの町へ飛行する。

 やがて、ギムの町が見えてくる。

 敵機は数騎しか確認できない。どうやら敵騎が離陸する前に到着できたようだ。

編隊からBf109Gがスロットルを上げて加速する。その中には黒いチューリップを描いた機体もある。

 ワイバーンとBf109Gの空戦が始まる。速度、運動性能共にBf109Gの方が上だった。

あっという間にワイバーンは撃墜される。

 続いて、Ju87Dも爆撃を開始する。目標は飛行場だ。ダイブブレーキを開き、機体を回転させ背面飛行から機首を地面に向けて急降下する。

 爆弾投下と同時に引き起こし、再び上昇して飛び去っていく。

編隊は2度、3度の空襲を繰り返し、滑走路、兵舎、竜舎を破壊する。

 地上の対空バリスタも必死で撃ち上げるが、当たるはずもない。

 彼らはそのまま、悠々と帰還していくのであった。

さらにDo217Mの編隊が市街地に250㎏爆弾の雨を降らせる。

 こうして、ギムの町は瓦礫の山と化した。

 

「なんとも酷い有様だな」

 

 将軍パンドールは呟く。

町のあちこちからは煙が上がり、破壊された家屋も多い。

 

「くそ!どうなって……」

 

 一人の兵士が途中で言葉を止める。彼の視線の先には、こちらに向かってくる敵軍の姿があったからだ。

 

「敵襲だー!!」

 

 ロウリア軍は戦闘体制に入る。

 

「敵の数は?」

「分かりません。鉄の怪物を先頭に、無数の歩兵が続きます」

「何だそれは?」

「とにかく、数が多いです」

 

 敵の正体は分からない。だが、敵が迫っていることは間違いない。ロウリア王国軍はすぐに隊列を組み、迎え撃つ準備をする。

 ロウリア軍の騎兵隊が突撃を開始した。槍を構え、騎馬は敵に向かう。

 しかし、敵に近づく前に、敵からの攻撃が開始された。

 

 

 第2SS装甲師団(妖精)とクワ・トイネ公国第1歩兵師団は、進撃を開始した。

戦車が前進し、歩兵がそれに続く。

 ロウリア王国軍は騎兵隊を突撃させたが、戦車の砲撃と機関銃の弾幕で、瞬く間に壊滅した。

 

「なんて火力だ!化け物め!」

 

 ロウリア軍のアデムは叫ぶ。敵は化け物の集団だった。

 ひそかに用意した魔獣も投入したがすべて殺処分された。

ロウリア軍は、まるでゴミのように蹴散らされていく。

 弓兵を無事だった家屋に配置していたが、戦車砲の集中砲撃を受け爆殺される。

 歩兵部隊は接近戦へ持ち込むため突撃する。しかし、第1歩兵師団の歩兵隊による銃撃により次々に倒されていった。

 重装歩兵も隊列を組んで突撃するが、自ら死にに行くようなものだった。戦車は機関銃を撃ちまくり、ロウリア兵をなぎ倒す。

 戦車から放たれた砲弾が炸裂し、何人もの兵士を吹き飛ばす。

 家屋内に手榴弾が投げ込まれ爆発する。破片がロウリア兵を殺傷する。

 

「なんだこいつらは!?」

 

アデムは目の前の光景を見て驚く。

 

「ば……化物だ!」

「助けてくれぇ!」

「逃げるんだぁぁぁ」

 

 逃げ惑う兵士、(異世界式の)降伏した兵士達を次々と射殺しながら、灰色の服を着た敵兵が向かってくる。

 アデムは部下達と共に後退しようとしたが、背中を見せた途端、銃撃を受ける。

 

「ぎゃあああ!」

 

 アデムは倒れる。

 

「閣下!」

 

 振り返った部下も撃たれてしまった。

アデムは、何とか立ち上がろうとするが、腹部から血を流していた。

 

「ちくしょう!こんなところで死んでたまるか!」

 

 這ってでもその場を離れようとする。

 

「逃すな!撃て!」

 

 さらに撃たれる。アデムは動けなくなった。

 

「はぁはぁ」

 

 位の高そうな男が腰にあるホルスターからワルサーPPを抜く。

そして、アデムの頭に銃口を向けて引き金を引いた。

 38口径9mm弾が脳天をぶち抜く。

そのまま2発、3発と撃ちこみ、アデムは絶命する。

 パンドール将軍はどうなったかというと、彼はすでに逃げ出していた。

部下も置き去りにして、一目散に走る。

 アデムの死を確認してから、第2SS装甲師団(妖精)とクワ・トイネ公国第1歩兵師団はギムの町を制圧していく。ロウリア軍は完全に駆逐され、町には静寂が訪れた。

 

 1日後の4月20日、エジェイから撤退してきたロウリア王国陸軍第3軍団と第2軍、第4軍のわずかな生き残りが何も知らずにギムの町に到着したが、戦意を喪失し降伏した。



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空襲と降伏

なんか無理やりな気がしますが、許してください何でもしますから


 中央歴1639年4月23日 ロウリア王国、工業都市ビーズル

 ここはロウリア王国の日用品から軍需品を大量生産している工場群がある街だ。その街の郊外に司令部が置かれており、何とか逃げてきた将軍パンドールとその参謀達が作戦会議を行っていた。

 この世界では珍しくもない木造の建物である。部屋の中に置かれている机と椅子も木製だ。

 

 「どういうことですか?我が軍は、ギムの町を攻略したはずですぞ!それがなぜこのようなことに?」

 

 参謀の一人が怒鳴るように言った。

 

「知らん!私だって分からんのだ!ただ、敵はとんでもない兵器を持っている。我々は、あれに勝てん」

「そんなバカなことあるわけないでしょう。たかだか鉄の塊ではないですか。我々の方が数は多い。それに飛竜もいる。あんなもの敵ではありませんよ」

「貴様は何も分かっていない!」

「分かっておりますとも!だから、こうして対策を考えているのです」

「そうじゃない。あの兵器は我々の想像を超えているんだ。確かに数はこちらが多いだろう。しかし、奴らの戦い方は異常だ。とにかく、やばいんだ!」

「落ち着いてください。あなたらしくないですよ」

 

 パンドールはため息をつく。

 

「敵は、空から攻撃してくる。ワイバーン部隊も全滅した。敵は、魔法とは違うものを使ってきた。それも、信じられない威力のものをだ。たった数時間で、何万という兵が死んだ」

「まさか……それは、敵の魔法使いのせいでしょうか?」

「違う。それなら、我が国にも魔法使いがいるはずだ。だが、敵の武器は明らかに違った。あんなものは見たことがない」

「ふむ……それで、敵の規模は?」

「不明だ……。ただ、恐ろしいほど巨大な何かが空を飛んでいたのは確かだ……」

「巨大とは?」

「ドラゴンのような姿だった。しかし、鱗はなかった。羽ばたいていなかった。そして、首が長く、頭がいくつもあった。そいつらが、空中から一方的に攻撃してきた」

「はあ?何を言っているんですか?」

「信じてくれ。本当にあったことだ。あの時、私は死を覚悟した。いや、死んだと思った」

「はっはっは。いくら何でも、お伽話みたいなことを言わんで下さい」

 

 パンドールは黙り込む。

 

「大丈夫ですか?しっかりしてくださ……」

 

 1人の将軍が窓を見る。その先の空には巨大な何かの大群が空を飛んでいた。しかもこちらへ向かってくる。

 

「な……なんだあれは!?」

「おい!すぐにワイバーンを出せ!」

「え?」

「いいから、早く出させろ!」

「は、はいぃ!」

 

 伝令兵が慌てて部屋から出て行く。

 

「どうなさいました?」

「敵だ!ワイバーン部隊を出撃させるんだ!」

「はぁ?」

「だから、敵を迎撃すると言っている!敵が向かってきているのだ!」

「そんなバカな!ここは、ギムから数百キロ離れているんですよ」

「分かっている!だから、急げ!敵に先制攻撃を喰らうぞ!」

 

 参謀達は急いで準備を始める。

 

 

 「B-17G」と「P-47D」の編隊がビーズル上空に飛来する。

 

『全機、投下開始』

 

 B-17Gの爆弾槽が開き、250㎏爆弾が次々に地上へと落下していく。その数300発以上。

300発以上の250kg爆弾が工業都市ビーズルに降り注いだ。

 爆発が絨毯を敷くように起こる。地面が揺れ、建物が倒壊する。

兵士や住民は、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 

「被害報告をせよ!」

「工場地帯が壊滅!」

「住宅地にも多数被害が出ています」

「小さい奴が飛行場を攻撃中!」

「なんということだ……」

 

 パンドール将軍は頭を抱える。またしてもギムと同じ目にあったのだ。

 

「将軍、敵の数は把握できません。ギムの町にいた飛竜よりも大きいものがいます」

「そうか……」

 

 パンドールは絶望的な気持ちになる。

 そしてP-47Dの投下した爆弾により、戦死した。

 

 

 ロウリア王国 王都ジン・ハーク、ハーク城

 まるでお通夜の様に静かな会議室。そこにいる全員が沈黙していた。

 

「もはや、我々の勝てる見込みはない」

 

 国王ハーク・ロウリア34世は、絞り出すような声で言った。その言葉に、誰も反論しない。

 ギムを占領してからは敗戦の報告ばかりだ。もうこれ以上聞きたくないというのが本音だった。

ビーズルの工場地帯は巨大な飛竜の攻撃で壊滅した。

 前線から生きて帰ってきた者の報告は本当のことだろう。このまま戦い続ければ、確実に敗北する。

沈黙が続く会議の中、紙を手にした近衛兵が入ってくる。

 

「失礼します。先程、クワ・トイネの特使と名乗る者から、書簡を受け取りました」

 

 それは降伏勧告文であった。

しばらくの沈黙の後、再び王が口を開く。

 

「使者を送れ。条件次第で降伏を受け入れる」

「陛下!何を仰っているのですか!我が軍は、まだ戦える!この国には、優秀な将軍がいる!我が軍の将兵も残っている!」

 

 大臣の一人が叫ぶ。

 

「ならば聞くが、今の状態で勝算があるのか?」

 

 王の問いに、誰もが押し黙る。

 

「もう一度言う、条件次第で降伏を受け入れる」

 

 すると突然、どこからともなく猫耳の少年?が現れる。

 

「やあやあ、皆さんGuten Tag(こんにちは)

「誰だ貴様は?」

 

 ハーク王は鋭い視線で少年?を見据えた。

 

「僕は異世界からやってきた使者です。あなた方に、選択肢を与えに来ました」

「選択肢だと?」

「はい、まず第一に無条件降伏。第二に、徹底抗戦による玉砕」

「ふざけているのか?」

「いいえ、至って真面目ですよ」

「では、なぜそんな質問をする?我が国は、負けることが確定しているのだぞ」

「だから、聞いているのです。どちらを選びますか?」

「…………わかった。選ばせてもらおう。無条件降伏を選ぶ」

「なっ!?」

 

 会議室にいる者達がざわめく。

 

「よろしいのですか?陛下!ここで、無条件降伏した場合、我々ロウリア王国の民はどうなる?」

「その心配はいらないよ。君たち王族や貴族は殺されることはない。戦争が終わるだけ。賠償金は支払うことになるだろうけどね」

「な……なんだと!?」

 

 だいたい戦争に負けた国の王族や貴族は殺されてしまう。それが当たり前だ。

 

「それじゃあ、決まりだね。これに署名して」

 

 少年から渡された降伏文書(仮)に署名する。

 

Auf Wiedersehen(さようなら)

 

 そういうと少年は去っていった。

 後日、正式に降伏文書調印式が行われ、ロウリア王国は無条件降伏した。



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新世界へ
連合


また無理やり感が半端ないですが、すいません許してください何でもしますから


 中央歴1639年5月2日 ロウリア王国 王都ジン・ハーク、ハーク城

 

「……」

 

 元国王ハーク・ロウリア34世は書類を持ったまま沈黙していた。

内容を簡単に言うと、パーパルディア皇国に借金を返済するか、皇国の属領になるか、皇国と戦争をするかのどれかを選べというものだ。

 その3つとも嫌なのだが、どうすれば良いだろうか……。

 

「陛下、いかがなさいますか?」

 

 宰相モスコが尋ねる。

 

「わからぬ……」

「はぁ……、またですか」

「しかし、この様な条件を突きつけて来るということは、皇国は本気で我が国を滅ぼす気なのでしょう」

「うむ、確かにそうだが……」

「ここは、やはり戦うしかありません」

「馬鹿を言うな!今度こそ国が滅ぶぞ」

「しかし、このままではどの道滅びてしまいます」

「ぬぅ……」

 

 王としてはクワ・トイネ公国の持つ武器や兵器が欲しい。できれば今すぐ欲しい。

しかし、あの国を怒らせてはいけない。そんな気がするのだ。

 

「こうなったら、最後の手段だ……」

 

 ハーク・ロウリア34世は決断した。

 

 

 クワ・トイネ公国のとある陸軍基地。今日も訓練が行われていた。

 新設されたばかりのこの部隊は第1戦車連隊である。

「M4A3」中戦車の砲塔上には、妖精さんが座っていた。

 

「主砲発射用意!」

 

 戦車長の号令と共に、砲手は射撃準備に入る。

 

「撃てぇー!!」

 

 轟音とともに砲弾が放たれ、やや大きい的に命中する。

 

 第1戦車連隊の隣ではドイツ陸軍妖精が新型機関銃の試射を行っていた。

新型機関銃は凄まじい勢いで空薬莢を吐き出す。

 感の良い人ならもう分かったかとは思うがこの機関銃は「MG42」だ。史実のドイツ軍が使用した物と同じ物である。

 「MG42」は言うまでもなく正式採用となった。

 

 クワ・トイネ海軍では新たにG型駆逐艦が就役していた。ベースはアメリカ海軍の「ギアリング級駆逐艦」である。

 

排水量 基準:2,616トン、満載:3,460トン

全長 119.1 m

全幅 12.22 m

吃水 4.4 m

最大速 34.8ノット

兵装 5inch連装両用砲3基

   533mm魚雷

   Bofors 40mm機関砲

   エリコンFF 20mm 機関砲

 

といった感じだ。

 はっきり言うとこの世界ではオーバースペックもいいところだったりする。

この世界の船は「戦列艦」というものが主流である。戦列艦は、巨大な船体に強力な大砲を載せているもので、帆船で風任せの運用となっている。

(風神の涙を使うことにより無風状態でも航行できるが)

 そんな船に、127mm砲は過剰すぎるほどだった。

 今は軽巡洋艦も建造中である。こちらは「ダラス級軽巡洋艦」をベースとしている。

 

 

 3日後の5月5日、クワ・トイネ公国の政治部会でロウリア王国のハーク・ロウリア34世が見事な土下座を決めていた。

 

「この通りだ、頼む!我が国には貴国のような強い軍隊が必要なのだ」

「取り敢えず頭を上げて、説明してください」

 

 そう言ったのはこの国の首相カナタであった。

 ハーク王は事の経緯を説明した。

 

「ふむ……つまりロウリア王国は、我々の武器が欲しいということですね」

「そっ、そのとおりだ」

 

 ハーク王がなぜここまでするか、それはパーパルディア皇国の性格にある。

非常にプライドが高く、他国に無茶な要求を押し付け、断れば戦争を仕掛けてくる。

 今や第三文明圏のほとんどを支配下に置く超大国であり、第三文明圏の統一も時間の問題となるほどだ。

ロデニウス大陸の国家もいずれ滅ぼされてしまうだろう。

 そこで、パーパルディア皇国に対抗すべく、「クワ・トイネ公国の軍事力を借りる」という考えに至ったわけである。

 

「わかりました。武器を提供しましょう」

「本当か!?ありがとう!」

 

ハーク・ロウリア34世は感動のあまり涙を流した。

 

「しかし、条件があります」

「なんだ?なんでも言ってくれ」

「我々と連合を結んでください。それができないならお断りします」

「わかった。我がロウリア王国は、貴国の味方となる」

 

 こうして、3日間に及ぶ会議と投票の結果、一つの国として「ロデニウス連合」が誕生した。



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軍祭

ちょっと時間を飛ばします


 中央歴1639年9月21日 フェン王国首都アマノキ

 この日は、5年に一度フェン王国が開催している「軍祭」の日である。

各国から武官たちが集まり、模擬戦や競技が行われる。もちろんロデニウス連合も参加しいる。

 今回の「軍祭」は、いつもより盛り上がっていた。というのも、列強ムー国が観戦に来るからだ。

 

「おい、お前ら、今年の『軍祭』は凄いぞ。なんせ列強ムー国が来るんだ。俺達の活躍を見に来てくれるらしいぜ!」

「まじかよ!やったぜ!!」

「でも、ムーってどんな所だ?」

「さあ?行ったことないけど、いいとこじゃねぇのかなぁ」

「どうせ、俺たちの国は田舎だからなぁ」

「まあいいじゃないか。とにかく頑張ろうぜ!!」

「おう!!」

 

 そんな会話があちこちで行われていた。

そして時間は過ぎていき、いよいよ「軍祭」が始まった。

 まずは射撃大会だ。ルールは簡単で時間内にどれだけ多くの的を倒せるかを競うものだ。

各国の兵士が、自分の持っている弓やクロスボウで的に狙いを定めて撃つ。

 

「よし!当たった!!」

「まだまだ!次だ次!」

 

 そんな感じでどんどん進んでいく。

 

「おお!!すごい命中率だ。あの兵士は天才だな」

「ああ、全くだ。あれほどの腕なら騎士団長になれるかもな」

「次は俺の番か……」

 

 次の選手が矢を放つ。

 

「あっ、外れた」

「惜しい、あと少しだったのに」

「いいや、見てみろ。あいつの放った矢は木に刺さっている。なかなかの腕だ」

「確かに」

 

 その後も、続々と選手達は射撃をこなしていく。

 そんな中一人だけ異様な雰囲気を出している兵士がいた。その男は他の選手たちよりも明らかにレベルが違う。まるで誘導されているかのように的の中心に矢を当てていった。

 彼は、全ての矢を使い切ると、一礼してその場を去った。

 

「あの男は誰だ?見たことがないが」

「おい!誰か知ってるか?」

「いや、知らん」

「一体何者なんだ……ん?待てよ。まさか、あの男が噂に聞く『扇の的を射抜いた少年』なのか!?」

「まさか、そんなわけないだろう」

「そうだといいがな……」

 

(あれがロデニウスの兵士か)

 

 列強ムー国の武官アメリアは、観客に紛れ込みながらロデニウス軍の様子を見ていた。

 

(正直、ロデニウスの強さは未知数だ。しかし、第三文明圏外の国であることに変わりはない。)

 

 この「軍祭」で見極めることができるかもしれない。そう考えたのだ。

 

「では、第12戦目を始めます」

 

 司会の声とともに、ロデニウス軍は配置についた。

 

「開始してください」

 

 開始と同時に、様々な方向から矢が放たれた。

 すると会場に「ダン!」という異様な音が響く。

 

(馬鹿な、あれはボルトアクション式ライフルじゃないか!)

 

「おーっと、これは凄い!ロデニウス軍が使用している武器はなんと銃です!!ロデニウス軍にこんな技術があったのか!?」

 

 司会も興奮気味である。

 しかし、それは無理もない。ロデニウス軍が使用している武器は、第三文明圏の技術力を大きく超えている。

 

「あの国には、我々の知らない何かがあるようだな……」

 

 アメリアはそう呟きつつ、ロデニウス軍を観察した。

 

 様々な競技が行われる中、彼女は兵士の武器や装備品を見ることができる場所に移動し、彼らの装備を確認する。

 ロデニウス軍は他国に比べて派手さがなかったので一目で見つけることができた。そしてアメリアは、あるものを発見する。

 

(なんだ?あの武器は?)

 

 アメリアの目に留まったものは、奇妙な形をものであった。

パイナップルみたいな形をしていたり、じゃがいも潰し器みたいな形をしていたりと様々だ。

 

(まさか、手榴弾か?しかし、それならばなぜあんな形をしている?)

 

 しかし、その武器の正体はわからない。

 さらに異様な武器を目にする。

それは細長い筒のようだが先端が異様に膨らんでいる。

これもよくわからなかった。

他にも携帯可能な機関銃や短機関銃、半自動小銃などもあった。

 アメリアは、ロデニウスの兵器について考察しようとしたが、あまりの驚きで思考が停止していた。

 

 昼食を挟んだ後、午後の部が始まる。

これから本日の目玉であるロデニウス海軍による廃船への砲撃が始まろうとしている。

 

「これより、ロデニウス海軍の砲撃が始まります。皆さん、どうかお見逃しなく」

「「「わぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

 大歓声が上がる。

それもそのはず、今回の「軍祭」で一番の盛り上がりを見せる催し物なのだから。

 ちなみにロデニウス海軍から、戦艦1隻・駆逐艦4隻の計5隻が参加して、砲撃を行うことになっている。

 「Scharnhorst」の28.3cm三連装砲が回転し、廃船に照準を合わせる。

 

「主砲発射準備完了!」

「Feuer!」

 

 轟音と共に、砲弾が撃ち出された。

そして、着弾。廃船は一瞬にして木端微塵になった。

戦艦としては口径の小さい主砲だが、それでも威力は十分だった。

 

「おお!素晴らしい砲撃だ!!」

「全くだ。我が軍の大砲とは比べものにならないな」

「いや、我が国の大砲だって負けてはいないぞ!」

「確かにそうだな。まあ、いいじゃないか」

 

 ロデニウスの軍艦をアメリアは、注意深く観察する。

戦艦には大量の対空機銃が搭載されており、小型艦には筒状の物体を発射する装置のようなものが搭載されている。

 

(あれは何だ?あんな装備は見たことがない)

 

 アメリアは考える。しかし答えが出ることはなかった。

再び轟音が響き渡った。

 今度は、駆逐艦が砲撃を行う。次々と命中していく。

5分足らずで全ての目標を撃破した。

 

「なんということだ!あの小さな船だけですべての目標を撃破してしまった!」

「なんて火力だ……」

「しかし、ロデニウスの技術力は侮れないな……」

 

 観客は大いに盛り上がったが、アメリアだけは冷静だった。

 

 

 パーパルディア皇国の国家監察軍に所属するワイバーンロード隊計20騎はフェン王国の首都アマノキ上空に到達した。

 

「蛮族どもめ、我々に逆らうとどうなるか思い知らせてやる」

 

 彼らの任務はフェン王国に懲罰的攻撃を加えることと、皇国に逆らうとどうなるかを他国に見せつけることだ。

 

「隊長!あれを見てください」

 

 部下の一人が指さす方向に目を向けると、そこには巨大な船が浮かんでいた。

 

「何だあれは!?」

「わかりません!とにかく、攻撃を仕掛けましょう」

「そうだな……全騎突撃! 敵はたかだか船のようだ。恐れることはない!」

「全騎、降下用意! 奴らに我らの力を見せつけるのだ」

 

 隊長が命令を下す。

 

「了解」

 

 20機の竜騎士が2手に分かれて一斉に高度を下げ始めた。

 

 戦艦「Scharnhorst」のレーダーはすでにワイバーンロードの反応を捉えていた。

今日の軍際にワイバーン隊が飛行する予定はない。つまり、この反応は敵のワイバーン部隊だろう。

 

「敵さんのお出ましみたいね」

 

Scharnhorstはつぶやくと、即座に指示を出す。

 

bereit für Flakfeuer(対空戦闘用意)

 

 艦内にサイレンの音が鳴り響く。

妖精たちが慌ただしく動き出す。

 発光信号と電信によるやり取りが行われ、艦隊は戦闘態勢に移行した。

 

 

「なあ、今日の軍祭にワイバーンが飛んでくる予定ってあったっけ?」

「(そんな予定は)ないです」

 

 観客たちも異変に気付き、騒ぎ始める。

 するとワイバーンは2手に分かれ降下を始めた。

 

「おい、なんか来るぞ!!」

「なんだあれは!?」

「あれはワイバーンロードじゃないか!!なぜここにいるんだ!」

「知らんよ!!とりあえず逃げろ!!」

 

 人々はパニックになり、我先にと逃げ出した。

 しかし、逃げる方向は限られており、混雑によって将棋倒しになる者や押し出される者が続出した。

そんなことはお構いなしにフェン王城に火炎弾を撃ち込む。着弾した個所から火災が広がっていく。

 

「撃て!撃ち落せ!」

 

 城の中から出てきた兵士たちが、弓で応戦する。しかし、ワイバーンたちは巧みな機動で回避する。

 

Scharnhorstは見張り員の報告を聞きながら、射撃指揮所に報告した。

 

「射撃開始!」

「了解。射撃開始」

「撃てぇー!」

 

 轟音とともに、2cm 四連装FlaK 38改、3.7cm FlaK M42などの対空火器が火を噴いた。

ワイバーンロードは慌てて回避しようとするが、避けきれず数騎が被弾し落下していった。

 部隊長レクマイアの相棒も回避しきれず、左の翼に光弾を受け、コントロールを失い海へ墜落していく。

 何とか回避したワイバーンロードは火炎弾を発射するが、狙いが定まっておらず全く当たらなかった。

 

「落ち着け! 落ち着いて狙え!」

 

 海面に浮上したレクマイアは叫ぶが、部下たちの動揺は収まらなかった。

光弾が次々に味方を貫いていく。

 

「クソッ! あいつら一体どこからあんな兵器を手に入れたんだ!?」

 

 ワイバーンは上昇して距離を取る。しかし、対空砲の射程内から逃れることはできなかった。

城下町を攻撃していた者も異変に気付き、海の方へ向かう。

 

「あれは…… 何だ?」

 

 海には巨大な船が浮かんでいた。

 

「蛮族どもめ!我が軍の攻撃を受けてみろ!」

 

 ワイバーンロードは低空から接近する。

地上では「扇の的を射抜いた少年」が現れ、逃げ惑う観客たちを騒然とさせていた。

 彼は正確に竜騎士の首を射抜いた。

 

「ぐわぁあああっ!!! 首が!!」

 

 竜騎士はバランスを崩して、ワイバーンロードから滑り落ち地面に激突した。

 さらに別のワイバーンロードの右目も矢で射抜かれる。

痛みのあまりワイバーンは暴れだす。やがて失速し、そのまま地面へと墜落した。

 残りのワイバーンロードも対空砲により撃墜されていった。

 

「なんという腕前だ! まるで神業だ!!」

 

 観客は熱狂していた。

 

「何が起きたんだ?」

「わからん。だが、何かとんでもないことが起きているのは確かだ」

「あの船は何だ? あんな巨大な船は見たことがないぞ」

「馬鹿な! 列強国でもない国にあれほどの技術力があるわけがない」

 

 この様子もアメリアは見ていた。

あれほどの対空弾幕はムーの艦艇をかき集めてもでも無理だろう。

 それと同時に、なぜ大量の対空砲を搭載する必要があるのかという疑問がわいてきた。

 

これまでの様子をグラ・バルカス帝国の諜報員は密かに見ていた。




本当は2話に分けようと思ったのですが、読みにくかったので1話に収めました


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軍祭後日談

お ま た せ


中央歴1639年9月25日

フェン王国軍祭における一連の出来事は、各国に大きな衝撃を与えていた。

例えばグラ・バルカス帝国。

 

「なに?ロデニウス連合は少なくとも我々と同レベルの技術を保有しているだと!?」

 

情報局職員ナグアノは驚きの声を上げた。

 

「はい。間違いありません。先日の軍祭において、ロデニウスは戦艦1隻、駆逐艦4隻を派遣していました。駆逐艦は我が軍のキャニス・ミナー級にそっくりです」

「なんだと!!」

「それに戦艦は三連装砲が3基、かなりの数の対空砲を装備していました」

 

おそらくロデニウスも航空機が実用化されているだろう。

 

「陸軍も同レベルであろうと考えられます」

 

いくらなんでも、たった半年足らずでそこまで進歩するはずはない。そう思ったが、目の前にある情報を否定することができなかった。

 

「分かった。引き続き調査を続けてくれ」

「分かりました」

 

 

一方、トーパ王国では「巨大艦船」が話題になっていた。

 

「おい聞いたか? この前、軍祭に来た船がどうやら軍艦らしいぞ」

「ああ、俺も聞いたぜ。なんでも、大砲をたくさん積んでいるんだってな」

「信じられねえな。そんなものを作れる国が本当にあったのかよ」

「なんでも、鉄でできた船なんだとさ」

「鉄で船が造れるわけないだろう。お前バカか?」

「いや、だって見た奴がいるんだよ」

「そりゃ、誰かが勘違いしたんじゃないのか」

「いや違うね。確かに見たっていう人がいたんだよ」

「ふーん。まあ、俺は信じないがな」

 

 王都ベルンゲンの王城では国王を交えた御前会議が行われていた。

 

「それでは今回の軍祭での一件について報告させていただきます。まず、ロデニウス連合の戦艦でございますが、我が国の戦列艦よりも大きな船体をしており、主砲は我が国の物より強力なものを積んでおりました」

「それは本当か!?」

「はい。間違いございません」

「まさか……」

「はい。あれだけの巨砲を持つ船は我が国にも、ムーの戦艦にも存在しませんでした」

「うむ。そうだな。あの巨大な船を見ただけでも、それが分かる」

「続いて、小型艦も戦列艦よりも大きな船体をしており、こちらも主砲は強力でありました」

「なるほど」

「そして、ロデニウスの兵器は我が軍が採用している武器とは一線を画すものでした。パーパルディア皇国の銃より性能が高いと思われます」

「なんと!それほどなのか!」

「はい。パーパルディアのマスケット銃は単発式なのですが、ロデニウスの物は連発式のようで、威力も高いように思われます」

「連射できるというのか。恐ろしいな」

「はい。しかもその射程は長く、命中精度も高く思えました」

 

・・・

 

「以上です」

「うむ。御苦労だった。下がって良いぞ」

「はっ」

 

 王城は静まり返っていた。

皆が沈黙している中、大臣の一人が発言する。

 

「陛下、ロデニウス連合と国交を結ぼうというのはいかがでしょうか?」

「おお!それだ!!」

 

 全員が同意した。

 

「ロデニウスは我がトーパ王国にとって、友好国となりうるかもしれぬ」

「そうですな。あの国は列強国といっても差し支えない技術力を持っているようですからな」

「うむ。今度の軍祭でも見たが、パーパルディアのワイバーンロードを相手に圧勝していた。これは無視できない」

「そうですな。外交官を派遣してみましょう」

 

 こうして、トーパ王国はロデニウス連合との国交樹立を目指すことになった。

 

 二週間後の10月6日、第二文明圏ムー国

 ムー国のムー統括軍情報通信部・情報分析課の一室は異様な雰囲気に包まれていた。

理由は一つである。先日の軍祭におけるロデニウス連合が原因だ。

 机にはアメリアが撮影してきた写真が大量に並べられている。

情報分析課のトップである技術士官マイラスは、それらの写真を眺めながら、難しい顔を浮かべていた。

 まずは一枚目。

 

「何度見ても信じられんな」

 

 彼は呟いた。

 

「これがロデニウス連合の戦艦か……」

 

 その写真に写っているのは、まさに戦艦と呼ぶにふさわしい姿であった。

 全長は200mを超えているだろう。砲塔は三つあり、三連装砲となっている。連装砲の副砲らしきものも見える。

 ワイバーン対策なのだろう、対空砲が無数に搭載いている。

まるでハリネズミのように対空砲が配置されていた。

 なぜここまで搭載するのかはわからない。だが、ロデニウスの技術力が尋常ではないということだけは理解できた。

 次に、小型艦の写真を見る。

 

「こいつは小型艦か? ずいぶん大きいな」

 

 この世界には、駆逐艦という艦種はない。

なぜなら魚雷が存在せず、砲戦能力を重視した艦艇が主流だからだ。

 しかし、ロデニウス連合の兵器はどうも違うようだ。

小型艦には連装砲が3基ついている。

 また、対空機銃が多数装備されている。

艦中央付近には謎の兵器が装備してあった。

 

「なんだこりゃ? こんなもの、どうやって使うんだ?」

 

 続いて、陸軍の写真を見る。

なんとボルトアクション式ライフルや半自動小銃、携帯式機関銃、手榴弾まで所持しているではないか。

 

「これは…………凄いな」

 

 この世界には存在しない銃器ばかりである。

 

「まさか、これほどとはな」

 

 彼の予想では、ロデニウス連合の科学技術力は我々のそれを遥かに凌駕しているのではないかと考えていた。

 

「ロデニウスの軍事力は侮れんな」

 

 彼は改めて認識した。

 

「ここは、外務省に任せるしかないか……」

 

 10月13日 ムー国はロデニウス連合への使節団を派遣する。目的は情報収集と友好関係の構築にある。使節団を乗せた飛行機は、大空を飛んでいった。



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異界の訪問者

 中央暦1639年10月23日

 ムー国の使節団を乗せたラ・カオス旅客機は、無事にロデニウス連合の港町リンスメシアに到着した。

使節団一行は、ロデニウス連合リンスメシアの空港に降り立つ。

 

「おお……ここがロデニウス連合か。想像以上に発展してるじゃないか」

 

 空港のロビーから外を眺めたマイラスは感嘆の声を上げた。

 

「ええ、私も驚きました。ムーよりずっと発展していますよ」

 

 アメリアも驚いている。

 

「大型機も戦闘機も洗練されたデザインをしているな」

 

 戦術士官ラッサンは感想を述べた。

 

「ああ、そうだな。我が国の航空機とは明らかに異なるものだ」

 

 マイラスは同意した。

 

「さて、我々も行くとしようか」

 

 外交官たちはすでに列車でロデニウス連合の首都・クワトリングへ向かっていた。

マイラスたちは双発機「一式陸攻」に乗り換え、北東部へと向かった。

 

「ふぅ~。やっと着いた。しかし、空路だと早いなぁ」

 

 ラッサンは背伸びをしながら言った。

 

「ええ、そうですね」

 

 ここは旧クワ・トイネ公国北東部に位置する軍事基地、ハークライト。

現在、トラック泊地が所有する基地の一つである。

 この基地には転移と共にやってきた欧州戦線の部隊が駐屯していた。

一行は一式陸攻から降り立ち、案内役の妖精によって誘導されるまま移動を開始する。案内された先は格納庫であった。途中、高射砲や網目状の物体も見ることができた。

 そこは単葉機で埋め尽くされていた。

 

「おぉ!すごい数の機体だ!」

 

 マイラスは興奮気味に言う。

 

「おお!本当だ」

 

 ラッサンも同じだった。

右側にはBf109G、左側にはJu87Dといったドイツの主力機が並んでいる。

 

「ほう、これは凄い。どれも洗練されているな」

 

 マイラスは感動していた。

 

「そうですね。ロデニウスは本当に優秀な国ですよ」

 

 アメリアが相槌を打つ。

 

「ところで、あの機体はなんだ?」

 

 ラッサンは、左端の方に置かれている奇妙な機体に気がついた。

それは形は左側のとは変わらないが対戦車砲のようなものを2門装備したものだった。

 

「まさか、エース専用機か!?」

 

 ラッサンは目を輝かせていた。

 

「ほほう。やはりエース専用機があるのか」

 

 マイラスは納得したようにうなずいていた。

 ムーにもエース専用機は存在するが、基本的には機体の塗装を派手にする程度である。だが、ロデニウス連合にはそういった風習がないのか、全ての機体が同じ色に塗られていた。

 

「どうぞこちらへ」

 

 妖精に促され、一同は格納庫を後にして陸軍の演習場へ向かう。

そこで待っていたのは、戦車であった。

 

「おお!!これは!!」

 

 マイラスは思わず声を上げてしまった。

 そこには「ティーガーI E」の姿があった

 

「これは……素晴らしいな。ロデニウスはここまで進んでいたのか……」

 

 マイラスは唖然としながら言った。

自国の戦車「チャリオット」より何倍も大きく、そして何倍も重厚に見える。

 ティーガーの後ろから変わった形の車両が姿を見せる。

 

「あれはなんですか? 見たことがないです」

 

アメリアは聞いた。

車体から大砲が生えているような形をしていた。

 

「あれはISU-152です。名前の通り152mm砲を搭載しています」

「「「……」」」

 

 チャリオットに152mm砲が直撃すればひとたまりもない。

そもそも戦車に152mm砲を搭載するなど、常識では考えられない。だが、目の前にあるのは紛れもなく現実である。

 

「この国の技術力はどうなっているんだ……」

 

 マイラスは頭を抱えたくなった。だが、すぐに切り替えて質問を行う。

 

「この兵器はどういうものなんですかね?」

「はい。これは『対戦車自走砲』と呼ばれる兵器になります。簡単に言えば、戦車の撃破を目的として開発された兵器です」

「なるほど……」

 

 マイラスは理解した。

 

(確かに言われてみれば、そのとおりだな。しかし、こんな兵器を開発するとは……。我が国でも開発できないだろうか?)

 

 彼はそんなことを考えていた。その後T-34-85やM4A3といった車両も見学したが、特に特筆すべき点はなかった。

 しかし、そのどれもが洗練されたデザインであり、性能も高そうであることはわかった。

歩兵用の銃火器に関しても、ムーの物とは比較にならないほどの高性能さを誇っていた。

 ムーの武器はボルトアクション式ライフルがほとんどで、半自動小銃や携帯式機関銃はまだ存在していない。

 そのため、ロデニウスの銃火器はムーにとって非常に興味深かったのだ。

 

マイラスたちは、再び「一式陸攻」に乗りトラック泊地へと向かった。

 数時間後、マイラスたちはトラック泊地へと到着した。マイラスは「一式陸攻」を降りると、周囲を見渡した。

 

「あれが港か」

 

 マイラスは呟いた。彼の視線の先には大きな建物があり、周囲には数多くの艦艇が停泊している。

埠頭には多数の輸送船も見えた。

 

「ロデニウスは本当に栄えているな」

 

 マイラスはこの国の豊かさを改めて実感した。彼らは港へと向かう。

 港の入口には、数人の警備兵が立っていた。彼らはマイラスたちを見つけると敬礼を行った。

持ち物検査が行われ、問題なしと判断されたところでマイラスたちは中に入る。

 港の中に入ると、多くの人で賑わっていた。しかし、ほとんどが女性である。

 

「なんだここは……女性がたくさんいるじゃないか」

 

マイラスは不思議そうに言った。

容姿や服装も様々だ。学校の制服のような服を着た少女、軍服姿の女性、水着を着た女性たちもいる。

 

「ここは一体どこなんだ?」

 

 ラッサンは困惑していた。

 

「ああ、ここはロデニウス連合海軍特別軍の基地ですよ」

 

 妖精は答えた。

 

「「「ロデニウス連合海軍の基地!?」」」

 

 マイラスたちは驚きの声を上げた。

 

「ええ、そうですよ」

 

 妖精は平然と答えた。

 

「彼女たちはいったい何者なんですか?」

 

 アメリアは妖精に問いかける。

 

「いいですか、落ち着いて聞いてください。彼女たちは『艦娘』と呼ばれるものです」

「「「かんむす?」」」

 

 3人は同時に首を傾げた。

 

「そう、彼女たちは『軍艦の記憶を持った少女たち』なんですよ」

「「軍艦の……記憶?」」

 

 3人は再び首をかしげた。

 

「はい。彼女達はかつて戦争で活躍した軍艦たちの魂が宿った娘たちなんです」

「「「!?」」」

 

 マイラスたちは驚愕する。

 人であると同時に軍艦でもあるということだ。つまり、ただの人間ではないということになる。

 

「信じられない……」

 

 ラッサンはつぶやくように言った。

 

「まあ、無理もないでしょうね。でも、事実なんです。彼女たちは軍艦の能力を使うことができるんです」

 

 妖精の言葉に、マイラスは反応した。

 

「それは本当なのか?」

「はい、本当ですよ」

 

 妖精はうなずきながら言う。

 

「それなら是非とも見せてもらいたいものだな」

 

 マイラスは言った。

 

「わかりました。それじゃ、行きましょう」

 

 妖精は3人を案内し始めた。

しばらく歩いて埠頭まで行くと、そこには鋼鉄製の物体を身に着けた少女たちがいた。

 すると彼女らは海へ飛び込んで海面を滑るように移動していく。その動きはまるで水を得た魚のように生き生きとしていた。

 

「すごい……」

「あれが……『艦娘』か」

 

マイラスは呟いた。

 

「はい、そうです。ちなみに、彼女たちの艦種は『駆逐艦』です」

「駆逐艦?小型艦ではないのか?」

 

マイラスは駆逐艦と小型艦の違いがわかっていなかった。

 

「それにしても、あの装備は何なのだ? 見たこともないぞ」

「あれは『61cm四連装酸素魚雷』といいます。対艦攻撃用の兵器ですね」

「対艦用兵器だと……」

 

マイラスは呆れたような声を出した。

 

「ええ、水中を自走して攻撃する兵器なんです」

 

妖精の説明を聞いて、唖然とした表情を浮かべていた。

こんなものを喰らったら、戦艦だろうとひとたまりもない。浸水により沈没してしまうだろう。

 

「な、なるほど……。恐ろしい兵器だな」

 

マイラスは冷や汗を流した。

 

「ええ、でも使いどころが難しい兵器なんですよ」

「どういうことなんだ?」

「まず、魚雷は射程距離が短いです。そのため、敵に肉薄しないと命中させることができません。さらに、敵が回避行動をとった場合は外れてしまうこともあります」

「そうなると、当たらないということか」

「その通りです。あと、駆逐艦は装甲が薄いので敵の攻撃を受けると簡単に沈んでしまいます」

「そうか。なかなか難しい兵器なんだな」

 

 マイラスは納得した。確かにこの兵器を扱うのは難しいかもしれない。

 

 その後も、重巡洋艦や戦艦などの艦船を見学したが、どれも素晴らしい性能を誇っていた。

プライドをズタズタにされながらも、あっという間に時間が過ぎていくのであった。

 グラ・バルカス帝国の脅威が存在する状況下において、友好的であるロデニウス連合を拒否する理由は無く、無事国交を結ぶことになった。



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第三文明圏戦争前期
(新年早々戦争は)やめてくれよ


 中央暦1640年1月11日、アルタラス王国 王都ル・ブリアス。

アルタラス王国は文明圏外国としては非常に高い技術力と国力を持つ。

 その国の王城の一室で、一人の男が頭を抱えていた。その男はアルタラス王国の現国王、ターラ14世である。

 

「これは……正気か?」

 

 彼の手には一枚の羊皮紙が握られていた。そこには次のような内容が書かれていた。

 

・アルタラス王国は魔石採掘場・シルウ トラス鉱山をパーパルディア皇国に献上せよ。

・アルタラス王国は、王女ルミエスを奴隷として皇国に差し出すこと。

 

 この二つの条件を受け入れれば、アルタラス王国の存続を認めるとあった。

 

「バカな! 我が娘を差し出せだと? ふざけるな!」

 

 王は激怒した。魔石鉱山シルウトラスは王国最大の魔石鉱山であり、経済の中核でもある。さらに、王女ルミエスを差し出すというのは、怒りを通り越して呆れてしまう内容であった。

 彼はパーパルディア皇国、アルタラス出張所へ足を運んだ。

 

「待っていたぞ!ターラ14世!」

 

 アルタラス駐在大使カストは、足を組んだ状態で椅子に座りターラ14世を出迎えた。

 

「あの文書の真意を伺いに参りました」

 

 ターラ14世は立ったまま言った。

 

「真意も何も、そのままの意味だ」

「では、我が娘を差し出せば、アルタラス王国を存続させるとありますが……」

「ああそうだ」

「馬鹿げているとは思いませんか!?」

「そうかね? 君たちにとっては、これが最も賢明な選択だと思うがね」

「しかし、何故そのようなことを?」

「ああ、あれか。王女ルミエスはなかなかの上玉だろう?俺が味見をするためだ」

 

 カストは下卑た笑いを浮かべて言った。

 

「貴様ぁ!! 我が娘の身体を狙うためだけに、このような要求を突きつけたのか!!」

 

 ターラ14世の拳が強く握り締められる。

 

「まあ飽きたら、奴隷市場に売り払うがな」

 

 カストは、ターラ14世が激怒している様子を楽しむかのように眺めていた。

堪忍袋の緒が切れたターラ14世は背中を向けて立ち去った。

 

「ふん……蛮族風情が……」

 

 カストは小声でつぶやいた後、再び笑みを浮かべた。

王城に戻ったターラ14世は、大臣たちにこの事を伝えた。

 

「あの大馬鹿野郎をパーパルディア皇国に送り返せ!要請文も断る、国交を断ずるとはっきり書くと共に、パーパルディア皇国の我が国での資産を凍結しろ!そして、二度と我が国に来るなと言っておけ!!」

 

ターラ14世は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

「はっ!かしこまりました!」

 

 大臣たちは慌てて執務室を出て行った。武力衝突は避けられぬ事態となった。

 

◆◆◆

 

 翌日のパーパルディア皇国 皇都エストシラント 皇宮パラディス城。

第三文明圏の列強国であるパーパルディア皇国は、第三文明圏最強の軍事大国であった。その軍事力を背景に周辺の国々を次々と属領化し、今まさに繁栄の頂点にあった。

 皇都エストシラントのパラディス城では、皇帝ルディアスを交えた帝前会議が行われていた。

 

「ロデニウス連合に対し、懲罰を行う。奴らは我々から一方的に攻撃され、反撃しただけだと主張しているが、これは事実ではない。よって、正当な理由をもってロデニウスに制裁を加えるものとする」

「それについては異議なし!」

 

 将軍の一人が言う。

 

「よろしい。では次の議題だが……カイオス、あの件はどうなった」

「アルタラス王国の件ですが、予定どおり、魔石鉱山シルウトラスの献上を断ってきました。」

 

 第3外務局、局長カイオスは答える。

 

「やはりな……。それで、何か言ってきたか?」

「はい。我が国との国交を断絶するということと、国内における皇国資産の凍結を通告してきました」

「予定どおりではあるが、いささか頭にくるな。しかし、所詮は蛮族の国よ。我らに逆らうということはどういうことか、思い知らせてくれるわ!」

 

ルディアスは、自信たっぷりに言い放った。

同日、アルタラス王国に宣戦布告。

 

◆◆◆

 

 アルタラス王国では予備役も動員しての総動員体制が敷かれていた。市民は、いつ戦争が始まるかわからないという不安の中生活していた。

 王都ル・ブリアスの王城の一室。

国王ターラ14世は、自分の娘であるルミエスを呼び寄せた。

 

「父上、何用でしょうか?」

「おお、ルミエスよ。お前を呼んだのは他でもない、アルタラス王国存亡の危機なのだ」

「アルタラス王国が滅ぶと!?」

「そうだ。このままでは、アルタラス王国は滅びる。そうなる前に、ロデニウス連合へ助けを求めに行くのだ」

「ロデニウスへですか?しかし、私は王女の身、一人で行くわけにはいきません」

「心配するな、護衛をつけてやる。それに、ロデニウスは強力な軍事力を持ちながら、平和的に事を解決しようとする国だ」

「わかりました。私が行って、助けを呼んで来ます」

「頼んだぞ」

 

ルミエスは、アルタラス王国を救うため、ロデニウス大陸へ向かった。

 

◆◆◆

 

1月15日

 ロデニウス連合は王女ルミエスからの要請を受け、アルタラス王国に援軍を送ることを決定した。

同日、アルタラス沖海戦が勃発。この海戦によりアルタラス王国海軍は壊滅。パーパルディア皇国軍はアルタラス島北部に上陸した。



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宣戦布告

 中央暦1640年1月16日

 

 パーパルディア皇国 皇都エストシラント、第3外務局

 

「さて、ロデニウスの連中は何と返事を送ってきたかな」

 

 カイオスは、部下から書類を受け取り読み始めた。

 

「……な、なんだこれは!?」

「どうしましたか? 局長」

 

 書類には要約するとこう書かれていた。

 

『アルタラス島から即時、軍を撤退せよ』

 

 そしてその文章の下には、

 

『追伸。もし、こちらの指示に従わない場合、我々はパーパルディア皇国に対し宣戦を布告する』

 

 と書いてあった。

第3外務局ではどうしようもできないのでこの書類は上層部へと回された。

 

◆◆◆

 

 パーパルディア皇国 皇宮パラディス城

 

「なにぃ! 我が国が蛮族どもに舐められているだとぉ!!」

 

 カイオスの報告を聞いた皇帝ルディアスは激怒した。

 

「はい。おそらく、あの国は我が国を侮っていると思われます」

 

 カイオスは淡々とした口調で言う。

 

「まあ良い。アルタラス王国の次はロデニウス連合だ! 蛮族は皆殺しにしてやれ!」

 

 要請は無視され、アルタラス王国への侵攻が続く。

 

◆◆◆

 

 1月18日、ロデニウス連合は要請文を無視したと判断し、パーパルディア皇国に宣戦布告を行った。

同時に、「世界のニュース」が全世界に向けて放送した。

 ロデニウス連合とパーパルディア皇国の戦争が始まったことを報道した。

この放送により、ロデニウス連合の名は世界中に知れ渡った。

 

 

1月20日

 

 アルタラス島北部に上陸したパーパルディア軍は進撃を再開した。

アルタラス王国軍は奮戦するも、練度が低く、徐々に押されていった。

 また王都ル・ブリアスに援軍のロデニウス連合軍が到着するまで持ちこたえなければならないという重圧もあり、士気は落ちていた。

 

 そんな中、ついにロデニウス軍が現れる。

自国の戦列艦より何十倍も大きい軍艦の群れを見て、アルタラス軍の兵士は驚いた。

 

「あれがロデニウス連合の船か!?」

「あんなに大きな船がたくさんあるぞ!」

 

 彼らは、列強国ムーの戦艦に乗船した経験があり、その時見た艦艇を思い出していた。しかし、目の前に現れた艦隊はそれよりはるかに大きく、威容を放っていた。

 揚陸艦から次々と上陸してくる兵士たち。そして、戦車や榴弾砲も現れる。

 

「なんだこれは……鉄の化け物か?」

 

 それは、アルタラス王国軍が知る兵器とは似ても似つかないものだった。

王都ル・ブリアス北方約10㎞の平野に防御陣地を築いていた。塹壕を掘り、土嚢を積み上げ、機関銃を設置する。

 九七式中戦車チハや九五式軽戦車さらにチハ改造車の長十二糎自走砲が配備される。

なぜ長十二糎自走砲が配備されたかというと、パーパルディア軍が運用する地竜リントヴルムの防御力がどの位なのか不明だったからだ。

 そこで、攻撃力の高い砲を持つ車両を選んだ結果である。ほかにも九六式十五糎榴弾砲も配備されている。

 

「おいおい、なんなんだよありゃぁ……」

「まるでバケモノじゃないか」

 

 ロデニウス連合軍は、アルタラス王国軍と協力しつつ、防衛ラインを構築していく。

王都の西方にも防衛線が敷かれる。森になっているので、そこから侵入されると厄介だ。

8.8 cm FlaK 36を擬装ネットで覆い、偽装する。

戦闘の準備は着々と進む。



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戦闘開始

 アルタラス島東方海域

 

 パーパルディア皇国海軍、竜母艦隊計15隻は綺麗な隊列を組み、南下していた。

 その様子を水中から観察している者がいる。潜水艦「U-511」だ。

 

「……敵艦発見」

 

 彼女は潜望鏡深度まで浮上すると、双眼鏡を覗き込んだ。彼女の眼には、はっきりと敵の姿が映っていた。

 敵の数は20隻。

 

「……すごい数」

 

 U-511はそうつぶやく。

 

「魚雷発射準備完了です」

 

 副艦長が報告する。

 

「Feuer!」

 

 魚雷は敵竜母へ吸い込まれるように命中する。

その爆発は水柱となって海面上にそびえたち、敵竜母は轟沈する。爆発は四回起きた。

 

 竜母艦隊は混乱におちいる。

 

「何事か!?」

 

旗艦艦橋で指揮官が叫ぶ。

 

「わかりません! いきなり、味方の竜母が爆発し、沈みました!!」

「馬鹿な! どういうことだ!?」

「わ、分かりませぬ!! 」

 

 その瞬間、もう1隻の竜母が爆発した。

 

「お、落ちるぅー!!!」

 

 竜母の甲板上にいた水兵たちは悲鳴を上げる。そしてそのまま海へと落下していった。

さらに3隻目も爆散した。

 4隻があっという間に撃沈されたのだ。

 

「一体何が起こっているんだ!!」

 

 指揮官は叫ぶ。しかし、答えられる者はいない。

艦隊は竜母を4隻失い、任務を果たせない状態になっていた。

 指揮官は決断を迫られる。このままでは全滅だ。撤退するしかないだろう。

 

「撤退! 全艦反転!」

「了解」

 

 艦隊は逃げるようにしてその場を去った。

こうして、パーパルディア皇国は、ロデニウス連合との海戦で貴重な戦力を失った。

 

◆◆◆

 

 1月22日

 

 パーパルディア皇国陸軍は王都ル・ブリアス北方約10㎞まで迫って来た。

 

「全軍前進!蛮族どもを叩き潰せぇっ!!!」

 

将軍ベルトランの号令の元、パーパルディア軍は進撃を開始する。地竜リントヴルムを前面に押し出し、歩兵がその後に続く。

 

「ロデニウスの奴らめ! 我が軍の恐ろしさを思い知らせてやる!」

 

 ベルトランは意気揚々と言った。しかし、ここで予想外のことが起こる。

ロデニウス・アルタラス連合軍が陣地から砲撃を開始したのだ。

 

「ぐはぁ!」

「ぎゃあああ!」

 

 皇国兵は、榴弾によってなぎ倒されてゆく。

 

「怯むなぁ! 進めぇ!」

 

 被害を出しながらも、皇国軍は前に進む。

長十二糎自走砲の120mmの砲弾がリントヴルムの顔を叩き潰す。続いて九六式十五糎榴弾砲の150mm弾も炸裂する。

 

「うおおぉぉ!!」

 

 パーパルディア軍は雄叫びを上げながら突撃を続ける。しかし、ロデニウス軍の火力は圧倒的だった。

数両の九七式中戦車チハによる集中攻撃が、リントヴルムを穴だらけにする。

九二式重機関銃の掃射が、兵士の体をズタボロに引き裂いていく。パーパルディア軍に動揺が走る。

ロデニウス軍が使用する銃は皇国のものより射程、威力ともに上だった。

 

「な、なんだあの武器は……」

「魔法か?」

「ば、化け物だぁぁ!!」

 

 皇国兵の士気は一気に低下した。

 

「ひるむなぁぁ!!」

 

 ベルトランは絶叫する。

「そうだぁぁ! 蛮族のクズどもなど恐れるな! 我等の方が強いぞ!!」

 

 将軍の声に兵士たちは奮起する。

 

「おおおぉぉ!!」

 

 皇国兵は再び突進する。

しかし、地竜はと砲兵隊は全滅し、歩兵も半数近くを失っている。その状態で突撃するのは無謀だった。パーパルディア軍の動きが鈍ったところへ、ロデニウス軍が一斉に銃撃を行う。

皇国兵がバタバタ倒れていく。

 

「ああっ! 隊長がやられた!」

「助けてくれ!」

「俺の腕がないぃ!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる。パーパルディア軍は、もはや戦意を喪失していた。そこへ、ロデニウス軍の攻撃が集中する。

 パーパルディア軍は、組織的抵抗能力を完全に喪失していた。

 

「将軍! 撤退しましょう!」

 

 副官の言葉にベルトランは歯噛みする。

 

「クソッ!! こんなはずではない!!」

 

 彼は、部下たちの命を無駄にすることはできないと思い、撤退を決意する。

 

「総員退却! 後退せよ!!」

 

 ベルトランの命令により、パーパルディア軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

◆◆◆

 

 王都西方も悲惨な状態だった。

森に隠された魔導砲の攻撃で地竜が全滅、約800mまで接近したところで銃弾の雨を浴びた。

 大型の銃は連射力が凄まじく、一瞬で腕や足が千切れる。一瞬で血まみれになり、痛みを感じる暇もなく死んでいくのだ。

歩兵部隊は機関銃の掃射を受け壊滅状態となった。

 

「ひいいぃ!!」

「逃げろーっ!!」

「助けてくれえぇ!!」

 

 皇国軍は、パニックに陥り、ただひたすら逃げるしかなかった。

 

「おい! どこへ行く!? 味方を置いて逃げるのか!」

「そんなことを言っている場合か! 早くしないと死ぬんだぞ!」

「お、俺はもうダメだ……」

「うわぁぁぁ!」

 

 悲鳴を上げながら、皇国軍は散りじりになって逃げた。



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羊狩り

 中央暦1640年1月29日アルタラス沖

 

 パーパルディア皇国海軍輸送船団は、アルタラス島の皇国軍へ補給物資や人員を輸送するため、アルタラス島北方海上を航行中であった。輸送船60隻からなる大船団である。

 アルタラス島に展開する皇国軍は、ロデニウス連合との戦闘で大きな損害を受けていた。そのため、今回の輸送には、陸戦要員、兵站部隊などが動員されていた。

 この海域は、パーパルディア皇国の制海権下にあり、危険度は低かった。

皇国海軍の誇る戦列艦12隻が護衛として随伴していることもあり、安心しきっていたのだ。

 しかし突然、戦列艦の1隻が爆発した。

轟音とともに船体が真っ二つに折れ、海中へと沈んでゆく。他の船でも同じような爆発が起こり、沈没していった。

 

「敵襲! 敵の攻撃です!」

 

 見張り員の叫び声が上がる。

 

「何だとぉ!!」

 

 艦長が叫んだ瞬間、自身が乗る戦列艦も炎に包まれた。

輸送船を護るはずだった戦列艦はあっという間に全滅してしまった。

 次に輸送船が標的となる。

次々に爆発炎上してゆく。見えない敵に一方的に攻撃されているのだ。

 

「馬鹿な! 一体どうなっている!?」

 

 船員たちは、必死にマストに登り周囲を見渡すが何も発見できない。

攻撃が終わったかと思うと、再び輸送船が撃沈された。

 

「終わったのか……?」

 

 船員の一人が呟いた。

 

「おい! 何を寝ぼけた事を言ってるんだ! 敵はまだいるはずだ!」

 

 別の別の船員が怒鳴った。

その時だった。突如、海面が盛り上がったかと思うと、何かが姿を現した。

 

「なんだあれは……?」

 

 それは、灰色の細長い物体だった。

長さ70メートル程の細長く巨大な鉄塊が、ゆっくりと浮上してくる。甲板にいた水兵たちが慌てて避難する。

 やがてそれは、完全に水面から姿を現す。その全貌が明らかになるにつれ、誰もが唖然とした表情を浮かべる。

 

「ば、化け物だ……」

 

 誰かがそう漏らすのも無理はなかった。それほどまでに異様な存在だった。

魔導砲らしきものが装備されているのが見て取れる。

 すると人が出てきて魔導砲を操作を始めた。

 

「まずい! 撃ってくるぞ!」

 

 水兵が叫ぶと同時に、砲弾が放たれた。空気を切りさくような音が響き渡ると、着弾地点が炸裂する。衝撃で船が揺れ、燃え上がる。

 

「退避しろーっ!!」

 

 船員たちは、慌てて艦内に駆け込む。次の瞬間、先ほどまで彼らが立っていた場所が吹き飛んだ。

 

「なんてことだ……あんなものが相手では勝てるわけがない……」

 

 海中に潜んでいた敵艦は輸送船団を取り囲むように浮上していた。逃げ場も反撃能力もない。一方的な狩りが始まるだけであった。

爆発が起きるたび、輸送船は次々と沈み始める。

 そして、羊の群れはオオカミにすべて食い尽くされた。

 

◆◆◆

 

 2月1日 アルタラス島

 

  パーパルディア皇国軍の戦線は崩壊しつつあった。

ここ数日でなぜか輸送船の被害が拡大しており、弾薬や人員の補給が困難になっていたのだ。

 皇国軍は、なんとか本国からの増援を得て立て直そうとしたが、それすらもかなわない状況に陥っていた。

 アルタラス島南方海域へ出撃した艦隊は1隻も帰ってこない。偵察に向かったワイバーンロードも戻って来なかった。

 皇国軍は、連合軍の猛攻により、総崩れとなっていた。

もはや組織的な抵抗力を失っており、各部隊は個別に戦っている状態だ。

 

(クソッ!! こんなはずではなかった!)

 

 ベルトラン将軍は、歯噛みしながら撤退命令を出すしかなかった。



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強襲上陸

 中央暦1640年2月2日

 

 アルタラス島の西部沿岸にある港街アルタラ。

パーパルディア皇国軍に占領されたこの街の港には皇国海軍の戦列艦100隻、竜母10隻が停泊していた。

町の一部は砲撃によって破壊され、建物の瓦礫は片づけられたものの、戦闘による破壊の跡が生々しく残っていた。

 まだ朝早い時間帯にも関わらず、街の住民達は不安そうな顔で家の中に閉じ籠もり、外の様子をうかがっていた。

 皇国海軍の戦列艦のうち、20隻が沖合で哨戒任務についている。今日も住民たちは恐怖におびえながら、時間が過ぎるのを待つしかない。

 しかし、運命の歯車が動き出す時が来た。

 

「おいっ! 見ろよあれ!」

 

 1人の住民が指さす先には、空に羽ばたく影があった。

 

「なんだありゃあ!?」

「飛竜か? でも、デカすぎるぞ!」

 

 その影の正体は、ロデニウス連合海軍所属、泊地艦隊の空母から飛び立った「烈風」、「彗星」、そして「流星改」からなる攻撃隊であった。

 

「目標上空到達! 攻撃開始!!」

 

 隊長の声と共に、彗星が急降下を開始した。爆弾投下後、機体は急上昇して離脱していく。

 

「やった! 命中です!」

 

 後部銃手の報告通り、大きな爆発が起きて船体が折れ曲がる。次から次へと戦列艦が爆発する。

竜母からワイバーンが発艦しようとするが、間に合わずに竜母ごと沈められる。

 

「敵機、こちらに向かってきます!」

 

 見張り員が叫ぶ。

 

「回避!!」

 

 艦長の号令の元、舵輪が回される。

だが、敵の攻撃の方が早かった。無数の火箭が飛来し、船体を貫く。

轟音とともに爆炎が上がり、戦列艦は燃え盛る残骸と化す。

 その光景を見た乗組員たちは、呆然と立ち尽くすばかりだった。攻撃開始から30分も経たないうちに、艦隊の半数以上が撃沈もしくは戦闘不能にされてしまったのだ。

 

「ば……ばかな……。たったこれだけの攻撃で我が軍が……」

 

 旗艦艦長が呟いた。

 

「艦長!! あれをご覧ください!!!」

 

 士官の一人が叫んだ。その視線の先では、遠くからでもわかるほどの巨大な軍艦がゆっくりと接近してくるところだった。

 

「なっ……なんだあの船は!? バカでかいぞ!」

 

 その時、パーパルディア軍の艦艇に向けて砲弾が次々と降り注いだ。

 

「敵襲! 砲撃されているぞ!!」

 

 見張り員が叫ぶ。その直後、再び戦艦が砲撃を行った。

 

「ぐわぁ!!」

 

 砲弾が戦列艦に命中し、大爆発を起こす。

 

「敵艦発砲!!」

「避けろぉーっ!!」

 

 パーパルディア艦隊は必死に砲撃を避けようと、回避行動を取る。

 

「クソッ! この距離で当ててくるのか……!!」

 

 艦長は歯ぎしりしながら言った。

皇国海軍の魔導砲の射程距離は2kmである。

 それに対し、敵艦との距離は10km以上離れているはずだ。

にもかかわらず、この命中率とはどういうことなのか。

 

「とにかく距離を詰めなければ勝てん! 全速前進だ!!」

「了解!」

 

 パーパルディア艦隊は、全速力で敵艦に突撃する。

 

 

「敵艦突っ込んできます!!」

 

 見張り員が報告を行う。

 

「よし、撃ち方始め」

 

 戦艦「霧島」の射撃指揮所にて、砲術長が命じた。

その瞬間、爆音と共に猛烈な速度で砲弾が飛翔し、パーパルディア艦隊のど真ん中へ着弾。炸裂した。

戦列艦の1隻が木端微塵になり、破片が飛び散った。

軽巡「Helena」も砲撃を行い、3隻の戦列艦を沈めた。

 

 パーパルディア艦隊は混乱に陥った。今までこのような事態は想定していなかったのだろう。

 

「敵は蛮族だ! 数は少ない、物量の差で押し潰せ!!」

 

 指揮官らしき男が叫び、パーパルディア艦隊は隊形を組み直す。そして突撃を敢行してきた。

 

「撃てぇっ!」

「砲撃開始!!」

 

 戦艦「金剛」「比叡」「榛名」「霧島」の4隻が主砲を撃ちまくる。

砲弾が雨のように降り注ぎ、パーパルディア艦隊の船を次々と粉砕していった。

 

「うあああっ!!」

 

 パーパルディア軍の指揮官は絶叫を上げた。

何が起きたかわからぬまま、彼は乗艦もろとも、炎に包まれていくのであった。

 

「そんな、こんな馬鹿なことが……」

 

 この様子を皇国陸軍兵らは、呆然と眺めていた。

艦隊が1時間足らずで全滅してしまったのだから無理もない。

 しかし、彼らはすぐに我に返り、武器を取って戦闘態勢に入る。

 

「奴らを上陸させるな! 絶対にここで食い止めるんだ!」

 

隊長の予想通り、小型艦とボートが砂浜に接近する。

 

「魔導砲、発射用意!」

「装填完了しました」

 

 しかし、その命令が実行されることはなかった。

軽巡「阿武隈」「Helena」駆逐艦「睦月」「如月」「霞」「満潮」による艦砲射撃が行われたからだ。

砲撃で魔導砲や兵士が吹き飛ぶ。接近するボートに砲撃を行うどころではなかった。

 

「敵が上陸してくるぞ! 全員配置につけ!」

 

 隊長の声で、皇国軍兵らが陣を組む。

 

「いいか、敵を一人たりとも生かすんじゃない。全員殺せ!」

「応!!」

「来るなら来い!! 皆殺しにしてやる!!!」

「撃てぇっ!!」

 

 怒号と共に、銃声が鳴り響いた。

しかし、マスケット銃の弾は明後日の方向に飛び、当たらない。

 

「 撃ち続けろ!!」

 

 皇国の兵は必死になって銃弾をばら撒くが、人数が少ないため、なかなか当たらない。

 

「怯むな! 撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

隊長の叱咤が飛ぶ。

 

「ぎゃぁああ!!!」

「ぐええ!!」

「ひぃいっ!!」

 

 断末魔の悲鳴を上げながら、次々と兵が倒れていく。

お返しと言わんばかりに、敵の銃撃が皇国兵をなぎ倒す。

 

「ちくしょう! なんで当たらねえんだよ!!」

「ふざけやがって!!」

「落ち着け!! とにかく撃つんだ!!」

「畜生! 死にたくねぇよぉ!!」

 

 皇国はパニックに陥っていた。パーパルディア軍の兵士たちは、圧倒的な戦闘力を見せつける日本軍(妖精)に恐怖していた。

 

「なんだあの化け物は!? 」

 

 さらに、鉄の怪物(戦車)が現れる。

皇国兵の放つ弾丸など意にも介さず、鋼鉄の獣たちは進撃していく。

 

「ぎゃぁああっ!!」

「助けてくれぇ!!」

「にげろぉ!!」

 

 パーパルディア兵たちが逃げ惑う。

 

「ば、化け物め! くるな!」

 

 マスケット銃で武装した歩兵が発砲するが、全く効果がない。

逆に九七式車載重機関銃でハチの巣にされる。

 

「た、助け……」

 

 皇国兵の一人が助けを求めるが、彼の言葉はそこで途切れた。

パーパルディア軍にとって悪夢のような光景だった。日本軍の攻撃によって、瞬く間に味方が倒されていく。

 

「こんな馬鹿なことが……!!」

 

 部隊長が叫んだ直後、九九式小銃の狙撃により、頭部を吹き飛ばされる。

 

「隊長ーっ!!!」

 

 部下たちの叫び声が響く中、パーパルディア軍は市街地へ後退した。

日本軍は容赦なく追撃を行い、市街戦へと突入した。

 九七式中戦車チハを先頭に、皇国軍を蹂躙する。

皇国陸軍が配備している牽引式魔導砲も、九七式中戦車には通用しなかった。

 

「クソッ! 何だこの鉄の化物どもは!!」

 

 パーパルディア軍の指揮官が叫ぶ。

 

「撃て撃て! 撃ちまくるんだ!!」

 

 皇国軍の兵たちはマスケット銃で攻撃を行う。

しかし、九七式中戦車の前面装甲を貫くことは出来ず、逆に反撃を受けて薙ぎ払われる。

 

「うわぁああっ!!」

「ぎゃっ!!」

 

 皇国兵の死体が量産され、血の海が出来上がっていく。

防衛線はあっという間に市街地中央まで押し込まれてしまった。

 

「後退だ! 後退しろ!!」

「ダメです! 後ろからも敵が来てます!」

「挟まれたのか!?」

「隊長! どうすればいいんですか!!」

「知るか!!」

 

 もはや指揮系統は崩壊寸前であった。そして、その混乱に乗じるように日本軍の歩兵部隊が押し寄せてくる。

 

「ぎゃぁあああっ!!」

「来るな! 止めろぉおおおっ!!」

「うああああっ!!」

 

 皇国兵は絶叫しながら殺されていく。

 

「くそっ! このままでは全滅してしまう!」

 

その時、ふと閃いた。

 

「おい! お前たち、地下の水道へ行け!」

「は?」

「いいから早く行くんだ!」

「は、はい!!」

 

 皇国兵らは隊長の指示に従い、地下の水道へと向かった。

 

「よし! これで奴らを撃退できるはずだ!」

 

 隊長はそう言うが、実は彼は何も考えていなかった。

ただ、目の前の地獄から逃れたい一心だったのだ。

 やがて、パーパルディア軍は壊滅状態に陥った。

 

「く、くそ……。ここまでか。撤退するぞ!!」

 

 指揮官の言葉を受け、残存部隊が撤退を開始する。

その退路を塞ぐように九七式中戦車と九五式軽戦車が現れた。

 

「ひっ!! 化け物!!」

 

 皇国軍の兵士が悲鳴を上げる。

57mm砲と37mm砲が火を噴き、パーパルディア軍の兵士は次々に吹き飛んでいった。

 やがて、皇国軍は地下水道へ逃げ込んだ数十名を除き全滅した。

 

 アルタラス島の西部に上陸したことにより、パーパルディア軍の戦線は大きく後退し、皇国軍が上陸した地点にまで押し戻された。



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ルアコック平原の戦い

「くそ! なんてことだ!!」

 

後方の司令部で皇国軍司令官は苛立ちながら叫んだ。

 

「我々が攻めていたはずなのに、いつの間にか逆に攻められてましたね……」

 

参謀が答える。

 

「ええい!! こうなったら、我が軍の精鋭部隊を投入してでも、敵を撃滅するんだ!!」

「しかし、それだと我々の被害も大きくなります。ここは慎重に行きましょう」

「慎重になってどうなる? このままやられっぱなしで良いのか!?」

 

司令官が怒鳴ったとき、伝令兵が駆け込んできた。

 

「報告します!! 連合軍がこちらへ向かっております!!」

「なにぃ!? もう来たというのか!」

「はい! すでに領内に侵入しております!!」

「ちいっ! 仕方ない! 全部隊に戦闘準備を下命せよ!!」

「はっ!!」

 

陸軍は、連合軍との戦闘によって大きな損害を被り、戦力の大半を喪失した。

海軍戦力も大打撃を受けており、本国からの増援を待たなければ行動不能の状態であった。

しかし、パーパルディア軍は最後まで戦い抜く覚悟だった。

 

「皇国の未来のためだ!絶対に勝つぞ!!」

 

 パーパルディア軍司令官は、天幕の中で叫ぶ。

 

「はっ! 必ず勝って見せます!」

 

 参謀は敬礼すると、部下の元へ走った。

パーパルディア軍に残された兵力は約3万人。

 対する連合軍には、その数倍以上の兵がいると見積もられている。

 

「ふんっ……。だが、我々は負けん。たとえ勝てずとも……最後の一人になろうとも、必ず戦うのだ!!」

 

 司令官は拳を握りしめ、そう呟いた。パーパルディア軍は、陣地構築を行いつつ、迎撃の準備を行っていた。パーパルディア軍が陣を構えているのは、アルタラス島の北部にあるルアコック平原である。この平原は起伏が激しく、大軍の展開が難しい地形であった。

 しかし、防衛に適した地形であり、ここならば敵の侵攻を食い止めることが出来ると踏んだのだった。ここを突破されれば後方には港しかないため、敗北が確定してしまう。そのため、何としても守らねばならない場所であった。

 

 そしてついに、ルアコック平原にアルタラス王国軍が姿を現した。その数は約2万。

対するパーパルディア軍は、約3万人の兵と、魔導砲が30門。ワイバーンロードが約20騎ほど。

ルアコック平原の戦いが始まった。

 

 最初に動いたのは、皇国軍のワイバーンロード隊だった。制空権を確保するために攻撃を仕掛ける。

しかし、ロデニウス連合軍の「一式戦 隼III型甲」「三式戦 飛燕一型丁」と空戦に突入。制空権を確保出来ず、逆に地上の友軍に爆撃を受ける羽目になった。

 パーパルディア軍も反撃を開始する。魔導砲の砲弾がアルタラス王国軍に降り注ぐ。馬や兵士が吹き飛び、大地が血に染まった。

アルタラス王国軍は怯むことなく突撃を続ける。パーパルディア軍の砲兵隊が、一斉に砲撃を開始した。砲弾の雨がアルタラス兵を襲う。

 

「うわぁああっ!!」

 

 叫び声と共に、兵士が宙に舞う。その光景を見た兵士達の士気は落ち、戦列が乱れ始める。そこへ銃弾が降り注ぎ、アルタラス兵の身体を撃ち抜いていく。

 

「くそっ! 魔法攻撃用意!! 目標敵左翼!!」

 

 皇国軍の将軍が命令を発する。同時に呪文詠唱が始まり、火炎弾が発射される。アルタラス王国軍の左翼が炎に包まれる。

 

「よし! いいぞ! 続け!!」

 

将軍の号令の下、次々と魔法が放たれていく。

 

「ぎゃああああ!!!」

 

 アルタラス兵が絶叫を上げながら倒れ伏す。

 

「後退だ!! 早くしろ!!」

 

 アルタラス王国軍の左翼が崩れ始めた。それを見て、パーパルディア軍から歓声が上がる。

 

「このまま押し込め!! 一気に殲滅するんだ!!」

 

 皇国兵達は勢いづき、そのまま進撃しようとする。

その時、上空から何かが降ってきた。

ドォン!! という轟音とともに、地面が爆発する。

 

「なんだ!?」

 

 皇国軍の兵士は思わず叫んだ。

爆発は連続して起こり、地面が大きく揺れ動く。

 

「なっ……なんですか!?」

 

 参謀のひとりが叫ぶ。

 

「いかん! 伏せろ!!」

 

 誰かが怒鳴った。その直後、爆風が押し寄せ、兵士たちを吹き飛ばす。

 

「ぐぅ!」

 

 地面に叩きつけられた兵士はうめき声を上げる。なんとか起き上がった彼の眼前には地獄が広がっていた。

 数えきれないほどの小さいクレーターが発生し、その中で味方の死体が転がっている。あるものは上半身が無くなっており、またある者は下半身だけになっている。

 

「くそっ! 一体なにが起きた!?」

 

 別の兵士が怒鳴りながら立ち上がる。

 

「「「「Ураааааааа!!!!」」」」

 

 遠くで雄たけびが聞こえる。

皇国軍の兵士達は顔を見合わせ、お互いに疑問符を浮かべていた。

 

「おい! あれ見ろよ!」

 

 ひとりの兵士が指さした方向を見る。そこには深緑色の怪物と歩兵の大軍がこちらへ向かってくる姿があった。

 そう、ロデニウス連合所属のソ連軍(妖精)である。

先程の爆発は「BM-13 カチューシャ」による攻撃である。

 

「なっ……!なんだありゃあ!」

「ばかな! あんな化け物がいるなんて聞いていないぞ!」

「知るか! とにかく撃て!!」

 

 皇国軍の生き残った魔導砲が怪物に砲撃を行う。しかし、全く効果が無いようだった。

 

「だめだ! 効いていない!!」

「畜生! どうなってるんだよ!!」

 

 混乱状態に陥ったパーパルディア軍に対し、戦車の一斉砲撃が行われる。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

「助けてくれぇ!!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。しかし、ロデニウス軍は容赦しない。

T-34-85が機関銃を乱射しながら突っ込み、パーパルディア兵をミンチに変えていく。

 

「うわああっ!!」

「ぎぃやああ!!」

 

 パーパルディア兵は恐怖に駆られ逃げ惑おうとするが、次々にハチの巣になり、血と肉片と化して大地に吸い込まれていった。

 彼らはISU-152、IS-2といった強力な兵器を装備しており、パーパルディア軍を蹂躙していった。

T-34-85の後ろからソ連兵が続く。

 

「撃て! 撃ちまくれ!!」

 

 PPSh-41やモシン・ナガンM1891/30を乱射して、パーパルディア兵をなぎ倒していく。

皇国軍は奮闘するが、連合軍の勢いを止める事は出来なかった。

 

「撃て!」

 

 運よく生き残った魔導砲が、最後の抵抗として怪物に砲弾を放つ。しかし、至近距離だというのに怪物を仕留めることはできなかった。

 

「避けろ!」

 

 T-34-85は魔導砲に体当たりする。

「なっ! なんて奴らだ!」

「化け物が! 死ね!」

 

 避けた兵士が、T-34-85に向けて発砲するが、その程度の豆鉄砲ではT-34-85の装甲を貫くことは不可能であった。

 

「ああっ! 俺の身体が! 腕がぁ!!」

「おのれぇ!! 殺せ! 殺しちまえ!!」

「くたばれ! この野郎!!」

 

 狂ったように銃弾を撃ちまくる兵士たちであったが、やはり無駄な努力に過ぎなかった。

 

「ちくしょう! 何なんだこいつらは!?」

「悪魔だ! 化物だ!!」

「うわぁーっ!!」

 

 パーパルディア軍の兵士が次々と殺戮されていく。その様子を見ていた将軍は、震えながら呟いた。

 

「な……なぜだ? 列強国の精鋭がこんなにも簡単に負けるなどと……そんなはずはない」

 

 彼は、アルタラス王国軍が攻めてきた時点で、すでに勝負はついていたと思っていた。

しかし、現実は違ったようだ。

 

「将軍!! 我が軍の左翼が崩壊しました! このままでは右翼も危ないです!!」

 

 参謀のひとりが、悲鳴のような声で報告してくる。

 

「馬鹿者!! たかだか蛮族ごときに何をしているのだ!?」

「しかし……あの怪物は、我々には手に負えません!!」

「だからといって降伏できるわけなかろう! それに魔法があるではないか!」

「無理です! 敵の方が数が圧倒的すぎる!」

「くそっ! 蛮族の分際で!!」

「将軍! ここは撤退しましょう! 敵の数は多すぎます!!」

「うるさい! 貴様は黙っておれ!!」

 

 その時、突如轟音が響き渡った。

ズガァンという音とともに、皇国軍の陣地の一部が吹き飛ばされる。そして、土煙の中から巨大な物体が現れた。

 

「あれは……まさか……」

 

 それは、かつてムー大陸で見たものと似たような形状をしていた。

将軍は呆然とした表情になる。

 

「ば……ばかな! なんなんだあれは!?」

「化け物かよ!」

「おい! 逃げるぞ! 早く逃げろ!!」

 

 皇国兵たちは蜘蛛の子を散らすようにして逃げ出す。

 

「逃がすか! 追うぞ!!」

「「「Понятно(了解)」」」

 

連合軍は、皇国軍の残存部隊を殲滅するため追撃を開始した。

 

「クソッ! なんだあいつらは!!」

「あんな化け物がいるなんて聞いていないぞ!」

 

 皇国軍の兵士は必死に逃げた。

 

「はあはあ……なんとか逃げ切れたか?」

 

 皇国軍の指揮官は、安堵のため息をつく。

しかし次の瞬間、背後から猛烈な爆発が襲い掛かってきた。

 

「うわあああっ!!」

 

 指揮官を含め、その周辺にいた兵士達は全て死んだ。

こうしてルアコック平原の戦いは終結した。

 パーパルディア皇国は歴史上はじめての敗北を経験することになる。



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反応と決断

 中央暦1640年2月25日 神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパス

 

 とある酒場の店の中央に、平面水晶体が吊り下げられている。

今日は、週1回の「世界のニュース」が放送される日であり、店内にいる人々は、それを見るために集まってきているのだった。

 酒場の店主は、店のテレビに表示された画像を眺めながら、酒を飲んでいる客に話しかけた。

 

「いやあ……パーパルディアの連中、可哀想なことをしたねぇ」

「ああ、列強国がどうとか言ってたが、所詮蛮族は蛮族だったということだな」

「そうだな。蛮族どもに列強国の力は理解できないだろうさ」

「全くだ」

 

 2人はそう言い合い、酒を飲み始めた。

すると水晶体が光り、映像が流れ始める。

 

『世界の皆さんこんにちは、世界のニュースの時間です。まず最初のニュースはこちらです』

 

水晶体には、先ほどまで話題になっていたパーパルディア皇国に関する記事が表示されていた。

 

『パーパルディア皇国は、アルタラス王国への侵略作戦に失敗しました。』

「「「!?!?!?」」」

 

 その言葉を聞いた周囲の人間は、驚きのあまり固まってしまった。

そして、次の言葉を固唾を呑んで待つ。

 

『これは、我が国の情報機関が入手した情報ですが、今回の侵攻作戦において、第3文明圏最強の国家であるパーパルディア皇国は、ロデニウス連合の支援を得たアルタラス王国の反撃により、大敗を喫したようです。なお、パーパルディア皇国の軍船はすべて撃沈され、ロデニウス連合軍の軍艦の被害は確認されていません。

 一方、アルタラス王国では、この勝利をきっかけに、パーパルディア皇国からの離脱を宣言する動きが活発化しており、今後の動向が注目されています。』

 

「ま……マジかよ……」

「列強国の面目丸つぶれだな」

「ロデニウス連合ってどこだっけ? 聞いたことない国だな」

「最近、新しい国ができたんだとさ。確か……ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国だかクイラ王国とかいう国が1つになったらしいぜ」

「へぇ~。じゃあそこが助けてくれたのか」

「そのようだな」

「でも、なんで列強国に喧嘩売ったんだろう?」

「そりゃ、戦争になるからじゃないか?」

「だよなぁ。普通、文明圏外国が列強国に勝てないと思うんだけど……」

「だな」

「それより、パーパルディア皇国は、これからどうなるんだろう?」

「さあ……? もう滅ぶんじゃねーの?」

「そんな気がする。俺も」

「同感」

 

酒場にいた人々の大半は、この後起こるであろう出来事について、大方の予想を立てていた。

 

 

 同日、パーパルディア皇国、首都エストシラント 皇宮パラディス城の会議室で、緊急会議が行われていた。

 

「一体何が起きたのだ!?」

 

 皇帝ルディアスが叫ぶ。

 

 彼の目の前にあるのは、たった今届いたばかりの報告書であった。

それは、アルタラス王国に対する作戦の失敗を告げるものであった。

 

「陛下! お気をお静めください! 現在、詳しい状況を調査しておりますゆえ!」

 

 重臣の一人が声をかける。

 

「これが落ち着いていられるか! なぜ我が軍は敗北したのだ!? 敵は蛮族ごときではなかったのか!」

「は……はっ! おそらく敵の新型兵器によるものと思われます」

「なんだと! 新型だと? 詳しく説明せよ!!」

「は……はい!」

 

1人の将軍は、震える声で報告を始めた。

 

「はい。アルタラス王国は、ロデニウス連合という新興国の援護を受け、我が軍の戦列艦、竜母、輸送船200隻以上を撃滅した模様です……それから」

「そんなことは聞いていない!! その新型兵器とはいったいどのようなものなのだ!?」

「は……はいっ! まず、ロデニウス連合の艦艇ですが、彼らは魔法を使わずに動く巨大な鉄の船を持っており、我が軍を一方的に攻撃できる能力を持っているとのことです」

「鉄の船だと? そんなものが作れるはずがないではないか!!」

「しかし……現にそのロデニウス連合の艦艇は、我が軍が建造した戦列艦より遥かに強力な大砲を装備しており、我が軍の魔導砲では歯が立ちませんでした……」

「ええい! そのような戯言を信じろと言うのか!!」

 

 ルディアスは机を拳で叩きつけた。

 

「し……失礼しました……それから、ロデニウス連合の鉄の怪物ですが、これはムーの車や神聖ミリシアル帝国の魔導車に大砲を積んだもので極めて厄介な相手だということです」

「ばかなことを言うな! どうやってその技術を手に入れたのだ!?」

「わかりません」

「わからないだとぉ!?」

「はい、どうやらロデニウス連合には『異世界』から来た者がいるようでして……」

「だからその『異世界』とは何だ!! いい加減にしろ!!」

「はい。この世界とは別の世界でありまして、そこでは我々の住むこの世界の何十倍も進んだ文明を持つ国家があるようです」

「なんじゃ、それは……。まったく理解できんぞ」

「ムーも似たようなことを言っています。彼らによると、『地球』と呼ばれる惑星があり、そこには我々が住むこの世界よりも優れた文明を持った国がいくつもあるそうです」

「ふむぅ……。それではまるで神の世界だな……」

 

 ルディアスは少し落ち着きを取り戻したようだ。

 

「はい。ですから、彼らが言うところの『異世界』の技術を、ロデニウス連合の連中は持っているようです」

「な……なるほどな」

 

 皇帝は腕を組んで考え込んだ。

 

(つまりアルタラス王国への侵攻に失敗したのは、その未知の技術によって敗北を喫したということか)

 

 ルディアスは頭の中で思考を整理した。

彼が考えている間、会議室は重苦しい沈黙に包まれる。

やがて、ルディアスが口を開いた。

そして彼は驚くべき命令を下した。

 

◆◆◆

 

パーパルディア皇国皇都防衛隊の竜騎士オルカは、皇都エストシラントの北方に位置するワイバーン基地で、次の作戦に備えて待機していた。

 彼の所属する部隊は、アルタラス王国侵攻部隊であった。

 

「オルカ、聞いたか? 例のロデニウスの話」

 

 同僚の声が聞こえてきた。

 

「ああ、あのロデニウスとかいう国だろ?」

「そうだ。なんでも、奴らは飛行機って空を飛ぶ機械に乗っているらしいぜ」

「へぇ~。じゃあ、こっちの攻撃は届かないのか」

「そうなんだよ。それで一方的に攻撃されて、あっという間にやられちまったんだ」

 

 同僚たちは、ロデニウス連合について話している。

オルカとしては、そんな蛮族ごときに我が軍が敗れたことが信じられなかった。その時だった。

突然、サイレンが鳴り響く。敵襲を告げる音であった。基地内が一気に騒然となる。

 すぐに通信兵が走って来た。

そして報告した。

皇都エストシラントの南方から正体不明騎が1騎接近中、敵性勢力の可能性大、至急迎撃されたし……とのことだった。

オルカは慌てて出撃準備に取り掛かった。

 

「おい! 急いでくれよ!」

「わかっている! お前こそ遅れるなよ!」

 

オルカは相棒のワイバーンを竜舎から引っ張り出す。

 

「よし、行くぞ!!」

 

 彼と相棒は空へと舞い上がった。

僚騎も次々と飛び立っていく。

 しばらく飛ぶと、南の方角に何かが見えてくる。

 

「なんだありゃ!?」

 

 それは奇妙な物体だった。

細長い筒状のような形をしている。

その両脇に、翼のようなものがついていた。

 

「あれが……ロデニウス連合の飛行機械なのか……? なんとも面妖な形だな……」

 

 オルカはつぶやく。

 

「我々より高い位置を飛んでいるな……」

 

 彼らは一気に高度を上げ始める。

 

「お、おい! あいつ、上昇限度より高い高度で飛んでる!!」

 

 隣を飛行する僚騎が叫んだ。

 

 ワイバーンの上昇限度は4,000m程度だが、それより遥かに高い位置にその飛行体はいた。

 

「ばかな!! あんな高さまで昇れるはずがないだろ! 化け物め!!」

 

 オルカは叫ぶ。

 

 B-17Gは高度8000m以上の高高度を、時速500km近い速度で飛翔していた。

ワイバーンは必死に追いかけるが、B-17Gに追いつくことはできない。

その差はどんどん広がっていく。

 B-17Gは爆弾の代わりに搭載されたカメラでエストシラントの街を撮影している。

オルカたちとは既にその距離は200キロ以上離れていた。

ロデニウス連合の誇る最新鋭爆撃機B-17Gは、エストシラント上空に侵入し、皇都全域を撮影した後、悠々と帰還した。その後、皇宮には大量のビラがばらまかれた。

 

「これは……」

 

 執務室でそれを読んだ皇帝は絶句した。

そこにはこう書かれていた。

 

『フェン王国、アルタラス王国に対する賠償』

そしてその下に細かい条件が書き込まれている。

・賠償金は、金貨にして約2億枚とする。

・二週間以内に、会談及び、要求締結のため使節団を派遣すること。

 

「な……何だとぉ!?蛮族どもがぁ!! 舐めた真似をしおってぇ!!!」

 

 皇帝の怒りが爆発した。

 

「こうなったら、ロデニウス連合を殲滅してやる! あの蛮族の国を滅ぼして、二度と我が国に逆らえぬようにしてくれるわ!」

 

 皇帝はそう決意すると、伝令兵を呼んだ。



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終わりの始まり

中央暦1640年3月11日

 

「今日が最終日だが来ないな」

 

 今日はパーパルディア皇国が要求締結のため使節団を派遣できる最終日だった。

しかし、この期に及んでもまだ皇国からは誰一人として使節が送られてきていない。

結局、使節団は誰も来ず交渉は決裂となったわけである。

その二日後。

 

「提督、緊急伝です!」

 

執務室に艦娘の大淀が勢いよく入ってきた。提督は書類から顔を上げる。

彼女は息を切らせながら、提督の机の上に手紙を置いた。

見ると、送り主はパーパルディア皇国。

内容は……殲滅戦の宣言であった。

曰く、ロデニウス連合は我が国に対し、宣戦布告もなく突如攻撃を仕掛けてきた。

よって、我が方はこれを自衛権の行使であると判断し、これよりロデニウス連合に対して殲滅戦を宣言するものである。

 また、ロデニウス連合は蛮族であり、話し合いによる解決は不可能であるため、実力をもって制圧することをここに表明する。

列強たる我がパーパルディア皇国の正義と力によって、蛮賊どもに鉄槌を下すものである。

手始めにフェン王国を攻撃目標とし、同国への懲罰作戦を実施する

というような内容だった。

どうやら向こうさんはやる気満々のようだ。

 

「いいだろう。お望み通り、やってやる。戦争だ」

 

 提督は不気味な笑みを浮かべると、大淀に命令を下した。

 

 

その2日後。

フェン王国の西の方に位置するニシノミヤコでは、沖合いを見張る監視所が設けられていた。

その見張り員の一人は、遠くから近づいてくる多数の帆船を発見した。

双眼鏡を覗き込むと、帆船の帆にパーパルディア皇国の紋章が描かれていることに気付く。

 

「敵襲! 敵襲ーっ!!」

 

彼は声の限り叫んだ。ニシノミヤコは慌ただしくなった。

防塁に立てかけられたバリスタには兵士が集まりつつあった。

やがて見張り員が報告したとおり、沖合いから多数の戦列艦が現れた。

 

「全砲門開け! 砲撃開始!!」

 

第6艦隊司令官バルスレイは命じた。

轟音とともに、大砲が火を噴き始めた。

フェン王国軍は、慌てて退避しようとするが、時すでに遅し。

砲弾が着弾し始めた。

戦列艦は、次々に砲撃を開始する。

その一発が、ニシノミヤコの城門を吹き飛ばした。

 

「ぎゃあああ!!」

「うわぁ!!」

 

 城壁の上にいた兵士たちが、爆風で吹き飛ばされる。

ニシノミヤコは瞬く間に火の海になった。

バルスレイはその様子を満足げに見つめていた。

 

「ふむ……思ったよりも脆いな」

 

 

彼の乗る旗艦の甲板からは、炎に包まれたニシノミヤコの街が見える。

 

「よし! このまま進撃だ!! 港を破壊しろ!!」

「はっ!」

「撃ち続けよ!」

 

 艦隊は、停泊することなく前進を続ける。

 

「蛮族どもめ。目にもの見せてくれるわ」

 

 艦長は、不敵に笑う。

 

「しかし……あの国は何という国なのだ?」

 

 バルスレイは疑問を口にした。

 

「何でも、ロデニウス連合とかいう国らしいですが……」

「聞いたこともない国だな。新興国か? まあよい。いずれにせよ、この調子で行くぞ!」

「はっ!!」

 

 パーパルディア皇国艦隊はフェン王国を包囲するように進軍した。

 

「ロデニウス、貴様らがフェン王国を助けに来た時が破滅の時だ。精々、無駄な努力をしてみるんだな」

 

 バルスレイはそう呟くと、笑った。

 

 

 同時刻、トラック泊地執務室

 

「お前らの作戦はお見通しだよ」

 

 提督はパーパルディア皇国がとった作戦を見抜いていた。

 

「さて、どうしますか? 」

 

 大淀が尋ねる。

 

「こちらに夢中になっている間にパ皇本土を攻撃する。まずは第1艦隊をフェン王国に出撃させてくれ。次にロデニウス本土に接近する部隊がいるはずだから、それを叩く」

 

「了解しました!」

 

 こうしてフェン王国救援、ロデニウス本土に接近する部隊の迎撃、パーパルディア皇国本土攻撃を含めた特号作戦が発動された。

 

 

 3月14日、フェン王国救出艦隊、本土防衛艦隊、皇国本土攻撃艦隊が出撃した。

 

第1艦隊

戦艦「金剛」(旗艦)「比叡」

正規空母「翔鶴」「瑞鶴」

軽空母「龍鳳」「瑞鳳」

重巡洋艦「妙高」「那智」

軽巡洋艦「神通」「那珂」

駆逐艦「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「谷風」「野分」「嵐」「萩風」「舞風」「巻波」

 

第2艦隊

戦艦(旗艦)「Bismarck」「Scharnhorst」

正規空母「赤城」「加賀」「蒼龍」「飛龍」

重巡洋艦「高雄」「愛宕」「摩耶」

軽巡洋艦「Atlanta」「Nürnberg」

駆逐艦「時雨」「夕立」「綾波」「朝潮」「大潮」「満潮」「秋雲」「夕雲」

 

第3艦隊

戦艦(旗艦)「大和」

軽巡洋艦「阿賀野」「矢矧」

駆逐艦「秋月」「照月」「涼月」「初月」「冬月」「雪風」「浜風」「磯風」

その他、多数の艦艇が出撃していた。

 

 

 ロデニウス連合の首都クワトリングにあるムー国大使館では、大使が執務室で考え事をしているところだった。

 

「失礼します! 緊急の報告が入りました!」

 

 ノックもせずに、職員が飛び込んでくる。

 

「何事かね?」

「ロデニウス連合はパーパルディア皇国本土攻撃を計画中とのことです!!」

「なんだと!? それは本当なのか!!」

「はい! そのため、民間人を避難させてほしいとのことです」

「わかった。すぐに準備を始めよう。国民には徹底して警告を発するのだ」

 

 ロデニウス連合がパーパルディア皇国を滅ぼそうとしていることは、既にムーにも伝わっていた。

この情報は神聖ミリシアル帝国にも届いており、列強諸国に衝撃を与えている。

 

(やはり、この国は侮れない……!!)

 

 ムーの外交官は思った。

 

◆◆◆

 

 パーパルディア皇国海軍、ロデニウス攻略艦隊旗艦「レクス・オキュラ」艦橋。

 

「艦長、ロデニウス連合とかいう連中についてどう思いますか?」

 

副長が尋ねた。

 

「蛮族どもの考えることなどわかるはずもない。だが、我が国に楯突こうというなら容赦はせん」

 

 シウス将軍はそう答えた。

 

「それに奴らはフェン王国で手一杯だろう。我々の相手はできまい」

 

 シウスは楽観的であった。

フェン王国は、我が軍の艦隊によって包囲されている。

いくらロデニウス軍が強力な兵器を持っていたとしても、蛮族どもが勝てる道理はない。

 シウスは、ロデニウス軍を「蛮族の軍」と認識していた。

 

「まあ、ロデニウスなどという国があること自体、私は知りませんでしたがね」

「私もだ。しかし、蛮族は蛮族よ」

「確かにそうですね。まあロデニウス軍とやらも、我々には敵うまい!」

「うむ。そうだな」

 

 シウスと副長は笑い合った。

この後襲い掛かる悪夢を知る由もなく……。

 

 

 フェン王国、王城。

 

「私はパーパルディア皇国軍第6艦隊司令官バルスレイ少将だ。貴国はわが艦隊によって包囲されている! おとなしく降伏せよ!!」

「ふざけるな! 我が国を侵略する気か!?」

「侵略ではない。平和的な話し合いに来ただけだ」

「そんな見え透いた嘘に騙されるか!」

 

 パーパルディア皇国第6艦隊はフェン王国の首都アマノキに砲撃を加え、多くの市民が死傷した。



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フェン王国救出作戦

 中央暦1640年3月20日

 

 フェン王国を包囲しているパーパルディア皇国軍第6艦隊は、首都アマノキに砲撃を加えて占領した。

これにより、フェン王国の政治機能は麻痺状態に陥り、事実上の無政府状態となった。

そして、皇国の陸戦隊は、王宮を占領して国王を軟禁状態においた後、首都周辺の町を制圧していく。

 その最中、フェン王軍の精鋭部隊である『近衛騎士団』と戦闘になった。

彼らはパーパルディア皇国に対して徹底抗戦を主張し、戦いとなった。

 この戦いにおいて、近衛騎士たちは奮戦したが、多勢に無勢であり、敗北する。

 

「はっはっはっ、圧倒的だなわが軍は」

 

 艦隊司令官バルスレイ少将は、満足げに言った。

 

「さすがは閣下です」

 

 副官が追従を言う。

 

「そろそろ、ロデニウスの連中が来る頃合いかもしれん。艦隊に警戒態勢を取らせろ」

「了解しました」

「蛮族どもめ、目にもの見せてくれるわ」

 

 第6艦隊司令部は笑った。

 

◆◆◆

 

 フェン王国沖南部上空。

 

 正規空母「翔鶴」「瑞鶴」軽空母「龍鳳」「瑞鳳」から飛び立った「烈風」、「零戦52型」、「零式艦戦53型(岩本隊)」「彗星一二型甲」、「天山一二型甲」、「流星改」合わせて200機からなる攻撃隊が、皇国海軍第6艦隊を目指して飛行していた。

 

「何だあれ?」

 

 哨戒中のワイバーンロードが何かを発見した。

最初は小さな黒い点だったが、徐々に大きくなる。やがてそれは、はっきりと形を認識できるようになった。

 

「まさか……飛行機械!?」

 

 竜騎士は驚愕の声を上げた。

 

「バカな! 飛行機なんてものが、この世界に存在するはずがない!!」

 

 彼は叫びながら、味方へ緊急魔信を送った。

 

「こちら第1編隊! 未確認の飛行物体を発見!! これより攻撃を行う!」

 

 彼の所属する第1編隊の編隊長が、即座に反応する。

 

「全騎聞け!! あの飛行物体は敵航空機だ! 絶対に撃ち落とすぞ!!」

「了解!!」

 

◆◆◆

 

「何だ!?」

 

 パーパルディア皇国海軍第6艦隊旗艦の艦橋で、見張り員が叫んだ。

見張り員は双眼鏡で空を見上げ、信じられない光景に絶句する。

 

「なんだありゃあ……」

 

 そこには、真っ黒な点が浮かんでいた。それはどんどん大きくなっていく。

 

「竜母は、すぐにワイバーンロードを出せ!」

 

バルスレイ少将は怒鳴るように命令した。

 

「了解!!」

 

 第6艦隊に所属する竜母が動き出す。

だが、彼らがワイバーンロードを発進させる前に竜母が爆発した。

ドガァアアン!!

 凄まじい爆発音が響く。

 

「報告します!正体不明の攻撃により竜母の被害が拡大!」

「第1編隊、全騎撃墜されました」

「なんだとぉ!」

 

 バルスレイは怒声を発した。

その間にも敵航空機は距離を詰めてくる。

 

「対空砲用意! 撃てぇ!」

 

 バルスレイの命令と共に、第6艦隊の艦艇から無数の魔法弾が発射された。

しかし、それらは敵機に当たらない。

 

「クソッ! なんなのだ!?」

 

 バルスレイは悪態をつく。

その時だった。

 凄まじい爆音と共に隣の戦列艦が吹き飛んだ。

 

「なっ……」

 

 バルスレイ少将は何も言えなかった。

敵航空機は次々と艦隊を攻撃していく。その度に轟沈する船が現れ、炎に包まれる船員たちの姿が見えた。

 

「来るぞ!火炎弾用意!」

 

 竜母から何とか飛び立つことのできたワイバーンロードに乗る竜騎士たちは、必死に叫ぶ。

 

「敵の数は!?」

「わかりません!」

「ええい!とにかく撃つんだ!!」

 

 彼らは自分たちを鼓舞するように、そう言い放った。

彼らの眼前でまた船が沈む。

 ワイバーンロードから放たれた火球は簡単に避けられて、逆に20mm機関砲によって撃ち落とされていく。

「うわぁああ!!」

 

 悲鳴を上げる間も無く、彼らはバラバラにされて海へと落ちていった。

 

「敵機接近!!」

 

 竜騎士の一人が絶叫する。

 

「回避ぃいい!!」

 

 竜騎士は叫んだ。

次の瞬間、彼の乗るワイバーンロードが血飛沫を上げて海に落下した。

 ワイバーンロード隊を壊滅させた烈風や零戦は、戦列艦や輸送船、上陸していた兵士に機銃掃射を喰らわせていた。

地上部は為す術もなく倒れていき、抵抗らしい抵抗もできず、壊滅していく。

 

「敵航空機接近!」

「回避行動!!」

 

 輸送船の艦長らしき男が、伝令に向かって叫んだ。

直後、零戦の7.7mm機銃が甲板の兵員を薙ぎ払った。

 

「クソォオオ!! 当たれェエ!!」

 

 生き残った竜騎士たちが、必至の形相で火球を放つ。

烈風は急上昇してそれを避け、零戦は降下して避ける。

 そして烈風の機首にある13mm機銃が、容赦なくワイバーンロードを撃ち抜いた。

 

「グギャアアアアア!!!」

 

 ワイバーンロードは断末魔を上げ、絶命した。

 

◆◆◆

 

 1時間後、第6艦隊旗艦「オーデルバンセン」。

 

「な……何が起きたのだ!?」

「我が方の攻撃は、まったく当たりませんでした。敵の攻撃は、一方的に我々を蹂躙しております」

「バカな! 飛行機械ごときに負けるなど!!」

「提督!敵艦隊が、こちらに接近してきています!!」

「なんだと!?」

 

 バルスレイは窓の外を見た。そこには、こちらへ迫りくる艦隊の姿があった。

 

「総員戦闘配置!! 急げ!!」

 

 残存艦艇をかき集め、艦隊は迎撃の準備を始めた。

 

◆◆◆

 

「全艦突撃せよ!!」

 

 バルスレイの号令の下、第6艦隊は全速力で敵艦隊へ向かっていく。

敵艦隊までの距離は残り10kmほど。

 

「敵艦発砲!」

 

 見張り員が叫ぶ。その声は震えている。

 

「怯むな!10km離れているんだぞ!! 当たるはずがない!」

 

 バルスレイは怒鳴りつけた。

だが、彼の言葉は間違っていた。

敵艦の大砲が光ったかと思うと、轟音と共に砲弾が飛び出してきた。

ヒュウゥウン!! という音が聞こえたかと思った時には、それは第6艦隊の中央付近に着弾した。

ズガァアアン!! 凄まじい爆発音が響き渡る。

 バルスレイの乗艦である「オーデルバンセン」が、真っ二つになって吹き飛んだ。

バルスレイ少将以下乗組員全員が即死であった。

 

「ばかな……」

 

 第6艦隊の生き残りは、この一言しか口にできなかった。

その光景を目の当たりにした他の艦艇は、完全に戦意を喪失してしまった。

バルスレイの死がきっかけとなって、第6艦隊と陸軍の兵が次々と降伏していく。

 こうして、パーパルディア皇国・フェン王国攻略部隊の生き残りはロデニウス連合に降伏することとなった。




艦隊決戦をするつもりだったのに、不思議ですね~


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ロデニウス沖海戦

中央暦1640年3月22日

 

パーパルディア皇国海軍、ロデニウス攻略艦隊。

 

「もうすぐだ! あと少しでロデニウス大陸に到達するぞ!」

 

シウス将軍は興奮気味に言った。

彼は部下たちに向かって叫ぶように言う。

 

「各艦は警戒を怠るな! 特に空には注意しろ!」

「了解!」

 

部下たちの元気の良い返事を聞きながら、シウスは笑みを浮かべた。

その時だった。

 

「艦長! 右側から敵騎!」

「なに?」

 

シウスは双眼鏡を手に取り、そちらの方向を見る。

確かに海面ギリギリの高度で、数機の飛行機が飛んでいるようだ。

 

「おい!対空魔力感知器はどうなっている!」

 

シウスは隣にいた乗組員に尋ねる。

 

「故障ではありません! ちゃんと作動しています!ですが……」

「なんだ? はっきり言え」

「はい。敵騎は、我々が装備している対空魔力感知器では捉えられないのです」

「どういうことだ!?」

「はい……。敵は、我々の知らない魔法を使っているようです!」

「なんだとぉおおお!!」

 

シウスは絶叫した。

見張り員は敵騎が、どんどん大きくなっていくのを見ていた。

敵はまっすぐこちらに向かってきている。

すると敵騎は何かを海に投下し始めた。

それは海に落ちると白い線を伸ばしながらこちらに近づいてくる。

見張り員はそれが何なのかわからなかったが、本能的に危険を感じた。

 

「なんだあれは!?」

「わかりません!!」

 

見張り員は、次々と投下される物体の正体がわからず混乱していた。

 

「落ち着け!! とにかく海面の白い線を躱かわせ!!」

 

シウスの命令を受け、全艦艇が回避行動を取る。

しかし、時すでに遅し。

その白い線は戦列艦に突き刺さると、凄まじい大爆発を起こした。

 

「なっ!?」

 

シウスは絶句する。

戦列艦は一瞬にして火だるまとなり、轟沈した。

 

「敵は何をしている!?」

「わかりません! 海に落ちたものが爆発しています!!」

「クソッ! いったいなにが起きている!?」

 

次の瞬間、さらに信じられないことが起きた。

 

「敵騎直上急降下!!」

 

見張り員の声が響く。

 

「なんだと!?」

 

見上げると、そこにはこちらへ向かってくる敵の飛行機械の姿があった。

敵は真っ直ぐに突っ込んでくる。

その動きは、まるで獲物を狙う鷹のようであった。

飛行機械は竜母の上空で何かを落とした。

それは竜母に直撃すると大爆発を起こす。

ドオオオオン!! 凄まじい爆音とともに、船体が真っ二つに引き裂かれた。

その威力を見て、シウスは悟った。

 

(あの兵器……我が軍の魔導砲に匹敵する破壊力がある!)

 

彼は、敵の飛行機械が爆弾を積んでいることを瞬時に理解した。

そして、それは的確に命中させたことから、自分たちが相手にしているのは素人ではないということがわかった。

彼らは、自分たちの実力を正確に把握した上で、戦いを挑んできたのだ。

そうでなければ、こんな真似はできないだろう。

シウスの背中に冷たい汗が流れる。

敵の飛行機械は、次々に爆弾を落としてくる。

そのたびに、戦列艦が破壊されていく。

 

「おのれぇ!! 蛮族どもめ!」

 

シウスは叫んだ。

その声には、焦りの色が含まれていた。

 

 

「敵艦隊発見!! 13時の方向!!」

 

見張り員が叫ぶ。

シウスは、双眼鏡を覗き込む。

確かに13時の方向に、敵艦隊らしきものが見える。

それはとてつもなく大きい大きな船だった。

どの船にも巨大な魔導砲が搭載されている。

しかも、その数は10隻以上あるように見えた。

 

「でかい……」

 

シウスは呟いた。

すると

 

「敵艦発砲!」

 

という叫び声が上がった。

彼は慌てて、敵の攻撃に備えるよう指示を出す。

その直後、シウスは見た。

パーパルディア皇国の艦隊に砲弾が降り注ぐ光景を。

驚愕の表情を浮かべるシウス。

彼の視界には、敵艦から放たれたと思われる砲撃が、パーパルディア皇国艦隊に降り注いでいる姿が映っていた。

戦列艦が一撃で大破炎上し、沈んでいく。

 

「ばかな……」

 

シウスは絶句した。

たったの1発で戦列艦が沈むなどということは、常識では考えられないことであった。

彼の目には、戦列艦の防御力が紙のように破られているようにしか見えなかった。

 

「将軍!敵艦突撃してきます!」

「なにぃ!?」

 

シウスは我に返って、前方を見た。

確かに、敵艦隊はまっすぐこちらに向かってくる。

 

(やはり蛮族だな。接近しての白兵戦で勝てると思っているのか?)

 

 シウスは思った。

 

「各艦、砲撃用意!」

 

 シウスは命令を下す。

あとは魔導砲の射程圏内まで引きつけてから撃てばいいだけだ。

彼は勝利を確信していた。

一方的に攻撃できると確信していた。

 しかし……敵艦はまっすぐ突っ込んできた。

まるで、こちらの攻撃を恐れていないかのように……。

 次の瞬間、敵の魔導砲から発砲炎が上がる。

同時に、戦列艦も轟沈した。

 

「バカな!?」

 

 シウスは叫んだ。

20ノット以上の速度で敵は攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

「面舵一杯!! 避けろ!!」

 

 シウスは命じた。

しかし、回避行動をとる間もなく、戦列艦が2隻撃沈された。

 

「おのれぇえ!!」

 

 シウスは激怒した。

なんとしても敵を撃滅しなければならない。

 だが、魔導砲の射程圏外から一方的に撃たれているため、どう対処すれば良いかわからなくなっていた。

 

「敵艦3隻が我が艦隊の側面に回り込もうとしています」

 

 見張り員が報告する。

シウスは双眼鏡を覗いて確認する。

敵艦が3隻、戦列艦の側面に回ろうとしていた。

 

「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」

「綾波が、守ります!」

「しっ! 来んな、来んなよ!」

 

 敵艦からそんな言葉が聞こえてくる。

その声を聞いた瞬間、シウスは背筋が凍るような感覚に襲われた。

なぜそう感じたのかはわからない。

ただ、シウスは本能的に危険を感じたのだ。

 その予感は的中する。

敵艦が側面を見せたとき、ものすごい数の発砲炎が上がった。

 

「回避ィイ!!」

 

 シウスの命令を受け、全艦艇が回避行動を取る。

だが間に合わず、数隻の戦列艦が敵の魔導砲によって撃沈される。

戦列艦が大爆発を起こし、黒煙を上げる。

 

「なんだとぉおお!!」

 

 シウスは絶叫した。

信じられない光景だった。

 たかが蛮族に、列強パーパルディア皇国が翻弄されているのだ。

 

「ば……馬鹿な……」

 

 シウスは呆然としながら呟いた。

 

「将軍! 敵の飛行機械が!!」

 

 見張り員の声が響く。

見上げると、また敵の飛行機械が爆弾を落としてくるところであった。

ドオオン!!という音が響き渡る。

戦列艦が真っ二つに割れた。そして、船体が爆散した。

 

「うわぁああ!!」

「ひいぃいい!!」

 

 悲鳴があちこちで上がる。

シウスは、その光景を見て震え上がった。

恐怖が全身を駆け巡る。

 彼は生まれて初めて、死というものを意識した。

そして、彼が乗る戦列艦も敵の攻撃を受ける。

幸いにも至近弾であったが、その衝撃で戦列艦に穴が開いた。

 彼はそれを見ると、すぐに命令を下した。

 

「総員退艦せよ!! 急げぇ!」

 

 彼は叫んだ。

戦列艦の船員たちは、甲板から海へと飛び込んでいく。

彼はそれを横目で見ながら、艦橋から脱出していった。

 シウスには、もはやこの艦と共に運命を共にするつもりはなかった。

パーパルディア皇国海軍ロデニウス攻略艦隊は、旗艦を失い全滅した。

 ロデニウス沖海戦 終わり

 

 

「パーパルディア皇国艦隊、全滅しました!」

「よし!!」

 

 通信士の報告を聞き、提督は笑みを浮かべた。

 

「重爆撃機隊に伝令だ! パーパルディア皇国皇都エストシラント軍事基地を爆撃しろ!」

「了解!」

 

 アルタラス王国王都ル・ブリアス郊外 ルバイル基地

ムー国が「ルバイル空港」と呼んでいる飛行場である。

 そこには、大型の航空機が並べられていた。

「B-17G」と呼ばれる機体だ。

全部で30機あるだろうか。

 1機ずつ滑走路に侵入し、飛び立って行った。

目標は、パーパルディア皇国皇都エストシラント軍事基地。

 後の歴史書では340機以上の飛行機械が、パーパルディア皇国の主要都市や施設を攻撃し、激しい地上戦が本土各地で展開されたと言われている。

 また、その攻撃の凄まじさから、「魔の一ヵ月間」などとも呼ばれている。その魔の一ヵ月間の幕開けとなった攻撃だった。



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地獄のエストシラント沖海戦

パーパルディア皇国エストシラント沖

 

 この日もワイバーンロードによる哨戒が行われていた。

いつも通りの日常。

 しかし、それは突如として現れた巨大な物体によって破壊された。

 

「なんだあれは……」

 

 第3文明圏最強の国家、パーパルディア皇国軍の精鋭竜騎士は、目の前に現れたものを見て絶句した。

彼の視界に映ったもの。

 それは島ほどの大きさの鉄でできた船のようなものだった。

鋼鉄でできているのだろう。鈍い銀色の輝きを放っている。

 それが11隻、こちらに向かってきていた。

 

「なんだ……あの船は……見たことがないぞ」

 

 彼はそう言いながらも、魔信機で司令部に連絡を入れた。

 

「こちら第3竜騎隊! 未確認の船が接近中! 警戒されたし!」

『了解! そのまま監視を続行せよ!』

 

 彼は通信を終えると、再び視線を前に向けた。

 

「ん?」

 

 彼は目を凝らして、前方の船を眺めた。

 

「まさか……ロデニウス連合の軍艦か!?」

 

 彼は驚愕し、その可能性を考えた。

 

「なんとしても司令に報告せねば!」

 

 彼はそう思い、全速力で飛行する。

しかし、その必要は無かった。

凄まじい轟音が響いたと思った瞬間、彼の乗るワイバーンロードが爆発を起こしたからだ。

彼は爆発に巻き込まれて死亡した。

仲間の竜騎士も何が起きたのかもわからないまま爆発に巻き込まれる。

 

 

第3艦隊旗艦、戦艦「大和」艦橋

 レーダースクリーンを見ていた操作員が叫ぶ。

 

「敵編隊発見!」

「対空戦闘用意!」

 

 艦長大和の命令が響く。

 

「対空戦闘用意!」

 

 艦内放送が流れる。

同時に、高角砲と機銃座が忙しく動き出す。

 

「主砲射撃準備完了!」

「撃ち方始め!」

 

 大和が命令を下すと、前部2基の46cm砲が轟音とともに砲弾を放った。

空中で炸裂した三式弾は、無数の弾子へと分裂すると、パーパルディア軍のワイバーンロードに襲いかかった。

 そして次の瞬間には、火だるまになった数体の飛竜が落下していく。

 

「敵飛竜全騎撃墜確認!!」

 

 見張り員の声に歓声が上がる。

 

「いよいよですね。全艦、対空、対水上警戒を厳にせよ!」

 

 

 パーパルディア皇国エストシラント海軍本部

第3竜騎隊から敵襲の報を受けたエストシラント軍港は混乱していた。

 

「どういうことだ? ロデニウスは我が軍と本土で戦ってるんじゃないのか?」

「そんなことより迎撃だ!」

 

 第1艦隊、第2艦隊が出航の準備をする。そこへ伝令兵が息せき切って駆け込んできた。

 

「大変です!! 第3竜騎隊との通信が途絶えました!!」

「なにぃ! なぜだ!?」

「わかりません!」

 

 伝令兵はそれだけ言うと走り去った。

 

「一体どうなっているんだ……」

 

 海軍基地司令官は、頭を悩ませた。

 

 

ロデニウス連合海軍第3艦隊旗艦、戦艦「大和」艦橋

 

「右30度、敵飛竜300! 」

 

 見張り員が声を上げる。

 

「対空戦闘用意!」

 

 その号令と共に、46cm三連装砲が旋回を開始する。

妖精達は持ち場に一斉に走り出す。

 

「主砲三式弾、砲撃準備完了」

「全主砲薙ぎ払え!」

 

 その言葉と同時に、46cm砲が轟音を響かせる。

上空へ放たれた砲弾は、目標地点で炸裂し、無数の弾子へと分裂した。

敵飛竜隊は密集していたこともあり、その攻撃をまともに食らうことになった。

数十体以上が炎に包まれ、墜落していった。

生き残った飛竜は散開して、反撃を試みる。

 しかし、それは無意味だった。

 

「この秋月が健在な限り、やらせはしません!」

「照月、行っきますよ~! 撃ち方ぁ、始め!」

「よろしいですか。撃ちます」

「この程度...。温いっ!」

「なぁに、当たらなければいい 両舷一杯!」

 

 秋月型駆逐艦の5姉妹が対空砲火で敵を蹴散らす。

その様子は、さながら天空の天使たちを駆逐する地獄の女神たちであった。

 

 ワイバーンロード部隊 隊長の男は焦っていた。

 

「いったい何なんだあれは……! ただの船じゃないのか!?」

 

 彼の目に映るものは、まるで天から降り注ぐかのような砲弾の雨だった。

先ほどまでは、味方が優勢に見えた。しかし、今は見る影もない。

 敵の攻撃は熾烈を極めていた。

次々と味方の飛竜が落ちていく。

 

「クソッ!なんなんだ! あんな魔法みたいな攻撃があるなんて聞いていないぞ!!」

 

 彼は叫びながらも、必死に回避行動をとる。しかし、それも限界があった。

 

「うわああああっ!!!」

 

 彼は爆炎に飲み込まれ、絶命した。

 

「竜騎士団全滅!敵艦隊に被害なし!」

 

 パーパルディア皇国艦隊旗艦レブレスタに報告が入る。

 

「なんということだ……!」

 

 旗艦艦長はうめき声を上げた。

 

「敵の数は不明か?」

「おそらく11隻と思われます」

「そうか」

 

 艦長は考える素振りを見せた後、命令を下した。

 

「全艦戦闘態勢! 敵艦隊を撃滅せよ!」

 

 敵はたったの11隻と考えた艦長は、数の優位を生かして各個撃破を図ることにした。

 

「了解しました!」

 

 伝令が走り去る。

 

「敵はたかが11隻のはずなのに、なぜこんなにも嫌な予感がするのだ……」

 

 艦長は呟いた。

 

 

「大きい! そして速い!」

 

 見張り員が叫ぶ。

パーパルディア皇国艦隊は、ロデニウス連合海軍の巨大戦艦を視認した。

 

「敵艦発砲!」

 

 見張り員の声が響く。

 

「まだ20㎞ほど離れているぞ。何のつもりだ?」

 

 艦長は敵の意図を図りかねた。

その直後、轟音とともに巨大な水柱が立ち上った。

 

「なっ! なんだ!」

「て、敵艦発砲! また来ます!!」

「なにぃ!」

 

 再び大きな水柱が立つ。

今度は、戦列艦が被弾した。

 

「被害を報告しろ!!」

「戦列艦『アルラ・マクラ』轟沈!」

「なにぃ!?」

 

 20㎞の射程を持つ魔導砲。それに戦列艦が一撃で沈むなど聞いたことがない。

しかし、現実には起こっている。

 

「馬鹿な……。一体どうなっているんだ? あの船は」

 

 さらにもう1発が艦隊の中央付近に着弾し、巨大な水柱が上がる。

 

「なんだと!」

 

 その衝撃で発生した高波が戦列艦を襲う。

 

「総員、何かに掴まれ!」

 

 艦長の命令により、水兵たちが近くの手すりや壁などにつかまる。

次の瞬間、船体が大きく傾いた。

 

「おぉおおおっ!!!!」

 

 激しい横揺れに襲われ、何人かが床に投げ出される。

運悪く味方艦と衝突した戦列艦が、真っ二つに折れる。

 

「なんだこれは!」

 

 艦橋にいた全員が混乱に陥る。

そんな中、艦長は気を取り直して叫んだ。

 

「通信士、本土のワイバーンロード部隊に救援を要請しろ!」

「りょ、了解!」

 

 通信兵が走り出す。

 

「敵艦隊、なおも接近!」

 

 見張り員の言葉通り、敵艦隊との距離は徐々に縮まっていた。

 

「まずいな……」

 

 艦長がつぶやく。

その時、敵艦隊が発砲を開始した。

 その数は11隻分だった。

 

「クソッ!」

 

 艦長が悪態をつくと同時に、砲弾が命中した。

凄まじい爆発音が響き渡り、戦列艦が炎上する。

 

「戦列艦『アルクドリア』、『ルキアノス』大破! 」

 

 見張り員から報告が入る。

 

「戦列艦の防御力では耐えられないか……!」

「敵艦隊発砲! また来ます!」

「回避行動!」

 

 艦長は即座に命令を出す。

しかし、砲弾の雨の前には無意味だった。

 次々と味方が撃沈されていく中、敵艦隊は接近してくる。

 

「射程距離まであと10kmです!」

「なんだと!? なぜそんな短時間でそこまで近づくことができるのだ! 奴らの砲は何門あるんだ!!」

 

 艦長は恐怖を覚えた。

今まで見たこともないような大きさの船が11隻もいるというだけで恐ろしい。

 それが、自分たちの方へと向かってくるのだから尚更だ。

 

「敵艦隊発砲!」

「回避行動! 急げぇえ!!」

 

 戦列艦は必死に逃げる。

しかし、敵の砲撃はそれを許さなかった。

 2隻の戦列艦が直撃を受け、轟沈する。

 

「戦列艦『カルディナ』、『アルシア』轟沈!」

 

 見張り員の報告を聞きながら、艦長は覚悟を決めた。

 

「敵艦隊との距離は?」

「10kmを切りました!」

「よし! 全艦突撃! 敵艦隊に攻撃を加える! なんとしても敵の数を減らせ!」

「敵艦隊沈黙しました!」

「何だと!?」

 

 旗艦レブレスタの艦橋内に驚きが広がる。

 

「いったいどういうことだ?」

「わかりません……」

 

 その瞬間、戦列艦が爆発した。

 

「戦列艦『ラフィオント』轟沈! 」

「戦列艦『アグライアス』大破!」

「戦列艦『アルケディス』轟沈!」

 

 次々に報告が入り、旗艦レブレスタの周囲が爆炎に包まれる。

 

「戦列艦『カリオサーク』轟沈!」

「戦列艦『オルムト』轟沈!」

 

 戦列艦が次々と沈む。

 

「一体何が起こっているんだ……」

 

 艦長は呟いた。

 

「戦列艦『ラフィーア』轟沈!」

 

 見張り員の声が響く。

 

「全艦撤退! 本国へ帰還せよ! 繰り返す、全艦撤退しろ!!」

 

 旗艦レブレスタからの伝令が走る。

その直後、轟音とともに戦列艦が火を噴き、海の底へと消えていった。

 パーパルディア皇国海軍皇都防衛艦隊はロデニウス連合海軍によって壊滅させられた。

残存艦艇は、かろうじて攻撃を免れた数隻が逃げ帰るのみである。

 この海戦の結果を受けて、列強ムーはついにロデニウス連合の実力を認めざるを得なくなったのである。



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本土爆撃

 皇都エストシラント南方海域上空、高度2000m。

 

 雲一つない空の中、30機の航空機が飛んでいた。

翼に星が描かれたその機体は、B-17爆撃機である。

 B-17Gには、250kg爆弾が8発積まれている。

 

「皇都上空まであと1分。各機、準備はいいな? 」

 

 機長が僚機を見回しながら言う。

全員から問題ないという返事があったところで、彼は前を見た。

前方の視界いっぱいに、エストシラントの街並みが広がっている。

 その街の中心部付近に、大きな建物が見える。

おそらく、あれが皇宮だろう。

 

「前方から敵機!」

 

 僚機からの報告が入る。

その言葉と同時に、護衛戦闘機の一式戦闘機「隼」と三式戦闘機「飛燕」が一斉に散開した。

 

 

「全騎、小隊ごとに散開!敵を殲滅しろ!」

 

 ワイバーンロード部隊の隊長が指示を出す。

 

「了解!」

 

 彼の乗るワイバーンロードが、敵編隊に向かって加速する。

 

「さあ来い! 竜騎士の力を見せてやる!」

 

 彼がそう叫んだ直後、敵が発砲を開始した。

曳光弾がすぐ横を通過する。

 それが味方に命中すると血飛沫を上げながら落ちていく。

 

「なんて威力だ! 当たれば終わりじゃないか!!」

 

 敵が放つ弾丸は、恐ろしく正確だった。

 

「クソッ!あんなものを食らったらひとたまりもないぞ!」

 

 敵は自分たちより性能の高い兵器を持っているらしい。

しかし、負けるわけにはいかない。祖国のため、そして家族のためにも。

彼は覚悟を決め、敵に向けて突撃した。

 

 数分前、皇都防衛隊基地。

基地司令のメイガは、執務室でコーヒーを飲みつつ書類を読んでいた。

 そこに副官が駆け込んでくる。

 

「失礼します!敵襲です!!敵は、敵はこの基地を狙っています!」

 

 メイガはその報告を聞いて、思わずコーヒーを吹き出しそうになった。

 

「敵だと!?どこから来たのだ?」

「おそらくアルタラス島からと思われます」

「まあいい、上げられる竜は全て上げろ! 敵を迎え撃つ!」

「はい!」

「それと、陛下に至急お伝えしてくれ!」

「わかりました!」

 

 基地の滑走路では、数十頭のワイバーンロードが飛び立つところであった。

 

 

「なんだありゃ……」

 

 飛び立ったワイバーンロードのパイロットの一人が、遠くに見える飛行物体を見て呟いた。

それは飛行機と呼ばれる、空を飛ぶ鉄の塊である。

 彼はそれについて知識があったが、実物を見るのは初めてだった。

 

「どうやら、俺たちは運が良いようだぜ」

 

 隣にいた同僚が話しかけてくる。

 

「ああ……そうだな」

 

 彼らは皇都を守る任務に就いていたため、これまで空中戦を経験したことはなかった。

つまり、彼らにとってこれが初めての実戦となる。

 数の差を考えると勝てるかもしれないが、相手は未知の兵器を使っている。

油断はできない。

 

「行くぞお前たち! 俺らの力を見せつけてやるんだ!」

「おおっ!」

「いくぞ! かかれぇー!!!」

「「「「うぉおおおっ!」」」」

 

 ワイバーンロードの部隊が、敵のいる方向へと向かっていった。

 

「おい!あれを見ろ!!」

 

 一人の兵士が指差す方向を見ると、そこには巨大な飛行機械が見えた。

 

「でかい……」

 

 ワイバーンロードよりも何倍も大きい。まるで巨人が飛んでいるようである。

 

「来るぞ!!」

 

 その巨人を護るかのように、複数の小さな機体がこちらへ向かってきた。

 

「あれは戦闘機という奴じゃないのか? 」

 

 別の兵士の言葉が聞こえた。

 

「確かにそう見えるな……よし、あのデカ物を狙うんだ! !」

 

 隊長機が命令を下す。

数秒後、敵との距離が詰まる。

 

「撃ってこい! この距離なら当たるまい!」

「全騎、散開せよ! 敵を殲滅するぞ!!」

「了解!」

 

 隊長の命令に従い、ワイバーンロードたちがバラバラに動き始める。

 

「ん? なんだ? 」

 

 その瞬間、敵機から何かが発射された。

 

「避けろ!!!」

 

 回避運動に入るが間に合わない。

次の瞬間、ワイバーンロードの首が吹き飛んだ。

 

「うわぁああっ!!!」

 

 悲鳴とともに、僚機が落ちていく。

隊長は一瞬パニックに陥りかけたが、すぐに気を取り直して敵を探した。

 しかし、その時にはもう遅かった。

 

「クソッたれめ!」

 

 隊長の腹部に、弾丸が命中した。

 

「ぐふぅ……」

 

 彼はそのまま地面に落下していった。

 

「隊長!?」

「隊長が落とされた! 」

「ちくしょう! こうなったら、この場で全滅させてやる!」

 

 隊長を失ったことで動揺していた部下たちは、我を忘れて敵機に突撃した。

 

「ここだ、撃て!」

 

 ワイバーンロードが導力火炎弾を発射する。

しかし、敵はいとも簡単に導力火炎弾を避けてしまう。

 

「クソッ! 当たらねえ!」

「落ち着いて狙え!もう一度だ!!」

 

 再び導力火炎弾が放たれる。

敵はまたもやそれを軽々と避ける。

 

「畜生! どうして当たらないんだよ!」

 

 それどころか、敵はこちらに向かって攻撃を始めた。

敵はワイバーンロードの周囲を飛び回りながら、機関砲を撃ち込んできた。

 

「ギャアアッ!!!」

「助けてくれぇっ!」

「逃げろぉっ!」

 

 次々と味方が撃ち落とされていく。

 

「うわあああっ!!」

「ひぃいいいっ!」

 

 

皇都防衛隊基地では、各部隊の壊滅が伝えられた。

 

「そんなバカな!? 竜騎士団は無敵だぞ!」

「敵は未知の兵器を持っているようです」

「なんだと! クソッ……予備部隊も全て出撃させろ!」

「はい!」

 

 基地司令官のメイガは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 

「監視塔より報告! 敵が来ます!」

「なんだと!?」

 

 監視員の報告を聞いた司令は、慌てて窓の外を見た。

すると、巨大な飛行機械が複数近づいてくるのが見える。

 

「なんじゃありゃ……」

 

 その光景を見て呆然としていると、敵が基地上空へと到達する。

 

「なにをする気だ?」

 

 その時、ヒュウウウウウ……と風を切る音が聞こえてきた。

 

「まさか……」

 

 嫌な予感がしたので、急いで部屋から出る。

その直後、凄まじい轟音と共に爆発が起こった。

 

「うおっ!」

 

 あまりの音の大きさに耳を押さえる。

爆風で吹き飛ばされ、廊下まで転げ出た。

 

「痛てて……一体何が起きたんだ?」

 

 辺りを見回すと、そこには地獄のような光景が広がっていた。

 

「なんてこった……」

 

 目の前には、無残にも破壊された建物があった。

恐らく、先程の爆撃によって崩れてしまったのだろう。

 

「これは酷い……」

「おい!大丈夫か!?」

「怪我人はいないか!!」

「誰か手伝ってくれぇ!!」

 

 建物の中からは、大勢の人の声が聞こえる。

 

「早く救助を!」

「待ってください、まずは敵の状況を確認すべきでしょう」

「そうだな、ここは一旦離れるか」

 

 彼らは敵の姿を確認するため、建物の外へと移動した。

 

「なんだこれは……?」

 

 そこには、信じられない光景が広がっていた。

滑走路は完全に穴だらけになっており、竜舎は跡形もなく消え去って、火災も発生している。

周囲には無数の死体が転がっている。その中には見知った顔もあった。

 

「そんな……ワイバーンロードがこんな簡単に倒されるなんて」

「ちくしょう! 俺の相棒がぁっ!!」

 

 生き残った者たちは口々に絶望の言葉を口にしていた。

 

「クソッ! どうすれば良いんだ!!」

 

 司令官であるメイガは、頭を抱えながら天を仰いだ。

 

◆◆◆

 

 その頃、リゼルの街も大混乱に陥っていた。

突然、飛行機械が飛来してきたと思ったら、街の工場地区から火の手が上がったのだ。

 しかも、その正体不明の敵は、ワイバーンロードを次々と撃墜していった。

そのせいで、街はパニック状態になっていた。

 

「敵襲だぁあああっ!!!」

「逃げろぉおおおっ!」

「うわああああっ!!」

 

 人々が悲鳴を上げながら、我先にと逃げ出している。

しかし、そんな中でも冷静に行動できる人間はいるもので、避難誘導を行っている兵士もいた。

だが、それでも工場で働く多くの市民が犠牲になった。

 

「畜生、なんてことだ!」

「隊長! 俺たちはこれからどうしたら!」

「落ち着け!とにかく今は逃げるんだ!!」

 

 ワイバーンロードに乗っている竜騎士たちは、なんとかその場を凌いでいた。

しかし、それも長くは続かなかった。

 

「クソッ! もう限界だ!」

 

 ワイバーンロードが次々に撃ち落とされていく。

敵の飛行機械は攻撃力、運動性能共に桁違いだった。

 

「駄目です! これ以上は持ちません!」

「撤退しろ! 総員退避!!」

 

 隊長の指示に従い、ワイバーンロードは一目散に逃げていった。

その後、飛行機械も同じように撤退し始めた。

 

「助かったのか?」

「ああ、なんとかな……」

 

 竜騎士たちが安堵のため息をつく中、基地の方角から爆音が響いてきた。

基地の方を見ると、巨大な煙が立ち上っていた。

 

「まさか……そんな」

「嘘だろ……」

 

 彼らの表情は青ざめていた。

 

「急ぐぞ!今すぐ基地に戻るんだ!!」

「はい!」

「了解!」

 

 そして、彼らは基地へと戻っていった。

基地に戻った彼らの目に映ったのは、変わり果てた姿になった基地と、雲より高い位置を飛ぶ飛行機械の姿であった。

 

「あれは……」

「あんなに高いところまで……」

「なんという高さだ……」

 

 あまりの高さに圧倒された竜騎士たちであったが、すぐに正気を取り戻した。

基地の状況を確認しようと基地の中に入ると、そこは酷い有様となっていた。

建物は破壊されており、至る所に血の跡が残っている。

 また、瓦礫の下敷きになっている者も多数いた。

生存者の確認を行ったが、その数は驚くほど少なかった。

部隊の生き残りと基地の職員を合わせても百名に満たない人数しかいなかった。

そのため、生き残った職員たちもショックで呆然としている。

 しばらくすると、一人の兵士が慌てた様子で司令室へと入ってきた。

彼はこの基地の副指令を務めている男である。

彼は、焦燥しきった顔で報告を行った。

 

「大変です! 先程、通信がありました! 皇都エストシラントも攻撃を受けています!」

「なんだと!?」

 

 その言葉を聞いて、全員が驚愕の表情を浮かべる。

 

「本当なのかそれは……」

「はい、間違いありません! 現在、防衛に当たっている部隊からの報告によれば、敵が空から攻撃を仕掛けてきているとのことです!」

「なんてこった……」

「皇都は大丈夫だろうか……」

「わかりません……こちらと同じように敵の攻撃を受けているようです」

「そうか……」

 

 彼らは、不安そうな表情を浮かべていた。




感想お待ちしています
リクエストでも構いません(パ皇戦には間に合いません)


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その後

 空襲から数時間後の皇都エストシラント、パラディス城内のパーパルディア皇国皇軍司令部では、緊急会議が行われていた。

 出席者は、皇軍最高司令官のアルデ将軍をはじめ、参謀や各部署の長など合わせて二十数名。

 

「それで、被害状況はどうなっている?」

 

 アルデが質問する。

 

「はっ、現時点で判明しているだけで、死者・行方不明者あわせて2万人以上、負傷者は重軽傷者合わせて1万人以上となっております。さらに未確認情報ではありますが、リゼルの工場地区の被害も甚大なものとなっている模様でありまして……」

「馬鹿な……我が軍の精鋭たちが……そんな簡単に……全滅したというのか?」

 

 その報告を聞き、アルデの顔が蒼白となる。

 

「はっ! 残念ながら事実のようでして……。敵の規模は不明ですが、敵の飛行機械は我々のワイバーンロードよりも遥かに高性能の兵器を持っていると思われます」

「何だと!?」

「敵の飛行機械は、ワイバーンロードの倍以上の速度で飛び回り、一方的に攻撃を行っています。しかも、上昇限度は4,000mよりも遙かに高く、とてもではありませんが我々では太刀打ちできません」

「なんてことだ……」

 

 会議室は重苦しい空気に包まれた。

 

「しかし、このまま黙って見ているわけにはいかない。我々は誇り高きパーパルディア人だ。ここで尻尾を巻いて逃げ出すようなことは許されないのだ!」

 

 アルデの言葉に、その場にいる者たちは力強くうなずいた。

 

「しかし、どうすればいいのだ? ワイバーンロードでは、あの飛行機械を相手にするのは厳しいだろう?」

「最新鋭のワイバーンオーバーロードならどうでしょうか?」

 

 ワイバーンオーバーロードは、ワイバーンロードの上位種である。

最高速度は時速430㎞に達し、旋回能力、戦闘行動半径共にワイバーンロードを凌駕している。

 

「ワイバーンオーバーロードは、まだ配備が始まったばかりだ。訓練が十分ではない。それに、ワイバーンロードより高価だ。予算を回せるかどうか……」

「しかし、他に手があるのですか?」

「……」

 

 会議室にいる面々は沈黙した。

 

「海軍の損害も無視できない状況です。皇都防衛艦隊、第6艦隊は壊滅し、降伏。ロデニウス本土攻略艦隊は全滅しました。残存戦力は、第4、5、7艦隊のみです……」

「そんな……海軍戦力の半分が失われたというのか……」

「はい……」

 

 アルデは再び頭を抱えた。

 

◆◆◆

 

 数日後、パーパルディア皇国陸軍デュロ防衛隊基地にて。

 

「なんということだ……我が国がここまで追い詰められるとは……」

 

 基地司令官であるストリームは、部下の報告を受けて絶句していた。

 

「敵は、おそらく近いうちにここデュロを攻撃するでしょう」

「わかっている。敵は皇都を攻撃したらしいな。ということは、次はここだ」

「はい。そして敵の飛行機械は、ワイバーンロードの倍程度の速度が出ています。高度もそれ以上に高いということです」

「そうだな。となると、奴らはこの基地を爆撃するつもりなのか?」

「まず、飛行場を潰してから都市部への攻撃を行うはずです」

「そうか……そうなれば、ここは終わりか……」

 

 基地内の司令部は重い雰囲気に支配されていた。

 

「ところで、対空魔光砲はどうなったんだ?」

「問題なく稼働しますが、魔術回路が複雑で、解析が間に合いません。現状では、複製はできません」

「そうか……まあ、仕方あるまい。あれは超がつくほどの技術だからな……」

「はい……」

 

 基地内に再び静寂が訪れる。

 

「この基地を放棄するしかないかもしれんな……」

 

 基地司令であるストリームは、ぽつりと呟いた。

 

 

 同じころのトラック泊地では

 

「作戦計画概要をご説明します」

 

 大淀の聞き飽きたセリフと共に会議が始まった。

そして黒板には「春の目覚め作戦」と書かれた文字と矢印が書き込まれている。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合のとある軍港では、大勢の人がロデニウス連合の国旗手旗を振りながら出航する軍艦や輸送船を見送っていた。

 その中には、家族や恋人といった大切な人たちに見送られている者もいる。

 

「それじゃあね」

「ああ、またな」

「元気でね」

「そっちも」

 

 そんな短い別れの言葉を交わして、男女が別れた。そして男は船に乗り込むべく階段を上り、女は桟橋の上でいつまでもその背中を見送った。

 やがて男を乗せた船はゆっくりと動き出し、港を出て行く。



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第三文明圏戦争後期
デュロ攻防戦1


 中央暦1640年3月31日工業都市デュロ南方上空

 

 約200機の編隊が、北へ向かって飛んでいた。

基地航空隊の新型機、四式重爆撃機 「飛龍」と空母から飛び立ったF6F-5ヘルキャット、F4U-1Dコルセアの混成部隊だ。

 

「そろそろ敵さんが見えてもいい頃だが……」

 

 操縦席に座る機長がつぶやく。

 

「もう見えてるぜ。ほら、あのへん」

 

 先頭のF6F-5のパイロット(妖精)が言った。

 

「なんだ? 何も見えないぞ?」

「よく見てくれよ。敵のワイバーンロードだ」

 

 F4U-1Dのパイロットが言う。

 

「ああ、あれか。だが、ワイバーンロードより速くないか?」

「そりゃ、こっちの方が性能が良いからだ」

「いや違う。あれはワイバーンロードの新型だ」

「何だって!?」

 

 デュロ防衛基地では、まだ配備が始まったばかりの最新鋭騎ワイバーンオーバーロードが15騎、出撃準備を整えていた。

 ワイバーンオーバーロードは、最高速度が時速430kmに達し、運動性能も優れている。

 

「よし! ワイバーンオーバーロード隊! 出撃せよ!」

 

 基地司令官ストリームの命令を受け、ワイバーンオーバーロードが次々に滑走路を飛び出していく。

パーパルディア皇国軍において、最新鋭騎である彼らは、他のどの騎よりも高性能であり、皇国最強の戦力であることは疑いようがない。

 

「さすがは我が軍最強戦力の一つ。素晴らしい速度です」

「うむ。あの速さならば、敵の飛行機械もすぐに追いつくことはできまい。我々は、敵を殲滅するのだ!」

 

 デュロ防衛隊の面々は、敵に対して絶対優位にあると信じていた。

しかし、それは大きな間違いであったことを知ることとなる……。

 

「隊長! 前方の空に、何かいます!!」

 

 1人の隊員が叫ぶ。

 

「なにぃっ!!?」

 

 前方に目を凝らす。

確かにいる。巨大な翼を持つ、奇妙な形の飛行物体が複数。

 

「まさか……あんなものが、本当に存在するとは……」

「全騎、突撃!! 奴らを撃滅しろ!!!」

「はいっ!」

 

 すると先頭にいた飛行機械数機が進路を変え、こちらに向かってきた。

 

「なっ、なんという速度で……」

「馬鹿な……」

 

 あっと言う間に距離が詰まる。飛行機械の翼が光るのが見えた。

 

「撃ってくるぞぉー!!!」

 

 次の瞬間。

 

「ぐわぁぁあああ!!」

 

 2つの悲鳴が上がった。

 

「え……?」

 

 一瞬の出来事だった。

気が付くと、2人は体から血を流し、地上へと落下していく。

 

「なにが起こったんだ!?」

 

 そして、その一瞬で飛行機械とすれ違う。

 

「逃がすか」

 

 ワイバーンオーバーロードを反転させ、敵を追う。

 

「嘘だろ、敵の方が速いのか?」

 

 追いつくどころか、敵騎と離れてゆく。

後ろを見ると、翼が折れ曲がった飛行機械が距離を詰めてきている。

 

「ちくしょう! 化け物めぇ!!!」

 

 彼はそう叫んだあと、12.7mm機銃によりワイバーンオーバーロードもろとも蜂の巣にされた。

 

「司令!大変です」

 

 基地司令部に駆け込んできた伝令兵が息を切らせながら言った。

 

「どうした? 何があった?」

「ワイバーンオーバーロード部隊が全滅しました。ワイバーンロードも敵飛行機械に押されています」

「ばかな……」

 

 ストリーム司令の顔から血の気が引いていく。

 

「仕方がない、対空魔光砲の準備を急げ」

「了解」

 

 数分後、対空魔光砲が準備される。

 

「照準合わせ」

「目標、正面敵飛行機械」

「射撃開始」

 

 砲手が引き金を引くと、魔法陣が浮き上がり、口径20㎜の砲弾が連続で発射され、敵の飛行機械に命中した。

 

 四式重爆撃機 「飛龍」の編隊は、最終爆撃進路に進入し、爆撃照準器に工場地帯を収めるのを待つだけであった。

 その時、

 

≪対空機関砲だ!!≫

 

 一人のパイロットが叫ぶ。

 

「なんだと!?」

 

 機長が左前方を確認すると、確かに無数の火箭が伸びてきていた。

 

「うおっ」

 

機体のあちこちに穴が開く。コックピットにも数発被弾した。

 

(まさか対空機銃があるとは・・・)

 

 機長は思った。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 隣に座っている副操縦士に目を向ける。

 

「はい」

 

 返事をするが、彼は血まみれだった。

 

「お前、血が出てるじゃないか!」

「ああ、これですか。トマトの缶詰ですよ」

 

 彼の言う通り、座席の下には大きく穴の開いた缶詰が転がっていた。

心臓に悪い奴である。

 

≪対空機関砲撃破!≫

 

 友軍機から報告が入る。

見ると黒煙を吹きながらコルセアが戦闘空域から離脱している。

 

「助かったぜ」

 

 機長はつぶやいた。

 

「あ~あ、せっかくの新型機なのに、こんなにボロボロになって……」

 

 副操縦士は残念そうだ。

 

「そんなことより早く離脱しないと、燃料切れで墜落しちまう」

 

 燃料タンクに被弾したせいで、燃料が漏れだしたのだ。おまけに左エンジンの出力も落ちているため、いつエンジンが止まってもおかしくない状況だ。

 

「第2中隊4番機、被弾した。爆弾を投棄して引き返す」

 

 僚機にそう伝えた後、爆弾を投棄する。3発の250㎏爆弾が市街地で爆発する。

旋回して引き返していく。その後を護衛の「F6F」二機が追いかけていった。

 

「Bettyなら、今頃燃えカスになってるんじゃないか?」*1

「HAHAHA」

 

 F6Fのパイロットは変な冗談を言い、笑っていた。

 

◆◆◆

 

 対空魔光砲は2機の飛行機械に命中弾を与えることができたが、撃墜には至らなかった。対空魔光砲は破壊されたものの、敵機に対して有効な兵器であることが証明されたのだ。

 

「くそっ、なんてことだ!」

 

 ストリーム司令は吐き捨てるように言った。

竜騎士団が全滅し、対空魔光砲が破壊されてしまった以上、敵は自由に攻撃できる。

 つまり、こちらの攻撃は届かないのである。

 

「どうすればいいんだ!」

 

 司令部に重い空気が流れる……。

工場地区の方から爆音が聞こえてきた。

おそらく爆撃によって工場や倉庫が破壊されているのだろう。

 

「司令、いかがいたしますか?」

 

 参謀の一人が訊ねてくる。

 

「今は耐えるしかない。我々は、あの悪魔どもを絶対に許さないぞ!!」

 

 ストリーム司令はそう叫んだ。

しかし、その言葉とは裏腹に彼の中では敗北感が広がっていた。

 

「哨戒艦より入電、『敵艦隊が接近中』とのことです」

 

 司令は苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「すぐに第7艦隊を出撃させろ」

「それが、港も攻撃をされており、甚大な被害が出ているようです」

「なにぃ!?」

 

 司令は思わず声を上げた。

港ではF6F-5とF4U-1Dの猛攻により、多数の艦艇が沈められていた。

沿岸部に配置された魔導砲はほとんどが破壊され、弾薬庫も引火して誘爆していた。

 また、港湾施設も攻撃を受けており、資材倉庫や造船所などは壊滅的被害を受けていた。

 

「くそぉ……」

 

 ストリーム司令は歯ぎしりをした。

 

◆◆◆

 

 あれから1時間程経って、飛行機械は引き返していった。

 

「敵飛行機械は撤退していきます」

 

 通信士の報告に司令は安堵のため息をつく。

 

「被害状況は?」

「工場地区と軍港がかなりの被害を受けています。特に工場地区は、稼働中の工場の8割が破壊されました」

「艦隊の被害は?」

「国家監察軍艦隊、竜母艦隊が全滅。第7艦隊や輸送船も大きな被害を受けています」

「なんということだ……」

「敵は飛行機械だけでなく、地上部隊も投入してくるでしょう」

 

 参謀長の言葉に司令の顔色が変わる。

 

「すぐに防衛体制を整えよ。それと、市民に避難命令を出すように」

「わかりました」

 

 伝令兵が敬礼をして部屋を出ていく。

 

「さて、我々だけでどこまで戦えるかだ」

 

 司令官は腕を組んだ。

 

「地の利は我が軍にあります。我々には銃がありますし、牽引式魔導砲も健在です。敵を市街地までおびき寄せて接近戦に持ち込めば十分勝機はあるかと思います」

「よし、その作戦で行こう。敵の戦力は未知数だが、こちらの方が有利だからな」

「はい」

 

 市街地では家具や建築資材、瓦礫を利用して即席の陣地が作られていく。

塹壕やトーチカのようなものを作るのは難しいが、それでもないよりはマシだった。

 

「海軍司令部より連絡、『第7艦隊、残存艦艇はこれより、敵艦隊の迎撃に向かう』とのことです」

「そうか……これで少し希望が見えてきた」

 

 司令はほっとした表情を浮かべた。

しかし、彼の予想に反して第7艦隊は戻ってこなかった。

*1
「Betty」は一式陸攻の連合国側のコードネーム。一式陸攻は被弾に弱く、機銃を撃ち込むとすぐに炎上・爆発したから、ワンショットライターのあだ名がついた。しかし、真相は不明。



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デュロ攻防戦2

3月31日

 

「司令、大変です」

 

 参謀の一人が部屋に入ってきた。

 

「どうした?」

「敵艦隊が、沖合に出現しました!」

「なんだと!?」

 

 司令は窓の外を見る。確かに海上に黒い影が見えた。

その時、凄まじい轟音が響いた。

 

「な、何事だ!?」

「ほ、砲撃です!敵艦隊が発砲しています!」

 

 司令部に緊張が走る。

 

「くっ、まさか奴ら、海から攻めてくるとは……」

 

司令は苦々しい顔をした。

 

「司令、ここは危険です。地下壕へ避難してください!」

 

 参謀が叫ぶ。

 

「わかった。すぐに移動しよう」

「他の者にもそう伝えますので、司令は早く!」

「すまない。よろしく頼むぞ」

 

 司令は部下に守られながら、司令部を後にするのであった。

市街地に砲弾の雨が降り注ぐ。あちこちから火の手が上がり、建物は崩れ落ちていった。

街には避難しなかった民間人もいたが、お構いなしに砲弾の餌食になっていた。

 

「ひぃっ!」

 

 一人の男が路地裏に隠れる。

そして、必死になって頭を抱えてうずくまる。

 

「誰か助けてくれぇー!!」

 

 しかし、その叫びに応える者は誰もいなかった……。

ストリーム司令は司令部の地下室にいた。

ここには、司令用の個室があり、彼はそこで指揮をとっていた。

 

「大丈夫ですか?司令」

「ああ、なんとかね……」

 

 司令は青ざめた顔をしながら言った。

 

「地上はどうなっている?」

「まだ攻撃は続いています。しかし、幸いなことに敵の攻撃はそれほど激しくありません」

「そうか……」

 

 司令はため息をついた。

すると、一人の伝令兵が駆け込んでくる。

 

「敵部隊が上陸してきます!!」

「ついに来たか……」

 

 司令は覚悟を決めた顔になる。

 

「全部隊に通達しろ。敵を市街地までおびき寄せて接近戦に持ち込めと」

「了解しました」

 

 伝令兵は敬礼して部屋を出ていった。

 

 

 デュロ沿岸部にロデニウス連合の第1海兵師団(妖精)が先陣を切って上陸した。

何の抵抗も受けずに、市街地へ突入していく。先頭をM4A3シャーマン戦車が進んでいく。

 そしてついに戦闘が始まった。

 

『前方、敵歩兵部隊を確認!』

 

 無線機に報告が入る。

 

「よし、攻撃開始」

 

 戦車長の号令のもと、75mm砲が火を吹く。

榴弾が敵兵を吹き飛ばしていく。

2挺の7.62mm機関銃が掃射を行い、敵兵をなぎ倒していった。

皇国兵もマスケット銃で応戦するが、射程距離の違いから一方的に撃たれていた。

 さらに歩兵が前進し、敵陣地を蹂躙していく。

一方的な戦いだった。

 

「なんで蛮族が我々より優れた銃を持ってるんだ!」

「知るかよ!」

「とにかく撃て!」

 

 皇国兵たちは死に物狂いで撃ちまくった。

何より恐ろしいのは、鉄の怪物だ。魔導砲の砲撃が全く効かなかった。

 

「くそ、なんて化け物だ!」

 

 皇国軍の士官が悪態をつく。

その時、敵の砲弾が命中し、建物が崩れ落ちる。

運悪く瓦礫の下敷きになった兵士もいた。

 

 工場地区でも激しい戦闘が始まっていた。

ロデニウス連合陸軍、歩兵師団3個師団が投入されていた。

慣れない銃であったが、今では全員が使いこなしている。

 倒壊した工場を一軒一軒着実に制圧していた。

連合軍の兵士たちが次々と現れる皇国兵を銃撃する。

 

「ぎゃあぁっ!」

「ぐわあっ!」

 

 銃弾を受けて倒れ伏す皇国兵たち。

 

「怯むな!反撃しろ!!」

 

 指揮官らしき男が叫ぶと、数人の兵士が突撃してくる。

 

「ふんっ!」

「ごふぅっ!」

「げぼぉっ!」

 

 しかし、彼らは返り討ちに遭ってしまう。

 

◆◆◆

 

 司令部の地下室に、司令と参謀が集まっていた。

 

「状況はどうだ?」

「現在、我が軍は劣勢です。敵部隊は、我々の予想を上回る速度で侵攻しています」

 

 参謀の一人が答える。

 

「市街地中央の部隊が包囲されつつあります」

 

 別の参謀が報告をする。

 

「工場地区の部隊より、これ以上の防衛は不能との通信が入りました」

 

 次々と悪い知らせが入ってくる。

司令部は絶望に包まれつつあった。

 

 一時間経つと砲撃音や銃声が地下室に聞こえてくるようになった。

 

「まずいな……このままでは全滅してしまう」

 

 司令が呟いた時であった。

突然、部屋のドアが開かれた。

 

「なっ!?」

 

 そこには、全身血まみれの兵士がいた。

 

「た、大変です!敵が市街地を突破!!敵の一部が基地に侵入しています!!」

 

 言い終えた後、彼は倒れた。

 

「衛生兵!」

「敵はどこにいるんだ!」

「地下通路に兵を配置させろ!!」

 

 司令部は大混乱に陥った。

 

◆◆◆

 

 地上では、激しい攻防が繰り返されていた。

しかし、戦況は圧倒的に皇国が不利だった。

 シャーマン戦車の75mm砲が火を噴き、皇国兵がマスケット銃を撃ち込む。

魔導砲の砲弾が炸裂し、敵兵をなぎ倒す。

皇国兵は必死になって抵抗を続けた。

 

「ちくしょう!こんなところで死んでたまるか!!」

 

 皇国兵たちは死にものぐるいだった。

そして、ついに敵が司令部へ迫ってきた。

椅子や机でドアや窓を塞いでいたが、75mm砲により吹き飛ばされた。

手榴弾が投げ込まれ、爆発が起こる。破片が皇国兵を殺傷する。

 

「うわああぁ!!」

 

 悲鳴と銃声が響き渡る。

1階と2階を素早く制圧すると、地下司令部に敵兵が突入してきた。

 M1A1サブマシンガンで武装したロデニウス連合の兵士が司令室に雪崩れ込んでくる。

無数の銃弾が飛び交う。

 

「敵だ!撃て、撃つんだ!」

 

 皇国兵は必死の抵抗を続けていた。

しかし、彼らの努力も虚しく、次々に射殺されていく。

ストリーム司令のいる部屋にも銃声が響いていた。

 

「もうだめか……」

 

 ストリーム司令は覚悟を決めた顔になる。

そして、引き出しの奥にあった白旗を取り出した。

 

「司令、何をされるのですか!?」

 

 参謀の一人が慌てて尋ねる。

 

「降伏する。これ以上戦っても無駄だ」

「しかし!」

「いいから早くしろ!」

 

 ストリーム司令の言葉に、参謀たちも従った。

3人の参謀たちは、手に持っていた白旗を掲げる。

 それを見たロデニウス連合の兵士たちは、攻撃をやめた。

市街地中央区では、包囲された皇国軍の隊長が司令部からの通信を聞いていた。

 

『皇国軍司令部より各部隊へ。直ちに戦闘を停止し、武装解除して投降せよ。繰り返す……』

 

「なんだって?」

「どういうことだ?」

「おい、司令部は何と言っているんだ!」

 

 皇国の兵たちはざわめく。

 

「どうやら、司令部が占領されたらしい」

「まさか、蛮族どもにか!?」

 

 信じられないといった様子である。

 

「そのようだな……くそっ!司令部さえ無事なら、我々が負けることはなかったというのに」

 

 悔しそうにする皇国兵。彼らは指示に従い武器を捨て、皇国兵たちは降伏した。



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悪化の一途

 中央暦1640年4月 パーパルディア皇国皇都エストシラント 皇宮パラディス城 皇軍最高司令部会議室

「報告します・・・デュロがロデニウス連合の攻撃により陥落しました。なお、残存部隊は降伏したとのことです」

 

 会議室に重苦しい空気が流れる。

デュロは皇国最大の工業都市であり、皇国軍の武器や弾薬の生産拠点でもあった。

そこが陥落したということは、補給能力を大幅に失ったことを意味した。

 

「何ということだ……」

 

 将軍の一人が呆然と呟いた。

 

「現在、属領統治軍を撤収させ、兵力を集結させてデュロ方面に向かわせております。また、予備役を招集し、いつでも動員できる体制を整えました」

 

 皇軍最高司令官アルデが現状を説明する。

 

「各都市が航空攻撃により、かなりの被害を受けています。特に工場は壊滅的です」

「港湾都市マジェランも、造船所、ドック、倉庫群が攻撃を受けました。また、第4艦隊も敵の超大型艦との戦闘により全滅しました」

「魔石鉱山地帯もです」

 

 次々と報告がなされていく。

既に、皇国領内の都市や基地は大打撃を受けていた。

皇国は、ロデニウス連合に対し、大規模な反撃を行うべく準備を進めていたのだが、それも頓挫してしまった。

 地獄のような会議は数時間も続いた。

 

◆◆◆

4月5日

 

 パーパルティア皇国軍、東部方面軍は、皇国内に侵攻してきたロデニウス連合軍と熾烈な戦いを繰り広げている。

ロデニウス連合軍は異常な進撃速度を見せ、瞬く間に皇国の東部方面侵攻軍は窮地に立たされていた。

主力部隊の20万人の兵は包囲されつつあり、各地で激戦が繰り広げられている。

 パーパルディア皇国の属領統治軍が撤収した各地の属領では、武装蜂起が発生した。

これが、ロデニウス連合の「春の目覚め作戦」であった。

属領統治軍の撤収、アルタラス王国王女ルミエスによる属領に向けた演説。

この二つが合わさり、蜂起へとつながったのだ。

鎮圧部隊を送り込んだものの、ゲリラ戦法をとる反乱軍に対して有効な対策が取れず、被害ばかりが増大していた。

 さらに、第三文明圏の国々がパーパルディア皇国に宣戦布告。

これにより、戦局は悪化の一途を辿っていた。

 

◆◆◆

4月10日

 

 東部方面に増援部隊として派遣されていた第3軍団は、一本の道を進軍していた。

突然、ブーンという音が聞こえたかと思うと、飛行機械が現れ、第3軍団の上空を飛び去っていった。

 

「なんだあれは? ワイバーンか?」

 

 第3軍団の指揮官は首を傾げた。

しかし、今見たものは、明らかに違うものであった。

 

「ファシスト共に死を! ファシスト共を殺し尽くせ!」

 

 Il-2のパイロットが叫ぶ。

その声は、無線を通じて僚機に届いていた。

そして、ロケット弾の発射ボタンに指をかける。

 

「撃て!」

 

 彼の叫びと同時に、無数のロケット弾が放たれた。23mm機関砲も撃ちまくる。

敵兵の体がバラバラに砕け散る。

 

「うわああぁ!!」

「助けてくれえぇ!!」

 

 悲鳴を上げながら逃げ惑う皇国軍兵士。

彼らの後方で爆発が起こる。炎が舞い上がり、黒煙が上がる。

まるで、地獄の光景だった。

一方的な虐殺だ。

 

「畜生!なんなんだあいつらは!」

「あんなものまで持っているのか!」

 

 皇国兵たちは、混乱しつつも必死に応戦する。

しかし、空からの攻撃にはなすすべがなかった。

 

「ちくしょう! こんなところで死んでたまるかよ! 俺はまだ死にたくないぞ!」

 

 皇国軍の兵士たちが、次々と命を落としていく。

爆弾が馬車の近くで炸裂し、横転して馬が暴れる。

馬に乗っていた兵士が振り落とされ、地面に叩きつけられた。

 

「おい、しっかりしろ! 死ぬんじゃない!」

 

 別の兵士は倒れた仲間を助け起こそうとする。

だが、次の瞬間、 7.62mm弾が、その兵士を撃ち抜いた。

 

「ぎゃああっ!」

 

 断末魔の絶叫。

 

「お、おい……そんな馬鹿な」

 

 仲間の無残な姿に、唖然とする。

 

「た、助け……ぐふっ」

 

 助けを求めようとした兵士も、背中に銃弾を受けて息絶えた。

皇国兵たちは、絶望に包まれつつあった。

 

◆◆◆

4月13日

 

 東部方面軍司令部では、将軍たちが集まり、戦況について議論を交わしていた。

 

「現在、ロデニウス連合の侵攻は止まっておりますが、依然として我が方の優勢とは言いがたい状況です」

「ロデニウスの奴らめ、一体どこからあの兵器を手に入れているんだ!?」

 

 将軍たちが口々に不満を述べる。

 

「現在、敵の補給線を遮断すべく、各部隊を派遣しております」

「しかし、敵の攻勢は激しさを増すばかりで、とても阻止できそうにありませぬ」

「敵の新型兵器による攻撃も苛烈を極め、被害ばかりが増大しております。このままでは戦線の維持すらおぼつきません」

 

 報告を聞いた将軍の一人は頭を抱えた。

 

「まさか、ここまで一方的にやられるとは……」

「敵は我々よりも強力な武器を持っているようだ。我が国の魔導砲を上回る射程と威力を持つ兵器らしいではないか。いったいどうやってそれを手に入れたのだ?」

「それがわかれば苦労はない。敵の情報はまったく入ってこないし、敵の装備も謎だらけなのだ」

 

 会議場が重苦しい雰囲気になる。

 

「何か対策を立てなければ……」

「対策と言っても、我々はただひたすら防戦に徹することしかできないだろう」

 

 会議場がざわめく。

その時、伝令兵が会議室に飛び込んできた。

 

「申し上げます! 敵軍の航空攻撃により、第3軍団が壊滅いたしました!」

「なんだと!?」

 

 第3軍団といえば、第1、第2軍団と並ぶ精鋭である。

 

「第3軍団の生存者はいるのか? 」

「現在、確認中であります。」

「すぐに確認せよ! 急げ!」

「はッ!」

 

 伝令兵は敬礼すると、走り去った。

 

「第4軍団は大丈夫なのか?」

「第4軍団は現在、北方の山岳地帯を進軍中でありまして、敵の攻撃範囲外となっております。そのため、現在のところは無事と思われますが……」

「わかった。しかし、この事態を早く知らせねばなるまい。通信兵! 至急、第4軍団に連絡を取れ!」

 

 しかし、第4軍団は連絡がつかなかった。

 

「どういうことだ? 第4軍団からの応答がないぞ」

「魔信障害でしょうか?」

「それにしてもおかしい……。通信兵! もう一度呼びかけろ!」

「はっ!」

 

 再び、伝令が走る。

 

◆◆◆

 

 第4軍団はそれどころではなかった。反乱軍との戦闘の最中であったからだ。

 

「ちくしょう!!なんなんだあいつらは!!」

 

 皇国兵の叫び声が聞こえる。

敵兵の悲鳴が響き渡る。

 

「殺せぇー!!」

「皆殺しだぁ!!」

 

 狂気に満ちた言葉が飛び交う。

 

「怯むな! 撃ち返せ!」

「撃て! 敵を殲滅しろ!」

 

 両軍の兵士の声が響く。

戦場に銃声が轟き、悲鳴が上がる。

 

「クソ! なんて数だ!」

「多すぎる! どうなっているんだ!」

 

 双方ともに多数の死傷者を出し、血で大地が染まる。

まさに地獄絵図だった。

 

「突撃ぃ!!」

 

反乱兵の怒号が聞こえた。

 

「なんだ!?」

 

見ると、反乱軍が槍を構え、突進してくるところだった。

 

「しまった! 伏兵か!」

 

 慌てて応戦する。

 

「うわあああ!」

「ぐえぇ!」

皇国兵が槍に突かれてと倒れていく。

 

「ちくしょう!」

「よくも仲間を!」

 

味方が次々と倒されていく光景を見て、怒りに燃える。

 

「ぶっ殺してやる!」

「死ね!」

「覚悟しろ!」

「かかってこい!」

 

 皇国兵たちは銃を構えると、反撃を開始した。

 

「ぎゃああっ!」

「ぐふっ!」

 

 皇国兵たちの銃撃を受け、反乱兵が倒れる。

 

「やった!」

「ざまあみやがれ!」

 

皇国軍の士気が高まる。

 

「まだ来るぞ!気をつけろ!」

「畜生め! 死にさらせ!!」

 

 激しい攻防戦が数時間続いた。

 

◆◆◆

 

「申し上げます!第4軍団との連絡が取れました!」

「おお、そうか。それで、第4軍団は今どこにいるのだ?」

「現在、反乱軍と交戦中のようです」

「交戦中だと!?」

 

 将軍たちは驚愕した。

 

「まさか、全滅したというのか?」

「いえ、戦闘は継続中の模様。しかし、敵の攻勢が激しく、苦戦しているとのことです」

「そうか……」

 

 将軍たちが沈黙する。

 

「しかし、いつまで持ちこたえることができるのだろうか?」

「このままでは戦線が崩壊しかねない」

 

 将軍たちが顔を見合わせる。

 

「ロデニウス連合の奴らめ……」

 

その時、2人目の伝令が駆け込んできた。

 

「失礼します!中央主力部隊より緊急報告がありました!」

「なんだ?」

「現在、敵に包囲された模様。救援を要請しております!」

「何!?」

 

 会議室がざわめく。

 

「敵の規模はどれほどなのだ?」

 

 将軍の一人が尋ねる。

 

「それが……敵の規模は不明。現在、中央部隊は敵軍の包囲網の中で孤立しています」

「バカな!?」

「そんなことが……」

 

 会議室が再びざわめく。

敵の異様な進撃速度に誰もが驚きを隠せなかった。

 

◆◆◆

4月19日

 

 西部方面軍の司令官も頭を抱えていた。

ロデニウス連合、パンドーラ大魔法公国とマール王国、反乱軍の対処のため、戦力を分散せざるを得なかった。その結果、各個撃破される形となり、戦況は悪化の一途を辿っていた。

 

(これはマズいことになった)

 

 彼は焦りを感じていた。

敵は非常に強力なようだ。その証拠に、たった数日で防衛線は崩壊しつつある。このままではまずい。なんとかしなければ……。

 彼は思考を巡らせた。

 

(アルーニから援軍を送るか?)

 

 しかし、すぐに思い直す。

ダメだ。とても間に合わないだろう。それに、あの地域は最前線に近い。下手をすればこちらが挟撃されてしまう。

では、どうするか? 彼が考えていると、伝令が入ってきた。

 

「失礼いたします!」

「今度はなんだ!?」

 

 思わず怒鳴ってしまう。

 

「アルーニ地方より連絡が入りました!」

「なんだと? それで内容はなんだ?」

「はッ! 敵の部隊がこちらに向かっており、あと3日ほどで到着する模様!」

「なんだとぉー!!」

 

 彼は叫んだ。

 

「敵の動きが早すぎる!どういうことだ!」

 

 彼は狼のように吠える。

 

「とにかく迎撃の準備だ! 急げ!」

 

 伝令が走り去る。

 

(クソ! なぜこうなったんだ!)

 

 彼には分らなかった。



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アルーニの戦い

AIに文章書かせてるだけのこんな作品に評価をつけてくださった人がいるんですよ
ありがとナス!


 中央暦1640年4月22日 パーパルティア皇国 アルーニの街。

 

 平和だったこの街も今は戦場と化していた。

街の西からは連合軍、北からは反乱軍が迫っている。住民達は、必死に避難を進めていた。

 しかし、無慈悲にも150㎜砲の砲弾が降り注ぐ。

住民達が悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 

「助けてくれぇ!」

「殺されるぅ!」

「きゃああああああ!!」

 

 砲弾が次々と着弾する。

そして、爆風と衝撃が襲う。

 

「うわああああああ!!!!」

「ぎゃああっ!」

 

 人々が吹き飛ばされ、あるいは倒れる。

砲撃により建物が倒壊する。

 

「ひぃっ! 助けてぇ!」

「もう駄目だぁ!」

「神様お許しください!」

 

 恐怖に怯え、人々はパニックに陥る。

 

「ちくしょう!なんでこんなことに!」

「嫌だよ!死にたくないよ!」

「どうして俺たちが死ななけりゃならないんだよ!」

 

 人々の嘆きが響き渡る。

しかし、彼らの叫びはすぐに止むことになる。

 

ドゴォン!!

 

「うわああ!!」

 

 爆発音と共に人が宙を舞う。

皇国軍は魔導砲の砲撃だと理解したが、何処から撃たれているのかはわかっていなかった。

 

「どこからだ!?」

「わかりません!」

「探せ!探し出せ!」

 

 しかし、見つかることはなかった。

代わりに、敵の大軍が接近していることを知る。

 

「敵軍です!数およそ5万!」

「なに!?」

 

 5万人という数字を聞いて、誰もが驚愕した。

 

(バカな!いくらなんでも多すぎないか?)

 

 彼らは知らなかった。敵の侵攻速度が異常であることを……。

 

「き、北側からも敵が来ています!」

「なんだと!?」

「数は3万以上!このままでは包囲されます!」

「全部隊に伝えろ、可能な限り持ち場を死守せよ!」

「は、はい!」

 

 伝令が走る。

 

◆◆◆

西側防衛ライン

 

「敵が来たぞ!」

 

 鉄の怪物を先頭に、歩兵の大軍が続く。

 

「何だ、アレは?」

 

 兵士たちは困惑する。

 

「戦車だ……」

 

 誰かが呟いた。その言葉に誰もが反応する。

 

「センシャ?」

「聞いたことがあるな。確か、ムーの兵器じゃなかったか?」

 

 兵士の一人が思い出したように言う。

 

「そういえば、前に読んだ新聞に載っていたような……」

「まさか実物を見るなんてな……」

 

 誰もが呆然と見つめていた。

すると、指揮官が叫ぶ。

 

「撃てぇー!!」

 

 号令と同時に魔導砲の砲撃が始まる。

轟音が鳴り響き、砲弾が飛んでいく。

 しかし、戦車に命中したものの、塗装を焦がすだけに終わった。

 

(硬い……)

 

 兵士達は戦慄を覚える。同時に絶望感を覚えた。

今度は、戦車の反撃が始まった。

 

「敵戦車発砲!」

 

 兵士が叫ぶ。

次の瞬間、砲弾が爆発した。

 

「うわああ!」

 

 爆風で吹き飛ばされる者、倒れ込む者が続出する。中には重傷を負った者もいた。

魔導砲も数門が破壊された。

 

「負傷者は後方に下がれ!」

「すぐに治療します!」

 

 衛生兵が駆けつけるが、その表情には焦りがあった。

 

 

「ちと砲撃が甘かったようだな。フンメルに支援砲撃を要請しろ」

「はい!」

 

 そう言われた武装SS隊員がフンメルに座標を送信する。

すると、しばらくして空から砲弾が降ってきた。

 

「おお!」

 

 砲弾は敵部隊に直撃し、爆発する。

爆風と破片が、敵兵を吹き飛ばし、殺傷する。

 

「くそっ!!またあの砲撃だ!!」

「なんなんだ?いったい、どこから攻撃されているんだ!?」

 

皇国兵は悪態をつく。

彼らにとって未知の敵であった。

 

「クソッ!どこからだ!」

「わからん!」

 

 皇国軍は混乱していた。

追い打ちをかけるように機関銃の弾丸が飛来する。

 

「ぐあああっ!!」

 

銃弾を受けた皇国兵の身体に穴が開き、血飛沫が上がる。

 

「うわああ!」

「助けてくれぇ!!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図となる。

 

「後退だ!下がるんだ!」

 

 指揮官の命令により、市街地へ撤退する。

 

 

「西側の部隊が市街地へ後退しました。このままでは挟み撃ちにされます!」

 

 伝令の報告を聞き、指揮官は決断を下す。

 

「仕方ない、防衛ラインを下げる!全軍、南の街道まで撤退せよ!」

「了解です!」

 

 命令を受け、部隊は一斉に動き出す。

 

 

 アルーニ基地司令部では、状況報告が行われていた。

 

「西側、北側の部隊が市街地まで後退しています」

「敵はムーの戦車を有するようです。我が軍の魔導砲でも破壊できませんでした」

 

 部下の言葉に、司令官は顔をしかめる。

 

「ムーの兵器だと!?なぜ奴らがそんなものを持っているのだ?」

「わかりません」

「チィ!忌々しい連中め!」

 

 司令官は苛立ちを隠せない。

 

「とにかく、今は敵の侵攻を止めることが先決です」

「うむ、そうだな」

 

 司令官は指示を出す。

 

「歩兵部隊を市街に展開させ、敵を迎撃させる」

「はい、直ちに」

 

 伝令が走り去る。

しかし、この判断は後に間違いだったと気づかされることになる……。

 

◆◆◆

 

 皇国軍は、市街地への撤退に成功したものの、苦戦を強いられる。敵は圧倒的な火力を有していたからだ。

 

「クソッ、何なんだあいつらは!?」

「知らねえよ!それより、どうするんだよ!」

「敵の攻撃が激しいぞ!」

「なんとか持ちこたえろ!」

「うわああ!」

 

 兵士の悲鳴が響く。

その時、上空からサイレン音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

 見上げると、無数の飛行機械が急降下してきた。

 

「敵機急降下!!」

「なにぃ!」

 

 慌てて武器を構える。だが、その必要はなかった。なぜなら、彼らの目の前に爆弾が投下されたのだから……。

 

ドガアアン!!

 

 大爆発が起こり、大量の土煙が舞う。建物は崩れ落ち、瓦礫の山ができ、多くの兵士が死傷した。

 

「後方より、味方ワイバンーン!!」

「おお!!」

 

 歓喜の声があがる。

しかし、それは悪手となった。

 

 援軍として駆け付けた、皇国軍竜騎士団は敵地上部隊と引き返してゆく敵飛行機械に集中していた。

 

「上空! 敵騎だ!」

「しまった!!」

 

 気づいた時には遅かった。

Bf109G「メッサーシュミット」の13㎜機銃と20㎜機関砲が火を噴いた。

 

ダダダッ!!

 

 連続した銃声が響き、竜騎士の身体がバラバラになる。

MG 151/20の薄殻榴弾を喰らった者は、ミンチ肉と化する。

体制を立て直し、反撃しようとする者もいたが、最高速度、機動性の差で追いつけず、逆に撃墜されるか、逃げ回ることになる。

メッサーシュミットを無視して地上部隊を攻撃しようとした者は、対空戦車の攻撃によって阻止され、返り討ちにあう。

 

「なっ……!」

「バカな……」

「こんな事が……」

 

 次々と撃ち落とされていく同胞を見て、皇国兵達は言葉を失う。

その光景はまさに悪夢であった。

 ついに連合軍と反乱軍はアルーニの市街地へ突入する。

 

「突撃ーッ!」

「進めェ!」

 

 連合軍と反乱軍の兵士たちが、市街地へと殺到する。

 

「撃て! 撃て!」

「殺せぇ!」

 

 両軍の兵士が入り乱れる。

銃弾や砲弾が飛び交い、爆発が起こる。

 

「うわああ!」

「ぎゃあ!」

 

 死体が転がり、血が流れる。

逃げ遅れた民間人も容赦なく攻撃され、死んでゆく。

地獄のような戦場であった。

 

「うおぉ!」

「死ねい!」

 

 剣を持った反乱軍兵士が斬りかかる。

 

ガッ! ザシュッ!

 

「ぐああっ!!」

 

 斬られた男は倒れる。そして、動かなくなった。

ある建物に反乱軍が高濃度の亜硫酸ガスを撒き散らす。

立てこもっていた皇国兵は、咳込み、苦しみだす。

耐えられずに建物から飛び出すが、そこに待ち構えていた反乱軍の弓兵により射殺される。

 また別の建物の屋上には、武装SS隊員が大通りに展開している皇国兵に向けて、銃弾をばらまいている。

混乱している皇国兵の前にティーガーI Eが姿を現す。

機関銃を連射しながら、皇国兵をなぎ倒していく。

 

「撃て! 撃つんだ!」

 

 皇国兵が叫ぶ。

だが、すでに遅い。

 

「うおっ!?」

 

 発射された榴弾は、魔導砲に着弾。爆発を起こす。

密集していた皇国兵たちは木端微塵となる。

皇国軍は市街地の各所に陣地を構築していたが、連合軍と反乱軍の攻撃により次々に撃破されていく。

 

 アルーニ基地司令部には、続々と報告が入る。

 

「市街地北区の部隊と連絡が取れません!」

「東区では逃げ遅れた市民が反乱軍に虐殺されています!」

「教会付近に展開している第5小隊が援軍を要請しています」

 

 司令官は顔をしかめる。

戦況は悪化の一途を辿っている。

 

◆◆◆

 

 教会付近では第5小隊と援護に駆けつけた第11中隊が交戦していたが、敵の数が多く苦戦していた。

 

「畜生!敵が多すぎるぞ!」

「怯むな! ここで敵を食い止めるのだ!」

 

 隊長が激を飛ばす。

しかし、状況は絶望的だった。

 

「うわああ!」

「た、助けてくれえ!!」

 

 味方が次々と殺されてゆく。

敵の銃は射程、威力、連射性においてこちらを上回っている。

それでも、彼らは勇敢に立ち向かう。

 

「諦めるんじゃない!」

「そうだ! 俺達が奴らを足止めするんだ!」

「そうよ! 私達の街を守るのよ!」

 

 女性魔導士も必死になって戦う。

敵の戦車が現れ、魔導士が爆裂魔法を放つ。

 

ドガアアン!!

 

 大爆発が起きる。

爆裂魔法はⅣ号戦車H型の操縦手用の覗き窓に直撃した。

 

「うわぁっ!」

 

 彼は操縦を誤り、Ⅳ号戦車は近くの建物へ突っ込んだ。

 

「やったか?」

 

 煙が晴れると、そこには無傷の敵戦車が見えた。

 

「そんな……」

 

 絶句する。

敵戦車の魔導砲がこちらに向く。

 

「退避ぃーッ!!」

 

 隊長の声が響く。しかし、もう遅かった。

砲弾が放たれ、近くにいた兵士を吹き飛ばした。

 

「ぎゃあ!」

「うげっ!」

「ぐぅ……」

 

 仲間が倒れ、うめき声をあげる。

機関銃の弾幕が途切れることは無い。

生き残った兵士達は恐怖で顔を引きつらせる。

追い打ちをかけるように、敵の歩兵が襲いかかってきた。

 

「死ねーッ!」

 

ダダダッ!!

 

「ぐっ……」

「がはッ……!」

 

 次々と兵士が倒れる。

皇国軍の兵士は、圧倒的な火力を前に為す術がなかった。

 ついに教会内部に連合軍が侵入してきた。

「撃て! 撃ちまくれぇーッ!」

 

 分隊長の怒号が飛ぶ。

 

「うおお!」

「死にさらせェ!」

 

 皇国兵は必死に迎え撃つ。

だが、連合軍の勢いを止めることは出来ない。

M24型柄付手榴弾が投げ込まれる。

この手榴弾は爆圧で相手を殺傷するため、閉鎖空間では高い殺傷力を発揮する。

爆発音と共に、皇国兵の悲鳴が聞こえる。

 

「うわああ!」

「ぐわッ!!」

 

 さらに火炎放射器による炎が襲う。

 

ゴオオオオッ!

 

 という音がして、瞬く間に皇国兵に火がつく。

 

「熱いィイイッ!!!」

 

 皇国兵はのたうち回り、やがて動かなくなる。

教会内部はたった数分で制圧された。

教会の屋上に狙撃兵が陣取り、皇国兵に対して銃撃を加える。

 

「クソッ! 奴らめぇ!!」

 

 皇国兵が叫ぶ。

その瞬間、彼の頭を撃ち抜かれて死亡した。

 

「なんだ!?」

「どこから撃たれた!?」

「おい! あそこだ!」

 

 皇国兵が指差した先は、教会の屋上であった。

 

◆◆◆

 

 地獄の市街戦は数時間続いた後、終わりを告げた。

連合軍、反乱軍、皇国軍兵の死体が至る所に転がっている。

市街地には戦闘の爪痕が深く刻まれていた。

 

「勝ったのか……」

 

 誰かが呟いた言葉に答える者はいない。

誰もが勝利の余韻に浸っていたからだ。

 こうして、アルーニ攻防戦は連合軍と反乱軍の勝利に終わった。

この戦いで皇国軍は12万人以上の戦死者、負傷者を出し、1万人が捕虜となった。

連合軍と反乱軍は2000人以上の戦死者と4000人近くの負傷者を出した。

アルーニ市民の被害は死者1000人以上、負傷者は5000人を超した。



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決戦前

 中央暦1640年4月24日、皇都エストシラント皇宮パラディス城内、皇軍司令部。

 

 皇軍最高司令官アルデは、顔を真っ青にしながら地図を眺めている。

日に日に悪化する戦況の報告を聞きながら、どうすれば良いのか必死に考えていた。

 その時、伝令兵が部屋に入ってきた。

 

「失礼します! 緊急報告です!」

「何事だ?」

「敵がアルーニを占領しました!」

 

 アルデの顔色がさらに変わる。

 

「な、なんと……それで被害状況は?」

「はい、我が軍は市街地で甚大な被害を受けました。死傷者の数は把握できておりません。捕虜も大量に出ています」

「それはまずいな……。すぐに対策を考えねばなるまい」

「はい、早急に作戦会議を開く必要があります」

 

 伝令兵は敬礼すると部屋から出て行った。

アルデは頭を悩ませ、地図を見る。

敵の目標は皇都エストシラントだろう。

今の状態で敵が攻めてきたらひとたまりもない。

 

「これはまずいことになった……」

 

 アルデは冷や汗をかいていた。

 

◆◆◆

4月26日

 

 皇都エストシラントでは住民の避難が進められていた。

皇軍の兵士達が住民達に避難を促す。

避難先はパールネウス地方だ。

 そこは連合軍によって非攻撃地域に指定された場所であり、安全が確保されている。

避難する住民たちは不安そうな表情を浮かべながらも、皇都から離れて行った。

その住民たちと入れ替わるように各地方からかき集められた皇国軍が集結していた。

 彼らはこれから来るであろう敵を撃退するために待機しているのだ。

皇国軍は数の上では勝っていたが、質では劣っており、苦戦は免れないだろうと思われた。

 皇国軍総司令部の一室で司令官が集まっていた。

最高司令官アルデを始めとして、参謀や将軍達が勢揃いである。

 

「皆さん、よく集まってくれた。これより臨時の対策会議を行う!」

 

 総司令官の言葉に集まった一同がうなずく。

 

「すでに皆知っての通り、皇国は危機的状況に陥っている。このままでは敗北は必至だ。しかし、我々がここで諦めれば、我が国は滅亡してしまう。そこで我々は徹底抗戦の道を選ぶことにした!」

「「おお!」」

 

 会議室にどよめきが起こる。

 

「だが、問題はどうやって戦うかだ! 何か意見のある者はいないか!?」

「はい!」

 

 1人の若い士官が手を挙げる。

 

「なんだね? 言ってみたまえ!」

「はっ! 敵は現在、我々の本拠地である皇都に向かって進軍中とのことです。そのため、敵軍の進路上に待ち伏せして、これを叩くべきかと思います」

「ふむ、確かに悪くない考えだ。他にはないか!?」

「はい!」

 

 また別の人物が発言する。

 

「ここはエストシラントの市街地を利用して、敵を迎え撃つべきです。そうすれば、敵の戦力を分散させることが出来ます」

 

 その提案にアルデはうなずき、同意を示す。

 

「そうだな、私もそれを考えていた。他に意見はあるか!?」

誰も反対意見を言わないため、この案は採用されることとなった。

「それでは、各自持ち場についてくれ! 必ずや勝利を手にしようではないか!!」

「「はッ!!!」

 

 こうして、皇国軍最後の戦いが始まろうとしていた。

 

◆◆◆

 

 戦闘の準備はその日から始まった。

家具や壊れた建物の瓦礫を使ってバリケードを作り始める。

皇国軍は街の各地に散り、皇都防衛の陣形を組み始めた。

 

「敵の侵攻予想地点はここだ! ここに防衛線を築くぞ!」

「了解しました!」

「おい! そっちは終わったのか?」

「ああ、これでいいはずだ。それよりこっちを手伝ってくれ!」

 

 皇国軍は大忙しであった。誰もが休む暇もなく働いている。

2日後の4月28日、ついにその時が来た。

その日は朝から連合軍による砲撃が始まっていた。

砲弾が次々と撃ち込まれ、街に爆発音が響き渡る。

皇国兵達は怯えながら、連合軍の砲撃に耐えていた。

 そして、敵軍が姿を現す。

 

「報告! 敵軍が見えました!」

「よし! 総員配置につき、迎撃態勢を整えろ!」

 

 皇軍兵士は一斉に動き出す。

エストシラント攻防戦が幕を開ける




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エストシラント攻防戦1

 中央暦1640年4月28日 パーパルディア皇国 皇都エストシラント。

 

 皇国軍は皇都に迫りくる連合軍に対し、徹底抗戦の構えを見せていた。

皇国軍は市街地に布陣し、敵を迎え撃とうとしている。

 最初の戦闘があったのは市街地東外縁部だった。

市街地へ続く道を丸太や瓦礫のバリケードで塞ぎ、侵入してくる敵部隊に対して銃撃を加えている。

 

「怯むな! 落ち着いて対処しろ!」

 

 皇国軍の指揮官は叫びながら、兵士を鼓舞する。

皇国軍兵士たちは練度が高く、銃の扱いも上手かった。

 しかし、敵の数が多く、徐々に押され始めている。

ISU-152の152mm砲がバリケードを粉砕した。

皇軍の兵士が吹き飛ばされる。

 

「後退だ! 後退せよ!」

 

 皇国軍は慌てて、市街地へと逃げ込んでいく。

その後を追うように連合軍とソ連軍(妖精)が続く。

 皇都エストシラントは「華の都エストシラント」と呼ばれるほど第三文明圏でもっとも栄えている都市だが、今は見る影もない。

建物は破壊され尽くしており、有名なホルストローム大聖堂の尖塔も崩れ落ちてしまっている。

 そんな「華の都エストシラント」は皇国軍と連合軍の戦場に変わっていた。

それものちの歴史書で「第三文明圏最大の市街戦」として記録されるほどの激戦である。

 

「撃て! 敵を近づけさせるな!」

 

 皇国軍の兵士達は必死になって応戦する。

しかし、彼らの火力では連合軍の進撃を止めることは出来ない。

 

「ぐわぁあ!」

「助けてくれぇえ!!」

 

 皇国兵の悲鳴が上がる。

連合軍は容赦なく皇国軍を蹴散らしていく。

 ISU-152やIS-2が建物に立てこもる皇国軍に榴弾を叩き込む。

爆発によって建物が倒壊し、皇国兵が生き埋めになる。

建物内に連合軍兵士が突入して制圧する。

その繰り返しだ。その様子はベルリン市街戦のようだった。

 

「クソッタレ!! なんなんだあの化け物は!?」

 

 皇国兵は混乱していた。

彼らは鉄の怪物に苦戦し続けていた。

 

「なんてことだ……勝てるわけがない」

 

 皇国兵たちは口々に絶望的な言葉を漏らす。

頼みの綱である魔導砲が効かないのだ。どうしようもなかった。

 

「うろたえるな! まだ我々は負けていない!!」

 

 指揮官が叫ぶ。

 

「しかし……」

「貴様ら、それでも誇り高きパーパルディア人か!?」

 

 その言葉を聞いた兵士の顔つきが変わる。

 

「そうだ! 我らは列強パーパルディアの民だ! 蛮族ごときに後れを取るなどあってはならぬ!」

「その通りだ! 奴らを倒せ! 祖国を守るんだ!」

 

 皇国軍は士気を取り戻し、再び連合軍の攻撃に立ち向かう。

皇国軍は奮戦し、連合軍の進撃速度を低下させることに成功した。

 ある商店街の通路をT-34-85と随伴歩兵が突き進む。

 

「撃て!」

 

 皇国軍の魔導砲が火を吹き、戦車に直撃した。

爆発が起こり、炎に包まれる。

 しかしその程度では撃破できない。

T-34-85が主砲を撃つが、砲身が破裂してしまった。

魔導砲の砲弾が砲身に命中したのだ。

2挺の機関銃を乱射しながら後退を始める。

 

「うぉおおお!」

 

 皇国兵たちから歓声が上がった。

 

「やったぞ!」

「ざまあみやがれ!」

「この調子で行くぞ!」

 

 皇国軍の兵士たちは勝利を信じ、戦い続ける。

 

◆◆◆

 

 一方、市街地西側でも激しい銃撃戦が繰り広げられていた。

皇国兵と連合軍兵士が入り乱れる。

 

「敵が多すぎる!」

「増援はまだなのか?」

「ダメです。敵の数が多い!」

 

 皇国軍は圧倒的な火力を誇る連合軍に苦戦を強いられていた。

連合軍の攻撃は苛烈を極め、皇軍兵士を次々と葬っていく。

交戦開始から3時間程で市街地西区を流れる「リシャール川」まで後退した。

 

◆◆◆

 

 日が暮れだし、空が赤く染まる。

連合軍の攻撃も一時的に止んでいた。戦闘で負傷した兵士たちが次々と運ばれてくる。

そんな中、負傷していない兵士が集まっている場所があった。

 

「これより、作戦内容を説明する」

 

 そう言ったのは、皇軍の中でもエリート集団である皇国近衛兵団の隊長だった。

 

「まず、現状の確認をする。敵兵力は圧倒的であり、我が軍は敗北寸前だ。しかし、敵の攻勢は一時的ではあるが止まっている」

 

 彼の部下たちが静かに耳を傾ける。

 

「そこで、我々は敵に奇襲を仕掛ける。夜が明けるまでに敵の前線司令部を強襲し、敵の指揮系統を破壊する。それが成功すれば、我々が勝つことが出来る」

 

 彼は淡々と作戦内容を説明する。

 

 深夜0時21分39秒。

皇国近衛兵団は闇に紛れ、敵前線司令部へ向かう。

近衛兵団の精鋭たちは音もなく動き出す。彼らは一糸乱れぬ動きを見せ、目標地点へと近づいていく。

 一軒の建物に入ろうとした時だった。

小さく「ピン!」という音がしたと思うと、突然爆発が起こった。

 

「うわぁああ!!!」

 

 爆風で吹き飛ばされた皇国兵が地面を転がった。

 

「何事だ!?」

「分かりません! 何かが爆発しました!」

「まさか、敵の攻撃か? いや、そんなはずはない」

「確認します!」

 

 建物の外にいた兵士2名が、建物の中に入ろうとした瞬間、頭を撃ち抜かれて倒れた。

 

「クソッ! 敵だ!」

「待ち伏せされていたのか!?」

「散開しろ!」

 

 その声と同時に皇国兵たちは一斉に散らばる。それより先に彼らのいる場所に、弾丸が撃ち込まれた。

 

「ぐわぁあ!!」

 

 悲鳴が上がり、血飛沫が上がる。

 

「撃てぇえー!!!」

 

 銃声が鳴り響き、建物の中から銃弾の雨が降り注ぐ。

 

「ぎゃっ!」

「がはっ」

「うぅ……」

 

 次々と皇国兵が倒れていく。

 

「撤退だ! 撤退しろ!」

 

 近衛兵団の兵士は我先にと逃げ出す。

 

「クソッタレ! なんてこった!」

「ちくしょう! 俺の腕が!!」

「おい、しっかりしろ! 今すぐ手当してやるからな!」

 

 負傷した仲間を助けようとする者、一目散に逃げだす者と様々だ。

 

◆◆◆

 

 翌日、エストシラント沖にマール王国海軍、リーム王国海軍、ロデニウス連合海軍の艦隊が現れたという報告が入った。

 しかし、パーパルディア皇国海軍に出撃できる艦は残っていない。

3回目の皇都空襲でかき集めの皇都防衛艦隊が全滅してしまったからだ。

マール王国海軍とリーム王国海軍の戦列艦による砲撃が、沿岸部に着弾する。

 海軍の魔導砲を利用した沿岸砲も反撃するが、命中精度が悪く効果は薄い。

ロデニウス連合海軍による艦砲射撃もあり、沿岸砲は戦列艦数隻を撃沈して全滅した。

 さらに、マール王国、リーム王国、フェン王国、ロデニウス連合の陸軍部隊が上陸を開始する。

沿岸部に上陸した連合軍部隊は港を制圧すべく前進した。

 ここでも皇国軍は意地を見せ、連合軍を押しとどめることに成功する。

しかし、それも長くは続かなかった。

 

「敵が多すぎる! このままでは持たないぞ!」

「第24小隊通信途絶!第31中隊壊滅!」

「衛生兵はどこに行ったんだ!」

「もう弾薬がありません!」

「ダメです! これ以上は持ちません! 第1大隊後退!」

「クソッ! 後退だ! 後退せよ!!」

 

 皇国軍はじりじりと押され、ついに市街地へ後退した。



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エストシラント攻防戦2

 中央暦1640年4月29日

 

 パーパルディア皇国 皇都エストシラントでは昨日から激しい戦闘が続いており、民間人にも死傷者が出ていた。

市民の中には連合軍に投降する者も出始めている。

 皇都南東部に位置するホルストローム大聖堂の周辺では激戦が繰り広げられており、既に100名近い兵士が戦死し、200名以上の負傷者が出ている。

大聖堂周辺に展開しているのは皇国軍の精鋭部隊である第1軍団であり、過去の戦いでは無敵を誇った。

 しかし、現在は劣勢に立たされている。

リーム王国、フェン王国軍の部隊を撃退することに成功したものの、ロデニウス連合軍に対しては苦戦を強いられている。

 

「クソッ! この兵力差で何故勝てんのだ!?」

 

 指揮をとる将軍が悪態をつく。

彼の率いる第1軍団は、皇国最強と言われる軍団である。

皇国の歴史上でも屈指の精鋭を集めた精鋭中の精鋭なのだ。

その戦闘力は列強国の中でもトップクラスと言っていいだろう。

 しかし、現実にはロデニウス連合軍の大部隊に苦戦していた。

 

「閣下、どういたしましょう?」

 

 幕僚の問いに将軍は答えた。

 

「仕方ない。ここはいったん引いて態勢を立て直す。全軍に通達! 撤退だ!」

 

 将軍の命令を受け、第1軍団はホルストローム大聖堂から撤退した。

態勢を立て直したリーム王国軍が追撃を行うが、彼らが大聖堂に戻ってくることはなかった。

 

◆◆◆

 

 昼過ぎ、市街地西区リシャール川

川を挟んで連合軍と皇国軍が対峙している。

建物や川に転落するのを防止する石塀に身を隠しながら、両軍の戦闘は続いている。

 

「ちくしょう! 何なんだあの武器は!?」

 

 皇国兵が叫ぶ。彼らの持っている銃より遥かに威力の高い銃弾が、皇国兵を殺していく。皇国兵の銃弾が連合軍兵士に当たるが、その程度では怯まない。

銃の連射速度も速いため、接近戦に持ち込めば何とかなると考えた皇国兵は銃剣突撃を敢行する。

 しかし、それを許すほど連合軍は甘くなかった。

皇国兵が近づいた瞬間、機関銃の弾幕が皇国兵を襲った。

 

「ぎゃぁああ!!」

「助けてくれぇえ!」

 

 銃弾を浴びて皇国兵が倒れる。

皇国兵が倒れた場所から血が流れ出し、地面を赤く染める。

パンドーラ大魔法公国の兵士が橋を渡っていく。

が、建物に隠れていた皇国兵が火炎魔法を放った。炎に包まれた兵士たちが橋の上から落ちていく。

 

「ざまあみろ!」

 

 皇国兵は叫んだ。

だが、建物の瓦礫を乗り越え、パンターG型が飛び出してきた。

 

「なっ……」

皇国兵は絶句する。

パンターG型の砲塔がこちらを向く。

「バカな!」

皇国兵が叫んだ次の瞬間砲弾が放たれ、爆音とともに建物の壁が崩れ落ちた。

長砲身の75㎜砲から放たれた榴弾が命中する。皇国兵は瓦礫と一緒に肉片となって吹き飛んだ。

連合軍は戦車を先頭に、皇国軍を蹂躙していき、リシャール川を渡河した。

 

◆◆◆

 

 夕方、ホルストローム大聖堂周辺

態勢を立て直した第1軍団が大聖堂周辺に展開する敵部隊に攻勢をかける。

 

「撃て! 撃ちまくれ!」

 

 将軍の号令のもと、牽引式魔導砲から猛烈な砲撃が繰り出される。

 

「敵が後退しています!」

「よし! 押し返せ!」

 

 敵の反撃により被害が出るが、それでも第1軍団は敵を押し返すことに成功した。

 

「うーむ……」

 

 ロデニウス連合軍の旧ロウリア王国軍の将軍は悩んでいた。

彼の部隊は中央大通りを進軍するマール王国軍の支援を行っている。

 そのため大聖堂に残っている兵力では、敵部隊を止めることができない。

大通りの部隊を引き返すことも可能だが、そうすると大通りのマール王国軍が撃退されてしまう。

彼は決断した。

 

「この場から撤退して、大通りの部隊と合流する! 大聖堂は東から来る友軍にまかせる!」

 

 こうして、ロデニウス連合軍は大聖堂から撤退した。

 

◆◆◆

 

 夜、22時過ぎ市街地北区

市街地北区では戦闘が一度も発生しておらず、北区に展開している皇国軍は西区、東区、南区の戦線へ増援として送られ数を減らしていた。

もう夜なので、皇国兵は警戒兵を除いて眠りについている。

 

「「「天皇陛下、万歳!!!」」」

 

 突然の声で、皇国軍兵士が飛び起きる。

 

「なんだ!?」

「何事だ!?」

 

 寝ぼけ眼で周囲を見回す皇国兵たち。

いきなり暗闇が明るくなる。星明かりにしては明るすぎる。

 

「敵襲ー!」

 

 皇国兵の一人が叫び、銃を手に取る。

彼らは、自分たちに向かってくる無数の人影を見た。

それはロデニウス連合陸軍の歩兵部隊だった。

 

「撃て! 撃て!」

 

 指揮官の命令に従い、皇国軍兵士は引き金を引く。

しかし……

 

「ダメです! 当たりません!」

「そんなはずはない!」

 

 皇国兵の撃った弾丸は全て空を切るばかりだ。

 

「落ち着いて狙え!」

 

 指揮官が叫ぶ。

皇国軍兵士が狙いを定めようとした時、敵兵が発砲してきた。

皇国兵は次々と倒れていく。

 

「クソッ! なんで当たらないんだ!?」

 

 パニックに陥る皇国兵たち。

そこに、敵兵が銃剣突撃を仕掛けてくる。

 

「うわぁあああ!!」

 

 銃弾を喰らって倒れる敵兵。だがそんなのお構いなしに突っ込んでくる。

皇国兵は逃げ惑うことしかできない。

 

「おい、大丈夫か?」

 

 皇国兵のひとりが、仲間の兵士に声をかけた。

その兵士は胸を撃ち抜かれ、既に息絶えている。

市街地北区で日本軍(妖精)は暴れ回った。

皇国軍の陣地に突入し、銃剣突撃を行う。

 

「ぎゃぁああ!!」

「助けてくれぇええ!」

 

 皇国兵は悲鳴を上げながら死んでいく。

一人の妖精が銃弾を喰らって倒れるが、九七式手榴弾の信管を作動させると、近くにいた皇国兵の胸倉を掴む。

 

「うわああああああ!!」

「わあああああああ!!」

 

 妖精と皇国兵が一緒に爆発に巻き込まれる。

九七式中戦車チハ改が主砲を放ち、機関銃が皇国兵を薙ぎ払う。

 

「うぐっ……」

 

 皇国兵が血を流し倒れる。

 

「おのれ!! 蛮族め!!」

 

 皇国兵は叫ぶが、九七式中戦車チハの砲撃を受けて吹き飛ばされた。

皇国軍の抵抗も虚しく、北区の皇国軍は壊滅状態に陥りつつあった。

 

◆◆◆

 

 パラディス城、最高司令部

 

「アルデ殿、大変です!」

 

 伝令兵が駆け込んでくる。

 

「どうした? なにがあった?」

「先ほど、ロデニウス連合軍が夜襲を仕掛けてきました。北区西側の戦線は崩壊しつつあります!」

「なんだと!?」

「至急、援軍を送る! 準備しろ!」

「はっ……」

 

 伝令兵が走り去る。

 

「まさか、夜襲とは……」

 

 ここにきて夜襲である。視界の悪い夜間での戦闘。しかも入り組んだ市街地での戦闘だ。

皇国軍は基本的に夜間での戦闘はしない。

ロデニウス連合軍は恐ろしい程の度胸と練度を持ち合わせているようだ。



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エストシラント攻防戦3

 中央暦1640年4月30日

 

 エストシラント攻防戦の開戦からついに3日目となった。

 

「大聖堂にいるファシスト共を殲滅せよ! 奴らは悪魔の使いだ!」

『『『『Ураааааааа!!』』』』

 

 ソ連兵(妖精)が叫び、突撃する。

ホルストローム大聖堂に展開している第1軍団にもその叫び声は聞こえていた。

 

「なんだ!?」

 

 将軍が叫ぶ。

 

「報告します! 東から敵の増援が来ています。かなりの数です」

「なんだと!?」

「このままでは挟撃されます」

「仕方ない。迎撃するぞ」

「了解しました」

 

 第1軍団は東から現れた敵を迎え撃つべく布陣を変更した。

そして彼らは、自分たちに向かってくる敵兵を見た。

 

「撃て! 撃ちまくれ!!」

 

将軍の命令で、第1軍団の兵士たちは引き金を引く。

 

 パパパパパパーン

皇国兵のマスケット銃が火を吹く。

 

「撃て! 敵を近づけさせるな!」

 

皇国兵たちは必死に抵抗するが、ソ連軍(妖精)の勢いを止めることができない。

 

「進め! 悪魔どもを殺せ!」

『『『Ураааааааа!!』』』

 

 ソ連妖精兵が雄叫びを上げる。

 

「怯むな! 撃て!!」

 

 皇国兵が引き金を引く。

銃弾は命中するも敵の数は減らない。

 

「撃て! 撃て! 撃て!」

 

 皇国兵の怒号が響く。

 

「せめて魔導砲があれば…」

 

 誰かが呟いた。

牽引式魔導砲は大聖堂奪還の際、ロデニウス連合軍の人一人で持ち運べる超小型魔導砲により破壊されてしまっていた。

必死の抵抗も虚しく、ソ連妖精兵は次々と皇国軍陣地に飛び込み、蹂躙していく。

 

「敵が突破してきた! 逃げろ!!」

 

 皇国兵が叫ぶ。

しかし、逃げる場所などどこにもない。

モシン・ナガンM1891/30、PPSh-41、DP28軽機関銃が皇国兵をなぎ倒す。

 

「助けてくれ!」

「死にたくない!」

 

 皇国軍は恐慌状態に陥った。

 

「落ち着け! 落ち着いて狙え!!」

 

 小隊長が叫んだ。

皇国兵はマスケット銃を構えるも、震える手で照準を合わせることができずにいた。

 

「クソッ!」

「ダメだ……こんなの無理だ!」

 

 皇国兵は次々に倒れていき、第1軍団は赤い津波に飲み込まれていった。

第1軍団の指揮を執る将軍と一部の兵士は辛うじて脱出に成功し、撤退に成功した。

 

◆◆◆

 

 パラディス城、最高司令部

 

「アルデ殿! 緊急伝です!!」

 

 伝令兵が駆け込んでくる。

 

「今度はなんだ?」

「第1軍団が壊滅しました!」

「何だと!?」

「第1軍団の残存兵力は、僅か1,000名です!」

「馬鹿な……」

 

 アルデは絶句した。

第1軍団は皇国軍の中でも一番の精鋭部隊だ。それがわずか1,000名にまで減った……。

 

「現在、敵の最も進出している場所はどこだ?」

 

 アルデが尋ねる。

 

「東区と中央区の境界付近とのことです」

「ならば、中央区と皇宮に戦力を集中させましょう。中央区は我々にとって最重要拠点ですからね。それと、遅滞戦術を行いつつ、敵主力を消耗させます」

参謀長が言う。

「そうだな……」

「まずは、中央区の防衛を固めなければ……」

「了解しました。では、すぐに手配します」

「頼む……」

 

 こうして、中央区と皇宮パラディス城防衛の方針が決まった。

 

◆◆◆

 

 連合軍は中央区に向けて進撃を続けていた。

敵の抵抗は減ったものの、遅滞戦術により進軍速度は遅くなっていた。

そのため、連合軍は建物を一軒一軒制圧することを余儀なくされた。(東区を除く)

それでも、何とか中央区に辿り着くことができた。

 

◆◆◆

 

 戦場と化したエストシラントの街に、カメラを持った男がいる。

彼の名は、アンカレン。

神聖ミリシアル帝国のカメラマンである。

 彼の一族にはムー国内戦を最前線で取材し続けた者がいて、その者以外にもなかなかの猛者たちがおり、その話を聞きながら育った。

彼もまたその一人だった。

彼は、この戦争を撮影するため、危険を承知でパーパルディア皇国に残った。連合軍の装備や兵器を写真に収め回っている。

 

「ん? あれはなんだ?」

 

 カメラを向けるとそこには戦車がいた。

 

「なんということだ!ムーの戦車じゃないか!?」

 

 アンカレンは興奮気味にシャッターを切る。

 

「まさか第三文明圏内外国がムーの装備を独自に開発していたのか!これは大スクープだ!」

 

 アンカレンは、その後も写真を撮り続けた。

 

◆◆◆

 

 トラック泊地にある図書室ではムー国の技術士官・マイラスが夜遅くまで熱心に本を漁っていた。

彼は、ムー国の技術向上を目指して、様々な分野の本を読み漁っている。

 今日は「第一次世界大戦と第二次世界大戦」と書かれた書物を読んでいた。

どうやらムーが転移した後の地球では、世界を巻き込んだ戦争が二回も起きたらしい。

今のムーの技術力は第一次世界大戦期レベル。

おろらくグラ・バルカス帝国は第二次世界大戦期レベルだろう。

 その第二次世界大戦期の技術力は彼に吐き気を催すほど凄まじいものだった。

飛行機、軍艦、地上兵器、歩兵装備。

どれもこれも、ムーが太刀打ちできるような代物ではない。

 

「こんなものを作れる国と戦って勝てるわけがない……」

 

 そう思いつつも、彼は必死にページをめくり続けるのであった。



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エストシラント攻防戦4

中央暦1640年5月1日

 

エストシラント攻防戦、中央区の戦いが幕を開ける。

ロデニウス連合海軍第1艦隊のD型軽巡洋艦3隻が、砲撃を開始した。腹の底に響く重低音とともに、砲弾が発射される。

 砲弾は、中央区に布陣する皇国軍の陣地へと着弾。爆発と共に、皇国兵を吹き飛ばす。

数発は皇宮付近にも着弾したが、幸いにも被害はなかった。

艦砲射撃の次に襲ってきたのは、空からの攻撃だ。

Il-2、Ju87Dといった航空機が次々と飛来してくる。

皇国兵はファイヤーボールを浴びせるも、全く当たらない。

そして、皇国軍の頭上に降り注いだのは、大量の爆弾とロケット弾だ。

爆撃により建物が破壊され、火炎に包まれる。

 地獄の数時間を耐えた皇国軍の前に、連合軍が現れた。

 

「なんて奴等だ……!あんな化け物を配備しているとは!」

 

 戦車を見た皇国兵は、絶望の表情を浮かべていた。

 

「撃て!撃ちまくれ!!」

 

 小隊長が叫ぶ。マスケット銃を構えた皇国兵が射撃を開始する。

しかし、命中精度が悪いうえに、連合軍は戦車を先頭に進軍しているため、ほとんど効果はない。

 

「ダメだ! 全然効かない!」

「逃げろぉーっ!」

 

 皇国兵の悲鳴が木霊した。

大勢の客で賑わっていた酒場のテーブルはひっくり返り、椅子は散乱している。あちこちに血を流し倒れている人の姿もあった。

ある貴族が住んでいた豪邸は今や見る影もなく、炎と煙が立ち昇っている。

ある商人の家では、地下室に避難して難を逃れた人々が集まっているが、その顔には恐怖の色が浮かんでいた。

ある民家の中では家族全員が身を寄せ合い、震えながら神に祈りを捧げていた。

ある孤児院では子供達が泣きじゃくる声が響き渡っている。

パーパルディア皇国は終わりの時を迎えようとしていた。

 

◆◆◆

 

 連合軍は皇国軍の激しい抵抗に遭いながらも、皇宮パラディス城に迫っていった。

皇国軍は敗走を続けており、もはや組織的戦闘能力は失われつつあった。さらに、反パーパルディア勢力の反乱も起きている。

皇都防衛隊の残存兵力は皇宮防衛のために集結していた。

 ついに連合軍の西方部隊と東方部隊が、皇宮前広場で合流を果たした。

広場に立っていた皇帝ルディアス像は粉砕され、その破片が辺りに飛び散っている。

 

「皇宮を死守せよ!」

 

 皇帝ルディアスの命令を受け、皇宮防衛部隊を指揮する将軍達は最後の抵抗を試みる。

 

 午後2時30分。

 

パーパルディア皇国最後の戦いが始まった。

 

◆◆◆

 

 皇宮前広場や道路に展開していたISU-152やIS-2、BM-13 カチューシャが一斉に砲撃を始めた。

猛烈な轟音とともに、榴弾やロケット弾が吐き出されていく。

砲弾の雨が降り注ぎ、キレイに手入れされていた庭園の樹木や花々は無残な姿に変わり果てていく。

 

「皇帝陛下を守れぇえ!!」

 

 将軍達の声が響く。

 

皇国兵たちは、決死の覚悟で立ち向かう。

 

「皇宮に近づけさせるなぁあああ!!!」

「おおおぉおぉおぉお!!」

 

 怒号とともに、魔導砲、マスケット銃、魔法攻撃が連合軍に向けて放たれた。

だが、その程度の火力ではティーガーⅠE、パンターGの正面装甲を貫くことは不可能だった。

88mm砲、75mm砲と機関銃が火を吹き、皇国兵をなぎ倒していく。

戦車の履帯が地面を踏みしめ、土埃を巻き上げる。

 

「ちくしょう!何なんだこの化け物は!」

「こんなの勝てるわけがない!」

 

 皇国兵は、次々と薙ぎ払われ、踏み潰されていった。

皇宮の防衛陣地を突破した連合軍は、外務局を制圧。

そして、その奥にあるパラディス城に進撃を開始した。

 

◆◆◆

 

 午後3時15分。

 

 パラディス城の戦いが幕を開けた。

連合軍は城の門を破壊し、城内へと突入する。

城内でも激しい戦闘が繰り広げられた。

 皇国兵はマスケット銃なのに対して連合軍はサブマシンガンで武装している。

また、数においても圧倒的差があった。倒しても、その屍を超えて連合軍兵士は前進する。

 美しい絵画や装飾は流れ弾で破壊され、床には血痕が広がる。

シャンデリアが落下して割れる音が響いた。

階段でも銃弾が飛び交い、ある連合軍兵士は階段を滑り落ち、ある皇国兵は1階に落下する。

 3階では反パーパルディア勢力と皇国軍が銃撃戦を繰り広げている。

敵が迫っているのに、反乱が起きて皇国兵は混乱に陥っていた。

 

「おい!何をしている!? 早く敵を殺せ!」

 

 皇国軍の指揮官が叫ぶも、反乱兵の銃口が向けられる。

 

「降伏しろ!もう終わりだ!」

「バカを言うな!!我々はまだ負けていない!!」

 

 指揮官が叫んだ瞬間、反乱兵は引き金を引いた。

 

「ぐはっ……」

 

 胸を撃ち抜かれた指揮官はその場に倒れた。

そこに2階を制圧した連合軍兵士が現れ、連合軍と共に4階へと向かう。

4階には皇帝の執務室がある。

そこには、多くの皇軍兵士が立てこもっていた。

彼らは皇帝を守るための最後の砦なのだ。

 

「撃てぇーッ!!!」

 

 連合軍・皇軍の双方が撃ち合い、手榴弾により執務室の扉は破壊された。

室内に突入した兵士たちが見たものは、皇帝ルディアスの死体だった。

床にはフリントロック式ピストルが落ちており、自決したことがわかる。

彼はロデニウス連合による公開処刑を恐れての自殺だと考えられた。

 

◆◆◆

 

 午後3時44分。パラディス城の頂上。

 

 パーパルディア皇国の国旗が翻っている屋上には赤旗を持った連合軍兵士とソ連妖精兵の姿が見られた。

彼らは皇国の国旗を引きずり下ろし、代わりに連合国旗と赤旗を掲げた。

 後の歴史書では「パラディス城の赤旗」と呼ばれることになる出来事である。

 

◆◆◆

 

 午後3時47分。パラディス城、地下司令部。

地下室で指揮を取っていたアルデや将軍たちの前に一人の伝令が現れた。

 

「申し上げます! 皇帝陛下が自害なさいました!」

「何だと!?」

「そんな馬鹿な……!」

 

 将軍たちが驚愕の声を上げる。

 

「それと、この城は地下以外、完全に制圧されました。現在、地下通路を通って地上への脱出を試みていますが、地上での戦闘が激しく、時間がかかりそうです。このままでは我々も全滅します。どうかご決断をお願い致します。降伏か死かを……」

 

 将軍の顔が青ざめる。

 

「おのれ蛮族どもめ!陛下にこのような屈辱的な最期を遂げさせるとは!!」

 

 将軍の一人が声を荒げる。

 

「……仕方ない。全軍に通達せよ。直ちに戦闘を停止し、武器を捨てよとな……。陛下の死を無駄にするわけにはいかない」

「はっ!」

 

アルデは最後の命令を下した。伝令は敬礼すると走り去った。

 

「……」

「……」

 

 地下室の中は沈黙に包まれた。

将軍たちは無言で下を向く。

 午後3時53分、地下司令部にいた最高司令部アルデや将軍たちは降伏した。

その後も、皇宮守備隊や皇国軍部隊も降伏。

午後4時10分には皇都防衛基地で最後まで抵抗を続けていた第23魔導砲兵大隊も降伏した。

 こうして、パーパルディア皇国との戦争は終結したのだった。



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戦後

 中央暦1640年5月3日 神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパスのとある酒場。

 

 今日は週1回の「世界のニュース」が放送される日であった。

そのニュースを楽しみにしている人々が集まる中、水晶体の画面が光り、司会の男が口を開いた。

 

「えー、皆さんこんにちは。今週の『世界のニュース』の時間となりました。本日は第三文明圏より、パーパルディア皇国に関するニュースをお送りしたいと思います」

『パーパルディア皇国、無条件降伏』

 

 画面にテロップが表示され、アナウンサーが説明を始めた。

 

「4月28日から5月1日の4日間にかけて、パーパルディア皇国の首都エストシラントでは激しい市街戦が繰り広げられました。その結果、市街地はほぼ全域が制圧され、皇宮は陥落しました」

 

 アナウンサーの後ろのスクリーンに赤旗を掲げられたパラディス城が映し出される。

パーパルディア皇国の降伏調印式の映像が流れた後、アナウンサーの説明が続く。

放送が終わると、商人や酔っ払いがワイワイと話し始める。

 

「いやあ、一時はどうなるかと思ったけどね」

「これで平和になるといいんだがなぁ……」

 

◆◆◆

 

 神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス、帝国情報局の局長室。

部屋の主である情報局長アルネウスは頭を悩ませていた。

 

「困ったことになったものだ……」

 

 彼は呟いた。

列強パーパルディア皇国が、文明圏外国のロデニウス連合に敗北したのだ。

これは彼にとって衝撃的事実であった。

 

「まさか、文明圏外国の国家がこれほどの実力を持っていたとは……」

 

 アルネウスは顎に手を当てて考え込む。

列強国が文明圏外国に敗れたのは2回目である。

今回のロデニウス連合と少し前に現れたグラ・バルカス帝国の件は、彼の脳裏に深く刻み込まれた。

まだ、正式な報告書は上がってきていないものの、ロデニウス連合については、既に報告を受けていた。

特に、グラ・バルカス帝国は謎だらけの国であり、今後、何らかの対応を考えなければならないだろう。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合、トラック泊地。

ムー国の技術士官・マイラスは新聞を眺めながら、コーヒーを飲んでいる。

見出しには「パーパルディア皇国、ついに無条件降伏」と書かれている。

 

「やはりか……。ま、当然の結果だな。あんな魔法のような兵器があるんじゃ勝てるはずがない」

 

 彼はこの前、本で見た第二次大戦期の兵器を思い出した。

そして、ロデニウス連合から技術を学ぶため今日も本を片手に研究を始めるのだった。

 

◆◆◆

 

 数日後の神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス、帝国情報局。

アルネウスの元に一人の局員が駆け込んできた。

 

「アルネウス様! 大変です!」

 

 彼は息を切らしている。

 

「何事かね?」

 

 アルネウスは冷静に対応する。

 

「パーパルディア皇国、皇都エストシラントで撮影された写真が届きました」

「見せてくれ」

 

 局員が部屋に案内した。そこには、大量の写真が置かれている。

彼はそのうちの一つを手に取った。

 

「こ、これは……!」

 

 そこに写っていたのは、ムーの飛行機械と天の浮舟を足して二で割ったような天の浮舟の姿があった。

これだけでも頭をスレッジハンマーでぶん殴られる程の衝撃である。

別の写真を手にとって見る。

 

「な、なんだこの化け物は!?」

 

 アルネウスは思わず叫んだ。

 

 それは、自動車のような乗り物に大砲を乗せた陸戦兵器の写真だった。

 

「恐らく、ムーの戦車と呼ばれる兵器でしょう」

「これが、戦車か……」

 

 その日、アルネウスと局員らは徹夜で調査を続けた。

 

◆◆◆

 

 グラ・バルカス帝国、情報局技術部。

情報技官ナグアノは頭を抱えていた。

原因はパーパルディア皇国に送り込んだ諜報員からの報告だった。

ロデニウス連合は最低でも帝国と同等の技術力があることが確定してしまった。

 

「これは……ロデニウス連合に諜報員を送り込むしかないな」

 

 彼はそう結論付けた。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合本土。

本土の各地にある港に輸送船が入港していた。

その船は、陸軍兵士を満載しており、パーパルディア皇国本土で戦ってきた部隊だった。

彼らは戦闘によって疲弊していたが、無事に帰還を果たしていた。

 

「やっと帰って来れた……」

 

 多くの兵士が安堵の声を上げる。

 

「帰ったぞ~」

 

 そんな声と共に、ロデニウス連合陸軍の兵士たちが続々と上陸する。

大勢の一般市民たちが彼らを出迎える。

恋人や家族、友人など、彼らを待つ人々は大勢いた。中には涙を流す者もいる。

 

「よかった……本当によかった……」

「生きて帰ってきたんだな……」

 

 ある者は無事を喜び合い、またある者は戦死した者への追悼を行う。

 

◆◆◆

 

 一方、パーパルディア皇国、聖都パールネウス

パールネウス地方は非攻撃地域に指定された地域であり、難民はこの地に流れ込んでいた。

 この地方の名前の由来となった聖都パールネウスでは、戦後処理が進められていた。

皇帝ルディアスが自殺し、皇位継承戦に敗れていた共和制派の「ミルミオン」が新皇帝に即位。

「パーパルディア皇国」から「神聖パールネウス共和国」へと国名を変更した。

独立できない元属領は神聖パールネウス共和国の領土として組み込まれることとなった。

元属領の人々に好き放題していた統治職員らは裁判にかけられ、全員処刑されることとなった。

元アルタラス駐在大使カストもその一人であり、アルタラス王国に身を送られ極刑となった。

 

◆◆◆

 

 アルタラス王国 王都ル・ブリアス、アテノール城地下室。

元アルタラス駐在大使カストは地下牢に幽閉されていた。

 

「ちくしょう! なんで俺がこんな目に……」

 

 彼は石の壁に向かって愚痴る。

彼の前に、木の棒を持った兵士たちが現れた。

兵士は地下牢の鍵を開け、中に入る。

 

「この木の棒はロデニウス連合海軍から貰ったものでな……。新兵の教育に使われたものだそうだ」

 

 その棒には「軍人精神注入棒」という文字が書かれている。

 

「おい、やめろ!! 何をする気だ!!」

 

 カストは叫ぶ。

 

「はいじゃあケツ出せ!」

 

 その言葉と同時に、兵士に強引に向きを変えられ、尻を突き出させられる。

 

 

「ひいっ!」

「よし、じゃあぶちこんでやるぜ!」

 

 そして、バチンッ! という音とともに、カストは絶叫を上げた。

 

「ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!」

 

 その叫びは、地上まで届いたという。

その後彼は4日間、精神注入棒でシバかれた後、処刑された。



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荒れる世界
平和なひと時


 中央暦1640年5月10日 ???

 

「よし、あと少しで……」

 

 山の頂上付近で男が作業をしている。

男の名はダクシルド。

アニュンリール皇国の政府機関の役人である。

 

「よし(適当)」

 

 彼は作業を終えると、機械を作動させた。

すると、風が吹き始める。そして黒い光の柱が立ち上った。

 

「うわぁっ!」

 

 男は慌てて飛び退く。

やがて、風は止み、黒き柱も消えた。

 

「……成功したのか?」

 

 恐る恐る近寄ると、そこには生物のような何かが存在していた。

 

「やったぞ、成功だ」

 

 男は歓喜の声を上げる。

その生物の身長は3.5m程。全身が黒く角が生えており、どう見ても人間とは思えなかった。

 

「忌々しい勇者共め……我をこんな結界に閉じ込めおって……」

 

 その生物は魔王ノスグーラ。

かつて、全世界を支配した古の魔法帝国の生物兵器である。

「勇者パーティー」と呼ばれる魔王討伐隊との戦いの末、封印されていたが、時間の経過と共に弱くなってきた封印魔法を破り、復活を果たしたのだ。

 

「ん?誰だお前は」

 

 ノスグーラは男に気づく。

 

「俺はダクシルド。この私がお前を復活させたんだ。お前の創造神である古の魔法帝国の光翼人の末裔だ」

「グワーッハッハッハッハ! 貴様が魔帝様の末裔だと!? 面白い冗談を言うではないか!」

 

 ノスグーラは大声で笑う。

 

「何だと!」

 

 感謝されるかと期待していたダクシルドは激怒した。

 

「そもそも貴様の翼は実体化しているだろうが。嘘をつくならもっとマシなことを言うんだな! グワーッハッハッハッハ!」

 

 ダクシルドのプライドはズタズタに引き裂かれる。

 

「こいつ……調子に乗りやがって……」

「まあいい、お前はその辺の雑魚とは違うようだな。我の気が変わる前に立ち去るがいい」

「畜生めー!」

 

 怒り心頭のダクシルドは、山から降りて行った。

 

「ふん、つまらん奴だった」

 

 そう言って、ノスグーラは空を見上げる。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合、トラック泊地。

パーパルディア皇国との戦争が終わり、平和な日が訪れていた。

哨戒任務、艦娘同士の演習、訓練……。

いつもと変わりない日々が続いている。

 ドックではある潜水艦娘の大規模改装が行われていた。

鋼材をクレーンで持ち上げ、妖精さんが溶接する。

突然、クレーンで運んでいた鋼材がけたたましい音と共に落下した。

幸いにも巻き込まれた者はいない。

 

「またですか……」

 

 工作艦「明石」は溜息をついた。

 

「すみません、本当に申し訳ありません……」

 

 クレーンを操作していた妖精さんが頭を下げる。

 

「まあ仕方がないですけどね……。それで、原因はなんでしょうか」

「それが、原因不明でして……最近よく起こるんです」

「困りましたねぇ……。原因がわからなければ対策も立てられないし……」

 

 明石は腕を組む。

 

「はい、そうなんですよ」

 

 妖精さんたちは、疲れ切った表情をしていた。

この潜水艦とその周りでは不可解な現象が起こっている。

 例えば、乗組員が1人多かったり、艦内や甲板にその1人が居たり……。

ロデニウス連合海軍の対潜訓練の際、浮上航行中に発見して、報告のため3秒ほど目を離した隙に消えたり、甲板に一人の男が立っていたこともあった。

 そして極めつけは、補給作業中に突然、魚雷が爆発する事故が起こったことだ。

 

「う~ん……」

 

 明石は頭を悩ませる。

すでに何人かの妖精さんたちが、精神を病んで休んでいる状態だ。

このまま放っておくわけにはいかない。

 

「ちょっと、提督に相談しますかね……」

 

 彼女は、この奇妙な現象の原因を突き止めるため、動くことにした。

 

◆◆◆

 

「というわけで、提督の知恵をお借りしたいのですが」

 

 明石は、執務室へ来ていた。

 

「ふむ……」

 

 提督は難しい顔をしている。

 

「俺の予想だが、これは『幽霊』じゃないかと思うんだよなぁ」

「ゆっ、ゆうれい?」

「ああ、ほら、たまに聞くだろ? 夜中になると、誰かが廊下を歩いている音が聞こえてくるとか、そういう話」

 

 幽霊のせいにしてしまえば、全て説明がつくのだ。

だが、その娘の前世である史実の出来事が影響しているのかもしれない。

 

「確かにそれは……あり得るかもしれません」

「だろ? じゃあ、その娘に聞いてみるか」

「はい。そうですね」

 

 2人はさっそく、潜水艦娘の寮へと向かった。

潜水艦娘達の寮は2階建てになっており、1階は日本艦で2階はドイツ艦となっている。

 

「ここか?」

 

 提督と明石は、2階の左側の部屋にたどり着いた。

ドアの横には表札があり、潜水艦娘の名前が書かれている。

 

「U-65」

「U-181」

「U-505」

「U-511」

「U-534」

がこの部屋を使っている。

提督はドアをノックをする。

 

「どうぞ……」

 

 返事があった。

 

「失礼するよ」

 

 提督と明石は部屋に入る。

部屋の左側にはベッドが並び、右側には本棚とタンス、中央には大きめのテーブルが置かれている。

突然、ドアが勢いよく閉まる。

 

「なっ!?」

 

 明石は驚いて振り返る。

 

「大丈夫だよ。ただのいたずらだから……」

「はぁ……」

 

 1人の少女が、答える。

彼女はU-65。白に近い銀色の髪に赤色の目をしている。

目にはハイライトがなく、まるで幽霊のような雰囲気だった。

 

「工事、終わった……?」

「えーっと、そのことなんだけど……」

 

 明石は事情を説明する。

 

「だって……リヒター……」

 

 U-65は、左側の壁に向かって話しかけた。

提督と明石に寒気が走る。

だがU-181、U-505、U-511、U-534は特に気にした様子はない。

 

「リヒターって誰なんです?」

 

 明石が尋ねる。

 

「知らん」

 

 提督は首を横に振った。

 

「リヒター……そこにいるよ……」

 

 そう言ってU-65は左側の壁を指差す。

提督と明石は確かに見た。1人の男の影を。

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!」(高音)

「ひぃっ!」

 

 2人は思わず悲鳴を上げて、部屋を飛び出した。

 

「ど、どういうことだ!?」

「わ、わかりません! でも確かにいました!」

 

 2人は混乱していた。

 

「落ち着け……。そうだ、こういう時は素数を数えるんだ……。 2、3、5、7、11……」

「落ち着いてください、提督」

 

 提督は素数を数えて気持ちを静める。

 

「とりあえず、あの男の正体を突き止めましょう」

「そうするか……。よし、部屋に戻るぞ」

 

 2人は提督室へ戻った。

そしてパソコンを立ち上げ、ブラウザを開き、「u65 潜水艦」と検索する。

すると、あるサイトが表示された。

 

『呪われた潜水艦』

 

というタイトルのページだ。

 

「うげぇ……」

 

 明石は、嫌そうな声を出す。

 

「まあ、見てみよう」

 

 そのページを開く。

U-65は元々、第一次世界大戦時にドイツ軍が建造した潜水艦、UB-65だった。

道理で他のUボートより古かったわけだ。

UB-65は建造時から不可解な現象に悩まされていた。

 

「これだな……」

 

提督は次の文章を読む。

・UB-65は補給作業中に、突然魚雷が爆発する事故が発生し、乗組員5名が死亡。その中にはリヒターという名の二等航海士が含まれていた。

・その後、リヒターの姿を見かけたという報告が後を絶たなかった。

 

「なるほど、これが原因か……」

「う~ん、なんとも言えませんね……」

「そうだなぁ……。これはちょっと手には負えないかもしれない」

「ですね……」

 

 UB-65は悪魔祓いの儀式が行われたものの、効果はなかった。

結局、解決策を見つけることはできず、そのままにしておくことになった。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合のとある空軍基地。

 

「今日は新しい機体が届いたので、紹介する」

 

パイロット達は、格納庫前へ来ていた。

 

「こちらです!」

 

 格納庫の扉が開かれ、中から飛行機が出てくる。

 

「「「おおっ……!」」」

 

 パイロット達からは歓声が上がる。

銀色に輝く、美しいフォルムの戦闘機がそこにはあった。

P-51マスタング。アメリカ製の戦闘機である。

 

「どうですか? かっこいいでしょう?」

 

 整備員が自慢気に言う。

 

「ああ、最高だよ」

「こいつは凄いぜ……」

「早く乗りたいな」

 

 パイロット達が口々に感想を言う。

乗りこなすため、P-51の説明を聞くのであった。

 

◆◆◆

 

 5月14日 第二文明圏、ムー国のとある空軍基地。

 

「これよりロデニウス連合空軍の全金属製、単発単葉機の試験飛行を始めます」

 

 滑走路では1機の航空機が離陸の準備をしていた。

その機体は九六式艦上戦闘機。ムーが研究のため設計図と数機を購入した。

 

「テイクオフ!」

 

 その言葉とともに、エンジンが轟音を響かせながら、徐々に速度を上げていく。

やがて、その機は大空へと飛び立った。

 

「おぉ……」

 

 それを見ていた技術者や「マリン」のパイロットは感嘆の声を上げる。

マリンの翼を一枚にして飛ばしたことがあるが、安定性が悪くすぐに墜落してしまった。

だが、この九六式艦上戦闘機は非常に安定して飛んでいる。

技術者たちは単発単葉機の研究に全力で取り組むのであった。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合、ハークライト基地。

 

 ムー国の技術士官・マイラスは、ある戦闘機を眺めていた。

スーパーマリン スピットファイア。イギリス空軍で運用され、イギリスをドイツ空軍から救った「救国戦闘機」と言われている機体だ。

 

「うーむ、素晴らしい……」

 

 彼はスピットファイアをじっくりと観察していた。

スーパーマリンという名前を聞いた時、彼はピンと来たのだ。

これは今の主力戦闘機「マリン」の後継機に成り得る存在だと。

 

「これは是非とも開発したいものだ……」

 

 彼の心の中でメラメラと炎が上がった。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合、クワ・トイネ州にある名誉囚人収容施設。

 

 この名誉囚人収容施設はもともと貴族が建てた城であり、現在は収容所として利用されていた。

収容所には旧パーパルディア皇国軍の司令官や高級将校などが収監されており、ロデニウス軍の監視下に置かれていた。

その中には旧皇軍最高司令官アルデの姿もあった。

 

「……」

 

 彼は無言のまま、窓の外を見つめている。

ここは城の最上階であるため景色が良く見える。

外は快晴だ。鳥たちが楽しげに飛び回っているのが見える。

 ロデニウス連合軍に降伏してからというもの、連合軍の真実に気づき、自分の愚かさに気づいた。

ムーの兵器の何十年先を行っているかのような先進的な装備の数々。皇国とロデニウス連合の力の差は歴然だった。

 収容所に収容されると聞いた時は、不安に思ったが悪くない。

皇国の収容所は酷いところだ。食事は残飯のような物で、看守もろくな奴がいない。

毎日のように殴られたり蹴られたりし、ストレス発散のためにサンドバッグ代わりにされる。

だが、ロデニウス連合の収容所は違う。

食事はきちんと出るし、暴力を振るわれることもない。

この収容所は名誉囚人を収監していることもあり、生活環境は非常に恵まれてた。

書物室(図書室)では自由に本を読むことができるし、運動できるスペースもある。

そして何より、飯が美味い。

一流のシェフが作るのもあってロデニウス連合の料理は、今まで食べたことがないほどに美味い。

捕虜にこのような待遇を与えるとは、ロデニウス連合という国は寛大な国家なのだと思った。



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世界情勢v1

お久しぶりです


 中央暦1640年6月2日第二文明圏。

 

 数年前、突然現れたグラ・バルカス帝国は「第八帝国」と名乗り、第二文明圏西方国家群を瞬く間に征服した。

 その後、パガンダ王国と列強第五位のレイフォルに侵攻。ムー大陸西方海域海戦と呼ばれる海戦では、戦艦「グレードアトラスター」1隻でレイフォル艦隊43隻を全滅させ、全世界にその名を轟かせた。

第八帝国の次の標的になったのは、イルネティア王国だった。

 

◆◆◆

 

「では、はっきりとお伝えしよう。交渉で相手を見下すような貴様らのような無礼者と交渉する気はない。さっさと帰るがいい!」

 

 イルネティア王国国王イルティス13世は、そう言い放つと椅子から立ち上がった。

 

「本性を現したな。よし、確かに答えは聞いた。宣戦布告をする! 貴国の無条件降伏か滅亡まで戦い続けるが良い!」

 

 グラ・バルカス帝国の外交官、ダラスは声高々に宣言すると、部屋から出て行った。

帝国は要求を拒否したイルネティア王国に宣戦布告。

 宣戦布告後の帝国軍の動きは速かった。

スペクトル型四発爆撃機やベガ型双発爆撃機、空母機動部隊の艦載機約500機がイルネティア王国の各地に空襲を行った。

竜騎士団が迎撃に上がったが、帝国軍の誇るアンタレス型艦上戦闘機の前には無力であった。

 さらに、帝国艦隊がイルネティア島を包囲。戦列艦、客船、商船を片っ端から撃沈していった。

その翌日には、帝国陸軍がイルネティア島に押し寄せた。

戦車部隊と艦載機の航空支援によって、イルネティア軍は次々と撃破され、1週間後には全土が制圧された。

 そして、イルネティア王家の一族は捕らえられて処刑される事になった。

 

◆◆◆

 

「グラ・バルカス帝国ですか……」

 

 ロデニウス連合、トラック泊地でムー国の技術士官・マイラスと会談していた提督は呟いた。

 

「はい。第二文明圏の西側に突然現れ、侵略戦争を始めているのです。既に数十の国家が滅ぼされています」

 

 マイラスはそう言うと、諜報員が撮影したグラ・バルカス帝国の兵器の写真を見せた。

 

「これは……!?」

 

 写真を見た提督は絶句した。

そこに写っていたのは、大和型戦艦に似た巨大戦艦だったからだ。

しかし、それだけではない。

零式艦上戦闘機や三式中戦車に似た兵器も写っているのだ。

 

(これはとんでもないことになるぞ)

 

 提督はその瞬間、直感的に理解していた。この世界において、かつてない規模の大戦になるだろうという事を。

 

「グラ・バルカス帝国……。一体何なんだ?」

 

◆◆◆

 

 ちょっと時が進んで6月25日。

 

 ムー統括軍司令部は大騒ぎになっていた。

なんせ、ムー軍随一の技術士官であるマイラスがまとめ上げた報告書には、驚愕すべき内容が書かれていたからである。

 ロデニウス連合軍の戦車やら航空機やら艦艇やらが、キチガイじみた性能を持っているという内容だ。

ムー統括軍の上層部は、これを信じるか信じないかで揉めた。

だが、実際にムー国の技術士官が調べた結果なのだから、信じざるを得ないというのが結論になった。

さらにグラ・バルカス帝国の脅威を実感しているため、彼らの報告を信じないわけがなかった。

 

「ロデニウス連合と同盟を結ぶべきです」

 

 マイラスはそう主張した。

この主張はかなりの論争を巻き起こし、最終的に賛成多数で可決された。

 

◆◆◆

 

 中央暦1640年10月30日

 

 第三文明圏がある、フィルアデス大陸の北東部にはトーパ王国が存在する。

さらに北東部に行くとグラメウス大陸が広がっており、魔物が多数生息しているため、未開の地となっている。

グラメウス大陸との境界には「世界の扉」と呼ばれる巨大な壁があり、魔物の侵入を防いでいる。

 

◆◆◆

 

 その日もいつもと同じように、「世界の扉」で非常勤の傭兵として雇われたガイは、共に勤務している正規兵のモアとグラメウス大陸の監視に当たっている。

 

「今日は何事もなければいいんだがなあ」

「ああ、そうだな」

 

 二人はそんなことを話しながら、監視任務を行っていた。

その時だった。

 

コオォォォォ……コオオォォォ……

 

背筋が凍るような音が聞こえてきた。

 

「おい、何か変な音しないか?」

「ああ、俺にも聞こえるぜ」

「まさかとは思うけどよぉ……」

 

 二人はグラメウス大陸の方向に目を向ける。

雪が積もった真っ白い大地が少しずつ黒くなっていく。

そしてそれはすぐに視界いっぱいに広がった。

 

「な、何だよありゃぁ!!」

「おい!あれ全部魔物だぞ!!どうなってんだよ!」

 

 大地を覆いつくすほどの魔物の大群がこちらに向かってきていた。

 

「バカな!!伝説の魔獣レッドオーガにブルーオーガ、しかもゴウルアスもいやがるじゃねえか!!!」

 

二人の顔から血の気が引いていた。神話に出てきた、最強の怪物たち。

それが今目の前にいるのだ。

 

「通信兵!!司令部に繋げ!」

「は、はい!」

 

 ロデニウス連合から購入した無線機に通信兵が飛びつき、緊急回線を開く。

 

「緊急事態発生! 緊急事態発生!現在、魔物の大軍が『世界の扉』に迫っております! 至急救援を要請します!」

 

通信兵は必死にマイクに叫ぶ。

 

「う……嘘だろ……。赤竜と魔王ノスグーラまで居やがる……」

「馬鹿な!何であんなのがここに居るんだよ!?」

 

 通信兵も必死で魔王の復活を知らせている。

守備隊の兵力は僅か300名ほど。

とてもではないが、敵を押しとどめる事などできない。

 

「モア! お前の知識は魔物に精通している。今起きたことをトルメスの守備隊司令部に直接伝えてくれ」

 

 駆け付けてきた騎士長が、モアに指示を出す。

 

「し……しかし、私も共に……」

「行け!! ここで全滅したら全てが無駄になるんだぞ!!」

 

 騎士長はモアの背中を強く叩いた。

その勢いに押され、モアは走り出した。

ガイも護衛のためモアと共に走り、ロデニウス連合から購入したBMW・R75サイドカー付きオートバイに乗り、城塞都市トルメスに走った。

 

「撃てー!!」

 

 世界の扉の上に据え付けられた野砲が一斉に火を噴く。

大地を覆い尽くすほどのゴブリンの群れに向けて砲弾が次々と着弾する。

しかし、それでも敵の数は減らない。

それどころか、次々と後続が押し寄せてくるのだ。

 

「くそっ、ダメだ! 数が減ったように見えないぞ!」

「このままでは城壁が突破されるぞ!」

 

 その直後、ゴウルアスの放った爆裂魔法により、城門の一部が吹き飛ばされた。

そこから魔物たちが続々と侵入してくる。

 

「総員白兵戦用意! これ以上奴らを中に入れるな!」

 

 騎士長が命令を下す。それと同時に剣や槍を構えた兵士たちが、魔物の集団に立ち向かう。

だが、圧倒的な数の差を前に、数分で全滅してしまった。

 

◆◆◆

 

 一方、モアとガイは、トルメスの守備隊本部に辿り着くと、事情を説明していた。

 

「何だと? 魔王が復活したと?」

「はい。間違いありません。大地を埋め尽くすほどの魔物がこちらに向かっています。伝説の魔獣レッドオーガ1体とブルーオーガ1体、ゴウルアス1体と赤竜1体。

魔王ノスグーラの姿も確認しました」

「何ということだ……」

 

 守備隊司令官は頭を抱えた。

 

「守備隊5千の兵力の全力出撃でも足りん!通信兵!!」

「はい」

「王都に速報!『魔王ノスグーラ復活、国軍全力投入の必要あり』と送れ!」

「了解」

 

 通信兵は通信機のダイヤルを回した。

 

◆◆◆

 

 トーパ王国の王都ベルンゲン。

その王宮の一室で、国王ラドス16世を始めとして、重臣たちが集まっている。

 

「突然の復活だな……一体どういう事なのだ?」

「神話では、魔王は勇者4人のうち、3人の命を使用した封呪結界に封じ込められているとあります。この結界は、年が経つに連れて減衰していくとも。

恐らく、封印が弱まったか、何らかの要因によって結界が崩壊したかのいずれかでしょう」

 

 王立大学の教授が答える。

 

「どちらにせよ、放っておくわけにはいかぬな……」

「陛下、まずは軍の出動準備をさせましょう。それから、各国への援軍要請です。これはいかがいたしましょうか……」

 

 軍務大臣が意見具申を行う。

 

「うむ……。ロデニウス連合に救援を要請しろ。彼らなら何とかしてくれるだろう」

「はい、分かりました」

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合、トラック泊地。

 

「提督、国防省から緊急連絡です。『魔王復活のため、トーパ王国救援の必要がある』とのことです。どうされますか?」

「魔王か……ようやく異世界らしいことが起こったな……」

 

提督は腕組みをして考え込む。

 

「そうだな……。よし、行くぞ! 魔王退治に!」

 

 こうして、ロデニウス連合はトーパ王国救援作戦「神話の再現」を発動することになった。

 

 同じ頃、トーパ王国城塞都市トルメスの北東端にあるミナイサ地区が魔王軍の攻撃を受け、陥落寸前となっていた。

守備隊は奮戦したが、魔王軍の方が圧倒的に上であり、全滅も時間の問題であった。



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魔王戦前

 中央暦1640年11月3日トーパ王国、城塞都市トルメス

 

 傭兵ガイと騎士モアは間もなく到着するであろうロデニウス連合軍の案内役として、トルメスの南門の前で待っていた。

 

「なあモア、ロデニウス連合ってどんな連中なんだ?パーパルディア皇国を破ったくらいしか知らないんだが」

「無茶言うなよ。私だってよく知らんよ。ただ、噂によるとロデニウス連合は神聖ミリシアル帝国並みの軍事力を持っていると言われているぞ」

 

 2人が雑談をしていると、城壁の上から見張りの声が聞こえてきた。

 

「モア様、見えました! ロデニウス連合軍です!」

「おぉ、来たか!」

 

 2人が地平線の方を見ると、トーパ王国騎士たちに先導された一団が近づいてくるのが見えた。

 

「モア、あれがそうなのか?」

「ああ、多分そうだ」

 

ブオオオオオン……

 

 徐々に白色と深緑色が混じった何かが接近してくる。

先頭を行く騎士たちは顔色が悪い。

 

(何だ? あの化け物は?)

 

 戦車と呼ばれる兵器は、その圧倒的な存在感を持って、彼らの前に現れたのだった。

その一行は2人の前に到着すると停止した。

先導してきた騎士の1人が口を開く。

 

「こちらが、ロデニウス連合軍の方々だ。あとの案内を頼む」

「はっ」

 

 モアは敬礼をした。

その時、4つのタイヤのある乗り物から、2人の人が下りた。

1人は灰色っぽい服を身に纏っている。勲章がたくさん付いているところから見て、他の兵士より偉そうな感じがする。

もう一人はなんと女性である。長い銀色の髪に、琥珀色の瞳、左頬には傷が走っている。なかなか綺麗な人である。

派手な装飾はないのに、なぜか目を引く雰囲気がある。

 

(これが、ロデニウス連合王国の軍人たちなのか……)

 

 2人はモアたちの前まで来ると立ち止まった。

 

「ロデニウス連合から派遣されました、第1親衛戦車旅団指揮官、ミハイル・エフィーモヴィチ・カトゥコフと申します。よろしくお願いします」

 

「私はトーパ王国派遣艦隊指揮官、オクチャブリスカヤ・レヴォリューツィヤだ。長いからガングートでいいぞ」

「私はトーパ王国軍の騎士モアと申します。こちらはガイです。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

(こ、この人が……艦隊指揮官!? こんな若い女性なのにか!!)

 

 モアは内心驚愕した。

彼女は確かに若い女性に見えるが……これ以上喋ってはいけない。シベリアで木を数えるだけの日々を送る羽目になるかもしれない。

 ミハイルとガングートが車に乗り込むと、一行は門を潜り抜けてトルメス城へ向かう。

大通りを通ったため民衆が一行を見物しようと集まってきた。

その様子はまるで、凱旋パレードのようであった。

 

◆◆◆

 

 トルメス城に到着した一行は会議室へと通される。

トルメス城は中世ヨーロッパ風の城であり、この世界では標準的な様式である。

室内は質素な作りだが、掃除は行き届いており、清潔感があった。

 部屋の中央には大きな円卓があり、それを囲むように椅子が置かれている。

一人の男が立ち上がり、自己紹介を始めた。

 

「初めまして、私はトーパ王国軍、魔王討伐隊隊長アジズです。本日は遠路はるばるご苦労様でした」

「ありがとうございます。ロデニウス連合陸軍第1親衛戦車旅団指揮官、ミハイルです。よろしくお願いします」

「ロデニウス連合派遣艦隊指揮官、ガングートだ。よろしく頼む」

 

 2人はそれぞれ挨拶をする。

 

(((この女性が艦隊指揮官だと!!)))

 

 会議室に衝撃が走った。まさか女性とは思わなかったのだ。

 

「早速、戦況について説明させていただきたいと思います。よろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」

 

 アジズが地図を広げる。

 

「現在、魔王軍はミナイサ地区を占領しております。同地区には逃げ遅れた民間人が約600人取り残されています。魔物は人間の肉を好んで食べるため、放置しておけばいずれは全滅してしまうでしょう」

「我々も3回救出作戦を決行しましたが、すべて失敗しています。広場に繋がる大通りには必ずレッドオーガかブルーオーガのどちらかが陣取っていて、突破することができません」

「なるほど……」

 

 副騎士団長が言い足した後、ミハイルは腕を組んで考え始めた。

 

 会議は数十分続いた後、一時休憩となった。

その時。

 

ドガァッ!!

 

 黒い生物らしきものが1体、窓の板戸をぶち破って入ってきた。

それは、漆黒の翼を生やした人間のような姿をしていた。

 

「何者だ!!」

 

 護衛の兵士が叫ぶと同時に、剣を抜いて斬りかかる。

しかし、その兵士は空中へ吹き飛ばされた。そして壁に叩きつけられる。

 

「ぐはぁっ!」

 

バキッ! ボコッ! グシャッ!ゴリッ!!

 

 どんな魔法かは知らないが、兵士たちが次々と倒されていく。

モアは、すぐにその生物の正体を掴んだ。

 

「魔王の側近、マラストラス!」

「何だって!?」

 

 侵入してきたのは魔王ノスグーラの側近とされる、魔族マラストラスだった。

彼は背中から生えているコウモリに似た翼を羽ばたかせながら、部屋の中心に着地する。

 

「ホホホ……人間の大将を討ち取るために、我が出向かねばならぬとはな。永き時を経て、ずいぶんと進化したようだな、人間よ」

 

マラストラスはアジズに真っ黒い右の掌を向けた。

 

「死ねぃ!!」

 

右手に魔力が集まり、空間が歪んだと思うと、黒い炎が現れた。

 

「させるか!」

 

 副騎士団長が叫び、剣を振りかざして突進する。

その炎は、副騎士隊長に直撃した。

 

「うわああああっ!!!」

 

 黒煙を上げながら倒れる副騎士団長。

彼の身体は、まるで炭のように黒くなっていた。

 

「フン……小賢しい真似をする奴らめ」

 

マラストラスが吐き捨てるように言うと、今度はアジズに向かって手を向ける。

 

「死ねぇっ!!」

 

先程と同じように右手に魔力が集まる。

 

「させんぞ!」

 

 ガングートがトカレフTT-33拳銃を発砲した。銃弾が、マラストラスの右腕を貫通する。

 

「ぬおっ……!」

 

 マラストラスは苦痛の声を上げると、後ろに下がった。

 

「貴様らは下がれ。ここは私が引き受ける」

 

 ガングートはアジズたちに下がるよう促すと、空になったマガジンを交換。再び構えて照準を合わせる。

 

「フハハッ! たかが人間がこの私と戦うつもりか? 笑止千万だ!」

 

 そう言って、マラストラスは左の手を広げた。

すると、左手にも黒い炎が現れる。

ガングートはトカレフTT-33を撃つと見せかけて、PPSh-41に持ち替える。

そして、躊躇なく引き金を引いた。

 

ダラララララッ!!

 

「ぐおおぉっ!?」

 

 連続して発射された7.62mmトカレフ弾が、マラストラスの全身を貫いた。

71発もの弾丸を撃ち尽くした時には、既にマラストラスは息絶えて床に倒れていた。

床には大量の空薬莢とどす黒い血が広がっている。

 トーパ王国軍の騎士たちは、あまりの出来事に呆然としていた。

魔王の側近であるマラストラスを倒したのだから、当然といえば当然の反応だろう。

トーパ王国は寒い地域であるため、航空戦力であるワイバーンが生息できない。

そのため、空を飛びながら魔法を撃ってくるマラストラスには苦労させられた。

こいつ1体のせいで、何度撤退を余儀なくされたことか。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ミハイルは、アジズたちの方を向いて声をかけた。

 

「え……えぇ……なんとか……」

「まさか、魔王の側近をたった一人で倒すなんて……」

 

 トーパ王国軍の騎士たちは、目の前で起きたことが信じられない様子だった。

 

その後、部屋を変えて作戦会議が再開された。

 

「まずは、ミナイサ地区にいる民間人を救出しましょう」

「問題は、レッドオーガとブルーオーガです。力が非常に強く、生半可な攻撃では倒せません。それに、彼らは常に広場を巡回しているため、迂闊に近づくことができません」

 

 提案に対して、モアが問題点を指摘する。

 

「私の考えている作戦は、水道から広場に突入しようと思うのですが……」

 

 アジズが提案したのは、水道を通って広場の噴水から侵入するという方法だ。

だが、この作戦は囮が必要になる。

 

「では、我々が囮になって注意を引きつけます。強力な大砲を乗せた車があるので、囮役なら問題ありません」

 

 ミハイルは自信ありげに言った。

 

「おお、左様か! それならば心強い!」

「お任せください!」

 

 早速作戦を実行するための準備が始まった。



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魔王戦中

中央暦1640年11月5日

 

 ミナイサ地区で飯屋を営んでいたエルフ族のエレイは、恐怖に怯えていた。

 

(もう嫌……早く終わって……お願い……)

 

 彼女は、祈るように目を閉じている。

城塞都市トルメスの北端・ミナイサ地区は、突然の魔王軍の侵攻によって陥落。逃げ遅れた約600人の民間人は魔王軍に捕らえられ、学校や大講堂などに監禁されていた。

魔物が交替で見張っているため、逃げ出すことは不可能である。

 

それでも逃げようとした者はいたが、いずれも捕らえられて殺された。

「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアア!」

 

 今日も一人、逃げようとした者が捕まり、皆が見ている前で料理された。

その男は悲鳴を上げながら調理されていき、やがて動かなくなった。

 神様がいるのなら、どうか私たちを助けて欲しい。

そう思いながらも、エレイは何もできずにいた。

そこへ、また魔物たちがやってきた。

 

「ええと、今日の肉は、お前と……」

 

 皆に緊張が走る。

 

「あっ、おい待てぃ(江戸っ子)」

「魔王様が、今日はあっさりしたものがいいと仰られた」

「じゃ、今日は野菜をメインにして肉は少なめにすればいいんだな」

「そうだ」

「じゃあ……お前な」

 

 魔物が掴んだのは、エレイの腕だった。

 

「いやああぁっ!!」

 

腕を引っ張られ、無理矢理立たされる。

 

「助けてぇぇぇぇ!!」

「暴れるなよ・・・暴れるな・・・」

 

 必死に抵抗するが無駄だった。

そのまま引っ張られて連れて行かれそうになる。

その時。

 

ドガァアン!!ドガァアン!!

 

大講堂の壁の向こうから、何かが爆発するような音が聞こえてきた。

 

「なんだ!?」

「何の音だ!?」

「見てこい!」

 

 見張りをしていた2体のゴブリンが音のした方へ走っていく。

すると、入れ替わるように別のゴブリンがやってきた。

 

「大変だ!人間どもが攻め込んできたぞ!」

 

 先ほどの爆発音は、ISU-152が遠慮なしに発砲し、榴弾が炸裂した音である。

それを聞きつけた魔物は、音の方向に走って行った。

レッドオーガも例外ではない。

 

「撃て!」

 

 号令一下、DP28軽機関銃やモシン・ナガンM1891/30を撃った。

 

「グギャッ!」

 

 猛烈な弾幕を浴び、魔物たちは次々と倒れていく。

 

「来たぞ!レッドオーガだ!」

「撃てぇーっ!!」

 

 さらに、IS-2の122mm砲が火を噴いた。

砲弾はレッドオーガの腹に命中し、そのまま曲がり角の家に命中して爆発する。

真っ二つになったレッドオーガは、その場に倒れた。

 ロデニウス連合軍が魔物たちの注意を惹き付けている間に、トーパ王国軍は水道を使って、広場の真下へ到着した。

 

「よし、行くぞ!」

 

 モアの合図で噴水から飛び出て、近くの魔物を切り刻む。

 

「全く……敵地のど真ん中に飛び出すなんて頭おかしいんじゃないか」

 

 そう呟きながら、ガイは目の前の敵を切り裂いた。

ゴブリンども切り刻みながら大講堂や学校などに監禁された民間人らを救出していく。

 

「よ、よお……エレイ。大丈夫か?」

 

 幼馴染みの姿を見つけ、ガイは声をかけた。

 

「うぅん……なんとかね」

「俺が来たからにはもう安心だぜ!魔王軍なんざ、この剣でぶった切ってやる!」

 

 ガイは、エレイの店にもよく食べに来てくれていた。

付き合って欲しいと告白されたが、丁重にお断りしている。「傭兵」という職業上、安定した収入が望めないからだ。

 

「エレイさん、大丈夫ですか?」

 

 彼女の視線は自然とガイの後ろへ向いた。

 

「も、モア様!私のために来てくださったのですね! エレイ、カ・ン・ゲ・キ!」

「……」

 

 救われない傭兵ガイであった。

生き残っていた民間人を全員救出した連合部隊は、民間人を護衛しながらトルメス城まで帰還するだけだ。

 

「皆、よくやった! あと少しだ!」

 

 何とか、トーパ王国軍騎士団本隊と合流した時だった。

 

グゥオォォォォォッ!!

 

 凄まじい咆哮が響き渡った。

 

「まずい、オークとブルーオーガだ!」

 

 絶望的な空気が流れる。

オークも難敵であり、騎士10人が同時にかかって1体倒せるかどうかといったところだ。

 

「撃て!」

 

ソ連兵(妖精)がDP28軽機関銃やモシン・ナガンM1891/30を撃ちまくる。

だが、オークは倒せてもブルーオーガは参った様子がなかった。

 

「手榴弾!」

 

手榴弾が投げられ、爆発が起きる。しかし、それでも効いている様子はない。

彼らの頭上を1人の少年が飛び越えた。

 

「喰らえ!」

 

 少年は、弓で狙いをつける。

そして、矢を放った。

放たれた矢は、見事にブルーオーガの目を射抜いた。

 

グアアアッ!!

 

 ブルーオーガは叫びながら地面に倒れる。

すかさず、もう片方の目を矢が貫いた。

痛みで暴れ回っているブルーオーガの片目を射抜くなんて、とんでもない腕の持ち主である。

 

「すげえ……」

 

 その光景を見て、思わず呟いていた。

こんな子供が、あんな怪物を無力化したのか?

 

「今のうちに逃げろ!」

 

 トーパ王国軍は急いで民間人を逃がす。

両目を潰されて、痛みのあまり地面でもがくブルーオーガ。

そこにIS-2の122mm砲が撃ち込まれた。

 

「これで終わりだ!」

 

 1発の砲弾が、正確にブルーオーガの頭を吹っ飛ばした。

 

「やったぞ!」

 

 歓声が上がる。

その後、連合部隊はトルメス城に一度帰還してからミナイサ地区に再び進撃した。

ミナイサ地区から魔物を駆逐し、奪還に成功する。

 

 一方そのころ、魔王軍の本陣では……

 

「レッドオーガとブルーオーガが人間どもに倒されただと!?」

 

 魔王ノスグーラがコウモリからの報告を聞き、叫んだ。

 

「おのれ!下種共がぁっ!!」

 

 怒り狂う魔王。

 

「こうなれば、あれを使うしかないな」

 

 そう言って人間狩りの準備をするよう配下に命じると、自らも出陣するため玉座から立ち上がった。



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魔王戦後

 中央暦1640年11月6日 早朝

 

 ミナイサ地区の解放にひと段落がつき、トーパ王国軍とロデニウス連合陸軍第1親衛戦車旅団の隊員たちは、朝食を摂っていた。

突如として緊急事態を知らせる鐘が鳴り響いたのはその時だった。

さらに緊急魔信放送が響き渡る。

 

『こちらトーパ王国軍司令部、ミナイサ地区に魔物の大群が迫っている!総員、至急戦闘配置につけ!』

「なんだって?」

 

 食事中だった隊員たちが騒然とする。

 

「まさか……」

「とにかく、俺たちも戦う準備をしなくちゃ」

「そうだな」

 

 隊員たちは慌てて、走りだす。

数十分後。

 

「嘘……だろ?」

 

 彼らは信じられない光景を目の当たりにしていた。

ゴブリンやオークなど魔物だけでなく、機械のような人型兵器まで迫ってきているのだ。

 

「おいおい、冗談じゃないぜ!」

「何だよ……あの鉄の巨人みたいなのは?」

「知らんよ!俺に聞くんじゃねえ!」

 

そんなことを言い合っているうちに、敵の第一陣が彼らの元へ辿り着く。

 

「来るぞ!応戦しろ!」

 

 弓兵が一斉に矢を放つ。

だが、人型兵器は何事もないように前進してくる。

 

「ダメだ!全然効いてない!」

「魔法攻撃も試してみてくれ!」

 

 何人かの魔法使いが火球を飛ばす。しかし、これも全く効果がない。

 

「化け物め!」

「ちくしょう!」

 

 悪態をつくものの、敵が近づいてくる以上どうしようもない。

 

「仕方ない、後退するぞ!」

 

 騎士団が前に出て、彼らを援護した。

人型兵器が拳を叩きつけると、その衝撃波で騎士団は吹き飛ばされる。

 

「ぐわあっ!」

「ぎゃあああ!!」

 

 悲鳴を上げながら、何人もの騎士が宙を舞った。

 

「なんて威力だ!」

「気をつけろ!奴ら、とんでもない強さだ!」

 

 トーパ王国軍は必死に抵抗するも、次々と倒されていく。

 

「この野郎ぉっ!!」

 

剣を持った騎士が斬りかかる。しかし、人型兵器は片腕で軽々と受け止めた。

そのまま腕を振り回し、叩き付ける。

グシャッ!! 骨が砕ける音が響き渡った。

 

「あ……」

 

声にならない叫びをあげながら、ぺしゃんこになった騎士は倒れる。

 

「逃げろーっ!!」

 

 恐怖で動けなくなったトーパ王国軍の兵士は、我先にと逃げ出した。

それを追撃しようとする人型兵器だったが、突然爆散する。

 

「!?」

 

 上空には、飛行機械が飛んでいた。

それが大砲のようなものを撃ちまくっているのである。

 

「あれは、飛行機か?」

 

 トーパ王国の兵士が呟く。

やがて、飛行機は飛び去っていった。

 

「遅くなった!」

 

 今度は黒いローブを着用し、金環を頭に載せた集団が城壁の上に立つ。

 

「あ……あれは!」

「王宮戦闘魔導隊!」

 

 トーパ王国が誇る、古の勇者すらも凌駕すると言われた魔導の超エリート部隊である。

 

「魔王軍どもよ!貴様らはここで全滅する運命なのだ!」

 

 隊長らしき人物が叫ぶ。

 

「行くぞ!」

 

 そして、10名の大魔導士が詠唱を始めた。

 

〈大海より出でしその姿は虚ろ、岩より重く月より軽い、声なき叫びが大樹を穿つ。貧食の翁に供物をささげよ、花嫁は英雄を産むだろう〉

 

「「「ライトニング・テンペスト!!!」」」

 

 呪文が完成すると同時に、強烈な竜巻が発生した。

それは魔物を巻き込みつつ、凄まじい勢いで空へと昇っていく。さらに強力な雷雲を発生させ、落雷が降り注いだ。

トーパ王国軍の兵士は歓喜した。

 

「やったぞ!」

「さすがだぜ!魔王軍の雑魚どもがゴミのようだ!」

「これで終わりだな!」

 

 しかし、彼らの希望はすぐに打ち破られることになる。

 

「馬鹿なっ!」

「どうして生きているんだ?」

 

 荒れ狂っていた嵐が止むと、そこには不気味な化け物と魔王が立っていた。

 

「フハハハッ!人間ごときがよくやるではないか」

 

 笑いながら現れた魔王ノスグーラを見て、兵士たちは愕然とした。

魔王ノスグーラは王宮戦闘魔導隊に手をかざし呪文を唱える。

その手の先から、黒い炎が噴き出し、形を変え翼を広げた鳥の形になっていく。

 

「……行け!ダークフェニックス!」

 

 その言葉とともに、漆黒の鳥が放たれ、王宮戦闘魔導隊を襲った。

 

「うわぁあああっ!」

「ぐあああああっ!」

 

 10人の大魔道士は灰も残らずに消え去り、城壁の一部は高温で溶けている。

 

「そんな……バカな……」

「嘘だろ?」

「あんなの勝てるわけないじゃないか」

 

 絶望に包まれるトーパ王国軍。

その時、ロデニウス連合軍の戦車が咆哮を上げた。

 

◆◆◆

 

(しかし、レッドオーガやブルーオーガがやられたのは想定外だったな。我が眠っている間に下種どもは力を増していたのか)

 

 王宮戦闘魔導隊を一瞬で全滅させた魔王ノスグーラは考えた。

 

(まあいい、魔帝様の最新兵器が奴らを殲滅してくれるはずだ)

 

 そう考え、彼は視線を移す。

 

「ん?」

 

 視線の先では城門がちょうど開いたところだった。

城門の中から現れた「もの」には見覚えがあった。

 

「あれは……ま……まさか!た……た、太陽神の……太陽神の使いの鉄竜!?」

 

 ノスグーラの顔色が変わり、冷や汗が流れる。忘れるはずがない。

フィルアデス大陸を制圧し、ロデニウス大陸ももう一息で手中に収められるというところで現れた謎の軍隊。

エルフどもは「太陽神の使い」と呼んでいた。奴らよって魔王軍は甚大な被害を受けたのだ。

 

「汝よ、奴らを殺せ!」

 

 ノスグーラの命令に従い、不気味な化け物が動き出す。

 

「バカな!なぜ奴らがここにいるんだ!?」

 

 第1親衛戦車旅団、第2中戦車中隊の中隊長が叫んだ。

目の前にいる敵を見間違えるはずがない。どう見ても深海棲艦の陸上戦力である。

 

「全車停止!」

 

 中隊長の指示により、全車両が停止する。

 

「撃てぇっ!」

 

 号令と共に、85㎜砲が火を吹き、榴弾が発射された。

着弾と同時に爆発が起こり、煙が晴れると敵の姿が見えた。

 

「何!?」

 

 しかし、そこにいたのは無傷の化け物であった。陸上型深海棲艦は砲撃など意にも介さず、こちらに向かってくる。

 

「榴弾じゃダメか。目標変更、弾種徹甲弾!」

 

 再び砲弾が撃ち出された。今度は手前の深海棲艦の戦車に直撃する。

 

「よしっ!」

「やったぞ!」

 

 命中箇所は車体正面であり、気色悪い戦車を1両撃破した。

味方も次々と攻撃を開始し、さらに3両が撃破される。

 

「後方より友軍機です」

 

 通信手が言った。

上空からIl-2とJu87が飛来し、爆撃を開始する。爆弾が投下され、4体の陸上型深海棲艦が倒れた。

爆炎の中から魔王ノスグーラが50mほどの高さまで飛び上がる。そして、魔法の詠唱を開始する。

 

「あれが魔王か……37㎜砲が効くかな?」

 

 1機だけのJu87G型を操縦する、空の魔王ルーデルは呟いた。

 

「喰らえっ!魔王め!」

 

 ルーデルは37㎜砲の発射ボタンを押した。

旧式のJu87に無理やり乗せた、2門の37㎜砲が火を噴き、徹甲弾が次々と魔王ノスグーラに襲い掛かる。

 

「ぐおおおっ!」

 

 その衝撃でノスグーラは吹き飛ばされ、そのまま地面に叩きつけらた。

ルーデルは機体を旋回させながら、魔王の様子を確認する。

 

「やったか!?」

「まだ生きてますよ!!」

「チッ、しぶといな」

 

 相棒のガーデルマンが叫ぶ。

 

「ならばもう一撃だ!もう一度いくぞ!」

 

 そう言ってルーデルは魔王に向けて照準を合わせ、発射ボタンを押した。

だが、魔王は防御魔法を展開させたらしく、その身体に傷一つついていない。

 ガチンという音と共に37㎜砲の弾が切れた。

 

◆◆◆

 

 地上では地面に叩きつけらた魔王ノスグーラの追撃が行われていた。

矢から 12.7mm機銃、迫撃砲に至るまでありったけの火力を叩きつける。

 

「ぐおぉっ!」

 

 ノスグーラはダメージを受けながらも反撃を試みる。だが、攻撃も激しさを増し、85㎜砲まで撃ち込まれ始めたため、それもままならない。

 

「このまま押し込め!」

 

 兵士たちの怒号が響く中、猛獣ハンターが動いた。

122mm砲がゆっくりと魔王に狙いをつける。

 

「……撃て」

 

 次の瞬間、轟音が響き渡り、防御魔法に命中。爆発が起こった。

 

「やったか?」

 

 兵士の一人が声を上げる。

爆煙の中から現れたのはボロボロになった防御魔法を展開する魔王ノスグーラだった。

 

「バカな!?」

「なんて奴だ……」

 

 誰もが驚愕する。

今度は152㎜砲が動き出した。砲身を魔王に向ける。

 

「撃て!」

 

 号令一下、152mm砲弾が放たれた。

パンターの正面装甲すらぶち抜ける砲弾が、ノスグーラを襲う。

 

「ぬうぅっ!」

 

 魔王は必死で防御魔法を展開し、それを防ごうとする。

しかし、ついに限界が訪れた。

魔王を守っていた魔力の壁はガラスのように砕かれ、砲弾が直撃する。

 

「がああぁっ!」

 

 ノスグーラは悲鳴を上げ、頭と胴体が切断された。

 

「やったぞ!」

「魔王を倒した!」

「ざまあみろ!」

 

 歓声が上がる。

 

「いや、待て」

 

 歓喜の声の中、誰かが言った。

 

「あれを見ろ!」

 

 全員が視線を向ける。

そこには、頭だけが宙に浮いている魔王ノスグーラの姿があった。

 

「何だと!?」

 

 驚愕の表情を浮かべる。

 

「おのれぇぇぇ……太陽神の使いめぇぇぇ! 一度ならず、二度までも我が野望を打ち砕きおってぇぇ!!

よく聞け、下種どもよ!! 近いうちに、魔帝様の国が復活なさる! お前たち下種どもの世界も終わりだ!! 圧倒的な魔帝様の力によって、お前らのような下種は1人残らず魔帝様の奴隷と化すだろう!! 今から心しておくが良い! ハーッハッハッハ……」

 

 笑い声が次第に小さくなっていき、やがて石化して砂となった。そして、頭部を失ったノスグーラの身体も徐々に崩れ落ち、やがて完全に消滅した。

 

「た、倒しちまった……」

 

 傭兵ガイは、目の前で起きた事が信じられず呆然としていた。

そして、それは彼だけではない。他の仲間も同じであった。

魔王を倒すなど、誰も想像していなかったのだ。

 魔王ノスグーラを討ち取られた魔物たちは、グラメウス大陸へ逃げ帰っていった。

 

◆◆◆

 

 その日の夜、魔物の死体やらを片付けていた兵士たちはトルメス城へ帰還すると、疲れ果てて泥の様に眠ってしまった。

 ガイとモアは部屋に戻る途中、ミハイルに会いう。

 

「そういえば、ガングートさんはどうしたんだ?」

「あー、彼女はベルンゲン沖に緊急展開して、警戒に当たっているよ」

「そうなのか? 大変だな」

 

 そんな会話をしながら二人は自分たちの部屋に戻ってきた。

幸いにも別働隊による奇襲攻撃はなく、ガングートは翌日に戻ってきた。

モアはベッドに腰掛けると、大きく息を吐いた。

 

「今日は色々あったなぁ」

 

 そう言って、モアは今日の出来事を思い返した。



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世界情勢v2

 中央暦1640年11月11日、第一文明圏(中央世界) 神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス。

 

 ルーンポリスの一角にある帝国情報局の庁舎の一室で、二人の男が話をしている。

一人は情報局長のアルネウス。もう一人は、ライドルカ。

 

「……これは、本当のことなのか?」

「はい、間違いありません」

「なんということだ……」

 

 アルネウスは報告書を見ながら、頭を抱える。

ライドルカはトーパ王国での一件を報告に来たのだが、その内容は彼の予想を大きく上回るものだった。

 

「まさかロデニウス連合がこれほどの力を持っていたとは……」

 

 彼は痛む胃を抑えながら呟いた。

 

「それで、今後についてですが……」

「ロデニウスへの使節団の派遣か……外務局の連中が渋るだろうな」

「でしょうね。まあ、私が説得しますよ」

 

 ライドルカは自信ありげに言った。

 

「頼むぞ」

「ええ」

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合、トラック泊地執務室

 

 トーパ王国での報告書を読んでいた提督は、コーヒーの入ったカップを手に取ると口元へ持っていった。

が、その手は口元から数cm離れたところで止まった。

そして、飲まずに元の位置に戻した。

 

「あの、何か問題でも?」

 

 心配そうな表情を浮かべて、霧島が尋ねる。

 

「いや、なんでもない」

 

 提督はそう言うと、再び報告書を読み始めた。

しかし、先ほどまでと違い、顔は険しいままだ。

 

「大丈夫ですか? どこか具合が悪いとか……」

「いや、本当に何でもない」

 

 提督は首を横に振ると、もう一度カップに手を伸ばした。

 

(……やっぱり、飲む気にはなれないか)

 

 結局、提督はそのコーヒーを飲むことはなかった。

 

◆◆◆

 

 第二文明圏、ムー国、港湾都市マイカル。

 

今、新型戦艦の建造が行われている。

 

「これが我が海軍の新たなる力、カイザーライヒ級戦艦だ!」

建造中のカイザーライヒを後ろに、海軍大臣のマインホフ元帥が声高らかに宣言する。

「おおぉ!!」

 

 造船所に集まった技術者たちが歓声を上げる。

名前の由来は神話に登場する、ムーを未曾有の危機から救ったとされる大英雄の名から取ったものだ。

 この艦は全長200mを超える巨大戦艦であり、38cm砲を搭載する予定だ。

 

「国王もお喜びになるだろう!」

 

 マインホフは誇らしげに言った。

 

「はい! きっと、国王もこの艦の勇姿を見たなら、感涙されることでしょう! 必ずやその期待に応えてみせます!」

 

 造船技師長が興奮気味に答える。

 

「うむ! よろしく頼んだぞ!」

 

 マインホフは満足気に首肯した。

早ければ、来年には姉妹艦のケーニッヒと共に進水式を行う予定である。

 

(こいつが出撃することがなければいいんだがな)

 

 マインホフはそう思ったが、その願いは叶わなかった。

 

◆◆◆

 

 12月12日、ソナル王国。

 

 この国は、元々小国家群の集合体だったものが、中央政権の誕生によって統一され、1200年間続いているという歴史ある国家だ。ムー大陸中心部に位置する国であり、北西にグラ・バルカス帝国領レイフォル州と国境を接している。

 

 国境付近のとある農村。1人の農民が畑仕事をしていた。

すると、ヒュルルルルルヒュイーンという聞いたことのない音が聞こえてきた。

彼は何事かと思い空を見上げると、地面が爆発するような衝撃を受け、身体が宙を舞った。

そして、地面に叩きつけられると、そのまま意識を失った。

村のあちこちで爆発が起きている。村人たちの悲鳴が響き渡り、村は炎に包まれる。

 

「グ……グラ・バルカス帝国だー!」

 

 1人の青年が叫んだ。

グラ・バルカス帝国陸軍の戦車、装甲車、歩兵が村になだれ込んでくる。

たった数分で村を制圧すると、村人たちを拘束していった。

 そして、ソナル王国の深部まで進撃を始めた。

 

◆◆◆

 

 12月13日、ソナル王国首都。

 

「グラ・バルカス帝国が宣戦布告なしに我が国に侵攻してきました!」

 

 王宮の会議室に飛び込んできた兵士が叫ぶように報告する。

 

「なんだと!?」

「なぜこんなことに……」

「陛下をお守りしろ!」

 

 ソナル王国は絶望的な状況に追い込まれていた。

 

◆◆◆

 

 同時刻、グラ・バルカス帝国陸軍第23爆撃隊。

 

「あれがソナル王都か」

「はい、間違いありません」

 

 隊長の言葉に、副官が答えた。

彼らの視線の先には、大きな城壁に囲まれた都市があった。

 

「目標上空に到達し次第、攻撃を開始する」

 

彼らは「死の鳥」と呼ばれ、多くの人命を奪った。

 

「了解」

「さて、どんな死に様が見れるかな」

「楽しみですね」

「ああ。それじゃあ、そろそろ行くぞ」

「はっ」

 

 スペクトル型四発爆撃機の爆弾倉が開放される。

20機の爆撃機から投下された大量の250kg爆弾は、吸い込まれるようにしてソナル王国の首都へ着弾した。

 地上が紅蓮に染まり、轟音と衝撃波が大地を襲う。

 

「よし、任務完了だ。帰投する」

「了解」

 

 死の鳥たちは飛び去っていく。そして、ソナル王国に滅びの時が訪れた。

 

◆◆◆

 

 12月16日、ロデニウス連合、トラック泊地。

 

 提督は執務室で書類仕事に追われていた。

 

(やれやれ……最近、仕事が増えて大変だな)

 

 提督は心の中でぼやく。

彼の机には(提督からして)山のような報告書が積まれている。

気分転換に新聞を手に取り、目を通す。

 

『グラ・バルカス帝国、宣戦布告なしにソナル王国に侵攻』

 

 そんな見出しが躍っていた。

 

「ふむ……」

 

 開戦理由はよくわからない。しかし、ムー大陸にある国家が攻め込まれたということは確かだ。

 

(どうなることやら……)

 

 彼の予想では、おそらくこの世界は第二次世界大戦並みの戦火に見舞われることになるだろう。

 

◆◆◆

 

 12月24日、神聖ミリシアル帝国、帝都ルーンポリス

 

 帝国情報局に緊急報告がもたらされた。

それは、「ロデニウス連合とムーが、軍事同盟を締結した」というものだった。

 

「ムーが!?あの『永世中立』を謳っていたムーが、だと?」

 

 情報局長アルネウスが驚きの声を上げる。

 

「はい。先ほどムーから正式発表がありました」

「そうか……。わかった、下がってよいぞ」

「失礼します」

 

 情報局員が退室する。

 

「どういうことだ? 一体、何が起こっているのだ……」

 

 アルネウスは頭を抱えた。

 

 一方、ロデニウス連合のトラック泊地ではそんなことを気にせずに、クリスマスパーティーを楽しんでいた。

 ちなみに、ムーにもクリスマスはあるらしい。

 

(今年も無事に過ごせそうだな)

 

 提督はそう思いながら、グラスを傾けるのであった。



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世界最強国家来訪

 中央暦1641年1月15日。神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス、ゼノスグラム空港。

 

「これより出発します」

 

 総勢30名にも及ぶ使節団を乗せた天の浮舟「ゲルニカ35」が滑走路を滑走していく。

ゆっくりと機体が浮き上がり、そして高度を上げていく。

今回の派遣先はロデニウス連合である。

国交開設と来年の先進11ヶ国会議への参加要請、そして技術力の確認を行う予定だ。

 

「はぁ……」

 

 外交官の1人、フィアームはため息をついた。

 

「どうかされましたか?」

 

 その隣に座っている情報局員ライドルカが尋ねる。

 

「事前に説明は受けたが……中央世界の、世界一の国が自分から第三文明圏のさらに東の文明圏外国家に足を運ぶ、これが気に入らない」

「まあ……気持ちはわかりますよ」

「それに、この天の浮舟がきちんと着陸できる、滑走路があるのかが心配でね」

「滑走路については、ムーにもきちんと確認を行っているので大丈夫です」

「それならいいんだが……ロデニウス連合から来させるように工作くらいはして欲しいものだ」

 

 不安そうな表情を浮かべたまま、フィアームは窓の外を見つめた。

 

◆◆◆

 

 2日後の1月17日、ロデニウス大陸西方海上。

 

 雲1つ無い青い空を神聖ミリシアル帝国の天の浮舟「ゲルニカ35」が、2基の魔光呪発式空気圧縮放射エンジンから轟音を響かせつつ飛行していた。

 

「間もなく、ロデニウス連合の領空に入ります。なお、同国の戦闘機が2機、我が機を先導する予定となっております」

 

 機内放送が流れる。

 

「長かった!ようやく着きますね」

 ライドルカは座ったまま伸びをしながら言った。

 

「ああ、そうだな。もうちょっとで、東の果ての文明圏外国家を相手にしなければならないかと思うと、頭が痛いです」

 

 フィアームはため息をつく。

 

「まあまあ……向こうに着けば、少しは気分が変わるかもしれませんよ?」

「まあ、戦闘機が2機先導のために来るとのことですが、ワイバーンではなく戦闘機を持っていたこと自体が驚きですね」

「ええ、私もロデニウス連合がどのような戦闘機を持っているのか、非常に興味があります」

 

 通路を挟んで技官ベルーノは答える。

現在、ゲルニカ35は高度6000mを飛んでいる。ムーの戦闘機であれば、何とか飛べる高さだ。

 

「さて……そろそろ見えてくるはずですよ」

 

 窓から見える景色は一面の海だ。

その窓を一瞬、銀色の物体が横切った。

 

「なんだ、今のは……」

 

 フィアームが呟いた瞬間、すれ違った2つの銀色の物体はゲルニカ35の後ろで旋回すると、あっという間に追い付いて来た。

 

「おい、ライドルカ君、あれは何だい!?」

「いや、私にも何が何だか……」

 

 なにが起きているのかわからないまま、1つがゲルニカ35を追い越して先導にかかり、もう一つが真横に付く。

 

「あ……あれがロデニウスの戦闘機か!?」

 

 銀色の物体を航空機だと認識するのに数秒かかった。

 

「あれは……」

 

 フィアームは言葉を失った。

それは、想像していたムーの飛行機とは全く違う形状をしていた。

 

「なんて速さだ!『エルペシオ3』の速度を超えている!」

 

 ベルーノが叫ぶ。

 

「なんですか、あの機体は!?」

「見たこともない機体だ……。まさか、ムーの新兵器か?」

「いえ、あんなものは聞いたことがありません……」

 

 ロデニウス連合空軍の最新鋭戦闘機「P-51マスタング」の姿を見て、外交官たちは混乱するばかりであった。

 

◆◆◆

 

 戦闘機の護衛と先導を受けたゲルニカ35は無事にロデニウス連合首都クワトリングにある空港へ着陸した。

そして、空港では大勢の出迎えがあった。

多くの報道陣に囲まれ、音楽隊による歓迎演奏を受け、使節団はホテルへと案内された。

使節団一行はホテルの部屋へ入ると、大きく息を吐きながらソファーに身を沈めた。

 

「なんとか無事に着いてよかった……」

 

 ライドルカが安堵の声を漏らす。

 

「しかし、ロデニウス連合がここまで先進的な国だったとは……」

 

 フィアームは腕組みしながら言う。

 

「あの戦闘機は、ムーの最新型でしょうか?」

「いや、おそらくそうではないでしょう」

 

 ベルーノの質問に、軍務省軍務次官アルパナが答えた。

 

「どういうことでしょう?」

「まず、ムーの戦闘機であの高度まで上がるのは難しいです」

「確かに、ムーの航空機は高高度での性能は良くないようですからね」

「それに、あのスピードは明らかにムーの水準を大きく超えています。やはり、自国で開発したのでしょう」

「なるほど」

 

 ベルーノは納得したという表情を浮かべる。

 

 2時間後、ホテルの宴会場にて夕食を摂る。この日は、バイキング形式となっていた。

テーブルには様々な料理が並んでおり、好きなものを取って食べることができる。

 

「これは……凄いな」

 

 ライドルカが思わず声を上げる。

 

「本当に美味しいですね。ここに来て、これほどの食事にありつけるとは思いませんでした」

「ふむ、これはいい肉だ。舌の上で溶けるような感じだ」

「魚も新鮮でおいしいです」

「野菜も瑞々しいな」

「パンも良い香りがしますね」

「このワイン、とても上品な味で飲みやすいですよ」

「おお! 本当だ! 実に素晴らしい!」

 

 ロデニウス連合の食文化に、一同は満足していた。

 

「明日から、ロデニウスの外交官との交流か……」

 

 部屋に戻った外交官フィアームは、少しの不安を感じながらベッドに潜り込んだ。

 

◆◆◆

 

 翌日、一行は外交組と技術視察組に分かれて行動することになった。

外交組は外務省へ、視察組は港へ向かう。

外務省の建物はレンガ造りの立派な建物であり、中に入ると天井の高いホールになっていた。

そこで、大使たちと握手を交わす。

 

「我が国は貴国の来訪を心より歓迎いたします」

「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます」

 

 フィアームは挨拶を返した。

その後、大使館員に案内され、応接室へと向かう。

 

 港へ向かった視察組は、ロデニウス連合海軍の艦艇を見学していた。

巡洋艦、駆逐艦などが多数停泊している。

 

「あれは巡洋艦かな?」

「うーん……少し小さいような気がするが」

 

 ライドルカは巡洋艦らしき船体を見ながら首を傾げる。

 

「あの筒状の物体は何に使うのだろうか」

「さあ……? 私にもわかりません」

 

 ベルーノとアルパナは小型艦に搭載されている筒状の物体を見て疑問を口にする。

 

「あの大きさなら、砲弾でも積んでいるのでしょうか」

「どうだろうな……。まあ、我々が考えていても仕方ない。ロデニウスの軍艦を見られる機会は少ないからな。しっかりと見ておくことにしよう」

 

 ベルーノはそう言って、他の武官たちと共に小型艦の周囲を歩き始めた。

 

◆◆◆

 

 その日の夕方、使節団は再びホテルへと戻った。

 

「いやぁ……今日一日だけでかなり疲れましたよ」

 

 ベルーノがため息混じりに言った。

 

「全くだ。まさか、こんなにも文明レベルが高いとは思わなかった」

「えぇ、正直驚きの連続です」

「だが、明日はロデニウス連合の基地を訪問することになっている。そこが一番の楽しみだな」

「はい、どんなところなのか、今からワクワクしています」

「私も同じ気持ちだよ。では、そろそろ風呂に入って寝るとするか」

「はい。お休みなさい」

 

 ベルーノは笑顔で言うと、自分の部屋へと戻っていった。

 

◆◆◆

 

 神聖ミリシアル帝国の外交官らは、ロデニウス連合外務省幹部や外交官に「先進11ヶ国会議」についての説明をしていた。

出席者には、会議での必要事項や詳細が記載された資料が配布されている。

 

「……以上が、今回の『先進11ヵ国会議』についての概要となります」

 

 説明を終えた外交官が席に着く。

すると、外務副大臣が手を上げた。

 

「すみません。一つ質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

 

 外務副大臣は、少し緊張した面持ちで発言した。

 

「はい、どうぞ」

「前回の会議参加国の欄の第二文明圏のところに、『列強レイフォル国』という名前があります。この国は、グラ・バルカス帝国という国家に滅ぼされたと伺っていますが……」

「それは……レイフォルの抜けた席につきましては、現時点ではグラ・バルカス帝国を招待する方向で検討しています」

「なるほど……わかりました。ありがとうございます」

 

 外務副大臣は納得して着席した。

 

「開催まで僅か1年しかなく、会議に向けての準備期間が十分に無いかもしれないということについては、大変申し訳無く思っています。ですが、世界に大国として認識されることは、貴国としても悪いことではないと思います」

 

◆◆◆

 

 そして後日、ロデニウス連合は神聖ミリシアル帝国の開催する、先進11ヶ国会議に出席する事を正式決定した。



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不穏な影

 中央暦1641年1月20日。グラ・バルカス帝国領レイフォル州、州都レイフォリア。

 

 グラ・バルカス帝国にたった5日で降伏したレイフォルは、グラ・バルカス帝国の支配下に置かれていた。

そんな首都レイフォリアは帝国の手によって大きく変貌を遂げている。

道路は舗装され、自動車や路面電車が走り、建物の多くにはグラ・バルカス帝国の国旗が掲げられるようになっていた。

沖には帝国海軍の主力艦が停泊しており、上空には海軍航空隊のアンタレス07式艦上戦闘機が飛び交っている。

 少しでも帝国に逆らえば、帝国親衛隊に容赦なく殺される。レイフォリア市民たちは、怯えながら暮らしていた。

 もし、帝国に逆らうようなことをすればどうなるか? それは、レイフォル州のあちこちに建てられた強制収容所に入れられることになる。もしくは、街灯に吊るされて晒されることになるだろう。

 そんな中、レイフォリアにある外務局の出張所では。

 

「初めまして。私は、神聖ミリシアル帝国外務省、西部担当外交部長のシワルフと申します。この度、貴国から打診のあった先進11ヶ国会議への出席について、詳細をお伝えするために参りました」

 

 シワだらけの顔をした初老の男性──シワルフが、グラ・バルカス帝国の外交官ダラスに挨拶していた。

 

「これはどうもご丁寧に。あなた方現地人の技術でここまで来るのは、さぞ大変だったことでしょう」

 

 ダラスは、丁寧な口調で答えた。だが、言葉の端々に相手を小馬鹿にした響きが含まれている。

 

「……『中央世界』か、大層な名前ですな。して、結果はどうなりましたでしょうか?」

「はい。我が神聖ミリシアル帝国は、列強レイフォルに代わって貴国の参加を認めることとします」

「クックック……ハッハッハハ……。いや、失礼失礼。我が国の戦艦たったの1隻に降伏したレイフォルが列強国とは、笑わせてくれますね」

 

 ダラスは、わざとらしく笑い声を上げるとそう言った。

 

「弱小国家が文明圏内国家に虚勢を張った場面は、何回も目にしてきましたが、中央世界の神聖ミリシアル帝国の外交官に対してこのような態度を取る国は、初めてです。その勇気は認めましょう」

 

 シワルフは苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「少し鼻が伸びているようですが、我が国やムーを舐めてもらっては困りますな。レイフォルと同じだと思っていると、痛い目に遭いますよ」

「ご忠告ありがとうございます。皇帝陛下にお伝えいたします」

 

 シワルフは、ダラスにそう告げた。

 

「会議に先立って確認を行いたいのですが、貴国の本国の位置と、首都を教えていただけますか」

「本国の位置は、現地人に対しては極秘事項です。首都の位置も、教えるわけにはいきませんね。帝国への連絡事項があれば、ここレイフォル地区で受け付けます」

「国同士のやり取りでそれでは、お話になりませんな。今後、会議参加について不明な点があれば、神聖ミリシアル帝国まで足を運んでいただきたい。そこで対応させていただきます」

 

 グラ・バルカス帝国の姿勢に、使節団の面々は嫌悪感を抱きながらも帰路に付いたのだった。

 

◆◆◆

 

 そして数日後。

 

「計画は順調かね?」

「はっ! 予定通りに進んでおります!」

 

 ここは、グラ・バルカス帝国帝都ラグナ。

 

「ふむ。『先進11ヵ国会議』で全世界に宣戦布告を行う。準備をしておいてくれたまえ」

「はっ!」

「あと、侵攻作戦の準備も進めておくように」

「了解しました!」

 

◆◆◆

 

 ムー国、キールセキ西部の空洞山脈東端から50km東にある工業都市兼鉄道都市。

キールセキにある軍事工場では、新型戦車と航空機の生産が行われていた。㎜

 

「おお…………」

「こいつは凄いな……」

 

 工場で働く労働者たちが見つめる先には、2両の車両が鎮座している。

新型国産戦車「チャリオット2」である。

「チャリオット1」より大型化された車体に、75㎜砲を搭載する。さらに7.92㎜機関銃を2挺搭載し、装甲も強化された。

最高速度時速35kmで走行するこの車両は、ムー国が誇る最新鋭車両であった。

 

「素晴らしい出来栄えですね」

「はい。この分であれば、来月には量産体制に入れるでしょう」

「楽しみですな」

 

 視察に訪れた技術者の言葉を聞き、工場の管理者が笑顔を浮かべる。

 

「しかしまあ、こんなに早く完成するとは思いませんでした。ロデニウス連合の技術というのは優秀なんですねぇ」

「ええ。彼らの協力がなければ、これほど短期間に生産ラインを整えることはできませんでした」

 

 そんな会話をしながら、彼らは工場内を見て回るのだった。

 

◆◆◆

 

 ロデニウス連合のとある町。

 

 数台の軍用トラックが町の大通りを走る。

荷台には武装親衛隊(妖精)が数十人乗っていた。

 大通りを抜け、町のはずれにある建物の前で止まる。

隊員らが降りて、ドアをノックした。

そして中から人が出てくる。

 

「これはこれは。ようこそ、いらっしゃいました。ささ、どうぞこちらへ」

 

 建物の主らしき人物に案内されるも、親衛隊隊長は拒否する。

 

「このあたりで不審な電文を受信した。調べさせてもらうぞ」

「そ、それは……なんのことでしょうか?」

「とぼけるな。我々が来た以上、言い逃れはできない」

「とんだ誤解です。私は魔法の研究をしているだけです。それが影響して……」

「そうか、なら仕方ない。部屋の隅々まで調べるんだ」

「はい、分かりました」

 

 親衛隊隊長の命令で親衛隊員が動き出す。

家具や絵画をどかし隅々を調べる。

グラ・バルカス帝国の諜報員は、隠し部屋が見つからないように祈っているが、親衛隊員の手慣れた手つきを見て焦りだす。

 

「本当に知らないのです。どうか、お許しください」

「黙れ! 貴様のような怪しい奴を放置しておくわけにはいかない」

 

 その時だ。

 

「ありました!地下室への扉です!」

 

 親衛隊員の一人が叫んだ。

タンスをどかし、絨毯をめくり、床板を外すとそこには地下へと続く階段があった。

 

「やはりな……おい、こいつらを拘束しろ!」

「Verstanden!」

 

 こうしてグラ・バルカス帝国の諜報員、4人は全員捕まった。

さらに、エニグマに似た暗号機が発見されたため、グラ・バルカス帝国の暗号が解読されてしまうことになった。



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未知なる地

 中央暦1641年2月13日。ロデニウス連合トラック泊地。

 

「グラメウス大陸の調査?」

「ああ、そうだ」

「だが、グラメウス大陸には魔物しか住んでいないんじゃなかったのか?」

「その通りだ。だが、魔王討伐作戦において深海棲艦が出現したように、グラメウスにも何かあるのではないかという意見が出てな」

「それで調査ってわけか」

「そういうことだ」

 

 執務室で提督と話しているのは長門だ。

 

「しかし、グラメウス大陸は魔物の巣窟なんだろ? 危険じゃないのか?」

「もちろん、それなりの戦力を用意するつもりだ」

「それなりね……。まあいいか。とにかく、了解したよ」

「ありがとう。頼んだよ」

「任せてくれ」

 

◆◆◆

 

翌日。

 

 グラメウス大陸へ向かう調査隊の面々は、準備を済ませ港に集まっていた。

 

「では、これよりグラメウス大陸へ向けて出発する!」

 

 提督の号令のもと、艦隊は出港する。

 

そして数日後。

 

 トーパ王国の「世界の扉」前に、調査隊一行は到着した。

 

「この扉の向こうにグラメウス大陸があるのですね」

「はい。ここから先は危険な地域となりますので、十分注意するようにお願いします」

「わかりました」

「この門を潜ればグラメウス大陸となる。皆、気を引き締めるように」

「はっ!」

「了解しました!」

「うむ。行くぞ」

 

 そして、一行は「世界の扉」を潜り抜け、グラメウス大陸へ足を踏み入れる。

 

◆◆◆

 

「ここが、グラメウス大陸ですか……」

「酷い有様ですね……」

 

 調査隊は辺りを見回す。

荒れ果てた大地、ところどころに転がる岩、草木は一本たりとも生えていない。

まさに死の世界といった様相である。

 

「これは確かに、魔物の一匹や二匹出てきてもおかしくありませんね」

「油断するなよ」

「分かっています」

「しかし、何も見つかりませんねぇ」

「もう少し奥の方まで行ってみましょう」

「そうだな」

 

 彼らはさらに先へ進む。

 

「ん……あれは……」

 

 一人の兵士が遠くに何かを見つけたようだ。

 

「どうした?」

「あそこに何かあります」

「本当か!? よし、行こう」

 

 彼らは兵士が発見した場所へと向かう。

そこには、何かの建物らしきものがあった。

 

「これは……遺跡でしょうか?」

「おそらくそうだろう」

「中に入ってみよう」

 

 そして彼らは、建物の中へ入っていった。

 

◆◆◆

 

 建物の中には、ロボットのようなものがいくつか置いてあった。

 

「こいつは……遺〇守衛?」

 

ぱっと見は某オープンワールド・アクションロールプレイングゲームに登場する遺〇守衛に似ている。

 

「古の魔法帝国の遺物でしょうか?」

「かもしれません。ですが、こんなものが何故ここに……」

 

 同行しているトーパ王国軍の兵士が呟く。

 

「とりあえず、写真を撮っておきましょう」

 

 撮影係の兵士により、写真が取られる。

 

「他には何か無いか探してみましょう」

「分かりました」

 

 こうして、調査隊が建物を探索すること数時間。

特に目ぼしいものは見つからなかった。

 だが、一つだけ奇妙なものが見つかった。

それは、駆逐イ級に似た何かが描かれている石板だった。

 

「これは……?」

「なんでしょう?」

「さぁ?」

 

 トーパ王国軍兵士たちは首を傾げる。

 

「深海棲艦と関係があるのか?」

「どうなんでしょうね」

「深海棲艦は古の魔法帝国が生み出した兵器かもしれない。研究施設などがあれば調べてみたいが……」

「そう簡単に見つかるとは思えませんが……」

「仕方ない。一度戻ろう」

 

 彼らはいったん遺跡から出る。そして、調査隊の本部へと戻った。

 

◆◆◆

 

 それから数日間、調査隊はグラメウス大陸を捜索した。

しかし、めぼしい発見はなかった。

魔物と数回戦闘になった程度である。

 

「やはり、ここには何もないようですね」

 

 だが、彼らが想像していない事態が待ち受けていた。

 

◆◆◆

 

「ふぅ……今日も良い天気だな」

 

 ある日の提督は、調査隊の本部で仕事をしていた。

そこへ、長門がやってきた。

 

「提督、ちょっといいか?」

「ああ、構わないよ」

「実は、妙なものが見つかってな」

「妙なもの?」

「ああ。これを見てくれ」

「分かった」

 

 そして提督は、長門が持ってきた写真を目にする。

 

「ここだ」

「これは……?」

 

 提督は目の前にあるものに困惑する。

 

「何に見える?」

「駆逐イ級?」

 

 提督は、その絵に描かれているものとよく似たものを知っていた。

深海棲艦と呼ばれる謎の生命体。その深海棲艦の駆逐イ級そっくりなのだ。

 

「なぜこれが?ここは異世界のはずだろ?まさか、転移してきたというのか?ならもっと早く気付くはずじゃ……」

 

 提督は頭を抱えながらブツブツと独り言をつぶやく。

 

「提督?大丈夫か?」

「ん……あ、ああ。すまない。少し考え事をしていてな」

「そうか。まあいい。トーパ王国軍の兵士が言うには、古の魔法帝国のものらしい」

「古の魔法帝国?」

「なんでも、一万数千年前に全世界を支配した超大国だそうだ。今は大陸ごとどこかへ逃げたとか……」

「なるほど……。で、そいつらが残したものだって言いたいわけか?」

「そういうことだ」

「そうなると、古の魔法帝国が深海棲艦を生み出した元凶なのか?」

「断定はできないが、可能性はあると思う」

「そうか……」

 

 提督は難しい顔をしながら、その写真を眺める。

 

(古の魔法帝国が深海棲艦を作ったとして、地球に現れた理由はなんだ?)

 

 彼は思考を巡らせる。

 

「どう思う?」

「正直、判断材料が少ないな。ただ、古の魔法帝国は警戒するべき相手だろう」

「そうだな。では、このことを本国へ報告しよう」

「頼むよ」

 

 こうしてグラメウス大陸の調査は終わりを迎えた。

しかし、この先に戦いが迫っていることを彼らはまだ知らない。



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異世界での戦い

 中央暦1641年4月19日、トーパ王国。

 

 グラメウス大陸の調査を終えた調査隊は、帰還のためトーパ王国の王都ベルンゲンに集結した。

一か月間調査した成果としては、古の魔法帝国のものと思われる遺跡を発見したことくらいである。

 また、調査の過程で魔物との戦闘も何度かあった。

だが、大きな被害もなく撃退に成功している。

いよいよ調査隊が帰還するという前日。事件は起きた。

 

◆◆◆

 

 トーパ王国北東海域で訓練中の王国海軍第二艦隊の旗艦にて。

 

「艦長!大変です!」

 

 一人の兵士が艦橋に駆け込んできた。

 

「どうした?」

「正体不明の怪物が接近中とのことです」

「なに!?」

 

 兵士の報告に艦長は驚く。

 

「数は?」

「およそ20」

「多いな……」

「どうしますか?」

「決まっているだろ。敵の正体を確かめるんだ」

「了解しました」

 

◆◆◆

 

 同時刻、トーパ王国海軍第二艦隊から50km地点。

そこには、異形の怪物たちがいた。

人間のような姿をしているが、肌は白く軍艦の装備らしきものを身に着けている。

 それらは、深海棲艦と呼ばれる存在だった。

その数はおよそ20体ほどである。

 

「アァ……テキ……ミナゴロシ……」

「コロス……ゼンイン……コロス……」

 

 深海棲艦たちは殺意に満ちた目で王国海軍第二艦隊へ向かう。

 

「なんなんだこいつらは?」

「分かりません」

「とにかく、戦闘準備だ」

「はい」

 

 こうして、異世界で初めて深海棲艦との海戦が幕を開ける。

 

◆◆◆

 

数分後、戦闘が始まった。

 

「砲撃開始!」

「撃ち方始め!!」

 

 トーパ王国海軍第二艦隊の戦列艦が一斉に火を噴く。

轟音とともに砲弾が発射される。数秒後、水柱がいくつも立った。

そして、いくつかは見事に命中した。

 

「よしっ!」

「やりましたね」

「このまま押し切るぞ」

 

 だが、それは叶わなかった。

 

「なっ……!?」

「な、何だと!?」

「無傷……だと?」

「ばかな……直撃だぞ?」

「効いてないのか……?」

 

 艦砲の直撃を受けてなお、深海棲艦は平然としている。

 

「まさか……こいつら不死身か?」

「そんな馬鹿な……ありえない」

「なら、もう一度だ」

 

 再び一斉攻撃が行われる。

しかし、結果は変わらなかった。

 今度は深海棲艦の反撃が始まる。

駆逐艦型の深海棲艦の主砲が火を噴き、複数の艦が被弾する。

 

ドガァァァンッ!!

 

 爆発音が響き渡り、戦列艦が一撃で沈没する。

戦列艦だった木材やパーツが海面に浮かぶ。

 

「なんて威力……」

「化け物め……」

「怯むな!奴らを近づけさせるな」

「はい!」

 

 艦隊は果敢に立ち向かう。しかし、戦力差がありすぎた。

徐々に劣勢へと追い込まれていく。

そして、旗艦にも魔の手が伸びようとしていた。

 

「海中から何かが来ます」

「何だ?」

 

 直後、旗艦は大爆発を起こした。

魚雷によって魔導砲の砲弾が誘爆したのである。

旗艦にいた乗組員のほとんどは蒸発してしまった。

旗艦を失ったことで艦隊の統制が取れなくなり、全滅して終わった。

 この世界において初めて深海棲艦と人類の戦いが行われた瞬間であった。

 

◆◆◆

 

 それから数時間後、トーパ王国、王都ベルンゲン。

 

「第二艦隊との連絡が途絶えた?」

 

 提督は、宿で長門から報告を受けていた。

 

「ああ。つい先ほど王国海軍の兵が報告に来た」

「そうか……」

「それと、艦隊との連絡が途絶える前、人型の化け物と遭遇戦になったらしい」

「人型?それって……」

「おそらくな」

「……」

 

 提督は黙り込む。

人型の化け物。言うまでもなく深海棲艦のことである。

 

「艦隊にいつでも出撃できるよう待機命令を出してくれ。加賀に偵察機を飛ばしてもらうように頼むのを忘れずに」

「分かった。すぐに手配しよう」

「頼む」

 

 長門は部屋を出て行った。

彼はこれから起こるであろう戦いについて考え始めた。

 

◆◆◆

 

 翌日。

 

 トーパ王国軍は昨日の事件により警戒態勢を取っていた。

そのため、王都ベルンゲンにはピリついた空気が流れる。

ロデニウス連合海軍泊地艦隊、調査隊護衛艦隊からも「彩雲」や「零式水上偵察機11型乙」が飛び立ち、周辺の海域を警戒していた。

 そんな中、戦艦「長門」の21号対空電探改二が反応を示した。

 

「ん……これは……!?」

「どうした?」

「敵の反応だ。艦隊から方位0-3-0、距離130km。数は40以上」

「やはり来たか……」

「どうする?」

「もちろん迎撃さ。長門、艦隊に通信を繋いでくれ」

「了解」

 

◆◆◆

 

 トーパ王国海軍第二艦隊を全滅させた深海棲艦たちは、そのまま王都ベルンゲンへ進撃していた。

空母ヲ級flagshipが艦載機を発艦させ、地上を攻撃する。

制空権を確保するためだ。

 さらに、重巡リ級eliteや軽巡ホ級flagship、駆逐イ級が続く。

深海棲艦艦載機が編隊を組み、ベルンゲンへ向かっている。

攻撃隊は、一直線に進む。

 その先の上空には「加賀」から飛び立った「烈風 一一型」の姿があった。

その数は20機。零戦の後継機として設計された機体である。

 

「行くぞ」

 

 隊長機が合図を送る。

そして、一気に急降下を開始した。

20㎜機関砲をぶっ放し、その勢いのまま敵編隊を突っ切る。

深海棲艦戦も烈風の後を追おうとするが、速度が違いすぎるため振り切られてしまう。

 敵味方が入り乱れての戦闘が繰り広げられている。

深海棲艦戦は烈風に食らいつくことができない。

逆に、烈風の攻撃を食らってしまう。

一方的な戦闘が続いた。

 

 それもそのはず、「加賀」の妖精パイロットは練度が桁違いなのだ。

対深海棲艦戦争の初期から実戦を経験してきたベテランばかりなのである。

そんな彼らにとって、この程度の相手など雑魚以外の何物でもないのだ。

 一方、深海棲艦爆と深海棲艦攻はというと……

調査隊護衛艦隊の猛烈な対空砲火を浴びていた。

 

「ビッグ7の力、侮るなよ」

 

 長門は笑みを浮かべながら、主砲を放つ。

第八駆逐隊の朝潮、大潮、満潮、荒潮、もそれに続く。

彼女たちの主砲も次々と火を噴き、12.7cm連装砲が砲弾を吐き出す。

主砲に負けじと、25㎜機銃も火を噴き続ける。

 だが、数が多すぎた。

撃ち漏らした敵機が市街地へ侵入する。

 

「まずい!」

 

 深海棲艦爆が攻撃態勢に移ろうとしたその時だった。

緑色の物体が深海棲艦爆撃を襲う。

それは、加賀の「烈風 一一型」であった。

 

「みんな優秀な子たちですから」

 

 加賀は涼しい顔で言った。

深海棲艦の攻撃隊はあまりの損害率に撤退した。

その後、加賀はすぐさま攻撃隊を発艦させる。

攻撃隊の群れが空の彼方へと消えていく。

深海棲艦の位置はすでに把握している。

 

◆◆◆

 

 数時間後。

 

 加賀攻撃隊による反撃が始まっていた。

 

「敵艦隊見ゆ!」

「全機突撃せよ!」

 

 合図と共に攻撃隊は二手に分かれる。

「彗星一二型甲」が高空を、「流星改(熟練)」が低空を飛行する。

 深海棲艦戦が迎撃に向かうが、「烈風 一一型」によって阻止される。

 「彗星」が爆弾投下体勢に入る。

ダイブブレーキを開き、翼が折れそうなほど傾ける。

対空砲火で数機が撃墜されるが、残りは無事に降下を続ける。

 そして、爆弾が切り離された。

何発かは外れて水柱を上げるが、そのうちの数発が空母ヲ級に直撃した。

爆発が起こり、ヲ級は炎上しながら海へ沈んでいく。

他の艦にも命中弾があり、火災が発生している。しかし、沈没は免れそうだ。

 そこへ低空から侵入してきた「流星」が魚雷を投下する。

魚雷は何本もの航跡を描き、戦艦ル級2隻、重巡リ級1隻に命中した。

直後、轟音とともに巨大な水柱が上がる。戦艦ル級1隻は撃沈され、重巡リ級も大破した。

 

◆◆◆

 

 制空権を確保したところで、いよいよ艦隊同士の殴り合いが始まる。

攻撃隊によってボロボロになった深海棲艦艦隊の前に、調査隊護衛艦隊が現れた。

 

「待ちに待った艦隊決戦か。胸が熱いな」

 

 長門はそう言いながら、砲撃を開始する。

41㎝砲弾は命中はしなかったものの、至近に着弾する。

 

「握手や写真はいいけどぉ、贈り物は鎮守府を通してね♪」

「よし、突撃する!」

「大潮、負けませんよー!」

「撃つわ!」

「かわいそうかしら?」

 

 長門に続き那珂、朝潮、大潮、満潮、荒潮が突撃していく。

 

「ふっふーん!生まれ変わった摩耶様の本当の力、思い知れ!」

 

 摩耶も突撃を援護するように主砲を撃ちまくる。

砲撃戦で先に命中弾を浴びせたのは、調査隊護衛艦隊の方だった。

長門の放った一式徹甲弾が、戦艦ル級の右手の艤装を吹っ飛ばす。

お返しと言わんばかりに、重巡リ級eliteの放った砲弾が那珂に命中する。

 

「きゃあっ、顔はやめて…」

「大丈夫ですか!?」

 

 朝潮が声をかける。

 

「うん、平気だよ……」

「よかった……」

 

 ほっとした表情を見せる朝潮だったが、すぐに厳しい顔に戻る。

 

「この摩耶様に歯向かったことを後悔させてやるぜ!」

 

 摩耶の放つ砲弾が軽巡ホ級flagshipの胴体を貫いた。

ホ級は炎に包まれ、そのまま海中へ没していった。

41㎝砲が2隻目の重巡リ級を轟沈させ、朝潮の放った12.7cm砲が駆逐イ級を1隻沈める。

 

 その後も激しい砲撃戦の後、雷撃戦へと移っていく。

那珂、朝潮、大潮、満潮、荒潮が一斉に61cm四連装(酸素)魚雷を放つ。

大日本帝国海軍が大戦中に唯一運用した酸素魚雷が、深海棲艦に襲いかかる。

 そして、決着がついた。

酸素魚雷が戦艦ル級に突き刺さり、爆発を起こす。

重巡リ級と駆逐イ級にも魚雷が命中。

たったの一撃で、4隻とも海の藻屑となったのである。

 

「敵艦隊は全滅したようです」

「そうか」

 

 加賀の報告を聞き、長門はうなずく。

 

「では、帰るとするか」

「えぇ」

 

 こうして、深海棲艦との海戦は終わったのであった。

 

◆◆◆

 

 深海棲艦との戦いが終わった後、調査隊護衛艦隊はベルンゲンへと戻った。

そこでトーパ王国国王と面会し、今回の戦果を報告した。

 その後、調査隊は数日遅れてロデニウス連合へ帰還したのだった。



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世界情勢v3

 中央暦1641年10月24日。 第二文明圏ムー、キールセキ近郊 エヌビア基地。

 

 ここには現在、新型機が配備されている。

現主力戦闘機「マリン」の改良型機「マリンMk.II」と、新型単葉機「スーパーマリン」だ。

「マリンMk.II」は改良型エンジンのおかげで最高速度が時速469kmにまで上昇している。

 また、 7.92㎜機銃2丁から12.7㎜機銃2丁に強化されている。

「スーパーマリン」はイギリス製の戦闘機「スピットファイア」をベースに開発された機体で、性能はほぼ同じと言ってよい。というかほぼ同じだ。

最高速度は時速650kmに達する。

武装は12.7㎜機銃2丁、20㎜機関砲2門。

史実でも英国の主力機として運用されていたため、信頼性は高い。

 ちなみに、エヌビア基地に配備された機体は「マリンMk.II」が30機、「スーパーマリン」が25機である。

 

 同じく、エヌビア基地に併設している陸軍基地では、新型戦車「チャリオット2」の配備が進んでいる。

 

「『チャリオット2』、完成しましたね」

「ああ」

 

 戦術士官ラッサンの言葉に、技術士官マイラスは答えた。

 

「これで、我が国もロデニウス連合並みの戦車を揃えることができたわけだ」

「バカ言うな。ロデニウス連合には勝てんよ」

 

 マイラスが呆れたように言った。

 

「あんな化け物じみた戦車があるんだぞ?」

「そうでした……」

 

 マイラスの言葉にラッサンは化け物じみた戦車の姿を思い出したのか、身震いした。

 

「まあ、あれは例外だろうけどな」

「そうですね」

 

 二人はそう言って笑いあった。

 

◆◆◆

 

「使節団護衛艦隊の編成か……」

 

 トラック泊地の執務室で提督は呟いた。

先日の会議で決定したことだ。

先進11ヶ国会議に参加する国は、相応の規模の護衛を同行させるのだ。

そのため、戦艦を含めた護衛艦隊を編成することになったのだが……

 

「どうしたもんかなぁ」

 

 提督は悩んでいた。

 

「長門を連れて行くべきだろうか? それとも金剛を?……難しい問題だな……」

 

 戦艦娘の誰を連れて行くべきか、提督は考えていた。

長門は大和型に次ぐ弩級戦艦であり、火力・防御力ともに申し分ない。

一方、機密保持の面を考えれば金剛の方が適任かもしれない。

 

「んー……」

 

 提督はしばらく考え込む。

 

◆◆◆

 

 エモール王国、竜都ドラグスマキラ。

 

 ここにある王城の一室では、空間の占い師アレースルを始めとして多数の魔術師たちが集まっている。

 

「空間の神々の名の元に、これより未来を見る」

 

 空間の占いを始める宣言をし、一同が緊張する。

アレースルの両手には、魔導士から吸い上げた魔力が宿り、ドーム状の天井には、星のようなものが映し出される。

 地球の占いとは違い、この世界の占いは魔力を使用するため当たることが多い。

この空間の占いの的中率は、なんと98%にも及ぶという。

 

「見えた!」

 

 アレースルが叫ぶと同時に、部屋の空気が張り詰める。

 

 

「これは……!?」

 

 ざわめきが起こる。

 

「どうしたのです!?」

 

 アレースルの妻、メリッサが尋ねる。

 

「何と言うことだ!!」

「どうしたのですか!?」

 

 メリッサが再度問う。

 

「無限の宇宙が見えるぅぅ~」

 

 そう叫んだ彼は倒れて気絶した。

その場にいる全員が戦慄した。

 遥か昔、空間の占いで未来を見た者がいた。

その者は、彼と同じように叫んで倒れた。

 

「まさか……」

「そんなことがあってたまるか」

「ありえん! あっていいはずがない!」

 

 その者は見たものを人々に告げた。

そして、それは実際に起こった。

龍魔戦争と呼ばれる戦争が。

 

◆◆◆

 

 数日後に目が覚めたアレースルは、見たものを皆に伝えた。

 

「近いうちに世界規模の戦争が勃発する。早くて来年、遅くても再来年には、第二文明圏全域が戦火に包まれることになる」

「なんだと!?」

「馬鹿な……」

 

 病室に集まった者たちが騒然となる。

 

「もう一つ重要なものが見えた」

「なんだ?」

「魔帝が復活する」

「「「!!!」」」

 

 衝撃が走る。

 

「本当なのか?」

「そう遠くない未来に、間違いないだろう」

「……」

「時期は!?時期はいつだ!?」

「分からぬ」

 

 アレースルは首を横に振る。

 

「では、場所は何処だ?」

「それも分からぬ」

「して……我が国を含め、全ての種が再び辛酸を舐める事になるのか?」

「否、未来は不確定なり」

「どういう意味じゃ?」

「言葉のとおりなり」

「では、滅びもしくは従属から回避する手段はある、ということか」

「ある!」

「それは何だ!?」

「ロデニウス連合。その国が鍵を握るであろう」

「ロデニウス連合か」

「うむ」

「ロデニウス連合はどのような国なのだ?」

「我が占術をもってしても、詳しくは見えなかった。だが、一つだけ分かることがある」

「なに?なにが分かったのだ?」

「ロデニウス連合は、向こうから外交を求めてくる。現在、ミルキー王国の砂漠を通過中だ。間もなく第27番国境門にたどり着くだろう」

「なんじゃと!?」

「我が国に来るのか?」

「そうだ。我が国にやってくる」

「……好都合だ。第27門の番人に、門前払いせぬよう伝えよ」

「はっ」

「それと、使者をもてなす準備をせよ」

「御意」

 

 こうして、エモール王国はロデニウス連合と接触することになる。

 

◆◆◆

 

 キールセキ近郊の森で、二人の男が密談をしていた。

 

「新しい情報が入ったぞ」

「ほう、どんな情報だ?」

「新型全金属製単葉機を確認した」

「新型だと!?」

「ああ。アンタレスより速いらしい」

「なるほどな」

「まだ配備が始まったばかりだからな。性能は未知数だ」

「そうか」

「そっちはどんな情報が手に入ったんだ?」

「マイカルで新型戦艦2隻が建造中とのことだ」

「戦艦?あんな旧式の戦艦など、今更造ってどうするつもりなんだ?」

「いや違う。どうやら200m級の戦艦らしい」

「なんだと? それは本当なのか?」

「ああ。確かな筋の情報だ」

「そうか」

 



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先進11ヶ国会議

 中央暦1642年3月26日

 

「出港!」

 

 提督の声が響くと同時に、岸壁に並ぶ艦艇から一斉に汽笛が鳴り響いた。

使節団護衛艦隊の出発である。

護衛艦隊は旗艦「Bismarck」を先頭にして、戦艦2隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦3隻の編成になっている。

護衛対象は、外交官らを乗せた小型客船だ。

 向かう先は、先進11ヶ国会議の会場がある、神聖ミリシアル帝国南端部にある港街カルトアルパスである。

 

 同じ頃、グラ・バルカス帝国、帝都ラグナ。

 

「カイザル、ミレケネス。間もなく先進11ヶ国会議が開催されるが、準備は整っているな?」

 

 帝王グラ・ルークスは、男性1人と女性1人、2人の軍人に確認した。

 

「はい、皇帝陛下、準備はすべて整っております。」

 

 帝国海軍東方艦隊司令長官カイザルと、帝国海軍特務軍司令長官ミレケネスは答える。

 

「陛下、今回の作戦で、現地人どもは……世界は震撼し、我らにひれ伏す事になるでしょう」

 

 外務省長官モポールは、自信をもって発言する。

 

「よもや、神聖ミリシアル帝国に遅れをとる事はあるまいな?この世界では最強と謳われる国家なのだからな」

 

 グラ・ルークスは念を押すように問う。

 

「ご安心ください。兵器の設計思想を見れば、かの国の間違った方向性が見えてきました。我が帝国の敵ではありません」

「そうか、では本件は、許可することとする。皆頼んだぞ!!」

 

 グラ・ルークスの言葉に出席者全員が敬礼し、会議室を出て行った。

 

数時間後。

 グラ・バルカス帝国、帝都ラグナにある軍港から外交官らを乗せた、1隻の巨大戦艦が出港した。

戦艦の名は、「グレードアトラスター」ではなく、姉妹艦の「グレートウォール」だ。

 そして、別の場所にある軍港では、20隻近くの艦影が静かに動き始めていた…………。

 

◆◆◆

 

 中央暦1642年4月5日。ついにその時は来た。

 

 神聖ミリシアル帝国南端 港街カルトアルパス。

「神聖ミリシアル帝国第二の心臓」とも呼ばれるこの街は、交易の中心として栄えている。

細長い湾内に広大な港湾設備を持ち、その規模は世界でも屈指であった。

 カルトアルパスの港湾管理局、局長ブロントの下に、各国代表団の到着の様子が伝えられたのは、午前10時頃の事だった。

その知らせを受けたブロントは、部下に指示を出す。

 

「この辺は代り映えせんな」

 

 彼は管理局の窓から、入港する戦列艦を眺めていた。

しばらくすると、第二文明圏担当者が慌てた様子で局長室に飛び込んできた。

 

「第二文明圏外から、グラ・バルカス帝国の船が到着したとの事です!」

「数は?」

「戦艦1隻のみと聞いております」

「なんだと!?」

ブロントは驚きつつも、冷静に指示を飛ばす。

「何てデカさだ」

「あれが噂の『グレードアトラスター』でしょうか?」

「ああ、おそらくな」

 

 戦列艦やムーの戦艦がおもちゃのようにしか見えないほどの巨体だ。

この艦こそ、グラ・バルカス帝国の誇る世界最大・最強の戦艦、「グレードアトラスター」の姉妹艦「グレートウォール」である。

「グレートウォール」は一気に注目の的となった。

「グレートウォール」は誘導に従い、第二文明圏エリアに進入していく。

 

「……長! ブロント局長!!」

「ん? ああ、どうした?」

「第三文明圏方面からロデニウス連合が到着しました」

「数は?」

「戦艦2、巡洋艦1、小型艦3隻の計6隻のようです」

「ロデニウス連合か。確かパーパルディア皇国を打ち破った新興国だな。第三文明圏エリアに誘導しろ」

「了解しました」

 

 部下が退室すると、ブロントは窓の外を見た。

 

「おお……!」

 

 思わず感嘆の声を上げる。

彼の視線の先には、2隻の戦艦の姿があった。

 1隻は、連装砲を前後に2基ずつ搭載した戦艦である。もう1隻は三連装砲を前方に2基、後方に1基搭載した戦艦だ。

どちらも「グレードアトラスター」とは違った美しさを持っている。

 

「今回の先進11ヶ国会議は大当たりだな!」

 

 ブロントは素晴らしい軍艦を見られたことに感動していた。

 

◆◆◆

 

「戦艦と駆逐艦だと!?」

 

 戦艦「グレートウォール」の艦橋にて、艦長であるエルク・ドレイファス大佐は叫んだ。

まさか、自分たちと同程度の技術を持っている国家が存在するなど、夢にも思わなかったのだ。

 

「不味いな……少し苦戦するかもしれん」

「しかし、我々の後ろには空母機動部隊が控えております。敵がどんな船を用意していようと、恐るるに足りません」

「確かにな。だが、油断は禁物だ。万全の体制で臨むぞ」

「はい!」

 

 一方、ロデニウス連合使節団護衛艦隊旗艦「Bismarck」の艦橋でも、同様な会話がなされていた。

 

「マジで大和型戦艦にそっくりじゃねえか」

 

 提督は双眼鏡を覗きながら呟いた。

彼の言う通り、「グレードアトラスター」は大和型戦艦にそっくりだった。

 

「主砲も46cmか。まあ、あの図体なら積んでいてもおかしくはないな」

「そんなことより向こうは戦艦が1隻だけなの? いくらなんでも少なすぎない?」

「恐らく、どこかに別動隊が隠れているんだろう」

「そうね。用心しないと……」

「ああ、そうだな」

 

◆◆◆

 

 翌日の4月6日。

 

 いよいよ今日から会議が始まる。8日間に及ぶ会議で定めた方針を、今後の世界の流れとして「世界のニュース」で発表するのだ。

 会場である帝国文化会館の大ホールには、既に各国の代表団が集まっている。

今回の先進11ヶ国会議の参加国は

神聖ミリシアル帝国

エモール王国

アガルタ法国

トルキア王国

ムー国

ニグラート連合

マギカライヒ共同体

グラ・バルカス帝国

パンドーラ大魔法公国

ロデニウス連合

アニュンリール皇国

だ。

 

「これより、先進11ヶ国会議を開催致します」

 

 議長の開会宣言により、先進11ヵ国会議が始まった。

まずはエモール王国の代表が発言権を得た。

 

「エモール王国のモーリアウルである。今回は、皆に伝える事がある。重要な事であるため、最後まで聞いていただきたい」

 

 エモール王国が行う空間の占いは、的中率98%を誇ると言われている。

その彼らが重要事項があると言うのだから、出席者全員の表情が引き締まった。

 

「先日、空間の占いを実施した。その結果だが……古の魔法帝国、ラヴァーナル帝国が近いうちに復活する事が判明した!」

 

 ざわめきが起こる。無理もない。

 

「な……なんだと!?」

「まさか、本当なのか!?」

「本当に復活すれば、大変な事になるぞ!!」

「静粛に! 静粛に!!」

 

 騒ぎ出す参加者たちを、議長が制止する。

 

「時期や場所は、空間の位相に歪みが生じており、正確に把握出来ていない。そのため、正確な時期は特定出来ないが今年から4年〜25年の間に復活する可能性が高い。奴らに、どれほど抗する事が出来るのか、伝承がどれほど本当なのかは不明だが、奴らの遺跡の高度さが、その文明レベルの規格外の高さを物語っている。

各国は無駄な争いをせず、軍事力の強化を行い、世界で協力してラヴァーナル帝国復活に準備をするべきである」

 

 モーリアウルは、そう言って話を締めた。

会場はざわつき続けている。

そんな中、笑い始める女性が1人。

 

「くっくっく……はーっはっはっは!」

 

 参加者の多くが、彼女の方を向いた。

 

「な……何がおかしい?」

「いえ、失礼。私はグラ・バルカス帝国外務省、東部方面異界担当課長のシエリアという。魔帝だか何だか知らんが、過去の遺物を恐れるとは、随分と腰抜けが多いのだと思ってな」

 

 彼女は嘲笑した。

 

「貴様! 我が国を侮辱するか!!」

「そもそも占いなぞという、当たるかどうかも分からないものに踊らされるようでは、話にならんな。これで世界会議とはレベルの低いものだ」

「新参者が何を言うか!」

 

 シエリアに対する罵声と怒号が飛び交う。

 

「凄い会議だな」

 

 ロデニウス連合の代表らは小さい声で呟いた。

 

「我が国はこの場において、グラ・バルカス帝国に対する非難声明を出させて頂きます。また同国への懲罰的処置として、2年以上の交易制限を課します」

 

 ムー国の代表も侵略行為を続けるグラ・バルカス帝国に抗議を行った。

 

「1つ言わせてもらおう。我が国は、今回、会議に参加し、意見を言いに来たのではない。通告しに来たのだ。グラ・バルカス帝国 帝王グラルークスの名において、貴様らに宣言する。

我らに従え。我が国に忠誠を誓った国家には、相応の対価を約束する」

「馬鹿な事を!! そのような要求が通ると思っているのか!?」

「愚かな……」

「蛮族が偉そうに……」

「グラ・バルカス帝国の言いなりになるくらいなら、いっそ滅んだ方がマシですな」

 

 誰もが口々に罵倒の声を上げる。

 

「やはり、今従う国は現れないか……グラ・ルークス陛下は寛大なお方だ。我が国の力を知った後でも構わない。用があれば、レイフォルの出張所に来るがいい。では現地人共、確かに伝えたぞ」

 

 そう言うと、グラ・バルカス帝国代表団は会議室を出て行った。

そして、「グレートウォール」に乗り込むと、昼頃にはカルトアルパスを去って行った。



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マグドラ沖海戦

 中央暦1642年4月7日。神聖ミリシアル帝国、南西海域マグドラ群島。

 

 神聖ミリシアル帝国海軍所属の第零式魔導艦隊は、マグドラ群島で演習を行っていた。

魔導戦艦3、重巡洋艦2、巡洋艦3、小型艦8、計16隻からなるこの艦隊は、世界に敵なしと謳われるほどの練度を誇る。

 

「ん?」

 

 第零式魔導艦隊の旗艦、ミスリル級魔導戦艦「コールブランド」の魔力探知レーダーを見ていた操作員が異変に気付いた。

多数の人間が集まったような光点を多数発見したのだ。

 

「これは……まさか!?」

 

 仮想敵国、ムーの機械動力艦を想定した時と同じパターンである。

 

「対水上レーダーに反応あり!機械動力艦と思われる反応が接近中!!速度27ノット! 距離60km! 反応から想定するに、戦艦2、重巡洋艦3、巡洋艦2、小型艦5、計12隻がこちらに向かっています!あ、速度が29ノットに上がりました!!」

「29ノットだと!?ムーでは、そんな速度は出せないはず……まさか!総員、戦闘配備!!総員戦闘配備!不明艦隊がこちらに接近中!!これは訓練ではない!!」

 

 その報告を聞いた艦隊司令、バッティスタ少将は、即座に命令を下した。

魔信により、全ての艦艇が戦闘態勢に入る。

 

「不明艦隊、速度30.5ノットまで上昇」

「上空に魔力反応無し!」

「群島に展開中の空軍に援軍要請を出しました。局地戦力しか持っていませんので、『ジグラント2』25機のみ展開可能。艦隊上空到達まであと15分とのことです」

 

「コールブランド」の艦橋内に緊張した空気が流れる。

 

「どう見る?」

 

 バッティスタは隣に立つ「コールブランド」の艦長クロムウェル大佐に尋ねた。

 

「おそらく、グラ・バルカス帝国かと思われます。戦艦を2隻含んでいるにも関わらず、速度30.5ノットと高速なのには驚きます。明らかにムーよりも強力です。

こちらは最新鋭艦であるミスリル級が2隻、ゴールド級が1隻と数では勝っています。

しかし、敵艦の性能は未知数であり、どのような兵器を搭載しているかもわかりません。一方的な戦いにならないとも限らないでしょう」

「ふむ……ならば、我が軍の実力を見せつける必要があるだろうな」

「ですが、問題は敵が機械動力型の天の浮舟を持っていた場合です。人間1人当たりの魔力量は高くないので、人が1人しか乗っていない天の浮舟は、魔力探知レーダーでは捉えられない可能性があります」

「うむ」

 

 水平線には、敵艦の発する煙が見え始めていた。

 

「黒い煙を吐くとは、優雅さの欠片もないな。やはり野蛮人の集まりだな」

「あれほどの煙を出すなど、いったい何を考えているのか……」

 

 バッティスタは、グラ・バルカス帝国と思われる艦隊に対し闘志を燃やす。

 

◆◆◆

 

 グラ・バルカス帝国海軍特務軍艦隊は、神聖ミリシアル帝国艦隊に一撃を与えるべく南下していた。

高速戦艦2、重巡洋艦3、軽巡洋艦2、駆逐艦5、計12隻からなる戦艦を含む艦隊としては驚異の30ノットで南下している。

 

「敵艦隊の方が、我々よりも数が多い。数の上では不利だ。勝てるか?」

「今回の敵は、この世界では最強を自負しているようです。しかし、我が艦隊の威力偵察の相手としては、不足はないでしょう」

 

 艦隊司令官と艦長は、自信に満ちた顔を見せる。

 

「対空レーダーに感あり。群島より航空機が飛来、機数25!艦隊上空に到達するまであと17分」

「来たか」

「全艦、対空戦闘用意!駆逐艦隊は前方に展開、水雷戦に備えよ!」

 

 マグドラ沖海戦と呼ばれる海戦が始まろうとしていた。

 

◆◆◆

 

 マグドラ群島基地に配備されている、神聖ミリシアル帝国空軍の多目的戦闘爆撃機「ジグラント2」25機は、時速410㎞という速度を叩き出しながら、戦場へと向かっていた。

 オメガは緊張していた。今回が初めての実戦となる。

 

「行け!!神聖ミリシアル帝国の力を、蛮族どもに見せつけてやれ!!」

 

 オメガは味方に檄を飛ばす。

訓練通りに海面から約50°の角度で急降下する。

 

「対空砲を撃ってきたぞ! 気をつけろ!」

 

 敵艦から大量の光弾が飛んでくるのが見える。

そんな中、

ドン! と爆発音が響いてきた。

 

「なんだ!?」

「敵弾の一部が爆発してるみたいです」

 

(まさか、弾が近づいただけで爆発するのか!?)

 

 オメガがそう思った時、左にいた僚機が撃墜された。

爆発する弾が右翼をもぎ取ったのだ。

 

「うわぁあああ!!」

 

 別の機体は錐揉みしながら落下していく。

 

(な……なんだこれは!!)

 

 オメガは自分の命の危機を感じながらも、必死に操縦桿を動かす。25機いた味方は、気づけば20機に減っていた。

残りの20機は、無事に爆弾を投下することに成功した。

 しかし、敵艦が回避行動をしたため、命中したのは2発だけだった。

 

「ちっ! ダメだったか……」

 

 オメガは舌打ちをした。

だが、彼の任務は達成されていた。

 

「やはり航空機で戦艦は沈められんな」

 

 そう言うと、部下と共に全速で弾幕から退避した。

 

◆◆◆

 

「やはり航空機で戦艦を沈めるのは難しそうだ。全艦、砲撃戦準備!」

 

 敵が、小型艦5隻を前方に押し出す陣形に疑問をいだきつつも、バッティスタ少将は全艦に命令を下した。

「主砲、発射用意。目標、敵戦艦」

「砲弾への魔力完了。主砲への魔力注入開始」

 

 主砲が敵艦に向き、砲身が持ち上がる。

 

「敵戦艦発砲!」

 

 艦内用魔信機を通じての報告が入る。

 

「何?主砲への魔力注入中止!水属性魔法障壁展開!」

「了解。水属性魔法障壁展開」

 

 艦体に水属性の魔力が注入され、一瞬だけ青白く発光する。

その直後、敵戦艦の放った砲弾が第零式魔導艦隊の前方に着弾する。

 

「まさか我々の主砲の最大射程とほぼ同程度あるとは……」

 

 敵艦との距離は約30kmほどある。これには艦長クロムウェル大佐も驚いた。

 

「散布界が荒いらしいな。装甲強化解除、主砲への魔力注入開始! 」

 

 再び、主砲へ魔力が注ぎ込まれる。

 

「充填完了!発射5秒前。4、3、2、1、発射!」

 

 ミスリル級「コールブランド」・「クラレント」、ゴールド級「ガラティーン」の38.1㎝砲が火を噴いた。

残念ながら、第一斉射は外れてしまった。敵艦隊は臆すること無く真っすぐ向かってくる。

 

「命中弾無し。照準修正」

「次弾装填急げ」

 

 敵も黙ってはいない。

 

「敵艦発砲!!」

「属性そのまま、魔法障壁展開」

 

 展開完了後、砲弾が落下する時の甲高い音が聞こえてくる。

 

「衝撃に備えよ」

 

 艦長の言葉と同時に、艦隊の周囲に水柱が立ち昇った。かと思うとゴールド級魔導戦艦「ガラティーン」から報告が入った。

 

「左舷に被弾!喫水線付近に被弾した模様!」

「ガラティーン」は左舷喫水線付近に穴が開き、そこから海水が流れ込んでいた。

「なんだと?魔法で強化した装甲を貫通したのか?」

「おそらくは……」

 

 どうやら主砲の威力も我が方と同等であるようだ。

 

「主砲への魔力注入完了しました」

「よし、第二斉射。撃てぇー!!!」

 

 轟音とともに、二斉射目の砲弾が敵戦艦に向かって放たれた。

 

『我が方の砲撃、命中弾2。派手に爆発しています』

「おお!」

 

 「ガラティーン」の仇と言わんばかりに、敵戦艦は派手に爆発している。

 

「敵戦艦、速力が低下」

 

 どうやら機関部にダメージを与えたらしい。

撃ち合いを続けているうちに敵艦隊との距離は10㎞に迫る。

 

「敵小型艦、転進!!離脱して行きます」

「何だと!?」

 

 バッティスタ少将は驚く。今回のような戦艦同士の砲撃戦では小型艦は役に立たない。強いて言えば弾避けに使える程度である。敵の意図が読めない。

 

「まあ良い、あの足の遅くなった戦艦に止めを刺すぞ」

 

 艦隊同士の殴り合いは、第零式魔導艦隊の勝利に終わった。足の遅くなった戦艦を滅多打ちにした結果、弾薬庫が誘爆を起こし、敵戦艦は轟沈。

これが決め手となり、敵艦隊は反転すると全速力で離脱していった。

 さらに敵巡洋艦、小型艦にも多数の損害を与えていた。

 

「うむ!!勝ったな。しかし、被害は……」

「はい。小型艦1隻を喪失。戦艦1、重巡洋艦1、巡洋艦1隻が大破。巡洋艦1隻が中破。その他艦に多数損傷があります」

「新鋭艦隊がこれほどまでに被害を受けるとは……」

 

 バッティスタは呟くように言った。

文明圏外国家に、ここまでやられるとは思っていなかったのだ。

これは彼にとって屈辱的であった。

 

「海上に異常探知!!海の中を何かが進んできます!!」

 

 バッティスタが次の指示を出している最中、見張り員の叫び声が響いた。

 

「なんだ!?」

 

 海面を見ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

白い航跡が多数、大破して足の遅くなった「ガラティーン」に近づいている。

グラ・バルカス帝国の駆逐艦が放った魚雷が、ようやく到達したのだ。

 

「い、いかん!!!!」

 

 「ガラティーン」も気づいたのか左に舵を切った。

しかし、次の瞬間、鈍い音と共に3本の白い水柱が立った。

「ガラティーン」は右に傾いた後、左に大きく傾いた。

そして、そのまま海中へと引きずり込まれていく。

 

「お……おのれ!!」

 

 まさか戦艦を撃沈されるとは思ってもいなかった。

バッティスタは怒りに身を震わせる。

 

「グラ・バルカス帝国め……許さん!!」

 

◆◆◆

 

「威力偵察のつもりが、随分とやられましたね」

「ある程度の損害は覚悟してたが……帰ったら、報告書が大変だな……」

「まあ、上からの命令ですから。仕方ありませんよ」

「そうだな。次は空母機動部隊の航空部隊がを攻撃するはずだ。あの程度の艦隊では、あっさり全滅するだろうな」

 

 その数分後、空母機動部隊から飛び立った攻撃隊200機がグラ・バルカス帝国艦隊を飛び越え、第零式魔導艦隊へ向かっていった。



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マグドラ沖海戦2

 中央暦1642年4月7日。神聖ミリシアル帝国、南西海域マグドラ群島。

 

「レーダーに感有り!機械動力タイプの飛行機械が艦隊に接近中!数、およそ200! 」

「……!!全艦対空戦闘用意!敵機を迎え撃つ!」

「了解!対空戦闘用意!」

 

 第零式魔導艦隊に緊張が走る。

乗組員たちは一斉に持ち場へ駆け足で向かっていく。

 

「数が多いな……エアカバーに当たる友軍機の数は?」

 

 艦隊司令官バッティスタ少将の問いに対し、副官は答える。

 

「……14機が限界です。僻地であるため、出撃する機体は全て『ジグラント2』になります」

「そうか……」

 

 ジグラント2は多目的戦闘爆撃機である。それにこんな僻地に最新鋭の制空戦闘型天の浮舟が配備されているはずがない。

 

「司令、作戦行動中の戦艦が撃沈された事例はありません。落ち着いて対処すれば大丈夫でしょう」

「うむ」

 

 バッティスタは不安を押し殺しつつ、空を見上げる。

 

◆◆◆

 

 飛行隊長オメガは再び、緊張に体を強張らせていた。

前方には敵航空機が雲霞のように見える。

 今回の任務は、味方艦隊の防空支援だった。

グラ・バルカス帝国軍の航空部隊が接近、これを迎撃せよという命令を受けていた。

敵がどういった戦法をとってくるのかは分からない。

ムーの戦闘機に対しては、速度差を生かした一撃離脱が有効と教わった。

オメガは部下に指示を出す。

 

「よし、お前たち、行くぞ!」

 

 オメガは14機の「ジグラント2」を率いて、上昇をしていく。

敵航空機の一部も上昇に転じたようだ。

 

「な……なにぃ!」

 

 なんと、敵航空機の上昇速度が速い。

 

「そんな……我が方の最高速度を凌駕しているのか!?」

「隊長、あれを!!」

 

 彼はあることに気付いた。上昇してくる敵機は他の機体と形が異なる事を。

 

「まさか……制空型に特化した機体なのか」

 

 敵の上昇した機体はおそらく制空型に特化した設計がなされているのだろう。

 

「せめて、味方への被害が少なくなるよう、数を減らしてる!!」

 

 彼は魔信機のスイッチを入れる。

 

「あの前に出た40機は無視しろ!あの大編隊に突っ込むぞ!!」

 

 14機の「ジグラント2」は、敵航空機の群れに向かって突進していった。

 

『やられた!敵はやはり制空特化……』

『くそっ!!あいつら強いぞ!』

 

 無線からは、部下たちの悲鳴が聞こえてくる。

なんとしてでも敵爆撃機に食らいつきたいが、何故か追いつけない。

 

「まさか、敵爆撃機の方が速いのか!?」

 

 オメガは焦りを感じていた。

その時、魔信機から聞き慣れた声が響く。

 

「隊長!後ろです!!」

 

 振り返ると、いつの間にか敵機が肉薄していた。

 

「しまった!!」

 

 次の瞬間、彼の乗る「ジグラント2」は、アンタレス07式艦上戦闘機の20㎜機関砲によって粉砕された。

 

「な……なんだ、こいつらは」

 

 バッティスタは驚愕の表情を浮かべる。

それは無理もなかった。

「ジグラント2」が一方的に落とされていくのだ。

 

「全艦、対空戦闘用意!敵を近づけさせるな!」

 

 バッティスタの命令により、各艦の対空魔光砲が仰角を上げ始める。

 

「敵機、射程に入りました!」

「対空戦闘開始!撃てぇ!!」

 

 その号令と共に、対空魔光砲が火を噴いた。

しかし、大量の光弾を撃ち上げているにも関わらず、高速で動く敵機になかなか命中しない。

 

「クソッ!当たれ!当たれ!」

「畜生!!当たらねぇ!!」

 

 対空魔光砲の砲手たちは必死に狙いを定める。

次の瞬間、爆弾が投下され、対空魔光砲が数基ある場所に直撃した。

爆発と同時に、何人かの乗組員が吹き飛ばされる。

対空魔光砲が粉砕され破片が飛び散った。

 

「回避だ!!取り舵一杯!!」

 

 ミスリル級魔導戦艦「コールブランド」艦長クロムウェル大佐は叫ぶように命令した。

「コールブランド」はゆっくり向きを変える。

 

『爆弾多数!躱せません!!直撃します』

 

 見張り員の絶叫が艦橋に響き渡る。

 

「衝撃に備えよ!!」

 

 クロムウェルは叫んだ。

その直後、「コールブランド」は激しく揺れた。

 

「ぐぅ……」

「損害報告!急げ!」

『船体後部に被弾、火災発生中!!』

「消火班!急げ!」

「ばかな……こんなことが……ありえん……」

 

 バッティスタ少将は、目の前の光景を信じられなかった。

世界最強の艦隊が、航空機ごときに一方的に蹂躙されている現実が。

 

『戦艦「クラレント」被弾!火災発生!』

『巡洋艦「ロンゴミアンド」被弾多数!航行不能!』

 

 次々と僚艦の被害状況が報告される。

 

『敵機撃墜2!』

 

 思ったより少ない戦果だった。

 

「味方艦には、大破する艦も出てきています。戦艦は沈む事は無いでしょうが、この状況はよろしくありません。味方のエアカバーを受けられないことが致命的です。第4、第5艦隊が来援するまで持ちこたえられるかどうか……」

「……」

 

 第零式魔導艦隊は壊滅の危機にあった。

その時、見張員の絶叫が響き渡る。

 

「超低空から敵機!突っ込んできます!」

「何だと!?」

 

 バッティスタは、反射的に双眼鏡を構える。

 

 グラ・バルカス帝国のリゲル型雷撃機、80機は海上から僅か21mという高度を飛行していた。

時速370㎞の高速で飛び、機体下部には重量800㎏の魚雷を1本抱えている。

 

「魚雷投下ポイントまであと30秒」

 

 分隊長パッシムは、死と隣り合わせの恐怖に耐えていた。

上空にいた敵機は全てアンタレス戦闘機が叩き落としているため、空に注意する必要はない。

敵の対空砲がこちらに向けて旋回しているのが分かる。

 

「頼むぜ……当たるなよ」

 

 そう呟いた時だった。

彼の隣を飛んでいたリゲルが、対空砲火に引っ掛かり、爆散した。

幸いにも、対空砲は彼を捉えることはなかったようだ。

 

『3、2、1、投下!』

 

 その号令と共に、彼は投下レバーを思い切り引いた。

重量800㎏の魚雷が、海へと放たれる。

そしてそのまま、海面すれすれを飛ぶ。

 

「敵機!本艦に突っ込みます!」

 

 対空砲が敵機を捉えようとするが、なかなか当たらない。

 

「くそっ!なぜ当たらん!?」

『何だあれは!』

「どうした!?」

『あれは……『ガラティーン』が受けた攻撃と同じです!海中を何かが進んできています!!』

「なにぃ!?」

 

 窓の外を見ると、確かに海中を何かが進んでくるのが見える。

数も多く、どうあがいても何本かは命中するだろう。

 

「被弾するぞ!岩属性魔法障壁展開、最大展開!」

「了解!」

 

 クロムウェル艦長の命令が響く。

最大展開にかかる18秒が長く感じる。

 

「装甲強化完了!」

「もうすぐ来るぞ!総員、衝撃に備えろ!」

 

 次の瞬間、下から突き上げるような衝撃が走った。

 

「ぐうう」

「被害状況を報告せよ!」

「左舷に多数被弾!浸水発生!」

「くそっ!あの海中兵器め!」

「注排水システム、起動!急げ!!」

「ダメです!このままでは、早期に注水限界に達します!!」

「クソッたれぇ!!」

 

 クロムウェルは悪態をつく。

ミスリル級魔導戦艦「コールブランド」の傾斜はどんどん大きくなっていく。

 

「総員退艦!総員退艦せよ!!」

 

 クロムウェルは退艦命令を出した。

 

「艦長!このままでは、カートリッジ型の爆裂魔法回路が衝撃に晒されます!」

「それはまずい!!退艦を急がせよ!!お前も、早く行け!!」

「艦長も、早く退艦されて下さい!!!」

「私は残る!!まだ、やるべきことがあるのだ!!」

「しかし……!!」

「いいから、行けっ!!!」

 

 クロムウェルの怒声が響き渡った。

その数十秒後、「コールブランド」はついに転覆してしまう。

 前部主砲弾薬庫では、カートリッジ型爆裂魔法回路が誘爆を起こし、轟音とともに巨大なキノコ雲が上がる。

その爆発により、船体は真っ二つに折れてしまった。

「コールブランド」は、艦隊司令官バッティスタ少将、クロムウェル艦長、そして逃げ遅れた乗組員と共に海底深く沈んでいった。

 世界最強と名高い、神聖ミリシアル帝国の誇る第零式魔導艦隊は1隻も残らず、全てが撃沈されてしまったのである。

 第零式魔導艦隊の全滅を確認したグラ・バルカス帝国特務軍艦隊は、再びマグドラ群島に進撃を開始する。

離島防衛基地に艦砲射撃を見舞った。基地司令部は半地下式であるため、通信機器だけは残っていた。



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激動の会議

 中央暦1642年4月8日、神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス。

 

 外務省統括官リアージュは、困惑していた。先進11ヶ国会議に出席し、重要な会議がいくつも控えている時に、帝都ルーンポリスに戻るよう指示が届いたからだ。

重要案件のある時期に緊急会議とは、よほどの事が無ければ行われない。

 そのため彼は、悪い予感を覚えていた。

緊張しながらも会議室の扉を開ける。

 

 扉を開けると、外務省の幹部、軍の幹部、そして国防省のアグラ長官までもが着席していた。リアージュは恐る恐る自分の座席に座ると、会議が始まった。

 

「これより、緊急会議を開催致します」

 

 軍の担当官が話し始める。

 

「概要を説明致します。昨日昼頃、本国の西方にあるマグドラ群島で訓練中の第零式魔導艦隊が、正体不明の勢力と交戦状態に突入いたしました」

 

 ざわめきが起きる。皆が驚愕しているようだ。

 

「『正体不明艦隊と航空機による攻撃を受けつつある』との連絡を最後に、交信不能に陥っています」

「まさか、第零式魔導艦隊が……」

「ちょっと待ってくれ、第零式魔導艦隊が全滅しただと?あの無敵の艦隊がか?」

「信じられん……何があったのだ」

「あの最強の艦隊がか……?」

 

 軍関係者達は動揺を隠せない。

 

「相手は、一体どこの国なんだ?」

「敵の国旗を確認したところグラ・バルカス帝国のものと思われます」

「なに!?」

「あの蛮族どもが!?」

「バカな……」

「ありえない……我が国が誇る第零式魔導艦隊が敗れるなど……ありえん!」

「離島防衛基地からは『敵艦隊及び航空攻撃により、第零式魔導艦隊は全滅。同基地も半地下式司令部以外、壊滅。その後、東へ向かった』との報が入りました」

「東!!東だと!?ま……まさか!?」

 

「はい。想定されるのは、先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパスへの強襲です」

 

 会議室がどよめく。

 

「防衛体制はどうなっている!?」

「現在、カルトアルパスには魔導巡洋艦8隻しかいません。第1・第2・第3魔導艦隊を、カルトアルパス周辺に展開させるように手配を行っていますが、距離を考慮すると、敵の方が速くカルトアルパスに到着する可能性があります。空軍はともかく魔導艦隊が間に合わないかもしれません。現在カルトアルパスでは先進11ヶ国会議が行われているため、外務省統括官の意見も伺いたいと思い、今回の会議にお呼びしました」

「じょ……冗談じゃない!世界最強であり、世界に敵なしと謳われる神聖ミリシアル帝国が、国の威信をかけて警備を行っている先進11ヵ国会議の開催期間中に『蛮族に攻められ、守り切れないかもしれないので、避難してください』などと言えるわけがない!」

「しかし、現実問題として敵の攻撃を受ける可能性が高い以上、やむを得ないのでは……」

「何を言っているんだ君は!そんな事を言ったら、我が国の権威は失墜してしまうぞ!!」

 

 リアージュは、怒り狂う。

 

「そんなことを各国に伝えるくらいならば、『大艦隊に奇襲を受けた』と言ってしまったほうがいい!奇襲を受けて被害が出るならば、まだ各国も対グラ・バルカス帝国で協力してくれるだろう!!」

「しかし、それでは『何故敵の接近を探知できなかったのか』と我が国の能力を疑われます!」

 

 緊急会議は荒れに荒れ、深夜にまで及んだ。

 

◆◆◆

 

 翌日の4月8日。港街カルトアルパス、帝国文化会館。

 

「これより、先進11ヶ国会議実務者協議を開催致します」

 

 司会進行の言葉と共に、本日の会議が始まる。

 

「本日は、議長国の神聖ミリシアル帝国から、皆さまへ連絡がございます。先日、グラ・バルカス帝国の艦隊が我が国の西の群島に奇襲攻撃を行い、地方隊が被害を被りました」

 

 神聖ミリシアル帝国は国益のため、第零式魔導艦隊が壊滅した事を伏せる事にした。

 

「テロ対策として、本港カルトアルパスには、魔導巡洋艦が8隻警備に就いておりますし、空軍によるエアカバーを行いますので問題はありませんが、万が一の事態に備え、本日の夕方までにカルトアルパスから全艦隊を引き上げていただき、開催地を東のカン・ブリッドに移したいと思います」

 

 会場がざわつく。

 

「皆様のお気持ちはわかります。ですが、皆様にご理解いただければ幸いです」

 

 一瞬の沈黙の後、エモール王国の代表、モーリアウルが立ち上がって話し始めた。

 

「あの新参者であり、かつ無礼者が攻撃してきたからといって、世界の強国である我らが逃げ帰るというのは、あまりにもみっともない話である。我が国は陸路だが、ここに来ている者たちは、どこもそれなりの規模の艦隊を連れてきているはずだろう?そのための、外務大臣級護衛艦隊だろう?魔力数値の低い人族のみで構成された、しかも文明圏にすら属していない国を相手に、怖じ気づくような腰抜けばかりなのか?我が国は陸路で来ているため、艦隊は無いが控えの風竜22騎ならば、これを投入しても良いぞ」

「おおっ」

 

 各国の要人達の間にどよめきが起こる。

 

「わ……我が国の戦列艦7隻も、無礼なグラ・バルカス帝国の軍を退治ためならば、喜んで手を貸しますぞ!」

 

 中央世界のトルキア王国も、会議の移動を反対する。

 

「我が第二文明圏では、グラ・バルカス帝国が我が物顔で暴れまわっている。中央世界と共に戦えるならば、我が艦隊も参戦いたします」

 

 第二文明圏内国家、マギカライヒ共同体の代表も参戦を表明した。

続いて、ムー国とニグラート連合の代表も、自分達の艦を出すと表明する。

 

「対パーパルディア皇国での貴国の数々の伝説は伺っています。ロデニウス連合はどうされるのですか?」

「開催地変更についての意見は、本国に問い合わせます」

 

 ロデニウス連合の代表は、本国からの返答を待つという姿勢を示した。

 

◆◆◆

 

 あれから4時間後。

 

「という訳で、やはり万が一の安全を考え、早期に移動をお願いしたい!!仮にカルトアルパスに強襲してきた場合、本当に時間がありません。ここで、のんびりと話をしている場合ではないのです!!」

 

 危険だから、大規模戦力のない今、避難をする。

なぜ、そんな単純なことがわからないのか。ロデニウス連合の代表は理解に苦しむ。会議は紛糾した。

そしてついに、最悪な形で会議は終わる事となった。

 

「皆さま、静粛に!静粛に!!これより重要な伝達事項があります」

 

 議長が声を上げる。

 

「先ほど、我が国の哨戒機がカルトアルパス南方約150㎞地点を北上する、グラ・バルカス帝国艦隊を発見致しました。敵艦隊は、現在、速度20ノットでカルトアルパスに向かっている模様です。この速度とここから海峡までの距離を考えると、避難はもう間に合わないでしょう。つきましては皆様の案を採用し、迎撃作戦を行うことと致しました」

 

 議場は騒然となった。

 

「外交官と外務大臣の身の安全だけは、我が国の義務として確保させていただきます。早急に鉄道で東に避難していただきます」

 

 会議室に緊張が走る。

 

◆◆◆

 

 神聖ミリシアル帝国政府首脳部もまた、今回の事態への対応を協議していた。

世界の中心とも言える帝都ルーンポリスのさらに中心、皇城アルビオン城において、緊急会議が開かれている。

 今回の会議には、皇帝ミリシアル8世を中心とし、軍務大臣シュミールパオ、国防省長官アグラ、情報局長アルネウス、外務省統括官リアージュの他、国の幹部が勢揃いしている。

 

「今回の会議を開くきっかけとなった事案の概要を説明致します」

 

 国防長官アグラが口を開いた。

 

「先日、先進11ヶ国会議初日において、西方の文明圏外国家グラ・バルカス帝国が、我が国を含む世界へ向け、従属せよと要求いたしました。グラ・バルカス帝国は現在、第二文明圏西側各国を陥とし、連戦連勝を重ねています。列強レイフォルを単艦で破ったことから自信をつけ、このような暴挙に走ったものと思われます」

「野蛮な奴らだ」

 

 軍務大臣シュミールパオが吐き捨てるように言った。

 

「グラ・バルカス帝国使節団は、先進11ヶ国会議で暴言を吐いた後、カルトアルパスから彼らの乗ってきた戦艦で立ち去っています。その後、別の艦隊がマグドラ群島において、当時訓練中だった第零式魔導艦隊に奇襲をかけました。第零式魔導艦隊は、辛くもこれを撃退していますが、敵の航空隊の猛攻に晒され、全滅しした」

 

 会場がざわつく。

 

「戦闘航行中の戦艦が航空機ごときにやられる筈が無い!一体どういうことだ!?」

 

 総務大臣が疑問を呈する。

 

「詳細は不明ですが、国防省では航空攻撃前の海戦で、すでに戦艦は損傷していたと分析しています。マグドラ群島は警備用の航空機を少数しか配備していなかったため、エアカバーは事実上ありませんでした。グラ・バルカス帝国艦隊は、離島防衛基地に艦砲射撃を加え、その後東に進路を取りました」

 

 アグラは更に話を続ける。

 

「彼らの侵攻目標は、先進11ヶ国会議開催中の港街カルトアルパスと思われます。ただ、首都に来る可能性もあるため、首都警戒中の艦隊は動かせません。現在東方展開中の第1・第2・第3魔導艦隊をカルトアルパスに向かわせていますが、間に合わないでしょう。対応可能戦力は、カルトアルパス警備隊の巡洋艦8隻と空軍によるエアカバーのみであり、同戦力で戦います。カルトアルパスに被害が出る可能性は高く、各国に対して東の街カン・ブリッドに会議場所を移すように申し入れるも、受け入れてもらえず、グラ・バルカス帝国と対峙する道を選びました。なお、アニュンリール皇国のみは、すでに離脱しています」

 

 アグラの説明に、外務統括官リアージュは疑問に思い、質問する。

 

「各国の戦力で対抗できるのですか?」

「相手は第零式魔導艦隊を葬った艦隊です。戦力として期待できるのは、ムーの艦隊と、ロデニウス連合の艦隊くらいだろうと思います。他は、的になるでしょう。しかし、数が多いので、「弾除け」として役に立つかと……」

「なるほど……」

 

 会議場に、重苦しい空気が流れる。

 

「我らに恥をかかせた代償、蛮族どもの血では釣り合わぬが、払ってもらうぞ」

 

 中央世界の雄、神聖ミリシアル帝国皇帝ミリシアル8世は、静かに闘志を燃やしていた。



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カルトアルパス強襲

 中央暦1642年4月9日神聖ミリシアル帝国、港街カルトアルパス。

 

 とある酒場では、酔っ払った商人たちがいつものように話をしていた。

 

「おい聞いたか?今、先進11ヶ国会議が行われているだろう? その最中、グラ・バルカス帝国が、全世界に向けて実質的に宣戦布告したらしいぞ」

 

 1人の常連客の言葉に、他の常連たちはどよめいた。

 

「グラ・バルカス帝国は、今第二文明圏の西側にある国家に対し、次々と侵攻し、連戦連勝を重ねているらしい。宣戦布告したって事は、相当に自信があるんだろ?まさか、我が神聖ミリシアル帝国が、やられるなんて事は無いと思うが」

 

そう言って男は酒をあおる。

 

「まさか!いくらグラ・バルカス帝国が強かろうと、神聖ミリシアル帝国には敵うまい」

 

 別の男が否定した。

 

「たとえレイフォルには勝てても、列強ムーにすら勝てないのでは?ムーと我が国が本気になれば、グラ・バルカス帝国など一捻りさ」

「でも、見たか?港に来たグラ・バルカス帝国の戦艦。山のように大きかったぞ……あんなの、どうしようもないんじゃないか?」

「大丈夫だ。我が国が負けることはあり得ない」

「他国の者に聞いたのだが、今そのグラ・バルカス帝国の軍が、ここに向かって来ているそうだ。会議に参加している各国は、外務大臣護衛艦隊で連合を組み、迎撃に出るらしい」

「ほう、なら安心だな!」

「ああ、列強の艦が集まれば、グラ・バルカス帝国ごとき問題ない」

 

 酔っ払いたちは酒を飲みながら談笑を続けた。

 

◆◆◆

 

 港湾管理者ブロンズは恐怖と期待が入り混じった感情に襲われていた。彼が見たことも無いような巨大戦艦を操る国が、このカルトアルパスへ攻撃してくるのだ。

 先ほどから空を見ていると、多目的戦闘爆撃機「ジグラント2」や制空戦闘機「エルペシオ2」が飛行場に着陸している。

恐らく本当なのであろう。

 目線を港に移すと、各国の外務大臣護衛艦隊が、続々と出港していくのが見える。

しばらく見ていると、ロデニウス連合の艦隊が、何故か煙幕を展開していた。

 

「一体何なんだ?」

 

 そのとたん、煙幕の中が少し光ったように見えた。

 

「なっ!!」

 

 煙幕が晴れると、6隻の艦隊がなんと12隻になっていた。

 

「どういうことだ!?」

 

 彼には知らないことだが、煙幕の中から見えた光は、艦娘が艤装を展開させた際のものだった。

この世界で、この事を知るのは極わずかしかいない。

 

◆◆◆

 

 ムーの機動部隊、戦艦2隻、空母2隻、巡洋艦8隻、装甲巡洋艦4隻からなる艦隊の旗艦「ラ・カサミ」の艦橋で、艦隊司令官のブレンダスは横に立つ艦長ミニラルに話しかけた。

 

「敵の規模が全く不明だが、どう見る?」

「確かに敵の戦力が不明です。おそらく敵の目的は各国の大臣護衛艦隊に、恥をかかせる事……カルトアルパスに1撃を加え、神聖ミリシアル帝国の顔をつぶすのが目的かと」

「なるほどな」

 

ブレンダスは小さくうなずく。

 

「相手の量はそれほど多くないと予想されます。一方、こちらは混成とはいえ数が多い。失礼を承知で申し上げると、通常文明圏外国の艦は良い弾除けになるでしょう」

「そうだな。弾除けとなる通常文明国の艦隊を盾にしつつ接近する。我々とロデニウス連合、神聖ミリシアル帝国は後方から援護射撃を行いつつ距離を詰める。敵は我々の射程距離に入る前に、まずは弾除けの艦隊を始末しようとするだろう。そこを狙う」

「はい」

 

 そこへ通信士が声を上げた。

 

「神聖ミリシアル帝国、ロデニウス連合艦隊より入電!『グラ・バルカス帝国と思われる航空機が南西方向から多数カルトアルパスに接近中。距離140km、数は200以上』とのことです」

「に……200だと! 」

 

 ブレンダスは驚愕する。

 

「直掩機をあげろ!!上がれる機体は全部上げるんだ!」

「爆装種別はいかがいたしますか?」

「艦隊防衛を優先させろ。機銃のみで良い」

「了解しました」

 

ブレンダスの命令により、2隻のラ・コスタ級空母は、戦闘機の発艦準備にかかる。

「マリン」と「マリンMk.II」が飛行甲板にずらりと並ぶ。

 

「発艦はじめ」

 

 やがて発艦命令が下される。

 

 「マリン」と「マリンMk.II」は飛行甲板を滑るように走り出した。

そして両機は次々と発艦し、上空へと舞い上がっていく。

 臨時連合艦隊の上空を、神聖ミリシアル帝国空軍の最新鋭制空戦闘型天の浮舟「エルペシオ3」、42機が駆け抜けていく。

各国の者たちは、その光景に圧倒され、勝利を確信する。

 

「流石だ。神聖ミリシアル帝国の空軍は」

「ああ、グラ・バルカス帝国の航空隊など物の数ではないな」

 

 ただし、ロデニウス連合を除いて。

 

「ジェット機のくせに零戦より遅いじゃないか。プロペラ機の方が速いってどういうことだ? 」

 

 駆逐艦「雪風」の艦橋で提督は思わずぼやいた。

 

◆◆◆

 

 第7制空戦闘団の団長シルバーは、初めての実戦を前にして武者震いしそうだった。

 

「グラ・バルカス帝国か……奴らは俺達をなめている。舐めきっている。だから勝てる」

 

 彼はそう自分に言い聞かせた。

途中、基地司令直々の魔信による訓示があり、パイロットたちの士気は上がる。

 

「行くぞ、野郎ども、初陣だ!!」

「おおーっ!!」

 

 しばらくして、ついにその瞬間が来た。

 

「敵機大編隊、発見! 左30、下方45!」

 

 部下から報告が入る。

 

「来たな……」

 

 彼の視界に、敵の姿が見えてきた。

 

「数が多いな……」

 

 シルバーは敵機をよく観察するが、どれが制空戦闘機でどれが爆撃機なのか、見分けがつかない。

 

(まあ良い。全部叩き落としてやる)

 

 彼はニヤリと笑った。

 

「全機に告ぐ!まずは敵の先頭集団をやるぞ!敵編隊上方から攻撃を行った後、そのまま敵後方低空へすり抜ける!」

『了解!!』

 

 シルバー率いる第7制空戦闘団は、敵の大群へ突撃を開始した。

魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの高音が機内に響き、機体は速度が上がるにつれ、振動が激しくなる。

 

「!?」

 

 微かな違和感を覚えて、太陽を見る。

 

「!!!!」

 

 光が眩しいため目を細めたところ、いくつもの微かな黒い点が見える。

 

「て……敵襲!!前方上空!!!太陽から来るぞ!!」

 

 シルバーが叫ぶと同時に、第7制空戦闘団は回避行動に入った。

だが、敵のほうが早かった。

次の瞬間、5機のエルペシオ3が撃墜され、敵機20機が第7制空戦闘団とすれ違う。

 

「お……おのれ!」

 

 シルバーは、いきなり5機を失った怒りで歯噛みした。

彼を含め、37機のエルペシオ3が散開し、グラ・バルカス帝国のアンタレス型艦上戦闘機20機と交戦する。

 先手は取られたが、数はこちらが多い。すぐに押し返せるだろう。

シルバーはそう考えていた。

しかし、それは甘すぎた。

 

『何なんだコイツら!?』

『速い!! それに動きが違う』

『うわっ! う、うしろを取られた! 助けてくれ! 』

『ちくしょう! 振り切れない!』

 

 悲鳴のような魔信が飛び交う

ある機体は旋回戦を挑んだが、あっさりと背後を取られ、翼をもぎ取られた。

別の機体は機体後部を切り裂かれ、炎に包まれる。そしてまた1機……。

 20対37という数的有利にもかかわらず、たった10分の間に味方機は半数まで減っていた。

 

「バカな! ありえん! こんなことが!」

 

 シルバーは信じられないといった表情を浮かべる。神聖ミリシアル帝国空軍が誇る最新型の制空戦闘型天の浮舟が、たかだか文明圏外国の飛行機械に、遅れを取っているのだ。

 

「こいつ! 」

 

 シルバーは必死になって、敵を振り切ろうとするが、敵はぴったりとくっついて離れようとしない。

 

「ええい! しつこい奴め! 」

 

 シルバーは機体を右に急旋回させるが、敵はその動きについてくる。

 

「くそっ!くそっ!」

 

 悪態をつくが、状況が好転するわけではない。

直後、シルバーの機体はアンタレス型艦上戦闘機の20㎜機関砲に貫かれた。

 

「ぐおおおぉぉぉー!」

 

 断末魔の叫び声を残し、シルバーのエルペシオ3は空中でバラバラに分解していった。

 

◆◆◆

 

 カルトアルパス空軍基地では、魔力探知レーダーの操作員は自分の目を疑った。

画面に映る大きな点は「エルペシオ3」のもの、小さな点はグラ・バルカス帝国の航空機。

 その大きな点が次々に消えていくのだ。

それが意味しているのはただ1つ。

 

「ま……魔力探知レーダーから、第7制空戦闘団の反応が消えました。全滅です」

「ば……馬鹿な……最新鋭機の、練度の高い部隊だぞ!レーダーの故障では無いのか? 」

「いえ、故障ではありません。反応は完全に消失しています」

「まずい!新型機も旧式機も、上げられる機体は全部上げろ! エモール王国の風竜騎士団に応援要請を出せ!」

「は、はい」

「まずいな……このままでは、臨時連合艦隊の上空直衛が、ムーの飛行機械とニグラート連合のワイバーンロードのみになってしまう」

 

 空軍基地は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

 

◆◆◆

 

「42機いて墜とせたのはたったの3機か……」

 

 提督は、制空戦闘の結果を見てそう言った。

 

「全艦、対空戦闘の準備は出来ているな?」

『『『はい!!』』』

『もちろんです!!』

『いつでもいけるわ』

「よし! 全員、必ず生きて帰るぞ! これは命令だ! 」

『『『了解!!』』』

 

 駆逐艦「雪風」の艦橋に気合の入った返事が響く。

編成は

戦艦  「Bismarck」「Scharnhorst」

重巡洋艦「摩耶」

軽巡洋艦「矢矧」「Helena」「Atlanta」

駆逐艦 「Jervis」「雪風」「天津風」「磯風」「浜風」「谷風」

である。



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カルトアルパス強襲2

 中央暦1642年4月10日神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス南方沖

 

 グラ・バルカス帝国の機動部隊から発進した第一次攻撃隊約200機は、神聖ミリシアル帝国軍の戦闘機部隊を難なく突破。

その勢いのまま、臨時連合艦隊へと迫っていた。

 半数が各国の艦隊、もう半数がカルトアルパスの市街地やその周囲にある神聖ミリシアル帝国軍の基地を攻撃する手筈となっている。

 

 グラ・バルカス帝国の艦爆隊第3中隊の中隊長スバウルは、視界の先に展開するロデニウス艦隊の違和感に気付いた。

 

(「グレートウォール」からの報告では6隻だったはず……おかしいな、数が合わない)

 

 どうも、ぱっと見だと6隻以上いるように感じる。

その時、敵戦艦の主砲が閃光を発した。

 

『敵艦発砲!回避せよ!』

 

 隊長から無線で指示が入る。

回避運動に入った直後、先ほどまで彼の機体がいた空間が爆発する。

 

「クソッ!!時限信管を知ってやがるのか!」

 

 運悪く、回避しきれなかったシリウス型爆撃機が数機被弾し、空中で四散する。

敵戦艦2隻分の主砲対空射撃2斉射で、攻撃隊はいきなり20機を撃墜破された。

主砲の射界外に出た攻撃隊を待っていたのは、高角砲と両用砲による対空射撃であった。

 

「近接信管も知っているのか!!」

 

 スバウルは叫び声を上げる。

味方の航空機の近くで爆発していることから、近接信管が使われていることは明白であった。

燃料漏れを起こしたアンタレス07式艦上戦闘機が引き返して行った。

1機のリゲル型雷撃機が煙を噴きながら、海面へと突っ込んでいき、「シリウス」が1機、機体後部を引きちぎられ、回転しながら墜ちていく。

 

「行くぞ!各機俺に続け!」

 

 スバウルは合図を送ると、艦隊の最後尾を走る帆船に向けて急降下を開始した。

敵の対空砲火を減衰させるため、機銃掃射をする。

 

「喰らえ!」

 

 甲板にいる水兵たちへ向けて、12.7㎜機銃の引き金を引いた。

放たれた12.7㎜機銃の弾は木製甲板を貫通し、魔石庫に直撃。

そこに貯蔵されていた魔石を誘爆させ、帆船を木っ端微塵にした。

 

「降下止め!上昇しろ!」

 

 スバウルは慌てて、部下に指示を出した。

思ったよりも脆かった為、機銃掃射だけで沈んでしまった。

機銃掃射だけで簡単に破壊できる船があると気づいたグラ・バルカス帝国の航空機は、木造船の船団に機銃掃射を集中させた。

 あっという間に数十隻の船が海の藻屑となったのである。

 

「くそっ!なんて奴らだ!」

 

 ムーの機動部隊から飛び立った、「マリン」のパイロットたちは、敵戦闘機の性能が自分たちの物より優れていることを理解した。

 

「なんだこの機動性能は! こんなもの、初めて見るぞ」

「こいつ! 速いだけじゃない! 格闘性能も抜群だ!」

「畜生! 振り切れない!」

 

 敵機を振り切ろうとするも、すぐにに追いつかれる。

ムーの誇る最新鋭機であるはずの「マリン」が、まるで赤子扱いされていた。

 一方、「マリンMk.II」は、強化された武装とエンジンのおかげで互角に戦えている。

しかし、このままではジリ貧であることに変わりはない。

 

「……すごい光景だな」

 

 空を見上げた提督はそう呟いた。

上空には第二次世界大戦レベルの航空機が飛び回り、複葉機やワイバーンロードと交戦している。

炎の玉や航空機の機銃の曳光弾が空中を彩っている。

 

『パンドーラ大魔法公国魔導船団、壊滅!!』

『ニグラート連合竜騎士団、劣勢!』

『ムーの戦闘機、また1機撃墜された!』

 

 魔信からは悲鳴に近い報告がひっきりなしに入ってくる。

 

『敵艦爆、10機接近! 』

「撃て!近寄らせるな!」

 

 両用砲や高角砲、対空機関砲の射撃により、青空を黒い花と曳光弾が埋め尽くす。

 

「叩き落とせ。Fire、Fire!」

 

 「Atlanta」の5inch連装両用砲から放たれた近接信管の砲弾が爆発し、複数の「シリウス」が空中でバラバラになる。

 

「まだだ! まだまだ撃ちまくれ!」

 

 「摩耶」の12.7㎝連装高角砲、25㎜三連装機銃は休むことなく火を噴き続ける。

その射撃精度は正確無比であり、次々とグラ・バルカス帝国の機体を撃ち落としていった。

 12隻もの艦艇から絶え間なく撃ち上げられる対空砲火は、グラ・バルカス帝国の航空隊にとって悪夢そのものの光景だった。

 

「クソッ! なんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」

 

 分隊長パッシムは、また死と隣り合わせの恐怖に耐えていた。

彼はリゲル型雷撃機に搭乗して雷撃隊を率いている。

攻撃目標はロデニウス連合の艦隊。

臨時連合艦隊で最も濃密な対空弾幕を撃ち上げてくる艦隊である。

 敵戦艦の主砲対空砲弾が炸裂し、彼の機体を揺さぶった。

2機の「リゲル」が被弾し、錐揉み状態で落下していく。

 

『こちら4番機! 離脱します!』

『6番機がやられた!』

『ダメだ!墜落する!』

 

 無線からは絶望的な声が聞こえ、さらに進めば対空弾幕が濃くなる。

敵戦艦2隻には、とんでもない連射性能を持つ対空機関砲があるらしい。

数機の「リゲル」がその弾幕に引っ掛かり、機体が穴だらけにされ、パイロットを殺された機体は海へ突っ込んでいった。

 

「もうだめか!」

 

 パッシムの機体ももう限界だった。

魚雷投下ポイントまであと300mというところで、対空砲火の餌食となった。

燃料漏れを起こし、翼からは白い煙を上げている。

予定より早く魚雷を投下し、母艦へと引き返した。

 

「あれは……駄目ですね……」

 

 パッシム機の後部機銃手を務める機銃手はそう言った。

激しい対空砲火で編隊を崩され、魚雷の投下間隔が大きく開いてしまった。

 そして、その隙間を縫うように回避行動を取っている。

 

 一方、臨時連合艦隊が航空機の猛攻撃を受けている中、カルトアルパス市街地上空では。

グラ・バルカス帝国の「アンタレス07式艦上戦闘機」と神聖ミリシアル帝国空軍の「エルペシオ2」や「ジグラント2」が交戦していた。

 

『ダメだ!振り切れない!』

『なんだあの運動性能は!? あんなの見たことないぞ!』

『こちらアルファ隊、壊滅!』

 

 魔信からは悲鳴のような声が聞こえ続けている。

 

 「エルペシオ2」や「ジグラント2」が一方的に撃ち落とされる。

市街地に機体やその破片が降り注ぎ、市民たちが逃げ惑っていた。

パニックになり、魔導車があちこちで事故を起こす。

800㎏爆弾を抱えたリゲル型雷撃機が、先進11ヶ国会議の会場である帝国文化会館を爆破解体した。

撃墜された1機の「ジグラント2」が住宅街に突っ込んで爆発し、大火災が発生する。

 神聖ミリシアル帝国軍は地上から対空魔光砲を撃ち上げているが、ほとんど効果がない。

対空魔光砲の曳光弾によって場所を特定され、返り討ちに遭う。制空権は完全に敵に握られている。

空軍基地は悲惨な状況に陥っていた。

 

「ちくしょう!なんてことだ!」

 

 基地司令官は頭を抱え込む。

敵の航空機による空襲が始まり、わずか数分で基地の滑走路は使用不能となった。

地上にいた天の浮舟も、ほとんどが撃破されたようだ。

格納庫や燃料タンクも炎上しており、消火作業は困難を極めるだろう。

 

 カルトアルパスで陸と陸との距離が最も短い場所に架かっている「イルミ大橋」でも大混乱が起きていた。

聞きなれないレシプロエンジンの音でパニックになり、大渋滞を起こしたのだ。

 

「橋が落ちたらどうするんだ! 早くどけ! 通してくれ!」

「押すな! 押さないでくれ! ああ! 俺の車が! 」

 

 怒号とクラクションが鳴り響く。中には愛車を捨てて逃げる者もいた。

その中に違う音が混ざる。

星形エンジンの作り出すエンジン音とダイブブレーキが奏でる甲高い高音。

 

「なんだ!? 何の音だ?」

「……まさか!」

 

 その音はどんどん大きくなっていく。

鳴りやんだかと思うと、爆音がして橋が大きく揺れた。

かと思うと、今度は金属の悲鳴が聞こえ、橋の中央部が崩落した。

大量の魔導車と大勢の人が海へ転落していく。

歴史上経験したことのない「空襲」は、彼らに屈辱と恐怖を植え付けるのには十分すぎた。



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