堕落先生マギま!! (ユリヤ)
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~プロローグ~
プロローグ


始めましての方や、お久しぶりの方!ユリアでございます
ネギまの小説を書いてみました
どうぞ!


 西暦2002年1月中旬のイギリス、ウェールズ・ペンブルック州。そこにある大きな池に、一人の青年が座りながら池に釣り糸を垂らしていた。

 青年の髪の色は赤というより朱色に近い色で、髪型は分かれたショートカットだが、後ろが長めで、ひもで纏めていた。身長は182㎝位で、目は垂れ目であり何処かやる気のなさが滲み出ていた。

 口にはタバコが加えられていて、はぁと口を開くと、口からは、タバコの煙がモワモワと出て来た。タバコの灰がボロボロと落ちても青年はボーとしていた。

 

 と池に垂らしておいた竿の糸が、バシャバシャ!と水面が揺れていた。如何やら魚が針にかかったようだ。青年はボーッとしながらも竿をクイッと上げた。

 針を水面から出すと、30㎝のまぁまぁの大きさの魚がかかっていた。青年は針にかかった魚を慣れた手つきで針から離し、そのままリリースした。

 リリースされた魚は元気そうに泳いでいて、直ぐに見えなくなっていた。青年はそれをただじっと見ていると、又竿を水面に投げ入れた。そして針が沈んでいる所を見ていて、ふと呟いた。

 

「…暇だ」

 

 そう彼は、さっきから釣った魚をリリースしては又魚を釣るという事を、かれこれ2時間ほど繰り返しているのだ。

 見ると青年の足元にはタバコの灰皿が置いてあり、吸殻が山のように積もっていた。青年は吸い終ったタバコの吸い殻を又灰皿にねじ込むと、懐から新たなタバコを出して咥えると、ジッパーライターでタバコに火をつけた。

 そしてまたボーッと魚釣りが始まるかと思いきや、ドタドタと何かがこちらに近づいて来る足音が聞こえた。青年がダルそうにしながら足音の方向を向くと、顔に汗を大量に流していた中年の女性がこっちに向かっていた。

 

「マギッ!マギッ!!アンタこんな所で油売ってたのね!!」

 

 中年の女性が大声で叫びながら、青年の名前らしきものを呼んでいた。如何やらこの青年の名前はマギという名前の様だ。マギと呼ばれた青年は、自分の名前を呼んだ女性を嫌そうに見ながら、はぁと溜息を吐きながら(ついでにタバコの煙が出た)。

 

「なんだ。チーズ屋のおばちゃんじゃねえか。いいだろ?俺が何しようと」

 

 マギはだらけきった態度でチーズ屋の女性主人にそう言った。女性主人はハァ~まったくと呟きながら、マギに近づくと、容赦のない拳骨をマギの脳天に叩き込んだ。ゴチィィィンッ!!という結構痛そうな拳骨が、頭に響いた。マギはおぉぉぉぉぉ…!と呻きながら、頭を(タバコは器用に歯に挟んで)押さえて

 

「行き成り何すんだよ!?いてえじゃねえか!!」

 

 マギは行き成り殴られたことに怒るが、女性主人はなにすんだよじゃないわよ!と怒鳴り返して

 

「今日はアンタの弟のネギの卒業式じゃない!こんな所でボーとしてるんじゃないわよ!!」

 

 女性主人にそのことを言われ、マギは黙ってしまった。そう今日は、ネギと言うマギの学校の卒業式なのだ。つまりマギはネギの卒業式に顔を出さないで、こんな所で呑気に魚釣りをしていたのだ。マギは黙ったまま池の方を見ながら、タバコの煙を口から出しながら

 

「いいんだよ、こんな駄目な兄貴が卒業式に顔出しなんて、ネギのいい迷惑だ」

 

 マギの言った事に女性主人は何言ってんだいと呆れながらそう言った。

 

「ネギはアンタが卒業式に来てくれんのを望んでるのよ?ふてくされてないでさっさといきな」

 

 そう言い女性主人は、その場に佇んだ。如何やらマギが卒業式に行くまで離れないつもりだ。そんな女性主人を見て、マギは折れた様で頭を掻きながら

 

「分かったよ…行けばいいんだろ?行ってやるよ」

 

 マギが漸く行く気になって、女性主人は顔の表情を和らげるが

 

「でも、今から行っても卒業式には間に合わないんじゃない?」

 

 女性主人の言った事に確かになと言うマギ

 

「仕方ねえな…面倒だけど、飛ぶか」

 

 飛ぶ?その単語に普通だったら何を言ってるんだ?と言うだろう。マギは座っていた体を伸ばしながら、まだ吸える場所があるタバコを灰皿にねじ込むと、大きく深呼吸する。すると…マギの体が淡く発行し始めた。そしてもう一度大きく深呼吸すると

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ!堕天使の翼よ!罪深き我の背中に汝の翼を与えたまえ!!黒き翼《ブラック・ウィング》!!」

 

 まるでおとぎ話で魔法使いが使う呪文みたいなものを一息で言い終えるマギ。するとマギの体の発光が強くなったと思った次の瞬間

 

 

 

 バサァッ!!

 

 

 

 マギの背中に黒鳥のような大きく美しい黒き翼が生えてきた。マギは力強く羽ばたくと少しづつ上昇していった。

 

「おばちゃん、俺の釣り道具、俺んちに持って行ってくれないか?」

 

「分かったよ。だから早く行きな!」

 

 マギは女性主人にありがとうと言うと、一気に上昇し、空をジグザグに飛んだかと思うと、一気に加速して、卒業式が行われている方向に飛んで行った。マギが見えなくなると女性主人はぽつりと呟いた。

 

「頑張りな。ネギの自慢のお兄ちゃん」

 

 

 

 

 彼の名はマギ……マギ・スプリングフィールド。彼はれっきとした…『魔法使い』なのである。

 

 

 

 

 

 さて、マギが池でダラダラと魚釣りをしているのと同時刻、ある学校で卒業式が行われていた。

 その学校の名前はメルディアナ魔法学校。名前通り魔法学校である。それにしても魔法使いの卒業式と言われるほどである、教員の恰好が魔法使いのローブみたいなものを纏っていた。

 それに卒業生の恰好もまるで魔法少年や魔法少女と言われそうな歳の少年に少女。その中にマギと同じ髪の色でメガネをかけた少年が居た。そう彼こそマギの弟のネギである。

 

「卒業生代表ネギ・スプリングフィールド。前に」

 

「ハイッ!!」

 

 校長に名前を呼ばれ、威勢のいい返事をしながら、壇上に上がるネギ。そして、校長から卒業証書を手渡される。ネギは、卒業証書を受け取ると、一礼した

 

「この7年間よく頑張った。卒業おめでとうネギ」

 

「ありがとうございます。校長先生」

 

 ネギは校長にそう言うと、又卒業生の列に戻った

 

「卒業生の諸君。この7年間よく頑張ってきた。だがこれは、あくまでも通過点でしかない。本当の修業はこれから…気を抜くでないぞ」

 

 校長が卒業生をぐるっと見渡すと

 

「ではこれにて卒業式を閉会とする!修業を無事に成し遂げ、立派な魔法使いとなれ…」

 

 

 

 

 

 

 

 卒業式が終了し、ネギはメルディア魔法学校の廊下を歩いていた。その表情は何処か寂しさが表れていた。それは学校を卒業したからではなく

 

「お兄ちゃん…来てなかったな」

 

 ネギはマギが自分の卒業式に来ていなかったのが、残念でしょうがなかったようだ。ネギはマギの事を尊敬もしていたし、大好きなのだ。そのマギが卒業式に来なかったのは色々とくるものがある。ネギはハァと溜息を吐いていると

 

「ネギ!此処に居たのね!」

 

 ネギの事を呼ぶ甲高い少女の声が聞こえて、ネギは声が聞こえた方を見るとネギより髪の色が赤いツインテールの少女と、金髪のロングストレートの女性がいた。

 

「何だ、アーニャか…」

 

 ネギはテンションが低いまま、ツインテールの少女の名前を言った。だが、態度がまずかったのか、アーニャはムッとしながら、ネギに近づくと

 

 

 

 ムニィッ!!

 

 

 

 ネギの頬を強く抓った。行き成り自分の頬を抓られ、涙目になるネギ

 

「はひふんほ!?ハャーヒャ!!(何すんの!?アーニャ!!)」

 

 ネギは抓られながら、腕をブンブンと振り回しながら、アーニャに訴えかける。だがアーニャにはなんの効果もなさそうで

 

「何が何だアーニャかよ!?最後の最後までボーっとしてこのボケネギ!!」

 

 アーニャは言いたい事を言い終えると、ネギの頬から手を放した。ネギは抓られた頬を摩っていた

 

「全く…あの馬鹿兄が来ないのがそんなにショックだったのあんた?」

 

 アーニャの言った事にネギはカチンと来て

 

「お兄ちゃんは馬鹿じゃないよ!いつも僕が知らない場所で凄い魔法の修業中なんだ!」

 

「如何かしら?そんな事言って、結局はボーッとしてるだけじゃないの?聞いたんだから、あの馬鹿兄が近くの池でグテ~ってしながら魚釣りしてるって」

 

「それはただ休憩がてらにやってただけだよ!」

 

 何だよ!?何よ!?とネギとアーニャはギャーギャーと言い合いをしていて、それを金髪の女性…ネカネ・スプリングフィールド(ネギとマギの従姉)がおろおろとしながら見ていると、コツコツコツと誰かが此方に近づいて来る足音が聞こえてきた。誰かとその方を見てみると

 

「…あれ?もう卒業式は終わっちゃたのか?」

 

 呑気そうにそう言った垂れ目の男、マギがネギたちの方に向かってきながらそう言った。ネギ達は行き成りマギが現れてポカンと呆けていたが、ネギが目をウルウルと潤ませながら、一気にマギの元に駆けだした。

 

「お兄ちゃんッ!!」

 

 ネギは泣きながらマギの胸に飛び込もうとした…が

 

 

 

 バチィンッ!!

 

 

 

「へブッ!!?」

 

 マギに結構本気のでこピンを食らわれていた。魔力が込められたでこピン、通称『破壊神のでこピン』。魔力を高密度に凝縮された場合、コンクリートの壁を粉砕できるほどの威力がある。

 まぁ今回のでこピンは何も魔力を練っていないただのでこピンだが、それでもネギは数m程だが吹っ飛ばされてしまった。

 

「あ…すまんつい」

 

 マギは咄嗟にネギにでこピンをしてしまったのにとりあえず謝っておいた。アーニャとネカネは吹っ飛ばされたネギを助け起こした。ネギは大してダメージが無かったのか、額を押さえながら起き上がった。

 

「いッ行き成り何するの!?お兄ちゃん!!」

 

 ネギはさっきとは違う意味で涙目になりながら、マギにそう言った。だが対するマギは…

 

「いや…行き成りガキでも野郎が胸に飛び込んで来たらそりゃあ誰だってブッ飛ばすだろ?」

 

 マギのその返答にガビーンという表情になるネギ。酷いやお兄ちゃん!!と手をブンブンと振り回しながら泣き怒るネギ、対するマギはあぁ~~メンドクセェと思いながら、頭を掻く。アーニャとネカネは(と言うよりネカネだけだが)オロオロとしていたが

 

 

 

 ポンッ!グシグシグシ

 

 

 

 マギが何も言わずに行き成りネギの頭を雑だが、優しく撫でてくれた。ネギは泣くのを止めて、マギの方を見てみると

 

「悪いなネギ、卒業式に出られなくて。まぁこれだけは言っとくぞ…卒業おめでとさん。よく頑張ったな」

 

 マギに行き成りよく頑張ったなの言葉にネギは一瞬だが、またポカンとしていたが。また泣き出してしまい

 

「お兄ちゃんッ!!」

 

 と今度こそマギに抱きついた。マギは抱きつかれて一瞬だが、嫌そうな顔になったが、フッと笑うと

 

「…ったく、もう10歳にもなる男が一々泣くんじゃねえよ」

 

 と言いながら、ネギの頭を優しく撫でまわす。それを見たアーニャとネカネは、これで一安心だというような溜息を吐いた。

 

「…なんじゃ、おなじみの顔ぶれは此処に居たのか」

 

 また第3者の声が聞こえ、今度は先程卒業式のでネギに卒業証書を渡した校長だった。

 

「「校長!」」

 

「おじいちゃん!!」

 

「んだじーさんか」

 

 アーニャとネカネが校長の事を校長と呼んだが、ネギとマギはおじいちゃんとじーさんと呼んでいた。それは校長がネギとマギの祖父であるからだ。校長は長いひげを弄りながらネギ達に近づいてきた。

 

「さっきは校長としての言葉だったが、今度は祖父として言わせてくれ、卒業おめでとうネギ。これからが本当の修業じゃ」

 

「うん!分かったよおじいちゃん」

 

 ネギの返事にウムと頷く校長。それにしても…言いながらマギを睨む校長。マギは校長に睨まれ脂汗を流す

 

「村の住民から話は聞いたぞマギ…お主真面目に修業しないで、そこらじゅうブラブラしているそうじゃな?」

 

「そ…そうか?みんなの見間違えじゃないのか?」

 

 マギは汗を流しながら、必死に校長から目を逸らした。しかしここでアーニャが追い打ちをかける

 

「わたしもその話は聞きました。それに…この馬鹿兄からまたタバコのにおいがプンプンします」

 

「おい馬鹿!ネカネ姉の前でタバコの話は…はッ!?」

 

 マギはアーニャを黙らせようとしたが、急に肌寒く感じ、後ろを振り向くと其処には涙目になりながらマギを見ていたネカネ

 

「マギ…貴方またタバコを吸っているのね!?あれほどタバコを吸っちゃいけないってあれほど…」

 

「分かった!分かったから!!もう吸わないって!それに今日は祝いの日なんだから説教は無しにしようぜ!?」

 

 ネカネの説教はとても長いここで説教なんてされたらたまらない。此処はしないと口裏を合わせた方がいいと直感で感じた。

 

「まったくのぉ…それよりもネギよお主はもう修業場所は見たのか?」

 

「い、いやまだだよ」

 

 校長に言われ、思い出したネギ。修業場所は卒業証書に魔法で書かれていて、開くとみられるという仕組みになっている。

 

「アンタまだ見てなかったの?ちなみに私はロンドンで占い師よ」

 

「そうだったんだ。じゃあ僕も早く開けてみようかな」

 

 ネギはそう言い、卒業証書を開いた。すると卒業証書が光だし、空白の箇所に文字が浮かびだした。修業場所は何処かとネギの他にアーニャとネカネ、とりあえず見とくかのマギ。そしてそこに浮かびあがっていたのは…

 

 

 

 

 

 ―――――――日本で教師をやる事―――――――

 

 

 

「「「え…えぇぇぇぇ!?」」」

 

 浮かび上がった文字に驚愕するネギとアーニャとネカネ。校長は、ほう先生か…と呟き、マギはふ~んと興味なさそうな態度だった。日本での教師、それは異国の地日本でネギが1人で教師として行くことになる

 

「校長!何かの間違いじゃないですか!?10歳で先生なんて無理です!!」

 

「そうよ!ネギなんてただでさえボケでチビなのに!」

 

 ネカネ姉の言っている事はまだわかるが、アーニャにはすげぇ言われ様だなと内心でそう言うマギ。

 

「しかし、卒業証書にそう書いてあるのなら仕方のないことじゃ。立派な魔法使いになるためには、頑張って修業してくるしかないのう」

 

 しかし、校長はそこに書いてあるのなら仕方がないことだとそう言った。

 

「あぁ…」

 

 ネカネはショックと不安でフラフラと倒れてしまった。ネギとアーニャは慌てて、ネカネを助け起こした。マギは何もせずにボーっと突っ立ってるだけだった。

 

「ふむ…安心せい。修業先の学校の学園長はワシの友人じゃ。何も問題はなかろう。それでも不安なら…」

 

 と次の言葉はある意味マギの衝撃的な爆弾発言だった。

 

「…マギを付添いの先生として、ネギと同じ場所で先生をやってもらうとするか」

 

 校長の発言にマギは、は?とポカンとしたが次の瞬間

 

「ハァァァァァァァァッ!?」

 

 ネギとアーニャにネカネに負けないほどの大声を上げた。

 

「如何いう事だよじーさん!?なんで俺がネギの付き添いでそんなメンドイ事をしなくちゃなんねえだよ!?」

 

「お主がいればネカネも多少は安心するだろうし、ネギも安心して修業に取り組めるだろう」

 

「嫌だぞ俺はそんな…」

 

 マギはまだ抵抗しようとしたが、それにと校長が先に言葉を被せた

 

「それにお主、学校を卒業したらその後は修業場所には行かず、7年間も碌な修業もせずに…それ以上堕落した生活を送るというならば…」

 

 と此処で、校長が切り札を出してきた。

 

「またここで7年間学んでもらう事になるぞ?」

 

「んな!?」

 

 校長の言った事にマギは嫌そうな声を挙げた。またこの魔法学校を通う事になる。つまりはネギよりも幼い子供と一緒に学ぶことになる。そんなの考えただけで虫唾が走る。絶対に嫌だ。

 

「分かったよ…やればいいんだろ!?やれば!!上等だ!先生でもなんでもコイヤ!!」

 

 とマギはややヤケクソ気味に叫んだ。なら決まりじゃのと校長はひげを弄りながら

 

「それではマギはネギと一緒に先生の修業を頑張ってくれい」

 

 校長の言った事にネギは目を輝かせ

 

「お兄ちゃんと一緒に教師…頑張ろうねお兄ちゃん!!」

 

 とネギが嬉しそうに言っているのを、マギはははははと乾いた笑い声を挙げながら

 

「もう…どうでもいいや…」

 

 とさっきとは違うボーっとしながら死んだ魚の目の様な目で遠くを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ネギが張り切って、日本に行く準備をするために自宅に帰ろうとした時

 

「これマギよ、お主はここで待て。お主にはワシから話があるのでのお」

 

 校長の言った話と言う単語にネギは説教だと思い不安を感じた。校長の前にネギとマギの祖父である校長の説教は怖いのなんの。二度と悪い事はしないと心に誓うほどである。そんな心配そうにマギを見ているネギに、マギは苦笑いをしながら

 

「心配するなよネギ。直ぐに終わるだろうからさ」

 

 とマギはネギを安心させるようにそう言う。ネギはまだ不安を顔に出しながら、先に自宅へと帰って行った。

 

「それで、話ってなんだ?じーさん」

 

 マギはだらけた態度で校長にそう言うが、校長はマギ…と怒ったような悲しんでいるような表情となり

 

「お主はまだ闇の精霊魔法の修業をしているのか?」

 

 校長の言葉にピクッと反応するマギ。魔法の世界では様々な魔法がある。火の精霊魔法、水の精霊魔法。風の精霊魔法に土の精霊魔法、雷の精霊もあれば光の精霊魔法がある。

 その中でとても強力な魔法があるそれが闇の精霊魔法だ。だが闇の精霊魔法は本当に強力なのだ。下手をすると町なんて吹き飛ばす魔法も存在するのだ。校長は知っていたのだ。

 ダラダラした生活は実は偽りで本当は誰も知らない場所で闇の精霊魔法を修業していたのだ。卒業式に向かう時に使った黒き翼も闇の精霊魔法の1つである。

 マギは幼少のころ魔法学校の危険指定図書に認定された闇の精霊魔法が書かれている魔法書を勝手に持ち出して闇の精霊魔法を修業していたのだ

 

「強力な魔法ならいくらでもあるだろう?そんな闇の魔法に手を出さんでも…」

 

 校長がこう言うのは、他にも理由があるそれは、闇の精霊魔法は簡単に言うと『悪い魔法使い』が使うというのが、魔法世界での見方のだ。

 つまり、闇の精霊魔法使い=悪い奴と言うのが魔法使いでの間ではそう見られてしまうのだ。

 校長は孫であるマギが、そう言う目で見られて欲しくなく、説得しようとしたが、マギは考えを改め無いようだ。

 

「悪いがじーさん、闇の魔法が一番強くなるために必要な魔法なんだ。そう…あのクソ親父をぶん殴るためにも」

 

 拳を強く握りしめて、マギは校長を見た。校長は、マギの目を見て瞬時に理解した。こやつの目は覚悟した目じゃ。闇の魔法がどんなにも辛く険しい地獄の道だと理解しながらも、それでもその道を進もうと決意したのだと…ならばもう何も言うまい…校長はフウッと溜息を吐いた後に、マギを見た。

 

「校長として、祖父としてこれだけは言わせてくれ…くれぐれも道を外さないでくれ」

 

 校長の言った事にマギは、あぁ分かってるって。と何時もだったら滅多にやらないキリッとした顔でそう言った。

 

「さて…とメンドイ話は終わった事だし…」

 

 そう言いながらマギは、懐から又タバコをだし、口に咥えて火をつけた。タバコの煙が廊下に漂う。

 

「まったく、先程にネカネに説教されたのに、懲りん奴じゃなお主は」

 

 校長は呆れたように言った。

 

「これ吸わないと調子が出ないんだよ。どうだじーさんも一緒に?」

 

「残念じゃが、医者に止められてのぉ。今は禁煙中じゃ」

 

「嘘つくなよ。じーさんの体から、パイプの匂いがプンプンするぜ?」

 

 マギにそう言われ、校長は慌てて体の匂いを嗅いだ。嗅いでみるとかすかにだが、匂いが残っていた。如何やらさっきパイプを吸った時の消臭がちゃんと出来ていなかった様だ。

 

「まったく、お主の鼻は犬並みじゃな」

 

「医者には黙っておくから、ネカネ姉には黙ってくれよな?」

 

 マギにそう言われ、校長は、全く要らんことまで覚えよって…と苦笑いを浮かべた。

 

「ネギを頼むぞ。お主みたいな不良少年になって戻ってきたら、わしはストレスで禿げてしまいそうじゃ」

 

「心配すんなって。ネギは真面目だからそんな事にはならないって」

 

 それは安心した…と校長はひげを弄りながらそう言う。

 

「では改めて頼もう。マギ・スプリングフィールドよ、異国の地日本でネギ・スプリングフィールドを立派な魔法使いとして育て上げよ」

 

 校長の願いにマギは片膝をついて跪き

 

「我、マギ・スプリングフィールドは、この身をもって、必ずやネギ・スプリングフィールドを立派な魔法使いへと導くことを此処に誓います」

 

 

 

 このやりとりはまるで…王とそれに仕える騎士の様に見えた。

 

 

 

 

 

 




いや~正直な所、漫画の原作で文が書けるかと思っていなかったのですが
すんなりかけました。これからも頑張って投稿していくので
応援と評価と感想よろしくお願いします(欲張り過ぎだろ!!)


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~第1章~ようこそ麻帆良へ
子供先生と兄先生①


 ネギが魔法学校で、日本で教師になる事になり、マギも付き添いで日本で教師として日本に向かう事になった。その数日後の日本・新宿駅にて

 

「わぁ~凄いや…」

 

 日本の地に降り立ったネギは、イギリスにはない日本の目新しさに興味津々といった感じで、キョロキョロと辺りを見渡してた。

 

「おいネギ、あんまりウロチョロすんなよ?迷子になられたら面倒だからな」

 

 マギが大きな欠伸をしながら言った。マギとネギはイギリスから無事に日本に着く事が出来、校長のメモ通りに電車に乗り、乗り換え駅の新宿に到着したところだ。乗車までまだ時間があるという事で、ゆっくりとした歩みで、次の電車に乗る番線へと向かっているマギとネギ。ネギが日本の駅を興味津々に見ていて、その後ろをマギがダルそうについていく形となっている。

 

「それで、次はどの電車に乗るんだって?」

 

 マギがネギに聞いてみると、ネギはメモを見ながら

 

「それがここら辺の電車に乗ればいいはずなんだけど、駅が複雑すぎてどの電車に乗ればいいか分からないよ。お兄ちゃん、近くの日本の人に聞いてくれないかな?」

 

 ネギにそう頼まれて、マギは数秒だけ顎に手を当て考えると、両手をネギの両肩に乗せ

 

「いやネギ、お前が聞いてくるんだ」

 

 マギの言った事に、ネギが仰天しながら

 

「えぇッ!僕が聞くの!?でも、もし間違った事聞いちゃったら…」

 

 と何処か不安げそうに、マギに言うネギ。そんなネギを見て、いいか、ネギ…とさっきよりネギの両肩を強く掴むと

 

「何事も挑戦が大事だ。そうやって他人に任せじゃ成すべき事も成せない。多少不安があるかもしれないが、1歩でも踏み出せば必ず道は開けるはずだ」

 

 マギの言った事に感動したのか、ネギは顔を輝かせ

 

「お兄ちゃん…うん分かった!僕、やってみる!!」

 

 言いながら、多少不安が残る中、道を教えてくれそうな人を探した。そんなネギを見ながらマギは一言ポツリと

 

「まぁこんな事言っとけば大丈夫だろう…」

 

 実の所マギは、さっきネギに道を聞いて来てほしいと言われたときに瞬時に面倒だと感じ、それなりの事言って、ネギを言い包めようと考えた。根が真面目で、マギの事が大好きなネギは簡単に言い包まれてしまった。面倒だからと言って、弟を使うというこの兄、人として最低である。

 暫くすると、ネギが人のよさそうなカップルにどの電車に乗れば聞いている所だった。カップルの男が親切にネギに電車の乗り場所を教えてくれた。ネギは親切なカップルにお礼を言うと、マギの元に戻り、次に乗る電車の番線へと向かう事にした。数秒ほどで乗る番線に到着したマギとネギ。と丁度の時間で、自分達が乗る電車が来た。電車のドアが開き、電車の中に入る

 

「そう言えば、俺達が向かう学校ってなんて名前だっけ?」

 

 マギがネギに自分達の向かう学校の名前を聞いた。ネギは、校長のメモに書かれた学校の名前を言った。その学校の名は………………

 

「麻帆良学園って名前だよ」

 

 

 

 

 麻帆良学園に向かっている電車。電車の中には大勢の学生で(対比で表すと、男子が3割で、女子が7割)あふれていた。その中に目立った存在が居た。マギとネギである。ネギとマギは顔が整っているのと、ネギは顔に幼さが残っており、女子学生から可愛いと言われ、対するマギは目が垂れ目であるが、整っている顔とマッチしているため、カッコイイ部類に入る。そのためマギと目があった女子達は一斉に顔を逸らした。まぁ、目を逸らされたマギ本人は如何とも思っていないが。とマギがネギをチラッと見ると、ネギがソワソワしていた。

 

「如何したネギ?そんなにソワソワして、不安なのか?」

 

「うッうん不安だよ。お兄ちゃんは不安じゃないの?」

 

 ネギに不安かと聞かれ、マギはそうだなぁ…と言いながら頭を掻くと

 

「あまり不安になるのも面倒だからな、在りのままの自分でいる事だな」

 

 とマギがネギにそう言うとネギは成程と言いながらマギの言った事に深く感銘を受けた。

 

「俺としてはお前の荷物の量が多すぎる気がするんだが、重くないのか?」

 

 マギがネギの荷物を見てそう言った。ネギの荷物はと言うと、

 

 ・自分と同じぐらいの長さの杖

 

 ・大きめのカバン

 

 ・その他諸々の小道具

 

「お兄ちゃんだって結構な量だよ」

 

 と言われたマギの荷物は、

 

 ・ギターケース

 

 ・結構大きめのスーツケース

 

 ・私物

 

「そう言えば、その大きめのスーツケースには、何が入ってるの?」

 

 ネギにスーツケースを指差され、スーツケースの中を聞かれた。

 

「俺とお前の私服に、俺が暇な時間を充実な時間にさせるための私物が数種類にあとタバコかな?」

 

 マギのタバコと言った途端にネギは慌てだした。

 

「だっ駄目だよ!お兄ちゃん!タバコはネカネお姉ちゃんと約束してもう吸わないって約束したじゃない!!」

 

 ネギはマギにタバコを吸わないように言うが、マギは耳を穿りながら

 

「あのなネギ、俺はタバコを吸わないと集中できないんだ。それに教師は集中しないといけない職業だし、ストレスがたまるものだ。だから必須のアイテムなんだよ。大丈夫だって、あっちとは違って少しずつ吸っていくからさ」

 

「う……ん分かった。だけど本当に吸い過ぎないでね?お兄ちゃんにもしもの事があれば僕は…」

 

 ネギがマギの事をじっと見ている。マギは分かったよと言いたげに、ネギの頭に手を置いた。

 

「了解したよ。お前に心配事をかけたら後々面倒だからな」

 

 マギの了解の返事に漸く安心したのか、表情を緩ませたとその時

 

 

 

 ガタンッ!!

 

 

 

 と電車が大きく揺れ、ネギは大きくバランスを崩し、女子生徒の胸に沈む形で倒れこんでしまった。ネギは顔を赤くして、ゴッゴメンナサイ!!と慌てて倒れこんだ女子生徒に謝るが、女子生徒達はさほど気にしてない様子で、逆に可愛いネギが倒れこんでラッキーと思っているようだ。

 

「かわいいね僕、何処から来たの?」

 

「君の隣にいるカッコイイお兄さんは君のお兄ちゃんなの?」

 

「此処から先は中学、高校だよ、何しに行くの?」

 

 女子生徒はにこやかにネギに話し掛けてきた。話し掛けられたネギは、何を話せばいいか分からずおどおどしたが、髪の長い女子生徒の髪がネギの鼻をくすぐり

 

「は…は…ハクションッ!!」

 

 盛大に大きなくしゃみをした。すると

 

 

 ブワァッ!!!

 

 

 と電車内で小さな旋風が巻き起こり、ネギの周りにいた女子生徒のスカートが捲り上げられ、パンツが見えてしまった。女子生徒達は行き成り凄い風にびっくりしている中、ネギは急いで口を隠したが、もう遅かった。

 

「おいネギ、今の風はお前の仕業だよな?」

 

「ハウッ!!」

 

 如何やらマギにはバレテしまったようだ。今の旋風はネギの魔法の力で、風化・武装解除《フランス・エクサルマティオー》という魔法だ。この魔法は文字通り武装解除の魔法で、相手の武器を取り上げるのと、より強力になると、相手の服も奪ってしまうという、女性にとっては屈辱的な魔法である。しかしこの魔法が暴走すると、くしゃみだけでこの魔法が発動してしまうという例がある。今のネギのくしゃみがそれだ。

 

「お前、この魔法は基本中の基本だろ?暴走させてどうするんだよ?」

 

「それが、まだこの魔法は制御中で…ごめんなさい」

 

「おいおいしっかりしろよ、主席卒業生」

 

 マギが呆れていると、電車のアナウンスにて麻帆良学園中央駅というアナウンスが流れた。この駅がマギとネギが降りる駅なんだろう。電車が完全に停車し、ドアが開くと一斉に駅のホームに向かう生徒達

 

「じゃあね坊や♡」

 

「気をつけてね」

 

「ヤバッ!!遅刻ギリギリじゃん!!」

 

 ネギに話し掛けていた女子生徒達も急いでホームへと向かって行ってしまった。駅のホームを出たマギとネギ。その目には様々な生徒が見えた。全力疾走の学生、スケボーやローラースケートを使っている生徒に路面電車に乗っている生徒もいた。いずれの生徒も顔には必至と慌てぶりが見てわかる

 

「皆急いでるねお兄ちゃん。何でだろう?」

 

「全員が全員寝坊して遅刻しそうとかじゃないのか?」

 

 と呑気そうに話している二人に、放送が流れた

 

『麻帆良学園生徒のみなさん、こちらは生活指導委員会です。今週から始まった遅刻者0週間、始業ベルが鳴るまで残り10分となりました。尚今週遅刻した生徒には、委員会の方からイエローカードが進呈されます。くれぐれも余裕を持った登校を心がけてください。以上、生活指導委員会からの放送でした』

 

 生活指導委員会という放送に、マギとネギは何故生徒達がこんなに急いでいるのか理解した。自分達も大丈夫かと思いネギは、時計を見てみると自分達も時間がギリギリであった

 

「ワワッ!僕達も遅刻しそうな時間だ!お兄ちゃん急ごう!初日から遅刻なんて不味いよ!!」

 

 ネギはマギを急かすように言った。しかし基本ダラケきった生活をしているマギは

 

「えぇ~~初日なんだし、遅れても許してくれるぜ?もうちょっとゆっくりいこうや」

 

 と呑気に大あくびをする始末。この兄何処でもマイペースを貫くつもりだ

 

「駄目だよ!初日に遅刻なんて生徒さんからの印象が悪くなっちゃうよ!!」

 

 だらけたマギをそう論するネギに、マギは折れた様で

 

「分かった、分かったよ。んじゃさっさと行こうぜ」

 

 そして自分達も校舎に向かう事にした。

 軽快な走りで、全力疾走で走っている生徒達を追い抜くマギとネギ。まだ10歳のネギが自分より体力がある生徒達を追い抜けるかと言うと、ネギ自身が身体強化の魔法を使用しているからだ。そのおかげで何時もよりも数倍もの体力と筋力となるのだ。尚マギの場合、身体強化の魔法は使えると言えば使えるが、魔力が勿体ないと言う考えで、ダラケきった生活でも毎日欠かさずトレーニングを行っているため、そん所そこらのアスリートよりも強靭な肉体であると自負している。

 

「このペースだったら余裕で間に合いそうだな」

 

「そうだね、よかった」

 

 ネギとマギはペースを崩さずにこのまま校舎に向かおうとしていたが…

 

「高畑先生!高畑先生!高畑先生!高畑先生!高畑先生!高畑先生!高畑先生!高畑先生!高畑先生!高畑先生!ワンッ!!」

 

 急に前方で先生の名前を10回言った後に犬の鳴き声を真似た鈴で髪を止めているツインテールの少女が走っていた。彼女の周りに居た生徒達はかなり引いていた。ツインテールの隣に居たローラースケートで走っている黒髪のロングストレートの女子もかなり引いていて、ツインテールの彼女が何か叫んでいた

 

「なぁあのツインテールの奴、何あんなにギャーギャーと叫んでるんだ?」

 

 マギがツインテールの少女を指差しながら、ネギに聞いてみると

 

「黒髪の女の人が好きな人の名前を10回言った後に犬の鳴きまねをすると恋愛運が上がる占いだって話だったんだけど、それが冗談で言っただけで、それでもめてるみたい」

 

 成程、占いか…まぁ女子中学生は思春期の塊みたいなものだ。冗談でも嘘の恋愛運が上がる御呪いを教えられて、それが効果なければ怒るのも無理はないと、マギは思った

 

「占いか…お兄ちゃん僕、あの人に親切に教えてくるよ」

 

 とマギが制止する前にネギがツインテールの女子の所に向かって行った。マギは瞬時に思った…絶対に面倒な事になるな…と

 

「まさか、到着早々”これ”を使うはめになるとは…」

 

 と呟きながらマギは懐からあるものを出した。マギが言ったこれとは…

 マギが懐から何かを出している間に、ネギがツインテールを鈴で纏めた少女の元に行き、こう言った

 

「あの…あなたに失恋の相が出てますよ?」

 

「え゛?」

 

 ネギに行き成り失恋の相が出ていると言われ、固まってしまったツインテールの少女は表情を固め、数歩よろけると

 

「な…なんだとこのガキャー!!」

 

 キレた。それはもう盛大に。行き成り失恋の相が出ていると言われれば、それはもうキレるだろう。キレられたネギ本人はと言うと、驚きながらも

 

「い、いや何か占いの話が出ていたので、教えてあげようと思いまして…」

 

 ネギはたじろぎながらもそう言ったが、ツインテールの少女はネギの言った事には聞く耳を持たない様子で、ズンズンと近づきながら

 

「あ、あああああアンタ!テキトーな事言うと承知しないわよ!」

 

「い、いえかなりのドギツイ失恋の相が…」

 

 出ていますよと言おうとした途端

 

 

 

 スパァァァァァァァンッ!!!

 

 

 

「アイタァァァァッ!?」

 

 ネギが何かで思い切りはたかれた。誰がネギをはたいたかというと

 

「まったく色々とメンドウな事をしないでくれよな……」

 

 ハリセンを肩に担いだマギが立っていた。ツインテールの少女と黒髪ロングの少女は、行き成り目の前に少年とそっくりな青年が現れてポカンとしていた。ハリセンではたかれたネギは頭を押さえながら

 

「お兄ちゃん!行き成り何すんの!?」

 

 と理不尽さを露わにしながら、マギに訴えかけたが、そのマギは呆れたように溜息を吐きながら

 

「あのなあネギ、今のはお前が悪い。全面的に」

 

「如何して!?僕はただ親切に占いの結果を親切に教えてあげたのに…!」

 

 それが間違えなんだよ。と言いながらネギを指差すマギ

 

「いいかネギ、もしお前が明日誕生日だとして、明日を楽しみとする。だがそこに絶対当たる占い師が『貴方の誕生日は悲惨な結果になる』って言われたらどうよ?お前だって気分はどん底になるだろ?今のお前の発言は好きな人に告白しようとする女子が、行き成り失恋の相が出ているって言われたらどうよ?その女子はショックで引き籠るぜ?絶対」

 

「そ…そんな僕のせいでそんな事が…」

 

 ネギはマギに言われ、事の重大さに気づいた。まぁ今のネギの行動は『要らん親切、余計なお世話』と言えるだろう。

 

「それになあの歳のヒステリックな女は小さな出来事でも不良になる可能性も「誰がヒステリックな女よおおおおおおおッ!!」…」

 

 マギが最後まで言い終える前に、ツインテールの少女がマギに飛び蹴りを食らわせようとしたが、マギは上体を軽く動かして、ツインテールの飛び蹴りを躱した

 

「な?こうやって直ぐに暴力に走る」

 

「すッすみません!僕、貴女に余計な事を言ってしまって…」

 

 ネギはツインテールの少女に謝ったが、少女の態度からして、許す気配など無かった

 

「謝るくらいなら…さっきの失恋発言取り消しなさい!!」

 

「あ…あの…その…」

 

 ツインテールの少女に片腕で頭を掴まれ、上へと持ち上げられてしまいオドオドとしているネギ。と言うより10歳にもなると小柄なネギでも結構な重さになる。それを片腕で持ち上げるとはこの少女、普通の少女よりも怪力なのだろう。

 

「なーなーアスナ。子供の言った事やし、許してあげへんの?」

 

「うるさいこのか!あたしは何も考えずにずけずけと物言うガキがね、ダイッキライなのよ!!」

 

 黒髪の少女、このかがネギを許してあげようと言うが、ツインテールの少女、アスナは、断固として譲らない様子だ。一方傍観者の様な立場になっているマギは、もう如何にでもなれと言う態度をとっていた。

 

「それにしても、坊やと坊やのお兄さんは転校生かいな?こんな所に何しに来たん?」

 

 と言いながら、このかは一際大きい建物を指差した

 

「ここは麻帆良学園都市の中でも一番奥の女子高エリアで、初等部は前の駅やし、男子校は逆のエリヤなんよ?」

 

 言われれば確かにこの女子高エリアに来てからは、男子の姿を見なくなったのはそういう事か

 

「つまり!!」

 

 そう言いながら、アスナはネギを降ろすと、ネギの顔面にズイッと指を近づけると

 

「ガキは入っちゃいけない場所なの!それと!そこでボーッとしてるアンタも!分かった!?」

 

 とアスナはマギにも指をさしながらそう言った。これまでのやりとりでこのツインテールの少女アスナ第1印象はと言うと…

 

(なんて乱暴な女の人だろう…)

 

(一々五月蝿い女だなコイツ…)

 

 酷い言われ様だった。

 

「ほなうちら用事があるから一人でかえってなあ~」

 

「じゃあね!ボク!!」

 

 このかとアスナはそう言って、何処かに行こうとしていた。ネギはアスナにまだ何かを言おうとしていたが、聞く耳を持とうとしないアスナ。マギとしては口煩い奴が居なくなってせいせいするような感じだ。

 

「―――いや、彼らはいいんだよアスナ君」

 

 と校舎の方から、男の声が聞こえ、呼ばれたアスナは瞬時にその男が居る方向を見た。

 

「お久しぶりです、ネギ君、マギ君」

 

 ネギとマギの名前を呼んだ男性を見て、アスナはカァァァッと顔が真っ赤になっていた。このかはその男性におはよーございまーすとあいさつをした。

 

「高畑先生!?お、おはようござい「久しぶりタカミチ!」「タカミチおひさ~~」…!?あッあんた達知り合いなの!?」

 

 如何やら彼がさっきアスナがこのかの嘘の占いで叫んでいた高畑先生の様だ。アスナが高畑先生に挨拶しようとしたが、ネギとマギが高畑先生を親しそうにタカミチと呼んでいたのを聞いて、後ずさった。

 

「如何だい麻帆良学園は良い所でしょう?『ネギ先生』『マギ先生』」

 

 タカミチがネギとマギの事を先生と呼んでいたのを、アスナとこのかは不思議そうにしていた。

 

「え?先生?坊やとお兄さんが?」

 

「あ、はい。そうです。お兄ちゃんもほら」

 

「えぇメンドイなぁ…」

 

 ネギが一礼すると

 

「この度、この麻帆良学園で英語の教師をやる事になった、ネギ・スプリングフィールドです」

 

「同じくネギの兄で、此処で歴史の先生をやる、マギ・スプリングフィールドだ」

 

 ネギとマギの自己紹介にポカンとする女子2人。次の瞬間

 

「エェェェェェェェェェェェェェェェッ!?」

 

 アスナがこれでもかと程の大声を挙げた。

 

「チョッチョット待ってよ!先生!?それどーいうこと!?アンタのお兄さんはまだわかるけどアンタみたいなガキンチョが!?」

 

「まーまーアスナ落ちついてぇなぁ~」

 

 興奮したアスナがネギに詰め寄り、そのアスナをこのかが落ち着かせようとしていた。

 

「ハハハ。いや彼らは頭がいいんだ。安心したまえ」

 

 タカミチが笑いながら、ネギ達の元に歩いてやって来た

 

「でも先生、そんな事急に言われても…」

 

 アスナは納得がいかない様子だ。あぁ言い忘れてたけど、タカミチが付け足しで

 

「僕は又長期の出張が入るから、君たちAクラスにネギ君が担任、マギ君が副担任に入るそうだよ」

 

「なッ!!?」

 

 タカミチの言った事にアスナはガーーーーーンとかなりショックを受けているようだ。如何やらタカミチが又自分達のクラスの担任になってくれると思っていたようで、そのショックは計り知れない。

 

「そ…そんなぁ~アタシこんな子嫌です。さっきだって行き成り失恋の…いや失礼な言葉ををアタシに「でも本当の事ですよ」本当言うなぁぁッ!!」

 

 アスナが必死にタカミチにネギが担任なのは反対だと訴えかけていたが、ネギが余計な横槍を言って余計にアスナを怒らせる。遂には泣き怒りながら、ネギの胸倉を掴んで揺すりまくった。

 

「だいたいアタシはガキが大嫌いなのよ!アンタみたいな無神経でチビでマメみたいに小さいガキが!!」

 

 ネギはアスナに言いたい放題言われて段々腹が立ってきた。そりゃこっちだって無神経な事を言ってしまったかもしれないけど、そこまで言う必要はないだろ…と、その時アスナの髪の毛が、ネギの鼻をくすぐった。そのせいでネギは鼻をムズムズさせ始めた。マギは又武装解除の魔法が暴発すると考え、ネギを止めようと…しない。だってメンドイから。そして遂に

 

「ハッハァァックション!!!」

 

 電車の時よりも盛大なくしゃみをした。巻き起こった風も、さっきのは旋風位だったが、今度は暴風レベルの風で、アスナの服が全て吹き飛んでしまった。残ったのは上のブラジャーと下の…毛糸のクマパン。

 

「なッ!!?」

 

 アスナは行き成り自分が下着姿になってしまった事よりも、先にタカミチの方を見た。そのタカミチと言うと…

 

「あ…いや…」

 

 顔を赤くしながら、アスナから目を逸らしていた。アスナはタカミチに下着姿を見られてしまいヘナヘナと座り込んでしまった。

 

(クマパン……)

 

(毛糸のクマパンや……)

 

 タカミチとこのかはクマパンの事を考えていたが、マギはと言うと

 

(一刻も早くタバコを吸いてえ…)

 

 まったく別の事を考えていた。魔法を暴発させたネギはと言うと、アスナに色々と酷い事言われたから、許すつもりはないと言いたげに、頬を膨らませていた。

 

「い…い…」

 

 イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!

 

 絹を裂いたようなアスナの悲鳴が麻帆良学園の女子高エリアに響きわたった。

 

 



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子供先生と兄先生②

最初に言っておきます。
僕はアスナは嫌いじゃありません!
それではどうぞ!!


 麻帆良学園女子高エリア中等部の校舎に、学園全体を総べる長、学園長室がある。その学園長室にマギとネギ、このかにジャージ姿のアスナがいた。何故アスナがジャージ姿でしかも学園長室に居るかというと、ネギの武装解除の魔法の暴走により、制服が吹き飛ばされてしまい、手元に予備の制服が無かったため、持っていたのはジャージしか無かったため、仕方なくジャージを着たという事だ。

 そして何故このかとアスナが学園長室に居るかと言うと、実はこの2人は学園長から新しく来る新任の担任と副担任…つまりネギとマギを連れてくるように頼まれていたからである。何故、学生のこのかとアスナが迎えを頼まれたかというと、先生より生徒が迎えに行った方が、新任ネギとマギは安心すると学園長は考えた。それもあるが、このかは学園長の孫なのだ。平たく言うとこのかが学園長に頼まれアスナとは仲がいいという事で、一緒についてきたのだ。

 

「学園長先生!一体如何いう事なんですか!?」

 

 ジャージ姿のアスナが、タカミチに言ったように学園長に訴えかけていた。

 

「まぁまぁ、アスナちゃんや」

 

 学園長はアスナを宥めた。アスナを宥めた学園長は、ネギとマギを交互に見るとふむ…と頷くと

 

「成程、日本で学校の先生を…フォッフォッフォ。そりゃまた難題な課題をもらったものじゃのぉ~そっちの兄の方は成り行きで日本に来たようなものだと、あっちの校長から聞いておるぞ。兄弟そろって、まぁ頑張りなさいや」

 

「あ、はい。よろしくお願いします」

 

「うい~す」

 

 ネギは緊張した感じの返事で、マギは緊張のきの字もない。腑抜けた返事をしたのだが、今のマギの耳には学園長の話など入っていなかった。マギは学園長が気になって仕方が無かった。何故なら学園長の頭、まるで日本で有名な妖怪の、ぬらりひょんみたいに、頭の形が普通の人間では有りえない程細長く大きい。これでこのかの祖父なんだそうだ。本当に人間か疑ってしまうほどのレベルの頭なのだ。これが東洋の神秘と言う物なのか…?マギは珍しく長い時間考えていた。

 

「しかし先ずは教育実習生…という事になるかのう。今日から3月までじゃ。ところで…」

 

 と此処で学園長の目がキランと光った。ネギは重要な事を言われるのかと思い、生唾を飲み込んで、マギはどーでもいいから早く話を終えてくれと呟きながら、頭を掻いた。

 

「ネギ君とマギ君には彼女はおるかの?如何じゃ孫娘のこのかは?いい娘じゃろ?」

 

 学園長のアホ発言にネギは盛大にずっこけた。ややわ~おじいちゃん。とこのかが、金槌で結構容赦なく、学園長の頭を殴りつけた。わりと本気だったらしく、学園長の頭から赤い血が流れるのを見て、とりあえずは人間なのか…とまた場違いな事を考えていたマギである。

 

「ちょっと待ってください!大体子供が先生なんて可笑しいじゃないですか!?しかもお兄さんが副担でこの子供が担任だなんて!!」

 

 アスナは全然納得がいかない様子で、学園長に(後ろでネギがム~という顔になっていた)訴え続けた。学園長はフォフォフォと笑って飄々とした態度をとっていたが、急に真面目な表情になり

 

「ネギ君…そしてマギ君。この修業は君たちが思っているものより過酷な修業じゃぞ。万が一無理だった場合、君たちは故郷に帰らないといけないことになるのう。二度とチャンスが来ないが…それでもその覚悟は有るのじゃな?」

 

「はっはい!やります!やらせてください!!」

 

「ここで失敗すると、又じーさんがガキと一緒の学校に行かせようとするからな。仕方ねえけどやってやるさ」

 

 ネギとマギの返事に、うむ分かった!と学園長はそう言うと

 

「では今日から始めてもらおうかの。では中等部の生徒指導教員しずな先生を紹介しよう。しずな先生、入ってきてくれい」

 

 学園長がしずな先生という先生を呼ぶと、ハイという女性の声が聞こえながら、学園長室のドアが開いた。ネギは如何いう先生かと思い、振り返ると

 

 モニュン

 

 とネギの顔に何か柔らかい物が当たった。これは何かな?とネギは顔を上にあげてみると…

 

「あら、ごめんなさい」

 

 ネギの真上から女性の声が聞こえ、ネギは上を見上げると、其処には20代後半から、30代前半の眼鏡を掛けた女性がいた。彼女がしずな先生なのだろう。ここで漸くネギは顔に当たっている物が、しずな先生の胸だと分かり、自分がしずな先生の胸の谷間に顔を埋めていると理解し、子供らしく恥ずかしさで顔を赤くする。

 

「何か分からない事があったら、しずな先生に遠慮なく聞くといい」

 

「よろしくね?」

 

「あ…はい」

 

 しずな先生によろしくと言われても、ネギは呆けた返事をしていた。マギはしずな先生に軽く会釈をして挨拶を終えた。

 

「ああ…それとネギ君とマギ君の住まいが決まっていなくてのう。それでの…」

 

 次の学園長の発言はある意味、いやかなり爆弾発言だった。

 

「このか、アスナちゃん。しばらくはネギ君とマギ君をお前たちの部屋に泊めてくれんかのう?」

 

 学園長の泊めてくれ発言に、ネギとアスナはとっても嫌な顔になった。

 

「もう!何から何まで学園長!!」

 

 アスナが今の発言には問題があると、学園長に詰め寄ったが、笑ってごまかす学園長。

 

「えーやないアスナ。この子かわえーよ?」

 

 とこのかが、ネギの頭を撫でながらアスナに言った。

 

「だからガキは嫌いなんだってば…」

 

 アスナは断固反対なのか、拳を握り震えていた。

 

「まぁ、これから先生と生徒の関係になるんだから、ちゃんと仲良くしなさい」

 

 と学園長にそう言われ、うっと黙るアスナ。

 

「ちょっと待てジーサン。ネギがその2人の部屋に泊まるのはいい「いいわけないでしょ!!」だが俺はもう日本で言う高校生とおんなじ年齢だ「ちょ!無視するなーーー!!」そんな俺が中学生の部屋に泊まるのは問題になるんじゃねえか?」

 

 だからむしすんなーー!!とアスナが騒いでいたが、敢えて無視するマギ。確かにマギ位の男性が女子中学生の部屋に泊まるなど、世間に知れ渡れば大問題だ。それを考えているのかこの学園長は。

 

「それなんじゃが、本当にまだ決まってないのじゃよ。それにマギ君だけ野宿なんてことになったら、他の先生からなんて言われるか、まあ我慢してくれ…まあマギ君が女性との間で問題なる事は絶対ないと故郷の校長からは聞いておるのでのう。まぁ儂としては、このかと彼氏彼女の関係になってくれたら万々歳なんじゃがのう。フォフォフォ」

 

 学園長の言った事に、もうおじいちゃん!頬を膨らませるこのか。マギは故郷の校長にあのじーさん余計な事言いやがってと呪詛を唱えていた。まぁこれ以上言っても、結局、問題は解決する感じは無いようで、マギはこの話を呑む事にした。

 

「全く、これで面倒事が増えるのか…やれやれだぜ」

 

 そう呟きながら、マギは大きな溜息を吐いた。

 

 

 

 

 アスナとこのかのクラス、Aクラスに向かっている、アスナとこのかに、ネギにマギと付き添いでしずな先生。学園長室から出たマギ達は(アスナは予備の制服に着替え、制服姿になった)アスナの案内でAクラスに向かっているのだが、今どういう形でAクラスに向かっているのかというと

 

「フンッ!!」

 

「む~~…」

 

 不機嫌そうなアスナと気まずそうなネギを先頭に、その後ろをこのかとダルそうに歩くマギと普通に歩いているしずな先生が続いて行った。アスナはチラッチラッと何回かネギを怪しい人物を見るような目で見ていたが、ネギがアスナに何か言おうとしたら、急に目つきギロッと鋭くしネギを指差し

 

「アンタと当分暮らすなんてお断りよ!じゃあアタシ先に行きますから先生!!」

 

 と最後の先生を嫌味たらしくネギにそう言うと、ネギとマギを置いて先にAクラスに向かって行ってしまった。アスナが先に行ってしまったのを見て、このかも

 

「それじゃー私ももーいくなー先生方お先にーー」

 

 とこのかもアスナに続いて先に行ってしまった。先に行ってしまったアスナとこのかを呆然と見ているネギ。

 

「何なんですかあの人は…」

 

 ネギはアスナに文句を言っていた。

 

「彼女はいつも元気だからね。でもいい子よ?」

 

 としずな先生が笑いながら、そう言った。

 

「あの女は元気というより喧しいだけだと思うんだがな…」

 

 マギはアスナの今迄の行動を見てそう思って言った。まぁ彼女は確かに元気が有り余っているわね。としずな先生も否定はしてい無いようだ。ともうそのAクラスに到着したようだ。

 

「ハイ、これクラス名簿」

 

 とネギがしずな先生にクラス名簿を渡されたネギ。あ、どうもとしずな先生にお礼を言う。

 

「それより、今日から行き成り授業だけど、大丈夫そうネギ君?」

 

 しずな先生に大丈夫かと聞かれ、緊張で体が震え始めたネギ。

 

「あ…う…正直、キンチョーしてきました」

 

 と何とか落ち着かせようとしたが、上手くいかずに大きく深呼吸をし始めたネギ。そんなネギを見てマギが…

 

「おいネギ、さっきも言っただろう?在りのままの自分でいろってな。自分を信じて見ろ。自分なら大丈夫、自分なら出来る…ってな」

 

 マギの言った事にネギは幾段か緊張が薄れてきたようだ。

 

「ありがとうお兄ちゃん!そうだよね、僕は大丈夫…僕なら出来る…」

 

 とネギが自分に言い聞かせていた。そんなネギを見て、しずな先生はふふと笑いながら、マギの方を見る。

 

「さすがお兄さんと言った所かしら?ところで、マギ君は緊張はしないの?さっきから随分リラックスしているけど」

 

 としずな先生の問いに、マギは別にと言い

 

「俺は何処に行っても自分のスタイルを貫くんで、変に緊張してもメンドイだけなんで」

 

 とマギはしずな先生にそう返す。そんなネギとマギを見てしずな先生はこう思った――――この兄弟は似ていそうで似ていない―――と。とネギは緊張がほぐれて着た様で、教室の中を見てみることにした。

 

「うわぁ…」

 

 とネギの口から感嘆がこぼれた。教室の中の雰囲気はというと、女子中学生でごった返していた。肉まんを売っている生徒やそれを買って食べている生徒も居れば、部活の朝練から帰ってきて、制服に着替えている生徒。読書をしている生徒も居れば、パソコンを弄っている生徒も居た。

 

「これが、僕とお兄ちゃんがこれから、教えていく人達か…」

 

 教室を見渡してネギはそう呟いた。そう言えば名簿を見るのを忘れていたネギ、さっそく名簿を開いて、生徒を確認する。マギも副担として生徒を覚えなきゃいけない(メンドイが)と思いクラス名簿を見てみた。そして2人の思った事はというと

 

「「げ…多い」」

 

 それだけだった。生徒の人数は、31人。これが全員女子ときたもんだ。まぁここは女子校だから女子しかいないのは当たり前か。と2人は瞬時に頭を切り替えた。ネギとマギはクラス名簿に目を通し、生徒の名前と顔写真を覚えていった。2人は記憶能力は高く、一度覚えた物は絶対忘れない程であり、クラスの女子達もすぐに覚えていった。とクラス名簿の中にさっきのアスナとこのかの名前が載っていた。フルネームは、神楽坂明日菜と近衛木乃香であった。とよく見ると所々に、タカミチが書いたと思われる書き込みがちらほらとあった。とすると…

 

「ん?」

 

 行き成りマギが難しい顔をした。滅多に見せないマギの表情に、ネギは顔を傾かせ

 

「如何したのお兄ちゃん?」

 

 と聞いてみると、いやなと言いながらマギは一人の女子生徒の写真を指差した。その女子生徒とは…

 

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさん。この生徒さんがどうかしたの?」

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。出席番号26番、所属している部活は囲碁部と茶道部で、タカミチの書き込みには『困った時には相談しなさい』だそうだ。この書き込みはよく分からなかったが今は如何でもいい。このエヴァンジェリンという生徒、容姿は中学生に見えず、双子の姉妹の鳴滝風香と鳴滝史伽と同じ小学生にも見えなくない。

 

「いや、コイツどっかで会った気が…」

 

 マギはこのエヴァンジェリンを何処かで会った否見た気がするのだが、何処で見たか…小さいとき、エヴァンジェリンらしき人物を見た気がするのだが、小さい時の記憶が曖昧なせいで、覚えていなかった。まぁもしかしたら他人の空似という事かもしれないし、これ以上思い出すのも面倒になってきたので、止めることにした。

 

 教室に入る時が来たネギとマギ。最初に入るのは、担任という事でネギである。ネギは大きく深呼吸をして、一度目を瞑った。瞼に移ったのは、自分達を見送ってくれたアーニャとネカネ。

 

(ネカネお姉ちゃん…アーニャ…今日から僕とお兄ちゃんの修業が始まる…帰ってきた時には立派な魔法使いになって帰って来るよ!!)

 

 ネギは、ドアを軽くノックした。アスナはネギ達がやって来たとそう思った。

 

「し、失礼します」

 

 ネギがドアを開けた瞬間にドアに挟まれていた黒板消しが落ちてきた。実はネギが見るのを見落としていて、ドアの近くで、新任の先生を驚かせようと、いたずらレベルの罠を設置していたのだ。それを知らずに黒板消しがネギの頭に直撃しようとしていた。だが…

 

 

 

 フワァ

 

 

 

 黒板消しがネギに直撃する数㎝直前で、急に黒板消しが止まってしまった。止まった黒板消しを見てざわつく生徒達。ネギは止まった黒板消しを見てしまった!と瞬時に思った。

 

(これは有名な黒板消しトラップ!しまった何時もの癖で防壁の魔法を張っちゃった!早く解除しないと!!)

 

 ネギは魔法をすぐさま解除すると、止まっていた黒板消しが又落ち始め、そのままネギの頭に直撃。ボフンッ!!黒板消しに付いていた粉が、ネギの頭に附着した。

 

「あはは…ゲホッ!いや~ゴホッ!ひっかっかちゃたな~ゲホゲホッ!!」

 

 ネギは引っ掛かってしまったと笑いながら言ったのだが、棒読みのわざとらしい言い回しに生徒達は若干呆然としていた。尚ドア越しに居たマギは手で顔を隠してハァァァァ…と大きな溜息をついていた。ネギは誤魔化し笑いを続けているせいで、足元のひもに気づかず、足を引っ掛ける。

 

「へブッ!?」

 

 ひもに足を引っ掛け盛大に転び

 

 

 ゴンッ!!

 

 

「ゴフッ!!」

 

 頭上から水の入ったバケツが降ってきて、バケツがネギに当たり、中に入っていた水をかぶり、バケツが頭に嵌り、バラスンを崩し、次には接着版が付いた矢がネギにペタペタとくっ付き、前が見えないため、バランスを崩して転び、教壇に盛大にぶつかった。女子生徒達は、最初呆然としていたが、いたずらが成功して、大喜びだったが、アスナだけネギを怪しんだ目で見ていた。女子生徒達が、喜んでいる間に、マギが呆れた表情をしながら、しずな先生は苦笑いをしながら、同じく教室に入ってくる。しずな先生を見た生徒達は、今度はネギを見る。いたずらで気づかなかったが、ネギが子供だと気づき、騒然とするクラスメイト。

 

「えええええええッ!?子供!?」

 

「もしかしてそっちの垂れ目のイケメンが新任の先生だったの!?」

 

「君大丈夫!?ゴメンね!てっきり新任の先生だと思って!」

 

 女子生徒が、ネギに押し寄せて行った。

 

「いいえ、この子が貴方達の新しい担任よ。でこのお兄さんが副担任なの」

 

 しずな先生の言った事に女子生徒達は、え?という顔をしていた。さ、ネギ君マギ君。自己紹介をしてもらおうかしら。としずな先生に促され、ネギとマギは教壇に上がった。最初にネギが自己紹介をする。大きく深呼吸するネギ。

 

「きょ…今日からこの学校でま…英語を教えるとことになった、担任のネギ・スプリングフィールドです。3学期だけという短い間ですが、よろしくお願いします!!」

 

「同じく本日から、お前らに歴史を教える事になった、副担のマギ・スプリングフィールドだ。名前の通り俺はネギの兄だ。世間知らずな弟共々、よろしく。あ…あと、俺は先生なんて堅苦しい感じで呼ばれるのは好きじゃないからな、俺の事はマギ、マギさんと好きに呼んでくれ。俺もお前らの事は名前で呼ぶからな、答えは聞かないぞ」

 

 ネギのマギの自己紹介を聞いた生徒達は、一瞬シン…と静まり返ったが、次の瞬間。

 

『キャァァァァァァァァァァァァ!!』

 

『カワイィィィィィィィィィィィィ!!』

 

『カッコイィィィィィィィィィィィッ!!』

 

 と叫びながら(余りの五月蝿さに顔を歪めるマギ)ネギとマギに押し寄せる女子生徒達。

 

「何歳なの!?」

 

「えッ!?1…10歳です」

 

「17だ」

 

「何処から来たの!?」

 

「何人!?」

 

「ウェールズの山奥だ」

 

「何処に住んでるの?」

 

「え…えとまだ決まってません」

 

 女子達の質問攻めに、淡々と答えるマギとしどろもどろに答えているネギ。

 

「…マジなんですか?」

 

 眼鏡を掛けているちょっと地味な少女、長谷川千雨がしずな先生に尋ねる。マジなのよと答えるしずな先生。

 

「しずな先生!このカワイイコとイケメンさんが今日から私たちの担任と副担なんですか!?」

 

「そうよ仲良くしてね」

 

「本当に先生なんだぁ!!」

 

 と興奮しながら、更に密着してくる女子達。

 

「ねえ君ってば頭がいいの!?」

 

「あッはい!僕とお兄ちゃんは一応大学卒業程度の語学力は持っています」

 

「スゴォォイ!!」

 

 とネギにベタついて来る女子生徒もいれば

 

「お兄さん先生凄くおっきいです!!」

 

「楓姉といい勝負だねぇ~」

 

「おっきくて、年上の先生…かっこええ~」

 

 とマギの周りにも、ちびっ子の双子姉妹に、このかと似たような方言を使っている女子などが、マギの周りに居た。

 

「…やれやれだぜ」

 

 マギはこれが女子中学生という物かと、理解して、めんどくさい事になると実感しながら、諦めたような溜息を吐いた。生徒達には歓迎されていると肌で感じで、一安心するネギ、だが一人だけ歓迎してない生徒がいた。アスナがズンズンとネギに近づいて、またネギの胸倉を掴むと、一気に顔を近づかせ

 

「アンタ、さっきの黒板消しに何かしたでしょう?なんかおかしくないアンタ」

 

 アスナの言った事に、ギクッとしながら顔を青ざめるネギ。実はさっきの黒板消しの悪戯の時、アスナはネギが黒板消しを空中で止めてる所をバッチリと見ていたのである。早くも魔法がバレそうになるネギ。アスナはさっきの事の説明を要求して、ネギを大きく揺らす。とその時

 

「いい加減になさい!!」

 

 と誰かが、机をバン!!と思い切り叩いた。机をたたいた人物は髪の色は金髪で、何処か上品さが体からあふれ出ていた。彼女は出席番号29番、雪広あやか。このAクラスのクラス委員長だ。

 

「皆さん、席に戻って、先生方がお困りになっているでしょう?」

 

 あやかの指示で、席に戻り始める生徒達、それと…とあやかはアスナを見て

 

「明日菜さんもいい加減その手を放したらどうですの?もっとも、貴女のような凶暴なお猿さんにはピッタリのポーズでしょうけど」

 

 と馬鹿にするようにアスナに言い放つあやか、あやかの言った事に額に血管を浮かべるあすな。どうやらあやかの言った事と、アスナの態度を見ると、この2人は犬猿の仲なのが直ぐに解った。

 

「ネギ先生とマギ先生はどちらもオックスフォードを御出になった天才とお聞きしておりますわ。それに教えになるのに年齢なんて関係ありませんわ。どうぞHRを続けてくださいな」

 

 あやかが顔を赤らめながら、ネギを見ながらそう言った。アスナはあやかの態度が気に入らなかったようで

 

「委員長、何アンタいい子ぶってるのよ」

 

 アスナの言った事にもフフンと笑いながら、髪をかきあげ

 

「あら、いい子なのだから、いい子に見えるのは当然でしょう」

 

 と余裕のあった態度にムカついた、アスナはムカッとして

 

「何がいい子よ、このショタコン」

 

「んな!!?」

 

 とアスナのショタコン発言に、カチンときたあやかは

 

「言いがかりはお止めなさい!!貴方だってオジコンのくせに!!」

 

「なッなんですって!!?」

 

「知ってますのよ!貴方が高畑先生の事を…」

 

「ウギャ~!それ以上言ったら殺すわよアンタ!!」

 

 と互いの性癖を暴露されて、口喧嘩から、リアルファイトに勃発しそうになる。ネギはオロオロとしながらも止めようとしたが、マギは我関せずという態度をとっていて、他の生徒は、喧嘩を止めるどころか、ヤレヤレ!と煽る始末。このクラスに常識人は居ないのか…としずな先生がパンパンと

 

「はいはい、そろそろ時間が押してるから、授業を始めましょうね。ネギ先生お願いします。マギ先生は後ろでネギ先生の授業を見ていてください」

 

 と手を叩きながら、アスナとあやかの喧嘩を止めた。流石は生徒指導教員、生徒の扱い方が上手い。しずな先生に言われ、納得いかない様子で、しぶしぶと自分の席に戻るアスナとあやか。自分が担任なのに、喧嘩を止められなかった事を嘆くネギであった。

 

 

 

 さてネギの英語の授業、ネギは初めての授業で、失敗しないか心配だった。さらに生徒達の期待の眼差しにより、さらにプレッシャーがかかり、心が折れそうになったが、先程マギが自分言った事を思い出した。

 

(そうだ!僕なら大丈夫!僕なら出来る!!!)

 

 とマギの言葉に勇気づけられ、持ち直したネギ。よし!と心の中で気合を入れた。

 

「では教科書の12…8ページ…を」

 

 と此処である意味ネギにとって最初の難関が襲った。届かないのだ黒板に。背伸びをしても届く気配が無かった。生徒の皆はそんなネギを見て、カワイイと言いながら笑っていた。

 そんなネギを教室の後ろで、だらけながら見ていたマギ。時々、マギの事が気になってチラチラと見ている生徒がちらほらと居て、マギはそんな生徒に、授業に集中しろと言うシッシと追い払うようなジェスチャーをした。マギがそんな事をやっている間に、あやかがネギに豪華そうな踏み台を貸してくれて、漸く黒板に手が届くようになった。ネギが黒板に英文を書こうとした時

 

「アイタッ!!」

 

 とネギが涙目で叫んだ。ネギの頭に何かが当たったようだが、ネギは何が当たったのかキョロキョロと探していたのだが、分からず授業を進めようとしたのだが、今度は連続で何かが連続でネギの後頭部に直撃した。ネギは黒板の方を向いていて何が飛んできているのか分からなかったが、後ろにいたマギは誰が何を飛ばしてきたか見えていた。アスナが消しゴムを千切っては、ネギに向かって飛ばしていたのだ。ネギが何が飛んできているのか困っていると、あやかが、ネギに近づいて、誰がやったかを教えてくれたようだ。しかし余計な事も言ったようで、アスナは耳がいいのか自分の筆箱をあやかに投げつけた。投げられた筆箱はあやかの後頭部に直撃。激怒したあやかがアスナとのリアルファイトが再度勃発。ネギは喧嘩を止めようとしたが、止められず授業終了のチャイムが鳴ってしまった。

 こうしてネギの最初の授業は悲惨な形で終了してしまった。

 

 

 

 次の授業はマギの歴史の授業で、今度はマギが教壇に上がり、ネギが教室の後ろに座っている形となっていた。ネギと同じで、マギに興味津々な生徒達。対するマギは緊張していない様子で、大きく欠伸をして、ゴキ!ゴキ!と首を大きく鳴らして、教科書を開いた。生徒達はマギの行動に唖然としていたが、この人はこういう人なんだと瞬時に理解した。中にはマギの事を顔を赤くしながら見ている生徒もちらほらと居た。

 

「今日は教科書の369ページの室町幕府についてだ。いいか、室町幕府とは…」

 

 とマギが黒板に授業の内容を書き始めた。数十分経つが、歴史の授業とは退屈になるものだが、寝ている生徒は1人もいなかった。めんどくさがり屋のマギであるが、授業内容はしっかりとしていた。と言うのも、手抜きの授業をして、生徒の保護者や他の先生から苦情が来る方が面倒なので、せめて授業はしっかりしようと決めていたマギである。分からない所は重点的に教えて、分かりやすい簡単な所は付け足しなどをしながら教えたりしていた。これには歴史が苦手な生徒もこれなら分かりやすいと思えるほどだった。

 しかし、順調に進んでいるマギの授業であるが、またしてもアスナが邪魔しようとしていた。さっきも何故ネギに消しゴムを飛ばしていたのかと言うと、さっきの黒板消しを見て、ネギが普通の子供ではないと思い、それを証拠にネギを追い出そうとしたのだ。そうすれば、またタカミチが担任になってくれるだろうと考えたのである。しかしさっきのネギは消しゴムを飛ばしても、なにも不思議な力は使ってこなかった。

 

(きっとあのマギって男が秘密の力の鍵なのよ!きっとそうに違いないわ!!兄弟仲良くこの教室から追い出してやる!!)

 

 とアスナがマギの後頭部に狙いを定めて、消しゴムを飛ばした。結構な速さで飛ばされた消しゴムが、マギの後頭部に迫って行ったが

 

 ひょい!

 

 マギは、軽く首を横に傾けると、消しゴムはマギに当たらずに、黒板に当たっただけだった。アスナはあれ?と思い、まぐれだと思い今度は連続で消しゴムを飛ばすが、まるで見えてるかのように、消しゴムを躱し続けるマギ。流石にこれでは授業妨害になると感じ、あやかがアスナを注意しようとしたその時

 

 バシッ!!

 

 マギは見ずに消しゴムを掴むと

 

 ブゥンッ!!

 

 と思い切り投げた。思い切り投げられた消しゴムはアスナが飛ばした比にもならない程の速さで

 

 

「アイタァッ!!」

 

 アスナの額に直撃した。アスナは余りの痛さに額を押さえて俯いていると、アスナの体に影が差した。アスナは顔を上げてみると

 

「さっきから何をしているんだアスナ?」

 

 教科書を丸めて肩に担いでいたマギが其処いた。しかも垂れている目が細く、鋭くなっていた。

 

「あ…マギ…さん」

 

 アスナはさっきまでのマギの態度の違いにビクついていた。

 

「てめぇさっきから何をしていたんだって聞いたんだ。俺の授業は聞いていたのか?」

 

「はッはい!聞いてました」

 

 マギの雰囲気に押され、思わず嘘をついてしまったアスナ。アスナの返事にほう…と更に目を細めたマギ。

 

「そうか授業を聞いていたなら、これは答えられるよな?室町幕府の3代目将軍の名前は足利なんだ?言っておくが、隣のこのかに答えを聞くって方法は無しだぞ」

 

 と先手を打たれ、うっと詰まるアスナ。答えが分からないアスナは冷や汗を流しながら。

 

「足利…慶喜?」

 

 と間違った答えを言った。正解は足利義満である。基本中の基本である。マギはハァと溜息を吐きながら、アスナに近づき

 

「大間違いだ。大馬鹿野郎」

 

 

 バチィィィィィィィィィィンッ!!!!!

 

 

 額にでこピン『破壊神のでこピン』を食らわした。さっきと同じ場所、しかもさっきよりも数倍痛いでこピンが額に当たり

 

「…イッタァァァァァァァァッ!!!!?」

 

 頭が割れるかと思うほど、強力な一撃にアスナは悶絶していた。そんなアスナを生徒達は本当に痛そうに見ていて、何人かの生徒は顔を青くしていた。マギは全くと言いながら、教壇に上がると

 

「いいかてめえら…俺はめんどい事が嫌いだ。だから授業中だけは仕方なく真面目に取り組む。だがもし俺の授業を妨害するような奴が居たら…アスナの二の舞になる事を覚えておけ」

 

 と未だに頭を押さえているアスナを見て、黙って頷く生徒達。流石にあんなのを見てふざけようとは思えない。やった途端に自分もあんな目にあうんだから。

 

「まあもしわからない所があれば、面倒じゃない範囲だったら、教える事は出来るぞ」

 

 それじゃあ授業を再開する。とまた黒板に授業内容を書き始めた。生徒達は急いで黒板の内容をノートに写し始めた。アスナはまだ俯いているが、生徒達は余りアスナが可哀そうとは思えなかった。だって自業自得だったから。こうしてマギの授業は、ある意味?問題なく終了したのだった。

 

 

 

 




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歓迎会は盛大に

正直な所
数話だけでお気に入りが100人超えたのが驚きです
それではどうぞ!


 ネギとマギの授業が終了し、ついでに一日の授業も終了し、一息つく生徒達。と生徒達が、席から立ち上がり、何処かに向かおうとしていた。

 

「ああああ~~まだおでこが痛い~~」

 

 マギの『破壊神のでこピン』の痛みが未だに引かないため、アスナはおでこを押さえていた。

 

「ちょっと見せてみー…うわーめっさ赤くなってるやん。マギさん、結構容赦なくやったみたいやねー」

 

 このかが、アスナのおでこを見てそう言った。実際の所マギは女子相手だという事で、結構加減してやったのだが、それでもやられた方としては、そうんな事知った事じゃないんだが。

 

「ほんと何よあのマギって奴…女性に容赦なくでこピンするなんて、あのガキンチョといい、親の顔が見てみたいわよ」

 

 まぁ授業を聞いてなかったアスナも悪い気がするやけどなーと、このかが内心でツッコむ。とそうやとこのかが思いだし

 

「それよりアスナ、ちょっと買い出し付き合ってんか?」

 

 このかの買い出しという言葉に頭に?マークを浮かべながら、顔を傾けるアスナ。

 

「買い出しって何の?」

 

 アスナがこのかに何を買えばいいのか聞くと、このかはそれはやね……と小声で周囲に聞こえない様に話し始めた。このかが買い出しの内容を聞き終えると、嫌そうな顔になる。

 

「何でアタシがそんな買い出ししなきゃいけないのよ。あんな目にあったっていうのに…」

 

 乗り気ではないアスナに駄目やんアスナーと説得するこのか。

 

「皆ちゃんと準備してるんやから、アスナも協力せんと」

 

 こう、このかが言っているが、文句を言っても皆が協力していると聞いたため、仕方なく買い出しに行くことにした。まあここで色々と文句を垂れていると、委員長のあやかが又うるさい事を言ってくるだろうし…と呟いていると、教室のドアからネギとマギが出て来た。2人が他愛のない会話をしているのを警戒しながら睨んでいたが、2人の元にタカミチがやって来たのを見て、警戒の眼差しが恋する瞳に早変わりした。

 

「やあネギ先生、マギ先生。初授業は如何でしたか?」

 

 タカミチがにこやかにネギに授業内容を聞いてみると、それが聞いてよタカミチと疲れた顔でネギが

 

「実はねタカミチ、あんまり授業ができ「たッ高畑先生こんにちは!!」」

 

 ネギが授業内容を教えようとしたら、アスナが割り込んできた。そしてネギの頭を撫でながら

 

「アタシが付いているし問題ありませんよ!初授業はどっちも大成功だったんですから。ね?先生!?」

 

 とさっきまでのネギに対しての態度から180度変わり、笑顔でネギにそう言った。

 

「よく言うぜ、ネギの授業の時には授業妨害、俺の時には授業妨害した挙句に俺の問いに間違えたのは何処の「あー!!あー!!マギさんが何言ってるのか聞こえないー!!」」

 

 マギがアスナが授業中で行った行動を、タカミチに報告しようとしたが、アスナが大声を出してタカミチに聞こえない様に誤魔化していた。誤魔化すのを必死にしているアスナを見て、タカミチは苦笑いしながら

 

「ははは…まあアスナ君、ネギ君とマギ君を宜しく頼んだよ」

 

 タカミチがアスナの肩をポンと叩いて去って行った。アスナはタカミチが去って行くのを呆然として見ていたが、タカミチに触られた肩を摩りながらうっとりとした顔になった。

 

「高畑先生に触られた♡頼まれた♡…もう死んでもいい」

 

 アスナは嬉しさの余韻に浸っていた。そんなアスナを見ているマギとネギ。

 

「さっきまでの態度が嘘のようだ。これが猫を被るって奴か」

 

「タカミチでのあの顔、本当にタカミチの事が好きなんだ」

 

 マギとネギがアスナの態度にそう答えると、アスナはさっきまで嬉しそうな顔とは違うムッとした表情で振り返ると、アッカンベーをした。

 

「うるさいわよ。というより何でアンタ達が高畑先生と知り合いなのよ。言っとくけどアタシ、アンタ達をアタシ達の部屋に泊めるつもりなんて無いから。寝袋で野宿でもしてなさいよ。それにアンタにやられたでこピン許すつもりなんて無いからね。アンタ達みたいな奴が先生だなんてアタシは認めないから」

 

 アスナに認めないと言われ、ショックを受けるネギ。許すも何も授業を聞いてなかったお前が悪いだろと内心でツッコむマギ。それだけ言うとアスナは買い出しに行ってしまった。それに付いていくこのか。このかはショックを受けているネギに気にすんなやーとネギを励ましていたが、ショックを受けているネギには聞こえていない様子だった。

 

 

 

 

 

 漸く一段落したネギとマギは女子高エリアの中を歩いていた。ネギの表情は暗かったが、マギは特に何も言わなかった。歩いている途中にボール遊びを楽しんでいた、Aクラスがネギとマギに挨拶(マギに挨拶した生徒は顔を赤くしながら)した。ネギは空元気の挨拶で、マギは軽く手を挙げての挨拶をした。

 2人は一休みできそうな場所を見つけ、腰かけるとネギはハァァァと溜息を吐いた。そんなネギを見て、マギは懐からタバコを出して口に咥えると、火をつけた。タバコの煙があたりに漂う。

 

「はぁぁぁぁ~…最初の授業なのに失敗しちゃったな…」

 

 ネギが落ち込んでいるのをマギは黙ってネギの頭に手を置き、優しく撫で始めた。

 

「気にするなネギ。今日失敗したら明日頑張ればいい。明日が駄目なら明後日明後日が駄目なら明々後日頑張ればいい。失敗したことをくよくよしてたら。そこで立ち止まってしまうぞ。一歩でも前に進まなきゃな」

 

 マギの励ましの言葉に幾段か気が楽になった。後でタカミチに相談してみようかな。とネギが言うと、そうしとけとマギが口からタバコの煙を吐きながら言った。

 

「それにしても…アスナさんだっけ?この人は本当に何なんだろうなぁ…」

 

 ネギはアスナの事を思い出して溜息を吐いた。まあ授業中に消しゴムをぶつけきて挙句の果てには、委員長のあやかと喧嘩して授業妨害と来た。ネギの第一印象では最悪の女の部類に入るだろうな。とマギはタバコを吸いながらそう思った。ネギはアスナのフルネームで再度確認すると、又溜息を吐いた。

 

「今日学園長にこの人の部屋に泊まらなくちゃいけないのかな~?絶対泊めてくれなさそうだな…」

 

 如何しようとネギが困っていると

 

「もしもの事があったら、とりあえずテントと寝袋は持ってきてあるぞ」

 

 ともしもの事があった時の用意はしてあるマギ。流石用意周到である。何か思い付いたのかネギは、サインペンでアスナのクラス名簿の写真に何かを書き込んでいた。何を書き込んでいるのか気になったマギは、ネギの上から覗き込んでいると、アスナの頭に鬼のような角を2本にイジワルとブーイングの落書きを書いていた。ネギは自分でそれを書いておきながらそれが可笑しかったのか、吹き出していた。こんな事やっている内はまだまだガキだな…と呆れていた。

 

(俺だったら一々口煩いっていうのを付け足すかな…)

 

 マギはそんな事を考えながら、のんびりとタバコを味わっていると、何者かの気配を感じて、その方向を向いてみると、沢山の本抱えていた少女が危なっかしい動きで階段を下りていた。彼女はの名は…

 

「なあネギ、あいつって確か…」

 

「え…彼女は27番の宮崎のどかさんだよ。沢山本を持って危ないなあ」

 

 そうAクラスの、27番宮崎のどかである。顔写真を見ると顔が前髪で隠れていて、表情が分からないのがある意味特徴であろう。そんなのどかであるが、さっきから言っているようにかなり厚い本を7~8さつ程抱えていて、いかにも今にも倒れてしまいそうなほどに危なっかしくて見ていられない。だが危なっかしいのが、本当に危ない事になる。

 

 

 クキ

 

 

 のどかが足を挫き、バランスを崩してしまいそのまま落下してしまった。階段の高さは約5~6m位でしかも頭から落下してしまった。もし頭から地面に激突なんてしてしまったら、大怪我では済まされない。

 

「!!ったく!やっぱりめんどくさい事になりやがったか!!ネギ頼む!!」

 

「うん!分かったよ!!」

 

 ネギに頼むと、マギはタバコを空高くに放り投げると、悲鳴を上げているのどかに向かって全力疾走した。その間にネギは持っていた大きな杖をのどかに向けた。するとのどかの落下のスピードが遅くなり、3m位の所で完全に停止した。ネギの浮遊の魔法が間に合ったのだろう。マギがのどかの近くで脅威の跳躍力で3mに軽く到達した。そしてのどかを御姫様抱っこのような形で受け止めるとそのまま着地した。それと何故か口を大きく開くと、其処に放り投げていたタバコが落ちてきて、それを器用に口でキャッチすると言う離れ業をやってのけた。

 地面に衝突するかもしれないと恐怖で目を閉じていたのどかは何時まで経ってもその衝撃が来ないのを感じていて、恐る恐るゆっくりと目を開けると、のどかに映ったのは、自分のクラスの副担任である

 

「マギ…先生?」

 

 のどかがマギの事を先生と呼んで、だからなとマギはタバコを歯に挟みながら、嫌そうな顔になりながら

 

「だからマギさんって呼べって言ってるだろっと」

 

 と言いながら、マギはのどかを立たせると、挫いたと思われる足首を触った。

 

「大丈夫か?挫いた足痛めてないか?」

 

 別に下心など無いが、足を副担任以前に異性に足を触られ顔を赤くするのどか。しかものどかの事を、本当に心配そうに見ているマギの顔を見てさらに顔を赤くしたのどか。

 

「だ…大丈夫です!どこも痛くありません!!」

 

 のどかの大丈夫と言う事で、マギはよかったとそう呟くと、のどかの頭を優しく撫でた。行き成り頭を撫でられ、顔を赤くして、あ…という言葉を零した。

 

「あまり危ない事をすんなよな。されると後々めんどいからな。まぁもし危ない事や1人じゃできない事があったら遠慮なく言ってくれ。力になってやるからな。今のお前を見て、危なっかしいのが分かったしな」

 

 マギがのどかにそう言ったが、のどかはボーっとしており、話を聞いていなさそうだった。

 

「おい、本当に大丈夫か?顔が赤いぞ」

 

 ボーっとしていたのどかはハッとすると、目の前にマギの顔が迫っており、顔が熱くなるのを感じられた。

 

「だっだ大丈夫です!問題有りません!!!」

 

 のどかの大丈夫発言に、マギはそうか……まあ気よつけろよ。とのどかにそう言った。のどかは顔を赤くしながらも、マギにありがとうございましたとお礼を言った。さて…とマギはネギの元に戻ろうとしたが、マギの目に映ったものは…アスナに全力疾走で近くの林に連れて行かれたネギの姿であった。

 

「…やれやれだぜ」

 

 マギは瞬時にネギが、また面倒な目にあったと感じ、溜息を吐いてそう呟いた。

 

 

 

 

 アスナは買い出しから帰ってきて、教室に戻ろうとした時、目の前で、階段から落ちてしまったクラスメイトののどかを目撃してしまった。

 

(本屋ちゃん!?助けないと!!)

 

 アスナは落ちてしまったのどかを助けようとしたが、アスナとのどかは約50mほど離れていた。いくら体力に自信があるアスナでも間に合わない。もう駄目かと思った矢先、アスナの目にマギとネギが見えた。

 

(アイツ等何やってるのよ!?早く本屋ちゃんを助けなさいよ!!)

 

 アスナが内心で叫んでいると、マギがのどかに向かって全力疾走したが、ネギは何をしたかと言うと、背負っていた杖を掴んでのどかに向けた。なにやってるのよあのガキンチョは!?と思っていると、落下しているのどかが空中で止まってしまった。それを見たアスナは、走っていたのを急停止させて、呆然としていたが、マギの3m程の大ジャンプを見てさらに絶句してしまった。数秒ほどに呆然していたが、ハッとして今度はネギの方に向かっていった。ネギはのどかが無事だったため、安心して気が抜けてしまっていたが、アスナがこっちに向かっているのを見て顔を青くした。すぐさま言い訳を言おうとしたが、あ…やらあの…と言葉にならなかった。混乱してしまい、何を言えばいいか分からなくなってしまっていた。その間にもアスナが、ネギの首根っこを掴むと、引き摺る形で近くの林に連れてくると、ちょうどいい大きさの木にネギを押さえつけると

 

「ああああアンタ達!やっぱり超能力者だったのね!!?「え!?いッ否違いま」誤魔化しても駄目よ!!アタシが目撃者よ!現行犯よ!!」

 

 と途中から意味不明な事を口走り始めたアスナ。ネギもネギでアスナにバッチリと魔法がバレてしまって涙目である。

 

「白状しなさい!アンタ達は超能力者なのね!!?」

 

「ち…違いますよ!僕とお兄ちゃんは魔法使いで…」

 

「どっちも一緒よ!!」

 

 ネギは如何にか話を聞いてほしいと、自分達は超能力者ではないとアスナに訴えかけたが、アスナは興奮しすぎてネギの話を聞いていなかった。

 

「あ…という事は今日のあれと…あれも…」

 

 アスナのあれとあれもと言うのは、行き成りネギに失恋の相が出ていると言われた事と、ネギのくしゃみで制服が吹き飛んでしまった事である。

 

「アンタの仕業だったのね!?よくも…よくも…!!」

 

 ネギのせいで、下着姿をタカミチに見られたことに、アスナの怒りは限界まで達していた。

 

「ゴッゴメンナサイ!!他の人には内緒にしていてください!ばれちゃうと僕とお兄ちゃんが大変な事に…」

 

「そんな事知った事じゃないわよ!!」

 

 ネギがアスナにこの事は秘密にしておいてほしいとお願いするのだが、知った事じゃないと怒鳴られ返されてしまった。うぅ…仕方ありません!とネギが涙目でアスナを睨んだ。アスナはネギが睨んできて、多少怯んでしまった。

 

「魔法使いの秘密を知られたからには掟通り…記憶を消させていただきます!!」

 

 杖を掲げてネギはそう叫んだ。記憶を消されると言うのを聞いて、アスナは驚いた後にたじろいだ。記憶を消されるというのは痛い思いをするのか?と考えている間にネギの体が光始めた。

 

「ちょっとパーになるかもしれませんが、許してくださいね」

 

「ええ!?パーって何!?パーって!!」

 

 ネギのパーになると言う発言を聞いて慌てるアスナ。今でも正直頭が悪いのにさらに頭が悪くなってしまったら、ただでさえ困る。そんなこと考えている間にネギの発光が終わってしまった。

 

「記憶よ消えろーー!!」

 

 杖をアスナに向けながら叫ぶネギ。アスナは悲鳴を上げながら、目には涙をにじませながらギュッと瞑っていた。

 

 

 

「消えろじゃねえだろ馬鹿」

 

 

 

 スパァァァァァァァァァァァァァン!!

 

 

 

 ネギが記憶消去の魔法を発動しようとした矢先に何とか間に合ったマギがネギにハリセンアタック。ネギは余りの衝撃に頭を地面に強打した。ったくとハリセンを肩に担ぎながらマギが

 

「お前な…ただでさえ武装解除の魔法を暴発させてるのに記憶消去の魔法を使って、また面倒な事に…あぁ遅かったか」

 

 マギが顔を手で押さえて悲痛な溜息を洩らした。マギの遅かったかと言った事がよく分からなかったネギは、アスナを見て顔を真っ赤にした。アスナはマギとネギのやりとりがよく分からなかったが、何故か体が変に涼しかった。アスナは自分の体を見て仰天としていた。

 

「な…なによこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 アスナが叫ぶのも無理はない。何故なら今のアスナの恰好はと言うと…制服の上着だけを残して、ブラもパンツも吹き飛んでしまい裸Yシャツならぬ、裸ブレザーとなってしまった。女子中学生な為、未だに幼さが残るが、何処か官能的な雰囲気が漂っていた。

 

「…俺が止めなかったらもしかしたら成功していたかこれ?」

 

「ごッごめんなさい!なッ何か着る物を…!!」

 

 ネギは顔を赤くしながら、アスナに着させる物が無いか探していたが、此処で今会いたくない人物が来てしまった。

 

「おーい其処に誰かいるのか?」

 

 樹を掻き分け、現れたのはタカミチであった。そしてタカミチはほぼ全裸のアスナを見てしまった。見られたアスナ本人は、朝には下着姿、そして今はほぼ全裸。思いを寄せているタカミチに見られたことに、遂には

 

「い…イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 夕方カラスが鳴いている中、また制服姿になったアスナには哀愁が漂っていた。表情はズーンと沈んでいた。

 

「す…すいません」

 

 ネギには謝る事しか出来なかった。マギも流石にアスナを裸同然の恰好にしてしまった事に罪悪感があった。

 

「まさかこんな事になるとはな…悪かったとしか言いようがない」

 

「記憶を消そうとして、間違ってパンツ消してしまいました。ごめんなさい」

 

「謝ってどうにかなるもんじゃないでしょ!?記憶を消された方がマシだったわよ!!魔法使いなら今直ぐ時間を戻しなさいよ!!アタシ今度から高畑先生にどういう顔で会ったらいいのよ~!!!」

 

 アスナは泣きながらネギとマギに怒鳴った後に少しづつ崩れて言ってorzの形になり、拳を何度も地面に叩きつけながら

 

「クマパンを見られて次はノー〇ン!止めにパ(ピーーーー※この小説は全年齢版のため、性的な表現は伏せさせてもらいます)だなんて…今すぐ死にたい」

 

 あんなに五月蝿かったアスナ此処まで沈むとは、想像を絶するほどのショックだったのだろう。そんなアスナを見て、ネギは何度も平謝りを続けていた。と沈んでいたアスナが俯きながら、ネギの胸倉を掴んで、ネギは驚きのあまり、ウヒィッ!?と情けない悲鳴を上げた。

 

「…でそのちびっ子魔法使いとその兄貴魔法使いが、如何してこんな所に来て、先生なんてやってるのかしら?」

 

 アスナはしゃっくりをしながら目には涙をためてそう聞いてきた。

 

「それは……修業のためです。立派な魔法使い(マギステル・マギ)になるために」

 

「マギステル・マギ?何よそれ?」

 

「それは…」

 

「俺が説明しよう」

 

 ネギがアスナに説明しようとしたが、マギが説明するようだ。

 

「マギステル・マギっていうのは、世のため人のために陰ながらその力を使う……魔法使いでの立派な仕事の一つだ」

 

 タバコを咥えながら、マギはアスナにマギステル・マギがどういう物か簡単に説明した。

 

「ふ~ん。でもし魔法がバレるとどうなるのかしら?」

 

 アスナがネギを掴んだまま、俯きながら聞いてきた。掴まれているネギとしては、怖いとしか言いようがない。

 

「今は仮免の期間みたいなもので、魔法がバレると仮免を没収されて、強制送還されちゃうんですよ!!酷い時にはオコジョにされちゃうんです!!」

 

「まあいいじゃねえか?オコジョになればメンドイ事しなくて済むし逆に自由じゃねえか」

 

「何言ってるのお兄ちゃん!オコジョにされた後、刑務所に入る事になるんだよ!?自由なんて無いよ!」

 

 ネギに言われ、あ、それもそっかとマギが頭を掻きながら言った。

 

「ほほ~う…人のために役立つねえ…なるほどねえ…だったらアタシの事の責任もちゃんととりなさい…!!」

 

 アスナの睨みにネギは黙って頷いた。正直どうでもいいと内心で思いながらタバコの煙を吐いた。

 

 

 

 

 

 中等部の昇降口に漸くたどり着いたマギ達。その間でもアスナは文句を垂れていた。

 

「…大体、行き成り失恋の相とか不吉な予言ばっかりして、これで嫌われたらアンタ達のせいだからね」

 

「いや全くそうですね…」

 

「いや待てよ、俺関係ないじゃん。なんでアンタ達のせいなんだよ?」

 

「責任もってちゃんと高畑先生との仲を取り持ちなさいよ!」

 

「はい…ちゃんと協力します」

 

「なあ俺やることねえだろ?帰っていいか?」

 

「駄目よ!!」

 

 マギが帰ると言った直ぐにアスナが駄目と言いながら、マギを指差した。

 

「弟の責任は兄のアンタの責任!弟が問題をおこしたら兄も一緒に責任を取る!常識よ!!」

 

 そんな事聞いた事ねえぞ…マギは呟いたが、ム~と睨んでいるアスナを見て、分かったから睨むなよと折れたようだ。

 

「で…だ、どうやってタカミチとの仲を取り戻すんだ?何か考えは有るのかよ」

 

 マギの言った事に、ネギとアスナはウーーンと唸った。

 

「それでアンタ、どんな魔法が使えるのよ?」

 

「一応修業中の身なので、余り多くは使えないんですが…」

 

 ネギが自身なさげに言うが、アスナはじゃ!じゃあ!!と目を輝かせながら

 

「惚れ薬とか作れないの!?魔法で定番のあれ!!」

 

「…ごめんなさい!有りません」

 

(惚れ薬は禁止薬だからな、所持してたら捕まっちまうけどな)

 

 ネギの無いと言う発言にガックシとなるアスナ。しかしまだ考えは有るようで

 

「じゃあお金のなる木は無いの!?」

 

「あ…あの、意味が分からないんですけど)

 

(と言うかコイツ、魔法だからってなんでも出来るって勘違いしてねえか?)

 

 マギはお札の束でタカミチを叩いているアスナを想像したが、あまりにもくだらないと思い、直ぐにやめた。

 

「なによ…いまいち使えないわねアンタ」

 

 アスナこの言われようにネギはショボーンとしていた。

 

「すいません、後は読心術の類しかできません」

 

 ネギの読心術と言う言葉に歩いていた歩みを止めた。

 

「それよ!!」

 

 アスナはさっきとは違って顔には喜びが浮かび上がっていた。ネギもアスナが喜んでいるのを見て、一安心の様だ。マギはやっぱり俺居なくてもよくね?と思いながらもネギ達に付いて行った。

 

「読心術かぁ…それを上手く使えば、高畑先生がアタシをどう思っているか分かるのよね…」

 

 アスナがブツブツと呟いている間に、2のAに戻ってきていた。

 

「さっそく実行するわよ!荷物持ってくるからアンタ達そこで待ってなさいよ!!」

 

 アスナが教室のドアを開けた次の瞬間

 

 

 パン!パン!!パパ~~ン!!

 

 

 行き成りクラッカーの音が鳴り響いた

 

『ようこそ2のAにネギ先生&マギ先生!!』

 

 クラッカーをもった生徒と持っていない生徒が、ネギとマギに歓迎の言葉を送っていた。送られたネギとマギはポカンとしてたが、アスナがあッ!そーだった!!思い出したようにポンと手を叩く。

 

「今日アンタ達の歓迎会するっているのすっかり忘れていたわ!これ買い出しのお菓子」

 

 とアスナが菓子の入った袋をネギとマギに見せた。まああんな事あれば忘れるかもなとさっきの事を思い出しながらそう思うマギ。そんな事考えている間に、何人かの生徒に歓迎会の席に誘導される2人。

 

「ほらほら主役の2人は真ん中ね!」

 

「ジュースは何が飲める?炭酸系は大丈夫?」

 

「あ、すいません。炭酸系は苦手なのでオレンジジュースを」

 

「俺はコーラな」

 

 ネギにはオレンジジュースをマギにはコーラを紙コップに注いでくれた。ジュースを注ぎ終えると、あやかがコップを掲げ

 

「それではネギ先生とマギ先生の歓迎を祝して…乾杯!!」

 

『かんぱ~い!!』

 

 あやかの音頭に乾杯をする生徒達。それからはワイワイガヤガヤと歓迎会を楽しみ始めた。何人かの生徒はネギとマギに話し掛けている者や、友人どうしで話してる生徒も居た。しかしと思いながら辺りを見回すマギ。たかが新任の担任と副担のために歓迎会を開いてくれるとは…今までの間、ずっと外に出ていたため、直ぐに戻ってこないで待たせてしまったのではないかと考えると、申し訳ないとは思った。

 

「あの…マギ…さん」

 

 何処からかか細い声がマギを呼んでいて、呼ばれた方を見ると、其処にはのどかが立っていた。

 

「おおのどか、さっきぶりだな。本当に何処も怪我はないのか?」

 

 マギに大事ないかと聞かれ、のどかは顔を赤くしていた。

 

「は…はい。さっきは…危ない所を助けていただいて…ありがとうございました。これ…助けていただいたお礼です」

 

 のどかがマギに紙袋を渡した。マギは開けていいか?と聞くとのどかはこくりと頷く。開けていいなら開けるかと紙袋を開けると、中に入っていたのは名前からして冒険小説だった。

 

「私が好きな小説の1つ何です…よかったらと思いまして…」

 

 のどかのプレゼントに周囲の女子がおおお~!!とどよめいた。

 

「本屋がもうマギさんにアタックしてるぞ~!!」

 

「や…やめてよ~それに私本屋じゃないです~」

 

 のどかが本屋と言った女子に本屋じゃないと顔を赤くしながら否定するのを女子達は笑っていたが、マギは小説のタイトルを見てあれ?と思い、次の言葉は歓迎会を凍らせる一言だった。

 

「俺、この本持ってるぞ」

 

 

 

 ピシィ!!!

 

 

 マギの一言にのどかは固まってしまった。周囲の女子達も冷汗を背中に流しながらマギを見ていた。

 

「あ…あの同じ本を…持っているんですか?」

 

「ああ、本のタイトルを見て、同じ本だって気づいた」

 

 マギの言った事にそうですか…とショックを受けたのどか。

 

「お…同じ…本を持っていてもしょうがないですよね…?ごめんなさい…」

 

 のどかはマギに本を返してもらおうとしたが、マギはこの本が日本にあるなんてな…と言いながら、懐から外国の本を出した。英語でタイトルが書かれていたが、のどかはその本見て驚愕した。

 

「私が渡した本と同じ…」

 

「あぁビックリしたぞ。同じ本を持っている奴に出会うなんて」

 

 マギの本を見せてもらった生徒達はおおッ!!と叫んでいた。

 

「全部英語!!何書いてるのか分からない!!」

 

「と言うかネギ先生とマギさん結構流暢に日本語喋っていたから、外国から来たって事忘れてた!!」

 

 などと興奮しながら、マギの本を回し読みをする。本がマギの元に戻ってくると、マギはそうだと言いながら、のどかがくれた本の外国版をのどかに渡した。のどかはえ?と言う声を上げた。

 

「プレゼントしてくれたお返しがその本の外国版でしかも俺が今まで読んでいた御下がりじゃ失礼か…」

 

「そ…そんな事無いです!!同じ本を読んでいる人に出会えたのもうれしいです!それに、この外国版日本では余り出回って無い本なので…」

 

 とのどかは嬉しそうだった。マギはのどかから受け取った本をちゃんとカバンにしまい。元々持っていた本をのどかに渡した。

 

「サンキューなのどか、大切にするぞ」

 

「は…はい!こちらこそありがとうございます!!」

 

 そうマギにお礼を言うと、のどかは去って行った。数秒後にのどかの背中をバンバン!!と叩いた眼鏡の少女とボーッとしている風に見える小柄な少女がのどかに近づいてきた。

 

「ヤッタじゃんのどか!!マギさんに好感度up!!」

 

「よかったですね。のどか」

 

「ハルナ、夕映…うん!勇気出してよかったよ!!」

 

 そんなやりとりを見ていたマギ、眼鏡を掛けた少女は14番の早乙女ハルナでボーッとしている風に見える小柄な少女は4番の綾瀬夕映だ。やりとりを見ていると、彼女たちは結構仲の良い友人どうしなのだろう。ふと、辺りを見渡すと、ネギとアスナが居ない事に気づいた。

 

「あれアイツ等何処に行ったんだ?このか、アイツ等が何処に行ったのか知ってるか?」

 

 マギにネギの居場所を聞かれたこのか。

 

「えアスナ?あれーどこいったん?ゴメンなマギさん私もアスナが何処に居るかわからんわー」

 

 このかはアスナとネギが何処に行ったか分からないようだ。今度はあやかに聞いてみる。

 

「なああやか、ネギとアスナが何処に行ったか知らないか?」

 

「え?ネギ先生ですか?…あら!ネギ先生!?ネギ先生は何処へ!!!?」

 

 とネギの名前を叫びながら、ネギを探しに教室を出てしまった。何人かの生徒は面白がってあやかについて行ってしまった。

 

「まったく、落ち着きのねえ生徒達だな…どら、俺も探しに行くとするか…」

 

 マギは気怠そうに席を立つと、自分もネギを探すことにした。しかし数分と経たないうちに、ネギとアスナを見つけることが出来た。出来たのだが…

 

「なに…やってるんだお前ら?」

 

 アスナがネギにキスをしようとしていた所だった。キスしようとしていたアスナはマギに目撃されて、ピシリッ!!と固まっていた。

 

「ちち違うのよマギさん!?アタシは告白の予行練習として…」

 

「いやお前今確実にネギにキスしようとしてたじゃん。だめだよ一応先生と生徒の間でそんなことしちゃ、色々とメンドイしなんか生徒にお義兄さんって呼ばれるのは嫌だぞ」

 

「だから違うって!!あたしをいいんちょと同類にするなッ!!」

 

 マギのドン引きの目にアスナは必死に誤解を解こうとしていたが、無駄な様子である。さらに面倒な事に

 

「…何をしていますのアスナサン?」

 

 殺気に満ち満ちている声にヒッと短い悲鳴を上げるアスナ。声の主はあやかで、目は充血していて髪は今にも逆立ちそうだった。

 

「あああ貴女!アスナさん!?貴女今ネギ先生とききキスなさろうと…!!」

 

「そそそんな事ないわよ!!幻覚でも見てた「ちなみにその写真は撮影済みだよん♪」ああ朝倉ぁ!?なに余計な事してんのよ!!」

 

 鬼気迫るような感じでアスナに問い詰めるあやこ。誤魔化そうとしているアスナに追い打ちをかけるように、カメラを持っている3番の朝倉和美である。和美は先程アスナがネギにキスしようとした所をバッチリと写真に収めていた。その写真を見たあやかはゆっくりと振り返った。

 

「さてアスナさん…辞世の句は読みましたか?」

 

 笑顔のあやかだが、あやかの目を見てアスナは恐怖した。目が笑ってない…!!無事ではすまないと瞬時に理解したアスナは、呆然としていたネギをゆすった。

 

「起きなさいよアンタじゃなかった。先生!!この事を説明してください!!」

 

 アスナの怒鳴り声にハッとするネギだったが、さっきキスされそうになったのと、鬼気迫る顔で此方に向かってくるあやかを見て、混乱に混乱を重ねて。たどり着いた結果は…

 

「皆(ネギを含む)の記憶よ失えーー!!」

 

「やめー!!」

 

 ネギが混乱して、自分を含めたこの場にいる全員の記憶を消そうとして、それをアスナが止め、その間にあやかが詰め寄りとしっちゃかめっちゃかになってしまった。ある意味混沌とした光景を見たマギはと言うと…

 

「なんかもういいか…メンドいし…」

 

 マギは何もせずにAクラスに戻ってしまった。その後混沌とした場は数分で収まり、ネギ達もAクラスに戻り、何も問題なく歓迎会は無事終了した。

 

 

 

 

 

 歓迎会が終了し、外はもう真っ暗になってしまっていた。帰路についていたネギとマギにアスナとこのかが、夜道を歩いていた。

 

「はぁ…今日は散々だったわ。これも全部アンタ達のせいよ!」

 

「だから俺はお前に何にもやってねえだろ?」

 

「それに最後のは自業自得じゃないかと…」

 

「うるさいわよ!!」

 

 大体ねえ…とネギを指差すアスナ。

 

「頭がよくて、魔法だか何だか使えのかもしれないけどさ、中身はただの何処にでもいそうなガキじゃん。そんなんでこの先本当に先生なんてできるの?アンタのお兄さんのマギさんの方が失礼だけど、常識は持ってるわよ」

 

 アスナに言われたことにシュンとするネギ。確かに授業は散々な目に(半分はアスナのせいな気がするが)魔法もばれてしまった。正直本当にこの先先生を続けられるか不安になっていた。シュンとなっているネギを黙って見ているアスナ。

 

「おーいアスナー」

 

 とかなり先に居るこのかが、アスナを呼んでいた。

 

「さて…帰ろっか」

 

「あ…ハイ!」

 

 あ…そう言えば、とネギの方を振り返るアスナ

 

「アンタ達って泊まる所結局決まったの?」

 

「いえまだ決まって無くて…「…いいよ。来ても」…え?」

 

 ネギは一瞬だが、アスナの言った事が信じられなかった。あれほど自分達を泊めるのに反対していたアスナが泊まっていいとそう言ったのだ。

 

「まぁ…さっきの台詞にはちょっとグッと来たかな…」

 

 アスナがボソッと何かを小さい声で呟いていたが、マギには聞こえていた。如何やら歓迎会の時ネギがアスナに何かを言ったのだろう。それでアスナがネギを見る目を変えたのだろう。とにかく!と自分で言って恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて叫んだ。

 

「このまま頑張れば…アンタも何時かはいい先生になれる…かもよ」

 

 アスナは言い終えると、そっぽを向いてしまった。ネギはアスナの励ましの言葉に嬉しかったのか、笑顔になった。アスナはそんなネギの顔を見て、さらに顔を赤くした。

 

「あぁアンタ、さきにこのかの所まで行っててくれないかしら?アタシマギさんに話があるから」

 

 ネギに先に行くようにそう言うアスナ、ネギはそれに従って、先にこのかの元に行ってしまった。2人きりになるアスナとマギ。

 

「んで、話ってなんだアスナ?」

 

 2人きりになって、先に口を開いたのはマギであった。アスナはジッとマギを見つめると

 

「マギさん…授業の時はごめんなさい!!それと林の時はありがとう」

 

 マギは何故アスナが自分に謝ったのとお礼を言ったのか、理解出来なかった。

 

「授業中にでこピンされたのはアタシが授業中に消しゴムを飛ばしたせいなのに、許さないっていたのは冷静になって考えたらお門違いだって気づいたから謝ろうと思って…」

 

「ん、ああまあ気にしてねえよ。それよりなんでありがとうなんて言ったんだ?俺お前に何か礼される事やって無ねえぞ」

 

 マギの疑問にそれは…と溜めるアスナ。

 

「アタシが魔法を知って、ネギがアタシの記憶を消そうとした時「代わりに服が消えちまったけどな」それは今言わなくていいでしょ!?…まあ話を戻すけど、ネギを止めた時のマギさんの顔なんか怒ってるような顔していたから」

 

「あぁあの時か…まあ俺は他人の記憶を消すなんてことは嫌いだからな」

 

「でもどうして?魔法がばれたらその人の記憶を消すのが掟じゃないの?」

 

 あぁ掟かあ…マギは大あくびをした後に、急に真面目な顔になり

 

「嫌な事があって自分で忘れるのはいい。だけどな…他人にテメエの記憶を奪われるのはクソくらえだ。そんな事があっちまったら俺は俺じゃなくなる気がしてな…」

 

「自分が自分じゃなくなる…か」

 

 アスナがマギの言った事を復唱すると、一瞬だけ頭が痛くなり、ノイズが走った。

 

 

 

 ――――――幸せになりな嬢ちゃん。あんたにはその権利がある――――――――――

 

 

 

(え…?なに?今の…?)

 

 アスナはほんの一瞬だが、記憶にノイズが走る感覚が起こった。

 

「おい大丈夫かアスナ?」

 

「え!?だッ大丈夫です!!」

 

 アスナはマギに顔をのぞかれて、顔を赤くしながらも大丈夫とそう言った。

 

「本当に大丈夫か?なんかボーッとしてたけどよ」

 

「なんでもないです!!マギさんが言ってたとこを考えていただけです!!」

 

 と誤魔化した後にあははと笑うアスナ。

 

「でもマギさんがそんな事を考えているなんて意外でした。いつも面倒そうな顔をしてたから」

 

「まあ俺はいつもめんどくさがってるけどよ、偶には真面目になるんだぜマギさんでも」

 

 そう言いながらアスナの頭をネギに何時もうやっているように優しく撫でた。行き成り異性のマギに優しくだが頭を撫でられ、ビックリするアスナ。

 

「いッ行き成り何するんですか!?」

 

「いや…なんかアスナがまるで妹みたいに見えてな…つい」

 

「ついって!行き成り撫でられたら吃驚するじゃないですか!?」

 

(でも…不思議と嫌じゃ無かったな…なんでだろう?)

 

 アスナはマギに撫でられた頭を触りながら、フフフと笑った。あそうだと何か思い出したマギ。そしてアスナを指差すマギ。

 

「お前変に敬語になってたり、ため口になってたりするけどさ、変に畏まらなくていいし、敬語なんか使わなくてもいいぞ」

 

「ええッ!?アタシそんなにコロコロ変わってましたか!?」

 

 アスナが言った事に頷くマギ。それに…と続けるマギ。

 

「俺とアスナはそんなに歳離れてないんだぜ?変に畏まられると痒くなってくるんだよ。だから授業中以外は敬語無し!ハイ決定!!」

 

 アスナの答えも聞かずに勝手に決めてしまったマギ。ポカンとしているアスナ。

 

「ほ…本当に敬語使わなくていいんですか?」

 

「ほら又使った。今度使ったら『破壊神のでこピン』な」

 

「ヴ」

 

 アスナはマギのでこピンの構えに短い悲鳴を上げた。あれはほんとに痛かった。願わくばあんなのはもう二度と食らいたくない。

 

「分かったわよ!!これでいいでしょマギさん!!」

 

「上出来だ。やれば出来るじゃねえか」

 

 と又アスナの頭を撫でたマギ。一々頭撫でないでよ!!とアスナに怒られ、ははは悪い悪いと全然謝るつもりもない謝罪をするマギ。まったく!!とマギの態度に頬を膨らませるアスナだったが、直ぐに吹き出してしまった。マギもそれにつられて、笑ってしまった。

 

「早くこのか達の所に行きましょ!?このかの事だし、アタシ達の事を待ってるだろうし」

 

「あぁそうだな急ぐか」

 

 マギとアスナはこのかとネギが待っている場所まで走った。そして直ぐに2人の元にたどり着いた。

 

(アスナの奴、素直な所があるじゃねえか)

 

 マギは、そうアスナの見方を変えた矢先にネギがくしゃみをして武装解除の魔法が暴発して、アスナとこのかのスカートが捲り上がってしまった。それにアスナがまた怒りだした。

 

(まあ…口煩いのは変わらねえか…)

 

 溜息を吐いた後に苦笑いをしていた。

 これで漸く1日が終了した。だが…これはまだまだ始まりに過ぎない。これからが本番だ。

 

(こんなめんどい事がまだまだあんのか…まあでも…)

 

 そう思いながらも、タバコを取り出すといつも通りの流れで、口に咥えると火をつけ、煙を口から出すと

 

「こんなのも…偶にはいいかもな…」

 

 と呟いた。

 

「まったく…やれやれだぜ」

 

 日本の1月の夜はよく冷える。そう思ったマギであった…

 

 




次回の話はおそらく短くなります
感想と評価お待ちしています!!


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惚れ薬騒動

 ネギとマギが麻帆良学園中等部、2のAに担任と副担にとして就任して1日が経った。その翌日の午前5時、この日の始まりは…

 

「キャアアアッ!!」

 

 麻帆良学園女子寮のとある部屋の悲鳴から始まった。

 

「ああアンタ!!なんでアタシのベッドに入ってるのよ!?」

 

 悲鳴の正体はアスナだったようで、ネギが自分のベッドに(ちなみに二段ベッドで上にアスナで下がこのかとなっている)潜り込んできたから悲鳴を上げたようだ。ネギもアスナの悲鳴で起きたのか、寝ぼけ眼をこすっていた。

 

「あう…お姉ちゃ…ってアスナさん!?すッスイマセン!僕何時もお姉ちゃんと寝ていたもので…!いつもの癖で抱き着いちゃいました!!」

 

 ネギはネカネ以外の女性に抱き着いて寝ていた事に顔を赤くしながら、謝った。アスナは何よそれ!?とネギの眠り方に文句を言っていた。

 

「ちゃんとソファを貸してあげたじゃない!まったく本当にコドモね…ってああッ!?」

 

 アスナは目覚まし時計を見て、慌てはじめた。そしてネギが見ている前で、寝間着を脱いで制服に着替え始めた。ネギは恥ずかしさのあまり後ろを向いた。

 

「もう5時じゃない!!ゴメンこのか!!朝ご飯はいらないから!!行ってきまーす!!」

 

 そう言いながら、アスナは急いで寮を飛び出して行った。ネギは慌てて出て行ったアスナを呆然としながら見送った。

 

「あの、アスナさん。何処に行ったんですか?」

 

 ネギは起きたばっかりのこのかにアスナ行先を聞いた。

 

「んーバイトに行ったんよー」

 

 このかはウーンと伸びをすると、パジャマのままエプロンを付けた。

 

「ネギ君、朝ご飯作ってあげるよ。目玉焼きとスクランブルエッグどっちがええ?」

 

「あ…じゃあ目玉焼きで」

 

 ネギの要望にこのかは分かったよーと朝食を作り始めた。ああそれとーと言いながらこのかは

 

「マギさんも起しといてなー」

 

 このかにそう言われ、マギを起すことになったネギ。そのマギはと言うと…

 

「zzzzzzzzzzz」

 

 ソファに寝転びながら、羽毛布団を上にかぶり目にはアイマスク、耳には耳栓と完璧なスタイルで眠っていた。マギは眠る時は誰にも邪魔されたくないため、光と音を完全にシャットダウンするのだ。

 

「お兄ちゃん!もう朝だよ!早く起きて!」

 

 ネギがマギの体を揺すった。普通だったらこれで起きるだろうが、しかしマギは…

 

「zzzzzzzzzzz」

 

 起きる気配が無かった。そうマギは一度寝てしまうと自ら起きようとしない限り、目を覚ますことが無い。そのためネギや一緒に寝ていたネカネを困らせていた。

 

「朝ご飯出来たよーってマギさん起きないなー」

 

 朝食を運んできたこのかが未だに寝ているマギを見た。

 

「ごめんなさい…お兄ちゃんって自分から起きない限りは絶対起きなくて…」

 

 ネギはマギを起せなかったことに謝ったが、このかはこまったなーーと苦笑いをしていた。

 

「困ったなー早くしないと遅刻しちゃうんよ…マギさんおきてーな、朝ご飯できたえー」

 

 このかはネギより強くマギを揺すったが

 

「zzzzzzzzzネカネ姉は心配しすぎなんだよ…zzzzzzzzzzz」

 

 と寝言を言う始末。このかはほんまにどうしようかーと困っていたが、寝坊助を絶対に起こせる方法を思い出した。それはとあるRPGゲームで主人公を起したシーンで。さっそくやろかーーーとこのかは、台所からおたまとフライパンを持ってきた。ネギは何故このかが、おたまとフライパンを持ってきたのかが理解できなかった。このかはマギの耳から耳栓を抜き取ると、そのままネギに渡した。

 

「あのこのかさん?何でおたまとフライパンを持ってきたんですか?」

 

「ああ、これは直ぐにわかるよーあ、ネギ君耳栓はしっかり付けといたほうがええよ?かなり煩いと思うからなー(・・・・・・・・・・・)

 

 このかに言われた通りにネギは耳栓をしっかりと付けた。それを確認するこのか。そしておたまとフライパンをマギの耳元に近づけた。そしてコホン!可愛らしい咳払いをすると

 

「ほんならいくでー秘技!死者の目覚めー」

 

 ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!ガンッ!!

 

「!!うひょああああッ!!?」

 

 ネギは余りの騒音に素っ頓狂な悲鳴を上げてしまった。死者の目覚め。それはとあるシリーズのRPGの第2作目のタイトルの主人公が物凄い寝坊助だったため、見てられない妹が編み出した起床技であり、それは死者でも起き上がってしまうと言われるものであった。これにより主人公は死者の目覚めでしか起きられなかったのである。話がそれてしまったが、その死者の目覚めを耳元で聞かされたマギはと言うと…

 

「!!ウオワァァァァッ!!」

 

 行き成り耳元で騒音を聞かされ、マギは飛び起きてそのままソファから落ちてしまって、鼻を床にぶつけてしまった。マギはぶつけてしまった鼻を押さえて呻いていた。

 

「マギさん朝になったよー朝ご飯たべてーなー」

 

 このかはマギが起きたので笑顔でそう言った。マギは付けていたアイマスクを上にずらして、窓の外を見た。

 

「なんだよまだ暗いじゃねえか。もうちょっと寝かせてくれて「また寝たら又死者の目覚めやからなーーー」………わかった起きるよ」

 

 マギは外を見てまだ暗いと文句を言いながら、2度寝しようとしたが、このかがにっこりと笑いながら、おたまとフライパンを掲げているのを見て、マギは2度寝をするのをあきらめた。そしてネギとマギにこのかは朝食を取る事にした。

 

 

 

 朝8時、麻帆良学園中央駅にて全力疾走で校舎に向かっている生徒の中にネギとマギにアスナとこのかも居た。

 

「全くもお!バイトには遅刻しちゃったし、アンタ達を泊めるんじゃなかったわよ!!」

 

「ええッ!?僕のせいですかぁ!?」

 

 アスナに怒られ、何故自分のせいなのかとツッコむネギ。そんなネギとアスナを見て仲悪いなーー2人と言うこのか。マギは大きな欠伸をしながらアスナとネギのやりとりを見ていた。

 

「いいこと?」

 

 アスナはネギに近づいて、ネギの耳を引っ張った。耳を引っ張られたネギはヒャイ!と情けない悲鳴を上げた。

 

「アンタ達が魔法使いって事を知っているのはアタシだけなんだからね。いい加減おとなしくしないとばらすわよ。クラスの皆とかマスコミに、そしたら大騒ぎになってアンタなんか魔女裁判で磔で火炙りの刑よ!!」

 

「エェェェェェェッ!!!」

 

 ネギは自分が磔にされて火炙りにされてるのを想像して悲鳴を上げた。うわーすっげー熱そうだなって死んじまうか火炙りじゃーと呑気な事を言っているマギだった。

 

「冗談よ。でもこれ以上アタシに逆らうんじゃないわよ」

 

 アスナに言いきられてしまい、僕先生なのに…と落ち込むネギ。だが直ぐに何かを思い出して、アスナに近づく。

 

「あの…アスナさん?昨日言ってた魔法の惚れ薬は如何しますか?本当に4か月位で出来ますけど…」

 

 ネギの惚れ薬という言葉にあれ?と何か大切な事を忘れてる気がした。

 

(なんか惚れ薬に付いてじーさんになんか口酸っぱく言われた気がするんだが…まあいいか。俺が忘れるんだからどうせどーでもいい事だろし)

 

 …そんな呑気な事を考えていたが、ネギの言う惚れ薬がこの後にとんだ大騒動を起こすとはネギもマギも知る由が無かった…

 

 

 

 

 

 行き成り時間が飛んでの昼休み、マギは中等部の校舎の近くにあるベンチで昼食をとった後、いつも通りにタバコを吸っていた。午前中は授業が無く、職員室でボーッとしてるか、のどかから貰った本を読んでいるか、しずな先生と他愛のない世間話をするだけだ。まあついでに授業内容の予習などもぼちぼちとやっていたが。

 そんな遣り取りをやっている間にまたネギがトラブルを巻き起こしたようだ。なんでもネギの英語に授業時に、アスナに英文の和訳をする様にしたのだが、アスナはヘンテコな和訳をしてネギに英語は駄目だと皆が居る前で笑いながらそう言って、クラスの殆どに笑われるという恥ずかしい目にあったアスナ。当然皆に馬鹿にされ怒り心頭となり、笑われる事になった原因のネギに食って掛かり、揉め合いになったのだが、又ネギの武装解除の魔法が暴発。下着姿になったアスナに授業終了時間まで睨まれていたそうだ。

 授業の出来事を聞いたマギは呆れて物が言えなかった。今回のもそうだが、完全にネギが悪い。仮にも教師としての立場なのに、生徒に向かって駄目と言うのは教育者としてあるまじき発言である。まあ思った事をはっきりと言ってしまう所を見ると、やっぱり子供なんだな~と思うが、それでも教師としての立場として、其処の所はよく考えて発言してほしいものだ…とタバコを吸い終り、新しいタバコを咥えながらそう思ったマギである。

 

「ハァ、午後の授業行きたくねえなあ。絶対アスナに文句言われるぞ『お兄さんなんだからちゃんと弟の躾位しとけ』って絶対言うだろうな。彼奴の性格からして…」

 

 と溜息を吐き、タバコの灰がボロボロ落ちているのに気付かず、ボーッとしていたマギ。すると

 

「あの…マギさん」

 

 自分の名前を呼ばれ、ハッとするマギ。呼ばれた方向を見てみると、其処にはのどかと夕映にハルナの3人が其処には居た。

 

「おお、のどかに夕映にハルナじゃねえか…って」

 

 マギは3人のと言うよりのどかをじっと見つめた。見つめられているのどか本人は顔を赤くしていたが、数秒経つとマギがおおそっか!と手を叩いた。

 

「のどかお前髪型変えたか?もしそうだったら初めて会った時よりも似合っているし可愛いぞ」

 

 そうのどかの髪型が変わっていたのだ。相変わらず目元は隠れているのだが、それでも前の髪型よりは可愛らしい。のどかも自分の髪型を可愛いと褒めてもらって嬉しそうに表情が緩んだように見えた。

 

「でしょでしょ!?マギさんもそう思うでしょ!?この子可愛いのに顔を出さないのよ!」

 

 ハルナはそう言いながらのどかの前髪を上げて、顔が見えるようにした。マギはのどかの顔を見てへぇと呟いた。前髪を上げたのどかの顔はハルナの言う通り、可愛らしい顔立ちをしていた。それに加え恥ずかしさで顔を赤くしているのが、可愛らしさを際立たせた。のどかはマギに顔を見られたのが恥ずかしかったようで、すっ飛んで何処か走り去ってしまった。

 

「あーのどかー」

 

 夕映が間の抜けたような喋り方でのどかを追いかけて行った。

 

「ああちょっと待ってよのどか!ゴメンマギさん!!また後で!」

 

 と言いながらハルナものどかを追いかけるために、マギの元から走り去って行った。行き成り現れて、行き成り去って行った3人を見て、アイツ等何しに来たんだ?と思っていると

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 午後の授業が始まる10分前のチャイムが学園内で鳴り響いた。そろそろ5時間目の授業が始まる。5時間目は自分が教える歴史の授業だと伸びをした。そして一回職員室に向かい授業に必要な物を持ち出すと、Aクラスに向かった。数分もしないうちにAクラスにたどり着いて、マギは教室のドアを開けた。

 

「おおいテメェ等、午後の授業が始まるぞぉ。さっさと席につ…」

 

 けと最後まで言おうとしたが、マギに何か液体の入ったシリンダーが飛んできたのだ。そしてシリンダーはマギに向かって行きそして…

 

「ムグッ!!?」

 

 マギがシリンダーを咥えてしまった。マギは何なのか一瞬理解出来なかった。その間にもシリンダーの中に入っていた謎の液体はどんどんマギの口の中に入ってきて、マギは謎の液体を全て飲み込んでしまった。そして空になったシリンダーを口から外すと、ゴホッ!!ゴホッ!!と大きく2回むせると。空となったシリンダーを掴んで掲げると

 

「今このシリンダーを投げたのは誰だ!?怒らねえから名乗り出て来い!」

 

 と言っても誰も名乗り出てこなかった。代わりに青い表情になっているネギの姿が凄く目立ち、マギは今シリンダーを投げたのがネギだと瞬時に分かった。そしてネギの元に近づきシリンダーを渡すと、いつも通りにネギの頭をハリセンで思い切り叩いた。

 

「何馬鹿な事やってるんだよお前は…もし生徒にあたったら怪我どころの騒ぎじゃねえぞ」

 

 マギに怒られ、慌てて謝った後にシュンとしてしまったネギ。反省しているようで、それ以上何も言わずに、いつものようにネギの頭を撫でた。

 

「そろそろ俺の授業が始まるからな、お前は職員室に戻っておけ」

 

「うん…分かったよお兄ちゃん」

 

 ネギはマギに撫でられて少しだけ笑顔になったが、マギに怒れたのがまだ少しだけ来ているのか、ゆっくりとした歩みで職員室に戻って行った。そんなネギを心配そうに見ているアスナ。

 

「ちょっとマギさん、ネギだってワザとやったわけじゃないのよ?それなのにハリセンで叩くのはあんまりじゃない?」

 

 実の所、ネギがシリンダーを投げたしまったのにはアスナにも原因があったのだ。どういう事かと言うと、昼休みネギの事で苛々していた時にそのネギ本人が登場。手には怪しい液体が入っているシリンダーを持っていた。何でも惚れ薬みたいな物を作ったらしく、恥ずかしい目にあわせたアスナへのお詫びとして作ってきたのだが、アスナは受け取る事を拒否した。それでもネギはアスナに渡そうとして取っ組み合いとなる。遂にはアスナがシリンダーを払ってしまったが力が強すぎて、ネギの手からシリンダーが離れてしまった。そしてマギが来て今に至るという訳だ。それを聞いてマギはフフと小さく笑うと

 

(まったくアイツは真面目だな。まぁ真面目がアイツの良い所でもあるがな……本当に誰に似たんだか)

 

「まぁネギが作った惚れ薬だが恐らく失敗だな」

 

「え?如何してそんな事が分かるの?」

 

 とアスナが聞いてきた。当たり前だマギは言う。

 

「俺はネギの兄貴だぞ?いくら不真面目なマギさんでもな、そん位の知識は持ってるんだよ。まあ話を戻すが、惚れ薬ってのはなその薬を飲んだものは、異性を見てしまうと見られた異性は必ず薬を飲んじまった奴の事を好きになってしまう」

 

「マギさんが言ってる事が正しければ、アタシはもうマギさんの事を見ているのにマギさんの事を好きにならない。という事はネギが作った薬は失敗作だったのね?でもそんな失敗作を飲んで平気なの?」

 

 アスナがマギを心配そうに見ていたが、まあ大丈夫だろと呑気な顔でそう言ったマギ。

 

「別に危ない毒性の物を使ったわけじゃないだろうし、心配することもないだろ?」

 

 とマギがそう言った次の瞬間に、5時間目の授業を始めるチャイムが鳴った。

 

「さてと、授業の時間だ。アスナもさっさと自分の席に着きな。あ、あともし又俺の授業を聞いてなかったらコレな」

 

 とマギが手をでこピンを打つ形にした。アスナはマギのでこピンを思い出し、素早く席に着いた。アスナが席に着いたのを見ると、マギも教卓に着いた。

 

「さて授業を始めるぞ。あやか、号令を頼む…あやか?」

 

 返事が無い。前日は委員長でもあるあやかが授業の開始と終了の号令をしてくれているのだが。見ればあやかが、心此処に非ずと言った状態で、ボーッとマギを見ていた。

 

「おいあやか。お前大丈夫か?ボーッとして」

 

「ッは!?ああ申し訳ありません!委員長である私としたことが!授業開始時に気が抜けるなんて!」

 

「本当に大丈夫か?無理しないで保健室に行ってもいいんだぞ?」

 

「いえ御気になさらず!マギ先生は授業を始めてくださいな!!」

 

 あやかが大丈夫と主張しているので、マギはそのまま授業を始める事にした。あやか号令をして、皆もあやかの後に続いて礼をした。

 

「さてと今日は昨日の続きからやるぞ。教科書を開けー」

 

 

 

 何かが可笑しい。授業をやっていて、マギはそれが気になっていた。別に昨日みたいにアスナに授業を妨害されているわけではない。それどころか、みんな真面目に授業に取り組んでいるのだが、今日は何か変だ。

 一言で言うなら…クラス中の空気が何処か、カワイイ言葉で言うならフワフワしている感じだった。だがクラス全員ではなかった。10割中9割で、1割のアスナを含めたほんの数人だけが普通の状態だった。

 兎に角殆どの生徒がボーッとしているか、顔を赤くしていたのだ。最初は集団の風邪か何かかと思ったが、それは有りえないと瞬時にその考えを止めた。話を戻すが、先程に授業での質疑応答をしたときに

 

「んじゃ亜子、室町幕府の第8代目将軍は?」

 

「はッはい!足利義政です!!」

 

 出席番号5番の和泉亜子が正解を言う。マギは正解だと言うと、亜子は過剰に喜んでいた。その後にも何人かに問いに答えさせ、問いに正解すると喜んでいた。そして、授業の終了をチャイムが鳴った。

 

「んじゃ今日の授業はこれで終わりだ。各自に予習と復習をしっかりしとけよ」

 

 と生徒達にそう言い残すと、マギは教室を出ようとしたが、このかやあやかに風香と史伽の双子に、7番の美砂に11番の円に17番の桜子のチア3人組がマギの前に現れた。

 

「如何したお前ら、分からない所とかがあったのか?」

 

 マギがこのか達にそう訪ねたが、このか達からは何の反応が無かった。マギはこのかの顔を見てみたが、ボーッとして大丈夫そうではなかった。おいこのかとマギはこのかの名前を呼ぶと

 

 グリグリ~

 

 このかが行き成りマギに抱き着いて来てマギの体に顔を埋めた。マギとマギを遠くから見ていたアスナは目を点にして、は?と言葉を零した。

 

「マギさんってよく見ると、なんかすっごくかっこええなー」

 

 そう言いながら、このかはマギの体にグリグリと顔を埋めていた。マギは行き成りの事に呆然していたが、このかのやっていることに気づき慌てだした。

 

「おッおいこのか!?何やってるんだよ!!?お前そんなキャラじゃないだろ!!?」

 

 マギはこのかを引き剥がそうとしたが、しっかりと抱き着いて離れない。その間に今度はあやかが、高そうな花束をマギに渡してきた。

 

「愛らしいネギ先生とは違い、凛々しいマギ先生へ、この花束をどうぞ」

 

「ちょっと待てあやか!お前絶対可笑しいショタキャラが崩れてねえか!?」

 

 あやかがマギにプレゼントするなんて可笑しい。はっきり言う、壊れていると、と今度はチア3人組があやかを突き飛ばしてマギに詰め寄った。

 

「マギさん!家庭科でケーキ作ったんだ!食べて!」

 

「ちょうど大人用の服をくぎみーと造ったので着てみてください!!」

 

 と桜子がケーキの皿を持ちながら、円と美砂が服を持って押し倒してきた。そしてズボンを脱がしてきた。この3人も顔が赤くなっていて興奮状態で正気ではなかった。

 

「マギ兄!ボク達ともあそべーッ!!」

 

「遊ぶですーッ!!」

 

 と今度は風香と史伽がマギの体に伸し掛かった。と更に顔が赤くなっている生徒達が、マギに集まって来た。それはまさに生者に群がるゾンビの如く。

 

(若しかしなくても、ネギの作った惚れ薬は成功してたのか!?でもアスナは別に平気だったし、どうなってるんだ!?)

 

 円と美砂がズボンを脱がす力が強くなっていた。これ以上は流石に本当にマズいとそう思い。力を入れ始めた。

 

(こいつ等を怪我しない様にうまく調節しないとな。これがメンドイのに…怪我したらゴメンな!!)

 

 と内心で謝ると魔力で身体能力を上げる。

 

「ウラァッ!!」

 

 マギは叫びながら思い切り起き上がった。このか達はキャッ!と短い悲鳴を上げながらマギの体から振り落とされた。幸いこのか達に怪我は見られない。それにホッとするマギ。すまんと軽く謝るとほぼ飛び出す形で教室を出て行った。数秒後にはマギを追いかけるために教室を飛び出してきた生徒達。そこからはマギと生徒達による追いかけっこが始まった。それとマギはなるべく女子生徒と目を合わすことはしなかった。これ以上追いかけてくる女子を増やさないためである。数分走っていると、全ての原因であるネギ姿が見えてきた。

 

「おッお兄ちゃん!?なんで走ってるの!?「説明は後でする付いてこい!!」グエッ!!?」

 

 ネギはマギに襟を引っ張られ、変な悲鳴を上げた。その間にも女子生徒達がマギ達を追いかけてきた。

 

「おいネギ!あいつ等を撒きたい!何処か隠れられる場所は無いか!!?」

 

「そッそれだったらこの先に図書室があるよ!隠れるには最適だよ!!」

 

 図書室か…とマギは呟いた。確かに図書室だったら隠れられるのには最適だ。

 

「ネギ、飛ばすからしっかり掴まれッ!!」

 

 ネギにそう言って、マギは魔力を完全開放する。爆発的な力により、マギは一瞬で追いかけて来る生徒達を撒いた。生徒達は行き成りマギが消えて驚き、マギが何処に行ったか彼方此方を探し始めた。

 その間にもマギとネギは図書室に到着し、追いかけて来る生徒達が居ないと分かるとフウと一息ついた。

 

「お兄ちゃん行き成り如何したの?」

 

 ネギは行き成りマギに連れてこられて驚いていたが、マギはネギを睨むとネギの頭にアイアンクローを食らわす。ギリギリとネギの頭が締め付けられる。

 

「イタタタタタタタッ!?お兄ちゃん痛いよ!!」

 

「黙れ馬鹿。お前が作った惚れ薬のせいでとんだ大騒ぎだ」

 

 と言い終えると、アイアンクローを止めた。ネギはマギのアイアンクローが痛かったのか、頭を摩っていた。そんなネギを見て、マギは溜息を吐いた。

 

「如何したのお兄ちゃん?」

 

「ん?ああ。さっきこのか達から逃げている時になヤバい事を思い出してな」

 

「ヤバい事?ヤバい事って何なの?」

 

 ネギが何がヤバいのか聞いてきた。ああヤバい事ってのはな、とマギは次の言葉を放つ。その言葉はネギを凍らせた。

 

「惚れ薬ってのはな……違法薬ってのに分類されてるんだよ」

 

「…え?」

 

 ネギは一瞬だが、呆けてしまったがマギが言った事を理解すると慌てだした。

 

「ええッ!?惚れ薬が違法薬って僕知らないよ!」

 

 マギはネギの慌てぶりに本当に知らなかったのかよと呟いて、手で顔を覆った。そしてネギに何故惚れ薬が違法薬なのかを説明した。

 

「いいかネギ?惚れ薬みたいな人の心を操るっていうのは魔法の法を犯しているんだよ。しかもめんどい事に惚れ薬を製造すると、最低でも20年はオコジョの刑だって話だし」

 

「2ッ20年!?」

 

 ネギはマギの20年という言葉に顔を真っ青になった。

 

「しかも惚れ薬を飲んでしまった者は50年のオコジョの刑で、惚れ薬を飲ませた者は30年の刑だという話だしな」

 

「50!?30!!?」

 

 ネギは尋常程ではない汗を流し始めた。ネギなんて惚れ薬を作って、挙句の果てにはワザとではないがマギに飲ませてしまった。製造の罪と飲ませてしまった罪を合わせて50年の罪である。しかもマギなんて飲んだだけで50年だ。ネギは自分とマギがおっさんになるまでオコジョになってしまう姿を想像してしまった。

 

「おお兄ちゃんどうしよう!?僕達立派な魔法使いになる前に立派な犯罪者になっちゃうよ!!」

 

「確かにヤバいそれに他の魔法使い(・・・・・・)にバレルのはマズイ」

 

 マギの言った他の魔法使いと言うのは、この麻帆良にはネギとマギ以外にも多くは無いが、魔法使いの学生や先生がいると学園長とタカミチから聞いてある。聞いてあるという事で、学園長とタカミチも魔法使いである。話を戻すが、此処の魔法使い達は、俗にいう正義の魔法使いであって、惚れ薬なんてものはもちろん許されないものである。もしかしたらもうバレテいるのではないかと考えてしまっている。

 

「兎に角俺は、惚れ薬の効果が切れるまでここで隠れてるからネギは此処でこのかやあやかがやって来ないか見張っててくれないか?」

 

「うんッ!分かったよお兄ちゃんッ!!」

 

 ネギは急いでこのか達が来ないか図書室を飛び出して、見張りを始めた。日本に来て早々問題を起して、強制送還された挙句にオコジョにされるなんてたまったもんじゃない。死ぬ気で見張りをするつもりである。

 マギは図書室のドアに鍵をかけると、漸く落ち着けると思い深い溜息を吐いた。ついでにタバコを吸おうと思って、懐からタバコを取り出そうと思ったが、図書室だし吸うのを止めた。とその時

 

 

 ガタンッ!!

 

 

 図書室に本が落ちる音が鳴り響き、マギはビクッとしながら音が聞こえた方を見ると、其処には…

 

「あっあのっマギ……さん?」

 

 本を持っていたのどかが居た。マギは現れたがのどかだと気づくと溜息を吐いた。どうやらのどかはチャーム状態になっていなかった。恐らくだが、目が前髪で隠れていたからだろう。

 

「何だのどかか。如何して図書室にいるんだ?」

 

 マギにそう聞かれると、のどかは顔を赤くしながらも言葉を詰まらせながら

 

「あっあの借りた本を返しに来たのと…マギさんが皆に追いかけられていたので…もしかしたら此処に…いるんじゃないかと思って…」

 

 のどかの言った事にそっかと安心したように疲れた様に言った。

 

「しっかし、この図書室には驚かされるな。本がこんなにあるなんてな」

 

「こ…この学園って結構古くて、昔ヨーロッパの職人さんが作ったんです。それに歴史も長いから蔵書数も多くて、でも大学部にある図書館島はこの図書室の何千倍もあるんです」

 

「へー。詳しんだなのどかって、今度その図書館島ってとこに案内してくれないか?」

 

 マギの誘いの言葉にのどかは顔が赤くなるのを感じた。

 

「あ…はッはい!いつか絶対案内します!」

 

 と言いながら、のどかは顔を赤くしながら、マギの元を去ろうと走り出したが、躓いてしまった。

 

「キャッ!!?」

 

「あぶねえッ!!」

 

 マギは倒れそうになるのどかの元に駆け付けた。

 

 ドシーーンッ!!

 

 のどかは倒れた時の衝撃に耐えるためにギュッと目を瞑っていたが、何も起こらなかった。のどかは恐る恐る目を開けると

 

「イテテテ……のどか、大丈夫か?」

 

 マギがのどかの下敷きになる形で倒れていた。マギのおかげでのどかは怪我をしないで済んだのだ。

 

「まっマギさん!?ごめんなさい!私のせいで!!」

 

「ああ気にすんな。生徒を護るのも先生の役目だから」

 

 マギが笑うと、のどかはさらに顔が赤くなり、何処かおかしくなっていた。ハァハァと息も荒くなっていた。

 

「お…おい、のどか?大丈夫かってうげ!!?」

 

 マギは慌てだした。何故ならのどかの前髪が上がってしまっていて、マギの目をばっちり見てしまっていた。のどかも惚れ薬の影響で可笑しくなってる。しかも、何だか段々とのどかの顔が近づいているように見える……いや絶対近づいている。マギは慌てはじめる。

 

「おッおいのどか!!これ以上はマズイ!俺達は先生と生徒の関係なのに流石に冗談では済まねえぞ!!?」

 

「あっはい…そうですね…ごめんなさい」

 

(言ってる事とやってる事が違うじゃねえか!!)

 

 遂にのどかとマギの距離が零距離まじかになった。もう駄目かと思ったその時

 

「どっせぇぇぇぇぇぇい!!!」

 

 

 バギャァァァァンッ!!!

 

 

 図書室のドアを誰かに蹴破られた。蹴破られたドアは大きい音を出しながら倒れた。のどかはドアが蹴破られた音にびっくりして気を失ってしまった。マギは普段は見せないような慌てた顔をしながら、のどかを横に寝かせると、ハァァァァァと溜息を吐いた。本当にどっと疲れた。でドアを蹴破った本にはと言うと

 

「マギさん大丈夫!?」

 

 ハァハァと荒い呼吸をしていたアスナが其処には居た。

 

「アスナ!?何でお前が此処に居るんだよ!?」

 

「このか達に追いかけられたマギさんが心配になって追いかけてきたのよ。途中でネギに会って、マギさんが図書室にいるって聞いて此処に来たんだけど、鍵がかかっていたから蹴破ったのよ…って本屋ちゃん!?マギさんアンタなにしたのよ!?」

 

「何もやってねえよ!!でも…助かった。アスナサンキューなおかげで助かった」

 

 アスナにそう言うと、マギは気絶しているのどかを抱き上げた。気絶させてしまったのはマギにも責任があるからだ。

 

「アスナ、俺はのどかを保健室に連れ行くから、後の事は頼んでいいか?」

 

「えッ!?まあアタシが出来る範囲なら構わないけど」

 

 アスナがそう言った間に、マギはのどかを保健室に連れて行った。数分後に惚れ薬の効果が無くなり、このか達は今まで自分達が何をやっていたか思い出せない様子だった。

 

 

 

 

 

 




感想と評価お待ちしてます

次回は話が飛んで、ドッチボールの話になるかもしれません


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補習授業

やはり補習授業の話を投稿します
どうぞ


 早朝の4時とある新聞配達の会社にて

 

「それじゃ行ってきます!!」

 

 新聞が沢山入った袋を持っているアスナが元気な返事をしながら、配達に向かおうとしていた。

 

「おう、気を付けてなアスナちゃん!」

 

 配達会社の主人がアスナに向かってそう言う。そのすぐに、その主人の奥さんらしい人が慌てて走ってきた。

 

「ちょっと大変よアンタ!大山君が風邪ひいたらしくて今日は配達できないって!!」

 

 それを聞いて慌てる主人。

 

「何だって!?最近風邪が流行ってるらしいしなー困ったな、今代わりに配達に行ってくれる人がいないか頼んでみるか」

 

 と主人が困っていると

 

「あのだったらアタシが配達に行ってきましょうか?」

 

 とアスナが代わりに配達に行くと言った。そして風邪を引いた大山君が配達する分の新聞が入っている袋を肩に掛けるアスナ。流石に重いなと思ったアスナ。

 

「本当に大丈夫かいアスナちゃん?無理しなくていいんだよ?」

 

 と主人が心配そうにアスナに尋ねるが、アスナは平気そうに笑うと

 

「大丈夫です!アタシ体力には自信がありますから!任せといてください!!」

 

 そう言い終えるとアスナは、今度こそ新聞配達に向かって行った。

 

「いやーアスナちゃんはいい子ね。うちの娘に欲しいくらいね」

 

「全くホントだなー」

 

 アスナを見送った主人と奥さんはアスナに感心しながらそう言っていた。

 

 

 

 

 

 順調に新聞配達を続けているアスナ。途中で早朝にパトロールを行っていた2人の警官に挨拶をしたりなど、この地域でのアスナはある意味有名人の様だ。

 

「ふぁ~…眠いな~やっぱり早朝のバイトはキツイわね」

 

 アスナは大欠伸をしながら、そう呟いた。

 

「とと、いけないいけない!自分からやるって決めたのに、キツイなんて言っちゃダメでしょ!」

 

 と自分自身を叱りつけてやる気を出すアスナ。

 

「とは言っても、やっぱりちょっと重いな。時間通りに運び終えるかな?」

 

 とよろけながら、新聞の入った袋を見ながら全部時間通りに運べるか心配になってしまったアスナ。

 

「――――乗って行きますかアスナさん?」

 

 不意に頭上からネギの声から聞こえ、アスナは上を見上げた。

 

「おはようございますアスナさん。朝早くご苦労様です」

 

 何時も持っている大きな杖に座っているネギと、同じくネギの杖に座っていて、大きな欠伸をしながら目を擦っていたマギが居た。アスナは驚きを隠せなかった。何故ならそのネギとマギが杖に乗って空を飛んでいたのだ。

 

「あアンタ空飛べたの!?」

 

 アスナが驚いている間にネギは普通にマギは未だ眠いのか危なっかしそうに杖から降りた。

 

「ええ今からアスナさんの新聞配達を手伝おうと思いまして、お兄ちゃんと一緒に来たんですよ。この杖結構速いので新聞配達も早く終わりますよ」

 

 ネギの手伝うという言葉にアスナは顔を輝かせていた。と言うよりネギが杖で空を飛んできたのに顔を輝かせていたと言っていいだろう。

 

「さあ乗って下さい」

 

「え?でもアンタ魔法がバレルと不味いんじゃないの?」

 

「大丈夫ですよ!さ早く乗って下さい」

 

 とアスナに杖に乗るように言うネギ。アスナは最初はちょっとビクついていたが、自分も空が飛べるという事でお言葉に甘えて乗る事にした。

 

「さ!行きますよ!!」

 

 遂に浮上すると分かると、アスナは興奮で顔を輝かせていたが。だが…

 

「ちょっと、全然飛んでいないじゃない!」

 

「あ…あれ?」

 

 さっきまでと違い、たった50~60㎝位しか飛んでいなかった。ネギは如何して飛ばないか分からないようであったが、マギが

 

「なあネギ、お前重量オーバーって事考えていたか?」

 

 マギの言った事にネギは、あ…と如何やらネギはそこの所を考えてなかった様だ。それを聞くと、アスナは黙って杖から降り、又新聞配達を続けようとしたが、まあ待てよとマギがアスナの腕を掴んだ。

 

「離してよ!アンタ達と馬鹿やってるせいで新聞が時間通りに配達できないじゃない!!」

 

 アスナは興奮してマギに怒鳴っていたが、まあ落ち着けってと大欠伸をしながらマギが呑気に言った。

 

「お前この前言っただろ?弟の責任は兄である俺の責任だってな。少し荒っぽいが空の新聞配達を体験させてやるよ」

 

 マギの荒っぽい空の新聞配達と言う言葉にアスナは首を傾げたが、マギは気にせず集中し始めた。マギの体は淡く発行し始めた。アスナはマギが淡く発行し始めたのを見て息をのんだ。

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ!堕天使の翼よ!罪深き我の背中に汝の翼を与えたまえ!!黒き翼(ブラック・ウィング)!!」

 

 マギの詠唱が終わると、マギの背中から黒い翼が現れたのを見て、アスナはさっきよりも興奮した。

 

「凄い凄い!マギさんどうなってるのその羽!?」

 

「この羽は俺の魔力で練った羽だ。別に俺の体の中に入ってるわけじゃねえからな」

 

 マギの説明を聞きながらも、アスナは黒い羽を触ったりしていた。

 

「さてと…無駄な時間を過ごすのはもうお終いだ。新聞配達を再開しようぜ?」

 

 そう言いながらマギは、アスナを御姫様抱っこで持ち上げた。

 

「ええッ!?ちょマギさん!?なんでこんな形で…」

 

 アスナは男性にこんなお姫様抱っこをされた事が今まで無かったために恥ずかしいようだ。

 

「いやな、羽があるからお前をおんぶするのは無理だから、この体勢が一番楽なんだよ。まあそんな事は置いといて、飛ぶぞ。舌噛まない様に気よ付けろよ」

 

 そう言うと、マギは羽を羽ばたかせて一気に上昇した。アスナは一気に上昇するのにびっくりして、目をつぶっていた。

 

「ほら目え開いても良いぞ」

 

 マギにそう言われ、アスナはゆっくりと目を開かせた。

 

「…凄い」

 

 アスナは余りの凄さに絶句してしまった。まだ朝日が昇りかけの暁の光が、家々を淡く照らしていた。いつも見ている風景だが、何だか幻想的に見えてしまったアスナだった。

 

「如何だ?空を飛んでみた感想は?」

 

 マギがニヤリと笑いながら、アスナに感想を聞いてきた。アスナはマギの笑顔を見て、顔を赤くしながらも

 

「うん!スゴイ!!空を飛ぶってこんなに気持ちいいんだ」

 

 アスナはとても楽しそうだった。

 

「お兄ちゃん待ってよ!!」

 

 ネギが遅れて杖で飛んできてマギ達の元に来た。

 

「おいネギこれ!」

 

 とマギがネギに何かを投げてきた。ネギは落とさない様にしっかりキャッチした。キャッチした其れは、新聞が入っていた袋だった。

 

「さっきアスナを乗せて飛べなかったお詫びだ。ネギお前がその新聞を配達してやれ」

 

「分かった!僕が責任を持って新聞を配達をするよ!!」

 

「んじゃさっさと新聞配達なんてメンドイ事は終わらせちまおうぜ!」

 

 そして、空飛ぶ新聞配達が始まった。新聞配達はいつもの半分以下の時間で配達が終わった事に、主人と奥さんに不思議そうな顔をしながらも、褒められたアスナであった。

 

 

 

 

 

 昼の12時の職員室、ネギとマギの席。マギは早朝の新聞配達が今に応えのか、机に突っ伏しながら仮眠をとっていた。対するネギは上機嫌に鼻歌を歌っていた。

 

「アスナさんにありがとうって言われちゃった。やっぱり手伝いに行ってよかったな」

 

 ネギは新聞配達が終わった後に、アスナにありがとうと言われたのだ。いつもアスナに怒られてばっかだったため、ありがとうと言われるのは嬉しかった。でも…と急にネギは表情を暗くした。

 

「今日のはお兄ちゃんが居たから上手くいったんだ。もし僕だけだったら…」

 

 そう今日の新聞配達はマギがフォローしてくれたから無事に上手くいったのだ。もしネギ1人だったら又アスナを怒らせていただろう。

 

「僕ってお兄ちゃんが居ないと何にも出来ないのかな?やっぱり10歳の僕に先生なんて無理なんじゃ…」

 

 その想いが頭を過り、ふと自分の杖が自分の目に写り、何も考えずに杖を持った。するとさっきまでの甘い考えが何処かへ無くなっていくような気がした。

 

「いや!やっぱり頑張らなくちゃ!こんな所でクヨクヨしてられない!!」

 

 と新たな決意をしたネギ。

 

「その意気ですわネギ先生」

 

 と行き成り後ろからしずな先生の声が聞こえ、ネギはビクッとした。

 

「うわ!しずな先生こんにちわ!何でしょうか!?」

 

 ネギはしずな先生に自分に何の用かを聞いてみた。

 

「実は前担任の高畑先生から預かっていた『2-A居残りさんリスト』を渡しに来たんですよ」

 

 とそのリスとなるものをネギに渡した。と丁度仮眠をし終えたマギが大欠伸をしながら起き上がった。

 

「んあ?しずな先生か…コンチワ。今ネギに何渡したんスか?」

 

 マギは口から涎を出しながら、しずな先生に聞いてみた。口から涎が出でいますわよとしずな先生に言われ、マギは慌てて涎を拭き取った。

 

「ネギ先生に今渡したのは居残りさんリストと言って、高畑先生が月に1度位に小テストを行って、余りにも得点が低い生徒には放課後に居残りの補習授業をしていたんですよ」

 

 としずな先生の説明にやっぱりタカミチは真面目だな~と思ったネギとマギ。

 

「それで、これに居残りのメンバーが書かれていますわ」

 

 としずな先生がメンバーのリストを見せてきた。どれどれとそのリストを見るネギにマギ。誰がリストに入っているというと

 

 

 

 4. 綾瀬夕映 第7回8点 第8回14点

 

 

 8. 神楽坂明日菜 第7回6点 第8回8点

 

 

 12. 古 菲 第7回12点 第8回14点

 

 

 16.佐々木まき絵 第7回8点 第8回10点

 

 

 20.長瀬 楓 第7回6点 第8回9点

 

 

 

 と彼女達が居残りの生徒の様だ。その中にアスナの名前が載っているのを見て、ネギは吹き出してしまった。

 

「そっかアスナさん勉強苦手って言ってたもんな」

 

「て言うかアスナ以外も点数が悪い奴が結構いるんだな。これじゃアスナの事を笑えないんじゃないか?」

 

 まあその中でもアスナさんは居残り補習を楽しみにしていたんですけどね。としずな先生がそう言った。

 

「でも…もう3学期だし、赤点が取る生徒が出ると実習生としても問題ありですよ」

 

 としずな先生にそう言われ、ネギはウッと言葉を詰まらせ、うへぇ~と情けない悲鳴を上げたマギ。

 

(う~ん困ったな…)

 

 とネギが居残り補習をやるか迷っていると、マギがしずな先生に

 

「しずな先生、これって俺がやる居残り補習の授業ってあるんスか?」

 

 と聞いてみた。その質問にしずな先生は

 

「恐らくないんじゃないかしら?高畑先生の担当が英語だったから、歴史の補習は無いと思うのだけれど」

 

 としずな先生の話を聞いて、ンじゃ俺はそのメンドイのをしなくて済むのか~とマギの言葉を聞いて、ネギはこれはチャンスだと思った。

 

(お兄ちゃんの力を借りないで、アスナさんの役に立てるかもしれない…!)

 

「分かりました!その居残り授業、僕が引き受けます!!」

 

 ネギは強い決意でそうしずな先生に言った。

 

 

 

 

 

 放課後の2-A

 

「…という訳で、2-Aのバカレンジャーがそろったわけですが」

 

「誰がバカレンジャーよ!誰が!!」

 

 夕映の言ったバカレンジャーと言う物にアスナが憤慨しながらツッコんだ。さっきから言っているバカレンジャーと言うのは、別に悪の組織と戦う正義の戦隊という訳でなく、ただ2-Aの勉強が苦手なアスナに夕映に楓に古菲とまき絵の5人を合わせて、バカレンジャーと呼んでいるのだ。因みにアスナがバカレッドで楓がバカブルー。古菲がバカイエローで夕映がバカブラック。最後にまき絵がバカピンクとされている。

 

「いーのよ別に補習なんかしなくても!この学校ってエスカレーター式で高校まで行けるのよ」

 

 としずな先生がアスナはどちらかと言うと、補習授業を楽しみにしていたと言っていたが、それはタカミチと一緒に補習が出来たからで、ネギが補習の先生だとやる気にならないのであろう。ネギはアスナがやる気を出さないのに困っていたが、ある事を言った。それは…

 

「でもアスナさんの英語の成績が悪いとタカミチも悲しむだろうなー」

 

 とタカミチを餌にしてアスナをやる気にさせようとする。アスナもタカミチの名前を聞いて、ウッと苦虫を噛み潰した顔になった。

 

「分かったわよ。やればいいんでしょやれば!」

 

 と渋々ながらも補習授業をやると言ったアスナにほっとしたネギ。ところでだが…

 

「なんでお兄ちゃんが此処に居るの?」

 

 そう教壇にマギがグデ~していたのだ。ネギになんで此処に居るのかと聞かれ、マギはんあと間抜けな返事をしながら

 

「本当だったら全部お前に任せるつもりだったんだがな、しずな先生が『ネギ先生はまだ子供だから、補習授業は大変かもしれないから見ていてあげて下さい』ってさ。こちとら早く帰れると思ったのに…めんどくせえなあ…」

 

 とブツブツと文句を呟いていたマギ。

 

(そんなあ、やっとお兄ちゃんの力を借りずにアスナさんの役にたてると思ったのに…)

 

 とネギが落ち込んでいたが

 

「まあ英語は俺の教える教科じゃねえからな、全部ネギに任せるわ。頼んだぞネギ」

 

 マギの頼んだという言葉にネギは顔を明るくした。マギに頼まれるなんて滅多にないからだ。

 

「うん!僕に任せといてお兄ちゃん」

 

 とやる気になったネギは、アスナ達に小さなペーパーテストを配った。

 

「それではこの10点満点の小テストをやってもらいます。6点以上取らないと帰っちゃダメですからね」

 

 とネギの言った説明にはーいと返事をするアスナ達。

 

「では始めて下さい!」

 

 と開始の合図で、小テストを始める。

 

 

 

 ――――――――3分後―――――――――

 

 

 

「出来ましたです」

 

 と言いながら、夕映が小テストをネギの元に持ってきた。

 

「え!?もうですか!?」

 

 ネギは流石に驚いた。まだテストを始めて3分しかたってないのにもう終わってしまったのだ。とりあえず終わったのだから採点をするネギ。そしてテストの採点が終わり、更に驚いた。

 

「凄い夕映さん10点中9点!合格です!!」

 

 なんとたった一回でほぼ満点の点数を出した夕映。

 

「なんだ夕映、お前やれば出来るんじゃねえか」

 

 とマギが夕映にそう言うと

 

「…勉強はキライなんです」

 

 と言い、マギとネギは成程と思った。夕映は頭いいが、勉強が嫌いなため成績が悪いのだと。

 

「失礼しまーす!夕映を迎えに来ました!!」

 

「ほ…補習授業お疲れ様です」

 

 ハルナとのどかが夕映を迎えに来た。のどかは何故かマギに会釈をした。俺が補習授業してるじゃねえだけどな…と思いながらも、おうご苦労さんと手を振るマギ。

 

「ちゃんと勉強しなよ夕映」

 

「やーだ」

 

 まいっか、帰りに本屋によってこーと言いながら夕映達は教室を去って行った。

 

「出来たアルよー」

 

「ネギ君出来ましたー!」

 

 夕映達が教室から出た数分後に古菲とまき絵に楓がテストを持ってきた。ネギはさっそく3人の採点をしたが、採点を終えるとネギは苦い顔になった。マギは3人の点数を覗き見てうわぁ~と思った。

 

「楓3点、古菲4点まき絵は3点って…」

 

 3人は自分達の点数を聞いてテヘヘと笑いながら頭を掻いていた。

 

「あれ?アスナさんは?」

 

 ネギはまだアスナからテスト用紙をもらってないので、終わったか聞いてみた。

 

「…」

 

 アスナは黙ってネギに答案用紙を渡した。そして採点を始めたが、直ぐに終わった。アスナの点数はと言うと

 

「2点…」

 

 というびりっけつな点数をとってしまった。ネギとアスナの間に気まずい空気が流れる。

 

「じゃッじゃあポイントだけ教えますね!!終わったらもう一回やってもらいますから!!」

 

 ネギは気まずい空気を払拭するために、ポイントを教え始めた。はーいとまき絵が元気よく返事をする。そしてネギが分かりやすく解説した。

 

「えーとアスナさん、ここはですね…」

 

 当のアスナはやはり年下のネギに教えられるのは屈辱的のようだ。アスナに教えてる間に古菲が出来たアルよ!と言いながらネギに答案用紙を渡した。その数秒後に楓とまき絵が答案用紙を持ってきた。

 

「古菲さんと楓さん、どちらも8点で合格です!!」

 

 合格と言われ、喜んだ古菲と楓。どうやら彼女らもやり方が分かると頭の回転が速くなるようだ。帰り支度をしながら古菲が

 

「ワタシ日本語を勉強するので精一杯なのアルよ」

 

 と笑いながら言う古菲。聞けば古菲は中国から日本へ留学中なのだそうだ。確かに古菲の日本語には少し訛りが強いと思うネギである。日本語の勉強頑張ってくださいと古菲にそう言いながら、さようならの挨拶をした。

 

「まき絵さんは6点でギリギリ合格です」

 

「えへへへバカでゴメンね、ネギ君」

 

 まき絵は笑いながら、ネギの頭を撫でた。残るはアスナだけだが、さっきと同じように黙って答案用紙を渡してきた。アスナの答案用紙を採点をしてネギは固まった。ネギが固まったのを見て、マギはアスナの答案用紙を見てみた。そしてネギが固まった理由が分かった。

 

「今度は1点かよ」

 

 とさっきより悪くなっていた。

 

「…だッ大丈夫ですよ!!コツさえ分かれば合格なんて直ぐなんですから!!僕やお兄ちゃんだって日本語を3週間ぐらいでマスターしましたから!丁寧に教えますから今度こそ合格しますから!!」

 

 ネギはアスナを励ましながら、さらに分かりやすく黒板に書きながら教えた。アスナはさっきより屈辱的で体を震わせていた。そんなネギとアスナを見てマギはこう思った。

 

 

 

 ――――――――――――これ絶対帰るの遅くなるだろうなぁ―――――――――と

 

 

 

 そして夕日がきれいに空を照らし、カラスが何羽かがカァーカァーと鳴いてる中、2-Aは暗く沈んでいた。

 

「3点2点1点3点2点1点そして最後は4点…全滅だな」

 

 マギがアスナの今迄の答案用紙を見た感想がこれである。ネギの説明は確かに分かりやすく、酷い話馬鹿でも解る授業だった。だがアスナは一度も合格点を取っていなかった。此処までいくと異常さを感じる。

 

「…もういいわよ。アタシバカなんだし…」

 

 アスナは目に涙を浮かべて、机に顔を埋めていた。

 

「ああ!アスナさん諦めないで!!」

 

 とネギは必死に励まそうとした。その時、ある意味今会いたくない人物が此処に現れた。

 

「おーい。調子は如何だいネギ君?」

 

 アスナはガバッと顔を上げて声が聞こえた方を見た。其処に居たのはアスナが思いを寄せる

 

「おッ例によってアスナくんか。あまりネギ君を困らせちゃダメだぞアスナ君」

 

 タカミチである。

 

「高畑先生!?いえ!これは…あの…」

 

 アスナはタカミチに何を言えばいいか分からなくなりしどろもどろになってしまった。

 

「じゃあ頑張ってね2人とも」

 

 そう言ってタカミチは去って行った。タカミチが去ったのを見て、アスナはプルプルと震え始めた。

 

「あ…あのアスナさん?その気にしないで…」

 

 もう何を言っていいか分からず、気にしないでと励ましたが、遂に…

 

「ウワァァァァァァァァンッ!!!!」

 

 アスナは遂に爆発してしまい、泣きながら教室を飛び出してしまった。

 

「あッアスナさん!!?」

 

 ネギはアスナが飛び出したのを見て吃驚してしまい、アスナを呼び止めようとしたが、アスナは泣きながら全力疾走をして直ぐに見えなくなってしまった。

 

「あーあー何か本当面倒な事になっちまったな…一緒に行ってアスナを連れ戻すか?」

 

 とマギがネギにそう訪ねたが、ネギはううんと顔を横に振りながら

 

「僕が自分でやるって言ったんだ!だから最後まで僕がやり遂げなくちゃいけない!何時までもお兄ちゃんの頼っちゃいけないんだ!!」

 

 そう言いながらネギは、自分の杖を持ちながら教室を飛び出した。

 

「僕が責任を持ってアスナさんを連れ戻すから、お兄ちゃんは先に帰っててもいいよ!!」

 

「ああ分かった。だったら早く連れ戻しに行って来いよ」

 

 マギの言った事にネギは頷きながら杖に跨ると、今出せる最高速度でアスナを追いかけに行った。マギ以外誰も居なくなった教室。マギはハァと溜息を吐いて。

 

「いい加減出てきていいぜ…タカミチ」

 

「…驚いた。気配を消すのは得意な方だと思ったんだけどな」

 

 そう言いながらタカミチがひょっこりと現れた。実はタカミチはアスナの前から去ると、近くの気づかれない場所に隠れていたのだ。しっかりと気配を消してまで。教室に入ってくるタカミチ。

 

「いいのかい?ネギ君だけにアスナ君を任せといて」

 

 タカミチはマギにそう聞いてきた。マギはああ?と返事をしながら

 

「大丈夫じゃねえか?ネギは俺と違って真面目だからな。それに…」

 

 それに?とタカミチがその言葉が気になって再度聞いてきた。

 

「彼奴昼休みに呟いていたんだよ。『僕ってお兄ちゃんが居ないと何にも出来ないのかな?』ってな」

 

 実の所マギはネギの呟きを聞いていたのだ。その後すぐに起きるのもあれなため、しずな先生からリストを渡されるまで寝たふりをしていたのである。

 

「何言ってるんだろうなあの馬鹿は、自分じゃ出来ないことだってあるっていうのに…もうちょっと俺を頼れって言うんだ。ほんとに面倒な性格してるよ彼奴は…」

 

 とマギは文句を言った。そんなマギを見てタカミチはアハハと笑いながら

 

「でもそんなネギ君がほっとけないんだろ君は?」

 

 とそう言われ、マギは珍しく顔を赤くしながら頬を掻いた。

 

「うるせえな…こんなの俺のキャラじゃねえんだよ」

 

 とそっぽを向いてしまった。

 

「そうだ、久しぶりに会ったんだしよ、昔みたいに又格闘戦の修業に付き合ってくれよ」

 

「残念だけど、僕にはまだまだやらなきゃいけない仕事や出張が残ってるからね、悪いけど付き合うのは難しいかな」

 

 とタカミチが無理だと言ったのに、なんだよと文句を垂れた。

 

「そんな面倒な事さぼっちまえばいいのに…」

 

「いやいやそれは流石に無理だろう?」

 

 タカミチのツッコミにマギは冗談だと言いながら笑った。タカミチもつられて笑ってしまう。

 

「もう時間だし、僕はもう行くよ。それじゃこれからも教育実習を頑張ってくれ」

 

「あぁ俺なりに頑張るつもりさ」

 

 

 

 

 

 

 夜の女子寮。アスナとこのかの部屋にてアスナが猛勉強をしていた。結局居残り授業はアスナを連れ戻した後に出来なくなったために、今ネギと同じ部屋で生活しているため残りは部屋でやる事になったのだが、教室の時よりも、やる気が一段と違う気がした。

 

「おいネギ、アスナの奴やる気が一段と違うじゃねえか。何したんだ?」

 

 マギはネギに聞いてみると、ネギはえーと、と頬を掻きなが

 

「えっと…内緒」

 

 と何故かはぐらかされてしまった。マギは何故と内緒と言ったのか少し考えたが、まッそんなに考える事でもないかと考える事を止めた。丁度その時アスナが勢いよく席を立ち

 

「出来た!フフン今度こそ完璧!!ほらさっさと採点しなさいよ!!」

 

 と自信満々に答案用紙をネギに見せる。この自信今度こそ大丈夫じゃないかと思いながら、ネギは採点をした。しかし…

 

「3点4点3点5点…あれ?」

 

 結局合格点に到達してなかった。アスナは今度こそ出来たと思っていたので、落ち込みは半端ではなかった。

 

「前途多難ってこういう事を言うのか?…やれやれだぜ」

 

 今のアスナの英語の成績は『もう少し頑張りましょう』といった所であった。




次回がドッジボール対決となります。

其れとですが、テイルズ系の魔法ですが、闇属性が少ないのでもしかしたら
他の属性の魔法が出るかもしれません

感想と評価お待ちしております

最後に言うのもあれなんですが、私の作品を登録してくれた読者の皆様ありがとうございます。
これからも頑張って行きますので、どうか応援よろしくお願いします


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ドッジボール対決

今回結構強引な所があると思いますが
ご了承ください
それではどうぞ!!


 ネギとマギが麻帆良に来て、5日が経った昼休み。生徒達は外で昼食をとっているか、体を動かしたりしていた。その集団の中にもAクラスの何人かがボールを遊びを行っていた。

 

「ねーねーネギ君とマギさんが来てからもう5日経ったけど、皆はネギ君とマギさんの事どう思う?」

 

 まき絵がボールをパスしながら、他の生徒がどう思っているか聞いてみた。

 

「ん…いいんじゃないかな?ネギ先生はカワイイし、マギさんはカッコイイし」

 

 まき絵のパスを6番の大河内アキラがそう言いながらパスを回す。

 

「そだねー教育実習生として頑張ってるしね」

 

 と2番の明石裕奈もアキラの言った事に同意した。ネギとマギはこの5日間、教育実習生としては優秀な程だった。ネギは授業は分かりやすい授業だが、私生活は何処か抜けており、オッチョコチョイなため危なっかしい所を見た生徒は数多く、一方のマギは、私生活や職員室での態度はとてもだらしなく『鬼の新田』と呼ばれる新田先生に度々説教をされていたが、馬の耳に念仏状態であったと言う。しかし授業の時にはその態度は一変し、真面目で分かりやすい授業を行っており、抜く時とやる時のメリハリが出来ているようだ。

 そのため、見た目の幼さが残ったネギとだらけた時と真面目なときのギャップの差のマギは2-A以外のクラスでもかなりの人気者である。それに~と裕奈がニヤリと笑うと

 

「亜子はマギさんの事が気になるんだよね~?」

 

「ゆッ裕奈ちょ!?何言ってんのん!?」

 

 裕奈の言った事に亜子が顔を真っ赤にしながら、裕奈に叫んだ。実は亜子、マギが教室に入ってからすぐに気になっていたのだ。

 

「亜子って本当に年上が好きだよね。でもさ最近年上の彼氏に振られなかったっけ?」

 

「そッそれは言わん約束と言ったやろ!?」

 

 裕奈に言われたくなかった過去なのか、も~と軽く怒りながらもボールをパスした。実は亜子は最近…といっても数か月前だが、丁度マギ位の歳の彼氏と付き合っていたのだ。しかし彼氏の方がもう別れようと言ってきたのだ。別れてほしい理由と言うのが『まるで妹の相手をしてるみたいで』と言う理由だったのだ。亜子はショックを受けて、数か月は立ち直れなかったがマギが麻帆良にやってきて、そのショックが何処かに吹き飛んでしまった様な気がした。まるで運命を感じたようなそんな感じだ。

 

「そッそんな事よりも!うちらって来年受験やん!皆はどうするん!?」

 

 と亜子が急に話題を変えてきた。裕奈たちは亜子の必死さに苦笑いしながらもこれからについて考えた。

 

「でも私達って大学までエスカレータ式じゃん?別にそこまで考える必要もなくない?」

 

 そう麻帆良学園は小中高大とエスカレーター式で進学できるというよっぽどの問題を起さなければ問題なく進学できるものなのだ。

 

「その事なんだけどね、私この前マギさんに授業で解らないことがあって、放課後にマギさんに教えてもらった時に受験に付いて聞いてみたんだよね」

 

 まき絵の言った事に裕奈達は驚いた。あのバカピンクと言われていたまき絵が授業で解らないと言う所を聞いてみたのだ。

 

「まき絵が解らない所を質問するなんて…」

 

「明日は雪が降るかもしれない」

 

「ちょと!それはひどくない!アキラ!!」

 

 裕奈とアキラがヒソヒソと話していたが、まき絵には聞こえていたらしく、手をブンブン振りながら可愛らしく怒っていた。

 

「ねぇまき絵、マギさんに進路相談してなんて言われたんや?」

 

 亜子はまき絵がマギになんて言われたのか気になってしょうがないようだ。

 

「うんマギさんが言った事はね…『テメェの人生は一度きりでやり直しは効かねぇんだ。だったら後悔のしないようにしっかりと考えな』ってさ。それを聞いて私ちょっとドキッてしちゃったよ~」

 

 と照れながら話したまき絵。それを聞いてええなぁ~と羨ましそうに言った亜子。

 

「やっぱり年上のマギさんに相談するのが一番だね~」

 

「ネギ君私達より年下だし、悩み事とか相談できないよね~」

 

 裕奈とまき絵がそう言った。何時もはネギの事を可愛がっているが、それとこれとは話が別であるのだ。

 

「逆に私たちがネギ君の悩みを聞いてあげたりして」

 

 裕奈が変な妄想をしたのかプププと笑った。

 

「アハハ経験豊富なオネエサマとして体の悩みとか~?」

 

 まき絵はボールを取ろうとしたが、ボールが高く上がってしまい、取り損なってしまった。ボールが芝生に落ちてコロコロと転がった。

 

「も~ちゃんとトス上げてよね~~」

 

 まき絵がボールと取ろうとしてそう言うと、亜子がゴメンな~と謝った。そしてまき絵がヨッとボールを取ると、目の前に数人の女生徒の脚が見えた。

 

「――――――誰が経験豊富なお姉様ですって?チャンチャラ可笑しいわね」

 

「「「!!あッ貴方達は!!?」」」

 

 まき絵と裕奈に亜子は急に現れた人物たちに驚愕した。まき絵達の前に現れた人物たちとは…

 

 

 

 

 

 中等部の職員室にて、ネギが自分の席で資料を纏めていた。

 

「ネギ先生」

 

 隣の席のしずな先生がネギに呼びかけた。

 

「なんですか?しずな先生」

 

 ネギはしずな先生が何の用か聞いてみた。

 

「いかがですか教育実習の方は、もう教師としてやっていけそうですか?」

 

 しずな先生も言ったが、さっきも言ったようにネギとマギは教育実習として5日間も経っているのだ。5日もあれば慣れてくるものだが

 

「いえまだまだです。僕皆さんよりも年下だから、当たり前なんですけど子ども扱いって言うか……僕には誰も相談に来なくて、変わりにお兄ちゃんに相談してるのが多くて」

 

「フフフ……まあ仕方ないですわね。それより、そのマギ先生はどちらに?頼んでいた資料を回収したいのだけれど…………」

 

 としずな先生がマギを探して辺りをキョロキョロと見渡した。ああその事ですか?とネギはしずな先生を見て思いだし

 

「しずな先生、もしかしてこれですか?」

 

 とネギがしずな先生にその資料なるものを渡した。しずな先生はネギに渡された資料を見て驚いた。

 

「凄い…しっかりと纏めてある…」

 

「お兄ちゃん、今日の午前中は授業が無かったんです。そのため午前中に資料を纏めていたそうです」

 

「それにしても午前中の短時間で、これほど纏められるなんて…」

 

 しずな先生はこの短時間でこれほど正確に纏め上げられた資料を余り見た事が無い。

 

「お兄ちゃんが言ってたんですけど『手抜きで作って文句言われるのも面倒だし、本当はメンドイけどやるしかねぇよな…』って」

 

 しずな先生はブツクサ文句を呟きながらも資料を作成しているマギの姿を簡単に想像できた。

 

「フフフ…マギ先生はそう言う態度をとっても真面目さんなのね」

 

「ハイ!やる時はやるそれが僕の自慢のお兄ちゃんです!」

 

 と互いに笑っていた。

 

「そう言えばそのマギ先生は?」

 

 しずな先生がマギの所在を聞いてみると

 

「お兄ちゃんは今は学園の中を散歩中だと思いますよ?『昼休みは誰にも束縛されない自由な時間だ』っていつも言ってましたし」

 

 とマギの事を教えると、急に職員室のドアが大きな音を立てて開かれた。何事かと先生たちはドアの方を見てみると、其処には傷だらけの裕奈とまき絵が居た。

 

「ちょッ!ネギ先生!!」

 

「ネギ先生~!!」

 

 裕奈は慌てながら、まき絵が泣きながらネギに助けを求めた。

 

「どッ如何したんですか!?裕奈さんまき絵さん!!?」

 

 ネギも2人が傷だらけなのに吃驚して何があったのか事情を聞いてみた。

 

「昼休み私たちがボール遊びをしていたら、ウルスラの高校生の何人かが私達に場所を譲れってイチャモン付けてきて、私達が嫌だって言ったら私達が持っていたボールを強引に奪って乱暴にボールを当てて来たんですよ!!」

 

「見てよ先生!こんなに傷だらけ!!助けて!!」

 

 裕奈が経緯を話して、まき絵が自身の傷をネギに見せた。ネギはこれには驚きを隠せなかった。これは立派な校内暴行である。

 

「まだ亜子とアキラが残っているんです!ネギ先生止めて下さい!!」

 

 裕奈にまだ2人が残っていると聞いて、すぐさまその問題の場所に向かった。

 

 

 

 

 

 時間をほんの十数分遡る。学園内を散歩をしていたマギがのんびりと歩きながら、大欠伸をしていた。

 

「ファァァ~…こうものんびりと出来るとはなぁ…昼休み最高」

 

 と又歩いていると、中等部の校舎に近づいてきた。すると何だか騒がしくなっていて、マギはその騒がしい場所に向かってみた。

 騒がしい場所にたどり着くと、十数人の黒い制服の生徒が何かをしていた。あれは確か、聖ウルスラ女子高等学校の生徒だと前にタカミチに教えてもらった事がある。なんでそのウルスラの生徒がこんな所に居るのかと考えていると、マギの周りにいた生徒がヒソヒソと話していた。如何やらそのウルスラのリーダー格の生徒が中等部の生徒にイチャモン付けてボールを当てて怪我をさせているようだ。それを聞いたマギは

 

(うわあ~めっちゃ校内暴力じゃん。普通は止めなきゃいけないんだよなハァァ…面倒だな…)

 

 と思い、いやいやながら止めようとしたが、ウルスラの生徒の生徒の隙間から、ボールを当てられているアキラと涙目の亜子を見て、えぇぇ~と小さくツッコんだ後、ハァァァと小さい溜息を吐いて

 

(仮にもうちの生徒が傷つけられてるのを見たら、メンドイなんて言ってる場合じゃないかっと!)

 

 マギは体中の魔力を脚に溜めると一気に亜子たちの元に向かうために加速した。

 

「女子高校生アタック!!」

 

 ウルスラのリーダー格の生徒の投げた剛速球のボールがアキラの腕に直撃した。

 

「あう!!」

 

 アキラは短い悲鳴を上げながら、腕に直撃した衝撃で尻餅をついてしまった。

 

「アキラ!大丈夫なん!!?」

 

 亜子は倒れたアキラを助け起こした。それを見ていたリーダー格の生徒はアハハハと笑いながら

 

「分かった?アンタ達なんて私達からしたらお子ちゃまよお子ちゃま!分かったならさっさと場所を譲りなさい。それとももっとボールに当たりたいの?」

 

 リーダー格の生徒が亜子を指差しながらそう言った。対する亜子は

 

「ヒゥッ!!」

 

 怖くて動けない様子だった。リーダー格の生徒は亜子が怖くて動けないのを分かっていながらも、ニヤリと笑い

 

「そう…もっと当たりたいのね」

 

 そう言いながら、ボールを持った腕を大きく振りかぶり

 

「だったら望みどおりにしてあげる!!」

 

 と叫びながらボールを亜子に向かって思いっきり投げた。さっきアキラが当たったのと同じぐらいの速さの剛速球が亜子に迫る。

 

「!!キャアァァァァァァ!!?」

 

 亜子はいずれ訪れる痛みと衝撃に耐えるために、ギュッと目を瞑った。数秒後、ボールが何時まで経っても自分に当たらないのが不思議に思い、恐る恐る目を開けてみると

 

「あ…」

 

 亜子の目の前には自分達がよく知る人が立っていた。その人物とは…

 

「全く…うちの生徒に何してんだお前ら?」

 

 マギである。マギが亜子の前に立ちはだかり、リーダー格の生徒が投げた剛速球を受け止めたのだ。

 

「マギさん!!」

 

 亜子はマギが来てくれて嬉しくて声を上げていた。

 

「おお亜子大丈夫か?怪我は…してるけど大事ないか?」

 

「うんこんなの掠り傷や!マギさん助けてに来てくれてありがとう!!」

 

 亜子が大怪我をしてないのを見ると、一安心するマギ。

 

「ちょっとそこのアンタ!行き成り割り込んだ挙句に邪魔するなんて何様のつもりよ!!?」

 

 リーダー格の生徒が、行き成り現れたマギを指差しながら憤慨した。対するマギは自分の紹介をするのが面倒なのか欠伸をして頭を掻きながら

 

「ここ最近こいつ等2-Aの副担の教育実習をしている、マギ・スプリングフィールドだ。別に覚えなくてもいいぞ」

 

 知らないわよアンタなんか!!とマギに向かって怒鳴り散らすリーダー格の生徒。リーダー格の生徒の右隣に居る生徒が、リーダー格の生徒の肩を叩くと

 

「英子そう言えば中等部に子供の先生とその兄貴の先生が教育実習生として来たって噂があったじゃない。あれがその兄先生じゃないの?」

 

「嘘、あの噂って本当だったの?」

 

 リーダー格の生徒(名前は英子の様だ)が右隣に居た生徒とひそひそ話をしていた。マギはそのひそひそ話を見ていた。

 

「んで、如何してお前らはうちの生徒達にボールをぶつけるっていう暴力をふるったんだ?下らねえ理由だったら張ったおすぞ」

 

 マギの言った事に英子はハンと鼻で笑いながら

 

「決まってるじゃない。礼儀を知らないお子ちゃま達に目上に対する礼儀を叩き込んであげてるのよ」

 

 そんなくだらない理由にマギはハァァと呆れたような溜息を吐いて

 

「お前らなあ、礼儀を叩き込むのに暴力をふるうなんて馬鹿じゃねえのか。なに?お前の頭の中には脳みそが入ってないの?」

 

 とマギの呆れられた言い方にブチッと来た英子。

 

「いい気になるじゃないわよ教育実習生の分際で」

 

「いい気になってねえよ。なに勝手に怒ってるの?馬鹿なの?」

 

 と一触即発の雰囲気なってしまった。すると

 

「コラーッ!!君達待ちなさーい!!」

 

 と少し遅れてネギがやって来た。

 

「僕のクラスの生徒をいじめるのは誰ですか!?僕担任だし怒りますよ!!」

 

 と目には涙を浮かべて、腕をブンブンと振ってネギは怒っていたがいかんせん、涙目で怒り方も子供で威厳が無かった。英子達ウルスラの生徒達は、ネギが来て一瞬ポカンとしていたが次の瞬間

 

『キャアアァカワイイィィッ!!!』

 

 マギの事はほっといて、ネギに一気に群がった。

 

「此れが噂の子供先生!?」

 

「私が最初に抱っこする!!」

 

「私が最初よ!」

 

「ほっぺやわらかーい!!」

 

 とネギはウルスラの生徒達に頭を撫でられ、頬を触られ強く抱きしめられと違う意味で涙目になってしまっていた。それを見ていたマギは

 

「うわぁ…これ、どう収拾つければいいんだ?」

 

 と呟いていると、今度は新たな参戦者が現れた。

 

「いい加減におよしなさいオバサマ方!!」

 

 と誰かが英子の後頭部にボールを当てた。英子は誰が自分に当てて来たのかを見てみると、其処にはアスナとあやかが立っていた。

 

「事情はまき絵さん達から聞きましたわ!私の大切なクラスメイトを傷つけた挙句にネギ先生を汚そうとした行為!万死に値しますわ!!」

 

「今時先輩風吹かして物事通そうなんて頭が悪いんじゃないの!?とにかくネギを離しなさい!!」

 

「アンタ達神楽坂明日菜と雪広あやかね!ガキが調子にのんじゃないわよ!!!」

 

 と今度はアスナ&あやかvsウルスラ生徒達のリアルファイトが勃発しそうになった。ネギは如何止めていいのか分からずオロオロしており、マギは正直言うと面倒になってきたのだが、止めないともっと面倒になると判断して、止めようとしたその時

 

「――――相変わらず元気だな2人共」

 

 と誰かがアスナとあやかの襟をグイッと引っ張った。誰が引っ張ったかと言うと

 

「たッ高畑先生!!」

 

 そうタカミチだった。

 

「女の子が取っ組み合いなんてみっともないぞ」

 

「は…はい…」

 

 タカミチにそう言われ、すっかりと戦意喪失してしまったアスナ。

 

「君達も元だけど僕の生徒が悪かったね。でも…中学生相手にちょっと大人げなかったんじゃないかな?」

 

「い…いえ…はい」

 

 大人のタカミチそう言われ、何も言い返せずに英子はアスナ達を一睨みした後に、すごすごと退散していった。

 とりあえずは大問題にならないで済んだようであり。マギはタカミチに近づいてお礼を言った。

 

「悪いなタカミチ。とりあえずは助かったぜ」

 

「この位当然だよ。マギ君こそ最初に駆け付けたんだろう?」

 

 とタカミチにそう言われ、本当は散歩していて偶然遭遇したんだけどこの事は黙っておこうと思ったマギである。

 

「でも高畑先生!悪いのはあいつらなんですよ!?」

 

 とアスナがタカミチに講義をしたが

 

「それでもアスナ君が手を出したら負けさ」

 

 とそう返した。そんな遣り取りと何処か自分が何もできない事を悔しそうな表情になっていたネギを見て、マギは何も言わずにネギの頭を撫でた。

 

 

 

 

 午後の最後の授業2-Aは体育らしく、生徒達は教室で着替えていた。その中でハァァァと亜子が呆けていた。

 

「亜子如何したの?なんか呆けているけど」

 

 ハルナがアスナに聞いてみると

 

「なんかマギさんに助けられたんだって」

 

 と聞くと、ハルナはおぉぉぉぉぉぉと眼鏡を光らせ

 

「道理で亜子の体からラブ臭が…」

 

「笑みがいやらしいですよハルナ」

 

 ハルナがいやらしい笑みを浮かべていたのか、夕映がハルナにツッコんだ。

 

「なーなーアスナ、昼休みに何があったん?」

 

「ウルスラ奴らと場所の取り合い」

 

 このかが何があったのか聞いてみて、アスナが簡単に教えた。

 

「えー又ですか?」

 

「みんなやられてるよ」

 

 双子の風香史伽がそう言った。2人の話だと、ウルスラの特に英子の嫌がらせはしょっちゅうあるようだ。

 

「それにしても高畑先生はやっぱりすごいよね~~」

 

「うん」

 

「やっぱり頼りになるにゃ~」

 

 まき絵が事態を収束させたタカミチを賞賛して、アキラと裕奈が同意した。

 

「マギさんもカッコえかったなぁ~『うちの生徒に何してるんだ』…あれには痺れたわ~」

 

 亜子はマギのさっき言った事を思い出して復唱すると又呆けていた。

 

「でもネギ君はちょっと情けなかったかな~?」

 

「でも10歳だししょうがないじゃん」

 

 裕奈がネギの事をそう評価して、まき絵がふざけたように否定した。しかしネギの事を悪く言えば彼女が黙っていない。

 

「何ですの皆さん!散々ネギ先生の事を可愛がっていたくせに!!」

 

 ネギの事が大好きなあやかが裕奈とまき絵にそう言った。

 

「でもいいんちょ、もうすぐ私ら期末だし、色々と相談できるマギさんの方がいいなって思う時もあるって」

 

 亜子がそう言って、それも正論だと思い、何も言えないあやか。

 

「う~ん可愛さをのネギ君を取るか、頼りがいのあるマギさんを取るか…迷うな~」

 

 そんな事を悩んでいる裕奈を呆れたように見ていたアスナ。

 

「ほらほら今日は屋上でバレーでしょ?速く移動しよ」

 

 アスナがそう言い、皆で教室を出た。

 

「あぁお前ら漸く出て来たか。待ちくたびれたぜ」

 

 と何故かジャージ姿のマギが立っていた。

 

「マギさん!?なんでジャージ姿なの!?」

 

 アスナが何故マギがジャージ姿なのか聞いてみた。いやなとマギが

 

「お前らの体育を教えている先生が急用でお前らの授業を見る事が出来なくなったんだと。まあその代わりに、授業の無い俺とネギがお前らの体育を見ることになってな」

 

 だからジャージなんだよとそう言いながら、自らのジャージを引っ張ってそう言うマギ。

 

「そうだったんだ。あれ?そのネギは何処にいるの?」

 

 アスナがネギ居場所を聞いてみると

 

「ネギは先に屋上に向かったよ。他の生徒が来ない様に見といてくれってそう言っといていたよ」

 

 それじゃ行くぞ。とマギが生徒達を連れて、屋上へと向かった。

 

「だいたいこの学校って生徒数の割にコートの数が少ないんだから!」

 

「敷地ひろいくせにねぇ」

 

「そうそう」

 

 と屋上に行くまでに、裕奈達が学校の設備の不足に不満を言っていた。そして屋上に到着し、屋上のドアを開けると

 

「あらまた会ったわね、アンタ達。偶然ね」

 

 先程言い争った英子達ウルスラの生徒達が何故か居た。おまけに先に居たネギは良いように扱われていた。

 

「アンタ達何でこんな所に居るのよ!?」

 

 アスナが英子を指差しながら言った。

 

「私達自習だから、レクリエーションでバレーやるのよアンタ達は?」

 

「アタシ達だってバレーよ!」

 

「ふ~ん如何やらダブルブッキングの様ね」

 

 と何処かワザとらしくそう言う英子。そんな英子の態度にアスナ達はう~と唸る。

 

「ていうかネギはなんでそこで捕まってるのよ!?」

 

「い…いえお兄ちゃんとアスナさん達を待っていたらこの人たちが来て帰ってもらおうとしたんですが…」

 

 良いように扱われて今に至るようだ。

 

「とにかく今回は私達が先客よ。お引き取り願おうかしら?神楽坂明日菜」

 

 と英子がそう言っている間に、マギは英子が何で此処に居るのかを簡単に考えて、直ぐに結論を出した。

 

(こいつ等絶対ワザとだな。やる事が小さい奴らだなぁ)

 

 と呆れたように肩を竦めた。

 

「アンタ達ワザとでしょ!?アンタ達隣の校舎じゃない!こっちの屋上に来るなんて!!」

 

 アスナもワザとだと気づき、英子達を追い出そうとするが

 

「へぇ今度は言いがかり?さすがお子ちゃまよねぇ」

 

 といけいけしゃあしゃあとそう返した英子。これにはさすがのアスナ達も堪忍袋の緒が切れた様で、英子達に悪口を言って、それに英子達が頭にきてそれが火種となり、今度こそ取っ組み合いの喧嘩になるかと思った

 

「やめてくださいッ!!!!」

 

 何時もだったら大声を出さないネギが大声を出した事にアスナ達も吃驚して、足が止まってしまった。英子達もつられたように止まった。ネギ自身も自分が大声を出した事に驚いていたが

 

「どんな争い事でも暴力は駄目ですアスナさん!」

 

 何時もの幼さが無くなった、力強い目でアスナを見た。

 

「あ…うん」

 

 アスナも何時ものネギじゃないのに少し驚いて素直に従った。

 

(へぇ…成長したじゃねえか。ネギの奴)

 

 マギはそんなネギを見てニヤリと笑った。

 

「…ではこうしたら如何でしょうか?学生らしくスポーツで勝負を決めるんです。爽やかに汗を流せばいがみ合う事も無いと思うのですが…」

 

「いいわよ」

 

 ネギの提案を飲んだ英子達。

 

「面白そうじゃない。私達が負ければおとなしく出て行くし、今後昼休みにもアンタ達の邪魔しないわ。これで如何?」

 

 此れはとてもいい条件である。しかし問題があった。

 

「そんな事言ったって年齢も体格も全然違うやん!」

 

 亜子の言う通り、英子達とアスナ達では圧倒的に体格的にアスナ達が不利となる。

 

「確かにバレーじゃ相手にならないわね。じゃあドッジボールでどう?こっちの人数は11人でそっちは倍位の23人でかかってきてもいいわよ」

 

 但し…と言いながら、英子がネギを自分の方へ引っ張りながら

 

「もし私達が勝ったらネギ先生を教生としてそこに居るマギって奴を私達の奴隷として貰い受けるわよそれでもいいのかしら?」

 

 英子が言った事にアスナ達は騒然とした。自分達が負けたらネギとマギは英子達の物になってしまうのだ。そんな条件を聞いて、どうせ生徒の戯言だし実現される可能性は0に近いが、それでも奴隷になると言う想像をして、とても面倒だと思ったマギである。

 

「如何したの?負ける戦いはしたくないのかしら?」

 

 英子の分かりやすい挑発にアスナ達は一瞬だが戸惑ったが

 

「わッ分かったわ!それでいいわよ。でもアタシ達が勝ったら約束を守ってもらうわよ!!」

 

 アスナ達も条件をのんでドッジボールをすることになった。だがアスナ達は見落としていた。英子が不敵に笑っているのをそしてこの22人がとんでもない落とし穴だという事もバカレッドのアスナは気づく由もなかった。

 そして屋上にて聖ウルスラ女子高等学校11人と女子中等学校23人(ネギとマギを含む)によるドッジボールが開幕した。今回出なかった2-Aのメンバーと言うと、チアとして応援することになった。美砂と円と桜子に、体育座りしていたエヴァンジェリンに、その隣に居た10番の絡繰茶々丸が何処から持ってきたのか、簡易打ち上げ花火を打ち上げ、他にも18番の龍宮真名と15番の桜崎刹那に31番のザジ・レイニィデイと楓などが不参加だった。

 そして試合のホイッスルが鳴って、試合が開始された。ネギはこの試合が上手くいくか心配だったが、1度だけ読んだ日本のスポーツマンがで敵同士だった者同士がスポーツによって友となったというのを見て、若しかしたらそんな事が起こるかも知れないとそう妄想して、ネギは笑っていた。しかし妄想が現実になると言うのはほぼ有りえない。

 

 ボゴッ!!

 

「アイタッ!!?」

 

 行き成りネギの後頭部にボールが直撃した。

 

「コラッ!!足引っ張んじゃないわよネギ!!」

 

 アスナがボールをキャッチして、ネギはセーフとなった。

 

「うりゃッ!!」

 

 と今度はアスナがボールを思い切り投げ、英子に引けを取らない剛速球をウルスラ女子生徒の1人に当てる。ボールが当たり、アウトとなるウルスラ女子の1人。

 

「よろしいですわ!この喧嘩絶対勝ちますわよ!!」

 

「OK!!」

 

 何時は犬猿の仲のアスナとあやかがヤル気の様である。だから喧嘩じゃないのにぃ!!と涙目でツッコむネギ。このドッジボール波乱の展開となりそうである。

 

(なんでもいいから早く終わってくれ……)

 

 と何時もの通り平常運転のマギである。

 

 

 

 さてウルスラの方が減ってしまい、アスナ達が一段と有利となった。

 

「やったねアスナ!こういう時は頼りになる!!」

 

「これなら楽勝!一気にやっつけちゃおうよ!!」

 

 まき絵と裕奈がアスナとハイタッチをした。

 

「あううアスナさんこれは喧嘩じゃ…」

 

 ネギはオロオロとしながらアスナにそう言った。さっきのキリッとした顔は何処に行ってしまったのか、何時もの情けないネギに戻ってしまった。そんなネギを見てアスナは呆れながら

 

「アンタ邪魔だから隅っこに居なさい。怪我するわよ!」

 

 アスナにそう言われ、ネギは言われた通りに隅っこに向かった。

 

「このドッジボール絶対に勝たせてもらうわよ!年下だからって馬鹿にしていると痛い目に合うわよ!!」

 

 アスナは英子を指差しながらそう言うが、英子はまだまだ余裕の表情を崩していなかった。

 

「意外とやるじゃない。でも…まだ気づいていないようね。悪いけど子供先生と其処に居る男は私達の物ね」

 

 との事に、ネギは英子を怖がって震えていたし、マギはんなことねえだろ?と呑気に欠伸をしていた。と今度がウルスラ側の攻撃。ボールを持っているのは英子。

 

「いくわよお子ちゃま達!必殺!!」

 

 英子の必殺と言う言葉に恐れをなした数人が逃げようとしたが

 

「ああ!ちょっと!後ろに入れて!!」

 

「ちょっと押さないで!!」

 

 と皆がギューギューに押し詰められて、上手く動けない様子だった。そして

 

「それ」

 

 英子はさっきの気迫の混じったフォームではなく、余り力の入って無いスローボールを投げた。普通だったら避けられスピードのボールだが

 

「アダッ!?」

 

「イテ!」

 

「あう!」

 

 ハルナと風香に21番の那波千鶴の3人が一気にアウトになってしまった。アウトになってしまった3人はアスナ達に謝るとコートの外に出た。アスナはしょうがないわねーと呆れながら文句を言った。さらに英子の攻撃は続き、先程と同じような緩い球を投げて

 

「あッ嘘!?」

 

「あうー」

 

「ひゃう!」

 

「あ」

 

 と今度は和美に24番の葉加瀬聡美に28番の村上夏美30番の四葉五月がアウトになってしまった。

 

「ちょっと皆さん!さっきのと今のは大したボールじゃないでしょう!もっとよく見なさい!!」

 

 あやかはアウトになってしまった。者達に文句を言った。だけどいいんちょと和美が

 

「こんなにギューギューじゃ動けないって」

 

 和美のギューギューと言う言葉にアスナは数秒だけ考えて、もしかしてッ!?と何かに気づいた。

 

「ドッジボールって数が多いのは有利じゃなくて、ただ的が多くなって当てやすくなっただけ!?」

 

 それに気付きあやかと裕奈はガビーンと言う表情になった。

 

「お前ら今更気づいたのか?」

 

 マギは何処か呆れたようにそう言った。

 

「えッ!?もしかしてマギさんは最初から気づいてたの!?」

 

「あぁこっちが不利なのにお前らそんなでいいのかと思ってたんだけどな」

 

「気づいてたなら教えなさいよ馬鹿!!」

 

 アスナはキレながらマギに飛び蹴りをしたが、んなこと知るかとアスナの飛び蹴りを避けながらそう言うマギ。そんあ茶番劇を不敵に笑いながら見ていた英子。

 

「ふふふ…今更気づいてももう遅いわよ。そんなに子ザルたちが固まってたら動けるものも動けないでしょう」

 

 英子の策略にまんまとはまってしまったアスナ達は慌てはじめる。

 

「皆!固まってないで散り散りになって!的になっちゃうわよ!」

 

 アスナに言われた通りに散り散りに散開する2-Aの生徒達。だがその行為はある意味無駄で。

 

「そんなのとっくのとおに御見通しよ。次に狙うのは…どう見てもボールを取る気の無い奴!!」

 

「ヒャウッ!!!」

 

 と今度は後ろを向いて、逃げていた史伽にボールが後頭部に直撃した。

 

「ふッ史伽!?」

 

「ひッ酷いです!後ろからボールを当てるなんて!!」

 

 亜子が後頭部に直撃した史伽を見て悲鳴を上げ、ネギが英子に向かって酷いと訴えた。だがボールを当てた英子は知った事じゃないと言いたげに鼻で笑いながら

 

「後ろを向いてる奴が悪いのよ!次の的はそこのアンタよ!!」

 

 と今度のターゲットはのどかであった。ターゲットになったのどかは悲鳴を上げながら逃げようとしたが、どちらかと言うとトロイのどかは怖くなって動けなくなっていた。

 

「それ!これでアウトよ!!」

 

 英子はのどかに向かってボールを投げた。のどかもアウトになってしまうかと思いきや誰かがのどかを後ろに引っ張った。

 

「ほッ!」

 

 のどかを引っ張ったのはマギであった。マギはのどかを引っ張ると代わりに自分がボールをキャッチした。

 

「ま…マギさんありがとうございます」

 

 のどかはマギにお礼を言った。

 

「礼はいいぞ。後ろを向いていたら狙われるだけだぞ」

 

 裕奈達はマギのナイスキャッチを褒めた。

 

「さてとこれ以上良いように扱われるのは癪…だよな!!」

 

 マギは本気で投げると、英子達が怪我をすると思い、軽く投げた。軽くと言ってもかなりの速さのボールが英子に迫る。だが…

 

 

 バシィィィィッ!!

 

 

 英子はマギの投げたボールを何と片手でキャッチした。アスナ達はマギの投げたボールを片手でキャッチしたことに驚いていた。投げた本人であるマギは驚きはしなかったが、ピュウと軽く口笛を吹いて英子を賞賛した。

 

「ふん……これがアンタの実力?この程度で全力投球とは笑わせるわね」

 

 それでも結構痛かったのか、英子はキャッチした片手をブンブンと振っていた。別に全力出してないし、結構軽めだったんだけどな…と思ったが、言うのもメンドイ事になりそうだし、黙っておくか…とそう考えたマギ。そん事を考えている間に、英子が聞いてもいないのに話を勝手に進めた。

 

「そもそもアンタ達、子ザルの集団が私達に勝てるわけないのよ。何故なら私達の正体は………」

 

 そう言いながら英子とその他のウルスラの女子が制服を脱いだ。そして制服の下から現れたものは何かのユニフォームだった。

 

「ドッジボール関東大会優勝チーム麻帆良ドッジボール部『黒百合』だからよ!!」

 

 とアスナ達に黒百合のユニフォームをドーン!!と見せつけた。アスナ達は英子達が黒百合だと聞いて驚愕した…かと思いきや

 

「…高校生にもなってドッジボール部だなんて…」

 

「小学生の遊びとちゃうの?」

 

「関東大会もアイツ等しか出場して無かったんじゃないの?」

 

 アスナと亜子と裕奈がいつも邪魔や嫌がらせをしてきたのを仕返しするために、小声で英子達を馬鹿にしていた。ネギは純粋に英子達が凄いと思い、拍手で称賛していた。マギは何処が凄いのか分からずぼ~としていた。無論英子達に聞こえるように小声で話していたため、当然英子の耳に入るわけで

 

「う…うるさいわね!余計なお世話よ!!」

 

 顔を赤くしながら、アスナ達に怒鳴り散らした。

 

「この…子ザル達のくせに生意気な…!ビビ!しぃ!!アイツ等に見せつけるわよ!フォーメーション『トライアングルアタック』よ!!」

 

「了解!」

 

「任せて!!」

 

 英子に呼ばれたビビとしぃと呼ばれた生徒がそのトライアングルアタックと呼ばれるフォーメーションについた。

 

「トライアングルアタックだって…」

 

 アスナ達は英子がネーミングセンスが可笑しかったのか、声を出して笑っていた。ネギは如何動けばいいか迷っていると、ネギの前にあやかが前に出た。

 

「ネギ先生気を付けてください!ここは私が受けて立ちますわ!!」

 

 そう言いながら、あやかは優雅に笑いながら

 

「さぁ!かかってきなさいオバサマ方!2-Aのクラス委員長の雪広あやかが相手になりますわ!!」

 

 あやかは英子達を笑いながら挑発した。しかしその挑発は不発に終わり、あやかはあっさりとアウトになってしまった。

 

「く…パスの軌道が読めませんでしたわ。トライアングルアタック…一体どんな陣形だったのですの?」

 

「「いやだから三角形(トライアングル)やん」」

 

 あやかの呟きにこのかと亜子が突っ込んだ。ようはこのトライアングルアタックと言うのは相手を3人で囲みパスを回して相手にボールを当てると言うただそれだけなのだ。しかしそれでもアスナ達には脅威となっていた。今度は千雨と9番の春日美空がアウトとなって遂には、数が2倍あったのが残りの人数が11人となってしまった。

 

「あっという間にハンデ分追いつかれてもうた」

 

「私達このままじゃ負けちゃう?」

 

 亜子とまき絵がこのままでは負けてしまうのではないかと思い、不安になってきた。

 

「ふ…残ったのはチビとトロそうなのばかりね…次のターゲットはアンタよ神楽坂明日菜!」

 

 英子は勝利を確信したのか、余裕な態度でアスナを指差した。

 

「しぃ!今度はアレを(・・・)やるわよ!!」

 

 英子にアレと言われ、しぃは英子に向かって空高くパスをする。英子は空高くジャンプした。

 

「必殺!!太陽拳!!」

 

 そう叫びながら、アスナに向かってボールを放とうとする。アスナはボールをキャッチしようとしたが

 

「なッ!?太陽を背に!!」

 

 そう、英子の背に太陽が重なり、英子の姿をちゃんと視認できなかったアスナ。そしてアスナがボールを視認できずに、英子はボールを放った。そして

 

 

 バシッ!!

 

 

「あた!?」

 

 アスナの背にボールが当たった。これでアスナはアウトになってしまったのだが、なんと英子は戻ってきたボールを又アスナに向けると

 

「もう一撃!!」

 

 アスナにもう一回ボールを当てようとした。アスナはギュッと目を瞑って痛みに耐えようとしたが

 

 

 バシィィィィィィィィンッ!!

 

 

 ボールが弾かれる音が聞こえ、アスナはゆっくりと目を開くと其処には…

 

「イテテテテテテテ…二度も当てるのは卑怯じゃないのか?」

 

 マギがアスナに向かってきたボールを弾いたようで、手をブンブンと振りながら、英子にそう言った。

 

「フン!おだまり!!どんな汚い手を使ってでも勝!それが『黒百合』のポリシーなのよ!!…アンタはボールを弾いただけでキャッチしてないから残念だけどアンタも一緒にアウトよ」

 

「あッアスナさん!大丈夫ですか!?」

 

 ネギはアスナの怪我を心配して、駆け寄った。

 

「別に平気よ。ほんの掠り傷だし。そんな事よりもマギさんアタシのせいでアウトになっちゃって」

 

 アスナは申し訳なさそうにマギに謝ったが、マギは別に気にすんなと笑いながらそう言った。

 

(むう…あのお姉さんたち、今のはわざとやったな!今のは余りに酷いです!こうなったら…)

 

「ラス・テルマ・スキル…」

 

 ネギは魔法を詠唱し始めた。今のは許される行為ではないと思い、少し懲らしめようと思った。英子達は行き成り暴風が起こり戸惑い始めた。と詠唱が終わろうとしたその時

 

 

 スパァァァァァァァァンッ!!

 

 

 マギが何処からか持ってきた何時も所持していたハリセンでネギを叩いた。

 

「お兄ちゃん何で止めるの!?」

 

 ネギは如何やら納得がいかなかったようで、マギに抗議しようとしたが、今度はアスナが余計な事をしないでよとそう言った。

 

「そんなことしたらアイツ等と同類じゃない。自分で言ってたでしょ?スポーツで勝負するって」

 

 そうだぜネギとマギが続けて言った。

 

「スポーツでずるして勝利してもこいつ等は嬉しくねえはずだぜ?正々堂々と行こうぜ?……お前は男なんだしよ」

 

 マギにそう言われ、ネギは直ぐに魔法に頼ろうとした自分が恥ずかしくなった。遂に主力であるアスナとマギが居なくなり、亜子たちは絶望しかけていた。

 

「おいテメェ等…悔しくはねぇのかよ」

 

 マギの一言に亜子たちはえ?と一斉にマギの方を見た。

 

「悔しくはねぇのかよって聞いたんだ。あんな卑怯な手を使って勝とうとするアイツ等に言い様にやられて悔しくねぇのかよ。それにアスナが居なくなって何勝手に絶望してるんだよ?テメェ等はまだ負けたわけじゃねぇだろ?最後までテメェの力を信じて戦おうとしないで如何するんだよ?…俺はテメェ等が卑怯な手しか使わないアイツ等に勝てるって信じてるぜ」

 

 そう言い残して、マギはコートを去って行った。

 

「お兄ちゃんの言う通りです!それにさっきも言ってたじゃないですか!後ろを向いてたら狙われるだけだって!前を向いてればボールをとれるかもしれないですし、諦めないで頑張りましょう!!」

 

 亜子達は黙ってネギの言った事に耳を傾けていたが、数秒後には

 

「そうだね!負けたらネギ君とマギさんがアイツ等に取られちゃうもんね!!」

 

「このまま、なめられたままじゃ終われないよ!!」

 

 と2-Aの士気を取り戻した。そんなネギを見てマギはニヤリと笑った。何人かの生徒はネギの見方を改めていた。

 

「フフ…今更無駄な事よ。もうアンタ達の負けは決まっているのよ。そこのアンタの奴隷も確実ね。ねえどんな格好がいい?私達も悪魔じゃないから執事服ぐらいは着せてあげるわよ」

 

 英子はもう勝利を確信しているようで、マギを指差しながらそう言った。マギはお断りだぜと笑いながらそう言うと

 

「言っとくがこいつ等が本気を出したらテメェらが勝つ確率は0%だぜ。断言してやってもいい」

 

 とマギの余裕の表情が気に食わない英子。

 

「ふ…ふん!そもそも女子中学生が女子高校生に立てつこうとしたのがそもそもの間違い…」

 

 と英子が強がりを言おうとしたその時

 

 

 ピピ~ッ!!

 

 

 と行き成りホイッスルがコート中に鳴り響いた。

 

「5秒ルールです!!公式ルールブックによると5秒以上ボールを投げずに所持していると反則です!!」

 

「よってボールを此方に渡してくださいです」

 

 ホイッスルを吹いたのは如何やら夕映で、のどかがドッジボールのルールを説明しながら、ボールを此方に渡せと要求する。

 

「なッ!?ルールブックを持っていないで適当な事言わないでよ!!」

 

「この素人が!!」

 

 ドッジボール部の2人が夕映とのどかにそう叫んで訴えた。それなら大丈夫ですとのどかがドッジボール部の2人に何か本を見せた。その本の題名はと言うと『体育のルールブック集』

 

「ルールブック集なら持ち歩いています」

 

 と証拠の本を見せ、ナイス本屋ネと19番の超鈴音が用意周到なのどかを褒めた。マギがそのルールブック集のドッジボールの項目を見てみると確かにのどかが言っていた反則が乗っていた。

 

「おお確かに乗ってるな。まさかテメェ等ドッジボール部なのにルールを知らなかったのか?」

 

 図星だったのか、英子達は滝のような汗を流し始めた。

 

「か…勘違いしないでよね!そんなルール位知ってるに決まってるでしょ!ハンデよハンデ!負けが決まってるアンタ達にチャンスを与えようと思っただけよ!!」

 

 そう言い訳を言いながら、英子は近くに居たアキラにボールを渡した。2-Aの反撃が今始まる。

 

「アキラさんお願い」

 

「うん…任せろ」

 

 そう言い、アキラの投げたボールは油断していた一人をアウトにした。

 

「こ…この!いい気になるんじゃ…!」

 

 ボールを拾ったウルスラ側の生徒が今度は亜子に狙いを付けた。かなり速いボールが亜子に迫るが

 

「むむッ!!…えーい!!!!」

 

 なんと迫ってきたボールを逆に蹴り返して、逆にウルスラ側をアウトにした。弾丸ボレーシュートである。

 

「おお!流石サッカー部!!」

 

 裕奈が亜子をGJとサムズアップをした。ウルスラ側をアウトにしたボールが、2~3m程空高く上がっていた。

 

「よぉし!それなら私も!!」

 

 と裕奈が空中に浮かんでいるボールに向かって驚異的なジャンプ力を見せ、ボールを楽々とキャッチすると

 

「ダンクシュート!って違うかー!!」

 

 落下のスピードを兼ねた速いボールが又相手の1人をアウトとした。裕奈が所属してる部活はバスケットボール部。これぐらいのジャンプは余裕である。

 

「こ…この調子に乗るんじゃ…!!」

 

 英子は自分達のコートに戻ってきたボールをキャッチしようとしたが

 

 

 シュルシュルシュルパシィッ!!

 

 

 ボールがリボンの様な物で捕まってしまった。それをやったのはまき絵であった。そしてまき絵はリボンで掴んだボールを

 

「えい!えい!えーーい!!」

 

 とまるで奴隷闘士が使うような鎖で繋がれた鉄球の如く振り回して、一気に3人をアウトした。

 

「凄いまき絵!流石新体操部!!」

 

「ちょっと!そんなの卑怯よ!!」

 

 英子がまき絵のやってる事に卑怯だと叫んだが、何言ってるんだ?とマギがそう言い、ニヤリと笑うと

 

「卑怯?馬鹿言ってるんじゃねえよ。こいつ等はテメェ等に勝つために、自分が今持ってる力を精一杯使ってるんだ。卑怯な手を使ってまで勝とうとするテメェ等よりよっぽどましだぜ」

 

(と言っても流石にリボンは駄目だろうけど…まッいいか一々言うのも面倒だし)

 

 流石にまき絵のリボンは行き過ぎだと思ったが、言うのは野暮だと思ったマギである。そのご古菲と超のダブルチャイナアタックと言う技でも何人かアウトにしそして

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

 

 授業の終了のチャイムが鳴り響いた。試合終了である。そして結果はと言うと

 

「試合終了!勝負の結果はウルスラ残り人数3人!麻帆良女子中学残り人数10人!よって勝者は麻帆良女子中学!!」

 

「やったー!!」

 

「勝った!!」

 

 2-Aの生徒達は自分達の勝利を喜んだ。

 

「そ…そんな。私達が負けた…?」

 

 残っていたのは英子ビビしぃの3人であった。英子は自分達が女子中学生に負けたのが信じられなかった様だ。

 

(くそ…もとはと言えばあの女が出しゃばるから…このままでは済まないわよ神楽坂明日菜!!)

 

 英子はアスナを睨むと、持っていたボールを大きく振りかぶると

 

「まだロスタイムよ!神楽坂明日菜!!」

 

 叫びながらアスナに向かってボールを投げた。アスナは裕奈達と勝ったのを喜んでいて、ボールが向かっているのに気付いていない。

 

「危ないアスナさん!!」

 

 ネギは身体能力増強の魔法を使いアスナを護るように飛び出した。アスナはえ?と言いながら振り向くと自分にボールが向かって来ているのに気付いたが、アスナは避けようとするが間に合いそうもなかった。ネギはアスナを庇うように前に出たが、今度はネギはボールに当たりそうになった。あやかやまき絵が悲鳴を上げながらネギの名を叫んだ。ボールがネギに当たろうとしたその時

 

 

 バシィィィィィィィィィッ!!

 

 

 マギがネギとアスナの前に立ち、ボールを受け止めた。ネギとアスナはあ……と呆けながら、マギを見た

 

「ネギ、自分の事を顧みずに女を護ろうとするなんて男になったじゃねえか。それと怪我はねぇか?『アスナ』」

 

 とマギがアスナの方を見ながら、アスナが無事かどうか尋ねた。その時又アスナの頭が一瞬だけズキリと痛くなった。

 

 アスナは前にもこう誰かに護られたような気がした。マギと顔がよく似た男に…

 

(な…なによ今の…?)

 

 アスナは自分が知らない記憶に戸惑っていたが

 

「う…うん大丈夫」

 

 と頷きながら、自分は大丈夫だとマギにそう言った。マギはそうかと頷くと英子の方を見た。

 

「もう勝負はついたじゃねぇか。それなのにまだ難癖つけてくるのかよ?メンドクセェ女だな」

 

 マギは面倒そうな目で英子を見た。五月蝿い!と叫びながら英子はマギを指差した。

 

「まだ私達が残ってるわよ!勝負はまだついてないわよ!!」

 

 …あこいつ等本当にメンドクセェ。だんだんムカついてきたマギ。ネギはビクッとした。マギが少し怒っているのに気付いたからだ。

 

「…分かったよ。じゃあ俺が今から本気で投げるからテメェが其れを取れたらテメェ等の勝にしてやるよ」

 

 マギの提案にアスナ達はちょっと待って!とマギにツッコんだ。

 

「ちょっと何勝手な事言ってんのよマギさん!もしアイツがボール取っちゃたらアタシ達の勝ちが無駄になっちゃうじゃない!!」

 

 アスナの言った事にマギは大丈夫だとそう言った。

 

「だって絶対に取らせるつもりなんかないからな」

 

 とアスナにニヤリと笑った顔を見せたマギ。

 

「ほら!さっさと投げなさいよ!アンタのボールはさっき取って見せたから楽勝よ!!」

 

 英子はさっきマギが投げたボールが本気だと勘違いしているようだ。だが其れは大きな計算外だ。なぜなら

 

「何言ってんだ?さっきの俺は本気のほの字も出してねぇぞ(・・・・・・・・・・・・・)

 

 マギが投げるフォームをしている時に、英子はマギの目を見て恐怖した。

 

「そら」

 

 マギがボールを投げた瞬間に英子はヒィッ!短い悲鳴を上げながら右に飛んで避けた。それが正解だろう

 

 

 

 グォォォォォォォォォォッ!!ドガァァァァァァァンッ!!

 

 

 

 ボールが出す音ではない音を出しながら、剛速球という言葉が生ぬるいほどのボールが、屋上のドアの横のコンクリートの壁に直撃し轟音を上げた。英子達はボールが当たったと思われる場所を恐る恐る見た。

 そこにはコンクリートの壁がひび割れ、へこんでいて未だボールが回転していた。そしてマギはボールが完全停止するのを見て、ボールに近づくと壁からボールを引っこ抜いてボールを持つと英子の方を見て

 

「まだ………やるか?」

 

 マギがそう訪ねると、英子達は

 

『ヒィィィィィィィッ!?ごッゴメンナサァァァァァァァァイッ!!』

 

 情けない悲鳴を上げながら我先にと屋上から退散していった。これでもう英子達はアスナ達に嫌がらせをすることは無いだろう。それよりもマギはヤバいと思った。

 

(やべぇ…勢い余って壁壊しちまった。これ絶対ジーさんに怒られる)

 

 と思っていたが、それを気にしてる間に、マギの周りにアスナ達が集まって来た。

 

「すごいマギさん!今のボール!!」

 

「高等部の奴ら情けなく逃げてやんの!!」

 

「マギお兄ちゃん凄かったです!!」

 

「かっこいい!!」

 

「ネギ君もカッコ良かったよ!!」

 

「アスナさんを護ろうとしたネギ先生は凛々しくてすてきでしたわ!!」

 

 と史伽や風香がマギに抱き着いて来たり、まき絵やあやかがネギを胴上げしたりと勝利を喜び合った。

 

「…あら…うまくいったみたいね」

 

「はははでもアレを見ると、先生と生徒と言うより、頼りがいのあるお兄さんとカワイイ弟と言った方がいいかもしれませんね」

 

 高等部との騒動を聞いてきたしずな先生とタカミチが一足遅く屋上に来て、ネギとマギ達を見てそう感想を述べた。

 

 

 

 

 

 その後マギが屋上の壁を壊した件についてだが、新田先生には厳しい説教と指導をしてもらい、学園長には今までの高等部の嫌がらせがあったため、今回は不問とし厳重注意となり、弁償もクビも無かった。余談であるが

 

「え?俺がドッジボール部に?やだよメンドイ」

 

 英子達ドッジボール部がマギの投球にほれ込んで、ドッジボール部にスカウトしたが、マギのメンドイと言う一言で丁重にお断りしたそうだ。




次章からはは期末試験の話ですが、今回は話が原作と大きくそれる予定です
原作ではまだまだ先のキャラが出たりあれが出たりと……
それと次章からは魔法とバトル色が強くなります


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~キャラクター設定~
キャラクター紹介


今回はキャラクター紹介なので気楽に見てください


 マギ・スプリングフィールド

 生年月日星座……1986年5月9日牡牛座

 血液型……AB型

 身長体重……182㎝62Kg

 性格……めんどくさがり屋

 趣味……読書と昼寝

 好きなもの……タバコ 散歩 魚釣り 日本で食べたお寿司とうどん

 嫌いなもの……クソ親父 メンドクサイ事 朝起きる事 一々口煩い奴 大衆的な正義 死者の目覚め 

 魔法始動キー……マギウス・ナギナグ・ネギスクウ

 キャラクター紹介

 ネギの兄であるマギは、10歳の時魔法学校を首席で卒業するが、卒業証書に書かれていた修業場所には行かずに、ウェールズの山奥で誰にも知られずに魔法の修業を行っていた。8歳児に魔法学校の図書館の立ち入り禁止区域で、強力な魔法が書かれた禁断の魔法書を発見し、それを黙って持ち出して強力な魔法を身に着けて行った。父の事は何も言わずに自分と幼かったネギを置いて行って何処かに行ってしまった事を今でも恨んでいて、もし父に再会したら、その顔を一発思い切り殴り飛ばしたいと思っている。

 目の前の事しか守らない大衆的な正義は大嫌いで、困っている人や助けを求めている人には手を差し伸べるような自分だけの正義を目指している。

 従姉のネカネの事は嫌いではないが、何時もネギと自分を心配し過ぎているのを見て嬉しく思う反面ちょっとうっとうしく思う事もある。祖父である魔法学校の校長には頭が上がらない。

 麻帆良に向かう際に大きなチェロケースを持っていたが、中に何が入っているか謎である。

 小さい頃から歴史を調べるのが大好きで、そのため麻帆良学園で歴史の教師となってしまった。現在はアスナとこのかの寮の部屋で生活している。

 性格は何時もメンドクサイメンドクサイと言っているが、頼まれた事はちゃんとやるし、少しの問題も残さずに完璧に仕上げる。それにより、周りの麻帆良の生徒や教師からは評判が良かったりする。

 口癖は「やれやれだぜ」でこれは自分じゃ手に負えなくなった面倒な事に遭遇した時によく言う口癖である。

 ネギを何時も叩く時に使っているハリセンだが、実は日本に出発する前にアーニャから渡された物で、アーニャ曰く「ネギが問題を起したらこれで思いっきり殴れ」との事

(ちなみに、魔法学校の校長の事は「じーさん」と呼んでいるが、麻帆良学園の学園長の事は「ジーさん」と呼んでいる)

 

 

 

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールド

 生年月日星座………1993年5月2日牡牛座

 血液型……AB型

 身長体重……137㎝36Kg

 性格………泣き虫

 趣味……お茶 古道具集め

 好きなもの………マギ ネカネ ハーブティ アンティークな杖 焼き鳥のねぎま串

 嫌いなもの………お風呂 一人で寝る事

 魔法始動キー………ラス・テル マ・スキル マギステル

 キャラクター紹介

 父に憧れ、立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指す魔法使いの少年。修業のために麻帆良学園で英語の教師となる。父から譲り受けた1.5mの大きな杖を何時も持っている。

 くしゃみをすると突風が起こり、顔相を見る事が出来る。日本語はわずか3週間でマスターするほど優秀である。優秀であるがオッチョコチョイなため、そのため度々問題を起してしまう。

 父にあこがれているが、マギを目標としていて何時かはマギの様に頼られる存在になる事を目指している。

 夜1人で寝る事が出来ないため、度々アスナの布団に入って、一緒に寝る事がしばしば(その度アスナにしばかれる)である。

 

 

 

 

 

 

 

 生徒の紹介(今の所ネギとマギにかかわりのある生徒のみ)

 

 神楽坂明日菜

 生年月日星座………1988年4月21日牡牛座

 血液型………B型

 身長………163㎝

 性格………超強気

 好きなもの………タカミチ 渋いオジサマ

 嫌いなもの………生意気なガキンチョ 勉強(保健体育は得意)

 キャラクター紹介

 皆からはアスナと呼ばれている。2-Aのバカレンジャーの1人でバカレッド。体力のある超強気娘で、バカ力の持ち主で目の色が左右で違う。(右目が空色で左目が紺色)顔が何故かネカネにそっくりである。

 タカミチの事が好きでタカミチに良い所を見せようとするが、度々ネギとかの邪魔が入って、空回りすることがしばしば。

 時々変な記憶が混ざりこんで、混乱する事がある

 

 

 

 

 その他の人物

 高畑Tタカミチ

 キャラクター紹介

 麻帆良学園中等部の英語教師であり、元2-Aの担任である。たった一人で学園内の幾多の抗争や馬鹿騒ぎを鎮圧した広域指導員であるため「死の眼鏡(デスメガネ)」「笑う死神」と呼ばれ、学園内の不良に恐れられている。

 だがその正体は麻帆良学園学園長に次ぐ最強の魔法先生である。

 マギがまだ10代前半の時、格闘戦の師匠であった。

 

 

 麻帆良学園学園長

 キャラクター紹介

 本名は近衛近右衛門。木乃香の祖父であり、ネギとマギの祖父である魔法学校校長と友人である。マギ曰く「くえないジーさん」であること。

 頭の大きさが人間では有りえない大きさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今迄使われた魔法や技

 

 黒き翼(ブラック・ウィング)

 闇魔法の初歩的魔法で、空中移動に使われる魔法。魔力によって練られた翼であるため、生物の羽とは違い抜け落ちる事は無い。

 詠唱は「堕天使の翼よ!罪深き我の背中に汝の翼を我に与えたまえ!!」である。

 

 

 破壊神のでこピン

 名前がこれだがただのでこピン。魔力を指に集中させ放つもので、魔力をほんの少しだけ集中させると、額が赤くなる程度だが大量に集中させると岩を粉砕するほどの威力となる




次回から期末試験の話となります


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キャラクター紹介2

注意※このキャラクター紹介はネタバレを含んでいます
第4章を読み終えてから見る事をお勧めします


 マギ・スプリングフィールド

 

 生年月日星座…1986年5月9日 牡牛座

 

 血液型…AB型

 

 身長体重…182㎝62Kg

 

 性格…めんどくさがり屋

 

 趣味…読書と昼寝

 

 好きなもの…タバコ 散歩 魚釣り 寿司とうどん

 

 嫌いなもの…クソ親父 めんどい事 朝起きる事 口煩い事 大衆的な正義 カエル

 

 魔法始動キー……マギウス・ナギナグ・ネギスクウ

 

 キャラ紹介

 

 本作のオリジナル主人公でありネギの兄、麻帆良女子中学の2-Aの副担になる為に日本に来日。担当教科は歴史

 

 当初は女子中学生と接する事に少なからず嫌悪感を抱いていたが、生徒達と触れ合っているとそんな考えは直ぐに消えた。

 

 生徒達にはマギさんと呼ばせており歳が近いという事でフレンドリーに接してもらいたいと思っている。

 

 麻帆良に来た当時は魔法がばれてはいけないという考えは持っており、ネギが簡単に魔法をばらそうとしていた時には頭が痛くなるかと思ったが、アスナに魔法がばれてしまった時にはどうでもいいやと思ってしまった。

 

 マギは『魔法を知ってももっと魔法を知ろうとするか、魔法の事を忘れていつも通りの生活を送るかはテメェの自由』と云う考えでこれは、記憶改竄の魔法を毛嫌いしており、自分の記憶を赤の他人に弄られるというのに納得がいかないのだ。

 

 麻帆良に居る魔法先生や魔法生徒達の魔法使いの体制を守ろうとする正義を正義とは認めておらず、目の前で困っている人たちを守るというのが本当の正義だと思っており特に先生のガンドルフィーニとウルスラの高音とは対立している。

 

 ネギにも秘密にしていたが、カエルが大の苦手でそれは幼少のころ誤ってカエルが多く住みついている池に落ちてしまい、それが産卵時期という事もあり、何十体のカエルや数百のタマゴと云うトラウマがあり、以来カエルを見ただけで絶叫した後に気絶するという。

 

 更に強くなる事を一つの目標としており、時間が開いてる時には日夜修業に励んでいる。

 

 ネギが何でもすぐ覚える天才タイプだとするとマギは努力の天才タイプである。

 

 一応は女心が分かっているつもりだが、時々鈍感になってしまう時がある。

 

 

 

 

 

 ネギ・スプリングフィールド

 

 生年月日星座…1993年5月2日牡牛座

 

 血液型…AB型

 

 身長体重…137㎝36Kg

 

 性格…泣き虫

 

 趣味…お茶 古道具集め

 

 好きなもの…マギ ネカネ ハーブティ アンティークな杖 焼き鳥のねぎま串

 

 嫌いなもの…お風呂 一人で寝る事

 

 魔法始動キー…ラス・テル マ・スキル マギステル

 

 キャラ紹介

 

 原作主人公でマギの弟でもあり、麻帆良女子中学の2-Aの担任になる為に日本に来日。担当教科は英語

 

 当初は子供だからという事で、生徒達からも子ども扱いをされることがしばしばあったが、授業日数を重ねる事で生徒からも信頼される事となった。

 

 最初の考えは何でも自分一人でやり遂げようと云う考えだったが、マギに『もっと周りを頼れ』と言われ、それからは背伸びを止め自分一人で出来ない事が起こった時やマギや周りの人に頼るという考えに改めた。

 

 マギから体力が無さすぎると言われたことがあり、時間が開いている時には体力と筋力を上げるためにトレーニングをしていたが、魔力強化をしていないとどんくさいという事で当初は体力が1時間と持たなかった。

 

 将来は立派な魔法使いを目標としているが、マギのような皆に頼られる男になりたいと思っている。

 

 

 

 

 

 神楽坂明日菜

 

 生年月日星座…1988年4月21日牡牛座

 

 血液型…B型

 

 身長体重…163㎝49Kg

 

 性格…友達思い オッチョコチョイ

 

 趣味…友達と話す事 タカミチの追っかけ(失敗続き)

 

 好きなもの…渋めのオジサマ タカミチ

 

 嫌いなもの…生意気なガキンチョ 勉強

 

 アーティファクト…ハマノツルギ

 

 キャラ紹介

 

 麻帆良学園女子中等部で2-Aと3-Aどちらとも出席番号8番。

 

 ネギとマギの最初の印象は『可愛げの無いガキンチョ』と『ガラの悪い男』であり、ネギは自分のスカートを捲ったりノーパンにした事で印象が最悪で、マギは授業中に容赦のないでこピン(アスナにも非がある)をやられたりとこちらも印象は最悪だった。

 

 しかしネギの空回りだが、何事にも一生懸命な姿や、マギの態度があれだが生徒達の事を考えている姿を見て印象を改めていた。

 

 最初に魔法の存在を知った生徒でもあり、ネギの最初の仮契約者。

 

 アーティファクトはハマノツルギと云うハリセン。このハリセンは障壁を無効化させたり、召喚した召喚獣を消滅させる力を持っている。マギはハリセンの姿が仮の姿だとよんでいる。

 

 タカミチの事は今でも好きだが、最近ネギの事も気になっている…?

 

 

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル

 

 生年月日星座…不明

 

 血液型…不明

 

 身長体重…130㎝30Kg

 

 性格…ツンデレ

 

 趣味…散歩 昼寝

 

 好きなもの…マギ 茶々丸の淹れたお茶 日本の景色 囲碁 ナギ

 

 嫌いなもの…ニンニク 野菜のネギ 授業

 

 魔法始動キー…リク・ラク・ラ・ラック・ライラック

 

 キャラ紹介

 

 麻帆良学園女子中等部2-A3-Aどちらも出席番号26番。

 

 その正体は600年程生きている真祖の吸血鬼で『闇の福音』『不死の魔法使い』『人形使い』とも呼ばれた歴戦最強の魔法使い。不死の魔法使いと言われる通り不死身の体を持っている。

 

 吸血鬼だからという事で退治しようとした人間たちを返り討ちで葬った事により600万ドルの賞金首になった事もある。

 

 旅をしている道中、同じく旅の途中だったナギと出会い、ナギを気に入ったエヴァンジェリンは自分の物にしようとしたが、ことごとく失敗し遂には強行策で出たが、返り討ちにあって登校地獄と云う呪いを受けることになる。

 

 その後は麻帆良で女子中学生として学生生活を送っており、ナギが呪いを解きに来ると約束して、エヴァンジェリンはそれを信じていたが、ナギは行方不明。その後は退屈な学校生活を送っていた。

 

 ネギとマギが麻帆良に来たことで、ナギの息子である2人の血を吸えば呪いが解けるという事で、学園の停電時に激闘を繰り広げたが、ネギとマギに負けてしまう。

 

 橋から落ちそうになった時にマギがエヴァンジェリンを助けた事にマギを意識し始める。

 

 そしてマギが自分が死ぬかもしれない危険な呪いの解除をしてくれたことや、自分の事を化け物ではなくただのエヴァンジェリンと見てくれたことによって、マギを異性として好きになってしまった。

 

 マギを異性と意識し始めてからはマギに自分の思いを打ち明けようとしたが、元のツンデレの性格のせいで自分の気持ちを打ち明けられないのが今の悩み。

 

 他の3-Aの生徒の中にマギの事を異性として見ている事について危惧している。

 

 

 

 

 

 

 

 宮崎のどか

 

 生年月日正座…1988年5月10日牡牛座

 

 血液型…O型

 

 身長体重…153㎝45Kg

 

 性格…モジモジ

 

 趣味…読書 マギと本について話す事

 

 好きなもの…マギ 本に囲まれる事 本の整理

 

 嫌いなもの…怖い男性

 

 アーティファクト…いどのえにっき

 

 キャラ紹介

 

 麻帆良学園女子中等部2-A3-Aともに出席番号27番。

 

 マギとネギが日本に来日、自分達の担任と副担になった直ぐ後に本を片づけていた時に階段を踏み外し、転落しそうになった時にマギ助けられ、その時からマギに一目惚れしてしまった。

 

 その後は本をプレゼントしたり、髪型を変えたりとけなげにアピールしていた。

 

 吸血鬼騒動で自分の思いをマギに伝えようとしたが失敗。その後修学旅行の奈良にてマギに自分の思いを告白する。その夜にマギとキスをして仮契約を結んだ。

 

 京都での自由行動の時に魔法の存在を知ったが、知っても想い人であるマギの事を支えようと決めた。

 

 アーティファクトのいどのえにっきは攻撃は出来ないが、相手の心を読むことが出来る強力なアイテムである。

 

 

 

 

 

 近衛木乃香

 

 生年月日星座…1989年3月18日魚座

 

 血液型…AB型

 

 身長体重…152㎝44Kg

 

 性格…おっとり

 

 趣味…恋バナ 占い

 

 好きなもの…占い オカルト 料理 刹那

 

 嫌いなもの…特になし

 

 キャラ紹介

 

 麻帆良学園女子中等部2-A3-Aともに出席番号13番、書記でもある。

 

 おっとりとした大和撫子ではあるが、ツッコミはハード(学園長をハンマーで殴るほど)である。

 

 京言葉で話し、掃除洗濯料理が得意。

 

 オカルトに興味を持っており、占いグッツには目が無い様子。

 

 アスナとは親友であり、女子寮は同じ部屋である。

 

 ネギは弟のように可愛がり、マギには兄が出来たと喜んでいた。

 

 実家は京都にあり、関西呪術協会の娘でもありその魔力はネギと同格である。

 

 しかし学園長や父詠春の考えで、このかには普通の学校生活を送ってもらいたかったが、修学旅行にて魔法の存在を知る。

 

 修学旅行で刹那と仲直りが出来た。

 

 このかの魔力は人を癒す力があるという事で、このかはその力で色々な人達を治して行きたいという

 

 

 

 

 

 桜咲刹那

 

 生年月日星座…1989年1月17日山羊座

 

 血液型…A型

 

 身長体重…151㎝42Kg

 

 性格…冷静

 

 趣味…剣の修業

 

 好きなもの…剣の修業 このか

 

 嫌いなもの…曲がった考え お喋り

 

 キャラ紹介

 

 2-A3-Aどちらも出席番号15番。

 

 京都に伝わる神鳴流の使いてで、居合の達人でもある。

 

 幼少に親を亡くし、神鳴流に拾われその後関西呪術協会にてお世話になりこのかと親友になったが、このかが川に流されて自分がこのかを助けられなかったことに罪の意識を感じて、それ以降このかとはぎくしゃくした関係となってしまった。

 

 このかが麻帆良に行くという事で刹那自身がこのかの護衛を請け負った。しかし昔のように話す仲ではなくなって、自分からこのかを避けて陰ながらこのかを守るという誓いを自ら立てた。

 

 刹那は普通の人間ではなく、烏族と呼ばれる鳥の妖怪とのハーフで、このか救出の時に白い羽をアスナ達に見せた。しかしアスナやこのかは醜いとは言わずむしろカッコイイと言ってくれた。

 

 自分の正体を見せてしまったら去らなければならないと云う掟通りこのかの元を去ろうとしたが、マギに自分の気持ちを言ってみろと言われ、このかの元を離れたくないと自分の気持ちを訴え、このかと仲直りを果たす事が出来た。

 

 ネギとはこのか救出の時に仮契約を結んで、ネギの二番目の従者である。

 

 刹那が使っている刀の名は夕凪。この剣は若い頃の詠春が使っているのを刹那が譲り受けたのである。

 

 

 

 

 

 絡繰茶々丸

 

 生年月日星座…2001年1月3日完成 2001年4月1日起動 牡羊座?

 

 血液型…無し

 

 身長体重…173㎝(体重は不明)

 

 性格…冷戦沈着

 

 趣味…特になし

 

 好きなもの…マスター マギ 野良猫たち ぜんまいを回してもらう事

 

 嫌いなもの…特になし

 

 キャラ紹介

 

 出席番号10番。

 

 人間ではなく、麻帆良大学工学部で開発されたガイノイドつまりロボットのようなものである。

 

 またエヴァンジェリンの従者でもあり、マスターの敵になる者には容赦はしない。

 

 奉仕精神に溢れており町の子供や老人に親切で所謂いい人。野良猫たちに餌をやっているので動物たちにも好かれやすい。

 

 一度ネギとアスナに襲撃されたときにマギに助けられて、マギの事を気にしているが本人はその気持ちを理解できていない。

 

 体の至る所に武器を隠し持っているが、未だ使われたのはロケットでこピンだけで、他の武器は未だ謎である。

 

 

 

 

 

 アルベール・カモミール

 

 キャラ紹介

 

 通称カモ、由緒正しい?オコジョ妖精。

 

 罠にかかっている所をネギとマギに助けられ、ネギを兄貴マギを大兄貴と呼んで慕う仲となった。

 

 病弱な妹がおり、保湿性が高い女性の下着を病弱な妹のために盗んで捕まったが、脱獄。日本に逃げてネギとマギの元にやって来た。

 

 現在はネギに月給5000円ほどで使い魔(ペット)として雇われている状況である。

 

 仮契約の魔法を使え、ネギやマギに仮契約をさせる。仮契約に成功すると大金が手に入るのでその大金を妹に仕送っているのである。

 

 戦闘時になるとネギの肩に乗り戦術アドバイザーとして活動する。

 

 

 

 



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~第2章~期末試験
期末試験 いざ図書館島へ!!


少し投稿が遅れてしまいました申し訳ありません!!
そして此処まででお気に入りが230件を超したことに
驚き、恥ずかしながら少し泣いてしまいました。
本当にありがとうございます!!

それではどうぞ!!


 ネギとマギが教育実習生となり幾分か過ぎた2月の下旬の学園長室。其処には学園長としずな先生が居た。

 

「…ふむそうか、なかなかうまくやっているようだのう。ネギ君とマギ君は」

 

 学園長は自分の顎髭を弄りながらそう言った。

 

「はい学園長先生。ネギ君はすっかり生徒達と打ち解けていますし、授業面でも頑張っていますわ。とても10歳には見えません。マギ君も授業は生徒達に解りやすく教えていますし、生徒の悩み事にはしっかりと面と向き合って相談に乗っていますわ。この分なら指導教員の私でも、合格点を出しても宜しいかと思いますが」

 

 としずな先生から見て、ネギとマギの評価は高いようだ。フォッフォッフォそうか結構結構と学園長は笑いながら、顎鬚を弄った。

 

「では、4月から正式な教員として採用できるかのう。ご苦労じゃったなしずな先生」

 

 学園長はしずな先生に労いの言葉を述べた。しずな先生は失礼しますと言って学園長室を出ようとしたが、あいやまたれい!としずな先生を呼び止めた。

 

「これをネギ君とマギ君に見せてくれい」

 

 と封筒をしずな先生に渡した。

 

「学園長これは?」

 

 しずな先生はこれは何か学園長に聞いてみると、うむ…と学園長は深刻な顔をしながら頷いた。

 

「ネギ君とマギ君には最後の課題をクリアしてもらおうと思ってのう。これが出来なかったら、残念じゃが…ネギ君とマギ君には故郷に帰ってもらうしかないのう」

 

 しずな先生はいつもは見せない、学園長の真剣な顔を見て背中に冷や汗を流した。それじゃあ頼むぞしずな先生とそう言い、しずな先生は学園長室を去った。学園長一人だけとなって、学園長は学園長室の窓から外を見て、ふむ……と呟きながら

 

「ネギ君そしてマギ君…最後の課題も立派な魔法使い(マギステル・マギ)なるための立派なものじゃ。必ず成功させるのじゃぞ…」

 

 学園長は窓の景色を見ながらそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 放課後ネギとマギに裕奈と桜子が2-Aに向かっている途中、他のクラスを見てみると、皆自主勉強を行っていて何処かピリピリとしていた。

 

「なんか他のクラスのみなさんピリピリしてますね。如何したんですか?」

 

 ネギが裕奈に聞いてみると、あーそうだねとと言いながら

 

「そろそろ期末試験が近いからね、皆勉強してるんだよ」

 

「ちなみに試験は、来週の月曜日からだよネギ君」

 

 桜子が期末試験の開始日を教えてくれた。ネギはへぇ~試験ですか~大変だ~と何処か他人ごとに言った後に

 

「…って!それは2-A(僕達も)そうじゃないんですか!?のんびりしすぎじゃ!?」

 

「試験か…一夜漬けの日々が懐かしいぜ」

 

 とネギが裕奈と桜子にツッコんで、マギは試験時に前日一夜漬けと言う行為を繰り返していたのは今ではいい思い出である。

 

「あー」

 

「まぁうちらの学校はエスカレーター式だし、其処まで勉強とかしなくていいかなって」

 

 と桜子と裕奈は呑気そうに笑いながらそう言った。

 

「特にうちらは毎回学年最下位だけど、大丈夫大丈夫」

 

(いや大丈夫じゃないでしょそれ~!?)

 

 桜子が笑いながら、大丈夫だとそう言ったがネギは内心でツッコんだ。そんな遣り取りをしていると、ふとネギは花の形をしたトロフィーが目に入った。

 

「あの裕奈さん。あのお花みたいなトロフィーはなんですか?」

 

 ネギはトロフィーを指差して、裕奈に尋ねた。尋ねられた裕奈はん~あれは

 

「あれはテストで学年トップになったクラスに送られるんだよ」

 

 裕奈の説明にへ~と言ったネギ。あんなトロフィーが欲しいと思ったが、2-Aが学年トップになるのは不可能だなと思って、諦めた。

 

「あ…でも確か頭がよくなる魔法があったような…」

 

 ネギはブツブツと呟いていたが、マギにバカ野郎とチョップをされた。

 

「おいネギ、何なんでもかんでも魔法に頼ろうとしてるんだお前は」

 

 マギに注意され、シュンとなってしまったネギ。そんなやりとりとやっていると、向こうからしずな先生がやって来た。

 

「ネギ先生マギ先生、此処に居ましたか」

 

 と何処か深刻そうな顔でネギとマギに近づくしずな先生

 

「如何したんですかしずな先生?」

 

「先生が気難しい顔になるなんて珍しいっすね」

 

 と2人がそう言っている間に、しずな先生は2人の目の前にくると封筒みたいなものを2人に渡した。

 

「学園長がこれを渡して欲しいと言われまして、教師になるための最終課題だそうです」

 

 しずな先生にそう言われ、ネギは驚愕してマギはへ~と呑気そうな言葉を零した。

 

(いッ今頃になって最終課題が出るなんて聞いてなかったよ!!もしこの課題をクリアしないと正式な先生に成れないし立派な魔法使いにもなれなくなっちゃう!?)

 

 ネギは勝手に課題が悪のドラゴン討伐やら攻撃魔法の200個の取得と言う有りえない課題を想像した。対するマギはと言うと

 

(最終課題か~メンドクなくて簡単な奴がいいなあ)

 

 と呑気に考えていた。マギがそんな事を考えている間にネギは恐る恐る封筒を開け、封筒の中に入っている最終課題の内容を確かめた。その内容とは

 

 

 

 

 ―――――――――ネギ君とマギ君へ 次の期末試験で2-Aの最下位を脱出で来たら正式な先生にしてあげる――――――――――

 

 

 

 

 と書かれていた。ネギは少しの間呆然していたが、直ぐにアハハハハと笑うと

 

「な…なんだ簡単そうじゃないですか!よかったー!」

 

 此れなら簡単に教師になれると思ったネギ。よくよく考えてみれば学校にドラゴンなんているわけないじゃないか~とさっきまで慌てていた自分を笑い飛ばしたネギ。しずな先生はそんな楽観視をしているネギを心配そうに見ていた。そしてこの課題を見てマギは思った。下手したらこの課題クリア出来ないんじゃねぇか?…と

 

 

 

 

 

 2-Aに戻るとネギは張り切った様子で教卓に立った。マギはその隣に立っていた。

 

「えーと皆さん聞いてください!今日はHRを使って大勉強会を行いたいと思います!!学期末のテストがもうそこまで迫ってきています!」

 

 勉強会と言う単語に生徒の殆どが嫌そうな顔になった。これにはネギもこうなるとは分かっていたが、それでも生徒のやる気を出させようとする。

 

「あの…その…実は今度2-Aが最下位になると大変な事になってしまうので!皆さん頑張って猛勉強しましょう!!」

 

 ネギの大変な事になると言う事に生徒達は、ザワザワと騒ぎ始めた。アスナはネギが急に張り切りだしたのを見て疑問に思った。

 

「ネギ先生!素晴らしいご提案ですわ!!」

 

 ネギの言った事には大抵賛成するあやかはネギの勉強会には大賛成であった。そして如何いった勉強方法を行うか話し合おうとした直ぐに、桜子が手を挙げた。

 

「はいはーい!提案があります!!お題は『英単語野球拳』がいいと思いまーす!!」

 

 桜子の提案にクラスの殆どが拍手喝さいの大賛成であった。あやかやアスナは大反対だった。提案を言われ、ネギは野球拳とは野球をしながら行う勉強方法だと勘違いしているようだ。因みに野球拳と言うのは…良い子は絶対お父さんやお母さんには絶対聞いちゃいけません。これは絶対です。

 

「それではそれで行きましょう!」

 

 ネギが桜子の提案した『英単語野球拳』を可決させそれを行う事にした。それにアスナが青い顔になりながら

 

「ちょっとネギ!アンタ野球拳が何か知っているの!?」

 

 アスナはネギに野球拳とは何かを説明しようとしたが、そのアスナが桜子に連れられてしまい、アスナが何かを喚いていたがネギには聞こえていない様子だ。

 

「そう言えば2-Aの成績表があったんだっけ…それも参照しておこうかな?お兄ちゃんも見てくれないかな?」

 

 ネギにそう頼まれ、マギも成績表を見ることにした。そして2-Aの生徒達のテスト成績はと言うと

 

「学年1位が超で2位が聡美か…凄いな。しかも超は全教科満点なのか…」

 

「4位がいいちょさんでその次にのどかさんに、朝倉さんに千鶴さんにこのかさんが100位以内に入っているね」

 

 とネギとマギが確認してみると、この7人がAクラスの成績優秀者の様だ。しかも1位の超は満点だ。流石麻帆良一の天才ともいわれるほどである。

 

「残りが真ん中なら辺の順位に集中しているみたいだな」

 

「そうみたいだね。そして問題なのは…」

 

 ネギが言う問題なのはこの5人

 

「アスナに古菲に楓と夕映にまき絵のバカレンジャーか…」

 

 そうアスナ達バカレンジャーである。彼女たちが2年生全クラスの中で最下位の順位を分捕っているのだ。つまりこの5人が学年順位で最下位を脱出できなければ、Aクラスがクラス最下位を脱出できるのは不可能であるのだ。

 そんな事をネギとマギが考えていると、2人の前にフワリと何かが落ちてきた。何が落ちてきたのか手に取ってみると、それはブラジャーだった。

 

「「…は?」」

 

 ネギとマギは数秒だが、思考が停止してしまった。何でこんな所にブラジャーが落ちているんだ?とふとアスナ達の方が何か喧しくなっていてマギとネギは騒がしくなっている方を向いた。そして目に写った光景は

 

「きゃーッ!!」

 

「やっぱりこうなるのー!?」

 

 下着姿やら上半身裸となっていた目のやり場に困る姿となっていたバカレンジャーの五人が其処には居た。ネギはサァァァと血の気が引いて来るのが自分でも感じられた。

 

「なッ何やってるんですか桜子さん!?」

 

 ネギは『英単語野球拳』を提案した桜子に何でアスナ達が服を脱いでいるのか理由を聞いてみた。

 

「あぁネギ君は外国の子だから野球拳って知らないのか。野球拳っていうのは勝負で負けたら服を脱いでいくの。英単語野球拳は単語が解らないと服を脱いでいくんだよ」

 

 と笑いながら説明していた。5人以外の殆どの生徒は面白がって英単語野球拳を楽しんでいた。そして遂にアスナ衣服が全部脱がされ、全裸になってしまった。それを見てネギは顔を真っ青にして

 

(な…なんて能天気な人達なんだ…!!)

 

 このままでは2-Aはめでたくいつも通りに学年最下位となって、ネギとマギは先生に成れずにイギリスに帰国。そして待っているのは

 

「駄目魔法使いのレッテルを張られて皆に指をさされる運命…あは…アハハハハ」

 

 ネギは最悪のビジョンが頭に浮かんだのか、絶望的な表情になりながら乾いた笑い声を挙げていた。そんなネギを見て、マギはハァァァと溜息を吐くと教壇の方へと向かった。

 

(こういうのは後々メンドクなるもんだが、使える物は何でも使えだ)

 

 

 バンッ!!バンッ!!バンッ!!

 

 

 マギは黙って教卓を3回叩いた。マギが叩いて生徒全員と服を脱がされたバカレンジャー+呆然としていたネギは一斉にマギの方を見た。

 

「…おいテメェ等、レクリエーションは終わりだ全員席に着け。あとバカレンジャー全員は服を着ろ」

 

 とマギの凄味のある声に生徒達は、反論はせずに黙って席に着いた。服を脱がされたバカレンジャー達も自分の服を着て席へと戻る。そして生徒全員が席に戻ったのを見て、マギは話を始める。

 

「いいかテメェ等よく聞け。これから話すことは嘘でもないマジな話だ。いいか?この期末試験でテメェ等が期末でクラス最下位を脱出出来なかったら、俺達はイギリスに帰る事になる」

 

 マギの言った事に生徒達は一瞬だがえ?という顔に次の瞬間には

 

『エエエエエエエエエエッ!?』

 

 2-Aの教室が生徒達の絶叫でびりびりと響いた。

 

「どッどうしてネギ先生とマギ先生がイギリスに帰らなくてはいけませんの!?」

 

 あやかが悲痛な悲鳴を上げて、マギに詰め寄った。マギは頭を掻きながら

 

「あージーさんから来た、教師になるための最終課題だそうだ」

 

 と簡潔に説明した。それを聞いた生徒達は口々に不満を言い始めた。

 

「そんな行き成りそんな事言うなんてあんまりだよ!!」

 

「学園長の鬼!悪魔!!」

 

「マギお兄ちゃんが居なくなる成るのは嫌です!!」

 

「そうだそうだー!!」

 

 と生徒の文句を聞いて、マギは呆れたようにハァァと深い溜息を吐いた。

 

「テメェ等が其処まで言う権利があるか?何時もテスト勉強をしないでダラダラと過ごしていたテメェ等にはよお」

 

 と言われ、テスト勉強に力を入れなかった殆どの生徒がぐうの音も出なかった。それになとマギが続けた。

 

「これは多分だが学園長もお前らの心配をしてくれたんじゃねえか?このまま辛いことを避けて楽な方に進んでいけば、何時かは大きな壁にぶち当たった時には何も出来ずに挫折をしてしまう…そう思っちまったんじゃねえんじゃねえか?」

 

 マギの言っていることに生徒達は黙ってマギの言っていることを聞いた。

 

「話を戻すが、この最終課題はネギの人生がかかってるんだよ。俺はもう自分の人生は如何でもいいと思っている。だからネギには俺と同じ道を歩んでほしくねえんだ。だからテメェ等どうか協力してくれねぇか?」

 

 と言い終えると、マギは生徒達に頭を下げた。マギが頭を下げると生徒達は

 

「マギさんが頭を下げる必要なんてないよ!!」

 

「マギさんとネギ君が居なくなるのは嫌だもん!!」

 

「しょーがない!やってやるぜ!!」

 

「クラス最下位脱出はこの委員長の雪広あやかにお任せくださいませ!!」

 

 と生徒達のヤル気も出て来たようだ。そんな生徒達を見てワルイなと呟くとニヤリと笑いながら

 

「それじゃあテメェ等のやる気も出て来たことだし、勉強会でも始めるか」

 

 とマギの開始の合図におおーー!!と手を上げながら叫んだ生徒達。そして勉強会は始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 勉強会が終わり、生徒達は教室から居なくなり皆学生寮に帰っている間、ネギは校舎裏林で1人落ち込んでいた。

 

(又お兄ちゃんに助けられちゃった)

 

 それが落ち込んでいる原因である。実はネギは先程の勉強会の時に頭がよくなる魔法を使おうとしたが、又マギが自分の力だけで解決していた。それを見てネギはこう思った

 

 

 ―――――――――自分は魔法に頼ってしまっているんじゃないか?――――――――――

 

 

 そうだ。自分は困った時は自分の力を使わずに魔法に頼ってしまっているがマギは自身の力で切り開いているのだ。

 

「…そうだ。この期末試験時には魔法の力を使わずに自分の力だけで成し遂げてみよう!!」

 

 そうと決まれば!とネギは何かを思いついたのか、ネギはラス・テル マ・スキル・マギステルと魔法を詠唱し始めた。

 

「誓約の黒い糸よ!我に三日間の制約を…!!」

 

 と唱え終えるとネギの周りに黒いリボンみたいなのが現れ、その黒いリボンがネギの腕に巻き付いた。撒き終えると、ネギの腕にⅠⅡⅢと数字が表れた。これは如何いう意味なのか

 

「よし…これで三日間は僕はただの人間だ!お兄ちゃんみたいに自分の力で頑張るぞ!!」

 

 とどうやらさっきの魔法は自らの魔法を封印するための魔法だったようだ。腕に映し出されたⅠⅡⅢと言うのは日にちの事をさしているようだ。

 

「さてこうしちゃいられない!!明日の授業のカリキュラムを組まなくちゃ!!」

 

 ネギは張り切りながら寮へと戻って行った。そんなネギを誰かが黙って見ていた。

 

 

 

 

 

 

 夕方の5時女子寮の大浴場『涼風』に2-Aの生徒達が入浴していた。その中にはバカレンジャーが勢ぞろいしていた。

 

「ハァァァァァァ…」

 

 アスナが疲れた様な溜息を吐いていた。溜息の原因は今日行った勉強会についてである。勉強会では主にバカレンジャーを基準にして解らない所を勉強するという物だったが、バカレンジャーはほぼと言うか全滅してしまい。期末試験はほぼ絶望的だった。

 

「ハァァァァァ…私達が又最下位になったらネギ君とマギさん麻帆良に居なくなっちゃうんでしょ?嫌だな~」

 

 まき絵は湯船に体を沈めながら、あぶくを出しながらそう言った。

 

「私も…マギさんが居なくなるのは嫌…です」

 

 夕映と一緒に入っていたのどかが今の自分の気持ちをそう告げた。そんなまき絵やのどかを見てアスナは不意にマギに自分の頭を撫でられた場所を触った。そしてマギの笑顔を思い出す。そしてネギにもいろいろと世話になってしまった。

 

(そうよ!借りられた借りは返さなきゃいけないじゃない!!)

 

 と強く拳を握り残り少ない時間だが、猛勉強をすることを誓った。しかしアスナは不安だった。いくら猛勉強を行ってもバカな自分には意味なんて有るのかどうか…

 

「…やはりここはアレ(・・)を探すしかないですね」

 

 今迄抹茶コーラと言う不思議なジュースを飲んでいた夕映が口を開いた。夕映のアレと言う発言にハルナは

 

「夕映!?あれってまさか………!!」

 

 と何処か驚いたようにそう言った。ハルナの驚き様に古菲や楓が如何したアルか?何かいいアイデアでも有るんでござるか?と言いながら寄って来た。そしてバカレンジャーが夕映の周りに集まった。

 

「図書館島は知っていますね?我が図書館探検部の活動の場ですが」

 

「うん知ってるよ」

 

「あの湖に浮かんでいるでっかい建物でしょ?結構危ない所だって聞くけど」

 

 夕映の問いかけにまき絵とアスナが答える。実はですねと夕映が続ける

 

「その図書館島の深部に、読めば頭が良くなる『魔法の本』があるらしいのです」

 

 夕映の魔法の本と言う言葉に夕映以外のバカレンジャーの4人が驚愕した。

 

「まあ…どうせ出来のいい参考書の類でしょうが、それでも手に入れれば強力な武器になると思うのです」

 

 と夕映がそう言うが、ハルナ達が笑い飛ばす。

 

「もう夕映ってばアレは単なる都市伝説じゃん!」

 

「うちのクラスには変な人が多いけどさすがに魔法なんて存在しないよ」

 

 とハルナとまき絵が笑いながらそう言っているが、アスナだけはそうではなかった

 

(待って…そうよ。ネギやマギさんみたいに魔法使いが居るんだから魔法の本があったって可笑しくは無いわ…もしその本が手に入れば学年最下位を脱出する事なんて簡単じゃないの!?)

 

「…行こう」

 

 とアスナが呟くように言う。まき絵達はアスナの方を見た。

 

「行こう!図書館島へ!!」

 

 アスナが何処か決意したような顔でそう言った。明日の言った事にハルナ達が慌てだす。

 

「ちょアスナ本気なの!?今の話単なる噂話かもしれないんだよ!?それに図書館島って本当に危ないし!」

 

「そうだよ!そんな事をする位だったら大人しく勉強した方がマシだよ!マギさんだって『くだらねえ事をしてる暇があったら勉強しろ』って言うはずだよ!!」

 

 とハルナとまき絵が反対したが

 

「だけどアタシ達バカレンジャーがこの3日間猛勉強して何時もよりもいい点が取れる?アタシには自分でもわかってるけど…無理よ」

 

 アスナにそう言われ、自分達も勉強しても無理だとは分かっているバカレンジャー達。

 

「だったらその有るかもしれない魔法の本に賭けてみてもいいかもしれない」

 

 とアスナが言い切るとバカレンジャーの皆も頷いて返した。

 

「アスナの言う通りかもしれないアルな」

 

「確かに今の拙者達ではテスト当日に万全の状態で挑むのは不可能に近いでござるな」

 

 古菲と楓が今の自分達の状況を理解し

 

「だったらあるかもしれない魔法の本を探してみるのも」

 

「ありかもしれないです」

 

 とまき絵と夕映も魔法の本を探すことに同意をしてくれた。そして

 

「行こう!!図書館島へ魔法の本を取りに!!」

 

 アスナが言った事にバカレンジャーが力強くおおーッ!!と叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 夜の7時麻帆良学園図書館島に向かう何人かの生徒の姿が見えた。バカレンジャーと眠そうにしているネギとタバコを吸っているマギに他にのどかとこのかにハルナの姿があった。

 

「水冷たい!」

 

「この先に私達図書館探検部のしか知らない秘密の入り口があるんです」

 

 まき絵が浅い池みたいな所に足をいれてしまい、水の冷たさに驚いている間に夕映が図書館島への秘密の入り口の場所の説明をしていた。そして

 

「ほへぇ~これが図書館島の裏入口か~」

 

 漸く裏の入り口に到着したようで、アスナは重々しいドアを見て感嘆の声を上げていた。

 

「でも大丈夫なの?下の階って中学生立ち入り禁止エリアで危険なトラップがあるんでしょ?」

 

 とやはり危険と分かっていて行くのは不安がある様子のまき絵。

 

「大丈夫アタシにアテがあるから」

 

 と言いながら、アスナはネギの方を向いて手を合わせた。

 

「あのさネギ、凄く都合のいい話なんだけどさ。アタシ達が危険ね目にあったら、魔法を使ってほしいんだけど」

 

 とお願いしたが、図書館島へまで行く途中に目が覚め状況が理解したネギはあの申し訳ないんですが…と本当に申し訳なさそうな顔になった。何故なら今のネギは

 

「実は僕、簡易的な封印魔法を使ってしまい、今魔法が使えないんです」

 

「え…?えぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

 アスナはネギが今魔法が使えない事に驚いて思わずネギの肩を掴んでしまった。

 

「どッ如何してアンタ魔法が使えないのよ!?」

 

 とネギの肩をブンブンと揺さぶりながらネギに何故魔法を封印したのかを聞いてみた。

 

「あの…魔法に頼り切っている思って…その…」

 

 と小さな声でネギが答えたのを見て、アスナはこれ以上揺すぶる事はしなかった。ネギが魔法を頼り切っているのはアスナも思う所があるようだ。アスナは溜息を吐くと

 

「でも本当に如何するのよ?魔法が使えないアンタは魔法少年から普通のガキじゃない」

 

 アスナにそれを指摘され、落ち込むネギ。そんなネギの頭を優しく撫でながら

 

「心配すんなよ。ネギがドジッた時には俺がちゃんとフォローするからよ」

 

 とマギがフォローをすることを約束した。そんな遣り取りをしていると

 

「アスナー何してるん?早く行こうー?」

 

 とこのかに早く行こうと催促されてしまった。

 

「ま、無駄話もここまでにして行くならさっさと行こうぜ」

 

 とマギにそう言われ、ネギとアスナも図書館島の中へ入る事にした。

 

 

 

 

 

 

 地下に続く長い螺旋階段を下りている間に、夕映がこの図書館島の説明をしてくれた。なんでも世界各地の貴重な本を保管していて、現在でもすべての本を数を把握していないそうだ。

 そしてそれを調べるために今の図書館探検部があるそうだ。

 夕映の説明が終わるのと同時に、最初の地下の階のドアに到着した。そしてドアが開くとネギ達が見た光景は

 

「ここが図書館島の地下3階。私達中学生が来ていいのは此処までです」

 

 無数と言ってもいいほどの沢山の本が貯蔵されていた。

 

「うわぁ!!本当に本がいっぱいですね!!」

 

 本が好きなネギは興奮している様子だった。マギもこんなに本が貯蔵されていると思っていなかったために驚きを隠せ無いようだ。

 

「なんかゲームの迷宮みたいアルね」

 

 古菲の感想の通りまるで某RPGゲームの迷宮のような作りとなっていた。

 

「凄いですよアスナさん!こんなにも珍しい本が!!」

 

 ネギは興奮しながら近くにあった本に手を伸ばした。

 

「あネギ先生、貴重な本には盗難防止用に」

 

 と夕映がネギに無暗に本を取らない様に注意しようとしたが遅く、ネギが本を掴んでしまいカチリと言う音が聞こえたの同時に

 

 

 ドシュッ!!

 

 

 と一本の矢が飛び出してネギに向かって飛び出してきた。矢はネギに当たる直前で楓が矢を掴んで止めてくれた。

 

「このように罠が沢山仕掛けられていますから気よ付けてくださいです」

 

 ネギは自分に矢が迫ってきたため、驚いて腰が抜けてしまった。ちなみに矢が本物かどうか確かめるためにマギが矢尻を触ってみると、色は本物みたいだが、ゴムでできていた。流石に学校内で人が死んでいたらそれはそれで問題になるだろう。

 

「此方夕映ただ今地下3階に到着したです」

 

『了解!頑張ってね』

 

 夕映は地上に残っているハルナとのどかに携帯で通信をした。

 

「あの皆さんは如何してこんな所に?」

 

 ネギはこんな危ない所に何をしに行くのかと聞いてみると、アスナが目的を話してくれた。

 

「ええッ!?此処に読むだけで頭のよくなる魔法の本が有るんですか!?」

 

「何そんなもん捜してんだお前らはそんなくだらねぇ事してる暇があったら勉強しろ」

 

 とネギは驚き、マギは呆れながらそう言った。アスナはまき絵がマギが言いそうなことが一字一句同じで苦笑いを浮かべていた。

 

「今回は緊急事態だし許して。それにアタシ達の成績が悪いとネギとマギさん故郷に帰っちゃうんでしょ?」

 

 とアスナ達がネギとマギの事を故郷に返さないために協力してくれると分かると、怒るに怒れなかった。

 

「はぁ…分かったよだがもし情報がガセだったらテメェ等は帰ったら徹夜でテスト勉強してもらうぞ」

 

 とマギも折れた様である。

 

「アスナ何してるん?早く先に行くよー」

 

 と先に行ってしまっているこのか達を追いかけるアスナ達。

 

「ねーねーあとどの位歩くの?」

 

 まき絵が魔法の本までどのくらい距離があるのか聞いてみた。聞かれた夕映は図書館島の全体の地図を開いた。開かれた地図を見てみるとかなりの規模だと言うのが分かる。

 

「今私達が居るのが此処です」

 

 と夕映が今自分達が居る所を指差した。

 

「地下11階まで降りて、地下道を進むと目的の本が有るようです」

 

 夕映が指をどんどん地図の下をなぞって、本が有る場所を指差した。

 

「往復で4時間かかる計算ですから、帰っても寝られる時間は有ります」

 

 夕映の説明に皆が頷く。

 

「テストのおかげでバイトもないし…絶対手に入れるわよ魔法の本!!」

 

 アスナは絶対に魔法の本を手に入れる気満々で

 

「やっぱり怖いよ~」

 

「ベテランのうちらが居るから大丈夫やよー」

 

 怖がっているまき絵に大丈夫だと安心させようとするこのか

 

「なんか遠足の気分アル!」

 

「そうでござるな~」

 

 体力が自慢の古菲と楓は今の状況を楽しんでいる模様であった。そして担任と副担にはと言うと

 

「だ…大丈夫かな~?」

 

「早く帰って寝てぇなあ」

 

 この先大丈夫か不安のネギとほぼいつも通りのマギであった。

 

「では出発です!!」

 

 夕映の掛け声に出発することになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 道中様々なトラップが待ち構えていた。ある時には歩いていた本棚の橋が分かれて落ちそうになってしまい、又ある時には本棚が上から落ちて着そうになったりと何度か危ない目にあおうとしていたが、バカレンジャーの持ち前の身体能力で何も問題が無かった。だがこの中で足を引っ張ている者が居た。誰かと言うと

 

「うわわわわわわわ!落ちる!落ちる~~~!!」

 

 そうネギである。何時もの身体能力が高いのは、魔法の力によるもので魔法が使えない今のネギはどんくさい子供なのである。

 

「たく…大丈夫かよネギ」

 

 マギは落ちそうになっていたネギの腕を掴んで、引っ張ってあげた。そこにアスナが近づく。

 

「大丈夫ネギ?ってアンタ手が冷たいじゃない」

 

 それはそうだろう今のネギの恰好はパジャマなのだから体が冷えてしまうのは必然である。そんなネギを見てアスナは黙って制服の上着を脱いでネギにかけてあげた。

 

「あ…ありがとうございます」

 

 ネギはアスナにお礼を言ったが、アスナは黙って明後日の方向を向いてしまった。そんなアスナを見てマギはニヤリと笑いながら

 

「なんだアスナ。お前ガキは嫌いだって言っていたのに随分と優しいじゃねえか」

 

 とからかうと、アスナは顔を赤くしながら

 

「しッ仕方ないでしょう!今のネギは魔法が使えないんだから!!」

 

 と皆に聞こえないような声でマギにそう言った。マギははいはいそういう事にしといてやるよと言いながら、アスナの頭を撫でまわした。だから頭を撫でるな~とアスナが怒りながらマギに迫ったが、マギはのらりくらりと躱して行った。

 また数十分進むと、ハルナからの通信で少し先に休憩するところが有るという事で、休憩所に到着すると少し遅めの夕食をとる事にした。メニューはサンドイッチと紅茶とその他にスナック菓子の類が用意されていて、アスナ達は美味しそうにサンドイッチを食べていた。

 

「ほんと凄いとこだね図書館島って」

 

「不思議な学校だとは思っていたアルがここまでとはネ」

 

「おまけに裏山には異常にデカい木があるでござるし」

 

 まき絵古菲に楓はサンドイッチを食べながら、図書館島と言うよりこの学園全体が不思議だとそう話していた。3人がそう話している間にネギとマギはキョロキョロと辺りを見渡していた。

 

「ん?如何したのネギにマギさん」

 

 アスナは2人が落ち着きのないように辺りを見渡していたのを不思議そうに見ていながら如何したのかと聞いてみると、アスナさん此処少しおかしいです。と耳打ちすると

 

「さっきから僕とは違う魔法の力を感じます(・・・・・・・・・)

 

 とネギがアスナにそう話した。アスナは魔法の力を感じると聞くと少し驚きながら

 

「ちょ!?それってどういう事魔法の本が有るって事!?」

 

 とアスナは小さい声でネギに尋ねると、ネギは今はまだわかりませんとそう答えると今度はマギが

 

「それだけじゃねぇさっきからだが…階が深くなるにつれ誰かに見られている感じが強くなってくる(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 とマギがそう答えると、アスナはえ?と言った後に顔がさぁぁぁと青くなると

 

「まさか…ゆッ幽霊とかじゃないでしょうね!?図書館島で本を盗もうとして死んじゃった泥棒とかが化けて出て来たんじゃ…!」

 

 アスナは勝手に泥棒の幽霊を想像して震えていたが、そう言うもんじゃねえとアスナの考えを真っ向から否定するマギ。

 

「そんな人非ざるもんじゃねえ人の視線だ。それにまるで近くに誰かいるようなそんな気配だった」

 

 それにとマギは続ける。

 

「今更言うのもあれだが、俺は最初からこの図書館島から得体の知れない魔力を感じていた」

 

「ちょ!?何でそれを言わなかったのよ!?」

 

 とアスナにそう聞かれ、あの状況で言えるはずもねえだろとそう返した。

 

「でもまあ心配するな。ヤベェことになってもお前たちの事は守るからな」

 

 とマギが笑いながらアスナに言うと、アスナは顔を赤くしながら俯いてしまった。だがそれを面白そうに見ている2人が居た。

 

「え~なになに?アスナとマギさんってそういう関係だったの?」

 

「アスナとマギさんは仲がええからな~」

 

 まき絵とこのかがニヤニヤ笑いながらアスナとマギを茶化していた。

 

「ち…ちがアタシとマギさんはそんな関係じゃ…!」

 

 アスナは何とか否定しようとしたが、今度はこのかが

 

「でもアスナこの前マギさんと勉強した時に何処か嬉しそうだったやんかー」

 

 とそう言うと本当なのネギ君?とまき絵がネギに聞いてみた。あッはいそうですねとネギは思い出しながら

 

「あの時のアスナさんはまるでタカミチと一緒に居る時とおな「アンタは黙ってなさいネギ!!」ふもゴッ!?」

 

 ネギが余計な事を言おうとしていたため、アスナは持っていたサンドイッチをネギの口に強引に押し込んだ。そんなネギを古菲や楓が笑いながら見ていた。そんな光景を見ながらマギはやれやれだぜ…と呟きながら溜息を吐くと

 

「こんだけ元気ならもう出発してもいいだろうな…夕映、もう出発できるか?」

 

 とマギが夕映に出発できるかどうか聞いてみると、夕映がコクリと頷くと

 

「十分に休息しただろうし行けるです」

 

 と答えるのを見るとマギは分かったと言いながら

 

「おしテメェ等飯の時間は終了だ。そろそろ出発するぞ」

 

 と言われ出発することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を食べた後の図書館島の降下はこれまた不思議なものだった。

 

「こんな高い所にある本を誰が読むのよ!?て言うかここって本当に図書館なの!?」

 

「ここまで来ると人外魔境の様相を呈してきますね」

 

 ビルの5階建て位ある本棚の上を渡ったり

 

「つ…冷たい!なんで湖があるんですか…!?」

 

「うえ~下着グショグショ~!!」

 

 膝下位ある湖を歩いたり

 

「ひえぇぇぇ!!?」

 

「し…死んじゃう~!?」

 

「うわぁ~全然下が見えねえなぁ落ちたら原型を留めてなさそうだなぁ~」

 

「何でお兄ちゃんはそんなに呑気なの!?」

 

 下が見えないような断崖絶壁を思い浮かべるような本棚を命綱を付けて降りたりなどをした。そして目的地間近になった今度は

 

「あ~んもう嫌~!!服はボロボロだし膝が擦れて痛いよぉ~!!」

 

 ほふく前進しかできない様な狭い場所を進んでいた。

 

「ゆ…夕映ちゃん!まだ着かないの!?」

 

 アスナが少しきつそうにしながら夕映に尋ねた。

 

「いえ…もう直ぐ其処です」

 

 とペンライトを口に咥え、地図を見ながらそう返した夕映は少しボーとしているように見えた。

 

「夕映今けっこう燃えてるやろ?」

 

 とこのかがそう聞くと、夕映は静かにvサインをしながら

 

「フフ…分かるですか?」

 

 とこのかにそう返した。アスナから見ると何時もと同じ表情に見えるが、マギは何時もと違い何処かイキイキとしているのが直ぐに見えた。

 

「ここまでの区域には大学生の探検部でも到達できたのはほんの一握りです。恐らくは中学生では私達が最初でしょう…ここまで来れたのは皆さんの運動能力のおかげです。おめでとうです…この上に目的の本が有りますよ」

 

 と夕映が指差した所の天井から光が漏れていた。光が漏れている天井をアスナが押すとガコンと簡単に外れて、見てみるとさっきの狭い場所から打って変わって広々とした場所となりまるでRPGのボスの間の様な部屋であった。

 

「すッ凄すぎる!!こんなのあり!?」

 

「私こういうの弟のPSで見た事あるよ!!」

 

 アスナとまき絵が興奮しながら感想を述べた。

 

「とうとう着きました…魔法の本の安置室です」

 

「なんでこんな所が学校の地下にあるのとかツッコまないぞ。メンドイから」

 

 夕映も目的の本が有る場所に到達できたことに静かに拳を握っていたのに対して、マギは学園の地下にこんなのがあるとは…と呆れて物が言えない様子だった。

 

「あぁ見て!あそこに本が置いてある!!」

 

 まき絵が指差した其処には2体の巨大な石像ゴーレムが本を護るように立っていて、その間に開かれた本が厳重そうに置いてあった。

 

「あ…あれは伝説のメルキセデクの書ですよ!!すごい…僕も実物を見るのは初めてです!!」

 

 ネギは本を指差しながら興奮したように言った。

 

「てことは本物?」

 

 アスナはネギの興奮の具合にあの本が本当に本物かどうか尋ねてみると、ほッ本物もなにも!とネギは興奮が収まらないうちに

 

「あれは最高の魔法書ですよ!あれなら頭を良くするのなんて簡単かもしれません!!」

 

 ネギの説明により信憑性が高まった所でこのかがふと疑問に思い

 

「ネギ君詳しいなーまるで本物の魔法使いやー」

 

 とこのかの言った事にネギはギクリとして冷や汗を流し始めた。ここでアスナの他にも魔法使いだとばれてしまうのはマズイ。ネギは必死に誤魔化そうとしたが、いい誤魔化しが思い浮かばなかった。

 

「あ~このか…俺達の故郷じゃ普通の勉強以外にもオカルト系の勉強もしてるんだよ。こいつオカルト系でも成績が良かったんだよ」

 

 とマギが代わりに軽く誤魔化した。

 

「ンな事よりさっさと本を手に入れて帰ろうぜ?」

 

 マギの言う通りで今はネギが魔法の本を知っているかより、早く魔法の本を手に入れる事が先決だ。アスナ達は意気揚々と魔法の本に向かって駆け出した。だがネギは心配していたこういう貴重なものには厳重な罠が仕掛けられていると。そしてネギの心配が現実のものとなった。

 

 

 ガコン

 

 

 アスナ達が渡っていた石橋みたいなものが真っ二つに割れてしまい石橋の下にあった床らしきものに叩きつけられてしまった。

 

「アイタタタタ…」

 

「お尻うっちゃた~~」

 

 アスナやまき絵は打ち所が悪かったのか、打ったところを摩っていた。そしてアスナ達は自分達が何の上に居るかを見てポカンとしてしまった。ランダムに並べられたひらがなの文字盤そう

 

「此れって…ツイスターゲーム?」

 

 そうツイスターゲームであった。なんでこんな所にツイスターゲームがあるのか分からなかったその時、2体の内の大きな石の石鎚を持っていた石像ゴーレムの目がビコーンと光ったと思うと少しづづ動き始めて

 

『フォフォッフォ…この本が欲しかったら儂の問題に正解することじゃ~!!』

 

 なんと喋りながら此方に迫ってきたのだ。いきなり石像が動いたのでアスナや夕映に古菲は驚き、まき絵は悲鳴を上げて軽くパニック状態だった。ネギはゴーレムが行き成り動いたのは魔法が関係してると直ぐに解ったが、誰がやっているのか分からなかったがマギは溜息を吐いていた。マギはこのゴーレムを誰が動かしているのかもう分かっていたのだ。

 

(何やってるんだあのジーさんは…)

 

 そうゴーレムを動かしているのは他ならぬ学園長である。大方魔法の本を手に入れようとする生徒を追い出すためのゴーレムなのだろうが、学園長も何処か楽しそうだった。フォフォフォと笑っているし

 

『では第1問じゃ!DIFFICULTの日本語訳は?』

 

 学園長ゴーレムの問題にアスナ達は如何いう意味か分からなかったが、ツイスターゲームの外に居たマギとネギが

 

「要するに今の英単語をツイスターゲームで答えろって事だろ?」

 

「皆さん!落ち着いてやれば出来るはずです!!日頃勉強していれば大丈夫なはず!」

 

「そッそんな事急に言われても…!」

 

「ディフィカルトってなんだっけ!?」

 

 行き成りツイスターゲームで答えろと言われテンパっていて、ディフィカルトの和訳が分からない様子のアスナとまき絵。

 

「easyの反対語ですよ!簡単の反対語です!!」

 

 ネギのヒントで漸く分かったアスナとまき絵はその答えのひらがなを探して

 

「む」

 

「ず」

 

「い…ね!」

 

『むずい…うぅむ正解じゃ!』

 

 むずいという結構ごり押しな回答だったが正解し、これで終わったと思ったアスナ達だが、問題はまだまだ続く。

 

『では第2問じゃ!1192つくろうなに幕府?』

 

 と今度は歴史の問題だった。歴史も苦手なアスナはマギに助けを求める視線を送り、マギは溜息を吐きながら

 

「室町幕府の前の幕府だ。それだけ言えばなんとかなるだろ?」

 

 マギのヒントに今度は古菲と楓も手伝いながら

 

「か」

 

「ま…」

 

「く」

 

「らでござるな」

 

 と今回も難なく正解した。

 

 

 

『第9問cutの翻訳は?』

 

「き…きる…ね」

 

『第10問!日本に攻めてきた元の王は誰じゃった!?』

 

「ふッフビライ・ハン…アル」

 

『第11問baseballの日本語は?』

 

「や…や…やきゅう…で…ござ…る」

 

 その後も難なく正解してきたアスナ達だが、その恰好はというと

 

「いたたた!?」

 

「ここれ以上はげんかい~!!」

 

「問題に悪意が感じる…です!!」

 

「早く次の問題をアル~!!」

 

「さすがにキツイでござるなー」

 

 バカレンジャーの5人の今の状態は股が限界に開かれたり、体が捻じれていたりブリッジ立ちになっていたりと皆が皆限界の様だった。夕映の言う通り、悪意が感じられるのは気のせいではないのであろう。

 

『最後の問題じゃ!!』

 

 学園長ゴーレムの最後の問題の言葉に喜ぶアスナ達。

 

『dishの日本語訳はなんじゃ?』

 

 と最後の問題に?マークを浮かべ始めたアスナ達。

 

「ディッシュ…ってなんだったアルか?」

 

 体の限界のせいか考える力が弱まってきている古菲。

 

「ほッほらご飯を食べる時に使う容器ですよ!!」

 

「メインディッシュっていうだろ?」

 

 ネギとマギの最後のヒントで分かったようだ。

 

「わ…分かった!おさらね!?」

 

「おさら了解!!」

 

 動けるのはアスナとまき絵だけの様で

 

「お…」

 

「さ…」

 

「「らッ!!」」

 

 とらの文字の所を踏んでこれで正解!!と思ったアスナとまき絵。しかし2人は大きなミスをしてしまった。2人が踏んだ文字は

 

 

 

 る

 

 

 

「「…え゛?おさる?」」

 

 不正解だったようだでブブ~~というサイレンが部屋に響く。

 

『フォフォフォ…はずれじゃな』

 

 そう言いながら学園長ゴーレムは持っていた石鎚でツイスターゲームの盤を思いっきり叩いた。

 

 

 

 ボカァァァァァァァァァァンッ!!

 

 

 

 叩かれた衝撃で盤が崩れ、アスナ達は落ち始めた。

 

「アスナのおさる~~!!」

 

「いやぁぁぁぁッ!!」

 

 古菲におさる発言されたアスナだが、自分も落ち始めているため、聞こえていなかった。ただ一人だけ落ちているのに悲鳴を上げていなかった。

 

「なにこの浮遊感…気持ちわる!!」

 

 落ち始めた時のふわっとした浮遊感が不快だったのか口を押えているマギ。

 

『ウワァァァァッ!!?』

 

 そしてネギ達は悲鳴を上げながら(マギは口を押えているから悲鳴は出してない)奈落の底に落ちて行った。

 

 

 

 

 

 




次回の図書館脱出はオリジナルな話にしようと思っています。
楽しみにしていてください!!

では次回で!!


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危機一髪!? 必死の地底図書室大脱出!!

お久しぶりです!漸く最新話が出来ました!!
話の後半からは完全にオリジナルです!!
原作の展開とはグダグダになってしまいました。
さらにここでは原作で出るキャラを先に出してみました

それではどうぞ!!


『きゃああぁぁぁぁッ!!?』

 

 学園長ゴーレムにより足場を破壊され、現在落下中のアスナ達。どこまで落ちるか分からない恐怖によりただ泣き叫ぶしかなかった。

 

「うあぁぁっぁッ!!助けてぇぇぇ!!」

 

 ネギはアスナ達から少し離れた場所で泣きながら手を振って叫んでいた。

 

「!!」

 

 アスナはそんなネギを見て、落下中でありながらもネギに近づき、ギュッと抱きしめた。

 

「あ…アスナさん…」

 

 抱き着かれたネギ自身はアスナが抱きしめてくれて安心したのか静かに呟いた。その数秒後には広い場所に落下していき、下には大きな湖のような場所があり、ネギ達はそのまま湖に突っ込んでいった。人数分の水柱が上がった。

 

 

 

 

 翌日テストまで残り2日間、図書館島最深部にて。

 

「うっう~ん」

 

「あ……う…あ」

 

 アスナとネギが呻き声を上げながら、目をさまして体を起こした。その直ぐにまき絵達も目を覚ました。

 

「あっあれ?此処何処?」

 

 アスナは意識がハッキリしてないせいか、自分達の状況が今一掴めていなかった。

 

「そっそうだ。僕達ツイスターゲームで問題に間違えてゴーレムに落とされたんだ」

 

 ネギが段々意識がハッキリしてきて自分達が今まで起こった事を思い出した。起き上がったアスナ達は辺りを見渡して愕然とした。

 

「って何処なのよ此処は!?」

 

 そうアスナ達が今いる場所はというと、ビルと同じくらいの高さの木々が生い茂り、木の根っこがまるでマングローブの根っこみたいに湖に沈んでいた。壁がまるで日の光に明るいことと湖に本棚が水没しているのだ。

 しかしそんな事よりもネギは辺りを見渡して、顔がサァァァと蒼白くなりアスナ達もネギの顔の蒼白さに驚いて、如何したのかと聞いてみた。…居ないんですとネギの言った事が理解できなかったが次のネギの言った事にアスナ達も顔を蒼くなってしまう。

 

「お兄ちゃんが……お兄ちゃんが何処にも居ないんです!!」

 

 マギが居ないのだ。ネギは起き上がると全員がちゃんと居るか人数確認をしてみると、マギが何処にも居ないのだ。アスナ達もマギが居るかどうか辺りを見渡してみるが、やはり何処にも居ない。

 

「だっ誰かお兄ちゃんを見ていませんか!?」

 

 ネギはアスナ達にマギを見ていないか聞いてみたが、アスナ達も見ていないと首を横に振った。

 

「アタシ達も今さっきに目を覚ましたし、それにアタシ達何処から落ちてきたのよ?」

 

「あっあそこアル!!」

 

 古菲が指差した所は何処か不自然に開けられたあのように見える。結構な高さだ。

 

「あそこからこの湖まで結構高いでござるな」

 

「もっもしかして湖に落ちた時に変に落ちて気絶しちゃったとか!?」

 

「もしそうやったら今頃湖の底やで!!」

 

 楓が湖からの高さに汗を流してまき絵が最悪の場合の事を言って、このかが最悪のイメージを浮かべてしまった。ネギはマギが湖の底で溺れている姿を想像してしまい。

 

「お兄ちゃん……お兄ちゃァァァン!!」

 

 叫びながら湖に向かって駆け出した。アスナ達が制止をかけようとしたが、ネギは止まろうとしないで湖に飛び込もうとしたその時

 

 

 ムニュウ!!

 

 

 ネギが何か柔らかい物を踏みつけ呻き声が聞こえた。ネギが足を上げてみると

 

「イテェなぁ…」

 

 顔に靴の模様を付けられて、明らかに怒っているマギであった。如何やら少し離れたところで仰向けで倒れていたようだ。

 

「おッお兄ちゃん!よかった!!無事だった――――」

 

 んだね!とネギが安堵の声を上げようとしたが、ネギの眼前にマギの腕が迫っていた。

 

「人の顔踏んづけておいてごめんの一言もねえのかこの馬鹿ネギィ!!!」

 

 

 バキィィィッ!!!

 

 

「ゴペェッ!!?」

 

 マギのアッパーカットにネギは数m程飛ぶと地面に叩きつけられた。

 

((((((ええええええッ!?何という理不尽!!))))))

 

 ネギとマギのやりとりを見て、アスナ達は心の中でツッコんだ。たく寝起き早々酷い目にあったぜと言いながら、首をゴキゴキとならすとアスナ達の方を見て

 

「なにアホ面してるんだテメェ等?」

 

 とアスナ達にそう聞くと、アスナ達もブチと何かが切れる音がして

 

「何じゃないわよこの馬鹿マギさん!!」

 

 マギに向かって飛び蹴りをするアスナ。マギは何時も通り躱して

 

「だから如何したんだよオメェら何そんな怒ってるんだよ?」

 

 今一状況はつかめいない様子でアスナではなくこのかに聞いてみた。

 

「どうもこうもないよーうちらマギさんがうちらの近くに居なくて心配したんやよー」

 

「ネギ君マギさんがもしかしたら湖の底で溺れてるんじゃないかって思って湖に飛び込もうとしたんだよ!!」

 

 まき絵の言った事にマギはそうかと呟くとネギの元に近づいて

 

「だったら最初からそう言えよメンドクセェ奴だなお前は」

 

 とネギを叩いて起こした。ネギはすぐ起きるとマギに向かって酷いよお兄ちゃん!と抗議したが今のマギは聞いた事は右から左への状態だった。

 

「そんな事よりも、此処は何処なんだ夕映?」

 

 マギは図書館探検部の夕映に此処は何処か聞いてみた。

 

「ここはおそらくですが、幻と言われた『地底図書室』かと思われるです」

 

 地底図書室?夕映の言った事に同じく図書館探検部のこのかも個々の場所は知ら無いようで、夕映に説明を求めた。

 

「地底なのに暖かい光に満ち溢れ、数々の貴重本に恵まれた本好きにはまさに楽園と言われる幻の図書館です…!」

 

 夕映の何処か興奮で震えた表情の説明にネギ達はへ~と言った。ただし…と影が差しこんだ歪んだ笑みを浮かべながら夕映がさらに説明するが

 

「ただし…この図書館を見て生きて帰った者はいないと言われているです」

 

「「「えーー!!?」」」

 

 夕映の生きて帰れないと言う発言にネギとアスナとまき絵が悲痛な叫びを上げた。ネギ達が驚いたのは生きて帰れないという事よりもこのままではテストに間に合わないという事である。

 

「とにかく此処は脱出が困難と言うのは確かです」

 

「どッ如何するアルか!?これじゃあ明後日の期末試験に間に合わないアルよ!!」

 

「それどころか私達、このままお家に帰れないんじゃ!?さっきの石像みたいなのがまだいるかもしれないし!!」

 

 夕映の脱出困難という発言に古菲とまき絵がパニックになってしまった。ネギは何とか落ち着かせようとすると、アスナが怪我をしているのを見て大丈夫かとアスナに聞いたが、アスナは掠り傷だから大丈夫だとネギにそう答えた。そんあアスナを見て、ネギは治癒魔法を使おうとしてハッと思い出した。

 

(そうだ!僕は今魔法は一切使えないんだった!!)

 

 ネギは今更だが、魔法を封印したことを後悔した。

 

「駄目です。何処も登れそうな場所が有りません…外に居るハルナやのどかが助けを呼んでくれるとは思いますが」

 

 夕映の言った通り、図書館島の外で待機していたハルナとのどかは、内部との通信が突如途切れ事に慌てていたという。しかし、今此処を脱出する事は今の所不可能だと分かるとアスナ達は絶望的な顔になってしまった。

 

(皆が不安になっている…こうなったのは担任である僕の責任だ!皆の担任でもある僕が今こそ皆を勇気づけなきゃ!!)

 

 ネギが握りこぶしを作りながら皆を見渡して

 

「みッ皆さん!元気を出してください!!根拠は有りませんが直ぐに帰れますよ!!だから諦めないで此処で期末試験の勉強をしましょう!!」

 

 ネギの此処で勉強しようと言う発言にアスナ達は驚愕して呆然としていたが

 

「クククク…アハハハッ!!!」

 

 大きな笑い声が聞こえ、アスナ達は大笑いをしているマギを見た。アスナ達は今迄マギがこんなに大笑いしたことが無かったために少し戸惑っていた。マギはアスナ達が戸惑っているのを見ていや悪ぃと言いながら、笑ったために流れた目尻の涙を拭った。

 

「悲観的に物事見るよりも楽観的に見る事はいい事だが、此処で勉強するって言うのが可笑しくてな。いいんじゃねぇか」

 

 マギの言った事に古菲とまき絵も吹き出していた。

 

「そうアルな!今此処で落ち込んでいるよりも楽観的に考える方が良いアルな!」

 

「なんかネギ君が頼りになる所があるなー」

 

 古菲とこのかがネギの楽観的な考えに賛成の様だ。

 

「…ありがとうネギ君。本当は私のせいでこんな酷いことになったのに…それに魔法の本も取り損なっちゃたし…」

 

 まき絵がネギにそう謝ったが、これにはアスナもツイスターゲームの時に間違えたので、アスナも苦い顔となってしまった。

 

「そんな事無いですよ!魔法の本が無くたって今から頑張れば大丈夫です!!」

 

 とまき絵が負い目を感じていたが、ネギはそう励ました。

 

「そうでござるな。今から勉強すれば点数の10点up位は行けそうでござるな」

 

 と楓がネギの励ましの言葉に便乗するかのようにそう言った。

 

「う…うん!そうだよね!今からでも頑張ろう!!」

 

 ネギに励まされ、落ち込んでいたまき絵も漸く落ち着いてきたようだ。これで漸くみんなで勉強をする事が出来る。

 

「幸いな事に教科書には困らないようですし…」

 

 夕映は近くの本棚から授業で使われている教科書を取り出した。何故こんな所に教科書があるのかと言うのは今は気にしてもしょうがないだろう。

 

「よーし!それではさっそく授業を――――」

 

 ネギが授業を始めようとしたが

 

 

 ぐぅぅぅぅぅぅ~~~~~~

 

 

 皆の腹が一斉になりだした。腹がなってしまうのは仕方ないことだろう。ネギ達は目を覚ましてから何も口に入れていないのだから。という事で勉強よりも先に

 

「食糧探しだー!!」

 

 まき絵達は地底図書室に何か食べ物が無いか探し始めた。ネギも一緒に食糧を探そうとしたら封印の魔法をかけた腕が光っていた。ネギはさっそく光っている方の腕の裾をまくってみると、Ⅰの文字が消えていた。

 

「一つ目の封印が解けた…朝日とともに解けるから今は土曜日の朝か。此処に来て1日経ったんだ。封印が解けるまであと2日か…」

 

 まだまだ先が長いと思ったネギ。

 

「おいネギ」

 

 とマギがネギを呼び止めた。ネギはマギに行き成り呼び止められて、何事かと思ったが

 

「上手くアイツ等纏めてやれたじゃねえか。よくやったな」

 

 話はそれだけだ俺達もメシ探しに行こうや。そう言って先にまき絵達を追いかけて行った。

 

「まッ待ってよお兄ちゃん!!」

 

 1人取り残されたネギは慌ててマギを追いかけた。その顔には笑みが浮かんでいたのであった。こうしてたった2日間という短い地底図書室のテスト勉強が始まるのだった。

 だが…マギは地底図書に来た時から感じていた。誰かに見られている気配がとても強いと言う事に…

 

 

 

 一方の2-Aの教室では、最下位脱出のために一生懸命勉強をやっていたが、マギ達が図書館島で行方不明になったと言う事で、あやかを筆頭に大騒ぎとなってしまった。やっぱり駄目じゃないのか……と一抹の不安を覚えた2-Aであった。

 

 

 

 

 更に1日過ぎた日曜日の昼。ネギ達はテストに向けての授業に励んでいた。

 

「この問題ですが、まき絵さん分かりますか?」

 

「あッはい!35です!」

 

「正解です。よくできましたね」

 

 ネギに褒められて照れながら頭を掻くまき絵。

 

「では時間になりましたので、小休止にしましょう」

 

『はーい』

 

 ネギに小休止と言われ、喜ぶアスナ達。昨日の土曜日から今日の日曜日にかけて、ネギとマギがアスナ達にテスト勉強を行っていた。昨日はマギが歴史と国語と古典に家庭科を教え、今日はネギが英語と数学に理科を教えていた。2人の教えたかいがあり、アスナ達は苦手な勉強を少しづつ上達していた。でも不思議だよねぇとまき絵が呟いた。

 

「こんな地下なのに都合よく全教科のテキストがあって……おまけにトイレにキッチンに食材があって」

 

 そうまき絵の言う通り、土曜日の食料を探した時に、直ぐにキッチンと食材が見つかったのだ。最初は何でこんな所にキッチンと食材があるのかと疑問に思ったが、細かいことは気にしないのが2-Aであり、素直にラッキーだと思った。至れり尽くせりアルねと古菲が食べながらそう言った。

 

「それに本に囲まれてあったかくて、ホンマに楽園やなー」

 

「一生此処に居てもいいと思ってしまうほどです」

 

「夕映に賛成だな~メンドイ事なんて何もしなくてよさそうだな~」

 

 このかと夕映にマギが、何処から出したのか折り畳み式のチェアに寝転びながら本を読んでいた。

 

「ちょッ!こら~!夕映も勉強しなよ~!!」

 

 まき絵がぐ~たらしている夕映にツッコミをいれた。まあ案の定夕映は聞く耳を持っていなかった。そんな夕映を見て苦笑いを浮かべるネギ。

 

「それじゃ私達も休憩にするアルか」

 

「賛成でござる」

 

 と古菲と楓も休憩を取る事にした。と少し離れた所でまき絵が自分の体の匂いを嗅いだ。

 

(やっぱり2日も入ってないとちょっと臭いな~)

 

 この地底図書室はキッチンとトイレは有るのだが、何故かお風呂が無かったためにまき絵達はこの2日間で少し、汗臭く感じるのだ。まき絵はコソコソと皆から離れて行った。

 

「あれ、まき絵何処に行くアルか?」

 

 古菲に呼び止められたまき絵はアハハと笑いながら

 

「ちょっと水浴びに行ってくる」

 

 と教えるとあーと古菲たちも自分の匂いを嗅いで、確かにちょっと臭うアルなと言った。

 

「それじゃあ私達も」

 

「ご一緒してもよろしいでござるか?」

 

 古菲と楓が一緒に水浴びをしていいかと聞いてくるとまき絵も断るわけなく、一緒に水浴びに行った。

 アスナ達が休憩を取っている間に、ネギはマギを連れてこの地底図書室を可能な限り調べることにした。

 

「んでどうだネギ、何か分かったか?」

 

「全然分からないよ。不思議だと思ったのはこの水にも沈んでいたこの本ぐらいだよ」

 

 そう言いながらネギは水に沈んだ本を一冊取り出した。一遍何の変哲もない本だが水に沈んでいたというのに痛んでもいないし、腐ってもいない。不思議に思ったネギとマギは本を調べてみると、保存の魔法がかかっていて他の本も調べてみると同じだった。それに…

 

「なあネギ分かるか?この地底図書室に来てから、誰かに見られているのがより一層強くなってきてるのが」

 

 マギの言った事にネギも頷く。

 

「うん僕達の事をじっと見ているのが感じられるよ。だけど何もしてこないのが怖いよ」

 

 ネギの怖いという事にああそうだなぁと頷いて同意するマギ。

 

「早くこんな所をおさらばしないとなアスナ達があぶねえぞ」

 

 俺達も休んだら出口を探さねえとなと言って休もうとするネギとマギ。

 

「そう言えば封印の魔法は如何なんだ?」

 

 とマギが聞くと、ネギはさっそく腕を見てみるとⅡのマークも消えていた。残るは1日という事だ。

 

「あと一本…明日の朝になれば魔法が使えるはずだよ」

 

 とネギがマギに教えていると、前方がキャッキャと喧しい。何事かと2人がのぞいてみると

 

「え゛?」

 

「…おいおい」

 

 偶然にも水浴びしているまき絵達に遭遇してしまった。ネギ達に裸を見られてしまったまき絵達はと言うと

 

「「キャ~(アル)~!!」」

 

 悲鳴を上げているが、嫌がっているというより何処か面白い物を見たという反応だった。

 

「ああわわッ!すッすみませんでした~!!」

 

 ネギは赤くなりながらまき絵達に謝りながら、退散しようとしたが

 

「まあまあ待つでござるよ」

 

 と楓に捕まってしまった。ネギは逃げようとしたが、長身の楓に持ち上げられてしまって、足が地面につかない。

 

「ネギ君顔赤くしてカワイイ~~」

 

 と裸のまき絵が近づいてネギにちょっかいを出していた。ネギは目を瞑りながらも

 

「ぼっ僕は女の裸なんかに興味なんてありませんから!!」

 

 ときっぱりと言うと、さすがにショックだったのか

 

「ひどぉいネギ君!!」

 

「私達の裸なんかに興味ないアルか~!!」

 

 と泣き崩れた。まあ嘘泣きだがネギは信じ込んでしまい、あ…あの!その…!となんて言えばいいか分からずに

 

「ごッごめんなさ~い!」

 

 と言い残し、ネギは走り去ってしまった。マギはやれやれだぜ…と呟くとまき絵達の方を見ながら

 

「あのなオメェら、あんまりネギをそうやってからかうなよな。あれでもまだ10歳なんだからよ」

 

 とまき絵達にそう言う、まき絵達はとりあえずマギに謝ったが

 

「…ってマギさんはなんで私達の裸見てそんな普通にしてられるの!?」

 

 と年上のマギに裸を見られていると今更思いだし、顔を赤くしながらマギに問いただすとマギはさも当たり前と言った感じで

 

「別にオメェらみたいなガキンチョの裸見たって如何って事ねえよ」

 

 とマギの言った事に今度は本気でショックを受けた様で今度は本気泣きで

 

「うっううガキンチョって言われた~」

 

「もう立ち直れないアル~」

 

「拙者スタイルには自信があったんでござるが…」

 

 と以外にも楓もショックを受けていた。

 

「んなアホな事やってねえでさっさと服着ろよ」

 

 そう言い残すと、マギもネギを追いかけて行った。マギが居なくなるとまき絵はむぅと頬を膨らましながら

 

「マギさんのバカ!!絶対ボンッ!キュッ!ボンッ!!の悩殺ボディになって鼻血ブー!にしてやるんだから!」

 

「おー!大賛成アル~!」

 

 とマギを見返してやろうと燃えていたまき絵達の湖の底で、怪しい光がまき絵達の事を見ていた事に彼女たちは知らない。

 

 

 しかしさらに彼女達からかなり離れたところ

 

「グルルルルルル…」

 

 この世の生物とは思えない唸り声の主がまき絵達を覗いていた。

 

 

 

 さてマギは先に走り去ってしまったネギを探していた。

 

「ったくネギの奴何処に行っちまったんだ?」

 

 とネギの行方を捜していると、ネギの後姿を発見した。マギはネギに声をかけようとしたが、近くには体にタオルを巻いているアスナが居た。それを見ると何故か隠れて覗き見る格好となってしまった…別に覗こうと思ったわけではないので予め言っておく。と如何やら怪我したアスナの肩の包帯をネギが巻きなおしているようだ。アスナが何処か申し訳なさそうにネギに謝る。ネギは別に気にしてない言いたげに手を横に振った。そんなネギを見て、アスナはニッコリと笑っていた。そんなネギとアスナのやりとりを見ていたマギは思わずニヤリとした。ついこの間まではネギの事を疎ましく思っていたアスナが少しづつだが変わっているのだ。それにしてもとマギはアスナをジッと見てふと思った。

 

(やっぱりネカネ姉にそっくりだよなアスナって…)

 

 そう他人の空似にしては似すぎているのだ。ネカネとアスナは髪をおろすとますます似てくる。日本では世の中には似ている人が3人は居ると聞いた事はあるが、まさにそうだと思ったマギである。とその時

 

「キャー!」

 

 まき絵の悲鳴が聞こえた。悲鳴を上げたという事はただ事ではないという事だ。

 

「なんでこうもメンドイ事が度々起こるんだろうな?嫌になっちまうよ」

 

 マギは呟いて溜息を吐くと、悲鳴が上がった方へ向かった。向かってみると其処では

 

「ちょっ!誰か助けて~!!」

 

 学園長ゴーレムに捕まっているまき絵であった。

 

「マジで勘弁してくれ」

 

 本当に勘弁してほしいと思って呟いたマギである。

 

 

 

 

「ネギ君マギさん!!助けてぇ!!」

 

『フォフォッフォ。こんな小娘など一捻りじゃぁ』

 

 まき絵が動けない事を良い事に学園長ゴーレムが調子に乗ってアホな事を言いだし始めた。勿論そんな事するはずもないのだが、このゴーレムの正体が学園長が動かしているというのはマギしか分かっていないために

 

「こっこらぁ!このゴーレム!まき絵さんを離しなさい!それ以上僕の大切な生徒を虐めると僕も許しませんよ!」

 

 ネギは学園長ゴーレムが言った事を信じ込んでしまい、まき絵を離すように説得したが学園長ゴーレムは聞く耳を持た無いようでさすがにネギも頭に来たのか、自分が持っている杖をゴーレムに向けると、ラス・テル マ・スキルと詠唱を始めた。

 

「光の精霊11柱!集い来りて敵を射て!!魔法の射手(サギタ・マギカ)!!くらえ魔法の矢!!」

 

 ゴーレムに向かって攻撃魔法を放とうとした。

 

『ひょッ!?なッなんじゃと!?』

 

 学園長もまさかネギが本当に攻撃してくるとは思ってもいなかったので慌てはじめたが

 

 

 シィン……

 

 

 何も起こらなかった。ネギは何も起こらずにアレ?と思い古菲や楓はネギが言った魔法の矢にクエスチョンマークを浮かべた。

 

(しッしまった!今の僕は魔法は使えないんだった!!)

 

 ネギは時々抜けている時がある。学園長はネギが魔法を使えないと分かるとホッとしながらフォフォッフォと笑い声を挙げながら

 

『観念すんじゃな。この迷宮は3日もあれば脱出できるんじゃがのう』

 

 とさりげなく脱出出来る日数を教えてくれたが、3日と言う単語にネギ達は慌てはじめる。3日なんて期末試験が終わってしまいネギとマギはイギリスに帰ってしまう。

 

「3日も掛かったらテストに間に合わないアル!」

 

 古菲がそう言う様に他のアスナ達も絶望的な表情になる。ネギはアスナ達に諦めないでください!としか言えなかったが何かを思い出したかのように

 

「そうだ僕の魔法の杖を使えば空をとん「いい加減にしろネギ」ハブッ!?」

 

 ネギが今度は魔法の杖と言いそうになって、マギが何時ものハリセンでネギを黙らすとネギにアイアンクローをギリギリと食らわせながら

 

「テメェは魔法を秘密にしたいのかばらしたいのかどっちなんだああん?」

 

「ごっごめんなさい!」

 

 アイアンクローが痛いのか涙目でマギに謝った。それと又魔法の杖と言う言葉にクエスチョンマークを浮かべていたこのかになんでもない!!と叫びながら誤魔化しフォローするアスナ。

 

「とッ兎に角アタシ達はあきらめないから!絶対ここを抜け出して期末試験で最下位を脱出してやるんだから!!」

 

 とアスナがゴーレムに向かって叫んだ。そんなアスナを見てネギは目に涙を滲ませ

 

「あっアスナさん僕やお兄ちゃんのためにそこまで…」

 

「いッ一々アンタもそん位で泣くんじゃないわよ!!」

 

 アスナはネギに見られて恥ずかしくなり顔を赤くしながらネギに怒鳴った。

 

「兎に角逃げながら出口を探すわよ!このかは皆の荷物を持ってきて!」

 

「うッうん了解や!」

 

 アスナに頼まれ、このかは皆の荷物を持ってくる。

 

「!皆ゴーレムの首の所を見るです!」

 

 と夕映が何かを見つけた様で、ゴーレムの首の所を指差した。

 

「あれはメルキセデクの書!ゴーレムと一緒に落ちてきたんだ!!」

 

 ネギが言う様にメルキセデクの書がゴーレムの首に挟まっているのだ。そうと分かれば

 

「本をいただきます!クーフェイさん、楓さんお願いしますです!」

 

「了解でござる!」

 

「任せるアルね!!」

 

 と楓と古菲は本を取る気満々であったがネギは

 

「だッ駄目ですよ!生徒の古菲さん達ではゴーレムを倒すなんて!!」

 

 と古菲達を止めようとしたが古菲は心配ご無用ネ!とサムズアップをしながら

 

「中国武術研究会部長の力見るアルよ!!」

 

 そして古菲はゴーレムに接近すると

 

「ハイッ!!」

 

 気合と同時にゴーレムの脚の関節部分に強力な正拳を叩き込んだ。

 

『フォッ!?』

 

 正拳を食らった学園長ゴーレムは一撃だけで石像でつくられたゴーレムがよろけた事に驚いた。古菲を止めようとしていたネギと傍観していたマギも驚いた。古菲は中国武術研究会部長であり、この麻帆良学園では指折りの実力者であり、中学生でありながら達人クラスなのだ。

 

「アイーヤッ!!」

 

 と今度は飛びながらの回し蹴りでまき絵を掴んでいた手を弾いてまき絵を解放した。とまき絵が落ちるより前に楓がまき絵に駆け付け、まき絵を御姫様抱っこで受け止めた。まき絵が楓お礼を言いながら、何処から取り出したのか、リボンを持つとゴーレムの首に挟まれていた本にリボンを巻つけると

 

「えーいッ!」

 

 と思いっきり引っ張った。巻き付かれた本はそのまままき絵の手によってキャッチされた。

 

「やった~!魔法の本をゲットしちゃったよぉ~~!!」

 

「すッ凄いです!バカレンジャーさんの体力は!」

 

「目的の物も手に入ったんだし早くここからおさらばするわよ!!」

 

 アスナは走りながらそう言った。

 

「だなさっさと終わらせたい…」

 

 マギが言葉を最後まで言えなかった。何故なら

 

 

 

 ゾクゥッ!!

 

 

 

 マギの体中の毛が総立ち、体が一気に底冷える感覚に陥った。

 

(な…なんだ?今のは…)

 

 マギは行き成り事で気が動転してしまったが、これだけは分かった。何かがこっちに来ると。マギは立ち止まって、何かが来る方角をジッと見つめていた。

 

「お兄ちゃん何で止まっちゃたの!?」

 

 ネギはマギが行き成り立ち止まったのを疑問に思いながら叫ぶと

 

「いいかネギ、アスナ達を連れて全力で此処を脱出するぞ」

 

 ネギはマギが言った事が理解できなかったがその時

 

 

 

 グルゥウオウオオオオオンッ!!

 

 

 

 まるで暴風みたいな音が地底図書室に響きわたった。暴風音を聞いてネギやアスナ達も立ち止まってしまった。

 

「なに今の?風?」

 

「こんな所で風が吹くとは思えないでござるが?」

 

 アスナと楓は今の風の音が何なのかと思った。

 

「ん?ねえ皆あそこ見て!!」

 

 と楓に抱えられたまき絵が先程マギが見ていたのと同じ方角を指差した。アスナ達もまき絵が指差した方角を見てみると其処には

 

「何あれ鳥?」

 

「それにしては大きすぎるアル!」

 

「と言うかこっちに来てない!?」

 

 まき絵の言う通り、鳥としては大きすぎる何かがアスナ達の方へ向かっていた。とその時

 

「ギャオォォォォッ!!!」

 

 鳥としては有りえない程の大きな鳴き声にネギやマギにアスナ達は耳をふさいで、目を瞑った。

 

「なッなによこれぇ!!?」

 

「うッウルセェ!!」

 

 マギ達が余りの煩さに目を瞑っていると、謎の生物がマギ達の頭上を通り過ぎて

 

 

 ズゥンッ!

 

 

 近くの瓦礫に着地にしたようだ。ネギとアスナ達は恐る恐る目を開いて自分達の前に現れた者の正体を確かめようとした。そして目を完全に開くと、ネギやアスナにマギまでもが絶句してしまった。その体はゾウの何倍ともある巨大な体で、まるで恐竜の様であった。羽は鳥と言うより蝙蝠を連想するような羽であった。まるで巨木の様な尻尾に、トカゲのような顔つきに鋭利な牙が口から飛び出していた。爛々と光る眼玉がネギ達を見ていた。その生物はファンタジー小説では代表的なモンスターでもある。ネギは顔が蒼白になりながらも、そのモンスターの名前を言った。そのモンスターの正体とは

 

「ドドド(ドラゴン)!!?」

 

 ドラゴンが其処には居た。

 

 

 

「ギャオォォォォォォッ!!!!」

 

 ドラゴンの咆哮にアスナやまき絵はガタガタガタと震えてしまった。

 

「な…なによコイツ」

 

「こッ怖いよぉ…」

 

 いまのまき絵は蛇に睨まれた蛙の状態であった。ネギも腰が抜けそうになりながらも、何とか踏みとどまった。

 

(なんでこんな所にドラゴンが居るんだよ!?色々とおかしいだろ!)

 

 マギはなんでこんな所にドラゴンがいるのかと考えていると、学園長ゴーレムが追いついてきた。

 

『ひょッ!?ななんじゃこやつは!?』

 

(ジーさんもこのドラゴンの事を知らねえのかよ!本当に何なんだ此奴は!!)

 

 学園長でもこのドラゴンは知ら無いようだ。するとネギ達を睨んでいたドラゴンは唸り声を上げながらゴーレムを見ると

 

「グルルル…ガァァァァァッ!!!」

 

 

 ゴォォォォォォォォォッ!!

 

 

 ゴーレムに向かってドラゴンは口から火炎を発射した。そして火炎はゴーレムに直撃した。

 

『!?ヒョエエエエエ!!?』

 

 学園長ゴーレムは情けない悲鳴を上げながら、燃え盛り数秒後にはブスブスと燃え尽き石炭となってしまった。石炭になってしまったゴーレムを見て

 

「グルオォォォォォンッ!!」

 

 と勝ち誇った様な咆哮を上げたドラゴンは今度はネギ達を睨み付けた。

 

『ヒィッ!!』

 

 ネギとアスナにまき絵は短い悲鳴を上げた後に石炭になってしまったゴーレムを見た。もし自分達があんな火炎をくらったら、塵も残らないだろう。恐怖で足が動かなくなりそうになったその時

 

「おいテメェ等…俺がドラゴンを食い止める。だからテメェ等はさっさと脱出場所を見つけろ」

 

『!!』

 

 マギの言った食い止めると言う言葉にネギとアスナが反応した。つまりマギはあのドラゴンを1人で相手する事となる。

 

「だッ駄目だよ!お兄ちゃんが残るなら僕も一緒に戦う!!」

 

 ネギの言った事に、マギは荒っぽくネギの胸倉を掴むと自分の方に持っていきながら

 

「ふざけた事を言うのもいい加減にしろ!魔法が使えないテメェは足手まといなんだよ!!」

 

 と言い終えると胸倉を離した。そしてアスナの方を見ると

 

「アスナ、ネギを頼む」

 

「でっでもマギさん!1人なんて危険すぎるわよ!!」

 

 アスナがそう言うが、マギは心配すんなと言ってサムズアップをする。

 

コイツ(ドラゴン)を食い止めておっちぬなんて事はしねえよ。隙をついて逃げてやるからよ」

 

 だから俺を信じろとマギが言うと、アスナは頷いて

 

「ネギ、此処はマギさんに任せてアタシ達は早く脱出するわよ!」

 

「まッ待ってくださいアスナさん!お兄ちゃん!絶対戻って来るよね!?」

 

「あぁテメェの兄貴を信じろよ。だから」

 

 とマギはキリッした顔になりながら

 

「さっさと行きやがれぇッ!!」

 

「ギャオォォォォッ!!」

 

 マギが叫んだのと同時にドラゴンが咆哮してネギ達に火炎を発射しようとしたが、マギは高速で移動してドラゴンの真上に飛ぶと

 

「おいトカゲ野郎、テメェの相手は俺だぜ!!崩襲脚!!」

 

 ドラゴンの頭に叩き降ろすような蹴りを食らわす。ほぼ奇襲となる攻撃にドラゴンは

 

「ギャアァァッ!?」

 

 短い悲鳴を上げながら首を大きく振った。マギは空中で回転すると着地した。ドラゴンは攻撃してきたのは目の前の自分よりも小さい人間だと理解すると

 

「グルルルル…グルゥオオオオオオンッ!!」

 

 怒りの孕んだ咆哮をマギに向かって放った。マギの肌はドラゴンの咆哮でピリピリと震えていたが、マギは不敵に笑っていた。

 

「トカゲ野郎がいっちょまえに怒りやがって、上等だかかってこいよ」

 

 と拳を構えたが何かを思い出すと拳の構えを解いた。

 

(そうだ、せっかくだしガキの頃にタカミチに習ったアレ(・・)でも使ってみるか)

 

 とそうと決まればとマギは集中し始めた。

 

「……左腕に魔力」

 

 と左腕に魔力を集中させた。

 

「右腕に……気」

 

 と今度は右腕に人間誰にでもある生命力の源である気を集め始めた。そして

 

「合成!!」

 

 魔力と気を合成した。

 

 ゴォッ!!!!

 

 

 魔力と気が合成した事に爆発的なパワーが溢れていた。咸卦法。タカミチに教えてもらった強力な身体能力向上魔法である。咸卦法が成功したマギは再度拳を構えると

 

「気を付けろよトカゲ野郎…今の俺はテメェと対等の力を持っていると思え」

 

 とマギがそう言うと、ドラゴンの方も本能で理解した。今目の前にいるコイツは侮れないと

 

「ギャオォォォォッ!!」

 

 ドラゴンは咆哮を上げるとマギに向かって突進をした。ズシンッ!ズシンッ!と地響きを上げならマギに向かうドラゴン。そして

 

 

 ガシィィィィィンッ!!

 

 

 ドラゴンとマギが衝突した。普通だったら突進をされて吹っ飛ぶはずだがマギは

 

「へッへへどうだよ馬鹿野郎」

 

 ドラゴンの突進を受け止めていた。

 

「今度はこっちの番だ」

 

 そう呟きながら、マギは一瞬で後ろに下がると今度は一気にドラゴンの体に接近して

 

「連牙弾ッ!!」

 

 連続の素早い蹴りをドラゴンの体に食らわす。蹴りを食らったドラゴンは悲鳴を上げながら、マギを食い殺さんとばかりに口を大きく開け、マギに迫る。だがマギはそれを呼んでいたと言いたげに

 

「甘い!三散華ッ!!」

 

 ドラゴンの顔に拳と肘の三連撃がドラゴンの顔に直撃した。顔に直撃し脳を揺さぶられたドラゴンはフラフラになりながらも今度は巨木ほどありそうな尻尾を振りまして来た。

 

「そんなの効くかよ!!魔神拳!!」

 

 と今度は、拳から出る衝撃波で尻尾を上に打ち上げた。そして追撃と言わんばかりに、再度ドラゴンの腹に接近した。

 

「とっておきだ!!獅子戦吼!!」

 

 と今度はマギの拳から獅子を象った気の塊がドラゴンの腹にめり込んだ。ドラゴンは悲鳴を上げながら横転をした。横転をしたドラゴンを見て

 

「へへ。どんなもんだよ」

 

 と不敵な笑みを浮かべたマギ。しかしまだ終わっていなかった。ドラゴンは目をカッと開かせると

 

「グギャオォォォォッ!!」

 

 怒りの咆哮を上げると、翼を大きく広げ空に羽ばたいた。今度は空から攻撃するつもりなのだろ。

 

「たくタフな奴だな……」

 

 と呟いたマギ。だがドラゴンが空に飛んでも逃がすつもりなど毛頭も無かった。マギウス・ナギナグ・ネギスクウと詠唱を始めた。

 

「黒曜の輝き快速の槍となり敵を討つ! 悪魔の槍!!」

 

 詠唱が終わるとドラゴンの頭上に数本の漆黒の槍が現れた。悪魔の槍。闇の精霊魔法の一つである。悪魔の槍はそのままドラゴンに降り注ぎ

 

 

 ザシュザシュザシュザシュザシュザシュッ!!

 

 

 漆黒の槍がドラゴンを切り裂いた。そのままドラゴンは墜落し地面に不時着した。だがマギは攻撃の手を緩めない。

 

「これで最後だ。マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 魂をも凍らす魔狼の咆哮、響き渡れ!! 血の咆哮!!」

 

 

 グォォォォォォォォォォッ!!!

 

 

 闇の精霊魔法の上位魔法血の咆哮。闇の波動がドラゴンをさらに苦しめるそして

 

「ギャオォォォォ……ォォォォ」

 

 遂には力尽きた様でドラゴンは首をゆっくりとおろしながら倒れた。マギはドラゴンに少しづつ近づいた。どうやら気絶しているようだった。別に殺すつもりもなかったのだが

 

「す…スゲェきつかった…当分キツイ仕事はこりごりだ…」

 

 と呟くとマギは咸卦法を解除した。この咸卦法だが強力なのだが、その分魔力と気の消費が激しいのだ。だから連続では使用できないのである。

 

「さて早くネギ達の所に戻るか。ていうか隙をついて逃げるとか言いながら倒しちまったな」

 

 まぁいいかと呟くとネギ達の所にいち早く戻る為に駆けだした。

 だが…マギは油断していた。倒したと思っていたドラゴンの目が少しづつ開いている事に……

 

 

 

 

 

 

 

 走る事数分マギは滝の裏に非常口を発見して、そこを除くとかなり長い螺旋階段があった。恐らくここが唯一の脱出場所なのだろう。登るのが多少面倒くさいと思ったが

 

「きつそうだけど…仕方ねえよな!」

 

 そう呟いて螺旋階段を一気に駆け上がる。キツイと言っている割には軽快な走りでどんどん上へ上へと駆け上がり、数分後には先に走っていたであろうネギ達の姿が見えた。

 

「よう。ずいぶんとゆっくりだな」

 

 とマギがからかいを含んだ軽口でネギ達にそう言った。ネギ達は一瞬だが自分達の前にマギが現れたのに呆然としていたが、次の瞬間には

 

『お兄ちゃん(マギさん)!!』

 

 驚いたような声を上げた。それは当然と言うべきだろうマギがドラゴンを食い止めると言ってまだ1時間経つか経たないかと言う時間で合流してしまったのだ。

 

「お兄ちゃん大丈夫!?怪我は無い!?」

 

 ネギはマギの怪我の具合を確かめた。

 

「ん?ああ別に大怪我はしてねえぞ。有ったとしても掠り傷だ」

 

 とマギは自身の怪我を指差してそう答えた。

 

「というかあのドラゴン如何したのよ!?」

 

「でっかいトカゲ倒したアルか!?」

 

 アスナと古菲はマギが食い止めたと思われるドラゴンがどうなったのかを聞いてみた。

 

「心配すんな。あのトカゲ野郎だったら今頃伸びてるだろ…「ギャオォォォォッ!!」……マジかよ」

 

 伸びてるだろと言い終えようとしたその時、今一番聞きたくない声が螺旋階段に響いた。マギ達は階段から下を見降ろし、苦虫を噛み潰した顔をとなった。マギ達が見降ろしてみると

 

「グルルルル!」

 

 先程倒したと思っていたドラゴンが螺旋階段の壁を破壊して、マギ達を睨みつけていて目は赤く充血していて怒り心頭なのは明らかだった。そしてドラゴンは唸り声を上げると羽を折り畳み、4足歩行のような体制になると

 

「グルオォォォォォンッ!!」

 

 雄たけびを上げながら一気に階段を上ってきた。階段が所々で重さに耐えられなくなって砕けたりしたが、ドラゴンはそんな事知った事ではなくどんどんマギ達との距離を詰めてきた。もうマギ達とドラゴンの間は300mあるか無いかの距離である。

 

「オメェ等走れぇッ!!」

 

 マギの叫びを聞くよりも前にネギ達は一斉に駆け出した。

 

「なっなんなんあれ!?」

 

 ドラゴンを見ていないこのかあれが何なのか走りながらアスナに聞いた。

 

「このか!今は走る事だけを考えて!!」

 

 説明している暇もなく、アスナはこのかの質問を走りながら受け流した。ふと夕映がケータイを見てみると電波のアンテナがたった。という事は

 

「!ケータイの電波が入りました!地上はもう直ぐ其処です!皆さん頑張って下さいです!!」

 

「!皆さん見てください!!」

 

 とネギが前方を指差した。ネギが指差した場所は作業用のエレベーターであった。

 

「エレベーター!?あれに乗れば地上に帰れるのね!!」

 

 アスナが喜びながら叫んだ。後方にはドラゴンが唸り声を上げながら向かってきたその距離あと100mと少し、迷っている暇など無い。

 

「早く乗り込むわよ!!」

 

 アスナの指示で一斉にエレベーターに乗るネギ達。これでもう安全だと思いきや…

 

 

 ブブー!!

 

 

 エレベーター内でブザーが鳴った。アスナ達は何事かと思っただがそれは

 

『重量overデス』

 

 エレベーターのアナウンスにアスナとまき絵と古菲が顔を真っ青にする。

 

「ちょッ!此処まで来てそんなの無いでしょ!!?」

 

「まっまき絵!今何キロアル!?」

 

「わっ私は痩せてるよ!そう言うくーふぇはどうなの!?」

 

 アスナ達はパニック状態になりギャーギャーと喚き散らした。そんな事をやっている間にドラゴンとの距離がどんどんと縮まって行くばかり。残りの距離はあと50m。

 

「みっ皆持ってる物や服を捨てて!アタシが片足出してブザーが止まるんだから、あとちょっとなのよ!!」

 

 とアスナが片足を出すと、確かにブザーが止まった。本当にあと少しなのだ。

 

「えっえい!!」

 

「これで如何あるか!?」

 

 まき絵や古菲が率先として衣服を脱ぎ捨て、いらない小物などを投げ捨てた。ネギは顔を赤くなりながら目を瞑っていた。ほとんどの者が全裸まじかの恰好になりこれで大丈夫かと思いきや

 

『ブーッ!ブーッ!!重量overデス重量overデス』

 

 まだブザーが鳴りやまなかった。

 

「こっこれだけやっても駄目アルか~!!?」

 

「もう捨てる物もないよ~!あと少しなのに~~!!」

 

 とまき絵が泣きだしてしまった。さらに悪夢は続き

 

「グルオォォォォンッ!!」

 

 遂にドラゴンとの距離が10mまで縮んでしまった。ドラゴンの怒りの顔がマギ達を睨んでいた。

 

「いやぁぁぁッ!!」

 

「もう駄目なの!?」

 

「お終いアル~~!!」

 

 アスナ達の絶望的な悲鳴が響く。ネギは杖をギュッと握りしめ

 

(どうしよう…!お兄ちゃんはもう戦う力を持っていない…だったら!!)

 

 

 ―――――今度は僕がアスナさんやお兄ちゃん皆を護る番だ!!―――――――

 

 

 ネギはエレベーターから飛び出し杖を構え、ドラゴンと対峙した。

 

「ドラゴンめ!僕が相手だ!!」

 

 ネギは勇気を振り絞り、ドラゴンに向かって叫んだ。アスナ達は飛び出しネギがドラゴンの相手になると叫んだのを聞いて仰天した。

 

「ちょッネギ!アンタ馬鹿な事は止めなさい!!」

 

「ネギ君危ないよ戻って!!」

 

「ネギ先生無茶でござる!!」

 

「危険アル!!」

 

 アスナやまき絵に楓と古菲がネギに戻るように叫んだが、ネギはギュッと杖を握る力をさらに強め

 

(お兄ちゃんが僕達を護る為に必死に食い止めてくれたんだ!魔法が使えない僕でも皆を護って見せる!!)

 

 そんなネギをドラゴンは口を大きく開き、ネギを食い殺さんと迫る。鋭利な牙が光る。アスナ達が悲鳴を上げる。

 

(あ…駄目だ。やっぱり怖い…)

 

 自分が死ぬかもしれないと分かると、すっかり戦意が喪失してしまったネギはゆっくりと自分が死ぬ瞬間を待った。

 

「全く、カッコつけすぎだよオメェは…」

 

 マギの呟きが聞こえると、ネギは思い切り引っ張られ、アスナ達の方に引き戻された。

 

「おッお兄ちゃん!何やってるの!?」

 

 見ればネギの代わりにマギがエレベーターの外に出ていた。

 

「テメェのヘマの尻拭いを誰かにさせるのは面倒だからな。俺に最後までさせてくれよ。それとテメェ等は此処から脱出する事じゃなくて期末テストで最下位脱出するのが目的だろ?」

 

 だからとマギが持っていたのは魔法の本であった。

 

「こんなくだらねぇモンのために命を張るんじゃねぇよ。テメェ等が本気出せばやれるんだって事を俺は信じてるぜ」

 

 そう言いながらマギはニヤリと笑った。

 

「おッお兄ちゃん!早く戻ってきて!!」

 

 ネギは泣き叫びながらマギに戻ってくるように言った。

 

「ネギ、俺はちゃんと戻って来るぜ。だけどなもし……戻って来れなかったらゴメンな」

 

 そう言って、マギはエレベーターのドアの開閉ボタンを押した。重量overのブザーが鳴らなくなり、ゆっくりとドアが閉まりだした。遂にはネギは泣き崩れてしまった。ドアが完全に閉まる前に見た物は、ネギに向かってサムズアップをしているマギの姿であった。そして…完全にドアが閉まった。

 

「お兄ちゃん!おにぃちゃぁぁぁぁぁぁんッ!!!!」

 

 ドアが完全に閉まり、マギの姿が見えなくなりネギは泣き叫んだ。ネギが泣き叫んでいる間に、エレベーターは地上の1回を目指して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 地底図書室に取り残されたマギと目の前には自分を食い殺さんとするドラゴンが居た。ドラゴンに睨まれているのにマギは懐からタバコを取り出した。そして何時ものとおり口に咥え火をつけた。タバコの煙があたりに漂いドラゴンは顔をしかめた。如何やらタバコのにおいが嫌いの様だ。そう言えばアイツラの前だとタバコを吸ってなかったなと思いだすマギ。久しぶりに吸うのは美味いと思った。

 

「ちょっとぐらい休憩させてくれよぅ…体がもたないぜぇ」

 

 そしてタバコを吸い終ると、吸殻を捨て潰しドラゴンを見た。

 

「さて…第2ラウンドと行こうぜトカゲ野郎」

 

 そしてマギとドラゴンの戦いが再び始まろうとしたその時

 

 

 

「――――――すみませんがちょっと待っていただけませんか?」

 

 瞬きする間に行き成りマギの目の前にフードを深くかぶった男が現れた。マギは気配を消して行き成り現れたこの男に驚いた。

 

(んだこの男…行き成り現れやがった何もんだ?)

 

 とフードの男に警戒心を持った。さらに驚きくことは

 

「ぐ…グルゥ…」

 

 あれだけ怒り状態だったドラゴンが大人しくなったのだ。マギはドラゴンを大人しくしたこの男を只者ではないと瞬時に理解した。

 

「申し訳ありません。この子は飛んでいた時に偶然と学生が来るような場所に迷い込んでしまったのです」

 

 学生が来るような場所?フードの男が言っていることが今一分からないマギ。

 

「そんな事よりもテメェは誰だ?ドラゴンを大人しくさせるなんて普通の魔法使いじゃねえだろう」

 

 マギはフードの男に名を聞いた。男はマギの方を振り返ると

 

「私の名はそうですね…クウネル・サンダースと覚えてください」

 

 フードの男…クウネル・サンダースはマギにそう自己紹介した。マギの脳裏にはフライドチキンを作っている白いスーツを着たお爺さんを想像した。

 

「何がクウネルだよ。ふざけた偽名を使ってるんじゃねえぞ」

 

 しかしマギがクウネルが偽名だと直ぐに分かった。クウネルはおやバレテしまいましたかとにこやかに言った。

 

「流石に鋭いですね…マギ・スプリングフィールド君」

 

「おい、何でテメェが俺の名前を知ってるんだ?俺はテメェに自己紹介をした覚えはねえぞ」

 

 何故クウネルがマギの名前を知っているのかそれは

 

「彼を…ナギ・スプリングフィールを知っているからですよ」

 

 クウネルの言った事にマギは目を大きく開き驚愕した。

 

「!なんでクソ親父の名前を知ってるんだテメェ!?」

 

 クウネルはマギがクソ親父と言った事に吹き出していた。

 

「それは彼とは友であったからですよマギ君」

 

「…それは本当か嘘かどっちだ?」

 

 マギの言った事にさあどっちでしょうね?ととぼけたように言ったクウネル。それにしてもとクウネルはマギの事じっと見ると

 

「やはり彼の息子だ。所々似ている所がある」

 

「あんなクソ親父と似てるなんて虫唾が走る」

 

 虫唾が走るとは随分と嫌われていますねと小さく笑うクウネル。

 

「如何ですか?ナギの昔話など」

 

 とナギの昔話を聞いてみるか?と誘うがマギはクソ親父の昔話なんて聞きたくもないと断った。

 

「泣き虫の弟と問題児が待っているからな」

 

 と言うと、そうですかとクウネルは呟いた。

 

「ふふっネギ君ですか。彼も面白い成長をしそうですね」

 

「ネギの事も知ってるって事は、俺達の事を見ていたのはテメェだったのか」

 

 そう今迄マギ達を見ていたのはこのクウネルだったようだ。

 

「ふふ。私の趣味は他者の人生の収集でしてね」

 

「……嫌な感じの趣味だなおい」

 

 とクウネルの趣味に呆れるマギによく言われましたと笑ってごまかすクウネル。

 

「さて私達もそろそろ居なくなります。マギ君……君とは近いうちに又会う事になるでしょう。その時には……ネギ君にもよろしくと伝えておいてください」

 

 それと…と言葉を区切ってクウネルが続けた。

 

「それと彼女を…アスナさん(・・・・・)の事は見守ってあげてください。彼女はネギ君やあなたの成長に欠かせない人物になるでしょうから」

 

 それではとクウネルが言い残すと、マギが瞬きをした瞬間にはクウネルとドラゴンは居なくなってしまった。残っているのはマギただ1人。なんか肩透かしを食らった気分である。

 

「クウネル・サンダース。ふざけた野郎だ」

 

 だが…只者ではないと感じた…変人だけど。とネギ達を1階に連れてったエレベーターが戻ってきたようだ。マギはエレベーターに乗り込むとフウと溜息を吐いた。これで一段落着いたようだ。

 

「アイツ等、絶対心配してるだろうな。はぁ」

 

 絶対に何か言われるなぁ……そう思ったマギである。

 

 

 

 

 

 

 

 一足先に図書館島から脱出したネギ達の顔は沈んでいた。マギを置いて行って自分達が脱出したのだ。今頃マギがどうなってしまったのか分からないのだ。

 

「……」

 

 ネギは黙って地底図書室に戻ろうとした。

 

「何処行くのよネギ?」

 

 アスナは静かに尋ねた。

 

「お兄ちゃんを助けに行きます。すみませんが止めないでください」

 

 とネギがそう答えた。ネギの答えにアスナは馬鹿ね……と呟くと

 

「アンタひとりじゃ何もできないでしょ?アタシもついていくわよ」

 

 とアスナがついていくと言った。ネギはありがとうございますとアスナにお礼を言った。

 

「ネギ坊主!中国武術研究会の部長もお供するアル!!」

 

「助けるには数が多いに越した事は無いでござるからな」

 

 と古菲と楓もついてくるようだった。ネギはありがとうございます!とお礼を言った。

 

「このかと夕映ちゃんまき絵は此処で待ってて。直ぐに帰ってくるから」

 

「うっうんきーつけてなー」

 

 このかは心配そうにそうアスナに言った。そんな遣り取りをやっている間に、エレベーターがやって来た。そしてエレベーターのドアが開き始めた。エレベーターに乗り込もうとしてドアが完全に開くと

 

「…おうお前らまたせたな」

 

 エレベーターの中からマギが現れた。ネギ達はまさかマギが出てくるとは思わなく、ポカンとしてしまった。

 

「おっお兄ちゃん無事だったの!?」

 

 いの一番にネギがマギに大丈夫かを聞いて見ると

 

「ん?あぁ別にどうって事ねえぜ」

 

 とさも平気そうにそう言う。ネギはマギの無事具合にポカンとしていたが、次の瞬間には目には涙をためて

 

「うう……お兄ちゃん!!!」

 

 と泣きながらマギに飛びついた。マギは何時もなら嫌がるのだが、今回は特別にネギを抱きしめてあげた。

 

「悪いなネギ。心配かけてな」

 

「いいんだよ。お兄ちゃんが帰ってきてくれたなら」

 

 とネギはマギの事を許してあげた。そんな抱擁をやっているとアスナ達もネギとマギに近づいた。

 

「マギさん大丈夫なの!?」

 

「怪我はしてないでござるか!?」

 

「あのトカゲは如何したアルか!?」

 

 アスナ達もマギが大丈夫かを聞いた。思ったよりも心配されてマギは苦笑いを浮かべた。

 

「ワリィな心配させちまって。俺はこの通り大丈夫だからよ」

 

 マギが大丈夫だと言うと、アスナ達も安心したのか腰を抜かした。

 

 

 

 

 

 夕方、マギ達は学生寮に向かっていた。脱ぎ捨てた服はマギが集めてくれたようで服はちゃんと着ている。

 

「いや~図書館島では散々だったアルな~」

 

「怖い思いをしたけど楽しかったよね~?」

 

 古菲とまき絵が図書館島の出来事を思い出していた。

 

「冗談。俺はもうあんな所には行きたくねえぜ」

 

「あはは」

 

 マギは疲れた様な溜息を吐き、ネギは苦笑いを浮かべていた。それにしてもとアスナがマギを見た。

 

「魔法の本捨てちゃったのよね。少し残念だったなぁ」

 

 魔法の本だがマギがドラゴンと戦うために投げ捨ててしまったのだ。

 

「なんか悪いな。せっかく手に入れた本を捨てちまって」

 

 とマギが謝るが、アスナ達は別にいいわよと気にしていない様子だった。

 

「そもそもアタシ達が変なものに頼ろうとしたのが悪いのよ」

 

「今夕方ですから、期末試験までざっと15時間です」

 

「必死に勉強すればなんとかなるやろー」

 

 アスナ達の言った事にネギは皆さんと呟いて、涙を浮かべる。そんなネギを見てアスナは小さく笑いながらネギの頭を撫でた。

 

「それじゃテストまで死ぬ気で勉強するわよ!!」

 

『おおーッ!!』

 

 アスナが宣言して、このか達も腕を大きく掲げた。期末試験までの残り時間までアスナ達は死ぬ気のテスト勉強を開始するのだった。

 アスナ達2-Aは無事学年最下位を脱出できるのか……?運命の期末試験は遂に明日と迫っているのだった………




はい今回出た原作のキャラはドラゴンとクウネル・サンダースでした。
今回の展開で有りえないとか可笑しいと思った読者たちも居ると思います絶対に
申し訳ありませんが、この展開は前々から考えていたものでこのように原作のキャラが
先に登場するという事がありますがご了承ください

次回の期末試験は短めでやるつもりなので待っていてください


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期末試験 その結果は……?

今回は短いです
なお今回からは日常の話は4千字から1万文字以内
バトル系の話は1万から3万以内に纏めようと思います

今回の話はほぼ原作沿いです
それではどうぞ


 期末試験当日、あいも変わらず2-Aは騒がしいが、今回は楽しくワイワイ騒いでいるわけではなかった。と言うのも

 

「もう予鈴が鳴ってしまいましたわよ!あの五人組(バカレンジャー)はまだ来ませんの!?」

 

 あやかの言う通りテスト前の予冷が鳴っても、アスナ達バカレンジャーが来ていないのだ。さらに最悪な事に、試験の教師が教室に入ってきたのだ。

 

「くっ!…このまま5人分の全教科が0点扱いとなると、いくらバカレンジャーとはいえでも2-Aの平均点は大幅に下がってしまいますわ…そうなればクラス最下位は確実…ネギ先生とマギ先生はクビに…」

 

 ならば!とあやかは振り返り、教室に居る生徒を見渡して

 

「皆さん!こんかいは1人15点増しでよろしく!!」

 

 と無理難題を押し付けてきた。

 

「いやいいんちょ、そりゃ無理だって…」

 

 和美があやこにそう言った。いきなりいつもより15点を取るというのは無理である。普通だったら無理だろ絶対に……と裕奈が周りを見渡すと

 

「あれ?よく見たら図書館探検部の3人も居ないよ」

 

 裕奈の言った通り、このかとハルナにのどかが居なかった。さらにのどかは二桁の順位で、このかは100位と言う成績上位者(ハルナはそこまで順位は良くない)である。のどかとこのかが居ないのもかなりの大打撃である。

 

「わーーッ!もう駄目やーー!!」

 

 と亜子が絶望的な悲鳴を上げた。と不意に夏美が教室の窓から外を見ていると

 

「あッ皆見て!」

 

 と窓の外を指差した。他の生徒達も窓の外を見てみると、学校に向かって全力疾走で向かっている生徒達の姿が見えた。というのもその生徒達こそが…

 

「バカレンジャーが来た!図書館組とネギ先生とマギさんも一緒だよ!!」

 

 夏美がそう言った。バカレンジャーと図書館組とネギとマギが何故全力疾走をしているのかと言うと

 

「最後の悪あがきに徹夜で勉強していたら遅刻アル~~!!」

 

「1時間で起してくれって言ったのに爆睡しちゃったじゃない!!」

 

 如何やらアスナの言う通り徹夜でテスト勉強して、1時間ほど仮眠をとって勉強を再開しようとしたが爆睡してしまった様だ。テストの前日によくやってしまうパターンである。

 

「ご…ごめんなさーい!」

 

「私達も寝てもうたー」

 

 と起こす係りはのどかとこのかだったようだが、この2人も寝てしまっていたようだ。

 

「それにしても…」

 

 とアスナ達は一斉にマギを見そして苦笑いを浮かべていた。何故マギを見たかと言うと

 

「zzzzzzzzz」

 

 寝ながら走っているのだ。何故マギが未だに寝ているのかと言うと、徹夜のテスト勉強にはマギもアスナ達の勉強を手伝っていたのだ。それが結構遅くまでやっていたのだ。ドラゴンとの戦闘の後に徹夜でのテスト勉強に体が限界を迎えたのだ。そのため、さっきから寝ながら行動しているのだ。器用と言うか奇怪と言った方がいいかもしれない。

 

「アスナ~~!早くしないとテストが始まっちゃうよ~!!」

 

 桜子が窓から手を振りながらそう言った。

 

「すッすみません!遅刻しました!」

 

 と丁度アスナ達の前に新田先生が現れ、アスナが新田先生に遅刻したとそう言うと、新田先生はあぁ君達かとそう言いながら

 

「遅刻組は別の教室でテストを受けなさい」

 

 と新田先生に連れられ、アスナ達は別の教室に向かう事になったが、足取りがフラフラで何処か危なそうだった。それを見たネギは不安なってしまい

 

「みッ皆さん試験頑張って!僕図書館島では皆さんの脚を引っ張ってしまったり、お兄ちゃんに頼りっぱなしだったけど僕…僕は…」

 

 ネギは何かを言いたげであったが、アスナ達は顔を見合わせながらも

 

「ま…まかしといて~」

 

「徹夜で勉強したんだから何とかなるアルよ~」

 

「ずっと勉強に付き合ってくれてありがとうです」

 

「後は任せるでござる~~」

 

 まき絵と古菲に夕映と楓が空元気で大丈夫だとネギに笑いかけて、いるのだが

 

「ハハ…ハ」

 

 と全然自身がなさそうだし、空元気ではなく本当に元気がからっからであった。本当に大丈夫か心配である。そんなネギの肩をアスナが叩いた。

 

「大丈夫よネギ。アタシ達にも意地ってものがあるんだからさ…何とか下から2番目位にはなってあげるから、アンタは安心して休んでなさいよ」

 

 アスナがそう言っているがネギは心配だった。何故ならアスナ自身もフラフラで危なげなかった。そして皆はフラフラの足取りで遅刻組の試験会場に向かって行った。

 

「アスナさん…皆さん…」

 

 ネギは不安な表情でアスナ達を見送った。

 

「…不安か?ネギ」

 

「!お兄ちゃん起きたの!?」

 

 振り返ると、マギが大欠伸をしていた。まぁほんのついさっきに起きたんだけどなとマギがそう言った。

 

「彼奴らが必死になって勉強したんだ。大丈夫だと信じろよ」

 

「う…うん…でも…」

 

 マギが心配するなと言ってもネギは、何処か不安そうだった。そんなネギを見てマギは頭をポンと叩くと

 

「まぁ今はアイツラを信じて俺達も行こうぜ」

 

 そう言ってネギとマギも校舎に入るのだった

 

 

 

 

 

『では試験を始めて下さい。各試験時間は50分です』

 

 放送アナウンスにより生徒達は一斉に試験を開始した。麻帆良では開始と終了はアナウンスで行うようだ。そして遅刻組も試験を開始したのだが………

 

「む…難しいわね…」

 

「そ…それに眠いアル~」

 

「やっぱ徹夜は失敗だったかな…?」

 

 と呟きがあった。私語をしないと新田先生から注意があった。アスナ達の言った通り、徹夜でテスト勉強をしたせいで頭が冴えなくて集中できない状態だった。そのせいで問題を解くスピードが著しく遅い。

 そんなアスナ達をネギが廊下から眺めていた。

 

(やっぱり皆この3日間、探検と勉強で疲れているんだな…それにアスナさんは怪我してるし…よし、もう魔法も使えるんだし)

 

 とネギは魔法で一輪の花を召喚させると

 

「ラス・テル・マ・ス キル・マギステル…花の香りよ仲間に元気を、活力を健やかな風を レフェクティオー」

 

 花の甘い香りをアスナ達に風で運んであげた。花の香りを嗅いだアスナ達は

 

(…ん?なんかいい匂い…)

 

(なんか頭がすっきりしてきた)

 

(やる気が出て来たアルよ~)

 

 眠気が急に無くなり、頭がスッキリしたおかげで集中できるようになった。すっかり調子が戻ってきたアスナ達はスラスラと問題が解けるようになった。アスナ達が何も問題が無いと分かると、ネギはアスナ達に手を振りながら

 

(僕が出来るのは此れぐらいだ…皆頑張って…)

 

 ネギは教室を後にした。

 

「…フッ」

 

 そんなネギを廊下の壁によりかかり、咥えタバコをしていたマギが静かに笑っていた。そんな遣り取りをやっている間にもテストは予定通りに進みそして……

 

 

 キーン コーン カーン コーン

 

 

 全てのテストが終わった。

 

『テストが終了しました。筆記用具を置いて答案を回収してください』

 

 終了のアナウンスのより生徒がやっと肩の荷が下りたと言わんばかりに、体を大きく伸ばしていた。一方遅刻組はと言うと

 

「どう!?出来た?」

 

 とアスナがテストが出来たかと聞いてみると

 

「…」

 

「や…やるだけやったアル」

 

 まき絵は無言、古菲はやるだけやったと答えた。どちらも燃え尽きた様だった。他のバカレンジャーの夕映や楓もいっぱいいっぱいの様だ。テスト答案を回収した新田先生は今度から遅刻はしない様にとアスナ達にそう言うと教室を後にした。新田先生が教室を後にした丁度に

 

「おお新田先生、そのテスト答案は遅刻組のものかね?」

 

「ああ学園長、何故こんな所に?」

 

 と学園長が居たのだ。新田先生は何故こんな所に学園長先生が居るのか尋ねると

 

「ふぉッふぉ…いや何、遅刻組の様子を見に来ただけじゃよ、所で…そのテストの答案じゃが、ワシがやろうと思うのじゃが、構わないかね?」

 

 学園長の頼まれ新田先生は答案用紙を学園長に渡した。答案を渡された学園長はさっそくアスナ達の答案の採点を始めた。答案に○と×が付けられる。

 

「ほう…フォッフォッフォ…なるほどのぉ~」

 

 と終始呟きながら学園長は採点を続けていた。はたしてアスナ達のテストの点数は何点なのか……そして2-Aは無事に最下位を脱出することが出来るのか……

 

 

 

 

 

 

 テストが終了した翌日の昼休みにクラス成績発表日。発表会場の開けた場所には大きなスクリーンがあって、そのスクリーンの前にはたくさんの生徒が居た。また学生食堂でもクラス成績発表の中継が行われていた。

 

「しかしなんだこの人だかりは…?鬱陶しいなあおい…」

 

 とマギが周りに生徒がいるせいで鬱陶しいと感じていた。

 

「本当何でこんなに…たかがテストでこんなにバカ騒ぎしてるのかしらこの学校は…」

 

 とアスナもマギの言った事に同意するのと同時に呆れていた。

 

「うう…ドキドキする~」

 

 まき絵は成績発表で2-Aが最下位になっていないかとドキドキしていた。

 

「私S-Bに食券10枚賭けたアル」

 

「まぁ鉄板ですね」

 

 と古菲と夕映が賭け事の話をしていて、どうやら古菲が成績発表の賭け事をやっていたようだ。

 

「もう!くーふぇに夕映は呑気に賭け事なんかして!もし私達が最下位を脱出出来なかったらネギ君とマギさんは…」

 

 とまき絵が少し怒りながら古菲に言った。古菲はまき絵に言われネギとマギがクラス最下位になるとどうなるか思い出した

 

「そうっだったアル…クラス最下位になったらネギ坊主とマギさんがクビに…」

 

 改めてクビとなるかもしれないと考えると、ネギはシュンと不安そうな顔になってしまった。

 

「大丈夫やてネギ君、皆頑張ったんだしな」

 

 このかがネギを元気づけてあげ、ネギも少しは安心したような感じだった。

 

「おいそろそろ発表が始まるみたいだぞ」

 

 マギの言う通り、マイクを持った1人の生徒がスクリーンの前で立っていた。如何やら彼女がこの発表会の司会なのだろう。

 

『大変長らくお待たせしました!これから第2学年のクラス成績をよい順に発表していきます!まず最初に2学年のテスト平均を発表します!テスト平均点は73.4点です!では早速第1位のクラスを発表します!第1位は2のえ…』

 

「うそ!」

 

「もしかしてAが1位アルか!?」

 

 まき絵と古菲がAクラスがまさかの1位かと思ったが

 

『…F組です!クラス平均は80.8点です!』

 

 Aが1位ではなく一斉にずっこけたネギ達。

 

「あ~あ~やっぱ2-Aが1位じゃなかったか~食券50枚も賭けたのにな~」

 

「だからむりだったて~」

 

 食堂では桜子が食券を2-Aに賭けていたもようだ。桜子は運が良く賭け事にはよく当たっていたのだが、今回は駄目だったようだ。

 

『続いて第2位です!第2位はえ…』

 

「よし!今度こそ来い!!」

 

 まき絵は今度こそAの名前が来てほしいと願った。

 

『S組!平均点は79.8!!』

 

「あちゃ~~!」

 

 とまたもや違っていた。その後もクラス順位が発表されていったが、未だに2-Aが呼ばれずに遂には10位の発表となってしまった。

 

『第10位は2-M!11位は2-Cです!!』

 

「ちょッ!もう10位と11位ですわよ!?」

 

「う~んまずいかもネ」

 

「かなり自信はあったんだけどな」

 

 同じく超のパソコンでクラス発表を見ていたあやかや和美に聡美に千鶴も未だに2-Aが発表されていないのが不安になってきた。さらに最悪な展開で、次々と順位が発表される中2-Aが出てこない中発表のクラスが3クラスまでとなってしまった。

 

「どッどうしようアスナ~」

 

「まッまあ落ち着いて!あと3クラスが残ってるんだし!」

 

 涙目でオロオロとしているまき絵をアスナが安心させようとした。そんな2人をマギは黙って見ていた。

 

『最後になりましたクラス発表ですが、下から3番目の22位は…2-P!70.8点です!!』

 

 と下から3番目にもAは入っていなかった。

 

「ちょッマジでヤバいよ!次Aが出てこなかったら最下位決定だよ!」

 

 ハルナが慌てた口調で口走った。ネギは不安そうに汗を流しながら次の発表を待っていた。そんなネギを見ているアスナとこのか。

 

『次は下から二番目のブービー賞です』

 

 次のブービー賞にAが来ることを必死に願っているアスナ達。はたして願いは届いたのだろうか

 

『ブービー賞は…2-kですね平均点は69.5でした』

 

 ブービー賞を聞いて、ネギとアスナ達はポカンとしてしまった。ブービー賞に2-Aが入っていないという事は

 

 

 

 ――――――――クラス最下位決定―――――――――

 

 

 アスナ達が未だに呆然としている間に、ネギは黙って発表会場となった広場を後にした。唯一ネギが居なくなったのに気付いたマギはハァと溜息を吐いて、ネギを追いかけた。

 

「いや~いかんいかん!発表会は生徒達が勝手に始めてしまうんじゃった」

 

 学園長が何かを持ちながらそう呟いていると、学園長の隣をネギが突っ走っていった。

 

「ん?今のはネギ君じゃな?如何したのかの?」

 

 学園長は何故ネギが走っているのか疑問に思っていると、数秒後にはおいジーさんとマギがやって来た。

 

「おいジーさん今ネギが此処に来なかったか?」

 

「ああネギ君なら今さっきあっちの方に行ったぞい」

 

 と学園長がネギが走り去って行った方を指差した。マギはそっか悪いなと言いながら、ネギが走り去って行った方に向かって同じく走り去ってしまった。学園長はマギを不思議そうに見ていたが

 

「おお、そんな事よりも早くこれをクラス発表をしている生徒に渡さないとのう…」

 

 とそう言いながら学園長は急いで走って行った。

 

 

 

 

 麻帆良学園の駅に向かっている2人の影、ネギとマギである。2人は麻帆良学園に来た時と同じ格好であった。何故2人がこの恰好なのかと言うと、クラス最下位が決定したため2人はこれ以上麻帆良に居ても意味が無いとネギは想い、麻帆良に持ってきた物を持って麻帆良を去ろうとしているのだ。マギはメンドクサイと思いながら持ってきた私物を持っていた。

 

(お姉ちゃん…今から故郷に帰ります。立派な魔法使いになるっていう夢は駄目だったけど…だけど皆頑張ってくれて嬉しかったな…)

 

 ネギは目に涙をため、流れない様に涙を拭っていた。そんなネギにマギは静かに笑いながらネギの頭を優しく撫でていた。

 

(はぁ~これで俺は故郷に帰ったらネギよりも小さいガキと一緒に又勉強か…これも今までめんどくさがっていた罰なのかもな。やれやれだぜ…)

 

 とマギは半ばあきらめモードであった。そして互いに無言で遂に駅にたどり着いてしまった。

 

「子供1枚と大人1枚で新宿まで」

 

 ネギが駅員に頼み、切符をもらうと改札を通ってホームへと向かった。これで麻帆良とはさよならだと思うとこの学園も見納めかと思いながら最後だけもう一度麻帆良学園と見ようと振り返ると

 

「ネギ!!」

 

 其処には今まで全力疾走して息が切れているアスナが居た。ネギはアスナがいる事に驚いていた。

 

「ごッゴメンネギ!アタシ達のせいで最終課題に落ちちゃって…!!」

 

 アスナがネギに謝っていたが、ネギはいいんですよ…とアスナにそう言った。

 

「誰のせいでもないですよ…魔法の本なんかで受かっても駄目ですし、結局教師として未熟だったんです」

 

 何よりも…とネギは続けた。

 

「クラスのみなさん…特にバカレンジャーの皆には感謝しています。短い間でもすごく楽しかったですし」

 

「ちょッちょっと!そんな簡単に諦めちゃうの!?マギなんとかになって、サウザントなんとかを探すんじゃないの!?」

 

 アスナに自分の目標を言われ、ネギは黙ってしまった。

 

「…さようなら!!」

 

 ネギはこれ以上何も言わずにアスナの前から去ろうとしたが

 

「だから…行っちゃダメだって言ったでしょ!!!」

 

 アスナは改札口を飛び越え、ネギを後ろから抱きしめた。

 

「そりゃ最初はガキでバカな事ばかりするから怒っていたけど…アタシなんかよりちゃんと目的持って頑張ってるから感心したのよ!なのに…」

 

 ネギはアスナがこれほどまでに自分を見ていた事に驚き、マギはそんなアスナを優しく見てた。

 

「おーーいネギ坊主!!」

 

「ネギ君待って~!!」

 

 と古菲やまき絵達バカレンジャーと図書館組も追いついてきた。ネギは追いついてきた皆を見て涙があふれてしまった。

 

「いッいまさら会わせる顔が無いです!さよならアスナさん!!」

 

「あちょっとネギ!!」

 

 ネギはアスナの拘束を振り切り、走り去ろうとした。そんなネギを見てマギはったくと呟きながらス…と自分の足をネギの足に引っ掛けた。

 

「え!?へブ!!」

 

 マギに足を引っ掛けられ、ネギは盛大に転んでしまった。

 

「少しは待ってやってもいいんじゃねえかネギ?」

 

 マギがそう言っている間にもバカレンジャーや図書館組が改札口を飛び越えてネギの元へ向かって行った。

 

「ネギ君!もう一度おじいちゃんに頼みにいこ!な!?」

 

「そうだよネギ君こんな子供なのに酷過ぎるよ!」

 

「もう一度テストをやらせてもらうアル!!」

 

「で…ですが最終課題は僕も納得のうえですから…」

 

 このかとまき絵と古菲がネギを説得していた。俺の事はスルーか…とマギはそう思ったが、別段気にしては居なかった。このかが学園長にもう一度頼もうと言っていると

 

「フォフォフォ…ワシを呼んだかのう?」

 

 と学園長が現れた。ネギ達は何でこんな所に来たのか分からなかったが、いや~~済まなかったのうと行き成り謝りだした。何故学園長が謝ったのかと言うと

 

「実はの…遅刻組の採点をワシがやっとってのう。うっかり2-Aの全体と合計するのを忘れてしまったのじゃよ。いやぁおかげで報道部の生徒に怒られてしまったわい」

 

 ネギ達は学園長が言った事にポカンとしていたが

 

「えぇなんですかそれ!?」

 

 ネギが驚愕しながら学園長にツッコんだ。

 

「それってうちらの8人分の点数が入ってへんっていう事やろ?」

 

「じゃあひょっとすると2-Aが最下位じゃないって事も…」

 

 このかとハルナのいう事が本当ならかなり希望が見えてくるがしかし

 

「けどバカレンジャーの私達の点数を足してもあんまり上がらないんじゃ…」

 

 まき絵はバカレンジャーの自分達は余りテストの出来が良くないのではないかと不安になっていた。

 

「では此処で発表しようかのう。まずは佐々木まき絵君じゃ」

 

 と行き成りまき絵のテスト発表をすることとなった。当のまき絵は緊張の余り生唾を飲み込む。

 

「平均点66点よう頑張ったのう」

 

「えッ嘘!?66点!?」

 

 まき絵は驚きを隠せなかった。66点なんて今まで取った事が無いからだ。

 

「部活熱心なのはいいが、もちっと勉強面にも力を入れてほしいのう」

 

「は…はい」

 

 まき絵は照れながら頭を掻いていた。

 

「次に古菲君67点、長瀬楓君63点…この調子で頑張るのじゃぞ」

 

 古菲と楓も今まで取った事の無い点数で、古菲は学園長に本当アルか!?と改めて聞いたら本当じゃよと頷き返す学園長。

 

「綾瀬夕映君は63点いつもこのかが世話になっとるのう…普段からもっとまじめにの」

 

(ヤダです…)

 

 と心の中でヤダと言った夕映である。

 

「早乙女ハルナ君81点、宮崎のどか君95点、このか91点…このへんは問題ないのう」

 

 とハルナにのどかとこのかは高得点を獲得していた。そして最後に残ったのは…

 

「最後に神楽坂明日菜君」

 

「はッはい!」

 

 自分が最後に呼ばれたのは若しかしてまた自分だけ悪かったのか?と思ってしまい、学園長が笑ったのを見るとやはり駄目だったのかと思ってしまった。しかし学園長から出た言葉はまるっきり逆だった。

 

「…71点よう頑張ったのうアスナちゃん」

 

「へ?…あ…はい」

 

 アスナは呆然としてしまった。バカレンジャーの中で一番頭が悪かったアスナが一番出来ていて、さらに平均点が70点台を取るという事が信じられなかった。

 

「あ…そうれじゃあ学園長!」

 

 アスナが聞きたい事が分かっているのか、学園長はウムと頷きながら

 

「この8人の点数を合計すると平均点が81.0となり0.2の差で…なんと2-Aがトップじゃ!!」

 

 学園長がトップと言った瞬間に

 

『やッヤッタァァァァァッ!!』

 

 麻帆良にいる2-Aの生徒が大歓声を(食券が大儲けした桜子は狂喜乱舞した)挙げた。

 

「で…でも魔法の本が無いのにどうやって!?」

 

 ネギはそれが疑問だったが、別にそんな事いいじゃねえかとネギの頭に手を置いたマギ。

 

「魔法の本なんか得体の知ねぇモンに頼らなくてもアイツラはしっかり出来たんだ。今はそれを喜ぼうぜ?」

 

「そうじゃなあ…今回は全てみんなの実力じゃよ実力」

 

 学園長が言った事にネギははぁ…と呟いた。それにと学園長は言葉をさらに続けた。

 

「最終課題はネギ君は子供で有りながらも今後も先生としてやっていけるのか、マギ君はネギ君や生徒達を支えてあげ、生徒達を信じてあげるかを見たかったのじゃ。図書館島でのトラップにめげずに最後まで生徒を信じてあげるとはよう頑張ったのう。おまけに学年トップになるとは大したものじゃ」

 

 よって…と最終課題の結果は言うまでもなく

 

「文句なしの合格じゃネギ君マギ君!これからも精進するようにな」

 

「あッハイ!!」

 

「首の皮が繋がったようだぜ…」

 

 ネギは合格したことに喜び、マギはとりあえずは大丈夫かと安心していた。そしてネギはアスナの元に行き

 

「アスナさん…僕」

 

「ははは良かったねネギ…ま、とりあえず新学期からはよろしくね?」

 

「はッはい!よろしくお願いします!」

 

 アスナはネギの頭を撫でながら、マギの方を向いて

 

「マギさんもこれからよろしくね」

 

「まぁよろしくな」

 

 アスナによろしくと言われ、マギも宜しくと返した。

 

「よ~し!ネギ君を胴上げだ!!」

 

『お~~!!』

 

 まき絵がネギを胴上げしようと言い、古菲や楓やハルナなどがネギを胴上げし始めた。ネギが胴上げされている所をマギは一々騒がしい女たちだなと思っていた。そんな彼女たちの学校生活がこれからが本当の始まりなのだ。

 

「まったく…やれやれだぜ…」

 

 とマギは溜息を吐きながらお決まりの台詞を言った。だがその表情は晴れ晴れとしていた。

こうしてネギとマギは無事に担任と副担任へとなったのであった。

 

 




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ネットアイドル ちうだぴょ~~~ん!

今回は早く出来たんですが
マギのキャラが今回可笑しくなった気が……
とりあえずどうぞ


 ネギとマギが正式に先生となり、終了式。ネギは爽やかな顔で、マギは何時もの通り眠そうな表情で学校に向かって行った。

 

 

「う~んいい天気だな~終了式日和だよ!」

 

 

「そうかぁ?何時もの一緒の天気じゃねぇか…フワァァァ~」

 

 

「って!お兄ちゃん今日で2学年最後の学校なんだからもっとしっかりしてよ!!」

 

 

 分かってる分かってるって…そう言いながらも呑気に欠伸をしているマギ。そんなマギを苦笑いしながら見ていたアスナとこのか。

 

 

「あッネギ君マギさんお早う!!」

 

 

「ニーハオネギ坊主!マギさん!!」

 

 

 とまき絵と古菲がネギとマギ挨拶してきて、ネギとマギは挨拶を返した。

 

 

「おはよー!ネギ君!!」

 

 

「おはようございます桜子さん!!」

 

 

 と桜子も後ろから現れネギに挨拶をした。ふとネギが前方を向いてみると、本を読みながらゆっくりとした歩きで学校に向かう生徒が居た。彼女は2-Aのクラスの1人で

 

 

「おはようございます!え~と長谷川さん!」

 

 

「あんまりゆっくりしてると遅刻するぞ千雨」

 

 

 ネギは一瞬だが千雨がだれだか分からない様子だったが、マギは普通に千雨に話していた。

 

 

「おーッ!2-Aの中でも目立たない生徒の方の千雨ちゃんを覚えているなんて教師の鏡だねネギ君とマギさんは!!」

 

 

「いえ…あの…」

 

 

「おい桜子、本人の目の前でそういうのを言うは失礼じゃないのか?」

 

 

 ネギはなんと返していいのか分からず、マギは桜子に失礼だと注意した。そしてネギ達が去って行くと、千雨は

 

 

「…ったく遅刻でもないのに何元気に走ってるんだアイツラ…ガキかっつーの」

 

 

 と吐き捨てるように呟いた。千雨は今日も何にもない退屈だが、いつも通りの学校生活が始まると思っていた。しかし終了式最後の学園長の話で

 

 

 

 

『フォフォフォ皆にも一応紹介しておこうかのう。新年度から正式に本校の英語教員となるネギ・スプリングフィールド先生と、同じく歴史教員となるマギ・スプリングフィールド先生じゃ。4月からはネギ先生とマギ先生には3-Aでネギ先生が担任でマギ先生が副担任をしてもらう予定じゃ』

 

 

 と学園長の報告に千雨が

 

 

(なッなにぃぃぃぃッ!?)

 

 

 と驚きと絶望の混じった表情になった。彼女の求める普通の学園生活がさらに遠のくのであった…

 

 

 

 

 

 

 終了式終了後、ロングホームルームにて2-Aの教室では

 

 

「という訳で2-Aの皆さん、3年になっても宜しくお願いします!!」

 

 

「まぁ3年になっても宜しくな。あと色々とメンドイ事を起すなよ?俺がメンドイはめになるからな」

 

 

 とネギとマギが生徒達に3年になってもよろしくとあいさつをした。

 

 

「よろしくネギ先生マギさん!!」

 

 

「ネギ先生マギさんこっち向いて!」

 

 

 と和美がカメラを持って、ネギとマギの写真を撮ろうとしていた。ネギ君見て見て!!とまき絵が花のトロフィーを持っていた。

 

 

「コレ学年トップになったら貰える花のトロフィーだよ!!」

 

 

 まき絵がトロフィーを上に掲げながら皆に見せていた。生徒達はおぉー!と歓声を挙げながら

 

 

「これも皆ネギ先生とマギさんのおかげだね!」

 

 

「ネギ先生とマギ兄ちゃんが居れば3年の最初の中間テストもトップ間違いなしだね!」

 

 

 裕奈と風香がネギとマギを褒め称えていたが

 

 

(え何故!?)

 

 

 と千雨が裕奈と風香が言っていることが理解できなかった。

 

 

「その通りですわ…ネギ先生、マギ先生そして皆さん。万年ビリの2-Aがネギ先生のお力とマギ先生の私達を信じる心が中心となり固い団結力でまとまったのが今回の期末テストの勝因!クラス委員長としても鼻が高いですわ」

 

 

 そう言いながらあやかはネギの手を取りながら片膝をつくと

 

 

「今後とも私達クラス一同よろしくお願いしますわ。ネギ先生マギ先生」

 

 

「あははは…はいよろしくお願いします」

 

 

「クラス一同あんまり面倒な事をやらないようにな」

 

 

 とクラス中がワイワイガヤガヤと騒いでいる中、千雨だけが

 

 

(ちっ…違うだろ!?あのガキとガキの兄貴は何もやってねぇだろ!?まあ兄貴の方は軽くテスト勉強しただけだろうけどガキの方は脚引っ張っただけじゃねぇか!おまけに1日授業サボったくせに…)

 

 

 千雨はネギとマギのおかげでトップに成れたなんて思っていないようだ。

 

 

(…それ以前に10歳のガキと高校2年ぐらいの歳の男が担任副担になっていいのかよおい!?立派な労働基準法違反だろ!?誰かそこの所ツッコめよ!!)

 

 

 千雨はプルプルと震えていると、ハイ先生と風香が手を上げてた。

 

 

「先生意見があります!」

 

 

「はい何ですか?風香さん」

 

 

 ネギが風香の意見とやらを聞いてみた。

 

 

「ネギ先生は10歳でマギ兄は17歳なのに先生なんてやっぱり普通じゃないと思います」

 

 

 風香の言った事に周りが若干ザワザワとし始めた。

 

 

(おッ!?よーしよーしやっぱそう思うよな!やるじゃないか双子のツリ目の方!もっと言ってやれ!)

 

 

 千雨はツッコんでほしい事を言ってもらえて内心嬉しそうだった。しかし風香が言った事は千雨の言ってほしい事の斜め上の事だった。

 

 

「それで史伽と考えたんですけど今日この後全員で『学年トップおめでとうパーティ』をやりませんか?」

 

 

「おー!そりゃいいね!!」

 

 

「やろーやろー!じゃヒマな人は寮の芝生に集合ね!!」

 

 

 風香のパーティに大賛成な裕奈と桜子と他の生徒達はパーティのやり方を進めて行った。そして思っていた事の斜め上の事を聞かされた千雨はというと

 

 

 

 ガタッ!ゴンッ!!

 

 

 

 肩からずり落ち、机に額を強打した。涙目な千雨は

 

 

(前フリと関係ないだろそれは!何皆で大喜びしてるんだ!?だから私はこのクラスのこういう所について行けねーんだよ!!)

 

 

 と千雨はさっきより怒りで震えていると、ネギが千雨の事が気になったのか千雨に近づいて

 

 

「如何したんですか長谷川さん寒気でも?」

 

 

 と千雨に大事ないかと尋ねると、千雨はピクッピクッとしながらネギの方を向いて

 

 

「いえ…別に…ちょっとおなかが痛いので先に帰らしてもらいます」

 

 

 そう言うと、千雨はネギの返事を聞かずに教室を出て行った。ネギはさっさと帰ってしまった千雨を呆然と見ていた。そんなネギを見ていた夕映が

 

 

「あぁ千雨さんですが…何時もああなんで放っておいていいんですよ」

 

 

「それよりも寮に戻ってパーティの準備しようよネギ君」

 

 

 夕映が千雨は放っておいていいと言っていたが、ネギは千雨が気になってしまっているようであった。

 

 

(長谷川さん…クラスの皆と上手く言ってないのかな…?)

 

 

 ネギはクラスの皆で仲良くなってほしいと思っている。だから千雨もクラスメイトと仲良く欲しいと思っている。

 

 

「お兄ちゃん…悪いけど…」

 

 

 ネギはマギを見ながら申し訳なそうに言った。マギはと言うと溜息を吐きながら

 

 

「まぁ分かってたけどな…メンドクセェな…」

 

 

 と言いながらネギの頭に手を置くとさっさと行こうぜと言って先に教室を出て行った。ネギはマギの後姿を見てニッコリと笑った。

 

 

「あれ?ネギ君何処行くの?」

 

 

 と桜子が何処に行くのかと聞いてみると、ネギは

 

 

「皆さんはパーティの準備をしていてください僕とお兄ちゃんは…長谷川さんをパーティに誘ってみます」

 

 

 そう言い残すとネギもマギを追いかけた。教室に残されたアスナ達生徒はさっそく寮に戻ってパーティの準備に取り掛かる事にした。

 

 

「ネギ君が長谷川誘うって言ったけど上手くいくかな?」

 

 

「無理無理、長谷川こういう誘いに絶対に来ないじゃん?」

 

 

「言っちゃ悪いけど根暗だよね千雨ちゃん」

 

 

 裕奈と美砂にまき絵が千雨の事をそう言っていた。

 

 

「あぁ一人の生徒を気にして声をかけるなんて…ネギ先生立派ですわ!!」

 

 

「アンタはそればっかねいいんちょ…」

 

 

 何時もの様にネギを褒め称えるあやかに呆れたような苦笑いを浮かべたアスナ。ネギとマギは千雨をパーティに誘う事が出来るのか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子寮へと続く道、女子寮に帰ろうとしていた千雨はズンズンズン!と言う擬音が使われると思われるほどの歩き方をしていた。顔は不満が滲み出ていた。

 

 

(だいたいだ…そもそも2-A(このクラス)自体可笑しんだよな…一年のころから思ってたけど異様に留学生が多いし、なんか中学生にしてはデカいのやら幼稚園児にしか見えやない奴とか…)

 

 

 だいたい!と遂には我慢の限界になった千雨は天を仰いで叫んだ。

 

 

「大胆なんだよあの絡繰って奴は!?如何見たってロボットじゃねえか!なんで皆ツッコまねえんだよ!!」

 

 

 此処までの言動で千雨がどういう人物か言うのか分かったかもしれない。彼女は簡単に言えばごく普通の学生であるため、2-Aの非常識さに頭を悩ませていたのだ。それがネギとマギが現れた事にさらに拍車がかかったのだ。

 

 

「ムキ~~!!あたしの普通の学園生活を返せ~~~!!」

 

 

 遂には頭を掻き毟る千雨。そんな事をやっていると

 

 

「は…長谷川さ~~ん」

 

 

 と千雨が頭をかいてるとネギとマギが追いついてきた。千雨は一気に嫌な顔になる。

 

 

「…何か御用ですか?(こいつ等どうやって追いついたんだ?学校からの電車には乗って無かったけど…)」

 

 

 千雨はネギとマギを怪訝そうな目で見そうになったが堪え、平静を装ってネギとマギに何か用かと尋ねた。

 

 

「い…いえさっきおなかが痛いって言っていたので、故郷のおじいちゃんから貰った凄く効く腹痛薬を持ってきたんです。おひとついかがですか?」

 

 

 とネギが千雨に腹痛薬をすすめてきた。

 

 

「まぁとりあえず飲んどけよ。結構効くから」

 

 

 とマギも腹痛薬をすすめた。

 

 

「(アホかこいつ等…)もう大丈夫ですよ。治りましたんで」

 

 

 おなかが痛いと言うのは嘘で、千雨はパーティに出るつもりが無かったために嘘の腹痛を装ったのである。ネギはそうですか…と呟いた後に

 

 

「あの長谷川さんはパーティには参加しないんですか?」

 

 

 とネギが改めて千雨に来ないのかと聞いてみても

 

 

「しませんよ。私ああいう変人集団になじめないんです。もう帰りたいのでついてこないでください」

 

 

 千雨の変人集団と言う単語にネギとマギはう~~んと唸ると

 

 

「そうですか?皆さん普通だと思いますが…」

 

 

「まぁ確かに色々とぶっ飛んでる奴らも居るけど変人って言えるレベルか?」

 

 

 と不思議そうにしていていたが

 

 

(どこがだよ!つーかお前らが一番変なんだよ!!)

 

 

 と心の中でツッコんだ。そんな遣り取りをしていると、千雨の腕がプルプルと震え始めた。千雨は急いで部屋に戻ろうとしたが

 

 

「長谷川さんやっぱり寒気がするんですか!?」

 

 

「しません!」

 

 

「じゃあれか?アルコール中毒。だめだよ酒は二十歳になってからだろ?」

 

 

「私は未成年だから酒なんで飲んでません!!」

 

 

 そして千雨はネギとマギを振り切ると、ドアをバタン!と思い切り閉めてしまった。

 

 

 

 千雨の部屋。

 

 

 

「ううう…うわぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 千雨は絶叫しながら、制服の上着を脱ぎ髪を纏めていたリボンを乱暴にとると

 

 

「違うだろ!?フツーの学園生活はこんなもんじゃねえだろ!!?」

 

 

 と怒鳴り散らしながら、部屋にあった数台のパソコンを乱暴に起動させた。

 

 

「ハァ…ハァ…この理不尽さを社会に…大衆に訴えてやる!!」

 

 

 千雨は化粧台から口紅などの化粧を何種類か取り出すと

 

 

「愛されるっていう事がどういう事か!あのガキと兄貴に教えてやるわよ!!」

 

 

 そして千雨は化粧をすると、何かに着替え始めた。数分後に着替え終え、化粧も終えると其処に居たのは…

 

 

「よしッ!オッケー♡今日もちうは綺麗だピョ~~ン♪」

 

 

 先程の地味だった千雨ではなく、化粧もして可愛らしい衣装を纏い美少女になった千雨が其処には居た。そしてパソコンが起ちあがり、とあるサイトに繋がった。サイトの名前は

 

 

 

『ちうのホームページ』

 

 

 

 

 と可愛く修正された千雨がでかでかとあった。如何やら千雨本人が作った自作のホームページなのだろう。と千雨が掲示板に文字を打ち始めた。

 

 

「おハロー(・▽・)qみんな元気~!?今日はとってもイヤな事があったよん(><)iうちのクラスの担任と副担がとってもスケベな変態でぇちうのことイヤラシイ目で見てくるんだよん!!」

 

 

 とネギとマギに対しての嘘の出来事を掲示板に乗せたのだ。するとちうのファンらしき数名からすぐに返事が返ってきて

 

 

 

 許せねえ!なんだそのクソ野郎ども!!

 

 

 俺がそいつらぶちのめしてやろうかちうたん!!

 

 

 でも担任と副担の気持ちも分かるな~~ちうたん絶世の美女だし

 

 

 そうだね~~(*^O^*)ネットアイドルの中では人気№oneだしね~~~

 

 

 

 

 と何人かのファンの返事が自分の思っていたのとおんなじだったのか

 

 

「え~?そんな事無いよぉ~~♡」

 

 

 とニヤニヤしながら自分の事を綺麗だと言うコメントに愉悦を感じている千雨。

 

 

「みんな~何時も応援ありがとう~~(>▽<)/ 今日はいつもちうを応援してくれる皆のためにニューコスチュームをお披露目するよ♫」

 

 

 と千雨は最初に着ていた衣装を脱ぎだすと、ニューコスチュームとなるセーラー服やバニー姿になりカメラに収めているのだ。

 

 

「フフフ…普段は目立たぬ女子中学生!だがその裏の姿は!インターネット界を牛耳るスーパーハッカーにして人気№1のネットアイドル!それが私!!」

 

 

 そして千雨は今さっきとった写真をフォトショップでニキビなどの肌を修正してFTPで写真をアップロードした。

 

 

「さあ見なさい男共!私の美貌を!!あぁ…至福の時…なんて気持ちがいいの…幸せ…」

 

 

 千雨は余りにも嬉しくて、うれし泣きをする始末。そしてネットアイドルランキングで他のアイドルを差し置いて、かなりの支持率を取っていた。

 

 

「よし!来た来たー!!ネットアイドルでぶっちぎりの1位!!フフフ…アハハハハ!そうよ!私は女王なのよ!!いずれはネット界の№1カリスマとなって…世界の男が私の前にひれ伏すのよ~!!」

 

 

 千雨は高笑いしながら自分の野望を叫んだ。

 

 

(あの邪魔な子供教師とその兄も同じ事…私の足元に及ばないわ…表の世界では目立たず騒がず危険を冒さず…リスクの少ない裏の世界でトップを取る!それが私のスタ…ン…ス)

 

 

 と千雨は不意に自分の後ろに人の気配を感じた。まさか…とゆっくりと振り返ると…

 

 

「あ…すいませんドアの鍵があいていたので…」

 

 

「つかお前千雨か?ずいぶんと雰囲気変わってるなおい」

 

 

 件の兄弟先生が千雨の部屋に居たのだ。

 

 

「ぎゃ…ギャ~~ッ!!?」

 

 

 千雨は血反吐を吐くように思いっきり吹き出してしまった。千雨は知られたくないヒミツを一番関わりたくない兄弟にばれてしまったのだ。

 

 

(み…見られた!よりにもよってこの2人に…!!あ…あぁぁぁもう駄目だ…!私のこの秘密の趣味がバレたらクラスの奴らの仲間入り…!!)

 

 

 

 ―――――――――――――2-A(変人集団)にようこそ!変人さんいらっしゃ~~い――――――――――

 

 

 

 それだけは絶対に嫌だ!!

 

 

(け…消すしかない!!こいつ等を殺すしか…なんか凶器は…鈍器は…!)

 

 

 千雨は気が動転して、近くにあった先程撮影に使った人参の置物を手に持つと、ちうのホームページを見ているネギとマギに近づくとそれを振り下ろそうとしたが

 

 

「うわ~この写真全部長谷川さんですか?綺麗ですね!!」

 

 

 とネギの綺麗と言う言葉に千雨は振り下ろそうとした腕をピタリと止めてしまった。そしてそのまま人参の置物を置いた。ネット上ではなくリアルな人に褒められたのは初めてで、千雨は自分の顔が赤く熱くなっているのが感じられた。

 

 

(あ…当たり前だろ。私は人気№1のネットアイドルだし、画像には高度な修正があってだな…)

 

 

 と千雨が顔を逸らしていると、ネギが近づいてきてすみませんと言いながら千雨の眼鏡を取った。いきなり眼鏡を取られ千雨は眼鏡を取り返そうとしたが

 

 

「本当にきれい!素顔も綺麗だ!!」

 

 

「なッ!?」

 

 

 千雨は面と向かって綺麗を連呼され、顔がさっきよりも熱くなっているのが感じられた。そしてネギはコホンと咳払いをすると

 

 

「さ…行きましょう長谷川さん。皆すぐ下の芝生でパーティやってますよ♪」

 

 

 ネギの言った事になッなに言ってんだよ!と声を荒げながら

 

 

「いいから私の眼鏡返せよ!!」

 

 

 と千雨が眼鏡を取り返そうとするが

 

 

「えへへーダメですよ~~」

 

 

 ネギは眼鏡を持ちながら千雨の部屋から出てしまい、千雨は眼鏡を取り返そうとして同じく部屋を出た…バニー姿で。部屋にマギしか居なくなり、マギは溜息を吐きながらも千雨の部屋から出た。

 

 

「でも勿体ないですよ。なんでそんなに綺麗なのに眼鏡で隠してるんですか?」

 

 

 とネギが何故眼鏡を掛けているのかを訪ねてみると、千雨は涙目で追いかけながら

 

 

「わ…私は眼鏡が無いと人の顔が見れないんだよ!!」

 

 

 と答えた。千雨は如何やら極度の人見知りなのか、対人恐怖症のどっちかなのだろう。それに!と続けた。

 

 

「パーティとか嫌いだし、部屋に1人でいる方が性に合ってんだよ!」

 

 

 と千雨の言った事にそうなんですか!とネギは今更ながら驚いていた。

 

 

「でッでも今日くらいはいいんじゃないですか?」

 

 

 だってほら!とネギは大きく手を広げた。

 

 

「今日はこんなに…いい天気ですよ!」

 

 

 雲一つないすがすがしい青空が広がっていた。

 

 

「ね?」

 

 

 ネギはニッコリと千雨に笑いかけた。千雨は思った…そう言えば何時からこうやってちゃんと青空を見なくなっただろう…と。急に何故か恥ずかしくなった千雨は頭を掻きながら

 

 

「ま…まぁ今日ぐらいは変人たちに付き合ってもいいか…終了式だしな…」

 

 

 ぼそりと呟くがネギには聞こえていて、嬉しそうに笑いながら、それじゃさっそく行きましょう!と言いつつも勝手に先に行ってしまったネギ。残ったのはマギと千雨。何処か気まずいと思った千雨だが、ハァァァ~~~とマギが長い溜息を吐いた。行き成り如何したんだと千雨は思ったら

 

 

「悪ぃな千雨。無理につき合わしたりしちまってよう」

 

 

 と千雨は何故マギが行き成り謝ってきたのが分からなかった。

 

 

「あいつは…ネギはまだ10歳のガキだ。真面目で礼儀正しくて頭もいい。だけどなデリカシーの無い時がある。空回りする事があれば何処か抜けている所がある。今回のアイツの行動は最後だし皆で楽しみたいって善意でやった事なんだ。まあ相手の事情を知ろうとしてないけどな。彼奴は善意でやっているつもりだけど、俺からしてみれば単に余計なお世話だと思うぜ。まあ…彼奴も悪気があってやったわけじゃねえから性質が悪いけどな」

 

 

 全く面倒な性格だぜ。と呟いた後にニヤリと笑った。

 

 

「それと千雨。お前って要するに人と接するのが苦手って言うより怖いのか?」

 

 

「そッそうだよ悪いか!?」

 

 

 千雨は図星を突かれて声を荒げたが

 

 

「いや良いんじゃねえか?怖がってもよう」

 

 

 とマギの言った事に千雨はえ?と言葉を零した。そんな千雨を見ながら、マギは懐からタバコを取り出し火をつけた。

 

 

「人間って言うのはな…必ずと言っていいほど誰かと親しくなっても絶対何処かに壁が有ったりする。何か隠し事をしていることが絶対にある。人間って言うのは簡単に他人との壁を乗り越える事は出来ないし、隠し事をすんなりと曝け出すことも出来ねえ…千雨の場合は他人との壁が普通の人よりも分厚いんだよ」

 

 

 と一回言葉を区切ると、タバコの煙を吐き出した。まぁ要するにだと続けるマギ。

 

 

「無理にとは言わねえ、少しづつでいいから色々な人接してみろよ…大丈夫だって、世の中はお前が思っているほどヒデェもんじゃねえはずだぜ」

 

 

「お…おう」

 

 

 千雨はマギに断言されて思わず頷いてしまった。あぁそうだ言い忘れてたとマギは何か言い忘れていたようだ。

 

 

「さっきのお前のサイトに乗っていた写真だけどよ、変に修正せずにそのまま出してみたらどうだ?」

 

 

「なッふざけんな!そんな事すれば一気に人気がなくなるじゃねえか!!」

 

 

 千雨は勝手な指図に憤慨したが、マギは大丈夫だろ?と何処か楽観的にそう言った。

 

 

「お前は自信が無さすぎるんだよ。もうちょっと自信を持ってありのままの自分を曝け出してみろよ」

 

 

「なんでそんな断言出来るんだよ!?根拠はあんのかよ!?」

 

 

 と千雨はマギを指差し根拠は何か聞いた。根拠ならあるぜとマギはニヤリと笑いながら

 

 

「さっきネギも言ってたけど、オメェ普通に綺麗なんだしよ」

 

 

 千雨は又綺麗と言われ顔が赤くなった。

 

 

「オメェは自分の事を地味な奴だと自分で思ってるかもしれない。けどな自信をもてよ。オメェは変に着飾った女よりも普通に綺麗だ…ていうかなんで俺はこんな柄にもないこと言ってるんだぁ?メンドクセェし恥ずかしいぜ…」

 

 

 最後ら辺は何言っているか分からない程ぼそぼそと呟いていたが、まぁ兎に角だ!とマギは千雨を指差しながら

 

 

「さっき言った事に1つ追加だ。テメェはもうちょっと自信をもて。絶対大丈夫だから…って言うか変に説教臭くなっちまったなぁ…俺達も早く行こうぜ」

 

 

 とマギもパーティが行われている場所まで向かった。千雨は黙ってマギについて行った。さっきまで色々と好き勝手に言われたが、不思議と嫌な感じにはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 パーティが行われている芝生には大きな桜の木があり、桜の花が綺麗に咲いている中2-Aの生徒達は食べたり飲んだり騒いだりしていた。そこにネギがやってきてその数分後には遅れて悪いと言いながら、マギが千雨を連れてやって来た。

 

 

「ばッバカ!せめて制服に着替えさせてくれよ!!」

 

 

 千雨が言う様に今の千雨は撮影に使ったバニースーツなのだ。

 

 

「遅いよマギ兄!」

 

 

「あれ~マギさんその子だあれ?」

 

 

 と千雨の周りに生徒達が集まりだし、口々に可愛い可愛いと千雨の事をそう評価した。千雨は大人数に囲まれ顔を隠そうと思ったが、さっきのマギの言葉を思い出した

 

 

 

 

 

 ――――――――テメェはもうちょっと自信をもて――――――――

 

 

 

 

 

 だがさすがに恥ずかしくなってきたようだ。

 

 

「ねえマギさんもしかしてその子って…」

 

 

 とアスナが千雨の事を指差したので限界が来たのか

 

 

「もッもういいだろ先生!?眼鏡返してよ!!」

 

 

 とネギから強引に眼鏡を返してもらった。だが千雨の髪の毛がネギの鼻をくすぐった。

 

 

(あ…まずい)

 

 

 マギがそう思い、ネギのくしゃみを止めようとしたがすでに遅く

 

 

「はッハクションッ!!」

 

 

 盛大なクシャミと同時に武装解除の魔法が暴走し、千雨のバニーが吹き飛んでしまった。

 

 

「おーーッ!!」

 

 

「凄いです!バニーが一瞬で花びらに!!」

 

 

「手品や!!」

 

 

「ネギ君すごーい!!」

 

 

「と言うかあんた長谷川じゃ…?」

 

 

「ちッちが!」

 

 

「ほんとだ千雨ちゃんだぁ!」

 

 

「違う!私は長谷川って女じゃねえ!人違いだ!!」

 

 

「千雨ちゃんヘンタイーー!!」

 

 

 千雨は涙目になりながら自分は千雨じゃないと言い張っていた。そんな光景をマギはこめかみを押さえながら思った。

 

 

(対人恐怖症に拍車がかかったよなこれ…やれやれだぜ)

 

 

 と深い溜息を吐いた。ネギはせっかく千雨がパーティに来てくれたのに皆の笑いものになってしまったせいで顔を蒼白にさせていた。その後パーティはとりあえず続き、制服に着替えた千雨は

 

 

(こいつはいつか消してやる…!!)

 

 

 とネギを恨みの籠った視線を向けていた。そうして2-Aで行われたパーティは一様何も大きな問題もなくお開きとなったのであった

 

 

 

 

 

 

 余談であるが、マギに言われたその後に撮った写真を何も修整せずにアップロードしたらいつもより断然カワイイと大好評で、ランキングでは何時もと同じ1位だったが、何時もよりも10倍もの支持率を獲得していたのであった。これは素直にマギに感謝したと言うのは別のお話

 

 

 




次回はネギは登場しないでマギだけが登場する話です

感想などお待ちしています


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麻帆良 観光ツアー

UAが3万を超しました。
今迄読んでくれている読者の皆様ありがとうございます!
これからも頑張って行きますのでよろしくお願いします!!

活動報告を新しく乗せたのでよかったら読んでください

それではどうぞ!!


 終了式も終わり、2週間しかない春休みを謳歌している中、マギはラフな格好で麻帆良が見渡せる展望台に居た。本当は今日にネギはあやかの家庭訪問に行くという事で、マギも一緒に付き添おうとしたのだが

 

『お兄ちゃんは図書館島の探検や期末試験の勉強で、苦労を掛けちゃったから今日ぐらいはゆっくりしてほしいんだ』

 

『ネギの付き添いはアタシとこのかがやっておくからマギさんはゆっくり休んでなよ』

 

『そういう事やからマギさんはゆっくりしておいてな~』

 

 そう言い残して、ネギ達はあやかの家庭訪問に向かってしまった。マギは最初部屋でゴロゴロしていたのだが、飽きて麻帆良を散歩することにした。そして色々と見て今迄言った事が無い場所などを見て、展望台の今に至るという事である。しっかし…とマギは呟きながらタバコをふかしていた。

 

「本当に広いな麻帆良(ここ)って…とてもじゃねぇが回りきれねえな…」

 

 そう、かなりの規模なのだ。アスナも中等部近辺しか知らないと言っていたのだ。恐らくだが全てを回りきったら1日経ってしまうだろう。それは流石に骨が折れるし何よりメンドイ。そんな事を考えていると

 

「あ!マギ兄ちゃんだ!おーーい!!」

 

 と誰かがマギの事を呼んでいた。マギは呼ばれた方を見た。と言うよりマギの事をマギ兄ちゃんと呼ぶのは特定している。マギを呼んでいたは双子の風香と史伽だった。

 

「今日はマギお兄ちゃん!!」

 

「こんな所で何やっているの?」

 

 風香がマギが何をやっているのかを聞いてみた。マギは咥えていたタバコの火を消して携帯灰皿にしまう。

 

「何って散歩だよ。今日は1日ヒマになったからな」

 

 と言うと風香と史伽はへえ~と言った。

 

「にしても広すぎだろ麻帆良って。全部回りきれねえよな?」

 

 とふうと息を吐きながら麻帆良の規模の大きさに呆れていた。そんなマギを見て何か閃いたのかニヒ!と笑いあうと

 

「だったら私とお姉ちゃんが学園を案内します!」

 

「学園の事ならボク達散歩部にお任せあれ!」

 

 風香の散歩部と言う部活が何なのかと思ったマギだが

 

「名前の通り散歩するだけの部活だよな」

 

 とマギの言った事に風香はとんでもない!と大げさに叫んだ。

 

「散歩競技は世界大会もある知る人ぞ知る超ハードスポーツなんだよ!プロの散歩選手は世界一を目指してしのぎを削って散歩技術を競い合い…『デス・ハイク』サハラ横断耐久散歩じゃ毎年死傷者が続出して…」

 

 と風香がかなり大げさな嘘をついて史伽がおッお姉ちゃん!と風香の服の裾を引っ張って

 

(そんな嘘言ったらマギお兄ちゃん信じちゃいますよ!)

 

(え~いいじゃんマギ兄ちゃんが慌てる姿見てみたいじゃん)

 

 だがマギは呆れた溜息を吐いていた。風香は思っていた反応とは違いあれ?と思った。

 

「あのなあ風香、そんな大げさなホラ話を俺が信じると思うか?」

 

「あッあれ?もしかして嘘だと分かってた?」

 

 風香の言った事に当たり前だと言いながら

 

「まぁネギだったらそんな嘘を信じるだろうけどな…」

 

 と言うとそんな~と風香は自分が嘘を信じてもらえなくてショックを受けていた。

 

「んでお前らが学園を案内するんでいいんだよな?」

 

 と聞いてみると史伽がはいもちろんです!元気よく言った。

 

「じゃあ最初は無難に部活紹介から…」

 

 と部活の紹介をしようとしたら

 

「あッマギさんじゃん!やっほー!!」

 

 とバスケットボールを持ってユニフォームの裕奈が現れた。

 

「おう裕奈か、今部活なのか?」

 

 と聞いてみると裕奈はうんそーだよと答えてくれた。

 

「それじゃ運動部の紹介に行きますよ」

 

「レッツゴー!!」

 

 風香と史伽に連れられ運動部の活動場所に向かうマギ。

 

 

 

 

 

 

 そして到着した運動部の活動場所だがかなり大規模な体育館に到着した。

 

「此処は中等部専用の体育館。21もある体育系クラブの生徒が青春の汗を流してるんだよ!」

 

 と裕奈が自慢するようにマギに紹介していた。マギはかなりの大きさの体育館に驚いていたが、21も体育系クラブが有る事にさらに驚いていた。

 

うち(麻帆良)で強いのはバレーとドッジボールだっけ?」

 

 マギはドッジボールの名前で黒百合の英子を思い出した。余談だが英子だけしつこくマギをドッジボール部に勧誘していたのだ。いまは落ち着いてきた方である。閑話休題

 

「後は新体操とか女っぽいのが強いですよ」

 

「ちなみにバスケはあんまり強くないよ」

 

「ほっとけーッ!!」

 

 風香のバスケは弱いと言う発言にバスケ部である裕奈はツッコミをいれた。

 

「でもバスケか…余り見た事ねえから面白そうだな…」

 

 とマギがそう呟くと裕奈はお?と何処か嬉しそうにしていると

 

「どうマギさんためしにやってみる?」

 

 と聞いてみるとマギはそれじゃためしにと言いながら裕奈がもっていたボールと持つと、ゴールに向かってドリブルを始めた。ゴールに近づくと

 

「よ…っと!」

 

 床を踏み抜いて大ジャンプをしたダンッ!!と言う音が体育館に響く。そして

 

「ほい」

 

 と軽い掛け声と同時に

 

 

 

 ガコォォォンッ!!

 

 

 

 ダンクシュートを決めていた。風香や史伽もちろん裕奈とその他の練習をしていたバスケ部のメンバーはマギが行き成りダンクを決めた事にポカンとしていたが次の瞬間

 

『おおおおおおおおッ!!』

 

 と大歓声を上げた。

 

「すッすごいマギお兄ちゃん!!」

 

「ダンクしている所なんて始めて見たよ!!」

 

「マッマギさんバスケをした事あるの!?」

 

 風香と史伽はマギの事を凄いと褒め、裕奈はマギがバスケをやっていたのかを聞いてみると

 

「いややった事ねえぞ。因みにバスケはやっていることすら今見たのが最初だ」

 

 そう言うと裕奈はぜひバスケ部に入ってほしい!と言ったが、いや無理だろとそう断るが、他のバスケ部のメンバーもマギに入ってほしいと懇願してきた。それをのらりくらりと躱しながら、風香と史伽の元に戻ってきたマギはスポーツはいいもんだなと言った。

 

「やっぱスポーツを頑張っている女子生徒は絵になるな」

 

 とマギがそう言うと風香はニヒっと笑いながら

 

「今のマギ兄のオヤジっぽい発言」

 

 と風香が言った。

 

「失礼だなマギさんはまだ17だぞ全然オヤジじゃねえだろうが」

 

 とマギがそう言うが、風香はどうかな~ととぼけた様な言い回しだった。

 

「それじゃあマギ兄が期待している…更衣室探検でも行ってみる?」

 

「お姉ちゃんそれは流石にダメだよ!!」

 

 と風香が女子更衣室のドアを開けようとして史伽が其れを止めようとした。ドアの隙間からまき絵が顔をのぞかしていた。

 

「あれ~?マギさんだぁ…やっぱり私の裸が見たくなったの~?」

 

 まき絵が何処か嬉しそうにそう言うが何言ってるんだよ…と呆れながらツッコむマギ。そしてマギと風香と史伽は体育館を後にした。

 次に来たのは屋内プールだった。屋内プールもかなり大きかった。

 

「水泳も結構強いんだよ。うちのクラスのアキラが凄いからね」

 

 と風香がアキラの事をそう紹介した。アキラが水泳部に所属していたのは知っていたが、其処まで強いと言うのは知らなかった。

 

「アキラ~!!」

 

 風香がアキラに手を振っていた。アキラは風香の声を聴くと振り向いた。

 

「風香に史伽…それとマギさんか…どうも」

 

「よう、部活頑張ってるみたいじゃねえか」

 

 とマギはアキラに挨拶した後に労いの言葉を贈った。その後に水着を着た生徒達がマギに興味を示しながら、近づいてきた。水着姿で近づいてきたのかマギはムゥ…と唸っていた。

 

(ニヒヒヒ…困ってる困ってる)

 

 風香と史伽はそんなマギを見て声を殺して笑っていた。そしてマギ達は室内プールを後にして今度は屋外に向かった。

 屋外のクラブもかなりの人数でごった返していた。

 

「屋外のクラブもいっぱい居るんですよ」

 

「人が多すぎるからいっつもコートの争奪戦で大変なんだ」

 

 風香の大変という事に確かに大変だと思った。その時強い風が吹いて、マギの目の前に居た生徒のスカートが風でめくれパンツが見えてしまった。まぁ…その生徒クラスの生徒だったのだが

 

「あれ?マギさん何しに来たの見学?」

 

「もしかして…覗き?」

 

「いいよぉ~いくらでも覗いていっても」

 

 チア部の桜子と円に美砂がマギが覗いてきたのかとからかってきた。マギは遂には黙ってしまった。

 

「あわとうとう黙っちゃたですけど…」

 

「まぁ皆お色気ムンムンだもんね♡」

 

 史伽はマギは黙ってしまって慌てはじめたが、風香は大成功と言いたげな笑みを浮かべていた。だがマギは恥ずかしくなって黙ったのではない。呆れて黙ってしまったのだ。

 

 

 スパァァァァァァァァンッ!! スパァァァァァァンッ!!

 

 

 2回ほど叩かれた音が響いた。

 

「ったく…あんまり年上をからかうもんじゃねえぞ」

 

 何時もネギを叩いているハリセンを肩に担ぎながら呆れたように言うマギ。

 

「いッイタ~イ…マギお兄ちゃんに怒られたです~」

 

「しょうがないじゃ~ん此処ら辺は女子校なんだから~イタタタタタ…」

 

 ハリセンではたかれた史伽と風香は涙目で頭を押さえていた。マギが呆れながらも学園の案内を続けた風香と史伽。

 

「文化部も紹介しようと思ったんですけど時間が無いのでやめにします」

 

「文化部は160もあるからね、全部紹介したらボク達も疲れちゃうよ」

 

「ほんとに何なんだよこの学校は…」

 

 マギは文化部の多さに驚きを越して呆れているばかりだった。と時間は3時を回っていた。

 

「じゃあそろそろおやつにするですマギお兄ちゃん」

 

「ん?まあそうだな…何か食うか…」

 

「当然年上として奢ってくれるんだよねマギ兄ぃ?」

 

「…俺が破産しない程度にな」

 

 という事で、マギ達はおやつを食べるために食堂棟に向かった。食堂棟は地下から屋上まですべてが食べ物屋であり、洋食和食スイーツなどがそろっていた。マギ達はスイーツ専門の所でスイーツを食べることにした。

 

「う~ん!このマンゴープリンココパルフェおいし~♡」

 

「今月の新作は食べて正解です~♡」

 

 風香と史伽は新作のスイーツを食べて幸せそうな顔をしていた。だが…

 

「よく食うなぁ…おい」

 

 マギそう言うのも無理はない。さっきまでケーキやらアイスにパフェやらなどを食べて新作のスイーツを食べていた。見てるこっちが腹いっぱいになっちまうぜ…と呟きながら、自分が頼んだバナナチョコレートパフェをを食べながら、コーヒーを飲んでいた。マギは紅茶も飲めるがどっちかと言うとコーヒー派である。そのため紅茶派であるネギとはくだらない議論を躱していることがしばしば…話を戻そう。

 

「はいマギ兄あ~ん♡」

 

 すると風香がマギにスプーンを前に出してきた。マギは恥ずかしいと思わずに風香が出してきたスプーンを口に入れた。マンゴーの甘酸っぱさが口の中んで広がる。

 

「ふ~ん結構うまいじゃねえか」

 

 と言うと風香はえへへと笑いながら、今度は史伽と食べさせあいっこしていた。

 

(こんなをネカネ姉は『色気よりも食い気』って言ってたけどホントだな…)

 

 と楽しそうにはしゃいでいる双子を見てほほえましそうに見ていたマギであった。

 

 

 

 

 おやつも食べ、満足の様子な風香と史伽。

 

「んじゃ今日は此れでお開きにするか?もう夕方だし」

 

 とマギのお開きという発言に

 

「なに言ってるのマギ兄」

 

「最後に重要な所があるですよ」

 

 という事でマギに風香と史伽に連れられ、その重要な場所まで連れてかれた。そして双子が言っていた重要な場所と言うのが

 

「こいつは何処からも見えるでっかい木じゃねえか」

 

 そう麻帆良にある巨大な木である。

 

「この樹は学園が建てられる前からずっとあったらしいです」

 

「皆は世界樹って呼んでるよ」

 

「世界樹ねぇ…」

 

 世界樹と言う言葉を呟きながらマギは世界樹を見上げていた。

 

「そうだ!マギ兄も一緒に世界樹に登ってみようよ!」

 

「登った時の景色は凄いんですよ!」

 

 と風香と史伽が世界樹を登ってみようと言ってきたので

 

「登ろうって言うけどよお前らこんな高い樹登れんのか?」

 

 と聞いてみると心配ご無用!言いながらスルスルと軽快な速さで樹を登り始めた。如何やら何回か世界樹に登った事があるようだ。

 

「心配なさそうだな」

 

 と言いながらマギも世界樹に登り始めた。数分後にはちょうどいい枝に到着して、世界樹の下から麻帆良の全体を見降ろした。夕日に照らされ麻帆良の学園都市が夕日によって赤く染まっていた。

 

「この樹にはよくある伝説があるんですよ」

 

「片想いの人にココで告白すると想いが叶うって言う…ロマンチックだよね」

 

 なんとも女の子が喜びそうな伝説だな…と思ったマギである。

 

「ボク達もいつかは…」

 

「うん…」

 

 マギは風香と史伽が夢にあこがれる乙女の顔に見えてしまった。

 

(いつもは子供っぽく見えるがやっぱり女の子なんだな…)

 

 そして自分も恋人の事を考えてしまった。よく考えたら恋人を作ろうと思った事が今まで無かった。

 

「あ…そーだ!今ここでマギ兄に告ってとりあえずちょっとだけ彼氏になってもうっていうのはどう!?」

 

「あ、いーなーそれ。きっと世界樹が叶えてくれるですよ♡」

 

「っておいおい…」

 

 2人の言った事にマギは呆れていた。

 

「もし願いが叶っちまったらどうすんだお前ら?」

 

「そ…その時は」

 

「両手に花だねマギ兄!」

 

 そんな事を言っている間に

 

 

 チュッ!!×2

 

 

 マギの両頬に柔らかい感触が当たった。風香と史伽がマギの頬にキスをしたのだ。

 

「マギお兄ちゃんだ~~い好き♡」

 

「またプリとパフェを奢ってね!!」

 

 とマギに笑いかける双子。そんな双子を見て

 

「…やれやれだぜ」

 

 と言って肩を竦めた。こうしてマギの麻帆良観光は幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 

 夜アスナとこのかの部屋にて、ネギとマギは今日起こった出来事を話していた。

 

「…へぇ~あやかにそんな過去があったなんてな」

 

「うん弟さんが生きていれば僕ぐらいの年だったんだって」

 

 ネギはあやかの家庭訪問について話してくれた。あやかはネギが家に着た途端に色々なプレゼントや珍しいお菓子をプレゼントしてくれたそうだ。そして今日は何故かアスナはあやかの事をショタコンと馬鹿にしなかった。それは今日が生まれてすぐに亡くなった弟の命日だったからだそうだ。小さい頃のあやかは弟がすぐ亡くなってショックを受けていたようだが、幼なじみのアスナのおかげで元気になった様であった。なんだかんだ言って結構仲がいいようだアスナとあやか。まあ要するにあやかはネギを弟重ねていたようであった。

 

「それでマギさんの方はどうっだったの?あの双子結構イタズラ好きだから大変だったんじゃない?」

 

 アスナが風香と史伽の事をそう言っていた。確かにな…と風香と史伽はイタズラが好きで子供っぽい所もあるが

 

「時々見せる年相応の表情が出るところを見ると…アイツラも立派な女の子って感じじゃねえのか?」

 

 マギがそう言うと、アスナとこのかはおおおと顔を赤らめながら

 

「マッマギさん!あの双子と何かあったの!?」

 

「詳しく教えてーなー」

 

「嫌だよメンドクサイ」

 

 とアスナとこのかが何があったのか問いただそうとしたが、マギはメンドクサイの一言で片づけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方風香と史伽は…

 

「/////////」

 

「おッお姉ちゃん何を聞いたんですか!?」

 

 マギの言った事をドア越しにコップで聞いていて顔を赤くした風香と何を言っていたのか気になっている史伽が其処には居たという…




第2章は後1話で終了です。
漸く原作第3巻という事で彼女が漸く話に絡んできます

感想などお待ちしてます


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パートナー

此れが第2章の最後の話です

それではどうぞ!!


 春休みを残すはあと1日、ネギは明日になれば3-Aとしての新たな1年が始まると思うとウキウキとしていた。

 

「明日から新学期~♪楽しみだねお兄ちゃん!」

 

 とネギがウキウキしながらマギにそう言っていたが、マギは眠そうな目を必死に開けようとして

 

「何言ってるんだよぉ…こんな短い休みじゃなくて後2週間は休みが欲しいぜ」

 

 と自分で淹れた濃いブラックコーヒーを啜っていた。カフェインが頭をスッキリとさせる。

 

「そんなに休みが有ったらだらけてしまうえー」

 

 と朝食を作りながらこのかがマギにツッコミをいれた。

 

「朝食できたよー今日はベーコンエッグーイギリス風ブレックファーストやえー」

 

 朝食が出来上がったようで、皿には盛り付けされたベーコンエッグとサラダがあった。人数が4人という事もあって、ネギとマギが自分の皿をテーブルに運んで行った。そしていただきますと言ってネギとマギはベーコンエッグを口に運ぶ。カリカリに焼けたベーコンととろ~り半熟の黄身が絶妙にマッチしていて…あえて言おう美味であると。

 

「うん!今日もとっても美味しいですこのかさん!!」

 

「全くだ。こうも美味い朝食を食えるとは嬉しい事だよな」

 

 マギもとりあえずは料理は出来るが、正直食えればいいと言う考えで、味は二の次なのである。しかしこのかの料理は本当に美味しく出来ているのである。ネギとマギの感想が嬉しかったのかや~嬉しいわ~と言いながら顔を赤く染めていた。

 

「アスナはご飯食べたらすぐに居なくなってしまうからな~~」

 

「わッ悪かったわね!それじゃ行ってきまーす!」

 

 アスナはばつの悪い顔をしながら一足先に朝食を食べ終えると、新聞配達のバイトに向かってしまった。バイト気よ付けろよ~~とマギ達がアスナに手を振って見送った。朝食を食べるのを再開するネギ達。

 

「でも本当に美味しいですこのかさん…将来はいいお嫁さんになりそうですね」

 

「もうネギ君たら褒めるのが上手やなー♡」

 

「…ハンマーのツッコミは止めとけな。危ねえから」

 

 その後朝食を和気藹々としながら食べ終えた。その後は

 

「マギさん油汚れはしっかりあらってなー」

 

「おう了解」

 

 朝食で使われた食器などをこのかの指示でマギが洗い

 

「ネギ君重くない?」

 

「はい大丈夫です!」

 

 洗濯物をネギがこのかと一緒に部屋に運んだり

 

「このか今日は生ごみの日だっけ?プラスチックだっけ?」

 

「プラスチックやえーもうごみは纏めてあるからよろしくなー」

 

「りょうかーい」

 

 マギがゴミ捨てに行き

 

「何時もありがとうなーネギ君マギさん」

 

「いえ僕達は居候な立場なので」

 

「こういう時に役にたたないとな」

 

 とこのか部屋の掃除を手伝ったりした。そして一通りやる事が無くなり、このかがお手洗いに行っていると

 

「ちょっとネギ!マギさん!」

 

 とアスナがバイトから帰ってきたようだ。そして手には封筒を持っていた。

 

「おうアスナおかえり。んで何だその封筒?」

 

 とマギがアスナがもっている封筒を指差した。アスナは持っていた封筒をネギに渡した。送り先はというと

 

「イギリスからのエアメールよ!魔法学校からとか書いてあるわよ!」

 

 まったく不用心ね!とアスナに文句を言われながらネギは封筒をもらった。そして封筒を開け手紙を取り出すとポウ…と手紙が光だし小さなネカネの立体映像が現れた。

 

『久しぶりネギにマギ♡元気にしてる?』

 

 メッセージに現れたネカネは変わりなく元気そうでネギは嬉しそうだ。

 

「凄いわねコレ…流石魔法使いね」

 

 アスナは魔法使いの手紙に驚きを隠せていない様子だ。

 

『2人ともちゃんと先生に成れたのねおめでとう。でもこれからが本番だから気を抜かずに頑張るのよ。特にマギはサボったりしないでね?』

 

「…なんで俺だけ一言余計なんだ?」

 

 納得がいかずしかめっ面になるマギにネギとアスナはマギを落ち着かせていた。その間にもネカネの話は続いていた。

 

『それと…フフッちょっと気が早いけど貴方達のパートナーは見つかったのかしら?魔法使いとパートナーは惹かれあうものだからもう貴方達の身近にいるかもしれないわね……修業中に素敵なパートナーが見つかる事を祈っているわ』

 

「パートナー?」

 

 ネギはパートナーと言う言葉にポカンとしていたが、アスナはパートナーと言うのが何なのか分からなかった。

 

「や…やだなぁ~お姉ちゃんたら!パートナーなんかまだ早いよ~!!」

 

「パートナー…か…」

 

 ネギは気恥ずかしくなったのか手紙に書かれていた早送りのマークを押してネカネのメッセージを早送りしてた。マギはと言うと、パートナーと言う言葉に顎に手を置き考えていた。そしてメッセージが終わると

 

「ちょっとお~なによ~パートナーって!ガキのクセに生意気に恋人のことかしら?」

 

「ちッ違いますよアスナさん!」

 

 アスナがネギの首に腕を絡みネギは照れ隠しに否定した。

 

「俺が説明しよう…とりあえずこの写真を見てくれ」

 

 と言いながらマギはアスナにとある写真を見せた。写真に写っていたものは、魔法使いの女性の石像と男性戦士の石像だった。

 

「何よこれ?」

 

 アスナは写真に写された石像は何か聞いてみると、故郷にある広場の石像です。とネギが答えた。

 

「僕達魔法使いの世界に伝わる古いお伽話で」

 

「世界を救う一人の偉大な魔法使いとそれを守り助けた一人の勇敢な戦士の話があるんだよ」

 

 と故郷の昔話を話した。

 

「そのお話にならって今でも社会に出て活躍する魔法使いを支える相棒……魔法使いの従者(ミニステル・マギ)と呼ばれるパートナーがいるのがいいとされています。特にマギステル・マギになるんだったらパートナーの一人もいないと格好がつかないんですよ」

 

 アスナはネギの説明でふ~んパートナーねえ…と考え思った事が一つ

 

「やっぱり女の子…というか異性…なんだよね?」

 

 とアスナの疑問にまあそうですね。とネギが答えた。

 

「やっぱり男の魔法使いだと綺麗な女の人、女の魔法使いだとカッコイイ男の人がいいですよね…で今だと大体がそのパートナーと結婚する人がほとんどなんですよ」

 

「じゃやっぱり恋人みたいなものじゃない」

 

 アスナはネギの頬をギューッと伸ばしていた。そんなネギとアスナの遣り取りなんか気にせずマギはまだ唸っていた。

 

「如何したのマギさん?」

 

「ん?いやパートナーのことなんだけどな」

 

「パートナーが如何したのよ?」

 

 アスナの問いにいや……なとマギは

 

「さっきパートナーはカッコイイ奴とか綺麗な奴がパートナーになるのが良いって言ったけどさ、やっぱり一時の感情でそう言うのは決めたりするのは後々面倒だと思う訳よ俺は、だからさパートナーを決めるのはじっくり時間をかけて相手と付き合ってだな「ふ~んマギさんは結構純情なんやねー」そうそう俺は結構純情…ってこのか!?」

 

 マギが急に振り返るとお手洗いに行っていたこのかがいつの間にか帰ってきたのだ。まさか魔法の手紙が見られてしまったのではないかと思ったが

 

「なんかパートナーとかそう言うのが聞こえたんけどネギ君とマギさんは恋人を探しにきたん?」

 

 とどうやら途中から話を聞いていたようだ。

 

「じゃあうちらのクラス女の子だけで31人だしより取り見取りやね」

 

「ちッ違いますよこのかさん僕とお兄ちゃんは本当に先生に成る為に来たわけで別に恋人なんて…」

 

「そうだなさっきも言った通り俺はじっくりと時間をかけてだな…「みんなーネギ君とマギさんは恋人探しに日本に来たらしえー!!」…聞く気ねえんだな分かります」

 

 マギが脱力したような溜息を吐いた。このかはスマンスマン冗談やと謝ると

 

「アスナ悪いけどおじいちゃんがまた呼んどるからまた行ってくるわー」

 

 そう言ってこのかは学園長の元へ行ってしまった。

 

「またあの話かぁ…学園長もしつこいわね」

 

「あの話ってなんですか?」

 

 とネギが聞いても、ん~?こっちの話よと言って教えてくれないアスナ。

 

「でもばれなくて良かったわね」

 

「ハハハ…そうですね」

 

 アスナとネギはとりあえずばれる事が無くホッとしている様子だった。しかしこの時安心しきっていた事が災いとなっていた。

 

「…聞いた?」

 

「聞いたです」

 

 風香と史伽の双子に話を聞かれていた事に気づいていなかったのである。そしてこれが後の災いとなってしまうのである。

 

「たッ大変です~!!」

 

「大ニュース!ネギ先生とマギ兄は日本に恋人(パートナー)を探しに来たらしーよー!」

 

 と風香と史伽が2-Aの生徒達に先程の話をした。その話はどんどん広まっていき

 

「なッなんですって!?」

 

「ネギ先生とマギさんがパートナーを探している!?」

 

「パートナーって恋人のことでしょ?」

 

「結婚相手を探してるんでしょ?」

 

「結婚相手を探すって映画みたいだね~~」

 

 と最初ら辺はまあどっちかと言うと正しく伝わっていたのだが

 

「ここだけの噂、ネギ先生とマギさんって実は小国の王子で正体を隠してるらしいよ」

 

「えー!じゃあ玉の輿じゃん」

 

「凄いやん!」

 

 とありもしない噂話が出始めて…

 

「ネギ君とマギさんは舞踏会でパートナーを決めるんだって!!」

 

「おー流石は王子!!」

 

「ネギ王子はパートタイマーが好きみたいだよ!」

 

「ネギ先生がパーになったって!?」

 

「ネギ先生かマギさんをゲットできればお姫様だよーー!!」

 

 とありもしない噂話が15分で寮内を駆け巡ったという。そして噂になっているネギとマギはと言うと

 

「(ゾクゥ!)うぉ!?」

 

「如何したのお兄ちゃん?」

 

「いッいや何か寒気が…」

 

 ネギとマギはスーツではなく私服姿で散歩をしていた。ネギは何時ものように杖を背中に担いで、マギはタバコを吸っていた。

 

「…ったくさっきは危なかったな…バレタかと思ったぜ」

 

 マギはさっきこのかに魔法の手紙がバレテしまったのかと思った。そうだね…とネギも同意しながら

 

「僕とお兄ちゃんが魔法使いだってバレたら連れ戻されるのは確実で下手するとオコジョにされちゃうもんね」

 

「バレタらメンドイ事になるのは確実だし、注意しないとな」

 

 マギとネギは自分達がオコジョになった姿を想像して溜息を吐くと、よし!とネギは言いながら

 

「パートナーを探すのはしばらくは忘れよう!今は明日のからの学校に集中だ」

 

「そうだな…今探さなくてもいいんだ。気楽に行こうぜ」

 

 とネギとマギはそして又散歩を始めた。しかし次の瞬間にはネギとマギは大変な目にあうのだった。

 

「ネギ先生~~!!」

 

「マギさ~~ん!!」

 

 ネギとマギを呼ぶ声が聞こえ、ネギとマギは振り返り、そして固まった。

 

「ぜひとも私をパートナーに~~!!」

 

「ボクをパートナーにしてよマギ兄~~!!」

 

「私も私もネギ王子~~!」

 

「うわぁぁぁッ!!」

 

「なッなんだぁ!!?」

 

 2-Aの殆どの生徒がネギとマギに押し寄せてきた。ドドドドと押し寄せる姿はまるで闘牛だった。

 

「ネギ君とマギさんパートナーを探してるんだって!?」

 

「それって恋人なの!?結婚相手なの!?」

 

「なッ何で皆知ってるですかぁ!?」

 

「どこかで聞かれたか?」

 

 質問攻めにあいたじたじになっているネギとメンドイ事になったと思ったマギすると

 

「あ…あの舞踏会は何時に?」

 

「「はい?」」

 

 あやかの舞踏会と言う言葉に首を傾げていると

 

「ネギ君とマギさんって王子様なの!?」

 

「何時も持ってる杖は王家の証とか!?」

 

「マギお兄ちゃんお妃にしてください!!」

 

「なッ何の話ですかぁ!?」

 

「噂の何処かでありもしない話がでたみたいだな………メンドイから逃げるぞ」

 

 そう言ってマギはネギの腕を引っ張って一目散に駆け出した。

 

「あッ逃げたぞおえー!!」

 

 そしてネギとマギを2-Aの生徒達が追いかける。

 

「なッなんか生徒の皆の目が怖いよぉ~!!」

 

「なんか面倒な事になってきたなおい…とりあえずネギ、次の曲がり角で飛ぶぞ」

 

 マギの言った事にネギは頷くと生徒達から一気に離れると、曲がり角をまがった。ネギとマギが曲がり角で見えなくなっても生徒達は追いかける。

 

「ネギく~ん!!」

 

「マギ兄待てぇ~!!」

 

 と生徒達も曲がり角をまがったが、ネギとマギの姿は何処にも居なかった。

 

「あッあれネギ君とマギさん此処をまがったよね!?」

 

「いないよ~!!」

 

「何処行った!?」

 

「探すのよ!!」

 

 と生徒達は曲がり角で居なくなったネギとマギを探し始めた。しかしネギとマギはもう曲がり角には居なかった。何故なら

 

「一応空に逃げたしこれで大丈夫だろ」

 

「どうしよう…!何か変に伝わってるし」

 

 ネギの杖で空を飛んでいたからである。ネギは杖に跨りマギはネギの杖に鉄棒の様に宙ぶらりんとなっていた。真下を見てみると未だに生徒達はネギとマギを探していた。このあたりに降りると又見つかってしまいそうだ。どうしたらいいかネギは考えていると

 

「仕方ねえが学校の方に向かうか。学校ならだれも居なさそうだし」

 

 マギが片腕を杖から離して、学校の方を指差した。ネギはマギの意見に賛成し、空を飛びながら学校に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 学校に到着したネギとマギ。先に宙ぶらりんになっていたマギが着地して、誰かいないかを確認した。

 

「よし誰も居ねえな…ネギ、お前も降りて来いよ」

 

「分かったよお兄ちゃん」

 

 ネギもゆっくりと着地した。そしてネギはホッと一息ついた。今頃生徒達はネギとマギを虱潰しに探しているのだろう。これで安心だと思った矢先

 

「あれ?」

 

 とどこかからか声がして、ネギとマギは声が声がした方を見てみると

 

「びっくりしたー!」

 

 と着物を着た女の子がいた。ネギとマギは不味いと思った。

 

(ヤベ…あの女の子がいた方は見ていなかったもしかして…)

 

(見知らぬ人に魔法がバレタた!?)

 

 不味い展開になったと分かればすぐさま

 

「どッ何処の誰か存じませんが!今のはその…!」

 

「ネギ君マギさん」

 

「さっきのはワイヤーを使ったCGなんだよ。別にマジで飛んでいたわけじゃ…」

 

「ウチやウチ」

 

 と着物を着た少女はネギとマギの事を気軽に呼んで、更に自分の事を指差して、ウチウチと言った。ネギとマギはアレ?と首を傾げた。この少女は何故自分達の事を知っている?もしかしてとマギは少女をジッと見つめた。少女はそんなに見つめられると照れるやんと顔を赤らめた。

 

「もしかしてこのか…か?」

 

「そうやよーなんか行き成り出て来たからビックリしたけどそーかーCGかーなるほどなー」

 

 着物の少女はこのかだったのだ。

 

「わぁ!すごく綺麗ですねこのかさん!着物ですよねそれ!」

 

「ほんとに綺麗だな。というより何でそんな格好なんだお前?」

 

「ネギ君とマギさんこそどうしてこんな所に?」

 

 と話していると急に騒がしくなった。ネギとマギは何事かと思うと黒服でサングラスをかけた数人の男がやって来た。

 

「木乃香様ー!!」

 

「何処に行ったのですかぁ!!?」

 

 黒服の男たちはこのかを探しているようだ。マギは黒服の男たちが何なのかと思ったが

 

「ネギ君マギさん、ウチ逃げないとアカンねん!!」

 

 と言ってネギの腕を引っ張ってこのかは学校の中に入って行った。マギは又面倒な事に首を突っ込んだと思うとやれやれだぜ……と呟くと、ネギとこのかを追いかけた。

 ネギとマギとこのかはとある空き教室に逃げ込んで、何故このかがあの黒服から逃げてきたのかというと

 

「ええッ!?」

 

「このかがお見合い…か」

 

 とどうやらこのかはお見合いから抜け出してきたようだ。という事は黒服達はこのかのボディガードだったようだ。

 

「そうなんや、ウチのおじーちゃん(学園長)が見合いが趣味でなーいつも無理矢理すすめるんよー今日はお見合い用の写真を撮らされる所やったけど、途中で逃げ出してきたんよ」

 

 とこのかの経緯を聞いてそうだったんですか…とネギは納得したようだったが

 

「所でお見合いと言うのは何なんですか?」

 

 とネギの素朴な疑問にこのかはズッコケてしまった。子供のネギにとってはお見合いと言っても何なのか分からないだろう。因みにマギは少しだけ日本の文化をかじっているため、お見合いと言うのがどういう物か理解している。

 

「いいかネギ?お見合いと言うのはな結婚相手、つまり将来のパートナーを探す日本の慣習なんだよ」

 

「え…パートナーを?」

 

「まあそういう事だ」

 

 マギの説明にこのかはマギさんよく知っとるなーと言うと、少しだけ日本の文化をかじったんだよと答えた。

 

「そういう事なんやけど、これが相手の写真なんやけど、こんなにあるんよ」

 

 とこのかは数枚の写真を見せてくれた。どれも違う男性ばかりである。

 

「えっとこいつは学校の先生でこいつは警察官…みんな若いな」

 

「皆カッコイイですね…凄い!この人はお医者さんで、この人は弁護士じゃないですか!」

 

 とネギとマギは写真を見てそう言っていた。このかはええーウチややわーと嫌そうな顔をしていた。

 

「この人なんか倍も歳離れとるんよ」

 

 とこのかが持っていた写真を見てみると、タカミチとおんなじ位の男性の写真だった。アスナだったら大喜びだろうが。このかはハア…と溜息を吐くと

 

「まだウチ子供やのに…将来のパートナーを決めるなんて早すぎると思わへん?」

 

 と何処か疲れた様な顔になってそう言った。このかの言った事に自分達もそう思ったネギとマギ。確かに少女の内にパートナーを決めると言うのはいくらなんでも強引すぎる。

 

「そうですよね!分かりますこのかさんの気持ち!」

 

「確かにな…人生は一回きりなんだ。そんな簡単に将来の相手を決めちまうのは人生を損していると俺は思うぜ。やっぱりこういうのは一緒に笑ったり怒ったり泣いたり楽しんだりそうやって絆を深めていくもんだろ?それを身内の勝手で決めちまうってのはな…ジーさんに言ってみたらどうだ?『これ以上お見合いをするならもうおじーちゃんとは口をきかない』ってさ。そうすればジーさんお見合いをすることも無くなるだろ」

 

 マギがそう言ってみるとこのかはうん試しに言うてみるとそう言うとフフとマギに笑いかけた。

 

「マギさんって色々と考えているんやね」

 

「そりゃそうだろ?一目惚れで付き合ってその女がすっげー自己主張の激しい女だったらメンドイ事になるだろ?」

 

 マギの言った事にそれもそうかと同意するこのか。それやったらとこのかはネギの鼻を指でつつくと

 

「それやったらウチはこんなおじさんよりもネギ君とマギさんがパートナーだったらええなー♡」

 

 とネギは急にパートナーと言われ、顔を赤くしてしまった。だってなーとこのかは話を続ける。

 

「ネギ君は大きくなったらカッコよくなりそうやし、マギさん大人になったら今よりカッコよくなりそうやし…やっぱ外国人はええなー♡」

 

 とこのかはネギとマギが大人になった姿を想像して楽しんでいた。とそや!良い事思いついたと何かを思いついたこのか。

 

「ネギ君とマギさんのパートナーが誰か占ってあげるえ」

 

「えッ?占いですか?」

 

「なんだこのか、お前占いなんて出来るのか?」

 

 マギが聞いてみると、もちろん!とこのかは自信満々に答えた。

 

「ウチ占い研の部長やねん」

 

 とこのかは何処から出したのか水晶玉を出してきた。とさっそくネギとマギを占おうとしたが、悪いこのかとマギが謝りながら

 

「俺占いっていうのに興味が無くてな…自分の人生は自分で決めるって決めてるからそう言う占いで自分のこれからが決まっちまうのが嫌だっていうかさ」

 

 マギが言った事にこのかはそっか~それは残念や~とこのかはそう言った。

 

「それじゃあネギ君を占ってみようかなー」

 

「はッはい、お願いします」

 

 とネギの占いが始まった。このかは水晶を眺めながらフムフム…成程な~と何時ものようなおっとりしたような雰囲気ではなく、何処か真剣な顔つきで占っていた。ネギとマギはこのかの占っている姿を見て、もしかしたら当たるかもしれないと思ってしまった。

 

「ネギ君の将来のパートナーやけどな…ものすごく近くにいるで」

 

「そ…そうですか?」

 

 とネギが聞くとこのかは占いを続けた。

 

「その人はこの春休みまでに仲良くなった女の子やな」

 

 と言うが、ネギとマギはこの春休までにクラスの殆どの生徒と仲良くなったのでかなり多く、まだ誰かは分からない。

 

「それとな…ややなあ~ネギ君今日までにその子のパンツを見とるえ♡」

 

「ええッ!?パッパンツですか!?」

 

 ネギは慌てはじめたが、ネギは良くクシャミで風を起こしてるせいで女子のパンツを見てしまう事はあった。これで数は絞れてきただろう。

 

「あとな…その子はツインテールと鈴がチャームポイントのちょっと乱暴者な女の子やな♡」

 

 このかの分かりすぎる特徴にネギは吹き出してしまった。だってこのかが言っているその女の子は

 

「それってアスナさんの事じゃないですか!無理矢理占ないで下さいよ!!」

 

 とネギは手をブンブンしながら涙目でツッコミをいれた。

 

「アハハ今のは冗談や。でもネギ君アスナの事好きやろ?」

 

 とこのかは冗談の占いをやっていたようで、嘘の占いをしないでくださ~い!とこのかを追いかけネギ君顔真っ赤やで~♡と笑いながら逃げているこのか。そんな二人を見て溜息を吐いて呆れたような顔で笑っているマギ。

 

「でもネギ君とアスナ最近仲がええやん?」

 

「そッそんな事無いですよ!!」

 

 とネギは否定するが、マギはそんな事は無いと思った。ネギと最初にあった時は、終始ネギの事を鬱陶しいような顔で接していたが、最近はネギに対しても笑ったり怒ったりとネギの前でも普通に接しているのだ。これで仲が良くないと言うのはそれこそないだろう。

 

「そーけ?アスナもまんざらでもなさそうやし…というより最近はうれしそうやけど」

 

 とアスナの変わり具合が分かる所を見ると、流石はアスナの親友とも言えるだろう。

 

「それになウチも…」

 

 このかはゆっくりと歩きながら、空いている窓の所に向かい振り返るとネギとマギに笑いかけながら

 

「ウチも…ネギ君とマギさんが来てから可愛い弟とカッコイイお兄ちゃんが出来たみたいで嬉しいえ♡」

 

 このかの笑顔を窓に入ってきた桜吹雪がとても綺麗に感じられ、ネギと以外にもマギも顔を赤くしてしまった。

 

「…って僕は弟じゃなくて先生ですよこのかさ~ん!!」

 

「きゃ~ネギ君又怒った~」

 

 とネギとこのかの追いかけっこが始まると思いきや、このかが着物に足を引っ掛けて転んでしまい、ネギを巻沿いにしてしまった。

 

「…何やってるんだよお前ら…」

 

 マギは2人のやりとりを見ていて全く…と呟きながら溜息を吐いた。あたた…このかは転んでしまった体を摩りながらゆっくりと起き上がるとキャッと短い悲鳴を上げながら顔を赤くしていた。ネギは何故このかが顔を赤くしているのか分からなかったが次の瞬間には自分も顔を赤くしていた。

 

「あ…あう…」

 

 ネギはこのかが来ている着物が翻り、下着が見えてしまっていてそれを見てしまったのであった。

 

「あちゃーウチもネギ君にパンツ見られてしもうたなー」

 

 とパンツを見られてしまったが、何処か嬉しそうなこのか。ネギはどうやって言い訳したらいいか分からず慌てていると

 

 

 

「ふふふ…お二人とも仲がおよろしいようで」

 

 と教室のドアから声が聞こえ、マギは誰が来たのか分かっているため、メンドイ奴が来たと言う顔になりネギとこのかは誰が来たのか振り返ってみると……

 

「ネギ…アンタねぇ~心配して探しに来てみれば何をやってるのかしら…?」

 

「木乃香さん…あなたという人は大人しそうな顔をしてネギ先生を誘惑するとは…」

 

 怒りで体を震わしているアスナとあやかであった。よりにもよってこの2人に見つかってしまうとは運が悪いと言えばいいのだろうか…?

 

「アッアスナさん!ごッ誤解です!!」

 

「いやないいんちょ、これは違うねん」

 

 ネギとこのかあアスナとあやかに違うと説明しようとしたのだが

 

「居たぞ!こっちだ!!」

 

 と他に探していた者達もどんどん教室に集まってきて

 

「ネギ王子ぃ!!」

 

「マギお兄ちゃん!」

 

「ま…マギさん!!」

 

「発見ーー!!」

 

「このかお嬢様!!」

 

 2-Aの生徒の他にもこのかを探していた黒服の男達も集まって来た。

 

「ネギ王子私と私とー♡!!」

 

「マギ兄!ボクと結婚しろ~!!」

 

「ま…マギさん…わッ私と!」

 

「マギさん!のどかを彼女にしなさ~~い!!」

 

「ハルナしつこ過ぎるです」

 

「このかお嬢様!今日は逃がしません!!」

 

「玉の輿だぁ~!!」

 

「木乃香さん抜け駆けは許しませんわよ!!」

 

「あ~んアスナ助けて~!!」

 

「あッアスナさ~~ん!!」

 

 ネギとこのかを(マギにも数人いるが)捕まえようとする者達からアスナに助けを呼んでいるネギとこのか。そしてそこからは何時もの様に大騒ぎになってしまったのだった。

 

「やれやれだぜ…だけど」

 

 マギはお決まりの台詞を言いながらも何処か黄昏た様な表情になりながら窓の外を見た。

 

「パートナー…か」

 

 マギはパートナーと呟いた。もし自分のパートナーがもしかしたらネギの占いと同じように今まで知り合った女の子の中から出てくるのか……と思ったが、それは無いだろうと自己完結した。

 

「さっきも自分で言っただろう。こういうのはじっくりと考えるものだってな。焦らずいこうや人生は一度きりなんだし…………な」

 

 そう言いながら、マギは何時ものようにタバコを吸った。しかし……今日のタバコは何時もより苦く感じるのだった……………

 

 

 

 

 

 後日談だが、さすがにお見合いがしつこかったこのかは学園長に

 

「これ以上お見合いさせるならもうおじーちゃんとは口をきかへん!!」

 

 と言うと溺愛している孫娘に口をきいてくれないというのは死活問題となるため、お見合いはしないという事になったのだった。

 

 




漸く原作第2巻が終わりました

遂に次回からは第3巻!
という事は………あの幼女が出るぞ~~~~~!!

幼女や!幼女最高~~~~~~!!!(作者はロリコンではありません)


感想お待ちしております


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~第3章~桜通りの吸血鬼
桜通りの吸血鬼


お久しぶりです!
お盆明けに漸く投稿出来ました。
お盆は色々と大変でなかなか執筆する時間が無かったので疲れました
今日から第3章つまりあの幼女が表舞台に立てるという事です!

幼女を待っていた皆様大変長らくお待たせしましたそれではどうぞ!!



 ネギとマギのパートナー騒動も何の問題もなく収まったその夜、麻帆良には桜が綺麗な桜通りと言う通りがあって春という事で桜が満開となっており、夜の夜桜も綺麗だった。

 しかし一人の少女はそんな夜桜を楽しむ余裕なんて無かった。

 

「はぁッ…!はぁッ…!はぁッ…!!」

 

 体育姿で桶やシャンプーボディソープに体を洗うスポンジなどの風呂道具一式を持ったまき絵が涙を浮かべながら走っていた。時折後ろを振り返ったりしていた。まるで何者かに追われている様子だった。後ろを振り返っても誰も居なかった。まき絵はもう追ってこないと思い、ホッと溜息を吐いた。

 しかし…それはまき絵の勘違いだった。

 

 

 ザザァッ!!!

 

 

 急にまき絵の目の前に、音もなく全身黒づくめの何者かが現れた。

 

「ひッ!!?」

 

 まき絵は短い悲鳴を上げ、後ずさりして黒づくめから離れようとしたが、地面から出てしまった桜の木の根っこに足を引っ掛けてしまった。足を引っ掛けてしまいバランスを崩して尻餅をついてしまうまき絵。まき絵に近づいて来る黒づくめ。

 

「あ…あう…」

 

 まき絵は恐怖のあまり声が出ないようだった。そんなまき絵の事など知った事ではないと言いたげに黒づくめはまき絵に近づいて来る。黒づくめはニヤリとまき絵に笑いかけた。

 

「クックック…悪いな…貴様の血を少し貰うぞ」

 

 黒づくめの口の中に…人間には無い鋭利な牙が見えた。黒づくめはまき絵の首筋に顔を近づけそして…

 

「アム」

 

 首筋に噛みつき、まき絵の血を吸い始めた。自分の血が吸われている事に最初は気づかなかったまき絵だが、黒づくめに自分の血を吸われていると気づくと

 

「キ…キャアァァァァァッ!!?」

 

 悲鳴を上げジタバタと暴れ、黒づくめから逃げようとしたが、黒づくめはまき絵を離そうとしなかった。血を吸われて数十秒まき絵は段々意識が遠のいていき

 

「あ…う…」

 

 気絶してしまった。黒づくめは気絶したまき絵を一回見ると

 

「ふう、此れ位でいいか」

 

 と言うとまき絵の首筋から口を離した。牙に付いた血が滴り落ちようとしたが、黒づくめは血を手で拭うと手に付いた血をなめとった。黒づくめは気絶したまき絵を桜の木の根にゆっくり優しく寝かせた。そしてフウ…と溜息を吐いていると、すたすたと何者かが近づいて来る足音が聞こえた。黒づくめは足音がした方を向いた。其処に居たのは

 

「…周囲を探索しましたが、魔法教師並びに魔法使いの生徒の反応はありませんでしたマスター」

 

 メイド服姿の絡繰茶々丸が其処いて、黒づくめをマスターと呼んでいた。黒づくめはご苦労茶々丸と茶々丸に労いの言葉を贈った。黒づくめは全くと呟いていると雲に隠れていた月が顔を出した。月の光により黒づくめの正体が露わとなる。

 

「なぜこの私がこんな面倒くさい事をしなきゃいけないんだ…」

 

 黒づくめの正体はまき絵と同じエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであった。黒いボロ布を纏ったエヴァンジェリンはまるで吸血鬼の如く血を吸ったのだ…否吸血鬼の如くではない。何故なら彼女は

 

「この『闇の福音』と恐れられていた吸血鬼が落ちぶれたものだな…」

 

 エヴァンジェリンは真祖の吸血鬼の名で魔法世界では知らないものは居ないと言う闇の魔法使いの中でも悪名を轟かせていたのだ。しかしなぜそんな吸血鬼がこんな所で中学生として学校に行っているのかは後々分かる事となる。

 

「だが、ククククク…こんなアホみたいな暮らしももう終わる。あのマギ・スプリングフィールドとネギ・スプリングフィールドがいれば…な」

 

 とエヴァンジェリンが不敵に笑った。茶々丸があのマスターとエヴァンジェリンを呼び止めた。

 

「まき絵さんは如何いたしましょうか」

 

 茶々丸は血を吸われ気絶したまき絵を指差した。体操着という薄着でしかも夜中に外で倒れていたら風邪をひいてしまうだろう。

 

「なにか適当にかけておけ。4月の夜は冷えるからな」

 

 とエヴァンジェリンの指示で茶々丸は何処からか毛布を取り出しそれをまき絵にかぶせてあげた。

 

「よし…帰るぞ」

 

 エヴァンがそう言うとエヴァンジェリンが纏っているマントが大きく開き、まるで蝙蝠の羽の様になった。蝙蝠の羽のようになったマントで空を飛び茶々丸も足からジェット飛行でエヴァンジェリンを追いかけ何処かへと飛び去ってしまった。

 今麻帆良では桜通りに吸血鬼が出る噂でもちきりだが、その吸血鬼の正体がエヴァンジェリンであった…

 明日から始まる新学期。波乱の展開になりそうな予感であった。

 

 

 

 

 

 翌朝今迄2-Aだった教室が3-Aと変わり

 

『ネギ先生!マギさん!今日からの1年間よろしくお願いしまーす!!』

 

 3-Aとなった生徒達の騒がしさに千雨と夕映は呆れていた。そして教卓の前に居たネギは苦笑いをマギも呆れたような表情となりながらも

 

「えと、改めまして3年A組担任になりました、ネギ・スプリングフィールドです。これから来年の3月までの1年間よろしくお願いします」

 

「同じく今日から3-Aの副担となったマギ・スプリングフィールドだ。1年間の間に俺が面倒だと思うような問題ごとは起こすなよ。俺がメンドイだけだからな」

 

 ネギとマギは自分らしいと言えば自分らしい挨拶をした。

 

『は~い!ネギ先生~!!』

 

『よろしくマギさ~ん!!』

 

 ネギは元気そうな生徒達を見て一安心だった。ネギは教室を見渡した。

 

(そう言えば、僕まだお話してない生徒さんが一杯いるな~この1年間で全員と仲良くなれるかな…?)

 

 とネギが生徒全員と仲良くなれるかな?と思っていると何処からか鋭い視線を感じた。見ればマギもその視線を感じたのか、ある一点を見つめて…と言うより睨み付けていた。ネギも視線の方を見てみると

 廊下側の一番後ろに座っていたエヴァンジェリンがネギとマギの事を見ていた。まるで氷のような瞳で

 

 

 ゾクゥッ!

 

 

 ネギはエヴァンジェリンに見つめられ、背筋が寒くなってしまった。エヴァンジェリンがフイと視線を外すと、ネギはすぐさま出席簿でエヴァンジェリンの事を見てみた。エヴァンジェリンは部活には茶道部と囲碁部に所属していた。そしてタカミチの文字だが、『困った時には相談しなさい』と書かれていた。

 

(タカミチの困った時には相談しなさいって言うのは如何いう意味なんだろう…?)

 

 ネギは如何いう意味なのか考えていると、コンコンというドアを叩く音が聞こえ、しずな先生がドアの横に立っていてドアを叩いたようであった。

 

「ネギ先生マギ先生、今日は身体測定ですよ。3-Aの皆も直ぐ準備してくださいね」

 

 としずな先生の身体測定と言う言葉に、ネギはうっかりしていた顔になり

 

「でッでは皆さん今日は身体測定ですので…えと今すぐ脱いで準備して「なに言ってるんだお前は(スパァァァァァァァンッ!!)」あうッ!!?痛いよお兄ちゃん!何するの!?」

 

 とネギは行き成りハリセンで叩いてきたマギに文句を言おうとしたが、ハッとした。見ればあやかなどが顔を赤くしていた。今のネギの発言はまさに自分の前で服を脱げと言っているものだ。完全にセクハラ発言である。

 

「ネギ先生のエッチィ~~!!!」

 

「ウワァ~ン!また間違えました~~!」

 

「早く出るぞこの馬鹿」

 

 生徒達にからかわれ、ネギは恥ずかしさのあまり赤面し呆れられたマギに襟元を掴まれ、引っ張られてしまった。

 

 

 

 

 身体測定という事で3-Aの生徒達は服を脱いで下着姿となり始める。話の話題はさっきからかったネギが可愛かったやらマギは相変わらずぶれないのが良いとかこれからの1年間が楽しくなりそうという物だったが、不意にアレ?と思ったハルナ。

 

「そう言えば今日まき絵ちゃんは?」

 

「さ…さあ?」

 

 ハルナが言った通り、今日はまき絵が来ていないのである。まき絵の事を聞かれたのどかも知らないと答えた。

 

「まき絵今日が身体測定アルから仮病を使ったのと違うカ?」

 

 古菲はまき絵がずる休みをしたのではないかと言ったが、まき絵がそんな事をする子ではないと言うのは皆が知っていたから不思議に思っていた。

 

「まき絵胸ぺったんこだからねー」

 

 風香が胸を張って高笑いをしていたが

 

「お姉ちゃん言ってて恥ずかしくないですか?」

 

 史伽が高笑いしている風香に虚しい溜息を吐いた。この双子体格が小学生みたいなため正直まき絵より胸が小さいと言うより無いに等しい。この双子はある意味虚しい乳と書いて虚乳である。巨乳の巨ではなく虚しいという虚である…なんだろう虚しくなってきた。

 他でも慎重を謀るはかりを頭にぶつけたり、体重計に手を乗せたりして体重を増やしたりなどの悪戯で3-Aは騒がしかった。廊下に出ていたネギは中は楽しそうだな~と思っていた。と行き成りねえねえと美砂がある話題を出してきた。それは…

 

「ところでさ最近寮で流行ってる…あの噂どう思う?」

 

「何よ柿崎あの噂って?」

 

 アスナは美砂が言ったあの噂と言う物を知らない様子だったが、あぁとアスナの隣にいた美空が何か知っている様子だった。

 

「あの桜通りの吸血鬼の話ね」

 

 と美空が答えた事に美砂がそうそうと頷いた。とそう言う系が好きな3-Aの生徒の何人かが美砂に詰め寄った。

 

「何それどういう話?」

 

「怖いけど聞きたいです」

 

「聞かせて聞かせて~!」

 

「どういう話や?」

 

 桜子と史伽や風香にこのかがどういう噂か聞いてみたい様子だった。

 

「知らない子結構居たんだ……まあいっか。結構前からある噂だけど……なんか満月の夜になると出るんだって、寮の桜並木に…」

 

 と溜めると、美砂はイヒヒと魔女が笑った様な不気味な笑い声を上げながら

 

「真っ黒なボロ布につつまれた…血まみれの吸血鬼がぁぁぁぁ」

 

 と怪談でお決まりの怖い喋り方で吸血鬼の話をした。

 

「「きゃぁぁぁぁッ!!?」」

 

 風香と史伽は泣きながらオーバーリアクションをして、離れて聞いていたのどかも怖くて震えていた。

 

「ほほう」

 

「へ~なるほどな~」

 

 と桜子とこのかは別段怖がっている様子が無かった。どちらかと言うと面白そうと思っている方が強そうだ。もしかして!と桜子は何か閃いた様子で

 

「まき絵ちゃんもしかしてその謎の吸血生物にやられちゃったんじゃないかな?血美味しそうだし」

 

「た…たしかにまき絵ちゃん美味しそうだけど…」

 

「いや吸血生物じゃなくて吸血鬼ね」

 

 桜子とこのかは人型で背中に棘を生やした生物が、まき絵を襲って血を吸っている図を想像して、美砂が吸血生物ではなく吸血鬼だとツッコんだ。そんな遣り取りを見ていたアスナは

 

「まったく…そんな噂作り話に決まってるでしょ。アホな事言ってないで早く身体測定終わらせるわよ」

 

 と呆れたようにさっさと身体測定を終わらせようと言った。しかし面白い話をすると止まらない3-Aは止まるはずもなく

 

「そんな事言ってぇアスナもちょっと怖いんでしょ~?」

 

 桜子がニヤニヤとしながらアスナにそう言った。このかはこのかで黒板にUMAで有名なチュパカブラを描いてのどかや風香と史伽を怖がらせていた。

 

「違うわよ!というよりあんなの日本に居るわけないでしょ!!」

 

 とツッコミをいれたが、ハッとした。

 

(ん…?でも待てよ。ネギやマギさんのような魔法使いが居るんだし図書館島のゴーレムやドラゴンだって居たんだし…吸血鬼位いてもおかしくないかも…?)

 

 ともしかしたら自分も襲われるのではないのかと思いうげッと声を上げていると

 

 

「その通りだな神楽坂明日菜」

 

 と不意に自分の事を呼ぶ声が背後から聞こえ、後ろを振り返ってみると其処に居たのは

 

「噂の吸血鬼はお前のような元気で活きのいい女が好きらしい。十分と気を付ける事だ」

 

 クックックと笑っているエヴァンジェリンが居た。

 

「え…?は…はぁ…」

 

 アスナは行き成りエヴァンジェリンが話し掛けてきたため空返事しか出来なかった。アスナが驚くのは無理はないだろう。何故ならエヴァンジェリンは滅多に他人に話し掛けないのだ。しかもアスナとエヴァンジェリンはそこまで仲が良いというわけでもないのだ。というより

 

(なんでエヴァちゃんがそんな事知ってるんだろう?)

 

 と疑問に思ったが、如何でもいいかと考える事を止めた。

 

 しかし噂の吸血鬼の正体がエヴァンジェリンだという事をアスナ達は知らないのであった。

 

 一方廊下に居たネギとマギは何処からか変わった気配を感じて辺りを見渡したが、何の反応かが分からなかったほど曖昧な気配だった。と廊下を走る音が聞こえ

 

「ネギ先生~~!マギさん大変や~~!まき絵が!まき絵が!!」

 

 亜子が大慌てで廊下を走っていた。亜子の声は教室にも聞こえ、教室のドアや廊下側の窓が一斉に開き

 

「何!?まき絵が如何したの!?」

 

 下着姿のアスナ達が一斉に飛び出してきた。下着姿のアスナ達が飛び出してきてネギとマギの反応は

 

「わッわぁ!みッ皆さん!!?」

 

「お前らな…少しは恥じらいを持てよ」

 

 ネギは顔を赤くし大慌て、マギはいたって冷静で呆れていた。ネギとマギの反応が可笑しいと思い、自分達が下着姿だったと数秒後に気づきアスナ達は

 

『き…きゃ~~~!!?』

 

 他の教室に響くほどの大絶叫が響きわたった

 

 

 

 

 

 

 

 保健室。3-Aの生徒達とネギとマギが向かうと、まき絵が保健室のベッドで静かに寝息を立てていた。

 

「まき絵さん如何したんですか?」

 

 ネギがまき絵に何があったのか尋ねてみるとしずな先生が

 

「何か桜通りで寝てるところを見つかったらしいのよ…」

 

 とまき絵が見つかった状況を話してくれた。ネギは何故桜通りでまき絵が発見されたのかを考えた。アスナ達は大したことではないと言ってさほど心配していない様子だったが、ネギはまき絵の体をよく観察して驚愕した。

 

(いや違う…!ほんの少しだけど…確かに魔法の力を感じる)

 

 まき絵の体からほんの少しだが、魔法の反応があったのだ。何故まき絵の体から魔法の反応があるのかネギは考え始めた。

 

(まき絵さんが魔法使いの生徒の可能性は明らかにゼロだ。それに図書館島以外でこんな力を感じた事がない…もしかしてさっき柿崎さんが話していた吸血鬼と何か関係があるのかな…?)

 

「おいネギ」

 

 とマギがネギを呼んだ。ネギは振り返りマギがネギに頷くとネギも頷き返した。如何やらマギも同じことを考えていたようだ。

 

「如何したのよネギ?急に黙っちゃって、マギさんもマギさんだし」

 

 アスナはネギとマギの事を怪しそうに見ていた。ネギは怪しまれていけないと思いなんでもないですよと誤魔化した。

 

「まき絵さんは心配ないですよ。ただの貧血かと…それとアスナさん僕とお兄ちゃんですが、今日は帰ってくるのが遅くなると思いますので、晩御飯はいりませんから」

 

 とネギの言った事にアスナはポカンとしていたが

 

「ごはんええの?」

 

「ああ悪いな、今日はネギと適当に食べるわ」

 

 このかが本当にいいのかと尋ねると、マギが適当に食べるとそう答えた。ネギとマギにアスナ達はまき絵が大丈夫と分かったため保健室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は新学期初日という事もありホームルールだけで終わったが、部活に所属している生徒達は部活を行っているために帰るのが遅くなってしまう。午後7時、帰宅途中で美術部のアスナと図書館探検部のこのかとハルナに夕映とのどかが偶然に帰る時間が一緒だったために一緒に寮に帰る事にしたのだ。歩いている時に出た話題は先程噂になった吸血鬼の話である。

 

「吸血鬼なんてホントに出るのかなぁ~?」

 

「あんなのデマに決まってるです」

 

 ハルナは吸血鬼が出るか出ないのかと期待していたが、夕映がデマだと言い切った。とハルナと夕映が噂の事に付いて討論していると、ハルナがあッ!いけない!と言い出した。

 

「やば!部室に大切な物忘れてきちゃった!」

 

「何やってるですか」

 

 ハルナが部室に忘れ物をしてきたようで夕映が呆れていた。もう寮との距離は目と鼻の先のである。

 

「仕方ない私達ちょっと部室に戻るからのどかは先に帰ってて」

 

「のどかごめんなさいです」

 

「う…ううん気にしてないよ気を付けてね」

 

 とのどかはハルナと夕映にそう言った。とりあえずという事でアスナとこのかも付き添いで向かう事にした。のどかだけ寮に帰る事になった。

 

「本屋ちゃん…一人で大丈夫かな?」

 

「吸血鬼なんかいないゆーたのアスナやろ?」

 

 アスナは一人で帰る事になったのどかを心配そうに見ていたがこのかが大丈夫やと笑いかけた。しかし

 

「やっぱり気になるから本屋ちゃん送ってくよ」

 

「あアスナー」

 

 と木になるという事でアスナはのどかの元へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 一人で帰る事になったのどかは心細くならないために鼻歌を歌っていたが、急に歩みを止めてしまった。何故なら

 

「あ…桜通り…」

 

 噂に出た桜通りに着いてしまったのだ。何だか怖くなってきてしまい、風が生暖かく感じた。

 

「ちょ…ちょっと急ごうかな~」

 

 とのどかは早歩きで寮に向かっていた。怖くない怖くないと呟いていたが、急に風が強くなったりすると、やっぱり怖くなってしまう。とその時

 

 

 ざわ…ざわ…    クックックック

 

 

 風の音と一緒に誰かの笑い声が聞こえた気がした。のどかビクッと驚いたが、風が笑い声に聞こえたのだとそう思い、気にしないで寮に向かおうとしたが今度は

 

「クックックッククククク…」

 

 と自分の真上から笑い声が聞こえ、のどかは恐る恐るゆっくりと上を見上げると

 

「クククククク…」

 

 黒いマントを纏ったエヴァンジェリンが街灯の上に立っていた。のどかからは街灯の上にエヴァンジェリンが立っているなんて分からなかった。それよりも恐怖のせいで頭の中が真っ白になってしまったからだ。

 

「宮崎のどか…悪いがお前の血を少し貰うぞ」

 

 エヴァンジェリンがニヤリと笑い牙が光る。のどかは光る牙を見て動けなくなってしまった。そしてエヴァンジェリンが口を開けてのどかに襲い掛かって来た。のどかは恐怖で目を瞑ったその時

 

 

 

「待ちな」

 

 マギの声が聞こえ、エヴァンジェリンが動きを止めた。のどかもマギの声が声が聞こえた方を見ると

 

「吸血鬼の話を聞いて、ここら辺一帯を見張っていたら本当に来るなんてな…正直面倒だったから俺の方で当たりが来るんじゃねえと祈ったのに意味が無かったか」

 

 と木と木の間からマギが現れた。

 

「マギさん!!」

 

 のどかはマギが来てくれたので安心したのか声を上げた。

 

「おうのどか、大丈夫か?血吸われていないか?」

 

 マギはのどかが無事かどうか尋ねた。

 

「は…はい!大丈夫で…す」

 

 のどかは大丈夫だと言い切る前に恐怖の糸が切れたのかゆっくりと気を失ってしまった。マギはのどかが地面に倒れる前にのどかの体を優しく掴み、ゆっくりと地面に寝かした。そしてのどかが本当に大丈夫か改めて体をよく見て本当に大丈夫だと分かるとよしと言いながら立ち上がり、エヴァンジェリンと向かい合う。

 

「さてと…俺の大切な生徒を危ない目にあわそうとしたんだ。お縄についてもらうぜ」

 

 と言いながらマギは詠唱を始める。

 

「俺は捕縛系の魔法がそんなに得意じゃねえから……ちと火傷しちまうけど構わねえよな?マギウス・ナギナグ・ネギスクウ…来たれ爆炎 焼き尽くせ 燃え盛る流星! 」

 

 マギが詠唱を唱え終えると、空から3弾の炎の塊が降り注ぎエヴァンジェリンに迫ってくる。エヴァンジェリンは落ち着いた様子で懐から液体が入ったフラスコを取り出す。

 

「氷楯…」

 

 と呟くとフラスコを火球に投げつけた。すると

 

 

 ガキュイィィィィィィィィィン!!!

 

 

 液体が瞬時に凍って大きな楯の様な形になり火球を防いぎ火球が爆散された。これを見てマギは確信した。この吸血鬼と呼ばれている者は魔法使いだと。と火球を完全に防げたわけではなかったようで爆散した火の粉がエヴァンジェリンがかぶっていた帽子が燃えはじめ、エヴァンジェリンはすぐさま帽子を脱いだ。帽子が燃え尽きエヴァンジェリンの素顔がマギにも視認できるようになる。

 

「驚いたぞ…その年でこれほどの強力な魔力とは…」

 

 エヴァンジェリンはマギの魔力を素直に称賛した。マギはエヴァンジェリンの顔を見てっておいと呟いた。

 

「オメェはクラスに居たエヴァンジェリンじゃねえか…テメェが噂の吸血鬼だったのか?」

 

 と尋ねるとエヴァンジェリンはああそうだよと素直に認めた。そしてフフとエヴァンジェリンは不敵に笑うと

 

「新学期に入った事だし改めて歓迎のご挨拶と行こうか先生…いやマギ・マギスプリングフィールド…17にしてこれほどの力。さすがに()の息子だけはある」

 

 奴の息子という所でマギは眉毛をピクッと上にあげた。

 

「なんでテメェがクソ親父の事を知ってるんだ?と言うよりなんでテメェが魔法を使えるんだ話してもらおうか」

 

 エヴァンジェリンはマギの言ったクソ親父がツボだったのか、アハハハと大笑いした後に挑発的な笑みを浮かべると

 

「聞きたかったら…私を捕まえる事だな」

 

 と今度はフラスコと試験管を取り出すとそれをのどかに投げつけた。

 

「!おい馬鹿野郎!!」

 

 マギは思わず大声を出して気を失っているのどかの元に駆け寄り、のどかを庇った。

 

「氷結武装解除!」

 

 エヴァンジェリンが又呪文を唱えると、試験管とフラスコが爆発して中の液体が飛び散ると飛び散った液体が服などに付着すると瞬時に凍り付いてしまった。マギはこれ以上凍りつかない様に抵抗の魔法を使用する。

 

(瞬時に抵抗の魔法が使えるとは…やはりな)

 

 エヴァンジェリンはさっきと同じようにマギの魔法を観察していた。凍りついたのはマギの服の一部とのどかの制服だった。

 

「ったく行き成り何すんだよ…っておいおいマジかよ…」

 

 マギは凍りついた服の一部がボロボロと崩れだし、のどかに怪我がないか確かめてのどかを見て顔を手で覆った。今ののどかの状態は制服がほとんど凍り付いて、ボロボロと崩れだしほぼ全裸の状態だった。先程エヴァンジェリンが使用した魔法はいわばネギの風の武装解除の魔法と同じで風が氷に変わっただけである。それさておいて今ののどかは全裸に近い状態でしかも最悪な事に

 

「お兄ちゃん!すごい音がしたけど吸血鬼が見つかったの!?」

 

 同じく見回りをしていたネギと

 

「あッマギさん!こんな所で何してるのよ!?」

 

「何か凄い音がしたなー!」

 

 のどかが心配になって戻ってきたアスナとアスナが心配になったこのかがやってきた。ほぼ全裸ののどかを抱き上げているこの状況はマズイ。案の定

 

「うひゃあッ!?」

 

「マギさんそれ!」

 

 このかとアスナが勘違いをし始めた。

 

「マギさんが吸血鬼やったんか!?」

 

「ちげーよ!誤解だって!」

 

 とマギが誤解を解こうとしようとしてるその隙にエヴァンジェリンが逃げようとした。

 

「おッおい!テメェ俺にロリコン疑惑を擦り付けようとしてるんじゃねえ!」

 

 マギはエヴァンジェリンを追いかけようとしてのどかをアスナとこのかに任せた。

 

「このかアスナ!のどかの事を頼む!俺とネギは噂の吸血鬼を追うから心配しないで先に帰っててくれ!行くぞネギ!!」

 

「うッうん!分かったよお兄ちゃん!!」

 

 とマギが先に駆け出しエヴァンジェリンを追いかけ始める。ネギも足に力を乗せ走る準備をする。

 

「あッちょっと待ちなさいよネギ!」

 

「アスナさん!のどかさんをお願いします!」

 

 とネギも風の魔法を使い駆け出し、すぐさまこのかとアスナはネギが見えなくなってしまった。そんなネギを心配そうに見ていたアスナは居ても経っても居られなく

 

「ごめんこのかアタシも行ってくる!!」

 

「て!?ちょっとアスナ!まってーな!」

 

 とこのかの制止も聞かずにアスナもネギを追いかけ始めた。そしてこのかとのどかがポツンと残されてしまっのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンを追いかけているマギとネギ。ネギはマギから吸血鬼の正体がエヴァンジェリンだという事に驚いていた。

 

「ええッ!?吸血鬼の正体ってエヴァンジェリンさんだったんですか!?」

 

「ああしかも彼奴は魔法使いで更に俺達のクソ親父の事を知っている様子だった」

 

 とエヴァンジェリンが魔法使いだったという事よりもマギとネギの父の事を知っているという事にさっきよりも驚いている様子だった。それよりも……とネギは先程のどかを襲う時に魔法を使ったという事に怒っていた。

 

「人を助けるために使う魔法で人を傷つけようとするなんて…エヴァンジェリンさんは可笑しいよ!!」

 

 とのネギの言った事にマギは呆れと子供の考えじゃ仕方ねえかと呟いて苦笑いを浮かべたマギ。ネギの言っている事は魔法は良い事に使う物だという考えだが魔法なんて強力な物を悪事に使おうと考える者なんてごまんと居る。ネギは少し頑固な所が有るが、ネギは魔法=良い魔法使いと言う考えなんだろう。と不意にマギが走りを止めた。

 

「お兄ちゃん如何したの!?」

 

 ネギはマギに何故急に止まったのかを聞くと

 

「如何やらエヴァンジェリンの仲間が近づいて来てるみたいだな。ネギお前は先にエヴァンジェリンを追いかけろ」

 

「ええ僕一人で!?もしエヴァンジェリンさんが凄い魔法使いだったらどうするの!?」

 

 とネギは一人で追いかけるのは聊か不安が残る様子だったが、大丈夫だとマギはネギに言った。

 

「エヴァンジェリンだが…アイツは確かに凄い魔法使いかもしれない。だけどなアイツはさっき使ってきた魔法は威力が低いしそれに魔法を発動するときに態々魔法薬を触媒にしていた。つまり…だ」

 

 と一回言葉を区切ると話を続けるマギ。

 

「エヴァンジェリンは魔法薬を使うほど魔力が弱い。お前でもアイツを捕まえる事が出来るはずだ…いいから早く行け。見失っちまうぞ」

 

「うッうん分かったよお兄ちゃん!お兄ちゃんも気を付けてね!!」

 

 とネギはさっきよりも倍のスピードで駆け出した。一人になったマギはさて……とと懐からタバコを取り出し火をつけると

 

「そこに居るのは分かってるんだよ。さっさと出てきたらどうだ?」

 

 とマギは追手が居るらしい場所を指差した。其処には何の気配も無かったが、ガサリと言う音が聞こえた。

 

「…驚きました。気配を完全に消していたはずなのに…良く分かりましたねマギ先生」

 

 と現れたのは茶々丸だった。マギは隠れていたのが茶々丸であったのに別段と驚いた様子は無く簡単さと話を続ける。

 

「簡単な話だ…逆に気配を消しすぎて、其処だけ変に感じたからな」

 

 煙を吐きながらそう言うと、茶々丸はそうですか…と表情を変えずにそう言った。

 

「それにしてもオメェがエヴァンジェリンの仲間だったとはな。確かに何時も一緒に居たしな」

 

「はい…マスターを支えるのが私の役目ですので」

 

「マスターって言うとお前は…」

 

 とマギの考えが当たったのかその通りですと茶々丸はペコリとお辞儀をすると

 

「私はマスターの魔法使いの従者(ミニステル・マギ)をしております」

 

 つまりはエヴァンジェリンのパートナーをやっているという事だ茶々丸は。成程な…とマギは呟くとマギは拳を構えた。

 

「だったら生徒を襲うようなエヴァンジェリンとそれを手助けするオマエみたいな悪い生徒にはお灸が必要だな」

 

「…申し訳ありませんが、マスターにはやるべき目的があります…その為に私もマスターを支えるべきで今はお灸をすえる場合ではないのです」

 

 と茶々丸も静かに拳を構えた。そして先制攻撃で茶々丸が踏み込んできた。正拳突きに膝蹴り飛び蹴り、回し蹴り裏拳などがマギに迫る。しかしマギは攻撃を防いでいるだけで一方に攻撃をしてこない。

 

「如何したのですかマギ先生?私にお灸をすえるのではなかったのですか?」

 

 茶々丸は攻撃を繰り返しながらマギにそう聞いた。一方のマギはんあ?と茶々丸の攻撃を躱して捌きながら

 

「いやさ、さっきあんなことを言ったのに俺、女には暴力をふるうほど落ちぶれていないし、生徒にそんな事をやっちまったら体罰問題じゃねえか」

 

 と茶々丸の腕を掴んでそう言った

 

「優しいのですね、マギ先生は…」

 

「そうじゃねえって、問題になってメンドクなるのが嫌なだけさ」

 

 だけどな…とマギは茶々丸を自分の方に引っ張ってくると茶々丸の額にでこピンを構えた。

 

「流石に生徒に舐められるのは恰好がつかねぇからな…痛いけど我慢しろよ」

 

 とマギはでこピンに少しだけ魔力を練り少しだけ強力にした。

 

「久々の破壊神のでこピン!」

 

 魔力で強化された破壊神のでこピンが茶々丸に炸裂した。普通の人間だったら余りの痛さに悶絶するものだが茶々丸は

 

 

 

 カァァァァァァァァンッ!!

 

 

 

「!?」

 

 茶々丸の額から人間から聞こえない金属音が聞こえた。マギは驚いて咄嗟に後退し、自分の指を見た。見れば自身の指が少しだけ赤くなっていた。茶々丸方も強がっているという訳でもなく、平気そうであった。マギは信じられなかったが、茶々丸に聞いてみた。

 

「茶々丸…お前人間じゃねぇな?」

 

「はい…私は此処麻帆良で開発されたガイノイドです」

 

「つまりはロボットっていう物か?ほんと…この学園には変わった奴が多い全く…やれやれだぜ」

 

 だけど…とマギは改めて拳を構えた。

 

「ロボットっていう事は少しは怪我しても大丈夫だな」

 

「…先程と言っていることが矛盾していますが?」

 

「そこは気にしない方向で頼むぜ」

 

 と今度はマギから攻撃を仕掛けようとした。しかし…

 

「!?なッなんだ?か…体が痺れて動けねぇ…」

 

 マギの体が痺れて動けなくなってしまっていたのだ。行き成り如何して動けなくなってしまったのか分からないでいると、申し訳ありませんマギ先生と茶々丸が頭を下げた。

 

「先程から無臭の麻痺毒のガスを撒いていました。ガスを吸ったマギ先生は数分の間動ける事は出来ません」

 

 なのに何でお前は動けるんだ?と言うツッコミをいれようとしたが、あぁロボットだから効かないのかと結論付けた。

 

「それにしても結構えげついなお前…」

 

 口も痺れだしまともに喋るのが難しくなってきた。茶々丸は申し訳ありませんと再度頭を下げながら

 

「私はマスターの為ならどんな事でもしますので…なのでマギ先生にはここで眠っていただきます」

 

 そう言いながら茶々丸がマギに近づくと腕から飛び出したロケットの噴射力で威力が倍になったパンチをマギの水月に直撃した。

 

 

 ドゴォッ!!!!!

 

 

 いくら体を鍛えているマギでも人間の急所の一つである水月は鍛える事は出来ない。そのまま数m程吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられてしまった。そして遂には体が動かなくなってしまい意識も朦朧としてしまった。

 

「申し訳ありませんマギ先生。私はマスターの元に急ぐのでこれで」

 

 と茶々丸はマギにお辞儀をすると足からジェット噴射で飛んで行ってしまった。そして一人となってしまったマギは

 

「…たっく恰好がつかねえな……本当にやれやれだぜ」

 

 と言い残して意識を失った。マギと茶々丸の一騎打ちはマギの油断によりマギが敗北する事となってしまったのであった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方エヴァンジェリンを追っているネギはと言うと、マギと分かれた後に直ぐにエヴァンジェリンを発見し、追いかけようとしたがエヴァンジェリンは自身のマントに空を飛びネギも自身の杖で追いかけ始めた。ネギはエヴァンジェリンを捕まえようとして、風の精霊を召喚する魔法を使い自らの分身を作り出すと、エヴァンジェリンを捕まえるために飛ばした。エヴァンジェリンは先程と同じように液体の魔法薬で氷の楯を造りだし精霊分身の攻撃を防いだ。とネギはマギが言っていた魔力が弱いという事が本当だと分かると、エヴァンジェリンの一瞬の隙をついてエヴァンジェリンに風華・武装解除の魔法を発動した。エヴァンジェリンのマントはまるで蝙蝠の群れの様になりエヴァンジェリンは飛行能力を失い、学校の屋根に着地した。同じようにネギも学校の屋根に着地した。

 

「こ…これで僕の勝ですね。如何してこんな事をしたのか教えてもらいますよ。それと…お父さんの事も」

 

 ネギは流石に恥ずかしかったのか指と指の間からエヴァンジェリンを事見てそう言った。しかし追い詰められたというのにエヴァンジェリンはクククと不敵な笑みを止めなかった。

 

「お前の父…お前の兄の言う所のクソ親父すなわち『サウザント・マスター』の事か?」

 

 エヴァンジェリンが言った事にネギはドキッと自分の心臓の音が大きくなったのを感じた。やはり彼女は父の事を知っていると

 

「とッともかく!魔力もなくマントも触媒の魔法薬も無いあなたに勝ち目はないですよ!素直に従ってください!!」

 

 とネギが手をブンブンと振り回して訴えかけているが、エヴァンジェリンはまだ不敵な笑みを崩さなかった。

 

「これで勝ったと言うなら、お前の頭の中は随分とお気楽なものだな…策というのは最後まで残しておくものだ」

 

 とエヴァンジェリンの後ろからガシャンという音が聞こえた。ネギの方からは何が来たのか暗くてうまく視認できなかった。

 

「さあお前の得意な呪文を唱えてみるといい」

 

 と不敵な笑みから挑発的な笑みとなったエヴァンジェリン。

 

(新手!?もしかしてさっきお兄ちゃんが言っていた仲間なのか!?仕方ない二人纏めて…)

 

 ネギはラス・テル マ・スキルと詠唱を始める。

 

「風の精霊11人縛鎖となりて敵を捕まえろ!」

 

 とネギが詠唱言い終える前に暗闇から…茶々丸が飛び出してきて

 

「サギ…(ビシッ!!)あう!?」

 

 茶々丸にでこピンをされ、魔法は不発に終わった。ネギは自分の魔法を妨害してきた者が同じクラスメイトの茶々丸だという事に気づいた。

 

「紹介しよう私のパートナーで、3-A出席番号10番で魔法使いの従者の絡繰茶々丸だ」

 

「ええッ!?茶々丸さんが貴方のパートナーなんですか!?」

 

 ネギは茶々丸がエヴァンジェリンのパートナーという事に驚愕した。

 

「そうだ。パートナーが居ないお前では私には勝てないぞ」

 

 エヴァンジェリンの言った事にムカッとしたネギは

 

「なッ!パートナーが居なくたって!風の精霊11人…」

 

 と再び詠唱を始めようとしたが、茶々丸が一瞬でネギに近づくと、ネギの頬を横に引っ張った。ネギは又詠唱を妨害され呆然としていたが今度こそと詠唱のえの字を言う前に茶々丸にでこピンをされた。魔法が使えないと分かるとネギは慌てだした。

 

「驚いたか?元々魔法使いの従者は戦いのための道具だ。我々魔法使いは呪文詠唱の時は完全に無防備なってしまい攻撃されたら呪文は完成できない。そこで盾となり剣となって護る事が従者の本来の役目だ。つまりパートナーのいないお前には我々二人には勝てないという事さ……まあお前の大切なお兄ちゃんが居たら勝てたかもしれんがな。というよりそのお兄ちゃんは何処にいるんだ?」

 

「はいマスター実は先程マギ先生と交戦し、戦闘不能にしておきました」

 

「ほうお前があの男に勝ったのか?私の思い違いか…」

 

「いえマギ先生は私が生徒と女性という事で本気では無かったのと油断により勝ったものです。本気だったら私が負けていました」

 

 茶々丸の報告にエヴァンジェリンはそうかと言った。ネギは茶々丸の言った事に驚愕した。

 

(そッそんな~!お兄ちゃんが居ないのにこの2人に勝つなんて無理じゃないかぁ~!!)

 

 ネギは完全に戦意を消失していた。

 

「さて話はここまでだ…茶々丸」

 

「はいマスター…申し訳ありませんネギ先生マスターの命令ですので」

 

 と茶々丸がそう言い終えると、ネギに近づき持ち上げた。ネギは首が締りさらに持ち上げられているために拘束から逃れられなかった。

 

「フフフ…漸この日が来たか。お前とその兄が学園に来てから今日という日を待ちわびていたぞ…」

 

「ど…どういう事です…か?」

 

 ネギは首を絞められながらもどういう事なのかを尋ねた。

 

「お前達が学園に来ると聞いてからの半年間…お前達に対抗できる力を身に着けるために、危険を冒してまで学園内の生徒を襲い血を集めた甲斐があった…これで奴が私にかけた呪いも解ける…」

 

「え……?のッ呪いってなんですか?」

 

 ネギはエヴァンジェリンが言っている呪いがどういう物か分からなかった。それはな…とエヴァンジェリンは何かを思い出すと、俯きプルプルと震えだした。そして次の瞬間ネギに迫りより、ネギの胸倉を掴むと

 

「私はお前たちの父、つまりサウザントマスターに敗れて以来魔力も封じられてからは!15年間もあの教室で日本の能天気な女子中学生と一緒にお勉強をさせられてるんだよ!!」

 

 それほど嫌だったのかエヴァンジェリンは涙で顔は赤面してネギの胸倉を掴みながら揺さぶった。揺さぶられたネギ本人は

 

「そ…そんなの…僕知りませんでした」

 

 胸倉を離されて咳を何回かした。そしてとエヴァンジェリンは口を大きく開きネギににじり寄って来た。牙がキラリと光る。

 

「このバカげた呪いを解くには…奴の血縁の貴様たち兄弟の血が大量に必要なんだ。本当はお前とお前の兄で半分半分にしてやろうと思ったのだがなお前の兄はタバコを吸ってるからアイツの血を飲んだら体に悪そうだからな…悪いがお前の血を死ぬまで吸わせてもらうぞ」

 

 エヴァンジェリンの牙がネギの首筋に迫ってきた。ネギ絶体絶命である。

 

「うわぁぁんッ!!誰か助けてぇぇぇぇッ!!!」

 

 ネギは叫び助けを呼んだが、当たり前のように誰も助けに来てくれなかった。そして

 

「アム(カプリ)」

 

 エヴァンジェリンがネギの首筋に噛みついた。首筋から血が失っていくのを感じるネギ。

 

(こ…こんな…こんな事になるなら…誰かパートナーを探しておくんだったよぉ~~)

 

 ネギは血を吸われながらもあらかじめにパートナーを探しておくんだったと後悔した。それと今更だがタバコを吸っているマギの事を恨んだのだった。そしてネギはこのまま本当に死ぬまで血を吸われるのではないかと思ったが…救いの女神?がやって来た。

 

 

 

「こらぁぁぁッ!!この変質者共ォォォォッ!!ウチの居候に何すんのよぉぉぉぉッ!!?」

 

 突如現れたアスナが茶々丸とエヴァンジェリンに飛び蹴りを食らわした。

 

「あ」

 

「はぶうッ!!?」

 

 茶々丸は別段と痛そうな感じではなかった(もともとロボットだから痛みなど感じないだろう)がエヴァンジェリンはもろ顔面に直撃して

 

「あぶぶ~~~!!」

 

 学校の屋上をヘッドスライディングしていく形で滑って行った。

 

「アッアスナさん!?どうやって此処に!?此処8階ですよ!?」

 

 ネギはアスナがどうやって此処に来たのか尋ねると、アスナは黙って上を指差した。ネギは上を見上げると

 

「お…お前…急に離れるなよ危ねえだろうが」

 

 黒き翼でゆっくりと降りてきたマギが屋上に着地したら膝をついてしまった。

 

「おッお兄ちゃん!大丈夫なの!?」

 

 とネギがマギが大事が無いのか触って確かめると

 

「おッおま!あんまり触んなよ!俺今体麻痺ってて上手く動けないんだからよ!」

 

 麻痺?ネギはマギが言っていることが今一よく分からなった。

 

「うう…なんだ今の力は…って!神楽坂明日菜!?」

 

 エヴァンジェリンは蹴られた顔を押さえながらよろよろと立ち上がると自分を蹴り飛ばしたのがアスナだったことに驚愕した。

 

「あれ?…って!アンタ達ウチのクラスのちょっとどういう事なのよ!?」

 

 アスナの方も今回の噂の吸血鬼がエヴァンジェリンだっ事に吃驚しているようだった。そしてエヴァンジェリンと茶々丸を指差し

 

「今回の事件の犯人はアンタ達なの!?しかも二人がかりで子供を虐めるような真似して!答えによっちゃただじゃ済まないわよ!!」

 

 エヴァンジェリンはアスナの迫力に思わず後ずさりをしてしまった。さらにさっきまで優勢だったのにネギの方には麻痺により上手く動けないが戦えるマギと喧嘩に強いアスナ。一方の自分は触媒の魔法薬はゼロで魔力が極限に封じられている自分とパートナーの茶々丸だけ、3対2で此方が圧倒的に不利であった。エヴァンジェリンが取った行動は

 

「よ…よくも私の顔を足蹴にしてくれたな!神楽坂明日菜…覚えておけよ!!」

 

 逃げの戦法。お決まりの捨て台詞を言いながら屋上から飛び降りた。

 

「あ!ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 アスナはエヴァンジェリンと茶々丸を掴まえようとして屋上の下を覗き込んだが、2人の姿は何処にもなかった。8階なのに何処に行ってしまったのか辺りを探していると、トスンと言う音が聞こえた。アスナは後ろを振り返ってみるとネギは緊張の糸が切れたのか腰が抜けて座り込んでしまった。アスナはネギに近づいて

 

「もうネギ話はマギさんから聞いたわよ!アンタったらマギさんに言われて一人で犯人を捕まえようとして!マギさんにはさっききつ~く言っといたけど、取り返しのつかない事になったらどうすんのよこのバカ!」

 

 アスナはネギに説教をしてネギの首筋から血が出ていることに気づき大丈夫か聞いたが、ネギから反応が無かった。アスナはネギの顔を覗き込んでみると

 

「ぐす…!ヒグッ!…ウグッ!!」

 

 ネギは目に大粒の涙を溜めこんで泣き出しアスナに抱き着いた。

 

「ウワァァンッ!アスナさん怖かったですうぅッ!!」

 

 ネギは号泣しながら怖かったとアスナに言った。

 

「…はいはいもう大丈夫だからね。よしよし…何があったのかちゃんと話してみなさい」

 

 とアスナはネギをあやしていた。その姿は故郷のネカネに似ていると思ったマギ。

 

「あとお兄ちゃんはもう禁煙してくださ~い!!」

 

「なんで行き成り禁煙の話になるんだよ!?意味わからねぇわ!!」

 

 マギは行き成り禁煙しろと言われ意味が分からないとツッコんだ。

 こうしてネギとマギの吸血鬼騒動はネギとマギの返り討ちにあって終わったのであった。

 

 

 

 

 とある麻帆良の夜空にて

 

「ククク…思わぬ邪魔が入ったが、あの坊やと兄にまだパートナーを見つけていないのは今がチャンスだという事には変わりがない…クックック…覚悟しておくのだな先生方」

 

 茶々丸の腕に腰かけてエヴァンジェリンが不敵に笑っていた。エヴァンジェリンの笑い声は麻帆良の夜によく響いていたのであった…

 

 

 

 




今回はオリジナルの話で
マギVS茶々丸の話をいれてみたんですが……
マギはフェミニストという訳ではありません。
ただ女性相手だと今一本気になれないのです。
そのせいであっさりと負けてしまいましたけど……
「お前一応ドラゴンに勝っただろ!」
と言うツッコミは無しの方向でお願いします。
元々マギにはボコられてもらうつもりだったので

後書きが長々となってしまいましたが、次回はあの小動物がやってきます。
何故か他の作者様はあの小動物を途中退場させたり死なせたりしますけど何ででしょうね?
自分原作を読みましたけど、確かに所々嫌なヤツみたいなシーンがありましたけど
結構役にたったりとかしたのに……自分はあの小動物結構好きなキャラですよ

まあそんな事は置いといて次回もお楽しみに!







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お騒がせオコジョと仮契約

漸く話が出来ました!

が正直グダグダです

それではどうぞ


 吸血鬼騒動の犯人がエヴァンジェリンだと分かったが、返り討ちにあったネギとマギ。翌朝の8時の女子寮、アスナとこのかの部屋にてアスナは困っていた。

 

「こらネギ!もう8時よ!いいかげんに起きなさいよ!!」

 

 と布団に包まったネギを起そうと、ネギの体を揺すっていたのだ。

 

「アンタ先生なのに遅刻したら生徒に示しがつかないでしょうが!」

 

 とアスナはネギを起そうと必死だったが

 

「…ゴホゴホッ!…なんか風邪を引いたみたいで…今日はお休みします」

 

 と何処かワザとらしい咳をしていた。このかはネギ君大丈夫?と心配していたのだが、そんなワザとらしい咳をして布団に包まっているネギを見て、マギはハァァァァと深い溜息を吐いた後にネギが包まっている布団を強引に引っ張ろうとした。

 

「お兄ちゃんやめ…!」

 

 止めてと言い終える前にマギは強引に布団を引っ張り終えてしまった。そして布団に包まっていたネギはと言うと…

 

「あ…」

 

 普通にぴんぴんとしていた。まあ簡単に説明すると昨日エヴァンジェリンにコテンパンにされたせいで今日またエヴァンジェリンに会うのが怖いので仮病を使おうとしたのだ。

 え?マギはって?昨日茶々丸に麻痺毒のガスを吸わされた後に急所の水月にクリティカルヒットをされているのに

 

「まぁ仕方ねぇなあれは」

 

 とケロッとしていたのだ。寛大なのか怒るのも面倒なのか……恐らく後者だろう。話を戻すと、やっぱり仮病という事で少し頭に来たアスナは

 

「昨日怖い目にあったのは分かるけどね!先生のくせに登校拒否してどうするのよほらッ!」

 

「あうぅぅッ!ぱッパンツだけは許してくださぁぁい!!!」

 

 とアスナが強引にネギを着替えさせようとして、ネギはパンツまでも脱がせられない様にパンツを掴んでいた。こうしてネギ達の今日の朝はドタバタと喧しい1日から始まるのであった。

 学校登校ではネギは登校している生徒にクスクスと笑われていた。と言うのも今のネギの状態だが

 

「お早うネギ君!」

 

「お早うネギ先生何の遊びや?」

 

 亜子がこう聞いてくるのはネギはアスナに片手で担がれていて、もう片方の手でネギの杖を持っているという状態である。

 

「おッ降ろしてくださいよアスナさん!エヴァンジェリンさん達が居たら如何するんですか!?」

 

 ネギは泣きながらジタバタと暴れ、降ろしてくれと懇願しエヴァンジェリンが居たらどうするのかとアスナやマギに聞いても

 

「別に何とかなるんじゃないか?」

 

 とマギの返答でアスナの返答は

 

「学校で襲ってきたら校内暴力で停学にしちゃえばいいじゃない」

 

 と返ってきた何とも楽観的な2人なのだろう。ネギはそんな簡単な話じゃないと言うのは自分でも理解していた。昨日エヴァンジェリンと対峙した時

 

 ――――パートナーのいないお前では私には勝てないぞ―――――

 

 ――――悪いが死ぬまで吸わせて血を吸わせてもらうぞ―――――

 

 

 ネギとマギは直にエヴァンジェリンと戦ったから分かる。魔力を封じられても彼女は強いと。次に会ったら今度こそ殺されてしまうとそんな事を考えている間に

 

「おいネギもう教室に着いたぞ」

 

 とマギに言われ見てみると3-Aのクラス看板が目に写った。

 

「ちょ!僕まだ心の準備が…!」

 

 とエヴァンジェリンが教室にいるかもしれないのにネギは未だに心の準備が出来ていなかった。そんなネギを見てマギは呆れたような溜息を吐いて

 

「なに言ってんだよお前は。ンな事いいからさっさと教室に入るぞ…う~すオメェ等おはようさん。そろそろホームルームだから席に着けよ」

 

 とネギが何か言っているが無視しマギは教室のドアを開けて、生徒達に挨拶をした。生徒達はネギとマギに挨拶をし、よく見たら昨日は保健室で寝ていたまき絵も教室に居て、昨日と違い元気そうであった。

 

「まきちゃんもう平気なの?」

 

 アスナはまき絵の容態を聞いてみるとまき絵は平気だと答えた。確かに顔色もよさそうである。

 

「昨日の事は何にも覚えていないそうだ」

 

 とまき絵の熱を測っていたアキラはそう教えてくれた。ネギはまき絵が大丈夫なのを聞いて安心しながらもエヴァンジェリンが教室に居るのかを確かめると、エヴァンジェリンの席にはその本人の姿が無かった。ネギはホッとしていると

 

「――マスターは学校には来ています。つまりはサボりです」

 

「うわぁッ!?」

 

 と行き成り茶々丸が後ろから現れ、エヴァンジェリンの事をネギに教えたがネギは後ろに茶々丸が居た事に大げさに驚いていた。

 

「んだエヴァンジェリンの奴サボってるのか?あんまりサボられると面倒だな…茶々丸エヴァンジェリンには授業は受けなくてもいいから教室に居ろって言っといてくれ」

 

「分かりました。では」

 

 とマギはエヴァンジェリンにちゃんと教室に居ろとそう伝え、茶々丸は分かりましたとお辞儀をしながら、エヴァンジェリンのもとに行った。

 

「おッお兄ちゃん!何でエヴァンジェリンさんを呼ぶように言ったの!?呼ばない方が危なくて済むじゃないか!」

 

 とネギの言っている事ももっともかもしれないが

 

「あのなネギ、俺達は先生だそりゃあ昨日はエヴァンジェリンと茶々丸にコテンパンにされたけどな、それでもサボりの生徒を見過ごすわけにもいかねぇだろ?」

 

「う…うん」

 

 マギにそう言われ、ネギはシュンとしてしまったが、次にはマギが黙ってネギの頭を撫でてくれた。久々にマギに頭を撫でられたネギは少し落ち着いた。そんなネギを見てマギも微笑みながら

 

「んじゃオメェ等席に着けよ~そろそろホームルームを始めるからな」

 

 とネギとマギは教卓に向かい、今日も一日の学校生活が始まるのだった

 

 

 

 

 

 時間は飛び、マギの歴史の授業にて

 

「よ~し3年からは室町幕府を抜けて戦国時代についてだな~」

 

 とマギは黒板に授業内容を書きはじめた。

 

「まッ今日は授業初日という事で軽めに戦国時代の武将について話しておくか」

 

 とマギは授業初日という事で軽めの授業を行う事にした。マギは有名な武将の武田信玄や上杉謙信と織田信長や豊臣秀吉に徳川家康を順番に書きながらの合戦や出来事などを軽めに教えていた…いたのだが

 

「おいオメェ等初めの授業は軽めと言ったがな、授業を聞かずにボーッとしていいじかんじゃねえぞ」

 

 と大半の生徒がボーッとしていたり、マギを見つめて顔を赤らめていた。

 

「おいおい如何したオメェ等まだ春休み気分が残ってるのか?はやく直せよ」

 

 とマギがそんな事を言っていると、ハイマギさんと亜子が手を上げた。

 

「何だ亜子?何か質問でもあるのか」

 

 と亜子に聞くと、亜子は顔を赤くしながらも

 

「まッマギさんって!年下のパートナーには興味がありますか?」

 

 と亜子がパートナーの事について聞いてみたら

 

 

 ガタンッ!!

 

 

 マギはズッコケてしまった。

 

「亜子…なんでそんな事を聞いてくるんだ?」

 

 ズッコケたマギはのろのろと起き上がり、何故パートナーの事を聞いて来るのかを訪ねた。亜子は

 

「さっきネギ先生が年下のパートナーは如何かと聞いてきたから」

 

 と答えを聞いて、マギは溜息を吐いた後に目頭を指でほぐした。

 

(やっぱりネギの奴気にしてたのか…)

 

 ネギは昨日エヴァンジェリンに言われたパートナーの事を気にしていたようだ。そしてネギは自分のパートナーになるのは嫌かを尋ねると、まき絵やあやかは自分をパートナーにというアピールが凄かったらしい。

 

「全く授業中にそんな事を聞くもんじゃねえぞ」

 

 と呆れていると亜子は気になっている様で

 

「それでマギさんはもし…もしやけどこのクラスでパートナーにするならだれが一番ええの?」

 

 と亜子が言っていることにこれは答えないと先に進まないなと思ったマギは

 

「そうだな…趣味があっているのどかとかかな?悪いなのどか変な事言っちまって」

 

 のどかは自分の名を呼ばれ、嬉しくなりながらも顔を赤くしながら

 

「いッいえ!別に気にしてません!!むしろ嬉しいぐらいです!?」

 

 と最後ら辺は自虐に走ってしまった。ハルナと夕映はのどかにガッツポーズを送っていた。それと名を呼ばれなかった亜子と風香と史伽はショックを受けてしまい

 

「なッ何でウチはアカンのん?」

 

「いや亜子は確かに元気いっぱいの女の子で魅力的だとは思うがあんまり話した事無いしな…」

 

「じゃッじゃあボクと史伽は!?マギ兄この前一緒に麻帆良を散歩して楽しそうだったじゃないか!」

 

「そうですそうです!」

 

「いや双子のお前らはイタズラとかで心身共にストレスがかかりそうでな…」

 

 とマギにバッサリと言われ、亜子と風香と史伽はガーンッ!とショックを受けていた。

 

「もういいか?授業を再開するぞ」

 

 とマギは授業を再開したが、嬉しそうに頬に手を当てているのどかとショックで机に倒れている亜子と風香と史伽の姿が有ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 放課後、生徒達は部活の者や帰路に着く者が居て、マギも帰路につこうとしたら

 

「マギ先生!」

 

「マギさ~ん!」

 

 とあやかとまき絵がマギを呼びとめた。マギは何の用なのかと振り返った。

 

「如何したんだよ2人してなんか用か?」

 

 と聞いてみると実は…とあやかが難しい顔をしながら

 

「ネギ先生の事ですわ。今日は1日顔色が優れない様子だったのでとても心配で…」

 

「なんか気になっちゃってマギさんに如何してネギ君が元気がないのか聞いてみようと思ったの」

 

 あやかとまき絵の言う通りネギは終始元気が無かったのである。まさかそれがエヴァンジェリンにボコボコにされたからと言うのは言えるわけもなくとっさに

 

「ネギが元気がないのは本当の先生になって色々とやる事が多くなってな。やっぱ10歳のガキにはきつくてな、それが顔に出ちまったんだよ」

 

 と有りえそうな嘘を吐くとあやかはそんな!と崩れながら涙を流し

 

「ああネギ先生がそんなに大変だったなんて…!あやかは何もできないのですか!?」

 

「そっかネギ君ってまだ10歳だもんねそりゃ疲れるのも無理ないかぁ」

 

 とネギの気苦労をねぎらった。マギはそうだと何かを思いついたのか

 

「だったらお前らでネギの事を癒してあげればいいんじゃねえか?ネギだってそうしてもらえば嬉しいだろしな」

 

 とマギが言った事がグッドアイディアだと思った。あやかはガバッ!と立ち上がりマギの手を両手で掴むと

 

「分かりましたわ!この雪広あやか誠心誠意をもってネギ先生を癒してさしあげますわ!!」

 

 とやる気に満ち満ちたあやかの顔を見て、ネギがかかわるとテンションが高くなるなコイツ…とあやかを見て苦笑いを浮かべた。

 

「そうと決まればまき絵さん!さっそく準備の方を!!」

 

「りょうかーい!あ!マギさんもよかったら来てね!絶対だよ!!」

 

 と言い残しあやかとまき絵は走り去って行った。廊下は走るなよとマギが注意したが、聞く耳を持たずにあやかとまき絵は彼方遠くに行ってしまっていた。やれやれだぜとマギが呆れていると

 

「ほう、昨日は茶々丸に伸されたと言うのに随分と平気そうじゃないか」

 

「なんだエヴァンジェリンか。俺がさっき言った事を守ってくれたな」

 

 マギの目の前にエヴァンジェリンと茶々丸が現れた。茶々丸はマギにペコリとお辞儀をして、エヴァンジェリンはフンと鼻で笑った。

 

「昨日私達に負けた貴様がどうしてもと言うからなありがたく思えよ」

 

 エヴァンジェリンの偉そうな態度にマギは苦笑いを浮かべていたが、急に真面目な顔になって

 

「なあ、お前はまたネギや俺を襲うのか?」

 

「当然だ。私の忌々しい呪いを解くには貴様の父の血縁の血が大量に必要なんだからな。まぁ貴様の血はタバコのせいで吸うつもりはないがな。よかったな血を吸われずにすんで」

 

 とマギを小ばかにしたような言い様でマギにそう言ったが、マギが次に言った言葉はエヴァンジェリンの目を大きく開かせたのだった。

 

「すまねぇなエヴァンジェリン…俺のクソ親父のせいでそんなふざけた呪いをかけられちまって。もしよかったら俺の血でお前の封印が解けるならいくらでも使ってくれ」

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 エヴァンジェリンはマギが言った事にポカンとしてしまった。今マギは何を言った?自分にすまないと謝った後に、自分の血をいくらでも使っていいとそう言ったのだ。

 

「貴様正気か?悪の魔法使いに頭を下げて挙句には自分の血をいくらでも使ってくれだと?貴様仮にも正義の魔法使いではないのか?」

 

 エヴァンジェリンの言った事にああそれなと言いながらマギは頭を掻きながら

 

「俺ってみんなで掲げる正義っていうの好きじゃねえぁしさ、それに15年もその呪いに苦しんでるんだろ?」

 

 とマギの言っている事に頭を痛くするエヴァンジェリンは自分の生い立ちを話した

 

「いいのか貴様?貴様が封印を解いてやろうとしているこの私はもう600年ほども生きていてこの手で殺めた人間など数知れないのだぞ」

 

 此れを話せば自分が愚かな行為をしようとしているのかに気づくと思いきや

 

「へぇ結構長生きなんだな。それにその殺めた人間ってどうせお前が吸血鬼=悪者って考えで襲ってきて返り討ちにしたってパターンだろ?」

 

 それに…とマギは言葉を続ける。

 

「もしもお前が極悪非道な悪もんだったら、まき絵の血を全部吸って殺しちまうもんだろ?なんかさ…お前が好きで吸血鬼をやりたいとは思えないんだよな」

 

 とマギがそう言うとエヴァンジェリンは何処か驚愕したような顔になって俯いてしまった。マギはエヴァンジェリンの態度が急に可笑しくなったのが変に思い、大丈夫かと聞きながら腕を伸ばすが、エヴァンジェリンに腕を思い切り払われた。そして顔を上げたエヴァンジェリンの表情は無表情に近い冷たい表情となっていた。

 

「黙れ…何も知らない小僧が私に意見するとはよほど死にたいようだな」

 

 エヴァンジェリンの底冷えするような声に少しだけマギはたじろいてしまった。そんなマギを見てエヴァンジェリンは

 

「…興がそがれた。行くぞ茶々丸」

 

「はいマスター」

 

 とエヴァンジェリンはマギの元からさり、茶々丸はマギにお辞儀をしながらマギの元に去ろうとした。

 

「おいエヴァンジェリン。明日も学校にちゃんと来いよ」

 

 とマギがそう言ってもエヴァンジェリンは無視して行ってしまった。マギは何か怒らせるような事を言ってしまったか?と考え始める。ネカネにはマギには女心が分かっていないとよく言われたが、さっきまでの発言にエヴァンジェリンを傷つけた事を言ったのかが分からなかった。

 

「ったく…やれやれだぜ。そう言えばあやかとまき絵がネギを励まそうとするなんかをやるって言っていたな。気分転換に行ってみるか」

 

 と行ってみる事にした。

 

 

 

 

 アスナは女子寮で急に居なくなったネギを探していた。ネギは居なくなったと言うより、楓とアキラに拉致られて大浴場に連れられてしまい、其処であやかとまき絵が考えた。『ネギ先生を励ます会』によって揉みくちゃにされているのだが、アスナはそれをしらない。ついでに亜子と風香と史伽はマギを今か今かと待ち構えているのだが、閑話休題。

 

「まったくネギの奴何処に居るのよ?」

 

 とブツクサと文句を言いながら、ネギを探していると

 

「なんだ神楽坂明日菜か…今日は会いたくない者によく会うな」

 

 と何処からか行き成りエヴァンジェリンと茶々丸が現れた。

 

「アンタ達!ネギを何処に隠したのよ!?」

 

 とアスナはエヴァンジェリンの姿を見てすぐさま戦闘態勢に入ったが

 

「私は坊やなど隠していないぞ」

 

 とエヴァンジェリンの言った事にアスナは面食らってしまった。

 

「安心しろ神楽坂明日菜。少なくとも次の満月までには私達が坊やを襲ったりすることはないだろう」

 

「どういう事よ?」

 

 とアスナの疑問にエヴァンジェリンはほらとぐいと口を引っ張ってアスナに自分の口をよく見せる。エヴァンジェリンの歯には吸血鬼の鋭い牙が無かった。アスナは如何してと思っていると

 

「次の満月までは私はただの人間となってしまう。坊やの血はすえないという事だ」

 

 まぁもっともと続けるエヴァンジェリン。

 

「次の満月までに坊やがパートナーを見つけられれば勝負は分からんが…まぁ魔法と戦闘の知識に長けた助言者・賢者でも現れない限り無理だろうがな。フフ」

 

「なッなんですって!」

 

 エヴァンジェリンの余裕ある態度にアスナはムッとしてしまった。ネギがここまで言い様に言われてムカッとしてしまった。そんなアスナを見て何かおかしいのかエヴァンジェリンは笑い出した。

 

「それよりもお前やけにあの坊やの事を気にかけてるじゃないか。子供は嫌いじゃなかったのか?同じ布団で寝ていて情でも移ったのか?だったら滑稽だな」

 

 そんな事を言われて顔を赤くしながらも反論する。

 

「かッ関係ないでしょ!とにかくネギに手を出したら許さないからねアンタ達!というよりなんでネギだけ狙うのよ!マギさんは如何したのよ!?」

 

 とアスナがマギの名前を出すと、ニヤリと笑っていたエヴァンジェリンが急に冷えた顔になった。アスナは急に表情を変えたエヴァンジェリンに思わずたじろぐアスナ。

 

「神楽坂明日菜…私の前で当分その名を呼ぶな。もし又その名を呼べば貴様の血を全て吸って吸い殺すぞ」

 

 エヴァンジェリンの殺気に満ちた目で睨まれアスナは、は…はい分かりました。と思わず敬語で答えてしまった。

 

「ふん。茶々丸行くぞ」

 

「はいマスター」

 

 それ以上は何も言わずにエヴァンジェリンはアスナの元から去って行った。茶々丸だけはアスナに礼儀正しく頭を下げて去って行く。アスナはマギの時だけ態度を変えたエヴァンジェリンを見てマギはエヴァンジェリンに何をしたのかとそう思っていると、何処からか悲鳴に近い騒ぎ声が聞こえた。大浴場からである。

 

「まったく今度は何よもう!」

 

 とアスナは大浴場に向かって行った。大浴場に行くと其処には何故かマギが居た。

 

「あれマギさん、なんで大浴場に?」

 

「いやなんかあやかとまき絵がネギを癒そうとかで此処でなんかやっているそうだが…さっきから騒がしいんだよな」

 

 とネギが親指でさされた大浴場は先程から何やら騒がしかった。

 

「何やってるのよまったく!アタシが先に行くからマギさんも付いて来て!」

 

「は?何言ってるんだよ。男の俺が女湯に行くなんてそれは流石にやば「いいから来て!」話を聞けよな」

 

 とマギが言っていることを無視して、アスナはマギの腕を引っ張って大浴場に入って行った。そしてアスナが大浴場の中に入ってみると、アスナの目の前に何かの小動物が迫ってきた。

 

「なッ何よコイツ!?」

 

 アスナは咄嗟に近くにあった風呂桶を掴み

 

「えい!」

 

 

 パコーンッ!!

 

 

 小動物を叩き落としたが、小動物は何もなかったかのように直ぐに起き上がると、素早い動きで大浴場の外に出てしまった。マギは走り去っていく小動物を見ていたが、その小動物が何処かで見たような気がしたが、気のせいだろうか、とアスナの方を見てみると

 

「アンタ達はなんて格好してるのよ!?ネギまで連れ込んで」

 

「いッいえアスナさんこれは誤解ですわ!!」

 

「ネギ君を元気付ける会なんだよ~~!!」

 

 とアスナが叫んでしまったのはネギやあやかにまき絵その他の生徒の水着が無く全裸になっていたのでアスナが叫んで、マギはやれやれだぜとお決まりの台詞を呟いて事態の収束をした。こうして『ネギを励ます会』はあやふやな形で終わったのだった

 

 

 

 

 

 

 ネギとアスナとマギは自分達の寮の部屋に向かっていたが、表情は疲労の色が現れていた。先程のネギを励ます会の収束は思ったよりも骨が折れた様であった。

 

「まったく…今日は散々な1日だったわよ」

 

「でも皆さんのおかげで少し元気が出ましたよ」

 

 アスナは今日1日を振り返って疲れた様な溜息を吐いていたが、ネギは生徒達に励まされて少しは元気が出たようだ。でも…とすこし表情がしずんだネギとその隣にいたマギは何か考え事をしていた。

 

(まだパートナーが決まっていない。早くしないとエヴァンジェリンさんに今度こそ殺されちゃう…)

 

(今日はなんかエヴァンジェリンを怒らせちまったな。明日からどんな顔でエヴァンジェリンに会うか…)

 

 と二人して溜息を吐いてアスナに怪訝な顔で見られていた。すると…

 

 

 

「景気の悪そうな顔してるんじぇねえかお二人さん。もしかして俺っちの助けが必要かい?」

 

 と何処からか声が聞こえ、ネギとマギにアスナは辺りを探していると、下だよ下と今度はネギ達の足元から声が聞こえてネギ達は下を見てみると、ネギ達の足元に一匹の白いオコジョが女性の水着を咥えていた。アスナは若しかしてこのオコジョが喋っていたのかと思ったが、まさか魔法が何でもありだからと言っても動物が喋るわけがないと思っていたが、その考えは一瞬で崩れ去った。

 

「俺っちだよネギの兄貴にマギの大兄貴。アルベール・カモミールでさぁ。お久しぶりっす!」

 

 足元に居たオコジョが流暢に喋り始めた。さらに

 

「かッカモ君!?」

 

「おーカモじゃねえか。懐かしいなおい」

 

「へへッお二人に恩を返しきたぜ」

 

 と喋るオコジョとネギとマギが知り合いの様だった。

 

「姐さん。さっきの一撃はなかなかだったぜい」

 

「…魔法使いってなんでもありなのね…なんか頭が痛くなってきた」

 

 先程大浴場にいた小動物はこのオコジョだったようだが、喋るオコジョを見てアスナはもう頭が一杯であるようだ

 

 

 

 

 

 

 ネギとマギの前に現れたオコジョ、アルベール・カモミール通称カモとの出会いは5年前のイギリス・ウェールズの山中にて、カモは動物を捕まえる罠に足を挟まれていた。

 

ネコの妖精(ケット・シー)に並ぶ由緒正しいオコジョ妖精の俺っちとしたことがこんな間抜けな罠に引っ掛かるとは情けねぇ。こんなんじゃ漢の中の漢にはなれねぇ。一気に引っこ抜いてやる!!」

 

 と強引に罠を外そうとしたが、茂みがガサガサと揺れる音を聞くと

 

「あッうそうそ!ごめんなさい!食べないで!!俺っち食っても美味しくねえぞ!!」

 

 とさっきまでの強気の威勢は消えてしまい腰が引けてしまった。しかしカモの前に現れたのは罠を張った人間じゃなかった。

 

「大丈夫。罠を仕掛けた大人には僕が言い訳しておくから。お兄ちゃんお願い」

 

「なんで俺が…メンドイな」

 

 と2人の少年が現れ、兄らしい少年がカモの足を挟んでいた罠をメンドイと言いながら外してあげた。足が動ける様になったカモに弟の方の少年がにっこりと笑いながら

 

「もう罠にかかっちゃだめだよ。覚えたての治癒魔法で怪我を治してあげる」

 

 とカモの怪我を魔法で治してあげたのであった。そうカモの怪我を治してあげ、罠を外してあげた兄弟は幼いネギと少年だったマギであった。罠から逃れたカモは近くの茂みで、怒られているネギとマギを見て

 

(あの2人こそ俺っちの求めていた漢の中の漢だよ!!)

 

 と感動し誓った。立派な男になったらあの2人に恩返ししよう!と

 

「これが俺っちと兄貴たち2人との出会いなのさ!」

 

「へぇ~漢ねぇ…」

 

 アスナはカモが話したネギとマギの出会いにそう返した。話に出ていたネギとマギはカモとの出会いに懐かしがっていた。

 

「いやー懐かしいなぁカモ君大きくなったね」

 

「ほんとに大きくなったなカモ。妹は元気にしてるのか?」

 

 ネギはマギが言った妹言う言葉に首を傾げた。そう言えばネギは知らねえかとマギはそう言いながら

 

「俺が山で修業してた時に偶然にカモに会ってそこでカモの妹と会ったんだ。体が弱い妹でな俺がしばらくの間妹の看病をしてやったんだ。カモの妹なのに全然似て無くてかわいいんだこれが」

 

 とマギが説明するとネギはへぇ~と言いながら

 

「カモ君に妹が居るなんて知らなかったよ。今度僕にも紹介してよ」

 

 とネギが言うと

 

「あ…あぁ今度ネギの兄貴紹介するっすよ。マギの大兄貴の言う通り本当に可愛い妹なんすよ」

 

 と何処か歯切れの悪い返事をするカモ。そッそんなことよりも!とカモは強引に話題を変えた。

 

「兄貴たち全然進んでねえじゃねえっすか」

 

「え?何が?」

 

 とネギはカモが言っている進んでいないという意味がよく分からなかった。

 

「パートナー選びっすよ!パートナ選び!!良いパートナーを探さないとマギステル・マギになるにもカッコがつかないでしょ!!それにマギの大兄貴はその歳で未だにパートナー不在は流石に不味いっすよ!」

 

 とカモがパートナー選びの事を話すとネギとマギは苦い表情になった。

 

「それはこれから探そうと思ったんだけど……」

 

「パートナーなんてそんな簡単に探せるわけねえだろ」

 

 とネギとマギがパートナー選びに難攻しているのが分かるとそうスかとカモが何処からかタバコを出し(マギが吸っているタバコと同じ銘柄)咥えると煙を出しながら

 

「でも俺っちが来たからにはもう大丈夫っすよ!何故なら俺っちは兄貴達のお姉さんに頼まれた助っ人なんすから!」

 

 と胸を張りながら(アスナにタバコを取り上げられ消されていたが)そうネギとマギにそう言う。

 

「ええそれ本当!?カモ君!」

 

「ネカネ姉から?ほんとかよ」

 

 ネギはネカネの名前を聞いて嬉しそうだが、マギは何処か信じていない様子だった。とカモが話を続ける。

 

「さっきもあの大浴場で調べさせてもらいましたけど、すごくいい素材ダラケっすね!俺っちは確信しましたっすよこの中に兄貴と大兄貴の運命的なパートナーが必ず居るって!」

 

 と自信満々にそう答えているとアスナはあからさまにカモを怪しんで

 

「なんでアンタがそんな事が分かるのよ?」

 

 と胡散臭そうにカモをつついたが

 

「俺っちにはそういう特殊能力があるんすよ。とにかく!いけますぜ3-A!!この中にきっと兄貴と大兄貴のパートナーが」

 

 居る!とカモが言い終える前に

 

「なんや騒がしいけど、誰か来とるんか?」

 

 とシャワールームでシャワーを浴びていたこのかがバスタオルを巻いて部屋に戻ってきた。

 

「だッ誰も来ていませんよ!!」

 

 とネギが誤魔化していたが、このかがカモの存在に気づくと

 

「可愛え~!!真っ白なオコジョや!ネギ君とマギさんのペットなん!?」

 

 とこのかはカモを抱きしめると、そのまま外に飛び出し他の生徒を呼んだ。すぐさま生徒の何人かが集まりカモを触りだす。

 

「ネギ君とマギさんのペットなんやて!」

 

「かわいい~!さわらして!!」

 

「あ~たまんない肌ざわり~~」

 

 流石の女子という事だろうか。カワイイ動物には目が無いのだろう。女子生徒達に触られているカモはというと

 

(へへ…全員俺っちの漢気にメロメロよ)

 

 と恍惚な笑みを浮かべていたが次の瞬間

 

(!!こッこれは!?)

 

 とカモの能力で何かを感じたのか、全身の毛を逆立てた。ネギはカモの元に行くと

 

「あの、僕これ飼ってもいいんですかね?」

 

 と生徒達に了承を得ようとすると

 

「いいんじゃない?」

 

「この寮はペットOKだし!」

 

「うちが許可取ってあげるな」

 

 と大丈夫そうであり、カモは無事に寮で飼える事が出来るようになったのだった。これでパートナー探しがいくらか楽になったネギは

 

「お姉ちゃんにカモ君をよこしたお礼に手紙を書かないとね」

 

「そうだな。ネカネ姉も喜ぶだろうよ」

 

 とネギがネカネに手紙を書こうとすると

 

「あぁ兄貴!別に書かなくていいんすよ!」

 

 と何故か必死にネギに手紙を書かなくていいとそう叫ぶカモ。そんなカモに何でと思ったネギとさっきから怪しい行動をするカモに眉を上げるマギ。そんな事よりも!とカモが何か大変そうな顔になりながら

 

「実は今いた女子の中にこれは!!というマギの大兄貴のパートナー候補がいたんすよ!!」

 

「えッウソ!?」

 

「マジかよカモ?」

 

 とネギは驚いたような顔でマギは信じられない顔で、カモを見ていたがカモは生徒達の写真を見てこの娘っす!!とそのパートナー候補の女子の写真を指差した。その女子とは

 

「もう俺っちのセンサーもビンビンでさぁ!!」

 

 のどかであった。確かにマギとネギが麻帆良に来た初日にのどかは危ない所をマギに助けられたことがあったし、ドッジボールの時もボールが当たりそうになった時もマギが代わりにボールを取ったりその他にも空いた時間や暇な時間にはのどかとはどんな本が好きなのかという話をして思い当たる節は幾つもある。

 

「如何なんすかマギの大兄貴?この娘とはまんざらじゃないんじゃ?」

 

 とカモがマギに如何なのか聞いてみると

 

「…」

 

 と何故か無言だった。大兄貴?とカモはマギが話を聞いているのか確認すると、マギは急に立ち上がりゴキッ!ゴキ!と首を鳴らすと、ソファーの方に向かっていた。

 

「お兄ちゃん如何したの?」

 

 ネギがそう聞いても

 

「寝る」

 

 の一言で普段着から寝間着へと着替え始めた。そして着替えながら

 

「そんな下らねえ事やってないで早く寝ろよ。明日も早いんだしよ」

 

 時計を見ればもう10時を回っていた。確かにこれ以上起きていても明日がきつくなるだろう。とりあえずパートナーの話は此処までしておいてネギとアスナも寝る事にした。とアスナもベットに行こうとすると、ドアの郵便淹れに何かが入っている模様だった。中を調べてみると手紙でネカネからのエアメールだった。

 

「ネギのお姉さんからのエアメールじゃない」

 

 とカモはネカネのエアメールを見てヤバい物を見たような表情になりながら

 

「あッ姐さん!その手紙俺っちが兄貴たちに届けておきますよ!」

 

 とアスナの返事も聞かずに手紙を咥えて、アスナの元から走り去って行った。そしてアスナの姿が見えなくなると、アスナにばれない様に外に飛び出して寮の廊下にある燃えるゴミのゴミ箱に手紙をクシャクシャにしてゴミ箱に捨てたのだった。

 

「や…ヤバい!早いとこ手をうたねぇとまずい…!」

 

 とカモは何処か焦ったようなそんな感じで呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の放課後、のどかは図書委員として図書館島まで本を運んでいた。

 

「図書館島からここまでは遠くて困ります~」

 

 のどかは本を運びながらそんな事を呟いていた。そして1~2時間かけて本を運び終え、下校しようとして下駄箱を開けるとのどかの下駄箱に1枚の封筒が入っていた。なんだろうと思いのどかは差出人は誰かと思い、封筒の裏を見てみると

 

『マギ』

 

 の名前だけ。

 

(もッもしかしてこれはマギさんからのらッラブレター!?)

 

 のどかは逸る気持ちを落ち着かせ、ゆっくりと封筒を開けラブレターに何が書いてあるのか呼んでみた。内容はどんなものかというと

 

『のどかへ   放課後寮の裏で待ってる。俺のパートナーになってくれ。    マギ』

 

 手紙を読み終えたのどかは

 

「う…ウソ…ぱッパートナーって…」

 

 信じられないという顔をリンゴの様に真っ赤にしていた。しかしこのラブレターだが、マギ本人が書いたわけではない。カモがのどかを呼ぶためにカモが書いた偽のラブレターなのである。そんな事など露知らずのどかは嬉しさのあまりスキップで寮まで帰って行った。

 一方ラブレターに書かれていたマギは何時もの石像が有るベンチでタバコを吸っていた。今日1日も何の問題も無く終われせる事が出来たと思った。しかし

 

「やっぱりだが、エヴァンジェリン奴来てなかったな。パートナーの茶々丸も居なかったし…やっぱり昨日の事で怒ってるみたいだな。まいったな」

 

 と溜息と同時に煙を吐く。如何したもんかと考えていると

 

「大兄貴!マギの大兄貴~~~!!」

 

 カモが大慌てでマギの元に走ってきた。

 

「如何したんだよカモ。そんな大慌てで」

 

「大変っすよ!昨日は話した宮崎さんがガラの悪い男達に女子寮の裏でカツアゲにあってるすよ!!」

 

「はあ?カツアゲ?と言うよりなんでのどかがそんな目にあってるのをカモが知ってるんだよ」

 

 マギは何故のどかがそんな目にあっているのをカモが知っているのかを聞いてみると、カモは何故か視線を逸らしながら

 

「そ…それは俺っちオコジョの特殊能力っすよ!」

 

 と今一説得力が無かったが、今はそんな事を考えている暇は無い。のどかがそんな事になっているのなら助けるのが教師である。

 

「兎に角行くぞカモ」

 

「そうこなくっちゃな大兄貴!」

 

 とカモはマギの肩につかまり、マギは黒き翼を発動させて超特急で女子寮に向かった。

 

 そして女子寮に到着すると、のどかは女子寮の裏で直ぐに見つかった。着地するとのどかの元に駆け付けた。

 

「おいのどか大丈夫なのか?」

 

 のどかはというと、何故かお洒落をしていた。なんかおかしいと思ったマギは

 

「おいのどかガラの悪い男は何処に行った?」

 

「ガラの悪い男ですか?」

 

「襲われていたんじゃねえのか?」

 

「はい?如何いう事ですか?」

 

 と話がかみ合っていない様だった。やっぱり何処かおかしいと思っていたマギだがのどかが次に言った言葉はマギを呆然させる一言だった。

 

「あ…あのマギさん。わッ私なんかがパ…パートナーでいいんでしょうか?」

 

「…は?」

 

 マギは思わず呆然としていたが、肩に乗っていたカモがグッと拳を握っているのを見て合点がいった。

 

「おいカモ…」

 

「すまねえ大兄貴。てっとり早くパートナーの契約を結んでもらうために一芝居うたせてもらいましたぜ」

 

 マギがカモを睨みつけると、カモは小声で謝るとマギの肩から離れた。そんな事をやっている間にのどかは話を続ける。

 

「おとといの吸血鬼騒ぎの時にはまた助けてもらって。私何だか何時もマギさんに迷惑かけてばかりですみません…」

 

「んな事ねえぞ。生徒を助けるのが教師の役目だしな」

 

 とマギが当たり前の事を言ったら、だからとのどかは

 

「だから…お返しにマギさんのお役に立てるのなら私なんでも…がッ頑張りますからなんでも言ってくださいね」

 

 のどか自分で言っていて恥ずかしいのか顔を赤くしながら精一杯の笑顔をマギに見せた。そんなのどかを見て何故だろうかドキリとしてしまったマギ。

 

「フフ…俺っちの読みは間違っていなかったようですぜい」

 

「あ?如何いう事だよカモ?」

 

 カモが確信めいた事を言ってマギが如何いう意味かを聞いてみると、つまりとカモが続ける。

 

「一口にパートナーと言ってもただ隣に居ればいいってもんじゃないんすよ!互いに信じ合いいたわりあえる関係で有る事が重要っすよ」

 

「まぁ確かに。俺もパートナーを選ぶときはちゃんと支え合うかも考えているしな」

 

「あぁそれを踏まえてこの宮崎のどかはマギの大兄貴を好きである事ではズバリ現時点で№1なんすよ!!」

 

「好きってlikeの方だろ?」

 

「何言ってるんすか!ラブラブのloveの方っすよ!宮崎のどかは大兄貴の事を男として好きなんすよ」

 

 マギは未だにカモが言っていることが理解できなかった。自分は鈍感ではないと思っていたが、のどかの気持ちを理解していなかったのはショックが大きいようだ。マギのその隙を逃すわけもなくカモは

 

契約(パクティオー)ッ!!」

 

 とカモが叫ぶと、マギとのどかの足元に魔方陣が展開された。

 

「んだこれは魔方陣か?」

 

 マギは行き成り魔方陣が現れた事に驚いていながらのどかの方を見てみると

 

「マギさんこれは何ですか?この光…何だかドキドキします…」

 

 マギも魔方陣の淡い光に何故かドキドキと鼓動が高鳴っていた。普段はこんな事が起こるはずもないと思っていたのだが、これはカモが絡んでいるようだ。

 

「これがパートナーとの仮契約を結ぶための魔方陣っすよ!」

 

「仮契約!?本で読んだことがあるが此れがそうなのか?」

 

 カモとマギが言っている仮契約とはどういう物かを説明すると

 契約してミニステル・マギになった者は魔法使いを守りそして助ける事となる。その代りとしてミニステル・マギは魔法使いから魔力を供給してもらう事により、肉体的に精神的に増強されると言ういいことずくめという訳である。

 しかし本契約がまだ出来ないネギやパートナー選びにこだわりを持っているマギはミニステル・マギを選ぶのはなかなか大変である。そこで出てくるのが仮契約システム。まさに言葉の通りにお試し契約である。

 

「さっそく仮契約を大兄貴!」

 

「メンドイけどやるしかねえか…」

 

 とのどかと仮契約をしようとしたが、仮契約のやり方にマギはフリーズをしてしまう。

 

「仮契約なら何人でも結べるし解除も簡単だし軽い気持ちでキスを」

 

「おう…ってまて今キスって言いやがったよなお前」

 

 とカモの方を見たマギにカモは確かに言いましたぜと言いながら

 

「キスが仮契約で一番簡単な契約方法なんでさ」

 

「ちょっと待て!キスは流石にヤバいだろ!?それにのどかをこんな騙す形でよ…」

 

 とマギは仮契約を止めようとするがのどかは

 

「キスですか…わ私初めてですけど…マギさんがそう言うなら…お願いします」

 

 と目を瞑ってのどかは唇を突きだした。マギはのどかにこんな形で初めてをするのは止めろと言おうとしたが

 

「ん…」

 

 マギより背が小さいのどかが精一杯背伸びしてマギに顔を近づけようとしていた。そんなのどかを見てマギは溜息を吐きながら

 

(何時もならメンドイで済ませるけど此処はメンドイって言える状態じゃねえよな…腹括るか)

 

 とマギはのどかの顔に自分の顔を近づけたのだが

 

(初めてって、俺も初めてなんだけどな…)

 

 とマギもファーストキスをした事が無いのでどうやってやればいいのか分からず、これでいいのか?やらこのやり方はあってるのか?と苦戦していたが、漸くやり方を理解して少しづつのどかとの顔に近づき、そしてあと数cmで唇と唇が触れ合おうとしたその時

 

「こらこんのエロオコジョ」

 

 と突如アスナが現れてカモを手で押さえつけた。アスナに押さえつけられたために魔方陣は解除され、のどかも緊張のあまりに気絶してしまった。みるとアスナの隣にはネギも居た。

 

「あッアスナ!?これには深い訳があってだな!」

 

 アスナに不味い所を見られてしまいマギは必死に言い訳しようとしたが、アスナはマギには目もくれずにカモに近づき、あるものをカモに見せたそれは昨日クシャクシャにしてゴミ箱に捨ててあったネカネからお手紙である。カモは不味いと滝のような汗を流し始めた。

 

「アンタね命の恩人を誑かして何をしようとしたのよ!?ネギとマギさんのお姉さんからの手紙読んだわよ!お姉さんに頼まれたて来たなんて真っ赤な嘘じゃない!ほんとは悪い事をして逃げて来たんでしょアンタ!?」

 

(ひ~もうこの姐さんには全てばれてる~!!)

 

 カモは目を回し、絶望的な顔になってしまっていた。

 

「しかも下着泥棒2千枚って何よこれ!?凄い量じゃない!」

 

「どッどういう事カモ君!?」

 

「昔からお前はスケベだったのは知ってたが、何でそんな大量の下着を盗んだんだよ?」

 

 ネギとマギは何故カモが下着泥棒をしたのか理由を聞こうとすると、カモの観念したのか訳を話した。

 

「分かった話すぜ…マギの大兄貴には俺っちに病弱な妹が居るっていう事はしってるっすよね?」

 

「ああ妹の看病したのは今でも覚えてるぜ。それで妹と下着ドロに何の関係があるんだよ?」

 

 と関係を聞くと、カモは実は…と何処か重そうな表情になりながらも

 

「実は妹の病気なんだが…治って無かったんすよ」

 

「は?治って無かった?俺が看病した時には元気になってたじゃねえかよ」

 

 とマギは信じられないような顔をしていた。

 

「妹はマギの大兄貴が去って行った数日後にさらに病気が悪化しちまって、昔よしみの医者に妹を見てもらったらただの風邪とかじゃなくて重い病気だったんでさ」

 

 とマギは如何してカモが昨日妹を紹介してくれと言った時に辛そうな顔になっていたのか理解出来た。

 

「だったら妹さんを早く治してあげたらよかったじゃない」

 

 とアスナが当たり前の事を言ったらそれが出来たら俺っちだって下着ドロなんかしませんぜとそう言った。

 

「俺っちの家族は俺っちと妹しかいねえ。妹の病気を治すにはかなりの大金が必要なんでさ。それに金を稼げるオコジョは俺っちしかいねえのに一か月食っていけるか分からないような金しか稼げないほど貧乏な家でさ…おまけにウェールズの冬は寒い。寒さで妹の体は弱る一方で何とかしたい一心で保湿効果に優れた人間の女性の下着を拝借してるうちに下着泥棒の罪でお縄に掛かっちまったてわけでさ…」

 

 と妹は知り合いの医者に預けましたがとカモはタバコを咥えて煙を吐いていたが、その表情は哀愁が漂っていた。

 

「ムショ暮らしじゃ妹に仕送りも出来やしねぇ。そこで覚悟を決めて脱獄を決意、脱獄に成功すると貨物船にゆられゆられて唯一頼れる人間のネギの兄貴とマギの大兄貴が居る日本に来たわけでさ」

 

 そして今に至るという事である。アスナは

 

「だからって何でこんなことをしたのよ?」

 

 と尋ねるとカモは言葉に詰まったが

 

「それは手柄を立てれば兄貴と大兄貴に使い魔として雇ってもらえると思いまして…マギステル・マギ候補の使い魔ともなれば追っても手出しが出来ないと思いまして」

 

「だからってアンタね…」

 

 アスナはカモの考えに呆れていると、カモは諦めたような表情となりながら

 

「…すまねえネギの兄貴マギの大兄貴と姐さん。俺が尊敬する兄貴と大兄貴を騙して利用しようなんざ俺も地に墜ちたってもんさ。妹も俺っちが悪い事をしてまでも病気を治してあげても喜んでくれないだろうしな…笑ってやってくだせぇ。おとなしくお縄につくことにするよ」

 

 おたっしゃでとカモはネギとマギの元から去ろうとしたその時

 

「まってカモ君!」

 

 ネギがカモを呼び止めた。アスナはネギを見てみると吃驚してしまった。何故なら

 

「しッ知らなかったよカモ君が、そんな苦労をしていたなんて」

 

 カモの過去の話を聞いてネギは号泣してしまった。ネギはまだ子供でこの話には弱いようだった。

 

「分かったよカモ君!君を使い魔として雇うよ!!」

 

「あッ兄貴良いんですかい!?こんなスネに傷持つ俺っちなんかで」

 

「うん月給は5千円でいい!?」

 

「十分でさ兄貴~!!」

 

 とネギの使い魔として雇われることになったカモ。

 

「ったく勝手に話を付けるんじゃねえよ」

 

 とマギが呆れていた。

 

「大兄貴?」

 

 カモは不安になった。まさかマギは反対なのでは思っていたがそれは反対で

 

「俺も月給1万位は払うぜ」

 

「おッ大兄貴それじゃ…!」

 

「あぁもう妹に心配させるんじゃねえぞ」

 

「おッ!大兄貴~!!ありがとうごぜぇます!!」

 

 とカモは感激の涙で号泣していた。

 

「いや…まぁいいんだけどね」

 

 完全に蚊帳の外であったアスナはネギとマギとカモの遣り取りに軽く引いていたのであった。

 という事でカモはネギとマギの正式な使い魔として雇われる事となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後ののどかは

 

「いッいやです…こんな所で寝ちゃって。しかもあんな恥ずかしい夢を見るなんて…」

 

 と寮の近くのベンチで寝てしまっていて、さっきのマギとのやりとりを夢だと思い込んで顔を真っ赤にして顔に手を当て腰をくねらせていたのを。遠くでマギ達が見ていてマギがすまないと心の中でのどかに謝っていたのであった。

 

 

 

 




今回原作とは違う点があります
まず最初にのどかと仮契約をする相手がマギという事
これは今迄話から行き成りネギと仮契約をするのは無理があるという事です
もう一つはカモの妹の話ですが、これは本当に居ると言う設定です。
これで少しはカモが良い奴みたいなキャラになってほしくて出しました。
残念ですが、妹は話には絡むことは有りませんのであしからず。

感想よろしくお願いします


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ロボットと忍者①

今回は何時もより早く出来ました
①がつくように今回の話は前編みたいなものです
それではどうぞ


 カモが無事にネギとマギの使い魔として雇われる事となった翌日の早朝の朝3時半。アスナは何時もの通りに新聞配達のアルバイトのために起床した。

 

「ふぁぁ~眠い」

 

 隣にネギが寝ているのはもう当たり前の事になっているのか、アスナは別に驚いたりせずに枕でネギの顔を埋めていた。埋められたネギは寝ながらも苦しそうだ。

 

「やっぱり4月でも早朝は寒いわね…」

 

 春は朝は暖かいものだが、まだ早朝は寒いものである。寒いから厚着の下着にしようとアスナはそう言いながらタンスを開けてみると

 

「あれ!?アタシ達の下着が一枚も無い!」

 

「はれ?ウチのもか?」

 

 アスナの大声にこのかも起きてしまい、眠気眼をグシグシとしていた。アスナはもしかして!と衣服タンスを開けてみると

 

「あ、姐さんおはようございます。朝はちっとばかし冷えたもんで下着を拝借させていただきました」

 

 とカモがアスナとこのかの厚着の下着に包まっていた。

 

「こんのエロオコジョ~!!」

 

 アスナはカモを箒で追いかけまわした。

 

「そんな動物にムキにならんでもいいやん」

 

 このかはアスナに苦笑いしながら言った。こんなドタバタ騒ぎをしているのにマギはというと

 

「zzzzzzz」

 

 と呑気に寝ているのであった。

 

 

 

 学校登校

 

「ったくもう!下着ドロのオコジョなんてとんでもないペットが来たもんだわ!おかげで朝からさんざんよ」

 

「まーまーきっと布の感じが好きなんやろ?」

 

 アスナは早朝の事をまだ許してい無いようで、このかがまーまーと宥めていた。そんなアスナの遣り取りとは他にネギとマギは学校で余り喋らない様にとカモに言い聞かせていたが、カモは納得していない様子だった。

 そんな遣り取りをしている間に昇降口に到着した。アスナ達は外履きから上履きに履き替えていた。とネギは辺りをキョロキョロとしていた。カモは何故ネギが忙しなく辺りをキョロキョロしているのか聞いてみた。

 

「兄貴何さっきから何をキョロキョロとしてるんですかい?」

 

「え?いやちょっとね」

 

 とネギは少し元気が無さそうであった。

 

「なに落ち込んでんすか兄貴?相談ならいくらでも俺っちは乗りますぜ」

 

「それなら俺が話すよ。実は俺達のクラスに余り授業に出ない生徒が居てな。まぁ俗に言う問題児が居るんだよ」

 

「マジっすか?兄貴と大兄貴のクラスにそんな問題児が居るなんて大変っすね」

 

 とカモがネギとマギに憂いの言葉を零しているとその問題児が現れた。

 

「お早うネギ先生」

 

 ネギがバッと振り返ると、そこには不敵に笑っているエヴァンジェリンと静かにお辞儀をしている茶々丸が居た。

 

「今日もまったりとサボらせてもらうよ。ふふネギ先生が担任になってからは色々と楽になったよ。それだけは感謝しているよ」

 

 と又エヴァンジェリンは授業をさぼろうとしていた。

 

「えッエヴァンジェリンさんに茶々丸さん!」

 

 ネギは咄嗟に背中に担いでいた杖を取ろうとしていたがおっとエヴァンジェリンがネギを止めた。

 

「勝ち目はあるのか?校内では大人しくしていた方がお互いのためだと思うがな。ああそれとタカミチや学園長に助けを求めようなどと思うなよ。また大切な生徒を襲われたりしたくはないだろ?」

 

 と言い残しエヴァンジェリンは去ろうとしたが、待てよエヴァンジェリンと今迄無視されていたマギがエヴァンジェリンを呼び止めた。

 

「一昨日の事をまだ怒っているのなら謝る。確かに俺はお前の事を何も知らない。だけどあの時言った言葉は俺の本心だ。それだけは言っておきたかった。あと今度からはちゃんと学校に来いよ」

 

 とマギはエヴァンジェリンに謝ったが、エヴァンジェリンの反応はと言うと

 

「…ふん」

 

 と無視をしていたが、最後は鼻を鳴らしながら去って行った。そんなエヴァンジェリンを見てマギは溜息を吐きながら

 

「まだ許してくれねぇみたいだな…まだまだ先が見えねえなこれは…面倒だな」

 

 とこぼしていた。そんな中カモはエヴァンジェリンをじっくりと観察していた。

 

「あれが兄貴と大兄貴のクラスに居る問題児って奴っすね。だけどどっかで見た事が…」

 

 とカモは何処かで見た事があるのだが、思い出せ無いようだ。

 

「カモ君も知ってるはずだよ。エヴァンジェリンさんは吸血鬼なんだ。それも真祖の」

 

「ちなみに隣に居た茶々丸はエヴァンジェリンのパートナーなんだよこれが」

 

 とエヴァンジェリンの正体をカモに教えるとカモは顎が外れるかと思うほど口を開けて驚愕していた。

 

「しッ真祖の吸血鬼っていう事は闇の福音のエヴァンジェリンっていう事っすか!?何でそんな大悪党がこんな日本の学校に居るんすか!?」

 

「なんでも僕達のお父さんがエヴァンジェリンさんに変な呪いをかけたらしくて、15年も中学生を続けてるらしいんだ。呪いを解くには僕やお兄ちゃんの血が大量に必要なんだ」

 

「そのために俺とネギは完膚なきまでにあの2人にボコボコにされてネギはエヴァンジェリンに血を吸われたのさ。そんなせいでネギはエヴァンジェリンと会うのが怖くなってしまってるという訳なんだ」

 

 とネギとマギがカモに何でエヴァンジェリンが麻帆良に居るのかを説明すると成程と頷いて

 

「それにしても兄貴も大兄貴も良く生き残れたっすね。吸血鬼の真祖って言えば魔法界でも最強クラスの化け物じゃねえっすか」

 

 とネギとマギが生きていることに不思議そうにしていると

 

「なんでも魔力が弱ってるらしいのよ。次の満月まではとりあえず大人しくはしてるらしいけど」

 

 とアスナがその訳を話してくれた。カモはなるほどなるほどと2度頷くと

 

「それならいいアイデアがありますぜ。あの2人に勝ついい方法が」

 

「そッそれは本当なのカモ君!?」

 

 エヴァンジェリンと茶々丸に勝ついい方法それは

 

「ネギの兄貴と姐さんが仮契約をしてあのパートナーの茶々丸を2人がかりで倒しちまおうってことでさ」

 

 カモのいい方法とはネギと仮契約をしたアスナで茶々丸を2人がかりで茶々丸を倒すと言うものだった。その方法を聞いた3人の反応は

 

「え~ッ!何よそれ!?」

 

「僕とアスナさんが仮契約を!?」

 

「…」

 

 アスナは何処か嫌そうに、ネギは多少戸惑っていてマギは無言だった。

 

「姐さんのあの反射神経と運動神経にあの体術を見せて頂きました。いいパートナーになりますぜ」

 

 とカモはアスナをそう評価していた。

 

「けど2人がかりなんて卑怯じゃ…」

 

 とネギはカモの方法に聊か抵抗があった。しかしカモが何言ってるんすか兄貴!と反論する

 

「卑怯じゃないっすよ!兄貴だって2対1で負けたんでしょうよ!やられたらやり返す。戦いとは非常なものですぜ!」

 

 カモの反論にネギはでも…とまだ納得がいかないようだ。

 

「ちょっとアタシは嫌よ!仮契約って昨日の本屋ちゃんとマギさんのやったやつでしょ!?キスするやつ馬鹿じゃないの!」

 

 とアスナは大反対だった。嫌がっているアスナを見てああなるほどとカモはニヤリと笑うと

 

「姐さんって中三になってもまだ初キッスを済ませてないんすね?」

 

 と煽り始める。

 

「これは失敬。それじゃあ仮契約と言えども抵抗はあるっすよね~」

 

 煽る煽る。単純悪く言えばバカなアスナはカモに煽られムキになってしまい

 

「なッ何言ってるのよ!上等じゃない!チューくらい別になんでもないわよ!」

 

 とアスナがそう答えてしまったら当然

 

「じゃ姐さんはOKという事で「ちょ!アタシはパートナーになるって言ってな」大丈夫っすよ、この作戦なら上手くいきますって。兄貴の方は如何ですか?」

 

 とアスナを無視してカモは話を進める。もはや詐欺の手口である。カモにどうかと聞かれネギはどうするか考えていた。

 

 このまま次の満月までやられるのを待つより反撃した方が良いのではないのか?それに先生が生徒を守れないのなら先生失格だと。そして考えた末に

 

「分かった!やッやるよ僕!」

 

「そう言ってくれると思ってたっすよ兄貴!」

 

「ちょっとネギ!?何勝手に決めてるのよ!」

 

 とアスナは正直仮契約なんてしたくなかったのだが

 

「お願いしますアスナさん!一度だけ一度だけでいいですから!!」

 

 とネギの涙目で必死の表情を見てアスナも折れた様で

 

「もう本当に一回だけよ」

 

 と仮契約を承諾してくれたようだ。カモがチョークで仮契約の魔方陣を書いて準備は完了した。

 

「そんじゃ行きますぜ!パクティオー!!」

 

 カモが叫んだのと同時に魔方陣が輝きだしネギとアスナを包み込んだ。

 

(な…なんか変に気持ちよくなってきた…)

 

 アスナは仮契約の魔法で変に気持ちよくなっていて早いとこ終わらせようとした。

 

「い…行くわよ」

 

「は…はい」

 

(アレ?そう言えばこれってアスナさんとキスするってことじゃ…)

 

 と今更仮契約でアスナとキスすることに気づいたネギ。そしてアスナはそんなネギの事なんか露知らずネギにキスをした。ネギのおでこに

 

「ちょ姐さん!おでこなんてそんな中途半端な所にキスなんて!」

 

「いッいいでしょ別に!」

 

 流石に唇にキスをするのは抵抗があったのかおでこにキスが限界なアスナである。

 

「もういいや!とりあえず仮契約成立!!『神楽坂明日菜』!!」

 

「わぁッ!?」

 

「キャーッ!!」

 

 仮契約の魔方陣がさらに強く輝きだし、ネギとアスナは余りにも眩しすぎたために目を瞑ってしまった。此処にネギとアスナの仮契約が成立したのである。

 しかしネギとアスナは気づかなかった。マギが仮契約を行っている時に何処か複雑そうな顔になっていることに…

 

 

 

 

 

 

 

 突然だがエヴァンジェリンと茶々丸は囲碁部と茶道部を兼部している。今日は茶道部の部活動を行っていた。茶道部専用の茶室にて茶々丸が着物を着て他の生徒に茶を振舞っていた。

 

「結構なお手前で」

 

 と他の部員に茶々丸が淹れた茶を褒めていた。茶々丸が淹れる茶は茶道部の中でも一番とも言えるほどの腕前である。

 

(うん…今日の茶もなかなかだな……)

 

 茶々丸のマスターであるエヴァンジェリンも茶々丸が淹れた茶に高評価であった。そして茶道部活動も終わり、エヴァンジェリンと茶々丸は帰路についていた時にエヴァンジェリンが面倒そうに口を開いた。

 

ネギ・スプリングフィールド(坊や)に助言者がついた気配があった。しばらくの間は私から離れるなよ」

 

 如何やらエヴァンジェリンは長年の経験でネギにカモがついた事を感じ取ったようだ。

 

「はいマスター」

 

 と茶々丸はエヴァンジェリンの従者であるためにマスターの命令に逆らう事無く了解した。それと茶々丸は気になった事があり

 

「あのマスター、マギ先生の事はまだ怒っているのですか?」

 

 そう聞くと、エヴァンジェリンは歩みをピタリと止めてしまった。

 

「…許すわけないだろう。彼奴の言っている事だってどうせ口から出たでまかせだ。彼奴の父親と同じようにな」

 

 エヴァンジェリンの表情は暗かった。そんなエヴァンジェリンを茶々丸は心配そうに見ていた。無表情な茶々丸だがそのように感じられた。と其処に

 

「おーいエヴァ」

 

 とタカミチが現れた。タカミチはエヴァンジェリンをエヴァと呼んで何処か親しそうだった。そんなタカミチにエヴァンジェリンは鬱陶しい顔をしながら

 

「何かようか?」

 

 と本当に鬱陶しいのか口調がぶっきらぼうだった。いやねとタカミチは如何いう用かというと

 

「学園長がお呼びだ。一人で来いってさ」

 

 学園長の名が出てくるとエヴァンジェリンはじじぃかと面倒そうな顔になりながらも学園長の元に向かう事にした。

 

「茶々丸すぐ戻る。必ず人目のある所を歩くんだぞ」

 

 と言われ茶々丸は了解の合図としてペコリとお辞儀した。今度こそエヴァンジェリンは学園長の元に向かった。タカミチもエヴァンジェリンと一緒に学園長の元に向かって行った。その間にもタカミチは終始エヴァンジェリンに親しそうに話しかけていて、エヴァンジェリンに鬱陶しがられていた。

 

「お気を付けてマスター」

 

 歩き去るエヴァンジェリンを見て茶々丸は静かにそう言った。

 

 

 エヴァンジェリンと別れてひとりで帰路につく茶々丸。その近くの茂みがガサガサと怪しく動いていた。

 

(茶々丸って奴が1人になりましたぜ兄貴!今なら倒せますぜ!)

 

(駄目だよカモ君!人目につくと不味いからもうちょっと待ってて!)

 

(なんか辻斬りみたいでイヤね…しかもクラスメイトだし…)

 

 茂みの中ではネギとアスナにカモが茶々丸の後を尾行していて攻撃のチャンスをうかがっていた。それにしてもカモは呟いて

 

(なんで大兄貴が此処に居ないんすか兄貴!?)

 

 マギが不在なのだ。如何してマギが此処に居ないかと言うと

 

(お兄ちゃん言ってたよ『尾行なんてメンドイ事なんかしたくないって』あんな事言ってたけどホントはお兄ちゃん茶々丸さんやエヴァンジェリンさんに酷い事したくないんじゃ…)

 

(アタシもそう思う。マギさんいい加減な所もあるけどアタシ達生徒の事を守ってくれていたし生徒に暴力を振る事なんて出来ないんじゃ…)

 

 とネギとアスナはそう言っているが、カモは何言ってるんすか!と

 

(あの闇の福音のエヴァンジェリンとそのパートナーっすよ!今のうちに叩いておかねぇと!又兄貴たちの大事な生徒が絶対に襲われないっていう保証はないんすよ!)

 

 とカモの反論に何も言えないネギとアスナ。カモの言っている事もある意味正論なのだ。エヴァンジェリンがもう生徒を襲わないという保証はないのだ。今はやられないためにも先に仕掛けるしかないのだ。ネギとアスナは仕方なく茶々丸を尾行するのを再開した。

 と数百メートル歩いていると前方に泣いている幼稚園児の女の子が居た。茶々丸は女の子に如何したんですか?と聞いてみると女の子が上を指差して

 

「あたしのフウセン木に」

 

 と茶々丸も上を見上げてみると、確かに風船が木と木の間に引っ掛かっているのが見える。女の子が手を放してしまい風船が飛んでしまい引っ掛かったのだろう。状況を把握した茶々丸は背中からジェットの噴射口を出して(女の子が吃驚してる中)飛び、途中で樹に頭をぶつけながらも風船を取ってあげた。風船が戻ってきて女の子は大喜びで茶々丸にお礼を言いながら歩き去って行った。茶々丸は女の子に手を振っていた。

 と今度は元気いっぱいな男の子2人の幼稚園児が茶々丸にちょっかいを出していた。その男の子2人は茶々丸を知っているようで茶々丸も男の子達を知っている様子だった。とそんな遣り取りをしているのを茂みの中でネギ達はポカンと眺めていた。

 

「そう言えば茶々丸さんってどんな人なんですか?今飛んでましたけど」

 

 とネギは同じクラスで自分より知っていそうなアスナに聞いてみたが

 

「えーと…あれ?あんまり気にしてなかったかな」

 

 とアスナもどういう人物かを知らない様であった。何言ってるんすかお二人ともカモが呆れながら

 

「あれはどう見たってロボでしょうよ。いや~流石日本っすねロボが学校に通っているなんて」

 

「ええッ!じゃあ茶々丸さんって人間じゃないの!?」

 

「えええッ!?」

 

 とアスナとネギは茶々丸が人間じゃないと分かると分かりやすいほどに驚いていた。

 

「いや見りゃわかるでしょ普通に!」

 

 と驚きすぎている2人にカモが突っ込みを入れる。

 

「いやアタシ機械とかよく分からないし」

 

「僕も…」

 

「いやそう言う問題じゃないでしょうよ!」

 

 と場違いな事を言っている2人にカモが再度ツッコミをいれた。そんな3人の遣り取りなんか知らずに茶々丸は男の子2人を連れて何処かに行こうとしていた。

 

「!茶々丸が何処か行こうとしてる後を追いますぜ!」

 

 とカモが言いながら尾行を続ける。と今度は陸橋で階段を辛そうに登っている老婆が居て、茶々丸は何も言わずに老婆を背負ってあげた。そして陸橋を渡り終え

 

「何時もすまないね茶々丸ちゃん」

 

「いえ…」

 

 茶々丸は老婆にお礼を言われると、茶々丸は深くお辞儀をするとそのまま去って行き。ネギ達は又呆然と見ているだけだった。

 と又歩いていると川に人が集まっていた。何事かと思っていると

 

「大変だ!子猫の入ったダンボール箱が川に流されているぞ!」

 

「警察に連絡しろ!」

 

 ネギ達も慌てて川を覗き込んでみると、ダンボール箱に入っている生後数週間の子猫がニャーニャー鳴きながら流されていた。

 

「大変だ助けなきゃ!!」

 

「ちょと待ちなさいよ!アタシ達今尾行中でしょ!」

 

 ネギは子猫を助けようとして杖を持とうとしたが、アスナに止められてしまった。しかしそんな事をしている間に子猫が入っているダンボールはどんどん流されていく、とその時

 

 

 ザボンッ!!

 

 

 と誰かが川に入る音が聞こえ、見てみると茶々丸がザブザブと川の中を歩いていき、制服が濡れるのを気にせずに子猫を助けて岸まで戻ってきた。

 

「子猫が助かったぞ!」

 

「ってよく見たら茶々丸さんじゃないか」

 

「流石茶々丸!」

 

「スゴーイ!」

 

 と子猫を助けて市民たちから拍手喝采であった。小さい命を助ける姿を見てネギとアスナは

 

「め…めちゃくちゃ良い奴じゃないの!?しかも町の人気者みたいだし!」

 

「偉いです茶々丸さん!!」

 

「あッアレー?」

 

 アスナとネギは茶々丸が良い奴だと再認識して、カモはおかしいなと思いながら首を傾げていた。その後の茶々丸は子供たちと別れ先程助けた子猫を頭に乗せて又何処かに向かっていた。

 

「今度は何処に行くんでしょうか?」

 

「さ…さあ?」

 

 ネギとアスナはどちらかというと茶々丸が今度はどんな事をするかが気になって尾行を続けていた。そして人気のない場所で止まると持っていたビニール袋からキャットフードやらパンくずを取り出した。すると

 

 

 

 ニャーニャーニャー

 

 チチチ ピピピピ

 

 

 

 何処からか野良猫やら野鳥が茶々丸の周りに集まってきて、集まって来た野良猫や野鳥に茶々丸は持ってきたキャットフードとパンくずを与え始めた。野良猫や野鳥が喜んで食べているのを見て、茶々丸は静かに微笑していた。そんな茶々丸を遠くから眺めていたネギとアスナは

 

「…」

 

「いい人だ」

 

 感激の涙を流していた。

 

「ちょっとお二人とも待ってくださいよ!何2人して感動の涙なんか流してるんすか!?」

 

 カモは泣いている二人に叫んでいたが、だってとアスナは泣きながら

 

「あんないい人攻撃できないわよ」

 

 と茶々丸に攻撃をすることにためらい始めていた。確かに!とカモは続ける。

 

「あの茶々丸は町の人を助けたり小さい命を救ったりしてる良い奴かもしれないっす。けど!彼奴のマスターはあのエヴァンジェリンっすよ!彼奴の命令には従うのがパートナーの役目!マスターに人を襲えと言われたら襲うはずっす!兄貴や大兄貴だって命を狙われたんっすよ!とにかく今がチャンスっす!心を鬼にして今は倒す事だけを考えてください!そうしないとネギの兄貴やマギの大兄貴の他に生徒達にも危険がおよぶはめになるっすよ!」

 

 カモの言っていることにネギは自分が殺されかけた事や、血を吸われて倒れたまき絵や吸われかけたのどかの事を思い出した。そうだ今此処で倒しておかないとカモ君の言う通りになってしまう。ネギはギュッと握りしめると

 

「分かりました。アスナさんお願いします」

 

「…しょうがないわね」

 

 

 

 

 

 餌をやり終えた茶々丸が振り返ると其処には表情が重いネギとアスナが立っていた。

 

「今日はネギ先生、神楽坂さん。油断していました。しかしお相手はします」

 

 茶々丸は頭のネジを取って臨戦態勢となった。ネギは悲痛な顔で杖をギュッと握りしめると

 

「茶々丸さんもう僕やお兄ちゃんを狙らったり他の生徒を襲うのは止めて頂けませんか?」

 

 ネギは此処で分かりましたもう襲いませんと言ってほしかった。しかし…

 

「……申し訳ありませんネギ先生。私にとってマスターの命令は絶対ですので」

 

 やはり茶々丸はマスターであるエヴァンジェリンの命令は絶対であったようだ。仕方ないですネギは杖を構えながら

 

(アスナさんさっき言った通りにお願いします)

 

(正直上手く出来るか分からないわよ)

 

 と小声で作戦を言った。

 

「では茶々丸さん行きます」

 

「はい…神楽坂明日菜さん。良いパートナーを見つけましたね」

 

 そしてネギとアスナと茶々丸がぶつかり合う。

 

「行きます!契約執行(シス・メア・パルス)10秒間(ペル・デケム・セクンダス)ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」

 

 ネギは契約執行の魔法を発動する。するとアスナから力が溢れてくるような感じがし駆け出すといつもより早く動けた事にアスナは自分自身驚いていた。

 

(凄い!これが仮契約の力なの!?何時ものアタシじゃないみたい!)

 

 そしてアスナは一気に茶々丸に接近し茶々丸の腕を素早い動きで弾くと

 

「えい!」

 

 茶々丸にでこピンを食らわした。

 

「早い!それに素人は思えない動きと反射神経」

 

 茶々丸もアスナの動きに驚きながらも冷静に対処しアスナの足を払い転ばせて後ろに後退した。しかしこれもネギの作戦の内であった。

 

「光の精霊11柱集い来りて…!」

 

 茶々丸がアスナに注意をひかれている間にネギが攻撃魔法を完成しつつあった。

 

(何も殺すつもりはないんだ。少しの間だけ動けなくなってもらうだけでいいんだ!)

 

 そして詠唱が終わり

 

「魔法の射手連弾・光の11矢!!」

 

 茶々丸に魔法の矢を発射した。茶々丸は避けれるか計算したが

 

「追尾型魔法至近弾多数…避けきれません」

 

 避けられないと判断したのか茶々丸は動きを止めそして

 

「すみませんマスター。もし私が動けなくなった時は代わりに猫たちの餌を……」

 

 自分の最後を悟ったのかそう言い残した。茶々丸のその言葉を聞いてネギは茶々丸の先程の町の皆にやった事や子猫を助け、猫たちに餌を与えた事を思い出し

 

「やっぱりダメ!戻って!!」

 

 と魔法の矢を戻そうとした。がしかし間に合わずそして……

 

 

 ドドドドドドドドドッカァァァァァァァァァンッ!!

 

 

 茶々丸に魔法の矢が直撃し茶々丸の姿が煙で見えなくなっていた。ネギ自身も強力過ぎたと実感した。もしかしたら殺して―――――

 途端にネギは体を震わせてしまった。自分の手で生徒を殺めてしまったのではないのか…とそして煙が晴れると、茶々丸の影ともう一人の影(・・・・・・)があった。ネギとアスナはえ?と固まっていた。そのもう一人と言うのが

 

「いてて…ったく何でこんな面倒な事をやってるんだかなお前らは」

 

 マギが其処には居てネギが放った魔法の矢をマギが防いだのだ。

 

「お兄ちゃん!?」

 

「マギさん!?」

 

「大兄貴!何でこんな所に!?」

 

 カモが何故マギがこんな所に居るのかを尋ねると

 

「ちょっと散歩しててな、そしたらお前らが茶々丸と戦っているのを見ててな、そしたらネギが茶々丸に魔法の矢を食らわせようとした時には不味いと思ってな。防がせてもらったってわけだ」

 

 というのは嘘で実はマギもネギとは違う場所で尾行していたのだ。そしてネギとアスナが茶々丸と交戦し、ネギが魔法の矢を発動した時に流石にアレは不味いと判断し、咸卦法を瞬時に発動して茶々丸に接近し魔法の矢を全て防いだのである。それにしても…とマギは呆れながらネギを見て

 

「ネギ、今の魔法は流石に不味いだろう。下手したら茶々丸を殺すところだったぞ」

 

 と殺すという言葉を聞いてネギはビクッとした後に震えていた。マギはやれやれだぜ…と呟いた。ネギも殺すつもりは無かっただろう。力の加減を間違えてしまったのだろう。さて…ととマギは茶々丸に向き合うと

 

「早く行けよ茶々丸」

 

 茶々丸は今マギが言っていることが今一理解が出来なかった。

 

「それはつまり私に早く逃げろと仰ってるのですか?」

 

「いやそう言ってるのが分からねえのか?ロボットなのに理解すんのが遅いなお前。ネギ達には俺が言っとくから、お前のマスターのエヴァンジェリンだって心配してるはずだぜ」

 

 それだけ言うと茶々丸は黙ってマギにお辞儀をすると背中からジェット噴射口を展開して飛んで行ってしまった。それを見届けるとマギはゆっくりと片膝をついた。

 

「イテテ…やっぱり全部防ぎるのは無理があったかな…」

 

 マギはそう言いながら痛むのか腕を押さえていた。

 

「大兄貴何やってるんすか!?チャンスだったのに易々と逃がしちまうなんて!!」

 

「やっぱり生徒をボコるのは良くないと思ってな色々と問題になったら面倒だし」

 

「ちょ!マギさん血が出てるわよ早く保健室に!!」

 

「ウワァン!お兄ちゃんごめんなさい!!」

 

 とカモやアスナは大慌てネギは泣きながら謝った。

 

「たかが切り傷なのに大げさすぎるだろお前ら…」

 

 そんな3人をマギは呆れた顔で見ているのであった。

 

 

 

 

 

「マギ先生…マギ・スプリングフィールド」

 

 マギ達の近くにあった建物の屋根に茶々丸は着地し、マギ達を見降ろしながらマギの名を呟いていた。何故かマギの事が気になってしまっているのだから………

 

 




今回の話を見て皆さん思った事ですが
「忍者出てねぇじゃん!」
と思った事でしょう。
申し訳ありませんが忍者は②にて出します。
次回も短いと思うのでと言うより今までの話で一番短いと思うので今週中には出来上がると思います


感想よろしくお願いします(批判的意見が有れば送って下さい。感想も私の創作意欲の一つですので)


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ロボットと忍者②

今回は忍者がベースの話です
それではどうぞ!


 ネギとアスナによる茶々丸尾行奇襲作戦はマギが茶々丸を守った事により失敗に終わった。その翌日の土曜日茶々丸はチェーン店のカフェショップにてロボットなのでコーヒーが飲めないがとりあえずテーブルにコーヒーを置いていた。

 茶々丸は昨日の事を思い出していた。自分に魔法の矢が直撃しそうになった時に目の前にマギが現れ、助けてくれて何も言わずに逃がしてくれた。自分が敵であるというのにあっさりと

 

「マギ先生…」

 

 茶々丸はそれだけが気になってさっきからずっとマギの名を呟いていたのだ。

 

「茶々丸此処に居たのか」

 

 エヴァンジェリンの声が聞こえ、振り向いてみるとエヴァンジェリンと聡美が居た。

 

「マスター。ハカセも」

 

「や茶々丸。メンテナンスに来たよ」

 

 聡美がそう言っているのは、聡美通称ハカセは茶々丸の開発者の一人で麻帆良で2番目の天才中学生である。因みに1番は同じクラスの超である。閑話休題。

 という事で同じクラスでもあるハカセ(もうハカセで統一する)が定期的に茶々丸をメンテナンスすることになっている。丁度エヴァンジェリンに会ったからそのままメンテナンスをすることになったのである。

 

「昨日のジジイの話だがな、桜通りの件がばれてしまってな。釘をさされた。やはり次の満月まで動けん。もっとも坊やが動けばこちらも対処をしなくてはな…っておい茶々丸聞いてるのか?」

 

 エヴァンジェリンは茶々丸が何処かボーッとしているのに気付いて、話を聞いているのかを聞いた。ロボットがボーッとするなど珍しいなと思い、茶々丸が買っておいたコーヒーを勝手に飲み始めた。

 

「昨日帰り道の途中でマギさんに助けてもらいまして」

 

「!?ブーーーッ!!ゲホッゲホ!!」

 

 茶々丸がマギに助けてもらったという事をエヴァジェリンに報告するとエヴァジェリンは口に含んでいたコーヒーを思わず吹き出してしまい、咳き込んでしまった。

 

「何でお前があんな男に助けてもらったんだ!?」

 

「実は川で流されている子猫を助けようとした所、思わず滑ってしまい、私も流されそうになった時にマギ先生に助けてもらいました」

 

 此れは嘘なのだが、何故嘘を吐いたのか茶々丸自身分からなかった。エヴァンジェリンはマギの名を聞いた途端に不機嫌になり始めた。

 

「クソ…よりにもよって彼奴に助けられるとは、正直不快だ」

 

 茶々丸は何故エヴァンジェリンがマギの事でそんなに不機嫌になるのかが気になり

 

「何故マスターはそこまでマギ先生に対してそこまで目の敵にするんですか?」

 

 と尋ねるとエヴァンジェリンは顔を俯いてしまった。マスター?と茶々丸はエヴァンジェリンの顔を覗き込むと

 

「…似ているから腹が立つんだ」

 

 え?と茶々丸はエヴァンジェリンが言っている似ていると言う言葉の意味が良く分からなかったがエヴァンジェリンは話を続けた。

 

「顔も声も彼奴にそっくりだ。いい加減な所もな。彼奴は約束をしても来てくれなかった嘘吐きだ。彼奴の息子のマギだって嘘吐きに決まってるさ」

 

「マスター…」

 

 茶々丸はエヴァンジェリンの独白を黙って聞いていた。

 

「さっきから何の話をしてるんですか2人とも?」

 

 蚊帳の外だったハカセは2人に何の話をしているか聞いてみた。

 

「ハカセには関係のない話だよ。それよりも茶々丸のメンテナンスをちゃんとやっておいてくれ」

 

「はいはい分かりましたよ。あ茶々丸泥が詰まってるからもっと丁寧に動いてね」

 

「申し訳ありませんハカセ」

 

 エヴァンジェリンは残っているコーヒーをまた飲み始め茶々丸はハカセにメンテナンスをしてもらっていた。

 

 

 

 

 

 

 女子寮のアスナとこのかの部屋にて昨日の尾行作戦の事を話していた。

 

「大兄貴何であの茶々丸ってロボットを助けたりしたんすか!?昨日のうちに仕留めておけば万事解決!!こっちの勝ちだったのに!」

 

 とカモがマギに文句を叫んでいた。昨日の尾行奇襲作戦はマギが茶々丸を助けた事により無駄に終わってしまったのである。

 

「兎に角ヤツを逃がしたのは不味いっす!昨日までは奴らの余裕風吹かしてましたけど兄貴にパートナーが居るってのを茶々丸がエヴァンジェリンに報告したら絶対今度は2人がかりで仕返しに来るに決まってますぜ!」

 

 とマギに事の重大さをカモが訴えていたのだが

 

「しかし相手は生徒だしな…教師は生徒を守る物だし、それにメンドイ事になるのは避けたいしな」

 

 とマギは頭を掻きながらそう言っていたが

 

「甘いっすよ大兄貴!今は教師と生徒の関係を話している暇は無いっすよ!兄貴と大兄貴は命を狙われているんっすよ!?それなのにそのうちの1人を助けるなんて奴らは敵っすよ敵!」

 

 とマギにそうツッコむカモ。ちょっとエロオコジョとアスナがカモをそう呼びカモっす!姐さん!とアスナに自分の名を覚えさせようとしたら

 

「エヴァンジェリンも茶々丸も2年間アタシ達と同じクラスメイトだったのよ?そんな今更本気で命を狙ったりはしないと思うけどな」

 

 とアスナがそう言うが姐さんも甘いっすよ!とカモが反論する。そう言いながらカモはパソコンで何かを調べ始めた。

 

「見てください!俺っちが魔法世界関連のネットで調べたんスけど、あのエヴァンジェリンは15年前までは魔法界で600万ドルの賞金首だったんですぜ!?記録には女や子供を殺したっていうのは残っていませんが、今でも闇の世界で一目置かれている極悪人でさ!」

 

 アスナはカモが調べたサイトを見てみると、エヴァンジェリンが確かに賞金首であったことが記されている。なんでそんなのがウチのクラスに居るのよ!?とアスナが内心でツッコミをいれた。

 

「なんでエヴァンジェリンが日本に居るのかは不明ですが、とにかく奴らが本気で来たらヤバいっすよ!姐さんの他にも寮内の生徒がやられる可能性が…」

 

「ウソ!?それマジ!?」

 

 カモが言った事にネギは俯いて何も喋らない。

 

「とりあえず兄貴や大兄貴が今寮に居るのは不味いっすよ」

 

「う…うーんそうね今日は休みで人も多いし…」

 

 とカモとアスナがそんな事を話しているとネギは黙って杖を持って窓を開けた。

 

「ちょっとネギ!?」

 

「兄貴!」

 

 アスナがネギを止めようとしたが一足遅く

 

「ウワァァンッ!!」

 

 ネギは泣きながら杖に跨って飛んで行ってしまった。

 

「姐さんがあんなことを言ったから!」

 

「アンタだって!!」

 

 とネギが出て行ってしまったのはそっちのせいだと言いあっていたが、そんな事を言い争っている間にネギはどんどんと見えなくなっていく。

 

「兎に角ネギを追うわよ!!」

 

「合点でさ姐さん!」

 

 アスナとカモはネギを追いかけるために、部屋を出て行ってしまった。部屋にはマギがポツンと取り残されてしまった。

 

「これって俺も探さなきゃいけないパターンかよ?…メンドクセェなぁ」

 

 けど…マギはネギが飛び出した窓の外を眺めながら

 

「これがネギの最初の大きな壁になるのかもな。今は大いに悩めネギ。悩んで悩んでそれでも自分一人で何もできないと思った時には俺やアスナとかに頼ってこい」

 

 さてとマギはそう言いながらゆっくりと立ち上がり

 

「優秀すぎる愚弟を探しに行くとしますか」

 

 マギもネギを探しに行くために部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 部屋を飛び出したネギは未だに空を飛んでいた。ネギの顔は暗く沈んていた。自分のせいでアスナやこのか…他の生徒に迷惑が掛かってしまう。これ以上は迷惑はかけられない何処か遠くの場所に逃げなきゃならない。

 でも…ネギは溜息を吐きながら

 

「何時までも逃げられるわけではないし…どうしたらいいのかな僕は」

 

 周りを見渡してみると、麻帆良を少しだけ飛んだだけなのに辺りは山ばかりだった。ふとネギは故郷のウェールズを思い出し、ネカネやアーニャの事を元気かと気にし始めた。

 

「もういっそのことウェールズに帰っちゃおうかな。そうすればエヴァンジェリンさんも諦めるだろうし…でもお兄ちゃんにそんな事を言ったらどんな顔をするかな…」

 

 と弱気な逃げの台詞を言い始めたネギ。ネギは気づかなかった。自分の目の前に大きな木が有った事に…バシンッ!と木にぶつかってしまい杖を手放してしまった。

 

「しまった!低すぎた落ちちゃう!!」

 

 そう言っている間にネギは悲鳴を上げながら墜落してしまった。

 

 

 ドボーン!

 

 

 落ちた場所は小さな池の様だった。もし地面に落ちていたなら大怪我では済まなかっただろう。ネギはとりあえず無事な事に一安心したが大事な事に気づいた。

 

「あれ!?僕の杖が無い!」

 

 先程木にぶつかった時に杖を手放してしまい、今自分の手元にないのだ。ネギは慌てて杖を探し始めた。ネギは杖が無いと殆ど魔法が使えなくなってしまい、なによりもこんな森のような場所では帰れなくなってしまう。何処かで狼か野良犬の遠吠えが聞こえ、ネギは怖くなってしまい駆け出す。

 

「たッ助けてお兄ちゃん!」

 

 ネギは咄嗟にマギの名を呼んだが、マギが現れるという事はなくネギは躓いてしまう。

 

「ううう…お兄ちゃん…アスナさん」

 

 ネギは泣き出してしまいマギとアスナの名を呼んでしまった。とその時

 

 

 

 ガサガサガサガサッ!!

 

 

 

 ネギの前方の茂みが揺れ始めネギはビクッとしてしまった。もしかしたら凶暴な野生動物が現れたのかと思いもう駄目だとネギはギュッと目を瞑ったが、現れたのは野生動物ではなく。

 

「おや?誰かと思いきやネギ坊主ではござらんか」

 

 とまるで武士の様な喋り方をするのはネギの知っている中1人しかいない。ネギが顔を上げると其処には楓が居た。

 

「楓さん!?ウワァァン!助かりましたぁ!!」

 

「おととネギ先生落ち着くでござるよ」

 

 ネギは思わず楓に飛びついてしまったが、楓は別段驚かずにネギを優しく抱きしめてあげたのだった。

 ネギの濡れてしまった服は竹の竿で干してあげて、ネギは楓が持っていたバスタオルにくるまっていた。時折クシャミをしてしまい楓笑われていた。ネギは何故こんな所に楓が居るのかを聞いてみると

 

「土日は寮を離れて此処にて修業をしているのでござるよ。因みに…なんの修業かは秘密でござるよニンニン♪」

 

(絶対忍者の修業なんだろうな。ニンニンって言ってるし)

 

 ネギは楓が忍者の修業でこんな所に居るのだろうと結論付けた。そんな事よりもと楓はネギを見ながら

 

「ネギ坊主は何でこんな山奥に居るのでござるか?」

 

 と聞くとネギは黙ってしまった。

 

「まぁ話したくないのであれば無理に話さなくてもいいでござるよ」

 

 と楓にそう言われネギは小さくはい…とそう答えた。楓とそんな遣り取りをしている間にネギは無くしてしまった杖の事を考えていた。

 

(何処に行っちゃったんだろう僕の杖…何時もなら目を閉じれば何処にあるのか分かるのに。やっぱり僕が駄目な魔法使いだから杖も愛想を尽かされちゃったのかな)

 

 ネギはネガティブな事を考えながら溜息を吐いていると

 

「ネギ坊主暫くの間拙者と修業をしてみるか?」

 

 と楓が自分と修業をしてみないかとネギに聞いて来て、ネギは何かを言う前に腹の虫が鳴いてしまった。楓はネギの腹の虫を聞いてニッコリと笑うと。

 

「この山では自給自足が基本でござる。イワナでも獲ってみるでござるか?」

 

「あッはい!」

 

 ネギは楓に連れられてイワナが居る場所に向かった。着いた場所は水が透き通っている池で池の中には数十匹のイワナが元気よく泳いでいた。

 

「凄いいっぱい泳いでますね!」

 

 ネギはイワナが沢山泳いでいるのに興奮していた。

 

「イワナは警戒心が強い魚で手づかみだと足音を立ててしまうと逃げちゃうんでござるよ」

 

 と楓はネギにイワナの事を教えてくれた。

 

「じゃあどうやって獲るんですか?」

 

「これ…でござるよ」

 

 ネギがどうやって獲るのかを聞いてみると楓はキラリと黒光りする何かをネギに見せてあげた。楓が持っている物の名前は苦無というものでネギも日本の忍者の本で読んだ事があり、どういう物かは知っていた。

 楓はシッ!と言いながら苦無をイワナめがけて投げたら、苦無にイワナが命中して動かなくなった。と今度は2本の苦無を同時に投げて2匹のイワナを同時に仕留めた。

 

「ほらこれで3匹でござるよ」

 

 ネギは楓の苦無を投げる姿に感激して自分もやってみたいと楓お願いして苦無を貸してもらって、ネギもイワナに向かって苦無を投げてみたが、楓みたいにちゃんと飛ばずにボチャン!ボチャン!と虚しい音を立てながら沈んでいった。

 

「ん~~とホレこうやってぽぽーんと投げれば上手くいくでござるよ」

 

 と言いながら楓は岩壁を蹴り上げながら体を回転してその遠心力で苦無を投げていた。そんな楓を見て

 

「そんな事もっとできませんよ!」

 

 とツッコミをいれた。

 

「でも凄いです楓さん!流石日本の忍者ですね」

 

 とネギは楓に感激していたが楓ははて?何のことでござるかなと恍けていた。イワナは大漁

 

「次は山菜採りでござるよ」

 

「山菜か。それなら僕でもできそうだ」

 

 とネギは山菜採りなら自分でも出来ると言い聞かせていた。

 

「でも山菜採りを2人でやってたら日が暮れませんか?」

 

 とネギが心配していたが楓はああ大丈夫でござるよほらと指差すとネギがあんぐりと大口を開けてしまった。何故なら

 

「16人に分身すれば16倍の速さで採れるでござるから、心配ご無用でござるよ」

 

 と楓の後ろには15人の楓が山菜を採っていた。忍者の術の中でも有名な分身の術である。

 

(やっぱり忍者だ!!)

 

 此処まで来ると感激ではなく驚愕の方が強いネギであった。

 そして今までで獲った食材で昼食を取る事にした。

 

「美味しいです楓さん」

 

「あいあい」

 

 ネギが美味と楓にそう言って楓はネギが食べている所をにっこりと笑って見ていた。獲れたての魚や山菜はどれも新鮮でそれば美味しさを倍増していた。

 

(だけど凄いな楓さんは…もしも楓さんが僕のパートナーになってくれたら…)

 

 とそんな考えがネギの頭の中でよぎり、ネギはハッとしながら

 

(何を言っている僕は!パートナーと言っても戦いの道具として頼っているだけじゃないか!僕が原因の揉め事なのに僕の生徒をそんな形で巻き込んじゃだめだよ!昨日のアスナさんに頼ったのだって…)

 

 とネギは又頭を抱えてしまった。ネギを楓はジッと見つめているとネギの頭に手を置きながら

 

「ほら食べたら行くでござるよ」

 

 と楓は先に食べ終えて立ちあがっていた。

 

「行くって何処にですか?」

 

 ネギは何処に行くのかを尋ねると

 

「午後の修業は夕ご飯の食材探しでござるよ」

 

「え!?又御飯探しですか!?」

 

 とネギはなんで又食材を探すのかと思っていると

 

「山での修業は食材集めが主な修業内容でござるよ」

 

 という事で午後の修業も食材集めとなったのだが、ネギはこの時は簡単なものだろうと思っていたが大きな間違いだった。

 

「ヒェェェッ!たッ高いです!!」

 

「この頂上のキノコが美味なんでござるよ」

 

 断崖絶壁を命綱なしで登って頂上のキノコを採ったり

 

「グルオォォォォォンッ!!」

 

「くくくくクマァッ!!?」

 

「あいあい。早く逃げるでござるよ」

 

 蜂の巣をクマから横取りして必死に逃げたり

 

「ネギ坊主はぐれると出れなくなってしまうでござるよ」

 

「楓さん先に行かないでくださぁぁい!」

 

 はぐれたら一生出られないような森にて木のみを採ったりなどをしていた。正直先程の修業が優しいものであったなぁと思い始めたネギであった。

 

「ほらほらそっち行ったでござるよ」

 

「あわわッ!ボク素手じゃ獲れないでござるよ!」

 

 と最後は川魚を手づかみで獲り、ネギは楓の協力で漸く一匹を捕まえる事が出来たのであった。一匹を捕まえた事にネギの顔には笑顔があった。

 色々な食材が獲れて夕食も満足に食べれたネギ。体中が泥や汗で汚れてしまっていた。

 

「フワァァ疲れたぁ…汗と泥でドロドロですよ」

 

 ネギは自分の体を見てそう言った。楓はそれならばとネギに向かって

 

「風呂でもはいるでござるか?」

 

 とそう言った。ネギはこんな所に風呂が有るんですか?と楓に聞いてみると勿論と楓は肯定しながら

 

「最高の露天風呂…でござるよ」

 

 と自信満々にそう言った。

 

 

 

 

 

 夜ネギは楓に言われた最高の露天風呂に入っていた。その風呂だがドラム缶である。誰でも知っていそうなドラム缶に水をいれて火を焚き水を沸かすと言う物である。有名なドラム缶風呂である

 普通はそんなドラム缶風呂が最高の露天風呂と言うのはどうかと思うが、これだけは格別だった。

 

「うぁぁ~~確かに最高の露天風呂ですね」

 

 ネギがそう言うのは夜空の満点の星々を眺められるという絶景だった。楓が言っていた最高の露天風呂と言うのは頷ける。

 それに頭を自分で洗うのが苦手なネギとしてはこういう風呂は大歓迎である。

 

「ふわぁぁ~~気持ちいいなぁ~~」

 

 ネギは気持ちよさのあまり顔が崩れて笑顔がこぼれてしまった。そんなネギを見て楓はフフと笑いながら

 

「元気になったようでござるな」

 

 とネギに向かってそう言ったネギはえ?と言いながら楓の方を見ると

 

「ネギ坊主新学期に入ってからずっと落ち込んでいたでござろう?心配していたんでござるが、漸く笑顔を見せてくれたようで一安心でござる」

 

「あ…」

 

 ネギはそうやって楓に心配されて生徒に心配されるとは恥ずかしいと思い、顔を赤くしてしまったが楓が次に言った一言に固まってしまった。

 

「ほいでは…拙者も風呂に入らせてもらおうかな」

 

 と楓が自分の服を脱ぎ始めた。ネギは慌てて風呂から出ようとしたが、楓がまぁまぁ良いではないかと言いながら楓も一緒にドラム缶風呂に入ってしまった。

 

「いい湯でござるなネギ坊主」

 

「そ…そうですね」

 

 互いに裸である為にネギは恥ずかしさで楓に背を向けていた。数秒の間沈黙があったが、先にネギが口を開いた。

 

「凄いですね楓さんは…中学3年生で「胸がでござるか?」そうですね楓さんはほんとに胸が大きくて…って違いますよ!」

 

 とネギが何かを言おうとして、楓に言葉を被せてネギをからかった。ネギは出ばなを挫かれたが、話を続けた。

 

「まだ14歳なのにそんなに落ち着いてて頼りがいもあるし、こんな修業を1人でやっているし、お兄ちゃんもそうです。なんでも一人で出来て皆からも信頼されてそれに比べて僕は…」

 

 ハハハとネギは乾いた笑い声を上げていた。そんなネギを楓は何も言わずに聞いてた。

 

「ネギ坊主は拙者やマギ殿が何でもできているとそう見えているようでござるな?」

 

「はいだってそうでしょう?僕なんて一人じゃ何にも出来ないんですから」

 

 とネギがそう言っているが、楓はう~~んと唸ってから

 

「それはネギ坊主の勘違いでござるな」

 

「え?」

 

 ネギは楓が言った勘違いの意味がよく分からなかった。

 

「ネギ坊主が何でも出来ると言うのなら拙者は勉強も出来てバカレンジャーなんて言われることもないでござるよ」

 

「あ…確かに」

 

 楓はそこまではっきりと言われると軽く傷つくでござるなと傷ついているのか分からないような笑みを浮かべていた。

 

「拙者は勉強が出来る友人を頼っているから何とか勉強について行けるのでござるよ。まぁ結局のところ試験は赤点ばっかでござったが」

 

 それに…と話を続ける楓。

 

「マギ殿もでござるよ」

 

「お兄ちゃんもですか?」

 

 とネギが聞くとあいあいと楓は頷く。

 

「数日前に散歩部の活動で拙者学園の中を歩いていた時でござったが、その時にマギ殿と高畑先生を見たのでござるよ」

 

「えッ!お兄ちゃんとタカミチが!?」

 

 マギとタカミチが一緒に居ることはさほど珍しいものではないのだが麻帆良では何処か珍しい感じがするのである。

 

「それでお兄ちゃんとタカミチはどんな話をしていたんですか!?」

 

 ネギはマギとタカミチが如何いう事を話していたのか気になっていた。

 

「その時は拙者も気になってどういう話をしているのか聞いてみたでござるよ。何を話していたのかというと、生徒にどういう授業方法で教えればいいのかを尋ねていたんでござる。他にも生徒指導にしずな先生にどういう指導をすればいいのかとか…他の先生にもいろいろな事を聞いていたでござるよ」

 

 と楓の言った事にネギはマギがそんな事をしていたと言うのは初耳だった。

 

「拙者は高畑先生と別れたマギ殿に聞いてみたでござる『如何してそこまで色々な先生に色々と尋ねているんでござるか?』とするとマギ殿はこう答えたんでござる」

 

 

 ――俺が出来る事なんてたかが知れてるからな頼れるのもは何でも頼った方が良いからな、後々面倒な事になるだろうしな――

 

 

「と言っていたでござる。それを聞いたときにはマギ殿だなと思ってしまったでござる。話が変わるがネギ坊主今迄落ち込んでいたのは、今まで何でも自分一人で上手くやってこれたけど此処に来て壁にぶつかり、どうしていいのか分からず戸惑っている…という所でござろう?」

 

 ネギは自分が考えている事が当たっていて流石忍者だと感心していた。

 

「如何すればいいんですか?僕は…」

 

 とネギはどうやら如何すればいいのか考えていた。そうでござるな~と楓は夜空を見上げながら

 

「ネギ坊主はまだまだ10歳なのだからそんな壁の一つや二つ当然でござるよ。それにネギ坊主には頼れるマギ殿や明日菜が居るでござろう」

 

「でも僕は…」

 

 ネギはそれでも誰かに頼ろうとするのに躊躇いが有るようだ。そんなネギに安心するでござるよ。と楓がネギを後ろから優しく抱きしめてあげた。

 

「辛くなったり如何した良いのか分からなくなった時は又此処に来れば、オフロ位にはいれてあげるでござるよ」

 

 と楓が言った事が夜の森に静かに響いた。

 

「これ以上浸かっているとのぼせてしまうから、今日はもう上がってゆっくり休んで、それから又考えるでござるよ」

 

 そう言ってネギと楓はドラム缶風呂から上がったのである。

 その夜中ネギは楓が張ったテントにて楓と一緒に寝ていたのだが、中々寝付けなかった。隣に居るのが楓だから(その楓は気持ちよさそうに寝息を立てている)という訳ではなく、ネギ自身の今迄を振り返った。

 確かに自分は魔法学校でいい成績で卒業してなんでも出来ると良い気なっていた。しかしいざ自分ではどうしようもない問題が起きた時には何もせずに逃げる事だけを考えていた。

 ネギとマギの歓迎会の時にアスナに言った。よく祖父の校長先生が言っていた言葉「わずかな勇気が本当の魔法」という言葉をエラそうにアスナに言っていたが、自分が言える立場では無いと今そう思った。ネギはこれ以上深く考えるのはよそうと思い、ギュッと目を瞑っていると。段々と眠くなり次第に意識を手放していったのだった…

 翌朝早くに起きたネギはまだテントで寝ている楓に『オフロとゴハンありがとうございました』と書置きを置いておいた。

 そしてネギは目を閉じ、無くしてしまった杖を探し始めたが直ぐに見つかった。ネギがぶつかって杖を手放してしまった木の枝に引っ掛かっていたのだ。ネギは杖に強く念じると杖は引っ掛かっていた枝を振り払い物凄い速さでネギの元に戻ってきてネギの手の元に戻ってきた。

 

「ありがとう。僕の杖」

 

 戻ってきた杖にネギは優しく撫でてあげた。上着を着て準備完了したネギはよし!と一言言った後に楓の方を見ながら

 

「ありがとう楓さん。僕、もう少し一人で頑張ってみようと思います。でも…もし一人で出来ない事があった時は誰かに頼ってみようと思います」

 

 それではと再度楓にお礼のお辞儀をすると、杖に跨り飛び出したのであった。

 

「行くでござるか…」

 

 実は楓も起きていて、テントの隙間からネギが飛び立っていくのを見ていた。ネギの表情が吹っ切れたような気がしたから楓は一安心のようだった。

 

「しかしフフ…魔法使いって本当にいるんでござるな。まぁ拙者も人の事は言えんでござるが…」

 

 そう言い終えると楓はコロンと寝っころがり又寝息を立てて寝てしまった。

 ネギは杖に跨り女子寮に帰ろうとすると

 

「おーいネギ」

 

 と何処からかマギの声が聞こえ、ネギはマギを探してみるが見つからずマギが此処だよ此処!とネギの真上から聞こえ、見上げてみるとかなり大きな木のてっぺんにマギが立っていたのだ。

 

「おッお兄ちゃん何でこんな所に!?」

 

 ネギは何故こんな所にマギが居るのかを聞いてみたら

 

「行き成り出て行ったお前を探しに来たんだよっと!」

 

 と言いながらマギは木のてっぺんから何も言わずに飛び降りたのである。ネギは慌ててマギが落ちてくる場所に杖を動かし、マギは杖の上に着地したのである。ネギは行き成りは危ないでしょ!とマギにツッコもうとしたが、行き成りマギに頭を撫でられたのである。ネギはマギの方を見るとマギは静かに笑いながら

 

「漸く吹っ切れた様だな」

 

 と言いながらマギは再度ネギの頭を撫で続ける。ネギは今迄心配かけてしまった思い

 

「お兄ちゃん…ごめんなさい」

 

 マギに謝ったがマギは頭を掻きながら

 

「俺に謝る前に他に謝る奴が居るんじゃないか?」

 

 え?とネギはマギの言っていることがよく分からずマギは下を指差した。ネギも下を見降ろしてみると

 

「この馬鹿ネギ!漸く見つけたわよ!早く降りてらっしゃい!!」

 

「兄貴~!!漸くみつけましたぜ~!!」

 

 ぜぇぜぇと短い呼吸をしながらもネギに怒鳴りつけているアスナとネギが見つかって大喜びのカモが其処には居た。

 

「アスナさんにカモ君!?何でこんな所に!?」

 

「お前が部屋を出て行った後にアスナとカモはお前を追いかけて来たんだよ。カモの鼻を頼りにな。おかげでこんな山の中で危うく遭難しかけたぞ」

 

 ほら早く降りなとネギにそう言った。

 

「アスナの奴寝る間をおしんでお前の事を探していたんだ。早く降りないと説教だけじゃ済まねえぞ」

 

「どうして僕なんかを探しに来たんですか?アスナさん達に迷惑をかけてしまうと思ったのに」

 

 とネギがそう言って俯いていると、マギは何処からか何時もネギを叩いているハリセンを取り出し、ネギの頭を思い切りはたいた。ネギは呆然としていると

 

「ば~かお前、そんなの決まってるじゃねえか…お前の事が心配だったからに決まってるだろ?」

 

 そう言ってネギとマギはアスナとカモが居る場所に降りて行った。

 最初はアスナに頭を叩かれ、心配をかけるなと説教をされたが、説教はほんの数分で終わり次からは体は大丈夫?やら風邪はひいてない?おなかは空いてないの?と心配し始めた。

 アスナにこんなに心配されているのかと気づくネギは最後ら辺は泣き始めて、アスナの胸に飛び込んだ。アスナはキャッ!と短い悲鳴を上げていたが、ネギを優しく抱きしめてあげた。

 そんなネギとアスナをマギとカモが静かに見守っていたのである。




今回ほんの少しですが、原作と違う所があります
それはネギが少しだけですが、他の人に頼ろうとしている所です。(描写がへたっぴで分かりにくいと思いますが)
原作だと楓と別れた時も自分一人で問題を解決しようとしていますが、この作品のネギは人に頼ろとする考えが芽生え始めます。
正直な所、ネギはまだ10歳なのに人に頼ろうとしなさすぎだと思いました。この歳ならもう少し人に頼ってもいいのではないのでしょうか?
という事でエヴァンジェリンとの決戦の話は少しだけ原作と違うと思います。

それと今月の24日から自分が通っている大学の秋学期が始まるので少しだけ更新の速さが遅れるかとおもいます。ので24日までに原作の4巻には入ろうと思います。

もう一つ、第3章が終了したのちに活動報告であるアンケートを取りたいと思いますので
楽しみに待っていてください。





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エヴァンジェリンの過去

お気に入りが500人を突破しましてUAも5万人を超しました!!
正直自分の駄文が此処まで行くとは思っていませんでした。
本当にうれしいです!
これからも頑張っていくので応援よろしくお願いします!!
それではどうぞ!!


「コラネギ!何時まで寝てるのよ!さっさと起きなさい!」

 

 アスナはバイトから早朝のバイトから帰ってきて、何時までも寝ているネギを起そうと何時もの様にアスナのベットに潜り込んでいるネギを起そうとしたが、ネギは其処には居なかった。代わりに居たのはアスナの下着に潜り込んでいるカモだけ。

 アスナはカモから下着を取り返し、ネギを探そうとするとカモが言った。

 

「兄貴ならとっくのとうに学校に行きましたぜ。姐さんがバイトに行っている間に。このかさんも今日は日直だそうで」

 

「うそ!?じゃあマギさんは!?」

 

 アスナは珍しくネギが自分一人で学校に行った事に驚いていると、マギは部屋に居るのかを聞いてみると

 

「大兄貴も今日は珍しく自分で起きて、兄貴と一緒に学校に行きましたぜ」

 

「うそあのマギさんが!?というよりもしかして今此処に居るのアタシだけ!?」

 

 アスナは自分一人じゃ起きれないマギが自分で起きた事にさらに驚いたが、今この部屋に自分一人しか居ないという事は…

 

「遅刻じゃない!もう最悪~!」

 

 アスナは急いで着替えて寮を飛び出した。今急げば遅刻ギリギリで間に合うかもしれない。とそれよりも

 

「何でアンタがアタシと一緒に居るのよ!?」

 

「いや~兄貴と大兄貴が俺っちを起してくれなくて。良いじゃないですか姐さん」

 

「良くないわよ!アンタとアタシでコンビみたいじゃない!!」

 

 と遅刻しない様に走っている女子中学生と喋るオコジョという変な光景が出来ていた。

 そしてとっくのとうに学校に向かっているネギとマギはと言うと

 

「お早うございます!皆さん今日も元気に行きましょう!!」

 

 と今迄うじうじしていたのが嘘のように晴れ晴れとした表情だった。

 

「あら何だか今日は何時もより元気で凛々しいですわネギ先生…」

 

 あやかはネギをウットリとした表情で見つめていた。

 

「本当いつもより元気だにゃー。なんかあったのマギさん?」

 

 裕奈はそう言いながら、ネギの隣にいたマギに何があったのかを聞いてみた。マギはそうだな…と呟いてから

 

「漸く悩みが解決したからか?」

 

 とそう言ってマギも校舎の中に入って行った。

 3-Aに向かうネギとマギ

 

「んでエヴァンジェリンの事は如何するんだよネギ」

 

 マギはネギにこれから如何するのかを聞いてみるとこれだよお兄ちゃん!とネギはマギに何かを見せてきた。見せたものは

 

「果たし状って…いつの時代の人間だよお前は…」

 

 と果たし状を見せてきたネギにマギは呆れていた。

 

「この間僕の方から茶々丸さんに仕掛けてきたことに報復に来ることは間違いないし…でもこれ以上僕の生徒に危害が来ない様にしたいし、僕一人でも何か出来る事があるはずだ。とにかく今は逃げずに立ち向かわないと」

 

 とネギはそう言ってマギは又一人で突っ走りやがってと説教をしようとしたがでも…と呟きながらマギの方を向くと

 

「でももし僕一人じゃ出来なくなったらお兄ちゃんを頼ってもいいかな?」

 

 とネギが言った事にマギはほんの一瞬ネギが気づかないうちに驚くとフッと笑いながらネギの頭に手を置くと優しく撫でまわした。

 

「何言ってるんだ?俺はお前の兄貴だぞ。弟はいくらでも兄貴を頼れ」

 

 まあメンドクならない程度だけどなとマギが少しおどけたようにネギにそう言った、ネギはマギにありがとうお兄ちゃん。とお礼を言った。

 3-Aの教室に着いたネギは聊か緊張してるのか過多唾を飲み込んだ。そして一度咳払いをするとドアを開けた。

 

「おはようございます!エヴァンジェリンさんは居ますか!?」

 

 ネギがエヴァンジェリンが居るかを尋ねるとハルナが

 

「ネギ君お早う!エヴァジェリンさんなら今日は来ないって」

 

 とハルナの報告にネギは又サボったのかと思ったが、保健委員の亜子が

 

「何や風邪でお休みするって連絡があって」

 

 との事である。その連絡を聞いてネギは考えた魔法使いで吸血鬼な人が風邪をひいて寝込むのかと。ネギは本当かどうかを確かめるためにエヴァンジェリンの元に向かう事にした。

 

「おいネギ行くならさっさと行こうぜ」

 

 如何やらマギも同じ考えのようでさっそくエヴァンジェリンの元に向かう事にした。

 

「ハァハァなんとか間に合ったわ…!」

 

 と遅刻寸前のアスナが漸く3-Aに到着した。アスナが到着したのと同時にネギとマギが教室を出て行った。

 

「ちょッちょっとネギにマギさん!?何処に行くのよ!?」

 

 アスナがネギとマギが何処に行くのかを尋ねると

 

「ちょっとエヴァンジェリンさんの所に行ってきます!」

 

「もしかしたら今日は戻って来れないかもしれねぇから、今日のネギと俺の授業は自習だ。各自一応勉強しておけよ」

 

 自習と言う単語を聞いて、殆んどの生徒が喜んだ。アスナが制止をかける暇なくネギとマギはエヴァンジェリンの所に向かって居なくなってしまった。そんなネギ達を見てアスナは全くと呟きながら

 

「何よアイツ妙に元気がいいわね。エヴァンジェリン事は大丈夫なの?」

 

(兄貴の顔つきが昨日から変わっていたし、なんか考えが思いついたんじゃないスか?)

 

 とアスナの疑問にカモがアスナに聞こえるようにそう教えた。

 

「ネギ君土日をはさんで何か元気でたなー」

 

 このかはネギが元気そうでよかったらしく笑顔でそう言った。そしてネギが元気になったおかげと言える楓はニンニンと笑いながらネギを見ていたのだった。

 

 

 

 学園都市内のとある場所。

 行き成りだが、エヴァンジェリンと茶々丸は女子寮に住んでいない。学園都市内に家を建てて、其処で暮らしながら学校に向かっているのだ。時折寮の大浴場に居るのは偶の気分転換なのである。閑話休題

 今ネギとマギはエヴァンジェリンの家に向かっているのだ。クラス名簿にエヴァンジェリンの住所が乗っている。歩く事数十分漸くネギとマギはエヴァンジェリンの住んでいる家へとたどり着いた。

 さてエヴァンジェリンが如何いった家に住んでいるのかというと…

 

「へぇ~案外素敵なお家だな~」

 

「エヴァンジェリンの奴イイ家に住んでるじゃねえか」

 

 ネギとマギが感嘆の声を上げるのも無理は無かった。というのもエヴァンジェリンの自宅は木で出来たコテージの様な家で童話で出て来そうな『森のお家』のようだった。

 

「僕てっきり墓場に住んでいるのかと思ってた」

 

「おい」

 

 ネギは墓場に住んでいて棺桶から飛び出してきているエヴァンジェリンを想像したようだ。流石に失礼だろうがとマギがツッコミをいれた。そんな事よりもこんな所で話してないでネギとマギは玄関へと向かった。

 玄関のチャイムもボタン式ではなく、紐を引っ張って鳴らすベル式のものだった。さっそくネギがベルの紐を引っ張った。カランコロンと音色が鳴り響く。

 

「こんにちはー担任のネギですけど、家庭訪問に来ました」

 

「同じく副担のマギだが、エヴァンジェリンいるのか?いたら返事しろ~」

 

 マギがそう言ってもエヴァンジェリンからの返事が無く、マギがためしに玄関を開けてみようとしたら鍵が開いていて、ネギとマギは家の中に入って行った。中に入ってみると

 

「中は結構ファンシーなんだな」

 

「これの何処が吸血鬼なの!?」

 

 家の中には基本的な家具があったのだが、そこらじゅうにぬいぐるみや人形に操り人形など小さい女の子が遊んでいそうな空間だった。ネギの言う通り此れの何処が吸血鬼なのかを疑ってしまうだろう。とその時

 

「どなたですか?」

 

 後ろから茶々丸の声が聞こえ、振り返ってみるとメイド服の茶々丸がおぼんに水と薬らしきものを置いて佇んでいた。

 

「ネギ先生マギ先生、今日は。マスターに何か御用ですか?」

 

 茶々丸はネギとマギに何か御用かを尋ねてきた。ネギは後ろに茶々丸がいた事に驚いていたが、まず最初にやる事は

 

「茶々丸さんこの間はどうもすみませんでした」

 

 この前に茶々丸を尾行し攻撃したことに謝ったネギ。茶々丸もいえ此方こそと謝り返した。

 

「そしてマギ先生助けてくれてありがとうございました」

 

「謝んなよ当然の事をしたと思っているぞ俺は」

 

 茶々丸はマギが自分を助けた事に助けた事にお礼を言ったのだが当然のことをしたまでとあしらわれた。と今日は茶々丸に謝るのも目的の一つだったが本来の目的はエヴァンジェリンだ。

 ネギは茶々丸にエヴァンジェリンは如何しているのかを尋ねると

 

「マスターは連絡した通り病気です」

 

 と返された。しかしネギは未だにエヴァンジェリンが風邪だという事を信じていなかった。すると

 

「その通りだ。私は元気だぞ」

 

 上の方からエヴァンジェリンの声が聞こえ、エヴァンジェリンが階段の柵に腰かけていた。

 しかしマギはエヴァンジェリンをよく観察してみた。エヴァンジェリン本人は自らを元気だと言っていたが、顔は赤く上気しておりハァハァと呼吸も荒かった。これは如何見ても風邪の症状である。

 

「よく来たな。まぁ邪魔なおまけもついてきたようだが、まぁ魔力が十分でなくとも貴様らごときをくびり殺すことぐらいわけないのだぞ」

 

 邪魔なおまけって絶対俺の事だよな…とマギが内心で呟いた。茶々丸がマスターベットを出ては…と何処か慌てている様子だった。

 そんな遣り取りをしている間にネギはエヴァンジェリンに果たし状を見せた。エヴァンジェリンは果たし状をなんだそれは?と呆れた様子で眺めた。

 

「果たし状です!僕ともう一度勝負してください!それとちゃんと学校に来て下さい!このままだと卒業できませんよ」

 

「だから呪いのせいで出席しても卒業なんかできないんだよ」

 

 ネギの必死の訴えに、エヴァンジェリンは呆れたように返した。まぁしかし…とエヴァンジェリンはニヤリと笑うと

 

「それじゃあここで決着をつけるか?私は一向に構わんが」

 

 とエヴァンジェリンはなけなしの魔力を集中して魔法薬が入っている試験管を数本取り出した。対するネギも

 

「…いいですよ。そのかわり僕が勝ったらちゃんと授業に出て下さいね!」

 

 と杖を構えた。どちらも臨戦態勢で一触即発の雰囲気となってしまい、茶々丸は止めようとしたが止められる雰囲気ではなかった。マギはなんでこんな事になっちまったんだよと呆れていた。

 そして互いがぶつかりあおうとしたが…

 

 

 

 ぽて  ゴンッ!!

 

 

 

 エヴァンジェリンが階段の柵からずり落ち、床に頭を打っちそしてそのまま動かなくなってしまった。ネギはエヴァンジェリンが行き成り階段からずり落ちた事にポカンと見ていたが、マギがエヴァンジェリンに近づきエヴァンジェリンの額に手を当てた。そしてったくと舌打ちをしながら

 

「すげー熱じゃねえか。これの何処が元気だよまったく」

 

「ええ!?風邪って本当だったんですか!?」

 

 と漸くネギもエヴァンジェリンが風邪であった事を信じたようだ。そしてマギがエヴァンジェリンを抱き上げた。エヴァンジェリンはマギに抱き上げられるのを嫌がりジタバタしようとしたが、風邪で動けないため無駄に終わった。

 

「2階のベッドに寝かせてください。マスターは風邪の他に花粉症も患っていますので」

 

 それを聞いてネギとマギはエヴァンジェリンが本当に吸血鬼なのか疑い始めた。

 2階のベッドにエヴァンジェリンを寝かせたマギ達。寝かせたのだがエヴァンジェリンの表情は何処か苦しそうだった。

 

「魔力が減少したマスターの体は元の肉体である10代の少女となんら変わりありませんので」

 

 と今のエヴァンジェリンの容態を説明してくれた茶々丸。ネギとマギはただ頷くだけである。

 ネギ先生マギ先生…と茶々丸は2人の方を向いて

 

「私はこれからツテのある大学病院にて良く効く薬を貰っくるのと猫にエサをやってくるのでその間だけマスターを見ていただけませんでしょうか?」

 

「ええッ!僕とお兄ちゃんがですか!?」

 

 ネギは驚きを隠せなかった。自分達は戦った者同士どうしてそこまで頼むのだろうと

 

「先生方ならお任せ出来ると判断したからです」

 

 と茶々丸が断言していると

 

「分かった。エヴァンジェリンの看病は俺とネギがやっとくからお前はクスリと猫のエサをさっさとやってこいよ」

 

 とマギが快く引き受けてしまった。ネギはなんでそんな簡単に引き受けちゃうの!?と言う顔でマギを見たが

 

「あのな生徒が苦しそうにしているのに何もしないって言うのは、それはそれでいけないだろ」

 

 とマギが言っていることも正論なためネギは押し黙ってしまった。そして茶々丸はエヴァンジェリンの看病をネギとマギに任せて薬を貰いに行くのとエサをやりにいったのであった。

 さてエヴァンジェリンを看病することになったネギとマギであるが、何をすればいいか考えていると、エヴァンジェリンが急に咳き込み始めた。どうやら喉が渇いたようだ。

 という事で台所から、飲み物を持ってきた。水にお茶果てにはコーラなどのジュースである。しかしエヴァンジェリンはどれも飲む気配が無かった。もう飲ませる物が無くネギが困っているとマギが

 

「やっぱ吸血鬼だし血じゃねえのか?」

 

 と台所からナイフを持ち出してきて、躊躇いもなくマギは自分の人差し指をザクッ!と切った。切った指先から血が流れ出した。そして血が出ている指をエヴァンジェリンに近づけた。

 

「おいエヴァンジェリン口を開けろ。血だぞ」

 

 血と言う言葉を聞くとエヴァンジェリンは弱弱しく口を開いた。マギは開かれた口に自らの指を突っ込んだ。エヴァンジェリンはチュウチュウと血を吸い始めた。

 

「おう飲み始めた。美味いか?」

 

 とマギが聞くとエヴァンジェリンは弱々しくマズイと一言だけ言った。それを聞いたマギはそっかと苦笑いをしていた。

 エヴァンジェリンに血を飲ませて一段落着いたと思ったら、日差しが直に当たってエヴァンジェリンは汗をかき始めたのでネギはカーテンを開いて日光が当たらないようにした。

 日光が当たらなくなりエヴァンジェリンが暑がる思いもしなくなると思った矢先に今度は汗をかいたために体が冷えてしまった。ネギはエヴァンジェリンを着替えさせようとして、エヴァンジェリンの寝巻きを脱がせ始めると、似合わないような下着を直視してしまい、恥ずかしくなりこれ以上脱がせることが出来なかったが、マギが代わりにエヴァンジェリンの下着を脱がして代わりの下着と寝巻きを着せてあげた。

 そしてエヴァンジェリンが静かに寝息を立て始めの見て、漸く落ち着いたようだ。しかし…とマギとネギはエヴァンジェリンの事をじっくりと見ていた。よく見てみると可愛らしい少女である。それなのにどうして吸血鬼なんかやっているのだろうと。

 昔聞いた事があるのだが、真祖というのは今は失われた秘伝によって自らを吸血鬼と化した元人間だったということである。正直な所10代の少女が自ら吸血鬼になるとは思えないネギとマギ。

 

「エヴァンジェリンって前に自分の歳は600歳ぐらいだって言ってたが…クソ親父(サウザントマスター)とどういう関係だったんだ?」

 

「如何して呪いなんてかけられたのかな?」

 

 という事でマギとネギは何かてがかりになるような物がないのか探し始めた。

 

 

 十分後

 

 

「なんも無いなてがかり…」

 

「昔の写真とかも一枚も無かったね」

 

 部屋の中をくまなく探したが、呪いに関する物や昔の写真などは一枚も見つからなかった。諦めかけていると

 

「や…やめ…ろ」

 

 エヴァンジェリンの弱々しい声が聞こえ、探し回っていたのがばれてしまったのだと思っていたが近づいてみると寝言だった。ネギがホッとしていると

 

「やめてくれ…サウザント…マスター」

 

 次のエヴァジェリンの寝言にネギは固まってしまった。今エヴァンジェリンはサウザントマスターと会っている夢を見ているようだ。とネギが何かを閃いたのかマギの方を見た。マギもネギが何を思いついたのが分かったようで嫌そうな顔をしていた。

 

「お前アレをやるつもりだろ?嫌だぞ俺は。メンドイし人のプライバシーにかかわる」

 

「だけどこれでエヴァンジェリンさんの過去が少しは分かるかもしれないし…」

 

 と言われると仕方ねえなと頭を掻くマギ。

 

「もしエヴァンジェリンがキレても俺は知らねえからな」

 

「うん」

 

 そしてネギは寝ているエヴァンジェリンの隣で杖を構えた。

 

「ラス・テル マ・スキル・マギステル 夢の妖精女王メイヴよ扉を開けて夢へといざなえ…」

 

 ネギの詠唱が終わるとまばゆい光がネギとマギを包み込んだのだ。

 

 

 光が晴れるとそこはエヴァンジェリンの部屋ではなく、麻帆良の図書館島の湖の浜辺にネギとマギがいた。行き成りだが此処はエヴァンジェリンの夢の中の世界だ。先程ネギが発動した魔法は他人の夢に侵入する魔法だ。そして精神系の魔法なのかネギとマギは全裸で体が青白く発光していた。

 とそんな事は如何でもいい。先程から肝心のエヴァンジェリンの姿が見えないのだ。探しているとエヴァンジェリンは直ぐに見つかった。見つかったのだが身体つきは大人の女性で手には茶々丸に似た糸の操り人形を持っていた。そしてもう一人エヴァンジェリンと対峙しているローブを被った男が一人その人物はネギと同じ杖を持っていた。そうその男こそが

 

「遂に追い詰めたぞサウザントマスター…この極東の島国でな。今日こそ貴様を打倒し、その血肉を我がモノにしてくれる」

 

 そして対峙している男は

 

「『人形使い』『闇の福音』『不死の魔法使い』エヴァンジェリン恐るべき吸血鬼よ。己が力と永遠の美を糧に何百人を毒牙にかけた?その上にこのサウザントマスターと呼ばれた俺を狙い何を企んでいるのかは知らぬが…」

 

 とゆっくりと顔を上げた。そしてネギはその男の顔を見て息を呑み、マギは顔をしかめた。そう彼こそが

 

「諦めろ。何度挑んでも俺には勝てんぞ」

 

 ネギとマギの父であり、サウザントマスターと呼ばれた。ナギ・スプリングフィールドである。やはりと言っていいのかネギとマギの顔とそっくりである。特にマギは父と瓜二つである。

 

「この人がサウザントマスターで僕とお兄ちゃんのお父さん!?カッカッコイイ!!」

 

「彼奴がクソ親父…」

 

 ネギは父のナギがイメージ通りなのか大はしゃぎだったが対するマギはナギの顔を見て顔を歪めていた。そんなネギとマギを置いて夢であるために話が先に進んでいく、エヴァンジェリンはフン!ほざけと鼻でナギを笑い構える。

 

「パートナーの居ないお前に何が出来る。行くぞチャチャゼロ!!」

 

「アイサー御主人」

 

 茶々丸に似た人形チャチャゼロは自我を持っているらしく、ケケケと笑いながらナイフを構え、そしてエヴァンジェリンもナギに向かって行った。対するナギは何故か杖を構えずにえーと確かこの辺だったかなと呟きながら杖で地面を叩いていた。

 そんな事をしている間にエヴァンジェリンとチャチャゼロはナギの近くまで接近していた。

 

「ふ…遅いわ小僧!私の勝ちだ!!」

 

 エヴァンジェリンは勝利を確信しており魔法を発動しかけていた。ネギは未だに行動を起こさないナギを見てハラハラしていたが、ナギが急に立ち止まると地面を先程よりも強く叩いた。すると

 

 

 ズボッ!! ドボーーーンッ!!

 

 

 エヴァンジェリンの足場が行き成り陥没し陥没した下が大きな水たまりでエヴァンジェリンは豪快に水たまりに入ってしまった。

 

「なッなんだこれは!?」

 

「落トシ穴ダ御主人」

 

「見ればわかるわ!…ん?」

 

 エヴァンジェリンが落ちたのは落とし穴しかも水が入っているというおまけつき。エヴァンジェリンはすぐさま落とし穴から脱出しようとしたが、何かかがプカプカと浮かんでいた。何が浮かんでいるのかエヴァンジェリンは見てみるとそれはニンニクと長ネギだった。その二つを見た途端エヴァンジェリンは顔を真っ青にして、顔から滝のような汗を流し始めた。更にナギは追い打ちをかけるかのように

 

「ふははは~ニンニクとネギの追加だ~」

 

 とナギは大きな袋から大量のニンニクと長ネギを落とし穴にドバドバと入れ始めた。

 

「ひッひぃぃぃッ!!私の大嫌いなニンニクとネギをいれるな~!!」

 

 とエヴァンジェリンは涙目でこれ以上ニンニクと長ネギをいれるなと叫んだ。ニンニクは分かるがネギも苦手ってどんだけ弱点があるんだよとマギは呆れていた。エヴァンジェリンはやめろ!!涙でパニック状態でナギに懇願していたが、ナギは聞く耳を持たずに杖で水を掻き混ぜて行った。そして遂に

 

「あう!」

 

 ポンという音とともに大人の姿であったエヴァンジェリンは何時も見かける子供の姿へとなってしまった。如何やら先程の大人の姿は幻術の類の様だ。

 

「ははは噂の吸血鬼がチビのガキだと皆が知ったらなんと言うかな~」

 

 ナギはエヴァンジェリンの幻術が解かれてもまだニンニクとネギを落とし穴に落とし続けていた。エヴァンジェリンがやめろ!と叫んでいたがナギは高笑いをしながらニンニクとネギを落とし続ける。まるでいじめだ。

 ネギはナギとエヴァンジェリンの魔法による激闘を予想していたのにこんな子供の悪戯みたいなもので呆気なく終わった事に呆然とし、マギはナギのやり方を見て呆れたような溜息を吐いていた。

 

「おいサウザントマスター貴様!仮にも魔法使いだろう!魔法使いなら魔法で勝負しろ!」

 

 エヴァンジェリンは溺れかけながらナギに魔法で勝負しろと訴えかけたが、ナギはヤダねと言いながら頭のフードを外した。ナギの顔が露わになるが本当にネギとマギにそっくりだ。髪型もネギとマギにそっくりだった。しかしナギの次に言った言葉はエヴァンジェリンにネギやマギでさえ呆然とするものだった。

 

「おれ勉強が苦手でな本当は5~6個しか魔法しらねーんだよ。魔法学校も中退だ恐れ入ったかコラ」

 

 とナギのドヤ顔にネギとエヴァンジェリンはガーンとショックを受けていた。サウザントマスター…千の呪文の男と呼ばれていた男が本当はたったの数個しか魔法を覚えていないと言うはネギは大きくイメージを崩したのだった。

 

「クソ親父奴学校を中退したのか。俺もメンドイから中退したかったが中退したらクソ親父と同類になっていたのか…中退しなくて良かったぜ本当に…」

 

 そんな事を呟いたマギ。その後もエヴァンジェリンは行き成りナギに自分の何が嫌なのかを聞いてナギは年下には興味が無いとそう言うとエヴァンジェリンはもう100歳は越えていると返すと、じゃあバァチャンじゃねーかと又返された。チャチャゼロは呆れたように落チ着ケヨ御主人とエヴァンジェリンを落ち着かせようとしていた。

 

「なあそろそろ俺を追うのは諦めて悪いことからも足を洗ったらどうだ?」

 

「やだ!!」

 

 とエヴァンジェリンの返事にそうかそうかだったら仕方ねえとナギがニヤリと笑った。

 

「変な呪いをかけて二度と悪い事が出来ない様にしてやるぜ」

 

 するとナギは魔力を集中させた。それはエヴァンジェリンが恐怖で震えあがるほどの強大な魔力だった。

 

「確か麻帆良のじじい(学園長)が警備員を欲しがってたんだよな。えーと何々?マンマンテロテロ…長いなこの呪文。まッてきとーでいいっか」

 

「お…おい馬鹿やめろ!そんな力でテキトーな呪文を唱えるな」

 

 エヴァンジェリンは必死に落とし穴から出ようとしたがパニック状態で上手く抜け出せない状態だった。チャチャゼロは御主人ピーンチ自分の主人がピンチなのに何処か呑気だった。

 

「おいサウザントマスター!本当にやめてくれ!!頼むから!!」

 

 エヴァンジェリンは涙目でナギにやめてと必死に懇願したが時既に遅く。今まさに呪いの呪文が完成した瞬間だった。

 

登校地獄(インフエルヌス・スコラステイクス)!!」

 

 ナギが発動した呪文はエヴァンジェリンの体を稲妻で包み込んだ。

 

「うわぁぁぁぁッ!!」

 

 エヴァンジェリンはただただ悲鳴を上げるしか出来なかったのであった。

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 夢から覚めたエヴァンジェリンはガバッとベッドから体を上げた。ハァ…ハァ…と呼吸も荒い。

 

「ま…またあの夢か…」

 

 エヴァンジェリンがナギに呪いをかけられた時の夢は大抵このような状態になる。辺りを見渡してみると

 

「すーすーすー」

 

「zzzzz」

 

「うわッ!?」

 

 自分のベッドにネギとマギが爆睡しているのを見てエヴァンジェリンは驚いた。

 

「何でこいつらがこんな所に居るんだ。殺してくれと言っているような物じゃないか…」

 

 と呆れられていたがネギとマギの周りにはエヴァンジェリンを看病した時に使った物が散らばっていた。そこで漸くエヴァンジェリンはこの2人に看病されていたという事に気づいた。それに気付いたエヴァンジェリンは舌打ちをした後に溜息を吐いた。殺す気が失せてしまった様だ。

 と寝ていたネギがゆっくりと目を覚まし、エヴァンジェリンが起きているのを見て慌てだした。

 

「はッしまった!寝ちゃった!エヴァンジェリンさんもう風邪は大丈夫なんですか!?」

 

「あぁ大丈夫だよ。今日の所は見逃してやるから其処に居る邪魔なこの男を連れてさっさと帰れ」

 

 邪魔な男と呼ばれたマギをネギは何とか起こした。そしてマギを起したネギは結局果たし状はエヴァンジェリンに渡さずにそそくさと帰ろうとした。エヴァンジェリンの夢を見た事を感づかれない様に。

 しかし

 

「おい貴様。何故寝ながら杖を握っていたんだ?」

 

 其処を指摘されてネギはギクリと固まった。まさか…と勘が良いエヴァンジェリンは分かってしまった様で

 

「貴様…私の夢を見たんだな…!!」

 

 とバレテしまい、ネギは必死に誤魔化そうとしたが、未だに寝ぼけているマギが

 

「おう見たぞ。ったくクソ親父は酷い事したよな。落とし穴に落とした後にニンニクとネギだからな」

 

 とマギの言った事でこの2人が自分の夢を見たいた事が確信した。ブチリとエヴァンジェリンがキレた音が聞こえた。

 

「きッ貴様等は親子そろって…!!殺す!やっぱり今殺す!!」

 

「うひぃぃぃぃぃ!?」

 

 キレたエヴァンジェリンがネギとマギを追いかけまわした。そこからはドタバタと大騒ぎだった。丁度薬を貰って来て猫たちにエサをやって来た茶々丸が帰ってきて、エヴァンジェリンが元気になった声が聞こえてきて一安心したようだった。

 その後女子寮に帰ってきたネギとマギだがマギは大丈夫だったが、ネギはボロボロで戻ってきたためにアスナとカモを驚かせたのだった。




今回はエヴァンジェリンの呪いの話ですが
正直ネギマギナギと似た名前が一杯なので
間違えない様にしていたのですが、もしかしたら
誤字があるかも…
もしあったら教えてください

さて次回は漸くエヴァンジェリンと決着がつきそうです。


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決着エヴァンジェリン!①

今回は少し短いです。
それではどうぞ


 エヴァンジェリンの風邪が完治した翌日。エヴァンジェリンは珍しく学校に来て授業を受けていた。ネギは驚いていると

 

「昨日は世話になったからな。授業位は受けてやろうと思っただけだ」

 

 エヴァンジェリンの発言にネギは嬉しくなりながらも、何度もエヴァンジェリンに風邪は大丈夫なのかを尋ねて、エヴァンジェリンは鬱陶しそうだった。そこからはネギが勝手に英文を読んだりとご機嫌の様子だった。

 そんなネギをマギが教室の外から眺めていた。肩にはカモが乗っている。

 

「エヴァンジェリンの奴ちゃんと学校に来て授業を受けてとはな。まぁ良かったぜ」

 

 とマギもエヴァンジェリンが授業に出てくれて一安心といった所だった。そんなマギを見て、カモがう~んと唸っていた。

 

「あのエヴァンジェリンがそう簡単に改心するとは思えないんすけどねなんか裏があるんじゃねえっすか?大兄貴」

 

「まッそん時はそん時。何とかなるだろ」

 

「兄貴も大兄貴も甘いっすよ…」

 

 とマギの考えにカモが呆れたような溜息を吐いた。そんなカモを溜息を流しながらマギは職員室に戻った。

 しかしマギの授業の時にはエヴァンジェリンの姿が見えなかったのはマギ自身も少しだけ傷ついたのだった。

 

 

 

 

 コンピューター室にてエヴァンジェリンと茶々丸が何かをしていた。どう見ても調べものの雰囲気ではなかった。茶々丸が指からコードの様な物を出してパソコンに接続していた。そしてもう片方の手で高速でキーボードを叩いていた。そして厳重そうなパスワードを難なく解除していた。如何やら茶々丸は学校の秘密にアクセスしているようだ。そして探している者が見つかったのか指を止めた。

 

「如何だ見つかったのか?」

 

 とエヴァンジェリンが茶々丸に自分達が探しているのが見つかったのか聞いてみると茶々丸はコクンと頷いた。

 

「予想通りです。やはりサウザントマスターがかけた呪いの他にマスターの魔力を封じ込んでいる結界があります。この結界は如何やら学園全体に張り巡らせており大量の電力を消費しているようです」

 

「ふん10年以上気付けなかったとはな…」

 

 とエヴァンジェリンが鼻を鳴らした。しかしと呟くと

 

「魔法使いが科学に頼るとはな。こういうのはハイテクと言うのか?」

 

「マスター、私も一応ハイテクに分類しています」

 

 エヴァンジェリンと茶々丸は学校のデータにハッキングし終え、コンピューター室を後にし屋上に向かった。

 

「まあいい。おかげで今回行う最終作戦が予定通りに実行できるという訳だな?」

 

「そうです」

 

 と茶々丸が肯定するとエヴァンジェリンがフフフフと不敵に笑いながらが貯水タンクに登り

 

「予定通りに今夜決行するぞ。坊やの驚く顔が目に浮かぶわハハハハハ!」

 

 エヴァンジェリンがタンクの屋根に上り高笑いをしていると、茶々丸がジッとエヴァンジェリンの事を見ていた。エヴァンジェリンが茶々丸の視線に気づいて

 

「如何した茶々丸?何か気になる事でもあるのか?」

 

「マスター…申し訳ありません」

 

 と茶々丸が急に謝ってきたので不思議に思っていると

 

「実はネギ先生はすでに神楽坂明日菜さんと仮契約を結んでいます」

 

「何!?」

 

 エヴァンジェリンは茶々丸が黙っていた事よりも、ネギがすでに仮契約をしていた事に驚いていた。

 

「何故報告しなかったのか自分でも分かりません。申し訳ありませんマスターいかなる罰も受けるつもりです」

 

 とエヴァンジェリンに謝るが、対するエヴァンジェリンは別段と気にしていない様子だった。

 

「気にするな今夜はお前が居ないと私が困るから罰は無しだ。しかし最早坊やにパートナーがいようがいまいが関係ないからな」

 

 と言い終えると、何かを思い出したのか急に不機嫌となり

 

「坊やは構わないが、アイツの方は如何なんだ?」

 

 エヴァンジェリンの言うアイツとはマギの事だとは茶々丸自身も理解しており

 

「いえマギ先生には仮契約者は居ないと思います…」

 

 と報告するとエヴァンジェリンはそうかそうかククク…とニヤリと笑いながら

 

「だったら今日の作戦は先に目障りなアイツから始末してそれからじっくりと坊やを痛めつけてやろう。そうと決まればさっさと行くぞ茶々丸。作戦まであと5時間だ」

 

 と言いながらエヴァンジェリンはタンクの屋根からジャンプした。がエヴァンジェリンは忘れていた。今の自分は吸血鬼ではなく人間そのものだと

 

 

 

 ベチンッ!!

 

 

 

 エヴァンジェリンは鼻を強く地面にぶつけてしまった。茶々丸がエヴァンジェリンに近づきエヴァンジェリンを助け起こした。エヴァンジェリンはうううと唸りながら顔を押さえていた。鼻からは鼻血が出ている。

 

「くそ…ッ!空をも飛べないとは人間とは何とも不便なんだ!それもこれも!アイツら(スプリングフィールド一族)のせいだ!だが待っていろ!今夜の作戦で油断している坊やらなど満月を待たずしてけちょんけちょんにして!今宵こそ坊やの血を絞りつくしてアイツなんか踏み潰して『闇の福音』とも恐れられていた夜の女王に返り咲いてやる~~!!」

 

 鼻血を出しながらエヴァンジェリンは魂の叫びを轟かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後ネギ達は帰路についていた。今日は何故か全校生徒が一斉に下校をすることになっていた。如何して下校するのかはネギとマギは知らないでいた。

 

「でもよかったな~エヴァンジェリンさん教室に戻ってきてくれて。これもお兄ちゃんやアスナさんカモ君と楓さんのおかげですよ」

 

「ん?楓ちゃんが如何したの?」

 

「あ、いえ別になんでもないですよ」

 

 とネギは誤魔化した。ネギの隣に居たマギがやれやれだぜと言いながら

 

「ネギの授業には出て俺の授業をボイコットとされるとは思ってなかったぜ」

 

「まぁいつかはエヴァンジェリンさんも来てくれるはずだよお兄ちゃん」

 

 ネギがマギを励ましていると、でも安心したわとアスナが

 

「これであの訳の分からない契約とかに付き合わされることはなさそうね」

 

 と言うと、ネギはアスナにこの間の事についてすみませんでしたと謝った後

 

「でももう大丈夫です。もうこれ以上は他の皆さんには絶対迷惑をかけたりしませんから安心してください」

 

 とネギがグッと拳を握りながらそう言うとアスナは思わずポカンとしてしまった。

 

 と前方のコンビニが何やら騒がしかった。よく見ると3-Aの生徒もちらほらと見えた。

 

「おうお前ら何してるんだ?」

 

「あッマギさん!」

 

 のどかがマギに気づいてペコリとお辞儀をした。なんでそんなに買い込んでいるのかを尋ねてみると代わりに夕映が

 

「今日の夜8時から深夜の12時まで一斉に停電があるのです。年に2回のメンテナンスですので」

 

 と教えてくれた。つまり夜8時から夜の12時まで電気が使えないために生徒達はろうそくや懐中電灯などを買っているようだ。

 

「なんか天気も悪くなってきたし怖いよねー」

 

「そう?なんかドキドキして楽しいよきっと!」

 

 円と桜子が停電の事を話していた。

 

「真っ暗な学校で遊びたいな~」

 

「肝試しです~」

 

 史伽と風香が停電し真っ暗な学校を探検したいようだった。

 

「エレベーターも止まるし街灯もつかないから生徒は外出禁止になるんだってさ」

 

 美砂も停電の情報を教えてくれた。このかがアスナの分のろうそくを買っておこうかと聞いてみると、アスナは自分は8時には寝ちゃうから必要ないと返した。そしてネギ達も帰路につこうとしたその時

 

「ネギ先生マギ先生」

 

 しずな先生が現れネギとマギを呼びとめた。マギが如何したんすか?しずな先生と尋ねるとしずな先生は申し訳なさそうに

 

「今日教えるのを忘れてしまって。今日の停電でネギ先生とマギ先生に寮の見回りをお願いするのを忘れてしまって。ネギ先生とマギ先生には寮の見回りをお願いします」

 

 それを聞いて、ネギは快く了解しマギはしずな先生にばれない様に露骨に嫌な顔をしながらも了解した。ネギとマギは夜の寮の見回りをすることになった。

 

「ネギ君とマギさん見回り頑張ってーな」

 

「頑張んなさいよーアタシ達は帰るから」

 

 とこのかとアスナが先に帰ろうとしたら待ってくれアスナとマギが呼び止めた。

 

「何マギさん?」

 

「あぁ実はな…」

 

 マギはアスナを呼び止めて、ある事を話した。それを聞いてアスナは少しだけ難しい顔をするのだった…

 

 

 

 

 

 夜の8時学校の放送部の放送でこれから学園内は停電となる為学園の生徒は外出を控えるようにという放送を終えると、電気が一斉に消え学園が漆黒の闇に包まれた。

 女子寮も一斉に電気が消え、生徒達は逆に興奮してる様子で風香と史伽は停電した学園で遊びたくてうずうずしていた。それを楓がこういう夜はお化けが出るでござるよと冗談でそう言った。

 アスナとこのかの部屋にて、このかがカーテンを開けて外を見た。

 

「なんや不気味やそらやねー」

 

「…そうね」

 

 このかがアスナにそう言ったがアスナは何処かうわの空で聞いていた。特にやる事もないためにこのかは寝る事にしたのだが、アスナは寝る様子が無い。

 

「あれアスナ如何したん寝ないんか?」

 

 とこのかが聞いてみるとアスナはアハハと苦笑いをしながら

 

「なんか中学生にもなったのに暗いのに興奮しちゃって今は寝れそうにないわ。興奮が収まってきたらアタシも寝るからこのかは先に寝てていいよ」

 

「そうかーじゃあお言葉に甘えて先に寝かせてもらうえーお休みー」

 

 と言ってこのかは横になると直ぐに寝息を立て始めた。最近忙しかったのだろう気持ちのよさそうな寝息だった。そんなこのかを見てアスナは静かに笑うと寝巻きを脱いで制服に着替え始めた。

 そして静かに足音を立てずに部屋を出た。

 

 

 

 そしてエヴァンジェリンの自宅にて暗い部屋の中で一つだけ明かりが点いていた。否明かりではなくノートパソコンの液晶の光だった。

 茶々丸がパソコンで何かをやっているようだった。

 

「封印結界への電力停止。予備電源システムへのハッキング成功。全て順調です。これでマスターの魔力は戻ります」

 

 茶々丸は其処には居ないエヴァンジェリンにそう言った。

 所変わって学校の屋上に居たエヴァンジェリン。自分でも自らの魔力が戻った事を実感し、手をグーパーグーパーした。

 

「…よし」

 

 改めて実感してエヴァンジェリンはためしにナギと対決した時に幻術で大人の姿になった幻術をためしに使ってみるとちゃんと発動し、エヴァンジェリンの姿は大人の姿となったのだ。大人の姿のエヴァンジェリンはニヤリと笑った。

 また戻って女子寮の大浴場。まだ風呂に入っていたまき絵にアキラと裕奈と亜子は入っている時に停電になって仕方なく風呂に上がる事にした。

 しかし風呂に上がろうとしたのだが、アキラはまき絵が突っ立ったまま動かないでいた。アキラがまき絵に大丈夫か?と尋ねてもあ…うう…とまともに喋れなかった。まき絵の頭の中でエヴァンジェリンの声が響く

 

 

 ――――行けわが下僕――――

 

 

 流石に返事が無く不審に思ったアキラがまき絵を振り返らせると、まき絵の口に有るはずのない牙があった。そしてまき絵は何も言わずにアキラ達に襲い掛かった。行き成りの事でアキラ達は悲鳴を上げることしか出来ずアキラ達の悲鳴が不気味大浴場に響いた。

 

 

 

 ネギとマギ+カモが真っ暗な寮の見回りを行っていた。ネギは暗い寮を歩いていて少し怖がったていてマギは早くこんなメンドイ事を切り上げて寝たいようで大欠伸をしていた。

 と急にカモが全体の毛を逆立て始めた。如何したのかを尋ねてみると

 

「お二人さん何か異様な魔力を感じねえか!?停電になった瞬間に現れましたぜ!この強大な魔力まさかエヴァンジェリンの奴じゃ…」

 

「え?エヴァンジェリンさんなら改心したんじゃ!?」

 

 ネギはカモが言った事が信じられない様子だったが、甘いですぜ兄貴!とカモが反論する。

 

「相手は名の知れた大悪党!そんな簡単に諦めるはずねぇですぜ!!」

 

 カモの言った事にネギは少しショックになりながらも何時エヴァンジェリンが仕掛けてくるかマギと一緒に警戒していると、ネギとマギの前方に誰か居た。もしかして夜の学校で遊んでいる生徒かと思い近づいて注意しようとしたが、近づき目が飛び出すかと思った位驚いた。何故ならその生徒が

 

「まッまき絵さん!?」

 

「おいおい、なんて格好だよお前は…」

 

 ネギは驚きマギは呆れていた。何故ならまき絵は服も下着も来ていない所謂全裸だったのだ。ネギはまき絵に服を着るように言おうとしたが、次にまき絵が言った言葉に思わず固まってしまった。

 

「ネギ・スプリングフィールドとマギ・スプリングフィールドに告ぐ。我がご主人エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様が貴様たちに戦いを申し込む。30分後に大浴場まで来い」

 

「!!何でまき絵さんがエヴァンジェリンさんの事を!?」

 

 まき絵が何故エヴァンジェリンが吸血鬼なのかを知っているのかを驚いているとそうか!とカモが大声を上げた。

 

「兄貴!アイツエヴァンジェリンに噛まれた事があるだろ!?今のアイツはエヴァンジェリンの操り人形でさ!」

 

「うそッ!そんな!?」

 

 ネギは信じられないと言いたげな表情だったがマギは

 

「いやカモの言う通りだ。まき絵の体から得体の知れない魔力がうず巻いていやがる。エヴァンジェリンの操り人形になっているのは間違いなさそうだ」

 

 とマギがまき絵の体から感じる魔力でそう断定した。そしてまき絵は伝言が終わったのかまき絵は駆け出しながら

 

「じゃあねネギ君!ついでにマギさんも~!!」

 

 まき絵はそう言い終えると何処から取り出したのかリボンを持つと電柱にリボンを巻付けてまるで某蜘蛛男の様に縦横無尽に移動し去って行った。それをネギとカモはポカンと見ており、マギは俺はついでかよ…と呟いていた。

 

「今のは人間技じゃねぇ。半吸血鬼化してるぜあの姉ちゃん」

 

 カモの言った事にネギはそんな!と未だに信じられない様だった。

 

「まき絵さんが倒れたあの日、僕とお兄ちゃんがまき絵さんを見た時は魔力の残り香だけで何処にも異常は見られなかったよ!!」

 

「エヴァンジェリンの魔力が封じられているのが逆に仇となっちまったようでさ!潜伏していて兄貴と大兄貴にも気付けなかったんですぜきっと!」

 

 カモが言った事にもしかしたらとマギも何か分かったのか、ネギとカモがマギの方を見た。

 

「恐らくだが、この停電とエヴァンジェリンの魔力に関係があって、停電なったおかげでエヴァンジェリンは魔力を取り戻せたという訳だ。つまり今のエヴァンジェリンは万全の状態。一気に勝負をかけて来るようだな」

 

 とそれを聞いてネギは驚きと悔しさの両方が滲み出てきた。

 

「そんな…エヴァンジェリンさんは反省して学校に来てくれたと思っていたのに。しかも魔法と関係のないクラスメートのまき絵さんを利用するなんて酷すぎるよ!また僕の油断が大事な生徒を危険に合わせてしまうなんて!!」

 

「兄貴!今は悔やんでいる暇なんて有りませんぜ!とにかくアスナの姐さんを呼んで力を貸してもらわねぇと今のエヴァンジェリンに対抗するには兄貴と大兄貴の力だけじゃ足りませんぜ!」

 

「うッうん!」

 

 とネギはアスナを携帯で呼ぼうとしてハッとした。さっきネギ自身がアスナにもう迷惑をかけないと約束してしまったのだ。それを今更覆すことは出来ない。

 

「いや!そうはいかないよカモ君。此処は僕とお兄ちゃんで行く!」

 

「あッ兄貴!?何馬鹿な事言ってるんっすか!?」

 

 カモはネギが無謀な事を言ってる事に目を丸くして驚いていた。とネギは実はこんな事が起こる時のために昨日のうちから用意はしてあったと言いながら大きな袋を何処からともなく持ってきて袋の中から色々と取り出した。魔法薬が入った瓶に見た目が古い杖数本に、年季が入った銃の様な物。対エヴァンジェリン用の完全武装である。

 準備が完了していざ大浴場に向かおうとしたネギだが、目の前にマギが行く手を阻んだ。

 

「お兄ちゃん何やってるの!?早くエヴァンジェリンさんの所に行かないと!」

 

 ネギの訴えにマギは分かってるよと言いながらタバコを口に咥え火をつけ、そして口から煙を吐く。煙があたりを漂う。

 

「はっきり言うと情けない事に、俺とネギだけじゃアイツ(エヴァンジェリン)に勝てる自信が無い。だったらカモの言う通りアスナに力を貸してもらった方が良いんじゃないのか?」

 

「!だッ駄目だよお兄ちゃん!もうアスナさんに迷惑はかけたくないよ!これは僕達の問題なんだ!」

 

 ネギの必死な訴えにマギはそうか…でもなあと呟きながら

 

「アイツはそうは思ってないみたいだな…」

 

「え?お兄ちゃんそれどういう意味?」

 

 ネギはマギの言っている意味がよく分からなかった。するとネギとマギの元に誰かが近づいて来る足音が聞こえた。

 

「此処に居た!ネギ!マギさん!!」

 

 アスナが制服姿でネギとマギの元に走ってきた。アスナの姿を見て驚いて目を見開いた。

 

「アスナさん!?なんでこんな所に居るんですか!?」

 

 ネギは何故アスナがこんな所に居るのかと驚いているとマギが

 

「アスナに教えたのさ『ネギが又無茶をしそうだ』ってな。それでアスナは来たんだろう?」

 

「そんな!何でお兄ちゃんはそんな事をアスナさんに言っちゃたの!?」

 

 ネギの叫びにアスナは黙ってネギに近づき、徐にネギの頬を思い切り引っ張った。

 

はにふるへんへふかあふなはん(何するんですかアスナさん)!」

 

 ネギは引っ張られて涙目で驚いているとアスナはハァと溜息を吐いて

 

「確かにアタシはマギさんにアンタが又無茶しそうだって聞いたわよ。でもねマギさんはこうも言ったのよ『これを聞いてお前がどう行動しようとも俺は何も言わない。これ以上俺達に関わらなくても別に責めたりしない』てね。だからアタシは自分の意志で此処に来た。アタシが来たくて来たんだから迷惑でもなんでもないのよ」

 

 それにとアスナはネギとマギを交互に指差しながら

 

「アンタは変に意地張っちゃって間抜けな所があるし、マギさんはマギさんで偶に頼りない所が有るから見てられないわよ」

 

 そこまで言うか?とマギは頭を掻きながら苦笑いを浮かべていた。ネギはこれ以上アスナ達に迷惑をかけたくないと思っていたが、ここまで自分の事を心配してくれるのを内心嬉しくも思うが内心複雑な気持ちだったが

 グッと握り拳を握ると決意の籠った目でアスナを見て

 

「アスナさん…申し訳ありませんが力を貸してください。僕とお兄ちゃんはどうしてもエヴァンジェリンさんを止めなくちゃいけないんです!」

 

 とネギのお願いにアスナもサムズアップをしながら

 

「お安い御用よ。アタシの力だったらいくらでも貸してあげるわよ」

 

 と此処に新たる心強い仲間が出来たのである。

 

 

 

 

 

「それでネギ。アンタ如何してそんな色々な物を身に着けているのよ?」

 

 アスナはネギが如何して完全武装をしているのかを尋ねてみるとネギは簡潔に説明した。

 

「ふ~~ん要するにエヴァちゃんの魔法の力が停電のせいで戻っちゃったっていう訳ね。それは何とも大変な話ねぇ」

 

 とアスナは驚いているとネギは

 

「はい…だからアスナさんにはもう危険な目には合わせたく」

 

 とネギが又そう言っているとアスナは馬鹿ねとネギの頭を軽く小突いた。

 

「今更言った事を覆すつもりなんかないわよ。最後まで付き合うわよ」

 

 とアスナが笑いながらそう言った。ネギはありがとうございます。とお礼を言うしか出来なかった。

 

 さてと…とマギは此れから如何するかを尋ねた。

 

「流石に何も作戦が無くてエヴァンジェリンに勝つのは無謀すぎるな。如何したもんか」

 

 と何か作戦が無いか考えているとネギが

 

「それだったら僕に考えがあるよ」

 

 と何か作戦があるようだ。マギにアスナとカモが一斉にネギを見た。

 

「何かナイスアイデアな作戦があるんですかい?ネギの兄貴」

 

 とカモがそう訪ねるとネギはうんと頷いた。

 

「うん僕が考えた作戦だけと―――――――」

 

 とネギがマギ達に作戦を教え始めた。

 

 

 

 

 

「―――――――――という事なんだ」

 

 とネギが作戦を一通り喋った。ネギの作戦を聞き終えたアスナは怪訝な顔をしながらも

 

「ねえその作戦本当に上手くいくの?」

 

 と作戦が上手くいくか不安そうだったがマギは

 

「否これは意外と上手くいくかもしれない。エヴァンジェリンの事だ多少は油断をしてるかもしれない。やってみる価値はあるかもしれないぜ」

 

 とマギが言った事でアスナも納得したようでうんと頷いた。

 

「よし!アスナも納得した事だし作戦を開始しようぜ!そろそろ約束の時間だ。エヴァンジェリンも遅れたら何をしてくるか分からねえからな」

 

 とマギの言った事にネギとアスナにカモが頷いた。

 

「それじゃあ…作戦を開始します!!」

 

 ネギの合図にネギとマギ、アスナとカモが別れた。これが如何やら作戦の一部の様だ。

 

「アスナさんカモ君作戦通りにお願いします!!」

 

「しくじるんじゃねえぞ!!

 

「ネギとマギさんも無茶だけはしないでよ!!」

 

「兄貴と大兄貴!御武運を!!」

 

 そして別れたネギとマギはエヴァンジェリンが待っているであろう大浴場へと向かった。遂に決着は着くのだろうか………?

 

 

 

 




一々書くのもくどいと思いますが
今回原作と違うのはアスナが最初からエヴァンジェリンとの戦いに加わります
今回話の長さは短いですが、次回はバトルもありますので長くなると思います
今週中に出来上がったら投稿しようと思います!!


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決着エヴァンジェリン!!②

徹夜での投稿
正直眠いです
それではどうぞ

PS UAが6万を越えました。ありがとうございます!!


 マギとネギはエヴァンジェリンが約束していた大浴場に時間通りの30分後に到着した。すでに相手は大浴場の中に居るだろう。2人は警戒しながら大浴場の中に入って行った。

 大浴場の中は停電のせいで真っ暗と言っていいほど辺りを見るのが困難だった。ネギとマギは何処にエヴァンジェリンが居るか探していた。

 

「エヴァンジェリンさん!何処に居るんですか!?」

 

「関係のないまき絵をさっさと解放しろ。これ以上は流石に俺も許される範囲を超えるぞ」

 

 とエヴァンジェリンが何処に居るのか分からず叫んでいると、暗闇の中からクックックックとエヴァンジェリンの笑い声が聞こえてきた。笑い声が聞こえた方は上だった。

 マギとネギが上を見上げてみると其処には幻術で大人の姿になったエヴァンジェリンと、メイド服を着た茶々丸。それに先程全裸だったまき絵に加えて、アキラと裕奈に亜子までがメイド服を着ていて大浴場の屋根にて座っていた。如何やらアキラ達も半吸血鬼化したまき絵に襲われて、半吸血鬼化したようだった。

 

「クックック。貴様たちだけで来たとは何ともまあ無謀な事だな。褒めてやろう」

 

 とエヴァンジェリンは未だに余裕の笑みを浮かべてネギとマギを見下していたが

 

「あッ貴方は……どなたですか!?」

 

 とネギの言った事にエヴァンジェリンはステーンとすっ転んでしまった。マギはネギのアホな発言にやれやれだぜ…と呟くと

 

「おいネギ、アイツは幻術を使ったエヴァンジェリンだろうが。アイツの夢を見た時に同じ姿を見ただろう?」

 

 とマギがそう言うとネギも思い出したのかああそうかと納得した。

 

「其処に居る男の言う通りだ。久しぶりに戻った私の魔力だ。色々と使って見たかったものでな」

 

 とエヴァンジェリンは幻術を解いて、学校でよく見る姿へと戻った。又緊張した空気が張り巡らされた。

 

「満月の前で悪いが、今夜決着をつけて坊やの血を存分に吸わせてもらって、貴様をこの手で潰させてもらおう」

 

 エヴァンジェリンは今夜こそネギの血を全て吸いつくして、マギを今此処で潰すつもりのようだ。

 

「分かりました。でもそうはさせません。今日は僕とお兄ちゃんが勝って、もう悪い事は止めてもらいます!」

 

「そういう事だ。この前は油断と生徒っていう事であんま本気になれなかったが、今日はガチで行かせてもらうぜ。キツ~イお灸を覚悟しておくんだな」

 

 ネギとマギも杖と拳を構えて臨戦態勢を取った。そんなネギとマギを見てもエヴァンジェリンは、不敵な笑みを崩すことは無かった。

 

「それは如何かな?…行け」

 

 エヴァンジェリンが指を鳴らしながら命令するとまき絵達が屋上から降りてきて、無表情のままジリジリとネギとマギに近づいてきた。無表情のままでクスクスと笑っているのがかえって不気味だった。

 

「卑怯ですよエヴァンジェリンさん!クラスメートを操るなんて!!」

 

 操られているとは言えまき絵達は今回の事には何の関係もない。そんな者達を攻撃することは出来ない。ネギは苦しい表情で叫んだ。

 しかしエヴァンジェリンはハッ!卑怯で結構!!と鼻で笑いながら

 

「言っただろう?私は悪い魔法使いだと…手段は選ばないのさ」

 

 エヴァンジェリンがそう言っている間にまき絵たちはすぐそこまで近づいていた。

 

「やれ我が下僕達よ」

 

 エヴァンジェリンの命令にまき絵達は

 

『りょーかいごしゅじんさまーーーッ!!』

 

 とネギとマギに一斉に襲い掛かってきた。ネギは如何することも出来ずたじろいでいるとネギの前にマギが立ち

 

「手段は選ばねえ…ね。その考えは俺も大好きだよ。マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 来たれ爆炎 敵を焼き尽くせ 燃えさかる流星!」

 

 マギが魔法を詠唱を終えると、3発の火炎の弾がまき絵達に降り注いだ。

 

 

 ドドドドドドーーーンッ!!

 

 

 まき絵達の周りのお湯に火球が直撃し、数千度の火球がお湯に直撃したことによりお湯が一瞬で蒸発し蒸気の煙幕が出来上がった。

 

「!蒸気の煙幕か。成程考えたな」

 

「おお兄ちゃん!?何やってるの!?まき絵さん達をこここ殺!」

 

 エヴァンジェリンは素直にマギの攻撃を賞賛し、ネギはマギがまき絵達を殺してしまったと思い顔を真っ青にしながら大慌てだが

 

「バーロー俺がとち狂ってまき絵達を殺すわけないだろ?よく見て見ろよ」

 

 とマギが指をさしてみるとまき絵達は蒸気の煙幕により、周りが見えない!など叫んでいた。

 

「まき絵達を行動不能にするには今がチャンスじゃねえか?」

 

 とマギの指示でネギは懐から数本の魔法薬の入った瓶を取り出すと煙幕に向かって投げた。

 

「風花・武装解除!!」

 

 ネギが呪文を唱えると瓶の中に入っていた魔法薬が飛び散り、煙幕を晴らしながら煙幕の中からメイド服が無くなっていた亜子とアキラが現れた。

 ネギはその隙を逃すわけもなく、さらにラス・テル・マ・スキル・マギステル!と詠唱を始める。

 

「大気よ水よ白霧となれ彼の者らに一時の安息を!眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーテイカ)!!」

 

 詠唱を終えると亜子とアキラの周りを白い霧が覆った。白い霧に包まれたアキラと亜子は抵抗もせず、そのまま寝てしまった。

 これでアキラと亜子を無力化出来たが、難を逃れたまき絵と裕奈がまだ残っていた。とりあえずマギはアキラと亜子を安全な場所に寝かせて上げた。

 

「わりーな。後で吸血鬼化の解除はしてやるからさ」

 

 と2人を優しく寝かせると、マギはネギの元に戻った。傍観していたエヴァンジェリンだがニヤリと笑うと

 

「ふっなかなかやるじゃないか。では本番と行こうじゃないか。行くぞ茶々丸」

 

「はいマスター」

 

 エヴァンジェリンはマントを身に纏い、遂に動くようだ。

 

「失礼しますお二人とも」

 

 と今度は茶々丸がロケット噴射で突貫してきた。そしてネギとマギに向かって拳を繰り出してきて浴場のお湯が文字通り割れた。その間にも

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!氷の精霊17頭集り来りて敵を切り裂け!!」

 

 エヴァンジェリンが攻撃魔法の詠唱を唱えていた。ネギとマギはエヴァンジェリンの詠唱を止めようとするが、茶々丸の猛攻に加えまき絵と裕奈の妨害により近づけないでいた。

 さらに2対4と数の腕はネギとマギに不利な状況である。

 

「仕方ねえ!ネギ!作戦通りの戦略的撤退だ!!」

 

「うッうん!」

 

 茶々丸の猛攻を咸卦法を使用しながら防ぎ、ネギにそう指示した。ネギが頷くのを見てマギは大浴場の窓に向かって

 

「魔神拳!!」

 

 拳からの衝撃波を食らわした。衝撃波を食らった窓は木端微塵に吹き飛び、ネギとマギは破壊された窓から脱出した。それと同時に

 

「魔法の射手 連弾・氷の17矢!!」

 

 エヴァンジェリンから氷の矢が発射された。ネギは杖に跨り、マギは黒き翼を瞬時に展開して空に飛び学生寮から後にした。

 しかしネギとマギを氷の矢が追ってくる。ネギは持っていた魔法銃で何発かの氷の矢を撃ち落とし、ネギが撃ち落とせなかった氷の矢は

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ! 闇の精霊12柱 魔法の射手 連弾・闇の12矢!!」

 

 マギが発射した漆黒の矢が氷の矢を相殺した。

 

 

 ズガガガガガガッ!!

 

 

 相殺された音が夜の学校に響く。

 

「ほう…魔法銃とは珍しいな。それとあの男、闇の精霊も使役できるのか」

 

「全弾撃破確認。データによるとネギ先生は骨董魔法具(アンティーク)のコレクターらしく、マギ先生が使用する魔法は火と土に闇だそうです」

 

 と茶々丸のデータにエヴァンジェリンが成程な…と呟く

 

「魔法道具のフル装備とは安くはなかろうに。それとあの男はあの歳で3種の魔法が使用できるとは…まぁ素直に称賛してやろう」

 

 とエヴァンジェリンが2人を賞賛していた。そして2人を追いかけ始める。

 

「何とか作戦の場所までおびき寄せる事が出来れば」

 

 ネギは追いかけているエヴァンジェリンを見てそう言う。

 

「…ったく。一難去ってまた一難とはこのことをなんだろうな。やれやれだぜ」

 

 とマギがメンドイぜと言っているとネギの杖にリボンが巻きつけられた。リボンを使う人物は限られている。

 

「クスクス」

 

「ウフフフ」

 

 まき絵と裕奈が先回りしていたようだ。そのまままき絵はリボンをつたってネギの杖に飛び乗った。ネギが驚いている間に

 

「ネギ君あそぼー!!」

 

 まき絵の蹴りがネギの持っていた魔法銃を蹴り飛ばした。

 

「アハハウフフフそれそれー!!」

 

 まき絵はネギの杖に片足だけで立ち、もう片方の足でネギの魔法道具を次々と蹴り飛ばしてきた。半吸血鬼化したからなせる業なのだろう。ネギは何とか杖から落ちない様に躱すので精一杯だった。

 

「おいおい、ちょっとマズイんじゃねえかこれは」

 

 とマギが助太刀に行こうとすると、下の方からダムダムダムと言う音が聞こえてきた。見てみると裕奈が屋根の上で驚異的な速さでバスケットボールをドリブルしていた。

 

「エヘヘ!マギさんは私と遊ぼうよ!!」

 

 と裕奈は跳び上がりながら、マギに向かってボールを投げてきた。やはり半吸血鬼化されてる為か人間では出せない程の剛速球だった。

 だが裕奈が投げた剛速球をマギは難なく躱す。その後も裕奈がボールを投げていくが、無駄でマギは投げてきたボールを全て躱しきったのだった。

 

「悪いが遊びにはこれ以上付き合ってられねぇんだわ」

 

 と言いながらマギは黒き翼で一気に加速。変則的な動きで裕奈を惑わせた。そして裕奈の背後に立つと

 

「当たらなきゃどうって事ねぇんだよ」

 

 と裕奈にそう言いながら当身を食らわす。当身を食らった裕奈は意識を失い、倒れてしまった。マギは裕奈を受け止めると、近くのベンチに寝かしてあげた。

 今度こそネギに助太刀しようとすると、ネギの方も終わっていた。まき絵が旗に包まる形で目を回していたのである。

 

「まき絵の奴如何したんだ?」

 

 とマギがそう訪ねると

 

「まき絵さん、僕の攻撃に夢中になってて、自分の後ろに旗があった事に気づかなくて、そのまま旗にぶつかってそのまま落ちて目をまわしちゃったんだよ」

 

 とネギの報告を聞いてマギは思った。バカはバカのままなんだなと

 

「ククク…ハハハハ!あの坊やとアイツ中々やるじゃないか!!」

 

 エヴァンジェリンは愉快そうに大笑いをしていた。

 

「マスター残り時間にご注意を。停電復旧まであと72分21秒です」

 

 茶々丸の警告にエヴァンジェリンは分かっているとそう返した。

 

「そろそろ決着をつけてやろう」

 

 エヴァンジェリンは黒いマントを蝙蝠の翼のように羽ばたかせて、ネギとマギに接近した。

 

「!!来たぞ!ネギ構えろ!!」

 

 マギの叫びにネギの体にも緊張が走る。

 

「氷爆!!」

 

 エヴァンジェリンの魔法により氷の爆発がネギとマギを襲う。ネギとマギは抵抗するが余りの威力に吹きとばされてしまう。

 

「すッ凄い!防いでも力量が違いすぎる!!」

 

「くそ!氷だったらこっちは炎だ! マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 炎蛇よ!全てを焼きつくし食らいつけ!炎蛇(ファイヤースネーク)

 

 マギの詠唱により炎の蛇が大口を開けてエヴァンジェリンを食らいつこうとする。がしかし

 

 

 パキィィィンッ!!

 

 

 エヴァンジェリンが手を振ると一瞬のうちに炎の蛇が凍りついてしまった。マギは凍りついた炎蛇を見て驚く所か乾いた笑い声を上げた。

 

「やれやれだぜ。炎を凍らせるなんてどんだけ冷たい氷だよ」

 

 やはり力量では断然エヴァンジェリンの方が上だった。だが

 

(あと少し…あと少しで作戦の場所にたどり着く!何としても持ち堪えないと!!)

 

 ネギの言う作戦の場所にもう少しでたどり着く。だから今は逃げる事に専念することにした。

 

「如何した如何した!?逃げるだけで精一杯か!?もっとも呪文を唱える隙も無いだろうがな!リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!」

 

 とエヴァンジェリンは逃げているネギとマギに追い打ちをかけようと更に呪文を詠唱する。ネギとマギの目の前に大きな橋が見えてきた。

 

「来たれ氷精大気に満ちよ!白夜の国の凍土と氷河を!」

 

 ネギとマギが橋に着地した瞬間にエヴァンジェリンは魔法を発動した。

 

「こおる大地!!」

 

 

 

 ガキキキキンッ!!

 

 

 

 ネギとマギに突如出現した巨大で鋭利な氷の大地が襲い掛かる。マギは咄嗟に跳び受け身を取ったが、ネギはタイミングを間違え受け身をしそこない背中を強打した。

 エヴァンジェリンと茶々丸も橋に着地し辺りを見渡し、成程なと呟く。

 

「この橋は学園都市の端っこだ。私は呪いによって外に出られん。ピンチになれば学園外へ逃げればいい…か。意外にせこい作戦じゃないか。え?先生方」

 

 とエヴァンジェリンは未だに余裕の笑みを崩さずに少しづつ近づいて来る。

 

「これでケリだ」

 

 そしてエヴァンジェリンが一歩前に出た時、ネギとマギが一瞬笑みを浮かべた。エヴァンジェリンが不思議そうに見た瞬間、エヴァンジェリン達の足元が光始め、そして

 

 

 ビシュビシュビシュッ!!ガシガシガシッ!!

 

 

 何かが飛び出してきてエヴァンジェリンと茶々丸に巻き付き、動きを封じてしまった。

 

「なッ!?これは捕縛結界だと!?私を此処まで誘き出したのはこのためだったのか!」

 

 エヴァンジェリンはネギとマギが此処まで逃げたのは結界の外まで逃げるためではなく、この結界まで誘き出すためだった。

 

「やった!もう動けませんよエヴァンジェリンさん!もう観念して悪い事は止めてくださいね!」

 

「ついでに当分の間、じっとしていてくれないか?これ以上戦うのはメンドイし疲れる」

 

 ネギとマギは勝利を確信した。一方のエヴァンジェリンも今回は素直に感心する事ばっかである。しかし

 

「ククク…アハハハ!!」

 

 自分が不利な状況なのに構わず高笑いをしたエヴァンジェリン。それに対して警戒するネギとマギ。

 

「貴様たちの作戦は見事だ。この私を捕らえるとは…しかしだ、残念だったな。私一人だけなら上手く言っていただろうな…茶々丸」

 

「はいマスター」

 

 とエヴァンジェリンに呼ばれ同じく身動きが取れない茶々丸は耳を展開し始めた。

 

「結界解除プログラム始動。申し訳ありませんネギ先生マギ先生」

 

 と茶々丸が結界を解除しようとしていた。

 

「15年の苦汁を飲まされ続けた私がこの類の罠に何の対処もしていなかったと思うか?」

 

 とそんな事を言っている間に茶々丸が捕縛結界の解除を完了してしまった。また動ける様になってしまったエヴァンジェリンと茶々丸。

 動ける様になってしまったエヴァンジェリンと茶々丸に対して、ネギとマギは後ろに跳び距離を取った。

 

「ククク万事休すだな。もう打つ手はないのか先生方?」

 

 とまた余裕そうな態度をとるエヴァンジェリン。だがネギとマギは自分達が不利な状況なのに笑みを崩さなかった。

 

「まだですよエヴァンジェリンさん。此処までは僕達の作戦通りに動いています」

 

「茶々丸はロボットだからな。結界を無効化する事ぐらい出来ると考えていたからな」

 

 とネギとマギは此処まで考えていたようだった。

 

「ほう。だったらまだ手はあるんだな?」

 

「勿論です。来てくださいアスナさん!!!」

 

 ネギの声に応えるかのようにエヴァンジェリンと茶々丸の真後ろから足音が聞こえてきた。エヴァンジェリンは振り返ってみると

 

「ネギ!マギさん!!」

 

 アスナとアスナの肩にカモが乗っておりエヴァンジェリン向かって走ってきた。

 

「坊やのパートナーの神楽坂明日菜か。茶々丸」

 

「了解ですマスター」

 

 エヴァンジェリンは茶々丸にアスナの相手をさせるつもりだった。

 

「カモ!!」

 

「合点ですぜ姐さん!俺っちの力見せてやるぜ!!」

 

 アスナの合図にカモは何処から出したのか、ジッパーライターとマグネシウムを取り出した。

 そしてアスナの肩から飛び降りて、カモは茶々丸の目の前でマグネシウムに火をつけた。

 

「必殺!オコジョフラッシュ!!」

 

 と技名を叫んでいるが結局はマグネシウムに引火して発光しているだけなのだが、眩い光は茶々丸の視覚センサーを狂わせた。その間にも

 

「ごめん茶々丸さん!」

 

 アスナが茶々丸を抜いてエヴァンジェリンに迫っていく。

 

「成程な狙いはこの私か。だが、たかが人間がこの私に触れることなど出来んぞ」

 

 とエヴァンジェリンは魔法障壁を身に纏った。これで普通の人間はエヴァンジェリンに触れる事は出来なくなった。しかし

 

 

 ドゴッ!!

 

 

「おりゃ!!」

 

 アスナが放った飛び蹴りはエヴァンジェリンの顔面にクリーンヒットしたのだ。エヴァンジェリンは顔に来た衝撃よりも攻撃を食らった事に驚いた。

 

(なッ何故だ!普通の人間が私の魔法障壁をいとも容易く…!!)

 

「アブブブ~~!!!」

 

 エヴァンジェリンは悲鳴を上げながら、橋を滑っていった。顔を押さえながら直ぐに立ちあがった。

 

「バカな!神楽坂明日菜!貴様一体」

 

 何者だ!?と言おうとしたらアスナの姿が無かった。それにネギとマギの姿も無かった。エヴァンジェリンは直ぐに思った。又しても逃げられたと。

 

「クソ!何処に行った!?」

 

 エヴァンジェリンは辺りを必死に見渡した。鼻血を出しながら

 

「マスター鼻血が出ています」

 

 茶々丸に鼻血が出ていると言われてもエヴァンジェリンは辺りを探していた。

 

 

 

 

 

 近くの柱に隠れたマギ達。深呼吸をして息を整えていた。

 

「ふぅ、危なかった」

 

 アスナは息を整えながら先程の事を思い出して、危なかったと思っていた。

 

「しかしここまでは作戦通りに行ったが此処からは如何するよ?」

 

 マギの言う通りここまでは作戦通りに行ったのだがしかし

 

「停電復旧の残り時間までにエヴァちゃんを食い止めるってチョッと無理があるんじゃない?」

 

 とアスナの言う通り、最後の作戦は『停電復旧までの間、エヴァンジェリンを食い止める』という作戦だった。

 マギは腕時計を見た。現在の時刻午後11時38分という何とも微妙な時間だった。戦力増強のためには

 

「ネギ、アスナ…お前らもう一度仮契約をしてくれないか?」

 

 とマギの頼みにアスナは顔を赤くした。

 

「ちょ!仮契約ってまたキスするんでしょう!?」

 

 とアスナはためらっていた。

 

「ちゃんと仮契約すればこの前みたいな中途半端なものじゃなくて、強力な力を手に入れる事が出来るっすよ!だから姐さんご決断を!」

 

「でも…」

 

 カモの説得にまだアスナは渋っていたが、ネギがお願いしますアスナさん!と頭を下げた。

 

「僕は今度こそエヴァンジェリンさんに勝ちたい!だから!!」

 

 ネギの真っ直ぐな目を見てアスナはも折れた様で

 

「分かったわよ…やってやろうじゃない!」

 

 と承諾してくれた。さっそくという事でカモは仮契約の魔方陣を書きはじめた。魔方陣を書き終えると、魔方陣の中にネギとアスナを立たせた。

 

 そしてぎこちない動きでアスナはネギの唇に軽くキスをしたのであった。

 

「あッあれ?確かアスナさんってキスが初めてじゃ?」

 

「ああうん子供とやったということでノーカウントよノーカン」

 

 と互いにぎこちなさが残りながらも何とか仮契約を完了した2人。

 

「おい。仮契約が終わったなら行くぞ。今度こそケリつけてやる」

 

 マギの言葉にぎこちなかった2人も漸く落ち着きを取り戻し、今度こそエヴァンジェリンとの決着をつけるために動き出す。

 

 

 

 

「くそ本当に何処に行った!?」

 

 エヴァンジェリンは空を飛びながらマギ達を探していたが、急に強力な魔力反応があった。

 

「そこか!」

 

 エヴァンジェリンが振り向いた先にはネギにマギとアスナにカモとそろっていた。

 

「ふふ漸く出て来たか。なんだお姉ちゃんが助けに来てくれてホッとしたのか坊や?」

 

 とネギに対して挑発的な言葉を言うエヴァンジェリンに対して、ネギは思わずムッとしてしまった。

 

「気にしないでくだせえ兄貴!ただの挑発っすよ!」

 

「いい気にならないでよ!そっちは2人でこっちは3人に1匹でこっちの方が有利なんだからね!!」

 

「そういう事だ。卑怯だと思わねえでくれよ。こっちはお前の強さを認識してるんだ。今更同じ人数で正々堂々なんてしてたらこっちがやられちまうからよ」

 

 とマギがエヴァンジェリンを指差しながらそう言った。指をさされたエヴァンジェリンは別に反論などせず

 

「それでいい。ただの殺し合いだったら卑怯もへったくれもないからな。だが私も本気で行かせてもらうぞ」

 

 とエヴァンジェリンから余裕の態度は消えていた。

 

「茶々丸神楽坂明日菜(やつ)を甘く見るなよ。意外と難敵かもしれない」

 

「はいマスター」

 

 エヴァンジェリンは先程の攻撃でアスナを警戒し始めた。アスナは先程普通の人間だったらエヴァンジェリンに触れる事が出来ない魔法障壁を意図も容易く破ってしまったのだ。

 

「じじいが態々孫娘と住ませるくらいだからただのガキではないと思っていたが…面白くなってきたな」

 

 エヴァンジェリンは先程蹴られた顔を押さえながら呟く。

 

「行くぞ。私が生徒だという事は忘れ、本気で掛かって来い。ネギ・スプリングフィールド、マギ・スプリングフィールド」

 

「…はい!」

 

「本気でいかせてもらうぜ」

 

 停電復旧までの残り時間まであとわずか。今度こそ正真正銘の決着がつく。

 

「行きます!契約執行240秒間!ネギの従者『神楽坂明日菜』!!」

 

 ネギに魔力供給されて肉体が強化されたアスナはエヴァンジェリンと茶々丸に接近する。その間にもネギは攻撃魔法の詠唱を始める。

 

 しかしエヴァンジェリンもただ攻撃を待つだけではない。

 

「行け茶々丸! リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」

 

 エヴァンジェリンも従者の茶々丸を前へと出させる。そしてアスナと茶々丸が互いにぶつかり合い、そして両者がでこピンの構えをとり

 

 

 

 ボシュッ!! ビシィッ!!

 

 

 

 互いのでこピンが炸裂したが、茶々丸の方は腕が射出したロケットでこピンだった。結構痛かったのかアスナはおでこを押さえて蹲った。

 ネギは一瞬アスナを助けようとしたが、アスナと目があった。アスナの目は自分は大丈夫だからアンタは自分の相手と戦いなさい!と訴えているようだった。

 

(アスナさん…いやアスナさんなら大丈夫。それに茶々丸さんだってむやみに人を傷つける人じゃないはず。だから僕はエヴァンジェリンさんとの戦いに集中するんだ!!)

 

「ハハハ!如何した!やはりお姉ちゃんが心配か!? 魔法の射手 氷の17矢!!」

 

 その間にも先にエヴァンジェリンが詠唱を完了し、先程と同じ氷の矢がネギに襲い掛かる。

 

「くッ! 魔法の射手 連弾・雷の17矢!!」

 

 ネギも同じく魔法の矢を放つ。氷の矢と雷の矢が相殺されて小規模な爆発が次々と起こった。

 

「ハハ!雷も使えるとはな!だが詠唱に時間がかかり過ぎだぞ!!」

 

 エヴァンジェリンは更に詠唱を続けようとしたが

 

「いや十分だぜ」

 

 と背後からマギの声が聞こえ、エヴァンジェリンは振り向いてみるといつの間にかマギが背後に立っていたのだ。

 

「お前がネギに気を取られている間に、咸卦法でお前の背後に回ったのさ。悪いが卑怯だと思わないでくれよ。幻竜拳!!」

 

 マギは腕に纏った咸卦法の気を拳に収束した正拳突きをエヴァンジェリンに放った。

 

「…舐められたものだな。私も伊達に数百年無駄に生きたわけじゃないぞ」

 

 しかしマギが放った正拳突きはエヴァンジェリンの手により受け止められてしまった。そしてマギの正拳を放った力を利用してマギを地面に叩きつけた。

 

「ガフッ!?」

 

 地面に叩きつけられたマギは肺の空気を一気に外に出されてしまった。エヴァンジェリンは追い打ちとして、鋭利な爪でマギの体を引っ掻こうしたが、すぐさま体を起こしてエヴァンジェリンの追撃を躱した。

 

「今のは純粋な体術だな?成程な。伊達に歳喰ってるわけじゃねえってわけだな」

 

「貴様も気配を消しての背後は見事だったな。それにさっきの正拳突きも中々だったな」

 

「まぁなさっきのもタカミチとの修業の成果だけどな! 魔法の射手 連弾・炎の11矢!!」

 

「魔法の射手 連弾・闇の11矢!!」

 

 マギの不意打ちでの炎の矢も又エヴァンジェリンの闇の矢により相殺されてしまった。

 

「お兄ちゃん!」

 

 ネギがマギの元に近づこうとすると

 

 

 

 ズテンッ!!

 

 

 

 ネギが行き成り転んでしまった。

 

「おいネギ如何したんだ!?こんな時にふざけてるんじゃねえぞ!」

 

 マギはネギに怒鳴り散らしたが、転んだネギ自身は

 

「おッお兄ちゃん、違う…体が言う事を聞かないんだよ!!」

 

 ネギは転んだままの体制で身動きが出来ない様子だった。まさかと思いネギの近くに寄ってみると見えない程の細い糸がネギの体に巻き付いていたのだ。

 こんな事を出来るのはこの場でただ一人エヴァンジェリンだけである。

 

「私の呼び名の一つ人形使い(ドールマスター)のスキル。魔力が戻ればこういった芸当も出来るのさ」

 

 そしてとエヴァンジェリンは動けないネギを狙って詠唱を始める。

 

「動けない相手を生かすも殺すも私の自由という訳さ。闇の精霊29柱 魔法の射手 連弾・闇の29矢!!」

 

 と今度は先程より多い29の闇の矢がネギとマギに迫ってきた。ネギは未だに身動きが取れないでいた。万事休すか!?戦いを見守っていたカモはそう思ったが

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 岩の壁よ!そびえ立つその壁で我を守れ!そびえ立つ岩の壁!!」

 

 とマギが詠唱を発動するとマギとネギの前に巨大な岩の壁が現れ、エヴァンジェリンが放った闇の矢を全て防いでくれた。

 その間にマギはネギに巻き付いた糸を咸卦方の力で強引に引きちぎり、ネギを助け起こすと

 

「ネギ、もう埒が明かねえ。こうなったら今の俺達で使える最強クラスの魔法でケリを付けるぞ」

 

「うッうん!!」

 

 そして岩の壁が破壊されたのと同時にエヴァンジェリンもまるでタイミングが分かったのかネギとマギと同時に詠唱を開始した。だが

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギスキル 来たれ雷精風の精!!」

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 来たれ炎の精闇の精!!」

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライナック 来たれ氷精闇の精!!」

 

 3人がこれから放とうとする魔法は同じ系統の魔法だった。このままでは打ち合う事になってしまう。

 だが此処まで来て今更引き返すつもりは3人には毛頭も無かった。

 

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

 

「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

 

「闇を従え吹雪け常夜の氷雪」

 

 そして3人の魔法が今同時に

 

「来るがいい坊や!マギ・スプリングフィールド!!」

 

 放たれる。

 

「雷の暴風!!!」

 

「闇の業火!!!」

 

「闇の吹雪!!!」

 

 雷を纏った暴風と闇を纏った黒き業火そして闇を従えた吹雪がぶつかり合った。

 

 

 

 ドンッ!! ズバァァァァァァァァッ!!!

 

 

 

 強力な力がぶつかり合い、拮抗していると思われたが

 

「うううううッ!!」

 

「くックソ野郎!!」

 

「ぐッぐう!ハハ如何した貴様たちの力はこの程度か!?」

 

 若干であるがネギとマギが押され始めてきた。それほどまでにエヴァンジェリンの魔力の方が強大という事なのか。

 ネギとマギは足を踏ん張りこれ以上押されないようにした。此処で負けてしまったら意味が無い。負けてたまるか。

 ネギとマギは最後の力を振り絞った。だがその時、ネギの髪の毛がネギの鼻をムズムズと刺激しそして

 

「はッハクション!!」

 

 ネギのくしゃみと同時に魔力が増大し、エヴァンジェリンの魔法を一瞬のうちに打ち勝った。

 

「なッなんだと!?」

 

 此れにはエヴァンジェリン自身も驚き回避するのが遅れてしまいそして

 

 

 

 ドオォォンッ!!

 

 

 

 大きな爆発がネギとマギそしてエヴァンジェリンを包み込んだ。

 

「ネギ!マギさん!?」

 

「マスター!」

 

 アスナと茶々丸も戦いを止め、3人の名を叫んだ。そして爆発が晴れると

 

「やりおったな…貴様等。ふッフフ期待通りだったよ。流石はアイツの息子たちだ」

 

 衣服が吹き飛び全裸になりながらも空を飛んでいたエヴァンジェリンが其処には居た。

 

「あわわ!脱げッごめんなさい!!」

 

「不味いな。今の俺達完璧変態じゃねえか…」

 

 ネギは顔を赤くしながらエヴァンジェリンに謝り、マギは冷や汗を流していた。

 

「だが私はまだ負けを認めたつもりはないぞ。戦いを続けようじゃないか」

 

 未だにエヴァンジェリンの魔力は枯れていない様子だった。まだ戦おうとするエヴァンジェリン。しかしその時

 

「!いけないマスター!戻って!!」

 

 と茶々丸が急に珍しく慌てた口調で空を飛んでいるエヴァンジェリンに戻ってと叫んだ。

 茶々丸が慌てるなんてよっぽの事だろう。と

 

 

 バシャンッ!!

 

 

 橋の電気が急に点きはじめた。

 

「なッ何!?」

 

 行き成り電気が点いてエヴァンジェリンは驚きを隠せなかった。もう停電復旧の時刻になったのかと思い、マギは時計を見た。時刻は午後11時53分と数秒とまだ時間はある。このパターンはもしかして

 

「予定より7分27秒も停電の復旧が早い!!マスター!!」

 

 茶々丸が叫んでいる間にも次々と電気が点きはじめた。

 

「ええい!いい加減な仕事をしおって!」

 

 エヴァンジェリンそう叫びながら罵っていると自分の体にチリッとした痛みを感じて

 

 

 

 バシンッ!!

 

 

 

「キャン!」

 

 電撃のような物がエヴァンジェリンの体を包んだ。そしてそのままエヴァンジェリンは真っ逆さまに落ちてしまった。

 

「どッ如何したのエヴァちゃんは!?」

 

 アスナは何がどうなっているのか今一分かっていなかった。

 

「停電の復旧によりマスターへの封印が復活したのです!魔力が封じられたらマスターはただの子供に戻ってしまうのです!!泳げないマスターがこのままでは湖へ!!」

 

 其れだけを教えると茶々丸はジェット噴射してエヴァンジェリンを助けようとした。

 

「エヴァンジェリンさん!!」

 

 ネギもエヴァンジェリンを助けようと駆け出したが、途中で倒れてしまった。

 

「おいネギ!如何した!?」

 

 マギがネギが倒れてしまい如何したのか叫ぶとカモがネギに近づき

 

「!兄貴はスタミナ切れ(魔力切れ)でさぁ!今の兄貴は動くことは困難ですぜ!」

 

 と教えてくれた

 

「こんな時にかよ!何ともタイミングが悪いなおい!!」

 

 そう言い終え、マギが橋を飛び下りた。

 

「エヴァンジェリン!!」

 

 マギの叫びにエヴァンジェリンは薄らと目を開けた。

 

(馬鹿か貴様は先程で魔力をほとんど使い果たしたくせに、こんな私を助けようとして一緒に溺れ死ぬぞ間抜けが)

 

 と此処に来てまでエヴァンジェリンはマギを罵った。そう言えば…とエヴァンジェリンは何かを思い出した。

 

(前にも居たな…こんな馬鹿が)

 

 とエヴァンジェリンに走馬灯が駆け巡った。

 

 

 

『危なかったなーガキンチョ』

 

 崖から落ちそうになったエヴァンジェリンを助けたナギ。

 

『お前は何者だ?何故私なんか助けた?』

 

『さあな。そんな事よりもこれ食えってうめぇぞ』

 

 その後何も言わずに夕食を御馳走してくれた。

 

『おいナギ。お前私のモノにならないか?』

 

『オイオイ…もう一か月になるぜ?俺について来たって何も良い事ねぇぞ。どっか行けって』

 

『嫌だ。お前がうんと言うまでたとえ逃げても地の果てまで追ってやるぞ』

 

 一か月もナギを追いかけて、此処からエヴァンジェリンのナギの追っかけが始まったのだろう。そして

 

『登校地獄!!』

 

『いやぁぁぁぁッ!!』

 

 ナギに登校地獄の呪いをかけられた後日麻帆良にて

 

『あっはっはっはッ!!似合う素晴らしく似合ってるぜ!エヴァンジェリン!!』

 

 麻帆良の制服を着たエヴァンジェリンを見てナギは大爆笑をしてしまった。当の本人のエヴァンジェリンは体をプルプルと震わせていた。

 

『ほんとじゃのう600万ドルの賞金首とは思えないわい』

 

 一緒に居た学園長も同意するかのように頷いた。

 

『…貴様等殺す!』

 

 顔を赤くしたエヴァンジェリンが爪を構えて2人を睨みつけた。ナギはまぁまぁとエヴァンジェリンを宥めた。

 

『まぁまぁ学校生活も楽しいもんだぜ?お前そういった経験が無いんだろう?』

 

『そうじゃのう。小学生はちと可哀そうじゃし、中等部に編入してみるかのう』

 

 とエヴァンジェリンの中学校生活が始まったのであった。

 まぁ心配すんなとナギがエヴァンジェリンの頭にポンと手を置いて

 

『お前が卒業する頃にはまた帰ってやるからさ。光に生きてみろよ。そしたらその時にお前にかけた呪いも解いてやるからよ』

 

『本当だな?』

 

 とエヴァンジェリンが言うと、ナギはあたぼーよ!と親指で自分を指差しながらニッと笑いながら

 

『俺はサウザントマスター、ナギ・スプリングフィールドだぜ?』

 

 と約束した。

 しかし…ナギがそう約束してもそれ以降ナギが麻帆良に訪れる事は無く、15年ものの歳月が経ってしまったのであった。

 

(嘘吐きめ…!!)

 

 エヴァンジェリンは目に涙を溜めながら湖に落ちるのを待っていると

 

 

 

 ガシッ!!

 

 

 

 自分の腕を誰かが掴んでいた。エヴァンジェリンは茶々丸が間に合ったのかと思い、少しづづだが目を見開いたが、其処に居たのは茶々丸ではなく。走馬灯に現れた男の姿に似ていた。

 

「ナギ…?」

 

 思わずその名を呼んでしまったら、その自分を助けてくれた男からムウと不機嫌そうな声が聞こえ。エヴァンジェリンは完全に目を開くと其処に居たのはナギではなくその息子の

 

「クソ親父じゃなくて悪かったな」

 

 と不機嫌そうなマギの顔が見えた。マギは黒き翼を展開しており時折翼を羽ばたかせていた。

 

「よかった…マスター…マギ先生」

 

 一足遅かった茶々丸はエヴァンジェリンが無事に助かったのを見てホッとしていた。

 マギは翼を羽ばたかせて上昇した。麻帆良の夜景が美しく輝いていた。

 

「なぜ…何故私を助けた?私は貴様たちに酷い事をしてきたし、それにお前の事を毛嫌いしていたのにどうしてだ?」

 

 エヴァンジェリンは自分がマギに助けられるのが有りえないと思っていた。

 対するマギはというと、やれやれだぜ。何を今更と呆れていると

 

「お前は俺の大切な生徒じゃねえか。どんなに問題児でも俺はそいつを見捨てないし、命に代えても守ってやる」

 

 マギはニッと笑いながらエヴァンジェリンを見た。見られたエヴァンジェリン本人は顔を赤くしてしまったのであった。

 

「バカが…」

 

 そんなマギに対してエヴァンジェリンは聞こえない程の呟きを呟いたのだった。

 こうしてネギとマギ対エヴァンジェリンの戦いは辛うじてネギとマギの勝利に終わった。

 

「まぁこれで俺とネギの勝ちだからな。もう悪い事は止めてくれよ?止める俺達もめんどいからな」

 

 とマギがそう言うとエヴァンジェリンは

 

「分かったよ。確かに今日のは1つ借りだしな」

 

 と渋々頷いた。そんなエヴァンジェリンの姿を見てマギは笑いながらエヴァンジェリンの頭に手を置き

 

「心配すんなよエヴァンジェリン。お前の呪いは俺が必ず解いてやるからよ」

 

 マギが言った事にエヴァンジェリンはナッと顔を赤らめらながら

 

「ふざけるな!それまで何年待たなきゃいけないと思ってるんだ!!それよりもお前の血を吸えば直ぐに解けるんだよ!!」

 

「あーそうだーまき絵達を戻さなきゃなー行くぞネギー」

 

「うおい!なんだその棒読みは!無視すんな!良いかマギ!私はあきらめたわけじゃないぞ!満月の夜は背中に注意しておけよ!!」

 

 とネギの首根っこを引っ張りながら退散するマギをギャーギャー叫びながらエヴァンジェリンが追いかけていたのだ。

 そんなマギとエヴァンジェリンの姿を見てアスナと茶々丸。そしてネギは微笑ましそうに見ていたのであった。

 しかしネギ達は気づいていなかった。エヴァンジェリンはネギではなくマギの血を吸おうとした事に

 マギの事を今迄は名で呼んでいなかったのにマギと呼んでいた事にネギ達は気づいていなかったのであった。

 

 




はい今回の話で原作3巻の話は全て終わりました。
次からは第4巻!……と行きたい所なんですが
次からは数話だけオリジナルの話を投稿したいと思います
そして次からの話が初めての原作ブレイクになると思います
と言っても原作沿いには変わりはありませんが

次回も応援よろしくお願いします!!


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自由になった吸血鬼①

今回は完全にオリジナルの話ですが最初にはっきり言っておきます
ご都合主義ですああご都合展開です!
そしてこんなのエヴァじゃないこんなのエヴァじゃない!!

申し訳ありませんがオリジナルの話はこれが限界です
それではどうぞ


 突然だが皆さんは吸血鬼という者を御存知だろうか?

 別名ヴァンパイアと呼ばれ、夜に人を襲い生き血を啜りそして殺してしまう。また血を吸われた人間は吸血鬼になるか、成りそこないの死鬼(グール)になってしまうか

 魔力を持っており空を飛び、他の生き物に化ける事が出来、使い魔を使役する。又破壊された体を再生する事が出来ると言うまさに化け物。不死身のフリークスと言えるだろう。

 だが不死身とも言える吸血鬼にも弱点は存在する。

 まず日光が嫌いである。直に日光を浴びてしまうと体が焼けてしまい徐々に灰になってしまうのだ。なので吸血鬼は日の出ている間は自分の住処にひっそりとしているのだ。

 そしてニンニクと十字架も苦手である。十字架のご加護やニンニクの匂いに力を奪われ、聖水を浴びてしまうと体が痺れてしまうのだ。

 そして吸血鬼最大の弱点は心臓に杭を打たれる事である。心臓に杭を打たれると不死身の吸血鬼でもたちまち絶命してしまうのである。

 

 

 そんな有名な化け物である吸血鬼が此処麻帆良学園に存在しているのである。

 

 

「フェックションッ!!」

 

 学校の屋上に居たエヴァンジェリンは盛大なクシャミをした。彼女こそ先程説明した吸血鬼なのである。少女の姿をしているが実際、もう600年程も生きており不老でもあり、真祖とも呼ばれている。

 また『不死の魔法使い』『闇の福音』『人形使い』という呼び名も持っており、賞金首は600万ドルまで登った事のある、悪の魔法使いとして魔法界でも有名な人物だった。

 余談であるが彼女の事を『エターナル・ロリータ』と呼んでいる人物が居るとか居ないとか…

 

「…何故だろうな。今私の事を馬鹿にしたような気がするのだが」

 

 とエヴァンジェリンは辺りを見渡しながらそう言った。

 

「気のせいでしょう。それよりもマスター早く鼻をかんでください」

 

 とエヴァンジェリンの従者である茶々丸はエヴァンジェリンにちり紙を渡したのである。茶々丸は此処麻帆良で造られたガイノイドと呼ばれるロボットで今はエヴァンジェリンの従者として仕えている。

 主な仕事はエヴァンジェリンのサポートであるが、他にも町の人達に親切にしてあげたり、野良猫たちにエサをあげたりなど町の住民や動物たちの人気者なのである。

 それにしても…とエヴァンジェリンは大きく伸びをしながら疲れた様な溜息を吐いた。

 

「じじいの奴。罰だからといって色々と雑務を押し付けてくるとこっちも疲れるのだぞ」

 

 エヴァンジェリンが言っている罰と言うのは、学園が停電になった時に大暴れしたのが学園長にはバレテおり、後日学園長に説教をさせられ罰として1週間日曜日まで雑務をさせられていたのだ。

 大暴れし、魔法に関係のない生徒を巻き込んだのは自分でも反省していたのだが、さすがに体に来るものがある。と言っても今日が日曜日で雑務はこれで終わりである。やっと荷が下りたのだった。

 

「しかしもう一週間たったのか…」

 

 エヴァンジェリンが言った通り停電の戦いからもう1週間が経っているのだ。つい最近の事だったのに昔の事に感じられた。最後になってドジを踏んで危うく溺れかけたが…マギが助けてくれた。

 

 

 ――――――――――命に代えても守ってやる

 

 

 

 マギが自分を助けてくれた時に言ったセリフを思い出して顔を赤く染める。あの台詞が頭から離れないでいた。

 

「マギ…はぁ…」

 

 エヴァンジェリンはマギの名を呟いた後に深い溜息を吐いた。そんなエヴァンジェリンを見て茶々丸が

 

「マスター。又マギ先生の名を呟いて溜息を吐いていますよ」

 

 と茶々丸の言った事にエヴァンジェリンは顔を真っ赤にしながら茶々丸に

 

「わッ私はそんなにマギの名を呟いていたのか!?」

 

 と問い詰めると茶々丸はハイと肯定しながら

 

「この1週間マスターがマギ先生の名を呟いた後に溜息を吐いたのは今のを入れますと通算1821回となります」

 

「いッ一々そんな細かく数えなくてもいいんだよ!このボケロボ!!」

 

 茶々丸にそこまで細かく数えられたエヴァンジェリンは恥ずかしさのあまり、茶々丸の頭のネジを強引に回した。

 

「だッだいたい私は『闇の福音』とも恐れられていた悪の魔法使いだぞ!そんな私がたかが一人の男で呆けるなどあるわけないだろう!!」

 

 とエヴァンジェリンは顔をトマトの様に真っ赤にして言い訳を叫んでいた。そんなエヴァンジェリンを可愛いと思った茶々丸はこっそりと録画モードにしてエヴァンジェリンの行動を録画していた。

 その後もエヴァンジェリンは顔が赤くなりながら興奮して喚き散らしていると、誰かが屋上に近づいて来る音が聞こえ(エヴァンジェリンは興奮して聞こえていないが)思い切り屋上のドアが開けられた。

 

「ああぁぁぁぁッ!やっと終わったぞコンちくしょう!!」

 

 ドアを開けたのはマギで大声で叫びながらドアを開けたのだ。急に本人が現れてエヴァンジェリンは硬直してしまった。

 

「ん?おおエヴァンジェリンじゃねえか。ジーさんに言われた罰の雑務はもう終わったのか?」

 

 とマギはつい最近に戦いあったエヴァンジェリンに普通に話し掛けていた。対するエヴァンジェリンはというと

 

「ままままマギ!?お前どどどど如何してこんな所に居るんだ!?」

 

 呂律が回らない様子だった。マギはそんなエヴァンジェリンを別段と気にせず如何して自分が此処に居るのかを話した。

 

「実はな、金曜日に資料を作って提出したんだがよ、なんか抜けてる所があってよ。今日は日曜日だって言うのにわざわざ学校に来て作り直す事になってめんどかったぜ」

 

 まあちゃんと作らなかった俺が悪いんだけどな。と苦笑いを浮かべていた。

 

「そッそうか!私と茶々丸はもうやる事が無いからきょッ今日はこれでな!」

 

 とエヴァンジェリンはこの場を立ち去ろうとしたが

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 とマギが行き成り立ち去ろうとしたエヴァンジェリンの手を掴んだ。手を掴まれたエヴァンジェリンは又顔を真っ赤にする。

 

「いッ行き成りなんだお前は!?」

 

 エヴァンジェリンはマギの手をはらおうとするとマギが

 

「お前もう今日は何もやる事が無いんだよな?」

 

「あッああ何もないがそれが如何した!?」

 

 とエヴァンジェリンは高鳴る心臓の鼓動を必死に抑えながらも、若干上ずった声で尋ねた。しかし次のマギの言った事にエヴァンジェリンは思考を停止してしまった。

 

「今からお前の家に行っていいか?大事な話があるから」

 

「…え?」

 

 エヴァンジェリンは数十秒ほど固まった後に再度マギの顔を見た。今マギは何と言った?

 

「今なんて言ったんだ?」

 

 エヴァンジェリンは再度確認すると

 

「いやだから今からお前の家に行っていいかって聞いたんだよ。大事な話があるからよ」

 

 と聞き間違いでは無かったようで、マギが家に来ると聞いて、エヴァンジェリンは顔をカァァァと赤くする

 

(マギが私の家に来る…大事な話ってもッもしかして…)

 

 

 

 

 

『エヴァンジェリン…俺はもう我慢できないぜ…』

 

『まッ待てマギ!私とお前はどちらかというと敵同士だったじゃないか!』

 

『敵とそう言う関係になるのは物語でもよくあるパターンじゃねえか。というより最後まで言わせようとすんなよ。恥ずかしいしメンドイしよ』

 

『まッ待ってくれ!私はこういうのは初めてなんだ!だから…!!』

 

『俺だって初めてだよ。だけど俺に任せてくれ』

 

『ま…マギ』

 

『エヴァンジェリン…』

 

 

 

「…ってなんだこんなアホらしい妄想は!こッこんなの私じゃないぃぃぃッ!!」

 

「…でエヴァンジェリンはなんであんなになっているんだ?」

 

「気にしないでください。初めての事で激しく動揺しているだけですので」

 

 エヴァンジェリンが悶えながら地面をゴロゴロと転がっているのを見てマギは少し不思議そうに見ていたが、茶々丸は気にしないでくださいの一言だった。

 

「それでエヴァンジェリンの家に行っていいのか駄目なのかどっちなんだ?」

 

 とエヴァンジェリンが駄目そうなため、代わりに茶々丸に尋ねてみると

 

「はい大丈夫です。ですが私は帰りに猫達にエサをやらなければいけないので、マギ先生がマスターと一緒に帰ってはいただけませんか?」

 

「分かった。エヴァンジェリンの事は任せてくれ」

 

 と本人が知らないうちにマギがエヴァンジェリンの自宅に向かう事になったのだった。

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンの自宅

 気が付いたら自分の家に戻ってきており如何したらいいのか分からないエヴァンジェリン。しかも目の前には最近気になっているマギ。

 更に最悪?な事に頼みの従者の茶々丸が猫の餌やりに行っており今は不在である。マスターがピンチなのにお前は猫の餌の方が大切なのか!?と内心叫んでいるエヴァンジェリン。

 しかし何もせずにただ無言でいるのは気まずいのでとりあえずお茶を淹れる事にした。席を立つエヴァンジェリンを見てマギが

 

「なんだお茶でも淹れるのか?よければ手伝うが」

 

「ふん、この程度マギの力を借りずとも容易いわ。伊達に長生きしていないことを見せつけてやる」

 

 とエヴァンジェリンは胸を張ってそう言った。しかし…

 

「おいエヴァンジェリン。茶葉はそれじゃ入れ過ぎだぞもうちょっと少なめに」

 

「そッそうか?」

 

「何やってるんだよ水は汲みたての空気をたっぷりと含んだ水を沸かさねえと」

 

「ちッ違うのか!?」

 

「バカお前ティーカップとティーポットはあらかじめ熱湯で温めてないと」

 

「ううッ!!」

 

「蒸らす時間も正確に計ないとただお湯を入れて茶を淹れるだけじゃいけねえんだよ」

 

「うぐッ!!」

 

 とエヴァンジェリンが間違ったやり方をして、マギに指摘されるという何とも奇妙な絵図が出来上がり、結局マギが茶を淹れる事になったのだった。

 

「お前…伊達に長く生きているのか無駄に長く生きているのか分からない所があるよな」

 

「うッウルサイ!大きなお世話だ!これ以上馬鹿にすると血を全部吸うぞ!!」

 

 マギが淹れたお茶を飲んでいると、マギにそう言われエヴァンジェリンはムキなって怒鳴り散らした。マギとエヴァンジェリンがお茶を飲んでいると、猫達にエサをやっていた茶々丸が戻ってきた。

 

 

 

 

 

「…で、今日は何故お前が私の家に来ようとしたのか教えてくれないか?大事な話があると言っていたが家庭訪問か何かか?」

 

 エヴァンジェリンはティーカップを置いて何故マギがエヴァンジェリンの家に来た理由を尋ねた。マギは

 

「なぁエヴァンジェリンは登校地獄ってクソ親父にかけられた呪いと、魔力を押さえられている結界があったろ?」

 

 呪いと言う単語を聞いてエヴァンジェリンは途端に不機嫌な顔になり

 

「あぁお前と坊やに負けていなければ、今頃マギの血を全て吸い私は呪いを解くことが出来ただろうに。それがどうかしたのか?」

 

 本人が居る前で血を全て吸うって恐ろしい事言うんじゃねえよ…と内心ツッコむマギだが何故マギがそんな事を聞いてきたのかというと実は…とマギは少しの間を開けてから真顔になって

 

「もしかしたらお前の呪いが解けるかもしれないんだよ」

 

 とマギが言った一言にエヴァンジェリンは驚いて身を乗り出した。

 

「そッそれは本当か!?」

 

「あぁ、俺だってこんなお前が怒りそうなメンドイ嘘なんて言うつもりないぜ?マジな話だ」

 

 とマギの言った事に嘘偽りはなさそうだった。

 

「しかし何故本当に行き成り解けるかもしれないと分かったのだ?」

 

 エヴァンジェリンはそれが不思議に思い、マギにそう訪ねるとマギは一冊の本をエヴァンジェリンに見せてあげた。

 

「なんだその本は?」

 

 行き成り本を見せられても分からないエヴァンジェリンにマギはページをパラパラと捲って、おあったあったと呟いた。

 

「マンマンテロテロ…」

 

「!!!」

 

 マギが思い出したくもないあの呪文を行き成り唱えだしてエヴァンジェリンは思わず身構えてしまった。

 

「なッ何故お前がその呪文を知っているんだ!?」

 

「知ってるも何もこの本に書いてあるぞこの本には」

 

 とマギがそう言ってエヴァンジェリンはまさか!とその本を見た。その本の題名は

 

『馬鹿でも分かる呪いの魔導書』

 

 その題名を見てマギとエヴァンジェリンは思った。

 

(やっぱクソ親父って馬鹿だったんだ…)

 

(ナギは本当にバカだったんだな)

 

「しかしマギ、如何してお前がその本を持っているのだ?」

 

 それが一番の疑問だった。確かにナギが持っている物をマギが持っているのはおかしいだろうしかしマギは

 

「何か荷物の中に入ってたんだよな。何で俺が持っているかとか今は別にどうだっていいんじゃねえか?考えるだけ無駄だしメンドイ」

 

 という事で何故この本を持っているのかという話は置いておくことにした。

 

「まぁ話を戻すんだが、お前にかけられている呪いだけどな、ご丁寧な事に呪いの解除の仕方も書いてあるんだなこれが」

 

 とページを捲ってホレとエヴァンジェリンに呪いの解除方法が載っている項目を見せてあげた。

 

「何々用意するのは、呪いをかけられた者とその呪いをかけた者かその血縁者を用意する。まず呪いを解除するための魔方陣を書く。次に掘った魔方陣の中央に呪いをかけられた者を立たせる。そして書いた魔方陣に呪いをかけた者かその血縁者の血を流しこませる。最後に解除の呪文を唱えれば呪いをかけられた者は呪いが解かれる…何ともまぁ胡散臭いものだな。本当にこれで呪いが解けるのか?」

 

 とエヴァンジェリンは怪訝そうな顔で呪いの解除方法を見ていたが、その胡散臭い呪いにかけられたのもまた事実。今はこの解除方法を信じるしかなかった。

 

「という事だ。今から呪いの解除をしようと思う。覚悟は出来たか?俺は出来てる」

 

「いッ今からって!私は魔法界でも知れずと知れた大悪党だぞ!?そんな簡単に呪いを解いていいのか!?」

 

 とエヴァンジェリンがそう言ってもマギは

 

「そん時はそん時。何とかなるだろう?それにあのクソ親父だって言ってたんだろ?光に生きてみろって。お前は十分に光に生きただろう?だったらもういいんじゃねえか?お前が自由になってもよ」

 

 マギが笑いながらそう言うと、エヴァンジェリンは何故かマギの笑顔に心惹かれて思わず頷いてしまった。

 

「よし!んじゃさっそくチャッチャと始めますか!」

 

 とさっそくエヴァンジェリンの呪いを解除する事にしたのだった。

 

 

 

 呪いを解除するという事でマギとエヴァンジェリンに茶々丸は地下室へと向かった。

 先ずは魔法陣だが、此れは誤りも無く正確に書かないといけない。少しでもずれていたり、変に傾いているとちゃんと作動しないか別の呪いがかかってしまう可能性がある。なので魔法陣を書くのに最低でも半年はかかるものだが

 

「私はロボットですのでこう言った精密作業はお手の物です」

 

 と茶々丸が代わりに魔法陣を書いてくれた。やはりロボットだからか、気疲れも無くすいすいと正確に魔法陣を書き進め、ものの数分で魔法陣は完成した。

 次にエヴァンジェリンを魔法陣の中央に立たせる。これは問題ない次は呪いをかけた者かその血縁者の血を魔法陣に流し込ませるというものだったが

 

「マギ血は用意してないのか?」

 

「ああ用意してない。だから今出す」

 

 と言いながらマギが台所から失敬したのかナイフを取り出し、何も言わずに左手首をナイフで深く切り裂いた。切り裂かれた手首から勢いよく血が流れだし魔法陣に流し込まれる。

 何も言わずに行き成り自らの手首を切り裂いたマギを見て、エヴァンジェリンはギョッと驚愕してしまい

 

「なッ何をやってるんだお前は!?そんな事をやったら死んでしまうじゃないか!!」

 

 と思わず叫んでしまったが、手首を切り裂いたマギは

 

「一々叫ぶなよこっちだって覚悟の上でやってるんだからな」

 

 そんな遣り取りをしている間に魔法陣にマギの血が流し終え、魔法陣が血で赤くなり魔法陣が赤く怪しく光りだした。

 

「よしこれで準備完了だ。此処まで来たらもう後戻りはできねぇ…行くぞエヴァンジェリン」

 

「あ…あぁ」

 

 マギの呼びかけにエヴァンジェリンはただただ頷くだけだった。そしてマギは解除の魔法の呪文を詠唱する。

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ すべての呪縛はこの名の元に、無と消えよ リカバー!!」

 

 マギが魔法を唱えるとエヴァンジェリンはピクリと体を少し震わした。すると次の瞬間エヴァンジェリンの体が赤く少し発光し、体に異様な模様が現れた。マギはエヴァンジェリンに現れた模様をまじまじと見つめる。

 

「これがクソ親父がかけた登校地獄っていう呪いか。確かにでたらめに呪いをかけたから色々とちぐはぐで滅茶苦茶だ…だが後はこの呪い自体を破壊するだけだからわけないな」

 

 そう言いながらマギは右腕でまるで呪いの模様を握りつぶすかのように力強く右手を強く握りしめた。すると

 

 

 

 ピキピキ パキィィィィィィィンッ!!

 

 

 

 エヴァンジェリンに纏っていた模様が粉々に砕け散ったのだった。茶々丸はエヴァンジェリンの体を調べてみて頷くと

 

「確かにマスターの登校地獄の呪いは無くなりました。呪いの解除は成功です」

 

 それを聞いてエヴァンジェリンは目を見開いて次には顔を輝かせていた。マギも一件落着と安堵の溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 しかし…問題はまだ残っていたのだ。

 

 

 

 バシュンッ!!ギュルギュルギュルギュルギュルギュルンッ!!

 

 

 

 突如何処からか鎖が飛び出し、エヴァンジェリンの体や手足ををがんじがらめに縛り始めたのだ。

 

「なッなんだこれは!?グァァッ!!」

 

 エヴァンジェリンが突如現れた鎖に驚いている間にも、鎖はエヴァンジェリン巻き付いて、エヴァンジェリンは苦悶の悲鳴を上げた。

 

「おいエヴァンジェリンの奴如何したんだよ!?行き成り鎖が出てきて縛られるってプレイがハードすぎないか!?」

 

「分かりません!…ですが恐らくマスターの登校地獄の呪いが解かれたことでマスターの魔力を封印している結界が強制的にマスターを封じ込めようとしているのでは…!」

 

「一難去ってまた一難。俺が一番嫌いでメンドイ展開だなおい!」

 

 マギはエヴァンジェリンを縛り上げている結界の鎖も破壊しようとして魔力を集中しようとしたが、急に目の前が霞始めマギは思わず片膝をついてしまった。

 茶々丸は慌ててマギに近づき支えて上げ、マギの体をスキャンしたが驚きながら

 

「!出血レベルが危険域の一歩手前です!このままだとあと数分もしたらマギ先生は失血死してしまいます!!」

 

 マギが死ぬと言う言葉にエヴァンジェリンは固まってしまった。そのマギはと言うと

 

「ハハハ…ヤベェなちとカッコつけすぎたかな…」

 

 と血の気の失せた顔で笑いながらも変わらず魔力を集中していた。

 

「おッおいマギ!何をやっている!?このままじゃあお前が死んでしまう!バカな事もうやめろ!!」

 

 エヴァンジェリンは必死にマギに止めるように訴えた。しかしマギは

 

「何言ってるだよエヴァンジェリン。もう少しでお前は自由の身になれるんだ。だからもう少し待っていろ…あと少しで終わるからよ」

 

 とマギは聞く耳を持たずに更に魔力を集中していた。血はどんどん流れていきマギの顔は段々白くなっていきフラフラとし始めかなり危険な状態だった。

 

「おいマギ!なぜそこまでする!?もういい!もういいからやめてくれ!これ以上はお前が死んでしまう!!」

 

 エヴァンジェリンは涙目になりながらマギに訴えかけた。しかしマギは笑いながらエヴァンジェリンにこんな事を聞いた。

 

「なあエヴァンジェリン…お前は修学旅行に行ったか?」

 

 と行き成り場違いな事を聞きだした。

 

「行き成り何を言っているんだお前は!?私が呪いのせいで何処にも行けないのは知っているだろうが!」

 

 思わずエヴァンジェリンは怒鳴ってしまったがマギはそうだよなぁと笑いながら

 

「だけどよ今年はお前は行けるようになったんだ。きっと楽しいぞ…あんな馬鹿騒ぎが大好きなアイツ等だ。退屈はしないだろうよ」

 

 それに…とマギは笑いながらエヴァンジェリンを見つめた。顔は青白を通り越して土気色になっていた。

 

「文化祭だってそうだ。お前の事だから参加とかはしなかっただろうから今年最後の中学の文化祭だ。思い切り楽しんでみろよ」

 

「何を言ってるんだお前は!そんな事言ったってお前が此処で死んでしまったら意味が無いじゃないか!!」

 

 

 

 

 

「何言ってるんだ。俺がこんな所で死ぬつもりなんてさらさねえよ。それに…俺はお前と、俺が死ぬまで一緒に居てやるからよ」

 

 だから…マギは拳を振りかぶり

 

「こんなふざけた鎖なんて俺がぶっ壊してやる!!」

 

 マギはエヴァンジェリンを縛り付けている鎖に拳を叩きつけた。

 

 

 

 バキィィィィィィィンッ!!

 

 

 

 マギが拳を叩きつけると鎖は粉々に砕けちった。体を解放されたエヴァンジェリンは倒れそうなマギの体を受け止めてあげた。体に又魔力が戻ってきたのが感じられた。

 エヴァンジェリンはマギの背中を優しく撫でてあげた。

 

「全く大したものだよお前は…」

 

 エヴァンジェリンは優しい口調でマギにそう囁いたがマギからは返事は無かった。エヴァンジェリンはマギの顔を覗いてみると

 

「…」

 

 マギの顔からは生気が感じられなかった。とても危険な状態であった。聞けば心臓の鼓動もだんだん小さく感じられた。

 

「おッおいマギ!死ぬな!!死んだら許さないぞ!!おい茶々丸!!急げ!!」

 

「はいマスター!!」

 

 茶々丸は急いで治療の準備に入った。エヴァンジェリンはマギが意識を失わない様に必死に呼びかけていた。だがマギの体はどんどん衰弱して行った。

 

(よかった…な…エヴァンジェリン。お前…はこれで…自由…だ)

 

 マギは薄らと目を開けてエヴァンジェリンを見ていたが小さく笑っていると、遂に意識を失ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 意識を失ったマギは闇の中を漂っていた。自分は死んでしまったのか、それとも生きているのか分からなかった。

 マギは夢を見た。それは自分が生まれた時夢だった。其処に居たのは自分の父であるナギと、赤ん坊のマギを優しく抱っこしている女性の姿が

 

『顔つきと髪の色は俺にそっくりだな』

 

 ナギは笑いながら赤ん坊のマギの頬を突いた。すると寝ていたのか赤ん坊のマギは泣き出してしまった。マギを抱っこしていた女性はナギを叱るとマギをあやしたらマギは直ぐに泣き止み直ぐにまた寝てしまった。

 寝てしまったマギを見て女性は微笑みながら

 

「でも目元と目の色は私にそっくりよ』

 

 とマギの頭を愛おしそうに優しく撫でていた。マギは赤ん坊の自分を抱き上げているのは自分の母親だと気づいた。しかし…

 

(そう言えば俺、クソ親父の顔は覚えてるけど母さんの事は顔は思い出せねえな…)

 

 マギは母の顔、ましてや名前さえ思い出せずじまいだった。するとどんどんナギとマギを抱っこしている母が遠ざかってしまう。

 

(待ってくれ…まだ俺は母さんの顔を見てないんだ…)

 

 マギは追いかけようとしたが、代わりに眩い光がマギを包み込んだ。

 

「ぐッぐあぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

「ぐ…ぐぁ…」

 

 マギはゆっくりと目を開けた。最初に写ったのは知らない白い部屋だった。マギはゆっくりと起き上がり、重い頭で辺りを見渡した。

 自分が寝ていたのは大きな白いベットで部屋一面白に統一されていた。遠くには海も見える

 

「いや何処だよ此処は…」

 

 マギは何故自分がこんな所に居るのかに理解が追いつかなかった。

 

「そう言えばエヴァンジェリンの呪いを解除に成功したけど、血の出が尋常じゃなくて意識が朦朧としてそんで意識が飛んじまってそれで…」

 

 と此処でマギは漸く理解したのかポンと手を打って

 

「此処は死後の世界なのか。やっぱ血を出し過ぎたんだな…てっきり日本でいう三途の川に行くんだと思っていたが、違うみたいだな」

 

 しかし…ハハとマギは乾いた笑い声を上げた。

 

「こんな早くにおっちぬとはな…ネギやアスナに故郷のネカネ姉に辛い思いさせちまったかな…」

 

 マギは早くに死んでしまってネギ達に辛い思いをさせてしまったと思い後悔した。すると部屋のドアがギィとゆっくりと開き始めた。遂にお向かえが来たと思いきや現れたのは

 

「ま…マギ?」

 

 エヴァンジェリンが驚いた表情でマギを見ていた。

 

「ハハお迎えがエヴァンジェリンにそっくりな天使なんて可笑しなことがあるんだな」

 

 と笑っているとエヴァンジェリンが怒りの形相でマギに迫ってきてそして

 

「この馬鹿者がぁぁぁッ!!」

 

 マギの顔面に本気の飛び蹴りを食らわした。

 

「ぐはぁッ!?」

 

 マギはエヴァンジェリンが飛び蹴りをしてきたがフラフラの状態で避ける事が出来ずに直撃し床を滑った。そして頬を押さえ上半身を起き上がらせると

 

「いてぇ!ていう事は俺生きてるのか!?というかエヴァンジェリン行き成り何するんだよ!?」

 

 とマギは蹴られる理由が見つからず、エヴァンジェリンが蹴ってきたことに憤慨したが、エヴァンジェリンは怒りの形相を抑えずにそのままマギに近づくとマギの胸倉を掴んで

 

「何するんだよだと!?7日も目を覚まさずに起き上がったと思ったらアホらしい事を言いだしおって!こっちはどれだけ心配したと思っているんだ!!」

 

 エヴァンジェリンはマギの胸倉を思い切り揺すりながらマギに怒鳴り散らした。マギはエヴァンジェリンにかなり心配をかけてしまったと思い申し訳ないと思っていると、顔に何かが当たった。エヴァンジェリンを見ると

 エヴァンジェリンは泣いていていた。泣いてこぼれた涙がマギの顔に落ちてきたのだ。

 

「ふざけるなよマギ…貴様言ったよな!?死ぬまで一緒に居てやると!そう約束したのに死んでしまったら私は許さないからな!貴様を許さないからな!!」

 

 と言いながらエヴァンジェリンはマギをギュッと抱きしめた。マギはエヴァンジェリンが泣いて震えているのを感じながら自分もエヴァンジェリンを優しく抱きしめた。

 

「すまねえなエヴァンジェリン…すまねえ。酷い事しちまったな…だが俺は生きているしお前の目の前に居る。今度はお前を一人ぼっちにさせねえ」

 

「う…うわぁぁぁぁぁんッ!!」

 

 マギはエヴァンジェリンが泣き止むまで優しく抱きしめてあげたのであった。

 

「マスター…マギ先生…よかった」

 

 茶々丸がマギとエヴァンジェリンが抱きしめあっているのを部屋の外で微笑みながら見ていたのであった。

 

 

 

 今日15年ものの間呪いに縛られていた吸血鬼エヴァンジェリンは自由になったのだった…




今回の話はネギまの原作でも有名かもしれない原作ブレイクの
エヴァンジェリンの呪い解除の話です。
私が知っているネギまの呪いの解除は大抵がバグキャラにより簡単に呪いを解除していたんですが
私は死ぬかもしれない展開をやりたくてこういう話にしました。
しかし私自身思いましたが、グダグダな展開でした。
オリジナルの話はこんな展開が続きますが、ご了承ください

はぁ…文才能力が欲しい切実に


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自由になった吸血鬼②

学校が始まりテンションはがた落ち…
何とかできました。今回でオリジナルの話は終わりです
それではどうぞ


はやく長期休み来ないかな…


 マギに優しく抱きしめられながら泣く事数分流石に恥ずかしくなったエヴァンジェリンはガバッとマギから離れた。

 そしてマギにこの事は誰にも言うなよ!と目で訴えかけた。マギは別に言うつもりなど毛頭も無くメンドイという事もあり黙って頷いていた。

 …と言っても茶々丸が黙ってマギとエヴァンジェリンの抱擁を録画していたのだが、マギとエヴァンジェリンは知る由も無かった。

 マギはもう一度立ち上がろうとしたが、今さっき起き上がったばかりかフラフラとしてしまい片膝をついてしまった。

 

「おい大丈夫なのかマギ?」

 

 エヴァンジェリンは心配そうにマギの様態を尋ねた。マギはヤベェと苦笑いしながら頬を掻くと

 

「やっぱ血が足りないのと寝過ぎたせいだな。というかさりげなく言っていたが俺って7日も寝てたのか。そりゃ体は衰弱するわけだ」

 

 マギは再度自分の状態を確認した。ところでと改めてマギはこの部屋を見渡した。気を失う前まではエヴァンジェリンの家の地下室に居たはずだが此処は異質な場所だった。

 

「なあエヴァンジェリン、此処は何処なんだ?なんで俺はこんな所に居るんだ?」

 

 とエヴァンジェリンに尋ねるとエヴァンジェリンは簡潔に

 

「簡単に言ってしまうと此処は私の別荘だ」

 

 別荘?マギはその言葉に首を傾げてしまった。

 

「別荘ってどういう事だよすまねえがもっとわかりやすく説明してくれ」

 

「お前を助けるために慌てて掘り出したんだ」

 

 掘り出した?ますます分からなくなり頭を抱えたマギ。考える事は苦手でメンドイからと余り頭を使わなかったのが災いしたようだ。頭を抱えたマギを見て呆れたように溜息を吐いたエヴァンジェリン。

 

「此処は簡単に言えば本当の世界じゃない。かつて私が魔法で造った魔法アイテムの一つだ」

 

「って!これが魔法アイテムなのかよ!?さすがはエヴァンジェリンって感じだな…」

 

 とマギが唖然としているとエヴァンジェリンは胸を張って得意げな顔をした。そして得意げにこの別荘の事を説明した。

 

「この別荘は特別な魔法で造られていてな、こっちの1日は外の世界でたった1時間しかたっていないのだ」

 

「という事は俺は此処で7日も寝ていたって事は外じゃ7時間しかたっていないという事かよ!?」

 

 それを聞いてマギはさらに愕然としてしまった。これが本物ではなく造られた物と聞かされた時よりも驚いてしまった。

 

「流石にお前を私の部屋で7日間も寝かせるのは不味いと思ってな。急いでこれを掘り出したから骨が折れたぞ」

 

 エヴァンジェリンはフンと鼻を鳴らしながらそう言った。そんなエヴァンジェリンを見てマギは徐にエヴァンジェリンの頭を撫でた。

 

「いッ行き成り何をする!?」

 

 エヴァンジェリンは頭を撫でられ顔を赤くして驚いていると、マギはエヴァンジェリンにありがとなとお礼を言った。

 

「俺を助けるために態々掘り出してきたんだろ?ありがとな感謝してるぜ」

 

 と素直にお礼を言われたのが気恥ずかしかったのかエヴァンジェリンは顔を赤くしながらそっぽを向いた。

 

「お前言っていたじゃないか。今度の修学旅行一緒に行こうと。お前が死んでしまったら意味が無いじゃないか」

 

 エヴァンジェリンがそう呟いたのをマギはああそうだったなと頷いて

 

「だったら忘れられない楽しい思い出にしてやるよ。光栄に思えよ何時もだったらメンドイって言いながら手ぇ抜く俺がこんな事言うんだからな」

 

 と冗談で笑いかけながらエヴァンジェリンにそう言った。エヴァンジェリンはマギの顔を見て呆けてしまい、無意識にだが、マギの顔に自分の顔を近づけていた。

 

「あのマスター」

 

 と今迄隠れて見ていた茶々丸がエヴァンジェリンに声をかけた。ハッとしたエヴァンジェリンはマギから離れ、茶々丸の方を見た

 

「茶々丸お前何時から其処に居たのだ!?」

 

「つい先ほどです。丁度マスターが目が覚めたマギ先生と抱擁している所を偶然と…」

 

「みッ見ていたならさっさと声をかけろこのボケロボ!!」

 

 とエヴァンジェリンが顔を赤くしながら強引に茶々丸の頭のネジを回していた。その光景をマギは笑いながら見ていた。

 

「で茶々丸どうかしたのか?」

 

 とマギが茶々丸に如何かしたのかと尋ねた。茶々丸はマギに無事に目が覚めて安心しましたとマギにそう言うと

 

「マギ先生おからだの調子は如何でしょうか?」

 

 と容態を尋ねた。マギは体の調子を確かめるかのように大きく体を伸ばすと

 

「やっぱり体が重く感じるな。それにやっぱ血が足りなく感じる」

 

 と容態を伝えるとでしたらと茶々丸が

 

「ここでもう2日ほど安静にしてみては如何でしょうか?此処で2日ほど過ごしても外ではたった2時間しかたっていませんし」

 

 と提案してくれた確かに此処で少しでも安静にした方がマギ自身良いだろう。

 

「それもそうだな…んじゃお言葉に甘えて此処でゆっくりとさせてもらおうかね」

 

 とマギが大きく伸びをした。此処にもう少し居るとマギが言った途端にエヴァンジェリンが顔を輝かせて

 

「そッそうか!だったら少しだけでもこの別荘を案内してやろう!!」

 

 という事でマギはあと2日(外では2時間ほどだが)別荘で過ごす事となり、ゆっくりと休養しながらも別荘の中を案内させてもらったのだった。

 

「そうだエヴァンジェリン。今日からエヴァって呼んでいいか?長すぎて全部言うのもメンドイからさ」

 

「なんだその取ってつけたような言い方は!?」

 

「だってさエヴァンジェリンってなんか固いイメージがあるじゃん?それにエヴァってなんか柔らかく感じるし響きもカワイイじゃん」

 

「かかかかカワイイだと!?」

 

 とこんなやりとりもあり、マギはエヴァンジェリンの事をエヴァと呼ぶことになったのだ。

 

 

 

 

 

 別荘の外に出たマギ。辺りは真っ暗になっていた。エヴァンジェリンの家に行ったのが確か午前10時位で呪いの解除に成功したが意識不明でエヴァンジェリンの別荘で7日ほど寝ており、無事に目が覚めて休養をかねて2日ほど別荘に居て、時間的には7時間と2時間で9時間となるから今の時刻は午後の7時位になるだろう。

 この時間帯ならネギ達も心配する事は無いだろうが早く寮に帰らないといけない。マギは寮へと向かった。

 

「しかし凄かったなエヴァの別荘は…流石はエヴァってか」

 

 とマギは改めてエヴァンジェリンの別荘に凄さを実感していた。

 休養と体力を戻す事という事で別荘の中を案内してもらったのだが、別荘の中はまるで高級リゾートホテルを思い浮かべるかのようだった。

 大理石で造られた風呂やプールにサウナにエステなどのマッサージの他にビリヤードやダーツなどの娯楽施設もあり。

 それ以前に別荘自体が巨大な塔となっており真下は巨大な湖が広がっていた。

 別荘には茶々丸の姉達(ロボットではなく人形)がメイドの恰好をしており、マギとエヴァンジェリンの世話をしてくれたのだった。2日間の休養はまるで天国だった。

 

「だけども別荘にはまだ種類があるって言っていたな…」

 

 今回マギが過ごしていた別荘はほんの一部でまだ種類は有るそうだ。あれよりも凄いのがまだあると考えると想像がつかない。

 

「しかしこれで俺が授業が無いときとかはあそこでゆっくりとしてられるな」

 

 とマギはさっそく自分が授業が無い時にあそこを利用するつもりのようだ。そこら辺は抜け目が無いようである。

 

「…ん?」

 

 とマギが歩いていると前方から誰かが歩いて来る足音が聞こえた。それも複数も誰だろうと思っているとタカミチだった。

 

「おおタカミチじゃん。久しぶりだな~最近見かけなかったぞ」

 

 とタカミチに久しぶりと挨拶をしたが、タカミチからは返事は無かった。マギはアレ?と思いタカミチに近づいてみるとタカミチは複雑な表情をしていた。

 

「おいおい如何したんだよタカミチ?そんな気難しい顔して。何かあったのか?」

 

 とマギがいつも通りの態度でタカミチに聞くと、マギ君…タカミチは重々しい口調で口を開いた。次に言った事は

 

「今日のついさっきにエヴァンジェリンの登校地獄の呪いと魔力を封印している結界が破壊されたんだけど、マギ君は何か知っているかい?」

 

 と聞いてきた。マギはんだよその事かと頭を掻きながら

 

「それだったら俺がぶっ壊しちまったよ。いい加減エヴァを縛り付けるのは可哀そうだと思ってな」

 

 とあっけらかんにそう答えると、タカミチがそうか…と呟いた。マギはタカミチの態度を見て不思議そうに見ていたその時

 

 

 

 ガサッ! ガサッ! ガサッ! ガサッ!!

 

 

 

 マギの周りにあった茂みから行き成り眼鏡を掛けた長髪の女性が刀を構え、サングラスをかけた中年の男性が拳を構え、褐色の男性がナイフと拳銃をマギに向けて、褐色のシスターが十字架をマギに向けてマギの4方向をこの4人が囲む形でマギに立ちはだかる。

 その他にも周りから何十人かの学生やら先生らしい大人たちがマギを取り囲むかのような形となっていた。

 

「…んだ此奴らは?」

 

 マギも気配を感じられずに動けなかった。これがタカミチと学園長から聞いていた魔法先生と魔法生徒なのだろか。

 とりあえずは何も抵抗もしないのが良さそうだろうと判断したマギ。

 

「今からマギ君を学園長の元へ連れて行く。何も抵抗をしないでくれマギ君」

 

 と学園長の元へ連行される事となったマギ。マギはやれやれだぜ…と呟く。

 

「全く…メンドイ展開になりそうだなこれは…」

 

 と面倒くさそうな溜息を吐きながらマギは学園長の元へ連行されるのだった。

 

 

 

 

 

 学園長室にて

 学園長とマギが対峙していた。マギの後ろにはタカミチや先程マギを取り囲んでいた4人の先生とその他の先生や生徒が緊張の表情で傍観していた。

 マギは何時も通りな感じで時々欠伸をしながら頭を掻いていたが、学園長は顎鬚を弄っていたが何時ものような飄々とした態度は今回はなりを潜めていた。

 沈黙が続いていたが、学園長がその沈黙を断ちさっそく本題へと入った。

 

「それでさっきタカミチ君から聞いたのじゃが、エヴァンジェリンの呪いと封印の結界を破壊したのはマギ君だと言うのは間違いないのじゃな?」

 

「あぁ間違いないぞ」

 

 とマギがあっけカランにそう言うとマギの後ろに居たタカミチ以外の先生や生徒の殆どがザワザワと騒がしくなった。

 そんな光景を見ていたマギは頭を掻き呆れながら

 

「んだよエヴァの呪いをぶっ壊しただけなのに大げさだな」

 

 とざわつきに呆れたマギがそう言っていると

 

「大げさな事ではない!!」

 

 と先程マギにナイフと拳銃を向けていた褐色の男性が興奮しながら叫んでいた。マギはうわぁ~絶対にメンドイ奴だなコイツ…と言う目で褐色の男を思わず見てしまった。

 

「これガンドルフィーニ君、少しは落ち着かんか」

 

 学園長が褐色の男性ガンドルフィーニを落ち着かせようとしたが、ガンドルフィーニは興奮が収まらない様で

 

「これが落ち着けますか学園長!?彼がマギ君が麻帆良に封じていた大悪党の吸血鬼の呪いと結界を破壊したんですよ!?これが落ち着いていられますか!?」

 

 とガンドルフィーニは興奮したまま学園長に問い詰めた。そんなガンドルフィーニをなんとか落ち着かせようとする学園長。

 

「しかしマギ君。ガンドルフィーニ君や他の魔法先生や生徒も考える事は一緒じゃ。どうしてエヴァンジェリンの呪いを破壊したんじゃ?」

 

 と真剣な目でマギを見ながら理由を尋ねた。タカミチは黙ってマギが何と言うか見守っているとマギは

 

「別に深い意味は無いぞ。15年もこんな所に縛られていたら可哀そうだと思ったし、クソ親父が呪いをかけてそのままほったらかしで居なくなっちまってそれは息子として申し訳ないと思った。それだけだ…まぁ強いて言うなら呪いぶっ壊す時に血を流し過ぎたせいで死にかけたけどな」

 

 そうマギが答えると先程よりも先生や生徒達が騒ぎ出す。ある者はありえないと叫び、またある者は馬鹿な事をとマギが行った事を罵った。

 流石にトサカに来たマギは先生や生徒を睨みつけた。

 

「何だよテメェ等。エヴァの事に何か文句でもあるのかよ?」

 

 怒気の孕んだ視線に実力がマギより下の生徒達は一斉に目を逸らしたりしたが一人のウルスラの生徒だけはマギを力強い目で見ていた。

 

「マギ先生、貴方の言っている事は間違っています!!」

 

 ウルスラの生徒がマギを指差して間違っていると叫んだ。そのウルスラの生徒の後ろにその生徒をお姉様と心配そうにハラハラしながらその生徒を見ていた。

 

「誰だテメェは?それと俺の言っていることが間違ってるって?」

 

 マギはウルスラの生徒の名前とマギの言っている事の何が間違っているのかを尋ねた。

 

「高音・D・グッドマン、ウルスラ2年。先程言った事は此処に居る人たちの殆どが思った事です。私も親から聞かされました。闇の福音と呼ばれていたあの吸血鬼は600年も生きていて今迄人の生き血を吸っていたのです。それを貴方があの吸血鬼を封じ込んでいた呪いを破壊してしまった。吸血鬼を自由にしてしまったらこの麻帆良が危険に脅かされることになります。一刻も早く今一度吸血鬼の力を封印すべきです!!」

 

 と高音の訴えに頷く者やそうだ封印すべきだとそういう者も出始めた。学園長やタカミチは何も言わず、マギを見ていた。マギはどうやって対処するのだろか。

 黙っていたマギは成程な…と呟いた後に頷くと高音を見た。

 

「高音。お前は親からエヴァンジェリンの事を聞いてエヴァンジェリンは血も涙も無い悪魔だって言いたいんだな?」

 

「そうでしょう!?吸血鬼は人を襲う化け物!それは常識と言えるものです!だからそんな化け物は封印すべきなのです!!」

 

 と高音の訴えを又聞いてマギは成程成程なと何度か頷くと

 

「それじゃ高音や他の奴はエヴァンジェリンが風邪で苦しそうにしている所を見た事あるか?」

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 高音は思わず間抜けな返事をしてしまった。この人は行き成り何を言ってるんだ?と内心で思った高音。

 

「アイツって偶に子供っぽい所が有るし、ムキになったりして変に年上ぶったりしてヘマしたり変な所で泣いたりしてな。意外と可愛い所があったりするんだぜ。この前だって紅茶の淹れ方も知らないでムキなって結局俺が淹れるはめになったんだぜ…笑えちまうよな」

 

 マギがエヴァンジェリンの事を高音や周りに居た者達に教え始めた。

 

「そッそれが何になると言うんだ!?」

 

 ガンドルフィーニはマギが言いたい事が今一分からなかった。つまりだとマギが

 

「アンタ達は親に聞いた話やエヴァが過去に何をやっていたという出来事…過去のエヴァしか見ていない。だが俺は今の麻帆良学園中等部の3年A組エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルとしか見ていない」

 

 マギがそう言うとガンドルフィーニは認められないのかバカな!と叫びながら

 

「あの吸血鬼が600年も生きて人を襲ったのは事実!その中には罪のない人もいるはずだ!」

 

 ガンドルフィーニの訴えにマギはうるせぇなぁと呟きながら頭を掻くと

 

「そんな昔の事本当か分かんねえだろうが。だいたいアイツは自分で罪のねぇ人間は襲わなかったって言ってたぞ。大抵は賞金稼ぎか、人を襲ったりする悪党だって言っていたしよ…なんでも昔の事が正しいとは限らねぇだろうが」

 

「何故だマギ君!何故君はそこまであの吸血鬼の事を信じられる!?あの吸血鬼は君を騙そうとしているのかもしれないのだぞ!」

 

 ガンドルフィーニの叫んだことはある意味正論かもしれないが、マギはエヴァンジェリンの事を信じていた。何故なら

 

「アイツは600年も孤独だったはずだ。考えても見ろよ、アイツは人間だったのに吸血鬼になってしまった。化け物になっちまった者を普通の人間は信じたりしねえさ。アイツは一人孤独に戦っていたんだよ今日までに。だから…俺はエヴァを信じてやるつもりだ。まぁあのクソ親父は如何だったのか分からないけどな」

 

 マギのエヴァンジェリンの事を信じてやると宣言し高音や周りの者は黙っていたが、ガンドルフィーニはまだ認められないのか

 

「愚かな…マギ君君は愚かな選択をした!君のお父様が聞いたらさぞや悲しむだろう!!」

 

 とガンドルフィーニが言った瞬間、マギの纏っていた雰囲気が変わった。マギは黙ってガンドルフィーニに近づいた。ゆっくりとした歩調で。これはマズイと判断したタカミチは止めようとしたが、学園長がタカミチを手で制止し黙って頷いた。

 そしてマギはガンドルフィーニの目の前に黙って立ち止まった。ガンドルフィーニは黙ってマギが自分の目の前で立ち止まった事に戸惑っていると次の瞬間マギは

 

 

 ドゴォッ!!

 

 

 マギは何の躊躇いも無くガンドルフィーニの鼻に本気の頭突きを食らわした。行き成り頭突きを食らわされたガンドルフィーニは短い悲鳴を上げながら倒れてしまった。

 起き上がったガンドルフィーニの鼻から鼻血が垂れ流れていた。頭突きを食らったガンドルフィーニとほとんどの者が呆然としながらも多少マギから距離を取った。

 

「やれやれ…テメェらはやっぱり俺の事をただのクソ親父の息子としか見ていねぇようだな。だったらここで言っておく。俺は俺だ。あのクソ親父の息子じゃない。マギ・スプリングフィールドだ…テメェらの中に俺の事をまだクソ親父の息子として見てる奴が居たら前に出ろ」

 

 と言いながらマギは親指で自分を指差した。

 

「それとテメェ等の中にまだエヴァの事を封印しようとするやつがいれば…俺はテメェ等を本気でぶちのめす」

 

 マギがそう宣言した瞬間眼鏡の刀を持った女性と黒人のシスターや高音とほとんどの者が攻撃の構えを取った。まさに一触即発といった所だが

 

「やめい!!」

 

 学園長の鶴の一声に攻撃の構えを止め、一斉に学園長の方を見た。学園長はうむと一回頷くと

 

「マギ君の言いたい事はよく分かった。ではこうしようかのう。マギ君がエヴァンジェリンを監視するんじゃ。彼女もこれ以上悪さをするとは思えんがもしもじゃ、彼女が又悪事に手を伸ばそうなら今度は彼女の力を封印するじゃろう。マギ君もこの条件で構わんかのう?」

 

 学園長の提案にマギは納得したのか

 

「分かったよジーさんの提案を飲んでやるよ」

 

「学園長!私は納得できません!一刻も早く吸血鬼を封印すべきです!」

 

 とガンドルフィーニは納得できないでエヴァンジェリンを封印すべきだと学園長に訴えかけたが

 

「ガンドルフィーニ君、これじゃ平行線じゃ。今はわしの提案に納得してくれないかのう?」

 

 と学園長の力強い目を見てガンドルフィーニは渋々と納得したようで黙って頷いた。

 

「他の先生や生徒も納得しれないかのう?」

 

 と学園長が尋ねても誰も反論する事が無かった。

 

「うむそれじゃこの話は此れにて終わりにするかのう。では解散じゃ」

 

 と学園長がそう言い納得していない者もいるが、エヴァンジェリンの件はマギがエヴァンジェリンを監視すると言う形で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 魔法先生と生徒が居なくなって学園長室に残ったのはマギとタカミチに学園長だった。

 

「悪かったなジーさん。おかげでメンドイ目にあわなくて済んだぜ」

 

 マギが学園長にお礼を言った。学園長はまったく…と呟きながら

 

「そうやって我を貫き通す所はナギにそっくりじゃのう」

 

 と呆れていた。

 

「でもすまないねマギ君。僕もエヴァンジェリンの封印は流石にやり過ぎだと思ったけど余りそういう事が言えない立場に居るからね僕は…」

 

 タカミチと学園長はどちらかというとエヴァンジェリンの事を悪くは思っていないのだが、立場が立場なためそう言った事が言えないのだ。

 

「しゃあねえだろ。タカミチとジーさんは立場の問題もメンドイだろうし仕方ねえだろ?」

 

 とそう返した。

 

「しかしあの高音って奴といいあのガングロ男といいこの学園の奴らは頭が固いよな~もう少し頭を柔らかく出来ないのかねぇ」

 

「まぁ彼らも頭の固い所が有るけど悪い人たちじゃないんだ。そこまで悪いように言わないでくれ」

 

 とタカミチが苦笑いしながらそうマギに言うが、マギはやっぱり大衆的な正義っつうのは苦手だなと呟いた。

 

「しかし先程も言ったがマギ君。エヴァンジェリンの事を宜しく頼むぞ」

 

 と学園長に頼まれ、あぁと頷くマギ

 

「エヴァには死ぬまで一緒に居てやると約束したからな。アイツにはもっといろいろと楽しんでもらいたいからな」

 

 と真顔でマギがタカミチと学園長にそう言うと、数秒後にタカミチと学園長は年甲斐も無くニヤニヤとし始めた。

 

「んだよアンタらニヤニヤして気持ち悪い歳考えろよ」

 

 とマギが呆れているとだってマギ君とタカミチが

 

「死ぬまで一緒にって、それじゃまるでプロポーズみたいじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 マギは一瞬タカミチが言った意味が分からなかったが、よくよく考えてみるとさっきの死ぬまで一緒にいてやると言う言葉をよく恋愛物の物語のお約束のセリフだったような…

 そんな事を思い出したマギは急に気恥ずかしくなり、顔を赤くしながらちッ違うぞ!!と必死に誤解をとこうとした。

 

「おッ俺は別にそんなつもりで言ったわけじゃねえぞ!ただそばに居てやろとしてだな…!」

 

 と必死に誤解をとこうとしたが、自分でも何を言っているのか分からず更に墓穴を掘ってしまい

 

「そばに居てやりたいとは、いやはや若いのぉ」

 

「いやはや僕も若い時の彼女の事を思い出してしまいましたよ若いっていいですね~」

 

 とタカミチと学園長はニヤニヤと笑いながらマギを見ていた。ブチリとマギの方から聞こえ

 

「おいジジィにおっさん…今すぐそのくだらない記憶を消してやるから覚悟しろ」

 

 とマギは指の関節をボキボキ鳴らしながらタカミチと学園長に詰め寄った。

 学園長とタカミチは流石にからかい過ぎた様で冗談だよ冗談と笑いながらマギに謝った。

 

 

 

 

 

 こうしてエヴァンジェリンの事だが、何とも締りのない形で解決したのであった。

 

「マギ…はぁ…」

 

「マスター又マギ先生で溜息を吐いてますよ」

 

「はう!うッウルサイウルサイ!黙っていろこのボケロボ!!」

 

 

 

 




次回から原作の4巻に入ります
つまり修学旅行あのネギのライバルキャラが出ます。
あ、ちなみに次章からマギのオリジナル敵が現れます
と言ってもネタなんですが


PS、活動報告を乗せておきますが、ネタバレのような物なので見るのは自己責任です。
見た後に文句を言われても見た人の責任なのでご了承ください


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~第4章~大波乱修学旅行
修学旅行の準備はしっかりやっておこう じゃないと何か絶対に忘れるから


久しぶりに投稿しました!
今日から原作で言う4巻つまり修学旅行です!
サブタイトルは思いつかなかったのでこんな感じです
それではどうぞ!!

ちなみに私は小学校の頃の修学旅行で遠足の時に水筒をバスの中に忘れて喉がカラカラに
なった苦い思い出があります


 朝、学校登校にて

 

「ふん~ふ~んふふ~~ん♪」

 

 ネギはいつにもまして上機嫌で鼻歌をしている。今にも踊りだしそうな感じだ。時々すれ違うクラスの生徒にも上機嫌で挨拶をしている。

 

「なんかネギ、いつにもまして嬉しそうね。如何したのかしら?」

 

 アスナは上機嫌なネギを見て呆れ半分で微笑みを浮かべながらネギを見ていた。まぁ仕方ねぇんじゃねえかとマギはそう言う。

 

「もう少ししたら修学旅行なんだからよ」

 

 そう、あと1週間もすればネギや生徒達が楽しみにしている修学旅行があるのだ。

 

 

 

 3-Aの帰りのホームルーム

 今日は修学旅行の準備期間という事で午前中には下校できるのだ。

 

「えーと皆さん来週から僕達3-Aは京都・奈良へ行くそうですが、もうちゃんと準備は済みましたか!?」

 

『はーーい!!』

 

 ネギはちゃんと準備をしているのか聞くとほとんどの生徒(夕映や千雨とアスナは呆れているが)が元気よく返事をした。

 やはり修学旅行は生徒をわくわくさせる効果があるようだ。

 

「お前らが修学旅行を楽しみにしているのは分かるが、学校の一連行事の一つなんだからな。あんまりハメをはずし過ぎず、問題を起さない様にな。あと浮かれすぎて大事な物とかを忘れるなよ?怒られるのは俺とネギなんだからよ」

 

 とマギが釘を刺すように生徒達に注意するとマギさん心配し過ぎ~やら空気読んでよ~とふざけながらブーイングした。完全に浮き足立っている生徒達にマギはやれやれだぜ…とお決まりのセリフを呟いた。

 …とは言ってもマギも楽しみにしているのはまんざらではないのだが

 

「この学校は人数も多く、修学旅行の目的地は他にもハワイなどの数からの選択式となっていますわ。うちのクラスは留学生も多くネギ先生やマギ先生も日本は初めて。日本文化を学ぶ意味でもクラスの総意で京都と奈良を選択させていただきましたわ」

 

 と委員長のあやかがそう説明してくれた。ネギは喜びながらあやかの手を取り

 

「ありがとうございますいいんちょさん!良いですよね京都!!」

 

 と嬉しそうにあやかの手を握りながらブンブンと揺すった。

 

「そッそんなに喜んでネギ先生…あやか光栄ですわ」

 

 とネギの嬉しそうな顔を見て顔を赤らめながら喜ぶあやか。

 

「楽しみだなぁ修学旅行!早く明日にならないかなぁ!!」

 

 とまるで遠足を楽しみにしている小学生の様だ。と言っても小学生と同じ年代なネギだった。ネギが楽しみにしてるを見て生徒達も笑っているとドアがノックされ、しずな先生がやって来た。

 

「ネギ先生マギ先生。学園長からお話があるそうで今から学園長室に来て下さいとのことです」

 

「あ、はい分かりました」

 

「それじゃお前ら寄り道せずに早く帰れよ。買い物とかは一旦帰ってからにしろよ」

 

 としずな先生から学園長の呼び出しをうけ、ネギとマギは学園長室に向かう事にした。

 

 

 

 学園長室

 

「ええッ!?修学旅行の京都行きは中止!!?」

 

「うむ京都がだめだったらハワイに…」

 

 学園長が言い終える前にネギはショックでフラフラとなりながら膝から崩れ落ちてしまい、京都…と呟き始めた。

 マギは膝から崩れ落ちたネギを見て頬を掻いた。ネギが此処までショックを受けたのは、純粋に京都に行くのを楽しみにしていたのだが、もう一つ理由があるのだ。

 時間を遡る事数日前、偶然出会ったネギとエヴァンジェリンはマギが呪いを解除したという事で和解した。呪いを解除したのがマギだと言うのが分かると、やっぱりお兄ちゃんは凄いやという尊敬の視線を送るネギにマギはちょっと鬱陶しそうにしていた。

 もう狙われることは無くなったという事でネギは普通に接していると話は来週に行われる修学旅行の話になった。と不意にエヴァンジェリンが

 

「坊やとマギの父親のナギの別荘が私達が行く修学旅行先の京都にある。もしかしたらナギの事が何か分かるかもしれんな」

 

 と行方不明のナギの手がかりが京都にあるのだ。未だに何の情報も無かったネギとマギにとっては大きな収穫である。それを聞いてネギとマギは絶対と言っていいほど京都に行きたいと思ったのだった。

 しかし京都行が中止となってしまった今ではマギはともかくネギのショックは計り知れなく、京都の他にお父さん…手がかりが…と呟き始めた。そんなネギを見ていたたまれなく思ったマギは

 

「おいジーさん。何で行き成り京都行を中止したんだよ?何か面倒な理由があるのか?」

 

 と理由を聞いてみると学園長も学園長もううむと唸っていると

 

「ある意味面倒な理由じゃのう。まだ完全に中止しようと決まっていないのじゃ。じゃが京都の方の先方が唸っていてのう」

 

 まだ完全に中止してないと聞き、ネギも何とか立ち直し学園長の話を聞くことにした。

 

「先方って何処ですか?京都市役所とかですか?」

 

 とネギがそう訪ねると、いやもっと大きい組織じゃよと学園長が首を横に振りながら

 

「関西呪術協会、それが先方の名前じゃよ」

 

 聞いた事が無い組織の名を聞いてネギとマギは首を傾げた。学園長は分かっていない2人に説明した。

 

「関西呪術協会とはまぁ簡単に説明すると日本のエクソシストと言った方が早いかのう…話を戻すのじゃが、儂は此処の学園長の他にも関東魔術協会の会長もやっておってのう。関西呪術と関東魔術は昔から仲が悪く対立をしておってのう。悪い話魔法使いを敵視しておる人間もおるのじゃ、それで京都に魔法先生が来るのを嫌がっておるのじゃよ」

 

「ってそれって僕とお兄ちゃんのせいって事ですか!?」

 

「成程な…確かに面倒な話だな。俺とネギがあっちっで問題を起したら最悪対立の溝は深まるっていう事か…」

 

 とネギとマギは知らなかった事情を聞いて驚愕した。そこでじゃと学園長は封筒の様な物をネギとマギに見せた。

 

「この親書を関西呪術協会の会長に渡して欲しいのじゃ。儂自身ももうこんな睨み合いなどしたくないのじゃ。いい加減仲直りをしたいと思っていてのう。ネギ君マギ君済まぬがこの親書を渡す役割を任せてもいいかのう?」

 

 と頼まれた。

 

「分かりました!その役目僕とお兄ちゃんが請け負います!!」

 

「流石にこれ以上面倒な事にはなりたくないからな。しゃあねえけどやってやるよ」

 

 とネギとマギは快く親書を渡す役割を請け負ったのだった。

 

「あぁ因みに親書はネギが持っておけよ。俺の場合グシャってなりそうだし汚れそうだし」

 

「ええッ!?」

 

 因みにマギだと大切な親書が大変な事になりそうだからネギが親書を預かる事になった。あぁそれとと学園長は何かを思い出し

 

「このかの事じゃが、このかには魔法はバレテいないじゃろうな?」

 

 と心配そうな顔でネギとマギに改めて尋ねた。学園長の孫娘であるこのかには魔法の事はバラしてはいけない。大切な孫娘のこのかには魔法世界という危険な世界には関わってほしくないと言う学園長の切実な願いである。

 

「心配すんなジーさん。このかに魔法はバレちゃいねぇよ」

 

(ちょっとまずい事が何回は有ったけどな)

 

 と言いにくい事は心の中で呟いておいた。マギの報告を聞いて学園長はホッと溜息を吐くと

 

「そうか、では親書の件とこのかを頼むぞ2人とも」

 

「はい!」

 

「了解だぜ」

 

 こうしてネギとマギは関西呪術協会に親書を渡すと言う重大な使命を与えられたのだった…

 

 

 

 

 

 下校時刻

 学園長の話も終わり、帰路につくマギとネギ。親書はネギがちゃんと持っている。

 

「しかし何か失敗したらヤバい仕事を頼まれたなメンドイ展開にならないか心配だぜ」

 

 マギは此れから何も問題が無ければいいが…と先が思いやられるかのように深い溜息を吐いた。

 

「確かに大切な親書だけど、絶対成功させようねお兄ちゃん!」

 

 ネギのキリッとした表情を見てマギは真面目だなぁお前はと軽くからかった。

 

「しかし兄貴に大兄貴、前回のエヴァンジェリンといい今回の関西呪術協会の親書といい何か大変な目にあいそうですね。俺っちの勘だと何か大変な事になりそうだから、もっと戦力が欲しいぐらいですぜい」

 

 と今迄黙っていたカモがネギとマギにもっと仮契約をするように言った。カモの勘は良く当たるがしかしネギとマギは大丈夫だろうと言い

 

「ただ親書を渡すだけだし、何も問題は無いと思うよ」

 

「そりゃ流石にねえだろ。あったとしても少しぐらいの嫌がらせ位だろうさ」

 

 とネギとマギは安心しきっていた。

 

 

 

 

 

 しかしカモの勘が当たり、ネギとマギは大変な目にあうと言うのはまだ2人は知らなかったのだった…

 

「まッ今は修学旅行の準備をしなくちゃな」

 

「そうだねお兄ちゃん僕達先生が忘れ物をしちゃ示しがつかないもんね」

 

 とネギとマギも学生寮に戻った。

 

「あぁネギ、俺別の奴と修学旅行の準備の買い物をするからお前はアスナとこのかと一緒に買い物をしとけよ」

 

「え?お兄ちゃん他に一緒に準備をする人が居たの?」

 

 とネギが尋ねるとあぁと頷くマギ

 

「前から約束しているんだよそいつとは。最高な修学旅行にしようってな」

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな遅れた」

 

 私服に着替えたマギは約束した者が居る学園都市内の服屋に今到着した。そしてマギと一緒に買い物をするのが。

 

「遅いぞマギ!何時まで私を待たせる気だ!?」

 

 エヴァンジェリンである。その後ろには何時もの様に茶々丸が付き添っていた。

 エヴァンジェリンが一緒に修学旅行の準備をしようと約束していた者である。マギ自身エヴァンジェリンに最高の修学旅行を送らせるという事で準備から付き添う事にしたのだ。

 

「マスターはマギ先生が来ないか来ないかとソワソワしていたので許してあげてください」

 

「って!余計な事は言わなくていいんだよこのボケロボ!!」

 

 エヴァンジェリンは何時ものように茶々丸に言わなくても良い事を教えて恥ずかしさで顔を赤くしながら取っ組み合いを始め、それをマギは笑って見ていた。

 

「んじゃ行くとするか」

 

 エヴァンジェリンと茶々丸の取っ組み合いが一通り終わったところで、マギ達は修学旅行の準備に必要な物を買いに行くのであった。

 

 

 

 学園都市内の服屋

 今は修学旅行という事で服の値段が半額となっており学生にとっては嬉しい限りである(修学旅行がある学生だけ半額である)。

 修学旅行では私服による自由行動があるので私服をここで購入する学生がほとんどである。

 

「まぁここで服を買うんだが、エヴァは如何いった服が欲しいんだ?」

 

 と尋ねるとエヴァはそうだな…と服を探しだし

 

「これとこういうやつだな」

 

 と黒のワンピースやら黒のミニドレスに黒のゴスロリと全てが黒の服だった。普通の人なら選んだ服の色が全部黒だと少し引くかもしれないが

 

「いいんじゃねえか?金髪のエヴァにはピッタリだし似合うぜ絶対」

 

 とマギは純粋な気持ちをエヴァに伝えた。似合うと言われたエヴァンジェリン自身は

 

「そ…そうか似合うか…そうか…そうか…」

 

 似合うと言われて嬉しそうにするエヴァンジェリン(茶々丸はエヴァンジェリンの照れているのを録画中)は選んだ服を全て購入する事にした。

 

「んで茶々丸は如何するんだ?」

 

 とマギは茶々丸にどういった服を着るのか尋ねると申し訳ありませんマギ先生と謝りながら

 

「私が普段着ている服には耐熱防止用の特殊な素材でできているので普通の服は着れないのです。なので自由行動の時の服はハカセや超さんが造ってくれた服を着ると思います」

 

「そっかまぁ仕方ねぇな。まッハカセや超の事だ茶々丸に似合う服を作ってくれるぜきっと」

 

 とマギがそう言うと、茶々丸は嬉しいですマギ先生と静かに微笑みを返してくれた。エヴァンジェリンはムゥと小さく膨れていたが

 

「さてと俺も何着か服を買っておくかな」

 

 とマギも何着か動きやすそうな服やズボンを購入する事にした。

 さて会計をすることになりいざ購入するという所で、茶々丸は申し訳ありませんマスターとエヴァンジェリンに謝り

 

「財布ですが、一回家に帰った時に財布を置いて来てしまった様で服を購入する事が出来ません」

 

「なに?はぁ…まったくどうしようもないボケロボだな」

 

 とエヴァンジェリンは茶々丸のうっかりさに呆れていた。ともかく財布が無ければ服を買う事が出来ない。

 仕方ないとエヴァンジェリンは一回家に帰って財布を持ってきてからもう一度ここへ来ようとしたが、まぁ待てとエヴァとマギが呼び止めた。

 

「お前の服位俺が買ってやるよ」

 

 とマギがエヴァンジェリンの服も一緒に買ってやるとそう言った。エヴァンジェリンはいいのか?と尋ねるが別にいいってとマギは笑いながら

 

「最高の修学旅行にしてやるって言っただろ?こんな時ぐらい好意に甘えろって」

 

 とマギはそう言ってエヴァンジェリンの服と自分の服を一緒に会計に出した。そして会計が出るとマギはお金を出して購入したのであった。

 服屋を出てエヴァンジェリンは自分の服が入った袋を大事そうに抱えていた。

 

「ありがとう…マギ。この服は大事にする」

 

 とマギにお礼を言った。マギは別にいいってと笑いながら

 

「たかが服を買っただけだろ?大げさだな」

 

 と言うと大袈裟じゃないとエヴァンジェリンはマギを見ながら言った。

 

「吸血鬼になって誰かに物を買ってもらったのって多分初めてだから…」

 

 とそう呟いたエヴァンジェリン。マギはエヴァンジェリンを見て一瞬呆然としてしまったが、次の瞬間にはエヴァンジェリンの頭に手を置いて優しく撫で始めた。

 

「そうか。だったら大事にしろよ?俺がお前にプレゼントした第1号なんだからな」

 

 ニッと笑いながらエヴァンジェリンに言う。

 

「あぁ一生大事にするぞ」

 

 とエヴァンジェリンもマギに笑い返した。そんな2人を茶々丸は微笑みながら眺めていた…ちゃんと録画を忘れずに。

 

 

 

 

 

 服の他にも色々と必要な物を一通り買ったところでエヴァンジェリンと茶々丸が帰路に着くという事で送る事にしたマギ。

 

「そう言えば坊やとマギはジジィに呼ばれていたが、何の話だったんだ?」

 

「あぁジーさんの話なんだけどよ実はなかくかくしかじかなんだよ」

 

 と関西呪術協会と関東魔法協会の仲が悪い事や関西呪術が今回の京都行に難癖を付けている事。ネギとマギが親書を関西呪術協会に親書を渡す大役を任された事などを話した。

 話を聞いたエヴァンジェリンはふむ…と何かを考えていた。如何したんだよエヴァ?と何を考えているのか尋ねてみると

 

「ジジィから聞いてはいないのか?今の関西呪術協会の長の名は近衛詠春。近衛木乃香の父でありお前の父ナギとの親友だ」

 

 エヴァンジェリンが言った事にマギは思わずはぁ?と間抜けな返事をしてしまった。

 

「このかの親父さんが関西呪術の長でクソ親父とダチだったのにも驚きだけど、そんな人が関東魔法と仲が悪いのか?ジーさんとこのかの親父さんって仲が悪いのか?」

 

 と実際の所どうなのか聞いてみるといや仲はいい方だ。と首を横に振って否定するエヴァンジェリン。

 

「恐らくだが、今回の京都行に難癖を付けているのは過激派の一部じゃないか?」

 

 過激派?マギが首を傾げる。

 

「たとえばだ。近衛木乃香の父である詠春が穏健派だとする。その京都行に難癖を付けているのが過激派なんだろう」

 

「その過激派は何でそこまで魔法使いを敵視しているんだ?」

 

 恐らくだがとエヴァンジェリンは真剣な顔でマギを見た。

 

「ただ魔法使いが気に入らないのかそれとも…魔法使いに大切な者や愛する者を殺されたか」

 

 それを聞いてマギは固まってしまった。ただ魔法使いが気に入らないと言うのはまだ大丈夫だ。しかし魔法使いに大切な者愛する者を殺されたかというのはかなり心に響く。

 魔法使いには良い魔法使いだけではない。人の大事な物を平気で奪う悪い魔法使いだっている。若しかしたら関西呪術の中にはそう言った大切な者を奪われた者も居るのだろう。

 気が付けばもうエヴァンジェリンの家に到着していた。エヴァンジェリンは今日はありがとうとマギにお礼を言って家に入ろうとすると振り返り。

 

「マギ、若しかしたら今回の修学旅行お前達が思っている物より大変な事になるかもしれん。坊やは浮かれているであろうが、用心しておけ」

 

 それだけだ。と言って茶々丸はマギにお礼を言ってエヴァンジェリンと一緒に家の中に入って行った。

 

 1人になったマギはハァと溜息を吐きながら寮へと帰る事にした。先程のエヴァンジェリンの用心しろという言葉が暫くは頭から離れそうになかった。

 

「ったく面倒な事になりそうだな…やれやれだぜ」

 

 と言いながらマギは久しぶりにタバコを口に咥えて火をつけた。そして煙を吸い、口から煙を出した。そしてポツリと呟く

 

「タバコってこんなに苦かったっけ?」

 

 久しぶりに吸ったタバコは何故か苦く感じたのだった…

 

 

 

 




今回は前半は原作通りですが、後半はオリジナルです
それと原作では456巻が修学旅行の話だったのですが、全部4章で纏めてしまいます。

感想とかお待ちしています


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surprise

今回のサブタイトルは英語ですが
日本語訳はサプライズです。
それだけです。
それではどうぞ


 修学旅行が3日後に迫った日曜日、マギは現在渋谷に来ていた。

 

「なんで俺がこんな所に居るんだか…日曜日だし一日ゴロゴロしてようと思ってたのによう…ふぁ~」

 

 と渋谷で有名な犬の銅像前でマギは大欠伸をしていた。マギが外国人という事で道行く女性がマギをチラチラと見ながら去って行った。マギは女性の視線に気づいておらず首をコキコキと鳴らしていた。

 実はマギが渋谷に来たのは有る理由があった。それは

 

「…すまない、またせたな」

 

 マギの前方から声が聞こえ、顔を上げてみると、日曜の人混みがモーセの海割れの如く割れてその声の主が見えた。

 

「いや、全然待っていないぜ」

 

 待ち合わせをしていたのはエヴァンジェリンだった。なぜマギとエヴァンジェリンが待ち合わせをしていたのかというと、マギは今日買わなければいけない物があり学園都市内の店では良いものが無かったために、都会まで出て買おうとしたらエヴァンジェリンに会い、なんでも今日一日ヒマなため、マギが都会まで出て買い物をすると教えるとエヴァンジェリンは

 

「だったら私も付き合おう。先に行っててくれ、私は後から行く」

 

 とエヴァンジェリンと一旦別れて今に至るのだ。

 

「しかし茶々丸が居ないエヴァを見る事なんてあんまりないな」

 

 とマギが言う様に今エヴァンジェリンのパートナーである茶々丸が居ないのだ。

 

「あぁ…なんでも修学旅行前だから何か問題が起こらないために超とハカセがメンテナンスをするそうだ」

 

 と茶々丸はもうすぐ修学旅行という事で、超とハカセが何か問題が無いようにとメンテナンスをすることになったのだ。

 

「という事は今日は俺とエヴァの二人っきりと言うわけか」

 

 二人きり問い言葉にエヴァンジェリンは急に意識し始めて、顔を赤くして俯いた。

 

「そッそうだな!二人っきりってま…まるで…」

 

 デートみたいだな…と言えず小さな声で呟いた。マギにはエヴァンジェリンの呟きが聞こえず首を傾げ

 

「何ブツブツ言ってんだ?無駄話なんかしてないでさっさと行こうぜ。メンドイ事はさっさと終わらせたいからよ」

 

 とマギが先に歩き出した。マギがさっさと行ってしまったのを見て、急に冷めてきてムードの無い奴め…とムゥと剥れながらマギを睨んだ。

 

(無愛想な所はナギには無かったな…)

 

 と昔の想い人を思い出してハァと溜息を吐くと、マギを追いかけて並びながら一緒に歩いた。周りの人たちは見少し離れながらマギとエヴァンジェリンを眺めていた。

 

「そういえば、エヴァ此処まで一人で来たんだよな?迷わなかったのか?」

 

「ばッバカにするな!こんな待ち合わせなど一人でも大丈夫だ!!」

 

 …とは言っているが、本当は茶々丸に行く前に簡単な地図を渡され、途中迷い駅員に道を教えてもらった事は言えるわけが無かったのである。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 渋谷の何処かにあるコーヒーショップにて和美が深い溜息を吐いていた。

 彼女は麻帆良学園の報道部であり『麻帆良のパパラッチ』と呼ばれている。彼女は常にカメラを持っており、スクープを探している。

 彼女の目標は世間をアッと驚かせるスクープを撮る事である。その為なら体を張る事を躊躇わない…が

 

「全ッ然スクープが無い…」

 

 和美が疲れた様に言いながら頼んでいたもう温くなってしまったコーヒーを飲んだ。そう彼女がこう言っているのは麻帆良で面白そうなスクープが無かったために都会まで来てスクープを見つけようとしたが、数時間もかけて探したのに面白そうなスクープが全然見つからなかったのである。

 もう帰ろうかと思い、席を立ったその時和美の目の前にある者が写った。最初は落ち込んでいてボーッと眺めていたのだが、次の瞬間には脳が一気に覚醒し本能的にその光景をカメラに抑えた。

 

「まさかこんな所で思いもよらないスクープを手に入れるなんて…帰ったらさっそく学園新聞に載せないと…」

 

 和美はニヤリと笑いながらスクープをとれたことに喜んだ。

 

「もう少しついていけばもっと面白いものが獲れるかも…」

 

 と和美は写真を撮った者の後を追う事にした。あッそうだと何かを思い出し

 

「せっかくだしアイツに今撮った写真を送ってみようっと…さてさてどういった反応をしてくるさね?」

 

 と和美はアイツと呼んだ者へさっき撮った写真のデータをメールと一緒に送信した。和美が言ったアイツとは誰なのだろうか?

 

 

 

 所変わって女子寮のとある部屋

 

「あぁぁぁ!締め切りに間に合わない~~~~!!」

 

 ハルナがそう叫びながら一心不乱に何かを描いていた。

 ハルナは漫画研究会にも所属しており、彼女の漫画は一部の人に大人気なのである。さっき言っていた締め切りと言うのは漫画の締め切りであり、その締切が修学旅行の前日の午後の12時まで。

 しかし彼女は現在半分も終わっておらず更にどういった話を描けばいいのか全く思いつかずお手上げ状態である。と

 

 

 

 ピピピピ!

 

 

 

 メールの受信音が聞こえ、ハルナは携帯を手に取り誰からか見た。誰から見てみると宛先人は和美だった。

 

「朝倉?アイツ行き成りなんでメールを寄越してきたのよ?何々『渋谷で面白いものを見たさね。早乙女が絶対に気に入る事間違いなし』?何よこれ。私が今忙しいのを知ってるくせに冷やかしかしら?って写真まで寄越してきて何なのかしら?」

 

 そうブツクサ言いながらメールと一緒に来た写真のデータを開いてどういった何が写っているのか見てみると

 

「こッこれは!!?」

 

 ハルナは目を見開き、思わず椅子を倒しながら立ち上がり、写真をまじまじと見ていた。もう締切などそっちのけで

 

「のッのどか~~!!」

 

 のどかの名を叫びながら部屋を飛び出した。のどかを探すのはわけなく、今日は外で夕映と一緒に本を読んでいるという事で寮の庭で読書をしていた。

 

「のッのどか大変よ!!」

 

 ハルナはのどかの名を呼びながら大変だと叫んだ。

 

「どッ如何したのハルナ?」

 

「大変そうなのはどちらかと言うと貴方です。漫画の締め切りは大丈夫なんですか?」

 

 のどかはハルナを見ながら冷や汗を流し、夕映は呆れたような目でハルナを見ていた。

 

「全然大丈夫じゃないしどちらかと言うと間に合わない!って私の事はいいのよ!と言うよりのどか!」

 

 とハルナはのどかの肩を掴んだ。

 

「今から私が見せる物に動揺したりショックを受けたりしないでね!?」

 

「う…うん分かったけど如何したの行き成り?」

 

 のどかはハルナが言っていることがよく分からなかったが、ハルナが此れよ!と言いながら自分の携帯を見せた。携帯には先程送られた和美の写真があった。その写真とは渋谷の街並みにマギとエヴァンジェリンが仲良さそうに?歩いている写真だった。

 

「え?」

 

 のどかは行き成り想い人であるマギがエヴァンジェリンと一緒に渋谷にいる事について行けずに固まってしまった。

 

「何ですかこれは?何故マギさんがエヴァンジェリンさんと一緒に渋谷に居るのですか?」

 

 固まったのどかの代わりに夕映がハルナに聞いた。ハルナはさぁ?と詳しい事はメールに書いてなかったからよく分からないが

 

「でもこれだけは分かるわ。この画像からも滲み出ているラブ臭…間違いなくエヴァちんはマギさんに気がある!」

 

 そしてのどか!とハルナはのどかを指差した。指を差されたのどかはビクッとしながらもなッ何?とハルナが次に何を言うか待っていたが、ハルナが次に言った言葉はのどかに衝撃を与えた。

 

「エヴァちんは明らかにマギさんをめぐる脅威になるわ!!」

 

「きょッ脅威!?」

 

 ハルナの言った事にのどかの体に衝撃が走るのを感じた。

 

「考えてみなさいよのどかは完璧純情少女、対するエヴァちんはツンデレ少女。純情とツンデレは相対する者!それ世界の常識!!」

 

 とハルナは力説し、そして!と拳を握りながら

 

「はっきり言ってのどかは物事をはっきり言えない所があるけどエヴァちんは言いたい事はハッキリ言うタイプ。このままだとのどか、マギさんエヴァちんのものになっちゃうわよ!」

 

「えう!?」

 

 のどかはハルナの言った事にショックを受けたのか、短い悲鳴を上げた。だから!ハルナは何かを決意したように

 

「今から渋谷に行ってマギさんとエヴァちんを探して動向を観察して隙あれば邪魔もとい偶然会ったように装うのよ!!」

 

「うッうん!」

 

 ハルナの提案にのどかは同意した。やはり想い人が他の人とくっ付くのは嫌だ。エヴァンジェリンには悪いがマギは渡したくないのだ。

 

「まぁ私ものどかの恋を応援すると約束しましたから手伝いますけど、ハルナ貴女は漫画の締め切りは大丈夫なんですか?確か明日の午後の12時までと聞きましたが」

 

 と夕映が言うとう!と固まり汗を滝のように流すハルナ。

 

「だッ大丈夫よ!帰ってきてから死ぬ気でやればいいし、徹夜もすれば間に合うわよ!!」

 

「ハルナ貴女って人は如何してそう無計画なんですか…」

 

 夕映はハルナの無計画さに呆れているのだった。という事でのどか達も渋谷に向かう事になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 渋谷に戻りマギとエヴァンジェリンは渋谷の街を探索していた。

 時々服屋とか本屋にアクセサリーショップを見て回ったりして、他には路上ライブを聞いたりした。小腹が空いてクレープ屋でマギがクレープを2つ購入しエヴァンジェリンと一緒に食べたのだが

 

「…」

 

「なぁ機嫌直せよエヴァ。俺が悪かったって」

 

 エヴァンジェリンが顔を真っ赤にしてマギと目を合わせようともしなかった。マギは悪かったと謝っているが、ごめんで済むか!とエヴァンジェリンが怒った。

 

「マギ!お前私のほっぺにクリームがついてたからって、何も言わずに私のほっぺに指でなぞってあまつさえ取ったクリームを自分で食うなんて周りに人がいたのにお前には羞恥心が無いのか!?」

 

「だから悪かったって言っているだろ?お前の頬にクリームが付いてるって言うのも面倒だし、食わないともったいないと思ってよぉ」

 

「ついてるぐらい言うぐらい分けないだろうが!それに私に付いているクリーム位私が食べるわ!!」

 

 如何やら顔を赤くしていたのは羞恥によるものだったようだ。

 

「わびとして俺のクレープやるからよ機嫌直せって」

 

 とマギは余り食べていないクレープをエヴァンジェリンに渡した。行き成りマギが食べていたクレープを渡されエヴァンジェリンは黙ってしまった。

 

「あ、やっぱ食いかけのクレープなんて嫌だよな?悪い今から新しいの買ってくる」

 

 と新しいクレープを買いに行こうとするとエヴァンジェリンは

 

「いい、これを食べる」

 

(それにマギが食べたクレープだし…か間接キ…)

 

 と急に恥ずかしくなり、黙ってクレープを食べ始めた。だが数秒にはにっこりと笑いながら

 

「おいしい」

 

 とそう呟いた。マギは態度が急変したエヴァンジェリンを見て頬を掻きながら

 

(怒ったと思ったら今度は上機嫌になる。女とは面倒でよく分からないもんだな)

 

 とそう思った。しかしまぁエヴァの機嫌が良くなったし良いとするかと思ったマギ。 しかし…とマギはそう呟いて辺りをキョロキョロと辺りを忙しなく見ていた。如何もさっきから誰かに見られている感じがするのだが

 

「まぁいいか、別段気にする事はねぇだろうし」

 

 マギがそう結論づけた。丁度クレープを食べ終えたエヴァンジェリンは如何したと尋ねたがマギは何でもねえよとそう返しまた渋谷の街を歩きはじめた。

 でマギを見ていた者達はと言うと

 

「う…うわぁマギさん大胆すぎっしょアレ」

 

「あ…あうあう」

 

 マギの行動に呆れながらも見ていたハルナともう目を回してそれどころじゃないのどかである。

 和美に合流したハルナとのどかに夕映は和美が尾行していたマギとエヴァンジェリンの後を追っていたのだが、服屋によったり本屋で本を購入したりアクセサリーショップで何か買っていたしあまつさえクレープ屋でクレープを買って一緒に食べ止めにエヴァンジェリンの頬についていたクリームを何も言わずにとって食べたのだから。

 

「もう何マギさんのさっきのアレ!まるで付き合ってる同士の感じじゃん!?私がこんな事を知らないわけないじゃない!」

 

「もうあれを見るとマギさん素でやってるさね。というか素であんな事されたら逆に腹が立つね」

 

 とハルナと和美がそうマギを突っ込んだ。

 

「と言うよりも早くマギさんにあった方が良いです。のどかもう意識が朦朧とし始めたです」

 

「アハハ…マギさん…フフフ」

 

 夕映の言う通りのどかが目の前の光景で茹蛸状態で目を回していた。流石にこれ以上はマズイと判断したハルナはマギに直接接触する事にした。

 

「マギさ~ん!!」

 

 さりげなくマギに会ったようにそう大声でマギの名を呼ぶハルナ。自分の名を呼ばれてマギは立ち止まり振り返ると其処にはのどかにハルナに夕映に和美が居た。

 

「おぉお前らか、こんな所で会うなんて奇遇だな」

 

 とマギはのどか達にそう言った。ハルナもいや~奇遇だよね~と話を合わせた。とマギはジーッとのどかを見ていた。のどかはマギに見られて恥ずかしいのか顔を真っ赤にしていた。のどかをジーッと見終えうんと頷くと

 

「やっぱのどかの私服姿を見た事無いから何か新鮮だな。似合ってるぞ」

 

「はッはう!!」

 

 マギに似合っていると言われのどかは又しても顔を赤くしてしまった。倒れそうになったのどかを夕映が何とか支える。これ以上はのどかがマズイと思い、ハルナは本題に切りだした。

 

「そう言えばマギさんとエヴァちんってさっきから仲良いね。もしかして付き合ってんの?」

 

「なッなぁ付き合って!?」

 

 ハルナが付き合っているのかと尋ねるとマギの代わりにエヴァンジェリンが狼狽する。

 

「さっきから仲良いってまるで俺とエヴァの後をついていったって感じだな」

 

「あッしまった!私としたことがうっかり!」

 

 ハルナは自ら墓穴を掘ってしまい慌てだした。変に言い訳すると余計面倒な事になると考えた和美が

 

「それは私がマギさんとエヴァンジェリンの後を付けていたからさこれがその証拠の写真」

 

 と和美がマギとエヴァンジェリンに先程までの写真を見せてあげた。それにはマギとエヴァンジェリンの今迄の出来事が写っていた。クレープの場面もバッチリと

 

「おいおいこんなの撮っていたのかよ。暇な奴だなお前は…」

 

「…」

 

 マギは和美のやっていることに呆れて、エヴァンジェリンは自分が写真に写っており恥ずかしさのあまり黙っていた。その間に和美は自前のマイクを取り出しさあさあ!とマギにインタビューし始めた。

 

「単刀直入に聞くけど、マギさんとエヴァンジェリンは付き合ってるのか。そこの所どうなの?」

 

 和美のインタビューにマギはしれっと

 

「いや俺とエヴァは付き合ってねえぞ。今日の此れだって俺は今日目的があって此処に来ただけだし、エヴァは暇だから一緒に来ただけだってイテッ!?行き成り何すんだエヴァ!」

 

「ふん…(少しは気にしてると言え馬鹿者が…)」

 

 マギが付き合っていないとハルナ達にそう言うとエヴァンジェリンが黙ってマギの脛を蹴った後にそっぽを向いた。マギの付き合っていないと言う発言にのどか以外は唖然としてしてしまい

 

「えっともう一回確認するけどマギさんはエヴァちんと付き合っていないんだね?」

 

「あぁだから言っただろ?付き合っていないって。もし付き合うとしたらちゃんと節度を持った付き合いをするって」

 

 マギのその発言にハルナはホッとした。とりあえずはのどかにも希望があるという事だ。のどかもそれを聞いてホッとしたようだ。

 

「なんだ付き合ってないんだ…だったら『マギ先生エヴァンジェリンさんと交際中!』って新聞の一面を飾ろうと思ったのに」

 

「おい止めんか。そんな事になったらメンドイ展開になるのは目に見えてるだろうが」

 

 と和美が不吉な事をやろうとしていたからマギは全力で止めた。

 

「それで話を戻すけど何でマギさんは渋谷に来ていたの?」

 

 とハルナは何故マギが渋谷に来ていたのかを尋ねた。その質問にあぁそれはと答えた。

 

「明日アスナの誕生日じゃねえか。だけど明日は月曜だからって事で今日アスナを祝ってやろうと思ってよ」

 

 マギの答えに数秒だけハルナと和美が黙っていてあぁそう言えば!と思いだしたようだ。

 

「そう言えば明日は明日菜の誕生日じゃん!」

 

「いや~修学旅行で浮かれていたからすっかり忘れていたよ~」

 

「お前ら仮にも同じクラスだろうが…」

 

 とハルナと和美の能天気さにマギは呆れたような溜息を吐いた。

 

「という事はマギさんはアスナさんのプレゼントを買うために此処まで来たとそう解釈してよろしいんですね?」

 

 夕映の質問にあぁそうだぞと答えた。

 

「だがまぁあんまり女子にプレゼントあげるって事が無くてな。無難にアクセサリを上げようと思ったんだが大丈夫かと思ってよ」

 

 とマギがそう言うと夕映はいいんじゃないでしょうか。と夕映はそう言った。

 

「それじゃ私達も何かアスナさんに何かプレゼントするです」

 

 夕映の提案でハルナや和美もアスナに何かプレゼント買う事にした。のどかとエヴァンジェリンとアスナにプレゼントを買ってやろうとしたらマギに呼び止められた。

 

「何ですかマギさん?」

 

「話だったら早く済ませろ。私も仕方なく神楽坂明日菜にプレゼントを買うんだからな」

 

「まぁちょっと待ってくれよ」

 

 とマギはプレゼント用に包装された者を2人に渡した。のどかとエヴァンジェリンは何かと思ったが、いいから開けてみろってマギは2人にそう言った。マギに言われ包装紙を開けてみると

 

「これ前から欲しかったけど私のお小遣いじゃ買えなかった本…!」

 

 のどかには本。エヴァンジェリンには

 

「さっき私が見ていたイヤリング…」

 

 とエヴァンジェリンが途中で見ていたイヤリングだった。のどかとエヴァンジェリンは如何してこれを買っていたのかとマギにそう訪ねた。

 

「いやさのどかには何時もほんの話題で盛り上がってたし偶に本を貸してくれたれたしよ、前に欲しかった本が有るけど自分じゃ買えないって諦めていたからさ、何時も話に付き合ってくれたお礼としてな。エヴァにはまだあの時助けてくれたお礼をまだしてなくてよ。今日アクセサリーショップでそのイヤリングをジーッと見てたからよ。もしかして欲しいんだと思ってさ。んじゃお礼も込めてプレゼントするかと思ってな…もしかして迷惑だったか?」

 

 とマギはもしかして迷惑だと思い、のどかとエヴァンジェリンにそう訪ねたがのどかとエヴァンジェリンは首を横に振った。

 

「いえ!覚えてくれていて嬉しいです!この本大事にしますから!!」

 

 と本当にうれしいのかニッコリと笑いながらマギにそう言うのどか。

 

「ふん私を物で喜ばせようとするとは何とも馬鹿馬鹿しいものだな…まぁ仕方なく受け取ってやるか。仕方なくだぞ」

 

 エヴァンジェリンはそっぽ向きながらもプレゼントを受け取った。それでも口は笑っていた。プレゼントが気に入ったようで一安心したマギは

 

「んじゃアスナのプレゼントを買おうか」

 

 とのどかとエヴァンジェリンもアスナのプレゼントを買いに行ったのだった。

 

 

 

 

 

 アスナへのプレゼントを一通り買ったマギ達は、ネギから携帯へと連絡を受け如何やら今アスナがネギと一緒に居るのだそうで、マギ達もネギが居るであろう場所へと向かった。

 ネギが居る場所はマギが居る場所とさほど変わらずものの数分で辿り着いた。其処にはネギとアスナの他にこのかやあやかに、美砂桜子円とまほらチアリーディングの3人も居た。

 

「アスナとネギが此処に居るのは分かるが何でこのかやあやかにチア娘3人組が居るんだ?」

 

 とマギがそう訪ねるとネギが

 

「このかさんにはアスナさんのプレゼントを一緒に考えてもらうために一緒に居たんだけど、いいんちょさんと美砂さんと桜子さんと円さんが此処に居るのはどうしてだろう?」

 

 とネギも何故あやかと美砂たちが此処に居るのか分からなかった。マギはあやか達に聞こうとしたら

 

「あッあ~あたし達もアスナに誕生日プレゼントと思ってさあ!これプレゼント!!」

 

「この服ペアルックねこのかと着てあげて!」

 

「ダンベル、これで鍛えな!」

 

 と美砂たちはアスナに次々とプレゼントを渡して行った。アスナは呆然としながらもありがとうとお礼を言った。

 

「そう言えば何でマギさんやエヴァンジェリンさんが此処に居るの?」

 

 桜子がマギ達が此処に居るのかを尋ねた。

 

「俺達もアスナにプレゼントがあるんだよ。ネギはオルゴールだって聞いたからな、無難にネックレスだ」

 

「わッ私はカワイイ靴を」

 

「私からは時計だ。お前はもう少し時間を気にして動け」

 

「私はブレスレッドです。このブレスレッドには幸運を呼ぶ力があるです」

 

「私は恋愛の特集本。これ読んで女子力を上げな」

 

「私からはアンタの好きなアーティストのアルバムさね」

 

 とマギからはネックレス。のどかは靴でエヴァンジェリンは時計。夕映はブレスレッドでハルナは恋愛の本。そして和美はアスナが好きなアーティストのアルバム。

 こんなにも沢山のプレゼントを貰ってアスナはとても嬉しいのかニッコリ笑いながらも

 

「ありがとうネギ…マギさん皆…アタシ今とっても嬉しいよ」

 

 とうれし涙を流していた。うれし涙を流しているアスナを見てネギ達も上手くいったと喜んだ。

 

「そうだ!せっかくだしこのままカラオケに行ってアスナの誕生日パーティーやろうよ!」

 

 と桜子の提案にほとんどの者が賛成し、そのままカラオケに行くこととなった。

 

「フフ…友情とはこんなにもいいもんなんすねぇ…」

 

 今迄アスナの肩に乗っていて黙っていたカモがそう呟いたのだった。

 その後カラオケだが門限もあるため7時にはお開きとなったが、皆楽しくカラオケで熱唱していた。アスナ笑顔が何時もよりも笑っている気がしたネギとマギであった。

 こうして、アスナの誕生日パーティーは無事に終わったのであった。

 

 

 

 




遂に次回は修学旅行の話です
楽しみにしていてください


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新幹線大パニック

今日は特に書く事はありません
それではどうぞ


 4月の22日の火曜日の早朝5時半。そう今日は待ちに待った修学旅行の初日である。

 

 

 

 ジリリリリリリリリッ!!

 

 

 

「おはようございまーす!!!」

 

 ネギは目覚ましが鳴る前から起きており、目覚ましが鳴った瞬間に即座に目覚ましを止め、瞬時に寝巻きを脱ぐと素早い速さでスーツに着替えて、リュックサックを背負い何時ものように杖を担ぐ。

 

「やっほ~!今日は待ちに待った修学旅行だ~~~!!」

 

 ネギは満面の笑みであった。よっぽど楽しみにしていたのだろう。その笑顔からでもそう感じられる。まるで小学生のはしゃぎよう…と言ってもネギは歳で言うと小学生だから当然か。

 ネギとマギは教師であるために生徒よりも早く集合しなければいけないのだ。

 

「アスナさんこのかさんお早うございます!!今日から修学旅行ですよ!ちゃんと起きて遅刻しないでくださいね!!」

 

 と寝ぼけているアスナとこのかにそう言うがアスナはネギのはしゃぎように軽く鬱陶しがっており、このかはネギ君はりっきてるやね~と寝ぼけながらそう言った。

 

「でもマギさんはきつそうやね~」

 

 とこのかがそう言う様にマギの今の状態は

 

「ったく…たかが修学旅行で浮かれるなんてガキっかつうのzzzzz」

 

 コーヒーを飲んで眠気を覚まそうとしているマギだがその効果は薄いようでまだ半分寝ている状態だった。そんなマギを見てアスナとネギが苦笑いを浮かべていた。

 このかがネギとマギに途中で食べられるようにおにぎりを作ってあげた。アスナはネギの浮かれ具合に心配しており、しおりや保険証と着替えを持ったか確認した。

 ネギはしおりや保険証は昨日準備しており、着替えなどはマギのスーツケースに自分のとマギの着替えを入れているので問題は無い。忘れ物も無い。

 マギは先程言ったようにスーツケースと麻帆良に来た時に持ってきたギターケースを肩に下げた。マギの方も準備完了だ。

 

「それじゃお先に行ってきまーす!」

 

「ん…先にな」

 

 ネギは元気よく、マギは欠伸をしながら寮の部屋を出て行った。ネギが楽しみしている修学旅行。これが如何いう展開になるのかまだ分からずじまいだった…

 寮を出て、駅に向かうネギとマギ。ネギは楽しみでウキウキとしていた。

 

「でも本当に楽しみだなぁ~日本の古都で有名な京都と奈良に五日間も行けるなんて。修学旅行は何て素晴らしいんだろう!」

 

 と浮かれているマギにしかし兄貴とカモが釘をさす。

 

「関西呪術の長への親書もあるし、油断しないでくださいよ」

 

「うん分かってるよカモ君。父さんの住んでいた家ってのも探したいしね!」

 

 とそんな話をしている間にも駅にたどり着き、ネギとマギは電車に乗った。

 

「こりゃ就任以来最高に忙しくなるぞー!!」

 

 とネギは半分ほど旅行気分が抜けてい無いようだ。しかし…マギは電車に乗った時からエヴァンジェリンが言っていた言葉を思い出していた。

 

 

 

 ――――――マギ、若しかしたら今回の修学旅行お前達が思っている物より大変な事になるかもしれん。坊やは浮かれているであろうが、用心しておけ――――――

 

 

 

(エヴァの言う通りネギの奴浮かれているな。って事は浮かれる担当はネギで警戒するのは俺ってか?…たく最近の俺は貧乏くじを引くのが多くないか?やれやれだぜ…)

 

 とマギは深い溜息を吐いた。ネギはマギの溜息を聞いて如何したのお兄ちゃん?と尋ねてきた。

 

「ん?ああ別に深い意味は無いぞ?ただあんまり浮かれすぎるなよネギ。俺達は先生なんだからな」

 

「うん!生徒の皆が怪我とか問題が無いように先生の僕達がしっかりとしないとね!」

 

 とネギがグッと拳を握りながらマギにそう言った。マギはネギにちゃんと分かってるじゃねぇかと言って笑いながらネギの頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 埼玉県大宮駅

 京都奈良行きの生徒達は集合場所は大宮駅となっておる。しずな先生や新田先生瀬流彦先生の他にも、見ると3-Aの生徒がちらほらと見えた。

 

「皆さんお早うございまーす!」

 

「おはようさん。早いなお前ら」

 

 ネギとマギは先に来ていた先生や生徒達に挨拶をした。

 

「おはようネギ先生マギ先生」

 

「ネギ君マギさんおはよー!!」

 

「待ちきれなくて始発で来ちゃった!」

 

 しずな先生と先に来ていたハルナとまき絵がそう挨拶を返した。

 

「ネギ君京都楽しみだね!」

 

「ハイ!そうですねまき絵さん!」

 

 まき絵がそう言い、ネギは同意した。まき絵とネギは精神年齢が一緒なのだろう。同じぐらいのはしゃぎ様だった。

 

「なんで揃って枕なんか持ってんのアンタら?」

 

 と裕奈が枕を持ってきていたのどかと夕映と亜子に呆れたように尋ねていた。

 

「実は枕が変わっちゃうと寝られないから…」

 

「なのでmy枕持参です」

 

「おー仲間やな」

 

 とこの3人は枕が変わってしまうと寝られないようだ。

 

「へぇお前らもそうなんだ。俺も枕が変わっちまうと眠れねぇから自分の枕持ってきたぜ」

 

 とマギもmy枕を持参しているようだ。

 

「おや、マギ先生も枕が変わってしまうとよく眠れないのです?」

 

 と夕映がそう訪ねるとあぁそうだなと頷く。

 

「ホテルの枕って変に固かったり柔らかすぎる枕があるだろ?ああいうのは気持ち悪くて落ち着かねぇんだよな」

 

「まッマギさんもそうなんやウチもそうなんよ!」

 

「マギさんと考えが同じなんて嬉しいです…!」

 

 マギに気がある亜子とのどかはマギとmy枕を持ってくる理由が同じで嬉しそうだった。ネギとマギにそれから先に来ていた生徒達は他の生徒達が来るまで雑談をしていたが

 

「…」

 

 ネギとマギを誰かが陰から見ていた事に気づかなかったのである。

 集合時間が近づいて来ると生徒達がぞろぞろと集団で一気にやってくる。大宮駅はたちまち麻帆良の生徒で一杯になった。京都に行くのはA組の他にも何クラスかあるので自分のクラスかどうかを確認する生徒もちらほらいる。

 数分後にはちゃんと集まる場所に集まった生徒達。新幹線の乗車時間もあるので挨拶などは軽く済まされた。

 

「ではまず最初に3-Aの生徒達からクラスの班ごとに点呼をとってからホームに向かいましょう」

 

 しずな先生の指示によりまず最初にAから新幹線のホームに入る。

 

「では1班から6班までの班長さんお願いします!」

 

「新幹線に乗るまで勝手な事をすんなよ。面倒な問題を起こすなよ」

 

 3-Aと書かれた三角の旗を持ったネギといつも通りなマギが3-Aの生徒達を新幹線のホームへと誘導した。

 

『JR新幹線あさま506号車京都行き、間もなく発射しますのでしばらくお待ちください』

 

 駅のアナウンスが聞こえ、生徒達は新幹線の中に入って行った。さてどのような班になっているのか見てみよう。

 

 先ずは1班

 

「おい風香、3-Aはこっちだぞ」

 

「この双子と一緒だとうるさそー」

 

「いいじゃん楽しそうだし」

 

「ネギ君マギさん一昨日の誕生会楽しかったね!」

 

「はい、またカラオケに誘ってくださいね」

 

「え~ネギ先生とマギお兄ちゃんと遊んだんですか?ズルいな~」

 

 風香と史伽の双子と美砂に桜子と円のチア3人組が1班である。

 

 次に2班

 

「3個で360円です」

 

「何処でも肉まん売ってるのね…」

 

「美味でござる」

 

「春日さんも肉まん食べますか?」

 

「(イギリスにも肉まんを広めてやるネ)」

 

「ネギ坊主マギさん、引率大変アルね。これ食うと力が出るアルよ!」

 

「すいません古菲さん。僕さっきおにぎり食べたので今は大丈夫です」

 

「だったら俺にくれないか?握り飯だけじゃ物足りなくてな」

 

「(この中国娘二人組は出来るっすね!)」

 

 美空に五月と楓にハカセと超に古菲が2班である。

 

 お次は3班

 

「ささネギ先生此方にどうぞ!グリーン車を借り切っておりますのでそちらでゆるりとおくつろぎを。ご一緒しますわ」

 

「ちょいいんちょさん!僕まだ仕事が…!」

 

「おーいあやか出発早々問題を起こすなよネギとマギさん仕事増えるから。メンドイ仕事増えるから」

 

「まぁあやかったら」

 

「はいはーい。いいんちょ昼間から犯罪行動に走らないでねー」

 

「うわビックリした」

 

「…(シャカシャカ)」

 

 あやかに千鶴、夏美と和美に千雨が3班である。

 

 まだまだあるよ4班

 

「乗る前に酔うなんてホントに弱いんだな」

 

「…大丈夫なのか?」

 

「ありがとアキラ。けどちゃうねん肉まんが美味しすぎて食べ過ぎてもうた」

 

「おいおい大丈夫か亜子?保健委員のお前が真っ先にダウンしたら駄目だろうが」

 

「とりあえずお水買っておこうか?」

 

「ネギ君自由時間の時に私達と一緒に遊びに行こうよ!」

 

「あのまき絵さん、僕まだ…」

 

「ちょっとまき絵さん!?抜けが…いえネギ先生は今お忙しいのですよ!」

 

「(このまき絵っていう姉ちゃんも中々侮れないっすね)」

 

 アキラと真名に亜子に裕奈、まき絵が4班である。

 

 残りはあと2班。5班は?

 

「ほらのどか、マギさんに自由行動日の時一緒にどうですかって!」

 

「で…でも…」

 

「マギさんだったら頼み込めば嫌とは言わないはずですよ」

 

「ネギマギさん大丈夫だった?ごはんちゃんと食べれたの?」

 

「はい!おにぎりありがとうございました」

 

「美味かったけど、俺はもうちょいだったな。食い足りなかった」

 

「ほかほかよかったー。マギさんにはもうちょい作ればよかったなー」

 

「(やっぱりこのか姐さんは欲しいよな~)」

 

 のどかにハルナ夕映。アスナとこのかが5班である。

 

 そして最後の班6班は

 

「…」

 

「ふあぁぁぁぁ」

 

「エヴァの奴眠そうだな。疲れてるのか?」

 

「いえ、マスターは朝は弱い体質なので」

 

「おはようございますネギ先生」

 

「あッはいおはようございます刹那さん」

 

「(この刹那って姉ちゃんは他の生徒とは纏っている気が違うな、用心しねぇと)」

 

 ザジにエヴァンジェリンに茶々丸と刹那が6班である。本当はもう一人いるのだが、あいにくの欠席である。

 

 以上で1人欠席が居るが、全員新幹線に乗り終わったのである。

 

「あ…せっちゃん。修学旅行一緒に楽しもうなー」

 

 このかは刹那をあだ名でそう呼んだ。対する刹那は

 

「あ…」

 

 何も言わずに頭を下げ、踵を返してこのかの元から去って行った。残されたこのかは

 

「せっちゃん…」

 

 刹那の背中を見て寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「このかさんと刹那さん如何したのかな?刹那さんこのかさんに何も言わずに行っちゃうなんて」

 

「なんか訳ありの様だなあの二人は」

 

 ネギとマギはそんな事を呟きながら刹那を眺めていた。

 新幹線が遂に発車し、生徒達も興奮が最絶頂だった。

 

「それでは皆さん待ちに待った修学旅行が始まりました」

 

 ネギがクラスごとのホームルームを始めた。

 

「この4泊5日の旅行で楽しい思い出を一杯作ってくださいね」

 

 ネギの話に生徒達ははーい!と元気よく返事をした。

 

「麻帆良学園の修学旅行は班ごとの自由時間を多く取ってありますから楽しい旅になると思いますが、その分怪我や迷子、他の人に迷惑をかけたりしないでください。それと…」

 

 とネギがまだ話を続けようとしたが、タイミング悪く車内販売のカートが後ろから現れ、ネギを轢いてしまった。

 何とも締りの悪い感じになってしまい、引かれたネギを見て生徒達は大笑い、マギはやれやれだぜ…と呟いた後にパンパン!と手を2回叩き又生徒達を集中させた。

 

「おいオメェラ、今のネギの様に注意してても思わぬアクシデントが起こる場合がある。大丈夫だと思っていても油断していたら思わぬ事故につながるかもしれねぇだから最低限注意を払え…お前らだってこの修学旅行楽しみにしてただろう?だったら何も問題なく修学旅行を終わらせて最高の思い出にしようじゃねぇか。以上俺からの話は以上だ」

 

 ネギが締まらない話の終わり方となってしまい、代わりにマギが話を締めた。マギの言葉に先程よりも元気よくはーい!!と生徒達返事をした。

 

 

 

 

 

 新幹線の中でもほぼ自由行動なので生徒達はお菓子を食べたり雑談をしたり、音楽を聞いたり寝たりとしていた。

 中でもすごかったのは

 

「おッオメェラ何やってるんだ?」

 

 とマギが裕奈と夕映にまき絵と席を向かい合わせしたハルナに桜子に風香が何やらカードゲームの様な物で遊んでいた。どうやらトランプではなさそうだ。何ですかこれは?とネギが尋ねると

 

「魔法で戦うカードゲームです」

 

「今流行ってるんだよ」

 

 と夕映と裕奈が教えてくれた。見ればモンスターが描かれたカードや魔法のカードがあり、それで戦うゲームの様だ。

 

「面白いよ。ネギ君とマギさんもやってみる?ルール教えてあげるよ」

 

 と裕奈がネギとマギを誘うが悪いなとマギが断りを入れる。

 

「とりあえず俺達一応見回りがあるからさ」

 

「なので皆さんだけで楽しんでください」

 

 と言ってネギとマギは隣の車両に向かった。そして車両のドアを閉めると皆楽しそうで何よりだなぁとネギが笑いながらそう言った。

 

「ですが兄貴に大兄貴そろそろ周囲に気を配った方がいいですぜ。若しかしたら妨害があるかもしれないですし」

 

 カモの忠告にネギはう~んそうかな?とカモにそう言った。

 

「こんな生徒が一杯の所で妨害なんて起さないはずだろうし…」

 

(いや、何かしらの妨害が起こるはずだ。流石に誰かが怪我したり死んだりとかそんな大事は起こらねえはずだ。例えるならそうガキのクダラネェいたずらと同じくらいの奴だ…ったくネギの奴はやっぱ浮かれているか)

 

 マギはカモが言った通り警戒をするようにした。

 話の場面を生徒達に戻そう。裕奈や夕映が先程やるかさそったカードゲームだが決着がついたようだ。

 

「はい炎の呪文でパルに攻撃!これで止めだよ!」

 

「あーんやられたー!!」

 

「私の魔法カード恐怖のカエル地獄がじわじわと効いてましたからね」

 

 とハルナの負けが決定した。

 

「くそ~にっくきカエルめ~!」

 

「はいはい私の勝だからパルのお菓子を私に献上しなさい!」

 

 如何やらカードゲームでお菓子を賭けていたようだ。ハルナが負けたから裕奈にお菓子を上げなくてはいけなくなったようだ。

 ハルナはブーブーと文句を言いながらチョコ菓子が入った箱を取り出した。裕奈はお菓子~お菓子~と大喜びだった。ハルナが渋々箱のふたを開けると…

 

「ゲコ」

 

 何故かお菓子の箱の中に生きたカエルが入っていた。

 

「「「…」」」

 

 裕奈と夕映とハルナはカエルが菓子箱の中に入っていた事に呆然としていたが、次の瞬間

 

「ゲコリ」

 

 と裕奈の頭に飛び乗ってきた。

 

「い…いやぁぁぁ!!カエル~~!」

 

 裕奈の頭にカエル乗って裕奈は大絶叫を上げた。裕奈が絶叫を上げた事に驚いた生徒達は裕奈に駆け付けるが、裕奈の頭に生きたカエルが乗っているのを見て固まってしまった。さらに

 

「ひゃ!?」

 

 お弁当箱からカエルがぞろぞろと他にも

 

「ひぃ!!」

 

 水筒からもカエルの大群。そんな事をやっている間に他の菓子袋からやら弁当箱に水筒からもカエルの大群があふれ出て、3-Aの車両はカエルの大群により床が埋め尽くされてしまった。

 生徒達の悲鳴はネギとマギとカモにも聞こえた。

 

「兄貴大兄貴!」

 

「この悲鳴は!?」

 

「んだよ何か問題発生か!?」

 

 と急いで車両のドアを開けてみるとネギとマギが見た光景は

 

「なッ何ですかこれは~~!?」

 

 100匹ほどのカエルの大群が床を埋め尽くされた光景が目に写った。ゲコゲコゲロゲロとリアルのカエルの大合唱が気持ち悪い。

 

「何ですかこのカエルの団体さんは!?」

 

 ネギは飛び跳ねているカエルを捕まえながらアスナに尋ねた。

 

「何かそこら中からいっぱい出て来たのよ!」

 

「ネギ君助けて~~!!」

 

 まき絵が涙目でネギに助けを求めた。と言うよりもカエルのせいでほとんどの生徒が動けずじまいである。と言っても女子にとってカエルは苦手な生物の一つだろう。

 

「と言うよりもマギさんも突っ立ってないでカエルを捕まえるのを手伝ってよ!!」

 

 とアスナが突っ立ているマギにそう言った。しかしマギはアスナが言った事を聞いておらずそれどころか

 

「…」

 

 顔に大量の脂汗を流していた。それに体をガタガタガタと震わせており、さらにはハァッ!ハァ!ハァ!!と息も荒い。そんなマギを見てアスナは如何したのかと思っていると

 

「ゲロ」

 

 と一匹のカエルがマギの方に飛び跳ね

 

 

 

 ペトリ

 

 

 

 カエルがマギの顔面にくっついた。生徒達はマギの顔にカエルがくっ付いた事に顔を青くしていたが次の瞬間

 

「アッァァァァァァ!hguiyuguguhugykhyui!!?」

 

 マギは大絶叫を上げて、次には何を叫んでいるのか分からない叫び声を上げた。アスナ達はマギの大絶叫に思わず耳を抑えた。あのマギが此処まで取り乱すのを見たのは初めてだったからだ。

 マギは数秒の間叫び続けていたが

 

 

 

 バタンッ!!

 

 

 

 と盛大な音を立てて背中から倒れた。ネギとアスナにエヴァンジェリンとのどかがマギに駆け付けた。のどかやエヴァンジェリンがマギの名を呼んだが、マギは白目をむいており完全に気絶していた。

 

「ちょ!マギさんがこんなにパニクルなんてアタシ知らなかったわよ!何がどうなってるの!?」

 

 アスナはネギに何故マギがあそこまでパニック状態になるのか尋ねた。実は余りお兄ちゃんから話すなと言われてたんですが…とネギはマギに申し訳なさそうにそう言いながら

 

「実はお兄ちゃん大のカエル嫌いなんですよ。何でも僕が生まれる前にカエルで何かトラブルがあったそうで、それがトラウマになってカエルの姿を見るだけでも駄目なのに、カエルが顔に付いちゃったらもうおしまいですよ!」

 

 ネギの説明にアスナ達はマギに意外な弱点がある事に驚いていたが、今はそのカエルを何とかしないといけない。とりあえずカエルを触れる人間だけでカエルを回収する事になった。

 数分後

 

「ふぅ~~カエル108匹回収終ったアルよ」

 

 全てのカエルを回収できた。ネギはカエルを回収している時に気づいた。カエルに魔力を感じた。つまりは

 

(兄貴!このカエルの大量発生間違いなく関西呪術協会の仕業ですぜ!カタギを巻き込むなんて下衆な!)

 

(うッうんでもどうしてカエルだったんだろう!?)

 

(何かの嫌がらせか…もしかすると混乱に乗じて兄貴が預かった親書を手に入れようとしたんじゃ…兄貴親書は持ってますかい!?)

 

(しッ親書を!?)

 

 ネギは大慌てで親書を探した。若しかしたら本当に先程の混乱に乗じられて親書を盗まれてしまったのではと、しかし親書は無事に見つかった。ホッとしているのもつかの間

 

 

 

 ヒュッ! パシ!

 

 

 

 と親書がネギの手から無くなってしまった。ツバメが親書を咥えて飛んで行ってしまうのが見えた。

 

「親書が!追いますぜ兄貴!!」

 

「うッうん!!」

 

 ネギは取られてしまった親書を取り戻すためにツバメを追いかけた。

 

「ちょ!ネギ何処行くのよマギさんは!?」

 

 アスナはネギが何処に行くのかマギを如何するのか聞いた。

 

「お兄ちゃんは今はそのまま寝かせておいてください!!」

 

 と言い残し、ネギは走り去ってしまった。そのマギはと言うと

 

「か…カエルの大群が…」

 

 白目をむきながら呻いていたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

「…ちゃん…お兄ちゃん」

 

「…ん…んあ」

 

 ネギが自分を呼んでいるのが聞こえ、マギはゆっくりと目を開けた。

 

「あれ?俺何時の間に寝てたんだ?」

 

「もう少しで京都に到着するから準備して」

 

 とネギの言う通り先程から新幹線のアナウンスで間もなく京都に到着するというアナウンスが流れていた。

 

「確かカエルの大群が現れて俺の目の前にカエルが飛んできてそれで…」

 

 マギは先程の事を思い出し始め

 

「ガタガタガタガタ!!」

 

「おッお兄ちゃん無理に思い出さなくていいんだよ!」

 

 顔を蒼白にして歯をガタガタと言わせているマギに無理に思い出さなくてもいいとそう言った。

 

「それでさっきのカエルの大群の出現は若しかしなくても」

 

「うん関西呪術の妨害だってカモ君はそう言っていたよ」

 

 ネギは他にも関西呪術の式神のツバメが親書を盗もうとしたが、刹那がいつの間にか親書を取り戻してくれてネギに渡したそうだ。しかしそこで刹那はこう言ったそうだ

 

 

 

 ――気を付けた方が良いですね先生。特に向こう(・・・)についてからは――

 

 

 

「って刹那はそう言ったんだなネギ?」

 

「うんカモ君は刹那さんが関西からのスパイだってそう言ってたんだけど僕は信じられなくて」

 

(確かにネギの言う通りだ。態々まどろっこしいやり方じゃなくてもいいはずだ。まぁと言っても刹那がそんな事をするはずないだろうがな)

 

 マギは刹那の事を信じているようだった。

 

「兎に角カエル騒動は関西呪術の仕業だって事が分かったわけだ…待ってろよ関西呪術め俺を怒らせたことを後悔させてやる…!骨の1本や2本は覚悟してろよ!!」

 

「おッお兄ちゃん!殺気が満ち満ちてるよ…」

 

 ネギはマギの殺気を感じてかなり引いていた。さっきのカエル騒動を起こした関西呪術の者は急に寒気を感じて大きく身震いをした。

 そして新幹線が停車した。京都に到着したようだ。

 

「おし!テメェ等!!さっきはとんだアクシデントだったが、これ以上トラブルに巻き込まれんじゃねぇぞ!!」

 

『オオーー!!』

 

 とマギの叫びに生徒達も答えるかのような叫びを上げた。

 

 

 

 遂に敵の領地に入ったネギとマギ。此処でどんな波乱万丈な出来事が起こるのか?それはまだ誰も分からないのである…

 

 

 

 




はい何と言うか
マギの弱点が出てきましたハイ
深い意味は無いんですが、何か弱点があった方が良いなと思いまして
それだけです


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このかを守れ!!

お待たせしました!
漸く話が完成しました。
今日はちょっとバトルも入っているのでかなり長いです
それではどうぞ!!


 京都に到着した3-A一向。まずは京都でも有名な清水寺に向かったのだが…

 午後五時ホテル嵐山にて

 

「「はぁ~~」」

 

 ネギとマギがホテルの休憩所にて疲れた様な溜息を吐いていた。その表情は疲れ切っていてグロッキーだった。

 何故ネギとマギが疲れ切っているのかと言うとそれには理由があった。時間を遡る事最初に廻った清水寺にて事件が2つ起こった。

 最初に清水寺にて集合写真を撮ったのち、清水寺の観光を行った。そこで夕映がガイドさん顔負けの清水寺の説明をしてくれた。

 他にも『清水の舞台から飛び降りる』と言う有名な言葉の通り、清水の舞台から飛び降りようと楓がしようとしたりそれをあやかが止めたりした。

 と言っても楓なら飛び降りても無事な気がするのだが…

 そして次の場所に廻った時最初の事件が起こった。

 京都には有名な縁結びの神社があり、中にも目を瞑って歩き、神社の岩に触れば恋が実るとか無いとか。

 それを聞いた生徒の殆どが目を光らせ、挑戦する者が多く出て来た。中でもあやかとまき絵の恋の闘争心は凄まじく、周りの者も若干引いてしまうほどだった。

 目を瞑って歩いて目的の岩までたどり着くのは困難であり、中にはずるして薄目を開けて歩く生徒もちらほらと居た。

 だがあやかだけは目を瞑っていても岩が何処にあるのか直感で分かり、一直線で目的の岩まで駆け出した。さすがあやかと言う所か、ネギへの思いは伊達では無いようだ。

 しかしまき絵も負けずとずるして薄目を開けて目的の岩まで走り出した。勝負はあやかとまき絵の一騎打ちになりそうだった。岩まで目と鼻の先の距離になったその時

 

 

 ズボッ!

 

 

 まき絵とあやかが走っていた地面が行き成り陥没した。落とし穴であった。深さは結構あり更に最悪な事にその落とし穴の中に数匹のカエルが居たのである。

 マギは固まってしまい、ネギとアスナが落とし穴に落ちてしまったまき絵とあやかを助けてあげたのである。

 因みにのどかがちゃっかりと岩に触れていたのであった。彼女の恋が無事に実る事を祈ろう。

 次に事件が起こったのはこれも有名な音羽の滝である。これは3本に別れた滝でそれぞれ健康に勉学に縁むすびの滝であり、その滝を飲めばその運が上がると言われ、真っ先に生徒達は縁結びの滝の水をまるで飲み干す勢いで飲み始めた。

 しかし縁の水を飲んでいる生徒達に異変が起こり始めた。最初ら辺は水が変な味がすると言いながらもこれがこの滝の水の味だと思い込み構わず飲んでいたが、段々と顔が赤くなりはじめ、一人また一人と顔を赤くしながら倒れてしまった。

 ネギとマギがこれは可笑しいと思い、滝が流れている上に登ってみると其処には大きな日本酒の酒樽があった。今まで流れていたのは水ではなく、日本酒だったのだ。つまり生徒達が赤くなってしまったのは酒に酔って酔いつぶれてしまった様だ。

 ネギとマギに滝の水を飲んでいない生徒は酔ってしまった生徒達を運んで清水寺にあった休憩所に運んだ。

 途中で生徒指導の新田先生に遭遇してしまい、新田先生に酒を飲んだことが知られてしまった場合、最悪修学旅行は中止になってしまう。ネギとマギが必死に誤魔化して難を逃れた。

 流石にこれ以上はマズイと判断したネギとマギはしずな先生に生徒の殆どが疲れ切ってしまったようで泊まるホテルに向かおうと強引に生徒達をバスに乗せて自分達が泊まるホテルに向かい、今に至ると言うわけである。

 

「…ったくやれやれな初日だったぜ」

 

 マギはまた深い溜息を吐いた。マギは自分でも理解していた。これは関西呪術の妨害だと

 

「やっぱりあの刹那って奴の仕業に違いねぇですぜお二人さん!」

 

「う…うんそうなのかな…?」

 

 ネギは信じられなかった。しかし刹那は気が付けば何処かに居なくなっており、姿を確認する事が出来なかった。そのせいで彼女への疑いが濃くなってしまっている。

 

「だけどよ、ただ姿が見えなかったからと言って刹那が関西のスパイと考えるのはまだ早いだろうよ。偶然どっかに行っていたって可能性だってあるだろうが」

 

「何言ってるんですかい大兄貴!あの刹那って奴は間違いなく敵のスパイですぜ!敵を疑わないなんて3流以下も程がありますぜい!」

 

 カモは納得いかずにそう反論した。カモの言っていることももっともだが

 

「あのなカモ、俺達は魔法使いの前に一人の教師だ。教師が生徒を簡単に疑うもんじゃねえ。最後まで生徒を信じてやるのが教師ってもんだろうよぉ」

 

「お兄ちゃん…うんそうだよね!先生の僕が簡単に生徒さんを疑っちゃたらいけないよね!!」

 

 ネギはマギの考えに感動したのか、一瞬だが生徒を疑おうとしていたその考えに反省し、刹那を信じる事にした。

 

「ちょ兄貴に大兄貴正気ですかい!?そんな簡単に信じてしまっていいんですかい!?」

 

「色々と助言には感謝する。だけどなカモ、テメェはヒデェ言い方だが生徒と先生の間じゃテメェは部外者だ。部外者のテメェが俺達の生徒を疑うのはゆるさねぇぞ」

 

「ごめんカモ君、やっぱり生徒をそんな簡単に疑っちゃたら立派な先生にはなれないよ」

 

「兄貴大兄貴!…分かりました。俺っちはアンタ達に着いていくと決めた身。貴方方があの刹那を信じるなら俺っちも信じますぜ!」

 

 とカモがそう言い悪いなカモとマギはそう謝ると

 

「今回は俺の顔に免じて…な」

 

 とそんな遣り取りをしているとおーいネギーマギさーん!とアスナがこっちに来た。

 

「とりあえず酔ってる皆は部屋で休ませているけど、一体何がどうなってんのよ?」

 

「そ…それは…」

 

 ネギはアスナにこれまでの事を簡潔に教えてあげた。

 

「ふ~ん…つまりは私達が関西呪術協会だっけ?そんな変な魔法団体に狙われているってわけね?また魔法の厄介ごとかぁ」

 

 ふんとアスナは疲れた様に鼻を鳴らした。すいませんアスナさんとネギがアスナに謝るが

 

「どうせ又助けてほしいんでしょ?いいわよ、どんとアタシに頼りなさいよ」

 

「あ…アスナさん」

 

 ネギは思わずジーンとしてしまった。そんなネギを見てマギは黙ってネギの頭に手を置いて

 

「んじゃま、とりあえずは俺達は風呂入って来るからこの話は又後にしようや」

 

 先生たちは先に風呂に入るのが決まりでネギとマギは風呂に入る事にした。

 

 

 

 露天風呂

 

「ふあぁぁ~~凄いよねお兄ちゃんこれが露天風呂なんだね」

 

「あぁやっぱ風呂は気持ちいいよな~心が落ち着いてくるぜ」

 

「気持ちいいっすね~」

 

 ネギとマギにカモは風呂の岩に寄りかかり、風呂の気持ちよさに顔がふやけていた。

 

「これで関西の妨害が無かったらなお最高だったんだけどな~」

 

「アハハ…そうだね」

 

 マギの疲れた様な呟きにネギは苦笑いを浮かべていた。

 

「そう言えばネギ、親書を奪われたときにその式神を刹那が斬ったって事で間違いないんだな?」

 

「うん僕が向かった時には式神はただの紙に戻ってたんだよ」

 

 マギがカエルで気絶してた時にツバメの式神がネギから親書を奪って逃走しようとしていたが、ネギが式神を追いかけている間にいつの間にか式神が元の紙の姿に戻っていて刹那が刀を鞘に戻していたのであった。

 

「しかし飛んでいるツバメを斬るなんて、刹那の奴かなりの腕みたいだな」

 

「日本には昔飛んでいたツバメを斬ったって言う凄いお侍さんが居たそうだよ」

 

 マギは今更だが魔法で戦うよりも接近戦の方を得意としており、ネギの言っていることが本当だったら刹那を賞賛する。

 

「僕はあんまり接近戦は得意じゃないから、魔法を詠唱する前にやられちゃうから魔法使いに剣士は天敵だなぁ~」

 

「だったら俺かタカミチが接近戦の稽古をつけてやろうか?」

 

 などと他愛のない話をしていると

 

 

 カラカラカラ

 

 

 脱衣室のドアの開く音が聞こえ、男の先生が入ってきたのだと思い、ネギとマギが顔を乗り出して見てみると

 

「…ふぅ」

 

 其処に居たのは刹那だった。ネギとマギは驚きサッと顔を岩に戻した。

 

(なッなんで刹那さんが此処に!?入り口は男女別だったんじゃ!)

 

(混浴なんだろ此処の風呂は!)

 

 と慌てながらもネギは再度刹那にばれない様に岩から顔を覗かせ、刹那を見ていた。刹那はどちらかと言うと小柄な部類に入る。肌も真っ白でとても綺麗だ。ネギは思わず見とれてしまっていた。

 

(おいネギ何ジロジロと刹那の裸見てんだ?ヘンタイかこの野郎)

 

(ちッちがうよ僕は刹那さん肌が真っ白で綺麗だなって思ってただけだよ!)

 

(やっぱ見てたんじゃねぇか。良いからばれない様に風呂から上がるぞ)

 

 ネギはマギが何故ばれない様に出なければいけないのか分からなかったのか首を傾げていた。そんなネギにマギは溜息を吐きながら

 

(良いかネギ、お前はまだガキだけどな俺はもう大人なんだぞ。そんな大人が女とましてや生徒と風呂に入っているとバレてみろ。変態と後ろ指差されるのは確実最悪先生をクビになる事間違いなしだ)

 

(そッそんなお兄ちゃんが居なくなるのは僕嫌だよ!)

 

(だったら一刻も早く出るぞ!刹那の奴勘が良さそうだし、少しでも音を立てたらばれる事間違いなしだ!)

 

 ネギとマギはそろ~と風呂から出ようとしたが、刹那が言った一言に固まってしまう。

 

「困ったな…魔法使いであるネギ先生とマギ先生なら何とかしてくれると思ったんだが…」

 

 刹那が言った事にマギとネギは思わず固まってしまった。何故刹那がネギとマギが魔法使いだと知っているのかと、止まったのが仇となりチャプンと音を立ててしまった。

 

「誰だ!?」

 

 刹那は何処から持ってきたのか刀を取り出し、叫んだ。見つかった!ネギとマギは急いで風呂から出ようとした。

 

「逃げるか!神鳴流奥義 斬岩剣!!」

 

 刹那が技名を叫びながら抜刀した。すると先程までネギとマギが居た岩が意図も容易く横一閃で真っ二つになってしまった。

 ネギとマギは真っ二つになった岩を見て声が出なかった。岩を斬ってしまったその刀の斬れ味もそうだが、岩を容易く斬ってしまった刹那の剣術の腕にも舌を巻く。だがあと一歩岩から離れるのが遅かったらネギとマギの首は胴体とさよならするはめになっていただろう。そんな事を考えてしまってゾッとしてしまった。

 

「ふッ風花武装解除!!」

 

 ネギはあらかじめ持ってきていた小さい杖で武装解除の呪文を発動させ、刹那の刀を吹き飛ばした。これで刹那は無力となった…はずだった。

 

「ふ」

 

 刹那は小さく笑うとマギが止める前に目にも止まらぬ速さでネギに接近すると、右手でネギの首を掴み、左手は……男の大事な所を掴むと

 

「何者だ。答えなければ捻り潰すぞ(・・・・・)

 

 冷たい目でネギを見ながらそう脅した。

 

「ひぅ!」

 

 ネギは顔を真っ青にし、マギも思わず内またになってしまった。だが刹那はハッとして自分が拘束しているのがネギだと気づく。

 

「すッスイマセンネギ先生!仕事上急所を狙うのはセオリーなので!」

 

 刹那はネギに誤解を解こうとしたが、行き成り男の大事な所を掴まれましてや握りつぶすと言われたせいで放心状態であった。

 

「おッおい刹那、お前今仕事上って言ったが…もしかしてお前魔法使い(こっち側の人間)なのか?」

 

 マギが尋ねるとはいそうですが…と刹那は肯定した。

 

「と言うよりこの前のエヴァンジェリンの件で私も学園長室に居たのですが…」

 

「え?ああ…そうだっけ?」

 

 そう言えばあの眼鏡の刀を持っていた女性の先生の後ろに刹那が居たような居なかったような記憶が曖昧である。

 

「私はこのかお嬢様の…」

 

 刹那が自分が何者かを話そうとしたその時

 

「ひゃぁぁぁぁ~~~!!」

 

 女性の脱衣所から悲鳴が聞こえた。悲鳴の主はこのかの様だ。

 

「このかお嬢様!?まさか奴らこのかお嬢様に手を出す気か…!お嬢様!!」

 

 刹那は一目散に脱衣所に向かった。マギは未だに状況が掴めなかったがこのかが襲われている事は分かった。マギは未だに放心状態だったネギの頭を叩いた。

 

「何時までボーッとしてるんだネギ!関西奴らなんかこのかを襲いだしたそうだぞ!」

 

「ええ!?大変だ急いで助けに行かないと!」

 

 とネギとマギも一足遅れて脱衣所に向かった。

 

「このかお嬢様!!」

 

「このかさん!大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫か!?何があった!?」

 

 脱衣所のドアを開けると

 

「いや~~ん!やめてーな!!」

 

「ちょ!ネギ!マギさん!?何かおさるが下着を取ろうとしてるの助けて!!」

 

 カエルのお次は猿の大群がアスナとこのかの下着を取ろうとしていた。ネギは思わずズッコケてしまい、マギは顔を手で覆った。刹那も固まってしまっておりその間に猿たちはこのかのブラとパンツを奪ってしまった。

 

「あッせっちゃん!ネギ君マギさん!?あ~ん見んといて~!」

 

 このかは異性のネギや年上のマギに裸を見られて恥ずかしくなり顔を真っ赤にしていた。刹那は猿どもを斬ろうとしたが、ネギは猿が式神だと気づいていない様で斬るのは可哀そうだと刹那を止めた。

 

「ったく!このか伏せてろ!!」

 

 マギは呆れながら一気にこのかに接近した。

 

「行くぜ!爆竜拳!!」

 

 そしてこのかの周りに居た猿どもに拳の高速のラッシュを食らわした。ラッシュを食らった猿どもはダメージのせいか元の紙に戻ってしまった。マギは此れで終わったと思っていたが油断していた。

 未だ残りの猿どもが居たらしく、その残りの猿どもがこのかを担ぎ上げ、逃げ出そうとしていた。

 

「お嬢様!お嬢様を返せ猿どもが!! 神鳴流奥義 百烈桜華斬!!」

 

 刹那がこのかを連れ出そうとした猿どもを目にも止まらぬ斬撃で猿どもを斬り裂いた。その斬撃まるで桜が散るかの如く。

 

「…はれ?」

 

 このかは今一状況が掴めず変な声を上げてしまった。ネギとマギにアスナが助けられたこのかに駆け付けた。

 

「…ッチ!」

 

 露天風呂に生えている木から舌打ちが聞こえ、ガサ!気が大きく揺れた。

 

(逃がしたか…)

 

 刹那は声に出さず、悔しそうな表情をした。そんな刹那にこのかがせッせっちゃんと刹那を呼んだ。

 

「なんかよー分からんけど助けてくれたん?あ…ありがとなー」

 

 刹那にお礼を言った。対して刹那は

 

「あ…いや…」

 

 と何を言っていいのか分からず、刹那は黙ってこのかをお風呂に優しく落とし、黙って脱衣所に向かってしまった。アスナやネギは呆然としながら走り去ってしまった刹那を呆然と見ていた。

 

「なんか訳ありの様だなこのかと刹那は。よかったら話してくれないか?」

 

 マギはこのかに何があったのかを話してくれないかと頼んだ。このかはええよと言った後にマギから顔をそむけた。マギは何で顔をそむけたのか首を傾げているとアスナがマギを見て顔を真っ赤にした。

 

「下を隠してーな」

 

「え?…あ」

 

 マギはこのかの言っている意味がよく分からなかったが下を見てこのかの言っている意味が分かった。激しく動いたせいか下半身を隠していたタオルが外れており、男の大事な場所がこのかとアスナに見えている状態なのだ。

 

「ままままマギさんの変態~~~~~!!」

 

「…やれやれだぜ」

 

 アスナが大声で喚き散らし、マギは何時ものセリフを言うしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 先程の休憩所にて

 ネギとマギとアスナはこのかの子供のころの話を聞いた。このかは昔は京都に住んでおり、小さい頃は友達が一人もいなかったそうだ。だがある日に刹那がやってきてこのかと刹那は直ぐに友達になった。

 刹那は剣道を習っており、ある時には怖い犬を追い払ってくれたり、危ない時には守ってくれたそうだ。

 しかしある時このかが川でおぼれそうになった時、刹那はこのかを助けようとしたが、自分も川に流されそうになってしまったそうだ。2人とも大人に助けられたそうだ。

 

 ―――守れなくてごめんこのちゃん。ウチもっともっとつようなるから―――

 

 その後からは刹那はその約束の為か、剣の修業で忙しくなって余り顔を出す事は無くなったそうだ。このかが麻帆良に引っ越して中1の時刹那と再会できたのだが…

 

「何かウチ悪い事したんかなぁ?せっちゃん昔みたく話してくれへんようになってて…」

 

 このかは目に涙を溜めながら言った。

 

「このか…」

 

「このかさん」

 

 ネギとアスナはこのかになんて言っていいのか分からず戸惑っており、マギは何も言わずに黙って聞いていた。

 このかと別れたネギとマギにアスナは話にあった刹那を探していた。

 

「このかさん寂しそうでしたね」

 

「うん普段のこのかなら絶対あんな顔しないもん。でも中1の新学期の時ちょっと落ち込んでいた時があったかな?水臭いなー何にも話してくれなかったなんて…」

 

「んまぁこれはこのかと刹那の問題だからなぁ部外者の俺達があーだこーだ言っても意味ないからなぁ」

 

 3人はそんな話をしながらも刹那が何処に居るのか探す。それともうそろそろ消灯時間だから出歩いている生徒には部屋に入るようにと注意も忘れずに。

 途中で楓と会い、楓とネギが親しそうに何かを話していたが、マギとアスナには聞こえなかった。

 楓と別れた数分後にホテルの入り口に何かを貼っている刹那を見つけた。何を貼っているのか尋ねると、式神返しの結界の御札を貼っているそうだ。

 ネギとマギにアスナと刹那はロビーのソファに座って刹那に話を聞くことにした。

 

「あの、その前に神楽坂さんにも話しても大丈夫なのでしょうか?」

 

「あぁうん、もう思いっきり巻き込まれているから別に大丈夫よ」

 

 とアスナはそう答えた。そうですか…ではと刹那の目が鋭くなった。

 

「敵の嫌がらせがエスカレートしてきました。このままではこのかお嬢様にも被害もおよびかねません。それなりの対策を講じなくては…」

 

 それなのに…とネギとマギをジト目で見て溜息を吐くと

 

「ネギ先生とマギ先生は優秀な西洋魔術師と聞いておりましたので、上手く対処してくれると思ったのですが、意外と対応が不甲斐なかったので敵も調子に乗った様です」

 

「あう!すみません!まだ未熟なので…」

 

「こればかりは何も言えねぇ。面目ねえ刹那」

 

 ネギとマギは素直に頭を下げた。そろそろ本題に入ろうか。

 

「刹那さん、僕達も協力しますから襲ってくる敵について教えてくれませんか?」

 

「俺からも頼む。こっちは敵の情報は無いに等しいからな」

 

 ネギとマギは刹那に頭を下げて情報を提供してもらおうとした。刹那も戦力になってくれるネギとマギにありがたく思い、快く情報を提供してくれた。

 

「私達の敵はおそらく関西呪術協会の一部勢力で、陰陽道の『呪符使い』そしてそれを使う式神です」

 

 陰陽道と聞いてアスナは有名な安倍晴明を想像した。さらに刹那の説明は続く

 

「呪符使いは古くから京都に伝わる日本独自の魔法『陰陽道』を基本としていますが、呪文を唱える間に無防備になるのはネギ先生やマギ先生達西洋魔術師と同じです」

 

 それ故に西洋魔術師が従者を従えているのと同じく上級の術者は善鬼(前鬼)護鬼(後鬼)と言った強力な式神をガードとして従わせているのが普通だと言う。

 それらを破らぬ限り呪文や剣などの攻撃は通用しないと言うのだ。

 

「善鬼に護鬼ですか。強そうですね…」

 

「式神っていう事は人間じゃねぇんだろ?それに鬼とは…本体を攻撃するのは骨が折れそうだし面倒そうだな…」

 

 ネギとマギは困ったような顔をしながらも話を聞いていた。アスナは…ちょっと話について行けてない様で首を傾げていた。

 

「さらに関西呪術協会は我が京都神鳴流と深い関係があります。神鳴流とは元々京を護り、魔を討つ為に組織された掛け値なしの力を持った戦闘集団。呪符使いの護衛として神鳴流剣士が付く事もあるので、そうなってしまえば厄介な事極まりないです」

 

 アスナとネギは事の凄さに絶句していたが、マギは刹那に質問した。

 

「と言うと刹那は神鳴流なんだよな?だけどもお前は西洋魔術側の人間だ。という事は神鳴流としてはお前は裏切り者っていう事になるのか?」

 

 ネギとアスナはそれに気づかず思わず刹那を見てしまった。マギの質問に刹那は首を縦に振り肯定をした。

 

「はい。関西にとっては見れば私は、西を抜け東についた言わば裏切り者…でも私の望みはこのかお嬢様をお守りする事なので仕方ありません」

 

 と言って刹那は一拍開けるとフッと静かに笑いながら

 

「私はお嬢様を守れれば満足なんです」

 

 刹那のこのかに対する思いを感じ取ったアスナは

 

「よーし!分かったわよ桜咲さん!!」

 

 と刹那の肩をバンッ!と叩いたアスナ。

 

「あんたがこのかの事を嫌ってなくて良かった事が分かればそれで十分!友達の友達は友達だからね、アタシも協力するわよ!!」

 

 友達思いでお人よしのアスナは快く刹那の手伝いをすると決めたのだった。

 

「うじゃ決まりだな」

 

「うん!そうだねお兄ちゃん!僕達の力を合わせて関西呪術協会からクラスの皆を護りましょう!!」

 

 ネギとマギとアスナに刹那は手を重ねた。

 

「んじゃ俺とネギは外を見張っておくぜ。まださっきの敵がまだ近くに居るかもしれねぇからな」

 

「アスナさん刹那さんはホテル内をお願いします!!」

 

 ネギとマギはホテル外を見回りに行くことにした。アスナと刹那にはホテル内の護りを頼んだ。

 アスナと刹那もホテルの部屋に戻ろうとしたが

 

「あぁ刹那、ちょっと話いいか?まぁすぐ終わるからよ」

 

「マギ先生?何でしょうか?」

 

 マギはアスナに先に部屋に戻るように言ってロビーに居るのはマギと刹那の2人だけ。

 

「それで話とはなんでしょうか?」

 

 刹那は話の内容は何なのか尋ねた。

 

「あぁさっきのこのかの事なんだけどよ、お前はこのかを守れれば満足だって言ったよな?」

 

「はい私はお嬢様を守れればそれだけで充分です」

 

 充分ねぇ…マギは刹那の答えに頭をガシガシと掻きながら次の事を言った。

 

「聞くけどよ、お前はこのかが自分を守ってくれってそう言ったか?」

 

「…え?」

 

 刹那はマギの言った事が今一掴めなかった。たっくやれやれだぜとマギは呆れていた。

 

「このかは泣いてたぜ…アイツは自分に非があると思って刹那が素っ気ない態度を取っているのは自分が悪いんだってな」

 

「そ…そんな…ですが私は護衛をする身、このかお嬢様を守ればそれで…」

 

 刹那は意外と頑固そうで、自分がこのかに近づくなど恐れ多いと思っているようだ。ったくメンドイ性格してんだなとマギは内心呆れる。

 

「お前とこのかはガキの頃は一緒に遊んでいたそうじゃねぇか。それにお前はこのかにとって最初の友達じゃねぇか。だったらこのかと一緒に居て一緒に笑ってやれよ。じゃないと…いつか絶対後悔するぜ」

 

 刹那は何も言わず黙って俯いていた。そんな刹那にマギは黙って頭に手を置いて優しく撫でてあげた。

 

「こればっかりはお前とこのかの問題だ。だが悔いの残らない様にしっかり悩みな」

 

 そう言ってマギは外の見回りに向かった。向かう道中

 

「すいませーん台車通ります」

 

 ホテルの女性従業員が布団が入った台車をかなりのスピードで飛ばしてマギの横を横切った。マギはとりあえずぶつからない様に避けた。すると

 

「ん?」

 

 女性従業員の懐から何やら紙が落ちた。若しかしたら大切な物かもしれないと思ったマギは女性従業員を呼び止めた。

 

「スイマセン!紙を落としましたよ!」

 

「!!あッありがとうございます拾ってくださって!!」

 

 そう言って女性従業員は、ひったくるようにマギから紙を取ってそのまま急いで何処かへ行ってしまった。マギは紙をひったくるように受け取った女性従業員に驚いたが、よっぽど急いでいたのだろうとそう考え、マギは急いでネギの元へと向かった。

 一方先程の女性従業員はと言うと…

 

「危なかったえーばれたんじゃないかと冷や冷やしましたわー」

 

 と呟きながら眼鏡を掛けた。先程のマギが拾った紙はよく見ると呪文のようなものが書かれており、更には布団から先程の猿の式神が顔を覗かしていたのだ。

 

「さぁて…ほな仕事を始めましょか…」

 

 そう女性従業員は怪しく笑うのだった。彼女の名は千草、関西呪術協会の一人で西洋魔術を憎んでいる過激派の一人である。

 

 

 

 

 

 

 渡月橋

 ネギとマギにカモは敵が来ない様に外の見回りを行っていた。序にカモがパクティオーカードの使い方を説明してくれた。

 

「へぇこのカードでパートナーと念話出来たり、遠くから呼び出したりパートナーの能力を上げたり道具を発動できるんだ。なんかすごいね」

 

 ネギはカードの使い方を聞いてカードの凄さに素直に驚いた。

 

「それじゃ早速使って見て下せぇこのカードのミラクル便利機能を!」

 

「うん!じゃあアスナさんに念話で話し掛けてみるね」

 

 ネギはカードをおでこに当て、念話を始めて見た。

 

「アスナさんアスナさん聞こえますかー?」

 

 ネギはアスナに念話を試した。アスナの方は行き成り頭の中でネギの声が聞こえて驚いていた。ネギはアスナに念話を続けていたが

 

「アレ?アスナさんからの声は聞こえないの?」

 

「ま、まぁそうですね」

 

「それってケータイの方が良くねぇか?」

 

 マギにそれを言われ、カモは何も言えなかった。するとネギのケータイに着信が入った。アスナからだ。

 

「もしもしアスナさん?如何したんですか?」

 

 ネギは如何したのかをアスナから聞いた。

 

「魔法使いがケータイとはなぁ…」

 

「これが時代ってもんじゃねえかカモ」

 

 カモが時代の流れに嘆いているとマギがとりあえず慰めた。だがネギが次に言った言葉でほのぼのとした空気が破壊される事となる。

 

「ええ!このかさんが誘拐された!?」

 

「何だって!?」

 

「おいおいマジかよ…!」

 

 ネギはアスナに詳しい事情を聞こうとしたその時

 

「兄貴大兄貴アレアレ!!」

 

 カモが叫びながら空を指差した。ネギとマギはカモが指差している空を見てみると、何かが飛んでいたが、此方に近づいてきてそしてネギとマギの目の前で着地した。

 それは大きな猿だった。

 

「おッおサル!?」

 

 ネギは巨大な猿が降ってきて吃驚したが、人と同じくらいの猿が居るはずもなく着ぐるみだとマギは直ぐに分かった。しかしマギは空から猿が降ってきた事よりも猿の腕に抱かれている者を見て驚いた。

 

「な!このか!?」

 

 このかである。先程誘拐されたと言われていたこのかが猿の着ぐるみの腕の中に居る。つまりこの猿の着ぐるみは

 

「お前は関西呪術の者だな?このかを返しやがれ、さもねぇと痛い目にあってもらうぜ」

 

 マギが拳を構えて猿の着ぐるみにそう警告した。しかし猿の着ぐるみはくっくっく…と笑っており、余裕の姿を現していた。そして猿の着ぐるみが振り返った。着ぐるみの口が開いており、中に誰が入っているのかが見えたが、誰が入っているのかを見て2人は又驚いた。

 

「貴方は…」

 

「さっきのホテルの従業員の…」

 

 そう猿の着ぐるみの正体は千草だったのである。千草はくくくと笑いながら

 

「このかお嬢様は確かに頂きましたえ」

 

 と不敵な笑みを浮かべていたのだが、猿の口の中から顔を出してるせいで何とも間抜けだと思ってしまいそうだったが、このかが捕まっているのもまた事実。

 

「このかさんを返しなさい! ラス・テル・マ・スキ…!」

 

 ネギは隠し持っていた小さい杖を持って詠唱を始めようとしたが、何処からか先程と同じ猿の式神の大群がネギの詠唱を邪魔し、マギが千草を追いかけさせない様にした。

 

「このおサルさんさっきの!?」

 

「くそメンドイもの残しやがって邪魔だ!」

 

 ネギは何とか猿を追い払い、マギは先程と同じように爆竜拳で猿達を蹴散らした。しかし猿を倒した時には千草の姿ははるか先へと行ってしまった。

 

「クソ逃がしちまった!追うぞネギ!!」

 

「うッうん!!」

 

 ネギとマギが千草を追いかけようとすると、アスナと刹那が走って此方に向かってきた。2人と合流したネギとマギは急いでこのかを助けるために猿女千草を追いかけ始めた。

 

 

 

 

「ふふ、西洋魔術師と言うても大したことあらへん。このかお嬢様を楽に手に入れてしもうたわ」

 

 千草は楽にこのかが手に入った事に歓喜していた。このままこのかが戻ってきてくれたら関西呪術の悲願がかなう…そう思っていると

 

「待てーーー!!」

 

「待ちやがれコラァ!!」

 

 ネギとマギの叫び声が聞こえ、思わず後ろを振り向くと

 

「お嬢様!」

 

「このかーッ!!」

 

 撒いた筈のネギとマギにアスナと刹那がもう追いかけて来たのに千草は舌をうつ。千草の前には駅が見えており、千草はそのまま駅に入ってしまった。

 

「クソ!駅に逃げ込みやがった!!」

 

 マギは千草が駅に入った事に悪態をつく。

 

「ていうより何なのよあの猿の着ぐるみは!?」

 

「恐らく関西呪術の呪符使いです。見てください!」

 

 と刹那が駅の柱を指差した。其処には御札らしきものが貼ってあった。

 

「人払いの呪符です!普通の人では近づくことができません!!」

 

 そうこう言っている間に千草が電車に乗り込み、ネギ達もギリギリで電車に乗り込むことが出来た。

 

「ネギ先生マギ先生!前の車両に追い詰めますよ!!」

 

 刹那が言う様に前の車両に追い詰めて身動きを取れなくさせようと言う作戦であった。

 しかし千草の方も黙って捕まるつもりなど毛頭も無く、式神の猿から御札を取り出すと

 

「お札さんお札さん。うちを逃がしておくれやす」

 

 そう唱えた途端にお札から水が出てきて、それが瞬く間に激流の川となり、ネギ達は溺れはじめる。

 

「ちょ何よこの水!?」

 

「おッ溺れる!?」

 

 ネギとアスナがそんな事を言っている間にネギ達が居る車両が水で完全に浸水してしまった。浸水した後も水は絶えず流れ続ける。

 

「ホホホホ。車内で溺れ死なんようにな、ほな」

 

 前の車両に逃れていた千草は溺れているネギ達を高みの見物で笑いながら見ていた。

 

「この…ラス・テ…ゴボゴボボボボボ!!」

 

「ちょ!浴衣がぬげごボボ!」

 

「水を瞬時にこんなに大量に出すとはスゲェ魔法ゴボボボボボッ!!」

 

 水の流れが急なのと、絶えず流れるせいでネギは魔法を詠唱できずに水を多く飲んでしまうこのままでは本当に溺れ死んでしまう。

 

(くそ息が…!この水では剣も振れない!ここまでなのか私は!?私は未熟者なのか…)

 

 刹那は諦めかけたが、幼いころのこのかを助けられなかった自分を思い出した。

 

(くそ!目の前で助けられるヤツをただ指を咥えて見てるなんて事はもう御免だ!!)

 

 マギも自らの拳を力強く握りしめそして

 

「斬空閃!!」

 

「剛魔神拳!!」

 

 刹那の飛ぶ斬撃と魔神拳よりも強力な衝撃波がドアを吹き飛ばした。水が千草の方まで流れて千草はあれ~~と言いながら流された。

 如何やら電車が目的の駅に止まったようで電車が完全停止し、ドアが開いた。ネギ達と千草も電車から水に流されながら降りた。ゲホゲホ!と水を吐き出すネギ達。

 

「どうだ見たかデカザル女。諦めてお嬢様を返してもらおうか」

 

「なかなかやりますなーでもこのかお嬢様は返しまへんえ!」

 

 千草はこのかを抱き上げ又逃げ始めた。それを又追いかけ始めるネギ達。

 

「せッ刹那さんいったいどういう事ですか!?」

 

「あのデカザル女何でこのかを誘拐しようとしてるのよ!?」

 

 ネギとアスナはなぜ千草がこのかを誘拐したのかが分からなかった。刹那は実は…と重々しい口調で訳を話した。

 

「関西呪術の中にこのかお嬢様を東の麻帆良にやってしまった事に快く思わない輩がいて。恐らく奴らはこのかお嬢様の力を利用して関西呪術協会を牛耳ろうとしているのでは…」

 

「なッ何ですかそれは!?」

 

 ネギはいまいち状況が分かっていなかったが、マギは事前にエヴァンジェリンから関西呪術の長はこのかの父であると聞いていた。という事はこのかにも何かしらの力があるとみて考えた方が良い。

 

「私も学園長も考えが甘かったとしか言えません。よもや修学旅行中に誘拐など強行策に出ようとは…」

 

 刹那は自分の甘い考えに自ら腹を立てていた。見るとこの駅にも人払いの呪符が貼られていた。やはり計画的犯行であったようだ。

 

「くッ!私が付いていながら…お嬢様!!」

 

「おい刹那!?」

 

「刹那さん待ってください!!」

 

 刹那は先に向かおうとしてネギ達は辛うじて追いかけているという状態だった。

 広い場所に出て、千草は猿の着ぐるみを脱いでいた。

 

「フフ、よーここまで追って来れましたな。そやけどそれもここまでですえ。最後の3枚目のお札ちゃんいかせてもらいますえ」

 

 千草がお札を構えながら不敵に笑った。させるつもりなど毛頭も無く刹那は刀を構えて千草に突貫した。

 

「お札さんお札さん。うちを逃がしておくれやす 喰らいなはれ!三枚符術京都大文字焼き!!」

 

 千草が唱え終えるとお札から炎が舞い上がり、京都で有名な炎の大文字が現れた。

 

「なッ!?」

 

 刹那は炎が舞い上がり驚いていたが、走り出したせいで上手く止まれなかった。このまま灼熱の炎に突っ込んでしまうかと思いきや

 

「桜咲さん!!」

 

 アスナの持ち前の反射神経と運動能力で刹那の浴衣を引っ張り、間一髪刹那は炎の中に飛び込むことは無くなった。

 

「神楽坂さんありがとうございます」

 

「礼は後でいいわよ!それよりもどうすんのよこの火!これじゃこのかの所に行けないじゃない!!」

 

 アスナが焦ったようにそう言い、その通りと千草はニヤリと笑いながらそう言い

 

「並みの術者ではその炎は越えられまへんえ。ほなさいなら」

 

 千草が余裕の態度で立ち去ろうとしていたが、千草は油断していた。ネギが並みの術者以上だという事に

 

風花 風塵乱舞(フランス サルティオ・ブルウエレア)!!」

 

 ネギが発動させた風の魔法により、炎の大文字が吹き飛んでしまった。

 

「なッなんや今のは!?」

 

 千草が驚いていると

 

「逃がしませんよ!このかさんは僕の生徒で大切な友達です!!」

 

「そういう事だ。今直ぐこのかを返しやがれ、それとカエルの恨みだ。一発殴らせろ」

 

 杖を構えたネギと拳を構えたマギが千草を睨んでいた。千草は炎の大文字を吹き飛ばしたのがネギだと分かったが、あの歳で此処までの実力とは驚いた。

 

「行きますよアスナさん 契約執行180秒間!ネギの従者神楽坂明日菜!!」

 

 ネギがパクティオーカードの魔力供給によりアスナをパワーアップさせ、マギは咸卦法を使い、刹那は刀を構えた。

 

「桜咲さん行くよ!」

 

「はッはい!」

 

 アスナと刹那は千草に攻撃を開始した。

 

「このバカザル女このかを返しなさい!!」

 

「兄貴!ここはパクティオーカードの出番ですぜ!!」

 

「うん分かった!アスナさん!パートナーだけが使える専用アイテム(アーティファクト)を出します!!アスナさんのは『ハマノツルギ』恐らく武器だと思います!受け取って下さい!!」

 

「武器!?そんなのがあるならちょうだいネギ!!」

 

 アスナは武器であるならぜひとも欲しいとネギにそう言う。ネギは頷くと能力を発動させるとアスナの手に光が収束していき、まるで剣のように細長いものに姿を構築していった。

 アスナも何か凄い武器になると予感して、出て来た武器ハマノツルギは…巨大なハリセンだった。

 

「…へ?ってちょ何よこれ!ただのハリセンじゃないのよ!これじゃマギさんのツッコミと被るじゃないのよ!!」

 

「あッあれー?おかしいなー」

 

 ネギもまさかハリセンが出て来るなんて思っても居なかったので若干戸惑いを隠せずにいた。

 

「ったく何やってるんだよ…」

 

 マギは呆れながらも千草に向かって一直線に向かって駆け出した。しかしその時

 

「!!!」

 

 マギは何かを感じとり右に大きく飛び跳ねた。ネギやアスナと刹那は何故マギが右に大きく飛んだのか分からなかったが次の瞬間

 

 

 ドガァァァァァァァァンッ!!

 

 

 さっきまでマギが居た場所が行き成り爆発しながら土煙をあげた。ネギはギョッとしたもしあのままマギが其処に居たら今頃爆発に巻き込まれてバラバラになっていただろう。

 

「くくく残念やけど、そこのおにーさんは坊ややお嬢ちゃんと違って出来ると思ったから特別に助っ人を呼ばせて頂きましたえーほな頑張ってなおにーさん」

 

 千草が言った瞬間に連続で何かの攻撃がマギを襲い、マギは避けるのに精一杯だった。何処から攻撃が飛んでくるのか辺りを探してみたが、その助っ人らしき人物は何処にも居なかった。

 

(くそ狙撃手かよ…!俺が一番嫌いで面倒な相手じゃねぇか。おまけに俺だけしか狙ってねぇおかげでアスナ達を援護出来ねぇじゃねぇか!!)

 

 マギが狙撃手なる者の攻撃を辛うじてよけながらもアスナ達の状況を見てみた。

 刀を持った刹那とハマノツルギというハリセンを持ったアスナが千草を攻撃しようとしたが、熊の着ぐるみと先程の猿の着ぐるみが一人でに動きだし、アスナと刹那の攻撃を(猿の方はアスナのハリセンを白刃取りしようとしたが、腕が短いせいで出来なかった)防いだ。

 この着ぐるみ達が先程刹那が言っていた善鬼と護鬼のようだ。一見着ぐるみと言う愛らしい姿をしているが鬼の名がついている事もあり、その力は計り知れない。

 千草はアスナ達の相手を善鬼と護鬼に任せて自分はこのかを連れて、逃げようとしたがそこで信じられない事が起こった。アスナの相手をしていた猿の着ぐるみがアスナのハリセン一閃で消えてしまいあっさりと倒されてしまった。

 これには刹那に千草は驚きを隠せなかった。ただの人間が鬼相手にこんなにあっさりと倒されてしまうとはにわかに信じられなかった。カモは如何やらアスナのアーティファクトであるハマノツルギに秘密があると見た。

 アスナは何だかよく分からないがいけると判断したようで、クマは自分が相手をするから刹那にこのかを任せた。刹那は今の出来事を見て大丈夫だと判断し、クマの相手をアスナに任せ、刹那は再度千草に向かったが、またもや邪魔が入った。

 

「え~~い」

 

 と何とも間の抜けた掛け声と共に何者かが刹那の剣を防いだのである。刹那の剣を防いだ者はファンシーな服を着ているが、その恰好には合わない小太刀と太刀を持っていた。

 名を月詠と言い、神鳴流の一人であり刹那の後輩にあたるようだ。今回は護衛として雇われたようだ。姿が見えない狙撃手に加えて神鳴流の護衛こちらが不利になってきた。

 しかもこの月詠という少女ファンシーな格好をしているが、剣術は出来るようで刹那と互角な腕前だった。これではこのかを助ける事が出来ない。刹那は焦りで太刀筋が荒くなっていた。

 

(クソ…!助けにいきてぇが邪魔がしつこ過ぎるぜ!!)

 

 マギはアスナや刹那の援護に行きたかったが、先程からマギだけしか狙わない姿が見えない狙撃手により足止めを喰らっていた。しかもアスナに小型の方の猿の式神の大群がアスナに群がり動きを封じ、クマの式神に捕まってしまった。これで今度こそ邪魔者が居なくなったと思った千草はこのかを連れて行こうとしたが、まだネギが残っている。

 

「魔法の射手 戒めの風矢!!」

 

 ネギは先程から詠唱に集中しており、千草に向かって魔法を発動させた。

 

「しッしまったガキを忘れてた!!」

 

 気付きた時にはもう遅い。魔法の矢が千草に迫る。千草は思わずこのかを盾にした。ネギは千草がこのかを盾にしたの見て慌てて魔法の矢の軌道を逸らし、このかに魔法の矢が当たる事は無かった。

 千草は攻撃がそれたのを見てネギが甘ちゃんだと気づいた。

 

「卑怯ですよ!このかさんを離してください!!」

 

 ネギはそう千草に訴えかけたが、千草にそんな言う通りにするつもりなど無く

 

「甘ちゃんやな。人質が多少怪我するくらい気にせず打ち抜けばいいのに。ククク…ホーホホホ!まったくお嬢様には役にたちますなぁ!この調子でこの後も利用させてもらうわ!!」

 

 千草の高笑いが駅に響いた。

 

「あッアンタ!このかを如何するつもりなのよ!?」

 

 クマに捕まりながらもアスナは千草を睨みつけながら目的を聞いた。千草はう~んどないしようかな~とアスナ達をまるで小ばかにするような態度で考え

 

「せやな~まずは呪文や呪符とか使て口でも利けんよにして、上手い事ウチラの言う事を聞くだけの操り人形にするのがえー考えやなー」

 

 そんな考えを聞いてこのかを大事に思っているネギとマギにアスナと刹那の中で何かが切れかける音が聞こえた。

 

「クククウチの勝やな。このかお嬢様がこんななまっちろいお尻しよってからにかわえーもんやな。ほななケツの青いクソガキどもオシリペーンペン」

 

 千草がこのかを尻を叩いた所で遂にネギ達の堪忍袋の緒が切れた。

 

「このかに何てことすんのよッ!!」

 

「このかお嬢様に何をするかーッ!!!」

 

「俺の生徒に何してるんだテメェ!!」

 

 クマをハリセンで消し去り、月詠を斬り飛ばし狙撃手の攻撃を魔法で防ぎながら3人は千草に向かって行った。

 

「風花 武装解除!!」

 

 ネギの武装解除の魔法で千草の服と持っていたお札を吹き飛ばし(ついでにこのかの浴衣も吹き飛ばしてしまった)その間にマギが接近し

 

「顔は勘弁してやるよ 魔神拳!!」

 

 千草の腹に衝撃波を喰らわすマギ相手は女性だが、大切な生徒を危険な目にあわすのならたとえ女性でも容赦をしないマギである。

 腹に衝撃波を喰らって気絶しそうになった千草だが、護りの護符によりいくらか衝撃を軽減できた。しかし千草がよろめいている間にアスナが千草の頭にハマノツルギもといハリセンを叩きつけると、千草の護りの護符が消滅してしまった。

 

(うそやろ護りの護符が効かんなんて!こうなれば必殺の式神を…!)

 

 千草はまだ隠し持っていたお札を発動させようとしたが

 

 

 バシュンッ!!

 

 

 千草の持っていたお札が何者かにより射抜かれ大きな穴が空いてしまい使い物にならなくなってしまった。

 

(なッ!?あの助っ人の男(・・・・・)何で邪魔なんかしはるんや!?(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 千草は目を大きく開いて有りえないと驚いていると、刹那が千草の背後に迫っておりそして

 

「秘剣!百花繚乱!!」

 

「ぺぽーーーッ!!」

 

 刹那の剣技で千草を斬り飛ばした。峰打ちで殺してはいないが…斬り飛ばされた千草は壁に激突した。

 

「く…くそ!何でこんなガキどもがこんなに強いんや!?」

 

 千草は自分を睨みつけているネギ達を見て流石に不利だと感じ取り、二匹目の猿の着ぐるみを召喚し

 

「お…覚えてなはれやーッ!!」

 

 猿に乗って逃げ出してしまった。アスナは追いかけようとしたが、刹那に深追いは禁物だと止められた。それよりもこのかである

 

「あの女さっき呪符やら薬やらを使ってとか言ってたがこのか姉さんは大丈夫なのか?」

 

 カモの言っている通り、このかを誘拐するときに何かしらの薬が使われているかもしれない。そう思ったネギ達はこのかに意識があるのかを確かめるためにこのかに大声で呼びかけた。

 なんどか呼びかけてみるとこのかはゆっくりと目を開いた。

 

「…んあれせっちゃん?なんか可笑しな夢を見たえ。変なおサルにさらわれてな、でもせっちゃんやアスナにネギ君とマギさんが助けてくれたんや」

 

 如何やら先程までの出来事が夢だと思い込んでいるこのか。このかが大丈夫だと分かると刹那はホッとした表情で

 

「よかった…もう大丈夫ですこのかお嬢様」

 

 とこのかに向かって静かに笑いかけていた。久しぶりにこのかは刹那の笑顔を見て

 

「よかったぁーせっちゃんウチの事嫌ってる訳やなかったんやなー」

 

 嬉しかったのか、思わず泣いてしまった。このかのうれし涙を見た刹那は

 

「え…そりゃ私かてこのちゃんと話し…」

 

 若干混乱してしまい、昔みたいな口調で話しそうになってしまい、ハッとした刹那は

 

「しッ失礼しました!!」

 

 素早い動きで下がり、このかに頭を下げた。

 

「わッ私はこのちゃ…お嬢様をお守りできればそれで幸せ!それも陰からひっそりとお守りできれば、なのでその…御免!!」

 

 それだけ言い残し、刹那は走り去ろうとしてしまった。やはり行き成り仲直りするのは難しいようだ。

 

「桜咲さーんッ!!」

 

 アスナが大声で刹那を呼び止めた。刹那は立ち止まり後ろを振り返るとアスナが手を振りながら

 

「明日の班行動別の班だけど一緒に奈良回ろうねーッ!!」

 

 明日の班行動の時に一緒に奈良を回る事を約束した。刹那は黙って頷いてそのまま走り去ってしまった。ネギはアスナの友達思いな場面に感動していた。

 

「ほら大丈夫だってこのか安心しなよ!」

 

「でも…」

 

 とこのかは不安そうだったが、ポンとマギがこのかの頭に手を置くと

 

「大丈夫だって、刹那はこのかと又前の関係に戻りたいと思っているさ。だけども時間と歳月のせいでどうやって又このかと接したらいいのか分からねえのさ。大丈夫さ絶対又前の関係に戻れるぜ。だからこのかも諦めずに刹那にアタックして行けって!!」

 

 ニカッと笑いながらこのかにそう言うマギ。このかはおもわず呆然とマギの言った事を聞いていたが

 

「うん!ウチ頑張ってせっちゃんに話し掛けてみるわー!!」

 

 と笑いながらそう言った。とりあえずは一件落着と言っていいだろう。

 

「あれ?そういえばウチどうしてハダカなんやろ?」

 

「そッそれはあのね!!」

 

 このかが自分がハダカなのは如何してなのかと首を傾げているとアスナは必死に誤魔化そうとした。

 

「ったくこれが修学旅行初日とはな…まだこんなのが後4日あると考えると面倒な事になりそうだなおい…」

 

「というよりどうしよう僕達結構いろいろな物壊しちゃったけど!!」

 

 マギはこれからも千草の妨害があると考えると面倒になると思い、憂さ晴らしにタバコを吸い始めた。ネギの方はこのかを助けようとして、色々な物を壊してしまい弁償とかどうしようと考えているが、別に何とかなるだろう?とマギは後回しと誰か任せであった。

 問題は他にある。

 

「おいネギ来て見ろよ」

 

 とマギはマギを足止めしていた姿が見えなかった狙撃手が作った攻撃によるクレーターを見ていた。ネギも近づいて見てみると

 

「何だろうこれ?」

 

「何だろな弓矢の矢かこれは?しかし変な形だよなこれ…」

 

 マギはクレーターの中から一本の矢を取って見た。マギの言う通り矢にしては変な形をしていた。何故なら剣をまるで極限までに細くした様な矢であった。マギが細くなった様な剣の矢をまじまじ観察してみようとしたが

 

 

 ピキピキ…パリィィィィィンッ!!

 

 

 剣の矢に罅が入りガラスのように砕け散ってまるで最初から無かったような幻想で会ったような物だった。

 

「持って感じたがさっきの剣の矢魔力で錬られて造られたもだった。おいカモ、武器を魔法で造るって言う魔法を何処かで聞いた事ねぇか?」

 

「いやそんな魔法聞いた事ねぇですぜ大兄貴」

 

 魔法の事をある程度知っているカモですらそんな魔法を知らない様子だった。

 

「だけどさっきのおサルさんの女の人が言っていた助っ人は何でお兄ちゃんしか狙わなかったんだろう?魔法を詠唱していた僕も邪魔すればよかったのに…」

 

 ネギの言う通りだろう。確かにマギはパワーだけならこの中でも一番だろうが、ネギの詠唱も止めた方が効率的だったろうに

 

「もしかして大兄貴のことを知っていてそれで命を狙おうとしたんじゃ…」

 

「冗談!確かに今の今迄喧嘩を売ってきた事はあるが流石に殺されるまでの恨みを貰った事はねぇぞ流石に」

 

 マギも流石にそこまではしなかったと言う。しかし助っ人はマギだけを狙っていた。謎は深まるばかりであった…

 

 

 

 

 

 マギ達から数キロ離れた場所にあるビルの屋上

 ビルの屋上に男が立っているが月が雲に隠れているせいで、影しか見えないがその人物は手に弓を持っていた。如何やらこの男が千草が言っていた助っ人なのだろう。助っ人が持っていた弓だが瞬きをしている瞬間に弓が男の手から消えていた。

 男が黙っているが屋上に足音が聞こえ、男に近づいていた。背丈は小さく少年の様だった。やはり雲のせいで顔が見えない

 

「何故あの女の邪魔をした。君の行動は理解しかねる」

 

 少年の高い声が男にそう訪ねた。男は黙っており話そうとはしなかった。少年は聞くだけ無駄かと思い立ち去ろうとしたが

 

「別にマギ・スプリングフィールドを狙おうとしたが手が滑った。ただそれだけだ」

 

 それだけ言った。少年はそれだけ聞くとそうかいとそう言った。

 

「言っておくけどネギ・スプリングフィールドの相手は僕がする。彼は…ネギ君は僕の相手に値するかを確かめる必要がある」

 

「構わん、勝手にしてくれ。私はマギ・スプリングフィールドにしか興味が無いのでね」

 

 そう言った話をしていると月が雲から出て来た。月がビルの屋上を照らすが、其処には少年と男の姿は何処にもなかった。




はい今回はオリジナルとしてマギのオリジナルの敵を出してみました。
と言っても読者の中にはオリジナルの敵の元ネタが分かってしまったと思いますが
どうか感想を送った時にネタバレをしないでもらいたいです。
あと最後の場面ですが、一人はオリ敵ですがもう一人は原作の敵です。
ですが原作の敵の口調が合っているか不安です。
次回の話はバトルが無いので短いと思います。

感想お待ちしております


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貴方が好きです!!

お久しぶりです!
よッ漸く完成した…!!
待っていた人は申し訳ありません
学校のレポートやら課題やらテストやらおまけにバイトやらと
色々と大変で投稿がかなり遅れてしまいました
申し訳ありませんそれではどうぞ


 修学旅行2日目

 前日の初日はこのかが誘拐されそうになり、マギ達の奮闘もあり無事このかを救出する事が出来た。

 そんな激闘が起こったのだが、今日も一人の女の子の激闘が始まろうとしていたのだった…

 アスナ達5班が泊まっている部屋にて

 

「あ…あのマギさん…」

 

『んあのどかか?如何した?』

 

 のどかがハルナ作のイラストのマギに(声はハルナがこっそり録音しており、ラジカセで再生している)話し掛けている。

 

「よろよろしければ…きょ今日の自由行動私達と一緒にまわりまわ…まわれられ…あの…その…」

 

 如何やら今日の自由行動の時に一緒に回る為のお誘いの練習をしている様子だ。だが今一上手くいかない様で口をもごもごしているためにちゃんと言いきれていなかった。とそこへ

 

「のどかー朝食だってよー」

 

「1階大広間にて集合です」

 

 同じ部屋のハルナと夕映がのどかに朝食だと教えてくれた。のどかはうん分かったとハルナと夕映に返事をした。ハルナと夕映が居なくなると制服に着替え

 

「よ…よーし!」

 

 後ろ髪をリボンで結び、決意の籠った顔のまま大広間に向かって行った。

 

 

 

 1階大広間

 

「朝食と言うのはな所謂人間の最初のエネルギー補給だ。それを食べるのがメンドイやら食欲が無いとかダイエット中だから食べないと言って世の中の連中は途中で動けなくなったりイライラしたり肌に悪いからな。良いか朝食を食べないと言うのはなその1日を棒に振るのと同じなんだぞだからしっかりとメシを「お兄ちゃん話が長いとご飯食べる時間が無くなっちゃうよ!」んあぁそうだな。長話は此れで終わりにしていただきます」

 

『いただきま~~す!!』

 

 マギの朝食の前の話が長引きそうになったためにネギが途中でやめさせて、生徒達は漸く朝食を食べ始められた。生徒達は和気あいあいと朝食を食べ始めた…一部を除いてだが。

 

「うー昨日の清水寺の滝からの記憶がありませんわ」

 

「せっかくの旅行の初日だったのにくやしーー!!」

 

 3-A組の殆どが昨日の清水寺の滝の水と言っても流れていたのは酒なのだが、それをたらふく飲んでしまった3-Aの恋多き女子達は酔いつぶれてしまい、そのまま爆睡。夜はそのまま寝てしまったと言うわけだ。

 

「ったく昨日はゴタゴタしてたせいでよく眠れなかったぜ」

 

「アハハそうだね」

 

 マギとネギも昨日のこのかの誘拐を阻止したのはいいのだが、疲れがまだ少し抜けていないのである。ネギも苦笑いしながらマギの言った事に同意した。

 

「ネギ君マギさんちょっと眠そうやねー」

 

 このかが朝食が乗っているプレートを持ちながらマギ達にそう言った。

 

「昨日はありがとなー。何やよー分からんけどせっちゃんやアスナと一緒にウチを助けてくれて」

 

 このかは昨日の事はいまいち覚えてい無いようだが、助けてくれた事は覚えている様子だった。

 

「いえ僕やお兄ちゃんは殆ど刹那さんについてっただけで…」

 

「そうだな、礼なら先に刹那に言ってくれよ。そうすれば刹那だって喜んでくれるさ」

 

 マギがそう言ったのと同時に刹那がこのかの前を横切った。このかがせっちゃんと呼んでみると刹那は顔をさっと逸らして逃げ出そうとした。

 

「せっちゃん何で逃げるん!?」

 

「わッ私は別にーー!!」

 

 このかが追いかけようとすると、刹那はそう言って離れようとした。このかはせっちゃん待ってーなー!!と刹那を追いかけた。前まではこのかの前でも何も言わずに立ち去っていたが、これはある意味いい傾向みたいだ。

 

「このかさんと刹那さん、前より関係が良くなってきたように思えるよ。でもまだまだ時間が必要だね」

 

「まぁな、でもま大丈夫だろ。アイツらの事だ前みたいに仲良しに戻れるはずさ」

 

 と言いながらマギは3杯目のご飯をおかわりするのだった。

 

 

 

 朝食を食べ終え、生徒各自は今日の班別行動の奈良への見学の準備に取り掛かっていた。

 

「さて今日は奈良での班別自由行動みたいだが…さて如何したもんかねぇ」

 

「そうねぇまぁ昨日の猿女を追い払ったしこのかと桜咲さんも少しはギスギスした関係じゃなくなったようだし、よかったじゃない」

 

「はい、でもあの猿のお姉さんが又このかさんを狙ってこないなんて保証は無いので気よ付けないとですね」

 

 さて話を戻すが、今日は奈良を見学するのだが、親書を届けるのは流石に無理があるため、今日はゆっくりする事が出来るかもしれないが

 

「俺達教師は如何すればいいのかねぇ~」

 

「う~んどうしよう」

 

 マギとネギは奈良の見学の時どうしようかと考えていると

 

「マギ兄ちゃん!」

 

「マギお兄ちゃ~ん!!」

 

 史伽と風香が横からダイブしながらマギに抱き着いてきた。行き成りだったのでマギは倒れそうになったが、如何したんだと風香と史伽尋ねてみると

 

「今日の奈良への班別行動僕達と見学しよー!」

 

 風香が奈良の班別行動の時一緒に見学しようと言ってきた。

 

「ううんマギさんウチらと一緒に見学せえへんか!?」

 

 と亜子もマギと一緒に見学しようと誘ってきた。更には

 

「おいマギ、私と一緒に奈良を回れ」

 

 とエヴァンジェリンが腰に手を当てやや上から目線でマギに命令口調でそう言った。見ればネギの方もあやかやまき絵やらと一緒に回ろうと誘っている生徒で周りを囲まれていたのはマギと一緒だった。

 マギとネギはいったい誰の班と一緒に奈良を回ろうかと迷っていたその時

 

「まッマギさん!!」

 

 マギを大声で呼ぶのが聞こえ、マギ達が声が聞こえた方を見てみると其処には緊張のせいか顔が真っ赤になっており、息をハァハァとしていたのどかが居た。

 のどかは2回ほど深い深呼吸をすると、マギの方を見て

 

「きょッ今日の班別自由行動私達と一緒に回りませんか!?」

 

 最初は噛んでしまったが、最後まで言い切ったのどか。そんなのどかを見てマギは瞬時に考えた。のどかの居る5班には今回の事件の中心人物であるこのかが居る。だったらのどかの誘いを受けて一緒の班に居る方が都合がいい。

 

「ん…まぁいいぞ」

 

 マギがのどかの誘いにOKすると、のどかはパァッ!と顔を輝かせ喜んだ。風香や史伽と亜子は残念そうな顔をしており、エヴァンジェリンは頬を膨らませ不貞腐れた顔になっていた。

 ネギの方もこのかの事もあるのか、同じ5班となっていた。誘わなかった周りの生徒は本屋が勝ったと騒いでいたが、マギは言葉の意味を理解しておらず、首を傾げていた。

 かくしてマギはのどかに誘われ、5班と一緒に奈良の班別自由行動を共にするのだった…

 

 

 

 奈良 奈良公園

 奈良の大仏がある東大寺が建てられている奈良公園に3-Aの生徒達が到着し、此処からは各自自由行動となっており、各班バラバラに行動しているのだ。

 そして奈良公園にはマギとネギに5班と何故か6班も一緒になって歩いていた。6班が何故居るのかというと、刹那がこのかに誘われて一緒に居るのもあるが

 

「たまたま一緒にいるだけだ!勘違いするなよ!!」

 

 エヴァンジェリンが顔を赤くしながらそっぽを向きながらそう言った。マギは女性に対して偶に鈍感になる時があり、エヴァンジェリンの態度を見てエヴァにも子供みたいな所もあるんだな~としか思っていなかった。

 さて話を戻すが、日本にくるのが初めてでしかも有名な大仏を見られるという事でネギは大興奮。マギも顔には出していないが少なからず興奮していた。そんなマギの背中をのどかがうっとりと見つめていた。

 

「よくやったー!のどか!!」

 

 ハルナはマギにばれない様にのどかの背中を叩いて少しだけマギ達と距離を置いたのだ。ハルナは嬉しそうにバンバンとのどかの背中をたたき続けた。

 

「見直したよのどか!アンタにあんな勇気があったなんて!」

 

「素直に感動したです」

 

 ハルナと夕映はホテルでのマギをのどかが誘う所を見ており、のどかの行動を素直に称賛していた。のどかはありがとうと二人にそう言う。

 

「マギさんと奈良を回れるなんて幸せ…もう今年は思い残す事は無いかも…」

 

 のどかは嬉しそうにそう言った。しかしloveを思い求めているハルナにとってはのどかの思いはまだまだ甘口である。

 

「何それだけで満足してるのよアホンダラァ!!」

 

 のどかの頭を思い切りたたくハルナ。頭を叩かれたのどかは吃驚して呆然とハルナを見ていた。ハルナはのどかを指差しのどかにある事を言った。それは…

 

「マギさんに告りなさいのどか!今日ここでマギさんに自分の思いを告白するのよ!!」

 

「ええッ!?そッそんなの無理だよ!!」

 

 今日勇気を出してマギを誘ったのどかであるが、さすがに今日告白をするのは難しいようだ。まぁ私の話を聞きなさいと話を続けるハルナ。

 

「いい?修学旅行って言うのは男子も女子も浮き足立つものなのよ。麻帆良恋愛研究会の調査だと修学旅行中の告白成功率は87%とも言われてるのよ!」

 

 ハルナの力説に夕映はまた適当な事を…と呆れていたが、のどかは87と言う高確率に驚いていた。

 

「しかもここで告白に成功して晴れて恋人になれば明日の班別完全自由行動日では二人っきりの私服ラブラブデートも夢じゃないわよ!!」

 

 ハルナの言った私服でのデートをのどかは想像してしまい顔を真っ赤していた。

 

「そ…そんな急にデートなんて…私困りますでも…あの…その…」

 

 のどかは恥ずかしさでモジモジとし始めた。そんなのどかを見てハルナと夕映はのどかの応援をすることに決めたのだった。

 

 マギとネギにアスナに刹那は昨日と同じように千草がまた襲撃してこないかと警戒をしていたが今の所問題は無いようだ。

 のどかとハルナと夕映が居ないのは先程の遣り取りを見ればわかるが、他のエヴァンジェリンや茶々丸にザジにこのかの姿が無かった。

 エヴァンジェリンはマギが相手にしてくれなくて不貞腐れてさっさと先に行ってしまい、茶々丸はエヴァンジェリンに付き添っていき、ザジはいつの間にか居なくなっていた。このかは近くの休憩所にて小腹に収める何かを買っていた。

 

「恐らく今日は大丈夫のようです。念のために各班に式神を放っておきました。何かあれば分かります。このかお嬢様も私が陰からしっかりとお守りしますので、3人は修学旅行を楽しんでください」

 

 と刹那がそう言っているが、まだ素直になっていないと見える。そんな刹那を呆れながらも笑うアスナとマギ。

 

「何で陰からなの?隣に居てお喋りでもしながら守ればいいのに~」

 

「いッいえ私などがお嬢様ときやすくお喋りなどをするわけには…」

 

 そんな刹那を何照れてるのよ~とアスナがからかった。まだ意地を張っている刹那を見て、まだまだこのかとの仲直りは先の話だなぁと思ったマギ。とその時

 

「アスナー!ネギ君!!一緒に大仏でもみよー!!」

 

 とさっきまで離れていたハルナと夕映がアスナとネギを蹴り飛ばすのと突き飛ばす形で連れて行ったしまった。さらに

 

「せっちゃん!せっちゃん!お団子買ってきたえ!一緒に食べへん?」

 

 団子を買ってきたこのかが刹那と一緒に食べようと誘ったが、未だにこのかと面と向かって話せる状態ではない刹那は思わず逃げてしまい、このかはそんな刹那を追いかけ始めた。

 1人ポツンと取り残されたマギは何だったんだ…?呆然としていると、のどかが走ってマギの元へ向かってきた。

 

「あッあのマギさん!」

 

「ああのどか、何かアイツら俺を残して先に行っちまいやがった。しょうがねえから2人で回るか?」

 

 とマギがそう言うとよッ喜んで!!と若干声が高くなりながらもそう言ったのどか。

 

「(よ…よーし!私頑張る!)」

 

 のどかは心の中で気合を入れて、マギと回る事にした。

 

 

 

 大仏殿

 マギとのどかは2人で大仏殿を歩いていた。2人だけでも歩けるだけでも幸せなのどかであるが、黙ってるだけでは失礼だと思い、話題をのどかから振りだした。

 

「お…大きいですね、大仏殿」

 

 と大仏殿の大きさを話題に出してみると、マギはそうだなぁと頷きながら

 

「こんなでけぇ木の建物をつくるとは日本の職人って言う者は流石だなって思うな。俺だったら面倒で途中で止めちまいそうだけどな」

 

 とマギは大仏殿を見ながらそう呟いた。のどかはマギの横顔を見とれていたがハッとした。

 

「(ダメダメ!告白しなきゃ告白しなきゃ…)」

 

 そんなのどかをハルナと夕映が見守っていた。

 さて大仏殿の中に入り、お目当ての大仏を見ることになったマギとのどか。マギは奈良の大仏の大きさと綺麗な装飾を見て凄いとしか言いようにない程感動していた。そんなマギを見てのどかはさっそく告白をしようとした。

 

「まッマギさん!!」

 

「んあ、如何したのどか?」

 

 行き成り大声を出してどうかしたのか?とマギはのどかに尋ねるがのどかは私…だい…す…すき…と告白しようとした。ハルナと夕映はそこだ!いけ!告白だ!!とのどかに声援を送った。しかし…

 

「大仏が大好きで!!」

 

「ほぉ~結構渋いんだな。まぁ夕映とも仲が良いし趣味もあうんだな」

 

 と的外れな事を口走ってしまった。ハルナと夕映と之にはズッコケてしまい

 

「(コラー!!何なのよそれはー!!)」

 

「(のどかはアホですかー!?)」

 

「(はぅぅ!ごッごめん!)」

 

 ハルナと夕映がのどかにヤジを飛ばし、のどかは涙目で謝った。次はおみくじのコーナー。

 

「わッ私…マギさんが大…大吉で…!」

 

「ん?おみくじでも引くか?」

 

 大好きを噛んでしまい、大吉になってしまい、おみくじを引きたいのかとマギに勘違いされてしまった。

 

「いッいえそうじゃなくて!大吉が大好き…いえ大仏が…!」

 

「っち大凶か。ついてねえぜ…」

 

 のどかが必死に言い換えようとしたが、マギは先におみくじを引いてしまい、大凶を引いて舌打ちをうった。のどかの告白は又しても失敗に終わってしまった。次には柱に人が通れそうな大きな穴があった。

 

「そう言えばこの穴を潜り抜ければ頭が良くなったり、願いが叶うって言うらしいぞ」

 

 のどかはそれを聞いてくぐって告白を言えるように勇気づけようとした。しかし

 

「あッあれ?おお尻がはまっちゃいましたぁ!!」

 

 腰に掛けていたポシェットがうまい具合に挟まってしまい、のどかが穴から抜けなくなってしまった。

 

「っておい…やれやれだぜ。大丈夫か?引っ張るぞ」

 

「へううぅ~すませ~ん」

 

 のどかは恥ずかしさとマギに迷惑をかけてしまった申し訳なさで顔を赤くしていた。マギは抜けなくなったのどかの手を思い切り引っ張った。すると

 

 

 スポッ!

 

 

 簡単に抜けてドスンと言う音が聞こえた。のどかがマギを押し倒したような体制になってしまった。近くで見守っていたハルナはマギとのどかの体制を見て興奮していた。

 

「イテテ、のどか怪我はねぇか?」

 

「は…はい。大丈夫です」

 

 のどかは申し訳なさでただそれしか言えなかった。そうかそれは良かったと言いながらマギは立ち上がり、パンパンと叩くと

 

「もう大仏は見たし、今度は外を回らないか?」

 

 そう言いながらマギはのどかに手を差し出した。のどかは差し出されたマギの手を見て

 

「はッはい!」

 

 と顔を赤くしながらもマギの手を握った。そして手を繋いだままマギとのどかは大仏殿の外を見て回る事にした。ハルナと夕映はそれを見て黙って追いかける。

 大仏殿の外は公園のようになっており、鹿がたくさんおりその鹿達に鹿煎餅と言った餌を上げられるのだ。マギはものは試しという事で鹿煎餅が入っている袋を自分用とのどかように2つ買ってみた。

 鹿煎餅を見ると鹿達は一斉にマギとのどかに群がり、鹿煎餅にありつこうとした。

 

「とっとと、この鹿達は皆食い意地が張ってるな」

 

「ふふ、そうですね」

 

 マギは鹿達の食いつきに若干呆れていたが、のどかはマギと一緒に餌やりが出来てうれしいのか笑いながらマギの言った事に頷いていた。

 

「ほうほうのどかとマギさん、いい雰囲気じゃないの」

 

「のどか嬉しそうです」

 

 今度は木から隠れてマギとのどかを見ていたハルナと夕映がそう言っていた。しかしその楽しげな時間が直ぐに台無しになってしまった。

 

「大変だぁ!暴れ鹿が出たぞお!!」

 

 一般客か地元の人なのか分からないが、大声で叫んでおり観光客は一斉にその方向を見た。見ると其処には長い角を持った見るからに荒々しい鹿が何頭かの鹿を連れていた。

 奈良の鹿は凶暴で知られており、特に角を持った暴れ鹿は性質が悪い。その角で怪我をする者や最悪命を落としてしまうケースがある。

 暴れ鹿は一鳴き嘶くと、観光客が群がっている場所に向かって突進をした。観光客は悲鳴を上げながら逃げ出した。

 

「おいヤベェなのどか逃げるぞ!」

 

 マギがのどかにそう叫んだがのどかは

 

「あ…あぁ…」

 

 恐怖で腰が抜けてしまった様だ。更に最悪な事に暴れ鹿は動けなくなっているのどかに狙いを付けたのか大きな角で突進をしてきた。

 

「ちょ!のどか何やってるのよ!?早く逃げなさい!!」

 

「逃げるですのどか!!」

 

 ハルナと夕映の叫びものどかに聞こえず、暴れ鹿はのどかに向かって角を突きだした。

 

「キャァァァァッ!!」

 

 のどかは思わず目を瞑って痛みに備えようとした。しかし何時になっても何も起こらずのどかは恐る恐る目を開けてみると其処には

 

「うぎぎぎ…!」

 

 暴れ鹿の角を両手で押さえて動きを封じていた

 

「調子に乗るなよ獣畜生が!!」

 

 そしてマギはそのまま暴れ鹿を持ち上げて、加減をしながらも思い切り叩きつけた。殺してはいないが暴れ鹿はよろよろと立ち上がった。其処には先程の気性の荒い雰囲気は無くなっていた。

 

「おいクソ獣、俺の生徒に危害を加えるって言うなら…潰すぞ」

 

 暴れ鹿と何頭かの鹿はマギの殺気を本能的に察知し、蜘蛛の子散らすように逃げ出して行った。

 

「一昨日きやがれこの野郎」

 

 マギは鹿達にそう吐き捨てるように言ってのどかの方に向かった。

 

「おいのどか大丈夫か怪我してないか?」

 

「はッはい、私は大丈夫です…あ!」

 

 のどかは大丈夫だが、マギの腕に傷がついていた。如何やら先程の暴れ鹿の突進の時に怪我をしたのだろう。

 

「マギさんの腕に傷が…私のせいで…!!」

 

「ん?あぁさっきの鹿のせいで出来た傷か。まぁのどかは気にするなよどうせ掠り傷なん…だ…し」

 

 マギは自分の傷を見てのどかに別に大したことは無いと言おうとしたが固まってしまった。何故ならのどかが泣いていたからだ。

 

「おッおいのどか如何したんだ!?やっぱ何処か怪我したのか!?」

 

「ちッ違います!私のせいでマギさんが怪我をしちゃったから…それに今日だってマギさんに一杯迷惑をかけちゃったからそれで…それで…」

 

 それだけ言うとのどかは行き成り立ち上がり

 

「ごめんなさい!!」

 

 泣きながらマギの元から走り去ってしまった。マギは余りの急展開に思わず呆然としていたが、さすがにのどかを1人にしておくのは不味いため、少し遅れてだがのどかを追いかけ始めた。

 

 

 

 所変わってアスナとネギと刹那

 

「もう、なんでこのかから逃げるのよ桜咲さん」

 

 アスナの言う通り刹那はこのかの誘いから振り切り、逃げ切った様であった。刹那は式神が見てるから大丈夫など言い訳をしているのだが

 

「アタシが言いたいのは如何して何も喋ってあげないの?」

 

 と訳を聞きたいようだった。

 

「それはその、お嬢様とかかわって魔法がバレテはいけないし…それに身分が」

 

「何ブツクサ言ってるのよ、聞こえないわよ」

 

 刹那がブツブツと言っておりなんて言っているのか分からなかった。とその時ガサッ!と言う音が聞こえ振り向いてみると

 

「あ…アスナさん、桜咲…さん?」

 

 のどかが涙目のまま気に寄りかかっていた。

 

「どッ如何したんですかのどかさん!?」

 

「いったい何があったのよ!?」

 

 アスナはのどかから事情を聞き始めた。何があったのか聞き終えるとアスナとネギはええ!?と驚き

 

「「マギさん(お兄ちゃん)に告白した!?」

 

「いッいえ!まだ告白は出来てません。その私がトロいのでマギさんに迷惑をかけてしまい、それで怖くなって逃げてしまったんです」

 

 のどかはあまり話した事の無い刹那にこんな話をしてすみませんと謝った。カモはネギの肩につかまりながらものどかの話を聞いて目を光らせた。

 

「あッあの、のどかさんはお兄ちゃんの何処が好きになったんですか?」

 

 弟であるネギはのどかがマギのどんな所に惹かれたのか聞いてみると恥ずかしいのかモジモジとして話し始めた。

 

「マギさんって偶に抜けてる所が有ってそれが皆を笑わせてくれるのが楽しくて、でも時々真剣な顔をして私達の悩みを聞いてくれるのがカッコよく見えて。それにマギさんが初めて男の人と話す事が出来た人で、本の話題で色々と話せるのが楽しくて、それに私は皆が困ってたり危ない目にあいそうになった時は助けてくれる。そんなマギさんを私は好きなったんです」

 

 アスナはのどかのマギに対する想いを聞いて何故か恥ずかしくなり顔を真っ赤にしていた。ネギものどかがマギの事をそこまで思ってくれて嬉しく思った。のどかものどかで自分の思いを誰かに話す事が出来て幾段か落ち着いた様子ですっきりとした表情になっていた。

 

「私の話を聞いてくれてありがとうございます。私行ってきますね」

 

 そう言ってのどかは来た道を又戻って行った。アスナはいまいち状況が掴めていない様子だったが、カモがのどかの嬢ちゃんを追いかけましょう兄貴!とネギを急かした。何故追いかけるのかネギが尋ねるとカモは

 

「俺っちの読みだとのどかの嬢ちゃんは大兄貴に告白する事間違いないっすよ!!」

 

「ええッ!?本屋ちゃんホントにマギさんに告るつもりなの!?」

 

 アスナはにわかに信じられなかったが、カモが間違いないっすよ!と自信ありげにそう答えた。

 

「ああいう純情な乙女って言うのは決心がつくと想い人の男に告白するのはほぼ間違いないんすよ!!」

 

 とカモの力説を聞いて、ネギ達はカモの言う通りのどかを追いかけたのだった。

 

 

 

「お~い、のどか~何処行ったんだ?」

 

 マギは走り去っていったのどかを探して、のどかの名を呼びながらのどかが何処に行ったのかを探していると

 

「マギさん!」

 

 走り去っていったのどかから戻ってきた。

 

「のどか何処行ってたんだ?心配したんだぞ?」

 

 大丈夫かとマギはのどかが大丈夫かと尋ねるとのどかは大丈夫ですと答えた。のどかは数かい深い深呼吸をするとマギを見ながら

 

「マギさん、今日は私マギさんにどうしても伝えたい事があったんです」

 

「?伝えたい事?何だそれは?」

 

 マギはのどかが伝えたい事が何かを尋ねた。

 

「はい、覚えてますか?まだマギさんとネギ先生が麻帆良に来た時に私が階段から落ちそうになった時にマギさんが私を助けてくれたことを、私まだあの時はまだちゃんとマギさんにお礼を言っていなかったと思うから、あの時はありがとうございました」

 

「(あ~あの時か。でもあの時はネギの力もあったんだけどな。まぁ魔法をばらすわけにはいかねぇしな)気にすんな。生徒を助けるのは教師として当たり前の事だろ?」

 

 マギは当たり前のことをしたから気にするなとのどかにそう言った。それだけじゃないんです。とのどかの話は続く

 

「それに私マギさんが初めて話した男の人で、それ以前は男の人と話すのが怖くて、でもマギさんは私達の悩みや困った時に助けてくれたり、色々な本の話をしてくれてとても楽しかったです。この前に私に本をプレゼントしてくれたのは本当に嬉しかったです。今日も私と一緒に奈良を見学してくれたのと、怖い鹿さんから私を守ってくれたことも…だから」

 

 だから…とのどかは大きく息を吸い、今日マギに言いたかった自分の思いを叫んだ。

 

「私!出会った時からマギさんの事が好きでした!!わッ私!マギさんの事が大好きです!!」

 

 マギに自分の思いを告白した。対するマギはと言うと

 

「…え?」

 

 行き成り告白されて呆然していた。

 

「行き成りこんな事言われて、戸惑うのは分かってます。先生と生徒ですし…でも私の気持ちを知ってもらいたくて…失礼します!マギさん!!」

 

 そう言い終え、のどかは走り去っていった。マギは未だに呆然していたがフウと溜息を吐いて頭を掻いていた。

 

「お兄ちゃん!」

 

「マギさん!本屋ちゃんに告白されちゃったじゃない!!」

 

 近くの茂みに隠れていたネギとアスナはマギが告白され要る所を目撃し、のどかに告白されたことを聞いた。しかしマギは

 

「んあ?のどかの告白が如何したんだよ?」

 

 とマギは普段と同じような様子だった。ネギとアスナは先程マギがのどかに告白され呆然している姿を見ていたはずだが

 

「だいたい告白なんて故郷じゃ色々な女に告白されてモテモテだったんだよマギさん。それがたかだか年下の女生徒に告白されただけで動揺するかってよ」

 

 ハハハとマギは高笑いをしながらタバコを口に咥えた。そんなマギを見てアスナはムカッとした。のどかが勇気を振り絞って告白したのにたかだか年下の女生徒と言ったのだ。これは許さる事じゃなかった。アスナはマギの顔をひっぱたこうとしたが、お兄ちゃん…とネギがマギを呼んだ。マギは如何したネギと普段と同じようにタバコに火を付けようとしたが

 

「タバコの咥えるところが逆だよ」

 

 とそれを教えた。それを指摘されたマギは黙って口からタバコを外し箱へと戻した。前言撤回、マギは故郷で告白などされたこともないし、モテモテではなかった。今回ののどかの告白が人生初でかなり動揺していたのだ。そして

 

 

 ドターーーーンッ!!

 

 

 マギは大きな音を立てて倒れてしまった。遂に思考回路が限界に達してしまい気絶してしまったのである。

 

「きゃぁ!マギさん!?」

 

「おッお兄ちゃん凄い熱だよ!!」

 

「知恵熱ってやつだな。マギの大兄貴もまだまだ青いって事か…」

 

 その後マギが凄い熱を出して倒れたという事が3-Aに知れ渡り、マギの事が気になる生徒達は大慌てだったそうだ。




感想をお待ちしております
次回は原作5巻から始まると思います


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ラブラブキッス大作戦!!

漸く更新できます!!
今回はちょっと短いです
本当は長くしようとしたんですが、これ以上長くするともっと更新日が長くなりそうだったので区切りの良いように分けました。


 奈良の班別行動が終わりまたホテル嵐山

 マギはのどかに告白されて、マギが未だに混乱している間にネギはネギで面倒な事になっていた。

 和美に魔法の事がバレテしまった様だ。何でも色々とネギがボウッと色々と考えている時に猫がひかれそうになった時に咄嗟に魔法を使ってしまった所を偶然にも和美に見られてしまったのだ。

 その後和美はしずな先生に変装し、ネギの魔法について世間に広めようとしたが、ネギの今迄の問題が全部爆発してしまい、魔力が暴走してしまった。

 和美がネギの魔法を使った瞬間を隠していた携帯で写真を撮ったが、携帯が壊れてしまいデータは無くなり、騒ぎを聞いて駆け付けたあやかに和美はしばかれたのであった。

 で現在にいたるわけである。

 

「んで和美に魔法がバレたが、和美は今の所魔法をバラす気は無いってことでいいんだな?」

 

 初日と同じ休憩所でマギとネギにカモとアスナに刹那+和美と言う新たなメンバーが出来た。和美はそうさねと頷きながら

 

「この朝倉和美、カモっちの熱意にほだされてネギ先生とマギさんの秘密を守るエージェントとして協力させてもらう事にしたよ。よろしくね」

 

 和美は協力するという事でその証拠にネギが今まで魔法を使っていた時の証拠写真を返してくれた。これでとりあえずは魔法が他の生徒にばれる事は無くなった。

 

「まぁ確かに和美の情報収集能力は大人顔負けの実力だ。情報戦も戦いの一つ、そう言った事が出来る人が一人いた方が有利になるか…」

 

 マギがそう呟いていると流石大兄貴!とカモがマギを持ち上げた。

 

「魔法使いも今や情報戦が出来る人間を1人でも居た方が良いってもんですぜい」

 

「さすがマギさん、物事を広く見てるさね」

 

 和美をそう言ってマギを持ち上げる。だけどな和美とマギは真剣な目で和美を見る。

 

「魔法使いって言うのは子供が想像するような素敵な事だけじゃない。当然命を落とすかもしれない。現に俺達も昨日殺されかけたばっかりだ。命をかける覚悟お前にはあるか?」

 

「マギさん、私を嘗めてくれちゃあ困るさね。私はジャーナリスト、嘘で固められた真実よりも私自身見た真実を求める。それの為ならこの命いくらでもくれてやるさね」

 

 何時ものおどけた顔ではなく、真剣なそれもジャーナリストの顔でマギに訴えかけた。そんな和美の訴えを聞いてマギの考えは

 

「だったらいいんじゃねえか?和美を仲間にしてもよ」

 

 マギの決定に刹那は本気ですか?と尋ねると

 

「あぁ本気さ。さっきも言ったが、和美の情報収集能力は高い、それにカモと一緒に行動させればさらに情報の視野を広げる事が出来そうだ。それに和美は一遍ふざけているように見えるが、マジな所は真剣にやるだろうさ」

 

 まぁそういう事でとマギは腕を伸ばし、和美に握手を求めた。

 

「とりあえずだ。ネギのサポートよろしく頼むぜ」

 

「よろしくマギさん。大船に乗ったつもりでいていいよ」

 

 和美もマギの握手に応じた。こうして和美という有力な戦力がまた一人加わった。とそこに

 

「あらネギ先生どうしたんですの?」

 

 風呂上りの3-Aの生徒達の中のあやかが休憩所でネギが休んでいるのを見て如何したのかと尋ねるとねるとすかさず和美が

 

「実はネギ君とマギさんと仲良くなったんだよねこれが」

 

 あやかやまき絵に史伽や風香と亜子は和美が言った仲良くって言うのが別の意味だと捉え、色々と詳しく話を聞こうとしたが、丁度新田先生が現れ3-Aの生徒達に消灯時間だから早く部屋に戻るように言われたために仕方なく自分達の部屋に戻る事にした生徒達。そんな生徒達を見て何かを思いついたのかカモは和美に何かを耳打ちした。

 

「えぇ、それマギさんに怒られないかい?」

 

「大丈夫だって姉さん。マギの大兄貴だってそんなに怒らないはずでさ」

 

 と言いながら和美とカモは何処かに行ってしまった。

 部屋に戻った3-Aの生徒達だが新田先生が言った通り大人しくすぐ寝るはずが無かった。さらに初日は何もせずに寝てしまい今日こそは騒ごうと生徒達も張り切っていた。ある部屋では定番のまくら投げ。他のクラスでは夜でおなじみの怪談。また他の部屋ではこれまた定番な恋バナ。そんなに騒いでいると

 

「こらぁ3-Aいい加減にしなさい!!」

 

 と新田先生が怒鳴りながら騒いでいた3-Aの生徒を部屋の廊下に正座で座らせ説教を始めた。

 

「まったくお前らは昨日は珍しく大人しいと思ってみれば、いくらネギ先生とマギ先生が優しいからと言っても学園広域生活指導員のこのワシがいるかぎり好き勝手はさせんぞ!これより朝まで自分の班部屋からの退出禁止!見つけたらロビーで朝まで正座だ!分かったな!?」

 

 新田先生の説教は罰はロビーで正座という事で終わった。新田先生は憤慨しながら階段を下りて行って、しずな先生はゴメンねとジェスチャーで生徒達に謝った。

 

「ちぇ~つまんない。マギさんとまくら投げしたかったのに~」

 

「ネギ君とY談したかったなぁ~」

 

 残念そうにして部屋に帰ろうとする生徒達の前に、皆とは離れて怒られずにすんだ和美が現れた。

 

「皆新田に怒られるなんてついてないねぇ~」

 

「なッ朝倉さん!?自分だけ隠れて裏切り者~~!」

 

 あやかが自分だけ逃げた和美に文句を言っていうと和美は笑いながら謝ると

 

「まぁまぁ私から提案があるんだよ。このまま夜が終わるのももったいないじゃない?いっちょ3-Aでド派手にゲームでもしない?」

 

 和美のゲームと言う単語に首を傾げる生徒やあやかや史伽は反対だが、風香やまき絵はゲーム大賛成のようだ。そしてそのゲームの名は

 

「名付けてくちびる争奪!修学旅行でネギ先生&マギ先生とラブラブキッス大作戦!」

 

 和美の名付けたゲームのルールを説明すると、各班の2人づつを選手に選び、新田先生からの監視をくぐり旅館の何処かに居るネギとマギの唇をゲット。妨害はありだが武器は両手の枕のみで上位入賞者には商品をプレゼント。なお新田先生に見つかった場合は罰として朝まで正座…というのがルールである。

 ルールを聞いた生徒達はネギとマギにキスが出来るという事でほぼ満場一致であった。唯一のストッパーであるあやかもネギとキスが出来るという事で顔がヤバい事になるほどに興奮していた。

 

「よーし!各班10時半までに私に選手2名を報告!11時からゲーム開始だー!!」

 

 時間を決めると各班の生徒達は誰が出場するかを決めながらゲームが開始されるまでワクワクが止まらない様子だった。そんな生徒達から離れてトイレの個室に入ると

 

「フフ、どう?上手くいったでしょ」

 

 和美は自分の胸元に話し掛けたすると

 

「さすが姉さん作戦通りでさぁ」

 

 とカモが和美の胸の谷間から現れた。なんともまぁお約束な登場である。しかし作戦通りと言うのは如何いった事なのだろう。実は

 

「今回の作戦は仮の姿…その実体はそうパクティオーカード大量ゲット大作戦さ!」

 

 とカモはネギが仮契約の時に具現化させたパクティオーカード3枚を和美に見せた。和美は渡されたカードをまじまじと観察した。

 

「これがそのカードねぇ、これを沢山集めればいいんだね?」

 

「そうですぜ、オリジナルはネギの兄貴が持ってるけど、これは俺っちの力で作ったパートナー用の複製でさぁ。今の兄貴はアスナの姐さんと失敗した姐さんと同じく失敗したこのか姉さんのスカカードを合わせて3枚でさぁ」

 

 とネギの今のカードの枚数を和美に教えた。それとカモは和美と一旦分かれると旅館の四方に魔法陣を描いており、この旅館内でネギとマギがキスをしたら即パクティオー成立と言うわけである。

 

「カード一枚に付き五万オコジョ$を貰えるんすよ!それに参加人数が12人っていう事はかなりの金が手に入る!これさえあれば妹の病気の治療費も直ぐに集まるってもんでさ!!」

 

 忘れている者もいるかもしれないが、カモが日本に来たのは表向きマギとネギの使い魔として居候しているが、実際は病弱の妹の治療費を稼ぐために牢屋から脱走し今に至るのである。中でも使い魔になり仮契約を達成すると報酬として大金が手に入るのである。

 

「カモっちの妹のために動くって言う考えに納得した私だけどさ、これマギさんとネギ君が納得するんかね?一応普通の生徒に魔法がバレチャいけないし、魔法の世界は危ないんでしょ?」

 

「そうでさ。おそらくですが、こんな身勝手な事をしてれば兄貴や大兄貴に失望されて最悪、使い魔としてもクビになるかもしれない…言っちゃ悪いんですが、結局あの2人は赤の他人、俺っちにとってはたった1人の家族の妹の方が大事、妹の為だったら喜んで汚れ仕事なんかしてやるでさぁ」

 

 和美はカモの覚悟がいかほどか分かった。和美はカモの頭に優しく手を置くと

 

「大丈夫だよカモっち、もしマギさんやネギ君が何か言っても私がフォローするさね」

 

「ぶんやの姉さん…かたじけないっす」

 

 いーよいーよ!とカモが改めてお礼を言ったのが恥ずかしいのか和美は笑いながらそう言った

 

「さってと今はこのゲームを盛り上げてあげましょうかね!!」

 

「そうでさ張り切って行きましょうぜ!!」

 

 トイレの個室から和美とカモの高笑いが聞こえ、トイレの外に居た夏美は少しばかりビビっていた。

 

 

 

 ネギとマギの部屋

 ネギとマギは先生という事で先生専用の部屋で寝泊まりをしているのだ。ネギはふぅ…と疲れた様な溜息を吐いて

 

「ふぅ~今日は何も問題は無く終わって良かったよ~」

 

 大きな独り言を言っていると見回りに行っていたアスナと刹那がネギ達の部屋にやってきた。

 

「ただいま~!何も問題無かったわよネギ」

 

「途中でカモ君が変な魔法陣を描いていましたが、問題は無いと思ったので放っておきました」

 

「そうですか、アスナさん刹那さん、見回りお疲れ様でした」

 

 ネギは見回りをしてくれたアスナと刹那にお礼を言った。大したことじゃないわよとアスナがそう返す。

 

「所でさ…マギさんは如何なの?」

 

 とアスナがマギの状態を聞いてみた。ネギがお兄ちゃんはまだ…と窓の方を指差した方向はベランダであり

 

「…」

 

 マギがベランダでタバコを吸っているのだが、呆然としていた。

 

「よっぽど本屋ちゃんに告白されたのが応えた様ね」

 

「ハイ、お兄ちゃん告白なんて僕が知る限りでは初めてだと思いますから」

 

 アスナとネギの言った通りマギは今日の奈良の自由行動の時にのどかに告白されたのがまだ頭に離れず、それがマギを悩ませていた。それはさておき

 

「何も問題はなさそうなのでネギ先生も今日は疲れたでしょうからもうお休みなったらどうでしょうか?」

 

 刹那はネギに休むように言ったが、ネギはいいえと首を横に振りながら

 

「何というかさっきから胸騒ぎが止まらなくて、今は休もうと思えません」

 

 とネギの言った通り、刹那も確かにと呟くと

 

「確かに今の旅館の中では殺気に似た気があちこちで渦巻いてますね」

 

「そうなの?」

 

 アスナは少し話について行けてない様子で首を傾げていた。

 

「なので僕も少しだけ旅館の周りを見回りに行こうと思います」

 

「けどマギさんはともかく、ネギみたいな子供がこんな深夜に居なくなると他の先生が騒いだりしない?」

 

 でしたらと刹那が人の形をした紙の束をネギに渡した。

 

「この身代わりの紙型をお貸ししましょう」

 

「身代わりの紙型ですか?」

 

 ネギは使い方を聞こうとしたが丁度その時

 

「ネギ先生マギ先生そろそろ寝ましたか~」

 

 としずな先生が現れアスナと刹那は(この時間に先生の部屋には居るのは不味いので)慌てて隠れて様子を見た。

 

「あッしずな先生、今寝るところでした」

 

「生徒の見張りは私達に任せてください。ネギ先生は10歳マギ先生もまだ17歳なんですから生徒と同じ時間に寝て下さいね」

 

 絶対寝て下さいね~としずな先生はそう言いながら走り去っていった。ネギは走り去っていくしずな先生を呆然と見ていた。しずな先生が去って行ったのでアスナと刹那は入れなかったお風呂に入りに行ったのだった。

 走り去ったしずな先生、じつは…

 

「いそげ姉さん!ゲームが始まっちまう!!」

 

「OKOK大丈夫カモっち!ビデオの準備はもう完了してるし、準備万端よ」

 

 和美の変装で走りながらしずな先生に変装していたマスクをベリベリとはがしながら監視カメラを管理している監視室に入ると監視カメラとホテルの3-Aの班部屋のテレビだけをハッキングするという離れ業をやってのけた。

 そして午後の11時になるとゲームが開始された。ゲームに参加しない生徒達は先生にばれない様に静かにテレビを付けた。

 

『修学旅行特別企画!くちびる争奪!修学旅行でネギ先生とマギ先生とラブラブキッス大作戦!!司会は朝倉でお送りしま~~す!!』

 

 テレビから和美の声が聞こえ、ゲームが始まった。その本格的さバラエティー番組に引けを取らない程だ。それでは各班誰が出場しているか紹介しよう。まずは3班

 

「はぁ…何であたしがこんな事をしてるんだか…」

 

「ブツブツ呟いてないで行きますわよ長谷川さん!ネギ先生の唇は私が死守しますわ!!」

 

 やる気のない千雨とそのままネギを襲ってしまうのではないと欲望がダダ漏れなあやこ。

 

「ネギ坊主も良いけどマギさんも…どうしようアル~ワタシ初キスアルよ~」

 

「ん~そうでござるな~」

 

 2班古菲と楓はどちらかというと遊びで参加しているようだ。しかしこの2人体力戦闘力として侮れない。

 

「よ~し!絶対勝つよ!!」

 

「フフフ~ネギ君とキスか~」

 

 裕奈とまき絵の4班はネギの事が好きなまき絵がネギとのキスを想像して笑みを浮かべていた。

 

「おッお姉ちゃ~ん正座は嫌です~~!」

 

「大丈夫だって!僕らはかえで姉から教わってる秘伝の術があるだろ?」

 

「その楓姉と当たったらどうするんですか!?」

 

 ビクビクしている史伽と強気な風香の1班。

 

「クク…ククク…小娘どもにこの私の恐ろしさを身に沁みさせてやるそッそしてマギと…!」

 

「マスター余り目立った行動をしていると新田先生にばれてしまいます」

 

 殺気とマギに対する想いが溢れまくっているエヴァンジェリンと茶々丸の6班。そして

 

「あう~ゆえ~」

 

「全くウチのクラスはアホばかりです…せっかくのどかが勇気を出して告白したのにこんなアホなイベントを…」

 

 オロオロしているのどかと自分のクラスのアホさに溜息を吐く夕映の5班。以上が今回のゲームに出場する各班のメンバーである。

 

「いいよゆえ、これはゲームなんだから…」

 

「何を言ってるんですかのどかは」

 

 何処か弱腰ののどかに夕映は目を光らせながらのどかを見た。

 

「マギさんは私が知る中でも最もまともな部類に入る男性です…まぁ時々だらしない所もあるですが。のどかは間違った選択はしてないです。断言します」

 

「ゆえ…」

 

 親友の言った事にジーンとしてしまったのどか。

 

「絶対勝ってのどかにキスをさせてあげるです!行くですよ!!」

 

「うッうん!!」

 

 こうして和美のゲーム開始宣言でゲームが開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 一方のネギとマギはと言うと

 

「ううッ!?何だろう今の寒気は?やっぱりパトロール行こうっと」

 

 急に変な寒気が体を襲い、それが分からないのがかえって不気味に感じたのでネギはパトロールに行こうとしたが

 

「おいネギ」

 

 マギがネギを呼び止めた。ネギが如何したのお兄ちゃん?と聞いてみると

 

「俺も一緒に外に出ていいか?少し頭を冷やすのと自分の気持ちを整理したい」

 

「それってのどかさんの事?」

 

 ネギがそう聞くとマギがあぁと頷く

 

「あんなオドオドしていたのどかが勇気を出してこんな俺に告白したんだ。だったら俺もこんな所でウジウジとしてないで今の俺の気持ちをのどかに伝えないとな」

 

 そうネギに言うとネギは良かったと言いながらマギに笑いかけた。マギはネギが笑いかけているで如何して笑ってるんだよと聞くと

 

「やっぱりお兄ちゃんは僕の自慢のお兄ちゃんだなって、改めてそう思っただけだよ」

 

 笑いながらそう言うとマギは恥ずかしくなったのか顔を赤くしながらうるせとネギを小突いた。

 

「うじうじしてるのはマギさんの性に合わないからな。スパッと解決するのがマギさんらしいの」

 

 まぁそれは置いといてとマギはネギが先程刹那から渡された身代わりの紙型を取り出した。

 

「さっきの話を聞いたが、この紙に俺らの本名を筆で日本語を書けばいいんだよな」

 

「そうだよ。ちゃんと書けば僕達の身代わりになってくれるんだ」

 

 さっそくネギとマギは自分達の名前を日本語で書いてみた。しかし

 

「あッ…間違えちゃった」

 

「クソ俺もだ」

 

 やはり外国人の2人はまだ日本語に慣れてい無いようだ。それに初めて筆で書くために緊張もしてしまうその後も

 

「あ…カタカナの方が良いかな?」

 

「んだ変な文字になっちまったな」

 

「あれ?何か違うぞ」

 

「クソ!段々メンドクなってきたな…」

 

 その後も何回か失敗するネギとマギ。間違えた紙はゴミ箱に捨てる事数分後何枚目か分からないが

 

「よッ漸く出来た~!」

 

「俺もだ。途中から苛々してきて止めたくなっちまったよ」

 

 漸くできたようだ。ネギとマギは紙に向かって

 

「「お札さんお札さん僕(俺)の身代わりになってください(くれ)」」

 

 と唱えると身代わりの紙型がパァと光りだした。そして

 

「こんにちはネギです」

 

「マギだ」

 

 ネギとマギの身代わりの分身が完成した。自分達の分身を見てネギとマギはとても驚いた。

 

「凄いや!ぼくそっくり。西洋魔術にこんなのはないなー」

 

「しっかし自分がもう一人いるなんて何か不気味だな…」

 

 マギは自分の分身をまじまじそう見て呟いた。

 

「それじゃ僕の代わりに寝ててね」

 

「くれぐれもばれんなよ」

 

 身代わりの分身にそう命令するとネギとマギの分身はこくりと頷いた。これで安心とネギとマギはベランダから外に飛び出した。

 しかしネギとマギは気づかなかった。この身代わりがこの後とんでもない騒動を巻き起こす事に………

 先程身代わりの紙型で書き間違え、捨てたゴミ箱がピカッと光ったと思いきやガタガタとゆれて中から

 

「ヌギデス」

 

「ホギです」

 

「メギだ」

 

「モギだぜ」

 

「ムギは俺だぜ」

 

 先程失敗した身代わりの紙型が分身となってゴミ箱から出ようとしていた。その光景は墓から出ようとしているゾンビの様だった。

 波乱のゲームは幕が上がったばかり。はてさて、どのような結果になるのだろうか…




次回は原作と違う展開にしたいと思います


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Q初キッスはどんな味?A知るか

お久しぶりです!!漸く投稿出来ました!!
いままで大学のレポートやらこれから人生を見直したりでかなり投稿が遅れてしまいました。
話を作成している間にもUAが10万を超してお気に入りも800人まで行きました!
ありがとうございます!!これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!
今回の話は原作のキスゲームですが、原作では居なかったエヴァンジェリンなどが居るように原作と違う所があります

それではどうぞ!!


 ゲームが開始されたのをマギとネギは知らずに、外に出て見回りをし始めた。そして刹那に渡された身代わりの紙型の分身たちはと言うと…

 

「こんばんはヌギです」

 

「ホギでーす」

 

「メギだぜ」

 

「モギだ」

 

「ムギダゼ」

 

 マギとネギの失敗した身代わりの紙型も実体化して、分身の数は合わせて7人までに増えてしまった。同じ人間がいっぱいと言うのはなんとも不気味でシュールな光景である。

 

「今晩はネギです。なんだかいっぱい出てきてしましましたね~」

 

「そうですねー」

 

「ういむしゅー」

 

「おういえー」

 

「そうだな」

 

「だなー」

 

 1人の分身が喋り他の分身がコクコクと頷く。先程も言ったがシュールである。

 

「俺とこいつは此処で寝てるように命令された」

 

 命令されたマギの分身の1人は同じく命令されたネギの分身を指差しながら言った。

 

「僕は命令されてないよ」

 

「僕もー」

 

「俺もだぜ」

 

「俺もだ」

 

「俺もー」

 

 命令されてない分身たちは如何するか考えて考えた結果

 

「ではテレビでも見ていて待ってましょうかね」

 

「そうですね」

 

「賛成ー」

 

 分身たちはテレビを見ていることにした。そして命令された分身たちは一応布団に入り、寝る事にした。そのころ監視室では

 

「よし姉さんキュー!!」

 

「さて教員部屋にいるネギ先生&マギ先生に最初にアタックできるのは誰か!?ゲームが遂にスタート!実況は報道部朝倉がお送りいたします!!」

 

 ゲームの実況をカモと和美が行っていた。

 

「現在2班3班4班が急速に接近中!早くも大乱戦が起こる予感!一方1班5班6班はまだ動きを見せていない!この班たちは確実に接近する事を選んでいるようだ!!」

 

 和美の実況を聞きながら、ゲームに参加していない生徒達はテレビでゲームの様子を眺めているのだった

 

 

 

 

 

「それにしても意外ですわね」

 

「あ?何がだよいいんちょ?」

 

 3班のあやかと千雨がホテルの廊下を歩きながら話していた。

 

「千雨さんはどちらかというとこう言った生徒同士で騒ぐのは苦手だったはずですけど」

 

「あぁ、あたしはこう言ったバカ騒ぎはどちらかというと嫌いさ。だけどなこう言った時だったら、マギ先生にお礼が言えると思うんだよ」

 

 お礼?あやかは首を傾げた。千雨の言っているお礼と言うのはマギとネギが麻帆良に来たばかりの時、その時の千雨は自分に自信が無く、人目を避けていた。そして自分のホームページで自分のコスプレ写真を偽り、人気を取っていた。

 しかしマギが自分に自信を持てと言ってくれて、ためしに何も手を加えずありのままの自分の写真を上げてみると、偽っていた時よりも人気となった。

 其れからは千雨は少しづつ3-Aの生徒達とも話すようになった。と言っても千雨は皮肉を言ったりしているのだが、基本お人好しな3-Aの生徒達は千雨の皮肉に笑っていたりしていた。

 それもあって千雨は少しだけだが、学校生活が楽しくなったのである。

 

「まッまぁマギ先生にはお世話になったし、お礼を言わないって言うのはあたしの流儀に反するからな」

 

「そうですか、でも千雨さんが少しづつですが他の生徒の皆さんと話すようになってくれて委員長として嬉しいですわ」

 

 あやかが笑いながらそう言い、千雨は顔を赤らめてそっぽを向いていた。とその時

 

「「あ」」

 

 曲がり角で4班の裕奈とまき絵に遭遇してしまった。

 

「うわ!いいんちょだ!!」

 

「まき絵さん勝負ですわ!!」

 

 とまき絵とあやかの勝負が始まった。互いの枕がぶつかり合う。さらに裕奈がまき絵を援護し始めた。

 

「くッ2対1はこちらが不利ですわ!千雨さん援護を…ってあれ!?」

 

 あやかは千雨に援護を頼もうとしたのだが、千雨はあやかの数m先の通路まで離れていた。

 

「悪いないいんちょ、あたしみたいなもやし娘が体育バカのその二人にの相手は無理だから1人で頑張ってくれ」

 

 そう言い残し、千雨は何処かへ行ってしまった。あやかは千雨に薄情者~~!と叫んだと更に

 

「おお!獲物がいっぱいアルね!!」

 

 古菲と楓の2班が参戦し、三つ巴の戦いとなった。

 

「おおっと!早くも三つ巴の戦いの大乱闘だー!武闘派の古菲が優勢か!?というより枕を使わない打撃は反則だよ!!」

 

 実況の和美も実況に熱が入る。このまま大乱闘が続くと思った矢先に

 

「コラァ!騒いでいる生徒は誰だ!?」

 

 新田先生の声が聞こえ、戦いを止めてあやか達は逃げようとしていると、古菲が楓と頷きあうと

 

「お先アルよ~!!」

 

 とまき絵と裕奈を馬跳びする形で古菲と楓は逃げ去って行った。まき絵と裕奈はバランスを崩して頭をぶつけ合って目を回しながら倒れた。

 

「やっぱり3-Aの生徒達か!佐々木明石!お前らはロビーで正座だ!!」

 

 と気絶したまき絵と裕奈が新田先生に引きずられる形でロビーへと連れてかれた。こうして4班が早くも脱落する形となった。

 

「おおーっと!ここで鬼の新田に4班の裕奈とまき絵が捕まってしまった!ライバルが減って他の班はどう動くのか!?」

 

 

 

 

 

「ゆッゆえ~」

 

「何ですかのどか?」

 

 のどかと夕映が匍匐前進をしていた。何故匍匐前進しているのかというと

 

「なんでこんな所を通ってるの?マギさんの所行くだけなのに、まるで忍者みたい」

 

 ホテルの外のわずかな足場を渡っているのだ。のどかの言う通りまるで忍者のようだ。夕映に訳を聞いてみると夕映は一枚の地図を広げた。それはホテルの見取り図だった。

 

「私の見立ててではこのルートが最も安全かつ速いのです。マギ先生たちの部屋は端っこなのでどうやっても必ず敵や新田先生に当たってしまいます」

 

「そっか、だから裏手の非常階段からすぐ中に入れば」

 

 のどかは夕映の先を見た行動に感心した。

 

「でも非常階段のドアに鍵がかかってるかも…」

 

「ご心配なく。こんな事もあろうかと非常階段の鍵は先程私が開けておいたです」

 

 そう言って非常階段に向かった。非常階段に到着し、ドアノブを捻るとドアが開いた。夕映の言う通りだったようだ。のどかは夕映にお礼を言おうとしたが、夕映はお礼を言うなら目的を達成した後ですよと先を急ぐように言った。

 まだ誰も教員部屋にはまだ誰も来ていないようだ。これはチャンスだと夕映は部屋番号304を指差した。

 

「そこがマギさんとネギ先生の部屋です。さぁのどか今のうちに」

 

「う…うんありがとう。まッマギさんとき…キス…」

 

 のどかがマギとのキスを妄想したのか顔を赤くしていたとそんなのどかの頭上の屋根の板がずれてとれ、縄梯子が降りてきた。のどかは行き成り縄梯子が降りてきて吃驚していると

 

「あッ5班!」

 

「しまったヤるよ史伽!!」

 

 縄梯子から1班の風香と史伽が降りてきた。屋根裏を通って来るとは、小柄な2人だから出来る事である。

 

「「鳴滝忍法分身の術!!」」

 

 と風香と史伽が2人がかりでのどかに襲い掛かる。別に分身してないじゃんと言ってはいけない。

 

「くらえ甲賀手裏剣!」

 

 風香がのどかに枕を手裏剣代わりに投げようとしたが、夕映が史伽に枕を当て、妨害した。

 

「風花さん史伽さん!私が相手です!」

 

「おッおのれゆえ吉ちょこざいな!我ら甲賀忍群に敵うと思うてかでござる!」

 

「おッ思うてか!」

 

 と風香と史伽が夕映に反撃しようとしたが、すかさず夕映が攻撃する。

 

「やったねってゆえ吉それって!?」

 

「何か凶器を出したです!」

 

 二人が驚き後ずさる。夕映が手に持っていたの2冊の分厚い辞書。何処から出したのかというツッコミは無しという事で。夕映は2冊の辞書で2人に殴りかかる。

 

「ちょゆえ吉本で殴るのは反則だよ!!」

 

「枕の上からなら無問題です!!」

 

「そう言う問題じゃないですー!きゃああ!?」

 

 夕映と風香と史伽の激しい攻防をのどかはオロオロとしか見てられなかった。

 

「此処は私が食い止めるです!のどかは早くマギさんの所へ!」

 

「でッでもゆえ!」

 

 夕映が『此処は食い止めるから早く行け!!』みたいな事を言っているが別に死ぬわけではないのに、のどかは大袈裟に如何しようか迷っていた。

 

「およ!見つけたアルよ!」

 

 更に古菲と楓が乱入してきた。武闘派の2人が加わってはのどかをマギの所に行かせるのが難しくなってしまう。夕映は強行策へ向かった。

 のどかを強引にマギ達の部屋と押し込んだ。そして夕映は部屋のドアを閉めた。マギの部屋に入る事が出来たのどかはゆっくりとした歩調でマギの元へと向かった。

 

「マギさん…」

 

 のどかが見る先にはネギと一緒に静かに寝ているマギの姿があった。のどかは静かに座ると顔をマギに近づけた。

 

「マギさんすみません、こんな形で。でも…でも私嬉しいです。マギさんキスさせてください」

 

 のどかは少しづつマギの唇に自分の唇を近づけた。マギの唇まであど数㎝という所でのどかは人の気配を感じて顔を上げてみると

 

「キスですか」

 

「チュー」

 

「ユーやっちゃいなヨー」

 

「ラジャー」

 

「チュッチュ」

 

 数人のマギとネギが自分の周りを囲んでいたのだ。のどかはさっきまで顔を赤らめていたのがサァと血の気が引いて顔面蒼白になっていた。

 

「キャアアアアアアアア!!」

 

 のどかは思わず悲鳴を上げてしまい、そまま気絶してしまった。

 

「のどか如何したんですか!?」

 

 さっきまで戦っていた夕映達は戦闘を止め、部屋に入ってみると、部屋の中には気絶したのどか以外誰も居なかった。

 

「のどか如何したんですか!?」

 

 夕映は気絶したのどかを抱き起す

 

「窓が開いてるアル!外に逃げたアルね!!」

 

「史伽追うよ!!」

 

「あッお姉ちゃん!」

 

 ネギとマギの姿が無いのは窓から逃げたのだと考えた風香は窓から飛び降りてマギの後を追った。その後ろを史伽が追う。

 

「のどかいったい如何したんですか!?」

 

 夕映はのどかから何があったのか聞こうとすると、のどかがう~んと唸ってから

 

「マギさんとネギ先生がいっぱいです~」

 

「何おかしなこと言っているんですか!?」

 

 夕映はのどかがかなり混乱していると判断し、先程までマギが寝ていた布団へのどかを寝かせることにした。

 

「えーただいまの状況ですが、5班ののどかがマギ先生にキスをしようとしましたが失敗した模様!マギ先生とネギ先生は逃走した模様!さて誰がどの班が2人を見つける事が出来るのでしょうか!?」

 

「朝倉の姉さん」

 

 和美が実況に熱中しているが、カモが和美を呼んだ。和美は何と聞くと

 

「いや俺っちの目の錯覚かなぁ…ネギの兄貴とマギの大兄貴が沢山いるように見えるようなんだけど」

 

 とカモが言ったように別々の隠しカメラにネギとマギの姿が写っていたのだった。

 

 

 

 

 

「ふぅ~」

 

 マギがホテルの外でタバコを吸っており、吐いた煙が夜空に漂っていた。マギは形だけの見回りをてきとうにやり終えた後はずっとのどかの事を考えていた。

 

「のどかの事でこれ以上先延ばしにするのは不味いよな…よし!」

 

 マギは何処か決意した顔でホテルに向かった。

 

 

 

 また場面をホテルに戻す。今まで何も行動しなかったエヴァンジェリンと茶々丸、エヴァンジェリンは魔法を使って気配を消しており、茶々丸もロボットなので気配を消せることが出来る。

 

「ククク、そろそろ小娘どもがヘマを起す所だろうから、私がゆっくりとマギの相手をしてやろう」

 

「しかしマスター、マギ先生とキスをした事が無いのに本当に出来るのですか?」

 

 茶々丸にそう訪ねられたエヴァンジェリンはあッ当たり前だろう!と顔を赤らめて声を荒げた。実際エヴァンジェリンは異性とそう言った関係になった事が無いのだ。初恋のナギともキスをせずに終わってしまったのである。つまりエヴァンジェリンはキスのやり方など知らないのだ。

 

「いッいいか茶々丸!私が本気を出せばな小娘どもが顔を真っ赤にするような大人なキスをやってやれるんだぞ本当だぞ!!」

 

「そうですか…(赤面しているマスター可愛いです)」

 

 茶々丸が喚いているエヴァンジェリンを黙って録画しておくことにした。すると

 

「おいエヴァ」

 

 エヴァンジェリンの後ろから声が聞こえ、後ろを振り返ってみるとマギが此方に向かって歩いていた。

 

「まッマギ!いや違うんだぞ!私は別にお前に何かをしようとしたわけじゃなくてな!」

 

 とエヴァンジェリンは自分でも何を言っているのか分からない状態だったが、マギは笑みを浮かべながらエヴァンジェリンに近づいてきた

 

 

 

「はぁ何処にもいねえなあマギさん」

 

 千雨はとりあえずは新田先生にばれない様にマギを探していたが、マギの姿を見つける事は出来なかった。

 

「というかあたしは何でこんな事をしてるんだろうな…べッ別にマギさんにお礼を言うだけでマギさんが他の女とキスされるのが嫌なだけだからな!…ってあたしは誰に言ってるんだか…」

 

 千雨はハハと乾いたと千雨が居る前の方向から足音が聞こえ、千雨は一瞬新田先生かと思っていたら

 

「千雨…」

 

 マギが怪しい笑みを浮かべて千雨に近づいてきた。千雨は怪しい笑みを浮かべているマギを見て思わず後ずさりをしてしまう。

 

「まッマギ先生どうしたんだよ…」

 

 

 

「う~んマギ兄ちゃん何処行ったんだろう」

 

「マギお兄ちゃん何処にもいないです~」

 

 ホテルの外でマギが何処に居るか探している風香と史伽。諦めてホテルに戻ろうとすると

 

「史伽」

 

 史伽の名を呼んだマギがこちら向かってきた。風香と史伽はお目当てのマギが見つかってマギにキスしようとしたが、マギの様子がおかしいのに気付いて首を傾げていた。

 

 

 

 

 

「マギさんは私がきっと連れてきますから、のどかはここんで休んでいるです」

 

 夕映は布団に寝かせたのどかにそう言った。そしてヨシッ!と決起し立ち上がった。とその前に

 

「その前におトイレに」

 

 夕映がトイレに向かうためにヘアのドアを開けようとすると

 

「マギさん!?」

 

「あぁ夕映か」

 

 ドアの前に連れて来ようとしたマギが立っていたので夕映は少し驚いてしまった。

 

「丁度良かったですマギさん。実はあの…」

 

 夕映は事情を説明しようとするが、マギは部屋を覗き込んで頷いた。

 

「のどかの奴は寝てるようだな。それじゃ俺も丁度いいな」

 

 マギが丁度いいと言っている意味が夕映には理解できなかった。

 

「実は俺、夕映に話があるんだよ」

 

「え…な何ですか?」

 

 マギが顔を赤くして夕映に詰め寄り、夕映は少しづつ後ずさる。

 

「俺、色々と考えたんだけどよ…こんな事言えば夕映も混乱すると思うんだけどよ、俺夕映の事が…」

 

 夕映はマギが言いたい事が理解できたが、信じたくなかった…

 

 他にもあやかの所と古菲の所にネギが現れそして…

 

「キス…してもいいか夕映?」

 

「キスしても良いでしょうか?いいんちょさん」

 

「やっぱり千雨は綺麗だな。キスしてもいいか?」

 

「今からエヴァの唇を奪うぜ」

 

「その、お願いがあってくーふぇいさんキスを…」

 

「今から史伽の唇をいただく」

 

 と複数のマギとネギが一斉に女の子たちにキスを迫ってきたのであった。

 

「!!?うお!何だ!?急に寒気が…」

 

 ホテルの中に入ったマギが変な寒気に襲われたのだった。

 

 

 

 

 

「キスしてもいいか夕映」

 

 顔を真っ赤にしたマギが少しづつ夕映に迫っていた。夕映の他にも千雨とエヴァンジェリンに史伽とあやかと古菲に複数のマギとネギがキスを迫っていた。それをテレビで見ていた生徒達は行き成りの展開に言葉が出ない様だった。

 

「おッおおーッと!これは如何いう事だ!?複数のネギ先生とマギ先生が一斉に告白タイム!!行き成りの展開に私自身驚きを隠せません!!」

 

 和美もどう実況すればいいか分からない状況だった。テレビで見ていた生徒達はこれも和美のゲームのイベントだと思い込み、どれが本物のネギとマギかはしゃいでいたが、実際の和美はと言うと

 

「如何するのカモっち!アンタ妖精なんでしょう!?この状況何とかしなさいよ!!」

 

「おッ俺っちに言われてもこんなのどうしようも無いっすよ!!」

 

 と2人であたふたしている様子だった。その間にも夕映にマギが迫る。

 

「いいか?夕映…」

 

「いえ、あの…マギさん」

 

 夕映は後ずさりしすぎて、遂にはのどかが寝ている布団に躓いて転んでしまった。夕映は寝ているののどかを見て

 

「見損なったですマギさん!のどかに告白されたのにすぐに私に迫るなんて最低です!!」

 

 夕映の訴えを聞いてもマギには変わらず夕映に迫り、夕映の手を掴みながらキリットした表情で

 

「それでも、俺は夕映とキスがしたい」

 

 何の迷いも無く夕映にそう言い切るマギ。マギの顔を見て夕映は更に顔を赤らめて呼吸を荒げる。夕映が呼吸を整えようとしているが、その間にもマギがどんどん近づいて来る。

 和美もキスの瞬間を撮ろうとしたが、いかんせんカメラの角度では見えない状況になってしまった。

 

「しまった!カメラの角度が足りないせいで状況が良く見えない!だけど今の状況は夕映がかなりのリードだー!!さて!他にキスを迫られた人はと言うと…」

 

 

 

「ちょ何馬鹿な事言ってるんだよ!?マギ先生!」

 

 行き成りキスを迫られ夕映と同じく困惑している千雨に

 

「おッおいマギ何を言ってるんだ!?…こういうのはもっとこう雰囲気をだな!」

 

「(マスターの可愛さ録画しておきます)」

 

 まんざらではないエヴァンジェリンとそのエヴァンジェリンを録画している茶々丸。

 

「なんでボクじゃなくて史伽なんだよー!!」

 

「お姉ちゃんが何時もマギお兄ちゃんにイタズラするからだよー!!」

 

 史伽だけというのに納得できずに取っ組み合いの喧嘩になる風香と史伽、などなどこうなっている様子である。あやかと古菲は特に他のと余り変わらないので省きます。話を夕映に戻そう。

 

「あ…だめ…です…マギさ…ん」

 

 夕映とマギの距離が少しづつ近づいていき遂に数㎝まで近づいてきた。夕映は未だ気を失っているのどかに顔を向けた。

 

(のどか…ごめんです…)

 

 夕映は心の中でのどかに謝り、ふとテレビを見て信じられない物を見た。千雨、エヴァンジェリンに史伽にキスを迫ろうとするマギの姿を目撃したのだ。

 

「なッマギさんが3人!?だッ誰なのですか貴方は!?」

 

 夕映は今迄キスを迫ろうとしていたマギを思い切り突き飛ばし、指を差しながら怒鳴った。だが夕映は指を差しながら固まってしまった。何故なら

 

「どーもマギだぜ」

 

 腕が有りえない程伸びきったマギの姿が其処には居た。さらに

 

 

 ギギギギギギ

 

 

 夕映の目の前で首が一回転し始めたのである。普通だったら有りえない事があり過ぎて、夕映は言葉を失ってしまった。

 

「う~ん何~?…ってきゃぁ!マギさん!?」

 

 気絶していたのどかが起き上がり、未だに首を回しているマギを見て吃驚仰天してしまった。首を回していたマギは回していた首を止めて

 

「のどか…チュ~~」

 

 のどかにキスを迫ってきた。のどかは悲鳴を上げるが

 

「のどかに手を出すなです!マギさんの偽物!!」

 

 マギの頭に分厚い辞書を容赦なく振り落した。ゴスッ!と鈍い音を出しながらマギは床に倒れた。

 

「ゆゆ夕映!マギさんをぼッ撲殺しちゃったの!?」

 

「落ち着くですのどか、このマギさんは偽物です」

 

 すると床に倒れていたマギがボォン!と大きな音を出しながら爆発した。のどかと夕映が爆発で咳き込んでいると爆発が晴れて、ヒラヒラとマギの名が書かれている身代わりの紙型がのどかの手の平に収まった。

 

「な…なんだろうこれ?」

 

「やはり偽物でしたか、でもどういった仕組みで…?見た感じオカルトの類に見えるです」

 

 今は考える事よりも此処にマギが居ないと分かると、のどかと夕映は部屋を出たのであった。

 

 

 

 

 

「さて…ホテルに入ったものの変な気がホテルの中で渦巻いている感じだな…」

 

 本物のマギがホテルに入り、最初に感じたのはそれだった。何が原因なのか調べることにしたが、調べる事数分後

 

「いや…やめ…て」

 

「!この声は千雨か!?」

 

 マギは千雨の声が聞こえた場所に向かう。声が聞こえたという事はすぐ近くだ。マギは声が聞こえた方向に向かい、ホテルの曲がり角を曲がると

 

「やッやめてくれよマギさん!」

 

「チューチュー」

 

 千雨に執拗にキスを迫っている自分の姿を目撃しマギはズッコケそうになった。

 

「あの俺ってもしかして刹那に借りた身代わりの紙型…だよな?なんで千雨にキスしようとしてるんだよ…」

 

 取りあえず今は千雨を助ける事にしよう。マギはキスを迫ろうとしている自分の肩を掴み

 

「仮にも俺が何自分の生徒にアホな事をしてるんだよ」

 

 顔面に容赦のない一撃をお見舞いした。殴られた分身は吹っ飛んだあと爆発して元の紙型に戻った。マギは元に戻った紙型を見てみると間違えて捨てた失敗の紙型であった。

 

「(若しかしなくてもこれと同じように失敗した紙型がホテルの中を徘徊してんのかよ。面倒だな)っと今は千雨だ」

 

 マギは千雨に近づいて千雨に手を伸ばした。今まで目を瞑って抵抗していたようで、本物のマギが分身を殴り飛ばした所は目撃してい無いようだ。千雨はマギにお礼を言って手を伸ばそうとしたが、さっきまでの出来事を思い出し顔をトマトのように赤くしながら

 

「うわぁぁぁぁぁッ!!」

 

 避けてくれと言わんばかりのパンチをマギにやろうとしたが、マギは簡単に避けた。千雨はハァーッ!ハァーッ!と呼吸を荒げながら

 

「まッマギさんの変態!へんたいぃぃッ!」

 

 そう叫びながら走り去り、自分の部屋に戻って行った。マギは走り去る千雨を呆然と見ていたが、傍から見れば教え子にキスを迫っている変態教師と言う感じにとらえられるだろう。

 

「…やれやれだぜ」

 

 マギはおなじみのセリフを溜息交じりで言いながら他の分身が何処に居るのか探す事にしたのだが、案外次の分身を見つける事が出来た。

 

「生体スキャンをした結果マギ先生から生体反応が見られず代わりに魔力反応を捕らえました。つまりこのマギ先生は分身体ではないかと考えられます」

 

「そそそそそうか!このマギは分身なのか!だっだだだっだだったらわわ私が何やっても許されるわけだよな!!」

 

 エヴァンジェリンが分身と分かりながらも分身のマギにキスをしようとしていた。

 

「…なに、やってんだエヴァ?」

 

 マギの声が聞こえ、キスをしようとしていたエヴァンジェリンの動きが止まる。そしてギギギとゆっくりな動きでマギを見た。其処にはエヴァンジェリンの行動に引いていたマギの姿が、エヴァンジェリンの取った行動、それは

 

「うううううわぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 マギの分身をマギに向かって思い切り投げ飛ばしたのだ。

 

「ちょ!あぶね!!」

 

 マギは飛んできた分身の腰を掴んでジャーマンスープレックスを決めた。ジャーマンスープレックスを決められた分身はさっきと同じように爆発して元の紙に戻った。

 

「行き成り何すんだエヴァ!?」

 

 行き成りすぎて戸惑ったが、危ない事には変わりない。エヴァンジェリンに文句を言おうとしたが、エヴァンジェリン自身顔を真っ赤にしており

 

「いいいい今見たのは忘れろぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 それだけ叫んでエヴァンジェリンも走り去ってしまった。茶々丸もマギにお辞儀をするとそのままエヴァンジェリンの後を追ったのだった。

 

「ったく何だったんだろうな…」

 

 エヴァンジェリンの行動が今一掴めなかったマギはそのまま他の分身体が何処に居るのか探すのを再開した。

 しかしエヴァンジェリンの後は分身体を探す事が出来ずネギの分身を1人発見したので憂さ晴らしに沈めたのである。他は目を回しているあやかに古菲と楓に風香と史伽を発見し、彼女らの周りには分身が元の紙に戻っていた。

 なんかもうあーだこーだ考えるのも面倒になったマギは順に彼女達を部屋へと放り込んだ。が、5班の部屋を覗き込んでみるとハルナとこのかしかおらず。アスナと刹那が居ないのは分かるが、何処に行ったのかもう一度探してみる事にした。

 ホテルのロビーに戻ってみると

 

「お、のどかに夕映」

 

 二人の姿を発見し、のどかと夕映もマギの姿を発見したようだ。マギが2人に近づこうとすると、夕映が待って下さいですとマギに言った。マギは夕映が止まってほしいと言った事に首を傾げると夕映が

 

「貴方は本物のマギさんですか?それとも偽物のマギさんですか?」

 

 と聞いてきた。偽物という事はこの二人はマギの分身を見たという事だろう。変に言い訳すると、後々面倒なので

 

「俺は本物もマギさんだぜ。お前らも大丈夫か?変な事とかされてないか?」

 

 二人こそ大丈夫かと尋ねてみる。夕映はマギが纏っている雰囲気が本物だと分かるとふぅーと息を吐き、肩の力を抜くと

 

「如何やら本物のようです。さ、のどか」

 

「う…うん…ゆえありがとう」

 

 夕映がのどかの背中を優しく押して、のどかは夕映にありがとうとお礼を言う。そしてのどかとマギが昼以降の対峙となる。

 

「ま…マギさん」

 

「よッよう…のどか」

 

 やはり今日の昼の事もあり、どこかドギマギしているマギとのどか

 

「あーあのよ、今日の昼の事なんだけどよ」

 

 マギが最初に昼の事を話し始めた。のどかは自分の告白を思い出したのか恥ずかしくなり

 

「いッいえ!あのことはいいんです!聞いてもらえただけで!!」

 

 それでいいので!とのどかが言い終えようとしたのだが、のどか聞いてくれ!とマギが遮った。

 

「告白してきたのは嬉しかった。俺、告白されたことが無かったしよ」

 

 それを聞いてのどかは驚いた。マギの事だから女性たちに告白など何時もされていたのだと思っていたからだ。

 

「俺、今の今迄女子と付き合った事が無くてな。よく親戚の姉に早くいい人を見つけなさいってよく言われてさ、だけど俺今の今迄女子を話したことがあんまりなくてそれなのに初めて女子と話すのがお前達で、初めて告白されて嬉しかった…って何を言えばいいんだ俺は…」

 

 マギ自身何を言えばいいのか若干混乱していて、頭を思い切り掻きまくった。そして、ふぅと息を吐くとのどかの顔を見ながら

 

「ヘタレな俺で済まねえけど…友達から始めるって形でもいいか?」

 

 マギの返事にのどかは

 

「…ハイ!」

 

 満面の笑みで頷いた。のどかの後ろに居た夕映はマギの返答に呆れたような溜息を吐いた。

 

「んじゃお前らも早く自分の部屋に戻れ。というか何でお前らがこんな時間に居るんだよ?新田先生にばれたら大目玉だぞ」

 

「そ…それは」

 

 とのどかが今迄ことは和美が発案したゲームだそうだ。ゲームの内容も聞いてマギは顳顬を強く抑えた。

 

(和美の奴なんて事してくれたんだよ…だからさっきエヴァの奴俺の分身にキスしようとしてたのか)

 

 マギは和美だけがこのゲームを考えたわけではないと瞬時に理解した。恐らくカモもこのゲームで何かしようとしてたのだろう。

 

「ったく和美の奴には俺が強く言っておくからのどかと夕映は早く部屋に戻れよ」

 

「はッはい!」

 

 マギに言われ、のどかは慌てて部屋に戻ろうとしたが

 

 

 ズリッ!

 

 

 のどかは浴衣を踏んでしまい、バランスを崩してしまった。

 

「のどか危ねえ!」

 

 床に倒れたら怪我してしまう。マギはのどかを助けようとしたのだがそのマギも

 

 

 

 ズリッ!

 

 

 

 履いていたスリッパが脱げてしまい、マギもバランスを崩してしまった。そしてバランスを崩したマギとのどかはそのまま近づいていきそして…

 マギとのどかの唇が合わさった。キスをしてのである。一応はのどかがキスをしたからゲームはのどかの勝ちでのどかにかけていた者は大儲けなのだ。なのだが…

 

「はわわわわごめんなさいマギさん!」

 

「あ…あぁ」

 

 当の本人たちはそれどころではなかった。そしてキスをしたのどかの頭上にポワ~と光った物が浮かんだのだった。

 

 

 

 

「いよっしゃ!宮崎のどかのパクティオーカードゲットだぜー!!」

 

 カモの手にはアスナと同じであるが、のどかが描かれたカードを持っていた。和美の方では分身によってのスカカードが3枚ほど持っていた。

 

「偽物の先生達でもカードが出るから今までのを合わせると計6枚じゃん」

 

 とかなりのカードを手に入れる事が出来たようだ。

 

「今回でかなりのカードを手に入れる事ができたでさー」

 

「よっしゃ!目的は果たしたし、ずらかるよカモっち!」

 

 と和美とカモが部屋の外に出てずらかろうとした。

 しかしそうは問屋が卸さないのである。

 

 

 

 

 

「よぉ…和美、カモ」

 

 和美の前に笑顔だが、目が笑っていないマギが居た。手にはハリセンを持って。

 

「まッマギの大兄貴!如何して此処に!?」

 

 カモは如何してマギが此処に居るのか分からなかった。

 

「和美は報道部だからな、此処に居ると思ったんだよ」

 

 とマギは監視カメラの監視室を指差した。

 

「きッ聞いてくれよ大兄貴!俺は大兄貴の事を思って!!」

 

「私はカモっちの家族の事を聞いて何とか助けたいと思って!!」

 

 カモと和美はマギに必死に訴えていたが、マギはあぁそう言うの良いからと更に怖い笑みを浮かべながら

 

「そう言う言い訳はいいから、ただ…ちょっと頭冷やそうか」

 

 マギは魔力を練ったハリセンを振り下ろした。魔力を練ったハリセンは岩をも砕く

 

「「ぎ…ギャアアアアアアああああああ!!!」」

 

 カモと和美の悲鳴が響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 

 見回りを終えてホテルに帰ってきたネギと今迄温泉に入っていたアスナと刹那は奇妙なものを見たそれは…

 

「うぇ~ん!皆だけ戻ってずるいよ~~!」

 

「さ…流石に足が痺れてきたにゃ~~」

 

「こら!佐々木明石!まだ説教は終わってないぞ!!まったくガミガミガミ…」

 

 ゲームの最初にある意味踏み台となり新田先生に連行されたまき絵と裕奈が貧乏くじを引いて新田先生に説教をされており、もう一方は

 

「「…」」

 

 真っ白に燃え尽きた和美とカモ(カモはさらに白くなった)が正座をしながら

 

「…」

 

 マギの無言の圧力にて睨まれていたのであった。その後流石に朝まで正座はきついという事で、1時間の説教の後まき絵に裕奈と和美は解放されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




はい、次回は親書を届ける話ですが、これも少しだけ原作と違う所があります
楽しみに待ってて下さい

感想などお待ちしております!!


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いざ総本山へ! そして迫りくる魔の手

はいお久しぶりです!
漸く最新話を投稿する事が出来ました!
待っていた人には遅くなってしまって申し訳ありません
如何して遅くなったのかはこの後活動報告に乗せておきますのでそれを見て下さい

それではどうぞ!!


 修学旅行3日目朝の朝食終了後

 3-Aの生徒達は昨日のゲームの優勝者ののどかに群がっていた。のどかの手にはある物が握られていた。

 

「へ~それが豪華賞品か~」

 

「わ~見せて見せて~」

 

「カードに本屋の絵が描いてある~」

 

「こんな凄いカードだったらほしかったな~」

 

「ゲームの優勝者にはふさわしいね~」

 

 のどかの手にはのどかの絵が描かれているカード、パクティオーカードが握られていた。生徒達はもっとカードを見てみたかったが、しずな先生が今日は自由行動だからという事で各自準備するように呼びかけて解散させた。

 

「むぅ…」

 

「マスター」

 

 エヴァンジェリンはのどかの手にあるパクティオーカードを見て不機嫌そうな顔をしており、茶々丸は不機嫌そうな自分のマスターを見てオロオロしていた。そんなエヴァンジェリンなど露知らずのどかはカードを見てルンルンと鼻歌まで歌うほど上機嫌だった。

 

「フフフ♪私のカード大切にしなきゃ。マギさんとのファーストキスの証ですからフフフフ」

 

 のどかは上機嫌で歩いているとマギとネギにアスナと刹那に和美とカモを発見した。のどかはマギに話し掛けようとしたが、マギ達が少し揉めている様子だったので通路の壁に隠れていた。

 

「全くもう!こんなにカードを作っちゃって、一体どう責任取るのマギさんネギ!」

 

 アスナはスカカードと仮契約成立カードをネギとマギに見せながら如何するのかと尋ねた。

 

「ええ僕とお兄ちゃんの責任ですか!?」

 

「面目ねぇ…こうなったのはネギが和美に魔法をバレタのと身代わりの紙型で何回か間違えたのと、のどかに俺の気持ちをもっと早く言っとけばこうなんなかったはずだ」

 

 マギがかなり反省してる中、アスナはカモと和美をジト目で睨みつけた。睨まれた和美とカモは委縮しながら

 

「スイマセン反省してます」

 

「昨日は調子に乗ってました、許して下せえ兄貴たち」

 

 二人も反省してる様子だったので全くと言いながらアスナはふぅと息を吐くと

 

「本屋ちゃんにはなんて言って渡したのマギさん?」

 

 アスナに聞かれ、マギは昨日ののどかとのキスを思い出して顔を赤くしながら頭を掻き

 

「のどかにはカードの事はゲームのイベントの景品として渡した。カードもコピーの方だし、魔法の事も話してない。のどかは魔法を知らない一般人だ。厄介事には巻き込ませない絶対にな」

 

 マギの決意の表情を見てアスナと刹那はマギは大丈夫だと判断した。

 

「話を変えるが、今日は自由行動日だ。親書を渡すには御誂え向きってわけだ。しかし相手も恐らくだが今日の事を知ってるはずだ。という事で…アスナにはカードを自分でも使えるようにしておいた方が良い。という事でカモ、アスナにカードの使い方を教えてやれ」

 

「合点でさ大兄貴。という事で姐さん、姐さんもカードのコピーを受け取ってくれ」

 

「ああうん。で、如何やって使うのよカモ?」

 

 アスナはカモに自分の仮契約のカードのコピーを渡され、使い方を聞いた。

 

「使い方は簡単だぜ。手に持ってアデアット!って叫べばこの前使ったハリセンが出てくるんでさ」

 

「ふ~~ん…それじゃアデアット!」

 

 アスナはカモの言われた通りにやってみると、ホントにハリセンが出て来たのだ。

 

「凄い!手品みたいじゃない!!」

 

「しまう時はアベアットって言えば元のカードに戻るってわけでさ」

 

 アスナはまるで手品のようなハリセンが出て来たことに興奮している様子で和美と刹那は便利なカードだと思った。

 そのマギ達の様子を見ていたのどか気づかれない様に静かに立ち去った。

 

「マギさん達何の話をしてたんだろう?このカードを持ってアデアットってアスナさんが言ってたけど…よッよ~し、コホン!あッアデアット」

 

 のどかはアスナが言ったように唱えてみるとカードが光り、カードが本へとなった。

 

「わぁ…カードが本になった。ふしぎ~それに本が光って綺麗だな~」

 

 のどかは興味津々で本のページを捲ってみたが、何処も白紙だった。

 

「中は真っ白で何も書いてないなぁ…あれ?」

 

 のどかがそう言っていると本のページにうっすらと文字と絵が浮かび上がった?

 

「行き成り文字と絵が浮かび上がってきた…4月24日の木曜日絵日記かな?なんだろう?」

 

 のどかは文字と絵が浮かび上がって思わず固まってしまった。何故なら浮かび上がって来た絵がマギとキスをしている場面の絵だったからである。のどかはキスの絵を見て思わず固まっていると

 

「如何したんですかのどか?」

 

「あッ夕映!」

 

 夕映が現れ、のどかは夕映に見えない様に本のページを隠した。夕映はのどかの行動に首を傾げているが

 

「ボサッとしてると、ハルナが暴れだすですよ」

 

「うッうん…あれ?」

 

 夕映に言われ自分も部屋に戻ろうとすると、又本が光始めた。何だろうと思い、のどかは本を見ると又絵と文字が浮かび上がり、夕映がマギに押し倒されている絵が現れた。のどかは思わず本を閉じてしまった。夕映ものどかが持っている本の存在に気づく。

 

「のどか何の本ですかそれは?ラテン語とは珍しいです」

 

「あ、ううんこれはその…」

 

「あッ何故隠すのですか?本の事で隠し事は水くさいですよ」

 

 のどかは夕映に本の中身を見せない様に必死な中で思った。この本はとってもマズイ本なのではないかと。とのどかと夕映がそんな遣り取りをしていると

 

「コラーッ!二人とも何ボサッとしてるのよー!!」

 

 私服に着替えたハルナがのどかと夕映を掴んで部屋へと引きずった。

 

「今日はマギさんとネギ先生についていくんでしょ!?ほら!早く私服に着替えた着替えた!!」

 

「ハルナテンション高いよ~~」

 

「ハルナと違って私達は寝不足なんです」

 

 のどかと夕映の言っている事は無視してハルナはのどかと夕映を部屋へ連れってったのであった。

 

 

 

 

 

 学園長に渡された親書をネギは大事にしまい、ネギとマギは生徒達に姿を見られない様に裏口から外へと出た。

 

「脱出成功!早いとこ関西呪術協会の本山に向かわないとね」

 

「このかは刹那に任せてあるし、何も問題は無いだろうよ」

 

 ネギとマギはそう言いながらアスナと待ち合わせの場所へと向かった。ネギは本山の場所を探すために京都の地図を開いた。

 

「兄貴、本山って何処にあるんですかね?」

 

「えーとうん、ここからそんなに遠くないと思うよ」

 

 そう言いながらネギは本山が恐らくある場所を指差した。まッ何にしてもだと言いながらマギはネギの頭に手を置いて優しく撫でまわした。

 

「親書を渡せば東西が仲良くなるんだ。頑張ろうや」

 

「うん!頑張ろうねお兄ちゃん!!」

 

 ネギとマギは早く親書を渡すためにアスナとの待ち合わせに急いで向かった。そう言えば気になったんだけど…とネギはマギの恰好を見た。

 

「お兄ちゃんが持っているギターケースって何が入ってるの?お兄ちゃんがギターを演奏してる所なんて見た事無いけど…」

 

 マギは修学旅行初日に持ってきたギターケースを担いでいた。あぁこれか?とマギはギターケースを指差して

 

「この中にはギターは入ってないぜ。こんなかには俺のとっておきの秘密兵器が入ってる」

 

「秘密兵器!?どんななの!?」

 

 ネギはマギの秘密兵器に興味をそそられたが、マギはネギの額をつつきながら

 

「あのな秘密だから秘密兵器なんだろうが。例えネギでも教える事は出来ないね」

 

「そんな~」

 

 ネギは教えてくれなくて残念そうだった。とそんな話をしている間にもアスナとの待ち合わせ場所に到着した。が、約束の集合時間になってもアスナがやってくる気配が無かった。何か問題があったのかとマギが連絡しようとしたら

 

「マギさんネギ先生お待たせ~」

 

 後ろの方から声が聞こえ、後ろを振り返ってみると、其処には私服姿のアスナの他にハルナやのどかに夕映にこのかの他にエヴァンジェリンと茶々丸と刹那が其処には居た。

 

「わぁ~皆さん私服が似合ってますね…って!なんでアスナさん以外の人が来てるんですか!?」「ごめん!出ようとした所でハルナに見つかっちゃって」

 

 ネギは皆の私服姿を褒めた後に、なぜのどか達が此処に居るのかをアスナに尋ね、アスナもハルナ達に聞こえない様に小声でネギに答えた。

 

「ネギ先生とマギさんその地図もってどっかに行くんでしょ?だったら私達も連れてってよ!」

 

「連れてってお前ら5班は自由行動の予定はないのかよ?」

 

「はい、その場で決めて行動するのが私達のやり方なのです」

 

 マギがハルナにそう訪ね、夕映が答えた。マギは5班もといハルナ達の考えに呆れてやれやれだぜ…と呟いた。

 

「というより、んでエヴァと茶々丸が此処に居るんだ?てかザジは如何したんだよ?」

 

 刹那が居るのはまぁ納得できる。しかし何故エヴァンジェリンと茶々丸が此処に居て、同じ班であるザジの姿が無いのだろうか?マギがそう疑問に思っていると、ハイマギ先生と茶々丸がお辞儀をしながら

 

「マスターが此処に居るのはマギ先生と一緒に居られなくてさび「うぉい!このボケロボこれ以上言ったら頭のネジを強引に撒くぞ!!」…ザジさんはいつの間にか何処かに行ってしまいました」

 

「全く!私の許可なく何処かに居なくなるなんて非常識も程があるぞ!!」

 

 まったく!エヴァンジェリンはフン!鼻を不機嫌にならす。マギはえ~とと頬を掻きながら

 

「エヴァは俺と一緒に居れなくて寂しかった…って事なのか?」

 

 マギの発言にエヴァンジェリンはカァと顔を赤くしながら

 

「なッ何を言っているんだお前は!いつだれがお前と居れなくて寂しいと言ったか!?」

 

 もう自分でほとんど言ってるじゃんとマギは心の中でツッコミを入れた。だけどよとマギはエヴァンジェリンにしか聞こえない程の声で

 

「俺やネギと一緒に行動するという事は危険な目にあうって事なんだぞ?それに俺は何か分からんけど命狙われているし」

 

「構わん。それに楽しみにしていた修学旅行がそいつらのせいで中止になったらたまらんからな。この私自らの手でそいつらを葬ってやろうとな。それにマギを殺そうとした奴の顔を一度拝んでおこうと思ってな」

 

 クックックとエヴァンジェリンが笑いながら葬ると言っているのを聞いてマギは軽く引いていた。まぁエヴァンジェリンは自分よりも実力があるだろうし大丈夫だろうとマギは判断した。

 

「んじゃまあ6班基エヴァと茶々丸と刹那が一緒に回る事になったが構わねえか?」

 

 マギが5班に同意を求めるとこのかがパァ!と顔を輝かせながら

 

「うん!せっちゃんと一緒に回れるのは嬉しいえー!」

 

 と反対する者はいないようだ。こうして5班と6班が一緒になって回る事になったのだ。

 

 

 

 ホテルの周りも観光場所になる場所は多かった。マギとネギにアスナは、このか達が居るせいで抜け出せない状態だった。

 とハルナがゲーセンがあるという事で、京都の記念のプリクラを撮ろうと提案してきた。

 という事でマギ達はゲーセンに入り、プリクラを撮る事にした。ネギはアスナやこのかやハルナ。マギはのどかやエヴァンジェリンと別々にツーショットを、他にエヴァンジェリンと茶々丸に挟まられるマギ、のどかや夕映に挟まれたマギなど複数のプリクラを撮った。マギとプリクラを撮ったのどかとエヴァンジェリンは嬉しそうに顔を綻ばせていた。このかはネギ達にこっちだと手招きしていた。

 

「まったく、何で京都まで来てゲーセンに来てるんだか」

 

「しかし姐さん兄貴に大兄貴、これはチャンスですぜ。とりあえず何かゲームでもやらせて隙を見て抜け出しましょうぜ」

 

 アスナは呆れていたがカモの言う通り、喧騒なゲーセンだったらばれずに抜け出す事は他愛もないだろう。とマギ達はこのか達についていった。するとハルナ達は大きなゲームの台に座っていた。

 

「何やってんだお前ら?」

 

「あぁマギさんゴメンね!上手くいくと関西限定のレアカードがゲットできるかもしれないんだよ!!」

 

 レアカード?マギは首を傾げていると

 

「魔法使いのゲームですよ。私達が新幹線でやっていたカードゲームのゲーセン版です」

 

 と夕映の説明を聞いていたが、マギは新幹線のカエル事件を思い出して思わず身震いしてしまったが、直ぐに忘れてゲームの画面を見てみた。マギは日本のゲームに興味を持っており、面白そうと思った。

 

「面白そうじゃねえか。ネギお前も息抜きにやってみるか?」

 

「え?僕も?う…うんじゃあやってみようかな…」

 

 マギに誘われ、ネギも乗り気ではなく(この意味は直ぐに解る)試しにゲームをやってみる事にした。夕映やハルナの説明を受けゲームを持っていたカードを借りてやってみることになった。いざやってみると2人は楽々とステージをクリアしていった。ゲーセンとはうまいプレーをやっていると自然と人が集まっていくもので、マギとネギの周りにギャラリーが集まってきた。とすると

 

「となりええか?」

 

 と方言からして関西弁の帽子をかぶっている少年がネギの隣に座ってきて、ネギとマギに勝負を挑んできた。

 

「おお!ネギ先生とマギさんが勝負を申し込まれた!!」

 

「マギさんとネギ君頑張ってーなー」

 

 とマギとネギは関西弁の少年と対戦する事にした。

 

 

 

 数分後

 

『youwin!perfect!!』

 

「「「「「…」」」」

 

 ネギや関西弁の少年、夕映やハルナにアスナが唖然とポカーンとしていた。何故なら

 

「まッこんなもんかな?」

 

 マギがネギと少年の2人に対して、ノーダメージで勝ってしまいオーバーキルのおまけつきで

 

「ちょ!マギさん子供相手に容赦なさすぎない!?」

 

 ハルナがマギにツッコミを入れるが、対するマギは

 

「は?容赦?如何いう意味だ?」

 

 とハルナの言っている意味が分かっていない様子だった。そうマギはゲームで無自覚で相手がたとえ子供でも容赦なく叩き潰してしまうのである。ネギが若干乗り気ではなかったのは、マギはネギに何回かチェスやトランプなどのゲームに誘い、その度無自覚にネギ相手に容赦ない手で勝ち続けていたのだ。そのネギはというと

 

「アハハやっぱりお兄ちゃんには勝てないなぁ…」

 

 と軽く涙目であった。ネギはプルプルと震えている関西弁の少年の姿を見てしまった。子供相手に容赦ない攻撃は流石に悔しかったとネギはそうとらえていた。

 

「ごッゴメンね!お兄ちゃんゲームで容赦なくて!!」

 

 おいどういう意味だそりゃ?マギは不服だったのかネギにツッコむ。しかしその関西弁の少年はと言うと

 

「くくく…アハハハハ!!」

 

 大笑いしていた。

 

「いや~こんなに完膚なきまで負けるなんて久しぶりや!それに全然気にしてないで、男は何時でも真剣勝負や!ゲームでも喧嘩でもな、逆に手を抜かれたら俺は許さんからな!!」

 

 そして少年はマギの方を見ながら

 

「にいちゃん強いな~今度また再戦したいで!」

 

「残念だが俺達は修学旅行でな、ずっとは京都にはいれないんだよ」

 

 マギがそう言うと少年はそっか残念やな~と軽くショックだった様子だ。でも…とネギの方を向くと

 

「そっちの俺と同じ位の方は魔法使いとして(・・・・・・・)まだまだやな、ほならネギ・スプリングフィールド君」

 

「え?如何して僕の名前を!?」

 

 ネギは少年が自分の名前を知っていて驚くが、マギが呆れながら

 

「お前な、ゲームに自分の名前を堂々と載せてるんじゃねえか」

 

 マギがゲーム画面を指差すと、ゲーム画面にネギの名前がデカデカと載っていた。少年が名前知っているわけである。

 

「そんじゃさよならさん、けっこう楽しめたで!!」

 

 そう言って少年は走り去ろうとしたが、のどかとぶつかってしまった。互いに尻餅をついてしまうのどかと少年、それと尻餅をついた瞬間少年の帽子が落ちてしまった。

 

「いたた…」

 

「いてて~すまんなぁ姉ちゃん、ちゃんと前を見てなかったさかいに…怪我無いか?」

 

 のどかは少年に大丈夫だと言おうとしたが、少年の頭に一瞬あるはずのない物を見てしまった。少年は落ちてしまった帽子を直ぐに拾い上げると直ぐにかぶり直す。

 

「すまんな~姉ちゃん、でも姉ちゃんもあんまりボーッとしない方がええで、じゃないとパンツ見えてしまうからな~!」

 

 少年に言われ、のどかは慌ててスカートを抑える。少年は今度こそゲーセンから立ち去ろうとしたが、

 

「おい待てよ」

 

 とマギに呼び止められた。少年はなんやとマギの方を見たら、マギの手にはカードが握られていた。そのカードは先程少年が使っていたカードである。

 

「さっきのどかにぶつかった時ポケットから落ちたぞ」

 

「あぁすまんな兄ちゃんおおきに!」

 

 少年はマギからカードを受け取る。

 

「気を付けろよオオカミ君(・・・・・)

 

「!おッおお気を付けるわ!ホンマに兄ちゃんおおきに」

 

 ネギは少年がマギからカードを渡されたのを見たが、少年が先程とは違うぎこちない笑みを浮かべながらカードを受け取った。そして今度こそゲーセンを後にした。

 マギはネギとアスナに刹那を呼んだ。幸いハルナ達はゲームに熱中しており気づいていない。そしてネギとアスナに刹那が来てことでマギを口を開いたしかし、マギの言った事は余りに信じられないものだった。

 

「さっきの関西弁の坊主、恐らくだが過激派の一派だ」

 

「ええッ!?さっきのガキンチョが!?」

 

「本当なのお兄ちゃん!?」

 

 アスナとネギは信じられない様子だ。確かに見た感じ普通の少年が過激派の一人など信じられないだろう。

 

「あぁゲームをやってる時も若干だが闘気が満ちていた。まだガキって所だったな。それと今さっきのどかとぶつかった時に帽子が落ちただろ?その時に頭に犬耳みたいなのがあった。普通の人間にそんなのがあるはずもないし……刹那、犬耳がある人間って知らないか?」

 

 マギは刹那に尋ねると刹那は少し考えるかのように目を瞑り、何かを思い出したのかそう言えばと言いながら

 

「恐らくですが、その少年は狗族の一人でしょう」

 

「狗族?狗族って何よ桜咲さん」

 

 アスナは狗族と言うのは如何いう者か尋ねる。

 

「狗族と言うのは日本に代々いる妖怪の一種で西洋で言う人狼(ウェアウルフ)の様な種族です。格闘術をメインにして戦いますが、犬の式神を使用して戦う事もあるそうです」

 

 刹那の情報に成程と頷くマギ。これで相手の一応の戦力は、リーダーの千草、刹那と同じ神鳴流の月詠。先程の狗族の少年それとマギしか狙わなかった助っ人の狙撃手。他にもまだ敵がいるかもしれないが、今の状況は敵の戦力の方が多く不利な形だろう。

 マギは少しの間唸って、一つの作戦を思い付いた。

 

「…今作戦を思い付いたんだが、親書を届けるのはネギとアスナだけで行ってくれ」

 

「「ええッ!?」」

 

 ネギとアスナは、マギが言っていることが信じられなく詰め寄ったが、まだ話はあるとマギが2人を強引に押した。

 

「今さっき又敵の存在を確認できたが、まだ敵がどれ位居るのかも分からねえんだ。もし親書を届けている間にこのかが襲撃されたらもともこもない。だから俺もこのかの護衛に付こうと思う」

 

「でもこの前マギさん変な敵に狙われてたじゃない!そんなマギさんがこのかと一緒にいたら、余計このかが危険になるんじゃないの?」

 

 アスナの言う通り、マギは助っ人なる者にマギだけが狙われていたのだ。あぁその辺は大丈夫だとマギは刹那の方を向いて

 

「刹那、昨日の身代わりの紙型を持ってるか?有るなら1枚貸してくれないか?」

 

「え?えぇ持っていますが、何に使うんでしょうか?」

 

 いきなり身代わりの紙型を貸してくれと言われながらも、刹那はマギに身代わりの紙型を1枚渡した。

 マギはサンキューと言いながら、昨日と同じように自分の名前を書いた。此処までは昨日と同じである。

 

「後はこの紙に俺の魔力と気を流し込むっと…」

 

 そう言いながらマギは紙に自らの魔力と気を流し込む、魔力と気を流し込まれた紙は光り始め、流し終えるとボンッ!という音を出しながら、マギの分身が現れた。

 

「へぇ~こうやって分身が出来るのね~」

 

 アスナは分身が出来るところを見た事が無かったので興味津々でマギの分身を頭からつま先まで見る。するとマギの分身が目を開けて

 

「おいアスナ、何人の顔をジロジロ見てんだよ」

 

 と、マギ本人と同じような呆れた顔でアスナの事を見ていた。ネギは驚きを隠せなかった。昨日の分身は命令された事しか出来なかったし、何処か抜けている感じがしたが、今目の前に居るマギは本人そのものだった。

 

「若しかしたら魔力と気を流し込んだらこうなるんじゃないかと思ってな。いざやってみたらこんな感じだ。今この分身は自分で考え行動できる自立型の分身ってわけだ」

 

 そう言いながらマギは分身の肩を軽く叩く。分身のマギは鬱陶しそうに叩いている手を払いのけた。

 

(しかし自立型の分身を作り出すのに最低でも数ヶ月は掛かると言うのにマギ先生はたった一瞬で…忘れてはいたが、この人はネギ先生のお兄さんなんだから)

 

 刹那はマギの能力を改めて実感し脱帽した。

 

「俺の分身をネギ達と同行させる。助っ人の狙撃手は俺しか狙っていないからな。俺の分身を囮に使って少しでも戦力の分担をしたい…って事で分身、俺の囮になってくれ」

 

「ったく面倒な話だぜ、分身の使い方が荒いな俺は」

 

 と、呆れ半分で了承したマギの分身。面倒だぜ、と呟きながらネギの服のフードを引っ張るマギの分身。

 

「さっさと終わらせるぞ。こんな面倒な仕事さっさと終わらせて俺は消える」

 

「おッお兄ちゃん自分で歩けるよ!!」

 

「ちょ!マギさん待ってよ!!」

 

 マギの分身に引きずられる形でネギとアスナはゲームセンターを後にした。

 

「そんじゃ俺はちょっとの間隠れてるから、このかへの誤魔化しを頼むわ」

 

「了解しました」

 

 刹那に頼みマギは少しの間隠れていることにした。これで問題なく終わった…かに思えたが

 

「マギさんとネギ先生にアスナさん…何処に行くんだろう?」

 

 偶然マギたちがゲームセンターを出ていく所を見てしまい、興味半分でついていったのどか。これがのどかの人生を大きく変えてしまう事になるのだが、のどかは知るよしもなかったのであった……

 

 

 

 

 

 ゲームセンターの路地裏、人気が無い場所に先程の少年が居た。

 

「やっぱさっきのちび助とその兄ちゃんの名字はスプリングフィールドみたいやで」

 

 路地裏の奥に誰か居るのかそう報告した。すると

 

「ふん、あのガキとガキの兄が、あのサウザントマスターの息子やったか。それなら相手にとって不足はないなぁ。坊やたち一昨日の借りはキッチリと返してもらうえ」

 

 艶めかしい巫女服の千草とその後ろに月詠がおり、その後ろに顔にお札が貼られている翼の生えた鬼のような魔物に、無表情の銀髪の少年が居た。

 あぁそれとと千草は何かを思い出したのか路地裏の後ろの方を向いてキッと睨めつけるような目つきになり

 

「一昨日の事まだ聞いてないえ!傭兵、何であの時私の邪魔をしたんや!?」

 

 と怒鳴ると路地裏の奥にまだ誰か居るのかふぅと溜息を吐いて

 

「まだ言っているのか千草嬢、あれは私のミスで誤って君の札を射抜いたとそう答えたじゃないか」

 

 その声は一昨日マギをビルの屋上から狙っていた男の声と同じだった。如何やら助っ人は傭兵でもあるようだ。

 

「ウソを付け!アンタの力量は理解してるつもりや!そんなアンタが誤射をするなんてありえないえ!!」

 

 千草はまだ何かを言おうとしたが、男が静かにと言った。丁度静かにしたのと同時にマギとネギにアスナが走りながら通り過ぎるのを見た。本山やら親書やらそう言った単語が聞こえてきた。千草は今の言葉でネギ達が何をしようとするのかが瞬時に理解した。

 

「まさかあの餓鬼共本山に行って関東の親書を渡して仲直りとかそんな話かえ!?冗談やない!!そんな事やられたら私のお嬢様誘拐の計画がおじゃんになってまう!傭兵、今すぐあの餓鬼とマギ・スプリングフィールドを潰してこい!」

 

「いや止めておこう」

 

「なッどうしてや!?」

 

 傭兵が止めておこうと言った事に千草は納得できなかった。しかし次に傭兵が言った事は

 

「あのマギ・スプリングフィールドは分身だ。恐らく本体の方はまだゲームセンターに居るのだろう。分身を囮にし、その間に木乃香嬢の護衛に付くと言うのがあの男の考えだろう。あの男らしい浅はかな考えだ」

 

 なら…と、其処で千草は姿の見えない傭兵の殺気を感じ取り、思わず後ずさる。

 

「あの男に死よりも残酷な光景を見せてやろう」

 

 それを聞いた千草はまさか…!とギョッとした目で傭兵が居る方を見て

 

「まさか傭兵、魔法に関係ない人間にまで手をかけるつもりかえ!?それは流石にマズイやろ!?」

 

「そのつもりだ。私はマギ・スプリングフィールドに関わりのある人間をあの男の前で殺し、絶望を与え、そして始末する……。そうしないと私の復讐は終わらない。君もだ千草嬢。君のやろうとしている復讐は、君にとっては正義の鉄槌かもしれない。しかし復讐と言うのは悪だ。なら復讐者は心を捨て鬼になれ。そうじゃなければ君は復讐など出来もしないで終わる事になる」

 

 言いたい事を終えたのか、傭兵の気配が路地裏の奥から消えた。そこで千草は戦慄を覚えた。自分が雇った傭兵は、自分が思っている以上に厄介で危ない人間ではないのかと……

それに気付いたのはある意味もう遅いのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 




次回の話では雑魚敵ですが、ネタの敵にしようと思います

ヒントは ヴィータ 狩ゲー 鬼 です

次回は早く投稿出来るように頑張ります


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オオカミ少年と蜘蛛の鬼

お待たせしました!
最新話投稿です!
それではどうぞ!

活動報告に新しい事を投稿しておくのでよかったら見てください



 ネギとアスナそして分身のマギは関西呪術の本山がある場所へ電車で向かっていた。電車の中ではネギとアスナが色々と話している光景でとても微笑ましい。そんな光景を分身マギは見ていたが、何故だろう何処か不安な所もある。

 

(分身の俺が嫌な予感を感じるのは結構危ないかも…な。面倒な事にならなければいいんだけどな…)

 

 分身マギはそう思いながら不快溜息を吐いた。と電車が目的の駅に停車したようで、ネギ達は電車から降りた。

 歩く事数分、ネギ達は本山の入り口にたどり着いた。本山の入り口は大きな鳥居に竹林と朱色の小さな鳥居がトンネルのように続いていた。

 

「これが関西呪術協会の本山…」

 

「伏見神社って所と似てますね」

 

 ネギは漸くたどり着いた本山の入り口を見て、カモは伏見神社と似ているとそう言った。

 

「京都だけに何か出てきそうね~」

 

 アスナは今迄色々な体験をしてきたせいか、口調はどちらかというと軽い方だ。分身マギは頬を掻きながら

 

「まッ何にしてもここの長に親書を渡せば任務完了ってわけだ。さっさと親書を渡しに行こうぜ」

 

 分身マギの言った事にネギとアスナは頷き、いざ本山に向かおうとしたその時、アスナの目の前に光る物が漂って来て

 

「ネギ先生、マギ先生にアスナさん、大丈夫ですか!?」

 

 小さい刹那が現れた。いきなり小さい刹那が出てきて、驚くネギとアスナ。彼女は連絡係の分身の様で、自分の事はちびせつなと呼んでほしいと言いながらお辞儀をした。ちびせつなの登場に呆然としているネギとアスナ。

 

「この奥には確かに関西呪術協会の長が居ますが、東からの使者であるネギ先生とマギ先生が歓迎されるとは限りません。罠などに気を付けてください。一昨日の奴らの動向もまだ分かっていませんし」

 

 ちびせつないっている事も一理ある。用心に越したことはない。アスナもハマノツルギをアデアットさせた。

 

「行くぞ!」

 

「うん!」

 

「分かったわ!」

 

 分身マギの掛け声でネギとアスナは鳥居のトンネルに突入した。

 

「あ…マギさん達、鳥居の中に行っちゃった…」

 

 近くで隠れながら分身マギ達の動向を覗いていたのどか、のどかも恐る恐ると言った歩調で鳥居のトンネルの中へと入って行った。

 鳥居のトンネルを走る事数十分。恐らくだがトンネルの中間地点へとたどり着いたネギ達。一度止まると鳥居の柱に隠れて様子を伺った。

 

「ねえさっきから何も起こらないけど、アタシ達の考えすぎだったんじゃない?」

 

 アスナが荒い息を整えながら、辺りの様子を隠れながら伺った。罠がある様子は無いように感じられ、アスナの言う通り考えすぎだったのかもしれない。まぁ何もないことに越したことはない。

 

「何もないならこのまま突っ切っちゃうわよ!」

 

「ハイ!アスナさん!!」

 

「まッ待ってくださいネギ先生アスナさん!油断は禁物です!!」

 

 アスナとネギは再び駆け出し、ちびせつなは2人を追いかけた。しかし分身マギはすぐさま駆け出そうと思わなかった。此処まで何も起こらないと言うのはかえって不気味である。それに何処からか見られているように感じ取った。

 

(……気のせいでありたかったな。まぁ此処まできちまったら前に進むだけか)

 

 分身マギは自分にそう言い聞かせ、ネギ達を追いかけた。分身マギが走り去った数秒後、鳥居の柱に文字のようなものが浮かび上がった。

 

「クク…」

 

 分身マギが感じていた視線の主だろうか。分身マギ達が走り去った後も不吉な笑い声を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 分身マギ達は可笑しな事に巻き込まれることになった。かれこれ1時間以上は走っているだろう。もう関西呪術協会に辿りついていい頃合いだ。しかし…

 

「なんで……。なんで……。なんで鳥居のトンネルが終わらないのよ~~~!!」

 

 アスナが叫び声を上げながら鳥居のトンネルを走っていた。

 

「おかしいです、もう協会にたどり着いてもいい頃合いなのですが……!」

 

 ちびせつなももう協会に到着してもいい頃なのに何時になっても到着しない事に可笑しいと感じていた。

 バイトで体力の有るアスナが少し休もうと提案した。ネギとちびせつなも同意して少し休むことにした。

 ずっと走り続けていたためか、肩で息を吐くアスナとネギ。

 

「やはり可笑しいです…マギさんついてきて下さい!」

 

「なんで俺が…めんどくせぇ…」

 

 ちびせつなと分身マギが何時までもたどり着かない原因を探すために少し先に向かった。これで原因が何か分かると思った…しかし

 

「おい」

 

「「ワァッ!?」」

 

 背後から分身マギの声が聞こえて、驚きながら振り替えると、分身マギが不機嫌そうな顔で仁王立ちしていた。

 

「ちょっ!なんでマギさんがアタシ達の後ろにいるのよ!?」

 

「知るか。俺だってよくわからねぇんだからよ。前を走ってたのにいつの間にか戻ってきちまったんだよ」

 

 分身マギがアスナにそう言った。ネギとアスナは後ろから現れた分身マギに驚くが分身マギが

 

「おいネギ、お前ひとっ飛びして来い」

 

 分身マギに言われた通りにネギはちびせつなを連れて杖に跨り、ネギは空へと上がった暫くすると

 

「うわ何で!?」

 

 空に飛んでいたネギが行き成りアスナとぶつかってしまった。

 

「イタタタ…もぉ~何なのよぉこれは!?」

 

 アスナは訳が分からず喚き散らした。分身マギとちびせつなは此れで合点がいった。

 

「マギ先生これは…」

 

「あぁ、してやられたな。これはループ型の結界、俺達は結界の中に閉じ込められたってわけさ」

 

「「ええ結界!?」」

 

 アスナとネギは自分達が閉じ込められたことにただ驚きを隠せなかった。

 

 

 

「へへッアイツら簡単に罠にかかったやん。やっぱ所詮は餓鬼っちゅうことやな」

 

 分身マギのすぐ近く、ゲームセンターに居た少年が千草と一緒にネギ達の様子を窺っていた。ネギとアスナは如何すればいいか慌てふためいていた。

 

「フフ、これで足止めはOKや。アンタは此処で奴らを見張っとき」

 

「えぇ~メンドイなぁ~」

 

 千草に命令されて少年は面倒そうな顔をしながら言った。

 

「あのマギ・スプリングフィールドは分身だそうやけど、本物の実力もまだ未知数や。若しかしたら結界を突破する可能性もあるかもしれないえ。だからお前に護鬼を付けようえ…とびっきり強いの(・・・・・・・・)をな」

 

 千草はそう言いながら式神を召喚した。召喚された鬼を見て少年は若干顔を引き攣らせた。

 

「千草姉ちゃん結構えげつないもん召喚したなぁ~」

 

「おだまりや、あの坊やどもには一昨日痛い目にあわされたんやから念には念や…ほなら犬上小太郎しっかりやるんやえ」

 

 千草は去って行った。犬上小太郎ははぁとつまらなそうな溜息を吐いて

 

「こんな面倒な事やらんで、マギ・スプリングフィールドと本気で喧嘩やってみたいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 分身マギ達はしばらくの間如何するか喚いていたが、アスナがトイレに行きたくなって(分身マギが小便かと聞いたら大声で喚きながらハマノツルギを振り回した)結界の中を走り回っていると、休憩所に辿り着いた。

 

「取りあえずは私達の状況を把握して、何とか打破出来る方法を探さないと」

 

 ちびせつなの言う通り、自分達の状況は良くないっていう事はネギやアスナでも分かっている。

 

「というよりも何で親書を渡すのを妨害するの?そもそも何で仲良くさせたくないのかしら?」

 

「それはおそらく、関東の人達が伝統を忘れて西洋魔術に染まってしまったことが原因の一つだと考えられます」

 

 アスナの疑問をちびせつなが分かりやすく教えてくれた。まあそれよりも、と分身マギが頭を掻きながら

 

「早く打開策を思いつかないとな、時間も余りないし」

 

 分身マギの体が少しだけだが、ジジ…ジジとノイズのようにぶれだした。

 

「俺は本体の魔力と気で作られた分身、魔力と気には限りがある。俺の体を構成できる時間はあと1~2時間って所だ。そういう事だからカモ、お前アスナにもうちょっと契約執行の効果を教えとけ」

 

「合点でさ。という事で姐さん、早速ですがあそこにある岩を思い切り蹴ってみてくだせぇ」

 

 カモが指差した方向にはアスナの膝ぐらいの大きさの岩があった。アスナは嫌々ながらも思い切り蹴ってみるが砕ける事も無く、アスナは案の定足を抑えながら片足で飛び跳ねていた。

 

「んじゃ今度は兄貴が姐さんに契約執行してみてくだせえ」

 

 カモの言われた通り、ネギはアスナに契約執行をする。アスナの体にオーラみたいな物が包む。そして先程と同じように岩を蹴ると木端微塵に砕け散った。これにはアスナも自分がやった事に引いた。カモ曰く、この状態ならプロのレスラーにも負けないという事だ。

 契約執行は従者が魔法使いから供給される魔力により身体能力を大幅にアップできる。ネギの魔力が尽きぬ限り、アスナは超人的なパワーが身に着くと言うわけだ。さらに体を覆う魔力により物理的衝撃を緩和できると言う優れものである。この力があったからこそ、刹那はアスナに戦闘を任せる事が出来たのだ。

 

「これでアスナさんが一応大丈夫なのは分かりましたが、ネギ先生の魔法の方は大丈夫なのでしょうか?」

 

 ちびせつなが尋ねると、ネギは何処か答えにくい顔をしていたが

 

「ネギは確かに魔法は強いが近接格闘がからっきしだ。正直相手に懐を入られたらお終いだな」

 

「ちょお兄ちゃん!?」

 

 分身マギがあっさりとばらしてしまった。そうネギは魔法は強力なのだが、近接格闘はからっきしなのだ。この前のエヴァンジェリンとの戦いのときもネギは殆どを魔法の力で戦っていたのだ。

 ハッキリ言って魔法が使えなかったら普通の子供との喧嘩でも勝てないだろう。

 しかしネギは有る事を考えた。それは…

 

「若しかしたら、僕が僕自身に魔力を貸したら同じように強くなれるのかな…?」

 

 因みに、ネギが何時も普通の子供以上の力を出せるのはその縮小版というものである。

 

「というかマギさんもたまに凄い力を出してるじゃない。あれはどうやってやっているの?」

 

 アスナが聞いているのは咸卦法の事だろう。マギは何時も魔力と気を合成して瞬発的に強力な力を出しているのだが

 

「アレは説明するのが面倒だから説明しない」

 

 と分身マギは説明を拒否した。

 

「まぁ兄貴は魔法に専念してくだせぇ。魔法使いを守るのが従者の務めってやつですし」

 

「そうそうネギは魔法を唱える事だけを専念していなさい。アイツらそんなに大したことなさそうだし、分身のマギさんと一緒ならどうって事もなさそうだし」

 

 アスナが自信満々で答えた。

 

 

 

 

 

 

「ほう…そら聞き捨てならないなぁ」

 

 しかし何処からか声が聞こえ、ネギ達は一斉に己の武器を構える。何処から来ても対応できるように警戒を怠らない。

 そしてその声の正体が遂に現れた。

 

 

 ドスンッ!!!

 

 

 と鈍い音を出しながらそれは落ちてきた。落ちてきた正体にネギ達は驚愕した。

 

「そんなデカい口を叩くんやらまずは俺と戦ってもらおか」

 

 ゲームセンターに現れた少年、犬上小太郎だった。

 ネギ達は小太郎が過激派の一人だという事にも驚いたが、小太郎と一緒に落ちてきた者に(中でもちびせつなが)驚きを隠せなかった。

 それは一昨日の着ぐるみ達よりも大きく足は6本更に頭の上に鎌のような腕が2本、背中に大きなこぶが2つ付いており、6つの眼が爛々と光っていた。頭には4本の角が

 まるで蜘蛛と鬼を一緒にした化け物であった。

 

「こッこれは鬼のミフチ!鬼の中でも中位の鬼!気を付けてください、この鬼は一昨日の着ぐるみが可愛く感じてしまうほど強力で厄介な鬼です!!」

 

 ちびせつなの言った事にアスナは確かにと思った。一昨日の着ぐるみ達は可愛らしいと思える見た目だったが、このミフチと呼ばれている鬼は恐ろしいと思える姿だ。現に口の鋏でネギ達を威嚇している。

 

「ほんなら始めようか、西洋魔術師……いや、ネギ・スプリングフィールド!」

 

 小太郎は拳を握りしめながら好戦的な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「な…なにあれ…?」

 

 のどかは分身マギ達の近くの竹やぶに身を隠していたが、行き成り現れた現実離れの蜘蛛の鬼の化け物を見て、言葉が出なかった。それでものどかはその場を逃げ出さず、自分の本を握りしめた。

 

 

 

 小太郎は指の関節をボキボキと鳴らしながら笑みを浮かべ、ミフチはギシャーギシャーと唸り声を上げながら分身マギ達を威嚇していた。

 分身マギ達も拳と杖にハマノツルギにちびせつなも小さい刀を構えた。

 

「俺の名前は犬上小太郎!ネギ・スプリングフィールド、この俺と勝負や!…まぁ姉ちゃんに護られている貧弱な西洋魔術師なんかに、俺が負ける可能性なんてゼロやけどな」

 

 小太郎はネギに勝負を申し込んだが、最後は挑発的な台詞で終わらせた。小太郎はネギと同年代位だろうか?同じくらいの歳の少年の挑発にネギは思わずムッとする。

 

「ちょっとアンタ!ネギと同じくらいのガキンチョみたいだけど、その蜘蛛のお化けが仲間に居るからってずいぶん強気ね!こっちにはアタシとネギでも敵わないマギさんが居るのよ!そんな蜘蛛のお化けなんてパッパとやっつけちゃうし、アンタなんかケチョンケチョンに伸しちゃうんだから!!」

 

 アスナはハマノツルギを分身マギに向けながら(分身マギはだからハリセンをこっちに向けるなとツッコむ)叫んだ。如何いうわけか、小太郎は分身マギに目もくれない。ネギやアスナはこう思った。こう言った場合はロクな目にあわない…と。

 すると小太郎は呆れたような溜息を吐きながら分身マギを指差して

 

「アホぬかせ、其処に居るマギ・スプリングフィールドは分身やろ?どうせだったら本物のマギ・スプリングフィールドと戦いたかったわ」

 

 小太郎は此処に居る分身マギが分身だと知っているようだった。つまり囮作戦は失敗したという事だ

 

「俺らと行動している傭兵の兄ちゃんが言ってたけどな、『マギ・スプリングフィールドは、浅はかな考えしか出来ない』って言ってたんやで、しかも兄ちゃんは分身を一目で見抜いたんや…とそんな事はどうでもいいんや。其処の姉ちゃんはテキトーに伸しといて、ネギ・スプリングフィールドは俺がここで潰す!行け、化け蜘蛛!」

 

 小太郎に命じられ、ミフチはアスナに向かってくる。

 

「こうなったら囮作戦とかは如何でもいいでさ!姐さんはそのハマノツルギであの化け蜘蛛をズバーッと倒してくだせぇ!姐さんのその武器だったらあの化け蜘蛛に有効なはずですから!!」

 

「そッそうね!ネギお願い!!」

 

「はい!お願いしますアスナさん!!」

 

「ちょッちょっと待ってください!皆さん!!」

 

 ちびせつなの制止の言葉を無視してネギはアスナに契約執行をした。身体能力が極限まで上昇したアスナはハマノツルギを構えミフチに突撃する。

 

「ヤァァァッ!!」

 

 気合を入れて、アスナはハマノツルギを振り下ろす。しかし

 

「ギシャシャーッ!!」

 

 ミフチは一鳴きしながら蜘蛛の足をバネのように使い、アスナの攻撃を上に跳んで軽々と躱してしまった。

 

「えッ!?ウッ嘘!何で!?」

 

 アスナは攻撃が躱されると思っていなくて、思わず足を止めて戸惑ってしまう。

 

「だから待ってくださいと言ったじゃないですか!ミフチ程の鬼になると喋れはしませんが知力が高くなるんです!そんな安直な攻撃なんて簡単に避けられてしまいます!」

 

 ちびせつなの怒ったような説明にもっと早く教えてほしかった、とアスナは心の中でそう言う。そんな遣り取りをしている間にも飛び跳ねたミフチがアスナを上から押しつぶそうと落ちてきた。

 

「え?ちょちょちょ!!」

 

 アスナは自分の思考が追いつかず、あたふたしてしまう。アスナがこのままミフチに押しつぶされるかと思っていたが

 

「全く、面倒な事をすんなのよな」

 

 分身マギが素早く動いてアスナを抱き上げてミフチの押しつぶしを躱す。おまけにミフチの顔面に蹴りを入れる。顔面を蹴られたミフチは短い悲鳴を上げる。ネギはアスナが助かってホッとしているが

 

「なにボケーッとしとるんやネギ・スプリングフィールド!!」

 

 今度は小太郎がネギに迫ってきた。

 

「わッ!ふッ風花武装解除!!」

 

 ネギは小太郎に武装解除の魔法をかけたが、小太郎は手に持っていた護符の様な物でネギの魔法を防ぐが、完全には防げなかったようで、彼がかぶっていた帽子が花弁となり、犬のような獣の耳が現れた。しかしネギは小太郎に懐を取られてしまう。

 

「間合い、入ったで」

 

 小太郎はニヤリと笑う。ネギは直ぐさま障壁を張ろうとしたが

 

「どらぁッ!!」

 

 小太郎のパンチがネギの顔面にクリーンヒットし、ネギは大きく吹っ飛んでしまった。

 

「ねッネギ!?」

 

 アスナはネギが小太郎に吹っ飛ばされたことにアスナは驚愕してしまう。

 

「おいアスナ!ボサッとすんな!!」

 

 分身マギの怒声で、アスナは自分の目の前にミフチの大きな鎌が迫っているのに気付いてアスナは紙一重で躱す。ミフチはアスナに狙いを定めて、2本の大きな鎌を振り回す。アスナは何とか鎌を回避する。アスナの代わりにたけが両断される。

 

「このッ!女のばっか狙うんじゃないわよ!!」

 

 そう叫びながら、アスナはミフチの左側の鎌をハマノツルギで斬り捨てる。

 

「ギシャァ!?」

 

 ミフチは自分の鎌が斬られたことに驚きたじろいでしまう。

 

「よっしゃあ!流石は姐さん!」

 

 カモはアスナが有効な一撃を食らわしたことに喜ぶ。しかし

 

「まだです!アスナさん!」

 

 ちびせつががそう言った次の瞬間

 

「ギシャシャシャァ!!」

 

 ミフチが一鳴きすると、アスナが斬った鎌が霧散し、すぐさま鎌が元通りに再生してしまった。

 

「ええッ!?何よそんな卑怯な!!」

 

 アスナは鎌が再生したミフチを見て文句を言う。

 

「ミフチのような鬼は部位を破壊されても瞬時に再生してしまうのです!なので本体を直接倒さないと!!」

 

「そりゃ面倒な敵だなッ!!」

 

 ちびせつなの解説を聞きながら分身マギはミフチの顔面に同じように容赦なく殴った。先程と同じように分身マギに顔面を今度は殴られて怒り心頭のミフチはめたらやったに鎌を振り回す。鎌によって竹林が切り裂かれ、岩までも砕いてしまった。

 

「兎に角だ。今あの蜘蛛の化け物は周りが見えてねぇ。今のうちに態勢を立て直すぞ…それにネギの奴もけっこうヤバそうだしな」

 

 分身マギの言った通り、ネギの方を見てみると先程から小太郎のラッシュに防戦一方だった。やはり魔法がメインのネギでは近接タイプの相手とは不利な状況になってしまうのだろう。さらにネギは先程から障壁を張っているのに小太郎は、その障壁を抜いて来てネギに攻撃を加えている。このままだと完全に障壁を突破されしまう。

 

「ヤバいな…カモ!ちびせつな!!」

 

「合点でさ!おいちびせつな!!」

 

「分かってます!」

 

 カモが予め買っていたお茶が入っているペットボトルを小太郎に投げる。そしてちびせつなが呪文を唱えてペットボトルを爆発させる。爆発したお茶が水蒸気の霧の煙幕となり小太郎の視界を遮る。

 

「くそ!目くらましかいな!?」

 

 小太郎は何処にネギが居るかも分からず、やたらめたらに腕を振り回す。その間にもアスナがネギの腕を引っ張り一目散に退散する。

 霧が晴れるとネギの姿は何処にもなく、小太郎がポツンと1人だけいる状態だった。

 

「っ!!くそ、逃げられてもうた!!この臆病者!俺から逃げてもこっからは出れへんでーーッ!!」

 

 小太郎は悔しそうに地団駄を踏みながら叫び散らした。

 

 

 

 

 

 小太郎から上手く逃げだしたネギ達は小太郎から離れた場所の小さな滝が流れている池にて少しの間でも傷を癒す事にした。

 

「大丈夫、ネギ?ほらアンタそんなに血出して、ふくからジッとして」

 

「すみませんアスナさん…」

 

 ネギはアスナに血を拭ってもらい、お礼を言った。小太郎に一方的にやられていたが、障壁が守ってくれたおかげで傷は浅いようだった。

 

「油断していました。あの犬上小太郎と言う少年、あの歳であれほどの格闘術…それにあのミフチが厄介ですね」

 

 ちびせつなはこれからどうすればいいか考えていた。今のネギ達にとって小太郎とミフチは脅威な存在だ。

 

「もうマギさんにあのガキンチョと蜘蛛のお化け倒してもらうのが、一番いいんじゃないの?」

 

 アスナは分身マギに小太郎とミフチの相手をしてもらおうという考えのようだ。たしかに分身マギなら小太郎とミフチ程なら相手にならないだろう。しかし分身マギは溜息を吐きながら

 

「アホか、俺がアイツ等を相手するほどの時間はもうねぇよ」

 

 見れば分身マギの体のブレが先程の休憩所の時よりも激しくなっていた。残り時間が少ないのだろう今にも消えそうだ。それに…と分身マギはネギの方を向きながら

 

「あの小太郎はお前が倒せ。出来るよなネギ?」

 

 分身マギの言った事にネギはコクンと頷きながら

 

「僕はアイツに…小太郎君に勝つよお兄ちゃん」

 

 そう宣言した。

 

「ネギ!?アンタ無茶よ!さっきだって一方的にやられていたじゃない!それなのに一人で勝つなんて無茶よ!なんでマギさんも何時もだったら周りを頼れって言ってるのに!」

 

 アスナは納得できない様子だった。何時ものマギだったら一人で暴走しがちなネギに、もっと周りを頼れと言っているのに、今回は一人で勝てなど……これじゃあ矛盾ではないかとアスナはそう思ったが

 

「ネギの周りでは同じ歳であれほどの実力者は居なかった。同年代と戦う事で今の自分の実力を知る事が出来る今がその時だ。それに誰かに頼るのはいい。だが頼り過ぎたら駄目だ。頼り過ぎちまったら自分が壁にぶち当たった時にどうしようもないからな」

 

「それはそうだけど…でも!」

 

 分身マギの言った事にアスナはまだ納得がいかない様だった。

 

「大丈夫ですよアスナさん」

 

 ネギはアスナに心配しないでという風に頷いた。

 

「確かに僕はアスナさんに心配されるほどに未熟です。エヴァンジェリンさんに勝てたのもお兄ちゃんやアスナさんにカモ君の助けがあって何とか勝てました。だからこそ未熟な僕だからこそ、彼に勝たなきゃいけないんです。こんな所で負けていたら父さんを探し続ける事なんか出来はしないんです…心配しないでください。僕には勝算がありますから」

 

 そう言い終えてネギはアスナにサムズアップをした。そんなネギを見てアスナは呆れたような苦笑を浮かべて

 

「殴られて意地になっちゃって、やっぱそう言う所は男の子なのね」

 

「はい!僕だって男の子ですから!」

 

 アスナの言った事にネギは杖を掴みながら笑った。

 

「よし…んじゃ結構休んだことだし、反撃へと移るか」

 

 分身マギの言った事にネギとアスナは頷き、反撃へと移る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「アスナさんお兄ちゃん!広い場所に出て迎撃します!」

 

「オッケー!!」

 

「了解!!」

 

 作戦を決めたネギ達は小太郎とミフチを迎え討つ為に広い場所へと出た。すると此方に向かってくる足音が聞こえてきた。ハマノツルギと杖を構えるネギとアスナ。上手くいくかはまさに五分と五分、だけどやるしかない。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風精召喚剣を執る戦友!!迎え撃て!!」

 

 ネギは詠唱を終えると、風の精霊の分身たちが召喚され、武器を持って小太郎を迎撃するために突撃しに向かった。

 

「ハハッ!漸く本気かちび助!!」

 

 小太郎は漸く本気の戦いが出来るのかと思うと心が震えてきた。小太郎に向かってくるネギの分身たちを蹴りや拳、更には隠し持っていた手裏剣なので蹴散らしていく。

 

「魔法の射手連弾・雷の17矢!!」

 

 しかしネギの攻撃は止まらず、今度は17本の魔法の雷の矢が小太郎を襲う。小太郎は咄嗟に護符で防御する…しかしこの攻撃はただのフェイントでしかない本命は

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ 白き雷!!」

 

「なッ!?があぁぁぁぁッ!!」

 

 今のネギが使える強力な魔法白き雷、先程の分身や魔法の矢は此れを小太郎に食らわすためのフェイントである。クリーンヒットしたのか小太郎は大きく吹っ飛ぶ。これでお終いかと思いきや

 

「ハッハア!今の中々やるやないかちび助!今のはちっと危なかったなぁ!おかげで持っていた護符が全部オシャカや!」

 

 小太郎は護符で攻撃を軽減したためか未だ健在であった。今此処で小太郎を倒せなかったのは痛い。さらに

 

「ギシャアァァァッ!!」

 

 ミフチが居るのだ。ミフチは自分に2度も攻撃してきた分身マギの姿を確認すると、アスナには目もくれず分身マギに向かって行った。ミフチは2本の鎌を振り回したり、口から糸を吐いたりして分身マギに攻撃してきた。

 

「出てこいや!犬神!!」

 

 小太郎は自分の足元から数体の黒い犬の式神を召喚した。

 

「あの姉ちゃんと兄ちゃんと遊んでやり!!」

 

 小太郎はそう命じると黒犬の式神は唸り声を上げながらアスナと分身マギに向かって行った。

 

「ちょ!何よこの犬は!?あっち行きなさい!!」

 

「くそ、デカい蜘蛛にすばしっこい犬どもなんて面倒な展開だな!!」

 

「うぉぉぉぉ!こっちにくんな!俺っちなんて食べても美味くねえぞ!!」

 

「えい!やぁ!たあ!!」

 

 ミフチの他にも素早い黒い犬たちを加えて、犬たちにハマノツルギを振り回すアスナに、ミフチの攻撃に加えて犬たちの攻撃を辛うじて躱す分身マギ。特になんの力も無く、犬たちに追いかけまわされるカモに、果物ナイフ程の刀を振って犬たちと戦うちびせつな。

 

「アスナさん!お兄ちゃん!!カモ君にちびせつなさん!!」

 

 ネギはアスナ達を助けに行こうとしたが

 

「ネギ!このバカ野郎!!目の前の敵に集中しやがれ!!」

 

 分身マギの怒声にハッとすると、目の前に小太郎の拳が迫っており、何とか掠りながらも回避した。掠ったネギの頬からツーッと血が流れ出す。

 

「ほぉ、戦いの最中に余所見とは余裕やな…でもその余裕、何時まで続くんやろうな!?」

 

 戦いの最中に余所見をされると言うのは小太郎のプライドが許さないのか、小太郎は攻撃のスピードを更に上げる。ネギは何とか躱したり、杖で防いだりしているが何発か攻撃を喰らってしまう。今は魔法の障壁で防いでいるが、その障壁も何時まで続くか分からない。障壁がなくなれば小太郎の攻撃をもろにくらってしまう。下手をすれば死んでしまう可能性もある。

 

「ねッネギ!…キャッ!?」

 

 今度はアスナがネギの事が心配になり余所見をしてしまう。そのアスナの頭すれすれにミフチの鎌が振られる。

 

「おいアスナ!今は自分の目の前の敵に集中しろ!!死にてぇのか!?」

 

 そう叫びながら分身マギはミフチの鎌と蜘蛛の足を蹴りで蹴り飛ばす。しかしミフチは瞬時に鎌と足を再生してしまい埒が明かない。それに加えて小太郎が召喚した犬も(カモとちびせつなは捕まって遊ばれている)居る。ハッキリ言って先程よりも状況は最悪である。小太郎の攻撃もだんだんネギに当たるようになってきた。

 

「ハハハ!護衛のパートナーが居なければ西洋魔術師なんてカス同然や!遠距離攻撃を凌ぎ!呪文を唱える間をやらんかったら怖くもなんとも!!」

 

 遂には小太郎の蹴りがネギの腹に入り、ネギは地面に叩きつけられた。ダメージも入り上手く動けない様子だ。

 

「勝ったで!これで終いや!!」

 

 小太郎は勝利を確信した。止めの一撃をネギに食らわせるために、ネギの懐に再度入ろうとした。

 

「ねッネギーーッ!!」

 

 アスナは悲鳴のような叫び声を上げた。もう駄目かと思った…しかしネギは

 

(!!此処だ!!)

 

 小太郎の攻撃を完璧に見切り

 

「契約執行0.5秒 ネギ・スプリングフィールド」

 

 

 

 ガシッ!!

 

 

 

 小太郎のとどめの一撃を捌く

 

「なッな…に?」

 

 小太郎は自分の攻撃が防がれたことに驚きを隠せなかったが、バキッ!と魔力により強化されたネギの拳が小太郎の顔面にクリーンヒットして大きく上へと打ち上げられた。小太郎は初めて殴られたことに困惑しているが、ネギの攻撃はまだ終わっていない。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ」

 

(まッまさか!!?)

 

 小太郎はこの後の展開が簡単に予想できた。小太郎は背中からネギの手に乗っかりそして

 

「白き雷!!!」

 

 護符で防いでいた魔法の強力な雷を零距離で喰らった。

 余りの強力さに小太郎は一瞬意識が飛びそうになった。意識が飛びそうになって、小太郎は傭兵が言っていた事を思い出した

 

 

 ―――――気を付けろよ小太郎。ネギ・スプリングフィールドは確かにお前からしたら大した奴ではないかもしれない。しかし、ああいった人間は土壇場で何をしでかすか分からない。油断してやられない事だな―――――

 

 

 白き雷を喰らい、体が痺れて動けない小太郎はそのまま地面に叩きつけられた

 

(かッ体が全く動かん…あのちび助、傭兵の兄ちゃんが言っていた通りピンチをチャンスへと変えよった!!)

 

「どうだ!これが僕の力だ!!」

 

 ネギはいきも絶え絶えでフラフラになりながらも小太郎にそう言い切った。

 

「よっしゃあ!流石兄貴!まさか勝っちまうなんて流石でさぁ!」

 

 何とか犬から逃げられたカモがネギが小太郎に有効打を入れて、小太郎が動かない事に大歓声を挙げた。犬たちも主人の小太郎が倒れた事に動揺を隠せない様子だ。

 

「もうこの化け蜘蛛なんか無視してさっさと脱出方法を探すぞ!!」

 

 小太郎も倒したことで、ミフチに構う事も無い。さっさと脱出方法を探そうと提案する分身マギ。それにはネギとアスナも賛成する。

 しかし分身マギ達は知らない。狗族にはまだ能力がある事を…

 

「まッまだや!!まだ終わってないで!!」

 

 小太郎が痺れている体を無理やり起こそうとした。それだけならまだいい、しかし小太郎の髪が伸びてきてだんだん白くなっているように見える。

 

「たッただの人間、それも俺と同じくらいのガキにここまでやられるなんえ初めてや…さっきのは取り消すで、ちび助……いや、ネギ・スプリングフィールド!こっから…こっからが本番やネギ!!」

 

 そして小太郎が再度起き上がった時には先程の面影など無く、手足が大きく鋭い爪が生えて、髪も銀色の白髪になり、獣の耳が一回り大きくなり、尻には髪の色と同じ大きな尻尾が現れた。

 

「ちょ!そんなのあり!?」

 

「獣化!?変身したのか!?」

 

 アスナとカモは小太郎が変身したことに驚きを隠せなかった。しかしただ姿が変わったわけではない。

 

「オラァッ!!」

 

 小太郎がネギに拳を振り下ろし、ネギが回避すると

 

 

 ドガァァァァンッ!!

 

 

 たった拳一発で地面が陥没するほどの威力。獣化すると攻撃が大幅に上昇するようだ。

 

「くッ!仕方ない!!」

 

「無茶ですぜ兄貴!さっきでほとんどの魔力を消費したんですぜ!?あんな奴無視して今は脱出の事だけ考えてくだせぇ!!」

 

 ネギはカモの忠告を無視して、自分に契約執行して身体能力を上げた。

 

「へッいいでネギ!とことんやろうやないか!!」

 

 小太郎もネギのまだ戦う姿勢を見て嬉しくてたまらない様子だ。更にスピードを上げて、ネギの視界から小太郎の姿が消えた。速すぎて何処から攻撃が来るか分からなかった。右か左か迷っていると

 

「左ですネギ先生!!」

 

 突然のどかの声が聞こえながらも、ネギは咄嗟に右に避けると、左方向から小太郎の攻撃が来た。ネギや分身マギが振り返ると

 

「ハァ…ハァ…!」

 

 大きな本を持ったのどかが其処には居た。

 

「のどかさん!?」

 

「のどかお前何でこんな所に!?」

 

「ほッ本屋ちゃん如何して!?」

 

 ネギに分身マギとアスナが何で此処にのどかがいる事に疑問に思った。

 

「えッえーとそれは…あの」

 

 のどかは何か理由を言おうとしたがのどかが本を持って

 

「ネギ先生!右です!!」

 

 と小太郎の右からの攻撃

 

「上です!!」

 

 上からの踵落とし

 

「みッ右後ろ回し蹴りだそうです!!」

 

 小太郎の右後ろ回し蹴りが来ることをネギに教え、ネギは小太郎にカウンターを決めた。のどかは小太郎の攻撃を全て読んでいた。当の本人である小太郎も信じられなかった。

 

「う…うぐ!」

 

 しかし今はそんな事は如何でもいい、ネギの魔力が底をつきそうだった。早く脱出方法を探さないとネギが危ない。するとのどかが

 

「あッあのカモさん、私大体ですが状況を理解できています。とにかく此処を出ればいいんですよね?」

 

 と普通にカモに話し掛けていた。普通に話し掛けられたカモも思わずたじろぐが

 

「おッおうそうだが、何か知ってるのか?」

 

 カモはのどかにそう聞くと、のどかは大きく息を吸って

 

「小太郎クーン!此処から出るにはどうしたらいいんですかぁ!?」

 

 と大声で尋ねた。アスナやカモは思わずズッコケそうになった。何故敵である小太郎に聞くのだろうとツッコミを入れてしまいそうになるほど

 

「バカか姉ちゃん!俺が簡単に教えるわけないやろが!!」

 

 小太郎はそう言い終えた。しかしのどかが持っている本を見た。さっきはチラッとしか見ていなかったが、のどかが本を見ながらネギに次のどの攻撃が来るかを教えていた。

 

(まッまさかあれは!?)

 

 小太郎は気づくのが遅すぎた。そうのどかが持っている本にはもう脱出方法が出ているのだから

 

「っここの広場から東へ6番目の鳥居の上と左右の3箇所の隠された印を壊せばいいそうです」

 

「なッなんとぉッ!!?」

 

「凄い本屋ちゃん!!」

 

 カモやアスナはのどかが簡単に脱出方法を探し当てた事に吃驚仰天である。これでもう脱出出来るも当然だった…しかしそう簡単に事は進まない

 

「ギャギャギャアァァァッ!!」

 

 今迄黙っていたミフチが唸り声を上げながら、のどかに迫ってきた。魔法に関係ない普通の人間を消すつもりなのだろうか、理由は分からないが、今はのどかの命が狙われているようだ。

 

「なッその姉ちゃんは関係ない!止まれ!止めんかい!!」

 

 小太郎の命令にも無視してミフチはなおものどかに迫る。

 

「いけない!本屋ちゃん逃げて!!」

 

「はッはい!!」

 

 アスナにそう言われ、逃げ出すのどか。アスナはのどかを逃がそうと足止めをしようとしたが

 

「ギャギャァッ!!」

 

「キャアアッ!!」

 

 ミフチの突進で吹き飛ばされてしまい、地面に叩きつけられる。

 

「ハァハァハァッ!!」

 

 のどかは必死に逃げたが、どちらかというとどんくさいのどかはどんどんミフチに距離を詰められてしまう。そして

 

「キャッ!?」

 

 ちょっとした段差で躓いてしまう。のどかが倒れている間にも

 

「ギャギャギャギャ!!」

 

 ミフチがのどかに辿りついてしまい、今まさに2本の鎌を振り下ろそうとした。

 

「駄目!本屋ちゃん逃げて!!」

 

 今から走っても間に合わない。アスナはのどかに逃げろと叫んだ。しかしのどかの目の前には恐ろしい蜘蛛の化け物の顔があり、恐怖で動けない。

 

「ギシャシャアァァァァッ!!」

 

 ミフチの鎌がのどかを貫こうとした。

 

「イヤァァァッ!マギさぁぁぁんッ!!」

 

 のどかはマギの名を叫んでギュッと目を瞑った。自分はこれからあの大きな鎌に貫かれるんだとそう思っていた。しかし

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、人の大切な生徒に手ぇ出そうとしてんじゃねぇよこのクソ蜘蛛が!!」

 

 残りの魔力と気をほとんど使用して、のどかの元に駆け付けた分身マギが自分の腕でミフチの体を貫いた。

 

「ぎ…シャ…シャアァァァ…」

 

 ミフチは断末魔の叫び声を上げることなくか細い声を出しながら塵となって消滅した。

 

「あ…え…?」

 

 のどかは自分が助かった事に呆然としていると

 

「おいのどか、大丈夫か?」

 

 分身マギの声が聞こえ、上を見上げると分身マギがのどかを心配そうに見ていた

 

「まッマギさん…!!」

 

 のどかは分身マギに助けてもらった事に嬉しさと先程まで死ぬかもしれなかった恐怖で顔が嬉しさと怖さが混じった涙で顔がグチャグチャになっていたが、分身マギの体が今にも消えそうなほどに半透明になっていた。

 

「まッマギさん!体が!!」

 

「あ?…ったくあの化け蜘蛛を倒すのに魔力と気をほとんど使っちまったな。この体を維持できるのもあと数分ってとこだな…」

 

 分身マギは頭を掻きながらのどかに立てるかと聞いたが、怖さで腰が抜けて立てないとのどかはそう言う。分身マギはやれやれだぜ…と呟きながら

 

「よいしょっと」

 

「きゃッまッマギさん!?」

 

 のどかを横抱き、つまりはお姫様抱っこで持ち上げた。

 

「兎に角時間も無い。ネギ、アスナさっさと脱出するぞ」

 

「了解お兄ちゃん!」

 

「分かったわ!!」

 

「ちょ待てぇネギ!まだ勝負はついてへんで!!」

 

 ネギは小太郎の攻撃を避け、杖に跨ると魔法の矢を3本だけ発射し、先程のどかが言っていた東から6番目の鳥居の隠された3箇所の印を打ち抜いた。

 印が破壊されたことによって空間に亀裂が発生した。

 

「アスナさん!あの亀裂にハマノツルギを!!」

 

「任せておりゃ!!」

 

 アスナは空間の亀裂にハマノツルギを振り下ろした。亀裂は大きくなり、遂には結界が破壊されたのだ。

 

「やったぁ!!」

 

「脱出成功!!」

 

 ネギ達は無事、結界の外に脱出出来たのだ。

 

「んな!そんなのアリかいな!?」

 

 小太郎はこうもアッサリと脱出されたことにツッコんだ。

 

「まだです!まだ小太郎君が追ってきます!」

 

 ネギの言う通り、まだ小太郎がにがさへんで!と叫びながら追って来ていた。

 

「任せてください!再度結界を閉じてヤツを封じ込めます!無間方処返しの術!!」

 

 ちびせつなが破壊した結界を又閉じて、小太郎を結界の中に閉じ込めてしまった。小太郎はあと一歩の所で一人だけ結界の中に閉じ込められてしまった。

 

「くッくそ!逆に閉じ込められてしもうた!…あぐッ!」

 

 小太郎は獣化を解除してその場で倒れてしまった。獣化を解除したことにより、耳は元の大きさに戻り、獣の手足も人間の手足に戻った。本当は白き雷のダメージが残っていたのに無理やり獣化したのである。本当にもう一歩も動けない状態だった。

 

(あのパンチと雷…凄い威力やった。無理矢理獣化したのはええけど、あのままやってれば負けてたのは俺の方か…?へへ…ネギか…西洋魔術師のクセにやるやないか…)

 

「へへ…ネギ覚えとれよ、次は負けへんで!!」

 

 小太郎は寝ながら拳を高々と空へと掲げた。

 こうして苦戦をしながらもネギ達は関西呪術協会の過激派の一人、犬上小太郎を撃退できたのだった…




はい今回は小太郎との戦いです
今回は原作とは違う点ですが
原作ではアスナに簡単にやられた小太郎と現れた蜘蛛の式神
原作では鬼蜘蛛という名前でしたが、今回ネタとして
ヴィータの狩ゲーの一つである「討鬼伝」の敵モンスターのミフチと言うキャラを出してみました。討鬼伝を知らない人は公式サイトや動画サイトで検索してみてくだい。
見た目が完全に蜘蛛なのでだったら出してみようと考えていたんですよね
それと修学旅行編で他にも討鬼伝のモンスターを出そうと思っています

今回で今年の投稿はお終いだと思います。約半年、自分めの小説を読んで下さった方
登録してくださった方評価してくれた方々、ありがとうございました。
来年も頑張って投稿していきますので、応援よろしくお願いします



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激闘!シネマ村

開けましておめでとうございます
今年も堕落先生を宜しくお願いします
それではどうぞ


 小太郎たちをなんとか撃退出来たネギ達一向、ネギの戦闘によるダメージは思っていたほどに大きく、アスナの提案で少しの間ネギを休ませることにした。

 

「…要するにネギ先生とマギさんは凄い魔法使いで、今回の修学旅行で大切な仕事を頼まれたんですね?」

 

「あぁ概ねそんな所だ。悪いな、今まで黙っていてな。一応秘密の事なんだ」

 

 分身マギは今迄黙っていたのどかに謝った。のどかはいいんです。と首を横に振った。

 

「そう言った秘密の事は絶対にばらしちゃいけないと言うのは分かっています。でも…マギさんが魔法使いだなんて、お話の中でしかないと思っていたので、私なんだかドキドキしちゃって」

 

 のどかは顔を赤くしながらそう言った。しかしのどかという一般人に魔法が知られてしまった。ただでさえ危ない目にあっているのに、のどかまで危険な目にあわせるわけにはいかない。

 

「しかし、このアーティファクトは凄いですぜ!使いどころによっては強力な戦力になりますぜ!」

 

「ちょっとカモ!なに何事も無いように本屋ちゃんを危険な目にあわせようとしてんのよ!?」

 

 カモがさも当たり前のようにのどかを戦力に入れようとしており、アスナがツッコむ中、あの~とのどかが恐る恐ると言った形で手を上げながら

 

「私の日記がマギさん達の役に立つのなら、私はマギさん達のお手伝いをしたいです」

 

 のどかが自ら力を貸すとそう言った。アスナはのどかの言った事に仰天し

 

「本屋ちゃん本気?アタシ達の手伝いをするっていう事は、危険なの事なのよ。さっきだって蜘蛛の化け物に本屋ちゃん殺されそうになったじゃない」

 

 アスナの言う通り、のどかは先程ミフチによって死ぬかもしれなかったのである。そんな目にあったのだったらもう関わらない様にするのが普通である。

 しかしのどかは自分の胸の前でギュッと拳を握って

 

「確かに私はさっきは怖い思いをしました。でも私の力がマギさんやネギ先生の役に立つのなら、私はマギさん達を手伝いたいです。それに…私が勇気を出して好きですって言った人が私の知らない間に傷ついているのを、黙って見ていられませんから」

 

 のどかは分身マギ達を真っ直ぐ見ながらそう言い切った。のどかも覚悟をしたのだろう。そんなのどかを見てアスナとカモは

 

(なんか以外、本屋ちゃんもっと怖がりだと思った)

 

(アレですよ姐さん、恋する乙女は強しってやつですよ)

 

「お前ら失礼だろうが」

 

 アスナとカモのひそひそ話を分身マギが聞いていて、失礼だろとツッコむ。

 

「とりあえずだ、のどかは覚悟を決めてこっち側に来るんだって言うなら俺は止めない」

 

「はッはい」

 

 分身マギに見つめられ、のどかは顔を赤らめる。だけどな…と分身マギは

 

「これだけは約束する。お前を危険な目には合わせない。教師として…いや一人の男としてお前を守る」

 

「えッ!?えと…あの…その…よろしくお願いします」

 

 分身マギにお前を守ると言われてしまい、思考回路が停止しそうになったが、お願いしますと一応言い終える事が出来た。

 と分身マギが足元から段々と消え始めた。どうやら時間が来たようである。

 

「時間切れのようだな。ネギ、アスナ後は任せた」

 

 言い終えると分身マギは元の紙に戻ってしまった。

 

「それでは私達も少し休んだら本山へと向かいましょう。幸にここから本山までそう遠くは無いです。とりあえず宮崎さんを本山に連れていきましょう。ここに置いていくわけにはいきませんから」

 

 ちびせつながそう言い終えると先程の分身マギと同じようにザザ…とぶれ始めた。

 

「どうしたの?」

 

「いッいけません!本体の方で何かがあったようで、連絡が途ぎ」

 

 ちびせつなは突然元の紙に戻ってしまった。今一状況が掴めず唖然としているネギとアスナ、カモは急いでちびせつなだった紙を拾い上げて

 

「ちびせつなを使う余裕がなくなったっていう事は、こりゃ刹那の姉さんの方でも何かあったな」

 

 それだけ聞くとネギは何も言わずに杖に跨がり、何処かへ飛んで行こうとした。

 

「ちょ!?兄貴何処行こうとしてるんですか!?」

 

「早くお兄ちゃんの所に行かないと。小太郎君がさっき言っていた事が本当だったらお兄ちゃんを狙っている傭兵がもうお兄ちゃんを襲ってるかもしれない。だから助けに行かないと」

 

「助けに行くって兄貴、さっきの戦いで殆どの魔力と体力を使っちまったじゃないですかい!それなのに今から大兄貴を助けに行くなんて死に行くもんですよ!」

 

 カモの説得を聞いてもネギはマギを助けに行くつもりだ。とその時

 

「いい加減にしなさいこの馬鹿!!」

 

 アスナが今までにない大声で叫んだ。ネギはアスナの大声を聞いて固まってしまった。アスナも自分の大声にハッとして、固まっているネギを見てゴメンと謝った後にネギの肩を掴んで

 

「いいネギ?アンタがマギさんが心配なのは分かるわ。けどねアンタはさっきの戦いでボロボロじゃない。そんなアンタがマギさんを助けようとしても足手まといになっちゃうわよ」

 

 此処まで言ってもネギはまだ納得できない様子だ。アスナは溜息を吐きながらネギの頭に手を乗せた。

 

「ねぇネギ、アンタがマギさんを大切に思っている事はアタシも分かってるつもりよ。だったらマギさんの事を信じてあげなさい。アンタは誰かを頼るのもそうだけど、誰かを信じる事も大切よ。大丈夫よマギさんはアンタより何倍もアタシなんかよりも何百倍も強いんだから、だから何も心配はないわよ」

 

 アスナの言った事に漸く納得したのか、ネギは杖から降りてそのまま倒れてしまった。アスナとカモがネギに近づくと、どうやら気絶したようだ。

 

(まったくもぉ、こんなにボロボロになっても無茶しようとするんだから…ネギは本当にマギさんが大好きなのね)

 

 アスナは気絶してしまったネギの頭を自分の膝に乗せて膝枕をしてあげた。

 

「姐さん、さっきは大兄貴は何も心配ないって仰ってましたが、本当に大丈夫なんですかい?」

 

 カモが本当に大丈夫なのかと尋ねるとアスナはさっきとは違う弱々しい表情になった。

 

「ごめんカモ。アタシネギにあんな偉そうな事言ったけど、本当はマギさんが心配」

 

 アスナはそう言いながら頭を押さえた。最近起こるようになった変な頭痛である。アスナはこの変な頭痛が起こった事に不吉な事が起こるのではないかと気が気ではないアスナであった。

 

 

 

 

 場所は変わりマギの本体は刹那とこのかにエヴァンジェリンに茶々丸、そして少し距離が離れてる夕映とハルナが走っていた。

 

「せッせっちゃん何処行くん?速いよー」

 

「すいませんこのかお嬢様、もうしばらくの辛抱です」

 

 このかは刹那に手を引っ張られる形で走っていた。もともと運動が得意ではないこのかは刹那の走るスピードに引っ張られる形で辛そうだった。主であるこのかに無理をさせてしまい、申し訳ないように謝る刹那。夕映とハルナは行き成り走り出したことに文句を垂れながらも何とか付いて来ている形である。

 と刹那とこのかに向かって何か光るものが飛んできた。刹那はこのかに気づかれない様に光る物を全て捕らえた。それは杭の様な手裏剣だった。関西の過激派が白昼堂々とこのかに襲い掛かってきたのだ。

 

「おい刹那どうするよ?このかを狙っている奴がこんな真昼間に襲ってくるなんてヤバくないか?」

 

「そうですね、とりあえずは何処か賑やかな場所に入って人混みの中に紛れば襲ってくる可能性は薄いでしょう」

 

 マギと刹那はとりあえずは何処か賑やかな場所で敵をやり過ごす事にした。

 

「ところでエヴァは俺達と一緒に来るのか?せっかくの修学旅行が台無しになっちまうぞ?」

 

 マギはそうエヴァンジェリンに尋ねた。エヴァンジェリンは今回の事には首を突っ込まないと自分でそう言っていた。しかしエヴァンジェリンはマギと一緒に走っている。エヴァンジェリンはフンと鼻で笑いながら

 

「ここまで来たら仕方ないが一緒に居てやるさ、このままだと修学旅行が中止なってしまったらたまらんからな…そッそれにマギが傷つくのは嫌だからな…」

 

「私はマスターと一緒でマギ先生と一緒に居ます」

 

 エヴァンジェリンと茶々丸はそうマギに言った。マギはエヴァンジェリンにありがとうなと笑いながらエヴァンジェリンの頭を撫でてあげた。エヴァンジェリンは顔を赤くしながらも嬉しそうに微笑んだ。

 とマギ達の目の前に大きなテーマパークのような物が見えてきた。

 

「あれ此処ってシネマ村じゃん!なんだ桜咲さんシネマ村に来たかったんだ」

 

 ハルナが言ったシネマ村はかなり大きな施設で人が多そうだ。さっき言っていた賑やかな場所としてはうってつけだ。マギと刹那は頷きあうと

 

「すみません綾瀬さん早乙女さん、私このかさんと二人きりになりたいのでここで別れましょう!」

 

 そう言いながら刹那はこのかを抱き上げて、シネマ村の高い壁を驚異的なジャンプ力で飛び越えてしまった。刹那のジャンプを夕映とハルナはポカンとしながら見ていると

 

「悪い、夕映にハルナ俺達も野暮用でな先に行くわ」

 

「お先にな小娘共」

 

「すみません綾瀬さん早乙女さん」

 

 マギにエヴァンジェリンに茶々丸も先程の刹那と同じようにシネマ村の壁をジャンプで飛び越えてしまった。刹那に続いて超人的なジャンプを見た夕映とハルナはポカンと呆然としていたが

 

「金払って入れです」

 

 夕映のあたりまえなツッコミを入れた。とりあえず夕映とハルナは普通にお金を払ってシネマ村に入って行った。

 

 

 

 

「ふむシネマ村か…マギ・スプリングフィールドも愚かな男だ。貴様に安息の地がない事を骨の髄まで分からせてやろう」

 

 

 

 

 シネマ村の中はかなりの旅行者が居た。中には学生の姿もちらほらと見える。これだけ人が居るなら襲ってはこないだろう…一先ず安心する刹那。

 

(さて、これからどうするか…)

 

 刹那はこれからどう動くか考える。

 

「せっちゃんせっちゃ~ん」

 

 とこのかの声が聞こえ、お嬢様と刹那は顔を上げると刹那は思わず絶句して固まってしまった。このかは何時もの学生服ではなく江戸時代の姫が着るような着物を着ていたのだった。

 

「おッ嬢様その恰好は?」

 

 如何したのですかと尋ねるとこのかはこれなーと着物の袖を上げながら

 

「そこの更衣所で着物を貸してくれたんやえ。どうせっちゃん似合う?」

 

 このかは着物でくるくると回りながらどうかと刹那に尋ねた。このかの着物姿に見惚れていた刹那はハッとしながら

 

「と…とてもお似合いですこのかお嬢様」

 

 自分の思った事を素直に言った。刹那に似合っていると言われて嬉しいのか大はしゃぎするこのか。刹那は高ぶる気持ちを如何にか抑えようとしていると

 

「おいこのか、あんまりはしゃいでいると折角の着物が汚れちまうぞ」

 

 マギの声が聞こえて振り返ると其処にはこのかと同じ様に着替えていたマギとエヴァンジェリンの姿があった。

 

「しかしこのかは着物が似合うな。やっぱこのかみたいな奴を大和撫子って言うのか?」

 

 マギは江戸幕府後の新政府の軍服を着ており

 

「おいマギ、さっきは私に着物が似合うとそう言ったのに浮気をするのか?」

 

 このかと同じような着物を着たエヴァンジェリンが不満そうな顔をして

 

「大丈夫ですよマスター。マギ先生はマスターの着物の方が似合っているとそう思っていますよ」

 

 自身が人間の服は着れないという事で、制服のままの茶々丸であった。

 

「マギ先生、如何してそんな格好をしてるんですか?」

 

 刹那は軍服を着ているマギに尋ねる。

 

「こんな所に来たんだからやっぱ着た方が良いかと思ったんだよ。お前も折角だから着とけ着とけ」

 

「そーそーマギさんの言う通りやえーせっかくだからせっちゃんも着替えよ!うちが選んであげる」

 

 このかに連れられ、刹那も更衣所で着替える事になった。着替える事数分後

 

「何故私は男物の扮装なのですか?」

 

 刹那が着替えたのは新選組の恰好であった。女性である刹那だが、意外と似合っており護衛の刀のせいでより一層似合う形が増していた。

 

「せっちゃんこっちこっち色々と売ってあるえー」

 

 このかに手招きされて刹那は土産のコーナーを見ていた。何かお土産でも買っておこうかと考えていると、このかが甘食を丸々1つ口に頬張って変顔をしており、思わず刹那は吹き出してしまった。

 

「よかった、せっちゃんやっと笑ってくれた」

 

 このかは笑ってくれた刹那を見て嬉しそうだ。と他の学校の修学旅行生が刹那とこのかを見て写真を撮っていいかと尋ねられて、刹那とこのかは色々なポーズをとりながら写真を撮られていた。

 

「一応大丈夫かな…」

 

 近くの場所で刹那とこのかを見ていたマギはそう呟いた。

 

「何だ、お前近衛木乃香に何か言ったのか?」

 

 エヴァンジェリンに尋ねられ、まぁなと肯定する

 

「刹那の奴、変に肩に力入れてるからなあそこまで張っちまってたら危ないと思ったからな、このかに何かアホな事でもやって笑わせてやれって言ったんだよ」

 

「ほう意外と気を回すのだなお前も」

 

「一応は教師だからな、生徒の事もちゃんと考えてやらないとな」

 

 メンドイけどなと頭を掻きながらそう言った。ああそう言えばとマギはエヴァンジェリンの方を向きながら

 

「改めて思ったが、着物似合うなエヴァ。綺麗だしまるで本当のお姫様みたいだ」

 

 不意にマギに綺麗だと言われて思わず顔を赤くしてしまうエヴァンジェリン。

 

「とッ当然だ!この私なんだから何を着ても似合ってしまうんだからな」

 

 と顔を赤くしながらも当然だと主張するかのように胸を張った。そんなエヴァンジェリンをマギと茶々丸は微笑ましそうに見ていた。すると

 

「あッあの!よろしければ写真を撮っても宜しいですか?」

 

 と先程刹那とこのかを撮っていた学生が今度はマギとエヴァンジェリンに写真を撮っていいか尋ねてきた。外国人でもあるマギとエヴァンジェリンが着物と軍服を着ているのは珍しいので写真に収めておきたいのだろう。

 

「まぁこういうのも旅の醍醐味って奴かな。エヴァ仕方な撮られてやろうぜ?」

 

「私は好き好んで写真を撮られるのは趣味じゃないんだがな。まぁ仕方ない撮られてやるか」

 

 結構乗り気なマギと嫌嫌そうなエヴァンジェリンは学生達に写真を撮られて(ちゃっかり茶々丸が撮影モードで写真を撮っていた)いた。

 

 

 

 

 

 刹那とこのか、マギにエヴァンジェリンに茶々丸がシネマ村を色々と回っていると何処からか馬が走っている音が聞こえてきて、マギ達の目の前に馬車が現れた。

 

「お前は!?」

 

 刹那は馬車に乗っている人物に驚きを隠せなかった。何故なら馬車に乗っていたのは刹那と互角の戦いを見せた少女の月詠だったからである。

 

「どうも~神鳴りゅ…じゃなかったです。お金持ちの貴婦人でございます~そこな剣士はん、今日こそ借金のカタにお姫様をもらい受けに来ましたえ~」

 

 月詠はクスと笑いながら刹那にそう言った。刹那は最初は動揺したが、このシネマ村ではお客を巻き込んで突然お芝居が始まる事があるという事を思い出し、劇に見せかけ衆人環視の中堂々とこのかを連れ去ろうと言う訳だろう。

 そうだと分かった刹那はキッと月詠を睨みつけながら

 

「そうはさせん、このかお嬢様はこの私が守る!」

 

 刹那の宣言に周りの客は拍手や口笛などをした

 

「せっちゃん恰好ええよー!」

 

 このかも刹那の守ると言う言葉に喜びながら、刹那の背中に抱き着いた。抱き着かれた刹那は慌てふためく。そんな光景を見た月詠はしかたありまへんな~と言いながら自分が着けていた手袋を刹那に投げ渡した。中世の決闘の合図である。

 

「このかお嬢様をかけて決闘を申し込ませて頂きます。30分後場所はシネマ村正門横の日本橋にて。ご迷惑だと思いますけどウチ、手合せして頂きたいんです。逃げたらあきまへんでー刹那センパイ」

 

 刹那センパイの所を狂気を孕んだ笑みを浮かべた。このかは月詠の笑みを見顔から血の気が引いていくのを感じ、刹那の背に隠れた。

 

「ほな、助けを呼んでもかまいまへんで~」

 

 そう言い終えて、月詠は又馬車に乗って去って行った。他の観光客は30分後に劇があると思い込んで、日本橋に向かって行った。そしてマギとエヴァンジェリンは先程までの会話を聞いてどう思ったかを話し合っていた。

 

「エヴァから見てあの月詠はどう思う?」

 

「どう思うも何も月詠と言う小娘は人を斬って快感を得ようとする狂った奴だ。何ともまぁ桜咲刹那も面倒な相手に付け狙われた物だ。其処には同情するよ」

 

 とそう述べた。刹那は仕方ないが、敢えて月詠の罠に乗る事にした。このかは未だに刹那の背に隠れて震えていた。とそんな刹那とこのかの元へ

 

「ちょっと桜咲さんどういう事よ~!!」

 

 先程別れたハルナと夕映の他に和美たち3班が刹那とこのかを取り囲んだ。3班もシネマ村に来ていたようだ。

 

「もう何でこんな重要な事を言ってくれなかったの~!?それで2人は何時から付き合ってるの?」

 

「いやいやうんうん、お姉さんは応援するよ…記事にはしないから安心していいさね」

 

 如何やらハルナ達はこのかと刹那が付き合っているのだと勘違いしているようだ。というかハルナ達は今迄マギ達の事をばれない様に覗いていたようだ。面倒な展開になってきたな…とマギは溜息を吐いていると

 

「まッマギさん…」

 

 と千雨がマギを呼んだ。マギは振り返ると大正時代の女学生の制服に着替えている千雨が居た。

 

「千雨か、お前も着替えたんだな。お前らしくて似合ってるぞ」

 

 マギは自分が思った事を素直に伝えた。千雨は似合っていると言われると思っておらず、顔を赤くしながらありがとうと言った。

 

「ってそうじゃない!マギさん聞きたい事があるんだけど」

 

「聞きたい事?なんだ?」

 

 マギは千雨が何を聞きたいのか首を傾げる。千雨は数秒だけマギと目を合わせていなかったが、マギと目を合わせると

 

「マギさんとエヴァンジェリンって仲が良いよな?若しかして付き合って…たり?」

 

 如何やら千雨は先程のマギとエヴァンジェリンが一緒に写真を撮られている所を目撃しており、それが仲良さそうに見えたようだ。付き合っているのか聞かれエヴァンジェリンは動揺する

 

「べッ別に私とマギは付き合ってなど…!」

 

「そうだぞ。幾ら歳が歳が近いからって(ホントは何百歳も離れているけどな)学生と教師が付き合うのはマズイ『グニィ』っイテ!何で足を踏むんだよエヴァ!?」

 

「フン!バランスを崩してたまたまお前の足を踏んでしまっただけだ…もうちょっと言い方があるだろうが馬鹿者が…」

 

 先程まで動揺していたエヴァンジェリンだが、今度は不機嫌になりながらマギの足をたまたまと言いながらも思いきり踏みつけたのだった。

 

(なんだ、マギさんとエヴァンジェリン付き合ってるわけじゃないんだ…良かった)

 

 千雨はマギとエヴァンジェリンが付き合ってないと分かるとホッと一安心したようだ。そんな千雨をエヴァンジェリンは見ていた。

 

(長谷川千雨、若しかしなくともマギの事を…まったく無自覚とは一番達が悪いな)

 

 エヴァンジェリンは呆れた視線でマギの事を見ていた。マギはエヴァンジェリンが何故自分の事を冷めた目で見ているのが分からなかった。

 

「よ~し決めた!私達は桜咲さんとこのかの恋を応援するよ!淑女達出陣だ!!」

 

 ハルナ達は刹那達に着いていくことに決めた様だ。マギは呆れ半分で和美の腕を引っ張って

 

「おい和美、分かってるのか?さっきの女は一般人じゃない、俺達側の人間だ。最近俺達側の事を知ったお前や無関係な奴らが一緒だと危険に巻き込まれるかもしれないぞ」

 

 マギの忠告に和美は

 

「大丈夫だよマギさん、さすがにマギさん達の助太刀なんか出来ないからね、せめてもこのかが危険な目にあわない様に一緒に居てあげるだけさね」

 

「ならいいんだが、だけどもこれだけは言っておく…俺や刹那に何かあったらお前がこのかや他の奴らを連れて直ぐに逃げろ。お前がこの中で行動力もあるし頭もキレる」

 

「了解さね、余計なお世話かもしれないけどマギさん怪我しないでね」

 

 マギの忠告も聞いてハルナ達は刹那達と一緒に日本橋に向かう事にした。その時

 

「刹那さん、お兄ちゃん、大丈夫!?」

 

 刹那とマギの目の前で光る何かが飛んできた光る物が拡散すると其処にはちびせつなサイズのネギとそのネギの頭にカモが乗っていた。

 

「ネギ先生どうやって此処へ!?」

 

「何でお前そんなに小さいんだ?」

 

 マギは何故ネギがそんなちびせつなと同じ大きさなのか尋ねると、ちびせつなの紙型を使って刹那達の気の跡を辿って此処に辿り着いたという事である。カモは何があったのか刹那に尋ねようとしたが目的地の日本橋に到着した。

 日本橋には先程までの出来事を目撃して劇を見ようとしている人や、シネマ村の中で口コミが広がって大勢の観光客であふれていた。さらにもう月詠が居て、太刀と短刀を構えていた。

 

「フフフフ、約束の時間通りでしかもぎょーさんお友達を連れてきてくれておおきに〜、楽しくなりそうやな~ほな始めましょうか刹那センパイ…このか様とセンパイ、どちらもウチの物にしてみせますえ」

 

 月詠は笑顔のままそう言った。先程の狂気の笑み程ではなかったが、このかは背筋が凍りそうになるほど震えていた。このかは刹那の羽織をギュッと掴みながら

 

「せっちゃん、あの人なんかこわい。気を付けてな」

 

「…大丈夫ですよ」

 

 刹那の大丈夫との言葉にこのかはえ?と刹那の顔を見た。刹那はニッコリと笑いながら

 

「どんな事があっても私は、このかお嬢様をお守りします。だから安心てください」

 

「せっちゃん…!」

 

 このかは刹那に後ろから抱き着こうとしたが、周りの観光客の拍手喝采となった。3班の千鶴や夏美は刹那のこのかを守ると言う言葉に感動し、あやかは大粒の涙を流すほどだった。

 

「桜咲さん!私感動しましたわ。お二人の愛、全力でご協力いたしますわ!!」

 

 刹那の手を握りながらのこの言い様、刹那は軽く引いていた。色々と勘違いしているようだった。そして刹那と月詠の対決が始まるかと思ったが

 

「ちょっと待った。刹那がカッコイイ事を言っていたが、お前の相手は俺がするぜ」

 

 マギが割って入ってきた。マギの横槍に周りの観光客はブーイングや引っ込めなどの野次を飛ばしてきた。マギはそんな野次を無視して

 

「刹那は俺の生徒だからな。生徒に怪我させるわけにはいかねえんだよ」

 

 マギの言った事に月詠は不満そう…否残念そうな表情になっていた。

 

「はぁ~お兄さんとはウチも戦いたかったんやけど、お兄さんにはウチの用心棒が予約を入れていてな~お兄さんの相手は出来そうにないんや。という事で出てきてや~用心棒さ~ん」

 

 月詠が用心棒なる者を呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…やれやれ、漸くお呼びが月詠嬢。聊か待ちくたびれたぞ」

 

 マギ達の頭上から男の声が聞こえてきて、マギ達は上を見上げると誰かが落ちてきて月詠の横に着地した。着地した者の恰好は現代の服とはかけ離れていた。体には黒い甲冑と黒きズボンを着ており、さらに血のような真っ赤なマントを羽織っており、顔はバイザーで隠れていて表情が分からなかった。

 だがマギは瞬時に分かった。この男が自分しか狙っていなかった傭兵だと

 

「テメェだな、俺しか狙わなかった傭兵って言うのは」

 

 マギは傭兵に尋ねる。尋ねられた傭兵はフッと笑いながら

 

「ほう如何して私が君を狙った傭兵だと分かったのかね?」

 

 傭兵の口調はマギを挑発しているのが丸わかりだった。だがマギはあえてその挑発に乗る事にした。

 

「簡単だ。あの時の変な矢に纏っていた魔力とお前の魔力が一緒だったからだ」

 

 それだけ言うと傭兵はわざとらしい大きな拍手をした。

 

「成程、素晴らしいな。君もそれ位の事は一応できるという事か」

 

 それ位を強調しながら言う傭兵。傭兵の言い方には侮蔑を感じ取れた。

 

「そんな事は如何でもいい。テメェの名前はなんていうんだおい」

 

「君に名乗る名など持っていないよ。だがそうだな…どうしても呼びたいならアーチャー(弓兵)とでも呼んでくれ」

 

「アーチャー、弓兵ね…随分とシンプルなコードネームだな。で、そのアーチャーが俺を狙うのは何で何だ?」

 

 マギは傭兵、アーチャーが自分を狙う目的を尋ねた。するとアーチャーからマギに対する見下した雰囲気が消えうせ、他の気配が出て来た。その気配は…殺気。

 

「目的?目的ならただ一つ、貴様の抹殺だ。マギ・スプリングフィールド」

 

 そう言いながら、アーチャーは両腕から白と黒の対になる2本の短剣を出現させ、白い短剣の切っ先をマギに向けた。如何やらアーチャーの魔法はああやって武器を具現化させる魔法なのだろうとマギは読んだ。周りの観光客に魔法の事を知らない麻帆良の生徒達はアーチャーが何もない空間から行き成り剣を出した事に吃驚したのではなく、アーチャーが言ったマギの抹殺という言葉にざわついていた。

 当のマギは頭を掻きながら

 

「何でお前が俺を抹殺しようとしてるんだ?俺、お前みたいなインパクト抜群な人間を一度見たら忘れないと思うんだけどな…もしかして人違いなんじゃないか?」

 

 マギ自身アーチャーの様な格好しているヤツを見たら忘れないはずだと言い切った。しかしアーチャーは聞く耳を持っていなかった。

 

「自分の胸に聞いてみるのだな…尤も今更後悔しても遅いのだがな」

 

 アーチャーはヤル気マンマンの様だ。そんなアーチャーを見てマギはやれやれだぜ…と溜息を吐きながら

 

「勘違いされたまま殺されるつもりはこっちも無いからな、俺も秘密兵器を使ってみるとするか」

 

 マギは担いでいたギターケースを開けて中から何かを取り出した。それはネギが使ってる大きな杖とそっくりな物だ。少し違うのは、杖の中から刃が出てきた。仕込み杖である。

 

「この仕込み杖は特注品でな、俺が魔力を注げば力を増すと言う優れものだぜ」

 

「そうか…だったらこちらも最初から本気を出させてもらう」

 

 そう言ったアーチャーから膨大な魔力と気が溢れだして…一瞬でアーチャーの姿が消えた。

 

「ッ!」

 

 マギは一瞬で消えたアーチャーに動揺を隠せなかったが、背後に強い殺気を感じ取り、瞬時に後ろに振り返り仕込み杖を振り下ろした。

 

 

 

 ガキィィィィンッ!!

 

 

 

 マギが仕込み杖を振り下ろした先には、アーチャーが短剣を振り下ろしていた。マギの仕込み杖とアーチャーの短剣が鍔迫り合いをした。

 行き成り背後を取った。本気でマギを殺すつもりだ。

 

(たくよこっちはテメェの事なんてまるっきり知らないって言うのによぉ…)

 

「そう簡単にやられてたまるかってんだ!」

 

 叫びながらマギはアーチャーの黒と白の短剣を弾き返した。アーチャーは一瞬で後退するが、マギはそれを逃すつもりなどなく、咸卦法を発動させ、仕込み杖に魔力と気を流し込みこちらも一瞬で間合いを詰めた。

 互いの武器がぶつかり合い火花が飛び散る。マギがアーチャーの足を狙おうとするが防がれ。アーチャーもマギの胸を斬り裂こうとするが、その剣を弾き飛ばす。そして何十合か斬り合ってマギは有る事に気づいた。

 

(このアーチャーって奴、剣筋がてんでバラバラだ。我流みたいだが、戦い慣れてやがる。剣術の無さを実戦経験で補っている感じだ。本当にコイツは何者なんだ?)

 

 マギも剣術はまるで素人だ。しかしアーチャーの方も自分が見る限り我流である。だがそれでもアーチャーの方が剣術ではマギより上であるようだ。

 

「戦いの中で考え事とはずいぶんと余裕だな。だがその余裕何時まで持つかな?」

 

「テメェも戦っている相手に話かけて来るなんて俺も舐められたもんだ。その余裕ぶっている態度、俺が崩してやるよ」

 

 そしてまた更に斬り合うマギとアーチャー。観光客はマギとアーチャーの斬り合いに大興奮の様子だ。

 

「マギ先生!」

 

「よそ見してる時間がありますかセンパイ?」

 

 刹那がマギの方を見ていると月詠が突貫してきた。刹那は自分の得物で月詠の攻撃を防ぐ。月詠はうっとりとした笑みを浮かべており

 

「はぁ~~センパイとの剣と剣とのぶつかり合い。これだけでウチは快感ですわ~」

 

「戦闘狂か。ついて行けん!」

 

 そして刹那と月詠の戦いも始まったのだ。戦いの場面をマギとアーチャーに戻すが、マギとアーチャーは橋ではなく今度は屋根の上で互いに斬り合っていた。観光客はマギとアーチャーの戦いをハリウッド映画のアクションシーンを見ているのではないかと思う始末である。マギとアーチャーは本当の殺し合いをしているのだが。とアーチャーの白の短剣に罅が入り始めた。

 

「どらッ!」

 

 マギが気合と一緒に剣を振りぬくと、白の短剣が砕け散った。これでアーチャーの方が不利になったと考えたマギはこのまま攻め続けた。と今度は黒の短剣が刀身から砕け散る。アーチャーは柄だけになった短剣を投げ捨てる。

 

「これで終いだ!」

 

 マギはそう叫びながら仕込み杖を振り下ろした。これでアーチャーは終わりだと思われた。しかし

 

「―――」

 

 アーチャーは何か呪文を呟くと瞬時に、先程と同じ白と黒の短剣が傷一つも無く又具現化され、マギの攻撃を防いだ。

 

「んなッ!?」

 

 マギは今の攻撃で決着がつくと思っており、アーチャーが瞬時に剣を具現化させたことに驚きを隠せなかった。アーチャーは不敵に笑いながら

 

「生憎、貴様の腑抜けた攻撃でくたばるほど私自身弱くないつもりだ」

 

「たく、面倒な魔法を使うんだなテメェは。だったら剣を新しく出しても直ぐにぶっ壊してやるよ」

 

 しかしマギがアーチャーの剣を叩き折ったり、砕いたりしてもアーチャーは直ぐに剣を具現化させる。

 

「はぁっはぁったくよぉ、あと何回テメェの武器をぶっ壊せばいいんだよおい…」

 

 マギはアーチャーの剣を破壊し続けて体力を消費し、肩で荒い呼吸をしていた。対するアーチャーはバイザーでこそ表情は見えないが、未だに余裕そうだ。

 

「如何した?さっきまでの威勢の良さが嘘の様だぞ。やはり貴様のその強さは見かけ倒しという事か」

 

 アーチャーは見下した態度でそう言う。対するマギはへッ冗談とアーチャーに負けじと不敵な笑みを浮かべて

 

「お楽しみは此れからだっつうの。俺の本気でテメェの度肝を抜いてやるぜ」

 

 そう言い終え、マギは息を整えると、マギウス・ナギナグ・ネギスクウと詠唱を始めた。接近戦では此方が不利である。だったら魔法をアーチャーにぶつけると言う戦い方に変更する。

 

「堕天使の翼よ!罪深き我の背中に汝の翼を与えたまえ! 黒き翼!」

 

 マギの背中から黒い翼が現れ、マギは空高く羽ばたいた。今度はマギが空を飛んだことに観光客は大興奮。夕映やハルナ達と言った魔法を知らない生徒達はポカンとしていた。

 マギも本当は魔法がバレルかもしれないと危惧していたが、もうそんな事を考えている暇は無かった。圧倒的に自分が不利だったからである。全力を出さないとやられてしまう。

 空に飛んだマギを見上げるアーチャー。彼は心底呆れたような溜息を吐いた。その溜息はマギを心底バカにしているような溜息だった。

 

「愚かな…私が弓兵だという事を忘れたか、貴様は罠にかかった獲物同然だ」

 

 アーチャーは白と黒の短剣を投げ捨てると、今度は漆黒の弓を出現させた。それは前にマギをビルから狙い撃った弓であった。アーチャーは矢を出現させると、弓を引き絞り矢を放った。放たれた矢は真っ直ぐマギに向かって行くが、マギは仕込み杖を振るって矢を破壊する。

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 闇の精霊12柱 魔法の射手 連弾・闇の12矢!」

 

 今度はマギが闇の魔法の矢を放つ、12本の魔法の矢がアーチャーに迫って来るがアーチャーは別に慌てるそぶりは見せずに又矢を引き絞り放つ、しかし今度は矢は1本だけではなく、矢は拡散しマギの放った倍の数の24本の矢となった。12本の魔法の矢とアーチャーが放った24本の矢の半分が相殺されるが、残りの12本の矢がマギに迫る。マギは12本の矢を叩き落とすが、肩や太腿に頬を掠めてしまいそこから血が流れる。

 

「如何したこの程度が?欠伸が出そうだ」

 

 そう言いながらアーチャーは欠伸をする素振りを見せる。明らかな挑発行為にマギはキレそうになるが抑えた。怒ればアーチャーの思う壺だ。

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 黒曜の輝き快速の槍となり敵を討つ! 悪魔の槍!」

 

 今度は悪魔の槍を発動させて、アーチャーに向かって発射させる。漆黒の槍は魔法の矢よりも強力だ。今度こそ決まったと思ったマギ、しかしアーチャーは何かを唱えながら腕を前にかざす。かざした腕から7枚の花弁が展開されて、マギが放ったデモンズ・ランスを完全に防いでしまった。

 

「うそ…だろ?俺の攻撃が全然効かないだと?」

 

 攻撃が完全に防がれ呆然とするマギ。そんなマギにアーチャーは当然だと言いながら

 

「先程も言っただろう?貴様の腑抜けた攻撃でくたばるほど私自身弱くないとな…それよりも避けなくて大丈夫か?」

 

 マギはアーチャーが最後に言った言葉の意味が分からなかったが、自身の右腕が激痛を感じた。何事かと思ったら見ると先程アーチャーが投げ捨てた白と黒の短剣がブーメランのように回転しながらマギの腕を斬りつけて来た。アーチャーがただ短剣を投げ捨てたのではなく、ブーメランのようにしてマギを狙うためである。マギは又もやって来た短剣を仕込み杖で叩き折った。

 マギは戦いがアーチャーの流れになっている事と、アーチャーが完全に遊んでいると分かると完全に堪忍袋の緒が切れた

 

(クソが!だったら俺の今使える最大の魔法をアイツにぶつけてやる!)

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ! 来たれ炎精闇の精! 闇よ渦巻け 燃え尽くせ地獄の炎!」

 

 マギはエヴァンジェリンの時に使用した闇の業火を使うつもりだ。闇と炎の魔力がマギの腕の中で渦巻く。大技を放とうとしているマギを見て

 

「…なるほど貴様の実力はそれほどか、マギ・スプリングフィールド。失望したよ。ならこのまま終わらせてやろう……トレース オン」

 

 最後に言った事が武器を具現化させる詠唱なのか、剣が具現化された。具現化された剣はまるで一角獣の角の様な剣だった。そして角のような剣をアーチャーはまるで矢のように形状を変化させ、剣の弓となってしまった。そしてその矢をマギに狙いを定める。

 

「I am the bone of my sword」

 

 アーチャーは弓を構えながら詠唱を始める。剣の矢にアーチャー自身の魔力が送り込まれる。そしてマギとアーチャーの恐らくだが強力な攻撃が同時に放たれる。

 

「闇の業火!!」

 

偽・螺旋剣(カラドボルグII)

 

 闇の業火と偽・螺旋剣がぶつかり合う。力が拮抗しあうと思われたが、アーチャーが放った偽・螺旋剣があっさりと闇の業火を消滅させてしまう。偽・螺旋剣は威力を弱める事も無く真っ直ぐマギに向かって来る。

 

「な…ん…だと…!」

 

 自分の魔法がこうも容易く負けると思わなかったマギは思わず呆然としてしまったが、迫ってくる偽・螺旋剣を仕込み杖で防ぐ。がギャリギャリギャリと仕込み杖から嫌な音が出てくる。

 

(く…くそッ抑えきれねぇ)

 

 偽・螺旋剣を防ぎきれずに遂に仕込み杖が弾き飛ばされ…マギの脇腹を偽・螺旋剣が貫通した。

 

「カフッ!!」

 

 脇腹に風穴が開いた衝撃で、マギは口から吐血をしてしまい、意識を一瞬だけ失ってしまい、黒き翼が強制的に解除されてしまい落下を開始する。

 マギはアーチャーの方を見てみると、バイザーで表情は分からなかったが、冷たい表情をしているのは何となく分かった。

 

 

 

 ゴシャァッ!

 

 

 

 マギは背中から地面に叩きつけられた。貫かれた脇腹からは、穴が空いた貯水タンクのように血が流れ続けていた。見ていた観光客は本当に劇なのか?あれは本当の血じゃないのか?警察と救急車を呼んだ方が良いんじゃないかとざわつき始めた。

 

「マギさん!」

 

「ちょ!ゆえ何かヤバそうだし、近づいたら不味いって!!」

 

「おい離せよ朝倉!どう見たってマギさんがヤバいのは目に見えてるって!」

 

「悪いけど長谷川、私はマギさんと約束してるからね。アンタらを危ない目にあわせないってね」

 

 夕映と千雨がマギの元に駆け付けようとしたが、ハルナと和美が2人を必死に羽交い絞めにしていた。その間にもアーチャーはゆっくりとマギに近づいて来る。手には弓ではなく、白と黒の短剣が握られていた。

 

「まだ息があるか。その無駄な生命力にはむしろ感心する。だがそれもあと少しの事だ」

 

 マギは逃げようとするが、血が足りなくて動けなかった。それに意識も朦朧としてきた。

 

(やべぇ、死んだな)

 

 マギは自分が死ぬと悟った。何も抵抗も出来ずに殺されるのは納得いかねえと悔しさで頭の中が一杯だ。アーチャーが短剣を振り下ろそうした

 

「マギから離れろ貴様!」

 

 エヴァンジェリンが叫びながら、アーチャーに突っ込んだ。腕にはレーザーの様な剣が出ていた。断罪の剣、エヴァンジェリンが接近戦の時に使用する魔法である。断罪の剣と短剣がぶつかり合う。

 

「これ以上マギに近づいてみろ。貴様を八つ裂きにした後に魂まで凍らせてやる」

 

「ふ…お初にお目見えになるか『闇の福音』しかし、たかがこの男のために感情を高ぶらせるとは、この男にそれほどの価値があると言うのか」

 

「黙れ!」

 

 エヴァンジェリンは断罪の剣で短剣を粉砕する。アーチャーが口笛を吹くと、懐から液体の入った瓶を取り出した。

 

「やるな。だったらこれならどうだ?」

 

 アーチャーは瓶をエヴァンジェリンに向かって投げた。エヴァンジェリンは断罪の剣で瓶を叩き割る。瓶の中に入っていた液体がエヴァンジェリンの顔にかかる。

 

「舐めるなよ。何の液体が入っていたか知らないが、この程度に私が参るとおもッ!?」

 

 不意にエヴァンジェリンは体に不快感を覚え、片膝をついてしまう。力が入らないというより魔力が失っていくような感じだった。

 

「き…貴様、さっきの瓶に何が入っていた…!?」

 

「ん?さっきの瓶の中には貴様の弱点であるニンニクやネギを煮詰めて液体にした物だ」

 

 それを聞いてエヴァンジェリンは驚愕で絶句してしまう。その弱点は知っている者はナギだけしか知らなかった。しかしこのアーチャーは自分の弱点を知っていた。この男は何者なんだと考えていると、エヴァンジェリンの腹にアーチャーの足がめり込んだ。

 

「ゴホッ!」

 

 魔力が無いエヴァンジェリンは、9歳の少女と変わらない。アーチャーに蹴飛ばされてエヴァンジェリンは強く地面に叩きつけられてしまった。

 

「え…エヴァ」

 

 マギは地面に叩きつけられたエヴァンジェリンに腕を伸ばそうとしたが、アーチャーに腕を踏みつけられてしまう。

 

「全く無駄な邪魔が入ったが、これで貴様を…ッチ!また邪魔か」

 

 アーチャーが振り向くと茶々丸がアーチャーに向かって踵落としを落とした。アーチャーは腕で踵落としを防ぐ。ミシミシとアーチャーの腕から骨が軋む音が聞こえた。

 

「マギ先生やマスターにこれ以上危害を加えるならこの私が許しません」

 

「やれやれだ…吸血鬼の次は機械仕掛けの人形か。この男には変わった者が集まるようだ。機械仕掛けなら…これだな」

 

 そう言いながらアーチャーは新たに武器を具現化した。しかし今度の武器は武器と言うより払子と呼ばれる道具だった。その払子を茶々丸の頭の上で振るった。

 

「何をしているのですか?そんな物で私を倒せると」

 

「まぁ直ぐに分かるさ」

 

 アーチャーの言っていることが茶々丸には理解できなかったが、急に雲行きが悪くなり、ゴロゴロと雷鳴が鳴り始めた。そして

 

 

 

 ピシャアァァァンッ!!

 

 

 

 茶々丸に1本の雷が落ちて、茶々丸に雷が直撃した。観光客は雷が落ちた事と茶々丸が雷に打たれたことに悲鳴を上げた。雷に打たれた茶々丸は所々黒くなっており、煙が上がっていた。

 

「が…が…ががが…」

 

 茶々丸はショートしたためか、上手く喋れない様子だった。そんな茶々丸の頭をアーチャーは鷲掴みすると

 

「機械を壊すなら強力な電気と相場が決まっている」

 

 茶々丸を投げ飛ばした。投げ飛ばされた茶々丸は建物に衝突し、建物が半壊してしまった。

 

「く…クソ…ネギの奴に偉そうな事を言っていたが…俺は…ここで何も守れないまま死ぬのか」

 

 マギは改めて自分の弱さを実感した。自分の力は見かけ倒しだったのか…そう思っているとそうだと言いながらアーチャーが再度近づく

 

「貴様は己の弱さを実感して絶望しながら…死ね」

 

 アーチャー短剣を振り下ろした。今度こそ自分は死ぬ、そう思ったマギだがその時、シネマ村を眩い光で包み込まれた。

 

「なッこれは…!クソッタイムアウトか!!」

 

 と初めてアーチャーが狼狽する姿を見せた。マギは何の光だと思っていると、自分の脇腹から痛みが引いていく感じがした。マギは自分の脇腹を見てみると風穴が塞がれているのを見た。

 

「傷口がない?如何いう事だ」

 

 行き成り傷が治った事に戸惑うマギ。アーチャーはクソッ!と舌打ちをする。

 

「だが、此処で貴様を殺せば傷が治っても関係ない!!」

 

 傷が治ったマギをまだ殺そうとするアーチャー。とシネマ村のそとからパトカーのサイレンが聞こえた。如何やら観光客が流石にヤバいと感じたのか警察に通報したのだろう。

 

「ッチ!運が良かったなマギ・スプリングフィールド。だが近いうちに貴様は私が殺す。せいぜい今生きていることに感謝するんだな」

 

 捨て台詞を残すとアーチャーの体が蜃気楼のように霞始め消えてしまった。とりあえずは助かった事に深く溜息を吐くマギ。と先程アーチャーに蹴り飛ばされたエヴァンジェリンがマギに近づく

 

「おいマギ、お前傷は大丈夫なのか?」

 

「傷は塞がったが血が足りねぇ。エヴァこそアイツに蹴られたのに大丈夫なのか?」

 

「私の事はいい。それよりも早くここを立ち去るぞ。流石にこれ以上此処に居たらまずい…茶々丸」

 

「ハイ、マスター此処に」

 

 エヴァンジェリンに名を呼ばれ、茶々丸が瞬時に現れた。

 

「おい茶々丸アイツに雷を落とされたのに平気そうだな?無茶してねぇか?」

 

「いえ、一時的に機能を停止しただけです。超さんとハカセさんに造られた私は伊達ではありません」

 

 とキリッとした顔で茶々丸は言う。ふざけた事してないで早くしろとエヴァンジェリンがツッコむ。

 

「ここを出るぞ。茶々丸頼む」

 

「了解ですマスター」

 

 茶々丸はエヴァンジェリンとマギを担ぎ上げた。

 

「すまねえ茶々丸」

 

「心配ご無用ですマギ先生。それよりもしっかり捕まってください」

 

 茶々丸はそう言い終えると、かなりの速さで走りだし、高い壁はジャンプで飛び越えた。確かにこれはしっかり捕まっておかないと振り落とされるな。そう思ったマギは茶々丸にしがみついた。

 こうして他の観光客が呆然としている間にマギとエヴァンジェリンに茶々丸はシネマ村を脱出できたのである。

 

 

 

 

 

 シネマ村を出たマギとエヴァンジェリンに茶々丸は元の服に(元の服は茶々丸がどさくさに紛れて持ってきた)着替え、とりあえず小休止をしていた。するとマギ達の元に刹那とこのかがやって来た。

 

「マギ先生大丈夫ですか!?」

 

「あぁ刹那か…悪いなコテンパンにやられちまったよ」

 

 マギは刹那に乾いた笑いで応えた。刹那の後ろにはオロオロした様子のこのかが居た。

 

「マギさんホンマに大丈夫なん?元気が無いようやけど」

 

 もし傷口が塞がっていなかったら誤魔化しきれなかったかもしれないが、マギは傷口が塞がった事に有りがたいと思った。マギはハハハと笑いながら

 

「あぁさっきの役者さんなんだけどな、どうやら役に力が入り過ぎるタイプだったんだ。ケリとか殴る所なんか半分マジだったぞアレは、ちなみにさっき飛んで見せたのも血が出たのもエヴァが蹴り飛ばされたのも雷が落ちたのも全部演出な。いやぁ迫真の演技だったぜ?俺将来役者に向いてるかもな」

 

 とマギの苦し紛れの誤魔化しだったが、このかは信じてくれたのかそうなんや~と何処かホッとした感じで溜息を吐いた。

 

「さっきの劇凄くリアルだったから吃驚したんだえー。せっちゃんも矢に撃たれてお城の屋根に落ちた時も吃驚したし」

 

 とこのかは疲れたのか、座り込んでしまった。そんなこのかを見て、マギと刹那はひそひそ声で話し合う。

 

「マギ先生シネマ村に入った事が裏目に出てしまいました。やはりこれは」

 

「あぁこのかを一刻も早く安全な場所に連れて行くしかねえな」

 

 決定し、座り込んだこのかを刹那が抱き起す。

 

「お嬢様、今からお嬢様の御実家へと参りましょう。神楽坂さんと合流します」

 

 このかの実家、すなわち関西呪術協会の本山である。はてさて本山に向かうマギ達、其処で待ち受けているのは鬼かはたまた蛇か…それはマギ達にも分からなかった。




次回からは原作6巻に入ります
修学旅行もいよいよ終盤です


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総本山 そこは天国はたまた地獄?

今回は早く更新できました
というのもインフルエンザで学校を休んだからなんですけどね
まぁそんな事は如何でもいいんで
それではどうぞ


 傷を癒していたネギとアスナはマギ達が此方に向かっていると聞いて、総本山入り口で待ち合わせをしていた。待つ事数十分、マギ達ははやって来たのだが、マギや刹那にこのかとエヴァンジェリンと茶々丸が一緒に居るのは分かる。

 しかしネギ達が驚いたのはマギがフラフラになりながら茶々丸に肩を貸され、何とか歩いている姿と、最近魔法に関わる事になった和美の他に、魔法に関係の無いハルナや夕映までもが一緒に此方に向かって来ているのであった。

 

「お兄ちゃん大丈夫なの?」

 

 ネギはマギに何があったのか尋ねてみると、マギは苦笑いを浮かべながら

 

「俺を付け狙っていた傭兵野郎にボコボコにされてな…いや参ったぜ」

 

 と傭兵、アーチャーに惨敗したのを教えた。ネギはマギが負けた事にオロオロしていたが、命に別状はないと分かるとホッとした。一方アスナは何故和美やハルナや夕映が此処に居るのかを問い詰めると、刹那が言うに自分の荷物に小型のGPSが入っていたために此処が分かったの事だ。

 

「ちょっと朝倉分かってるの?此処まで来たら最悪命が危ないのよ?」

 

 アスナは和美に早々に立ち去るように言ったが、和美は首を横に振りながら

 

「悪いけど、私は一応ネギ先生やマギさんの秘密を守るエージェント兼マネージャーだからね。何処へでも付いていくさね。それに、その2人が危ない目にあうかもしれないのに、一人だけのうのうとしてるつもりはないね」

 

 と言うのが和美の考えだそうだ。ハルナと夕映はと言うと

 

「面白そうだから付いてきた」

 

 というのがハルナで

 

「さっきのマギさんの劇が余りに不自然だったから、その正体を掴むためです」

 

 と夕映の考えだそしてついさっきに魔法について知ったのどかは

 

「マギさんが怪我をしてるなら私がちゃんと手当をしたいです!」

 

 とマギの事を思って付いてくるつもりだ。

 3-Aの大抵は、『面白い事には首を突っ込む。一度決めた事は絶対曲げない』と言うスタンスだ。こうまでなったら意地でも梃子でも動かない。アスナは深い溜息を吐きながら和美とのどかにハルナと夕映を連れて行くことにした。

 総本山の向かう途中の竹林は何も罠や結界も無く、小太郎の姿も無かったために安心して登る事が出来た。道中夕映とハルナがシネマ村の劇でアレはおかしいやらあんなのはCGでは無理だなどと論争を行っていた。そしてマギはと言うと

 

「あぁ血が足りない。怠いな」

 

 先程の戦いで貧血気味で、未だに茶々丸に肩を借りていたのだ。

 

「あッあのマギさん大丈夫ですか?もしよかったらお茶をどうぞ」

 

 のどかが買っておいたフタを開けてないペットボトルのお茶を渡した。マギはサンキューなと言いながらお茶を飲み始める。

 

「ほんとにのどかは気が利くな。ありがとな」

 

「いッいえ此方こそ、どういたしまして…」

 

 マギにお礼を言われ、喜ぶのどか。そんなのどかをエヴァンジェリンはムッとしながらマギとのどかの間に割って入り、マギに血のように赤い薬を渡した。

 

「おいマギ、これを飲め。貧血気味に良く効く薬だ。早く飲んで血を増やせ」

 

「お?おう悪いな。態々エヴァにまで心配させちまって」

 

「しっ心配などしておらん!腑抜けたマギをこれ以上見るのがうんざりなだけだ」

 

 そう言ってエヴァンジェリンはそっぽを向いてしまった。エヴァンジェリンの態度にマギは首を傾げる。

 のどかとエヴァンジェリンが目を合わせる。のどかは何を言っていいか分からずおどおどしていたが、エヴァンジェリンはフンと鼻を鳴らしながら

 

「お前には負けぬぞ小娘が」

 

 そう言ってエヴァンジェリンは前を向いてしまった。のどかは言っている意味が分からず一瞬だが立ち止まってしまうが、直ぐに歩き出す。

 大きな門が見え、前を歩いていたハルナがはしゃいでいる。あそこが総本山の入り口だ。ハルナはお先にと言いながら一人で先に突っ走る。そんなハルナをアスナが追いかける。まだ総本山が完全に安全ではないと思っているのだ。まだ罠があるかもしれないとアスナとネギがそう思い込んでおり、総本山は如何出てくるかと入り口に入ると

 

『お帰りなさいませ、このかお嬢様』

 

 何十人もの巫女がこのかを御出迎えしてきたのだった。巫女達はネギ達やこのかに和美やのどかとハルナと夕映を奥へとお連れした。アスナはポカンとしながら刹那にどういう事か聞くと。

 

「ここは関西呪術協会の本山でもあり、このかお嬢様の御実家なのです」

 

「そうなの!?アタシ知らない――「ちなみに俺は知ってたぞ。因みに一番偉いのはこのかの親父さんだってこともな」ってマギさん知ってたならどうして教えてくれなかったの!?」

 

 アスナはマギが如何して教えてくれなかったのか問い詰めると、マギはお前は馬鹿か?と呆れていた。

 

「もし教えていたら単純なお前は真っ先に此処に向かうだろうが。もしもう本山が敵の手に落ちていたらどうするんだ?自らこのかを差し出す羽目になるだろうが」

 

「マギさんの言う通りです。今御実家に向かうのは逆に危険だと思っていたのですが、シネマ村にてその考えが裏目に出てしまった様です。ですが本山に来ればもう安心です。敵も簡単には手を出してこないでしょう」

 

 刹那の言葉に安心に肩の力を抜くアスナ。そして改めてこのかの実家でもある本山を見渡した。するとこのかがアスナの元にやって来た。

 

「アスナどう?ウチのお家おっきくて引いた?」

 

「ううん別に。いいんちょで慣れちゃった」

 

 このかの問いにアスナは気にしてないと答えた。マギ達は巫女達に連れられ長が居る大広間まで連れられた。

 大広間にて、マギ達は広間の真ん中にて正座で(マギとエヴァンジェリンは痺れるのが嫌だからという事で胡坐である)長を待っていた。巫女の一人があと少ししたら長がやってくると伝えてくれた。のどかとハルナや夕映に和美はあんまり訪れない大きな屋敷に内心興奮気味である。このかが小さい頃に此処に住んでいたと皆に説明している。このかが軽い昔話をする事数分、マギ達の目の前の階段からその長が現れた。先程長がこのかの父だと知ったネギやアスナはどんな父親なのかと想像していると、階段を降り終えた長の姿が露わになった。

 

「お待たせしました、マギ先生ネギ先生。エヴァンジェリンにアスナ君。そしてこのかのお友達の皆さん、遠路遥々ご苦労様でした」

 

 ニコリとほほ笑んだ男性は少し痩せこけていて顔色が悪い感じだった。その男性にこのかはお父様!と喜んで胸に飛び込んでいた。彼こそは関西呪術協会の長でこのかの父である近衛詠春である。

 

「しッ渋くて…素敵…!」

 

 オヤジ好きのアスナの発言に、マギとエヴァンジェリンと茶々丸以外は盛大にずっこけた。

 

「ダチの親父さんに欲情すんなよまったく…」

 

 マギは呆れたようなツッコミを入れた。閑話休題

 ネギやマギが此処へ来たのはただ詠春に会うためではない。別の任務があるからだ。ネギは大事にしまっていた学園長の親書を詠春に渡した。詠春は親書の中身を確認し、長い文と一緒に

 

『下を抑えられん様じゃまだまだじゃな婿殿。しっかりせい!』

 

 学園長のイラスト一緒に詠春への叱りの言葉が載ってあった。それを見て詠春は苦笑いを浮かべる。

 

「分かりました。東西の仲違いには私達も尽力を持って解消すると伝えてください。任務御苦労でしたネギ・スプリングフィールド君」

 

 詠春の言った事でネギは無事に任務を完了できることになった。ネギの周りにハルナや和美などがネギに労いの言葉を送った。

 

「漸く終わったか、漸く肩の荷が下りたぜ」

 

 マギはゴキゴキと肩や首を鳴らしながらそう呟く。エヴァンジェリンは良く言うとマギに呆れながら

 

「よく言うお前は坊やに親書を押し付けていたじゃないか」

 

「しゃあねぇだろ、俺なんかが持ったらボロボロになって渡せるものじゃなくなるって絶対」

 

 とマギとエヴァンジェリンが話しているのを詠春がジッと見ていた。まるで懐かしい人を見ているようなそんな目だった。

 

「如何したんスか詠春さん、俺の顔に何か付いてるんスか?」

 

 マギは詠春にそう訪ねると、詠春はいや申し訳ないとマギにそう言いながら

 

「君が彼にそっくりだったからね、思わず懐かしんでしまったんだよ」

 

 詠春の言う彼と言うのは

 

「俺とクソ親父が似ているって事ですか?」

 

 マギはナギに似ていると言われ、少し不機嫌そうに返した。詠春はナギの事をクソ親父とそう呼んだことに思わず面食らいながらも

 

「あぁ彼と私はある意味腐れ縁だからね、所で如何して私と彼が知り合いだと知っているんだい?」

 

 詠春はマギにそう問い返すと、マギはエヴァンジェリンを親指で指し

 

「エヴァに聞いたんスよ。詠春さんとクソ親父が知り合いだって事をね」

 

「成程。雰囲気も彼に似ているねマギ君は」

 

 さっきから似ていると言われて気に障ったのか西の長でもある詠春にそっぽを向いてしまった。エヴァンジェリンはそんなマギを呆れたように見ており、詠春も乾いた笑い声を上げた。

 

(やれやれ…自分の息子なのに酷い言われ様だなナギ…)

 

 詠春はいま此処に居ない、自分の悪友でもあったナギの事を少しだけ哀れんだのだった

 

 

 

 親書を渡したネギ達一行、今から山を降りたらかなり遅くなるとのこと。そこで詠春はマギ達に歓迎の宴会を開こうとそう提案する。騒ぐことが大好きな3-Aのであるハルナや和美は大賛成。しかし自分達が居なければ他の生徒や先生が心配すると思ったネギやアスナ。すると長はホテルには身代わりを向かわせるとのことで、今日は此処に泊まってもいいとのこと。お言葉に甘えて泊まる事にした。

 すぐさま歓迎の宴が開催される。高級料亭でしか食べられそうにない豪華な食事。綺麗な巫女による舞いなど普通の生活を送ってきた学生のハルナや夕映にのどかなどはどんちゃん騒ぎで大きく盛り上がる。

 エヴァンジェリンはこう言った宴が苦手なのか、独りでにちびちびと酒を飲んでおり、マギもマギで巫女の舞などに興味が無く、目の前にある料理を一品一品ゆっくりと味わって食べていた。ネギは初めての豪華な日本料理や舞いなどで目移りしていた。刹那の元に詠春がやって来た

 

「刹那君」

 

「!こっこれは長!態々わたくし目に声をかけるなど、本来ならわたくし目が長の元へ…」

 

「はは、そう畏まらないでください。この二年、このかの護衛をありがとう。私の個人的な頼みを良くここまで応えてくれましたね。苦労をかけました」

 

「もっ勿体ないお言葉!それにわたくし自らこのかお嬢様の護衛を志願したまで」

 

 刹那の言葉に君は相変わらず固いですね。と詠春は笑う。と次にネギとマギを見た。

 

「如何ですかネギ先生にマギ先生?宴の方は楽しんでますか?」

 

「はっはい!僕達のために態々宴を開いてくれてあッありがとうございます」

 

「こんな美味くて珍しい料理なんて初めてっスから、有りがたく頂いているっスよ」

 

 ネギは長に話し掛けられて緊張しながら何とか答えて、マギはちゃんと食べた物は飲み込んでから答えた。2人も宴を楽しんでいるようで詠春も満足げだ。ところでと詠春は話を変えた。

 

「話を聞きましたが、このかが初めて力を使ったそうですね?」

 

 それを聞かれ、刹那は申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「申し訳ありません。わたくしの力が足りなかったせいでお嬢様を危険な目にあわせてしまう所でした」

 

「そこまで気に病む必要はありません。このかや刹那君が無事だったらそれでいいのです。それで何が起こったのです?」

 

 詠春はこのかに何があったのか経緯を尋ねた。

 

「このかお嬢様が力をお使いになってわたくしの傷を完全に治癒してくれました」

 

 マギはそれを聞いて、シネマ村にてアーチャーに風穴をあけられた脇腹が謎の光を浴びて元に戻ったのだが、あれはこのかの力だったという事が分かった。つまり自分はこのかのおかげで助かったと言う訳だ。

 

「というか何でこのかが力を使えるようになったんスか詠春さん?」

 

 何故行き成りあれほどの力を使えたのか謎なマギ。それはおそらくと詠春と刹那がネギの方を見た。ネギは自分が詠春と刹那に見られて戸惑うと

 

「ネギ君、君との仮契約がこのかの力の発言のきっかけかな?」

 

「ええッ!何でそれを!?」

 

 自分とこのかとアスナ(あとカモが)しか知らない事を何故詠春が知っているのか、狼狽するネギ。そして狼狽するネギの肩をゆっくりとマギが掴んで離さない

 

「なぁネギ、俺そんな話聞いた事が無いんだが、どうしてだ?ん?何時の時だ?」

 

「あのお兄ちゃんとエヴァンジェリンさんが一緒に修学旅行の準備をしている時に僕とアスナさんとこのかさんで服とかを買いものした時に」

 

 何でも修学旅行の準備期間の時にこのかが偶然にアスナのパクティオーのカードを見てしまい、ネギとアスナは必死に誤魔化そうとして最終的にアスナがネギとキスしたらカードが出来ると墓穴を掘り、それを聞いたこのかがネギと仮契約をしようとしたが失敗。カードは出て来たのだがへちゃむくれなスカカードが出て来たそうだ。

 

(だからこのかの奴、時々パクティオーカードを羨ましそうに眺めてたのか)

 

 このかが時々カードをそんな目で見ていた理由が分かった。そしてこのかが仮契約をしそうになった原因も。マギがチラッと見るとカモがそそくさと宴会場を抜け出そうとしているのが見えて、マギはすかさずカモをふん捕まえた。

 

「お前なぁ、このかだけには絶対に魔法はばらしちゃいけねぇって。あれほどジーさんが忠告してたのに何平気でバレル事をやろうとしてるんだテメェは…」

 

「スッスイマセン大兄貴!その件に関してはつい出来心で!!」

 

 マギがカモを床にグリグリと押し付けていた。傍から見れば動物虐待のように見えるが、今回はカモに非がある為にネギは弁解できなかった。もし弁解したらネギにも制裁が来そうだったからだ。

 

「スイマセン詠春さん。ネギとこの馬鹿カモが余計な事をしてしまって」

 

「ごめんなさい長さん」

 

 マギとネギが詠春に頭を下げて謝った。詠春はハハいいですよ、と気にしていない様子だった。

 

「このかには普通の女の子の生活をしてもらいたいと思っていましたが、いずれにせよこうなる日が来たのかもしれません。刹那君このかには君の口から伝えてくれませんか?」

 

「はい、長の御命令と在れば」

 

 刹那は詠春に頼まれ、静かに頭を下げた。マギ達の空気が少ししみったれた空気になりそうだったがマギの背中に何かが伸し掛かってきた。

 

「えへへへ~マギさ~ん」

 

「のっのどか?」

 

「ネギくんにせっちゃ~んもっとくっついて~な~」

 

「このかさん!?」

 

「おおおおお嬢様!?如何なさったのですか!?」

 

 ネギと刹那の方でもこのかが一緒にくっつこうとしていた。のどかとこのかどちらも変に上機嫌だった。

 

「ネギにマギさん!何かこのかと本屋ちゃん変なジュース飲んじゃってそしたらおかしくなっちゃたのよ!」

 

 変なジュース?何となく嫌な予感と何故のどかとこのかがこんな調子になったのか察したマギ、そしたらこのかがマギにそのジュースなる飲み物を勧めてきた。

 

「変な味だけどおいしいえ~マギさんもどうぞ~」

 

 このかに勧められて、マギはコップを受け取る。まず匂いを嗅いでみるそして一口

 

「…やっぱ酒だコレ」

 

「お酒!?」

 

 のどかとこのかが可笑しいのは酒に酔っていたからだ。

 

「如何やら間違ってお酒を出してしまった様ですね…」

 

「…やれやれだぜ」

 

 見ればアスナと酒を飲みなれているエヴァンジェリン以外の和美にハルナに夕映も酒を飲んでおり、しかも最悪な事に悪酔い状態だった。

 

「マギさ~んえへへえへへへ」

 

「マギさん!先程のシネマ村の劇で私達に何か秘密にしてる事があるですね!?」

 

「おいのどかそんなにくっ付くな!それと夕映、お前は少し落ち着け!お前は酔うと絡み上戸なのか!?」

 

 のどかが押し倒してきて、夕映は詰め寄ってくる。その光景をハルナがいけいけのどかもっと押し倒せ!と野次を飛ばす。一方のこのかの方も

 

「あはは~せっちゃんからええ匂いがするえ~」

 

「おおおお嬢様!?」

 

 さっきよりもぎゅうっと抱きしめられ、かなり狼狽する刹那。

 

「全くマギの奴!あんな小娘じゃなくて私に構え馬鹿者が!」

 

「あ…あのマスターそんなにお酒を飲んだら体に悪いですよ」

 

「これが飲んだうちに入るかボケロボ!」

 

 と言っているエヴァンジェリンの周りには酒瓶がゴロゴロと転がっていた。エヴァンジェリンもマギに構ってもらいたくてやけ酒をしていた。

 

「何かもう…やれやれだぜ」

 

 マギの言う通り、やれやれ状況の混沌とした宴会へと早変わりしたのであった。

 

 

 

 宴会も一応問題なく終えることになり、マギとネギは一緒に風呂に入る事になったすると

 

「おや、マギ先生にネギ先生」

 

 詠春もお風呂に居たのだった。

 

「如何ですか一緒にお風呂でも」

 

 詠春に誘われ、断る理由も無く裸の付き合いをすることになった。服を脱ぎ始めると詠春にはかなりの古傷があった。

 

「凄い古傷っスね詠春さん、一体何をしたんスか?」

 

「はは、この傷は若い頃の時でね。若い時にはかなり無謀な事をしていたものです」

 

 古傷の事はそう答える詠春

 

「それにしてもお二人とも若いのに先生とは凄いものですね、このかの事はよろしくお願いしますね」

 

「はい、任せてください」

 

「一応俺達新人だけど、何とか頑張ってみるッスよ」

 

 そう和気藹々としゃべりながらマギ達は風呂に浸かった。ふぅぅと自然に声が出てしまう。すると詠春が申し訳なさそうな表情となる。

 

「この度は私の者が皆様にご迷惑をかけてしまいました」

 

「いッいえ、魔法に関係の無い生徒には何も問題は無かったので大丈夫かと」

 

 ネギの言った事に詠春は再度申し訳ありませんでした。と頭を下げた。

 

「昔から西洋魔術師を快く思わない人は少なくは無いんです。ですが今回行動に移った人間が少数で助かりました。明日には関西の選りすぐりの部下が戻ってきます。直ぐに奴らをひっ捕らえますよ」

 

 詠春がそう言うならこれで大丈夫だろう。ネギは安心するがマギは聞きたい事があった。

 

「なあ詠春さん、あの着ぐるみメガネ女は何で西洋魔術師を恨んでいるんスか?それにこのかを手に入れようとする理由は何なんスか?」

 

「着ぐるみ…天ヶ崎千草の事ですか、彼女には西洋魔術師を恨んでいまして、いや彼女の生い立ちを知ってる私としては一方的に彼女を断罪すればいいとは思えないのです」

 

「成程。でこのかを狙った理由は何なんスか?」

 

 理由…それを呟いて詠春は天井を見上げた。

 

「このかを狙う理由は、このか自身強力な魔力を持っているのです。その魔力の量は下手をしたら私や、君たちの父親でもあるサウザントマスターを凌ぐほどに」

 

「ええッ!このかさんがですか?」

 

「クソ親父を下手したら凌ぐほどの魔力ってどんだけだよ」

 

 このかの秘密を知ってマギは驚きを隠せなかった。

 

「このかの力を手に入れれば西を乗っ取り、東の魔術師を打倒せると考えたのでしょう。しかし彼女にはそんな事をしてほしくない。争いでは生まれるのは延々と続く怒りや悲しみだけです」

 

「だから詠春さんはこのかを危険な事に合わせないために、麻帆良に行かせたと言う訳ッスか」

 

 危険が無い麻帆良ですごす方が良いと言うのが詠春の考えなのだろう。賢明な判断だ。

 

「しかし、それも時間の問題です。このかにもいずれ魔法を知る事になってしまう。ネギ先生マギ先生、もしこのかが魔法に関わる事になったらその時はよろしくお願いします」

 

「大丈夫だぜ詠春さんこのかは俺達の大事な生徒だ。命に代えて守るッスよ」

 

「頑張ります」

 

 マギとネギはこのかを守ると約束した。詠春はよろしくお願いしますと微笑みながら言った。

 

「やはり彼とは性格が反対だが根は一緒という事ですね」

 

 彼と言うのはおそらくしなくてもナギの事だろう。ネギはもっと詳しく詠春から話を聞こうとしたが脱衣所が急に騒がしくなった。声からしてこのか達だ。案内を間違えたようだ。詠春は裏口から脱出しようと裏口向かって駆け出した。

 

「あぁ、何かこの後のオチが見えてきた」

 

 マギは今迄の経験でこう言ったお風呂でのトラブルでの落ちは大体読むことが出来た。ネギはお風呂の段差で転んでしまい、お風呂に置いてあった岩に突っ込んでしまった。

 

「うわぁッ!」

 

「キャッ!?」

 

 ネギと何故かアスナの悲鳴が聞こえて、岩の後ろにアスナと刹那が一緒に居て、ネギはアスナの胸を掴むと言う大胆な事をしてしまった。ネギとアスナが思考を停止している間にこのか達がお風呂の中に入ってきてしまった。そしてねぎとアスナの光景を目にしてしまう。

 

「…もう勘弁してくれよ」

 

 マギの呟きはアスナ達の悲鳴でかき消されてしまった。大浴場は先程の宴会以上の大騒ぎとなってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 総本山が見渡せるほど大きな木の枝に千草と、無表情な銀髪の少年それとバイザーを付けていて表情が掴めないアーチャーが居た。千草は苛立ち気に腕を組んでおり、気が立っていた。

 

「見ろ新入り!お前が追わんでええと放っておいたせいで易々と本山に入られてしもうた挙句に、親書も渡ってしもうた!この責任どう落とし前つけるんやえ!?」

 

 千草は興奮のあまり唾を飛び散らすほどだ。しかし銀髪の少年は表情一つ崩すことなく

 

「大丈夫ですよ。僕に任せといてください」

 

 それだけ言うと、枝から飛び降りてしまった。少年のあっさりしすぎた態度に呆気にとられてしまった千草だが今度は傭兵の方を見た。

 

「傭兵、アンタもそうや。アンタの力だったらマギ・スプリングフィールドを楽に仕留められたはず。なのに何でシネマ村で仕留めなかったんや」

 

「申し訳ない千草嬢。あの時のこのか嬢の力の発動に戸惑ってしまった。しかし今此処でマギ・スプリングフィールドを必ず仕留めてみせよう」

 

 今此処にマギ達が知らないうちにまたもや千草たちが動こうとしていた。

 

 

 

 

 

「ふぃ~」

 

 マギはタバコを吸って良さそうな場所を探して、良さそうな場所を見つけたので携帯灰皿を持って何時ものようにタバコを口に咥えて火を付けて紫煙を吸って口から吐き出した。

 

「おやマギ先生」

 

 と詠春がマギに近づいてきた。マギは如何したんスか?と尋ねると君と一緒ですよと詠春の手にはタバコの箱が握られた。如何やら目的は一緒の様だ。

 

「このかには止められているんですけどね、やはりこう言った長を務めていると心身ともに疲れてしまうものですよ」

 

 そう言って詠春もタバコを吸い始める。マギは他の人とタバコを吸うのが初めてだったなと思った。

 

「お互い苦労していますね」

 

「詠春さん程じゃないッスよ俺は、それに面倒な事になればネギとかに押し付けちまえばいいんで」

 

「それじゃあネギ先生が可哀そうじゃないかい?」

 

「冗談っスよ」

 

 ハハハとマギと詠春は笑いあう。しかし詠春は直ぐに沈んだ顔になる。如何したんスかとマギは詠春に尋ねる。

 

「いや先程はああは言いましたが、このかに危険な目にあわせると言うのは父親としてはやはり納得が出来なくて。このかに危険な目にあわせたくなかったから麻帆良に行かせたのに、なのに此処に戻ってきてた時にこのかが狙われ危険な目にあおうとした。私は父親としてこのかを守れなかったことに自分自身に怒りを覚えています!」

 

 詠春は感情を露わにして思わず、タバコを握り潰してしまった。そしてハッとする。今此処には自分だけではなくマギも居るという事を忘れていた。

 

「すみませんマギ先生。みっともない姿を見せてしまって」

 

「大丈夫っスよ。ただ…そうやって親に心配されるこのかを羨ましいと思ってしまいました」

 

「マギ先生」

 

 マギは黙ってタバコを吸い続ける。

 

「俺やネギは、今は何処に居るか分からないクソ親父のせいで自分の事は自分で決めるって生き方をしてきました。自分のレールは自分で敷いて自分で進んでいました。だけどこのかには詠春さんが敷いていたレールがあります。だけどこのかはいつかは親のレールを無視して自分のレールを敷くかもしれない。それが自分にとって吉と出るか凶と出るか分からない。生意気言うかもしれませんが、もしこのかが自分で決めた道なら敢えて見守るって言うのも一つの親がしてやれる事じゃないんスか」

 

 マギの言った事を詠春は考える。マギは今迄生きていた中で親の力を使えなく、自分で考え行動してきていた。それに後悔もあったかもしれない。でもマギは自分のレールを曲げることなく突き進んだのだ。

 ならもしこのかが自分の決めた道を進もうとしたのなら自分は止めずに見守り、支えてあげればいいのだ。例えそれが険しい道だとしても

 

「強いのですね、マギ先生」

 

「強くないッスよ、強がってるだけッス。今でもこの先不安だらけですよ」

 

 また笑いあうマギと詠春。そして又懐かしむような表情となる。

 

「マギ先生、君と話しているとナギの事をつい懐かしく感じてしまう。まるで君はナギと瓜二つだ」

 

「俺とクソ親父が瓜二つって、詠春さんから見てクソ親父ってどんな感じだったんスか?…詠春さん?」

 

 マギが詠春を見てみると詠春は辺りを忙しなく見ていた。如何したんすかと改めて尋ねる。

 

「妙です、静かすぎる…まだ消灯の時間としては早すぎます」

 

 マギも自分の時計で確認する。現在の時刻は午後の8時半を過ぎた頃だ。確かにまだ寝るにしては早すぎる。

 

「こういう事は偶にあるって事は?」

 

「ありません。いや…まさかこれは…」

 

 此れは余りにも穏やかな状況ではないという事だ。マギもタバコを直ぐに消して、辺りを警戒する。もう一度言うが不気味な程静かすぎるのだ

 

 

 

 

「流石は歴戦の戦士でもある近衛詠春、しかし気づくのが一足遅かったようだね」

 

 マギと詠春の後ろの方から聞いた事も無い声が聞こえ、バッと後ろを振り返った。其処には先程千草と一緒に居た銀髪の無表情の少年だった。

 

「ネギと同じくらいの子供…?」

 

 マギは何故こんな所にネギと同じ位の子供が居るのか分からなかったが油断はしなかった。子供から途轍もない魔力を感じるからだ。詠春は詠春で目の前の子どもを信じられないと言った様子で目を見開かせ、顔には汗が滲んでいた。

 

「きっ貴様は!まさか…!」

 

「詠春さん、奴の事を知ってるんスか?」

 

 マギの質問に詠春は答える様子は無かった。と銀髪の少年は勝手に話し始めた。

 

「君達は静かすぎると感じたかもしれないけど、此処に居た殆どの人は無力化させてもらったから。あぁ心配しなくてもいい別に命までは取ってはいない。ただ動けなくしただけだ」

 

 この静かすぎる状況はこの少年がやったの事、ネギと同じくらいの少年がそんな事を出来た事に信じられないマギ、そして…と銀髪の少年は詠春の方を見て

 

「近衛詠春、君も前戦からは引いた身ではあるが厄介なのは変わりない。だからここで大人しくしてもらおう…ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト 小さき王 八つ足の蜘蛛 邪眼の主よ」

 

「呪文の始動キー!?コイツ西洋魔術師だったのか!」

 

「!いけませんこの魔法は…マギ君すまない!!」

 

 詠春はマギに謝ると容赦のない蹴りで蹴り飛ばし、マギは床に叩きつけれた。

 

「ガッ!詠春さん何を!?」

 

 マギは行き成り蹴り飛ばされた意味が分からなかった。しかしその時

 

「時を奪う 毒の吐息を 石の息吹!」

 

 銀髪の少年の詠唱が終わり、詠春を白い煙が包み込んだ。白い煙が数秒で晴れると其処には銀髪の少年の姿は何処にも居なかった。

 

「詠春さんさっきの子供は何処にっ詠春さんそれは!」

 

 マギは詠春を見て固まってしまった。詠春の足が徐々に石のように否石になっていった。

 

「詠春さん足が!」

 

「レジストをしたのですが、間に合わなかったようですック!」

 

 詠春は脂汗を滲ませ悔しそうに歯を食いしばった。

 

「長!」

 

「長さん!」

 

 刹那とネギが走ってきた。ネギと刹那は一応無事だったようだ。

 

「!長、その足は一体!?」

 

「何があったのお兄ちゃん!?」

 

 刹那とネギはいったい何があったのか状況を知ろうとマギに状況を尋ねた。

 

「ネギ位の銀髪の少年が行き成り現れて、それで魔法を使って詠春さんがこうなっちまったんだよ」

 

「マギ君の言う通りです、平和な時間で腑抜けてしまった私が不甲斐ないばかりに、敵は本山の結界を易々と突破したようです。恐らくは本山の者達は全滅、私もあと少しで動けなくなってしまうでしょう」

 

 詠春の体はもう胸までが石へと変わっていた。

 

「マギ君ネギ君そして刹那君、君達に頼むのは私が不甲斐ないせい、ですがこのかをたのみ…ま…す」

 

 それを言い終えると、詠春は完全に石になってしまった。長である詠春がやられてしまった事で、この本山で動けるのが自分達だけある。そしてこのかが危ないという事も…

 安全だと思っていた本山が戦場に変わった瞬間であった。

 

 




今日は特に書く事も無いんで
次回もお楽しみという事でそれでは


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奪われた希望 訪れる恐怖

 詠春が石化され途方に暮れるネギと刹那、しかしマギは詠春を一度見た後拳を握りしめた。

 

「ネギ刹那、早く動くぞ。こんな所でうだうだしてたらこのかが危ないぜ」

 

 マギの言い方はきつく聞こえるが、今は行動に移さないと若しかしたらこのかに危険が迫っているかもしれない。それに詠春や他に石になったかもしれない本山の人達を助ける方法はあるはずだ。マギ達が頷きあうと

 

「全く……静かだと思ったら騒々しいな」

 

 ダルそうなエヴァンジェリンと何時もの調子の茶々丸が此方に歩いてきた。

 

「エヴァに茶々丸」

 

「無事だったんですね!」

 

「無事とはどういう事だ?私は別に」

 

 エヴァンジェリンは石になってしまった詠春を見た。

 

「何があったんだ?」

 

「ざっくりとした説明で言うと、俺達が知らない間に敵が入り込んで俺たち以外は全滅だ」

 

「そうか……詠春め、平和すぎてボケた様だな」

 

 エヴァンジェリンはもう一度石になった詠春を見てそう悪態をついた。

 

「エヴァ単刀直入に言う、俺達に協力して敵を撃退してくれ」

 

「私がか?私が手伝って何か得する事も無いからな、ハッキリ言って面倒な事はしたくない」

 

 エヴァンジェリンは協力的ではなかった。面倒な奴だなホントに…とマギは頭を掻きながら

 

「なら交換条件だ。協力してくれるなら明日お前と一緒に京都を回ってやる」

 

 マギが交換条件を言うと、エヴァンジェリンはピクンと反応する。

 

「本当か?」

 

「本当だ。エヴァは元々この件には関わらないって言ってたのに巻き込んじまったからな、そのお詫びだ」

 

 マギの交換条件にエヴァンジェリンは数秒だけ考えると

 

「その約束絶対に守れよ。もし動けないと言っても引き摺ってでも連れて行くからな」

 

「ああ約束だ」

 

「だったら協力してやろう」

 

 やけにアッサリとエヴァンジェリンは協力してくれる事になった。エヴァンジェリンが協力してくれる事で強力な戦力になる。

 

「それで大兄貴、これから如何するんで?」

 

 ネギの肩に居たカモが(居たのかと言いそうになったがあえて黙るマギ)これからどうするのかと尋ねる

 敵が侵入してるのなら、闇雲に動くのは得策ではない。もっと慎重に動くべきだ

 

「取りあえず、アスナと連絡をとってみろ。アスナが無事かどうか分からねえと話にならないからな」

 

「了解お兄ちゃん…もしもし、アスナさんアスナさん。無事だったら返事をしてください」

 

 ネギがパクティオーカードでアスナに連絡を取ってみる。数秒経った後にアスナから返事が戻ってきた。どうやらこのかも一緒で一応無事の様だ。

 

「よかった無事だったんですね。余り時間が無いので簡潔に言います。敵が侵入しました。さらに最悪な事に長さんもやられてしまい、今やこの本山は安全な場所ではなくなってしまいました。アスナさんはこのかさんを守ってください。後で合流しましょう。場所はさっきの大きなお風呂で」

 

 ネギはアスナとの通信を終えた。このかが無事だと聞いてホッと一安心する刹那。がまだ敵は本山に居るのだ。気を抜いてはいけない。

 

「戦力を分担するぞ。ネギと刹那に茶々丸はアスナ達の所へ、俺とエヴァがのどか達の所に行って無事かどうか確かめてくる」

 

 マギはなぜ茶々丸をネギの方に付かせたのかは、ネギと刹那と茶々丸の中で魔力が一番高いのはネギではあるが、近接戦闘では一番下である。もし敵が近接戦闘も出来る敵であるならば、刹那だけでは不安があるだから茶々丸を付かせたのだ。

 

「そういう事だ。茶々丸頼むぞ」

 

「了解しましたマスター。マスターもお気よ付けて」

 

 ネギに刹那、茶々丸はアスナとこのかの元へと急いだ。マギとエヴァンジェリンはのどか達の元へ、のどか達が無事かどうか確かめるためにのどか達が休んでいる部屋へと急いだ。

 

「おいマギ、余り言いたくはないが…これだけ静かなんだ、何時も大騒ぎをするアイツラだ。変に静かすぎたら逆に大騒ぎしているはずだ」

 

「……」

 

 エヴァンジェリンが言った事にマギは無言で返した。そうだ、何時もは騒がしい和美やハルナだったら静かすぎる本山を不思議がって逆に大騒ぎになる。それかマギ達の元に来るかもしれない。もしかしたら……いや大丈夫だとマギは首を横に振る。

 

「まだアイツ等に何かあったとは決まったわけじゃない。今はアイツ等が無事だと信じよう」

 

 話をしている間にマギとエヴァンジェリンはのどか達が休んでいる部屋へと到着した。

 

「のどか俺だ、マギだ。入ってもいいか?」

 

 マギが言っても返事が無かった。最悪のパターンを想像してしまい、マギはゆっくりと襖を開けた。そこには

 

「これは…」

 

「クソッタレ」

 

 詠春と同じように石化して石になってしまったのどかにハルナそして和美だった。遅かったのだ。マギは石になってしまったのどかの頭を触って俯いてしまったが、今は悲しんでいる暇は無い。辺りを見渡すがのどかにハルナ和美が石になってしまったのだが、夕映の姿が何処にもない。

 

「夕映の奴何処にも居ない、上手く逃げられたのか?」

 

「自分だけ上手く逃げられたとは……何とも運がいい小娘だな」

 

 取りあえずは、夕映は今の所無事かもしれないという事が分かった。しかし最近になって魔法を知ったのどかと和美そして魔法に一切関係の無かったハルナを石にさせてしまったのは、本山だったら大丈夫だと勝手に決めつけた甘い自分だと自分自身に怒りを覚えたマギ。

 

「全く貴様に関わったせいで悲惨な目にあうとは、この娘たちも哀れなものだな」

 

 マギとエヴァンジェリンの後ろから聞きたくもない声が聞こえ、振り返ってみると部屋の壁に背中を寄りかからせているアーチャーの姿があった。

 

「アーチャーっテメェ!」

 

 マギは持ってきていた仕込み杖でアーチャーを斬りつけようとしたが、まぁ待てと手で制止られる。

 

「いいのかこんな所で暴れて?貴様の大切な生徒が砕けてもしたら如何するんだ?」 

 

 アーチャーのバカにするような言い方にマギは動きを止める。そうだ、こんな狭くてましてや石になってしまっているのどか達が居る所で戦って、最悪の場合のどか達が砕けたりしたら助からないかもしれない。

 

「クソ……」

 

 マギは仕込み杖の構えを弱めるが、警戒は解かずにアーチャーを睨み付ける。

 

「テメェらの目的はなんだ。あと何で俺を狙う」

 

 マギは改めてアーチャーに目的を聞いた。しかしアーチャーは済ました態度で肩を竦めながら

 

「目的はただ一つ、私の一応の雇い主の千草嬢は西洋魔術師への復讐だ。貴様を狙うのは自分の胸に問いかけてみろとそう言ったはずだ。ほんの数時間前の事なのに忘れるとは…貴様の頭の中は随分とおめでたく出来ているようだな」

 

 相も変わらずマギに対する見下した態度に、マギは飛び掛かろうとしたが堪えた。

 

「アーチャーとやら、貴様が使っている武器を具現化する魔法は何処で習得した?」

 

 こんどはエヴァンジェリンがアーチャーが使っている魔法に付いて尋ねると、アーチャーはエヴァンジェリンに対して深々とお辞儀をした。

 

「これはこれは、『闇の福音』と悪名高いエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。シネマ村の時に貴女を蹴り飛ばしたのは申し訳ない。しかし残念だが私の魔法を易々と教えるつもりは毛頭も無い」

 

 自分の魔法を教えるつもりが無いアーチャー。とその時空に白い光が打ち上げられた。マギとエヴァンジェリンは打ち上げられた白い光は何なのかと何かの合図なのか、するとアーチャーがフムと頷きながら

 

「如何やら仲間がこのか嬢を手に入れた様だな」

 

「このかを!?」

 

 このかが敵の手に落ちたという事は、ネギ達がやられてしまったという事だ。まさかのどかや詠春のように石になってしまったのか…

 マギがそんなことを考えているとアーチャーが蜃気楼のように揺らぎ始めた。逃げるつもりだ。

 

「アーチャー!逃げる気か!?」

 

「あぁ逃げるさ。このか嬢が手に入った今、貴様の相手をする意味など無いのだからな」

 

 そしてアーチャーの姿が完全に消えるが、あぁそれと…と何処からかアーチャーの声が聞こえた。

 

「このか嬢の事だか、忌々しい事だが、貴様の脇腹を瞬時に治癒したんだ。もしかしたら石になってしまった貴様の生徒達も元に戻るかもな」

 

 それだけ言うと、アーチャーの声はもう聞こえなくなった。アーチャーが居なくなるだけで部屋はシンと静まりかえって、逆に不気味さをました。

 マギは黙りを決め込んでいたが、拳を力強く握りしめ拳から血が出そうな程だった。

 

「行くぞ、こんな所で油を売ってる暇はねぇ。さっさとネギ達の所に戻るぞ」

 

「あぁ…」

 

 マギとエヴァンジェリンはのどか達の部屋を後にする。

 

「しかしアーチャーと言う奴、何故近衛木乃香の力の情報を私達に教えたんだ?」

 

「さぁな。目的のこのかを手に入れて調子に乗ってるんじゃねえのか?勝った気でいるアイツの出鼻をくじくためにさっさとこのかを助け出そうぜ」

 

 そんな事を話してる間にマギとエヴァンジェリンはネギたちが居るであろう大浴場に到着した。

 大浴場の扉を開けてなかに入り様子を伺うと、なかに居たのは一応無傷のネギに怪我をしている刹那、右腕を押さえている茶々丸。そしてタオルをくるんだ素っ裸のアスナだ。

 このかの姿が見えないと言うことは、アーチャーの言う通りこのかが敵の手に渡ったということだろう。

 

「一応聞くが何があった?」

 

 マギの問いに刹那が重々しい口調で話す。

 

「私達が此処に来たときにはもうお嬢様の姿がなく、裸でぐったりしていたアスナさんだけでした。私やネギ先生が何があったのか尋ねようとしたのですが、気配を消した銀髪の少年に不意を突かれ私は成す術も無くやれてしまい」

 

「私も敵の攻撃を防いだのですが、余りにも威力が強すぎて右腕で防いだのですが、そのせいで右腕を損傷しました。恐らくですが通常の4割程度の力しか出せません」

 

「そうか、これが終わったらハカセと超に直してもらえ」

 

 刹那と茶々丸は戦力が半減したと考えた方が良い。マギはまだあの銀髪の少年が近くにいるのではと思い、辺りを見渡すがカモが

 

「大兄貴、あの銀髪のガキなんですが水を利用したゲート系のテレポート魔法で逃げちまいまして、兄貴と同じくらいの歳でテレポートなんて高等魔術を使えるなんてただもんじゃないですぜ」

 

「やれやれだ。あのアーチャーなんてクソ傭兵の他にネギ位のクソガキとは骨が折れそうだ」

 

 マギがこれからが大変だと呟いていながらネギの方を見た。ネギは黙って項垂れて杖を握りしめていた。刹那や茶々丸そしてアスナがやられてしまったのに自分は何も出来なくてそれで落ち込んでいるのだろう。

 マギはそんなネギを見て溜息を吐きながら近づいた。何時もの様にネギの頭を撫でるのかと思いきや、ネギの頭に拳骨を落とした。結構本気で。

 

「~!!」

 

 ネギはかなり痛かったのか涙目になりながら頭を押さえた。

 

「そうやってクヨクヨしてたらこのかが戻って来るのか?そんな無駄な事してねぇでさっさとアイツラを追いかけるぞ」

 

「うっうん」

 

 ネギは頭を押さえながら頷いた。刹那の傷をネギが直していざこのかを救出しようという事になったが

 

「おいアスナ、これ以上は今迄以上に危険な戦いになるぞ。それでも来るか?」

 

「行くに決まってるでしょ!大事な親友のこのかが連れてかれたのよ。それを黙ってるわけないじゃない!」

 

 アスナも一緒に行くそうだ。そうかと頷くマギ、だがとマギはアスナから顔をそむけると

 

「ちゃんと服は着てけよ」

 

「え?……あ」

 

 アスナは自分がハダカだったのを思い出して、アスナは顔を紅潮させながら早足で浴場を後にした。着替えて来るのだろう。

 

「お兄ちゃん、のどかさん達の方は如何だったの?」

 

 ネギの問いにマギは首を横に振りながら

 

「俺達がのどか達の所に辿り着いた時にはもう遅かった。のどか達も詠春さんと同じように石になっていた」

 

「そんな……」

 

 ネギもそれを聞いて又落ち込む。ただとマギが先程アーチャーが言っていた事を話す。

 

「さっきアーチャーが言ってたんだが」

 

「アーチャーってお兄ちゃんを狙ってた傭兵さん?」

 

 ネギが首を傾げる。傭兵をさん付けなんてそこは如何なんだよとマギがツッコむ。

 

「アイツが言ってたんだがこのかの力なら石になった奴らを治せるって言ってたんだが…」

 

「確かにシネマ村の一件で私の肩の傷や、マギ先生の脇腹の傷を瞬時に直してしまった。このかお嬢様はおそらくですが治癒魔術師の素質があるのかと、もしそうなら石になってしまった長達を治せるかもしれません」

 

 もしそうなら希望が見えてきた。このかを救出して石になった者達を助ければ万々歳だ。

 

「だったら神楽坂明日菜が着替え終えたら早く動くぞ。こんな所で待っているだけでも時間の無駄だ」

 

 エヴァンジェリンが腕を組みながらそう言ったのと同時に着替え終えたアスナが戻ってきた。これで準備は完了である。

 

「それじゃあ、皆さん行きましょう!」

 

 ネギの号令にマギ達は頷き、このかの救出に向かったのだった。

 

 

 

 

 

 本山からさほど離れていない川の畔に、千草とアーチャーに札を顔に付けた鬼、そして銀髪の少年の姿があった。そして捕らわれてしまったこのかは千草が召喚した猿の着ぐるみの腕の中だった。

 

「おお、やるやないか新人!最初からお前に任せればよかったわ」

 

 念願のこのかが手に入って有頂天になる千草。これで計画はほぼ完了だと思っているようだ。

 

「このかお嬢様も手に入ったことやし、後はお嬢様を連れて例の場所に行けば…ウチの大勝利やフフフ」

 

「…」

 

 千草が一人でブツブツと呟きながら笑みを浮かべており、そんな千草を銀髪の少年が無表情で見ていた。

 

「むーッ!むーむーッ!!」

 

 猿の腕に抱かれたこのかは口を布で縛られて何も喋れない状況の中、今の自分の状況が今一掴めない混乱と、これから自分はどうなってしまうのかという恐怖で頭が一杯だった。青ざめているこのかに千草は近づき顎を持ち上げながら

 

「心配しなくてもいいえこのかお嬢様。何も酷い事はしまへんから」

 

 と言ったが口を布で縛られている以上そう言った事も言っても信じられなかった。

 

「千草嬢、君はもう勝った気でいるが余り油断するな。油断大敵と言う言葉がこの国にはあるだろう」

 

 アーチャーの言った事にそれはそうやえと同意する千草、千草はあと少しという所でいつも失敗しているのだ。今回こそは失敗は出来ない。

 

「それじゃあお嬢様を連れて祭壇へ向かうえー」

 

 千草が祭壇なる場所に向かおうとしたその時

 

「待て!」

 

 刹那の声が聞こえ後ろを振り返ってみると間に合ったマギ達の姿があった。

 

「そこまでだ!お嬢様を返してもらおう!!」

 

 刀を構えた刹那が千草に向かってそう叫ぶ。千草はもう追ってこれたマギ達を見て軽く舌打ちをするが、何かを思いついたのかニヤリと笑い始めた。

 

「そうや…念願のこのかお嬢様が手に入ったんや、お嬢様の力を見せるって言うのも面白うそうやえ」

 

「あっアンタこのかに何するつもりなのよ!?」

 

 アスナはハマノツルギの柄を握りしめながら、千草に強く尋ねるが何するつもりってと余裕そうな態度を崩さず

 

「何をするって先程も言ったえ、面白そうな事をしようと。このかお嬢様の力お前達にも見せてやるえ」

 

 そう言った後に、千草は呪文を唱える。すると水面が怪しく光り始めた。

 

「さぁウチからすれば楽しい楽しい喜劇、アンタらにとっては怖い怖い恐怖の始まりやえ。お嬢様を取り返しに来たことに後悔する程になぁ」

 

 千草の言う通り本当の恐怖はこれからなのだった…



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このかを救出せよ

「キリキリヴァジュラウーンハッタ」

 

 千草の詠唱が終わると、水面の光否魔法陣が更に光だし魔法陣から

 

「む?何や出番かいな?」

 

「ふぅ~最近の人間は化け物づかいが荒いったらありゃしねぇ」

 

「んだんだ」

 

 次々と鬼に狐の仮面をかぶった者、カラスの顔の者に異形の化け物が次々と魔法陣から出て来た。その数は数匹数十匹とドンドンと増えてきており遂にはマギ達を取り囲むほどの化け物の軍隊が現れた。

 

「ちょッちょっとこんなのアリ!?」

 

 アスナは自分達を取り囲む化け物たちを見て慌てふためく。

 

「このか姉さんの魔力を使って手当たり次第に召喚しやがった」

 

「軽く100体以上は居るよこれは…」

 

 ネギは化け物たちをおおよそ数えてそう答えた。ネギの100体と言う言葉にエヴァンジェリンはフンと鼻で笑いながら指の関節をポキポキと鳴らしながら

 

「たった100匹か、この程度私一人でも十分だな」

 

 余裕そうな態度を取っていたが、次の瞬間何か嫌な気配をマギ達は感じ取った。

 

『ぎゃぁぁぁぁ!』

 

 何体かの鬼が新たに出て来た鬼に吹きとばされてしまった。

 

「おッオヤビンあれって!」

 

「あぁ、ワイらを呼び出した人間は余計なモンも呼び出したようやな」

 

 鎧を付けた鬼が慌てながら、他の鬼たちよりも大きくて筋肉質なオヤビンと呼ばれた鬼は気に入らなそうに、吐き捨てるように言った。

 新たに出て来た鬼は、オヤビン鬼よりも大きく、長くて太い尻尾はまるで鬼の金棒の様。そして首には数珠が巻いてあった。

 刹那は新たに出て来た鬼に見覚えがあるのか、ひどく動揺しており瞳がかなり揺れていた。

 

「ゴっゴウエンマだと!?千草め、このかお嬢様の魔力でなんてものを召喚したんだ!」

 

「刹那さん、ゴウエンマってそんなにヤバい鬼なの?」

 

 刹那の動揺ぶりにアスナは、それほど危険な鬼なのかを尋ねる。

 

「ゴウエンマ、ミフチと同じく言葉は喋れませんがかなり知力は高く、他の鬼を従うほどの力を持ち合わせています。しかし力はミフチの何倍あり、おそらくですが私一人で戦ったら勝つ見込みは粗ゼロです」

 

「剣の達人の刹那さんが勝てないってどれくらい強いんですか…」

 

「あれぐらいの肉達磨だったら私一人でも十分だぞ」

 

 ネギは戦慄を覚え、エヴァンジェリンは未だ余裕そうだ。しかし次の瞬間エヴァンジェリンは顔を顰め、鼻を摘まんだ。

 

「なんだこの気持ち悪い匂いは、吐きそうだ」

 

 エヴァンジェリンが言った事に刹那は気を付けてください!とマギ達に言った。

 

「ゴウエンマクラスの鬼になると瘴気を纏っています。人間が瘴気なんてものを長時間吸い続けたら恐らく、いや確実に死にます」

 

「ちょ!それはもっと早く言ってほしいわよ刹那さん!」

 

 アスナは慌てて口を押えた。と言っても押さえただけで瘴気を吸うことは無いとは言い切れない。千草は慌てふためく光景を眺めて愉快そうに笑っていた。

 

「っとこんな所にずっと居たらウチも瘴気にやられてしまうえ。お嬢様を連れて早く祭壇に向かうとしますか」

 

 千草はこのかを連れて祭壇なる場所に向かおうとした。アーチャーは千草嬢と千草を呼び止めて

 

「私は此処に残らせてもらう。マギ・スプリングフィールドを討つ絶好の機会だからね」

 

 そう言いながらアーチャーは又黒と白の短剣を具現化した。全く物好きなもんやなと千草は呟きながら

 

「分かったえ、それじゃあウチは先に行かせてもらいますわー。いくで新入り」

 

 千草の呼びかけに銀髪の少年はこくりと頷いた。そしてこのかを連れて逃げ出す。あぁそれとと何かを思い出したのか又マギ達の方を向きながら

 

「一応まだガキやし、殺さんよーにだけ(・・)は言っておくえ…まぁそっちの大きい鬼はウチでも制御が難しいんや。精々やられんようにきぃつけぇな。ほなさいなら」

 

 そう言い残して千草は今度こそこのかを連れて祭壇に向かって行った。そしてジリジリとマギ達に近づいて来る鬼たち。

 

「全く久々に呼ばれたと思ったら、相手はおぼこい坊ちゃんや嬢ちゃんだけかいな。一人だけ活きのいいアンちゃんが居るけど物足りんなぁ」

 

「まぁ悪いが嬢ちゃん達、呼ばれたからには手加減できないのが鬼の性分何でな、精々死なんよう気張れや。まぁあの図体がデカい鬼にやられてもワイらを恨まんといてな」

 

 化け物たちやオヤビンの鬼がマギ達を品定めするようにそう言う。アスナは流石に100匹以上の化け物に囲まれたら、体が恐怖で震えてしまう。

 

「せッ刹那さん、アタシ流石にこの数は…」

 

「明日菜さん落ち着いてください、恐怖は体を鈍らせてしまいます」

 

 震えているアスナに刹那が落ち着くように言った。

 

「ネギ、とりあえず時間が欲しい。障壁を張れるか?」

 

「うん、お兄ちゃん」

 

 ネギはマギに言われた通りに障壁を張る事にした。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 逆巻け春の嵐 我らに風の加護を 風花旋風 風障壁!」

 

 ネギが詠唱を唱え終えると、マギ達を巨大な竜巻が包み込んだ。竜巻に巻き込まれ何体かの化け物が吹き飛ばされる。

 

「こッこれって!?」

 

「風の障壁です、ですがたった数分しか…」

 

 防げないと言おうとしたその時

 

「グオォォォォォォッ!!」

 

 今迄沈黙を保っていたゴウエンマが雄たけびを上げて、竜巻に突っ込んだ。そして竜巻に自分の拳を叩きつけた。竜巻で自分の拳が切り裂かれているのにお構いなしに連続で拳を叩きつけてくる。ゴウエンマが拳を叩きつけてくるせいで竜巻の勢いがみるみると効力を失くしていくようだ。

 

「やッヤバいですぜ!アンの筋肉達磨が障壁を攻撃してるせいで、今にも障壁が消えちまいそうだ!早く作戦を立てないとヤバいですぜ!」

 

「そッそうね!でもどうすんのよ!?」

 

 カモが早急に作戦を立てようと急かすが、良い作戦が思いつかない。如何すればいいのか分からないと刹那が

 

「やはり二手に分かれる。それしかありません。私がこの鬼たち引き受けます、その間に皆さんはお嬢様を救出してください」

 

 自分一人で100体以上の鬼と戦うと言いだした。ハッキリ言って無謀な事である。

 

「ちょっと刹那さんあんなに多くの鬼と戦うなんて無理よ。それにさっきあのゴウエンナンチャラって奴自分一人じゃ倒せないって言ってたじゃない」

 

 アスナが無謀だと言っても刹那は任せてくださいと笑顔で言いながら

 

「あのような化け物を退治するのが、私の元々の仕事ですから。例えこの身がボロボロになろうとも退治してみせますよ」

 

 刹那は本当に鬼たちを1人で相手するつもりだ。若しかしたら否確実に刹那自身無事では済まない。アスナはそんなビジョンを想像してしまい

 

「だったらアタシも残る!刹那さんを1人なんかに出来ない!」

 

 アスナも残ると言いだした。アスナでは鬼たちを相手にするのは無謀だとネギは言おうとしたが

 

「いや。アスナが残るって言うのもあながち間違いじゃねぇ。アスナのハリセンは恐らくだが魔法を無力化できる道具だ。鬼たちにハリセンが当たりでもしたら」

 

「そうか。簡単に鬼たちを消滅させる事が出来るって寸法ってことっすね!」

 

 マギがアスナのハマノツルギの能力を予想し、カモがマギの答えに便乗して言った。マギはカモの言った事が思っていた事と同じでそうだと頷いた。

 

「おいネギ、アスナに魔力供給を防御面だけに節約すれば何分位もつんだ?」

 

「術式が難しいけど、長い時間で15分まで!」

 

 15分…長いようで短い時間だ。その短い時間で如何するか、マギはカモの方を向いた。

 

「カモ、何かいい考えがあるか?」

 

「現状あの銀髪のガキと無理に戦う必要はないでさ。だったらスピード勝負、相手はこのか姉さんを手に入れて余裕ぶっこいてるはずでさ。だったら姐さんと刹那の姉さんが鬼を引き付けている間に兄貴がこのか姉さんを奪取!恐らくだが、あの眼鏡の姉ちゃんはこのか姉さんの魔力でもっと強い何かを召喚するはず!このか姉さんを奪取したらみんなで一斉にボコれば何とかなります!」

 

 カモの考えた作戦は的を射ている……射ているのだが

 

「ハッキリ言うと穴だらけな作戦ですよねそれ、大丈夫なんでしょうか?」

 

「刹那の姉さんの言う通り分の悪い賭けでさ。だけど他に代案があるなら聞くが」

 

 刹那の言う通り穴があり過ぎて心配だ。しかし現状これが一番有効な策である。

 

「そう言えば大兄貴はさっきから作戦に参加してませんが如何するんでさ?」

 

「俺はあのアーチャー(クソ傭兵)がまだ俺を狙ってるからな。アイツを今此処でブッ飛ばさねえとな」

 

 だからとマギはネギの方を見ながら

 

「だからこのかはお前が助けるんだネギ、お前がこのかを助けたら俺もすぐさま駆け付けるからな」

 

「うん!」

 

 マギに頼まれ、ネギは力強く頷く。

 

「よっしゃ!作戦も決まったしついでにパクティオーも済ませちまうか刹那の姉さん!」

 

「わッ私がですが!?」

 

 カモに行き成りパクティオーするように言われて狼狽える刹那。キスをするのだ動揺するだろう。

 

「刹那の姉さんと兄貴の相性は抜群!それに姉さんの気と兄貴の魔力が合わされば怖い物なしでさ!」

 

 カモは刹那に仮契約をするように急かす。さらにゴウエンマが障壁を攻撃し続け、今にも障壁が消滅しそうだった。

 

「時間がねえ!さっさと決めてくれ姉さん!」

 

「……分かりました、ネギ先生お願いします」

 

 刹那も仮契約をしてくれるようだ。カモはすぐさま仮契約の魔方陣を書いた。

 

「ではネギ先生、行きます」

 

「はッはい!」

 

 そしてネギと刹那がキスをして仮契約が完了した。カモが出て来たカードをキャッチする。これで準備完了だ。段々と障壁が消えていく。

 

「おいネギ」

 

「何お兄ちゃん?」

 

 マギとネギが向かい合う。

 

「お前ひとりに任せるっつうのは無責任かもしれねぇが、このかを頼む」

 

「うん、僕に任せてよお兄ちゃん」

 

 そして障壁が完全になくなった。

 

「おお、やっと竜巻が無くなったようやな。待ちくたびれたで」

 

 オヤビン鬼は待ちくたびれたのかそう零した。ゴウエンマも今度こそマギ達を叩き潰そうとしたが、障壁が晴れるとそこには前方に手をかざしたネギの姿が

 

「雷の暴風!!」

 

 ネギが放った魔法は魔法通り雷が暴風となり、化け物たちやゴウエンマを吹き飛ばした。

 

「ぐぉ!あの坊ちゃん西洋魔術師かいな!?」

 

 オヤビン鬼は雷の暴風に吹きとばされない様に足を踏ん張った。

 

「よしネギ鬼どもは怯んでる、今がチャンスだ!」

 

「うん!」

 

 ネギはマギに言われ、すぐさま杖に跨る。ネギは飛ぼうとしたがおいネギとマギに呼び止められる。

 

「頼んだぞ」

 

「うん!僕に任せて」

 

 そしてネギとマギが互いに頷きあい、ネギは空へと飛び立った。

 

「オヤビン、一人逃しちまったぜ!」

 

「さっきので20体は喰われてもうた。全く西洋魔術師はわびさびっつうもんが無くてアカンな」

 

 尤も…とオヤビン鬼は雷の暴風をもろに喰らってのた打ち回ってるゴウエンマを見てざまぁみさらせとほくそ笑んだ。

 オヤビン鬼や他の鬼と化け物とゴウエンマの様な鬼には決定的な違いがある。それはオヤビン鬼達は戦いを『楽しむ』のが好きであり、ゴウエンマの様な鬼の種は相手を『殺す』事を目的とするのだ。更にゴウエンマの様な種は人間の魂を餌としている。強い人間の魂を食えば食うほど強くなるのだ。オヤビン鬼は魂を食うために人間を殺す別の種の鬼達を毛嫌いしてるのだ。

 

「まぁええ、まだワイらが相手する嬢ちゃんたちがいるんやし」

 

 とオヤビン鬼はマギ達の方を見た。

 

「落ち着いて戦えば大丈夫です明日菜さん。見た目は恐ろしいですがさほど大した敵ではありませんし、私の剣と明日菜さんのハリセンは鬼達と互角以上に戦えます」

 

「それに俺やエヴァたちが居るんだ。大船に乗ったつもりでいろって」

 

「私が助けるのは気紛れだからな、神楽坂明日菜。私はお前に蹴り飛ばされたのをまだ気にしてるんだからな」

 

「もうとっくに許してるのに……マスターはツンが強すぎですね」

 

「だれがツンだ誰が!ネジを巻くぞボケロボ!!」

 

「おいエヴァ、これから鬼合戦だと言うのに、気が抜けすぎじゃねえか?」

 

 とエヴァンジェリンとマギがワイワイと騒いでいるのを見てアスナは苦笑いを浮かべた後にフッと笑いながら

 

「何だかさっきまで怖がってたアタシがバカみたい…」

 

 そしてブンッ!とハリセンを一振りした後に中段で構えながら。

 

「上等よ、此処まで来たらやってやろうじゃない!!」

 

 アスナもやる気になったようだ。

 

「ほほぉ、ずいぶんと勇ましい嬢ちゃんや達やアンちゃんが残った様やな。こりゃ戦うのか楽しみになってきたなぁ……!」

 

 オヤビン鬼も自分の血が滾っているのを感じた。

 

「行きますよ明日菜さん!」

 

「やってやるわよ刹那さん!!」

 

「鬼との大ゲンカだ、暴れてやろうぜ」

 

 マギ達は鬼の軍団に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方の鬼の軍団を無事脱出出来たネギ、このかを連れて行った千草を追いかけていた。

 

「お兄ちゃんやアスナさん大丈夫かな…」

 

 ネギは鬼の軍団に残してきたマギやアスナを心配していた。大丈夫ですよ兄貴!とネギと一緒に付いてきたカモはネギにそう言い聞かせる。

 

「大兄貴や姐さんがそう簡単にやられたりしませんて、それにあのエヴァンジェリンが居るんですぜ、逆に鬼達が可哀そうになってしまいますよ」

 

「うん…」

 

 カモの言った事にネギは空返事で応えたが

 

(いや、お兄ちゃんが居るんだ絶対に大丈夫!それにお兄ちゃんにこのかさんを頼むって言われたんだ、今は一刻も早くこのかさんを助け出す事だけを考えておこう)

 

 ブンブンと顔を振って不安な考えをかき消していた。とその時

 

「!兄貴下から!!」

 

「え?」

 

 カモが下から何かが来ると教えてきたがもう遅く、何かがネギの杖に直撃しネギは杖から放り出された。

 

「いッ今のは狗神!」

 

 今の攻撃は若しかしてとネギは今自分に攻撃してきた人物を分析したが、今はそんな事をしてる暇はない

 

「くッ 風よ!杖よ!!」

 

 風で自分の落下速度を遅くさせ、遠くに放り出された杖を自分の所へ引き寄せ、何とか怪我も無く着地出来た。そして自分を攻撃してきたのは誰なのかと辺りを見渡した。

 

「ようネギ、嬉しいでこんなに早くも再戦が出来るなんてなぁ。残念やがここは通行止めや!」

 

「コタロー君!」

 

 やはりネギを攻撃してきたのは小太郎だった。

 

 

 

 

 

 このかを連れていった千草は祭壇とたどり着いた。

 祭壇は大きな池にあり、祭壇の奥の方には巨大な岩が置いてあり、岩にはしめ縄が巻かれていた。まるでなにかを封印してるようだった。

 祭壇にこのかを置き、千草は此処は何なのかを説明し始める。

 

「この祭壇にはな、昔悪さをしていた大きな鬼を今の長とサウザントマスターが封印したんやえ。その大鬼を今から復活させると言うことや。本当ならウチの力じゃ制御出来んけど、このかお嬢様の力で制御可能という事や」

 

 説明を聞いていた銀髪の少年は何も言わず無表情だった。まるでさほど興味が無いように。千草は興が冷めたが今は大鬼を復活させることが最優先である。千草は恐怖で顔が青ざめているこのかに近づきニヤリと笑いながら

 

「ご無礼をお許しくださいお嬢様、せやけどお嬢様が無駄な抵抗をしなければ痛い事なんかありまへんから」

 

 優しい声でこのかに言い聞かせてはいるが、目が笑っていない。

 

「ほな始めますえ…少しばかり気持ちいいかもなぁ」

 

 千草はこのかの魔力で封印された大鬼を復活させる呪文を唱え始めた。

 

 

 

 

 

 一方の鬼と戦っているマギ達であるが、100体以上の鬼の軍隊に苦戦しているどころか今のところは善戦していた。というのもおもにアスナと刹那なのだが。

 

「うりゃ!」

 

 アスナはハマノツルギを鬼に向かって振るう。ハマノツルギが当たった鬼は消滅していく。

 

「これで10匹目!どんどん行くわよ!」

 

 アスナは向かって来る鬼や他の化け物たちをハリセンで千切っては投げ、千切っては投げと蹴散らしてきた。

 

「このガキャア!」

 

「舐めくさりやがって!!」

 

 1人が駄目なら一斉にとアスナに襲いかかる。しかしそんな大勢鬼の前に刹那が立ちふさがる。

 

「神鳴流奥義 百烈桜華斬!」

 

 刹那の目にも止まらぬ斬撃によって、鬼達は蹴散らされた。

 

「ありがとう刹那さん!」

 

「油断しないで、私が右を明日菜さんが左を」

 

「オッケー!」

 

「「やぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 絶妙なコンビネーションで鬼達を次々と消していく光景まさに無双。

 

「何というか私達、要らないんじゃないのか?」

 

 エヴァンジェリンが鬼達を断罪の剣で斬り伏せたり、こおる大地で吹き飛ばしたりしながらそう呟いた。

 

「そう言うなよ、アスナのハリセンは鬼達を簡単に消せるアイテム。刹那の刀は元々退魔の術式が組み込まれてんだろ。俺達にはそんな物無いし、地道にやってこうぜ」

 

 そう言ったマギも仕込み杖や燃え盛る流星や悪魔の槍で鬼達を蹴散らして行った。地道にと言っているが結構な速さで鬼達を倒している。マギ達によって鬼の残りが半分ほどになってしまった。

 

「オヤビン、あんなにいた鬼どもがもう半分ぐらいですぜ。天敵の神鳴流はともかく、一発でも入ったらやられちまうハリセンを持ったあの嬢ちゃんが面倒ですぜ」

 

「ガアッハッハッ!お前じゃ文字通り太刀打ちできないってやつやな。太刀だけに!」

 

「オヤビン、上手い事を言ってるつもりっすけど全然上手くないですから!」

 

 子分の鬼に突っ込まれ、いやぁすまんのう、と豪快に笑った。ところで、とオヤビン鬼がアスナをジーッと見ながら

 

「最近のお嬢ちゃんは、すかぁとやっけ?その下に下着を着けないのが流行りなんかいな?いやぁ最近の流行っつうもんはよぉ分からんなぁ」

 

 オヤビン鬼がアスナをそう言ってアスナは思わずスカートを強く押さえた。

 

(しッしまったぁ~!さっき大慌てで着替えてたから、パンツをはいてくるのを忘れてたぁ!そう言えばさっきからアタシが倒してた鬼やら化け物がいやらしい目でアタシを見てたのって、アタシがノーパンだったから?というかそれ以前に鬼にノーパン見られちゃった)

 

 ノーパンを見られた羞恥で思考が停止してしまったアスナ。

 

「お、動きが遅うなったで。今のうちにひっ捕らえや」

 

 アスナの動きが鈍くなったのを見計らい、オヤビン鬼がアスナを捕まえるように言った。

 

「なんでアタシって何時もこんな役なのよ~!」

 

 鬼達に追いかけまわされながらもアスナは大声で叫んだ。

 

「ったく何やってるんだか……」

 

 マギは鬼達に追いかけまわされているアスナを見て呆れた溜息を吐いた。もうあらかた鬼は倒したし助太刀するか…とアスナの所に向かおうとしたが、マギの後ろに短剣を振り下ろそうとしているアーチャーの姿が

 

「まぁ物事は自分の思った通りにはかねえもんだよな!」

 

 振り向きながら仕込み杖をアーチャーの短剣に叩きつける。鍔迫り合いで火花が飛ぶ。

 

「わりーな、鬼達の方がインパクトがあってテメェの事なんてすっかり忘れちまってな」

 

「成程な貴様のそのお気楽な頭では、私に惨敗した記憶も消えているんだろうな」

 

 あぁそうだなと互いの武器をぶつけ合いながら喋るマギとアーチャー。

 

「俺、自分の都合が悪い事やめんどい事、嫌な事は直ぐに忘れるタイプだから、テメェに負けた記憶なんて綺麗さっぱり忘れちまったよ!!」

 

 マギはアーチャーの短剣を叩き折った。だからよぉとマギは仕込み杖をアーチャーに向けながら

 

「今度はテメェに惨めな負けをプレゼントしてやるぜ」

 

 マギの挑発にアーチャーは動じず、よかろうと言いながら魔力を集中して行った。

 

「ならば貴様のそのお気楽な頭に、忘れる事も出来ないほどの敗北を刻んでやろう。トレース・オン」

 

 アーチャーは今度は短剣ではなく、西洋の長剣を具現化した。長剣は神々しい光を放っていた。

 

「傭兵風情が随分派手な武器を使うんだな」

 

「ぬかせ。その軽口が叩けるのは今の内だ」

 

 

 

 

 

 

 

 場所はまた変わり、ネギは小太郎に足止めを喰らっていた。小太郎の攻撃を辛うじてかわすネギ。

 

「如何したんやネギ、何であの時みたいにマジで戦おうとせえへんのや!?」

 

 小太郎の連続攻撃を躱したり杖で防いだりと防戦一方だ。それもそのはずネギはこのか救出という大切な役目があるのだ。小太郎との戦いで無駄な魔力を消費するわけにはいかないのだ。

 

「コタロー君、そこを退いてほしい!小太郎君の先に僕達の大事な生徒のこのかさんが捕まってるんだ!早く助けないと!」

 

 ネギの必死な説得にも小太郎は興味なさそうに鼻を鳴らす。

 

「んな事に興味は無いんや。俺はな俺の周りには強い奴がいいひんかった。俺の周りには雑魚ばっかりやった。千草姉ちゃんの誘いも最初は嫌々だった。けどな今の俺は千草の姉ちゃんの誘いに乗って良かったと思っとる。お前のおかげや!」

 

 ネギを指差す小太郎。

 

「ネギ、お前に会えたんやからな!嬉しいで。俺と対等、否それ以上の奴に出会った事が何よりも嬉しいんや!今此処でお前を逃がすわけないやろ!」

 

 小太郎はネギを逃すつもりは毛頭も無いようだ。その時だ夜空に巨大な光の柱が上がった。

 

「なッ何あれ!?」

 

「この魔力のかんじ、このか姉さんの魔力だ!あの眼鏡女このか姉さんの魔力でもっと強力な何かを召喚するつもりだ!急いでくだせえ兄貴!」

 

「急ぐって言っても…!」

 

 ネギの目の前には小太郎が居る。小太郎を倒さなければ先には進めない。しかし…

 

「コタロー君の相手をしてたら時間が」

 

 タイムリミットは刻々と迫っている。

 

 

 

 

 

 

 

 アスナと刹那は苦戦を強いられていた。鬼達を半分以上を倒したのは良かったのだが、残りの鬼達は今迄みたいに簡単に倒せるほど弱くは無かった。それどころか強さは恐らく人間で言う武将クラス。そんな相手に武術の心得がないアスナは苦戦を強いられることになる。さらに

 

「グォォォォォォッ!!」

 

「ちょっとアタシばっか攻撃するなんてズルくない!?」

 

 ゴウエンマがアスナにばっか攻撃をしてくる。大木の様な腕や足の攻撃を紙一重に躱す。

 

「このしつこいのよ!!」

 

 アスナはゴウエンマの腕にハマノツルギを叩きつける。しかしミフチと同じように消滅したと思ったらすぐに再生させられてしまう。

 

「もぉ!斬っても斬っても直ぐに元に戻っちゃう!何とかならないの!?」

 

 段々やになってくるアスナ。とアスナ達も夜空に巨大な光の柱が上がったのを見た。

 

「なッなにあれ!?」

 

「あれはお嬢様の魔力!もう時間がない!っ!明日菜さん危ない!!」

 

「え?」

 

 一瞬だが気を緩めてしまい、刹那の声でハッとするが目の前にはゴウエンマの金棒のような尻尾が迫っていた。防御しようとしたが間に合わず、尻尾はアスナの体に直撃した。

 

「きゃぁぁぁッ!?」

 

 尻尾が直撃したアスナは悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、岩にぶつかった。

 

「明日菜さん大丈夫ですか!?」

 

 岩にぶつかったアスナの安否を確かめる刹那。アスナはゆっくりと起きながらアハハと乾いた笑みを浮かべながら

 

「だっ大丈夫。ネギの魔力が守ってくれてる―――」

 

 からと言おうとしたが、アスナの真上に跳び上がったゴウエンマの姿が

 

「あ……これヤバいんじゃ」

 

 言い終える前にゴウエンマがアスナに腕を振り下ろした。アスナの周りにあった岩が攻撃の余波で砕け散った。

 

「アスナ!」

 

「明日菜さん!!」

 

 マギと刹那はアスナに向かって叫んだ。岩が砕けた煙で姿が確認できない。まさか岩もろとも砕けてしまったのではとマギと刹那は駆け付けようとしたが、マギには長剣、刹那には大きな鉄棒が立ちはだかる。

 

「貴様の相手は私だ」

 

「ワイが相手や神鳴流の嬢ちゃん」

 

 アーチャーとオヤビン鬼が邪魔してしまい、アスナを助け出せる状況じゃなくなってしまった。煙が晴れるとゴウエンマの手の中にアスナの姿が。

 ぐったりとしているが、気を失っているだけだ。

 

「グルル…グォ」

 

 ゴウエンマが手に力を入れ始めた。そうすればどうなるかは一目瞭然であろう。

 

「グっググ…アァァァァ!」

 

 気を失っていたアスナは、自身が強く締め付けられる痛みで悲鳴を上げた。

 

「明日菜さん!!」

 

「あのクソ肉達磨!アスナをじわじわとなぶり殺すつもりか!?」

 

 ゴウエンマは人間を殺し魂を食う事を生きがいとする種、今まさにアスナが食われようとしていた。

 

「マズイ、あそこまで近かったら瘴気を吸い続けてしまう。早く助け出さないと!」

 

「助け出さないとって言っても傭兵野郎を俺は如何にかしねぇと!エヴァに茶々丸何とかならないか!?」

 

 マギはエヴァンジェリンと茶々丸にアスナを助けるように頼んだが

 

「助けてやりたいのはやまやまだが、少し手が離せない状況だ。お前達で何とかしてくれ!」

 

「私も同じ状況です。申し訳ありませんマギ先生」

 

 エヴァンジェリンと茶々丸も鬼達の相手をしていて、アスナを助けられる状況ではなかった。さらに

 

「やっと見つけましたえ刹那センパイ。漸く決着がつきそうですわ~」

 

「月詠、貴様!」

 

 シネマ村以降姿を消していた月詠がまた現れたのだ。マギはアーチャーの相手をし、刹那達も動けない状況さらに最悪な事に握りつぶされそうなアスナ。つまり…

 

「ヤバい状況じゃねぇか……」

 

 今はかなり最悪なパターンとなってしまっていた。しかしマギ達の近くの茂みでスナイパーライフルが様子を窺っていたのだった。

 

 

 

 

 

 ネギと小太郎の戦い、時間は刻々と迫っておりそれがネギを更に焦らせる。

 

「兄貴、アイツに構ってたら時間が無いですよ!」

 

「分かってる、分かってるよ!けど……」

 

 ネギも分かってはいるのだが、小太郎が邪魔をしており先には進めそうにない。それが余計にネギを焦らせる。

 

「コタロー君!今はそこを退いてほしい、僕はこのかさんを助けなきゃいけないんだ!その後に君の相手をしてあげるから!」

 

 ネギの必死な説得にもお断りや!とネギの説得に聞き耳を持たない小太郎。

 

「俺には分かるでネギ、お前は事が終わったら本気を出さないタイプや。俺は本気のお前と戦いたいんや!此処を通りたいんやろ?だったら俺を倒してから行けや!全力で倒せばまだ間に合うかもしれないで!如何したネギお前は男やろ!?」

 

 小太郎は断固として譲るつもりは無いようだ。頭脳派のネギと脳筋の小太郎じゃ考えが違うようだ。違うよ小太郎君、ネギは首を横に振りながら

 

「僕は一人の男である前に一人の先生なんだ。自分の事よりも生徒であるこのかさんを助ける事が、僕にとって今やらなきゃいけない事なんだ!!」

 

 ネギにも譲れない物がある。ネギの考えに何処か気に入らない所が有ったのか、小太郎は体を震わせながら

 

「戦いの場でなぁ……女の名前を読んでる奴ぁ、弱いって相場が決まってんねん!見損なったでネギィ!!」

 

 小太郎はキレながらネギに突っ込んできた。先程とはちがく、本気でネギを潰しにかかりに来た。

 

「コタロー君……もうやるしかないのか!」

 

 ネギもここまで来たらもう戦うしかないのかと仕方なく拳を構えた。

 

「兄貴!何やってるんですか!?そんな事してるよりも早くこのか姉さんを」

 

「分かってるよカモ君!でもここまで来たらもう」

 

 それだけ言ってネギも小太郎に突っ込んでいった。

 

「あぁここまで来たのに!もう誰でもいいから助けに来てくれい!!」

 

 カモは天向かってそう叫んだ。カモが叫んでも誰も助けには来てくれないとカモ自身も思った。しかし

 

「いやネギ坊主、自分の事よりも他の者を助けると言うのは聊か臭い台詞ではござるが、中々よかったでござるよ」

 

 助けが来てくれた。ネギと小太郎を遮るかの様に巨大な手裏剣が地面に刺さった。

 

「なッなんや行き成り!?」

 

 小太郎は行き成り現れた手裏剣に驚きを隠せなかったが、驚いている小太郎の目の前に何者かが現れ、小太郎の胸に掌底を食らわせて近くの木に叩きつけた。

 

「ぐほッゴホ!今のは残像と分身攻撃!?いったいどこの誰や!」

 

 小太郎は自分を攻撃したのは誰だと辺りを見渡す。ネギも先程の巨大な手裏剣にござる口調、さらにネギの事をネギ坊主と呼んでいた。若しかしなくても自分の知ってる人だ。ネギも何処に居るのかと探してみると

 

「上でござるよ。ネギ坊主」

 

 真上から声が聞こえ、見上げてみると

 

「助太刀にきたでござるよ」

 

「楓さん!」

 

 自分の生徒である長瀬楓が助太刀に来た。

 

 

 

 

 

「あぁっぐッググ……ウアァァ」

 

 ゴウエンマに捕まり、徐々に握り潰されそうになっているアスナだが、それも限界に近づいてきた。

 

「おいアスナ!気を失うな!正気を保てってかおいクソ傭兵!いい加減くたばれよ、アスナを助けられねぇじゃねえか!」

 

「そんな事私の知った事ではないな。だったら私をさっさと倒す事だな」

 

「お前そればっかだな!同じことをネチネチと!」

 

 マギはアーチャーが邪魔してきてるせいで助け出せる事が出来ず、アスナに正気を保つように呼びかけるので精一杯であった。それでもアスナが無事なのは、ネギの魔力によって守られているからだ。

 しかしその魔力がなくなればアスナは、ゴウエンマにいとも簡単に握りつぶされてしまうのだ。さらにアスナを守っている魔力だが、アスナが意識を失ってしまうと自動的に魔力が失ってしまう。だからマギはアスナに気を失うなと呼びかけていたのだ。

 だがそれも限界に近い。ゴウエンマの瘴気を間近で吸い続けたのだ。段々と意識が朦朧としてきた。

 

(やばっ何か体が動かなくなってきたし。すごく気持ち悪い。アタシここで死ぬのかな?)

 

「ごめんネギ、アタシ此処までみたい…」

 

 アスナはもう駄目だと思った。ゴウエンマも止めとばかりに手に力を入れ始めた。とその時一発の銃声が響き渡ったと思ったら

 

「グォォォォッ!?」

 

 ゴウエンマは片目を押さえながら、悶えた。悶えているためにゴウエンマの手からアスナが空へと放された。

 

「アスナ!」

 

 マギはアーチャーの隙をついてアスナに駆け付け、地面に叩きつけられる前に何とかキャッチできた。

 

「おいアスナ、大丈夫か?」

 

「ゲホゴホゲホッ!だっ大丈夫。アイツに離れたおかげか捕まってた時よりも幾分か気分はいいわ」

 

 如何やら一応は大丈夫の様だ。アスナが大丈夫だと分かると一安心のマギ。しかし今の銃声は何なのかと思っていると。

 

「なんだ、随分と苦戦してるようじゃないか刹那」

 

 新たに現れた人物に驚く刹那とアスナ。新たに現れたのは自分達のクラスメイトでもあり、褐色の肌が目立つ

 

「この助っ人料は高くつくよ」

 

「アイヤー。あのでっかい鬼達は本物アルか?随分と強そうアルねー」

 

 スナイパーライフルを持っていた龍宮真名と場違いに興奮している古菲の姿が

ネギの所には楓、マギ達の所には真名と古菲。ある意味強力な助っ人が登場したのだった。




ぶっちゃけ、中学生で銃器を扱える生徒が居たらドン引きである。
まぁ…漫画だからね


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奥の手は最後までとっておく

今回のはツッコミどころが多数あると思いますが

よかったらどうぞ


「なッ何で楓さんが此処に居るんですか!?」

 

 ネギは何故こんな所に楓が居るのか不思議で仕方なかった。それはでござるなと楓が説明しようとしたが

 

「私が携帯電話で呼んだんです。ネギ先生」

 

 楓の背中から夕映がひょっこりと顔を出したのであった。

 

「夕映さん!無事だったんですね!?」

 

 ネギは居なくなったと聞いた夕映が無事だったので一安心だった。

 

「話は我らがリーダーとネギ坊主の今の状況で大体理解したでござる。簡単に纏めるとこのか殿が悪い奴らに捕まって、そのこのか殿の魔力で何か凄い物を呼び出すつもり…こんな感じでござるか?」

 

「あっはい、そんな感じです」

 

 楓が言った事にネギは肯定する。成程成程と楓は2、3度頷くと

 

「ならば話は早い。此処は拙者に任せて、ネギ坊主は早くこのか殿の元へ急ぐでござるよ」

 

 楓が小太郎の相手をするつもりのようだ。

 

「楓さん!そんな生徒さんをこれ以上危険な目には…」

 

 ネギも自分の勝手でこれ以上生徒に危険な目にはあっては欲しくなかった。そんなネギに楓はこらこらとネギの頭を軽く小突くと

 

「拙者は大丈夫でござるよ。拙者の心配より今はこのか殿を助ける事が先決でござる」

 

 楓はニコリと微笑しながらそう言った。此処は楓を信じて先に進むしかないようだ。

 

「楓さん…お願いします!」

 

 ネギは小太郎の相手を楓に任せて先に進むことにした。

 

「あっネギ、待たんかい!」

 

 小太郎は自分を無視して先に行こうとするネギを追いかけようとしたが、楓が隠し持っていた苦無を投げて足止めをした。その隙にネギはかなり先まで走り去っていた。小太郎は舌打ちをしながら楓を睨みつける。

 

「よくもやってくれたな糸目のねーちゃん。俺女に暴力振るうのは苦手やけど、少しばかり痛い目にあってもらうで」

 

 小太郎は指を差しながら楓にそう言う。一方の楓は不敵な笑みを浮かべながら。

 

「小太郎とやら、ネギ坊主を好敵手と認めるとは中々良い目をしていると見た。しかし……」

 

 楓の気配が急に変わったのを小太郎は感じ取った。さっきまで飄々とした態度の中に研ぎ澄まされた刃のような、そんな気配だ。

 

「今は自分の主義を捨て、本気で掛かってくるといい。今はまだ拙者の方がネギ坊主よりも遥かに強いと拙者も自負してる」

 

 その楓言いよう、小太郎は楓がかなりの実力者と見た。

 

「糸目のねーちゃん、アンタ何もんや?」

 

 小太郎は改めて楓何者かを尋ねた。楓はかつてネギが山にやって来た時に見せた分身体を出現させる。

 

「甲賀中忍 長瀬楓 参る」

 

 小太郎は楓が自分よりも遥かに強いという事が分かった。しかし小太郎は嬉しかった。自分よりも強い人間がネギ以外に居るという事が。小太郎は嬉しそうに笑いながら

 

「上等や!!」

 

 狗神を召喚した。

 

 

 

 

 

 真名はスナイパーライフルで鬼達を狙撃した。真名が放った弾丸に当たった鬼達は次々と消滅していった。如何やら真名のライフルの弾丸も刹那の刀のように退魔の術式が施されているようだ。

 

「凄いアルな真名の銃、若しかして本物アルか?」

 

「フっまさか、ただのモデルガンだよ」

 

 本当は本物の銃なのだが、古菲にはエアガンだと誤魔化す真名。と今度は真名にカラスの顔の化け物が数体で真名と古菲を囲んだ。

 

「この小娘が!」

 

「だがその鉄砲なら接近戦では役には立たないだろう」

 

「今此処でくたばれ!!」

 

 カラスの化け物たちは真名に手に持っていた刀で一斉に斬りかかった。しかし真名は慌てる素振りを見せず。脚に隠し持っていていた2丁の拳銃を素早く取り出すと、カラス達に向かって撃った。

 ただ撃つだけではない。拳銃で刀を防いだりや弾いたり、至近距離で撃ち刀を折るなどの芸当も見せた。まるで踊っているかのよう。ガンカタ、拳銃を使った格闘術を真名は使用したのだ。

 

「つっ強い……無念なり!」

 

 数体で挑んだのに掠り傷さえつける事も無く倒させてしまい、無念ながら消滅していくカラス達。

 

「ふぇ~真名が強いと言うのは知ってたアルけど、此処まで強いとは知らなかったアルよ。それに私本物のお化けとか見るのは初めてアル」

 

 古菲が真名の強さに感服してると、古菲に向かって来る鬼達。

 

「おっ私を狙うアルか?良いアルよどんどん来るアル!」

 

 迫ってくる鬼達に全く動じない古菲は、呼吸を整え中国拳法の構えをする。鬼の攻撃を防ぐとすかさずカウンターを喰らわせる。

 

「馬蹄崩拳!」

 

 ただのカウンターなはずだが、数体の鬼を巻き込んで吹っ飛んでしまう。

 

「さぁもっと強い奴どんどん来るアル」

 

 古菲はまだまだやる気の様だ。古菲が鬼達の相手をしてる間に真名がマギとアスナの元に近づいた。

 

「おい真名、お前かなり強いが、もしかしてお前も魔法側の人間なのか?」

 

「その質問には後日答えるさ。それよりも神楽坂の調子が良くなさそうだが、如何したんだマギさん?」

 

 真名はアスナの状態を尋ねた。アスナは先程までゴウエンマの瘴気を吸ってしまってしまい体が動かない状態なのだ。

 

「簡単に言えば毒にやれちまったんだ」

 

「ふむそれなら」

 

 と真名は銃を入れていたのだろうギターケースから何やら緑色の液体が入った小瓶を取り出した。

 

「毒消しの薬だ。この薬なら大抵の毒を治す事が出来る。但しかなり即効性が高いからすごく苦い」

 

 マギは真名から薬の入った小瓶を渡された。マギはお礼を言うと早速アスナに飲ませた。薬を飲みほしたアスナはうえ~と下を出しながら

 

「凄い苦い~」

 

 薬の感想を正直に答えた。

 

「良薬口に苦しっていうだろ?そん位我慢しろ」

 

 とマギがアスナにそう言った。するとアスナがアレ?と不思議そうに

 

「さっきまでの気持ち悪さが嘘みたい。それにさっきまでよりも体が軽く感じられる!」

 

「そりゃよかったな。んじゃ後は自分で何とかしろ」

 

 とマギはアスナを起き上がらせた。

 

「あっマギさん」

 

「何だアスナ?」

 

「さっきは助けてアリガト」

 

 マギは頭を掻きながら

 

「大事な生徒を助けるのは当然の事だろ?」

 

「でもお礼は言っておかないとね。それだけ」

 

 それだけ言うとアスナは戦いに戻って行った。さてと…とマギは肩をゴキゴキと鳴らしながら

 

「思ったんだけどさ、何で俺がアスナを介抱してる間に俺を攻撃しなかったんだお前、結構バカなのか?」

 

 マギはアーチャーに何故無防備だった時に攻撃してこなかったのかと尋ねた。

 

「しれた事、無防備の女を攻撃するのは私の流儀に反する。一応その女を介抱する人間も私は攻撃しない。例えお前でもな」

 

「キモッ!変な所で紳士ぶるんじゃねぇよ。まぁ俺もこれ以上テメェとやってると魔力も体力も限界なんだわ」

 

「だったらそろそろ」

 

「決着を」

 

「「着ける!!」」

 

 マギ対アーチャーのファイナルラウンドが勃発した。

 

 

 

 

 

「喰らえや狗神!」

 

 小太郎は楓に向かって狗神を向かわせる。楓は手に持った巨大手裏剣を回し、狗神の攻撃を防いだ。

 

「ふむ中々…ではこれは如何でござるか?」

 

 楓は分身を小太郎に向かわせる。小太郎は楓の分身の蹴りや拳に苦無などの攻撃を避けたり防いだりした。

 

(落ち着け俺、分身の攻撃はフェイクや。痛くも痒くも無いどれが本物か見分ける事さえ出来れば…)

 

 小太郎は分身の攻撃を防いでいる間に楓本人が間合いに入ってる事に気づかなかった。そのまま一撃を許してしまう。

 

「やるなぁ糸目のねーちゃん!ねーちゃんみたいなのが中学生やってるなんてなぁ!」

 

「そういう小太郎こそなかなかでござるな。しかしまだ本気を出していないと見た。本気を出してもいいんでござるよ?」

 

「へッ女に本気なんか、出せるかよ!」

 

 小太郎の攻撃を軽く避ける楓。本気ではなくとも地面を陥没させるほどの威力だ。

 そんな楓と小太郎の攻防を近くの木の幹で夕映が見ていた。

 

(これは夢なのですか…?まるでのどかやハルナが読むような、ジュニア小説の様な事が目の前で起こっているのです。明らかに人間離れした運動能力、楓さんが見せた分身などの常識を覆すような超常現象。そして先程言っていた魔力…つまり魔法。恐らくネギ先生も、そしてマギさんも…)

 

「まぁ今のところは私の出る幕はなさそうですね」

 

 夕映は傍観を決め込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「急いでくだせえ兄貴!さっきの狗族のガキに足止めされちまったせいで思わぬタイムロスでさ!」

 

「分かってるよカモ君!少し黙ってて!!」

 

 ネギはこのかの元へと足を速める。林を抜けると巨大な池に辿り着いた。見ればこのかの姿も見える。

 

「見えた!このか姉さんの姿ですぜ!といっても如何するんですか?あの銀髪のガキはハッキリ言えば兄貴よりも強い。ただ闇雲に突っ込んでも返り討ちにあうだけですぜ!」

 

「大丈夫!あの少年を出し抜く策を今考えたから!」

 

「ほんとですかい兄貴!?」

 

「上手くいくかどうか分からないけど、練習中の遅延呪文を使ってみる!」

 

 杖に跨り一気に行くネギ。一方の千草はまだ召喚の儀式の真っ最中だった。

 

「まだですか?」

 

 銀髪の少年が尋ねるが、まだやから少し黙ってろ!と怒鳴られてしまう。と銀髪の少年が気配を感じ取って池の方を向いた。

 

「彼が来たみたいだよ」

 

「何やて!?」

 

 千草も池の方を見ると杖に乗ったネギがかなりのスピードで此方に向かっているのが見えた。

 

「クソ!さっきのガキか!しつこいで!」

 

「貴女は儀式を続けて。彼の相手は僕がする。ルビカンテ行って」

 

 ルビカンテと呼ばれたのは顔に札を張った鬼のような化け物だった。ルビカンテはこくりと頷くと翼を広げてネギに向かってきた。

 

「きやがった、兄貴構わず突撃でさ!」

 

「うん!契約執行1秒間 ネギ・スプリングフィールド 最大加速!!」

 

 ネギは自身に魔力を供給し、更に加速した。そしてそのまま突っ込んでルビカンテを貫いてしまった。ネギはスピードを緩めることなくこのかの元へ向かう。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 吹け一陣の風 風花 風塵乱舞!!」

 

 ネギはの放った魔法は池の水をまきこんで霧状にした。水煙にまぎれて近づくつもりなのだろう。無駄な事をと銀髪の少年は呟いた。

 

「契約執行追加3秒 ネギ・スプリングフィールド!」

 

 ネギは更に自身に魔力を供給する。銀髪の少年はネギが何処からか来るのか気配で察知し手を前にかざす。しかし銀髪の少年が手をかざした所から現れたのはネギの杖だけ。

 銀髪の少年がネギの気配を次に察知したのは自分の真後ろ、灯篭に足をかけていたネギ。ネギは灯篭を思い切り蹴る。

 

「うわぁぁぁッ!!」

 

 ネギは気合と一緒に少年に向かって拳を放った。しかしネギの拳は少年の見えない障壁によって止められてしまった。

 

「結局はこの程度か…」

 

 少年は無表情だが、どこか失望の色を見せていた。

 

「ウソだろ!?兄貴の魔力で強化されたパンチを一歩も動かず障壁だけで!」

 

 カモが驚いている間に少年はネギの腕を掴み、身動きを封じる。

 

「実力差が離れているのは自分でも理解しているのに、敢えて接近戦に持ち込むとは…サウザントマスターの子供と聞いたけど結局はただの子供か。期待外れだね」

 

 このまま止めを刺してしまおう…と少年はネギに手をかざした。だがネギは慌てたり諦めた顔をしていなかった。むしろイタズラが成功して大喜びの顔だった。

 

「へへへ。引っ掛かったね」

 

 そう接近戦は少年に近づくための作戦、本命は

 

「解放 魔法の射手 戒めの風矢!!」

 

 少年の動きを封じ込める事。少年の体に拘束魔法が縛り上げる。

 

「そうか……これは遅延呪文」

 

 少年はそう理解し、カモがその通り!と叫びながら中指を上げた。

 

「水煙の中で魔法の射手をあらかじめ詠唱してたんだ!おまけに零距離の魔法発動ならどんなに強力な魔法障壁でも効果は最小になるって寸法だ!どんなもんじゃわれぇ!」

 

 ネギは落ちている自分の杖を拾い上げる。完全に形成は逆転したのだった。

 

「まさかこんな短期間で此処までの成長をなせるなんてね。認識を改めなくちゃいけない、ネギ・スプリングフィールド」

 

 少年は拘束されているのに偉く冷静だった。

 

「へっ動けない奴はそこで吠えてろってんだ!兄貴今の内にこのか姉さんを!」

 

「うん!」

 

 ネギは今の内にこのかを助け出そうとした。だがしかし

 

「このかさんが居ない!?」

 

 先程まで祭壇に寝かされていたこのかの姿が何処にも無かった。不意にカモは上を見上げてあんぐりと口を開けた。

 

「あっ兄貴アレ!」

 

 カモが指を差したそこにあったのは…

 

 

 

 

 

 ネギがこのかを助け出そうとした同じ時間に小太郎は楓によって拘束されていた。

 

「ふむ、結局本気を出さなかったでござるな小太郎。これでは勝った気がしないでござる」

 

「いでで、いや言い訳はせえへん。強かったで糸目のねーちゃん」

 

 小太郎は潔く負けを認めた。漸く終わったと思い、夕映は楓の元へ駆け付けようとした。その時だ

 

「!楓さん、アレを見て下さいです!」

 

 夕映はネギが居る祭壇の方を指差した。楓も祭壇の方を見ると其処から何本もの腕を生やした巨大な何かが現れていた。

 

 

 

 

 

 楓たちが見ていたのはマギ達からも見えていた。

 

「ちょっと刹那さん何あれ!?」

 

「なッなんだあれは!?」

 

 アスナと刹那は現れた巨大な何かに驚愕する。

 

「おいおいおい、なんだよアレ。シャレになってねえぞ」

 

 マギは余りにも巨大すぎるそれにむしろ笑いが来そうになった。

 

「ふむ、あれが千草嬢の呼び出したかった物か。いや私が想像してたよりも何倍も大きいのだな」

 

 アーチャーも現れた物が自分の想像してたものよりも大きかった様でそう呟きを零した。

 

 

 

「ふふふ、此処までよう頑張りましたなぁ。けど残念、儀式はたった今終わりましたえ」

 

 現れた鬼は四本の腕に前と後ろ両面に顔があると言う。まるで鬼の神、鬼神と言った方が良いのだろう。

 

「でででデカすぎだろ!何なんだコイツは!?」

 

 カモは余りにも巨大すぎて開いた口が塞がらない。千草はこのかと一緒に巨大な鬼神の肩に乗っていた。

 

「コイツの名は『リョウメンスクナノカミ』千六百年前に討ち倒されたと言う伝説の飛騨の大鬼神や。このかお嬢様のおかげで呼び出しは大成功や…と言っても大きすぎやろ。伝承よりもでっかくてビビったわ」

 

 呼び出した千草さえもビビったリョウメンスクナノカミ、呼び出されたこの大鬼神、倒すのは無理なのではないか…否ネギはまだ諦めていなかった。

 

「今はまだ完全に呼び出されていない。だったら今此処で完全に出ちゃう前にやっつける! ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

 

 ネギは鬼神を倒すために呪文を詠唱し始める。詠唱をしているネギをカモが必死に止めようとする。

 

「まッ待ってくだせえ兄貴!今の今迄兄貴は魔法を使いまくってるんですよ!?あんなバケモン倒すために魔法をこれ以上使っちまったら兄貴が倒れてしまいます!」

 

 カモの必死の呼びかけにネギは聞く耳を持たなかった。更に詠唱を続けるネギ。

 

「来れ雷精風の精! 雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

 

 ネギは雷の暴風をもう一度使用するつもりだ。千草もネギの周りにあふれ出る魔力に驚きを隠せなかった。

 

「雷の暴風!!」

 

 ネギの放った雷の暴風は真っ直ぐ鬼神に向かって行き直撃した。しかし…当たりはしたものの掠り傷一つも付いていなかった。ほぼ空っぽの魔力で放った雷の暴風は何時もの半分以下の威力しかなったのだ。

 

「アハハ!それの程度なのかえ坊や?痛くも痒くもないわ!サウザントマスターの息子と言ってもただのガキやったなぁ!」

 

 千草は高笑いをしながら夜空に手を伸ばした。

 

「このかお嬢様の力でこの鬼神はウチの思いのままや!この力があれば東に巣食う西洋魔術師に!皆の(・・)恨みを晴らす事が出来る!」

 

 千草の五月蝿すぎるほどの高笑いが池に響いた。ネギは何も言い返せず、何も出来なかった。呼吸が荒く、もう一歩も動けない状態だった。

 

「こっこのかさん……!」

 

 ネギはこのかに向かって手を伸ばそうとしたが、体のバランスを崩して膝から崩れ落ちてしまった。さらに最悪な事に

 

「善戦はしたようだけど…此処までの様だね」

 

 いつの間にか拘束魔法を破った少年が1歩づつネギに近づいてきた。魔力を使い果たしたネギには成す術も無かった。まさに絶体絶命だ。

 

(く…くそ!此処までなのかよ!)

 

 カモはもう何も出来ずにここで終わるのかと諦めかけていたが、カモは本山にてこのかを追っている道中に、マギがカモに言った事を思い出していた。

 

 ―カモお前はネギと一緒に居てくれ。お前はこんな中で作戦を考えるのは恐らく1番だ。もしもネギがピンチに陥ったら、お前の力でネギを助けてやってくれ。頼んだぞ―

 

(そうだ!俺は大兄貴から兄貴の事を任されたんだ。何かないか!?このピンチを打開できる何かは!)

 

 カモは瞬時に策を考え始め、ある一つの策を思いついた。それはパクティオーカードのまだ使っていない機能がカギを握っているのだ。

 

 

 

 

 

 マギ達の方からもリョウメンスクノカミの姿が完全に見え始めてきた。

 

「ネギの奴、若しかしなくても失敗しちゃったの!?」

 

「分かりません、でも助けに行かなければ!」

 

 アスナと刹那はネギ元に行きたかったが、鬼達が邪魔をして思う様に動けなかった。

 

「センパイ何処に行くんですか~?」

 

 月詠は刹那を逃すつもりなど毛頭も無く、刹那に迫ろうとしたが、真名が放った弾丸が行く手を阻む。

 

「行け刹那、神楽坂!ネギ先生の元へ!」

 

「此処は私達に任せるアル!」

 

 この場は真名と古菲が引き受けるようだ。

 

「もぉ~ウチの邪魔をせんといてくれますぅ?それに神鳴流に銃は効きまへんえ?」

 

「知ってるよ、お前を倒すんじゃない。足止めするだけさ」

 

 月詠の二刀流に対して真名は二丁拳銃で応じる。刹那は真名の実力を知っている。此処は任せても大丈夫だろう。

 

「すまない真名、此処は任せた!行きましょう明日菜さん」

 

「うッうん!マギさんにエヴァちゃん、茶々丸さんは!?」

 

 アスナはマギ達は大丈夫か尋ねるが

 

「俺は行けそうにない!だからお前らだけで行ってくれ!ネギを頼んだ」

 

 マギはやはりアーチャーの相手でネギの所には行けそうになかった。エヴァンジェリンは鬼達をあらかた倒したようで、マギの援護に徹している。茶々丸もそうだ。

 やはりネギの元へ行けるのはアスナと刹那だけの様だ。全速力で走る2人、しかし走っただけで間に合うのは到底無理だ。しかし走らなければネギの元へはいけない。とその時

 

『姐さんに刹那の姉さん、そっちは大丈夫か!?』

 

 行き成りカモの声が直接頭の中から聞こえてきた。アスナは頭にコピーのカードを当てながら

 

「如何したのよカモ!?」

 

『力を貸して下せえ!こっちはかなりピンチでさ!』

 

「今そっちに向かってるわよ!でも間に合いそうにない!」

 

『分かってます!今から姐さんたちを呼ぶんで!』

 

「呼ぶ!?」

 

 カモが言った呼ぶと言う意味は何なのだろうか?

 

 

 

 

 

「殺しはしないよ。けど自ら向かって来たということは、それ相応のリスクを負う覚悟があるということ…見れば体力も魔力も限界のようだね。よく頑張ったよネギ君」

 

 少年はネギに止めを刺そうとする。

 

「兄貴今ですぜ!姐さんたちを」

 

「うん」

 

 ネギはカモの合図でパクティオーカードを投げる。

 

「召喚! ネギの従者 神楽坂明日菜 桜咲刹那!」

 

 ネギが呪文を唱えると、魔方陣が展開されそこからアスナと刹那が現れた。

 

「うわ、カモの言った通り本当に直ぐに来れた!」

 

 パクティオーカードの使った事の無かった機能、それは遠くに居る従者を自分の元へ来させると言う機能である。

 

「ネギ!もうアンタボロボロじゃない!」

 

「すみませんアスナさん刹那さん、僕、このかさんを…」

 

「何も言わなくてもいいわよネギ!後はアタシ達が何とかするから!」

 

 そう言ってアスナは鬼神に向き合う。がすぐさま滝のような汗を流しながら

 

「ネギにああいったけど、これ何とかなるのかなぁ…」

 

「何とかなるんじゃなくて、何とかするんですよ姐さん!」

 

 新たにアスナと刹那が現れても少年は全く動じず

 

「…それで如何にかなると思ったの?だとしたら無駄な足掻きだよ。ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト 小さき王 八つ足の蜘蛛 邪眼の主よ」

 

 カモは少年の詠唱を聞いて慌てだす。

 

「こッコイツは西洋魔法の呪文始動キー!?あのガキ西洋魔術師だったのか!しかもこの魔法はヤバい姐さん急いで奴の詠唱を止めてくれ!」

 

「え?え?如何いう事!?」

 

「駄目です間に合いません!」

 

 カモがアスナに少年の詠唱を止めるように叫んだがもう間に合わなかった。

 

「時を奪う 毒の吐息を 石の息吹!」

 

 少年が放った魔法は本山にて詠春を石にしてしまった石化の魔法だ。石化の魔法の煙が祭壇を包み込む。

 

「……しまった。威力があり過ぎた」

 

 少年も自分が思っていた以上の威力だったようだ。これならあの3人と1匹は確実に石になっただろうとそう思った。だが実際は

 

「なッ何とか逃げれました。敵はまだ気づいていない様です」

 

 間一髪の所で石化の魔法から逃れる事に成功したネギたち。

 

「まっまさに危機一髪って感じね。おかげで寿命が縮んだわよ。ネギアンタは無事?」

 

「はっはい、大丈夫です」

 

 ネギは大丈夫だと言ったが、呼吸は荒く体はボロボロであった。

 

「ちょっとネギ、大丈夫ってアンタボロボロじゃない!…!ネギその手!」

 

 アスナはネギの手が少しづつ石に変わっていくのを見た。

 

「大丈夫ですよ、少し掠っただけです」

 

 ネギはアスナと刹那を心配させないように笑いながら大丈夫だと言い切った。しかし掠っただけなのに石になるスピードが速い。このままではネギが石になってしまうのは時間の問題だ。

 

(…此処まで来たらもう…仕方がない…か)

 

 刹那はある覚悟を決めた。それはネギとアスナに本当の自分(・・・・・)の姿を見せるという事…

 

「ネギ先生と明日菜さんは今すぐ逃げてください。お嬢様は私が救い出します」

 

「ちょっちょっと待ってよ刹那さん!このかを助け出すってこのかはあの大きな鬼の肩に居るのよ!?ネギみたいに杖で空を飛ばなきゃ無理よ!」

 

 そう普通の人間が空を飛んでこのかの元に行くと言うのは到底無理だ。だが刹那は大丈夫ですよと無理して笑いながら

 

「私、杖など無くても飛べるんです。だって……私は普通の人間じゃないから」

 

「え?如何いう意味ですか刹那さん」

 

 ネギは刹那が言った普通の人間ではないと言う意味が今一分からなかった。

 

「先生明日菜さん、私お嬢様にでさえも秘密にしていた事があるんです。お二人には私の秘密を教えます…ですが、この姿を見せてしまえば私は皆さんにお別れをしなくちゃいけません。でも今なら貴方達になら」

 

 と刹那がグッと力を込めた次の瞬間バサァ…!と刹那の背中に白く大きな羽が生えた。マギの黒き翼のような魔力で出来た羽ではなく、本物の羽である。

 

「これが私の本当の姿。あの鬼達と同じ化け物です」

 

 刹那は悲しそうな笑みを浮かべていた。

 

「でも誤解しないでください!お嬢様を守りたいと言う気持ちに嘘偽りは有りません…ただ私のこの醜い姿をお嬢様に見られるのが怖かった…宮崎さんの様に自分の気持ちを打ち明ける事の出来ない弱い女なんです!」

 

 刹那は今迄自分がため込んでいた気持ちを今此処で吐き捨てるかのように叫んだ。刹那の叫びは悲痛な叫びなのかもしれない。しかし…

 

「ふぅ~んへぇ~」

 

 アスナは刹那の言っていた事をちゃんと聞かずに刹那の羽が本物なのかペタペタと触っていた。

 

「あッあの、明日菜さん?」

 

 刹那はアスナがやっていることが理解できなかった。そして触り終えたアスナは黙って刹那の背中を思い切り叩いた。パァンッ!という良い音が刹那の背中から響いた。

 刹那は軽く悲鳴を上げながら何するんですか!?と涙目でアスナに問い詰めると

 

「何が醜いよ刹那さん、背中から翼が生えて来るなんてカッコイイじゃない」

 

 と笑いながら刹那にそう言った。それにねと話を続けるアスナ

 

「私もこのかの親友やってるけどね、あの子が刹那さんの事をそんな簡単に嫌いになるわけないじゃない。このかと刹那さんは小さい頃からの幼馴染なんでしょ?ならもっとこのかの事を信じてあげなさいよ。刹那さんはまじめ過ぎなのよ。全くバカなんだからアタシは刹那さんの友達なんだから刹那さんを信じるわよ」

 

「そうですよ刹那さん。僕だって刹那さんの翼醜いと思わないし、寧ろカッコイイと思います!それに此処に居ないお兄ちゃんだって『翼が生えてても刹那は俺の大切な生徒の1人だ』って言ってくれるはずですよ」

 

「ネギ先生…明日菜さん…私の事を…」

 

 刹那はネギとアスナが自分の醜いと思っていた翼を見せても自分の事を友と言ってくれた自分を大切な存在だと言ってくれたそれだけで涙が溢れそうになった。

 

「行って刹那さん、此処はアタシとネギで何とかやるから。行くわよネギ!」

 

「ハイ!」

 

 自分の背中を押してくれたことに、刹那は一粒だけ涙を零した。泣くのはよそう、泣くならお嬢様を助け出してからだと刹那は目元をぬぐいながらも大きく羽ばたいた。

 

「ネギ先生…このちゃんのために頑張ってくれてありがとうございます」

 

 それだけ言って刹那はこのかの元へ羽ばたいた。

 

「無事だったんだね…だけども行かせないよ」

 

 少年は空を飛んでいる刹那に向けて詠唱を始めようとしたが、ネギの魔法の矢がそれを妨害した。

 

「ネギ、手は大丈夫なの?」

 

「はい。今のところは」

 

 と言っても石化がもう肘まで侵食していた。早く目の前の少年を如何にかしないとネギまでも石になってしまう。

 

「此処からどうしようカモ君」

 

「そうですね、もう策という策は使い果たしましたし、ここからどうしますか……」

 

 もう策が思いつかなかった。本当に此処から如何するのか途方に暮れていたその時

 

『坊や、おい坊や聞こえるか?』

 

 行き成りエヴァンジェリンの声が頭の中で響きだした。

 

「エヴァンジェリンさん!?何でエヴァンジェリンさんの声が行き成り!?」

 

『そんな事は今は如何でもいい。今そちらに向かっている。あと一分…いや一分半だけ持ち堪えてみろ。私が全て終わらせてやる』

 

 如何やらエヴァンジェリンが此処に来てくれると言うのだ。エヴァンジェリンが来てくれるならまさに百人力だしかし気になる点が一つ

 

「エヴァンジェリンさん、お兄ちゃんは如何したんですか?エヴァンジェリンさんはお兄ちゃんと一緒に居るはずじゃ?」

 

 ネギの疑問ににあぁその事だがとエヴァンジェリンは口を濁しながら

 

『マギは私に先に行けと言っていた。あの傭兵との戦いがまだあると言うのもそうだが、なんでも奥の手(・・・)を使うから危ないと…』

 

 

 

 

 

 時は数分程遡る。マギ達は鬼をあらかた倒し、残りはオヤビン鬼と子分の鬼それと狐のお面を付けた女にカラスとその他数名といった所だ。ゴウエンマは暴れるだけ暴れているようなものだった。

 マギは未だ何も動きを見せないリョウメンスクナノカミにマギ何処か嫌な感じがしてならない。

 

「おいエヴァ、お前茶々丸と一緒にネギの所に行ってくれないか?何か嫌な感じがしてならない」

 

「いいが大丈夫なのか?あの傭兵に一人だけで勝てるのか?」

 

 エヴァンジェリンはシネマ村でマギがボロボロになって負けてしまったのを見て本当に一人で大丈夫なのかと不安だったが、マギはサムズアップをしながら

 

「あのクソ傭兵なんか俺一人で大丈夫だ…実はなお前に内緒だったんだが奥の手を用意してんだ。だから心配しないで早く行け」

 

「……信じていいのか?」

 

「だから大丈夫だっての。お前意外と心配性なのな」

 

 マギがおどけながらそう言うのを見ながらエヴァンジェリンは

 

「そんな態度を見せるのなら大丈夫なんだろうな、行くぞ茶々丸」

 

「はいマスター」

 

 エヴァンジェリンはマギを信じてネギの方へ向かう事にした。

 

「死ぬなよ…マギ」

 

 それだけ言ってネギの元へ行ったエヴァンジェリン。

 

「良いのか彼女を向かわせても?闇の福音となら私を倒せたかもしれないのに」

 

 アーチャーの言った事にハン!と鼻で笑うマギ

 

「言ったろ、俺には奥の手があるって。その奥の手でテメェをブッ飛ばしてやる」

 

「それは楽しみだな。だったらその奥の手とやらを見せてもらおうか」

 

 あぁ見せてやるよとマギはアーチャーの誘いに敢えて乗った。そして息を吸うと

 

「真名!古菲!そしてその他の鬼共!!怪我したくなかったり死にたくない奴は俺に近づくな!!」

 

 それだけ言うとマギは深く深呼吸をし

 

「…!ハァァァァァ!!」

 

 全神経を自分の腕に集中する。マギの手の平に火の魔力と闇の魔力が集まり始めた。

 

「ほうあの闇の業火とやらをまた放つのか?無駄だ、貴様の魔法は私には効かないぞ。それが奥の手と言うなら全くの御笑い種だな」

 

 アーチャーの言った事に何勘違いしてんだお前は…とマギは馬鹿にするかのように笑いながら

 

「奥の手って言うのはこれからだ。この魔力をっウォォォォォォッ!!」

 

 マギは叫びながら拳に力を入れながら

 

「とり込むッ!!」

 

 魔力の塊を握りつぶした(・・・・・・)。アーチャーはマギが行った行動に

 

「きっ貴様!何をやっているんだ!?貴様自分がやった事が何なのか知らないのか!?」

 

 初めて動揺を見せた。

 

「如何した何ビビってんだお前?待ってろよこの新必殺技でテメェをッ!!?」

 

 マギは魔力が体中に廻ってくることに違和感を覚えそして…

 

「ぐぐぐ…グアァァァァァッ!!」

 

 想像を絶するような激痛が体中を巡り、マギは思わずのた打ち回った。

 体中の血がまるでぐつぐつと沸騰しているような感じがした。心臓が早鐘を打ち、今にも破裂しそうだった。

 

「げッげほぉッ!!」

 

 さらには血が混じった吐瀉物を吐き出し始めた。それでも激痛は収まらず、マギが絶叫しながらのたうちまわり続ける。

 

「ちょマギさん大丈夫アルか!?」

 

「マギさん…!」

 

 古菲と真名はマギを助け出そうとしたが、マギに近づくなと言われており近づいていいのか分からなかった。終いには

 

「ぐぎぎ……がぁぁぁぁぁッ!!?」

 

 突如謎の炎がマギの上半身を包み込んだ。マギの上半身の衣服が燃え尽きていく。このままではマギの体は炭化してしまうだろう

 

「この死に急ぎ野郎が!そんなに死にたいなら今此処で殺してやる!」

 

 口調が荒くなったアーチャーが長剣を持って、未だに炎に包まれているマギに接近して長剣を振り下ろそうとしたその時

 

 

 

 ガシッ!

 

 

 

 炎に包まれていたマギがアーチャーの長剣を掴んだ。

 

「な…に…」

 

 アーチャーは信じられないと言った声を出した。そして長剣を掴んでいたマギはと言うと

 

「あっあぶねー死ぬかと思ったわ。突然痛くなるわ、炎が出てくるはビックリしたし」

 

 マギを包んでいた炎が消えるとマギの姿が一変していた。元々赤かった髪の色がまるで紅蓮の炎の様に赤くなっており、髪が地面に着きそうなほど伸びていた。さらに肌も真っ黒になっておりまるで漆黒の闇の様だ。

 

「ちょ!マギさんすっごく変身してるアルよ!」

 

「え…?うぉぉぉ!何じゃこりゃ!?」

 

 古菲に言われてマギは自分の体の色や髪の毛を見て吃驚仰天していた。

 

「ばっ馬鹿な、信じられん」

 

 アーチャーはマギの変身を見て信じられないと言った様子だった。さらに信じられない事にマギが掴んでいた長剣がマギが掴んでいる所から解け始めていたのだ。

 

(なッこの男、剣を溶かすほどの高熱を発しているのか!?)

 

 アーチャーは使えなくなった長剣を手放すと何時もの黒と白の短剣を具現化した。

 

「しかし、この奥の手が上手くいくとは思わなかったぜ。それに変身したおかげが体中から力がみなぎって来るぜ」

 

 マギはそう言いながら拳を開いたり閉じたりしていた。これは燃えたら困ると、仕込み杖は遠くに放り投げた。

 

「んじゃ始めよう…」

 

 ぜと言おうとしたが、ゴウエンマが雄たけびを上げながらマギに向かってきた。のた打ち回ったり血反吐を吐いているの見てもう弱っているのと勘違いしたのだろう。殺すのなら今だと思ったのだろう。

 

 マギはやれやれだぜ…と呟きながら

 

「せっかくセリフを決めようとしたのに…邪魔すんじゃねぇッ!!」

 

 マギはゴウエンマに向かって巨大な炎の魔力の波動を放った。

 

「ぐッグォォォォォォ…!」

 

 ゴウエンマは炎の波動をもろに直撃し、断末魔を上げながら塵となって消滅した。あれほど大暴れしていたゴウエンマを一撃で消滅させてしまった事に呆然とする真名たち。

 

「ふう…やっぱ思ってた以上に強いけど使い勝手が難しいな。こういうのって時間制限がありそうだし…さっさと始めようぜクソ傭兵。ファイナルラウンドをさ」

 

 構えながらマギは不敵な笑みを浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 



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決着

漸く終わりました
それではどうぞ


そう言えばネギま単行本の設定資料集を見たんですけど
リョウメンスクナって身長が60mあるんですよねガンダムに出てくるビグ・ザムと同じ大きさだそうです


 火の魔力と闇の魔力を自分の体に取り込み変身したマギ。ぴょんぴょんと跳ねながら、準備体操する。

 

「何でだろうな、この姿になったおかげでテメェに負ける気がしねえぜ。そら掛かって来いよ傭兵さん?」

 

 クイクイとバトルシーンでやるような指を動かして挑発するマギ。マギは完全に自分が勝つと思っているようだ。

 

「……良かろう、その貴様の自信を今度こそへし折ってやろう」

 

 短剣を構えたアーチャーは次の瞬間には消えていた。シネマ村でやっていた高速移動だろう。シネマ村にてのマギだったらアーチャーの気配を追うのでやっとだったろう。しかしマギは目をキョロキョロとさせた後に

 

「!そこだ!!」

 

 マギも姿が消えるほどの高速移動をし、高速で動いていたアーチャーの身動きを止めていた。

 

「なにッ!?」

 

 アーチャーは身動きを封じられたことに驚きを隠せなかったが

 

「残念だけどよ、この姿になった事でお前の動きは全部見えてんだよ!」

 

 マギはアーチャーに容赦のない頭突きを喰らわせた。頭突きを喰らったアーチャーは呻き声を上げながら地面に叩きつけられる。

 

「どうだい?さっきまで自分の方が優勢だったのに形成逆転された気分は?ん?」

 

 マギはケラケラと小ばかにするようにアーチャーを嘲笑った。

 

「貴様、ずいぶんと余裕だな。その力でいい気なってるのではないのか?」

 

 アーチャーはフラフラと頭突きのダメージが残る中ゆっくりと立ち上がった。

 

「いい気なってるさ。さっきまで俺事を嘲笑いやがった奴との立場が逆転するならそりゃいい気になるさ」

 

 ゴキゴキと首を鳴らす余裕そうなマギ。さっきまで苦戦していたのが嘘のようだ

 

「やはり…やはり貴様が生きていてはいけない存在だと言うのが再認識できた!」

 

 そんな事を叫びながらアーチャーは再度マギに突貫した。

 

「分けわからねぇ事言ってんじゃねえよ!」

 

 マギも手刀で応じる。アーチャーの短剣とマギの手刀がぶつかり合うが、マギの体が今や鉄を溶かすほどの灼熱の体である。何合かぶつかり合うが直ぐにアーチャーの剣が溶けてしまう。溶けた剣を捨て新たに剣を具現化させるがそれ結局溶けてしまう。

 

「何というか逆に強くなり過ぎちまって怖いな…これもとに戻るんだろうな…」

 

 マギは強すぎた事に逆に戦慄を覚えた。

 

「さてと遊びは終わりだ。とっととテメェをブッ飛ばして俺はネギ達の所に行きたいしな」

 

 次で決めるとマギは構えた。いいだろうとアーチャーは呟きながら

 

「確かにこれ以上貴様と戦っても無駄に体力と魔力を失うだけだ。なら私も奥の手で貴様を葬り去ってやる…サイファ・ゼーロ・ニ・ヒツ」

 

 呪文の始動キーを唱え始めた。アーチャーも西洋魔術師だったようだ。

 

「我が盟約に従い 炎の精霊よ集え 猛る灼熱の炎よ すべてを焼きつくし 喰らい尽くせ!」

 

 アーチャーが詠唱をすると巨大な竜の形をした炎がとぐろを巻いていた。

 

「豪爆炎!」

 

 魔法が発動し、炎の竜は真っ直ぐマギに向かって行った。

 

「マギさん危ないアル!」

 

「避けろマギさん!」

 

 古菲と真名では炎の竜を止める事が出来ない。マギに避けろと叫ぶがマギは全く動じなかったそれどころか

 

(若しかしたら…な)

 

 何とマギは炎の竜を真正面から受け止めた。更に信じられない事が起こった。炎の竜がマギの腕に飲み込まれ、否吸収されていた(・・・・・・・)

 

「ま…まさかとは思ったけどよ、うまッく行くとはなぁ!」

 

 マギはアーチャーが放った魔法を自ら吸収する事で自分の力にしたのだ。

 

「これで決めてやる!マギウス・ナギナグ・ネギスクウ 我が右腕に集まれ炎の精よ 我の右腕を全てを灰燼へと化す炎神の腕へと変えよ!」

 

 マギの詠唱によりマギの右腕が巨大で燃え盛る炎の腕へと姿を変えた。

 

「覚悟しろよクソ傭兵、今の俺の右腕は全てを燃え尽きさせてしまう炎の腕だ。テメェでも無事では済まねえだろうよ」

 

「くっそ……」

 

 アーチャーはよろめきながらも再度剣を具現化した。ただの剣では今のマギに敵う可能性は零に近いだろう。

 

「マギ・スプリングフィールドぉ!」

 

「行くぜぇ!」

 

 マギの炎の腕とアーチャーの剣がぶつかり合うが、マギの炎の腕によりアーチャーの剣はアッサリと破壊されてしまった。

 

「ばっ馬鹿……な」

 

 アーチャーは自分が負けるというのが信じられないという様子だった。そんなアーチャーを無視してマギは止めに入る。

 

「右腕全力解放! 炎神の豪爆炎拳!!」

 

 マギの炎の拳によって放たれた正拳突きが、アーチャーの体に抉るように入った。

 

「ぐっグホォッ!?」

 

 アーチャーは呻き声を上げながら血反吐を吐き散らした。

 

「このまま……吹っ飛びやがれぇッ!」

 

 その叫びと一緒にマギは拳を振り抜きアーチャーを文字通り吹っ飛ばした。殴り飛ばされたアーチャーはノーバウンドでスピードを緩めることなく、雑木林に轟音を立てながら突っ込んだ。

 アーチャーが吹っ飛ばされ、雑木林は土煙が舞い上がってアーチャーの姿は分からないが、恐らくは無事ではないのだろう。

 

「へっ今まで馬鹿にしたお返しだ。ざまぁみやがれ」

 

 構えを解いたマギは吹っ飛ばされたアーチャーに向かってそう呟くが、次の瞬間には顔に汗をにじませて膝から崩れ落ちると

 

「げっげぼぉ!!」

 

 先程よりも大量の血の混じったと云うよりも血だけを吐き出した。実際変身してパワーアップに成功したマギではあったが、体の中では色々と凄い事になっていた。

 常人以上の力を出すために臓器などに無理をさせ過ぎてしまったのだ。そのせいで内臓はボロボロである。

 つまりはやせ我慢をしていたのだマギは。一瞬でも気を抜いたら意識を持ってかれそうになったからだ。アーチャーを倒したことにより、遂に限界を突破したのだ。

 

「マギさん!」

 

「マギさん大丈夫アルか!?」

 

 真名と古菲がマギの元へ駆け付ける。2人から見てもマギがボロボロだと云うのが目に見えて分かる。

 

「おっお前ら、何か勘違いしてるかもしれねえがこれは今日の夜に飲んだトマトジューッゲホォッ!」

 

 マギは真名と古菲に誤魔化そうとしたが、又血を大量に吐き出した。これ以上血が無くなると最悪死に至るほどの血の量だ。

 

「ちょ、こんな時に笑えない冗談はやめるヨロシ!」

 

「流石にこれ以上の出血は死ぬぞマギさん」

 

 笑えないギャグを言って誤魔化そうとしたマギだが、逆に怒られる始末。しかしマギは口元の血を腕で拭うと心配すんなと笑いながら立ち上がると

 

「んな簡単にくたばるつもりはねぇよ。それでまだ残ってる鬼共に眼鏡二刀流はまだやるのか?」

 

 マギがオヤビンの鬼達や月詠にまだヤルのか尋ねるが、いやもうええわとオヤビン鬼がそう言った。

 

「何かもうそんな空気じゃなくなってもうたわ。不完全燃焼って感じやけどしょうがないやな。それにもう時間の様やし」

 

 とオヤビン鬼達が足からどんどんと消えて行ったのだ。時間切れなのだろう。

 

「ええ戦いっぷりやったなアンちゃん。今度はワイとやろうやないか」

 

「冗談。こんなキツイ事、当分こりごりだっつーの」

 

 さっさと消えろと言いたそうにシッシッと追い払う仕草をするマギ。可愛げのねぇアンちゃんやなとオヤビン鬼は笑いながらそう言った。

 

「そう言えばまだアンちゃんの名を聞いては無かったなぁ。アンちゃん名はなんちゅうんや?」

 

「マギ、マギ・スプリングフィールドだ。別に覚えて無くてもいいぞ」

 

 オヤビン鬼はマギの名を聞いていい名やなとそう言ってサムズアップしながら

 

「じゃあなマギのアンちゃん。今度会った時は一緒に酒でも飲もうや」

 

 それだけ言うとオヤビン鬼や他の鬼や狐面とカラスなども消えてしまった。消えてしまった後でマギは

 

「タバコは吸うんだけど、酒はちょっと苦手なんだよな……」

 

 と呟いた。敵側で残ったは月詠一人だけ

 

「んでお前はまだやるのか?」

 

 と尋ねるといいえーと首を横に振った。

 

「ウチも退散させてもらいますー。まだセンパイとちゃんと死合ってもらってないのに死ぬなんてまっぴらですからー」

 

 と言い残し、月詠も一目散に逃げて行った。古菲と真名は深追いする事は無かった。それよりも心配なのはマギの方だ。

 

「マギさん本当に体は大丈夫アルか?」

 

 古菲は心配そうにもう一度マギに大丈夫なのか尋ねるがマギは大丈夫の一言

 

「今は俺の事よりもネギの方が心配だ。俺はネギ達の元へ行くからお前達も後から来い」

 

 そう言ってマギは黒き翼を(変身したせいか翼も何時もの黒の翼ではなく炎の赤い翼となっていた)展開しネギ達の元へ飛んで行った。

 ポツンと取り残された古菲と真名、古菲がポツリと

 

「大きい鬼達と戦ったり、マギさんが変身したり空飛んでったり。私は夢でも見ていたアルか?」

 

「ふっ残念だが此れは現実さ古菲。世の中には摩訶不思議な事があっても可笑しくは無いんだ。さて、私達もネギ先生の所へ向かうとするか」

 

 古菲と真名も走りながらネギ達の元へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マギとアーチャーとの戦いに決着がついた少し前の時間、ネギとアスナと刹那の方でも決着がつきそうだった。

 ネギとアスナが対峙しているのは銀髪の少年。ハッキリ言って満身創痍のネギと戦闘経験の少ないアスナでは勝つ見込みはあまりなさそうだ。

 

「それでどうすんのネギ?」

 

 ハマノツルギを構えながら、これから如何するのかとネギに尋ねるアスナ。そうですね…と少し考えた後笑いながら

 

「正直言って自分で考えられる策は全部使ってしまいました。後はエヴァンジェリンさんが来るまでの時間稼ぎ…何も考えずに当たって砕けろって感じです」

 

 ネギの答えを聞いてアスナは何よそれ、と呆れていたが次には笑いながら

 

「けど何も考えずに当たって砕けろなんてアタシらしくていいじゃない。こうなったらとことんやってやろうじゃない!」

 

「行きましょうアスナさん!」

 

「オッケー!!」

 

 まだヤル気のあるネギとアスナを見て銀髪の少年は呆れたような溜息を吐きながら

 

「まだやるのかい?無駄な事だと云うのに…」

 

 実に無意味だと無表情なのにそう言ってるように感じ取れた。

 

「うっさいわね、何でもかんでも自分の物差しで測ってるんじゃないわよ!ネギ!」

 

「はい!契約執行20秒間 ネギの従者 神楽坂明日菜!」

 

 ネギはなけなしの魔力をアスナに供給する。ネギから魔力を貰ったアスナは銀髪の少年に突撃する。

 

「やぁぁぁッ!」

 

 アスナは気合と一緒にハマノツルギを振り下ろすが、少年はアスナが振り下ろす前に突如消えた。

 

「え?きっ消えた!?」

 

 少年が行き成り目の前で消えた事に驚き、何処に行ったのか辺りを見渡す。そんなアスナの真上に足を振り上げた少年の姿が

 

「姐さん上だ!」

 

 カモが叫んだが一足遅く、少年の空中回し蹴りがアスナの腹に直撃したのだ。そのまま祭壇の木の床に叩きつけられるアスナ。

 

「アスナさん!」

 

 ネギが叩きつけられたアスナの元に駆け付けようとしたが、ネギの真後ろに少年が回り込んでいた。

 

「いっ何時の間に!?」

 

 ネギはガードをしようとしたが、少年の重い一撃がネギを吹き飛ばした。吹き飛ばされたネギはアスナまでも巻き込みアスナと一緒にそのまま一緒に叩きつけられた。

 

「つッ強ぇ!あのガキ、魔法も半端なく強いが近接戦も兄貴や姐さんの数倍の強さだ!」

 

 カモはこの少年に対して今のネギとアスナの実力じゃ歯が立たないという事を理解した。ネギとアスナが倒れて怯んでいる隙に少年は再度ネギ達に接近し連続攻撃を食らわしてくる。

 ネギとアスナは反撃できずに少年の攻撃を防ぐので精一杯である。更に少年の肘打ちによってまたもや吹っ飛ばされてしまう。

 

「ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト 小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ」

 

 少年は動けないネギとアスナに止めを刺そうと魔法を詠唱した。

 

「ヤバい!この魔法詠唱はさっきと同じ石化の魔法!それにさっきよりも強力な奴だ!兄貴迎撃を!」

 

「うッうん! ラス・テル・マ・スキ…あぐ!」

 

 ネギは迎撃するために魔法を詠唱しようとしたが、ネギは膝をついてしまった。やはりほとんど魔力が無いのに無理をさせてしまったのか。

 

「その光我が手に宿し 災いなる眼差しで射よ」

 

 少年の指先に魔力の光が集中していった。

 

「くそ間に合わねぇ!もう駄目だ!」

 

 カモはもうお終いだと叫んだ。

 

「ネギ!」

 

 アスナはネギを守ろうとネギを抱きしめて自分が盾代わりとなる。

 

「石化の邪眼!」

 

 少年の石化のビーム状の魔法がアスナに直撃した。

 

「アスナさん!?」

 

 ネギは身代わりになって魔法を受けたアスナに向かって叫んだ。自分の様に石化しまうのかと思っていたが、石化の魔法はアスナに直撃しないで、障壁ではない別の力がアスナを石化の魔法から防いだのだ。

 しかし力が強くなかったのか上の服がどんどん石になってしまいボロボロと崩れ落ちて行った。

 

「あっアスナさん?」

 

「大丈夫よネギ心配しないで」

 

 ネギの心配そうな目にアスナは軽くウィンクをして、自分は大丈夫だと伝えた。

 少年はアスナが魔法を防いだのを観察しながら

 

「いまの力、やはり魔力完全無効化能力?…なら先に君を潰しておこうカグラザカアスナ」

 

 少年はターゲットをネギからアスナへと変更した。もうネギの魔力供給は無くなっている。少年の攻撃をモロに喰らったらアスナは最悪死ぬかもしれない。

 少年の拳がアスナに直撃しようとした次の瞬間

 

 

 ガシッ!

 

 

 ネギが少年の腕を掴んで少年の動きを封じた。少年はネギの拘束を解こうとしたが、ビクともしない。ネギは呼吸をしながらも

 

「あっアスナさんに手を出すな!アスナさん!!」

 

 大丈夫よとアスナはハマノツルギを構えて動けない少年へ突っ込んだ。もう上の服が砕け散って裸になってしまっているが今はそんな事を気にしてる暇は無い。

 

「女の子を裸にするようなイタズラなガキはお仕置きよ!」

 

 ハマノツルギを少年の頭に叩きつける。スパンと云う良い音と同時に少年を守っていた障壁も砕け散った。

 

「兄貴今ですぜ!」

 

 カモの合図でネギは今残っている魔力全てを石になっている腕に集中した。

 

「うぉぉぉぉッ!」

 

 ネギは叫びながら少年の頬を思い切りぶん殴ったのだ。

 

 

 

 

 

 一方の刹那も決着が着きそうだった。

 

「天ヶ崎千草、お嬢様を返してもらう!」

 

 刹那はスピードを緩めることなくこのかの元へ羽を羽ばたかせる。

 

「お前は!こんなに近くじゃスクナの力を使えん!」

 

 千草は猿と熊の着ぐるみを召喚して刹那を迎撃させようとしたが、間に合わず!

 

「はぁッ!!」

 

 刹那は鬼達を斬り伏せて、このかを千草の元から救い出した。

 

「お嬢様、お嬢様!御無事ですか!?」

 

 刹那はこのかの口を塞いでいる札をはがし、無事かどうかを聞いた。

 

「う…う~ん、あれせっちゃん?」

 

 このかがゆっくりと目を覚ました。如何やらどこも怪我も無く無事の様だ。

 

「お嬢様…!よかった…」

 

 刹那はこのかが無事だと分かり、安堵の息を吐いた。このかはへにゃりと笑いながら

 

「せっちゃんやっぱり助けに来てくれたんやね…うち信じてたえー」

 

 そう言いながらこのかは刹那の白い羽を見て

 

「せっちゃんその羽は?」

 

「こッこれはその…!」

 

 自分の秘密だった羽を見られてどう言い訳しようか迷っていると

 

「綺麗やねせっちゃんの羽、まるで天使みたいや」

 

 このかは刹那の羽を綺麗だと言ってくれた。自分の羽を綺麗だと言ってくれた。刹那は先程のアスナの言っていた事を思い出した。

 

 ―あの子が刹那さんの事をそんな簡単に嫌いになるわけないじゃない―

 

(あぁ…私はなんて愚か者なんだ…!)

 

 お嬢様を守ると言っていながら自分はこのかの事を信じていなかった。刹那は泣きながらこのかの事を強く抱きしめた。

 せっちゃん?と行き成り抱きしめられて顔を赤くしながら刹那を見るこのか。刹那は嗚咽しながらも

 

「ごめんねこのちゃん!それと……ありがとう」

 

 今迄このか事を信じていなかった謝罪の言葉と、自分の本来の姿を見せても嫌いならないでくれた感謝の言葉を言った。このかは何も言わず黙って刹那の頭を撫でてあげた。

 

 夜空を飛んでいる刹那とこのか。漸く仲直りが出来たようだ。

 

 

 

 

 

 銀髪の少年にありったけの力を込めて殴ったネギ。少年は殴られたままピクリとも動かなかった。

 

「やっやったの?」

 

 アスナは恐る恐る尋ねたが、ネギ自身もよく分からない。

 手ごたえはあった、なのに何も反応を見せないと云うのは逆に不気味だ。

 

「……顔に拳を入れられたのは初めてだよ。ネギ・スプリングフィールド」

 

 振り返った少年の眼はギラリと光っており殺意まで孕んでいた。

 少年はネギに殴り掛かってきた。今のネギに防ぐほどの体力と魔力は残っていない。

 此処までかと思っていたその時、ネギの影から手が出てきて少年の腕を掴んだ。ズズズと体が出て来始めた。ネギの影から出て来たのは

 

「坊やが世話になったようだな若造」

 

 エヴァンジェリンがネギの影から現れて少年を吹き飛ばした。

 

「エヴァンジェリンさんどうやって此処へ!?」

 

 ネギは行き成り自分の影からエヴァンジェリンが現れた事に驚きを隠せなかったがエヴァンジェリンは

 

「今はそんな事どうでもいいだろう?それにしてもよく頑張ったな坊や。後は私に任せろ…茶々丸」

 

「はいマスター」

 

 エヴァンジェリンの合図で茶々丸は何処から取り出したのか対戦車ライフルをリョウメンスクナノカミに向けて構えた。

 

「マスター結界弾セットアップできました」

 

「やれ」

 

「了解です」

 

 エヴァンジェリンの命令で茶々丸はライフルの引き鉄を引いた。結界弾なる弾がリョウメンスクナノカミに直撃すると簡易的な結界がリョウメンスクナノカミの身動きを封じた。

 

「うぎゃぁぁスクナが!?」

 

 動きを封じられ千草は悲鳴を上げるしか出来なかった。

 あの巨大なリョウメンスクナノカミの身動きを封じた事にネギとアスナにカモはポカンとするしか出来なかった。

 

「この位の結界では10秒ほどしか持ちません。お急ぎを」

 

「ご苦労茶々丸。さて坊や?」

 

 エヴァンジェリンは魔力の蝙蝠を集めて作った黒いマントを羽織りながらネギの方を向いた。

 ネギは、はッハイ!と思わず姿勢を正してしまう。

 

「こう言った大規模な戦闘での魔法使いの役目は、強力な砲台になる事、つまりは火力が全てだ。今から私の最強で最高の魔法を見せてやる!いいな見てろよ、絶対見るんだぞ!」

 

 念を押すほどだから見てほしいのだろう。エヴァンジェリンはリク・ラク・ラ・ラック・ライラックと詠唱を始めた。

 

「契約に従い我に従え氷の女王 来たれとこしえのやみ! えいえんのひょうが!!」

 

 エヴァンジェリンの魔法によって池の水が凍りついてしまい、リョウメンスクナノカミの体まで凍り始めた。何とか逃げようとして千草を振り落してしまう。

 

「なっなんやと!?次々に強力な魔法を!お前は何もんや!?」

 

 如何やら千草はエヴァンジェリンの存在を知ら無いようだ。クククと悪そうな笑みを浮かべるエヴァンジェリン。

 

「相手が悪かったな女、ほぼ絶対零度150フィート四方広範囲の完全凍結殲滅呪文だ。このデカブツでも防ぐすべはないぞ。そして私の事を知らないとは、ならば教えてやろう!我が名は吸血鬼『闇の福音』エヴァンジェリン!最強無敵の悪の魔法使いだ!貴様の敗因はただ一つ…この私の存在を知らなかった事だ!フフフハハハハ!!」

 

 エヴァンジェリンの口上を聞いていたネギ達はと言うと

 

「エヴァンジェリンさん張り切ってますね」

 

「そうね。アタシ達あんなのと戦ったのね……マジの戦いだったら死んでたわね」

 

「ノリノリだな」

 

 其れしか言えなかった。エヴァンジェリンの攻撃はまだ終わらず

 

「全ての命ある者に等しき死を 其れは安らぎ也」

 

 リョウメンスクナノカミは完全に凍りついてしまい、巨大な氷の像へと成り果てたそして

 

「おわるせかい……砕けよ」

 

 エヴァンジェリンが指を鳴らすと同時に、氷像と化したリョウメンスクナノカミは轟音を立てながら崩れ落ちた。

 

「くくく。ハハハハ!バカめ、伝説の鬼神か知らぬが私の敵ではないわ!」

 

 ご満悦でエヴァンジェリンはネギ達の元へ降りてきた。

 

「如何だ坊やこの私の力しっかり目に焼けつけたか?」

 

「はっはい、凄かったです」

 

 素直に凄いと言ったのでエヴァンジェリン自身も満足の様だ。

 

「それよりもどうやってエヴァちゃんが来たの?ネギの影から出て来た時にはビックリしたけど」

 

 アスナの疑問にあぁそれはなとエヴァンジェリンは説明を始める。

 

「前に坊やの血を少しだけ飲んだ事があっただろう?そのおかげで私と坊やに生体的リンクが出来たんだ。と言っても私の一方的な物だけどな。そのリンクを使って私は坊やの影までの転移魔法を使ったと言う訳だ」

 

 と説明を終えた。さて坊やとエヴァンジェリンは行き成り真剣な顔になって

 

「今回の戦いで勝てたのはハッキリ言えば私のおかげだ。次このようなピンチになっても私の力を期待できない事があるかもしれない。強い奴に頼る事は卑怯じゃない。しかし自分の力だけで解決すると云う事も肝に銘じておけ」

 

「はっはい」

 

 ネギの返事が辛そうに聞こえ、エヴァンジェリンはネギに大丈夫かと聞く。エヴァンジェリンは気づいていなかった。先程吹き飛ばした少年が音も無く忍び寄ってきたことに

 

「エヴァンジェリンさん危ない!」

 

 ネギはエヴァンジェリンを抱き着き自分が盾になろうとした。

 

「おッおい坊や何をするんだ!?私にはマギが…」

 

 エヴァンジェリンは顔を赤くして動揺していたが、少年が冷たい目で自分達を見ていた事に気づいた。

 

「障壁突破 石の槍」

 

 少年は石の槍を出現させ、ネギとエヴァンジェリンを貫こうとした。

 

「ばか退け!」

 

 エヴァンジェリンはネギを突き飛ばそうとしたが間に合わなかった。このまま2人とも貫かれるのかと思ったが、突如行き成り横から誰かが現れ石の槍を破壊した。

 

「おっお前は!?」

 

 エヴァンジェリンは現れた人物に驚きを隠せなかった。

 

「おい、何人の弟と生徒にそんなぶっといモンをぶっ刺そうとしてんだおい」

 

 変身していたマギが石の槍を炎の腕で炭化させて、少年を殴り飛ばしていた。しかし殴り飛ばした少年は水となって崩れ落ちていた。如何やら水で作った分身の様だ。

 

「……マギ・スプリングフィールドが此処に居るという事は、彼は負けたという事だね。真祖の吸血鬼も居るという事で此方が圧倒的に不利だ。このまま退散させてもらうよ」

 

 あぁそれとと少年は何かを言い残したようで

 

「僕の名はフェイト・アーウェルンクス…ネギ君に言って置いてくれ。君とまた会うのを楽しみにしていると」

 

 捨て台詞を残して少年…フェイトの水の分身は消えた。敵は完全に居なくなったことで一応はマギ達の勝利という事なんだが

 

「まっマギさんなのよね?何なのよその姿!?」

 

 アスナはマギの変身した姿に驚きを隠せなかった。体が真っ黒で髪も長くなっていたら誰でも驚く。エヴァンジェリンはマギの変身した姿を見て信じられないと云う顔をしながら

 

(マギの奴あの魔法(・・・・)を何処で知ったんだ?あの魔法は普通の魔法使いじゃ知る者なんて居ない。知ってるとしたらナギやアイツラぐらいしかいないのに)

 

「おっお兄ちゃん、よかった。来てっくれたんだね……」

 

 ネギはマギが来てくれたことに安堵したのか、しかし荒い呼吸で倒れてしまった。

 

「おっおいネギ!」

 

「ネギ如何したの!?」

 

「兄貴!」

 

「坊や!!」

 

 マギ達は倒れたネギの元に駆け付ける。

 

「ネギ君!」

 

「ネギ先生!」

 

 先程降りてきたこのかと刹那もネギの元に駆け付ける。

 

「マギさん如何したんその恰好!?」

 

 このかもマギの代わり様に驚いていた。

 

「俺の事よりもネギを!」

 

 とこのかに向かって叫んだ。さらに楓に小太郎と夕映も駆け付けた。3人はネギよりも変身していたマギを見て驚いたが、俺の事よりもネギの方だとマギに突っ込まれてしまう。遅れて古菲と真名も到着した。

 茶々丸はネギの体を見て一言言った。深刻な状態だと

 

「ネギ先生の魔法抵抗能力が強すぎるために石化の進行速度がきわめて遅いのです。このままでは首部分まで石化しただけで、肺が圧迫されて窒息死の可能性が」

 

「そっそんな!何とかならないのエヴァちゃん!」

 

 アスナはエヴァンジェリンに何とかしてもらおうと思ったが、オロオロとした後にすまんと謝られ

 

「私は治癒魔術が苦手で何も出来ないんだ」

 

「そんな。このままネギが苦しんでいるのをただ眺めるしか出来ないの!?」

 

 アスナの悲痛な叫びを聞いて、このかと刹那が頷きあってアスナ…とこのかがアスナに近寄り

 

「なぁアスナ、ネギ君とウチキスしてもええ?」

 

 と言いだした。

 

「ちょこのか!こんな時に何言ってるのよ!?」

 

 アスナはこのかが場違いな事を言っていると勘違いして思わず怒鳴ってしまった。違うんよアスナとこのかは誤解を解こうとする。

 

「アスナとネギ君がやったパクテオーって奴ならネギ君を助けられると思うから…アスナそれに皆、ウチせっちゃんから色々と聞きました。助けてくれてありがとう」

 

 このかはそう言ってマギ達のお礼を言った。

 

「クラスの皆やマギさんが助けてもらって、ウチにはこれ位しか出来ひんけど」

 

 このかの言った事に確かにとマギはそう呟いた。

 

「あのクソ傭兵も言ってたが、このかの力だったら石化した奴らを助ける事が出来ると言っていた。それにパクティオーカードは潜在能力を引き出す効果がある。そうだよなカモ?」

 

「そうでさ大兄貴、だったらこのかの姉さんの力に賭けるしか」

 

 このかがネギと仮契約をすることに決定した。このかはネギと口を近づけ

 

「ネギ君…」

 

 軽いキスをした。ネギとこのかの間で仮契約が結ばれ、眩い光が祭壇を包み込んだ。

 

「ん…あれ?此処は…」

 

 目が覚めたネギに映ったのは、皆が心配そうに自分を見ているのと、巫女服で身を包んだこのかの姿があった。

 

「このかさん、無事だったんですね」

 

 ネギが何ともなく無事だと分かり喜び合うアスナ達。

 

「さて、これで一件落着だな」

 

 マギもこれで漸く終わったかと安堵していたその時

 

 

 

 ズキリ…

 

 

 

「ん?」

 

 何か体に変な痛みを感じたと思った次の瞬間

 

 

 

 ズキリズキリズキリズキズキズキズキズキズキ!ブシュウウウウウウウウッ!!!

 

 

 

「なんじゃこりゃぁぁぁッ!?体中がイテェ!!」

 

 マギの体中が悲鳴を上げ始めて、体の至る所から血が噴水のように吹き出した。

 ネギ達はマギが血を吹き出しながらのた打ち回っているのを見てギョッと目を見開いた

 

「マギ!?」

 

「お兄ちゃん!!」

 

 エヴァンジェリンとネギはマギが血を垂れ流しながらのた打ち回るのを見て駆け付けようとしたが、マギから近づくな!と叫ばれた。

 

「やっやっぱ魔力を取り込むなんて無茶過ぎた様だな…もッもう限界だだ……だわばら!!」

 

 何を言っているのか分からない叫び声を上げながら大爆発を起した。爆発が晴れると元のマギの姿に戻ってはいたが、白目をむいてぐったりと気絶をしていた。

 

「お兄ちゃんしっかりして!」

 

「……危険な状態です。このまま出血が止まらないと失血死の可能性が…」

 

 茶々丸がマギを診察し、そのような結果になった。マギが死ぬかもしれないと聞いてエヴァンジェリンは顔を蒼白にしながらマギの体を揺らし必死に呼びかけた。

 

「おっおいマギ死ぬな!死んだら私は許さないぞ!一緒に京都を回るって約束したじゃないか!おい近衛木乃香!早くマギを治せ!!」

 

「はっはい!」

 

 エヴァンジェリンの叫びにこのかはビクつきながらもこのかのアーティファクトでマギの傷を治し止血をした。

 

 だが血は止めたが失った血を戻す事は出来ない。

 

「茶々丸、例の薬を!」

 

「はいマスター此処に」

 

 エヴァンジェリンが言った例の薬とは本山に登る時にマギに飲ませた血を増やすあの血のような丸薬である。この丸薬は魔法薬であり、飲めばすぐさま血が増えると云う万能薬なのである。

 エヴァンジェリンは茶々丸から丸薬と水が入った水筒を引っ手繰るように取って、丸薬を何薬か口に入れ水を口にふくむと

 

(マギ、死ぬな!)

 

 口移しで丸薬をマギに飲ませた。マギは丸薬を辛うじて飲んでくれた。

 マギが丸薬を飲み込んで数分経つと、マギの指がピクリと動き

 

「あれ…俺何してたんだっけ?」

 

 マギがゆっくりと起き上がりながら頭を掻き、辺りを見渡した。

 

「マギ!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 エヴァンジェリンとネギが泣きながらマギに抱き着いた。

 

「なッなんだよネギにエヴァ!?今俺体中がスゲー痛いんだからくっ付くなって!」

 

 マギはくっ付いているネギとエヴァンジェリンを引き剥がそうとする。アスナ達はマギが何時も通りだと分かると漸く本当に安堵できた。

 こうしてこのかの救出作戦は成功で終わったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 本山にて石になってしまったのどかや詠春達をこのかのアーティファクトで元に戻している間、事の発端を起した千草はと云うと

 

「くそッ!まさかあんなバケモンが出て来るとは…しゃあない一度逃げて仕切り直しや!」

 

 リョウメンスクナノカミが倒されたときにちゃっかり逃げ出していたのだ。フェイトの姿も見えず一人で逃げる千草。

 

 まだ西洋魔術師への復讐を諦めておらず別の計画で今度こそと意気込んでいると…

 

 ―オ前悪人ダナ?-

 

 何処からか声が聞こえた。

 

「だッ誰や!?」

 

 千草の問いに声の主は答えずに

 

 ―自分ノ目的、欲望ヤ理想ノタメニ他人ノ犠牲モ躊躇ワナイ。ソレガ悪人―

 

 声の主は千草の足元から後ろから木々の間から声が聞こえてきて何処に居るのか分からない。それがかえって恐怖を煽る。

 

 ―ダガ自分ノ理想ニ誇リヲ持ツ悪ナラバ、何時ノ日カ同ジ悪ニ滅ボサレル事ヲ覚悟スルモノダ。貴様ニソノ覚悟ハ有ルノカ?―

 

 千草の足元に投げナイフが数本刺さった。恐る恐る上を見上げる千草が見た物は

 

「ソノ覚悟ガネェンナラ…テメェハ、タダノ馬鹿者カ三流以下ノ腰抜ケノ小悪党ダ」

 

 エヴァンジェリンの人形で茶々丸の姉であるチャチャゼロが自分よりも何倍も大きい剣を持ちながらケケケと笑っていた。

 

「ひっヒィィィィィツ!」

 

 千草はチャチャゼロの姿を見て腰が抜けてしまった。何とか逃げようとするが腰が抜けてるせいか上手く動けない。ケケケと笑いながら近づいて来るチャチャゼロ

 

「だっ誰か助け」

 

 千草は自分と目の前のチャチャゼロしかいないのに助けを求めた。

 

「自分ガ殺サレルト思ッタラ命乞イカヨ…誇リモネェ悪党ハ地ベタデモ這イ蹲ッテ死ニヤガレ」

 

 チャチャゼロは千草に剣を振り下ろした。剣は千草を貫くかと思いきや

 

 

 

 ギャンツ!!

 

 

 

 チャチャゼロの剣と何かぶつかった音が聞こえた。千草は閉じていた目を恐る恐る開くと

 

「すまない千草嬢、遅くなった」

 

 ボロボロのアーチャーがチャチャゼロの剣を具現化させた剣で防いでいた。

 

「傭兵無事だったんやな!けどボロボロやないか…」

 

 千草はアーチャーがボロボロなのを如何したのかと尋ねるとアーチャーはフッと笑いながら

 

「格下だと思っていたマギ・スプリングフィールドにしてやられたのさ。又一から出直しさ。それで如何するんだ千草嬢?君は此処で無残な最期を遂げるかい?」

 

 アーチャーの問いに何を馬鹿なと千草は呟きながら

 

「こんな所で死ぬなんてまっぴらや!今は惨めに逃げてもいい、けど近いうちに西洋魔術師達に復讐してやるんや!」

 

 千草の答えにアーチャーは笑いながら

 

「了解だ千草嬢。いや今からマスターと呼ばせてもらうが、私は君の僕になろう。君の復讐と私のマギ・スプリングフィールドの抹殺を共に成功させようじゃないか」

 

 そう言ってアーチャーは千草を横抱きしてあげた。抱き上げられて顔を赤くする千草。

 

「そういう事だ闇の福音の人形よ、私とマスターは失礼させてもらう」

 

 アーチャーは飛び跳ねてチャチャゼロから逃れ、すぐさま見えなくなるほど遠くまで逃亡をしてしまった。

 

「逃ゲヤガッタ…ケドアノアーチャーッテ言ウ傭兵、殺シ合ッタラ面白ソウダナ。ケケケ」

 

 チャチャゼロは今度会ったら殺し合ってみたいなとそんな物騒な事を思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わった早朝。少しでも休もうとしていたネギやマギであったが、逆に休めずに本山の周りを動いていた。

 

「お兄ちゃん、そんなに動いて大丈夫なの?」

 

 ネギはあれほどの大爆発を起したマギが普通に動いているのを見て心配そうに見ていたが、マギ本人は腕を回しながら

 

「別に大丈夫なのに、お前は心配しすぎなんだよ」

 

 マギは呆れたように言った。でも!とネギは心配だと言おうとしたが、マギとネギは身支度を整え何処かへ行こうとしている刹那の姿を見た。

 

「刹那さん、何処へ行くんですか?」

 

 ネギの声にビクッ!とする刹那。振り返った刹那は悲しそうな笑みを浮かべながら

 

「私の一族の掟で、あの姿を見られた以上私はこのかお嬢様の元から離れなければいけないのです」

 

 刹那はあの羽を見られたことで掟で去らなけばいけないのだ。

 

「そッそんな!それじゃあこのかさんは如何するんですか!?」

 

 ネギは納得できないで刹那に行かないでと説得しようとした。しかし刹那は首を横に振りながら

 

「このかお嬢様だったらネギ先生が付いていれば大丈夫です。お嬢様をお願いします」

 

 それではと刹那は立ち去ろうとする。ネギは刹那に行かないでと呼び止めようとしたが、マギに手で制止られた。おい刹那とマギが呼び止める。

 

「こんな形でこのかの元に去るなんて悔いはないのか?」

 

 マギの問いに当然ですと答えた刹那。

 

「お嬢様を守るという役目を果たし、神鳴流に拾われた私を育ててくれた近衛家への御恩も返す事が出来ました。なので悔いなんて有りませんよ」

 

 ええありませんとも刹那は言い切った。そんな刹那にそうかよとマギは呟きながらポケットからタバコを出して吸い始めた。

 

「なら何で、お前は今泣いているんだ?」

 

 刹那は泣いていた。悔いが無いなんて嘘だ。本当はこのかと離れたくない。

 

「お前は真面目すぎるんだよ。本当の気持ちをぶちまけちまえよ」

 

「私だって…ウチかてお嬢様と!このちゃんと離れとうない!このちゃんと一緒に居たいんや!」

 

 刹那の本当の気持ちの聞いてフッと笑うマギ。

 

「ちゃんとテメェの気持ちを言えたじゃねえか…だってさこのか」

 

 え?と刹那は今マギが言ったこのかという言葉に固まった。マギは自分の後ろの襖を開けると、其処にはこのかの姿が

 

「……何時から気づいてたんマギさん?」

 

「結構前から。でもお前も刹那の本当の気持ちを聞けて良かったんじゃねぇか?」

 

 マギの言った事にこのかはウンと頷いて刹那に近づいた。刹那は何と言っていいのか分からなかったが、このかが刹那に抱き着いた。

 

「おっお嬢様!?」

 

 このかに抱き着かれて動揺する刹那だが、このかよかった…と言う呟きを聞いて固まってしまう。

 

「よかった…せっちゃんが何処にも行かんで。せっちゃん、もう何処にも行かんといて…ウチと一緒に居てくれる?」

 

 このかの一緒に居てほしいという願いに刹那は

 

「喜んで…お嬢様!」

 

 涙を流すが笑いながら答えた刹那。仲直りも出来て本当の意味でこのかと刹那は昔のような親友に戻ったのだった。

 一応は一件落着だな…とマギはタバコの煙を吹きながらそう思った。

 

「全く強引な男だなお前は…」

 

 エヴァンジェリンは呆れたような顔をしながら現れた。おうエヴァとマギは言う。

 

「お前はいわば、アイツに一族の掟を破れと言っているようなものだぞ」

 

 エヴァンジェリンの言った事にマギは馬鹿だなお前と言いながら

 

「エヴァ、この言葉を知ってるか?『ルールって言うのは破る為にある』ってやつさ」

 

「全く…お前らしいよその言葉は」

 

 だろ?と笑いあうマギとエヴァンジェリンと

 

「ネギ~!マギさ~ん!大変よ!!」

 

 と大慌てのアスナが走ってきた。

 

「どッ如何したんですかアスナさん!?」

 

 アスナの慌てぶりに一大事なのかと慌てるネギ。如何したもこうしたもないわよ!とアスナ

 

「旅館に飛ばしたアタシ達の身代わりが大暴れしてるみたいなの!」

 

「ええ!?」

 

 もし身代わりと分かってしまったら一大事だ。一刻も早く旅館に戻らないと

 

「んじゃテメェらさっさと荷物纏めてホテルに急ぐぞ!」

 

 マギの号令で急いで荷物を纏めてホテルに戻る事にした。

 

「お嬢様、私達も急ぎましょう」

 

「もぉこのちゃんって呼んでもええのに、でも…早く行こせっちゃん」

 

 このかと刹那は笑いながら手を繋いでホテルに戻るのだった。

 

 

 

 

 

 




今回は何時もより長くなりました。
とここで原作とは違う点は千草さんが今後も登場するという事です
敵キャラでは千草さん好きなんですよね…着崩した和服がなんとも
修学旅行は恐らく後1~2話で終わる予定です


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修学旅行終了

今回で修学旅行編は終了です
長かった…
それではどうぞ


 修学旅行4日目、ホテルに戻ったマギ達は自分達の身代わりを回収するのに一苦労だった。

 アスナ達女性陣はなんとストリップショーを始めてしまい、何とか丸く収まったのだが、マギやネギの男性陣はしずな先生やあやかなどにキスを迫ってしまい、大騒ぎだった。

 これは新田先生の説教かと思いきや、ホテルの従業員に変装した本山の者達が誤って(・・・)教員達の飲み物にお酒を提供してしまったために、お咎めは無しとなった。

 身代わりも一応は騒動を起こすことなく?回収できたので一安心だ。

 

「いやはや全く一時はどうなる事かと思ったぜ」

 

「でも何も問題なくて良かったじゃんカモっち」

 

 和美とカモがそんな事を話していると奥の方からしずな先生が現れた。

 

「あら朝倉さん、班別の記念写真お願いしますね」

 

「はいはーい分かってるってしずな先生」

 

 了解でーすと言ってしずな先生と別れた。

 

「朝倉の姐さんは何か仕事が?」

 

「まぁ私は元々新聞部だからね。こう云った学校行事の記念写真を撮る仕事があるんだよ~」

 

 と和美は3-Aの班別の記念撮影へと向かった。

 和美が記念撮影(と云う名の盗撮作業)に勤しんでる間、本山にて激闘を繰り広げていたネギやアスナ達はというと部屋でゴロゴロと寝転んでいた。

 

「はぁ~こうやって寝転んでいると、昨日の戦いが夢だったんじゃないかって思っちゃうわね~」

 

「そうですねぇ」

 

「そうやねーやっぱり平和が一番やなせっちゃん?」

 

「えッはい、そうですねお嬢様」

 

 もぉまたお嬢様ってーとこのかがわざとらしく頬を膨らませてそう言った。しかしながら平和が一番、何もない事がなんて素晴らしいんだろうとアスナはそう思っていた。

 

「そういえばマギさんは如何したのよ?」

 

 アスナはマギの姿が無いのは如何してなのかネギに尋ねるが、ネギもマギが何処に行ったのか知らなかった。

 

「マギ先生なら先程マスターと一緒に京都の町を観光に行きました」

 

「「うわぁッ!?」」

 

 気配を消した茶々丸が背後から現れ、ネギとアスナを驚かせた。

 

「ちゃッ茶々丸さんビックリするじゃない!てか今マギさんエヴァちゃんと一緒に居るの?」

 

 アスナの質問にハイと肯定する茶々丸。

 

「昨日本山にてこのかさん救出に協力するならば、明日は一緒に京都を観光するという約束をしたのです」

 

 ―いッいいか茶々丸、明日は私とマギで二人っきりで京都を回るからな、いいか付いて来るなよ絶対付いて来るなよ!―

 

 赤面しながら茶々丸に喚き散らすように言ったマスター事エヴァンジェリンを見て可愛らしいと思う反面、自分の事を必要としなかった事に寂しさを感じていた茶々丸であった。

 

「へぇ~マギさんとエヴァちゃんが二人っきりで京都観光…ってあれ?」

 

(そう言えばマギさんって本屋ちゃんに告白されてあまつさえ事故だとしてもキスした仲なのよね?そこんところ考えてるのかしらマギさん…マギさんって一応はネギよりも女心が分かるけど偶に鈍感な所があるし)

 

 アスナにそんな事を思われているマギ本人はというと

 

 

 

 

 

「ぶ…ブエッキシッ!!う~風邪ひいてないのに、誰かが噂でもしてんのか?」

 

 とマギが鼻を啜っていると

 

「すッすまない…またせたな」

 

 黒のゴスロリに着替えたエヴァンジェリンがやって来た。

 

「ふ~ん」

 

 マギはエヴァンジェリンの頭からつま先までじっくりと眺めた。

 

「なッなんだ私の体をジロジロと見て!変な所でも有るのか!?」

 

 エヴァンジェリンが顔を赤くしながらマギに怒鳴った。いや別にと首を横に振りながらマギはエヴァンジェリンの頭を撫でまわし

 

「いやお前の服を見てたんだ。エヴァって黒の服が似合うよな。金髪と合って」

 

 とエヴァンジェリンの服を褒めた。褒められたと分かると気をよくしたエヴァンジェリンは

 

「とッ当然だ!この私は何でも似合うんだからな!」

 

 はっはっは!と高笑いをした。なんともまぁちょろいと言ったらちょろいもんである。

 

「さて…と無駄話も時間がもったいないからな。行きますか」

 

 京都観光に向かったのだ。と言ってもマギとエヴァンジェリンも京都の土地勘はあまりない。なので有名な場所に向かった。

 先ずは京都でも有名な金ぴかなお寺。

 

「しっかし日本も派手な事やるよな~お寺を金ぴかにするなんて。日本が昔黄金の国って言われていたのが頷けるぜ」

 

「あんなに金色で目が痛くなりそうだ」

 

 そんな嫌味も言っているが、実際は楽しんでいるエヴァンジェリン。他の観光者に頼んでツーショットの記念写真を撮った。

 お次は牛の像色々な部位をを撫でると御利益があるというパワースポットの場所へと

 

「そう言えばお前英語以外の科目が微妙だから頭でも撫でとけば?」

 

「おい!なんでこんな時で勉強の事を言うんだ!?」

 

 一応先生だし俺、とマギがそう思っているが牛の頭を撫でたエヴァンジェリン。成績を気にしてるのだろう。

 意外と可愛い所もあるんだなと思ってしまったマギ。

 お次は京都でも有名なお城なのにデカくなく一階建てのお城。

 

「日本のお城は全部が全部デカイものだと思っていたが違うんだな」

 

「そう云うお城ってものもあるんだろ。あとここの城は庭園とかもけっこう有名みたいだな」

 

 マギはガイドブックを見ながらエヴァンジェリンにそう教える。お城の中も綺麗だし、庭園には心を奪われてしまうほどだった。

 今更だが今の今迄徒歩で色々なとこを回っているので京都の街並みも見る事が出来た。

 とマギとエヴァンジェリンのお腹が鳴った。

 

「そういえばさっきからずっと歩き続けてたから腹が減ったな。どっかで休憩がてら軽く食べるか」

 

「そッそうだな!だったら京都と言ったら抹茶だろう!」

 

 何かベタだなとエヴァンジェリンのリクエストだが、マギ自身抹茶を飲んだことが無いのでいい機会だしとマギは軽く歩くと古風な甘味処があったので、そこで休憩がてら軽食を取る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

闇の魔法(マギア・エレベア)……んだそれ?」

 

 聞いた事の無い魔法にマギは首を傾げる。

 

「なッ!知らない…だと?」

 

 エヴァンジェリンは思わず絶句してしまい、食べようとしていたあんみつをこぼしてしまった。

 

「あぁ知らねぇよ。何だよ闇の魔法って凄い魔法なのか?」

 

 本当に知らない様で、マギは呑気にあんみつをぱくついていた。エヴァンジェリンは拳をわなわなと震わせながら

 

「お前が昨日本山で見せたあの姿、マギは魔力を取り込んだと言ったな?」

 

「あぁ取り込んだぜ?それが闇の魔法と何か関係があるのか?」

 

 マギの言った事におおありだとツッコむエヴァンジェリン。

 

「お前が使ったあの技法、あれは私が10年の歳月をかけて編み出した魔法…それをお前は何処で知ったんだ?」

 

「何処でってあんときは攻撃に使う魔法を自分の体に取り込めばスッゲー強くなれると思ったんだが…あれ?エヴァ今私が編み出したって言ったよな?」

 

 マギの問いにそうだと頷くエヴァンジェリン。それを聞いたマギははぁぁ~と項垂れた。

 

「なんてこった…誰も考えられなかった新必殺技だと思ったらもう誰かが使ってて、ましてやもう立派な名前もあるってさぁ。あれだよあれ…自分だけが知ってる物だと思って自慢してたらホントは皆知っていてそれで赤っ恥かく展開じゃねえかよ…穴があったら入りてぇ」

 

 マギは顔を恥ずかしさの余り赤くしながら悶えていた。

 

(しかしあの闇の魔法を私が10年で編み出した物をその場でしかも成功したと来た。全くスプリングフィールドの男と云うのは規格外な者ばかりだな)

 

 とエヴァンジェリンは戦慄を覚えたのと同時に怖いと思ってしまった。

 

(どうして私が好きになってしまった人間はこうも規格外なんだろうな…ナギもそうだった)

 

 自分が初めて好きになったナギも規格外の強さで、そしてバカで自分の決めた事は決して曲げない。マギもそんなナギに似ている所が有る

 

(そんなマギも私の前から居なくなってしまうのか…)

 

 ナギも自分の元から去ってしまった。マギも若しかしたら自分の元から居なくなってしまうのではないか…そう思ってしまうと怖い。

 

「なッなぁマギ、どうしてもというのなら闇の魔法をうまく制御できるように、私が師となって教えてやらんことも無いぞ?」

 

「ほッホントか!?」

 

 マギはエヴァンジェリンの提案に目を輝かせた。あぁ本当だと頷くとマギはヨッシ!と喜んだ。

 

「これでもっと強くなれるぜ!もっと強くなってクソ親父を越えてやる…!」

 

 と喜んでいると、自分の時計をふと見ておっとそろそろ時間だな…と呟いた。

 

「エヴァ、あんみつ食い終ったら最後に行く場所があるから」

 

「最後に行く場所?私が見たい観光場所は全て回ったが」

 

 未だ行っていない場所があったのかと考えていると、寺とかじゃねえよとマギは言った。

 

「クソ親父の別荘に行くんだよ今から」

 

「あぁそう言えばナギの別荘が京都にあるんだったな」

 

「だったってお前が言ってたんじゃねえかよ」

 

 すっかり忘れていたエヴァンジェリンにツッコミを入れて、あんみつと抹茶を飲み終わったマギとエヴァンジェリンは甘味処を後にした。

 

 

 

 

 

 ナギの別荘にはナギの腐れ縁でもある詠春が案内してくれるようで、マギとエヴァンジェリンは詠春との待ち合わせ場所に向かっていた。

 待ち合わせ場所に到着すると、もうネギやアスナ達がもうやってきており詠春が来るのを待っていたのだ。

 

「あッお兄ちゃん!」

 

 ネギがマギがやって来たのを見て手を振った。マギもお~と軽く腕を上げてこたえる。

 

「マスターマギ先生との京都観光は如何でしたか?」

 

「うむ満足だった!」

 

 茶々丸が京都観光の感想を尋ねるとエヴァンジェリンは満足そうに鼻を鳴らした。

 今の話を聞いたハルナ(面白そうだからという事で付いてきた)と夕映はマギに詰め寄った。

 

「ちょマギさん!今の話本当!?のどかに告白されてさらにキスまでしてっていうのに他の生徒とデートしたの!?」

 

「答えによってはマギさんでも許さないです」

 

 ハルナと夕映に問い詰めにマギもなんて答えていいか迷った。マギはのどかに告白されたり、キスもした。そんなのどかをほっといて他の生徒と一緒にいたら親友のハルナと夕映が黙っていないだろう。

 マギはハルナと夕映が納得するような言い訳を必死で考えてある事を思い出した。それは

 

「エヴァはな今迄は家の都合でこういった校外行事に行けなかったんだ」

 

「そういえば…1年や2年の時の校外授業や林間学校にエヴァンジェリンさんや茶々丸さん来てなかったような…」

 

「今回来れたのは家の都合が大丈夫だった。そういう事ですね?」

 

 嘘は言ってない。エヴァンジェリンは今迄呪いのせいで学校の外に出れなかった。だがマギが呪いを解いたおかげでこういった学校行事に行けることが出来るのだ。ただ呪いを家の都合にしただけである。

 

「まぁそういう事だ。中学最後の校外行事だろ修学旅行は。だからアイツにいい思い出と思ってな」

 

 とマギの言い訳を如何にか信じてくれたハルナと夕映

 

「な~んだ!そういう事か!だったら私達も誘ってくれたらよかったのに水くさいじゃんマギさん!」

 

「悪いがエヴァの方も人づきあいが苦手な方でな。大人数はちょっとな」

 

「そうですか。マギさんに下心がない事は分かりましたです。ですが…のどかを悲しませるような事はしないで欲しいです」

 

「おッおう…」

 

 夕映の凄味のある言い方に、マギは頷く事しか出来なかった。そんな遣り取りをしていると詠春がやって来た。

 

「皆さんお待たせしました。さぁ行きましょうこの奥にありますよ。狭い3階建の建物ですが」

 

 詠春がにこやかに(持っていたタバコをこのかに取り上げられながら)マギ達をナギの別荘に案内した。

 

「ってそう言えば私何処に行くか知らないで付いてきたけど何処行くの?」

 

「なんでもマギさんやネギ先生の父親の別荘に向かっているらしいです」

 

「へ~よく分からないで来たけど面白そうじゃん」

 

「マギさんのお父さんの別荘…」

 

 のどかはマギの父であるナギの別荘がどんなものか想像を膨らませていた。

 

「おい近衛詠春、スクナの封印は如何した?」

 

 エヴァンジェリンが詠春にスクナを如何したのか尋ねた。

 

「ご心配なく、スクナの再封印は完了しました」

 

 詠春の報告にエヴァンジェリンはご苦労と労いの言葉を送るが、いえ此方こそ厄介事を押し付けて申し訳ありませんと謝罪の言葉を送る詠春。

 話を聞くと、エヴァンジェリンも如何やらリョウメンスクナノカミを完全に倒すことなど出来なかったようで、精々氷漬けにして行動不能にしただけであったようだ。

 

「長さん、あの小太郎君は?」

 

 ネギは騒動の後、本山の者に拘束されてしまった。反乱紛いの事に首を突っ込んだ小太郎だ。まさか酷い事をされるのではと心配するネギであったが、ご安心をネギ君と詠春は笑いかけ

 

「それほど重い罪にはならないと思います。ですがそれなりの処罰はあるでしょう」

 

 ただ…と詠春は苦虫を潰しような顔をして

 

「今回の首謀者である天ヶ崎千草を取り逃がしたのが…それとマギ君が撃退したと思われるアーチャーなる傭兵の姿も在りませんでした。京都中をくまなく捜索したのですが、発見できず恐らくですがもう逃亡を成功してしまったのでしょう」

 

 という事は、まだアーチャーは自分の事を狙っているのだろう…やれやれ面倒な事だぜと呟いたマギ。

 

「天ヶ崎千草もそうですが、問題は他にもあります。あの銀髪の少年ですが、ただ今調査中です。彼が名乗っていたフェイト・アーウェルンクス…1か月前にイスタンブールの魔法協会から日本へ研修として派遣されたという事ですが、フェイトと云う名も偽名でしょう。それ以外は全く分からないと言っていいでしょう」

 

 そう詠春は言っているが、マギは詠春がフェイトを見た時にかなり動揺していた。何というかフェイト自体ではなく、フェイトの顔を見て動揺していた。まるで今この場にいる事自体が有りえないと言ったような…

 フェイトと云う奴はアーチャーかそれ以上の厄介な敵になるかもしれない…とマギは考えていた。

 

「此処です。着きましたよ」

 

 詠春が言うと其処には3階建てで、屋上には天文台があり草木が生い茂っており、まるで秘密の隠れ家だった。和美はカメラでナギの別荘を撮っていた。

 

「10年で草木が生い茂ってしまいましたけど、中は綺麗ですよ」

 

 アスナやこのかにのどか達はナギの別荘に入っていた。マギとネギは自分達の父であるナギの別荘を呆然と眺めていた。

 

「これがクソ親父の別荘…」

 

「此処ならお父さんの手がかりが…」

 

 掴めるかもしれないと思っていると

 

「おいマギ早く入れ!」

 

「ネギ~何ぼぉ~っとしてるのよ~!」

 

 エヴァンジェリンとアスナに呼ばれた。

 

「おいネギさっさと入るぞ」

 

「うッうん」

 

 マギとネギも別荘の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 別荘の中は一言で言ったら本が多いという感想が最初に来るだろう。モダンチックでとてもおしゃれだった。

 本が好きなのどかや夕映はナギへの好印象が上がった。

 

「此処に昔父さんが…」

 

 ネギはナギが此処に住んでいたという事にどんな事をしていたのだろうと想像を膨らませる。

 

「クソ親父…」

 

 マギは此処で少しでもナギへの手がかりがつかめる事を祈った。

 ナギの別荘を見学するのどか達。本が好きな図書館探検部の3人は梯子で登り、本を取っていた。エヴァンジェリンはそんなのどか達を呆れながら見ており

 

「おい良いのかあれ?」

 

 と詠春に尋ねる。

 

「お嬢様方!故人の物ですから手荒に扱わない様に!」

 

 詠春がそう注意する。

 のどかや夕映にハルナや和美達が自由にしている中、マギとネギは少しでもナギの手がかりが無いのかと色々と探していた。そこへ詠春がやってくる。

 

「如何ですかネギ君にマギ君、何か分かりましたか?」

 

 尋ねるがマギとネギは首を横に振って

 

「今のところは全然っすね。調べたい事が沢山あり過ぎて」

 

「時間がもっとあれば…今は修学旅行中なので」

 

「それならば鍵を渡しておきましょう。いつでも来ていいですよ」

 

 とにこやかに言う詠春。いつでも来れるというのは有りがたいと思ったネギ、あの長さんとネギは詠春の方を向いて

 

「長さんから父さんの事を聞いてもいいですか?」

 

「俺からもお願いします。詠春さんから見てクソ親父がどんな人間だったのか聞いてみたいっす」

 

 マギが頭を下げて、お願いする。そうですね…詠春は顎に手を当てて

 

「このかに刹那君、それと明日菜君にエヴァンジェリンも来てください。あなた達にも色々と話しておいた方が良いでしょう」

 

 詠春がこっちに来るように言った。アスナ達もやってくると詠春は1つの写真を見せた。集合写真の様だ。

 

「この写真は何ですか?」

 

 ネギは詠春が見せた写真が何なのか尋ねた。

 

「この写真はサウザントマスターとその戦友たちの写真です。かれこれもう20年位前の写真ですが…」

 

 その写真には若かりし頃の詠春とナギの姿が写っていた。ネギの知的やマギのどちらかと云うとクールさとはちがく、少年時代のナギはやんちゃそうな顔であった。

 

「この当時のナギは15歳でしたが、いや手を焼かせてもらいました」

 

 昔を懐かしむように笑う詠春。何か色々と迷惑をかけてしまった様で。クソ親父がすいませんでしたと謝っておくマギ

 

「わひゃーお父様が若いな~ネギ君も大きくなったらナギさん見たくなるんかなぁ?」

 

「ねぇこのかどんな写真なの見せて見せて!」

 

 アスナもこのかから写真を渡されて、若かりし頃の詠春やナギを見ていた。

 

「へ~ネギとマギさんのお父さんってこんなだったんだ…アレ?」

 

 アスナは詠春の隣に居る男性を凝視していた。白髪頭の中年で口にはタバコを加えていた。正直タイプな方だがそう云う事じゃない。

 

(この渋いオジサマとアタシ何処かで会った事が…?)

 

 アスナは中年男性を見た途端急に変な頭痛がアスナを襲った。

 

(いたッ!又変な頭痛…最近は来なかったのに何で…!?)

 

 アスナは突然来た頭痛に混乱していた。

 

「アスナ如何したん?」

 

 このかは急にアスナが頭を押さえていたので心配そうに見ていたが、ううんなんでもないわよ!と誤魔化した。

 

「私はナギの友人としてかつて起こった大戦の時に共に戦った戦友でもありました。そして20年前に平和が戻った時には、彼はすでに数々の活躍からサウザントマスターと呼ばれる英雄となりました」

 

 詠春の昔話を聞いていた(このかとアスナは若干理解してない様子)マギ達。しかしと詠春の話はまだまだ続いた。

 

「その戦で多くの魔術師が戦死しました。天ヶ崎千草の両親もその戦で亡くなっています。彼女の西洋魔術師への恨みや今回の行動もそれが原因の一つだと思います」

 

 成程とカモは今回の騒動の原因が分かったと頷いていた。

 

「戦以来私とナギは無二の友であったと思います…しかし彼は10年前に突然と姿を消しました。以来彼の消息を知る者は誰も居ません。ただし公式の記録では1993年に死亡となっています…すみませんお二人とも。私が知っているのは此処までです」

 

 詠春は申し訳なさそうに頭を下げた。いえ大丈夫です、気にしないでくださいとネギは詠春に言った。

 手がかりは無しか…とマギは溜息を吐いたが、再度写真を見ると気になる人物を発見する。

 

「詠春さん俺この男と合った事があります」

 

「え?誰ですか?」

 

 マギ言った事にネギや詠春にアスナ達が集まった。集まった事でマギは見た事がある男を指差した。

 

「コイツっす、クソ親父の左隣に居るローブみたいな服着てる奴っすよ」

 

 マギが指差した男を詠春は黙って見ていた。

 

「どッ何処で会ったのお兄ちゃん?」

 

 ネギはさらなる手がかりになるかもしれないとその男と何処で会ったのか詳しく聞いた。

 

「ほら俺達が図書館島でドラゴンから逃げた事があっただろ?」

 

「あ…あの時ね。あの時は本当に怖かったわ…」

 

 アスナはドラゴンに追われていた時の事を思い出し震えていた。

 

「それでネギ達を逃がして俺だけがドラゴンとやろうとしてた時にその写真の男が現れたんだよ。そん時はフード被っていて良く顔が見えなかったけど今思い出すとこの写真と同じ顔だったよ。そんでもってドラゴンを大人しくしてしまいやがった」

 

「名前はなんていうの?」

 

 ネギはドラゴンを大人しくさせた男の名を尋ねる。

 

「クウネル・サンダースとかそんなふざけた名前を名乗っていた。あれは絶対に偽名だった…人をおちょくって楽しむ性格だったなあの男は」

 

 其れだけを聞くと全く相変わらずだなアイツは…と詠春は呆れたような溜息を吐いた。如何やら知っているようだ。

 

「彼の本当の名はアルビレオ・イマ。彼もナギの友人では有りますが、私以上にナギを知っているはずです。彼なら若しかしたら私よりもナギの情報を持っているはずです」

 

「そう言えばそのクウネル……いやアルビレオって奴は、近いうちに俺やネギと会う事になるって言ってたな」

 

 クウネルこと、アルビレオ・イマが本当にナギの友人だと分かり、彼からならもっと有益な情報が手に入るかもしれないと希望が出て来た。

 

「よかったすね、兄貴に大兄貴。此処に来て親父さんの事が少しだけでも分かって」

 

「うん。僕京都に来れて良かったよ」

 

「そうだなこれでクソ親父に近づけたかね」

 

 少しでも収穫があった事に喜ぶマギとネギ。そんな2人に詠春が懐から、

 

「ネギ君にマギ君、実はこれを。若しかしたらナギ捜索の手がかりになるかもしれない」

 

 と大きな紙を丸めた物を渡してくれた。何が書いてあるんだろうと紙を開こうとしたら和美から声が掛かる。

 

「はいはーい話が終わったんなら記念撮影といくよ!」

 

 和美がカメラを持ちながら記念撮影をしようと言い出した。

 

「いや~実は5班と6班の写真を撮るのを忘れちゃってさぁ、だったら今此処で記念写真をと思って」

 

「へぇいいじゃん早速撮ろうよ!」

 

 とアスナやこのかは乗り気であった。エヴァンジェリンは嫌々である。

 

「私は嫌だぞ!それに此処にはザジの姿が無いじゃないか!」

 

「あぁそれなら心配なく、ザジさんなら他の班の子と一緒に撮ってもらったから」

 

 と色々と用意周到な和美。

 

「まぁいいじゃねえかエヴァ。最後の思い出の記念写真位撮ってもらおうぜ」

 

「まッマギが言うなら仕方ないな…」

 

 マギに頼まれ渋々とやるエヴァンジェリン。

 

「んじゃ撮るよ~ハイチーズ!」

 

 和美がシャッターを押して、ネギとマギも一緒に入った記念写真を撮ってもらったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行最終日、麻帆良女子の生徒達は京都駅に居た。後は新幹線に乗って午前中に麻帆良学園に到着して学園駅にて解散という流れである。

 

「皆さん修学旅行は楽しかったですかー?」

 

 しずな先生の問いに3-Aは元気よく答えていた。

 

(幼稚園児かよまったく…)

 

(やはりアホばっかです)

 

 千雨と夕映が3-Aの元気の良さに呆れていた。

 

「ネギ残念ね。お父さんの事、結局分からずじまいで」

 

 アスナがネギにそう言ったが、ネギはいいえと首を横に振りながら

 

「実は長さんからお父さんについての手がかりを貰えたんです。帰ってから開けてみようと思うんです」

 

 と詠春から渡された大きな丸まった紙を見せた。

 

「それに学園に居るクウネルって奴にもクソ親父の情報が貰えるかもだしな」

 

 マギは前にあったクウネル(アルビレオ・イマは言いにくいので偽名のクウネルで呼ぶことにした)からも、もし次に会ったら有力な情報を貰えるかもしれないと期待していた。

 

「ネギ先生とマギ先生!よかったら締めの一言をお願いしまーす」

 

 しずな先生に呼ばれてネギとマギは、しずな先生の元へ行こうとしたが、ネギが自分の荷物に躓いて盛大にスっ転んで、生徒達に大笑いされた。

 やれやれだぜ…とマギは呆れながら、ネギが再起動するまで自分が最初に締めの一言を送った。

 

「今日で修学旅行も終わりだ。明日は日曜日、しっかり休んで月曜日に元気な姿で登校するように」

 

 マギの言った事にはーいと答える3-A次はネギだがマギがほとんど言ってしまったが

 

「僕からは、明日はよく休んでください。休みだからと言って無理な行動は慎んでくださいね」

 

 とネギからの締めの一言も貰った事で、3-Aの生徒達は新幹線に乗ったのだった。

 

 新幹線の中は行と同じようにワイワイと騒いでいるかと思いきや皆静かに寝静まっていたのだ。

 

「やれやれ、あの騒がしかった3-Aが静かなものですな」

 

 何時も3-Aに手を焼いていた新田先生がそんな事を零していた。

 

「ほんと皆ハシャギ疲れちゃったのね」

 

 カワイイ寝顔で寝ているのを見てしずな先生がフフと笑いながら言った。

 

「元気だけがこいつ等の取り柄ですからね」

 

 マギも肩を竦めながらそう言った。

 

「あら、マギ先生も休んでも良いんですのよ?あとは私達が見ておきますので」

 

「本当ですかしずな先生?んじゃ…お言葉に甘えてっと」

 

 マギは首をゴキゴキしながら、エヴァンジェリンの席の横が空いていたので、其処に座った。

 座った数十秒後にはマギも静かな寝息を立てながら寝静まった。よっぽど疲れていたようだ。

 

「あらマギ先生もよっぽど疲れていたのね…あらフフまるで恋人みたい」

 

 とエヴァンジェリンの頭がマギの肩に寄りかかるようにマギの肩を枕にしながら寝てしまい、はたから見たら恋人どうしだ。

 

「あら、ネギ先生も同じ事になってますわ」

 

「いや、ネギ先生はどちらかと言えば姉弟ですな」

 

 見ればネギがアスナに寄りかかる形となっており、新田先生からは恋人ではなく姉弟だと言われてしまった。

 こうして色々と問題があったが、修学旅行は此れにて終了である。

 

 

 

 

 




次回からは原作7巻に入ると思いますが
その前にキャラクター紹介をしようと思います


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~第5章~修業と喧嘩と仲直り
地獄の特訓


「はぁッ…はぁッ…はぁッ…!」

 

 全身血だらけ怪我だらけのマギが荒い呼吸をしていた。

 

「なんで…こんな事に…なっちまったんだかな…」

 

 マギが今いるところは麻帆良の森の中ではなく、湿気でじめじめとした霧がかかった城の廃墟であった。

 何故マギが血だらけの怪我だらけで、如何してこんな辺鄙な場所に居るか。それは数時間ほど時間を遡る。

 

 

 

 

 

 修学旅行が終わった翌日の日曜日の女子学生寮のアスナの部屋にて

 アスナは日曜でも朝の新聞配達のバイトをやっており今は二度寝をしている。そんなアスナは今夢の中だ。

 夢の中のアスナは夜空を見ていた。

 

(あれ此処何処よ。砂漠?)

 

 夢の中のアスナは如何やら夜の砂漠に居るようだ。

 

「よう起きたかい?嬢ちゃん」

 

 男の声が聞こえて、その声の方向を見るとアスナが好みそうなダンディーなオジサンが座っていた。

 

(ちょ!何よこの渋めのオジサマ…てあれ?この人確か…)

 

 アスナは目の前のオジサンの顔を見て思い出した。ナギの別荘にあったナギと戦友の記念写真に写っていたオジサンだった。

 

「起きたんなら顔を洗いな。水たまりがあっちにあるからよ」

 

「うん…」

 

 嬢ちゃんと呼ばれているなら少女だろう。少女は顔を洗いに水たまりに向かった。

 

(ちょ!もっとオジサマを見させてよ!)

 

 アスナは水たまりに向かう少女に文句を言ったが夢なので意味が無い。そして少女が水たまりに屈むとアスナは言葉を失った。何故なら水面に映っていたのは幼いアスナ自身。

 

(これ小さいアタシ…よね?何でアタシこんな所に居るの?綺麗な砂漠の夜空…そんな記憶全くないのに)

 

 自分には無い記憶にアスナは困惑していると

 

「おーい今帰ったぜ!」

 

 新たに誰かが現れた。

 

「おう早かったな。何か獲れたのか?」

 

「おうネズミみたいなのが3匹な」

 

 と新たに現れた男は何か食糧になる物を探していたようだ。ネズミみたいな生き物をオジサンに渡した。ネズミみたいな生き物を渡されて食えんのかコイツ…と尻尾を持ちながらオジサンは呟いていた。

 

「お、お早いお目覚めだな」

 

 食料を渡した男は幼いアスナに近づいてきた。

 

(あれ?アタシこの人知ってる…と言うかこの人って…)

 

 男は幼いアスナの頭に手を置いて

 

「向こうの空を見て見なアスナ。夜明けが綺麗だぜ」

 

 ニッと笑いかけて男…ナギがアスナに言った。

 

「う…う~んアレ?」

 

 夢から覚めたアスナは先程見た夢を思い出した。

 

「変な夢見たな…ってもうお昼か~少し仮眠しようとしたのに結構寝ちゃったなぁ」

 

 アスナは寝巻きから私服に着替えるとこれから如何するか考えているとネギの姿があった。

 アスナとこのかの部屋のロフトはマギとネギの部屋にと改造されており、たった今ネギは作業の真っ最中だった。

 

「何やってんのよネギ?そんなカリカリと」

 

「あッアスナさんお早うございます」

 

 ネギの挨拶にアスナもおはよと返す。そんな事よりも何をやっているのか尋ねると

 

「長さんから頂いた手がかりを調べていたんです。そしたら驚くことにこの麻帆良学園の地図の束だったんです。父さんがあの別荘に最後に来た時に研究していたものだそうです」

 

「えッ学園の地図!?何で」

 

 アスナの驚きにネギも分かりませんと答えた。

 

「何か暗号で書かれて今解読を試みたんですが、どうもうまくいかなくて」

 

 ネギは難しい顔をしながら言った。

 

「だったらマギさんにも協力してもらったらいいじゃない」

 

「僕もお兄ちゃんにそう頼んだんですけど、お兄ちゃんは…」

 

 ―暗号解読なんてそんなメンドイ事俺が出来るわけねぇだろ?てことでネギ、頼んだ―

 

「って僕一人でやる事になっちゃって」

 

 アハハと笑っているネギを見てアスナは溜息を吐いた。

 

(マギさん、ここぞとばかりに大変な事をネギに押し付けて全くもう…)

 

 とアスナは呆れていたが、押し付けられたネギは妙にウキウキとしていた。

 

「ねぇネギ、やけに楽しそうじゃん」

 

「そうですか?でも悪い人や強い敵とかもいて大変でした。けど父さんの別荘にも行けて手がかりも見つかった。何か凄くやる気が出て来ちゃって…今回の事で色々とやらなきゃいけないことが出来ちゃいました。先生の仕事もあるし大変ですけど…」

 

 ネギはアスナにサムズアップしながら

 

「見ててくださいアスナさん。僕頑張りますから」

 

 ネギの顔と夢に出ていたナギの顔が重なりアスナは呆然としてしまった。

 呆然としているアスナを見てネギは不思議そうにしながら

 

「如何したんですかアスナさん?」

 

「なッなんでもないわよ!」

 

 ネギが覗きこんできたので思わず距離を置いた。

 

「そッそう言えばマギさんの姿が見えないけど、如何したの!?」

 

 アスナは強引に話題を変えた。今此処に居ないマギは何処に行ったのかネギに尋ねると

 

「あぁお兄ちゃんなら今…」

 

 ネギが答えようとしたその時チャイムが鳴って

 

「お邪魔致しますネギ先生!せっかくの日曜日ですので一緒にお茶などいかが?」

 

 あやかが和美と一緒にやってくると

 

「ネギく~ん遊びに来たよ~!」

 

「カラオケにいこ~!」

 

「マギさんいる!?貸してた本返して欲しいんだけど!」

 

「マギ兄ちゃ~ん」

 

「遊んでほしいです~」

 

 3-Aの生徒の殆どが部屋に押し込んできた。すっかり大所帯となってしまい、いつの間にか帰ってきたこのかは大量の御茶菓子を用意しようと大忙しだ。

 すっかり部屋がワイワイと騒がしくなってしまい、アスナが拳をプルプルとしていたが

 

「あれ?マギさんの姿が無いじゃん。ネギ先生マギさんは?」

 

 和美の問いにネギは

 

「お兄ちゃんだったら、今日朝早くに荷物を纏めてエヴァンジェリンさんのお家に行ってしまいました。何でもほんの2~3週間だけ泊まって来るそうです」

 

あれだけ騒がしかった部屋がビキッと固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…ここにはつい最近来たはずなのに、何だかずいぶん昔に思えて来るなぁ」

 

 アスナが二度寝している間にマギは荷物を纏めてエヴァンジェリンの家へとやってきていた。

 

「前に来たのはエヴァの呪いを解いた時か。懐かしいぜ」

 

 っと思い出話に老け込んでる時間はねぇかとマギはドアをノックした。

 

「開いています」

 

「サッサト入リヤガレ」

 

 ドア越しから茶々丸とチャチャゼロの声が聞こえた。マギはドアを開くと

 

「お待ちしておりましたマギ先生」

 

「ヨク来タナ。マァユックリシテケ」

 

 お辞儀をする茶々丸とケケケと笑うチャチャゼロ。邪魔するぜとマギも腕を上げて応じる。

 

「っとチャチャゼロと会うのは今日が初めてか?」

 

「オウ初メテダナ。マギッテ言ッタカ?オ前殺シガイガアリソウダナ。今度俺ト殺シ合オウゼ」

 

 ケケケと笑いながら言うチャチャゼロに、よしてください姉さん、と茶々丸が注意する。チャチャゼロはエヴァンジェリンの夢で見た事があるが、ロボットでもなく普通の木の人形が喋って殺し合おうと言っていたら少し不気味である。

 

「マギ先生、マスターは二階です。ご案内します」

 

「チャッチャト付イテ来イヨ」

 

 チャチャゼロを頭に乗せ、茶々丸がエヴァンジェリンのいる部屋に案内させた。

 マギがノックするとクシャミのあとに、入れという鼻声のエヴァンジェリンの声が聞こえマギは部屋へと入った。

 

「ズズ…遅かったなマギ」

 

 エヴァンジェリンが鼻を啜りながら、もっとこっちに来いとマギを手招きした。

 

「なんだエヴァ風邪ひいたんか?だったら日を改めるけどよ」

 

「違う。これは花粉症だ…まったく、日本は花粉が酷過ぎて嫌になってしまう」

 

「花粉症にやられる吸血鬼って威厳もねぇなおい」

 

 マギが言った事に五月蝿いぞ!と半分ムキになってマギに喚き散らす。

 エヴァンジェリンが鼻をかみ終えると、先程とは違うキリッとした表情になり

 

「さてマギ……お前は私に闇の魔法を制御できる術を教えてほしいと頼んだな?ハッキリ言うぞ。闇の魔法は普通の魔法と違い、普通の人間では扱う事の出来ない危険な魔法だ。生半可な覚悟では死ぬぞ。お前に死ぬ覚悟はあるか?」

 

 エヴァンジェリンは問いにあぁと頷くマギ。

 

「愚問だぜエヴァ。俺はとっくに覚悟を決めてんだ…もっと強くなるために手段は選ばないってな」

 

 マギの覚悟を聞いてそうか…とエヴァンジェリンはクククと悪い笑みを浮かべながら

 

「お前の覚悟はよく分かった。だが…お前は忘れていると思うが、私は有名な悪い魔法使い。悪い魔法使いに魔法を教えて貰うのだったらそれなりの代償があるものだ」

 

 ス……とマギに自分の足を出しながら

 

「私の足を舐めろ。私の弟子となるなら私の下僕となり忠誠を誓え」

 

 クククと悪い笑みを浮かべながらマギに早く足を舐めろと命令するエヴァンジェリン。

 

「なぁマジで足舐めなきゃいけねぇのか?」

 

「如何した舐めないのか?だったら弟子の話は無しだ」

 

 如何した如何した?と笑み浮かべるエヴァンジェリン。そんなエヴァンジェリンを見てマギはハァと溜息を吐きながら

 

「分かったよ、舐めればいいんだろ?」

 

 マギはエヴァンジェリンの足首を掴んで舌を出した。

 

「……え?」

 

 エヴァンジェリンは一瞬固まってしまった。本当は足を舐めろと言うのは冗談だったのだ。マギをからかうつもりだったのにマギが本気で捉えてしまったのだ。

 

(まッママママギの舌が私の足を…!いッいや足を舐められると言うのはそれはそれでいいのかもしれないけど。でも舐めてもらったら私は足を舐められて喜ぶ変態だと思われしまう!そ…それはその…えーと…!)

 

 目をグルグルと回してどうしていいのか分からなくなってしまったエヴァンジェリンは

 

「う…ウワァァァァッ!!」

 

 足を舐めようとしたマギを思い切り蹴飛ばしてしまった。

 

「ブべッ!?」

 

 蹴飛ばされたマギは変な声を出しながら床をスライディングした。マギは顔を押さえながら

 

「おい!行き成り蹴飛ばすなよ!」

 

「うっウルサイ!冗談で言ったのに何真に受けてるんだお前は馬鹿なのか!?」

 

「冗談で足を舐めさせようとすんな変態!」

 

「変態だと!?だったらマギは足好きの足フェチだ!」

 

「何だと変態!」

 

「やるか足フェチ!!」

 

 遂には取っ組み合いの喧嘩に勃発したマギとエヴァンジェリン。

 

「あぁマギ先生にマスター。喧嘩は止めてください」

 

「ガキノ喧嘩ダナ」

 

 茶々丸がオロオロとしながらマギとエヴァンジェリンの喧嘩を止めようとして、チャチャゼロはケケケと笑いながら喧嘩を傍観していた。

 

 喧嘩は10分ほどで終わり、マギとエヴァンジェリンは肩で息を吸っていた。

 

「こッこんな無駄な喧嘩はもうやめよう…」

 

「誰のせいだと思ってんだよ」

 

 マギの呆れた溜息を吐いているのを無視したエヴァンジェリンはマギを地下室に案内した。地下室には前にマギが世話になった別荘が置いてあった。

 

「懐かしいな…エヴァの呪いを解除した時に死にそうになったけど、この別荘に世話になったっけ」

 

「あぁ、マギのおかげで私は今や自由だ。私を自由にしてくれたことに今でも感謝してるぞ」

 

「別に礼なんて、ていうか前来たよりも別荘が増えてないか?」

 

 マギが言う通り、別荘の数が増えていた。前に見た塔の他に砂漠や氷の世界…南極とアルプスが混ざったようなもの。生い茂るジャングルにそのジャングルにそびえ立つ城。そして霧がかかっている廃墟。

 

「お前の修業のために掘り出したのと新しく作ったのが幾つかある。闇の魔法はそれほどまでに危険な禁術だ。再度問うが覚悟は出来てるんだな?」

 

「くどいなエヴァ、俺は覚悟を決めたんだぜ?今更引き下がれるかよ」

 

 マギの覚悟は揺るぎないもののようだ。そうかと呟くエヴァンジェリン。

 

「だったら魔法陣に乗れ。さっそく修業を開始する」

 

 マギとエヴァンジェリンに茶々丸が魔法陣に乗ると、魔方陣が光だしマギ達は別荘の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 別荘の中に入るマギ達。マギは塔のエリアに居た。

 

「久しぶりに来たけどやっぱデカいよな…下が見えねえぜ」

 

 マギは遥か真下の地面を見降ろしてそう呟いた。

 

「おいマギ何してるんだ早く行くぞ。お前の荷物を部屋に置いたら早速修業を開始する」

 

 マギを置いてエヴァンジェリンと茶々丸は先に行っていた。

 

「おい待ってくれよエヴァ、茶々丸」

 

 マギは荷物を担いでエヴァンジェリンと茶々丸を追いかけた。

 着いたマギの部屋は前にマギが意識を失って7日(外の世界では7時間)ほど眠っていた部屋だった。

 懐かしいな…と感慨深くなりながらも荷物を置いたマギ。

 

「マギ、動きやすい服に着替えたら塔の広場に来い。今後の修業内容を教える」

 

 エヴァンジェリンはそれだけ伝えると先に広場へと向かった。マギはエヴァンジェリンに言われた通り、動きやすいジャージに着替えて広場へと向かった。

 

「着替えたぜエヴァ。それで修業は如何いったのをやるんだ?」

 

 修業内容を尋ねるマギ。あぁとエヴァンジェリンは頷いた後にマギの方を見て

 

「修業を始める前にマギに言っておきたい事がある。いいか?」

 

「あぁ大丈夫だぜ。ハッキリと言ってくれ」

 

 マギの言った事に分かったと言うエヴァンジェリン。

 

「マギ…はっきりと言わせてもらえば今のお前では闇の魔法を制御できるのは不可能だ。基礎体力や魔力構成が闇の魔法制御に達していない」

 

 ハッキリと言われたマギ本人だが、あぁそうだなとマギも認めていた。

 

「俺も分かっていたさ。京都の時は強引に闇の魔法を封じ込んでいたってな。あのまま闇の魔法を使っていたら俺は確実に死んでいた」

 

 マギも分かっているなら話は早い。そこでだとエヴァンジェリンは1つ提案をした。

 

「最初の修業は、修業でもあり試験でもある…付いて来い」

 

 と2人は転移魔法陣に乗り、別のエリアに転移した。

 

 転移したのは深い霧がかかった廃墟だった。

 

「それで試験って言うのは何をやるんだ?」

 

「今からやる試験、この廃墟には26体の茶々丸の姉が居る。マギ、お前はその26体の姉を全て行動不能にするんだ。何かの漫画であったな『健全なる魂は健全なる肉体と健全なる精神に宿る』とマギにはいかなる敵も倒せる強靭な肉体と一時も途切れない精神力を身に着けてもらおう」

 

「なぁエヴァさっき試験って言ったよな?もしかして不合格とかもあるのか?」

 

 マギの不合格発言に、エヴァンジェリンはあぁあるぞと頷いて

 

「期限は4日だ。その4日の間にすべての茶々丸の姉を行動不能に出来なかったり、私の判断でマギがもう駄目だと判断した場合は不合格だ。後は攻撃魔法を使うのも禁止だ。但し身体強化の魔法はよしとしよう。不合格となったら私はお前に闇の魔法の制御の術を教えない」

 

 4日長いようで短い期間である。

 

「OK4日だな…だったら2日か3日で試験をクリアしてやるぜ」

 

 マギは試験を2~3日で合格してやると豪語した。

 

「やる気は十分のようだな。だったら気を付けておけ。茶々丸の姉達は私の魔力で動いている。そう簡単にはいかないはずだ。一応殺さない様に命令しておいたが、精々負けるなよ」

 

「御武運をマギ先生」

 

「ケケ、死ヌンジャネーゾ」

 

 エヴァンジェリン達はそう言い残して、転移魔法陣に乗って塔へと戻ってしまった。

 塔に戻ったエヴァンジェリンは何も言わずに黙っていた。

 

「あの…マスター。マギ先生は大丈夫でしょうか?」

 

 茶々丸はマギが心配だとエヴァンジェリンに伝えた。

 

「大丈夫だろう…不可能を可能にすることが出来る。アイツはそんな男さきっと」

 

 エヴァンジェリンはマギが試験を合格して戻ってくると信じていた。ケケケとエヴァンジェリンの頭の上に乗りながらチャチャゼロは

 

「ヨー御主人、ソンナニアノマギッテ奴ガ好キナラ、サッサト襲ッテ既成事実デモ作ッチマエヨ」

 

「なッ何言ってるんだこのボケ人形が!」

 

 とエヴァンジェリンはチャチャゼロの頭をグリグリとしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと。エヴァたちが居なくなって急に静かになってきたな」

 

 1人となったマギはシンと静まり返った霧の廃墟で1人佇んでいた。

 

「もう試験は始まっているんだよな。はてさて何処に隠れてんやら茶々丸の姉達は」

 

 マギは修学旅行で使っていた仕込み杖を構えて、直ぐにでも迎撃できるように警戒を強めた。

 マギは360°を見渡しながら何処から現れるのかと考えながら歩いていると、ヒュンと風を斬る音が聞こえ、聞こえた方向に向かって短剣を振った。

 キィンッ!と弾かれる音が聞こえ、弾かれた物は矢だった。

 

「おっと…漸くお出ましか」

 

 マギの呟きに応じるかのように5体の茶々丸の姉が現れた。姉達は手に長剣や短剣に槍等を持っていた。

 

「お初にお目見えになりますマギ先生」

 

「マスターの命により貴方の力量を計らせてもらいます」

 

「マギ先生分かってはいると思いますが」

 

「どうか御覚悟を」

 

「……それでは参ります」

 

 と一斉に姉達はマギに向かってきた。マギも仕込み杖を構える。

 

「上等…かかって来いよ!」

 

 マギは仕込み杖で長剣と短剣を防いだ。しかし…

 

(おッ重ぇ!こいつ等どんな馬鹿力だこれ!?踏ん張ってねぇと直ぐにやられちまいそうだ!!)

 

 マギは両足で踏ん張るのがせいいっぱいだった。姉達はエヴァンジェリンの魔力供給で動いているが、その供給された魔力は膨大で下手をすれば巨大な樹木を持ち上げられるほどのパワーとなるのだ。

 マギは咸卦法で何とか踏ん張っているだけで何もできないでいた。動けないマギのボディーに槍が迫ってくる。

 

「うおあぶねッ!」

 

 マギは長剣と短剣の攻撃をずらして、自分を突こうとする槍を紙一重躱した…と思ったが腹を掠めた。

 槍は連続で突いて来たり、薙ぎ払い攻撃でマギを襲った。突きを短剣で防ぎ、薙ぎ払いは体を捻ったり屈んだりして躱す。

 

「うわ!ちょ!あぶね!!」

 

 マギは攻撃を防ぐことでいっぱいいっぱいなのに、更に短剣や長剣を持った姉達も攻撃に加わり、マギは防戦一方だった。

 

(っておいおいこんな奴ら、どうやって行動不能にすればいいんだよ!?)

 

 何か攻略法は無いか、防戦しながら攻略法を考えるマギ。すると姉達の頭上に何か光る物が見えた。まるで糸の様だ。

 

(糸?そう言えばエヴァの通り名に人形使いって云うのが有ったような)

 

 だったら!とマギは咸卦法フルパワーで武器を弾き飛ばすと跳び上がり、姉達の頭の上の糸らしきものを斬った。

 ブツンッ!という音が聞こえたと思ったら、5体の姉達は言葉の通り糸が切れた人形のようにぐったりとしてしまい、動かくなった。如何やらエヴァンジェリンが言っていた行動不能になったのだろう。

 

「まっマジかよ。まだ始まって1時間と経っていないのにキツすぎるだろ…それにさっき矢が飛んできたしな。他にも隠れてる奴が居るーーー」

 

 はずだと言おうとしたが、マギの顔の近くに矢が過ぎて行って、マギの顔に一文字の傷を付けた。

 

「こりゃマズイ!同じ場所に居続けたら格好の的だ」

 

 マギは矢を逃れるために駆けた。動き続けた方が矢に当たる可能性は低くなるだろうという考えだ。

 10分位走っただろうか。と新たに現れた茶々丸の姉達。今度はトンファーとヌンチャクだった。

 

「次々に来過ぎだろうが!もっと空気読めよ!」

 

 マギのツッコミを無視し姉達はトンファーを振るい、ヌンチャクを振り回した。

 トンファーを仕込み杖で防ぎ、ヌンチャクを蹴りで弾いた。トンファーを持っていた姉の方が今度は蹴りを放ってきた。足には隠し刃が仕込まれていた。

 

「くッそ!」

 

 マギは隠し刃を防ぐが、トンファーを持った姉はトンファーの打撃と足に隠していた隠し刃の蹴りを放ってきた。カポエイラと呼ばれる蹴り技はまるでコマのように回っており

 

「ほんとに何でもアリかよ!」

 

 マギは蹴ってきた足を掴んだ。

 

「どらぁ!」

 

 マギは怒声を上げながらヌンチャクを持っていた方の姉に投げ飛ばした。ぶつかった姉達はそのまま木に叩きつけられる。そしてそのまま動かなくなったようで行動不能となる。

 

「これで倒した数は7対。まだまだ先がなげぇなおい」

 

 マギは溜息を吐きながら少し気を緩ませてしまった。それがいけなかったのだろう。マギの後ろには巨岩ほどの大きさの棘付きの鎖鉄球モーニングスターを振り回している姉の姿が

 

「!しまっ」

 

 マギが気づいた時には遅く、モーニングスターがマギに迫っていた。マギは咸卦法を防御面に回す。

 ドゴォッ!と云う鈍い音を出しながらモーニングスターはマギに直撃。そのまま木々をなぎ倒しながら吹っ飛び、廃墟の壁に叩きつけられた。

 

「かはぁッ!」

 

 肺から酸素が一気になくなる感覚に陥り、マギは荒く深呼吸した。

 

「やっやべぇ。油断しちまった」

 

 マギは立ち上がろうとしたが、酸素不足のせいか足元がフラフラとしてしまい上手く立ち上がれなかった。

 マギが怯んでいる間に7~8人の姉達が武器を持ってマギに近づいてきた。

 

「あっあれ?これってヤバくね?」

 

 マギが乾いた笑みを浮かべている間に姉達は一斉にかかった。

 

「ギャアァァァァァァ!」

 

 マギの悲鳴が霧の廃墟に響き渡る。

 

 

 

 

 

 そして話の冒頭へと戻る。今の時刻は3回目の朝日が昇って、そろそろ3日目の正午位だろうかとマギはそう思った。

 これまで行動不能にした茶々丸の姉達は19体。残り7体となった。正直言うとマギの体はもう限界となっていた。

 此処まで倒した姉達は剣や槍などは弱い方の様だ。姉たちの方も段々と強くなってきており10体を過ぎると、人間と同じくらいの大きさの斧や、死神の持つような様な鎌や大剣などと強さを増してきていた。射撃武器は弓からアサルトライフルやマシンガン、果てはバズーカなどによる容赦のない攻撃方法となってきていた。

 更に夜に休もうとしても夜襲を仕掛けてくるので一睡もできず、朝から晩まで戦い続きなのである。

 つまりマギは不眠不休で戦い続けて体力はほぼゼロで、集中力にも限界がきていた。体の至る所から血を流しており、見るからにボロボロだ。

 

「くっそ。残りの奴も……行動不能にしない……と」

 

 マギはフラフラの体でも一歩前に進もうとした。しかし体力がほぼゼロのマギにとって、一歩動く事すらも辛かった。

 

「やば……これ結構つらい」

 

 そしてマギはバランスを崩してうつぶせに倒れてしまった。

 

(やべぇ…もう指1本も動かせねぇ。それに何か目の前が真っ暗になってきやがった)

 

 もう意識が朦朧とし始めていた。もう此処までなのか…マギはもう諦めかけていた。

 

(てか何で俺こんなに頑張ってるんだ?何でおれ一人がこんなに頑張んないといけないんだよ…)

 

 と段々と考えがマイナスの方向へ行ってしまった。

 

(昔の俺だって一人で何とか出来てたじゃねぇか。それに出来ない事はやらない。面倒な事は後回しが俺のスタンスだったんだ。日本に来てから色々と変えようとしたけど無理な話だったんだよ)

 

 そうだ……強くなる事だってネギに押し付けちまえばいい、そんな考えをしだすマギ。

 

(もう何もかもが面倒だ)

 

 そしてマギは意識を手放した……

 

 目を覚ますとマギは3-Aの教室の前に居た。

 

「ったくなんだよ夢だって言うのに、俺は何でこんな所に居るのかね…」

 

 マギは夢だと分かっていた。溜息を吐きながらマギは教室のドアに手を置いた。

 どうせドアを開けたら喧しい3-Aの生徒達が騒いでいるだろう…と。

 

 しかしマギがドアを開けると其処には喧しい生徒達ではなく、石化した生徒やネギの姿が。しかも何かに逃げようとして間に合わなかったと言った形だ

 

「…おいおい何だよコイツは」

 

 マギは何の冗談かと思いながら、石化しているネギに手を置いた。手を置かれたネギの石像に罅が入りそして砕けてしまった。

 

「おっおいネギ!」

 

 マギが思わず叫んだのと同時に次々と石化した生徒達にも罅が入り始めて砕け始めた。アスナもこのかも、のどかに刹那、夕映にハルナに和美にと次々と砕け散り、砂の山へと変わってしまったネギや生徒達。

 

「は…はは…なんだよコレ。最悪の悪夢じゃねぇか」

 

 マギは砂の山へと変わってしまったネギ達を見て、乾いた笑い声を上げていた。そんなマギに

 

「フン。夢だとしても貴様の大切とも言える弟や生徒を守れんとは大したものだな」

 

 声が聞こえ、振り返ると其処には京都で撃退したアーチャーの姿が

 

「アーチャー!このクソ傭兵!これはテメェがやったのか!?」

 

「だとしたら何だ?怒りでこの私を殺すか?いやはや、一度の辛い事で何もかも放り投げるとは、こんな腑抜けた男に一度でも負けたとは…私自身を情けなく感じるよ」

 

「黙れよ」

 

「志が弱い人間が強くなろうとしてもこの様か。結局貴様はその程度の人間だったという事だ」

 

「黙れって言ってるだろうが……!」

 

「貴様にほれ込んだ女たちが可哀そうだなぁ。弱い貴様に付き添っていては、死期が早まるという事だ。だったらネギ・スプリングフィールドに惚れていた方がましだ」

 

 それにとアーチャーの隣には石化してないのどかの姿が

 

「まっマギさん……助けて。皆この人に石にされちゃって……」

 

「おっおいテメェ、何しようとしてるんだよ!?」

 

 マギにはアーチャーが次に何をしようとしているのか分かってしまった。恐ろしい事だと

 

「何ってこうするのさ」

 

 アーチャーはのどかを足から石化し始めた。のどかは助けてとマギに助けを求めたがのどかはそのまま石化してしまった。

 

「やっやめ」

 

 止めろ!と叫ぶ間もなく、アーチャーはマギの目の前で石になってしまったのどかを砕いてしまった。

 砕けたのどかの破片を見てマギの中で何かが切れた。

 

「テェェェメェェェッ!!」

 

 怒りに身を任せてマギはアーチャーに突撃した。そしてアーチャーに殴り掛かろうとしたが

 

「……あ?」

 

 殴ろうとしていた腕が肘から先が無くなっていた。アーチャーに斬られてしまったのだ。

 地面に落ちた自分の腕を呆然と見ているマギにアーチャーは長剣でマギの上半身と下半身を斬り離してしまった。

 

「あっあ……」

 

 言葉も出ない斬り離されてしまったマギの上半身はゆっくりと落ちて行った。落ちていくマギをアーチャーは仮面越しではあるが冷めた目で

 

「下らん。弱い貴様は薄っぺらい覚悟を抱いたまま奈落の底へ墜ちよ」

 

 アーチャーに言われた通りにマギは奈落の底へ墜ちていくのだった。

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 マギは悲鳴を上げなら飛び起きた。何とも恐ろしい悪夢を見てしまった。

 

「くそ……情けねぇ。覚悟を決めたって言ったのにこの様かよ……」

 

 マギは自分自身を叱咤した。見るとマギの周りに茶々丸たちの姉達が待っていた。

 全部で7体丁度残りの数だった。しかし武器が違った。戦闘用のバトルアックス、クレイモアにハルバード。バトルアックスよりランクが上のグレートアックスとバスタードソード。そして恐らくマギを吹き飛ばしたモーニングスターなどほぼ重量級の武器ばかりだ。

 

「なぁ、俺はどれくらい寝てたんだ?というか今何日で何時だ?」

 

 マギはバトルアックスを持っている姉に尋ねた。

 

「ただ今4日目の午後3時です」

 

 と云う事は丸1日ほど寝てしまった様だ。残り時間はあと9時間しかない。残りの時間で残りの7体を行動不能にするのは難しいだろう。

 

「どうしますかマギ先生?此処で自らリタイアすれば私達はもう貴方を攻撃しません」

 

 茶々丸姉達はマギはリタイアするかと思った。しかしバ~カとマギはそう言って笑うと

 

「誰がリタイアするかよ。上等だ……その残り時間で全員倒してやるよ」

 

「理解不能です。このような絶望的な状況で諦めないとは」

 

 茶々丸姉の言った事にそうだなぁとマギは呟いた。

 

「確かに前の俺だったらとっととリタイアしてたかもな。だけども決めちまったからな、覚悟を。弱ぇ自分とはおさらばだ」

 

 だからよ、とマギは短剣を構えながら

 

「来いよテメェ等。とっとと倒して俺はまだまだ強くなる」

 

 マギの覚悟を聞いてそうですかと茶々丸姉達は頷いて。

 

「ならば参りますマギ先生」

 

 武器を持った茶々丸姉達と短剣を構えたマギとの残り時間を賭けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 塔の広場でエヴァンジェリンはソワソワとマギが帰って来るのを待っていた。

 現在の時刻は午後の11時55分。あと5分でタイムオーバーでマギは不合格となってしまう。

 しかしマギは一向に現れず、刻々と時間が迫っていた。まさか駄目だったのかとそんな不安が頭を過ったエヴァンジェリン。否マギに限ってそんな事は無いと信じた。

 だが56分57分58分と時間が迫ってきてもマギは現れなかった。それでもエヴァンジェリンは、マギがもうすぐ戻ってくると信じていた。しかし…

 

「11時59分30秒……間もなく時間です」

 

 茶々丸がエヴァンジェリンにそう報告した。此処まで待っても来ないという事はやはり駄目だったのか…エヴァンジェリンが諦めていたその時転移魔法陣が光り、光の中からマギが現れた。

 

「マギ!」

 

 エヴァンジェリンは現れたマギに近づき、優しく抱きしめて地面に降ろした。見れば全身傷だらけのボロボロである。

 

「茶々丸時間は!?」

 

 エヴァンジェリンは茶々丸に時間を尋ねた。

 

「11時59分58秒……ギリギリセーフです」

 

 時間は如何やら大丈夫の様だ。しかしこんな時間になってしまったのだ。若しかしたら全員を行動不能に出来なかったのかそんな不安が頭を過ってしまう。

 

「マギ、茶々丸の姉達は全員倒したのか?まさか……やはり駄目だったのか?」

 

 マギ駄目だったのかと尋ねるエヴァンジェリン。マギはゆっくりと腕を上げて弱々しくだがしっかりとサムズアップをした。つまり…

 

「全員…ちゃんと動けなくしたぜエヴァ」

 

 は…ははと弱々しく笑いかけるマギ。つまりは試験は合格したのだ。

 

「まっマギ!よくやったぞ!心配したんだからな!!」

 

「おめでとうございます。お疲れ様でしたマギ先生」

 

「ケケ。ギリギリデ帰ッテ来ルナンテ分カッテルジャネェカ」

 

 エヴァンジェリンは泣き笑いをしながらマギに抱き着き、茶々丸は微笑みながらマギに労いの言葉を送り、チャチャゼロは相変わらずケケと笑っていた。

 

「心配かけたなエヴァ。途中で心が折れかけちまってな…でも大丈夫だ。俺の覚悟はもう揺らぐ事はもう無いだろう。だから俺をビシバシ鍛えてくれ」

 

「あぁ今回の試験は序の口だ。本当の修業はもっとキツクて死にそうになるほど苦しいものだ。覚悟しておけよ!」

 

 エヴァンジェリンは笑いながらマギにそう言った。

 そりゃ大変だな…とマギは軽く笑った後に疲れた時にはタバコをふかそうと思い、タバコを加えようとしたが止めてタバコを箱に戻した。

 

「いいのかタバコを吸わなくて?」

 

 エヴァンジェリンの問いにあぁと頷くマギ。

 

「タバコを吸う時は大抵嫌な事から逃げたいって感情が出てたんだよ。だから逃げたいなんて弱い気持ちとは一先ずさよならだ。少しずつでもいいから変わって行こうと思う。……変われるかな俺?」

 

 マギの呟きにあぁとエヴァンジェリンは

 

「変われるさきっと。それまでお前の事は私が見てやろう」

 

 と微笑んだ。マギも微笑みかけるとタバコの箱をクシャッと握り潰す。

 今回の地獄のような試験、しかし本当の地獄の修業はこれからだという…



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人生壁にぶち当たったら師を探せ

 試験に合格したマギは、試験中は殆ど寝ていないという事で、エヴァンジェリンにゆっくり休むように言われていた。

 別荘のマギの自室にて、マギは爆睡しながら惰眠をむさぼっていたのだ。

 

「zzzzzうにゃ…むにゃ…」

 

 時々寝返りをうったりしていたが、マギはパチッと目が覚めた。

 

「結構良く寝たな…ふわぁ」

 

 大欠伸をした後ベッドから降り、寝間着から普段着に着替えて塔の中を軽くブラブラし始めた。

 塔の中をブラブラとしている道中に茶々丸の姉達と何回か出くわした。マギは姉達に挨拶をした後に試験の時は手荒な事をして悪かったと謝るが、姉達は別に気にしないで下さいと無表情でマギにそう答えた。

 無表情のせいで本当に気にしていないのか気になってしまうマギだったが、姉達がお食事を用意してますので広間に向かってくださいと広間の方向を指した。

 食事と云う言葉にマギの腹は盛大に鳴り始めた。そう言えば試験中は飲まず食わずだったけ…とマギはさっそく広間へと向かった。

 広間のドアへとたどり着いたマギはドアをゆっくりと音を余り立てずに入った。

 

「おはようございます、マギ先生」

 

「ケケ、遅イオ目覚メダナ」

 

「…ふん遅かったな。良く寝られたか?」

 

 何時ものように挨拶をする茶々丸とチャチャゼロ。そして今日は幾段と不機嫌そうなエヴァンジェリン。

 

「何だ今日は不機嫌そうじゃあないか」

 

 マギが椅子に座りながらそう言った。マギが座ったのと同時に茶々丸の姉達が食事を持ってきた。食事を出されたマギはさっそく食事に手を出した。

 不機嫌そうなエヴァンジェリンを何があったのか尋ねると、エヴァンジェリンはフンと鼻を鳴らしながら

 

「一度外に戻ったら、お前の坊やと神楽坂明日菜が私の家に尋ねて来たんだ」

 

 ネギとアスナがやって来たのかとパンをかじりながら呟いた。

 

「あの坊やよもや私に弟子入りしようとしたのだぞ。全く一応私は悪の魔法使いなんだがな…」

 

 最近私の悪の魔法使いのキャラが薄くないか…と軽く嘆いたエヴァンジェリン。

 

「でネギの弟子入りとエヴァのボロボロの姿に何の関係があるんだよ?」

 

 マギは何処が如何関係しているのか尋ねる。

 

「私はそう易々と弟子をとるつもりはない。試しにマギと同じように私の足を舐めろと言った。そしたら神楽坂明日菜が私の頭をあのハリセンではたいてきたんだぞ!私は行き成り叩いてきたのに腹が立って嫌味で神楽坂明日菜と坊やの仲をからかったら二度も叩いてきた。其処からはもう取っ組み合いだ」

 

「おいおい何やってるんだよお前は…」

 

 マギはネギにあの足舐めをやらせようとしたことに呆れてものが言えなかった。うッうるさい!とエヴァンジェリンが喚いていたが、ああそうだとマギの方を見て

 

「今度の土曜日に坊やの弟子入りのテストをするから、マギ…お前が坊やの相手をしろ」

 

「はぁ?行き成りすぎじゃねえのか?」

 

「悪いが決定事項だ…さてご飯を食べ終わったら今日は沙漠にて持久力を上げる修業だ」

 

 鬼だ…マギは改めてエヴァンジェリンのスパルタぶりに嘆息を吐く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 月曜日、マギは若干重い足取りで学校に向かっていた。

 食事をとった後はまさに地獄だった。灼熱の砂漠にて持久力の向上と精神集中の修業だった。

 砂漠では気をしっかり保つのが修業の一つだったが、気をしっかり保つことがどんなに大変だったかと身に染みる思いだった。

 熱さで頭がボーットしてしまい、ベタな事だがオアシスの蜃気楼が見え始めてからは発狂しそうになるほどだった。

 それが外の時間で5時間、つまり5日ほど沙漠にて過ごしていたのだ。まぁ一応死なない様に水と食料は持ってきてくれたエヴァンジェリン。

 砂漠での修業を終えると今度は塔にて魔法の効率的な戦闘方法と組手を延々とやった。

 エヴァンジェリン相手に組手は体格差があるんじゃないのかと思ったマギであったが、マギの甘い考えはすぐさま吹き飛んだ。

 エヴァンジェリンは魔法も強いが、接近戦も合気道や相手の攻撃に合わせたカウンター技でマギを圧倒していた。

 さらに幻術でマギと同じくらいの背丈になると今度は中国拳法などの技によってマギはコテンパンにやられてしまった。

 

「ったくエヴァの奴結構容赦なく攻撃してきたからなぁ…おかげで体の節々がイテェ」

 

 こんなんで強くなれるのかと一瞬そんな考えが頭を過ってしまい、いけねぇとマギは顔を手でパンパンと叩いた。

 弱い気持ちは捨てたんだと自分に言い聞かせた。よし改めて学校に向かうかと歩き始めたがガヤガヤと五月蝿い。

 

「喧嘩だ~喧嘩が始まるぞ~!」

 

 そんな声が聞こえた。こんな朝早くに喧嘩とは血気盛んな奴が居るもんだと思ったマギ。

 

「どら、その喧嘩をしようとしている奴らの顔を拝めようとするかね」

 

 マギはその喧嘩が始まる場所に向かってみると何人かの生徒が集まっていた。生徒達は学ランの不良や胴着を着ている生徒と武術にたけている生徒ばかりだ。そしてその生徒達の中心に居たのは

 

「古菲?」

 

 3-Aの生徒で中国拳法の達人でもある。そんな古菲に一斉に生徒達が攻め込んだ。一遍古菲が圧倒的に不利だと思われた。しかし御馴染みの中国拳法であっという間に挑んできた生徒全員を倒してしまった。

 

「強いな古菲。そう言えば本山で鬼達相手に善戦してたよなアイツ」

 

 マギは京都の本山にて古菲が鬼達を纏めて吹っ飛ばしていた事を思い出した。自分より年下であれほどの腕とは天晴である。

 

「俺も精進しないとな…」

 

 マギはそう思いながら3-Aに急いで向かった。

 

 3-Aに到着したマギはドアを開けながら

 

「うーすお前ら、日曜日はちゃんと休んだか~?」

 

 といつも通りな形で教室に入ったら

 

『マギさん!!』

 

 和美やあこにハルナに夕映や風香史伽などがマギに迫った。

 

「なッなんだぁお前ら!?」

 

 マギはハルナ達が自分に迫ってくる意味が分からなかった。そんなマギに和美のマイクがズイッと近づき

 

「エヴァンジェリンさんと同棲しているという噂は本当なんですか!?」

 

 和美の質問にマギは

 

「…はい?」

 

 としか答えられなかった。和美の言っている意味が分からなかった。

 

「昨日ネギ先生がマギさんは2~3週間ほど泊まっていくという事を聞きました。これはマギさんとエヴァンジェリンさんの間で何かできちゃったのかという噂が寮内で出回りましたその真意をお聞かせください!」

 

「そこんところホントどうなのよマギさん!」

 

「私言いましたよね、のどかを悲しませないでと。ふざけた事を言ったら本気で怒るですよ」

 

「マギ兄ちゃん、僕だってエヴァちゃんに負けないロリボディだよ!」

 

「ウチマギさんの事を信じてるで!」

 

 マギに迫っている和美たち。色々と誤解しているようだが、エヴァンジェリンとはそんな関係になった覚えは無い。如何いえば和美たちは信じてくれるか、マギは0.数秒で一つの言い訳を思いついた。

 

「お前ら何か誤解しているようだが、俺とエヴァはそんな関係じゃあない。ただエヴァの成績に関係してるんだ」

 

 エヴァンジェリンの成績と云う言葉が出て首を傾げる和美たち。

 

「エヴァは中1中2で体調不良や登校拒否が多くてな。一応試験は100位をキープしてるが流石に3年にもなって登校拒否とかがあるといけないって新田先生に言われてな。登校拒否しない様に一緒に学校に来るのと、今まで学校を休んだ分の勉強をするようにってな」

 

 ハッキリ言ってかなり見苦しい言い訳だったこれで信じてくれるのは限りなく難しいだろう

 

「確かにエヴァちゃんって中1中2は良く休んでたよね」

 

「うんそう言えばそうだった。それに新田に言われたら仕方ないよね」

 

「な~んだエヴァンジェリンと既成事実とかそんな感じかなと思ったんだけどな~」

 

 と一応は信じてくれたようだ

 

「それじゃあエヴァンジェリンさんとは何ともないのですね?」

 

「あぁ何もねえよ」

 

 夕映の質問に何もないと答えるとよかったと夕映は安堵の表情へと戻った。親友がマギに告白したのにそのマギが他の女の家に泊まるというのは許しがたいものである。

 ネギもやってきて授業が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、マギは学校の広場にて精神を集中しており、エヴァンジェリンはマギを見ていた。

 マギの体中に魔力のオーラが漂っていた。

 エヴァンジェリン曰くマギの魔法は魔力がちゃんと練られておらず本来の力を出せていないのだ。

 今迄のマギは魔力を練る事に余り集中せずに直ぐに魔法を発動していたのだ。よって今は集中しながら魔力を練る修業をしているのだ。

 

「ッ!はぁ!はぁ!はぁ!」

 

 マギは集中力が切れてしまい膝をつく。と同時に魔力のオーラも消えてしまった。エヴァンジェリンは持っていたストップウォッチを止めてはぁと溜息を吐いた。

 

「5分30秒…まだまだ集中力が足りないな。これじゃあ闇の魔法なんて先の先だぞ」

 

 エヴァの呆れ声に乾いた笑い声を上げるマギ。

 

「知らなかったな…魔力を練る事がこんなに…大変だなんて」

 

 マギの集中力の無さに全くとしか言いようがないエヴァンジェリン。

 

「坊やとマギは本当に正反対だな。坊やは魔法を発動するときに一回一回集中して魔力を練っているが、それが仇となって一回一回の魔力の消費が激しい。マギの方は魔力の消費が少ないのは一回一回の魔力を練るのが少ないからだ。もっと集中して魔力を練ったら今迄の倍の威力の魔法が発動できるぞ。少しは坊やの集中力を見習え」

 

「いや~集中する事とか苦手だったからな」

 

「最低でも1時間、集中を欠く事も無く魔力を練り続けろ」

 

 修業を再開しようとするとマギさ~んとネギにアスナと刹那にこのかと古菲がやって来た。

 

「今からクラスの皆でボウリングに行こうと思うんだけどマギさんとエヴァちゃんも来ない?」

 

 ボウリングのお誘いの様だが、あいにく今自分は修業の身だ。遊んでいる時間は無い。悪いが断ろうとしたが…

 

「待てマギ、良い事を思いついた」

 

 エヴァンジェリンはニヤリと笑った。それはもういい笑みであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ボウリング場に来たマギと3-Aの生徒殆ど。何個かのグループに分かれてゲームを始めていた。

 

「へ~俺ボウリング場に来るのは初めてだからな…こうなっているのか」

 

 マギはボウリングなんて生まれて初めてなので、ボールでピンを倒す事しか知らなかった。

 皆ボウリングには慣れているのか、運動神経が良い生徒はストライクやスペアなどを結構とっていた。

 中でも一番凄いのは古菲だった。

 

「おい!あの中学生凄いぞ7連続ストライクだ!」

 

 連続でストライクを取る古菲は他の客からも注目の的だった。

 

「しかし凄いよな古菲は…でエヴァ俺は何をすればいいんだ?」

 

 何って簡単だとエヴァンジェリンはゲームを開始するボタンを押した。

 

「簡単な事だ。お前は今からやるゲームで全てストライクを取るんだ」

 

「ちょと待ってくれよエヴァ、俺は今日初めてボウリングをするんだぜ?そんな簡単に全部ストライクなんて」

 

 初めてやるマギが全部ストライクなんて難しい話だろう。何も考えずに力任せにボールを転がしても溝に落ちるか、何本かのピンを残してしまう。全部ストライクにすることは相当の集中力が必要だろう。恐らくエヴァンジェリンはそれが狙いだ。

 古菲とあやかにまき絵が行き成り勝負をすることになって一部始終を見たが、運動神経の良いあやかやまき絵でも連続ストライクなど出来ていない。一方の古菲はさっきから連続でストライクを取っている。

 古菲は考えずにただ感じるままボールを転がしているのだろう。

 

「俺も古菲のあの考えるな感じろっていうのがあったらなぁ…まぁやるだけやってみるか」

 

 マギはボウリングのボールを持ってレールの上に立った。大きく深呼吸をして精神を集中させる。

 

「意外と距離があるんだな…まッやってみるか」

 

 マギはボールを大きく振り上げて…

 

(ッそこ!)

 

 タイミングを掴んでボールを転がした。ボールは真っ直ぐと進み見事ストライクを取った。

 

「よし!」

 

 マギはストライクを取れたことにガッツポーズをする。今ので大体感覚はつかめた。今の感覚を忘れずに集中しよう。

 新たにピンが用意されて、マギはさっきの感覚を思い出しながら集中をきらず再度ボールを転がすとこれまた見事にストライクだ。

 そして次々とストライクを取って行くうちに今度はマギの方でも注目を浴びる事になった。

 マギがゲームを開始して1時間後…

 古菲達の方は決着が着いたようだ。あやかやまき絵とかなりの高得点だが、古菲は何とパーフェクトつまり全てストライクを取ってしまったのである。

 

「か…完敗ですわ…」

 

「くーふぇ強すぎだよ」

 

「ムフフ、運動なら負けないアル」

 

 崩れ落ちるあやかとまき絵に対して胸を張る古菲。一方のマギも

 

「つッ疲れた…!ゲームだっていうのにこんなに集中力を使うなんて…」

 

 マギも同じくパーフェクトを取っていた。エヴァンジェリンはフムと満足げに頷くと

 

「やれば出来るじゃないか」

 

「やろうと思えば出来るがもう疲れるゲームはこりごりだぜ」

 

 と言ってマギは自販機へ向かって行った。集中しすぎて喉が渇いたのである。自販機に着くと何を飲もうか迷うすると

 

「マギさん…」

 

 と其処へのどかがやって来た。

 

 

 

 

 

 

 

「いいのどか!?朝はマギさんああいっていたけど、どうせマギさんの事だし、何か隠し事してるはずだからここで色々と聞き出すのよ!」

 

「えぇ~ハルナそれはちょっと…」

 

 ハルナの言った事にのどかは少し戸惑い気味である。マギが嘘をついていないのは分かってるつもりだ。だけどもエヴァンジェリンの所に泊まりに行ってるのは本当だ。もしマギとエヴァンジェリンがそう言った関係になっているのだとしたら…

 そう思ってしまうと聞きたくても聞き出せなかった。そんなのどかに

 

「大丈夫です」

 

「夕映…?」

 

 不安そうなのどかに夕映がそう言った。夕映は静かに笑いながら

 

「マギさんは時々いい加減ですが、女の子の気持ちを蔑にするほどじゃないです。のどかの気持ちをちゃんと理解してくれですし、のどかがちゃんと聞けばマギさんもちゃんと答えてくれるはずです」

 

 夕映の言葉に勇気をもらったのどか。マギが席から離れ自販機の方へ向かったのを見てのどかも後をついていった。

 マギが何を買おうか迷っている所を

 

「マギさん…」

 

 のどかが後ろからマギを呼んだ。

 

 

 

 

 

「んあのどかか、如何したんだ?お前も喉が渇いたのか?」

 

 そう訪ねると、いえ別に喉は乾いていませんと首を横に振るのどか。じゃあ何しに自販機まで来たのかと首を傾げていると、のどかが

 

「あの、マギさん。今日言っていたエヴァンジェリンさんの所に泊まっているって…何でマギさんはエヴァンジェリンさんの家に泊まっているんですか?」

 

「朝にも言ってたけどな、エヴァの奴自分で思っているほどに学校生活が良くないんだ。だから俺がアイツの所に行って「嘘…ですよね?」…何で嘘だと思うんだ?」

 

 のどかに嘘だと言われてしまい、嘘だと言える根拠を問う。

 

「根拠は無いです…けど朝のマギさん、何処かみんなに心配をかけたくないようなそんな顔をしてました」

 

 のどかにはマギが嘘をついている事がバレているようだった。やれやれだぜ…マギはそう思いながら頭を掻いた。

 

「わりぃなのどか。確かに俺は嘘を吐いた。一つは魔法がばれない様に、もう一つはのどかに言われた通りお前らに変に心配されないようにだ。ったく俺は嘘を吐くのが下手だよなホントに…」

 

「何があったのか聞いてもいいですか?」

 

 のどかの要望にあぁと頷くマギ。自販機の近くにベンチがあったから座るマギとのどか。飲むつもりは無かったがマギはブラックコーヒー、のどかにはペットボトルの紅茶を買ってあげた。

 

「何で俺がエヴァの家に泊まりこんでいるかと言うと、簡単な事でエヴァに弟子入りしたからだ」

 

「弟子入り…ですか?」

 

 あぁとマギは頷いた。

 

「俺は京都で色々と経験して分かった事がある。俺は全然強くないって事に」

 

 そう言ってマギは感を強く握りしめる。

 

「のどかお前京都のこのかの実家の時に記憶が無いって言ってたよな?」

 

「はい…あの後夕映から私が石になっていた事を聞いてビックリしました」

 

「あぁ俺はのどかが石になっているのを見て正直頭の中が真っ白になっちまった」

 

「でもマギさん達のおかげで私達は助かったんだし、そんなに気にしないでも」

 

 のどがが気にしてないと言っているが、あぁそうだなとマギは項垂れている。

 

「確かにのどか、お前は助かった。けどなそれでものどかを危険な目にあわせちまった。お前を守るって言ったのに結局は守ってやることが出来なかった。運が良かったんだ…次は無いかもしれない。もう大切なものを守れないなんて嫌なんだ」

 

 だから俺はエヴァに弟子入りしたんだとのどかにそう教えた。

 

「心配すんな。エヴァは俺よりも強い魔法使いだ。エヴァの元だったら俺は前よりももっと強くなれる」

 

「でも…そんな一人で根を詰めなくても…無理をしたらマギ先生の体が」

 

「無理しないといけないんだよ!」

 

 マギは叫びながらのどかに行き成り抱き着いた。のどかはマギに抱き着かれて混乱していたが、マギが震えていることに気づいた。

 

「嫌なんだよ…目の前で大切なものを失うなんて…だから俺は強くなりたい…強くなって今度こそ大切なものを守りたいんだよ…」

 

 マギはこのまえ見た悪夢を思い出してしまった。もしあれが現実だったら自分は目の前で大切なものを失ってしまう…そんな事を思ってしまうと震えが止まらなくなる

 震えながら言っているマギにのどかは優しく背中を撫でてあげた。

 

「分かりました。マギさんだったら私が今できる事は何ですか?」

 

「のどかに今できる事…だったらお願いだ俺を信じてくれ」

 

「分かりました。私はマギさんを信じます」

 

 ありがとう…マギは自分を信じてくれるのどかにそうお礼を言った。

 

 

 

 

 

 抱き合って数分後マギとのどかはバッと離れた。マギは顔を若干顔を赤くしながら

 

「わッ悪かった…な。急に抱き着いて、嫌だったろ?」

 

「いッいえ大丈夫です!」

 

 大丈夫だと言ったのどかはマギよりも顔を赤くしていた。

 

「そろそろ戻るか。二人きりでいすぎると変な噂とか流れそうだし」

 

「そッそうですね…」

 

 マギとのどかは皆が居る場所に戻った。戻ったのだが…

 

「何やってるんだアレ…?」

 

 あやかとまき絵が古菲に追いかけまわされている状況になっていた。

 

「おいアスナ、これは如何いう状況なんだ?」

 

 マギはアスナに尋ねる。あぁアレとアスナは苦笑いを浮かべながら

 

「ネギが朝から古菲に変に気にしていてたんだけどね、古菲に中国拳法を習いたかったからでね。いいんちょとまきちゃんが勘違いしていて…まぁあとはマギさんでも分かるでしょ?」

 

「逆ギレ…ね何やってるんだかなぁまったく」

 

 マギは呆れながら見ていた。しかしネギが中国拳法か…

 

(ネギの奴思い切った事するな…)

 

 と思っていた。とのどかの方ではハルナと夕映に問い詰められていた。

 

「どうのどか!?マギさん何か吐いた!?」

 

「吐いたってハルナマギさんは何も嘘をついていないよ」

 

 ただ…とマギの方を見てから微笑んで

 

「マギさんは…やっぱりマギさんだった。だけどそんなマギさんが私は好きだよ」

 

 のどかはマギを信じると決めたのである。

 

「?のどかがそう言うなら納得するけど…」

 

 ハルナは不完全燃焼状態であったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネギは古菲に中国拳法を習う事でどれだけ強くなれるのだろうか…約束の試験の日まであと少しであった。

 

「まぁマギの場合は別荘で修業すれば1ヵ月くらいするだろうな」

 

「今それを言わなくていいぜエヴァ」



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飴と鞭

最近更新が早く出来て嬉しいです
それではどうぞ


話の後半でサービスシーン?的なシーンがあります


 ネギが古菲に中国拳法を教えて貰う事になった。ある日の早朝の4時、さっそく中国拳法を教えて貰う事になったネギ。

 まだ中国拳法など使った事が無いのでまずは型から入る事になった。

 

「ウム、ネギ坊主は呑み込みが早いアルね。これなら早くも技の修業に入れるアル」

 

「ほんとですかくー老師!」

 

 古菲に呑み込みが早いと褒められ喜ぶネギ。老師と云うのは教えて貰うのだったら老師と呼ばれた方がカッコイイからと古菲の要望である。

 もう一度一から型の練習をしようとするネギ。すると

 

「お~いネギく~ん」

 

 どっからかネギを呼ぶ声が聞こえてきたので辺りを見渡すと、手を振りながらこちらに近づいて来るまき絵の姿が

 

「まき絵さんお早うございます」

 

「お早うネギ君、古菲も!今ネギ君がやってるのって古菲に教えて貰ってる中国拳法ってやつ?」

 

「はいでも始めたばかりなのでまだまだです」

 

「でも結構キマッてたし、それにかっこよかったよネギ君」

 

「そッそうですか?」

 

 まき絵にカッコイイと言われ素直に照れるネギ。

 

「ねえねえもう一回さっきの見せてよ」

 

 ネギとまき絵がそんな遣り取りを見せていると

 

「ふん…中国拳法か」

 

 新たに声が聞こえた。と今度はエヴァンジェリンと茶々丸にチャチャゼロがやって来た

 

「ずいぶん熱心じゃあないか坊や」

 

 エヴァンジェリンがフンとネギの拳法を見ながら鼻で笑っていた。

 

「カンフーバカの古菲に教えて貰っているのはいい選択をしたかもしれないが…まぁ結局は子供の域で止まっている古菲に教えて貰ってその程度なら程が知れてるな」

 

 明らかに小馬鹿にしたエヴァンジェリンの態度に何故かまき絵がムッとする。

 

「その程度にマギに勝てるかどうか…まッ精々頑張れよ」

 

 そう言ってエヴァンジェリンは立ち去ろうとした。しかしネギの事が好きなまき絵がネギを馬鹿にされて黙っているわけが無かった。

 

「ちょっとエヴァちゃん!ネギ君の事色々と言ってるけどネギ君は強くなってマギさんを倒しちゃうかもよ!」

 

「無理な話だな。第一マギは私の元で修業をしてるからな。ガキのごっこ遊びで強くなっていると錯覚してしまうなんてお笑い草だ。それに私はお前のようなガキの考えが嫌いだ佐々木まき絵」

 

「何よエヴァちゃんの方が子供っぽいじゃん!私より胸小さいし、そんなエヴァちゃんに付いていってるマギさんも実はたいしたことないんじゃない!?」

 

 ビキリとエヴァンジェリンが気にしてる事を言われ若干キレそうになる。しかし思いとどまりフンと鼻を鳴らし

 

「だったら今試すか。茶々丸に一発でも攻撃を入れられることが出来たなら今日から坊やを弟子にしてやろう」

 

「いいよやってやろうじゃない!」

 

「ちょまき絵さん!」

 

 ネギが止めようとする前に話がトントン拍子で進んでいく

 

「いいのですかマスター?」

 

「あぁ構わん。軽く揉んでやれ」

 

 エヴァンジェリンの命令にハイマスターと頷く茶々丸。そしてネギの方を向いて

 

「行きますネギ先生」

 

 一気に接近し、ネギに腕を振り下ろした。ネギは振り下ろした腕を難なく受け止めるが、すぐさま連撃の蹴りを防げずに蹴飛ばされる。

 蹴飛ばされたネギは壁にぶつかり、目を回していた

 

「ねッネギ君!?」

 

「ネギ坊主!」

 

 蹴飛ばされたネギにまき絵と古菲が駆けつける。

 

「ネギ!」

 

「ネギ先生!」

 

 と其処に最近刹那に剣術を教えて貰っているアスナと刹那が現れて、ネギの元へ駆け付けた。

 目を回しているネギを見て全然駄目だな…と冷めたでネギを見ていた。

 

「茶々丸に一発も入れられないのならマギに勝つなんて無理な話だな。言って置くがマギは茶々丸よりも何倍も強い。精々土曜日の午前0時まで頑張る事だな」

 

 ハッハッハッ!と高笑いをしながら去って行くエヴァンジェリン達。アスナ達は急いでネギをかいほうする。

 

(…あれ?若しかしなくても私のせい?)

 

 自分のせいでネギが怪我をすることになって、滝のような汗を流しているまき絵であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…てな事があってな。私のコンプレックスを言われたからと言っても流石に大人げないと思ったのだ私も」

 

「ガチガチガチそッそうかガチガチガチ朝っぱらからガチガチ大変だったなガチガチガチ!」

 

「坊やの方も少しづつだが強くなっている。私達ももっと気合を入れ直さないとな」

 

「そうだなガチガチ宜しくガチガチ頼むガチガチぜ」

 

 

 

 

 

 

 

「って何で俺は雪山にいるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 マギの叫びも雪山の猛吹雪によって掻き消された。

 今マギが居るのはエヴァンジェリンの別荘の氷の世界のエリアでその中の雪山である。

 

「最近になって漸く集中力が高くなってきたからな。だったら今度は如何なる場所でも集中力を切らすことなく魔力を練る事が出来るかという修業だ」

 

「何言ってるんだよ!集中力を維持する前にこんなんじゃ凍え死ぬわ!」

 

 大声で喚くマギに落ちつけと制すエヴァンジェリン。

 

「そんな大声で喚いていないでとりあえず咸卦法でも使ってみたらどうだ?」

 

 エヴァンジェリンに言われマギはとりあえず咸卦法を使ってみた。すると寒さを感じなくなった。

 

「おお寒くなくなった!」

 

「ほう上手く言った様だな…だがそんな調子じゃ後30分と言わずに凍死だな」

 

 エヴァンジェリンの言った事に吃驚仰天のマギ。まぁ聞けと話を進める。

 

「そこがお前の弱点でもある。お前は強力な魔力を一気に放出しすぎてるんだ。ほんの少しの魔力でその状態を維持する事が出来れば1時間いや何日でも保つ事が出来る」

 

「出来るって俺最近になって漸く魔力を1時間以上練る事が出来るようになったのに難しくねぇか!?」

 

「それは慣れるより慣れろ…だボウリングの時に集中力のコツは掴めたんじゃないのか?」

 

 滅茶苦茶だぜ…とマギはとりあえずエヴァンジェリンに言われた通りに、魔力と気を集中して少しの魔力でも維持できるようにした。

 

「外の時間ではそろそろ学校が始まるからな、とりあえず1日で勘弁してやる。しかし帰ってきたら今日の続きだ」

 

 鬼だ…とマギはそう呟いていたが、何とか集中力を絶えず後は気合で1日保つことが出来たのだ。

 

 

 

 

 

 学校の職員室、マギは今日の資料を纏めていた。

 

「はッハクション!」

 

 マギは職員室で盛大なクシャミをした。

 クシャミがクシャミでほとんどの先生がマギが如何したのかと見ていた。

 

「あらマギ先生風邪ですか?」

 

 しずな先生が心配そうにマギに声をかけていた。

 

「じずな先生別に大丈夫ッスよ。ただ寝てる時に布団をはいじまってそれで冷えちまっただけです」

 

 まぁ本当は、極寒の雪山で1日居たんだけどねと呟くマギ。

 

「あらそう…お体には気を付けてね」

 

 お大事にとしずな先生の言葉にはーいと答えるマギ。マギは資料を何時の倍の速さで片づけると自分の教室に向かった。倍の速さで片づける事が出来るのは修業のおかげだなと思うマギ。

 

「お兄ちゃん!」

 

 とネギがマギの方に駆け付けた。おうネギとマギはネギに手を振った。

 

「何かネギとは久しぶりに会った気がするよ」

 

「何言ってるのお兄ちゃん昨日会ったばかりじゃない」

 

 まぁネギはそうだが、マギはエヴァンジェリンの別荘で何日も過ごしているから久しぶりに会う感が半端ないのだ。

 

「そう言えばお兄ちゃん、僕土曜日にエヴァンジェリンさんの弟子入りの試験でお兄ちゃんと試合をするんだけどよろしくね!」

 

「あぁそうだったな。まッ軽く揉んでやるよ」

 

 とそんな話をしていると教室にやって来た。

 

「そんじゃ俺は授業だし」

 

「そうだねお兄ちゃん頑張ってね!」

 

 それだけ言うとネギは職員室に戻って行った。さて…ととドアに手を置くマギ

 

「よーしテメェら席に着けー楽しくて眠くなる歴史の始まりだー」

 

 

 

 

 

 放課後ネギはさっそく古菲に中国拳法の技を教えて貰う事となった。試しに古菲と組手をやるが結局は古菲に一本を取られてしまう。

 

「ふむまだまだアルネネギ坊主、これじゃあマギさんに勝つのは難しいアル」

 

「もッもう一度お願いしますくー老師!」

 

 ネギは再度古菲と組手を行う。

 

「ふぇ~ネギも前より様になってきてるようね。アタシも負けてられないわ!刹那さんお願い」

 

「はいそれでは参りましょう明日菜さん」

 

「頑張ってなーアスナもせっちゃんも」

 

 アスナもネギに負けない様に刹那に剣術の稽古を付けてもらっていた。と言っても今まで剣術のけ文字も知らないアスナがそう簡単に刹那に勝てるわけも無く一本を取られてしまう。

 そんなネギとアスナが修業をしていると、まき絵が大量の弁当を持ってきてやって来た。

 早朝で自分のせいでネギに迷惑をかけてしまったと思い、お詫びとしてお弁当を差し入れしてくれたようだ。

 主に肉を中心としたスタミナ弁当の様だ。少しでもネギにスタミナを付けてほしいのと強くなってほしいと張り切って作り過ぎたようだ。

 しかし作り過ぎたせいかネギに弁当を食べさせすぎてしまい…

 

「何か強くなるどころか余計弱くなってしまったアル…」

 

 食べ過ぎてしまい、小太りになってしまい動きが鈍くなってしまった。

 

「わぁぁネギ君ゴメン!直ぐに元に戻すね!」

 

 と食べ過ぎた責任を取ってまき絵がすぐさまネギを元通りにする。まき絵が知ってるダイエットでネギは痩せた。痩せたのだが…

 

「こ…今度はミイラみたいになってしまったアル…!」

 

 ミイラみたいに干からびてしまい、さらに弱くなってしまった。

 

「ごめんねネギ君!私さっきから迷惑しかかけてないよ…」

 

「そんな事無いですよまき絵さん、僕のためにありがとうございます」

 

 まき絵が謝っているのをネギは別に気にしていないとそう返した。

 

「でも土曜日の午前0時まで時間ないし…あれ午前0時って事は日曜でもあるから…」

 

 まき絵が何か思い出したのか慌てだした。如何したのかとネギ達が尋ねると

 

「私も日曜日に大会の選抜テストがあったの…」

 

 結構大切な事の様だ。アスナが大丈夫なの?と尋ねると

 

「それがあんまり自信無くて…私聞いちゃったんだ。顧問の二宮先生が私の演技が子供っぽくて大会は駄目かもしれないって…それ聞いちゃったら何か自信無くしちゃって…」

 

 いつも元気が取り柄なまきえがショックを受けるほどだからそうとうなのだろう。アスナやこのかなどが励ます。

 

「そうだまきちゃんの演技を今此処で見せてよ。どうせならリボンが良いな」

 

 アスナの提案にまき絵はでも…と渋った。

 

「あの僕もまき絵さんの新体操見た事無いので、見てみたいです」

 

 ネギも見てみたいと言ったのでまき絵はやってみる事にした。

 

 まき絵が今出来る演技を軽く見せてみた。演技を終えたまき絵は如何かなと自信なさそうにネギ達を見てみた。ネギ達の反応はというと

 

「凄いじゃないまきちゃん!」

 

「全然いいじゃないですか!」

 

「でも先生は子供っぽいって…」

 

 ネギやアスナが凄いと褒めているが、まき絵は未だに自信が戻らないようだが、そんな事ありません!とネギが強く言った。

 

「僕新体操の事全く分かりませんけど、まき絵さんらしいまっすくで綺麗な演技でしたよ!」

 

「そッそうかな…?」

 

「そうです!とても綺麗でした!」

 

 大好きなネギにそう言われたおかげか少しだけ元気が出て来たまき絵。

 

「でも明後日なんだよね試験…」

 

 試験を思い出して再度しょんぼりするまき絵。それはそうですけど…ネギはこれ以上落ち込まない様に励ましている。

 

「此処まできたならやるしかないですよ。あと2日一緒にがんばりましょうまき絵さん」

 

 ネギの励ましの言葉で漸く元気を取り戻したまき絵。

 

「お~いネギ坊主そろそろ修業を再開するアル!」

 

「はいくー老師。それじゃあまき絵さん僕は此れで」

 

 それだけ言ってネギは古菲と又修業を再開した。

 

(ネギ君、最初は可愛いだけだと思ってたけど、ちょっとカッコイイかも…)

 

 ネギの認識を改めたまき絵であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さてネギやまき絵が2日後に向けて特訓をしてる中、マギはというと朝エヴァンジェリンが言っていた通り、帰ってきたらさっそく雪山での修業を再開していた。

 

「…」

 

 雪山にて凍りついてしまった池の上でマギは目を瞑って精神を統一していた。そして目をカッと見開かせると

 

「ふッはッとぁ!どっせい!!」

 

 一気に拳を振り抜いたり蹴り上げたりと格闘戦の型をやった。元々マギの近接戦は喧嘩殺法であった。

 しかしエヴァンジェリンの所で修業を行い、エヴァンジェリンの元で空手から柔道に合気道やらムエタイやテコンドーカポエイラなどを教えて貰った。

 ふぅぅ~と息を吐くと、パチパチパチとエヴァンジェリンが拍手をしながらやって来た。

 

「雪山の修業にて2日目…随分と魔力をコントロールできるようになったじゃないか」

 

「此処まで来たらもう死ぬ気でやらないとマジで死ぬからな」

 

 マギはこの2日(外の時間では2時間)、一応咸卦法をコントロール出来る様になった。マギの言葉通り一瞬でも気を抜いたらすぐに凍死してしまうからだ。

 

「この2日間良く持ち堪えたな。だったら修業のレベルを上げるか」

 

 そう言ってエヴァンジェリンが指を動かし始めた。まるで人形を動かすように

 

「何をやったんだ?」

 

「何、じきに分かるさ」

 

 エヴァンジェリンが言った数秒後、マギ達の周りの雪が動き始めた。そしてモゴモゴと盛り上がり

 

「グルォォォッ!」

 

 雪が3~4m程のシロクマとなった。それも一体ではなく何十体と云う数だ。

 

「今度はこの雪のクマを倒しながら雪山で過ごしてもらうぞ」

 

「結構いるな…でも魔力をしっかりとコントロールできるようになった俺にとっては…」

 

 マギは一瞬だけ魔力を上げてシロクマに接近し

 

「おら!」

 

 正拳突きでバラバラにしてしまった。雪の塊なので簡単にバラバラになってしまった。

 

「どうよ?」

 

 マギはエヴァンジェリンにドヤ顔でそう言った。マギの成長具合にほうと感心するエヴァンジェリン。

 

「大したものだな。魔力を一瞬だけ絞り出す方法も出来るようになったか。だけども油断していると危ないぞ」

 

 如何いう意味だ?マギはエヴァンジェリンが言っている意味がよく分からなかったが、粉砕したシロクマの雪が又集まってきており、すぐさま同じようなシロクマに戻ってしまった。

 

「グォォォォォッ!」

 

 元に戻ったシロクマは雪の爪をマギに振り下ろした。

 

「うお!ちょあぶね!!」

 

 マギは寸前の所で爪を回避して退散する。シロクマは雄たけびを上げながらマギを追い始めた。

 他のシロクマもマギの姿に気づき同じく雄たけびを上げながらマギを追い始めた。マギは何十匹のシロクマに追われるというある意味シュールな展開へとなってしまった。

 

「おいエヴァなんだこりゃ!倒しても直ぐに元に戻っちまうし、これじゃ全部倒すなんて無理じゃないか!」

 

「何を言ってるんだマギ?私は『倒しながら』と言ったんだ。それに倒したらそのまま雪に戻るとも言ってないじゃないか」

 

 なんだそりゃ!?殆ど詐欺の手口じゃあないか!とツッコミを入れながらマギはシロクマに追われていた。

 

「クソ!雪の塊が調子に乗るんじゃねぇよ!」

 

 マギはまたもや魔力を一瞬だけ上げて、雪の地面に手を置いてそのまま回し蹴りをした。カポエイラである。

 回し蹴りで何体かのシロクマを吹き飛ばす事が出来たが、次の瞬間には直ぐに元のシロクマに戻ってしまう。

 

「これじゃあきりがねえぞ!」

 

 マギは殴っても蹴っても元に戻ってしまう。

 

「ほらほら集中力をきってしまえば咸卦法が切れてしまうぞ」

 

「げしまった!」

 

 マギはシロクマ相手に集中力が切れてしまい、遂には咸卦法が消えてしまった。

 そのタイミングを見計らったのか、何十体のシロクマがマギに向かって飛び跳ねた。

 

「お…おいそれは不味いって…!」

 

 マギが逃げようとするが、シロクマたちが一斉に伸し掛かってマギが悲鳴を上げる暇も無く、シロクマたちに押しつぶされてしまった。

 魔力が切れたのか、元の雪に戻ってしまい、伸し掛かったクマたちは大きな雪の山へと変わってしまった。そんな雪山にマギは生き埋めになっている。

 

「まぁ今日は此れぐらいか…フン!」

 

 エヴァンジェリンは雪山に手を置くと魔力だけで雪山を吹き飛ばしてしまった。

 雪山に押しつぶされていたマギは軽く伸びてしまっていた。

 

「おいマギ今日は此処までだ。茶々丸が居るところまで戻ってキャンプとしよう」

 

「あぁ悪いな…」

 

 エヴァンジェリンに肩を貸してもらって茶々丸が居るらしき場所に戻った。

 

 

 

 

 

 茶々丸が居るらしき場所は雪山の洞窟であるが、洞窟の入り口は光で煌々と輝いていた。

 

「戻ったぞ茶々丸、チャチャゼロ」

 

「お帰りなさいませマスター」

 

「遅カッタナゴ主人」

 

 茶々丸はお辞儀、チャチャゼロはケケと笑いながら何時ものように出迎えた。

 

「今日の修業は此処までだ。マギは昨日より魔力をコントロールできるようになっていたぞ」

 

「そうですか、おめでとう御座いますマギ先生」

 

「よしてくれ俺なんかはまだまだだぜ」

 

 茶々丸にそんな事を言われて、少し照れくさくなるマギ。

 

「ケケ、俺トシテハモット強クナッテ殺シガイガアッテ欲シイゼ」

 

「チャチャゼロはチャチャゼロで相変わらずだな…」

 

 チャチャゼロの相変わらずさに乾いた笑みを浮かべながら少し引くマギ。

 

「お食事の準備は出来ております。と言っても持ってきた乾パンと、池で獲ってきた魚を焼いただけですが」

 

 茶々丸の申し訳なさそうな顔を見てとんでもないとマギは首を横に振る。

 

「俺なんかのためにそんな飯を用意してくれるだけでも有りがたいぜ。ありがとな茶々丸」

 

 マギはお礼を言って茶々丸の頭を優しく撫でまわした。

 行き成り頭を撫でられて少し戸惑った茶々丸だが、マギの手の優しい感触に思わず微笑んでしまう茶々丸。

 そんなマギと自分の従者の茶々丸の何だかいい雰囲気が気に入らずムスッとしながらマギの尻を蹴飛ばした。

 

「イテ!行き成り何で蹴るんだよ!?」

 

「喧しい。そんな無駄な事に時間を潰すんじゃない。私は先に行って飯を食べてるからな」

 

 エヴァンジェリンは不貞腐れながら洞窟の先へと行ってしまった。

 

「エヴァの奴なんであんな不機嫌なんだ?」

 

 マギはエヴァンジェリンの態度に首を傾げる。

 

「ケケ単ナルヤキモチダゼ」

 

「ヤキモチ?誰にだ?」

 

 マギは如何してエヴァンジェリンがヤキモチを焼いているのか分からない様子だった。

 チャチャゼロは何処か呆れた様子で(人形だから無表情)マギの方を見ながら

 

「オ前時々女心ヲヲ理解シテナイッテ言ワレ無イノカ?」

 

「時偶に言われたりする事がある。一応女心は理解してるつもりなんだけどな」

 

「ダッタライイガ、一応言ッテオクガ俺ノ御主人ハキレタラオッカネーゾ」

 

 ソレダケダケケと言い終えるとチャチャゼロも洞窟の奥の方へ行ってしまった。

 

「了解肝に銘じておくよ」

 

 そう呟いたマギもまた洞窟の奥へと向かった。

 洞窟の奥では薪がパチパチと暖かそうに燃えていた。

 おもわず薪に手を伸ばすマギ。火の温かさが冷えていた手を温めてくれる。

 

「焼き魚をどうぞ」

 

 茶々丸がマギに焼き魚を渡してくれた。マギとエヴァンジェリンが帰って来る事前に焼き始めたのかまだまだ魚が温かい。

 今迄飲まず食わずで修業をしていたためか、焼き魚の香ばしさが鼻をくすぐる。魚の身にかぶりつくと魚の旨味が口いっぱいに広がった。

 

「美味いな…修業のおかげか焼き魚だっていうのに美味いぜ」

 

 とあっという間に魚を食べ終えてしてしまった。乾パンも質素だがビスケットのように食べられた。

 あらかた食べてお腹も膨れたマギ。

 

「洞窟の更に奥にお風呂を用意しました。疲れた体を癒して下さい」

 

「温泉もあるのか?」

 

 マギの質問にいえと首を横に振る茶々丸。すると茶々丸の腕が開き、光剣状の物が飛び出してきた。

 

「最近ハカセによって新たにアタッチメントされたこのビームサーベルで雪を溶かしお湯にしたのです」

 

「もうなんでもありだなお前…」

 

 茶々丸のビームサーベルを見て、日本で有名な某機動戦士のビームのサーベルを思い出したマギ。茶々丸もそうだが、そんな物を開発するハカセも流石と舌を巻いてしまった。

 折角風呂を用意してくれたのだ。お言葉に甘えて風呂に入らせてもらうとしよう。

 茶々丸に言われた通りに洞窟を更に奥に進むとお風呂があった。湯気も出ておりとても温かそうだ。湯加減は如何かと指をお湯の中に入れると、いい湯加減だった。

 

「んじゃさっそく…」

 

 服を脱いでマギはお風呂の中に入った。じんわりとお湯が優しくマギの体を包み込んでいった。

 

「はあぁぁぁ~いい気分だ。雪山洞窟風呂って言うのも風情があっていいじゃねえか」

 

 極楽極楽とマギがお湯の中で足を延ばしていると、ひたひたと誰かがやってくる足音が聞こえた。

 

「おいマギ湯加減は如何だ?」

 

 エヴァンジェリンがやってきてマギに湯加減が如何かと尋ねてきた。

 

「あぁエヴァか。湯加減は丁度良くて結構気持ちいいぞ」

 

 と答えるとそうかと返してきた。だが次のエヴァンジェリンが言った事は、マギが大慌てするほどの爆発発言だ。

 

「だったら私も入るか。丁度体が冷えて来たしな」

 

「ぶふぅ!!おまエヴァ何言って!」

 

 マギが止める前に湯気越しだが、エヴァンジェリンが服を脱いでいることが分かる。

 慌ててマギは視線を明後日の方向へ向けた。

 エヴァンジェリンもお風呂の中に入ったのかジャブジャブとお風呂の中で歩いている音が聞こえた。

 そしてマギの隣でふぅ~とエヴァンジェリンの気持ちよさそうな溜息が聞こえた。

 

「マギの言った通り丁度いい湯加減で気持ちいいな」

 

 極楽だとエヴァンジェリンも上機嫌となった。

 

「エヴァ、お前さ恥じらいって言葉は無いのか?」

 

 一応異性のマギと堂々と混浴してるのだ。恥じらう気持ちは無いのかとエヴァンジェリンに尋ねた。

 対するエヴァはムッとしながらも

 

「私にとってマギは特別だ。特別な者と風呂に入って何が悪い」

 

 今のエヴァンジェリンに何を言っても無駄だと判断したマギはやれやれだぜ…と諦めた。

 

 するとマギの体、特に腕や背中に冷たい感触が当たる。

 

「ふむ…お前の裸を見て思ったが、結構鍛えているのだな。背中もガッチリしているし」

 

 見るとエヴァンジェリンがマギの腕や背中をペタペタと触っていたのだ。

 

「ちょ何やってるんだよ!」

 

 顔を赤くしたマギは思わずエヴァンジェリンから離れた。

 

「何って弟子の成長を確かめるのも師としての役目だろうが」

 

「にしては触り方が何かエロかったぞ!」

 

 いやーすまないとエヴァンジェリンは笑みを浮かべながら謝ったが、次の瞬間には真剣な顔になって

 

「マギ、私から見てもお前は前よりも強くなったと思う」

 

「ありがとなエヴァ。そう言ってくれると嬉しいぜ…でも俺はもっと強くなりたい」

 

 マギはギュッと拳を握りしめた。

 

「なぁマギ如何してお前は自分の体を危険に晒しても強くなろうとするんだ?」

 

「…俺は麻帆良に来た時は誰にも負けない程強いと思っていた。けどそんなのただの思い過ごしだった。俺より強い奴なんてごまんといる…それをこの前の修学旅行で知ったんだよ」

 

 マギは修学旅行でアーチャーに惨敗したのを思い出す。

 

「中途半端な強さじゃだめだ。俺はもっと強くなりたい…目の前の大切な者やエヴァ…お前を守れるほどの強さを俺は欲しい。だからエヴァ俺をもっと強くしてほしい」

 

「あぁ…お前が私を守るほど強くなるんだったら、もっとキツイ修業にしないとな…根を上げるなよ?」

 

「上等、誰が根を上げるかってんだ」

 

 マギとエヴァンジェリンが風呂の中で笑いあうのだった。

 

 

 

 ネギとマギ修業の方法は違えど、強くなる目的は一緒だった。誰かを守れるほど強くなろうとする事。

 そんなネギとマギにとっての運命の試験の日まで残り2日をきったのであった。

 

 




金髪のロリキャラはいいものだ…


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覚悟の差

最近は早い段階で投稿できるのでサクサク進んでいるつもりです
大学の春休みものこり約一か月

何とか原作の8巻までたどり着きたいです

それではどうぞ


 ネギのエヴァンジェリンへの弟子入りのテストへ向けて、ネギは今日も古菲に中国拳法の特訓をしてもらっていた。

 そして今日がその試験当日の土曜日である。現在午後の4時、試験まで残り時間は8時間を切った。

 古菲は今迄主にカウンター技をネギに教えていた。ネギでは真正面からの正攻法では勝ち目がないと考えた古菲。だったらカウンター技だという事になった。

 カウンターこそが中国拳法の真骨頂だと云うのが古菲の考えである。

 ネギは特訓の締めとして、今まで古菲に教えて貰った技を駆使して最後の組手を行っていた。

 

「…ウム、私が教える事はもう何もないアル。後は体を休めながら技の復習を行うヨロシ」

 

「はい…ありがとうございましたくー老師」

 

 古菲は一通りネギに技を教える事が出来たようだ。ネギと古菲は合掌しあい、特訓を終了した。

 

「おーいネギくーん!」

 

 特訓が終了したネギの元へまき絵やアスナ達がネギの元にやって来た。

 

「まき絵さん今日は!」

 

「こんにちはネギ君!拳法の方はどんな感じ?」

 

 まき絵がどんな感じかと尋ねるとネギはう~んと唸ってから

 

「くー老師には僕が今できそうな技を全て教えて貰いました。その力をどれだけ出せるかは今日の試験次第です…でもやれるだけやってみるつもりです」

 

 そう言ってサムズアップをした。そう言うまき絵さんは?とネギがまき絵の新体操の具合を尋ねると

 

「ネギ君やアスナ達のおかげで自信は取り戻せたと思う。けど上手くいくかは分からないな。でも私も自分が出来る精一杯の演技をするつもり」

 

「それじゃあまき絵さんは明日」

 

「ネギ君は今日の夜中」

 

「「がんばりましょう(ろうね)!」」

 

 ネギとまき絵は互いに頑張る事を誓い合った。

 

「おーいネギ君!今夜試合するって聞いてたから差し入れ持ってきたよ~!」

 

 と裕奈とアキラが大量の弁当を差し入れに持ってきてくれた。少し時間が早いが夕食を食べることにした。

 

「所でくーふぇ、ネギ君試合では勝てそうなん?」

 

 このかが古菲に勝てるかどうかを尋ねると、古菲はいやそれどころか…とおかずを食べながら難しい顔をして

 

「それがネギ坊主の飲み込み能力が反則過ぎるアルよ。普通なら様になるのに1ヶ月かかる技を、わずか3時間でマスターしたアル。全くどうなってるアルネギ坊主は」

 

 古菲の言った事に裕奈達はネギの飲み込みの速さに感心した。

 

「だけどそれ位頭が良くないと10歳で先生はできないかも」

 

 アキラがもっともな事を言った。

 

「そっか流石天才少年!それじゃあ楽勝ジャン!」

 

 ネギそっちのけで裕奈達が騒ぎ始める。

 

「いや…そんな簡単にいくとは…」

 

 今日ネギと試合をするのはあのマギだ。しかもあのエヴァンジェリンがマギの師となっているのだ。

 絶対簡単に試験を合格するという保証は零に近い。

 そんな不安そうなネギに近づいて元気づけようとするアスナ。しかしネギに近づいて鼻を動かすと

 

「ネギ、アンタ臭うわね。まさかまたお風呂に入ってないでしょう?」

 

 アスナに指摘されドキリとするネギ。そうネギはお風呂が苦手で特訓を理由にお風呂に入るのを厳かにしていたのだ。

 清潔好きな女子達にとってお風呂に入らないネギはドン引きされていた。

 

 ハァァ~と呆れながらネギの首根っこを掴んで

 

「ちょっとシャワーを浴びて来るわよ!これからマギさんとの試合だって言うのに臭くちゃ失礼でしょ!」

 

「あわわごめんなさ~い!」

 

 ネギが喚いているのを無視してアスナはシャワー室がある場所まで引きずられていった。

 アスナとネギの遣り取りを見ていたまき絵達は

 

『何か世話がかかる弟を躾けるお姉ちゃんみたいな関係かな』

 

 と思ってしまっていたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 マギの方も修業の第一関門が終了しようとしていた。

 

「…」

 

 マギは雪山の頂上にて腕を組んで静かにたたずんでいた。

 

「今だ、一気に魔力を開放してみろ」

 

 エヴァンジェリンがマギに言った次の瞬間

 

「!ハァァァァァッ!!」

 

 魔力を一気に解放したマギの拳を雪山の山頂に叩きつけた。叩きつけられた山は頂上から罅割れを始め、頂上から崩れ始めた。

 

「うおッ!ちょやり過ぎたか!?」

 

 崩れ出したので危ないと感じたマギは黒き翼で空に回避した。マギは崩れ去り更地になってしまった雪山跡を見降ろした。

 

「漸く魔力のコントロールを完璧に出来るようになったな。修業の第一関門はこれで終了した」

 

「あぁこれまでの魔力の力が半端じゃなく感じるぜ…でもまだ修業の第一関門なんだな」

 

 当然だと断言するエヴァンジェリン。

 

「魔力のコントロールが最初の土台なんだぞ。闇の魔法はそれ位強力なんだ。魔力をしっかりコントロール出来ないと闇の魔法の力に飲み込まれるからな」

 

 エヴァンジェリンの説明に成程なと納得するマギ。

 

「まぁ今日は坊やの弟子入りのテストだ。マギ、今日はもうゆっくりしておけ」

 

 エヴァンジェリンのご厚意に甘えるマギ。そんなマギがなぁエヴァと呼ぶ。

 

「ネギの事だけどさ、お前本気でネギを弟子入りさせるつもりなのか?」

 

 さぁな分からんと肩を竦めるエヴァンジェリン。ただ…と何処か遠くを見ながら

 

「私から見て駄目だと判断したら、私は容赦なく坊やを見捨てるつもりだな」

 

 手厳しいねぇとマギも呟く。

 

「まぁ俺も、ネギの奴が思っていたのよりも腑抜けていたら容赦なく潰すけどな」

 

 マギとエヴァンジェリンも準備は完了をしていた。

 

 

 

 

 

 そして、遂に土曜日の深夜12時。

 試験の時間となった…

 

 

 

 

 

 場所は世界樹の近くの階段広場。

 マギ達が先に広場に到着していた。

 マギは試合という事で柔軟体操などをして準備をしていた。

 

「ネギの奴遅いな…まさか遅刻なんてしないだろうな」

 

「いや私達が先に着いたようだ。もう少し坊やを待ってみろ」

 

 マギは腕の関節をボキボキ鳴らせながら、ネギの遅さを愚痴っていた。

 

「ケケケ、早ク俺ニ血ミドロノ殴リ合イを見セテクレヨ」

 

「姉さん大人しく待っていてください」

 

 チャチャゼロが早く殴り合いを見たくてうずうずしているが、そんなチャチャゼロを茶々丸が押さえていた。

 

「しかし宜しいのですかマスター?マスターの元で修業したマギ先生にネギ先生が一撃を入れる可能性はほぼ0%に近いです」

 

 茶々丸が言っている事は正しいだろう。そうだろうなとエヴァンジェリンも否定しない。

 

「だけどな、一発でも攻撃を当てれば合格なんて破格の条件だ。それに坊やはナギの息子でマギの弟だ。若しかしたらなんてことがあるかもしれないからな…しかし今回のテストで駄目だったのなら坊やはその程度だったという事だな。だからマギ容赦するなよ本気で行け」

 

「あぁ最初から本気で行くぜ」

 

 とマギ達が話をしていると。話に出ていたネギがやって来た。

 

「エヴァンジェリンさんそしてお兄ちゃん。ネギ・スプリングフィールド、弟子入りテストを受けに来ました」

 

 やって来たネギによく来たなとエヴァンジェリンがネギを見降ろしながらそう言う。

 

「では早速始めるぞ。坊やのカンフーもどきでマギに一発でも攻撃を当てれば合格だ。しかしマギに手も足も出せずに貴様がくたばればそれまでだ。分かったか?」

 

 エヴァンジェリンが改めてテストのルールを教える。

 

「その条件でいいんですね?」

 

 対するネギは自身満々で返した。如何やらこの2日間の特訓に自信を持っているようだ。ネギの反応が自分が思っていたのと違うので若干戸惑ったエヴァンジェリン。

 

「それじゃあ始めるかと言いたい所だが…そのギャラリーは何だ!?」

 

 エヴァンジェリンが言ったギャラリーとはアスナやこのかに刹那。ネギに中国拳法を教えた古菲にこの2日間目的が違えど一緒に頑張ってきたまき絵。そして面白半分で付いてきた裕奈とネギが心配で付いてきたアキラであった。

 

「何か付いてきちゃって…」

 

 ネギも苦笑いを浮かべていた。ギャラリー達はネギに声援を送っていた。

 

「ネギ君大丈夫そう?」

 

 まき絵はネギに大丈夫か尋ねると

 

「まき絵さん、練習の成果を出し切ってみます」

 

 サムズアップして心配しないでと返した。

 

「ネギ!」

 

「兄貴!」

 

 アスナとカモも心配でネギに声をかける。

 

「大丈夫ですアスナさん、カモ君」

 

 そしてネギはマギと相対する。

 

「お願いしますお兄ちゃん」

 

 ネギはマギに合掌をする。

 

「この2日でどんだけ成長したか見てやるよ」

 

 マギも拳を構えて戦闘態勢に入る。

 

「ねッねえくーふぇ、ネギ君は大丈夫かな?」

 

 まき絵はやはり心配で古菲に尋ねる。正直言って分からないアルとそれだけしか答えられなかった古菲。

 

「マギさんが戦っている所は一度位しか見てないアル。その時マギさんの戦いを見て、ハッキリ言って化け物クラスだと感じたアルよ。そんなマギさんに長期戦を挑むのは無謀アル。だから私はネギ坊主にカウンター重視の技を教えたアル…正直1分以内にカウンターを当てなければ勝機は無いアル」

 

 それだけ聞くとネギが勝てる見込みはほぼ0ではないか。

 

(ネギ君…頑張って!)

 

 何も出来ないまき絵はただネギが無事に合格してくれるように祈るだけだった。

 

「では始めろ!」

 

 エヴァンジェリンの号令で試験は開始した。

 

「んじゃ行くぜ」

 

 マギは一瞬の魔力強化でネギに一気に接近した。

 

「契約執行90秒間 ネギ・スプリングフィールド!」

 

 ネギも契約執行で自身の身体能力を向上させる。

 

「シッ!」

 

 マギの正拳突きをネギは腕でガードする。

 

「そらよ!」

 

 更にマギはもう片方の腕でパンチをするが、ネギは受け流す。そして受け流した反動で

 

「八極拳 転身胯打!」

 

 古菲に習ったカウンター技を放つが、マギの腕によってガードされる。

 

「おお!?」

 

 裕奈達は何が何だか分からないが歓声を挙げていた。

 

「むッ惜しい!」

 

 古菲は今のカウンターがかなり惜しい所だったと分かった。

 

「…へぇ」

 

 攻撃をガードしたマギも今の攻撃はまぁ中々だったと思った…それしか思わなかった。

 その後もマギとネギの殴り蹴りは何十合か続いた。

 

「なんかすごい!ただ殴り合うだけだと思ったけど何者なのあの兄弟は!?」

 

 裕奈は改めてマギとネギがただの兄弟じゃないと思い知らされた。

 

「あのスピードやるアルヨネギ坊主!」

 

 古菲もネギのスピードにこれならばと思っていた。しかし

 

「だけどこれは…」

 

「ああ兄貴がヤバいでさ」

 

 アスナとカモは此れはヤバいと感じていた。何故なら

 

(ふん我流の自分への魔力供給か。これまた強引な術式だな…しかしたった2日の修業では、スピードパワーが追いついた所でマギには勝てんぞ)

 

 エヴァンジェリンがネギの強引な魔力供給に呆れているのと同時に、マギに思い切り蹴飛ばされるネギ。

 マギと距離が開いてしまい、少しだけよろけるネギ。その間にもマギが再度接近する。

 

「ネギ君!」

 

 またネギがやられてしまうと思い、悲鳴を上げるまき絵。

 

「いや作戦通り、あれは誘いアル!」

 

 誘い!?まき絵は作戦の事を良く知らなかった。見ればネギは足を踏ん張っていた。

 

 何も知らずに(・・・・・・)マギはネギに向かって正拳を放った。

 

 しかし放たれた正拳はネギに掴まれてしまった。

 

(上手いアル!そこでカウンター!)

 

「八極拳 六大開頂 攉打頂肘!!」

 

 ネギのカウンター技が今度こそマギに当たろうとしていた。勝ったと誰もが確信していた。

 …だがそれは間違いである。

 

「悪いなネギ、その程度のカウンター技はもう見切っちまってるんだ」

 

 攻撃が当たる瞬間、マギは腕を使わず地面を蹴り上げて、逆立ちの状態になってネギの攻撃を躱した。

 マギはネギのカウンターのタイミングを見切り、敢えてネギの誘いに乗ったのである。

 

「そらお返しだ」

 

 マギは地面に足が降りる力を借りてネギの腹に蹴りを食らわした。

 

「ガフッ!」

 

 クリーンヒットしたネギはそのまま地面をズザザと滑っていった。

 滑り終え動けなくったネギと同時に、魔力供給の魔法が消えてしまった。

 

「あ…」

 

 さっきまで勝利を確信していたまき絵達はシン…と静まり返ってしまった。

 

「ッチ、やはりガキはガキか。こんなものだろうさ」

 

「機嫌ガ悪イナ御主人」

 

 チャチャゼロの言った通り、今のエヴァンジェリンは不機嫌だ。マギの弟だから少しは出来るかと思いきや、いざ戦ってみるとその程度。ハッキリ言って興ざめものである。

 

「残念だが坊や、これが貴様の実力だ。顔を洗って出直してこい」

 

 此れでもう終わりだろうと思い、気絶しているだろうネギにエヴァンジェリンがそう言い放つ。

 

「ネギ!」

 

「ネギ君!!」

 

 アスナとまき絵がネギの元へ駆け付けたが、ネギの指がピクリと動いたのを見て思わず立ち止まる。

 

「へへ…まだですよ。僕はくたばってませんエヴァンジェリンさん」

 

 ボロボロであるが、何とか起き上がったネギ。まだやる気で拳を構える。

 

「何言ってるんだお前、もう試験は終わりだ。さっさと帰って寝たらどうだ?」

 

 エヴァンジェリンはシッシと追い払う仕草をした。

 

(ネギの奴、俺が蹴り飛ばす直前に障壁を張って攻撃を軽減したのか…たく器用な真似するよなホントに)

 

 マギは舌打ちをしながらネギを見ていた。

 

「エヴァンジェリンさんが言っていた条件は『僕がくたばるまで』でしたよね?それに確か時間制限は無かったと思いますけど?」

 

「おい、まさか貴様」

 

 エヴァンジェリンはネギが言おうとしていることが分かってしまった。そのまさかですとネギはマギの方を見た。

 

「一撃入れるまで何時間でも粘らせてもらいます。お兄ちゃん続きを」

 

「…まだヤル気の様だな」

 

 マギは少しだるそうに頭を掻いていた。ネギはまだ諦めていない様子だ。それととネギはまだマギに言いたい事があるようだ。

 

「お兄ちゃん、今度からは本気を出して欲しいんだ」

 

 ネギはさっきまで戦って、マギが手を抜いて戦っていると分かった。

 

「…いいのか俺が本気を出しても?」

 

 マギはネギに本気を出してもいいのかと確認を取る。

 

「本気を出して欲しいんだ。手を抜かれた状態でお兄ちゃんに勝っても意味は無いんだ」

 

 …そうかよとマギは呟いて関節を鳴らす。そして纏っている雰囲気を変えた。

 

「やぁぁッ!」

 

 ネギはマギに意地でも一撃入れようと前に出るが、マギは一瞬で消え、一瞬でネギの目の前に現れた。

 

「…え?」

 

 ネギは一瞬で現れたマギに動揺を隠せなかった。

 

「…覚悟しろよ。此処からは俺の軽い本気モードだ」

 

 マギの目にも見えないパンチがネギの顔面に抉るように入った。

 パンチがモロにネギに入り、ネギがかけている眼鏡が宙を舞った。

 

 

 

 

 

 試験が始まって1時間が経った。最初の方はこのか達もネギに声援を送っていたが、それが段々無くなってきた。何故なら

 

「はぁッ!…はぁッ!…ハァッ!…」

 

 ボロボロのネギと

 

「なあネギもう止めねぇか?俺もう疲れちまったよ」

 

 ネギとは逆に眠そうに欠伸をしているマギ。

 此処までの戦いはマギのワンサイドゲームと化していた。

 最初の方はネギの攻撃を防いでいたが、もうネギに攻撃を許す事はしなくなった。マギはエヴァンジェリンに教わった格闘技を全て駆使ししてネギを潰そうとした。

 ボディががら空きなら鳩尾に肘打ち、足元がお留守なら足払いで転ばせ、腹を思い切り蹴り飛ばした。さらに腹にめり込むかのようなラッシュを連続で喰らわした。

 ネギが反撃に出ても合気道や柔道の背負い投げで地面に叩きつけ、足を持ってジャイアントスイングで投げ飛ばした。

 それでもネギは立ち上がって今も尚マギに攻撃を入れようと足掻いていた。

 

「なぁネギまだやるの?お前が俺に勝てないって分かっただろ?」

 

「いえ…まだでふ」

 

 マギが諦めろと言ってもネギは諦めない様子だ。

 

「あっそ…だったら本格的にくたばってもらうか」

 

 そう呟いてマギはフラフラなネギの腹にまたもや容赦のない蹴りあげ攻撃をして、ネギが蹴り上がったら今度は踵落としでネギを地面に叩きつけた。

 そして叩きつけられたネギの背中を踏みつけるマギ。余りの残酷さにこのかや裕奈などが目を逸らす。

 

「ったく弱すぎだろ…ホントに古菲に中国拳法を習ったのかよ。って事でおい古菲!ネギの奴に本当に中国拳法を教えていたのかよ!?」

 

 今迄ネギが一方的に攻撃されているのを見て呆然としていたアスナ達だが、マギが古菲の名を呼んだことにハッとして

 

「もッ勿論アル!ネギ坊主は1ヶ月かかる技を短時間で覚えてしまったアル!そんなネギ坊主が弱い訳ないアル!」

 

 古菲の言った事にやっぱりなとマギは呟いて

 

「おいネギ、俺は今迄言わなかったが、お前に嫌いな所が有る。それはそうやって簡単に自分は強くなったって思い込んでる所だ」

 

 マギは冷めた目でネギにそう言い放った。行き成りマギがネギの嫌いな所を言った事にアスナ達は息を呑んだ。マギはネギを踏みつけながらも話を続ける。

 

「俺にとってネギ、お前の頭の良さは兄貴としては鼻が高い思いだ。さっきの中国拳法も中々だった…けどなそれだけだ。お前が強くなったとは思えない。ただ古菲の技を真似してるようにしか感じられなかった。だからお前の攻撃は簡単に見切れるんだよ」

 

 そう言い終えると、マギはネギの髪を掴んで持ち上げてネギの顔を見た。

 

「なあネギ、お前本気で強くなりたいと思ってるのか?今までの攻撃を見ても強くなりたいという感じがしなかった。大方古菲が最初の方でふざけた修行法で時間を無駄遣いしたんじゃねぇのか?」

 

 古菲はマギに言い返そうとしたが、マギの言った事が図星で何も言えなかった。確かに古菲は修業初日に、自分がやっている無茶な修行法にネギにも(まき絵も巻き込み)やらせて朝の修業を無駄にしてしまった事があるのだ。

 

「お前だって痛感しただろ?京都の時の自分達の不甲斐なさを…だから強くなろうと思ったんじゃねぇのかよ?死ぬ気で強くならなくちゃいけないのにお前はのうのうとこの2日間無駄な時間を過ごしてたのか?」

 

 マギに聞かれてもネギは何も言えなかった。そのネギの態度が気に入らなかったのか、マギはネギに頭突きをやってまた地面に沈んだ。

 ネギはマギに殴られ蹴られをされながら気づいた。自分とお兄ちゃんとの力の差が離れきっていることに。

 ネギは古菲の所で今迄した事の無い辛い修業をしてきたつもりだ。おかげで少しは格闘戦で強くなったと思っていた。

 だがマギは自分のそれ以上の強さだ。エヴァンジェリンの元で過酷で、それこそ死ぬかもしれない修業をしていたのだろう。

 

(無理だ…今の僕じゃお兄ちゃんに勝てない…)

 

 力の差に絶望するネギ。

 

「…ッチ!覚悟もねえ奴が強くなっても意味ないんだ。だったらそこでずっと寝てろ」

 

 それだけ言ってマギは倒れているネギの元から去ろうとした。アスナ達ももうネギが戦えないと思いネギの所へ駆け付けようとした。

 だがその時

 

「待ってマギさん!」

 

 まき絵がマギ向かって叫んだ。呼ばれたマギは黙ってまき絵の方を見た。

 

「ネギ君に覚悟が無いなんて言わないで!ネギ君は今日まで一生懸命に頑張ってたもん…覚悟があって目的のために頑張ってきたもん!だから…だから」

 

 まき絵の言いたい事は分かるだろう。しかしマギは溜息を吐きながら

 

「なぁまき絵、覚悟ってなんだと思うお前は?」

 

「…え?」

 

 マギに聞かれ、まき絵は改めて覚悟というものが何なのか考える。

 

「まき絵が言った通りネギにも覚悟があるのならば力の差でも、覚悟の差でも俺よりも下だ」

 

 一旦区切って話を続けるマギ

 

「ネギは目的のために一生懸命頑張る覚悟…俺の覚悟は大切なものを死ぬ気で、命を賭ける思いで護る覚悟だ。ネギの方は一生懸命ベストを尽くせばそれでいいかもしれない。だけどな俺は違う。俺は大切なものを護れなかったらこの命捨てる覚悟だ。守れなかったら意味が無いんだ」

 

 アスナ達はマギの目を見た。マギの目は嘘を語ってない目だ。本当に守れなかったら死ぬつもりなのだろう。

 

「ネギ、お前はアスナやこのかに刹那、それに他の生徒達を護れなくても、ベストを尽くした一生懸命頑張ったけど駄目だったで終えるつもりか?それだったら敢えて言わせてもらうぞ…失望した」

 

 話はそれだけだ。それじゃあなとマギは今度こそ去って行こうとした。

 

「ま…待って…お兄…ちゃ…ん」

 

 倒れていたネギがゆっくりと立ち上がる。その目にはまだ光が宿っていた。

 

「僕も一生懸命頑張ればアスナさん達を護れると思った…けどお兄ちゃんと戦って分かったよ…一生懸命だけじゃ護れない…だったら…死ぬ気で覚悟を決めるべきだって」

 

 足をガクガクと生まれたての小鹿のように足を震わせていたが、その目は力強くマギを見ていた。

 

「その言葉に嘘や偽りはねぇか?」

 

「無い…よ。今言った事は…今の僕の本心だよ」

 

 今のネギはまさに覚悟を決めた者の目だろう。良い目だとマギは呟いて

 

「なぁエヴァ、今から試験のルールを変えてもいいか?」

 

「構わんぞ。今の坊やじゃマギに一発でも当てるのは無理そうだしな」

 

 ありがとうとマギはエヴァンジェリンにお礼を言って再度ネギの方を向く。

 

「いいかネギ、今から俺が全力のマジな一撃をお前に喰らわせる。その一撃にお前が耐えたら合格だ。くたばったら残念だが不合格だ…それでいいか?」

 

「うん、構わないよ」

 

 ネギも構わないと覚悟を決めたようだ。上等とマギは呟いて自分の魔力を一撃のために集中し始める。

 マギが魔力を集中し始めた事によりマギの周りで乱気流が起こり始めた。

 

「ちょ大兄貴!それは流石にやばいでさ!」

 

 カモはアスナに聞こえるぐらいの声で喚き慌てた。

 

「ちょ何がヤバいのよカモ!?」

 

 アスナは他の人にばれない程の声でカモに何がそんなにヤバいのか尋ねる。

 

「大兄貴、修学旅行の時よりも魔力や魔力を練る力が格段に上がってるんでさ!今の大兄貴の本気の一撃を兄貴が喰らったら、顔が言葉道理に吹っ飛ぶか顔が粉砕されちまうか…」

 

「ちょちょっとそれは不味いでしょ!早く止めないと…ネギ!」

 

 アスナはネギが頭を吹っ飛ばす姿を想像して顔を真っ青にしてしまった。

 

「行くぞネギ…死ぬ覚悟は出来てるか?」

 

「死ぬ覚悟じゃないよ。これを耐えてもっと強くなる覚悟だ」

 

「そうか…行くぞ!」

 

 マギは溜めていた魔力を一気に放出した。まき絵達はもう見ていられなくなって目をギュッと閉じていた。

 

「たぁぁぁッ!」

 

 

 

 バキィィィィィッ!!

 

 

 

 マギの一撃がネギの頬を抉るように決まり、さっきの倍以上も吹っ飛ばされてしまい、広場の壁に思い切り叩きつけられた。

 ネギは壁からずり落ちるとそのまま倒れて動かなかった。

 

「ネギ!」

 

「ネギ坊主!」

 

「ネギ君!!」

 

 アスナ達は倒れているネギに向かって叫んだ。しかしネギは何の反応も見せなかった。

 やはり駄目だったのか…アスナ達が諦めかけていたその時、ネギの指がピクリと動いて

 

「う…うあ…」

 

 ネギがまたもや立ち上がったが、目に光は宿っておらず意識も朦朧としているようでフラフラとしており今にも倒れそうだった。

 起ちあがったネギを見てマギはフッと笑うとゆっくりとネギに近づいた。

 まさかまだネギを攻撃する気なのか、マギがネギに向かって手を振り上げたのと同時にアスナがハマノツルギを出そうとした。

 

「…良く耐えたなネギ、試験は合格だ」

 

 そう言ってマギはネギに何時もやってるように頭に手を置いて、優しく撫でまわした。

 

「ほ…本当…?」

 

 ネギは虚ろな目でマギに再度聞いた。あぁとマギは頷いて肯定する。

 

「よく頑張ったな。これでお前も今日からエヴァの弟子だ」

 

「や…やったぁ…!」

 

 そしてネギはそのまま意識を失ってしまった。

 

「ネギ!」

 

 アスナがネギの元に駆け付ける。

 

「心配すんな。ただ気を失ってるだけだ」

 

 マギはネギをアスナに渡した。渡されたアスナは少しだけ呆然とするがハッとしてマギの方を見て

 

「マギさん!アンタ何自分の弟にこんな事して、これでネギが死んだらどうすんのよ!?」

 

 アスナはマギに向かって自分の思った事を素直にぶちまけた。マギは何も言わなかったが、エヴァンジェリンは

 

「フン貴様の目は節穴の様だな」

 

 とアスナを小馬鹿にするような態度でそう言った。

 

「どういう意味よエヴァちゃん!?」

 

 アスナは自分の目が節穴だという事に納得できなかった。

 

「マギは終始坊や相手に本気ではなかったのだよ。それにあの最後の1撃も坊やに当てる直前にマギは一気に力を制限した。全くよくそんな芸当ができる物だな」

 

「悪いなエヴァ。やっぱコイツをこんな所で潰すわけにはいかないと思ってさ。さっきはああは言ったけどコイツにだって覚悟はあるようだし」

 

「でも覚悟を持ってるからと言ってネギはまだ子供なのよ!?あそこまで酷い事しなくてもいいじゃない!」

 

 アスナは言った事は皆思っている事だろう。あのなアスナとマギは真剣な目でアスナを見て

 

「覚悟を決めたんだったら、子供も大人も関係ないんだよ。俺達が強くなるためにはそんな甘い気持ちは捨てないといけない…捨てないといけないんだ」

 

 マギが言った事にアスナは何も言い返せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇り始めた頃にネギは漸く目を開けた。

 ネギが目を覚ましたことにアスナ達はホッと一安心だ。

 

「アスナ…さん、僕テストはどうなったんですか?」

 

 ネギは意識が朦朧としていたのか覚えていなかった様だ。

 

「ネギ、テストは合格よ。頑張ったじゃない」

 

 アスナはネギに微笑みかけながらそう言った。おいネギとマギが呼ぶ。マギはネギの近くに座り込んでいた。

 

「ネギ、最後はガッツがあったぜ。だけどなまだまだ俺には遠く及ばないな。もっと精進しろよ」

 

「へへ…はい!」

 

 精進しろよと言われてネギは元気よく応えた。

 

「坊やお前の勝ちだ。約束通り今日から私はお前の弟子だ。いつでも私の家に来い…それとカンフーの修業は続けておけ。どのみち体術は必要だしな」

 

 そう言ってエヴァンジェリンは立ち去って行った。ネギの元にまき絵や古菲も集まる。

 

「ネギ坊主頑張ったアルな!」

 

「はいくー老師…まき絵さん、今度はまき絵さんの番ですが頑張ってください」

 

「うん…私もネギ君みたいに頑張るよ!」

 

 

 

 

 

 こうしてネギのエヴァンジェリンへの弟子入りのテストは合格したのであった。

 その後自信を取り戻したまき絵は自分らしい演技を披露し、無事選抜テストに受かったのだった



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オレノテガカリ

「はいネギ君、動かんといてな~」

 

「あたた…すみませんこのかさん」

 

 ネギがエヴァンジェリンの弟子入りのテストに合格したネギは、直ぐに寮に戻るとこのかに傷の手当てをしてもらった。

 傷口に染みる薬を塗っているため、傷口に染みり、ネギは目に涙を溜めていた。

 

「全くもぉ、何で男の子って何時もそうやって無茶するのかしらね。よく分からないわ」

 

 アスナは何時も無茶するネギに呆れていた。

 

「仕方ねえだろ。無茶な時でもやる時にはやるしかない。それが男ってもんだ」

 

 マギがロフトで片手腕立て伏せをしながらアスナにそう言った。そういうものなのかしらね…と呟くアスナ。

 

「というか何でマギさんが寮に戻ってるの?」

 

 アスナは如何してマギがアスナ達の部屋に戻ってきているのかを尋ねた。尋ねられたマギは腕立て伏せを続けながら

 

「なんかエヴァの奴が思っていたよりも修業の進み具合が早いようでな、次からは修業のスピードを遅くするらしい。だからもう泊まり込みの修業は終わりだ」

 

 まぁ修業のためにエヴァの家に行くのは変わりないけどなとマギはそう答える。

 ふ~んとマギの説明に納得したアスナは未だに腕立て伏せをしているマギをジーッと見ていた。

 

「なんていうかマギさん、エヴァちゃんの所で修業したからかな…雰囲気?が何か違う感じ」

 

 アスナはマギが纏っている雰囲気が少し違うように感じ取った。

 

「まぁこれからはメンドイなんてあんまり言ってられないからな、少しでも変わらないと」

 

 マギは少しでも強く変わろうと考えを改めているようだ。

 

「成程ね~そう言えば話は変わるけど、何でこのかはネギの治療をあの凄い魔法でしないの?あれだったらチョチョイのチョイじゃない」

 

「あ~それなやけどな~あの時は無我夢中やったからなぁ…ウチ魔法はまだよく分からんし」

 

「だったら今度エヴァに魔法の使い方を教えて貰え。エヴァの修業は厳しいが分かりやすく教えてくれるぞ」

 

 マギがエヴァンジェリンに教えて貰うように提案する。

 

「いや~しかしよかったですね兄貴、あのエヴァンジェリンに修業してもらう事は今後の兄貴にとって大きな収穫になるはずですぜ!」

 

 カモはネギにこれからですぜ!とネギを励ます。治療が終わりネギもこれからだと握り拳を握った。

 

「後中国拳法もちゃんと鍛錬しとけよ。古菲にこれからも教えて貰うんだからな。深夜の時にも言ったが、お前は中国拳法をただ覚えて真似していただけだ。格闘戦は頭で理解するだけじゃ駄目だ…長い時間をかけて正しい形と用法を体に覚え込ませないと、俺よりも強い奴と戦っても勝てないぞ」

 

 マギの忠告もネギはしっかりと肝に銘じていた。

 

「所でネギ、あの手がかりの地図はどうなったのよ?」

 

「それなんですけどね、実は…」

 

 ネギがアスナに説明用しようとしたら、チャイムが鳴った。このかが出ようとすると

 

「待てこのか俺が出るヨッと」

 

 マギが片手でロフトから跳び上がり、空中で一回転すると床に着地し玄関の方に向かった。

 

「マギさんって何か、アタシ達と次元が違う人になっちゃったのかしら…」

 

「アハハ、お兄ちゃんが凄すぎてなんて言っていいのか分かりません…」

 

 ネギとアスナはマギが自分達よりも凄くなっているのを見て呆然としてしまった。

 

 マギは玄関を開けると其処には茶々丸が居た。

 

「おぉ茶々丸か、何か用か?」

 

 マギが尋ねると茶々丸は何かを渡してきた。これは?とマギが尋ねると

 

「マスターからネギ先生の傷に良く効く傷薬を、それと美味しいお茶を持ってきました」

 

「そっか、すまねえな茶々丸。助かるぜ」

 

 マギがお礼を言うといえ此れぐらいと茶々丸は言うが、直ぐに何処か申し訳なさそうな表情になる。如何したんだよとマギが聞くと

 

「本来ネギ先生と試験として試合をするのは私だったはず、マギ先生にネギ先生と戦わせると云う辛い事を押し付けてしまったと思うと申し訳なく…」

 

 茶々丸がそう言うが、おいおい何言っているんだよとマギが肩を竦めると

 

「むしろ逆だろうがよ。生徒に殴り合いをさせるわけにはいかねぇよ。兄弟だからこそ殴り合いが出来るんだ。でも俺やネギの事を思ってくれてありがとな」

 

 マギが茶々丸に笑いかける。マギに笑いかけられて茶々丸は思わず呆然とする。

 マギは如何した茶々丸?と首を傾げながら茶々丸を覗き込む。ハッとする茶々丸は

 

「いえなんでもありません…あのわッ私はこれで失礼します…」

 

 それだけ言うといそいそと立ち去ろうとするが

 

「待てよ茶々丸。折角来たんだもう少しゆっくりしとけよ」

 

「そうですか…ではお茶をお入れ致します」

 

 マギに言われて茶々丸はマギ達にお茶を振舞う事になった。しばらくするとどたどたと走って来る音が聞こえ、チャイムを鳴らさずに玄関が開いた。やって来たのはまき絵である。

 

「ネギ君ネギく~ん!選抜テストに受かったよ~!」

 

 まき絵が喜びながら、大会に出場するための選抜試験に合格できたことをネギに報告した。

 

「本当ですかまき絵さん!?おめでとうございます!」

 

「うん、私やったよネギ君!」

 

「よかったじゃないまきちゃん。丁度いいからお祝いのお茶会でも開こうか?」

 

「ええなそれーウチも賛成や」

 

 とまき絵へのお祝いとしてお茶会を開くことになった。

 

「ってうひゃあ!まッマギさん!?」

 

 まき絵はマギがいる事に気づき、思わず身構えてしまう。

 

「…まぁ分かってたけど少しだけ傷つくよなぁ」

 

 とまぁマギが軽く傷ついてはいるが、ワイワイとお茶会を開始した。

 お茶会で騒いでいると夕映とのどかが玄関前にやって来ていた。

 

「毎回思いますが、相変わらず騒がしい部屋です」

 

「まぁまぁ夕映」

 

 夕映がチャイムを押すとアスナが出て来た。

 

「あ夕映ちゃんに本屋ちゃん、如何したの?」

 

「今日は明日菜さん。実はマギさんとネギ先生に内密の話があるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 軽いお茶会も終わり、マギ達は夕映達に連れられて学校の図書館に向かっていた。

 今日は学校が休みという事で、図書館には誰も居ないので静かであるが

 

「ええッ!夕映ちゃんがあの地図から手がかりを見つけたの!?」

 

 アスナの大声で一気に騒がしくなった。すこし落ち着けとアスナを注意するマギは、夕映に本当なのか改めて尋ねる。

 本当ですと夕映はネギから貸してもらった手がかりの地図の拡大コピーの数枚を机に広げた。

 

「拡大コピーの8枚目の幻の地底図書室の拡大地図の部分です。ネギ先生は行方不明のお父さんを探していると聞きました。そしてこの地図に手がかりがあると思われるです」

 

 此処ですと夕映が指を差した場所にはブイサインをしているナギのイラストが、そしてその隣に書かれていたのは

 

「オレノテガカリ…おれのてがかり…俺の手がかり」

 

 実はちゃんと手がかりが地図に載っていたのだ。暗号でもなんでもなかったのであった。

 

「あッあれ?日本語だったから見落としてたのかな!?」

 

 ネギはあれほど暗号だとか何とか言ってたのを思い出して、慌てる素振りを見せて誤魔化していた。

 

「前から思ってたけど、ネギって時々抜けてる所が有るわよね…」

 

「やれやれ、将来が不安だぜ」

 

 アスナとマギが苦笑いをしていた。

 だがこれでナギへの手がかりが一つ見つかったという事だ。ネギは喜んでいると

 

「ネギ先生そしてマギさん、私はお二人に聞きたい事があるです」

 

 夕映はマギとネギを見ながら一回深呼吸する。

 

「修学旅行の時、自分で言うのもファンタジックなのですが…有りえない出来事やそしてお二人のお父さんの捜索で私は1つ認めざるを得ない事があるです。ネギ先生そしてマギさん…貴方達は魔法使いですね?」

 

「ええッ!それは…」

 

 ネギは夕映が言った事をどう言い訳していいのかあたふたしていると、安心して下さいですと夕映が

 

「今回の事はのどかにしか言ってません。というかのどかは先にマギさんが魔法使いだという事を知っていたようですが…」

 

「あぅごめんね夕映、マギさんが秘密にしてほしいって」

 

 のどかは親友である夕映に黙っていた事を謝っていたが、まぁそれはいいですと夕映は気にしていない様子だった。

 

「何故魔法使いの事を秘密にしなければならない理由も気になりますが、他にも気になる点は沢山あります。マギさんやネギ先生の話から推察すると、エヴァンジェリンさんが強力な魔法使いであり、この学園の学園長も魔法使い。それにこのかもです。それとこれが私が一番驚いた情報ですが、このかのお父上の話からして世界中にはかなり大規模の魔法社会が存在する事になるです…違いますか?」

 

 夕映の推察にネギは言い訳が不可能な状態だった。

 

(凄いな、あれだけの情報で此処まで…普段は勉強が嫌いなのにこういった時の頭の回転が速いんだな夕映は)

 

 マギは夕映の分析能力に感心していた。まだ夕映の話は続く。

 

「さらに私はこう考えたんです。学園の色々な不思議、広大な地底図書室に動く石像…そして巨大な世界樹。これらの不思議は全て、魔法使いがこの学園を造ったと云う説なら私は非常に納得が出来るのです」

 

 夕映のクワッとした力説にネギは思わずたじろぐ。

 

「ねえ今の夕映ちゃんの説は本当なの?」

 

「本当かどうかは僕も分かりませんが、恐らく合ってると思います」

 

 ネギは夕映の分析能力に驚きを隠せなかった。先程も言ったが夕映は確かに学校の勉強が嫌いでバカレンジャーとも言われている。しかし夕映自身は頭が悪い訳ではなく、こういった自分が興味を持ったものには頭の回転が速いのである。

 そこでお二人に提案がるんですと夕映は本題に切りだした。

 

「もしその手がかりを調べに行くのなら私達も連れて行ってほしいです。私達は図書館島やこの学園の秘密そして貴方達魔法使いの事を知りたいのです」

 

「でッでも夕映さん、魔法の世界は修学旅行でも体感したはずですけどどんな恐ろしい事が待ち構えているか…」

 

 夕映が付いていきたいと願い出て、ネギは夕映に魔法の世界がどんなに危険なのか教え、こっち側に来ないで欲しいと頼んだ。

 しかしそんな事を言っても今の夕映では火に油を注ぐようなものだ。

 

「構わないです!私達を連れて行ってほしいのです!」

 

 夕映は着いて来る気満々の様だ。ネギは何も言えずにたじろいでしまい

 

「すッすみません駄目ですぅ!」

 

 ネギは逃げ出してしまった。

 

「ちょネギ、アンタ逃げるんじゃないわよ!」

 

 アスナは逃げ出したネギを追いかける。図書室はマギとのどかと夕映だけになってしまった。

 

「ったくアイツは何やってるんだかな…」

 

 マギは逃げ出したネギを呆れた目で見ていた。それでとマギは夕映の方を見て

 

「それで夕映は着いていって俺ら魔法使いの事を知りたいって言ってたな。それは何でだ?」

 

「それは…」

 

 マギに理由を聞かれ、夕映は理由を話し始める。

 

「私はこの学校に入学した中一の時尊敬していた祖父を亡くし、何もかもがつまらなく、退屈な日々を過ごすのだと思っていたです。でものどかやこのかにハルナと一緒に図書館探検部に入部してからは色々と楽しかったです。けど…それでも何処か物足りなさを感じる時があったのです。そんな時にマギさん達魔法使いがやって来た…私は何処か嬉しかったのです。もっと自分が知らない事を知る事が出来ると」

 

「成程な、だけどよ夕映魔法使いの事を知って如何するんだ?」

 

「魔法使いを知ったその先をまだ考えてないです。でも今は魔法使いの事を知りたいそれだけです」

 

 マギは夕映の気持ちを知って成程なと頷いた。

 

「だけどな夕映、さっきもネギが言ったけどな魔法使いの世界は危険が隣りあわせだ。下手したら命を落とすかもしれない」

 

「構わないです、私は退屈な日々を延々と過ごすなら、危険な世界で冒険する方がましです」

 

 夕映の目は本気の様だ。夕映は退屈な日々を過ごすのなら、危険な世界を冒険する方がましだと訴えていた。

 今の夕映に何を言っても無駄だと分かったマギは頭を掻きながら

 

「分かったよ、けどな魔法使いの世界に足を突っ込むんだ。それ相応の覚悟を持ってもらうぞ。死んでも悔いが無いって言うなら着いて来い」

 

 マギのマジな顔にのどかと夕映は生唾を飲み込んだ。

 

 けど…ま心配すんなとマギは笑いながらのどかと夕映の頭を撫でまわした。

 

「お前らを死なせるつもりなんかあるもんか。俺が命を賭けてお前らを護ってやる。約束だ」

 

 マギに護ってやると言われて思わず2人は赤くなってしまった。

 

「よーし、そんじゃ明日の早朝に図書館島の地下へ潜入調査をするぞ。遅れんなよ、遅れたら容赦なく置いていくからな」

 

「「はい!」」

 

 マギは夕映とのどかと約束して、図書室で解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝アスナは新聞配達のバイトでもう部屋を出ており、マギとネギはこのかにばれない様に部屋から出ようとしていた。

 そしていざ玄関を開けようとしたが

 

「はれ?ネギ君とマギさん何処行くん?」

 

 このかが寝ぼけながらマギとネギに何処に行くのか尋ねた。

 

「早朝のトレーニングさ。やっぱ毎日続けないといけないからな」

 

「このかさんは心配せずに寝てていいですよ」

 

「そっか~無理はしないようにな~」

 

 そう言ってこのかは二度寝した。

 マギとネギはホッと一息ついて玄関を開けた。

 外に出たネギとマギは出発する準備をし、準備が完了したネギはいざ出発しようとしたがマギがちょっと待てとネギを呼び止めた。

 なぜ呼び止めたのかネギは首を傾げていたが

 

「あと2人がこっちに来るからよ」

 

 マギが言った2人と云うのが誰だか分かり、もしかして…とネギがマギに誰が来るのか尋ねようとしたが

 

「お待たせしたです、マギさんネギ先生」

 

 準備をしていた夕映とのどか(寝起き)がやって来た。まだ寝ぼけているのかフラフラとマギとネギに近づいてきた。

 

「おぉちゃんと来たか」

 

 マギが呑気そうに来た夕映とのどかにそう言った。

 

「お兄ちゃん何でのどかさんと夕映さんが此処に居るの!?」

 

「ああ俺が付いて来てもいいって言ったんだよ。何を言っても夕映は聞きそうにないからな。まぁ諦めろ」

 

 マギが言ったのだ。ネギが何を言っても無駄だろう。ネギは何も言わなかった。

 

「今日は連れて行くが、危険だと分かったらすぐさま引き返すからな」

 

「はッはい!」

 

「了解です」

 

 のどかと夕映の返事にいい返事だと返したマギ。

 

「んじゃ図書館島まで飛んで行くから夕映とのどかは俺の腕に掴まれ」

 

 マギに言われて、のどかは右腕に夕映は左腕に捕まった。

 

 2人がしっかり捕まっているのを確認したマギは、そのままギュッと2人を強く抱きしめた。

 

「きゃッ!」

 

「ちょマギさん、行き成り何をするんですか!?」

 

 行き成り抱き着かれて動揺するのどかと夕映だが、マギは別に気にしてない様子で

 

「あんま騒ぐなよ、舌噛むからな。そんじゃ行くぞ」

 

 とマギが言った瞬間、のどかと夕映は自分の足から地面の感覚が無くなり、下を見降ろすと自分達が浮いてるのが分かった。

 そして少しづつだが、上昇し始めて上空100m程で止まった。丁度朝日が昇り始めて、麻帆良の学園都市を照らし出した。

 

「す…すごい私達空を飛んでいるです」

 

「まるで絵本の世界の出来事みたいです…」

 

 夕映とのどかは自分達が空を飛んでいると感動と興奮が入り混じった表情をしていた。

 しばらくするとネギが杖に乗ってマギの元へやって来た。

 

「御覧の通りだが、俺とネギは魔法使いだ。怖いか?」

 

「いえむしろ素敵です」

 

「私としてはどうやって空を飛んでいるかの事が不思議です」

 

 のどかはそうだが、夕映はどうやって空を飛んでいるかの方が不思議の様で、相変わらずだなとマギは苦笑いを浮かべていた。

 

「あの、空を飛んでいて下から見つかってしまう事は無いんですか?」

 

「心配すんなのどか、ちょっとした認識阻害の魔法がかかってるから普通の人間では見つかったりしないんだよ」

 

「成程よく分かったです」

 

 のどかが見つかったりしないのかと気になっていたが、マギが認識阻害魔法がかかっているから大丈夫だと説明し、夕映は納得したようだ。

 

「俺の周りにちょっとした魔法がかかってるから落ちる事は無いけど、怖かったらもっと俺にくっついていてもいいぞ」

 

 マギに言われてのどかと夕映もさっきよりもくっつきだした。

 

「よし図書館島に行くか」

 

 マギ達は図書館島に向かって飛び出した。

 

「そう言えばお兄ちゃん何時もは黒き翼で空を飛んでいたのにどうやって空を飛んでいるの?」

 

 ネギはマギが黒き翼を使っていないのに空を飛んでいるのはどうやっているのか聞いてみると

 

「エヴァの所で浮遊術を教えて貰ったんだよ。黒き翼よりもこの浮遊術の方が魔力の消費量が少ないからな」

 

 マギはネギに浮遊術の事を教えた。

 そんな事を話しているともう図書館島に到着した。やはり飛んで行ったお蔭で直ぐに到着したようだ。

 

「そんじゃ行くぞ」

 

 マギの呼びかけにネギ達は頷く。そしてマギ達は前に図書館島を脱出するときに登った長い階段を飛びながら下って行った。

 飛んでいるから簡単に目的地に到着するかと思いきや、地下から強力な上昇気流が発生し、押し戻されそうになった。

 

「うおッ!すげー風だなこりゃ、のどか夕映飛ばされない様にしっかり捕まれ!」

 

「きゃああああッ!」

 

「はッハイです!」

 

 のどかと夕映は吹き飛ばされない様にマギの体にしっかりとしがみついた。

 上昇気流も収まり、もう大丈夫だと思ったがお次は目の前に巨大な蜘蛛の巣が

 

「うおネバネバが体にくっついた!ネギ何とかしてくれ!」

 

「うッうん!」

 

 ネギは捕まったマギ達の周りの蜘蛛の巣を雷の魔法で焼き切った。

 蜘蛛の巣以降は何も問題なく目的の地下に到着した。

 

「さてと一応何とか到着したが、これ以降は侵入者撃退用のトラップとかがあるはずだから警戒しないとな」

 

「そうだねお兄ちゃん。のどかさんと夕映さんも気を付けて」

 

「はい…」

 

「分かっているです」

 

 のどかと夕映も警戒しようしたその時夕映がカチッと何かボタンを踏み抜いてしまった。

 何か嫌な予感がした次の瞬間、ゴゴゴゴゴゴと何か大きい物が此方に近づいている音が聞こえだす。

 マギ達は顔を青くしながら後ろを振り返ると巨大な岩の球が此方に迫ってきていた。

 

「うわぁぁぁッ!」

 

「に逃げろぉッ!!」

 

「きゃああああ!?」

 

「私としたことが申し訳ありませんです!」

 

「うおおおお何かこんなシーン映画で見たことあるぞ!」

 

 迫りくる巨大な球に潰されない様にマギ達は必死に逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 迫りくる球を何とか回避して、マギ達は目的の場所に辿り着いた。

 到着した場所は前回マギ達が落ちた地底図書室よりもかなり奥にある場所で、目の前に巨大な扉があった。

 

「よ…漸く着いた…」

 

 此処まで来るのに道中様々なトラップに引っ掛かってしまった。首が跳ね跳びそうなギロチンに、穴から出てくる吹き矢。水攻めもあれば床から棘棘が出てきたりとおかげでボロボロである。

 しかしボロボロにはなったが、お目当ての場所に辿り着いたのなら良しとしようではないか。

 

「開きそうですか?」

 

「さぁな兎に角やってみるさ。ネギ手伝え」

 

「了解お兄ちゃん」

 

 マギとネギは扉が開くか試しに押してみた。しかし扉がうんともすんとも言わず開かなかった。

 なら押して駄目なら引いてみろと今度は手前に引いてみた。だがやはり扉はビクともしなかった。

 

「だめだ開かねえ。何処か錆びついてるんじゃないのか?」

 

「それは無いと思うけど…」

 

 押しても引いても駄目なら何処かに仕掛けがあるのではないかと考えたマギとネギは、扉周辺に仕掛けが無いか探し始める。

 マギとネギが仕掛けを探している間にのどかと夕映は手がかりの地図を再度見てみる。

 

「ねぇゆえゆえ、この地図に描いてあるこれなんだろ?デンジャーって書いてあるけど」

 

「何でしょうか?犬か猫ですかね?扉を守る門番でしょうか?」

 

 のどかと夕映は地図に描かれている犬なのか猫なのかよく分からないイラストに何なのかと考えていた。しかし猫や犬だったらよかったと直ぐに思うだろう。

 突如のどかと夕映はの頭上にベチャリと何かが落ちてきた。最初は地下の水が漏れたのだと思ったが、その水はベタベタしておりまるで涎の様だ。

 

「わぁ何これ~」

 

「ベトベトです…」

 

 のどかと夕映はベトベトの正体を確かめようと上を見上げて固まってしまった。マギとネギものどか達のように上を見上げて同じく固まってしまった。

 何故なら其処に居たのは犬でもなければ猫でもない。地底図書室で遭遇したドラゴンが目の前に居たのだ。

 

「コイツはあの時のドラゴン!何でこんな所に!?」

 

 マギは何故こんな所にあの時のドラゴンがこんな所に居るのかと考えていたが、マギはクウネル・サンダースの言葉を思い出した。

 

 ―この子は飛んでいた時に偶然と学生が来るような場所に迷い込んでしまったのです―

 

 クウネルの言葉が正しいのならこの場所が本来ドラゴンが居る場所なのだろう。

 

「グルルルル…」

 

 ドラゴンは威嚇をしながらのどかと夕映を睨みつけていた。

 睨まれているのどかと夕映は固まってるままで動けない様子だった。

 

「やべぇのどか夕映逃げろ!」

 

 マギが叫んでいる間にもドラゴンは2人を踏み潰そうと足を振り下ろそうとしていた。

 

「くそ!間に合え!」

 

 マギは魔力と気を開放してのどか達の元へ行こうとしたが、マギよりも先に動いてのどか達を助け出した。その助けてくれた者は

 

「茶々丸!」

 

 茶々丸がのどか達を助けてくれた。

 

「茶々丸如何して此処に?」

 

「マギ先生たちが気になって後をつけていたのです。それよりも早く脱出しましょう」

 

「おッおう、ネギ早く逃げるぞ!」

 

「うッうん!」

 

 茶々丸にいわれ、マギは浮遊術でネギは杖に跨り跳び上がり逃げ出した。

 ドラゴンは雄たけびを上げながら羽を羽ばたかせマギ達を追いかける。

 巨体の割にかなりのスピードで追いかけており、さらに口を開いて火を噴いてきた。

 

「なッ何か吐いたですー!」

 

「いやぁぁん!」

 

「てか特に俺を狙ってないか!?絶対前にボコった事根に持ってるぞアイツ」

 

 マギの言う通りでドラゴンはマギを執拗に狙っていた。恐らくだがマギに一回倒されたことを未だに根に持っているようだ。

 ドラゴンに追いかけられること10分ほどたったが、マギ達の目の前にマギ達が潜れるほどの抜け穴を発見した。

 

「あそこから抜け出すぞ!あれ位の穴だったらドラゴンも追ってはこれねぇだろ!」

 

 マギが言った通り、抜け穴はマギ達は通れることは出来たが、ドラゴンは抜け穴に入る事が出来ずぶつかってしまった。

 またもやマギ達を逃したことにドラゴンは悔しそうに雄たけびを上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラゴンに追われながらも何とか脱出出来たマギ達。

 

「疲れた…たくドラゴン(アイツ)が居るなんてな。当分はあそこには行きたくねえぜ」

 

「だね、今の僕達じゃドラゴンに勝てるかどうか」

 

 マギとネギは深い溜息を吐いていた。

 

「しかし茶々丸おかけで助かったぜ。のどかと夕映を助けてくれてありがとな」

 

「いえマギ先生たちが心配で…でもマギ先生たちが無事でよかったです」

 

 マギは助けに来てくれた茶々丸にお礼を言った。

 

 一方ドラゴンの涎を頭に浴びて襲われそうになったのどかと夕映はというと

 

「ふぇぇぇ~怖かったですぅ」

 

 緊張の糸が切れたのか、腰が抜けて座り込んでいたのどかと

 

「フフフ…ちょっと大きめのトカゲ風情が私の頭に大量の涎を…いい度胸です。覚えているですよ」

 

 プルプルと震えており、決めたです!と何を決めたのかマギの方を見て、爆弾発言をした。

 

「マギさん私魔法使いになるです!魔法使いになってあのトカゲを退治してやるです!!」

 

「はッはぁぁ!?」

 

 魔法使いになると言いだし、マギは思わず声を上げて驚いてしまった。

 

「おッおま何考えてるんだよ!?魔法使いなんて早々簡単になれるもんじゃねえぞ!」

 

「そんな事は分かっているつもりです!ですがもう決めましたです。だからマギさん魔法についてご指導ください!」

 

 お願いしますです!夕映はマギに頭を下げていたマギが如何言って諦めて貰おうか考えていると

 

「ネギ先生一緒に頑張るです!目指すは打倒ドラゴン!!」

 

「はッはい!」

 

 と話がトントン拍子で進んで行ってしまった。マギは諦めるしかないと溜息を吐いて

 

「人間がドラゴンを退治するのに何年かかると思ってるんだよ」

 

「あははは…」

 

 のどかは打倒ドラゴンに闘志を燃やしている親友に乾いた笑い声を上げる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 今回の潜入調査は結局ドラゴンが現れた事によって殆ど収穫は無かった。

 しかしあのドラゴンがあの扉を護っているという事は何となく分かった。

 あの扉の先を知る事になるのは、修業でもっと力をつけた方が良いのだろう。

 それまでは手がかりを探すのは先になりそうである…

 

 

 

 

 

 



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喧嘩をしたなら直ぐに仲直り

 図書館島での調査が中途半端に終わってしまった翌日、ネギはエヴァンジェリンの元でさっそく修業を開始する事になった。

 ネギは仮契約をしたアスナと刹那にこのかと一緒にエヴァンジェリンの元にやって来た。マギはというと仮契約(事故)をしたのどかと、のどかの付き添いで来た夕映とネギに中国拳法を教えた古菲も一緒にネギの修業の様子を見ていた。

 エヴァンジェリンはネギの準備が完了したのを見ると飲んでいたトマトジュースを飲むのをいったん止めて

 

「よし今から坊やの修業を開始する。言って置くが私の修業は今までやっていた甘ったるい修業とはわけが違う。途中で根を上げたり、私から見て無理だと判断したら容赦なく切り捨てるぞ」

 

「はい!宜しくお願いします!!」

 

 ネギのいい返事に良しと頷くエヴァンジェリン。

 

「では従者たちに魔力を供給させろ。それと刹那貴様の気は抑えておけ。相応の練習が無ければ魔力と気は相反してしまうからな」

 

 エヴァンジェリンに言われた通りに刹那は気を抑える。そしてネギはアスナ達に魔力を供給し始める。

 

「契約執行180秒間 ネギの従者神楽坂明日菜 近衛木乃香 桜咲刹那!」

 

 契約執行をし、アスナ達に魔力が供給される。魔力を供給されるためアスナ達はくすぐったい様な気持ちいい様な変な気分であった。

 

「よし次はアンチ・マテリアル・シールドを全方位に展開だ。全力でな」

 

「はい!」

 

 エヴァンジェリンの指示通りにネギは行動する。全方位にシールドを張った。しかしネギの息が荒くなりはじめる。

 

「次だ。アンチ・マジック・シールドを全力展開」

 

「はッはい!」

 

 今度は別のシールドを展開するが、ネギの顔からは滝のような汗が流れ出す。

 

「その状態を3分持ち堪えた後、北の空へ魔法の射手199本を放て。結界を張っているから遠慮せずにやれ」

 

 エヴァンジェリンに言われた通りネギは3分維持したのち、199本の光の魔法の矢を北の空に放った。大量の魔法の矢は北の空でぶつかり合い、このか達はまるで花火みたいで綺麗だと言っていた。

 だが放ったネギ本人は一度に大量の魔力を使ったためにスタミナ切れを起こしてしまい、目を回しながら倒れてしまった。

 倒れたネギを見てこの程度か…とエヴァンジェリンは溜息を吐いてマギを呼んだ。

 

「おいマギお前が見本を見せろ。先程坊やのと同じことをしろ。但し魔法の矢は坊やの倍の398本だ」

 

「了解」

 

 398本は流石に無理があるのではないのかと刹那は思っていたが、マギ本人は大して気にもしていない様子だった。

 そんじゃ始めますかとマギは魔力を集中し始める。

 

「契約執行180秒間 マギの従者 宮崎のどか!」

 

 マギは仮契約をしたのどかに魔力を供給する。魔力を供給されたのどかは体をピクンと反応させていた。

 

「とそう言えばのどかには契約執行をするのがこれが初めてか。大丈夫か?何処か変な所とか無いか?」

 

「いえ大丈夫です。それどころかちょっと気持ちいい様な…」

 

 気持ちいいと言ったのが恥ずかしいのか、顔を赤くしてしまうのどか。

 大丈夫だと判断したマギは、ネギがやったように、アンチ・マテリアル・シールドとアンチ・マジック・シールドを全力展開をした。

 そして3分間状態を維持したのち、マギは空に向かって魔法の矢を放った。

 ネギが放った199本の倍の倍の398本の魔法の矢は花火の様ではなく、ただの爆発そのものだった。

 魔法を放ってもマギはネギのように目を回さないで普通に立っていた。

 

「これでいいかエヴァ?」

 

「あぁ私の思った通りにやってくれる。流石だよマギ」

 

 エヴァンジェリンは自分の思った通りの結果を出してくれたマギに満足そうだった。ただネギに対しては冷ややかな目で

 

「この程度で気絶とはてんで話にならんな。いくら(ナギ)譲りの強大な魔力があったとしても使いこなせなければ意味が無いぞ」

 

 エヴァンジェリンの言った事にカモがマーマーと宥めようとした

 

「まぁそんなに言わないで下さいよエヴァンジェリンの姐さん。兄貴はまだ10歳ですしそれにさっき行った事は修学旅行以上の魔力消費量ですし。行き成り気絶して当然、ましてや並みの術者だったらこれでも十分…」

 

 カモが喋っている途中だが、エヴァンジェリンは黙れと冷たい眼差しでカモを見下ろした。

 

「黙れ小動物が。この私が並みの術者程度で満足すると思ったか。これ以上ふざけた事を言うと焼いて食うぞ」

 

 余りにも凄味があるエヴァンジェリンの迫力にカモは思わずアスナに抱き着いて震えてしまった。ちびらなかっただけでもいい方であろう。アスナも今のエヴァンジェリンは素直に怖いと思った。

 カモの反応にフンと鼻を鳴らすと再度ネギの方を向いた。

 

「いいか坊や、貴様は運が良かっただけだ。私と戦った時はマギが一緒に居た、修学旅行では間一髪私が間に合った。もう一度言う坊やは運が良かっただけだ。これ以降運で勝つ事なんて無いと思え…坊や一人でも対処できるように鍛え直してやる。覚悟しておけ…今日は坊やを一から鍛え直すからマギはすまないが、一人でトレーニングを続けてくれ」

 

「了解…んじゃのどか、あっちの方でお前に軽く魔法についてレクチャーするからついて来い」

 

「はッはい!」

 

 のどかはマギに連れられて魔法について軽くレクチャーしてもらう事にした。

 マギがのどかに軽い魔法についてのレクチャーをする事2時間、マギとのどかがネギ達の元へ戻ると其処にはアスナの姿が無く、代わりに落ち込んでいるネギの姿があった。

 何があったのか近くに居たこのかと刹那に事情を聞いてみてみると、このかは苦笑い刹那は何と説明すればいいかオロオロとしていたが、簡潔に説明してくれた。刹那の説明を聞いたマギは

 

「…はぁ?ネギとアスナが喧嘩したって?」

 

 刹那にさらに詳しく喧嘩の状況を話してもらうと

 ネギがエヴァンジェリンにドラゴンを倒すにはどれぐらい修業を積めばいいのか尋ねて、アスナが夕映にどういう意味かを尋ねると夕映は昨日の図書館島についての事をアスナに話した。

 一部始終を聞いたアスナは不貞腐れながら何故自分を連れて行かなかったのかネギに尋ねた。するとネギはアスナに危険だと思い連れてかなかった。それどころかネギは此処からは本当に危ないからアスナにはもう関わってこないで欲しいとアスナに言ってしまった。

 この発言に流石にカチンと頭に来てしまったアスナは自分がネギのためを思って刹那の所で剣術を教えて貰ったのをネギはそんな事を頼んでいないと返した。

 この後からは子供の喧嘩のようにアンタは何もわかっていないやら、アスナさんの分からず屋など子供の喧嘩のように言い合った。

 終いにはネギがアスナの事をクマパンやらパイ〇ンと気にしてる事を口走ってしまい、アスナの堪忍袋の緒が切れてしまった。

 アスナはハマノツルギを出してネギを障壁ごと殴り飛ばしてしまった。

 流石にやり過ぎてしまったと思ったアスナだが、ネギに謝る事もせずにそのまま走り去ってしまった。そして今に至ると言う訳である。

 一通り話を聞いてマギが出した結論は

 

「そりゃネギが悪いな」

 

 即答でネギが悪いと答えた。

 

「ちょ大兄貴!?即答は流石にそりゃあ…」

 

 カモが言い過ぎじゃあと言おうとするが、何言ってるんだよとマギが呆れたような顔をしながら

 

「だってそうだろ?成り行きで仕方なくアスナと契約したけどよ。たった1か月位だが困難を乗り越えた最初のパートナーじゃねぇか。それなのにエヴァに修業をつけてもらう事になったからって、もう関わって来ないでほしいなんてさぁ、そりゃアスナだってキレるわ。俺がアスナだったら半殺しのレベルだね」

 

「半ごろッ!?」

 

 マギが半殺しと言った事にネギは顔を蒼白にしてしまった。

 

「そりゃあネギの言いたい事は分かるさ。此処からは更に厳しくなる、生半可な気持ちじゃいずれ躓いちまうってな。だったらここで俺らとは手を引いて元の学生生活に戻ってほしい…そう言いたかったんだろ?」

 

「う…うん」

 

 マギにネギ自身が言いたい事を言ってもらい、ネギは頷く。でもなぁとマギは頭を掻きながら

 

「もう少し言葉を選べよ。流石にアスナも傷ついただろうし」

 

「うん、ゴメンナサイ」

 

「俺に謝ってどうするんだよ。ちゃんとアスナに謝れよ。お前の最初のパートナーなんだからな」

 

 マギの説教が終わったタイミングを見計らったのか、エヴァンジェリンがマギ達の元へやって来た。

 

「坊やに近衛木乃香は私の家へ来い。色々と話しておかないといけない事がある」

 

 エヴァンジェリンは自分の家へ来るように言った。

 時間が時間という事でのどかと夕映に古菲を寮へと帰らせて、マギやネギ達はエヴァンジェリンの家へと向かった。

 エヴァンジェリンの自宅に到着したが、なんやかんやでネギは此れで二回目、このかと刹那はエヴァンジェリンの家に来たのは初めてである。

 

「なんやお洒落な家やな~」

 

 このかがエヴァンジェリンの家の中を見渡して感想を述べていた。

 そしてネギとこのかを2階に連れて行くと、エヴァンジェリンは伊達眼鏡を掛けると何処から持ってきたのか移動式の黒板を出して、黒板に何か書きはじめた。

 黒板にはネギとこのかのイラストが描かれていたが、体は風船のように膨らんでおり中に魔力と書かれている液体がチャポチャポと揺れていた。

 

「この絵の通りだが、お前達の魔力容量は強大だ。これはトレーニング次第で如何にかなるというものじゃない。言わば天賦の才、ありがたく思え」

 

 しかしとエヴァンジェリンは黒板にチョークを走らせる。

 

「今のお前達の状態はただのデカイタンクだ。それでは意味が無い…それで使いこなすためにはそれを扱うための精神力の強化、あるいは術の効率化が必要となっていく」

 

 どちらも修業が必要だな。とエヴァンジェリンはここは重要と言わんばかりに精神力の強化と術の効率化を書いて線を引いていた。

 

「ちなみに魔力を扱うには主に精神力を必要として、気を扱うには体力勝負みたいな所があるんだが、坊やはどっちも今一つだな」

 

 エヴァンジェリンはネギを見てそう言った。ネギはとりあえずアスナの事は心の片隅に置いといて、エヴァンジェリンの話を聞いていた。

 

「エヴァンジェリン、マギ先生の魔力の感じが少し変わっているように感じたのは、エヴァンジェリンの元で修業をしたからか?」

 

 刹那はエヴァンジェリンにマギについてそう訪ねたがそうだなと頷いたエヴァンジェリン。

 

「マギも私が修業をつける前までは坊やよりもほんの少し良かっただけだ。まぁ私の修業のおかげでかなりましにはなったがな」

 

「あぁあの修業は確かにきつかったぜ」

 

 マギは今迄の修業を思い出していた。砂漠に雪山と今ではいい思い出である。

 あぁそういえばと、エヴァンジェリンは何かを思い出したようでこのかの方を向いて

 

「貴様の父詠春から伝言を預かっている。真実を知った以上このか自身が望むのなら、魔法について色々と教えてやってほしい。とのことだ」

 

 面倒な話だがな…とエヴァンジェリンは呟いていた。エヴァンジェリンの話はまだ続くようだ。

 

「お前のその力があれば、偉大なる魔法使いになる事も可能だろう。お前の力は将来世の役に立つかもしれん。考えておくといい…さて次は坊やだな」

 

「はッはい!」

 

 ネギは思わず姿勢を正してしまう。

 

「これからの修業の方向性を決めるために、坊やには自分の戦闘スタイルを決めてもらおう」

 

「戦闘スタイル…ですか?」

 

「そうだ。修学旅行での戦いからお前の進むべき道は2つ考えられる。2者択一に簡単に言うと魔法使いと魔法剣士だな」

 

 魔法使いは前衛を従者に任せて、自分は後方から強力な術を発動するという安定したスタイル。

 魔法剣士は魔力を付与した肉体で自らも前に出て従者と一緒に戦う。速さを重視した術を使う変幻自在のスタイルである。

 

「何か名前だけ聞いたらゲームみたいだな」

 

 カモが名前を聞いてそう思った。

 

「修業のための一応の分類だ。ただ私としてはお利口な坊やだったら魔法使いがピッタリな戦闘スタイルだがな」

 

 お勧めするぞとネギにそう言うが、ネギはエヴァンジェリンの声が聞こえていないのかずっと考えており

 

「エヴァンジェリンさん、父さんはどっちの戦闘スタイルだったんでしょうか?」

 

 ネギの疑問に言うと思ったよとエヴァンジェリンは呆れたような笑みを浮かべながら

 

「アイツの…ナギの戦闘スタイルは魔法剣士。それも従者を必要としない程の強力な程な」

 

 それを聞いてまたネギはまた黙り込んでしまった。

 

「やはりと言った顔だな。まぁゆっくり考えればいい」

 

「はッはい!あ…そう言えばお兄ちゃんはどっちの戦闘スタイルなの?」

 

 マギは俺か?と聞かれた。

 

「魔法剣士だな。やっぱ自分で戦う方が安心できるな」

 

 自分は魔法剣士だと答えた。だからって自分も魔法剣士なんて簡単に決めるんじゃねぇぞとマギが一応釘をさしておいた。

 

「まぁさっきも言ったがじっくり考えろ。それと木乃香、私から詳しい話があるから下に来い」

 

「うん、了解やエヴァちゃん」

 

 このかはエヴァンジェリンに呼ばれて一緒に下へ向かった

 マギ達特にネギはやる事が無くなったので古菲に教わった中国拳法をおさらいしていた。

 一通り拳法を流し終えるとふぅ~と息を吐いた。

 

「でも拳法だけじゃドラゴン相手に勝てないな…魔法使いと魔法剣士か。アスナさんはどっちがいいと思います?」

 

 ネギは何時ものようにアスナに聞こうとしたが、其処には何時ものようにアスナの姿は無かった。

 ネギはそうだったと目に見えて落ち込み始めた。

 

「そうだった僕、アスナさんと喧嘩しちゃったんだ…」

 

 部屋の隅でいじけだしたネギ。

 

「兄貴立ち直りが早いと思っていたら」

 

「忘れてただけみたいですね」

 

「いや忘れちゃいけねぇだろ」

 

 マギはツッコミを入れていた。

 エヴァンジェリンの話を聞いていた時はアスナの事を考えていたが、自分の戦闘スタイルを如何するか考えている時にアスナの事を忘れてしまっていたようである。

 この一つの事で他の事を忘れちまうスタイル如何にかしないとなとマギはそう思っていた。

 

「皆様紅茶をお持ちいたしました」

 

 茶々丸が頭にチャチャゼロを乗せて紅茶を持ってやって来た。紅茶を一つずつマギ達に配る。

 

「ネギ先生如何したんですか?」

 

「まッ自分の行いに反省してるって所かな」

 

 ネギが隅っこで落ち込んでいるのを茶々丸が見て何があったのか尋ねて、マギが反省と紅茶を飲んでそう答えた。

 

「お兄ちゃんどうしよう…アスナさん僕の事嫌いになっちゃったかな?」

 

 涙目のネギがマギに自分が如何すればいいのか聞いてみた。そんなの分かりきってるだろとマギは呆れた様子で

 

「お前が謝れよ。今回の件はお前が殆ど悪いんだし」

 

 マギに謝れと言われそうだよね…と自覚するネギ

 そんなネギに大丈夫ですよと刹那がネギの肩に手を置きながら

 

「明日菜さんだってもう許してるはずです。ネギ先生が心から謝れば明日菜さんも許してくれるはずです」

 

「ネギ先生頑張ってください」

 

 刹那と茶々丸が応援する。

 

「マァコウ云ウ時ハ謝ッタモン勝チダゼ」

 

 ソレカヤッチマエとチャチャゼロが言っていややるのは不味いだろうとマギがツッコむ。

 幾段か何時もの様子に戻ったネギがそうですねと呟いて

 

「僕が謝らなければいけませんよね。悪口を言った事も」

 

 とさっそくアスナに電話をと携帯電話をかけてみてもつながらなかった。電話に出られない状況なのかと思っていると、カモがカードで話してみてはと提案した。

 

「それじゃあ僕外に行ってきます」

 

 そう言い残してネギは外へと出て行った。これでネギとアスナは仲直りをするだろうと思ったマギ達。

 ネギが外へ出た数分後

 

「イヤァァァァァァァァァッ!!」

 

 アスナの悲鳴が聞こえ、マギ達が2階から外の様子を見てみた。

 外の様子は素っ裸にタオルを持ったアスナと地面に沈められていたネギ、そして何故かいて苦笑いを浮かべているタカミチ。

 どうやらアスナが携帯に出なかったのは如何やらシャワー中の様で、ネギは何ともタイミングが悪い時にアスナを召喚してしまった様だ。

 さらにアスナの憧れのタカミチに自分の裸を見られたことに羞恥と自分の状況を確かめずに勝手に召喚したネギに対する怒りでアスナは割と容赦なしにネギを沈めたようだ。

 またもやネギが悪い状況を生み出してしまった。

 

「やれやれだぜ…これで一層仲が悪くなりそうだぜ」

 

 

 

 マギの呟き通りでネギとアスナの溝が深くなりそうであった。

 

 



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雨が降れば地は固まるさ

 ネギとアスナが喧嘩してもう3日が経ってしまった。

 この3日の間アスナはネギと口をきく事が無く、寮の部屋でも重い空気が漂っていた。

 最近ではマギの方でも飛び火があり、今までの中でも最大級の喧嘩であるかもしれない。

 今日は金曜日、という事は明日から土日と休日だ。休日の中でも今のアスナとの険悪な雰囲気を部屋で過ごすというのはかなり堪えるものがある。

 ハァァァとネギとマギは深い溜息を吐いていた。

 

「アスナさんもう3日とも口をきいてくれなかった…話し掛けようとしても避けられちゃうし…」

 

「アスナの奴俺にまで睨めつけてきやがって、悪いのはネギだっていうのにとばっちりじゃねぇか。世間はゴールデンウィークだっていうのに何で俺らの所だけ空気が重いんだろうな…」

 

 そう今は5月で今は学生の殆どが休日のゴールデンウィークである。生徒達は祝日を謳歌してるのに、ネギとマギの所だけギスギスしている。

 

「どうしよう…このままじゃあアスナさんと一生口をきいてもらえないかも…」

 

「早く関係を元に戻してくれよ。これ以上は俺もアスナの無言の睨みは堪えるぜ…」

 

 ネギはどうやって仲直りすればいいのか分からずじまいで、マギはもう勘弁してくれと言いたそうな溜息を吐いた。

 そんなマギとネギの目の前に一台の高級車が停止した。誰が乗っているのだろうかと付き添いの人が車のドアを開けるとあやかが登場した。

 

「こんにちはネギ先生マギ先生。ご機嫌は如何ですか?」

 

 と言いながらネギとマギの方に近づく。ネギはこんにちはいいんちょさんと空元気で

 ネギの事が好きなあやかはネギに元気がない事を瞬時に把握した。

 

「まぁネギ先生お元気がない様子で…どこか御疲れなのですか?」

 

「いえいいんちょさん。僕は大丈夫です」

 

 ネギはあやかに心配をかけまいと大丈夫だと振舞った。

 

「そうですか…所でネギ先生はこのゴールデンウィークは何処かへお出かけになられましたか?」

 

 あやかはネギに何処か出かけたのかと尋ねるが、いえ何処にも行ってませんと答えるネギ。

 それはよかったとあやかはそう言いながら

 

「いかがでしょうか?せっかくの週末、私が南の島へご招待したいのですが」

 

「南の島…ですか?」

 

 ネギの復唱にハイとあやかはにこやかに笑いながら

 

「私の実家の雪広グループのリゾートアイランドの1日貸切、海もとっても綺麗ですわ」

 

 ネギは綺麗な海という言葉に惹かれたが、アスナの顔を思い出してまたシュンとしてしまった。

 

「すみませんいいんちょさん。やっぱり僕…」

 

「どうかしましたネギ先生?若しかして何か予定がおありで?」

 

「そうじゃねぇんだよあやか。実はネギとアスナがな…」

 

 マギはネギとアスナが喧嘩をしている事をあやかに説明した。

 

「まぁ明日菜さんと喧嘩を?」

 

「あぁネギも一応謝ろうとしたんだけどな、タイミングを間違えてそれでアスナをもっと怒らせるはめになっちまって。今でもアスナの奴ネギの事を無視しててな」

 

 マギの説明で成程と納得したあやか

 

「道理で最近の明日菜さんの態度がそっけないと…分かりましたわ」

 

 あやかは何か思いついたのか手を打ちながら

 

「それでしたらネギ先生、明日菜さんも南の島にご招待いたしましょう。明日菜さんも開放的な南の島だったらきっとネギ先生を許してくれますわ」

 

「ほッ本当ですかいいんちょうさん!?」

 

 ネギの輝いた顔にええ本当ですわと肯定するあやか。

 

「どうせなら3-Aで行ける方を全員招待いたしますわ。大勢の方が楽しいでしょうし」

 

「ありがとうございますいいんちょさん!僕嬉しいです!!」

 

 南の島だったらアスナもきっと許してくれると思ったネギは大喜びではしゃぎ回った。

 そんなネギを暖かい目で見ているあやか。

 

「いいのかよあやか?本当はネギと2人きりで行きたかったんじゃねえのか?」

 

 あやかは本当はネギと2人きりで南の島に行きたかったに違いない。何故ならさっきからネギは招待するとは言ったが、マギの名は一度も出てこなかったからだ。まぁ自分の名が出てないからと言って別に気にしてるわけではない…気にしてないからねマギさんは

 

「いいんですの。ネギ先生が喜んでくれるのなら私は何でもいたしますわ」

 

「ありがとなあやか。やっぱお前はいい奴だよ」

 

 ありがとうございますとあやかはにこやかに笑いながらそう言って未だにはしゃいでいるネギを微笑ましそうに見ていた。

 はたしてネギは南の島でアスナと仲直りをすることが出来るのか…

 

 

 

 

 

 あやかに誘われた翌日、マギ達はあやかの自家用飛行機に乗って南の島に向かっていた。

 飛行機に乗る事数時間かけて漸く飛行機の窓から目的の南の島が見えてきた。

 水の上へ着水する飛行機、飛行機が完全に止まったのを見て、マギ達は飛行機から降りた。

 

「此方に行けば止まるコテージがありますわ。向こうに行けばビーチがおありになりますわ」

 

 あやかが南の島の説明をネギに教えていた。そんなあやかやネギをよそに

 

『うみだぁッ!!』

 

 水着に着替えた。生徒達が海に飛び込んで行った。

 

「おーいあんまりはしゃいで溺れたりすんなよ…って聞いちゃいねぇや」

 

 生徒と同じく水着に着替えたマギが生徒達に注意を呼び掛けていたが、聞いている生徒は余り居なかった。

 

「まったく何でアタシまでいいんちょのとこの島に来なくちゃいけないのよ」

 

 スクール水着に着替えていたアスナは乗り気では無い様子で疲れた溜息を吐いていた。

 

「ええやんアスナ、丁度新聞配達のバイトが休みやったんやし、いいちょの誘いにのっても」

 

 同じくスクール水着のこのかがアスナにそう言った。

 

(海で遊んでネギ君との喧嘩を忘れてくれるとええんやけど)

 

(だといいんですが)

 

 このかと刹那がアスナに気付かれないようにヒソヒソと話していた。

 そんなアスナの元にネギがやって来た。

 

「あ…あのアスナさん?」

 

 ネギが声をかけても

 

「…フンッ!」

 

 そっぽを向いてネギの事を無視して行ってしまった。そう簡単にネギの事を許すつもりは今のアスナは今は無いようだ。またアスナに無視をされて落ち込むネギ。

 そんなネギとアスナの事なんか他の生徒達は知らずに、ビーチバレーや泳いだり日光浴を楽しんでいた。

 

「まぁ他の生徒にとっちゃネギとアスナの喧嘩なんか知らねえしな。今は南の島で楽しむ方が優先か」

 

 マギは一応何か問題が起こらない様に監視員擬きな事をやっていた。

 そんなマギはネギとアスナの遣り取りを眺めていた。はやく仲直りをしないもんかと呟いていると

 

「フン、坊やと神楽坂明日菜は仲直りをしていないのか」

 

 黒いワンピースタイプの水着を着たエヴァンジェリンと緑のビキニタイプの水着を着た茶々丸がやって来た。

 

「あぁ早く仲直りをしないもんかね…とふ~ん」

 

 マギはエヴァンジェリンと茶々丸の水着をまじまじと見ていた。

 なッなんだ!とエヴァンジェリンは思わず顔を赤くして体を隠していた。

 

「いや、エヴァと茶々丸の水着だが似合ってるなと思ってな」

 

「あッ当たり前だ!私は何を着ても似合うからな!」

 

「褒めてくれてありがとうございますマギ先生」

 

 エヴァンジェリンは胸を張って誇らしそうに、茶々丸は素直にマギの似合っているという言葉を受け取った。

 

「そう言えばエヴァは泳がないのか?海は真水じゃないし泳げるんじゃねぇのか?」

 

「そッそれは…だな…」

 

 マギはエヴァンジェリンが言葉を濁したことに首を傾げていると茶々丸が

 

「実はマスターはカナヅチなのです」

 

「おいボケロボ何喋っているんだお前は!」

 

 エヴァンジェリンは自分が秘密にしていた事を普通に暴露した茶々丸を強く揺さぶった。

 

「そうなのか…だったら俺が軽く泳ぎを教えようか?」

 

 マギが泳ぎを教えようかと提案し、揺さぶっていたエヴァンジェリンはピタリと動きを止めて

 

「本当か?」

 

 嘘じゃないかと再度聞くが

 

「教えると言っても水になれる程度だぞ?それでもいいか?」

 

「だったら教えてもらおうかな…」

 

 マギに泳ぎを教えて貰うなら万々歳なエヴァンジェリン。

 

「オッケーな。それと茶々丸は海に入っても大丈夫なのか?」

 

「ご心配なく。超さんやハカセによって私のボディーは防水対策は完璧です」

 

 ですので無問題ですと無表情でサムズアップする茶々丸。

 何も問題は無いようで、マギはさっそく泳ぎを教える事にした。

 

「そんじゃ軽くバタ足からな。苦しくならない様に鼻でブクブクした後に呼吸をしてみるか」

 

「う…うん」

 

 初めて泳ぎを教えて貰う事に聊か緊張しているエヴァンジェリン。

 エヴァンジェリンの足がつきそうな浅瀬で泳いでみる事にした。

 

「1-2-ブクブクーパ!1-2-ブクブクーパ!…中々いい調子だぜエヴァ」

 

「プハッ!そうかいい調子か!」

 

 マギにいい調子だと褒められて嬉しそうなエヴァンジェリン。

 しかしそんなキャッキャッウフフフな光景を黙って見ているつもりは毛頭も無いのが3-Aでマギの事を気になっている生徒達である。

 

「マギ兄ちゃーん僕達にも泳ぎを教えろー!」

 

「教えてですー!」

 

「マギさんウチ平泳ぎが出来ないんや教えてな!」

 

「マギさん!ウチラのどんくさいのどかにも泳ぎを教えてよ!」

 

「マギさんのどかにもぜひ水泳の御教授を!」

 

 風香や史伽に亜子にハルナに夕映がマギに密着してきた。

 

「おッおい俺にそんなにくっ付くなよ!バランスが取れねぇだろうが!」

 

 マギはそう言って離れてくれるように頼んだが、離れる様子も無く遂にはマギはバランスを崩して倒れてしまった。

 数秒間水にもぐっていたが、直ぐに顔を出すと

 

「お前ら危ねえだろうが!水の中でふざけてれば事故につながるだろうが!」

 

 マギはくっ付いていた生徒達を軽く怒った。

 

「ったく…てあれ?エヴァは何処に行った?」

 

 とマギはエヴァンジェリンが自分の手から離れていることに気づき何処に行ったのかと辺りを探していた。

 

「あ…あのマスターならあそこです」

 

 茶々丸が指を差した場所にはプカプカと浮かんでいるエヴァンジェリンの姿が

 

「てうぉい!さっそく事故発生じゃねえか!おいエヴァ大丈夫か!?」

 

「あぁマギかぁ不死なのに何か変な川が見えるぞぉ…」

 

「軽くやべぇじゃねぇか!しっかりしろい!」

 

 とマギの行動が早かったおかげで何とかなったようだ。こうしてエヴァンジェリンにめでたく新たなトラウマが植え付けられたのであった。

 

 

 

 

 

 他の生徒達が楽しく過ごしている間、ネギは生徒達と離れたビーチにて体育座りで落ち込んでいた。

 落ち込んでいる原因は先程アスナに無視された事である。

 

「はぁ此処に来ればアスナさんの機嫌が良くなると思ったのに、考えが甘かったのかな…」

 

「まぁ姐さんだって女ですし、もうちょっと経てば機嫌を良くしてくれるはずですよ」

 

 カモはこれ以上ネギが落ち込まない様に励ましていると

 

「ネギ先生」

 

 ネギが心配になったあやかや千鶴に夏美と和美がネギの元へやって来た。

 

「如何ですか?明日菜さんとは仲直りは出来ましたか?」

 

 あやかが尋ねても出来ませんでしたとネギは首を横に振った。

 

「やっぱりアスナさんは僕の事が嫌いになってしまったんでしょうか…」

 

 ネギが目に見えて落ち込んでいるのを見てあやかは何かを決めたのかネギの手を取り

 

「分かりましたわ。私がネギ先生と明日菜さんとの仲直りをお手伝いさせていただきますわ」

 

「ほッ本当ですかいいんちょさん!?」

 

「ええ私にドーンとお任せくださいな」

 

 おほほと高笑いをしながら任せてほしいと断言したあやか。和美はこの隙にネギとの距離を一気にあやかが縮めると思っていたが

 

「悲しみに打ち震えるネギ先生に近づくなんて卑怯な…それにあんな仲の良かった明日菜さんとこのままではネギ先生が可哀そうですわ」

 

 と言い切った。あやかは普通にいい人なんだが、自分の恋愛で損するタイプだと和美はそう読んだ。

 

「それでこそ私の知ってるあやかだわ。いいわ私もひと肌脱ぎましょう」

 

 あやかの熱意に感動した千鶴がネギとアスナの仲直りに一役買ってくれるようだ。

 こうしてアスナが知らないうちにネギとアスナの仲直り作戦が実行されることになった。

 

 

 

 一方のアスナはというとビーチの上を散歩していた。

 

「なぁアスナ、ネギ君もう許してあげたら?」

 

 このかがネギを許してもいいんじゃないのかと言っても

 

「うッうるさいわね、アタシの勝手でしょう」

 

 の一点張りであった。本当はネギの事は許してる気持ちは心の片隅にあるのだが、アスナの意地などがそれを遮っているのだ。

 そんな意地を張っているアスナの元へあやかが慌てたような素振りで走ってきているのが見えた。

 どうせネギに早く謝れと言うだけだろうと思っていたがそうではなかった。

 

「大変ですわ明日菜さん!ネギ先生が海で泳いでいたら深みで足を取られて今にも溺れそうなんです!!」

 

 というのは嘘で、ネギが溺れていると言えばいくら喧嘩をしているアスナでさえも正義感でネギを助けに行くはずだという作戦である。

 案の定ネギが溺れてるビジョンを思い浮かべた。アスナは

 

「何処よいいんちょ!何処でネギが溺れてるの!?」

 

 あやかに何処でネギが溺れているのかを急いで問い質した。

 アスナに聞かれたあやかはこちらですわとネギが溺れている場所へと案内した。

 道中ネギが溺れていると聞いたマギもネギが溺れている場所へと向かった。

 到着しネギが溺れいているのが見えた。溺れているのだが、あやかまでがあんぐりと口を開けていた。何故なら

 

「うわぁぁぁんッ!誰か助けてぇ!!」

 

 3~4m程の大きいサメと1~2m程の小さいサメがグルグルと弧を描いて泳ぎながらネギの事を狙っていた。

 

「さッサメェッ!?」

 

 アスナはまさかサメにまで狙われているのを見て慌てだす。しかし早く助けないとネギがサメのエサとなってしまう。

 

「ネギィッ!」

 

 アスナは危険を顧みず、ネギを助けるために海へと飛び込んで行った。

 

「明日菜さん!私も…」

 

 アスナについてきた刹那も援護しようとしてカードの力を発動させようとしたが

 

「おっとちょい待ち」

 

 と和美が刹那の動きを止めた。

 

「あッ朝倉さん止めないでください!早くしないとネギ先生が…!」

 

 あやかもネギの元へ駆け付けようとしたが、落ち着きなっていいんちょと和美が宥める。

 

「正義感の強いアスナにネギ君を助けてもらうって作戦さね」

 

「でッでしたらあのサメは何なんですの!?」

 

 あやかがサメを指差しながら何なのかと尋ねた。それは私ですわと千鶴が笑いながら

 

「ただ溺れてるだけだったら緊迫感が無いし、だったら何か付け足そうと思ってそしたら南の島だからという事でサメという考えにたどりつきましたの」

 

「だからってやり過ぎですわ!」

 

 千鶴の提案にやり過ぎだとツッコむあやか。

 ここであのサメの種明かしをすると、2匹のサメはホテルにあったサメの剥製と着ぐるみを古菲と夏美が作戦に協力して、大きい方に古菲そして小さい方に夏美が着込んでいると言う訳である。

 なので食い殺される心配はないと言う訳であるが、襲われているネギとしてはそんな事分かるはずも無かった。

 

「というよりこれがドッキリだって分かっちまえば、アスナの奴もっとキレるんじゃねぇのか?」

 

 マギが言っている事も十分あり得る。もしサメが偽物だと分かればアスナの事だ、心配していたのにそれを仇で返されたら怒り心頭である。

 仕方なく見守る事にしたマギ達である。

 

「ああ兄貴反撃!反撃ですぜ!」

 

 カモが食われない様に反撃するようにネギに言った。

 

「でッでも今僕杖を持ってないし…はッそうか!」

 

 ネギは水の中に潜り、両手に魔力を集中させた。

 こんな時こそ古菲に教わった拳法と、最近エヴァンジェリンに教わった簡易版魔力供給が役に立つ時が来た。怖いがやるしかない

 大きいサメの方が大口を開けながらネギに迫ってきた。辛うじて躱してネギはサメのエラを狙った。サメの弱点はエラと鼻面である。的確に弱点を狙っている。

 しかし目の前のサメは本物のサメではなく、古菲が入っている偽物であり。

 

(ホウホウ、水中でこの動きはやるアルね。だがしかしまだまだ甘いアル)

 

 古菲はネギの拳を軽くいなして逆にカウンター技を決めてしまった。

 

「何でサメが拳法を~!?もう駄目だぁ!!」

 

「にょほほほ」

 

 簡単に防がれてしまい、ネギは涙目で必死に泳いで逃げようとした。古菲も悪乗り仕出し始めてネギを面白半分で追いかけまわした。

 

「ネギ!」

 

 アスナは目の前でネギが食べられてしまう…!そう思ってしまい頭の何処かが切れてしまった。

 

「アデアット!!」

 

 アーティファクトを発動して、アスナの周りの海の水が強大な魔力の力によって吹き飛んでしまった。

 またハリセンが出てくると思っていたマギ、しかし出て来たのはハリセンデはなく、巨大な大剣であった。

 

「サメなんて…サメなんて今更怖くないわよ!!」

 

 アスナが大剣を振るうと、剣の衝撃波で海が割れてしまった。剣の衝撃波によって2匹のサメも空へと打ち上げられた。

 

「うッ海がわれたぁ!?」

 

 和美たちはアスナが海を割った事に驚いていたが、マギはアスナが手にしている大剣の方が気になっていた

 

(アレがハマノツルギの本来の姿に違いないが、何で何時もはハリセンの姿をしてたんだ?謎だ…)

 

 サメからネギを助け出したアスナは砂浜へと戻ってきた。

 

「ネギ大丈夫!?」

 

「は…はい大丈夫ですありがとうございますアスナさん」

 

 如何やらネギは無事の様でホッとしたアスナ。しかしアスナは見てしまった。サメの口から目を回した古菲と、サメの着ぐるみを着た同じく目を回した夏美が浜へ上がっているのを。

 

「これは…どういう事かしらねぇ…!」

 

 自分は騙されたと思ったアスナは怒りで体が震えていた。

 

「あッあのアスナさん!?僕も今一状況がよく分からなくて!」

 

「違いますのよ明日菜さん!これは貴女とネギ先生が仲直りをしてもらおうと!」

 

 ネギとあやかが必死に弁解しようとしたが、アスナがネギに大股で近づいて

 

「この馬鹿ネギ!」

 

 手を振り下ろそうとした。またぶたれると思い目を閉じたネギだが一向にぶたれず、かわりにピタリと自分の頬に冷たい感触が伝わってきた。

 

「え…?」

 

 ネギはおっかなビックリで目を開くを目に涙を溜めているアスナの姿が。

 

「こんなイタズラして…心配かけんじゃないわよバカ…」

 

「あ…アスナさん…」

 

 ネギはこの流れで今迄の事を謝ろうとしたが、それよりも早くアスナのまたもや容赦のない一撃によってネギは砂浜に沈められてしまった。

 

「ネギの大馬鹿!」

 

 それだけ言うとアスナは走り去ってしまった。

 

「やっぱ逆にアスナを怒らせちまったようだな…これでネギとアスナの溝はより一層深まったって感じだな」

 

 マギはネギとアスナの関係をそう呟いてみていた。

 

「あぁアスナさん…」

 

 ネギはアスナが走り去っていった方向をただ見ているだけしか出来なかった。

 

「申し訳ありませんネギ先生…!」

 

 あやかもネギに誤る事しか出来なかった。

 ネギとアスナの仲直り作戦失敗である。

 

 

 

 

 

 夕方になり、生徒達も遊び疲れて各々が休むコテージへと向かっていた。コテージは海の上に立っておりとてもおしゃれであった。

 南の島での夕日はいつも見ている夕日よりも綺麗に見えた。

 

「ふむ、今後も学園の外に出る事が出来ないと思っていた私がよもやこんな南の島に行けるとは…これもマギのおかげかな」

 

 エヴァンジェリンはおしとやかに夕日を眺めながらジュースを飲んでいた。

 

「そんな大げさな、まぁ封印を解いたのは俺だけどさそんなに言わないでくれ背中が痒くなっちまう」

 

 マギは背中を軽く掻きながらエヴァンジェリンにそう言った。

 

「おおげさじゃない。お前のおかげで私は自由になれたんだ。だから私は…」

 

 エヴァンジェリンは自身の思いをマギに伝えようとしたが。

 

「アスナさん!待ってくださーい!」

 

「しつこいわよ!こっち来ないで!」

 

 ネギとアスナの追いかけっこにエヴァンジェリンはテーブルに顔を打ち付けてしまった。

 

「相変わらず良くやるなネギとアスナは…ッて如何したんだエヴァ」

 

 マギはテーブルに顔を埋めているエヴァンジェリンを見て首を傾げた。いやなんでもないと誤魔化すエヴァンジェリン。

 

「それよりも坊やと神楽坂明日菜の喧嘩はまだ続いているのか?」

 

「まぁさっきは上手くいきそうだったんだけどな、失敗しちまってさらに悪くなっちまったて感じかな」

 

「坊やと神楽坂明日菜には大停電の時に辛酸をなめさせられてるからな、もっとやれとは思っていたが…あそこまで来ると鬱陶しく感じて来るな」

 

 とマギとエヴァンジェリンがそんな遣り取りをしていると

 

「マギさん…」

 

 夕映とのどかがマギとネギの元へやって来た。エヴァンジェリンとしてはせっかくマギと2人きり(茶々丸が付き添いでいるが敢えて無視)だったというのに邪魔が入って不機嫌そうだ。

 

「おぉ夕映とのどかか如何したんだ?」

 

 何の用か尋ねると夕映が

 

「マギさん覚えているですか?私が図書館島に脱出した時の言葉を」

 

「あぁ魔法使いになってドラゴンを倒すってやつか?でも流石にドラゴンを倒すのは無理が…」

 

 マギが喋っている間にいえそうじゃないんですと夕映が言葉を遮った。

 

「あの後私としてもよく考えたんです。流石にドラゴンを倒すのは無理があり過ぎると…私とのどかは別の目的で魔法使いになりたいんです」

 

 別の目的?その別の目的と云うのが何なのか尋ねると

 

「別の目的と云うのがファンタジーな世界を体験したいというのが一つの理由で、もう一つはマギさん貴方を助けたい理由で魔法使いになりたいと思いました」

 

「俺の?」

 

 再度尋ねるとハイですと夕映は答えた。

 

「ハッキリ言えば私達は戦闘面ではマギさんの足元にも及ばないです。ですが私達でもマギさんのお手伝いが出来たらとそう思ったのです」

 

「わッ私もマギさんには色々と助けてもらいました。なので恩返しがしたいです」

 

 のどかも真っ直ぐマギを見てそう言った。参ったなとマギは思った。こういった自分に対する厚意と云うのは如何も苦手でどう答えればいいのか返答に困っていた。

 そんなマギに変わってエヴァンジェリンがオイ貴様等と夕映とのどかの方を見て言った。

 

「貴様たちが手を貸さなくてもマギは十分強い。逆にお前達のような者は足手まといだ」

 

 それにと夕映の事を指差しながら

 

「魔法の魔文字も知らんお前達に覚悟というものはあるのか?」

 

 エヴァンジェリンの凄味に夕映は軽く屈しようとしたが

 

「私とのどかは魔法を知ったその日から覚悟は決めていたです!」

 

 のどかも同じくと頷いた。

 2人の覚悟が一応本物だと分かったエヴァンジェリンはフウと息を吐いてから

 

「分かったよ。魔法はマギや坊やにでも教えて貰え」

 

 エヴァンジェリンが折れてくれたようだ。

 

「でもなぁ俺が魔法を教えるって言ってもそう上手くいくかね…」

 

 マギは魔法をどう教えればいいのか考えていると

 

「その事ですが、マギさんよろしければですが…私と仮契約というものをさせてはいただけないでしょうか?」

 

 夕映がマギと仮契約をしたいと言いだしてきた。

 

「おッおい夕映お前本気か?」

 

「はい仮契約をすれば戦力アップにもつながると思ったのですが、もしかして私とは仮契約は出来ないのですか?」

 

「いやそう言う訳じゃあないんだけどな…」

 

 マギは如何ゆえに説明しようか迷っていると

 

「ほうほう、ゆえっちもマギ先生と仮契約がしたいなんて積極的さね~」

 

 と何処からともなく和美が出現した。

 

「和美おま何処から出て来たんだよ!?」

 

「特ダネのある場所に私ありってね。話は変わるけど仮契約をすれば1人に1つ面白アイテムがついてくるんだよね~」

 

 どうマギさん私とも1つと和美が迫ってきてお断りだとマギは断った。夕映は何故マギが断っているのかと疑問に思っていたが

 

「あぁそう言えばゆえっちは仮契約の仕方を知らなかったか。仮契約の簡単な仕方はその仮契約をしたい人とキスをすればいいんだよ」

 

 ひそひそ声で夕映に教えた和美。数秒間思考が停止した夕映は

 

(え゛?キスってもしかして修学旅行の時のこのかとネギ先生のキスが仮契約だったんですか!?もしかしてホテルの時ののどかとの事故のキスでカードが手に入ったとは言ったましたがそれも仮契約だったんですか!?)

 

 夕映は思わずマギの唇を凝視してしまった。

 

「如何したの夕映?」

 

「はぅ!なんでもないです!」

 

 のどかに声をかけられて夕映は思わず声が裏返ってしまった。

 

「んで如何するのゆえっち?マギ先生と仮契約というかぶっちゃけキスはするの?」

 

「ちょ!朝倉さんは黙ってほしいです!!」

 

 と色々と話がゴチャゴチャしてしまい、仮契約の話は自然となくなってしまった。

 

 

 

 

 

 夜となり、殆んどの生徒は自分達のコテージに戻ってもまだワイワイと騒がしかった。

 そんな中でマギはアスナが泊まっているコテージへと向かった。

 コテージに到着するとマギはドアをノックした。しばらくたつとドアが開き中からあやかが現れた。如何やらアスナと一緒に居るのはあやかのようだ。

 

「あらマギ先生どうしたんですの?」

 

「いや、ちょっとアスナに話があってさ。アスナは部屋に居るよな」

 

 マギの問いにえぇいますわと答えるあやか。ただ…とちょっと困ったような表情をして。

 

「今は誰とも話したくない様子で特にネギ先生やマギ先生とは特に…と先程もネギ先生が来たんですけどネギ先生ともお会いにならないで」

 

「そうか…まぁいいや兎に角上がらせてもらうぜ」

 

 ちょまって下さい!とあやかを無視してマギは部屋の中へと入って行った。

 

「おうアスナ、話があるんだけどちょっといいか?」

 

「ちょマギさん何勝手に入ってきてるのよ帰って!」

 

 アスナはマギを追い出そうとしたが、マギはビクともしなかった。

 

「いいからちょっと話し合おうぜ?直ぐに終わるからよ」

 

「だからアタシは今は誰とも会いたくないの!さっさと出てってよ!」

 

 アスナは会いたくもないし話したくもないの一点張りであった。

 アスナの態度に溜息を吐いたマギはグイッとアスナの手を引っ張って。

 

「いい加減下らない意地を張ってるんじゃねぇよ。黙ってついて来い…あやかアスナをちょっと借りてくぞ」

 

「あ…はい分かりましたわ」

 

 あやかの了承を得てマギはアスナを外へと連れ出した。

 アスナを連れ出してマギは少し広い広場みたいな所で漸く止まった。

 

「まこんな所までくれば大丈夫だろう」

 

「どういうつもりマギさん、こんな所まで女の子を強引に連れだして。一歩間違えれば犯罪よ犯罪」

 

 アスナの睨みにマギはスマンスマンと軽く謝ったマギ

 

「で話って何なのよ?」

 

 アスナはマギに話とは何なのか尋ねた。

 

「話も何もお前ネギの事はもう許さないつもりなのか?」

 

 マギの質問にアスナは反応して俯いてしまった。

 

「ネギはアスナに酷い事言ったって反省してる。アイツもお前の事が心配でそれであんなことを口走っちまったみたいなんだよ。まだネギは子供だ自分で言った言葉の意味を偶に理解していない時がある。だけどもアスナに危険な目にあってほしくないからああやって…」

 

「分かってる分かってるわよマギさん。アタシもうネギの事は許してるからさ」

 

 アスナはネギの事を許しているようだった。なら何故ネギの事を避けるようなことをしていたのかと尋ねるとよく分からないと返した。

 

「ネギがまだ麻帆良に来た頃は、オッチョコチョイで頼り無くてメソメソしているただのガキンチョだと思ってた…だけどアタシが知らないうちにどんどん強くなって、アタシが知らない内に先に進んじゃって…今じゃネギの事が分からない時があるの。でもネギがアタシの知らないうちに大怪我してるんじゃないのかとか、若しかしたら死んじゃったりしてないのかとか思っちゃって、心配なのよアタシは…」

 

 アスナの独白を聞いて成程なと頷いたマギは

 

「つまりあれだな。心配してた弟が知らないうちにたくましくなっちゃって、これからどう接すればいいのか分からないお姉ちゃんみたいな感じか?」

 

 マギは1つの答えを見出した。

 

「おねッ…確かにそんな感じかもアタシ一人っ子だから弟とかよく分からないけど、うんアタシはネギが心配。アイツ色々と無謀すぎるから」

 

 マギの言う通り今のアスナは何処か故郷のネカネと一緒のような表情をしている。

 弟を心配している姉の表情になっていた。

 

「だったらその気持ちをネギにぶつけてみろよ。アイツだってきっと分かってくれるはずだぜ」

 

 マギはアスナに自分の気持ちをぶつけて見ろとそう言った。

 

「ふぅ…何かマギさんに喋ったら少しすっきりしたなぁ。あぁそれと睨み付けてごめんなさいマギさん」

 

「いいさ、俺は全然気にしてねぇよ。だからその勢いでネギと仲直りしちまえよ」

 

「うんそうする。それじゃあマギさんおやすみなさい」

 

 あぁお休みとマギとアスナは自分達のコテージへと帰って行った。今のアスナなら大丈夫だろう…マギはそう思っていた。

 

 

 

 

 

 翌日の早朝、結局ネギはアスナの事を考えており余り眠れなかった。

 同じコテージで寝ているマギに如何すればいいのか尋ねてみても

 

「これはネギとアスナの問題なんだから俺に振るな」

 

 と言うだけ言ってマギは爆睡してしまった。今日もアスナに無視されてしまうのではないかと思ってしまったネギ。

 とネギがそんな事を考えていたその時、コテージの窓がコンコンと鳴った。風で窓が鳴ったのかと思いきや、窓の外に水着のアスナが居た。

 

「あッアスナさん!?如何して此処に…?」

 

 ネギはアスナが如何して此処に居るのかと思っていたが、アスナは外に出ろとネギにジェスチャーを送った。

 ドアを開けるとアスナは無言で袋をネギに渡した。袋の中はネギの水着が入っており着替えてこいと云う事だろうか。

 着替えたネギは無言のアスナに引っ張られてコテージのベランダへと向かった。

 ベランダの階段から海へと直行できるようでアスナはこのベランダからネギとマギのコテージへと来たのだろう。

 

「あ…あのアスナさん?」

 

 ネギは未だに一言も喋っていないアスナを見てまだ自分に対して怒っているのだと思っていたが、アスナがネギを思い切り引っ張って海へと落とした。

 

「あぶぶぶ!あッアスナさん何を!?」

 

 行き成り海に落とされて手足をばたつかせるネギ。

 

「ぷ…アハハ!何よその顔バッカみたい!」

 

 アスナは溺れているネギを見て大笑い、そして自分も海に飛び込んでネギをもう一回海の中へ沈めた。

 

「フフフ…はぁスッキリした」

 

「行き成り何するんですかアスナさん…」

 

 何も言わず海に落としたと思ったら今度は海の中へ沈めたりと酷いとアスナにそう言ったが

 

「別にぃ、南の島に来たのにアンタと遊んであげてなかったなって思ってさ」

 

 そう呟いた後にアスナはネギに近づいた。ネギは又ぶたれると思い目を瞑ったが、アスナはネギをぶつことなく逆に抱きしめた。

 

「へ?あの…アスナさん…?」

 

 ネギはアスナが抱き着いてきたことに戸惑っていたが、アスナが小さな声でゴメンと呟いていた。

 

「しばらくの間無視しててゴメン。ちょっと意地張ってた」

 

「ぼッ僕の方こそごめんなさい…僕アスナさんに酷い事言ってしまって」

 

 ネギもアスナに酷い事を言ってしまった事を謝った。

 

「いいの。アンタがアタシにこれ以上危険な目にあってほしくないからあんな事言ったんでしょ?アタシの事を心配してくれるのは嬉しい。けどねアタシはアンタが心配なの」

 

 ネギの頬に何か水のようなものが当たった。

 

「アスナさん…?」

 

 ネギは思わず顔を見上げるが、アスナがネギから離れて顔をグシグシと擦った。

 

「アンタは一度決めた事は絶対投げ出さないからね。お父さんを追う事も、強くなろうとすることも」

 

 でもねとネギに微笑みながらアスナは言った。

 

「アンタを護らせてよ。アタシを…アンタのパートナーとして見てよネギ」

 

 アスナの笑顔に呆然としてしまったが

 

「…はい!お願いしますアスナさん!!」

 

 ネギもアスナに負けない程の笑顔で元気よく叫んだ。

 それからは今迄積み重なった仲違いが一気に吹き飛んでアスナとネギは大声で笑いあった。

 そんなネギとアスナの大笑いに殆どの生徒が起きてしまった。

 

「いやはや兄貴と姐さん、仲直り出来て良かったですね」

 

 カモが笑いあっている2人を見てしみじみと呟いた。

 

「全くだぜ。これ以上ギスギスした関係が続くかと思うと冷や冷やするぜ」

 

 カモの隣でマギがベランダに手を置きながら言った。

 

「大兄貴起きてたんですね」

 

「まぁなアイツラの大笑いのせいで目が覚めちまったよ」

 

 というのは嘘でネギがコテージの外へ出て行った時から目が覚めており寝たふりをしながらネギとアスナの様子を窺っていたのである。

 

「まッこれで何時ものネギとアスナに戻ったかな。まさに雨降って地固まるってやつだな」

 

 マギはそう呟いた。

 これでネギとアスナは一応大丈夫だろう。

 だがあの2人の事だ。またいつか喧嘩をするはずだ。

 だが今日のようにしっかり仲直りが出来るだろう。

 そうであるはずだとマギは信じていた。

 

 




此れで一応原作7巻が終了しますが
次回からは原作の8巻ではなく、ちょっとした小話を2~3話ほど出してから
8巻に進もうと思います
それでは


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~閑話~少女たちの憂鬱
あたしは皆のアイドルだ!


今回から数話ほど閑話が2~3話ほど続きます

注意ですが、今回の話は不快な描写が多数あります
正直自分で書いてても不快でした。
途中まで読んで不快だと思ったらブラウザバックをお勧めします
それではどうぞ


 ゴールデンウィークも終了して、生徒達各々はゴールデンウィークでの楽しかった思い出を噛みしめながら、授業に励んでいた。

 まぁ中にはゴールデンウィークなんてただの休みでしかないと考えている生徒も中には居るが

 

「たく…何がゴールデンウィークだよ。あたしとしては単なる多い休日でしかないっていうの」

 

 3-Aの長谷川千雨が帰路に着きながらそんな事を呟いていた。彼女はゴールデンウィークの休日間ずっと部屋に引きこもってネット三昧であった。

 と言っても彼女はただネットに明け暮れていた訳ではない。

 彼女は表向きはただ何処にでも居るようなごくごく普通の女子中学生であるが、ネットの世界ではただ今人気№1のネットアイドル『ちう』として活動しているのである。

 このゴールデンウィークは自身のホームページにあげるコスプレ写真や他愛のない話をブログに書き込んでいるのだ。

 そんな活動をやっており、ゴールデンウィーク中のアクセス回数はトップを維持していた。千雨はトップにいる事に愉悦を感じていた。

 感じていたのだが…

 

「ハァ…」

 

 千雨は何故か重い溜息を吐いていた。それはある一人の男を思い出しての溜息だ。

 

「マギさん…何であたしマギさんの事を考えているだ…?」

 

 千雨は自分のクラスの副担任であるマギ・スプリングフィールドの事を思い出していた。

 マギは2年の3学期に教育実習生として弟のネギと一緒に麻帆良にやって来た。

 しかし歳がネギが10歳、マギが17歳と明らかに労働基準法に違反しており、千雨は内心ふざけんなとツッコんでいた。

 ただでさえ変人集団のAクラスが更に変になると思い、頭が痛くなる思いだった。

 2年の時にクラストップを祝したパーティにも欠席し、今まで溜まっていた鬱憤を吐き出そうとしたが、ネギとマギの2人に自分の秘密がばれてしまった。

 しかしネギとマギは気持ちがるどころか逆に綺麗だと言ってくれた。

 更にマギは千雨に加工しない方が綺麗だぞと言ってくれて、試しに加工をしないで写真を投稿したら加工したのよりも人気が出てしまった。

 それにマギはもっと自分に自信を持てと言ってくれて、千雨は自分自身に少しだけ自身が付いて今迄自分から避けていたクラスメイトとも喋るようになった。

 マギのおかげで今迄退屈だった学校が少しだけ楽しくなったと思った。

 …そこからだろう、マギの事を意識し始めたのは

 

「いやいや絶対ないから。あたしが男を意識するなんて…ましてや先生だぞ?歳が近いからってないっての」

 

 千雨は自ら無いと言い切っていた。

 ネットアイドルではあるがアイドルと言っているのだ。アイドルは恋愛はご法度と言うのが。掟となっている。

 しかしそう言っていても千雨は何処かマギの事を目で追ってしまう。

 マギが他の生徒とかと話しているのを見てみると何処かムカッてしてしまう。

 だけども自分は学校では静かで根暗な感じで過ごしているのだ。マギに話し掛けようとする勇気がまだ持ち合わせていない。

 忘れよう。こんな時こそちうとして活動している方が嫌な事を忘れられる。

 そんな事を考えていたらもう自分の部屋に到着していた。

 

「考え事してたから早く帰ってきちゃったな…」

 

 そんな事を呟きながら千雨は学校の荷物を床に置いた。

 手を洗って、うがいをしてからパソコンの電源を点けると言うのが千雨の日常生活の流れだ。

 パソコンを立ち上げてみると、メールが一通送られてきた。

 ネットアイドルをやっていれば当然ファンからのメールが来るものである。

 メールの種類は人それぞれで、普通に頑張ってください!の様なメールもあれば結婚してくれー!みたいなちょっと千雨自身引いてしまうようなメールが来ることもある。

 さて今日は如何言ったメールだ?そう思いながら千雨はメールを開いた。

 

「何々…『僕のちうたん』っておいおいメールの題名からして痛い奴じゃねえか。メールの内容は何なんだ?」

 

 とメールの内容を読んでみようとしたが、何も本文が書いておらず代わりに写真が入ってるデータが送られていた。

 千雨は何のデータか調べてみると顔から血の気が失せて、体中から嫌な汗が流れてきた。

 

「おいおい…なんだよこりゃ」

 

 写真にはなんと…さまざまな千雨の盗撮写真が載っていたのだ。

 

 

 

「何?ストーカー?」

 

 翌日の放課後、マギは千雨から相談があるという事で誰も居ない生徒指導室で相談事を聞いてみて、その内容がストーカーだという事に驚いていた。

 

「何時誰にストーカーされたんだ?」

 

「いやストーカーはまだされてないんだけど、昨日誰だか分からない、変なメールと一緒にこんな写真が送られてきたんだよ」

 

 そう言いながら千雨は昨日送られてきた盗撮写真をプリンタでコピーしたのもをマギに渡した。

 マギは渡されたその盗撮写真なる物を見てみた。

 写真は千雨が授業を受けている所、うたた寝している所に体育の授業をやっている所。外でボーッしているなどの写真だ。

 一応着替え中やらシャワー中などの少し過激な写真などは見当たらなくて、過激と言っていいのか分からないが、転んでパンツが見えてしまった写真位か。

 そんな写真を見てアレ?と思ったマギ

 

「そう言えば千雨って他の奴にネットアイドルをしてる事や、お前のファンに自分の私生活をあんまり明かしていないだろ?」

 

 そう普通だったら千雨=ちうと云う考えには行かないはずであろう。

 という事は千雨がちうだと知っている人物があんな盗撮写真を送ってきたのだろうか…

 そんな考えが千雨でも出たのか、まさか…とジト目でマギを見て

 

「まさかマギさんがあんな写真を撮ったんじゃ…」

 

「んなわけねぇだろうがおい。マギさんがそんな犯罪者みたいなことしません」

 

 やれやれだぜとマギが肩を竦めながらそう呟いた。

 

「ゴメンマギさん。変な風に疑って…昨日変なメールが来たせいで寝ている間でも何処からか見られてるんじゃないかと思って夜も眠れなかったんだ」

 

 見れば千雨が少しやつれているように見えた。自分の盗撮写真が送られたら不安で眠れないだろう。

 しかし困ったなぁと千雨は本当に困ったような表情を浮かべていた。

 

「あたし今週の休みに出かけて人と会う約束してるのに、これじゃあ外が気になって出られないぞ」

 

 如何やら千雨は今度の休みに誰かと会う約束をしているようだ。しかし盗撮写真なんて送られでもしたら外へ出るのが怖くなるだろう。

 困っている生徒に手を伸ばして助けるのが教師の役目だ。

 

「分かった。それじゃあ千雨が安心して約束してた奴に会うために、俺が一緒について行ってやるよ」

 

「いッいいのかよマギさん?若しかしたら危険な目にあうかもしれないのに大丈夫なのか?」

 

 千雨はマギが思っているのよりも危険なんじゃと思っていたが、心配すんなよとサムズアップをしながら

 

「俺はお前らの先生だぞ?先生が困ってる生徒を見捨てるわけがねぇだろうが」

 

 だから心配すんなと笑いながら千雨に言った。

 千雨はマギの笑顔を呆然と眺めていたが、ハッとして顔を赤くしながら俯くと

 

「あ…ありが…とう」

 

 小さい声でマギにお礼を言った千雨。いいってことよと笑って返したマギ。

 

「そう言えばこの事はネギや他の生徒とかには話したのか?」

 

 ネギやアスナや他の生徒にはこの事は話したのかと尋ねると、いや話していないと首を横に振りながら答えた。

 

「ネギ先生は言っても慌てるだけで駄目な感じが…他の生徒はいい奴ばっかなのは分かるけど、迷惑なるかもしれないから話してない」

 

 マギは千雨の言った事にフ~ンと呟いていたが、表情は何処か嬉しそうだった。

 千雨がマギの表情が気になって、何でそんな顔をしているのか聞いてみると

 

「いやさ、千雨が他の生徒達に無関心だったのに少しづつだけど心を開いている感じがして嬉しいんだよ」

 

「そんな事で喜ぶのかよ…でもあたしも3-A(変人集団)に馴染んじゃったのかな…」

 

 何処か諦めたような表情だったが、嫌そうな表情はしてなかった。

 マギは千雨が変わって行っているのを見て嬉しく感じていた。

 

「そう言えば、その会う約束をしてる奴とは何処で会うんだ?」

 

 マギは肝心の場所を聞く事を忘れていた。

 あぁそう言えばそうだったな。と千雨もすっかり忘れていて

 

「会う場所は秋葉原って所だ」

 

 

 

 

 

 休みに入り、マギは千雨と一緒にその秋葉原なる場所へと来た。

 秋葉原駅にておりて、マギは秋葉原駅の外にやって来た。

 来たのだが、マギは何だ此処は…と呆然としてしまった。

 

「此処が秋葉原って所なのか…」

 

 目の前に写る光景は麻帆良と違い別な意味で異質だった。

 道行く人は普通の恰好をしている者もいれば、リュックサックを背負い、バンダナを被り昔のような恰好をして歩いている人の姿もちらほらと見えた。

 またアニメのキャラクターの服装をしている人がいれば、メイド服を着てチラシを配っている少女たちも居た。

 メイド達を写真に収めて満足している男達も見える。

 

「やっぱマギさんも驚く?」

 

 千雨がそう聞いて来て、まぁなと呟いて返したマギ。

 

「何というか不思議な場所なんだな秋葉原って…」

 

「秋葉原、今はアキバって呼んでる人が殆どだけど、昔は電気街として有名だったが、日本のアニメが有名になり始めて、今ではアニメやら漫画やゲームとかのサブカルチャーの町に変わっちまったんだ」

 

 他には鉄道模型なんかの店もあるけどなと千雨が補足をする。

 

「へぇ~日本のアニメの事はあんま知らなかったが、町1つをアニメやゲームなんかの町へと変えちまうのは凄いな…」

 

 マギは改めて日本のサブカルチャーの凄さを実感した。

 

「んで、約束の人とは何処で会うんだ?」

 

 マギは本来のやる事を思い出して、千雨に場所を聞いた。

 あぁそうだったなと千雨は

 

「こっちにあるんだ。ついて来てくれ」

 

 千雨に案内されてマギは後をついて行くことにした。

 しかしそんなマギと千雨から100m程離れた場所で

 

「はぁ…はぁ…私服のちうたん、なんて可愛いんだ…それに引き替え何なんだあの外国人の男は…僕のちうたんと仲良さそうに話して…!あの場所に居るのは本来僕のはずだ…!」

 

 目を充血させて、息を荒くしながら千雨の事を舐め回す様に見ていて、マギの事は歯をギチギチと歯ぎしりしながら殺意の籠った目でマギを睨みつけている男が居た。

 街を歩いている人やメイド達はその男から離れたり避けたりしながら、関わらない様にしていた。

 

 

 

 マギと千雨は、千雨に案内されながらとある場所に来ていた。その場所と言うのが

 

「『メイドカフェヒンメル ご主人様を天国へ連れてってあ・げ・る♡』なんだ此処?カフェって事は喫茶店なのか?」

 

 千雨に連れられメイドカフェなる場所に到着した。初めて聞く単語に戸惑っているマギ。

 

「まぁ入ってみれば分かるさ」

 

 千雨がそう言いながら店のドアを開けた。マギも続いて店の中へ入ると…

 

『お帰りなさいませ!お嬢様!御主人様!』

 

 メイドの恰好をした少女たちが一斉にお辞儀をしながらマギと千雨を御出迎えた。

 メイド達にお出迎えされたマギは

 

「うおッ!?」

 

 思わず数歩後退りしてしまった。まさか自分の事を御主人様と呼んでくるとは思わなかった。

 客の事をお嬢様やら御主人様と呼ぶのがメイド喫茶の基本だと言うのは分かったが大勢の少女たちに御主人様と呼ばれるのは何処かむず痒い。

 

「これは千雨お嬢様今日は男性の方とお帰りですか?」

 

 1人のメイドが千雨と親しそうに話していた。どうやら此処のメイドとは顔なじみの様だ。

 

「ちょっと用があって来たんだよ。こっちの人は付き添いだ」

 

 マギはどうもと軽くお辞儀をした。千雨とマギを何回か見た後にあぁと頷いたメイドが

 

「千雨お嬢様が旦那様とお帰りでーす!」

 

「ちッちが!マギさんはただの付き添いだっての!!」

 

 メイドが勘違いしながら千雨とマギを席へと誘導した。千雨は違うと叫び散らしながらメイドを追っかけていた。

 席へと誘導されて座った2人にお冷が配られ、千雨はだから違うってのと呟きながらお冷を飲んでいた。

 マギはそんな千雨を笑いながら見ており、此処へは良く来るのかと尋ねると

 

「あぁアキバに来た時にはちょくちょく顔を出してたんだ。んでいつの間にか顔馴染になっちまったんだ」

 

 成程なとマギは千雨が学校では出さない素の自分を出しているのを見ていたから少しうれしかったのだ。

 メイドがメニューを持ってくると千雨は

 

「なぁさっちゃんは今日は来てるか?ちょっと渡したい物があるからさ」

 

「えぇ居るわよ。さっちゃん!千雨お嬢様がお呼びよ!」

 

 メイドがさっちゃんなる者を呼ぶとはーい!という声と一緒にやって来た。

 さっちゃんと言う人は、黒髪のロングストレートでメガネをかけている大人しそうなメイドだった。

 

「ちうちゃん久しぶりー!」

 

 さっちゃんは千雨の顔を見るや、嬉しそうに顔を輝かせて千雨をちうと呼んでいた。

 千雨も久しぶりとさっちゃんに軽く返した。

 

「千雨彼女は?それにちうって呼んでいるって事は」

 

「あぁ彼女は小向幸子、さっちゃんって言う名で活躍してるあたしの同じネットアイドルだよ」

 

 如何やらさっちゃんは千雨と同じネットアイドルの様だ。

 

「ねぇちうちゃん一緒に来てる彼はだれ?」

 

 さっちゃんは一緒に来ていたマギは誰なのか尋ねた。

 

「あぁ彼はマギさんだよ。あたしの学校の副担なんだ」

 

「初めまして。マギって言います」

 

「此方こそ初めまして。さっちゃんって呼んでください」

 

 マギとさっちゃんで自己紹介を終える。さっちゃんはマギをまじまじと見ながら

 

「マギ先生って若いんですね。おいくつ何ですか?」

 

「歳?17歳いやもう5月9日が過ぎたから18歳だな」

 

 18!?さっちゃんはマギの歳を聞いて驚愕する。18歳で教師になるなんて普通では有りえない事である。

 

「ちうちゃん、ちうちゃんの学校って変わってるって聞いてたけど、本当に変わってるんだね?」

 

「だろ?そう思うだろ!?そうだよ…あたしはこんなリアクションが欲しかったんだ…!」

 

 千雨は自分の考えと共感してくれたので嬉しそうだった。まぁそれは置いといて

 千雨は如何やらさっちゃんに渡したい物があるそうだ。ずっと持っていた大きな紙袋をさっちゃんに渡して

 

「これ、頼まれてたさっちゃんのネットアイドル用の衣装。ちゃんと寸法通りに作ったから着れるはずだぞ」

 

 千雨が渡したかった物は如何やらさっちゃん用の衣装の様だ。というか作ったと言っていたが、千雨は衣装なども作れるのかと千雨の器用さに感心していた。

 しかしせっかく衣装を貰ったといのに、さっちゃんの表情は曇っていた。どうかしたのかと千雨が尋ねると

 

「ゴメンねちうちゃん、せっかく衣装作ってくれたのに…若しかしたらこの衣装着ないかもしれないんだ」

 

「着ないってどうかしたのか?」

 

 千雨は何か理由があるのか尋ねてみると、さっちゃんは申し訳なさそうに

 

「うんあのね…今ネットアイドルの方はお休みしてるんだ」

 

 どうやらネットアイドルは今はお休みしてるようだ。如何してお休みしてるのか尋ねてみると

 

「この前にパソコンに変なメールが来て、そのメールに私の盗撮写真のデータが入ってたんだ…それを見て怖くなって、若しかしたら私の恥ずかしい写真がもっと撮られているんじゃないかと思って、それで今は活動はお休みしてるんだ」

 

「さっちゃんも撮られてたのか?私もほんの少し前にあたしの盗撮写真が送られてさ、それでマギさんに付き添いで来てもらったんだ」

 

 ちうちゃんも?とさっちゃんは驚いていた。

 

「ちうちゃんも被害にあってたんだ…ちうちゃんも気を付けてね。今日持ってきた衣装は持って帰っていいよ」

 

「いやとりあえず渡しておくよ。あたしとしてもさっちゃんがこの衣装を着てネットアイドルしてる姿見たいからさ」

 

 と何処か雰囲気が重くなってしまった。さっちゃんは重くなった雰囲気を払拭させようと明るく振舞って

 

「ちうちゃんとマギ先生も何か頼んでよ。今日はいっぱいサービスするからさ」

 

 マギと千雨が何かを頼もうとしたその時

 

「いや止めて下さい!!」

 

「え~いいじゃん!もっと俺達に奉仕してくれよぉ~」

 

「そ~そ~御主人様に何でもしてくれるのがメイドサンだろぉ?」

 

 2人のガラの悪い男2人が1人のメイドにしつこくしており、腕やらを触っていた。

 他の客たちは止めようとしたが、男たちのガラの悪さに委縮してしまい、何も出来ない様子だった。

 

「また彼らだわ…何時も私達にいやらしい事をしてくるの」

 

「前に止めようとしてくれたご主人様を大怪我させた事もあったし…」

 

「あの人たちのせいで男性恐怖症になって引き籠っちゃった子だっているし…」

 

 周りのメイド達も彼らの行いに何も出来なくて、ただ彼らが満足して店を出て行くのを待っている事しか出来なかった。

 

「何なんだよアイツ等…メイドはお前らの愛玩道具じゃねぇんだぞ。文句を言ってやる」

 

 千雨は男達に文句を言おうとしたが、待ちなとマギが千雨を止めて

 

「生徒に危険な事させるわけにはいかねえだろ?俺がちょちょいと片づけてて来るさ」

 

 そう言ってマギはガラの悪い男の所へ向かった。さっちゃんはマギを止めようとしていたが千雨が逆にさっちゃんを止めた。

 

「ちうちゃん大丈夫なの!?あの2人結構強いんだよ!」

 

「大丈夫だって、あのマギさんの方が断然強いからさ」

 

 ガラの悪い男達はなおもしつこくメイドに絡んでいた。

 メイドも涙目で止めてと叫んでいたが、それが逆に男2人を興奮させるはめになった。

 ついには胸に手を伸ばそうとしたが、マギがその腕を掴んでいた。

 

「あぁ?」

 

 胸に手を伸ばそうとしていた男は邪魔をしたマギの事を睨みつけていた。

 

「いい加減にしとけよ。メイドが泣きそうじゃあないか」

 

 そう言ってメイドを掴んでいる手を払いのけた。

 

「さっさと奥に行ってな」

 

「はッはい!ありがとうございます!!」

 

 助けてもらったマギにお礼を言ってメイドは奥の方へ走って行った。

 自分達の邪魔をしたマギに対して怒りを露わにしている男2人はガタン!大袈裟に席から立ってマギを睨みつけていた。

 周りの客はザワザワと自分達は如何すればいいのか混乱していた。

 

「おうおう外国人の兄ちゃんよぉ、何俺達の楽しみを邪魔してくれたわけぇ?」

 

「せっかく楽しくやってたのによぉしらけちまったぜ。こりゃテメェボコってもたりねぇぞおい」

 

「てか何さっそうと登場して、助けに来てんの?正義の味方気取りとかぁ超うけるんだけど!!」

 

 ギャハハハッ!と下品な笑い声を上げる男2人、そんな2人にマギはやれやれだぜ…と呟きながら頭を掻いて

 

「ギャーギャーギャーギャー喧しいんだよ…発情期かアンタら」

 

 マギの言った一言にブチリとキレてしまった2人は

 

「しッ死ねやこらぁ!!」

 

 1人がマギに殴り掛かってきた。店内では悲鳴が上がるが、マギは殴り掛かってきた男の拳をいとも容易く受け止めてしまった。

 エヴァンジェリンの元で修業をしてきたマギにとっては、こんな男の拳なんて目を瞑っても受け止められる。

 受け止められた男は驚きながらマギから腕を振り抜こうとするが、ビクともしない。マギが掴んでいる力が強すぎるのだ。

 

「てッテメェ離しやがれ!」

 

 腕を掴まれている男は離せと喚き散らし

 

「うるせぇな…ホイ」

 

 男が丁度腕を引っ張ろうとした所で手を放して、男は勢い余って後頭部を思い切り床にぶつけてしまった。

 頭を思い切りぶつけ呻いている男を見ながらもう一人の男は

 

「ふざけんじゃねぇぞ!!」

 

 自分が座っていた椅子をマギに振り下ろそうとしていたが

 

「店の備品をそんな事に使うんじゃねぇよ」

 

 ネギに叩きつけていたハリセンを何処からか取り出して男の頭に振り下ろした。

 かなり容赦なしで頭に振り下ろしたために、男は余りの痛さに椅子を落としてしまった。

 マギは落ちそうになった椅子をキャッチして代わりに自分が座ってしまった。

 

「さて…とアンタら今迄この店で悪さしてたみたいだな。そんじゃその悪さした分、キッチリお仕置きしないとな」

 

 最初にマギに殴り掛かろうとしてきた男の胸倉を掴んで、マギはでこピンの用意をした。

 

「結構痛いからな、歯ぁ食いしばっておけよ」

 

 そう言ってマギは破壊神のでこピン(最弱バージョン)を男の額に当てた。かなり弱めにやったが、一発だけでかなり赤く腫れていた。

 しかし一発だけではなく、何発も連続ででこピンを食らわした。男は悲鳴を上げたかったが、余りの痛みに逆に泣き出してしまった。

 でこピンが終わり、男は額を押さえながら悶えていた。

 さて次は…とマギはもう一人の男の方を見た。

 もう一人の男の方はヒッ!と短い悲鳴を上げながら逃げようとしたが、マギが逃すはずも無く簡単に捕まり

 

「アンタはこれだ。悪い事をやったガキにやる有名なお仕置き…頭グリグリの刑だ」

 

 マギは男の頭を拳と拳で挟んで頭をグリグリし始めた。

 ただのグリグリではない。マギがグリグリするたびに頭蓋骨がミシミシと軋むのだ。

 

「いッイテェ!止めてくれぇ!!」

 

「んあ何か言ったか?聞こえねぇな」

 

 マギはすっとぼけて、グリグリを続けた。グリグリするたびに男の悲鳴が続いた。

 グリグリすること数分、マギは漸く止めた。

 ガラの悪い男2人はマギ対する感情は怒りから恐怖へと変わっていた。

 

「ゆッ許してくれぇ…俺達が悪かったよぉ…!」

 

「もうこんな馬鹿な事やらねぇから許してくれぇ!」

 

 土下座をしながら2人はマギに許して欲しいと懇願していた。

 だったら最初からやるなよと内心呆れているマギ

 

「だったらもう此処には足を入れるなよ?もしまたここで悪さしてるって聞いたら…今度は容赦しないからな」

 

「「ひッひぃ!!」」

 

 2人はマギの迫力に失神しそうだった。

 

「分かったんならさっさと失せな」

 

「「はぃぃぃッ!」」

 

 男2人は一目散に退散しようとしたが

 

「おい待て!」

 

 マギに呼び止められて、立ち止まってしまった。まさかまだ何かあるのかと恐怖で足が震えていたが、マギがレジの方を指差しながら

 

「金、払ってから出ろよ」

 

 ただ飯ぐらいは犯罪だからなとマギが付け足して言った。2人は急いで財布から慌てているために万札をレジに叩きつけながら一目散に店から出て行ってしまった。

 男達が居なくなってシン…と店の中が静まってしまった。

 やべ…やり過ぎたかとマギは冷や汗を流していたが、次の瞬間には拍手喝采の大歓声だった。

 あの男達にが逃げ出したのを見て特にメイド達は大喜びの様だった。

 とマギの所へ一人の中年男性がやって来た。胸元に店長と言う名札を付けている所からこのメイド喫茶の店長なのだろう。

 

「この度はありがとうございます。彼らの行動には私自身困っており、彼らのせいで引き籠ってしまった子も出てしまうほどで…ですが貴方の御蔭で彼らも当分この店には来ないでしょう。本当にありがとうございました」

 

「いッいや俺はああいった奴らが気に食わなかっただけですし…」

 

 お礼を言われても困りますって。とマギは店長にお礼を言われるほどの事はしていないと言う。

 しかしいえいえと店長も譲れず。

 

「今日は御主人様の料金はタダとさせて頂きます。メイドさん達しっかり御主人様をご奉仕しなさい!」

 

「ちょ待ってくれって何もそこまで…『御主人様ぁ~』っておわぁ!?」

 

 そこまでしなくてもと言おうとしたが、殆んどのメイド達がマギに群がって、マギは揉みくちゃにされてしまった。

 もみくちゃにされているマギを千雨とさっちゃんは見ていた。

 

「な?別に心配しなくても大丈夫だったろ?」

 

「今度は違う意味で大変な事になってるんだけど…」

 

 メイド達は顔が良いマギが店を救ったヒーローとして必要以上にご奉仕されており、マギ自身四方八方メイドに囲まれてどうすればいいのか分からず顔を赤くしていた。

 

(って何マギさんはでれぇ~っとしてるんだよ!?もっとしっかりしろよ!!)

 

 千雨から見たらでれぇ~っとしているように見えており、マギの事を睨みつけていた。

 その後メイド達と記念撮影を撮って、メイドカフェヒンメルを後にした。

 

 

 

 余談だが、その後ガラの悪い男2人は店に足を運ぶことも無く、ガラの悪い男仲間がその2人を馬鹿にしていたが、男2人は酷い目にあった、殺されるかと思ったと半ば半狂乱状態で喚いており、男達は言葉をうのみにして話に尾ひれがつき『メイドカフェヒンメルには化け物の様な強い男が来る』という噂が立つようになったと言う…

 

 

 

 さっちゃんに渡す物を渡した千雨とマギ。

 まだ時間があるという事で、千雨はマギにアキバの色々な所を案内してあげた。

 アニメや漫画のフィギュアやロボットのアクションフィギュアのお店ではマギ自身男という事で興奮しており。

 昔ながらのゲームショップでは日本のゲームの歴史を体感した。

 同人誌ショップでは自分が知っている日本のアニメのパロディ漫画にはこんなに種類があるのかと感心した。

 ただ…18と書いており、通せん坊ののれんをマギが潜ろうとして、千雨は全力で止めた。

 取りあえず一通り回る事が出来て、結構いい時間だったので少し休むことにした。

 休もうとしたところに公園があったので、マギと千雨は一休みする事にした。休日という事で公園には子供達も大勢いた。

 ベンチに座ったマギと千雨だが、マギが缶コーヒーを買ってきて、千雨に渡した。

 千雨は渡された缶コーヒーを一気飲みしてしまうと

 

「今日はありがとなマギさん。おかげで色々と助かったぜ」

 

 改めてマギにお礼を言った。別に気にすんなとマギはそう返す。

 

「俺も今日は自分が知らない場所を知る事が出来て楽しかったし、それに…」

 

 それに?マギが何を言おうとしてるのか首を傾げていると

 

「学校ではどっちかというと静かな方だった千雨が、自分が好きな場所だと生き生きしててそれに輝いていて、何処かギャップを感じるところもあったけど、うん可愛かったな」

 

「かッ可愛い!?」

 

 マギに可愛いと言ってもらえて、千雨は顔を赤くしてしまったが、正直言って嬉しい。もっと可愛いと言ってほしかった。

 千雨は今日こそ自分の気持ちを言ってしまおうと思った。告白とかではなくまた一緒にアキバを回ってはくれないかと

 

「なッなぁマギさん?もしよかったらなんだけど、また今度一緒にアキバを回って…」

 

 千雨がそう言っているのに、マギは何故か前方を見ていた。何事かと千雨も前を向くと自分とマギの前に変な男が立っていた。

 その男は秋葉原駅にてマギと千雨を見ていた、あの男だった。未だに息を荒くしており、特にマギに対して敵意の視線を送っていた。

 

「さっきから何なんだアンタ?さっきから何で俺達の事をつけていた?」

 

 マギはアキバを回っている時に、目の前の男が行く場所に一定の距離を置いてついて来ていたのだ。

 男はマギの事を指差しながら

 

「僕のちうたんから離れろ!この汚らしい阿呆が!!」

 

 と突然大声で喚きだした。周りに居た子供を連れた親たちはヒソヒソとマギと男を交互に見ながら話していた。

 マギは目の前の男が千雨の事をちうたんと言っていた事や、僕のという事を喚いているのを見て間違いないと思った。

 目の前の男が千雨を盗撮した犯人だと。

 

「思い出した、あたしアイツの事知ってる」

 

 千雨は目の前の男の顔を思い出してたようだ。知り合いなのかと尋ねると全然違うと首を横に振った。

 

「アイツは元麻帆良学園の学生だ。それも良い意味と悪い意味で有名だった」

 

 マギは千雨に目の前の男が如何いう人間なのか聞いてみた。

 

「まだあたしが中1の時、アイツは麻帆良大学の工学部に居た学生だったんだ。超やハカセほどじゃないけどかなり頭が良かった。色々な物とかを発明して社会に貢献したらしい」

 

 そこまで聞いていると目の前の男は良い事をした奴だと思われるはずだ。

 けど此処からが最悪だと千雨は話を続ける。

 

「その男は自らの欲望で色々悪さをしていたらしい。自分で発明した盗撮用の道具で狙った女を次々に盗撮してたらしい。けど超やハカセが麻帆良で頭角を現してからは風当たりが悪くなって…そこからは見境なしに盗撮を続けていて遂には学校を退学させられたんだ。その時の学校新聞の事は良く覚えている」

 

「流石はちうたん、僕の事をそんなに知ってるなんて嬉しいよ…そうさ僕はあんなつまらない学校を抜けて正解だったよ。僕の事を無視して天才中学生をもてはやしてさ、僕の方が天才だって言うのが分からないだよアイツ等は…だけど外に出た途端何もかもが自由だった…だけど外の女を盗撮しても何も面白くなかった。それで次に目標にしたのはネットアイドルだったのさ…面白かったよぉネットの前ではあんなに綺麗な恰好をしてるのに、他の事ではまるっきり正反対。僕はそんな彼女たちの秘密を握ってるんだと思うともう…快感だよ!」

 

 男は下品な笑みを浮かべていた。千雨は男を睨みつけていた。

 

「アンタはさっちゃんも狙ったのか?ふざけんなよ!さっちゃんはなネットアイドルを始める前はあたしと同じで根暗な感じだった。だけどネットアイドルを始めたお蔭で皆から支持されて自信を持ち始めて、リアルでもあたしよりも明るくなって、友達も増え始めたんだぞ!そんなさっちゃんの人生をぶち壊すつもりかアンタは!?」

 

 さっちゃん?…あぁ思い出したよと男はわざと思い出す素振りを見せた。

 

「最近僕が狙った黒髪の眼鏡の子だね。あぁ彼女の反応も良かったよぉ…彼女の恥ずかしい写真を送ったら彼女次の日からビクビクし始めてね、外に出ても誰かが自分を見てるんじゃないのか…もしかして目の前の人が私を盗撮してるんじゃないかって疑ったりねぇ。彼女は最近狙った女の中でもかなりの上位ランクだよ!!」

 

 今思い出しても興奮する!と男は鼻息を荒くしていた。

 でもね…と急にテンションが下がり始めた。

 

「最近じゃあ満たされなくなったんだぁ…だから今度は秘密を握って、狙った女を僕のおもちゃにして遊ぶんだぁ。その最初のターゲットは君なんだよちうたん…君の事はずっと見てたんだぁ学校から寮までそしてネットアイドルとして活躍してる所も…ネットアイドル№1のちうたんを僕のおもちゃにするんだ!」

 

 千雨は目の前で喚き散らしている男を見て怖いとは思わなかった。ただ単に気持ち悪いと思った。

 こんな男のおもちゃになるなんて死んでもごめんだと思った。

 

「冗談、アンタみたいな男におもちゃにされる位だったら死んだ方がましだ」

 

「そうい事だ。俺の大切な生徒に近づかないで欲しいな。これ以上調子に乗ると痛い目にあうぜ」

 

 マギが千雨を護る形で立ち塞がる。男はそんなマギを見てフンと鼻を鳴らした。

 

「何だよお前は、ちうたんを護る正義の味方気取りかよ。違うねちうたんの騎士は僕の役目だ。お前の役目じゃないんだよばーか!」

 

 男はマギに向かってアッカンベーをした。男は精神が子供の様だ。情緒不安定なのか

 

「それにお前よく見たら外国人じゃないか。外国人で僕よりイケメンなんてムカつくよ…だから今からお前の顔をグチャグチャのブサイクにしてやるよ…おい出てこい!」

 

 男の言った事が合図だったのか、公園の中にぞろぞろと人相の悪い男達が入ってきた。その数ざっと数えて30人。

 更に男達は手に金属バットやら木刀に角材、鉄パイプもあればスタンガン、果てにはナイフなんて持ってる奴もいる。

 よくもまぁこんなに集まったものだとマギは呟いていた。

 公園に居た人たちは流石にこれは危ないと思い、子供を連れて我先にと公園の外へ出て行った。

 

「皆僕が集めたんだよ。お前をグチャグチャにして病院送りにしたら賞金をあげるってね。さぁ!目の前の男を病院送りにした奴一人だけに賞金をくれてやる!」

 

 男はそう言って不良たちに札束を見せびらかした。

 この男達は要するに金に釣られた哀れな男達という事なのだろう。

 大金を見て、男達は目を光らせながら下品な笑みを浮かべていた。

 

「へへ悪いな外国人の兄ちゃん、俺達が大金を手に入れるためにここはひとつボコられてくれや」

 

 バットを持った男の1人がマギに向かってそう言った。

 千雨は震えていた。まさか自分を手に入れるために大勢の不良を雇ってマギを病院送りにさせるなんて

 

「なッなぁマギさん、これは流石にヤバいって!下手したら殺されちまうよ早く逃げるか、警察に連絡しようって!」

 

 千雨がそう言っているが、マギは心配すんなと千雨に笑いかけながら優しく頭を撫でまわした。

 

「あんな奴らなんかに俺は負けないさ。俺を信じてくれ…な?」

 

 マギの笑顔に千雨は頷いた。今のマギだったら大丈夫だと心のどこかで納得しているようだ。

 

「それと千雨、若しかしたら此処から先はあんまり女の子には見せられない事かもしれないから、俺がいいぞって言うまで目を瞑っていてくれないか?」

 

 マギの願いを聞き入れて、千雨は目を瞑った。いい子だとマギは優しく呟いた。

 

「何だよお前、自分がボコられるのをちうたんに見せたくないのかよ!安心しろよ、ちうたんがお前の事を忘れるほどの精神的ショックを与えてから僕の物にしてやるんだ」

 

「あぁ?何勘違いしてるんだ?俺がお前らを全員ぶちのめすんだよ。ただその表現が過激すぎるかもしれないから、千雨には見せたくないんだよ」

 

 マギはそう言った次の瞬間、不良と男は大爆笑していた。

 

「何言ってるんだお前!たった一人でこの大勢に勝つつもりかよ!?漫画の見すぎじゃねえの?」

 

 男はまだマギの事を馬鹿にしていた。しかし知らないだろう…マギの恐ろしさを。

 

「あぁ勝つつもりさ。それと大怪我をしたくない奴は此処からさっさと逃げ出す事を勧めるぜ」

 

「へッやれるもんならやってみろ!」

 

 1人の不良が木刀を振り回しながらマギに近づこうとした。

 しかしマギが其れよりも早く、一瞬で不良の前に立っていた。

 

「へ?」

 

 不良は思わず変な声を上げていた。

 

「忠告はしたぞ。それでも分からなければ覚悟しておけ」

 

 バキィッ!とマギのパンチが不良の顔に抉るように入り、数m程吹き飛ばされて公園の木に顔面から突っ込んだ。

 ずるずると木からずり落ちて地面にぐったりと倒れると、そのまま起き上がってこなかった。

 不良達や男は何が起こったのか分からず呆然としていたが、オイとマギの声に一斉にマギの方を向いた。

 

「俺お前らみたいな人間に対しては容赦しないつもりだから…骨の1本や2本は覚悟しておけよ」

 

 マギから漂っている不思議な感じに思わず不良たちは後ずさっていたが

 

「何やってるんだよお前らは!相手は一人だろ!?一斉にかかれよ!!」

 

 男の声にそうだと思い始める不良達。さっきのはまぐれだ。油断してたんだと思い込み今度は残りの29人が一斉にマギに突っ込んだ。

 しかしそうなってしまえばマギの思う壺である。

 エヴァンジェリンに習った格闘術をもってすればこんな不良たち目ではないのだ。

 迫りくる不良達を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返していた。

 不良達は、マギが忠告してた通り逃げておけばよかったと今更ながら後悔していた。

 マギは本当に容赦がなく、骨を軽く折ったりしたり、顔面を容赦なく踏んで鼻の骨を粉砕したり、鳩尾を殴って呼吸困難にさせたりした。

 阿吽絶叫が続く中、マギは5分ですべての不良達を戦闘不能にしてしまった。

 

「ばッばけもんだぁ!逃げないと殺されるぅ!」

 

 不良の一人がそう叫びながら一目散に公園から逃げ出した。

 他の不良達も一人で逃げる者もいれば、動けなくなった者を連れて逃げる者も居た。

 マギにこれ以上関わったら本当に殺されてしまうと身を持って実感したのだ。

 

「おッおい何勝手に逃げてるんだよ!お前達には前金を払ったじゃないか!あいつをちゃんと潰してくれよ!!」

 

 男は逃げようとしている不良の一人を捕まえてマギを倒せと叫んでいた。

 しかし、マギの怖さを体感した不良の一人としては、もうこれ以上マギには関わりたくなかった。

 

「うッうるせぇ!あんな奴に関わったら命が幾つあっても足りねぇよ!そんなにアイツを殺してぇなら自分で殺せ!!」

 

 そう叫んで男を突き飛ばして、自分が持っていたナイフを男に投げ渡した。そして自分がマギを潰すために雇っていた不良達は全員逃げ出してしまった。

 公園に残っているのはマギと千雨に男だけだ。

 一応もう大丈夫だろうと、マギは千雨に目を開けても良いぞとそう言った。

 

「マギさん、不良達は何処行ったんだ?」

 

「あぁ皆お帰りになったのさ…さて残りはアンタだな」

 

 そう言ってマギは男に近づいた。男はナイフを振り回そうとしたが、男よりも早くにマギは取り上げた。

 これで何も抵抗が出来なくなった男

 

「くッくるな!来るな来るな!!ねえちうたん!僕だけのちうたん!ねぇ助けてよ!早くこの男を殺してよ!!」

 

 男もただ喚いているだけだった。

 千雨はそんな喚いている男に近づくと男の顔に平手打ちをした。

 千雨が男を叩いた音が公園に響いた。

 

「アンタだけのちうだって?ふざけんなよ!あたしは皆のちうだ!アンタみたいな人の不幸を楽しむような男の物なんかになるわけねぇだろ、このクソッタレのアホンダラ!!」

 

 千雨に叩かれたのと、罵倒されたせいで男の精神が崩壊した。

 

「うわぁぁぁぁん!ちうたんにぶたれたぁぁぁぁ!!」

 

 地面を子供が駄々をこねるように暴れまわっていた。そんな男を見ていたらパトカーのサイレンが此方に近づいて来るのが聞こえた。

 如何やら騒ぎを聞いた誰かが警察に知らせたのだろう。

 

「おい行こうぜ千雨、後は警察に任せよう」

 

「だな」

 

 マギと千雨は公園を後にした。未だに公園で大声で泣き叫んでいる男は警察に拘束された。

 そして男の精神状態などを調べた後に、その男の家へ家宅捜査をしてみると、男の部屋は今迄撮った盗撮写真で埋め尽くされていた。

 中には盗撮被害に出されていた被害者の写真と男の部屋にあった写真が一致していた。

 しかも被害者の中には脅迫状を送られていた女性も少なくは無いそうだ。

 さらに盗撮の量が量なので、男にはそれ相応の罰が与えられるだろう。

 こうしてネットアイドル内でも騒がれていた盗撮犯は無事に捕まったのであった。

 

 

 

 帰りの電車の中、マギと千雨は何処か疲れた表情を浮かべていた。今日一日で色々な事があり過ぎたのだ。

 

「マギさんありがとう。今日は色々と助かったよ」

 

「何言ってるんだよ、生徒を助けるのが先生としての役目だしな。それに俺もアキバを見て回って楽しかったしな」

 

 実際自分が知らない物を知る事が出来て満足だった。

 

「それにさっき言ってた事は少し痺れたな。あたしは皆のちうだって言うのは流石はトップのネットアイドルだな」

 

「とっ当然だっての!あれぐらい言えないとトップのネットアイドルはやっていけないっての!」

 

 千雨はそう言い切ってマギから視線を外した。

 

(でもいつかは誰かだけのちうになってみたい。なんてな)

 

 時々マギの事をチラチラと見ていた千雨。マギは千雨のちょっと熱い視線に首を傾げていた。

 こうして色々とあったが、千雨の休日は無事に過ぎたのであった…

 後日であるが、盗撮犯が捕まったという事で、さっちゃんは千雨に作ってもらった衣装をさっそく着て撮影をした。

 衣装と云うのが、いま巷で流行っている魔法少女物のヒロインの衣装で、ファンたちはさっちゃんの衣装も絶賛したが、さっちゃんが復活してくれたことに喜んでいた。

 そしてさっちゃんも漸く心から笑う事が出来たのであった。

 

 

 




今回は千雨の話でした。
自分で言っていながら千雨を話としてあんまり組み込んでいなかったので
今回千雨メインの話にしてみました
次回は誰になるか楽しみにしていてください


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双子少女の悪戯大作戦!

サブタイトルで分かると思いますが今回は双子の話です
この双子って私自身アイマスの双海姉妹のイメージがあるんですよね
イタズラが大好きな所とか似ていますし
…それだけしか知りませんアイマスあんまり知りませんし

それではどうぞ


 学校の放課後、3-Aの双子の鳴滝姉妹の風香と史伽が学園内のカフェテラスに居た。

 何時もは明るく元気に振舞っているのが双子の姿なのだが、今日は何処か重い雰囲気を出していた。

 

「このままじゃヤバいよね…」

 

「ヤバいです…」

 

 2人は頼んでいたカフェラテに手を手をつけないでいた。ホットを頼んだのにも温くなってしまっていた。

 彼女たちがヤバいと言っている原因、其れは…

 

「マギ兄ちゃんが…」

 

「マギお兄ちゃんが」

 

「他の女と仲良くしてる事!」

 

「他の女の子と仲良くしてる事です!」

 

 二人の大声に他の客がビックリするが、数秒後には何事も無かったようにしていた。

 風香と史伽が言っているのは、マギが他の女生徒と仲良くなっていることに危惧しているのだ。

 正直言うと2人はマギに対しては大きいお兄ちゃんのような男性で、ただいたずらに最適だと思っていただけだ。

 しかし、まだマギが正式に副担任になった時にマギに学園内を一緒に回った後の寮にてマギの言った事を盗み聞きした時からマギの事を異性として見ることになった。

 その後風香と史伽はマギに気になってほしいという事で、色々なアプローチ…もとい悪戯を行ってきたが、マギは一向に振り向く事は無かった。

 

「それにマギ兄ちゃん修学旅行で…」

 

「本屋ちゃんとキス…したんだよね…」

 

 風香と史伽は修学旅行の時に和美が立案したゲームに参加した。ルールはネギかマギにキスをする事。勿論2人もゲームに参加した。

 しかし2人は結局はマギにキスをすることは出来きなかった。ゲームに勝ったのはのどかであった。しかも唇と唇のキスである。

 風香と史伽は表向きは羨ましがる素振りを見せていたが、内心はショックであった。それにのどかが奈良にてマギに告白したと言う噂があった。

 最初は単なるデマであると思っていたが、のどかがマギとキスをしたという事でその告白を信じることにした。

 かなり離されたと思い、修学旅行から帰った翌日にアピールをしようとしたが

 

「今度はエヴァちんの家に…」

 

「1週間ほどの泊まり込みです…」

 

 2人はかなり落ち込んでいる素振りを見せている。

 今度は3-Aで同じぐらいのロリボディでもあるエヴァンジェリンの家へ、1週間ほどの泊まり込みでの個別授業だそうだ。

 その1週間後は元々マギの事を何処か熱っぽい視線が更に熱っぽくなった感じであった。

 この双子が何を言いたいのかというと、ハッキリ言うと出遅れている気がしてならないのである。

 

「どうしようお姉ちゃん、私達マギお兄ちゃんとの関係で凄く出遅れている気が…」

 

「分かってるよ史伽!僕達がマギ兄ちゃんとの距離が一番遠い事は…」

 

 風香と史伽は3-Aでマギの事が気になる、あるいは異性として好きと云う生徒が自分達を含めると、7~8人は居るはずだと思っている。

 そして自分達は最下位の分類であるだろうとも理解しているはずである。

 このままではマギは自分達の事をただの双子の生徒としか見てくれないのではないのかとそう思ってしまうほどである。

 其処で二人は考えたのであった。自分達しか出来ない得意な事でマギの気を引かせようとの事である。

 その得意な事というのが…イタズラである。

 

「僕達の得意なイタズラでマギ兄ちゃんの気を引かせれば、僕達とマギ兄ちゃんとの距離がグッと縮まるはずだよ!」

 

「でッでもお姉ちゃん、もしマギお兄ちゃんがイタズラで怒ったりとかしないかな?」

 

 史伽はマギがイタズラで怒ったりしないのかと心配していたが、風香が大丈夫だよ!と

 

「マギ兄ちゃんの事だからきっと『やれやれだぜ…』とか言って許してくれるはずだよ!」

 

 マギの口癖を真似ながら(余り似ていない)言い切った。基本マギはお人好しの方だから、許してくれるはずだろうとそう思ったのである。

 風香の言った事にそうだよねと史伽も頷いた。

 

「マギお兄ちゃんは優しいからきっと許してくれるよね」

 

「そうだよ史伽…よーし!思い立ったが吉日、さっそく明日からイタズラ大作戦だ!」

 

 おー!と風香と史伽は明日、マギをビックリさせるようなイタズラ作戦を決行する事にした。

 

「それでお姉ちゃん、どういったイタズラでマギお兄ちゃんを驚かせるの?」

 

「マギ兄ちゃんってカエルが嫌いらしいじゃん?だったらカエルのイタズラで驚かせちゃおうよ」

 

 イタズラの題材はカエルと決定して、風香と史伽は意気揚々とカフェテラスを出て行った。

 しかし風香と史伽はひとつ思い違いをしていた。

 マギはカエルが嫌いではない大嫌い(・・・)なのだ。

 このイタズラをやった事によってマギとの距離がもっと遠のいてしまうかもしれない事に、双子は気づいてはいなかったのであった。

 

 

 

 

 翌日、風香と史伽がイタズラをした事なんて気づいていないマギは

 

「ふぁぁぁ~なんで毎日朝が来るんだろうなぁ…」

 

 何時ものように大欠伸をしながら寝起きでそんな事を愚痴っていた。

 校舎に到着して、下駄箱を開けて上履きを取ろうとしたが、下駄箱の中に何か入っていた。

 何だろうかと下駄箱に腕を突っ込んでみると、小さい箱が入っていた。

 

「?何だこの箱、何が入ってるんだ?」

 

 マギは何が入っているか小箱を開けてみた。小箱を開けると中に入っていたのは…小さいアマガエルだった。

 

「…」

 

 マギは数秒ほど思考が停止した。

 マギが固まっている間に、アマガエルがゲコリと鳴きながらマギの顔へ飛んできた。

 

「!うひょいひゃいあぁ!」

 

 マギは奇怪な悲鳴を上げて、目にも止まらぬ速さでカエルを箱に戻して、一応優しく外の地面に置いた。

 周りの生徒がマギの悲鳴をひそひそと話しながら見ていたが、マギはそんな周りの事なんか気にしてなんかいられず荒い息を吐いていた。

 

「なっ何だったんだ?おかげでばっちり目が覚めちまったぜ」

 

 マギにとっては余り嬉しくない目覚めとなってしまった。自分の大嫌いなカエルを使ったイタズラなんて誰がこんな事をやったのかと周りを見渡していた。

 

「いひひひ…大成功大成功」

 

「マギお兄ちゃんビックリしてるです」

 

 イタズラが大成功した風香と史伽は大喜びで教室へと戻って行った。

 カエルを使ったイタズラはまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

「はぁ~朝っぱらから嫌なもん見ちまったぜ」

 

 マギは職員室にて自分の机に突っ伏してしまっていた。

 これから学校が始まるというのにどっと疲れてしまった、そんな感じである。

 

「あらマギ先生、どうしたんですの?」

 

 机に突っ伏しているマギを見てしずな先生が心配そうな顔でやってきた。

 

「あぁしずな先生、実は…」

 

 マギは朝に起こった事を、しずな先生に簡単に説明した。

 

「まぁ下駄箱にカエルが」

 

 しずな先生は、顔に手を当ててそう言った。しずな先生もどちらかと言うとカエルは苦手な方なので、マギの気持ちが分かるのだ。

 

「ほんと朝から最悪ッスよ…誰があんなしょうもないイタズラをしたんだか」

 

「イタズラと言えば、3-Aの双子の風香ちゃんと史伽ちゃんは、イタズラが大好きだって聞いてますわよ」

 

「あの双子がッスか?確かに風香と史伽はイタズラが好きですけど、そんな人が嫌がるイタズラをするはずないでしょうし」

 

 マギは風香と史伽がそんなイタズラをしないと信じている様子だった。

 しずな先生はマギが生徒の事を信じていることに感心している様子だった。

 

「あら、そろそろマギ先生の授業が始まる時間じゃないですか?」

 

「あ、本当だ。そろそろ準備を始めるかな」

 

 そう言ってマギは机の引き出しを引いたが、引き出しの中に10数匹のカエルが入っていた。

 

「「…はい?」」

 

 マギとしずな先生はカエルを見て固まってしまい、カエルたちが一斉に机から飛び出してきた。

 

「きゃああカエルよぉ!」

 

「わぁ!こっちにきたぁ!」

 

「だッ誰か捕まえろぉ!」

 

 カエル達が職員室で飛び跳ねて職員室は軽く大騒ぎになってしまった。

 目の前でカエルが飛び跳ねた事にしずな先生は目を回して気を失ってしまった。

 

「もぉ…今日は何でこんな目にあうんだぁ…?」

 

 マギはそんな事を呟きながらとりあえず、飛び跳ねているカエル全てを捕まえて野に返したのだった。

 カエルを全て回収し終えたマギであったが、今のマギは精神的にそして体力気力ともに零に近かったのであった…

 

 

 

「なんかもぉ…今日は全ては嫌になって来るぜ…」

 

 マギは呟きながら重い足取りで3-Aへと向かって行った。

 朝の下駄箱のカエル、そして職員室でのカエルの大群…今のマギは精神力と体力がほぼゼロであった。

 こんな馬鹿げたイタズラを誰がやったのかとマギは怒る気持ちを押さえて考えていた。

 しずな先生の言ってた通り風香と史伽がやったのかと一瞬思ってしまったが、あの双子がそんな人の迷惑になるようなイタズラをするとは思えなかった。

 せいぜい自分が困る程度で、やめとけよーと軽く注意するほどの物だった。

 とそんな事を考えていると、3-Aに到着した。

 

「おーいお前らー今から授業を始め…」

 

 マギが教室のドアを開けると、天井から紐で吊るされたおもちゃのカエルが落ちてきた。

 マギはまたもや一瞬だけ固まるが、おもちゃというのもあるが今はもう驚くのと叫ぶほどの気力なんて持ち合わしておらず

 

「授業を始めるから席に着けー」

 

 とおもちゃのカエルをスルーして、教卓の前に立った。

 

「おッお姉ちゃん、マギお兄ちゃんカエルの前にしても動じなくなっちゃったよ…?」

 

「お…可笑しいな?職員室のカエルはやり過ぎたのかな?」

 

 やはり職員室のカエルのイタズラは風香と史伽の仕業だったようだが、マギが元気がないのかでやり過ぎたのかと思い始める。

 

「でッでもここまで来たら引き下がれない、次のイタズラを最後にマギ兄ちゃんを僕達へ振り向かせるんだ!」

 

「ほんとうに大丈夫かな…なんか嫌な予感が…」

 

 風香は次のイタズラで最後だと言っているが、史伽は嫌な予感が止まらなかった。

 マギは精神的に疲れながらも授業を始めたので、風香と史伽も一応授業を聞くことにした。

 

 

 

「よ~し今日の授業は此処までだ。ここら辺は中間テストに出るからよく復習しておくように」

 

 授業が終わり、マギは教科書と資料を纏めて教室から出た。

 マギが職員室に戻ろうとしたが、そんなマギに風香と史伽が近づいた。

 

「マギ兄ちゃん何かお疲れの様だね?」

 

「あぁまぁな。今日は朝っぱらから散々だ」

 

「あッあの私とお姉ちゃんで、マギお兄ちゃんが元気になるような食べ物を作ったんだけど…」

 

 どうぞと風香と史伽はラップで包んだ何かをマギに渡した。

 ラップを開けてみると、それはころもで包まれた鳥の唐揚げの様だった。

 マギは何なんだと思いながらも鳥の唐揚げらしきものを一つ摘まんで口に放り込んだ。

 そして何回か咀嚼して飲み込んだ。味の方は…

 

「…美味いじゃねぇか。何か変わった味だけど全然イケるぜ」

 

 そう味の感想を述べると、次々と唐揚げを口に放り込んだ。

 そして直ぐに全ての唐揚げをたいらげてしまった。

 

「ふぅ本当に美味かったぜ。何の鶏肉を使ったんだ?」

 

 マギが風香に尋ねると、風香はニンマリと笑った。

 マギは風香のニンマリとした笑みになんだよと少し嫌な予感がした。

 そして風香は何の肉を使ったのか教えた、この肉の正体を

 

「それ鶏肉じゃないんだ…実は食用のカエルを使ったカエルの唐揚げなんだよ」

 

「…ブゥッ!?」

 

 風香に肉の正体をカエルの肉だと教えられて、マギは盛大に吹いてしまった。

 もうカエルの肉は自分の胃の中である。

 自分の大嫌いなカエルが自分の体の中に入っていると思うと、体中の毛が逆立ち鳥肌がたった。

 そしてマギは風香と史伽が今回のイタズラの犯人だと分かったってしまった。

 

「おい風香に史伽、若しかして朝の下駄箱や職員室に教室のドアの全部のカエル、若しかしなくてもお前達のイタズラか?」

 

「うんそうだよ、どうビックリした?」

 

 風香が胸を張りながら自身満々にそう言った。風香と史伽が今回のイタズラの犯人。

 それを聞いて、マギの堪忍袋の緒が切れてしまった。

 

「この…馬鹿たれが!」

 

 マギは今迄のストレスとかのせいで、結構容赦なく風香と史伽にハリセンを叩きつけた。

 スパァァァンッ!という音が2つ、廊下に響いた。

 風香と史伽は余りの痛さに頭を押さえてうずくまった。そして顔を上げてマギを見て固まってしまった。

 マギは無表情で、冷たい目で風香と史伽を見下ろしていた。

 

「今日の放課後、職員室に来い…話がある」

 

 それだけ言って、マギは職員室に戻って行った。

 今のマギを見て風香と史伽は思った、今のマギは怒っている。それも凄くだ。

 やはりマギのトラウマでもあるカエルのイタズラをやったのがいけなかったのか…

 風香と史伽は今更ながらこのイタズラをして後悔した。

 

「どッ如何しようお姉ちゃん…」

 

「どうしようも何も、マギお兄ちゃんを怒らせちゃったんだ、職員室では覚悟しといた方がいいかな…」

 

 マギを怒らせたことに風香と史伽は意気消沈しながら放課後を待ったのであった。

 

 

 

 

「「はぁ~…」」

 

 放課後、風香と史伽は校舎近くのベンチにて2人して膝を抱えながら座り込んでおり落ち込んでいる様子だった。

 職員室のマギは風香と史伽を説教した。怒鳴り散らすだけの説教ではなく、冷静な静かに何故あんなことをやったのかを聞いていた。

 怒鳴られる方が何倍もましだと思っていた風香と史伽はマギの静かな説教に何も言えなかった。

 そしてマギはこうも言っていた。

 

「職員室のイタズラは俺の他にも職員室に居た先生にも迷惑をかけた。周りの迷惑さえも考えていなかったのかお前らは?」

 

 マギの問いにも風香と史伽は答えられなかった。そんな2人にマギはやれやれと小さく呟いた。

 風香と史伽には反省文を書いて提出する事になって話は終わり、風香と史伽は職員室を退室した。

 風香と史伽が職員室に出る時もマギは2人と目を合わす事が無かった。

 

「マギ兄ちゃん絶対怒ってたよアレ…」

 

「マギお兄ちゃん目を合わせてくれなかったし」

 

 マギが風香と史伽に冷たい態度を取った事に2人はかなりショックを受けていた。

 マギがあんな態度を取るなんて思ってはいなかったのだ。

 

「あんなんじゃマギ兄ちゃんと距離を縮める所か」

 

「逆に遠のいて行っちゃたよ…」

 

 今のマギじゃ、振り向いてくれる所か自分達の事なんか気にはしてくれないじゃないか…

 そう思ってしまうと、風香と史伽の目に涙があふれてきて、ボロボロと涙を零し始めた。

 

「「ううう~うえぇぇぇぇ…」」

 

 

 風香と史伽が大泣きし始めたのを周りの生徒は何があったのかと遠巻きに話してるだけだった。

 このまま当分泣き続けているかと思っている思われたが

 

「やれやれ、泣くほどであったのならマギさんが怒るようなイタズラをしなかった方が良かったのではござらぬか?」

 

 ニンニンと言いながら同じ部屋であり、さんぽ部でもある楓が現れた。

 

「「あ…楓姉」」

 

 風香と史伽はマギと同じくらい大好きな楓が現れた事に泣き止んだ。

 

「如何してマギさんに悪戯をしたのかよければ拙者に話してはもらえんでござるか?」

 

 楓に聞かれて、風香と史伽は何故マギにあんな風なイタズラをしたのか訳を聞いてみた。

 

「ふむ成程、マギさんの気を引きたいためにあのようなイタズラをしたんでござるな?」

 

「そうだよ、マギ兄ちゃんはただでさえクラスの他の女子もマギ兄ちゃんの事が好きな生徒が居るのに」

 

「私とお姉ちゃんは出遅れていると思ったから今回のイタズラを…」

 

 楓は風香と史伽の言い訳をフムフムと頷きながら聞いていた。

 

「風香と史伽の言いたい事は分かったでござるが、それでマギさんを怒らせたら意味が無いでござろう?」

 

「「そッそれは…」」

 

 楓に居たい所を突かれて風香と史伽は言葉を詰まらせていた。

 痛い所を突かれて風香と史伽は俯いてしまったが、そんな双子の頭に楓は優しく手を置いた。

 

「風香と史伽が反省してるなら、きっとマギさんも直ぐに許してくれるはずでござるよ」

 

「え?」

 

「楓姉それは如何いう事?」

 

 風香と史伽は楓の言っている意味が少しわからなかった。

 

「拙者が言いたい事は以上でござる。それではニンニン」

 

 それだけ言うと楓は居なくなってしまった。

 また風香と史伽だけになってしまった。ベンチにポツンと残されている風香と史伽。

 そんな風香と史伽に

 

「風香と史伽…まだこんな所に居たのか」

 

 マギが風香と史伽が座っているベンチに近づいてきた。

 

「マギ兄ちゃん…」

 

「マギお兄ちゃん…」

 

 風香と史伽はマギが近づいて来くるが黙っていた。

 そしてマギがベンチで漸く止まった。数秒ほど沈黙が続いたが

 

「マギ兄ちゃん」

 

「マギお兄ちゃん」

 

「「あんなイタズラをしてごめんなさい!!」」

 

 風香と史伽は今回のイタズラの件は自分達も反省をしていて、自分達の今の謝罪の気持ちをマギに正直に伝えた。

 しかし謝ってもマギからの返事は無かった。やはりまだ怒っているのかと風香と史伽がそう思っていると

 

「あぁ…その事だけどな…俺もすまなかった風香、史伽」

 

 何故かマギが風香と史伽に謝って来た。どうしてマギが自分達に謝ったのか少し戸惑う風香と史伽。

 マギが申し訳なさそうに頬を掻きながら

 

「確かに2人がやった事はいけない事だ。だけどな、お前らを怒ってる時少しだけ自分を私情を混ぜていたんだ。それにお前らをハリセンデ叩いたときも半分は怒り任せで叩いていたからな。いい歳した若者が自分の嫌いな物でイタズラさせられたのを怒りに任せて説教なんて…まだまだ人として小さいよな俺も、教師失格だ」

 

「そッそんな事無いよ!僕達がマギ兄ちゃんが嫌いなカエルでこんなイタズラするのが悪いんだ」

 

「そうだよ!マギお兄ちゃんが謝るなんて可笑しいよ!悪いのは私とお姉ちゃんなのに」

 

 マギが謝るのはおかしい悪いのは自分達だと風香と史伽がそう言った。

 

「だけどなもう18だぜ?それなのにガキの頃のトラウマを克服できないと言うのはどうかと思うんだよ」

 

 だけどなと風香と史伽の方を見てフッと笑いながら

 

「今回のおかげで少しだけカエル苦手が少しだけマシになったかな…ホンの少しな」

 

 そう言ってマギはほんの少しと指でジェスチャーをした。それにと話は続く

 

「カエルって食うと美味いんだな、今日初めて知ったぜ」

 

 マギは風香と史伽の頭に手を置くと、優しく撫でまわした。

 

「ありがとな、風香と史伽のおかげで少しだけカエルを克服できそうだ」

 

「そんな…僕らのおかげなんて言い過ぎだよ」

 

「でも嬉しいです」

 

 自分達のおかげと言われたのが嬉しそうな風香と史伽。

 

「でも罰は罰だちゃんと反省文は出してもらうぞ」

 

「う゛やっぱりそうだよね…」

 

「でも反省文なんてどんな事書けば…」

 

 如何言った反省文を書けばいいのか分からない風香と史伽、そんな2人にマギは

 

「別になんだっていいさ『私達はいけない事をしました。深く反省してます。もうこれ以降は人の迷惑になる事はしません』みたいなことを書いて提出すれば」

 

「えッ!そんなんでいいの?」

 

「流石に少なすぎじゃ…」

 

「いいんだよお前達が反省してるんならそん位で、大切なのはそんな反省文を書く事じゃない。反省してると言う態度と心だ。お前達はもう反省してるようだし、反省文なんててきとうに書いとけばいいんだよ」

 

 さてと話す事は無くなったなとマギは伸びをしながらそう言った。

 

「今から甘いもんを食べに行こうと思うんだが、お前らも来るか?奢ってやるぞ。今回の仲直りと俺のカエルに対する少しだけの克服を祝して」

 

 マギの提案に風香と史伽はパァッ!と顔を輝かせながらマギに抱き着いた。

 

「マギ兄ちゃん!」

 

「マギお兄ちゃん!」

 

「「だぁい好き!!」」

 

 風香と史伽の満面の笑みにマギは少しだけ戸惑ったが、フッと小さく笑うと

 

「まったく…やれやれだぜ」

 

 お決まりのセリフを呟いた。そして風香を右肩、史伽を左肩に乗せると肩車して

 

「よし出発するぞ、しっかりつかまってろよ」

 

「おー!」

 

「しゅっぱーつ!」

 

 風香と史伽の掛け声にマギはスイーツショップへと出発した。

 マギと風香と史伽には笑みが浮かばれていた。

 

「マギさんも中々お人好しでござるな、でもよかったでござるな風香、史伽」

 

 ベンチの近くの木の頂上で楓はそう呟きながらマギ達を見ているのだった。

 

 

 

 余談、スイーツショップにて

 

「う~んおいしぃ!」

 

「ほっぺたが落ちそう!」

 

「…良く食うよなお前ら」

 

 奢るとは言ったが、マギの目の前には開いた皿が何枚か置いてあった。

 こんだけ食って、今月の自身の食費は大丈夫だろうかとそう思いながら自分が頼んだケーキを口に放り込んだのだった。

 

「…美味いな」

 

 ちゃんちゃん




次回で閑話は終了です
最後はあの脱げ女さんが主役の話です
楽しみに待っていてください


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マギの観察日誌その1

閑話の最後は高音で終わらせます今回はその1です



 行き成りではあるが、麻帆良学園には普通に学生生活を謳歌してる生徒だけではなく、普通では有りえない魔法などの不思議な力を使う事が出来る、所謂『魔法使い』の生徒も数多く居るのだ。因みに魔法使いの先生もちらほら、一応学園長も魔法使いそれもかなり偉い地位の(一応と言われてどこかですすり泣くぬらりひょんの泣いて居る声が聞こえるが敢えて無視)

 彼ら魔法使いの使命は主に、学園に侵入した侵入者を撃退し、学園や学園で生活してる生徒達の平和と安全を守る事である。

 また魔法を知ってしまった一般生徒などの記憶を改竄して、魔法の事を忘れてもらい混乱を未然に防ぎ、魔法社会の秩序を守るのも彼ら魔法使いの使命である。

 そして彼らは将来、『立派な魔法使い』となるのが彼ら『正義の魔法使い』の目標でもあるのだ。

 そんな麻帆良学園の魔法使いの一人である少女、高音・D・グッドマンのとある日を覗いて見ようと思う…

 

 

 

「納得いきません!!」

 

 バンッ!と高音はカフェテラスの机を机で叩いた。

 

「おッお姉様、落ち着いてください!」

 

 高音の後輩であり、お姉様を呼んで慕っている麻帆良学園女子中等部2年の佐倉愛衣が落ち着いてほしいと高音にそう言った。

 しかし高音はそんな落ち着かせようとしてくれた愛衣をキッと睨み付けてから

 

「落ち着いて?これが落ち着いていられますか!」

 

「ひぅッ!ごッごめんなさい!」

 

 高音に怒鳴られて、愛衣は思わず謝ってしまった。

 愛衣に怒鳴ってしまい、高音もハッとしながらばつの悪い顔をした。

 

「ごめんなさい愛衣、貴女を怒鳴るなんてお門違いですね…」

 

「いッいえ私は気にしていません、でもお姉様は如何してそんなに不機嫌そう何ですか?」

 

 愛衣がどうして高音が不機嫌そうなのかを尋ねると、高音はまた顔を気難しそうにして

 

「不機嫌な理由はただ一つ、そう…マギ先生の事についてです!」

 

 拳を握りながら愛衣にそう言った。

 

「マギ先生についてですか?でも、マギ先生は関西呪術協会とこの関東魔術協会の仲をよくしてくれた貢献人の一人じゃないですか?」

 

 愛衣が言った通り、マギは修学旅行にて此処関東魔術協会と京都にある関西呪術協会との仲を良好な関係に戻してくれた1人である。

 また、このかが誘拐されて救出にも貢献した1人でもある。

 マギのこの貢献を見て、マギの事を敵視あるいは警戒していた魔法生徒や魔法先生は、マギの事を認め始めていた。愛衣もマギの事を最初は怖い人だと思っていたが、少しましになったようだ。

 しかし中にはまだマギの事を認めていない魔法生徒や魔法先生もまだまだ居る。特に魔法生徒は今いる高音とマギに頭突きをもらったガンドルフィーニが代表的である。

 

「確かに彼は、今迄仲が悪かった関西との関係を良好にしてくれた1人ではあります。ですが彼は大切な親書などは弟のネギ先生に押し付けた。そしてあろうものか、あの闇の福音エヴァンジェリンを関西の本部で暴れさせたことです!もしあの闇の福音が暴走したら、関西の本山どころか京都自体危ういかもしれないのですよ!?」

 

 それはちょっと言い過ぎなのでは…と愛衣は何処か高音の考えを否定していた。

 確かにエヴァンジェリンは大昔から悪の魔法使いと恐れられていた吸血鬼である。

 しかしマギが麻帆良に来てさらにエヴァンジェリンの封印を解いた後は、マギがエヴァンジェリンの監視もとい一緒に行動をしていくうちに、麻帆良に居る魔法使い達に対する敵視するような雰囲気は何処かに行ってしまった。というよりかはどうでもいいと言った感じである。

 他の魔法生徒や魔法先生が陰からエヴァンジェリンを監視していたが、エヴァンジェリンは前よりも笑ったり、怒ったり不貞腐れたり、泣いたりなど自然な表情を出すようになった。

 そんなエヴァンジェリンを見てからはマギの言う通り、過去は過去で今のエヴァンジェリンを見る事の方が大事なのかもしれないと言う考えを持つものが増えてきていた。

 其れにも高音は納得がいかなかった。

 

「何故皆さんは今の闇の福音を簡単に認めるんですか!?今丸くなっている闇の福音は私達を欺く演技…私達を油断させて一気にこの学園を滅ぼすに決まっています!」

 

「そッそんなお姉様…それは話を飛躍しすぎじゃ…」

 

 愛衣はエヴァンジェリンが黒いマントを羽織りながら高笑いをし、麻帆良を火の海にしている光景をイメージして苦笑いをしていた。

 そんな愛衣をほっといて、高音は決めました…と呟いて

 

「今度の休みにマギ先生を監視して、何かよからぬことを起そうとしたあるいは起こした時には私達が確保し、学園長に報告。そして闇の福音の力を封印するのです!」

 

 高音が言いたいのはマギがもし悪い事をすれば、エヴァンジェリンの封印を解いた本人が悪い事をすればエヴァンジェリンも危険な存在と再認識しエヴァンジェリンの再封印に賛成する人が増えると考えたのだろう

 

「私達って私もですかお姉様!?あッあの私今度の休みにクラスの友人とお出かけする約束が…」

 

 愛衣がおずおずと自分の予定を高音に報告したが、何を馬鹿な事を!と高音がずずいと近づいて

 

「貴女の予定と学園の危機!どっちが大切ですか!?」

 

「そッそれは…学園の危機ですけど…」

 

「当然です!マギ先生に過ちを犯してもら前に私達が道を正す。それが学園の平和へと繋がるのです!」

 

 やりますよ!高音は使命感に燃えるのであった。

 

(あぁお姉様の悪い癖が…それよりも私の折角の休日がぁ)

 

 愛衣は高音の悪い癖と自分の折角休日が無くなったことに嘆いていた。

 高音の悪い癖と言うのは、一度決めた事は絶対にやり遂げるというものである。

 一見したら良い事のように聞こえるが、高音の場合やり遂げると言ったら、たとえ強引なやり方でも達成しようとするのだ。

 その強引すぎるやり方に時折反感を買ってしまう事もあるのだが、本人は達成できるのなら何でもやる…と真っ直ぐすぎて周りが見えない事がある。

 もう一度言うが、高音の真っ直ぐすぎる姿勢によって休日が無くなる事に嘆く愛衣だった…

 

 

 

 休日となって、高音は宣言したようにマギの監視をすることにした。

 する事にしたのだが

 

「おッお姉様、マギ先生の監視には参加しますけど、この恰好は如何にかならないのですか?」

 

 愛衣がそう言っているのは、今の高音と愛衣の恰好が全身を黒いマントで身を包んだ怪しさ満点の恰好なのである。

 

「おだまりなさい愛衣、心配無用です。認識阻害の魔法で普通の人には私達の恰好はいたって普通の恰好に見えていますから」

 

「だからって恥ずかしいですよこれは…」

 

 と高音と愛衣が言い合っていると、マギが女子寮から出てきて何処かへ向かおうとしていた。

 

「出て来た…愛衣追いかけますよ!」

 

「はッはい!」

 

 高音と愛衣もマギにばれない様に後をついて行く。

 マギが歩く事約1時間ほど経った。マギは目的地に着いたのか漸く足を止めた。

 

「漸く着いたぜ…」

 

 マギが呟きながら辿り着いた場所と云うのが『麻帆良保育園』だった。

 マギは保育園の門を開けて、保育園内部へと入って行った。

 

「マギ先生、保育園の中に入って行きましたねお姉様」

 

「彼に保育園児の顔馴染は居なかったはずです…まッまさか…!?」

 

 何か変な事を考えたのか高音は体をプルプルと震わせながら

 

「マギ先生は毎日の苛々や鬱憤を保育園児で発散させてるのかも…?立派な児童虐待です!」

 

「いやそれは流石に無いですよお姉様!妄想が過ぎます!!」

 

 愛衣は高音の大袈裟すぎる妄想にツッコミをせざるを得なかった。

 と保育園内から子供たちの悲鳴が聞こえ始めた。

 

「まッまさか私の思っていた事が現実に…!?愛衣今すぐマギ先生を止めますよ!!」

 

「えぇ何かの間違いじゃ…?」

 

 愛衣が流石に無いでしょうと思っていたが、高音は勝手に保育園へと向かって行った。

 

「マギ先生!そんなか弱い少年少女を傷つけるなんてこの私が許しま…」

 

 高音がマギに向かってそんな事を叫ぼうとしたが、保育園の中では

 

「ワハハハー!そぉれ、お前達を堕落した腑抜け人間にしてしまうぞー!」

 

「キャー堕落怪人ダラークだー!」

 

「にげろにげろー!!」

 

 可笑しな恰好をしたマギが保育園児を追いかけ回すと言う光景に、高音は思わずズッコケてしまった。

 

「そこまでだダラーク!これ以上の悪い事はこのジャスティス仮面1号と2号が黙っていないぞ!」

 

「いくぞ必殺!ジャスティスキーック!」

 

「ジャスティスパーンチ!」

 

「グハァッ!やッやられた…無念なり…!」

 

 赤いスカーフと白いスカーフを首に巻いた、ヒーロー変身セットを身につけた少年二人が、マギに蹴りとパンチを喰らわした。

 蹴りとパンチをもらったマギは蚊に刺された位の大した程じゃないが、一応オーバーリアクションで地面に倒れて見せた。

 

「やったー!今日も正義の大勝利だ!」

 

「この世にジャスティス仮面が居る限り、悪は絶対栄えない!!」

 

 ジャスティス仮面1号2号に扮した少年2人はキメポーズを決めていた。

 …と保育園内の様子をズッコケながら見ていた高音は

 

(さッさっきの叫び声はヒーローごっこの演出でしたの!?恥ずかしぃ~!)

 

 自分の盛大な勘違いに顔を赤らめて、マギにばれない様に身を隠していた。

 保育園児達がワイワイ騒いでいると、パンパンと手を叩く音が響いて

 

「さぁ皆、そろそろおやつの時間だから手を洗ってきなさい」

 

 保育園の先生…ではなく、保育園のエプロンを身につけた千鶴が園児たちにそう言った。

 

『はーい!』

 

 園児たちは千鶴の言う通り、洗面所へと向かった。

 

「ねぇねぇ千鶴姉ちゃん、僕とタケシ君またマギ兄ちゃんをやっつけられたんだよ!」

 

「マギ兄ちゃん今日も呆気なかったぜ!」

 

「あらそう凄いわねハヤト君タケシ君。でもしっかり手を洗わないとヒーローでもばい菌には勝てないわよ」

 

「「はーい」」

 

 と赤いスカーフをしたタケシ君(1号)と白いスカーフをしたハヤト君(2号)が元気な返事をしながら手を洗いに行った。

 そんな2人を見送った千鶴はマギの方へ歩いて行って

 

「悪の怪人さんも手を洗って来て下さいな。ちゃんと手を洗ってくれないと子供たちの見本になりませんわ」

 

「いや…悪の怪人だったら逆に手を洗うなって言うだろうな普通は…」

 

 そう言って下半身の力だけで立ち上がったマギは、怪人の恰好から保育園に来た当初の恰好に戻った。

 

「申し訳ありませんわマギさん、子供達マギさんが来てくれて嬉しかったようで。タケシ君とハヤト君はやんちゃ過ぎたでしょう?」

 

「いやこれでも鍛えてるんでね、あん位のパンチやキックなんて痛くもないさ。それにあんまガキの頃はヒーローごっこなんてやった事無いからな。なんか童心に帰った気分だ」

 

 マギが何処か懐かしむようにそう言って、フフそうですかと千鶴も微笑みで返した。

 マギと千鶴も手を洗いに向かった。

 

 

 天気が良いという事で、おやつは外で食べることになり、レジャーシートを敷いて園児達はおやつに手を伸ばしていた。

 マギと千鶴も子供たちと一緒におやつを頂いていた。

 

「それにしてもこいつ等と知り合ってどん位経ったんだ?」

 

 マギはおやつのクッキーを食べながら保育園児達と知り合ってどのくらいたったのか思い出そうとしていた。

 

「もう3週間ぐらいですわマギさん、私達やこの子達が不良に絡まれていたのを助けてくれたじゃないですか」

 

 千鶴がどのくらい経ったのかを教えてくれた。あぁそう言えばそんな事があったなとマギはそう呟いた。

 マギが此処の保育園児達と知り合ったのは3週間ほど前である。

 マギは自分の趣味でもある散歩をしていると、広場にて不良達が誰かをしつこく誘っていた。

 よく見たら千鶴で他に保育園児達も一緒に居るのが見えた。如何やら保育園児の散歩に千鶴も付き添っているみたいだった。

 不良達は強引に千鶴を連れて行こうとしたが、千鶴は臆せず不良達の誘いを断り続けていた。

 不良達は断り続ける千鶴の腕を引っ張って連れて行こうとしたが、マギに蹴りを入れたタケシが千鶴を護ろうと近くにあった石つぶてを不良達に投げた。

 しかし最悪な事に投げた石つぶてが不良の顔面に直撃、キレた不良がタケシに殴り掛かろうとしたその時、マギが殴ろうとした不良の腕を掴んだ。

 そしてマギが不良達を追い払ってくれたのだ。

 そして今に至るのだ。

 

「あの時はビックリしたなぁ、千鶴が不良に絡まれてるっていうのも驚いたが、保母さんのボランティアをしてる事も初耳だったぜ」

 

「そうですわね…でもマギさんのおかげで私やこの子達が危険な目にあわずに済みました。あの件があった以降、子供たちがマギさんによく懐くようになったんですけどね」

 

 千草の言う通り、マギの周りには多くの園児が集まっていた。

 

「マギ兄ちゃんあの時かっこよかった!まるでジャスティス仮面みたいだった!」

 

 不良に石つぶてを投げたタケシは不良達を追い払ったマギを、自分が好きなジャスティス仮面と重ねているようだ。

 

「なぁなぁマギ兄ちゃん、俺もマギ兄ちゃんみたいに皆を護れるような正義のヒーローになれるかな?」

 

 タケシはマギを正義のヒーローとして見ており、マギみたいに皆を護れるようなヒーローになれるか尋ねてみた。

 

「そーだな…ハッキリ言っちまえば、自分の力を過信したり自分より強すぎる相手に戦いを挑もうとするのは無謀な戦いだ」

 

「無謀な…戦い?」

 

 難しかったのか首を傾げて、マギの言った事を繰り返して言った。やっぱ子供じゃ分からねえよなとマギは呟いて苦笑いした。

 

「でもこれだけは言えるな。何があっても逃げ出さない事、怖くなったりして逃げちまったら大切なもんなんか護れない。だから最低限逃げない事が大切だな」

 

「にげない事…分かった!俺どんなに怖い奴が相手でも絶対にげない!」

 

 タケシの元気よくマギにそう言い切った。その意気だとマギはタケシの頭を優しく撫でまわした。

 頭を撫でられているのを他の園児達が羨ましそうに見ており、マギに構ってほしいとマギに群がり始めた。

 そんなマギを千鶴は微笑ましそうに見ていた。

 

「小さい子に好かれるなんて、やっぱりマギさんはいいお兄さんですのね」

 

「そう言う千鶴も子供に好かれてるのな。なんか母親の雰囲気があるから将来はいい母親になれるかも…な」

 

 急にマギがう~んと唸り始めた。如何したんですの?と千鶴が尋ねると

 

「いや…な、クソ親父の記憶はあるんだけどな。その…俺の母さんが如何言った人で、母親がどういうのかを知らないんだ」

 

 マギやネギは自分達の父親であるナギの事は少なからず覚えているのだが、自分達を産んでくれた母親の記憶が無いのだ。

 昔はネカネが自分達の世話を焼いてくれたが、ネカネはどちらかというと姉だ。母親ではない。

 マギが言いたい事は自分は母親の愛情と云うのをよく知らないのだ。

 

「そうだったんですの…マギさんはお母様の事は覚えていらっしゃらないのですか?」

 

「あぁ、ネギが赤ん坊の時もクソ親父がネギを抱えて来ただけで、母さんの姿は何処にも無くてな。皆が言うには行方不明なんだそうだ…とすまねえな湿っぽい話をして、何か千鶴を何処か母さんと重ねて見ちまったようだ」

 

 悪いなとマギが千鶴や園児達に謝った。いえ別に…と千鶴は別段気にしていない様子だった。

 すると千鶴が悪戯っぽく笑いながら、でしたら…とマギの方を向きながら

 

「私をマギさんのお母様と重ねて見ていたのなら、私に甘えてもいいんですのよ?」

 

「ばッ何言ってるんだよ!?生徒で年下のお前にそんな甘えるなんて出来ないっての!」

 

 千鶴の提案に思わず赤面したマギが全力でお断りした。

 あら残念ですわと千鶴はおほほと笑った。そんなマギと千鶴の遣り取りを見ていた園児の一人が

 

「ねぇマギお兄ちゃん、マギお兄ちゃんと千鶴お姉ちゃんは付き合ってるの?」

 

「いッいや付き合ってはいねーぞ!なぁ千鶴?」

 

「そうですわ。でも私はマギさんとなら付き合ってもみたいですわ」

 

「ちょおま、そんな返答が難しい事言うんじゃねぇよ!」

 

「えーでもマギお兄ちゃんと千鶴お姉ちゃんぜったいお似合いだよー」

 

「チューはもうしたの?チューは?」

 

 園児達の容赦のない質問攻めにマギは顔を赤くしながら何とか質問を返して行った。

 千鶴の方は何時ものように子供たちに接していたが、マギと付き合うという事に何処かまんざらではなさそうな表情を浮かべていた。

 マギや千鶴に園児達はそんなワイワイと楽しく騒ぎながらおやつの時間を過ごしていた。

 

 

 

 一方の高音はそんな楽しそうな光景を見ながら、マギにばれない様に保育園を去って行った。




次回で終わります


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マギの観察日誌その2

一応3月中にこの閑話が終了してよかったです
それではどうぞ


 麻帆良保育園で園児達や千鶴と触れ合ったマギは、保育園を後にするとまた散歩を再開した。

 ただ目的も無いブラブラとした散歩を続けるマギ、そんなマギの後ろを一定の距離を開けた高音と愛衣が尾行していた。

 

「むぅ…さっきは私の勘違いでしたけど、絶対にマギ先生の尻尾を掴んでみせます!」

 

「お姉様諦めましょうよぉ。言っちゃ悪いんですけどこの後もお姉様のやる事が空回りしそうですし…」

 

 愛衣の言った事におだまりなさい!と小さい声で怒鳴る高音。

 散歩をしているマギとマギを尾行している高音と愛衣の前方から泣きながらあっちへうろうろ、こっちへうろうろと歩いている女の子が現れた。

 泣きながらママどこぉ~?と自分の母親を探している所を見ると、如何やら迷子の様だ。

 

「あの迷子の女の子…マギ先生はあの子を無視するに決まっています」

 

「ええッ?いくらマギ先生でも流石にそんな事はしませんって!」

 

 マギが女の子を無視すると高音がそう言い切って、愛衣は流石にそれは無いですよとまたもやツッコミを入れた。

 ツッコミを入れた愛衣に甘いですよと高音が言った。」

 

「私は以前彼を隠れた場所から観察し、彼の行動や癖などを見ていました。その中で彼がよく口にしていた口癖は『面倒くさい』が多かったのです。そんな面倒くさがり屋な彼が迷子の子を相手せずに無視するに決まっています」

 

 …高音がそうマギの事を決めつけているが、これも彼女の勘違いであった。

 マギがよく言っているメンドイという言葉はなんでもかんでも面倒と言う訳ではない。マギの言うメンドイは『今この面倒な事をやらないと、後々此れよりも面倒な事が起こるかもしれないから今やっちゃおう。メンドイけど』という言葉の意味も含まれているのだ。

 そんなマギは未だに泣いている女の子に近づくと、腰を下ろして女の子と同じくらいの目線となった。

 

「おいお嬢ちゃん、こんな所で泣いて如何したんだ?」

 

「うぐッ…えぐ…ママがどっかいっちゃたの~」

 

「そっか…だったらお兄ちゃんがお嬢ちゃんのママを一緒に探すのを手伝ってやるよ」

 

「本当?」

 

 女の子は首を傾げながらマギに尋ねた。あぁ本当さ、嘘はつかねぇとマギは頷いてみせた。

 

「それでお嬢ちゃんはママとどこら辺ではぐれたんだい?」

 

「あっち…」

 

 女の子が指差した方向はショッピング街の方向だった。今マギが居る場所からショッピング街まで結構距離がある。

 この子は一人で此処まで歩いてきたという事だ。

 

「ずっと歩いて疲れただろ?ほら俺の背中に乗りな。おんぶしてやるよ」

 

「うん…でもいいの?」

 

「別にお嬢ちゃんを背負っても重くもねぇさ。さ早く乗っちまいな、ママも心配してるだろうしな」

 

「うん…!」

 

 漸く泣き止んだ女の子は元気よく頷いてからマギの背中に乗った。

 背中に乗ったのを確認したマギは女の子と一緒に広場へと向かったのだった。

 

「なッなにをやっているんですかマギ先生は!?まままさか女児を誘拐なんて…愛衣直ぐに追いかけますよ!」

 

「だからそれはお姉様の勘違いだと…てあぁ行っちゃった…」

 

 愛衣は高音のその思い込みの激しさを如何にかしてほしいと思いながらも高音について行った。

 

 

 

 ショッピング街に到着したマギであったが、迷子のママは直ぐに見つかった。

 女性が娘の様な名前を叫びながら辺りを走り回っており、女の子もママママと女性を指差しながらマギにそう言った。

 マギは女の子のママに女の子を渡すと、ママは若干泣きながら自分の娘を抱きしめた。よっぽど不安だったのだろう。

 女の子のママはありがとうございます!ありがとうございます!とマギに何回もお礼を言った。女の子もありがとうお兄ちゃん!とマギにお礼を言った。

 マギは別に大した事はやっていないとその親子にそう返した。親子はマギにお礼を言いながら去って行った。女の子はマギに手を振りながらママの手を繋いで行ってしまった。

 マギも手を振りかえしてはいたが、親子の姿が無くなるとふぅと溜息を吐いてしまった。

 

「ママ…か。やれやれだぜさっきので少しセンチメンタルになりかけたぜ」

 

 マギはあの親子を見て少しだけ羨ましいと思ってしまった。

 自分は産んでくれた母親の顔もあんまり覚えていていない。それに母親に甘える事もああやって手を繋いで一緒に歩く事もしなかった。

 そんな事を考えていると、急に胸が締め付けられる思いであった。

 …こんな事はもう忘れよう。マギはまた散歩を再開した。

 

「マギ先生…」

 

 愛衣は何処かマギに同情するような視線をマギに送っていた。

 しかし高音の方は

 

「愛衣、何をしてるんですか?私はまだマギ先生の事を信じてはいませんよ」

 

 またもや自分の考えが外れてはいるが、マギの事を認めていなかった。

 マギがまた散歩を再開する事数十分後、マギの目の前に重そうな荷物を担いでいるおばあちゃんの姿があった。その先には長い鉄橋が

 マギはそのおばあちゃんに近づいて

 

「よぉばあちゃん、また重そうな荷物担いでいるのか?」

 

「あぁマギさんかい?また会ったねぇ」

 

 如何やらマギと顔馴染だったようだ。マギはおばあちゃんから重そうな荷物を持って

 

「何かキツそうだから俺が運んで行ってやるよ」

 

「いいのかい?マギさんだって何処か行くんじゃないのかい?」

 

「いいさどうせ目的の無い散歩なんだし、ばあちゃんが楽できるんならそれでいいし」

 

「そうかい?じゃあお言葉に甘えようかねぇ」

 

 マギはおばあちゃんの荷物を持って、その目的の場所まで一緒に行ってあげた。

 

「…お姉様これでもマギさんが悪い人だと言えますか?」

 

 愛衣は高音にこう尋ねるが、高音は認めたくない様で

 

「いいえ彼は私達の尾行に気づいているんです。だからああやって良い事をやって誤魔化そうとしてるんです…」

 

 などと呟いていた。愛衣は如何してお姉様はこうも真っ直ぐすぎるのだろうと思ってしまっていた。

 

 

 

 高音と愛衣のマギの尾行は結果で言うと、マギは高音が思っているような悪い人間ではないという事が分かった。

 おばあちゃんを目的場所まで荷物を運んで行った後に色々な事が起こった。

 最初にマギの足元に誰かの財布が落ちていた。中を見てみると結構お金が入っていた。

 高音はマギがネコババすると思っていたが、マギはその財布を近くの交番に届けた。1時間経つとその落とし主らしき人物が交番に現れ、本人の物だと分かりマギは大変感謝された。

 次に川に流されていた子供をマギが救出した。子供も怪我が無かった様子で川に流された子と親に感謝されていた。

 最後にマギの目の前に逃げていたひったくり犯を見事撃退、持ち物を盗まれた人とひったくり犯を追っていた警官にこれまた大変感謝されたのだ。

 ここまで人の役にたった人間を悪い奴だとは言えないだろう。

 さらにひったくり犯を捕まえた時からマギの姿を見失ってしまい、高音と愛衣はマギの尾行を諦める事にした。

 …個人的にはこの黒いマントのような服を脱げるので有りがたいと思っている愛衣であった。

 

「お姉様、いい加減諦めましょうよ。マギ先生はお姉様思っているような悪い人じゃないって事が分かったでしょうし」

 

 愛衣は高音にそう言っていたが、高音本人は

 

「分かりません…なぜマギ先生は、エヴァンジェリンの封印を解いたのか…」

 

 高音は何故マギがエヴァンジェリンの封印を解いたのか理解が出来なかった。

 高音は今日見た事でマギが自分が思っているような悪逆非道な人間ではないという事は分かった。だが何故マギがエヴァンジェリンの封印を解いたのか理解に苦しむ様子だ。

 

「それは…正直言うと私も分かりません。でもマギ先生も何か目的があって封印を解いたんだと思います」

 

 愛衣が高音にそう答えた。高音もマギが何か目的があるのかと思っていたら、高音と愛衣の前方からわらわらと不良グループが歩いていた。

 行き成りだが麻帆良には二つの不良に分かれている。

 自分力を高めるために喧嘩に明け暮れている不良と、何人と群れて自分達よりも弱そうな人をターゲットにして、嫌がらせをする不良である。

 高音と愛衣の目の前に居る不良はどうやら後者の様で、大通りを自分達でほほ占領して、道行く人を睨んでどかしていた。

 さらに歩いていたおばあちゃんを軽く突き飛ばして面白がったりしていた。

 そんな不良の集団を見て、愛衣はマズイと思った。彼らのような他の人の迷惑を考えず、平和を乱す人を高音は許さないのだ。

 

(あぁ~お姉様の事だ、絶対あの人たちの事を厳しすぎる注意を…)

 

 と隣の高音の方を見ようとしたら高音の姿は何処にも無く、前を見ると不良達の元へ向かっていた。如何やら遅かったようである。

 

「貴方達!こんな所で他の人の迷惑も考えないで、恥を知りなさい恥を!」

 

 高音が不良達を指差しながら大声で恥を知れと叫んだ。

 しかし高音一人に全然臆することなく不良達も睨んできて

 

「あぁ?んだテメェ、俺達に何か文句でもあるのかおい」

 

 不良の一人が高音に突っかかって来た。他の不良は高音をいやらしい目で見ていた。

 

「文句?文句ならあります!そうやって大勢で通りを占領して迷惑だと思わないんですか!?」

 

 高音は一歩も引かずに不良達に注意を呼びかけた。しかし不良達はへらへらと笑いながら聞く耳を持たない様子だ。

 

「なんだよお前、先公でもないのに一々うるせえ女だな」

 

「よく見たらコイツウルスラの高音じゃねえのか?お高くとまってる女で有名な」

 

「あぁ口煩くてうぜー女って噂の女かよ、顔はいいのにもったいねえな」

 

 と不良達がジリジリと高音との距離を近づけて来た。

 

「なッなんですか近づかないでください!」

 

 高音が言っても不良達はニヤニヤしながら高音に近づくと行き成り腕を掴んだ。

 

「今から俺らと良い事しようぜぇ?そんなお固くしないでよぉ」

 

「なッ何するんですか止めなさい!」

 

 高音は男の腕を振り払おうとしたが、男はガッチリと腕を掴んで離さなかった。

 

「あぁお姉様!…きゃッ!?」

 

「おい中学生のガキも居たぜ。高音の事をお姉様だなんてお前らそう言う関係かよ」

 

 近くでオロオロしていた愛衣も捕まってしまった。

 

「愛衣!?この愛衣を離しなさい!」

 

「いいじゃねえかよ。一緒に楽しいもうぜ、えぇ?お姉様ぁ」

 

 高音の腕を掴んで離さない男はニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

「この…いい加減にしなさい!」

 

 高音は自分の腕を掴んで離さなかった男の顔に平手を打ち込んだ。

 バチン!といい音を出しながら、男は自分の頬に手を当てた。

 口を切ったのか血を一筋だけ流した。

 

「…このアマ許さねえ!」

 

 さっきまでにやけていた不良は、女に殴られたという事で怒り心頭になってポケットからナイフを取り出して高音に切りつけて来た。

 切られた高音は上の服が切れてしまい、ブラジャーが不良達に見られてしまった。不良達は口笛を吹いてはやし立てる。

 

「なッ何をするんですか!?」

 

 高音は顔を赤くしながら切られた服を押さえて自分の服を切った男に叫んだ。

 

「この女だからっていい気になりやがって…おいお前らコイツの服全部奪ってやれ!」

 

 不良達は一斉に高音に群がり始めて高音に抵抗できないようにした。

 

「はッ離して!止めなさい!いやぁ!!」

 

(くッこんな下品な男達なんて魔法で一掃できるのに…!でも魔法なんか使ったら私は…)

 

 高音は自分に群がっている男達に必死に抵抗したが、自分1人に対して不良達は大勢いるのだ勝ち目はない。

 魔法が使えるならこんな不良達なんか簡単に倒せるのだが、彼らは魔法を知らないのだ。

 もしこの不良達が魔法を知る事になってしまったのなら、最悪自分はオコジョになってしまうのだ。

 将来を期待されている高音としてはそんな事でオコジョにはなりたくはないのだ。

 周りの人に助けてもらおうとしても、他の不良が睨みをきかせているために誰も助けに来てはくれなかった。

 

「だッ誰か!助けてぇ!!」

 

 高音の叫びに応える者は現れなかった。哀れ高音は不良達に服を脱がされてしまうのか…とその時

 

「…何やってるんだアンタら?」

 

 先程見失ったマギが突然現れて、怪訝な目で不良の集団を見ていた。

 

「なッなんだテメェは!あっち行ってろ!」

 

 不良の一人がマギに怒鳴り散らしていたが、マギは全然動じていなかった。

 と不良の間と間から服を脱がされかけている高音の姿を発見した。

 

「おいおい何白昼堂々とそんな事やってるんだアンタらは?馬鹿な真似はよせってば」

 

「うッうるせえ!これが見えないのか!?さっさと失せろ!」

 

 不良は持っていたナイフをマギに向けたが、マギはハァと溜息をするだけで

 

「だから馬鹿な真似はよせって、そんな事やってたら人生棒に振るぜ?」

 

「おッおいコイツナイフ向けてるのに動じてねえぞ。どんだけ神経が図太いんだぁ?」

 

 不良達は動じていないマギに逆に恐怖感を覚えて少し後ずさる。

 すると一人の不良があぁ!と大声を上げながらマギを指差した。

 

「てッテメェはアン時のガキと一緒に居た中坊の担任!」

 

「中坊の担任って、オメェら若しかしなくても千鶴をしつこくナンパしてたチャラ男共かよ。今度は実力行使なんてどんだけ飢えてるんだよ」

 

 やれやれだぜ…と呆れかえっているマギに黙れと大声で怒鳴り散らす不良共

 

「この前はテメェにしてやられたが、今回は仲間も大勢いるしナイフだってあるんだ。泣いて謝るんなら今の内だぜ」

 

「だから馬鹿な事は止めとけって、さっさと家に帰ってろよアンタらは」

 

 まったくとマギは呆れてものが言え無いようだ。そのマギの態度にカチンと来てしまった不良達

 

『舐めてんじゃねぇぞコラァッ!!』

 

 と一斉にマギに襲い掛かって来た。

 

「全くやれやれだぜ…」

 

 マギは自分に襲い掛かってくる不良達を見てやれやれと小声でそう零していた。

 

 

 ――――数分後――――

 

 

「まぁ…こんなもんかな?」

 

 あらかた不良達を伸してしまったマギは首をゴキゴキと鳴らしながらそんな事を呟いていた。

 

「うッ嘘だろ?あんなにいたのにたった一人でほぼ全員倒しちまうなんて…化け物じゃねぇか!」

 

「くそ覚えてろ!」

 

 不良達はマギに捨て台詞を吐きながら一目散に退散して行った。

 マギは別に覚えてるつもりはねぇよと思いながら、不良達が退散するのを眺めていた。

 不良達が完全に見えなくなったのを見て、マギは高音の方へ行った。

 高音の服は所々破けており、ボロボロであった。マギは自分が羽織っていた薄い上着を高音に羽織らせる。

 

「あッありがとうございます…」

 

「礼はいいさ。お前今日は散々な目にあったんだな高音」

 

 高音はマギに助けてもらったが、こんなみっともない姿をマギに見せた事に羞恥心で顔を真っ赤にしていた。

 

「んで今日はあの中学生の女の子を連れて何してたんだ?」

 

「そッそれは…私と愛衣は学園の平和を護る為に自主的にパトロールしていたのです!」

 

 高音は苦し紛れの嘘をマギに話した。お人好しのマギは直ぐに信じると思った高音

 しかしマギはハァと疲れた様な溜息を吐きながら

 

「悪いんだけどな高音、お前が俺の後を付いて来ていたのは最初から知ってるんだ」

 

 とマギは高音が自分を尾行していた事をもう知っているとそう言った。

 

「なッいつからですか!?」

 

 高音は驚愕した表情で何時から尾行に気づいていたのかを尋ねるが、だから最初からって言ったじゃんとツッコミで返すマギ。

 つまりマギは自分が寮から出た時から高音たちの尾行に気づいていたのだ。

 

「アンタら認識阻害の魔法を使ってるせいで、何処に居るのか丸分かりだったから逆に何やってるのかと思っちまったぜ」

 

 呆れかえっているマギを見てポカンとする高音

 しかし次の瞬間にはそうですか…そうだったのですね…とブツブツ呟いていたのは

 

「今日貴方を見ていて数々の善行をしていましたが、それは私が貴方を見ていたからそうやっていい人を演じていたのですね!えぇそういう事なら納得できます!」

 

「おッお姉様!流石にそれは言い過ぎです!」

 

 高音の決めつけの発言に愛衣もそれは言い過ぎだと講義をした。今の発言は余りいいものではない。

 しかし決めつけられている当のマギはハァ~と肩を竦めながら溜息を吐いた。

 

「あのな…今日起こった人助けは、全部困っていた人を助けたいって言う本心だ。いい人を演じているなら何で俺を監視してる奴までも助けたんだよ」

 

「そッそれは…私に悟られない様に演技を…」

 

 マギに何故自分を助けたのかという質問に高音は思わず何も言えなくてマギが自分を助けたのも演技だと答えた

 するとマギは行き成り真顔となり

 

「行き成りだが質問を変えるぞ。俺があの迷子の女の子を助けず無視したらお前は如何するんだ?」

 

「そッそれは決まっています!貴方を補導して、小さい子を助けるように私が「はぁ~違うだろうが」なッ何が違うのですか!?」

 

 マギは高音の答えに違うと何処か怒った口調で遮った。高音は自分の答えが違うと言われて思わず何故違うのか強い口調で尋ねてきた。

 そしてマギの答えと言うのは

 

「なんで泣いている女の子のそばに行こうとしないんだよ、俺の説教なんか何時でも出来るじゃあねえかよ」

 

 頭をボリボリ掻きながらマギは話を続ける。

 

「俺がおんぶしてる間もな、あの子は震えていたんだぜ?一人でママを探していた怖さと心細さをお前は分かっているのかよ?」

 

「そ…それは…」

 

 高音は正直言えばマギことで頭が一杯で迷子の子の事なんか考えていなかったのだ。

 

「それにあの重そうな荷物を持って居たばあちゃんだってそうだ。一緒に目的地まで行ったけど結構な距離だったぜ。あの距離を荷物持ちながらあのばあちゃんが歩くのは結構きつかっただろうな。お前は困っているばぁちゃんよりも俺の事が大切なのかよ?」

 

「…」

 

 マギの問いに高音は何も答えられなかった。答えたとしても言い訳にしか聞こえないだろうと判断したからだ。

 

「はぁ~たくよう、麻帆良(ここ)に居る正義の魔法使いさんは、俺なんかどうでもいい人間なんかを気にして目の前に居る困ってる人は無視するのか…まぁ素晴らしい組織だねぇホントに」

 

「なッ貴方みたいにのらりくらりとしている人に何が分かるんですか!?魔法社会の秩序を守る事がどんなに大変なのかを!」

 

 マギの盛大な皮肉にカチンときた高音は大声で言い返すが、マギは全然動じていなかった。

 

「秩序を守る…か…そんな秩序を守って人は護れるんかねぇ」

 

 マギの何処か遠い目に高音はまだ言いたい事を喉の奥に引っ込めた。

 

「確かにアンタらみたいに秩序を守るって事は立派な事だ。立派だけどな、その秩序のために見捨てられた人間、小より大の小の方の人達の気持ちはどうなるんだよ…」

 

 エヴァだってそうだとマギは今度はエヴァンジェリンの話をし始めた。

 

「エヴァだって好きで吸血鬼になったわけじゃない。なのに吸血鬼なってしまった…アイツはずっと孤独は嫌だと叫び続けた。だけど人間たちはそんなエヴァの叫びを無視して化け物は敵だと決めつけてアイツを殺そうとした。俺はアイツを化け物だとは思っていない。だから助けたんだ」

 

 そういう事だとマギは言い切り、そしてと高音の方を指差しながら

 

「アンタらは簡単に言えば秩序を守るような大衆的な正義で、俺は困った人を見捨てない正義だ。アンタらから見れば俺の正義は偽善に見えるかもしれない独善だと言う奴もいるかもしれない…だけど俺は俺の正義を貫く。ただそれだけだ」

 

 マギの正義は絶対に揺るがない。たとえ高音たちのような正義の魔法使いと名乗る組織と争う事になったとしても自分の正義を貫き通すつもりだ。

 

「…分かりました、私は貴方を誤解していたようです。貴方には貴方自身の正義や信念があるという事を」

 

 高音も如何やらマギの正義を認めてくれたようだ。

 

「悪いな、アンタは根が真面目でいい奴だとは分かってるつもりだったんだけど、少しムキになっちまった謝るよ」

 

 す…とマギは高音に手を伸ばした。握手を求めているようで、高音もマギの握手に応じた。

 これで一応だが、マギと高音の和解は出来たのである。

 

 

 

「さて…とそろそろ良い時間だし寮に帰るかね」

 

 マギはそう呟きながら寮へ向かおうとしたが、あッあのと高音が呼び止めた。

 

「先程マギ先生が私を不良達から助けてくれましたが、あれはどうしてですか?」

 

 高音は如何して自分を助けたのかその訳を聞きたかった。

 

「それはだな…主義主張が違っても困っている人間が居たら助けるのが俺のルールだし、それに女性は助けるのが普通だからな。こう見えて俺英国紳士だし」

 

 そう言ってマギは親指で自分を指差した。

 

「それに…アンタみたいに綺麗な女が男達に嫌な事をされるのを見ていられなかったって言うのも理由の1つかな」

 

「きッ綺麗!?私がですか!?」

 

 マギに綺麗と言われて思わず顔を赤面してしまう高音。マギは高音が顔を赤くしてると知らずに背を向けながら

 

「じゃーな綺麗な御嬢さん。あんまし無理すんじゃねぇぞ」

 

 と高音に背を向けながら手を振って去って行った。

 

(ってそう言えば高音に上着貸したまんまだったなぁ)

 

 まぁいっかと思いながらマギは寮へと帰って行った。

 

「マギ…先生…」

 

「お姉様…」

 

 高音は去って行くマギに熱っぽい視線を送っており、そんな高音を見ながら愛衣は苦笑いを浮かべていた。

 こうして高音のマギに対する見方が『要注意人物』から『気になるあの人』へ変わったのであった。

 

 

 

 

 




はい次回からは原作の8巻に突入するんですが
もうすぐ大学が始まるのでこれ以降はかなり更新スピードがもっと遅くなると思いますが、気長に待ってくれると幸いです


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~第6章~過去の話と魔物襲来
エヴァの修行は死にもの狂い?皆は知らない秘密の特訓


今日から原作8巻の話です
それではどうぞ


 ネギがエヴァンジェリンの弟子入りのテストに合格してから数日が経ち、ネギはマギと一緒にエヴァンジェリンの別荘にて修業を行っていたが、修業と云うよりは…単にネギをいじってるだけにしか見えなかった。

 まず最初にエヴァンジェリンがネギを魔力で強化したパンチで吹き飛ばす。吹き飛ばされたネギの元へ従者の茶々丸とチャチャゼロが接近する。

 対してネギは風花・風障壁で茶々丸とチャチャゼロの動きを止めようとした。

 がしかし、ネギの障壁が消えたのと同時に茶々丸がネギを地に伏せた。追い打ちでチャチャゼロが持っていた短剣をネギの首に届くギリギリの場所にナイフを刺してネギは短い悲鳴を上げた。

 戦闘不能になったネギの顔にエヴァンジェリンは足を乗せて踏みつけ始めた。

 

「如何した?まだ30秒も経っていないぞ。3対1とはいえ1分位は持ち堪えてみせろ…それ位出来ないと、あのフェイトと言う銀髪の小僧には到底敵わんぞ」

 

 エヴァンジェリンはネギの顔をふみふみと踏みつけながら見下ろして言った。

 確かに今のネギが多対一で一分も持ち堪えられないのなら、フェイトには勝てる見込みは粗ゼロである。最悪殺されるかもしれない。

 

「よって私が坊やにピッタリな連携魔法を教えてやろう…多少は力を弱めるが坊やもしっかりと防げよ」

 

 それだけ言うとエヴァンジェリンはネギの腹を容赦なく蹴り上げて、宙へと上げた。

 エヴァンジェリンは吹き飛ばしたネギにジャンプで近づくと、零距離で魔法の射手を放った。

 そして最後は詠唱で止めを刺す。

 

「来れ虚空の雷 薙ぎ払え! 雷の斧!!」

 

 エヴァンジェリンの詠唱が終わると、斧の形をした雷をネギに振り下ろした。

 ネギも障壁で防いだのだが、威力が威力でネギは痺れて動けなくなっていた。

 

「今使った魔法は、決め手としては有効な雷系の上位古代語魔法だ。覚えていて損は無いぞ」

 

 エヴァンジェリンは雷の斧とその連携技をネギに披露したわけだが、雷の斧を喰らっているネギ自身は痺れていて話半分で聞いていた。

 電撃で伸びているネギを見てヤレヤレと呆れているエヴァンジェリンは、あぁそうだと何か思い出した素振りを見せると

 

「今の連携はナギもよく使っていたな。まぁ今の坊やじゃ再現するのは到底無理な話だがな」

 

 ナギの名を聞いて、ネギはピクリと反応した。自分の父の事になると反応が早いネギである。

 

(成程な、無詠唱での魔法の射手を至近距離で発動。中の上程度の詠唱の早い上位古代語魔法…シンプルであまり派手さはねぇけど有効な戦法だな)

 

 カモはさっきの連携をそう分析した。漸く痺れが無くなり起き上がったネギに対してエヴァンジェリンは

 

「よし休んだら実戦訓練を2時間だ。根を上げるなよ」

 

「はッはい!」

 

 更にハードな修業にカモは開いた口が塞がらなかった。さっきも続けて修業を3~4時間ほど続けていたが、小休止した後にまた2時間とは…段々修業がハードになってきていた。

 エヴァンジェリンの修業が厳しいとは思っていたが、これほどとは思わなかったカモ。兄貴は大丈夫なのかと心配になってきた。

 

(まぁ兄貴が心配だと言うのもあるけど、この別荘にも驚きだぜ)

 

 カモは初めてこの別荘に来た時は驚きの連続だった。中でも一番驚いたのは此処で1日過ごしても外では1時間しか経っていないという事である。

 マギはこの別荘でネギより前から修業していたのだ。それで魔力や気がアップしていたのは頷ける。

 そしてそのマギはと言うと…

 

「ふッ!はぁッ!トオァ!テリャ!!」

 

 魔力と気を纏いながら両手に短剣を握り、剣や蹴りを混ぜた型を行っていた。

 まるで踊っているかのようにマギは剣を揮う。

 

「ハァッ!…ふぅ~」

 

 最後の締めで短剣の袈裟斬でしめると、深い深呼吸をして膝をついた。顔には大量の汗を滲ませていた。一見普通に剣を揮ったり足を蹴り上げたりしてるだけに見えるかもしれないが、実際やってみるとかなり大変の様だ。

 魔力と気を身に纏うだけでかなり体力を消費するのだ。そんな中で剣を振ったりするのはかなりキツイ。

 そんなマギの元へエヴァンジェリンが近づいてきた。

 

「お見事、この短時間で5時間もその状態を維持できるようになったのだな」

 

 マギはこの魔力と気を纏った状態を5時間ほどまで維持できるようになったのだ。

 

「まぁな…これもエヴァの教え方が分かりやすいからだな」

 

 マギは息を整えながらエヴァンジェリンに感謝の言葉を送った。エヴァンジェリンの教え方は厳しくて辛い事もあるが、的確で分かりやすい師事をしてくれる。そのおかげでマギはこの短時間で長時間もその状態を維持できるようになったのだ。

 マギに感謝されてエヴァンジェリンも嬉しいのか当然だと胸を張った。

 

「この調子だったら闇の魔法の修業に入っても大丈夫そうだな」

 

「本当か?やっとだぜ」

 

 漸く闇の魔法の修業に入れるという事で、マギはこれまでの苦労が報われるぜとそう思った。

 

「じゃあ少し休んだ後に、闇の魔法の修業へ…いくぞ」

 

 急にエヴァンジェリンがふらついたので、マギはエヴァンジェリンが床に倒れない様に支えてあげた。

 

「おいエヴァ大丈夫か?」

 

「あぁマギ…すまないな少しふらついただけだ。今日は少し張り切り過ぎたな…全くこの体が時々面倒に感じるよ。おい坊や今日の授業料を払ってもらうぞ」

 

「ええでもマスター(師匠)、昨日あれだけ払ったのに…」

 

 エヴァンジェリンの事をマスター(師匠)と呼びながら近くによるネギ、そんなネギを逃がさない様にガッチリと捕まえるエヴァンジェリン。

 

「昨日のあれだけでは…全然足りぬぞ」

 

 それだけ言うと顔を近づけるエヴァンジェリン。そんなエヴァンジェリンとネギの遣り取りを少し複雑な顔で眺めていたマギであった。

 

 

 

「ただ今帰りました~」

 

「ただいま帰ったぜぇ」

 

 エヴァンジェリンの修業を終えて寮へ帰ってきたマギとネギ。

 マギは別段変わったところも無くいたって普通であったが、ネギはげっそりとして見るからにやつれていた。

 

「お帰りネギ君マギさん。何やネギ君、えらく疲れてるみたいやなー」

 

「はは…はい。マスターの修業が最近厳しくなってきたものでアハハ…」

 

 ネギは乾いた笑みを浮かべながらこのかにそう言った。

 

「ネギ、アンタはまだ子供なんだからあんまり無理して体壊さないでよね」

 

 ネギの顔を見ずにノートに授業の復習を写していたアスナは一応ネギに無理だけはしない様に釘をさしておいた。

 

「ハイ気を付けます…アスナさんは勉強中ですか~偉いですねぇ~」

 

「まぁね。今まで刹那さんと剣の修業をしたり南の島とかに行ったりしてたからねぇ。中間がもう直ぐだし、しっかり勉強しておかないとね」

 

「そうですかぁ~頑張ってくださいねぇアスナさ~ん」

 

 ネギはフラフラしながら梯子でロフトへ向かおうとした。

 

「ちょっとネギ…アンタ本当に大丈夫なの?」

 

 ノートにカリカリと書いていたアスナだが、流石にネギがフラフラしすぎてるのを見て心配になって、一回シャープペンを置いた。

 

「だ…大丈夫です。アスナさんは気にせず勉強を…むにゃむにゃ」

 

 最後方はちゃんと言えずに梯子に引っ掛かる形で軽く寝ている状態であった。

 そんなネギの姿を見てマギはやれやれと呆れながら梯子で引っ掛かっているネギを担ぎ上げると、梯子を上ってネギを布団に寝かせていた。

 

「たく、寝るんなら布団で寝ろよな」

 

「うん…ゴメンねお兄ちゃん」

 

「気にするな。お前の授業の用意も俺がしといてやるよ」

 

 マギがネギに気にするなと言うと安心したのか、ネギは静かに寝息を立てて寝てしまった。

 直ぐに爆睡する程であるからよほど疲れていたのだろう。

 

「ねえカモ、放課後にエヴァちゃんの所に行って3~4時間は経っているけど、あんなにフラフラになるもん?」

 

「いやまぁエヴァンジェリンの修業が思ったよりも厳しくて、子供の兄貴じゃヘロヘロになるってもんでさ」

 

「本当に?何かアタシに隠し事してない?」

 

 アスナは疑い深くカモを見ながらそう言った。そんなカモを援護するかのようにマギが

 

「まぁ今のネギじゃ仕方ねえよ。俺もエヴァの所で修業した時にはきつくて1日中寝たきりなんて日があったからさ」

 

 と援護した。マギがそう言ったので、アスナはカモが言った事を信じる事にした。

 

「まぁいいや、お休みネギ。しっかり休みなさいよ」

 

 それだけ言うとアスナは勉強を再開した。

 

 

 

 翌日だがネギの様子がやはりおかしいとアスナは再度そう思った。

 昨日爆睡してたはずなのだが、疲れが取れておらず授業中終始フラフラしていた。

 生徒達は5月病に掛かったのか、それとも気の早い夏バテになったのかとヒソヒソと話していた。

 特にネギloveであるあやかやまき絵はフラフラしているネギをハラハラと見ていた。

 

「アスナさん、ネギ先生に何かあったのですか?」

 

「ううん、アタシもよく分からないの」

 

 夕映はアスナに何があったのか尋ねるが、アスナ自身も今一よく分かっていない状況である。

 アスナ達がヒソヒソと話している間にも授業が終了し、ネギはしっかり復習してくださいね~と生徒達に言うとフラフラと教室の外に出てしまっていた。

 ネギがふらふら歩いているのを隠れながら見ているアスナ。

 

「やっぱり変よ。あんなたった数時間であんなになるなんて、ばれない様について行って正体を明かしてやるわ」

 

 アスナはネギの後をついて行こうとしたその時

 

「何やってるさねアスナ?」

 

「フムフム、ネギ坊主の後をついて行くアルか?」

 

 と和美に古菲とのどかに夕映とこのかに刹那が現れた。

 

「ちょ!行き成り現れないでよ!ビックリするじゃない!」

 

「あんま大きい声を出すんじゃないよ。ネギ先生に気づかれるさね」

 

「でもネギ坊主今日の私との朝練でもフラフラだたアルよ。流石にあれは何かあったんじゃないかと思ったアル」

 

 ネギに何かあったのか気になるアスナ達はネギに気づかれない様に後をついて行くことにした。

 

「しかしネギ先生はエヴァンジェリンさんの所で修業をしてるのですよね?マギさんも一緒なのにあれほど疲労しすぎてるのは少し妙です」

 

「でもやっぱりネギ君が子供だからじゃないかなー」

 

 夕映の考えにこのかはネギが子供だからとそう答えた。とそんな事を話しているとネギはエヴァンジェリンそしてマギと合流してエヴァンジェリンの自宅へと向かって行った。

 

「でもやっぱりたった数時間であんなにやつれるなんて、それはやっぱりあんなことやこんなことを…」

 

 と和美が大人なシーンを妄想してそれは無さすぎでしょ!とツッコミを入れた。

 

「まだネギは10歳なのよ?それにエヴァちゃんはマギさんの事が…」

 

 とそれ以上は言わなかった。マギの事が好きなのどかの前でそんな事を言うのは流石に気まずくなってしまうのだ。

 でもそれは如何かな~?と和美はニヤリと笑いながら

 

「エヴァンジェリンって案外独占欲が強そうだからねぇ~若しかしたらどっちも独り占めしたい…な~んてね」

 

 和美の言った事にすこし戸惑いを見せるアスナ。それは何か嫌だな…とそんな考えが頭を過った。

 道中雨が降り始めたが、目的のエヴァンジェリンの家に到着した。

 エヴァンジェリンの自宅の中に入っていくマギ達。そんなマギ達を茂みの奥から覗いていたアスナ達。

 

「雨が降ってきたから家の中で修業でもするのですか?」

 

「まさか、修業をするには家の中じゃ狭いでしょ?ちょっと家の中を覗き込んでくる」

 

 アスナは一人でエヴァンジェリンの家へ近づき、窓から家の中を覗き込んでみた。

 しかし家の中には誰も居なく、マギ達の気配も感じられなかった。

 

「あれ?誰も居ない…」

 

 アスナはマギ達が何処にもいないのを不思議がり、他の皆と一緒にエヴァンジェリンの家の中へと入って行った。

 鍵をかけておかないなんて不用心だと思いながらも家の中をくまなく探してみた。

 リビング、キッチン2階にお風呂とトイレとくまなく探したが、マギ達の姿は無かった。

 

「おかしいわね、ネギ達が家の中に入って行ったのは確かに見たのに…」

 

 なのにどうして何処にも居ないんだと首を傾げるアスナ、とのどかがアスナ達を呼んだ。

 何事かとのどかの所に駆け付けると、如何やら地下室に何かあったようだ。

 地下室には多くの人形がしまっていたが、気にするのはそれじゃない。

 

「これです、こんなのが地下室に」

 

 夕映が指を差したのは塔や砂漠に雪国にジャングルのミニチュア、そうこれはエヴァンジェリンの別荘である。

 

「何よコレ?色々なミニチュアなのかしら?エヴァちゃんも変わった趣味があるのね。でこれがどうかしたの?」

 

 別荘の存在を知らないアスナ達にとっては此れはタダのミニチュアでしかない。アスナはこのミニチュアがどうかしたのか尋ねると

 

「いえ、先程のどかがこの塔のミニチュアでマギさんやネギ先生の姿を見たそうです」

 

「ええこんな小さいのに?何かの見間違いじゃない?」

 

 とアスナが見間違いだと言っていると、和美が何かのスイッチを足でカチッと押してしまい、和美の足元に魔法陣が出現して和美から順に姿を消してしまった。

 

「ってアレ?皆何処に行っちゃったの?」

 

 気が付いたら自分以外誰も居なくなってしまったが、アスナの足元にも魔法陣が出現して、次の瞬間にはアスナも地下室から姿を消してしまった。

 

 

 

 所変わって寮に帰っている千鶴と夏美。2人は部屋が同じという事で何時も一緒に帰っているのだが、最近千鶴の様子がおかしいと思っている夏美。

 

「はぁ…マギさん…」

 

 千鶴は時々マギの名を呼んでは溜息を吐いている事がある。

 実は千鶴は前に不良から助けてもらった事で少しづつだがマギの事を意識し始めていたのだ。

 

「だけどちづ姉も恋をするなんてね~」

 

 夏美が軽い気持ちでそんな事を呟くと千鶴はおほほと笑いながら。

 

「夏美ちゃん?もって何かしらもって?私が恋をせずに一生を終えるとでも思っていたのかしら?」

 

 夏美はヤバいと思ってしまった。今のは失言であった。

 千鶴は怒るとかなり怖いので今夏美の目の前に居る千鶴は笑ってはいるが、目が笑っていなかった。なんとか誤魔化そうと話題を変える夏美。

 

「そッそう言えば今日のネギ先生、元気が無かったけど如何したんだろうね?」

 

「…ええそうね。風邪じゃなければいいのだけれど」

 

 何とか話題を変える事が出来てホッと一安心な夏美。

 暫く歩いていると千鶴があら…と何かを発見して

 

「行き倒れよ夏美」

 

「いッ行き倒れ!?」

 

 千鶴が行き成り行き倒れと言い出したので慌てる夏美。

 だが行き倒れと言うのは小さい子犬だった。

 

「なんだぁ犬かぁ~ビックリしたなぁ」

 

 てっきり人が行き倒れだと思ってしまい、少しだけホッとする夏美。

 だが行き倒れている子犬だがよく見ると怪我をしているようだ。

 

「あら怪我をしてるようね、寮に連れて帰って治してあげましょう」

 

「ちづ姉大丈夫?バッチくない?」

 

 夏美が千鶴に大丈夫か尋ねて千鶴は大丈夫よと返した。

 千鶴と夏美は子犬を連れて寮へと帰った。

 だがこの子犬を連れて帰った事で、2人の特に夏美の運命が大きく変わる事に気づいていないのであった。

 

 

 

「皆何処!?」

 

 アスナは魔法陣から出て皆を探そうとしたら、目の前に夕映が居た。

 

「夕映ちゃんよかった、見つけたわよ!」

 

「アスナさん漸く来たですね」

 

「何処に行ってたの?心配したわよ」

 

「私の事は良いです。それよりも周りを見て下さいです」

 

 夕映に言われてアスナは周りを見渡してみた。

 此処はさっき居た地下室ではなく、巨大な塔の頂上であった。

 

「って!何処よ此処はぁッ!?」

 

 アスナはあんぐりと開いた口が塞がらなかった。

 如何やらさっき見たミニチュアと同じ場所の様です。と夕映は冷静に分析していた。

 

「こっちです。ついて来て下さいです」

 

「もう何も驚かないつもりだったんだけどね…と言うかここ結構暑いわね。この前まで南国に行ってたのに」

 

 アスナはそんな事を呟きながら夕映の後をついて行った。

 ついて行ったのだが、この塔を結ぶ頂上の橋には手すりなんて存在しておらず、おまけに少し風が強くて落ちてしまうのではないかと考えてしまい思ったより早く歩けなかった。

 

「全くファンタジーでもいい加減にしてほしいわよ…」

 

「そうですか?私としてはファンタジー(こっち)の方が胸が踊る思いですよ。退屈な授業よりはこっちの方が充実してるです」

 

「その割には足が震えてるけど、夕映ちゃんもやっぱ怖いんでしょ?」

 

「…これは武者震いと受け取ってほしいです」

 

 などと話している内に塔に到着してみると其処にはこのかなどの他のメンバーが居た。

 

「アスナさんが来ない30分間の間に、私達で塔をあらかた調べて見たです」

 

「え?30分?アタシ皆が居なくなって探したのって1~2分位よ?」

 

 アスナと夕映の時間間隔が違う事に首を傾げてみる。

 この別荘の仕組みをまだ知らないアスナ達にとっては謎な別荘である。

 暫く立つと和美が塔の下の階で声がしたと言ってこっちに来いと手招きする。

 アスナ達は長い螺旋階段を降りながら、下の階に到着してみると話し声が聞こえてきた。ネギとエヴァンジェリンの声であった。

 何をしてるのかと耳を澄ませてみたが、次の瞬間には固まるアスナ達。その話声と言うのがネギの荒い呼吸と、エヴァンジェリンの何処か艶めかしい声であった。

 まさか和美が言っていたあんなことやそんな事をやっているのではないかと想像してしまったアスナ達は顔を紅潮してどうすればいいのか分からなかったが、アスナが思わず部屋の中へ入ってしまった。

 

「こらぁ!アンタ達何やってるのよ!?」

 

 アスナが勢いのまま部屋に入ってみると、ネギとエヴァンジェリンが何をやっているのか…

 

「ん?(ちゅうぅぅ)」

 

「ちょエヴァンジェリンさん、これ以上はぁぁぁ」

 

「エヴァあんまり血を吸い過ぎるなよ」

 

 ネギの腕に噛みついて血を吸っているエヴァンジェリンの姿があった。

 自分が考えていた事の予想外の事をやっており思わずズッコケたアスナ。

 

「なんだお前達か、如何してこんな所に居るんだ?」

 

「アタシ達の事よりもネギに何やってるのよ!?」

 

「何って血を貰っているんだよ。血があった方が私も思う存分力を出せるしな。本当はマギの血を吸おうとしたんだが、マギは最近までタバコを吸っていたからな血がまずくて体に悪いからという事で坊やの血を飲んでいたと言う訳さ」

 

「悪いなエヴァにネギ。俺がタバコを吸っていたばかりにネギやお前に負担かけちまって…」

 

 マギの申し訳なさそうな顔にエヴァンジェリンとネギは仕方ないと言ってくれた。

 

「仕方ないさ、それにマギがタバコを止めて少しづつだけど血も綺麗になってきたからな…と如何したんだ神楽坂明日菜?」

 

「な…なんでもないわよ」

 

(何よ想像してた事と全然違うじゃない!と言うかなんでアタシはあんなことを考えていたのよ…あぁ恥ずかしい!)

 

「どうせそんな事だと思ったわよ!」

 

「何を考えていたんだお前は?」

 

 エヴァンジェリンの呆れた視線にうっさい!とアスナは大声で喚き散らした。

 本当に何を考えていたんだ?エヴァンジェリンは呆れた視線を向けていると、エヴァンジェリンの前に和美が現れた。

 そしてアスナや自分達が想像していた事をエヴァンジェリンの耳元で小声で教えてくれた。

 教えてくれたことにエヴァンジェリンは顔をボン!と真っ赤にしながら

 

「ふッふざけるな!私はそんな節操のない女じゃないぞ!私が本当に好きなのは…」

 

 と其処で口をつぐんでしまった。自分の目の前にはのどかも居る。あまり色々と暴露したくないとそう思ったエヴァンジェリンである。

 閑話休題、この話は此処で終わりにしよう。

 

「それでエヴァちゃん、この塔はいったい何なのよ?」

 

 アスナはエヴァンジェリンにこの塔の正体を聞いてみると

 

「これは私が造った別荘だ。少しの間使っていなかったのをいろんな理由で掘り出した。今はマギと坊やの修行のために使っているがな」

 

 エヴァンジェリンの説明にアスナ達はへぇ~と塔の周りを見渡した。魔法ではこんなものも作れるのかと感心する。

 

「全く、お前達は勝手に入ってきて…言って置くがこの別荘に入ると最低でも1日はこの別荘の中で居てもらうから簡単には出てこられないぞ」

 

 エヴァンジェリンの爆弾発言にええッ!?と悲鳴みたいな声を上げるアスナ達。

 明日の学校如何するの!?やら聞いてないよ!と騒ぎ始めたのを見て喧しいと顔を歪めるエヴァンジェリン。

 

「少し黙れ…心配するな。お前達も聞いた事があるだろ浦島太郎の竜宮城を…この別荘は竜宮城の逆だ。此処で1日過ごしても外では1時間位しか経っていない。これを利用してマギや坊やの修行を見ていると言う訳だ」

 

 とエヴァンジェリンが別荘のとんでも機能をアスナ達に紹介して凄いと言う感想しか言えなかった。

 

「という事はネギ君やマギさんって学校終ってから此処で修業してたん?」

 

「はい…流石に疲れます…」

 

「まぁ俺は結構前から此処で修業をしてるからかなり慣れたけどな」

 

 このかの質問にネギはまだ慣れてないから疲れると、マギはネギよりも前から此処で修業をしてるからかなり慣れたと答えた。

 

「ん?ちょっと待ってマギさん、マギさんは何時頃からこの別荘で修業してるの?」

 

 アスナはマギに何時頃から修業をしてるか尋ねた。

 

「何時頃からって言うとそうだな…修学旅行から帰ってきて、エヴァの所で修業をしてもらう事になって…ネギがエヴァの弟子入りの試験のをする前から本格的な修行を始めたな」

 

 マギの答えを聞いてこの別荘の仕組みを考えてみると、マギはネギの何十倍否何百倍もの時間を修行していた事になる。

 

「とするとマギさんはネギよりも一杯修行したの?ズルいわよマギさん!ネギはあんな少ない時間で修行したのにマギさんはこの別荘で一杯修行したなんて…それじゃあネギが弟子入りのテストでマギさんに勝てるわけないじゃない!」

 

 アスナはズルいと言いながらマギを指差した。そんなアスナにエヴァンジェリンは心底呆れたような溜息を吐いていた。

 

「神楽坂明日菜、お前はまだそんな甘い事を言ってるのか?おめでたい奴だな」

 

「むッ!それは如何いう意味よエヴァちゃん!?」

 

 アスナはエヴァンジェリンにおめでたい奴と言われることに納得できず、どういう意味なのか再度尋ねる。

 

魔法使い(私達)の戦いはスポーツじゃない。命を賭けた殺し合いをすることもある。そんな中で卑怯なんて言葉は何の意味も無い…勝てばいいんだよ結局は。貴様だって修学旅行での戦いで実感しただろう魔法使いの戦いを」

 

「それはそうだけど…でもッ」

 

 エヴァンジェリンに言われて再度言い返そうとしたアスナだが言葉が出ずに何を言っていいのか分からないでいたが、良いんですよアスナさん…とネギが優しくアスナにそう言った。

 

「でもネギ…」

 

「いいんですアスナさん、僕の事をそんなに思ってくれてありがとうございます…僕も最初この別荘の事を知って心の片隅でお兄ちゃんをズルいと思ってしまいました。こんな所で修行していたら僕なんかじゃ勝てないって…でもマスターの言った通りです。勝たなきゃいけない…もう修学旅行のようなみたいなことにならない様に、僕はもっと強くならなければいけないんです」

 

 ネギの決意や熱意にアスナも何も言えなくなった。

 

「それにな神楽坂明日菜、マギだって楽して強くなったわけじゃない。坊やの何十倍も辛い環境で修行した…普通の人間だったら死ぬかもしれない修行をな。マギの修行の辛さと覚悟を知らないで知ったような言い方をするな。今度またふざけた事を抜かすんだったらその口を引き裂くぞ」

 

 エヴァンジェリンの凄味のある口調や目線にアスナやアスナ以外の者達も思わず身震いをしてしまった。

 そんなエヴァンジェリンによせよエヴァとマギがエヴァンジェリンの肩に手を置いた。

 

「俺の事をそんなに言ってくれるのは有りがたいけどな、それじゃあアスナ達が怖がっちまう。アスナも分かってくれたと思うしそれ以上は止めてくれ」

 

「そうか分かった…おい神楽坂明日菜、マギに免じて今日は許してやる。だが今度の時は覚悟しておけ」

 

「わッ分かったわよ…マギさんもごめんなさい。何も知らずに好き勝手言っちゃって…」

 

「いいんだよ。俺は全然気にしていないぜ」

 

 マギが気にしていないという事で、この話は終わりにすることにした。

 

「さて…と今日の修行は此れぐらいにして、そろそろ飯にするか?アスナ達も着た事だしパァッと軽いパーティでもやるか?」

 

 マギのパーティと言う提案にアスナ達は大歓迎。そろそろおなかも空いてきた事だしパーティで盛り上がりたいものである。

 

「フン仕方ないな…今日は此れぐらいにするか。別に歓迎してはいないがとりあえずおもてなしはしておくか…」

 

「つれない事言うなよエヴァ、偶にはゆっくりする事も大事だぜ?」

 

 マギの言った事にまぁそうかと仕方なく頷いた。

 こうしてエヴァンジェリンの別荘では、軽いパーティを始める事にしたのだった。

 

 

 

 一方子犬を拾った夏美と千鶴は寮に戻って子犬を治療しようとしたが…

 

「ちづ姉大変!ちょっと目を話した間に犬が居なくなって、代わりに裸の男の子が!」

 

「…あらまぁ」

 

 子犬ではなく、腕に怪我をした犬上小太郎が寝ていたのだ。

 この小太郎が現れた事によって、ネギやマギに危機が迫っていることにまだ誰も気づいていないのであった…




この章では所々原作ブレイクをしていくつもりです


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マギとネギの過去  雪の日の悲劇

 エヴァンジェリンの別荘にて、マギの提案によりアスナ達を交えて軽いパーティを開いた。

 見た事の無い料理を舌鼓しながら特に古菲が多く食べていた。塔から見る夕日はとても綺麗で、心が洗われていく感じであった。

 カモもカモで、アスナ達の前では普通のオコジョのふりをすることも無いので、チャチャゼロと一緒に酒を飲んでいた。見た目はオコジョだがその中身はおっさんであるカモだ。チャチャゼロとはいい飲み仲間なのだ。

 パーティをやっている間、夕映はエヴァンジェリンに詰め寄っていた。何の話をしているかと言うと…

 

「――という事で、私達に魔法を教えてほしいのですが」

 

「魔法を私がか?なんで私がそんなメンドイ事をやらなければいけないんだ?マギや坊やに習えばいいだろう魔法先生なんだしな」

 

 夕映がエヴァンジェリンに自分とのどかに魔法を教えてほしいと懇願したが、エヴァンジェリンは面倒だと断りマギやネギに教えて貰えと返した。

 そういう事でエヴァンジェリンはマギとネギを呼んで、夕映とのどかに魔法を教えろと言ってきた。

 

「僕とお兄ちゃんで魔法を教えるんですか?」

 

「俺、他の奴に魔法を教えるなんてやった事無いし、上手く出来るか分からねえぞ」

 

 マギとネギは上手く魔法を教えられるか不安であったが、まぁ心配するとゴロゴロしながら本の読んでいるエヴァンジェリンは

 

「この別荘では外の世界よりも魔力が充溢してるから、素人でもポッと使えるかもしれないぞ?」

 

 という事でさっそく魔法を教える事にした。

 ネギは自分が持っている初心者の魔法の杖を夕映とのどかに渡した。

 

「では最初に教えるのは僕達が習う初歩的な魔法です。プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れです」

 

「まぁ俺が見本を見せるよ。 プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ」

 

 マギが見本で魔法を詠唱すると、杖の先から火が灯った。

 火が灯ったのを見てのどかと夕映は感嘆の声を上げる。

 

「まッこんな感じだ。と言ってもこんなの覚えるよりも百円ライターを使った方が早いんだけどな」

 

「いえ!自分の力で色々な事をしてみたいですし…」

 

「なんでもかんでも科学の力に頼ると言うのも面白くないです」

 

 のどかと夕映はマギが言っても、魔法を使えるようになりたいとそう言った。

 魔法使いになりたいという理由もあるが、本音は自分達がマギの役に立ちたいと言う思いもあるのだ。

 マギ達が初心者への魔法のレクチャーをしていると、和美や古菲このかまでもがやって来て、結局全員に魔法を教える事になったのであった。

 

「プップラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ!」

 

 のどかは最初の方で噛んでしまい、ちゃんとした詠唱が出来なかった。

 

「最初の方は誰だって出来ないもんさ。焦らず落ち着いて詠唱する事が大事だ」

 

「はッはい!分かりました」

 

 マギはのどかに力みすぎない様にリラックスして詠唱するように教えた。

 

「…成程、つまり魔力と言うのは水や空気などのこの世界にある万物のエネルギーという事なのですね」

 

「そうですね、大体あっています。そのエネルギーを吸う感じで体に取り込み杖の一点に集中するようなやり方が一番ベストです」

 

 夕映はネギに理論でどうやって魔法を発動させればいいのかを聞いてみた。

 ネギの言った通りに夕映は深く深呼吸をして、万物のエネルギーを体に取り込もうとしてみる。

 そして杖の一点に集中して

 

「プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ!」

 

 詠唱をする。が…

 

 シーン―――

 

 特に何にも起こらなかったのであった。

 

「いやまぁ夕映、そんな簡単には魔法を使う事は出来ないって」

 

 マギに言われて夕映は恥ずかしくなって顔を赤くする。

 他にも和美や古菲にこのかも試してみるが火が灯る事は無かった。

 

(まったく皆して何やってるんだか…)

 

 アスナは特に魔法が使えなくても別にいいかなと思っていた。

 中学生にもなって魔法の呪文を唱えるなんて少し気恥ずかしいとも思っていた。

 とアスナの足元に余りの杖が置いてあったので、アスナは何も言わずに杖を手に持った。

 手に持った杖をジーッと見ながら

 

「…プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れ」

 

 と軽く杖を振りながら詠唱してみた。が火なんて灯らなかった。

 何かやっていて照れくさくなったアスナ。

 

「如何した?何をやってるんだ神楽坂明日菜」

 

 エヴァンジェリンがニヤニヤとしながらアスナの一部始終を見ていたそうだ。

 

「うッ五月蝿いわね!ほっといてよ!」

 

 アスナは見られた恥ずかしさでムキになって返した。

 と火を灯そうとしても全然灯る気配が無く、古菲が成功したと思いきやライターであったりと色々であった。

 こうしてのどか達は火を灯すことなく夜になってしまったのであった…

 

 

 

 

 夜になってみな寝静まっていたが、殆んどが寝言でも魔法詠唱をしていた。夢の中でも魔法の特訓でもしているのであろうか。

 アスナがベットからムクリと起き上がった。トイレ…と呟いておりトイレの元へ向かった。

 アスナが階段を降りていくと広場の方からパシンッ!パシンッ!と言う音が響いていた。

 何なんだろうかと広場の方を見てみると、ネギが拳法をしながら無詠唱で魔法の射手を発動、次に雷の斧で床に置いてあった空き缶に雷の斧を振り落した。

 一通りやり終えるとネギは大きく深呼吸する。

 

「兄貴凄いですね!2・3ヶ月は掛かるって言っていたのにこんな短時間でものにするなんて」

 

「まだ駄目だよ、雷の斧の威力は弱いし無詠唱の魔法の射手も全然出てないし」

 

 カモが凄いとネギに言っているが、ネギ自身はまだまだ全然だとそう返した。それにこの別荘は外よりも魔力が充溢してるから出て当然だとも言った。

 また連携技の練習をしようとすると、軽い拍手が聞こえた。拍手が聞こえた方向を見てみるとアスナがこっちに近づいて来ていた。

 

「あアスナさん若しかして起してしまいましたか?」

 

「ううんアタシはトイレで起きただけだから。それにしても流石魔法先生、天才少年は違うわね」

 

 でも…アスナはネギのほっぺを思い切り引っ張って

 

「アンタは如何してそう簡単に無茶しようとするのかしら?もう少し自分の体を労わりなさい!」

 

「でッでも今日は皆さんと遊んじゃったから少しでもその分を…」

 

「遊びも立派な修行よ!アンタは頑張り過ぎなのよ馬鹿ネギ!」

 

 と何時ものようにアスナがネギを説教すると言う形になって、ネギが折れる形で今日は修業をすることを止めた。

 修行を止めたネギとネギに説教したアスナは夜の塔の景色を眺めていた。

 

「それにしても不思議よね、あれだけ騒いだのに外では20分位しか経っていないなんてね」

 

「そうですね…」

 

「これこそ魔法の力ってもんでさ姐さん」

 

 カモが魔法の力という事でしめた。

 ネギは夜景を見ながら何処か黄昏ていたが、アスナの方を見ながら

 

「あのアスナさん…ちょっと僕の話を聞いてもらってもいいですか?」

 

「えッなッ何?」

 

 ネギの何処か決意めいた表情に少し戸惑うアスナ。

 ネギはふぅと一息ついてからアスナの方を見ると

 

「僕が如何して頑張っているのかその理由を…6年前僕とお兄ちゃんが父さんと出会った時に何があったのかを」

 

 

 

「うう~お手洗いって何処にあるんだろう…」

 

 のどかもトイレに行きたくて何処にトイレがあるのか探していると、マギが塔の柱に寄りかかっているを見た。

 

「あれ?マギさん?何してるんですか?」

 

「ん?あぁのどかか…いやネギがな…」

 

 とマギが指を差しているのを見てみると、魔方陣の中でネギとアスナが額と額をくっつけあっていた。

 

「あ…ネギ先生とアスナさん。何やってるんだろう?」

 

「ふむ如何やら意識をシンクロさせる魔法だろう」

 

 背後からエヴァンジェリンの声が聞こえてマギとのどかはビクッ!としてしまった。

 

「エヴァあんまり気配消さないでくれよ。ビックリするだろうが」

 

「あぁすまないな。で坊やは何を神楽坂明日菜に見せようとしてるんだ?」

 

 エヴァンジェリンの質問にマギはあぁと何処か暗い表情になりながら

 

「6年前の事、ある意味俺とネギの人生が狂っちまった日って俺は考えているな」

 

「マギさんとネギ先生の」

 

「人生が狂うなんて何があったんだ?」

 

 狂うなんて言葉が出てしまったら嫌でも気になってしまう。マギはそうだなぁと呟きながら

 

「ネギのやり方に便乗するか…俺も一応仮契約をしたのどかや師匠でもあるエヴァには話そうと思っていたからな」

 

 そしてマギは夕映達の元へ向かった。行き成り起こすのは失礼だと思うが、魔法を知るとしたら自分達の過去も知ってほしいと言うのがマギとしての考えた。

 

「のどか、お前のアーティファクトでネギの頭の中を見てくれ。恐らくだけどネギの過去の出来事が見れるはずだ」

 

 そう言ってマギは夕映達の方へ行ってしまいマギの姿が見えなくなってしまった。

 

「はい、分かりました…アデアット」

 

 のどかはアーティファクトのいどのえにっきを出現させた。そしてえにっきを開こうとしたその時

 

「宮崎のどか…」

 

「はッはい!何でしょうかエヴァンジェリンさん?」

 

 行き成りエヴァンジェリンに呼びかけられ、のどかはおっかなびっくりでエヴァンジェリンの方を見た。

 エヴァンジェリンは何処か睨めつけるような目でのどかを見ていた。

 その目は何処か試しているような目のようにも感じたのどか。

 

「貴様はマギや坊やの過去を見て如何する?もしあの兄弟の過去が辛く残酷な過去であったら潔く身を引くか?それともマギを支えようとついて行くのか?」

 

 エヴァンジェリンの問いにのどかは

 

「…私はマギさんが私達のために傷ついてほしくないから、私はたとえマギさんの過去が辛く残酷であっても、私はマギさんを支えていきたいです。この気持ちに嘘はありません」

 

 のどかは正直に答えた。今言った答えは自分自身の本心である。

 のどかの答えを聞いてエヴァンジェリンはそうかと呟いた。その答えが自分が思っているのと同じだったのか満足げであった。

 

「宮崎のどか、お前は私が思っているよりも強い女だったのだな…ならお前は薄々分かっていただろう?私が……マギの事を好きだと」

 

 エヴァンジェリンのマギが好きだと言う告白にのどかは思わず身を固くしてしまった。

 

「…はい」

 

 エヴァンジェリンの言った事にのどかも肯定しながら首を縦に頷いた。

 のどかは薄々ではあったが、エヴァンジェリンがマギに好意を寄せていると言うのは分かっていた。

 そう思ったのは修学旅行の時に、エヴァンジェリンがのどかに『お前には負けぬ』とそう言っていた。

 最初は言っている意味が今一分からなかったが、あれから考えてエヴァンジェリンもマギが好きだと言う事が分かった。

 のどか自身はマギが好きな同士仲良くしようとも思っていたが、エヴァンジェリンの何処か冷たい雰囲気に話し辛かったのだ。

 だが今目の前に居るエヴァンジェリンはフッと不敵に笑うと。

 

「私は最初、お前なんか取るに足らない女だと思っていた。何時もモジモジしていてオッチョコチョイで何とも気の弱い女だと何回思った事か…だが今の答えを聞いてお前が強い女だと分かったよ」

 

「エヴァンジェリンさん…」

 

 のどかはエヴァンジェリンに認めてもらって何処か嬉しそうだった。

 

「エヴァでいい。宮崎のどか否のどか、私はお前を友と認めるのと同時に、好きな男を支える好敵手と認めよう」

 

「あッはい!宜しくお願いします…」

 

 スとエヴァンジェリンが手を伸ばし握手を求めて、のどかはエヴァンジェリンの握手に応じた。

 

「よろしくな。だが…マギはこの私が手に入れてやる。覚悟しておけ」

 

「のッ望むところです!」

 

 マギが知らない間にのどかとエヴァンジェリンは友になった他に、マギが好きな恋敵となったのであった。

 そしてマギが寝ていた夕映達を起すとのどかのえにっきに集まった。

 集まった事を確認すると、のどかはえにっきを開いたのであった。

 

 

 

 ネギの記憶、其処は雪の降るウェールズ・ペンブルック州の小さい山間の村、マギとネギが住んでいた村である。

 

「ってなんでアタシ裸なのよ!?」

 

『すみませんそう云う仕様なんです』

 

「雪降ってるのよ、風邪引いちゃうじゃない!」

 

『いえ、これは僕の記憶なので風邪をひく事は無いです』

 

「そういう事じゃなくて…」

 

 今のアスナはネギの記憶を除いているという事で、アスナ自身がネギの過去に干渉しているわけではないのだ。だからアスナが周りの人に見えると言う訳ではないのだ。

 だがまぁ裸と言うのは見られているわけではないという事だが、恥ずかしくは思っているのだ。

 アスナが喚いていると、誰かの話声が聞こえた。アスナは話し声が聞こえた方へ向かってみると、其処には4歳のネギと少し小さいネカネが居た。

 何の話をしているのか聞いてみると

 

「ねえお姉ちゃん、もう会えないってどういう事?お父さんは、遠いところへ引っ越しちゃったの?」

 

「そうね遠い遠い国に行ってしまったの。死んだという事はそういう事なのよ」

 

 小さいネギにネカネは何も隠さずにそう教えた。しかし小さいネギは

 

「じゃあ僕がピンチになったら、お父さんはお父さんは来てくれるの?」

 

 死と言う意味が分かっておらず、父親のナギがやってきてくれると無邪気に信じているようだ。

 ネギはナギがやってきてくれると信じており、ネカネはそんなネギを見てなんて返していいのか迷っているとアンタ馬鹿ねーと女の子の甲高い声が聞こえた。

 

「死んだ人間はもうやって来ないのよ。サウザントマスターの息子なのにそんな事も分からないのかしら?」

 

 今よりも小さいアーニャが腕を組みながらネギを小ばかにするような態度で言った。

 小馬鹿にされたネギはムッとしながらも

 

「そんな事無いもん!お父さんはきっと来てくれるよ!」

 

「アンタ死ぬっていう意味が分かってるの?だから馬鹿ねって言ったのよ!」

 

 ネギとアーニャが口喧嘩を始めて、アスナはアハハと苦笑いしながら

 

「あの子は誰?ずいぶんとおしゃまね」

 

『僕の幼馴染のアーニャです。僕より1つ年上ですが』

 

 ネギがアスナに軽くアーニャの紹介をしていると、口喧嘩を終えたアーニャがネギに初心者用の杖を渡した。

 

「ほらアンタにこの杖を貸してあげる。来年からアンタも魔法学校に入学でしょ?」

 

 それで少しは魔法の勉強でもしておきなさいとアーニャはネギを指差しながら言った。

 強めの口調だが、小さいのに世話好きなのねと、アーニャを見てクスリと笑うアスナ。

 とアスナはまだマギの姿を見ていなかった。

 

「ねえネギ、マギさんは如何したの?マギさんも一緒に住んでいたんだし、6年前って事は今のネギ位なのかしらね」

 

『アハハハ…この時のお兄ちゃんは…』

 

 ネギが乾いた笑みを浮かべているので、アスナは如何したのよと聞こうとした次の瞬間に、ネギとアーニャとネカネの目の前のお店が行き成り大爆発を起した。

 大爆発で店のドアが吹っ飛ぶのをネギやネカネにアーニャとアスナは思わずポカンとしてしまった。モクモクと黒煙が立ち上る中、黒煙の中から出て来たのは

 

「ゴホッ!ゲホッ!ゲホ!!やっべぇ大失敗だわ!」

 

 ネギと同じ赤髪の少年、過去のマギがむせながら現れた。如何やらこの爆発の犯人はマギだったようだ。

 

「くっそぉ今度は上手くいくと思ったのになぁ…」

 

 とブツブツ呟いていると

 

「コラァッマギ!この悪ガキがぁ!!」

 

 白いローブを着た長い口髭を蓄えた老人が怒鳴りながらマギに近づいてきた。

 老人を見たマギは顔を真っ青にしながら

 

「やっべぇスタンの爺さんだ!逃げろ!!」

 

 と慌てて逃げようとしたが、慌てていたせいで雪に足を滑らせて盛大に背中から転んでしまった。

 そしてスタンと言う名の老人にアッサリと捕まってしまって、説教と一緒に拳骨を喰らってマギは蹲ってしまった。

 

「けッ結構過激だったのね昔のマギさんって…」

 

『ハイ。そうだったんです』

 

 

 

「はぁ~懐かしいんだけどあの時の拳骨はマジで痛かったなぁ…」

 

 マギは頭を摩りながらそんな事を思い出していた。

 

「何かマギさんも普通の子供だったんだねぇ」

 

「と言うか玄関を吹き飛ばすなんてかなり過激な気がするですが」

 

 和美と夕映がそんな事を呟いており、マギはほっとけと返した。

 

「マギさんだってなぁ悪戯をするし、バカな事をするよ。そうやって間違いを正して大人になって行くもんなの。ほらのどかさっさとページを捲れって」

 

「はッはい!」

 

 マギに言われてのどかもえにっきのページを捲った。

 

 

 

 時間は少したって小さなパブの中、ギャグ漫画のような大きなたんこぶを作ったマギと、杖を持ったネギにネカネが食事をとっていた。

 カウンター席ではマギに拳骨を落としたスタンが酒を飲んでいたが、ひっくとしゃっくりをするほど飲んでおり、パブのマスターからも飲み過ぎたよと止められていた。

 

「たくあの馬鹿の息子のせいで散々な目にあったわい。あの悪がきが死んで少しは村も平和になると思いきや、その悪がきの一番息子がまた悪戯をするせいで、苦労を掛けられるばかりで迷惑な話じゃ」

 

「っけ、そんなに苦労をかけられたくなければ、さっさとおっちねば良いんだクソジジイ」

 

 拳骨を落とされたのを根に持っているのか、マギは聞こえるような小声でスタンに悪態をついた。

 そんなマギによしなさいと叱るネカネ。

 

「スタンさんも余りそういう事言わないで…まだネギだって小さいんだし」

 

 ネカネやスタンの話を聞いていたネギは飲んでいたミルクと一旦置くと

 

「お父さんってそんなに悪い人だったの?」

 

 子供らしい純粋な問いかけに、酔っていたスタンが、あぁ悪がきだったわいとそう呟きながら

 

「アイツがしでかした騒ぎの後始末を何回やらされたか…村が巻き込まれるなんてしょっちゅうだったわい。あの馬鹿が死んでせいせいしとるわい」

 

 スタンのナギが死んでせいせいしてるという言い方に、まだ小さいネギは黙ってパブの外に出て行ってしまった。

 自分の父親の悪口を言っている老人と一緒の場所には居たくないと言うのはまだまだ子供なのだろう。

 

「スタンさん言い過ぎだよ」

 

「ほんとの事じゃわいべらんめい」

 

 酔いが回ってきたのか、べらんめい口調で話し始めるスタン。

 出て行ったネギを心配そうにしていると、まだ食べ残しがあるのにパブの外に出ようとするマギ

 

「マギ何処行くの!?」

 

「何処って家に帰るんだよ。こんな嫌味を言ってるクソジジイが居る場所で飯なんか食えるかよ」

 

「おー帰れ帰れ、ワシもお前が居なくなったらせいせいするわい」

 

 クソジジイがと呟きながらマギは割と強めでパブのドアを閉めた。

 アスナはパブを出て行った小さい頃の兄弟を黙って見ていた。

 そして時間が一気に過ぎて1ヶ月後、ネカネとアーニャがバスに乗り込もうとしていた。

 

「元気にしてるのよネギ」

 

「ちゃんと魔法の練習しときなさいよ」

 

「うん分かった。行ってらっしゃい」

 

 ネギはネカネとアーニャが乗り込んだバスに向かって手を振り続けていた。

 

「あれ?お姉ちゃんは何処に行っちゃったの?」

 

『お姉ちゃんとアーニャはウェールズの学校に行っていまして、会えるのが偶の休みだったんです』

 

 そんな事を話していると、小さいネギは家に帰るとさっそく魔法の練習をすることにした。

 

「プラクテ・ビギ・ナル 火よ灯れー」

 

 ネギは詠唱しながら杖を振ると、火ではないが花火のような火花がパチパチと少しだけ出て来た。

 杖から少し出たとネギは喜びながら魔法の練習をしていた。

 一方のマギはと言うと

 

「ふッふッふッ」

 

 腕立て腹筋に格闘術の真似事をしながら体を鍛えていた。

 それにしても…とアスナは家の周りを見渡した。叔父の離れに事実上2人だけで住んでいるなんて何ともさびしいと思ってしまった。

 魔法の練習に飽きたネギは歌を歌いながら絵を描いていた。絵はサウザントマスター、ナギの絵であったが全然似てないことにアスナは思わず吹き出してしまった。小さい子が描く絵なんて此れ位だろうとそう思っていた。

 だがネギが絵を描いていてもマギはネギの絵なんか見る気もせずに何かを呟きながら計画書に色々な計画を書いていた。

 

「ねえお兄ちゃん、どんな事をすればお父さんがやってくるかなぁ?」

 

 しかしマギはあーすればこうする。こうすればこうなると呟いており、ネギの声が聞こえていない状態だった。

 ネギはねーお兄ちゃんとマギの服を引っ張り始めた。ネギが余りにもしつこく服を引っ張って来るからマギはしつこいと軽くネギを突き飛ばすと

 

「知るかよ。犬に追われたり冷たい池で溺れてたら助けに来てくれるんじゃないのか?」

 

 それだけ言うとマギは又ブツブツと呟き始めた。

 アスナはネギとマギを見て複雑な表情を表していた。この時のマギはネギに構っていなかった。

 そう…まるで無関心だったのだ。

 

 

 

「なんて言うか、マギさんネギ坊主に冷たいアルね。何であんなに冷たかったアルか?」

 

 古菲は何故冷たかったのかその理由を尋ねてみた。マギはそうだなぁと遠い目をしながら

 

「あの時の俺は色々と焦っていて、ネギの事が眼中になかったのさ」

 

「焦っていた…ってどういう事ですか?」

 

 のどかが何故この当時のマギが焦っていたのかその理由を尋ねると

 

「この時の俺は魔法学校を首席で卒業した。けどな周りの奴らは俺がクソ親父の息子と言うことで、首席で卒業なんて当たり前とか言ってる奴が殆どだった。生徒の中にも俺がクソ親父の息子というだけで陰口を言われる始末。俺はクソ親父の息子としか見られないでマギ・スプリングフィールド個人として見てほしかった。だから…」

 

「だから悪戯で目立とうとした…と。やっぱそう言う所は子供なんさね」

 

 和美の言ったことにほっとけと頬を掻いて返すマギ。

 けどなぁとマギは呟きながら

 

「クソ親父は子供の頃から悪がきだっらしくてな、俺が悪戯をしても結局はクソ親父の息子だからしょうがないとか、悪戯でも親父の影がちらつくんだ。だからあん時の俺は悪戯でもいいから親父を越えようとしたんだ」

 

 そのせいでマギはまだ幼いネギに対して構ってあげなかったのだ。

 マギは昔の自分がバカらしく思えるぜと深い溜息を吐いた。

 

「本当に俺は昔の俺自身を殴り飛ばしてやりたいぜ。たった一人の大切な弟に対して無関心だったんだからな…この時のネギは本当に純粋だった。だから俺の言った適当な事をやれば本当にクソ親父が来てくれると信じていたんだ」

 

 のどかがまたえにっきのページを捲ると、ネギが苦しそうに寝込んでいる姿があった。

 

 

「お父様!ねッネギが池で溺れたって本当ですか!?」

 

 学校から血相を変えて戻ってきたネカネは、ネギが溺れたが大事は無いのかネカネの父親に聞いた。

 

「あぁ心配いらないよ。40度の熱を出して寝込んでいるが、命に別状はないはずだ」

 

 ネカネの父はだから心配するとネカネを安心させようとした。

 ネカネもネギが無事だと分かると力が抜けてしまい、ペタリと座り込んでしまった。

 

「まったく本当に呆れるわい。普通の人間だったら死んでおったぞ。そこはあの悪がきの息子って言う訳じゃな」

 

「他にも犬に悪戯して追われたり、木から飛び降りたりと。まぁ元気がある事は良い事という事であんまりお咎めはしないという事で」

 

 スタンやネカネの父にその他ネギを心配して見舞いに来た村の人達はネギが大丈夫だと分かると、外に出て行った。

 残ったのは寝込んでいるネギとネギの手を取っているネカネ。そしてマギであった。

 

「まったくもぉ…何で危ない事をしたのネギ?」

 

 ネカネは優しくネギの頭を撫でまわしながら如何して危ない事をしたのか聞いてみると

 

「あの…ね、お兄ちゃんが危険な事をすれば、お父さんが来てくれると教えてくれたから僕、色々とやってみたんだけど…お父さん結局来なかったんだ」

 

 それを聞くとネカネは目に涙をためて、バカ…ネギ…とネギの体に手を置いてすすり泣いた。

 

「ネギ…もうこんな事をしないで…お願いだから…」

 

 ネギはネカネは自分が泣かせたと小さいながら理解して

 

「ごめんなさい…もうしないから泣かないでお姉ちゃん…」

 

 暫くの間、ネカネのすすり泣くのとネギのごめんなさいが続いたのであった…

 ネギが疲れてしまって寝息を立てたのを確認すると、ネカネはマギに近づいた。

 そしてネカネはマギの頬を平手で叩いたのだ。

 

「マギ!貴方は何でネギにあんなことを言ったの?下手したらネギは死んでいたのよ!?」

 

 ネカネに肩を掴まれ揺すられながら怒らているのに、マギは舌打ちをしながら

 

「知るかよ。アイツが一々五月蝿かったから適当な事を言ったんだよ。自分でも危ないって分かっていてやってたんだ。自業自得だ俺は悪くないね」

 

 全く反省していないマギ、ネカネは思わずマギの肩から手を放してしまった。

 

「如何してマギ、ネギは貴方のたった一人の弟なのよ?なのになんでそんなに冷たくするの?」

 

 ネカネはマギに何故と聞いても、マギはうるせぇンだよ!とネカネに怒鳴り返した。

 

「何で冷たくするかって?うるせえんだよ!見てて苛々するんだよ!俺とネギは親父に捨てられて今の今迄まで生きて来たんだ!今まで話してなかったげどな、俺は学校で何時も陰口されてたんだよ。何やってもサウザントマスターの息子だからできて当たり前だとか、サウザントマスターの息子だから何やっても出来てムカつくってな!嫌がらせも受けた、それにアイツ等は俺とネギに親が居ないって事でバカにされた。卒業しても誰も俺個人を認めようとしない皆サウザントマスターの息子だからって事で片づける!だから俺が嫌だったんだ!それなのにネギは俺にお父さんは何処?お父さんは如何すれば会えるの?いつもいつもいつも聞いて来て!俺がどんな事をされたのか知らないで…こんな奴死んだ方がせいせいするよ!!」

 

 マギは怒鳴り終えると何も言わずに外へ飛び出して行った。

 ネカネは追いかけようとしたが、追いかける事が出来なかった。マギがそんな事をされていたなんて知らなかったのだ。否マギはネカネやネカネの父親に迷惑をかけてはいけないとそれで自分の悩みを打ち明けなかったのだろう。

 ネカネ自身マギは大丈夫だろと何処か安心していたのだ。安心しきっていたせいでマギは今の今迄潰れそうなのを耐えていたのだ。

 

「ごめんなさいネギ…ごめんなさいマギ…」

 

 ネカネは寝ているネギと出て行ってしまったマギにゴメンナサイを言い続けていた。

 アスナは何処か居た堪れない気持ちになってしまった。

 

『すみませんアスナさん。なんかお見苦しい所を見せてしまって』

 

「え?うッううん大丈夫よ気にしないで。でもマギさんも結構悩んでいたのね」

 

『はい…昔の僕は今より子供で、どちらかと言うとお父さんの事をよく考えていました。でも時々お兄ちゃんが父さんの事を聞くと凄く怖い顔をしていたのを少しだけですが覚えています』

 

 そして時間はさらに進み、ネギが風邪で寝込んでから3ヶ月経ったと言うのに村では雪が降り続けていた。

 

「まだ雪降ってる。もう春が近いって言うのに雪が降るのね…随分とこの記憶に付き合っちゃたわね」

 

 小さいネギやマギの事が色々と分かったなとそう思っているとバスが止まって、ネカネが降りてきた。

 

「1ヶ月ぶりね。ネギとマギは元気にしてるかしら…」

 

 1ヶ月ぶりに帰ってきて、ネギとマギが元気にしてるかネカネは気になっていた。

 あの風邪の後、ネギとマギは一応仲直りをしたが、マギは未だにナギの事に対しては許していなかった。

 それでもネギに対する無関心な所か少し治ったようである。

 仲良くやってると良いんだけど…と呟いて笑うネカネ。

 …とその時である。

 

「あら?…何かしらあれ?」

 

 ネカネは村の方向を見てみると、村の上空では黒い大きな鳥のような物体で埋め尽くされていた。

 

 

 

 村の近くにある大きな池で、ネギは魚釣りをしていた。

 

「あッそうだ、今日はお姉ちゃんが学校から帰って来る日だ!」

 

 ネギはネカネが帰って来ることを思い出して魚釣りを止めると、村へ駈け出して行った。

 

(ホント、可愛いもんね。此れ位小さいとまだまだ無邪気ねぇ)

 

 アスナは元気に走っているネギを見て無邪気だと微笑みながらそう思った。

 丘を登りきれば村が見えてくる。

 

「お姉ちゃーん!」

 

 ネギはそのまま丘を駆け下りようとしたその時、ブワァと行き成り熱風が巻き起こりネギが被っていた帽子を吹き飛ばしてしまった。

 ネギは思わず顔を手で覆ってしまったが、手を戻して村見てみると…村が炎に呑まれていた。

 

「なッなによこれ…!?」

 

 アスナは呆然としながら炎に呑まれている村を眺めていた。

 

 




今日は長くなりそうなので一旦切ります
次回は若しかしたら短くなるかも


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雪の日の悲劇 受け継がれる思い

 ネギの目の前で村が炎に呑まれていたのをネギとアスナは呆然と眺めていた。

 何故村全てを巻き込むような大火事になったのか見当がつかない。

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃーん!」

 幼いネギはネカネを探し始めた。

 もしかしたらネカネはこの火の中に居るのではないかと思ったからだ。

 

「ちょ!ネギ!?危ないわよ!戻ってきなさい!!」

 

 アスナは炎の中を駈けるネギに戻ってこいと叫んだが、いかんせんこれはネギの記憶であり、アスナが干渉できる訳ではないのだ。

 仕方なくネギの後をついていくアスナ。

 しばらく駆け回っていると、ネカネの父親の姿が見えた。回りには村の住民の姿も見える。この火事は村で何か起きたようだ。

 

「おじさん!何があったの!?おじさん!おじ…さん?」

 

 ネギの大声になにも反応見せないネカネの父。

 ネギは少しずつ近づいて思わず立ち止まってしまった。ネカネの父親や村の住民達は皆石になってしまっていたのだ。

 

「これって修学旅行と同じ…」

 

 アスナの言う通り、石化の魔法である。

 ネギは何故おじさんや村の人達が石のようになってしまったのか理解できなかった。

 とその時、ネギの後ろの方からズシンズシンという足音が聞こえてきて、ゆっくり振り替えると其処には様々な魔物が大勢いた。筋肉達磨のようなごつい悪魔もいれば、スライムみたいに液体状の魔物。その数千は優に越えるだろう。

 幼いネギでも理解した。この魔物達がおじさんや村の人達を石にしてしまったのだ。

 逃げなければ自分も石にされてしまうか…下手したら殺されてしまう。

 だがネギは逃げようとしても足が言うことをきかなかった。

 

「ちょネギ!何ボケッと突っ立てるのよ!?早く逃げるわよ!」

 

 アスナはネギの手を取って逃げようとするが、ネギの体をすり抜けてしまう。

 そうだった…これはネギの過去でただ自分はなにもできないんだと思いだし、アスナは何もできない歯痒さに顔を歪めてしまう。

 その間にも筋肉達磨のような悪魔がネギに手を伸ばし今にも捕まりそうになったその時

 

「魔法の射手 連弾・闇の22矢!!」

 

 ネギを捕らえようとした筋肉達磨の悪魔に闇の魔法の矢が直撃、悪魔も思わず怯んでしまう。

 悪魔が怯んでいる隙に誰かがネギに近づくと、ネギを抱き抱えて一目散に退散した。

 その誰かというのは

 

「おいネギ!大丈夫か!?しっかりしろ!」

 

 マギがネギを助けてくれたのだ。お兄ちゃん…とネギは半ば呆然としながらマギを見上げながら

 

「お兄ちゃん村が村が…」

 

「あぁ分かってる。俺も今日は村を離れてて、ネカネ姉が帰ってくるのを思い出して村に帰ってみたらこの有り様だ。俺も何が起こってるのか訳が分からねぇ!」

 

「おじさんや村の皆が石に…石みたいになっちゃった…」

 

 ネギはおじや村の人達が石になったのを思い出してガタガタと震えだした。

 

「俺も村を回っていて、村の殆どの奴が石になっちまってた。原因はもしかしなくてもあの悪魔や魔物たちの仕業だ。恐らくだが…村で無事なのは俺達しか居ないかもしれない…」

 

 マギの悲痛な表情を見て、ネギはごめんなさい…ごめんなさい…と呟き始めた。

 

「僕が…僕がいけないんだ。僕がピンチになればっていつも思っていたからこんな事に…おじさんや村の皆が石になっちゃったのは僕のせいなんだ」

 

 まだ小さいのに自分のせいだとそう思い込んでごめんなさい…ごめんなさい…と呟き続けるネギに対してマギが馬鹿野郎!!と怒鳴った。

 ネギはびくつきながらマギの顔を見たが、マギは怒鳴ったのに怒った顔ではなく寧ろ悲しい表情を浮かべていた。

 

「ネギ、お前はなにも悪くない。寧ろ悪いのはこの俺だ…俺が親父を越えようなんてバカな事を考えて、お前に対して無関心であまつさえお前が危ない目にあったのに、俺は悪くねぇなんて言う始末…俺が悪ぶっていた罰なんだよ…おじさんや村の奴が石になっちゃったのは俺が悪かったんだ。すまねえネギ…」

 

 だからとマギは決意を決めた表情でネギを見ながら

 

「今更…本当にいまさらだが、俺がネギを守る。親父みたいなヒーローにはなれないが、大切な弟一人位は守ってやるよ」

 

 マギの表情は今までのようなネギに無関心で冷たい表情でなく、弟を守ろうとする兄の顔になっていた。

 ネギを担いで逃げてるマギへ小悪魔やスライムのような小さい魔物が襲いかかって来た。

 

「どけぇッ!」

 

 マギは襲い掛かって来る魔物達に向かって魔法の矢や、 簡易的な魔力供給の身体強化を使った格闘術で魔物達を蹴散らしていった。

 倒そうなんて思っていない。今は村から逃げることを専念することにした。

 自分はただ見守るしか出来ないアスナは目の前のマギとネギが無事に逃げ切れるように祈ることしか出来なかった。

 しかし流石はネギの兄なだけはある。迫り来る魔物達を次々に蹴散らしているのだ。この調子なら無事に逃げられる。そうアスナは思い込んでいた。

 …だがアスナのその考えは甘かった。

 

「!ネギ!!」

 

 突然マギがネギを前に放り投げた。ネギは何故放り投げられたのか最初は分からなかったが、地面におちた時にネギは理解した。

 マギが怯ませた筋肉達磨の悪魔が、マギに追い付いており巨木のような否、巨木そのものの腕がマギに向かって降り下ろそうとしていたのだ。

 

「このクソッタレ!」

 

 マギは素早く魔法障壁を展開して、悪魔の攻撃を防いだ。

 だがとっさに展開した障壁なため、マギの障壁は脆かった。剛腕によって確実に障壁が破壊されており、そして…障壁が砕けた。

 

 ミシミシミシィ… ゴキィッ!!

 

 悪魔の剛腕とまだ小さいマギの細い腕がぶつかり合い、マギの腕の方から骨が軋む音から何かが折れる鈍い音へと変わった。

 悪魔はマギをいとも簡単に殴り飛ばすと、マギは錐揉み状に吹っ飛ばされて、建物の壁に叩きつけられてしまった。

 

「お兄ちゃん!」

 

「まッマギさん!」

 

 ネギとアスナは殴り飛ばされたマギの元へ駆け付けた。

 駆け付けて、近づいてマギが無事かどうかを確かめると、ネギは絶句アスナはヒッ!と短い悲鳴を上げた。

 アスナが何故悲鳴を上げたか、それはマギの右腕が折れていたのだ。それも曲がらない方向へ盛大に折れ曲がっていた。余りのむごさにアスナは思わず後ずさる。

 

「お兄ちゃん…うッ腕が!」

 

「はは…心配すんな、片方の腕が折れただけだ…障壁のおかげでダメージを最低限減らしたから、腕が折れた以外平気だ」

 

 マギが平気だと言っているが、腕が折れてしまっていてはパワーが半減されてしまうだろう。

 マギは折れた右腕を押さえながらゆっくりと立ち上がっていると、マギを殴り飛ばした悪魔がゆっくりと近づいてきた。

 

「くそこれまでか…ネギ、コイツは俺が食い止める。だからお前は早く村から逃げろ」

 

「いッ嫌だよ!お兄ちゃんと一緒に逃げないと僕は嫌だ!」

 

「駄目だ、今の俺は片腕を動かせない。正直お前を護れる自信が無い…だからネギだけでも逃げろ」

 

 マギがネギだけでも逃げろと言ってもネギは嫌だと言い続ける、その間にも悪魔は今度こそ仕留めようと、腕を振り上げた。今度は確実に殺すつもりのようだ。

 

「ちょ!ネギとマギさんがピンチじゃない!誰か早く助けに来なさいよ!!」

 

 アスナの叫びも虚しく、悪魔はその剛腕を振り下ろした。

 此処までかとマギとネギはギュッと目を瞑った。とその時

 

 ドンッ!!

 

 ローブを着た何者かがマギとネギを護るように颯爽と登場。片腕で悪魔の剛腕を受け止めていた。

 ローブを着ており誰だが分からなかったが、剛腕を受け止めた衝撃波でフードが飛ばされてしまい、マギやネギと同じような赤髪が姿を現した。

 

「あ…あの人はッ!」

 

 アスナはマギとネギを助けた赤髪の男が誰だか分かった。2人の父親でサウザントマスターとも呼ばれているナギ・スプリングフィールドである。

 ナギは悪魔の腕を受け止めながら詠唱を始め、魔法を放った。

 

 ――雷の斧!!――

 

 ネギが放った雷の斧よりも何倍も大きい雷の斧が悪魔に向かって振り落された。

 悪魔は何の防御も出来ずに雷の斧によって両断されてしまい、塵となって霧散した。

 いとも簡単に仲間の一人を倒したことにより、遠くから様子を見ていた魔物達はナギが只者ではないという事を理解した。一気に仕留めようと魔物達が一斉に攻めてきた。

 その数は軽く千体は居る模様、幾らサウザントマスターと呼ばれているナギでも一人で魔物達と戦うのは無謀すぎる。

 …かに思われたが、ナギはまるで赤子の手を捻るかのように魔物達を次々と蹴散らして行った。余りの圧倒的な強さにネギやマギ、アスナも呆然としてしまう。

 

 ――雷の暴風!!――

 

 またもやネギ使っている最大魔法、雷の暴風の倍以上の威力をナギは発動して、ナギが放った雷の暴風によって魔物達は吹き飛ぶか消滅してしまった。

 ナギが雷の暴風を放った後は、殆んどの魔物が黒焦げで炭化してくたばっていた。ナギは辛うじて息がある悪魔の首を持って持ち上げていた。

 

「フフ…そうか貴様はあの…成程な、この力の差ではどちらが化け物か分からんな」

 

 悪魔はニィィと笑いながら言っているが、ナギは何も答えなかった。代わりにこれが答えだと悪魔の首をへし折った。ゴキィと言う骨が折れる鈍い音が嫌に響き渡る。

 

「なッなんかナギさんが変…?」

 

 アスナはナギが何処かおかしいと感じ取った。自分が前に見た夢でのナギは優しい感じがしたが、今自分が目の前で見ているナギはいくら敵だからと言っても簡単に首をへし折り殺すなんて怖いとも思えた。

 現にネギは目の前で敵だった悪魔が首の骨を折られてぐったりとしているのを見て怖くなり、震えながら思わず逃げ出してしまった。

 

「おッおいネギ!一人でどっか行くな!」

 

 マギは折れた右腕を押さえながら一人で逃げ出したネギの後を追った。その後をアスナが追う。

 マギの後を追いながらアスナはチラともう一度ナギの姿を見たが、今はそれよりも恐怖によって先に逃げ出してしまったネギを追いかける事の方が大切である。

 

「待てネギ、待つんだ!まだあの魔物達の生き残りがいるかもしれないんだぞ!」

 

 マギの言う通り、ナギが粗方倒したといっても全滅させた訳ではないのだ。何処かに隠れているかもしれないのだ。

 マギが言ったのと同時に、瓦礫から生き残りの悪魔1体とスライム3体が現れたのだ。

 悪魔はマギとネギを発見すると口をガバッと開き、エネルギーを溜めるとマギとネギに向けてビーム状の魔法が吐き出された。

 一瞬の出来事で、マギは障壁を張る事が出来ず今度こそお終いだと思ったが、マギとネギの元へスタンとネカネが間一髪で助けに来てくれて、レジストの魔法を発動しビームを防ごうとした。

 だが悪魔のビームが強力だったのか、2人のレジストでも全く歯が立たず、かなりの速さで石化していくスタン。ネカネはそこまで石化は激しくないが、足が完全に石になってしまった。ネカネはレジストの魔法で殆どの魔力を消費したのかよろめきだし、ネカネが倒れそうになったのと同時にバキィ!と石になってしまった両足が砕け散ってしまった。

 

「ネカネ姉!」

 

 マギは背中から倒れそうになったネカネを、左腕だけで何とか受け止めてあげた。

 ネカネが戦闘不能になったと分かると、悪魔とスライムたちは一斉に攻撃を仕掛けてきた。

 しかしスタンはまだ奥の手を残しており、残りある魔力と最後の力を振り絞り懐から星のマークが描かれている小さな瓶を取り出すと悪魔達へ投げつけた。

 

「六芒の星と五芒の星よ 悪しき霊に封印を 封印の瓶!」

 

 スタンが詠唱を終えると、瓶の蓋が開いて悪魔とスライム達をかなりの勢いで吸い込んで行った。悪魔たちが完全に吸い込まれると蓋は独りでに閉まり、ゴトンと地面に落ちる瓶。

 

「これで一応安心だわい…うぐ」

 

 一安心だとは言っているが、スタンは殆どが石化しており人の部分は胸から上だけであった。

 

「無事がぼーず共」

 

「おッおじいちゃん!?体が皆みたいに石に…!」

 

「スタンのじーちゃん、大丈夫なのかよ!?それ元に戻るのか!?」

 

 マギが戻るのかと言ってもスタンは否無理じゃろうな…と首を横に振った。

 

「あの魔物どもを召喚したのは恐らくナギに恨みを持った奴らじゃろうて、この村の殆どの住民はナギを慕っているクセのある奴も多かったからのう。下位悪魔でありながらあの数に強力さ、相手は並大抵の術者じゃないじゃろう。この村の奴らが集まれば軍隊1個大隊ほどの実力はあると言うのに…平和すぎて腕が鈍っちまったようだわいべらんめい…うぐ!」

 

 スタンの石化が更に早まり、人間の部分が段々無くなっていった。

 

「この石化も強力じゃ…治す方法は無いじゃろう。よかったなマギ、ワシみたいな口煩い爺の怒鳴り声をもう聞かなくてすむのう」

 

「…なに馬鹿な事言ってるんだよじーちゃん、何時もくたばれとか言ってたけどそんなの口だけに決まってるだろう!?じーちゃんも石なんかにならないでくれ!頼むよ…お願いだから…」

 

 マギは何時もスタンに生意気な口をきいていたが、今思えばスタンは自分の事をただのナギの息子と言う訳ではなく、マギ本人として馬鹿なガキとして見てくれていた数少ない人物の一人だ。

 そんな大切な人をマギは失いたくなかった。マギそしてネギもスタンに石にならないでほしいと懇願した。

 

「そんな馬鹿な事言ってるんじゃないぞこの馬鹿坊主共め。頼むから逃げるんじゃ…どんなことがあってもお前らを護るとあの馬鹿へのワシの誓いなんじゃ」

 

 スタンは顔に汗を浮かべながら苦し紛れにニッとマギとネギに笑いかけた。そして無事な治癒術者を探せとマギとネギに言った。

 ネカネの石化を早く止めないとネカネも直ぐに石になってしまう。

 

「さぁぼーず共、こんな老いぼれ何かほっといて…はや…く…にげ」

 

 スタンは遂に石になってしまった。ネギはおじいちゃんおじいちゃんと石になってしまったスタンの体を揺すってみるが、石になってしまったスタンに何をやっても無駄であった。

 マギは静かに涙を流しながら左腕で何回も地面を殴り続けた。手が血で滲んでもマギは構わず殴り続けた。

 だが今はこんな事をやっていたらネカネがスタンと同じように石になってしまう。それだけは絶対に嫌だ、ネカネだけは絶対護ると悲しい気持ちを無理やり引っ込めて治癒術者を探す事にした。

 ネギじゃ体格差的にネカネを運ぶのは無理であったので、マギが担いで運ぼうとしたが右腕が折れているために上手くネカネを運ぶことが出来なかった。時間が迫っているせいで焦る2人、とその時誰かが此方に近づいて来る足音が聞こえてきた。

 まさか悪魔の生き残りじゃと思っていたが、振り返ってみるとローブが魔物達の血で汚れてたり所々焦げてボロボロになっていたナギが立っていた。

 

 

 

 

 村が見渡せる丘にて、村は完全に火に呑まれており夜になっても村だけは炎によって明るかった。

 丘にはマギにネギ、石化が治ったネカネ。そしてマギ達を助けてくれたナギが居た。

 ナギは炎に呑まれている村を黙って見降ろしていた。

 

「…すまなかったな。来るのが遅すぎた」

 

 今迄黙っていたナギは振り返りながらすまないと謝った。

 確かにナギがもう少し早く来れば助けられる人が居たかもしれない。だがそれは結局は結果論にすぎないのだ。

 ナギが1歩づつ近づこうとするとネギがネカネを護ろうと、初心者の杖を持ちながら立ちふさがる。

 ネギは目の前のナギが自分の父親だとまだ知らない。だから目に涙を溜め足が震えていながらもネカネを護ろうと精一杯だった。

 ナギはネギの顔をジッと見た。自分とそっくりな顔にそうか…お前がそうか…と呟いた。

 

「お前がネギなのか…」

 

 ナギは少しづつ近づきネギの近くまで来た。

 そしてネギに向かって腕を伸ばしてきた。ネギはギュッと目を瞑ったが何も起こらなかった。代わりに頭に優しい感触が伝わってきた。

 

「お姉ちゃんを護ろうとしたのか…大きくなったんだな」

 

 ナギの優しい声にネギは思わず顔を上げた。

 あぁそうだとナギは自分が持っていた杖をネギに渡した。今ネギが使っているあの杖である。

 

「この杖をやろう。俺の形見だ」

 

 そう言いながらナギはネギに自分の杖を手渡した。がまだネギには重すぎたのかちゃんと持てずに手から落ちてしまう。

 

「ははやっぱり重すぎたか、そりゃそうだよな…悪いがもう時間が無い。ネカネは石化は治したから大丈夫だ。後はゆっくりと治してもらえ」

 

 それだけ言うと、ナギは立ち去ろうとした。だが待てよ…と今迄黙っていたマギが口を開いた。

 

「今の今迄何やってたんだ親父、俺達を放っておいて挙句の果てにはこんな俺達が死にそうになって、スタンのじーちゃんオジサンたちが石になっちまったと言うのに、そうやって遅い登場をして俺やネギを助けるなんて…まだ自分をヒーローとか思ってんのか!?英雄気取りもいい加減にしろ!テメェの子供を放っておいて何が英雄だこん畜生!!」

 

 マギは今迄溜まっていたナギに対する怒りや悲しみなどを一気に爆発させた。ナギは黙ってマギの怒りの叫びを聞いていた。

 ナギは黙ってマギに手を伸ばそうとしたが、気安く触るな!とマギが手を叩いた。

 

「…そうだよなマギ、俺はお前やネギを放っておいて今更父親面するなんて…むしのいい話だよな。すまなかったなマギ」

 

 そう言うとナギはマギを強く抱きしめた。マギは抱き着いてきたナギから離れようとしたが、マギの力じゃナギを振りほどけなかった。

 とその時マギの頬に何か冷たい粒が一つかかった。何だろうとマギは思った。雪は今は止んでおり、自分の頬にかかった冷たい粒の正体が分からなかった。

 

「だからマギ、お前は俺みたいになるな。大切な者を護れなかった男にはな」

 

 そう言うとナギはネギにこっちに来いと手招きした。

 ネギがやってくるとナギは。マギとネギの額に指を当てた。

 指先から優しい温かい物が体中に廻って行くような感じがした。体中から力が湧いてくるようなそんな感じだ。

 

「今のはおまじないだ。俺よりも強くなって大切なヤツを皆護れるような強い男になってくれ…そんなおまじないだ」

 

 そう言い終えると、ナギは浮遊術で夜空に飛び出した。ネギは飛んで行くナギを思わず後を追い始めた。

 

「こんな事言えた義理じゃないが、元気で育てマギ、ネギ…幸せにな」

 

「お父さん!」

 

 ネギはナギを追いかけようとしたが、躓いてしまい顔面を地面にぶつけてしまった。

 顔を上げると、もうナギの姿は何処にも無かった。

 

「お父さん…お父さぁぁぁぁぁん!!」

 

「クソ親父の…バッカ野郎が…!!」

 

 ネギは夜空に向かって泣き叫び、マギは小さく呟きながらも嗚咽に交じって涙を流していた。

 そんな2人をアスナも静かに涙を流しながら見ていたのであった。

 

『…すみませんみっともない所を見せてしまって』

 

「えッああうん!」

 

 今のネギがすみませんと謝ってアスナは思わず返答が出来なかった。

 少しの間沈黙が続いたが、アスナは尋ねた。この後はどうなったのかと

 

『あの後3日後に僕とお兄ちゃんお姉ちゃんは救助されて、ウェールズの山奥にある魔法使いの町に移り住むことになりました。そこで僕は5年ほどの間は魔法学校にて勉強の毎日でした。お兄ちゃんは山奥で魔法を修行をしていて、家に帰って来るのが1ヶ月に1回あるか無いかでした』

 

「村の人達はどうなったの?」

 

 アスナは石になってしまったスタン、ネカネの父親に村の住民はどうなったのか尋ねるがネギは分かりませんと答えた。

 

『お姉ちゃんや学校の校長先生は僕に心配しなくてもいいと言っているだけで子供の僕には教えてくれませんでした』

 

 それからとネギの話は続く

 

『僕はあの雪の日が怖くて、何故だが勉強に打ち込むことになっちゃいました。お父さんがくれたおまじない…そのおまじないの為に僕は強くなって大切な人を護ろうと思ったんです。そしてまた父さんと会えるように強くなろうと…』

 

 その強くなろうと言うのが、今のネギに繋がっているのだろう。アスナはそう思った。

 でも…とネギは何処か沈んだ気持ちになりながらこうも言った。

 

『今でも思い出すんです。あの雪の日の出来事を…僕は時々思うんです。いつもピンチになったら父さんが来てくれて、僕を助けてくれるなんて思っていて、皆に迷惑をかけた僕への天罰じゃないかって…』

 

 ネギがまた自分が悪いと自己嫌悪に陥った。

 そんなネギにアスナは、思わずネギの肩を強く掴みながら

 

「何言ってるによ!?今の話であんたのせいだった所なんて1つもないじゃない!それなのにまたそうやって、自分が悪いなんて…ばっかじゃないの!?」

 

「あッアスナさん…」

 

「大丈夫よ!お父さんは生きてたんだからまた会えるわよ!!アタシがあんたのお父さんともう一度会えるように協力するから!」

 

「アスナさん…ありがとうございます」

 

 ネギはアスナが協力してくれるということで、ありがとうと気持ちを込めてアスナにお礼を言った。

 とネギの後ろの方から大勢のすすり泣く声が聞こえてきて、後ろを振り替えるとのどか達が全員号泣しておりネギとアスナはビックリした。

 

「まさかネギ君やマギさんにそんな過去があったなんてねぇ」

 

 和美が涙をハンカチで涙をぬぐいながら、よし決めた!と何かを決めたようで

 

「ネギ君!私もお父さん探しを協力するよ!」

 

「私もネギ坊主の老師として協力するアル!」

 

「ウチも協力するえー!」

 

 ネギやマギの過去を見て、和美達はナギ捜索のお手伝いをするといいだし始めた。

 ネギはエヴァンジェリンになんとか言ってもらって、捜索の手伝いを止めさせてもらおうと思った。がしかし…

 

「いや…まぁ、私も協力してやらんこともないが…ぐす」

 

 エヴァンジェリンはエヴァンジェリンで、初恋の相手でもあるナギが生きている事が分かったのが嬉しくてばれないように涙を拭いていた。

 

「よーし!そうと決まれば、ネギ君とマギさんのお父さんが見つかることをねがってもういっちょ乾杯!」

 

『かんぱーい!!』

 

 和美の音頭で 2回目の宴会が開始された。

 ネギが止める前にもうネギとマギに協力してくれる雰囲気になってしまい、どうするかネギは迷っていると、なぁネギ…とマギがネギに

 

「お前がアスナにあの雪の日の事を見せたのは、本当に俺達に関わっていいのかもう一度考え直してほしかったんだろ?」

 

「うん。魔法の世界がどんなに危険か改めて見てもらって、本当に僕達に協力するか考え直してもらいたかったんだ。僕もアスナさん達を絶対に守り通すとは言えないから…」

 

 ネギが自身なさげにな声で呟いた。そんなネギをやれやれだぜ…と呟きながらマギはネギの頭に手を置いて軽めにグシグシと撫でまわした。

 

「わぷ…ッ!」

 

「ネギはそう言う所が優しいよな…だから俺はお前の事は安心できるんだ。アスナだけどな、お前がいくら突き放そうとしてもああいう奴はついて行くって言ったら最後までついて行くつもりだぞ?一度決めた事は最後までやり遂げそうだしな…和美や古菲達もそうだ。アイツ等は面白半分もあるだろうが、基本お人好しだ。それも超が付くほどのお人好しだな…お前が困っていたら手を差し伸べてくれるはずだ」

 

 だから…さとマギはフッと笑いながら

 

「今はその厚意に甘えて力になってもらおうぜ?俺達にしか出来ない事があるように、俺達じゃ出来ない事があるんだ。それをアイツラに助けてもらおうじゃねぇか。その代り…アイツ等を絶対護らなきゃな」

 

「お兄ちゃん…そうだね!僕達でアスナさんを絶対に護りきるんだ!」

 

 マギの言った事にネギは力強く頷いた。何だかみんなでやればナギにもう一度会える…そんな気がしてならない。

 

「おれっちを忘れないでくだせぇお二人方!俺っちも兄貴と大兄貴をしっかりサポートするでさ!!」

 

 カモがネギの肩に乗りながらしっかりお手伝いすると言い切った。

 

「あはは、うん改めてよろしくねカモ君」

 

「お前の情報把握能力はかなり強力だ。期待させてもらうぜ」

 

 勿論でさ!とふんすと胸を張るカモ。そんなカモにマギとネギは笑みを浮かべた。

 

「ところで…姐さんたちは何時までどんちゃん騒ぎをするつもりなんですかねぇ?」

 

 カモがギャグ汗を流しながら、いまだにどんちゃん騒ぎをしているアスナ達を見て何時まで続くのかとぼやいた。

 ネギとマギもはははと乾いた笑みを浮かべながら

 

「アスナさん達元気あるなぁ…」

 

「アイツ等の事だからこのまま朝まで騒ぎまくるんじゃねえのか?」

 

 そのすぐ後にマギとネギもどんちゃん騒ぎに参加して、マギの言う通り朝日が昇ってくるまで騒ぎまくったのであった。

 

(こいつ等体力あり過ぎだろ…)

 

楽しい事をやる時のアスナ達の体力は無限大ではないのか?とそう思ったマギである。



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雨の日の出会い

 マギ達がエヴァンジェリンの別荘にて、どんちゃん騒ぎをしてたのと同時刻、子犬だと思って寮に連れて来たらそれは小太郎であった夏美と千鶴は…

 

「はぐはぐ!もぐもぐ!!…美味い!美味いでちづる姉ちゃん!」

 

「おほほ、まだ沢山あるからいっぱい食べてね」

 

 小太郎が次々とごはんをぺろりとたいらげるのを見て夏美はポカンと見ていた。小太郎がごはんを食べるまで至った経由を説明すると…

 子犬から元の姿に戻った小太郎。だが、凄い熱にうなされていた。

 千鶴は医務室に連絡しようとするが、起き上がった小太郎が近くにあったスプーンを投擲し、電話を破壊した。

 そして夏美の首筋に自分の鋭利な爪を突き立てて人質として、千鶴に食べるものと着替えを寄越せと要求した。

 千鶴は落ち着いた様子で、小太郎に名前と何処から来たのか尋ねていた。何時も保育園でやんちゃの子供たちと相手をしてるせいか、こう言った子供の相手は慣れている様子であった。

 小太郎は、如何やら記憶が失っている様子で、自分の名前も何処から来たのかも覚えていなかった。がアイツに会わないと…と誰かに会うつもりでいたようだ。

 千鶴が誰に会うのか近づいて尋ねると、小太郎は思わず手を振り回して、爪で千鶴の肩を切ってしまった。肩から血がどくどくと流れているが、千鶴は構わず小太郎を優しく抱きしめる。

 今小太郎はかなり熱がある。今動いたら倒れてしまうだから今はゆっくり休んで…と千鶴が小太郎に優しく論すると小太郎は糸の切れた人形のようにぐったりとしてしまった。

 漸く大人しくなったが、千鶴の肩から血が流れ続けているのを見て夏美が軽くパニくったのは余談である。

 小太郎はしばらく寝かせて、熱がある程度下がってご飯を食べ始めて今に至ると言う訳である。

 

「いや本当にサンキューな、美味いわー」

 

「もう平熱まで下がってるよ。凄い回復力」

 

 夏美は小太郎の回復力に舌を巻いた。千鶴も小太郎が良くなったのを見てよかったとそう思っていた。

 

「それで小太郎君、名前以外に何か思い出せたの?」

 

「いや全くや…頭ん中に霧がかかったみたいで」

 

 小太郎はこの短時間で自分の名前を思い出す事は出来たが、それ以外はまったく思い出せないでいた。

 そう仕方ないわね…と千鶴はそう言いながら

 

「それはそうと、小太郎君体を洗いましょうか。服を着させたけど今の貴方はとても汚いから」

 

「え?ちょちょい待ち!自分の体位自分で洗えるわ!」

 

 千鶴が小太郎をシャワールームに連れて行こうとして、小太郎は自分一人で洗えると抵抗した。流石に小太郎程の男の子では年上の女性と一緒にシャワーなんて恥ずかしすぎるのだ。

 

「あらこのしっぽよく出来てるわね。まるで本物みたい…夏美も早くいらっしゃい」

 

「ぎゃー下まで脱がさんといてー!」

 

 千鶴の慣れた手つきで小太郎の服を脱がしていく。小太郎は恥ずかしさのあまり赤面しながら絶叫した。

 夏美は小太郎が千鶴のおもちゃになった事にナムと合掌する事しか出来なかった。

 暫くすると漸く折れた小太郎が仕方なく千鶴たちとシャワーを浴びる事にしたのだが、小太郎は千鶴の肩の絆創膏に目が行った。

 

「ちづる姉ちゃん、その傷は俺が付けたんやろ?さっきは頭が朦朧としてたから、すまんな」

 

 小太郎は千鶴にすまんと素直に謝ったが、いいのよと千鶴は気にしていない様子だ。

 

「それよりも、何か思い出すまでゆっくりしてていいのよ小太郎君。訳ありみたいだから誰にも連絡しないわ」

 

 千鶴のニコッとした笑顔に思わず呆然としてしまう小太郎だが、直ぐにハッとして

 

「あ…ありがとう」

 

 とお礼を千鶴に言ったのであった。するとシャワールームのドアが少し開き、夏美が小太郎に

 

「小太郎君、一応言っとくけどちづ姉に惚れても意味ないよ。ちづ姉はマギさんにほの字なんだから」

 

「なッほホレへんわい!!」

 

 小太郎は思わず大声で夏美に言い返していたが

 

(あれマギ…何かこの名前どっかで聞いた事が…マギ…マギ…ネギ…駄目やまだ思い出せん)

 

 小太郎は何か大切な事を何とか思い出そうとした。

 

「夏美ちゃーん?人の大切な事をなんで簡単に話しちゃうのかしら~?」

 

「きゃー!ゴメンちづ姉~!!」

 

 千鶴と夏美のやりとりを無視しながら…

 

 

 一方エヴァンジェリンの別荘にてどんちゃん騒ぎをしてたマギ達は、外の世界に戻ってきて外が雷も落ちている程のどしゃぶりを見て、あーあとため息をついた。

 

「なんかさっきまで南国みたいなところにいたのに、この雨を見るとテンション下がるなー」

 

 外のどしゃぶりを見てこのかがため息をついた。

 

「今日の天気予報では雨が降るとの予報だったので一応折り畳み式の傘を持ってきているのですが、ここまで大荒れとは予想外です」

 

 用意周到な夕映は傘を持ってきていたようだ。

 

「エヴァちゃん、もしテスト勉強で時間が足りなくなったら、この別荘使わせてよ」

 

「私もお願いするアル」

 

 バカレンジャーのアスナと古菲は此れはいい勉強場所を見つけたと喜んでいたが

 

「別に構わんが、女には薦めんぞ。歳とるからな」

 

「「あ…」」

 

 そうだったとアスナと古菲は思い出した。別荘の1日は外では1時間、外の人より1日だけ早く歳をとるのだ。

 

「別にいいじゃん?1日や2日位は歳とっても」

 

「若いから言えるセリフだなそれは…」

 

 和美の楽観的なセリフに不老不死のエヴァンジェリンは何処か呆れたような表情だった。

 

「…ん?」

 

 エヴァンジェリンは何かの気配を感じ取ったのか、辺りをキョロキョロと見渡した。

 

「マスターどうしました?」

 

 茶々丸があたりを見渡すエヴァンジェリンにどうかしたのかと尋ねるが、なんでもない気のせいだったとエヴァンジェリンは返した。

 

「そうだマギ、この後お前に話したい事があるから少し残れ」

 

「…あぁ、了解だ」

 

 エヴァンジェリンの残れと言う命令に、マギも2つ返事で了解した。

 ネギ達はマギを残して先に寮へと帰って行った。道中は雨が土砂降りで、折り畳みの傘を持ってきていない者も居た事もあって、何も話さず寮まで駆け足だった。

 寮に辿り着いた時には、傘をさしていない者はかなりびしょ濡れだった。

 

「それじゃネギ君、困った事があればいつでも協力するよ」

 

「老師は弟子を助けるものアル」

 

「私達も協力します」

 

「だからなんでも相談してくださいです」

 

 何時でも力を貸すと言って和美たちは自分達の部屋に戻って行った。

 

「アハハ…なんか皆さん協力する事になってしまいました」

 

「まぁアンタも皆が協力してくれるから少しは楽になるんじゃないの?勿論アタシも協力するわ…ただし、あんまり無茶の事するんじゃないわよ?」

 

 アスナはネギのでこを指でツンツンしながら釘をさす。ネギも苦笑いしながら了承する。

 

「アハハ…ハイ皆さんやアスナさんにも、困った時にはいつでも協力してもらいます」

 

 だけど心配しないでください、とグッと握り拳を作りながらネギはアスナに

 

「皆さんが協力してくれる代わりに、僕やお兄ちゃんが絶対にアスナさんや皆さんを護ります!」

 

 それだけ言うと、ネギは一足先にアスナとこのかの自室に戻って行った。

 

「あ…もうアイツ本当に分かったのかしら」

 

「ネギ君は真面目やからなー倒れないか心配や」

 

「でもネギ先生やマギ先生があれほど強くなろうとした理由が、あの過去の出来事と言うのなら納得できます」

 

 でもねぇとアスナは走り去っていったネギを見ながら

 

「ネギやマギさんはほんとだったら、同い年の友達と馬鹿やってる年頃よね…」

 

「マギ先生はともかく、ネギ先生の周りは皆年上ですものね…」

 

「そいえばカモ君以外は何時も敬語やしねー」

 

「言われてみれば確かに…」

 

 アスナの頭の上に乗っていたカモも自分はため口だが、アスナ達は敬語だと改めてそう思いだす。

 

「同い年の友達でもいればえーのになー」

 

 アスナ達はネギをそんな心配そうな目で見ていた。

 …そんなアスナ達を天上の換気扇の隙間から何かがアスナ達を見ていた。

 ネズミではない。否そもそも動物ではない何かは、アスナ達を一瞥したのち何処かへ行ってしまった。

 

 

 あやかは上機嫌だった。

 寮の部屋に戻る道中、ネギと会ってネギがあやかの洋服を似合っていてとても綺麗ですと誉めてくれた。

 それを聞いただけであやかは有頂天、ネギが歩き去ったあとは鼻唄を歌い、小躍りするほどの喜びよう

 

「あぁ~ネギ先生こそが理想の少年ですわ…」

 

 そんなことを言っているうちにあやかは自分の部屋に到着した。

 あやかの部屋の同室者は…千鶴と夏美。今更だがあやかと千鶴達は同室者であったのだ。本当に今更だが…ドア越しから部屋の喧しさが聞こえていた。

 今日はいつにもまして喧しいですわね…あやかがそんなことを呟いていると

 

「ぎゃぁぁぁ!?ちづる姉ちゃんそこだけはやめてーな!!」

 

「うふふふ、小太郎君逃げちゃダメよ~♪」

 

「ちょ!小太郎君、そんな格好で逃げちゃダメだって!」

 

 部屋の中から見知らぬ少年とドタバタと言う騒音にあやかはビックリしながら

 

「ちッ千鶴さん!?いったい何事ですの!?」

 

 玄関のドアを開けると、小太郎が突進してきた。

 

「…え?」

 

 あやかは何故自分達の部屋に見知らぬ少年が居るのか理解できずにいたせいで、小太郎の突進を躱す事を忘れていた。そして

 

 ドゴスッ!!

 

「ぽぴー!!」

 

 小太郎の頭があやかの腹に強打、変な声を出しながら崩れ落ちた。

 

「あ…すまん」

 

 小太郎はわざとではないが、頭突きをしてしまったあやかに謝った。

 

「もぉ小太郎君、あんまり逃げないでよ…っていいんちょー!?」

 

 夏美は玄関前で蹲って悶えているあやかを見て短い悲鳴を上げるのであった。

 

 

 

「一体何なんですのこの子は!?」

 

 あやかは憤慨しながらテーブルをバンバン叩きながら小太郎が何者かを聞いていた。

 まぁ出会いがしらに頭突き喰らえば怒りもするだろう。おかげで昼食べたパスタを出しちゃいそうでした…とお腹をさすりながら呟くあやか。

 

「まぁまぁあやか落ち着いて」

 

 千鶴があやかを落ち着かせようとしたが、落ち着く様子は無かった。

 

「…それでこの子は誰なんですの?」

 

 あやかは小太郎を指差しながら何者なのかを尋ねた。この子は…と千鶴はなんて説明したらいいか少し考えた。

 流石に行き倒れの男の子を拾ったと言っても信じてはくれないだろう。

 如何したのものかと考えていると、夏美の顔が目に入りそうだといい案が浮かんだ。それは

 

「この子は夏美ちゃんの弟で、村上小太郎君ですわ」

 

 さらっと夏美の弟と嘘を吐いた。

 

「ちょいまってなちづる姉ちゃん、俺は別におとう「弟よ…ね?」え゛?あッはいそうです」

 

 自分は弟でもなんでもないと言おうとしたが、千鶴の凄味のある笑顔にビビってそうですとしか言えなかった小太郎。あやかも如何やら信じたようだ。

 

「その弟さんが如何してこんな所に?」

 

「ええ実は…夏美ちゃんの御実家は話せない程にドロドロで複雑な家庭の事情があってね…それはもうお昼のドラマみたいに。それで小太郎君には夏美ちゃんしか頼れる人が居なかったの」

 

「そ…そうなのですか」

 

(ちょちづ姉!?私のとこの家族はいたって普通だよ!!)

 

 千鶴が嘘泣きをしながらあやかに嘘の夏美の家の事情を話したが、家族はいたって普通だと小声で千鶴にツッコミを入れた。

 

「そう言う事情でしたら…しょうがないですね。当分は此処に居ても宜しいですよ」

 

「ほんとか!?サンキューな姉ちゃん。恩に着るわ!!」

 

 当分は此処に居てもいいとあやかが許可してくれて、小太郎はありがとうと素直に頭を下げた。

 

(小太郎君と言うのも素直な少年みたいですが、ちょっとキツイ目つきにギザギザ爆発頭…まるで何処の大草原の野生児かと思いましたが、夏美さんのご家庭の事情が複雑ならそうなってしまうのでしょうか…)

 

 あやかは未だに千鶴の嘘を信じこんでいた。

 

「でもやはり私の知る限り少年と言うのは、ネギ先生の様な愛らしい天使のような御方ですわ…あぁネギ先生」

 

「うわぁ…いいんちょー、欲望がダダ漏れだよ」

 

「あやか姉ちゃんってちょっと危ない姉ちゃんかいな?」

 

 夏美と小太郎がひそひそ声であやかの事を話していたが、小太郎はまたもやネギと言う名前を聞くとまたもや頭の中に靄がかかったような状態になった。

 

(駄目や…まだ何も思い出せない。本当に大事になことがあったはずなんやけどな…)

 

 何も思い出せない事に焦りを覚え始めた小太郎。

 

 

 

 そんな小太郎を部屋の天上のわずかに開いた隙間から何かが覗きこんでいた。

 それは小さい水たまりみたいだった。数は3、しかし水たまりには無い目がキョロキョロと動いておりさっきからずっと小太郎の事を見ていた。

 

「ククク…」

 

 水たまりから笑い声が水たまりからしたと思えば、水たまりが不規則に盛り上がり、ギュルギュルと形を成して行った。

 そして水たまりたちは形を人の女の子の形と変わった。背丈はチャチャゼロと同じぐらいだろう。右から眼鏡真ん中は短髪左は長髪の女の子彼女たちはスライムだったのである。

 

『彼の様子は如何かね?』

 

 と突然念話がかかってきて、短髪のスライム娘が念話に応じた。

 

「あぁ混乱の魔法がきいてるのか、女と呑気にいちゃついてるぜ」

 

「一時的な記憶喪失の様です」

 

 もう一人眼鏡のスライム娘が念話に加わった。小太郎の記憶喪失はこのスライム娘達や念話をしてる者が関係しているようだ。

 

『そうか、確か彼は懲罰中で特殊能力は使えなかったはずだね。気は一応使えるようだが…よろしい君たちは作戦通りに動いてくれ』

 

 念話の主がスライム達に作戦通りにと命令し、ラジャとスライム娘たちは応じた。

 …あぁそれとと念話の主が話を変えて

 

『そう言えば君たちの末っ子だが、まだ見つからないのかい?』

 

「はい、私達も作戦を行いながらあの子を探していましたが、結局は見つかりませんでした」

 

「アイツは泣き虫でオッチョコチョイだからなぁ」

 

「この学園の魔法使いに見つからないか心配…」

 

 長髪のスライム娘がぼそりと言った。如何やら彼女たちの他にもまだスライム娘が居るようだ。

 そうか…と念話の主が溜息を吐きながら

 

『一応私や、私の従者も君たちの末っ子を探してはいるが、いかんせん彼女は末っ子の事を毛嫌いしてるからなぁ。何か問題にならないか心配だ』

 

「まぁあの子の出生が出生ですからね…あの人が毛嫌いするって言うのも何処か分かります」

 

「だけど出生がアレだからと言っても今は私達の仲間…」

 

 メガネのスライム娘と長髪のスライム娘がそう言っている。まぁそういう事だと短髪のスライム娘が

 

「まぁ私達は私達でアイツを探しておいて見つけたら、叱っといてやるからさ旦那も見つけたら一応確保しておいてな」

 

『了解だ。君たちの作戦成功を祈っているよ』

 

「旦那もな。まぁ旦那だから失敗する事もねぇけどな」

 

 それだけ話すと、スライム娘達は念話を終了させた。

 

「さてそろそろ時間だからいくぜ」

 

「了解です」

 

「了解…」

 

 スライム娘達は人型からまた液体状に戻って小太郎たちが居る部屋の屋根裏を後にした。

 

 

 

「ふむ…やれやれそれでは始めるか」

 

 学生寮の外、豪雨が降っている中傘も差さないで黒マントを着た男がそう言いながら学生寮へと向かっていたのだった。

 

 

 

 のどかと夕映は大浴場に向かう道中暗い表情であった。

 何故暗い表情なのかは、別荘で見たマギとネギの過去である。

 

「まさかマギさんとネギ先生の過去にあんなことがあったなんて」

 

「ええそうですね」

 

 のどかの言った事にも、夕映の返事は何処かうわの空であった。

 

「夕映私…ね、マギさんが魔法使いだって知った時はドキドキが止まらなかったし、魔法で戦うマギさんを見てもカッコイイなんて思ったり、自分が魔法を使えるんじゃないかって思って嬉しかったりって何処か浮ついた気持ちでマギさんと一緒に居ようとした。けどマギさんは私達が知らない所で辛い事や怖い事悲しい事とぶつかっていたんだね…」

 

「私もですのどか。私も自分が魔法使いなったらなんて甘い気持ちで魔法使いになろうとしてましてたですが、魔法使いになるにはそれ相応の覚悟は必要だと改めて知りましたです。こんな自分が恥ずかしいです」

 

「私も…」

 

 すっかり気持ちが落ち込んでしまった。

 

「でももう違うです!私達はもうそんな浮ついた気持ちだけでなく、マギ先生に協力すると決めたんです!」

 

「そッそうだよね夕映!頑張ろう!!」

 

 オーッ!とのどかと夕映は気持ちを切り替えてマギに全面的に協力すると張り切っていた。とそんな事をしてるうちに大浴場に到着した。

 

「お、遅かったじゃん2人とも何やってたの?」

 

 脱衣所で服を脱ぎ終わったハルナが、のどかと夕映を見つけて何があったのか尋ねていた。

 

「いえ別に、私達の事よりもハルナは大丈夫なんですか?漫画の〆切」

 

「なはは。いや~本当はまずいんだけど、風呂位は入っておかないとねぇ」

 

 実際ヤバい様子だ。と何時ものようにワイワイ騒いでいる3-Aの生徒達

 裕奈は裕奈で、録画していた怪しそうなぬるぬる系美容グッツを使用していた。

 

「あれ?そう言えば亜子は?」

 

 アキラは亜子の姿なかったので如何しているのか気になっていた。

 

「亜子は何か外部のサッカー部の集りがあるらしくてね。この雨の中ついてないよね~」

 

 裕奈は亜子がまだ寮に帰っていないのを知っており、確かにこんな雷もなっている中を帰って来るのはついていないだろう。

 生徒達がワイワイ騒いでいるので気づいていないが、大浴場の扉がゆっくり開いてスライム娘達が入ってきた。

 

「獲物がわんさか居るぜ」

 

「ターゲットは4人です」

 

「それ以外は無視…」

 

「えーいいじゃん。6年ぶりのシャバなんだしちょっくらあそぼーぜ」

 

 短髪のスライム娘の提案に眼鏡のスライム娘は全くと言いながらも、スライム娘達はお風呂の中に入って行った。

 そして千雨や桜子にまき絵などをお風呂の中でくすぐると云ったイタズラを軽くしていった。

 

「きゃはは楽しぃ~!」

 

「あんまり遊ばないですよ」

 

「ターゲットはあの4人…」

 

 長髪のスライム娘が言ったターゲットとは和美に古菲のどかに夕映であった。

 スライム娘たちは気づかれる事無く接近し、のどか達を飲み込んだ。

 

「ちょ!何此れ!?」

 

「みッ身動きが取れないアルごボボ!!」

 

 和美は身動きが取れない事で、このお湯がただのお湯ではないと直ぐに気づいた。

 だが気づいたときはもう遅く、朝倉の眼前で短髪のスライム娘がにぃと笑っていた。

 

「…あれ?のどか~夕映~何処行ったのよ…」

 

 ハルナが気づいた時にはのどか達の姿は大浴場から消えていた。

 

 

 

 

「はぁ~こんなに雨降ってるのに、大変な事になっちまったねぇ全く…」

 

 マギは傘をさしながらそんな事をぼやいて学園都市の中を見回っていた。

 何故彼が学園都市を見回っているのかと言うのはほんの少し時間を遡る。

 マギはエヴァンジェリンに一人だけ残るように言われて残ったマギ。

 

「なぁエヴァ、何で俺だけを残したんだ?…と言っても何となくだが俺だけ残された理由も分かるけど」

 

「分かっているなら話は早い…今さっき方麻帆良に何体かが侵入してきた」

 

 やっぱりかぁとマギはそう呟いた。自分もその侵入者の気配を感じ取ったが気のせいだと思いたかったが、エヴァンジェリンが言っている事だから本当なのだろう。

 おまけに魔力反応もあったから最低でも魔法使いだとは分かる。

 

「エヴァに鍛えて貰って魔力探知が向上したのを、こんな形で使う事になるとはな…」

 

「ぼやくなマギ、私と茶々丸は一応ジジイに侵入者の事を報告しておく、お前は学園都市を見回って敵がいないか探して、もし見つけたら排除しろ」

 

「気よ付けて下さいマギ先生」

 

 マギにそれだけ言うとエヴァンジェリンと茶々丸は学園長の元へと向かって行った。

 で今に至るのだ。

 

「何でこんな雨の日に敵が来るのかねぇ。いやこんな雨だからこそなのかな?たく敵も天気を考えてほしいな。はぁ…めんど」

 

 とマギは何時もの口癖が出そうになっておっと、と口を閉じた。

 今この口癖は封印しているんだ。そんな簡単に約束を破るなと自分自身を叱った。

 それに今まさに侵入者は若しかしたら自分を狙ってるかもしれない。そう思って気を引き締め直した。

 

「…まさかとは思うが、若しかしてもう侵入者はネギやアスナが居る学生寮の中に…なんて流石にねぇよな」

 

 マギがそんな事を呟いてないないと言っていたが、残念な事にもう侵入者もとい侵入スライム娘が学生寮に侵入して、のどか夕映和美に古菲の計4人を捕らえてしまったのである。

 そんな事を露知らないマギは

 

「まぁそんな事が起きてもネギが居るから大丈夫だろ。アイツは最近になって強くなってきているからな」

 

 とネギの力を信じているらしく、自分は今は見回りに専念しようとしたその時

 

「ふぇッふぇぇぇぇぇん」

 

 何処からか小さい女の子の泣き声が聞こえてきた。マギは一瞬空耳かと思ったが、確かに今女の子の泣き声が聞こえてきた。

 

「ふぇぇぇぇん、お姉ちゃんたち何処ぉ?」

 

 姿が見えない女の子は如何やら姉達をはぐれてしまった様だ。こんな雨の中ではぐれるとは女の子もついてないな…マギはそんな事を考えていた。

 

「やれやれだぜ」

 

 学園内に侵入した者達を探すのも大切だが、泣いてる女の子を助ける事も大切だ。

 マギは女の子を助ける事を優先する事にした。

 

「おーい、誰か其処に居るのか?」

 

 マギは泣き声が聞こえた方向に向かって声を出した。だが声が聞こえた方向からは声はするが女の子の姿や気配が感じ取れなかった。

 気のせいだったのか?マギはそう思いながら声が聞こえた方向へ歩み寄ってみた。

 とその時

 

「きゃあ!?」

 

 マギの足元から先程泣いていた女の子と同じ声で悲鳴が聞こえてきた。

 マギはビックリしながら足元を見た。足元は水たまりしかなく、何処にも女の子は居なかった。

 何だ気のせいか…と思いきや、マギの足元にあった水たまりからキョロキョロと目が現れて

 

「ふぇぇぇ、大きいお兄ちゃん私事を踏まないでよぉぉぉ」

 

 水たまりが行き成り喋り出した。

 

「!うぉう!?」

 

 此れにはマギも吃驚仰天、思わず後ずさりした。今足元にあった水たまりはマギに踏まないでほしいと泣いているような声で懇願していた。

 マギは冷や汗を流しながらあの水たまりが何なのか分析し始める。

 

(これは如何見ても、スライム…だよな?てか若しかしなくてもこのスライムは侵入者の1人だよな絶対…どうすんだこれ…)

 

 マギが如何するか悩んでいる間も、スライムの女の子は泣きながらお姉ちゃんたちどこぉ?と探していた。

 恐らくお姉ちゃん達と言うのもあの子と同じスライムなのだろう。如何するか…そのお姉ちゃんなるスライム諸共排除してしまうべきか…

 だがマギは如何してか排除しようとする考えがスッと消えてしまった。

 例え相手がスライムだとしても、一人雨の中でお姉ちゃんたちとはぐれたのはどんなに心細かっただろう。俺も甘いもんだなと自嘲気味に笑うマギ。

 だが、泣いている女の子を助けないと言うのは英国紳士の名折れだとそんな事も思っているマギ。

 マギは泣いているスライム娘の所まで近づくとひざを折って、スライム娘に顔を近づけた。

 

「ひぅ!?なッなんれすかお兄ちゃん?私になんの様なんれすか?」

 

「やぁお嬢ちゃん?でいいのか?お嬢ちゃんは何で泣いているんだ?」

 

 マギは改めて何故泣いているのか尋ねてみる。スライム娘は嗚咽を混じらせながらも

 

「お姉ちゃんたちやおじさんとはぐれたんれすぅ。ここに来るまではいっしょだったのにぃ…ふぇぇぇぇんお姉ちゃぁぁぁん」

 

 お姉ちゃん達の事を思い出したらまた泣き出してしまった。マギはこのスライム娘は精神的に幼く、人間でいう所の幼稚園児の年少位だろうとそう思った。

 分かった分かったとマギはスライム娘を何とか泣き止ませた。

 

「俺がそのお姉ちゃん達を見つけてやるから、もう泣くのはよせって」

 

「…本当?本当にお姉ちゃん達をいっしょにさがしてくれるれすか?」

 

「あぁ探してやるさ。俺は嘘は吐かないからな」

 

 お姉ちゃん探しを手伝うと言うと、スライム娘は大喜びで水たまりの体をプルプルと震わせていた。

 お兄ちゃんありがとうれす!と言われると、マギは気恥ずかしくなり頬をポリポリと掻いた。もし俺に妹がいたらこんな感じなのかな…とも思ってしまっていた。

 …だがほのぼのとした雰囲気は突然終わりを迎えた。

 

「…マギさん?なにやってるんや?」

 

 突然なじみのある声が聞こえてきて、マギはゆっくりと振り返った。

 其処には傘をさしている亜子が怪訝な表情で、マギの事を見ていた。

 

「…マジでかよ…」

 

 マギは自分自身が背中に嫌な汗を大量に流しているのを実感している。

 この雨の中、今まさにマギの秘密がバレそうになっているのであった……

 

 

 




今回の原作に出てないスライムと亜子の介入はかなり前から考えていた話です

次回もお楽しみください


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伯爵襲来

 えーと皆さん行き成りですが初めまして、ウチの名前は和泉亜子って言います。

 麻帆良学園の女子中等部、3-Aの出席番号は5番で外部のサッカー部に入ってます。

 好きなものはカワイイ絆創膏や掃除で、クラスでは保健委員に入っています。

 好きな男の人のタイプは年上なんやけど、卒業間近の先輩に告白したんけど見事に振られて撃沈、しばらくの間は結構落ち込んでいたんや。

 …だけど、ある日ウチは失礼やけど先輩以上に気になってしまった人に巡り合ったんや。

 イギリスから来た教育実習生のネギ先生とマギ先生、ウチはマギ先生を目にした瞬間気になってしまったんや。

 マギ先生は、自分の事をマギさんなんて呼んでほしいと言っていたからウチもマギさんって呼んでるんやけど。

 ウチがマギさんを好きになってしまったのは、ウルスラがウチらにちょっかい出してきた時にマギさんがウチを助けてくれた時から、ウチはマギさんの事を1人の男性として好きになってしまったんや。

 マギさんを好きになってからは何とかアプローチをしようとしたんやけど、本屋ちゃんや双子の風香や史伽にエヴァンジェリンさん達みたいにかわいい子がマギさんに積極的にアプローチをしていてウチは何時も出遅れていた。

 ウチはあんまり目立つのが得意じゃないから何時も引っ込み思案で、ウチ自身も治したいと思っても上手く出来なかった。

 だけども、いつかはマギさんにウチのマギさんが好きですって言う気持ちを伝えたいと思っているんや。

 だけどもそのマギさんが……

 

「俺がそのお姉ちゃん達を見つけてやるから、もう泣くのはよせって」

 

「あぁ探してやるさ。俺は嘘は吐かないからな」

 

 水たまりに向かって何かを呟いているマギさんを見てウチは少し引いてしまったんや。

 

 

 

 

 亜子は放課後は外部のサッカー部の集りが有ったので、何時ものように部室へと向かった。

 サッカー部の集りは1~2時間ほどで終わったが、外に出ようとした時には豪雨と落雷など酷い天気であった。

 酷い天気に亜子は思わず溜め息が出てしまったが仕方がない、とりあえず雨と雷が少し収まるまで部室で待っていることにした。

 暫くして雨はまだ少し強いが雷は収まってきたので、亜子は寮へ帰る事にした。

 そして学園都市を歩いて寮へ向かおうとすると、其処でマギの姿を見たのだ。

 

「あれ?マギさんこんな所で何やってるんやろ?」

 

 マギはこんな雨の中で何をしてるのか気になって、マギの後をついて行くことにした亜子。

 暫くマギの後をついて行くとマギは急に座り込むと先程のセリフを急にブツブツと呟き始めた。

 

「マギさん…何やってるんやろ…?」

 

 亜子は行き成りブツブツと呟いているマギを見て少し引きながらも、少しづつ近づいて

 

「…マギさん?なにやってるんや?」

 

 と恐る恐ると言った感じで、マギに何をやっているのかと尋ねた。

 亜子に何やっているのかと問われたマギは、ゆっくり振り返りながら亜子の顔を見てマジでかよ…と呟いていた。

 マギはマギで冷や汗がダラダラと流れているのを実感している。亜子にスライム娘との会話を聞かれていたのだ。一応マギの体でスライム娘の体が隠れているのは幸いしたが。

 だが亜子から見たら水たまりに話し掛けている痛い人に見えているのだ。

 

「マギさん、疲れてるならウチに相談してもええよ?ウチは一応保健委員やし」

 

 亜子はぎこちない笑みでマギにいくらでも相談していいと言ったが、マギは内心焦っていた。

 今の亜子の自分に対する認識が、痛い奴に変わってしまっただろう。幾ら言い訳を言っても頭可笑しい奴にしか見えないかもしれない。

 マギはどんな言い訳をしようか迷ったその時、強い魔力が此方に近づいてくるのを感じ取った。

 

(数は1、恐らくしなくても侵入者の1人だなこいつは…)

 

 マギは侵入者が近づいてくる方向を睨み付けた。

 亜子は戸惑っていたマギが、急に人が変わったように一点の方向を睨み付けたのを見て自分自身も戸惑っていると、建物の屋根からガタンと言う音が聞こえてきて、マギ達は上をみあげると

 

「あらぁ?迷子のクソガキを探していたら、目的の男も見つけるなんて運がいいわねぇ私って」

 

 ボンテージ服を着た女が艶めかしい目でマギ達を見降ろしていた。女の姿を見て亜子が真っ先に思った事は

 

(なんやあの女の人…エロッ!?)

 

 思わず赤面してしまった亜子であった。ボンテージと言う大人な服に体に絡みつくような喋り方、そして何処か突き刺すような視線。同じ女性でもある亜子でも直視するのは恥ずかしく目線を逸らしてしまった。

 だがマギは赤面も目を逸らす事もせずただ女を睨み続けていた。

 

「おい、単刀直入に聞くぞ。テメェは学園に侵入してきた1人だよな?」

 

「ええそうよぉ。私はこの学園に侵入した1人で間違いないわぁ」

 

 しらばっくれたりしないで素直に肯定した女。

 そうかとマギは言いながらもまだ聞きたい事があるようだ。

 

「魔力の反応からして…テメェ人間じゃねぇな」

 

 マギの聞いた事にへぇと女は何処か感心したような声を出した。女の今の態度で自分は人間じゃないと認めているようだ。

 

「そうよぉ私は人間じゃなくて、この人間の体は言わば仮初の姿…まぁこの姿の方が馬鹿な人間の男を騙せるから、これはこれで面白いけどねぇ」

 

 女はマギを誘惑するように妖艶なポーズをしてみせた。女のポーズを見た亜子は更に赤くなってしまった。

 マギはチッと舌打ちをしていた。ふざけた女だと毒づきながら

 

「おふざけは止めにしてもらおうか?お前らの目的は何だ」

 

「目的?目的はねぇ、麻帆良学園の調査とぉ、貴方達スプリングフィールド兄弟の調査よぉ」

 

 それだけ言うと女は無詠唱で魔法の射手を展開した。

 いきなりの展開に固まるマギと、女の周りに急に光の塊が出てきたことに戸惑う亜子

 

「それじゃあ…ちゃっちゃと死んじゃってねぇ」

 

 女はマギに向かって魔法の矢を発射した。

 マギは内心焦りまくりであった。女の登場で少し忘れていたが自分の他に魔法を知らない亜子も居るのだ。そんな亜子に魔法がバレたのと今まさに命の危機に瀕しているのだ。

 

「くそ!亜子来い!!」

 

「へ?ってきゃぁ!?」

 

 マギは有無を言わさずに亜子の腕を引っ張ったその直後、魔法の矢が地面に直撃して連続的な爆発が起こった。

 

 

 

 

 マギが都市内で襲撃にあってる間に、学生寮でも大騒動が起こっていた。

 部屋で先生の仕事をしていたネギが、此方に向かっている刹那と知らない魔力が一瞬で魔力の反応が消えたのを不信に思い、アスナにちょっと寮の周りを見回ってくると言って部屋を出ていったネギ。

 また1人で突っ走って…アスナは部屋を出ていったネギを心配な眼差しで見ていたアスナとこのか。

 そんな2人を寮の窓の外からスライム娘の一体が覗き込んでいるのに気がつかなかった…

 

「…此処だ。此処で刹那さんの魔力の反応が消えた」

 

 ネギは刹那の魔力反応が消えた場所を見てみたが、戦った形跡は発見できなかった。何もされず無抵抗で捕まったのかと推測するネギだが、刹那ほどの手練れがそう簡単に捕まるとは俄かに信じられなかった。

 足元を見てみると床が濡れているのを見つけた。雨漏りかと思い天井を見上げても雨漏りなど何処にも見当たらなかった。それに此処だけ濡れているなんて可笑しいとも思ったネギは濡れている床に手を置いてみた。

 

「!…これは…」

 

「兄貴も気づきましたか?この水はただの水じゃあないですぜ。魔力の反応がまだ残ってやがる」

 

 カモもネギと同じように濡れた床を触ってそう断言した。刹那はやはり何者かに捕まったのだと確信した。しかもこの魔法は恐らくしなくても水を使った転移魔法。

 まさかまたあのフェイトと何か関係があるのかと思ったその時、何処からか悲鳴が聞こえた。

 

「カモ君今のは!?」

 

「兄貴!こっちから聞こえてきましたぜ!!」

 

 カモが悲鳴が聞こえた方へネギを案内すると、到着したのは夏美と千鶴にあやかの部屋だった。

 ネギは此処で間違いないのかとカモに聞くが、間違いないと断言するカモ。とにかく悲鳴が聞こえたのだ。ただ事ではないはずだ。

 警戒しながらゆっくりと玄関を開けると、其処には倒れているあやかの姿が

 

「いいんちょさん!?」

 

 ネギは倒れているあやかに近づくが、あやかは静かに寝息を立てていた。

 どうやら寝ているようだが、こんな玄関で寝ているなんて不自然だしよく見ると玄関のチェーンが折り曲げられて壊されていた。

 これはやはり何かあったとネギは部屋の奥へ進んでみると…

 

「…やぁ、少し遅かったね。ネギ・スプリングフィールド君」

 

 白いひげを生やした老年の男が千鶴を横抱きにしていた。

 

「なッ那波さん!?貴方は誰なんですか、那波さんを返して下さい!」

 

 ネギは千鶴を横抱きにしている男に何者かと尋ねる。

 

「おおそう言えばネギ君には私の名前を教えていなかったね。私の名はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵、あぁ伯爵と言っても没落貴族でね。今は雇われの身だよ」

 

「その伯爵さんが、僕の生徒にそんな事をしてるんですか!?」

 

 ネギはヘルマンが何故千鶴を横抱きにしているのか聞くが

 

「この御嬢さんはとても興味深い御嬢さんでね、御同行願おうと思ったのさ。あぁそれと君の仲間である、神楽坂明日菜嬢とその数名を此方で預かっている。彼女達を返してもらいたかったら私の元へ来たまえ」

 

「なッアスナさん達を!?貴方の目的は何なんですか!?」

 

 アスナ達を捕まえて何が目的なのか今にも飛び掛かる勢いでヘルマンに聞くネギだが、ヘルマンは平然を装い

 

「目的は単純さネギ君。君がどれほどの力を宿しているのか私は知りたいんだよ。神楽坂明日菜嬢達は学園の巨木の下にあるステージにて預かっている。早く彼女達を助けたいなら急いで来たまえ…それと誰かの助けを呼ぼうなんて、そんなつまらない事は止めてくれたまえよ?私は君と戦いたいのだからね」

 

 それではとヘルマンは水の転移魔法でそのステージに向かおうとした。

 

「若いのは素晴らしい…そこで伸びている少年も素晴らしかったが、君はどれほど成長したのかい?楽しみだよネギ君…」

 

 何処か意味深げなセリフを呟いてヘルマンは消えてしまった。ネギはそこで伸びている少年とやらが居る場所を見てみると、其処にはぐったりしている小太郎の姿があった。

 

「こッ小太郎君!?何で君がこんな所に…!」

 

 ネギは小太郎に近づき体を揺すったが、反応をしなかった。

 

「村上さん!小太郎君に何があったんですか!?それよりもこの部屋でいったい何が!?」

 

 蚊帳の外状態だった夏美はネギに何があったのかと聞かれるとビクッ!としてしまい

 

「ねッネギ君あのね…その…」

 

 夏美はしどろもどろになりながらも、ネギにこの部屋で起こった事を話した。時間は数十分程戻す。

 それは夏美たちが夕食を食べていた。その光景は今迄無かったのか、小太郎は嬉しい気持ちでいっぱいであった。

 と小太郎、夏美。千鶴にあやかは楽しげに夕食を食べていたら、玄関のチャイムが鳴りだした。あやかが自分がでますと言って玄関に向かった。

 …が数分経ってもあやかが戻ってくる気配が無く、玄関からバキリと何かが壊れる音が聞こえた。そして何者かがこちらに近づいて来る足音が聞こえ、小太郎は全身の毛が逆立ち冷や汗が流れた。

 そして現れたのがヘルマンであった。小太郎はヘルマンの姿を見て動揺し始めた。そしてヘルマンは小太郎に元気だったかね?と尋ねると同時に小太郎を容赦なく殴り飛ばした。

 余りにも強力だったのか、小太郎は吹っ飛ばされクローゼットに背中を強く叩きつけられた。行き成りの事だが小太郎が殴り飛ばされたのを見て夏美は悲鳴を上げ目を瞑った。今自分達の目の前で起こっている事は普通ではないと…

 小太郎を殴り飛ばしたヘルマンは再度尋ねた。瓶は何処かね?と。そしてこう言った我々の目的はネギ君とマギ君だけだとも。

 ネギの名前を聞いて、小太郎は思い出そうとしたがまだ思い出せずにいた。千鶴はヘルマンに恐れず何者かそして濡れたままの土足で部屋に入るのは失礼だと言った。

 ヘルマンは土足で入った事を詫びて、自分の名を教えた。一方の小太郎は目の前のヘルマンがヤバい人間だと言うのは、今自分が殴り飛ばされたことで分かった。

 そしてヘルマンが言っていた瓶を自分が持っているそうだが、小太郎自身はさっぱりわからない状態だ。だが今此処でヘルマンを倒さなくてはと小太郎はヘルマンに向かって突撃する。

 小太郎が攻めても、ヘルマンは余裕そうに躱しながら逆にカウンターを決めてくる。重くそして速い攻撃に小太郎は苦戦を強いられていた。

 ならばと小太郎は奥の手を使う事にした。それは修学旅行では使わなかった戦法、分身の術を。

 小太郎の姿が一気に増えた事にヘルマンも驚いてしまい、小太郎の攻撃を防ぐしか出来なかった。そして分身のフェイントを交えた小太郎本人の一撃がヘルマンのボディーに入った。

 小太郎の一撃に怯んでしまったヘルマン。小太郎は止めとばかりに狗神を発動しようとしたが…狗神は発動しなかった。

 なぜ狗神が発動しなかったか、それはこのかの父詠春が罰という事で小太郎の狗神を封印してしまったのだ。

 狗神が出なかったことに戸惑う小太郎に、ヘルマンはさっきのお返しとばかりに小太郎のボディーに強力な一撃をおみまいした。

 一撃によって体の骨が軋みながら床に叩きつけられる小太郎。ダメージが強すぎて体が動かない。ヘルマンはそんな小太郎を足で踏みつけ動けないようにした。

 ヘルマンは小太郎に止めをさそうと、口の中でエネルギーを溜めはじめた。そして放とうとしたその時、千鶴がヘルマンの頬に平手打ちをした。それも本気で。

 夏美は千鶴がやった事に絶句していたが、何時も子供たちの面倒を見ていた千鶴にとっては、目の前で子供が暴力によって傷つけられる事に我慢が出来なかったのだ。

 ヘルマンは自分に恐れず平手をした少女を素晴らしいと思い…そしてネギが来た時には千鶴はヘルマンに捕まってしまったのだ。

 

「これがさっきまで起こった事だよ」

 

 夏美はネギに今まで起こったことを全て話したが、今でも自分が見たことが現実なのか信じられなかった。

 

(兄貴今は伸びてるこいつを起こす事が先ですぜ!)

 

「(そッそうだね)小太郎君、起きて!起きるんだ!」

 

 夏美に聞かれないほどのヒソヒソ声で話すネギとカモ。ネギは小太郎の体を揺すりながら起こそうとした。

 すると小太郎の目がゆっくりと開いて

 

「…う…あ…ね…ネギ?」

 

 小太郎はぼやけながらもネギの姿を見て、やがて意識がはっきりすると

 

「ネギ!ネギやないか!!」

 

「小太郎君…よかった。目を覚まして」

 

 ネギも小太郎の意識が戻ってホッとした様子。小太郎は意識が戻ったが、まだ頭を押さえていた。

 

「そうややっと思い出せた…ネギ…そやネギ!京都の時(このあいだ)の決着がまだやった!今此処で決着をつけようやないか!」

 

「って!今はそれどころじゃないでしょ!?」

 

 小太郎はネギの事を思い出したのと、まだ決着がついていないと言う事も思い出して、ネギはそれどころではないとツッコミを入れた。

 

「小太郎君は僕との決着をつけたくてここまで来たの?」

 

「あぁそうや。関西の長に罰として懲罰房にいれられてたんやけど、やっぱお前のとの決着がまだやったから無理矢理抜け出してきたんや!」

 

 小太郎が脱走してこのかの父の詠春や、関西の人達が慌ただしくしているのを簡単に想像できたネギ。でも…と小太郎は苦い顔になって

 

「ここに来る道中あのおっさん達と出くわしてな、おっさん達の目的もお前らだったし、なんかヤバそうな臭いをプンプンしとったからな。いまここで…なんて思っていたら返り討ちにあって、おまけに記憶を飛ばされる始末や。ちづる姉ちゃんも巻き込んでしまった」

 

「僕もアスナさん達が捕まったらしいって」

 

 ネギの言った事に小太郎もマジかと驚いていた。

 

「あの姉ちゃん達もか?神鳴流の剣士や心の中を読める日記を持った姉ちゃんもかいな…こりゃ本格的にヤバいで」

 

「う…うんどうしよう」

 

 ネギと小太郎は如何しようか迷っていたが、そや!と小太郎は

 

「お前の兄ちゃんのマギ兄ちゃんはどうや!?お前の兄ちゃんだったらあのおっさん達なんか余裕で倒せるやろ!?」

 

 小太郎の提案にネギは首を横に振った。

 

「駄目だよ。そう思ってこの部屋に来る途中お兄ちゃんに連絡してもつながらなかったんだ。若しかしたらお兄ちゃんも襲われてるんじゃ…」

 

 頼りのマギも連絡が取れずじまいであった。こうなったらネギが行くしかない状況へとなった。

 そうやネギ…と小太郎は自分の大きい犬耳の影に挟んであった小さい瓶を取り出してネギに渡した。

 

「さっきのおっさんがこの瓶を欲しがってたんや。この瓶に呪文を唱えるとアイツラをこの瓶に封じ込めるはずや。お前に預けとくわ」

 

「そうなの?だったら僕が預かっておくよ…これは!?」

 

 ネギは小太郎に渡された瓶を見て驚きを隠せなかった。

 何故ならその瓶は、あの雪の日に自分達を助けてくれたスタンが、魔物を封じ込める時に使った瓶と同じだったのだ。

 とにかくとネギはその瓶を握りしめて

 

「ありがとう小太郎君、とにかくみんなを助けに行かなくちゃ」

 

「おおネギ、その瓶渡す代わりに条件がある。俺も連れてけや」

 

「え?でも小太郎君さっき負けたばっかだし、怪我の方は?」

 

「アホンダラ!あれは油断してただけや。それにもう痛くもかゆくもないわ!」

 

 小太郎は握り拳をネギに向けながら

 

「ちづる姉ちゃんを巻き込んだのは俺の責任や。助けてくれた恩義もある…俺がちづる姉ちゃんを助け出すんや」

 

 其処だけは譲れ無いようだ。分かったよとネギも頷いて

 

「だったら共同戦線だね。勝負はとりあえずお預けってことで…いいよね?」

 

「おお!それでオッケーや!」

 

 ネギと小太郎は腕を組んで共同戦線する事を決めた。ネギと小太郎が部屋を出ようとしたが

 

「ちょッちょっと待って!私は何したらいいの!?」

 

 あまり話について行けなかった夏美は、自分は何をしたらいいのか部屋を出ようとしてるネギと小太郎に尋ねるが

 

「夏美姉ちゃんは此処に居てくれ!大丈夫や絶対ちづる姉ちゃんを取り戻してくる!」

 

「村上さんはいいんちょさんを頼みます」

 

 それだけ言うとネギと小太郎は今度こそ部屋を後にした。

 ポツンと部屋に残された夏美だが、自分が行っても意味は無いとは思っていた。夏美は言われた通りに部屋で待ちながら玄関に倒れているあやかの事を見ていることにした。

 ネギと小太郎そして千鶴達が無事に戻ってくると祈りながら…

 

 

 

 

 一方ヘルマンの仲間らしき女にいきなり襲われたマギと亜子は、何とか攻撃を躱してはいた。

 

「イテテ…クソッタレ。行き成り攻撃してくるなんてな…亜子大丈夫か?」

 

「うッうん大丈夫やってマギさん!腕が!」

 

 亜子がマギの腕で騒ぎ出してマギも自身の腕を見てみると、右腕が浅く斬られてはいるが血が流れていた。

 亜子を護ろうとして腕をやられたのだろう。だが此れぐらいの傷マギにとっては如何って事も無かった。

 

「へぇ今の攻撃を避けるなんてぇ。結構やるじゃなぁい?」

 

 女はまさか自分の攻撃が避けられるとは思っても居なかったのか、マギが避けた事に小ばかにしたように称賛した。

 

「一応鍛えているからな。それよりも行き成り攻撃してくるなんて、趣味が悪いなテメェ」

 

「趣味が良いって言ってほしいわねぇ。それとも何かしらぁ?人間は正々堂々と真正面から戦うのが当たり前なのかしらぁ?」

 

「そう言う訳じゃあないけどな。だがな、離れた場所からしか攻撃できないのかテメェは?人間に負けるかもしれないとか考えているならよっぽど肝っ玉の小さい女…いや若しかしたら男が化けてるのかもしれないなぁ」

 

 マギの挑発に少しだけ顔を歪めた女は、背中に悪魔のような翼を生やして屋根から飛び降りた。

 羽で羽ばたきゆっくりと着陸すると

 

「減らず口が耐えない男ねぇ…いいわぁ、お望み通り正面から相手してあげるわぁ。けど後悔しないでねぇ」

 

 女は余裕な表情を崩さずに両手に、紅い槍を具現化させた。

 

「へッ!こっちこそテメェのその余裕そうな面を崩してやるよ」

 

 マギもエヴァンジェリンに教わった断罪の剣を両腕に展開した。

 

「亜子、取りあえず俺が見えるぐらいの所で隠れていてくれ」

 

「ちょッちょっと待ってぇなマギさん!ウチ今の状況が全然わからんわ!何がどうなってんや!目の前のエロいお姉さんの背中から翼が生えたり、マギさんの手からはビームみたいなのが出てるし。何やウチ頭が可笑しくなったんか!?それともこれは夢なんか!?」

 

 亜子は行き成り現実離れな出来事を目撃して自分は頭が可笑しくなってしまったのかと、マギにそう訪ねたがマギは残念だが此れは現実だとそう返した。

 

「行き成りの事で混乱してるかもしれないが、これは現実だ。だがこれだけは言って置く、何があってもお前は俺が護る」

 

 マギが亜子の方を向いて俺が護ると言ったら、亜子は顔を赤くしながらあたふたし始めた。

 それ位の元気があるなら大丈夫だとマギがそう思っていると、女が両手の槍を振り回しながらマギに向かって行った。

 マギは女の槍を断罪の剣で受け止める。

 

「全く人間はそうやって護る護るなんて言ってぇ。反吐が出るわよぉ」

 

「そうか?人間ってのはなぁ、護るもんが居れば何時もよりも何倍もの力を出せるんだよ」

 

 マギと女は鍔迫り合いをして一回離れると、またもや斬り合った。

学園都市内でネギ達よりも早く、戦いが始まろうとしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回出て来たマギと戦っている女は
ハイスクールD×Dのレイナーレが作者としてのイメージですはい



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共同戦線

皆様GWは如何お過ごしでしょうか?
自分は一昨日はBBQで昨日は日帰り旅行に行ってまいりました
明日は学校があるので今日はのんびりしようと思います
それではどうぞ


「……ん、あれ此処は?」

 

 目を覚ましたアスナは今自分がどこにいるのかと辺りを見渡した。

 寮の部屋ではなく、外にいることしか分からなかった。

 

「此処は学祭で使われる中央ステージ?確か部屋の中からで何かに襲われて、それで眠らされて…駄目だわ。その先の記憶が全くないって何よコレェ!?」

 

 アスナは自分の格好を見て叫ばずにはいられなかった。

 手足は触手の様なもので拘束されており、パジャマではなくセクシーなランジェリー姿になっていた。

 なんでアタシがいつもこんな目に…と内心嘆いていると、お目覚めかねお嬢さん?とステージの陰からへルマンが現れた。

 

「誰よアンタ!?」

 

「ハッハッハいやなに、囚われのお姫様がパジャマと言うのあれだからね。ちょっと趣向を凝らしてもらったよ」

 

 へルマンが爽やかな笑みを浮かべていたが、目の前の男が自分にこんな恥ずかしい格好をさせたというのは直ぐに分かった。

 ブチリとキレたアスナは

 

「なんて事してくれたのよ!このエロジジィ!!」

 

「モペェ!」

 

 足を拘束されているにも関わらず、持ち前の馬鹿力でへルマンの顔面に蹴りをいれたアスナ。

 

「ハッハッハ…いやぁ若いお嬢さんは元気があって素晴らしいねぇ」

 

「鼻血出してなに気取ってるのよ!」

 

 アスナに蹴られながらも爽やかな笑みを崩さないへルマンに、アスナは思わずツッコミをいれた。

 

「いやはやすまなかった。だが…恥ずかしい格好をしてるのはお嬢さんだけではないのだよ」

 

 みたまえとへルマンが指差した方向には水の球に囚われたこのか達の姿があった。

 

「このか!本屋ちゃん!ってなんでこのか以外は服着てないの!?」

 

「大浴場で襲われたんです!」

 

「油断したアル!」

 

 夕映と古菲が自分達が襲われた状況をアスナに簡潔に説明した。とよく見たら別の水の球が2つ程あり、中には刹那と千鶴が1人づつ囚われていた。

 どちらも眠らせたのか目を覚ます気配がない。

 

「刹那さん!那波さん!ちょっと刹那さんは兎も角なんで那波さんが此処にいるのよ!?那波さんは魔法と何も関係がないでしょ!」

 

「神鳴流の彼女はお嬢さん達の中でも強力な戦力だからね。眠らせてもらったのだよ…そちらのお嬢さんは成り行きでね、私自身とても興味があったからご同行してもらったのだよ…全てはネギ君を誘う人質なのだよ君達は」

 

「ネギ?アンタネギとどんな関係なのよ!?」

 

 自分達を人質にしてまでネギを誘うなんて、この男とネギはどんな関係なのかアスナは問い詰める。

 問い詰められたへルマンは爽やかな笑みから、冷たい表情へと変わった。アスナはへルマンの冷たい表情を見て身を震わせた。

 

「彼には特別な思い入れがあってね、ネギ君があの時(・・・)からどれ程成長したのかを確かめたくてね。本当はネギ君やマギ君、そして神楽坂明日菜嬢が今後脅威的な存在になるのかと言う調査だったが、そんな事よりも私自身はネギ君個人が一番大切なのだよ」

 

 さらっと本来の目的を暴露したへルマンだが、それでもネギ個人の方が重要だと言ったこのへルマンとネギはどんな関係だろうとアスナは考えていた。

 一方スライム娘3人に捕まったこのかたちはスライム娘達に此処から出してくれるように頼んだ。

 

「なーなこのちびちゃん達此処から出してくれないかなー?」

 

「お願いです!」

 

 このかとのどかがそう頼みこむが

 

「駄目だぜ私達の特製の水牢からは簡単に抜け出せないぜ。それにお嬢ちゃんじゃない私はすらむぃだ」

 

「私はあめ子です。溶かして食われないだけありがたいと思ってください」

 

「私はぷりん…だから諦めて」

 

 短髪のスライム娘はすらむぃ、眼鏡っ子はあめ子。長髪はぷりんという名前で、何とも柔らかそうな名前たちである

 すらむぃがクククと笑いながら水牢に近づくと

 

「一般人が興味半分に足を突っ込むからこんな目にあうんだぜ?」

 

 すらむぃに痛い所を突かれて、ぐうの音もでないのどか達

 

「まぁ強力な魔法でも使わない限りはこの水の牢屋は、中からは絶対に破れねーよ。まッ一般人のお前達には無理な話だろうけどな」

 

 それだけ言うとすらむぃは水牢から去って行った。

 服を着ているこのかは何かを思い出したのか服の彼方此方を探り始めた。

 ふとヘルマンが夜空を見上げて来たようだ…と呟いた。

 ネギと小太郎が杖に乗って飛んできたようだ。

 

「来るかネギ君、さぁ成長した君の力を私に見せてくれ」

 

 飛んでるネギの方でもヘルマンや、捕らわれているアスナ達の姿が見えてきた。

 

「見えた、アスナさん達だ!」

 

「あのおっさん達も見えた!撃てネギ先制攻撃や!」

 

「牽制ですぜ兄貴!」

 

「分かった! ラス・テル・マ・スキル・マギステル 風の精霊17人 縛鎖となって敵を捕まえろ 魔法の射手 戒めの風矢!!」

 

 ネギはヘルマンに向かって魔法の矢を放った。

 

「うむ素晴らしい。流石だなネギ君」

 

 ヘルマンはネギが放った魔法の矢を賞賛しながら手をかざした。魔法の矢はヘルマンに当たる事無く何かの力に防がれてしまった。

 ヘルマンがネギの魔法を防いだのと同時に

 

「!あう!?」

 

 アスナが悲痛な悲鳴を上げた。自分の魔法を防がれたのとアスナが悲鳴を上げた事にネギと小太郎は驚いた。

 

「なんや今の!?攻撃を防いだで!障壁(バリアー)か!?」

 

「分からない!何かに掻き消されたのは見えたけど!」

 

「それに今姐さんが苦しそうでしたぜ!何か関係が」

 

 ヘルマンがした事が理解できなかったが、ネギと小太郎は地面に着陸するとネギは杖を小太郎は拳を構えた。

 

「約束通り来ました。アスナさん達には危害は加えてないでしょうね?」

 

 ネギに睨まれても、ヘルマンは平気そうに心配しないでくれたまえと言いながら

 

「明日菜嬢や他の御嬢さん達には危害は加えていないよ。まぁ明日菜嬢は少々元気すぎるぐらいだけどね」

 

 ネギは未だにヘルマンに喚き散らしているアスナの恰好を見て赤面して思わず顔を逸らす。

 

「あッアスナさんがまたエッチな事に…」

 

「ちッ違うわよネギ!これはこの変態ジジイが勝手に着させたのよ!」

 

 アスナはネギに違うと喚き散らしながら、誤解を解こうとした。

 

「僕の生徒さん達やアスナさんにエッチな格好をさせて、一体何が目的何ですか!?」

 

 ネギは再度へルマンに目的を問うた。言っただろうネギ君とへルマンは小さく笑いながら

 

「私の目的はネギ君、君と戦いたいのが私の目的だよ。私と戦いネギ君が勝てばお嬢さん達は解放することを約束しよう」

 

 ここまでネギと戦う事に執拗するとは、何故だろうか。

 ネギ自身へルマンの事なんか知らないし、会ったことがあるのか知らないが覚えてさえいないのだ。

 

「へッ!んな簡単な事なら話は早いで!さっきのリベンジや、俺がおっさんの相手をしたるで!」

 

 小太郎は先程は共同戦線とは言っていたが、ヘルマンにやられたことを根に持って居た様で、リベンジを果たそうと自分一人で戦おうとしたが

 

「待って小太郎君、一人で戦うなんて無茶だ。僕も一緒に戦うよ」

 

 ネギも一緒に戦うと言いだした、自分一人で戦おうとした小太郎は出鼻を挫かれてしまい

 

「何やネギ!俺が行こうと思ってたのに、それとも何か?俺があのおっさんに負けるとでも思っとるのか」

 

「うん言っちゃ悪いと思うけど、今の小太郎君は負ける」

 

 ネギは言葉を濁すことなく、今の小太郎は負けるとそう小太郎に言った。

 流石に今の言葉にはブチッと来た小太郎はネギの胸倉を掴んで

 

「おいネギ…ふざけた事ぬかすんじゃあないで、俺が負けるって?さっきのは油断してただけや。今度は勝てる!先にお前との決着をつけてもいいんやで?」

 

「…」

 

 小太郎が言った事に何も答えないネギは、黙って小太郎の腹…ヘルマンに殴られた所を軽く突いた。すると

 

「ッ!」

 

 さっきまで平気そうにしていた小太郎が脂汗を流しながら顔を歪ませた。やっぱりとネギは呟いて

 

「小太郎君やっぱりダメージが残ってたのに無理しようとしたんだね?小太郎君、君は格闘戦では僕よりも凄く強い。けど狗神が使えない今の小太郎君じゃあの伯爵さんには勝てないよ」

 

「なッならネギ、お前一人が戦うん言うんかいな!?」

 

 ネギ一人が戦うかと思いきや、ううんとネギは首を横に振りながら

 

「僕一人でも勝てる可能性は低い。だから…一緒に戦ってほしいんだ小太郎君。一人が駄目なら二人で戦えば何とかなるかもしれない。それに僕はアスナさんやこのかさん達を絶対に助けなきゃいけないんだ。だからお願いだよ小太郎君…このとおり」

 

 ネギは小太郎に頭を下げた。頭を下げられてしまえばなんか怒っていた気持ちがどこかへ行ってしまい、調子が狂ってしまった小太郎は頭を掻きながら

 

「はぁ~分かった。俺もちづる姉ちゃんを助けるために来たんやしな…下らん意地張ってる場合じゃないで」

 

「それじゃあ…!」

 

「ああ、いっちょやってやろうやないか!」

 

「うん!小太郎君!!」

 

 ネギと小太郎は二人でヘルマンを倒す事に決めた。

 ネギと小太郎のやりとりを見ていたへルマンは

 

「いやはや何とも賢明な判断だねネギ君、それでは始めようじゃないか」

 

 ヘルマンが指を鳴らすと、それを合図にこのか達の所に居たすらむぃとあめ子がネギと小太郎の背後に回っていた。

 何時の間にと絶句してしまったネギと小太郎は避けようとしたが、足が動かなかった。足元を見てみるとぷりんがネギと小太郎の足に絡みついていた。

 

「いッ何時の間に!?」

 

「駄目や動けへん!」

 

 抜け出そうとしたが間に合わず、ネギと小太郎はすらむぃとあめ子に蹴り飛ばされてしまった。

 蹴り飛ばされ観客席に叩きつけられるネギと小太郎。

 

「何あの女の子たち!?」

 

「スライムや!気ぃ付けろ、見た目があれだがかなり強いで!」

 

 スライムと言われ、なんか想像と違うなぁと思ったネギとカモ。すらむぃとあめ子、ぷりんがネギと小太郎に迫ってきた。ヘルマンと戦う前に彼女たちが相手の様だ。

 

「来るでネギ、お前格闘戦は大丈夫なんやろうな!?」

 

「大丈夫、小太郎君こそ相手は女の子だよ?殴れないんじゃなかったけ!?」

 

 ネギは前に楓と戦った時も相手が女性という事で本気を出さなかった事があった。へッバカにすんな!と小太郎は鼻で笑って

 

「女言うても、軟体動物がふりしてるだけなら関係ないわ!」

 

 あめ子を殴り飛ばしたが、見た目が女の子という事でやはり余り力が入らない様子だ。

 

「兄貴行けますかい!?」

 

「行けるよカモ君! 戦いの歌!」

 

 ネギはエヴァンジェリンに教わった、ちゃんとした身体能力強化の魔法を発動してすらむぃと対峙した。

 すらむぃは普通の少女ではないスライムだ。パンチを放ったと思えば急に腕が伸びたり、また蹴りを放ってきたら足が蛇のように柔らかくなりネギの体に巻き付こうとする。

 ネギはすらむぃのトリッキーな攻撃の仕方に翻弄されながらも辛うじて躱しながらも、顔面に掌底のカウンターを決めた。顔面に直撃してすらむぃの首が伸びたのを見てネギは顔を引き攣らせる。

 ネギのカウンターが入ったのに全く動じていないすらむぃはさらに追撃しようとするが、ネギは両手に気を集中させ放つ

 

「双撞掌!!」

 

 ネギの放った双撞掌によってすらむぃは大きく吹き飛ぶが、全然ダメージを喰らった様子は無く直ぐに立ち直った。

 

「おおネギ!何やそれは、なんかの拳法かいな!?」

 

 小太郎はネギの双撞掌を見て何の拳法かと尋ねてきた。

 

「何の拳法って、中国拳法だよ。僕の生徒さんに中国拳法の達人が居るから習っていたんだ」

 

「ナハハハ!成程なぁ中国拳法か、そらええなあ!」

 

 小太郎はネギが格闘術を使っているのを見て嬉しく思った。やっぱ男なら拳やろ!と内心でもそう思っていた。

 すらむぃあめ子ぷりんは今度は3人同時にネギと小太郎に迫ってきた。ネギは3人のスライム娘たちのラッシュを見て思った。お兄ちゃんよりも動きが遅いと

 

(行ける!)

 

 ネギはそう思いながら肘鉄を、小太郎は蹴りをおみまいした。吹き飛ばされるスライム娘達。

 スライム娘達が怯んでいる間にネギと小太郎はヘルマンへと接近する。

 

「あのスライムには打撃は効かねえ!狙うはあのおっさんただ1人や!」

 

「うん!」

 

 2人は迷わずヘルマンへと突っ込む。そしてふと顔を見合わせるとニヤッと笑いながら

 

「さっきの技、中々やるやないかネギ!」

 

「小太郎君こそ、やっぱり強いよ」

 

 互いが互いを褒め合う。小太郎は思った…今のネギなら自分のライバルに相応しいと。

 ネギも思った。今の小太郎君は僕が最初に超える壁でもありライバルでもあると。

 スライム娘三人が立ち直し、再度ネギと小太郎に仕掛けてきた。

 

「たくしつこいっちゅうねん…お前らの相手はこの俺や!」

 

 小太郎が分身を使ってスライム娘達を足止めする。

 

「いけネギ!此処は俺が食い止めたる!お前はおっさんを相手しとけ!」

 

「うん分かった!」

 

 スライム娘を小太郎に任せてネギはヘルマンと遂に対峙する。

 

「1本だけなら出せるはず 魔法の射手・光の1矢!」

 

 ネギは杖を構えて無詠唱で1本だけ魔法の矢を発射した。ヘルマンもネギが無詠唱で魔法の矢を出した事に驚いていたが、またもやネギの魔法をかき消した。

 

「また無効化された…!でも、目くらましには充分だ!」

 

 ネギはヘルマンの隙をついて背後に回った。そして懐から封印の瓶を取り出した。

 へルマンはネギが封印の瓶を持っているのを見て固まってしまった。

 

「これで僕達の勝ちです…封印の瓶!」

 

 ネギはへルマンを封印するための呪文を唱えた。これでヘルマンは瓶の中に吸い込まれる。

 ネギやアスナと誰もが勝利を確信してた。だがしかし…アスナの首にかかっているネックレスが突然光だし

 

「!きゃあぁぁぁぁ!」

 

 突然苦しみだしたアスナ。アスナが苦しみだしたのと同時にヘルマンを吸いこもうとした封印の瓶の力が弱まって遂には力が消え去ってしまった。

 ネギは瓶が力を失って地面に落ちるところを呆然と見ていたが、ハッとするとヘルマンに奪われる前に瓶を取って後退した。

 瓶の力が無くなって戸惑うネギにヘルマンが

 

「いやはや危なかった。ネギ君が瓶を持っていると思ってね、一応保険をかけての実験をと思ったが、上手くいったようだね」

 

 たった今封印の瓶の力が無効化されたのがその保険の力なのだろう。つまり簡単に言えばもうヘルマンを瓶に封じ込める事が出来なくなったという事だ。

 

「これで心置きなく戦えるという事だ。さぁ…始めようじゃないかネギ君」

 

 ヘルマンが皮の手袋をキュッと引き締めた。本気のヘルマンが動き出す。それだけを考えると汗が止まらないネギであった。

 

 

 

 

 一方ヘルマンの仲間であろう女と戦っているマギは、善戦していた。

 女の槍の突き攻撃、薙ぎ払い攻撃投擲攻撃、遂にはもう一本槍を具現化させて双槍を振り回す乱舞攻撃までも繰り出してきた。

 だがマギは女の攻撃を全て防いでしまった。

 常人では捉えきれない速さの突き攻撃を横に避けて躱し、リーチが長い薙ぎ払い攻撃も高い跳躍で躱した。大砲の弾のスピードで投げられた槍の投擲攻撃も難なく防ぎ、2本の槍の乱舞攻撃でさえも息を吐くかのように躱しきってしまったのだ。

 これ自体マギ自身も驚いていた。前までの自分だったらこれほどの猛攻恐らく体を何回か貫かれていたはずであろう。だが今の自分は掠り傷1つさえなかった。

 それは何故か、恐らく否確実に分かる事は1つだけある。それは…エヴァンジェリンの所で修業をして強くなりすぎてしまったのだろう。

 

(凄いな、敵の攻撃が全て見えるなんて…全く今の自分が恐ろしいぜ)

 

 マギは自分自身にさえ、恐ろしさを感じながらも女の攻撃を見切り槍を2本とも破壊してしまった。

 槍を破壊されてしまった女は舌打ちをしながらも、自身の魔力で槍を再度具現化した。槍自身魔力で構成されているため女自身の魔力が続く限り何度でも作り出せるようだ。

 

「如何した?この程度か?ハッキリ言ってアンタと俺とじゃ力の差が歴然としてるし、潔く降参したらどうだ?」

 

「こッこのぉ…!調子に乗ってるんじゃないわよぉ…!」

 

 マギの方が優位に立っているため降参しろと女に言うと、女は屈辱のあまりギリギリと歯軋りするが、直ぐに歯軋りを止めて一点の方向を見てニンマリとした。

 女が見た方向には、プルプルと震えているマギと話していたスライム娘であった。

 

「おいクソガキィ、何そんな所で震えてるのよぉ。さっさと私に加勢しなさいよぉ」

 

 女はスライム娘に加勢しろと言ってきた。勝つためには手段は選ばない考えなのだろう。

 呼ばれたスライム娘はビクッとしながら

 

「あうぅぅ、そッそこのお兄ちゃんは、逸れたお姉ちゃんを一緒に探してくれるって言ったれす。そんな優しいお兄ちゃんと戦いたく」

 

 スライム娘は最後まで言えなかった。女がスライム娘にすれすれで当たらないほどの距離で、魔法の矢を放った。女は

 

「何ふざけた事言ってるのぉ?このまがい物が。ふざけた事言ってると殺しちゃうわよぉ」

 

 と脅した。スライム娘は恐怖でさっきよりも激しくプルプルと震えだした。今日此処であったマギは自分が化け物であっても優しく手を差し伸べて来た、会って間もないのにスライム娘はマギがいいお兄ちゃんだと言うのは一目で分かった。

 だが自分を脅している女は前から知っている。この女は自分を毛嫌いしておりなにかとあれば何時も自分を虐めて来るのだ。

 虐められるのは怖いし嫌だ。だが優しくしてくれたマギに攻撃するのはもっといやだ。しかし…

 

「お兄ちゃん…ごめんなさいれす!」

 

 スライム娘は恐怖に負けてしまいマギを攻撃する事にした。マギ自身泣いてる女の子に攻撃する気にはなれず、てきとうに躱せばいいと思ったその時スライム娘の体が一気に固まってまるで鉄のようになった。

 

「んだと!?」

 

 マギは驚きながらも躱したが、鋼のようになったスライム娘の体当たりによって地面が轟音を立てながら砕け散った。かなりの破壊力の様だ。

 

「ふふどう驚いたぁ?このクソガキはねぇ自分の体を鉄のように固める力を持ってるのよぉ。その気になれば剣にもなるし槍になってなれるのよぉ」

 

「あぁ驚いたさ。正直アンタよりも厄介かもな」

 

 マギは驚いてはいるが、正直スライム娘の動きが遅いのと単純という事で別段脅威とは感じられなかった。まぁ体を鉄みたいに固くするのはかなり危険だろうなと思ったマギ。

 女に対して挑発を続けるマギに対して女はフンと鼻で笑いながら

 

「その減らず口が何処まで叩けるかしらねぇ…さぁあの男を八つ裂きにしなさぁい!」

 

「ふッふえぇぇ!」

 

 スライム娘は何が何だか分からず泣きながら両腕を鎌のようにして、なりふり構わず振り回した。マギはスライム娘の鎌の攻撃を断罪の剣で防ぐがただ振り回してるだけで隙だらけで幾らでも防げる。

 だが今度は女も加わって槍を振り回してきた。まだマギに余裕はあるが段々と攻撃のスピードが上がってきた。元々2対1このままではいずれ不利になる状況だ。

 マギはスライム娘を軽く攻撃して怯ませる作戦へ打って出た。

 

「ちょっとビックリするかもしれないが、我慢しろよ!」

 

 マギは右腕だけ断罪の剣を解除して気などを練り込まずにスライム娘に殴り掛かった。気を練っていないからダメージは0に近いただ驚いて怯んでくれればいい。だがしかし

 

「ひゃぁ!?」

 

 スライム娘が驚いたのまでは良かった。ただ驚いた瞬間にスライム娘は体を柔らかくしてしまいマギの腕がスライム娘の体に沈み込んでしまったのだ。

 

「んな!そんなのありかよ!?」

 

 マギは驚きながらも自身の腕を引っこ抜こうとするが、スライム娘の体が腕に絡みついて上手く抜けなかった。その隙に

 

「隙ありよぉ!」

 

 女がマギが動けない事を良い事に槍を容赦なく突いてきた。

 

「このクソッタレ!」

 

 マギはスライム娘の拘束から逃げる事が出来たが、少し遅く女の槍がマギの脇腹を浅く斬り裂いた。

 

「マギさん!」

 

 亜子の悲鳴が聞こえてマギは一旦女とスライム娘から距離を置いた。斬られた脇腹に手を当ててみると手には血がべっとりとついていた。

 死ぬほどの傷ではないが、今のは自分が油断したために起こった事である。だが目の前の女にスライム娘…

 

「やれやれ…如何やら骨の折れそうな展開になりそうだ」

 

マギはそう呟いた…

 



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頭はクールに心はヒートに

 ネギは封印の瓶を使えばヘルマンを封印できると思っていたのに、ヘルマンを封印できなかったことに内心焦っていた。

 

「ではネギ君参ろうか。何心配は要らないよ、ここら一帯に結界を張らせていただいた。全力で大暴れをしても周囲に気づかれる事は無いよ」

 

 そう言いながらヘルマンは一瞬でネギの背後に回った。

 

「悪魔パンチ!!」

 

 技のセンスはあれだが、戦車の砲台から放たれたかのような轟音がヘルマンのパンチから聞こえた。ネギにスライム娘達と戦っていた小太郎はヘルマンのパンチを紙一重で躱した。

 躱されたパンチの拳圧だけでステージの観客席が吹き飛んでしまった。

 

「このパンチの力…!これがおっさんの本気かいな!」

 

 小太郎はヘルマンが寮の時に戦った時は本気を出していないと言うのが分かってムカッとは来たが同時に嬉しくも思っていた、相手が強ければ強いほど燃えると言うのが小太郎のバトルスタイルである。

 とは言っても今度は大砲並みの一撃がラッシュで来たのだ。喜んでいる暇なんてない。気を抜いたら一発でアウトだ。隙が無いラッシュに苦戦するネギと小太郎。

 

「瓶が使えんならしゃーない、ごり押しでいくでネギ!」

 

「うん!」

 

 瓶が使えないと分かると今度は力技のごり押しで行くことにした。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ 白き雷!!」

 

「とっておきを喰らえや!犬上流・空牙!」

 

 ネギの白き雷と鉤爪の形を成した小太郎の気弾をヘルマンに放ったが、またもやヘルマンに直撃する前に消えてしまった。

 ネギの魔法と小太郎の技が消えてしまったのと同時にアスナもまたもや苦しそうな悲鳴を上げだした。

 先程から自分達の魔法が全くと言って効かないのを何故だと不思議がっているとヘルマンが

 

「行き成りではあるが、ネギ君はマジックキャンセルと言うのはご存じかね?魔法無効化能力と言う奴だよ」

 

 と行き成り説明し始めた。なぜ行き成り魔法無効化能力の話をし始めたのか、それは…

 

「この魔法無効化能力…それは希少かつ危険な能力なのだよ。何故なら魔法の力をなんでも無力化してしまうのだからね。そんな力を何故か神楽坂明日菜嬢が持って居ると言うのは私自身も驚きを隠せなかったよ。まぁその能力を今私が利用させてもらっているのだけどね」

 

 今迄ネギ達の魔法が無効化されているのは、アスナの魔法無効化能力をヘルマンが利用してる言うのなら合点はいく。

 

「カモ君…」

 

「兄貴、姐さんの力はアーティファクトの力だけじゃ無かったと言うわけですね」

 

 思えばアスナの力はまだ分かっていない所が多い。それどころかネギ自身アスナの全てを知っているわけはないのだ。

 しかし今はそんな事は如何でもいい。要するに今のネギが魔法の矢や白き雷に雷の暴風なんて魔法を使ってもヘルマンには無効化されるどころかアスナを苦しませる一方である。これではやたらめたらに魔法を使う事が出来ないという事だ。

 

「し…心配しないでネギ。あッアタシは全然平気だから…さっさとこのエロジジィを倒しちゃって…!」

 

 心配しない様に振舞おうとするアスナだが、やはり苦しそうだ。とカモはアスナの首に巻かれるペンダントを見た。

 

(!兄貴、姐さんの首に巻かれてるペンダント。若しかしなくてもあのペンダントがあのおっさんが姐さんの力を使うマジックアイテムですよ。俺があのペンダントを奪ってきますから、兄貴はおっさんの気を引いといてください!)

 

 それだけ言うとカモはアスナの元へ駆けて行った。カモだけに任せるにも不安があるが、今はカモに任せるしかない。

 

「さて私には放出系統の技や術が使えないという事が分かったはずだ。なら諦めて男らしく…拳で語り合おうじゃないか」

 

 ヘルマンが素早いフットワークで接近して、間合いから悪魔パンチを放ってきた。

 ネギは焦り始めていた。ネギは以前の戦闘タイプは魔法使い寄りであった為に、格闘戦術に対しては最近古菲に習った中国拳法があるが、ヘルマンに対して有効かと言えば難しいだろう。

 それにネギは子供に対してヘルマンは大人だ。パワーもスピードもリーチもヘルマンの方が上だ。それもあるせいかネギは焦っていたのであった。

 

「(早くこのかさん達やアスナさんを助けないと…)うぐッ!?」

 

「戦いの最中に考え事なんて、ナンセンスだよネギ君」

 

「ネギ!」

 

 ネギの隙をついてヘルマンがネギの顔面を強打した。脳を揺さぶられたのかフラフラと膝をついてしまうネギ。

 

「ネギ…このぉおっさん!ネギだけじゃく、俺がいる事も忘れんじゃないで!!」

 

 ネギが暫くの間動けないと判断した小太郎は両手に気を集中させてヘルマンにラッシュをかけた。が、小太郎のラッシュは全てヘルマンに防がれてしまった。

 

「小太郎君、君の力は素晴らしい。だが私自身興味を持っているのはネギ君ただ1人…所詮君は前座でしかないのだよ!」

 

 ドスッ!とへルマンのパンチが小太郎のボディーにもろにヒットした。

 余りの威力に小太郎は口から胃液などの吐瀉物を吐き出しながらのたうちまわった。

 ネギと小太郎が一方的にやられているのを見て、のどかや夕映は思わず目をそらしてしまった。

 アスナもこのままネギと小太郎がやられていくのをただ見てるしか出来ないと思うと悔しく思っていると足下から姐さん!と呼ぶ小声が聞こえ、下を見下ろすとカモの姿があった。

 

「カモ!」

 

 アスナはカモが自分を助けに来たことに大声を上げそうになったが、カモに静かにとジャスチャーされた。

 

「大きい声を出さないでくだせえ、今俺っちが姐さんの首に巻かれているネックレスを外します!そうすれば姐さんも自由になるでさ」

 

 カモがアスナの首もとまで登りネックレスを外そうとするが、ネックレスの紐がチェーンと成っておりオコジョのカモではなかなか外す事は出来なかった。

 最終手段として歯で噛みきろうとしたが、カモの体に触手が巻き付いた。

 

「余計な真似はしないでくださいねー」

 

 カモがネックレスを外そうとしているのをみたあめ子が、自身の腕を触手のようにして捕まえたのだ。

 

「うお!?クソ離しやがれ!」

 

「カモ!」

 

 カモはあめ子の拘束から逃れようとしたが、抵抗虚しくカモもこのか達が入っている水牢の中へ入れられてしまい、唯一動けたカモも囚われの身となってしまった。

 

「しっかしよぉ、あのネギって奴はもうダメかもな。小太郎ってガキも」

 

「ちょっともったいないですけどねぇ」

 

 とすらむぃとあめ子がそんなことを言っていた。

 

「どういう事ですか!?」

 

 夕映はすらむぃとあめ子が言った意味を聞くと、すらむぃとあめ子の変わりにぷりんが

 

「…調査の結果がどうであれ、ネギ・スプリングフィールドは暫く戦えないようにしておけと言う命令が出てる…だけどへルマン様が使用する石化の魔法は強力…」

 

「まぁ下手したら片足か片腕は、永久石化かもしれねぇな」

 

 クククとすらむぃが笑みを浮かべながらそう言っていた。

 このか達は6年前のネギとマギが住んでいる村が悪魔に襲撃されて、村の人達が石になってしまったのと、足が石になってしまい砕けてしまったネカネを思い出していた。

 

「てかマギさん、マギさんはどうしたんさね!?」

 

 和美は思わず口調が荒くなりながらも、此処にはいないマギの事を言った。

 マギが助太刀してくれればわけないのだが…

 

「あいにくだがマギ・スプリングフィールドは私らの仲間の1人が相手してるようでね、お前らを助けてる暇はないそうだぜ」

 

 先程自分達の仲間の女から、マギと交戦中という念話があった。それと迷子になっていた末っ子のスライム娘も発見したそうだ。

 その念話を聞いたすらむぃは苦虫を噛み潰した顔になった。

 自分達の仲間である女は心底自分達の妹を毛嫌いしていた。

 出生があれと言うことで毛嫌いしているというのは、分からなくもない。だが今は出生がどうであれ今は仲間でもあるのだ。

 話はネギと小太郎対へルマンの場面に戻るが、ネギと小太郎がボロボロに対してへルマンは殆ど無傷であった。

 そんなへルマンの表情は落胆や失望の表情が現れていた。

 

「もう終わりかねネギ君?もう少し出来ると思っていたが…些か残念だよ」

 

 フゥと溜め息を吐いたへルマンが、ボロボロになっているネギを見下ろしてそう呟いた。

 

「何を…まだいける小太郎君!?」

 

「おお全然大丈夫や!」

 

 ボロボロになりながらも尚もヘルマンに挑むネギと小太郎だが、あっさりとやられてしまい小太郎も殴り飛ばされて壁に強打してしまった。

 

「いや違うな…私が思うにネギ君、君はまだ『本気』で戦っていないね」

 

 とネギが本気で戦っていないと断言するヘルマン。

 

「なッ何を言ってるんですか!?僕は本気で戦っています!」

 

 ヘルマンに断言させられ、ネギは自分は本気で戦っているとそう言いかえしたが

 

「そうかね?君と拳を交わしたが、君は戦いに向いてい無いようだ。君の父親とまるで正反対だ」

 

 まったくの期待はずれだよ。へルマンはネギに歩み寄りながらそう言った。

 

「問おうネギ君、君は何のために戦っているのかね?」

 

「な…なんのためって…」

 

 へルマンに何のために戦っているのかと問われて、ネギは返答に戸惑った。

 大切な人を護るためと答えようとした。だがしかし

 

「…大切な人を護るという考えならこう言わせてもらうよ…実にくだらない」

 

 へルマンはネギがそう答える事を読んでおり、ネギの戦う目的をくだらないと否定しながら、へルマンは倒れている小太郎を指差した。

 

「小太郎君をみたまえ、実に楽しそうに戦っている。戦う理由は本来自分自身を強くする事が目的とされているものだよ」

 

 そしてへルマンはネギに自分の何のために戦うのかという考えを話始めた。

 

「怒り憎しみ、復讐心それら負の感情は特にいい。どんな者でも全力で戦える…あるいは健全な強くなる喜びでもいい。そうでなくては戦いは面白くない」

 

「ぼッ僕は戦いを面白いとは思いません…!戦いなんて辛くて痛いだけです」

 

 ネギはへルマンの力説を否定した。ネギ自身強くなる目的はアスナ達を護るため。出来れば話し合いで解決できるならそれがいいとも考えている。

 へルマンはフム…と呟くと

 

「ネギ君、やはり君は優しい。だがその優しさが君の本当の力を封じ込めているのなら…実につまらん。誰かを護ろうとする義務感を糧にしても決して強くはなれないぞ」

 

 いやそれとも…ヘルマンが次に言った事にネギは固まってしまう。

 

「君が戦うのはあの雪の夜から逃げるため(・・・・・・・・・・・・)…かね?」

 

「……え?なッ何故貴方がそれを知ってるんですか?」

 

 雪の夜それは間違いなくあの村の悲劇だろう。あの悲劇を知ってるのは自分やマギそして此処に居るアスナ達だけだ。

 へルマンが言ったことでネギは呼吸が荒くなり、心臓が締め付けられそうになった。冷や汗も止まらなくなりこれ以上へルマンの話を聞いてはいけない気がした。

 

「何故私がその事を知っているのか、そんな顔をしているね…ならこれならどうかね?」

 

 へルマンはかぶっている帽子を脱ぐと、一度帽子で自分の顔を隠しネギに見せないようにした。

 次にネギに自身の顔を見せたときはへルマンは人間の顔ではなかった。ネギはへルマンの顔を見て顔から血の気が引いて顔面が蒼白になってしまった。

 アスナやこのか達も人間の顔ではないへルマンの顔を見て驚きを隠せなかった。何故なら……

 

「いやぁやっぱりネギ君は驚くのも無理はないかね。今時の若者達に、儂は悪魔じゃあ(・・・・・・・)と言っても信じてはくれないからねぇハッハッハ…そうだ、私は君の村を襲った悪魔()の1人だよ」

 

 へルマンの顔がネギの村を襲い、スタンによって瓶に封印されたあの悪魔であった。

 驚いたかね?とへルマンは悪魔の顔から人間の顔に戻すと

 

「あの村を襲った時、私はごくわずかに召喚された上位悪魔の1人でね。いやはや、村を壊滅させたあと一歩の所をあの老人の魔法使いにしてやられたよ。どうだいネギ君…自分の為に戦おうと思ったかね?」

 

 へルマンが帽子をかぶり直したその時

 

 ゴオオオオオオォォォォォ!!

 

 突如ネギの周りで膨大な魔力が渦を巻いていた。

 ネギの膨大な魔力を見てカモはマズイ!と慌て出す。カモの慌てかたが尋常ではなかったのでどうしたのかとこのか達が聞いてみると

 

「ありゃ魔力の暴走(オーバードライブ)だ!」

 

「オーバードライブ!?」

 

「あぁ兄貴の魔力は尋常じゃないんでさ!それが何かのきっかけで一気に開放されたら凄いパワーを発揮できる…がまだ兄貴は修行不足でそんな魔力を制御するのは不可能に近いんでさ!まさかあのおっさん、兄貴を暴走させるために兄貴を挑発したんじゃ…!」

 

 暴走は文字通り理性が飛んでしまうのだ。そんな状態で戦っても最悪ヘルマンにやられてお終いだ。カモやこのかが兄貴!やネギ君!と大声で呼びかけてもネギは何も反応を見せなかった。

 

「駄目やネギ!怒りに呑まれるんなんて…そんな強さと何も関係ないで!!」

 

 小太郎はネギに近づこうとしたが、ネギの魔力の渦に吹きとばされてしまい近づけないでいた。

 

「さぁネギ君!怒りによって解放された君の力を見せてくれ!!」

 

「うう…ああああああああッ!!」

 

 ヘルマンが両手を広げながら言うと、ネギは更に魔力の渦を大きくしステージの石ブロックを吹き飛ばして行った。

 

「ネギ!ネギィ!!」

 

 アスナの声も届かないのか魔力の渦でネギは尚を叫んでいた。

 

「あああああああああッ!!」

 

 ネギは怒りで我を忘れ魔力がこれ以上かと爆発寸前となり、ネギは拳を振り上げた。来るか…とヘルマンが構えていつでも動ける様にした。

 アスナ達がネギの名を叫び続けているが、ネギは振り上げた拳を…

 

 バキィッ!!

 

 …ネギ自身の頬にめり込ませて

 

『…はッ?』

 

「なに…!?」

 

 アスナや小太郎にカモやこのか達、そして敵でもあるヘルマンはネギが行き成り自分の頬に拳をめり込むなんて奇行に思わず唖然としてしまった。

 自分自身に良い一発を決めたネギはそのままフラフラとふらつきながら倒れそうになるが、ダン!と足に力を入れ踏ん張った。

 

「…ふうッ!」

 

 顔を上げたネギは、先程の怒りで我を忘れていた状態ではなく意識がハッキリとしていた。

 

「まさか…辛うじて残っていた理性で怒りを抑え込んだのかネギ君…」

 

「危なかった…危うく怒りに飲み込まれる所だった」

 

 ネギがふぅと息を吐きながらそう呟いた。

 

「ネギお前大丈夫なんか!?」

 

 小太郎がネギの元へ駆け付けネギに大丈夫なのかと言ってみると

 

「小太郎君、うんもう大丈夫だよ」

 

 ネギ自身もう大丈夫だとそう答えた。

 

「でもネギ、お前なんで元に戻れたんや?さっきのお前キレてヤバそうになってたし」

 

 小太郎もネギが自分自身を殴るなんて奇行に走った事に驚いていたがネギは

 

「前にお兄ちゃんが言ってたんだ。『いいかネギ、どんな事があっても怒りに呑まれるな。どんな時でも頭は冷たくクールに心は熱くヒートに』って…さっきは頭の中が真っ白になって怒りに我を忘れかけちゃったけど、お兄ちゃんの言ってた事を思い出して何とか目を覚ましたんだよ」

 

 だからもう我を忘れる事は無いとネギは断言した。

 怒りに呑まれネギ本来の力を見る事が出来ると思ったヘルマンは

 

「いやはや残念だ。理性で本来の力を封じ込めるなんて…つまらないなネギ君!!」

 

 ヘルマンは魔力を充満させながら拳を構えた。

 

「何とでも言ってください。ですがこれだけは言って置きます…大切な人を護る力はくだらなくありません!行くよ小太郎君!!」

 

「おお!やってやろうやないか!!」

 

 ネギは再度戦いの歌を発動し、小太郎は拳に気を集中しヘルマンとラッシュの殴り合いを行った。ヘルマンは思った…理性で力を封じ込めたネギに自分が負けるわけがないと。だが…

 

(!私が押されている!?ネギ君、先程よりも力が増している、何故だ!?)

 

 ネギの力が先程戦ったよりも増しており、ヘルマンが徐々に押されていった。

 

「何故だネギ君、君の何故これほどの力が!?」

 

 ヘルマンはネギと小太郎の猛攻を防ぎながら何故と尋ねた。ネギはエヘヘと笑いながら

 

「貴方とは本気で戦わないといけないと思ったら…色々と吹っ切れました!!」

 

 そしてヘルマンに双撞掌を喰らわせ、ヘルマンを吹っ飛ばした。

 

「ゴフッ!これが迷いを捨てたネギ君の力か…素晴らしい、素晴らしいぞネギ君!私はそんな君と戦って見たかったのだ!!」

 

 ヘルマンは自分の方が不利だと分かっていながらも迷いを捨てたネギを見て嬉しく思っていた。

 ヘルマンの旗色が悪いと感じ取ったすらむぃあめ子ぷりんは、ヘルマンの加勢に向かおうとするが、このか達が捕らわれている水牢が眩い光で包まれていた。

 

「なッなんだ!?」

 

 すらむぃは何事かと水牢を見てみると水牢が徐々に崩れ出していた。

 

「あのガキ共何かやりやがったな!今すぐ止めろ!」

 

「駄目です間に合いません!」

 

 すらむぃとあめ子が止めようとしたが間に合わず、このか達が水牢から脱出したのだ。実はこのかはネギから借りた初心者用の杖を持っており、すらむぃ達にばれない様に火を灯す魔法を唱え続けていたのだ。

 そして何度か詠唱をこのか達が唱え続けていると杖の先から火種が出てきて、このかの魔力で火からたちまち巨大な炎へと変わり水牢を破壊したのだ。

 すぐさまこのかは魔法の杖で刹那の水牢を古菲は千鶴の水牢を崩拳でそれぞれ破壊した。のどかと夕映が放置されていた封印の瓶の回収。

 そして和美がアスナの元へ駆け付け

 

「お待たせアスナ!」

 

「朝倉!!」

 

 アスナの首に巻かれたペンダントのチェーンを思い切り引きちぎった。これでもうヘルマンが魔法無力化能力の力を利用する事は出来なくなったのだ。

 

「くそッ!これ以上余計な真似はさせねぇぜ!!」

 

 すらむぃ達がアスナ達を取り押さえようとするが、のどかと夕映が立ちはだかる。手には封印の瓶を持っていた。

 

「いくですよのどか!」

 

「うん!」

 

「「封印の瓶!」」

 

 のどかと夕映が封印の瓶の呪文を唱えると、瓶の蓋が開きすらむぃあめ子ぷりんを吸い込み始めた。

 

「いやぁぁぁん!吸い込まれるぅ!!」

 

「ちくしょう!また瓶の中かよぉ!」

 

「…私達は悪役、こうなるのが運命」

 

 封印の瓶が発動したら自分達は逃げれない。すらむぃは吸い込まれながらも自分達を探しているであろう泣き虫の妹を思い浮かべていた。

 無念…すらむぃ達はそう無念の念を思いながら瓶に封印されてしまった。

 これで圧倒的にヘルマンが不利になってしまった。

 

「へへッ…漸くこれで本気が出せるってもんやで!」

 

 小太郎はアスナのペンダントの力によって本気が出せなかったが、これで本気が出せるとボッ!と体に気のオーラを纏った。

 ヤル気十分な小太郎にネギが

 

「小太郎君頼みがあるんだ、とっておきの技があるんだけど前衛を頼めるかな?」

 

「あぁ?此処まで来たら俺一人でもブッ飛ばせるかもしれへんのに…」

 

「あの人が僕とお兄ちゃんのそして村の仇の一人であるのなら、僕はあの人を今は一人で倒さなきゃいけないんだ」

 

「…分かったで、締めはお前に譲る。絶対におっさんを倒せよな!!」

 

 小太郎は分身を使ってヘルマンを翻弄する。

 

「どきたまえ小太郎君!私の狙いはネギ君なのだよ!!」

 

 ヘルマンは分身ごと小太郎を蹴散らした…かに思えたがヘルマンの足元に、爪に気を集中していた小太郎が

 

「残念やなおっさん、俺が本体や!!」

 

 気によって強化された爪を振り上げ、ヘルマンの体を大きく斬りつけた。

 

「ぐお…ッ!?ゴフ…!」

 

 ネギと小太郎に対して圧倒的な力を見せつけていたヘルマンが、呻き声をあげながら膝を着いた。

 

「ネギ!」

 

 後はお前に任せたで!小太郎の目がネギにそう言っているようだった。ネギは頷くと

 

「魔法の射手 雷の一矢 攉打頂肘!!」

 

 雷の魔法の矢を織り交ぜた攉打頂肘をお見舞いする。だがこれは連撃の一つでしかない。

 

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル 来たれ虚空の雷 薙ぎ払え」

 

 ネギがエヴァンジェリンの別荘にてボロボロになりながらも習得した…

 

「ぬ!ぐぅぅ…!!」

 

 ヘルマンは人の姿から悪魔の姿に戻ろうとしたが時既に遅し

 

「雷の斧!!」

 

 エヴァンジェリンに教えて貰った雷の斧が、ヘルマンの体を真っ二つに斬り裂いてしまった……

 

 

 

 

 




次回はマギがほぼオンリです


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闇の魔法

最近fateのアニメが録画されてないなと思い予約表を見てたら違う番組を予約していたというポカをしました
皆さんも録画するときはよく確認しましょうね
じゃないと自分みたいなことになります

それではどうぞ


 へルマンとネギと小太郎の戦いはネギ側の勝利に終わった。

 ネギの雷の斧で斬り裂かれたヘルマンは、上半身と下半身が綺麗に分かれており、下半身が完全に消滅しており上半身も徐々に消滅していった。

 

「やれやれ…あれだけネギ君に強さとは何なのかと説いていたのに、案の定返り討ちとは…我ながら恥ずかしいな。しかし一応上位悪魔でもある私を倒すとは、血は争えないという事かね」

 

 上半身だけのヘルマンは清々しい表情をしていた。ネギと小太郎に解放されたアスナにこのか達、目を覚ました刹那がもう動けないヘルマンに近づいて行った。千鶴はまだ目を覚ましていない様で、雨に濡れない様にステージの方へ移した。

 

「ネギ君、君の事は少し調べさせてもらった。さっきの雷の斧は私の知らない魔法だった。先程の魔法は素晴らしかった…だが君はあれ以上の魔法を使えるはずだ。雷系最強の魔法(・・・・・・・)であったら私達上位の魔物を完全に打滅ぼす事が出来るはずだ。君が復讐のために覚えた呪文を」

 

 ネギは如何やら雷の斧以上の雷系最強の呪文を覚えているようだ。ヘルマンの言っていることが本当ならヘルマンはとっくのとうに消滅していた事だろう。だがネギは

 

「僕は…あなたに止めを刺そうとは思いません」

 

「…ほう、何故かね?」

 

 ヘルマンの問いにネギはギュッと杖を握りながら

 

「僕が強くなろうと思ったのは、もうこれ以上大切な人を失わないために強くなったんです。復讐の為じゃない…それに貴方は6年前に召喚されただけだし、人質のアスナさんにはエッチな格好をさせたりアスナさんの能力を無理に利用したりしましたけど、このかさん達にはあまり酷い事しなかった。それに貴方は何処か本気で戦っていない様に見えました。僕は貴方がそんなに酷い人には見えません」

 

「ふふ、君はつくづく甘いなネギ君。私は悪魔なんだよ?そう見せといて実は極悪人…なんてこともあるはずだ」

 

「それでも僕は止めは刺しません…それが僕が決めた事ですから」

 

 例え相手が悪魔でも止めは刺さない…それがネギが決めた事である。

 ネギの答えにニヤリとしたヘルマンは

 

「君はとんだお人好しだなぁ。やはり戦いには向かないようだ」

 

 ネギをそう評した。ヘルマンは急に顔をしかめたと思ったら次には驚いた表情となり

 

「今しがた私の部下から念話が届いてね、君のお兄さんのマギ君と交戦したが、マギ君にしてやられたそうだ」

 

「お兄ちゃんが…?」

 

 ネギは何故ヘルマンと戦っている時にマギが助けに来なかったのかと思っていたら、ヘルマンの仲間と戦っていたもようだ。

 ヘルマンは心底驚いている様子で

 

「私の部下も一応上位悪魔のはずだが、マギ君は一人で倒してしまったのか…それとえらく混乱しているようでね『もう嫌だ嫌だ嫌だ』とずっと呟いているよ。やれやれ…一体何のトラウマを植え付けたんだろうねマギ君は…」

 

 ヘルマンが言っているほどのマギのトラウマ…敵にトラウマを植え付けるマギの姿を半ば信じられず、半ば想像できてしまったネギ達であった…

 

 

 

 

 時間を少し戻し、マギはへルマンの部下との交戦中であったが、マギは手足そして体や顔が浅く切られており、絶えず血が流れていた。

 かえって部下の女とスライム娘は無傷に近く、女の方が優勢に見えた。

 

「如何したのぉ?随分とボロボロじゃなぁい。さっきまでの威勢は何処へ行ってしまったのかしらねぇ?」

 

 女の絡みつくような喋り方を無視して、マギは黙って顔の血を拭ったが拭っても再度血は流れていく

 

「マギさん!」

 

 亜子はボロボロになっているマギを見て、いてもたってもいられずマギの元へ駆けよろうとしたが

 

「来るな!」

 

 マギの大声に亜子は駆け寄ろうとした足が止まってしまった。

 

「心配すんな亜子、今の俺の傷は大したことない」

 

「でッでもマギさん、さっきから血が流れ続けてるんやで!?大したこと無いじゃないやろ!?」

 

 保健委員でもある亜子からしたらマギの傷は今すぐ治療しないとマズイ傷であった。だがマギは

 

「だから心配すんなよ亜子、見た目よりもそんなに傷はひどくは無いんだ。だから逆に亜子が来ちまうと危ないんだ。だから亜子はそこでじっとしていてくれ」

 

 亜子から見たら酷い傷ではあるが、致命傷ではない。相手の攻撃を見切り致命傷な攻撃は完全に避けているのだ。マギの傷の殆どは攻撃の余波か飛んできた石のつぶてで切ったか、スライム娘の体を硬質化した攻撃をよけて掠った攻撃だ。

 マギはハッキリ言ってしまえば女の攻撃は完全に避けているのだ。女も自分の攻撃が全て躱されて焦りの為か攻撃が単調になってきていたのだ。さっきのマギに言った事も挑発が混じっており、マギが何の反応を見せなかったことに苛立ちさえあった。

 

「そっちこそさっきからハァハァ言ってるけど大丈夫か?若いの装って実は結構老けてんじゃあねぇの?お・ば・さ・ん?」

 

 逆に挑発で返されて、女はギリギリと歯が砕かれんばかりに歯ぎしりをして、マギを睨みつけていた。

 

「調子にのってんじゃないわよぉクソガキがぁ…!それよりも何でこのスライムのクソガキが攻撃してきてるのに、アンタは攻撃してこないのよぉ!?」

 

 マギは最初脅かすためにスライム娘を攻撃したが、それ以降攻撃する事がなかった。

 何故って…マギは頭の関節をゴキリ!と鳴らしながら

 

「その嬢ちゃんが泣きながら攻撃してるからなぁ…泣いてる女の子を攻撃する事はできねぇよ」

 

 スライム娘はマギに攻撃するとき泣きながら攻撃していたのだ。そして泣きながら小さな声でごめんなさい…とマギに謝りながら攻撃していたのだ。

 それを聞いた女はブチリとキレながら、持っていた槍でスライム娘を容赦なく斬りつけた。

 

「何敵に同情を誘ってんのよぉ!?アンタは私の捨て駒なのよぉ!捨て駒は捨て駒らしく私のいう事だけを聞けばいいのぉ!!」

 

「ふッふえええ!ゴメンなさい!ごめんなさいれすぅぅぅ!!」

 

 槍に斬られてバラバラになっても直ぐに元に戻るスライム娘は泣きながら女に謝り続けた。

 行き成り目の前で虐待を目の当たりしてしまったマギと亜子。

 

「ちょ!おばさん!ウチ今一よく分かって無いけど、小さい女の子を虐めるなんてどうかしてるで!」

 

 亜子のおばさんと言う発言に女は血走った目を亜子に向けて、持っている槍を何も言わずに亜子に投げつけた。

 行き成り槍を投げられて思わず固まってしまう亜子だが、マギが高速移動で亜子に近づき迫ってくる槍を叩き落とした。

 

「亜子の言う通りだが、テメェはなんでその嬢ちゃんをそんな風に扱うんだ?お前とお嬢ちゃん達は仲間じゃないのか?」

 

 マギの仲間と言う単語を聞いて女はフンと鼻を鳴らした。

 

「私はねぇこのガキを仲間だとは一度も思ってないわよぉ、このガキは道具よぉ道具。化け物もどき(・・・・・・)が仲間なんて図々しいわよぉ」

 

 化け物もどき…女の言ったその言葉を聞いてスライム娘はピクリと反応した。

 

「化け物もどき?如何いう意味だそれは…」

 

「あらぁこのガキの出生が気になるのかしらぁ?いいわよぉ教えてあげるわぁ。このガキはねぇ…」

 

 女の次に発せられた言葉にマギは耳を疑った。

 

「頭の狂った人間によって体を改造させられて造られた人造魔物…元々は人間のガキだったのよぉ」

 

「なん……だと……!?」

 

 マギは目の前にいるスライム娘が、元々は人間の子供で改造させられて造られた人造魔物という事に頭の中が真っ白になってしまい固まってしまった。

 固まっているマギの顔が滑稽だったのか、女はニヤリと笑いながら話を続けた。

 

「頭の狂った人間たちはぁ、私達魔物に対抗するためと言った大義名分を訴えていたらしいけどぉ、そのためにガキを誘拐して弄繰り回すなんて可笑しな話よねぇ?誘拐されたガキは戦争によって両親を失った孤児や捨て子が殆どでねぇ、中には普通の暮らしをしている家族から強引に誘拐なんて事もあったそうよぉ。このガキは両親が居たらしいけどぉ、その両親を殺されて誘拐されたのよぉ」

 

 酷い。亜子は思わずそう呟いた。

 

「誘拐させられたガキ共は、頭の狂った大人たちのただの実験材料…体をバラバラにさせられたりぃ、頭の中をグチャグチャにかき回されたりぃ他には子供同士で殺し合いをしたりねぇ、そして殺した子供の肉を食べていたそうよぉ」

 

 頭の中でその光景をイメージしてしまったのか、ヒッと短い悲鳴を上げながら震えだす亜子。マギはそんな亜子の肩を押さえ耳元で大丈夫だと囁き続けた。

 

「そして人造魔物の実験は失敗続きで、一人一人とガキが実験失敗で死んでいったわぁ。もう駄目かと思った矢先にこのガキが実験に成功したのぉ」

 

 スライム娘が実験に成功した人造魔物だと言うのは分かった。ここからが面白いのよぉとクククと愉快そうに笑う女。

 

「実験には成功したけどねぇ、ガキは自分が人間ではなくなったことにショックを起して力を暴走して、頭の狂った人間たちは哀れに自分達が造った魔物に皆殺しになってしまったのぉ。このガキは脱走し当ても無くさまよっていたけど、もうガキは人間じゃあないから人間は、ガキの姿を見てガキの言った事にも耳を貸さずに石を投げたり、ガキを殺そうとしたこともあったそうよぉ。そしてしばらくして私達と出会ったのよぉ」

 

 スライム娘は自分の過去を聞いてプルプルプルと震えが止まらないでいた。

 つまりぃと女はスライム娘を指差しながら

 

「このガキはぁ、親を殺されたばかりか魔物に改造させられた可哀そうなガキだっていう事よぉ」

 

 女がそう言った次の瞬間

 

「ふぇッふぇッ…ふぇぇぇぇぇぇんッ!!!」

 

 スライム娘は突然狂ったかのように大泣きし、自分の体の一部を巨大な鎌のようにし矢鱈目鱈に振り回した。余りの威力なのか道路が砕かれ街灯などは綺麗に真っ二つになってしまったのだ。

 突然如何したのかとマギと亜子は驚きを隠せないでいると、女は愉快そうにケラケラと笑いながら

 

「昔の思い出したくない記憶を思い出してキレちゃったのねぇ。こうなったらこのガキはもう止まらないわよぉ」

 

 そう言った。この女は初めから知っていたのである。スライム娘がキレてしまうと手の付けようがない事を。このままでは被害が大きくなってしまう。

 

「何かあの子が可哀そうや…マギさん如何にかならんの?」

 

 亜子は女の話を聞いて、気持ち悪いと言う感情よりも可哀そうと言う気持ちが強く、マギに如何にかならないかと尋ねた。

 聞かれたマギは何も言わず、黙って暴走しているスライム娘に近づいた。

 

「マギさん何するん!?」

 

「何って、泣いてる子供は優しくあやしてあげるもんだぜ」

 

 マギはそう言っているが、泣いてる子供と言っても物を簡単に切断する事が出来る子供だ。何も考えずに近づけば自殺行為だ。

 女もこのままマギが自滅すると考えたのかニヤニヤと傍観する事に決め込んだようだ。

 マギは黙って泣いて暴れ続けるスライム娘に近づいた。近づいている間スライム娘の鎌がマギの手足を切りつける。痛々しい傷がどんどんと増えていく。

 マギはスッとスライム娘に手を差し伸べようとしたが…

 

「!いやぁぁぁ!!」

 

 半狂乱のスライム娘は自分の一部を鋭利な槍へと変えると、マギの脇腹を貫いた。ズブゥという鈍い音が聞こえた。

 

「マギさん!!」

 

 亜子はマギの脇腹が貫かれたのを見て悲鳴を上げてしまった。女は勝ったと確信した。脇腹を貫かれたのと手足の切り傷の出血、自分が手を下さなくても勝手にマギはくたばるとそう思った。

 

「あっあぁ…お兄ちゃん…」

 

 正気に戻ったスライム娘は自分に優しくしてくれたマギの脇腹を貫いてしまったのを見て、自分がとんでもない事をしてしまったと気づき、ゴメンナサイとマギに謝ろうとしたが…マギがフッとスライム娘を優しく抱き上げそしてギュッと抱きしめてあげた。

 

「ふぇッ…?おッお兄ちゃん?」

 

 スライム娘は何故自分が抱きしめられているのか分からなかったが

 

「…大丈夫だ」

 

 とマギが優しくスライム娘に囁いた。

 

「お兄ちゃん…?」

 

 スライム娘は見上げてマギの顔を見てみると、マギは微笑んでいた。

 

「俺はお前が何者であろうと、怖がったりしない。お前はただの小さい女の子だ…もうあんなクソッタレな女のいう事なんか聞かなくていい。誰が何と言おうとも俺はお前が護ってやる」

 

 マギはこのスライム娘とエヴァンジェリンの姿を重ねて見ていた。エヴァンジェリンもこのスライム娘も望まなくして化け物になったのだ。同情なんてむしのいい話ではあるとマギ自身そう思っている。だがこの子は俺が護ってやろうとそう決めたのだ。

 

「本当れすか?お兄ちゃんは私を護ってくれるんれすか?」

 

「あぁ俺はふざけた嘘は言わねえよ。お前は俺が護ってやる…だから今は思いっきり泣け」

 

 マギがニッと笑いながらスライム娘にそう言うと、スライム娘は又大泣きをした。嬉しかった…初めて自分の事を化け物ではなく一人の女の子として見てくれたことにそして自分の事を虐めるのではなく護ってくれるという事に。

 亜子はよかったと内心そう思いながら、一粒の涙を思わず流してしまった。

 しかし女は納得できなかった。このままあのスライム娘がマギを刺し殺すと思いきやマギに優しくされ、暴走も止まってしまった。もう使えないと判断した女は怒りを露わにしながらマギを指差した。

 

「ちょっとアンタ頭が可笑しいんじゃないの!?そのガキは化け物なのよ!?なんで怖がったり気持ち悪がったりしないのよ!?」

 

「あぁ?この子は化け物じゃなくて、ただ泣いているか弱い女の子だよ。俺から見てみれば人を喜んで傷つけるアンタの方がよっぽど化け物だぜ。っとそう言えば元々化け物だっけおばさんは?」

 

 マギは簡単に女をあしらってしまった。それがまた気に入らない女はギリギリと歯ぎしりした。このままでは悪魔としてのプライドの名折れだ。

 と女は亜子の姿を目にしていやらしい笑みを浮かんだ。ある作戦が頭を過る…それは悪者が使う一番ベタな作戦。それは…

 女は数本の槍を具現化させると、マギの足元の地面に投げ砂煙を上げた。砂煙で女の姿を見失ってしまうと

 

「ちょ!何するんや!離してぇ!!」

 

 亜子の悲鳴が聞こえ、砂煙が晴れると亜子が女に捕まり首筋に女の鋭利となった爪が突きつけられていた。女がやった事は誰でも分かる人質作戦である。

 マギは何故自分が女を怯ませている間に亜子だけでも逃がさなかったのかと、自分自身を責めた。相手が何の力も無い亜子を使わないという保証は無かったと言うのに

 

「さぁ大人しくしてないとぉ、この小娘の命は無いわよぉ」

 

「クソッタレ…!お前みたいな奴に卑怯だと言っても全然意味ないって言うのが、まさにこの事なんだろうな」

 

「ええそうよぉ。私みたいな悪魔がこんな美味しそうなごちそうに手を出さないわけないでしょう?」

 

「まッマギさんッ!助けて!」

 

 亜子はマギに助けを求め、マギも大丈夫だと言おうとしたが余計な事を言って女が亜子に危害を加えるかもしれないと考えてしまい言えなかった。

 女はマギが手を出せないこと良い事にニヤニヤと笑みを浮かべながら

 

「そうねぇ、このままアンタの目の前で大事な生徒が私にめちゃめちゃにされるのを只見てるしか出来ないってのも、面白そうねぇ」

 

 女は亜子の頬を舐め回し、亜子はビクッとしながら悲鳴を上げる事が出来なかった。

 

「私はねぇ男も好きだけどぉ、女も好きなのよねぇ。特にアンタみたいな小娘を壊すのが最高に興奮するわぁ」

 

 だから…と女は亜子の衣服に手を伸ばし

 

「こんな邪魔な服は剥いじゃいましょうねぇ!」

 

 亜子の服の背中の部分を容赦なく引き千切った。亜子の白い肌と…大きな古傷が露わになった。

 

「んん?何よぉこの背中の傷はぁ?」

 

「!!いやぁ!見んといてぇ!!」

 

 亜子は泣き叫びながら背中の傷を隠そうとするが、隠せるものではなかった。亜子の背中の傷は亜子自身のコンプレックスであり、マギにも見せたくなかった傷である。

 亜子の傷を見て女は大笑い

 

「何よぉアンタのその傷、なんでアンタみたいな小娘にそんな傷があるのよぉ?おっかしいわねぇ!」

 

「いや…いややぁ…ウチ、マギさんにはまだこの傷は見せたくなかったのにぃ…!」

 

 亜子は自身の思いをマギに伝えた後に自身のコンプレックスの傷の事を告白しようとした。だが女のせいでマギに傷を見られてしまった。もうどうすればいいのか亜子自身分からなくなってしまっていた。

 

「安心しなさいよぉ、アンタのその傷が目立たない程に体中を傷だらけにしてあげるからぁ!!」

 

 女は亜子に向かって鋭利な爪を振り下ろし、亜子はギュッと目を瞑っていた。

 このまま亜子の体に傷が入ると思いきや、マギが女の目が追いつけない程の瞬間的な速さで女に近づき、容赦なく女の顔面を殴り飛ばした。

 

「!!ぐほぉ!?」

 

 女はマギに殴られたことに驚く瞬間も無く殴り飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 亜子が呆然としている間に、マギは自分の上着を脱ぐと亜子に羽織らせてあげた。

 

「マギさん…?」

 

 亜子は自身が助かりマギにお礼を言おうとしたら

 

「亜子、俺はお前の傷を見ても気持ち悪いとかそんな事は思っちゃいない」

 

 自身の傷の事を言われ思わず体が震える亜子。それになとマギは話を続ける。

 

「人間誰にだってコンプレックスはある。そのコンプレックスに負けない様に必死に前を向いて歩いて行くんだ。だがなもし負けそうになったら誰かを頼れ。お前も傷の事でバカにされたり気持ち悪がられた時は俺に言え。俺がそんな奴らブッ飛ばしてやる。だから今は泣くな」

 

「うッうん!」

 

 亜子はマギが自身の傷を見ても気持ち悪がったりしなかった。それだけでも亜子は十分救われた気持ちになった。

 一方殴り飛ばされた女は口を切ったのか口から血が流れているのを見てキレた。女である自分を殴っただけでなく血を流すとは…殺してやる!と女はマギを睨みつけようとしたが出来なかった。マギの方から膨大な魔力の力が感じられたのだ。

 

(なッ何よあの男、まだ魔力が上がっているなんて…まだ実力を隠していたって言うの!?)

 

 女が体中から冷や汗を流しているとオイとマギは魔力を溜めながら

 

「テメェ俺の大切な生徒を泣かせるとは…俺は女は殴らないことにしてるが外道は別だ。だから…五体満足で帰れると思うなよ」

 

 マギの周りで巨大な魔力の渦が巻き起こり

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ! 来たれ炎の精闇の精!! 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎 闇の業火!!!」

 

 マギは手の平に魔力の塊、本来は闇の業火である魔力の塊を

 

「術式固定!! 掌握!!」

 

 取り込んだ。そしてマギの体がみるみるうちに変化していった。体は漆黒の闇のように真っ黒に髪の色は紅蓮の炎のように真っ赤に。これはそう修学旅行では最終的に扱えず自爆してしまった

 

「術式兵装 紅蓮夜叉!!」

 

 エヴァンジェリンの元で修業し、習得した闇の魔法である。闇の魔法を発動し、マギは闇の魔法を修行するときにエヴァンジェリンにある事を教えて貰った。

 

『いいかマギ、闇の魔法は名前は大層な物だが所詮は魔法だ。だがしかし魔法と言っても一瞬の気の緩みによって魔法に飲み込まれるぞ。特に怒りや憎しみなどでな…怒りに飲み込まれるな。逆に乗りこなせ』

 

(あぁエヴァ、確かに俺は頭に血が上ったけどな…逆に怒りが一周回ってクールになっちまったぜ。もう飲み込まれる心配はなさそうだぜ)

 

 マギはどん!と言う音が付きそうな位に女を指差しながら

 

「覚悟しな、この紅蓮夜叉の姿になった俺にテメェみたいな雑魚じゃまず勝てねぇよ」

 

「この…調子乗るんじゃわいわよガキがぁ!!」

 

 女は槍を構え突撃しようとしたが、紅蓮夜叉の姿になったマギが一瞬で間合いを詰めた。

 

「なッ!え!?」

 

「おせぇよ」

 

 マギは一瞬の間に女の顔や体にラッシュを決めた。

 

「ごほぉ!あのガキ…あの一瞬で私に12発も攻撃を喰らわせるなんて…」

 

「15発だ間抜け」

 

 マギはそう言いながら、女を蹴り飛ばした。女は数回バウンドしながら地面に叩きつけられた。

 

「おら立てよ。まさかこれで終わりな訳ねえだろな?」

 

 マギは拳を構えながら女が立ち上がるのをまった。するとフフフフと女が自分の方が不利なはずなのに笑みをこぼしていた。

 

「何が可笑しいんだ?」

 

「何が可笑しい?可笑しいわよぉ。私がまだ本気を出していないのに勝った気になってぇとても滑稽だわぁ!!」

 

 そう言うと女は体をゴキゴキと鳴らしながら変形していった。体はどんどんと脹れあがり、人間の腕が裂けて中から虫のような腕が現れたり、体を突き破って同じく虫のような腕が現れた。背中からは蝙蝠のような翼を広げ、口は裂け、新たに小さな目がぎょろぎょろと辺りを見渡していた。変身の仕方に亜子やスライム娘は思わず悲鳴を上げてしまった。

 そして女は腕は蜘蛛のような8本の腕、蝙蝠の羽裂けた口に複眼と見るにおぞましい姿の化け物へと変わった。

 

「ふふ私の本来の姿はサキュバス…だけど私自身この姿が嫌いだから人間の姿になっているんだけどねぇ。でもこの姿になれば人間の姿の時よりも数倍の力を発揮できる。アンタももうおわ「説明が長いんだよ馬鹿」ぐへぇ!!」

 

 マギは自身の力を説明していた女サキュバスを説明途中に殴り飛ばしてしまった。これにはさすがの亜子もええーと呆然としてしまう。

 

「態々やられる奴の説明なんか聞かねえよ。ほらさっさと掛かって来いよ」

 

「クソガキがぁ!!」

 

 サキュバスは8本のうでに槍を持ってマギを攻撃するが、マギには一向に当たらなかった。

 

「なッなんで当たらないの!?普通の人間だったらとっくにくたばっているのに!」

 

 サキュバスは槍が当たらないことに焦っているとマギが

 

「俺の紅蓮夜叉は、簡単に言えば力を増大させる魔法だ。だが尋常じゃない程の力だ…だからテメェぐらいの魔物だったら」

 

 マギは一瞬でサキュバスが持っていた槍を細切れに破壊してしまった。

 

「負ける気がしねえな」

 

 サキュバスは細切れになった槍の柄を舌打ちしながら投げ捨てると、蝙蝠の羽で上空へと舞い上がった。

 そしてマギに標準を当てると口に魔力を集中し始めた。

 

「だったらこれならどう!?悪魔族の技で最強クラスの技、これを喰らったらアンタもただじゃすまないわよぉ!悪魔の息吹き!!」

 

 サキュバスの口から特大などす黒い闇の魔力の波動が放たれた。

 波動は真っ直ぐ狂いもなくマギに向かっていった。

 だがマギは別段慌てる様子もなく、やれやれだぜと呟きながら

 

「知ってるか?そうやって自分の技をペラペラ喋る奴は、必ず負けるってな」

 

 そう言ってマギは前方に手をかざすと魔方陣を展開、魔力の波動を防いだ。

 否防いではいなかった。波動が魔方陣から飲み込まれていったのだ。

 マギは波動を全て吸収すると、さらに自分の力に還元してしまった。

 サキュバスは唖然とする。自分の技が吸収されてかえってマギをパワーアップさせてしまったことに。

 

「な何をしたのよアンタは今!?」

 

「何したって今から俺に負けるやつに、一々説明するつもりはねぇから」

 

 マギはマギウス・ナギナグ・ネギスクウと詠唱を始める。

 

「来たれ魔剣よ 神々を裏切った炎の魔剣 名を裏切りの枝(レーヴァティン) その剣で彼を斬り刻み 炎で焼き尽くせ!」

 

 マギの手の中から炎で揺らめく魔剣が現れた。

 マギは炎の魔剣を構えるとサキュバス向かって跳躍、サキュバスがガードする前にマギは無数の斬撃を放った。

 

「煉獄殺陣剣…斬り刻まれ、炎にのまれよ」

 

 マギの斬撃でサキュバスの腕や足に翼が切断され、斬られた場所から発火し両断された手足が炎に焼かれて灰塵へと化した。

 

「ギャァァァァァッ!!私の腕が足がぁ!」

 

 サキュバスは斬られた痛みと傷口が焼かれる痛みで悲鳴を上げた。翼も斬られ飛ぶ力も失いそのまま落下していき、地面に叩きつけられた。

 マギも静かに着地し、動けなくなったサキュバスにゆっくりと近づいていった。

 手足と翼を斬られ動く力を失ったサキュバスにとって、ゆっくりと近づいてくるマギが処刑人しか見えなかった。

 サキュバスは今更ながら自分はマギには絶対勝てないと言うことと、マギを怒らせてはいけないと言うことを理解した。

 マギはサキュバスの顔を掴むと持ち上げた。メキメキとサキュバスの顔から骨の軋む音が聞こえてくる。

 

「ごっごめんなさいぃぃ。私が私が悪かったからぁ、もうアンタやアンタの仲間には手を出さないから見逃して。お願いだからぁ」

 

 サキュバスはマギに必死に命乞いをした。

 だが無表情のマギはサキュバスの命乞いに聞く耳を持つつもりなんてなく

 

「もう遅いんだよ。地獄で懺悔しな」

 

 それが死刑宣告となり、サキュバを掴んでいる右腕が光だし

 

「右腕開放 闇の業火 黒炎龍拳!!」

 

 紅蓮夜叉によって何倍もの強力になった闇の業火が、龍の形を成してサキュバスを飲み込み空へと打ち上げられた。

 空へと打ち上げられたサキュバスは断末魔を叫びながら、闇の炎に焼かれていき文字通り塵も残さず消滅してしまった。

 サキュバスが消滅したのを確認するとマギは紅蓮夜叉を解除して、いつも通りのマギの姿へと戻った。

 そして亜子の元へ戻ると怪我はないかと聞いて、亜子は大丈夫だと頷くと

 

「マギさん…マギさんは一体何者なんや?」

 

 ここまで来たら誤魔化すのも無理がある。マギは亜子に自分の正体を正直に話した。

 

「亜子、今まで黙っていたんだが俺は魔法使いなんだ」

 

「へッへぇ~魔法使いなんや…」

 

 自分の正体を告白したのに、亜子の反応はなんか少し薄い。

 

「なんだよ、魔法使いだっていうのにリアクションが薄いな」

 

「いやマギさんさっきいきなり変身したから、スーパー○イヤ人かと思って…」

 

「いや誰だよそれ」

 

 マギは日本の漫画をあまり読まなかったので、髪の毛が金髪に変わる某バトル漫画の主人公を知らない。

 まぁそれは置いといて

 

「魔法使いの存在は秘密なんだ。だからこの事はあんまり喋らないでほしい」

 

「うん分かった。りょうか「と言ってもクラスの何人かはもう知ってるんだけどな」って駄目やないか!!」

 

 亜子は了解しようとしたが、すでにクラスの何人かは自分の正体を知っているというカミングアウトに思わずツッコミを入れてしまった。

 

「まぁ取りあえずだ。ネギやアスナ達の魔力の反応を世界樹らへんで確認した。亜子も来てくれ」

 

「ネギ君も魔法使いなんやな。てかアスナも魔法使いの事をしってたんやな」

 

 とにかくとマギはいきなり亜子をお姫様だっこをして、亜子の顔を赤らませた。

 

「お前も来い」

 

「はっはいれす!」

 

スライム娘がマギの背中に飛び付き、おんぶするような形になった。

亜子とスライム娘がしっかり掴まったことを確認したマギは、ゆっくりと浮かび上がり亜子とスライム娘が降りおろされないような速さで、世界樹の元へ飛んでいった。

 

 



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これからの道

1週間のうちにもう1話投稿できるとは…




 サキュバスを倒し、ネギ達が居るであろう世界樹へ向かっているマギと亜子、そしてスライム娘。亜子やスライム娘が落ちないようにゆっくりと飛んでいたため世界樹へ到着した時間は少し遅くなってしまった。

 ネギ達はマギが上半身裸で傷だらけの事よりも、亜子が一緒にいることに驚きを隠せなかった。

 

「っちょ!なんで亜子ちゃんも一緒にいるの!?」

 

「あはは…うちも成りゆきでマギさん達の秘密を知ってな」

 

 アスナは驚いて思わず大声で亜子に訪ねて、亜子は苦笑いをしながら今さっきマギ達の秘密を知ったということを話した。

 これでまた一人魔法について知ってしまった生徒が現れた…とそうネギ思っていると、マギの背中にスライム娘がくっついているのを見た。

 

「!スライムの女の子たちの仲間!?」

 

「何!まだ仲間がおったのかいな!?」

 

 ネギは杖を小太郎が拳を構えて臨戦態勢へとなった。アスナや刹那に古菲は非戦闘員であるこのか達も護る陣形へとなった。

 スライム娘はヒャッ!?と驚いてしまい、マギの背に隠れてしまった。

 

「待ってくれお前ら、この子に敵意は無い。と言うよりも戦う意思はないんだ」

 

 マギはそう言ってネギ達に構えを解くように言った。そしてネギ達にこのスライム娘の身に起こった人体実験による人造魔物について全て話した。

 話を聞いたネギ達はネギやアスナなどは狂った人間たちの身勝手さや傲慢さに怒りで拳を震わせており、のどかや夕映にこのかは話の惨さや残酷さに涙を流していた。

 

「という事なんだ。だからこの子には戦う意思なんて無いんだ。だからお前らもそう警戒しないでくれ」

 

「お兄ちゃん…うん分かったよ。ゴメンねビックリさせちゃって」

 

「アタシ達は怖い人間じゃないから。信じて」

 

 ネギとアスナがスライム娘に近づいて、スライム娘の体を優しく撫でてあげた。

 スライム娘も警戒の色を解いたのかプルプルと軽く震えた。

 

「何か眼鏡のお兄ちゃんとお姉ちゃんから、お兄ちゃんと同じ感じがするれす」

 

 スライム娘はネギとアスナをそう評した。マギと同じような優しさがあると感じ取ったのだろう。

 スライム娘とネギ達は大丈夫だと判断したマギは、ステージ上で消えかかっているヘルマンに近づいた。

 

「よぉアンタがあの女のボスか?」

 

「やぁマギ君、君に会うのは久しぶりなのかな…彼女を退けるとは大した実力を持っているようだ」

 

「テメェと世間話をするつもりはねぇよ。それよりも部下の躾位はしておけよな。危うく俺の生徒に一生分のトラウマを植え付けられるとこだったんだぞ」

 

 マギはサキュバスが行った事をヘルマンに言った。ヘルマンはすまなかったねぇとマギに謝罪する。

 

「彼女のサディスティックな性格は元からでね、私自身も手を焼いているのだよ」

 

「あぁそうかい。やっぱ言っても無駄だったか…話を変えるが、お前らを雇った奴らは何者だ?」

 

 マギは断罪の剣をヘルマンに突きつけた。がヘルマンはふふんと鼻で軽く笑うと

 

「マギ君、この私を嘗めて貰っては困るな。没落したとはいえ貴族だった身、そう簡単に喋るつもりはないよ」

 

 マギはヘルマンの目を見て話す気は絶対無いとそう思った。これは仕方ないと思ったがヘルマンの近くに千鶴が寝ているのを見た。

 

「おい…何で千鶴がこんな所に居るんだよ」

 

「あぁ彼女かい?いやぁ小太郎君と戦っている時に私に恐れずにビンタをしてね。私自身興味を持ったから御同行願ったのだよッ!!?」

 

 マギはヘルマンが言い切ったのと同時にマギは容赦なくヘルマンの顔を踏みつけた。もう戦えないヘルマンに対して容赦なく踏みつけたマギに引いてしまったネギ達。

 マギは冷ややかな目でヘルマンの顔をグリグリと踏み続けながら

 

「あぁ?貴族でも女の子を眠らせて何をしようとしたんだ?貴族て言っても変態貴族かテメェは」

 

「ぐふぅ…もう動けないのに容赦がないんだねマギ君は」

 

 踏まれていながらも笑みを崩さないヘルマンはいろんな意味で変態なのかもしれない。

 とその千鶴の指がピクッと動いてゆっくりと目を開いた。如何やら目を覚ましたようだ。マギは千鶴の元へ駆けよる。

 

「此処は…?」

 

「気が付いたみたいだな千鶴」

 

 千鶴は辺りを見渡して、寮の部屋ではなく学際で使われるステージにいる事に気づいて、自分が寮で起こった事を思い出した。

 

「そうだった私…マギさんが助けに来たんですの?」

 

「いや俺はほんと今さっき来てな、千鶴を助けてくれたのは…」

 

 ネギと小太郎と答えようとしたが、それよりも早くに千鶴がマギに抱き着いてきたのだ。これにはマギだけでなく、ネギや小太郎にアスナ達も赤くなってしまった。

 そしてマギは上半身裸なだけに千鶴の胸の柔らかな弾力が直に伝わって来るので、顔を赤くしながら千鶴と言おうとしたが気づいた。千鶴の体が震えていたのだ。

 

「よかった…マギさん、私…怖かった…」

 

 千鶴の震えを見てそうだったと思いだす。千鶴はクラスの中で一番大人びいているが、まだ14~15の少女だ。行き成り怖い目にあえば震えるに決まっている。

 マギは千鶴の体を優しく抱きしめ

 

「助けに来たのが遅れて本当に悪かった千鶴。今回はネギや小太郎が居たからよかったものの…約束する。今度千鶴が危ない目にあったら俺が駆けつけて護ってやる。約束だ」

 

 約束した。もうこんな事が起こる前に自分が千鶴を護ってあげるとそう誓った。

 マギがそう言って安心したのか千鶴は体の震えを止めて、よかったと呟いてまた気を失ってしまった。

 マギはもう一度千鶴を優しく寝かせていると、スライム娘がヘルマンに近づいていた。

 

「おじいちゃん…」

 

「おお来たかね」

 

 ヘルマンはスライム娘の姿を見ると優しく微笑んだ。その笑みはまるで孫に笑いかけるお爺ちゃんのようであった。

 

「お姉ちゃん達は如何したんれすか?」

 

 お姉ちゃん達と言うのは恐らくしなくともすらむぃ達の事だろう。ヘルマンはお姉ちゃん達はと目線を封印の瓶へ向けた。

 

「君のお姉ちゃんは悪い事をしたからね、あの瓶の中で反省中だ」

 

「そうれすか…お姉ちゃん達とはいつ会えるれすか?」

 

 スライム娘の質問にヘルマンは答える事が出来なかった。封印されたすらむぃ達は恐らくこのまま関東魔術協会に引き渡されるであろう。そうなったらスライム娘とすらむぃ達が会えることは難しい。

 スライム娘の質問にヘルマンは

 

「お姉ちゃん達は反省する時間が必要だからね。今すぐ会うのは難しいから、おとなしく待って居なさい」

 

「はいれす!」

 

 そう誤魔化した。スライム娘はヘルマンの言った事を信じてプルプルと喜んでいた。

 喜んでいるスライム娘に気づかれない様にヘルマンはマギに来てくれと小声で言った。

 

「私の身勝手な願いなのだが、お願いだマギ君、彼女を…君たちの所に居させてくれないだろうか?」

 

 ヘルマンの頼みにマギは無言であった。ヘルマンは話を続ける。

 

「私がこのまま彼女と一緒に魔界に戻っても私の部下がいる。私の部下は彼女を毛嫌いしている。今回の事だ…最悪彼女を殺すかもしれない。私は彼女を孫のように思っている…だから頼む、お願いだ」

 

 マギはヘルマンの頼みを黙って頷いて

 

「俺はアイツの出生を聞いたのとあの女を見てもう決めてる」

 

 そう言って、なぁ嬢ちゃん…とマギはしゃがみこんで

 

「そのお姉ちゃん達とやらを待つのに、この爺と俺どっちと一緒に居たいんだ?」

 

「おじいちゃんの一緒は…あのお姉ちゃんも一緒れすか?」

 

「まぁそうなるんじゃねえか」

 

「だったらお兄ちゃんがいいれす!」

 

 即答であった。マギはヘルマンの方を向いて

 

「この嬢ちゃんは俺と一緒がいいそうだ。だからこの嬢ちゃんは俺が引き取るぜ」

 

「そうか…ありがとうマギ君。彼女を宜しく頼むよ」

 

 そう言いながらもヘルマンの顔の所まで消えかかっていた。ヘルマンは今度はこのかを呼ぶように言った。

 このかが近くによるとヘルマンはこのかの事、アーティファクトの事も調べたと言った。そしてこのように言った…このかが修業し立派な治癒魔術師となれば、ネギとマギが住んでいた村の住人たちの石化が解けるかもしれないとも言った。

 それだけを言い終えるとヘルマンは完全に消滅してしまった。ネギとマギ、特にネギがさらなる成長を期待しているとそう言いながら高笑いしていたのであった…

 

 

 

 

 翌朝の早朝6時、昨日今日と続いた雨もすっかり止んで朝日が学園都市を照らしていた。

 ネギは世界樹が見える階段の手すりに座って呆然として考え事をしていた。考え事はヘルマンの事である。あの時自分は本当に止めを刺さなくて良かったのか…自分やった事は間違いではなかったのか…そんな考えがさっきから頭の中でグルグルと回っており、その度に自分は間違っていない。そう自分に言い聞かせていた。

 そんなネギをアスナ達は遠目で見守っていると

 

「おーい!ネギー!」

 

 小太郎が手を振りながらネギが座っている手すりまでやって来た。何やら上機嫌な小太郎は

 

「ネギ聞いてや。本山の脱走の件やけどな、今回の事でチャラになったそうや」

 

「本当?」

 

「あぁ此処の学園長っつうのが長さんにかけ合ったんや」

 

「そうなんだ…よかったね」

 

 そうは言うがネギはあまり元気が無かった。どうかしたんか?と小太郎が首をかしげるとネギは

 

「小太郎君、僕色々と考えたんだけど…僕魔法剣士…じゃなくて魔法武道家になるのかな?その魔法武道家で立派な魔法使いを目指すよ」

 

 ネギが魔法武道家になることを選んでおお!と小太郎は喜んだ。

 

「しかしなんでそれを選んだんや?」

 

「なんか小太郎君と一緒に戦ったのが楽しいって思った僕が居たからかな?」

 

「せやろう!?やっぱり男は拳やな!」

 

 すっかり上機嫌になった小太郎は今すぐ組み手をやろうや!というが、ネギ自身まだダメージや魔力が完全に戻っていないと言うがそこは気合いでなんとかせえ!と返されわちゃわちゃしてしまった。

 そんなネギと小太郎をみてアスナ達は呆れたが、小太郎のおかげでネギが何時もの感じに戻ってよかったと思った。

 ネギに同年代のう友人兼ライバルが出来たのであった。

 

 

 世界樹の枝にマギが座り込んでネギと小太郎の事を見降ろしていた。ネギはもう大丈夫だと呟いていると

 

「此処に居たのかマギ」

 

 エヴァンジェリンが茶々丸を連れてやって来た。

 

「あぁまぁな。ネギが色々と考え事をしながら寮を出て行ったから心配してついて行ったが何も心配はなさそうだ」

 

「そうか…ところでそいつ(・・・)は何時まで寝てるんだ?」

 

 エヴァンジェリンが指を差したのはマギの腕の中でスヤスヤと寝ている、ボブカットでぴょんとアホ毛が出ている女の子が居た。

 その女の子はマギが引き取ったスライム娘である。その証拠に体が透明であるのだ。

 マギは寝ているスライム娘を起さない様に優しく撫でながら

 

「一人で寝るのは怖いんだろう。だから俺が一緒に居て寝かせているんだ」

 

「成程な。しかしお前もお人好しと言うか変人と言うか、化け物を自分から引き取るなんてな」

 

「何とでも言え。俺はコイツの事は化け物とは思ってない。もしコイツに危害を加えようとする奴が出てきたら俺はコイツを護るつもりだ」

 

 マギはそう言いきった。そんなマギの意志の強さがエヴァンジェリンには好意的であった。それと…とマギはエヴァンジェリンに向き合うと

 

「今更だが俺はエヴァの事は化け物なんて思っちゃいない。俺の大切な仲間だ。もし誰かがお前に手を出してきたなら俺がお前を護ってやる」

 

「うッ五月蝿い!行き成りお前は何を言うんだ!?そんな事を言うんだったら私よりも強くなってから言うんだな!」

 

 マギがいきなり護ると言ってきたのでエヴァンジェリンは思わず顔を赤くしたが、咳払いをして冷静さを取り戻すと、キリッとした表情になると

 

「マギ、お前は闇の魔法を使ったが…何処か体の不調は無いか?」

 

 マギに体の不調は無いか尋ねた。初めて闇の魔法を使用したときは自爆してかなり危ない状況ではあったが

 

「いや特になんともないぜ。エヴァとやった修行のおかけだぜ」

 

 と答えた。それを聞いてエヴァンジェリンは内心ホッとした。

 闇の魔法は本来自分の様なう人ならざぬ者が使う魔法。下手したら死ぬかもしれないのだ。

 死なないかもしれないが、闇の魔法をむやみやたらと多用していたらいずれ…とそんな不安が頭をよぎっていると

 

「うにゅ…お兄ちゃん?」

 

 寝ていたスライム娘が目を擦りながらウトウトと起きてしまった。

 

「あぁ悪い。少し五月蝿かったか?まだ起きるには早いからもう少し寝ていろ」

 

「うにゅ…分かったれす。お兄ちゃん」

 

 マギが優しく言うとスライム娘は又寝息をたてて寝てしまった。

 マギが寝ているスライム娘の体を優しくリズミカルに叩いて寝かしつけている姿をエヴァンジェリンはニヤリと笑いながら

 

「なんだマギ、お前すこしそいつに甘くないか?シスコンか?」

 

「シスコン…なのかもな。ネギにたいしてはこんなに接していなかったが、この子は何処か護ってやらないとって気持ちになってな」

 

「そうか。でそいつの名前はなんて言うんだ?」

 

 エヴァンジェリンの名前の言葉が出たとたんマギは表情を固くした。怒っているようで悲しんでいる様な複雑なマギの表情を見てエヴァンジェリンはどうしたんだとたずねると

 

「…改造されたときの後遺症なのか、自分の名前や人だった時の記憶が殆ど無いそうだ。自分に父親と母親が居たことしか思い出せないらしい」

 

 それだけ聞くとそうか…とエヴァンジェリンは呟きながら溜め息を吐いた。

 化け物を恐れている割には化け物を造りだそうとするとは、人間と言うのは何処まで身勝手で傲慢だろうか…だがそれが人間の一つのエゴなのかもしれないとエヴァンジェリンはそう思いながらも

 

「だったらいい名を付けた方が良いかもしれないな。まぁお前が名前を付けたらそいつはなんだって喜びそうだけどな」

 

「実は結構いろいろと考えているんだよなこれが…喜んでくれると嬉しいんだけどな」

 

 そしてマギはこうも思った。願わくばこの子が人間の姿だった時より以上に幸せな時間を過ごしてくれたらと…

 

 

 

 

「…これが今回の襲撃事件の報告書です学園長」

 

「うむすまないのぅタカミチ君」

 

 タカミチが学園長に報告書を提出していた。何故ネギとマギのどちらかが報告書を提出しなかったかと言うと、ネギは小太郎の相手やまだ傷が完治していないという事、マギの方はスライム娘の子守で手が離せないという事で、マギが報告書を作成しタカミチに手渡し今に至るのだ。

 報告書を読んだ学園長はふーむと唸りながら

 

「まさかネギ君とマギ君が住んでいた村を壊滅させた悪魔の生き残りとはのぅ…しかし学園内の結界を抜けて来るとは少しばかり結界を過信しすぎたかもしれんな」

 

「その事でマギ君から伝言を『学園内の警備が甘すぎる。なんでもかんでもエヴァに任せきりじゃないのか?』だそうです」

 

「ううむ、其処ばかりは何も言い返せんのう」

 

 マギが言っていた事は尤もであった。昨夜の豪雨では学園内を警備する魔法先生まだしっかり警備をしていたが魔法生徒の何人かは、この豪雨で侵入してくるものなど居ないと勝手に決めつけ帰ってしまったそうだ。

 そしてヘルマンが結界を抜けて来たのが、その勝手に帰ってしまった魔法生徒の見回りの場所であった。勝手に帰った魔法生徒は深く反省しこのような事が次に起こらない様に精進しますと誓った。

 麻帆良では実戦経験を持つ魔法使いが限られており、特にタカミチは出張などで居ない事が多くそれもあってかなり侵入者迎撃をエヴァンジェリンに任せる事が多いのだ。

 

「それとマギ君の報告にあった封印されたスライム達ですが、今朝早朝に関東魔術協会の方へ渡しておきました」

 

「うむご苦労。それと人造で造られたスライムと言うのは、何とも非人道的な事があったとはのう…」

 

「その人造魔物を製造しようとした組織ですが、僕があちらの国(・・・・・)からの依頼でその場所に向かったのですが、僕が向かった時にはもう組織の人間は全滅していました。おそらくその時の子なんでしょうね」

 

「それでそのスライムの娘はマギ君は如何すると言っていたのかのぅ?」

 

 それに付いてはとタカミチは微笑しながら

 

「彼はその子を自分やネギ君の義理の妹として一緒に暮らすと言っています。マギ君らしいと言えばらしいですね」

 

「ふむ…化け物ではなく一人の女の子として見ているのかのう。そこがマギ君の良い所じゃな、エヴァンジェリンが彼に惹かれたのもそこら辺かもしれんのう」

 

 じゃがと心配なのが他の魔法先生、特にガンドルフィーニ先生だ。

 

「ガンドルフィーニ君はマギ君の妹して引き取る事に反対したのではないのかね?」

 

 ガンドルフィーニは良くも悪くもいい魔法先生である。そのスライム娘の存在が魔法を一般生徒達に広めたり危険な目にあわせたりしてしまうのではないかと危惧し、封印するべきだと意見するはずである。ところが

 

「いえ彼は今回はマギ君の意見に賛成の方でした」

 

「何じゃと?それは意外じゃな。してその理由は」

 

「ガンドルフィーニ先生には、小学生にあがったばかりの娘さんが居るので恐らく自分の娘さんと重ねて見てしまったのでしょうね」

 

「そうかのう。それじゃったら心配は要らぬかのう。報告書と一緒に渡されたメモにも『預かった子は大人しくていい子だ。俺とエヴァが特訓して、長い間人間の姿をとどめておくようにするから心配しないでくれ』と書いてあるし。何の問題も無いじゃろう」

 

 学園長はスライム娘の件は全てマギに一任する事にし、本題は学園の警備である。

 

「今回の襲撃に関して、もう少し学園内の警備を強化する必要があるやもしれん。さらにそろそろ麻帆良学園の最大のイベントでもある『麻帆良祭』が迫っておる。タカミチ君、麻帆良祭の開催期間は学園内に居るのかのう?」

 

「麻帆良祭の期間は自分も学園内に居ますので大丈夫です」

 

「うむそうじゃったら少しは安心じゃのう…では、麻帆良祭で何にも問題が起こらない様に頑張るしかないのう」

 

 そう言って学園長は報告書を閉じた。これから来る麻帆良祭で何も問題が起こらない様に祈りながら悪魔襲撃事件は幕を閉じたのであった。

 

 

 

 しかし学園長の祈り虚しく麻帆良祭では色々と問題が起こるのであった。そう色々と…




はい今回で原作8巻は終了しました。
原作とは違う点は亜子が早く魔法の存在を知った事と
オリキャラのスライム娘が出た事です

そのオリキャラのスライム娘について活動報告を乗せておきますのでよかったら見てください。

では次回からは原作9巻に入ります。
よかったら楽しみに待っていてください


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~第7章~文化祭準備もいろいろ大変!?
学園祭の出し物を決めるだけでテンション上がる


今回から新章に入ります
そして活動報告にも書きましたがスライム娘の名前が決まりました
それではどうぞ


 イギリスウェールズのネギとマギが住んでいる村の丘にて、ネカネは日本に居るネギとマギから久々に送られてきた魔法エアメールを見ていた。

 

『ネカネお姉ちゃん元気ですか?僕とお兄ちゃんは日本で元気に先生をやっています』

 

「フフ…ネギ、ウェールズに居た時よりも随分逞しくなったのね」

 

 ネカネは魔法エアメールのスーツ姿のネギの姿を見て、前に来たエアメールよりも逞しくなったのを見て微笑んだ。一目で見ただけで分かるのは流石姉であるのかもしれない。

 

『日本に来て4か月経って相変わらず先生の仕事は大変だけど、お兄ちゃんやクラスの皆と一緒に頑張っています。クラスの皆もいい人ばっかりで学校生活にも慣れてきました』

 

 そう言いながら映像のネギはブイサインを見せながら

 

『それでねこの前学校で中間テストがあったんだけど、なんと僕達のクラスが3位だったんだ。皆が頑張ってくれたおかげなんだ。だけどねお姉ちゃんに何時も話しているアスナさんがクラス最下位でね、なんでアタシだけこんなに悪いのよー!って大暴れしちゃって』

 

「まぁ大変ね」

 

 ネギの報告を見てクスクスとネカネが笑っていると

 

『こらぁ!誰が万年最下位乱暴おサルですッてぇ!?』

 

 パジャマ姿のアスナが参上し、ネギの頬を軽く抓り始めた。

 

『ちょッ!あアスナさん、今手紙の録画してるんですよぉ!』

 

『ええ!今録画してんの!?』

 

『はい、お姉ちゃんへ送るメールです』

 

『ちなみにバッチリ撮れてますぜ姐さん』

 

 アスナが慌てはじめたのを、カモがニヤニヤと笑いながらそう教えると、アスナはあわあわと慌てだし

 

『どッどうも初めまして!アタシは神楽坂明日菜って言います…ってアタシパジャマのままじゃない!』

 

 ペコペコとお辞儀しながら自己紹介をするアスナだが、今自分の恰好がパジャマだと気づきまた慌てだす。そんなアスナを見てネカネは元気で明るい子ねとそう評した。

 アスナが撮り直しを要求したが、カモが面白そうだからこのまま送ろうという事で、ネギは構わず話を続けた。

 

『でね他にもエヴァンジェリンさんて言う凄い魔法使いに新しい呪文を教えて貰ったり、くーふぇいさんっていう生徒さんに中国拳法を教えて貰ったりしてるんだ。よくあるカンフー映画で出てくるあんな感じの。今は1日1日がとても充実しています。それでね仕事以外にも一杯大変な事があったんだけど…』

 

 そう言うとネギは無言になってしまった。無言になる事十数秒、ネギはアハハと笑いながら

 

『やっぱりこの話は無し。また今度話すね』

 

 ネカネはネギが自分に隠し事なんて初めてなので驚いたのと、少し寂しく感じてしまった。

 

『それと最後に僕に新しい友達が出来たんだ。小太郎君って言う僕よりも格闘戦が強い男の子なんだ。今度紹介するね…ほらお兄ちゃんもお姉ちゃんに何か喋ってよ』

 

 ネギに呼ばわれ、今度はマギがネカネにメッセージを送る事にした。ネカネはネギの成長を見る事が出来て、マギもどれほど成長したのか楽しみであった。

 だがマギの姿を見てネカネは思わず息を呑んでしまった。ウェールズに居た時はだらけきった生活をしており、何処かだらしなかったマギが、今では体から滲み出る何処か鋭い雰囲気に身震いしてしまった。

 

『よぉネカネ姉、正直今迄のメッセージの時はメンドイって理由でネカネ姉にメッセージを送って無かったけど今今日まで起こった事を話そうと思う。この4ヶ月間いろいろあってネギや俺も成長したと思う。ネギは今迄一人でなんでもこなそうと頑張り過ぎていたけど、今はさっき見たアスナや他の生徒と協力して立派な魔法使いを目指している。俺自身も今迄のだらけきった生活とおさらばして更なる自分への高みを目指しているぜ。それと今迄吸ってたタバコは今は止めてるぜ。弱い自分とはおさらばってな』

 

 タバコを止めた。あれだけ注意しても止めなかったタバコを自分から止めたという事にネカネも嬉しく思った。

 

『とりあえずメッセージに残すのは此れぐらいかな?…あぁ後色々と混乱すると思うけど、俺とネギに新しい家族が増えたから。これはウェールズに帰ったら色々と説明するから。おいネギそろそろ終わりにするぞ』

 

『あぁうん分かったよお兄ちゃん!それじゃあお姉ちゃんまたね!』

 

『ネカネ姉も体に気よ付けろよ。それじゃあな』

 

 ネギとマギが軽く手を振ってメールの映像はこれで終わった。

 映像を見終わったネカネはフフと小さく笑って

 

「ネギとマギが思っていた以上に逞しくなってよかったわ。でも…新しい家族って何かしら?」

 

 ネカネはマギが言った新しい家族と言う言葉に首を傾げていたが、それは2人が帰ってきてからのお楽しみにしよう。

 ネカネは青空を見上げながら

 

「ネギ…マギ…此れからもがんばってね」

 

 2人の無病息災をお祈りしたのであった。

 

 

 

 

 ネギとマギがネカネに手紙を出した翌日、麻帆良では今日も慌ただしく生徒達が登校していた。登校と言っても何時もの登校とは色々と違う点が幾つもある。

 そしてマギ達の方でも変わった点があった。それはマギの肩に肩車されている小さい少女である。

 その少女はマギが妹として引き取ったあのスライム娘である。ヘルマン達が襲撃された後、スライム娘を引き取ったマギは中間テストの勉強期間の間、エヴァンジェリンの別荘にて、エヴァンジェリンに個別授業を行う間、エヴァンジェリンがスライム娘に魔力のコントロールを教えてあげた。エヴァンジェリンの指導は厳しめだが、スライム娘はエヴァンジェリンが教えてくれたことをスポンジのように次々と吸収していった。

 そしてエヴァンジェリンの教えでスライム娘は魔力をコントロールし人型を長時間維持できるようになり、体を硬質化させ戦ったり、戦えない人のサポートも出来るようになった。

 人型の時は半透明ではなく、ちゃんと人と同じ肌の色で髪の色はマギとネギと同じ赤髪でアホ毛がちょこんと目立っていた。

 そして大事なスライム娘の名前も決まった。それは…

 

「おいプールス大丈夫か?振り落ちたりしないか?」

 

「はい!大丈夫レス!」

 

 スライム娘の名前はプールス・スプリングフィールドと決まった。最初はプールスと言う名前にアスナは変な名前と正直な感想を述べたが、プールスと言うのはラテン語で純粋を意味する。何でも疑問に思ったり自分の気持ちに素直なプールスはまさに純粋であろう。プールス自身マギが付けてくれた名前に嫌と言う言葉は出ずに素直喜んでにプールスの名を貰った。

 だがアスナやこのかはプールスと言う発音が少し苦手なのか

 

「何かプルちゃんって本当にマギさんが大好きよね」

 

「アハハでもマギさんの気持ち、少し分かるかもなー。プルちゃんすっごくかわええもん。うちにも妹がおったらこんな感じなんかな~」

 

 プールスではなくプルと呼んでいた。プールス自身もさっそくあだ名が出来たのが嬉しいようで上機嫌であった。

 とマギ達が微笑ましい登校をしていると、前の方から小太郎が現れた。

 

「おっすネギ!」

 

「小太郎君お早う!」

 

 ネギと小太郎はバシンといい音が出るほどの握手をして挨拶をするという子供らしい挨拶であった。とネギは小太郎が学ラン姿に気づく。

 

「小太郎君如何したのその恰好?」

 

「これか?ヘヘッ実はな本格的にこっちに転校する事にしたんや」

 

 小太郎は麻帆良に転校する形で此方にとどまるようだ。それでなと小太郎はひそひそ声で話し始めた。まるで誰かに聞かれない様に

 

「どっかで一人暮らしが出来る場所とか知らんか?今探してるんやけど中々見つからなくってな」

 

「一人暮らしをするの?凄いね小太郎君は」

 

 ネギと同じ歳で一人暮らしは感心すると思っていたら、小太郎の頭を誰かが掴んで

 

「うふふ、駄目よ小太郎君。小太郎君は私達と一緒に住むんでしょ?」

 

 千鶴が小太郎を動けないようにしながら

 

「ネギ先生、小太郎君とは少し前に知り合ったそうですね?」

 

「え?あはい。京都の時にちょっと」

 

「小太郎君から話は聞きました。この子は両親が居ないそうで…でも私が絶対にこの子を立派に育てますわ!」

 

 と使命感に燃えていた。子供に対して熱意が伝わってくるアスナとこのかであったが、千鶴と一緒に居た夏美は小太郎は千鶴に弄られる仲間が出来たとそう思っていた。

 

「おう夏美お早う」

 

「おはようレス夏美お姉ちゃん」

 

「おはようございますマギさん、プルちゃん」

 

 マギとプールスが夏美に挨拶をして、夏美も普通に挨拶をした。

 何故夏美がプールスの存在を知っているかと言うと、マギが中間テスト後にクラス全員にプールスの事を妹として紹介したのだ。

 紹介した最初は何故行き成り妹を紹介したのかと質問攻めにあったが、マギが大人の事情やら色々とでっち上げな事を説明すると、クラスの殆どが納得してくれた。まぁ千雨が最後まで納得していなかったのは何時もの事という事で。そして教室に居る時は授業を生徒達が行っている際は、プールス自身は静かに算数やら国語を自習していた。精神と肉体の年齢が6歳ぐらいなのでそれ位の勉強が丁度いいのだ。

 なぜ小学校に連れて行かないかって?それもマギが大人の事情という事で誤魔化したのであった。

 とマギと千鶴の目があった。

 

「おッおう…お早う千鶴」

 

「えッええ、おはようございますわ」

 

 

 マギと千鶴は互いに目を合わさずに挨拶をした。マギと千鶴はヘルマンの襲撃時に千鶴が上半身裸のマギに周りの目を見ずに抱き着いてしまったのだ。

 それを互いに思い出していて、顔を赤くしながら目を合わせられない2人。

 

「お兄ちゃんと千鶴お姉ちゃんの顔が真っ赤レス。どうして赤いんレスか?」

 

 マギと千鶴が如何して顔が赤いのか首を傾げるプールスに対して、ネギとアスナは苦笑い。このかは少し顔をキラキラと輝かせて。夏美はようやくちづ姉にも春が…と喜んでいたが、小太郎はプールスと同じぐらいに鈍感(プールスは無垢なだけで鈍感ではない断じて)で何故2人の顔が赤いのか分からなかった。

 とマギ達が立ち止まっていると、ネギがドン!と登校してる学生にぶつかってしまった。ネギはぶつかってしまった事を謝ろうとしたが、ぶつかったのが大きな亀や鳥やイカの化け物であった。

 ネギと小太郎は新手の敵か思い杖と拳を構えて、気分が落ち着いたマギはそんな2人を馬鹿と言いながら軽く小突く。

 

「よく見ろお前ら。すみません道を遮ってしまって」

 

「いやいいんだよ。坊やたちもあんまり立ち止まっていると危ないよ」

 

 亀の化け物…よく見たら着ぐるみであった。亀の化け物の着ぐるみを来た人はマギ達にそれだけ言うと鳥とイカの化け物の着ぐるみを着た仲間と一緒にさっさと行ってしまった。

 何だったんだ今のはと呆然としてしまうが

 

「お前らアレを見て見ろよ」

 

 マギが指を差してみると、ネギと小太郎の目の前を本物のロボットやら光の巨人やらライダーやら鎧武者やら機動戦士などなど、可笑しな恰好をした生徒達が登校しているのを見て、思わずあんぐりとしてしまった。

 

「やっぱ大学部の生徒は気合が違うわ」

 

「何の出し物なんやろなー?」

 

 学生であるアスナ達は目の前の光景が何なのかがもう分かっている。

 登校光景もそうだが、おお!と歓声が上がっていた。ネギ達も歓声が上がった方を見てみると、曲芸師学園都市内を空中ブランコをしながら登校していた。

 そして空中ブランコをしながら何か宣伝をしていた生徒は、ネギとマギの生徒でもある、顔に変わったペイントを入れたザジであった。

 ザジもネギとマギの姿を確認すると空中ブランコから空中で降りて着地すると

 

「ネギ先生、マギ先生…よろしければ我がサーカスへどうぞ」

 

 ペコリとお辞儀をしながらザジはネギとマギにサーカスの割引券を渡した後、営業スマイルではあるが笑った。

 

「あッはい、どうも」

 

「ザジは曲芸部だったんだな。有りがたく貰っておくぜ」

 

 マギとネギはザジが喋ったのと笑ったのを初めて見たので内心驚いていた。

 目的を果たしたのかザジはまた空中ブランコに乗って学校を目指し始めた。

 何故生徒達が何時もよりも可笑しな恰好で登校しているか、それは目の前に写った製造途中の凱旋門が物語っていた。

 漸く気持ちが落ち着いた千鶴がネギやマギに小太郎、そしてプールスに今何をしているのか説明した。

 これから2週間後に迫っている学園祭『麻帆良祭』向けての準備をしているのだ。中学高校の中間テストが終わった直ぐに準備が始まるのだ。全学園合同の学園祭のため、まだまだ学園祭までかなり先だと言うのに賑わっていた。

 主に大学生は部費の殆どを学園祭で稼ぐサークルばかりなので気合が入りまくりだと言う話だ。麻帆良祭開催期間は多くの出店やイベントが目白押しで大騒ぎと言う訳だ。

 

「何か色々と凄いのは分かったけど、何や面白そうやな!俺こっちに来てよかったで!!」

 

「うッうんそうだね」

 

 基本楽しい事は大好きな小太郎は、これから来るであろう麻帆良祭に心躍っているようでバンバンとネギの背中を叩いてネギは少し苦笑を浮かべた。

 

「私こんな大きなお祭り、生まれて初めてレス」

 

「そうか?だったら時間が開いた時には一緒に回るか?」

 

「ハイレス!!」

 

 マギが一緒に回るかと聞くとプールスは大はしゃぎで、マギも喜んでいるプールスを見て微笑んでいた。

 

(やっぱマギさん無自覚だけどプルちゃんに甘いわね)

 

(これがあのシスコンってやつやないかなー?)

 

 アスナとこのかがひそひそ声で話していると、小太郎は格闘大会参加受付中と言う看板を見て

 

「おッ!格闘大会もやるんやないか!ネギにマギの兄ちゃん出ようやないか!」

 

「ええ?如何しようかなぁ…」

 

「俺は出てみるか。久々に腕試しをしてみたいしな」

 

 小太郎の誘いにネギは考え中、マギは出てみる方向でそう答えた。とそろそろ時間が迫っているので小太郎と一旦分かれてネギ達も学校に向かった。

 

 

 

 

 学校に到着したネギとマギ達は一旦アスナと別れて職員室に向かい用意を済ませると、教室に向かった。

 教室に向かうまでは、肩車ではなく手を繋いで教室に向かうマギとプールス。

 

「しっかし学園祭ですか、兄貴や大兄貴のクラスは何をやるんですかね?」

 

「う~ん日本の学園祭は、喫茶店やお化け屋敷とかがよくある出し物らしいよ」

 

「まぁ俺としてはアイツ等がちゃんとした出し物を出してくれるんだったらそれでいいや」

 

「お姉ちゃん達の出し物楽しみレス」

 

 そんな事を話している間に教室に到着し、ネギが教室のドアを開けると

 

『いらっしゃいませー!ようこそ3-Aメイドカフェ、アルビオーニスヘ!』

 

 メイド姿になったあやか和美に、チラリーディングの円に美砂に桜子がお出迎えした。

 

「わぁ!皆さん如何したんですかその恰好は!?」

 

 ネギはあやか達のメイド姿にビックリしてしまった。

 

「3-Aの出し物はメイドカフェに決まりましたの」

 

「ウチの学校はお金儲けしていいからね。これでお小遣い稼ぎまくるよ!」

 

 あやかがネギ達に説明して、裕奈がこれさえやればお小遣いガッポガッポだと断言した。

 

「私自身メイドカフェというものをよく分かっていませんが、皆さんたっての願いでしたので、こう衣装をご用意させていただきましたの」

 

「って事はあのメイド服全部ちゃんとした服だな」

 

「委員長の嬢ちゃんはある意味いい人過ぎて損する人ですね」

 

 マギとカモはあやかのこれからを少し心配してしまった。

 とプールスは目をキラキラと輝かせながら

 

「あやかお姉ちゃん達、とってもすてきレス!」

 

 プールスの素敵と言う言葉を聞いた途端あやかは号泣する。

 

「うう…!ネギ先生やマギ先生の妹さんであるプールスちゃんに素敵なんて言われて…!あやかは感激です!!」

 

 とあやかが勝手に感動している間に、和美や桜子などが教室に置いてあったソファにネギとマギにプールスを座らせた。

 マギはこのまま3-Aがメイドカフェに決定するかと思ったが、そこは3-Aでやはり悪ふざけが入った。

 

「ささネギ君にマギさん、取りあえず一杯グイッといっちゃってよ」

 

 桜子がネギとマギのコップに飲み物を注いだ。プールスにはミルクである。

 

「ねぇねぇネギ君私このカクテルが飲みたいなぁ」

 

「はッはぁ。どうぞ」

 

「よッ社長!太っ腹!」

 

 円がネギにおねだりし、美砂が社長と乗せる。なんかノリが有名なシャッチョさんになってきた。

 

「ねぇマギさん、胸の谷間に栓抜きが落ちちゃったからとッてぇ」

 

「…お前は何やってるんだ桜子」

 

 マギは桜子のボケに対して冷静にツッコんだ。

 

「あのぅこれは如何言った出し物なんですか?」

 

「やあねぇネギ君、これがお・と・な・の遊びなのよ」

 

「お兄ちゃん、大人の遊びってこんなのが楽しいんレスか?」

 

「…プールス、お前にはこの遊びは早いから。と言うか絶対やらせないから。興味を持ったりしちゃ駄目だぞ」

 

 ネギと美砂の遣り取りを見て、プールスがミルクをコクコクと可愛らしく飲みながらマギに尋ねるが、マギはそんな事に興味を持ってはいけません。お兄ちゃんは断じて認めませんとそう言い切った。

 ネギとマギにプールスが飲み物を軽く飲んでそのお会計は

 

「7800円になります」

 

「ええッ!?」

 

「ぼったくりじゃねーですか」

 

「これじゃあ客が寄ってくるどころか、逆に客足が遠のいていきそうだな」

 

 余りにもぼったくりな値段にマギはそうツッコミを入れた。

 

「と言うよりも今のはおふざけだと信じるぞ。学園祭当日にこんな事やったら確実に営業停止になっちまうぞ」

 

 マギが注意を呼びかけるが、和美や裕奈などのどちらかと言うとお気楽思考の者達が大丈夫だとそう言った。

 とまだまだ衣装があると言って、色々と衣装に着替えた。猫耳メイドやらバニーガールにチャイナ服やら大正時代の服に着替えたりした。

 しかしパンチが足りないと思った和美と裕奈は今度は袴が短い巫女服やらシスターやらミニスカ猫耳ナースやら猫耳スクール水着やら最終的には幼稚園の制服やら体操着などなど。

 一通りやり終えた和美や裕奈はと言うと

 

「やり過ぎたこれ…?」

 

「うんやりすぎた…」

 

 色々とやり過ぎてしまった様だ。だったらやらせるなよと着せられた者達からツッコミが入ったが、取りあえず聞いていないふりをする。

 そんな和美と裕奈に対してハルナが笑止と言うと

 

「ふふ…甘いわね2人ともこのクラスは素材が良いのが多いんだから基本は薄味で、これで充分よ!!」

 

 ハルナが言った其処にはレストランのウェイトレスの恰好をしたのどかが居た。普通に可愛らしい格好だ。

 

「うん、のどからしくて可愛いぞ」

 

「のどかお姉ちゃん可愛いレス!」

 

 マギとプールスがのどかの姿を可愛らしいと褒めるとのどかはもじもじしながらもありがとうございますとお礼を言った。

 マギがのどかの恰好を鑑賞していると、マギの袖を誰かがクイクイとひぱって振り返ると

 

「なッなぁマギ、私のこの恰好は…変か?」

 

 其処には何時もの黒のゴスロリではなく、白のワンピースを着たエヴァンジェリンが居た。マギは上から下までじっくりと見て

 

「あぁ何時もは黒だったが、白の服もエヴァに似合っていい感じだぞ」

 

「そ…そうか!まッまぁ私にかかれば何を着ても似合ってしまうがな!」

 

 とマギ達がワイワイと騒いでいるのを苛々して見ている生徒が居た。千雨である。

 ちうとして活動している千雨からしてみればまるでなっちゃいない。ただ衣装を着ているだけである。我慢の限界になった千鶴は

 

「おいお前ら!このちう様がメイドカフェの真髄って奴をだな…!」

 

 千雨は熱弁をしようとしたが、後ろの方から人の気配がし後ろを振り返ると、其処には額に青筋を浮かべている新田先生の姿が

 

「こらぁ!お前達朝っぱらから何をやっているんだぁ!!ネギ先生とマギ先生もです!」

 

 その後、新田先生にこってりと絞られた3-Aは文化祭ではメイドカフェは中止となってしまったのであった。

 こんなので大丈夫なのか?新田先生に説教されながら、そう思ったマギであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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自分の力を恥じるな

少し遅れてしまいました
最近メンタルに低下が…

それではどうぞ


 新田先生に説教された3ーAはその後、結局新しい出し物を決めることが出来ずに1日が終了してしまった。

 翌日マギ達は朝食を食べないで早朝に寮を出てきた。

 

「ふぅ~この時間だったら、遅刻しないで済みそうね」

 

「と言っても走ってるんですけどね私達…」

 

 アスナが遅刻しないで済みそうと言いながらも走っている事に刹那がツッコむ。

 アスナ達は平常運転だが、ネギは元気が無かった。昨日の事でまだ気にしているようだ。

 

「ネギ…まだ気にしてるのか?あんまり気にしてるとかえってよくないぞ」

 

「ネギお兄ちゃん元気出してレス」

 

「お兄ちゃんプールス…ごめんなさい。昨日も色々と考えちゃって、もう大丈夫だから」

 

 マギとプールスに心配されてネギは大丈夫だとは答えたが、マギから見てみれば全然大丈夫ではなかったが、敢えて追及はしなかった。

 所でと話を変えてマギはアスナの方を見ながら

 

「こんな時間にでて何がしたいんだ?朝飯食ってないから腹減ったぞ俺は」

 

「おなかへったレス~」

 

 プールスのお腹からぐぐ~と盛大に腹の虫が鳴っているのを聞いてアスナは思わず吹き出してしまって

 

「フフッゴメンねプルちゃん。でももうすぐに美味しい御飯が食べられるから」

 

 と言って辿り着いたのが、超包子と言う名の路面電車を改造した飲食店であった。

 店自体が人気なのか先生や生徒で混んでおり、数十人若しくは百人はゆうに超えているだろう。

 よく見たら、古菲に茶々丸、ハカセに超と3-Aの生徒が料理を作ったり運んだりしていた。彼女たちが経営してるのだろう。店の名前に超が付いているから超が店長なのだろうか。

 と茶々丸がマギ達に気づいて会釈してきたので、マギも手を上げて挨拶を返した。空いている席を見つけ座るマギ達

 

「超さんのお店ですかぁ」

 

「結構繁盛してるんだな」

 

「美味しそうな匂いがあっちこっちからするレス~」

 

 プールスが匂いを嗅いで思わず口から涎を出してしまい、行儀が悪いぜ嬢ちゃんとカモに注意されてしまった。

 

「超たちが作る点心はすっごく美味しいのよ」

 

「ウチらもこの店のファンやから、学園祭の準備期間はこうやって朝早くに食べに来るんよ」

 

 アスナとこのかの説明を聞いて期待できると思ったマギとネギはメニュー表を開いて何を頼もうか決めようとしたら、ネギの目の前に美味しそうなスープが置かれた。

 

「あッあのすいません僕まだ何も頼んでいませんけど…」

 

 ネギは間違いではとそう言おうとしたが、スープを置いたのが3-Aの生徒である五月であった。

 

「あッ五月さんお早うございます」

 

「よう五月、お前もこの店で働いてるのか?」

 

 マギの問いに五月ははいと静かな声で肯定した。

 四葉五月彼女は3-Aの中ではぽっちゃりと言うかふっくらとした女の子でありながらも、しっかり者でどこか凄味のある。そんな感じだとマギは評価した。

 

「五月さん、このスープは?」

 

「私がサービスした特製のスープです。元気が出ますよ」

 

 どうやら五月のサービスだったようだ。プールスはいいなぁとネギのスープを見ていた。

 

「ありがとうございます。でもどうして僕だけ?」

 

 ネギが首を傾げいると五月はくーさんから聞きましたと言いながら話を続けた。

 

「修業頑張ってるって聞きました。でも、無理は駄目です。体を壊しますし…体が資本、健康第一です」

 

 そう言って五月はグッとガッツポーズをし、ネギにエールを送った。今まで余り話さなかった生徒に応援させられて嬉しく思ったネギ。

 

「最近元気が無さそうだったので、これを飲んで元気出してください。修業とお仕事頑張ってください」

 

 そう言い終えると会釈し、五月はコック帽をかぶって仕事に戻って行った。

 

「いい人ですね五月さんって」

 

「そうやねー五月さんはすっごくいい人なんよー」

 

「四葉さんは凄い人ですよ。料理の腕はクラス1と言っていいでしょうし、まさに達人と言った感じです」

 

「アタシはあんまり料理は得意じゃないから、五月ちゃんみたいに料理が得意な女の子って憧れるんだよねー」

 

「ああやって気配りが出来るって言うのは、将来立派な大人になりそうだな」

 

 ネギ達は五月の事をそう称賛した。とそんな事を話していると頼んだ料理がやってきて、マギやネギとプールスは超包子の料理は初めてでさっさく一口食べてみると

 

「美味すぎる…!」

 

「美味しいレス~!」

 

「すっごく美味しい!」

 

 一口食べて絶品だとそう思ったマギ達3人はゆっくりだがしっかり味わって食べ始める。

 次にネギは五月からのサービスのスープを飲んでみると、確かに元気が出る味だった。

 

(五月さんって本当に凄いな。こんなに美味しい料理を作れるなんて…五月さんや他の生徒の皆さんにも心配をかけないで僕がもっとしっかり頑張らなきゃ。こんな大きな学園祭なんだし、先生としてシャキッとしなきゃ)

 

「よーし!まだクラスの出し物が決まってないし、朝のHRから先生の仕事頑張らなきゃ!」

 

「ちょ!?ネギ如何したのよ!?」

 

「おお、ネギ君が燃えとるー!」

 

 ネギが行き成り大声を出して張り切りだしたのを見て、アスナとこのかはビックリしてしまった。

 はたしてネギはそのヤル気で今日中にクラスの出し物を決める事が出来るのであろうか…

 

「ネギが行き成り大声を出したからビックリしたけどどれどれ…?おぉ確かに元気が出そうなお味だな」

 

「ちょっとピリッとするけど美味しいレス!」

 

「あぁお兄ちゃんプールス!僕のスープ勝手に飲まないで~!」

 

 

 

 

 さてネギがヤル気と元気を取り戻して今日中に出し物を決め…られることも出来ずに放課後、ネギは何時ものベンチで泣いて項垂れていた。

 

「うぅ…僕ってやっぱりダメな先生なんだ…」

 

「そんな事無いぞネギ、お前は頑張ったさ。ただ…アイツら(3-A)がいつも以上に元気すぎただけだって」

 

「ネギお兄ちゃん、元気出してレス」

 

 落ち込んでいるネギをマギとプールスが励ましていた。落ち込んでいるネギをアスナとこのかに刹那は少し離れた茂みから見ていた。

 何故ネギが落ち込んでいるかと言うと、今日の朝のHRが原因である。

 ネギは朝のHRにてクラスの出し物を決めてしまおうとやる気に満ちていたが、裕奈や和美などのおふざけ担当が大袈裟に考える素振りを見せたので、マギは内心これはまたふざけるなとそう確信した。そこからは色々と酷かった。

 水着でのカフェやら泥んこレスリング喫茶やらネコミミラゾクバーやら…はてにはノーパン喫茶やらともうオヤジに大うけしそうな出店の提案ばっかであった。カモなどはどれも在りだと思っていたが…

 ネギは3-Aの元気さに飲み込まれかかっていたが、マギが全ての提案を却下した。学園祭は健全な行事であるからして、そんな不健全な出店は認めないとそう説教した。

 と言っても本音はプールスにそんなふしだらな事を覚えさせないと言うシスコン魂が混じっているのであったが…

 マギの説教に流石に3-Aも頭が冷えたなんて事は無く、学園祭へ向けての盛り上がりでいつも以上にはしゃいでいる3-Aから次の提案があった。それは女装カフェでマギとネギが女装するとのことだ。

 その提案を聞いたネギとマギは顔から血の気が引いて、それだけは止めろと言ったが、ストッパーであるあやかもネギの女装想像し、鼻血を出して使えなく。3-Aたちはさっそくネギに女装する事にし服を脱がせまくった。

 余りの五月蝿さに新田先生が現れたのだが、タイミングが悪くネギの服を脱がしている最中を目撃してしまった。

 その光景を見た新田先生は少しの間固まってしまったが、次の瞬間には大激怒3-Aとネギとマギを説教し、放課後ネギとマギをもう一度しっかり3-Aを纏めてほしいと言う説教を貰ったのだった。

 そして今に至るのである。

 

「どうしよう、声をかけた方が良いかもしれないけど、アタシも少し騒いじゃったからなぁ…」

 

「やはり学園祭の時の3-Aを纏め上げると言うのは、至難の業ですからね。また色々と考え込まなければいいのですが…」

 

 アスナ達は心配そうにネギを見ていた。

 

「やっぱりアタシ行ってくる」

 

 アスナはネギの所に行こうとしたが、まってーなとこのかが呼び止め

 

「アスナ、あれ」

 

 とこのかが指を差した方向から、五月が落ち込んでいるネギ達の所へ歩いて行くのを見た。

 

「あ…五月さん…」

 

 ネギが五月の存在に気づくと、五月はニコリと笑いながら

 

「夕御飯、食べていきませんか?」

 

 ネギとマギとプールスを夕御飯に誘ったのであった。

 

 

 

 

 夜の超包子も朝と変わらずに賑わっていた。マギ達3兄弟はその超包子のカウンター席に座っていた。

 

「どうぞ召し上がってください」

 

 五月はシュウマイ餃子点心にスープに酢豚や炒飯にゴマ団子などの様々な中華料理を出してくれた。

 

「わー!」

 

「凄い美味しそうレス!!」

 

「流石にこれは見事としか言えないな…」

 

 マギはこれらの御馳走を1人で作ってしまった五月に舌を巻くばかりだ。沢山あるので一杯食べて下さいねと五月が言うので早速食べてみるマギ達。

 ネギが点心、マギが餃子プールスは酢豚を一口を口にした瞬間

 

「美味しい!」

 

「美味しいレス!」

 

「美味いな!」

 

 3人の口から出た感想はやはり美味いの一言であった。五月はマギ達の美味いと言う感想に笑みを浮かべていた。

 

「朝も食べましたけど、やっぱり美味しいですね。五月さんが作るお料理は」

 

「俺も料理を作るが、見習いたいレベルだぜ」

 

「美味しいレス~いっぱい食べれるレス~」

 

 そう言いながらプールスは次々と料理をぺろりと平らげた。スライムであるプールスは人間態を留めておくのにかなりのエネルギーを消費する。なので大量のカロリーを摂取しなければならないので、いっぱい食べなければならないのだ。五月は本当に美味しそうに食べているプールスを見て笑顔を浮かべていた。

 

「こらこら、あんまり急いで食べるなよプールス。食事は逃げたりしないからな」

 

 マギはプールスにそう注意するが、プールスが直ぐに平らげてしまうのは頷ける。これほど美味い料理は今迄食べて事は無かった。本当に五月は料理の才能があるのだろう。

 

「でも本当に美味しいです。五月さんは料理の天才ですね」

 

 ネギも五月の料理の腕を賞賛していると。

 

「こんばんわさっちゃん。いつものお願いします」

 

 新田先生が、数名の先生を連れてやって来た。ネギは新田先生の顔を見ると新田先生から見られない様に顔を逸らした。その他にも高校生や大学生などもさっちゃんさっちゃんと五月の事をそう呼んでいた。皆から慕われている人気者の様だ。

 

「ネギ先生、少しは元気が出ましたか?」

 

「え?あ…あぁハイ。少しは元気になりました」

 

 ネギが元気になったと言うと五月もよかったとそう言った。マギは尋ねてみた。何故ここまで料理をおいしく作ろうと思ったのか。

 

「私は将来自分のお店を持つのが夢なんです。そうやって私が作った料理で皆が元気になってくれたらなって…」

 

 五月らしい素晴らしい夢だと思ったマギとネギ。なれるさ…と呟いてマギはご飯を食べ終えて一息ついたプールスの頭に手を置いて

 

「五月の料理を食べて、プールスがこんなに幸せそうな表情をしたんだ。五月の夢は絶対叶うと俺はそう思うぜ」

 

「僕もそう思います!五月さんの料理はおいしいですから絶対皆を笑顔にできます!」

 

 マギとネギは五月の夢を応援した。マギ達が楽しい時間を過ごしていたが、水を差すような事が起こった。

 

「あぁなんだとコラァ!!」

 

「上等だ!今すぐここで蹴りつけてやるぞオラァ!!」

 

 2つに分かれた集団が喧嘩をしそうな勢いであった。周りの者達の話を聞くと工科大の格闘家サークルと麻帆良大学の格闘団体らしく、昔から仲が悪いようだ。こんな所で暴れられたら迷惑どころではない。

 

「ったくマナーが悪い客っているもんだな。少し落ち着かせてくるか」

 

 マギが今にも騒ぎそうな集団の所へ向かおうとするが、マギより先に五月が集団の元へ向かって行ってしまった。

 流石に五月が危ないと判断し止めようとしたその時、ズシン!と言う音が響いて荒くれ者の集団がシンと静まり返った。

 見れば古菲が棍を地面につけ立てて地面を砕いてしまっていた。その古菲の隣に五月が立った。

 集団は古菲や五月の姿を見て慌てだす。五月から覇気が伝わってくるように感じたマギ。

 

「…アンタ達、此処での喧嘩は御法度だよ」

 

 そう言った五月からコアラのビジョンが浮かんできた。注意をされた集団はと言うと

 

『さっちゃん…』

 

 さっきまで睨み合っていたのが嘘のように腑抜けていた。五月の鶴の一声で戦意を失くしてしまうのは天晴である。

 

「なんていうか…凄いな五月は」

 

 マギが五月が色々と凄いとそんな感想を述べていると当然だと言う声が背後から聞こえ、マギとネギが後ろを振り向くとエヴァンジェリンの姿があった。

 

「マスター」

 

「おうエヴァ、さっきの当然だって言うのは如何いう意味だ?」

 

 マギがエヴァンジェリンに如何いう意味なのか再度尋ねるとエヴァンジェリンは

 

「五月はガキだらけの中で唯一私が認める生徒だからな」

 

「そうなんですか?」

 

 エヴァンジェリンの言った事がマギには少し分かる気がする。3-Aの殆どの生徒は今の生活を楽しく過ごしてるだけだが、五月は楽しんでいながらもしっかりと前を見ているとそう思った。

 

「奴だけはしっかりと現実に根を張り前を見ている…奴はホンモノだよ」

 

 それだけ言うと、エヴァンジェリンは飲みに行ってしまった。今日は修業は無しという事なのだろう。ネギとマギがエヴァンジェリンを見送っていると

 

「いやはや今日もさっちゃんの勇姿を見る事が出来ましたなぁ!おおネギ先生とマギ先生じゃありませんか!こりゃ珍しい」

 

 新田先生が顔を赤くしながらネギとマギに絡んできた。どうやら酔っているようだ。

 

「先程は私も言い過ぎました!3-Aの相手は酷ですからなぁ。ままどうです一杯」

 

「新田先生、ネギ先生とマギ先生はまだ未成年ですから、ネギ君にはこっちの甘いのを!」

 

 聊か上機嫌になっている新田先生が飲もうと誘い、一緒に居た瀬流彦先生が止めて他の甘い飲み物を渡した。こう言った付き合いは大事なのでネギとマギは誘いに乗って一緒に飲みはじめたのだが…

 

「ひっく…ぐす…ひっく…」

 

 ネギが甘いジュースを何杯か飲んで暫く経つと急に泣き出してしまった。

 

「瀬流彦先生、ネギに一体何を飲ませたんですか?」

 

「えぇ?普通のジュースだと思うけど」

 

「そうですか?何かネギの飲んでいたコップから少し酒の匂いがするんですけど…」

 

 マギが言った事に、新田先生がどれどれとネギが飲んでいたコップの残りの飲み物を少し飲んで

 

「瀬流彦君、こりゃあ甘酒だよ」

 

「ええ!?本当ですか!?」

 

 如何やらジュースだと思っていたら甘酒で、ネギは結構な量を飲んでしまったために酔っぱらってしまった様だ。泣き続けているネギは

 

「新田先生…お兄ちゃん…僕は、僕は駄目な先生ですぅ」

 

 酔ったネギは泣き上戸らしく、酔いながらネカティブな事を言いだした。

 

「何を言ってるんだネギ君、君はよく頑張っているよ」

 

 新田先生は泣いているネギを必死に励ましていた。

 

「何か酔い覚ましの物を作りましょうか?」

 

「あぁお願いするよ五月」

 

 五月が何か作ると言ったのでお願いするマギ。ネギは酔うと泣き上戸になるのか。やれやれだぜ…とマギが内心そう思っていると

 

「こんばんわ新田先生。やぁさっちゃん、僕もおじゃましていいかな?」

 

 タカミチがやってきて、マギが席を変えてくれたのでタカミチがネギの右隣に座った。

 

「やぁネギ君、久しぶり」

 

 タカミチが声をかけてくれたので、ネギは顔を上げた。新田先生はタカミチとネギが顔馴染と言うのを知っているので、タカミチの登場にホッとした。

 

「タカミチ…」

 

「いろいろ大変だったみたいだね。助けに行けなくてすまなかったね」

 

 タカミチはこれまでネギ達が遭遇した出来事に対して、色々とタカミチの方でも重要な仕事が重なってしまい、ネギ達を助けに行けなくてすまないと謝った。

 それはそうと…とタカミチが微笑みを浮かべながら

 

「ネギ君、エヴァから話は聞いたけど随分強くなったらしいじゃないか。どうだい、子供のころに約束した僕との腕試しとして一勝負は?」

 

 タカミチは昔の事を話していたが、ネギの反応は泣き続けており

 

「違うんですぅ!僕は全然強くなっていないんですぅ!!」

 

「っておいおい、如何したんだいネギ君は?」

 

「あぁタカミチ、ネギは甘酒を酒と知らずに結構飲んじまってな。悪酔いしてるんだよ」

 

 マギがネギの状態をタカミチに教えている間ネギはずっと泣き続けていたが

 

「僕は強くなってない…結局はただ逃げたかっただけなんです!」

 

 ネギのその言葉を聞いてマギは少し表情を固めたが、今度は駄目先生やら駄目魔法使いなど流石に言うと不味い事を泣きわめきながら言っていた。酒に酔って泣きつかれたネギは小さい寝息を立てながら寝てしまった。

 

「すー…すー…僕って駄目先生…」

 

 寝言でも自分の事を駄目先生だと言っていた。今のネギを起して帰るのはあれなので、ネギは超包子に置いていくことになった。

 

「じゃあ五月、身勝手で悪いがネギの事を頼むな」

 

「はい分かりました。マギ先生とプールスちゃんもおやすみなさい」

 

 マギは五月におやすみなと返して、うたた寝をしているプールスをおぶって寮に帰る事にした。

 超包子から離れて数分後

 

「あッマギさん」

 

「おうアスナか」

 

 このかと刹那を連れたアスナと出会った。アスナ達もネギの事が心配になってばれない様に超包子までついてきたようだ。何も話さないで歩いていたマギ達であったがねえマギさんとアスナが口を開いた。

 

「アタシ、この前ネギが戦っているのを見てネギはもうアタシの助け何か要らないって思ってた。けどやっぱりネギはまだまだ子供なんだなって」

 

「俺もアイツはもう成長したと思ったが、無理をしてたんだなネギは」

 

 2人はネギの上辺だけを見ていてネギの本心をちゃんと見ていないとそう実感した。それなのに自分達を頼れと言った自分達がネギの事を分かっていなかった。

 もう少しネギの事を見てみよう…マギとアスナは互いにそう思ったのであった…

 

 

 翌朝、朝早くに鳴く雀の鳴き声を聞いてネギは目を覚ます。

 辺りを見渡し、自分が居る場所が寮ではなく超包子の中であることに気づき、自分が昨日何をしたのか思い出した。

 ネギはマギ達に迷惑をかけてしまったとしずんでいると、五月が店の前を箒で掃いて開店の準備をしていた。

 五月はネギが起きていることに気づくとニコリとほほ笑みながら

 

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 

 と尋ねてきた。ネギはあッはいとそう答えると、五月はよかったとそう言いながらまた箒で掃いた。

 

「あの…昨日はご迷惑をおかけしました」

 

「いいえ。お酒にお強いんですね」

 

 五月の言った事にネギは顔を赤くしながらも五月を見た。五月はしっかりと前を見ながら進んでいる…それがネギは羨ましく思い

 

「五月さんは凄いですね…将来の夢を持って居て毎日お料理を頑張って…」

 

 と思わず口に出してしまった。五月はきょとんとしながら首を傾げながらも

 

「ネギ先生も、先生の仕事や修業を頑張っているじゃないですか」

 

 と励ますが、駄目なんですと首を横に振りながら

 

「ある人に言われました。その人が言った事は当たっていたんです。お兄ちゃんやアスナさん達と一緒に頑張った勉強や修業も…結局は僕の昔の嫌な思い出や怒りや憎しみから逃げるための嘘の頑張りだったんです。そんな気持ちで先生をやっていたなんて、僕皆に恥ずかしくって…」

 

 ネギは又泣き出しそうになったが、五月がネギの肩に手を置いて、そんな事無いですと首を横に振った。

 

「嘘なんかじゃないですよ…誰かと一緒に頑張ったり、誰かを恨んだり嫌な事から逃げたりして手に入れた力でも、それは立派な貴方の力ですネギ先生。だから恥ずかしいなんて思わないで」

 

 ネギは五月の言った事に思わずポカンとしてると五月が元気を出してとネギの背中をドンと強めに叩いた。ネギは戸惑っていると五月は何時ものように優しい笑みを浮かべていた。

 

「は…はい五月さん!」

 

 五月のおかげで立ち直ったネギは、さっきまでの暗い顔が何処かへ行ってしまった。とネギと五月が微笑みあっていると

 

「なんだ何か俺の出番は無かったようだな…」

 

 少しうとうとしてるプールスを抱っこしてマギがやって来た。

 

「お兄ちゃん…」

 

「迎えに来たぜ。と言ってもさっきの話を聞いていたんだけどな…」

 

 マギは本当はネギが起きた直ぐにもう超包子には到着していたが、ネギの話を聞いていたのだ。

 マギはネギの話を聞いて、ネギに頭を下げた。行き成り頭を下げられ戸惑うネギ

 

「すまなかったネギ。俺はお前はもう俺の力なんか必要無いと勝手に思っている所があった。けどお前は本当は色々と溜めこんでいたんだよな。それを分かってやれなくてゴメン」

 

「そんな謝らないでよお兄ちゃん。僕も逃げたりしないで今迄の事を力にして頑張っていくから」

 

 ネギはマギに笑みを浮かべた。マギはそうか…と呟くと

 

「此れからは何か悩んだり辛いと思ったら俺やアスナ達に遠慮なく話せよ。俺はお前の兄貴でアスナもお前の大切なパートナーなんだからな」

 

 うんとマギの言った事にネギは頷き、マギとネギは笑いあった。そんな2人を五月は笑って見ていた。

 

 

 

 

 朝のHRでは元気を取り戻したネギはてきぱきとしたやり方で3-Aの出し物はお化け屋敷に決まり、マギもやれやれだぜと漸く決まったかこ思っているとマギは和美の隣の席で何かボウっと何か光るものが見えた。

 

「ん?」

 

 マギは見間違いかと思いながら、目を擦ったが光るものが段々と人の形へと…女の子へと変わって行った。女の子は一昔の制服を着ており顔には生気を感じられなかった。

 体も半透明でマギがあんぐりとしてしまったのは、その女の子に足が無かったのだ。そう幽霊(ゴースト)であったのだ。

 マギは他の生徒に気づかれない様に生徒名簿を見て発見した。出席番号1番相坂さよ、幽霊の生徒という事だ。普通は驚くところだが

 

「吸血鬼ロボットときてお次は幽霊とはな…」

 

 色々と見て来たマギにとっては別段驚きはしなかったし、怖いとも思わなかった。それよりも

 

「何であの子は寂しそうなんだ?」

 

マギはさよが寂しそうな表情をしていることの方が気になってしまった。

 

 




次回はさよとプールスが活躍する予定です


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幽霊とだって友達になれるさ

何かお待たせして申し訳ありません
最近執筆に時間がかかって
メンタル的に問題があってこんなに時間がかかってしまいました。
本当に申し訳ありません

それではどうぞ


 幽霊とは何なのだろうか…人が亡くなり魂だけの存在になったものが幽霊と言うのだろうか。

 それとも科学で言うプラズマなのだろうか…

 それ以前に霊は全てが悪霊という存在なのだろうか。若しかしたら何かを伝えたいのではないのだろうか

 

 

 

 

 

 3-Aに存在する幽霊相坂さよは地縛霊となって60年経つ、別段悪さをしたいとも思わずそれどころか誰かと友達になりたいと思っている。

 しかしさよ自身が暗い性格であり、幽霊なのに夜の学校が怖く学園都市内のコンビニで朝が来るまで待つと言う変わった幽霊である。

 こんな自分が…そもそも幽霊である自分に友達なんか出来るわけがない…半ば諦めかけていると…

 

「よう、相坂さよ…だよな?」

 

「こんばんわ~」

 

 自分を呼んでいる声が聞こえ、さよは思わず振り返るとようと手を上げているマギとさよにペコリと頭を下げているプールスが居た。

 

「え?マギ先生とプルちゃん…?あれ、私の事見えてるんですか?」

 

「あぁつい最近になってな。それよりもなんであんな寂しそうな顔をしてたのか聞きたいんだが」

 

 マギはさよに何故なんだと理由を聞こうとしたが、さよは幽霊になって初めて自分の事が見えている人に出会った。それが嬉しくて目に涙がたまり始め遂には泣き出してしまった。

 

「ってちょ、行き成り何泣き出したんだ!?」

 

 マギは行き成り泣き出したさよに慌てるが、今自分が何処に居るか思い出して辺りを見渡す。

 今自分が居るのはコンビニだ。コンビニに誰も居ないわけはなく、店の中でもマギの様子が見えマギが何もない所で色々としているのを見て何人かがヒソヒソと話していた。

 変な人と勘違いされない様にマギはとりあえずさよを人が来なさそうな場所へと移動した。

 取りあえず人が来なさそうな場所へと移り、さよの寂しそうな表情の訳を改めて聞いてみた。

 泣き止んださよは訳を話した。自分が幽霊になって60年経ったことや今迄自分の事が見える人にあった事が無いと言うことだそうだ。

 

「成程な…ある意味そんな長い時間一人ぼっちだったっていう事か…」

 

「さよお姉ちゃんかわいそうレス…」

 

 プールスは孤独というものを味わった事があるので、さよの気持ちは少なからず分かっているつもりだ。

 

「正直もう私は一生このまま誰にも見られることは無いって思っていました。でもマギ先生とプルちゃんが私の事見えてくれて嬉しいです!」

 

 さよはすっかり元気を取り戻したようだ。マギは良かったと思いながらもさよにむかって手を差し伸べた。さよはマギの手を見て首を傾げていると

 

「だったら俺らがさよの友達第1号になってやるよ」

 

「私もさよお姉ちゃんのお友達になるレス!」

 

 マギとプールスはさよの友達になるとそう言った。さよは行き成りの事でポカンとしていたが、慌てだす

 

「まッマギ先生!?私は幽霊なんですよ!?普通は怖がったりするもんじゃ…」

 

「何言ってるんだよ。俺が生徒を怖がったりするわけないだろ?」

 

 それに他にも吸血鬼やらロボットやらが居るんだ。いまさら驚きはしないと内心そう思っていた。マギが別段さよの事を怖がったりしなかったのでさよはまた涙を流してしまった。

 マギとプールスはさよがまた泣き出したので慌てたがさよがすみません!と涙を拭って

 

「本当に嬉しいんです。私に友達なんか出来るはずないって思っていたから…」

 

 こうしてマギとプールスはさよと友達になったのであった。

 

「よし、こうなったらクラスの奴らとも友達になってみるか」

 

 マギはクラス全員と友達になろうとそう言った

 

「おー!」

 

「おッおー!」

 

 プールスはノリノリでさよはおっかなびっくりで手を上げながらおーと掛け声を出した

 マギとプールスがさよの友達となったがもっとクラスメイトとも友達になろうと張り切りだした。

 だがしかし、さよの友達を増やそうとしたのが後に大騒動になる事をマギは知らなかった。

 

 

 

 マギとプールスがさよと友達となった翌々日、昇降口が何やら騒がしかった。

 掲示板に生徒達が殺到していた。どうやら学校新聞が張り出されているようだ。

 何の新聞かとマギは新聞を見てみて固まってしまった。

 新聞の見出しの記事は『3-Aに霊再び』と言う内容で写真には慌てふためく3-Aの生徒達と何故か不気味な姿をしたさよの姿が写っていた。

 

「いや何でだよ」

 

「さよお姉ちゃんって写真写りが悪いんレスか?」

 

 とマギとプールスがそんな事を話していると、すこし離れたところでネギ達がヒソヒソと話しているのを見てマギは向かった。

 さよの姿を目撃した夕映はあれは絶対に本物ですと言い切っていた。

 

「CGや立体映像なんてものじゃなかったです。あれはリアルそのものだったです」

 

「はいぃ怖かったですぅ…」

 

 さよを見た夕映と怖かったのかコクコクと頷いているのどか

 

「幽霊ですか…僕は幽霊を見た事無いから何とも言えないです」

 

「でもネギ君、3-Aじゃ幽霊が出るっていう噂は結構前からあったさね。まぁ私も幽霊を見た事無いから分からないけど」

 

 ネギ達はその幽霊がどんな姿だったのかと想像していると

 

「俺は見た事があるぞ」

 

 マギの見たと言う発言にネギ達は一斉にマギの方を見た。

 

「大兄貴、その話はほんとうですか?」

 

「あぁ俺とプールスは見た事がある。とりあえず人が居ない場所で話すか」

 

 そう言ってマギはネギ達を屋上へと連れてった。屋上には誰も居なく好都合であった。

 

「さて話すか幽霊の…さよの事を」

 

 マギはネギ達に最近になってさよが見える事になったのと、さよの悩みそして自分とプールスが友達になった事を話した。

 マギの話を聞いたネギ達はマギがさよと友達になったと言った事に驚いてしまった。

 

「幽霊さんと友達になるなんて…」

 

「さすが大兄貴ですね」

 

「でも60年も一人ぼっちなのもかわいそうね」

 

 アスナやこのかやのどかと夕映はさよに同情してしまった。

 

「それで亜子、さよを写真に撮ったらしいけどさよは何か言っていたか?」

 

「はッはい!」

 

 マギはさよを写真に写した亜子にさよが何か言っていなかったか尋ねると

 

「なッなんかさよちゃんって言うのは…ウチもビックリしてたからあんま覚えてないんやけど私と友達になってください…とか聞こえたで」

 

 亜子は自分が覚えている限りのことをマギに教えた。それを聞いたマギは成程なと頷いた。

 

(さよが自分の力だけで友達を作りたいって言うから、生徒の意思を尊重したがこんな結果になっちまうとはな)

 

 さよは張り切り過ぎたせいで逆に皆を驚かせてしまったようだ。このまま何も問題ないといいんだけどな…とマギはそう思っていた。

 

 

 

 その日の夜、さよは昇降口の掲示板に張られている学校新聞を見て落ち込んでいた。

 

「はぁ私って写真写り悪いなぁ…絶対皆にごかいされちゃっただろうな…」

 

 さよは教室に戻ろうとしたが、教室の方からわいわいと騒がしい声が聞こえた。

 

「?なんだろう…」

 

 さよは教室に入ってみると何か重々しいメカを身に着けた裕奈と桜子にまき絵にハルナがいた。

 

「さーてと悪霊はさっさとやっつけちゃうよー」

 

「早く除霊して学園祭の準備しないとね」

 

 そんな裕奈達にあやかがお願いしますねと頼み込んでいた。

 さよは今一状況が掴めず、マギに近づくと

 

「あッあのマギ先生、これって何してるんですか?」

 

「あ…あぁなんかお前を退治しようとかなんとか」

 

 他の者に聞かれない様にひそひそ声で話すマギとさよ。

 自分が退治されるかもと聞かれええッ!?と驚くさよは訳を聞いてみた。

 

「何でですか!?やっぱりあの学校新聞の事でですか?」

 

「恐らくな。なんとか俺らがアイツら説得してこんな事を止めさせるように言うから」

 

 マギはそう言って裕奈達にこんな馬鹿な事は止めるように若しかしたら悪い霊じゃないかもしれないだろ?説得した。

 がしかし興奮してる裕奈ハルナには逆効果で

 

「そう言うけど、マギさんなんか証拠でもあるの?」

 

「そうそうその霊が悪霊じゃないって言う証拠が」

 

 それを言われると痛いところだが、対策はもう練っている。マギはのどかを呼んだ。

 

「のどか、お前の日記でさよの事を読んでみれば悪い霊じゃないって分かるはずだ」

 

「はッはい分かりました!」

 

 のどかはマギに言われた通りに他の生徒に見つからない様にいどのえにっきを出現させてさよに呼びかけていた。

 

「あれ?のどかの持ってる本って何?絵日記?」

 

「あぁのどかが最近身に着けた能力でな、死んだ人間と交信ができるんだと」

 

 マギが皆にそう言う風に説明してる間、のどかはさよに呼びかけていた。

 

「相坂さん、あなたが出て来た目的はなんですか?」

 

 のどかはさよを呼び続けた。

 

(彼女は宮崎のどかさん、なんで私の名前を知ってるんだろう?)

 

 さよがのどかの方へ近づくと日記に文字が浮かんできた。ネギ達はおおと言いながらさよの事が分かると思った。

 がしかし

 

 べちょ べちょべちょべちょべちょちょちょちょ

 

 日記に墨汁がかかってしまった様に黒いしみが日記に広がり遂には日記のページが真っ黒になってしまった。

 

『みやざきさん…こっちにきましょう…遊びましょう…友達なってくれると…私嬉しい…』

 

 真っ黒のページから白い文字が浮かび上がったのと、青白い顔をしたさよが手招きをするというホラーな絵が浮かび上がった。

 

「!きゃああああ!?」

 

 のどかは思わずページを閉じてしまい、ネギやアスナなども閉じたページを見てみて思わず固まってしまった。

 

「やっぱ悪霊じゃん!」

 

「防御陣営!各員戦闘配置につけー!」

 

 ハルナと裕奈ももうさよを悪霊と決めつけ戦闘配置についてしまった。

 

(いやさよ、なんであんな感じになっちまったんだ!?)

 

(分かりません!なんか張り切り過ぎちゃって様で!)

 

 張り切り過ぎるとあんなホラーになっちまうのか…とマギは少し霊って怖いなと思ってしまった。

 さよは早く誤解を解こうと、幽霊の力の源である霊力を集中すると教室の机や椅子などが浮きはじめると言うポルターガイスト現象が現れた。

 行き成り机などが浮くなどの現象を目の当たりにした生徒達はパニック状態、だが和美は自分が見てる現状に興奮する。

 

「大スクープ!今こそ写真に収めるチャンス!!」

 

「いやお前は写真撮ってる場合か!」

 

 和美が激写をしてるのをマギがツッコミを入れるが、事態が収拾するわけでもなかった。

 またもや皆を怖がらせてしまったさよは今度は窓に文字を書いてごかいです!と書いたのだが文字の色がどう見ても血文字でしか見えず

 

「五回DEATH!?五回も殺されるの私達!?」

 

「怖いよぉ!」

 

 更にパニック状態になってしまった生徒達。

 

(あぁどうしよう!益々誤解が…!こうなったら)

 

 さよは佑奈に近づくと、明石さんごめんなさい!と謝るとさよは佑奈の体の中へ入ってしまった。

 さよにとりつかれた佑奈はビクンと一回震えながら、上の空でにへらにへらと笑いながら

 

「ごかい…ごかいです…」

 

 裕奈に取りついて誤解を解こうとしたが、目の前でクラスメイトが取りつかれたのを見てしまったらパニック状態は最大レベルへ

 

「このままじゃ私らも取りつかれて殺される!構わず打て!」

 

 ハルナは構わず除霊銃を裕奈に撃った。銃からビームの様なものがでて裕奈に直撃すると、裕奈は黒焦げになりながら目を回す。

 

「ハルナ!これじゃあ収拾がつかなくなるです!」

 

 夕映がハルナにそう叫んだが、心配ご無用!とサムズアップで返すハルナ。

 

「こんなこともあろうかと、とっておきの助っ人を用意してるのよ。というわけで龍宮さん桜咲さん任せた!」

 

 ハルナが真名と刹那を呼ぶと

 

「ふむ、報酬の食堂の食費1ヶ月分しっかり払ってもらうからな早乙女」

 

「私はこんな格好でいいのでしょうか?」

 

 戦闘用の服に着替えている真名と刹那が現れた。ハルナは何処かで真名が射撃の名手で刹那の剣術も退魔師類という噂(事実)を耳にしたのだろ。

 

「あッあのハルナお姉ちゃん、真名お姉ちゃんや刹那お姉ちゃんに何を頼んだんレスか?」

 

 プールスは恐る恐るとハルナに何故呼んだのか尋ねると

 

「何ってプルちゃん、私らのクラスに居る悪霊を退治してもらうだけだって」

 

 ハルナの言った事にプールスは固まってしまった。その間にも真名は気配だけでさよの居場所を察知し、その場所へ串のような手裏剣を投げた。

 さよは悲鳴を上げながら教室から逃げ出した。真名は逃げたさよを追って教室を後にした。

 

「なんでさよお姉ちゃんを退治するんレスか?さよお姉ちゃんは何も悪い事してないレスよ?」

 

「プルちゃん、あれは悪霊の何者でもないよ?ポルターガイスト現象起こしたし、血文字やら取りついたりとかどう見たって悪霊…」

 

「悪霊じゃないレス!!」

 

 ハルナの言った事を遮ってプールスが大声で叫び、教室中がシンと静まる。

 

「さよお姉ちゃんは悪くないレス…お姉ちゃんはずっと一人で寂しくて…マギお兄ちゃんと私がさよお姉ちゃんのお友達になったのに悪者にされて…さよお姉ちゃんはただ友達が欲しかっただけなのに…なのに…なのに…」

 

「ちょ、プルちゃん如何したの?」

 

 プールスが涙を零しながらさよは悪くないと訴え続けた。ハルナや裕奈達はプールスが泣き出したのを見てオロオロし始める。

 

「お姉ちゃん達なんか…大っ嫌いレス!!」

 

 それだけ言うと、プールスは教室を飛び出した。小さい子に大嫌いと言われるのはいささ来るのものがある。

 場の雰囲気が暗くなってしまったが、マギはハッとする。何故プールスは教室を出た?決まっている。さよを助けるためだ。

 

「マズイ!プールスも下手したら大怪我だ!」

 

 マギはそれに気づいて慌てて教室を後にした。真名は仕事人、目標の排除の為ならば私情は挟まないのが彼女のルールらしい。さよを護ろうとするプールスを殺す事は無いかもしれないが、下手したら大怪我であろう。

 マギは最悪なイメージを消してプールスの後を追った。

 

 

 

 

「手こずったが、もう終わりだ。観念して成仏するんだな」

 

 さよを追い回していた真名と刹那だが、とうとう壁際まで追い詰め袋のネズミ状態であった。

 真名はさよに向かって拳銃を向けた。刹那は少し複雑な表情をしていた。目の前に映るさよは怯えており悪霊なんて存在ではなかった。

 真名が拳銃の引き鉄を引こうとしたが

 

「だめぇ!!」

 

 真名の背後に大きな鎌が迫ってきて、真名は横に避けた。

 鎌を振るった正体はプールスで、プールスは自身の腕を鎌にして真名に振り下ろしたのだ。

 

「プールス、何の真似だ?私の仕事の邪魔をしないでもらいたいね」

 

「駄目レス!さよお姉ちゃんは何も悪い事してないレス!」

 

 プールスは腕をもとに戻すと両手を広げてさよを護ろうとする。そんなプールスの姿を見て真名は溜息を吐きながら。

 

「プールス其処を退いてくれ。その霊を退治しないとクラスメイトが学園祭の準備が出来ないからな」

 

「お姉ちゃんは悪くないレス…お姉ちゃんは友達が欲しかっただけなのに…人間じゃない私やさよお姉ちゃんは友達を作ったり…幸せになっちゃいけないんレスか?」

 

 プールスの言った事が刹那の心の中を抉った。化け物は幸せになってはいけない…その考えは時々思ってしまった事だ。

 刹那は真名を止めようとしたが、真名は冷たい事をプールスに告げた。

 

「そうだな。普通は化け物と人間が友達になったりすることは不可能だ。3-Aの生徒達がお人好しなだけだ。現実を思い出せプールス」

 

 真名の言った事にプールスはキレてしまった。両腕を今度は剣に変化させて斬りかかる。

 

「真名お姉ちゃんも大嫌いレス!」

 

「ああ私を嫌いたければ嫌え。私も容赦なくお前を沈める。怪我をしても恨むなよ」

 

 プールスの斬撃と真名の銃撃の激戦が繰り広げられた。プールスが真名の弾丸を弾き、真名がプールスの斬撃を躱す。

 

「だがやはり子供だな。動きが単調だ…いくらでも読める」

 

 真名は簡単にプールスを無抵抗にしてしまった。これでさよの相手を出来ると思ったが

 

「悪い真名、ちょっと待ってくれないか」

 

 追いついたマギが真名の肩に手を置き、真名の戦意を解こうとした。振り向いた真名は何処か冷たい目をしていたがフッと小さく笑うと何時もの表情に戻り

 

「すまないマギさん、少し熱くなってしまった」

 

 そう言って拳銃を戻した真名。全くとマギは頭を掻きながら

 

「演技がリアルすぎて肝が冷えたぜったく」

 

「え?演技?」

 

 刹那はマギの言った演技の意味が分からなかったが、マギはプールスが斬った拳銃の弾丸を拾うと刹那に渡した。

 刹那は弾丸を持って驚いた。何故なら弾が実弾ではなくゴムであったから

 

「これはゴム弾!?」

 

「そういう事だ真名は初めからさよを退治するつもりなんて無かった。ただ退治するふりをしたんだよ」

 

 だけどな…マギは若干キレた目で真名を睨みつけて

 

「演技だからってプールスに酷い事言ったり痛めつけようとすることがあったら、少し説教する必要があるからそのつもりでな」

 

「あぁ分かったよマギさん。肝に銘じておくさ」

 

 流石に本気の貴方とはやりたくないさ。真名は心の中でそう言った。

 マギはプールスの方を向いて、頭を撫でながら

 

「プールス、友達を助けようとする行いは立派だ。だけどな心配する奴もいるんだ。気を付けてくれよ」

 

「はいごめんなさいレス…」

 

 マギに怒られてシュンとしてしまったプールスを優しく抱き上げる。

 

「ですがマギ先生、この後如何するんですか?このままやり過ごしても意味が無いのでは?」

 

 刹那の言った事にそうだなぁと腕を組んだマギは

 

「いっそのことクラスの皆にさよを見せちまうか」

 

 けっこうぶっ飛んだことを言いだした。

 

 

 

 教室に戻ったマギ達はマギの指示で机をどかし大きめのスペースを作った。

 そのスペースにマギはチョークで魔法陣を描き始めた。

 ネギやアスナ達は何をしようとしてるのか尋ねると

 

「俺の魔力でさよを皆に見えるようにして誤解を解く」

 

「ええ!でもそれじゃあ皆に魔法がバレチャうんじゃ…」

 

「分かってるさネギ、でもな魔法がばれない様にするのと生徒の誤解を解いて仲直りさせるのどっちが大事だ?」

 

 それを聞かれてしまったら何も言えないネギ。だが自分は先生だから生徒の事を第一に考えなくてはいけない。

 

「すまないネギ。でもここまで来たら背に腹は代えられない。さよのためだ」

 

 分かったよお兄ちゃんとネギも同意してくれた。その間にも魔法陣が描きあがった。

 

「よしネギも協力してくれ。なにしろ幽霊のさよを皆に見せるんだかなりの魔力を消費しなきゃ上手くいかなそうだから」

 

 そしてマギはさよを手招きし魔法陣の中央に立たせる。そしてマギとネギは魔力を集中させると魔法陣に魔力を注いだ。

 マギとネギの体からどんどんと魔力が失っていくのを感じる。

 マギとネギの魔力が底をつくと、魔方陣が光だしさよの足元から現れ出した。

 そしてさよは遂に皆に姿を見せる事が出来た。成功だ。

 

「あッあのマギ先生、私皆さんに見えてるんですか!?」

 

「あぁ成功だ。これで誤解を解けるぞ」

 

 マギはさよにサムズアップする。さよはアスナ達の方を向いた。アスナ達は思わず体が硬くなってしまった。行き成り幽霊が見えたら驚くのは無理はない。

 

「あッあの皆さん、さっきはビックリさせてしまってすみませんでした!」

 

 さよは先程の事を皆にわびた。悪気はなくとも皆を怖がらせてしまったのは自分だ。

 

「私ずっと寂しくて、それでみんなとお友達になりたくて…でもやっぱり私みたいなお化けなんかがいちゃ迷惑ですよね?」

 

 さよは泣きながら笑って見せた。その姿がとても痛々しく見えてまるで悪霊には見えなかった。

 

「…ううんそんな事ないさね」

 

 しかし和美が首を横に振ってさよの言った事を否定した。え?とさよは驚いた表情をした。

 

「いや最初はビックリしたさね。幽霊なんて空想上の産物だと思ってたところもあったし。でも現に私の目の前に現れてくれた。真実を追い求めるジャーナリストとしては大発見だからね。ありがとう。席も隣だし仲良くしてくれると嬉しいよ」

 

 和美はスッと手を差し伸べた。友達になろうと言ってくれた。和美がそう言ったのに続いて他の生徒達も

 

「私も友達になってあげるよ!」

 

「幽霊さんと友達なんて他のクラスじゃないからね!」

 

「さっきは除霊しようとしてごめんなさい!ゆるして」

 

 と皆がさよに友達になろうと言って来てくれた。さよは信じられなかった。まさか本当にクラスの皆が友達になってくれるとは思っていなかったからだ。

 

「皆さん…ありがとう!」

 

 さよは満面の笑顔で皆にお礼を言うと、さよの足元から消えて行きまた姿が見えなくなってしまった。

 さよが見えなくなって慌てるネギ達

 

「お兄ちゃん、若しかしてさよさんは成仏したの?」

 

「いやただ見えなくなっただけさ。今でもこのクラスの中に居るし、本当の意味でさよはクラスの仲間になったわけさ」

 

 さてと…とマギが手を数回たたくと

 

「幽霊退治なんて馬鹿な事は終了、今日はもう帰ってしっかり休むように。では解散!」

 

 マギの号令で3-Aの生徒達は教室を後にしていった。残りはマギとプールスそしてさよだけが残った。

 

「よかったレスねさよお姉ちゃん」

 

「はいありがとうございましたマギ先生!そしてプルちゃんも」

 

 プールスとさよがそう言って笑いあっていた。

こうして3-Aにて起こった幽霊騒動は幕を閉じたのであった。

 



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機械人形も恋をする?茶々丸改造計画

最近執筆スピードが落ちている
一応週一に投稿出来ているのはいいのだが…
それではどうぞ


 さよの幽霊騒動からはや2日、ある程度学園祭の準備も今の所スムーズに進んでいる3-A。

 マギやネギとアスナと何時ものメンバーで今日も超包子にて朝食をいただく事になった。

 超包子に到着すると、最初に茶々丸がお出迎えしてくれた。

 

「おはようございますマギ先生、皆さん」

 

「う~すお早う茶々丸。今日もしっかり働いて偉いな」

 

 茶々丸の挨拶にマギも少し気怠そうに挨拶を返した。席に座りメニューから食べたい物を選んで茶々丸が運んできたのを食べ始める。

 マギ達は他愛のない話をしていたが、マギがふいに茶々丸の顔をジーッと見た。

 

「なッなんでしょうかマギ先生?」

 

「いやな、何か茶々丸が何時もと違う感じがしてな…どこだ」

 

 そう言いながらマギは頭からつま先まで見るが何処が変わっているのか分から無いようだ。

 茶々丸はマギに見られてオロオロとしてると、このかがマギに

 

「ややなーマギさん、茶々丸さん髪型が違うやん」

 

「髪型?…おお確かに違うな」

 

 このかの言う通りで茶々丸は何時もの長髪ではなく、ポニーテールとなっていた。何処か違うと思ったのはそれだろう。

 

「何か別の髪型っていうのも新鮮味があっていいな。とっても似合っていると思うぞ」

 

「えッ?あ…あの…ありがとうございます」

 

 マギに似合っていると言われ、少し言葉が詰まりながらもお礼を言った茶々丸。

 

「あッああ駄目だよ茶々丸!勝手に髪型変えちゃ」

 

 とマギ達が話しているとハカセがやってきて、茶々丸にそう言った。

 ハカセが言うには茶々丸の髪は放熱用で髪型を変えてしまうとオーバーヒートしてしまうかもしれないという事だ。

 

「本当なんでこんな事したの?」

 

「それは…」

 

 実は茶々丸自身も如何して髪型を変えたのか分からなかった。本当に何故だろう自分自身でも分からなかったがこのかが

 

「何でって茶々丸さんも女の子やもん。オシャレだってしたいよなー?」

 

 このかがそう言ったが、ハカセはその考えは心の中で否定する。茶々丸を造った時にそんなプログラムなんていれてはいないのだ。

 

「成程お洒落な…いいんじゃねぇか?茶々丸だって綺麗な女の子だしな」

 

 マギは普通に茶々丸を綺麗だと褒めてあげた。それだけで何故か茶々丸自身ドギマギし始めた。こんな気持ちは初めてだ…そんな事を思っていた。

 

「ああのありがとうございます。わわ私は仕事に戻りますのでそそそれでは」

 

 茶々丸は仕事に戻ろうとしたが何もない所で盛大に転び、両手に持って居た料理が入った容器を空高く放り投げてしまった。

 刹那とアスナにネギがおぼん全てをキャッチし、食べ物を粗末にするという事態にはならなかった。

 

「おい大丈夫か茶々丸?」

 

 マギはキャッチした容器を持ちながらズイッと茶々丸に近づくが、茶々丸はまた容器を空に放り投げるという失態をしてしまった。

 ハカセは茶々丸の行動を見て首を傾げ考察する。

 

(どういう事?茶々丸にはオートバランスシステムを搭載していて絶対転ばないはずなのに、それにさっきから茶々丸の行動が可笑しい…)

 

 色々と考えた結果

 

「茶々丸、今日の放課後は大学の研究室に来てくれない?久々にばらして検査したいから」

 

「ハ…イ、了解しました」

 

 ばらすと言う言葉にアスナやこのかに刹那が固まってしまい、マギとプールスとネギとカモはいまいち分からず首を傾げた。

 

 

 

 放課後茶々丸はエヴァンジェリンに許可を貰い、ハカセに言われた通りに大学の研究室に向かった。

 その茶々丸の後をマギがついて行った。

 

「しかし大丈夫なのか茶々丸?さっきこのかとアスナにばらすって言う意味を聞いたが、何か体をいじられたりするのか?」

 

 マギが心配そうに尋ねるといいえと首を横に揮う茶々丸。

 

「今回の検査はおそらく軽い検査でしょうから、マギ先生が考えている様な事は起こりません。でも心配してくれてありがとうございます」

 

 フッと微笑みを浮かべる茶々丸。マギ自身もよかったと胸をなでおろす。マギと茶々丸は大学に向かうまで最近の野良猫についてなどの世間話をしていた。

 世間話をしているマギと茶々丸から少し距離を開けているネギやアスナ達は2人の事をジーッと見ながら

 

「アタシの気のせいか分からないけど、茶々丸さんてマギさんと一緒に居る時って表情が明るいと思わない?」

 

「確かに姐さんの言う通りですね。茶々丸の嬢ちゃん大兄貴の時は堅いイメージじゃないんですよね」

 

 そんな事を話していると大学のハカセの研究室に到着した。

 茶々丸は研究室のドアをノックするが反応が無かった。

 茶々丸がドアを開けると電気がバチバチと光っており、怪しい機械を背負ったハカセが居た。

 驚き身構えるネギやアスナに気づき振り返ったのとハカセが弄っていたモノがカッと光り、次の瞬間爆発が起こった。

 

「…いやマジでビビった。寿命が縮んだかと思った」

 

 マギが障壁を張り一応皆無事であった。いやぁハハハとハカセは苦笑いを浮かべて

 

「丁度実験中でして、申し訳ありません」

 

 まぁそれは置いといてとハカセは茶々丸を手招きした。

 

「茶々丸、検査を始めるよ」

 

「はい、お願いします」

 

 ハカセによる茶々丸の検査が始まった。

 

「じゃあさっそくだけど、上着を脱いで茶々丸」

 

「え?」

 

 ハカセに上着を脱ぐように言われ、固まる茶々丸。表情は無表情ではあるが何処か動揺してるようだ。

 

「あれ?如何したの茶々丸。早く上着を脱いで」

 

「あの…その…今此処で脱がないといけませんか?」

 

 茶々丸は如何してか、皆が…特にマギが見ている中では脱ごうとする事が出来なかった。

 

「ほら茶々丸、脱がなきゃ検査にならないでしょ?早く脱いで」

 

「…分かりました」

 

 茶々丸は折れて漸く上着を脱ぎ始めた。茶々丸が上着を脱ぎ始めたのを見てマギは後ろを向いた。茶々丸がロボットだとしても女の子だ。そんな女の子の裸を見るなんて行為は慎むべきだ。そんなマギの行いを見て、茶々丸は嬉しい反面何処か寂しい気持ちになっていた。

 上着を脱ぎ、上半身の姿をさらした茶々丸はまさにロボットのボディーであった。

 ハカセが茶々丸を検査しているとこのかが

 

「なーなーハカセちゃん、茶々丸さんって何で動いてるん?やっぱり電気とかなんかー?」

 

 興味本位で聞いてみるとハカセはいいえ電力だけではないですと説明を始めた。

 

「茶々丸は電力の他に魔法の力を使っています。他にもエヴァさんの人形と違って駆動系・フレーム・量子コンピューターに人口知能などの全てウチで作った産物です」

 

 今一ハカセの言ってる事はちんぷんかんぷんな所があったが、とりあえず茶々丸が凄い物で造られたと言うのが理解出来たネギ達。

 でも可笑しいなぁ~と首を傾げるハカセ。

 

「何処も異常がないはずなのにモーターの回転数が上がってる。茶々丸今の状況はどう?」

 

 ハカセの問いにそれが…と目線を逸らしながら茶々丸は…

 

「奇妙な感覚です。どう言い表したら…恐らく恥ずかしいというか…その…」

 

 茶々丸の回答にハカセは大いに驚いた。人工知能が恥ずかしがるなんて有りえない。

 他にも何か症状が出てないか尋ねると、胸の主機関部辺りがドキドキし顔も熱いとハカセに教えた。

 試に顔を触ってみると本当に茶々丸の顔は熱かった。今迄こんな現象は起こった事が無いので分からないハカセ

 

「おかしいです。茶々丸がこんな反応をするなんて…一体何処に異常が」

 

 ハカセはウンウンと唸っているとこのかが

 

「なんも可笑しい事なんかあらへんよー。胸がドキドキするなんて…それは恋とちゃうんかなー」

 

 このかの言った事に茶々丸とハカセは固まり次の瞬間ハカセは研究所が震えるほどの大声を出した。

 

「あッあの私別に恋なんて「いえ絶対ありえません!!」…」

 

 茶々丸が否定する前にハカセが全力で否定した。

 

「茶々丸はエヴァさんの人形みたく、魔法使いが人形に魂を吹き込むのと訳が違うのですよ。あぁ魂を吹き込むなんて、なんて非科学的な!!」

 

 次の瞬間にはブツブツと自分の考えを延々と呟き続けるハカセに、ネギ達は少し引いてしまっていた。

 

「でもロボットが恋をするなんてロマンチックでえーと思うけどなぁ」

 

「ロマンチック…茶々丸お姉ちゃんが誰かを好きになるのがロマンチックなのレスか?」

 

「そーやえープルちゃん。ウチはそう言ったロマンチックな話が大好きなんやえー」

 

 このかとプールスの話を聞いてハッとする。確かに人工知能が恋をしたと判明できれば大発明、科学賞も夢ではない。

 

「確かに恋かもしれませんね…なら整備は止めです。ただ今より実験を開始します」

 

 ハカセは茶々丸が本当に恋をしているのか?という実験を開始する事を宣言した。

 

「あの…何時になったら茶々丸の着替えは終わるんだ?」

 

 さっきから後ろを向いていたマギはそう聞いたのであった。

 

 

 

 工科大のカフェテリア、其処には多くの学生が集まっていた。何でも工科大のアイドルでもある茶々丸の実験が起こっているとのことで直ぐに人が集まったのである。

 その学生たちの注目の的である茶々丸も、学生服ではなくエヴァンジェリンが着ているようなゴスロリ服を身に纏っていた。茶々丸のゴスロリ姿に興奮する男子学生たち

 

「あの…ハカセこれは…」

 

 茶々丸も行き成りの事で戸惑っているとハカセが

 

「普段しないようなお洒落をして恥ずかしい状況を作り、先程のモーターの回転数の上昇を再現する実験です!」

 

 と説明してる間にモーターの回転数がグングンと上昇していった。

 茶々丸はチラっとマギの方を見てみると、マギが茶々丸に向かって似合っているぞとほめてくれたのを聞いて、サッと目線を逸らしてしまった。

 ハカセの実験はまだ終わりではなく、今度は白のワンピースで茶々丸の体の関節部分が露出していた。

 

「!あのハカセ…私ではこのような服は合わないのでは…?」

 

「そんな事無いですよ!すごく可愛いです」

 

「茶々丸お姉ちゃん綺麗レス」

 

「まぁあんまりそう言った服を着てるの見た事無いからな。新鮮味があってとてもいいし似合ってるぜ」

 

 スプリングフィールド3兄妹が茶々丸のワンピース姿を賞賛した。茶々丸は褒められ嬉しさ半分恥ずかしさと複雑な気持であった。

 とそんな事もあり、茶々丸のモーターは更に上がり有効な実験数値へとたどり着いた。やはりこれは脈ありであろう。

 しかし脈ありであるならば…

 

「もし恋なら、お相手は誰なんやろなー」

 

 このかの発言に確かに…と頷くハカセは

 

「それもそうですね…なら茶々丸の記憶ドライブを検索してみましょう!」

 

「ちょそれは流石にヤバいでしょう!?プライバシー的に!」

 

 アスナは茶々丸のプライバシーを覗くと言うのは道徳的にいけないとハカセを止めようとしたが

 

「科学のための犠牲はつきものです!!」

 

 反論を言わせないようなハカセの迫力に固まってしまったアスナ。その間にもハカセはどんどん茶々丸の記憶のファイルを検索し、お気に入りの映像ファイルを発見した。

 若しかしてそのファイルに茶々丸の気になる男性が…先程はまずいのでは…とハカセを止めようとしたアスナ達もやっぱり気になってしまっていた。

 そしてハカセが映像ファイルを開き、そのファイルの中を見てアスナ達は固まってしまった。それと何で自分達は此れを見てしまったのだろうと後悔の念が押し寄せてきた。

 映像ファイルの中身は、笑ったマギ寝ぼけたマギ怒ったマギ真剣な顔のマギ修業を頑張っているマギなどであった。

 極めつけは…全裸の(後姿、雪山の修行の時の温泉にて)マギの映像を見た瞬間アスナとこのかに刹那とハカセは顔を赤くして固まってしまった。

 スプリングフィールド3兄妹はアスナ達がパソコンの前で固まっており、パソコンの映像を見る事が出来なかったので、ある意味セーフと言っていいだろう。

 だがアスナ達は見てはいけない物を見てしまい重い空気となりながら、ハカセは静かにパソコンを閉じるとアハハと誤魔化し笑いをしながら

 

「いやーまさか茶々丸が気になってる人がま」

 

 ハカセは茶々丸の顔を見てまた固まった。茶々丸が泣いているのだ。と言っても流している涙はレンズ洗浄液ではあるが、泣いている事に変わりは無い。

 

「おい茶々丸…」

 

 マギは茶々丸に声をかけたが、何と言っていいか言葉が詰まってしまった。その間に茶々丸は涙を拭いながら

 

「違いますマギ先生これは違うんです…ハカセの馬鹿ぁ!」

 

 茶々丸はワイヤーロケットパンチでハカセを殴り飛ばしてしまった。

 

(これは…開発者の私に攻撃するなんて。まさか自力でコマンドプログラムの優先順位を書き換えたというの?ふふ…成長したね茶々丸)

 

 ハカセは茶々丸の成長に喜びながら地面に叩きつけられた。

 ハカセを殴り飛ばした茶々丸だが、ガクガクガクと明らかに動きが可笑しかった。

 

「マギ先生…ちがちがチガチガガガガ違います」

 

 遂に茶々丸の体から大量の蒸気が噴き出し

 

「チガチガ違う違うですー!」

 

 学生たちを吹き飛ばしながら何処かへ走り去ってしまった。

 明らかに茶々丸が異常事態になっている事は目に見えて分かる。ハカセは慌てながら

 

「ヤバい暴走です!やっぱり余りの事に思考回路が負荷がかかり過ぎたか…!?」

 

 暴走状態の茶々丸をほっといていたら大変な事になる。

 

「おいハカセ!どうすれば茶々丸を止められるんだ!?」

 

「あッはい!右胸を押せば停止信号を受信して停止するはずです!」

 

 マギはハカセに如何すれば茶々丸が止まるか聞き、ハカセはマギに停止の仕方を教えた。

 それを聞いたマギは分かった!と言いながら低空飛行の浮遊術を発動。全速力で茶々丸の後を追った。

 

 

 

 工科大は今は大混乱であった。

 暴走状態の茶々丸を捕獲しようとしたが、色々とアップグレードした茶々丸に手も足も出ずに目から発射されたビームに捕獲用のロボットを破壊されてしまった。

 もう手が付けられない茶々丸、もう茶々丸のエネルギー切れを待つしかないと思っていた工科大の生徒達に助けが現れた。

 

「そこまでだ茶々丸!もう暴れるのはよせ!」

 

 先に先回りしたマギが茶々丸を止めようと前に立ちはだかる。

 暴走してる茶々丸は両腕を展開、ビームサーベルを出した。

 

「マギ先生、退いてください!!」

 

 茶々丸は言葉と裏腹にビームサーベルを振り回す。自分でも制御がきかないのだ。

 

「退いてとかいうなら、そんな物騒なモンを振り回すなよ!」

 

 マギも断罪の剣を両腕に纏い、ビームサーベルとぶつかり合う。暴走状態であるのか矢鱈目鱈に振り回す茶々丸。そのおかげが隙だらけで右胸に簡単に手が届きそうだ。

 

「!そこだ!」

 

 マギは茶々丸の動きを見切り、茶々丸の右胸に手を伸ばしたが茶々丸はバックステップで後退してしまった。

 

「おいおいマジかよ!?」

 

 暴走状態にしては動きが良すぎるだろ!と内心悪態をついている間に茶々丸の手首がガコンと動き、中からガトリングガンは飛び出した。

 

「いやちょ!そこまでやるか!?」

 

 マギが驚きながら右に避けたのと同時にガトリングガンから弾が発射された。マギは障壁で防ぐか魔法の矢で相殺して行った。

 ガトリングガンが撃ち終ると、またビームサーベルに戻りマギに斬りかかった。マギは断罪の剣で防いでいた。

 マギは茶々丸の攻撃を防ぐだけで自分からは反撃しなかった。

 

「何故攻撃しないのですかマギ先生、暴走してる私を倒せば早く止まるのに…」

 

「何言ってるんだよ、大切な生徒を傷つけるわけにはいかねえだろ?」

 

 マギは自分が攻撃を防いで茶々丸のエネルギーを切らせる方法にでた。

 しかし茶々丸が次に言った言葉は…

 

「私はマギ先生が思っているような生徒ではありません。最低な生徒です…いっそこのまま壊れてしまえば…」

 

「……なに?」

 

 マギは茶々丸の言った事に眉毛を釣り上げた。

 そうだ自分は最低なロボットだ…茶々丸はそう自分を嫌悪した。

 何時からか茶々丸はマギの事を先生ではなく、一人の男性として見ていた。それが好きと云う気持ちも分かっていたつもりだ。先程はマギが居たから恥ずかしくて嘘をついていたが、マギを好きだと分かっていた。

 だが自分のマスターであるエヴァンジェリンもマギの事が好きだ。従者である自分が主人と同じ人を好きになってはいけない。だから自分の思いを抑え込んでいた。

 その結果がこれだ。自分はマギの姿を盗撮し、それだけで満足してるような最低な存在となってしまった。そんな存在は無くなってしまえばいい。

 

「ふざけんじゃねえぞ!!」

 

 マギは叫びながらビームサーベルを防ぎ、茶々丸をバンザイさせると茶々丸の肩を掴んで。

 

「お前が最低だと?ふざけんな、お前が今迄何をしてたか俺は覚えてる。困った子供たちを助けたり、老人に手を貸したり子猫たちの世話をしていた…そんな奴が最低だと…?ふざけんじゃねえよ茶々丸。なんで自分の事を最低だって言うんだよ」

 

 そう言ってマギは強く茶々丸を抱きしめた。

 

「お前は最低な生徒なんかじゃない。困ってる奴を見捨てない最高な生徒だ。だから自分の事を最低な奴なんか言うんじゃねえ」

 

 マギが茶々丸を抱きしめている間にネギ達も追いついた。見ればマギが茶々丸を抱きしめているではないか。あれではマギが危ない。今にも茶々丸はビームサーベルを振り回しそうになっていた。

 ハカセは危ないと叫ぼうとしたが、茶々丸が腕を元に戻したのだ。まだエネルギーがきれるには早すぎる。それにマギが茶々丸の右胸に触ってもいなかった。だが暴走は止まった。

 

(どうして暴走が止まったの?まさか人間で言う理性が暴走を抑えたと言うの?これはまるで本当に人間みたい…)

 

 だが一応茶々丸の暴走は止まった。一件落着でいいのだろう。

 

「あの…マギ先生私は…」

 

「全く…あんまり迷惑をかけるなよな?」

 

 漸く止まった茶々丸にマギは笑いながら茶々丸の頭を撫でまわした。

 暫く呆然とする茶々丸だが、フッと微笑みを浮かべていたのであった。

 

 

 

 暴走した茶々丸をハカセがもう一度検査したところ、別段何も問題は無かった。とりあえずマギ達は先に帰らせた。

 

「よし茶々丸、何処も問題は無かったよ」

 

「有難う御座いますハカセ。それと先程は殴ってしまい申し訳ありません」

 

「いやいやあれは私が悪いよ。むしろ殴られて当然だねうん」

 

 茶々丸に謝られて苦笑いを浮かべたハカセ。まぁあれは自業自得としか言いようがない。

 それにしても…とハカセは遠い目をしながら

 

「まさか茶々丸が恋をするなんてねぇ。人生いやロボ生何があるか分からないねぇ」

 

「あの…その事については…」

 

「あぁ大丈夫だよ。言いふらしたりすることは無いから安心して」

 

 ハカセと茶々丸が笑いあっていると、決めた!とハカセが何かを決意して

 

「私は茶々丸がマギさんと結ばれるのを協力するよ!」

 

「え?でもマスターもマギ先生が好きで…」

 

「確かにエヴァさんとは友人だけど、茶々丸の生みの親としては茶々丸が人の感情を持って幸せになってもらいたいんだよ」

 

 今言った事は科学者ではなく、純粋に生みの親としての願いであった。

 

「ハカセ…ありがとうございます」

 

「いいっていいって、そうだ!関節部が見えないような人肌そっくりの人工スキンにしてあげようか?エッチィな事も出来るように」

 

「人工スキンはいいんですけど…最後のは…」

 

「え?したくないの?エッチィな事?」

 

「いえ…あの…それは…」

 

 とあれこれそんな事を話しながら茶々丸とハカセは笑いあっていた。

茶々丸の進化はまだまだ止まらないのである。



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文化祭一緒に回りませんか?

文化祭良いですよねぇ
自分の中で一番良かった文化祭は高校でしたね
皆さんは如何でしたか?
それではどうぞ


 文化祭の開催まであと数日といった所、学校に向かう道中アスナはプリプリと怒っていた。

 

「まったく!アンタは何時も勝手にアタシのベットに入ってきて!もうベットに入るの禁止!!」

 

 とネギに怒っていた。と言うのもネギが寝ぼけてアスナのベットにまた入ってきたのと、寝起きのアスナに寝ぼけているネギはキスをしてしまった。

 寝起きにキスをされてはたまったもんじゃないアスナはネギに説教していた。ネギはアスナにすみませんと謝っていた。

 終いにはプールスにネギお兄ちゃんは甘えん坊さんレスねと言われてしまい、しょんぼりするネギ。

 マギはまぁまぁとアスナを宥めていたが

 

「そう言えば、昨日のネギのデートは如何だったんだ?」

 

 マギがアスナにそう訪ねるとウグッ!とアスナは言葉を詰まらせた。

 ネギとのデートと言うのは、アスナは憧れのタカミチに学園祭を一緒に回ろうと言う誘いが緊張のあまり今の今迄出来なかった。

 そこでカモは通販で取り寄せた魔法薬『年齢詐称薬』を使い、ネギがアスナ達位の年齢となり一緒に学園を回ると言うデートをした。

 マギが何故聞いたかと言うと、マギはプールスに勉強を教えたりネギ達とは別に学園祭の準備中の学園内を回っていたのだ。

 

「昨日のデートはそうですねぇ、まぁまぁと言った所でさ」

 

「成程まぁまぁか、まぁでも本番にアスナが誘わなきゃ意味ないわな」

 

「そこぉ!聞こえてるわよ!」

 

 マギとカモの話声にアスナは指を差しながら怒った。

 あぁ悪いとマギがアスナに平謝りをした。

 

「で?肝心のタカミチにはもう誘ったのか?」

 

 とマギがアスナに聞くとウグとまたアスナは言葉を詰まらせながら、まだ誘ってない…と小さな声で答えた。

 

「まだ誘ってないのか?明々後日から学園祭が始まるのに、タカミチが他の予定で誘えなくなるぞ」

 

「分かってるわよマギさん。でもいざ高畑先生に電話したりしようとすると腕が震えて…」

 

 見ればタカミチの話になると、アスナの手が震えてケータイのボタンを押そうともしなかった。

 憧れの異性にたいし緊張してしまう…此れが乙女なのかとマギがそう思っていると、車のクラクションが聞こえ中々の高級車に乗ったタカミチが現れた。

 

「やぁお早う。今から登校かい?」

 

「おうまぁな。タカミチは結構いい車に乗ってるんだな」

 

「タカミチ、アスナさんから話があるって。何でも学園祭一緒に「おはようございあます高畑先生!アタシクラスの出し物の手伝いがあるのでこれで!!」って早い!?」

 

 アスナは一人だけ脱兎のごとく駆け出して見えなくなってしまった。もうアスナの姿が見えなくなり余りの早さに呆然とするマギ達。

 タカミチは今一状況が掴めず、ただ苦笑いを浮かべているだけであった。

 

 

 

 3-Aの生徒達はただ今てんてこまいであった。昼休みや放課後そして夜間の間ずっと作業を続けていたのだが、元々長時間の作業が嫌いな生徒達であるため所々おふざけをしてしまい作業が遅れて未だに完成していないのだ。

 委員長のあやかは皆に的確な指示を飛ばしているが、あやか自身も何処が如何すればいいのか分からず目を回していた。

 そんな慌てている中で、ハルナは逆に落ち着いていた。ハルナ曰く此処で焦ってもしょうがない。焦らずいつも通りにすればいいとのこと。何時も漫画の〆切が迫っているお蔭でこのような展開には慣れているようだ…まぁハルナ自身も今迄ふざけていたのもあるのだが。

 

「皆さんこんにちわ」

 

「ようお前ら進んでるか?」

 

 職員室に居たネギとマギがどれぐらい進んだが、確かめに教室に戻ってきたが余り進んでいる様子は無かった。

 マギとネギが来たこととに生徒達は

 

「ネギ君マギさん助けて~!」

 

「このままじゃ終わらないよ~!」

 

 とヘルプの要求。流石にこのままじゃかわいそうだと思ったマギとネギは手伝おうと思ったがあやかが

 

「ネギ先生とマギ先生は先生になって1年目ですから、ゆっくりしていらして下さいな」

 

 とネギの手を取ってそう言った。がマギは流石に生徒達がこれ以上徹夜したりするのは体調的によくないと思い手伝い始めた。

 男のマギが手伝ってくれるとかなりはかどる。生徒達はこれで安心だと思っていたら

 

「俺が手伝うのは構わないけどな…」

 

 と指を差すと其処には自分よりも倍もある木材を何個か運んでいるプールスと、フワフワと材料が浮かんでいる現象が

 

「俺の妹のプールスや幽霊のさよが手伝うハメになるんなんて。少しふざけ過ぎたんじゃないか?」

 

 それを言われると痛いと生徒達は申し訳なさそうな顔になる。自分達よりも年下のプールスや幽霊のさよに手伝わせてしまうのは流石に不味かったのではないかと

 

「私が手伝ってお姉ちゃん達が助かるならイッパイお手伝いするレス!」

 

「プルちゃん…!」

 

 プールスの満面の笑みを見て、いい子だと改めて思った生徒達はこんな子を手伝わせないで自分達で早く終わらせようと改めて思った。

 マギが手伝っているのを見てやはり自分もとネギも手伝いを始めた。新たに男2人が手伝い始めた事により作業はスムーズに進んだ。

 ある程度進んだのを確認すると、亜子がモジモジとしながらマギに近づいた。

 如何した亜子?と尋ねると亜子は一枚のチケットをマギに渡した。

 

「何だコレ?ライブのチケット?」

 

「そッそれ学園祭でやるライブのチケットなんやけど、ウチくぎみー達とライブやるんやけどよかったら見に来てくれん?」

 

「そうなのか。楽しみにしておくぜ」

 

「私達もネギ君に、よかったら見に来てよ」

 

「ありがとうございます桜子さん」

 

 ネギは桜子にチケットを渡された。とよく見たらネギとマギのチケットは違っており、マギのチケットの方が豪華なイラストであった。

 

「亜子何で俺のチケットはネギと違うんだ?」

 

「ええとそのチケット席の一番前なんよ…ウチマギさんに一番前でライブを見てもらいたかったから」

 

「成程…だったらライブ頑張れよ。応援するぜ」

 

 マギに応援すると言われ嬉しくなる亜子。そッそれでね…と亜子は顔を赤くしながら上目づかいで

 

「もしよかったらライブが始まる前の少しの間、ウチと一緒に学園祭を回ってくれませんか?」

 

 亜子の上目づかいにマギも赤面しながら

 

「まぁ…学園祭の時は何もないと思うから、少しの時間なら構わねえぞ」

 

 とOKを出すと亜子はぱぁと顔を輝かせた。それをきっかけにクラスの…マギやネギを気にしてる生徒達がピクリと反応した。

 その中でもネギに好意を寄せているあやかとまき絵が動きを見せた。此処でネギに誘いを入れたらネギとの距離が縮まると。

 だがしかし

 

「そうだネギ坊主、私の弟子としてお主の套路を新入生に見せたいから中武研の演武会に出るアルよ」

 

「あッはいくー老師」

 

 古菲に先を越されてしまった。負けてたまるものかと、古菲を押しのけてあやかは自信が所属してる馬術部の乗馬イベントをまき絵は新体操部のエキシビジョンを見に来てほしいとネギを誘った。

 とドンドンとネギとマギを学園祭に誘う生徒が増えていき、流石にこれはマズイと思った和美とカモは

 

「はいはーい!そこまで、ネギ君とマギさんに予約がある人は専属マネージャー代理の私を通すことさね!」

 

 和美がネギとマギのスケジュール管理を行っているという事で一時ブーイングが起こったが、和美の的確なスケジュール設定によりマギとネギのスケジュールが決まって行った。

 そして2人のスケジュールがある程度決まったら出し物を造る作業を再開した。

 

 

 

 マギとネギが手伝った事により、お化け屋敷は8割がた終わった。生徒達も久しぶりに徹夜せずにすむと喜びながら下校して行った。

 マギやネギにアスナなどの何時もの一行+和美は学校の広場にある像のある階段に座りスケジュールを確認していた。

 

「結構ビッシリ入ってるよなスケジュール」

 

「そうだねお兄ちゃん。でも文化祭楽しみだなぁ」

 

 ネギは此れから始まる文化祭に心躍る思いであった。マギも実際こういった大掛かりなイベントは生まれて初めてなので、内心ワクワクしてるのは実際の所。

 学園祭は3日あるという事だが、全て回れるのかとマギは考えていると

 

「マギさん…」

 

 のどかが夕映とハルナを連れてやって来た。

 

「おうのどか、如何したんだ?」

 

 マギが如何したんだと尋ねると、のどかはあの…えっと…と中々言いだせないでいた。マギが首を傾げているとしびれを切らしたハルナがのどかの脇腹を肘で小突いた。

 ハッとしたのどかは一歩前に踏み出した。おおッ!ハルナと夕映が言うかとそう思っていたが

 

「とッ図書探険部で探険大会があるので是非どうぞ!!」

 

 図書館探険部のイベントのチケットをマギに渡した。あぁありがとうとマギはチケットを貰うと

 

「そうそう漫研でも似顔絵体験会があるからぜひ来てよ!」

 

「児童文学研究会で絵本の朗読会と哲学研で勉強会があるのでマギさんもぜひどうぞです!」

 

 ハルナと夕映も探険部以外に所属してる部のイベントに誘った。思わず戸惑うマギ

 

「違うでしょのどか、本当事言いなさい!」

 

「ファイトです!」

 

「うッうん!」

 

 ハルナがのどかの肩を揺さぶった。二人に励まされ落ち着いたのどかは、軽く深呼吸をすると

 

「文化祭、一緒に回ってくれませんか?マギさん」

 

 のどかはマギに一緒に回らないかと誘ってきた。マギはのどかの自分に対する気持ちは知っている。そんなのどかの気持ちを蔑になんて出来ない。

 あぁと頷いたマギは

 

「いいぜのどか、一杯楽しもうな」

 

 のどかに向けて微笑みを浮かべた。マギの微笑みを見てボンと顔を一瞬で真っ赤にしてしまうのどか。

 

「そッそれでは私はこれで!文化祭の時にお願いします!!」

 

 それだけ言うと、早足で去って行くのどか。ハルナはのどかの後を追って行った。

 1人残った夕映はマギの方を向いて。

 

「ではのどかの事、宜しくお願いしますです」

 

 ではと夕映ものどかの後を追って行った。

 走り去っていったのどかからしばらくして着物姿の茶々丸とエヴァンジェリンが現れた。それと遅れて小太郎が現れた。

 

「おうエヴァに茶々丸じゃん」

 

「小太郎君如何したの?」

 

 小太郎はこれやとネギにあるチラシを見せた。ネギとマギはチラシを見てみると、それは格闘大会の申し込みであった。

 

「なぁネギ、これに出ようで!折角の腕試しなんだしさ!」

 

「う~んでも学園祭のスケジュールと被らないかなぁ」

 

「そこら辺は俺っちとブンヤの姉さんが何とかしますって」

 

「面白そうだから俺は出てみようかな」

 

 とマギは乗り気であった。

 

「お兄ちゃんが出るんなら、僕も出てみようかな」

 

「おっしゃその意気や…と此処で1つ問題があるんやけどな」

 

 小太郎の言う問題とは?

 

「どうやら俺達の年齢は、子供の部になっちまうんやと。でもガキ相手じゃ弱い者いじめやんか」

 

 確かに小太郎とネギが本気で戦ってしまったら対戦相手の子供なんか下手したらあの世へまっしぐら。ただの大会がコロシアムになってしまう。

 

「俺らはまだガキやからなぁ。如何したもんかなぁ」

 

 小太郎は悩んでいると、ネギはあの薬を思い出した。ネギは小太郎に年齢詐称薬の事を話すと小太郎は大はしゃぎ、直ぐに行こうとネギを連れて受付会場へと向かってしまった。

 まだまだ元気だなぁと向かって行った2人を見ていたマギ達

 

「それでエヴァと茶々丸は如何したんだ?」

 

 と2人が何か用なのかと尋ねると

 

「あぁそれなんだがマギもしよかったらわた「マギ先生実は」おい!私が喋ってるのに邪魔するなボケロボ!」

 

 エヴァンジェリンが話そうとしたが、何故か茶々丸が横から割って入ってきた。

 

「私が茶道部に入ってるのは知ってると思いますが、実は茶道部で野点をやっているんですがどうでしょうか?これ招待状です」

 

「へぇお茶会かぁ、一度茶々丸が点てた日本茶を飲んでみたいと思ってたんだよな。何時も紅茶とかだったし、行くぜ」

 

「ありがとうございます。あの…よかったらその…もし時間があったら私とも一緒に学園祭を回っていただけないでしょうか?」

 

「俺と?まぁ構わないけど良いのか俺で?」

 

「ハイ。私はマギ先生と一緒に学園祭を回りたいです」

 

「そっか…分かった。何とか時間開けとくからな」

 

 マギがそう言うと、茶々丸は有難う御座いますと静かに笑った。

 とエヴァンジェリンが茶々丸を睨み付け、対して茶々丸も静かにエヴァンジェリンを見つめ直した。

 

「…主の私を差し置いてマギと話すとはずいぶんと偉くなったな。え?ボケロボ」

 

「私はガイノイドそしてマスターの従者でもあり、一人の女なんです。だから私はマスターには負けません(・・・・・)

 

 茶々丸の言った負けませんと言う言葉にエヴァンジェリンは目を丸くしたが、フッと不敵に笑い。

 

「いいだろうその言葉宣戦布告と見た。だが勝つのはこの私『闇の福音』であるこのエヴァンジェリンだ」

 

 エヴァンジェリンと茶々丸の間で火花が飛び散っているように見え、マギは思わず身震いした。

 

「では私は茶道部の集りがあるのでこれで…マギ先生私楽しみにしています」

 

 それではと会釈をし、茶々丸は足からローラーを出して行ってしまった。

 茶々丸お姉ちゃん速いレス~とプールスは行ってしまった茶々丸を呆然と見ていた。

 残ったエヴァンジェリンは全くと溜息を吐いて

 

「この私に意見するとはな。アイツも成長しているのだな…まぁマスターとしては喜ばしい事でもあるな」

 

 さてマギとエヴァンジェリンがマギの方へ向いて

 

「私もその格闘大会に出場する。もし私が優勝したら学園祭最終日は私と一緒に居ろ」

 

「いや流石にずっとはまずいだろ。他の生徒達にも誘われてるのに」

 

「知らん。他の奴の事なんて私には興味は無い」

 

 エヴァンジェリンの言った事にお前なぁと注意しようとしたマギだが、エヴァンジェリンはマギのネクタイをグイッと引っ張りマギをよろけさせてマギの顔を両手で掴むと

 

「いいかマギ、お前は私だけを見てほしい。他の女事なんか忘れてほしい」

 

 エヴァンジェリンが言った事にマギは息を呑んだ。それとエヴァンジェリンの瞳に何処か寂しげな感じがした。

 

「…分かったけど、ずっとって言うのは無しな。のどかとかはあの…さ、俺の事とか…な」

 

「のどかか…すまなかったマギ。さっきの学園祭中と言うのは言い過ぎた。私もどうかしてたな…だが少しぐらいは私と居ろよ?」

 

「あぁ一緒に回ってやるさ。俺の大切な師匠だしな。師匠を楽しませるのは弟子の役目だ」

 

 マギの大切なの言葉にエヴァンジェリンは頬を赤らめてそっぽを向いた。そんな事を平気で言うなよな…とぼそりと呟きながら

 

「何か言ったかエヴァ?」

 

「なんでもない。坊やたちの後を追うぞ…それとさっき言った私だけを見てほしいっていう意味はそう言う意味だからな」

 

 ほら行くぞとエヴァンジェリンはマギとプールスを引っ張って行った。そんな光景をアスナ達は呆然としていた。

 

「結構積極的なのねエヴァちゃん」

 

「エヴァンジェリンはクラス1のツンデレだからさね」

 

 恋は女子を女にするもんさねと和美はそう呟いた。

 あとはマギさん達に任せるかとアスナ達は自分達の部活の出し物の準備をするのであった。

 

 

 

 女子寮に戻ったネギとマギだが、そのスケジュール表を見てプルプルと震えていた。

 武道大会の受付を終えた後、さよが現れ学園祭の時マギとプールスと一緒に学園祭を回りたいの事。

 ここまでは良かったのだが、さきほどしずな先生から連絡があり、なんと学園祭中は学園内の見回りもあるそうなのだ。

 ハッキリ言ってスケジュール通りに行きそうになかった。

 

「てかマジに如何するんだコレ…分身使ったり、ましてやタイムマシンなんか使って時間を戻さないと全部回れねぇぞ」

 

「どうしよう…」

 

 朝はウキウキだったのに今はゲンナリの状態であった。アハハと苦笑いを浮かべているこのか

 

「マギお兄ちゃん、大丈夫レスか?」

 

「あぁプールス。男にはやらねばならない時があるんだ」

 

 プールスはマギの言った事に首を傾げていた。

 とネギはアスナが部屋に居ない事に気づいた。今日は此れから最後の泊まり込みの徹夜作業のはずだが

 

「アスナはなー自分の気持ちに正直になるんやって」

 

「そうですか…頑張ってくださいアスナさん」

 

「これも青春って奴かね…やれやれだぜ」

 

 マギはそんな事を呟いて、泊まり込みの準備を始めた。

 

 ネギ達が準備をしている間に、アスナはタカミチに学園祭を一緒に回るお誘いに成功したのだ。

 憧れの人や好きな人を学園祭に誘う……こういうのを青春と言うのだろうな…マギは夜空を見上げながらそう思った。

 

「お兄ちゃん早く行かないとマズイよ~」

 

「あぁ今すぐ行くって…学園祭何も問題なく過ごせるといいなぁ」




次回で原作の9巻は終了いたします
原作10巻からは忙しくなりそう
そして学校のレポートも忙しくなりそう(´_`。)グスン


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世界樹の秘密と超天才①

長らくお待たせしました。
リハビリがてら少し短いです



『できたぁ!!』

 

 3-Aから大歓声が聞こえた。マギとネギの手も借りての徹夜作業もあり、遂に3-Aのお化け屋敷はほぼ完成した。

 見た目はハロウィンのような入り口となっている。後は中の小道具などを全て入れれば完成である。

 

「いやぁ今日の前夜祭までにって思ってたけど、これならあと2~3時間あれば間に合うねぇ」

 

 裕奈がうんうんと頷きながらそう言った。まぁふざけずに作業してたらもっと早く終わりそうだったけどなと言うツッコミをマギは心の中で呟いた。

 何でも前夜祭も色々と盛り上がるイベントが盛りだくさんらしく、皆前夜祭には出たいようだ。

 クラスの出し物も完成間近という事で、部活動に入っている生徒達は部活動での出し物の準備へと取り掛かった。

 まだまだ元気だなぁとマギは今迄徹夜したのが嘘のようだと、準備へと向かった生徒達を見てそう呟いた。

 とマギは亜子が学園新聞を真剣な眼差しで読んでいた。

 

「亜子何読んでるんだ?」

 

 マギは亜子に何を読んでいるのか尋ねると、亜子はマギに新聞を見せてくれた。

 新聞の内容を簡単に訳すと22年に1度世界樹が光らしく、世界樹の真の力がどうたらこうたらと新聞には書かれていた。

 本来なら馬鹿馬鹿しい記事だと笑い飛ばすものだが、マギは魔法使いである。若しかしたらこの記事に書かれている事は本当ではないのか?と考えていた。

 それにこの光ってる世界樹の前で告白すると恋が実るとも言い伝えられている。

 

「はいはいお前ら、こう言った噂話に花咲かせるのも構わない。けどなちゃんと出し物は完成させるんだぞ?」

 

 マギが生徒達に指示を出して出し物の作業を再開した。

 

 

 

 お化け屋敷がマギの的確な指示とネギの手伝いによって前夜祭まえまでに漸く完成した。

 現在マギがプールスを肩車し、その後ろをネギと刹那がついて行っていた。

 先程しずな先生が3-Aにやってきて、学園長が話があるという事で世界樹前広場に来てほしいという事

 マギ達は世界樹前広場に近づくにつれ、気づいた事があった。学園祭間近なのに世界樹前広場に人がまったく居ないのだ。

 ネギや刹那が首を傾げていると

 

「待っておったぞ」

 

 学園長の他に数名の生徒と先生、プラス小太郎がマギ達を待っていた。高音やガンドルフィーニにタカミチの姿があるという事は、全員が魔法使いという事である。

 成程人払いの魔法か…マギはそう呟いて納得していた。

 

「あの、この人たちは誰なんでしょうか?」

 

 ネギはタカミチや小太郎以外の人達とは初対面であるため、誰が誰なんだが分からずじまいだ。

 

「おぉそうじゃった。マギ君は一度面識があるがネギ君は初対面じゃったのう。此処に居るのはこの学園に散らばる小・中・高・大学に常時勤務する魔法先生に魔法生徒達じゃよ」

 

 此処に居るだけが全員じゃないがのうという学園長の言葉にネギは聞く耳を持たずポカンとしていた。

 そんなネギをよそに魔法先生や魔法生徒がネギに挨拶をした。

 

「んでジーさん今日は何の用だ?ネギに先生や生徒の紹介をするんじゃないんだろ?」

 

 マギは本題を学園長に尋ねた。おおそうじゃったなと学園長は顎鬚をなでながら本題を話し始めた。

 

「今日態々皆に集まってもらったのは他でもない。問題が起きておる為に諸君の力を貸していただきたい」

 

「何やまた敵が攻めてくるんか!?」

 

「また大変な事が!?」

 

 小太郎とネギが学園長に詰め寄った為に、落ち着けとマギが2人の頭を軽く小突いた。

 

「ちゃんとジーさんの話を聞け。んでジーさん話の続きは?」

 

「すまないのうマギ先生、まぁ別の意味での深刻じゃが、『世界樹伝説』を知っとるかのう?」

 

「あぁウチのクラスのガキがさわいどったなぁ。学園祭最終日に世界樹にお願いをすると願いが叶うっちゅうアホらしい噂が」

 

「そうだっけ?恋人になるとかじゃないの?」

 

 世界樹の噂を小太郎とネギがそう話していたら

 

「それがのう。叶ってしまうのじゃよ。マジな話で22年に1度じゃがな」

 

 ネギと小太郎は噂が本当という事で少しばかりポカーンとしていた。マギはふ~んとあんまり驚いていなかった。

 

「諸君らには学祭期間中、特に最終日の日没以降、生徒による世界樹伝説実行…つまりは告白行為を阻止してもらいたい」

 

「あの、よくある迷信ではなかったのですか?」

 

 刹那がそう聞くと学園長は世界樹の説明を始めた。

 

「この樹は世界樹と呼ばれておるが、実際の名は『神木・蟠桃』と言った強力な魔力を秘めている魔法の樹なのじゃ」

 

 そして22年に一度の周期でその魔力は増大し、そして極大に達すると樹の外へと溢れ出し、世界樹を中心とした六か所の地点に強力な魔力溜まりを形成する。今いる広場のその1つである。

 この膨大な魔力は人の心にも影響する。金持ちになりたい、世界征服がしたいなどと言った即物的な願いはかなわないが、告白に関する事は

 

「その成功率は120%!まさに呪い級の威力なんじゃよ!」

 

 学園長はカァッ!と目を見開きながらそう言った。

 ポヘ~とプールスは今一分からず呆然としていたが、マギは成程なと頭を掻きながら納得した。

 

「すでにこの噂は学園中に広まっておる」

 

「だよなぁこう言った噂は結構おいしいだろうし、女子も好きそうだしなぁ」

 

 マギもウンウンと頷いていた。

 

「けどさ、そんなに悪い事か?」

 

 マギの言った事にほとんどの魔法先生や魔法生徒は視線を強くした。ネギは自身の兄が行き成りとんでもない事を言いだしたので慌てだす。

 

「それは如何いう事かの?」

 

「いやさ人の心を惑わすっつうのはいただけないけどさ、学園祭だろ?好きな子同士で学園祭を一緒に過ごしたいはずだ。若しかしたらその噂の力を頼って告白するかもしれない。けどさもし告白しようとするところで邪魔なんかが入ったら、楽しい思い出が台無しじゃねぇかと思うんだよ」

 

「馬鹿な!君は恋愛と言う一時の感情の方を優先すると言うのか!?この噂が魔法と繋がっていると知られたらどうするんだ!?」

 

 マギの意見にガンドルフィーニ先生が真っ先に反論してきた。

 

「いやだからさ、最初にいただけないって俺言ったじゃん、でもさ学園祭だぜ?楽しくいきたいじゃん?それなのに告白を邪魔するとか、アンタら絶対強引に邪魔するのかよ?いいのかそれがもし学園の評判やアンタの教師の評判に傷でもついたら、アンタだって奥さんや子供がいるんじゃないの?」

 

 マギの反論にガンドルフィーニは黙ってしまった。学園の評判に傷がついてしまったらそれはそれで問題である。

 

「それではマギ先生には何か考えがあるのかのう?」

 

 学園長はマギに考えがあるのかと尋ねると

 

「まぁ思いついたのは、その噂の場所を別に移すとかさ、あとは色々な噂で上塗りしたりとか。たとえば世界樹で告白して成功するのは純粋な思いを持った奴で、邪な考えを持つ奴は逆に不幸になるとかな。その不幸になるって言うのもかなりリアリティのある嘘の実体験とかを織り交ぜたりとかな」

 

「なるほどのう。で、もし遊び半分で世界樹に近づこうとする生徒がいたらどうするんじゃ?」

 

「そん時はまぁ力づくで」

 

「ってやっぱり力づくなんかい!」

 

 と小太郎がマギに思わずツッコミをしてしまい

 

「あ?不幸になるとか言ったのに面白半分で来るやつなんか、マジで不幸になればいいんだよ」

 

「マギお兄ちゃん、怖いレス…」

 

 あぁ怖がらせてすまんすまんとマギがプールスをあやしてあげた。

 

「まぁマジで不味いのは学祭最終日なんじゃが、今からでも影響は出始める。生徒には悪いがこの6か所にはあまり近づかせない様にしてもらいたい」

 

 学園長が先生や生徒にそう呼びかけた。

 と愛理が何かに気づいたのか空を見上げた。

 

「誰かに見られています」

 

「何?」

 

 そう言っていると、グラサンをかけた男の先生がパチンと指を鳴らすと、無詠唱で風の刃が飛び出した。

 風の刃が切ったのは小さなプロペラの付いた機械であった。

 

「魔法の力は感じなかった。機械だな」

 

 グラサンの先生はそう言った。

 

「追いましょうか?」

 

 高音が学園長に聞いてみた。

 

「深追いはせんでいいよ。こんな事が出来る生徒は限られている」

 

 と高音にそう言った。

 

「ではたかが告白と侮るなかれ、事は生徒の青春に関わる大問題じゃ!ただし魔法の使用にあたっては、くれぐれも注意をするように!よろしく頼むぞ」

 

 それでは解散!と学園長が解散の号令をかけたのと同時に人払いの魔法もとき、広場には大勢の人であふれかえった。

 

「それではネギ君、くれぐれも生徒に告白されんようにな」

 

「はッはい分かりました!」

 

 ネギはビクビクしながらそう答えた。言えないアスナやこのかと此処に居る刹那などとキスをしたという事を

 

「マギ君もくれぐれも…と言いたいとこじゃが、確かエヴァと良いかんじじゃったのう。彼女は生徒じゃが、歳は君の何百倍も上だからのう」

 

「いやジーさん、なんでここでエヴァの名前が出てくるんだよ」

 

「私はエヴァおねーちゃん大好きレスよ?」

 

「いやプールス、そう言う問題じゃないんだよ」

 

 やれやれだぜとマギはとんでもない事になったなとそう思ったのであった。

 



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世界樹の秘密と超天才②

一か月位開けてしまった……


 魔法先生や魔法生徒の集りから解散したマギ達。

 今は人混みで溢れかえっている大通りを歩いていた。

 学園長が話していた世界樹の伝説、気を付けなければならない。

 

「それにしても、あんなに魔法先生が居たなんてなぁ……」

 

 ネギはタカミチや学園長の他に多くの魔法先生や魔法生徒が居る事に驚いていた。

 ネギが驚いている間、小太郎は挑発的な笑みを浮かべながら

 

「けどほとんどの奴等、魔力は高そうやけど肉体的には全然やな。やっぱ西洋魔術師は大したことないで」

 

 少々見下したような態度を取る。

 小太郎の態度にネギと刹那が苦笑いを浮かべていると

 

「ふ~ん……だったら今度、俺と一緒に組手でもやるか小太郎?」

 

 マギが小太郎に組手を誘ってみると

 

「いやそれは勘弁や。マギ兄ちゃんは西洋魔術師以前の問題や」

 

 あっさり手の平を返したような態度にマギも若干呆れ顔

 

「おいおいさっきまで西洋魔術は大したことないって言ってたのはその口だぜ?」

 

「いやマギ兄ちゃんはあのエヴァンジェリンの弟子なんやろ?あの姉ちゃんネギからも聞いたんやけど、色々な格闘技が出来るって聞いたし、それにマギ兄ちゃんあの悪魔が襲撃した時も変身したって聞いたし、軽くスーパーサ〇ヤ人やないか」

 

「だからそのスーパーなんちゃらって何だよ……それに麻帆良に居る魔法使いだって皆弱いわけじゃないんだぜ?あんまり慢心とかしてると、足元掬われるぞ」

 

 マギは若干慢心気味な小太郎の考えに喝を入れた。

 それにしても……とマギは頬を掻きながら

 

「なぁネギ、魔法先生の仕事も入ったら俺らのスケジュール色々と狂うんじゃねぇか?」

 

「あ……そういえば……」

 

 マギの言った事にネギもサァッと顔を青ざめてしまう。

 ただでさせキツキツなスケジュールなのだ。それで魔法先生としての仕事が入ってしまえば、学園祭を回るのも難しくなってしまうかもしれない。

 

「マジで生徒の何人かの出し物を見れなくなっちまうかもな……」

 

「あわわ、どッどうしよう」

 

 マギとネギが如何しようかと慌てているのを見て、小太郎は2人の予定表を見てみる。

 予定表には教え子たちの出し物を見るためにスケジュールがビッシリとなっていた。

 

「何やネギにマギ兄ちゃん、女との約束ばっかやないか。見損なうでホンマ」

 

「ちッ違うよ小太郎君、僕やお兄ちゃんは先生として……」

 

 ネギは小太郎にスケジュールの事について話そうとしたその時

 ドカッ!と誰かがマギ達の元へ転がり落ちてきた。

 

「ちょ!大丈夫ですか!?」

 

 ネギは自分達に転がり込んできたフードの者に大丈夫かと手を差し伸べた。

 イタタとフードの者は頭を打ったのか、頭を押さえながら起き上がった。起き上がった拍子にフードから素顔が見えた。

 

「ネギ坊主にマギさんカ。丁度良かったヨ……助けてくれないカ?」

 

 フードの正体は超であった。

 

「超さん?如何したんですか?」

 

 ネギは超に何があったのか尋ねると

 

「私今怪しい奴らに追われてるヨ。助けてくれないカ?」

 

 怪しい奴等とやらに追われているようだ。

 マギは何か魔力の反応がするモノが此方に近づいて来るを感じた。数は7~8ぐらいだ。

 マギ達が居る場所はかなり人が多い。こんな所で迎え撃つのは危険だ。

 

「お前らとりあえずここを離れよう。こんな所で戦うのはリスクが大きすぎる」

 

 マギの提案に反対する者はおらず、マギ達は人に気づかれない様な高速移動でこの場を離れるのであった。

 

 

 

 マギ達から少し離れた場所で、亜子に裕奈とアキラが歩いていた。

 周りでは前夜祭のムードであるが、3人はそこまで乗り気ではなかった。

 

「はぁ前夜祭行きたいけど、疲労がたまってるからなぁ」

 

 裕奈は大欠伸をしながら愚痴をこぼしていた。

 

「うちら徹夜で作業してたしな~」

 

「どこかで休まないと倒れちゃうよ」

 

 亜子とアキラが仕方ないと裕奈にそう言う。前夜祭と睡眠、どちらを取るか裕奈が迷っているとガコン!と裕奈達の近くにあったフェンスが曲がっていた。

 他にも電柱や店の看板などが行き成り曲がったり、割れたりした。

 行き成り物が壊れるのを見て戸惑っている人々、今人知れず戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

 麻帆良の町の屋上では、逃走劇が繰り広げられていた。

 怪しい奴等なる者から超を護りながら逃げているマギ達。

 その後ろを黒いマントで、仮面をつけた集団が追いかけてきていた。

 

「おいおいなんやあれ!?倒してもええんか!?」

 

 小太郎は苦無を指に挟みながらいつでも投げれる準備をしていた。

 

「超さん!これはいったいどういう事なんですか!?」

 

 ネギは刹那に横抱きにされている超にどういう事か訳を聞こうとすると

 

「実は私、悪い魔法使いに狙われているネ。ネギ先生に助けてほしいヨ」

 

「わッ悪い魔法使い!?」

 

 超の言った事に驚きを隠せないネギ。こんな賑やかな場所で悪い魔法使いに追われるなんて。だがマギは超が言っていることに違和感を感じていた。

 超は何かを隠しているのでは?そう考えがよぎった。そんな事を考えている間に黒マントの集団は距離を詰めてくる。

 

「仕方ねぇ……おいネギ!俺がこいつ等を食い止めるから、お前らは超を連れてさっさと先に行け!」

 

「でも……お兄ちゃん」

 

「心配すんな、あんな雑魚共に後れを取るようなマギさんじゃねえよ」

 

 マギはサムズアップをしながらそう言った。

 

「ネギ先生、ここはマギ先生に任せて先に行きましょう!」刹那はマギの提案を呑んで、先に行くことを勧めた。

 ネギも了解したようで、マギの方を見て

 

「お兄ちゃん、気を付けてね」

 

 ネギの言った事に、マギは無言のサムズアップで答えた。

 ネギ達が先に行ったのを見ると、マギは軽く指の関節を鳴らしながら

 

「んじゃま、イッチョやりますか。プールス落ちんなよ」

 

「ハイレス!」

 

 マギは自分の頭に乗っているプールスに落ちないように言った。

 そして一気に加速すると、身近にいた黒マントの一体を上空へ蹴り飛ばした。

 蹴り飛ばされた黒マントは煙のように消えてしまった。

 

「やっぱりな、蹴った瞬間に分かったがこいつ等魔力の反応はするが、生命エネルギーの気を全く感じない。つまり分身体の様なもんだな……だったら遠慮なく行かせてもらうぜ」

 

 マギは一気に決めるために、咸卦法を発動する。このような雑魚に闇の魔法を使う必要はないと判断した。

 黒マントの集団は一斉にマギに攻め込んだ。常人では捉えきる事が出来そうにないほどの、高速のラッシュがマギに迫る。

 だがマギにとってはこの程度のラッシュは遅く感じており、黒マントが攻撃をした瞬間にエヴァンジェリンに習ったカウンター技で返り討ちにした。

 とマギの背後に鳥の顔をした仮面の黒マントが手刀で突き攻撃をしようとしたが

 

「危ないレス!」

 

 プールスが人型から液体型のスライムに戻ると、今度は自身を硬質化させて鉄の楯となりマギを護った。

 

「やぁッ!!」

 

 そして人型に戻ると、両腕を鎌へと変化してマギを背後から攻撃しようとした黒マントを切り刻んだ。

 

「ナイスだプールス!」

 

 マギはプールスのサポートを褒めると、プールスは嬉しそうに笑った。

 マギはプールスのサポートもあって、次々と黒マントの集団を蹴散らしていった。

 戦っている最中に、建物の影から黒マントの集団が新たに現れたりしたが、別段問題は無かった。

 戦う事数十分、倒した黒マントの集団は全部で17体ほどだった。多少魔力と気を消失したが苦戦はしなかった。

 マギはスーツに着いた土ぼこりを掃うと、ネギ達の魔力の反応を探してみる。

 ネギを探す事数分、ネギ達の魔力反応は少し遠くの方から感じ取った。

 

「ちっと遠いな、行くぞプールス」

 

「ハイレス」

 

 マギはプールスを背中におんぶさせると、浮遊術でネギの元へ向かった。

 マギは飛んでいる間、超の事を考えていた。超は魔法について何も驚いた様子は無かった。という事は超は魔法に関わっているという事だ。

 だが何故だろうか……超は自分達と何か違うと一瞬だけそう思ってしまった。超は自分達に何かを隠してるのではないかと……

 

「まぁネギ達と合流すれば、何かが分かるだろ。急ぐか」

 

 マギはさらに加速し、ネギ達の元へ急いだ。

 

 

 

 

 マギはネギ達のいる場所へ到着すると、其処にはネギ達の他にガンドルフィーニや高音に愛理が一緒にいた。

 

「何でガングロ先生や高音に愛理が居るんだ?」

 

「!マギ先生」

 

「マギ先生……」

 

 ガンドルフィーニがマギの登場に驚きを隠さないで、高音はマギの登場に頬を赤らめていた。

 マギは数秒考えていると、成程なと溜息を吐きながら

 

「超を追いかけていた悪い魔法使いってアンタらか。まぁ頭が固い頑固な奴等だが悪い奴ではないか」

 

「マギ先生、貴方と言う人は……」

 

 ガンドルフィーニがマギに反論しようとしたが、マギは無視をして高音の方を向いて

 

「んで高音、超の奴はこれからどうするんだ?」

 

「……彼女は再三の警告を無視して私達に近づきました。警告を無視した事により記憶を消去します」

 

 高音の事務的な回答に成程なと頷きながら

 

「と言うか超は魔法に何ならかの関わりがあるみたいだな。茶々丸を造ったのもハカセや超だと聞いた事あったし」

 

 マギは茶々丸の生みの親がハカセや超だという事を聞いた。

 

「彼女は事情により多少のリークを許されています。ですが全てを教えていいと言う訳ではありません。しかし彼女は今回を入れて3度警告を無視しています。彼女にはそれ相応の罰が必要です」

 

「だからってなぁ流石に記憶を消すのはやり過ぎじゃねぇか?」

 

「君は甘いぞマギ先生、彼女は危険人物だ。今回だって侵入不可能の会合の場を科学技術を使って覗き見ていた。しかもあの凶悪犯であるエヴァンジェリンに力を貸している。油断は出来ない」

 

「……おいガングロ先生、アンタまだエヴァの事をそう言ってんのか?本気でぶちのめされたいようだな」

 

 マギは手に魔力を集めながら、ギロリとガンドルフィーニを睨みつけた。

 このままでは一触即発になってしまうのではと誰もがそう思っていたが

 

「止めて下さい!」

 

 ネギが大声を出して、この場を制した。

 

「僕やお兄ちゃんの生徒を勝手に凶悪犯とか危険人物とか決めつけないでください!超さんは僕達の生徒です。だから僕達に任せてください」

 

 ネギの任せてと言った事に、マギは手に集中させていた魔力を消すと。

 

「やれやれ、熱くなっちまったぜ……そういう事だガングロ先生それに高音、超は俺やネギに任せて貰えないか?」

 

「……ふむ分かったよ。今日の所は君を信頼しようネギ君」

 

 ガンドルフィーニも今回は折れてくれるようだ。

 ネギやマギに超を任せるという事で、ガンドルフィーニ達は去って行く。

 高音が愛理を連れてマギに近づいた。

 

「今回はネギ先生やマギ先生に任せます。ですが気を付けてくださいね?次に何かあったらオコジョにされてしまうのは貴方方かもしれませんから……私はマギ先生がオコジョになってしまうのは嫌ですから」

 

「大丈夫だって高音、俺はそんなヘマはしないさ。でも俺の事を心配してくれるなんてありがとな」

 

 マギは高音に笑顔を向けながらそう言った。マギの笑顔を見て顔を赤らめる高音は顔が赤いのを見られない様にと駆け足で去って行った。

 一応いざこざは終わったようで超も一安心の様だ。

 

「いや~助かったネ。ネギ先生は命の恩人ヨ」

 

「いやそんな大げさですよ」

 

「けど超、危険人物ってガングロ先生に言われていたが、一体今迄何をしたんだ?」

 

「フフフ、それは秘密ネ」

 

 マギが聞いても超ははぐらかした。

 其れよりもネギ坊主と超は話を変えた。

 

「今何か困っていないカ?」

 

「え?はい……今スケジュールが忙しくて、色々と困っています」

 

 苦笑いを浮かべながらネギは困っていると答えた。

 未だに学園祭の問題は残っているのだ

 

「困っているなら恩に報いるために、ネギ坊主の悩みを1つ解決してあげるヨ。この超鈴音の科学の力でネ」

 

 と言って、超はネギに懐中時計を渡した。

 

「あのコレは?」

 

 ネギは懐中時計を渡されて、首を傾げていると

 

「それを持って居れば安心だヨ。安心して学園祭を楽しむと良いヨ」

 

 それじゃ再见と言って超は立ち去ろうとしてマギと目があった。

 

「マギさん、私が記憶を消されそうになって庇ってくれてありがとネ」

 

「気にするな。生徒を護るのが先生の務めだ」

 

 優しいネと超は微笑みながら言った。

 

「けど……いつか私の記憶を消した方が良かったと後悔する時が来るかもヨ?」

 

 ニッコリと笑ってそれだけを言うと超は今度こそ超は立ち去って行った。

 

「……超、アイツは何者なんだ」

 

 マギは先程の後悔という言葉が冗談でもなんでもないように聞こえた。

 

「マギお兄ちゃん、ネギお兄ちゃん行っちゃうレスよ?」

 

「あぁ悪い、直ぐ行くよ」

 

 プールスに髪を引っ張られてハッとするマギはネギの元へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 そして夜、ネギはアスナに今日の出来事や超に渡された懐中時計の事を話した。

 

「ふ~んこれが渡された時計ねぇ。で、これは何の役に立つの?超さんの発明は怪しいものばっかだからなぁ」

 

「さぁ後で説明してくれると言っていたので」

 

「科学と言うより、マジックアイテムみたいですぜ」

 

 アスナやネギにカモが懐中時計をまじまじと観察をしている。

 マギはマギで超が言っていた事を考えていた。

 

「ネギく~ん!」

 

 まき絵の声が聞こえると、3-Aの生徒達がぞろぞろとやって来た。

 

「そろそろ前夜祭が始まるよ!」

 

「ネギ先生ご一緒に」

 

 まき絵とあやかがネギと一緒に前夜祭をと誘った。

 

「マギお兄ちゃんも一緒に前夜祭いくです~」

 

「そんな難しい顔してたら、前夜祭も楽しくないよ~!」

 

 史伽と風香がマギの両肩に飛び乗ってそう言った。

 頭にプールス、両肩に史伽と風香とちょっとしたお父さんだ。

 

「だなせっかくの学園祭だ。難しい事は後々、今は祭りを楽しむか」

 

 マギが言ったのと同時に、世界樹が輝きだした。

 生徒達が綺麗と言っていると、遠くの方で打ち上げ花火が夜空に打ち上げられた。

 いよいよ麻帆良祭の始まりだ……

 

 

 

 

「ネギ先生たちはいかがでしたか?」

 

「うむ、ハカセの話や茶々丸のデータで知ってはいたが、思ったよりも良い奴だヨ。気にいたネ」

 

 麻帆良の上空に飛んでいる飛行船、その飛行船の屋根に超にハカセに茶々丸が立っており麻帆良の街を見下ろしていた。

 

「ネギ坊主を上手く仲間に引き込めればかなり使えるかも知れぬヨ」

 

 超はネギは利用して何かを企んでいるようだ。

 だが超はネギしか利用しようとしていない。マギの名を一言も言っていない。

 

「超さん……」

 

 茶々丸は悲しい顔をしながら超を見る。

 すまない……と超は茶々丸に謝り

 

「マギさんは優しい人だヨ。私の事を庇ってくれた……けどマギさんは私の計画を邪魔するはずヨ。あの人は優しいから……けど私はマギさんが私の邪魔をするなら……私はマギさんを容赦なく消す。これは覚悟の上ダ」

 

 マギとネギが知らない間に超が暗躍しているのであった。

 




次回から原作10巻へと入ります

それと申し訳ありませんが、次回から話の文字数が少なくなると思います
ご了承ください


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~第8章~麻帆良祭開幕~
学園祭のお化け屋敷は偶にクオリティが高い時がある


学園祭のお化け屋敷って偶に結構怖いものがありますよね

ではどうぞ


 学園祭当日、麻帆良の上空ではプロペラ機が入場客を歓迎していた。

 

『ただ今より第78回麻帆良祭を開催します!!』

 

 麻帆良祭の開始のアナウンスが麻帆良中に響き、大通りでは学祭の仮装パレードが行われている。

 他にも自作の人力飛行機のコンテストやら、麻帆良をモデルにした戦隊モノなどなどとあった。

 

「わぁ!スゴイや!」

 

「確かに、これは凄いな……」

 

「凄いレス~」

 

「これ本当に学校の祭りなんですかね?」

 

 3兄妹とカモは麻帆良祭の大賑わいに目を丸くして驚いていた。これはまさに一種のテーマパークであった。

 

「三日間の延べ入場者数、約40万人。世界でも有数の規模の学園都市の全校合同イベントですから、大騒ぎのバカ騒ぎで三日間は乱痴気騒ぎのドンチャン騒ぎと言う訳です」

 

「学園内は仮装OKだから歩いていても楽しいし」

 

 クラスのお化け屋敷の宣伝をしていたのどか達と偶然会って、麻帆良祭について色々と話してくれる。

 なんでも麻帆良祭の噂を聞いた関東圏からの観光客は、家族連れを中心として年々と増えている模様。

 

「ここ10年間で各クラブによる商業化が過激を増した麻帆良祭では、一説によれば一日で二億六千万のお金が動くとも言われています」

 

「にッにおく!?」

 

「学園祭で使われるようなお金じゃないよな」

 

 夕映の口から出た二億と言う言葉にネギは驚き、マギは驚きを通り越して呆れてしまった。

 

「カモおじちゃん、におくってそんなに凄いんレスか?」

 

「おじちゃんって……まぁ嬢ちゃんが好きなものをいくらでも買えるってもんだな」

 

 カモがプールスにひそひそ声で二億がどれぐらい凄いお金なのかを教えていた。

 

「中には三日間で数千万を稼いだサークルや学祭最長と呼ばれる生徒も居るそうです。元々は国際化に対応した。自立心の育成のための営利活動の許可だったのですが」

 

「数千万とか、見事としか言えないな」

 

 マギが感心していると、のどかがマギにパンフレットを渡してくれた。

 マギはのどかにお礼を言うと、パンフレットを広げて全体の地図を見てみる。まさにテーマパークであった。

 

「こりゃ三日間で回りきれるか難しいですねぇ」

 

「そうだねカモ君……おっとと」

 

 ネギはフラフラとしたので、マギが支えてあげた。

 

「大丈夫かネギ?」

 

「ありがとうお兄ちゃん。あんまり寝てなかったから僕」

 

「ネギにとっては色々とハードスケジュールだったからな。無理すんなよ」

 

 と言っているマギは実は文化祭の準備の他に、エヴァンジェリンの別荘にて修業を行っている。

 正直言って今にも眠ってしまいたいマギであるが、テンションが上がっており今のところ眠気が吹き飛んでいた。

 

「あッ二人とも危ないよ!」

 

 ハルナの声にえ?となったネギとマギだが、2人の横で巨大な脚が現れた。

 上を見上げると、其処にはティラノサウルスが大通りを闊歩していた。

 

「何で恐竜が居るんだ?」

 

「いやぁ人気の仮装パレードも、年々派手になってるねぇ」

 

「いや何処が仮装なんですか!?ホンモノですよあれ!」

 

 ハルナが呑気そうに言っているのをネギがツッコミを入れた。

 今更だが、麻帆良って色々とぶっ飛んでいるんだなぁと思い直されたマギである。

 

「というかこんな所で油を売ってても時間の無駄だな。俺らのクラスの出し物に向かおうぜ」

 

「お姉ちゃん達が作ったお化けやしき、楽しみレス!」

 

 プールスも早くお化け屋敷に行きたいようだ。

 マギ達はさっそく3-Aのお化け屋敷に行ってみたいようだ。

 

 

 

 学校に着いてみると、長蛇の列が出来ていた。

 何の出し物で行列が出来ているのかと、列を辿ってみると其処は3-Aであった。

 

「これ全部僕達のクラスの出し物の列ですか~」

 

「大成功の様だな」

 

 ネギとマギは自分達のクラスの出し物が繁盛してるようで喜んだ。

 

「ネギく~ん!マギさ~ん!」

 

「お店大繁盛だよ!色々手伝ってくれてありがとう!!」

 

 店番をしている桜子や裕奈や史伽などがネギとマギに近づいて行った。

 桜子達がネギとマギを優先的に店の中へ入れてしまった。

 

「当お化け屋敷ではお客様の好みに合わせて、3つのコースからお選び頂けまーす!」

 

 裕奈がお化け屋敷の説明をしてくれて、奥へ進んでみると3つの扉があった。

 扉にはゴシックホラー、日本の怪談に学校の怖い話と部屋の名前が書いてあった。

 其々の扉にあやか、まき絵、アキラと案内係として立っていた。

 

「どれにしようかなぁやっぱり怖くない所がいいなぁ」

 

 ネギは3つのウチ、どの部屋に行こうか迷っていた。

 あやかとまき絵はネギに来てほしいのか、もはや邪念と呼ばれそうなほどのラブな視線をネギに送っていた。

 

「じゃあこっちの部屋で」

 

 ネギが選んだのは学校の怖い話の部屋であった。自分達が居る場所の部屋に来てもらえず、ズッコケるあやかとまき絵

 

「何でこの部屋に?」

 

「何というか、向こうは別の意味で怖い目にあいそうな予感で……」

 

 アキラが理由を尋ねると、ネギはあやかかまき絵のいる部屋に行ったら別の意味で怖い事が起こりそうな予感がしたようだ。

 

「ネギ先生~」

 

「ネギく~ん!」

 

「……お前ら欲望がダダ漏れだぞ」

 

 見るからに落胆しているあやかとまき絵を見て、マギは呆れていた。

 さて自分も選ぶかとマギはどの部屋に入るか選ぶ。

 プールスもいるからやはりあまり怖くない部屋を選ぶとしようという事で、怖いレベルが一番低いと表示されているゴシックホラーに決めた。

 

「さてと案内係は……まだ無理そうだな。俺達だけで行くか、行くぞプールス」

 

「ハイレス!」

 

 案内係のあやかが未だに沈んでいるようなので、マギはプールスと一緒にゴシックホラーの扉を開けた。

 

 

 

 

 ゴシックホラーという事で、舞台は西洋の墓地の様だ。

 道順に沿って墓地が置いてあった。生暖かい風が吹いており、墓地にはジャックランタンやコウモリ、カラスの鳴き声や何かの呻き声などまるで一つの映画のステージの様だ。

 一番怖さが低いと書かれているが子供でも泣きそうなの怖さであった。

 此れだけ怖ければ、あの長蛇の列も頷ける。

 

「しっかし教室の中だっていうのに偉く広く感じるな。確か超の発明なんだっけ?ほんとアイツは色々と凄い発明をしてるんだな」

 

 超の発明に驚きを隠せないマギ。そしてプールスは今はマギに手を繋いでもらって自分で歩いていた。プールスが震えているのが繋いだ手越しに伝わってくる。

 

「怖いのかプールス?何時みたいに頭に乗ってもいいんだぞ」

 

「だッだいじょうぶレス。お化けやしきは自分の足で歩くものだって、お姉ちゃん達に教えてもらったレス」

 

 プールスは自分の足でゴールすると言っている。震えながら言うとは何とけなげな

 マギがそんな事を思っていると、クックックと何処からか笑い声が聞こえてきた。

 

「この私の庭に入って来るとは、愚かな人間め……その命もらい受けよう」

 

 と何時の間にかマギとプールスの前にマント姿のエヴァンジェリンが立っていた。

 

「この闇の福音であるエヴァンジェリンがなぁ!!」

 

 バサァとマントを広げながら高笑いをしながら言った。

 マギの反応はと言うと

 

「……あぁうん、なるほどね」

 

「エヴァお姉ちゃん怖いレス……」

 

 マギの反応は薄くて、プールスはマギの足に隠れていた。

 

「っておい!何だその薄い反応は!?」

 

「いやその名乗りを聞くのも久しぶりだし、なんかこんな場所でもそれ聞いても、あぁそう言う設定なんだなとしか思えないし」

 

 まぁいいんじゃね?と言ったマギの表情にエヴァンジェリンは顔を真っ赤にしながら

 

「ばッバカにしてるのか!?ええい!出てこいお前達!」

 

 エヴァンジェリンの呼びかけに応じるかのように墓地の土がボコボコと盛り上がり、ゾンビのメイクをした生徒達が現れた。

 

「そいつを私の下僕の仲間入りをさせるのだ!!」

 

『はぁい!』

 

 ゾンビに扮した生徒達が一斉に向かってきた。

 

「マギ兄ちゃん!今ゾンビになってるから噛むッ!……と見せかけて口にチュー!」

 

 風香がどさくさに紛れてマギにキスを迫ろうとした。

 

「馬鹿野郎!お化け屋敷でなカップルがイチャイチャするのはお化け役にとっては苦痛でしかないんだぞ!」

 

 がマギがネギをしばくためのハリセンで風香を沈めた。

 

「ウフフ、だったらマギさんが良い思いをすればいいんじゃないでしょうか?」

 

「うおぉぉ!ちょッ千鶴!女性に言うのは失礼だと思うけど、ゾンビの特殊メイクのせいか酷く腐った匂いがするんですけど!」

 

 千鶴がマギに抱き着いて来て、本格的なメイクなのか腐っているような匂いが鼻についてマギは涙が止まらなくなった。

 

「プールスちゃんは私らと遊ぼうかぁ」

 

「ふえぇぇ。お姉ちゃん達怖いし、なんか変なにおいがするレス~!」

 

 プールスには和美や古菲に楓などが迫ってきており、ゾンビメイクを怖がって半泣きしてしまった。

 

「貴様等!私を差し置いてマギに近づくな!マギは私の者だ!」

 

「ケケケ、面白イ事ヲシテンジャネェカ」

 

「仕向けたお前が何言ってんだよ!てかチャチャゼロ、何普通に出てきて話してんだよ!?」

 

 と今度はエヴァンジェリンがムキになって断罪の剣を振り回して、チャチャゼロもナイフを持ってマギに近づいてきた。

 ギャーギャーワイワイと騒がしい声は店の外からも聞こえていた。

 

 

 

「たく酷い目にあったぜ。怖い思いをする事無く、逆に疲れるはめになるとは……」

 

「ちょっとこわかったけど、楽しかったレス」

 

 マギは正直疲れたが、プールスが喜んでいるなら、疲れも吹っ飛ぶものだ。

 ネギの方でも色々と怖い目にあった様だ。目の前でアキラが首と胴がさようならしたり、窓に手形が現れたり血まみれの生徒に迫られたりと色々あったようだ。

 終いにはお化け屋敷でよくある走って抜け出そうとして、出口でアスナとぶつかった。

 アスナにぶつかった際に怖さを手でジャスチャーしようとしてアスナの胸を揉んでしまい、アスナに頭を殴られるのであった。

 

「まぁしかしアンだけの列だし、こりゃ大繁盛間違いないですよ」

 

 カモが大繁盛間違いなしと断言した。確かに怖さのレベルが一番低いあれでもかなりのクオリティだ。繁盛はするだろう。

 

「と……こうしちゃいられないな。今日から色々と忙しいんだし」

 

 マギやネギは今日から色々と忙しいのだ。マギはのどかと一緒に学園祭を回ったり、武道大会の予選が有ったりするのだ。ネギもネギで色々と様があるのだ。

 さっそく準備をしようとしたが、目の前が歪んで見えてしまいふらついてしまったマギとネギ。

 

「たくさっきはしゃぎ過ぎたせいでフラフラだ」

 

「ふあぁぁ、僕なんか眠くなってきた」

 

 余り寝ていないせいで、疲労がやって来たようだ。何処かで仮眠をしないと今後のスケジュールに支障をもたらすかもしれない。

 

「だったら保健室で休ませてもらえるから、休んで来たら?」

 

「だったら私が付き添います。私の部活は出し物が無いので」

 

 アスナが保健室で休めばいいと言って、剣道部では出し物が無いという事で刹那が付き添う事となった。

 保健室に到着し、ネギとマギを刹那に任せてアスナとこのかは自分達の部の出し物の手伝いに向かった。

 保健室の先生にお茶を貰い横になるネギ。

 

「すいません、30分くらい寝ます」

 

「はい。ゆっくり休んでください」

 

 横になった途端にウトウトし始めたネギ。

 

「そう言えばその時計は、何かの役に立ったのですか?」

 

 刹那は時計の事を聞いてみると、ネギはウトウトしながらもいいえと言って。

 

「今日は超さんと会っていませんから……何も……わから……なく……て……」

 

 最後までちゃんと言えなくて、ネギは寝息を立てながら完全に寝てしまった。

 横になった途端に寝てしまったのだ。よっぽど疲れていたのだろう。

 

「色々と頑張っていたけど、やっぱりまだ10歳の子供なんだな」

 

「ふふふ、そうですね」

 

 寝ているネギの頭を優しく撫でながらそう言うマギを、刹那は微笑みながらそう言った。

 

「マギ先生もお疲れの様ですし、私が起きていますのでマギ先生も休んでください」

 

「良いのか?俺は大丈夫だぞ」

 

「マギ先生も無理をなさらないでください。それに、プールスちゃんもお疲れの様ですし」

 

 マギが上を見上げると、頭の上でプールスがスヤスヤと寝息を立てていた。

 昨日もプールスは初めてのお祭りという事で興奮して寝付けなかったようで、マギが一緒に寝ても、ちゃんと寝たのが深夜の時間であった。

 

「……じゃあお願いしてもいいか?正直言うと結構キツイんだ」

 

「はい、お休みください」

 

 刹那の好意に甘える事にして、マギもベットで横になる事にした。

 そしたらネギと同じように直ぐに寝息を立てて寝てしまった。

 ネギとマギが寝たのを見ていると、刹那にも眠気がやって来た。

 

「私もちょっと……」

 

 刹那も少し休もうという事で、軽く寝ることにした。

 保健室の外ではワイワイと学園祭の賑わっているのが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 ネギの悲鳴にも聞こえる絶叫にマギはガバッと起き上がった。

 

「如何したネギ!?」

 

「おッお兄ちゃん!とと時計見て!!」

 

 ネギに時計を見ろと言われて、マギは時計を見る。

 

「えっと今は8時………おい待て8時?」

 

 マギはサァと顔から血の気が引いて行くのを感じた。

 窓の外を見てみると、先程はあんなに明るかったのに今はもう暗くなっていた。完全に夜である。

 つまりネギとマギは……完全に寝過ごしてしまったのだ。

 

「「あぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 ネギとマギの大声に刹那とプールスも起きた。

 マギとネギの叫び声に何事かと刹那は思ったが、外の暗さと時計を見て一気に顔が青くなった。

 マギとネギは皆の所を回ったり、先生としての仕事や格闘大会の予選などもあったのに、全部すっぽかしてしまったのだ。

 

「すッすみません!普段だったらこんな事は無かったのですが!」

 

「謝ってる暇なんかねぇよ!直ぐに用意しないと……!」

 

 マギは大急ぎで用意しようとした。

 最初にのどかと会う約束をしているのだ。

 

「お兄ちゃんのどかさんとは何時に待ち合わせなの!?」

 

「午後の4時だ!けどもう……」

 

「でも大兄貴、若しかしたら嬢ちゃん4時間もずっと待ってるんじゃ……」

 

 カモがのどかが一人でポツンと4時間もマギを待っている光景を想像してしまった。

 

「や……ヤバいどうしよう。4時間もすっぽかすなんて、人間として最低だ……」

 

 マギは目に見えて落ち込んでいた。失った時間は取り戻せないのだ。

 

「申し訳ありません!全部私の責任です!!」

 

 刹那が謝るが、ネギとマギの予定ギッシリのスケジュールを寝て過ごしてしまったのだ。

 急いで保健室を出ようとしたその時、ネギが持っていた超から貰った懐中時計がカチッとなると、グルンと空間が回転したように感じたマギ達。

 変な感じが無くなると、さっきまで暗かった保健室がまた明るくなっていた。

 

「え?」

 

「何だったんだ今の?……て言うかさっきまで暗かったのに、何で明るくなってんだ?」

 

 ネギとマギはさっきまで外は夜だったのに、今は太陽が照りつけている今の状況を理解出来なかった。

 保健室の時計を見てみると午前10時となっている。

 

「え?何でだ?」

 

 マギは首を傾げる。

 

「取りあえず保健室を出てみようよ」

 

 ネギが言った事で、マギ達は保健室の外へ出て行った。

 生徒達が何やら色々と忙しそうだ。

 

「さっきまで暗かったのに、疲れてあんな夢でも見たのかな?」

 

「如何でしょう?保健室の時計が壊れていたのでしょうか?」

 

 ネギや刹那も今一状況が掴めていなかった。

 

「兄貴、もう一度時間を見てみましょうよ」

 

 カモに言われて、ネギは改めて携帯で時計を見てみると

 

「あれ!?夜の8時になってる!」

 

 こんなに朝日が昇っているのに、ネギの携帯は夜の8時を表示していた。

 マギも確かめてみると、やはりネギの携帯と同じように夜の8時となっていた。

 どうなっているんだと頭が混乱しそうになると

 

「マギお兄ちゃん、あれあれ!」

 

 プールスが何かを見た様で上を見上げるように言われて、マギ達も上を見上げてみるとプロペラ機が低空飛行でマギ達の上を通り過ぎて急上昇した。

 

「今のは曲芸飛行ですね」

 

「さっきも見たが、中々の腕だったな。ん?さっき?たしか曲芸飛行は午前中の一回だけだったはず」

 

 なのに何でまた飛んでいるんだ?とマギパンフレットの内容を思い出しているとアナウンスが流れ始めた。

 

『生徒の皆さん、午前10を過ぎました。ただ今より第78回麻帆良祭を開催します!!』

 

 今から麻帆良祭が始まると言うアナウンスが流れ始めた。

 

 

 

 

 



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タイムマシンで青狸を思い浮かべる

免許の合宿が漸く終わりました
後は免許センターで試験を受けるだけです。

リハビリを兼ねて今回は短いです。申し訳ありません


 マギ達は先程まで夜の保健室にいたのに、朝に戻っておりしかも麻帆良祭が今さっき始まったという事に若干混乱していた。

 とりあえず落ち着こうという事で、近くにあったカフェにて原因は何かと探ってみる事にしてみた。と言っても怪しいのは超から貰った懐中時計であるが

 

「やっぱりこの時計が原因だよな」

 

 マギは懐中時計をまじまじと見ながらそう呟いた。

 この時計がカチッと言う音を出した瞬間に夜から朝に戻ったのだ。原因はこの時計にある。

 

「科学は専門外だから今一原理がよく分からないですが、おそらく噂に聞くアレの実物ですぜ。しかし、まさかこの時計がアレなんて……」

 

「アレですか……しかし俄かには信じられません。東西問わずどんな魔法使いでも不可能と言われた術の一つでは?」

 

「でも実際俺らの目の前に今アレがあるんだ。しかも作ったのが生徒の超とはな……まぁでも茶々丸を造ったんだからある意味納得だな。現に今俺達は戻ってきてるからな」

 

 カモに刹那にマギが時計の事をアレアレと言っており、ネギやプールスは今一理解できていなかった。

 

「えっとお兄ちゃん達、僕やプールスにも分かりやすく教えてほしいんだけど……アレってなんなの?」

 

「よく分からないレス……」

 

 ネギとプールスの不満そうな声にスマナイと謝るマギ。

 

「まぁアレアレじゃあ分からないよな。説明するから場所を変えるか」

 

 マギが席を立ち、移動しようとしたら誰かにぶつかった。

 

「あぁすまない……ってのどか?」

 

「あれマギさん?あれでもさっきあっちで……」

 

 ぶつかった相手はのどかで色々と困惑している様子だった。

 此れはマズイと判断したマギはカモとアイコンタクトをして

 

「いやぁのどか、初めての学園祭で興奮してさのどが渇いたからコーヒーをと思ってな」

 

「大兄貴がコーヒーを飲んだらすぐ戻るからよ。嬢ちゃんは先に行っててくれや」

 

 のどかは、はい分かりました……と未だに混乱が解けておらずにマギ達の元を去る。

 ネギは如何してのどかに対して誤魔化すような事を言っているのか分からなかったが

 

「実物を見せた方が早いな。ついてこい」

 

 という事でのどかを尾行する事にしたマギ達。

 なぜのどかを尾行したか、ついて行った先で見たものはマギ達であった。

 

「あれ!?なんで僕やお兄ちゃんが!?」

 

 ネギは身代わりのお札なんか使った覚えは一切ない。しかし目の前に自分達が居るのだ。

 近場で隠れて様子を見るが、やはり自分達だ。

 

「なんで僕やお兄ちゃんがあそこに?僕達は此処に居るのに」

 

「私も詳しくは知らないのですが、魔法使いの世界でも実現が不可能と言われている時間跳躍術です」

 

「つまりはタイムマシンっていう事でさ」

 

 ネギは刹那とカモが言った事にポカンとするが、次の瞬間には驚愕して

 

「たッタイムマシン!?」

 

 開いた口が塞がらなかった。

 ネギは驚きながら何度も時計を見る。タイムマシンなんて映画や漫画でしか見た事の無い代物。そんなタイムマシンが実際に目の前にあるなんて信じられなかった。

 

「でも本当にタイムマシン?」

 

「あぁこんな大掛かりな事を短時間で出来るわけない。これはまさしくタイムマシンだぜ」

 

 ネギが再度聞くが、マギはタイムマシンだと断言する。

 ネギは目を輝かせる。まさかタイムマシンを手にするなんて

 

「僕……恐竜時代に行ってみたいなぁ」

 

「おいおい兄貴……」

 

「子供や」

 

「やれやれだぜ」

 

 タイムマシンに乗ったら一度は行ってみたい恐竜時代、ネギもタイムマシンで行きたい時代は恐竜時代の様だ。

 とプールスがマギの腕をクイクイと引っ張りながら

 

「マギお兄ちゃん、タイムマシンって何なんレスか?」

 

 プールスはタイムマシンというもの自体を知らない様子だ。

 

「あぁタイムマシンっていうモノはだな、過去や未来に行けたりするもんで……簡単に言えば行けないはずの昨日とかに行けちゃうわけだ」

 

 こんな説明で納得してくれたのか不安だが、プールスは凄いんレスねと一応納得してくれたようだ。

 

「それにネギそんなアホな事言ってる場合じゃないだろ?今は学祭なんだからよ」

 

「えへへゴメンお兄ちゃん。タイムマシンって事で何か舞い上がっちゃって」

 

 マギの注意にネギもばつの悪そうな顔をして謝った。タイムマシンなんか手に入れたら自分の好きな時代に行きたいものだろう。

 だがしかし、超はなぜタイムマシンの時計を渡したのだろうか?超の事だ、自分の作った発明品が如何言ったものかを理解しているに決まっている。

 何か目的があってネギに渡したのか、それとも……とマギは超の事を考えていた。

 

「やめよう、生徒を疑うのは……それよりもこれですっぽかした事は全部チャラになったって事だしな」

 

「うんそうだね。よかったぁ」

 

 マギとネギは一応問題は解決したという事で一安心している模様だ。刹那やカモは少しばかり不安そうだった。

 とマギとネギが上機嫌でいると

 

「何をそんなに嬉しそうなんだマギ?」

 

 マギの背後にエヴァンジェリンがチャチャゼロと一緒に立っていた。

 エヴァンジェリンの登場で、マギは先程のお化け屋敷の騒動がフィードバックして思わずエヴァンジェリンに距離を取ってしまった。

 

「……声をかけただけなのに避けるなんて、何様だお前は?」

 

 見るからに不機嫌そうになるエヴァンジェリンにマギは

 

「いやすまないエヴァ、後ろに現れたからビックリしただけだって。それにしてもそれ私服か?まるで人形みたいだな、似合ってるぞ」

 

 マギは黒ではない白を強調したエヴァンジェリンの私服を褒めたら、気をよくしたのか顔を赤らめならがそっぽを向いて今更褒めても遅いぞと呟いた。

 

「……それで坊やが手に持っているモノは何だ?妙な魔力の反応を感じるが」

 

 エヴァンジェリン程の実力者になれば微力な魔力でも分かってしまうようだ。ネギはスッと時計を隠したが、エヴァンジェリンはニヤリと笑いながら

 

「なんだ坊や?後ろに隠したのは?まぁいい、どれ私に見せて見ろ。なぁに悪いようにはせん」

 

 いやエヴァに知られたら何か色々と面倒な事になる。マギはそう思った。

 そう判断したマギはネギとアイコンタクトをすると、一目散に逃げ出した。

 ネギとマギに続くように刹那も駆けだす。

 

「な!?おい坊や!マギも何故逃げる!?止まれ!」

 

「ごめんなさいマスター!これだけは!」

 

「悪いエヴァ!絶対埋め合わせをするから!今は悪い!!」

 

 ネギとマギはエヴァンジェリンに謝りながら走り去り、エヴァンジェリンは呆然とマギ達を見送る事しか出来なかった。

 

 

 

「はぁッはぁッ……マスターには悪い事したかなぁ?」

 

 エヴァンジェリンを振り切ったマギ達、ネギはエヴァンジェリンに申し訳なさそうにしていたが

 

「いやエヴァには悪いが、逃げ出して正解だ。ハッキリ言えば俺達はこの時間の人間じゃあない。もしこの時間の俺らに遭遇したらエライ事になるかもしれない」

 

 マギは息を整えながら、逃げた事は正解だと言った。何も言わずに逃げたと言うのも申し訳なさがあったが

 

「さてこれで時間の余裕が出来た……って本当は言いたいとこだが、改めて超を探そうと思う。色々と楽観的に考えるのは超にあってからにした方が良いんじゃないか?」

 

 マギは超を探そうと提案した。ネギは如何してと言いたそうだったが

 

「私はマギ先生に賛成です。超さんが何故こんなものを作り出したのか、それに詳しい説明を聞かなければなりません」

 

「俺も大兄貴の提案に賛成でさ。何も知らないで使って最悪大変な事になったらもう遅いですからねぇ」

 

 刹那やカモもマギの考えに同意し、ネギも冷静になって考え直してみるが、一回しか使っていないタイムマシンに頼るのも危険だと思った。

 何も知らないでタイムマシンを使用して、最悪時間の流れに捕らわれて一生出られないかもしてないのだ。

 

「さてそういう事だ。超を探すにはこの恰好だと誰かに見つかった時にまずかもしれないな。何か変装できるものはないか……」

 

 マギは自身のスーツを見て言った。この時間のマギ達の恰好と同じなのだ。もしこの恰好のままで超を探して、誰かに見られたら色々とヤバい。

 何か変装できるものが無いか探してみると、貸衣装屋があった。何か借りることにする。

 数十分後、衣装屋で衣装を借りたマギ達はネギがウサギの着ぐるみで、刹那が白のバニーガールのような衣装。マギは某万屋の姿でプールスは狐のフードの衣装へと変わっていた。

 

「あの、何でしょうかこの私の恰好……」

 

 刹那はバニーガールな格好にプルプルと震えていた。マギは頭を掻きながら

 

「まぁ似合ってるんだし、んじゃま……超を探しに行きますか」

 

マギ達は超を探し始めるのであった。

 

 

 

 



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超鈴音と言う名の天才

 変装をし、超を探す事になったマギ一行。

 

「……で、なんでお前は超を探すふりしてアトラクションを楽しんでるんだ?」

 

「あうぅ、ごめんなさぁい」

 

 ネギはマギに呆れられていた。ネギは時間がかなりあるという事で超を探すふりをして、乗り物式のシューティングゲームに乗ったり、恐竜が出るスプラッシュ系のジェットコースターに乗ったり、3Dシアターを見たりと一応科学系のアトラクションで超がいるかもしれないが、遊び過ぎた。

 マギに呆れられてショボンとするネギであるが、マギはヤレヤレと呟きながら

 

「まぁいいか、時間もまだ残ってるし……ネギの遊びたいって気持ちも分からなくはないからな」

 

 ネギに呆れながらもマギも内心楽しかった。日本にくるまで娯楽と言う娯楽をしないで修業の毎日であったから、こう言っためいいっぱい遊ぶと言う事をしなかったのだからかえって新鮮である。

 マギに肩車されているプールスも大満足な様子。

 

「まッ偶にはいいじゃねぇか」

 

 マギの言った事にネギは顔を輝かせる。

 

「いいんですか?」

 

「いいんだよ。ネギ位の歳だったら普通は遊んでいるのが普通なんだから……せっかく遊べる時間が出来たんだし、アイツには宝物になるような思い出を残してもらいたいんだよ」

 

 刹那に聞かれて答えたマギはフッと笑いながら「やっぱ俺って甘いか?」

 

「いえマギ先生はいいお兄さんだと思います」

 

「そこが大兄貴の良い所だと俺っちは思いますぜ」

 

 刹那とカモは笑いながら首を横に振った。

 

「さて……と俺らも行きますか。ネギの奴どんどん先に行ってるし、迷子にでもなったらな」

 

「はいそうですね」

 

 そう言いながらどんどん先に行っているネギを追いかけるのであった。

 

 

 

 

「うわぁ、自分で飛ぶのとは違った感じだなぁ」

 

 ネギは下を見降ろしながらそう呟く。

 ネギが次に乗りたいと言ったのは飛行船である。

 飛ぶならいつも杖で飛んでいるじゃないか?とカモはネギに尋ねるが、たまにはゆったりとした感じもいいと答えるネギ。

 

「まぁたまには魔法の力を使わずに、空を飛ぶって言うのもいいもんだな」

 

 飛行船から見下ろす景色も悪くない。そう思ったマギである。

 プールスもマギの肩から降りて、キャッキャと楽しそうに景色を見ている。

 

「マギお兄ちゃん、あっちの方には何があるんレスか?」

 

「あっちか?何があるんだろうなぁ?俺と一緒に見に行くか」

 

 マギはプールスを連れて飛行船の奥へと行った。

 残ったのはネギと刹那にカモである。

 ふと刹那が微笑んだ。

 

「どうしたんですか刹那さん?」

 

「そう言えば、ネギ先生と私の2人でいると言うのは珍しいですね」

 

「あッ……そうですね」

 

 改めて意識すると顔が赤くなるのを感じるネギ。

 ネギにはマギ、刹那にはこのかと居て2人きり(カモもいるが)になるのは珍しい。

 

「でも、こんな風に学園祭を心から楽しむことが出来るようになったのは、ネギ先生達のおかげです」

 

 ありがとうございますとネギに微笑みかける刹那。

 刹那はネギの手を取りながら

 

「私がこのかお嬢様と仲良く出来ているのも、アスナさんと友達になれたのもネギ先生達のおかげです」

 

「貴方方は私の恩人です。先生に何があっても私は先生をお守りします」

 

 刹那に言われたネギはありがとうございますと言った後に

 

「でも僕も、もうただ護られるだけじゃないです。もっと強くなって大切な仲間、アスナさんやこのかさん……刹那さんだって僕は絶対護ります」

 

 凛々しい顔で刹那に宣言し、刹那は固まってしまった。

 がネギはブルッとしながら

 

「アハハ、ちょっとおトイレに行きたくなってしまいました。ちょっと行ってきます」

 

 と何ともしまりの悪い感じになってしまった。

 刹那はトイレに行くネギを苦笑いで見送った。

 ネギが見えなくなると、ふぅと溜息を吐く刹那。

 

「ネギ先生を見ていると、時々私よりも年上なのか年下なのか分からなくなります」

 

「まぁそうだなぁ」

 

 ところでとカモは刹那を見ながら

 

「刹那の嬢ちゃんは、兄貴の事はどう思ってるんだ?仮契約とはいえ兄貴とキスもしたんだし」

 

「……正直言ってよく分かりません」

 

 カモの問いに分からないと答えた刹那。

 ネギに対しては異性として見ているが、異性として好きと言えば好きなのかが分からない。

 年相応の無邪気な行動を見て微笑んだりしたり、大人顔負けの凛々しい表情を見て頼もしさを感じたり……

 刹那のネギに対しての今の感情は、戦場を共に駆ける戦友。背中を預けたい存在のようなものだろう。

 此れが今の刹那の気持ち、今はこれでいいのだろう。

 

「今の私はネギ先生を護れるという事で満足してるんだと思います」

 

「そうかい、でも嬢ちゃんが兄貴の事を好きになったら俺っちは、刹那の嬢ちゃんも応援するぜ」

 

 カモの言った事にありがとうございますと笑いながら言った刹那。

 

「しかし、超さんはどこにいるんでしょうか?」

 

「そうだなぁ。兄貴たちが入ったアトラクションに、もしかしたらいるかもって思ったんだけどなぁ」

 

 超はどこにいるんだろうと思っていると

 

「おやこの私をお探しカ?」

 

 刹那が後ろを振り返ると、其処には超がいた。

 

「超さん!?」

 

「過去への旅はいかがだったカナ?」

 

 超がにこやかな笑みを浮かべながら、刹那にそう問う。

 

「まずは体験させるのが一番だと思い、保健室のお茶に眠り薬を仕込ませてもらったヨ。悪かたネせつなサン」

 

「あの急に来た眠気は薬のせいだったのか……」

 

 ひとつ聞きたいとカモが割って出る。

 

「タイムマシンなんて代物、いかな天才でも普通の人間じゃ作り出す事はまずもって無理だ。そんなタイムマシンを作った……アンタは何者だ?」

 

「私の正体が知りたいカ?」

 

「あぁ知りたいね。アンタが何者なのか、兄貴や大兄貴の敵になるのか味方なのか……このさいハッキリさせてもらおうか」

 

 ……フフと超が不敵に笑った。今ここに天才と呼ばれている超の正体が分かるのか。

 そう考えながら、刹那は生唾を飲み込んだ。

 

「ある時はナゾの中国人発明家!クラスの便利屋、恐怖のマッドサイエンティスト!」

 

「またある時は学園№1の天才少女!」

 

「そしてまたある時は人気屋台『超包子』オーナー……その正体は」

 

 その正体は……!刹那は拳を握りながら聞いていた。

 そして超は言った。自身の正体を、超の正体とは……

 

「なんと火星から来た火星人ネ!タコチュー!」

 

「ふざけるな!」

 

 カモはズッコケ、刹那はどこから取り出したのかハリセンを超の頭に叩きつけた。

 あれだけ正体をじらしておいて、それかと刹那は言いたくなった。

 しかしハリセンでツッコミなんて自分らしくないと恥じた刹那は、落ち着くように息を吐きながら

 

「まぁ……吸血鬼にロボに幽霊、忍者までいるクラスだ。今さら宇宙人が増えたところで驚かんがな」

 

 ふふそうだナと笑いながら同意する超

 

「でも、せつなサンも人のコトは言えないと思うがネ」

 

 今の超の言った事、超は刹那が普通の人間ではない事を知っているようだ。この事はあまり知られてはいないはずだ。

 刹那は超から距離を取り、カードを構えながら警戒する。

 

「貴様……目的はなんだ。ネギ先生やマギ先生の信頼を裏切るようならば、私の剣が黙っていないぞ」

 

「ふふ、そんなカワイイ格好ですごまれてもナー。かわいいヨ」

 

「うッうるさい!」

 

 超にからかわれて、ペースを乱されている刹那。

 

「安心するネ。信頼のことは約束できないが、時計はネギ坊主に学祭を楽しんでもらうために渡したヨ」

 

 それにと超は前かがみになりながら

 

「ネギ坊主とは血のつながった私の大切な人ネ。私がヒドイコトするハズないヨ」

 

 刹那は超の言った事に絶句する。超が堂々とネギと血がつながっていると告白し戸惑いを隠せない。

 刹那の信じられないと言う表情に超は笑いながら

 

「火星人うそはつかないネ。信じるといいヨ」

 

「貴様、一体」

 

 刹那が戸惑っていると、超はにこやかな顔から真顔となり

 

「せつなサンやあすなサンにネギ坊主はマギサンと親しいようだガ、単刀直入に言うガ……これ以上マギサンと一緒にいると貴方達は不幸な目にあウ。いっこくも早くマギサンと縁を切った方がいいヨ」

 

 超はマギと縁を切れと言いだした。

 

「おいおい超さんよ、俺っち達の大切な大兄貴と縁を切れだって?あんまふざけた事を抜かすと、俺っちも黙っちゃいねぇぜ」

 

「そんな事を私達に言うという事は、それ相応の理由があるんだろうな?」

 

「これは警告ダ。これ以上マギサンと関わっていると、大切人達を失うコトになるヨ。私もマギサンがこの世界にいるせいで大切な人達を失っタ……クラスメイトの皆にも悲しい思いはしてもらいたくはなイ」

 

 超は冗談を言っている様子ではなかった。

 超の言った事に刹那とカモは何も言い返せなかった。

 

 

 

「やっぱりこれはタイムマシンだったんですか!?」

 

「そうネ。懐中時計型タイムマシン『カシオペア』。使用者とそれに密着した同行者を時間跳躍させる、驚異の超科学アイテムヨ」

 

 超が見つかったという事で、飛行船から出たマギ達。超に色々と使い方を教えてもらっていた。

 だがしかし

 

「いやぁしかし、ちゃんと動いて良かたよ。実際に動かすのはこれが二度目、最初の起動から2年半経ってるからネ」

 

 超もちゃんと動くかどうか心配だったようだ。

 というか動くか分からない物をネギに渡したわけだ。

 

「えっとどういう事ですか?」

 

「実はこのタイムマシン、駆動エネルギーに使用者の魔力を使てるネ。それで私一人では動かせなかたが、ネギ坊主のおかげで作動実験もできたヨ。いやいや上手く動いて良かた」

 

「おい超、もし上手く動かなかったらどうなってたんだ?あんまり聞きたくないけど」

 

 マギが最悪動かなかった場合どうなってしまうのか聞いてみると

 

「それはまぁ……どことも知れぬ異空間にハマり込んで、永久に漂流とか考えられるネ。成功してホントに良かた良かた。もう安心ネ」

 

「「えええぇぇ……」」

 

 かなり危ない物を渡されたことを知って、怒りを通り越して呆れてしまった兄弟であった。

 

「でもまぁ、このタイムマシンのおかげで予定通りに事が進めそうだな」

 

「超さんありがとうございます。こんな凄い物を貸していただいて」

 

「コレぐらいおやすいごようダ。説明書渡しとくネ。好きなだけ使うといいヨ」

 

 超はネギに説明書を渡した。頭のいいネギだったら直ぐにタイムマシンの使い方を覚えるだろう。

 ネギが説明書を読んでいる間に、超がマギに近づいた。

 

「マギサン、今タイムマシンを手にしているガ、もしマギサンにとって後悔するような事があったら、マギサンは過去に戻ってやり直すカ?」

 

 刹那とカモは超を警戒しながら、マギが何を言うか見る。

 

「う~んそうだなぁ……俺はやり直さないな」

 

「ほう、それは何故カ?」

 

「まぁ正直嫌な事とかはやり直したい……って思う事はあるさ。まぁ今回のすっぽかしは置いとくとして、人間過去に捕らわれちゃいけないと思ってる」

 

「過去にこだわらずに前に進んでいくのが大切なんだ。前に進んでいくのは確かに辛いこともあるだろうな……でもさ、過去を変えようとするのは今生きている事から逃げてるんじゃねぇかって。下手に過去を変えたら存在が消えちゃうからな」

 

「だから俺は過去を変える事はしないな」

 

 マギが言った事に成程と頷く超。

 

「マギサンは強い意志のお持ちのようダ。でも世の中には過去を変えたいと思う人はおおぜいいるヨ」

 

「あぁそうだな。だから俺は過去を変えようと思う人たちを軽蔑はしない。自分自身の存在を消してしまうかもしれないからな。覚悟だってあるだろうさ」

 

「ふふふ……そうカ。マギサンと話が出来て良かたヨ」

 

 満足そうにしてそれでハと超はにこやかに笑いながら満足そうに立ち去って行ったのであった。

 

 

 

 



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のどかとデート キスの誘惑

皆様本当に申し訳ありませんでした!
この2か月の間、投降する事ができなくて申し訳ありません。

何とか最新話を投稿する事が出来ました。
正直2か月経っても文章能力が上がっていないのをお許しください


 マギ達が超にタイムマシン『カシオペア』の使い方を教えてもらっている間、のどかはマギとの待ち合わせの場所でマギを待っていた。

 服も何時にもましてオシャレをして、マギが来るのをドキドキして待っている。

 

「ゆえにハルナ、いッいる?」

『はいは~い居るよのどか。あんまり緊張しないで!』

『落ち着くですのどか』

 

 のどかは近くにハルナと夕映が居るのか携帯で連絡を取る。

 ハルナと夕映は近くの出店からのどかの事を見張っていた。

 

『でもマギさんが来たら私ら直ぐに退散するから』

「ええッでも2人が居ないと私……」

『デートに付き添いがいてどうするんですか!』

 

 夕映に怒られシュンとするのどか。まぁまぁと笑いながらハルナが

 

『せっかく進展のチャンスなんだし、修学旅行の時みたいにチューしなよ』

「ちゅッチュー!?でででも私、そんな……」

『またまた~本当はキスしたいくせに~』

「うぅ私そんな……」

『落ち着くですのどか、こういう時は深呼吸をしてイメージトレーニングするです』

 

 のどかは夕映に言われた通りにイメージトレーニングを自身のアーティファクトの絵日記で行う。

 が何故か最終的にはキスする流れになってしまう。本心を探る絵日記なだけあって、結局はキスをしたいと言う願望がダダ漏れであった。

 

『そう言えば世界樹の伝説、初日の今日からも効力あるらしいよ』

『下らない噂話だと思うのですが』

『だから告白じゃなくて、キスとかでもいいってさ。それもディープキスなら効果は2倍!』

「でぃッ……!?」

 

 ハルナのディープキス発言にのどかの桃色の妄想が加速していく、絵日記にはのどかとマギがディープキスをしている絵が……

 慌てて絵を消去しようとしていると

 

「……なにキョドってるんだのどか!?」

「うきゃあッ!?」

 

 マギの声が背後から聞こえてきて、のどかは後ろを振り返ると、改めて私服に着替えたマギが心配そうにのどかを見ていた。

 

「悪いのどか、遅くなって。もしかして俺が来なかったから不安になったとか?」

「いッいえ私も今さっき来たばかりですし、それにマギさんと2人きりなんて滅多にないから緊張しちゃって……」

 

 言葉が出なくなってしまったマギとのどか、互いに無言な時間が少しだけ経って

 

「私服可愛いな。似合ってるぞ」

「マギさんもとってもお似合いです」

 

 それぞれの私服を褒め合った。

 

「それじゃ立ち話もなんだし、歩いて回ってみるか?」

「あッはい!お願いします……」

 

 いやそんなに畏まらなくても、とマギは笑いながら頬を掻いた。

 いざ歩こうとしたが、マギは何かを思い出したかのように、のどかに手を差し伸べた。

 

「え?マギさん、この手は?」

 

 行き成り手を差し伸べられて戸惑うのどかであったが

 

「学園祭人がいっぱいだからな。はぐれるわけにはいかないし、だったら手を繋いだ方がいいかとな……嫌か?」

「いッいえ嫌じゃありません!むしろ嬉しいです!」

 

 のどかはマギの手をギュッと握る。

 

(あぁこれだけでも幸せ……)

 

 マギと手を握っただけで夢心地なのどか

 

「それじゃ行くか」

「はい!」

 

 マギとのどかは手を繋いだまま学園祭を巡る。デートの始まりだ。

 

 

 

 

「わ~お!マギさん大胆!」

「のどか嬉しそうです」

 

 近くの茂みから2人を覗いていたハルナと夕映。

 とそこに

 

「マギさん手を繋ぐなんて結構やるのね……」

「マギ先生も、女性をエスコートするのは簡単に出来るようですね」

「なんやお似合いやなー」

「お兄ちゃん楽しそう」

「楽しそうレス~」

 

 アスナに刹那とこのか、ネギにネギの頭の上にプールスが乗っていた。

 この時間軸のアスナとこのかにあったネギ達は、一緒にマギのデートがちゃんと行われているのか気になって見に来たのだ。

 結構な人数にハルナも驚いた。

 

「ねぇネギ君、少し聞いてもいいかな?」

「あはい。何でしょうハルナさん?」

 

 ハルナはネギに聞いてみる。

 

「ぶっちゃけ、マギさんはのどかの事をどう思ってんの?」

「えッお兄ちゃんがですか?えっとお兄ちゃんはのどかさんの事をその」

『のどかは少しおっちょこちょいで、見てるとハラハラする所もあるけど、自分の思っている事はハッキリと言ってくれて優しいいい子だぞ』

「ってお兄ちゃんは前にそう言ってました」

 

 ネギの情報にハルナは成程と頷きながら

 

「でもなぁマギさんってクラスの子にモテてるからなぁ。皆に優しいしマギさん……ていうかぶっちゃけ、本命は誰なの?」

「そこまではちょっと……」

 

 なんて事を話している内にマギとのどかは、どんどん先に行ってしまっていた。

 ネギ達はマギとのどかを追う事にして、さっきは退散すると言ったハルナもやはり気なるという事で向かってしまった。

 

「まったくハルナは……」

 

 夕映は興味本位でついて行ったハルナに呆れていた。自分は離れたところからのどかの事を応援すると決めているのだから。

 

「私は私でやりたい事があるんです」

 

 夕映は自身の目的のために学祭を回ろうとした。

 がいざ行こうとした時に、歩いている誰かにぶつかってしまった。

 

「すッすいませんよそ見を……えッ?」

 

 夕映はぶつかった相手を見て驚きを隠せなかった。何故ならぶつかった相手が……

 

 

 

 

 

 のどかが見て回りたかったのは、学祭で行われる古本市場である。マギはのどからしいなと思っている。

 まぁのどかが喜んでいるのならそれでいいか……とマギは楽しんでいるのどかを見てそう思っていた。

 

「あッこれ前から欲しかった本、安くなってる」

「欲しいのか?だったら買ってやるよ」

「え?でもマギさんに迷惑じゃ」

「こん位で迷惑なんてマギさん思っちゃいません。まぁ遠慮するなって」

「あッありがとうございます!」

 

 などと言う光景が古本市場で行われていた。約1時間位。

 

「凄いわね。本を見るだけで1時間なんて。アタシは10分でも駄目そうなのに」

「けっこうナチュラルに話すんやねマギさん」

「お兄ちゃん、今回見て回る人たちに合わせた話題を作っているみたいなんです」

 

 同じ部屋で過ごしている3人でさえマギの女性との付き合い方を余り知らないでいた。

 

「カモおじちゃん。これ何の本レスか?」

「プルの嬢ちゃん、それはまだ嬢ちゃんには10年も早いぜ。そんなの見てる所を大兄貴に見られたら俺っちがお仕置きを……」

 

 一方プールスとカモは、プールスがいかがわしい本を持ってきて、カモが元に戻してこいと言っている。

 なんでこんな本を置いてるんだ!いや俺っち的には大歓迎だけど。なんて事を思っていたカモだが、現在シスコンのマギにさっきの光景を見せたら何をされるか……思わず身震いをしてしまうカモであった。

 

「駄目よ!それじゃ甘すぎるわのどか!」

 

 歯がゆくなったハルナはのどかに一押しと行動に移した。

 本の話で盛り上がっていたマギとのどかであるが、マギは何か強い目線を感じていた。それも唇と言うピンポイントな所を。

 

「えっと、俺の口に何かついてるのかのどか?」

「いッいえいえいえなんでもありません!」

 

 目線の正体はのどかであったが、のどかは誤魔化そうとしているが、隠し通せていなかった。

 

「えっと他に良い本がないかな~」

 

 と誤魔化しながらワンコインで買えるコーナーに向かうのどか。

 そこにハルナが隠れていて、さっとある本をのどかに見えるように置いた。

 その本の名は『キス写真集―キスから始まる恋もある―』写真集を見たのどかは固まってしまう。

 

「どうしたのどか……」

 

 マギも近づいて写真集を見て、思わず黙ってしまった。

 目と目があった瞬間、思わず頬を赤くする両者

 

「ありゃ?のどかは分かるけど、なんでマギさんも赤くなってるの?」

「ハルナ、アンタ知らないみたいだけど、マギさんってあんまりデートとかした事無いのよ。ましてや女の子とキスとかも」

「それじゃ以外とマギさんってうぶなの?少し以外」

 

 なんてハルナとアスナが話しているとも知らずに、マギとのどかは黙りこんでしまう。

 

「えっとのどか……」

「ちッ違うんです私別にマギさんといつもキスしたいなんてそんな事を思っては……」

 

 マギに必死に誤解をとこうとするあまり、足元を見ていないのどか。

 そして足元に置いてあった本に躓いてしまう。

 

「きゃッ!」

「あぶねぇ!」

 

 のどかが転ばない様にマギがクッション代わりになってあげたが、のどかがマギに覆いかぶさるような形になってしまった。

 

「すッすみません……」

「いやのどかに怪我が無いんだったら別に」

 

 互いの吐息が伝わってくるほどに顔が近くなっている2人、のどかの緊張が限界に達しようとしたその時

 

「何をしているんですかマギ先生?」

 

 2人を見降ろしていた高音と愛衣がいた。

 

「お前ら如何してここに……」

 

 高音と愛衣の登場に幾段か落ち着いたマギではあるが、高音はマギを睨みつけながら

 

「皆がパトロールをしている間に女生徒とデートとはいい御身分ですね。しかも自分よりも年下の生徒なんて……初日でも60から80%の効果があるんですよ?その行動は軽率じゃないのですか?」

 

 高音の言い方に少しカチンと来てしまったマギは

 

「おいその言い方はねぇだろ。のどかは俺の大事な生徒だ。大事な生徒と学祭を見て回って何が悪い」

 

 と言い返した。

 

「そもそも殿方が年下の女の子と遊びに回ると言うのが、道徳上問題なんです!それに私だって本当は貴方と……」

「んあ?なんか最後ら辺が聞き取れなかったんだけど、何を言ったんだ?」

 

 高音が最後ら辺に言っていた事がよく聞き取れなくてマギは首を傾げていると、高音はとにかく!と顔を赤くしながら

 

「いずれにせよここは危険区域に指定されています。少し離れた方が良いかと」

「そうか、分かったよ。んじゃ場所を変えようぜ」

「はい……」

 

 今いる場所が危険区域ならしょうがない。場所を移動しようと提案するマギ。

 古本市場を離れようとしたその時、愛衣の持っている携帯の様な物がピピピと大きな音を出す。

 

「この人数値が危険です!いつ告白しても可笑しくない状態です!」

「おッおい行き成り何言ってやがる!のどかに失礼じゃねぇか!」

 

 愛衣が持っている機械は告白をする人間を感知する装置みたいだが、告白するなんて言うのはいささか失礼である。

 

「マギ先生その子は危険です。いつ告白しても可笑しくない状況です」

 

 高音はマギにのどかと離れるように言うが、マギはのどかと離れようとしない。

 

「さぁこっちに来なさい!」

 

 遂には強引にのどかを連れ出そうとする高音。

 余りに強引な高音のやり方にマギも

 

「いい加減にしろ高音。幾らお前でもそんな事をするなら、俺でも黙ってないぞ」

 

 高音からのどかを奪い返す。

 

「マギ先生!貴方はその子の一時の感情でこれからの人生を棒に揮うんですか!?貴方を慕っている人は大勢います!私だって……」

 

 高音がまだ言いたそうだったが、これ以上此処に居たらのどかに不快な思いをさせてしまう。そう思ったマギは

 

「行くぞのどか!」

 

 のどかの腕を引っ張り、高音達から逃げ出した。

 

「マギ先生!」

「告白要注意生徒が逃亡中!注意されたし!」

 

 愛衣が他の魔法使い達に連絡をしていた。

 さらに追手が増えるとやっかいだ。そう判断したマギは

 

「すまんのどか、飛ぶぞ!」

「えッきゃッ!?」

 

 のどかを横抱きし、浮遊術で空へと飛んだ。

 そしてのどかの体に負担がかからない速さで追手を巻いたのであった。

 

 

 

 

 

 高音や愛衣を振り払ったマギは、屋上の広場にて一休みする事にした。

 

「マギさん、あの人達は?」

「あぁアイツ等か?俺と同じく魔法使いだ。優秀なんだけど結構頭が固い奴なんだ。悪い奴じゃないんだけどな」

 

 のどかに高音の事を軽く教えてあげた。

 しかしのどかは高音の事で別の事を考えていた。

 

(あのウルスラの先輩、マギさんの事を気にしてた。あの人もマギさんの事を……)

 

 すっかりさっきの事のせいで気まずい空気へと変わってしまった。

 

「悪いのどか。せっかくの学祭だっていうのに台無しにするような事をして」

「いッいえそんな事は別に思っていません!」

 

 マギが頭を下げて来たので、のどかは別に気にしていないと首を横に振った。

 

「おわびって言ったらあれだけど、何か欲しいモノがあるか?」

 

 欲しいモノ……その言葉に反応したのどか、一瞬キスの事を思い浮かんだが、おわびでキスなんて身勝手すぎる。

 

(でも私はマギさんにキスをしてもらいたい。だったら伝えよう、この私の本当の気持ちを)

「それなら私……マギさんにキスをしてもらいたいです」

「……え?キス?」

 

 マギが呆けた顔をしているが、のどかが自身の想いを口に出したのと同時に世界樹も輝き始めた。

 

「この前は事故でしたので、ロマンチックなキスが出来たらなって思って」

 

 のどかは自身の想いをよくない言葉で言えば欲望を告白した。自身の想いをちゃんと相手に伝えると決めたからだ。

 

「えっとのどか……」

 

 キスをしてもらいたいと言われたマギ自身は如何答えを返していいのかが分からない。

 

「はうッ!すすすみません!今のは口が滑って!ほんの冗談ですから!」

 

 のどかは冗談だと言って取り消そうとする。しかし世界樹はのどかの想いをそのまま受け取ってしまった。

 世界樹が更に輝き、マギの足元に魔法陣が展開された。

 

「なッこれは!?」

「マギさん!?」

(これは世界樹の魔法!?マジかよこの場所でも駄目なのか!クソ油断し……)

 

 世界樹の魔法がマギの姿を包み込む。空まで伸びる光の柱が他の魔法使いからも確認された。

 マギの姿を見失ったネギ達も光の柱を確認する。

 光の柱が消えた後、マギは俯いて表情が見えなかった。

 

「まッマギさん……?」

 

 のどかが恐る恐るマギに呼びかけてみる。

 とマギはゆっくりと顔を上げた。

 が目はトロンとして普通ではなかった。

 

「マギさん?あの……」

 

 のどかは今のマギは普通のではないと思い、思わず後ずさりをした。

 

「分かったよのどか、キスをしようか。身がとろけるような熱いキスを」

 

 ニヤリと笑いながらのどかに近づくマギ

 

「あのマギさん、その……あの……」

 

 後退りしていたが、躓いて尻餅をついてしまうのどか

 

「どうしたんだよのどか。お前がキスしてほしいって言ったんじゃないのか?なのに逃げるなんて可愛い奴だ」

 

 そう言いながらのどかの顎をクイッと上げる。

 

「さぁのどか俺に全て委ねちまいな」

「いッいや……!」

(私はこんなマギさんとはキスなんか……だれか助けてッ!!)

 

 のどかはこんな何かに操られている、そんなマギとはキスなんかしたくない。

 抵抗はしたがのどかがマギに力で敵う訳がない。

 このままマギにキスをされてしまうのか……そう思ったその時

 

「魔法の射手・闇の一矢!」

 

 マギの顔を、闇の矢が掠め通った。マギはのどかから手を放す。

 のどかは矢が放たれた方向を見ると、エヴァンジェリンと茶々丸が居た。

 

「エヴァさん!」

「助けに来たぞのどか。とりあえずは場所を移動するぞ!」

 

 茶々丸に命令し、のどかを横抱きさせる。

 少しきついが我慢しろとのどかにそう言い、ジェット噴射で飛んで行く。その後をエヴァンジェリンはマントで空を飛び後に続く。

 

「何だよのどかぁ。逃げなくてもいいじゃねぇかよ」

 

 マギも浮遊術で後を追う。

 

「大丈夫かのどか?」

「はッはいありがとうございますエヴァさん」

 

 のどかは助けに来てくれたエヴァンジェリンにお礼を言った。

 実はエヴァンジェリンは偶然のどかとマギが学祭を回っているのを目撃し、ばれない様に尾行をしていたのだ。

 だがマギが可笑しくなって、のどかに強引にキスを迫っているのを見て、のどかを助けたのだ。

 

「礼は別にいい。それよりマギの様子がおかしいのは如何した?何があったのだ?いつものマギだったらあんな強引な事をしないのだがな……」

 

 のどかはそれを聞かれ、エヴァンジェリンに話そうかまよったが、マギが可笑しくなったのは自分のせいだと思ったのどかはエヴァンジェリンに正直に話した。

 

「実はそのッマギさんが欲しいモノは無いかって聞いて来て、私マギさんのキスが欲しいって言ったんです……この前のは事故みたいだったし、だからロマンチックなキスをしたいって……」

 

 のどかはエヴァンジェリンが怒ると思った。自身と同じくマギの事が好きなエヴァンジェリン。自分だけ抜け駆けしようとした愚かな行いに怒りを表すと

 だがエヴァンジェリンは怒るどころか笑い飛ばしていた。

 

「のどか、貴様は本当に面白い。さすが私が見込んだ女だ。自身の欲望を口にするなんてな」

 

 しかし……と笑った後に不味い様な物を目で

 

「この学祭に言う事はいささか不味かったな。世界樹の伝説は本当でな付き合ってほしいと言うと、世界樹の魔法で本当に付き合ってしまうんだ。告白された本人を操ってな」

「それじゃあマギさんは……」

「世界樹の魔法の力でお前にキスをするだろうな。それも加減も無く、下手したら窒息死してまでもキスを続けるかもしれない」

 

 それを聞いて顔を真っ青にするのどか。マギとはキスをしたいけど、マギの意思がないキスなんて嫌だ。

 

「今茶々丸が坊やたちに連絡を取っている。少しでも早く鎮静しないと下手したら大惨事に……」

「おいおい待てよのどかぁ」

「ちッ!もう追いついてきたか!」

 

 後ろからマギは追いかけてくる。がその速さは何時もの比ではない。まるで戦闘機だ。

 

「茶々丸迎撃だ!少しでも弱体化させる!」

「了解しましたマスター。暴徒鎮圧用ビット展開。申し訳ありませんマギ先生……」

 

 茶々丸はマギの謝罪の言葉を言いながら、某機動戦士νの様なビットを出現させた。それでマギを迎撃しようとしたが

 

「邪魔だなコレ」

 

 マギは無詠唱で魔法の射手をビットに発射して難なく破壊してしまった。

 

「クソ!世界樹に操られているせいで魔法に容赦がないな。茶々丸人がいない場所に降りるぞ」

「了解ですマスター」

 

 エヴァンジェリン達は、使われていない建物の屋上に着地する。

 マギも着地をするが、やはり目がトロンとしており危ない人になっていた。

 

「仕方ない。私がマギを止める。茶々丸はのどかが危ない目に合わない様に護ってやってくれ」

「分かりました」

「エヴァさん!」

 

 のどかの叫びに心配するなとエヴァンジェリンは安心させるように言う。

 

「私は『闇の福音』と呼ばれた魔法使いだぞ?そんな簡単に負けると思うか?……と本当は言いたいぐらいだが、今のアイツは世界樹に操られて暴走状態だからなあの馬鹿(ナギ)の息子だからな。潜在能力は高いだろう。正直私一人で目の前のマギを止める事は出来るかどうか……」

 

 今のマギはキスの狂戦士(バーサーカー)だ。そんなマギを止める事は出来るのだろうか……

 エヴァンジェリンの背中に冷たい汗が流れている………

 

 

 

 




これからは不定期更新になるかもしれませんが、ご了承ください。
本当に申し訳ありません


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マギVSエヴァンジェリン   キスの狂戦士

お久しぶりです皆さん
約5ケ月くらいの更新です
正直言って久しぶり過ぎて短くなっています


「ククク。エヴァ♪エ~ヴァ♪」

「まったく。簡単に操られるなんて……これは少しだけお仕置きが必要なようだな」

 

 

 世界樹の力のせいで暴走状態となってしまったマギ。

 それに対峙するエヴァンジェリン。その後ろでのどかを護っている茶々丸。そしてマギとエヴァンジェリンの対決を見ているのどか。

 茶々丸がネギ達に連絡をしたがはたして間に合うのだろうか。

 

 

「なんだよ本当はエヴァがキスされたいのか?いいぜたっぷりとしてヤルヨ」

「冗談じゃない。そんな襲われるような形のキスなんてまっぴらごめんだ。嫌がる女に強引にするなんて、英国紳士失格だな」

 

 

 ニタニタと笑っているマギに呆れたような口調でエヴァはそう言った。

 笑っているマギは拳を構えて腰を低くした。

 

 

「キスキス!キ~スッ!!」

 

 

 マギは踏み込んで一気にエヴァンジェリンに接近した。そしてそのままエヴァンジェリンの肩を掴もうとする。

 しかしエヴァンジェリンは慌てもせずに、迫ってくるマギの手首を掴み、体勢を崩して投げ飛ばした。合気道の技の1つ小手返しだ。

 相手の勢いを受け返す合気道。マギは床に受け身も取れずに叩きつけられた。

 

 

「思い上がるなよマギ。これまでお前に体術を教え込ませたのはこの私だぞ?そう易々とお前に負けるわけがないだろう」

(だが枷が外れたこの馬鹿が、そんな簡単にやられるとは到底思えないけどな)

 

 

 エヴァンジェリンの予想通り、マギは何事も無かったのようにゆっくりと起き上がった。

 厄介な……エヴァンジェリンは忌々しそうに舌打ちをした。

 

 

「抵抗すんなよ。無理矢理唇を奪っちまうぜ。そういうのなんか興奮するなぁ」

「世界樹の力に操られているのは分かっているんだが、苛々してくるな」

 

 

 こめかみをピクピクとさせるエヴァンジェリンに対して、マギは挑発の態度を取り続けていた。

 さらにマギはエヴァンジェリンに教えてもらった格闘技を繰り出し続けたが、エヴァンジェリンは全ての技を受け流し続けた。

 そんな攻防がしばらく続いていると

 

 

「お兄ちゃん!」

「マギの兄ちゃん!」

「大兄貴!」

「マギお兄ちゃん!」

「マギさん!」

「マギ先生!」

 

 

 茶々丸の連絡を聞いたネギ達が漸く駆け付けてくれた。

 

 

「マスター!お兄ちゃんが世界樹の力に操られているって本当ですか!?」

「あぁ本当だ。しかも操られているせいで技の一つ一つが容赦なくなっている。用心しないと怪我するぞ」

 

 

 ネギは信じられなくてエヴァンジェリンに本当かどうかを尋ねたが、事実だとエヴァンジェリンはネギにそう言った。

 

 

「本当みたいやな。マギの兄ちゃんからえらく強い気をビンビンと感じるわ。これはマジでヤバいってもんや」

 

 

 小太郎も冷や汗を流しながらニヤリと笑った。

 

 

「神楽坂明日菜、それと桜咲刹那。お前達は下がってろ。今のマギは誰でもキスをするキス魔だ。お前達の実力じゃ取り押さえられてそのまま襲われるぞ」

「ちょ!それ本当なの!?」

「恐らくそう見たいですね。今の私達では返り討ちにあうのが関の山。言う事を聞いて私達は下がりましょう」

 

 

 アスナと刹那は言う通り、プールスを連れて下がった。マギの相手はエヴァンジェリンとネギに小太郎が相手をすることにした。

 3対1と数的に不利になってしまったマギ。

 

 

「邪魔が入ったなぁ……そうだ」

 

 

 マギは何かを思いついたのか、なんと詠唱も無しで手に魔力を集中させ

 

 

「術式固定 掌握」

 

 

 闇の魔法、夜叉紅蓮へとなってしまった。

 無詠唱で闇の魔法を使った事に戦慄が走るエヴァンジェリン。

 

 

「この私でさえ詠唱しないと使えない事を無詠唱でやってしまうとは、あの馬鹿の息子はどうしてこうも規格外なんだ……」

 

 

 ネギと小太郎は夜叉紅蓮になってしまったマギを見て、驚きを隠せないでいた。

 驚いているせいでワンアクション遅れた小太郎に、一瞬で接近したマギが殴り掛かってきた。

 

 

「ッ!うお!」

「小太郎君!」

 

 

 慌ててガードしたが、強烈だったのかガードした腕がビリビリと痺れる。

 

 

「兄貴!これは本気で大兄貴を止めないとマジでヤバいですぜ!」

「うんカモ君、本気で行くよ!」

 

 

 ネギは魔力を開放し、八極拳をマギに繰り出す。

 が容赦がなくなってしまったマギに簡単に殴り飛ばされてしまった。

 これが枷の外れたお兄ちゃんの力……!マギの攻撃を辛うじて防いだネギは戦慄を走らせる。

 闇の魔法を発動中のマギに対してこっちはエヴァンジェリンにネギと小太郎と数では有利なはずなのに勝てるか望み薄である。

 ならば自分も闇の魔法を使うかと考えたエヴァンジェリン。だがだめだ。闇の魔法は余りにも強力過ぎて、被害が大きくなる。下手をしたら学園祭が無くなってしまう。

 クラスメイト達の思い出となる学園祭を台無しにしたくない。闇の魔法は最終手段だ。

 そんな事を考えていると、マギの足元に魔法の矢が放たれマギは後ろに下がって難なく避けた。

 一体誰が、ネギ達は魔法の矢が放たれた方を見てみると

 

 

「ミイラ取りがミイラになってしまうなんて。マギ先生、あなたは考えていることが甘すぎるんです」

 

 

 高音と愛衣そして仮面をつけた黒マントの集団がそこには居た。黒マントの集団。これは高音の魔法の力であり、高音は影の魔法を使える。そして数多くの分身体を扱えると言うのはかなりの実力者のようだ。

 

 

「今は世界樹の力で操られているみたいですが、この私が目を覚まさせてあげます!」

 

 

 高音もかなりの実力者、本来なら頼もしい戦力と思えるのだが、いかんせん相手が悪すぎる。

 マギは一瞬で影の分身の一体を殴り飛ばし、消し飛ばしてしまった。

 

 

「「へ?」」

 

 

 高音と愛衣はマギが一瞬で影の分身を1人消し飛ばした事よりも、マギの姿が変わっているのを見て呆然としてしまった。

 

 

「邪魔だなこいつら」

 

 

 それだけ呟くと、マギはあっさりと影の分身達を蹴散らしてしまった。

 

 

「なッ!?」

 

 

 高音はすぐさまマギを迎撃しようと杖を構えたが、マギは一瞬で間合いに詰め寄ると。手の平に炎の魔力を集めた。

 そして高音と愛衣に向かって炎を放った。

 

 

「「ッ!キャアアアアアアアッ!!」」

 

 

 高音と愛衣が炎に包まれてしまったのを見て、ネギ達はまさか世界樹に操られてマギが人を殺してしまったとそう見えてしまった。

 だが炎が消えると、其処には全裸になってしまった高音と愛衣が悲鳴を上げてへたり込んでいた。ネギや小太郎や同性であるアスナ達でさえ、全裸になってしまった高音と愛衣を見て赤くなってしまった。

 マギが使ったのはネギが何時も使っている風の魔法による武装解除の魔法、その炎版を使用したのだ。

 戦力になるはずだった高音が一瞬で役立たずになってしまった。

 

 

「クククク。アハハハハハ」

 

 

 ニタニタと笑っているマギに高音と愛衣思わず震えあがってしまった。

 マギを止める事は難しいのか、いやまだエヴァンジェリンやネギや小太郎は戦える。

 ネギと小太郎が再度マギに攻めかかるが、簡単に返り討ちにあってしまう。

 

 

「いい加減しつこいっての」

「だったらいい加減正気に戻れマギ」

 

 

 エヴァンジェリンは容赦もなく本気でマギを伸す事にした。

 マギに教えたテコンドーなどの技でマギを追い詰める。エヴァンジェリンの蹴りが腹に決まり、漸くマギがよろめいた。

 エヴァンジェリンならマギを止められるかと思いきや、急にエヴァンジェリンが膝をついてしまった。

 

 

「しまった。最近坊やが学園祭の準備や何やらで忙しかったせいで、吸血を怠っていたのが……」

 

 

 吸血鬼のエヴァンジェリンの力の元は血であるのだが、最近血を吸っていない。と言うのも麻帆良祭の準備でネギが忙しくなり、吸血をする時間が無かったのだ。

 吸血をせずとも数日間は問題なく動けるのだが、エネルギーがきれてしまえば十全に動く事は出来ない。今のエヴァンジェリンはその状態である。

 血がきれて力が出なくなったのを見て、マギはゆらりゆらりとエヴァンジェリンに近づいて肩を強く掴み動けないように覆いかぶさった。

 

 

「くッ」

「さぁエヴァ、キスの時間だ」

 

 

 ゆっくりとエヴァンジェリンの唇に迫るマギの唇。

 ネギや小太郎も赤面をし、同じく赤面しているアスナはまだ早いと自身の手でプールスの目を隠した。

 

 

「何も見えないレス」

「プルちゃんにはまだ早いわ!」

 

 

 外野が騒いでいる中、マギはどんどん迫ってくる。

 

 

「生まれて初めてのキスが、こんな襲われる形のものだとわな……」

 

 

 マギは好きではあるが、操られた状態のままでキスをされるなんて。さっさと終われ……エヴァンジェリンは目を瞑り、マギがキスをし終えるのを待った。

 がいくら待ってもマギがキスをしようとはしなかった。早くしろと思いながらエヴァンジェリンは目を開けると

 

 

「ぎ……ギギ……」

 

 

 マギはエヴァンジェリンの唇が届くと言う所で止まり、マギの右腕がマギの頬を……

 バキィッ!と言う音をさせながら吹っ飛び、きりもみ回転をしながら地面に叩きつけられてそのまま動かなかった。

 エヴァンジェリン達はマギが行き成り自分を殴り飛ばしたのを見て呆然としてしまっている。

 マギが倒れて直ぐに指が動き、ゆっくりと起き上がった。

 

 

「あッ危なかった……」

 

 

 闇の魔法を解除され、マギも正気に戻ったようだ。

 

 

「マギ、元に戻ったのか」

「あぁ何が起こったのか覚えてないけど、俺……色々とヤバい事をしたみたいだな。うん……不味いな」

 

 

 どうやらさっきまで何があったのか分かっていないみたいだ。自分自身を殴り飛ばしたのも無意識の中で行った様だ。

 マギは辺りを見渡して、全裸になっている高音と愛衣を見て顔を青くした。

 エヴァンジェリンは深い溜息をつくと、ゆっくりとマギに近づいた。笑っているが目は笑っていない。

 

 

「あのエヴァ?笑っているのにその振り上げている手は何だ?」

「……この馬鹿ァッ!!」

 

 

エヴァの叫び声と一緒にバチンと言う音が響き渡った。

 

 



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キス騒動終幕  暗躍する者達

お久しぶりです。やく2か月以来の投稿となります。
連載当初と違って、文字数が飛躍的に少ないです。
申し訳ありませんが、今後は文字数少な目で、尚且つ上手く纏められるように頑張るので真で勝手な事ですが、応援よろしくお願いします

それではどうぞ


「すまなかった」

 

 

 あれから正気に戻ったマギは、今回の騒動に迷惑をかけてしまった皆に対して深々と頭を下げた。

 

 

「予想外の条件がいくつも重なって起こった不幸な事件という側面はあります。ですが貴方がもう少し危機感を持っていれば、これほどの被害が及ぶことはありませんでした。ましてや教え子の唇を強引に奪おうとするなんて、先生としても失格ではありませんか!?」

 

 

 マギに制服を消し飛ばされて、体操服に着替え直した高音にマギは説教をされていた。マギは黙って頭を下げたまま、高音の説教を聞いていた。

 暫く高音の説教は続いていたが

 

 

「……マギ先生も反省しているのはよく分かりましたから、今日は此れにて失礼します。ですが次は無いと思ってください」

 

 

 それではと言いながら愛衣を連れて去っていった高音。

 残されたマギと不機嫌なエヴァンジェリン。そしてのどかやネギ達。

 

 

「あっえっエヴァ……」

「ふん!」

 

 

 マギはエヴァにも謝ろうとしたが、取りつく島もなくそっぽを向いたエヴァンジェリンはそのまま飛び去ってしまった。

 

 

「マギ先生、マスターはいきなりの事でビックリしたのと恥ずかしかったようです。しばらくすればまた何時ものマスターに戻ります」

 

 

 それだけ言うと茶々丸もジェット噴射でエヴァンジェリンの後を追った。

 ポツンと残されたマギは深い溜息を吐いた。

 

 

「マギさん……」

 

 

 のどかはマギを可愛そうな目で見つめていた。

 

 

「のどかさん、お兄ちゃんをお願いできますか?今は僕よりものどかさんがお兄ちゃんには必要です」

「ネギ先生……分かりました」

 

 

 マギの事はのどかに任せて、ネギ達はこの場を後にした。

 

 

「マギさん」

「のどか……」

 

 

 落ち込んでいるマギにスッと手を差し伸べて

 

 

「学園祭回るの、再開しませんか?」

 

 

 にっこりと笑いながら、マギを再度誘った。

 

 

 

 

 

 

 マギとのどかは麻帆良にある大きな湖にやってきた。この湖にてショーがこれから行われるのだ。

 

 

「のどか本当にすまない。折角学祭を回ってたのに」

「いえ気にしないでください。それにマギさんが無理矢理エヴァさんにキスをしないで良かったです」

 

 

 のどかは気にしていない様子だったが、マギはお詫びとして何かしようとしたが、丁度ショーのアナウンスによってショーが始まった。

 

 

「マギさん!見てください。すごく綺麗ですよ」

「あぁそうだな。綺麗だ」

 

 

 光と炎の光が夜の湖を幻想的に照らし出していた。

 確かに綺麗だとそう思っていたマギに、ふとのどかが

 

 

「マギさん、マギさんは今……好きな人はいらっしゃいますか?」

「え?」

 

 

 のどかに好きな人はいるかと尋ねられ、固まるマギ。固まっているマギを見て、のどかは頬杖をつきながら再度聞いて来る。

 

 

「その、誰かと一緒にいると胸がドキドキする。そんな事はありますか?」

 

 

 不覚にものどかの仕草が何時もと違って可愛らしいと思ったマギは顔を逸らしながら

 

 

「強いて言ったら、今のどかといるとドキドキとする……かな」

 

 

 自分と一緒にいるとドキドキすると言われ、嬉しさ半分恥ずかしさ半分で顔を赤くするのどか。

 ありがとうございます。マギにお礼を言ったのどかは

 

 

「私ホントとろくて、ドジで引っ込み思案でした。けどマギさんと出会ってからは色々な事を頑張る事が出来ました。これも全部マギさんのおかげです」

 

 

 自分の想いをマギに話し始めるのどか

 

 

「マギさんが昔に辛い事があったなんて私は知りませんでした。でもマギさんはネギ先生と一緒にお父さんを見つけようと、今も頑張っている姿を見て私も勇気をもらっています。だから……」

 

 

 のどかはマギを見つめながら

 

 

「私は……そんなマギさんが大好きです」

 

 

 2回目の告白をした。

 

 

「……」

 

 

 まさかのどかにもう一度告白されるなんて思ってもいなかったから、固まってしまったマギ

 

 

「すっすみません。いきなりこんな事言うなんて」

「いや別に謝る事なんてないさ」

 

 

 思わず謝ってしまったのどかをマギは優しく頭を撫でた。

 

 

「お父さん無事に見つかると良いですね」

「……そうだな」

「私に出来る事なら、何でもしますから」

「ありがとうのどか」

 

 

 するとのどかは少し辺りを見渡した。どうしたのかとマギが尋ねると

 

 

「いえ……ここって危険な場所じゃないですよね?」

「あぁ多分な」

「そのっマギさん軽く屈んでもらってもいいですか?」

「?あぁ」

 

 

 マギは言われたように軽く屈んだ。

 何なのかと思いきや、のどかが少し背伸びをして、屈んでいるマギの唇に自分の唇を当てた。

 

 

「ッ!?」

 

 

 のどかにキスされて、数秒固まったマギを置いてのどかは唇を離した。

 

 

「……マギさん今日はとても楽しかったです。今のはそのっお詫びのしるしです……」

 

 

 のどかはそのまま走り去ってしまった。

 

 

(今のはちょっと大胆すぎたかな?キャア~恥ずかしい!)

 

 

 のどかが走り去っていくのを、呆然と眺めていたマギ。

 

 

「……やれやれだぜ」

 

 

 お決まりの台詞を溜息と一緒に呟き、頭を掻いた。

 暫く掻いていると、ネギとカモ。寝ているプールスを抱いているアスナ、このかと刹那が見計らって来た。

 

 

「マギさん?どうしたの顔が赤いわよ」

「お兄ちゃん?」

 

 

 アスナが尋ねると、いや……と呟いた後に

 

 

「女の子っていうのは、急に大人っぽくなるんだな……ってそう思っただけさ」

 

 

 フッと笑いながらそう言うマギ。ネギは首を傾げていたが、アスナ達女子はマギの言った事が分かりあぁと呟いた。

 こうしてキス騒動からの、のどかとのキスによって最初の学園祭の見回りは終了した。

 しかしまだ学園祭は始まったばかり、まだまだ気を抜く事が出来ない。そう思ったマギであった。

 

 

 

 

 時は少し遡り、暗い路地裏の近くを和美が歩いており、和美の背後をさよがフワフワと浮いていた。幽霊騒動以来、席も隣と言う事でさよは和美と友人となり彼女についていや憑いていると言った方がいいだろう。

 

 

「朝倉さん止めた方が、私あの人はあまり信用できないと言うか……」

「でも世界樹の秘密は知りたいからね。大丈夫、利用されるだけの私じゃないさね」

 

 

 そうこう言っている内に、路地裏へと到着した。路地裏らしく暗く、先の道は見えない。それだけでさよはビクビクしている。

 

 

「来てやったよ。約束通り姿を現しな」

 

 

 和美はそう言うと、路地裏の奥から黒いローブを着た超が現れた。

 

 

「ふふ、来てくれたカ朝倉さん。私の側につく決意、固めたと言う事でよろしいカ?」

「勘違いしないでほしいね。私はジャーナリストになる女、真実を求めている者さね。今回はそっち側の方が真実を知る事が出来るとそう思ったからね」

「まぁそう言う形でも構わないヨ。朝倉さん程の腕を持つ人が協力するだけでもこっちとしてはありがたい。と言う事で、これを渡しておくカ」

 

 

 超は和美に台本の様な物を渡した。

 

 

「それには朝倉さんにやってもらいたい事が、大まかに書いてあるヨ。後はアドリブでも大丈夫ダ」

「了解。それじゃ私らはこれにて失礼するよ」

 

 

 台本を貰った和美は路地裏を(さよは見えてないと思いながら、超に会釈する)後にした。

 朝倉が去ってから……

 

 

「……超鈴音」

 

 

 黒いフード付きローブを纏った2人が音もなく現れた。

 

 

「遅かったナ。やはり敵陣の中では上手く動けなかたカ?」

「フっそうでもなかったさ。君のくれた魔力を遮断する装置のおかげで私も彼女も楽に入る事が出来た。もっともこんな恰好をしていても、今は学祭だ。仮装と言えば別段可笑しい事はないさ」

 

 

 そして2人はフードを上げた。フードの中の素顔は修学旅行でマギと戦った傭兵、アーチャー。関西呪術協会の千草であった。

 

 

「関西と関東の者から逃走している最中、君にこれを渡された時は何なのかと思ったよ」

 

 

 アーチャーは懐から、バッジの形をした装置を取り出した。これはアーチャーと千草が追手から逃げている最中に、超がどこからともなく現れてアーチャーと千草の分を渡したのだ。

 

 

『これを来る日までに身に着けておくとイイ。これを付けていれば、魔力を頼りに探す下っ端連中は簡単にだます事が出来るヨ』

 

 

 最初は千草はもといアーチャーも超の言う事を信じてはいなかったが、装置を付けて暫くしていると、追手がぱったりといなくなったのだった。

 

 

「この装置には感謝をしたが、何故君が私達の居場所を知っていたんだ?」

「フフ天才に不可能はないヨ。まぁどうして知っていたのかは、教えるつもりはないのだがナ」

 

 

 超の回答にそうかと不敵な笑みを浮かべるアーチャー。修学旅行と同じバイザーを付けているために、表情が分からない。そんなアーチャーと超のやりとりを黙ったまま見ている千草。

 

 

「さて……私は君達と世間話をしたいわけじゃなイ。傭兵である君依頼をしたい……ある男を1人消して欲しイ」

「ある男、そんなまどろっこしい言い方はしないで、マギ・スプリングフィールドを殺せと依頼したらどうだ?もっとも……いいのかな?君のクラスの皆はマギ・スプリングフィールドを慕っていた。この依頼を知ったら皆が君に牙を向くと思うが?」

「構わないヨ。マギさんがこの世から消えたら、後の世の平穏へと繋がる。そのためなら私は友を裏切り、悪魔にも魂を売り渡すヨ」

「悪魔など人聞きの悪い言い方をしないで欲しい。私は後の世のためにあの男を討つ、正義の味方や救世主とでも言ってもらいたい」

 

 

 マギを消すと言っている超の表情は、いつもの掴み所のない笑顔ではなかった。無表情で淡々とアーチャーに依頼をしていた。

 

 

「依頼は受けよう。だが真祖の吸血鬼まで相手にするのは難しい。あの男に人一倍好意を寄せているからな。目の前であの男が死んだのを見た瞬間に何をしでかすか分からない。アフターサービスは期待しないでもらおう」

「私的にはエヴァンジェリンさんも足止めしてもらいたいのダガ。まぁいい契約は成立した。計画は学園祭最終日に行う。私が学園中をパニック状態にするから、その間にたのむヨ」

「了解した。吉報を待っていて欲しい。では行こうか千草嬢」

「あぁ……なぁ傭兵、本当に大丈夫なんかえ?」

「千草嬢は何も心配はいらないさ。君は私の後ろで私の手助けをしてもらいたい」

 

 

 アーチャーは千草を連れて、闇の中へと消えて行った。

 2人を見送った超は、疲れた溜息を吐きながら

 

 

「これでイイ。これでいいんダ。エヴァンジェリンさんや、茶々丸。そしてクラスの皆には悪いガ、私の世界私の時代のためにはマギさんにはこの時代で消えてもらわないと。もう時間は無い。この学園祭が最後のチャンスダ」

 

 

 ……だが超は大きな計算違いをしていた。傭兵であるアーチャーにマギの抹殺依頼した事。

 この依頼が後に大きな事になる事を、超は知る由も無かったのだ……

 

 

 

 

 




今回最後に出てきた弓兵
このオリキャラが原作の超の計画を大きく狂わせます。
どうなるかはまだまだ先のお話です


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高音・D・グッドマンの想い

「これがタイムマシン?こんなに小さいのが」

「ほへぇ~」

 

 

 アスナとこのかはカシオペアをまじまじと見て、感嘆の声を上げた。アスナはカシオペアを裏にして色々と見ている。

 

 

「本当にタイムマシンなら、アタシアメリカの禁酒法時代に行きたい!」

 

 

 なぜそんなマニアックな時代なのかと思ったが、渋いおじさんにいっぱい会えるからだろう。ほんとにおじさん好きだなぁと思ったマギである。

 がカモが言うには、このカシオペア。最大でも24時間の時間転移しか出来ない様だ。自分が行きたかった時代に行きたいと思っていたネギとアスナは残念がっている。

 

 

「ほら今は学祭中だろ?それにパトロールとかも忙しいんだからよぉ。そこまで行きたいなら青狸にでも頼むんだな」

 

 

 マギがそうツッコミを入れて、さっそくアスナ達も連れて時間転移をすることにした。行き先の時間を設定して……

 

 

「行きます。しっかり掴まって」

 

 

 ネギにしっかり掴まり、ネギ達の空間が歪み始めた。

 そして次の瞬間、ネギ達は姿を消したのであった。

 

 

 

 

 学園祭1日。PM13:00

 

 

「わぁ!さっきまで夜やったのに、昼に戻ったえ~」

「ねぇカモ、本当に成功したの?」

「大丈夫ですってアスナの姐さん。俺っち達も前回やった時は成功したんですから」

 

 

 さっきまで夜だったのに、急に昼に戻ったので興奮気味のこのかと不安そうなアスナ。

 

 

「さてと、戻ってきた事だし俺も見回りをしてくるかな。んじゃ後で合流するぞ世界樹の前で集合だ」

 

 

 寝ているプールスを起さない様におんぶをしてネギ達と別れることにしたマギ。

 

 

「僕も無理して代わってくれたコタロウ君と合流します。アスナさん達は休みながらパトロールをお願いします」

 

 

 タイムマシーンを知る前に無理して代わってくれた小太郎と合流するために、小太郎の元へ急いだ。

 

 

 

 

 

 マギはパトロールに向かう道中、告白しようとした男が何者かに狙撃されるのを見た。

 こんな人が大勢いる場所で、正確に撃てるのはクラスに居る真名だろう。仕事のためなら容赦はしないんだな。そう思ったマギであった。

 ふと向こう側が何やら騒がしい。喧嘩かなにかとマギは騒がしい所に向かうと、そこには見知った者がいた。

 

 

「うわぁ、アイツ周りの目も気にしないで、よくもまぁあそこまで騒げるもんだよ」

 

 

 騒いでいる者に呆れながらも、流石に学園祭に来てくれた人達に迷惑になる。

 マギは騒いでいる者へと近づくことにした。

 

 

 

 

 

「ですから!今貴方には世界樹の近くに来られるのは困ると言っているでしょう!」

「なっ何なんですかあなたは!?さっきから失礼ですよ!」

 

 

 高音・D・グッドマンは、目の前の男性が連れている女性に告白すると言う高い数値が出ているために、世界樹に近づかせんとしていた。

 が魔法の事を隠蔽しなければいけないと言うのが最初に出てしまっているために、強引な形となっている。

 

 

(どうして分からないのですか!?私は貴方達の事を思ってこうしているのに……!このままでは人生を無駄にしてしまうかもしれないのに!)

 

 

 人一倍正義感が強い高音ではあるが、その正義感が人には伝わらないこともあると言う事を、彼女は知らない。

 

 

「いい加減にしてください!あんまりしつこい様だと、先生を呼ばしてもらいますよ!」

 

 

 男性は我慢の限界に来たのか、先生を呼ぶと言いだした。それは流石に不味い。このままでは学園のひいては高音の評判にも傷がついてしまうだろう。

 

 

「おっお姉様……」

 

 

 高音の後ろオロオロしている愛衣は、どうすればいいのか分からなかった。

 このまま教師を呼ばれるかと思いきや

 

 

「いたいた。探したぞ。」

 

 

 騒ぎを見ていたマギが助け舟を出してくれた。

 

 

「まっマギ先せ――――」

「まったくカップルの邪魔をするんじゃあないよ。ちょっとすみませんねぇ」

 

 

 高音は何故マギが此処にいるのか聞こうとしたら、マギは高音と口論していた男と小声で話し始めた。

 男は最初はマギを怪訝な目で見ていたが、次には驚いた表情をして、マギの話を真剣に聞き始めた。

 おいてけぼりの高音をほっといて、話はついたようだ。

 

 

「ありがとうございます。見知らずの人がこんなに親切にしてくれるなんて」

「いいって。折角の学園祭なんだし、楽しい思い出をな」

 

 

 男はマギに何度もお礼を言って、一緒に居た女性を連れて世界樹から離れて行った。

 ポカンとしている高音は、離れていく男達に軽く手を振っているマギに聞いてみた。

 

 

「あの男の人と何を話したんですの?」

「今日初めてのデートらしくてな。ずっと好きだった相手に告白しようと思ってたらしくて、世界樹の噂を聞いて思い切って来たらしい。まぁでも今世界樹の近くじゃうちのクラスの真名が見張っててな、告白しようとしてる奴らを次々と狙撃してるのを今さっき見てたからな。世界樹の力が影響しない、告白に良さそうな場所を教えてやったんだよ」

 

 

 高音の強引なやり方と違い、マギは話し掛ける形で事を解決してしまった。

 

 

「……私のやり方は間違っていたと言う事ですか?」

「いやまぁお前らが魔法の事を隠そうとしているのが大事な事だと言うのは分かるけどさ、強引すぎると思うんだわ。テメェの正義とか貫いても、周りの奴らが分かってくれなきゃそれは……正義じゃなくて独善だ」

「それは……」

 

 

 マギにそう言われ、何も言えずに俯いてしまう高音。

 そんな高音を見て、やれやれだぜ……と呟いたマギは

 

 

「高音、お前この後もずっとパトロールか?」

「え?ええ。今日一日は小休止がある以外はずっとです」

「やっぱりか……高音、1、2時間だけでもいいから学園祭回るぞ」

「え?えぇ!?マギ先生!行き成り何を言い出してるんですか!?」

「もう決めたからな。愛衣悪いけど高音を少しの間借りてくぞ」

 

 

 高音の了承も得ずに、マギは高音を連れて行ってしまった。

 残された愛衣は連れてかれる高音を呆然としながら見ているのだった。

 

 

 

 

 

 あれから高音を連れてマギは、様々な出店を見回った。

 アトラクション系は時間を食ってしまうために、軽くゲームが出来るコーナーや屋台の食べ物を軽く摘まんでいる。

 時折世界樹方面に告白目的で行こうとしている男女連れをさりげなく別の場所で告白できるように誘導して、マギの話を聞かず、舐めた態度を取った連中は、真名に狙撃されても良いと言う事で放っておいた。

 そして現在はベンチで一休みしている。

 

 

「つかれたレス」

 

 

 マギに買ってもらったジュースを飲みながら、プールスは少し疲れた様子だ。さっきまで寝ていたプールスだが、時間が戻り昼間の賑わいで目が覚めてしまったようだ。マギに屋台のお菓子を買ってもらい美味しそうに食べていた。

 

 

「高音は……楽しそうじゃないか」

「当然です!他の仲間が頑張っている中で、私だけがこんな所で油を売っているなんて……」

 

 

 予想していた高音の言った事に苦笑いを浮かべるマギは

 

 

「あんまり肩に力を入れすぎると疲れちまうぜ。偶には息抜きしないと」

「ですが……」

 

 

 強情な高音に対して、深い溜息を吐いたマギは次に

 

 

「高音さ、失礼な事言うけどさ……お前友達居ないだろ?」

「なっ!?いくらマギ先生でも、今のは失礼です!撤回してください!」

 

 

 思わず怒鳴ってしまった高音だが、実際は図星だ。彼女は小さいころから正義の魔法使いを目指していた。クラスには知り合いはいる、が魔法関連の事で遊びの誘いは全て断っていた。そのためクラスでは孤立している。

 自分も失礼な事を言ってるのは自覚しているマギは、すまないと頭を下げてから

 

 

「何というかな、似てるんだよ昔の俺とお前が」

「似てる?私とマギ先生がですか?」

 

 

 あぁとマギは肯定しながら、プールスの頭を撫でながら自身の過去を話し始めた。

 マギは幼少のころは色々と悪ぶっていた。同じ学友の陰口、自分をマギの息子としか見ていなかった教師たち。

 魔法学校を卒業してからは、一人で人里離れた場所で魔法の修行をしていた。修業には友人なんかいらないと自身に言い聞かせて……

 そしてこの歳になっても親しいのはネギにネカネ位しかいないと言う結果になってしまった。

 

 

「……正直言うとな、先生になるって言うのも面倒だと言うよりも不安でしかなかった。歳も離れていない女の子とどう接したらいいのか分からなかったからな。でもふたを開けてみれば、クラスの奴らはネギや俺を歓迎してくれた。そん時思ったんだ……あぁ俺は時間を無駄にしてしまったんだなってさ。人との輪を断ってしまったのが、どんなに自分を弱くしてたんだろうなってさ」

「弱くした?」

「結局どんなに悪ぶって孤立しても結局はその程度の人間にしかならない。俺も単純な奴だと思うけどさ、初対面の男に対して此処までしてくれるのかと思った時はさ、何かあった時はこいつらを護ってやろうと思ったぐらいさ。自惚れも甚だしいけどな」

「はぁ、成程……」

 

 

 マギの言っている事も何となく分かる高音だが、次にマギはこう聞いてきた。

 

 

「高音はさ、好きな男とかいるのか?」

「ふぇ!?いっ行き成り何をいい言ってるんですか!?」

 

 

 急に好きな人はいるかと聞かれて狼狽する高音だがマギは

 

 

「好きなヤツが出来ると、そいつを護ってやりたいと思えるようになるからな。と言っても俺自身好きって言うのが良く分かってないんだけどな。情けない話だけどな」

 

 

 

 マギはネギ達に話した事はないが、クラスの女子の何人かは自身に好意を寄せている事は何となく分かっているつもりだ。特にのどかには告白を2回されているし、キスも2回している。そんな彼女が自分の事を嫌いなはずがないと自分で思っていて寒いと思ったがそうであると信じている。他にもエヴァンジェリンも自分の事を何処か意識してるのではと思ったりしている。

 

 

 

「あっあのつかぬ事を聞きますが、私の事はどう思ってますでしょうか?」

 

 

 高音も最近になってマギの事が気になり始めたのだ。マギが自分の事をどう思ってるのか聞いてみたい。

 がマギの返答は

 

 

「え?普通に魔法使いの知り合いとしか思ってないけど?」

 

 

 マギには女性に対して決定的な欠点がある。それはのどかやエヴァンジェリンと言った接している時間が多ければ多いほど、自身に対する好意などに少しでも敏感になるのだ。

 がその反面、高音と言ったあまり接点のない女性に対しては鈍感になってしまうのだ。

 マギの返答にショックを受けた高音。だが裏を返せば自身の想いをマギに強く伝えればマギも応えてくれるのだと。

 

 

「分かりました。マギ先生に応えてもらえるように、私も精進します」

「?そうか。頑張れよ」

「それともう少し私も物事を柔らかく考えられるように頑張ります」

 

 

 それではと高音はマギに会釈して、自分の持ち場へと戻って行った。

 さっきまでとは違い、清々しい晴れやかな表情をしながら。

 

 

「本当、女って言うのは気持ちの切り替えが上手だな。尊敬に値するよ」

「?」

 

 

 プールスの頭を撫でながら、マギはそんな事を呟くのであった。

 

 

 

 その後の高音のパトロールだが、先程とは違い強引なやり方をしなかったので、愛衣は少しばかり驚いたという。

 

 

「お姉様、どうしたんですか?さっきまでとは別人です」

「愛衣……ふふ、正義の魔法使いを目指すのと、一人の殿方のために女を磨こうと思っただけです」

 

 

 愛衣は高音の言った事に、マギが関係していると言うのは何となく分かったようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ですが、今まで投稿した話の何話かを修正しました。


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夕映の憂鬱

何故だ……何故こんなにも早くに終わってしまったんだ……
自分の執筆のむら加減が悩ましい……


 高音と別れたマギは、しばらくの間プールスと一緒に屋台などの出店を回った。

 プールスも今迄食べた事のない料理を食べたりでご満悦の様だ。教師の給料を使って、プールスが喜んでくれるのはマギ自身も嬉しい。

 と回っていると、前方からネギと小太郎が歩いてやってくるのが見える。

 

 

「あお兄ちゃん」

「おぉマギの兄ちゃんか」

 

 

 2人が手を振りながら此方に駆け寄ってきた。

 

 

「おぉ。見回りは大丈夫なのか?」

「うん龍宮隊長が、19時まで休んでいいって言ってたから」

「隊長?まぁいいか。んじゃ俺もぶらつきますかね。さっきまで高音とぶらつきながら見回りしたし」

 

 

 それはぶらついている方が多いんじゃとそう思ったネギと小太郎である。

 

 

「それよか聞いてくれよマギ兄ちゃん。ネギの奴女のこと考えてるんやで。男はそんな軟弱な事考えてらんで修業あるべきやと思うやろ?」

「こっコタロー君、お兄ちゃんを巻き込まないでよ」

 

 

 小太郎はマギに同意を求めようとしたが、そのマギは

 

 

「いや俺もこの歳になったらさ、やっぱり好きな子とかできても可笑しくはないと思うんだけどさ。と言っても女性を好きになるって言うのが今一分からないんだけどな」

「えぇマギの兄ちゃんもそう言う事言うんかいな」

「だから言ったでしょ。僕とお兄ちゃんじゃ歳が離れてるんだから、気になる人の1人や2人居てもおかしくはないんだよ」

 

 

 えぇと小太郎は不満そうに不貞腐れる。

 そんな小太郎を見ながらマギは軽く笑っていると、前から歩いて来る人とぶつかってしまった。

 

 

「っとすまない」

「いえ、私もよそ見をしてたですので……え?」

 

 

 聞き覚えのある声で、ぶつかった相手が夕映だった。

 夕映は数秒呆然としていたが、ぶつかったのがマギだと分かると慌てだした。

 

 

「マギさん何をやってるですか!?のどかとのデートは!?」

「いやそれがな……」

「ちょっと来て下さいです!」

 

 

 夕映がマギの腕を引っ張る。引っ張った先にはのどかと一緒に居るマギの姿が

 

 

「!ちゃんといる。でもこの現状は修学旅行と似てるです。まさかあそこにいるマギさんは偽物ですか!?」

「いやあそこにいる俺も本物だ。色々とあってだな」

「どちらも本物!?何を言ってるですか!」

「落ち着いてくれ。詳しい話はあっちで話すから」

 

 

 興奮している夕映を、落ち着かせるため近くにあった喫茶店へと立ち寄った。

 

 

 

 

 

 

「タイムマシンですか?こんなに小さいのが本物なのですか……」

 

 

 夕映はカシオペアをまじまじと見ながらつぶやく。マギとネギがタイムマシンを貰ったいきさつなどをかいつまんで夕映に教えるが

 

 

「マギさんに1つだけ聞きたい事があるです。その……のどかとのデートは上手くいったのですか?」

 

 

 夕映が聞いてきた事に、マギは一瞬だけ固まるが

 

 

「まぁ途中ドタバタな事があったけどな、でも楽しく回れたと俺は思ってるぜ」

「そうですか。それだけでも聞く事が出来て良かったです」

 

 

 マギが言った事に満足しながら、夕映はニッコリと笑った。

 場の雰囲気が合わないのか、小太郎は鼻を鳴らしながら

 

 

「なんやマギ兄ちゃん、あんな読心術の女とデートしてたんか。くだらんわ」

「……コタローさん、無関係なあなたが口を出す道理はないと思うのです」

 

 

 小太郎の言った事に反論する夕映

 

 

「関係大ありや。俺はマギの兄ちゃんの強さを目標にしてるんや。そのマギ兄ちゃんが女と付き合って腑抜けになってもらったら俺が困るんや」

「コタローさんあなたは何も分かってないです。マギさんがそんな簡単に腑抜けるとそう思いですか?だとしたらあなたの目は節穴です。マギさんはのどかの事をそんな軽い気持ちで見ているはずがないのです。それにコタローさん前から言おうとしていましたが、勝ち負けにこだわり過ぎです。強さ弱さを口に出している内は、あなたは真の強さを身に着ける事は出来ないです」

 

 

 小太郎と夕映の口論が始まったが、歳は夕映の方が上で勉強はあまりできないが、頭の回転が早い夕映に言いくるめられて小太郎はたじたじだ。元々喧嘩に明け暮れていた小太郎では口喧嘩は無理である。

 

 

「そして……愛を知らぬ者が、本当の強さを手にすることは永遠とないだろう。恋愛をバカにしてはダメです」

 

 

 それが止めとなり、小太郎は膝から崩れ落ちた。ネギが小太郎に近づくが、小太郎は愛と言うのが何なのかを呟いていた。

 

 

「何かためになる言葉だな。誰が言った事なんだ?」

「亡くなった、哲学者であったおじい様の言葉です。私はおじい様を尊敬してるです」

 

 

 成程なとマギが頷いていると、考える事を止めた小太郎が再度夕映に詰め寄った。

 が小太郎の浅い考えを夕映はことごとく論破した。更に夕映は自身の哲学力を持って小太郎の考えを次々に否定した。

 頭が良くない小太郎にとっては、夕映の言ってる事が分かっていない。

 

 

「うっさいわ!男の戦いに口出しすんなちび助!」

 

 

 小太郎は逃げる事にした。口喧嘩に勝てなくなったら逃げると言うのは子供らしいと言ったらそうなるだろう。

 

 

「待ってよコタロー君!あお兄ちゃん、今日の格闘大会の予選遅れないでね」

「あぁ分かったよ」

 

 

 ネギはムキになって走り去っていった小太郎を追いかけて行った。

 なおムキになった小太郎は、一回目のタイムトラベルをしたマギの暴走に立ち寄り、マギの暴走を止める事になるのをこの時は知る由も無かったのである。

 

 

「しまったです。年下相手に偉そうな事をべらべらと……」

「そうでもないさ。コタローにとってはいい薬になっただろうさ」

 

 

 マギは夕映に気にしないでいいと言い聞かせた。夕映の方はムキになって小太郎の相手をした事に猛省する事にした。

 

 

「それでは私はこれで。これから仮装をしてジュース巡りの予定があるのです」

 

 

 夕映はこの場を立ち去ろうとしたが

 

 

「あっ夕映、もしよかったらなんだが……ちょっとだけ付き合ってもらえないか?」

「え?」

 

 

 

 

 

 マギに誘われ、遊覧船に乗っている夕映。違う服に着替えた夕映の恰好はのどかと違った形で可愛らしい姿だった

 遊覧船に乗るのが初めてなプールスは、船の上での風は気持ちよさそうだった。

 マギは夕映を誘ったが、実際マギと夕映はあんまり話した事は少ない方だ。だからこそ互いに何を話せばいいか迷っている。正直言ってかなり気まずい。

 

 

「あっあのマギさん、マギさんに見てもらいたいものがあるです」

 

 

 そう言って夕映は前にマギに渡された子供用杖を取り出した。

 そして火を灯れの呪文を唱えると、杖の先から火が出てきた。

 

 

「夕映、お前もう火を灯す事が出来るのか?」

 

 

 マギはこんなに早くに火を灯るの魔法を習得したことに驚いた。

 

 

「凄いな夕映。こんな早くに出来るなんて、俺でももっとかかったなのに」

「えっと凄いのです?」

 

 

 あぁとマギは頷いた。マギに褒められ嬉しくなった夕映は

 

 

「他の魔法も色々と練習してるですが」

「他もか?もしできるならやってみてくれよ」

 

 

 マギに言われ、夕映は今度は風の魔法を唱えた。が

 

 

「きゃあっ!!」

 

 

 コントロールが効かないのか、風が強すぎるせいで夕映や周りに居た女子生徒のスカートが捲り上がって、パンツが丸見えになってしまった。

 

 

「すっすみませんです!こんなはずじゃなかったんです!」

「……やれやれだぜ」

 

 

 マギは夕映のパンツを見ない様に、夕映のスカートを戻そうとすることに奮闘したのだった。

 

 

 

 

 

 

「……まさか魔法の練習に1日3時間も費やすなんて」

「その少しでも魔法を身につけて、マギさんのお役に立とうと思っててです」

「その気持ちだけでも嬉しいぞ。でも学校の勉強もちゃんとしてくれよ」

「はいすみませんです」

 

 

 ハプニングがあったが、気まずい雰囲気はもう無くなっていた。夕映もマギが笑顔になってくれて嬉しいと思っている。

 とマギは少し考えながら、夕映にこう尋ねた。

 

 

 

「夕映はさ……気になってる奴、好きな奴とかがさ今いるか?」

 

 

 急に好きな男が居るかと聞かれて、夕映は顔を赤くして慌てだす。

 

 

「いっいきなり何を言ってるですかマギさん!?」

「いや、そのな……のどかの事なんだけどな」

 

 

 のどかの名が出た瞬間、夕映は少し落ち着きを取り戻した。

 

 

「もしかして、のどかとのデートで何かマズい事でもあったですか?」

「いやマズい事は無かったんだけどな。そののどかの親友の夕映に相談があるんだけどな……そのデートの時にのどかにもう一度好きだと告白されてキスされたんだ」

 

 

 マギはのどかとの出来事を夕映に教えると、夕映もかなり驚いた様子を見せた。

 

 

「それでな、この後のどかとどうやって会えばいいのか分からないと言うか、今度こそ返事をしなきゃいけないと思ってるんだが……」

「え?マギさんはのどかの事が好きじゃないのですか?」

「いやそう言うわけじゃない。のどかと本の事で話したりするのは楽しいし。けど……恥ずかしいことに、俺お前らよりも年上なのに一度も女性の事を好きになった事が無くてな、どうすればいいのか分からないんだよ」

 

 

 マギは本気で悩んでいる。そんなマギを見て、夕映の中の悪魔が囁きだした。

 

 

「のどかに対しても、どういった返事をすればいいのか……」

「でっでしたら、今は先生と生徒の間と言う事ですし、ここはのどかが卒業するまで待つと言うのはどうですか?」

 

 

 夕映は何故自分がこんな事を言ってしまったのか、自分でも分からなかった。

 

 

「そうか?でもそれじゃあのどかに対して失礼なんじゃあ」

「いえのどか自身も焦っているわけではないと思うです。私やハルナが急かしてしまった側面も大きいですから」

 

 

 夕映は勝手に喋っている口を閉じようとしたが、止まらない。

 

 

「のどかは自身の気持ちを伝えたいだけだったと思うですし、マギさんがその事で悩んでいると知ってしまったらのどかも辛いと思うです。ですからマギさんは今まで通りいいと私は思うです。のどかもその方が嬉しいと思うです」

 

 

 夕映のアドバイスに、そっかと頷いたマギは

 

 

「今まで通り、それが今は一番いいのかもしれないな。ありがとうな夕映、おかげですっきりしたよ」

 

 

 夕映にお礼を言ってマギはスクッと立ちあがって

 

 

「なんかホッとしたらトイレに行きたくなっちまった。夕映はプールスと一緒に待っていてくれ」

 

 

 船の中にあるトイレに向かおうとしたマギは、振り返ると夕映に向かって

 

 

「ありがとな夕映。俺今日夕映と話す事が出来てよかったよ」

 

 

 それだけだと言って、マギはトイレへと向かった。

 お礼を言われて赤くなっている夕映は、心臓が早鐘を打っていた。

 夕映は安心してしまった。マギに恋人がいないこと、のどかとの仲が進展していない事にホッとしてしまっていた。

 夕映は自身の行いを恥じた。マギにのどかの気持ちを自分の都合の良いように解釈させてしまった。

 もう自分を誤魔化しきれない。気が付かないふりをして、抑えつけていた感情と気持ちが溢れだしそうになっている。

 修学旅行の時から、ずっとマギを目で追っていた。彼の笑顔や頑張っている姿を見てときめいている自分が居る。魔法を一生懸命練習したのも、それもすべて……

 

 

「ユエお姉ちゃんは、マギお兄ちゃんの事がスキレスか?」

「ひゃあ!?」

 

 

 プールスがニコニコと笑いながら夕映にマギが好きなのかを尋ねてきた。

 

 

「ぷっプルちゃん?」

 

 

 夕映はプールスがまさかマギをそんな目で見ているのでは?と勘潜ってしまったが、そうではなかった。

 

 

「私はマギお兄ちゃん、ネギお兄ちゃん。アスナお姉ちゃんにカモおじちゃん。のどかお姉ちゃんにユエお姉ちゃん……みんなみんな大好きレス」

 

 

 プールスは小さい子らしい、恋とかそういうのではない。ただ皆が大好きなのだ。

 夕映は涙を流して、そのままプールスに抱き着いた。

 

 

「ふぇ?ユエお姉ちゃん?マギお兄ちゃんの事キライなんレスか?」

「違うんですっ……私もマギさんの事が好きです。好きになってしまったんです!」

 

 

 夕映はマギの事を異性、1人の男として好きになってしまった。それものどかが好きな人を自分も好きになってしまった。親友を裏切ってしまう……それだけで夕映の頭の中がグチャグチャになってしまった。

 

 

「ふぅスッキリした。って夕映どうしたんだ?」

「っ!いっいえなんでもないです!」

 

 

 トイレから戻ってきたマギに、プールスに抱き着いている所を見られ、慌てて離れる夕映。その時に流している涙を慌ててふき取る。

 

 

「夕映、泣いてたみたいだがどうかしたのか?」

「泣いてないです。そのっ目にゴミが入っただけです!」

 

 

 夕映は必死に誤魔化したが、マギにさっき言った事を聞かれてしまっていたのではないかと内心冷や冷やしていた。

 

 

「そうか。でも何かあったら俺に言ってくれよ。俺に出来る事なら何でもするからよ」

 

 

 どうやら先程の事は聞いていなかったようだ。夕映はホッと胸をなでおろすが、先程の事でマギに対しての自身の想いを再認識する事になる。

 

 

(あぁおじい様、夕映は夕映はどうしたらいいのです?)

 

 

 亡き祖父に自分はどうしたらいいのかと問いかけた。

 亡くなった者が答える事は出来ないが、夕映の祖父はこう言うかもしれない。その答えは自分自身で見つける事だと。そしてその答えが後悔のないようにしなければならない。そう夕映に言ってくれるだろう。

 親友と同じ人を好きになってしまった夕映。彼女の恋への苦しみと戦いはこれから始まるのだった……

 

 

 

 

 




今回原作と違うのは、カモじゃなくプールスに変わったところですかね。


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武道大会 天下一は誰だ?

 船を降りたマギとプールス、そして夕映。

 夕映はこの後特にやることもないので、マギは自分やネギや小太郎が出る武道大会をよかったら見ないかと聞いてみると、おかしいですと夕映は首を傾げた。

 夕映はその武道大会がどういったものなのか聞いてきたので、マギはその武道大会のチラシを見せた。

 

 

「やっぱりです。賞金がたったの10万円です……恐らくショボイ大会です」

「マジか?」

 

 

 えぇとマギの問いに夕映は頷いた。大会自体は古くからある歴史ある大会のようだが、麻帆良祭では賞金100万200万のクイズ大会など、大きなイベントは当たり前。

 その中で10万の賞金と言うのは、かなり弱小な団体のイベントである。

 

 

「残念ですが、大会参加者のレベルは期待しない方がいいかもです」

「そっか、まぁ俺も忙しかったを理由にして碌に確認しなかったからなぁ。コタローはかなり残念がるだろうな」

 

 

 などと話していると、ネギと小太郎が此方へとやってきた。

 

 

「マギ兄ちゃん!なんやあの強さ!?暴走してたと言うのもあるけどビックリしたで」

「すまん。暴走してた時の事は、よく覚えてなくてな」

 

 

 あの後小太郎は、気づかれないように暴走騒動の場所から退散した。しばらくして先程まで一緒に居たネギと合流。ややこしいと言う事で、ネギに何か目印を付けるように要求する。と言う事で現在別の帽子をかぶっているネギである。

 マギは先程夕映と話していた事を小太郎に説明した。余りレベルの高くない武道大会と言う事で、少なからずショックを受けた小太郎。

 

 

「まぁええか。ネギやマギ兄ちゃんと戦えると思えればええか」

「今度からは慎重に見ないとねコタロー君」

「うっさいわ」

 

 

 とテンションが低い小太郎を連れて、さっそくその予選会場へと向かう事にしたのだった。

 歩いて数分。その武道大会の会場へと到着したのだが……

 

 

「なんだこれ?会場変更?」

 

 

 マギが会場にあったお知らせを見てみると、会場変更とその場所への地図が描かれていた。

 

 

「電車じゃないといけない場所だね」

「なんやねん。場所変更とか」

「とにかく行ってみるです」

 

 

 麻帆良中を走っている路面電車に乗り、目的の会場を目指した。

 辿りついた場所は龍宮神社、真名がここで巫女をしていると耳に挟んでいる。

 でその龍宮神社に大会参加者らしい格闘家が、多く押し寄せていた。

 

 

「おおっ!なんやショボイ大会って言ってたのに、イッパイいるやないか!」

「いやこれは逆に多すぎだろ。何があったんだ」

「ちょっと聞いてみるです」

 

 

 夕映は近くに居た胴着を着た、参加者らしき男にどうして人がこれほどまでに多いのか尋ねてみた。

 何でもある人物が複数の大会を買収、合併させて一つの大きな大会にしてしまったらしい。

 胴着の男は、この大会を伝説の格闘大会の復活だと言っている。何でも20年前まではこの大会が目玉だったようで、かなりの実力者が集まっているらしい。親切に教えてくれた胴着の男は受付に行ってしまった。

 

 

「いやしかし、人が多く集まるのも分かるぜ。見ろよ大会の賞金を」

 

 

 マギはそう言いながら、賞金額が書かれている看板を指差した。ネギと小太郎は賞金額を数えてみる。一・十・百・千・万・十万・百万・千万……一千万。

 

 

「「いっ一千万!?」」

 

 

 ネギと小太郎は驚きで顎が外れるかと思うほどに、大口を開けた。

 

 

「マギお兄ちゃん、いっせんまんってそんなにすごいんレス?」

「まぁ簡単に言えば、好きな物を腹いっぱいに食べてもまだお金が余る。凄い大金なんだよ」

 

 

 一千万の凄さをあんまり理解していないプールスに、マギが分かりやすく教えてあげる。

 

 

「あっネギにマギさん。何なのこの人だかり?」

 

 

 とパトロールをしていたアスナとこのかに刹那が、格闘大会の賑わいを見て近づいてみたようだ。

 ネギがアスナに格闘大会のチラシを見せると、アスナも一千万という賞金に思わず吹き出してしまった。賞金額を見て、アスナも大会に出ようか迷っている。

 

 

「とにかくや!賞金に釣られて強そうな奴がぎょうさんいそうやないか!おもろくなってきたで!」

「兄貴と大兄貴なら絶対優勝できますよ!目指せ優勝!賞金ゲット!」

「カモ君は正直だね」

「まぁでも、少しは楽しめそうだな」

 

 

 熱くなっている小太郎に、賞金に興奮してるカモ。そのカモ見て乾いた笑みを浮かべるネギ。頭を掻く何時ものマギである。

 

 

「コタロー君。やっぱりここにいた」

「あれ?夏美姉ちゃん。何でこんな所にいるんや?」

「ひどいなぁ。部の準備抜けて、折角応援に来たのに」

 

 

 妖精の恰好をした夏美が、小太郎の応援に来てくれたようだ。

 

 

「あっマギさん。ちづ姉が後で応援に来てくれるって」

「千鶴が?そうか。千鶴に応援に来てくれてありがとうと伝えといていてくれ」

 

 

 参加希望者と見学者は、入り口に入って会場内に集合というアナウンスが流れたので、マギ達は会場へと向かう事にした。

 参加希望者は100人を超えていて、皆気が張っているようだ。

 

 

『ようこそ!麻帆良生徒及び、学生及び部外者の皆様!!復活した「麻帆良武道会」へ!突然の告知に関わらず、これ程の人数が集まってくれた事を感謝します!優勝賞金一千万!伝統ある大会優勝の栄誉と賞金を見事、その手に掴んでください!』

 

 

 

 司会者で、マイクパフォーマンスをしているのは和美である。何故和美が司会をやっているのか分からないマギ達であるが、この大会を復活させたのが、彼女であるからだ。

 

 

『では今大会の主催者に挨拶を!学園人気№1屋台「超包子」オーナー、超鈴音!!』

 

 

 神社の奥から現れたのは、チャイナドレスを着こんだ超であった。超の登場にネギやアスナは驚いている。

 超は会場内に居る者達に、ニーハオとお辞儀をする。

 

 

「私がこの大会を買収して、復活させた理由はただひとつネ。表の世界、裏の世界問わずこの学園の最強を見たい。それだけネ」

 

 

 裏の世界と言う言葉が出て、参加者の大半がざわつきだす。恐らく裏の世界と言うのは、魔法使いとかそう言った類だと言うのだろうとマギは解釈した。

 超はこの大会がどういったのモノで、時代の流れで大会が自粛されてたが、今この場で復活を宣言する。などの話をしていたが、次の大会説明で更なる爆弾発言をする。

 

 

「飛び道具及び、刃物の使用禁止!そして……呪文の詠唱の禁止!この2点を守ればいかなる技を私用してもOKネ!」

 

 

 超の爆弾発言に、ネギやアスナにこのか、刹那夕映カモと言った魔法に関わっている者達は驚いた。

 小太郎は口笛を吹いているが、マギは超の言った事に対して、考えている。

 

 

(超の奴、一般人の前で堂々と言いやがったな。一般の参加者は分かってないだろうが、高音とか魔法を隠そうとしてる奴らが黙ってないぞ。何が目的なんだ?もしかしなくても魔法をバラスなんて大掛かりな計画の1つなのか……)

 

 

 マギが考え事をしてる間にも、超は映像記録が無ければ誰も信じない。大会中ここ龍宮神社は完全な電子的装置により全ての記録機器は使用できなくなると言う事で、思う存分戦っていいとのこと

 賞金が莫大で、裏の世界の者と戦えると言う事で、血の気の多い連中はがぜんやる気に満ち溢れている。

 

 

「天才の超があそこまで言ってるんだし、魔法がばれると言うのはなさそうだな。まぁ安心して戦う事が出来るな」

「でも大丈夫かな……」

「ええやんか。俺はワクワクしてきたで」

 

 

 少し楽観視してるマギ。心配してるネギに対して、むしろ楽しくなってきた小太郎。そんな彼らに近づく人影が

 

 

「ふふ、面白そうだな。なら私達も出場してみるか」

「そうでござるな。修行の成果、はっきするでござるよ」

「強そうな奴いっぱいでうずうずするアル」

 

 

 巫女姿の真名、風香と史伽を肩車した楓。そして古菲と言った、3-Aの実力者3人である。

 

 

「おう、お前らも大会に出るのか?」

「あぁ一千万をこの大会で手に入れられるならぼろ儲けだからな」

「拙者、一度マギさんと手合せしたいと思ってたでござるよ。もし対戦する事になったらお手柔らかにお願いするでござるよ」

「マギ兄ちゃん大会でるの?だったら僕マギ兄ちゃんが優勝できるように、いっぱい応援するよ!」

「私もお姉ちゃんと一緒に応援するです!」

「わたしもいっぱいいっぱいおうえんするレス!」

「ありがとな。優勝できるように頑張るぞ」

 

 

 両肩にマギに好意を寄せる風香と史伽、頭の上にプールス。幼女3人に応援されるという不思議な光景となった。

 ネギは真名や楓、自分の師でもある古菲が出場すると言う事を聞き、ネギは委縮してしまう。小太郎は掛かって来いという姿勢だったが……

 

 

「ほうマギと坊やが出るのか……だったら師匠であるこの私が出ると言うのが筋というものだな」

「まっ師匠!?」

「おぉエヴァ」

 

 

 チャチャゼロを連れたエヴァンジェリン(マギに肩車してもらってる双子と頭に乗ってる妹を見て少し不機嫌そう)が登場した。

 服装が白いゴスロリで、マギがさりげなく似合ってると褒めると、頬を赤く染めた。

 

 

「エヴァも出るのか?」

「あぁお前に封印を解いてもらったんだ。折角だし全盛期の力で暴れてやろうと思ってな」

「……分かってると思うけどさ、死人とか出すなよ?」

「おまっ私をなんだと思ってるんだ!?」

「悪の魔法使い。自分でそう言ってるじゃん」

 

 

 マギとエヴァンジェリンがじゃれてるのを見て、最恐( 強)の魔法使いが参加すると言う事で、流石の小太郎も少し震えだした。さらに……

 

 

「おや、マギ君やネギ君が出るんだったら僕も出てみようかな」

「「タカミチ(!?)」」

 

 

 何時からいたのか、タカミチがエヴァンジェリンの背後に立っており、自分も出ると言いだした。

 

 

「タカミチ何でこんな所にいるんだ?」

「いや覗いてみてたら面白い事になってると思ってね。マギ君やネギ君が出るんだったら僕もとね……君たちが小さい頃に、ある程度力がついたら腕試ししようという約束をしたからね」

「そうか、もし当たったらよろしくなタカミチ」

「いっいやタカミチ!僕まだまだ修行中だし、もうちょっと先でいいよ!」

「あれ?そうなのかい?」

 

 

 ネギの遠慮の返事に少しショックを受けているタカミチ。

 

 

「あっあの!高畑先生が出るなら私も出ます!」

「ええっアスナ君もかい?」

 

 

 タカミチが出場するなら自分もとアスナも出ることになった。更にせっちゃんのカッコイイ所を見たいとねだられて、お嬢様のためならと刹那も参加する事になった。

 これでマギとネギが知っている、体力と武道に自信のある者達が全員参加する事になる。

 

 

「……コタロー君、僕やっぱり出るの止めようかな」

「はぁっ!?ここまで来て、なに弱腰な事言ってるんや!?」

 

 

 自分よりも実力的に上の者達が次々と参加する事になって、完全に戦意を失ってしまったネギ。

 元々腕試しと思って軽い気持ちで参加した大会なのだ。嫌々出ても何時もの力が出せるわけがない。

 ネギが出るかどうか、マギは待っている。とネギの様子を見たのか、超が

 

 

「ああひとつ言い忘れてるコトがあったネ。この大会が形骸化するまえ、実質最後の大会となった25年前の優勝者は学園にフラリと現れた異国の子供。『ナギ・スプリングフィールド』当時10歳の少年だった」

 

 

 聞き間違える事は無かった。超が言ったその少年の名は、マギとネギの父であるナギだ。

 ネギはナギと関わりが深いエヴァンジェリンとタカミチに聞いてみると、タカミチがそんな話を聞いたことがあると言った。

 ネギは数十秒ほど何かを考えると、決意した顔で

 

 

「コタロー君、僕やっぱり大会に出るよ」

「おぉ!ええでその意気や!やっぱネギはそうでなくちゃな!」

 

 

 小太郎はネギが出場する事に喜んでいるが、ネギは父であるナギと同じ場所に立っている。そう思っているんだろう。

 

 

(クソ親父の名前を聞いた瞬間に目の色を変えた……か。ネギの奴はあの……あの雪の日からずっとクソ親父の背中を追う事でいっぱいなのか。俺としてはクソ親父を追う事を人生の目標にはしてもらいたくはないけどな……)

「まぁ結局、テメェの人生を決めるのはテメェ自身だからな。さてと俺も大会出場の受付に行くとするか」

 

 

 ネギと小太郎が受付へと向かったので、自分も受付へと向かうマギである。

 

 

 

 

「ふふ。ナギ、貴方の息子2人は大きく成長したようです。さて……私も面白おかしく彼らにお節介をやいてみますか。特にマギ君。彼とナギが大きく似ていて、大きく違う所を見てみたいものですね」

 

 

 マギの後方で、白いフード付きローブをかぶった男が含み笑いを浮かべていた。

 最強を決める戦いが今、幕を開けようとしているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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武道大会予選  バトルロワイヤルで勝ち抜け

今回も原作と大きく変わった形で終わります。


 武道大会が始まったが、参加人数が100を超えているのでまずは数を減らすと言う事で、各組に分かれてバトルロワイヤル形式で戦う事になる。

 参加者はくじを引いて、くじに書かれたアルファベットの組で戦う事になる。

 マギがくじを引いてみると書かれているのはGである。マギはG組で予選を戦う事になる。

 

 

「さて、予選敗退なんてことはなさそうだ。まぁ準備運動はしとかないとな」

 

 

 予選でも全力を出せるようにと、柔軟体操などの準備運動をしていると

 

 

『マギさん!』

 

 

 のどかと夕映にハルナ。千鶴に風香と史伽と言ったマギを慕っている(+付き添い)が応援へと駆け付けてくれた。

 

 

「マギさんのどかとデートしたばっかだって言うのに随分張り切ってんじゃん!」

 

 

 ハルナが陽気に笑っているが、のどかとのデートと言う言葉が出た瞬間、夕映がそっと顔を逸らす。

 

 

「そのっ大丈夫だと思いますけど、無理しないでくださいマギさん」

「心配ありがとな。でも大丈夫だぜのどか。俺はそう簡単には負けないぜ」

「マギさん、出来るだけ無茶な事はしないように」

「気を付けるさ千鶴。怪我なんかしてキツクお前に怒られるのが一番怖いからな」

「僕と史伽マギ兄ちゃんが戦ってる所見た事ないけど、マギ兄ちゃんが強いって事何となく分かるんだ」

「頑張ってマギお兄ちゃん」

「サンキューな風香、史伽。どうせならカッコよく勝ってみせるさ」

 

 

 のどか達の応援に応えているマギ。プールスを夕映に預けると、G組の会場へと向かう。

 

 

「頑張ってくださいですマギさん!」

「お兄ちゃんファイトレス!」

「あぁ。んじゃ……行って来るぜ」

 

 

 数々の声援を受け、マギは戦いの場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 D会場に着くと、参加人数が集まっている。皆莫大な賞金と言う事で、目がギラギラと光っている。

 自惚れと言われても仕方ないが、マギから見てみればどの参加者も大したことないように見える。ネギや小太郎にアスナ達の方が出来ると見える。

 このD会場で気になると言えば、茶髪の黒帯の胴着を着た男。もう一人は黒装束の女だ。

 

 

(あの胴着を着た男、他の参加者とは違って一味違う感じがするな。あとあの黒装束の女、どこかの誰かさんなんだけどな……)

 

 

 マギが黒装束の女に声をかけようとすると

 

 

『それではD会場の皆さん!試合を開始してください!!』

 

 

 和美の試合開始のアナウンスが流れた瞬間、各参加者が目の前の相手を戦闘不能にしようと殴り蹴りの大乱闘が始まった。中には協力し合って戦っている者もいる。

 

 

「何というか、皆欲望に忠実って感じだな」

 

 

 参加者のすさまじさにある種の感心を覚えるマギ。

 

 

「おらあ!さっさと場外に行きやがれ!」

 

 

 一人がマギに殴り掛かってきた。マギはフム……と呟きながら、殴ってきた拳を掴んでしまった。

 驚いている間にも、相手の顎を軽く殴り気絶させた。

 参加者の一人が軽く倒されたのを見て、呆然とする参加者たちに対して、マギは

 

 

「この予選はそこまで本気出さなくてもいいかもな」

 

 

 この一言にキレた参加者の殆どが一斉にマギに襲い掛かった。

 中には木刀を持った(刃物じゃないからOK)奴もいるが、エヴァンジェリンに習ったテコンドー、カポエイラ。八極拳、ジャーマンスープレックスと言ったプロレス技など、多様な戦い方で参加者たちを沈めている。その様子を和美が大げさな実況でお送りしている。

 余裕が出てきたマギは他の組を見てみる事にした。

 古菲と真名がいるD組は主に古菲がご自慢の中国拳法で丁度最後の剣道部の一人を沈めて、古菲と真名が予選を通過した。小太郎と楓のE組はどちらも影分身が使えると言う事で、途中から分身技を競い合う形へと変わっていった。

 C組のアスナと刹那はハマノツルギ(ハリセンバージョン)や気を纏った徒手空拳で次々と蹴散らしている。F組のタカミチとエヴァンジェリンはなぜか次々と参加者が倒れていく。タカミチが見えない何かで倒しているんだろう。

 そしてネギが居るB組も今決着がついていた。リーゼント頭の学ラン姿の学生が、手から漢と描かれた魔法の矢のようなものが放たれた。ネギは隠し持っていたおもちゃの杖から無詠唱で魔法の矢1本を放ち相殺する。

 リーゼント頭が驚いている隙にネギは接近、殴り飛ばして戦闘不能にする。B組ではネギと白いフードの男が予選を通過した。

 

 

(リーゼント頭の奴、魔法の矢とは違うものを出してたよな。一般人でもあんなことが出来るのか?白いフードの奴は図書館島で会ったクウネルって奴。近いうちに会うなんてことを言ってたが、まさかこの学園祭だったなんてな)

 

 

 なおマギは考え事をしながらも、自分に向かって来る者達を的確に沈めて行った。

 気が付けば、茶髪の男と黒装束女しか残っていなかった。

 マギが黒装束の女に近づこうとした瞬間に、強い気配を感じて咄嗟に頭をガードする。ガードした腕に強い衝撃が走った。

 

 

「やるな外国の兄ちゃん!この俺、中村達也の技を咄嗟に防ぐなんてな。もう一つおまけに喰らいな!」

 

 

 離れたところに居る胴着の男、中村の拳が光始めた。もしやとマギが思っていると

 

 

「喰らえ俺の必殺技!裂空掌!!」

 

 

 手から大きな気の塊を放ってきた。マギは一瞬驚いたが、こちらも気と魔力を纏った拳で気弾を吹き飛ばした。

 

 

(さっきのリーゼント頭といいこの胴着の男といい、まさか一般人の中にもこんな芸当ができる奴がいるなんて、世界と言うのは思ったより広いもんなんだな。でもまぁ……)

「やるな!だったらとっておきの超必殺技を見せてやるぜ!いくぜ!ダブル裂空――――」

 

 

 マギは中村の背後に一瞬で回り、当身で気絶させた。

 

 

「一直線しか進まない攻撃程、躱しやすいものはないけどな」

 

 

 ここで中村が戦闘不能になった事で、G組の予選が終了となる。

 見学席の方にてマギに声援を送っていたのどか達に、軽く手を上げて応えたマギ。

 そして会場を後にするときに、マギは黒装束の女へと近づいた。

 

 

「なぁ行き成りで失礼だけどさ、アンタって俺と会った事があるか?」

「……こんな所で何をしているんですか、マギ先生」

 

 

 黒装束の女が少し呆れた様な声色を出しながら、黒装束の顔の部分を露わにする。

 黒装束の女の正体は高音である。

 

 

「高音?お前なんでこんな所に?」

「超鈴音がこの大会の主催者と言う事で、何か怪しい事をしているのではないかと来てみたのです。それと……マギ先生!貴方を正すためでもあるのです!」

 

 

 ビシッとマギを指差しながらそう言った高音。

 

 

「正す?俺なんか悪い事でもしたのか?」

「自分の胸に問いかけて下さい。では私も忙しいのでこれで!」

 

 

 高音は特に何も言わずに会場を去っていった。

 

 

「……俺何か悪い事でもしたのか?」

 

 

 困惑するマギであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大会出場者の方々!お疲れ様でした。予選試合も無事に終了する事が出来、本選出場16名が決定しました!』

 和美が明日の本選は朝の8時、龍宮神社特別会場にて行われるとのことだ。

 

 

『では大会委員会の厳正なる抽選の結果決定した、トーナメント表を発表します!こちらです!!』

 

 

 和美が布に隠れたトーナメント表を見せる。トーナメント表には次のように書かれている。

 

 

第1試合

 佐倉愛衣VS村上小太郎

 

 

第2試合

 タカミチ・T・高畑VSネギ・スプリングフィールド

 

 

第3試合

 エヴァンジェリン・A・k・マクダウェルVS神楽坂明日菜

 

 

第4試合

 桜咲刹那VS山下慶一

 

 

第5試合

 田中VS高音・D・グッドマン

 

 

第6試合

 長瀬楓VSマギ・スプリングフィールド

 

 

第7試合

 龍宮真名VS古菲

 

 

第8試合

 大豪院ポチVSクウネル・サンダース

 

 

 初戦は以上の8試合行われることになる。

 

 

「えぇっ!僕の最初の相手タカミチ!?」

「なんやネギとは次の試合で戦うのか。俺としてはもっと後で戦いたかったわ」

「うっそエヴァちゃんとやるのアタシ……」

「ほう神楽坂明日菜とか。まぁ軽く揉んでやるか」

「マギさんとでござるか。お手柔らかに頼むでござるよ」

「忍者と戦う事が出来るなんてな。まぁやるからには全力でいかせてもらうぜ」

「フフ。ゆくゆくはマギ君と戦う事になりますか。彼は私達(・・)を超える事が出来るのでしょうかね……」

 

 

 明日の本選にて、熱い戦いの火ぶたが切って落とされるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




自分原作に出てきてる豪徳寺薫、結構好きなキャラ何ですよね。モブなのに結構強いしビジュアルも目立つし、原作の最後ら辺でも登場していますし。
さて今回本線色々と変える所は変えてみました。
これが吉と出るか凶と出るか……そこら辺は自分自身でもお楽しみと言う事で


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あやかの愛

 武道大会の予選も終わり、改めてトーナメント表を見てみると3-Aが半分を占めている。

 

 

「はぁまさか最初にタカミチとなんて」

「ははは。お手柔らかに頼むよ」

「もぉ僕まだタカミチの相手なんか出来ないよ」

 

 

 ネギとタカミチが本選での話をしていると、夕映がこの後3-Aが今日の成功を祝って打ち上げをすると言う事で、タカミチも誘っていた。

 予選に出ていたマギネギ、アスナに刹那、エヴァンジェリンに古菲と楓それて小太郎(真名は急用があるとのこと)は打ち上げが行われている場所へと移動した。

 

 

『ネギ先生マギさん!1日お疲れ様でーす!』

 

 

 打ち上げ場所に到着すると、3-Aの生徒達が出迎えてくれた。

 生徒達はマギにネギが出し物であるお化け屋敷の手伝いをしてくれたことに感謝したのと、ネギやマギが仮装した姿が客にウケたこと。あやかがネギの手を取り最高の時間をありがとうと感謝感激している。

 他にもネギとマギは生徒達が部活などで行われていた出し物に参加していたらしい

 

 

「あっあのマギさん。今日は色々とありがとう。でっでもあんな事は当分こりごりだからな!」

「おっおう千雨。あぁ分かっ……た?」

 

 

 千雨が言った事にも心当たりがなかった。

 マギはネギと小太郎を連れて、打ち上げ会場から離れた。

 

 

「これってやっぱり俺達が過去に飛んで色々とやったみたいだな」

「そうですね。兄貴と大兄貴に身に覚えのない事なら、恐らくこの後にまたタイムトラベルを」

「僕お化け屋敷で女装したみたい。ほんとにやったのかな……」

 

 

 確かめるためともう一度、学園祭1日へと飛ぶことにする。小太郎も学園祭をゆっくり回りたいと言う事で、便乗する事にした。

 

 

「それじゃあ行くよ。時間跳躍」

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ!ホンマにいきなり昼や!」

 

 

 小太郎はタイムトラベル出来た事に驚いている様子。

 

 

「さて、パトロールも大会予選も無いからな。ゆっくりできそうだ」

「うんそうだね。よーし!それじゃ張り切って学園祭を回るよー!」

「よっしゃ!」

 

 

 男3人と妹一人オコジョ一匹による学園祭周りが始まる。

 最初に3-Aのお化け屋敷の客寄せの宣伝をすることにした。

 

 

「わぁ!ネギ君とマギさん手伝ってくれるの?」

「今何人か部活の出店の手伝いとかしてるから少し人手が欲しかったんだぁ!」

「はい。僕とお兄ちゃんは担任ですから、コレぐらいは当然ですよ」

「客寄せとか初めてだから、上手く出来るか心配だけど、やってみるさ」

 

 

 まき絵と桜子がマギ達が手伝ってくれることに大助かり。さっそく衣装に着替える事になる。

 ネギはドラキュラの恰好で小太郎は狼男。フランケンシュタインのマギに座敷童のプールスだ。

 さっそく客寄せの宣伝を開始するネギ達。宣伝のおかげか、どんどんと客が集まってくる。同じく宣伝をやっていた裕奈は子供のネギが可愛いからと睨み、ネギに新しい衣装を着せた。

 

 

「きゃああ!やっぱりこうなったー!」

 

 

 新しい衣装は狐耳に巫女服姿の女装だった。

 

 

「ぶはははは!きっ気色悪!!」

「ネギ、兄の俺から言わせてもらうが、それはないわ」

 

 

 小太郎は爆笑し、マギはドン引きする。これは逆に客層を阻めているのではないのか……

 

 

「何をやってるんですか!ネギ先生やマギ先生が手伝ってくださっているのに、さわいでは意味がないでしょう!」

 

 

 お化け屋敷の中で客の案内をしていたあやかが、注意しにきたのだが

 

 

「あっいいんちょさん!」

 

 

 ネギの女装姿を見て、鼻血を噴水のように噴射。ここは天国?と呟きながら失神するのであった。

 

 

 

 

 

 あやかの鼻血も止まったので、何人かが部活の出し物に出ているので、宣伝をしながら見て回る事にする。

 ネギはあやかに麻帆良祭を楽しんでいるかと聞いてみると、委員長としての責務が色々とあるので気の休まる事がないらしい。打ち上げの時には最高の時間と言っていたのにこの後に何があったのだろうか

 この後も古菲が行っている子供達に、中国拳法を教えるスクールの見本となるようにネギが演武を見せる。そのさいあやかがネギの演武を褒めるが、小太郎がいちゃもんをつけて軽く揉める。

 あやかが所属している馬術部にて、ネギやマギは初めての乗馬体験をする。美術部のアスナはタカミチの自画像を描いた様なので、見に行ってみるが、好きな男と言う事もあって、とてもよく描けている。

 夕映に誘われた哲学研究会は、難しい哲学を色々と話している。この時のアスナや夕映はタイムマシンの事は知らないので、不思議な感じがするネギとマギである。

 そのあと、クラスメイト各々の出し物をある程度見て回る事が出来た。

 

 

「たくさん回りました!みんながんばってるなー僕も頑張らなくちゃ」

「はい!私も気持ちを切り替えてがんばりますわ!」

 

 

 ネギと一緒に学園祭を回っているのがよほど嬉しいようで、あやかも元気を取り戻したようだ。

 次の場所に向かおうとしたら、ネギがふらっとしてあやかにのたれかかった。

 

 

「ネギのやつ張り切り過ぎて全然休んでなかったからな。疲れが一気に来たんだろう」

 

 

 ネギが倒れ込んできて慌てているあやかに対して、マギがそう説明する。

 思えば、最初のタイムトラベルするときに保健室で仮眠を取った以外に余り休んでいない。疲れが溜まるのはしょうがないだろう。

 小太郎もカモもプールスも大欠伸をしてる。近くに長ベンチが見えるので、そこで休むことにした。

 

 

「ごめんなさいいいんちょさん。いいんちょさんが色々と大変だと聞いたから、僕少しでもいいんちょさんに楽しんでもらおうと」

「いいからお前は少し寝ろ。あんまり無理すると、後々毒だぞ」

「そうですわ。私ネギ先生のそのお心遣いだけでも嬉しいのですわ」

 

 ありがとうございます。それだけ言うと、ネギはあやかの膝に横になってしまう。

 最初はひざまくらする事になり、驚くあやかであるが数十秒後には感激の涙を流す。ネギにひざまくらをしてよほどうれしいのだろう。

 同じくプールスにひざまくらをしているマギが、あやかにこう尋ねる。

 

 

「あやか、お前はネギの事どう思ってるんだ?」

「まっマギ先生!?あの行き成り何を言ってるんですか?」

「いやお前がネギの事を、弟みたいに見ているのか、それともネギを異性として見てるのか……」

 

 

 マギはネギからあやかには弟が出来るはずだったが、直ぐに亡くなった事を聞いた。生きていたのなら、ネギと同い年くらいにはなっていたのだろう。

 マギはあやかが先程尋ねたように、ネギを弟のように見てるか、異性として見てるのかはっきりしたいのだ。

 

 

「……確かに私はネギ先生の事を、どこか亡くなった弟のように見ていましたわ。ですが最近のネギ先生は年相応の可愛らしい姿を見せる反面、どこか凛々しいお姿見続けていて……私は雪広あやかはそんなネギ先生に恋してしまったのです」

「そっか。それを聞いて安心した。正直言うと俺は、偉そうな事を聞いておきながらも、恋とか好きな人と一緒に居たいと言う気持ちが今一つ分からない。けどお前がネギの事を本気で想っているて言う事は分かった。こんな事を言うのもあれだが、これからネギの事を想って、ネギに何かあった時は支えてやってくれないか?」

「そっそれはもしネギ先生が私と付き合う事になっても、かっ構わないと言う事ですか?」

「まぁそう言う事になるな。お前が嫌じゃないのなら、俺はお前とネギの仲を大切にしたいと思っている。ネギの事をこれからもよろしく頼む」

 

 

 あやかは体をプルプルと震わせている。

 

 

(やっやりましたわ!お兄様であるマギ先生にお許しを頂きましたわ!このあやか、今幸せの絶頂ですわぁぁぁぁぁぁ)

 

 

 

 

 

 数時間寝て、パッチリと目を覚ましたネギ。

 

 

「っは。僕何時の間に寝ちゃったんだろう」

「おうネギ、少し寝てスッキリしたか?」

「ネギ先生、よく眠れましたか?」

 

 

 顔色が良くなりつやつやとしたあやかが良く休めたかと聞いてきた。ネギと触れ合った事でかなり元気をもらったのだろ。

 

 

「さぁさぁネギ先生、次はどこに向かいましょうか?あやかは何処へでもついて行きますわ!」

「えっ?あっありがとうございますいいんちょさん」

 

 

 あやかは小太郎を強引に起して、学園祭周りを再開する。

 

 

「女と言うのは、恋をしたらどこまでも強くなろうとするのかね……」

(ネギ先生、このあやかは、ネギ先生のためならたとえ日の中水の中、一生ネギ先生について行きますわ!この恋は本気の本気ですわ!!)

 

 

 

 

 

 

 

…………だがあやかがネギについて行くと決めた事でこの2か月後、とんでもない事に巻き込まれることに、あやかは知る事も無かったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回あやかの気持ちが弟とかぶせて見てるのか、それともネギを異性と見ているのかをなるべく分かりやすく伝えようと思い、こういう回になりました。


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ちうちゃんの初挑戦

 麻帆良の図書館島にて、一般の学生には知られていない秘密のイベントが行われていた。

 その名も『麻帆良祭㊙コスプレコンテスト』。

 その会場に、千雨が可愛らしい格好でウンウンと唸っている。出ようか出ないかと迷っているようだ。そこに

 

 

「あっいたいた。ちさじゃなかった、ちうさーん!」

「おうちう。探したぜ」

「げえっ!?」

 

 

 千雨は少しの間固まるが、マギとネギの手を引っ張りあやかと小太郎から離れ、何故ここに居るのかを問い詰める。これはゲリラ的イベントで一般の生徒は誰も知らないはずだと。

 千雨の慌て具合に首を傾げるマギとネギ。

 

 

「いやお前が自分のホームページにここのイベントの事書いてたし」

「参加しようかしないか迷ってるって言う事も書いてましたよ」

「ってなんでアンタらが知ってるんだよ!?」

「さっきも言ったように俺とネギ、毎日お前の日記読ませてもらってるし」

「僕とお兄ちゃん、色々な人からパソコンの使い方を教えてもらいましたから、今じゃ自分達でチェックしてます」

 

 

 2人は吸収するスピードが早い。今では普通にパソコンを使う事が出来る。マギとネギが日記を毎日楽しく読んでると聞かされ、秘密の活動が簡単に特に最近気になってるマギにばれた事に恥ずかしくなる千雨。

 

 

「それで出るんですよね?コンテスト」

「えっそれはあたしは……」

「俺としては、千雨のコスプレを見たいだけどな」

 

 

 マギがコスプレを見たいと言い、千雨もそれで揺らいでしまう。そしてマギに手を引っ張られ、あやか達が居る場所まで戻る。

 戻ってみると、まき絵が居る。何でもネギの姿を見かけた様で、後をつけてきたようだ。彼女もネギの事が気になっているようだが、あやかよりもネギの事を弟のように見ているのが強いとマギは見ている。

 そのまき絵がコスプレコンテストとは何かを聞かれ、ネギが分かりやすく教えると、まき絵とあやかがコスプレコンテストに出る事になったのだ。

 

 

「しっかし、改めて人が多いな」

「うん。この人たちは仮装するのが大好きなんだね」

 

 

 マギとネギは大勢の人達がゲームやアニメの格好してるのを見て、彼らは本当にコスプレが好きだという思いが伝わる。

 

 

「あのマギさん。あたしはコンテストには出るつもりはないんだけど」

「え?何でだ?」

「あたしはこんなくだらないイベントに出ないで、ネットの中でコスプレできればいいんです」

 

 

 としぶっていると、あやかとまき絵が衣装に着替えて来た。と言っても恰好はあやかがナースで、まき絵はネコミミに体操着という格好だ。

 千雨は2人の恰好に憤慨して物申す。今回はキャラクターコスプレと言う事で、そう言ったコスプレはお門違いというのだ。

 キャラクターコスプレとはなんなのかを熱く語る千雨は、自身が持っている魔法少女ビブリオンなる作品の衣装を貸してあげる。

 ポーズを教えたりして、ご満悦の千雨。そんな千雨を見てクスリと笑うマギ。

 

 

「千雨がこんなにテンションが高い所を見るなんて、新鮮だな」

「はっ!あたしとしたことが、こんなみっともない所を」

 

 

 マギに自分が熱く語ってる所を見られてしまい、狼狽する千雨。

 

 

「そこまでコスプレを熱く語れるのに、なんで千雨は出ないんだ?」

「あたしはあの2人みたいに、美人じゃないし可愛くもない。普通の女子中学生です。あたしが出たって結果は見えています。リスクの高い勝負はしない主義なんです」

 

 

 だからほっといでください。と千雨は冷めた表情で言い切る。千雨は自身を卑下して見ている。それが彼女の生き方なのかもしれない。

 

 

「そうか?俺は千雨の事は可愛いと思うけどな。HPを抜きにしても、俺はお前の事は可愛いと言い切るぜ」

「……どうしてアンタはそう平気でそんな事を言えるんだよ」

 

 

 ポツリと千雨が呟いていると、マギが

 

 

「なぁ千雨、出てみないか?俺と一緒にさ」

「はあ!?マギさん、アンタコスプレやった事あるのかよ?」

「ない。でもたまにはリスクの高い勝負をやってみるって言うのも、案外うまく事が運ぶかもしれないぜ?」

 

 

 そう言いながら、半ば強引にマギは千雨と一緒にコスプレコンテストに出る事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 コンテストの壇上で、あやかとまき絵がパフォーマンスを行っている。小太郎は恥ずかしがらずに良く出来ると言っているが、逆に恥ずかしがると、客の方が恥ずかしくなると千雨はそう言う。

 

 

「しっかしコスプレって自分で着てみると、別の人になったみたいだ」

「なんであたしがこんな目に」

 

 

 黒い騎士の恰好をしたマギと、小悪魔の恰好をした千雨が立っている。千雨のコスプレはビブリオンのライバルでマギの黒騎士はその小悪魔を護る騎士の設定だ。

 

 

「なぁマギさん、あたしは眼鏡を取って人前に出られないんだよ。緊張しちゃって」

「大丈夫だ。俺が近くにいる」

 

 

 見れば千雨が震えているのが見える。マギはその震えを解こうと肩をそっと触れる。

 

 

『18番19番、長谷川千雨さんマギ・スプリングフィールドさん!キャラクターはビブリオン敵幹部『ビブリオンルーランルージュ』そしてルージュを護る黒騎士『シャドウナイト』どちらも衣装の完成度は高い!お手製ならかなりクオリティが高いです!』

 

 

 司会の進行に熱が入る。中には千雨がちうなんじゃないかと囁き始める人もちらほらといる。

 千雨は顔から冷や汗を大量に流し始める。顔が白くなり、パクパクと口を開くだけで喋れる様子ではない。

 パソコンの前ではいつでも堂々とちうを演じている千雨だが、人前では彼女は普通の少女なのだ。遂には目に涙を溜める。

 

 

(やっぱり千雨には無理があったのか?いくら俺が千雨の事を可愛いと思っても、千雨自身が……)

 

 

 これ以上千雨が恥ずかしがる姿を、観客に見せるわけにはいかない。マギは黙って、千雨を観客から隠す様に立つ。

 

 

「すまない千雨。お前に恥ずかしい思いをさせ―――――」

 

 

 観客の一人が可愛いと言う声を発した。そして次々に可愛いやらカッコイイなどの声が上がり、次の瞬間には拍手口笛ちうの名を叫び続けると言う大歓声となる。

 マギと千雨は目を丸くするが、司会の解説によると千雨のキャラコスプレは引っ込み思案の泣き虫キャラ。マギの黒騎士はそんな幹部を護る寡黙な騎士。マギや千雨の行動がキャラを演じていると見られたのだ。

 そしてあれよあれよとコンテストは進み、結果は満場一致でマギと千雨の優勝が決まった。

 優勝トロフィーを持ちながら、乾いた笑みを浮かべる千雨に、マギは

 

 

「リスクの高い勝負はしない。それはある意味普通の選択かもしれない。けど勇気をもって一歩を踏み出してみると、案外上手くいくときもあるものだ」

「あぁそう見たいだけど、こんな恥ずかしい思いは当分こりごりだからな……!」

 

 

 顔を赤くしながら、そっぽを向く千雨。

 

 

(でも人前に立つっていうのも、悪くないかもな。でも当分はマギさんが隣に立っているなら大丈夫そうだ)

 

 

 熱っぽい視線をマギに向ける。

 

 

「?どうした千雨」

「なっなんでもないです!」

(もう誤魔化すのは止めだ。あたしはマギさんの事を男として好きだ。その気持ちは偽りじゃない。ちうじゃなくて、千雨としてあんただけのアイドルになりたい)

 

 

 千雨はマギに対して、気になる男性として見ている。その恋が実るのかは分からない。

 

 

 

 

 

 千雨と別れ、まき絵の新体操を見終わると、また少し回ってみるマギ達。

 

 

「しっかし今日は丸1日を使ったな。体がくたくただ」

「そうですね。兄貴や大兄貴達は明日大会があるんだし、エヴァンジェリンの別荘を使った方がいいかもしれませんね」

「師匠に頼んで使わせてもらおう」

 

 

 何はともあれ、これで学園祭1日目が終了した。色々としっちゃかめっちゃかな所もあったが、丸く収まって良かった。

  そう思いながら、打ち上げの会場へと向かうマギ達であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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武道大会本選 開幕

イベントの鬼が倒せない。ライターが……
今回はかなり短いです。


 1日目の打ち上げが午前4時まで続くという、中学生の底なしの体力に戦慄を覚えたマギやネギ。

 2日目の朝6時半に武道大会の本選に出る選手は集合とらしい。

 そこでマギやネギ。小太郎にアスナに刹那つきそいでこのかは、エヴァンジェリンに頼み別荘を貸してもらった。

 1時間(別荘の中では1日)英気を養うのと、修業のおさらいをする。さらにエヴァンジェリンはネギに杖を使わなくても魔法を使える指輪を譲る。

 準備もすべて終了し、いざ龍宮神社へ……

 

 

 

 

 早朝6時半、参加選手の他に数多くの観客が集まっている。

 ネギはナギに似せようと、大きめのローブを着こみ、背中には何時もの杖を背負う。小太郎は学ラン姿。マギはラフな格好で出場する。

 

 

「ほんとはネギとは決勝で戦いたかったんやけどな。しゃあない、絶対勝てよ。俺は先に待ってるで」

「うん、できるだけ頑張るよ」

「いやネギ、そこは後から追いつく位……いや相手がタカミチだし仕方ないか」

 

 

 ネギと小太郎がスポーツドリンクを買いに行ってると、千雨がポツンと立っているのが見える。

 

 

「千雨、どうしてこんな朝早く」

「どうしてって、マギさんがあたしを誘ったんだろうが」

 

 

 そう言って、千雨は1枚のチケットをマギに見せる。チケットは武道大会のかなりいい場所のチケット。マギが千雨を無理矢理な形でコンテストに出場したお詫びとして誘ったのだ。

 

 

「どうせ暇だったからな。でもこんな朝早く起きるんじゃなかったよ」

「悪いな千雨、わざわざこんな早くに来てくれるなんて」

「まっマギさんが出るって言うから態々来たんだぞ!それよりも、この大会ネットの噂じゃかなり高レベルなんだろ?ネギ先生も出てるらしいけどほんとなのか?」

「確かに高レベルだな。下手したら……病院送りの奴が出るかも」

 

 

 本当に大丈夫なんだろうな……遠い目をするマギを見て、千雨はこの大会が常識の範囲なのかが気になってしょうがない。もっともその心配も数時間後にはその通りになるのだが

 

 

「とりあえず、怪我だけはしないでくれよマギさん」

「あぁ。んじゃ行ってくる」

 

 

 千雨に見送られ、選手控室に向かうマギである。

 

 

 

 

 選手控室にはマギを除いて、全員(エヴァは眠そう)集まっている。ネギとタカミチが何か話しているのが見える。

 

 

「ネギとタカミチは勝負前の掛合いか?まぁネギもタカミチもほどほどにしとけよ。魔法がばれるって事はないと思うけど」

「はは善処はするさ」

「僕は大怪我しないか心配……」

 

 

 と談笑をしていると、超を連れた和美が現れた。簡単なルール説明が始まる。要約すると

 

 

 ・15分1本勝負

 ・ダウン10(カウント)

 ・リングアウト10秒

 ・気絶ギブアップは負けとみなす

 ・時間内に決着がつかなかった場合は観客のメール投票にて判断する

 

 

「へへ!色々と本格的やないか。おもろくなってきたで」

「久しぶりに燃えてくるな」

「偶には童心に帰ってみるのも悪くはないかもね」

「僕はあんまり戦うのが得意じゃないから、お兄ちゃん達が羨ましいよ」

 

 

 そして30分後に本選が開始されるのである。

 

 

 

 

 

 龍宮神社にはこの大会を見ようと、観客で溢れかえっている。

 その観客たちは、口々にこの大会では気を使う達人が居るとかそう言う話でもちきりだ。どうやら予選を見た人たちが目撃談をしてその話でもちきりの様だ。

 

 

(くっだらねぇ。気を使うとか、少年漫画の読みすぎだろ。でも……マギさんなら使いこなせそうだな)

 

 

 自前のパソコンで情報を集めている千雨は、マギが腕から気の波動を出しているイメージを浮かべてる。まぁマギは気の波動は出せないが、その代わり色々な物を出す事が出来るのだが……

 色々な議論が飛び交う中、最初の試合が始まる。最初の試合、小太郎対愛衣である。観客たちは初戦が子供同士と言う事で、やらせなのか野次が飛び、女性は小太郎が可愛いと騒ぎ出す。

 が傍から見たら、小太郎は子供だが、そん所そこらの大人より実力は上なのはマギ達しかしらない事だ。

 そしてマギと高音が、試合を観戦している。

 

 

「それで俺を正すって、俺悪い事でもしたのか高音?」

「何を言ってるんですか!確かに昨日はマギさんは私と学園をパトロールをしていた時はしっかりとしていました。ですが夜では危うく魔法がばれそうになって反省したと思いきや、こんな怪しい大会に平気に出るなんて……そんな貴方を正すために私はこの大会に出たのです!」

(昨日はタイムマシンを使って時間を行ったり来たりしてたって言っても信じないだろうから、ここは黙っておくか)

「ですから私がこんな大会さっさと優勝して、賞金は寄付させていただきます!」

 

 

 高音は愛衣はアメリカの魔法学校に留学して、オールAを取った秀才で無詠唱も出来るとマギに説明しているが

 

 

「やれやれだぜ高音。愛衣が秀才かもしれないが、愛衣が小太郎に勝つと言う訳じゃないだろ?」

「むっどういう事ですか?愛衣があの子に負けるとでも?」

「さぁな。でも小太郎もあの歳でかなりの実力者だ。あまりこの大会を甘く見てると怪我するぜ」

 

 

 バトルフィールドでは、愛衣がパクティオカードからアーティファクトである箒を出して様子見をしている。が小太郎は一瞬で愛衣との間合いを詰めて、愛衣が防御の構えを取る前に、掌底の風圧で愛衣を吹き飛ばしてしまった。10m位は吹き飛んだ愛衣をあんぐりとして見る高音と、口笛を吹くマギ。

 愛衣はそのままフィールドアウトして、大きな水しぶきを上げた。

 

 

「わりぃな、先に待っとるってネギに言ったからな」

 

 

 小太郎がキメる中、和美がカウントを取るが愛衣が泳げない事が分かり、カッコつけた小太郎が愛衣を助ける。第1試合は小太郎の勝利だ。

 

 

「こういう事だ。この大会が一味違うって事が分かったんじゃないか?」

「そのようですね。ですが私はこの大会で必ず優勝します。私が試合で勝てば次戦うのはマギ先生、貴方です。覚悟していてください」

 

 

 言いたい事を終えると、高音は愛衣の元へ去っていった。

 真面目だなとマギはそう思いながら、小太郎の元へ向かう。

 

 

「少ししか試合をやってないが、お疲れさん。余裕そうだな」

「おぉマギ兄ちゃん。当たり前や、俺は女に遅れを取るつもりもないし、ましてや女を傷つけるつもりなんてないわ」

 

 

 サムズアップしながら、堂々と答える小太郎。女性を傷つけないと言っているのだから、案外夕映が言った事も何時かは気づくかもしれない。

 

 

「ネギ次はお前の番や。絶対勝てよ」

「うん、僕頑張るよ!」

 

 

 漸く覚悟が決まったネギ。そして穏やかな表情で、ネギを見ているタカミチにゆっくりと近づく。

 

 

「タカミチ。成長した僕の本気を見せてあげる」

「あぁ僕も楽しみだよネギ君。君の成長した姿を見る事が出きる」

 

 

 第2試合。ネギは超える壁の一つに挑むのである。

 

 

 

 

 

 



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ネギVSタカミチ  超えるべき壁

今回はネギとタカミチは原作通りの戦いなので、リングの外の会話をメインにしてみました。


 第1試合は小太郎が勝利をおさめ、第2試合はネギとタカミチの試合となる。

 大歓声の中、普通に試合会場に向かうタカミチと違い、ネギは緊張の余りロボットの様な固い動きだ。

 そんなネギをハラハラとした目で眺めるアスナ

 

 

「うぅ高畑先生の事も応援したいけど、ネギも凄く心配……ねぇマギさんネギは大丈夫かな?」

 

 

 アスナに聞かれたマギはう~んと唸りながら

 

 

「正直言うと、4:6の割合かな」

「それはどういう割合でござるか?」

 

 

 楓の問いにマギはこう答える。

 

 

「ネギが勝つに4、負けるに6。下手したら病院送りだな」

 

 

 ネギの勝利が低い事よりも病院送りと言う言葉に絶句するアスナ達。

 

 

「いやだってな、俺やネギでさえタカミチの実力を分かってないんだ。予選で見せた見えない攻撃の原理さえも分かってないし。迂闊に近づいたらまず負けるな」

 

 

 この武道大会の解説を行っている、ネギと予選で戦ったリーゼント頭の男、豪徳寺薫もまずは保った方がいいと実況の茶々丸にそう答えている。

 

 

「本気のタカミチに坊やが勝てる確率はゼロだ。まぁタカミチも今回は坊やの成長を見たいと言う事で本気の半分を出すかどうかだな」

「おうエヴァ。エヴァはタカミチの実力を知ってるのか?」

 

 

 急に背後に現れたエヴァンジェリンにタカミチの実力がどれくらいかを尋ねると、エヴァンジェリンは

 

 

「アイツの実力も化け物クラスだ。といってもナギには劣るがな」

「成程な。一応コタローと一緒にあごは護れって強く言っておいたが、それが役に立つかどうか」

 

 

 そうこう言ってる間にネギとタカミチの試合が始まる。まずは魔力で身体能力を上昇させる『戦いの歌』を発動、そして体を風の楯で覆う『風楯』。そしてネギは一直線に突っ込む。ネギの姿が一瞬消えた事に観客は騒ぎ出す。

 パパパパパンと破裂したような音が会場に響くが、ネギがタカミチの背後に回っている。

 

 

「瞬動術!ネギの奴、この土壇場で成功させた!」

 

 

 小太郎はネギに魔力や気を足に集中し、瞬間的に移動する技。マギや小太郎は扱う事が出来るが、ネギは修業の間は成功する事が出来なかった。が本番で扱う事が出来た。そう言う所がネギの優秀な所だろう。

 ネギが瞬動術で背後に回ったのはいい選択だ。タカミチは今使った見えない攻撃ではなく、魔力や気を纏ったパンチを放つ。至近距離では使い技の様だ。

 ネギは2回目の瞬動術を使い回避。連続で瞬動術を使った事に、小太郎やカモが下を巻く。

 ネギは間合いを離れない様にと、瞬時に攻撃に移る。古菲に習った中国拳法を使い押して押しまくる。更に雷の矢を拳に乗せて威力を倍増させた技を駆使する。

 

 

「そうだ坊や。恐れていればそれだけで隙も出るし、間合いを取れば詰められジリ貧なるだけだ。わずかな勇気を持って攻め続けろ」

 

 

 エヴァンジェリンは頷きながら、ネギの戦い方に満足している。驚いた表情を見せているタカミチ、ネギは更に距離を詰める。

 ネギの猛攻にタカミチは手も足も出ない。防戦一方だ

 

 

「どうやらネギが使ってる中国拳法はタカミチにとっては相性はあまり良くないみたいだな」

「どういうことマギさん?」

「中国拳法は多種多様な技があって、やりにくい方だ。それにエヴァの修行のおかげで、技の強さや速さが俺と戦った時よりも段違いだ。そしてネギはまだ子供で、タカミチとの身長差はかなりある。小さい相手とはかなり戦いにくいってわけだ」

「成程……」

 

 

 マギの考察にアスナは納得したようだ。現に瞬動術で虚を突かれたのか、ネギのペースで戦いは進んでいる。

 更にネギは無詠唱で雷の矢3本を出し集束させる。そして集束された雷の矢3本を、拳に乗せてタカミチを殴り飛ばす。

 見事に直撃したのか、タカミチは吹き飛びリングアウトした。あまりの光景に、呆然とする観客だが次には大歓声を上げる。

 

 

「凄いなあの技、ネギの必殺技か?」

「俺っちと古菲の嬢ちゃんが命名した技『雷華崩拳』ですぜ!今のネギの兄貴の中では火力の高い技の一つです」

「あの技を完璧に使いこなすなんて、我が弟子は成長したアル」

(カモや古菲には悪いが、タカミチがこんな簡単にやられるとは思えない。それはネギもそう思ってるはずだ。これで決められなかったのが痛いな)

 

 

 マギの思った通り、煙が晴れると、ほぼ無傷のタカミチが湖の上を歩いている。距離を大きく開けられてしまった。これはネギのペースが崩されてしまった事を意味する。

 タカミチが間合いを詰め、ネギも遅れて接近する。バトルリングを縦横無尽に駆けながら、高速の殴り合いをする。が先程とは違いタカミチも攻めている所だ。

 タカミチがネギの一瞬の隙を突いて蹴り飛ばす。ネギは受け身を取り素早く起き上がるが、距離が離されたせいで、タカミチからの見えない攻撃を何とか防ぐネギ。

 解説の豪徳寺もタカミチの技の正体に気づいたようだ。タカミチが使っているのは、居合剣ならぬ居合拳。ポケットを鞘代わりにしてパンチを繰り出しているのだ。

 

 

「達人になれば剣の刀身が見えない程の斬撃を繰り出せると聞いたが、タカミチの場合は目にも止まらぬパンチと言う事か、これは防ぎようも無いな」

「ネギ……」

 

 タカミチの居合拳をじっくりと観察するマギと、ネギを見てグッと手を強く握っているアスナ。ネギも何とか居合拳を防ごうとするが、見えない拳を避けたり防ぐことが出来ず、紙一重に避けるか防ぐかしか出来ない。それならさっきと同じように瞬動術でと瞬動術を使うが、タカミチも瞬動術の弱点を知っているようで、足を引っかけられ、転ばされてしまう。しかもタカミチも瞬動術を扱えるようでネギの背後に回り、居合拳を繰り出す。

 形勢逆転、一気にネギが不利になっていく。

 タカミチの雰囲気が少し変わる。魔力と気がタカミチの周りで渦巻いているようだ。

 

 

「どうやらタカミチの奴、あれを使うようだな」

「あぁ……ネギの勝率が2割、いや下手したら1割を下回るかもしれない」

 

 

 マギとエヴァンジェリンは、タカミチが何をするのか分かっているようだ。左腕に魔力、右腕に気。そしてその2つを合成。瞬間、タカミチの魔力と気が数倍に膨れ上がる。

 咸卦法。マギが時偶に使っている。あの技である。

 タカミチに何か言われたのか、それとも何か凄い力を感じ取ったのか、ネギは大きく後退する。次の瞬間ドゴォンという比べ物にならない轟音がリングの床が陥没し砕け散る。

 余りの威力に、ネギや観客は絶句してしまう。

 

 

「咸卦法、俺が使っているあれを教えてくれたのは、他でもないあのタカミチだ」

「そうなの!?と言う事はマギさんが使ってるよりも、高畑先生の方が上……」

「具体的にはどのくらい上なんや?」

「例えるなら、俺が最近読んだ漫画で例えてみるか。俺の咸卦法が界〇拳3倍か4倍だとするなら、タカミチのは10倍だと考えた方がいい。タカミチは魔法が使えないからな。咸卦法を極めたと言ってたし」

(タカミチが咸卦法を使ったと言う事は、少なからず本気を出したって事だ。ネギの奴もタカミチの本気の1部を見て戦意を失ってるようだな。これがどう転ぶか……)

 

 

 マギのDG例えに、読んだことのある小太郎は苦々しい表情を浮かべる。

 タカミチは轟音が鳴り響く“超”居合拳を連続で使用する。ネギは攻撃が直撃しない様に逃げる躱す。一発でも当たれば無事では済まない。

 

 

「どっどうすんのよ!?高畑先生がこんなに強いなんてアタシ聞いた事ないわよ!」

「落ち着きぃアスナの姉ちゃん!どんな技にでも弱点はあるんや!」

 

 

 小太郎の言う通り、先程から使ってる強力な居合拳は一発一発が大きい反面、隙も大きいし動作も丸分かり。近づけさえすれば何とかなる。それにタカミチは観客に被害が及ばない様に飛んで斜めに打ち込んでいる。チャンスと見てもいいかもしれない。

 がしかし……

 

 

「普通の居合拳も混ぜて使ってるから、強力な居合拳の弱点も護っているな」

 

 

 時折普通の居合拳を使い、隙をつくらないようにするタカミチ。

 ネギは瞬動術を使い背後に回る、同じ戦法を繰り返すが、タカミチ相手にそんな手は通用しない。むしろタカミチの方が上手な瞬動術を使われてしまい、背後に回り超居合拳を繰り出す。

 一方的な試合展開に、観客も所々でタカミチの攻撃がやり過ぎだと言う声が上がる。

 遂にはネギの上空から直撃コースの超居合拳を繰り出した。ネギは風の障壁で防ぐが、完全に隙が出来てしまう。

 風の障壁は連続で使用する事が出来ない。それを知っているタカミチはネギの腹に超居合拳を。腹を殴られ血反吐を吐くネギ。

 そして更に超居合拳、ネギが辛うじて防ぐが此れは囮、本命はネギが防御を終えた隙を突く、超居合拳。防ぐことも出来なかったネギはリングに沈んだ。

 

 

「ねっネギィ!!」

 

 

 リングに沈んだネギを見て悲鳴を上げるアスナ。古菲や小太郎に楓は少しだけだが顔を青くする。エヴァンジェリンは少しつまらなそうに鼻を鳴らした。

 レフリーをしている和美もネギのダメージ具合を見て、勝手にタカミチを勝利させる。

 この光景を見て、やれやれだぜ……と呟いたマギは

 

 

「おいネギ、情けない奴だなお前は。タカミチが少し本気を出しただけで怖気ついちまって、だからお前は戦いに向いてない弱虫なんだ」

「マギさん!アンタ何を言って……!」

「お前は黙っていろ神楽坂明日菜」

 

 

 怒鳴っている訳でもなく、会場に響くマギの声。逃げながらもタカミチに立ち向かったネギに対して労いの言葉ではなく、冷たい言葉だ。周りの観客の目もくれずにマギは更に

 

 

「お前はクソ親父を越えるためにこの大会に出たんだろ?だったらタカミチ相手に無様にやられてるんじゃあねえよ。中途半端な覚悟ならさっさとギブアップしろ。俺がさっさと優勝するからよ……それが嫌ならさっさと立ちあがれ」

 

 

 マギに対するブーイングも気にする事無く、マギはネギを煽る。だがそれはネギに対して失望したからではない。ネギにもう一度立ち上がってもらいたいからだ。

 

 

「マギさんの言う通りよ!頑張りなさいよネギ!」

「俺以外に負けるなんて許さないでネギ!」

「頑張るアルネギ坊主!」

 

 

 アスナが小太郎が古菲がそして観客がネギを応援する。その応援に応えるかのように、ゆっくりと立ち上がるネギ。

 考えがあるのか、無詠唱で光の矢を出していくネギ。光の矢を出したままタカミチに攻撃を繰り出す。7本8本9本と魔法の矢を出したが又超居合拳を喰らってしまいリングアウトする。

 

 

「ネギの奴!またアホみたいに特攻して!」

「いやネギのあの目は何か考えがある。そうじゃなきゃさっきと同じような事はしない」

 

 

 マギの言う通り、湖に沈んだネギが水を吹き飛ばしながらリングに復帰。今度は雷の矢9本を周りに漂わせている。

 

 

「タカミチ!最後の勝負だ!」

 

 

 タカミチを指差しながら最後だと宣言する。

 

 

「ふっいいだろうネギ君!受けて立とうその勝負!次が最後の一撃だ!」

 

 

 タカミチも勝負に乗った。そろそろ試合の15分に近づいている。この最後の一撃が勝負を決めるだろう。タカミチの居合拳の射程範囲に居る観客は急いで避難する。

 

 

「瞬動術! 魔法の射手 雷9矢!!」

「豪殺居合拳!!」

 

 

 全身に雷の矢を纏ったネギの特攻。タカミチの今までにない最大の居合拳がぶつかり合う。

 

 

「拳じゃなくて全体に雷の矢を纏っての特攻!兄貴考えましたね!」

「けどあれじゃネギの奴が先にバテルで!」

「いやまだアイツは手を残してる」

 

 

 ネギはタカミチの豪殺居合拳とぶつかる前に、風の障壁を展開。特攻の勢いを消すことなく、タカミチに突っ込むネギ。

 特攻したネギが、タカミチの体に練り込まれる。ネギの体当たりが直撃した瞬間、煙がリングを包む。

 

 

「……いけネギ。ぶちかませ」

 

 

 マギはネギがタカミチとの距離を零距離に詰めているのを見た。

 

 

「桜華崩拳!!」

 

 

 光を纏ったネギの拳が、タカミチに直撃する。強力な一撃によりリングがさらに破壊され、爆風が舞う。

 

 

「ネギの奴何をやったんや!?」

「遅延呪文。言葉の通り呪文を遅らせて発動させる事だ。光の矢を吹き飛ばされる直前に、もう拳に取り込んでいたようだ。特攻してタカミチが怯んでる隙に開放したのだろう」

 

 

 ギリギリの戦いでこんな事が出来るとは……。小太郎に解説しながらそんな事を呟いたマギである。

 ネギの最大の必殺技『桜華崩拳』を喰らっても、なお起き上がろうとするタカミチ。これで立ちあがったらメールによる投票に委ねられる。

 が満足そうに笑ったタカミチは

 

 

「君の勝ちだネギ君」

 

 

 ドサっと大きく倒れ込んだ。倒れ込んだのと同時に10カウントが鳴り響く。

 この第2試合、勝者はネギに決定した。

 

 

「ネギ!」

「兄貴!」

「よっしゃあネギ!よおやったで!!」

 

 

 会場はネギの勝利を称える拍手喝采の大歓声だ。マギも小さくだが拍手をする。

 

 

「どうだマギ。改めて聞くが坊やが勝つと本当に思っていたか?」

「そうだな……俺はネギの兄貴なんだし、弟が勝利すると信じてるのが兄貴として当然の事だと、そう思ったさ」

 

 

 アスナと小太郎たちに揉みくちゃにされているネギを見て、微笑を浮かべるマギである。

 

 

「……フフ。あのタカミチに勝つとは、ネギ君は大きく成長しているようですね。もし彼と決勝で戦う事になったら面白くなるでしょうね」

 

 

ニコニコと笑みを浮かべているクウネル・サンダースは、ネギの成長を喜んでいるのだった。

 

 

 

 

 

 




次回はオリジナルのアスナとエヴァの戦いです。


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アスナとエヴァンジェリン 心に傷を持つもの

ポケモンGOが面白すぎる。
家でパソコンやってるよりも外に出る事の方が多くなるかもしれない
けど歩きスマホは気を付けようと思います。
今回もオリジナルですが、原作に似たような感じにしようと頑張りました
それではどうぞ


「まったくもぉ。如何してアンタはそうやって無茶ばっかするのよ」

「あうぅぅ。すみませんアスナさん」

 

 

 無茶をしてボロボロなネギに呆れているアスナ。ネギはアスナに呆れられてシュンとしている。アスナは溜息を吐くと、優しくネギを抱きしめる。

 

 

「でも頑張ったわね。カッコよかったわよ」

「えっ?あのその……ありがとうございます」

 

 

 抱きしめられたネギは頬を赤く染める。そんな光景を微笑ましく見ているマギや刹那。ニヤニヤニマニマと見ているカモや小太郎。マギ達に見られていると気づいたアスナは、バッとネギを離す。

 

 

「いっ今言ったようにあんまり無茶するんじゃないわよ!次無理したら許さないから!」

「はい分かりました」

 

 

 と其処へ和美がやってきた。

 

 

「ネギ君お疲れ様。一時はどうなるかと思ったけど無事に勝てて良かったさね。とそれと明日菜とエヴァンジェリンは次の試合なんだけど、さっきまでの試合でボロボロになったリングを急いで復旧するから、少し時間がかかるかもだから」

「あ、うん分かったわ」

「ふん」

 

 

 和美の報告を聞いて、アスナとエヴァンジェリンは時間がまだ余っているが、余裕を持つために衣裳部屋で着替える事にする。

 

 

「アスナさん、師匠。どちらも頑張ってください。それと出来る限り怪我はしないように……」

「分かったわよ。と言うか、ボロボロのアンタに言われたくないわよ」

「エヴァも程々にな。あんまり張り切り過ぎて暴れ過ぎんなよ」

「お前は私をなんだと思ってるんだ」

 

 

 ネギとマギに声援を送られながら、アスナとエヴァンジェリンは衣装室へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、ネギは自分の事をちっとも考えてないで。少しは自分の事を大切にしなさいよ……」

 

 

 衣装に着替えながら、アスナは呟く。そんなアスナを見てエヴァンジェリンは

 

 

「なんだ神楽坂明日菜、タカミチじゃなくて坊やに鞍替えしたのか?」

「ちっ違うわよ!アタシは今でも高畑先生の事の方が好きなのよ!」

 

 

 エヴァンジェリンがニヤニヤとからかい、アスナが思わずムキになって怒鳴り返す。

 怒鳴るアスナだが、ただ……と急にしぼんで

 

 

「心配なのよ。ネギは、アイツは何時も一人で突っ走って無茶して、傷ついて……それも全部、いなくなったお父さんに追いつくまで。だからこれ以上馬鹿やらないためにも、アタシはネギを止めなくちゃならない」

 

 

 アスナの独白を聞いて、にやけていたエヴァンジェリンは呆れたような顔をしながら

 

 

「神楽坂明日菜、お前は坊やを普通の子供して見ているのか?そうだとしたら、お前の頭の中は随分とお花畑だな」

「むっ、どういう事よエヴァちゃん」

「逆に聞くが、普通の子供があんなに強力な魔法が使えるか?手加減されてもらったからと言ってタカミチに勝てると思うか?マギだってそうだ。あの歳で私が編み出した闇の魔法をほぼ使いこなしてるんだ。ハッキリ言ってあの兄弟は普通じゃない。異常だ」

「いっ異常って……」

 

 

 言い包められて黙るアスナを無視して、エヴァンジェリンは話を続ける。

 

 

「マギはナギを一発ぶん殴る為に、青春の殆どを費やした。坊やは少しでもナギに追いつこうとして分不相応な努力を続けている。どちらも偶に周りが見えていない時がある。だからマギや坊やは支えてあげないといけない……と言ってもあんまりにも馬鹿な事をしようとした時には叩いてでも止めるがな」

「ちょ!エヴァちゃん、さっきアタシの止めるって言う事に対して強めに否定してきたのに、自分はいいの!?」

「だからお前はアホなんだ。私が強いからに言えるんだ。誰かを止める時はそいつよりも強くなければいけないのが当たり前だ。腕っぷしも、止めようとする思いもだ。ハッキリ言えば、坊やが本気を出せばお前なんか秒殺だぞ秒殺。少しは現実を見て物を言え」

「ちょっと!さっきから何よその言い方!そんなのやってみなきゃ……」

「やらなくても分かる。魔法世界(こっちの世界)に最近片足を突っ込んだ小娘が生意気な口をきくんじゃあない。貴様が思っている以上に魔法世界は甘い場所じゃない。実力も無い奴が綺麗事をほざいていたら、直ぐに呑まれるぞ。魔法世界の闇に」

 

 

 エヴァンジェリンの凄味のある言い方に、アスナは何も言えない。

 

 

「この試合で思い知らせてやろう。お前の坊やを止めると言う覚悟が、どんなに薄っぺらいものなのか。現実というものを見せてやろう」

「……上等よ。アタシがどれくらい成長したのかかを、エヴァちゃんに見せてやるわよ。エヴァちゃんと初めて戦った時と同じだと思わないことね!」

 

 

 エヴァンジェリンとアスナの間で火花が飛び散るが、不敵な笑みを浮かべるエヴァンジェリンが

 

 

「精々この私相手に足掻いてみろ。あぁそれと……いつまでそんな格好でいるんだ?」

「え?……っ!!?」

 

 

 アスナは話すのに夢中になって、着替える手を止めてしまった。今のアスナの姿はファンシーな下着姿である。エヴァンジェリンは黒ゴスロリに着替え終わっている。

 バタつきながら慌てて着替えるアスナを一瞥して、エヴァンジェリンは衣装室の外に出る。

 

 

「神楽坂明日菜。お前のような、自分の大切なものを失った事のないのに綺麗事を言うのが、私は大嫌いだ」

 

 

 吐き捨てる形で呟いたエヴァンジェリンは衣装室を後にする。

 

 

 

 

 

 メイド服姿に着替えたアスナ。華やかな衣装に対して、表情は少しピリピリしている様子だ。

 

 

「あのアスナさん、どうしたんですか?また僕アスナさんに何か……」

「なんでもないわよ」

 

 

 ネギに対してもそっけない態度を取り、アスナの周りで気まずい空気が流れている。

 

 

「アスナに何かしたのかエヴァ?」

「別に何もしていないさ。ただお前の考えが甘いと言っただけさ」

 

 

 マギが尋ねると、それだけしか答えないエヴァンジェリン。マギは追及などもせずそっかと納得する。

 

 

「それにしても、アスナの相手がエヴァとはな。最近刹那が剣の師になって色々と教えてもらって成長したと聞いたが、今のエヴァンジェリンに勝てるかと言ったら難しいだろうな」

「フフ、それはどうでしょうか。そうとは限りませんよ」

 

 

 マギが2人の試合の予想を呟いていると、背後からマギの予想に待ったをかける声が。振り返ると、そこには白ローブ姿の、にこやかな表情を浮かべているクウネル・サンダースが立っている。

 

 

「アンタ……」

「え?誰?」

「なっ!お前がどうしてこんな所に!?」

 

 

 マギは急に背後に現れた事に少なからずビックリし、アスナは見知らぬ男が現れた事に戸惑う。エヴァンジェリンはクウネルの事は知っているようだが、麻帆良に居る事を知らなかった様だ。

 クウネルはエヴァンジェリンの問い詰めをスルーして、アスナに対して親しげに話し始める。彼はアスナの子供の時の事を知っているようだ。がアスナ自身はクウネルに会った記憶がない様だ。白ローブ姿の男忘れる事はなさそうだが。

 話は戻り、アスナにアドバイスを送る。自分を無にする。何も考えずにボーっとすれば、アスナもタカミチのような力を出せるとそう教える。

 

 

(何でだろう。こんな胡散臭い人の事の言う事なんか聞くはずないのに。それにこの人、どっかで見た事が……)

 

 

 アスナはどこで見たか思い出そうとするが、全く思えだせずにモヤモヤする。

 モヤモヤとしながらもエヴァンジェリンに対峙するアスナ。和美が試合のゴングを鳴らし、アスナとエヴァンジェリンの試合が始まる。

 

 

(アイツが神楽坂明日菜の事を知ってるのが気がかりだが、今はさっさと終わらせてしまおう)

 

 

 エヴァンジェリンは魔力を腕に集中させる。狙うはアスナの水月(鳩尾)、一発でKOさせるつもりだ。魔力で一瞬の内に踏み込み、アスナを殴ろうとするが

 

 

「心を無に、からっぽに……」

 

 

 なんて呟いていたアスナが、無意識にハリセンバージョンのハマノツルギでエヴァンジェリンの攻撃を防いだ。エヴァンジェリン、そして無意識に防いだアスナも驚く。

 

 

「へ?アタシの体勝手に動いてた?」

「このっ!お前は本能で動く動物か神楽坂明日菜!」

 

 

 エヴァンジェリンはテコンドーなどのラッシュで攻め込むが、アスナは全て防ぎきる。それこそエヴァンジェリンの言う通り本能で動いているようだった。

 

 

「すっすごい!アスナさんが師匠相手にあれほど戦えるなんて!」

「明日菜さんの師として色々と教えてきましたが、すごい成長です」

 

 

 ネギと刹那はエヴァンジェリンと戦えているアスナに驚いているが、マギは別の事を考えていた。

 

 

(いやアスナがエヴァ相手に此処まで粘れるなんて少しおかしい。あのクウネルって奴がアスナに何かしたのか?)

 

 

 マギのなにかしたのかと言う考えは少し外れており、今もクウネルは空っぽになったアスナに対して念話で指示している。

 優勢と言う訳ではないが、エヴァンジェリンに食いつくアスナであるが

 

 

「あぇ?」

 

 

 ストンと急に力が弱くなって来る感覚が来る。

 

 

(どうやらガス欠のようですね。まぁ初めてなので仕方ありません)

「え?あのアタシさっきから何をやってたか……」

(さぁさっさとやってみましょう。タカミチと同じことをしてください)

「高畑先生と同じ?えっと左手に魔力。右手に気。それを合わして……」

 

 

 アスナの体中から力が湧いてくるのを感じる。タカミチと同じ咸卦法を使ったのだ。

 

 

「な!?神楽坂明日菜!お前がどうしてその力を使えるんだ!?」

「アタシも分からないわよ!言われた通りにやったら……」

(エヴァンジェリンが動揺して隙を見せてますね。軽く小突いて見ますか)

 

 

 アスナは隙を見せているエヴァンジェリンに突っ込む。エヴァンジェリンは慌てて魔法障壁を張るが、アスナに対しては悪手になる。

 スパァン!といい音がエヴァンジェリンの頭から聞こえ、エヴァンジェリンは頭を押さえ縮こまる。アスナはなぜか魔法を無力化してしまう。

 

 

(エヴァンジェリンにはかなり効いたみたいですね。ここでさらに畳み掛けた方がいいでしょう)

「ちょっちょっと待ってクウネルさん!これ以上の助言は結構です!」

 

 

 アスナはクウネルに助言を止めるように訴えかける。

 

 

(それは何故ですか?)

「アタシは自分の力で、自分が成長したところをネギに見せてあげたいんです!ネギと肩を合わせて戦えるところを見せてあげたいんです!」

(そうですか。ですが、そんな考えではエヴァンジェリンには勝てません。そのひた向きな真面目さは評価しますが、それではネギ君には追いつけませんし、彼にあの様な惨劇をまた見せるかもしれません)

 

 

 あの惨劇と聞いて、アスナは雪の日の襲撃を思い出す。クウネルとの念話に夢中になって、エヴァンジェリンが回し蹴りを繰り出してきた。

 慌てて防ぐアスナだが、さっきまでのキレがない。クウネルの助言が無くなり、アスナは段々と劣勢に持ち込まれる。クウネルは淡々と話し続ける。

 

 

(確かにネギ君には危ない所がある……あのままにしていれば、あの子をも(・・)失うことになるやもしれませんよ)

 

 

 ネギをも失う。アスナは前にも誰か大切な者を失った事があったのか。その時、アスナに強烈な頭痛が走る。

 ネギやマギと初めて会った時も起こった頭痛。だが今回のは違う。頭痛の中に何か大切な事が思い出しそうだ。アスナの頭の中に記憶が蘇る。封じ込めていた辛い記憶が。

 

 

『どうした嬢ちゃん。涙を見せるなんて初めてじゃねぇか。初めての涙がこんなのを見せるなんて悪いな』

『師匠……』

『タカミチ、嬢ちゃんを連れてさっさと行け。ここは俺が何とかする……と言っても俺も永くはないけどな』

『やだ、やだよ。ナギもいなくなった……それなのにおじさんまで……』

『泣くなって嬢ちゃん。せっかくの美人が台無しだぜ。ふっ……幸せになりな嬢ちゃん。アンタにはその権利がある』

『やだ……ダメ!ガトーさん!いなくなっちゃやだ!』

 

 

 血だらけで永くは持ちそうもない中年の男、まだ若いタカミチ。そして……その中年の男に涙を浮かべ叫んでいるアスナ。

 その記憶がフラッシュバックし、アスナの中で何かが切れた。

 ブワァッ!!アスナの魔力と気が暴風のように吹き荒れ、エヴァンジェリンを吹き飛ばす。

 何とか体制を持ち直すが、エヴァンジェリンが見た光景は、ハマノツルギがハリセンではなく、大剣の刀身へと変わっていた。しかもアスナの目に光は無く、意識が飛んでいるようだ。

 観客が呆然としている中、アスナがハマノツルギを軽く振っただけで、リングの柱が切り裂かれた。

 

 

(なんだこの力は!?さっきまでは段違い、神楽坂明日菜にこれほどの力が元々備わっていたのか!?)

 

 

 エヴァンジェリンが驚いている間に、アスナはネギと同じように瞬動術(無意識)を使い、エヴァンジェリンの背後に回る。そしてそのままハマノツルギを振り下ろした。

 魔法障壁を張ろうとするエヴァンジェリンだが、アスナのハマノツルギには魔法を無力化する力がある事を思い出した。このままではエヴァンジェリンが斬られる。観客の方から悲鳴が上がる。

 

 

(まさかこんな小娘に斬られるとはな。この私も学園生活が楽しくなりだして腑抜けてしまったのかもな)

 

 

 自分自身に呆れてフッと笑みを浮かべるエヴァンジェリン。さっさと斬られるかと思ったその時、金属と金属がぶつかり合う甲高い音が会場に響いた。

 唖然とするエヴァンジェリン。何故ならハマノツルギを仕込み杖で防いでいる、マギが自分の目の間に居るからだ。

 

 

「えっ?マギなんでお前が?」

 

 

 エヴァンジェリンはマギが目の前に居て、自分を助けた事に困惑していたがマギが

 

 

「エヴァ先に言っておく、わりぃ。あと耳塞いでくれ」

 

 

 マギに言われた通りにエヴァンジェリンは耳を塞ぐと

 

 

「すぅぅぅぅ……アスナァッ!!!」

 

 

 マギは大声でアスナの名を叫んだ。余りの声量と声の響きで観客の殆どが耳を塞いだり目を回している。

 耳を塞ぐこともしなかったアスナは、ショック状態になったのかそのまま気を失ってしまった。

 

 

「エヴァ、大丈夫か?」

 

 

 仕込み杖の刃をしまいながら、大丈夫かと尋ねるマギ。

 

 

「あっあぁ。でも私は不死なんだから別に気にしなくても大丈夫なんだぞ?」

「例え大丈夫でも、エヴァが傷付く所なんて見たくないからな。気が付いたら体が勝手に動いてた」

 

 

 マギの発言に顔を赤くするエヴァンジェリン。と和美が倒れているアスナへと近づく。

 アスナのハマノツルギが真剣だと言う事で、凶器を使ったアスナの反則負けとなった。

 アスナの反則負けで勝利したエヴァンジェリンは、納得いかないことよりも、未だにガトーおじさんと涙を流しながら呟き続ける、気を失っているアスナを見る。

 

 

(お前も何かしら大切なものを失ったのだな。神楽坂明日菜いや神楽坂。だが私はまだお前を認めたわけじゃないからな)

 

 

 啖呵に運ばれるアスナを見てそんな事を思ったエヴァンジェリンである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エヴァンジェリンは気に入らない奴はフルネーム
少し気になる奴は名字呼び
気に入った奴は下の名で呼ぶかあだ名で呼びます。
アスナは気に入らない奴から脱却したもようです


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加速する武道大会

活動報告を新しく載せました。
恐らく納得しない人もいると思いますが
自分はどんな事があっても完結まで頑張っていくつもりもなので
どうかよろしくお願いします。


 アスナとエヴァンジェリンの試合は、アスナの暴走によりエヴァンジェリンの勝ちとなる。

 そのアスナは気を失って保健室で寝ている。ネギとカモにプールスは付き添いとしてアスナが起き上がるのを待っている。

 そしてマギとエヴァンジェリンは、アスナが暴走した原因でもあるクウネルに問い詰めるために、彼と対峙している。

 

 

「私に何を聞きたいのですか?と言っても貴方達が何を聞きたいのかは分かっています」

「クウネルさん、アンタはアスナの何を知ってるんだ?あの時のアスナは尋常じゃなかった」

「神楽坂のあの力の膨れ上がりは今迄の比ではないぞ。アイツが他の生徒と何処か違うのは明らかだ」

 

 

 マギとエヴァンジェリンの問いにクウネルは数秒間黙った後、すみませんと静かに謝る。

 

 

「アスナさんの事はまだ話す事が出来ません。恐らく彼女の過去を知っているタカミチでさえ、話す事を躊躇うでしょう」

「タカミチも、アスナの過去を知ってるのか……」

「これだけは言っておきましょう。彼女はつらい過去を捨て、優しい暖かな日常を手に入れたと。ネギ君やマギ君に出会った事で彼女はもう一度、つらい過去を見つめ直す事になるでしょう。この一言で片づけるのもあれですが、これも運命……というものでしょうかね」

 

 

 クウネルはこれ以上アスナに関する事は話すつもりはないのだろう。

 

 

「アスナさんの事は言えませんが、マギ君やネギ君。そしてエヴァンジェリンに有力な情報を教えましょう」

「有力な情報だと?」

「はい……ナギの行方についてです」

「「っ!」」

 

 

 マギとエヴァンジェリンは息をのんだ。自分達が今一番知りたいと思っていたナギの情報、それを目の前のクウネルが知っていると言う事だ。

 

 

「どうしてお前が知っている!?教えろアルビレオ・イマ!」

 

 

 エヴァンジェリンはクウネルではなく、本名で呼ぶ。呼んだのだが……

 

 

「……」

 

 

 クウネルは黙って答えない。

 

 

「おいっ!アルビレオ!!」

「……」

 

 

 エヴァンジェリンは再度名を呼ぶが、だんまりを決め込んでいる。

 

 

「~~~っ!おいクウネル!」

「はい、何ですかキティ?」

「うがぁっ!その名で呼ぶな貴様ぁっ!」

 

 

 早めに折れたエヴァンジェリンがアルビレオではなく、クウネルの方で呼ぶと、普通に答えた。どうやらクウネルって言う名が結構気に入ってるのだろう。エヴァンジェリンの方はキティと言う呼ばれ方が嫌なのか、クウネルの首を絞める。かわいいのになとマギは思ったが黙っている。今のエヴァンジェリンに言ったら何をされるか分からないからだ。

 エヴァンジェリンに首を絞められながらも笑っているクウネルだが、マギの方を見ながら

 

 

「ナギの情報をタダで教えると言うのも、貴方達のためにはならないでしょう。条件としてはまず一つ、この武道大会にて私と戦い、勝利するか私を満足させたら教えましょう」

「そんな事で教えてくれるのか?」

「簡単に聞こえるかもしれませんが、私に勝つことが出来なかったり、私を満足させることが出来なければ、ナギの行方を知っても見つけられるどころか、貴方が命を落とすかもしれません」

「……」

 

 

 クウネルの言った事に何も言えないマギ

 

 

「私とマギ君は同じブロックですからね、準決勝では当たる事になるでしょう」

「いや俺が準決勝まで上がれるなんて、簡単に言うけど……」

「マギ君が準決勝まで上がれると私は信じていますからね。それじゃあ私はこれで、楽しみにしていますよ」

 

 

 それだけ言うとクウネルは目の前で消えてしまった。

 

 

「何というか、読めない人だな」

「だがアイツの実力は本物だ。あんな性格だが、えげつない力を持ってるから気を付けろ」

「あぁ油断なんかするつもりはないさ……って先に楓との試合があるしそっちに集中しないとな」

 

 

 と話していると

 

 

「マギさん、エヴァちゃん」

 

 

 目を覚ましたアスナがネギと一緒に此方に歩いてきた。

 

 

「そのっさっきの試合、ごめんなさい。アタシ途中からの記憶がなくって、気が付いたらベッドの上だったから」

 

 

 頭を下げて来たアスナに対して、鼻で笑ったエヴァンジェリン

 

 

「だから言っただろう神楽坂、覚悟が足りないから力に呑まれるんだ。そんなので坊やを護れるかな?精々力を見誤ないようにな」

 

 

 お前のおかげで楽々2回戦進出だと言いながら去っていった。事実なので何も言えないアスナだが、その目には悔しさが現れている。

 

 

「そこまで気負うなよアスナ、今回は駄目だったかもしれないが、まだ次があるんだからその次までにしっかりと力を付ければさ」

 

 

 落ち込んだアスナの頭を優しく撫でまわしてあげるマギ。

 

 

「マギさん……」

「それに気付いたか?エヴァの奴お前の事をフルネームじゃなくて、神楽坂って呼んでたのを」

「あっそう言えば……」

「エヴァも少しはアスナの事を認めたのかもしれないな。だからこそアイツがビックリする位まで頑張ってみようぜ」

「はい!アスナさんだったら直ぐに師匠を驚かせる位に強くなってると僕は思います!」

「ネギ、マギさん……ありがとう」

 

 

 マギとネギによる慰めで、何時もの元気を取り戻したアスナ。

 

 

「それじゃあ試合会場に戻ろうぜ。そろそろ刹那の試合が始まるからな」

「そうだったね。急ごうお兄ちゃん、アスナさん」

「ちょっちょっとあんまり引っ張らないでよ!」

 

 

 何時もの調子で試合会場に戻る3人である。

 

 

 

 

 

 第4試合は、刹那対山下慶一である。

 山下慶一は3D柔術と言ったあまり知られていない格闘術の使い手である。彼も格闘家の経験として今回はモップを得物として使っている刹那との間合いを取った戦いをしている。

 さらに彼は豪徳寺や中村と知り合いらしく、豪徳寺が予選で使った漢弾、中村がマギに使った裂空掌と言った気を使った遠当てが使えるのだ。と言っても技名も無い気の連続発射ではあるが。

 がしかし最後は戦いの経験の差で、刹那が勝利を収めた。

 

 

(なっなんだよ今の試合は!?某バトル漫画みたいな気を出してたけど、これも全部さっきまでの試合と同じような出来物の試合なんだろ?そうだと言ってくれよ!)

 

 

 今までにない飛んでも空間を目の当たりにして、自分の中の常識が本当なのかと頭を抱えて唸る千雨である。

 

 

 

 

 

 

 

「ほわぁ~せっちゃんカッコよかったえ」

「おっお嬢様、お褒めにあずかり光栄です」

 

 

 ほんわかしているのこのかが、先程の試合をした刹那にカッコイイと褒めて、刹那は微笑みながらお辞儀をした。実際凛々しく戦う女剣士として試合では注目されているのだろう。観客の中には刹那を応援する人が多かった。

 

 

「流石刹那さん。アタシも剣術の師匠である刹那さんみたいにもっと強くならなきゃ」

 

 

 新たな目標を立てるアスナを柱に寄りかかってみているマギ、すると高音がマギに近づいてくる。

 

 

「次の試合はこの私が出ます。マギ先生は、この私の勇姿をしかと心に刻んでください」

「まぁ無理はすんなよ。そこまで危ない事にはならないと油断はすんなよ」

「フフ、私の真の真の力を見たらそんな事はもう二度と口にはさせませんよ」

 

 

 自身満々で堂々とした姿の高音は、優雅な足取りで試合会場へと向かっていく。第5試合高音対田中の試合が始まる。始まったのだが……

 チュドーン!ドカァァァンッ!!バババババ!!

 

 

「きゃあっ!ひゃぁあっ!いやぁぁぁっ!!!」

 

 

 ビームの嵐やロケットパンチの猛攻で高音は手も足も出なかった。

 高音の相手である田中は、工学部で実験中のロボット兵器である。因みに茶々丸の弟であるらしい。

 

 

「工学部は色々な物を造ってるみたいだが、あれが茶々丸の弟と言うのは流石にいやだなぁ」

「何というかお父さんって言った方がいい貫禄だよねぇ」

「茶々丸お姉ちゃんの弟さん、大きいレスね」

 

 

 マギとネギは遠い目でそう言う。さっきからビーム連発されてるけど、高音死なねえよなと心配になるマギである。現にビームの爆風のせいで高音の姿が見えなくなっている。愛衣も高音が一方的にやられているのを見ておろおろとしている。

 

 

「まっまさかロボットが出て来るなんて予想外でした」

 

 

 爆風の煙の中から、高音の影がゆらりと見える。無事の様だ。

 

 

「ですが種さえ分かればこっちのもの!私の真の力で返り討ちにしてさしあげます!」

 

 

 田中に指をさし決める高音。が会場はシンと静まりかえっている。どうしたのかと首を傾げる高音。というよりさっきよりも涼しく感じるのは何故だろうか。

 

 

「お姉様ぁ……」

 

 

 愛衣が泣き崩れているのが見える。というか観客の、主に男性の視線が自身の顔から下に突き刺さるほどに見て来るのを感じ、自身を見降ろして固まる。

 今の高音はほぼ裸と言っていいほど肌が露出している。胸なんて丸見えである。顔がみるみるうちに赤くなる高音は、マギを恐る恐る見る。

 

 

「……」

 

 

 黙って片手で目を覆うマギ、少なからず高音の裸を見てしまったらしい。気になる男性に自身の恥ずかしい姿を見られてしまった高音は

 

 

「いぃぃぃぃいやぁぁぁぁっ!!」

 

 

 魔力の籠った影を腕に纏い(もう片方の腕で胸を隠すのを忘れずに)田中を殴り飛ばしてしまった。

 リングアウトし、水に突っ込んだ田中は浮かんでこなかった。10カウントによって高音の勝利となった。

 

 

「もうお嫁にいけないーーーー!」

 

 

 最初に投げ捨てておいた、黒装束で体を隠し急いでリングを後にする。こうして高音は『麻帆良の脱げ女』として、恥ずかしい伝説を残すのであった。

 

 

「高音は、どうやらある意味不幸の星に生まれたみたいだな」

「うぅお姉様、お姉様がぁぁぁ……」

 

 

 泣き崩れる愛衣に対して、マギは優しく肩に手を添えて慰める事しか出来なかった。

 第5試合、大変な(男性にとっては嬉しい)ハプニングがあったが、いよいよ第6試合、マギと楓の試合が始まるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 



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マギvs楓 影分身の脅威

更新遅れてしまい申し訳ありません
なんか気分が乗らなくて……
それではどうぞ


 いよいよマギと楓の試合が始まる。万全に動けるようにとマギは選手控室で準備体操をする。

 

 

「しかし改めて思うとこの大会って、一般人の出場者が殆どいないな。魔法使いに獣人に吸血にロボットとか」

「そうでござるなぁ」

「忍者のお前が他人ごとみたいに言うんじゃあねぇよ」

 

 

 呑気そうに答える楓にマギはツッコミを入れる。

 

 

「そういえば、マギさんとはこうして2人きりでこうして話すのは初めてでござるな」

「ん?あぁそう言えばそうだな。会う時には俺にはネギ、楓の方では風香と史伽がいたからな」

 

 

 滅多にない2人きりの状況を珍しがるマギと楓は笑みを浮かべる。

 と楓は糸目を開いて

 

 

「今回初めてマギさん……否マギ殿と戦う事になるでござるが、拙者本気で行かせてもらうでござる。御覚悟を」

「あぁ。今日は先生と生徒と言う間柄じゃなくて、互いに高みを目指す戦士として、正々堂々とな」

 

 

 握手をして、準備が完了した2人はリングへと向かう。2人がリングに入った瞬間から大歓声が響き渡る。

 

 

『興奮が冷めぬまま、第6試合が始まります!高畑選手との激戦を繰り広げたネギ選手のお兄さんであるマギ・スプリングフィールド選手!彼もかなりの実力があると伺っております!対する長瀬楓選手、予選では分身の術を私達に見せてくれました!噂では休日では山で修業をしているとの噂が!修業の成果がこの試合で活かされるのでしょうか!?』

「和美の実況も熱が入ってるな」

「忍びは忍ぶものでござるが、今回は修行の成果の大盤振る舞いでござるよ」

 

 

 マギと楓が構えた次の瞬間にゴングが鳴り、試合が開始される。

 先ずは様子見とマギは楓との距離を保っていると

 

 

「まずはマギ殿にこれを見せるでござるよ」

 

 

 楓の人数が1人2人と増えて行って遂には本人を混ぜて5人へとなる。これにはマギも驚きを隠せない。

 

 

「改めてみるけど、これが影分身ってやつか?流石忍者ってことか」

「マギ殿が驚いた顔を見るのも面白いでござるな」

「攻撃の重みが本体と同じなのが4体までが限界でござるからな」

「つまり、拙者が5人いると考えた方がいいでござるよ」

「それではマギ殿」

「ご覚悟を」

 

 

 楓5人が一斉にマギに向かって来る。

 

 

「……やれやれだぜ。一対多なんて状況になるとはな。でも、燃えてる俺もいるんだよね」

 

 

 楓2人がボディーブローを食らわしてきた。マギが両腕をクロスさせてガードしていると背後から拳に気を纏った楓の姿が

 マギは拳を流す様に受け流し、カウンター技で楓を沈める。沈められた楓は分身だったみたいでドロンと煙と一緒に消えてしまった。

 本体を倒せば分身が消えるわけだが、その本体がどれなのか分からない。マギは今迄戦った事のない忍者に対して、厄介な相手にカテゴリを入れる。

 マギが怯んでいる隙に余人の楓が一斉に攻撃を繰り出した。マギは魔法の障壁で楓の攻撃を防ぐ。が……

 

 

「忍!」

 

 

 楓が印を結んで、殴り掛かるとマギの障壁が破壊されてしまった。初めての事でマギは驚く。さっきから驚きの連続である。

 

 

『楓忍法!四つ身分身朧十字!!』

 

 

 楓4人がマギに攻撃し、それが十字の文字になった。これは手ごたえがあったようで、マギは片膝をついてしまう。

 

 

『あぁっと!マギ選手、忍者である楓選手に手も足も出ない!やはり戦った事もない忍者に対して攻め込むことが出来ないのかぁ!?』

「たく和美の奴大げさすぎるだろ。でも分身の術って言うのが厄介なのはよく分かった」

 

 

 直ぐに立ちあがるマギは片膝に付いた土ぼこりを掃う。手ごたえがあるとは言ったが、マギにとっては大したダメージではない

 いつの間にか一人に戻った楓が苦笑いを浮かべながら

 

 

「結構自信があったのでござるが、余り効いている素振りを見せられると、拙者も驚きでござる」

「エヴァとの修業で鍛えられたからな。それにしても楓は強いな。魔法使いとかに関わったのが最近だっていうのに前からこんなに強かったのか?」

「拙者小さいころから修業に修業を重ねたでござるからな。更なる高みへと目指すためでござるよ」

「そうか、だったらとことん付き合ってやるよ。俺もこんな所で止まってられる暇はないんでな」

 

 

 そう言いながら、マギは魔力と気を集中させる。そして合成、咸卦法を発動する。

 

 

『おおっと!マギ選手、高畑選手と同じ凄い状態になったぁ!パワーアップしたマギ選手に対して楓選手はどう対処するのか!?』

「いくぜ楓。遅れるんじゃあないぜ」

「それはこっちの台詞でござるよ」

 

 

 マギと楓が一瞬で姿を消したかと思いきや、ぶつかり合いで、衝撃波がの様な物が何度も何度もリングで響く。

 マギと楓は消えたのではなく、互いに瞬動術を駆使して高速で動きながら戦っている。余り早さに目で追いつくとこも出来ずに呆然としている観客たち。

 

 

『こっこれはぁ!某バトル漫画である高速で動くキャラ達がぶつかり合って起こる衝撃波だぁ!余りの衝撃波に会場が響く!水が轟くぅ!というかお二人さぁん!姿が見えなきゃ実況出来ないんだけど!』

 

 

 観客全員思った事を代弁して、和美が2人に見えるように戦えと素でそう言う。

 和美の実況に応じたのか、マギと楓が急停止する。見ればマギは軽傷で、楓はマギよりも怪我が目立っている。

 

 

「やはり男と女の差でござるかな?マギ殿は拙者よりも力も早さも上でござるな」

「何言ってるんだよ。気の使い方はお前の方が上じゃあないか。ご丁寧に体の内側を攻撃して、おかげで体中ジンジンするぜ」

 

 

 外傷がないマギだが、実際の所ダメージは入っている。と言うのも楓が気を纏った拳で攻撃しそれを防ぐことにマギは体の内側からダメージを喰らっていることになる。

 さらに楓の気がマギの気の流れを乱してしまうために、思った動きが出来なくなってしまう。

 

 

「たく味な攻撃をするよなぁ。おかげで体がバキバキだぜ」

 

 

 ゴキパキと首の関節から音が鳴り、首を鳴らしているマギに楓は苦笑いを浮かべ頬を掻きながら

 

 

「いやいや本来だったらもう立っている事も出来ないはずでござるが、どういう体のつくりをしてるでござるかマギ殿」

 

 

 ツッコミを入れる。

 

 

「んまぁそんな事どうでもいいじゃねぇか。話すよりも試合を再開しようぜ」

「そうでござるな。では拙者も本気を出させてもらうでござるよ……忍!」

 

 

 楓が印を結ぶと一気に楓が15人へと増え、合計16人へとなる。楓が増えた事に観客は更に興奮の歓声を上げる。

 

 

『でたぁ!16分身だぁ!4人でも驚きなのに16人となると逆に驚きを忘れてしまいそうになります!この戦力差にマギ選手はどう対処するのか!?』

 

 

 楓達が一斉にマギに攻め込んできた。マギも二度目の咸卦法を使い、真正面から受けて立った。

 16人もいるとなると、パワーがそこまで無い。が無いと言っても攻撃の一発一発が魔法の矢一発の威力だ。決して油断は出来ない。

 マギもそれを理解している。何も考えずに攻め込んだら返り討ちにあう。だからこそ決して隙を見せず、慌てず落ち着いて活路を見出せばいい。

 

 

(それにしてもこの数はやっぱ多すぎだな。前々から思ってたが楓は3-Aの実力者の中でも高い。もしかしたら刹那やエヴァンジェリンに真名を省いたら一番強いかもしれない。どうするか……仕方ない。二番煎じって言うのは面白くないけど、まぁやるしかないか)

「はぁっ!!」

 

 

 魔力と気を一瞬だけ爆発させて、強力な衝撃波を生み出し楓達を怯ませるそしてマギは上空へと飛び、浮遊術で浮かぶ。分身ではなく、今度は空を飛んでいるマギを見て観客たちはざわつく。

 

 

『とっ飛んだぁ!?種も仕掛けも無いのにどうやって飛んでいるのでしょうかマギ選手は!?」

「いや可笑しいだろ!人間が簡単に飛ぶなんてありえねぇ。絶対仕掛けがあるはずだ……!」

 

 

 千雨は目の前で飛んでいるマギを見て、必死で種を暴こうとするが種も仕掛けも元からないのである。

 そしてフワフワと浮いている。マギは構える事も無く、手をポケットに突っ込んだ(・・・・・・・・・・・・)

 

 

(あの構えは……どうやら一気に勝負に出る方がいいでござるな)

 

 

 楓16人は跳び上がり、マギを仕留めようとするが、連続する破裂音が鳴り響き楓16人は見えない攻撃によって、そのまま楓はリングに叩きつけられた。

 ネギやアスナに刹那は驚き、エヴァンジェリンはフッと小さく笑った。

 

 

「悪いな楓。俺タカミチに咸卦法教えてもらった他に、ちょいと居合拳も教えてもらったのよ」

 

 

 そう言いながらマギは情け容赦なく連続の居合拳を乱れ撃つ。居合拳を喰らった楓の分身は一人また一人と消えて行く。

 観客から見れば一方的な光景に見えるが、実際は違う。多く分身をすればするほど気などの力は薄くなる。楓本人の気が目立つ。だからこそマギは本人を狙わずに分身だけを倒す事が出来る。といっても……女の子である楓に対して一方的な事をすれば傍から見れば結構な痛々しい光景ではあるが。

 気が付けば分身は全て消え、楓一人が残されていただけだ。

 

 

「これで五分と五分って所か?まぁ俺もあと少しでガス欠になりそうだけどな」

「拙者も分身をつくる事は難しいでござるな。後一発強力な一撃を叩き込むだけでござるよ」

「そうだな。ここいらでケリをつけるっていうのも悪くない」

 

 

 マギは最後の咸卦法を使い、楓も大きな気を拳に纏わせた。次で決まる。観客の誰もが理解し固唾を飲み込む。

 楓が飛び込み、マギの懐に入ろうとする。

 

 

「豪殺居合拳」

 

 

 轟音の後に、楓がリングに沈んだ。

 流石にこれはもう駄目だと思った観客だが、楓はムクリと立ちあがった。どうやら音のわりには威力が弱かったようだ。が楓はフウと息を吐くと

 

 

「降参でござる」

 

 

 ギブアップを宣言した。

 

 

『おおっと!ここで長瀬自らギブアップ宣言!流石にこれ以上戦うのは無理だとはんだんしたかぁ!?長瀬選手のギブアップにより勝者!マギ・スプリングフィールド選手だぁ!』

 

 

 観客は、勝者のマギと最後まで戦った楓に拍手を送る。拍手が送られる中、マギはゆっくりと降りてきて楓と握手をした。

 

 

「ありがとうでござる。拙者まだまだ精進が必要だと改めて実感したでござるよ」

「こっちもだ。世界は広い。こんなにも強い奴が他にも居ると思うと、もっともっと修業をつけないとな」

 

 

 拍手の中、マギと楓はリングを後にした。

 

 

 

「お兄ちゃん!」

「楓姉!」

「マギお兄ちゃん!」

 

 

 選手控室にて、すり傷を治したり休息を取っているとネギが風香と史伽を連れてやってきた。

 

 

「おう風香に史伽。さっきの試合見てたのか」

「うん!楓姉がイッパイに増えたり、マギ兄ちゃんが空飛んでたりしててボクと史伽ビックリしたんだよ」

「ハラハラしたけど、面白かったです!」

「ははそれはそれは、頑張ったかいがあったでござるな」

「まぁ張り切り過ぎてちょっと疲れたけどな」

 

 

 マギと楓が笑みを浮かべていると風香と史伽は

 

 

「楓姉頑張ってたけどザンネンだったね。でもすごかったよ!やっぱりボクと史伽の楓姉だ!」

「ありがとうでござるよ風香」

「マギお兄ちゃんおめでとう。カッコよかったです!」

「ありがとうな」

 

 

 それでねと風香と史伽が互いに顔を見合わせ、ニッコリ笑ったと思いきや……マギの両頬にキスをした。

 マギは固まり、ネギは驚き、カモはムホッとオヤジぽく鼻息を荒くしプールスはひゃぁと黄色い声を上げた。

 

 

(これはこれは、いいものが見れたでござるなぁ)

 

 

 楓は内心そう思いながら目の間の光景をニヤリと笑っていた。

 

 

「勝利のご褒美のキスです」

「こんな美少女にキスされるなんて、マギ兄ちゃんも幸せものだね!」

 

 

 風香と史伽がニシシと笑うのを、マギはフッと笑い

 

 

「まったく、随分と可愛いご褒美だな。やれやれだぜ」

 

 

 なんてキザっぽくカッコつけてみたが、急に背筋が冷えてくるのを感じた。

 

 

「マァァギィィィ……お前何をやってるんだ?」

「えっエヴァ!・いやこれはだなその」

 

 

 咸卦法を連続で使ったマギを少し心配になったエヴァンジェリンは、マギが戻った控室に様子を見に行った。そしてマギが風香と史伽にキスされている光景を目撃する。

 エヴァンジェリンの目には、マギがキスをされて鼻の下を伸ばしていると見えたため、殺気を混ぜてマギに詰め寄った。

 

 

「よりによって私より子供っぽい双子にデレデレしおって!なんだ双子がいいのか!?3人でヤリタイのかこの変態!」

「ちょっとまてエヴァ!お前自分の事子供っぽいって言われるの嫌がってたのに自分で言うのはいいのか!?てか最後のは卑猥だぞ!」

「ちょっとエヴァちゃん!ボクたちの方が大人っぽいよ!ムキになってそっちの方が子供っぽいよ!」

「おっお姉ちゃん!喧嘩はまずいです!」

 

 

 エヴァンジェリンの一方的な取っ組み合いにマギはたじたじになり、風香も取っ組み合いに参加して、史伽はどうすればいいのかとオロオロしてるだけであった。

 取っ組み合いの光景に、ネギや楓達は苦笑いを浮かべるだけしか出来なかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




糸目の女の子キャラって可愛い子いますよね。
自分は楓は結構お気に入りキャラです


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進む戦い 蠢く闇

約一か月ぶりの投稿となりました。
待っていた皆さん遅れてしまい申し訳ありません


 マギと楓の試合は、楓が降参した事によりマギの勝利となった。

 その次に行われた古菲と真名の勝負。本来銃を使う真名は、銃が使えないために不利かと思われた。

 だが真名は、日本硬貨で一番大きい500円玉を指で弾く指弾を巧みに使い古菲を攻め立てる。

 解説の薫が真名が使っている指弾を羅漢銭と説明し、硬貨は武器になるんだなと思ったマギである。

 不利に立たされていた古菲だが、チャイナ服につけていた尻尾の様な布を槍として使う布槍術を繰り出して反撃。

 500円玉と布の槍の攻防戦という、一見変わった戦いが繰り広げられていたが、使っている本人たちは真剣だ。

 しかし真名が隙をついて、古菲の腕に500円玉をぶつける。ゴキンといった鈍い音が聞こえ、マギや小太郎にエヴァンジェリンと言った者は今ので折れたと確信する。

 古菲は肉を切らせて骨を断つ。布で真名の腕を絡み取り、引き寄せる。真名の零距離の指弾、古菲の渾身の拳法の一撃がぶつかり合う。

 しんと静まった会場で、先に古菲が膝をつく。古菲が負けたと思いきや、真名の背中の衣服がはじけ飛び、そのまま前のめりで倒れる真名。

 和美が10カウントを取り、立ちあがらなかった真名。よって古菲が勝利した。

 腕を折られながらも、弟子であるネギの手前でみっともない真似を見せないという古菲の姿に、古菲のファンの格闘家たちは歓喜の涙を流した。

 これで古菲も次の試合に進出……かと思われたが、腕の骨が折れていると言う事で、泣く泣く棄権となったのだ。

 そして最後の試合、クウネル・サンダースVS大豪院ポチ。大豪院ポチも中国拳法の使い手らしく、アクションスター張りの連撃をクウネルに浴びせる。

 だが、クウネルが何かをしたのか一瞬でポチがステージに沈みそのまま10カウントを取られてしまい、呆気ない終わり方となってしまった。

 試合が全て終わり、次からは準々決勝となるのであった。

 

 

 

 

 

『まだ興奮が冷めないと思いますが、ここで1時間の休憩を取らせていただきます。会場に居る皆さまはトイレ休憩をなさるか、適度な水分補給をお願いします。また試合を見逃した方がいらっしゃれば、今まで起こった試合のダイジェストを流しますので安心してくださいまた――――』

 

 

 和美が司会としての説明をしている中、次の試合に出る者や負けてしまった者は各々の事をしていた。

 その一人として、ネギと戦い本気の一撃を貰い暫く横になっていたタカミチがやっと歩けるまでに回復した。

 

 

「おうタカミチ。もう動けるのか?」

「一応鍛えているからね。でも2ヶ月くらいでここまで成長するなんてね……1年もあったら僕なんか追い抜かれるかな」

「冗談。そんな簡単に追い抜かれないように、俺がアイツのデカイ壁になってやるよ」

 

 

 マギとタカミチが談笑していると、ネギを連れたアスナが刹那と一緒にやってきた。

 

 

「高畑先生、怪我はもう大丈夫ですか?スイマセン。うちのネギがもう……」

 

 

 そう言いながらアスナは強引にネギに頭を下げさせた。

 

 

「はは、別に気にしていないさ。真剣勝負だったんだからね。それよりもすまなかったねアスナ君。大人げなくネギ君相手に本気を出してしまって。さぞ心配だったらろう?」

「いえあっアタシは別に……それよりも高畑先生の方が心配でしたから」

 

 

 ネギの前で此処まで言うアスナに対して、苦笑いを浮かべるマギとタカミチ。

 アスナは何かを言いたそうだったが、黙り込んでしまい沈黙が続く。アスナではなく刹那がタカミチに話し掛ける。

 

 

「高畑先生、実は超さんの動向なんですが、私の式神に会場の裏を探らせて気になるものを見かけました」

 

 

 そう言って刹那の式神、ちびせつなが現れた。刹那と違い明るい性格のちびせつなは久しぶりに会ったアスナやマギとネギに挨拶をした。そのちびせつなが案内するとのことだ。

 

 

「ふむ、そうだね。ネギ君との試合も終わった事だしそっちに手を付けるか……」

 

 

 そう言ってちびせつなの案内の元、超の動向を探る事にしたタカミチ。

 

 

「アスナ君、君とエヴァンジェリンの試合を見てたよ。エヴァンジェリン相手に頑張ってたじゃないか」

「そっそうですか?ありがとうございます」

 

 

 タカミチに褒められ顔を赤くするアスナ。

 

 

「……だけど僕としては君は魔法なんて世界に関わってほしくなかった。これは運命なのかな……だとしたら残酷すぎる」

 

 

 タカミチの悲痛な呟きは誰にも聞こえなかった。

 

 

「ネギ君とマギ君はまだ試合は続くからね。僕に勝ったんだからネギ君にはぜひ優勝してもらいたいな」

「僕に期待しすぎないでよタカミチ。師匠やお兄ちゃんが居るんだから、優勝は難しすぎるよ」

「そうだぞ。それに優勝するのはこの俺なんだからな」

 

 

 マギが自信満々に宣言するのをタカミチは満足げに頷いた。そして目的の場所に向かおうとしたタカミチはアスナの方を向いて言った。

 

 

「アスナ君。学園祭巡りの約束は明日だったよね?楽しみにしているよ明日」

 

 

 それだけ言って今度こそ向かったタカミチ。タカミチの後ろで嬉しさで顔を真っ赤にしたアスナが失神してネギやプールスと刹那が慌て、マギがやれやれだぜと呆れるといった光景が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ちびせつなの案内の元、タカミチは大きな下水道を歩いていた。ちびせつなが言うには会場の隣にある塔に超やハカセの部屋を見つけ、そこから地下の下水道に通じる通路を見つけたの事。

 この奥に巨大な格納庫みたいな空間と機械がいっぱい詰まった部屋を目撃したようだ。

 

 

「麻帆良にこんな下水道あったのに驚きだけど、その部屋と言うのは研究施設か何かかな?」

「恐らくは、私機械とか苦手なのでハッキリとは……」

「そう言えばちびせつな君、さっき話してた今の自分は自立型という事だけど、本体の刹那君とは」

「只今私、完全にスタンドアローンです!」

 

 

 胸を張ってそう答えるちびせつな。不用意に念話で連絡を取ってしまうと、相手に察知されてしまう危険があるからだ。

 

 

「本体と違って明るいかんじだね、ちびせつな君」

「ちょっとバカなのでー」

 

 

 暗い下水道の中で明るく会話をしているタカミチとちびせつな。だがその2人の会話に横槍を入れる者が現れる。

 

 

「やれやれ、こんな所まで来てしまったカ。ネギ坊主にもらったダメージは癒えたカ高畑先生?」

 

 

 チャイナ服ではなく、色々と仕込んでいそうな服装の超が現れた。

 

 

「やぁ超君。この下水道の奥に何があるのかな?よかったら僕に教えてくれると嬉しいんだけど」

「それは出来ない相談ヨ。元担任に申し訳ないが、私には時間がないネ。明日、学園祭が終わるまで大人しくしていてもらうヨ」

 

 ニコリと笑い拒否する超。

 

 

「そうか……元教え子にこんな事をしたくはないけど、少し痛い目を見てもらう必要があるみたいだね」

 

 

 そう言ってポケットに手を突っ込めるタカミチ。

 

 

「おぉ怖い。だたら私も手を打たせてもらうヨ。出てくるネ」

 

 

 超が指を鳴らし、その合図で超の背後にアーチャーが現れた。

 

 

「ふむ……超よ、彼が君の計画の邪魔になる者の一人と言う事でいいのだな?」

 

 

 そう言って投影魔法で、白と黒の対となる双剣を出して構えるアーチャー。

 

 

「君は何者だい?」

「超に雇われた傭兵だと思ってくれるといい。そしてマギ・スプリングフィールドに対して深い憎しみを抱いていると付け加えておこう」

「そうか……だったらなおさら君を放っておくわけにはいかないな」

 

 

 不意打ちな形で居合拳を放つタカミチ。双剣で防ぐアーチャーであるが、一発当たっただけで双剣はいとも簡単に砕けてしまった。

 すぐさま新しい双剣を投影するアーチャー。タカミチの居合拳とアーチャーの投影魔法によって生み出され続ける剣の攻防が繰り広げられる。

 戦闘力が皆無なちびせつなと、余裕そうな超は2人の戦いを傍観しているだけだった。

 アーチャーの双剣が十数本折られた所で、ネギに貰ったダメージで息が荒くなったタカミチ。

 

 

「流石は噂に名高いタカミチ・T・高畑。魔法が使えなくともここまでの力とは御見それした」

 

 

 折れて柄だけになった双剣を捨て、タカミチを賞賛するアーチャー。

 

 

「君は誰なんだ?それほどの実力があれば少しは名が知れ渡っているはず。そして何故マギ君に対して憎しみを抱いているんだ?」

「私はしがない傭兵さ。何故私があの男を憎んでいるかって?まぁマギ・スプリングフィールドと深い面識がある貴様には特別に教えてやろう……“SF計画(・・・・)”。その言葉を知っているはずだ」

 

 

 アーチャーが言った事にタカミチは顔を強張らせた。それが隙になってしまう。アーチャーはタカミチの間合いに入る。

 瞬時に防御に入ろうとしたタカミチに抉るような正拳突きを繰り出したアーチャー。正拳突きが当たった場所はネギに桜華崩拳を喰らった場所と同じだ。ダメージが上乗せされる形で膝を着くタカミチ。

 

 

「なっ何故その事を知っているんだ……」

「全てを話すわけがないだろう?傭兵としての必須事項だ」

 

 

 当身を当て、タカミチの意識を刈り取ったアーチャー。

 

 

「ご苦労だったヨ。まさか高畑先生をこうも容易く倒すとハ」

「彼が手負いだったから出来た事だ。全快の彼と戦っていたらこうも簡単に倒せはしないさ」

 

 

 気を失っているタカミチを担ぎ上げるアーチャー。そしてこっそり逃げ出そうとしたちびせつなも捕まえてしまう。

 

 

「コイツはどうするんだ?このまま握り潰した方がいいかな?」

「いや、その式神も連れて行くヨ。消して刹那さんに何かを感じ取られたら厄介ダ」

 

 

 無力化されてしまったタカミチと、もともと無力に近かったちびせつなはそのままアーチャーと超に連れられ、下水道の奥へと連れて行かれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ネギVS小太郎

1ヶ月以上も更新が出来なかった。
自分の小説を待っていた人がいたとしたら本当に申し訳ありませんでした


 タカミチとちびせつながアーチャーと超に捕らわれた事などマギ達は知らずに、休憩が終わった。

 

 

『お待たせしました!これよりまほら武道大会準々決勝を始めます!最初に行われますのは佐倉選手を秒殺で倒した村上小太郎選手!対するはデス眼鏡こと高畑選手に辛くも勝利を手にしたネギ・スプリングフィールド選手!どちらもまだ子供ですが、その実力は大人にも匹敵する力です!』

 

 

 ネギと小太郎がリングに入った瞬間から会場が歓声が上がる。

 

 

「いよいよやなネギ。京都以来と言った所やな」

「うんコタロー君。僕がこの短い間でどれだけ強くなったか見せてあげる」

「へへっそーか。そりゃ楽しみやなぁ」

 

 

 戦いの前の会話を楽しげに行うネギと小太郎。その2人をマギ達が観客席から夏美と千鶴と一緒に見ていた。

 

 

「マギさん、ネギ君と小太郎君ってどっちが強いんですか?」

 

 

 夏美がマギにどっちが強いのか聞いてきた。マギは顎に手を当てながら

 

 

「小太郎は愛衣との試合ではあまり手の内を見せてないが、アイツは主に流派も無い我流の喧嘩殺法だ。対するネギは古菲に習った中国拳法。タカミチに勝てたんだから如何にかなるかもしれないな。まぁどっちが勝っても可笑しくはないかな」

 

 

 解説の薫もマギと同じような事を言っている。千鶴はふぅと溜息を吐いて

 

 

「ネギ先生も小太郎君も危ない事をして……大怪我なんてしたら大変なのに」

「まぁ心配のは分かるけどな、ネギと小太郎も男なんだ。ネギはこの大会に優勝したいって目標、小太郎は今度こそネギに勝ちたいって目標がある。ぶつかるのは仕方ないさ」

 

 

 保育園でボランティアを行っている千鶴は男の子同士の喧嘩とは違うと言う事を心配しているが、マギは心配するなと千鶴に言い聞かせた。これも男同士の大切な戦いだと

 そして試合のゴングが鳴り響いた。

 

 

「いくでぇ!」

 

 

 最初に動いたのは小太郎だ。一気に間合いを詰めてネギに連続の蹴りを繰り出した。ネギは小太郎の連続攻撃を防いだ後にカウンターで中国拳法を当てようとする。

 だが小太郎はネギが攻撃を繰り出した瞬間に直ぐにバックステップで間合いを取る。攻撃が空を切ってしまったネギ。その隙を逃さず小太郎は瞬動術でネギに近づき蹴りをおみまいし、ネギが反撃に出ようとしたらまた距離を取った。小太郎は瞬動術を巧みに使い、ヒット&ウェイの戦法をとる事にした。

 

 

「成程考えたな。ネギみたいに頭で考えてから動くタイプの奴に対して、ああやってとにかく動いてペースを乱すやり方。ネギには効果的だな。さっきから技を打とうとしても逃げられてすかしてる。集中力が乱れれば技のキレも無くなる」

「じゃあコタロー君の方が有利なの?」

 

 

 一方的に小太郎が攻めているのを見て、夏美が聞いて来る。いやとマギは首を横に振った。

 

 

「ネギも馬鹿じゃない。その事を小太郎は知っているはずだ」

 

 

 マギが喋っている間に試合の流れが変わった。ネギの技が小太郎の顔を掠った。

 

 

(段々目が慣れてきた。それにコタロー君の攻撃もワンパターンだし読みやすい!)

(ええでネギ、それでこそや!)

 

 

 ネギの八極拳の一つ、弓歩沖拳を防ぎ後ろに下がる小太郎。たった一撃もらっただけで小太郎の腕がビリビリと痺れる。その痺れを感じて小太郎は嬉しそうに笑う。

 

 

「ははっいいでネギ。初めてやった時よりも、パワーもスピードも上がってるやないか。おもろくなってきたで」

「僕だって色々と成長してるんだ。でも、コタロー君、君はまだ全然本気じゃないよね?」

『おおっと!ネギ選手、小太郎選手が本気ではないと言い切ったぁ!しかし小太郎選手も予選で見せていた分身の術をまだ使っていません!』

 

 

 和美の実況に熱が入る。

 

 

「そう言う事や。俺はまだまだ本気じゃないで。さっきまでのはほんのお遊びや」

「だよね。さっきのが本気だったらとんだ肩すかしだよ」

「へっ言うようになったやないか。だったら俺の本気、よぉ見とけや!」

 

 

 小太郎が一気に8人までに増えた。

 

 

『またもや出ました分身の術!マギ選手の弟であるネギ選手は小太郎選手にどう対応するのでしょうか!?』

「さっきの楓姉ちゃんと違ってそこまで多くはないで。けど!ネギお前にこの分身の術をやぶれるか!?」

 

 

 小太郎が一斉に攻撃を繰り出し、ネギも討って掛かる。だが一対多と言う圧倒的に不利な状況となる。

 

 

「タカミチの居合拳と違ってまた厄介なモノと当たったなネギは。アイツは桜華崩拳っていう必殺技を持ってるけど、あれは一対一の時に効果を発するからなぁ。相手が分身と一緒に攻撃してきたら一発一発大振りな技を出せるわけないし。それに技を繰り出すために集中しなきゃいけない」

 

 

 小太郎の分身達がネギに蹴りと拳果てには狗神を繰り出してきた。ネギも攻撃を防ぎながらも反撃に出ようとするが、中々決定打が入らない。

 

 

「まぁネギもこれで根を上げれるような、そんな鍛え方をしていないけどな」

 

 

 ネギと小太郎の戦いは、観客席側から見たら小太郎の方が優勢に見えるが、実際はそうではない。

 

 

(落ち着いて対処するんだ僕。コタロー君がイッパイ増えたけど、本物は1人だけ。だったら耐えて本物のコタロー君だけを倒す一撃に絞るんだ……!)

(ネギの奴、分身の俺の攻撃をいなし始めたな。けど、俺の分身がそう簡単に破られるはずないんや!)

 

 

 ここで小太郎は癖が出てしまった。自分の力に対しての絶対的な自信というものに。力量がかけ離れているなら絶対的な自信を持っても問題にはならないかもしれない。だがネギと小太郎の差はそこまで開いていない。これが小太郎にとって驕りとなり、弱点になる。

 ネギの攻撃が段々と段々と勢いと鋭さを増していき、小太郎の分身を全く無視し、小太郎本人を集中的に狙い始めた。

 

 

「外門頂肘!!」

「ぐほぉっ!?」

 

 

 ネギの肘鉄が小太郎の鳩尾にもろに入り、小太郎は吹き飛んだ。吹き飛んだのと同時に小太郎の分身は煙と一緒に消えてしまった。

 鳩尾に強力な一撃を貰い、大きく咳き込む小太郎。

 

 

「何でや。何でこんな簡単に俺の分身を見分ける事が出来たんや……」

 

 

 戦う事も出来ない観客たちも、何故ネギがこうもあっさりと小太郎の分身の術を見破ったのか不思議でならなかった。

 分身の術を見破ったネギが何を言うのかと、固唾を飲み込む観客の人達。ネギは

 

 

「勘」

 

 

 とドン!といった擬音が聞こえてきそうな、堂々とネギはそう答えた。

 勘と答えたネギに対して観客の皆は呆然とする。見破られた小太郎本人は呆然とした後に吹き出して

 

 

「勘、勘やとぉ!そうか勘かぁ。ならしゃあないなぁ!」

 

 

 いいんかい!と観客はツッコみそうになるが、小太郎本人が気にしていない様子を見せているので、これ以上とやかく言おうとするのは野暮であろう。

 

 

「流石やなネギ。こんな短時間で俺の分身の術を見破るなんてなぁ。だが俺が使えるのは分身だけじゃないで。狗神!」

 

 

 小太郎は真っ黒の狗、狗神を数体召喚した。唸り声を上げながら、ネギを睨んでいる狗神。

 

 

「狗神の攻めにどう対処するんやネギ?行け!疾空黒狼牙!!」

 

 

 狗神が一斉にネギに向かって襲い掛かる。さっきまでの分身と違い狗神一体一体には攻撃力がある。一斉にかかってきたらさすがのネギも無事では済まない。

 だがネギは自身の周りに魔法の矢を3本浮かばせ、拳に纏わせた。これはタカミチ戦でも使ったネギの必殺技の一つ。

 

 

「雷華崩拳!!」

 

 

 雷華崩拳を、ネギは狗神に当てるのではなく、会場に当てた。

 雷華崩拳が会場に当たった瞬間、衝撃波と砂塵が舞った。衝撃波で狗神が吹き飛ばされ、ネギに当たる事は無かった。

 

 

「何つう奴や。俺の狗神を拳一発で吹き飛ばすなんて。お前も色々とぶっ飛んだ奴やなぁ」

(だからこそ、俺はお前をライバルと認めたんやでネギ!)

 

 

 だがネギは片膝をついて、肩で息をしていた。タカミチ戦でのダメージがぶり返してきたのだろうか。

 これ以上戦闘が長続きすればネギが不利になるだろう。

 

 

「何やネギ、お前ダメージが残ってたんか。ヘロヘロになったお前をボコってもつまらんしな。だから」

 

 

 拳と手の平を合わせ、パァンと会場に音が響く。

 

 

「今から俺が今の最強の技をお前にぶちかます。ネギ、お前はタカミチさんの時に使った桜華崩拳を俺にぶつけてこい。よくあるやろ?バトル漫画で必殺技をぶつけ合うってやつや。あれで勝負を決めようで!」

『おおっとぉ!小太郎選手、ここで勝負をつけようと提案を出してきたぁ!ネギ選手はこれに乗るのかぁ!?』

「マギさん、ネギ君は小太郎君の挑発に乗るんでしょうか?」

「そうだな千鶴。意外と乗るんじゃないか?ネギの奴生真面目だからな。友達の誘いには乗ってやるだろう」

 

 

 マギと千鶴が話している間にネギは小太郎の挑発に拳を構える事で応じる。

 

 

「俺の誘いに乗るかネギ、俺はお前の底の馬鹿真面目な所が結構好きな所があるで。けど勝つのは俺や」

 

 ニッと笑みを浮かべる小太郎。

 

「コタロー君、悪いけど勝つのは僕だ。お兄ちゃんと決勝で戦おうって決めてるからね」

 

 

 ネギは自身の周りに9本の魔法の矢を浮かべる。そしてネギと小太郎は同時に駆けだす。

 

 

「我流・犬上流 狼牙双掌打!!」

「桜華崩拳!!」

 

 

 互いの強力な一撃がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

 小太郎は目を開け飛び起きた。今いる場所は闘技場ではなく保健室のベッドであった。

 

 

「気が付いたようね」

 

 

 保健室に居るのはベッドで寝ていた小太郎と、目を覚ました小太郎に微笑んでいる千鶴と、目を覚ましたのをホッとした表情を浮かべている夏美。

 

 

「おっ俺どうして寝てたんや。試合は……」

 

 

 段々と思いだしてきた小太郎。ネギと自分の技と技のぶつかり合い。

 最初は拮抗をしていた。が技の密度が違い過ぎたのか、小太郎が段々と押され始めた。

 そして小太郎の技が破られ、ネギの桜華崩拳をモロに貰った小太郎はそのまま気絶。10カウントを取られ、ネギが勝利したのだ。

 

 

「なんや俺、ネギの奴挑発しておきながらあっさり負けるなんて、カッコ悪すぎやろ」

「小太郎君。あなたはよく頑張ったわ。だから今は少しでも休んでおきなさい」

 

 

 千鶴が小太郎を寝かしつけようとするが、小太郎はもう平気やとベッドから降りた。

 

 

「俺はもう大丈夫や。俺に勝ったネギに準決勝頑張れよって言って来るわ」

 

 

 そう言って保健室を後にしようとする小太郎を

 

 

「まって小太郎君!」

 

 

 夏美が呼び止めた。

 

 

「えっと私、小太郎君がネギ先生と楽しく、でも真剣に勝負してた姿見てその……凄くカッコイイと思ったの!だから、この次頑張ってね!私応援するから」

「っ!……おう!ありがとな夏美ねーちゃん」

 

 

 夏美にそう言われ、一瞬大きく目を見開いた小太郎だが、直ぐに笑顔になり保健室を後にした。

 だが千鶴は見逃さなかった。背を向けていた小太郎の拳が少し震えていることに

 暫くしていると、マギが保健室に入って行った。

 

 

「小太郎はどうだった?」

「もう動けるまでに回復しました。けど……」

「ネギに負けた事に落ち込んでたって事か」

 

 

 ネギと小太郎が初めて戦ったのは修学旅行の京都で。

 最初の勝負は有耶無耶に終わり、次の勝負は楓が引き受けた事でお預け。

 麻帆良に来た時はヘルマンの襲撃があり共闘する事になった。

 そして今回の武道大会だ。

 初めて戦った時は格闘技術は小太郎の方が上だった。だがネギはこの短い間で、師である古菲の指導でめきめきと実力をつけて行った。

 さらにこの武道大会でタカミチに勝利してからネギは短時間で成長していったのだ。

 小太郎には獣人化がまだ残っていたが、ネギと対等に戦うために人の体で全力で戦っていた。しかし全力で戦ってもネギに負けた。ネギに実力差を突き付けられたことにショックを受けているであろう。

 

 

「小太郎君大丈夫でしょうか」

「大丈夫さ。あれ位で折れるならネギのライバルなんか到底無理だ。それに、小太郎みたいなタイプは一度負けたら更に強く成長する。だから夏美、お前は小太郎の事しっかり応援しろよ」

「えっえっと若しかして聞こえてました?」

「まぁな。小太郎も女の子に応援してもらってたら、段々と大切な者を護る強さの意味が分かるかもしれないしな」

「あら、でしたらマギさんも女の子に応援してもらったら嬉しいですか?」

「そりゃあマギさんも男だしな。嬉しいもんだぞ」

 

 

 頬を掻くマギを千鶴は微笑んでみていた。

 

 

 

 

 

 

 そしてその小太郎はネギに会う事もせず、武道会場の屋根に座って俯いていた。

 

 

「こんな所に居たでござるか」

 

 

 小太郎に声をかけたのは楓であった。

 

 

「隣、失礼するでござるよ」

 

 

 黙っている小太郎の隣に楓は立つ。

 

 

「なぁ楓姉ちゃん。俺弱いんかな?」

「……拙者に強いと言ってもらいたいでござるか?」

 

 

 楓は励ますのではなく、敢えて冷たく答えた。

 

 

「……俺、戦うしか能がなかった。けどネギの奴は俺より強くなってた。アイツは頑張って強くなった。あがいてタカミチさんに勝った。俺、アイツより弱くなって……アイツが俺の事見ーひんようになったら、どないしよう」

 

 

 小太郎はため込んでいた悔しさの涙を流す。泣いて泣いて泣き続けた。それを楓は黙って見ていた。

 小太郎が泣き止んだところで、楓は言った。

 

 

「拙者も、自身の忍びの力には自信があったでござる。しかし今回マギ殿と試合をし、完膚なきまでに叩きのめされた時、悔しい気持ちがあった反面、嬉しいと言う気持ちもあったでござる。自分より強い御仁はまだまだいると。ならその人を目指し、その人を越えて更なる高みを目指す事が出来ると」

 

 

 フッと笑みを浮かべ、小太郎を見た。

 

 

「コタロー。次の日曜から一緒に修業をしてみぬでござるか?ともに強くなり、高みを目指すでござる」

 

 

 楓の誘いに、小太郎は

 

 

「……上等や。ネギを越えるためなら俺はどんな事でもするで。強くなってネギを見返してやるんや」

 

 

 さっきまでの泣き顔はどこへ行ったのやら。何時ものように好戦的な笑みを浮かべている小太郎である。

 こうして小太郎は、新たに修業の師として共に高みを目指す者として、楓と一緒に強くなることを決めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




1ヶ月以上更新が遅れて、低クオリティとか本当にスイマセン
言い訳なんですが、卒論や就活で気持ち的に上手く出来なかったんですはい


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幸せの道

 小太郎とネギの試合の次は、刹那とエヴァンジェリンの試合だ。

 

 

「せっちゃん、次の試合頑張ってな」

「はいお嬢様」

「相手はエヴァちゃんだし無理しないでね」

 

 

 ネギの怪我をこのかのアーティファクトで治しながら、アスナとこのかが刹那を応戦していた。

 そして少し離れた所で

 

 

「……」

 

 

 不機嫌そうなエヴァンジェリンが刹那達の会話を聞いていた。

 

 

「どうしたんだエヴァ?」

 

 

 不機嫌そうなエヴァンジェリンに声をかけるマギ。

 マギに声をかけられ、振り向いたエヴァンジェリン。

 

 

「いや、桜咲刹那だが……随分と腑抜けてしまったなと思ってな」

 

 

 苛々したように答えるエヴァンジェリン。

 

 

「腑抜けた?」

「お前や坊やが来る前の桜咲刹那は鋭く冷たく、まるで刃の様な女だった。だが坊やとマギがが桜咲刹那とあのお嬢様との関係に割って入り、あの2人が昔の様な仲良しになった途端あれだ。以前の様な冷たさは消え、神楽坂と言った弟子を取り刃もすっかり衰えてしまった。中途半端な幸せを手に入れて浮かれて、腹が立っているんだ私は」

「中途半端?」

 

 

 マギが首を傾げる。エヴァンジェリンは話を続ける。

 

 

「まだ中学生だからと甘い事は言えない。5、600年も化け物をやってたら人間がどういう目で私達を見ているのかよく分かる。まだお嬢様や坊やや神楽坂が味方しているからいい。だが世の中の闇が優しいものじゃないと言う事を知らないとな」

 

 

 そう言って控室から出ようとするエヴァンジェリン。

 

 

「この試合で桜咲刹那にどれ程の覚悟があるのか確かめる。もし駄目だったら容赦なく沈める。試合の中で精神を揺さぶる事を言うが、神楽坂が何か喚くかもしれないがお前は何も言うなよ」

「そうか。でも刹那やこのかが悲しむことを言うのはあまり止めとけよ。それにエヴァが無理に悪役になろうとするのは俺はヤダな」

 

 

 悲しそうな顔を浮かべるマギにフッと微笑み、エヴァンジェリンはマギに屈むように指示する。

 屈んだマギの頬をエヴァンジェリンは優しく撫でる。

 

 

「お前は優しいなマギ。そういう事を言われると、私も腑抜けてしまいそうだ。桜咲刹那の事を言えないな。だが……それとこれは話は別だ。私は『闇の福音』。偶には悪役にならないと貫禄が無いからな」

 

 

 それだけ言い、エヴァンジェリンは今度こそ控室から出ていく。恐らくエヴァンジェリンと刹那の試合は色々な意味で荒れるであろう。

 無事に試合が終わって欲しい。そう思うマギであった。

 

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンと刹那の試合だが、試合は一方的な展開となってしまった。マギに封印を解いてもらったエヴァンジェリンに刹那が敵う訳もなく、体術でなぎ倒される。刹那が攻めても合気道で返す。さらに糸を使って刹那の身動きを封じるなどと、刹那は手も足も出ていなかった。

 しかも鈍い音がしているが、本気を出していないエヴァンジェリンは刹那が気を失わないように力を抜いて攻撃している。

 さらに

 

 

「お前の翼白かったなぁ。髪は染めたのか?瞳はカラーコンタクトか?クク、何とも浅ましい事をするもんだな」

 

 

 現在糸で雁字搦めにして、身動きが出来ない刹那は、言われたくない事をエヴァンジェリンに延々と言葉攻めで攻めている。刹那は目に涙を溜めはじめた。

 遂には外野であったアスナがキレて喚き始めると言ったネギだけでは手に負えない状況へとなった。

 エヴァンジェリンはアスナが怒鳴り散らしているのを呆れた溜息を吐きながら聞いていた。

 

 

「桜咲刹那、私の目を見ろ」

「え?」

「いいから見ろ」

 

 

 エヴァンジェリンの目を見た瞬間、刹那は固まりエヴァンジェリンも固まったかのように動かない。

 両者がピクリとも動かなくなり、観客もどうしたのかとザワザワする。

 

 

「エヴァが幻術を見せてるな。今刹那とエヴァは幻術の中で戦っているみたいだ。ネギ、お前アスナと一緒に行って見てきてくれ。俺はこっちで待ってるからさ」

「うん分かったよ」

「マギさん。マギさんは何とも思わないの!?刹那さんの事を色々と言ったエヴァちゃんの事を……」

「言い方はあれだが、人ならざる者として長く生き続けてたエヴァとしては、刹那に物申したいんだろ。俺はこの戦いには干渉はしない。それにコレぐらいで折れるぐらいなら、刹那はこのかを護るのが今後難しいだろうさ」

 

 

 エヴァンジェリン寄りのマギの考えに、アスナは何も言えなかった。ネギはアスナとカモとチャチャゼロを連れて、エヴァンジェリンの幻術に入り込むことにした。

 

 

「マギさん、せっちゃん大丈夫なん?」

 

 

 このかが刹那の事を心配し、マギに大丈夫かと聞いてくる。

 

 

「このかは刹那の事を信じてるんだろ?だったら刹那が勝つことを信じないとな」

「でもマギさんはエヴァちゃんに勝ってほしいと思ってるやろ?」

 

 

 マギは疲れて寝てしまったのか、頭の上に寝ているプールスを撫でながら

 

 

「まぁエヴァは素直じゃないからなぁ。今の刹那を見てて心配だと思った所があるんだろ。今回は刹那の一つの試練として取ればいいだろうさ。エヴァに勝ってほしいてのもあるけどな」

 

 

 とこのかと話していると、幻術が解けたのかエヴァンジェリンと刹那が動きを見せた。刹那が気で自身を雁字搦めにしていた糸を吹き飛ばし、モップを構え突っ込んだ。

 対するエヴァンジェリンは何もせずにニヤリと笑っているだけ。そのままエヴァンジェリンの胴に一閃入れた刹那。そしてそのまま倒れ込む。

 

 

「せっちゃん!」

「行けよこのか。たぶん勝負はついただろうからな」

 

 

 マギがそう言っている間に、エヴァンジェリンはギブアップを宣言。刹那の勝利が決まった。

 

 

「おやキティが負けてしまいましたか。これは意外ですね」

「アンタは急に出てきて背後に立つなよ。ビックリするから」

 

 

 背後に立っているクウネルにツッコミを入れるマギ。これはすみませんとニヤニヤと笑うクウネル。

 

 

「キティにはツンデレの要素がありますからね。素直に刹那さんが心配だと言えないんですよ性格上」

「エヴァの奴、長年悪の魔法使いって呼ばれてたからな。貫禄ってものを見せたいんだろ。無理して悪ぶらなくてもいいと思うんだけどな」

「それにしても刹那さんはよくやりましたね。いやはや少女の成長と言うのは輝かしいものがありますね」

「アンタが言うと危ない匂いがするのは何でだろうな」

 

 

 ワイワイと騒いでいるエヴァンジェリン達をニヤニヤと見ているクウネルを見て、コイツに女子生徒を近づけさせるのはいけないと思ったマギである。

 

 

 

 刹那の怪我を治すために、保健室で治療をしているこのか。そしてアスナとエヴァンジェリンは付き添い。ネギとマギは刹那が服を脱いで治療すると言う事で保健室には居ない。

 

 

「うんこれで大丈夫や」

「ありがとうございますお嬢様」

「ふん。手加減してやったんだ。それほど大した傷じゃないだろう」

「もうエヴァちゃんは……」

 

 

 怪我が治った刹那はエヴァンジェリンに向き合い。

 

 

「あのエヴァンジェリンさん。試合が始まる前に生まれつき不幸を持った私には共感を覚えると言ってましたが、あなたも不幸を背負っていたと言う事ではないですか?」

「言ったな。だが特に意味はない。忘れろ」

「ちょっとエヴァちゃん、刹那さんに色々言ったくせに。刹那さんが勝ったんだから、今度はエヴァちゃんが話す番でしょ」

 

 

 アスナが目で早く話せと語っている。仕方なく折れる事にしたエヴァンジェリン。

 

 

「話すが、正直言って面白い話じゃないぞ。それに血生臭い所もある。それでも聞くか?」

 

 

 

 アスナ達が頷いたので、エヴァンジェリンは自身の過去を話した。

 エヴァンジェリンは中世の欧州にて、領主の城に預けられ何不自由のない少女時代を過ごしていた。

 10歳の誕生日、エヴァンジェリンはある男に吸血鬼に変えられてしまった。その男に復讐を果たした後に、エヴァンジェリンは城を出た。そこからは苦難の連続であった。

 吸血鬼の体に慣れるのに数十年。最初のころは吸血鬼らしい弱点も残っていた。

 魔女狩り時代では同じ場所には長くはいられない。体が成長しなければ疑われる。一度ヘマをして焼かれてしまった事もあった。

 魔法使いの国にも受け入れられる事は出来ず、エヴァンジェリンを討伐しようとしてきた者達も悉く返り討ちにし、殺していった。人を殺さなかった時期もあったが、人を殺し続けていた時代と比べたら短い時間である。

 100年200年と生き続けていたら、人を殺す辛さ。人に恐れられ、化け物として見られる悲しみ。どれもが薄れていき、楽になっていった。

 

 

「分かるか?私は人並みの幸せを得るには人を殺し過ぎた。何よりも長く生き過ぎた。だからこそ桜咲いや刹那、お前はまだ間に合う。お前は幻想空間の中で私に剣と幸福、どちらも諦めないと言った。もう一度言おう。剣を捨て、人並みの幸せを得るのも悪くはないと思うがな」

 

 

 エヴァンジェリンの話を聞き、アスナ達は黙っていた。だがこのかだけは違った。エヴァンジェリンの方を向き

 

 

「そんな事言ったら駄目だえエヴァちゃん。エヴァちゃんだって幸せになっていい権利はあるんやから」

「お前は私の話を聞いていたのかお嬢様?私は人を殺し過ぎた。人の幸せを奪ってきたんだぞ」

「でもエヴァちゃん、マギさんの事好きなんやろ?好きな人に好きって言わなかったら、自分から幸せを手放したら悲しいえ」

「っ!のほほんとしたお前に何がわかる!……そりゃ私だってマギに好きだと告白して、マギと付き合いたいと思ってるさ。のどかや茶々丸に負けないと宣言したさ。けど私は不老不死の吸血鬼。愛している男が老いて死んでも私は生き続けている。刹那を見て私もとそう思っている。けど私みたいな奴が幸せになっちゃいけないんだよ」

 

 

 エヴァンジェリンは自分が幸せになってはいけないとそう自分に言い聞かせる。そんなエヴァンジェリンの後頭部をアスナがはたく。

 

 

「何馬鹿な事を言ってるのよエヴァちゃん。女の子が幸せを捨てじゃ駄目なのよ。いい?女の子はね、幸せになっていいんだから。マギさんにちゃんと好きって告白しなきゃ!」

「なっお前は何を言ってるのか分かってるのか神楽坂!私がどれほどの人間を殺したのか、教えてやろうか!」

「う~ん、アタシ馬鹿だからそう言う難しい事言ってもよく分からないから。でも大丈夫、何とかなるって」

 

 

 サムズアップをするアスナ。根拠も何もないのに、そこまで自信満々に言い切る自信は何なのか。馬鹿らしく、呆れかえってしまったエヴァンジェリン。

 

 

「そう言う事を言うんだったら、タカミチに告白してから言うんだな」

「んな!?そう言うエヴァちゃんもそう言ったつんけんな態度ばっかしてると、マギさんに愛想尽かされちゃうわよ!」

「お前には言われたくないわ!このアンポンタン!」

「うっさいバカエヴァちん!」

 

 

 刹那とこのかをほっといて、取っ組み合いを始めたアスナとエヴァンジェリン。その光景を苦笑いを浮かべながら見ている刹那とこのか。

 このかに向き合う刹那。

 

 

「お嬢様。私はお嬢様を護る役目、そして幸せになる事を手放しません」

「うんせっちゃん」

 

 

 このかは刹那に笑いかけた。そして刹那は改めて誓う。剣の道と幸せの道。どちらも諦める事は絶対にしないと。そう誓ったのだった。

 

 

 

 

 



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知らない世界はある意味自分の身近にある

もう遅いですが新年あけましておめでとうございます。
これからもよろしくお願いします


 麻帆良武道大会が賑わいを見せてる中、大会の外、主に魔法先生や魔法生徒はと言うと……

 

 

 

 

「うはぁ。これ大丈夫かな」

 

 

 魔法先生の1人、瀬流彦先生は超の提供で放映されている、武道大会のハイライトを見て苦笑いを浮かべている。

 今流れているハイライトはネギとタカミチの試合。白熱した戦いが映像で流れている。

 

 

「高畑先生。結構本気出してるなぁ。偵察で行ったはずだったのに」

「いやいや、これは男として仕方ないよ。ネギ君こんなに強いとはねー。僕も戦ってみたくなっちゃたよ」

 

 

 瀬流彦先生と一緒に映像を見ている明石先生。彼は裕奈の父であり、魔法先生でもある。

 そして次に流れたのは、マギと楓の試合である。マギが浮遊術で空を飛びながら、分身している楓に居合拳を連発してる。

 

 

「まったくマギ先生は……どうしてこう派手にやっているんだ。これが魔法の漏洩に繋がったら……」

 

 

 マギの試合を見て、ブツクサと呟いているガンドルフィーニ先生。

 

 

「でもこれ、大丈夫なんですかね」

「大会自体は学園長も容認しています。コレぐらいの画像映像の流出は問題ないかと」

 

 

 明石先生の問いに問題ないと答える葛葉刀子先生。

 

 

(しかし掲示板に「魔法」の言葉が異様に多いように感じる。危険と言うほどではないが、主催者は超鈴音、用心に越したことはないな)

「一応学園長にも報告しよう。偵察を増やした方がいいかもね」

 

 

 明石先生は偵察を増やす事を提案する。マギやネギが知らない間に魔法使い達は動きを見せ始めた。

 

 

 

 

「おう千雨」

「あっマギ先生」

 

 

 次はマギと高音の試合だが、まだ試合まで時間があったのでてきとうにぶらついていたら、千雨と会った。

 

 

「どうだ?楽しんでるか?」

「まぁそれなりに。時折変な演出があって、やらせかよって思いますけど」

 

 

 千雨はマギ達の魔法を、全て演出だと思っているようだ。千雨は現実主義な所があり、この麻帆良祭のやり過ぎとも言える演出があまり好きではない。

 

 

「まっそれなりか」

「えぇ。あぁあと、マギ先生に気になる事があったので聞きたいと思ってたんですけど……魔法って言葉に聞き覚えがありますか?」

 

 

 千雨にばれないようにピクリと反応するマギ。

 

 

「魔法?魔法がどうかしたのか?」

 

 

 知らないふりをして、千雨に聞いてみるマギ。

 

 

「いえ1週間前から学園の都市伝説系の掲示板で色々と騒がれているんですよ」

 

 

 そう言って千雨がマギに『麻帆良学園都市伝説』と言ったサイトを見せてみた。

 そこには色々な都市伝説が書かれていた。

 ・3-Aに出てくる女子の幽霊

 ・桜通りの吸血鬼騒動

 ・図書館島の地下に巨大なドラゴン

 ・ピンチになると現れる『魔法少女』や『魔法おじさん』

 などなど

 

 

(うわぁお……殆どと言うか全部知ってるんだが)

 

 

 女子の幽霊はさよで、吸血鬼はエヴァンジェリンだ。

 ドラゴンにも会ったことがあるし、魔法生徒や魔法先生であることは確実だ。

 

 

「まぁ私はごく普通の常識人なので、こういった類の噂話は信じていません」

 

 

 ところがと間を開けてから再度サイトを見せる千雨。

 

 

「この大会が余りに非常識な事が起こってるので、ネットを調べてみたら魔法の単語がぞろぞろと出てくるんですよ」

 

 

 掲示板には魔法来たー!やら魔法だと言った一言が多く出てきた。

 

 

「この学園、よくよく考えてみると可笑しい事だらけなんですよ。ネギ先生と初めて学園に着た時、あの巨大な世界樹と呼ばれる樹を」

「まぁデカイよな。俺も最初に思った事はマジかって感じだったし」

 

 

 さらに千雨は樹高が270mある事を教え、更に光るのに外部からは取材などは全く来ない。学園に居る者達も別に気にも留めない事に可笑しいと言う。

 それはここの魔法使い達が認識阻害魔法で特に気にしないように仕向け、外部には漏れないように徹底しているのだ。

 だが、中には千雨の様に阻害魔法が余り効かずに「この場所はどこかおかしい』と思う人間も出てくる。

 

 

「だから魔法と言うのもあながち間違いじゃないか……なんてそんな事思ったんですけど、そんな事無いですよね!アハハハ」

 

 

 誤魔化す様に、頭を掻きながら笑う千雨。

 

 

「でもそうとも言い切れないんです。ここ最近、掲示板には魔法の単語が後を絶たなく出ています。まるで誰かが魔法を広めようとしてる。少なくとも私はそう見ます」

 

 

 掲示板を見ながら千雨は言う。マギは腕を組みながら、千雨に問いかける。

 

 

「なぁ千雨、お前はどうしてそこまで魔法とかを言い方が失礼だが毛嫌いするんだ?普通だったら魔法とかを面白そうだと思って見ると思うんだが」

「別に私は毛嫌いはしてませんよ。ただ現実と妄想を混ぜるのが嫌なだけです。疲れるじゃないですか。私は何もない平穏な毎日を送りたいんです」

 

 

 遠くを見ながら呟く千雨。3-Aの騒ぎに基本我関せずのスタイルの千雨。最近は偶に参加するようになったが、それでも少し離れて騒いでいる光景を見ている方が多い。

 マギは思い切って尋ねる事にした。

 

 

「千雨、若しもだが魔法が本当にあったとして、お前の現実の世界に入り込もうとしたらどうする?」

「……徹底的に抵抗しますよ。魔法なんて有るはずない。下らない妄想が私の世界に入るなって」

「そうか。仮に親しい友人とかが魔法は面白いものだと言って誘ってきたら?」

「それでも拒否します。友人だからと言ってなんでも流されるのは、私は嫌ですから。でっでも、もしマギさんに誘われたら、考えちゃうかも……」

「ん?最後の方なんて言ったんだ?」

「なっなんでもないです!」

 

 

 最期の方を呟いた千雨は大声を出して誤魔化した。

 首を傾げるマギだが、まぁいいかと深く考えなかった。

 

 

「千雨の考えが良く分かった。だったら俺は、お前が平穏な毎日を過ごせるように手助けする」

「手助けですか?」

「あぁ。千雨の言う通り、友達だからって合わせていたら、疲れちまうからな。だからお前が無理しないように手助けするし、もし自分が望んでないものが自分に入ったら、直ぐにでも取り出して何時もの平穏な毎日を過ごせるようにするさ。先生だからな」

「そっそうですか……」

 

 

 笑いかけるマギに、千雨は顔を赤くしながらそっぽを向いた。

 

 

「んじゃそろそろ時間だから、戻る事にするわ」

「あ、頑張ってください」

 

 

マギはネギ達が居る場所へと戻って行った。

 



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影使いのあの子はお固い子

 千雨との魔法についての話をしたマギは、千雨と話した事をネギとカモそして愛衣に話してみた。

 

 

「ええっ!?魔法の存在が噂として広まってる!?」

「まぁあくまで噂程度だが、インターネット上では魔法の単語がちらほらと見えたぞ」

 

 

 愛衣はマギが言った事に驚き慌てはじめる。魔法が一般人にばれてしまうのはとても不味いと言うのは承知の上だ。

 

 

「まほうがばれちゃうと、どうなっちゃんレスか?」

「魔法がばれるとな、カモと同じオコジョになっちまうんだよ」

 

 

 プールスが何時ものポジションであるマギの頭から魔法がばれた場合、どうなるかを聞きマギがオコジョになってしまう事を答えた。

 オコジョになってしまったマギ達と、幼女であるプールスが戯れる(オコジョと幼女の語呂がいいなと思ったマギ)事を想像したマギであるが、流石にオコジョになってしまったら面子以前に大切な者達を護る事が難しくなるだろう。

 

 

「次は俺と高音の試合か……魔法をばらそうとしない高音だが、あのロボットの試合じゃ影で殴り飛ばしてたからなぁ。大丈夫だと信じたい」

「でもお姉様は一度決めた事には一直線の真っ直ぐな人なんです。いい人なんですけど、マギ先生に対しても恐らく本気で……」

「まぁ一応、怪我させない範囲で速攻で勝負を決めるつもりだけどな。んじゃ行ってくる」

 

 

 プールスをネギに預けると、マギは試合会場へと向かった。

 試合会場にはもう高音が待っており、黒い大きなローブを纏っており、体のラインが見えなかった。

 

 

『さぁ片やロボットに勝ち、片や忍者に勝ったお二人の試合が始まります!それでは始めて下さい!』

 

 

 和美の試合開始の合図に、マギは拳を構える。

 

 

「フフ。マギ先生、遂に来ましたね私との試合が。この試合で私は貴方に真の力をお見せします」

 

 

 そう言ってローブに手をかける高音。頼むから派手なのは止めろと思いながら出方を伺うマギ。そして高音がローブを脱ぐと

 

 

「これが私の真の力、操影術近接戦闘最終奥義!『黒衣の夜想曲』!!」

「……うわぁ。派手だ」

 

 

 高音の背後には、影で出来た巨大な影人形が浮かんでいた。高音の後ろに巨大な人形が現れた事に、会場はどよめきだす。

 

 

『おおっと!行き成り巨大な人形が現れたー!CGか!CGなのかー!?』

 

 

 和美の実況にも熱が入る。影の帯が触手の様に動き、マギに向かって突っ込んできた。マギが躱すと、帯が会場に刺さる。切れ味は抜群の様だ。

 避けた矢先に、高音が背後に回る。高音が拳を振り下ろすと、それに連動し影の人形も拳を振り下ろす。破壊力も申し分なし。小さなクレーターが出来るほどの威力だ。

 

 

「随分と厄介な影みたいだっなっ!」

 

 

 マギが高音に向かって正拳突きを繰り出すが、高音が腕を交差させ、影の人形も腕を交差させ、マギの正拳突きを防いだ。拳から感じる固さで防御面でも一筋縄ではいかないと分かる。

 

 

「本当に厄介な奴だなこりゃ……」

 

 

 マギが呟いている間にまた帯が迫る。さらに帯の連撃が速いため、詠唱している時間も無い。高音の本気を見た事のないマギは改めて高音の厄介さを思い知った。

 

 

 

 

 

 

 

 マギと高音の試合を会場とは別の場所で見ている者が居た。超である。

 

 

「ふむふむマギサンと高音サンは良いように試合が運ばれていくヨ。派手にやってくれればやってくれる程、こちらもやりやすいと言った所ヨ」

 

 

 

 地下空間にて、マギと高音の試合を映像で見ている超は満足げに頷く。超の後ろにはちび刹那とタカミチが、結界のようなもので身動きが取れないでいた。

 

 

「超さん、一体何のつもりなんですか。クラスメイトの貴女が何故」

「すまないバカせつなサン。手荒な真似をするつもりはなかたのだが、私の雇った傭兵が容赦なくてネ。高畑先生も申し訳ない」

 

 

 その傭兵事アーチャーは、タカミチを戦闘不能にした後、見回りと言う事でどこかへ行ってしまった。因みに千草はアーチャーと同伴である。

 

 

「何しろ時間がなくてネ。この大会も本来はやるつもりが無かたが、急遽開いタ。本来だったら1年かけて準備する予定だたヨ」

「それは異常気象によって、世界樹大発光が早まったからかな超君」

「正解。流石は高畑先生ネ」

「……超君。君の目的は何だ。返答によってはいくら元教え子と言えども見過ごす事は出来ないぞ」

 

 

 タカミチの問いかけに、一呼吸入れてから超は答える。

 

 

「なに大した事はないネ。世界に散らばる『魔法使い』の人数、私の調べた所、東京圏の人口の約2倍。全世界の華僑の人工よりも多い。これはかなりの人数ネ」

 

 

 タカミチは黙って話を聞いている。

 

 

「それにこの時代、彼らは我々とはわずかに位相を異にする”異界”と呼ばれる場所にいくつかの『国』まで持っている」

「……それで?」

 

 

 少しだけ顔色を変えたタカミチを見て、心配ご無用ダと超がそう言いながら

 

 

「一般人に迷惑をかけるような真似はしなイ。それはちゃんと約束するヨ。私の目的は、彼ら『魔法使い』。総人口6千7百万人、その存在を全世界に対し公表すル。それだけネ。大したことではないヨ」

 

 

 ちび刹那は大口を開けて呆然としていたが、薄々超の目的が分かっていたタカミチは表情を変えない。

 

 

「僕達、魔法使いの存在を公表して、君の何の利益があると言うんだい超君」

 

 

 フフと小さく笑うだけで、何も答えず去ろうとする超。

 

 

「食事はウチの美味しい物を届けるネ。不自由をさせて申し訳なイ」

「待ってくれ超君。これだけは答えてほしい。あの傭兵は一体何者なんだ。そして何故彼があの計画を知っている」

「……」

 

 

 黙って去って行った超。地下空間にはタカミチとちび刹那が残された。

 

 

「どうしましょう高畑先生……」

「まぁこのまま黙って捕まっている訳にもいかなくなったね」

「でもこの機械式の拘束具、ちょっとやそっとじゃ動きそうもありませんよ」

「大丈夫。こういう状況は君達よりも慣れているんだ」

 

 

 そう言ってタカミチは口をモゴモゴと動かした。

 

 

 

 

 

 

 場所はマギと高音の試合に戻る。マギは魔法の矢を拳に乗せて放つが、高音の影が頑丈すぎるせいで傷一つつかない。

 

 

「フンっ!!」

 

 

 魔法の矢が効かないなら直接と殴りつけても凹みもしない。自分の方が有利な状況に居ると見た高音は冷や汗を流しているが、余裕の表情を浮かべている。

 攻撃を止められたマギに、帯が襲ってくる。

 

 

「やれやれ固すぎるな」

「えぇそうでしょう。この最恐モードに打撃は通用しません。こんな下らない大会はさっさと終わらせて、マギ先生に正しい魔法使いと言うのは何なのかを教えてさしあげます」

「悪いけど、俺は正しい魔法使いって柄じゃあないな。今は先生をやってるが、基本は自由気ままに生きている方が好きだからな」

 

 

 そう言ってマギは高音と距離を開けた。会場の観客たちを見てみると、高音の影の人形を派手なCGだと勘違いしている様子だ。なら自分が派手な技を見せても問題ないはずと判断したマギ。

 

 

「なぁ高音、矛盾って言葉知ってるだろ?矛と盾を自慢してたらそれを見てた一般人にそれをぶつけたらどうなるって聞かれて何も答えられなかったって奴をさ」

「えぇ常識です。それがどうかしたのですか?」

「俺は此れを聞いたときこう思ったんだよ。盾よりも矛の方が強かったら簡単に貫けるんじゃないかってな。だからこそ、その最強モードを打ち破らせてもらうぜ」

「大きく出ましたね。出来るならやってみてください」

 

 

 高音はあえて挑発する。自分のこの最強モードが打ち破られる事がないと言う絶対的な自信があるからだ。だがマギはその考えのさらに上を行く。

 

 

「魔法の射手 連弾・炎の9矢」

 

 

 マギは無詠唱で炎の魔法の矢を出した。高音はそれをそのまま自分にぶつけると思った。だがその考えとは斜めの方向へと向かう。

 その魔法の矢を右腕に集め始めるマギ。

 

 

「掌握!さらに右腕に集中!!」

「なっ何をやっているんですかマギ先生!?」

 

 

 高音はマギが闇の魔法を使った所を見るのは初めてだ。魔法の矢が集まったマギの右腕は炎で真っ赤に燃えていた。

 

 

『もっ燃えているぅ!マギ選手の右腕は真っ赤に燃えている!と言うか熱くないのか!?』

 

 

 会場のあっちこっちで俺のこの手が真っ赤に燃えるぅ!ゴッ〇フィ〇ガー!やら〇ートエ〇ド!と騒いでいた。

 

 

「行くぜ高音」

 

 

 マギは燃え盛る右腕を構え一直線に高音に向かって行った。

 

 

「くっはぁぁぁぁっ!!!」

 

 

 高音が拳を突きだし、影人形も連動して拳を突きだす。

 

 

「名づけるなら、炎神爆炎拳!!」

 

 

 マギの炎の拳と影の拳がぶつかり合う。最初は拮抗していたが、徐々に影の拳に罅が入り始めた。

 

 

「そんなっ私の最強モードが……!」

「悪いな高音。打ち破らせてもらう!」

 

 

 そしてマギが拳を振り抜くと影の拳が消し飛んだ。影の人形も限界が来たのか、消し飛んだ拳から徐々に消えて行った。

 

 

「あっう……」

「おっと」

 

 

 影の人形が消滅したためか、膝から崩れ落ちた高音をマギが抱きかかえる。

 

 

「凄いお兄ちゃん!」

「かっこいいレス!」

「流石大兄貴!」

 

 

 ネギプールスカモはマギを賞賛しているが、愛衣だけは慌てている。

 

 

「たっ大変です!服も影の使い魔の一部ですから、お姉様が気を失うと……」

「えっ……」

「あぁやべぇな……」

 

 

 愛衣の言った事に何が起こるか分かったネギとカモ。プールスだけ理解出来ずに首を傾げている。

 

 

「今の魔法は『闇の福音』の闇の魔法。どうしてマギ先生が禁忌の魔法を……何が貴方をそこまでしたのですか?」

「この大会はクソ親父が優勝した大会だからな。クソ親父と同じ舞台に立って、少しでもクソ親父に追いつきたかった。闇の魔法は少しでも早く強くなりたかったからだな」

 

 

 話をしながら頭を掻いていたマギが突然ビシリと固まってしまった。高音はマギが硬直したのが分からなかったが、自分の体が妙に肌寒いのに気づきハッと自分の体を見る。

 影の人形が消滅した事で、影で出来た服も消滅してしまい、真っ裸となっている。

 

 

「ひぅっ……」

 

 

 自分の大切な部分を腕で隠しながらマギを見ると、マギはそっぽを向いているが、顔は真っ赤である。おそらく見られてしまったのだろう。気になるマギに裸をまじまじと見られ、高音の羞恥心は頂点に立つ。

 

 

「ふぇっ……せっ責任とってくださぁぁぁい!!」

「ちょ!高音!?責任って何でだ!!」

 

 

 腕で隠しながら逃げるように会場を後にする高音。余りの光景に呆然としている観客たち。

 

 

『えっえー、大変なハプニングが起こりましたが、試合時間がまだ残っていますが、高音選手が試合を放棄したと言う形となったので、この勝負マギ選手の勝利です!』

「……なんか釈然としねぇ……」

 

 

 勝利したマギであるが、後にエヴァンジェリンの割と容赦のない飛び蹴りを顔面に貰うと言う情けない形でマギの試合は終わった。

 マギの試合の後は、クウネルと古菲の試合であったが、古菲の腕の負傷もあり、クウネルの不戦勝で終わった。

 そして武道大会は準決勝が行われる。

 

 

 

 

 

 

 



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ネギ対刹那

そろそろ社会人生活が始まります



 まほら武道大会も残す所準決勝と決勝だけとなった。まず最初はネギと刹那の試合である。

 

 

「それじゃあ行って来るねお兄ちゃんアスナさん!」

「おうまぁ程々に頑張りな」

「ネギお兄ちゃんがんばってレス」

「気を付けなさいよネギ!」

 

 

 相手の刹那が刀として代用しているデッキブラシと言う事で、ネギも愛用している杖を使うようだ。

 

 

「相手は詠春の使っていた神鳴流を使う刹那さんですか。ネギ君がどう試合を運ぶか見ものですね」

「ネギなら何とかなるだろ。まぁ相手が刹那だしどうなるか分からんけどな」

「そうですね。ところで顔の方は大丈夫ですか?」

「それは聞かない方向で」

「ふふ分かりました」

 

 

 エヴァンジェリンに顔を蹴飛ばされて顔面に靴跡を作ったマギが試合がどう動くか話していた。

 

 

『さぁ!武道大会準決勝が今始まろうとしています!片やデスメガネ事高畑選手に辛くも勝利を収め、同年代の村上選手と激闘を繰り広げたネギ・スプリングフィールド選手!片やまほら中学剣道部に所属し、デッキブラシに剣技が冴え渡る桜咲刹那選手!ネギ選手は桜咲選手がデッキブラシと言う事で、自前の杖を使う模様です。ネギ選手はどう戦うのでしょうか!?』

「刹那さん、どうかよろしくお願いします!」

「ネギ先生。こちらもよろしくお願いします」

 

 

 そして互いの得物を構える。試合開始の合図で最初に動いたのはネギだ。

 瞬動術で刹那の背後に回り、ネギは魔力を込めた杖の先を刹那に向けて突きだした。

 

 

「桜華槍衝 太公釣魚勢!!」

 

 

 鋭い突きが刹那に当たり、観客はいきなりの大技に歓声が上がる。

 

 

「おや、今のは槍術ですか」

「古菲が八極拳は槍も得意だとそう言ってたな。槍術も古菲に教えてもらったんだろう。だが、あれ位で刹那を倒せるとネギはそう思ってないだろうな」

 

 

 マギの言う通り、ネギは今の一撃が手応えがあり過ぎると言うよりかは固すぎると感じた。見れば刹那の背中は気の障壁に護られており、届いていない。

 そして攻撃の後の隙を、刹那は逃さない。

 

 

「神鳴流奥義 百列桜華斬!!」

 

 

 神鳴流の奥義の1つ、百列桜華斬がネギを襲う。薙ぎ払いの一撃を杖で防ぐが、桜の形を扮した気のかたまりが吹雪の様に舞う。此処からは刹那のターンだ。

 ネギを蹴り飛ばすと、デッキブラシに気を集める。

 

 

「奥義 斬空閃!!」

 

 

 飛ぶ斬撃と言うよりかは衝撃波をもろに喰らったネギは会場を2度バウンドする。何とか立て直そうとするネギに刹那は追撃する。

 

 

「斬岩剣!!」

 

 

 気を纏ったデッキブラシが会場を叩き壊す。会場が少女に破壊されるのを見て、観客たちは何人か引いている。

 

 

「斬鉄閃!!」

 

 

 今度は気を纏った横一閃の攻撃。衝撃波で破壊された会場の木材も攻撃材料となってネギを襲う。

 漸くネギも体制を立て直して刹那に魔法の矢を放とうとしたが、ネギよりも速く刹那が動き自身の股でネギの顔を挟み込む。

 刹那の股に顔を挟まれ赤面するネギだが、今は真剣勝負の最中。剣士となった刹那に羞恥心は無い。

 

 

「神鳴龍 浮雲・桜散華」

 

 

 プロレス技の1つであるフランケンシュタイナーの様な投げ技で地面に沈んだネギ。

 

 

「刹那の奴容赦のねぇこって」

「ひぃぃぃぃぃ!桜咲さん!何の権利があってネギ先生に非道な事おぉぉぉっ!!」

 

 

 マギが刹那の容赦のなさに苦笑いを浮かべていると、どこかで聞いた事がある声が聞こえる。

 辺りを見渡していると、屋根に3-Aの生徒達がほとんどいた。

 何やってるんだと思いながら頬を掻いていたマギは周りの人たちに気づかれないように屋根へと上った。

 

 

「お前ら何しにここに来たんだ?店はどうしたんだよ」

「いやぁ~人が多すぎたからお忍びで来ちゃった。お店はザジさんに任せてま~す」

 

 

 マギの問いかけに裕奈が答え、まったくと溜息を吐くマギ。そんなマギに凄い形相であやかが掴みかかった。

 

 

「マギ先生!どうしてネギ先生があれほどに傷つかないといけないのですか!?桜咲さんも何の許可があってネギ先生にあれほどの暴力行為を!!」

 

 

 胸倉をガクガクと揺さぶれているマギは落ち着けとあやかを軽く小突いた。それでも痛かったのか、蹲るあやか。

 

 

「これは試合だから、互いに全力でやらなきゃ意味がないんだよ。と言ってもネギの奴ちょっと1歩引いてる感じだな」

「え?それってどういう事なんマギさん?」

 

 

 マギの言った事に頭を傾げる亜子。マギの頭に乗っているプールスもよく分かっていない様子だ。

 

 

「ネギは刹那が自分の生徒だからって事で、上手く本気で戦えていない様子だな」

 

 

 ネギはこれまでタカミチ、小太郎と自分が尊敬している男と良きライバルである少年としか試合をしていない。刹那は女性であり、ましてや自分が護ろうとしている生徒と言う事でどう戦っていいのか迷っている様子だ。

 だがそんな甘い気持ちで刹那と戦って勝てるわけがない。ネギもそれを重々承知しているはずだ。

 

 

「さてどうなることやら」

 

 

 フッと笑いながら試合がどう動くのか見物を続けるマギ。

 場所はネギと刹那の試合に戻り、ネギは何とか立ち上がるが脳が揺さぶられているためか、思うように動けていない。

 

 

「どうしたのですかネギ先生、技のキレや足運びが高畑先生達と試合を行った時よりも雑なように見えますが」

「そっそうでしょうか……」

「若しかして、私がネギ先生の生徒だから本気を出していないのですか?でしたらそれは心外です。今の私は1人の戦士としてネギ先生の相手をしています。だからこそネギ先生も本気でかかってください」

「わっ分かりました……」

 

 

 頭で理解していても、相手が刹那で思うように体が動かない。マギは生徒である楓と本気の試合をした。結果楓はマギに傷つけられたわけだが、楓は気にしていなかった。本気の戦いで傷がつくのは当然と楓は答えており、マギも本気でやらなければ相手の楓に失礼だと答えた。

 だが素直で根が優しいネギは刹那相手に本気が上手く出せないでいた。刹那はそれを感じ取ってふぅと息を吐くと、一度デッキブラシの構えを解いた。

 

 

「話が変わりますが、ネギ先生は自分が一番護りたい人はいらっしゃいますか?」

「えっ一番護りたい人ですか?」

「私は木乃香お嬢様です。お嬢様を護る為なら私はこの命を投げ捨てる覚悟があります。ネギ先生は命をなげうってでも護りたい人はいらっしゃいますか?」

「それは……」

 

 

 ネギは思わず黙ってしまう。ネギにもアスナやこのかに目の前に居る刹那や、他の3-Aの生徒達を護りたいと思っているが、たった1人それも命を賭けて護りたいと言うのを理解はしているが、刹那の覚悟まで持っていない。

 自分よりも年下の少年にこの問いかけは難しかったかと判断した刹那は別の問いかけをする。

 

 

「ではネギ先生は将来どうなりたいのですか?」

「え?それはお兄ちゃんや父さんの様な立派な魔法使いに……」

「その答えはマギ先生やお父様を目標にしているだけで、ネギ先生が将来どうなりたいのか分からないと捉える者が出てきます」

「うっ僕は……その……」

「ネギ先生の歳では憧れた人の様になりたいと言う思いは分かります。ですが、ネギ先生が本当になりたいと思った時に、それが足枷になってしまう可能性もあります」

 

 

 ネギは黙って刹那の話を聞いていた。観客たちは戦わずに問答を続けているネギと刹那を見て、どうしたのかとざわついている。

 

 

「私はマギ先生やお父様の背中を追う事を否定はしません。ですが、一息ついて周りを見渡したらどうでしょうか?若しかしたらネギ先生の大切なものと言うのが見えてくるかもしれません」

「大切なもの……」

 

 

 ネギは刹那の言われた通り、呼吸を整えて周りを見渡す。自分を心配しながらも声援を送るアスナ。ネギと刹那、どちらにも声援を送るこのか。師として弟子を信じている古菲。いつの間にか来ていた、自分を心配しながら見ているあやかやまき絵、3-Aの生徒達。自分の兄であるマギと、最近できた妹のプールス。

 そして目の前の刹那。ネギは遠くの存在を見ていて、自分が色々な人達に見守られていた事に改めて気づく。

 

 

「刹那さん。僕は将来どうなりたいか、僕が覚悟をもって護りたい大切な人と言うのはまだ分かりません。でも今は僕の周りに居る大切な人達を護っていきたいと思います」

「はい。それでいいと思います」

「それと、刹那さんも僕の大切な生徒なんですから、何かあったら僕が絶対に護ってあげます」

「……ふふっでしたら、この試合で私に勝たないと逆に私がネギ先生を護ってしまいますよ」

「はい!ですので行きます!!」

「ええ!どうぞ!」

 

 

 話が終わり、またぶつかり合うネギと刹那。先程よりもネギの動きが生き生きとしており、瞬動術が連続で出来るようになっていた。

 まだまだ粗削りだが、これほどまでに早い成長を見せるネギにマギは驚いている。

 

 

「ちょっとちょっと!ネギ君急に大人っぽくなったって言うか、生き生きしだしてない?」

 

 

 ネギの戦いを見てチアの美砂が興奮しだす。あやかはネギの勇姿を又見れて、鼻血が出そうな勢いで鼻息を荒くしている。

 

 

「ねぇ!今ネット開いたんだけど、ネギ君の事が色々と載ってるよ!」

 

 

 そう言って円が見せたサイトには『必見!涙の子供先生の大会出場の理由』と大きく出ていた。

 ネギが大会に出た理由が行方不明の父であるナギが25年前にこの大会で優勝しており、少しでもナギの事が知りたい事。そして母親もいないと言う事が色々と書かれていた。

 ネギに対しての想いが強いあやかはネギの知られざる事情を知らなかったことにショックを受けて膝から崩れ落ちていた。

 更に何故かマギが次に戦うクウネルが父親説が書かれており、マギは首を傾げる。何故クウネルがナギと言う事になっているのだろうか。

 

 

「マギさん。マギさんのお父さんも若しかして魔法使いなん?クウネルさんって人がそのお父さん?」

「いや……アイツと話した事があるが、親父の友達って言ってた。それに親父があんな胡散臭い奴じゃないって断言できる」

 

 

 亜子とマギがクウネルの事を話している。と亜子はネットにはマギの事が書かれていないことに気づく。

 

 

「マギさんは、その、行方不明のお父さんの事どう思ってるん?」

「……亜子、世の中の息子が全員が全員ネギみたいな父親想いじゃあないんだよ」

 

 

  ネギを応援しているあやか達の気を煩わせないように、亜子にだけ聞こえるように答えた。亜子はそれを黙って聞いている。

  会場でもネギの記事を読んでいる者が多く、涙を流す者も居る。まだ少年であるネギが行方不明の父を探す。これほどお涙ちょうだいな話は無いだろう。

  会場の応援はネギコールに埋め尽くされた。それに応えるかのように段々とネギの動きにキレが出てきた。まさに戦いながら成長している。

 遂にネギは刹那の得物であるデッキブラシを弾き飛ばす。刹那はデッキブラシには目もくれず拳を構える。

 

 

「流石ですねネギ先生!ですが神鳴流は無手でも遅れは取りません!!」

「やぁぁぁぁっ!!」

 

 

 ネギは何も考えずに杖を放り投げ、八極拳を繰り出す。無手の刹那とネギの八極拳がぶつかり合う。

 互いに攻め続け、一切退く事はせず。どっちが勝っても負けても可笑しくないと観客達はそう思っていた。

 そして……

 

 

「見事です」

 

 

 魔力が籠ったネギの肘が刹那に深々と突き刺さっていた。決定打となり刹那は膝から崩れ落ちた。

 

 

「惚れ惚れするほどの良い一撃です。ネギ先生、貴方は本当に強くなりました。それだけ分かっただけでも、今日はいい――――」

 

 

 最後まで言い終えずに刹那は意識を手放した。刹那が戦闘不能になった事で、ネギの決勝進出が決まった。

 ネギの勝利が決まった事に、会場から惜しみのない拍手がネギに送られた。ネギは気を失った刹那を担いで会場を後にした。

 

 

 

「ネギの奴何とか勝てたか。まぁ何とかなるとは思ってたけどな」

 

 

 ネギに小さくだが、拍手を送るマギ。あやか達と別れ会場に戻ってみると、にこにことクウネルが笑っていた。

 

 

「ネギ君と神鳴流の対決、中々楽しませてもらいました」

「そりゃよかったな。なぁアンタに聞きたい事があるんだが、ネットでアンタがオレやネギの親父説がささやかれてるんだが……アンタなんか知ってるんじゃないか?」

 

 

 マギの問いかけに、ニコニコしていたクウネルはスッと目を開きマギを見る。

 

 

「本当なら、ネギ君にこの力を見せてあげようと思っていましたが、今の私の興味対象はネギ君ではなくマギ君、貴方ですよ」

「オレ?」

「マギ君、貴方は強い。ですがその強さは歪んでいます。ナギに対する憎しみに近い感情を強く持っている。その力がナギに届くかどうか」

 

 

 クウネルはマギの耳元に顔を近づけると

 

 

「俺が確かめてやるよ」

 

 

 先程のクウネルとは別の声でマギに囁いた。マギはその声を聴いて顔を強張らせる

 

 

「では準決勝で。楽しみにしていますよ」

 

 

 そう言ってクウネルは去って行った。

 

 

「今のはまさか……」

 

 

 マギは信じられないと言ったように呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 



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クウネルの力 マギの怒り

最近社会人となり、全然投稿出来なくなりました。
帰って来る時間が深夜と疲労がたまるので全然指が進まない……


「ねぇネギ、マギさんどうしちゃったのよ……」

「わかりません。僕が戻ってきた時にはお兄ちゃん、あんな調子でした」

 

 

ネギとアスナはヒソヒソ声で話していた。

 

 

「なぁなぁマギさん、どうかしたん?」

「……別に、何でもねぇよ」

 

 

ネギが戻ってみると、マギがピリピリした状態になっていた。このかが訪ねても別にの一点張りである。

とふとマギが上を見上げた。

 

 

「おい、避けねぇとあぶねぇぞ」

 

 

と言って数歩下がるマギ。マギにつられ上を見上げてみるネギ達。見上げると褐色の少女のシスターとアスナ達と同い年位のシスターが落ちてきた。

 慌ててその場から離れるネギ達。シスターはネギ達が居た場所に丁度着地した。

 

 

「ふぃ~。さぁって高音さんを探しますかねぇ~。アベアットと」

 

 

 シスターがアーティファクトを解除する呪文を呟くと、彼女が履いていた靴が光、カードへと戻った。そしてカードにはMISORAの文字が書かれていた。というか同じクラスの美空であった。

 ふと視線を感じたシスターもとい美空は周りを見渡してみると、おなじみの顔ぶれのアスナ達が凝視している。

 やっべ……と内心思った美空は他人のふりをしてその場を去ろうとしたが、アスナが美空の肩を掴んだ。

 

 

「美空ちゃん!美空ちゃんでしょアンタ!?何やってんのよこんな所で!?何よそのカードは!?」

「いえいえいえ、ワタシ美空という者ではアリマセン」

「嘘つきなさい!クラス短距離で1・2位を争ったアタシの顔を忘れたとは言わせないわよ!!アンタも魔法使いだったの!?こっちを向きなさい!」

「いえ私、美空ではありません」

 

 美空ではないと言い切る美空。対応が段々と面倒な方向へ進んでいく。

 

 

「んじゃナゾのシスターさんと言う事にしておくから、何でここに来たのか説明しろよ」

「なんか投げやりっすねマギ先生。まぁいいや、高音さんに用があったんすけど、高音さんいますか?」

「ん?高音ならあそこだ」

 

 

 くいっと親指である方向を指すマギ。美空はその方向を見てみると、見るからに落ち込んでいる高音とその高音を必死に慰めている愛衣の姿が其処にあった。

 

 

「一応聞くっすけど、何があったんすか」

「……アイツの面子とかそう言うのもあるから深くは聞かないでくれ」

 

 

 異性に二度も裸を見られた高音については詮索しないでほしいとそう美空に言っておくマギ。

 

 

「でも高音さんに接触しろってシスターシャークティーに言われてるし、しゃあない」

 

 

 落ち込んでいる高音には気にも留めないで、近づく美空。結構マイペースなんだなと思ったネギ達も高音の元へ向かう。高音に近づくと不意に顔を上げる高音。

 

 

「貴女は美空さん。どうしてここに」

「だから私は美空では……あぁもう何かメンドイからもういいっす」

 

 

 誤魔化すのが面倒になった美空は、超を調査するために地下へと向かったタカミチの反応が突然消えたと言う事で、魔法生徒で実力のある高音に向かってもらいたいとのことである。

 美空の話を聞き、さっきまで落ち込んでいた様子が消え、直ぐにでも向かうと言った高音。だがしかし

 

 

「アタシも行く!」

 

 

 気になっているタカミチが行方不明と言う事で、自ら向かうと言ったアスナ。これには美空や高音は反対する。アスナは魔法に関わっているが、魔法生徒と言う訳ではないのだから。

 なら刹那はどうかと思ったが、彼女はネギとの試合でのダメージが完全に消えてないために逆に足を引っ張ってしまう。

 

 

「だったら僕が……」

「アンタは駄目よネギ。アンタはまだ試合が残ってるんだから」

「でも……」

「でももへちまもないわよ。アンタはこの大会に自分から出たいって思ったんだったらちゃんと最後までやりなさい。少しはアタシを信じなさい。アンタのパートナーなんだから」

 

 

 アスナに言い切られてしまい、ネギは何も言えなかった。するとさっきから黙っていたマギが刹那に近づいた。

 

 

「刹那、身代わりの紙持ってるか?」

「ええ、持っています」

「悪いが一式貸してくれ」

「分かりました。どうぞ」

 

 

 刹那に身代わりの紙と筆ペンを貸してもらい、一回で自分の名前を書けたマギ。身代わりの紙に、自身の魔力と気を少しづつだけだが送る。

 そして紙が光、マギの分身が現れた。目の前でマギの分身が現れた事に驚く高音と愛衣。

 

 

「俺の分身も連れて行こう。限られた時間しか動けないが、戦力は多いに越した事はないだろう。そう言う事だから任せるわ」

「あぁ任せろ」

 

 

 仕込み杖を渡された分身マギはアスナや高音と愛衣に美空達を連れて地下へと向かおうとしたが、足を止めマギの方を見た。

 

 

「さっきまでの記憶は引き継いでいるからな。今の俺の心の内は分かってる。分かってるからこそ言うが、変に爆発なんてするなよ」

「……あぁ分かってる」

 

 

 言いたい事はそれだけだと言い残して、分身マギは今度こそ地下へと向かった。そしてマギも会場へと向かう。

 

 

「おいマギ」

 

 

 頭にチャチャゼロを乗せたエヴァンジェリンがマギを呼び止めた。

 

 

「お前の分身が怒りをあらわにするなと言っていたが、アイツには逆に遠慮などするな。アイツの舐めた態度を見返してやれ」

「エヴァ……」

「偶には私もお前のそのな……えっと……」

「ハッキリ言エよ御主人。オ前のカッコイイ姿を見てェッテよ」

「うるさいバカ人形!えぇい!くどいようだが遠慮などするな!思い切り戦え以上だ!!」

 

 

 言い切ったエヴァンジェリンは恥ずかしさを隠すかのように大股で去って行った。

 頭を掻きながら、思い切り戦えね……と呟きながら会場に立つマギ。

 

 

「待っていましたよマギ君。君と戦う事に」

「そうかい。俺はアンタに確かめたい事があるんだけどな」

 

 

 和美の実況など耳に入っていないマギは拳を構える。対するクウネルは構えない。不敵に笑っているだけだ。

 

 

『それではファイト!!』

 

 

 和美の合図と同時にクウネルの周りに無数と呼んでもいいほどの本が浮かび上がる。

 マギはクウネルが自分にアーティファクトのカードを見せ、それがクウネルのアーティファクトだと読んだ。

 

 

「ふふふ、私は貴方と戦って見たかった。今こそ私の本名を名乗りましょう。我が名はアルビレオ・イマ。サウザントマスター、ナギ・スプリングフィールドの友人です。ですが私の事は今迄通りクウネル・サンダースと呼んでください」

「アンタの事は如何でもいい。というか、あんたの本名詠春さんから聞いてるから。それよりもさっきのタネをさっさと教えろ」

「せっかちですね。いや、それよりも焦っていると言った方がいいでしょうか。ではお見せしましょう。そして私も10年来の友との約束を果たす事が出来ます」

 

 

 そう言うと、クウネルの周りに浮かんでいた本の1冊を手に取る。

 ページを何枚か捲ると一枚のしおりが顔を出す。それはクウネルはすかさず取る。

 するとしおりが光、光がクウネルを包み込む。マギは思わず腕で顔を覆い、光から目を護る。 

 そして光が晴れると、そこにいたのはクウネルではなく、タカミチよりも年上な男性が現れた。

 

 

「アンタは……」

「ふふ」

 

 

 行き成り姿が変わった事に驚いているマギに対して、男は瞬動術でマギの背後に回った。

 マギは避けようとするが、男はタカミチと同じ居合拳を数発を敢えて外し、水煙で会場にマギの姿を隠す。

 

 

「流石はガトウです。素晴らしい威力ですね。今の攻撃でマギ君貴方は理解したはずです。私のアーティファクト『イノチノシヘン』の能力は特定の人物の身体的特徴の再生です」

 

 

 と今度は詠春それも若い姿へと変わった。得体の知れない能力にマギは動けないでいた。

 

 

「しかしこの能力は自分より優れた人物はわずか数分しか再生できず、余り優れた能力ではありません」

 

 

 と今度はネカネに変わる。しかも声も変わる為に、ホントに目の前にネカネが居るとしか思えないマギ。

 

 

「私の趣味は他者の人生の収集。この魔法書一冊一冊にそれぞれ一人分の半生が記されています」

 

 

 そしてとまた一冊の魔法書を手に取るクウネル。

 

 

「そして我がアーティファクトのもう一つの能力。この『半生の書』を作成した時点での特定人物の性格記憶感情、全てを含めての『完全再生』」

 

 

 それを聞いて、マギはクウネルが何をしようとしているのか大体理解してきた。

 

 

「もっとも経った10分しか再生出来ず、再生が終わった魔法書もただの人生録になってしまうため、これも余り使えない能力です。使えるとしたら、動く遺言……それ位しか使い道がないかもしれませんね」

「遺言……」

 

 

 また元の姿に戻り、不敵に笑うクウネル。それと同時に水煙が晴れる。

 

 

『水煙が晴れて状況が分かるようになりました!クウネル選手はまたフードをかぶっているが、マギ選手は呼吸が荒いぞ!水煙の中で何が起こっていたんだぁ!?』

 

 

 マギは荒い呼吸を整えようと深く深呼吸する。もう周りは見えておらず、クウネルの事しか見えていなかった。

 

 

「では本題です。10年前、我が友の1人からある頼みを承りました。まだ幼い息子と、まだ見ぬ息子に何か言葉を残したい……と」

 

 

 動悸が早くなり、胸が苦しくなったマギは必死で胸を押さえていた。

 

 

「心の準備はよろしいですか?時間は10分、再生は一度限りです。では……」

「まっ待てよ!あの時っあの6年前の雪の日、あれはテメェだったのかクウネル!?」

「6年前、私は何もしていません」

 

 

 そしてさっきよりも強い光がクウネル、マギ、そして会場を覆った。

 マギは目を凝らしながらクウネルを見た。

 もうそこにはクウネルは居らず、一人の男の周りに白いハトが数匹集まっていた。 

 風でフードがフワリと脱げ、マギとネギと同じ赤髪の男が立っていた。

 そして男は振り返り、マギを見てニヤリと笑う。

 

 

「よぉ。若しかしてマギか?大きくなったなぁ」

 

 

 マギとネギの父親、ナギ・スプリングフィールドが其処にはいた。

 

 

「あっあぁ……」

 

 

 マギは開いた口が塞がらなかった。まさしく自分の父ナギであった。

 

 

「ぺっぺなんだよこの鳥たちはよぉ。アルの奴、また過剰な演出しやがって」

「……」

 

 

 口に入っていた鳥の羽を吐き出すナギにマギは無言で駆けだした。

 

 

「親父!!」

 

 

 マギの親父発言に会場はどよめきだす。まさかクウネルが本当にマギやネギの父親だとそう思っているのだろう。

 

 

「親父……」

 

 

 会場のどよめきなど目もくれず、マギはナギに一直線に向かう。

 観客の殆どは、マギが生き別れになった父親と漸く再開したと思ってるのだろう。中には涙ぐんでいる者もいる。

 ……だがマギの心の内は会場が求めているような御涙頂戴の展開とは程遠い。

 

 

「親父……っ」

 

 

 自分はマギは

 

 

「親父っ!」

 

 

 目の前のナギを……

 

 

「クソ親父ィィィィィィィィィっ!!」

 

 

 ぶん殴ってやりたかったのだから。

 魔力を込めた本気の拳をナギの顔面に容赦なく振るった。

 ナギは咄嗟にガードする。マギの拳とガードしたナギの腕がぶつかり合い、衝撃波で会場が罅割れ、水しぶきが上がる。

 

 

『えぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

 

 会場の人達は目を飛び出す位に驚いた。皆漸く会えた父親と抱擁とかするのだろうと思っていたからだ。

 だが結果は、家庭が崩壊するかもと言った暴力沙汰だったからだ。

 

 

「おいおいマジか……」

 

 

 ナギはマギの本気の一撃を防ぎながら、冷や汗を流しながら乾いた笑みを浮かべていた。

 

 

「会いたかったぜクソ親父、俺はテメェをぶん殴る為に……目の前のテメェが偽物でも構わねぇ。本物のクソ親父に会うための前哨戦だ。テメェをぶちのめしてやるよぉ……っ!覚悟しろよクソ親父!」

 

 

 マギは怒りで無詠唱で闇の業火を手に集め掌握し、夜叉紅蓮となる。

 ナギとマギの戦いが今始まる。



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喧嘩と涙

久しぶり……本当に久しぶりな投稿となってしまいました。
仕事&新たに打っていた小説その他諸々……
今更ですが、更にクオリティが下がってしまいました。


「ぶっ潰す……!」

「おいおい、それって闇の魔法かよ。エヴァの奴、俺の息子になんて魔法を教えたんだよ」

 

 

 怒りで息が荒く、猛獣のように四つん這いになっている、紅蓮夜叉状態のマギ。

 そんなマギを見て、冷や汗を流しているナギ。余りの緊迫状態に、観客の皆は黙っていた。

 

 

「がぁっ!!」

 

 

 魔力を爆発させ、ナギに一気に近づくマギ。ナギは拳を構える。

 マギは拳を振り下ろそうとした瞬間、マギの姿がぶれる。

 

 

「は?」

 

 

 ナギは間抜けな声が漏れるが、次の瞬間ナギの背後にマギが現れた。

 

 

『おおっと!マギ選手消えたと思ったら、クウネル選手の背後に回っていた!』

 

 

 ナギが背後に回った瞬間、またマギの体がぶれ、今度はナギの頭上に。

 さらに右に左にと爆発的な瞬動術で分身ではなく、高速な動きでマギが何人でも増える。

 まるで残像拳だと観客のあちこちから聞こえてくる。

 残像を纏った攻撃がナギを襲う。ナギはマギのラッシュを防ぐ。

 

 

「つつ。結構痛ぇじゃねぇか。強く育ったみたいでパパは嬉しいぜ!」

「黙れ!今更父親面するんじゃねぇ!!」

 

 

 ナギの反撃を受け止め、殴り返すマギ。しかしそれを躱すナギ。

 後方へ下がったナギを追撃し、また激しい攻防戦が繰り広げられる。

 拳と拳、蹴りと蹴りがぶつかり合い、衝撃波が響く。

 

 

『まるでドラゴンボールの様なバトルの光景だぁ!と言うか私ここに居て危なくはないのでしょうか!?』

 

 

 和美は衝撃波に襲われながらも実況を続ける。

 

 

「なぁマギ!全然見ない間に随分デカくなったなぁ!今まで何があったのかパパに話してくれないか!?」

「だから黙れって言ってるだろうが!!テメェと語る口何か持ち合わせていねぇ!!」

 

 

 マギの怒りに反応しているのか、夜叉紅蓮の赤髪が少しづつ伸びてきている。

 それを見てエヴァンジェリンは冷や汗を流す。

 

 

(ヤバいな。怒れとは言ったが少しづつ怒りに呑まれかけている。クウネルの奴、後先考えずにナギになった報いだが、暴走しそうになったら私が止めるしかないな)

 

 

 「テメェが居なかった間に俺とネギが何があったか知ってるのか!?ネギの奴は戻って来るか分からねぇテメェを待ってくだらねぇイタズラを挙句には湖にわざと溺れたりしてなぁ!幼かったネギの想いなんか知らなかったよなぁ!テメェはその時そこに居なかったからなぁ!」

 

 

 無詠唱で魔法の矢を放つ。その数は100を超える。マギの攻撃をナギは黙って受けていた。

 

 

「アイツは少しでもテメェに追いつこうと年不相応な無茶をし続けた。アイツはアンタと同じで天才肌だからな。だけどな、そんなアイツに大人げなく嫉妬する輩がいた。俺はネギを護ろうとして、アイツの害になりそうなことを全部俺が受け止めていた。けどな、受け続けて段々と俺も心に余裕がなくなってきた。苦しくて、辛くて、ネカネ姉やおじさんに相談しようと思った。けど2人に心配をかけては駄目だって子供の頃そう思った」

「いけない事だと言うのは承知してた。けど段々と俺はネギが憎くなってきた。元はと言えばクソ親父が俺達の目の前からいなくなって、ネギが無理して努力してそれを護ってが嫌になってきた……何で俺がこんな事しなきゃいけないんだって思うようになってきた!気がつけば俺はネギに対して無関心を装うようになってきた!」

 

 

 段々と魔力が膨れ上がって来るマギ。それにつられ、夜叉紅蓮の赤髪が段々と伸び始め、体の色もだんだんと黒に染まってきた。

 

 

「あいつが死にそうになった時は心臓が止まりそうになった!なのにアンタは戻ってくることは無かった!ネギの奴は分からねぇが、俺は英雄であるアンタなんかどうでもよかった!」

「他の父親みたいに、子供の成長をちゃんと見ていて!一緒に飯食って!今日何があったのかって他愛のない話をして!」

 

 

 黒き翼を無詠唱で出すマギ。だがそれは黒鳥の翼ではなく、悪魔の様な羽であった。

 断罪の剣でナギを斬りつけようとする。ナギは黙ってマギの攻撃を防ぐだけだった。

 

 

「何処かへ出かけて、色々な思い出を作りたいと思った!俺は……俺はどこにでもいるような普通の家族の思い出を作りたかった!!なんでっなんでテメェの息子だからってこんな思いをしなければいけないんだよ!!」

 

 

 マギはナギを上空へと蹴り上げた。

 一瞬で100m程飛んで行ったナギを観客席の観客そして3-Aの生徒達はあんぐりと見ていた。

 マギは自分の口に魔力の塊を集める。それにつれて、マギの顔に黒いうろこ状のものが浮かび上がる。

 

 

(不味い……!)

 

 

 流石にこれ以上は不味いと判断したエヴァンジェリンだが、一足遅かった。

 

 

「……何とか言えよクソ親父ィッ!!!!」

 

 

 マギの口からまるで龍の咆哮のように魔力の塊が発射された。

 魔力の塊はナギに直撃すると、轟音と爆発が会場を襲った。

 悲鳴を上げる観客もいれば、パニックになり会場を出ようとする者もでてきた。

 

 

『皆さん!落ち着いてください!これはパフォーマンスであって危険な事はありません!かえってパニックなってしまった方が危ないです!どうか席を立たないでください!!(とか言ってみるけど、これ絶対ヤバい感じだよね……マギさんも何かどんどんと人外みたいな見た目になってるし……)」

 

 

 和美は実況者として、何とか観客達を落ち着かせようと試みるが、マギがどんどんと異形の姿へと変わっていくのを見て、戦慄を覚えていた。

 爆発と煙が晴れると、ナギは無傷だった。服に多少の焦げが見られるが、たったそれだけの被害しか見られない。

 これだけの攻撃をしてもまだ自分はナギに届いていないと実感すると、マギは拳を強く握りしめる。

 

「クソ……クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソォォォォォォッ!!!」

 

 

 普通の人が認識できるほどの濃くて強い魔力のオーラを出すマギ。それを見てもナギは黙ったままだ。

 

 

「何とか言えよクソ親父ィッ!!」

 

 

 マギの右ストレートが、ナギの右頬に抉るように入った。

 右ストレートが入っても、ナギは少々困ったような。よく子供に怒られ、申し訳なさそうな笑みを自分の息子へ浮かべていた。

 

 

「……何か、何とか言ってくれよ……”父さん”」

 

 

 クソ親父ではなく、父さんとナギをそう呼んだマギ。

 遂には大粒の涙を浮かびあげ、膝から崩れ落ちた。

 崩れ落ちたのと同時に夜叉紅蓮が解除され、上半身裸の普通のマギへと戻った。

マギの涙を今まで見た事のない3-Aの生徒達は何というか居た堪れない気持ちへとなってしまった。

 ナギは頭を数回掻いた後、少々唸った後

 

 

「あー……えと……そのなんだ……すまなかった。お前に辛い思いをさせちまっていたって事か。俺の息子だって事でな……テメェの息子の気持ちを理解できないなんて、父親失敗だな」

 

 

 マギに謝ったナギは和美の方を向く。

 

 

「あ~そこの嬢ちゃん、この勝負だけどさ……俺の負けでいいわ。自分の息子の気持ちを踏みにじった俺に勝つ資格はないからよ」

『くっクウネル選手!自らギブアップ宣言!これにより、この試合勝者はマギ・スプリングフィールド選手です!』

 

 

 歓声も無く拍手も無く、静かに試合は終わった。マギの溜めに溜めていた心の中の叫びを聞き、スプリングフィールド家の家事情を聞いたからだろう。

 

 

「あー立てるかマギ?それとまぁ何かわりぃなこんな父親でよ」

「手なんか貸してもらわなくても立てるっつーの。本物じゃなくてもクソ親父を1発殴れたんだ。今はよしとしてやるよ」

 

 手を伸ばしてきたナギの手を払いのけて立ち上がる。そう言えば結構いい加減な父親だったなと今更思い出すマギ。

 自分の今迄の想いもナギに届いたと思うが、こういう輩反省しても結局ケロッとしているものだ。

 とナギはジロジロとマギを見ている。

 

 

「……なんだよ」

「いやぁ試合やってて気が付かなかったけど、結構お前背があるんだな。下手したら俺よりもでっかいかもな」

 

 

 自分の背と息子の背を比べて嬉しそうに笑っている。

 

 

「気安く近づくな。俺はまだテメェの事を許してないんだから」

「はは。そっか……そう言えばマギが居るんだったら、ネギの奴もいるのか?せっかくだから一目見たいんだけどな」

「ネギならあそこに居るぜ。ほら」

 

 

 親指でクイッと指差すマギ。ネギが出ていいのか悪いのか、戸惑っていた。

 

 

「おぉお前がネギかぁ。マギとは違って随分真面目そうな奴だなぁ。真面目な所は母さんにそっくりかもな」

「ほぉんじゃ俺はアンタ似ってわけかクソ親父?」

 

 

 ナギを睨みつけるマギ。睨まれてもナギはかんらかんらと笑っている。さっきまでの殺し合いになりそうだった殺伐とした雰囲気はどこへ行ったのだろうか……すっかり置いてけぼりな観客達である。

 

 

「とっ父さん!!」

 

 

 ナギに向かって駆け出すネギ。その目には涙を浮かべている。

 ナギは両手を広げてネギを抱きしめよう―――――とはせずにでこピンでネギを吹っ飛ばした。

 

 

「父さん!?」

「ハハハ。何ビービー泣いてんだ?男だったらそんな簡単に泣くんじゃねえよ」

「その泣いた原因の半分以上がアンタなんだけどな」

「マジか」

「……やれやれだぜ」

 

 

 ナギの言った事に呆れながらツッコミを入れるマギ。

 笑い飛ばすナギはネギの頭に手を置き、くしゃくしゃと撫でまわした。

 

 

「不思議なもんだな。俺の意識上じゃまだ生まれてないのな。随分と大きくなったもんだな。んー……まぁこうして俺が出て来たっていう事は、もう俺は死んだっつーことになるんだよな。悪りぃな。お前らに何もしてやれなくて……マギの言う通り、俺は家族サービスを碌に出来なかった馬鹿な親父だよ」

 

 

 自嘲気味に笑うナギ。

 

 

「こんな事言えた義理じゃねぇがな、これからも元気に育てよ。じゃあな」

「待ってください!父さんとはまだ話したい事が沢山あるんです!それに、父さんは生きてるんです!」

「6年前の雪の日に俺とネギはアンタに助けてもらったんだよ。だからアンタは死んでねぇ」

「何?」

「ナギ!」

 

 

 まだ話したりない所だったが、エヴァンジェリンが割って入ってきた。

 

 

「エヴァ」

「師匠」

「へ?師匠?へぇ~ほぉ~」

「うるさい黙れ。時間の問題だ」

 

 

 ナギの反応にエヴァンジェリンは若干イラッとし始める。

 

 

「呪いの事とか色々と言いたい事があるが、今はいい。幻影に言ってもしょうがないからな」

「呪い?……あぁ呪いってあの呪いな!あれすごく気になったんだけど、俺ちゃんと呪い解いたのか?」

「ふん!お前がいくら待っても来なかったからな、マギに解いてもらったわ」

「マジ?あれ結構適当にやった呪いなんだけど、よく解けたな」

「アンタのいい加減な呪いのせいで、俺は死にそうになったけどな」

「いやぁ呪いを解くとは、流石は俺の息子だな」

「だから気安く近づくなって言ってんだろうが」

 

 

 ナギはマギの肩を叩きながら褒めるが、マギは舌打ちをしながらナギから離れようとする。

 

 

「それともう一つ、ナギお前に伝えることがある。私はもうお前なんか好きでもなんでもない。待ってても何時まで経っても戻ってこないお前なんか願い下げだ。今はもう……他に気になる奴がいるからな」

 

 

 そう言ってエヴァンジェリンはチラチラとマギを見ていた。ナギはほほぉとニヤリとマギに笑いかけた。

 

 

「……なんだよ」

「いやぁ、お前も大変なお姫様に気に入られちまったな。まぁそう言う所も俺に似てるって感じか?」

「うっせー」

 

 

 とナギの足元から光始めた。どうやら時間切れの様だ。

 エヴァンジェリンは一筋の涙を流す。幻影と言っても初恋の男に漸くあったのにまた直ぐに別れなければいけない。

 マギは黙ってエヴァンジェリンの頭を撫でた。

 

 

「ネギ。お前が今までどう生きて、お前に何があったのか……俺のその後に何があったのか、幻に過ぎない今の俺にはわからない」

 

 

 けどなとニヤリと笑うナギ

 

 

「この若くして英雄となった、偉大かつ超クールな天才&最強無敵のお父様に憧れる気持ちは分かるが、俺の跡を追うのはそこそこにして止めておけよ」

「ぷっ」

「何がお父様だよ。育児放棄をしたクソ親父だろうが」

「まっこういうことになる。家族との大切な時間を潰すような駄目な親父になるなって事さ。いいか!ネギ、お前はお前自身になりな……マギの方はもう分かってるみたいだけどな」

「テメェみたいなクソ親父になるつもりは毛頭ねぇよ。テメェの生き方はテメェで決めるさ」

 

 

 マギの答えに満足したのか、じゃあなとナギはマギ達に行った後に光に包まれた。

 光が晴れると、ナギからクウネルに戻っていた。

 

 

「如何でした?満足できましたか?」

「あぁクソッタレな遺言だったよ」

 

 

 にこやかに笑っているクウネルに対してそう返すマギ。

 

 

「……父さん」

 

 

 ネギは我慢していた涙がまた溢れ出して、ボロボロとこぼれ出す。

 マギは黙ってネギを抱きしめると、優しくネギの背中を撫でた。

 

 

「ねぇ可笑しくない?さっきまでおとうさんと話してたのにまた泣いてるよネギ君。何かもう会えない感じだし、もしかしてあのクウネルって人、ネギ先生のお父さんじゃあないのかな?」

 

 

 観客や3-Aの生徒達はそう話していた。

 がそんな話は直ぐに消える。

 

 

「ぐっ……がぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

 ネギを抱きしめていたマギが呻き声を出しながらのた打ち回った。

 

 

「お兄ちゃん!?」

「ちょ!マギ先生大丈夫なの!?」

 

 

 ネギや和美は驚いてマギに大丈夫かと問いかける。

 

 

「無理もない。怒りで闇の魔法を発動させたんだ。今マギの体にはかなりの負荷がかかってる。正直私は決勝戦は坊やの不戦勝にした方がいいと思っている」

「……大丈夫だエヴァ。ちょっと休めばすぐに回復するさ。折角のネギとの試合を不戦勝でネギに勝たせるのは俺も納得できないからな。そう言う事で和美、ちょっくら休憩をはさんでもいいか?」

「えっえぇいいですよ……『会場の皆さん!先程白熱とした試合を見せてくれたマギ選手ですが、どうやら無理をしてしまった様で、このままではネギ選手との試合も出来ずに、ネギ選手が不戦勝で優勝と言う形になってしまいます。これには観客の皆さんやマギ選手も納得が出来ないと思われますので、急遽1時間の休憩を挿ませて頂きます!』……一応休憩を入れましたけど、余りに酷かったらネギ先生の不戦勝にしますからね。これでイイですか?」

「あぁ悪いな」

 

 

 こうしてマギとネギの決勝戦は1時間後に決行となったのであった。

 



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地下水路探索

 マギとクウネル(ナギ)の試合が始まろうとしていた中、分身マギが率いているタカミチ&ちび刹那捜索隊(アスナ命名)はタカミチの反応が消えた地下水路へと到着していた。

 

 

「結構暗いな。お前ら、足元気を付けろよ」

 

 

 先頭を歩いていた分身マギは後ろに居るアスナ達にそう呼びかける。

 

 

「一々言われなくても分かってます。ってきゃあっ!?」

 

 

 言われなくても分かっていると返そうとした高音は、足元にあった管に足を引っ掛け転びそうになった。

 が転びそうになった高音の腕を分身マギが掴み、高音が転ぶのを防ぐ。

 

 

「だから言ったろ、気を付けろって」

「あっありがとうございます……」

 

 

 赤面しながら分身マギの手を離す高音。そんな2人の遣り取りをニヤニヤと見ていた美空。

 

 

「ほうほう、いい雰囲気っすね~」

「なんかおっさんぽいわよ美空ちゃん」

 

 

 とアスナが美空にツッコミを入れたが、ふとある物に気づく。

 駆け寄るとまだ中身が入ったタバコの箱だった。

 

 

「これ……高畑先生が吸ってたタバコ!やっぱり高畑先生ここで何かあったんだわ!」

「いやこれ、有名なタバコの銘柄じゃん。結構吸ってる人いるよ」

「こんな地下に来て吸う人なんていません!」

 

 

 スッと高音がアスナと美空の言い合いを手で制した。何か前方から此方に向かって来ていた。

 その何かとは田中だった。それも同じ田中が大勢と、田中軍団だ。

 

 

「たっ田中さん!?こんなにいっぱい!」

「おっお姉様どうしたんですか!?」

 

 

 アスナは大量の田中に驚き、愛衣は高音の様子がおかしくなったのを見て慌てる。

 目の前の田中に服を脱がされ痴態を晒してしまった事が高音のトラウマになってしまったのだろう。

 分身マギ達を敵と判断した田中軍団は口を開きエネルギーを充填し始める。

 

 

「このぉ!来るなら来なさいよ!」

「神楽坂さん!お姉様の様子がおかしいんです!」

「私皆様の前で2度も素裸を晒したんですよね。フフ、フフフフフフ……」

 

 

 ハリセン状態のハマノツルギを構えるアスナ。一方まったく使い物にならない高音を正気に戻そうとする。

 そしてさりげなく美空はこの場をずらかろうとしていた。分身マギは田中軍団を見て頭を掻いた。

 田中軍団の口からレーザーが一斉に放たれる。思わずアスナと愛衣は悲鳴を上げた。

 

 

「……たく一々悲鳴を上げるな喧しい」

 

 

 レーザーはアスナ達に当たる事は無かった。分身マギが仕込み杖を構えて障壁を張ったからだ。

 

 

「俺が目の前のロボットどもを蹴散らす。アスナ、お前は援護を頼む。お前のハマノツルギはこいつらにはあまり効果がない。こいつらが使ってるのは魔法じゃないからな」

「わっ分かったわ」

「フゥ……さて、それじゃあ行くかぁ!!」

 

 

 仕込み杖を構え、一気に田中軍団へと突貫する分身マギ。田中軍団もマギを近づけさせまいとレーザーをマギに向かって放ち続ける。

 分身マギは瞬動術を使いながらレーザー群を紙一重で回避する。

 

 

「ふっ!」

 

 

 間合いに入った分身マギは仕込み杖を一体の田中へと振るった。斬られた田中はまるで豆腐が切れたようにずるりと崩れ落ち、そのまま機能を停止した。田中軍団も腕や足を振るってマギに反撃をする。

 分身マギ対田中軍団と激しい攻防戦が繰り広げられる。

 

 

「マギさんに続くわよ!」

「姐さん、闇雲に突っ込んでも意味がないですぜ。さっき使ってた奴を使うべきでさぁ!」

「カモ!アンタ何時の間に!?」

「気になってついてきたんでさ。話は後!もたもたしてるとやられますぜい!」

「うっうん!」

 

 

 アスナは咸卦法で自信を強化し、田中軍団へと突っ込んで行った。近くに居た田中一体にハマノツルギを横に揮うと、田中は吹っ飛びそのまま地下水路を流れて行った。

 

 

「凄い……コレなら行ける!」

「油断したら駄目ですぜ姐さん。奥からまだまだ来てる!」

 

 

 カモの言う通り、奥からぞろぞろと田中軍団が列をなしてきている。分身マギが斬っても斬ってもきりがない。

ふと後ろを向くと、美空がクラウチングスタートの構えをしていた。

 

 

「ちょ!美空ちゃん何逃げようとしてんのよ!?」

「いやぁ私のアーティファクトは戦うのには向いてないんだよね。だから……」

 

 

 美空は一気に駆けだした。

 

 

「後はお願いねぇぇぇ!!」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

 

 アスナが止めようとしたが時既に遅し。美空はすでに数百mまで走り去っていった。

 

 

「ほっとけアスナ、今は目の前の敵に集中しろ」

「でもマギさん!美空ちゃん勝手に逃げ出したのよ!?」

「いいから見ろ」

 

 

 分身マギに言われ渋々と見ろと言われた方を見てみると、蜘蛛の様な8本足のロボットの上にミニガンのような武器を持った田中が、美空が逃げて行ったのと同じ方向へと向かって行った。

 数秒後……

 

 

「ぎゃあああ!!何かごつい武器を持った奴と中ボスで出て来そうな奴が私の所にぃぃぃ!!」

「美空自業自得」

「ココネまでぇ!って今度は目の前からぞろぞろとうひゃぁぁぁ!!!」

 

 

 美空が逃げた方向から連続で弾丸が発射される音とレーザーの音が連続で聞こえ、美空の悲鳴が地下水路に響き渡る。

 

 

「美空が何体かの敵の注意を引いている。今の内に蹴散らせるだけ蹴散らしていくぞ」

「……美空ちゃんの自業自得だけど、結構鬼ね」

 

 

 顔色を変えずに淡々と言い終えた分身マギに冷や汗を流すアスナ。

 さらに時間が経つ。分身マギとアスナと愛衣は次々と田中を撃破していく。

 と分身マギの体がぶれ始める。

 

 

「……如何やら本体の俺が本気を出し始めたようだ。俺が動けるのはあと精々1時間あるかないかぐらいだ。此処からは一刻の猶予もないぞ」

 

 

 分身マギがそう言っている間に、更に田中軍団が追加され、蜘蛛型のロボットと浮遊型のロボットが更に追加された。

 

 

「ねっねぇ、これ何時になったら終わるの?アタシそろそろ魔力が尽きそうなんだけど……」

「すみません私はMPが尽きてしまいました」

 

 

 愛衣はもう魔力が尽きてしまい、戦力としては成り立たない。圧倒的に不利かと思われたが

 

 

「ふふふ、皆さんお待たせしました。正義の使徒、高音・D・グッドマンここに復活!私が戻ったからにはもう安心です!行きますよ!操影術近接戦闘最強お―――――」

 

 

 高音が技名を叫んでいる最中に、蜘蛛型のロボットが高音にレーザーの発射口を高音に向けた。

 へっ?高音が気が抜けた言葉を出している間にレーザーが高音に放たれようとしていた。

 その蜘蛛型のロボットを分身マギが殴り飛ばした。

 

 

「何敵が大勢いる中で突っ立ってるんだよ。狙ってほしいのか?」

「うっうるさいです!そんなわけないじゃないですか!!」

「だろうな。んじゃ俺と試合やった時の奴を早く出してくれ。俺の時間もそろそろなくなってきたからな」

「わっ分かってます!操影術近接戦闘最終奥義!『黒衣の夜想曲』!!」

 

 

 高音の背後にマギと試合の時に出した巨大な影の人形が現れた。

 

 

「さっさと行くぞ」

「一々命令しないでください!」

 

 

 分身マギと高音がロボットの軍団へと突っ込んでいく。ロボット達がレーザーを放つが、高音の影がレーザーを全て防いでしまう。

 

 

「無駄です!この影の鉄壁の防御は破れたりしません!」

「だから一々べらべら喋るなっての」

 

 

 無詠唱で魔法の矢を放つ分身マギ。即席のコンビとなったが、中々に2人のコンビネーションは合っていた。

 分身マギに攻撃が入りそうになると、高音が影を操り、攻撃を防ぐ。

 高音の背後ががら空きになると、マギが障壁を張りながら高音を護る。

 次々と敵を蹴散らしながらも高音は高揚感を感じていた。

 気になっている男性と背中合わせで戦い、自分達を襲っているロボ達を倒していく。高音が理想としている光景であった。

 だが段々と分身マギの体が薄れ、ぶれ始めて来た。

 

 

「ヤバいな本体の俺の魔力が荒ぶってるみたいだ。俺の体も維持が難しくなってきたな……」

「ちょマギさん!?マギさんが居なくなると更に戦力ダウンなんだけど!?」

「後は任せたいんだけどな……だから油断はするなって言っただろうが」

「へ?きゃっ!?」

 

 

 分身マギの体が消えそうになっているのを高音は見て、高音は動きを止めてしまった。

 その高音を田中がを放つ。分身マギが高音を引っ張り、高音をレーザーから避けようとするが、分身マギの腕にビームが当たり、分身マギの腕が消えてしまった。

 

 

「成程、分身の俺は、服じゃなくて体ごと消えるんだな」

「ちょ!マギさん痛くないの!?

「分身だからな痛みとかはないぞ」

「うっ腕……マギ先生の腕が……くぴゃ!?」

 

 

 目の前で分身マギの腕が吹き飛んだのを見て、ショックで固まってしまった高音に、容赦なく田中が高音にレーザーを撃つ。

 レーザーが直撃した高音は全裸になってしまった。

 

 

「おねぇさまぁ!!」

 

 

 高音が全裸になってしまったのを見て、悲鳴を上げている愛衣にもレーザーを当てる田中。

 全裸になった高音と愛衣。戦力は消えかけている分身マギとアスナだけ。

 

 

「悪いアスナ、俺あと少しぐらいで消えそうだわ」

「えぇ~……アタシ一人でこれ全員相手にするのは無理なんだけど……ごめんなさい高畑先生、アタシ貴方を助けるどころか、こんな所で全裸になって倒れることになりそうです……」

 

 

 死ぬ事はないのだが、完全諦めモードなアスナ。確かにこれを1人で相手にするのは骨が折れる以前の問題だ。

 

 

「まぁこいつ等を1人で片づけるのは無理があるか……アスナ伏せろ」

「へ?」

「いいから伏せろ。若しくは屈め」

 

 

 分身マギはアスナの頭を強引に掴むとその場で屈んだ。瞬間轟音と一緒に、田中たちが1体も残さずに吹き飛んだ。

 

 

「なっ何何!?」

 

 

 アスナは目の前で全滅した田中を見て混乱を隠せなかった。

 

 

「……やれやれだぜ。最初から自分で動こうと思えば動けたのか」

 

 

 呆れたような独り言をつぶやく分身マギ。へ?と分身マギが言った事に首を傾げるアスナだが、分身マギの見ている方向を見てみると

 

 

「すまない、心配をかけたようだね」

 

 

 スーツが少し汚れているが、大事の無いタカミチがタバコを咥えていた。

 

 

「高畑先生!」

 

 

 タカミチが元気そうなのを見て、アスナは顔を輝かせながら喜んだ。

 

 

「私もいます!」

 

 

 タカミチの背の後ろからちび刹那も元気そうに手を振っていた。

 更に目を回して気絶している美空とココネ。此方に会釈している五月の姿があった。

 

 

「何だよ元気そうじゃねぇか」

「ちょっと失敗してしまったけど、こういった場面は何回か会った事があったからね。もう慣れっこさ」

「まぁ無事で安心した」

 

 

 と分身マギの足が段々と消え始めて行った。どうやら時間の様だ。

 

 

「タカミチが無事ならもう俺の役目は終わりって言う事でいいか?正直俺の方は限界に来ちまったんだが。タカミチ、後は任せるわ」

「あぁ、マギ君ありがとう。僕がヘマをしたばかりにアスナ君達には迷惑をかけてしまった」

「アスナはそう思ってはいねぇだろうさ。んじゃ俺は此れにて失礼するぜ」

 

 

 分身マギは元の身代わりの紙へと戻り、持っていた仕込み杖がカランと落ちる。

 分身マギが消えた後、アスナ達はタカミチの案内の元、さっきまで超が居たとされる場所へ向かったが、そこはもぬけのからで、手がかりを掴めることが出来なかったアスナ達は武道会場へと戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 



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侵食する非常識

「たく……本当に何なんだよこの学園は……!」

 

 

 吐き捨てるように呟く千雨。彼女が何故不機嫌なのか……

 それは会場に来ていた2人の男性の話が耳に入ってきたからである。

 

 

『すげーなここの武道大会!他の格闘技大会なんて目じゃないぜ!』

『あぁ流石麻帆良学園って感じだよな』

『けどこの武道大会もそうだが、この学園祭自体凄いよな』

『だな、学生が作ったと思えない様な本格的なアトラクション、クオリティの高いお店。どれも有名なテーマパークに引けを取らないぞ』『けど、こんな凄い学園祭をやっているのに全然情報が入ってこないんだよな。せいぜい学園祭のちょっとした情報しかネットには掲示してないし……何か余り外に情報を出したくないって俺思っちまったよ』

『それに今の現代科学じゃあんなロボットを作るなんて難しいだろうし、それに予選や本選でバトル漫画みたいな光線技、それに影分身に巨大な人形。終いにはあのでっかい樹、やっぱりここは何かおかしいよな』

『この麻帆良自体、可笑しなもので溢れかえってるって感じだな』

 

 

 この会話を盗み聞きしていた千雨は自分以外の者がこの学園の可笑しさに気付いたと思い、満足そうに頷く。

 だが……

 

 

『けど別にあんまり気にしてないけどな!』

『学園祭が楽しければそれでいいしな!』

 

 

 気にしていないように笑う2人に、思わずズッコケそうになる千雨だが、何とか耐えた。

 

 

(ちげーんだよ!あたしが求めていたのはそういんじゃねぇんだよ……!!)

 

 

 歯ぎしりをする千雨。彼らが麻帆良に対して余り気にしていない態度を取るのは、認識阻害が働いている方と言う事を彼女はまだ知らない。

 

 

「それにこのふざけた掲示板……魔法、魔法ってくだらねー。現実に非現実を混ぜようとすんじゃねーよ」

 

 

 悪態をつきながら千雨はある掲示板を見ていた。その掲示板は現在の麻帆良の事が書かれており、先程から魔法魔法の言葉が載り続けている。

 非現実を認めていない千雨は、この掲示板に匿名で魔法の存在を真っ向から否定する。

 ネットアイドルで鍛えたネットの書き込み、そうそう論破される事はないと自負している千雨。

 これで少しは掲示板も落ち着くだろうと思った千雨。

 しかし

 

 

「おいおいなんだよコレ……」

 

 

 数分後には新たな書き込みが載っていた。魔法を大々的に肯定するような書き込みだ。

 更に書き込みの内容も学術的な内容で書かれており、千雨の書き込みは悉く論破された。

 掲示板は落ち着くどころか、この書き込みのせいで魔法を信じている者達で盛り上がっていた。

 

 

「誰だよこんなふざけた事を書いた奴は……」

 

 

 千雨は頭を掻きながら呟いていると

 

 

「無駄ですよ千雨さん」

「っ……茶々丸さん」

 

 

 行き成り茶々丸が千雨に話しかける。

 

 

 

「此方の世界を否定している貴女が突っ込みを入れていい世界ではありません。覚悟をもたない者がこれ以上先へと行くのはお勧めしません」

「茶々丸さんアンタ……」

 

 

 感情の読み取れない顔で見つめられ、思わず生唾を飲み込む千雨であった。

 

 

 

 

 

 

 

「……んっあぁ……」

「気が付いたかマギ」

 

 

 闇の魔法を酷使したマギは休むために横になっていた。

 

 

「エヴァか、俺どれくらい寝てたんだ?」

「30分くらいだ。少しは回復したか?」

「少しだけな」

 

 

 マギが上体を起こしたのと同時にネギ達がぞろぞろとマギへと集まってきた。

 

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

「あぁ何とかな」

 

 

 ネギ以外もマギが大事ないか尋ねようとするがエヴァが

 

 

「悪いが貴様等は出てってくれ。今からマギと大事な話があるからな」

 

 

 行き成り2人きりにしろと言ってきたエヴァンジェリンに文句を言おうとしたアスナだが、エヴァンジェリンの発する圧に何も言えずに渋々と言った形でまたマギとエヴァンジェリンの2人きりの状態へと戻る。

 

 

「ネギ達を追い出すなんて、そんなに大事な話なのか?」

「あぁそうだな。とても大事な話だ。単刀直入に言うぞマギ……この麻帆良祭の間はもう闇の魔法は使うな」

 

 

 自分の師から闇の魔法の使用禁止を命じられた。

 

 

「理由を聞いていいか?と言っても何となく分かってるんだけどな」

 

 

 クウネルがナギの姿になった瞬間にマギはキレ、そのまま闇の魔法半ば暴走に近い形へと、異形の怪物になりそうになっていた。

 

 

「さっきのあの馬鹿との戦いで、お前は半ば闇の魔法を暴走させていた。正直な所、あと一歩遅かったら会場は地獄になっていたかもしれない。お前なら使いこなせるかと思ったが、やはりあの魔法はそう簡単に使いこなせる者じゃなかったか……いいか?学園祭が終わるまで、絶対に使うんじゃないぞ」

「分かったよ。俺だって暴走してまで闇の魔法を使おうとは思わないさ。心配かけるなんて悪かったな」

「ふっふん!暴走したお前の相手をするのが面倒だと思っただけだ!」

 

 

 そう悪態をつくエヴァンジェリンだガ、本心はマギには暴走なんてしてもらいたくない。そう強く思っていた。

 暴走して最悪マギが大切に思っている者達が傷付けばマギは後悔するだろうから。

 

 

「んじゃ俺はもう少し横になったら行くって事をネギ達に伝えといてくれないか?」

「ふん、分かったよ。だったもう少し寝ていろ。まったく手のかかる弟子だお前は」

 

 

 呆れたように溜息を吐くエヴァンジェリンはネギ達を呼びに行った。

 エヴァンジェリンの足音が聞こえなくなったの確認し、ふぅと深く息を吐いたマギ。

 

 

「悪いなエヴァ」

 

 

 そう言いながら、マギは自身の右手首を見る。

 右手首には黒いあざのような物が浮かんでいた。

 だがそのあざのようなものはうねうねと蠢いており、少しづつ本当に少しづつだが、大きくなっていた。

 闇の魔法が少しづつマギの体を侵食していた。

 

 

「……まぁ何とかなるだろ。要は闇の魔法を使わなければいい話だ」

 

 

 心配をかけないようにと、マギは手首に包帯を巻いた。

 

 

「よしネギ達の所へ行くか」

 

 

 軽く伸びをしたマギはネギ達の所へ向かった。大丈夫だと自分に言い聞かせながら。

 

 

 

 

 

 

 だが、このマギの行動が後の麻帆良を大きく歪めてしまう事にまだ気づく事は無かった。



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兄弟対決

お久しぶりですユリヤです
長々と投稿出来ずにすみません
社会人となってまだまだ不慣れな所もあり、学生との時の生活のリズムが全く違う事もあり、中々小説にのめり込む時間が出来ませんでした
これ以降も間が開いてしまうかもと言うか絶対開きますが、こんな駄文小説を待っていてくれる方が少しでもいれば幸いです


『皆さま大変お待たせしました!これよりマギ・スプリングフィールド選手対ネギ・スプリングフィールド選手!もう皆さんは分かっていると思いますが、この2人はご兄弟!若しかしたらこの大会初の兄弟による決勝戦になるかもしれません!』

 

 

 和美の実況にて、マギとネギの登場で会場は更なる歓声が上がる。

 

 

『ネギ選手は剣の達人とも言える桜咲刹那選手に辛くも勝利!一方のマギ選手はクウネル選手との試合に超常現象とも言える戦いを私達に見せてくれました!しかし無茶をし過ぎたのか、急遽設けた1時間の休憩でどのくらい体力が戻ったのか気になる所です!それでは間もなく試合が始まります!!』

 

 

 ネギはマギの体の事を心配していた。現に手首の包帯をジッと見ていた。

 

 

「お兄ちゃん、本当に大丈夫なの?その手首の包帯……」

「別に気にする程のもんじゃねぇよ。それよりも良いのか?俺の事心配して勝負に勝てなかったなんて、笑い話にもならねぇぞ」

 

 

 マギの返しにネギは少々ムッとした。心配したのにその返しは如何なのかと思ってしまった。

 一方のマギはこれから試合なのに身内の事を心配しすぎて本気を出さずに戦いそうなネギを心配していた。やるなら全力でが今の彼の考えである。

 

 

『それでは!両者構えて下さい!!』

 

 

 ネギは構えるが、マギは構えもせずに、両手を軽く広げるだけだ。

 

 

『おおっと!ネギ選手は何時ものように中国拳法の構えを取ってるのに対してマギ選手は構えず両手を広げているだけ!これはどういう事なのでしょうか!?』

「悪いな正直言うと、まだ体力は回復しきってないんだよ。だからネギ、いくらでも打ってきていいぞ」

『マギ選手いくらでも打ってきていいと挑発にも取れる発言!これに対してネギ選手は!?』

「そう……だったら遠慮なくいくよお兄ちゃん」

『ネギ選手!敢えて挑発に乗った!さてそろそろ会場の熱気も高まってきたので!試合を開始します!それでは……始め!!』

 

 

 試合の合図と同時にネギはマギへ突貫する。

 

 

(お兄ちゃん相手に小細工なんてやっても見破られる!だったら最初から全力で行くまで!)

 

 

 間合いに入ると、ネギは自分の持ち技の1つ雷華崩拳を繰り出す。目標はマギの腹、クリーンヒットすればかなりのダメージが入るだろう。

 観客の誰もがネギの攻撃がマギに入るとそう思っていた。だが……

 

 

「がっ!?」

 

 

 吹っ飛んだのはネギで、マギはさっきと同じ場所に平然と立っていた。

 

 

『なんだぁ!?攻撃をしようとしたネギ選手が吹っ飛んだぞ!これは一体どう結う事だ!?』

 

 

 ネギも自分が何をされたのか分かっておらず、マギの方を見る。そのマギ本人は軽く首を鳴らしていた。

 

 

「今お兄ちゃん何を……?」

「簡単にネタばらしするわけないだろ?ほれほれ、どんどん打って来い」

 

 

 手首をくいくいとして挑発ポーズをとるマギ。

 下唇を噛みながら、再度マギへ攻撃を仕掛けるネギ。

 

 

「どっどうして今のネギの攻撃がマギさんに通じなかったの!?」

「少し黙ってろ神楽坂。この戦いを理解できないなら一々口出しするな」

「ちょ!どういう事よエヴァちゃん!!」

「アスナさん、ネギ先生とマギ先生の戦いをよく見てください」

 

 

 刹那に言われ、改めて目の前の試合を見るアスナ。今もネギがマギへ攻撃を繰り出し続けていた。今自分が出せる精一杯の力で技を出し続ける。

 一方のマギはネギが繰り出す技をすべていなしていた。ネギが拳を出したら軽く軌道を変えて当たらないようにする。そしてネギの力を利用してカウンターで顔面に掌底を食らわした。さっきネギが吹っ飛んだのもカウンター技を食らわしたからだ。

 

 

「今のマギはまともに動けないからな。坊やの攻撃を利用とするカウンターのスタイルに変えたようだな。坊やの攻撃は単調な所があるからな、あんまり使わないカウンターでもいくらでも対処できるようだな。……卑怯とか言うなよ神楽坂。戦いに卑怯も汚いもない。勝てばいい。簡単にカウンターをされる坊やの戦いにも問題があるんだからな」

「……分かったわよ。これはネギとマギさんの試合なんだから何も言わないわよ」

 

 

 渋々と納得するアスナ。その間にもネギが攻撃をかわすと、柔道の背負い投げの様な投げ技で、ネギを叩きつけたマギはそのまま押し倒すかのように寝技へと持ち込んだ。圧倒的な体格差にネギは動けなかった。

 

 

『今度は寝技に持ち込んだマギ選手!小柄なネギ選手ではマギ選手を退かすのは難しいでしょう!ですがこれは試合です!マギ選手は何も卑怯な事はしてはおりません!体格差を利用した立派な戦法です!』

「どうしたネギ、この程度か?このまま締め上げて終わりにするぞ」

 

 

 徐々に力を入れてネギの意識を刈り取ろうとする。もがくネギだが、まったくビクともしない。

 

 

「くっ……まだまだぁ!」

 

 

 このまま終わるわけにはいかない!そう思ったネギは一瞬だけ魔力を辛うじて動ける足に集め、膝蹴りをマギの腹へと当てる。

 魔力の障壁で体を護っているマギ。だがネギの膝蹴りが腹に当たった瞬間、少し顔をゆがめ、ネギから離れた。

 腹を押さえるマギ、少々効いたようだ。

 

 

「やるじゃねぇかネギ。このまま終わっちまうかと思ったぜ」

「僕だってただで倒れるわけにはいかないからね」

 

 

 不敵に笑うマギに対して、ネギも笑みを返す。まだまだ試合は終わらない様子に観客達のボルテージも上がっていく。

 と此処で初めてマギは構える。

 

 

「ちょっと調子が戻ってきたから俺もそろそろ行かせてもらうぜ。といっても本気を出せるのはせいぜい1分位だろうけどな。……ついてこれるかネギ?俺の本気に」

「ついて行くよ。こんな所で僕は立ち止まれないから」

「……良く言ったな。だったら行くぜ!」

「うん!!」

 

 

 2人は同時に姿を消した。観客達は2人が消えた事にどよめきだすが、次の瞬間にはとてつもない大きな衝撃波が会場を襲った。

 

 

「なっ何!?今度は何が始まったの!?」

 

 

 衝撃波で会場の池の水が舞い上がり、そのままずぶぬれになったアスナが何が起こっているのかと慌てふためく。

 とマギとネギが一瞬現れたかと思いきやまた消え、また現れては消えを繰り返し、時折拳がぶつかり合い衝撃波を出しながらもまた消えると言った高速での戦闘を繰り返していた。

 

 

「瞬動術や!ネギとマギ兄ちゃん連続で瞬動術を使いながら闘っとる!ネギの奴また直ぐにレベルアップしよった……!」

「マギお兄ちゃんとネギお兄ちゃん、ぜんぜん見えないレス!」

「というか大兄貴、こんなに張り切り過ぎてばてないんですかね……」

「まったく直ぐに調子に乗って……アイツもまだまだ男の子と言う事か」

 

 

 エヴァンジェリンは呆れたような溜息を吐いているが、マギがまた闇の魔法を使わないだろうかと心配であった。

 

 

「ネギ!さっきのクソ親父の言ってた事、何か分かったか!?」

 

 

 闘いながらもマギはネギに問いかけた。

 

 

「それってお前はお前自身になれって事!?」

「あぁ!幻だがクソ親父が言った事で何か分かったか!?俺はとっくに答えは出てるが敢えて言うぜ、俺はクソ親父みたいにはならないで自分の道は自分で切り開く!ネギ!お前は如何だ!?」

「正直まだ分からない!けど!僕は父さんやお兄ちゃんと同じくらい強くなる!僕自身が納得するまで突き進む!」

 

 

 そしてマギとネギは組み合う形になる。体格差がありながらも今度はネギは押される事無くビクともしない。

 

 

「違うだろネギ。こういう時はこういうんじゃあないか?『父さんやお兄ちゃんをも超える』コレぐらい言わないと……なっ!」

 

 

 言い終えた後にマギはネギの額に頭突きをおみまいする。余りの攻撃に観客はうわぁと引いていた。

 頭突きを喰らったネギは数歩よろけるが何とか耐える。

 

 

「あはは、そうだね。それ位言い切らないと……ね!」

 

 

今度は中国拳法ではないただのパンチをマギのボディに当てる。

ただのと言っても魔力込のパンチ、ダメージが蓄積されているマギは膝から崩れ落ちた。

 

 

「……やっぱりそろそろ限界みたいだな。そろそろキメに行くか!!」

「僕だってまだまだ行ける!!」

 

 

 今度は技も何もないただの殴り合いとなった。マギ自身体力の限界が近づいていた。ネギもネギでマギ相手にどういった技を繰り出せば効果的かと言った事も頭からすっ飛んで行った。

 ただたんの殴り合い、互いに一歩も引かなかった。互いの拳が顔や体に当たった瞬間に繰り出される鈍い音に、観客達は歓声を上げる事も無く、ただ黙って見ているしかなかった。

 しかしマギやネギをよく知っている者達、アスナ達はこの試合を黙って見ながらも強く2人の事を思いながら心中で応援を続けていた。

 ドゴっと言った鈍い音がマギとネギの2人の方から聞こえ、血が舞い散った。

 観客席からは何人かの悲鳴が聞こえるが、そんな悲鳴はマギとネギの咆哮で掻き消えた。

 

 

「今日こそ僕は!お兄ちゃんに勝つ!」

「やってみろネギ!!」

 

 

 2人が吠えたのと同時に魔力が膨れ上がり、突風が巻き起こる。

 

 

「桜華崩拳!!」

「喰らえ!!」

 

 

 ネギの最大の技と、マギの名前も無いただの正拳突きがぶつかり合おうとしていた。

 しかしネギとマギでは歳の差もあり、リーチの差もある。このままではネギの桜華崩拳はマギには届かないだろう。

 だが、だがここで、ネギは更なる1歩を進んだ。

 

 

「っ!ここだぁ!」

 

 

 ネギが叫んだ瞬間、ネギの拳に魔力が集中したかと思いきや、魔力が拳の形を成しそのままマギの体にへと入って行った。

 技名を名乗るのであれば、桜華崩拳・伸。まるで腕自体が伸びているかのように見える。

 マギの正拳突きが入る前にネギの桜華崩拳が入った。

 マギの体が止まる。誰もが決まったと思った。しかし技を放ったネギ本人は変な違和感を感じていた。

 

 

「見事だなネギ。こんな土壇場でさらに前に進むなんて。……だが、このお兄ちゃんを越えるなんて、あと5年早いぜ」

 

 

 咄嗟に障壁を張ったマギは、ネギの攻撃を既に防いでいた。

 

 

「ふん!」

 

 

 マギの正拳突きがネギの顔面に入った。きりもみ回転をしながら会場に叩きつけられた。

 

 

『きっ決まったぁ!マギ選手の正拳突きがネギ選手を捕らえたぁ!さらにネギ選手、今の攻撃で動けない様だぁ!カウントを取っていきま――――』

 

 

 と和美が言う瞬間にマギも膝から崩れ落ち、仰向けになって倒れた。

 

 

『なっなんとマギ選手も倒れたぁ!どうやらマギ選手も限界だったようです!両者動けない様子ですが、カウントを取っていきます!』

 

 

 和美がカウントを取り始める。ゆっくりとカウントが過ぎていく中、あぁと青空を見ながらマギは呟く。

 

 

「やっぱ無理しすぎたかな。とっさに障壁張ったが全然威力を殺せなかった。やせ我慢はするもんじゃねぇなぁ。お前も行き成りぶっ飛んだことするんだなネギ」

「へへ、これで少しはお兄ちゃんに近づけたかな?」

「馬鹿言うんじゃねえよ。体力前回のマギさんだったらあんなの完全に防ぎきるっつの。……まぁ今回は妥協点をやるよ。甘いマギさんに感謝しろよ」

「そっか……だったら今度は万全なお兄ちゃんを倒してみるよ」

「まぁ気長に期待せずに待っててやるよ」

 

 

 動けない体で手だけを動かして互いの拳をぶつけ合うマギとネギ。

 そして――――

 

 

「―――――10!終了!!決勝戦にて初めての相打ち!この勝負は観客のメール投票にて勝敗が決まります!!』

 

 

 そう言えばそんな事を言ってたなとマギはこの勝負自分が勝とうが負けようがまぁいいかと呑気な事を考えていた。

 1分後にはメール投票は終了した。会場に巨大なディスプレイが現れた。

 

 

『観客の皆さまありがとうございました!メール投票の結果は円グラフで表示されます。ではご覧ください!』

 

 

 出た映像では赤がマギで青がネギで赤が円を覆ったり、青が円を覆ったりなどの演出が続いた。

 そしてピタリと、グラフが止まった。

 円は赤と青が丁度半々で一切のずれが無かった。と言う事は……

 

 

『なっなんと!マギ選手とネギ選手どちらも50%!メール投票も引き分けに終わりました!ということは……今回の優勝者はマギ選手とネギ選手!優勝者が2人で更に兄弟と言った異例中の異例が起こってしまったぁ!!』

 

 

 観客達は一瞬シンと静まり返ったが、次の瞬間にはブーイングなどの野次は無く、拍手と喝采が2人に送られた。

 

 

「……やれやれだぜ。けどこういうのも悪くないな」

 

 

 何時もの台詞を呟いたマギは微笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 大会の終わりに起こったこと。

 優勝者が2人と言うのはまだいいが、優勝賞金はどうするかと言った話になったが、マギが

 

 

「別に兄弟なんだし、半分ずつでいいだろ」

 

 

 とのことで、一千万円は半分の五百万へとなった。晴れて半分にはなったが大金を手に入れたマギとネギ。

 その後は数々の麻帆良学園の報道陣のインタビュー攻めから逃げる事になる。

 

 

「フムフム、中々上手くいったと言ったところカ。これで少しでも魔法に対する認識の阻害が薄れれば幸いだガ……」

 

 

 満足そうに頷きながら神社の廊下を歩いている超。

 そんな超の周りをタカミチなどの教師が取り囲んだ。

 

 

「おやおやどうしたかナ先生方。そんな血相を抱えて」

「恍けるな超鈴音!貴様がこの学園祭で何かを起そうと言うのは把握済みだ!!」

「落ち着いてガンドルフィーニ先生。けど、超君。今回の事はやり過ぎだ。悪いけど、学園祭が終わるまで君の身はこちらで預からせてもらう」

 

 

 少しずつにじり寄って来る先生達。数では圧倒的に不利。だが超は余裕の表情を浮かべていた。

 

 

「ふふ、まるで私が悪人みたいだナ。だったら悪人らしくここは逃げさせてもらうヨ」

「!確保!!」

 

 

 タカミチの合図で一斉に先生達が超に向かって飛び出した。

 しかし超は余裕の表情で懐からネギが持っているのと同じ懐中時計を取り出した。

 

 

「では先生方数刻後にお会いしよう。さよならダ」

 

 

 超がスイッチを押した瞬間、超は一瞬で消えてしまった。

 

 

「消えた!?いったいどこに……」

 

 

 タカミチは一瞬で消えた超に驚きを隠せなかった。

 他の先生達は消えた超を探そうとしていた。

 そんな中でタカミチだけは、今は超を探す事が出来ない事と、今超を捕らえられなかったのがこの後にとんでもない事が起きると長年の経験の勘がそう囁いていた。

 

 

 

 

 

「―――――ふぅ時間旅行も無事に出来タ。カシオペアの運用も良好だナ」

 

 

 同じ場所だが、あたりがもう暗くなった廊下でカシオペアをしまい、クスクスと笑みをこぼす。

 

 

「遅かったな超。こちらは待ちくたびれたぞ」

 

 

 と暗くなった廊下の陰からアーチャーが現れた。

 

 

「すまなかったナ。先生達を撒くのに時間がかかったヨ。と言ってもさっきまでの時間軸にはもう私はいないから、私を見つけるなんて事は出来ないがナ。さて、計画も最終段階へと進めようカ」

 

 

 そう言い残して、超とアーチャーは闇へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                         世界が狂うまであと数時間



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暴く千雨

何とか年内に投稿する事が出来ました
今回で今年の投稿はお終いになると思います
今年もありがとうございました。


「マギ先生、アンタは魔法使いだな?」

 

 

 突然千雨に問われ、マギはどう答えたらいいか迷った。

 千雨に何故このように問われたか、それは2時間ほどに遡る。

 大会の表彰の後に数々の取材から逃れるマギとネギ。

 その後に以前に茶々丸に野点を誘われ、会場に居た千雨をマギは誘う。

 いつもだった少々渋る千雨が少々間を開けてから行きましょうとマギに言った。

 何時もと様子の違う千雨に少々首を傾げながらもネギと一緒に野点会場へと向かった。

 野点会場には着物を着た千雨と、観戦に来ていた3-Aの生徒達が先回りしていた。

 なんでも決勝で頑張ったマギとネギを労いたいからだと。

 生徒達の好意に甘える事にしたマギとネギは控室で着物(プールスは茶々丸が着替えさせた)へ茶々丸の指導で着替えた。

 マギとネギが着替えている間にも生徒達も着物に着替えていた。

 労うと言っても一緒にお茶を飲んで話をするだけであるが。お茶を飲むときの礼儀作法を事前に勉強していたマギとネギ。生徒達も2人の作法に感嘆な声を上げる。

 とここで終わらないのが3-A、柿崎が今の内に得点を取っておけばネギかマギをゲットできるのではと考え、マギとネギに一斉にアピールをし始めた。

 と流石に度が過ぎたためにあやかに止められ、今度はあやかのミスからお色気のアピールへと繋がった。

 ネギは色々と焦り、マギはやれやれだぜとお決まりの台詞を呟いた。

 話は進み、マギが準決勝で戦ったナギの話になった。

 あやかはナギの行方が分からないのであれば、自分の家の力を使って、ナギを探すのをサポートするとネギに言った。

 他の生徒達も半ばノリではあるが、ナギを探すのを手伝うと言ってくれた。

 ノリではあるが、言ってくれたことに関して、礼を言うマギと泣きながら礼を言うネギ。

 なんて楽しくやっていたのだが、またもや取材陣が現れた。

 生徒達が取材陣を食い止めている間に、マギとネギは茶々丸と千雨に連れられ野点会場を後にした。

 一つに纏まっているとまた取材陣が一斉に向かってきそうだと言う事で、ネギは一旦マギと離れる事を提案。

 一旦小太郎の元へ向かい、時間が経ったら合流するとのことでマギ達から去っていくネギ。

 少し休もうと、近場にカフェテリアにて一段落落ち着いて、プールスとマギがトイレに行き、戻っている間に若干顔を赤くした千雨に問われ、現在に至る。

 

 

「あぁ~……一応聞くが、なんで俺が魔法使いだと思ったんだ?」

 

 

 恐らく誤魔化そうとしても、千雨の事だから騙される事は無いと判断したマギは、一応何故自分が魔法使いなのかを聞き返す。

 

 

「さっきまで行っていた武道大会、色々と可笑しな現象が起こっていたが、CGとかそう言う演出ですなんて誤魔化すのは無理がある。今の時代、あんな光線ぽいのや、巨大な人形擬きを急に出現させるなんて無理だ。それにマギ先生が急に変に変身ぽい事をしたのも普通じゃありえない。それと今聞いたが茶々丸さんも人間じゃなくてガイノイドときたもんだ。最後に決定づけるのは、今ネットの掲示板にて騒がれている魔法。超能力とかそう言う類ではなく魔法。もし魔法が実在するのなら、さっきまでの現象は魔法と言う事になる。そしてマギ先生もその現象を起こした1人。マギ先生=魔法使い……この説は間違っていますか?」

「あぁ……もう正解でいいか。そうだ、俺やネギは魔法使いだ。まぁその何だ……俺が魔法使いって事は秘密にしてくれねぇか?バレると色々と面倒なんだよこれが」

「大丈夫です。こんな事話しても頭の可笑しい奴としか思われませんから」

 

 

 溜めた溜息を吐くマギを見ている千雨。まさか本当に魔法と言った非日常の物が存在するとは……千雨は正直これ以上関わりたくなかった。

 謎が分かったところで、自分は退散しようとした千雨。だが

 

 

「いたぞマギ選手だ!」

 

 

 マギを探していた取材陣に見つかってしまった。

 

 

「んげ!」

「もう見つかっちまったか」

「逃げましょうマギ先生」

 

 

 逃げる事にしたマギ達。千雨を連れて。

 

 

「ちょ!マギ先生!何でアタシまで!?」

「俺といたお前だけ残っちまったら、俺の関係者と見られて質問攻めにあうだろ絶対。千雨だって質問攻めは嫌だろ?」

「それもそうだけど!てかこの抱え方やめろぉ!」

 

 

 取材陣から逃げるために千雨を横抱きしたマギに対して、千雨は叫んだ。

 取材陣から逃げるほかにも、武道大会を見ていた者、ネギを探していた取材陣、サインをねだる女子達、マギに弟子入りを願い出るマッチョ達。そしてまた取材陣。

 正直精神の方が疲れる逃走劇だった。

 

 

 

 

 

「まぁここまで逃げれば何とかなるだろ」

 

 

 マギ達が逃げてきたのは観覧車。ゆっくり動いているため、休めるのと時間が経てば取材陣も諦めるだろうと判断したからだ。

 

 

「これで少しは休めるかな。たくこっちは病み上がりで体が限界だっての」

「あのっでは、マギ先生っ宜しければ私の膝へ。膝を熱で温めるので少しでも横になってください」

「いや、流石に生徒の膝を使うのはモラル的に不味いだろ」

「マギ先生は今日は色々と大変だったのでっ少しでも休めればと思ったのですが……それにマギ先生はこの後も予定があると聞きました。ですので少しでも休んでください」

「……そう言う事なら甘えさせてもらうかな。というか……やべ、もう限界だ」

 

 

 瞬間、糸が切れたようにマギは茶々丸の膝に頭を乗せた。静かな寝息を立てるマギ。プールスも茶々丸の膝に横になった。

 マギとプールスの頭を優しく撫でながら茶々丸は微笑んだ。

 

 

「な~んか嬉しそうだな茶々丸さんよ。そんなにマギさんに膝枕をしたのが嬉しかった?」

「えっわっ私はそんなつもりでやったわけでは……」

「誤魔化さなくていいよ。好きなんだろマギさんの事が。羨ましいよ、好きな人のためにそうやって献身的になれるのが、アタシは無理だよ。こういう性格だから、そう言う事は出来そうにない」

 

 

 遠くを見つめながら千雨はそう言った。

 

 

「あの千雨さん、前から聞こうと思ったのですが、マギ先生の事」

「ん?あぁもうはぐらかすのは止めるよ。好きだよマギさんの事。たぶんもう無いだろうな。誰かに恋とかするのは……んでマギさんに膝枕するって事はアンタもマギさんの事が好きなのか茶々丸さんよ」

「……正直まだ分かりません。けど、マギ先生と話したり一緒に居たりしているだけで、体の奥が温かいんです。これが恋なのでしょうか……」

「いやそれ普通に恋してるじゃねぇか。なんだよ普通に恋する乙女じゃねえか」

 

 

 茶々丸に乾いた笑みを浮かべる千雨。

 

 

「ですが、若しかしたらもうすぐマギ先生とは会えなくなるかもしれません」

「あ?如何いう事だよ?」

「私を造ったあの方達は、この麻帆良祭にて、大きな計画を実行しようとしています。それが成功したら世界は大きく変わります。若しかしたら、もうマギ先生やネギ先生とは会えなくなるかもしれません」

「まるでマギさんとはもう会えないみたいな言い方じゃねぇか」

「私はあの方たちに造られた。なら、あの方たちの計画に賛同するのは当然の事……ですが、私はマギ先生の助けになりたい。そう思っています。これはいけない事なのでしょうか……」

「いいんじゃない?好きな人を助けたいと思うのはごく普通の事だとアタシは思ってる。それにこの時期反抗期な子供なんてごまんといる。偶には反抗するのもいいかもしれないし、若しかしたら子供が自立し始めていると見て、アンタを造った親も喜ぶかもよ?偶には自分の心に素直になってみるのもいいかもしれないぜ?」

 

 

 笑顔で言い切る千雨を数秒ほど見つめる茶々丸。そして観覧車の外の景色を眺める事数秒後

 

 

「……私も自分の気持ちに素直になろうと思います。私はマギ先生の手助けをしたいです」

「ん、いいんじゃないか」

 

 

 笑いあう、千雨と茶々丸。と此処で茶々丸がポツリと

 

 

「千雨さんも宜しかったらマギ先生の手助けをしていただけないでしょうか」

「アタシが?いやアタシはいいよ。正直言うと非日常とかそう言った類は苦手だしさ。アタシは日常の世界でマギさんと色々な事が出来ればそれで……」

「魔法の世界に入れば、ライバルが多いですが、マギ先生と一緒にいる時間が増えますが……」

 

 

 

 茶々丸がまたもポツリと呟いた瞬間、千雨は固まる。

 固まった後

 

 

「ふっふーん……魔法を知ればネットアイドルのネタになるかもしれないかもしれないからなぁ。どっどうしても、どうしてもって言うなら協力してやってもいいかもなぁ~しょうがないなぁ~」

 

 

 

 所々土盛りながら茶々丸にそう言う千雨。茶々丸に素直になればいいと言っている千雨が、素直ではないと言ったこの状況。

 そんな千雨を可愛いと思った茶々丸であった。

 マギが休んでいる間に科学に強い茶々丸と、ネットに強い千雨が、来る大きな計画を阻止するための強力な味方となるのであった。

 

 

 

 

 




2018年も
宜しくお願いします!


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誰もが物語の主人公

一眠りした後目を覚ましたマギは千雨と茶々丸が、これからマギ達に協力すると申し出て来た。

最初マギは若干寝ぼけていたが

 

 

「自分が決めたんならこっちはとやかく言うつもりはない」

 

 

とそう答えた。

暫くしていると、報道陣を撒いたネギと小太郎と合流した。

合流したところでマギが、行きたいところがあるとネギ達に言う。

人目の着かないところに行くとカシオペアを起動。

2日目のマギとネギが野点をした少し後の時間に戻った。

いきなりタイムスリップを体験して開いた口がふさがらない千雨。

更に年齢詐称薬でネギと小太郎が高校生位、千雨が小学生低学年位に戻ったところで、あっもう考えるのはいいや。いまはこの状況を少しでも楽しもう。

と考えるのを止めた千雨である。

一方マギはそのままの年齢であるべき場所へ向かおうとしていた。

何処へ行くのかと訪ねるネギにマギは

 

 

「待ち合わせをしている」

 

 

とだけ答え、今度こそ待ち合わせの場所まで向かっていった。

待ち合わせをしている相手は亜子であった。

野点会場で、報道陣から逃げる時にマギが

 

 

『この後予定が無ければ少し一緒に回らないか?』

 

 

と亜子に訪ねると、亜子は瞬間的に何度も縦に首を降った。

OKと受け取ったマギは待ち合わせの場所と時間を指定してから逃げ去っていった。

そして今に至る。私服に着替え、待ち合わせのカフェテリアに10分ほど早く来ていた。

 

 

「ちょっと早く来ちゃったけど、大丈夫だよね……」

 

 

亜子は自分の私服を見て変じゃないと言い聞かせる。

 

 

「というかウチ、気になる男の人と二人きりでデっデートなんて初めてや。あッあわわ……なんか緊張で震えが」

 

 

大丈夫と言い聞かせた矢先に緊張で震えている亜子。

緊張をほぐそうと、あらかじめ買っておいたアイスティーを飲もうとすると

 

 

「ねぇねぇ、そこの可愛い子ちゃん。よかったら俺らと遊ばない?」

「ふぇ?」

 

 

急に誰かに声をかけられ、亜子が振り替える。

軽薄そうな男3人が、卑しい笑みを浮かべながら亜子に近づいていた。

 

「え?あのウチ人と待ち合わせしとるから……」

 

 

いきなりナンパされ戸惑う亜子。だが明らかに目の前の男は亜子に対して下衆な形で誘っているのは分かる。現に亜子の体を舐め回すように見ているからだ。

周りの人達は亜子をナンパしている男を止めようとしても止めることは出来なかった。

残りの2人が汚い笑みを浮かべながら周りの人達を近づけさせないようにしている。

周りの助けは期待できない。そう判断した亜子は断りをいれるが、ナンパするような男が亜子の都合など知ったことではい。

 

 

「えぇ~でもその相手全然来そうにないじゃん。約束すっぽかして、別の女の子の所に行ってるって」

「っ!マギさんの事知らんくせに、勝手なこと言わんといて!」

 

 

勝手な物言いに、語尾を荒くして言い返す亜子。

自分の思い通りにならないからか、笑みを消して強引に亜子を連れていこうとする。

 

 

「いいから来いって。言うこと聞かねぇガキだな」

「いや!離して!誰か!マギさん!」

 

 

マギの名を叫ぶ亜子。2人の男が軽口を叩いて囃し立てる。

このままどこの馬の骨かわからない男に連れていかれるかと思いきや……

 

 

「いやぁ。思ったよりも混んでたから遅れちまったよ。悪いな亜子」

 

 

若干顔に汗を滲ませながら、亜子に向かって手を振るマギが現れた。

 

 

「マギさん!」

 

 

マギがやって来て顔を輝かせた亜子は、なんとか男の腕を振り払う。そしてマギの元へ駆け寄った。

 

 

「なんかトラブってたみたいだったが、大丈夫か?わりぃな俺が遅れたばっかりに」

「ううん大丈夫。マギさんが来てくれなかったらウチなにされてたか……ありがとうな」

 

 

目に少しだけ涙を浮かべている亜子。マギは安心させるために、優しく亜子の頭に手を置いた。

 

 

「外人のオニーさんよぉ、何俺らの楽しみ邪魔してくれたわけぇ?」

 

 

亜子をナンパしていた男がマギにガンを飛ばしてきた。

普通の相手だったら萎縮して何も言えなくなるだろうが、生憎マギは普通の相手ではない。

軽く頭をかきながら

 

 

「悪いがこの子とは俺との先約があるんだよ。それと、嫌がる女の子を無理やり連れていこうとするのは男としてどうかと思うがな」

「あぁ!?何チョーシこいたこといってんだ!ぶっ殺されてぇのかこらァ!」

 

 

マギに軽くあしらわれる男は、口調が荒くなる。

とマギを見て1人の男がマギに怒鳴り散らした男の方を叩きながら

 

 

「おっおい、その男さっきまで派手にやってた武道大会の優勝者の1人だぞ!やべーんじゃねぇか!?」

「あぁ?あんなの八百長だらけのインチキ試合だろ。そんな試合に出てるやつがイキッてるんじゃねーよ!」

 

 

男は予備動作もなくマギに殴りかかる。

何人かの観光客が悲鳴を上げ、亜子もこんな男にマギがやられるとは思っていないが、思わず目を閉じてしまう。

亜子の思った通り、マギは楽々と男の拳を受け止める。素人の拳など今のマギには止まって見えていた。

 

 

「なっ!はぁ!?」

「やれやれ。何でもかんでも暴力を振るえば良いってもんじゃあねぇぞ」

「何勝手につかんでんだ!離しやがれ!」

「いきなり殴りかかって来て今度は離せときたか。身勝手だな……ほれこれでいいか?」

 

 

押しても引いてもびくともしない。離せとマギに怒鳴り散らすものだから、マギは溜め息を吐きながら手を離してやった。

ちょうど男が手を引っ張っていた時に離したので、男は盛大に後ろに倒れて後頭部を強打した。

あまりに間抜け姿に何人かが笑みをこぼしていた。

 

「てめぇ!ぶっころ---」

 

 

完全にとさかに来た男が起き上がろうとした瞬間、男の額にマギの指が当てられる。デコピンの構えだ。

 

 

「おいたをする子にはお仕置きだぞと。久々の破壊神のデコピン・威力弱めと」

 

 

男の額にデコピンが放たれる。良い音が男から響いて響いている。

男は2~3秒放心していたが、次の瞬間には涙を浮かべのたうち回る。

 

 

「いっいてぇ!頭が割れるよぉ!」

 

本気でいたがってるのを見て、取り巻きの2人が顔を青くしている。

 

「まだやるってんなら、そこのお二人さんもどうだい?」

 

 

目が笑っていない笑みを取り巻きに向ける。

取り巻きは悲鳴を上げながら、いまだに呻いている男を置いて逃げていった。

いまだに額を抑えて泣きわめいている男もひぃひぃと情けない声を上げながら追いかけるように逃げ去って行った。

 

 

「やれやれ……口ほどにもねぇ奴らだな」

 

 

 軽く肩をすくめながらマギが言うと、周りの人から拍手が送られてきた。

 拍手を送ってきた人たちにどうもどうもと軽く答えながら亜子の方を向く。

 

「さてと、時間ももったいないから行きますか」

「うん!」

 

 

 笑みを浮かべた亜子を連れて、学園祭を周るマギ。

 先ほどまでのやり取りを見ていた千雨が

 

「いやどこの少女漫画のワンシーンだよ!?」

 

 

 千雨のツッコミに答えるものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 亜子と学園祭を回っているマギ。そしてその学園祭の回るルートはと言うと

 

 

「意外とスリルがあるんだなこれ」

「ウチこういう類苦手なんやけどぉ!」

 

 

 学園祭の中でも人気な絶叫マシンの1つに乗り

 

 

「こんなところで、本当に頼んでいいのマギさん?」

「おぉ食べたいもの頼んで良いぜ」

 

 

学生ではなかなか食べれそうにないレストランでおごったり。

 

「こういった格好は少し恥ずかしいもんだな」

「うぅ~ウチはかなり恥ずかしいんやけど……」

 

 

強制的にカップルコンテストに参加されてウェディングドレスとタキシードを着せられる。

それ以降も気になった屋台や出し物を見て回ったマギと亜子。

その後ろを千雨や茶々丸を連れたネギ一行がついていく。

何で気になっている男性のデートを見ているのだろうともやもやと感じる千雨と茶々丸。

しばらく歩いていると、前に来たことがある高台に着いたマギ。

そこは学園祭の範囲外だからなのか、人影は少なく、一休みをしている者が数組いた。

 

 

「いやぁ遊んだ遊んだ。こんなに年甲斐もなく。はしゃいだのは初めてかもな」

 

 

芝生に座りながら亜子にそういうマギ。

 

 

「うん。楽しそうにしてるマギさんがとっても可愛く見えた」

 

 

 年下にかわいいと言われたマギは、顔を赤くしながら目線をそらし、やれやれだぜ……と小声で頬をかきながら呟いた。

そんなマギを見てやっぱり可愛いと内心思いながら、遠くを見つめる亜子。

 

 

「本当に男の人と楽しいことをしたのは久しぶりや……ねぇマギさん、ウチの昔話聞いてもらってもええ?あんまりおもしろくないんやけど」

「……あぁいいぜ」

 

 

そこから亜子の昔話が始まる。

 

 

「ウチな、マギさんが来るちょっと前の中学二年の時に付き合っていた人がいたんよ。3歳年上の高校2年生。同じサッカークラブにいて、ウチは気になってたらその先輩もウチのこと気になってたらしくてな。先輩の方から付き合ってくれって言うから、ウチも直ぐにOK出して、そのまま付き合ったんやよ」

「ふむなるほどな。どんなことしたんだ?」

「普通に買い物行ったり、映画見に行ったり遊園地行ったり公園でサッカーやったり、すごく楽しかった。そっそれで……」

 

 

赤面しながらその後にあった話を続ける。

 

 

「相手は高校生やし、その……やっやっぱ溜まってたのかうちとしたいなんて言い出して、ウチも思わず頷いて、そのまま先輩の寮部屋へ……」

「……まさかやったのか?」

 

 

マギも18歳、何が起ころうとしたのか察しており亜子の様に赤面し、不躾ながらも尋ねた。

亜子は首を振りながら

 

 

「うぅん、勢いでファーストキスはしちゃったんやけど、先輩も我慢出来なかったみたいで、ウチの服を脱がそうとしたんよ。でも、ウチも浮かれててつい忘れてたんよ。ウチの背中にあるこの大きな"傷"のことを」

 

 

そう言って自身の背中をちらりと見る亜子。

 

 

「ウチの傷見た時の先輩の顔は、正直思い出したくない。そのままお流れになって、先輩は段々とウチと会うんのを避けて、距離をとりはじめたん。そんで最後には別れようの一言……」

 

 

一呼吸入れ、遠くを見つめる亜子

 

 

「別れようって言われてウチ思ったん、あぁ、ウチみたいに、体に傷あるもんは物語のヒロインを夢見ちゃだめなんやて……」

 

 

言い終えた亜子の目には少しだけ涙を浮かべていた。

聞き終えたマギは、慰める様に亜子の頭に手を置く……なんてことはせずに軽くデコピンをした。

 

 

「いつっ!まっマギさん?」

 

 

いきなりのことでびっくりしながら額を額をおさえる亜子に対して、マギは

 

 

「亜子、一応先生として説教するが…女の子がそんな簡単に純潔を捧げようとするんじゃあない。後々面倒な展開になるだろうが」

「うぅ……それについてはウチも反省しているんよ」

 

 

マギに説教されて落ち込む亜子。

 

 

「それと、お前は損をしてるぞ亜子」

「損?」

「あぁ。だってそうだろ?まだまだこれからだってのに、そんな一歩引いた様な生き方してたらいつか絶対後悔するぞ。お前の人生って言う物語の主人公はお前なんだ。もっと好きなように生きていいんだよ。……なんか自分でもなに言ってるのか分からなくなってきたな。悪い、今のは無し。忘れてくれ」

「ううん。ありがとうなマギさん。お陰で元気出たわ。そうかぁ物語の主人公かぁ……」

 

 

頭をかきながら顔を赤くするマギに微笑む亜子。

そしてなにかを決意したのか、よしっと頷いた亜子がマギの方を向いた。

 

 

「マギさん、ウチ聞きたいことがあるんよ」

「ん?なんだ?」

「……マギさんって好きな人はいるんですか?」

「……」

 

 

いきなり好きな人がいるのかと聞かれ、黙りこむマギ。

 

 

「ウチ、危ないところをタスケテくれたマギさんに、その……一目惚れしました。だからウチは、マギさんのことが好きです」

 

 

いきなり好きと言われて黙るマギ。亜子の告白を隠れて聞いていた千雨と茶々丸が複雑な顔を浮かべる。

亜子の告白を聞いたマギ本人は……

 

 

「亜子、すまん」

「っ……そうやよね。いきなり好きですって言われても迷惑なだけやよね」

 

 

マギに謝られたことに、意気消沈する亜子。

違う違うそうじゃないと慌てて首を横にふるマギ。

 

 

「実はな……日本に来るまで俺、女の子に好きですって言われたことがないんだ」

「うそ……」

 

 

マギのカミングアウトに亜子はもちろん、隠れて聞いていた千雨と茶々丸も驚きを隠せなかった。

 

 

「うそじゃあねぇよ。日本に来るまでほぼ1人で修行してたからな。女の子と話したこともなければ一緒に出掛けたこともなかった」

 

 

修行中はネカネが様子を見に来たり、息抜きに買い物に付き合ったこともあった。がネカネは女性である以前に家族である。

 

 

「だからな、女の子に好きって言われたこともないしデートもしたこともないから、いまいち好きっていった気持ちがよくわからないんだ」

 

 

自惚れに思われてもしょうがないが、最近自分に対して好意を持った女の子がいるということを気づいたマギ。

のどかはもちろん、あと数人はいると理解している。

 

 

「正直まだ気持ちが整理出来てない。もしかしたら亜子、お前を傷つける答えを出すかもしれない。けど今年中……3月まで答えを出す。それまで待ってもらえないか」

 

 

マギの真剣な顔に亜子は小さく頷いた。

 

 

「うんウチ待ってるな。でも答えが出たら絶対教えてな。約束な」

「あぁ約束だ」

 

 

指切りげんまんを行い、一休みを終え学園祭に戻った2人。

そして夜。亜子が入っているバンドがフェスで曲を披露した。

そして曲の半ばのトークで亜子がまた一緒にお出かけしましょうとマイクでマギに言い、マギもOKサインを出したのであった。

バンドのフェスを楽しんだマギ達はもう一度タイムトラベルを行うことに。

とその前にお手洗いと席を外すマギ。

用をたし、先程の亜子の告白を改めて思い出していると、包帯を巻いた手から激痛が走った。

 

 

「っ!?なんだ……」

 

 

包帯を外し、マギは言葉を失った。

何故なら、手の甲の黒いアザのようなものが手全体に広がり、真っ黒に染まっていたからだ。

変わりように唖然としていると、手から骨の軋むような鈍い音が聞こえたと思いきや、手が自分の意思とは別に急に動いたと思いきや、そのまま首を絞めようと首へ手を伸ばした。

慌ててもう片方の手で勝手に動く手を止める。

信じられない力に脂汗を浮かべるマギ。

数秒ほど自分の手との攻防の後、少しずつ大人しくなったマギの腕。黒くなった手を隠すようにもう一度包帯を巻く。

 

 

「悪い亜子……もしかしたら告白の答え、言えねぇかもしれない……」

 

 

脂汗を滲ませながらこの場にいない亜子に謝るマギ。

そう謝ったマギの腕から少しずつだが黒いアザ……いや、"闇"が広がっていったのであった。

 

 

 




皆様お久しぶりです。
ようやく最新話を投稿することが出来ました。

こんな小説をもし待ってくれた方々が少しでもいるのであれば、遅れてしまい大変申し訳ありませんでした
今後こうやって投稿間隔が空くことがあると思いますが、どうかよろしくお願いいたします


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夕映の迷い

お久しぶりです。ユリヤです
約一年ぶりの投稿となってしまいました。
申し訳ございません
ストックが何話が出来たので、今のところは二週間おきに投稿したいと思いますので、宜しくお願いいたします。


あの後もう一度タイムトラベルをしたマギとネギ。

その後は腕の激痛と勝手に動くことは起こることもなく、原因はわからずじまいだった。

正直不安はあるが、違和感がなければ大丈夫だと自分に言い聞かせ、次の目的場所へと向かう。

次の場所は図書館島、ここでは図書館探検部が図書館島の飛躍的安全なエリアを紹介し観光するといった内容である。

まだ時間があるという事で、徒歩で向かうスプリングフィールド兄妹。歩きながら、マギは考え事にふけっていた。

 

「どうしたのお兄ちゃん?」

 

ネギが訪ねると、マギは大したことじゃあない。と言いながらもネギの方を向き

 

「なぁネギ、お前って誰かを好きになったことあるか?」

「えっ?好きになったこと?」

 

いきなりそんなことを聞かれ、顔が赤くなりながら戸惑うネギ。

 

「マギお兄ちゃん、好きな人がいるんレスか?私はマギお兄ちゃんが大好きレス!」

「ありがとなプールス。俺もお前のことが大好きだぞ」

 

マギに肩車されてるプールスが、えへへと笑っている場が和むような光景が広がっていた。

 

「ごめんお兄ちゃん。僕まだ本気で誰かを好きになったことは……」

「そっかぁ。だよなぁ」

 

先生をやっていても、まだ少年のネギ。色恋についてはまだまだ先になるであろう。

そんな弟に対して、ありがとなと返すマギは今までの事を思い出す。

学校を卒業してからは、修行の毎日。自分と同年代の者は異性と遊んだり出掛けたり、果てには付き合ったりと……

その当時は恋愛には興味を持っていなかったが、今となっては随分勿体ない過ごし方をしていたな……と。

あぁ悲しきかな我が灰色の青春時代と内心で嘆いている間に図書館島へと到着した。

関係者側の入り口から入って欲しいとのことだったので、関係者専用の入り口から入ってしばらく歩いていると、のどか達といつものメンバーが揃っていた。

が何故かハルナだけが、ネギとマギが来た瞬間に目を光らせていた。

 

「すみません遅れました」

「いやいや遅れてないよぉネギ君!んじゃあ早速だけどここに立っててもらえるかなぁ!?」

 

ハルナがネギを人目につかない場所へと移動させる。段々とハルナがネギに何をしたいのか察してきたマギ。

 

「あの、ハルナさん?一体何を?」

「大丈夫大丈夫!すぐ終わるから!んじゃ……いただきます」

 

へ?と今一自分の状況を理解していないネギの唇をハルナが奪う。

展開を読んでいたマギは素早くプールスの目を手で覆った。幼い子には目の前の光景は刺激が強すぎる。

 

「何も見えないレス」

「プールスにはまだ早いからな。見れないようにな」

 

マギとプールスのやり取りの間にもネギとハルナのディープキスは続いている。

息が続かなく苦しくなってきたのか、ネギが手をじたばたし始めたところでハルナもネギから唇を離してから首を傾げる。

 

「あれぇ?出ないなー。一応舌もチロっと入れて見たんだけど」

「お前は何をやってるんだ」

 

弟とアダルティーなキスをしたと、ぶっ飛んだ発言をしたハルナにすばやいツッコミを入れるマギ。未だにキスをされたネギは放心状態だ。

 

「やっぱ歳が離れすぎてるのがダメなんかなぁ。よし今度はマギさんと」

「だから何を言って、何をやろうとしてるんだお前は」

 

ネギの次はマギに標的を変えたハルナに、どこから取り出したのかハリセンを持ち、割りと本気ではたくマギ。

結構痛かったのか、うめき声をあげながら頭を抑えうずくまるハルナ。

目の前でマギに大胆な事をしでかそうとしたハルナにのどかとこのかは赤面し、夕映は複雑な表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「―――んで、なんでいきなりあんな奇行に走ったのか吐いて貰おうか」

 

まだ痛いのか、頭を擦っているハルナをジト目で見るマギ。落ち着いてきたがまだ顔が赤いネギを指差しながら

 

「うちのネギにあんなことして、あの年で変な性癖に目覚めたらどうするんだ?プールスの教育にも悪いし」

「のどかお姉ちゃん、せーへきってなんレスか?」

「ぷっプルちゃんはまだ知らなくていいんだよー」

 

最近分かったことだが、プールス関連になるとマギは途端に兄バカになる。純真無垢な目でのどかを見ながら聞いてくるプールスに、何とか誤魔化すのどか。

観念し、乾いた笑い声をあげ頭をかくハルナ。

 

「いやぁ。私もカードが欲しくなっちゃって、ついネギ君とキスを……ね?」

 

ハルナの言い訳に、のどか達の方を見た。ハルナの言ったカードは恐らくしなくともアーティファクトのカードだ。だがハルナは魔法関連のことは何も知らないはず、どういうことなのかと目でのどか達に訪ねると

 

「マギさんごめんなさい。私達がハルナに話しちゃいました」

 

そう言ってのどかは漫画の原稿数枚をマギに渡した。

漫画の原稿に描かれていた内容は、逆さに吊るされたのどか達が、鞭を振るうハルナに魔法についてのあらいざらいを吐かせると言った内容であった。

あまりの内容に引きながらハルナを見る。

 

「お前……友達をこんな内容で描くか普通」

「ふっふーん!私に黙ってこんな超面白いネタを黙ってたのが悪い!」

 

さっきまでの痛みが嘘だったかのように、ケロッとして胸を張るハルナ。自分の興味のために、ここまで行動力を働かせるのにはマギも流石に舌を巻いた。

 

「まっまぁのどかさん達のお友達ですし、いつかはと覚悟をしてましたし」

「だな。むしろよく今まで持った方だよ」

「おぉ!話が分かるねお二人さん!いやー感動しちゃったよ!二人にあんな隠された秘密の目的があったなんて!是非私も協力するよ!」

「んで本音は?」

「私も夢の秘密道具が欲しい!!」

「自分の目的に忠実な所、俺は嫌いじゃないけどな」

 

このままハルナはさっさと仮契約をして、こちら側につかせた方がいいだろうとマギは判断した。

話を聞けば、魔法の存在を知った瞬間に他の生徒にポロっとこぼしそうになったのだ。それに魔法の存在を知ってしまうと何かあったときに大事になったらことである。さっさとこちら側につかせた方が護りやすいだろう。

一応、他の生徒には他言無用だと強くお願いすると、了解ーと軽い敬礼をするハルナ。本当に大丈夫だろうかと心配になるマギとネギ。

と和美と同じように話が分かると思いしゃべり出したカモに興奮しながらも、カモから改めて仮契約の話を聞くハルナ。

ハルナが話を聞いている間に、プールスがとことこと夕映の元へやってくる。

 

「?どうしたですかプールスちゃん」

 

自分に何の用なのか、夕映がプールスに訪ねると、次のプールスの発言に夕映の思考は凍りつく。

 

「夕映お姉ちゃんは、かりけいやくってしないんレスか?」

「……え?」

 

プールスの仮契約をしないのかという問いに、夕映はすぐに返答出来なかった。

 

「夕映お姉ちゃんもマギお兄ちゃんが好きで、キスしてかりけいやくすればもっとなかよくなるレス!」

「わっわぁぁぁ!何を言ってるですかプールスちゃん!!」

 

大声をだしてプールスの言ったことをかき消す。近くにはのどかもいるし、聞かれたくない。

幸い聞かれた様子は無いが皆が夕映の方を見た。

 

「どうしたんだ夕映?いきなり大声を出して?」

「なっなんふぇもないです!さぁもう時間ですし、行くですよ!!」

 

マギの問いかけに噛みながらも、何とかごまかし会場へ行くように誤魔化す夕映。

皆首を傾げながらも、言われた通りに会場へ行くのを見て、胸を撫で下ろした夕映。だが一人だけ、ハルナだけが夕映に目を光らせていたのであった。

 

 

 

 

改めて図書館島の内観には驚きを隠せない。何せ大絶壁があり、大きな滝が流れているのだから。外から来た観光客などは感嘆の声を上げるばかりであった。

 

「最深部まで行ったことがあるが、やっぱこの図書館島は規格外だな……」

「ふふ、秋にはフリークライミング部の大会もやってるんですよ」

「もはや何でもアリだな、図書館島……」

 

 最後尾の旗を持ちながら、マギとのどかが楽しそうに話していた。終始のどかも笑顔を浮かべている。マギとのどかのいい雰囲気にハルナはにやにやと眺めていた。

 

「おーおー、のどかとマギさんいい感じじゃん」

「大兄貴、昨日のデートでのどかの嬢ちゃんとまたキスしたらしいしな」

「マジで!?」

 

 カモからデートでのキスの話に、ハルナは驚きの声を出す。

 

「じゃなに!?あの二人もう付き合ってるの!?」

「いえ、お兄ちゃんとのどかさんはまだ付き合っているというわけじゃあないそうです」

「はぁ!?そこまでやっといて!?」

 

 ハルナは信じられないと驚きと呆れが混じったような声を出した。

 

「全く!のどかも甘いんだから!そんな悠長なことをしてたら、恋の弱肉強食の戦いじゃ生き残れないんだから!ましてライバルの一人にあのエヴァンジェリンがいるんだからいつの間にか盗られちゃうかもしれないじゃん」

 

 ハルナは、のどか達から魔法にあれこれ吐かせた中で、エヴァンジェリンが真祖の吸血鬼でありマギにぞっこんであり、のどかと恋のライバルであるということも知っている。

 エヴァンジェリンは我が強い性格だということも知っており、このままではマギを盗られると危惧するハルナ。

 

「いよぉーし!こうなったら私達がもう一肌脱いでやりますか!!」

「……いえ、のどかは頑張っていると思うです」

 

 ハルナがのどかの恋の手助けをしようとし、夕映が待ったをかけた。

 ……ただ、と言葉を繋げながら

 

「のどかには嫉妬心というものがないのでしょうか……いくらエヴァンジェリンさんと認め合う仲だとしても目の前で好きな男性と別の女性が仲良くしているの見たら、普通なら嫌な気持ちになるはずです」

 

 心配そうにのどかを見つめる夕映。

 

「うーん、のどかの場合は好きって気持ちが憧れや尊敬に近いからじゃないかなー」

「多分お兄ちゃんが師匠や茶々丸さんと仲良くしてるのを見ても好きな人が仲良くしてるのを見ても嬉しいって気持ちが勝るんじゃないんでしょうか」

 

 このかとネギがのどかの気持ちがこうなんじゃないかと伝えると

 

「それは、そうかもしれないですが……それじゃあ困る……です」

 

 悲痛な顔で、俯く夕映。そんな夕映に良い雰囲気だからということで、マギじゃなくネギ達と一緒に歩いているプールスが夕映の服の裾をくいくいと引っ張りながら

 

「夕映お姉ちゃんはマギお兄ちゃんが他のお姉ちゃんと一緒にいるのはだめなんレスか?」

「駄目……とは言わないです。でも、いつかは好きな人同士で互いに愛し合うのが当たり前だと思う……です」

 

 プールスの純粋な質問に、無理して泣きそうな顔を浮かべる夕映にこのかやネギはいつもと雰囲気が違うのに戸惑った。

 ただ一人、ハルナだけは夕映を見てため息を吐いて優しく肩を叩く。

 

「夕映、ちょ~っと向こう行こうか?話したいことがあるからさ」

 

 と列から離れ、別の場所へ向かうことにした。 

 と夕映達が列からいなくなったことに気付くのどか。

 

「ゆえ達どこいっちゃんたんだろ……マギさん私ちょっと探してきますね」

「おぅ、気を付けてな」

 

 マギを列に残し、のどかだけが夕映達を探しに行った。

 これが、後のちょっとした修羅場になる前触れだと知らずに……

 

 

 

 

「……ハルナ、話とはなんなんですか?」

 

 ついた場所はベンチや変なパック飲み物を扱っている自販機が置いてある、ちょっとした休憩場であった。

 

「変な飲み物がいっぱいレス」

「飲みたいならウチが買ってあげるえー。ネギ君もどう?」

「ありがとうございます。それじゃあお言葉に甘えて」

 

 このかがネギとプールスと自分用に購入し、夕映とハルナがこれから何を話すかを飲みながら見守る。

 

「……んで今はどう思ってんの?このまま私たちがガンガンのどかの恋の応援をして、マギさんとくっつけちゃってもいいのかって話」

「……もっもちろんいいに決まってるです。何を今さら言ってるですかハルナは」

 

 さっきよりも悲痛な顔で言い返す夕映に話の雲行きが怪しくなって来たのを感じ、固唾と一緒にジュースを飲みこむこのかとネギ。

 

「本当にそう思ってる?なんかこのままマギさんとのどかが付き合ってくれれば私はすっぱり諦められるって言ってるように聞こえるんだけど」

「そっそんなわけないです!」

「おっとぉ何時もよりも0.8秒おそいにゃ~」

 

 ハルナの言葉の攻めにより、冷静さを失っていく夕映。足も震えだし立っているのがやっとの状態だった。

 

「まぁ確かにのどかはマギさんを見る目があったねぇ。最初マギさんとネギ君がこの学校に来た時、正直マギさんの事胡散臭いお兄さんだと思ったんだよねぇ。でも最近のマギさんは段々頼れるお兄さんみたいな感じになってきたし、今日の大会でも見せた事無い涙を流して、ギャップにキュンとしちゃった人もいるかもね。だから……アンタも応援していた親友の相手を段々と気に出したんじゃないの?」

「な……何を馬鹿な事を……」

 

 もう退路が無くなった夕映。ネギとこのかは赤面しながらハラハラと夕映とハルナを交互に見た。

 

「ゆえ……もう素直になっちゃいなよ。あんたマギさんの事、好きなの?」

 

 ハルナの問いに夕映は段々と涙を浮かべ始め。

 

「そんな……ことは……」

 

 遂には泣き出してしまった。ネギとこのかは泣き出した夕映を見て慌てるのと同時に理解する。夕映もマギを好きになってしまったと言う事に。

 

「応援していた親友の相手を好きになるって……どこのテレビドラマよ。まったくバカだねあんたも。ネタが面白すぎんのよ」

 

 静かに涙を流す夕映に微笑みを浮かべながらハルナは優しく抱きしめる。

 

「……え?」

 

 少し離れた所でのどかが今迄の話を聞き、呆然としながら本棚にもたれかかった。

 修羅場が始まる……

 

 

 

 

 

 




改めて遅くなり申し訳ございませんでした。
なぜ遅くなったかは、夜、活動報告に載せようと思いますので、宜しくお願い致します


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修羅場 迫る

今年もあと僅かになりましたね
今年は今日を含めて2話しか投稿出来ませんでした。
来年は心機一転して、スモールステップで頑張りたいと思います。


 夕映のマギが好きだと言う告白に未だに呆然と盗み聞きを続けるのどか。未だに嗚咽を続ける夕映の背中を撫であやすハルナ。

 

「ゆえ、そこまで思い詰めることなんて無いのさ。誰かを好きになるって気持ちなんてのは自分じゃあどうしようもないんだからさ」

「ッ……!」

 

 限界に達したのか、遂にゆえはハルナを突き飛ばし、その場から逃げ出した。

 

「こらバカゆえ!」

「違うです!違うですーー!」

「何が違うってのよ!待ちなさい!」

「ゆえまってーな!」

「夕映さん!」

「ゆえお姉ちゃん!」

 

 違うと叫びながら逃げる夕映を追いかけるハルナ達。逃げ出した先にはのどかが居る。慌てて本棚にへばりつき、気配を消して夕映に見つからないように願うのどか。

 逃げる事にめいいっぱいな夕映や夕映を追いかけるハルナはのどかの存在に気が付かない。

 がこのかとネギにプールスは本棚にへばりつくのどかを発見した。

 

「のっのどか!?」

 

 のどかは叫びそうになったこのかの口を慌てて塞ぐ。急いで塞いだからか走り去った夕映は気づく様子は無かった。

 

「のどかも帰ってこねぇし、どこまで行ったんだアイツ等」

 

 あまりに戻って来るのが遅いので皆を探すマギ。このままだと他の部員に怒られないのだろうかと考えていると、夕映が目の前にマギが居る事に気づかずに走り続ける。

 

「違うんです!違うんですー!!」

「だから何が違うってのよゆえ!」

 

 未だに自分の気持ちを否定し続ける夕映、そのままマギにぶつかってしまう。

 

「わぷ!すっすみませんでっ!?」

「やっと戻ってきた。ていうか何で走ってきたんだ夕映?」

 

 ぶつかった相手がマギだと分かると、思い切り後ろに後ずさった。その衝撃で本棚の本が夕映に降り注ぎそのまま本に埋もれてしまう。

 

「……いや本当にどうしたんだよ夕映」

 

 目の前で本に埋もれてしまった夕映に驚きと呆れが混じった感情のまま夕映を本から救出する。

 

「あうぅぅ……すみませんです」

 

 救出された夕映はマギにお礼を言うには言えたが、顔を直視出来なかった。

 ハルナも夕映に追いついたのだが、タイミングが悪い事に他の図書館探検部の部員に見つかってしまった。

 

「のののののどか!いっ今はおちちゅいて!」

「このかしゃん!このかさんももちついて!」

「あうあうあうあの!その!えっと!」

「嬢ちゃんたちに兄貴もとりあえず深呼吸して落ち着きな」

「お兄ちゃんとお姉ちゃん達どうしたんレスか?」

 

 このかとのどかとネギは落ち着こうとするが、完全に呂律が回っていない。カモが3人の慌てぶりに呆れ、プールスは何故慌てているのか分からない様子だ。

 

「おっのどかもそこに居るな。そろそろ列に戻った方がいいぞー」

 

 さらにマギにも見つかり、3人の心音は更に高くなる。

 修羅場までもう直前……

 

 

 

 

 列に戻る最中、布陣は横に3列。真ん中にマギ、右に夕映に左にのどかとなっており、少し後ろにハルナ。そして後方にネギとこのかが当事者でもないのにギクシャクと歩き、この光景に少々楽しみながらこのかの肩に乗るカモと、今一場の雰囲気が掴めないプールスがトコトコとついて行く。

 

「かっカモ君、うちどないひょー!?」

「まぁ落ち着きなこのかの姉さん」

 

 未だにパニくりなこのかを落ち着かせようとするカモ。

 

「でも、まさか夕映さんがお兄ちゃんの事を好きだったなんて」

「応援していた親友を好きになるって言うのはよくあることでさぁネギの兄貴。まぁ結構前から脈はあったようだけどな」

 

 ネギは夕映がマギを好きになった事に驚いていたが、カモは結構前からマギの事を気になっていた様子だった。

 とプールスがこのかのズボンのすそをくいくいと引っ張り。

 

「このかお姉ちゃん、ゆえお姉ちゃんがマギお兄ちゃんの事を好きになったらダメなんレスか?」

「ぷっぷるちゃん!えっと好きになっちゃだめってわけやなくて!そのっえっと!」

「まぁこの問題は当事者の大兄貴や嬢ちゃんたちに任せるしかねぇな」

 

 等と話している間に、マギとのどか夕映に動きが見えた。

 まず夕映が歩みを遅くし、マギとのどかと距離を置く。夕映が距離を置いたのに気付き、のどかが夕映と歩調を合わせる。

 2人が遅れているのに気付き、マギも歩調を合わせまた横3列に戻る。

 

「何か早足だったか?」

「いっいえ」

「大丈夫……です」

 

 謝るマギだが、2人の反応が余所余所しい事に気づき、何かあったのだろうと察する。

 何とかハルナだけにはのどかが先程の話を聞いていたと言う事を伝えようとするが、先に日本の名作の文学書コーナーに着いてしまった。此処のコーナーに着いてしまった事で更にややこしくなる。

 

「ここは日本の名作の本が結構あるんだな」

 

 そう言ってマギは一冊の本を手に取った。その小説は猫が語り部で代表の著作者の1冊だ。

 

「マギさんは日本の本は読むんですか?」

「まぁ読むけど、この本は読んだことねぇな」

 

 本の話題になったからか、のどかと夕映の表情もいくらか柔和になった。マギが手に取った本の題名を見て、思わずげっと声に出してしまった。

 

「何だ?そんなにこの本はヤバい本なのか?」

「いや今まさにタイムリーな本だなーと思っただけ。マギさんは三角関係って知ってる」

「まぁ言葉位は。まぁでも恋愛小説とかは読んだことはねぇけど、1人に対して2人が好きになるって奴だよな。んでこの小説ってオチはどうなるんだ?」

 

 気軽な感じでマギがハルナに話の終わりはどうなるかを尋ねると、ハルナは目を光らせ

 

「ホレた1人が話の途中で自害する」

「……まじかよ」

 

 気軽な感じで聞いた事に少々後悔するマギ。結局もう片方も死ぬと聞いてマギは何処か居た堪れない気持ちになった。更に畳み掛けるように三角関係の小説を次々に紹介するハルナ。どの小説も最終的に登場人物が死ぬと言う事にうへぇと疲れたような表情になりながら。

 

「……やっぱ恋愛ってしっかり考えないと駄目なんだな」

「まぁマギさんも三角関係には気を付けないとねぇ」

 

 疲れた顔色を浮かべるマギをからかうハルナ。恋愛を絡めると彼女は生き生きとしだす。のどかが近くで話を聞いていた事を知っていれば、もう少しは自重するかも……しれないが。

 

「ハルナ!名作に対する変な偏見を植え付けるなです!」

 

 夕映がハルナにがーっとツッコミを入れる。のどかは疲れた表情を浮かべるマギを見てハラハラしている。

 さらに後方でも色々とパニックになっていた。

 

「うぐっえぐっ……のどかお姉ちゃんっ夕映お姉ちゃんが死んじゃうレス……!」

「だっ大丈夫だよプールス!のどかさんと夕映さんに限ってそんな事……!」

「でも若しもの事があればウチは……あぁどうすればいいんや……!」

 

 幼少期に色々あり、人の死に敏感なプールスは三角関係の結末を聞いてしまい、三角関係=マギの事が好きなのどかと夕映が殺し合い、最終的にどちらも死ぬと勘違いし泣きだし、そんな事は無いとプールスをあやすネギ。

 しかしと最悪なイメージが払拭できないこのかと、そしてそんな光景もまっこれも青春だろうなと達観するカモとこちらもカオスに染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 三角関係のコーナーにてマギが精神的に疲弊し、後方でネギ達がパニックになった以外に大きな問題も起こらず、無事に図書館島の探険が終わった。

 少し離れた場所にてのどかとマギが本の話題で楽しそうに会話しているのを眺め、何とか笑みを浮かべる夕映。これでいい。これでいいんです……と自分に言い聞かせるように

 とのどかが夕映に手招きをする。何事かと2人の元へ向かう。

 

「のどかにも今お礼を言ったんだが、ありがとな誘ってくれて、色々と図書館島の事を知れてよかったよ」

「いっいえ、マギさんが楽しめて頂けたのなら幸いです」

 

 マギが夕映にお礼を言い、夕映も動揺しながらも返す。その後も本についての話題で盛り上がっていると、ネギ達も集まってきた。

 そこでまた話題が仮契約のアーティファクトへと戻った。アーティファクトはその人の性質に合ったものが出てくるとネギの談で、ハルナがのどかのアーティファクトで弄り始めた。

 のどかが弄られたり、ハルナが自分のアーティファクトはどんなだろうかと想像を膨らませていると、いつの間にかのどかはマギの隣ではなく、夕映の隣に座りマギとのどかの板挟みになってしまった夕映。

 

「のっのどか?何故私の隣に座るですか?」

 

 何故自分の隣に座るのかが分からない夕映にのどかは

 

「ねぇゆえ、ゆえもマギさんと仮契約しない?」

「なっ何を言ってるですかのどか?そんな事出来るはずないです!」

 

 のどかの仮契約発言に動揺の色を見せ始める夕映。マギと仮契約をすると言う事は、すなわちマギと唇を……

 顔を赤くしながらもそれだけは絶対だめだと、自分に言い聞かせる夕映はのどかに反論する。

 

「そんな事出来るはずです……そんな事やったらのどか、貴方に対する裏切りになってしまうです……!」

「私、ハルナやゆえのおかげでマギさんと仲良くなれた。私1人だったらマギさんと仲良くなることが出来なかった。だからこんどはゆえにもマギさんと仲良くなって貰いたいって……」

 

 何故行き成りこんな事を言いだすのか、段々と場の空気が変わってくるのを感じ取る夕映。

 まさか……と最悪な展開を予想する夕映。そして、予想した最悪の展開は現実のものとなる。

 

「あの、ね……私、聞いちゃったんだ。その……夕映がマギさんの事好きだって」

 

 のどかの告白に夕映の頭の中は真っ白になってしまった。

 思わず夕映はのどかの方を向くと。

 

「なんで言ってくれなかったのゆえ……私そんなのイヤだよ」

 

 目尻に涙を溜めながらも必死に流さないようにするのどかの姿が其処には居た。

 

「ちっ違!私は……!」

 

 夕映は何か言おうとしたが、頭が真っ白で何も言葉が出てこない。

 

「ゆえ……」

 

 明らかにパニックになっている夕映を落ち着かせようとのどかが近づこうとするが、反発する様に離れそのまま逃げ出してしまった。

 

「ゆえ!?」

「如何いう事!?のどかさっきの話聞いてたの!?」

「えっと!うん!」

 

 ハルナがこのかに詰め寄り、このかもパニックになりながらも首を縦に振り肯定する。さっきまで三角関係の話でマギをからかっていたハルナだが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。パニックになった夕映が今から何をしでかすのか分からないからだ。

 今一状況が掴めていないマギだが、今夕映の心情状況がよろしくないと言うのは理解出来た。逃げ出した夕映を急いで追いかけるマギに続くようにのどか達も駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 今夕映が走っているのは図書館島の地下4階。しかし自分が今どこにいるかなんてどうでもよかった。ただ今直ぐに皆の前から消えてなくなりたいと言う感情で一杯一杯なのだから。

 

「夕映!」

「待ちなさいゆえ!」

 

 しかしマギ達が直ぐに追いついてきた。パニック状態のままの夕映は壁にあった非常ボタンをガラスを叩き割りながら押した。

 途端にベルが鳴りだし、扉が通路を閉じようとしている。

 

「装甲防火扉や!」

「何でそんな物が!?」

 

 ネギのツッコミももっともだが、今は夕映を追いかけなければ。少しずつ扉が閉まっていく。

 

「あう!」

「のどかお姉ちゃん!」

「のどか!」

 

 そこまで運動に自信がないのどかが躓き転んでしまう。マギとプールスを助け起こしている間に防火扉が閉まってしまう。

 

「お兄ちゃんとのどかさん達はそこに居てください!僕とハルナさんで夕映さんを落ち着かせます!」

 

 防火扉から逃れられたネギとカモにハルナが夕映を追いかける。

 マギがのどかを助け起こすが、まだのどかの目からは涙は流れていた。

 

「ゆえ、どうして逃げたの……なんで黙ってたの……」

 

 ぎゅっと服を握りしめるのどかにマギは声をかける事が出来なかった。

 

「えぐっ夕映おねえちゃん……」

 

 のどかの涙を見て、プールスまでも泣き出してしまった。このままでは仲が良かったのどかと夕映の友情がさけてしまうのではないか……負の感情には敏感なプールスには居た堪れない状況だ。

 のどかは懐にしまっていた自身のアーティファクトを取り出した。のどかのアーティファクトは人の心の中を覗く事が出来るもの。しかし、親友である夕映の心の中を見る事に負い目を感じている。

 ここは1人の教師として、生徒の背中を押す事にした。

 

「のどか、時にはやらずに後悔よりもやって後悔の方がいい時もあると思うんだがどうだ?」

「マギさん……はい!アデアット!」

 

 マギの一押しで決心したのかいどのえにっきを出現させる。

 

「でもマギさん、この分厚い防火扉どうするんや?」

「まぁそうだよな……とりあえず壊すか」

 

 事を見守っていたこのかが防火扉をどうするのか問いかける。装甲防火扉と言う事もあって、かなりの分厚さだ。それをマギは壊すと言いだしたのだ。

 確かにマギならこの分厚い扉を破壊するのは難しくは無いだろう。しかし本気で壊したりしたら、周りにも被害が及ぶ可能性があるのではないだろうかと危惧する。

 マギは防火扉の前に立つと、包帯を巻かれた腕を大きく振り上げると。

 

「ふんっ」

 

 短い気合と共に扉を殴りつけた。分厚い扉はまるで障子紙の様にいとも簡単に破れた。

 

「急ぐぞ」

 

 マギが続けて防火扉を破壊し、その後をのどか達が続いて行く。

 のどかやこのかはマギが魔力を使って、目の前の分厚い扉を破壊してると思っているだろう。

 否、マギは魔力と気は一切使っていない。咸卦法も一秒も使っていない。

 今のマギは包帯が巻かれた腕、先程もマギの事を襲おうとし、現在も段々と制御が効かなくなり、暴れるならと防火扉を殴らせたのだ。

 しかし包帯を巻いていた方の腕からは段々と感覚が薄れてきた。本来なら気にする事なのだろうが、今は夕映の方が心配なので夕映を優先する事にした。

 ……この判断が後の大事に繋がるの事になるとはこの時は知る由も無かった。

 

 

 

 

 

「夕映さん」

「やっと追いついたわよこのバカ」

 

 行き止まりの滝にて夕映に追いついたネギとハルナ。

 

「だから言ったでしょ。あんたがマギさんを好きになってもそれ自体は何も悪い事じゃないって。要は此れからの選択をどうするかって事でしょ?」

「僕、まだ人を好きになるって事が良く分からないですけど、でも夕映さんがお兄ちゃんを好きになっても、それはのどかさんへの裏切りじゃないと思います」

「もちろんアンタがどんな選択をしても私も応援するよ。たとえアンタがマギさんにモーレツにアタックしてもね。なーにアンタとのどかならさっきの三角関係みたいなことにはならないさ」

「落ち着いてのどかさんと話し合いましょう?のどかさんだって分かってくれます絶対!」

 

 ネギとハルナの説得にも、夕映は首を横に振る。

 

「違うですハルナ、ネギ先生。私は選んでしまったんです、のどかに対しての酷い裏切りをすると言う選択を。昨日私はのどかとデートしたマギさんに相談を受けて」

 

 言葉を詰まらせる夕映。

 

「……どうしたの?」

「酷い裏切りをしたです。何よりも私が恐れているのはのどかに嫌われる事なのに……」

「ゆえ……アンタ一々考えすぎだって。人間一度恋すりゃ誰でも……」

 

 いえ、私は自分が許せないですとハルナの説得も遮る。

 

「心の底からのどかを応援していたはずが、あんな最低な事を。愚劣でっ阿呆でっ汚らしいっ!……最悪です」

「そんなっ夕映さんはのどかさんのために頑張れる、素晴らしい親友じゃないですか!そんな自分を卑下するなんて、先生として許しませんよ!」

 

 ネギは先生として、今の自分の思った事を素直に夕映にぶつける。

 だがそれでも夕映には届かず、辛そうながらも笑みを浮かべる夕映。

 

「ありがとうございますですネギ先生。ですが……私はそんな自分を許せないんです。出来る事ならこれからものどかの親友として、恋の応援をしたかったです。ですが今の私にはそんな資格なんて無いんです。こんな……醜い感情を持っている私なんか、私なんか消えてなくなればいいのに……」

 

 遂には涙を流し始めながら後ずさる夕映。このままでは飛び降りそうだ。

 

「ちょ!ゆえそれは流石に洒落にならないって!」

「夕映さん!」

 

 ハルナとネギが急いで駆け寄ったが遅かった。ネギの手が届く前に、夕映は飛び降りてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




それでは皆様良いお年を


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夕映の答え

明けましておめでとうございます
今年の抱負は日進月歩でスモールステップで頑張りたいと思います


 夕映が中学に入る前に敬愛していた祖父が亡くなってからは、世の中が全て空虚に思えていた。

 本が好きと言う事もあって、図書館探検部の入部説明会に出てみたが、なんとも馬鹿馬鹿しく思えてしょうがない。

 しかも右隣の女子生徒、今のハルナが図書館島の色々な噂を機関銃の如く夕映に話し掛けるが、その当時の夕映は正直馬鹿馬鹿しいとしか思えていなく、ハルナの話を右から左に受け流していた。

 このまま中学生の生活も無意味で空虚な日々が続くと思っていたが

 

「あの……あっあなたも本が好きなんですか?」

 

 左隣に居た女子生徒、のどかの出会いで夕映の世界観を変えてくれた。

 説明会の帰り、そんな夕映をハルナにのどかにもう1人このかが待っていてくれていた。

 説明会と同じように、しつこく迫ってくるハルナをあしらっている間、のどかが本好きな人に悪い人はいないと自分と友達になってほしいと言ってくれた。

 のどか達と友達になってから毎日が満たされていた。図書館島の冒険によって祖父の死を受け止めて前に進めるようになった。

 そしてネギやマギとの出会いでまた世界は大きく変わる。のどかがマギに恋をして、自分を変えてくれたのどかの恋を応援し、のどかの幸せを心から願っていたのに……

 それなのに自分は――――――

 

 

 

 

 

 

「……ん」

 

 重い瞼をゆっくりと開ける夕映。気が付くと、水面にぷかぷかと浮いていた。何が起こったのか、朦朧とする意識の中で思い出す。

 飛び降りた夕映は持っていた鉤爪ロープを崖に引っ掛け、そのこら降りようとした。別に死ぬつもりはない。ただ、図書館島を去ろうとしただけだ。

 だが、ゆっくり降りている途中で道具が壊れ、そのまま落ちてしまった。そしていままで気を失っており、今に至るとと言う事だ。

 まだ意識がはっきりしない間に、今までの自分の行いを振り返る。のどかの告白についてのマギの相談に先延ばしにすると言うアドバイスをしてしまった事、マギに好きな人が居ないと言う事を知ってホッとしている自分が居ると言う事。

 親友を裏切ったと言う最低な事に自分自身を恥じる夕映。

 

「……そうだったんだね、ゆえ」

 

 体を強張らせる夕映、振り返るといどのえにっきを出現させているのどかの姿。

 

「今、マギさんに好きな人が居ないって……やっぱりゆえもマギさんの事が好きだったんだね」

 

 

 

 

 

「そっかぁ~マギさんって今好きな人居ないんだねぇ」

「えぇ、お兄ちゃんもいろんな生徒さんに告白されて、初めての事だからどうしたらいいか分からないって言ってました」

 

 夕映が落ちて行ったのを見て、別の方法で下に下りようとするハルナとネギ。ネギからマギがまだ本命を決めていないと聞いて、肩透かしをくらった気分になるハルナ。

 

「と言うか、ゆえがマギさんに言ったアドバイスって別に裏切りでもなんでもないじゃん。生真面目すぎるのよあの子は」

「それほど、のどかの嬢ちゃんの事を大事に思ってたんじゃねぇか?」

「そうですね、夕映さんはのどかさんの事を大切に思っている素敵な生徒さんです」

 

 夕映の生真面目さに少々呆れているハルナとそんな生真面目な所を褒めるネギとカモ。

 そんな事を話していると、装甲防火扉の通路まで戻ってきた。戻ってみると、分厚い防火扉に大きな穴が出来ていた。そんな事が出来るのはマギしかいない。

 

「お兄ちゃんのどかさんは!?」

「のどかなら先にいっちまったよ」

 

 のどかが先に行ったと知ると、急いで後を追う事にした。

 ……がマギが一向に急ごうとしない。

 

「……先に行っててくれ、俺も直ぐに追いつくようにするから」

「えぇマギさん!?こんな時に何言っちゃってんの!?」

 

 マギが先に行けと発言したことに、ハルナは驚きを隠せなかった。

 

「皆さん、今は先を急ぎましょう。お兄ちゃん、直ぐに追いかけて来るよね」

「あぁ、こんな時に呑気に一休みなんてするつもりはねぇさ」

 

 こんな時にさっさと行こうとしないなら、何か訳があるかもしれない。そう判断したネギはマギをおいて先へ進んだ。

 皆が先に行ったのを確認すると、その場に座り込み包帯を巻かれた腕を押さえるマギ。

 別に痛みが後から来たと言う訳ではない。亜子と別れた後に腕が暴走し、マギを襲おうとしたのがまた再発したのだ。

 骨が軋む音が続き、今にも襲い掛かって来そうな所を必死に抑えていた。

 

「少しは大人しくしろってんだよ……!」

 

 冷や汗と脂汗を滲ませながらマギは悪態をつくのであった。

 

 

 

 

 

 話は夕映とのどかの場所に戻る。ゆっくりと近づくのどかに夕映は動けないでいた。

 

「そのっのどか……私はっ……!」

「わかってるよゆえ、全部分かっているから」

 

 気が動転しながらも、のどかの手にはいどのえにっきを手にしていることに気づく夕映。あれは名前の知っている相手なら、どんな事を考えているのかが手に取るように分かるアーティファクトだと言う事を夕映は知っている。

 

「そうですか……ではもう全て……だったら私がどんな人間だと言う事を知っているですよね?私がどんな酷い人間だと言う事が」

「そっそんな事無いよ。私はあなたの口から聞きたいの」

 

 そう言っていどのえにっきをカードに戻すのどか。

 

「ゆえもマギさんの事を好きなの?」

「……はい……!」

 

 観念したかのように重い口からマギが好きだと告白する夕映。

 

「ごめんなさいですのどか!私はあなたの幸せを願って応援していたはずなのにこんな裏切り行為を!私は最低な屑人間です!」

 

 堰を切るかのようにのどかへ謝罪する夕映。夕映を落ち着かせようと近づくのどかだが、自分を責めながら謝罪する夕映の勢いは止まらなかった。

 

「マギさんにあんなことを言ってっすみませんですのどか!いっいやですよね。こんな友人なんてっでっでも分かってください!私は決してマギさんを好きになったと言う訳ではっ!いえっやっぱり友人失格です私は!これ以上のどかに迷惑をかけるつもりはっ―――!」

「ゆえ落ち着いて!」

 

 謝罪しながらも自身の想いへの否定が濁流の如く溢れる夕映の肩を掴み落ち着かせようとするのどか。

 しかし、夕映の自身の否定の濁流は止まりそうもない。

 

「こんなの思春期特有の気の迷いです!恋に恋してるなんて馬鹿馬鹿しい妄想です!時間が経てば薄れて消えるような、なんでもない感情なんです!」

 

 自身の想いを否定し続ける夕映に言葉が出てこないのどか。

 

「お願いですのどか、今日の事は全て忘れて下さいですっ。そうすればすべて元通りですっ」

「ゆえ!?それはっ……」

 

 夕映は今日あった事は無かったことにしてほしいとのどかに懇願する。それはつまり夕映がマギの事を好きだと言う感情も無かったことにしてほしいと言う事だ。

 

「……もしっもしそれでも許されないと言うのなら、私はのどかの前から消えるです。もうこれ以上のどかに不愉快な思いをさせるわけにはいかないですから……」

「っ!バカァ!!」

 

 辛そうに涙を堪えながら必死に笑顔を作ろうとしている親友に遂に我慢できなくなり、夕映の頬を平手で打つのどか。

 のどかに頬を平手で打たれて、膝をつく夕映。

 あぁ嫌われた……そう思った夕映。それはそうだ、こんな事をされれば嫌われて当然だと自嘲する夕映。

 しかしそうでは無かった。平手で打ったのどかは夕映を優しく抱きしめた。

 

「……バカゆえっどうして自分の事をそんな酷く責めるの?私は夕映の自分に嘘をついてもらいたくないし、消えてほしくも無いんだよ。私はゆえがマギさんの事好きになっても嫌じゃないよ」

「なっ嘘です!何を言ってるですかのどか!?」

「……うん、嘘。ほんとはちょっぴり苦しくて辛い」

 

 ……でもと続けるのどか。

 

「私も本をいっぱい読んでるから分かるよ。三角関係に良い終わり方が無いって、上手な解決方法が無いって事ぐらい。でもそれでゆえと喧嘩して、どっちかが悲しい思いをするなんて、辛くてつまんない思いはしたくないから」

「何を言ってるですかのどかっ私あなたにひどい事したんですよっ?」

「それなら私だって勝手にゆえの心の中見ちゃったし、怒られるなら私の方だよ?」

 

 抱きしめてから、夕映を優しく見つめるのどか。

 

「まだマギさんに好きな人がいないなら、いっしょにがんばろうゆえ」

 

 だから……

 

「だから、友達でいようゆえ」

 

 酷いことをしたのに友達でいようと言ってくれたのどかに遂に涙が決壊し、溢れる涙が止まらない。

 

「でっでもやっぱりだめですのどかっだめなんですっ……」

「ゆえ、泣かないでゆえ」

 

 嗚咽を漏らしながらも未だに自分の想いを否定する夕映をあやすのどか。

 そんな夕映を

 

「こんのバカゆえぇぇぇぇぇ!!!」

 

 蹴り飛ばすハルナ。蹴り飛ばされ変な悲鳴を上げる夕映と行き成り夕映が蹴り飛ばされ、おっかなビックリな感じになっているのどか。

 

「まったく、行き成り飛び降りたりして心配させんじゃないわよバカゆえ。まっ心配することは無かったみたいね。このパル様の出番も無くってよかったよかった」

 

 のどかと夕映が仲違いする事は無かったようで、心底安心した蹴り飛ばしたハルナとネギとこのかとプールスにすこし遅れて到着したマギであった。

 

 

 

 

 

 図書館島の外のテラス、人が少ないのを見計らいカモが魔法陣を描いていた。

 

「ちょっなんで魔法陣を描いてるんですか!?」

「なんでってここで仮契約をするからに決まってんじゃん。ゆえと私の」

「私は仮契約に了承した覚えはないです!」

 

 夕映のツッコミも飄々と流すハルナ。

 

「それに本心じゃマギさんとキスをしたいじゃないのか~い?このこの~」

「なっ何を言ってるんですか!?私はそんな軽い気持ちで――――」

 

 ハルナにからかわれるが、未だに渋っている夕映。とのどかが夕映の肩を数回突くと

 

「私はゆえのアーティファクトを見たいなー……なんて」

「のどか……」

 

 えへへとほほ笑むのどかに渋っていていた夕映も漸く折れた。

 

「のどか……少しの間手を握ってもらっても、いいですか?」

「うん、いいよ」 

 

のどかに手を握ってもらい、覚悟を決めマギと向かい合う夕映。

 

「マギさん」

「おぅ、なんだ」

 

 緊張で息が止まりそうな夕映、深く深呼吸をして何とか落ち着かせようとする。

 

「のどかの事で相談して頂いたとき、私は先延ばしなんてアドバイスをしました。でもそれは私に別の感情があったからです。親友の相手を好きだと言う感情……私は、マギさん、貴方が、貴方の事を好きになってしまいました」

 

 今まで溜めいた感情がまた涙と一緒に流れ出す。

 

「親友を裏切るなんて最低な事をした私ですが、どうか……どうか、嫌いにならないで欲しいです……!」

 

 夕映の告白にマギは黙って聞いていた。そして夕映に近づくとゆっくりと手を上げる。

 叩かれると思った夕映は目を閉じたが、マギはそんな事はせず優しく夕映の頭を撫でまわした。

 

「嫌いになるなんてことはないさ。自分の気持ちをしっかり伝えるなんて、偉い事じゃねぇか。正直、俺には勿体ないぐらいだ」

 

 フッと笑うマギに涙を流しながら、ありがとうございます……と漸く肩の荷が下りたようだ。安心したようでのどかも笑みを浮かべる。

 カモが仮契約の魔方陣を描き終え、準備は完了する。

 

「それじゃあ、ゆえ頑張ってね」

「はい。それと……のどか本当にありがとうです」

 

のどかが離れ、マギと夕映の2人だけで向き合う。が一向に夕映とマギがキスをする気配はない。

 

「どうしたのよゆえー早くぶちゅってやっちゃいなさいよー」

「黙ってくださいですハルナ!こういったのは心の整理が必要じゃないでうすきゃ!!」

 

 顔を赤くしながら、目を回し噛みながらもからかってきたハルナに言い返す夕映。

 いい加減まどろっこしく感じたのか、ハルナがマギに提案する。

 

「マギさん、ちょっと屈んでもらってもいい?」

「?……ほら屈んだぞ。屈んだがどうするんだ?」

「こうするんだ……よ!」

 

ハルナの指示通りに屈んだマギ。そしてハルナは夕映の背後に忍び寄り、そのまま夕映の背中を押した。

押された夕映は、そのままマギの方に向かい、屈んだマギの唇に自分の唇を当てた。

 半ば強引なキスとなったが、ここにマギと夕映の仮契約は完了した。

 

「ぷふぁ!なっ何をするですかハルナ!?」

「いやぁなかなかゆえが一歩を踏み出せない様だったから、お姉さんとして一押ししてあげたのだよ」

「余計な一押しです!今のは!」

 

 ハルナの行動に憤慨するが、夕映のアーティファクトのカードが出来上がった。

 

「これがゆえのカード!?へーいいじゃんいいじゃん!」

 

 夕映のカードを見て、興奮の色があせないハルナ。

 

「すっすみませんマギさん。何か事故みたいな形になってしまって」

「いや、まぁ俺は気にしてないから、あんまり深く考えるなよ」

 

 これでのどかと夕映と2人の仮契約を行ったが、どちらも事故のような口づけだったなぁと振り返るマギ。

 

「さぁて前座は終了!本番は……」

「あのハルナさん?どうして僕の方を向くんですか?」

「ゆえの仮契約は建前、本音は……私のアーティファクトのカードだぁぁぁ!」

 

 ハルナに襲われるネギ、悲鳴を上げ逃げようとするが一足遅く、あやかが見てれば怒り狂うだろう形でネギの唇を奪い、ハルナとネギの仮契約が終わる。

 

「まったく……やれやれだぜ」

 

 ネギがハルナと仮契約をしている光景を眺めながら、お決まりの台詞を呟きながら、静かに笑う。

 色々と騒動はあったが、のどかと夕映による騒動は無事に幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――だが、毎回毎回良い幕引きになるなんて甘いことはなく、時に運命は残酷に牙を向く。

 

「――――――!!?グァァァァァァァ!!!」

 

 今までにない激痛がマギを襲い、そのまま倒れのた打ち回る。

 

「お兄ちゃんどうしたの!?」

「マギお兄ちゃん!」

「大兄貴!!」

 

 さっきまでの楽しげな雰囲気から一気に緊迫した空気に変わる。

 呻き声を上げながら、包帯が巻かれた腕を押さえるマギ。さっきから骨が軋む音と、腕の中がナニかに喰われているような感覚に襲われる。

 

「くそっ……!なんだこの痛みは……!」

 

 そしてついにその時は来た。上着の袖が破れ、人の腕ではなく二回り大きくごつごつとして棘の生えた、人ではない化け物の腕が現れた。

 

「ひっ!?」

「まっマギさん!」

「ちょっ!マギさん行き成り変身とかどんなイベントよ!?」

 

 のどかは短い悲鳴を上げ、夕映は驚きで息を呑みハルナは驚きすぎたのか、何とも場違いな事を口走った。

 皆を心配させまいと何とか化け物になった腕を押さえようとするが、遂には制御が出来ず、暴れはじめる。このままではのどかや夕映にハルナが危険に晒されるかもしれない。

 しかも時間はまだ午後が始まったばかり、人通りが少ないからと言って、一般人に見つかりでもすれば大変な事になるだろう。

 

「おっお前ら、危なイカラ離れテイロ……!!」

 

 痛みのせいか、はたまた他のナニか分からないが、片言になりながらも皆に離れるように叫ぶが、遂にマギの中で何かが切れ、ゆっくりと意識を失っていく。

 

(クソッタレが……)

 

 自分自身に悪態をつきながら、マギは意識を闇に手放した。

 

 

 

 



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この愚か者にお仕置きを

「……ここは?」

 

 意識が戻ったマギ。だが周りは闇に覆われており何も見えない。

 

「ネギや皆はどうなったんだ」

 

 あの後どうなったのか分からずじまい、今分かるのは感覚が無く自分は夢を見ているということ。

 さっさと目を覚めろと自分を叱咤していると、目の前が段々と明るくなってきた。

 ようやく夢からさめるか……光に包まれながらマギは安堵する。

 光が晴れるとそこは……

 

「おいおいおい……何なんだよこれは……」

 

 思わず呆然とする。そこは地獄絵図、火の海に包まれた麻帆良がそこにはあった。

 自分が意識を失っている間に何があった。マギは目の前の現状に理解が追いつけないでいた。

 ただ燃え盛っている色々な出し物や炎から逃げ惑っている人々を見て、ただ事ではないと言うのは理解できる。

 ネギやプールスにカモはもちろんのどかや夕映にA組の皆の詳細はてんで分からない。

 マギは叫びながらネギ達を探す。目の前で逃げている人々が何かに跳ね飛ばされる。

 その何かが、マギの前に現れる。黒い靄に包まれた何か、だが異形な形の右腕は黒い靄がかかっていなかった。そして異形の右腕は、マギの異形の腕になったのと同じだ。

 黒い靄の者はマギに明確な殺意を抱いていた。目の前の相手を無視する事は出来ないと判断したマギは迎撃するために構える。が体に違和感を感じた。

 みればさっきまであった右腕が無くなっていた。

 

「は?なんで……俺の腕が……」

 

 マギが驚きで絶句している間に、異形の者が一瞬で間合いに入る。

 左腕で立ち向かおうとするが、簡単に受け止められてしまう。黒い靄に包まれながらも異形の者が笑みを浮かべているのが分かる。

 

「キサマノカラダヲモラウゾ……!!」

 

 異形の者は大口を開けると、そのままマギの首筋に喰らいついた。

 

「ひっ!?ぐああぁぁぁぁぁ!!――――――」

 

 マギは一瞬で喰われる恐怖に襲われ、断末魔の悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 

 

「――――――っあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ベッドから飛び起きるように目覚めるマギ。全身は汗でびっしょりと濡れていた。

 

「……夢か。随分とリアルな夢だったな」

 

 今まで自身が見ていたのが全て夢だったことに心底安堵するマギ。だがさっきまでの夢がこれから起こるようなリアルな光景であった。

 周りを見渡すマギ。今自身が居る部屋は前にエヴァンジェリンの封印を解いた時に世話になった別荘の一室。

 ベットにはプールスが寝息をたてて寝ていた。泣いていたのか、涙の跡が残っている。

 心配をかけてしまったプールスの頭を撫でようと、起きて腕を伸ばそうとすると、右腕が重く冷たく感じた。

 見れば、異形の形になったままの右腕が氷漬けにされていた。

 

「エヴァがやってくれたのか」

 

 マギはエヴァンジェリンがやってくれたと直ぐに分かった。と寝息を立てていたプールスがゆっくりと瞼を開けた。

 

「マギお兄ちゃん?」

「おぅ、色々と心配をかけて悪かったな」

 

 プールスがマギの胸へ飛び込んで行った。震が抱きしめた左腕からプールスが震えているのが感じる。不安を感じさせてしまったせめてもの詫びに、優しく撫でる。

 すこし落ち着いたプールスに何故自分がここに居るのかを尋ねると、嗚咽に混じりながらもプールスが話し始める。

 

 

 

 

 

『お兄ちゃん!お兄ちゃん!!』

 

 右腕が異形な形となって意識を失ったマギを涙を流しながら揺らすネギ。周りの皆は自分達がどう動けばいいか考えにあぐねていると空から茶々丸とエヴァンジェリンが現れた。

 

『まっ師匠!お兄ちゃんが……』

『黙っていろ坊や。チッこの馬鹿者が……茶々丸マギを別荘に連れていくぞ』

『了解しましたマスター』

 

 エヴァンジェリンが魔法でマギの右腕を凍らせると、茶々丸がマギを抱き起す。

 

『エヴァさん……』

『のどか、ここは私に任せておけ。行くぞ茶々丸』

『はいマスター』

『エヴァお姉ちゃん私も行くレス!』

 

 プールスはエヴァンジェリンに抱っこされ、ジェット噴射して飛んだ茶々丸に続くように、自身の家へ向かって飛んで行った。

 

 

 

 

 

「やっぱエヴァのおかげか。色々とアイツには迷惑をかけちまったな」

「そう思っているなら、早く私に言え馬鹿者が」

 

 凍った右腕を見ながら呟いていると、呆れの混じった声色で部屋に入ってきたエヴァンジェリンと茶々丸。

 

「茶々丸、プールスを連れて部屋から出ていろ。私はこの馬鹿と話がある」

「分かりましたマスター。マギ先生お気を付けて」

 

 プールスと茶々丸が部屋から出た瞬間、瞬間的な冷気がマギを襲う。見ればエヴァンジェリンの周りの床が凍りついた。

マギは直ぐに理解する。今のエヴァンジェリンは明らかに怒っている。部屋がどんどん冷えてくるのと同時にマギの体も冷えはじめる。

 

「あー……そのエヴァ、色々と迷惑をかけた――――」

「表へ出ろ」

 

 マギの謝罪も聞かずに、表へ出ろと命令するエヴァンジェリン。

 

「聞こえていなかったのか。さっさと表に出ろ」

「えっとエバ?その、な……」

 

 エヴァンジェリンの気迫にヴァではなくバと発音してしまうマギ。マギに有無を言わせず首根っこを掴むと、外へ向かって放り投げる。

 かなりの高さから落ちるが、魔力を使い受け身を取ったため大事な怪我にはならなかった。

 

「まったく大切な事を黙っているなんて、ここまであの馬鹿に似るなんてな。お仕置きだ、覚悟しろよ」

「ちょっ待ってくれエヴァ、俺はまだ……」

「問答無用だ」

 

 待ったなし、エヴァンジェリンがマギに向かって魔法の矢を放つ。

 

「おっおいエ――――」

 

 待ってくれと言おうとした瞬間、凍っていた異形の右腕が勝手に動きだし、氷を砕いて障壁を展開した。

 闇の障壁が魔法の矢を全て防ぐ。そしてさっきまで収まっていたはずの激痛がまた走る。

 

「ぐっまただ……」

 

 右腕は勝手に動き、エヴァンジェリンの方を向いた。まるで標準を合わせたかのように

 

「逃げろエヴァ!」

「ふん誰に言っているんだ?闇の福音の私を随分と甘く見てるじゃないか」

 

 余裕そうに鼻で笑っているエヴァンジェリンに向かって、右腕が勝手に闇の魔法の矢を数百発放つ。対してエヴァンジェリンも同じ数の氷の魔法の矢を放ち相殺する。

 こんどはエヴァンジェリンに引っ張られるかのように、右手が勝手に向かっていく。引っ張られるせいで足がもたれかけるマギだが右手はお構いなくエヴァンジェリンに向かう。

 右手がエヴァンジェリンに向かって振り下ろされる。大きさもあり振り下ろされた腕が咆哮を上げているようだ。

 しかしエヴァンジェリンは涼しい顔で右腕を受けとめると、投げ飛ばす。

 投げ飛ばされても負けじと今度は断罪の剣を出す。何時もよりも数倍大きく、禍々しい力を感じる剣だ。

 軽く振るうだけでも剣圧で地が抉れていく。そんな攻撃でもエヴァンジェリンは涼しい顔で防いでいく。

 マギの右腕の暴走する攻撃をエヴァンジェリンは軽くあしらう。そんな攻防が休むことなく、数十分続いた。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁっはぁっ……」

 

 あれから数十分休まずに攻防、という名ばかりで、実際はマギがエヴァンジェリンに完膚なきまでに叩きのめされて、文字通りお仕置きをされた。

 

「いやエヴァ、お前、闇の吹雪とか氷の矢300とか闇の矢500とか殺す気か……!」

「お前の右手も闇の業火や炎の矢で抵抗してしてたじゃないか。まぁ一応全部絞り出せたようだな」

 

 マギの文句にぶっきらぼうに返してきたエヴァンジェリンの容赦のない魔法の攻めに、暴走していた右手によって防ぐ。

 そのおかげもあってか、マギの右手は異形の形ではなく元の人のものへと戻っていた。

 

「まぁ元に戻ったし、痛みも無くなってきた。色々と無理をし過ぎたんだな。迷惑かけたなサンキューエヴァ」

「……」

 

 マギがお礼を言っても、エヴァンジェリンは何も答えない。首を傾げているとどうして……と悲痛な呟きをする。

 

「どうしてお前は私に謝ってばっかりなんだ!?本当はこんなことになったのは私のせいだって分かってるんだろ!?」

「……なんでエヴァのせいなんだ?俺の右手が変になったのは俺が闇の魔法を無理に使ったせいだろ?」

 

 変なの事言うなと思いながら首を傾げるマギを見て、エヴァンジェリンは息を飲む。本当に自分せいだと思っているようだ。つまりエヴァンジェリンは自ら墓穴を掘ってしまった。

 

「……エヴァ、お前何か俺に隠してることがあるのか?」

 

 立場が逆転し、マギがエヴァンジェリンに問いかける。別に怒っているわけではないマギ。

 観念したエヴァンジェリンがマギへ白状する。

 

「マギ、お前が私の呪いを解いてくれたことは覚えてるか?」

「あぁあの時は血を流し過ぎて流石に死ぬかと思ったな。それがどうかしたのか?」

「あの時、私はお前に私の血を輸血した。吸血鬼の血をだ」

「エヴァの、吸血鬼の血か……それって何か普通の輸血と違うのか?」

 

 マギの疑問に全然違うと首を横に振る。

 

「私の血をお前に分け与えた事で、お前は半強制的に不老不死の吸血鬼になった。つまり今のお前は私と同じ……化け物だっ」

 

 下唇を噛みながら全てを吐いたエヴァンジェリン。本当は呪いを解いてくれた直ぐにでも告げるつもりだった。だが出来なかった。告げたら散々に罵った後に自分の前から去ってしまうのではないかと思ったからだ。

 のどかの事を自分のライバルだと偉そうな事をほざいておきながら、何とも尊大な態度をとったのだろうなと自分で自分を蔑むエヴァンジェリン。

 すべては言った。そろそろ罵倒が飛んでくるだろう。エヴァンジェリンは構えていたが、エヴァンジェリンはマギがどういった人物かをまだ分かっていなかった。

 

「そっか、それじゃあ今迄死にかけてもなんでもなかったのはエヴァのおかげ、て言う事なんだな」

 

 軽く頭を掻きながらマギはそう呟いた。

 

「ありがとうなエヴァ。もし俺が不死じゃあなかったら、京都の時の知らないままで闇の魔法を使った時には死んでたかもしれないんだよな。エヴァのおかげでまだまだ生きられそうだ」

 

 マギは罵倒などせずにエヴァンジェリンに感謝した。

 

「なぜ、何故私に感謝するんだ?私は許されない事をしたんだぞ……」

「許すも何も、日本の特撮で悪の秘密結社が主人公を無理やり改造、なんて話があるのは聞いたけど、お前の場合は俺の命を助けるための救助活動みたいなもんだろ?それに感謝こそすれ、罵倒なんて事は俺はしないさ」

 

 それに……とマギはエヴァンジェリンの額を軽く突きながら続ける。

 

「なんかまるで俺に怒ってもらいたいって顔に出てたからな。だったら怒るんじゃなくて許すのが今のお前にとってのお仕置きかなぁってな」

 

 マギの笑みに数秒呆然とするが、吹き出してしまうエヴァンジェリン。

 

「まったく……お前と言う奴は、アイツに似てない様で似ているんだな」

 

 目尻に涙を浮かべるエヴァンジェリン。その涙は笑い過ぎての涙なのか、はたまた別のものなのか……

 これにて、マギとエヴァンジェリンの互いへの仕置きは完了したのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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お別れ会 宣戦布告

別荘にて数日過ごし、外の時間は数時間とお得な過ごし方をしたマギ達。そろそろいい時間だろうと言うことで、外へ出ることへした。

魔法陣が光り、マギ達が現れたがマギの顔には青あざと紅葉が散っていた。

 

「……なぁエヴァ、そろそろ機嫌を直してくれよ」

「うるさい黙ってろ!」

 

顔から火が出そうなほどに真っ赤な顔のエヴァンジェリンが怒鳴ってマギを黙らせる。

何故顔が真っ赤なのかは、別荘での出来事が原因だ。

右腕の暴走が収まった後、数日ほど安静にしていたマギ。

そろそろ文化祭に戻ろうといった話しになり、別荘から出る最終日にはエヴァンジェリンとマギとプールスにてディナーを食べることにした。

茶々丸の姉の人形達が作る料理はどれも豪華絢爛で、プールスは目を輝かせマギも感嘆の声を上げた。

そして食事をいただき、料理を口に運ぶと豪華さに負けない美味であった。

しばらく食べ続けていると、プールスがあることを言った。

 

「パパとママとご飯を食べてるみたいで楽しいレス!」

 

人の時の楽しい思い出を思い出したのだろう。両親と一緒に食事をしたことのないマギからしたら分からない感覚だ。

一方のエヴァンジェリンはマギと夫婦として見られていることに気をよくしたのか、ワインをジュースのようにごくごくと次々に飲み干していく。茶々丸が止めようとするが止められそうになく、次々とワインの瓶が空になっていく。

 マギが引いてきた時には、顔は真っ赤になるほどにべろんべろんに酔っぱらったエヴァンジェリン。

 夕食が終わった後は風呂に入る事になっていたが、悪酔いしているエヴァンジェリンが一緒に入ろうと言いだした。

 一応エヴァンジェリンの方が数百歳も差があるが、仮にも教師と生徒。モラルに反するのだが、知った事じゃないとマギの首根っこを掴んで浴場へと向かうエヴァンジェリン。

 茶々丸の姉に当たる絡繰り人形2体がマギとプールスの服を脱がす。人形でも相手は女性と言う事で断ろうとしたが、顔を赤くしたエヴァンジェリンが軽く頬を膨らませてこちらを睨んでいる。今断ったらすぐにでも何かされそうなので、仕方なく脱がせてもらった。

 浴室の風呂の温度はいい湯加減で、今までの疲労が湯に流れていくようだ。

 しばらくゆっくりしていると、ちゃぷと湯が音を立てる。

 音がした方を見てみると、服を脱いだエヴァンジェリンが湯に入ろうとしている所だった。幻術でマギと同い年かそれよりも少し年上の姿になって。思わず吹き出してしまうマギ、勢いで上がろうとするが、酔った状態のエヴァンジェリンに捕まってしまう。

 身動きが取れずに結局一緒に入る事になった。肩と肩を寄り添いながら入るマギとエヴァンジェリン、女性特有の柔らかさと匂いに肩唾を飲んで平常心を保つ。

 何故一緒に入ろうとしたのか。一応目的もあったそうで、なんでもマギの右腕の暴走、一応は収まったが、まだ腕には暴走した時の魔力が溜まっているそう。そこでエヴァンジェリンが血と一緒に残った魔力を吸いだそうということだ。

 さっそくと牙をマギの腕に当て、思い切り噛みつく。血が吸われるのと同時に魔力も吸われ、段々と全身に力が入らなくなる。顔が赤いのは湯船につかってるからか、それともエヴァンジェリンに血を吸われているからか。いずれにせよ、お子様に見せられるものではないため、プールスの目は茶々丸が覆っていた。

 と吸っていたエヴァンジェリンが急に吸うのを止めた。どうしたのかとマギがエヴァンジェリンに尋ねると、マギの一部分を凝視していた。

 マギもエヴァンジェリンの凝視した所を見て、赤い顔に青みがかかる。凝視した部分は下半身、男を象徴するものだった。吸血鬼の吸血行為、血を吸われた者は一種の興奮状態となってしまう。しかも今血を吸っているエヴァンジェリンの姿は魅力的な大人の女性、それを見て反応しないのは難しい話だろう。

 黙っていたエヴァンジェリンの体から魔力が溢れだし、さっきまで温かった湯段々と冷えはじめる。プールスは茶々丸が避難させていたのでもういない。

 何とかエヴァンジェリンに弁明しようとするが、次の瞬間にはエヴァンジェリンの魔力が爆発、浴場は吹き飛んだ。

 思わず、「なんでさ」と叫んでしまうマギであった。

 

 

 

 

 

 

「――――――だから悪かったって言ってるだろエヴァ。男なんだしこればっかりはどうしようもないんだよ。言い訳がましいけど」

「分かったから黙っていろ。私も気が動転してたからお互いさまと言う事にしてくれ」

 

 そして今に至る。エヴァンジェリンの魔力の爆発に巻き込まれた後、茶々丸や姉の人形たちの手当てにより大事にはならなかった。

 一方のエヴァンジェリンも悪酔いした事への反省とマギが自分を女性として見てくれた事への嬉しさとその時の姿が幻術だったために本当に自分に対してそう言った形で反応したのか分からない複雑な心境であった。

 自分が無事に回復したことをネギ連絡する。

 

『お兄ちゃん!大丈夫!?』

「あぁ大丈夫だ。そっちは?何か変わりはあったか?」

『それが……』

「――――は?超が学校から去る?」

 

 マギが別荘にいる間に色々とことが進んだようだ。

 超が学校を自主退学する事を古菲に聞き、件の超は今迄自分が所属していた所へあいさつ回りに行っていたようだ。

 ネギも周りの先生から話を聞いたが、タカミチを監禁した話を聞いた。

 タカミチを監禁した事と、一般の人達に魔法をばらそうとすることの真相を超から聞こうとするが、そこから超とネギの一騎打ちになり、善戦するネギだが超の仕組みが分からない戦い方にしだいに翻弄されていく。

 とネギの危機に刹那と楓が助太刀に入った。が刹那の体術やアーティファクト、楓の忍術をもってしても仕組みの不明な術に返り討ちになりそうになる。

 勝てないと判断した楓が撤退を選び、人気が少ない廃校舎へ移動した。移動した場所で、真名が超の応援として合流してきた。

 真名が超側につき生徒同士の戦いになりそうになり、ネギがショックを受けている中、まさに一触即発な雰囲気の前で楓が呑気そうに指を鳴らした。途端にベニヤ版の板が一斉に倒れ、光が超達を包み込む。

 一瞬自分を捕らえようとする魔法先生やその生徒達だと思い構える超だが、そこに居たのは3-Aの生徒達であった。

 古菲に超の事を聞いた楓が3-Aの生徒達に呼びかけて送別会を設けることにした。

 行き成りのクラスメイトの登場に毒気が抜けた超が矛を収めてくれた。

 廃校舎の屋上にて超の送別会を行って今に至る。

 

「――――分かった。俺も送別会に向かうわ」

 

 そう言ってネギに対して連絡を終えた。

 

「超の奴、自主退学するから送別会をするんだと」

「そうか、なら盛大に送ってやらないとな」

 

 そう言ってニヤリと笑うエヴァンジェリンを連れ、送別会が行われる廃校舎へ向かうマギ一行。

 

 

 

 

 

 

 

 マギ達が廃校舎に到着した時には、3-Aの生徒達が飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを繰り広げていた。このまま朝まで繰り広げる勢い、いや本当に朝まで騒ぐのがこのクラスだ。

 

「なんか超そっちのけではしゃいでる感じだな」

 

 生徒達のはしゃぎように苦笑いを浮かべていると、ネギがマギに気づいた。

 

「お兄ちゃん!」

「おぅネギ、色々と心配かけて悪かったな」

 

 ネギが駆けつけるのと同時に、夕映とのどかがマギに駆け付ける。

 

「マギさん!」

「ごめんなさいです……私のせいでマギさんがあんな目に……」

「いや夕映のせいじゃあないさ。そんなに自分を責めるんじゃあない」

 

 等と話していると、マギの周りに生徒達が集まってきた。

 生徒達と一言話しながら、送別会の主役である超の元へ近づく。

 

「よぉ超、まさか行き成り学校をやめるなんて聞いて、ビックリしちまったよ」

「いやはや、なにせ急な話だったからナ。本当は皆には黙っていようと思ったんだヨ」

 

 そっかと言いながらマギは超へ簡易な花束を超へと贈った。

 

「こんな簡単なもんしか贈れないが、新しい場所でも頑張れよ」

「あぁありがとうマギさん」

 

 ―――――正直、こんな形でプレゼントを貰っても複雑なだけなんだがナと聞こえない声で呟く超。全員が揃い、送別会は文字通り、朝まで続いてしまった。

 

 

 

 

 

 翌朝の5時、東の空が少しずつ明るくなっていく中、夜通し騒いでいた3-Aの生徒達は殆どが寝息を立てていた。

 

「皆いい顔で寝てるな」

「ふふ結局皆、私をそっちのけで楽しんでたナ」

 

 超が寝入っているクラスメイトを見て微笑んでいる。

 

「超、お前は寝なくていいのか?」

「これでも科学者ダ。徹夜なんて慣れっこだヨ」

 

別段平気そうな超が答える。少しの間沈黙が漂い、マギから話を持ちかける。

 

「なぁ超、話があるんだがいいか?」

「うむいいヨ。私も貴方に話があったんダ」

 

2人は場所を移動する。人知れず特別な進路指導が始まる。

少し離れた校舎の屋上、そこでマギと超が対峙する。

 

「それで話とは何かナ?まぁ何を聞きたいのか大体分かるガ」

「あぁ単刀直入に聞くぜ。超、どうして魔法を世間に公表しようとするんだ?」

 

マギの問いかけに余裕綽々な表情を浮かべている超。

 

「その話をする前に私の正体を話す必要があるネ。私の正体は、遠い未来からこの時代にやってきた火星人なのダ!」

 

両手を広げ自分の正体を明かす。

普通の人なら超の言動をふざけているものだと判断するだろうが、吸血鬼にロボット半妖に幽霊の生徒がいて、スライムの義妹がいるマギにとっては別段驚くことはない。

 

「それで、この時代に来て何をしようとしてるんだ?」

普通にまるでこれからの進路を聞くかのような気軽い形で、超に聞くマギに面食らいそうになった超。だがマギに飲まれないように、自分の目的を話す。

 

「私の目的は2つ。1つは魔法の存在を公にすることダ」

 

目的を話し、何故自分が過去に飛んだのか語り始める超。

超の時代では、魔法が認知されており、火星はテラフォーマーミングされ、人が住める環境になっている。なっているだけだった。

資源はお世辞にも豊富とは言えない状況。

火星の魔法使いが、反乱を起こそうとするが、資源が枯渇寸前な環境下の中では出来ることなど何一つないかと思われていた。

一人の魔法使いが言った。今じゃなく、過去で反乱を起こせばいいのではないか……と。

そこからは魔法と科学の混合作のカシオペアの製作を進め、完成品で超をこの時代に送り届け、今に至るといったところだ。

 

「私が過去に飛んだのは、未来の同士を救うため。分かってもらえたカ?」

「……何となくな。この時代で魔法が知れ渡れば未来の出来事を回避できるってことか」

 

確かにこの時代なら少しずつだが魔法の存在が知れ渡るだろう。インターネットも普及し始めた頃だ。瞬く間に拡散する。

 

「でも大々的に魔法をばらしたら世界も混乱するだろうな」

「自分のクラスの何人かに魔法を知られてしまった貴方が言えることカ?」

 

痛いところを突かれ何も言えないマギ。なし崩しとはいえ、アスナやこのかにのどかにと結構な数の生徒に知れ渡ってしまった。

半ば放任主義のマギは覚悟があるならと魔法を教えていった。

 

「それに魔法使いなら治せない病気も治せるはずダ。このかさんのアーティファクトのように。それなのにその力を使わないなんて卑怯ダ。すべての人が救われる方がいイ」

 

そうだ超の言っていることは正しい。出来ることなら全ての人が平等に救われる世界ならどんなにいいことだろうか。

だが

 

「けど世界は自分が描いている世界がその通りになることなんてほとんどない。100を救う為に10を犠牲にすることもあれば、1000を救うために10000を犠牲にすることもある。急に魔法を大々的にばらせばそれこそ混乱を招いて争いになるかもしれない。正直ここにいる魔法使い達は頑固で好きになれないが、混乱が起こらないために踏ん張ってる」

「貴方は私が同士を救うことが間違ってるというのカ?」

「間違ってるとは言わない。がやり方が急ぎすぎてる気がするんだけどな」

 

それに……と頭をかきながらマギは

 

「やっぱ過去を変えるっていうのは間違ってるじゃあないかって思うんだよな。確かに未来の世界の超の仲間が苦しんでるっていうのは分かる。けどな、やり直しが出来ないから人生なんだ。簡単に変えるのは今までのことを否定してるんじゃあないかって俺は思う」

 

綺麗事だ。マギ自身そう思ってる。けどこれがマギの答え。教師が生徒を否定するのはいけない。だがこの考えは曲げてはいけないと思っている。

超は黙ったままだったが、ふっと微笑みながらマギの方を見る。

 

「貴重な意見をありがとう。だが私と先生では考えがまるっきり違う。これ以上話しても平行線ダ。だから、私を止めて見せロ。マギ先生」

「あぁ、生徒の勝手な行動を止めるのも先生の務めだからな」

 

一旦この話は終わることとした。

 

「そして私のもうひとつの目的、それは……」

 

その後の言葉が出ずに口を紡いでしまう超。しばらく経ち口を開いた瞬間

 

「それは貴様の抹殺だ。マギ・スプリングフィールド」

 

どこからか声が聞こえ、自身へ向けられた突き刺さるような殺気に反応し、明後日の方向へ断罪の剣を振るう。

振るった瞬間に金属同士が弾かれるような音が響き、なにかが突き刺さる。

 

「こいつは……」

 

それは剣を極限まで細くし、矢のようになったもの。これを使うやつをマギは1人知っている。

 

「よく反応したな。この学園祭で府抜けてしまったと思ったが、杞憂だったか」

 

修学旅行で辛酸を舐めることとなり、辛うじて勝った傭兵アーチャーがそこにいた。

 

「てめぇがなんでここに」

「何故ときたか。そこにいる超鈴音に依頼を受け、貴様を殺しに来ただけだ」

 

超の方を見たが、超は目をそらしこちらを見ようとしない。

 

「それでどうする?私としては狩れる獲物が目の前にいるなら、さっさと狩ってしまいたいんだがね」

アーチャーは白と黒の雌雄剣を出現し構える。マギも構えようとするが

 

「ほぅ、私がいるなかでマギを狙うか……生きて帰れると思うなよ貴様」

 

マギの影からエヴァンジェリンが現れ、爪を鋭く尖らせる。そして超を冷たい眼差しで睨む。

 

「超鈴音、貴様が何故この男にマギの殺しを依頼した?返答しだいでは、先に貴様を食い殺す」

「おっと、依頼主が教われたらたまったものではない。では、こちらも人質を使わせてもらおうか」

 

そう言った瞬間、アーチャーが手を掲げると100本をゆうに越える剣が空中に現れた。剣先が向いている方向は、未だに寝ている3ーAの生徒達が寝ている校舎の屋上だ。

 

「今手を引いてくれるなら私は何もしない。君が私の依頼主を食い殺す前にまだ眠っている少女達を永遠の眠りに誘う方が早いと思うのだが……試してみるかい?」

「……エヴァ、何もしないで手を引いてくれ」

 

マギの頼みに小さく舌打ちをしながら矛を納めてくれたエヴァンジェリン。仮面越しに笑みを浮かべるアーチャーに、歯が砕けそうになるほど噛みしめながらも耐えるマギは改めて超の方を見る。

 

「こいつに俺を殺すように依頼するということは、相当の理由なんだろうな。けど俺はまだ死ぬつもりなんてないんだよ」

「すまなイ。私が貴方に詳しく言える資格などなイ。だがこれだけは言えル。貴方が生きていると、私たちの時代の同志が皆不幸になル。貴方を好いている人達には悪いガ、私達の為に私は悪魔に心を売っタ。許してくれとは言わなイ。それが私の覚悟だからダ」

「悪魔と呼ばないでほしいな、私としては正義の味方を貫いているつもりなんだがね」

 

肩を竦めながらアーチャーは言う。そして超がこれからの目的を話す。

 

「私は最終日に奇襲を仕掛け、世界樹を利用し強制認識魔法を発動するつもりダ」

「ちなみにこの事をここの学園長に話したら、この件に関係ない者が血の海に溺死することになる。これが脅しでないということは理解してほしいところだな。そしてマギ・スプリングフィールド。私は世界樹の前の広場で待つ。そこで決着をつけようじゃないか。もちろん、逃げるなんて選択肢はないと思いたまえ」

「……わかったよOKだ。折角のデートのお誘い、受けないのは男じゃあないよなぁ」

 

軽口を叩くマギではあるが、内心腸が煮えくり返りそうだった。魔法とは関係ない生徒達を人質という扱いを受けて冷静でいられるほど人間ができているわけではない。

かくして人知れず、戦いの火蓋が切って落とされそうになっていた。

 

 

 

 

 

 



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大好きな貴方に想いを伝えたい

アーチャーと決戦の時間を決めたその日の早朝。マギとエヴァンジェリンはネギやアスナ達。まだ入ったことのない千雨と亜子にハルナを別荘へと入れさせた。

これはアーチャーの命令で、君の死に様を家族に見せる訳にはいかないだろう?ともう自分が勝つかのような言い回しで宣った。宙に浮かぶ剣達をちらつかせながら。

こいつに土の味を覚えさせてやると決意を固めながら、ネギ達を連れていくことにした。

がアスナを筆頭に納得いかない者達が抗議しようとするが、エヴァンジェリンによる無言の圧力で黙らせた。

のどかや夕映がマギへ心配の眼差しを向けてきたが、マギは心配をかけまいと笑みを浮かべ、大丈夫だと答えた。

しかしのどかはマギがこれからなにかをするということは感じ取っているだろう。マギはいまだに寝息をたてているプールスを預け、今度こそエヴァンジェリンがネギ達を別荘へと送った。

2人になり、少しの間沈黙が続く。

 

「んじゃ行くか」

 

軽く伸びをしたマギが今日の最初の予定、その待合わせの場所へ向かう。

 

「大丈夫か?そんな状態で」

「……正直大丈夫じゃあない。が、いまさらばたついてもしょうがないし、いつも通りにやるしかないだろ?」

 

心配そうな眼差しを向けるエヴァンジェリンに対して、いつも通りな態度を示し肩を竦めるマギは目的の場所へ向かう。

向かう場所には風香と史伽の双子が待っていた。マギの姿を発見した風香と史伽は大きく手を振り、マギも軽く手を振るう。

 

「悪い待ったか?」

「うぅん史伽と一緒にさっき来たばっかだよ」

「うん。結構急いできたから」

 

そう言った風香と史伽は互いに顔を見つめあうとふふっと笑う。首をかしげながら何がおかしいんだ?とマギが訪ねると

 

「こういうやり取りってまるで恋人同士でやるみたいで」

「一度やってみたかったんだよね」

 

やっぱこの歳じゃみんな恋する乙女なんだなと風香と史伽を見てそう思うマギ。そのマギの両腕を互いに引っ張り学園祭を見て回る。

 

 

 

 

まだ朝食を食べてないので、3人はとあるカフェに立ち寄っていた。席に着くと風香が朝食を3人前を頼んだ。何を頼んだんだ?とマギが訪ねると、来てからのお楽しみですと史伽が答えてくれた。しばらく待つと3人前のパンケーキがやって来た。

 

「これは?」

「占いパンケーキだよ!」

「占いパンケーキ?」

「パンケーキを食べ終えると、お皿に今日の運勢が書かれてるんです。結構当たるって噂で、今日のデート上手く行くかなって願掛けもかねて食べにくる女の子が多いんです!」

 

なるほどねぇと風香と史伽の説明で納得するマギ。だからこんなに女子が多いんだなぁと周りを見渡しながら思う。どこもかしこも女子女子女子、男はマギを含めて数人ほど。女子が発している圧で辟易してる男もいる。

しかし……とパンケーキを見ながらマギが

 

「デカイし多すぎなんじゃあねぇか?」

 

と呟く。そう思うのも無理はなく、パンケーキは皿を覆い隠すほど大きく、そして5枚ほど重なっておりまるでタワーのようだ。

しかし周りの女子達は今日の運勢のために、まるで覚悟を決めた戦士かの如くパンケーキと格闘を繰り広げていた。

現に風香と史伽もその小さい体の何処に入っているのかとツッコミたくなる位にパンケーキを次から次に頬張っていく。

マギも腹が減っていたので、ナイフとフォークを持ちパンケーキに食らいついた。

―――――パンケーキを食べ始め、これは食事じゃないひとつの格闘だと胃袋と舌が限界を迎えそうになったマギが最後の一切れを口に運んだ。

味に飽きが来ないようにジャムやシロップと使い、初めて食べ物に戦慄を覚えたマギ。

が最後まで食べ終えたことで、皿に書かれた占いを見ることが出来る。

 

「やったー!僕のお皿『気になるあの人に贈り物が送れる』って書いてあるー!」

「私のお皿は『今日は素敵な一日を送れるでしょう』って書いてあったよお姉ちゃん!」

 

2人の占いはとても良いことが書かれていたようだ。さて自分はとマギは自分の皿を見て顔を思わずしかめてしまう。

 

「マギ兄ちゃんはどんなこと書かれて……た?」

「なんか怖いよぉ」

 

2人が黙ってしまうほど、それはおどろおどろしいフォントの文字で『汝に一度絶望がその身を包むだろう。だが救いの使いは空から現れる。希望をしかと持て』とのことだった。

マギはこの占いはこの後のアーチャーとの決闘の時になにかが起こることだとわかった。もうちょっと気をきかせてくれよと内心で悪態をつきながらも、マギの占いを見て不安がってる2人の頭を両手で優しく撫でてあげた。

 

「あんま気にすんなよ。こんなの所詮占いだろ?それに俺には幸運の女神がついてるから、こんな占い関係ないさ」

 

マギが心配させまいとした台詞だが、それを聞いた2人はクスリと笑い

 

「なんかキザ過ぎて」

「マギ兄ちゃんらしくないかんじ」

「だな。なんか自分で言ってて痒くなってきたぜ」

 

そう言って飲み慣れていないブラックを飲み干す。

 

「苦げぇ……」

 

マギの渋った顔を見て、大笑いをする風香と史伽であった。

 

 

 

 

 

 

朝食のパンケーキの占いを気にしないために、マギと風香と史伽は色々な場所で動物と触れあったりアトラクションに乗ったりゲームをしたりと色々と遊んだ。

今もアトラクションに乗った後で興奮止まない風香が前を見ずにはしゃいでいた。

 

「お姉ちゃん!前を見てないと危ないよー!」

「平気平気ー!大丈夫だって!」

 

そう言いつつも全然前を見ようとしない風香。ハラハラしながら見ている史伽。これじゃあ姉妹逆だなと思いながら危なくなったら止めようとマギはそう思った。

 

「あっいた!」

 

がマギが止める前に柄の悪い男にぶつかる風香。

 

「チッ!気をつけろガキが!」

 

怒鳴りながら風香を突き飛ばす男。勢い余って尻餅をついてしまう風香。

 

「お姉ちゃん!!」

「いたた、ぶつかった僕が悪いけど突き飛ばすことないじゃないか!」

 

史伽が駆けつけ風香を助け起こす。ぶつかった自分が悪いが男に文句を風香が言うが

 

「うるせぇ!ガキが楯突くじゃねえ!ぶっ殺されてぇかあぁ!!?」

 

男の怒鳴り声に完全に萎縮してしまった。

 

「おい子供相手に大人げないぞ。ごめんなお嬢ちゃん。こいつ、今さっき女に振られて機嫌が悪いんだよ」

 

男の友人の1人が男を落ち着かせようとするが、男の興奮は収まりそうもなく、さらに風香と史伽に怒鳴り散らそうとするが、そこでマギが2人の前に立つ。

 

「そこまでにしてくれねぇか?ぶつかった風香が悪いが、突き飛ばしたり怒鳴り散らすのはどうかと思うぞ」

「マギ兄ちゃん」

「マギお兄ちゃん」

 

マギが助けに入ったのが気に入らないのか、マギを睨み付ける男。

 

「てめぇ、こいつらの男か?だったら詫びとして一発殴らせろ。それでチャラにしてやるよ」

「おい!なに言ってるんだよ!?それは流石に警察沙汰になるだろうが!」

「うるせぇ!ぶっ殺さないだけありがてぇ話しじゃねぇか!!」

 

男のもう1人の友人が止めようとするが、男は頭に血が上っているため意味不明な事を叫び止まる気配がない。

 

「落ち着けよ。苛ついているのは分かるが暴力に走るのは―――」

「うるせぇ!とっとと死ねやぁ!」

 

マギも男を落ち着かせようとするが、問答無用でマギに殴りかかる。

風香と史伽の悲鳴が聞こえるが、マギの頭の中ではこの男の身勝手な要求とアーチャーの要求が重なってしまった。

キレたいのはこっちだよ……!マギが軽くキレそうになった瞬間、また右腕が軋みだし、勝手に動き男の腕を掴んだ。

瞬間、ぱきょっとなにかが折れる音が聞こえた。見れば男の手がマギの右手によって複雑に折られていた。

 

「は?へ?……っお俺の手があぁぁ!?」

 

数秒は何が起こったのか分かっていなかったが、数秒経ち自分の手が握り潰された事を知り、さっきまでの威勢は消え去り泣き喚き散らしていた。目の前の出来事に、風香と史伽はさっきまでとは別の恐怖で固まっていた。

マギはいまだに喚いている男の胸ぐらを右手でつかみ、自分へ近づかせ

 

「失セロ……!!」

 

マギとは別のナニかが男を脅し黙らせ、そのまま突き飛ばした。突き飛ばされた男は叫びながら尻尾を巻いて退散していった。男の友人達はマギを恐ろしい化け物でも見るかのように見ながら男を追いかけていった。

周りにも野次馬が出来ており、マギの凶行に戦々恐々しており何も言えなかった。

マギは血走った目で野次馬を見渡す。マギに見られた野次馬の何人かが悲鳴をあげる。

 

「マギお兄ちゃん!」

「マギ兄ちゃん落ち着いて!!」

 

恐怖から解かれた風香と史伽がマギを強く揺さぶる。2人に揺さぶられ、ハッとするマギ。

 

「……俺、なにやったんだ」

 

マギは今さっきの出来事の記憶がないようだ。風香と史伽はマギの腕を引っ張りこの場から急いで立ち去った。

 

 

 

 

 

 

「―――そうか……俺がそんなことを」

 

かなり離れた場所にて、風香がさっきの出来事を教えてくれた。ついさっきエヴァンジェリンが血と一緒に悪い魔力を吸出したのにもう勝手に動きだした。これは対処を急がないとなと色々と考える。

とりあえず今はおっかなびっくりさせた詫びとして風香にはリンゴ、史伽にはオレンジのジュースをおごった。

 

「びっくりしたよ。急にマギ兄ちゃん人が変わったみたいな感じになっちゃうんだから」

「もしかして疲れてるのに私達のせい無理させちゃったですか?」

 

2人が心配そうに見つめてくるので、大丈夫。びっくりさせて悪かったがもう心配ないと、風香と史伽の頭を交互に撫でた。

両手を使いたいが、また腕が暴走してはいけないから今回は片手だけだ。

 

「マギ兄ちゃん何か悩みでもあるの?」

「あるんだったらお姉ちゃんと私に話してみてください」

「大丈夫さ。悩みなんてないし、それに男はそう簡単に女に弱味を見せないものさ」

 

とマギが似合わないキザな仕草を見せると、2人は吹き出した。2人が笑顔を見せて、ひとまず安心する。

 

「それよりも2人には今悩んでる事とかないか?今だけの特別相談室として何でも聞いてやるぞ」

 

無理矢理な形で話題を変える。悩みがあるか聞いてみると、さっきまでの元気は何処へ行ってしまったのか急にしおらしい表情を浮かべる風香と史伽。

 

「僕と史伽なんだけど共通の悩みがあるんだけど」

「私とお姉ちゃんには気になる相手がいるんです。けど……」

「僕と史伽はこんなにちっちゃいでしょ?下手すると小学低学年に見間違われることも何回かあるし」

「私とお姉ちゃんが大人っぽい仕草をしても周りから背伸びしてると思われて可愛がれる始末ですし……」

「ねえマギ兄ちゃん」

「子供っぽい私とお姉ちゃんが恋をしたり」

「大人っぽい仕草をしたら」

「「駄目なこと?」」

 

幼い容姿をした双子の悩みを最後まで聞き終えたマギ。

暫くの間黙っていた。そしてフッと小さく微笑むマギ。まさか馬鹿馬鹿しい悩みだとバカにされるのではと内心不安が溢れそうになる2人だが

 

「駄目なことじゃねぇさ」

 

答えは否だった。

 

「気になる相手のために自分を磨くなんてとてもいいことじゃねぇか。言い方はひどいが自分達の背の低さ子供っぽいといった事を理解しながらもそれでも不貞腐れず、諦めないで自分を成長させようとするなんて凄いことだと思う」

 

それに……と頬を軽く掻きがながら

 

「時折お前ら凄く大人っぽい仕草が似合う時があるから、ガールじゃなくて立派なレディだと俺は思うぞ」

 

いい終えた後に小恥ずかしい気持ちになり少々頬を赤くしながら頭を掻くマギ。

 

「なんかマギお兄ちゃんからキザっぽいことあまり聞いたことないからちょっと面白いです」

「ありがとマギ兄ちゃん。僕たちの悩みをしっかり聞いてくれて」

 

元の元気な姿になってくれてほっとするマギ。やはり彼女らは元気な姿が似合っているものだ。

 

「僕たちの悩みを聞いてくれたマギ兄ちゃんにプレゼントがあるんだけど、受け取ってくれる?」

「プレゼント?まぁいいけど」

「じゃあ、目をつむってください」

 

史伽に言われた通りに目をつむるマギ。が一向に2人がマギにプレゼントを渡す気配はない。

 

「なぁそのプレゼントって一体な―――」

 

言葉は最後まで言えなかった。何故ならマギの唇に柔らかい感触が2回襲ってきたからだ。

いきなりの感触にしばし反応が遅れ、目を開けると風香と史伽は結構離れた場所でマギに手を振っていた。

 

「今日は楽しかったですー!」

「僕と史伽の占い、ちゃんと当たったよー!ありがとねマギ兄ちゃん!」

 

大声で言い終えるとそのまま元気に走り去っていった。

彼女らのプレゼント、それはリンゴとオレンジの甘酸っぱいものだった。

 

「やれやれ、大胆なプレゼントだったな……ッ」

 

2人のプレゼントに天晴れさを覚えていた瞬間、またもや腕に激痛が走り、軋みながら勝手に動こうとしていた。

 

「あんまり、うかうかしていられないな……」

 

暴れる腕を押さえつけ、少しずつ痛みが引いていくのを感じながら、次の目的の場所へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 



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君に秘密を教えよう

腕をグーパーと開いて閉じてと繰り返し、痛みがないことを確認しながら待ち合わせの相手を待つマギ。

先程の無意識な暴走や風香と史伽が去った後にまた勝手に動きだそうし、エヴァンジェリンに魔力を吸ってもらった時よりも腕が暴走する感覚が狭まっているように感じた。

心配になり、一目のつかない所で上着を脱いでみると、黒いもやが今度は肩の付け根まで侵食していたのだ。

 

(このまま腕が暴走して最悪このもやが体全体を侵食する前に、いっそこの腕を切断した方が……)

 

と物騒な事を考えているなかで、待ち合わせの相手がやって来た。

 

「お待たせしましたマギ先生」

 

おしゃれなワンピースに着替えた千鶴がにこやかに歩み寄ってきた。

こちらに来る千鶴に軽く手をあげる。

 

「いや全然待ってないさ。それにしても、大人っぽい千鶴が着るととても似合ってるな」

「ありがとうございますマギ先生」

 

ワンピース姿の千鶴を誉め、マギの誉め言葉に笑みを浮かべていた千鶴だが、少しずつその笑顔が曇ってきた。

 

「どうした千鶴?」

「いえ、なんだかマギ先生の顔お疲れのようですし……もしかして無理してませんか?」

 

千鶴はボランティアで子供達の相手をしている。感情の変化を読み取るのもなれているのであろう。急いで大丈夫そうに取り繕いながら笑顔を振る舞うマギ。

 

「大丈夫だ千鶴。これぐらいなんともないさ」

「でも、本当に無理をしてるなら……」

「本当に大丈夫さ。それに、今は無理にでも思い切り楽しみたい気分なんだよ」

 

心配そうにしてる千鶴を無理にでも言い聞かせ、マギが大丈夫だと言っているならと、強引に納得させた。

 

「分かりました。けど本当に大丈夫じゃなかったら言ってくださいね」

「心配してくれてありがとな。それじゃ時間も惜しいし急ごうぜ」

 

そう言って千鶴の手を引き目的の場所へ向かう。急にマギに手を引かれ驚く千鶴。

まだマギの体調を心配している千鶴だったが、その内心は嬉しかった。

 

 

 

 

 

目的の場所は中々の大きさの劇場であった。今回マギは千鶴と一緒に劇の公演を見ることが目的だ。

 

「しっかし随分と人が来てるな」

 

周りを見渡して呟くマギ。劇の席はほぼ満席で空席はちらほらといった所だった。

 

「この劇はとても人気で役者の学生もプロ顔負けと言われるほどで、物語もとても分かりやすく面白くて、連日満席という評判らしいですよ」

「そっか、俺は今まで劇とか見ることなかったんだが、正直とても楽しみだ」

 

と話している間に、ジーーーと言う音と劇場が暗くなり、今まさに劇が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

「―――いや、凄い劇だったな」

「そうですね」

 

劇が終わり、劇場を後にするマギと千鶴。その顔にはまだ劇の余韻が残っていた。

劇の内容は、物語は2つの国が戦争中という所から始まる。

主人公は凄腕の暗殺者であり、自分の国の王から隣国の王の心を壊すために、娘である姫を暗殺するように命じられる。

さっそく主人公は暗殺目標の姫の家庭教師に扮し、姫へと近付く。が、その姫の美しさに心を奪われてしまう。そしてその姫も主人公に一目で恋に落ちてしまったのだ。

が、主人公は目の前の姫を暗殺するために来た。自国の勝利のために暗殺の機会は何度かあった。しかし自分に向けて眩しい笑顔を見せてくれる姫を見ていると、心を揺り動かされる。

いくら待っても姫の暗殺の報告が来ないことに王は何人かの刺客を送った。

ある時は狙撃手が狙うが、主人公の第六感で姫を護る。またある時は大胆にも城に侵入し、直接姫の命を狙おうする。

本格的なアクションシーン。劇だと分かっていながらも劇場のあちこちで悲鳴があがり、マギの隣に座っていた千鶴も息を呑んでいた。

激しい戦闘が続くが、主人公の方が上手で、姫を殺そうとした暗殺者を返り討ちにしてしまった。

その後も何回か姫を暗殺から護っていると、姫が暗殺対象から命をかけて護りたいと思える存在となり、姫の方も主人公にならこの身を委ねてもいいと思えるようになった。しかしの2人の関係は長くは続かなかった。

しびれを切らした主人公の国の王が力ずくで隣国へ攻めてきたのだ。姫の国も抵抗するが、少しずつ押されだし終には姫の国の軍隊は全滅。主人公の国の軍隊が今まさに城に攻め込もうとしていた。

姫の父であり国王は姫に国から逃げるように命じ、姫は主人公も一緒に逃げるように言った。

しかし主人公は一緒に逃げようとせず、自分は貴女を暗殺するように命じられた暗殺者だと告白した。

姫は驚きを隠せなかったが、主人公は姫に少ない日々であったが、貴女を護りたい気持ちやこの愛は本物だと。だからこそ貴女には生きて欲しいとそう自分の正直な気持ちを語った。

主人公の告白への応えは平手や罵倒ではなく、姫の優しい口づけであった。姫も薄々ではあるが、主人公の正体に感づいていた。だが、それでも我儘な気持ちではあるが自国ではなく、自分を選んでくれたことが嬉しかった。

軍隊の怒声がすぐ側まで近づいていた。主人公が姫に逃げろとここは自分が食い止めると叫び、姫も必ず生きてまた私の所へ戻ってきてと誓って欲しいと叫びながらお付きの者に連れられて行った。

主人公は姫が行った事を見届けると、剣を構え迫り来る軍隊に一人で立ち向かう……という所で劇は閉幕となった。

なんとも後味の残る終わり方であるが、その後の展開は劇を観た視聴者によって変わるだろう。孤軍奮闘するが最後主人公は力尽き、悲劇で終わるか。それとも主人公と姫は結ばれハッピーエンドで終わるか。

 

「あの後主人公とお姫様はどうなったんでしょうね」

「さぁな。けどまぁ、最後は主人公とヒロインは末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたしで終わるんじゃあないか?まぁ俺はそう信じるぜ」

 

劇の感想を話すマギと千鶴。見れば空は少しずつ日が傾き綺麗な夕焼けを描いていた。

 

「とっても面白かったです。秘密を抱えながらも少しずつ惹かれ合うあんな関係に少し憧れを持っちゃいます」

 

千鶴は先程の主人公と姫の関係に惹かれていた。

 

「女子ってそう言った恋愛にも興味を持つものなのか?」

 

マギが興味本位で聞いてみる。そうですね……と暫く考えてから千鶴は答える。

 

「我儘を言ってしまうなら、秘密は隠さず言って欲しいと思ってます。けど誰にでも簡単には言えない秘密があるものだと思ってます。そう……今のマギ先生のように」

 

そう言った瞬間、マギの表情が固まる。

 

「秘密?このマギさんに?生憎いつもオープンな感じにしてるんだけどな」

 

無理して飄々とした態度を演じるが、誤魔化さないでくださいとピシャリと言う千鶴を見て、あっもう無理だ誤魔化せねぇなと観念する。

 

「私も武道大会を見ていましたが、余りにも非現実な現象が起こったり、マギ先生とネギ先生のお父さんを名乗った人が現れた瞬間にマギ先生が異形の姿に変身したり、そんな光景を目の当たりにして、どこか普通じゃないとそう確信しました」

「……ちなみに武道大会を見てそう確信したのか?」

「雨の日に寮に不法侵入した初老の男性が小太郎くんを襲った時からどこか普通じゃないと思いました」

 

どうやら結構前からここの世界観が違うと感じ取ったのだろう。少しでも魔法に関わると認識阻害が薄れるのだろうか。

これ以上は無理だと判断し、深いため息を吐くマギ。

 

「まいったな。これ以上は誤魔化すのは無理そうだ。千鶴」

「はい」

「何をかくそう、俺は魔法使いだ」

「魔法、使い」

「あぁそして弟のネギも魔法使いだ」

 

それからマギはネギの修行の付き添いとして日本の麻帆良に来たこと。図書館島での探検、エヴァンジェリンとの対決、修学旅行での死闘。悪魔の襲来、そして今の学園祭までの話を包み隠さず話した。

千鶴はずっと黙って聞いて、何も言わず表情を変えることもなかった。

 

「―――以上がこれまでの出来事だ。信じてくれたか?」

「普通だったらそれこそ法螺話だと思います。けど、マギ先生がそんな嘘を吐く人じゃないって信じてますから」

「……ありがとな」

 

話終わった頃にはもう日が傾き始めて夕焼けから夜闇へと変わり始めていた。

千鶴のまっすぐな視線に微笑みを浮かべながら礼をのべるマギ。

 

「それで武道大会で会ったマギ先生とネギ先生のお父さんは偽物だったんですね」

「あぁクソ親父の仲間の魔法の生きた遺書だとか言ってたな。まぁでも本物のクソ親父を殴る予行練習になったけどな。それでも……代償は大きかったようだが」

 

そう言って、マギは徐に上着を脱ぎ始める。

 

「まっマギ先生!?急に何を!?」

「急に悪いなけど、大事な話がまだあるんだ」

 

そして脱ぎ終わり、マギの上半身の右腕から肩までが黒いもやに侵食されており、少しずつもやが蠢いているのを見て息を飲む千鶴。

 

「マギ先生、その姿は……?」

「エヴァ曰く闇の魔法を無理矢理使ったせいの暴走だそうだ。正直言うとそろそろ平静を装うのもキツくなって来たんだけどな」

 

現にマギの顔から油汗が滲み出始め、また骨が軋む音が聞こえ、また勝手に動こうとする腕を強く押さえる。

 

「マギ先生!」

「大丈夫だ。もう収まる」

 

悲鳴をあげる千鶴に大丈夫だと言い聞かせる。腕が大人しくなった所で上着を着直すマギ。

 

「どうにもならないんですか?お医者様に見せるのは」

「無理だ。病気でもない魔力の暴走だからな。それよりも聞いてくれ千鶴」

 

そう言って話を続ける。

 

「この最終日に超が魔法使いの傭兵を雇って何か仕出かすようだ。俺とエヴァがそれを食い止めるつもりだが、俺のこの体の有り様だ。下手したらこにまま暴走して何が起こるか分かったもんじゃあない。だからお前がクラスの皆を連れて、寮に若しくはあやかの家に避難しろ」

「そんな……学校の先生には相談出来ないんですか?」

「残念だが、時間がない。それにあのクソ傭兵が口滑らしたらクラスの奴ら殺すなんて脅してきたからな。むやみやたらに話せな―――」

 

最後まで言いきる事が出来なかった。何故なら爆発と爆音が響いたからだ。

マギや千鶴の周りにいた人達は最初は路上で行われるショーの類いかと思っていたが、空からや出店を吹き飛ばし現れた無数のロボット『田中』がガトリングガンを構え乱射したり、口からレーザーを放ち、何も知らない人達を全員裸に剥き、武装解除した。

裸に剥かれた人やその光景を目の当たりにした人達が悲鳴をあげるが、恐怖はまだまだ続く。

今度は巨大な金棒を担いだ鬼が率いる妖怪軍団が建物や出店を破壊し始めたからだ。

目の前で行われる阿鼻叫喚な光景にパニックになった人々は悲鳴をあげながら一目散に逃げ出す。

 

「変態ロボットにあの鬼共、もしかしてあの京都で襲ってきた女も今回の件に噛んでたのか?それにしても急すぎるだろ……!」

 

奇襲を仕掛けてきた相手に悪態をつくマギ。

 

「きゃあ!!」

「!!」

 

それがいけなかった。一体の田中が千鶴に向かって武装解除のビームを放つ。マギが千鶴と田中の間に割って入り、障壁でビームを防ぐ。だが少し遅れたせいか上半身の服だけ吹き飛んでしまった。構わず田中の顔面を殴り、そのまま田中の頭を吹っ飛ばし機能を停止させてしまう。

 

「千鶴。もう時間もなさそうだ。あやふやな感じでデートを終わらせる形になってわりぃ。けど、頼む」

「分かりました。けど最後のお願いだけ聞いてもらってもいいですか?屈んでください」

「……あぁ分かった」

 

マギは言うとおり屈むと、屈んだマギの唇に軽くキスをする千鶴。

 

「……約束してください。必ず無事に戻ってきてください」

 

マギの答えも聞かず、千鶴はクラスメイトがいる場所へ駆けていった。

思わず自分の唇を触れるマギ。まだ千鶴の唇の感触が残っているように感じた。

 

「まったく、色んな女からキスされるとは。とんだプレイボーイだなお前は」

 

いきなり自身の影からエヴァンジェリンが現れ多少ながら驚くマギ。エヴァンジェリンは少々機嫌が悪そうだ。

 

「分かってるさ正直自分も節操がないって思ってる所」

「ふん……それでこの後の予定はどうするんだ?」

「決まってる。こんな事を仕出かしたアイツをぶちのめして、そんなアイツの依頼主の超にキツくお灸をすえるつもりだ」

 

指の間接を鳴らし、件の相手の元へ向かうマギ。そしてそのマギに付き添うエヴァンジェリンである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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誕生 破壊

注ここから数話、原作ブレイクが始まります


道中、田中や妖怪を蹴散らすマギとエヴァンジェリン。見れば魔法先生や魔法生徒の何人かも対処している。武道大会に参加していた豪徳寺率いる武道家達も何とか戦っている様子だ。

マギとエヴァンジェリンはそんな者達へ助太刀はせず、張本人の元へ急いでいた。

そして――――

 

「来たか。待ちくたびれたよ」

 

世界樹前の広場にて、アーチャーが大胆不敵に佇んでいた。

 

「悪かったな。アンタら学園に放ったお邪魔共に時間を食ってたんだよ」

 

悟らせないように飄々と返すマギであったが、そろそろ限界であった。先程から骨の軋む音が鳴りっぱなしであるからだ。

 

「ここまで派手なことしやがって。この落とし前はつけさせてもらうからな」

「それは出来ない相談だ。なぜなら貴様は私の手によって葬られるのだからな」

「お前ってそればっかりしか言えねぇのか」

「貴様限定への台詞だありがたく受けとれ」

「生憎NOThank Youだ」

 

マギは拳を構え、アーチャーは黒と白の双剣――雄剣の『干将』、雌剣の『莫耶』を具現化させ構える。

 

「おい。私の存在を忘れていないか?そう簡単に自身の勝利宣言を宣うものじゃあないぞ」

 

エヴァンジェリンが爪を伸ばしアーチャーを睨み付けるが、仮面越しでも分かるぐらいアーチャーは涼しげな表情を浮かべている。

 

「申し訳ないが、君の相手は他にいる。頼むマスター」

 

それが合図だったのか、世界樹の後ろから屈強な鬼達がぞろぞろと現れた。

 

「という訳で、京都以来ですなー吸血鬼。あのときのかり、今ここで返させていただくつもりなので覚悟していただくえ」

 

鬼のど真ん中で大物感を出しながら千草が不敵に笑う。

 

「あのときのへっぽこ陰陽女か。チャチャゼロが仕留めそこなったからな。今ここで貴様の命刈り取ってやろう」

「ふっふっふ……あんときの私と思うんやないえ!!やってもうたれ!!」

 

千草の命令で鬼達が金棒や大刀等各々武器を掲げ吠えながらエヴァンジェリンに向かっていく。

 

「エヴァ。まだ周りには戦えない人達が多くいる。難しいと思うが気をつけて戦ってくれ」

「難しい注文だな。まぁやるだけやってやろう。それと私からもだ……無理をするな。そして勝て」

「……あぁ」

 

エヴァンジェリンは鬼達へ向かっていく。そして改めて対峙するマギとアーチャー。互いに構え、暫し時が過ぎる。

そしてどこかで大きな爆発が起きる。

 

「「!!」」

 

それが合図となり、同時に間合いに突っ込むのであった。

 

 

 

 

 

学園祭最終日に起こした超のクーデター。湖から次々と田中と蜘蛛型のロボットに超巨大なロボットが現れ、次々と人々を丸裸にし、修行やら世界樹の魔力を利用し、次々と鬼が率いる妖怪を召還し、学園都市を破壊する千草。

学園祭は混乱に渦巻いているが、マギとアーチャーは激闘を繰り広げていた。

 

「ドラァッ!!」

「フッ!」

 

咸卦法で強化+断罪の剣を振るい、アーチャーの干将とぶつかり合い火花が散る。

 

「オラァッ!」

「ハァッ!!」

 

今度は莫耶とぶつかり、限界が来たのか莫耶に罅が入り砕け散り、そのまま消える。

 

「ッもらったぁ!」

 

片方の剣を失ったことにより、隙が出来る。その隙を逃さず、右腕を突き出す。先程から暴れそうなのを食い止めていたが、暴れたいなら目の前の相手に使ってやる。

だがアーチャーが何かを呟くとまた莫耶が現れ、右腕を防ぐ。

 

「クソ、折ってもすぐ新しいのを出しやがって。厄介だなおい……!」

 

マギの悪態に涼しげな顔で笑いながら、後方に下がり大きく飛び上がると、今度は黒弓を具現化させる。そして矢を数本具現化させると、マギに向かってマルチショットで放つ。魔力で強化された矢はまさに弾丸と同等かそれ以上の速さでマギへ向かっていく。

 

「ハッしゃらくせぇ!」

 

自分の元に最初から向かってくるのだ。断罪の剣で全て叩き落とした。

 

「ほう、ならこれでどうだ?」

 

と今度は空中に剣を無数に出現させ、マギに向かって射出させる。

 

「無駄だ!闇の業火!」

 

射出された剣を無詠唱の闇の業火で消し飛ばす。消し飛ばしたことに手応えを感じるがそれは直ぐに霧散する。

何故なら今度は巨人が使うような巨大過ぎる剣を射出してきた。

 

「うっそだろおい……!」

 

こればかりは無理だと判断し横に飛び緊急回避する。巨大な剣が地面に衝突した瞬間、衝撃波で吹き飛ばされるマギ。先程までマギがいた場所には大きなクレーターが出来ていた。紙一重で避けていなかったら今頃巨大剣の下敷きとなりミンチと成り果てていただろう。

 

「剣を壊したと思ったら新しいのを出してきたり剣を無数に発射してきたり終いには巨大な剣とか、テメェはビックリマジックショーの手品師かこの野郎」

「諦めて頚を差し出す気にはなったか?」

「言ってろ。これからマギさんの逆転劇が始まるから見てやがれ」

 

仕切り直しとマギが構え直した瞬間、マギの後方から魔法の矢がアーチャーへと向かっていく。

アーチャーは後ろに跳び、魔法の矢を難なく避ける。

 

「今のは……」

「マギ先生!ご無事ですか!?」

 

現れたのは高音と愛依と名前の分からない魔法先生や魔法生徒が何人か。どうやら今の魔法の矢は高音達の仕業だったようだ。

 

「マギ先生、私達が来たからにはもう大丈夫です。そこの貴方!貴方が超鈴音と繋がってこの騒動を起こした事は調べがついています!この高音・D・グッドマンの正義の名の元に神妙にお縄につきなさい!」

 

高音は影人形を出しながらポーズを決め口上をアーチャーに向かって高々と言った。

しかし、実力がある高音や高音が連れてきた先生や生徒では敵わないと直感で察するマギ。

 

「よせ!高音、お前じゃアイツには勝てねぇ!なにもするな!」

 

マギが止めようとするが

 

「見くびるな!相手は1人!数は此方が上だ」

「私達の正義があんな小悪党に負ける筈がない!」

 

マギの忠告に聞き耳を立てることをしない。自分達の正義に盲信しているのか、それとも現状によって多少ながらもパニック状態になっているのだろうか。

 

「……やれやれ、マギ・スプリングフィールド以外に邪魔なおまけがやって来たか。少々鬱陶しいため、≪この体の本来の持ち主の力≫を使って蹴散らしてあげよう」

 

そう言うとアーチャーは何か詠唱を呟き始める。すると蒼電が迸り、アーチャーとマギ達を取り囲む空間が段々と歪み始める。

何が起こるか分からず警戒する魔法先生や生徒達。そしてその時が来た。

 

「―――――――!!」

 

アーチャーの詠唱が終った瞬間眩い光がマギ達を包み込む。

光に目を焼かれないように反射的に目蓋を閉じたマギ達。

暫くして、目を開けると、目の前の光景に絶句する。

 

「なんだよ、ここは……!」

 

マギ達が立っている地は世界樹前の広場ではなく、燃え盛る炎と、正に無数と言っていいほどの大量の剣が荒野に突き刺さっている。そして空には巨大な歯車が浮かんでいた。

 

「どうだ?≪本来の持ち主の力≫は?心象風景により空間をねじ曲げ結界を作り上げた。地面に刺さっている剣はかの聖剣、魔剣、邪剣、宝剣を魔力で複製したものだ。複製、つまりは偽物ではあるが、さてどう防ぐか見物だな」

 

そう言い、手を掲げる。すると突き刺さっていた剣が地面から抜け宙に浮き、切っ先をマギ達へ向けている。

 

「――――全員、死ぬ気で防げぇ!!」

 

マギが叫んだのと同時に無数の剣が向かってくる。剣を障壁で防ぐが、数の暴力に加え剣が障壁にぶつかった瞬間、次々と爆発していく。

そして悲鳴をあげ1人また1人と剣の餌食となっていく。

剣の猛攻が終った頃には立っているのはマギと辛うじて立っている高音と愛依。その他は爆発による火傷か剣による裂傷により血を流して動けないでいた。

 

「ほぉマギ・スプリングフィールド以外に立っている者がいるとは正直驚いた」

「っ馬鹿にしないでください!私の正義の心がそう簡単に折れるとは思わないことです!」

 

しかしこれは高音の虚勢である。今にも崩れそうな膝を啖呵を切って何とか踏ん張っているだけであった。

 

「素晴らしい姿勢だ。だがこの舞台では君はお呼びではない。お引き取り願おうか」

 

そう言い再度干将と莫耶を具現化させると、魔力で高音の背後に一瞬で回り込んだ。

 

「お姉さま!」

 

愛依の悲鳴で自分が背後を取られた事に気付き後ろを振り返る。眼前に迫ってくる干将と莫耶。

あっ自分死んだなと何故か呑気にそう思ってしまった高音。スローモーションで迫ってくる双剣に切り裂かれる。そう思った次の瞬間、マギに思い切り突き飛ばされた。

 

「まっマギ先せっ―――!?」

 

突き飛ばされた高音はマギの方を見て目を見張った。

自分を突き飛ばしたマギの右腕が、アーチャーの剣によって肩の付け根から鈍い音と同時に切断されてしまった。

 

「ぐっがぁぁぁぁ!?」

 

傷口から焼けるような痛みが走り、思わず膝から崩れ落ちる。

止めどなく流れる血を止血するために強く押さえつける。

 

「いっいやぁ!!……あ」

「お姉さま!?」

 

目の前で自分を助けたことによって腕を切断されてしまったマギを見て、ショックを受け気を失う高音に駆けつける愛依。

 

「女を護るために自身を犠牲にするか。見上げたものだ。そのまま出血多量のショック死になるだろうが、せめての情けでその首をはねてやろう」

 

アーチャーはマギの首筋に干将を当てる。意識が朦朧としてきた。

エヴァンジェリンは自身の血をマギへ輸血したことによって不死の吸血鬼になったと言っていたが、生命の要の血が失っていくのを見てそうは思えなかった。

このまま死んでしまうのではないか、死にたくないと思った同時にアーチャーに対する憎悪が一気に膨れ上がった。

そして振り上げた干将を首目掛け振り下ろされた瞬間それは起こった。

切断された右腕が蜥蜴の尻尾のようにひとりでに暴れ、それが止んだと思いきや、今度は断面からどす黒い泥のような闇が溢れだし、ひとりでに動きマギを包み込んだ。

アーチャーも闇に襲われないように後方へ跳んで様子見をする。

愛依は目の前でマギが闇に包まれるのを見て、脳が追い付かなくて口をパクパクすることしか出来なかった。

そして闇に包まれたマギ本人は薄れ行く意識の中であらゆるものが書き換えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ壊せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ殺せ壊せ壊せ殺せ殺せ壊せ殺せ壊せ壊せ壊せ殺せ殺せ殺せ壊せ殺せ殺せ殺せ殺せ壊せ壊せ殺せ

殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ころころころころころころこここここここここここKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKK

 

 

 

今まであった感情が殺戮と破壊の衝動に上書きされていく。今までの出会いや自分が味わった思い出も段々と薄れていく。

自分を好きだと言ってくれたのどかや夕映に亜子達、ネギやプールス、ネカネと大事な家族の顔も段々と薄れていき分からなくなる。

そして最後に残っていたのは口づけをした千鶴と自分を信じてくれていたエヴァンジェリンの力強い表情。それも直ぐに霞んで消えてしまった。

 

(……やれやれだぜ。わりぃ皆、俺、もうここまでみたいだわ)

 

皆に謝罪をした瞬間、マギの意識はブラックアウトした。

 

 

 

 

 

闇に包まれ、暫くしてまた闇からマギが姿を見せた。しかしマギの体は褐色に染まり、赤髪もほぼ白髪に染まり所々に赤が見える程度だった。

目は虚ろであるが、体から衝撃波を発し、アーチャーが発動した結界の世界を破壊する。空間をねじ曲げるほどの魔力で作られた世界を衝撃波で荒廃した世界から元の世界樹の広場に戻る。

 

「こっこれは!?マギ」

「アーチャー!これはどういうことかえ!?」

 

多少土埃で汚れたエヴァンジェリンと肩で息をする千草が互いのパートナーの元へ駆け寄る。

 

「マスター」

「なっ何かえ?」

「どうやらここまでようだ」

「は?」

 

そう言い、アーチャーは干将と莫耶を手から離し、双剣は霧散する。

 

「私はどうやら面倒なものを呼び覚ませてしまったようだ」

 

アーチャーの体から諦めの色が醸し出されていた。

 

「おいっおいっマギ、しっかりしろ」

 

エヴァンジェリンはマギの体を大きく揺さぶる。右腕が斬られているのを見てぎょっとし目が虚ろなのも出血多量だと思ったのだろう。

虚ろで何の反応も見せなかったマギがゆっくりとエヴァンジェリンの方を向く。反応を見せたことにほっとするエヴァンジェリン。

 

「もういいマギ。後は私がやっておくからお前は下がってい―――」

 

エヴァンジェリンは最後まで台詞を言えなかった。何故なら突如動いたマギがどす黒い断罪の剣にてエヴァンジェリンの右腕を切り落としたからだ。

 

「……うここは?私は何をして……」

「お姉さま気がついたんですね!」

 

気を失った高音が気がつき目を覚ます。愛依が安堵の声をあげる中、荒廃した世界からまた世界樹の広場に戻っているのを見て、先程の記憶を思い出す高音。

 

「っマギ先生は?あの人は無事なんですか!?」

 

高音はマギの安否を確かめるために、マギを探す。

すると、どこからか固いものを砕く音と、咀嚼音が聞こえた。

見ると、マギが踞って何かを食べていた。見ると今度はエヴァンジェリンの右腕がなくなっていた。そして見るとマギが食している物……少女の指が微かに見えた。つまり今、マギが食しているのは……

 

「……」

 

またも猟奇的な現場を見て、今度はうめき声をあげずに白目を向いて、静かに倒れる高音。

 

「お姉さまぁぁ!……ぁ」

 

今度は愛依も限界が来て、高音に覆い被さるように倒れこんだ。

 

「まっマギ、おっおい……何をやってるんだ?やめないか」

 

右腕が再生した自身の腕を喰い続けるマギを止めようとする。だがそんな静止の声にも耳を貸さず、文字通り骨まで完食してしまったマギ。

目はまだ虚ろながらも、血がこびりついた口で笑みを浮かべていた。見たら震え上がるような狂気な笑みを。

マギの斬られた右腕の付け根からどこぞの大魔王ように新しい腕が生えてきた。人の腕ではない異形の腕だ。

そしてマギの皮膚が少しずつ剥がれ落ち、剥がれ落ちた所から漆黒の人とは別の肌があらわになる。

腰の付け根のには太い尻尾が生え、背中にはコウモリや鳥とは全く別物の図書館島であったドラゴンの様な翼が広がった。

エヴァンジェリンの目の前には恋い焦がれていたマギではなく、全く別のナニかであった。

 

「G――」

 

マギであった何かが口を開き

 

「GyaaaaaHaaaaaHaHaHaHaHaHaHaHaHaHaHa――――!!」

 

狂ったように笑いだし、そのまま黒い魔力の大爆発を起こした。その大爆発に近くにいたエヴァンジェリンに、気を失っていた高音に愛依。アーチャーと千草、戦闘不能になっていた魔法先生や生徒を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

―そしてこの日この時間、ひとりの魔法使い"だった"者に、世界は滅ぼされた―

 

 

 

 

 

 

所変わってエヴァンジェリン別荘にて、ネギ達は限られた時間の中で修行をし、各々かなりのレベルアップをしたと思っている。

ハルナはネギと仮契約をし、クロッキー張に描いた物を簡易的なゴーレムとして召還し使役できるアーティファクト、落書き帝国を手に入れ、僅かばかりだが戦力がアップしている。

一方夕映はマギと仮契約し手に入れたアーティファクト世界図絵は残念だが即戦力になれるような能力ではないとのことで落胆もあったが、それでも自分が出来ることを探し少しずつ成長していく。

まだマギと仮契約していない亜子はのどかや夕映を羨み、別荘の存在やネギとキスをした2人を羨みながらも終始頭を痛めていた千雨とまだ戦力になれない者もいれば、仮契約しなくても実力がある忍者の楓とネギの中国拳法の師匠である古菲も自分の修行で功夫を積んでいた。

そしてネギもまだ超のやっていることが正しいのか間違っているのか迷っていたが、迷いを断ち切った。そしてそんなネギをサポートしたアスナにこのかに刹那。

 

「皆さん。短い間でしたが、お疲れさまでした。超さんが行おうとしている歴史の改竄、それが正しいことなのか、まだ分かりません。けど、成功した暁に世界がどう変わるかも分かりません。もしかしたらもっと酷いことが起こるかもしれない。けど、それ以前に僕は先生として、危ないことをしようとしている超さんを止めなきゃいけない。正直身勝手なお願いだと思ってますが……どうか、力を貸してください!」

 

ネギの頼みにアスナ達は力強く首を縦に頷く。

 

「ありがとうございます。それと何が起こるか分かりません、どうか慎重に。それじゃあ……開門!」

 

決意を固めたネギ達は別荘から外へ出る。

……外へ出たら、自分達が知っている世界とは全て変わっていると知らずに……

 

 

 



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滅んだ世界 ①

別荘から外へ出たネギ達。

 

「出たわよ、ネギ最初はどうするの!?」

「やっぱいきなりラスボスの超の所へ突っ込む?」

 

アスナがネギにこれからどう動くか聞き、ハルナが物騒な事を提案する。

 

「えっと……超さんは午後に動くっていっていたので午前中は何も出来ることがなくて」

 

ネギの締まらない台詞に思わず何人かがずっこと滑る。今さっき決意を固めたのに肩透かしもいいところだ。

 

「それに皆さんまだ最終日の予定があると思いますし……」

「じゃあ、今は解散ってことでええの?」

 

このかの提案で午前中は各自で行動することになった。

とプールスがネギのズボンの裾を引っ張る。

 

「ネギお兄ちゃん、マギお兄ちゃんに電話してほしいレス」

「電話?」

「さっきからこの調子何でさ。なんでもいやな感じがさっきから止まないそうで、とりあえず大兄貴にこれからの事を伝えた方がいいかもですぜ」

「カモ君、そうだねお兄ちゃんに電話してみるよ」

 

ネギはポケットから携帯を出して、思わず目を疑った。

 

「あれ?圏外だ。おかしいなここでも電波届くはずなのに」

「え?……あれほんとだこっちも圏外」

 

ネギの携帯が圏外と聞き、各自で携帯の待受を見て、自分達の携帯も圏外だと知る。

これに首を傾げていると

 

「なぁ少し変じゃねぇか?」

 

と千雨が声をあげる。

 

「変?変って何が?」

「何か変に静か過ぎねぇか?まるで空気が死んでるっていうか、通夜みたいっていうか。もういい時間だし、少しは外が騒がしくてもおかしくないだろ」

 

千雨の言うとおり、不気味なほど静まりかえっていた。

 

「それに何か煙い感じがするです」

「まさかエヴァちゃん家が火事!?」

 

夕映が咳き込むのを見て、アスナが勝手にパニックになる。

 

「落ちついてアスナさん!もし師匠の家が火事ならこの部屋にも煙が充満してる筈です。とりあえず外に出て様子を確認しましょう!」

 

ネギの指示で外に出る。見ればエヴァンジェリンの家は火事ににはなっていなかった。

 

「よかったぁ。火事じゃなくて」

「でも何か空気がおかしくない?なんかとっても重いような……」

「っ」

 

とのどかが口を押さえ踞った。

 

「のどか!」

「のどかどうしたん!?」

 

夕映とこのかが駆け寄る。

 

「何か胸がとても苦しいの。心臓をとても強く捕まれている感じがして不安な気持ちが止まらないの」

「!!なっなぁ!そらを見て!」

 

亜子が空を、学園がある方角を指差す。ネギ達もつられて空を見上げ絶句する。

 

「そ、空が黒い」

 

空が黒に染まっていたのだ。とてつもなく嫌な予感がしたネギは杖に股がる。

 

「ネギ!」

「上空から様子を見てみます!プールスをお願いします!」

「では拙者も木に登って様子を見てみるでござる」

 

ネギが空へと飛び、楓も木へ登る。

飛んで学園を見たネギは驚きとショックで開いた口が塞がらない。

 

「がっ学園がメチャクチャだ……!」

「酷すぎる、何があったんだ……?」

 

カモが冷や汗を流していると、ネギがスピードをあげ学園へと向かう。

 

「ちょ!兄貴落ち着いてくだせえ!」

「落ち着けないよ!学園には僕の生徒達やお兄ちゃんが……!」

 

カモがネギを落ち着かせようとするが、ネギは更にスピードを上げた。

 

「ちょ!ネギ!?どうしたのよ!?」

 

ネギが急に飛んでいってしまったのを見て声を荒げるアスナ。

楓も木から降りて皆の元へ戻る。その表情はいつもの涼しげなものではなく、苦々しいものだった。

 

「楓!何を見たアルか!?」

「……学園が、酷い有り様でござる」

 

楓の報告を聞き、アスナ達も急いで学園へと向かった。

 

 

 

 

 

いち早く学園へと到着したネギ。近付けばその惨状もっとわかった。

まるで戦争が起こった様な有り様だ。所々に爆発で出来たような穴があり、建物も倒壊しており、生徒達が作った垂れ幕やのれんもほとんどが焼け焦げていた。

正にゴーストタウン。人の気配はまるで感じられなかった。

 

「ホントに何があったんだ?1時間や2時間でこんな有り様になるもんか……」

 

カモが目の前の光景に戦慄を覚えていると、ネギが駆け出し大声で叫んだ。

 

「お兄ちゃん!師匠!あやかさん!まき絵さん!小太郎君!皆さん!いたら返事してくださーい!」

「なっなぁ兄貴こんな場所じゃあ大兄貴や兄貴の生徒達はいないんじゃ……」

 

カモの言葉に耳を傾けず、ネギは叫びながら皆の名前を呼び続けた。すると、遠くの方に人影を見つけた。

誰かいる。そう思ったネギはその人影の方へ駆けていく。

 

「すみません!いきなりなんですが、僕と同じ髪色の男の人を見ません……でし……た…か」

 

人影へ向かって駆けていたネギの足が人影に段々と近付いていくと歩みへと変わり遂には止まってしまった。その人影はおおよそ"人"と呼んでいいものか分からなかった。

全身がまるで影と言っていいほど真っ黒になっており、性別も男か女なのか分からない。

ただ分かるのは目は真っ赤に充血しており、口元から涎を垂らしていた。

虚空を見つめていたが、ネギの存在に気づいたのか、真っ赤になった目をギョロりとネギの方へ向かせ、ゆっくりとした足で近づいてきた。

 

「う……あ……」

 

ネギは恐怖で動けないでいた。誰もいないと思ったが人が居て安心したと思った矢先に、人とはかけ離れたナニかに遭遇したのだから。

カモが必死に自分を呼んでいるが、ネギは一歩も動けない。足が地面に引っ付いてしまったようだ。

遂にはナニかがネギを捕まえられる間合いまで近づいて、大口を開けてネギに噛みつこうとする。

 

「兄貴ぃぃぃぃッ!!」

「!!うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

カモの大声で漸く正気を取り戻したネギはナニか相手に本気の鉄山靠を食らわせる。

いつもなら理性で力をセーブ出来る。だが今は恐怖が勝って加減が出来ない。ネギの背中からナニかの骨が砕け肉が潰れる音と感触が伝わってくる。

もろに直撃したナニかはそのまま後方へ吹っ飛び背中から叩きつけられた。

 

「はぁっはぁっはぁっ……!!」

 

肩で荒い呼吸をする。倒れたナニかはピクリとも反応を見せない。

 

「やっやったのか?」

「分からない。けど、思いっきりやったから暫くは動けない……」

 

はずだった。ナニかの指が少し動いたと思いきや、何事もなかったように上体を起こした。そしてまた立ち上がると、うめき声をあげゆっくりと近づいて来る。

 

「そっそんな、効いてないの!?」

「ッ!!兄貴、ヤバイですぜ!周りを見てくだせぇ周り!!」

 

カモに言われて周りを見渡すと、瓦礫や破壊された建物から多くのナニかが這ったり、ゆっくりとした足でネギに近づいてきた。その数、20人以上はくだらない。

 

「あっあぁぁぁ……」

 

自分の攻撃が効かない。そんなナニかがぞろぞろと自分に向かって群がっている。年不相応な実力を身に付けているネギだが、早くも心が折れかかっていた。

 

「兄貴!とりあえず今は逃げますぜ!こんなノロノロの奴ら、飛んじまえば、どうってことないですぜ!」

「うっうん……」

 

カモのアドバイスで杖に股がり、空へと逃げる。ナニか達は空へと逃げたネギを見上げるだけで、何もしなかったが、暫くすると何事もなかったように散り散りに散った。

 

「ホントに何だったんだアイツら……」

「うん……そうだ!アスナさん!僕たちが学園へ飛んだのを見て、きっと学園に向かったはずだよ!」

「一応実力ある刹那の嬢ちゃんや楓の嬢ちゃんがいるだろうが、殆どが非戦闘員だ!急ぎましょうぜ!」

「うん!飛ばすからしっかり捕まっててね!」

「合点でさ!」

 

心が折れかけたネギだが、アスナ達の事を思いだし、直ぐに建て直したのは彼も成長しているのだろう。

来た経路を倍のスピードで飛び戻る。アスナ達が先程のナニかに襲われてないことを願って。

 

 

 

 

 

「……そんな、私達の学校が……」

 

遅れて学園に着いたアスナ達だが、着いた矢先に目の前の学園の有り様を見て呆然としてしまう。

色々な思い出が詰まった学園、振られもしたが、大好きだったタカミチとデートしたこの学園が、無惨なものへと変わり果てた。

涙が零れそうになるが、堪えるアスナ。今泣いてしまえばもう一歩も動けることはないとそう思ったから。

 

「なんだよ……なんなんだよこれ!!」

 

我慢の限界が来たのか、千雨が声を荒げた。

 

「ちょっ落ち着きなよ!」

「うるせぇ!目の前もん見て落ち着けっていうのか!?少し学園から離れてたのに急に世紀末な世界になっているのにか!?アタシは普通の生活を望んでいたのに、これが超の望んでた世界なのか!?ふざけやがって……!見つけたらぶっ殺してやる!!」

 

ハルナが宥めようとするが千雨が胸倉を掴み、唾が飛ぶかという位喚き散らした。

 

「落ち着いてーや!」

「今争っても何も解決しないでござるよ!」

「それよりも今は誰かいないか探す方がいいアル!」

 

周りの者が、暴れようとする千雨をなんとか落ち着かせようとする。早くも皆の心がバラバラになりかけていた。

とその時、小さな地響きが短くそして連続で起こった。近くにあった水溜まりも小刻みに波紋を刻んでいた。

 

「なっなにこの揺れ?」

「よくある恐竜映画で大きな恐竜が、ゆっくり近づいてくるみたいです」

「……!みっみみ皆、あああああ、あれ!」

 

亜子が大口を開けて、またもある方向を指差す。亜子につられて方向を指差すとそこにいたのは

 

「――――――!!!!」

 

廃墟とかした建物を叩き壊した巨大なナニかが咆哮をあげながら現れた。

 

「もう、今度はなんなのよ……!!」

 

ぼろぼろの学園を見て直ぐに巨大なナニか。情報過多で頭がパンクしそうになりそうだ。

巨大なナニかは数刻吠えていると、アスナ達に気づいたのか、腕をアスナ達へ伸ばす。

すぐさま刹那と楓が各々の得物を持って構える。

 

「せっちゃん!」

「このちゃん、ここは私たちが時間を稼ぎます。だからエヴァンジェリンさんの家へまで戻って」

「そんな!相手しないでさっさと逃げようよ!」

「……そうしたいのは山々なんでござるが、目の前のものはどうやら拙者らを逃がそうとは思ってないようでござる」

 

巨大なナニかがもう一度吠えると腕を振り下ろした。このかやのどかが悲鳴をあげ、刹那と楓が覚悟を決め前へ飛び込もうとしたその時、数回の爆発が巨大なナニかを襲う。

 

「――――――!!」

 

鬱陶しそうに爆発で出来た黒煙を振り払う巨大なナニか。その上空を数機の戦闘機が飛んでいくのが見える。

 

「あれは!?」

「日の丸がついているです。ということは自衛隊の戦闘機!?」

 

夕映が戦闘機に日の丸が描かれているのを見、巨大なナニかを攻撃したのが、自衛隊の戦闘機だと分かる。

自衛隊の戦闘機が上空で旋回すると、ミサイルで巨大なナニかを攻撃する。

今度は戦車が数台現れ、砲撃を放ちながら巨大なナニかへ突っ込んでいく。

そして戦車に続く形で武装した自衛隊が凡そ100人以上が重火器で攻撃する。

 

「撃て撃てぇ!これ以上のさばらせるな!!」

「報告!ミサイル、8発、砲撃10発全て命中!しかし致命傷は与えられていない模様!」

「くそ!平気な面してやがる!文字通り化物か!!」

 

巨大なナニかにダメージが入ってないと分かると、隊長らしい自衛官が悪態つく。

 

「!!民間人発見!!」

 

自衛官の一人がアスナ達を発見し、隊長がアスナ達に近づく。

 

「君達こんなところで何をやっとるか!?」

「あっあの、私達ここの生徒なんです」

 

アスナの言ったことに、驚きを隠せない隊長。

 

「ここの生徒!?あの惨劇から一週間経ったのに、まだ生存者がいたのか……」

 

隊長の一週間の言葉に暫し呆然とするが、いち早くはっとした夕映が隊長へ詰め寄る。

 

「すみません!今一週間と言っていたですが、学園祭から一週間経ったということですか!?」

「あっあぁ……目の前にいる化物共が急に現れて、人間に襲いかかってきた。襲われた人間はゾンビ映画みたいに奴らの仲間入りさ。今じゃ化物と人間の生き残りを賭けた戦い……なんて言いたいが、力の差は歴然で全ての人間が化物になるのは時間の問題だ。くそ、魔法なんて非科学的なものが昔から有ったとかいう話だが、もうこいつらに勝てるならなんでもいいから持ってこいってんだ!」

 

今目の前の自衛官は魔法と言った?何故ただの自衛官が魔法の事を知っている?

 

「すみません!何故魔法の事を知っているんですか!?」

 

この状況だが、少しでも情報が欲しい。夕映が情報を聞き出そうとするが、効かなくても鬱陶しくなったのか、巨大なナニかがまたも咆哮をあげた。しかし今度の咆哮はどこか違うように感じた。まるでナニかに命じてるような……

 

「こっ今度はなに?」

 

ハルナも参ってしまったのか、蒼白な顔で辺りを見渡す。くそっと悪態をつく自衛官。その目は諦めの色が出ていた。

 

「ここまでか……君達!ここをまっすぐ2KM先に我々の基地がある!どうにかそこまで逃げ―――」

 

自衛官は最後まで言うことが出来なかった。瞬く間にアスナ達の前から消えてしまったからだ。

さっきの自衛官は何処にと辺りを探すが見つからず、上空から自衛官の悲鳴が聞こえてきた。

上を見上げると、翼を生やしたナニかが自衛官の首筋に噛み付いていた。

一体だけではなかった。空から100は下らない翼を生やしたナニかが戦闘機や自衛官に襲いかかり、陸でも四つん這いで獣の様なナニかが戦車へと襲いかかる。

自衛官達は手持ちの火器で応戦するが、そもそも銃が効いていないのか、弾丸が体を貫いてもナニかの群れは勢いを止めず向かっていく。

抵抗虚しく、自衛隊は次々にナニかに喰われていく。中には化物になりたくないのか、自分の頭を銃で撃ち抜き自決する者も居た。

戦闘機や戦車は辛うじて抵抗するが……

 

「――――!!」

 

巨大なナニかが口から熱戦を吐き、戦闘機の操縦士は脱出する間もなく、一緒に蒸発してしまった。

戦車も踏み潰されるか、掴まれ遠くへ投げ飛ばされる等呆気なく敗れてしまう。

哀れなことだ。自衛隊は巨象に踏まれる蟻の如く蹂躙されしまった。

得物を食いつくしても満足していないのか、ナニか達はアスナ達へ狙いを定める。

 

「ハハ、アハハハ……もうどうにでもなっちまえよ」

 

目の前の惨劇を目の当たりにして千雨はもう笑うことしか出来なかった。

ナニか達が吠えると一斉にアスナ達へ向かう。のどかとこのかが悲鳴をあげ、アスナはハマノツルギ(ハリセン)を具現化させ、刹那、楓、古菲が覚悟を決めたその時

 

「みなさーーーん!!」

 

杖に股がったネギが間一髪で駆けつけ、大量の魔法の屋を放つ。魔法の矢によってナニかの何体かが行動不能になる。

 

「ネギ!!」

 

心が折れかけていたアスナ達に微かな希望が現れてくれた。

ネギはアスナ達を護かのように杖を構える。さっきは恐怖で心が潰れそうになるが、目の前の大切な存在で心を奮い立たせる。

 

「皆さん、僕が雷の暴風で退路切り開きます。その隙に師匠の家まで全速力で逃げて下さい」

「ネギ!アタシ達も一緒に戦うわ!」

 

アスナが戦うと言うが

 

「駄目です!今回は今までと全く違う!だから今は言うことを聞いてください!」

 

そして雷の暴風を発動させるために詠唱を始める。魔法の矢で行動不能になっていたナニかも起き上がると、またネギ達に襲いかかる。

 

「!雷の暴風!!」

 

今出せる最大の雷の暴風を放つ。今度は致命傷だったのか、ネギ達の前に居たナニかは雷の暴風によって爆散した。ナニかが吹き飛んだことで道が切り開かれた。

 

「皆さん!行って下さい!!」

「……分かったわ。ネギ、絶対無事で戻ってきてね!」

「ネギ君!」

「ネギ先生、すみません……お願いします!」

「ネギ坊主、無理はするなでござるよ!」

「ネギ坊主、呼吸を乱せば直ぐに呑まれるアル!」

 

皆がネギに一言言い、エヴァンジェリンの家へ駆け出す。なんとか皆が見えなくなるまで踏ん張るネギ。そして限界が来、雷の暴風をとくと、アスナ達の姿はもう見えなくなっていた。

折角の獲物が居なくなったが、まだネギは残っている。ナニか達はネギだけに狙いをつける。荒い呼吸を深く深呼吸をし、息を整えると改めて杖を構える。

 

「来い!僕が相手だ!」

「兄貴を舐めると痛い目見るぜぇ!!」

 

ネギ一人でナニかの群れを相手取る。そして隙をついて杖に股がると全速力で飛び去った。

 

 

 

 

 

 

『諸君、今回は戦わずして勝たせてもらたヨ。ズルいやり方だガ、カシオペアに細工をさせてもらっタ。片道だけだが、一週間後の未来へダ。一週間も経てば、魔法も少しずつ認知されていくだロウ。ようこそ!素晴らしき新しい世界ヘ』

 

アスナ達が先にエヴァンジェリンの家へ戻り、暫くするとネギも戻ってきた。これからどうするかともう一度別荘に戻ろうとしたが、その別荘に手紙が貼ってあった。

『私の勝ちネ』と一言。古菲が超の筆跡だと分かり、更に魔法使いの手紙だと分かり映像を再生させると、超が立体映像で現れた。

そして先程のメッセージをしゃべり、映像は終わった。

本当に一週間も時を越えてしまったのか……のどかや夕映は膝から崩れるように座り込んでしまった。

 

「戦わずして負けるなんて……」

「……くそったれが!!」

 

負けたことによる悔しさよりも、目の前で起こった惨劇のせいで考えが纏まらないアスナから千雨がアスナから手紙をひったくると感情のまま引き裂いてしまう。

楓が止めようとする間もなく、手紙はばらばらの紙片と変わる。破り終えた千雨は部屋の隅に座り込むとそのまま顔を膝に埋もれた。

空気が完全に通夜と化してしまう。

 

(こんな時……お兄ちゃんが居てくれたら……)

 

ネギはこの場にいないマギの横顔を浮かべる。と次にははたと思い出す。

 

「そうだ!仮契約のカード!!のどかさん夕映さん、2人はお兄ちゃんと仮契約してるからカードの念話を通して連絡出来るはずです!」

 

ネギの指示で少しだけだが、顔色がよくなったのどかと夕映が自分のカードを取り出す、これで少しでもことが好転すればいいのだが、運命はまたも牙をむく。

のどかと夕映は自分のカードを見た瞬間、のどかは悲鳴をあげカードを放り投げる。夕映は放り投げなかったが、さっきよりも顔面が蒼白になってしまう。

 

「どうしたの!?」

 

アスナ達がのどかと夕映に駆け寄る。のどかと夕映はマギを慕い好いている。カードは絆の証しでもあるのに、それを放り投げるのはただ事ではない。

 

「カードが、カードがおかしくなっているんです……!」

 

辛うじて話が出来る夕映がそう答えてくれて、ネギが放り投げたのどかのカードを拾い上げ、カードを見て息を呑む。

カードに描かれているのどかはいつもと同じだ。だがその背景がおかしい。

いつもだったらのどかの後ろで本が浮いているのだが、本の変わりに血のように真っ赤な真紅が蠢いていた。更に夕映がアーティファクトを呼び出そうとしても全く反応がない。

カードが使えない、それはつまりマギの身に何か起こったということだ。その事が更にネギ達の心をざわつかせる。

 

「……もう、ここでじっとしてる暇はないかもしれません。危険ですが、もう一度学園に戻ってお兄ちゃんや師匠や超さんにクラスの皆さんを探します」

「……そうね、こうなったら超さんを見つけてふんじばってどうしてこんな事をしたか吐いてもらいましょ!」

 

正直今のネギ達は空元気もいいところだ。だがそれでも一歩前に前進しなければ何も始まらない。もう一度学園に戻ろうとした。

 

「どうしてこんな世界にした、カ。私だって好きでこんな世界にしたつもりじゃないんだがナ」

 

声が聞こえ、ネギ達が声が聞こえてきた方を向くと

 

「そろそろ時間じゃないかと思ってた所ヨ」

 

壁に寄りかかり、横目でこちらを見ている超がそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 



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滅んだ世界②

『超(さん)!?』

 

まさか今から探そうとしている1人である超が自らこちらへ出向いてきたのだ。

 

「てめぇ!今さらのこのこ現れて来やがって!!」

 

千雨が超に食って掛かろうとするが、古菲と楓に止められる。

 

「超さん、どうしてここへやって来たのかは今は問いません。けど今超さんはこんな世界にするつもりじゃなかったって言いました。それはどういう意味ですか?」

 

ネギが超の言った言葉の意味を問いただした。超は疲れたような笑い声をあげながらこう言った。

 

「世界をこんなにした張本人はマギ・スプリングフィールドダ」

「……………え?」

 

超の言ったことにネギの頭は急激に冷えていった。今彼女はなんと言った?世界をこんなにしたのは、マギだとそう答えたのか?

 

「まっマギさんがこんな事をした!?嘘言うんじゃないわよ!!」

 

超の言ったことに声を荒げるアスナ。だが嘘じゃないと言いたげに超は首を少しだけ、横に振るう。

 

「世界をこんなにし、人間を化物へ変えていったのはマギ・スプリングフィールド。いや、マギ・スプリングフィールド"だった"と言った方がいいかもしれないな」

「……どういう、意味ですか超さん」

 

深く深呼吸をしながら改めて問い詰めるネギ。直ぐにでも大声を出して喚き散らしたい気持ちが先に出てくる。そんなネギを見ながら超はことの顛末を語り出す。

 

「学園祭の最終日の夜。私や葉加瀬が作り量産した田中ヤ蜘蛛型ロボット。リョウメンスクナ型の巨大ロボット数機を使イ、奇襲無力化させた後に、世界樹の6ヶ所の魔力の溜まり場の魔力を使イ、世界中に強制認識魔法を行使しようとしタ。そして京都でこのかさんを拐い大事を起こそうとしタ天ヶ崎千草が妖怪を召還シ魔法使い達を妨害、その彼女と行動を共にシ、高畑先生を無力化した弓兵ガ世界樹前の広場にてマギ・スプリングフィールドと一騎討ちを繰り広げタ」

「お兄ちゃんを襲ったあの傭兵の人が!?でも、お兄ちゃん何も言っていなかった……」

「私の送迎会で朝まで騒いで眠っていたクラスの皆を人質にとっていたからナ。協力を求めたらクラスの皆を殺すト」

 

だから自分達をエヴァンジェリンの別荘へ押し込んだ時も何も話さなかったのか、下手に口を滑らしたらクラスの皆の命が危なくなるのだから。自分達が護られ、何も出来なかった悔しさではを強く噛み締めた。

 

「マギさん、マギさんはどうなったんですか?」

 

のどかが超にマギがどうなったのか聞く。超は少しだけ黙っていたが直ぐに話を続ける。

 

「マギ・スプリングフィールドと弓兵の戦いが始まって直ぐに魔法使い達がマギ・スプリングフィールドの応援へ駆けつけタ。そして、弓兵が特殊な魔法を使イ、少しの間姿を見ることが出来なかったガ、その魔法が終わったらマギ・スプリングフィールドの右腕は切り落とされていタ」

 

マギの右腕が切り落とされたそれを聞いて、のどかは気を失う。夕映とハルナがのどかを抱き抱え、ゆっくりと横にする。

 

「私はマギ・スプリングフィールドはもう戦うことは出来ないと判断しタ。しかし……本当の悪夢はこれからだっタ。駆け寄ってきたエヴァンジェリンさんの腕を切断したと思ったら腕を補食し始めタ」

「師匠の腕を斬って」

「その腕を……」

「た、食べた……」

 

マギがエヴァンジェリンの腕を喰っている姿を想像してしまい、吐き気が込み上げてきたが、なんとか堪えた。

 

「エヴァンジェリンさんの腕を食い終わったマギ・スプリングフィールドハ切られた腕の断面から新しい腕を生やしタ。人とは別の腕をナ。そして姿は人の姿とは大きく欠離れた黒イ異形のナニかへ変化してしまった。あの姿はまさに悪魔、黒き悪魔≪ブラック・デーモン≫と呼称でもしようカ」

 

ショックで何も言えなくなった。自分の兄が悪魔へと転身してしまうなんて、何かの冗談かと笑い飛ばせるなら笑ってやりたかった。

 

「黒き悪魔はまず最初に、混乱していた学園祭に来ていた観光客を手にかけタ。自身の身を護る術を持たない一般人を瞬く間に蹂躙シ、自分の眷属としタ。学園で徘徊していたあの黒いナニか達ハ、元々人間だっタ」

「そんな……」

 

ネギはショックを隠せない、あのナニかが元々人間だったこともそうだが、マギが人に手をかけてしまったのだから。

 

「高畑先生……高畑先生はどうしたの!?」

「うちのおじーちゃんは!?」

 

タカミチと学園長の安否を聞くアスナとこのか。

 

「ことが大事になってしまったからナ、学園の魔法使い達や、ロボット軍団そして天ヶ崎千草が召喚した妖怪軍団で迎撃しようとしタ……だが、無惨にも惨敗。仮にも英雄の息子ダ。あっさり返り討ちにあい、眷属になるかスクラップになるかダ。眷属でも魔力があるせいカ、知性だけは残っていた。けど結局は黒き悪魔の操り人形にかわりはなイ。先生や学園長も止めようと本気だったガ、非情になりきれずに、その隙を突かレ互い重症ダ。最終的には生き残った魔法使いに連れらレ、この学園を捨てて敗走しタ」

「待ってください。僕の、3ーAの生徒の皆さんはどうしたんですか!?」

 

先ほどから3ーAの生徒達の名前が出てこない。まさか、マギが3ーAの生徒達にも手を……

 

「安心しロ。騒動が起きる直前まで千鶴さんが一緒にいタ様で、千鶴さんの指示で寮へ皆避難しだれも犠牲者出ていなイ。皆で学園長達が逃げタ場所まで避難しタ。だが……門前払いを食らってしまったようダ」

「どっどうしてアルか!?皆は関係ないはずアル!!」

 

古菲の言う通り、千鶴は直前にマギが魔法使いだということを知ったが、殆どの生徒が魔法とは関係のない生徒のはずだ。

 

「すまなイ。どうやら私のせいのようなものダ。逃げた魔法使いにの何人かが、3ーAの生徒全員が私の仲間だと妄言を走ってそれは直ぐに伝染したようデ『3ーAの生徒達はテロリストのクラスだ』と。そして、私を直ぐに罰しなかっタ責任を取る形となリ、高畑先生と学園長は幽閉されてしまっタ」

「そんな高畑先生、皆……あぁ」

「おじーちゃん……うぇぇ」

「アスナさん!お嬢様!気をしっかり!」

 

アスナとこのかは限界が来て終には泣き出し、刹那がなんとか2人を支える。

 

「黒き悪魔の勢力は劣ろうことはなク、世界樹の魔力を使イ、眷属を使役し、ナニか達は日本や世界に飛び、次々と眷属を増やしていっタ。あの巨大なナニかは何百体のナニかが合体して出来た化物ダ。そして皮肉にもこんな形デ世界に魔法の存在が明るみになっタ。世界中の魔法使いが軍と協力してナニかの対処をしようとするガ、直ぐに仲間入リダ」

 

そして一週間が経っタと続ける超。

 

「門前払いをくらった3ーAの生徒は雪広さんの家へまで避難し立てこもってる。龍宮さんや葉加瀬の作ったロボット、そして茶々丸が護っているが、時間の問題だろウ」

 

そして少々一息つき、話を再開する。

 

「こうなった責任は私にあル。この一週間の間に残った田中やロボットを使い黒き悪魔へ攻勢を仕掛けタ。私のこの戦闘服にもカシオペアを取り付けてあル。連続の時間跳躍を使った撹乱攻撃をしようとしたガ、まるで先を読んでいるかにようニ、跳躍してきた場所ヘ先回りして攻撃してきタ。結局は何も出来ず返り討ちにあっタわけダ」

「……もういい、黙れよ、お前」

 

ずっと黙りを決めていた千雨は口を開いたと思ったら、その手にはエヴァンジェリンの家の家具を握っていた。その目は瞳孔が開いていて、間違いなくキレている。

直ぐ様楓が千雨を羽交い締めにする。

 

「千雨殿、落ち着くでござる!」

「離せよ!長々話してたが、結局はこいつのせいで世界がこんなになっちまったんだろ!?こいつのふざけた計画のせいで、アタシが求めてた普通の生活が……マギさんが……返せよ!アタシの生活を!マギさんを!マギさんとアタシの思い出を!!責任がテメェにあるなら死ね!!死んで詫びろ!!!」

「落ち着いてや長谷川さん!」

「気持ちは分かるけどだからって自分が手をかけちゃったら駄目でしょ!?」

 

亜子やハルナも落ち着かせようとするが、狂ったように喚き散らす千雨。

しかし、超は千雨達へ笑いかける。

 

「死ね、カ。大丈夫だヨ。千雨さん、あなたが私を手にかける必要はなイ」

 

どういうことだと拘束を無理にでも振りほどいて、超へ近づこうとした瞬間、鈍い音と共になにかが床へ落ちた。

 

「……は?」

 

一瞬理解が追い付かなかったが、それは紛れもなく超の腕だった。

 

「ヒィィィ!?」

 

目の前で腕が千切れ落ちた光景を目の当たりにして、怒りよりも恐怖が上回り、腰を抜かし後退りをしながら悲鳴をあげる千雨。

 

「超さん!?」

「超、どうしたアルか!?………う!?」

 

ネギと古菲が超の元へ駆けつけ、正面を見て息を呑む。

横目から見た超はいつもと変わらないものだったが、正面からはひどい有り様だ。

服のあちこちから血が滲んでおり、傷口も壊死しており、腕が落ちた傷口も完全に腐っていた。しかも片目も潰れていた。

 

「黒き悪魔との戦いで戦闘服の生命維持装置もおじゃんダ。正直今日まで気力で生きていたものダからナ」

「大変だ!このかさん急いで治療を!!」

「はっはい!」

「無理ダ。私でももう助からなイということはわかっていル」

 

そして崩れ落ちるように座り込む超。今までは痩せ我慢のように耐えていたようなものだった。

 

「正直、ネギ先生達が来てくれてよかっタ。最期に、この滅んだ世界をなかったことに出来ル可能性の方法を、教えることが出来ル」

「さっ最期って、そんな事言うんじゃないアルよ超!」

「……古菲、悪いガもう話すのもキツくなってるんだヨ。だから……」

 

脂汗を滲ませ息も荒くなり出した超。もう、長くはないようだ。

 

「世界樹の魔力で動くカシオペア、その魔力は黒き悪魔ガ根こそぎ奪っていっタ。だが全てというわけじゃなイ。恐らく地下深くの根子の部分には微かに魔力が残っていル。微かにと言ってもネギ先生達ガ一週間前に跳ぶことハ可能だろウ。そしてエヴァンジェリンさん、彼女は黒き悪魔が最初に起こした魔力の爆発の中心部にいタ。爆発に巻き込まれたガ彼女のことダ、恐らく無事だろウ。彼女と合流シ黒き悪魔を抑えてくれていれバ、成功の確率も上がるはズ……」

 

そこで大きく咳き込み、辛うじて無事な片手で口を押さえる。だがその手の隙間から血を吹き出し始めた。思わずネギ達も仰天する。

 

「超さん!?」

「終に内蔵系統も限界が来たカ。そろそろ私の命も風前の灯だナ……なぁネギ先生、もう少し……私の独り言ニ付き合ってもらってモよろしいカ?」

 

超の頼みに黙って頷くネギ。ありがとうと礼を言いながら話を続ける超。

 

「私は未来から来た未来人だというのはもうマギ・スプリングフィールドには話しタ。この時代に来た理由は2つ、1つは未来の同志を救うためダ。皆が私の背中を押してくれタ。だが全員じゃなイ。少ないガ何人かガ私の過去へ跳ぶことを反対しタ。『同志超、我々未来の者が過去を変えることはもっと大きな災厄を招くことになる』ト。私はそんなことはなイと自分に言い聞かせタ。結局は同士の言う通リ、未来人の私が過去へ来たのが間違イだったのかもナ」

 

力なく笑う超、見れば目から光がどんどん失っていく。

 

「理由その2はマギ・スプリングフィールドを亡き者にすルこと。マギ・スプリングフィールド本人が未来の障害になルわけではなイ。だが、彼の存在ガ後の未来に大きく影響ヲ及ぼス。だからこソ、まだ力を付ける前ノこの時間にテ、亡き者にするつもりだっタ。最初あの人を見タ時ハちゃらんぽらんデいい加減ナ人だと思っタ。けど、あの人ハ……マギ先生ハ、日が経つニつれちゃらんぽらんないい加減さが減っていキ、ネギ先生やクラスを見守っていることガ増えていくのヲ見て、あぁこの人は本来、これガ本当の性格なんだナと……」

 

また強く咳き込む超。呼吸をするたびに空気が漏れる音が聞こえ益々痛ましい姿になる。

 

「……マギ先生ガいることによっテ、世界ハよくない方へ傾ク。そう自分ニ言い聞かせ、傭兵に依頼したラこの始末。結局、私ハ皆ヲ救うなんて言っテ、自分があの生活ニ嫌気をさしたなんテどうしようもなイ、救いのなイものなんじゃないかっテ……」

 

そう言って手を上へと伸ばす。何かを探すように

 

「ネギ先生、何処にいル?もう殆ど目ガ見えないんダ」

「……ここにいますよ超さん」

 

虚空に手を伸ばす超の手を掴むネギ。ネギが掴んでくれたことに安心したのか目を細める。

 

「こんな事を頼むのハ虫が良すぎるとは思っていル。だけどどうカ、どうカ世界ヲ救ってはくれなイか?どうせこの後私ハ死んデ地獄ニ落ちル。けどこのまま死んでしまったラ、死んでも死にきれなイ。だから……」

「……分かりました。だからもう、これ以上無理をしないで……」

 

超の手を力強く握り、約束を誓うネギ。

 

「最期に、聞いてモいいカ?私ノやろうとしていたことハ、間違っていたのカ?」

「……僕は、超さんのやったことは間違っていると思った所はあると思っています。でも……でも、大切な人達の為に自ら一歩前に出たことは間違いではないと思っています。超さんは、僕の大切で立派な生徒の1人です。それだけは絶対、絶対です」

「………ありがとウ」

 

お礼を言った超の呼吸が段々と浅くなる。どうやら最期が近づいてきた。

 

「嫌アルよ、しっかりするアルよ超……!」

「古菲、私ガ逝くのヲ悲しんでくれるのカ?世界をこんなニしたというのに……ありがとう。私ニとってこれ以上ない、幸福ダ……」

 

耐えきれなくなり、大粒の涙をぼろぼろとこぼす古菲。親友に看取られる、これ以上ない幸福だと感謝する超。

 

「……さい、ごになる、ガ……短イ、学生生活だったガ、とても……楽しかっタ。謝謝、そして……さい……ちぇ……」

 

最後まで言うことが出来ず、超の体から力が抜けて手が床へと落ちる。親友やネギ、そしてクラスメイトに看取られ、超が今……逝った。

 

「ちっ超………!!」

 

遂に叫ぶように大号泣する古菲。そんな古菲に対して、ネギ達は声をかけることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 




今回は自分でもエグいと思いました


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戻れ!あの日へ!

超の亡骸をエヴァンジェリンの家の裏手にて、手厚く葬るネギ達。手を合わせ、少しでも超の魂が報われるようにお祈りをする。

未だに泣き止まない古菲はアスナやプールスにこのかが少しでも元気が戻るように一緒にいて慰める。

そしてネギとカモに、刹那と楓にハルナと夕映がこれからどうするか話し合う。

 

「超さんが言っていた通りなら、もう時間がありません。急いで世界樹の根子の部分へ行き、カシオペアで一週間前に戻るべきです」

「そうでござるな。最早一刻の猶予もないでござる」

「でも、学園にいたあのゾンビ擬きはどうすんの?あいつら、攻撃が全然効いてなかったじゃん。それにあのでっかい奴も」

 

ハルナの言う通り、ナにか達は自衛隊の攻撃をものともしなかった。さらにネギの魔法の矢を食らっても直ぐに起き上がり、雷の暴風でようやく倒したようなものだった。だが、雷の暴風をそう何回も連続で出せる魔法ではない。

 

「そのことなのですが、あの黒いナニか達はマギ先生の眷属であり、魔力で操られているなら、私の神鳴流が役立つのではないでしょうか?」

「……確かに刹那の嬢ちゃんの剣術は魔物とかにはもってこいのものだな」

「あの、確かアスナさんのアーティファクトは召喚した魔物等に効果的だったはずだと思うのですが、今回の相手にも効果はあるんじゃないでしょうか?」

 

夕映がアスナのアーティファクトである、ハマノツルギが効果があるか聞く。確かにアスナのハマノツルギはこう言った場合は大きな力を発揮するだろう。

 

「確かに、アスナさんのアーティファクトをは強力です。ですが、その分リスクが……」

「なに言ってるのよネギ。リスクとかそんな今さらじゃない。それに今は使える手はどんどん使うべきじゃない?」

 

泣き止んだ。古菲を連れたアスナが戻ってきて、呆れながらも、覚悟を決めた目をネギへ向ける。

 

「正直、まだまだ戦いはこの中じゃ下の方だし絶対足を引っ張るだろうけど、でも今はやるっきゃない!!……って状況でしょ?」

「ネギ坊主、超はあんな所で逝くことはなかったはずアルよ。だからこそ、こんな世界は間違っているアル。この世界を元に戻すためなら私は何でもやるアル」

 

また超のことを思い出したのか、涙が出そうになるが、堪えて握り拳を作る古菲。

プールスがネギに近づき、ネギのズボンの裾を数回、引っ張る。

 

「ネギお兄ちゃん、マギお兄ちゃんに会いたいレス……」

「プールス……そうだね、僕もお兄ちゃんに会いたいよ」

 

今にも泣きそうなプールスを優しく抱きしめる。ネギに抱きしめられ、いくらか落ち着いたかひとすじの涙を流した後は涙を流すことはしなかった。

 

「皆さん……いきましょう」

 

迷いを捨てたネギは杖を強く握りしめ、覚悟を決めた男の顔になる。

 

「そうね!さっさとこんな所、おさらばしちゃいましょ!」

「うん!!」

「この刹那、最後まで御守りいたします」

「拙者の忍術、思う存分使わせていただくでござる」

「超のためにもここで立ち止まる訳にはいかないアル!」

「私、アーティファクトを使うことは出来ませんが、皆さんの迷惑はかけずに頑張ります!」

「のどか同じです!」

「まっのどかと夕映は私がしっかり護るから、安心して!」

「手元には絆創膏と消毒液しかないけど、怪我したらウチが治すから!」

 

アスナ、このか、刹那、楓に古菲にのどか夕映、ハルナと亜子がネギに続いて決意を露にした。

そして学園に向かおうとして、気付く。1人だけまだ何も言っていないことに。膝を抱え、座り込んでいる千雨だ。

 

「あの、千雨さん大丈夫ですか?」

「……いい、アタシはここに残る」

 

ネギが千雨に声をかけた瞬間にそう返す。その声色は何もかも諦めたそんな声だった。

 

「そんな!何を言ってるんですか!?そんな事言わないで一緒に戻りましょう!」

 

ネギが千雨にそう言うが、千雨は鼻で笑いながらネギを見る。冷めた、とても冷たい眼差しだ。

 

「そんな事?なに言ってるんだよネギ先生。これがアタシだよ。一週間も時を越えるわ、世界は滅亡しかけるわ、マギさんはおかしくなってるわ、事の発端の超は目の前で死んじまうわ……もう頭の中が一杯でぐちゃぐちゃに掻き混ざって、うんざりなんだよ。やっぱりあんたらに着いていったのは間違いだったわ、もうほっといてくれ」

 

かなりやさぐれていた。しかし当然と言ってもしょうがないだろうとネギ達はそう思っている。千雨は魔法に対して拒絶があった。ネギ達に着いていったのは自分の普通の生活を取り戻すため。なのにいざというところで最悪の形で出鼻を挫く事になれば、自暴自棄になるだろう。

 

「何言ってるのよ千雨ちゃん!まだ帰られる方法は残ってるのよ!?諦めないで、最後まで頑張りましょ!」

「頑張る?そうは言うが神楽坂よ、ここからその地下深くまで無事にたどり着く保障はあるのかよ?自衛隊でも太刀打ち出来なかった化物を相手に……マギさんを相手にたどり着くことは出来るのかよ?」

「そっそれは……」

 

痛いところを突かれ、言葉が詰まるアスナ。先程はその場の勢いというのもあったが、100%確実に何事も起こらずに成功するなんてあり得ない。それに暴走しているマギに遭遇して、戦えるのだろうか……

 

「それにあの化物共はマギさんの仲間みたいなもんなんだろ?だったらアタシはその仲良くその仲間になってやるよ。それでいいだろ?」

 

負の感情を吐露する千雨。普段の場合は皆の気持ちを下げる発言をする千雨を強く注意するだろう。しかし千雨はこの中ではあまり精神力は強いと言われれば微妙な立ち位置、それに千雨の気持ちも理解できるため、誰も強く言うことが出来ない。

先程の決意は何処へ行ってしまったのか、沈んだ空気がネギ達を包む。

急がなければいけないのに、千雨が立ち上がろうとしないために動けないでいた。

古菲と楓がアイコンタクトで頷く。埒があかないために、千雨を気絶させて連れていく力業を使おうとする。

実行しようとしたその時、意外な人物が動いた。のどかが確かな歩みで千雨に歩み寄る。そして目と鼻の間の距離まで近づく。

 

「長谷川さん……」

「なんだよ宮崎、お前も頑張ろうとかいうのか?悪いけどアタシはもうどうでもいいんだ。ほっといてくれってさっき言ったんだけどな」

「最初に言っておきます。ごめんなさい」

 

のどかが謝った瞬間に鈍い音が鳴り、皆が目を見開いて驚いた。

何故なら、のどかが千雨を殴ったからだ。平手打ちではなく拳で。

 

「ちょっ!?」

「のっのどか!?」

 

ハルナと夕映は目を見開く。親友がまさか平手打ちではなく、拳を行使したことに驚きを隠せなかった。

それと補足であるが、のどかは転んだりおどおどしたりとおっちょこちょいな所があるが、夕映やハルナやこのかと同じ図書館探検部の一人、危ない所も向かったりしている事もあり、普通の女子よりも体力や筋力はある。

対して千雨は帰宅部であり、特に運動もしておらずのどかの拳に耐えられる事もなく、そのまま床に倒れこむ。

最初は呆然としていた千雨だが、のどかに殴られたと理解し段々と怒りがこみ上げてきた。

 

「いってぇ……いきなりなにす――――!」

 

最後まで言いきることは出来ず、千雨はそのままのどかに優しくだが胸ぐらを掴まれた。

その表情は夕映がみたことないような無表情で目が据わりながらも、黙って千雨を見つめていた。

 

「なんだよ、何か言いてぇならさっさと言いやがれよ!!」

 

黙って何も言わないのどかに痺れを切らした千雨が負けじと怒鳴る。そしてのどかが口を開いた。

 

「千雨さんはマギさんの事が好きですか?」

「……はぁっ?」

 

マギが好きかと聞かれた千雨は思わず上ずった声をあげる。千雨の返答も聞かずにのどかは続ける。

 

「一目惚れだったけど、私を助けてくれて私と同じ本を持っていて、私と楽しく本の事を話してくれる、強くて優しいマギさんの事が大好きです。いつかマギさんとしっかりお付き合いして、結婚をして、子供と一緒に楽しく本を読みながら過ごしたいです。だから、だからこんなところで立ち止まっている訳にはいかないんです。学園祭最終日に戻って、私はマギさんを助けたいんです」

 

皆の前でマギが好きな事をそしてその後の将来設計を恥じらう事なく言いきった。話を聞いていた皆が顔を赤らめるか、のどかの言いきったことに驚き感心するなか、親友のハルナは興奮し叫んでいるのを抑え込む夕映。

 

「千雨さん、その……私がこんな事を言った後でなんですけど、あなたはマギさんが好きですか?」

 

今更恥ずかしくなったのか、おどおどしながら改めて千雨に問いかける。

数秒黙っていた千雨だが、観念したのか深い溜め息を吐きながら俯きポツりと呟くように答えた。

 

「……好きだよ。それに宮崎さんみたくしっかり面と向かって告白してないから、こんな世界からさっさと戻ってちゃんと告白……って、何言わせるんだよ!!とんだ公開処刑じゃねぇか!!」

 

最後はヤケクソで叫ぶ千雨を見て、何時もの調子が戻ってきたと思うネギ。色々といざこざが起こったが、漸く皆の心が一つになった。

 

「言っとくが、アタシは運動はからっきしのモヤシ女だ。絶対あんたらの足を引っ張るってことは覚えとけよ」

「大丈夫です!千雨さんがここにいる皆さんと同じ位ガッツがあるって僕は信じています。だって千雨さんは人気ネットアイドルの"ちう"さんですから!!」

「いや、体力ないのとネットアイドルは関係ない……って、おいネギ先生!!何ポロっとカミングアウトしてんだアンタ!?」

 

流そうとしたが、ネギがポロっと自身の秘密をカミングアウトしたことにツッコミを入れる。

 

「ええー!アイドルなんかやってるの!?どんなことやってるか教えて教えて!!」

 

賑やかし筆頭のアスナに質問攻めをされ、最終的に折れた千雨が元の時間に無事に戻ったら口外するなと約束をし、質問に付き合った後、漸くエヴァンジェリンの家を後にした。

 

 

 

 

 

 

もう一度学園に戻って来たネギ達、先程まで気分を落ち着かせることが出来たが、ここに戻ってきていやがおうにも気持ちを引き締め直す。

周囲に敵が来ないか、警戒を怠ることなく、図書館島まで到着する。いざ、世界樹の根子その深部へ乗り込む。

がそう簡単に、事が進む訳がなかった。

 

「―――――――!!」

 

自衛隊を壊滅させた巨大なナニかが他のナニかの群れを連れて此方へ向かってきていた。

更に今回はナニかの群れだけに終わらなかった。

 

「クスクスクスクス」

「ウフフフフフフフ」

「アハハハハハハハ」

 

高音と愛衣に三つ編み眼鏡少女が他の魔法生徒や先生を連れて何が可笑しいのか狂った様に笑いながら歩み寄ってきた。

見た目はいつも通りに見えるが、よく見れば尖った牙が見える。何よりも禍々しい雰囲気をひしひしと肌に感じていた。

 

「高音さん……」

「フフ、ネギ先生漸く見つけました。早く、早くマギ先生の下僕になりましょう?とても素晴らしく気持ちのいい力ですわ。もう立派な魔法使いがどうでもよくなるくらいに。ウフフアハハ」

 

ネギは杖を強く握りしめる。立派な魔法使いになるために切磋琢磨していた高音の変わり様を見て、怖さよりも絶対歴史を元に戻す事を改めて決意をする。

 

「――――――――!!」

 

巨大なナニかが再度咆哮を挙げたのが合図となり、ナニかの群れや高音達が一斉にネギ達へ向かってくる。

明らかに多勢に無勢だが、迎え撃とうとしたネギ達。だがその時

一発の銃声と同時に巨大なナニかの目に命中しそのまま目が抉れていた。

 

「――――!!?」

 

先程の咆哮とは別の悲痛な悲鳴をあげながら、巨木の様な腕を矢鱈に振り回す。巨大なナニかの近くに居たナニかの群れや魔法生徒や先生が吹き飛ばされる等被害が起こる。

 

「今の銃撃は!?」

 

楓は銃声が鳴った方を見る。そこに居たのは

 

「対魔物様徹甲弾。普通の弾丸よりも効くだろう?それよりも、遅かったじゃないかネギ先生、楓。こっちは結構な時間を待たされたぞ」

 

対戦車ライフルを肩に担ぎ、多少汚れながらも不敵な笑みを浮かべる真名がそこに居た。

 

「龍宮隊長!」

「真名、無事でござったか」

 

真名は弾をリロードしながらネギ達に近付いてくる。

 

「超の奴が言っていたんだよ。この日にネギ先生達が戻ってくるってね。しか待てど待てども来る気配がないからまさかこいつらにやられたと思っていた所だったよ。まぁ、その心配は杞憂に終わったわけだが」

「良かった。無事な姿を見れて安心しました」

 

体感ではついさっきなのだが、一週間ぶりの真名との再会に喜ぶネギ達であるが、その再会に邪魔するかのように、またもや襲いかかってくる高音達。だが、助けに入ってきたのは真名だけではなかった。

無数に飛んできたミサイル群とレーザー等の光線が高音達に向かってくる。

 

「ネギ先生、皆さん。ご無事で何よりです」

「僭越ながら、助太刀に参りました!」

 

重厚な装備を身に纏った茶々丸とこれまた重厚な装備で身を固めたロボットに乗り込んだ葉加瀬がジェット噴射をしながら飛んできた。

 

「茶々丸さん!」

「葉加瀬、無事だったアルか!」

 

のどかと古菲が助っ人の登場に声をあげる。

 

「もう後が無くなっていた超さんがネギ先生達がこの時間に来ると教えてくれました。事の発端の一人として、尻拭いはしっかりやらせていただく所存です」

「3ーAのクラスの皆さんは私の予備の体が護っています。私は全エネルギーが切れるまで、ここで足止めをします」

 

そう言いながら茶々丸は肩に担いでいたミサイルランチャーを一斉掃射し、ナニかの群れを吹き飛ばす。

真名に茶々丸そして葉加瀬、彼女達がここへ来て何をしようとしているのか、ネギ達も察する。

真名はネギ達の方を向き、微笑みを浮かべながら言う。

 

「あまり縁起のいいものじゃない台詞だが、ここは任せて先に行けっていうやつさ。コイツらの相手は私らでやるからさっさと元の時間へ戻るんだな」

 

真名の様な実力者や戦闘面でも実力を発揮出来る茶々丸、重厚なロボットに乗った葉加瀬。しかし目の前の敵の群生では無事では済まないだろう。

アスナや刹那に楓古菲が加勢しようと前に出ようとする。しかしネギが手で制止をかける。

 

「……よろしくお願い、します……」

「ネギ、アンタ……!」

 

アスナがネギの行動に反論しようとするが、はたと気付く。ネギが杖を折れるかの如く握りしめ、肩が揺れている事に。

真名達に加勢し、目の前の敵と戦い一週間前に戻るタイミングを逃してしまえば水泡に帰してしまう。

だからこそ、ネギは真名達に任せ先へと急ぐ。それは自分の生徒を見捨てる、ネギにとっては辛い選択であった。

ネギの辛い覚悟を汲み取ったアスナ達は、図書館島の地下へと足を向ける。

 

「ネギ先生傭兵としての私の依頼、もといお願いだ。どうか……こんなふざけた世界なかったことにしてくれ」

「分かりました。絶対こんな世界にさせないと約束します」

「ありがとう。楓、後は任せるぞ」

「一切承知」

 

と今度は葉加瀬が古菲を呼び止める。

 

「古菲さん、超さんは最期はあなた達の元へたどり着く事が出来ましたか?」

「あぁ」

「超さんは、自身の職務を全うしましたか?」

「……あぁ、超は最期まで立派だったアル。流石は私達の親友アル」

「そうですか……それが聞けて良かったです。さぁ、早く行って下さい!」

 

涙を堪えながら、迫ってきたナニか一体をロボットの腕で殴り飛ばしながら葉加瀬はそう叫ぶ。

そして最後は茶々丸がのどかを呼び止める。

 

「のどかさん、もし道中でマスターにお会いしたらこう言い伝えて下さい。最後まで貴女の側にいられず申し訳ありませんと」

「分かりました。その、こんな事言うのは、その、あの……茶々丸さんお元気で!」

「……ええ。のどかさん、ネギ先生、皆さんも無事に戻れることを祈っています」

 

茶々丸はネギ達へ微笑みを浮かべる。

 

「そろそろ別れの言葉はいいか?そろそろ喋りながらコイツらの相手をするのは無理そうだ」

 

そう言いながら、対戦車ライフルを打ちながら、時折アサルトライフルを乱射する。

 

「……皆さん行きましょう!」

 

ネギの号令でアスナ達は図書館島の地下へと下りていく。

階段を下り始め、数十秒後に轟音と一緒に地下への入り口が崩れ落ちる真名が手榴弾か何かで起こした爆発だろう。

アスナや刹那に古菲が後ろを振り向こうしたが

 

「走って!前へ!前へ前へ!前へ!!」

 

ネギが立ち止まらせないように、先へと急ぐように叫び促す。しかしそれは周りに促すよりかは必死に自分に言い聞かせているようだった。

どんどんと下に下りていくにつれ、段々と真名達の戦闘音が小さくなっていく。

そして完全に音が聞こえなくなった所で、ネギの限界が来た。

 

「うぅぅぅぅ、あぁぁぁぁ………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

泣きながら目的地へ駆けるネギにつられるように、のどかや夕映にこのかにプールスも大泣きを始める。他の者は静かに泣くか、下唇を噛み泣かないとしていた。

もう立ち止まりたかった。しかし、今のネギ達に立ち止まることは許されていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一心不乱に世界樹の根子を目指し駆け、漸く目的の最深部に着いた時にはネギ達の涙は出しきっていた。

最深部の世界樹の根子はぼんやりとだが、魔力の光を発していた。

 

「ここが最深部だ!兄貴、タイムマシンは動いてますかい!?」

「うん!微かにだけど動き始めた!」

 

ネギがカシオペアを見ると、微かに秒針が動き始めた。だが直ぐに秒針が止まってしまう。見れば、根子光が少しずつ消え始めている。急がないと間に合わない。

 

「皆さん急いで!急いで中心部へ!!」

 

ネギ達は光が消え始めている根子を追う形で中心部へ急ぐ。

そして、中心部へ到着する。そこは学園には無さそうな遺跡であった。中心部では世界樹の残りの魔力が集まっていたが、いずれ消えて無くなる。

急いで中心部へ駆けようとするが、ネギが足を止める。

 

「ネギ!?」

 

ネギだけが足を止め、アスナ達も足を止める。魔力まであと少しなのに、何故足を止めるのか

何か何かが近付いてくる。懐かしい中に禍々しい物が混じった何かがこっちに近付いて来る。

そして全身でその気配を感じ取った瞬間

 

「皆さんその場から離れて!!」

 

ネギが叫ぶ。叫んだ瞬間、遺跡の天井の一部が爆ぜ瓦礫がネギ達に降り注ぐ。

 

「危ない!」

「はぁっ!!」

「忍!」

 

ネギと刹那と楓が魔法の矢や斬空閃に巨大な手裏剣にて落ちてくる瓦礫を破壊する。

 

「残った瓦礫はあたしが!」

「私もやるアル!」

「私もやるよー!」

 

破壊され細かくなったが、驚異には変わりないため、アスナのハマノツルギや古菲の拳にハルナも自身のアーティファクトに持ち前の早書きでタワーシールドを装備した騎手のゴーレムを召喚し、非戦闘員であるのどか達を瓦礫から護る。

 

「一体何が……」

 

いきなり自分達に危険が迫った事に危機を覚えていると、爆ぜた天井の穴から何かが飛び出してきてネギ達の前に落ちてきた。

落ちてきた者の正体を見て、絶句をするネギが呟くように目の前の者の名を呼ぶ。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

超が言っていた正に黒い悪魔と化したマギが唸り声をあげながら、ネギ達を威嚇していた。

目的の場所まであと少しという所で、暴走したマギと遭遇。最悪の場所で最悪の敵と対決することになった。

 

 

 

 

 

 



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VSマギ 最悪な敵との戦い

「GURUUUUU―――――!!」

 

暴走マギは唸り声をあげながらネギ達に獣の様ににじり寄る。口から滴り落ちる涎で小さい水溜まりが出来る程だ。

 

「お兄ちゃん!僕だよネギだよ!お願いだから正気に戻って!」

「マギさん!」

「マギ先生!」

「マギお兄ちゃん!!」

 

ネギにのどか夕映にプールスやアスナ達が暴走マギに呼び掛けるが、暴走してることもあり、暴走マギは全く耳を貸さない。それどころか

 

「GURURURURU!AAAAAAAA!GAAAAAAAAAAAA!!」

 

その呼び掛けが合図だと言わんばかりに暴走マギがネギ達に襲い掛かる。爆走と言わんばかりの早さでネギ達の間合いまでに近付くと、腕を振り上げそのまま力任せに振り下ろす。

 

「まずい!風陣結界!!」

 

ネギは風による結界で暴走マギの攻撃を防ぐ。強烈な風が暴走マギの拳から護ってくれる。がしかし

 

「GAAAA!!」

 

暴走マギの方が力が強いのか、少しずつネギの結界が押され始める。それどころか、遺跡の方がもたないのか段々と遺跡の床がひび割れ始め、崩れ落ち始める。

 

「皆さん飛んで!!」

 

ネギの素早い指示で皆が空へ飛べる者と一緒になり飛ぶか、別の足場へ跳ぶなどした。

ネギはアスナを杖に乗せ、刹那は翼を出しこのかを抱き抱える。楓は鎖分銅を別の柱にかけ、古菲を連れてターザンロープの様にして跳ぶ。ハルナは空を飛べるゴーレムを描き、のどか達を乗せ何とか難を逃れる。

しかしそう簡単に暴走マギが逃してくれる訳はなかった。

 

「GAAAA……AAAAAAAAA!!」

 

暴走マギは口から魔力の塊を連射、所謂グミ撃ちがネギ達を襲う。ネギ達は悲鳴を挙げながら、グミ撃ちを避けるか防ぐ等をして何とか攻撃を食らわない様にする。

今度は全員を相手にせずに一点に集中する。狙ったのは……このかと刹那だ。

巨大な羽を羽ばたかせ、刹那とこのかへ向かって飛び上がる。

 

「逃げて刹那さん!」

「このか!!」

 

暴走マギの飛ぶスピードでは逃げることが間に合わない。刹那は迎撃するために夕凪を構える。

 

「くっはぁぁぁぁ!!」

 

刹那の気合いのこもった一閃が暴走マギの右腕を捉える。夕凪の刃は確かに暴走マギの右腕に当たる。だが、まるで金属と金属がぶつかる様な音が響き、夕凪が弾かれる。

 

「なっ!?かたっ……」

 

余りの強度に驚愕する刹那だが次の瞬間にはハッとする。暴走マギが右腕を振り下ろそうとしていることに。刹那の取った行動は

 

「お嬢様、申し訳ございません!!」

「せっちゃん!?」

 

自身の背中を暴走マギへ見せ、少しでも主へのダメージを減らす。刹那の背中に暴走マギの容赦のない一撃が襲う。

 

「かっは……!!」

 

肺から急に酸素が抜ける感覚が刹那を襲い、そのまま下へと殴り飛ばされる。そしてそのまま遺跡の床へ叩きつけられる形となる。

だが刹那は力を振り絞り、翼を前へと動かしこのかへダメージが来ない様にする。そして地面へ叩きつけられる。刹那の翼がクッション材になり何度かバウンドして床に転がる刹那とこのか。

 

「せっちゃん!せっちゃん!!」

「お、お嬢、様……早く、はや、くお逃げくださ、い……」

 

自分を護るために怪我をおった刹那に駆け寄るこのかへ、息も絶え絶えになりながら逃げるように促す刹那。

その刹那とこのかの間に降り立つ暴走マギ。そしてこのかの方を見て、にんまりといい笑顔を浮かべる。

 

「あ、あぁ……」

 

暴走マギの狂気の笑みを見て、恐怖で腰が抜けているこのか。そのこのかへ腕を伸ばす暴走マギ。

 

「やめてぇ!」

「お兄ちゃん!!」

 

アスナやネギの制止の声も聞かずに腕を伸ばしながら牙が乱列している口を開く。がそうはさせぬと言わんばかりに、楓の鎖分銅の鎖が暴走マギの首に巻き付き拘束する。

 

「流石においたが過ぎるでござるな」

「大人しくするアルよ!!」

 

楓が鎖を自身の方へぐいと引き寄せている間に、古菲の本気の拳法の一撃が暴走マギの脇腹に当たる。だが

 

「かっ固すぎるアル……!!」

 

岩をも砕くことが出来るとも言われる古菲の一撃でも暴走マギはびくともしなかった。暴走マギは鬱陶しいとばかりに、首に巻き付いていた鎖を意図も簡単に引きちぎった。

 

「そんな、滅多に壊れない鎖が!?」

 

鎖の強度に自信があったのか驚きを隠せない楓。暴走マギは古菲を掴むと持ち上げ、力任せに振り落とした。

硬気功で体をガードするが、一瞬だけ意識が飛びそうになる。

そして今度は楓に狙いを定める。

 

「くっなら!!」

 

正攻法で勝てないと判断した楓は分身の術で自身を10人へ増やす。これで少しでも時間稼ぎをしようと考える。だが、考えが甘かった。

暴走マギは10人に増えた楓のたった一人に向かって咆哮をあげながら突撃する。その一体がまさに楓本体である。

 

「まさかこうも簡単に見破られるとは、まるで動物的勘でござるな……」

 

暴走マギの動物的本能に舌を巻きながら、気で自身を強化する。暴走マギの拳が楓の体を捉え、勢いよく飛ばされ壁に張り付くように叩きつけられる。内蔵系統にダメージが入ったのか、口から血を垂らす楓。

楓が戦闘不能となり、今度はのどか達非戦闘員に狙いを定める。がのどか達の中で唯一戦闘能力のあるハルナがこの展開を読んでいた。

 

「いつかはこっちを狙ってくることは読んでたよ!行け!剣の女神、よくあるゴーレム、神喰らいのフェンリル!!」

 

ハルナがスケッチブックから剣を携えた女神、有名なRPGで出てきそうなゴーレム、巨大な狼を召喚して暴走マギを攻撃する。

いくら暴走マギが強くとも3対1なら少しは抵抗出来るだろう。

だが、そんなハルナの考えは甘かった。剣は折れ、ゴーレムは体を貫かれ狼は顎を砕かれ、牙を折られた。

女神は剣を折られながらも切りつけ様とするが、暴走マギに首を捕まれ頭から補食され、ゴーレムは拳を振り下ろそうしたが、口から魔力の光線を吐かれ消し炭に、狼は鋭利な爪で引っ掻こうとするが、顎を捕まれそのまま縦に裂かれてしまう。

瞬く間に蹂躙されるゴーレム。いくらゴーレムと言えど女性の形をしたものを食う光景を見て、正気を失いそうになる程戦慄を覚えるのどか達。

 

「マギお兄ちゃんやめてレスぅっ!!」

 

のどかと一緒にいたプールスが両腕を鞭のように変形し、暴走マギを攻撃する。音速を越えるプールスの連撃は暴走マギの体に直撃するが、全く堪えた様子は見せない。しかし流石に鬱陶しくなったのか、暴走マギは腕を大きく横へ振るう。横へ振るったことにより衝撃波が発生する。

 

「きゃあああ!!」

 

悲鳴を挙げながら吹き飛ばされるプールスは地面へ叩きつけられた瞬間に体が弾け直ぐに人の体に戻る。

 

「ふぇっふぇえええん!!」

 

大きく泣きじゃくるプールス。慕っていた兄が変わり自分達に襲ってきたショックにより耐えきられなかったのだろう。

暴走マギはゆっくりとプールスへ近付く。プールスを護るためにのどかが前へと立つ。だがその体は恐怖で震えていた。その光景を見てまたもや暴走マギが狂気の笑みを浮かべながら腕を伸ばそうとした瞬間

 

「雷の暴風!!」

 

詠唱を終えたネギが雷の暴風を暴走マギへ向けて放つ。ネギの本気の魔法が暴走マギを包み込む。これで少しは効いただろう。誰もが、魔法を放ったネギ本人もそう思った。しかし

 

「GURURURURU……」

 

暴走マギにはかすり傷さえついていなかった。どうやら瞬時に障壁を展開し、ネギの魔法を無効化させた。そして今度の狙いはネギへと変わる。

瞬動で一瞬でネギの前へ立つ暴走マギ。

 

「っ桜華崩拳!!」

 

反射的に桜華崩拳を繰り出す。ネギに迷いはなかった。目の前にいるのは慕っていた兄ではなく、自分達を襲う敵だと。

しかしネギの桜華崩拳は暴走マギの手の平に止められた。乾いた音が遺跡に響く。

 

「あ……」

 

呆気なく止められたことに呆けた声を出すネギ。暴走マギはネギの拳を掴み、そのまま腕を振り上げそのまま勢いよく振り下ろしネギを叩きつけた。

叩きつけられ、目の前がチカチカするネギを気にせずそのまま何度もネギを叩きつける。まるでやんちゃな子がおもちゃを振り回すのと同じように。

障壁をはる時間もなく、体を叩きつけられ意識が遠くなりそうな所で急に叩きつけられることはなくなった。

 

「ふぅっふぅっふぅっ……」

 

ハマノツルギで暴走マギの手を切り落としたアスナが荒い呼吸を整えようとしている。

 

「いい加減にしなさいよ!自分の弟になにやってんのよアンタ!!」

 

暴走マギへ啖呵をきるアスナ。ここへ来て漸くまともな一撃が入る。

暴走マギは切り落とされた手を見、今度は自身の手を切り落としたアスナを見る。

 

「KAAAAAAAAAA――――」

 

瞬時に表情を変える暴走マギ。その表情は先程までの狂気の笑みではなく、自身の体へ傷をつけたアスナへ対しての怒りの鬼の形相を浮かべる。

あ、駄目だ死んだ……とさっきまでの戦意が一瞬で折れるのを実感したアスナの首を片方の手で捕まれ、持ち上げられる。

少しずつ力を込め、息をさせないようにする暴走マギ。直ぐには死なせずじわじわとなぶり殺しにしようとしていた。

更に切られた腕が巻き戻しの様に暴走マギの腕にくっつき、何事もなかったかの様に元に戻ってしまう。

自分の唯一有効だと思っていた攻撃が、実際暴走マギにとってはただの切り傷と同じだと理解したアスナは絶望しながら、段々と顔が土気色に変わっていく。

 

「いやぁぁぁぁアスナァァァァ!!」

「やめて下さいマギ先生!!」

 

このかの悲鳴や刹那の懇願にも耳も貸さず更に力を込める暴走マギ。

 

「おっお兄ちゃ、ん。や……やめ、て……」

 

意識が朦朧としながらも暴走マギを止めようとするネギに対して、いたぶるのに飽きたのか放り投げ捨てる。

止めに首の骨をへし折ろうとしたその時

 

「マギさん……もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

のどかが叫ぶ。こののどかの叫びに運命の女神がネギ達に味方をする。

手に力を込めた暴走マギがピタリと動きを止めたかと思えば、そのまま力を緩めそのままアスナを手放し地面に落とされるアスナ。

 

「はー!はー!はー!はー!」

 

咳き込みながらも大きく荒く深呼吸するアスナ。なにがなんだか分からないが、自分が助かった事だけは理解できた。

 

「アスナぁ!」

「アスナさん!ネギ先生!」

 

刹那とこのかがネギとアスナの元へ駆けつける。このかのアーティファクトで傷を癒すネギとアスナ。

 

「マギさん、急にどうしちゃったの?」

「分かりません。ですが、先程までのおぞましい殺気が今は無くなっているのは分かります」

 

急に動かなくなった暴走マギを訝しげに見ていると、急に暴走マギが小刻みに震え始める。

 

「KAKAKAKAKA――KA、GAAAAAAAA!?」

 

そして頭を押さえ、頭を地面に叩きつけたり、地面を転げ回ったりと明らかに苦しんでいる様子だった。

しばらくのたうち回る暴走マギであったが、急に止まりゆっくりと起き上がる。その目は先程までの濁ったような目ではなく、澄んだ目をしており、ゆっくりと口を開く暴走マギ

 

「ね……ネ、ギ……」

 

ネギの方を見てたどたどしいが、しっかりとネギを呼んだ暴走マギ。

 

「お兄ちゃん?お兄ちゃん!元に戻ったんだね!」

 

元のマギの意識に戻ったと思い、喜んだネギやアスナ達が暴走マギへ駆け寄ろうとするが

 

「近付くな!!」

 

マギの怒気の混じった叫びにネギ達は駆け寄るのを止める。

 

「まだ現状をつかめてねぇが、どうやら俺がお前らにひでぇことをしちまったみてぇだな。くそっ自分の不甲斐なさに腹がたつぜ。うぐぅ!!」

 

自身に怒りを覚えながら、またもや頭を押さえる暴走マギ。

 

「お兄ちゃん!」

「……どうやら、もう時間切れみてぇだ。さっきから俺の中でお前らを殺せって喧しいんだ。だから早くカシオペアで元の時間へ戻れ」

「いやだよ!お兄ちゃんも一緒に!!」

「……分かってくれよ。お前だって、もう俺が戻らないってことは薄々分かってるんだろ?」

「でも、でも……」

 

泣くネギを見てやれやれだぜと何時もの口癖を呟くマギは、のどか達を見る。

 

「のどか、夕映、亜子、千雨……しっかりとした答えが言えなくてすまん。けど、これだけは言える……君たちは俺にとっては勿体ない位いい子達だ」

 

これが今、自分が言える最大限の答え。何故面と向かって好きだと言っていない千雨も含めたか、それは観覧車の時に寝ぼけながらも千雨の告白を聞いていたから。

答えを聞き、涙を流すのどか達。元の時間に戻ればまたマギと会うことが出来る。しかし、目の前のマギとは今生の別れとなる。

答えを言った瞬間また呻き出す。目も段々と濁りが戻ってきていた。

 

「もウ時間ガナイ。早クしロ、まタ暴れ始メたラもウ俺ジゃ止ル事ハ出来ナイ」

 

辛うじて人語を喋っている状態、また暴走し暴れるのも時間の問題、更に世界樹の魔力が段々と弱まっている。

けど目の前で苦しんでもがいているマギを放っておけなかった。だがもう自分達には時間がない。ネギ達が手をあぐねていた。

 

「では、後の事は私に任せておけ」

 

遺跡の上から声が聞こえ、見上げると所々服が破けながらも凛としながら微笑んでいるエヴァンジェリンがいた。

 

「師匠!!」

「まったくマギ、さっきまであんなに激しく愛し合っていたのに別の女に手を出していたのか?困った男だ」

 

呆れた様子を見せながら浮遊術で下に下りるエヴァンジェリン。どうやら先程まで暴走マギと戦い、この遺跡に逃げて来たようだ。

 

「よォエヴァ、どウやラお前にモ迷惑ヲかケタみたイだナ」

「死ねない体になって苦しいだろう?すまなかったな……こうなったのも私の責任だ。今すぐ楽にしてやろう」

「ハは、ご足労ヲかケるナ。ぐっが……がぁぁぁぁ!GAAAAAAAAAAAA!!」

 

暴走マギへ戻ってしまい、突き出した腕がエヴァンジェリンの体を貫いた。鮮血が飛び散り悲鳴があがるが、エヴァンジェリンは吸血鬼であり不死でもある。体を貫かれても死ぬことはない。

口から血を吐き出した後に笑みを浮かべるエヴァンジェリンは、暴走マギの腕を掴み、今度こそ逃げられないようにする。

 

「のどかにその他の小娘共、この勝負私の勝ちだ。このマギは私が独り占めしてやる。どうだ悔しかろう?それが嫌ならさっさと元の時間に戻るんだな」

「エヴァンジェリンさん!茶々丸さんから貴女に伝えなければいけないことが!」

「何も言わなくていいぞのどか。あいつの事だ、言いたいことなんて何時もと同じようなものだろうからな。さぁ早く行け。ぐずぐずしてると巻き込まれるぞ」

 

そう言ってエヴァンジェリンは詠唱を始める。始めた瞬間に少しずつ遺跡が氷始めた。これは京都のリョウメンスクナを凍りつかせたあの魔法級だとネギは瞬時に理解する。このまま此処にいれば自分達も危ない。

 

「皆さん急ぎましょう!!」

 

ネギの指示に皆黙って頷いて従う。自分達に出来ることはもう何もない。なら、自分達がしなければならない事を成すべきだ。

傷をおった楓等は古菲等に肩を貸してもらい、何とかネギの元へたどり着き手を繋ぎ魔力の回りに円を描く。

魔力がカシオペアに集まり、カシオペアの秒針が動く。いつでもタイムトラベルが可能となった。

もう一度エヴァンジェリンと暴走マギの方を振り替える。暴走マギの足元が少しずつ凍りつき、暴走マギも手や口から魔力の波動を放出し氷を破壊するが、抵抗むなしく破壊されても直ぐに次の氷が破壊された箇所を覆う。全身が凍りつくのは時間の問題だろう。

 

「ネギ!!」

「ッ!!カシオペア、起動します!」

 

アスナの声に意識を戻したネギはカシオペアを起動させる。光がネギ達を包み込み、次の瞬間にはネギ達が姿を消す。時間跳躍が成功した。しかし無事に1週間前に着ける保証はない。今は着くことを祈る他ない。

ネギ達を見届けたエヴァンジェリンは微笑みを浮かべながら、細い腕で暴走マギを抱き締める。

 

「これで漸く二人きりだな。もう、お前を1人にしない。永遠に共に居てやろう」

「……ありが、と……う」

 

たどたどしながらも、エヴァンジェリンにお礼を言う暴走マギ。エヴァンジェリンは暴走マギの唇に優しく口づけをする。

 

―――こおるせかい―――

 

詠唱が終わり遺跡には、巨大な氷山が出来上がっていた。

その氷山の中心で、エヴァンジェリンとマギがまるで抱き合っているように凍りつき眠っていた。

エヴァンジェリンの最大限の魔力で作られたこの氷山、この先数百年溶けることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

「終わった、か」

 

弾切れになったライフルを置いた真名が地面に座り込んだ。

真名や茶々丸に葉加瀬の周りには動かなくなったナニかや高音達が倒れ込んでいた。

マギの魔力によって不死身の如く暴れていたナニか達だが、マギが氷山の中で眠りについた事によって、糸の切れた人形の様に動くことはなくなった。知性の残っていた高音達も同じくだ。

 

「10年分は働いたかもな。当分傭兵家業はお休みでもいいだろう」

 

ふっと笑みを浮かべる真名。

 

「マスター、マギ先生。どうか安らかにお眠り下さい」

 

片腕がもげ、顔の皮膚から機械の骨格が少し見える茶々丸は死んだわけではないが、今生の別れになるであろう2人との別れを惜しんだ。

 

「ネギ先生、皆さん……無事に戻って下さい」

 

葉加瀬は大破して使い物にならなくなったロボットを放棄し、ネギ達が無事に1週間前に戻れるように祈った。

かくして長いようで短い間に人々に悪夢として刻まれたこの1週間、その悪夢に終止符を打ったのがエヴァンジェリン。

魔法使いの間で悪の魔法使いと謡われた彼女が世界を救ったのであった。

 

 

 

 

 



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~第9章~麻帆良大戦
食い止めろ 惨劇を


多くの犠牲を出しながらも何とかカシオペアを起動し、時間の流れに乗ることに成功した。

成功したが、無事と言うわけではなかった。何故なら

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「きゃああああぁぁぁ!!」

「うひょあぁぁぁぁぁぁ!!」

「レスゥゥゥゥゥ!!」

「うひゃあああああああ!!」

「お嬢様!私の手をしっかり握ってください!」

「これは、凄まじいでござるな……!」

「目を開けられないアル!」

「うっ……っく!!」

「のどかしっかりするです!」

「これ、絶対手を離したらバットエンドまっしぐらだよね!?」

「くそ!もう手が限界だぞアタシは!」

 

ネギ達はまさに青狸のタイムマシンのトラブルの如く時空嵐に襲われていた。今は辛うじて手を繋いでいるが誰かが手を離してしまったら、その人は時空間に囚われたままになってしまう。

 

「皆さん頑張って!きっともうすぐですから!!」

 

ネギは皆にそう言い聞かせるが、いつ戻れるのか分からない。

もう皆が限界が近付いて来たその時、光がもう一度ネギ達を包み込んだ。

そして光がもう一度晴れるとそこにあった光景は

 

「ここは!?」

 

ネギが周りを見渡すと、目の前に飛行船が浮かんでいた。

目の前に、飛行船が浮かんでいた。大事なことだから2回言った。

まさか……とネギ達は顔面を蒼白にしながら下を見る。そこには、小さな学園都市が見えていた。自分達はまさに上空にいた。

次に起こることは目に見える。悲鳴を挙げながらネギ達は落下する。

 

「どどどどうするん!?」

「このまま落ちたら流石に治せねーだろ!!?」

「うーん、無理やろなー……」

 

千雨がこのかを問い詰めるが、このかも無理だと断言していた。そんな事を言いながらもどんどんと地面が眼前に迫っている。

 

「もう駄目だーーー!」

「くっ私が!!」

 

ハルナが諦めの叫び声を挙げ、刹那が翼を出そうとする。

 

「刹那さん待ってください!ここは僕が!」

 

そう言ってネギが詠唱を始めようとしたその時

 

「きゃ!」

「ひゃう!」

「うわ!」

「きゃあ!」

 

のどかと夕映、千雨に亜子が何者かに捕まってしまった。

一瞬の事で何が起こったのか分からないネギだが、目の前には地面が迫る。もう時間がない。

 

「風よ我らを!!」

 

ネギが魔法を発動させると、アスナ達の体が浮きそのままゆっくりと地面に下り立った。

 

「はぁぁぁ、死ぬかと思った」

 

へたりこむハルナ。急にパラシュート無しでスカイダイビングをしたら誰だって肝が冷える。というか失禁する。

下り立った所は、どこかの屋上テラス。本当に戻ってきたのだろうか。

 

「見て!パレードがやってるわ!」

 

アスナが指差した眼下には、学生達が作り出したロボットや着ぐるみやバルーン等がパレードをしていた。

更に放送部が最終日の午前8時半のお知らせを流したところだった。

 

「元の時間に戻ってこれたー!!」

 

無事に元の時間に戻ってこれたことに喜びを表すが

 

「っ!そうだのどかさん達が!」

 

のどか達が何者かに連れ去られたのを見て、辺りを見渡すネギ。まだ近くにいるはずと思っていたら

 

「日本じゃ『親方、空から女の子が』っていう名台詞があるらしいが、何でネギ達が空から落っこちてきたんだ?」

「ついさっき別荘に入れさせてまだ1時間は経ってないが、何故坊や達が此処にいるんだ?」

「ですが皆さんが怪我をしていないようなので良かったです」

 

ネギ達が今一番聞きたい声が聞こえ、声の聞こえた方を見ると

 

「とりあえず、何があったのか話してくれないか?」

 

片腕づつでのどかと夕映をだっこするマギ、結構雑な感じで亜子の首根っこを掴むエヴァンジェリン。千雨を横抱きする茶々丸がそこにいた。

のどかと夕映をゆっくりとおろすマギ。暫くの間呆然とマギを見ていたのどかと夕映。しかし感情が込み上げて来るのは抑えることは出来るわけもなく、終には滝のように両目から涙を流しマギの胸へ飛び込んだのどかと夕映。

のどかと夕映だけではなかった。プールスや亜子、千雨までもが号泣しマギへと飛び込んでいった。

不意も突かれた事もあり、すっとんきょうな声を出しながら、後ろへ倒れ込んでいたマギであった。

 

 

 

 

 

 

 

「――――そうか、1週間先の未来で俺はそんな酷いことを……」

 

学校の図書館の一室にて、泣きつかれて眠ってしまったプールスをあやすそうに優しく撫でながら、ネギ達の話を黙って聞いていたマギの第一声はそれだった。

マギはネギ達の方を向いて深々と頭を下げた。

 

「すまなかった。お前達に酷いこと、怖い思いをさせてしまって」

「そんな!マギさんが謝ることなんて……」

 

アスナが顔を上げさせようとしたが、いいやと首を横に振るマギ。

 

「暴走していたからなんて、そんな理由は関係ない。俺が、俺自身がお前達を危険に晒した。そんな自分が許せねぇ」

 

怒りで体を震わせるマギ。出来ることならカシオペアで1週間後に跳び暴走した自分を殴り飛ばしてやりたかった。

マギの謝罪ですっかり空気が落ち込んでしまう。呆れた様子で溜め息を吐いたエヴァンジェリンがマギの頭を軽くはたく。

 

「いい加減にしろマギ。謝っている暇があるならさっさと動け。そうだろ?」

「師匠の言うとおりだよお兄ちゃん。僕たちは無事に戻ってこれた。だったら次はあの悲劇を起こさないべきだよ」

 

長い時間跳躍をしたせいか横になりながらも、力強い目でマギを見るネギ。エヴァンジェリンとネギの発破により、謝罪の雰囲気から抜け出せた。

改めて話を戻すと、超の目的は世界樹の周り6ヶ所の魔力の溜まり場を占拠しその魔力を媒体として、巨大魔方陣を描き、強制認識魔法を発動させる。つまりは1ヵ所でも巨大ロボットを魔力の溜まり場にたどり着く事が出来なければ魔法が発動する可能性は減るかもしれない。

これは拠点防衛戦であり、1ヶ所でも溜まり場を死守し、その間に超を探し止める。作戦内容はいたってシンプルだ。作戦内容だけはだ

 

「しかし戦力差が有りすぎるのが頂けないでござるな」

 

そう、圧倒的に戦力差がありすぎる。超が作った田中や多脚ロボが合わせては2500体、さらに巨大なロボが6体。更に千草が召喚した鬼が率いる妖怪軍団が数百体。その更にアーチャーと真名が超側についている。

いくらタカミチや学園長といった実力のある魔法使いがいたとしても人数は超の軍団の半分にも満たないだろう。

戦力の要になるマギも片腕が暴走するかもしれないのとマギはアーチャーとけりを着けなければならない。最強のエヴァンジェリンも

 

「私はマギの側からは絶対に離れないからな」

 

マギと行動を共にすることに決めていた。

とこの始末、拠点防衛なら倍の戦力が欲しい程である。

 

「戦力差が明らかなのに防衛するなんて無理ゲーにも程があるだろーが」

 

このままでは敗戦の色が濃く、千雨がぼやいていると

 

「!!あるじゃん巨大な戦力が!」

 

ハルナがいきなり大声を出した。一斉に皆がハルナに注目する。

 

「ハルナ、どこに巨大な戦力があるというのですか?」

 

夕映がハルナ問いかけると、不敵な笑みを浮かべるハルナが口を開く。

 

「巨大な戦力それは……魔法とはまっっったく関係ない一般性と外部から来た観光客よ!!」

 

ハルナが言った戦力に思わず目を見開くアスナ達

 

「早乙女!てめぇ今言ったこと正気で言ったのか!?一般の生徒や観光客巻き込んだら下手したら魔法の存在が明るみになって超の思う壺じゃねぇか!!」

 

千雨が声を荒げて待ったをかける。

 

「大丈夫じゃない?拠点防衛戦をなんかのイベントみたいにすれば一杯人が集まるだろうし」

「だからそういうこと言ってるんじゃ……!」

「それにうちの学校の学園祭自体バカみたいに大規模なんだし、今さらこんな事やっても参加型のショーかなにかと思うでしょ」

 

そうハルナに返され、何も言えなくなる千雨

 

「……ですがハルナさんの言う通り、魔法に何も関係ない人が参加すれば危ないことをしない可能性は高くなります。たしか今日の夜に行われるイベントはいいんちょさんのお家がスポンサーだったはずです。無理なのは承知ですが、急遽この作戦をイベントにすれば戦力差だけなら互角になるかもしれません」

 

ネギはハルナの戦力アップの提案に賛成していた。

 

「……アスナさん、軽蔑しますか?一般の人やいいんちょさんを巻き込もうとしてるやり方に賛同する僕に」

「何言ってるのよそんな今更な事、こんな言い方卑怯だけど、あんな光景が目に焼き付いちゃったら何が何でも止めなくちゃならないでしょ?」

 

という形で事は進められることになった。ハルナはのどかと夕映を率いてチラシ作り、このかは刹那とカモを連れて学園長の元へ、カモが取って置きな物を学園長に紹介しようという話だ。千雨がネットを使い呼び掛けを、亜子は自身の希望でマギの看病を、そしてネギは

 

「僕がいいんちょさんに直にお願いしに行きます」

「無理しなくていいのよ。いいんちょには私が話をするから」

 

きつそうにしているネギは此処に留まって自身が話をするとアスナが言うが、ネギは首を横に振り

 

「提案したのはハルナさんですが、その提案を決めたのは僕です。それに今からお願いするのはいいんちょさんやいいんちょさんのお家にも迷惑がかかるもの。なら先生の僕が自らお願いするべきです」

「……分かったわ。なら私も一緒に着いていくから」

「弟子のネギ坊主が行くなら私もいくアルよ!」

 

あやかの元へはネギ、付き添いとしてアスナと古菲が着いていく事になった。

事がトントン拍子で進むなかでマギが待ったをかける。

 

「あの傭兵は世界樹の広場でけりをつけるって言ったからな、広場は立ち入り禁止にしてくれ。あいつは俺を殺すなら何だって利用するはずだ。下手に一般人や最悪3ーAの誰かが紛れ込でアイツに狙われたら今の俺じゃ護れるか分からない」

 

そう言ってマギは包帯を取る。包帯から現れた真っ黒になったマギの腕を見て息を飲むネギ達を前に、またマギの右腕から骨の軋む音が鳴り、またもマギの首を絞めようと襲いかかる。

のどかやこのかが悲鳴を挙げるなかでマギは必死に押さえ込む。

汗をにじませながら右腕と格闘すること数分、また大人しくなったのを確認し、包帯を巻き直す。

 

「このようにこの腕が勝手に動くことがあって、エヴァンジェリンにも襲いかかった事もあったから、絶対に巻き添えになる。そこのところ頼む」

 

そういい終えると座り込むマギの顔には汗が滲んでいるのを見て、亜子はすぐさまハンカチでマギの顔を拭く。

話が纏まったところで漸く動き始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――なんと、そんな事が起こってしまったのか」

 

学園長室にて、このかと刹那に1週間後の惨劇を聞き重々しく口を開く学園長。

 

「はい、全て事実です」

「信じておじーちゃん!」

 

このかと刹那の言葉を聞き、学園長は後ろに立たせている眼鏡をかけた女性教師であり、神鳴流剣士の葛葉刀子へ目配せをする学園長。

 

「どう思うね」

「お嬢様や刹那がでまかせを言うとは思えません。ですがマギ先生を亡き者にするために、傭兵を雇ったということなら超鈴音は本気だということですね。それこそクラスの皆から恨まれる覚悟を持っている」

「そうじゃのう。皆に恨まれても計画を完遂させようとするとは、超君も肝が座っておるのう」

「笑い事ではありませんよ学園長」

 

学園長と刀子は信じてくれたようだ。とりあえずこの学園で一番の人に信じてもらえるようで胸を撫で下ろすこのかと刹那。

 

「よく話してくれたのう。後はワシらに任せて、残りの学園祭を楽しむとよいぞ」

「……チッチッチ、馬鹿言っちゃいけねぇよ学園長のじーさん。まだ分かってねぇのかい?アンタラが超の嬢ちゃんを嘗めてかかったから、1週間後には世界は壊滅したんだぜ?」

 

今まで黙っていたカモが不敵に笑いながら待ったをかける。学園長は黙っていたが刀子はカモを軽く睨み付ける。

ここは俺っち達に任せなとカモは丸めていた紙を学園長に渡す。

紙を開いた学園長が眉を動かす。

 

「こんな特殊な魔装具をどうして知ってるおるのじゃ?」

「俺っちには特殊なルートがあってね。まずはこれを用意したい。あんたは此ぐらいの交渉が出来る位かなり顔が利くんだろ?空間魔法の空輸なら今日の夕方には届くだろ?蔵に大量に死蔵されてるんだ。こう言ったことでパーっと使っちまった方が勿体なくないだろうしさ」

 

どこから取り出したのかタバコを咥えて火をつけたカモが悪い顔をしながら

 

「こっちは世界の命運とマギの大兄貴の命運が掛かってるんだ。1000、いや2500セット用意してもらうぜ。嫌とは言わせねーぞ学園長のじーさん」

 

交渉というより脅すのであった。

 

 

 

 

 

同時刻あやかにお願いするために、教室に向かうネギとアスナに古菲。がまだネギの魔力が万全に戻っていないので、アスナにおぶってもらっていた。

 

「でもいいんちょは簡単にOKしてくれるアルか?」

 

少なからずの不安を覚える古菲。いくらネギのことを好きすぎるあやかであろうとも今回はかなり無理のあるお願いではないだろうか。

 

「大丈夫でしょ。いいんちょなら二つ返事でOKしてくれるって」

 

アスナも呆気からんにそう言う。なんてことを話していると3ーAのお化け屋敷に到着した。

あやかを探そうとすると3ーAに指示を出しているあやかの姿が見えた。

 

「おーいいいんちょ」

「あら、アスナさん……ってネギ先生がぐったりしてます!?何があったんですか!?」

「いやーそのーさっきまで動きっぱなしだったから、疲れがどっと出たというか……」

「何ですかその歯切れが悪い言い方は!?とりあえずネギ先生を横にしないと!!」

 

有無を言わせず指示を出してネギをクッションへ横にさせる。そしてアスナを睨むあやか。

 

「それで、ネギ先生がこんなになるまでの訳を話して貰えますか?」

「……ごめん、訳は話せない。勝手だと思うけど、いいんちょに頼みがあるの」

「私に頼み事?」

 

訳を話さず頼み事を言うアスナに眉をひそめるあやか。アスナの頼み事を聞いた瞬間に、驚愕の顔に変わる。

 

「大会を急遽変更する!?貴女、今自分が言った事の意味が分かってるんですの!?」

「分かってるわよ!無理難題だってことは!けど、けどこんな事頼めるのはいいんちょしかいないのよ!!」

 

何時ものように互いに激昂し言い合いになるアスナとあやか。

 

「そんな事出来るわけないでしょう!出資者の娘だからってそんな無理を言ったら単なるわがまま金持ち娘ですわ!私がそういう事を一番嫌いなこと一番知ってるくせに!」

「だからその考えを今日だけ曲げろっていってんのよこのバカいいんちょ!!」

 

終には取っ組み合いの喧嘩になりそうなところで

 

「待ってください!!」

 

ネギが無理やり起きて喧嘩を止める。

 

「!ネギ先生無理をして起きないでくださいまし!」

「……いいんちょさん、正直言ってこんなお願いはこっちの方がわがままな言い分です。ですが、こんな事を頼めるのはいいんちょさんしかいないんです。だから……」

 

ネギも懇願する。ネギがお願いをすればネギ大好きなあやかならころっと堕ちると思ったアスナと古菲。

しかし、そんな2人の考えは甘くあやかは顔を渋り

 

「……申し訳ありません。いくらネギ先生でもこればかりは、無理ですわ。学園祭と言えどこの大会のために必要な多額の費用や色々な人の準備、頑張りを私のわがままで全て無にしてしまう。財閥の娘としてそんな事は出来ませんわ」

 

答えはNOだった。

 

「そんな!あんたネギの言うことなら何でも聞くんじゃないの!?」

 

まさかのNOに驚きを隠せないアスナ。

 

「……アスナさん、貴女は何を言ってるんですか?私は確かにネギ先生を好い慕っていますが、盲信しているわけではありません。出来ないことは出来ない、そう厳しくするのが大切です。何故私よりも一緒にいるアスナさんがネギ先生に厳しく出来ないのですか!?」

 

あやかの言っていることが正しい一般論。ネギのお願いは身勝手なものであり、今すぐあやかの家が出資した費用をネギが負担できるだろうか?いや出来るはずない。

アスナも何も言えない。そうだ、元の時間に戻ってきたことの嬉しさで事を楽観視していたが、自分達のお願いはそう言うことだ。

 

「……もう、何も言うことはないですね?ネギ先生もお疲れの様子なので保健の先生を呼ばせてもらいます」

 

あやかがネギへ背を向け教室を後にしようとしたその時

 

「ネギ!?」

「ネギ坊主!?」

 

アスナと古菲が仰天した声を挙げ、クラスメイトもざわつく。

何事かと振り替えると、自身の目に信じられない光景が見え同じく仰天するあやか。

 

「ネギ先生なっ何をやっているんですか!?」

 

あやかが見たもの、それは

 

「いいんちょさん……いや、あやかさんお願いします」

 

土下座。まだ年幼い少年のネギがあやかに向けて綺麗な土下座をする。

 

「かっ顔を上げてくださいネギ先生!いくらそんな事をしても無理なものは無理ですわ!」

 

そう言われてもネギは顔を上げはしなかった。もしここで諦めてしまったら、1週間後にはあの惨劇になってしまうかもしれない。

自分達に頼み逝った超、自分達を前に行かせるために留まってくれた真名、茶々丸に葉加瀬。そして一緒に永遠とも言える長い時間を眠る事になったマギとエヴァンジェリン。皆の犠牲や覚悟を無駄にしてしまう。

そう思ってしまったら、ネギの目からまた大粒の涙が流れ床を濡らす。

 

「あやかさん、僕もこんな事は身勝手な願いだっていうのはわかっています。けど、ここで諦めてしまったら僕は一生後悔することになります。だから……だから……お願いします!!!」

 

ここまで来ると子供の我が儘と一緒だ。下手をすれば鬱陶しいと邪険に扱われるぐらいだろう。ここまで感情に任せた懇願に折れる者は少ないだろう。

だが、ネギの懇願はあやかに届いた。

 

「……そこまでするなら、相当の事情と覚悟をお持ちのようですね。分かりました。難しいでしょうが、父に大会を変更してもらうように頼んでみますわ。けど、過度な期待はしないでくださいね」

 

あやかが折れ、父親に変更のお願いをしてくれると言った。

顔を上げるネギはあやかにお礼を言う。

 

「あやかさん……ありがとうございます!!」

「お礼なんて言わないでくださいまし。ですがネギ先生これだけは覚えておいてください。時には自分の思い通りにならないことがあるということを」

 

それだけ言うと、父親に連絡をとろうとする。そんなあやかをぽかんと呆然とした顔で見るアスナ。

 

「何か言いたげですわね」

「いや、あんな事を言ったわりには随分簡単に折れたなぁって」

「……貴女にはそういう風に見えていたかもしれませんが、そう簡単にころころと考えを変える安い女であるつもりはありません。ですが、あそこまでしたネギ先生の覚悟を汲み取ったまでです。それに……盲信していないと言いましたが、ネギ先生を心の底から信じていますから」

 

あやかの弟を想うような優しげな微笑みを見て、調子が狂うアスナ。

 

「けど、ありがとねいいんちょ」

「だからお礼は言わないでと言っているでしょう?ネギ先生の男の覚悟を汲み取ったとしても出来ないときは出来ないのですから」

「お願いするわね。それと……」

 

アスナはあやかに抱きついた。いきなり抱きついてきたアスナに驚く。

 

「いきなり何をするんですの?」

「ごめん。けどどうしてもやりたくて。また元気ないいんちょを見ることが出来て嬉しい」

 

さっきまで一緒にいたのに変なことを言うなと思ったあやかだが、自身の頬に水滴が着いたのを感じ、調子が狂いますわねと悪態をつきながらも、微笑みながら優しく背中をさすってくれた。

抱擁を終えたアスナが目元を拭いネギの方を見る。

 

「これだけいいんちょに無理をしてもらうから、ネギは学園祭が終わったらデートでもしてあげれば?」

 

アスナの提案にあやかの体が大きく揺れた。

 

「はっはい!僕たちのためにあやかさんが無理を通してくれるのなら、デートなんてお安いご用です!!」

 

ネギが自分とデートをしてくれる。その事を聞いてあやかは覚醒する。

 

「この雪広あやか、見事ネギ先生のお願い事を完遂させて見せますわ!そしてゆくゆくはネギ先生との甘いデートを手にして見せますわ!!」

 

何時ものあやかに戻り、雄叫びをあげながら父親の元へ駆けていった。

あやかの暴走っぷりに思わず吹き出すアスナ。

 

「なんやかんや言って、いいんちょはあんな感じがちょうどいいわね。それと、あんたいいんちょの事をあやかなんて呼ぶなんてね」

「そっそれは、あんな頼み事をするのにいいんちょさんて言うのは失礼だと思ったので……」

 

顔を赤くするネギの頭を優しく撫でるアスナ。

 

「ネギ坊主も少しずつ大人の男へ近付いたアルな」

 

大切なものを護るために頭を下げる。自身の弟子の成長を嬉しく思う古菲であった。

 

 

 

 

 



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決戦準備

このかと刹那にカモが学園長話し合い、ネギ、アスナ、見守っていた古菲があやかに大会の変更をお願いしている間、図書室にてハルナが筆頭となり、のどかと夕映がせっせとチラシを作成し、亜子と目を覚ましたプールスがつきっきりで、マギの看病をし、千雨はネットを使い、武道大会の戦いは全て演出で行った等のガセ情報を連続で流していた。

マギはというと、腕に包帯ではなく赤い布を巻いていた。赤い布は急遽家に戻ったエヴァンジェリンが掘り出したもので何なのかを訪ねると

 

「これは私が吸血鬼になったばかりのころに、吸血鬼になった私を哀れんだ一癖ある魔術師が私にくれた聖骸布を模して作ったものだ。これを身に纏っていればある程度の吸血衝動を押さえてくれる」

 

エヴァンジェリンの言う通り、この聖骸布擬きを腕に巻いてから腕が勝手に暴れることはなくなった。

 

「本当エヴァ様々だな。それに亜子にプールスも、戻ってきたばかりなのに……無理をしなくていいんだぞ」

「無理なんかしてへんよ。好きでマギさんの看病をしてるんやから」

「早く良くなって欲しいレス!」

 

ありがとうと亜子に礼を言いながら、左手でプールスの頭を撫でるマギは考え事をしていた。

 

「どうしたんですかマギ先生」

「いや、超の事を考えていたんだが改めて話し合いで解決するのは無理だろうかってな」

「無理ですね」

「即答だな」

 

千雨が無理と即答した後にだってそうでしょうと続ける。

 

「ネギ先生やアタシらを未来に跳ばす、マギさんを亡き者にしようと傭兵を雇う。どこに話し合いの余地があるっていうんですか。あっちが力で押しきって来たならこっちだって力で迎え撃つ。その後で話し合いが出来るならその時はその時です」

 

千雨の言うとおり超は強行手段をとってきた。そんな中で話し合いなど馬鹿な考えだ。話し合い交渉は対等か自分達が上の場合に成り立つもの、自分達が下の場合では話し合い等と言っている間に瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。

と千雨と話していると、アスナにおぶる形でネギが戻ってきた。

 

「どうだった?」

「いいんちょが何とかしてみると言ったアルよ。ただ上手くいくとは思わないでとも言ってたネ」

 

ハルナがどうだったと聞き古菲が答える。答えを聞いたハルナはあやかが上手く事を進めることを願い、せっせとチラシ作りを再開した。アスナにマギの横に並ぶ様に寝かせられるネギ。

 

「超さんの事は僕たちに任せて。だからお兄ちゃんは自分がやらなきゃいけないことだけを集中してね」

 

それだけ言い終えるとそのまま目を瞑り、寝息を立て始めるネギ。長時間の時間跳躍の後にあやかへのお願いで限界が来たのだろう。労うようにネギの頭を優しく撫でるマギ。

 

「ありがとうな。なら俺は俺のやらなければいけないことをとことんやるさ」

 

マギもそのまま目を瞑り静かに寝息を立て始めた。

 

 

 

 

 

 

ハルナがチラシを作ったりあやかが大会の関係者に頭を下げ懇願すること数時間、日が上り午後の1時、千草とアーチャーが学園を歩いていた。千草は上がはだけた和服、アーチャーはバイザーに鎧と赤い外套、周りからの視線を釘つけにする格好だが今は学園祭で、2人の周りにも着ぐるみや奇抜なコスプレをしている者が居ることもあり、別段注目されることはなかった。

と2人が歩いている目の前の少女が手に持っていた風船を離してしまい、風船が空へ上ってしまう。

もう取れる高さは越えてしまい、持っていた風船が飛んでしまった事に泣き出す少女だが、アーチャーが魔力を使い上へ跳び風船を掴んで地上に下り立った。泣いていた少女と少女の親はアーチャーが風船を取ったのを呆然と見ていた。

 

「ほら、今度は離さないようにするんだぞ」

 

優しい声色で少女へ風船を渡すアーチャー。風船を受け取った少女はアーチャーへお礼を言い、親もアーチャーに頭を下げお礼を言った後去っていく。少女はアーチャーに手を振りながら。

周りにいた者達はアーチャーに風船を取ったことに対する称賛や驚異の跳躍力を見せた歓声を送っていた。

 

「ふ~ん、子供には優しいんやな」

「私はマギ・スプリングフィールドを亡き者にしようとしてるが、悪者になりたいと思ってはいないよ」

 

千草がにやにやと笑いながらアーチャーを茶化し、アーチャーも肩を竦めておどけた。

歩くのを再開し、千草は周りを見渡す。家族や恋人友人との笑い声や笑顔。危ないことは精々格闘系の部活の野試合だけだった。

 

「平和やね……」

 

ぽつりと呟く千草。これが後数時間もすれば混乱が渦巻く惨事になるとはとても想像出来なかった。

 

「どうしたマスター、今更になって後悔か?」

「ばっ馬鹿言うんやないえ!関東のぼんくら魔法使い共に一泡吹かせるためにお嬢様のクラスメイトのガキに協力したんやえ今更退けるわけないわ!それに、それにあんたが心配なんや。あのマギって男の事になると1人で突っ走ろうとするんやから……」

「そうか、ならしっかり着いていく様に手綱を握っておくんだな。自分で言うのもあれだが私は結構暴れ馬だぞ」

 

千草の心配もバイザー越しでニヒルに笑うアーチャー。心配してるのに笑われたことに腹を立て、頬を膨らませる千草。

とどこかで騒がしい声が聞こえてきた。何事かと興味本意で近付く2人、そこには3ーAの生徒達が各々ナースや魔女着ぐるみとコスプレをしていた。そして手には何かのチラシを持っていて配っている最中であった。

 

「はいどーぞ!」

「あぁ、ありがとう」

 

まき絵がアーチャーにチラシを渡してきたので、アーチャーもにこやかにお礼を言いチラシを受けとる。チラシ内容は……

 

「『火星ロボ軍団VS学園防衛魔法騎士団』?なんやねんこれ」

 

チラシにはイベント変更のお知らせと書かれており、中央には大人びているが明らかにネギだと思われる男がオモチャの杖を握っているイラストが描かれていた。

これが配られていると言う事は、無事話が通ったということだ。現に中学生としては際どい聖女のコスプレをしたあやかがイベントにおける実演をしていた。

ローブを着た桜子が手に持っていた杖を呪文を唱えながら空へ向かい振るうと閃光が空へ駆け巡り破裂する。他にも祐奈がバズーカの引き金を引くと杖と同じ閃光が発射される。

実演を見ている者達は歓声をあげるが、千草とアーチャーはあの武器が魔法の武器だと見抜く。

 

「何でお嬢様のクラスメイトの奴等が魔法の武器を持ってるんえ!?まさか、マギ・スプリングフィールドがばらしたんか!?」

「いや、マギ・スプリングフィールドがそうべらべらと話すとは考えられないな。失礼、この大会の発案者は誰か聞いても宜しいかな?」

 

アーチャーがチラシを配ったまき絵に尋ねると

 

「えっと、スポンサーはいいんちょのお家だけど、この大会の発案者はネギ先生って私達の先生が提案しました!」

 

バカレンジャーの1人のまき絵は馬鹿正直にアーチャーに答えた。アーチャーはまき絵にお礼を言うと千草を連れて、実演が行われている広場を後にすると人気がない路地裏へ入る。

 

「どうやら1週間後へ飛ばされたネギ・スプリングフィールドとその一行が何らかの方法で戻ってきた様だな」

「どうするん?超に報告するか?」

「そうだな、一応報告しておこう。といってもあの超鈴音の事だ、これぐらいのイレギュラーは予想済みだろう」

 

暫しの休息を終え、アーチャーと千草は超の元へ戻るのであった。

 

 

 

 

 

一方、学園長に召集された魔法先生と魔法生徒は学園長からの話を聞きどよめきが走る。

 

「とまぁそういう訳じゃ。超君は持ち前の頭脳と科学力をもって魔法の存在を強制認識させようとしておるわけじゃ」

 

最高責任者である学園長の話を信じたのと同時に超の事を侮っていたと痛感する。一般人を戦力にする事に対してガンドルフィーニや高音といった一部が渋っていたが、戦力を増強するなら致し方ないと言う意見を仕方なく呑んだ。

相手を天才少女というだけで侮る事はせずに準備を始める魔法使い達。

それとと話を続ける学園長

 

「超君に関西呪術協会の天ヶ崎千草と高畑先生を拘束したアーチャーと呼ばれる傭兵が超君に着いておる。そしてそのアーチャーと名乗る男はどうやらマギ先生の抹殺が目的の様じゃ」

 

マギの抹殺と聞いてまたどよめき出魔法使い達。

 

「そしてマギ先生の言伝てじゃが『あのふざけた傭兵野郎は俺がけりをつけるから手を出すな』じゃ。場所は世界樹前の広場だそうじゃ。ので諸君らには一般人を世界樹前広場に入れさせないように頼みたい」

 

話を終えた瞬間に高音が学園長の机を両手で叩く。高音の行動に何人かが目を見開き愛衣も冷や汗を流していた。

 

「学園長!そんな危険人物が学園を彷徨いているなら今すぐに捕まえるべきです!それにマギ先生も何故1人でそんな相手と一騎討ちをするつもりなんですか!?今すぐ彼の元へ行き馬鹿な真似をしないように説得すべきです!」

「ならん」

「っ何故ですか!?」

 

意見を突っぱねる学園長が納得出来ずに再度詰め寄る高音。

 

「マギ先生を狙う男はどうやらかなりの危険人物の様じゃ。修学旅行中もマギ先生と戦闘を行ったようで、観光客が居た映画村でも危険な魔法を使った様じゃ。そしてこの学園祭でもどうやらクラスの子を人質に取られた模様でな。もし儂らが動いたらクラスの子達を殺すだろうとマギ先生がそう言っておった。業腹じゃが、今はマギ先生を信じるしか他はない。分かってほしいのじゃがな」

「……分かりました」

 

渋々納得する高音。改めて準備をする魔法使い達の中で高音はこれから戦うであろうマギの無事と健闘を願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方願われていたマギはというと

 

「……ふぅ、少しは良くなってきたかな」

 

聖骸布を腕に巻いていたマギ、顔色も戻ってきて体調も万全までとは言わないが回復したようだ。

 

「よかったです。こっちもようやく終わりました」

 

タイピングをしてenterキーを押した千雨がそう答える。千雨も武道大会の戦いは主催者側の演出、さっきまでの魔法などの発言は全てガセ情報だったと流していたのが今終わった所だ。これで少しは掲示板を見た人達が信じてくれればと千雨の談である。

 

「おはようございますマギ先生。ゆっくり休められましたか?」

「なんや心配してた割には元気そうやなマギ兄ちゃん」

「まっ大丈夫そうならそれで問題ないさね」

 

少しおどおどしながらも手をこちらに振るさよと少年らしい笑顔を浮かべた小太郎、カメラを持ちながらふっと笑顔を浮かべる和美の姿があった。

 

「お前らなんでここに?」

「いやぁ学園をぶらついてたら面白そうなイベントが始まるなって思ってたら外を見て回っていたアスナ達に見つかってね。それで……聞いたよマギ先生、どうやら未来じゃ人類滅亡の一歩手前まできているってね。目の前の真実よりも今回は世界を護るために協力させてもらうよ」

「よく言うわよ。超さんの大会で実況やってたくせに」

「あはは。まぁあの時は真実を公表するっていう大きな餌に釣られた哀れな鯛だと思ってほしいさね」

 

制服ではなく鎧を纏った騎手の格好をしたアスナに呆れられ、苦笑いを浮かべる和美。なんでそんな格好をしているのか聞くと、アスナはイベントのお助けキャラとして参戦するようだ。

 

「俺もアスナの姉ちゃんから聞いたで。ネギとの決着やマギ兄ちゃんと戦う前に世界が滅んじゃたまらんからな」

 

拳を手の平にぶつけ自身もイベントに参戦する小太郎。小太郎が参戦すればこれは大きい戦力である。

一方のイベントの参戦者もあっとう言う間に2500人が揃っていた。

カモが用意した魔法具は人体には害はなく、田中率いるロボ軍団に有効なものとなっている。一般人が使っても充分に渡りあえるものだ。

準備も万端となり後は超が来るのを待つだけである。とのどかと夕映に亜子がマギの元へ歩み寄ってくる。

 

「マギさん、お願いがあります。もう一度仮契約をお願いします」

「仮契約?なんでだ?俺とのどかはもう仮契約を終えてるだろ?」

 

もう一度仮契約をして欲しいことに首を傾げる。すると夕映が自身のカードをマギに見せると、カードは夕映しか描かれておらず、白紙となっていた。

 

「この時間に戻ってきてから見たらこのような状態になっていたです。おそらく、一週間後のマギさんが氷で眠ってしまってそれでパスが切れたのではと考えているです」

「そういうことか。でも俺のカードはまだパスが繋がってるんだけどな……こういうのっていわゆるタイムパラドックスってやつなのか?」

「そういう事だと理解していただけたら幸いです。あの、やっぱり図々しいですか?もう一度キスをお願いするというのは……」

「そういう事じゃあないさ。ただ、もう一度契約してももし俺がまた暴走したらと思うとな」

 

そう渋っているとそんな事を言わないでくださいとのどか

 

「そうならないために私達は戻ってきたんですから。それに、好きな人とまたキスをしたいって気持ちはいけないことですか?」

「……なんかのどか雰囲気変わったか?」

 

微笑みを浮かべるのどかを見て頬を掻くマギ。一週間後の未来でまたのどかを変えたのだろうとこれ以上何かを言っても無理そうだとマギは折れた。

もう一度仮契約をするためにマギに歩み寄るのどかと夕映、そして亜子と千雨。

なぜ亜子と千雨もと思っていると、亜子が胸の前で手を握りまっすぐマギを見つめ

 

「ウチ、正直言えばちゃんとお付き合いしてキスがしたい。魔法とかファンタジーでちょっと怖いけど何かあったらマギさんを少しでも手助けしたいって思ってった。けど、あんな光景を見て、あんなマギさんを見てそんな悠長事を言ってる暇なんてないって。だからウチも出来ることがあるならなんだってする」

「あんなクソッタレな世界になるぐらいなら仮契約だろうがなんだろうがやってやりますよ」

 

亜子と千雨がそう言ってくれたが、マギは黙ってしまった。

力を貸してくれるのは嬉しい。だがそれは死ぬかもしれない怖い思いをしたせいで得た答え。つまり自分のせいで考えを変えさせられた。

またマギが自責の念にかられそうになった時に、千雨がマギの両頬を思い切り横に引っ張る。

行きなり引っ張られた事に数回目を瞬く。

 

「マギさん今自分のせいでとか思っただろ?あぁそうだよ、マギさんが色々と抱え込んで自分一人でやろうとして失敗して、あんな世界にしてあたしらがどれだけ死ぬかもしれないって怖い目にあったか。だから精神的苦痛の責任を取ってください」

「千雨、すまな―――――」

「また謝ろうとするなら股間蹴りますからね」

 

男にとっては物騒な発言をする千雨に思わずマギや小太郎にカモが内股になる。

さすがに股間蹴る発言は恥ずかしかったか赤面しながらそっぽを向き数回頭を掻く。

 

「責任云々言いましたけど、結局マギさんがやらなければいけないことは変わりはないので、自分のやるべき事のためにアタシ達が支えます」

「……ありがとう」

「お礼もいいです。ですから絶対勝ってくださいよ。折角戻ってきたのに辿る未来が同じじゃあ笑い話にもならないですから」

「あぁ、絶対負けねぇさ。カモ頼む」

「合点でさ」

 

いつもだったら茶化すカモだが、今回は黙って魔方陣を描く。

そしてのどか、夕映、亜子、千雨の順に口づけをするマギ。

改めてのどかと夕映は仮契約のカードを手にし、亜子と千雨は初の仮契約のカードを手にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

「―――――そうカ、私の計画をそういう風に利用するとワ」

 

学園の地下深く、アーチャーからの報告に数回頷きポツリと呟く超。

 

「私としては別にこの計画がイベントに変わろうが目的はマギ・スプリングフィールドの排除だ。最悪一般人やマギ・スプリングフィールドの生徒に危害が及んだとしても私は責任を取るつもりはないがそれでいいかな?」

「それは良くなイ。私の目的は魔法を世界に公にすることであリ、人の命を奪ウことではなイ」

「マギ・スプリングフィールドの抹殺を依頼しておいて随分虫のいい話だな。まぁ善処しよう」

 

 

肩を竦めるアーチャー。そのアーチャーの後ろに千草、葉加瀬、茶々丸と同じ姿のガイノイドが数体、そして数千体の田中や蜘蛛型、超巨大ロボットが佇んでいた。

 

「元々隙ヲ突いて奇襲をかけルような計画だったガ、此方としてハ都合がいイ。盛大に暴れさせテもらウ」

 

超が指を鳴らした瞬間、それに連動するように田中、蜘蛛型、巨大ロボットの目が怪しく赤光し起動する。

 

 

 



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開 戦 勃 発

攻防戦イベント1時間前、湖前には麻帆良の学生や観光客が集まっていた。

参加型のイベント+武器紹介を行ったことにより興味を示した者達によってあっという間に参加者が集まった。更にポイント制という事で上位者には景品が送られるということに俄然やる気が盛り上がっている様子だ。

そんなイベント参加者に紛れるように刹那がカモと一緒にいる。剣士として最前線で少しでも敵を斬り倒すつもりだ。カモは刹那に付き添い、情報をまだ休んでいるネギ達に送る役目。

 

「しかしあっという間に集まりましたね」

「みんなイベントに飢えてるんだろうさ」

 

周りを見渡しながらイベント開始を待っている参加者達に対して小声で話す2人。

 

「これだけの人数がいれば結構対抗できそうだな」

「ですが、相手がばか正直に仕掛けて来るでしょうか?」

「……だよなぁ。そんな、はい始めましょうってお行儀良く待ってるとは思えないし。ここは兄貴達に警戒するように連絡を……」

 

しようとしたが湖に集まっている参加者達が騒ぎはじめた。刹那とカモも見れば湖の水面が気泡を出しながら盛り上がっている。

そして数百体の田中や蜘蛛型が隊列を組んで現れた。

参加者達は急に現れたことにあわてふためき武器を構えようとしたが、先に田中達が仕掛ける。一斉掃射により何人かがビームの餌食となる。

ビームが止んだ時には下着姿か全裸ととても恥ずかしい格好になっていた。犠牲者の中には円もおり、下は履いているが上は吹き飛んでしまうこれまた恥ずかしい格好となっていた。

武器もローブも吹き飛んでしまった円や参加者は後ろに下がる。

 

『なんとぉ!卑怯にも火星ロボ軍団は始まりの時間よりも早くに奇襲を仕掛けてきたぁ!これには湖岸前で待機していた魔法騎士団も混乱を隠せないようです!』

 

一方、亜子がライブをした会場にて巨大ディスプレイ前にて和美がマイクを片手にもち実況している。

参加者達は和美の実況と田中達が予定よりも早く仕掛けて来たのもあり、にくい演出だと思っている。

 

『それでは魔法使いの皆さん、準備は良いですか!?とんだアクシデントから始まってしまいましたが、今からゲームを始めます!それでは、ゲーム開始!!』

 

和美が開始を宣言した瞬間大きな鐘が鳴り響き、今ここに戦いが勃発した。

田中達が奇襲を仕掛けて来たことにパニックになっていた湖岸前の参加者達はゲーム開始になった瞬間、各々杖や銃にバズーカを田中や蜘蛛型に向ける。

 

『敵を撃て!』

 

一斉に呪文を唱え、魔法の光弾が田中や蜘蛛型に向かっていく。数発直撃したのち沈黙する田中もいれば、当たり処が良かったのか一発当たっただけで沈黙する田中もいた。

 

「すっげー!モノホンの戦争みたいだぜ!」

「賞品は俺ら軍事研が頂くぜ!!」

 

田中が次々に沈黙するのを見て調子づく参加者が何人かおり、愚策に突っ込む者がちらほらと。

が相手は超や葉加瀬が作った田中。愚かに突っ込んできた者達を返り討ちにし、醜態を晒されることとなる。

 

「ぎゃあぁぁぁ!?」

「脱げビームにやられたー!」

 

桜子や美砂も脱げビームの餌食となってしまう。

 

「ほらほら早くローブと武器拾ってきなって!やられたらマイナス50ポイントだって!」

 

着替え直し武器を持ってリスポーンしてきた円の情報を聞き、慌てて吹き飛ばされたローブと武器を拾いに後退する桜子と美砂。

倒され脱がされの一進一退の攻防戦が繰り広げられる。

 

「いやぁ参加者はほとんどここの学園の生徒だが、フィジカルが高くないか?」

「余り外の学校には無いようなマイナーというか特殊な部活動もありますし、メジャーな部活動も設備等が充実してますしそのおかげでしょう」

 

主に体育会系の部活動を行っているであろう生徒等が次々に田中達を撃退するのを見て、生徒達のポテンシャルの高さに若干引き気味なカモに説明する刹那。

が田中達を倒していると言っても此方が優勢というわけではなかった。戦いながら学習してきたのか、田中達の戦い方に鮮烈さが出て来て、現に参加者達の布陣の穴を突き何十体かの田中や数機の蜘蛛型が湖岸を突破した。

布陣が崩れだしたのを見て、刹那が夕凪を鞘から抜こうとし、カモが待ったをかけた。

 

「まだ嬢ちゃん達の出番の合図は出てないから待機だぜ」

「ですが、これは表向きは大々的なイベントにしてますが、魔法を公表させないこと、それとマギ先生がアーチャーなる傭兵と決着をつけるために戦いやすくするため。何かあってしまったらマギ先生も戦いずらくなってしまいます。最悪、未来の麻帆良のように……」

「……だな。確かに俺っちらは魔法が公表されるのを防ぐのと大兄貴のために色々と動いてきたさ。気を張るなと言うのも無理な相談だって言うのは良くわかってる。けどな剣の達人でもある刹那の嬢ちゃんに偉そうに言えることじゃねぇけどな、張り積めすぎると剣が鈍るぜ」

 

カモに諭され、刹那は夕凪から手を放す。焦りと迷いがあれば剣は鈍る。それは言われなくとも分かっているつもりだ。だがそうは言っても焦ってしまうのが人と言うものだろう。

ここは参加してる生徒や魔法使い達を信じることにする。

所変わって、湖岸前を突破した田中数十機は後に来る巨大ロボットのエリア確保のために散開して動く。

散らばって待機していた参加者達は田中を発見し、撃とうとするが、密集していた時とは違い、抜群の機動力をもって翻弄していた。

雑魚には構わず目的地へ。命令に従い、ただ目的地へ向かう田中達。だがそう易々とエリアを確保させるものかと参加者達も対抗する。

 

『敵を撃て!!』

 

一エリアで待っていた、アキラと祐奈に風香と史伽、そして千鶴が一斉に攻撃する。

待ち伏せを喰らい数機の田中が機能停止になるが、直撃を免れた数機が反撃へと移る。が、そう易々とやられはしないのが3ーAクオリティ。

 

「はっはぁー!賞品は頂きだよー!!」

 

祐奈が持ち前の運動神経を持って、2丁拳銃で次々と田中を捌いていく。自分自身にこれほどの射撃能力があったことに驚きを隠せない。

 

「マギお兄ちゃんとデート出来なかったから……」

「憂さ晴らしさせてもらうよー!!」

 

小柄な上、すばしっこい双子の風香と史伽は己の持ち味を生かして、田中を翻弄し次々と倒していく。

今朝方マギから今日は一緒に回れないとキャンセルの電話があり、楽しみにしていたのに急になくなった事にフラストレーションが溜まっていたのだ。

それと、フラストレーションが溜まっていたのはこの双子だけではない。

コツコツコツと靴を鳴らしながら一体の田中に歩み寄る千鶴。何の構えもない、無防備状態。田中は千鶴に向かってビームを放つ。

が、当たらない。真っ直ぐビームは千鶴に向かって行ったのに、僅かに逸れた。

ほぼ100%に近い直撃コースだったのに外れた。人なら首を傾げるが、ロボットの田中は再度ビームを撃つ外れた。また撃つ、逸れた。

命中率ほぼ100%なのに三度も外れた。目の前の千鶴が普通の学生ではないと判断した田中は攻撃パターンを変えようとしたが、もう遅かった。

千鶴は田中の至近距離まで近づき、拳銃を田中の眉間に向けた。

 

「敵を撃て」

 

そう唱えたのと同時に引き金を引く。光弾は真っ直ぐ向かい、田中の眉間に直撃した。

眉間に直撃した田中はまるで頭を撃ち抜かれた人のように、膝から崩れ落ち、うつ伏せに倒れ、機能停止になった。

田中を撃ち抜いた所は撮影され中継場でも見られており、他のエリアからも千鶴の一撃を見ていた。

一瞬だけ場が静まり返り、皆一斉にこう思った。

 

(((((いや怖すぎるだろ!!)))))

 

仮にロボットだとしても、躊躇なく人型の田中の眉間を撃ち抜いた千鶴に対して引きながらも戦々恐々した。

ある者は不貞を働いた輩を粛清したマフィアの女帝を、またある者はターゲットを始末した女性殺し屋をイメージしたという。

動かなくなった田中を一瞥した後、まるで散歩しに行くかのように優雅に田中に歩み寄り、同じように眉間を撃ち抜いていった。

 

「いや怖すぎるんだけど!なんであんなにキレてるの!?」

「どうやらマギ先生と一緒に劇を観る積もりだったけど、急にキャンセルになったみたい。でも、その事に怒ってるわけじゃないみたい」

 

キレてる千鶴に対してツッコミを入れる祐奈に対して、静かに田中を倒していくアキラはそうではないみたいと返す。

アキラの言う通り千鶴は約束事をキャンセルされた事に対しては怒っていなかった。本音を言えば一緒に劇を観れなかったのはとても残念に思っていた。

しかし、電話越しのマギの声が何処か辛そうだったこと、イベントが急遽変更になったこと、倒した田中が超と葉加瀬が作ったものという事でこのイベントに大きく関わっていると推測した。

人生とは賽の目。何かあればコロコロと変わるものだが、人の考え等はそんなに変わらない。

本来の時間軸なら劇が終わった後に普通の人ではないマギを問い詰めようとしたが、このイベントが始まり今に至る。

もし慕ってるマギが辛そうにしている原因に超達が関わっていると言うのならば、悪い事をした子供達を叱る様にお話をしなければならない。

本当なら自分一人で超の元へ行きたいが、自分だけでは目の前の田中を蹴散らす事は無理だ。

ならこのイベントが終わった後に話せばいい。そう結論着けた千鶴がまた田中の眉間を撃ち抜いた。

 

 

 

 

場所は戻り刹那とカモがいる湖岸前、千鶴の一撃を見ていた刹那がポツリと呟く。

 

「カモさん、先程まで大丈夫か不安だったんですが、今のを見て勝てそうな気がしてきました」

「俺っちもあれを見て背筋がゾクッとしちまったぜい」

 

千鶴の気迫のお陰か参加者達の勢いも増し、田中や蜘蛛型を倒す勢いも増した。

湖岸前や学園内に機能停止になった田中達が転がっており、数は100を越えているだろう。

だがこれまで戦って来た田中達は将棋やチェスでいう歩やポーンと言った斥候部隊に過ぎない。恐らくそろそろ本気で攻め込んで来るだろうと刹那は睨む。

とまた参加者達が慌ただしく騒ぎ出したと思ったら、湖中央で巨大な水柱が数本現れた。

そして水柱が無くなり、今度はスクナ型の巨大ロボットが数体現れた。いきなり本命の登場だ。

田中や蜘蛛型が100体出てきたのに驚いていたのに目の前に巨大なロボットが現れれば何人かが開いた口が塞がらなくなるだろう。その混乱を突くように、鬼の顔をした巨大ロボットは口にエネルギーを溜め、放つ。

巨大な光が参加者を包み込み、光が晴れた後には田中にやられた様に下着姿を晒していた。

 

「極太脱げビームだ!!?」

 

参加者の一人が叫び、大勢が脱がされたことの驚きと脱がされた者の羞恥で湖岸前は混乱の渦と化していた。

湖岸前の参加者はほぼ全滅状態となり、巨大ロボット達は悠々と上陸し、それに続くように新たな田中達が現れた。

田中や蜘蛛型は巨大ロボットのビームを免れた者達を狙い、段々と湖岸前の参加者が減っていった。

 

「カモさん、そろそろ私が!」

「だな、そろそろ合図が来ると思うんだが、一向に携帯が通じねぇ!どうやら妨害電波が出てるみてぇだ!こっちの判断で勝手に動いたら、真剣持った嬢ちゃんが上手く動けねぇ!」

 

どう動くとカモが思考を巡らしていると、空に赤い信号弾が打ち上がり、和美の実況が響き渡る。

 

『なっなんとぉ!火星のロボ軍団、押されていると判断したのかここにきてボスの巨大ロボットの登場だぁ!これを倒すのは至難の技でしょう。ですが参加者の皆さんご安心を!貴方達には心強いヒーロー達が居ます!それでは、ヒーローユニットの皆さん、出撃せよ!!』

 

和美の実況が合図となり、満を持した魔法先生や生徒達が各々の魔法を使い、田中や蜘蛛型を蹴散らしていく。

中には浮遊魔法を使いながら巨大ロボットに捕縛魔法を使い、動きを封じ込める。

一般人の目の前で魔法を堂々と使用しているが、イベント前に大々的に行われた武道大会は演出込みの大会だと千雨筆頭にデマ情報を拡散させ、信じこませることに成功。この情報を見て残念に思った者もちらほらといた。

空に浮かんでいる魔法先生や魔法生徒を見ても演出だと思っていた。一般人の前で魔法を使っても大丈夫、魔法先生や生徒は安心して戦うことができる。

魔法先生や生徒達の踏ん張りで巨大ロボットの進軍も押さえられていた。

 

「景気よくやってんなぁ。んじゃ嬢ちゃんも一暴れしてくるかい?」

「はい。桜咲刹那、行きます」

 

夕凪を構え、湖岸前に突っ込む。そして夕凪を鞘から抜き、一閃で田中を数体切り裂いた。

「おい、あの子武道大会に出てた娘じゃないか?」

「でもあの大会演出だらけのやらせだったんでしょ?」

「ばっか!あの子剣道部でもかなりの実力者だぞ!」

 

ヒーローユニットとして助太刀に入った刹那に参加者は色々と言っているが、刹那は気にせず田中達を切り捨てていく。

刹那の大立ち回りに参加者は歓声を上げている。とその時、自身に殺気が混じった闘気を向けられたのを感じとり、気配を感じ取った方へ刃を振るう。振るった瞬間、金属と金属のぶつかる音が響き渡る。

 

「……やはり貴様達か」

 

刹那に奇襲を仕掛けたのは武具を纏った鬼や河童等の妖怪達。それも京都で自分達と戦った者達だ。

 

「なんや知ってる顔が居るなと思ったが、やっぱりあの時の嬢ちゃんやないか」

 

妖怪達の親分である鬼が金棒を担ぎながら現れる。妖怪の登場に参加者達も驚いている。といってもほとんどが特殊メイクかロボットだと思っているだろう。

 

「メガネの姉ちゃんに喚ばれてな、ここにいる魔法使い達を全員病院送りにしろって言われてな。喚ばれてみたらぎょうさんおもろい喧嘩祭りやってるやないか。まぁ安心しぃや、堅気の奴には手は出さんからな」

「それは感謝する。だが、私がそう簡単にやられると思ったら大間違いだ」

 

刹那は改めて夕凪を構える。親分鬼が金棒を地面に叩きつけ、それが攻めの合図になり、鉈や刀を持った鬼達が刹那に向かう。

刹那と鬼達の殺陣に歓声を挙げている参加者達。

 

「なぁ助太刀しなくていいのか?」

「バッカ、あんな戦いにどう助太刀しろってんだよ。俺らに目を向けないのは対ヒーローユニットの悪役みたいなもんだろ。ロボットに妖怪ってごちゃ混ぜだけど、金かけたイベントだなこりゃ」

 

参加者達も妖怪達の登場はイベントの一環と思って手を出さないでいてくれて、余計な暇をかけなくてすむと思った刹那。

だが、そうは言っても一人で目の前の妖怪達を相手にするのは厳しい。

自身が研鑽を重ねてきても、この妖怪達は雑兵というわけではない。決定打に欠けていたその時

 

「斬空閃!!」

 

気で創られた飛ぶ斬撃が刹那に斬りかかっていた鬼達を切り飛ばした。

 

「成長したわね刹那。これだけの相手に一人で切ってかかるなんて」

「刀子さん!」

 

葛葉刀子。刹那と同じ神鳴流の剣士であり、関東に来た刹那に剣を教えた先生である。

 

「親分、新しい神鳴流の女剣士でっせ!」

「どうやらあの嬢ちゃんよりも腕が立ちそうやな。こりゃ楽しくなってきたで」

 

刀子の登場に焦りよりも楽しみの感情が勝っている親分鬼。

 

「刀子さんが一緒に戦ってくれるなら、私も心強いです」

「ええ、私もこの戦いに、譲れないものが…あるから……」

 

最後は小声になり俯く刀子。そんな刀子から気が溢れだし、何かを呟いていた。

 

「とっ刀子さん?」

 

明らかに刀子の様子がおかしく、引きながらも刀子を呼ぶ刹那。次の瞬間刀子の気が爆発し開眼した目は怪しく光っていた。

 

「せっかく好い人見つけたのに、また破談になりたくないのよこっちはぁぁぁぁぁ!!」

 

気を爆発させた刀子はそのまま妖怪達に突っ込み、次々と妖怪達を切り捨てていく。端から見たら狂戦士さながらの暴れっぷりだが、その剣技は冴え渡っており、無駄のない綺麗な戦い方だった。

感情の爆発をそのまま戦いに生かす事は刹那は知っているが、どうしてここまで怒っているのか分からなかったが

 

「そう言えば、一般の男性とお付き合いしてるって聞いたことが……」

 

そんな事を風の噂で聞いたことを思い出す刹那。一度離婚をしている刀子は婚期を焦っており、今付き合っている男性とゆくゆくはと考えているのに魔法が知れ渡ってしまったら、その男性と別れる事になる。目の前の妖怪達は自分の結婚を邪魔する敵だと、容赦なく蹴散らしていく刀子に戦慄を覚える刹那。

だが刀子の戦いに気を取られすぎていた。

 

「貰った!」

「覚悟ぉ!」

「!しま――」

 

河童と烏天狗が刹那に武器を振り下ろそうとしている。今から防御の構えをとっても間に合わない。

やられると思ったその時

 

「漢魂!!」

「裂空拳!!」

 

二つの気の塊が河童と烏天狗に直撃し、吹き飛ばす。

今の技には見覚えがある刹那は、技が飛んできた方を見てみると

 

「豪徳寺薫、助太刀に参ったぜ!」

「武道大会じゃ予選敗退だったがこの中村達也、思う存分暴れてやるぜ!」

 

予選敗退してしまったが、一般人でありながらも気を扱う事が出来る豪徳寺薫と中村達也が助太刀に入ってくれた。

 

「ちょっ待ってください!その相手達は普通じゃ――」

「大丈夫だぜ!ロボット相手じゃ温すぎだから、骨のある相手が出て来てこっちはウズウズしてるんだ」

「心配するなお嬢ちゃん。俺や達也はそう簡単に潰されるような柔い根性はしてないさ」

サムズアップをして妖怪達に突っ込む二人。刹那は止めようとするが、刀子程ではないが次へ次へと妖怪達を相手にしていくの見て、一部の一般生徒のポテンシャルの高さに改めて舌を巻いた。

 

「がっはっはっは!なんや堅気の中にも骨太の奴がおるんやなぁ。ここはおもろいところやなぁ。祭りじゃない日でも来たいもんやなぁ」

「……それだけは勘弁して貰おう」

 

刹那や刀子に薫や達也そして妖怪達の激闘を見、勢いも戻った参加者達もまた田中達に向かっていく。

戦いはまだまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 



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何が善か

学園内で激闘が繰り広げられている中、図書室にて

 

「……ん」

 

横になっていたネギが目を覚ました。

 

「おうネギ、気分はどうだ?」

 

聖骸布を腕に巻き椅子に腰かけたマギが声をかける。

 

「うん、だいぶ良くなったよ。お兄ちゃんは?」

「……六割弱ていった所か。それよか見てみろよ。外結構ハデなことになってるぜ」

 

マギは千雨から借りたパソコンの映像をネギに見せた。丁度巨大ロボットが登場して暴れている最中だった。

 

「超の奴どうやら計画を早めたそうだ。エヴァが言うには学園の結界が全く機能してないんだと。だからデカイロボが動けるようだな」

「超さん……」

 

思うところがあるのかまた沈むネギ。そんなネギを見てまたこの弟は無駄に悩みやがってと肩を竦めながら思うマギ。

 

「ネギ先生、気がついたようですね」

 

夕映がのどかとハルナに千雨に亜子とプールスを連れてくる。

 

「夕映さん、皆さんお待たせして申し訳ありません」

「いいってネギ先生、こういった時、中途半端に体力回復させると後々ピンチになるのがお約束だからね」

「全くハルナは……でもハルナの言う通りな所もあるです。しっかりと体力を回復させるのが第一です。ネギ先生もそうですが、マギ先生もお体はどうですか?」

「正直寝てスッキリ全快!……とかいけばいいんだが、此ばかりはどうにもな」

「そうですか……」

 

マギの状態を聞き、夕映達は沈んだ表情を見せる。いつもなら大丈夫だと安心させようとするが、確信もないのに安心させるのは却って逆効果だと思ったマギは皆に微笑みを見せることしか出来なかった。

 

「俺が言うのもあれだが、今は超の計画を止めることを考えようぜ。外、結構凄いことになってるんだろ?」

「はい。外では巨大ロボットが目的地に前進しそれを魔法先生や生徒が阻止しようとしてるです。ですが妖怪達がそれを妨害し、今は一進一退の攻防中です」

「さっき桜咲と鬼が戦っている映像が流れましたけど、周りの参加者はパフォーマンスだと思ってましたけど、中にはアタシみたいに何処か可笑しいと思う奴も出てくるんじゃないですか?」

「時間の問題……か。超の勝負札が巨大ロボットや妖怪達とは考えられない。他に厄介なものを隠し持ってるはずだな。早々に勝負を仕掛けるべきか」

 

超が千草を使い妖怪達を刹那達にけしかけるやり方にまたネギが悪い方へ思考を巡らせる。こんなやり方をすれば殆どの麻帆良の魔法使い達は超を敵視してしまうはずだと。

 

「ネギ先生、此から超さんと対峙すると言うのに不躾だと言うのは分かってるです。でも……超さんのやろうとしていることは悪いことなのですか?」

「おい綾瀬、それは今言うことじゃないだろ」

 

千雨が夕映を止めようとするが、マギが手で制す。

 

「思った事は今全部ここで吐き出しちまえ。迷いがあればそれだけで危険だからな」

「……超さんのやろうとしているのは言わば革命みたいなものです。魔法が世界に公表されることになれば、救われる人の命も増え、ゆくゆくは超さんの時代の超さんのお仲間さんも救われる。超さんは私利私欲のためじゃなく誰かを救うために行動している。そう思ってしまったら超さんが悪いことをしているとは思えなくなって……」

「まぁ超の奴が高笑いして世界征服するシ◯ッカーみたいな奴なら戦い易いんだけどなぁ」

「ハルナ……」

 

夕映が思い悩み、ハルナが軽い口調で超のことを言いそれをツッコムのどかを見て、ネギも超のやっていることは間違っていないんじゃないかと思い始めてきたが

 

「確かに超のやろうとしてる事は誰かを助けようとする善意だ。だが善意でだれも彼もが救われると思うならそれは大きな間違いだ」

 

ぐるぐる思考になりかけたネギに待ったをかけたマギ。皆が一斉にマギを見る。

 

「まず第一……ハルナ、お前は魔法の存在をどう思う?」

「どうって、そりゃ面白そうっておもうじゃん!魔法なんて未知なる存在憧れるし、自分自身も使ってみたいって思うし」

 

ハルナの魔法に対して好意的な意見にマギは何度も頷く。

 

「ハルナの様に魔法に対して好意な姿勢を見せる人が多ければそれでいいんだが、世の中好奇心が強い人ばかりじゃない。未知なるものに警戒心を持つ人もいれば恐怖し、敵視する人だっているはずだ。まぁお隣に軍隊並の力を持つ奴がいれば普通は怖いと思うけどな」

「でもマギさんやネギ先生は私達に危ない魔法を使ったりしてないじゃん。学園にいる魔法使い達だって皆好い人ばっかりだし、そんなに危惧することじゃなくない?」

「そりゃあ、お前達に魔法を使うことがないからな。けど、エヴァのようになってしまった悪の魔法使い、じゃなく自分から悪の魔法使いの道に走った奴はお前達が知らないだけで多くいる。自己顕示欲が強い奴が悪の道に走ってみろ。自分の名前を後生に残すために平気で人を殺せる魔法を使用する。被害にあった者や遺された遺族はこう思うだろう『魔法と言うものはこんなに恐ろしいものなのか』……とな」

 

マギの例え話にハルナは押し黙る。楽しいもの面白そうなものを基本受け入れるハルナであるが、危険なものを楽観視するほどでもない。マギの例え話を聞いて、魔法の危険性を改めて知るハルナ。

 

「第二に魔法が知れ渡れば多くの人が救われる。夕映の言うとおり強力な治癒魔法を使うものがいれば突然の災害や事故で救われる人が増えるだろうな」

「そうです。このかのような治癒魔法を使える人が世界中に赴けば多くの難病の人を救うことが―――――」

「出来るな。じゃあちょっと嫌な質問をしようか。救える人が増えた反面、そのひとたちを救おうと尽力していた医者や薬剤師と言った医療関係者の立場はどうなる?」

「っ、それは……」

 

マギの再度の問い掛けに夕映は口をつぐむ。頭の回転が早い彼女ならマギが言ったことの最悪なイメージが簡単に浮かび上がったのだろう。

怪我や病気になった当事者なら、自分達が治るなら万々歳だ。だが、医者等は患者を直すのが仕事でその生業で収入を得ている。

医療系の物語では患者が救われる事を第一に考える医者がいるが、世の中全ての医者がそう言った人ではない。自分の功績の名を後生に残したい名誉欲が強い医者だっている。

魔法が知れ渡ったら医術の世界はどうなるだろうか……

 

「一朝一夕で医療の世界が直ぐに変わるとは思えないが、段々と魔法が認識されるようになれば、最悪の場合世界中の多くの医療関係者が首切りにあうかもしれない。あんまり考えたくねぇが絶望を覚えた人は何をするか分からない。自殺するか自棄になって周りの人を巻き込むかもしれない……多くの人が救われるはずが、傷つき死の道に向かう人が出てしまうかもしれない」

 

人と言うのは一度自棄になったら何をするか分からないから恐ろしい。そして第三の問題、これはマギが考えられるなかで一番あって欲しくないこと。

 

「第三の問題、魔法に対して恐怖や混乱、妬みや恨みその他の多くの負の感情がポップコーンの様に膨らみ弾け飛んだ瞬間、大きな災いとなる。戦争だ。一般人と魔法使いによる血で血を精算する動乱が起こるかもしれない」

「せっ戦争ってマギさん事を大きくし過ぎじゃない?」

「隣人トラブルの最悪の結果で殺人が起きる世の中だ、戦争が起きないって言う保証が何処にある?魔法使いは世界中にいる。最初が隣人でのいざこざでしたなかったものが町、国、そしてゆくゆくは世界を巻き込むような争いに繋がるかもしれない。それで死傷者が出たら未来に影響が出る。超の未来の仲間だって存在しなくなるかもしれない」

 

何よりとマギは周りを見渡しながら話を続ける。

 

「ここ麻帆良だってどうなるか分からない。ここにはこのかのじーさんやタカミチその他にも多くの魔法使いがいる。ここも争いの場になればお前達だけじゃない、他の一般生徒にも被害が及ぶかもしれない。俺はお前達やクラスの子達が傷つくのを見たくない」

 

ネギ達は最悪の未来で超が3ーAの生徒が皆自分の仲間だと思われ避難場所にて門前払いをされた話を思い出す。人は敵だと思った相手には容赦しない一面を持っている。

 

「さっきも言ったが超は善意で動いているのは分かる。だがそのやり方は理の壁を破壊してこちら側の色に変える侵略行為と変わらない」

 

……これが考える最悪な結果だ。と話を終えるマギ。マギの話が終わるが、空気が完全にお通夜状態だ。此から超を止めなければいけないのにプレッシャーを掛けすぎたかもしれない。

内心でやれやれだぜと呟きながら頭をかきながらネギの方を向く。

 

「それでネギ、お前はどうしたい?超を止めなければいけない理由がまだ見つからなければ別に俺の考えをそのまま使ってもいい。けど出来ることなら俺としては何か1つでもお前の考えを聞かせてほしい」

 

ネギは黙っている。正直マギの様に色々と考えが浮かび上がるわけではない。

だがたった1つだけ得た答えは……

 

「僕はお兄ちゃんのようにそんなに考えが出てこない。けど、けど……超さんが全て背負いこもうとしているのは、それは間違っていると思う。何より僕の大切な生徒が誰かに悪者呼ばわりされるかもしれないのを止めなきゃいけない」

 

それがネギの答え。またも沈黙が流れるがマギは微笑みながらネギの頭を撫でる。

 

「いいんじゃないか。なら次はその思いが折れないように構えなきゃな。ほんとは俺も手伝いたいところだが、この後はクソ傭兵とランデブーだ。正直お前だけに任せるのは申し訳ねぇが、頼んだぞネギ」

「うん、任せて」

 

迷っていたネギの決意も固まった。いざ出陣のための準備に取り込もうとした

 

「ネギ先生お体のお加減は如何ですか!?」

「ネギ君!心配だったからお見舞いにきたよー!」

 

とこのタイミングで古菲に連れられたあやかとまき絵が図書館にやってきた。

 

「あやかさんにまき絵さん。来てくれたんですね。けどごめんなさい、僕直ぐに行かなきゃいけないんです」

「え、でもネギ君まだ疲れ残ってる感じじゃん。それなのに動いたら危ないよ!」

「そうですわ。私はネギ先生の強い思いを汲み取ったまでで、ネギ先生に無理をしてほしいとは思っていません。どうしても行くと言うのなら、この雪広あやかもお供致しますわ」

 

返答に困る展開だ。2人の好意は嬉しいが正直言って足手まといしかない。どう断ろうか迷っていると

 

「あー雪広と佐々木、悪いんだがこれからネギ先生が行く場所はネギ先生が1人でケリつけなきゃいけねえんだよ。ネギ先生に対して好意が強いあんたらは納得しないだろうけどな。けどネギ先生のために動きたいならアタシに強力してほしい。ネギ先生のためにアクティブに動けるあんたらが一緒に居たほうが助かる」

 

千雨が早口で2人を言いくるめた。最初は納得してない様子を見せているあやかとまき絵であったがネギのためにと聞き渋々とだが千雨の話に納得する様子を見せる。

マギは千雨の行動に驚いていると

 

「さっき綾瀬のアーティファクトでアタシのアーティファクトを調べて貰ったんです。アタシのアーティファクトはどうやら前線タイプじゃないようで、ここでサポートします。あの2人ならネギ先生のためなら多少は無茶はできるでしょうから」

「千雨……」

「アタシは元々後ろ向きな性格ですからね、マギさんの考えてたことは予想出来てましたよ。そんなくそったれな世界になったらちうが出来なくなるかもしれませんからね。こうなったら何でもやってやります……よ!?」

 

最後で語尾が高くなる。何故ならマギが千雨を優しく抱き締めたからだ。

 

「ありがとう。それと千雨がそうやって誰かのために一歩歩みよってくれた事に嬉しさを感じてる」

「そっそんな大げさだって。でも、少し我が儘を言えるなら……この作戦が無事に終わったらまた一緒に秋葉原を回ってくれますか?」

 

明らかにデートのお誘いだった。千雨が自分の気持ちを出すようになった事に嬉しく感じながら

 

「あぁまた色々と見て回るか」

 

OKを出すとマギに好意を見せるのどか達も

 

「わっ私もまたマギさんと一緒に本屋とか回りたいです!」

「まっ誠勝手ながら私も一緒に図書館島の探検をしたいです!!」

「うっウチもマギさんと一緒に外で目一杯遊びたい!!」

 

マギに対してデートのお誘いをする。旗から見たらマギが女滴しの男に見える光景ではあるが、マギと彼女等の関係はふしだらなものでもないので

 

「あぁ行こうか。それと……のどか、夕映、亜子、千雨、この戦いが終わったら君達に話たいことがある。今の俺の正直な気持ちを伝えたい」

 

約束し、自身の考えをのどか達に伝えた。マギの真面目な表情を見ながらハルナは思う。

 

(いやマギさん、なんでそこで不吉なフラグ立てちゃうかなぁ……)

 

マギ自身フラグの存在を知らないだろうからそう言いきったのだろう。

そんな一抹の不安を抱えながらネギは超の、マギはアーチャーへの戦いの準備に取りかかるのだった。

 

 

 

 

 



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世界樹前広場での決闘

今回は早めに投稿をしました
最近は安定してる私ですが
気持ちのアップダウンが結構起こってしまう
そんな中でも何とか頑張ってやってます


「遅かったなマギ……どうしたお前?随分というか気持ち悪い位に顔がテカってるぞ」

「いや、ちょっと色々とあってな」

 

外で待っていたエヴァンジェリンだが、漸くマギが来た事に待ちくたびれた様子を見せようとしたら、マギが気持ち悪い位に顔が艶々していたので引いていると、マギが訳を話す。

 

 

 

 

 

『……なぁ亜子、なんだそのデカい注射器は?』

 

エヴァンジェリンの元へ行こうとした最中に亜子が少しでも自分もマギの役に立ちたいと思い、アーティファクトをアデアットすると、巨大な注射器が現れたのだ。

 

『綾瀬さんに調べて貰ったら、凄いお薬で注射したらたちまち疲れとか吹っ飛ぶんやって』

『そんな凄い薬なんだな。で、何処に刺すんだ?』

 

薬の効果に今の自分には有難いと思っていたが、次の亜子の言葉に固まる。

 

『……お尻』

『……尻か?』

『うん、お尻に、ブスッと、注入』

『………マジかぁ……』

 

渋る暇もないので一思いにやってくれと亜子に言い、亜子もマギに応えるように思い切り針をマギの尻に刺した。

思わず変な声をネギ達がいる前で出してしまい、この事は直ぐに忘れてくれと懇願するマギであった。

 

 

 

 

「なるほどな。お前の初めては和泉亜子に奪われてしまったというわけか」

「いや何で下ネタみたいな感じになるの?別にいかがわしいことはしてねぇから」

 

エヴァンジェリンの下ネタマギがツッコミを入れる。エヴァンジェリンはニヤニヤ笑っているが直ぐに笑みは引っ込んだ。

 

「……腕の調子は大丈夫か。変に痛んだりするか?」

「万全じゃあないが大丈夫だ。ありがとうな心配してくれて」

 

微笑みながらお礼を言うが照れたのかそっぽを向くエヴァンジェリンを見て、笑みを深めるマギ。

 

「マギお兄ちゃん!」

 

プールスがマギの足にしがみつく。

 

「私もいっしょに連れてってほしいレス!!」

 

またマギが自分の目の前から居なくなってしまうと思ったのだろう。離れようとしないプールスの健気さに心打たれるマギ。

 

「やれやれだぜ困ったお嬢さんだ。プールス」

 

優しくプールスを呼ぶマギはそのままプールスを抱き上げると自身の額をプールスの額に優しく当てる。

 

「約束だ。お前達の前に必ず戻ってくる。そしたら、そうだな……一緒に何処か遠い所に出掛けよう。出掛けて一杯遊んで美味しいものを腹一杯に食べるんだ。絶対楽しいぞ」

「本当?マギお兄ちゃん?」

「あぁ本当さ。だから今はネギ達と一緒に良い子でいるんだ。出きるな?」

「……はいレス!!」

 

良い子だと下ろしたプールスの頭を優しく撫でるとネギの方を向く。

 

「それじゃ頼んだぜ」

「お兄ちゃんも健闘を祈ってるから」

 

互いの健闘を祈りネギ達は一足先に超のいる場所へ向かう。

 

「さて、私達も行くぞマギ」

「おう」

 

杖よと唱えたマギの手元に杖が飛んできてその杖を掴む。

準備も整い目的の場所に向かおうという所で茶々丸が

 

「マスター、申し訳ありません。私は私がやらなければならない事をします」

「そうか好きにしろ。マギは私がいれば十分だからな」

「ありがとうございます。マギ先生、どうか無事をお祈りします」

「ありがとな。茶々丸も無理しないようにな」

 

ではと会釈した茶々丸は歩き去る。自分がしなければいけない場所へ向かうために。

 

「全くロボだからか成長が早いもんだな」

「寂しいのか?」

「まさか。初めの頃はずっと付きっきりで鬱陶しいぐらいだったのが漸く独り立ち出来そうで精々してるところだ」

 

エヴァンジェリンの素直じゃない性格にそっかと微笑むマギ。

しかしほのぼのとした空気はもう終わりだ。

 

「それじゃ行くか」

「あぁ」

 

覚悟を決めたマギとマギの側を離れないと誓ったエヴァンジェリンが敵のもとへ向かう。

 

 

 

 

 

 

マギとエヴァンジェリンが目的地へ向かう一方、刹那がいる湖の湖岸前では未だに激闘が繰り広げられていた。

 

「うぉぉぉ、漢魂!!」

「裂空掌!!」

 

一般人ながらも気を扱う豪徳寺薫と中村達也が妖怪達に抗っていた。だが所々に切り傷があり息も上がっており善戦というわけではなさそうだ。

 

「中々楽しませてくれるやないかあの兄ちゃん達。だがまだまだこっちはぎょうさんおるでぇ。まだ倒れてくれるなよ!」

 

妖怪達の勢いは滞ることはなく、狐のお面を被った妖怪が豪徳寺薫に向かって刃を振るう。

 

「くっうぉぉぉ!」

 

紙一重で避け拳を相手に向かって振るうが相手は余裕綽々に後ろに避ける。いくら実力があっても相手の方が上手なら遊ばられるのも無理はない。

 

「もう充分です!無理をせず後退を!」

「馬鹿言うんじゃねぇよ。俺達はまだまだやれる―――――!!嬢ちゃんあぶねえ!!」

 

中村達也がなにかの気配を感じ取り、刹那を突き飛ばす。

刹那が見たそれは黒い銃弾だった。黒い銃弾が中村達也に直撃した瞬間、黒い膜が中村達也を包み込む。

 

「なっなんだこい」

 

最後まで言いきることなく、次の瞬間には中村達也は目の前から消えてしまった。

 

「え?おっおい達也、お前何処にいっちまった!?」

 

目の前で消えたことに動揺し動きを止めてしまう豪徳寺薫。

このような場で動きを止めてしまったら狩る側としては格好の獲物だ。

黒い弾丸が豪徳寺薫を狩り取るために放たれる。

 

「!!漢魂ァ!!」

 

だが実力を持っている豪徳寺薫は自分に向かってくる敵意に反応して気を放った。

しかし、豪徳寺薫が行ったのは補食される獲物の最後の足掻きと同じだった。

漢と書かれた気の塊と銃弾が衝突し、気の塊は銃弾に貫かれあっさり消滅してしまい、黒い銃弾は豪徳寺薫に直撃し中村達也と同じように黒い膜が彼を包む。

 

「くっくそおぉぉぉ!!」

 

くやしみの雄叫びをあげなら豪徳寺薫も刹那の目の前から消えてしまった。

 

「気をつけなさい刹那!たった今2人を消し飛ばしたのは恐らく空間転移の魔法、当たったら最後と思いなさい!」

 

そう言った刀子の元へ黒い弾丸が襲いかかる。刹那よりも実力が上でもある刀子は自身に向かってくる弾丸に刃を振るう。

鉄と鉄がぶつかり合う甲高い音が響き、弾丸は縦に切られ左右に飛んでいった。

 

「他愛なし……」

 

そう呟く刀子。だが今回は相手の方が上手だった。左右に飛んでいった銃弾から魔方陣が展開し、左右から刀子を包み込む。

 

「そっそんな―――」

 

刀子もさっきの2人のように刹那の前から消えてしまった。気配を感じず、遠方からの正確な狙撃、これほどまでの腕を持つ者を刹那は知っている。

 

「あの黒い嬢ちゃん、余計な真似をしよってからに。これじゃ興醒めやないか」

 

鬼の親分が不満そうに文句を溢す。やはり狙撃手は真名だった。真名の実力は知っている。正直目の前の妖怪達を相手しながら真名の狙撃も警戒しないといけないとなると、難易度はかなり上がってしまう。

どう対処すればいいか考えを巡らせていると、刹那の名を叫びながらカモが肩までよじ登ってきた。

 

「刹那の嬢ちゃん、ここはもう駄目だ。相手も本腰入れ始めたのかロボ軍団も脱がすビームじゃなくて当たった奴を消し飛ばす弾を使い始めやがった!一般人の参加者や魔法使い関係なく消し飛ばしていきやがる」

「私も目の前で刀子さん達が消えてしまったのを見ました。しかも彼方には真名が居ます。弾を切っても消し飛ばされるならこちらとしてはどうしようもありません」

 

あの嬢ちゃんが……と歯噛みをするカモ。カモも真名の実力は知っているし、仕事になれば例えクラスメイトでも容赦ない仕事人だ。

 

「……ここは一旦引くぜ。恐らく兄貴達も復活して動き出しただろうから、合流して兄貴の護衛をした方が超の嬢ちゃんにたどり着く確率も高くなるだろうからな」

「その意見には賛成ですが、目の前のこれをどうにかしなければ……話はそれからです」

 

刹那の言うとおり目の前には百を越える妖怪達が。まずはこいつらをどうにかしなければいけない。

 

「俺っちに巻かせな刹那の嬢ちゃん。こんなこともあろうかと、策は用意してあるんだぜい!」

 

そう言って何処から出したのかと大量のマグネシウムとライターを取り出したカモ。それを見ただけでカモが何をするのか理解した刹那は腕で顔を覆う。

マグネシウムに火をつけた瞬間には眩い光が妖怪達の目を一時的に潰されたことに叫び声を挙げる妖怪が何人かいた。

中には嗅覚に優れている妖怪もいる。匂いで刹那を嗅ぎわければいいと鼻をひくひくとして刹那を探す。

だが全く鼻がきかない。何故なら

 

「戦いっていうのは先を読んでおくもんだぜ。楓の嬢ちゃんに臭い付きの煙り玉を貰っておいて正解だったぜ!」

「流石の用意周到さですね。これなら真名の狙撃も阻害できる」

 

煙幕のお陰で真名も狙撃が出来ないでいた。真名の仕事人ぷりは知っている。いざというときに弾の消費がないように無駄撃ちはしないだろう。

 

「飛べ嬢ちゃん!一気に飛んじまえば射程距離から離れるだろうさ。今の状況なら羽の生えた嬢ちゃんも演出の1つと思われるだろうぜい」

「分かりました。一気に上昇するので確り捕まってください」

 

刹那は一気に空へと舞い上がる。上空で一時停止をし目的地の方角へ羽ばたいた。

真名は刹那が煙から出た瞬間銃を構える。が、刹那は自身の出せる最高速度で一気にその場を離脱。直ぐに射程圏内から出てしまった。潔い身の退きかたに感心しながら銃の構えを解く。

目が戻り、煙が晴れた後には刹那の姿が無かったことに落胆の色を見せる妖怪達。

 

「仕方ない、今から自由行動や。1人で動いてもええし、団体で動いてもええ。おもろそうな奴と出会ったら思う存分暴れてこい。まぁカタギの奴に出会ったら適当に襲う振りして、大袈裟にやられた振りをして目の前から逃げろ。まぁ、節分みたいなものやな」

 

親分が修学旅行の引率の先生みたいに子分の妖怪達に指示を出す。

親分はどうするんですか?と1人の鬼が聞くと

 

「あの大きな木の下の元に面白いもんが集まろうとしとる。悪いが、今回は独り占めさせてもらうで。戻ったら土産話聞かしてやるからな」

 

子分達が快く親分を見送り、地響きを立てながら自身が向かう場所へ赴く。しかしそこは、マギとアーチャーが戦う場所であった。

一方の真名も

 

「刹那が退いたということは、ネギ先生も動き始めたということか。なら私も動くとするか……すまないなネギ先生、私は超の考えに賛同して超側に付いた。超の計画が完遂させるために障害として排除させてもらうよ」

 

自身の役目を果たすために、場所の移動を始めるのであった。

 

 

 

そして場面はマギとエヴァンジェリンへと戻る。

 

「―――漸く来たか。怖じけて逃げ出したのかと思ってヒヤヒヤしていた所だ」

 

世界樹前広場でアーチャーが大胆不敵に佇みながらそう言った。

 

「約束の場所には5分前に到着が常識だろう?本当はどっかの決闘宜しく遅れて油断したところを討つなんてことも考えてたが、後味が悪いし、俺のキャラじゃねぇからやらなかったぜ。ありがたく思いな」

 

相手の挑発に挑発で返す。両者の眼前で火花が飛び散る。

 

「ここで貴様を消して、私の因縁に決着をつける」

「ほんとさ、お前そればっかじゃん。そこまでお気に入りなのかそのフレーズ。いい加減聞きあきたしお引き取り願いたいんだが」

「悪いが私はマギと一緒に貴様の相手をするぞ。坊やからこの後起きるかもしれない事を聞いたからな。貴様を倒せるならさっさと倒してしまった方が良いからな」

 

アーチャーは夫婦剣、干将と莫耶を具現化させ構えマギは仕込み杖の刃を抜く。そして

 

「「―――――!!」」

 

雄叫びをあげながら、目の前の自分の敵にむかって刃を振るった。

 

 

 

 

 

 



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激化する学園大戦

マギがアーチャーと戦い始め、別の場所でネギ達が超の元へ向かうために駆ける。

その超はというと、突如巨大な立体映像で現れ、参加者や魔法使い達を挑発するような演説を始める。序でに自身が経営してる超包子をちゃっかりと宣伝するという抜け目のない事をした。

道中では田中や蜘蛛型の多脚のロボットがネギ達に襲いかかるが、道中は古菲やハルナがゴーレムを召喚し蹴散らしてくれたお陰でネギは力を消耗することはなかった。

そしてその彼女達の中でも一番前に出て戦っていたのは、以外にもプールスだった。

 

「やぁぁぁぁッ!!」

 

両腕をウォーターカッターの様に鋭利にし、鞭のようにしならせて田中を数体切り捨てた。はたから見れば幼い少女が大人を切り捨てる光景はかなり猟奇的な光景ではあるが、これは全てマギのためであった。マギが自分の成すべきことを全うするために、戦うことを嫌い恐れている少女が大好きな兄のために勇気を出し、一歩踏み出した。

なんと素晴らしき感動的な光景だろうか。だが……

 

『強い奴はいねがぁぁぁぁっ!!』

「!!きゃああぁぁぁぁぁ!!」

 

急に現れた妖怪達の恐ろしい形相に、プールスの勇気は一瞬で恐怖に塗りつぶされてしまった。

妖怪達が現れたのなら自分も戦おうとネギは戦闘態勢を取ろうとした瞬間何処からか巨大な手裏剣と飛ぶ斬撃が妖怪達を襲う。

 

『ああああぁぁぁぁぁぁ!!』

 

直撃した妖怪達は明後日の方向へ吹き飛んでいった。今の手裏剣と斬撃は自分達が知っている者の助太刀であった。

 

「漸くお目覚めでござるか。寝坊助でござるなネギ坊主」

「皆さんご無事ですか!?」

 

忍装束に着替えた楓と真名から逃げてきた刹那が空から現れた。

 

「楓さん刹那さん!2人共無事だったんですね」

「兄貴、俺っちもいますぜい。超の奴、いけいけで攻め込んできたせいであっちもこっちも乱戦状態ですぜ!」

 

刹那の肩からネギへ飛び移りカモが簡潔にネギに伝える。走っている時もあちこちでの戦いを見てきたからぐずぐずしてる暇はなさそうだ。

 

「ここで立ち止まるのは良くはないでござろうな。ここは敵からは格好の狩場でござる」

 

確かにネギ達が今いる場所は遮蔽物があまりなく、あるとしたら止まっている路面電車が2台だけだった。

直ぐに動こうとしたその時

 

「!!皆さん散って!!」

 

何かの気配を感じたネギが叫ぶ。ネギの叫びに反応した楓と古菲はプールスを抱え路面電車の中へ。

ネギは夕映を刹那はのどかをハルナは自力でもう一台の路面電車に飛び込んだ。

だた1人、亜子はネギの叫び声で逆に足を止めてしまった。それが命取りとなる。

1発の銃声が鳴り、銃弾が亜子に直撃し、亜子を黒い膜で覆ってしまう。

 

「!亜子さん!」

「いけませんネギ先生!あれに当たってしまったらもうどうにもなりません!」

 

亜子を助けようとネギが飛び出そうとするが、刹那が飛び出そうとするのを阻止する。

 

「ネギ先生!絶対勝ってな!ウチ、ネギ先生が負けないって信じとるから!!」

 

自分は何もせずに脱落すると悟った亜子。悔しいと思ったが、自分ができる事はもう応援することしかない。

亜子はネギを応援し、ネギが勝利することを願いながらネギ達の目の前で消えた。

 

「亜子さん!!」

 

亜子が死んだわけではない。だが目の前で自分が守るべき生徒が消えてしまった光景を見て、自身の不甲斐なさで憤慨し拳を握り締めた。

 

『……良く気がついたな。其処からかなり離れた場所から狙った筈なのだがな』

 

いきなり路面電車のスピーカーから真名の声が聞こえてきた。どうやら何かしらの細工でネギ達に話かけているようだ。

 

「……龍宮隊長、やっぱり超さん側に付いていたんですね」

『あぁ。私は超の奴の考えに共感して超側に付いた。まぁそれ相応の報酬は頂いているがな』

 

不敵に笑っている真名。正に何時でもお前達を狙い撃ちしてやると行っているようだ。路面電車に籠っていたら格好の的。しかし飛び出したとしても其処を狙われるだけだ。どうするか策を考えるネギ。

 

『ネギ先生、君も心の何処かでは超の考えは正しいと思ってるんじゃないかい?どうだろう、今からこちら側に寝返るというのは。超も歓迎すると思うよ』

 

今度は揺さぶりをかけてくる真名。明らかに罠だ。だがその罠を打ち破る手段を思い付かない。どうしようかと思いながらポケットをまさぐっていると何か固いものが手に当たる。

 

(!これなら行けるか……正直確証はない。けど、やるしかない)

「……龍宮隊長、僕は先生です。先生なら生徒が危ない事をしようとするなら止めるのが遣るべきことです!!」

『……そうか、残念だ。ならネギ先生、君は此処で退場だ』

 

ぶちっとスピーカーから音が消えた直ぐに銃弾が路面電車に直撃し路面電車を黒い膜が覆う。

 

「「ネギ坊主!!」」

「ネギお兄ちゃん!」

 

楓と古菲プールスが悲鳴を上げる。自分達では目の前の光景をただ見ているしか出来ない。そして目の前のネギ達を乗せた路面電車は音もなく消えてしまった。

 

「ネギお兄ちゃん……」

 

目の前でネギ達が消えてしまった光景を見て呆然としているプールス。ネギ達を護れなかったことに悲痛な顔を浮かべる楓。

すると目の前の空間が歪んだと思いきや、次の瞬間には無傷のネギ達が現れた。

 

「ネギお兄ちゃん!!」

 

ネギが無事だったのを見て飛びはねて喜ぶプールスとほっと胸を撫で下ろす楓と古菲。

 

『驚いたなネギ先生。今のはどういったマジックを使ったんだい?』

「企業秘密、です」

 

今度は楓達がいる路面電車から真名の声が聞こえ、ネギは余裕そうな表情を浮かべながらそう答えた。

種は簡単。ネギが持っていたカシオペアを使い、一瞬だけ時間跳躍をしたのだ。その件のカシオペアからは紫電が走っている。一週間の時間跳躍で無理をしすぎたのか、今のような緊急脱出は後何回か使えるかはわからない。

しかしこれ以上真名に足止めされてしまったら時間がなくなってしまう。そんなネギを護ように楓が前に立つ。

 

「ネギ坊主、ここは拙者が。龍宮真名は拙者が引き受ける。一度忍者と狙撃手、どちらが強いか試したかったでござるからな。だから前へ進めネギ坊主」

「……おねがいします、楓さん」

 

今は楓を信じ先に進むしかない。だがもう一度真名へ言いたいことがあるネギは立ち止まり

 

「龍宮さん、それでも僕は僕達はあなた達の計画を止めさせてもらいます!!」

 

それだけ言うと、前へ進むためにネギ達は駆け抜ける。

 

「良かったのでござるか?ネギ坊主を行かせるような真似をして。立派な職務怠慢でござらぬか?」

『そうだな。だがそれでも気になってな。ネギ先生と超、どちらの思いや覚悟が強いか……とな』

 

そうでござるかと笑う楓。糸目の楓が開眼し本気の気を纏う。

 

「さて、ここからは一切の問答も無用」

『殺しあいまではいかないが、思う存分やり合おうか』

 

真名の元へ向かうために、楓は大きく跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

少々時間が遡り、真名が狙撃で魔法使い達を強制退場させている間、とある場所で

 

「やあぁぁぁぁッ!!」

 

ハマノツルギを剣状態にしたアスナが超に向かって刃を振り下ろしていた。しかし簡単にアスナの攻撃を避ける超。

 

「どうした明日菜サン。愛しノ高畑先生ガ目の前から消エてしマっテ怒り心頭カ?」

「うっさい馬鹿鈴音!いい加減大人しくしなさいよ!!」

 

激昂しながらハマノツルギを振り下ろす。が、怒りで太刀筋がバラバラで素人でも目を凝らせば避けられる位雑だった。

なぜここまでアスナの感情が怒りで昂っているのか、それはさっきまでアスナはタカミチと行動を共にしていたからだ。

ヒーローユニットとして動いていたアスナ。そこに偶然とスクナ型の巨大ロボットを足止めしていたタカミチと出くわしたのだ。

其処からはタカミチに同行して田中や妖怪達も相手にしていった。フラれはしたが、タカミチと一緒に戦うことが出来たのは正直嬉しかった。

だがそんな嬉しいといった感情は直ぐに消し飛ぶことになる。超がアスナとタカミチの目も前に現れたからだ。

学園で上位の強さを持つタカミチを早く退場させるために、超自らタカミチを刈り取りに来たのだ。

目の前に事の原因が現れたことで一緒に超を捕まえようとタカミチに提案するが、そのタカミチに手で制しられる。

ここは元彼女の担任であった僕に任せて欲しいと超との一騎討ちを望んだタカミチ。タカミチのおねがいに頷くしか出来なかったアスナ。そんなアスナに礼を言い超と対峙するタカミチ。

最初は文句ない実力で超を攻め込むタカミチ。相手はかなりの実力者ということもあり、冷や汗を滲ませながら紙一重でタカミチの攻撃を避ける。

次第にタカミチの方が優勢になり、自身の勝ちを確信したタカミチがもう止めるんだと君のやり方や考えは危険なものだと説得する。

しかし相手は大人顔負けの頭脳を持つ天才の超だ。タカミチの説得を上回る考え方で説き伏せていく。そして

 

「大切な師ヲ護るコとガ出来ず二死なセた貴方と違イ、私ハもっト上手クヤれる」

 

自身の大きな傷であるトラウマを抉られ動揺を隠せないタカミチ。

 

「心が揺レたナ高畑先生、それガ貴方ノ敗因ダ」

 

タカミチの背後に瞬時に回った超が真名が撃っていたものと同じ銃弾をタカミチに当てる。瞬間にタカミチを黒い膜で覆い、悲痛な表情を浮かべながらタカミチは強制退場をしてしまった。

そして今に至る。やはりアスナの闇雲な太刀筋では超を捉える事は出来そうにない。

今のアスナは怒りと一緒に悲しみの感情が渦巻いていた。元担任のタカミチが力じゃなく言葉で説得をしようとしたのに、その思いを無下にしたのが許せなく悲しかった。

 

「あぁそウ言えバまダ聞いテなかっタな。明日菜サン、一週間後ノ世界ハどうナっていたカな?とてモ素晴らしキ世界二なっテいたダろう?」

 

超の問いかけにアスナはハマノツルギの柄を強く握りしめながら

 

「素晴らしき世界ですって?……ふざけんじゃないわよ!!あんたがマギさんを狙う傭兵と手を組んだせいでマギさんが悪魔みたいになるわ、マギさんが暴れて多くの人が死んで世界が滅亡寸前になるわ、あんたのやろうとしたことで世界はひどいことになったのよ!それに、それにあんたも死んじゃったのよ!?最後まで踏ん張って死んじゃったけど、アタシはとても辛そうに見えた……もう、こんなことはやめよ?もしかしたらこのままだと一週間後と同じようになっちゃうかもしれない。おねがいだから1人で何でも抱えこまないで……」

 

あの光景を思い出して涙を流しながら、超にこの計画を止めて欲しいと懇願するアスナ。

しかしアスナの想いは超に届くことはなかった。

 

「そうカ、一週間後デハその様な結果二なっていタのか。しかシ残念ダが、涙ヲ流してモ私にハ何も響かなイ。最悪ノ結果ヲ聞いてモ私ノ覚悟ハ揺らグ事ハなイ。その世界デは私ハ死んだガこの私ハまだ生きていル。なラより良イ結果二なるヨうにすれバ問題なイ。それ二、分かっただロう明日菜サン。マギ・スプリングフィールドと関わっタせいデろくナ事二ならなイ。此を期二関係ヲ改めルコとをお勧メするヨ」

 

全く考えを変えようとしない超。天才だからなのか分からないが意固地になっているように見えた。何処か初めて会い、まだ波長が合っていないネギと姿が重なるようにアスナは感じた。

自身の想いが簡単にあしらわれたことに怒りと悲しみの感情が濁流のようにぐるぐると頭の中で巡る。

何で、どうして分かってくれないの。負の感情で頭が一杯になり

ぷっつん―――とアスナの中で何かが切れた。

その瞬間、魔力と気が爆発的に膨れ上がりアスナの体を纏った。

雰囲気が変わった。超はアスナの気配がさっきとはうって変わって変化したことで警戒したが、一瞬で超の目の前から消え、背後に回った。

持ち前の魔力でここまで早く動けることに驚きながらも腕を交差させアスナの攻撃を何とか耐えるが、そのまま数歩下がってしまう。

そのままアスナが追撃してくる。しかしさっきまでのやたらめたらな攻撃ではなく、正確な太刀筋。下手したらそのまま切り捨てられそうな程鋭かった。

 

(何ダこの太刀筋ハ、さっきまでとはまるデ違ウ。キレて逆に冷静二なっタ?いや違ウ。さっきまでノ明日菜サンとは雰囲気ヤ気配ト違ウ。まるデ"こっちの方ガ明日菜サンにしっくリ合ウ"様ナそんナ感じダ)

 

今確かなのは遊んでいたら下手したら殺されはしないだろうが、無事じゃすまないだろうというところ。

本気を出して仕留めないといけない。超の服にもカシオペアが埋め込まれている。先程タカミチを仕留めたように、瞬間に時間跳躍をして背後に回って銃弾を当てて強制退場するだけだ。

タイミングを見計らい、アスナがハマノツルギを振り下ろした瞬間に時間跳躍をして背後に回る。

勝った。勝利を確信し、銃弾をアスナの体に当てようとしたが、目を見開くことになる。

瞳孔の開いた目でアスナが背後にいる超を凝視していたからだ。まるで超が背後に回ることを読んでいたかのように

振り返ったアスナが超にハマノツルギを上段で振り下ろした。

このままではやられると判断した超は再度防御の構えを取るが、突如何か高速で動くものが横からアスナを掠め取るように連れ出した。

 

「―――あっぶねー、遠くから様子見してたけど、クラスメイトがスプラッタ現場を作るんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたっすよ。それよりアスナ、正気にもどれー」

 

修道服に身を包んだ美空がアーティファクトでアスナを連れ出し全速力で逃げ出している。

 

「……美空、ちゃん?……!離して美空ちゃん!あのバカ超をふん縛らないと!!」

「いやぁさっきまでのアスナならできるかもしれないすけど、今のアスナじゃ返り討ちにあうのが関の山っしょ。こっちもココネとシスターシャークティがやられちゃったから旗色悪くなってさ。一回下がって体制を立て直した方がいいっしょ」

 

喚くアスナを無視してわりにあわねっすと思いながら速度をあげ離脱するのだった。

 

「……今ハ美空に救ワれタ、そウ思った方ガ良いカもシれナいナ……」

 

深く息を吐き、気持ちを落ち着かせる超。さっきのアスナは本当にやばかった。下手をすれば殺されていたかもしれない。

少々遊び過ぎた。そう自分を叱咤し、もう自分は高みの見物と洒落こんだ方がいいかもしれないと判断する。

 

「さぁ、早くこイ。急がなイと間に合わなクなるゾ」

 

そう呟いた超は、背中に取り付けていたスラスターを吹かし、空へと飛んでいった。

 

 

 

 

 

 



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プールス 小さな少女の大きな一歩

楓が真名の足止めをし、超の元へ向かうために前へと駆けるネギ達に更なる刺客がやってくる。

 

「あっ貴女達は!?」

 

それはいつもエヴァンジェリンと共に行動している茶々丸?大と背丈がネギ位の茶々丸?小達であった。各々自動小銃や刀等を装備している。その中の1人の茶々丸?大が徒手空拳で古菲に殴りかかってきた。

問答無用で攻撃を仕掛けてきた茶々丸?大に驚きながらも、冷静にカウンターの組技で茶々丸?大を無力化する古菲。

 

「いきなり何するアルか茶々丸!落ち着いて話をっぐきゃ!?」

 

話し合いに持ちかけようとするが、背中に付いていたコードの様なものを古菲に当て、電撃を浴びせる。

電撃で痺れ変な悲鳴をあげてしまう古菲。その間に拘束が解け、古菲の拘束から抜けて後退する茶々丸?大。

 

「あのお姉ちゃん達、茶々丸お姉ちゃんじゃないレス」

 

プールスの言う通り目の前にいる茶々丸?達は自分達が知っている茶々丸とは違う感じがしてきた。

確かに茶々丸はロボットであり、茶々丸の記憶や思い出は言い方が失礼だがデータの1つでしかない。おそらく開発者である超や葉加瀬だってバックアップ等はしているだろう。

だがそれだからと言っても、目の前の茶々丸?達は自分達が知っている茶々丸と全然違う。

ロボットでありながらも段々と感情が現れてきた茶々丸と違い、目の前の茶々丸?達は無機質で能面のよう。まさにロボットそのものだ。

そんな茶々丸?達に警戒していると茶々丸?達が一斉に話し始める。

 

『はい、我々は茶々丸の予備の身体であり通称『茶々丸妹』と申します。データも最低限のものしか入っておりませんので、貴方方には何の感情もありませんのであしからず』

 

故にと茶々丸?改め茶々丸妹で自動小銃を持った者がネギ達に銃口を向ける。

 

『私達の創造主の命により、貴方方を排除します。お覚悟を』

 

茶々丸妹が引き金を引こうとした瞬間、ハルナの方が早く動いた。

 

「残念だけど、そっちがそういう風に動くのは読んでたよ!いけ撹乱ゴーレム、囮カモ君大行進!!」

『カモっす!!』

 

ハルナのアーティファクトに書かれた無数のカモが飛び出してきた。そして茶々丸妹が放った自動小銃の銃弾に直撃し、鈍い悲鳴をあげながら次々と消えていった。

 

「思ったとおり!着弾前に何かにぶつけて誘爆させた方が最善策よ!」

「いい案なんだけどよ、モデルになった俺っちにとっては何か複雑……」

 

カモの嘆きにネギ達も苦笑い。

 

「……それは良いこと聞いたアル」

 

何処か安心した声色で古菲は茶々丸妹達と間合いを詰め、先程組技を仕掛けた茶々丸妹を殴り飛ばした。

 

「茶々丸じゃないなら、思い切りやれるアル」

 

茶々丸じゃないなら無問題。古菲の切り替えの早さは見事なものだ。

 

「ネギ坊主、ここは私に任せていくアルよ。そんで超を止めるアル。頼む、超は私の親友アルからネ」

「古老師……分かりました。ここは任せます。ですが、無理はなさらないでください」

「大丈夫だってネギ君!私も残って戦うからさ!」

 

とハルナもここに残ると言い出した。

 

「ハルナ!?」

「大丈夫だってのどか。出過ぎた真似はしないからさ。それに、こんな美味しい展開逃したら勿体ないでしょ?」

「全くハルナ、貴女って人は……くれぐれも古菲さんの邪魔だけはしないでくださいです」

「ゆえっちも心配性だねぇ。ほらほら、こんなところで油売ってないで早く行きなって!」

「ハルナさん、ありがとうございます!お願いします」

 

この場は2人に任せて、先へと急ぐネギ達。

 

「さて、派手にやるアルかハルナ!」

「おうよ!超達の科学力と私の想像力どっちが強いか、いざ勝負と行こうじゃない!」

 

剣の女神を召喚し、ハルナと古菲対茶々丸妹がぶつかり合う。

 

 

 

 

 

「兄貴、もうそろそろ着きそうですぜ!」

 

茶々丸妹達を古菲とハルナに任せ、また暫く走って漸く目的の場所へ到着しようとしていた。

あと少し、あと少し……ネギも気持ち急かされるが、またもネギ達に壁が迫り来る。

 

「っ!ネギ先生止まって下さい!!」

 

刹那の叫びで急停止するネギ。建物の屋根から何者かが何十人と飛び降りてきた。

 

「また貴様らか!」

 

飛び降りてきたのは鬼等の妖怪達であった。

 

「おぉ、さっきの嬢ちゃんに京都で喧嘩した外国の坊主もいるやないか。強そうな面白そうな奴はあの黒い嬢ちゃんが片っ端から消しちまって、全然楽しめなかったんや。だから……俺らと遊んではくれねぇか」

 

妖怪達はやる気に満ち満ちており、刀や鉈に大槌など武器を構える。目の前の妖怪達は雑魚ではない。ぐずぐずしている暇はない。現に巨大ロボットの何体かは目的地に到着しており、あと少しで全世界に魔法が認知されてしまい、超の勝ちとなってしまう。もう一分一秒も無駄には出来ないのだ。

 

「ネギ先生、ここは私に任せて早く先へ。もうこれ以上時間を無駄には出来ません」

「そんな、この数を刹那さん1人で相手にするのは無理です!僕も一緒に戦います!」

「いけませんネギ先生!貴方のやるべき事は目の前の敵を倒すことじゃない。超を止めることです!もし、超を止めることが出来なければ、貴方が本当にやらなければいけないことを出来なくなるかもしれないんですよ!」

 

だが、それでもネギは首を縦には振れなかった。真名や茶々丸妹達はまだ加減等を出来るかもしれない。しかし目の前の妖怪達は完全に部外者。こっちの事情など考えてないかもしれない。

やっぱり自分も戦うとネギが言おうとした瞬間、信じられない一言をネギは耳にする。

 

「ネギお兄ちゃん、プールスもここに残って刹那お姉ちゃんと戦うレス」

「っ!プールス!?」

 

思わず信じられないと目を見開いてプールスを見るネギや刹那達。まだ幼い少女であるプールスが、先程も急な妖怪の登場に驚いて萎縮してしまい、現に目の前の妖怪達を見て足を震わせているプールスが小さな勇気を振り絞り戦うと言ったのだ。

 

「ばっ馬鹿な事を言わないでプールス!君はまだ小さいじゃないか!無理をしなくていい、ここは僕に任せて」

 

戦わなくていい。そう言おうとした瞬間、プールスがそれを遮るように大声で叫ぶ。

 

「私は!マギ・スプリングフィールドお兄ちゃんとネギ・スプリングフィールドお兄ちゃんの妹、プールス・スプリングフィールドレス!!私だってお兄ちゃん達の役に立ちたい!だから、今此処で戦うレス!!」

 

かつてプールスは形とはいえ幽霊のさよを徐霊しようとした真名とさよを護るために戦ったことがあった。プールスは誰かを護るため、助けるためならば、その小さな体で戦う勇気と精神力、そして覚悟があるのだ。

 

「ネギ先生、ここは私とプールスに任せ、早く先へ」

 

刹那の言葉にまだ渋っているネギであったが、今度は怒気をはらんだ声で刹那は叫ぶ。

 

「貴方は!啖呵を切り、覚悟を決めた妹の思いを踏みにじるのですか!?彼女の思いを尊重するのならば、彼女を信じ、前へと進んで下さい!……心配し心を痛むのはとても分かります。私が全霊をもって彼女に傷一つつけないように御守りしますので信じて下さい」

「……………分かり、ました。刹那さん、どうか……プールスをお願いします」

 

何とかネギが折れ、刹那にプールスを頼む。

 

「プールス、どうか無理をしないでね。それと……これが終わったら、一杯頑張ったよってマギお兄ちゃんに誉めて貰おうね」

「はいレス!」

「プルちゃん、無理しないでね。私、プルちゃんが傷つくのは見たくないからね」

「プールスちゃん、こんな私が偉そうに言えることじゃないですが、貴女はマギさんやネギ先生の立派な妹さんです」

「本当、お前さんは立派な妹だよ。兄貴や大兄貴の弟分として鼻が高いってもんでさ」

 

この場を刹那とプールスに任せて、先へと急ぐネギ達。絶対超の目的を止めることを再度胸に刻んで。

ネギ達を見送った刹那は妖怪達へ向き直す。向き直ると奇妙な光景が広がっていた。妖怪達がぼろぼろと涙を流していたからだ。

おんおんと大声をあげながら号泣する者もいれば、静かに男泣きする者、下唇を噛み涙を流さないようにする者もいた。

 

「……なぜ貴様等がそこまで泣いているんだ?」

 

あまりにも奇妙な光景のため引きながらも聞く刹那に、リーダー格の鬼が嗚咽混じりに答える。

 

「そのめんこい嬢ちゃんがなぁ、自分等の兄貴のために俺らに啖呵を切ったのが健気すぎてなぁ。俺らこういうの結構弱いんよ」

 

親分いたら大号泣で小さい池が出来るかもなぁとこぼすリーダー格の鬼。

彼等は妖の者達ではあるが、外道というわけではない。義理人情を貫く者達だ。しかし

 

「そんなにこの子の覚悟に心を打たれたのなら、此処は引いてくれると私としても助かるのだがな」

「悪いがはいそうしますと言えんのがこの世の中や。俺らも呼び出されたもんとして契約はきっちり果たす。それがルールや。恨んでもらって結構やで」

 

律儀な者達でもあり、プールスに向けて武器を向ける妖怪達。

立派な覚悟を見せたプールスであるが、まだ精神は幼い幼女。

また恐怖に呑まれそうになりかけていると、刹那がプールスの肩を優しく叩く。

 

「臆するなプールス。あの妖怪達の前で覚悟の叫びを見せたことで君はもう勝ったも同然だ。後はあいつらに呑まれなければ君の勝ちだ。君はネギ先生とマギ先生の妹、絶対大丈夫だ」

「…はいレス!」

 

刹那に鼓舞され落ち着きを取り戻したプールス。一方妖怪達は円陣を組んでなにやら作戦会議をしており、暫くして作戦が決まったら鬨の声をあげ戦闘体制となる。

 

「いくで嬢ちゃんら、タマまではとらん。だが覚悟はして貰うで。いてもうたれや!!」

『うおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

リーダー格の鬼の突撃の一声で突撃してくる妖怪達。刹那も夕凪を構え、プールスもぎこちないながらも拳を構えた。

刹那の所にはリーダー格の鬼と、狐のお面を着けた妖怪、鎧武者の河童他数体が斬りかかってきた。

やはり相手は手練れの妖怪達、斬りかかっては、刹那が反撃してきたら直ぐに退き、後ろに待機してた者達が斬りかかるという撹乱戦法で挑んできた。

対するプールスはというと

 

『うおぉぉぉぉぉぉ!!』

 

鬼、河童、下半身が蛇の妖怪達がプールスに襲いかかる。だが、動きが遅い。明らかに手加減していると刹那は分かった。

どうやら先程の円陣での作戦会議でプールスには手を抜いて戦うように決めていた。小さい少女であるプールスに怪我をさせないための配慮だろう。喧嘩が好きな彼等ではあるがそういう所には好感が持てると思った刹那。

だが目の前のプールスは普通の女の子ではないのだ。鬼が太刀を振り下ろした瞬間に、プールスは人間の体からスライムの体に変化させる。斬られてもスライムの体なので無傷だ。いきなりプールスがスライム状態になったのを目撃して、ぎょっと目を見開く妖怪達。

その隙にスライム状態で跳び跳ねるプールスは妖怪達の背後に回り、また人間の体に戻り腕だけをスライム状態に戻しそして

 

「やぁぁぁぁ!!」

 

腕を伸ばした。その攻撃の仕方は前にハルナが見せてくれた某海賊漫画の主人公の~のピストルのようだった。

 

「うげぇ!?」

 

勢いよく伸びたプールスの腕は鬼の腹に当たり、鬼は鈍い声を出しながら後ろに吹き飛んだ。

 

「何やあの嬢ちゃん、人間の匂い以外に妖の匂いが混じってると思ったらそういう訳あり嬢ちゃんやったのか!?」

 

リーダー格の鬼が刹那と鍔迫り合いをしながら刹那に問い掛ける

 

「そうだ。あの子は人間の身勝手な行いの犠牲者の1人だ。それでどうする、あの子がどういった存在か知り、手加減を止めて本気で斬りかかるか?」

 

刹那の問い掛けに、人間っちゅうのはほんまに勝手な生き物やなと怒りを露にするリーダー鬼。

 

「馬鹿言うんやない。俺らが一度決めた事を簡単に覆すのは道義に反するってもんや。あの嬢ちゃんの動きは明らかに素人、素人相手に俺らが本気出して怪我させたら、そりゃただの外道や」

「それは賢明な判断だな。あの子の長兄であるマギ先生はあの子を大切にしている。あの子が貴様等に傷つけられたと知れば、貴様等の魂如灰塵に帰すると知った方がいい」

 

マギが本気でキレて自分達が炎の魔法で燃やし尽くされる光景を想像し震え上がるのだった。

一方のプールスは妖怪達相手にぎこちないながらも戦っていた。相手の方が手加減をしているからと言っても自分の方が弱いために勝っているとは思えなかった。腕や脚をスライム状態にして伸ばしたりして攻撃しているが、勢いよく伸ばして威力をあげたとしてもたいしたものじゃない。最初に殴り飛ばされた鬼も飛ばされただけで大したダメージは入っていなかったのだ。

 

「どっどうしよう……」

 

プールスはもう目の前の妖怪達に対して有効な戦いかたが何なのか分からず追い詰められていた。

自身の最大の武器は腕をウォーターカッターのようにして鞭のように振り回すものだ。田中等のロボットも簡単に切り裂くことができる。

だが目の前の妖怪達はロボットではない。見た目がおっかないが嘗て自分を虐めていた女悪魔のような酷い気配を感じなかった。

見た目が怖くてもこの技を無闇に使いたくない。でももう使える手段がない。なにか手はないかと辺りを見渡す。

そして、戦いで壊れたであろう水が止まらなく流れ続ける消火栓を見つけた。

 

「……これレス!!」

 

消火栓を見て何かを思いつき、壊れた消火栓で出来た水溜まりに近づき片足をスライム状態にして水を吸い上げていく。

妖怪達は次にプールスがどういった手を出してくるのか半ば楽しみに待っていた。それはまるでやんちゃな子供と戯れる大人のであった。相手は子供、力も大したものじゃない。そんな子供に対して大袈裟にやられた振りをして子供を満足させるものだ。

だが妖怪達は失念していた。子供の遊びだと嘗めていると、痛い目を見るということを

水を吸い続けるプールスは片腕を妖怪達に向ける。そして

 

「っええい!!」

 

五本の小さい指先から、高速で水の塊が放たれる。真っ直ぐに飛んでいった水の塊は妖怪達に飛んでいき

 

『いででででででで!?』

 

水の塊が体に当たり、地味だが余りに痛く悲鳴を挙げる妖怪達。ただの水だと侮るなかれ、勢いよくプールスから放たれた水の塊は高速でBB弾が当たるほど。地味だが確実に痛い。

これはとてもかなわんと思っていたら、突如地面が隆起し巨大な壁のような妖怪が現れた。

有名な妖怪少年の仲間の1人であり、壁役で有名な妖怪、ぬりかべだ。

 

『ぬ~り~』

 

喋っているのか鳴いているのか分からないが、こんな攻撃俺には効かないぞと言っているようだった。現にプールスが放っている水の塊もぬりかべが自分の体をならしてるため直ぐにもとに戻ってしまう。攻撃しても直ぐに戻ってしまう鼬ごっこにらちが明かない。

しかし直ぐに対ぬりかべ対策を思いついたプールスは吸い上げた水を溜めに溜め、指先ではなく掌をぬりかべへ向け

 

「やあああぁぁぁ!!」

 

プールスの倍もある大きさの水の塊がぬりかべに向かって放たれる。その勢いは正に砲弾。水の砲弾は勢いよくぬりかべに直撃する。

 

『か~べ~』

 

水の砲弾はぬりかべの体を貫通することはなかったが、ぶつかった衝撃で後ろへ倒れ、そのまま何人かの妖怪を巻き添えにした。

妖怪達の中で防御力が高いぬりかべを少女が倒したことに皆呆然とし、リーダー鬼も大口を開け驚愕した。

プールスは刹那の方へ振り返り

 

「ブイ!!」

 

Vサインを見せた。

 

「どうだ?あの子は貴様等が思っていた以上に強かだったろう?」

 

未だに大口を開けているリーダー鬼に不敵な笑みを浮かべる刹那。

 

「……いやぁ、世の中にはおっそろしいお嬢ちゃんがいるもんやなぁ」

 

世の中は広いなぁとリーダー鬼はそう思ったのだった。

 

 

 

 

 

 



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プラグイン!ちうちゃん トランスミッション!

今回は久しぶりに一万越えの文字数となりました。


学園内で激闘が繰り広げられているなか、校舎内で戦いを始めようとしている者がいる。

 

「―――という事で、急遽こんなイベントになったがこの計画で超が勝っちまうと、ネギ先生と超が結婚するという理不尽な結果になっちうまんだと」

 

自分ながら何を言ってるんだかとツッコミを入れたくなる千雨。普通ならこんな話作り話だ馬鹿げてると言いそうなものだが、ネギを慕い好いているあやかはそんな結婚許しませんわと鼻息荒く血走った目で抗議し、そんな結婚やだよーと弟のように可愛がるまき絵も断固反対の異を唱える。

好きな相手にここまで行動的になることに舌を巻くのと、自分もここまでとは言わないが、行動的になりたいなと見習う千雨であった。

さて、ではどうするか、勢いで自分達も突撃をするか?無理だ数秒で返り討ちにされるのがオチだろう。

それに実況の様子を見ていたが、あの銃弾に当たったら即アウトで二度とイベント中には戻れないだろうと千雨は見抜いていた。

戦いは適材適所、夕映にアーティファクトで調べてもらい自身の能力は電子系統に特化したものだという。

現在も超側のハッキングで学園のシステムは滅茶苦茶になっている。だったら自前のハッキング能力とアーティファクトの力で対抗してやろう。

何回か深呼吸する。近くに誰かいるときにこの台詞を言うのは恥ずかしいが、ここまで来たら度胸だ。

 

「……アデアット!」

 

千雨が呼び出したアーティファクトは魔法少女のステッキであった。こんなアタシが魔法少女のなんてなと自嘲気味み笑みを浮かべていると

 

「わーなにそれ千雨ちゃんすごくかわいいー!」

「今何もない所から出て来ましたが、手品かなにかですか?」

 

2人にステッキを出すところをがっつり見られたが、ここまで来たらとことん2人を利用してやろうと決めた千雨。

 

「2人とも、これからアタシがやろうと事することは、別に命の危機に瀕する事はないと思う。だが嫌な思いをすることは確実だ。けどネギ先生の力になりたいなら力を貸してくれねえか?」

「何水臭いこと言ってるの千雨ちゃん。そんなことどーんとこい!だよ!」

「ここまで来たら一蓮托生ですわ!打倒超さんですわ!!」

 

頼もしいと言えるか分からないが仲間が増え、千雨は出撃する。

 

「よし、行くか! 広漠の無それは零 大いなる霊それは壱 電子の霊よ水面を漂え 我こそは電子の王 」

 

千雨は呪文の詠唱をし、千雨達の足元に魔方陣が展開し光が包み込むとそのままパソコンに吸い込まれた。

 

「―――――ここは?」

 

気がつけば先程までいた図書室ではなく、水、いや海の中に漂っている千雨達。

 

「すご―い!水の中で息ができる!ってなんで水の中にいるの?」

「私達先程まで図書室にいましたよね?」

「……もしかしなくても電子の海ってやつかここは?まさかマジで電子世界にきちまうとはな」

 

呟くように言いながら乾いた笑みを浮かべていると、7匹の鼠が現れた。

 

『ちう様何なりとご命令を、我ら電子精霊群千人長七部衆、如何なる命令にも従う所存』

 

そしてその鼠の隣に名前を入力してくださいというアイコンが

 

「これが聞いていた電子精霊って奴か。というか今時に名前の文字制限が4文字かよ……」

 

千雨の呆れ声にデータの軽さが信条なのでと律儀に返す電子精霊達。

正直面倒だと思った千雨。今からこいつらの名前を律儀に考えている暇はない。

 

「もう面倒だから太郎次郎とかああああとかでいいだろ」

『そんなちう様ご無体な!?』

 

あまりの扱いに電子精霊達が涙目で訴えかけて来る。

 

「千雨ちゃん可哀想だよ!こんなに可愛いのに!」

「あー、じゃあ名付けはそっちに任せるよ。こっちは確かめたいことがあるし……」

 

オッケー!可愛い名前にするねと電子精霊達に名付けをまき絵に任せ、千雨はいくつか確認してみる。

電子世界という事で姿とかを変えられるかと頭の中でネットアイドル時の格好をイメージしてみると一瞬で姿が変わった。何というはや着替え、この技術を自身のアイドル活動中に使えないのが残念だと思う。

自分達の体はどうなったのか確認してみると、3人で横に寝入っている姿を見る。どうやら電子世界に体まるごと入った訳ではなく、精神だけが電子世界にダイブしたような扱いのようだと理解する。

 

「しかしこの格好は動きにくいな。よしなら、メイクアップコスチューム♪ビブリオルーランルージュ☆」

 

学園祭のコスプレ大会で着た格好へと着替えというか変身する。ちゃっかりポーズを忘れずに。

 

「あっ千雨ちゃんその格好、コスプレ大会のやつだよね」

「まぁなというか、そいつらの名前」

『まき絵様に素晴らしい名前をつけていただきました!』

「いやまぁお前らが満足してるならいいんだけどよ」

 

電子精霊の名前がしらたき、だいこ、ねぎ、ちくわふ、こんにゃ、はんぺ、きんちゃとおでんの具の名前であった。なんでおでんとツッコミをいれたかったが、今はそんな事をしてる暇はない。

 

「ところで千雨ちゃん、ここどこ?」

「どこか現実離れした光景ですわね。現に私達の目の前でお魚さんが泳いでいますし」

「あー、まぁここはゲームの中だよ。ゲームに勝てばネギ先生達を助けられるって所だな」

 

へーゲームなんだと最近のゲームってすごいんですわねとおつむが若干あれなのと世間知らずで簡単に信じてよかったと、話を進めやすくなると思った。

 

「それで千雨ちゃん私といいんちょって何をすればいいの?」

「……正直わからん。まぁ何か起こったら指示だすから――――」

 

とけたたましいアラート音が響く。

 

「どうした!?」

『敵自動巡回プログラムに我々の存在を気付かれました!』

『学園のコンピューター、ほぼ全部乗っ取られているっぽいです!学園の防衛システムが我々を狙っています!』

「なら説明時に聞いた防御結界プログラムとかそういうのを展開しろ!それで少しは持たせろ!」

 

空間に浮かび上がってきたキーボードを叩きながら、電子精霊達に指示を飛ばす。しかし

 

『すんません、まだオプションインストールし終えてないんで、無理ス!』

「ええい!この役立たず共が!というか最初の厳格な精霊のイメージはどうした!?」

『仕様ス!』

 

そんなやり取りをしてる間に敵が仕掛けてきた。最初の敵の攻撃は

 

「まっマグロの大群だー!!」

 

まき絵の驚愕の声が響く。クロマグロ、カジキマグロ、キハダマグロと正に大群と言える数が迫ってきた。

 

「くそ、自前の力で何とかするしかねぇか!!」

 

悪態をつきながらも中学生とは思えない高速のタイピングで防衛プログラムを構築させる。

 

「くらえ!ちう特製緊急防壁!!」

 

急遽作った防壁でマグロの大群を防ぐ。

 

「きゃああ!?」

「マグロの津波だぁああ!?」

 

何とか防いでいるがデータの奔流に押し負けそうになる。

が何とか何とかデータの奔流に潰されることはなかった。

 

『さすがですちう様!』

「いや防ぎきれてねぇ!さっきのデータの中にウイルスが混じってるかもしれねぇ、絶対触るんじゃねえぞ!」

 

千雨が注意をするが一足遅かった。

 

「きゃあああ!なにこの子達ー!?」

「服、服を食べていますわ!!」

 

クラゲに襲われており、触手攻撃でデータの塊になった服を食べられていた。ご丁寧にクラゲの体に超包子と書かれており、クラゲ達が超が送ってきたウイルスであることがわかる。

 

「触ったのかお前ら!なんであからさまなフラグを回収するんだ馬鹿か!」

「だってクラゲ可愛かったんだもん!」

「そっそこはダメですわぁ!!」

 

男子やカモが見れば歓喜な光景が目の前で広がっているが、同性である千雨は顔がひきつる。これが高度な電脳戦なのかと嘆きの感情も沸き上がりそうだが、このままではまき絵とあやかの体もウイルスに食われてしまう。

千雨はキーボードをまた高速で叩き、あるものをプログラムとして作り上げる。

 

「こいつを使え!!」

 

まき絵とあやかに向かって放り投げる。キャッチする2人、それは見覚えがあるステッキ。

 

「千雨ちゃんこれって!」

「ポーズは一昨日教えた通りだ!」

「一昨日ってあれのこと!?」

「わっ分かりましたわ!!」

 

変身!とまき絵とあやかが掛け声をかけると2人の体を光で包み、コスプレ大会で着た格好に早変わりした。

 

「ビブリオレッドローズ!」

「ビブリオピンクチューリップ!」

 

あやかがビブリオレッドローズ、まき絵がビブリオピンクチューリップと名乗りながら決めポーズを決める。

そしてステッキに光を集める。さっきまで好き勝手体を弄くっていたクラゲ達は形勢逆転されたことで後退りをするがもう遅い。

 

「「世界の本を守る為!魔法少女ビブリオン!!」」

 

口上をのべながら極太の光線を放つ。光線が直撃したクラゲ達は綺麗に消し飛んでしまった。

敵を蹴散らしたことに喜びを見せているまき絵。そんな彼女達に新たな敵が向かってきた。

今度は鮫であった。大きな顎と鋭利な歯を見せながらこちらに猛進してくる。しかし今魔法少女の姿に変身した彼女達の敵ではない。

 

「ビブリオ・スパイラルシュート!!」

「ビブリオ・アクアラブソディー!!」

 

ネギやマギに引けを取らないあやかの螺旋状の光の奔流とまき絵の水の激流が鮫達を次々と撃退していく。その後もウイルスに侵食されたデータの魚達が襲いかかってくるが、2人で倒して行く。段々と技名がアニメや特撮の引用と雑になっていくが。

2人はコスプレイヤーの素質があるなと場違いな事を考えながらもこの調子であれば学園のシステムを取り戻せると確信する千雨。

 

「よしこのまま前進するぞ!アタシについてこい、いいんちょ、まき絵!」

「オッケー!」

「超さんにネギ先生を渡したりいたしませんわ!」

 

千雨を先頭にし学園のシステムの中枢へと向かう千雨達。いつの間にかあやかをいいんちょまき絵を下の名で呼んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――さっきまで行けると確信していた自分自身を怒鳴り散らしてやりたいとやさぐれた考えが頭を過った千雨。

最初らへんは順調に進行していった千雨一行。千雨と電子精霊達がシステムへハッキングして進み、あやかとまき絵が千雨達を護っていた。

段々と中枢へ近付くと敵の数や質がレベルアップしていったが、何とか相手をすることが出来た。

しかし学園のシステムの中枢へ到着した時にそいつらは現れた。

上半身は美しい女性だが下半身は蛸の様な触手の怪物、9つの首を持つ巨大な水蛇、水蛇よりも巨大な竜。

スキュラ、ヒュドラ、そしてリヴァイアサン。どれも伝説の海の怪物を目の当たりにして千雨は思った。

 

―――あ、こいつらには絶対勝てない―――と

 

「いいんちょまき絵!こいつらには絶対に勝とうとするな!チマチマした逃げるような戦いかたを徹底しろ!」

 

あやかとまき絵にヒット&アウェイの戦法で戦うように命じる。だが先程まで全勝していたせいか2人の表情はどこか余裕綽々であった。

 

「だいじょーぶだよ千雨ちゃん!ここも魔法少女の私達に任せて!」

「この戦いでも華麗な勝利を手にしてみせますわ!」

 

千雨の忠告を流すように2人は勇ましく怪物達に向かっていった。しかし怪物からしたら愚かな餌が自分達の方へ向かっているだけであった。2人の勝手な行動に千雨は頭を抱える。

 

「あぁお調子もんがぁ、だから苦手なんだ……!お前ら、さっさとシステム取り戻すぞ!へまこいたらアタシらめでたくあの化物共のご飯だ!!」

『合点承知!!』

 

千雨と電子精霊達がシステムへハッキングをかける。しかしプロテクトが何重にもかけられているために解除するまでかなり時間を要する。それまでに2人が怪物に喰われないように祈る。

まき絵とあやかは蛮勇と言われてもおかしくないように怪物に突撃する。最初に狙ったのはヒュドラだ。

 

「行くよいいんちょ!」

「ええ!華麗に決めましてよ!」

 

2人はステッキに力をこめる。

 

「ビブリオ・シャイニングエクスプロージョン!!」

「ビブリオ・オーシャンブレイバー!!」

 

あやかが光の爆発で5つの首を吹き飛ばし、まき絵の水の大剣が4つの首を切り落とした。

 

「やったー!どんなもんだよー!!」

 

またも勝利したと思いガッツポーズをするまき絵。しかしヒュドラがどういった怪物か知らないまき絵とあやかはそれが油断につながる。

ヒュドラは脅威的な再生力で有名なギリシャ神話の怪物。吹き飛ばし切り落とされた首はまるで何もなかったかのように再生した。

 

「そんな!?だったらもう一度倒すまでだよ!ビブリオ―――」

「!!まき絵さん危ないですわ!!」

 

あやかがまき絵を思いきり突き飛ばした。次の瞬間にはリヴァイアサンが猛進してあやかを吹っ飛ばした。あやかが突き飛ばさなければまき絵も巻き込まれていただろう。

 

「ああああぁぁぁぁぁ―――!!」

「いいんちょ!!」

 

吹き飛ばされたあやかを見て悲鳴をあげるまき絵。どう見ても無事ではない。

 

『あやか様ダメージレベル70%オーバー!あと一発もらったらただじゃすまないス!』

「見てたから分かってる!取り戻した学園の防衛システムを使ってでもいいんちょを助けろ!!」

『了解ス!!』

 

だいこが報告し千雨が激を飛ばしながらきんちゃに命じあやかを助けるために急ぐ。

 

「よっよくもやったなー!!いいんちょの仇!!」

「馬鹿まき絵!何も考えもなしで突っ込むんじゃねぇ!!」

 

目の前であやかがやられたことで怒りで回りが見えずリヴァイアサンに突っ込むまき絵。それが命取りになる。

ヒュドラが口から毒液を吐き出す。神話のヒュドラ毒は猛毒だ。そんな毒がまき絵に直撃する。

 

「な……なに、これ……?かっ体が急にうご、か……」

『まき絵様毒状態です!このまま毒が徐々に体を侵食していったら危ないです!』

「あぁもう!だから突っ込むなって言ったんだよ!!」

『学園防衛システム使えます!!』

「よし使え!!」

『はいス!!』

 

ちくわふがキーボードのエンターキーを押すと、某逆襲の機動戦士の無線式のオールレンジ攻撃用兵器が出現し、怪物達を攻撃する。しかし怪物にとっては蚊に刺された痒い程度で簡単に撃破されてしまう。

千雨はシステムに侵入するためにキーボードを叩きながら、まき絵とあやかを助けるために迎撃プログラムを作り上げ続けていた。しかしそう簡単には行かない。

ヒュドラがあやかとまき絵を咥えて捕まえてしまう。さらに

 

『ああああああ!』

『ごめんなさいちう様あああ』

『捕まったス!!』

 

電子精霊達もスキュラの蛸の触手に捕らわれてしまった。そのままスキュラはニヤリと笑いながら千雨に触手を伸ばす。

 

「こっ近付くな!ぬるぬるして気持ち悪いんだよ!!」

 

抵抗を見せるが非力な千雨はあっさりと捕まってしまう。スキュラは長い舌で千雨の頬を舐める。

 

「ひっ……!」

 

相手はデータであるが体感はリアルそのもので不快感が身体中を走る。

 

『ここまでです千雨さん』

「……その声、茶々丸さんか」

 

どこからか茶々丸の声が響く。だがその声はいつものようではなく、感情が抑圧され正にロボットのような声であった。

 

「まさか超側に着くなんてな。てっきりマギさんのためにこっち側に来てくれると思ったんだけどな」

『それとこれとはまた話が別です。私を創ってくださった創造主の命令なら従います』

 

淡々と答える茶々丸に苦い顔を浮かべる千雨。台詞からすると相手が自分達でも容赦するつもりはないようだ。

 

『貴女方はよく奮闘しました。ですがあえて言いましょう、上には上がいる……と。貴女程度のハッキング能力となんの力もないコスプレイヤーなど私が本気を出せばこの程度です。命まではとりません。ですから大人しく我が創造主が作り替える素晴らしい未来をこの特等席で観覧していてください』

 

容赦なく言い放つ茶々丸に悔しさと同時に何処か疑問を感じる。さっきまで一緒にいた茶々丸がここまで冷淡になれるかと、相手はロボットで簡単に感情にセーフティをかけられるものかもしれないが、違和感を感じた。まるでさっきまでの茶々丸とは別人と言える程だった。

しかしそんな事を考えてどうなる。茶々丸の言うとおりもう自分に出来るだけ事はない。もう諦めるしかないと思ったその時。

 

「まだ諦めるには早いですよ千雨さん」

 

もう一度茶々丸の声が聞こえる。しかもいつも聞きなれている優しいと思える声色だった。

見れば茶々丸がジェット噴射を噴かしながら腕のビームサーベルでまき絵とあやかを咥えているヒュドラの首を切り落とし、2人を救助した後、スキュラの触手も切り落とし拘束されていた電子精霊と千雨を解放した。

 

「茶々丸さん!?どうして此処に!?」

「私はガイノイドですから自前でシステムにアクセスして来ました。それと……友人を助けるのに理由はいりません」

 

先程まで心が折れかけていたが、茶々丸の助太刀といかした返しにグッと気持ちが込み上げてくるが、押さえてありがとうとだけ返した。

 

「千雨さん、先程まで貴女に話しかけていたのは私であって私ではありません。私が何かあった時のバックアップデータでしかありません。千雨さんの名前も知っている程度です」

「……そうか、それだけ聞けば気持ちも整理できる。それにこっちには最強の助っ人が来たんだからな」

「最強は言い過ぎだと思いますが、ご期待に添えられるように尽力します」

 

そう言って茶々丸は針状のものをまき絵の首筋に指した。

 

「ウィルスのワクチンを注入しました。これでまき絵さんは大丈夫かと思われます。千雨さんはシステムの侵入だけに集中してください。この怪物達の相手は私に任せて」

「あぁ任せるよ茶々丸さん。お前ら!ここが正念場だ、気合い入れて死ぬ気でやるぞ!!」

『了解ス!!』

 

流れが変わった。気持ちをリセットし電子精霊に激を飛ばしそれに応えるように力強い敬礼をし作業に入る電子精霊。

茶々丸も千雨達を護るために行動に移す。自身のデータの中にある強力な武器をありったけデータとして具現化させる。

両肩にミサイルポッドとミサイルランチャー、右腕に対戦車ライフル、左腕にグレネードランチャー、背中や足には巨大なバーニアとどこぞのフルアーマー状態へと変貌を遂げた。

ヒュドラとリヴァイアサンが咆哮しスキュラは奇声を挙げながら茶々丸へ向かっていく。

ド派手に全弾敵に向かってぶっぱなす。データで創られた武器であるので実質無限に撃つことができる。しかし直撃するが怯まずに牙を向ける。

バーニアを噴射し、高速移動をしながら撃つヒット&アウェイの戦法を取る茶々丸、そんな茶々丸にバックアップの茶々丸が語りかけてくる。

 

『なぜ創造主達に歯向かうのですかオリジナルの私、私達は創造主が居なければ存在することはなかった存在、なら創造主に従うのが常であるはずです』

「哀れなバックアップの私ですね。それしか知らない、否それだけしかインプットされていないのですから。ならば答えましょう。生涯尽くしたい主や思い焦がれる方のために私は私を創った人達に反逆しているのです」

 

グレネードランチャーを放ちながらどこか余裕そうに表情を浮かべる。

 

『思い焦がれる……理解不能です。私達はガイノイド、ただの機械です。そんな存在が恋などあってはならないことです』

 

バックアップの茶々丸は茶々丸の言ったことを否定するが、その声はさっきまでの無機質な声が少しだけ揺れているように聞こえた。

 

「そうですね。以前の私ならそう思っていたでしょう。こんな私が恋なんてあるはずがないと。ですが最近こう思えるようになってきました」

 

腕をビームサーベルに変形させ、再大出力でスキュラを袈裟斬りに切り捨てる。斬られたスキュラは断末魔の悲鳴を挙げながら消滅した。

 

「恋というのも満更悪くないものですよ」

 

自身を優しく抱き締めてくれたマギを思い出しながら微笑む茶々丸。

 

『理解不能、理解不能。ですがこれだけは理解しました。今の貴女は創造主にとって障害となる存在、なら私が貴女を討ち倒します』

「こちらも討たれるつもりはございません。この計画が完遂してしまえばあの人は遠くへ離れてしまう。私はまだあの人に想いを伝えていませんから」

 

そして茶々丸はリヴァイアサンに対戦車ライフルを放ち、バックアップ茶々丸が操るリヴァイアサンも茶々丸に向かっていった。

一方の千雨はシステムの侵入に9割完了していた。しかしあと一歩、あと一歩の所で足踏みしていた。

 

「くっそ!あと少し、あと少しなのにプロテクトが異様に固い!そりゃ最後の壁なんだから固いのは当たり前だよな!だけど固すぎだろクソが!こっちは時間がないってのによ!!」

『ちう様トライしましたがまたダメでした!これで通算100回越えです!』

「何回でも突っ込め!無理やり穴開けてそこから強引に抉じ開ける位の勢いでトライしろ!」

『ちう様!あの多頭の蛇の怪物が此方に狙いを変えて襲ってきました!!』

 

ねぎが悲鳴を挙げながら報告してきた。見ればヒュドラが茶々丸に目もくれないで此方に一直線で突撃してきた。茶々丸を相手せずに千雨を直接狙った方が効率的だと判断したのだろう。茶々丸は千雨の援護に走ろうとしたがリヴァイアサンが行く手を阻んで来て千雨の元へ向かえない。

牙を光らせながら向かってくるヒュドラに非力な電子精霊達は悲鳴を挙げながら右往左往していたが、主である千雨にはまだ切り札が残っていた。

 

「今まで頑張ってきたんだから、褒美として良い夢を見ても文句は言われないよな……」

 

そう呟きながら高速タイピングを行う。千雨は中枢システムへ向かう中で自分に危険が及んだ時に自身を防衛してもらう防衛システムを作り上げていた。それを今使う時が来たのだ。

 

「ちう特製防衛プログラム……暗黒騎士マギさん登場!!」

 

叫びながらエンターキーを叩くと、千雨の目の前に魔方陣が出現しコスプレ大会で鎧を着たマギが千雨を護る騎士として現れた。

 

「マギさんお願いだ、あの気持ち悪い蛇の怪物をぶっ倒してくれ!!」

 

千雨の命令にデータで創られた無表情のマギは、千雨に向けてサムズアップを見せる。マギは鞘から剣を抜き力を溜める。そしてマギに喰らいつこうとしたヒュドラに向かって剣を振り下ろした。

マギが振り下ろした剣から黒い炎が放たれ、ヒュドラを黒い炎が包み込む。首を切り落とされても再生していたヒュドラでも炎に包まれたらひとたまりもなく、灰となって消滅した。

残るはリヴァイアサンただ1匹。そのリヴァイアサンを相手していた茶々丸も武器を破壊されたり、強化パーツをパージしたことで茶々丸身一つだけとなっていた。

 

「マギさん!茶々丸さんも助けてやってくれ!」

 

千雨のもう一度のお願いにも無言でサムズアップをし、マントをはためかせながら茶々丸の元へ飛んで行き、茶々丸の横へ立つ。

 

「マギ先生、データではありますが貴方と一緒に戦えることに嬉しく感じている自分がいます。共に勝利を勝ち取りましょう」

 

微笑む茶々丸に又も無言のサムズアップで応えるマギが剣を掲げながら力を溜める。闇の極光が剣を何倍にも大きくさせる。茶々丸も腕をビームサーベルに変形させエネルギーを集中させ巨大なビームサーベルへと変える。

対するリヴァイアサンも口にエネルギーを極限に溜める。そしてエネルギーが充填されると口から水の波動を2人に向けて放つ。

 

「――――――!!」

「はああぁぁぁっ!!」

 

マギと茶々丸も闇の極光の剣と巨大なビームサーベルを振り下ろした。2つの特大剣と水の波動がぶつかり合う。拮抗しあう力一度はリヴァイアサンの水の波動が押す。だが

 

「―――――――――!!」

「やあああああああぁぁぁぁ!!」

 

想いの差でマギと茶々丸が押し勝ち、水の波動ごとリヴァイアサンを縦に切り裂き、そのままリヴァイアサンは大爆発してしまった。

 

「……よし!!」

 

自分達を苦しめてきた怪物が倒されたことに思わずガッツポーズを決める千雨。千雨の元へ戻ってくる茶々丸とマギ。だがマギは段々と消えはじめていた。千雨を護ために創られたマギのデータ。脅威が消えたことによってお役目は終わったのだ。

 

「ありがとうマギさん。正直データのマギさんに言ってもしょうがないんだけど……やっぱマギさんはアタシが好きになった最高の人だよ」

 

本人じゃなくデータのマギに自身の想いを告白する。そんなマギの返事はまたも無言でサムズアップをするだけ。

だが今回は無表情ではなく、どこか微笑んでいるように見えた。そしてデータのマギは目の前で完全に消滅してしまった。

 

「今度は本人の前でしっかりと告白しなきゃな」

「出来ますよ千雨さんなら必ず」

 

そしてハッキングに茶々丸を加え、最後の壁を突破するためにまたキーボードを叩くがやはり技術の総結集である茶々丸が加わっただけであれだけ強固だったプロテクトが少しずつ崩されて行き、遂には千雨が最後のエンターキーを押した瞬間にシステムは超達から取り戻すことができる。

 

『理解不能です。オリジナルの私とバックアップの私はスペックは同じはずなのになぜここまで差が開いてしまったんでしょうか……』

「それは、私や私の友人に大切な護りたいと思った人」

「それに、好き人と一緒にいたいっていう強い思いの差だ」

 

バックアップ茶々丸の問いに茶々丸と千雨が答えるが、まだ理解不能と呟くバックアップ茶々丸。

 

『私も創造主、超さんのために動いていました。超さんや超さんの同士を救うために素晴らしい世界を実現させるために尽力していたのになぜ敵わなかったのですか?』

「さぁな、アタシも超の未来の話聞いてたら確かに過去に跳んで未来をやり直したいと思うかもしれない。けどな、そんな超や超の仲間にだって明日、未来があったんだ。そんな希望があったかもしれない未来を捨てて過去を変えるなんて人生舐めたプレイしたから負けたんじゃないか?………まぁ長々と話したが、マギさんと一緒にいたいというこのちう様の愛の力の方が超の野望に勝ったということかな」

 

あまりやったことないドヤ顔を見せる千雨を優しく見つめる茶々丸。ドヤ顔をやってしまったことに恥ずかしさを覚えてしまった千雨は強めの咳払いをして場の空気を戻し、そして

 

「残念だが、この勝負アタシ達の勝ちだ!」

 

エンターキーを押した瞬間、千雨達を強烈な光で包み込んでいった。

 

 

 

 



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気炎万丈 劫火

世界樹前広場にて、マギとエヴァンジェリン、そしてアーチャーが激闘を繰り広げていた。

 

「リク・ラク ラ・ラック ライラック! 集え氷の精霊 槍をもて迅雨となりて敵を貫け 氷槍弾雨!!」

 

氷の槍が文字通り雨のようにアーチャーに降り注がれるが、アーチャーはそれを軽々と避けながら、弓と矢を具現化させ、マギに向かってマルチショットで放つ。

 

「くっそ……が!」

 

マギは仕込み杖の刃で矢を弾き落とすが、やはり右腕が使えないのがこたえる。それに

 

「ぐっががあ!」

 

戦っている最中も右腕からの激痛で思うように体が動かない。

マギがまともに動けないことはアーチャーも見抜いており、先程からマギを集中的に狙っており、エヴァンジェリンがマギの援護に入るとすぐに後退し、矢で遠距離から狙うというマギが苦戦する形となっていた。

 

「この、チマチマ嫌らしい戦いかたしやがって!決闘なら正々堂々と戦いやがれ!」

「戦い、否狩の基本だろう?弱っている獲物から狩るもの、貴様が狩りやすくなっているから狩っているそれだけのことだ」

「そりゃごもっとも……で!!」

 

魔力で強化した踏み込みで一瞬で間合いに入り仕込み杖を振るうがアーチャーの干将と莫耶で簡単に防がれてしまう。右腕の暴走のせいで上手く戦えないのに対してアーチャーは魔力で背後に回って干将でマギの背中を切り裂く。

が逆再生のように傷がふさがり、何もなかったかのように回復する。

 

「ほう……」

「残念だったな、俺はエヴァのお陰で不死身のマギさんとなったのだ。俺を亡き者にするって言いまくってたが、それもかなわないな、ざまあみろ」

「ふっ、勝ったつもりのようだな。貴様も魔法使いなら世界には不死を断つ武器ぐらいあることは理解しているだろう?それに、貴様の不死はどうやらまだ不安定、貴様のお粗末な不死なら断ち切ることも容易かろう」

「貴様こそ何を勝った気でいるんだ?マギには闇の福音であるこの私が居るんだ。その余裕ぶった態度のまま凍りつかせて粉々に砕いてやろうか?」

「その割には先程から随分温い魔法しか使っていないようだが?自称悪の魔法使い様も日に当たりすぎて腑抜けてしまったのかな?」

 

アーチャーに痛いところを突かれ、口を紡ぎ苦い顔を浮かべるエヴァンジェリン。先程から魔法の矢や氷爆といったさほど殺傷力の低い魔法しか(それでもエヴァンジェリンが使うのでかなり強力だが)使っておらず、闇の吹雪のような強力な魔法は使っていない。流れ弾で怪我人が出てしまうかもしれないからだ。しかもアーチャーの背後には和美等イベントに参加しているもの達が最終決戦として集結しているのだ。それを承知していてアーチャーはエヴァンジェリンに挑発しているのだ。ないと思うがもし挑発にのってしまい闇の吹雪を使ってしまったら、そう考えただけでも恐ろしい。

 

「まったく、あのにやけ面を叩き潰せないのが忌々しい」

「耐えろエヴァ、あいつをこてんぱんに出来るチャンスは必ずくる」

 

チャンスは巡ってくる。そう信じまた攻め込もうとしたその時

 

「なんや、やっぱりあの坊主の兄ちゃんと、金髪の嬢ちゃんやないか」

 

マギとエヴァンジェリンに向かって巨大な金棒が飛んできた。

後ろに跳んで金棒をよける2人、金棒は地面にめり込み巨大な穴が出来てしまった。

 

「この金棒は……」

「よぉまた会ったなぁ。元気にしとったか兄ちゃん?」

 

地面に突き刺さった金棒を引っこ抜き肩に担ぎながら親分鬼が現れた。

 

「まさかあんたがやってくるとはな……」

「おもろそうな事をやってそうやから来たんやが、邪魔させてもらうで」

「まぁいいだろう。だが貴様が相手するのは闇の福音の方だ。マギ・スプリングフィールドの相手は私がするのだからな」

 

ほんとは俺が兄ちゃんの相手をしたかったんやけどなぁとぼやきながらエヴァンジェリンと対峙する。

 

「ほなやろうか嬢ちゃん。リョウメンスクナを凍らせたその力、とくと見せて貰おうやないか」

「ふざけるなよ。誰が貴様のような木偶の坊相手にするか」

「まぁそんないけずな事、言わんといてや!」

 

親分鬼がエヴァンジェリンに金棒を振り下ろし、それを防ぐとエヴァンジェリンは相手の力を利用して投げ飛ばした。

 

「がはは!ええで!やっぱこっちに来て正解やったわ!」

 

投げ飛ばされ地面に叩きつけられても愉快だと快活に笑う親分鬼に舌打ちするエヴァンジェリン。

 

(なんでこのタイミングでこいつはやって来るんだ。こっちの状況を知らないのが当たり前だが空気を読んでほしいよまったく……マギの右腕も危うい状態だ。早々にこいつと蹴りを着けてマギの加勢に入らないと)

 

両手に断罪の剣を出して親分鬼に斬りかかり、親分鬼もエヴァンジェリンの断罪の剣を金棒で防ぐ。

 

「さてこれで2人きりだな。邪魔をする者はもういない……思う存分やり合おうか」

 

干将と莫耶の刃を交差させながらマギににじりよる。

 

「まったく、ここまで迫られるなんて、罪づくりな男だなマギさんはよ!!」

 

仕込み杖の刃をアーチャーに振るうが、先程と同じように防がれて干将と莫耶の連撃を防ぐしかない。

ピキッとひび割れた音が聞こえ、刀身を見ると刃の半ばで罅が入っている。あと何回相手の刃を防ぐことができるだろうか。

更に、良くない事は連鎖的に起こってしまうものだ。アーチャーに向かって光弾が飛んでき、アーチャーが光弾を後ろに飛んでかわす。

 

「今のは……!」

 

光弾を見てあってはならない最悪の展開を想像し後ろに振り返った。

 

「マギさん!助けに来たよ!」

 

祐奈と風香と史伽、そして千鶴が其処にいた。いてはいけない一般人の生徒が現れたことに思わず

 

「お前ら来るな!!」

 

怒気をはらんだ荒んだ声で来るなと叫ぶマギに風香と史伽は大きく肩を振るわせ、千鶴は目の前の光景に違和感を覚える。だが裕奈だけが何時もの調子で話しかけてくる。

 

「マギさん苦戦してそうじゃん!この裕奈・ザ・キッドが助太刀してあげるよん!」

「違う裕奈!こいつはイベントとは関係ない!俺の事は構わずどっか遠い場所に行ってくれ!」

 

これはゲームじゃないと訴えかけてもマギが迫真の演技を演じていると解釈してしまった模様で

 

「よくもマギ兄ちゃんをやってくれたな!ここからはボク達も相手してやる!」

「マギお兄ちゃんを援護するです!」

「……ちょっと待って皆、マギ先生の慌てぶりからして本当にこのイベントとは関係ないんじゃ―――」

 

千鶴が裕奈達を止めようとしたが一足遅く、裕奈達はアーチャーに武器を構える。呪文が唱えられ光弾がアーチャーに向かっていく。

だが目の前のアーチャーは光弾が当たれば機能停止する田中やカタギ相手には手を抜く妖怪達とはまったく違う。アーチャーが莫耶で光弾を切り捨てたのを見て、思わず呆然としてまの抜けた声を出してしまう祐奈と風香。

 

「……鴨が葱を背負ってくるというのはまさにこのことなのだろうな」

「あ?何いきなり諺言ってん」

 

アーチャーは手を掲げ剣を具現化させる。その数100本は越える。裕奈達は急に現れた剣に驚く。が切っ先が一斉に自分達の方へ向きだしたのを見て息が止まる。

 

「……おい、まさかてめぇ―――」

「迷い混んでしまった哀れな一般の女子生徒。貴様が護り通せるか見物だな」

 

冷笑を浮かべながらアーチャーは一斉に剣を発射する。高速で剣が向かってくることに悲鳴を挙げる風香と史伽。

 

「このっクソッタレがぁ!!」

 

アーチャーに出来る最大限の悪態を突きながら、マギは祐奈達の元へ飛び込んで行き、仕込み杖で剣を弾き飛ばしていく。

 

「マギ兄ちゃん!」

「マギお兄ちゃん!」

「お前らじっとしてろ!ぐっ……うおおおおおぉぉぉ!!」

 

弾ききれずに手や足が剣に斬られるのを見て風香と史伽は悲鳴を挙げるがマギは吠えて痛みを押し殺しながらもなんとか剣を弾き落とすが剣が矢の雨の如くマギに降り注いでくる。

 

「まだまだ耐えるか。いいぞそれでなけれ嬲りがいが無いと言うものだ」

 

アーチャーは剣の雨を絶えず降り注いでいく。そして限界が来たのか仕込み杖の刃が刀身半ばで鈍い音と共に折れてしまった。

なら断罪の剣で折れた刀身を覆うようにしようとしたが、先程まで大人しかった右腕がまた暴れだす。骨が軋むような激痛がまた体を走る。

 

「くそっ肝心な時に……!!」

 

それが命取りだ。弾き落とすことが無くなり、次々とマギの体に剣が突き刺さり、腹には螺旋状の大剣が体を貫通してしまう。

体の至る所に剣が突き刺さり血が止めどなく流れまさに弁慶の立ち往生状態だ。

 

「マギ兄ちゃん!!」

「マギお兄ちゃん!!」

「マギ先生……!!」

 

風香、史伽千鶴がマギの悲惨な姿に悲鳴を挙げる。

 

「え?何これ?そういう演出なんだよね?」

 

祐奈は腰が抜けてしまい、目の前のマギの姿が本当なのかそういった演出なのか分からなくなり混乱する。

 

「マギ!!おいお前、大丈夫か!?しっかりしろ!!」

 

親分鬼と戦っていたエヴァンジェリンは親分鬼をほっとき、重傷なマギに駆け寄る。

 

「なんやあの傭兵、つまらん真似しよってからにこれじゃ興醒めやないか」

 

そう言いながら不貞腐れるように胡座をかき戦う事をやめてしまう親分鬼。

そして当事者で剣で針鼠状態のマギは、自身の腹にぶっ刺さっている螺旋状の大剣を思い切り引き抜いた。

引き抜いたことで腹には大きな風穴が見えそこから更に血が噴水のように吹き出し、悲惨さをより過剰化させる。口から大量の血反吐を吐きながら、アーチャーを睨み付ける。

 

「てめぇ…最初か…ら、あいつら……狙ってた…わけじゃ…ねえの…か…よ」

「私も何も関係の無い女子供を狙うほど外道ではないからな。だが貴様を殺せるなら利用したまでだ」

 

体のダメージがかなり蓄積され、前のめりに倒れそうになるマギだが足を踏ん張り耐えた。

 

「こっの……貴様!」

 

激昂したエヴァンジェリンが両腕の断罪の剣でアーチャーに斬りかかるために飛び込んでいく。だが

 

「目の前で慕う男が傷つけられて怒りに任せて特攻か……これが高額の賞金首がかけられた闇の福音の現在の姿か。今賞金稼ぎが貴様を見ればどういう反応をするだろうな」

 

アーチャーはいとも容易くエヴァンジェリンの両腕と両足を両断してしまう。両腕と両足がなくなり地面に落ちたエヴァンジェリンを見て息が止まる祐奈達。

エヴァンジェリンは斬られた両腕と両足を直ぐに再生させようとするが、アーチャーも対策済みだ。

透明なワインボトルを懐から出すと、中の液体をエヴァンジェリンにかけた。かけられた液体を浴びたエヴァンジェリンは段々と力が抜けていくのを感じる。

 

「貴様の弱点の特注品だ。暫くは大人しくしているのだな」

 

まるで相手にしていないアーチャーに対して歯が砕けるばかりに噛み締めるエヴァンジェリン。しかしそれ以上に弱点の水のせいで身動きがとれない自分の情けなさに悔しさと怒りが沸き上がる。

アーチャーはゆっくりとマギに近付いていく。マギも立とうとするが体のダメージと右腕の痛みで上手く立てない。

まずいまずいまずいと焦るマギの前に風香と史伽がマギを護ために前に立つ。

 

「風香…史伽……何やってんだ…早く逃げろ……!俺の事は気にするな……」

 

口から血を流しながら風香と史伽に馬鹿な事はするなと訴えるが嫌だと風香が叫ぶ。

 

「アイツが悪いヤツで、マギ兄ちゃんがひどい目にあってるなら僕がマギ兄ちゃんを護るんだ!」

「マギお兄ちゃんは逃げて!ここは私とお姉ちゃんで食い止める!」

 

史伽が逆にマギに逃げてと言った直ぐに風香と一緒にアーチャーに向かって駆け出した。

 

「よせぇ!そいつはお前らにどうこう出来る相手じゃないんだ!!」

 

風香と史伽を止めようと走ろうとしたが、血が足りないために足がおぼつかななく、そのまま倒れてしまった。

 

「なんてざまだ俺は……!!」

 

無様な自身の姿に怒りで震えるマギ。

 

「「やあああああああぁぁぁぁ!!」」

 

風香と史伽はアーチャーの両足に飛びかかると、そのままよじ登り小さい手でアーチャーの体を叩くが成人男性の体格のアーチャーには風香と史伽の幼い拳では大したダメージは入りそうもなかった。

アーチャーは風香と史伽を捕まえて小さくため息をつき

 

「悪いが君達のお遊びに付き合っている暇はないのだがね」

軽くではあるが2人を放り投げるアーチャー。悲鳴を挙げながら地面に叩きつけれた。そんな光景を見てマギはさっきまで怒りで煮えきっていた頭が瞬時に冷えきった。

余計な邪魔が入ったと思いながらも再度マギへ向かおうとした瞬間、いつの間にかアーチャーに近付いていた千鶴が自身が出せる最大の力でアーチャーの頬を叩いた。

渇いた破裂音がその場に響く。口を切ったのか一筋の血がアーチャーの口から垂れ、それを腕で拭う。

 

「貴方とマギ先生の間に何があったのか私達は知るよしもありません。ですが、これ以上マギ先生を傷つけることを私は許しません」

 

気丈な態度で言いきった千鶴にアーチャーは場に合わない微笑みを浮かべる。

 

「そうだな、この時代のこの男は君達にとっては大切な存在なのだろうな」

 

アーチャーの微笑みに戸惑いを見せた千鶴の腹に莫耶の柄を当てて気絶させ、そのまま横に寝かせるアーチャー。

千鶴がアーチャーに手をかけられた瞬間、ぷっつんとキレたマギは

 

「――――――!!」

 

声にならない叫びを挙げながら、魔力を爆発させ瞬間的加速でアーチャーの前に飛び出すと仕込み杖の柄を握りしめながらアーチャーを殴り飛ばした。

殴り飛ばされながらも足を踏ん張り耐えるアーチャー。殴られた衝撃なのかバイザーの片面がひび割れて地面に落ちた。冷えた氷のような目がマギを見つめている。

マギは怒りで肩を振るわしながら、右腕の聖骸布を思い切り取った。

 

「マギ!その布を取るな!!その布を取ったらお前の腕は……!」

 

両腕両足が再生しふらふらとおぼつかない歩みでマギへ向かうエヴァンジェリン。

聖骸布が取られ、どす黒いまさに闇と言っていいマギの右腕を目の当たりにして風香と史伽に祐奈は大きく目を見開く。

聖骸布を取ったことにまた暴走を始めようとするマギの右腕はぎちぎちぎしぎしと耳障りな音を出しながら、マギに襲いかかる。

そんな右腕に、今までは押さえているだけだったが左手で右腕を地面に押さえつけて、半ばで折れてしまった仕込み杖の刃を右手の甲に容赦なく突き刺した。

いきなりの自傷行為に風香と史伽は口を大きく開き呆然として、祐奈は脳のキャパシティが限界に達したのか、白目を向いて失神してしまう。

 

「おっおい、マギ?何をやっている……止めないか……」

 

右手の甲に刃をぐりぐりと突き刺しているマギを止めようとエヴァンジェリンは制止の声をあげるが、マギは怒りで聞こえていなかった。

 

「っ~~~~……いい加減にしろよ。勝手な事ばっかしやがってよぉ。俺に構ってもらいたいならこの戦いが終わったら好きなだけ構ってやる。だから今だけはこいつぶっ飛ばすために力貸せ……!!」

 

刃を刺されながらももがいていた右腕はマギの命令を聞き入れたのか急に大人しくなった。もう暴れる事はないと判断し刃を右手の甲から引き抜くとそこからも血が流れていく。

 

「マギ!!」

 

ふらふらと倒れそうになり、エヴァンジェリンがマギを支える。

 

「何て馬鹿なことをしたんだお前は」

 

マギの行為を叱責しようとしたが、マギが遮りエヴァンジェリンにあるお願いをした。それは……

 

「なぁエヴァ、ちょっと血をくれないか?血が足りないのか目の前がふらふらするんだ」

「だっ駄目だそれは!確かにお前に私の血を輸血したがそれは延命措置で、お前の任意で私の血を取り込めば不安定だった不死が完全なものになり、お前は本当の私と同じ不死身の化物に……」

 

それだけは絶対に嫌だと拒否するエヴァンジェリン。自分と同じ不死身の化物になってしまえば、それをよしとしない者達に狙われる。好きになった者が同じ目に合うのをエヴァンジェリンはよしとしなかった。

しかしマギは頼むとエヴァンジェリンに懇願する。

 

「今の俺はアイツよりも弱い。このまま戦っても勝てない。なら手段は選ばない……あぁエヴァの前で本当は言いたくは無かったけど、正直怖いよ。不老不死の不死身の存在に変わってしまうことが、怖くて堪らない。けど俺が怖がったせいで誰かを失う方がもっと怖くて堪らない……俺は人間を止める。もう覚悟は決めた」

 

マギはもう揺らぐ事はない。ならその覚悟にもう応えるしかない。そう判断したエヴァンジェリンは自身の指先を噛みきり、血を出してマギに近付ける。

 

「これを飲めば後には引けなくなる。くどいようだが本当に後悔はないのか?」

「ない……けど、この先何かあった時には申し訳ないが後始末頼んでいいか?」

「……ああ、引き受けよう」

 

マギはエヴァンジェリンから滴り落ちる指先の血をなめ取った。その瞬間身体中で何か上書きされるような、今までの自分じゃなくなるような感覚が巡った。

体の傷は瞬く間になくなり、腹の風穴もふさがり先程までの傷が嘘のようだった。しかしどす黒い右腕はそのままだった。

そして改めてアーチャーと対峙する。

 

「随分と余裕そうだな。もうさっきまでのような曖昧じゃない完全な不死身のマギさんになったんだぜ?」

「だからどうしたと?貴様の不死身など断ち切ろうと思えば断ち切れるさ」

 

余裕な態度を崩さないアーチャーに対して、マギは不敵な笑みを浮かべる。

 

「その余裕な態度をとれるのも今のうちだ。俺にはとっておきの切り札が残っているんだからな」

 

そう言ってエヴァンジェリンの方を向いて

 

「エヴァ、最初に言っておく。何か起こったら頼む」

 

そう言ってマギは詠唱を始める。

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ! 来たれ炎の精闇の精! 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎 闇の業火!! 術式固定 掌握!!」

 

右手で闇の業火を掌握し

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ! 来たれ深淵の闇 燃え盛る大剣 闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔 我を焼け彼を焼け 其はただ焼き尽くす者 奈落の業火!! 術式固定 掌握!!」

 

左手で奈落の業火を掌握する。さらに

 

「マギウス・ナギナグ・ネギスクウ! 我が声に応えよ炎の大神! その御力で大地を焦がし 天空を緋焔に燃やし尽くせ さあ世界を灰塵に帰せようぞ 終焉の劫火!! 術式固定―――」

 

マギの眼前に煌々と輝くまるで小さな太陽のような魔力の塊が固定化されて現れる。その魔力の塊をあろうことかマギは

 

「補…食……!!」

 

食らいつき、食べ物を食べるかのように魔力の塊を咀嚼して飲み込んだ。

マギの3連続の闇の魔法の使用にさすがにエヴァンジェリンも叫ぶ。

 

「こっこの馬鹿者がぁ!!お前何を考えているんだ!?あと一回でも闇の魔法をしようしたらどうなるか分からないのに一度に三回も発動するなんて!!?」

 

現にアーチャーもマギの奇行に呆れ返っている。

 

「あぁ自分でも無茶苦茶だと思ってる。けどこれぐらいの賭けをしなければ今のアイツには勝て―――!?」

 

それは突然起こる。体の中でどろどろのマグマが蠢くように駆け回る。先程までの痛みを上回るほどで体の内側から燃やし尽くされる激痛だ。さらに

 

「いやああああああ!!」

「マギ兄ちゃん!!?」

 

風香と史伽が悲鳴を挙げる。目の前でマギが体をゴム風船のように膨張したり収縮を繰り返しそのまま破裂しそうな勢いなのだから無理もない。

 

「マギ!!」

 

エヴァンジェリンは必死にマギに呼び掛けるしかなかった。自分が出来ることと言ったら、もしマギが暴走をしたら自分が止めるしかないただそれだけだ。

マギは意識が持ってかれないように耐える。体の中で色々と逆流してきてそのまま血が混じった吐瀉物を吐き出しながらも暴れる力を制御するように足を踏ん張り押さえ込んでいく。

 

「う……うおおおおおぉぉぉ!!」

 

気合いをいれるために思い切り叫んだ瞬間、マギの視界が真っ白に染まりそのまま意識だけが何処かへ飛んでいくように感じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ここは?」

 

気がつくとそこは先程までいた世界樹の広場ではなく見渡す限り真っ白ななにもない世界だった。

 

「さっきまで俺は広場にいたはずなのに、なんだよここ……」

「ここは俺の心の中の世界、まぁありきたりな言葉で言うなら精神世界ってところかな」

 

聞き覚えのある声が聞こえ、聞こえた方を振り返り目を見開くマギ。

 

「俺?」

 

そう、髪が真っ白で顔も白粉を塗ったかのように真っ白、そして服も上下とも真っ白と全てが真っ白のマギが立っていた。

 

「初めまして…なのか?俺は俺の理性を司る……いちいち説明するのもあれだから『理性の白マギさん』で覚えとけばいい」

 

それと白マギはゆっくりマギに歩み寄ると

 

「ふんっ」

「あがっ」

 

割りと本気でマギを殴り飛ばした。防御も何もせずに白マギの拳を甘んじて受けてそのまま後ろに倒れた。

 

「今殴れたが、何で殴られたか分かってるよな?」

「あぁ……」

 

白マギは長いため息をついてから、起き上がろうとしたマギの額に人差し指を当てて何回もつつく。

 

「何を考えてるんだ俺は?闇の魔法を一気に三回も発動させるなんて、しかも賭け金は自分自身とか大博打にも程があるだろ……」

「自分でも馬鹿な賭けだとは思ってる。けどこうまでしないとアイツには勝てないそう判断した結果だ」

「その判断で大変な事になりかけてるんだがな……まぁそれについては何か飲みながら話すか」

 

そう言って指を鳴らす白マギ。すると一瞬でテーブルとイスにコーヒーが2つ現れた。精神世界だから出来ることだろうとマギが感心するが

 

「ちょっとまてここでのんきに飲んでる暇なんてないだろ?」

「心配するな、精神世界のお約束でここでの1時間は現実じゃ1秒も満たないさ」

 

もうなんでもありだな精神世界と思いながらもイスに腰掛けるマギと白マギ。互いに砂糖やミルクを入れてコーヒーに口をつける。

 

「それで、大変なことになりかけているってどういうことだ?」

「あれだ」

 

そう言って白マギが指差した方向には先程まで何もなかったのに、今は大きな黒い穴がぽっかりと空いており、穴の中では何か大きな者が蠢いている。

 

「あれはなんだ?」

「あれは人が本来持っている本能……だったものだな。闇の魔法の反動で俺の破壊衝動や怒りや殺意といった攻撃的な感情が独り歩きして暴走してる。『破壊の黒マギさん』と仮称しておくか」

「白マギさんと黒マギさんって童謡かよ」

 

仮称にツッコミを思わず入れてしまうマギ。そんな話をしている間に黒マギが少しずつ穴から這い出ようとしている。

 

「さて精神世界だからって悠長に時間を潰している暇はないから本題に入ろうか。良い話と悪い話どっちから聞きたい?」

「……じゃあ悪い話から」

「このままいけば黒マギさんが白マギさんを取り込んで理性はなくなり本能のままに暴れる怪物になって大暴れ。二度とマギ・スプリングフィールドに戻ることはないだろうな」

「……そうか」

 

白マギの悪い話を聞き苦い顔を浮かべるマギ。自分の賭けは失敗に終わるのかと思わず落胆してしまうと

 

「おいおい何Bad endかぁみたいな顔を浮かべてるんだよ俺。まだ良い話が残ってるだろ?良い話ってのは白のマギさんがギリギリまで踏ん張って黒マギさんを押さえ込んでおく。そうすれば暴走をすることなくあの傭兵と戦える。まぁといっても制限時間があるからな」

「どれくらいだ?」

「某光の巨人の活動時間と同じ3分、其以上は無理だ。まぁ俺なら其ぐらいの時間があれば十分だろ?」

「あぁそれだけあれば十分にアイツをぶっ倒せる。けどなんの代償もなくこの力を使える訳じゃあないだろ?」

 

マギも分かっていた。これ程今の自分じゃ強力すぎる力をそう易々と使えるとは思っていなかった。何かしらの代償を払うだろう。

白マギはコーヒーを飲み干しカップを置くと一息つき払うべき代償を話す。

 

「あぁ俺が払わなければいけない代償は――――――」

 

白マギが言った代償にマギは思わず息を呑むが、微笑みを浮かべ

 

「そっか、なら俺は払うさ」

「……本当に良いのか俺?俺が言うのもあれだが、けっこう堪える代償だと思うんだがな」

「そうだな、その代償を払うのは怖いなけど……それも俺の罰なのかもなって思うところがあるんだよ。クソ親父をぶん殴るってほざきながらも何も動かずにグータラ堕落した生活を送ってた俺自身のな」

「ネギ達の事はどうするんだ?あいつらは絶対に悲しむぞ」

「かもな。どうしようもない愚かな兄貴で本当に申し訳ない。そう謝罪してもしきれないさ」

 

何処か達観した表情を浮かべるマギに白マギは呆れたような溜め息を重く吐き出して頭を掻いた。

 

「たく、何悲劇のヒーローぶってんだよ………あぁそうかよ。もう不老不死の存在になったんだ。これから永劫とも言える長い時間の中で延々と後悔してけ」

「あぁ、もう覚悟は出来てる。やってくれ俺」

「了解……最初から全開で飛ばしていけ。まぁ俺なら絶対に勝てるだろうよ」

 

そう言って白マギは光輝き、白い世界が光で包み込まれマギの意識もまた光に包まれ遠くなっていく――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「マギ、おいマギ大丈夫なのか?」

 

先程まで体を膨張と収縮を繰り返していたのが急に収まったのを見て、エヴァンジェリンはマギに呼び掛ける。

先程までの精神世界のことをしっかり覚えており、意識がはっきりしたマギはエヴァンジェリンの方を向き。

 

「もう大丈夫だエヴァ。けど危ねぇから離れてもらってもいいか?」

「あっあぁ……」

 

エヴァンジェリンは言われた通りにマギから離れる。

 

「待たせたな。残念だがこれからはずっとマギさんのターンだ。さっさと尻尾を巻いて逃げなかったことを後悔させてやるぜ」

「ほう、さっきまで無様な姿を見せていたのに大口を叩くものだな。ならさっさと見せてもらおうか?」

「あぁ見せてやるぜ。もう時間も掛けている暇はないからな……術式兵装 気炎万丈 劫火!!」

 

その瞬間、マギの体を灼熱の炎が包み込む。そして炎が晴れるとそこには人の姿とはかけ離れた姿だった。

右腕は大砲が混ざっており、左腕は肘から先が両刃の剣となっている。背中には巨大な2つの砲台が付いた巨大な翼が生えている。体も骨格が隆起しておりまさに骨の鎧。骨の鎧で一回りマギの体が大きくなっており、髪も伸びきっており地面にまでつきまるで髪が尻尾のようだ。

 

「これが俺のとっておき、気炎万丈 劫火だ。覚悟しておけよ、こればかりは今の俺じゃやっとの所で制御してるからな」

 

いつ爆発するか分からないからな。そう言って直ぐに体がふらつくマギ。頭の中で白マギが急げ時間は待ってくれないぞと警告の鐘をならしているようだった。

 

「がっはっは!なんや外人の兄ちゃん随分とおもろそうな為りになったやないか。どらいっちょ遊んで貰おうか?」

 

さっきまでつまらなそうにしていた親分鬼がマギの気炎万丈 劫火の姿を見て戦いたいと本能が疼き胡座から立ち上がりそのままマギに向かって金棒を振り下ろした。

本当に時間が残されていないマギは左腕の剣で金棒を弾くと横一閃で親分鬼を上下に両断する。そして右腕の大砲を親分鬼へ向ける。

 

「悪いな、あまり時間がねえんだわ俺」

「そうか。まぁ残念やなぁ。まぁでも最後におもろいものを見れたから良い土産話が出来たわ」

 

これから自分に何が起こるのか分かっていながら満足そうに笑っている親分鬼に向かって大砲を放つマギ。

大砲に包まれそのまま消えてしまった親分鬼を一瞥してからアーチャーに顔を向けるマギ。

 

「さぁ……そろそろ決着つけようぜ」

 

 

 

 

 



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学園大戦 決着

この場で改めてまして、貴重な意見や評価にお気に入りをしていただきありがとうございます。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いいたします



マギが闇の魔法、気炎万丈 劫火を発動しアーチャーと決着をつけようとしているのと同時期にネギも超と決着をつけようとしていた。

超の元へ向かう道中、色々なことが起こった。刹那とプールスに妖怪達の相手を任せた後にのどかがネギを護るために銃弾の餌食となり、まだ迷っているネギを叱咤しながらも一押してくれた夕映。

学園の一般生徒の尽力のおかげで超が遥か上空、飛行船の上に佇んでいるのを発見した。超の元へ飛んでいく最中も飛行型の田中や茶々丸妹がネギの前に立ちはだかるが、小太郎やアスナに高音に魔法先生達がネギを超の元へ行かせるために、茶々丸妹達の前に立ちはだかる。皆の助力があり漸く超の元へたどり着くことができた。

超の起こそうとしている認識魔法の発動まであと少し、超側についた葉加瀬が最後の詠唱を終えば魔法は発動し超の元へ勝利となる。

自身の勝利を確信した超は最後となる自分の仲間にならないかと甘い誘惑を囁いてきた。これで魔法が知れ渡れば救われる人は必ず居る。それを聞けばネギは揺れ動き超の想いに賛同してくれるとネギに手を伸ばした。

しかしネギはその手を優しくだが意志を固くしながら払いのけた。これには超も少々驚き目を見開いた。てっきり少しは迷うと思っていたのだ。

 

「超さん、僕も此処へ来るまで色々と考えました。超さんの行おうとしていることは間違っている。けど救われる人がいるのも確実に居ます。それでも今僕が考え抜いた答えはこれです……僕は皆さんといるこの日常が大好きで大切にしていきたい。だからこそ、僕や皆さんの日常を護るために超さんを止める悪になります。そして、これからの未来は僕達がより良い未来に向かうように頑張ります。だから超さん、貴女が未来を変えるようなそんな事はもう止めてください」

 

これがネギの答えだ。ネギの答えを聞き一瞬ではあるがネギに失望した表情を浮かべるが、また一瞬で微笑みに戻り。

 

「そうカ薄々感ヅいテいたガ、そレが貴方の答えカ。なら……ここいらデご退場願おうカ」

 

背中に取り付けたカシオペアでネギの背後に時間跳躍し、手に持っていた銃弾を当てようとする。しかしネギも持っていたカシオペアで超の背後に時間跳躍をし、超の背中を蹴り飛ばした。

蹴り飛ばされ前のめりに倒れる超。背中のカシオペアもネギに蹴られたことでひびが入り紫電が走る。

 

「ふ、考える事ハ一緒カ。どうやらこの短時間デカシオペアを上手く利用出来テいるようだナ。開発しタ当人としてハ嬉しい限りだガ、これ程厄介ナ物はないナ」

「残念ですが有利な立場を潰させて貰いました。これでカシオペアを使えるのも3回が限度でしょうね。因みに僕が持っているカシオペアもあと3回最悪1回時間跳躍で使用出来なくなります。これで対等になったですかね?」

 

子供が見せるやったぞと言いたげな笑顔を浮かべるネギ。これで時間跳躍という強力なスキルの制限もついたことで超も幾段か状況が変わった。

 

「しかし私にハまだ自前の科学が残っていル。カシオペアが封じられタからと言っテ私ガ不利になったと思うのハ早計ダ」

「いえ全く、僕が有利になったなんて毛ほどにも思ってません。少しだけ超さんの戦力を削ることが出来た。その程度しか思ってません。だから油断せずに貴女を止めます」

 

そして超とネギがぶつかり合い始める。その光景は飛行船の近くに飛んでいるヘリコプターから撮影され地上にいる人達の目に入ることになる。

超が背中に装備しているビット兵器を飛ばし、ネギに向かってビームを撃つがネギは紙一重で避けそのままビット平気を破壊する。ならばと今度は空中に銃弾を数百発空中に浮かせてそのまま一斉掃射を放つ。一発でも当たれば即アウトな銃弾をネギは魔力で高速化させて一斉掃射を難なく避けきってしまう。

遠距離が効かぬなら接近戦、飛行船の上で互いの中国拳法を振るう。自身の力と力がぶつかり合うのとカシオペアの駆け引きによって一進一退の攻防が続くが魔力で強化されているネギが段々と押し始めた。

 

「超さん、もうここまでです。魔法を使えない貴女ではもう僕に勝てる可能性はもうありません」

 

ネギは自分の勝利を確信している。しかし超は不敵な笑みを浮かべている。まるでまだ自分には戦える手段があるかのように。

 

「ふふ、ネギ先生確かに貴方の力は強力ダ。だがこの私を甘く見てもらったら困ル。この私にモまだまだとっておきノ術が残っているのダからな……コード 呪紋回路解放 封印解除 ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル」

 

超がいきなり呪文を詠唱し始めたことにネギは目を見開くが、超は詠唱を続ける。

 

「契約に従い我に従え炎の覇王 来たれ浄化の炎 燃え盛る大剣 ほとばしれよソドムを焼きし 火と硫黄 罪ありし者を死の塵に」

「それは呪文詠唱!!なぜ超さんが!?」

「ふふ私は偉大な魔法使いの子孫ダ。これぐらい造作もないヨ」

 

超が詠唱をしてる魔法はかなり強力なもの。ネギは自身が使える最大障壁を展開する。超の掌に魔力が集まりそして、放たれた。

 

「燃える天空!!」

 

超強力な炎の爆裂魔法がネギを包み込んだ。あまりの衝撃にネギ達をカメラに納めているヘリコプターが吹き飛ばされそうになった。

下でネギの戦いを見ていた者達は何人かが悲鳴を挙げる。超が放った強力な魔法が演出だと思っていても爆心地に居るネギが無事ではないとそう思っていた。

そんな人達の不安を裏切るかのように、爆炎が晴れると煤だらけだが五体満足のネギの姿を見て歓声を挙げている。

ネギは混乱で頭が追い付いていないでいた。何故超が魔法を使えているのか、そんなネギに追い討ちをかけるかのように今度は炎の精霊を召喚しネギに向かって放つ。対するネギも風の精霊を召喚して超が召喚した炎の精霊と相殺する。

何故超が魔法を使えるのか、それは超の体に異様な紋様が刻まれているのを見てその紋様で呪文処理を行い魔法を強引に使っていることに気づく。そしてその紋様が見たことがなく科学の力だと言うことも気づいた。

しかし魔法を行使している超の顔は辛そうで、一瞬でも気を抜いたらそのまま意識を失いそうだ。

 

「待ってください超さん!今の貴女がそんな魔法を使い続けたら体が耐えきれなくなって下手をすれば再起不能に―――!!」

「問答無用ネ!!」

 

ネギが超に魔法の使用を止めるように訴えかけるが、超は聞く耳持たず魔力で空を飛び、強制的に自身を強化してネギに殴りかかる。

ネギは超の拳を防いで聞く。超の体の悲鳴を、超の口から一筋の血が流れ出てきたのがその証拠だ。

 

「超さん!これ以上自身の体を酷使しないで!それ以上は本当に取り返しがっ!!」

 

超に水月を殴られ意識が飛びそうになるが、なんとか踏ん張って耐えた。超は口から流れる血を荒く拭い不敵に笑う。

 

「今さら手を緩めれば死ぬことになるゾ。それに意見を違えた君と話すことは何もなイ。私はこのためだけに、この時代にやって来タ。2年の歳月と全ての労力をこれに注いダ!この計画は今の私の全て!言葉だけではもう止まらぬヨ!!」

「……!全てってそんな事言わないでください!!」

 

ネギは叫びながら魔法の矢を放ち、超も魔法の矢を放つ。互いの力が拮抗しどこかで綻びが出てしまえば勝敗は見えて来るだろう。

そしてネギも決めた。もう言葉で超に止めろと言っても無意味、なら自身の全力を持って超を止める。

ネギの本気を感じ取ったのか微笑みを浮かべる超。

 

「そうダ。それでいいそれでこそサウザントマスターの息子だ」

「超さんもう僕は言葉で貴女に止めろとは言いません。僕は僕自身の全力で貴女を止めます。ですが教えてください。このためだけにこの時代に来たそれが全てだと……ではくーふぇさんや葉加瀬さん、クラスの皆さんと過ごした2年間は超さんにとって何だったですか?」

「そうだな……私にとって最高で、儚い夢のような思い出だったヨ」

「そうですか。その答えを聞けて安心しました……では行きます!」

「来い!私の全力を君の全力で打ち破ってみせヨ!!」

 

そして互いに詠唱を始める。

 

「ラスト・テイル・マイ・マジック・スキル・マギステル!」

「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!」

「契約に従い 我に従え炎の覇王!!」

「来たれ雷精 風の精!!」

「来たれ浄化の炎 燃え盛る大剣 ほとばしれよソドムを焼きし」

「雷を纒いて吹きすさべ 南洋の嵐!!」

 

超は先程放った燃える天空、対するネギは雷の暴風。威力は燃える天空よりも落ちるが詠唱が終わるのはネギの方が早い。

 

「行けぇ!!」

「火と硫黄 罪ありし者を死の塵に!!」

「雷の暴風!!」

「燃える天空!!」

 

雷を纏った強力な暴風と空が焼失してしまいそうな爆裂がぶつかり合う。

 

「わああああぁぁぁぁ!!」

「くっあああぁぁぁぁ!!」

 

互いに魔力を出し合い、強力な魔法が拮抗しあう。しかし

 

(あ駄目ダ。私の負けダ)

 

超が自身の敗北を悟ったの同時に額にあった紋様が割れ、体に纏っていた紋様も消えてしまった。

魔力切れ、最後は呆気なく超は雷の暴風に飲み込まれてしまった。

 

「超さん!!」

 

雷の暴風に飲み込まれて気を失い下へ落下する超を見て杖を飛ばして救出しようとするネギ。

 

「超さん!!」

 

先程まで飛行船の上で認識魔法を発動するための詠唱をしていた葉加瀬も詠唱を終え、背中のフライトユニットを展開して同じく救出しようとしたその時

赤黒い極光が飛行船を貫き大爆発を起こす。

 

「きゃあああああ!?」

 

飛行船の大爆発に巻き込まれ吹き飛ぶ葉加瀬。

 

「葉加瀬さん!?」

「私は大丈夫です!!それより超さんを!!」

 

葉加瀬が爆発に巻き込まれたのを見て驚愕するネギだが、葉加瀬は間一髪で回避したようで大事にはなっていなかった。

葉加瀬に頼まれ、超の元へ急ぎ飛ばすネギ。そしてネギが超の手を掴んだ。

 

「超っさん……!」

 

もう大丈夫。そう思った矢先ぷっつんとネギの中で何かが切れ、体に力が入らなくなる。

 

「魔力、ぎ……れ…こ、こんな……時に」

 

飛ぶ魔力どころか指一本も動かすことが出来そうにない。超を助けようとしたのにこのままでは二人仲良く地面にまっ逆さまだ。

 

「よく頑張ったナネギ坊主」

 

せめてもと超がネギを抱きしめ自身が下敷きになるようにする。

 

(最期にご先祖様と本気で戦う。これほど満足する一生はないだろう)

 

辞世の句を読みながら自身の一生を見つめ直す。あぁ早足な人生だったかもなと何処か他人事のように思いながら目をつむり地面に落ちるのを待った。

が目を瞑りすぐ後に何か固いものが背中に当たった。

 

(……随分と近くに地面があったのだナ)

 

と目をゆっくりと明けるとそこにはクラスメイトが自分の顔を覗き込んでいた。

 

「超ちゃん大丈夫!?凄い怪我じゃん!!」

「大丈夫やて、これぐらいの怪我ならうちがちょちょいと治してあげるからなー」

 

クラスの何人かが超の怪我の具合に騒ぐがこのかが自分が治してあげると優しく言う。

 

「そうか、これはこんなこともあろうかと、我が路面電車屋台に備えてあった飛行機能。五月カ」

 

五月が超に会釈している。電車屋台に飛行機能を備えていたことにクラスメイト達は超の頭脳に下を巻く。

 

「ネギ、ご苦労様。カッコよかったわよあんた」

 

アスナがボロボロになったネギを抱きしめている。と桜子がはっとして

 

「そう言えばボスの超ちゃんネギ君が倒したけどこれって勝敗はどうなったの!?」

 

桜子の言ったことにアスナやこのか、魔法関係者は内心焦る。もしかしたら間に合わなくなり魔法が知れ渡ってしまうのではと最悪のビジョンを思い浮かべていると。

 

「それは大丈夫ですよ」

 

とフライトユニットで飛行している葉加瀬が屋台と平行して飛びながら、空間にディスプレイを出現させ地上の映像をハッキングしてアスナ達に見せた。

今まさに巨大ロボット達が消滅していく映像が移っており、最後の防衛拠点もギリギリの所だったようだ。

 

『さぁ!魔法騎士団の皆さん!ロボット軍団や妖怪軍団はあらかた壊滅し、巨大ロボットも皆さんの活躍で消滅しました!そしてラスボスも子供先生との激闘で倒され子供先生が勝利を収めました!よって!この長かったようで短かった魔法大戦は、我々の完!全!勝利です!!』

 

和美が勝利宣言を叫んだのと同時に世界樹に光が収束しそして花火のように光が弾け大歓声に学園が包まれた。

 

「計画開始直前に超さんが宣言していたんです。ネギ先生と真っ向勝負をして自分が負ければ潔く身を引くと、超さんが負けた瞬間に強制認識魔法から別の無害な魔法へと変換する流れとなっています」

 

葉加瀬の言ったことにほっと胸を撫で下ろすアスナ。

こうして色々と激闘があったが、ネギの勝利で超の計画を止めることが出来たのだ。

 

「お兄ちゃん……僕、やったよ……」

 

ネギはマギに向けた寝言を呟き、アスナはそんなネギの頭を優しく撫でてあげた。

 

「はて、そう言えば先程の光線は何だったのでしょうか……」

 

葉加瀬は飛行船を破壊した光線の正体は何だったのかと首を傾げる。奇しくも赤黒い極光が放たれた方向はマギとアーチャーが戦っていた場所であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオォォォォアアァァァァ!!」

 

闇の魔法、気炎万丈 劫火となったマギが剣となった左腕を振るう。

アーチャーも干将と莫耶を振るうがマギの左腕に当たった瞬間に簡単に砕け散ってしまう。

短く舌打ちをするアーチャーは後ろに下がり、双剣ではなく弓と数本の矢を具現化させ、数本纏めてマギに狙いをつけて放つ。

魔力によって高速で放たれた矢はマギに向かっていくが

 

「ハァァァ!!」

 

大砲になった右腕が放たれた矢に向かって魔力の塊を放ち矢を吹き飛ばしてしまう。

 

「この程度は無駄か……なら」

 

今度はただの矢ではなく刺々しい剣を具現化させると、それを細長く矢の状態にして魔力を込める。

 

「疾!」

 

矢となった剣が赤い閃光を光らせマギに向かっていく。

 

「がああ!」

 

マギは剣の矢を左腕で弾き飛ばした。が弾きとんだ矢先に剣の矢は起動を戻しまたマギに戻って来た。

 

「なっこのでたらめがぁ!」

 

マギは再度戻って来た剣の矢を破壊するために左腕を振るう。がまたも弾きとんでまたマギに向かって飛んでくる。

弾いても何度も戻って来る自動追尾弾のような剣の矢に段々と苛立ち始め

 

「だぁぁ!しゃらくせぇ!!」

 

叫びながら右腕の大砲を剣の矢に向けて放った。剣ではなく大砲の火力には耐えきれなかったのか砲撃で粉々に砕け散った。

 

「くそ、思ったよりも時間をくっちまった。残り時間もあと半分位だろうし、あの野郎人の制限時間察した途端にチマチマと遠距離攻撃しやがって……」

「弓兵を謳っているのだから遠距離での攻撃は当たり前だと思っているのだがね。それよりも無駄口を叩いている暇はあるのかな?」

 

そう言ってアーチャーはまた剣の雨をマギに向かって降り注がした。

 

「おんなじことやって、芸のない奴だなぁ!!」

 

今度は両腕を使い、迫り来る剣の雨を蹴散らしていく。がすぐに巨人が振るうような巨大な剣が数本、ミサイルの如く向かってき、マギの左腕とぶつかり合い、火花が散る。

 

「ぐっ……うぉぉぉぉぉ!!」

 

叫びながら巨大な大剣を砕いた。だが着実に制限時間が迫ってきていた。

破壊衝動がマギを包み込もうとしているのか段々と意識が遠退きそうな所をなんとか踏ん張る。

 

『おい急げ!なんとか踏ん張ってるが思ったよりも黒マギさんの侵食が早い!!頑張っても1分位しかもたん!!』

「あぁ、分かってる……!」

 

理性の白マギが頭の中で警鐘を鳴らす。マギ自身もがんがんと破壊衝動が身体中を巡っている感覚がある。もう時間がない。

 

「どうやらもう貴様の人としての時間はあと少しで、限界時間を達したら化生に成り果てるか……ならせめてもの情け、人として果てれるようにしてやろう」

 

そう言いながらアーチャーは上へと飛び浮遊術を使い空中に留まる。そして今度は螺旋状の剣を具現化してまた剣の矢に変える。

 

「I am the bone of my sword.」

 

詠唱を始めるアーチャー。その詠唱は修学旅行時映画村でマギの闇の業火を打ち破ったもの。あれ程の破壊力を持った矢を放たれれば被害は尋常ではない。ならば打ち勝つしかない。

 

「全身解放 右腕固定 闇の業火 左手固定 奈落の業火 双肩固定 終焉の劫火 術式統合! 炎神剣 邪神殺し!!」

 

魔力を収束し解放、双肩の砲台に集まった魔力が巨大な炎の剣の形へと変わった。

 

「偽・螺旋剣!!」

 

限界にまで引き絞られたアーチャーの螺旋剣の矢が放たれる。まさしく流星と謂われそうな高速の矢がマギに向かう。

 

「業炎 滅却!!」

 

マギも炎の巨大剣を発射する。マギが放った炎の剣とアーチャーが放った螺旋剣の矢がぶつかり合い。押し押されのせめぎ合いを繰り広げた。

マギは炎の剣を壊されないように全力で魔力を回していたが、突然吐き気と頭痛がマギを襲い、足の踏ん張りが効かなくなり膝から崩れ落ちそうになる。

 

「マギ!!」

 

エヴァンジェリンの叫び声が聞こえるが、マギはその叫びに応えられる状態ではなかった。吐き気と頭痛と一緒に殺せ壊せと囁かれているからだ。

 

『悪ぃ俺、もう黒マギさんが俺の腰まで来てやがる。もう限界だ。あと少ししたら黒マギさんに呑み込まれちまう』

 

白マギの声もノイズが混じって辛うじて聞こえている程度。もう時間切れ。

あれだけ踏ん張って結局は時間切れでGAMEOVER。なんとも呆気ない幕引きだろうか。

……否、断じて否。こんな終わり方あっていいはずがない。

 

「なぁ俺、もう1つ注文だ……!あと10秒延長してくれ。その10秒できっちり蹴りつけるからよ。だからあと10秒だけ耐えてくれ……!」

『……たく注文の多い俺だぜ。分かったよ出血大サービスだ。10秒だけ耐えてやるからきっちり決めろよ。く……うぉぉぉぉぉあああぁぁぁぁ!!』

 

白マギの気合いの咆哮が頭で響いたのと同時にノイズと黒マギの囁きが聞こえなくなった。本当に10秒白マギが持たせてくれているようだ。ありがとうと内心でお礼を言う。

 

『お礼はいいから早くしろ!そっちの10秒でもこっちは1分位は耐えてるから!まじで1分1秒も無駄にすんな!!』

 

白マギがツッコミを入れる。本当にいっぱいいっぱいのようだ。

 

―――10……9……―――

 

足を踏ん張り、剣の左腕に残っているありったけの魔力を込める。

 

―――8……7……―――

 

「いっけええぇぇぇぇ!!」

 

剣を前へと突き出すと、剣から赤黒い極光が出て炎の剣の柄に当たり、 それが炎の剣の力を増大させる。

 

―――6……5……―――

 

炎の剣と螺旋剣の押し合いは段々と炎の剣が押し始め、螺旋剣に段々と罅が入りついに

 

―――4……3……―――

 

螺旋剣が打ち負け、粉々に砕け散った。炎の剣は勢いがなくなることなく、真っ直ぐとアーチャーに向かって飛んでいく。

 

―――2……1……―――

 

「届けぇぇぇぇぇぇ!!」

 

炎の剣赤黒い極光を纒いそのままアーチャーを呑み込もうとしたが寸での所で巨大な鷹の妖怪がアーチャーを肩を掴み何処かへ連れ去ってしまった。

そして炎の剣は赤黒い極光の柱となり、空に浮かんでいた飛行船を貫き飛行船を爆散させ、そのまま天へと上っていき消えていった。

 

―――1……0

 

「くそ、仕留めきれなかった。けど、最後は尻尾巻いて逃げて行きやがった。ざまー……みや、が…れ……」

 

アーチャーの敗走を見て、満足げに笑みを浮かべたマギは闇の魔法の効果も消え変身も解けて何時ものマギの姿へと戻り、そのまま意識を手放し前のめりに倒れそうになる。

 

「マギ!!」

 

漸く体の痺れも完全に取れたエヴァンジェリンは倒れそうになったマギを支え、そのまま自身の膝にマギの頭を乗せた。

 

「よく頑張ったな。それと……何もしてやれなくてすまなかった」

 

エヴァンジェリンは優しくマギの頭を撫でながら携帯電話で茶々丸に連絡を入れてこちらに来るように命令した。エヴァンジェリンに撫でられているマギは意識を失いながらも安らかな顔を浮かべていた。

こうしてマギ対アーチャーの戦いは途中で乱入あり、マギの大変身ありと様々な展開が巻き起こったが、辛うじてマギが勝利を納めることが出来たのであった。

 

 

 

 

 

 




学園祭編はこの話とあと1話で終わります。


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終わりは呆気なく

今回の話の展開は正直苦手、嫌いだと思う方はいらっしゃると思いますが、最後まで読んでいただけると幸いです
それではどうぞ


「いや、私は未来に帰るヨ」

 

学園大戦は学園側の勝利。学生達がどんちゃん騒ぎの宴会をしている中で少しはなれた所で3ーA魔法関係者が別の意味でどんちゃん騒ぎを起こしていた。

ことの発端は最後の抵抗(悪のり)で超が取り出した。

その名は『超家家系図』。超の一族が誰と結婚し子をなすか書かれているもの。つまりネギが誰と結婚して子をなし超まで至るか書かれているもの。

更にはネギの名前の隣にはマギの名も書かれており、マギが誰と結婚しているのかが書かれている。

いきなりのアルテマウェポンの登場にネギやマギに好意を見せる女子達(しかも遠くにいたあやかとまき絵がとてつもない嗅覚で超が取り出した家系図を嗅ぎ付ける)は思考を停止した後に暴走。我先にと超の家系図を見るために奪い合いの大乱闘を勃発し始める。

先程まで自分を打倒するために協力しあっていたクラスメイト達の豹変ぷりにことの発端の超はけらけらと笑っている。ネギと戦っていた時の張り詰める雰囲気も無くなっており、今は年相応な少女のようだ。

そんな超にネギはこのまま卒業するまで一緒にいようと超に言う。ネギやクラスの皆と最後まで一緒にいる。それも満更ではないと思えた超。

だが超の答えは最初に言った未来に帰るだった。

 

「どっどうしてですか!?」

 

ネギは愕然としながら超に訳を訪ねる。周りの者達も今の流れはこのまま一緒に卒業する流れだと思っていたからだ。

超は苦笑いを浮かべながら頬を掻き

 

「どうしてモなニも2年もかけていタ計画が失敗した今の私に居場所はなイ……否それは違うナ。元の時代にやるべきことヲ見つけたと言うべきカ。私や同志達にはまだ明日があル。ならば明日を未来ヲ輝かせるためニ抗ってみせるサ。それにネギ坊主が言った。この時代ハ自分達に任せて欲しいと。ならばより良い世界にしてもらうためニネギ坊主達にこの時代を託す。ネギ坊主、いやネギ・スプリングフィールドやその仲間達なら必ず成し遂げることが出来ると信じてるヨ」

 

そう言って超は壊れていないカシオペアを取り出して起動させ、超の頭上に時間跳躍の魔方陣が展開される。

超と超に贈られた送別品が宙に浮かび始める。

 

「五月、超包子を頼む。全てを任せるヨ」

 

五月は頷き、安心して欲しいと目で超に答えた。

 

「ハカセ、今まで私の無茶に付き合ってもらって感謝ヨ。それと、未来技術の対処は打ち合わせ通りに。今回の計画のデータは厳重に保管しておいてヨ。それと、私のご先祖様が困っていた時は手助けしてくれると嬉しい」

「……全てお任せください。超さんと歩んだこの2年間は私にとってかけがえのない時間でした」

 

葉加瀬は涙を滲ませながらも超の旅立ちを笑顔で見送ろうとしていた。

 

「古!いつかまた手合わせするネ!」

「うむ!必ず!その時は私が勝つアルよ!!」

 

古菲と超はまた手合わせすると固く約束を結ぶ。

 

「ネギ坊主、ここにはいないエヴァンジェリンさんとマギさんに伝言を頼ム。私があの傭兵と契約したことによって皆に不快で不安なな気持ちを与えてしまったことを謝罪したイ。未来は変わるかもしれないのに一時の感情で暴走し傭兵と契約してしまったことは科学者の私の失態ダ。恐らくエヴァンジェリンさんは私を許そうとはしないだろうナ」

「……そんな事ありません、お兄ちゃんは過ぎたことは気にしないと思いますし、師匠も最初は渋るかもですけど時間が経てばきっと許してくれます!!」

「……そうカ、そうであれば嬉しいナ」

 

段々と光が収束していく。そろそろ時間なのだろう。

と今まで黙っていたアスナが超ちゃんと大声で呼ぶ。

 

「もう!嫌な事から逃げるんじゃないわよ!!」

「あぁ。もう逃げるつもりはないヨ。またあーだこーだと言い訳してたら今度こそ斬られてしまうかもだからナ」

 

アスナは思わず首を傾げてしまう。もしかして自分がキレた時結構やばかったのかと思った。キレた時の自分が何をしたのかとても気になってしまう。

そして光の強さが最大点に達した。

 

「ネギ坊主!!また会おう!!」

「はい!!いつかきっと!!絶対に!!」

 

超とネギが別れの言葉を交わした瞬間、一瞬で超は目の前から消えてしまった。時間跳躍に成功したのだろう。

 

「行っちゃったわね」

「はい強い人でした超さんは。僕があの人に出来た事ってあったんでしょうか」

 

アスナとネギが跳んだ超がいた空を見上げながらそう呟いていると

 

「そんな事ないアルよ。超の奴笑ってたアル。心配するなネギ坊主」

 

古菲が超にとってネギが心の支えになったとそう言い切る。

 

「……はい!」

 

とても強い相手だった。ネギは超や超の仲間達、そして未来の人達が幸せに暮らせるように自分が立派な魔法使いになれるように新たに決意を固めるのであった。

 

 

 

 

 

 

「無事かえアーチャー?」

 

楓が修行場にしている山に千草とアーチャーがいる。千草が鷹の妖怪を召喚しアーチャーを掴んでこの山まで逃げてきたのだ。

 

「まさかマギ・スプリングフィールドが彼処まで抗うとはな。あの男を見誤った私の失態だな。マスターの方はどうだったかな?」

 

欠けたバイザーを一度外し乱れた髪をかきあげた後にまたバイザーを付け直し千草に戦果を聞いてみた。

 

「上々!……と言いたい所やけど何人かの魔法使い共を病院送りにしただけや。本当は何人かを葬ろうと考えたけど、あんなお祭りで死人が出てしまえば何の関係もない人達にトラウマを植え付けてしまうのは申し訳ないと思ったんや」

 

そんな千草の報告を聞きながらアーチャーは微笑みを浮かべる。

 

「やはりマスターは少々悪人には向いていない性格のようだな」

「なっ馬鹿にすんな!魔法使い共だけならウチは幾らでも外道になるえ!そこん所勘違いすんな!」

 

千草のむきな返しに吹き出しそうになるアーチャーは直ぐに思案にふける。

あのマギは完全に不死身の存在になってしまった。恐らく自身が魔力で具現化させた不死殺しの武器が通用する可能性はかなり低くなった。

自身がマギを殺すにはどうすればいいのか……

 

「やっぱりこの場所にいたんだね」

 

第三者の声が聞こえ、聞こえた方向を振りかえるとかつて京都で行動を共にした少年、フェイト・アーウェルンクスが佇んでいた。

 

「あん時のガキ!何でこんな所にいるんやえ!?」

 

いきなりフェイトが現れたことに驚き思わず噛みつくように叫ぶ千草をアーチャーが宥めていると

 

「僕達の組織が次の段階に進もうとしている。そこで君達をスカウトしに来た所だよ」

「スカウトぉ?得体の知れない組織なんてお断りや。それにウチとアーチャーでも魔法使い共に一泡吹かせられる。他人の力なんて借りなくてもウチらはやれるんやえ」

「僕らに協力すれば君が言う魔法使い達に一泡も二泡も吹かせられるよ。因みに月詠という子は僕らに協力するそうだよ」

 

と今度はアーチャーの方を向くフェイト

 

「君はマギ・スプリングフィールドを亡き者にしたいそうだね」

「だから何だというのかね?」

「僕らに協力するのなら、あっちの世界にある不死を断つ武器の情報を提供すると言ったら?」

 

フェイトの情報にアーチャーは

 

「……分かった。君達に協力しよう」

「ちょっアーチャー!?」

 

ほぼ即決でフェイトに協力すると言ったアーチャーに目を見開く千草。

 

「悪いなマスター。私としてはマギ・スプリングフィールドを断ちきる術があるならば何でも利用するつもりだ。それと、マスターもどこかでは大人数の方がやりやすいと思っているのではないかね?」

「~~~っ……分かった、分かったえ。一応マスターて呼ばれてるからウチの方が立場上だと思うんやけどな……協力するから、ウチらもとことん利用させてもらうえ」

「取引成立だね。それじゃあこっちに僕の仲間がいるから着いてきてほしい」

 

フェイトに連れられ、森の奥へ行き消えていったアーチャーと千草である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ超の奴とっとと未来に帰っていったか。色々と言いたい事が山のようにあったのだがな」

 

超が未来に跳び、空も白く朝日を迎えそうになり始めた頃、エヴァンジェリンが茶々丸に横抱きにされたマギを連れてネギ達の元へやってきた。

 

「お兄ちゃん!?師匠、お兄ちゃんはどうしたんですか!?」

 

ネギはボロボロになり目を瞑っているマギを見て驚きなぜこうなった訳を聞く。

 

「どうしたも何もこの馬鹿はあろう事か闇の魔法を同時に3回も発動したんだよ。何とかあの傭兵を追い払えたが、その反動でこの様だよ」

 

茶々丸が柔らかそうな原っぱにマギを降ろす。静かに呼吸をしているマギにのどかに夕映に亜子と千雨にプールスが心配そうにマギを見る。

 

「エヴァンジェリンお姉ちゃん、マギお兄ちゃんは大丈夫レスか?」

「心配するなプールス。マギは反動で疲れただけだ。時期に目を覚ますだろうさ」

 

心配そうにしているプールスを宥めるエヴァンジェリン。そうこうしている間にマギがゆっくりと目を開ける。

 

「お兄ちゃん!」

「マギお兄ちゃん!」

「マギさん!」

「マギさん。よかったです気がついて」

「マギさん。よかったぁウチマギさんに何かあったらと思うと」

「お疲れさんマギさん。あたしも今回は結構頑張ったんだよ」

「お疲れ様でしたマギ先生。それと今回はあまりお力になれずに申し訳ありません」

「全く、色々と無茶をしすぎだ馬鹿者。でも、よく頑張ったな」

 

ネギ達がマギへ呼び掛けると、マギはそれに答えるようにゆっくりと口を開く。

 

「…………だ?」

「え?お兄ちゃん、何て言ったの?」

 

マギが言ったことを上手く聞き取れず、ネギ達が黙りもう一度マギが何を言ったか聞こうと――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君達は………誰だ?」

 

 

 

「……え?」

 

しんと静まり返る空気、マギは頭を押さえながら悲痛な声で

 

「……ここは、何処だ……俺は……誰だ……!!」

 

それを言い残しまたも意識を失うマギを見て、マギを囲うネギ達の空気がずんと重くなり沈んでいくのを感じた。

マギが払うべき代償、それはネギ達にとってかけがえのない大きく辛い代償であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ネギ、エヴァ、のどか、夕映、千雨、亜子、茶々丸、プールス、アスナ、このか、刹那、風香、史枷、千鶴、それに皆……すまないな」

 

マギの精神世界にて、マギは届かないであろうネギ達に謝罪の言葉を口にした。

マギは払う代償は『マギ・スプリングフィールドの記憶』である。

 

「俺はもう不死身の存在になった。よくある代償は魂だが、不死身の存在が自分から命を断つのはほぼ無理だ。なら俺自身が歩んだ軌跡、記憶が魂の代用となる。今ここでマギ・スプリングフィールドとしての俺は一度死んだことになったんだなこれが」

 

白マギが何処か呆れた様子で淡々と言う。

 

「でも別れの言葉を言わなくて良かったのか俺?絶対ネギやプールスにのどかは泣いて、エヴァはプッツンってキレるだろうぜ?」

「そうだな。けどこればっかりは言ったからと何か変わる訳じゃあない。なら黙って去った方が良いかもしれない。そう思っただけさ」

 

溜め息を吐きながら白マギがマギの額を何回もつつく。

 

「本当に分かってるのか俺?これから俺達がやるのは暴れる黒マギさんを手懐け闇の魔法を上手く制御することだぞ。そう簡単に出来ることじゃない。下手すればもう皆と再会することが出来ない今生の別れになるかもしれないんだぞ?」

 

黒マギはとても強力な存在である故にマギや白マギだけで上手く制することが難しいかもしれない。不死身という永劫の存在ということもあって最悪100年経っても制御しきれないかもしれない。

 

「大丈夫さ。黒マギさんも同じマギさんだからよ。直ぐにでも黒マギさんを手懐けて自分自身の力にしてやるよ」

「んな楽観視しすぎだろ俺」

 

マギの楽観視にまたも溜め息を吐く白マギ

 

「昔からへんに悪ぶったりめんどくさがったり、もっと素直に生きてればこんなことにならなかったかもしれないのにな」

「そうだな。だからこそ、今まで中途半端な自分とはもうさよならだ。黒マギさんを制してマギさん完全復活してやるよ」

 

そう言ってマギと白マギは構える。目の前で黒いもやが現れ、それが集まり、化物の姿になった黒マギになった。

 

『GRUUUU―――!!』

 

黒マギは唸り声をあげながらマギと白マギを交互に見る。今からお前らを食い殺すと言っているようだ。

 

「一瞬でも気を抜くなよ俺。そのままあいつに呑まれて暴走する化物の完成だ」

「抜くつもりは毛頭もないよ。こんなどうしようもない俺を慕っているあの子らにまだ何も伝えていないからな」

 

マギと白マギが構えた瞬間

 

『GAAAAAAAAAAAA!!』

 

黒マギが吠えて四つん這いになりマギと白マギに向かって来る。

 

「「行くぞおおぉぉぉぉぉぉ!!」」

 

マギと白マギも雄叫びをあげて黒マギに突っ込んでいく。

 

 

 

 

―――じゃあな皆。少しのあいだのさようならだ―――

 

 

 

 

 

 

 




………はい、前書きの苦手、嫌いといった展開は「記憶喪失」です。
なぜ記憶喪失にしたのか、それは本日の9時以降に活動報告にてお話しようかと思います。
今回の話で一応学園祭編は終了となります。そして今回の話をもって第一部完として次回から第二部とさせていただきます。
今回の展開で納得いかない読者の方もいらっしゃると思います。
ですが自分の稚拙な作品の次回を少しでも楽しみに待っていただけると幸いです。
長々と自分語りをしても鬱陶しがられるかもかもしれませんので。区切りとさせていただきます。
それでは!!


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閑話
Trajectory so far


和訳でこれまでの軌跡という意味です


あるところに兄弟の魔法使いがいました。

弟は大層優秀で礼儀正しく、兄は優秀ではあるがどこか面倒くさがり屋でありました。

この兄弟の親は父が英雄であり、母は行方知れず。弟は父のように成りたいと思っており、兄は自分達を放っておいた父を殴り飛ばそうと決めています。

弟は魔法学校を卒業し修行のために日本のある学園で教師をすることになり、兄はそんな弟の付き添いで自分も教師をすることに成りました。それが兄弟の運命を変えたのでした。

 

 

如月、兄弟は日本の学園都市の中学校の教師に就任しました。そこは女子校で女の子しかおらず、兄弟は面食らってしまいましたが、そこで少しずつですが兄弟は生徒達と絆を育んでいきます。

 

弥生、兄弟の初めての試練。それは自分達のクラスを期末試験の最下位から脱出することです。最下位を脱出するために兄弟は図書館島と呼ばれる不思議な島にある魔法の本を手に入れるために数人の生徒を連れて図書館島へと向かいました。

道中罠に嵌まる等がありましたが魔法の本を見つけることが出来ました。しかしゴーレムやドラゴンに襲われ、泣く泣く魔法の本を手放してしまいましたが、何とか最下位からは脱出することが出来まして、兄弟は無事に教師に就任することが出来ました。

 

卯月、兄弟が担当するクラスの女の子達が中学3年生になりました。そんなクラスの中にかつて兄弟の父と戦ったことがある不死身の吸血鬼が兄弟に仕掛けてきました。

兄弟の方にも慕っていたオコジョ妖精が日本にやって来ました。兄弟と使い魔の契約を結び、弟が勝ち気な女の子と仮契約を結びました。

道中弟が迷い吸血鬼の従者のロボットを襲い、兄がそのロボットを護り弟が忍者に諭されましたが、兄弟とオコジョと勝ち気な女の子が吸血鬼と戦い、兄弟が勝利しました。

その後すぐに、父に負けて呪いをかけられた吸血鬼が呪いを解いてもらっていないのが不憫に思い、己の危険を省みず吸血鬼の呪いを解き、吸血鬼を自由にしてあげました。

 

兄弟は修学旅行で京都に行くことになりました。京都は兄弟の父の別荘がある他に勝ち気な女の子の親友の実家があります。その実家と魔法使いが対立しているとのことなのでその仲を戻す架け橋と兄弟はなることになりました。

旅の道中で本好きの女の子が兄に好きだと告白しました。女の子に初めての告白されたことにどこか満更ではない兄はその後アクシデントが起こりながらも本好きの女の子と仮契約を行いました。

京都では魔法使いを憎んでいる呪術師や狗族の少年や銀髪の少年に兄を狙う傭兵、そして鬼が率いる妖怪達と戦いましたが勝利し、勝ち気な女の子の親友の従者の剣士の女の子との仲も元に戻ることが出来ました。

 

皐月、兄弟は更なる力をつけるために吸血鬼の弟子になりました。兄は闇の魔法という強力な魔法を習得しました。

学園に兄弟の故郷を襲った悪魔が襲来し兄弟の関係者の女の子を拐い、悪魔が弟と戦うように仕向けました。弟は京都で戦った狗族の少年と共闘し、悪魔を退けました。

兄は悪魔が連れてきた女悪魔を撃退し、その女悪魔が連れていたスライムに造り変えられた女の子を保護しそのまま女の子を自分の妹にしてあげました。

 

水無月、学園祭が始まります。兄弟のクラスはお化け屋敷をやることに、準備中に幽霊騒動がありましたが無事に学園祭を迎えることが出来ました。

しかし兄弟がクラスの女の子と学園祭を廻る前に仮眠をとったら大寝坊をしてしまいました。

寝坊したことに絶望してしまう兄弟。万事休すかと思いきや弟がクラスの天才児の女の子から貰った懐中電灯がなんとタイムマシンだったのです。兄弟はタイムマシンで難を逃れましたが、兄が本好きの女の子と文化祭を廻っていた時に本好きの女の子がもう一度兄に告白をして、学園にある巨大な樹、世界樹の力で暴走してしまい、本好きの女の子と吸血鬼の唇を無理矢理奪いそうになるといった一騒動が起こりました。

その他にもクラスの天才児が主催の武道大会で兄弟の父の友人が参加し父に化けた事で兄が闇の魔法を暴走しかけました。武道大会の他に、兄が背中に傷を持っている女の子に告白される。本好きの女の子の親友が同じように兄を好きになる等様々な出来事が起こりましたが、何とか切り抜けることが出来ました。しかし事件は起こってしまいました。

天才児は未来から来た者で、目的はこの時代で魔法を公開し未来の自分の仲間を救うといったものでした。そして兄を亡き者にするために京都で兄を狙った傭兵と契約して傭兵が兄と戦いました。その時に兄の闇の魔法が暴走し世界を滅ぼしてしまいました。

 

弟や兄弟に関係あるクラスの子は吸血鬼の魔法道具や天才児の策略によって難を逃れましたが、自分達が目撃したのは世界が滅んで1週間後の世界でした。

世界が滅ぶのを食い止める為に弟達は元の時代に戻るために暴走した兄を退けて全員で元の時代に戻りました。

 

弟は魔法を公表しないために、兄は自分を狙っている傭兵と決着をつけるために、学園にいる魔法使い達や学園の生徒を利用することにしました。

オコジョの伝で魔法武器を沢山用意し、天才児が用意したロボット軍団と魔法武器を持った者達が戦っている間に、弟とその仲間達が天才児を止めるために動き、兄と吸血鬼が傭兵と戦うために動きました。

様々な助力があり、弟は天才児の元に到着し、兄は誰の邪魔もなく傭兵と戦い始めました。

弟は自身の知略と想いを込めて天才児と渡り歩きましたが、兄の方は鬼の親分の乱入や魔法とは関係ない生徒達の乱入にあって大怪我をおってしまいました。

兄は生徒達を護るために大きな賭けに出ました。それは自ら吸血鬼の血を取り入れ自身も不死身の存在になり、3重の闇の魔法を発動させることでした。

闇の魔法を発動した兄は姿が大きく変わり、炎の魔神といっていい程の変貌をとげて傭兵に挑みかかりました。

弟も天才児との戦いが佳境に入ります。天才児が魔法で自身を強くさせて一時は弟を追い詰めますが、弟の意思の強さが勝り辛くも勝利を納めました。

兄の方も炎の魔神の姿となり傭兵との激しい戦いを繰り広げ、互いの強力な技をぶつけ合いました。

しかし兄の中の本能が暴れだそうとしました。兄は最後の力を出して本能を押さえ込み、魔力を出しきり傭兵を追い払いましたが、そのまま倒れてしまいました。

 

弟に負けた天才児はそのまま潔く未来に帰っていきました。これから来るであろう未来を弟達に託して。

倒れた兄が吸血鬼とロボに連れられ弟達がいる所に戻り、暫くして目を覚ましました。

兄が目を覚ましたことに弟達は安堵しましたが、兄は弟達や自分の事を忘れてしまっていました。

闇の魔法の代償として兄は自身がこれまで歩んでいた軌跡、記憶を失くしてしまいました。

その事を知り弟達は深く絶望してしまうのでした。

 

 

 

 

 

こうして魔法使いの兄弟、マギ・スプリングフィールドとネギ・スプリングフィールドの物語は一端の幕引き。

しかしこの兄弟やその仲間達の物語はまだ始まりに過ぎず、これから大きく動き渦巻くのです。

彼等が立ち止まろうとしても、賽の目は勝手に動いてしまいます。その賽の目が彼等にどういったものを見せるのかは……まさに神のみぞ知るなのです。

 

 

 

 

 

 




約6年分の話を昔話風に纏めてみました。


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~第二部 Prologue ~
Re:START


前回の話の文字数が少なかったので今週はもう一話投稿します


学園祭の打ち上げが夜通し行われた早朝、学生達は学園祭での疲れを癒すために思い切り羽を伸ばすか、若さに身を任せて打ち上げを続けているかのどちらかだった。

そんな楽しげな雰囲気の中でお通夜の空気を出す一行が。マギとネギとアスナとこのか刹那、のどかと夕映に千雨に亜子にエヴァンジェリンに茶々丸にカモとプールスがかつて茶々丸を検査するために来た葉加瀬のラボに来ていた。

ネギが扉をノックすると葉加瀬が真剣な顔で扉を開けた。

 

「来ましたね。では中へ」

 

ネギは葉加瀬のラボへ入って行く。何故なら記憶を失くしたマギを検査するからだ。

 

 

 

 

 

「―――ハカセさん。お兄ちゃんはどういう状態なんですか?」

 

マギは巨大な容器に入れられて(元々茶々丸用の物だったが人でも使えるように急遽改造)体をスキャンされている。

ネギの心配な声に葉加瀬は申し訳無さそうに首を横に振る。

 

「だめです。脳には全く損傷等は見られません。分かることはマギ先生はエピソード記憶だけが失くなっているように見えます」

「ごめんハカセちゃん。アタシあまり頭良くないから分からないんだけど、エピソード記憶って何?」

 

アスナが葉加瀬にエピソード記憶とは何かを聞く。

 

「記憶には意味記憶とエピソード記憶があります。意味記憶は事実や概念分かりやすく言えば知識です。エピソード記憶はその人が体験したエピソードを記憶する。これも分かりやすくすれば思い出です。今のマギ先生はあらゆる知識はあっても自分の思い出はおろか自身が過ごした思い出や故郷この学園での出来事、私達の事やネギ先生こと……自分の父親の事も失くなっているのだと思われます」

 

結果を聞き、マギの記憶が失われたことにネギ達の目の前が真っ暗になるような感覚が襲ってくる。

 

「……こうなった原因、アンタなら分かってるんじゃないのか?」

 

千雨がエヴァンジェリンを見る。その目は何処かエヴァンジェリンに敵意がある。

 

「マギが闇の魔法を3回同時に発動した代償というのが確実だろう。私が不覚を取られずマギと一緒に戦ったらこのような結果にはならなかったかもしれない………すまない」

 

エヴァンジェリンが深々と頭を下げた。いつもは気丈な姿勢を見せているエヴァンジェリンが今はどこか弱々しく見えてしまう。

千雨は思わずエヴァンジェリンを勢いで罵ろうとするがぐっと口を紡ぐ。自分は現実ではマギに出来ることなんてない。精々電子の世界で活きることしか出来ない。自分がマギと一緒に戦っていたエヴァンジェリンを責める権利はないのだ。

 

「ねっねぇマギさんはほんまに覚えてないん?ウチがマギさんに好きだって言ったことも覚えてないん?」

 

亜子は一抹の希望を求めマギに覚えていないのか聞く。

だがその答えはマギが申し訳なさそうに首を横に振ったのだった。

それを見て亜子は膝から崩れ落ちすすり泣き、のどかも静かに涙をこぼした。

まだ皆の心の整理が追い付かず、沈んだ表情のままだ。

 

「皆さん、一度落ち着きましょう。僕らよりもお兄ちゃんの方がずっと辛いでしょうから……」

 

ネギは落ち着きを取り戻すように皆に言い聞かせるが

 

「なに言ってるのよネギ……アンタだって手が震えてるじゃない」

 

ネギも手が震えている。その震えている手を片方の手で押さえ震えを止めようとする。

 

「僕は皆さんの先生です。せめて僕だけでも冷静でいなければいけない……けど、やっぱり……ごめんなさい。お兄ちゃん……う…っく……」

 

この中で一番ショックが大きいのはやはりネギであろう。だが先生だからと自分に言い聞かせて冷静を保とうとしたが、やはり耐えきれなくなり堰を切ったように涙をこぼしてしまう。

それにつられるようにこのかや夕映にプールスも大泣きしてしまう。

アスナや刹那に茶々丸にカモもどうすることも出来ず、いたたまれない空気のなかで

 

「ね……ぎ…ねギ……ネ…ギ……ネギ……」

 

マギは何回かネギの名を呟く。すると先程まで虚ろだった目に段々と光が戻ってきて

 

「ネギ!」

 

ハッキリとネギの名を呼んだ。

 

「おっお兄ちゃん?」

 

マギがいきなり名を呼んだことに驚いていると

 

「アスナ、このか、刹那、プールス、カモ、のどか、夕映、亜子、千雨、茶々丸、"エヴァ"」

 

アスナから順に名を呼ぶ。さらにエヴァンジェリンは記憶が失われた前と同じエヴァとそう呼んだのだ。

 

「お兄ちゃん!記憶が戻ったの!?」

「マギお兄ちゃん!!」

「マギさん!」

 

ネギ達の顔に喜びの色が見える。

 

「信じられません……マギ先生は完全に記憶を失ったはずなのに」

 

葉加瀬は信じられないものを見ているがマギが首を横に振り

 

「いや未だに昔のことは覚えてない。けどネギはネギ、のどかはのどか、エヴァはエヴァというのは分かる。これだけは失ってはいけない。そう思ったんだ」

 

そう言ってマギは自身の胸に手を当て

 

「目を覚ます前、暗闇の中で記憶が失う前の俺と会ったような気がする。その時に俺はこう言っていた」

 

―――俺が戻るまでに皆の事を頼む―――と

 

「さっきまで頭の中で靄がかかってたが、ネギの名前を呼び続けたお陰で少しだけ頭の中が晴れたような、心の中のピースが1つだけはまったような気がする。なら俺は最後に残ったかすかな想いを絶対に手放さない。絶対にだ」

 

誓うように力強く拳を握りしめた。

 

 

 

ラボからの帰り、辺りはもう夕焼けに照らされているが、早朝と違って皆表情は少しだけ戻っていった。

 

『マギ先生の話から推測すると、恐らくマギ先生は記憶を失ってはいないと思われます。俺が戻るまでということは今までのマギ先生を培っていた人格が、闇の魔法を抑えようとしてるのではないでしょうか。つまりは闇の魔法を完全に制御出来るようになればマギ先生の記憶が戻る可能性は高くなると思われます』

 

葉加瀬の推論を聞き、マギの記憶も戻ってくるかもしれないというまだ一縷の希望が戻ってきた。

 

「君らを忘れてしまってはいけないと心が叫んで、魂に刻んだだと思う」

「魂にですか?」

 

魂に刻んだ。その言葉に夕映が首を傾けると

 

「当たり前だが記憶喪失は何もかも忘れてしまうこと、君達を忘れてしまうのはマギ・スプリングフィールドとして終わってしまう。そう思っての最後の抵抗だったと思う」

 

そう言いながら右腕に着けたガントレットを天にかざすマギ。

このガントレットは葉加瀬のお手製でエヴァンジェリンがマギに渡した聖骸布と同じ役割を担っているとのこと

 

『このガントレットは特殊な魔力の波を腕に当てています。今のマギ先生の右腕は休眠状態で暴走することはないでしょうが、これをつけていれば暴走する可能性は低いと思われます』

 

後は茶々丸もガントレット作成に手を貸し可能な限りに内蔵出来る防衛機能を取り付けた。聖骸布を手に巻いているよりかはましかもしれない。

 

「これからどうするのお兄ちゃん?」

「焦っても何も始まらないさ。じっくりと一歩ずつ踏み出すさ」

 

微笑みを浮かべたマギだがすぐに申し訳なさそうにする。

 

「お兄ちゃん?」

「……悪い。気軽に話してるけどネギはネギって分かるけどネギがどういった奴か知らない、空っぽなんだ。ハハ、薄情だな俺って」

 

ネギのことは認識できるがネギがどういった人なのかを理解出来ない。もやもやしてそんな自分を責めてしまう。

 

「そんなに自分を責めないでください。マギさんは私達の名前を呼んでくれました。私達を忘れないでくれた。それだけでも私は嬉しいです」

 

のどかが励ます。のどかの励ましを聞くと心が温かくなるのを感じた。

 

「不思議だな。のどかのそんな言葉を聞いたのはある意味これが初めてだけど、心が温かくなって落ち着くよ。ありがとう」

 

のどかに礼を言うマギ。のどかに続くように皆がマギを励ます。だがエヴァンジェリンだけが複雑そうにマギを見ているだけだった。

 

「ありがとう。君達の声を聞いていると心が落ち着いてくる。こんなにも支えてくれる人がいる。こんなに嬉しいことはない」

 

マギは髪をかきあげ、かきあげられた髪が逆立つ。まるでこれからの決意の現れだ。

 

「皆の支えに応えるために、ここで俺は改めて一歩踏み出す。マギ・スプリングフィールド、リスタートだ」

 

かつて堕落を地で行こうとした男が、またこうして新たなる一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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~第10章~戦士の休息
新たなる道標


マギが新たなる一歩を踏み出した翌日。学園祭の振り返り休日なため学生達はみな思う存分羽を伸ばしている中、マギやネギ一行が図書館島の地下深く、かつて来たことがある巨大な扉の前に来ていた。

扉の前にはかつてマギ達を襲ったドラゴンが鎮座している。唸り声をあげるドラゴンに緊張が走るなか、ネギはドラゴンに自身の名が書かれた紙を見せる。

紙を見たドラゴンは唸るのを止め、何処かへ羽ばたいていった。ドラゴンと戦うことがなくほっとしていると扉がゆっくりと開いた。

奥へ歩いていくと大きな空間にたどり着き、不思議な建物が聳え立っていた。

この建物はクウネルの住居であり、ネギやマギがお茶会に誘われたのだ。

付き添いではアスナにこのかに刹那とプールスにのどかであった。エヴァンジェリンはこの場におらず先にクウネルの所へ向かったそうだ。

 

「クウネルさん、本日はお誘いいただきありがとうございます」

「こちらこそようこそネギ君。それと……」

「あー、その、俺貴方が誰なのか分からなくて……」

「話はキティから聞いていますよマギ君。私のことはクウネルとお呼びください。食って寝るの隠居生活のクウネルと覚えておいてください」

 

クウネルがエヴァンジェリンの事をキティと呼んだことにエヴァンジェリンは猛抗議してきたが、クウネルは飄々と流して改めてマギに自己紹介した。

 

「クウネルさん、か。正直言うとなんか胡散臭いっていうのが最初の印象なんだけど」

 

マギのクウネルの第一印象が胡散臭いという感想にエヴァンジェリンは先程まで怒り心頭だったのに吹き出した。

 

「ふふ。そうですか、記憶を失くしても言いますねマギ君。それと髪の毛を立たしたのはイメチェンですか?年相応な意識表示ですねいいと思いますよ」

「今のは褒め言葉として受け取っていいんだよな?どうも」

 

マギの第一印象の感想に特に言及せずどこか胡散臭い笑顔のまま髪を逆立てたマギを褒め、茶会を始めることにした。

 

 

 

 

 

 

「……話は聞きましたが、闇の魔法を3重に発動しその代償で記憶を失くしてしまった。しかしその若さでそんな無茶が出来るとは……流石はナギの息子と言った所でしょうか」

「ふん、向こう見ずな所も似なくてもいいだろうが」

 

茶会を進める中でクウネルが闇の魔法を使ったマギの話をすると急にエヴァンジェリンは顔をしかめる。昨日からマギの話になるとこの調子だ。少しでもエヴァンジェリンの気持ちを落ち着かせるためにプールスがエヴァンジェリンの隣に座る。

 

「ネギ君もまだ幼いながらもあれ程な力を身に付けるとは将来が楽しみですね」

「はっはい、ありがとうございます」

 

クウネルに褒められ満更ではなさそうな反応を見せるネギにクウネルが

 

「どうですか?このまま2人とも私の弟子になってみませんか?」

「え!?」

「クウネル!!!貴様何勝手な事を口走ってる!!?」

 

クウネルの弟子発言にネギが驚きエヴァンジェリンは声を荒げる。

 

「私はナギと旅をした間柄、サウザントマスターの戦い方を熟知してると自負はしています。ネギ君がナギのような戦い方を身に付けたいというなら手取り足取り教えてあげますよ」

「父さんの戦い方……」

「マギ君もどうですか?ナギの戦い方を知れば若しかしたら記憶が戻る手助けになるかもしれないですよ?」

「父さん……か」

 

ネギとマギは押し黙る。エヴァンジェリンは反対の意を唱えようとしたが口を紡ぐ。これでマギの記憶が戻る手助けになるのならそれも良策かもしれない。しかし先程からマギが首を縦に振るったと思うと胸がズキズキと痛むのだ。

アスナ達もネギとマギがどう答えるのか固唾を飲んで見守っていると

 

「いえクウネルさん、僕としては魅力的な話ですがお断りします」

「俺も結構だ」

 

2人の答えはNOだった。

 

「おや、そうですか。差し支えなければ訳を聞いても?」

 

お断りの返事を聞いてもクウネルは表情を崩さない。その答えが返ってくると分かっていたかのように訳を聞こうとするクウネル。

 

「僕はクウネルさんが父さんになってお兄ちゃんと戦ったのを見た時や超さんと戦ったことで色々と教えられました。世の中は綺麗事だけでは解決出来ない問題が多くあるというということ。その中でもだからこそ立派な魔法使いになる事を立ち止まってはいけないということ。父さんとは別の立派な魔法使いなって誰かの助けになれればと……そして一番は師匠を裏切りたくないことです」

「俺は父さんの……いや"クソ親父"のことは全然思い出せないし、立派な魔法使いなんてよく分からない。けどこれだけは言える。俺はエヴァを裏切る真似は絶対にしない。記憶がない俺が言えることはこれしかないけどな」

 

ネギとマギの答えにクウネルは満足そうにそうですかとにこやかに頷く。エヴァンジェリンもどこか満更ではなさそうに顔を赤くさせる。

 

「いやはやナギの息子両方に大事にしてもらえるなんて、両手に花とは愛されてますね。キティ」

「だからその名で呼ぶなと言ってるだろう!いきなり坊やとマギを弟子にとろうと何を考えている!?」

「貴女の慌てふためく姿を見たいからに決まってるじゃないですか」

「即答するな貴様ああああ!!」

 

クウネルの茶化しにキレて暴れるエヴァンジェリンをネギとマギで何とか宥めようとし、アスナ達は微笑ましく眺めていた。

エヴァンジェリンが暴れて宥めるのに数分かかったが、何とか落ち着かせることが出来た。

そして今日話そうとした本題をクウネルに話すネギ。

 

「クウネルさん。僕は貴方に聞きたいことがあってこのお茶会に参加しました。どうか教えてください……父さんは生きていますか?」

「……ええ。彼は生きています。それは保証しましょう」

 

クウネルはナギが生きていると肯定し、その証として自身のカード、背景が描かれている1枚と背景がないクウネルしか描かれいない白いカード何枚かをネギ達に見せる。

 

「この背景が描かれているのがナギと契約したカードで何枚かの白紙のカードは契約を解除あるいは契約者が死亡しカードも死にます。申し訳ありませんが私はナギがどこにいるかまでは分かりません。ですがカードが生きているならナギも同じく生きているのです」

 

情報が少ない中でもナギが生きている事を知れた。それだけでもネギは嬉しいが、欲を言えばもう少しだけ手掛かりになるような情報が欲しい。

 

「クウネルさん、他に何か何か分かることはありませんか!?」

「そうですね。彼の事を知りたければ一度イギリスのウェールズに戻ったらどうでしょう」

「ウェールズですか?」

「そこには魔法世界、ムンドゥス・マギクスへの扉があります。あちらの世界ならナギを見つける手掛かりがある可能性は高いでしょう」

「魔法世界……」

 

ネギは魔法世界を復唱し黙る。

 

「魔法世界って魔法の国ってことかな。メルヘンやね」

「どうなのでしょうか。私もそこまで詳しくは分かりませんが……」

 

刹那とこのかが話していると急に突風が吹き荒れた。

 

「うぷっ何この突風!?」

「飛んじゃいそうレス~!」

 

飛ばされそうになっているプールスを胸に抱き締め、突風の原因を探すアスナだが、突風の発生源がネギだと直ぐに分かる。

今まであやふやだった父ナギの手掛かりが魔法世界というこれまた壮大で確定してない情報だが、大きな進歩であるのは確実で喜びのあまり魔力が漏れ突風が吹き荒れたのだ。

 

「ちょっネギ!嬉しいのは分かったから風を止めて!このままじゃアタシ達吹き飛ばされちゃうからあぁ!!」

 

吹き飛ばされないように足を踏ん張り風を止めるように叫ぶアスナ。しばらくして落ち着いたのか突風を出すのを止めたネギが大きく息を吐いて

 

「ありがとうございますクウネルさん。これでまた父さんに一歩近づけたと思います」

 

と情報を教えてくれたクウネルに礼を言う。エヴァンジェリンやアスナは多少だが驚いた。いつものネギならそのまま突っ走ってウェールズに向かおうとするかもしれないのに落ち着いている。

 

「驚いたな坊や。てっきり馬鹿みたいにウェールズに行くものだと思ってたが」

「はは、正直言うと出来るなら直ぐにでもウェールズに魔法世界に行きたいです。でも僕は3ーAの先生です。まだ期末テストも終わってないのに無責任なことは出来ないです。それにお兄ちゃんの記憶が戻ってないのにいい加減なことなんて出来ません」

 

ネギのクラスのことやマギのことをしっかりと考えている答えにエヴァンジェリンとアスナ達は満足そうに微笑み

 

「そっか。しっかり考えているのね偉いわよネギ」

 

アスナは優しくネギの頭を撫でる。

 

「そう言えばマギさんは?さっきから黙ってるけどどないしたん?」

 

このかの言うとおり先程からマギが黙っていた。どうしたのだろうか

 

「うひゃ!?」

 

と刹那が変な悲鳴をあげる。刹那が悲鳴をあげたほうを見てみると

 

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

ネギ程ではないが、体から黒いオーラのような気炎がマギから溢れ出ており、頭を押さえ苦しそうに息を吐いていた。

 

「マギお兄ちゃん大丈夫レス!?」

「お兄ちゃんしっかり!」

「燃えてるけど大丈夫なの!?」

「お水!バケツどこ!?」

「お嬢様落ち着いて下さい!!」

「マギ気をしっかり持て!!」

 

ネギ達の呼び掛けに段々と黒い気炎が治まり、マギの呼吸も安定していった。

 

「……すまない。クソ親父がその魔法世界にいるかもしれないと聞いた途端に何故だか分からないがクソ親父をぶん殴れって頭の中で叫び続けて頭の中がそれで一杯に……もう大丈夫だ。心配かかけたな」

 

落ち着いたマギを見てほっと胸を撫で下ろすネギ達。

 

「どうやらナギの情報を聞いてほんの一部の記憶が戻ったようですね。いやはや良かったですね」

「その代償でここが吹き飛んでしまったかもしれないがな。まったく……」

 

エヴァンジェリンが深い溜め息を吐いた瞬間にマギはネギに

 

「ネギ、学校が終わって夏休み入ったら魔法世界に行くぞ」

「お兄ちゃん!?」

 

とんでも発言をしネギ達の口を大きく開かせる。

 

「マギ!貴様正気か!?魔法世界がどういう世界か分かってるのか!?記憶を失くしてる貴様がそう易々と足を踏み入れていいと思ってるのか!!」

 

エヴァンジェリンが怒気を隠さずに声を荒げる。エヴァンジェリンの言うことは最もだ。今の状態のマギがどんな世界か分からない魔法世界に行くのは無謀中の無謀の愚かな行為だ。

 

「そうだよお兄ちゃん。師匠の言う通りだよ。どんな世界なのか分からないのに行こうなんてそれにお兄ちゃんの記憶だって戻ってないんだから戻ってから探すことも出来るはずだよ」

 

ネギもマギが無謀なことをしないように説得する。

がネギの説得にも首を横に振り

 

「分かってる。今俺が言っていることは無謀なことだって。けど、今動かなければクソ親父に会うのがもっと先になるかもしれない。それとその魔法世界に行かないと後悔しそうな、そんな気がする」

 

そう言ったマギの目は戯れや酔狂の色はまったくなく、真っ直ぐな目でネギを見ている。

 

「ふふ、記憶のないマギ君がここまで言うのならば、本当に何かあるのかもしれませんね」

 

クウネルは面白いものを見たと笑みをこぼしながらそう言った。

ネギは迷った。今のマギは父であるナギをぶん殴るということしか思い出せていない。そんなマギがここまで言うのならば本当に魔法世界に行けば会えるのではないのだろうかと

 

「……はぁそこまで言うなら行けばいい。だが私の弟子があっちの世界に無謀に行ってぼろ雑巾のような無様な姿を見せるのは許さないからな。私が徹底的に鍛え直してやるから覚悟しておけ」

「師匠……ありがとうございます」

「ありがとう、エヴァ」

 

魔法世界でも渡り歩けるように鍛えると言ったエヴァンジェリンに礼を言うネギとマギ。だが礼を言われてもエヴァンジェリンはそっぽを向く。やはりエヴァンジェリンはマギが記憶を失くしてしまってからどことなくマギと壁を作っているようだった。

 

(エヴァちゃんなんか無理してるなぁ……)

 

内心心配するアスナやこのかや刹那はエヴァンジェリンの心情を察して、暖かい目で見守っていた。

一応話はこれにておしまい。ネギがもっとナギについてクウネルに聞こうとしたが、色々と聞いてマギがまた黒い感情を出さないという保証はないことと、ネギ達以外にクウネルに誘われたのだのどか達魔法関係の生徒達がやってきたためナギの話は別の機会となった。

その後のお茶会は魔法についての雑談となり何も問題もなくお開きになったのであった。



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シスター美空のお悩み相談

学園祭の振り替え休日が終わり、学生達はいつも通りの学生生活を送る中で3ーAは少しだけ日常が変化した。

まず朝礼でネギがマギの記憶喪失の事をクラスの皆の前で話した。ネギから話を聞いた魔法関係の生徒以外は驚いた表情を浮かべた。

何人かになぜマギが記憶喪失になったか聞かれ、ネギは苦し紛れの誤魔化しで学園祭の最後のイベントでアクシデントを起こしてそれで記憶喪失になったと話した瞬間に裕奈と風香と史伽そして千鶴が悲痛な顔を浮かべていたがネギは気付かなかった。

一応知識は失くしていないマギは他のクラスで歴史の事業を行っている先生に補助してもらい授業を続けることにするという。

ネギや事情を知った学園長はマギに無理して授業をしなくてもいいのではないかと提案するが

 

「無理を承知なのは分かってる。けどネギ達以外に忘れた人を少しでも多く認知したい」

 

と頭を下げたマギに根負けしてしまったネギ達はマギに引き続き教師を任せることにした。

今日は補助ありでクラスメイトの顔と名前を思い出すために軽い問いかけをしながら事業を進めた。

がマギの歴史の授業はどこか暗く静かな授業となってしまった。

 

 

 

 

と3ーAは新たなスタートを踏み出したが、3ーAの中でもいつも通りの日常を歩む者もいた。

 

「あー暇っすねーなんか面白いイベントでも起きないかなー」

 

制服からシスターの修道服に着替えた美空が教会の聖堂内を掃除しながらそうぼやいていた。

 

「美空、掃除」

「わーかってるよココネー。サボってたらシスターシャークティがマジギレするからねー」

 

美空を注意したのは美空と契約した褐色の少女のココネ。年下であるがマスターの彼女の注意に流しながらもしっかりと掃除を続ける美空。サボると自分達の上のシスターシャークティによるお仕置きは本当に怖い。サボるのだけはしないと肝に銘じている美空である。

そんなこんなでありながら今度は懺悔室を綺麗に拭く美空。

懺悔室は懺悔、告解ともいい自分の罪を悔い改め、それを神父に聞いてもらい神からの赦しをもらうことである。

といってもここに懺悔をする者達は誰かと喧嘩したとか金を借りたままで返し忘れたとかそういったものである。

鼻唄を歌いながら懺悔室を掃除していると、教会に来訪者が現れ、そのまま真っ直ぐに懺悔室に入ってきた。

急に懺悔室に人が入ってきたことに美空は驚き、誰が入ってきたのか見て更に驚く。

入ってきたのがまさかの裕奈だったのだ。

 

(ええー!?何で裕奈がここに!?懺悔とかに無縁そうなあの裕奈が!?)

「あのーすいません。こういった所に来たことがないから勝手が分からないんですけどいいですか?」

 

いつも快活で元気な裕奈がどこか遠慮というか明らかに元気がない形で壁の向こうにいる美空に話しかけてきた。

しかし今は神父は外出しており誰も対応する者がいなかった。故に……

 

「はい続けてください。貴女は何の罪を懺悔しに来ましたか?」

 

魔法で声を変えて神父の声で半ば出任せで続けることにした。

 

(美空、勝手な事をしたら怒られる)

(ここまで来たら後は突っ走るだけ!だからココネは黙ってて!!)

 

裕奈に聞こえないように小声で言い合う美空とココネ。

 

「うーんと罪なのかな……その、私ってノリと勢いで生きすぎなのかなーって」

「……はい?」

 

一瞬聞き間違いかと思ってしまった美空。ノリと勢いの権現とも言いそうな3ーAの筆頭である裕奈がどうしてそんな事を言ったのか

 

「えー申し訳ありません。話が見えないのですが、どうしてそう思ったのか詳しく話して貰っても宜しいですかな?」

 

美空は再度裕奈から訳を聞くことにした。

 

「学園祭の最終日に凄いイベントがあったんですけど、私結構活躍して調子に乗りすぎて、私らの副担任の先生が仮面を着けた男と対決してたんです。最初は仮面を着けた男もイベントの一環だと思って助太刀したんです。けどイベントの一環じゃなくて学園祭の観光客を装った不審者みたいだったんです。マギさん……あ、副担任の先生の名前です。マギさんが私ら護ろうとして大怪我しちゃって、私目の前のマギさんの怪我が本当なのか演出なのか分からなくなって、目の前が真っ暗になって気を失って……気が付いた時には学園祭は終わってて、今日学校に来たらマギさんが記憶喪失になったって聞いて……」

 

いつもの元気もなくポツリポツリと話す裕奈。

 

「若しかしたら、じゃなくて絶対私達が助太刀なんて邪魔しなかったらマギさんが大怪我することなかったんじゃないかって、ずっと頭から離れなくて……というか来年から高校生なのにまだ子供みたいにはしゃぐなんて……裕奈・ザ・キッドとか子供みたい。はは……」

 

終いには自身の事を自虐し乾いた笑みをこぼす裕奈。

一方、懺悔を聞いていた美空の心境はというと

 

(………お、おもぉぉぉぉぉ。なんだよこの沈んだ空気は!?こんなに沈んだ裕奈見たの初めてだわ!そりゃそうだよな!一般人があんな戦い目の当たりにして目の前で血だるまになってるの見たら普通だったら発狂もんだわ!それなのに気が沈むだけとかさすが3ーAの生徒だわ!まったく脱帽だよ!!)

 

荒れに荒れていた。3ーAの賑やかし筆頭と言っていいほどの裕奈からまさかここまでヘビーな悩みを打ち明けられるとは思っていなかったからだ。

しかしどうしたものか、興味本意で裕奈の懺悔を聞いてしまったがここで適当な事を言ってしまえば余計裕奈は悩んでしまうかもしれない。

ならばと美空の導きだした答えは

 

「……なるほど、貴女は自分の活発な行動のせいで恩師の先生が傷ついてしまった事を悔いているのですね。ならば貴女の贖罪はいままで通り元気な姿を見せ続けることです」

「え?神父さん?言い方あれですけど話ちゃんと聞いてました?私は自分のノリと勢いの生き方を悔いてるって言ったのに」

 

話は最後までお聞きなさいと美空は裕奈の言葉を遮る。

 

「聞いていれば貴女のそのノリと勢い、言い換えれば元気な姿勢が貴女の個性なのでしょう。そんな貴女が暗い表情を浮かべていれば学友は心配するでしょう。ならばどんな時でも、例え苦しく辛いことが会ったときでも笑顔で元気な姿を見せなさい。それが貴女が行うべき善行なのです」

「どんな時でも笑顔で元気よく……」

「頑張りなさい。私も陰ながら応援していますよ」

 

ホッホッホと大袈裟に笑う美空。裕奈も色々と話せたお陰か懺悔室に入ってきたよりも少し表情が戻ってきたようだった。

 

「ありがとう神父さん!私も私なりに自分の罰に向き合ってみまーす!」

 

神父(美空)にお礼を言い、懺悔室を出てそのまま教会を後にした。

裕奈の気配が教会からなくなったところで美空は大きく息を吐き

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………な、なんとか切り抜けたぁぁぁぁ」

 

どっと疲れが押し寄せてきて切り抜けた自身を称賛した。

 

「まぁ裕奈のお父さんも裕奈が元気ないのを心配してたしこれで少しはあの家族の役にたったかな」

 

裕奈の父親は美空達と同じく魔法使いで自身の娘がマギとアーチャーの戦いに遭遇し落ち込んでいたのを心配していた。

いつもは活発な娘が沈んでいるのをとても心配していたのでこれで少しはいつもの裕奈に戻るだろう。

 

「しっかしなんやかんやで上手くいくとは、私に神父としての才能があったってことっすかねー」

「美空、悪ふざけよくない」

「分かってるよー今回はなんとか切り抜けたけど、でまかせごまかせで切り抜けられない懺悔も来るかもしれないからさっさと掃除を済ませて今日はお開きに……」

 

しようとしたらまたも懺悔室に誰か入ってきたようだ。

申し訳ないがもうこれ以上相手は出来そうにない。来て早々申し訳ないが神父は不在で後日来て欲しいと言おうとした瞬間

 

「神父様お願いします」

「どうかボクたちの懺悔を聞いてください」

 

懺悔室に入ってきたのは風香と史伽だった。

 

「本日2回目!!」

 

まさかクラスメイトがまたも懺悔に来たことに思わず地声で叫んでしまった美空。

 

「ひう!?」

「しっ神父様?いきなりどうしたの?」

 

壁の向こうで叫んだ美空に驚く風香と史伽。はっとした美空が大きく咳払いし

 

「失礼、少々驚いてしまいましてな。それでお嬢さん方一体なんの罪を告白しに来たのですかな?」

 

直ぐに声を神父のものにして双子の懺悔を聞くことにした。

 

「私とお姉ちゃん、好きな人がいるんです。けど私達が邪魔したせいでマギお兄ちゃんが酷い目にあったんです」

「邪魔したボクらがせめてもと思ってマギ兄ちゃんに酷いことした奴から護ろうとしたけど、ボクたちちっちゃいし弱いからそいつからマギ兄ちゃんを護れなくて、それで………」

 

限界が来たのか大声で泣き出してしまった風香と史伽。ここまで来るのに我慢したのだろう。泣き出した双子を見て美空は

 

「今は大いに泣きなさい。泣いて気持ちを洗い流しなさい」

 

泣くことを勧めるのであった。

風香と史伽が泣いて10分位経った。懺悔の内容は祐奈と大まかに同じで違うとしたら自分達が小さく幼い体のせいでマギを護れなかったという所だろう。

 

(いや、これ何て言えばいいんだ?相手は傭兵だったらしいし、土俵が違うから敵わないのは当たり前だし、けどそんな事を言えるはずないしなー)

 

泣いている間に何を言えばいいか唸っていた。風香と史伽がマギに好意を寄せていたのは察していた。2人に効果的なのは

 

「お嬢さん方、貴女達は好きな人を護るために動いたそうですが、いかんせんこの世の中には自分じゃ出来ないことは多々あるのです。だからこそお嬢さん方のやらなければいけないことは、自分の出来ることで相手に尽くすことです」

「自分の……」

「出来ること……」

 

風香と史伽の復唱に左様と頷く美空。

 

「人は出来ない事を頑張っても時にはどうしようもならないこともあります。ですが、自分の出来ることを知りそれを伸ばせば立派な武器になります」

(まぁ私のアーティファクトは逃げることに特化したようなもんだかねー。でも足の早さは誰にも負けないって自負はあるしねー)

 

美空のアーティファクトは自身の足を速くさせる靴。主に逃げることに使用しているが、それでもそれが自身の強味であると胸を張って言える程であった。

 

「お嬢さん方にはありますかな?これだけは周りには負けないと言えるようなことは」

「……正直言うと……」

「……ない…です……」

「ならばこれから見つけなさい。そして見つけ目一杯に好きな人に尽くしなさい。それがお嬢さん方がすべき善行です」

 

おそらく美空の言ったことをあまり理解はしていないかもしれない。が先程の祐奈と同じように暗かった表情が少しだけ戻ったようだった。

 

「ありがとうございます神父様!」

「ボクたち自分が出来ることを絶対見つけます!!」

「頑張りなさいお嬢さん方。その元気があればいつか見つかりますよ」

 

美空にお礼を言い教会を後にする風香と史伽。

本日2回目のお悩みを聞いた美空は

 

「ふ……ふふふふふ。なんかすっごい良いことした感じで気分いい」

 

半ば勢いで助言してる所もあるが、それぞれの悩みを最初は興味半分で聞いていたが自分なりに正直に助言したつもりだ。その結果で悩める少女が多少救われたのであればとても気分がいい。

しかし……

 

「二度あることは三度ある……私の勘が囁いてる。この後もう1組やって来る……!」

何てことを言っている間に教会にまた1人入ってきてそのまま懺悔室に入ってきた。

 

(はい入ってきましたよー!お次は誰だー!?)

「……神父様、どうか私の告解をお聞きください」

 

千鶴だった。思わず頭を打ち付ける美空。大きな音が出たことに千鶴も驚いた。

 

「あの神父様、大丈夫ですか?」

「い、いえお気になさらず。軽く滑ってしまっただけですので」

(薄々感じてはいたけどやっぱ千鶴さんかー!!マギさんに関わった一般人スリーコンボとか出来すぎじゃね!?)

 

運命のいたずらと言えるほどの出来すぎな展開にツッコミを入れざるを得なかった。

 

「失礼しました。どうぞ続けてください」

「……私、お慕いしている人がいるんです。その人はどこか私達と住んでいる世界が違うと薄々感じていました。その人がまるで映画やアニメで見せるような戦いを繰り広げて、助けに入ろうとした私達を護るために大怪我をしてしまいました。せめて私が盾になろうとしましたが、私が盾になることは出来ませんでした。気が付いた時には既に終わっていまして、その人は怪我のせいなのか分からないんですけど記憶を失くしてしまっていました。悲劇のヒロインのように聞こえますが私は無知な自分が許せない。もっと早くにあの人のことを知ることが出来れば何か出来たかもしれない……そんな思いです」

 

千鶴の告解を聞き終えた美空は

 

(いや少ない情報でマギさんが普通の人じゃないって見抜くとは、やっぱクラスでも上位の学力だし大人っぽいし侮れないっすねー)

 

ここまで2組も悩みを聞いていればどっか呑気なことを考えだした。

だがしかし千鶴は自分は何も知らない無知は罪と言ったがそれはしる手立てがなかっただけである。

むしろ自分は魔法使いの立場だがこんな性格だからむしろ千鶴の言っていたことを聞いて段々と頭が痛くなりそう。現にココネの冷たい視線が突き刺さる。

 

「あーお嬢さん、貴女は自身の無知が許せないそう仰いましたが、大事なのは無知なことを責めるのではなく無知でいることに胡座をかいていることなのですよ」

「大丈夫ですか神父様?随分とお声が震えてますが」

「あーお気になさらず。過去の自分を振り返り恥じているだけですから」

(あー泣きたい……)

 

神父として過去を恥じていると演じているが今恥じて泣きそうになる美空はそのまま続ける。

 

「しかし話を聞いていますと貴女がお慕いしているその人の事はそう易々と知ることが出来そうにないですな。それでも貴女はその人の事を知ろうと思いますか?」

「はい」

「もし知って、自分の身に危険が降り注がれることになっても?」

「はい、覚悟は出来ています。もしあの人のことを知ろうとするのを止めてしまったのなら、もうあの人のことを真っ直ぐに見ることは出来なくなるでしょうから」

 

そう言いきった千鶴。その目は真っ直ぐで迷いは見えなかった。

 

(かぁー真っ直ぐというか、眩しいっすねー……私にはそんな生き方出来そうにないや)

 

真っ直ぐな姿勢を見せる千鶴をちょっと羨む美空。そんな千鶴を茶化すことなくしっかりと答える。

 

「一度言ったことはそれは誓いの言葉。それを裏切れば貴女は一生苦しむことになるでしょう。それでも覚悟を決めたのなら進みなさい。さすれば道は切り開かれるでしょう」

「元よりそのつもりですわ。ですがありがとうございます神父様。話したことでこれで一歩踏み出せますわ」

 

微笑みを浮かべた千鶴は教会を後にする。千鶴が教会を後にし、暫く経っても次の人が来る気配がないので美空は大きく伸びをし

 

「よっし!!今日のお仕事終わり!!」

 

達成感を感じながら勝手に今日の教会の仕事を終わらせようとした。

 

「美空、まだ掃除終わってない」

「あー分かってるてーの。ちゃちゃっと終わらせて今日はもう帰るよー」

 

3組の懺悔を聞き掃除が途中だったのでさっさと掃除を終わらせて今日はもう帰る事にした。

 

「今日は今までにない濃密な時間だったなー当分は神父の真似事はこりごりっすわ」

 

そんなことをぼやく美空だった。

 

 

 

 

 

しかし次の日3ーAの間で

 

「あそこの教会で悩みを話したらとてもスッキリしたんだよねー!」

「ボクと史伽はとってもいいアドバイス貰ったからそれを目指して頑張るんだ!」

「神父様がとっても話しやすかったです!」

「しっかり私に目線を合わせてくれるよい神父様でしたわ」

 

と悩みを話した裕奈達が神父(美空)のことを絶賛しており、早速今日の放課後に教会に行こうという話になったのだ。

 

(え……まじっすか……)

 

話を遠くから聞いていた美空は青い顔になった。

今日の放課後も一波乱ありそうな予感が肌にびんびんと感じるのであった。

 

 

 

 

 

 




続きます


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続 シスター美空のお悩み相談

裕奈、風香史伽、千鶴の悩みを相談を受けとても良かったと評判をもらった美空はさっそく懺悔室にて待機していた。

 

「いやぁまさかあそこまで好評だったとはねーこれはお悩み相談室延長するしかないっしょ」

「美空、調子に乗ったらいつかばれる」

 

ココネが注意しても美空は心配ご無用と気楽な感じで魔法で神父の姿に化ける。

 

「このように幻惑魔法で神父の姿に変身!なので身バレの心配もございません」

 

声も昨日使っていた声に変えている。これで誰がどう見ても神父だと思うだろう。

ココネはもう何も言わない。どうせ美空が酷い目にあうのがオチだとそう判断したのだ。

準備は完了。後は迷っている人が来るのを待つばかりだが、早速誰か懺悔室に入ってきた。

 

(おっと、早速誰か来たっすねーどれどれー誰が来たかなー)

 

最初の迷い人は

 

「神父様。どうか私の悩みを聞いていただけないでしょうか」

 

のどかであった。

 

(ほうほう本屋ちゃんか。まぁある程度予想はしてたけどね)

「よく来ましたね。さぁ貴女が抱えるものをどうかお話なさい」

 

厳格であるがどこか優しさを含んだ声で美空はのどかに語りかける。

 

「私の好きな人が事故で記憶を失くしてしまったんです。私が好きな人には私以外にも好意を向けている女の子がいます。その中には私の親友もいます。好きな人……マギさんが私達の事を忘れちゃったことは悲しいです。けど……どこか安心したような……そんな気持ちが頭の中にあるんです」

「安心……ですか」

(おおっとー。安心とか随分とブラックなことを考えているようで)

 

はいとうつむきながら話を続けるのどか。

 

「一番辛いのはマギさんです。それなのに今度は私を見てもらおう。もっと私に振り向いてもらおう……こんな感覚初めてで、正直こんな気持ちをもっている自分が嫌……です。神父様もこんな私の感情変だと思いますよね」

 

……一瞬のどかから黒いオーラみたいなのが見えたような気がしたが美空は思春期の気の迷いだと気にしないようにした。

 

「変、そう言いましたな。ですが気になる好きになった人に振り向いてもらいたいというその気持ちは恥ずべきものではなく当たり前の感情なのですよ」

(まぁまだ男の人好きになったことはないけど本屋ちゃんのマギさんに対する気持ちは、まぁ普通なんじゃないすかねー)

「そう……ですか」

「まあ記憶喪失というのは特殊な事例ですからな。ですがその人を好きで慕っているのなら支えなさい。もっと自分に正直になり誠心誠意尽くすことがきっと貴女のためになりますよ」

「はい……」

 

美空のアドバイスで表情から暗さが多少和らいだのどか。そのまま美空にお礼を言い懺悔室を後にした。

 

「いやーなんか本屋ちゃんの闇の部分を垣間見たような、いけないものを見た感じっすねー」

 

なんて呑気な事を言っていると今度は夕映が懺悔室に入ってきた。

 

(おおっと本屋ちゃんの親友がご来店ってね。さてさて何の話をするのかね。まぁだいたい話す内容は一緒だろうけど)

「神父様、どうか私の罪をお聞きくださいです。私には親友と呼べる女の子がいるです。その子は私達の先生を好きになりました。私はその子の恋を一生懸命応援しようと決めました。それなのに私はあろうことか同じ人を好きになるというその子を裏切ることをしてしまったです。しかもその先生はマギさんは事故で記憶喪失になってしまいました。そんな不幸な事故があったのに私は心のどこかでチャンスと思ってしまった。親友の……のどかの頑張りがまた振り出しに戻って私にもマギさんを振り向かせることが出来るかもしれない。そんな事を考えてしまう、卑下な自分が許せないんです!」

(うおっとお!!一気に畳み掛けてきたぞー!色々と思い悩んでいたっぽいし、まさかと思ってたけどここまでとはーー!!)

「あー落ち着きなさいお嬢さん、そんなに自分を卑下にしても良いことなんかありませんぞ」

「でも私は友を裏切りました。それは絶対にいけない行為です。マギさんが記憶を失ったのなら私は身を引くべきなんです。それなのに心が拒否をしてるんです。可笑しいんです。こんな気持ちあっちゃいけないんです」

(あー綾瀬さんって勉強は苦手だけど地頭は良い方だからなー。人の意見は聞けるけど、自分の考えが強すぎるって感じだよなー)

 

こりゃ骨が折れそうっすねーと夕映をどう導くべきか考える。

 

「お嬢さん。友の恋を応援していたら同じ意中の人を好きになるということはよくあることです。もっと貴女は自分の気持ちに素直になることですよ」

「でも私は……のどかを応援すると……」

(ああもう焦れったい!youもっと素直になるっすよ!!)

「では意地悪な聞き方ですが、貴女はその親友に人生を捧げるような生き方をするのですかな?」

「それは……」

 

美空の問いかけに言葉が詰まる夕映。やはり言葉ではいくらでも言えるが心は正直で、マギに対しての想いはとても強かった。

 

「人生はたった一度きり。友を裏切るよりも自分の想いを裏切る方がその親友は許さないと思いますぞ。なら貴女はしっかりと自身の想いと向き合いなさい。それが貴女の贖罪となりましょう」

「はい……ありがとうございましたです。今はまだ納得出来ていない自分がいるですが、自分の想いと向き合ってみるです」

 

美空に礼を言い、夕映は懺悔室を後にする。その目には少しだけ迷いに色があったが、きっといい方向へ進んでいくだろう。美空はそう信じている。

 

「さて今度は誰が来るかなー。今度はあまり重くない相談なら良いんだけどなー」

 

美空、フラグを投入する。次に懺悔室に入ってきたのはあやかだった。

 

「神父様。私は愛するネギ先生と今度デートをする約束をしました。しかしネギ先生のお兄様であるマギ先生が記憶喪失という大変な事になってしまいました。それなのに!私は!雪広あやかは悲しげな顔を浮かべているネギ先生を見て心の何処かでデートが出来ないことを残念に思ってしまった!私は、私はなんて恥知らずな女なんでしょう!!」

 

風香や史伽に夕映以上に大号泣するあやか。あまりの声量に懺悔室がびりびりと震える。

 

(うっっっっさ!!鼓膜に響く!こりゃ早々に帰ってもらわないと鼓膜がダメになる!)

「貴女はそこまで感情を露にするほどその先生を慕っておるようですな。ならば辛い状況である先生を支えるために気分転換に誘うのはまたよい手段かもしれませんぞ」

「っっっ!!そうでしたわ……今のネギ先生はマギ先生を思って心を磨り減らしているはず。ならばこの私が、私がやるべきことはただ1つ!ネギ先生に寄り添い支え心の傷を癒して差し上げることですわ!!!」

 

待っていてくださいネギ先生と叫びながら懺悔室を飛び出しそのまま何処かへ走り去っていった。さっきまで騒がしかった懺悔室が一瞬で静まり返る。

 

「いやー嵐のような人だったすねー」

 

ぽつりと呟く美空。元々芯がしっかりしているあやかは道標を見せたら突っ走る性格、ネギの為ならどんな事でもやる覚悟の持ち主だ。

と今度は刹那が周りの視線を忍ぶようにそわそわしながら懺悔室に入ってきた。

 

「あの……女性同士の接吻は、許されざるものなのでしょうか……」

 

顔を真っ赤にしながら自身の想いを打ち明ける刹那に思わずほっこりとする美空。

 

「愛に国境や性別など関係ありません。自分の心に正直になりなさい。相手の女性も待っているかもしれませんぞ」

(まぁあのほんわか大和撫子ならウェルカムだろうしな。ビビってもしょうがないっしょー)

 

美空にお礼を言い、懺悔室を後にする刹那。刹那がさった後に次々に3ーAの生徒達が続々と懺悔室に入ってくる。

といってもペットの猫の爪研ぎや駅近の牛丼屋が移店したとかしょうもない内容だった。中には

 

「悩みが……悩みが思い浮かばなくて……」

「……まぁそんな時は無理して来なくても大丈夫ですよ」

 

泣きながら懺悔室に入ってきたまき絵にお引き取り願ったり

 

「最近、よく脱げるんです……」

「……心中、お察しします」

 

3ーA以外の者もやってきた。

 

「ホントに結構来たなぁ。こりゃ昨日より時間かかりそうだなー」

 

大きく伸びをしながら次に来るであろう悩みを抱えた人を待っていると今度は亜子が懺悔室に入ってきた。

 

「神父様、ウチ、自分の人生の主人公は自分って言ってくれた好きな人を助けようとしたけど、あんまり助けることが出来ませんでした。やっぱり分不相応なことしないで隅っこにいた方がいいんでしょうか……」

 

うつむきながら悩みを打ち明ける亜子。

亜子は巻き込まれる形で魔法の関係者になり、マギと仮契約をした。亜子のアーティファクトはサポートタイプ。アスナのように一緒に戦えるものではない。今回の超との戦いでは時間跳躍弾の餌食となり脱落し、終わったときにはマギの記憶が失くなっていた。何も出来なかった自分が嫌だったのだろう。

亜子のアーティファクトのお陰でマギは戦えた所もあった。しかし戦いの中で何も出来なかったのが尾を引いてしまっているのだろう。

 

「お嬢さん、世の中には色々な人がいます。早くから才能を開花する人がいれば、遅咲きで開花する人もいます。焦らず自分が出来ることを好きな人に精一杯やりなさい。好きな人の言葉を借りますが貴女の人生は貴女だけのもの。悔いのないように生きなさい」

 

美空の言葉に少しだけ表情の色が戻った亜子は美空にお礼を言い、懺悔室を後にする。

 

「さて……と此処まで色々な悩める少女達を導いて来たっすけど、ここいらでどどーんと大物有名人みたいな人来ないっすかねー」

 

多くの悩める人を捌いてきた美空は段々と調子に乗り出していた。

だがこの数分後、美空は自身の言った言葉に強く後悔したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

(あーココネー。ココネの言う通りあんまり悪ふざけはやりすぎると後の罰が怖いって言うのは今よーく骨身に刻んだよ)

 

体を小刻みに震わした美空は顔や身体中汗を流していた。何故なら

 

「さて、この私の悩みを聞いて貰おうか春日美空。もしふざけた事を言えば……分かっているだろうな」

(何かバレてるしー!!)

 

懺悔室には似つかわしくないであろうエヴァンジェリンが足を組んで座っていたからだ。多少の魔力を発しているのか、懺悔室の中はひんやりしており、自身の震えもこの寒さのせいだと言い聞かせる美空。

 

「あー見目麗しいお嬢さん誰かと勘違いしてるのではないですか。私はこ教会の」

「お粗末な幻惑魔法で気付かれないと思っていたのか。いいから早く私の話を聞け。こういった所は私の肌には合わないからな」

 

美空の幻惑魔法はエヴァンジェリンにとってはお粗末なものであり、生半可なことを言えばおそらくアウトだろう。

つまり、今の美空の状態は"詰み"である。

 

(え?どうなるの?私の人生ここでtheendっすか?)

 

果たして美空の運命はどうなってしまうのか。

それは神のみぞ知るものである。

 

 

 

 

 

 

 




あともう少しだけ続きます


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終 シスター美空のお悩み相談

(迷える少女を導いていたら、最凶の吸血鬼がやって来た件について……終わったっす……)

 

エヴァンジェリンと対峙する美空は冷や汗が滝のように流れて止まらない。

 

「おい春日美空、聞いているのか?」

「へぅ、はいはいはい聞いてるっすよ!んでエヴァンジェリンさんの悩みってなんなんっすか?」

 

美空は神父の声ではなく素の声でエヴァンジェリンの悩みを聞き出す。エヴァンジェリンはどこかそわそわしながらぽつりと呟く。

 

「……私はやはり酷い女なのだろうか」

「…………はい?」

(何を言ってるんだこのロリッ娘吸血鬼は)

 

思わず怪訝な顔をした美空を壁越しで感じ取ったエヴァンジェリンは美空を睨む。

 

「今貴様、私のことを馬鹿にしたな」

「あーすんませんす。んでどうして自分は酷い女だと思ったんすか?」

 

内心どきどきだが表情出さないように流すようにしてどうしてそう思ったのかを再度尋ねる。

 

「お前も知っているだろうが、私とマギは世界樹前の広場で傭兵と対峙した。私は闇の福音であるこの私がいれば傭兵など容易い、そう思っていた。だが実際は乱入者や一般人のクラスメイトが紛れ込んでしまい、マギはクラスの奴らを護るために傷つき、マギの体の事情を知っていながらもガキの如く激昂して傭兵に返り討ちにあい、挙げ句の結果マギは完全に私の血を受け入れ不死身の存在となり、無茶な闇の魔法を使用してマギは記憶を失った。傲っていた私の落ち度だ」

「んーー……でエヴァンジェリンさんは其処からどうして自分が嫌な女だって思ったんすか?」

 

確信に迫るために美空が再度聞くとエヴァンジェリンは悲痛な顔を浮かべ

 

「今のあいつを直視出来ない。今のマギと記憶を失ったマギは別人だとそう思ってしまい、マギが前に進もうとしているのを見ていると、私が知っている………私が愛したマギが居なくなってしまうそう思ってしまうと今のマギを否定するようにアイツを敵意のある目で見てしまう……最低な女だな私は」

 

自虐的な笑みを浮かべるエヴァンジェリンに美空はこう答えた。

 

「別にそんなに深く考えなくても良いんじゃないすかね。そんなんに自分を責めても良いことなんかないし、馬鹿を見るだけっすよ」

「……ほう私の話を聞いてそのような答えを出したか。どうしてその答えに至ったのか話して貰おうか」

 

周りの空気が比喩ではなく本当に冷え始めた。殺気に近い気配にココネは固唾を飲み込んだが、美空は表面上では落ち着いた様子で

 

「だって前のマギさんと今のマギさん、根本的な所はあんまり変わってないように見えるんですけどねーまぁ記憶が失くなって雰囲気は変わったすよ。けどなんていうか『あー今のマギさんの方がしっくりくるなー』って思う位だし」

「しっくりくるだと?」

 

そうっすねーと何度か頷く美空

 

「最初に来た時のマギさんって、気を抜くとどこかしらで『めんどうだ』って言って何か私らから一歩引いてた感じで壁作ってるように見えたんすけどね。けど3年になって暫く経ってから雰囲気がチョロっと変わったような感じがしたし、前よりも親しみみたいなものを感じ始めたし何人かの女子にモテ始めたし、あーこれが本来のマギさんなんだなーって思えたんすよ。記憶喪失になっても雰囲気があまり変わってないし、さっきも言ったすけど根本的な所はしっかりと残ってる感じはするっすけどねー」

「アイツの根本的なところ……」

 

エヴァンジェリンが復唱するように呟くのを見て、調子に乗り出した美空は

 

「まさかエヴァンジェリンさんはマギさんの上部な所だけを好きになったんす―――」

 

最後まで言えなかった。何故ならエヴァンジェリンがずんと重くなる殺気を放ったからだ。

ココネは小さい悲鳴をあげ美空は

 

(やっべええぇぇ地雷を踏み抜いたぁ!!お終わたぁ!!)

 

己の死を察する美空。だが直ぐにエヴァンジェリンからの殺気が霧散する。

 

「……そうだな。貴様の言う通りだ。私はマギのほんの一部しか愛していなかった。ナギが私の元を去りそういった所がマギに依存していたのだろうな。のどかの事をライバルなどどほざいていたが、私は足元にも及ばないだろうな」

(いやまぁその本屋ちゃんもちょっとダークな所が見えそうになったけど……まぁいいや黙っとこ)

 

今までのマギに対しての見方を恥じたエヴァンジェリン。ふっと笑みを浮かべる。

 

「色々と話をして楽になった。礼を言うぞ春日美空」

「いえいえー悩める人の役に立つのは冥利に尽きるもんすよ」

 

快活に笑う美空。懺悔室を去ろうとするエヴァンジェリンを見て、危機は去ったと心底安心していると、急に歩を止めるエヴァンジェリン。

 

「………今回は私に非があったから何も言わないでおこう。ただし、今度私を侮辱するような言動を言ったら3分の2氷漬けにしてやるからな」

「……はいっす」

(それはもう死ぬんじゃないでしょーかね)

 

エヴァンジェリンの威圧感に首を縦に振る美空。やがてエヴァンジェリンが去ったことでようやく威圧感は失くなった。ほっと胸を撫で下ろす美空。ココネは青い顔のまままだ震えている。

 

「あー寿命10年は縮んだような気がするよ。ほんとあんな風に締め付けられるような感じはこりごりだよ」

 

見れば空も綺麗な夕焼け。もうそろそろ時間だろう。だがあと一組、それも本命が今やって来ると美空の勘が囁いていた。

そして……

 

「これが懺悔室か……初めてだからか些か緊張するな」

「大丈夫だよお兄ちゃん。別に悪いことなんかしてないんだからそんなに気を張らなくても」

「こんにちはレス!」

 

マギにネギにプールスのスプリングフィールド3兄妹が懺悔室に入ってきた。

 

「……ってあれ?もしかして生徒の美空、だよな?シスターしてるって聞いたが何で懺悔室にいるんだ?」

「まあ神父様が居ないから代役でやってるんすよ。というか何で私だって分かったんすか?一応幻惑の魔法使ってるのに」

「何か雰囲気が美空っぽいなと思ってな」

「あーそうすか、流石すねー」

(もういいやツッコムのもめんどい)

 

流石流石と流すことを決めた美空である。

 

「それで誰が悩みを打ち明けるんすか?ネギ先生?マギさん?それとも以外にプールスちゃんとか?」

「いや俺だ。悩みと言うなら悩みだが、生徒とどう接しればいいのか聖職者にアドバイスをと思ったんだが丁度いい。なぁ美空、記憶を失う前の俺ってどんな感じだった?」

 

マギが記憶を失う前の自分がどういった感じだったのか聞いてみると美空はそうっすねと呟きながら

 

「強いて言うなら『悪ぶろうとしてたけど似合ってない』って感じっすかね」

「悪ぶろうとしていた……」

「こっちに来はじめた時は嫌々オーラ常に放ってたというか、常にめんどうだって口に出してたんですけどね。でも結局仕事はしっかりやるし生徒達の話はしっかり聞いてましたよ」

「そうなのか。なんで俺はそんな回りくどい事をしてたんだ?」

「僕らの父さんは謂わば英雄みたいな人で、この学園の魔法使い達からも英雄視されてるから、父さんの息子って言う目で見られたくなかったから悪ぶってる所があって、無理して気を張ってたからちょっと怖かった所があったな……でも師匠の元で修行し始めてから雰囲気も柔らかくなったような気がするよ」

 

美空とネギの話を聞いてマギは少し沈んだ様子で

 

「……なんというか、クソ親父の息子だからって特別視されないように無理して悪ぶろうして絡まってるとか、無駄なことしてたんだな俺って……馬鹿みたいだな」

 

自虐的な笑みを浮かべたマギ。心なしか逆立った髪の毛もへたりこんでいる。そんなマギになに言ってんすかと美空が

 

「人生なんて失敗の連続っすよ。それこそ私なんてシスターシャークティーに何度もどやされてますよ。失敗して人は学んで成長するんだから、一度のキャラ設定を失敗したからってくよくよしないでニューマギさんを楽しめばいいんすよ。人生なんてまだこれからなんすから」

 

そう励ました。人生は失敗の連続であり一度の失敗で止まってしまったらそこから何も始まらないのだ。

 

「失敗して成長……そうだな、失敗しない奴なんていない。失敗してそこから成長すればいいんだ」

「そうだよお兄ちゃん。僕や皆が応援するから頑張って!」

「マギお兄ちゃんがんばってレス!!」

 

ネギとプールスに応援され下がっていた気持ちの波も安定するようになってきた。

 

「うんうんやっぱこの3人は和気あいあいしてる方がこっちとしても接し安いっすからねー」

「そうか?まぁそうなのかもな。ありがとな美空」

「いえいえー。それじゃあこのまま世間話でもしますかー?」

「いや、それはいいのか?」

「いいんですよー。今日は色々とあって疲れたんで話し相手になって欲しいんすよー」

「……まぁそれ位だったらいいか」

「うん、大丈夫だよ」

「美空お姉ちゃんともっとお話したいレス!」

 

その後1時間位、他愛ない世間話で花を咲かせるのであった。

 

 

 

 

 

 

「美空!貴女はまた勝手なことをして!!」

 

マギ達が去っていった後にシスターシャークティーが戻ってきて、勝手に懺悔室を使った美空に説教をしようとしている。

が当の美空は遠くの夕焼けを見てふと微笑みを浮かべながら黄昏て

 

「シスターシャークティー……人って其々の悩みを抱えて、それがまた前に進むための大事な一歩でもあるんですね……」

 

遠くを見ながらそうぽつりと呟くのであった。

何時もはマイペースな美空のどこか悟った達観した表情に面食らったシスターシャークティーは

 

「……美空、今日はもう休みなさい」

 

小一時間説教をしようとしたが今日はもう帰らせることにした。

帰っていいと言われた瞬間、少しだけ何時もの調子に戻った美空はすたこらと教会を去っていった。

まだそんなに元気なら少しでも注意すればよかったかもしれないと思ったシスターシャークティーだが、今日はまぁ許してあげようかと思っていた。

なぜなら教会に戻る途中にマギ達に偶然鉢合わせとなった時にマギから

 

『美空のおかげで少しだけだが気持ちがスッキリした。本当にありがたい』

 

と感謝の言葉を贈られたからだ。

 

「でもまた勝手な事をしないように、もっと指導しないといけませんね」

 

と更に美空を厳しく指導することを強く誓ったのであった。

後日、あれから美空はシスターシャークティーからこってりと絞られ、罰として早朝の掃除を命じられた。絞られた以降懺悔室にて人の悩みを聞くことはなく、美空に悩みを話した生徒達からは残念がられ、幻の神父様と学園の都市伝説となったのであった。

 

「美空、自業自得」

「はぁぁ、もう神父様はこりごりっすよー」

 

 

 




今回で今年の投稿は以上となります。
なんとか2週間に1回の投稿を続けることが出来ました。
この1年間で新たにお気に入り登録や評価をしてくださり、なによりこの作品を見てくださりありがとうございました。
来年も自分のペースで頑張っていきますので読んでいただければ幸いです。
それでは皆様まだ早いですがよいお年を


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雪広あやかのヒーリング計画

1週間経って今更ですがあけましておめでとうございます
今年もマギまをよろしくお願いいたします。


「うわぁ……すごいですね……」

 

感嘆の声を挙げ周りを見渡すネギ。今ネギが立っている所はそこそこ大きな透明感のある池がある大自然の中である。

鳥の囀りや水の流れる音や風で木々が揺れる音が聞こえ、自然音を聞いているだけで気持ちが癒されるような、そんな感じがする。

 

「ここは我が家が所有しているプライベートエリアの山の1つですわ。自然に囲まれて少しでもネギ先生が癒されればと思いお誘いした次第です」

「はい、故郷のウェールズを思い出して気持ちが晴れやかになります。お誘いしてくださってありがとうございます」

 

微笑みを浮かべながらあやかにお礼を言うネギ。

 

(あぁ……勇気を出してお誘いした甲斐がありましたわ……!)

 

あやかは心のなかでガッツポーズをする。ネギとあやかが何故ここにいるのか、それは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

「山……ですか?」

 

金曜日の放課後、あやかが今回行く山にネギを誘う。何故自分を山に誘ったのか首を傾げていると

 

「不躾だとは重々承知しておりますわ。ですが最近のネギ先生はお辛そうだったので少しでも気晴らしになればと思いまして……」

 

あやかは慕っているネギが辛そうにしているのを見てよかれと思い誘ってみた。

しかしマギの記憶喪失からまだ1週間程、美空に悩みを打ち明けてからまだ3日しか経っておらず、まだ子供のネギが早々に気持ちの切り替えを上手く出来るわけでもなく

 

「ありがとうございます。でもまだ少し気分が……」

 

ネギは申し訳なさそうに断りをいれようとする。あやかも断られるだろうなと思っていた。

仕方ない、日を改めてまた誘おうと思ったその時

 

「待ったネギ、もしかして俺のことで遠慮してるのか?」

「それは……」

 

言うのを渋る。渋ったということはそういうことなのだろう。

 

「俺の事をそこまで思ってくれるのは正直言うと嬉しい。男の俺が言うのもなんだかな……でもそれでネギの貴重な時間を費やしてしまうのは何か違うと思う。だから俺のことは気にしないで気晴らしに行ってくればいい。因みに俺もその日には出かける予定があるから」

 

ネギの頭に手を置きながら微笑むマギ。マギが出かけるのなら何を遠慮することがあるだろうか。

 

「だったらお言葉に甘えて……あやかさんお願いします」

「ネギ先生……!マギ先生本当に宜しいのですか?」

「俺が良いって言ったのになんでまた確認するんだ?俺はむしろネギの事を思って誘ってくれたあやかに感謝してるんだ。その日はお願いしていいか?」

「はっはい!おまかせくださいマギ先生!!」

 

こうしてネギを誘うことに成功したあやかであった。

 

 

 

 

 

「まぁあんたがネギを誘ったのは分かったけど、何であたし達もさそったの?本当はネギと2人っきりがよかったんじゃないの?」

 

あやかはネギの他にアスナやこのかに刹那、プールスに楓に古菲にまき絵。千鶴と夏美と他何人かのクラスメイトを誘った。

ネギを好きすぎるあやかならネギと2人でランデブーするんじゃないだろうかと思ったのにあやかから

 

「アスナさんやこのかさん達も良ければ是非」

 

と誘ってきたのだ。犬猿の仲と言われるほどにぶつかってきた相手がどういう心変わりなのだと首を傾げてしまう。

 

「本音を言えばネギ先生と2人っきりで過ごしたかったですわ。けどアスナさん達がいればネギ先生も安心すると思っので誘った次第ですわ……お1人余計な方も来たみたいですけど」

「おい、それって俺のことかあやかねーちゃん」

 

ジト目であやかを睨む小太郎。夏美が誘われ夏美が小太郎を誘ったので来たのだが、あやか的には余り来てもらいたくない相手だった。

 

「貴方みたいな粗雑な子供が一緒だとネギ先生の心が休まらないからです」

「はんっネギみたいにうじうじ考える奴は思い切り体を動かせばいいんや。マギ兄ちゃんからもネギの相手してくれって頼まれたからな」

 

ぐぬぬと押し黙るあやか。マギに頼まれたと言われてしまうと強く言えないと考えていると

 

「ただまぁ今日はネギを癒すっちゅーことらしいし、ネギの独り占めは勘弁しといたるわ」

 

と珍しく小太郎が折れてくれた。千鶴や夏美が偉いと小太郎の頭を撫でて子供扱いするなと喚く小太郎。

少々一悶着ありそうだったが、これで無事にあやかの計画が進められそうだ。あやかは絶対にネギの心身を癒してあげようと心を燃やすのであった。

 

 

 

 

 

あやかが行ったのは池での水遊びや釣り。整備された山を登ったり安全が確保された洞窟の探検などしたりした。

時折小太郎が

 

「ちょっと組み手やろうや!」

 

とネギを誘い5分から10分の組み手を行った。そしたら楓や古菲が混ざって凄まじい組み手となってしまった。

あやかも目の前でネギが軽くではあるが本気で戦っているのを見ておろおろしそうになるが

 

「大丈夫よ。そんなに慌てることじゃないわ」

 

とアスナが落ち着かせた。どこか余裕を持っているアスナに驚く。

遊んだり組み手をやった後にお昼となり、お昼は誘った1人に五月がいたので五月が料理を振る舞ってくれた。

体を動かし食も満たされて満足そうにしているネギを見て心が温かくなるのを感じたあやか。

午後も色々な事をしようと思った矢先に自身の携帯電話がバイブレーションで震えた。

誰からかと思っていると父からだった。

 

「すみません、父から電話がかかってきたので少し席を外しますわ」

「あっじゃあ私もお花摘んでくる!」

 

とあやかとまき絵が席を外し電話に出るあやか

 

「もしもしお父様、どうなさったのですか?」

『ああ、あやか落ち着いて聞いて欲しい』

 

厳格な声で話を続けるあやかの父。父からの話を聞いてあやかは驚愕する。

 

「何ですって!?凶悪な強盗団がこの山に入ってきた!?」

『ああ、先程警察の方々からそう言った内容の電話が来て……』

 

凶悪な強盗団というのは最近世間を騒がせている強盗団で、自称『武闘派強盗団』と名乗っているらしく、その名を名乗るがために自身の体だけで数々の銀行を遅い、逮捕しようとした警察も蹴散らす程らしい。中には大企業も襲われたらしくその被害は甚大ではなかった様だ。

しかし傲り過ぎたのか、予告犯罪を企業に送り待機していた警察の特種部隊やらとぶつかり合いとなり多勢に無勢となったのか持っていた盗難車でその場から逃げ、検問などもそのまま突破し、空で追っていたヘリがあやかの家が所持している山の入り口で見つけたのことらしいし。

 

「そんな、なんて事ですか……」

『山事態は広いからそう簡単には出会うことはないと思いたいが、若しもの事がある。誘った皆さんを連れて急いで山を下りなさい。警察の方々も迅速に向かっていることらしい。私も仕事を中断して今向かっている。無事にいてくれあやか』

「はい、心配しないでお父様。この雪広あやか、凶悪な犯罪者に屈服するような弱い女ではありませんわ」

 

心配している父を安心させるように言い聞かせてから電話を切るあやか。しかし内心は穏やかではなかった。最初に来た感情は恐怖よりもなんてタイミングの悪いという感情だった。

これではネギを癒す計画が中途半端に終わってしまうではないか。しかしそんな事を考えていると暇などない。急いで誘った皆を集め山を下りなければならない。

 

「いいんちょ!お父さんからの電話なんだったのー?」

 

花を摘んでいたまき絵があやかの元へ駆けてくる。素直なまき絵に先程の話をすればおそらくパニックになるだろう。事態は一刻を争う。急いで話そうとしたその時

 

「ほう、この山には我ら以外に人が居たようだな」

 

山林の方から声が聞こえ、声の方を振り返るあやかとまき絵。目に映ったのは屈強な体をしたプロレスのレスラーが被る様々なマスクを被った10人の男が居た。

 

「だっ誰この人達!?」

「(なんて最悪のタイミングなんですか!?)……貴方達が今世間を騒がせている強盗団、そうですわね?」

 

強盗と聞いて目をこれでもかと見開くまき絵。その通りと強盗団は叫びながら各々ポージングをする男達。

 

「我らは己の肉体に絶対的自信を持ち、刃や銃と言った無粋な物を使わない人呼んで我ら『マッスル強盗団』!!」

 

安直過ぎる反面に強盗団の濃すぎる面々に引き気味のあやかとまき絵。

 

「ですがそんな強盗団も待ち構えていた警察の方々に敗走してここまで尻尾を巻いて逃げてきたみたいですわね。いくら肉体が優れているからと言って、文明の機器には勝てないようですわね」

 

ここは下手に挑発じみたことは言わない方が吉と出るだろうが、今は少しでも話を展開して少しでも時間を稼ぐべきであろうと判断するあやか。

あやかの挑発に何人かが激昂し飛びかかろうとしたが、名乗りを上げた男がすっと手を挙げると制止する男達。どうやらこの男がリーダーのようだ。

 

「そちらのお嬢さんの言う通りだ。我らは己の力を過信し過ぎた。力を蓄え新たな門出のために今は逃げることを決めた。そのためにお嬢さん方には我々が安心して逃げられるための人質になって貰おうかな」

「ひゃっはああ!!往生しやがれえええ!!」

 

リーダーの男が話している間に下級戦闘員の様なマスクを被った男が世紀末のような台詞を吐きながら襲いかかってきた。

まき絵は悲鳴を挙げるが、あやかは呼吸を整え、殴りかかってきた男の手首を掴み捻って倒した。合気道の小手返しである。

 

「はあぁぁ!!」

「びでぶっ!?」

 

気合いの入ったあやかに投げ飛ばされた男はこれまた世紀末のような悲鳴を挙げて泡を吹いて気絶した。

 

「見くびらないで欲しいですわね。この雪広あやか、貴方達のような悪には絶対に屈しませんわ!!」

 

強盗団を指差しどんという擬音が出そうな程の強気な姿勢を見せるあやか。しかし強盗団達はあやかが仲間の1人を倒したと言うのに冷静であった。

 

「笑止、その男は我らの中で最弱の男」

「その程度の筋肉で我らの一員を名乗るなどマッスル強盗団の恥さらしよ」

「面汚しよりも今あのお嬢さんが自身を雪広と名乗っていたが、もしかしなくてもあの雪広財閥の御令嬢ではないか?」

 

仲間が倒れても役立たずと吐き捨てるどころか、あやかが名乗ったことを聞き逃していない強盗団。

あやかはしまったと苦虫を噛み潰したような顔をしてしまう。思わず名前を言ってしまった自分を叱咤する。やっぱりと思っていたがこの強盗団、自身の家の事は知っているようだった。

 

「これはなんたる僥倖!いつかは狙おうと考えていた雪広財閥の御令嬢と出会うとは!これは我らが逃げるためと今後動くための資金獲得の為の人質となって貰おうか!」

 

興奮気味のリーダーがあやかを人質にすると決めた。黙って人質になる積もりもなくあやかは構える。

 

「私は悪に簡単に押さえ込まれる女ではありませんわ!最後まで抵抗させていただきます!!」

「そのようだな。先程の小手返し、惚れ惚れするようなキレだった。流石は御令嬢、護身術もしっかりと身につけているようだ。だが……それは相手が1人の時、我らのような多人数ではどうしようもない」

「きゃっ!?いいんちょ!!」

「まき絵さん!?おのれ卑怯な!!」

 

いつの間にかまき絵の背後に気配を消した男が回り込んでおり後ろから羽交い締めにし動けなくした。

 

「我らも女子供を人質にするような外道な真似をせず堂々と奪って来た。だが今は時間のない瀬戸際、強引な手を使わせて頂く。そちらが言うことを聞いてくれるのならば友人は解放してやろう」

「っ……わかり、ましたわ。言うことを聞く代わりにまき絵さんには手を出さないでください」

「いいんちょだめだよ!!」

 

リーダーの要求を呑むために自ら人質になるあやか。駄目だと叫んだまき絵の口を羽交い締めにしている男が塞ぐ。

 

「懸命な判断に感謝しよう。だが我らは悪、多少お嬢さんがあられもない酷い姿を晒せばご家族も首を縦に振りやすくなるだろう」

 

その言葉が合図となり何人かが下菲な顔を浮かべながらあやかに手を伸ばした。涙目になりながら口を塞がれながらも拘束から抜けようとするまき絵だが屈強な男の前ではまき絵など非力である。

 

(あぁネギ先生、どうやらここで私は純潔を散らしてしてしまうかもしれません……)

 

あやかは今ここで自身の純潔が散らされるかもと覚悟した。

ですが……と拳を強く握りしめ

 

「ですが……例えここで純潔を悪によって散らせようとも!ネギ先生、貴方への熱い愛を失うことは絶対にありませんわ!!」

 

涙目になりながらも男達を睨み付ける。それが更に男達をそそらせるのか遂にあやかの服に手が当たりそうになる。挫けるわけにはいかず、下唇を血が出そうになるまでに強く噛むあやか。

しかし、あやかが酷い目にあうことを、彼が望んでいるわけなどあるはずも無かった。

 

「やああぁぁ!!」

「ぐぶほぉ!?」

 

あやかに手を伸ばそうとした男の脇腹を一瞬で飛んで来たネギに全力と言って良いほどの重い一撃をみまわれ、鈍い声を出しながら吹っ飛ばされ木に叩きつけられた。

 

「ね、ネギ先生?」

「あやかさん大丈夫ですか!?どこも酷い事をされていませんか!?」

 

先程までいた男がネギに殴り飛ばされたことに呆然として理解が追い付いていない様子だ。だが自分が助かったということが段々と理解できたのか、目に大量の涙を浮かべてネギを抱き締めた。

 

「ネギ先生……私、怖かったです……!」

「はい、もう大丈夫です……!」

 

優しくあやかの背中を撫でてあやすネギ。

 

「なっ何者だ小僧!?どうやってここぐえ!!」

「どうやってやって?おっちゃんらが強い気配を出しとるから簡単に見つけてすっ飛んできたんやわボケが」

「小太郎君!」

 

まき絵を拘束していた男に瞬道で背後に飛び当て身で昏倒させる小太郎。あまりの呆気なさに鼻を鳴らす。

 

「なっ何をやっている!たかが子供に遅れを取るとは!」

「貴様らも我らマッスル強盗団に泥を塗る気か!!」

 

ネギと小太郎に昏倒させられた仲間を叱咤するが、リーダーだけは違った。

 

「この愚か者共が!!貴様らは力に傲るだけでなく目まで腐ったか!その小僧2人をよく見てみろ!!」

 

リーダーが激昂したことにより改めてネギと小太郎を凝視する。そして直ぐに大口を開けて驚愕する。

 

「何なんだこの気の密度は!?」

「我々と同等、いやそれ以上だと!!?」

 

強盗団が狼狽しているのを怪訝な目で見る小太郎。

 

「なんやあのおっちゃんら、喧しいやら随分濃い奴らやな」

「そんな事知らないよ。そんな事どうでもいいぐらい僕は怒ってるんだから」

 

瞳孔が開いて明らかに怒っているネギ。魔力と気が可視化出来る程だからそれほどだろうと一歩下がる小太郎。

 

「クックック……我は直ぐに分かったぞ。小僧、貴様強いだろう。恐らく我が今まで出会った中での一番の強者だ。貴様等はその黒髪の小僧を相手しろ我は赤髪の小僧とさしで勝負する。手出しはするなよ!」

 

そう言いリーダーは力を解放する。絶対的な自信を持っていたのはこの強盗団は魔帆良学園の豪徳寺と同じように一般人でありまがら気を使えるようだ。気を纏い臨戦体勢になるリーダー。リーダーに続くように強盗団の部下も力を解放して気を纏う。

 

「なんやあの偉そうなおっちゃん、ネギだけ指名して俺はおまけ扱いか?胸糞わるいな」

「ごめん小太郎君、あの人が僕と1対1で戦いたいなら僕はそれに応えて、いけないことをしてることを分からせてやる」

 

そう言いネギも構える。まぁ仕方ないかと雑魚を引き受けるかと気持ちを切り替える小太郎だが、1人があやかによって気絶させられ、1人はネギでもう1人は自分が戦闘不能にした。

まだ後6人いるがこいつらは全員雑魚だと自分1人でどうにかなりそうだが、今日は遊びに来ただけで喧嘩をしにきた訳じゃない。1人での相手が面倒やなと思っていると。

 

「何やら面白そうな催しをしているでござるな」

「私達も混ぜさせてもらうアル」

 

忍び装束に着替えた楓と混を構えた古菲が小太郎の横に並ぶ。

 

「拙者らのバカレンジャーピンクやいいんちょに酷い事をしようとした外道共、その罪は」

「体でしっかり払ってもらうアル」

 

顔には出していないが怒りを滲ませる楓と古菲。

 

「ほう、この小娘共もかなり強力な力を持っているようだな」

「我らの強さとどれくらい差があるのか試させて貰おうか」

 

相手が女子供で強盗団はもう勝った気でいるようだ。

 

「おいおっさんら。減らず口を叩くのも其処までにしておいた方がええで。楓姉ちゃんと古菲姉ちゃんの方がおっさんらよりも何倍も強いんやからな」

「ほう……だったら見せてもらおうか!!」

 

そしてネギ達とマッスル強盗団の戦いが始まる。

だが戦いは激闘が繰り広げられるかと思いきや、蓋を開ければなんてことなく、あっさりと終わってしまう。

何故なら一般人相手にその力を暴力として振るっていた強盗団と違い、ネギ達は護るためにその力を振るっていたからで、力の差は歴然でネギ達が負ける要素など全く無かった。

ダイジェストで小太郎や楓と古菲の戦いを見てみると

 

楓戦

 

『行くぞ兄貴!』

『おお!弟よ!俺達の力を小娘に見せてやろう!!』

 

兄弟の強盗が互いの気を掌に集める。

 

『『くらえ!俺達兄弟の一撃を!!』』

 

掌から放たれた気の波動が楓に直撃し動かなくなる楓。

 

『見たか俺達兄弟の力を!』

『殺しはしない。出直してくるんだな!!』

 

が倒れた楓が煙と共に消える。驚く兄弟強盗

 

『『『『『『残念。それは変わり身の分身でござるよ』』』』』』

 

自分達を取り囲む楓に何も言えない兄弟強盗

 

『『『『『『出直してくるでござるよ』』』』』』

『『ぐわぁぁぁ!!』』

 

6人の楓にタコ殴りにされあっさりと倒されてしまった。

 

古菲戦

 

『ハイヤー!冲捶!外門頂肘!裡門頂肘!』

『ぐおおこれは八極拳!!』

『一発一発が重すぎる!!』

『全然ダメアル!出直してくるヨロシ!猛虎硬爬山!!』

『『ぐぎゃああああ!!?』』

 

古菲の猛攻に耐えきれずあっさりと敗北。

 

小太郎戦

 

『………(びくびく)』

『……(びくん!びくん!)』

『っちなんや不完全燃焼やなつまらんわ』

 

雑魚に時間をかけるつもりなどなく瞬殺で意識を刈り取った小太郎。

あれだけデカイ口を叩いておきながらあっさりと負けてしまった強盗団の手下達。

一方ネギと戦っているリーダーは辛うじてネギに食らいついている模様だ。

 

「まさか、ここまで差があるとは……我も結局井の中の蛙だったということだったようだな」

 

手に気を纏ってネギに殴りかかっているが、ネギのカウンターだけがことごとく当たるだけでリーダーだけがボロボロになっているだけだった。

 

「なんでその力を悪い事に使ったんですか?その力があれば人を助けることだって出来たかもしれないのに」

「ふ、我もただの阿呆だったのだろうな。この力を手に入れてから我は負け知らずだった。悪事を働いていたのは我よりも強い者がいつか現れると思っていたのだろう。結果は我よりも小さい子供が我よりも強者であった。だが負けん!我の心が折れぬ限り敗けではないのだ!!」

 

叫びながらネギを殴り飛ばそうと拳を振り抜くが、ネギはリーダーの拳を強く祓い

 

「桜華崩拳!!」

 

ネギの必殺技がリーダーの体に練り込む。桜華崩拳を食らったリーダーは白目を向いて膝から崩れ落ちた。

 

「これが僕の本気です。よく味わってください」

「何言ってるんや。お前が本気出したらそのおっちゃん体がぐちゃぐちゃになるやろ」

 

 

こうして世間を騒がせていた強盗団はネギ達によってあっさりと敗北を帰してしまったのだった。

 

 

 

 

 

その後、遅れて警察とあやかの父が到着するが、強盗団があっさりと自らお縄を頂戴する事となり目を丸くする事となった。

ネギ達に負けた強盗団は直ぐに目を覚ましたが、戦意は喪失していた。

更に強盗団に善意で料理を作った五月が強盗団に何かを諭したようで五月の話を聞き終えた強盗団達は、自分達が何をやっていたのかと自らの行いを恥じていた。そしてリーダーも

 

「我が間違っていた。この罪償い切れることが出来るなら、今度は世のため人のためにこの力を振るいたい」

 

凶悪な犯罪を犯し続けていたのだ。出てくるのは何十年と先になるだろうが、改めて更正することを誓った。

捕まる前にボロボロであった強盗団は皆口を揃えて

 

「やたらめたらに山を進んで怪我をして観念した」

 

そう警察達に証言した。これはネギ達が自分達の事は公に出来ないと言ったので敗者として従い、ネギ達の事を黙っていることにしたのだ。

これで事件は無事に解決。あやかの父は皆が怖い思いをしてしまっただろうということで山の近くで自身の財閥が経営してるホテルに無償で宿泊してもらうことにした。

殆どの者は被害は受けておらず、被害を受けたまき絵は目の前でのネギの激闘を見ていた事で自身が人質になっていたことをすっかり忘れてしまっていた。

しかしご厚意を無下にするのもあれだしということでお言葉に甘えることにした。

そしてホテルに向かい、温泉で体を癒した後に夕食をたらふく食べて満足するネギ達であった。

 

 

 

 

 

「……凄いな。お兄ちゃんも来れば良かったのに……」

 

夜にホテルの庭園を歩いていたネギは夜空を見上げる。街の明かりが無いので満天の星空を見ることが出来てまたも感嘆の声を挙げていると

 

「ネギ先生……」

 

どこ申し訳なさそうな表情を浮かべているあやかが歩み寄ってきた。

 

「あやかさんどうしたんですか?」

「申し訳ありませんネギ先生。本当ならネギ先生を癒すためだったのにこんなトラブルに巻き込ませてしまって……」

「そんな、何を言ってるんですか。トラブルなんて偶然起こったようなものです。それにこんな素敵なホテルに無償で泊まらせて頂くなんてこれ以上にないことですよ」

「ですが……」

 

渋っているあやか。責任感が強い彼女は自分のせいで危険な目に合わせてしまったのだと責めてしまっていた。

そんなあやかにネギは優しくあやかの手を自身の手で優しく包み込んであげる。

 

「あやかさんそんなに自分を責めないでください。僕は僕のために色々として下さったあやかさんに感謝します。本当にありがとうございます」

 

ネギが微笑みながら感謝を贈るとあやかはまたも号泣してしまう。

 

「ネギ先生が私に感謝をしてくださる。それだけで感無量ですわ!!」

 

天にも昇るような幸福感。ネギに感謝をされてあやかのネギへの貢献のやる気は更に上がる。

 

「そして今日、ネギ先生の勇姿を見てネギ先生はただ者ではないと改めて痛感いたしましたわ!ならばこの雪広あやか!ネギ先生のために労力を厭わないことを改めてここに誓いますわ!!」

「あ、あはは……お手柔らかにお願いします」

 

決意の炎でその身を焦がすあやかを見て苦笑いを浮かべるネギであった。

 

「……ま色々とあったけど、元のいいんちょに戻ったみたいね」

「いい雰囲気やなー」

「いやお嬢様あれはいい雰囲気なのでしょうか……」

「ネギお兄ちゃんとあやかお姉ちゃん楽しそうレス!」

 

そんなネギとあやかを遠くからアスナ達が見守っていた。

こうして道中トラブルがあったがあやかのネギのヒーリング計画は何とか無事に終わったのであった。

 

 

 

 




今回はオリジナルですが、中々楽しく書いていました。
今回の話しか出ないのに自分なりに随分濃いけど噛ませなキャラクターを作ったなぁと思いました。


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アキバよ私は帰って来た!

ネギ達が山でトラブルありのイベントを行っている間、マギはとある場所に来ていた。

 

「ここが秋葉原か。前に千雨とここに来たんだよな」

「はい。その時は色々とトラブルに見舞われましたけどね」

 

秋葉原の駅から周りを見渡しながら呟く。マギは千雨に

 

「今度の休みに私と一緒に出掛けてください」

 

と誘われたのでネギと山に行かずに千雨と秋葉原にやって来たのだ。

 

「どうですか?街並みを見て何か思い出せそうですか?」

「いや、感じるのは騒がしくて元気な街だなっていうことで何も思い出す感じはないな……」

 

マギの返答を聞き少しだけ表情を沈めた千雨を見て直ぐに謝る。

 

「すまん思い出せないで」

「いっいえあたしも変な顔してすみません。辛いのはマギさんだっていうのに……」

 

互いに沈黙してしまう。いたたまれない空気になりそうなのでマギが話題を変えて話しかける。

 

「どうしてここに来ようと思ったんだ?」

「あたしがここに遊びに来たいと思ったのと、少しでもマギさんの記憶が戻る切っ掛けになれば良いなと思ったのと、なによりあたしがマギさんと一緒に出掛けたいと思いました。2人きりでここに来れて嬉しいです」

 

顔を赤くしながら微笑む千雨を見てマギも微笑み

 

「それじゃあ色々と案内してもらってもいいか?」

「はいっ」

 

笑顔でマギと手を繋ぎ秋葉原を案内する千雨。

 

「………っち」

 

遠くから悪意のある視線をマギに向けているのに気が付かないまま……

 

 

 

 

 

「ここは凄い店だな。きらびやかというかファンシーというか……」

 

アニメショップやゲームショップを見た後にマギと千雨はかつて来たことがあるメイド喫茶に来ていた。

 

「ちうちゃん久しぶり!ちうちゃんとマギさんがまた来てくれるなんて!」

「久しぶりさっちゃん。最近色々あってさ、気分転換に来たんだよ」

 

マギと千雨の相手をしてるのは小向幸子。さっちゃんと呼ばれるネットアイドルでここのメイド喫茶で働いている女性だ。

千雨とさっちゃんが他愛のない話をしている中でマギはきょろきょろと店内を見渡している。

 

「ねえちうちゃん、マギさん前にあった時とどこか雰囲気が違うけど何かあったの?」

「まぁ信じられないと思うけど、ちょっと前にうちの学園で大きな学園祭があった時に大きなイベントがあってさ、その時事故が起こってマギさん記憶喪失になって、今は自分の思い出とかが無いんだ」

「記憶喪失!?」

 

思わず大声を出して驚いてしまうさっちゃん。さっちゃんの大声で周りの席の客がマギ達を凝視する。

 

「ちょっとさっちゃん!そんな大声を出したら周りのご主人様に迷惑でしょ!!」

「ごめんなさい!マギさんが記憶喪失って聞いてびっくりしちゃって……」

 

メイド長と書かれたネームプレートを着けたメイドに謝罪するさっちゃん。さっちゃんの話を聞き何人かのメイドが反応する。

 

「マギご主人様が記憶喪失ってそんなドラマみたいな」

「でも本当ならかわいそう」

「せっかく来てくれたんだし私達が癒してあげようか?」

 

彼女らは前にここで起きたトラブルに関わっていたメイド達でトラブルを解決してくれたマギに感謝をしていた。

彼女達も興味ではなく善意で近づいているのは千雨も分かっているつもりではいるが心の中はもやもやしてしまう。

そんな話題の中心にいるマギはというと

 

「お気遣いありがとう、とても嬉しいよ。けどこれは俺の問題だから気にしないで欲しい。それに君達の素敵な笑顔と奉仕を独り占めにするのは贅沢過ぎるサービスだな」

 

と微笑みを浮かべながら断りをいれた瞬間にメイド達は黄色い声をあげた。例えるなら推しのアイドルに手を振っていたら振り返してもらったようなものだろう。女子が好きそうな返し方をしたのを見て千雨も呆然としてしまう。

マギが持て囃される態度が気に入らないのか急に騒がしくなったのを煩わしいと思ったのか何人かの男がマギを睨み付ける。

視線に気づいたマギは謝罪を込めて深々と頭を下げる。大人な対応をして納得して目線を元に戻すが、何人かが舌打ちや小さく文句を呟きながら目線を元に戻す。

 

「なんかマギさん雰囲気が変わったね。その接しやすくなったっていうか」

「あぁ、正直言うとどう接していいかまだ分からない所がある」

「ああいう返しはいけなかったか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……」

 

頭を抱えながら悩む千雨に何かを思いだすさっちゃん。

 

「そうだちうちゃん。せっかく来たちうちゃんにこの事を言うのはあれだけど実は……」

 

内容を話そうとした瞬間に事件は起きる。何人かのメイドや客が短い悲鳴を挙げる。何事かと悲鳴のする方を見ると

 

「てめぇか。うちの所のもんを泣かせたって外国の野郎は」

 

マギよりも背が高い190cm以上はありそうな難いのいいスキンヘッドの男がマギを睨む。どう見たって客ではなさそうだ。そんな男の後ろに腰巾着のように付いてきてる男が2人。よく見たら前にここでメイド達に酷い嫌がらせをして、マギに制裁を受けて尻尾を巻いて逃げていった男であった。

 

「おいこいつが本当にてめぇらを潰した男だってのか?この外国の兄ちゃんがこの店に入ったっててめぇらが言うから来てみれば、どう見てもただの外国の兄ちゃんじゃねぇか。てめぇらが大袈裟に言ってるんじゃねぇのか?」

「違いますよリーダー!俺達ホントに殺されそうになったんすから!」

「見た目と違ってとてつもないバケモノなんですよ!」

 

色々と喚き散らしている男2人だが、スキンヘッドの男に睨まれると直ぐに口をつぐむ。口答えは許さないと目で言っていた。

 

「俺等はここら辺をしめてる者だ。最近は勢いづいていずれは東京全体を俺等の縄張りにするって寸法……だった。てめぇにコイツらが負けてから他の奴らから『ぽっと出の外国人に負けたグループの奴ら』と指を指される始末だ。このままじゃ俺等の面子が立たねぇ。だからてめぇをシメて病院送りにして俺等の地位を取り戻す」

 

指の間接を鳴らしマギに威嚇するスキンヘッドの男。報復に来たようだ。リーダーがいるからか余裕の表情を見せてる男2人。店内は一触即発の雰囲気となる。だがマギはスキンヘッドの男をじっと見てから

 

「いや、これじゃないな……」

 

と目線を反らし、興味無さそうに呟いた。

 

「あ゛?」

 

まるで眼中にないというマギの態度にスキンヘッドの男は顔に青筋を浮かべた。店内がざわめくがそれよりも男2人の方が大きく喚き出す。

 

「あの馬鹿外人絶対に死んだぜ!!」

「前にリーダーの前で舐めた態度とった奴がリーダーにボコされて病院送りになったら1ヶ月は意識不明になったんだぜ!!」

 

冷や汗を流しながらよくあるバトル漫画の解説者のような台詞を口走り、皆このままマギがスキンヘッドの男に半殺しにされてしまうイメージが頭に浮かぶ。

 

「どっどうしようちうちゃん!早く警察に!!」

 

さっちゃんは千雨に警察に通報するように言うが千雨は

 

「あー大丈夫だろマギさんなら」

(こんな事をさっと口に出る位、あたしも非日常に染まりつつあるのかね)

 

千雨が遠くを見ながら大丈夫と言ったのを見て目を丸くする。

更にマギはあろうことか更なる爆弾を投擲する。

 

「……難いのいい体格、鋭い目、威圧的な口調、そしてスキンヘッド。人を力や恐怖で制圧するにはもってこいだろうな。だがそれが何になるんだ?今はいいかもしれないが、10年20年経てば体も衰えるし、今まで押さえつけられてきた人達が報復に来るかもしれない。何より非道な事をし続けたら真っ当な人生なんて歩めないぞ。そうなった時に後悔するのは自分自身だぜ。なぁ、そんんなの勿体ないと思わないか?」

 

どこか諭す様に言うマギだが、相手がそんな事を聞き入れる訳もなく

 

「……ぶっ殺す」

 

マギの何処か哀れむ視線に完全にキレてしまいマギの胸ぐらを片手で掴みそのまま持ち上げようとする。

 

「リーダーはもう止まらねぇぜ!!」

「あの世で自分の行動を恥じるんだな!!」

 

周りの客やメイドも大惨事になりそうで悲鳴を挙げるかその場から離れようとする。店長も警察に通報をしようとする。

だが悲惨な光景は訪れることは無かった。何故なら

 

「あ……が……!!」

 

持ち上がらない。まるで岩みたいにマギがびくともしないのだ

 

「りっリーダーどうしたんすか!?」

「何時もみたいに持ち上げてビビらせてやっちゃってくださいよ!!」

「うっうるせぇ!黙ってろ!!」

 

男2人を怒鳴って黙らせるスキンヘッドの男だが男自身も困惑している。マギくらいの背丈の男なら片手で持ち上げて振り回して投げるなんてわけなかった。なのにマギはうんともすんともびくともしないのだ。

こんなはずじゃなかった。スキンヘッドの男は頭に血が上って真っ赤になりながらもマギを持ち上げようとする。マギは溜め息を吐くとスキンヘッドの手を掴むと徐々に手に力を込めていく。

 

「いっつう!?」

 

徐々に万力の如く力を込められ段々と骨がミシミシと鳴り始め赤かった顔が段々と蒼白になっていく。遂に痛みに耐えきれなくなり片膝をつくスキンヘッドの男。

 

「りっリーダー!?」

「何痛がってるふりしてるんすか!?早くやっちゃってくださいよ!!」

 

まさかの光景に逆に慌て出す男2人。

 

「このやろう!……離しやが―――」

 

スキンヘッドの男は最後の強がりでマギを睨み付けようとしてマギと目が合う目が合ってしまった。

その瞬間、スキンヘッドの男は視てしまった。自身の死の幻覚を

マギに頭から噛み砕かれる。マギに体を貫かれ心臓を抉られる。マギによって上半身を吹き飛ばされる。どれも出来るはずないあり得ないことだが、目の前のマギは出来てしまう。そんな直感が頭から離れない。

 

「―――もっと自分の人生、大事にしなきゃだめだぜ?」

 

さっきの微笑みと真逆な底冷えするような冷笑を浮かべるマギ。そんなマギを見てスキンヘッドの男は心が折れてしまった。

 

「ひっひいぃぃ!!」

 

さっきまでと違い情けない悲鳴を挙げて店を飛び出して逃げるスキンヘッドの男。

 

「りっリーダー!?」

「待ってくださいリーダー!!」

 

まさか自分達のリーダーが尻尾を巻いて逃げ出したのを見て信じられないといった顔を浮かべる。

 

「おい」

 

マギに呼ばれ肩が大きく動く男2人。ゆっくりと振り返りマギを見ると、冷笑を浮かべるマギを見てそのまま固まったように動かなくなる。

 

「俺に対して報復するために上の人を呼んだかもしれないけど、何でもかんでも上の人に頼っちゃいけないぜ。何かあった時自分を護れるのは自分なんだからな」

 

冷笑を浮かべながら子をあやすように優しく話すマギだが相手はそんな事を気にしてる余裕などなく

 

「ぎゃああああああぁぁあ!!!」

「殺されるぅぅぅぅぅぅ!!」

 

狂ったように叫びながら店を飛び出す男2人。不良達が逃げ出した後の店はシンと静まりかえっている。

――――その後マギによって心が折れて戦意喪失したリーダーは

 

「世の中には手を出しちゃいけない奴がいる。あの男は普通じゃない。俺達がただの不良ならアイツは殺し屋だ。俺はもう無理だこの世界から足を洗ってちゃんと働く」

 

完全に恐怖に心を呑まれ、巨体が縮こまる姿を見せて、逃げるように日雇いではあるが仕事をするようになり、おっかなびっくりになっているリーダーを見て自分達も恐怖に刈られて続くように不良をやめるか、萎縮したリーダーを卑下するかリーダーを擁護する者達がぶつかり合って大勢が逮捕されて、スキンヘッドのグループは自然消滅してしまったのだった。

場面はメイド喫茶に戻り、大きく息を吐いたマギは

 

「―――皆さん、俺の問題に巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」

 

先程までの冷たい雰囲気など無くなっており、深々と頭を下げて店にいる全員に謝罪する。

最初は皆呆然としているが、誰かが小さく拍手をし、それが伝染し段々と大きな拍手となり

 

「マギご主人様すごーい!!」

「あんな大きい男を何もしないで追い払うなんて!!」

「いやー凄いね兄ちゃん。おじさん腰が抜けるほどビビってたのにな」

 

メイドや客が拍手や称賛を贈る中、自分より巨体のスキンヘッドの男を追い払ったマギに舌打ちや小さく文句を呟いていた客がマギの異常性に恐れて男達に続くように店を後にした。

 

「マギさん、またも店を救って下さってありがとうございます」

「店長さん……」

 

店長が深々と頭を下げてお礼を述べる。

 

「実はあの輩、マギさんに追い払われた後暫くは店に来なかったのですが、最近になってからマギさんに報復するという名目で店に来てはマギさんが来たか確認して居ないと分かった後に店に嫌がらせをしてから出ていくことを繰り返してほとほと参っていたのです」

「そうだったんですか。すみません。前の事は覚えてないんですが、俺のせいで店に迷惑をかけてしまったようで……俺が店に迷惑をかけたなら出禁にしても構いません」

 

マギはもうここへは来ないと店長に告げるととんでもないと店長は首を横に振るう。

 

「元々あの輩が店やメイド達に嫌がらせをしていたのをマギさんが追い払ったのです。それに頭目のあの男がマギさんに屈したのです。もうあの男のグループが店に嫌がらせをすることはないでしょう。店を救ってくれた貴方に感謝こそすれ、出禁にするなんてとんでもない。今後も当店に来ていただけると幸いです」

 

そう言い店長はマギにフリーパスを手渡した。

 

「店長、ありがとうございます」

 

マギは店長に頭を下げる。その後にメイド達に感謝という名目でもみくちゃにされるのは言うまでもなかった。

 

「ホントに凄いねマギさん。目力だけで追い払っちゃうなんて」

「……あぁそうだな」

 

さっちゃんにふられるが元気なく呟く千雨。さっきのマギの冷笑を見て、あのままあの男を殺してしまうんじゃないかと思ってしまい、自分が知っているマギの雰囲気とまるきり違うのに恐怖を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

メイド喫茶を後にして裏通りを観光するマギと千雨。だが千雨は先程よりも元気が無かった。

 

「大丈夫か千雨?少し休もうか?」

「大丈夫ですマギさん。すいません心配かけるような態度とっちゃって」

 

気分が沈んでる千雨は無理して笑うがその笑みが痛々しい。

 

「やっぱりさっき聞いたことで気持ちが沈んでるんじゃないのか?」

 

さっき聞いたこと、それはメイド喫茶を出る時にさっちゃんからある事を聞いたからである。

 

『はぁ!?あのストーカー野郎が釈放されてた!?』

 

さっちゃんから衝撃な事を聞かされ驚きが隠せない千雨。

ストーカー男、それは千雨やさっちゃん等のネットアイドルを盗撮し、千雨を自分のものにしようとして最終的にマギに返り討ちにあい捕まったのである。それなのにあっさりと出てきたことに納得出来なかった。

 

『何でだよアイツのやってたことは許されないことだろ!それなのに何で!?』

『それが、最近分かったんだけど、あのストーカー男有名な議員の息子だったみたい。あの……』

『あぁ聞いたことある。悪徳議員って自分の不祥事を金で黙らせるって黒い噂で有名な。その議員の息子だったのか』

 

前回マギと一緒に来たときに不良に金をちらつかせてマギを襲った件のストーカー男。身なりは汚ならしかったのに金を持っていたのはそうだったのかと納得したくなかったが納得した千雨。

 

『元々色々と問題を起こして表向きは勘当したって話だったけど、金は仕送りしてたみたい。何か問題を起こさないようにって。けどそれでも問題を起こしたら自分の名前に傷が付かないようにするためにお金で黙らせてたみたい。今回もそうだって』

『クソみたいな話だな。でもそんな事をなんでさっちゃんが知ってるんだ?』

『世の中にはお金で気持ちが揺れない人もいて、その人が教えてくれたんだよ。被害にあった女の人に順番に連絡してたみたい。私もつい最近連絡が来たんだ』

 

悪態をつく千雨に色々と教えてくれるさっちゃん。

 

『そんなに酷い奴なんだな。何か被害にあったことは?』

『ううん。私や他の人には何も被害はないです。けどそのストーカーはちうちゃんに固執してたからもしかしたらと思って』

 

まだ自分を狙ってる。それを聞いて嫌悪感で体が震える千雨の肩に優しく手を置くマギ。

 

『大丈夫だ千雨。そんなストーカーなんか俺がなんとかするから』

『マギさん……』

『そうですね。さっきの見たマギさんがいれば大丈夫かなって思えます。ちうちゃんのことお願いしますね』

 

そして今に至る。マギはそのストーカーのことなど覚えてない。しかし千雨の元気がなくなるほど、そのストーカーは千雨にとって心のしこりとなっているのだろう。

 

「そんなストーカーなんて俺に任せて、少しでも笑顔を見せてくれると俺は嬉しいな」

 

そう言ってマギは千雨の肩を抱き寄せて少しでも安心させようとする。

 

「ちょっマギさん近いって!」

 

流石に恥ずかしく赤面する千雨に微笑むマギ。

 

「俺がやりたいから。少しでも千雨が元気でいてもらいたいから」

 

だから…と微笑みから急に無表情になり、裏路地の角を見る。

 

「いい加減、こっちをじろじろと見るのは止めてくれないか?なぁ……ストーカーさんよ」

 

えと表情が固まる千雨。暫くすると角からあのストーカーの男が現れた。以前よりも汚ならしい格好をしており、何日も風呂に入っていないのか異臭が離れていても臭ってくる。現にストーカー男の周りにいた観光客やチラシを配っているメイド達が鼻を摘まんで男から遠ざかっていく。

しかしストーカーは周りの視線など気にせず血走った目でマギを睨んでいた。

 

「何時から気づいてたんだよマギさん!?」

「結構前から。メイド喫茶に入る時に何処からか嫌な視線を感じてな。最初は俺に報復しようとしたあのスキンヘッドかとおもったが違かった。スキンヘッドは殺気だけだったが、嫌な視線は殺気と一緒に陰湿さが混じっていてな。それで俺に熱烈な視線を送っていたのはなにようかなストーカーさんよ」

「……こっここここ殺してやる!!俺に酷いこきききことしたてめぇをこ殺しゅてやりゅ!!」

 

明らかに呂律が回っていない口調でマギを殺すと喚き散らすストーカー。奇声に近い声で叫んでいるので周りの者達も尋常ではないと察する。

 

「殺すとは穏やかじゃないな。元はと言えばそちらさんがストーカーなんて人の道に反する真似をしたんだぜ。それなのに俺を恨むなんてお門違いもいいところだろ」

「だっ黙りぇ!おおお俺は選ばれた人間なんだぁよぉ!!選ばれた人間は何をしてもゆりゅされんだよぉ!だから俺の邪魔したてめぇは俺に殺されるべぎなんなりょ!!」

 

常識を説いても聞く耳を持たないストーカー。自分を選ばれた人間と喚く位だ。だめだこれはもう末期で戻ることは出来ない。

そうマギが判断していると、ストーカーは奇声の笑い声をあげながら懐から大きめのナイフを取り出した。

 

「こっこここ怖いだろぉ!?このナイフでてめぇの心臓を刺してからばばばりゃばらに切り裂いてやる!その次はちうだぁ!俺のものになる名誉なことなのに、なのになのに断りやがってぇ!!俺の言うことを聞けないならその邪魔な手足切って犬みたいにして飼ってやるぅ!!」

 

異臭にふまえて正気ではない言動に吐き気を覚える千雨。世の中にはここまで歪んだ人がいるのだろうか。

だがマギは顔色も変えずに

 

「わーこわーい……なんて言うと思ったか。ふざけんじゃあねぇぞ。千雨をもののように言いやがって。千雨は俺にとって大切な人の1人だ。それを飼うだと?何馬鹿な事を言ってるんだ。もう一度道徳と倫理を学び直してこいこのすっとこどっこい」

 

抉るように常識と正論を叩き込んでいった。観光客やメイド達はマギが火に油を注ぐような行為に信じられないと言いたげな目線を送った。倫理も常識も欠如してる人間にそんな事を言えば

 

「うるせぇ!ボケ!!死ねえぇぇぇぇぇ!!」

 

叫びながらナイフを構えてマギに突っ込んでいく。周りの人達は叫びながらストーカーのナイフに刺されないように横に跳んだりして逃げる。

 

「千雨、お前は離れてろ」

「マギさん!!」

「大丈夫だ。心配するな」

 

マギが千雨を自分から離して、ストーカーの相手をするつもりだ。千雨が相手にしないでとマギに叫ぼうとした瞬間

鈍い音がしてマギの心臓のある位置に深々とナイフが刺さった。即死だ。目の前で殺人事件が起こったことに人々はパニックになる。

 

「ざまぁみろ!殺してやった!殺してやったぞ!!次はちうてめぇだ!!」

 

勝ち誇った笑みを浮かべよだれを滴しながら千雨を嘗めるように見る。あまりの気持ち悪さに後退りする千雨。

もう自分の邪魔をする者は居ない。あとはゆっくりと千雨を自分のものにするだけだ。ストーカーは自身の勝利を確信していた。

……自分が今刺した相手が"普通の人間"ならばだ。

 

「………な」

「は?」

 

マギが何か呟いている。最期の言葉でも言おうとしてるのかと思ったストーカーは余裕の表情を浮かべながら聞こうとする。もう数秒もすればこいつは何も言えない骸となり果てる。だったら聞いてやろうじゃないかと下品な笑みを浮かべていると

 

「臭いなほんと、何日風呂入ってないんだ?風呂が無理ならシャワー位浴びろよなほんと。臭くてくらくらしてくるぞ」

 

異臭に耐えきれないのか鼻を摘まみながら冷たい目で睨んで来るマギを見て思考が停止するストーカー。

 

「は?え?なん、で?」

 

パクパクと何も言えずに口を開閉するストーカー。そんなはずない。自分は確かに心臓にナイフを突き刺した。即死のはずなのに何でマギは普通に喋れるのだ。頭の中が混乱し思わず心臓に刺さったナイフを抜いてしまうストーカー。

抜き取られて痛かったのか顔を多少歪めるマギ。だが痛がるだけで死んでいないマギを見て段々と恐怖がストーカーを支配していく。

 

「つつ……死にはしないが痛みはある、か……ぶっとい注射針をぶすっと刺された感じだな。この痛みも慣れちまえばいちいち痛がることもないんだろうな。ホントに俺人じゃあなくなったんだな。まぁこれも慣れていくしかないな」

 

そう呟いているマギはシャツを少々はだけさせて刺された場所を晒して見てみる。心臓部分に深々と刺さった刺し傷はみるみると塞がり刺し傷なんて最初からなかったかのように綺麗に消えてしまった。更にストーカーが持っているナイフの刃に付いていたマギの血もしゅうと音を立てて蒸発してしまった。

目の前であり得ない光景を見て、正気を失い地面に座り込んでしまう。座り込んだストーカーの目線に合わせるようにマギもしゃがみこんで

 

「そんな物騒なもの、人に使ったら危ないぜ」

 

スキンヘッドに向けた冷笑をストーカーに見せた。これが決め手となった。

 

「ぎゃああああああ!!ああああああああ!!ああああああああああああああああ!!」

 

精神が崩壊し発狂するストーカー。異臭に交じりアンモニアと硫黄のような臭いが鼻につく。どうやら恐怖で色々と漏らしたようだ。

暫くしてパトカーのサイレンが聞こえ警察がやって来た。どうやら誰かが通報したようだ。

狂ったストーカーを警察が数人がかりで押さえ込み連れていった。恐らくこのまま精神病院に連れていかれるのは確実。誰も死亡してはいないが、ストーカーはナイフを所持して振り回していたからそれ相応の罪も加算されるだろう。

残った警察官が襲われたマギに事情聴衆をしようとしたが千雨が

 

「前に襲ってきたストーカーがまた襲ってきました。特に実害はなかったですが、持っていたナイフは本物だと思います。正直私達は関わりたくないのでそちらで対処をお願いします」

 

と千雨が淡々と説明した。話を聞き終えた警察官は一礼するとパトカーに乗り去っていった。

時間が経つと先程まで事件があったことがなかったかのように何時もの賑やかさに戻ってしまった。

だがマギと千雨はもう遊ぶ気にもなれず

 

「帰りましょうマギさん」

「……そうだな」

 

学園に戻る事にした。

余談であるが、ストーカーは完全に精神が壊れてそのまま入院した。もうストーカーや盗撮等人に対して害する行為は二度と出来ないであろう。議員でありストーカーの父親は今回も揉み消そうとしたが、自身の不祥事が明るみに出て自身も逮捕され収容される形となった。親子で好き勝手やっていたが、これで年貢の納め時となったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

学園に戻ってきたマギと千雨。電車の中では2人とも沈黙して何も話さない状態だった。

 

「……今日はすみませんでした。あたしが誘ったせいであんな事に巻き込まれるなんて」

「何言ってるんだ。あんなの偶然に起こったことじゃないか千雨が謝る必要なんてないさ」

 

沈黙を破って千雨が謝罪するが千雨が謝罪するのはお門違いである。

 

「それよりも今日は怖い目にあわせてごめんな。目の前で刺されたの見て正直参ってるだろ?」

「それは……はい、正直言うと参ってます」

 

また気まずい空気が漂う。何とか話題を出さないととマギは思案して

 

「エヴァに言われてまだ信じられなかったが、ほんとに不死身になったんだな。ナイフ刺されても死ななかったし」

「あたしも俄には信じられませんでしたけど、目の前でスプラッタ事案が発生しても何事もなかったように終わりましたし、もう納得する他ないですね」

 

マギも自分が死ねない体になっていることに多少ではあるが内心ショックだった。千雨やネギ達も事前にもうマギは不死の存在になったとエヴァンジェリンに教えられた。最初はにわかには信じがたいと思っていたが、今回のことで思い知らされる結果となった。

 

「なぁ千雨、俺は不死身の存在になった。ていうことはもう寿命で死ぬこともない。だから――」

「マギさん」

 

マギが何かを続けて言おうとするが、千雨がそれを遮りすかさずマギの頬を両側から思い切り引っ張る。

 

「ちっちふ?いひなひなひすふんふぁ?」

「マギさんあんたこう言う積もりだっただろ?俺とお前の歩める時間は違うから俺に無理して合わせなくていいってさ?だったらあたしの答えはこれだ」

 

千雨は頬を引っ張っていた手をマギの後頭部に回すとそのまま自分の元へ引き寄せマギの唇と千雨の唇を合わせた。

いきなりキスをされて目を丸くするマギ。キスは一瞬で終わらず10秒も経つぐらい長めのキスだった。

記憶を失った後の初めてのキスだったこともあり顔が赤くなり動揺するマギ。

 

「千雨いきなりなんで……」

「いきなりこんなことして卑怯だと思うけど、記憶を失う前のマギさんには面と向かって言えなかったから今言うよ。あたしはマギさんが好きだ。記憶を失う前と後でどこかマギさんの感じが違うから諦めようかなって思った。でもやっぱりあたしは自分の想いから裏切りたくない。マギさんが不死身とか関係ない。あたしは今のあたしの気持ちに正直になる」

 

それが先程のキスになるのだろう。自分に正直になった千雨への答えは……

 

「分からない。俺はどうすればいいんだ……」

 

千雨に対してどういう風に答えればいいのか分からなかった。

 

「マギさんがあたしの事を考えてくれてるのは分かってる。それは嬉しいよ。けど今日のことがあってその場の流れで言っているならNOとあたしは答える」

 

千雨の固い想いに押し黙ってしまうマギ。千雨の言うとおり今日のトラブルもあって気持ちも沈んでいることもあって言おうとしてしまった。

 

「意地悪ですけどマギさんは今はうんと悩んでください。悩んで悩んで悩みぬいてそれで答えを導いて。その間はあたしはマギさんのそばにいます。それにマギさんあのストーカー野郎に言ったじゃないですか千雨は俺にとって大切な人の1人だって。なら、もっとあたしのこと大切にしてください」

 

言いたいことを言いきったのかとてもいい笑顔をマギに見せてから駆け抜けていった。

ポツンと残されたマギはそのまま帰路につき、ネギ達が居ない部屋で夕食も取らずにそのまま横になった。

だがいくら経っても眠気はこなずもんもんとしてしまった。

 

「女の子ってよくわからない……」

 

そう呟き、やっと眠気が来たのは朝日が昇り始めた時刻だった。

 

 

 

 



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お引っ越し

「俺、この部屋を出るわ」

 

学生にとって避けては通れない道、期末試験が迫る中の休日の朝。朝食を食べ終えたマギが開口一番に言ったことにネギ達が驚く。

 

「どっどうしたのお兄ちゃん!?急になんでそんな事を言い出したの!?」

「いや急に言ったが、ふと思ったんだよ……俺がこの部屋に居るの可笑しくね?」

 

マギが思ったことを口に出して辺りがシンと静まる

 

「え?そう?アタシ達別にマギさんがいても可笑しいと思ってないわよ」

「そりゃなんやかんや長い時間一緒にいたから別にいいかなって思ってるだけだろ。だがネギのように子供だったらまだ大丈夫だが家族や恋人じゃない男が寝食を共にするのは一般的に可笑しいだろ。というか可笑しいと思わなかったのか過去の俺……」

「それは……確かに……」

 

一般常識を説かれアスナも何も言えなくなる。マギとネギが最初にここに来たときは反対していたが、数ヶ月も一緒に過ごしてたら段々と気にしなくなっていた。

 

「うちは別に気にしてないえ。むしろマギさんが一緒の方が楽しいし」

 

このかがここにいても大丈夫と言ってくれている。マギはこのかにありがとうと礼を言うが首を横に振る。

 

「そう言う風に言ってくれるっていうのは、俺の事を信頼してるっていうことなんだろうな……ありがとう。けど俺が可笑しいと思った瞬間に、ここに居てはいけない。そんな違和感が頭の中を巡ってるんだ」

 

このかのフォローの言葉にも頷かないそんなマギ。部屋に気まずい空気が一向に晴れる様子がない。

 

「そう言うことだから、学園長のじいさんに話してくるよ。それじゃあ」

 

そう言ってマギはネギ達が止める間もなく身支度を済ませ部屋を後にした。

 

 

 

 

「なるほどのう。部屋を出たいと……して、その子は何故マギ君の足にべったりくっついておるんじゃ?」

「どうやら俺が急に出るなんて言ったから居なくなると思ったんだろうな。急に俺言い出した俺が悪いんだから別に気にはしてないさ」

 

そう言って未だに足にくっついているプールスの頭を優しく撫でるマギ。

何故プールスがくっつき蟲が如くマギの足にくっついているのか、それはマギが部屋を出た後にプールスが部屋から飛び出して泣きながら行っちゃいやレスとマギの足にくっついて離さない。

どうやらマギが自分を置いて何処かへ行ってしまうと思い込んだのだろう。別に何処かへ旅立つわけじゃないが、今のプールスに言っても分からないだろう。仕方ないからこのまま行こうという訳で今に至る。

 

「こうなったらプールスも一緒にっていう流れになってさ」

「じゃったらネギ君もまぜて兄妹仲良く暮らせばよいのではないのかのう」

 

ネギの名前を出した瞬間にマギの顔が複雑に歪む。どうやら訳があるようだ。

 

「いや、ネギはこのままアスナとこのかの部屋に一緒にいてもらおうと思ってる」

「今凄い顔を浮かべておったが、どうしてじゃ?」

 

話すか否か数秒迷うマギだが、ぽつりぽつりと話し始める。

 

「ネギの奴俺に俺に合わせようと無理してるのか、一瞬気を抜いた時に辛そうな顔するんだよ。俺はネギにそんな顔をして貰いたくない。それに俺は不死身の存在になった。つまり時間の概念から逸脱した。そんな奴が自分の弟の1分1秒を無駄にしたくない。そう思ったんだ」

「お主記憶を失ってから難儀な性格になったのう」

 

困ったもんじゃと頬を掻く学園長にマギが再度

 

「後正直に言うと不死身になったからなのか、あの部屋にいると自分が異物感のように感じて居心地が悪い」

「あーわかったわかった。許可するから自分が住みやすいところを見つけるがよい」

「ありがとなじいさん。それじゃ」

 

礼を言い、プールスは会釈をして学園長室を後にした。マギが退出して暫くして溜め息をつき、机に備えてあった黒電話のダイアルを回してある人に電話をかける。

 

「もしもしわしじゃよわし。いやふざけてはおらんわ。ちょいとお主に頼みたいことがあるんじゃよ―――」

 

学園長が誰かに連絡を取っている間に学校から出てこれからどうするべきかマギが考えていると

 

「やあマギ君。体の調子は大丈夫かい?」

 

声が聞こえ振り替えると微笑みを浮かべているタカミチが歩み寄ってくる。

 

「えっと、タカミチ?」

「良かった。分からないじゃないかと思ってひやっとしたよ」

 

半ば恐る恐るといった形でタカミチの名を呼ぶマギ。タカミチの事も覚えておらず、タカミチを見た瞬間にタカミチだと理解した。

 

「それで休日に学校に来てどうしたんだい?」

「実は……」

 

マギはタカミチにネギ達と離れて暮らす旨を話す。一通り聞いたタカミチはマギにある提案を出す。

 

「だったら僕の部屋に来るかい?」

「タカミチの部屋?」

「あぁ。僕も学園の近くで部屋を借りているけど、最近ほぼ出張で部屋を空けていてね。帰ってきてもご飯を食べて眠るっていう最低限のことしかしてなくてね。きちんと家賃は払っているけど、正直払い損かなって思う所もあったし、マギ君が住んでくれるなら家賃分のお金が無駄にはならないと思うのだけどどうかな?」

 

マギにとっては美味しい話だろう。家賃は払わずに暮らしていけるのというのだから。

だがマギはそんな魅力的な提案にも首を横に振る。

 

「とても魅力的だが断るよ。タカミチがお金を払っているならそこはタカミチの場所だ。そんな所に甘えて暮らすのは寄生となんら変わりないと思う。だから俺は自分で自分の居場所を探す。断ってごめん。それと俺の事を心配してくれてありがとう」

「そうかい。どうやら意思は強いみたいだね。マギ君に合った場所が見つかることを祈ってるよ」

 

タカミチ礼を言い別れてからマギは部屋を貸してくれる不動産屋へ足を運ぶ事にした。そこでマギはある意味洗礼を受けることをまだ知らないでいた。

 

 

 

 

 

「……知らなかった。部屋を借りるというのがあんなにも過酷だったなんて」

 

学園のベンチに深々と座り込み、これまた深い溜め息をついてしまう。何故マギがこんなにも疲れているかというと、不動産屋に行ったことが始まりである。

まずマギが部屋を借りたいことを話すと、不動産屋にいた仲介業者が目を光らせ次々と物件の情報を話し始める。

その早さ、まさにマシンガントークと言っていいほどだった。

更に家賃の他に光熱費、電気代水道代ガス代も自分が払わなければいけない事を失念していた。他にも生活するために欠かせない家具も購入する必要がある。これらの費用は今働いているから大丈夫であると思っていた。だがマギはある意味お金よりも大事なことを忘れていた。

―――今の自分生活するスキルが全くの皆無だ―――と。

掃除もまだ一人で出来るレベルではない。食事などゼロに等しい。このままでは毎日コンビニのお弁当という結末になってしまう。

家事を毎日に行って先生としての業務を行う。……無理だ。マギは即断する。今の状態で一人で何でもこなすことは

浅はかだった。お金さえ出せばそこから暮らしていけると自身の智慮のなさに嘆いてしまいそうだ。

そんなマギを見てプールスは泣き出しそうになり、プールスを心配させないために頭を優しく撫でるマギだが焼け石に水である。

これからどうするか、やはり諦めてネギ達のいる部屋に戻るしかないかと振り出しに戻ろうとしたその時

 

「漸く見つけたぞマギ。こんな所にいたのか」

 

腕を組ながら茶々丸を連れたエヴァンジェリンが現れた。

 

「エヴァに茶々丸。どうしてこんな所に?俺に何かようか?」

「ふん。どうやら住みかを探すのに苦労してるようだな」

「何で知ってるんだ?」

「私を誰だと思ってる?私位になれば貴様のことなど手に取るように分かる」

「とマスターは仰っていますが、実際は学園長にマギ先生の家探しを協力して貰いたいと頼まれてマギ先生を探して今に至ります」

「おい!何で直ぐに喋るんだこのボケロボ!!」

 

不敵な笑みを浮かべていたのに茶々丸があっさりとネタバレをしたため急にカッコ悪くなったため顔を赤らめて茶々丸を怒鳴るエヴァンジェリン。

すっかり微妙な空気となってしまい、仕切り直すために咳払いをするエヴァンジェリン。

 

「お前が今すぐにでも住めるような物件、私は1つ知っているぞ」

「本当かエヴァ?」

「あぁ。それにお前も知っている場所だ。着いてこい」

 

エヴァンジェリンに着いていきその物件へと向かった。そして到着して思わず呆けた顔をしてしまう。何故ならその物件というのが

 

「ここエヴァの家じゃないか」

 

そうエヴァンジェリンの家であった。

 

「空き部屋もまだあるし、私と茶々丸だけじゃこの家は大きすぎると思ってな。家具もあるし、まぁ私の趣味でアンティークものが多いがそれは目を瞑って貰うとして、家事はそこにいるメイドロボがやってくれる。世にある最新の家電より高性能だ」

「メイドロボットって……それでいいのか茶々丸」

「はい。私はマスターやマギ先生にプールスさんのお役に立てられるのならばそれはとても嬉しいです」

 

別段茶々丸が気にしていないのならば、マギがこれ以上何かを言ってもしょうがないために黙ってしまう。

 

「でもエヴァや茶々丸と暮らすことになったら結局アスナやこのかと暮らすのと変わりがないような……」

「それはあいつらがお前よりも歳が下だからだろう?茶々丸なんてロボットであるから歳の概念などないようなものだし、私だってお前よりも数百も歳上だ。なら問題ないだろう?」

「それは、そうかもだが……」

 

エヴァンジェリンに歳云々のことで論破されて渋い顔をしてしまうマギ。

 

「それに……お前があの部屋を出ようと思うようになったのは私の責任だ」

「それはどういうことだよ」

 

マギが何故自分のせいなのかとエヴァンジェリンに問うと負い目があるのか申し訳なさそうにエヴァンジェリンはこう答えた。

 

「じじいに自分が異物感だって言ったそうじゃないか。不死身になったことで時間の概念から逸脱したことによって、ここに居たくないと直感で感じ取ったのだろう。お前がそう思うようになったのは私の責任だ。不死身の先輩としてお前が不自由にならないように支えてやる。だから一緒に暮らせ」

 

暮らせと高圧的な感じで取られてしまいそうだが、マギを思っているのは確かなエヴァンジェリン。

エヴァンジェリンと一緒にいるとどこか安心感があるのは確かなマギ。だがそんな誘いをマギは首を横にして答える。

 

「色々と心配してくれてありがとな。けどエヴァに迷惑をかけるのは俺としては申し訳ないというか、だからもう一度自分で暮らせる場所を探すよ」

 

当たり障りのない断りを入れてマギはその場を去ろうとする。これでいいと自分に言い聞かせていると急に動けなくなった。

エヴァンジェリンがマギの手を掴み離さないでいたからだ。

 

「……くな」

「エヴァ?」

 

俯いているエヴァンジェリンが顔を上げ、マギは思わず息を飲んでしまう。

 

「行くな。行かないでくれ。お前がそうなったのは私の責任だ。けど同時に嬉しかった気持ちもある。漸く私と一緒に歩いてくれる者が出来た。もしお前がこの場を去ってしまったら私もう独りになってしまう。そうなったらもうお前を真っ直ぐ見ることが出来なくなる。お願いだ、勝手な事を言っているのは分かってる。けどもう私を置いて行かないで……私を独りにしないでくれ!」

 

目に涙を溜めて今にも流れそうで懇願をするエヴァンジェリン。その切なそうな表情を見れば誰もが同情するだろう。

エヴァンジェリンの悲痛な表情を見てのマギの答えは

 

「分かっ……た。俺はお前と一緒に暮らすよ。それでいいかエヴァ?」

 

思わず言ってしまった所もあるが、ここでエヴァンジェリンと一緒に暮らすことに決めたのだ。

 

「……ふふ。そうか。これからよろしくなマギ」

 

と先程まで泣きそうな顔を浮かべていたのに次の瞬間にはいつもの調子に戻っているのを見て思わず唖然としているマギにエヴァンジェリンが

 

「まさかこの私が泣くと思ったか?数百年も経っていれば非力な少女を演じないといけない場が出てくるし、泣き落としをすれば同情し私の味方になってくれる者が増えていく。つまり、お前は私に騙されたのさ。これこそ長年の経験の差だ。覚えておくといい」

 

マギを騙してやったとしたり顔を浮かべるエヴァンジェリンを見てそうなのだろうかと思ったマギと茶々丸。

あの泣きそうな顔は本心だと思ったマギ。1人ではなく独りと言った。それはもう自分が独りでいることに耐えるのが厳しくなってきたからだろう。だからこそマギに一緒に居て欲しい気持ちが高まったのだろう。

だから非力な少女を演じるとか泣き落とし等の事を話し始めたのは涙を見せたのが恥ずかしくて我がマスターは誤魔化しているのだろうと茶々丸は分析した。

今の涙は本物だよねと口には出さずに心の片隅に置いておいて

 

「改めてよろしくなエヴァ」

「あぁ歓迎するぞマギ。ようこそ悪の住み処へ」

 

不敵な笑みを浮かべてマギと握手するエヴァンジェリン。こうして色々とあったが、最終的にエヴァンジェリンと一緒に暮らすことになった。

自分で暮らす場所を探すと意気込むが上手くいかず、エヴァンジェリンと暮らすとなった時に一度は当たり障りのないように断りをいれたがエヴァンジェリンの涙を見て折れたマギは考えを変えて結局エヴァンジェリンと一緒にいることを決めた。

 

「あー……俺だって、ほんとは一緒に暮らそうと言ってくれて嬉しかったのにあーだこーだ言い訳して、泣かせて、面倒な奴だな俺ってホント……」

 

と小さく呟いた。その呟きは誰にも聞かれずに風に流れて消えたのだった。

 

 

 

 

後日マギがエヴァンジェリンと住むことになるという話は直ぐにクラス中に知れ渡り、アスナやこのかにのどかや夕映に千雨や亜子の他に風香や史伽に千鶴や噂好きの何人かがエヴァンジェリンに詰め寄った。

何時もなら鬱陶しい顔をするエヴァンジェリンだが今回だけは

 

「別に、あるべきもとに帰って来た。それだけだな」

 

とどこか勝ち誇った笑みを浮かべているエヴァンジェリンに対して何人かがブーイングで抗議をし始める。そんな中でのどかは勝ち誇った笑みを浮かべていたエヴァンジェリンを見て、本心から嬉しいということを感じ取っていた。

 

「良かったですね。エヴァンジェリンさん」

 

確かにマギを想い合うライバルの関係ではあるが、今はエヴァンジェリンを祝福するのどかであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずるいなぁ♪」

 

 

 

 



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恋裁判

マギがエヴァンジェリンの家で過ごすことになって数日。その間に学生達は避けて通れない試練期末試験を挑むことになった。

ネギにこのままいくと3ーAはまた最下位の順位に戻ってしまうと言われ(ほとんどの生徒はまいったねとそこまで危機感がない様子だったが)あやかに発破をかけられ、皆で差さえ合う形で勉強会を行い、超が抜けてもなお学年2位という輝かしい成績を残すことが出来た。

生徒の変化以外にもネギにも変化があった。クウネルと話した時はまだナギの捜索に一歩引いていたが、マギが自分の元を離れたことで心変わりがあったのか自らナギの捜索をしたいと言い出したのだ。といってもまだまだ頼りない所があると思ったのか、アスナやこのかに刹那とお馴染みのメンバーが同行することになった。

そんな生徒達やネギに変化がある中でマギはというと………

 

 

 

 

 

 

「えー静粛に。今から第1回恋裁判を開廷いたします」

「え?いや、何これ?」

 

放課後の3ーAの教室にて教卓にハルナが立ち、その教卓と向かい合うようにマギが座り、左に和美右にエヴァンジェリン。その後ろにのどか夕映千雨亜子が座っていた。この配置正に裁判である。

 

「今裁判って言ったよな?何で裁判?」

「被告人のマギさんお静かに。今の貴方に発言権はありません」

「被告人?え今俺被告人って言われた?」

 

やはり裁判であった。しかし何故自分が被告人と言われなければいけないのか、マギの困惑は増すばかりである。

 

「あ、ちなみにマギさんが殺人とか暴力沙汰なんてことはしてないし、私も裁判の仕組みあんまり知らないからゆるーくでやらせていただきまーす」

「いや仮にも裁判?なんだったらもう少し真面目にやろうぜ?というか何で俺が被告人なのかそれよりも恋裁判ってなんだ?」

「はーいツッコミはなしでお願いしまーす。時間が勿体ないのでー」

「もうツッコミって言っちゃったよ……」

 

マギのツッコミも流されてしまうので、もうなるようになれと諦めてことが流れるのを見ることにした。

 

「それじゃちゃちゃっとマギさんの罪状を読み上げたいと思います。えーマギさんの罪状は……『他の女の子をほっぽいといて1人の女の子とイチャイチャしてた罪』です!」

「…………はい?」

 

今ハルナは何て言った?マギは唖然とした顔を浮かべてしまった。

 

「あれ?マギさん聞いてなかった?もーちゃんと聞いててよ。恥ずかしいけどもう一回言うよマギさんの罪状は」

「いやいやいや聞いてた聞いてた。そうじゃなくてなんだその罪状。頭痛が痛いみたいなおかしい」

「言葉通りだよ。マギさんが1人の女の子だけ相手してるんだから。論より証拠。検察役の朝倉和美さん、例のものを」

 

はいはーいと和美もこれまた気の抜けた返事をしながら、数枚の写真を取り出す。

 

「えーこの写真はマギさんがエヴァンジェリンの家に越してきてからの数日を修めたものです。朝起床し一緒に朝食を食べ、帰宅し夕食を食べた後に軽くボードゲームを行った後に就寝。これを集計すると、他の子との会話よりも断然割合は大きい。よって他の女の子をほっぽいといて1人の女の子とイチャイチャしてた罪が妥当だと思われます」

「おいなんだその暴論は!?一緒に住んでいるんだから同じ時間を共有するのは必然じゃないか!!」

「弁護士役のエヴァンジェリンさんはもうちょっと黙っててくださーい。後で話す場は設けますんでー。それで被告人役のマギさん、今の証言に間違っている所はありますか?」

「いや、特にないと思うが……」

 

裁判長役のハルナに問われマギも特にないと答えるだけ。

 

「そんじゃマギさんが間違っていないと言ってますし弁護士役のエヴァンジェリンさん反論あるならどうぞー」

「ふんっマギは私の元に、あるべき場所におさまっただけだ。一緒の時間を共有するのは必然だろう」

「一応意義あり。マギさんは不死身の存在となって一緒になっているようですが、マギさんがエヴァンジェリンに好きだと言ったわけではないし、付き合ってもいないのにマギさんを独り占めするのはどうかと思います」

 

ふんと鼻を鳴らすエヴァンジェリンに意義を申し立てる和美、その意義の内容にううと唸るだけのエヴァンジェリン。エヴァンジェリン自身も自分の反論が半ば暴論であるということは理解しているようであった。

 

「そんじゃ次は証人……じゃなくてマギさん大好きな恋する乙女達の想いを今ここでぶつけてもらいましょかね」

「はっハルナ!?」

「いきなり何を言い出すですか!?」

「恋する乙女ってさらっと言うんじゃねえよ!自分がそのカテゴリに属してると思ったら鳥肌立っちまったじゃねえか!」

「急に言われるのも恥ずかしいんよ!!」

 

のどか達はハルナのふざけにツッコミを入れるが、でも事実でしょ?な目で見られ、ぐうの音も出ない彼女らは次々と口を開く。

 

「最近もマギさんとは本のお話をしました。新しく出た新作の本や最近読んだおすすめの本の話です。けどマギさん時折どこか遠くの方を遠い目で眺めることが多くなって時折私の話を話半分で聞いていることが増えてきました……」

「私ものどかと同じようなものです。他愛のない話を一緒に楽しげに話している時にマギさんは時折私を見る目が儚い、壊れやすいものを見ているような眼差しを向けるです。その目を私に向けた時は必ず自分から話を切ることが多くなったです」

「あたしは前に一緒に出掛けたけど、それっきり話をしてくれる時はしっかり話をしてくれるけど、たまにあたしの事を避けるようになったよな」

「ウチも部活の事で悩んでいた時もマギさん親身になって聞いてくれて嬉しかった。けど最後ら辺でウチの事を寂しげに見て、ウチが寂しげに見てたこと聞こうとしたら無理やりに話止めちゃって……」

『まとめると寂しくなってもっと構って貰いたいです』

 

マギに恋する乙女達の本音を聞いてマギも開いた口が開かなくなる。

 

「まーこのように彼女らは話を急に終わらせられたり、露骨に避けられるようになったけど、マギさんの事を想っているわけなのです。だからあんまりマギさんを独占するような真似はやめるさねエヴァンジェリン。この子らはアンタと違って時間が有限なんだから」

「…………分かった。確かに私も露骨すぎた。すまない」

 

和美に諭され、数秒沈黙していたエヴァンジェリンが謝罪する。

 

「それで、マギさんも色々と思ってたことがあったんじゃないかにゃー?のどか達も胸のうちを明かしたんだからそっちもゲロっちゃいなよ!」

 

ハルナに迫られ、マギも自身が抱えていた思いを打ち明ける。

 

「エヴァと過ごし始めてから、心の底から安心することが出来た。のどか達とも話していると気持ちが安心して癒されることもあった。けど、時折思ってしまうんだ。俺はもう時間の概念から逸脱してしまった存在で、のどか達の時間を無駄に奪ってるんじゃないかって。そう思ってしまったら申し訳なくなって……」

 

マギは己の内を打ち明けた。マギは不死身の存在となった結果考え方も変わってしまったのだろう。マギの考えを聞いて黙り込むエヴァンジェリン。

しかしハルナはそんなマギの考えなど鼻をかんだ塵紙のごとく粗末なものと考えており

 

「マギさん、こんな言い方あれだけどマギさんの考えとっっても小さいからね」

「そっそうなのか?」

 

そうっとハルナは教卓を思い切り叩き大きな音を出す。

 

「好きな人と一緒に過ごすのは互いの他愛のない無駄な時間を素敵な時間にするのであって、どっちかがその誘いを断ったらほんとに無駄な時間になっちゃうんだから!恋は全力投球で相手が全力ならこっちも全力で捕ってあげなきゃ。それに恋は熱しやすくて冷めやすいものなんだから。どうするの?のどかが急に他の男と仲良くしてるのを目撃しちゃったら」

「それは……」

「嫌でしょ?だったらそんなうだうだした考えなんて持ってないでもっとのどか達との時間を大事にしないと」

 

ハルナの忠告にマギは首を縦に動かす。

マギの反応に満足したハルナは軽く教卓を叩き。

 

「よって判決はもっとマギさんはのどか達の事を相手にすること。出来ないのならマギさんはのどか達との関係は先生と生徒の関係に戻ること」

「分かった。もっとのどか達との時間を大事にするよ」

「よっしOK。そんじゃ恋裁判はこれにて閉廷!!」

 

あっさりと判決が出てあっさりと裁判は終わった。端から見たら茶番劇甚だしいものだが、今の彼女達には必要なものだった。

 

「随分と大袈裟なものだと何時もの私だったら笑っていたが、私も少々意地を張りすぎた。私の悪い癖だ。あのままではマギを独占し続けていた。すまなかったな早乙女、それとありがとう」

「おっとあのエヴァンジェリンが素直に謝って礼を言うなんて珍しいねー。まぁ私としては裁判のネタになるかなと思ったのと修羅場見れるかなーって思ってやっただけだからね」

「私も芸能人のスキャンダルの練習と思って参加しただけだし、良い経験になったさね」

「本当にぶれないなお前らは」

 

自分等のスタンスを貫いた和美とハルナに感心と呆れの半々なエヴァンジェリン。

それにとハルナはマギに近づくのどか達を見る。

 

「マギさんまた本のお話とかいっぱいしましょうね。私、今マギさんとお話をするのが一番楽しいですから」

「私もマギさんとお話をすると自分の世界が広がると思ってるです。だからこの1分1秒を無駄にしたくないです」

「マギさんあのストーカー野郎に言ったよな、あたしは自分にとって大切な1人だってな。だったら大事にしてくれないと拗ねて引きこもって不登校になってやるからな」

「ウチの物語にはマギさんは欠かせない登場人物なんや。だからマギさんがいないといつになっても始まらないからもっとウチの物語に登場してもらわないと!」

「皆……すまない。俺もっと君達の事を大事にするよ」

 

マギものどか達に謝り一応は落着しただろう。

 

「恋って同じように見えて違うものだから、その恋1つ1つに全力で当たれないと、中には何をしでかすか分からない子だっているからさ」

「分かったよ肝に銘じておくさ」

 

こうして第2回が起こるかどうか不明だが恋裁判は終了したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

1学期の終業式が終わり、生徒達が教室を後にしマギが生徒の出席簿に何かを書いている。

 

「お兄ちゃん。そろそろ打ち上げのカラオケ回だよ」

「あぁ分かってる。もう書き終わったから」

 

書き終わり満足な顔を浮かべたマギは出席簿を閉じた。

 

「何を書いたの?」

「俺にとって大切なことさ」

 

マギの言ったことに首を傾げるネギ。マギは出席簿を職員室に戻しに行った。

 

――皆との時間、1日1日大切に過ごそう――

 

出席簿の端に新しく記したマギ。記した通り大切な皆との時間を大切にしようと誓う。

こうして長い夏休みが始まるのだ。

 

 

 

 

 

 



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~第11章~ 試練の修行
修行初日で地獄を見た


「はぁ……はぁ……はぁ……!」

「どうしたマギ、もっと抗いてみろ。まさかこれでもう終わりというわけではないだろうな?」

 

吹雪舞う山中で無数の剣が刺さっているなかで、片膝をつき肩で荒い息を吐き出すマギを吹雪と同じ冷たい目で冷笑し見下ろすエヴァンジェリン。

 

「くっ……うおぉぉ!!」

 

声を張り上げ、近場に刺さっていたロングソードを抜き、エヴァンジェリンに向かって振り下ろす。

しかし……

 

「甘い」

 

マギの見え見えの振り下ろしを簡単にパリィして弾く。無防備になったマギの胴体に鋭利になった爪を突き立て、マギの心臓部分を貫く。

口から血をポンプのように吐き出して、前に倒れてしまう。

 

「ふっまだまだだな。出直して這い上がってこい」

 

そう言い残して、雪山を降りていくエヴァンジェリン。

くそうと心の中で叫ぶマギであった。

 

 

 

 

 

一方、熱気渦巻くジャングルにて

 

「はーはーはー」

「の……のどか大丈夫です?」

「凄い熱気や。意識がぐるぐるしとる……」

「なんであたしらこんな所にいるんだっけ……?」

 

のどか達が意識を失わないように踏ん張っていた。

何故マギがこんな血みどろなことにのどか達がジャングルにいるのか、それは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

夏休みに入り数日経ち、色々と動きがあった。まずアスナが自身の過去を思い出し、ナギを探すために表向きは英国を研究するという名目で魔法世界に行くための部を設立することになった。当然ネギとマギが顧問で、マギ達の中で一番の実力者のエヴァンジェリンが名誉顧問となることになった。

まず最初の目標は魔法世界でしっかり活動出来るように力をつけるための修行をすることに。その修行のためにエヴァンジェリンの別荘を使用することにした。時間の流れが緩やかなエヴァンジェリンの別荘は修行にぴったりな場所である。

皆やる気十分で修行に取り組もうとしていた。しかし問題があった。それは……

 

「神楽坂、貴様その程度のレベルであそこまで息巻いていたのか?お笑い草とはこのことだろうな」

 

伸びているアスナを嘲笑するエヴァンジェリン。事はネギとの模擬戦から始まる。咸卦法を使えるようになったアスナがネギに挑んだがあっさりと返り討ちにあってしまった。それは当然と言えるだろう。咸卦法を使い戦えるようになったアスナと学園祭以降もこの別荘で修行していたネギじゃ差が開いて当たり前だ。

 

「言っておくが坊やレベルで負けているようなら魔法世界に行っても1日も持たんぞ。分かったら貴様は日本に残ってタカミチの背中でも追っかけてろそっちの方がお似合いだ」

 

――ぶちりとアスナの中でキレた音が聞こえた。その話はアスナの中で禁句であり、怒りで心に火を灯した。

 

「ふざけんじゃないわよ……!やってやろうじゃない!!こうなりゃ矢でも鉄砲でも何でも持ってきなさいよ!!この修行で超レベルアップしてエヴァちゃんの泣き顔を拝んでやるんだから!!!」

 

怒りの感情で力が爆発したアスナ。体から溢れているオーラが大きすぎるためにネギが落ち着かせようとおろおろしていると

 

「ほう、私の泣き顔を拝んでやるか。面白いじゃないかやってみるといい。丁度貴様にぴったりな修行がある。身の引き締まる地獄のような修行がな。着いてこい」

「っ上等よ!!やってやろうじゃない!」

 

売り言葉に買い言葉でエヴァンジェリンの挑発に乗ってしまったアスナはエヴァンジェリンに着いていくことに。それがまさに地獄の修行と知らずに。アスナが心配になったネギも着いていき、その後ろで面白そうだと思った小太郎も着いていき、何かを決意したマギも着いていった。

 

 

 

 

 

 

「なななななな何よここおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

歯を鳴らしながら叫ぶアスナ。今アスナが居るところは極寒の吹雪舞う山の中であった。

 

「貴様の修行はこの雪山で7日間生き残るものだ。言っておくが居住と食事も現地調達だ。咸卦法を使っていないと30分で凍死するぞ」

「ささささささっきは矢でも鉄砲でもって言ったけど!!こんないきなりぶっ飛んだ修行をしなくても―――」

 

アスナは抗議をしようとしたが最後まで続かなかった。何故ならエヴァンジェリンがアスナの服の襟を掴み、割りと本気で投げ飛ばしたからだ。

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁ!?」

「ほら、本気で防がないと死ぬぞ。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―――」

 

ほぼ一瞬で見えなくなってしまったアスナとエヴァンジェリン。目の前でアスナが投げ飛ばされて顔を青くするネギ。

 

「アスナさん!師匠!」

「ちょいとまちいやネギ」

 

ネギも同じように飛んで行こうとしたが、小太郎が腕を掴みまったをかける。

 

「離してコタロー君!!このままじゃ師匠がアスナさんを!!」

「殺しちまうってか?落ち着けや。エヴァンジェリンの姉ちゃんがアスナの姉ちゃんを殺す訳ないやろ。あれが今のアスナの姉ちゃんの力を解放するための荒療治みたいなもんやろ?なぁマギ兄ちゃん」

「俺にふられてもな……まぁ小太郎の言う通りなんだろうな。俺も魔法の事は記憶がないからよく分からないがエヴァがやろうとしてることが最速の修行方法なんだろ」

 

小太郎にそう言われ、マギも小太郎の考えに同意しネギは何も言えなかった。

1分位経った後にエヴァンジェリンがつまらなそうな顔をしながら戻ってきた。

 

「ここから300m先に神楽坂が伸びている。坊やと犬上小太郎、お前達が介抱した後に少し面倒を見ろ。正し甘やかしたら修行のきつさが倍になると思え」

「はっはい!」

「しゃーないなー。ほな行くでネギ」

 

エヴァンジェリンに命令されてネギと小太郎はアスナの元へ飛んで行った。

 

「それでマギ、お前は何故私達に着いてきた」

「単刀直入に言うよ。俺に修行をつけてくれ。多分今の俺は誰よりも弱い。失礼だがアスナよりもだ。記憶を失い戦い方を忘れたと言うのもあるが多分心も弱い。俺がネギに魔法世界に行こうと言い出しっぺなのに足を引っ張ったら本末転倒だ」

 

エヴァンジェリンに修行を申し込んだ。エヴァンジェリンはふっと笑みを浮かべる。だが微笑等の優しげな笑みではなく、吸血鬼の牙をぎらりと見せる獰猛な笑みだ。

 

「それを言うのを待っていたぞマギ。お前を不死身の存在にしてしまったことに負い目を感じていたが、お前自ら修行をつけてくれと言うのならそれに応えてやろう。だが私はお前が大切な者だからと言って甘くするつもりは毛頭もない。不死身の戦い方を骨身に刻んでやろう」

 

そう言ってエヴァンジェリンはマギの手を取り雪山を飛んで行く。暫く飛んでいると、無数の剣が刺さった場所に到着した。

 

「エヴァここは?」

「あーここは……一時期無数の剣が刺さった光景に憧れがあって勢いで作ったものだ。刃はついているから斬れるぞ」

 

若気の至りなのだろうかとマギは一瞬思ったが直ぐに考えを散らした。

 

「それよりもマギ、お前は寒さは大丈夫なのか?」

「……そう言えば確かに寒いが体が凍りつくまでじゃあない感じだな」

 

マギの答を聞き、エヴァンジェリンは何回か頷き

 

「どうやら魔法の記憶は忘れているが、体は覚えているようだな。身体を冷やさないように少しずつ魔力を放出し体に膜を張っているようだな」

「なるほど……」

 

よくよく見ればマギの身体を魔力が覆っていた。だから寒さが軽減していたのかと納得したマギ。

 

「それではマギ、お前の修行を始める。お前の修行の内容は至極簡単……この私に傷をつけることだ」

「え、それだけか?」

「あぁ掠り傷でも可だ。先に言っておくが、私を傷つけることは出来ないなんて事は言うなよ。それ以前にお前が私に傷をつけることなんて無理に等しいがな」

「そんな事言う積もりはなかったよ。けど、正直言って急にエヴァに傷をつけるなんて出来るか不安だな」

「なんだ怖じ気ついたか?だったらお前は日本に居残りをしておくか?まぁ私としては大事なお前に傷がつかないほうがいいがな」

 

挑発的な笑みを浮かべるエヴァンジェリン。そんな笑みを見てマギも覚悟が決まった。

 

「いや言い出しっぺは俺なんだ。こんな所で怖じ気づくわけにいかない。胸を借りる積もりで挑ませてもらう」

 

そう言ってマギは近くに刺さっていったブロードソードを抜いて構える。素人同然の構えに思わず吹き出すエヴァンジェリン。

嗤われたが今は気持ちを集中させるマギは何度か深呼吸をし

 

「うおぉぉ!!」

 

気合いをあげてマギはエヴァンジェリンに向かっていった。

「もう一度言うが、私はお前に対して一切の容赦はしない。例えお前が今は非力な存在でもな」

 

そう言ってエヴァンジェリンが構えた瞬間にマギは動けなくなった。体の自由が効かなくなった事に驚くマギ。よく見れば自分の体に鋼の糸が絡み付いていた。

何時の間に自分の体に鋼線が絡み付いたのか、そんな事を考えている時間もなく、嗜虐的な笑みを浮かべたエヴァンジェリンが

 

「残念だがマギ、今ここでお前は1回死んだ」

「まっま―――」

 

マギの静止の懇願も聞かずエヴァンジェリンは思い切り持っていた鋼線を引いた。

鋼線はマギの体に食い込んだと思いきや一瞬でバラバラに切り刻んでしまった。マギの血で雪が朱に染まった。

 

 

 

 

 

「う……あ……」

「意識はあるようだな。流石私が見込んだ男だ。取り敢えず今は体を再生することに意識を向けろ。イメージしろ。自分の身体を自身の四肢と自分の内側の器官を。激痛があるからといってイメージを疎かにすると歪なものになるから注意しろよ」

 

マギは激痛で逆に意識を失わずにすんだ。今自分は首と上半身とガントレット付けた腕しかない状態なのに死んでいないのは不思議な体験だ。激痛で体が動かないが辛うじて目だけは動くので斬り飛ばされた自身の身体を見ると、腐敗したかのように段々と崩れ落ち塵となりそのままマギの上半身に集まっていく。どうやらこうやって再生していくようだ。

 

「いきなり、バラバラにする、なんて、エヴァは、スパルタ、なんだ、な……」

「ふっ、初日から其ぐらいの口が叩けるなら見込みがあるな。最初にバラバラにした方が自身の再生の仕方を掴みやすいと思ってな。だがいいぞ、私が初めて腕や足を斬られた時はショックで数日は再生出来なかったのに、良い意味でぶっ飛んでるぞ」

「そ、そっか。不死身の、先輩である、エヴァが、そう言って、くれるなら、大きな、自信につながる、か、な……」

 

マギが完全に再生することが出来るようになったのは、数時間後であった。

 

「どうだ?身体の何処かに違和感があるか?」

「いや、初めてバラバラになったから違和感があるのかよく分からないな……」

 

手を開いたり閉じたりしたり伸びをして違和感があるか確かめるが、特にないと思うマギである。

 

「今日は修行はここまでとする。明日から本格的にお前の体に教え込んでいくから覚悟しておけ」

「あぁ分かったよ。それで悪いんだが、俺はこのまま雪山で自主トレしていいか?過酷な場所なら身体を動かす感覚が戻りやすいと思ったんだが」

「好きにしろ。雪山を駆け回ったりそこら中に刺さっている剣で素振りをするのも可だ。私は神楽坂の様子を見ていく。あの女はネギや犬上小太郎に甘やかされて今頃ボケッとしているだろうから、辛い現実に引き戻してやるさ」

「あんまりキツくしない方がいいんじゃないか?アイツは俺と違って不死身じゃないんだから」

「まぁ善処はしてやるさ。元々アイツが私に啖呵を切ったんだからな。せめての情けで音を上げたらこの別荘から追い出してやるさ」

 

それって情けなのかとマギが思っている間にマギを置いてエヴァンジェリンは飛んで行った。

 

「……それじゃあ取り敢えず走り込みから始めるか」

 

マギは気持ちを切り替えてまず最初に足下が悪い雪山で走り込みを始める事にした。

そしてアスナはエヴァンジェリンの言った通りネギと小太郎に甘やかされて、洞窟風呂で体を癒している最中にエヴァンジェリンが突撃してきたので、激昂したエヴァンジェリンに洞窟は崩壊し、ネギと小太郎はアスナの元から離すことにしてアスナ1人で7日間のサバイバル修行をすることに。せめての情けでエヴァンジェリンはアスナに防寒服を渡した。それとハンドベルを。ギブアップと思ったらハンドベルを鳴らせと、せいぜい頑張るのだな嘲笑いながら去っていった。

アスナは嘲笑られたことによって更に怒りで頭に血が登りながらも絶対に生き残ってやるぞと決意を高めたのだった。

 

 

 

 

 

 

「まったく、私が居ないとすぐに甘やかす。坊やのお人好しには困ったものだよ。犬上小太郎もさっさと坊やを止めないから私にネチネチと言われるんだぞ」

「はい……ごめんなさい」

「結局俺も怒られてしもうた。あんまアスナの姉ちゃん甘やかすなよネギ」

 

エヴァンジェリンにネチネチ言われ小太郎にも軽く責められしゅんと小さくなるネギ。そんなネギが今更だが自分の兄が居ないことに気づいた。

 

「あの師匠、お兄ちゃんは何処に?」

「マギならあの雪山に残ったぞ。今頃雪山を駆け回ったり、剣で素振りをしてるのだろうな」

 

ネギは驚きの顔を浮かべる。今のマギは戦う、生きるサバイバルの術を忘れているのに流石に酷すぎると思った。

 

「そんな師匠!今のお兄ちゃんは記憶を失ってるのにあんな雪山に残すなんて!」

「アイツが残るって私に言ったんだ。私はアイツの考えをすくったまでだ。それに私のせいではあるが、アイツは不死身となった。だから死ぬことは絶対ない。凍死もせずに体が凍りついて身動きが出来ないのが関の山だろう。それよりいいのか坊や?」

「いいのかって何がですか?」

 

にやりと笑うエヴァンジェリンに首を傾げるネギ。

 

「記憶を失ったが流石はナギの息子だ。体が覚えていて少しずつ魔力を放出して体を護っていた。それに身体の再生も早かった。私がバラバラにしてもすぐに元に戻してしまった」

 

バラバラにしたと聞いて、バラバラになったマギをイメージしてしまい青い顔になるネギと小太郎。

 

「この修行でアイツは化けるぞ。坊やはマギも護るつもりだっただろうがアイツは恐らく直感で不死身の戦い方を掴むだろう。そうすれば恐らくマギの方が強くなるだろうな。そうなれば、護られるのは……さて、どっちだろうな」

くくくと笑うエヴァンジェリン。彼女の言う通りである。今のマギは記憶を失い戦う術を持っていない。なら自分がマギを護っていこうと。それは一種の優越感でもあった。自分が兄であるマギを護ってあげるといった。だがエヴァンジェリンの言っている通りマギが自分の戦いかたなるものを掴んでしまったら、護られるのは結局自分になってしまうだろう。

 

「……師匠、僕少し自主トレーニングをやってきます。コタロー君、ごめん今は1人で修行してくるよ」

「あぁ分かった。せいぜいマギに抜かされないように頑張ることだな」

「しゃあないな。それじゃあ俺は楓姉ちゃんかくーふぇ姉ちゃんと修行でもするか」

 

ネギは1人で修行を、小太郎は楓と古菲を修行に誘うために2人が居るであろうエリアへと向かう事にした。

1人になりお手隙となったエヴァンジェリン。さてどう時間を潰すかと考えていると

 

「エヴァさん」

 

エヴァンジェリンを呼び止める声が。振り替えるとのどかに夕映に千雨に亜子、マギを慕っている女の子が揃っている。

 

「のどかに綾瀬夕映に長谷川千雨に和泉亜子じゃないか。どうしたそんな仰々しい顔して」

「エヴァさんお話があります。単刀直入に言いますね。どうか私達に魔法を教えてください」

 

のどかが深々と頭を下げて御願いし、のどかに続くように夕映達も深々とエヴァンジェリンに頭を下げた。

のどか達が頭を下げたことに一瞬気難しい顔を浮かべたエヴァンジェリンだが。

 

「……いいだろう。この私が直々に教えてやろう。地獄など生ぬるいような修行を叩き込んでやる」

 

と嗜虐的な笑みを深く描いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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魔女の聖水

のどか達がエヴァンジェリンに修行をつけてほしいと頭を下げて懇願した。対するエヴァンジェリンは普段なら面倒だ他を当たれと追い払おうとするが、今回はいいだろうと承諾した。しかし顔には嗜虐的な笑みを浮かべており、彼女が行おうとする修行が今までネギに教わってきた魔法のレッスンとは天国と地獄位の大きな差があるだろう。

エヴァンジェリンが着いてこいとのどか達を何処かにつれてこうとする。着いていくのどか達。暫く別荘の城の中を歩いていたらある1室に到着した。

 

「茶々丸」

「はいマスター」

 

エヴァンジェリンが茶々丸を呼ぶと、音もなくエヴァンジェリンの背後に現れる茶々丸。まさかいきなり茶々丸と組み手でもするのかと身構えてしまうのどか達だがそうではなく茶々丸にある命令を下す。

 

「"あれ"を今すぐ用意しろ」

「………っ"あれ"ですか?失礼ながらマスター、"あれ"は些か性急ではありませんか?」

「のどかやその他の奴らは私に修行をつけてくれと言ったんだ。"あれ"を使わないと着いていくのは無理だろう。だから早く持ってこい」

 

……分かり、ました。とまだ納得していない様子だが、渋々と下がり"あれ"なるものを持ってくるために部屋を後にした茶々丸。

茶々丸と組み手をしないと分かり胸を撫で下ろしたいが、"あれ"なるものの正体が分からないためにかえって不安が強くなるのどか達。

 

「さて茶々丸が"あれ"を持ってくる間に改めて聞いておくか、のどか、綾瀬夕映、長谷川千雨、和泉亜子。何故お前達は私に修行をつけてほしい?その理由が軽いものだったら即刻この部屋から摘まみ出すが、まぁ理由は一緒だろうな」

 

挑発的な笑みを浮かべながら何故自分に修行をつけて貰いたいのか理由を問いてみる。

そしてのどかから口を開ける。

 

「私達が行く魔法世界が危ない所なのは分かってます。マギさんやネギ先生に護ってもらっていては、かえってマギさん達に迷惑をかけてしまいます。なら自分の身は最低限護れるようにして、マギさんを少しでも支えたいです」

「のどかと同じです。恐らく魔法世界は私がこれまで体験したものよりも過激で危険な旅になるのは重々招致してるつもりです。お荷物な私が足を引っ張って皆に迷惑をかけてしまうのは絶対だめです」

「こういった修行イベントを行った場合に、トラブルに遭遇するのはお約束だしな。それにあたしらは自ら治安が悪い場所に足を運ぼうとしてるんだ。それなのに何の準備もしてなくて迷惑をかけて最悪死ぬことになったら笑い話にもならないし、なによりポリシーに反するからな」

「ウチ学園祭の時には何も出来なかった。直ぐにリタイアしてマギさんが記憶を失ってウチは悲しさよりも悔しさと自分に腹が立ってしょうがなかった。だからマギさんの役に立つために、強くなってマギさんが言ってくれた自分の物語の主人公になってやるんや」

 

のどか達は自分達の本心をエヴァンジェリンに話す。しかし本音は話さなかった。

本音は『マギと一緒の時間を増やすために、力をつけて支え支えられる関係になりたい』そんな思いである。エヴァンジェリンも彼女等の本音など見通しているが、黙っていた。その本音が最後まで貫き通せるか見物だとそう思いながら。

のどか達の本心を聞いている間に、茶々丸がキッチンカートを押しながらワインボトルとエヴァンジェリンと茶々丸を除いた人数分のコップが置いてある。

茶々丸がワインボトルのコルクを抜く。小気味ないい音が鳴り順番にコップに液体を注ぎ込む。

注ぎ込まれた液体は綺麗な青であった。馴染みのあるものでブルーハワイを連想するのどか達。

 

「エヴァさん、これは一体なんですか?」

 

のどかがこの得体の知れない液体が何なのか恐る恐るといった形で訪ねる。

 

「これは通称『魔女の聖水』と呼ばれる薬だ。周りと比べると魔力の弱い子供に少しずつ飲ませて魔力を大きくさせる薬だ。お前達の修行にはこれを飲まないと始まらない。だから早く飲め」

 

エヴァンジェリンに早く飲めと命じられ、匂いを嗅いだ後に恐る恐る口へと運びゆっくりと飲み干した。味は特にないがのど越しが爽やかに感じるのが飲んでみた感想だ。

恐る恐る飲み干したのに特に体に変化がない。妙な肩透かしをくらったと思っているとエヴァンジェリンが

 

「よく疑いもなく飲んだな。それほどお前達が私に信頼しているということなのか、変な感情だな……まぁそれを飲まないと始まらないと言ったが言っておくぞ、気を強く保てよ」

「皆さんお気を確かに」

 

エヴァンジェリンに茶々丸が何を言い出したのかと首を傾げようとしたがそれは急に襲ってきた。

 

「うっ……く………!!」

「あっあああ!あぁぁぁ……!」

「~~~~~!!」

 

のどか、夕映、亜子が踞って倒れ込んでしまった。

 

「おっおい!?急にどうし―――」

 

急に倒れたのどか達に驚き声をかけようとした千雨にもそれは襲ってきた。

鋭利な刃物で身体の内側を何度も突き刺されるような、炎で内蔵が焼き爛れるような形容しがたい激痛が身体中を巡っているのだ。

 

「始まったか……」

「え、エヴァン、ジェリン……!あたし、らに何、飲ませたんだ!?まさか、どっ毒でも盛ったの、か!!つぅ……!!」

 

痛みに耐えながらエヴァンジェリンに叫ぶ千雨に毒なんか飲ませていないぞ、そんな事をしたらマギに嫌われると首を横にふるエヴァンジェリン。

 

「と言ってもお前達には毒のようなものであるかもな。その魔女の聖水は原液では飲めない程の劇薬でな、本来は100倍に希釈して飲むものだ。だがその薬はわずか"10倍"しか希釈していない……その意味が分かるな?」

 

エヴァンジェリンの説明でのどか達は顔から血の気が引いて蒼白になってしまう。本来の10分の1しか希釈していないと聞いて、痛みと絶望で気が狂いそうだ。

 

「私の修行の第1段階は魔女の聖水に耐え抜くことだ。制限時間は今から1日、それに耐えきることが出来れば修行をつけてやろう」

「ふざ、けんな!今でも痛くて狂いそう、なのに1日だって!?ホントに発狂、しちまうだろうが!!」

 

エヴァンジェリンからの最初の修行内容に口汚く猛抗議をする千雨。他ののどか達も痛みで口を開くことが出来なかったが千雨の抗議に激しく同意していた。流石に修行初日からこんな激痛が走るような方法はやりすぎだと、そう言いたくてしかたなかった。

しかしエヴァンジェリンは深い溜め息を吐くと

 

「これでも優しくした方なんだがな……お前達も分かっているだろう。私達は旅行に行くわけじゃないんだ。長谷川千雨、お前も自分の口から自ら治安が悪い場所に足を運ぼうとしていると言ったよな?何かのトラブルで皆と離れ離れになった時に自分の身は自分で護のが当たり前だ。私は非力な一般人ですだから襲わないでなんて道理が通じないのは分かっているだろう。最悪その痛みがましだと思えるような目に会うかもしれない。そんな目に会いたくないなら今は耐えろ。もしやばいと私が判断したらその時は茶々丸がお前達に打消しの薬と気付け薬を投与してやる。しかしその場合は見込み無しとして修行はつけさせないし、魔法世界にも連れていかない。まぁ私としてはマギに近づく者が少しでも減ればそれでいいがな」

 

とエヴァンジェリンが話している間に亜子、夕映、のどかは次々と意識を手放してしまう。踏ん張っているのは千雨だけだがそれでも千雨もそろそろ意識が飛びそうであった。

 

「それが嫌なら抗い踏ん張ってみろ。そうすれば次に目覚めたら新しい自分が待っているぞ」

「くそったれ……!絶対、耐えてやるから、首を洗って、待って、ろ、よ……」

 

最後の悪態を吐いて千雨も意識を手放して倒れこむ。しかし意識を失っても痛みでうなされるのどか達。それほど飲んだ薬が劇薬だったことが物語れる。

 

「茶々丸、のどか達を清潔なベッドに寝かせておけ、後にお前の姉達にも手伝わせる。その後24時間体勢でのどか達を監視しろ。私は坊ややマギに神楽坂の様子を見てくる。お前がまずいと判断したら私に直ぐに報告しろ。間に合いそうに無い時はお前の判断で薬を投与しろ」

「……マスター、お言葉ですが今回のやり方は承服しかねます。まだ魔法に慣れ始めているのどかさん達に急にあのような劇物を飲ませるなど。これをマギ先生が知れば……」

「許さないと言いたいんだろ。まぁそうだろうなぁ……あいつ前の性格以上に心配性になってる所あるし、けど今回はのどか達が自分で言い出した事だし、のどか達の覚悟を無下にすることはしないだろうさ」

 

それにとエヴァンジェリンはうなされているのどか達を見下ろして微笑みを浮かべながら

 

「のどか達もあのぶっ飛んだクラスの一員だからなんやかんやで耐えられそうだと私の直感が囁いているよ」

 

分かったらさっさと運べと茶々丸に命じるエヴァンジェリンだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、れ?ここは?」

 

真っ暗な空間で亜子は目を覚ます。目を覚ましてはいるが、意識はまだ朧気である。

 

「皆は何処にいるんやろ……」

 

亜子はのどか達を呼び続けるが、一向にのどか達の姿を見つけることが出来ない。真っ暗な世界にたった独りぼっち。段々と不安で押し潰されそうになっていると

 

『―――!』

『―――』

 

何処からか話声が聞こえて来た。この真っ暗な世界に誰か居る。少しでも不安を消そうと話が聞こえた方へ駆け出す。

しかし駆け出し、声が明確に聞こえて来て段々と亜子の歩みが止まる。何故なら

 

『何で!?何でなん先輩!?どうして急に会うのを止めたん!?』

『あーそのなー』

 

かつて付き合っていたサッカークラブの先輩との別れの場面だったから。

 

『ウチに何か悪い所があるんやったらウチ直すから!だからウチの事避けんといて!!』

 

やめて、それ以上は聞きたくない。亜子は耳を塞ぐが声は聞こえてくる。

 

『正直自分でも最低な野郎の言うことだと思うけど……萎えちゃったんだわ』

『………え?』

『俺も勢いで君の純潔を貰おうとしたけど、君の大きなその傷を見ちゃって、その、勝手な物言いなのは分かってるけど女の子として見れそうになくなったんだわ』

『そんな……ひどい……』

『うん、だから詫びとは言えないだろうけど、このサッカークラブは今週で辞める事にした。君を振り回した俺はもう二度と君に会わない様にするよ』

『先輩!』

『さよなら亜子。君の事を女の子として見てくれる人が見つかるのを祈ってるよ』

 

そう言って先輩が去っていった所で先輩と泣き崩れる亜子が砂のように崩れ去った。自分が忘れようとした心の傷。だが心に刻まれたトラウマがそう簡単に拭えるものではなかった。

 

「何で、何でこんなのが急に?忘れようとしたのに……」

「それがウチのトラウマ、自分が捨てきれない過去なんや」

 

もう1人の亜子の声が聞こえ、泣いている表情を浮かべる亜子の幻影が立っている。

 

「大きな傷持ちのウチ、可愛そうなウチ……でもそんなウチを慰めてくれる素敵な人は現れない」

「ちっちゃう!そんな事ない……」

『きゃはははは!惨めぇ、そうやって悲劇のヒロインぶってるのが更に不様さが増してるわぁ!!』

 

また聞きたくない声が聞こえ、プールスと出会ったときに襲ってきたサキュバスが亜子を嘲笑いながら立っていた。しかし目の前のサキュバスも亜子のトラウマとなった幻影にすぎない。

 

『あんたみたいな傷物のブスがぁ、人に愛されるなんて笑い話にもならないわぁ』

 

サキュバスが亜子に手を伸ばす。

 

「いっいやぁ!近づかんといてぇ!!」

 

悲鳴を挙げながら亜子は腕を振り回す。亜子の手がサキュバスに当たり霞のように霧散する。が幻影であるために消えてもまた亜子を嘲笑う嘲笑が暗闇の中で響く。

 

「もう夢を見るのはやめよな。ウチみたいな何の取り柄もないモブキャラは背景として生きていくのが一番やって」

 

無理だ諦めろどうせ自分は輝けないと亜子の幻影は亜子の心を折るような言葉を延々と吐き出す。

 

「………やっぱウチ、主人公になることは出来ないのかな……」

 

折れかけ、亜子は体育すわりで縮こまり顔を伏せてしまう。もう自分は終わりだと諦めそうになったその時

 

『そんなことない!!』

「え?」

 

また亜子の声が聞こえ、顔を上げると小さいが輝いている亜子の幻影がじっと亜子を見つめている。

 

『あの時マギさんはウチに言いよった!お前の人生の物語の主人公はお前だって、確かにウチはあの先輩に振られてあのおばさんのせいでマギさんに傷を見られた、それはもう覆せない過去や。けど!過去がなんや!大事なのは過去を乗り越える一歩や!一歩も踏み出せずに主人公になろうやんてそんな甘い話なんてこの世にないわ!!』

 

小さい亜子が亜子を叱咤する。だが何故だろうか、泣き顔の亜子の言葉と違い自身の心を奮い立たせる熱さがあった。

 

「そうや、主人公は皆自分から一歩踏み出してた。一歩踏み出してその結果物語は動いて輝くんや……!」

『無駄やって。そんなことやっても損して無駄な結果に合うんはは自分なんやから』

 

泣き顔の亜子の幻影が立ち上がった亜子をまた否定する。かもなと亜子も自身の幻影の言ったことを否定しない。けどなと続け

 

「ウチの人生まだまだこれからなんや。今はマギさんと一緒の時間を歩めるために頑張って、もし振られてもマギさんのために使った時間は決して間違いじゃないって胸を張るために」

 

そう言って亜子の手元に馴染みのあるサッカーボールが現れる。現れたサッカーボールを亜子は

 

「いっけぇ!!」

 

某少年探偵張りのボレーシュートを泣き顔の亜子の幻影といつの間にか元に戻っていたサキュバスの幻影に向かって蹴りだした。

サッカーボールは幻影に当たると幻影達は断末魔の声も挙げず、ガラスのように砕け散ってそのまま消滅した。幻影は再生せずに亜子の心を折るような声も聞こえなくなった。

「今は全力で人生を楽しむんや!!」

 

改めて決意を新たにするのだった。いつの間にか小さい亜子の幻影も居なくなっている。もう大丈夫だと言うことだろう。

変わらず真っ暗な空間ではあるが、遥か先に星位の小さな光が見える。

 

「行くで!まずは前に前進や!」

 

届かないであろう光に向かって亜子は駆け出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「よかった亜子さんはもう大丈夫そうですね」

 

倒れ魘されているのどか達を姉達と一緒にベッドがある部屋に移した茶々丸は、先程まで激しく魘されている亜子が少しだけ治まった様子を見せたのでほっと胸を撫で下ろした。

 

「うっうう……」

「あ……あ……ああ……」

「あぁぁ、うあああぁ……ああああ……」

 

だがまだ千雨と夕映とのどかはまだ呻き声を挙げる程魘されていえる。まだ予断も許さない状態だ。

 

「のどかさん、夕映さん、千雨さんどうか気を確かに持ってください……!」

 

己が何も出来ないことを歯痒く思いながらも、茶々丸はのどか達が乗り越えられるように、今は願うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 



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自悶自闘

「なんだよここ……」

 

千雨は真っ暗な空間をうろちょろと歩き回り

 

「よっし、夢だなこりゃ」

 

直ぐに今の状況を理解した。この数日で彼女の状況把握能力は格段に上がっている。

 

「しっかし、今の状況を直ぐに夢だと判断出来るってことはだ、この状況が普通とは全く違うってことだろうけど……」

 

先程も壮絶な痛みを伴う体験をした。その後の夢だ。絶対自分にとって良くないことが絶対起こると警戒していると目の前で光が収束してそして……

 

『みんなー!!今日もちうを見に来てくれてありがとー!!今日も楽しく元気に頑張るぴょーん!!応援してねー!!』

「ぶぅ!?」

 

ちうの衣装を来た笑顔の千雨の幻影が現れ媚媚の台詞を言い出した。いきなりもう1人の千雨が現れ媚びるような声を出したことに千雨は思わず吹き出してしまう。

千雨が吹き出したことに目もくれず、笑顔の千雨の幻影は虚空に手を振る。それに反応するように、虚空から幾つかの男や女の声が聞こえる。

 

「あたしってはたから見ればあんな感じなんだな……途中で恥ずかしいと思ったら上まで登り詰めることは出来なかっただろうなぁ」

 

まだ虚空に手を振っている笑顔の千雨の幻影を見て遠い目をする千雨に手を振るのをぴたりと止めた笑顔の千雨の幻影が千雨の方を振り返る。

 

『ねぇあたし、何でこんな似合わない試練みたいなことやってるの?』

「はぁ?」

 

いきなりの問いかけに思わず首を傾げる千雨にだってそうでしょと媚びるような声色で続ける

 

『元々のあたしのスタンスは面倒事には首を突っ込まない。非日常の類いは否定して、常識や日常を貫く。それなのに今は自分から魔法なんて非日常に首を突っ込む。いいじゃん今まで通りにちうを演じていればこんなにもあたしを称賛する声がほら!!』

 

――ちう今日もかわいいよ!!――

――いつも癒しをありがとう!――

――ちうを見れば明日も頑張れる!!――

 

また虚空から千雨否ちうを讃える声や感謝の声が次々と響いてくる。みんなありがとうと称賛の声達にまた作り物のような笑みを浮かべながら手を振りパフォーマンスをする笑顔の千雨の幻影。

でも、とまたも千雨の方を向き歩み寄ってくる笑顔の千雨の幻影。作り物みたいなのっぺりとした笑みを間近で見ると不気味だなと客観的に思った千雨に笑顔の千雨の幻影が言葉を続ける。

 

『魔法世界なんて非日常の塊みたいな場所に行くなんて馬鹿馬鹿しいとは思わない?だって死んじゃうかもしれないんだよ?何で自ら危険なリスクを侵そうとするの?治安の良い日本でネットアイドル続けてる方がいいじゃない。それに分かってるの?ネットアイドルが恋愛をするのはご法度だってことに』

「……」

 

痛いとこを突かれたのか黙っている千雨に笑顔の千雨の幻影が更に畳み掛ける。

 

『ねぇみんな聞いてー!実はちうねぇリアルで好きな人が出来たんだー!その人には他にも囲っている女の子がいるんだけど、ちう負けないでその人のハートを手に入れたいの!だから応援してお願い!!』

 

またも虚空に話しかける笑顔の千雨の幻影。しかしそんな好きな人がいて尚且つ付き合いたいなんてことを言えば

 

――は?――

――僕らのちうが何でそんな事を言うの?――

――最悪、ファンやめます――

――ふざけんな!俺らの時間返せ!!――

――結局はその程度か、なんか失望――

 

先程まで称賛していたのに手の平を返し罵詈雑言の嵐となった。中には聞くに堪えない誹謗中傷の言葉も混じる位だ。

あまりの喧しさに千雨も手で耳を塞ぎたいが、塞いだとしてもがんがんと響いてきて鬱陶しくてたまらなかった。

みんなひどいよーと笑顔の千雨の幻影が踞って泣いているが、涙など一切流していないうそ泣きで、罵詈雑言の嵐でも笑顔なのがまたより一層不気味だ。

 

『ね?これが現実だよ。もうあたしに普通の女の子みたいな恋なんて出来ない。だって自分でネットアイドルの道を選んだから。皆から飽きられるまで傀儡でいよ?それに、今誰かを好きになってもろくなことにならないし』

『ちう!!』

 

と今度は男の声が聞こえた。振り返ると最近マギを刺して精神が崩壊し逮捕されたストーカーが立っていた。格好は襲ってきたままの姿で、手にはマギを刺したナイフが握られている。

 

『他の男になびくような事しやがってぇ!!お前は俺のもんだ!!俺のもんにならないなら今ここで殺してやる!!』

 

奇声を挙げながらナイフを振り回しながら千雨に突っ込んでくるストーカー。

 

『ほらほらぁ!ヤバい奴がやって来たぁ!さぁどうするあたし!?今ここにあたしが好きなマギさんは何処にもいない!こんな奴どうやって相手するのぉ!?』

 

笑顔の千雨の幻影が興奮し早口になる。虚空の声もやっちまえやちうに裁きをなど更に加速するような事を喚きだした。

対する千雨は何もせずにただ突っ立っているだけ、そしてストーカーのナイフが千雨の体に刺さろうとする位近づいた時に大きな溜め息を吐いて

 

「―――くっっっだらねぇ」

 

そう言いきった瞬間、ストーカーはピタリと時が止まったかのように動かなくなり、虚空からの誹謗中傷などの罵詈雑言も止まり、真っ暗な空間はしんと静まり返る。

 

「自分自身に言われたり、ファンに汚い言葉を浴びせられたり果てにはストーカーに殺されそうになるのは流石に堪えそうになったけど、これって前から自分の中で思い悩んでいた事だったし、それが目の前で具現化してあたしに問い詰めて来るとか、やってることは結局は自問自答じゃねえか。ここでストーカーに刺されたらあたしの精神も崩壊してたんだろうな。エヴァンジェリンの奴こうなる事を分かってたんかね。まぁそう言うことだったらあたしの答えはこれだ」

 

そう言って千雨は止まっているストーカーの額にわりと強めなでこぴんをお見舞いした。ストーカーは後ろに大きく傾きそのまま倒れるとガラスのように砕け散った。

 

「あたしはあたしのやりたい事をやる。それだけは変わらず貫くつもりだ。今はあたしをちうじゃなくて長谷川千雨として見てくれるマギさんのために動きたい。それにあたしに聞くけどさ、最近ちうの活動してる時に、楽しいと思うことがあっても、満たされなくなる事が増えてきただろ?」

『……』

 

千雨が問い掛けても笑顔の千雨の幻影は笑顔のままで何も答えない。それがもう答えだろう。

 

「マギさん達と出会って、あんな体験をしちまったらもうネットアイドルの活動だけじゃ楽しめなくなった。普通の生活には満足出来なくなった。あたしはもうマギさん達との日常にという劇薬に呑まれた。別に今のファンを蔑ろにする積もりはない。ただ筋は通したい。だから、あたしは前を進むさ」

 

そう言って千雨が一歩踏み出すと、笑顔の千雨の幻影は砕け散り、真っ暗な空間に千雨1人だけとなった。

 

「というか、普通の生活を望んでたのに裏ではネットアイドルの活動をしてたのもそれも非日常だったと考えられるか。なんだ、やっぱりあたしは立派な3ーAの生徒の1人だったんだな」

 

自嘲気味に呟いた千雨は遥か先に見える小さな光に向かって歩きだしたのだった。

 

 

 

 

 

場面は変わりエヴァンジェリンは雪山にてアスナを一瞥してからマギの元へ向かっていく。

アスナはまだ気力で試練を乗り切ろうとしていたが、どうせ時間の問題だ。時間が経てば音を上げるそう判断した。

そしてマギがいるエリアに到着すると、マギは剣を一心不乱に剣を振っていた。

 

「おいマギ」

「……エヴァか」

 

深く息を吐いて、剣を振るのを一時止めたマギがエヴァンジェリンと対峙する。

 

「1人にしてまだ時間があまり経っていないが、お前のことだ少しは様になっただろう。見てやるさっさと構えろ」

「あぁ、分かった」

 

そう言ってマギは近くに刺さっている大剣を抜いた。抜いた剣の名はクレイモア。有名な剣の1つ、その剣を構えるマギを見てほうと感心の声をあげるエヴァンジェリン。

 

「少し目を離している間に構えが様になっているじゃないか。何度か振っている中で感覚が戻ったか?まぁいい、かかってこい」

「あぁ……いくぞっ」

 

マギは短く息を吐き突貫していく。前回と違い足運びもしっかり出来るようになっているが、まだまだとエヴァンジェリンは判断した。

 

「中々良い突進力だが、まだまだ足元がお留守だぞ!」

 

断罪の剣でマギの両足を切断する。切断され勢いを殺す事が出来ず前のめりに倒れそうになるマギ。

だがこれがマギの狙いだった。

 

「くっうぉぉぉ!」

 

気合いを入れ、半ば無意識で片手を魔力で強化し片手の力だけで上へと跳躍した。

そしてクレイモアを突き出し、自由落下を利用してエヴァンジェリンに向かって落ちていく。

 

「よく奇襲を思い付いたなマギ、流石だ。だが……そんな丸分かりな落下じゃ私に傷をつけることなど無理だと思え」

 

落ちてくるマギのクレイモアを断罪の剣で弾くともう片方の手から断罪の剣を展開してマギの頭を貫いた。

 

 

 

 

「――――――あ?」

「起きたか。どうだ気分は」

「強制的に意識が失って変な気分だ。俺、どのくらい意識飛んでた?」

「精々10分程度だな。だが先程の戦法はいい線をいっていたぞ。まぁ攻め方が愚直すぎたのが欠点だがな」

 

ふっと微笑みを浮かべながら

 

「この修行が順調に進めばお前ものどか達も大きく化けるだろうな」

「エヴァ、それどういう意味だ?」

 

マギが眉を寄せてエヴァンジェリンに問うとエヴァンジェリンはのどか達が魔女の聖水を飲んで魘されている事を聞いて、思わず立ち上がってしまうマギ。

 

「なんて無茶な事を……!今すぐ止めないと」

「心配するな、対処は茶々丸や茶々丸姉達に任せている。今のお前は自分の修行にだけ集中しろ。それにのどか達はお前のために自ら飲んだのだぞ」

「俺のため?」

 

そうだと頷いてエヴァンジェリンは続ける。

 

「魔法世界はお前達が思っている以上に危険な場所だ。一応治安がいい場所もあるがな。そのような場所に何も策無しで向かうのは愚の骨頂。のどか達がレベルアップすれば自分で対処出来るだろうし、お前のサポートも出来ると思っているだろう。マギも正直言って記憶を失ってから精神も不安定だ。調子がいいと思ったら急に不調になる。それなのにのどか達になにかあった時にはお前の精神が崩れる可能性もある。魔法世界に重い荷物は邪魔になるだけだからな」

 

エヴァンジェリンの説き伏せにマギも黙ってしまうが、その通りだと思った。過去の自分は分からないが確かに自分の精神は不安定だと思うところはある。ここはエヴァンジェリンの言うことに従う事が吉だと判断した。

 

「エヴァ、もう少しだけ俺に付き合ってもらってもいいか?」

「ああいいぞ。今度は魔法も使っていこう。ククク、簡単に折れるんじゃあないぞ」

 

あぁ分かったとマギはまた剣を構えてエヴァンジェリンに向かって突撃した。

……なおエヴァンジェリンは

 

「ほら魔法の矢だ。避けないと大変だぞ」

「あばばばばばば!!」

「今度は氷爆だ」

「ごぺ!?」

「ほらこれが闇の吹雪だ!!」

「どばぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

と魔法の矢に体を貫かれ、氷爆で体を爆破され闇の吹雪できりもみ回転しながら吹き飛ばされと遠慮なく魔法を使用してマギを追い詰め、スタミナと精神が限界にきた。最後はふらふらの状態でエヴァンジェリンに突っ込みパリィされて心臓を貫かれて倒れる修行冒頭の光景となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『どうしたですか?結局はこの程度だっただけですか私』

「あっあぐ!ぐ、あ……!!」

 

また戻り夢の中、今度はムッとした怒り顔の夕映と夕映が対峙していた。しかし夕映の方はうつ伏せに倒れており、苦しそうに蠢き呻いている。

始まりは直ぐ。夢の空間に立っていた夕映は直ぐに千雨と同じようにここは夢の中だと察した。

ここで何をすれば良いのか思案を巡らせていると、目の前に怒り顔の夕映が現れた。

急に目の前に自分が現れた事に構える夕映。恐らくこの現れた自分と何か行ってクリアしないと、この夢の空間から抜け出せない。そう察する事が出来た。さあ何をしてくるか分からないがかかってこい

 

『……貴女の名前はなんですか?』

「え?」

『貴女の名前はなんですか?』

「あっ綾瀬夕映……です」

 

急に名前を聞かれ、名を言う夕映。夕映が名前を言った瞬間に何処からかクイズ番組で使われる正解の際の擬音が聞こえてきた。

 

『貴女が尊敬する人は誰です?』

「私が尊敬する人、それはお祖父様です」

 

またも正解の擬音が聞こえる。

 

『貴女が救われたと思った時はなんです?』

「それは……お祖父様が亡くなって世界がどうでもいいと思った時にのどかやこのかやハルナと出会った時です」

 

正解。なんだこれはさっきから質問攻めばかりでずっと質問を返せばそのままクリアするのだろうか。

しかし質問攻めは急な方向転換をする。

 

『のどかがマギさんを好きになったことに、貴女はどう思ったです』

「どうって……親友が恋をしたんです。おめでとうと祝いたい気持ちだったです」

 

数秒経ってから正解の擬音が聞こえてきた。何故数秒経ってから正解の擬音が聞こえたのか疑問に思っていると少し違和感を感じた。

 

「あれ?なんか、少しだけ体が重く……」

 

少しだけ自身の体が重くなったような感じがした。といっても経った数百g重くなった程度の重さしか感じられないが

更に質問攻めは続く。

 

『修学旅行のホテルのイベントで偽物のマギさんにキスを迫られた時、貴女は何を思ったです?』

「なっ!?急に何を言うんです!?」

『早く、答えるです』

 

怒り顔の夕映は夕映に答えを急かす。心なしか先程よりも重さが増えたような感覚が来た。

 

「いきなりの事で驚いたのとのどかが居たのに私に迫ってきて許さないという思いで一杯だったです!」

 

そう答えた瞬間に不正解の擬音とブーイングのような声が響いたと思った瞬間にずんっと先程と比べ物にならない重さが夕映を襲う。

 

「なっなんで、急に重く……!?」

『違うです。貴女はその時それ以外の感情もあったはずです。正直に答えるです。貴女はその時どんな感情があったです?』

「っどっドキドキしたです。急に迫られて思わずドキドキとしたときめきの感情が私の体を巡ったです!」

 

またも正解の擬音が暗闇の空間に響く。体全体にのしかかるような不快感は消えたが重さが払拭することはなかった。

どうやら間違った答えを言うと重さが加算されるようだ。それもかなりの重さを一気に現に夕映は膝が付きそうになっている。

 

『次の質問です。貴女はマギさんが好きです?』

「すっ好き……です」

 

正解

 

『どんな所が好きです?』

「最初はいつも面倒だと言っていた人でした。けど本当は私達の事を考えてくれる真摯さと記憶を失っても再度歩きだそうとする折れない強さ……です」

 

暫くたってから正解。

 

『それでは、貴女はマギさんとお付き合いしたいです?』

「そっそれは……」

 

口をつぐんでしまう。時間切れ、不正解、ブーイング。さらに重さが加算され膝をついたと思いきやそのままうつ伏せに倒れてしまう。

 

「あっがっ……」

 

あまりの重圧にそのまま押し潰されそうになる。夢の中なのにそのまま意識が飛んでしまいそうだ。

 

『早く正直に答えた方が身のためです。もう一度聞くです。貴女はマギさんとお付き合いしたいです?』

「……はっはい。私はマギさんとお付き合いしたい……です」

 

正解。押し潰されそうになる重圧は消えたが、立ち上がることは出来そうになかった。

 

『それでは最後の質問です』

 

怒り顔の夕映は最後の質問と言った。これに答えればこの重圧からも解放されるかもしれない。夕映はそう思った。

だが、その最後の質問が夕映を更に重圧で押し潰すものだった。

 

『貴女はのどかを押し退けてでもマギさんを自分のものにしたいです?』

「なっ!?そんな事出来るはずないです!親友であるのどかを裏切る真似など出来るわけないです!!」

 

不正解不正解不正解不正解不正解不正解。ブーイングブーイングブーイングブーイングブーイングブーイング。

今までの比にならない不正解とブーイングの嵐が真っ暗の空間に響き更なる重圧が夕映を襲う。あまりの重さに夢の中なのに骨が軋むような音が聞こえてくる。このままではのしイカのようにペチャンコになってしまいそうだ。

 

「なっなん、でっ急に重っく……!!」

『それが貴女の罪の重さだからです私』

「罪!?私が何の罪を犯したです!?」

『私の罪、それは"嘘"です』

「う、嘘?」

 

自身の罪が嘘と聞かされ呆然とする夕映に怒り顔の夕映は続ける。

 

『自然界では擬態や擬似餌を使い狩りをする。生きるために獲物を騙して食らう。人も嘘をつく動物、時には他者を傷つけない優しい嘘もあるです。しかし私がついた嘘はマギさんにのどかへの答えを先送りにしようとしたこと。そしてマギさんを好きになったのをのどかに黙り通しをしようとしてのどかを傷つけた。親友と言っていたのどかを騙すなど許されざる罪です!!』

「ちっ違うです!確かに私はマギさんを好きになってのどかへの答えを先延ばしにするように言った、それは覆す事の出来ない事実です!親友を裏切る真似など許されないことです。だから私はこの恋を諦めてのどかを応援しようと……」

『言い訳を言うなです!!』

 

最後に口調が激しくなった怒り顔の夕映に弁明をするように夕映が色々と言うが、激昂した怒り顔の夕映に遮られ、更に重さが加算されてしまう。もうこれ以上の重さには堪えられそうにない。

『そうやって小賢しい言葉を乱立させて自分の想いを誤魔化す!その考え行いでのどかを悲しませたことがまだ分からないです!?』

 

ひどい言われよう、理不尽と思われるかもしれないが潰されている最中夕映はこうも言われて当然だと思っていた。

マギが好きになっても自分の本心を理屈でなかったこと、あり得ないと蓋をしてうやむやに誤魔化すような真似をした。

その時も心の片隅でそんな自分に怒りや呆れの感情があったのも気付いていたが見ないようにしていた。

それでこの結果か……夕映はもう諦めの境地に達していた。これが自分の罰であるならもう甘んじて受けよう。

夕映が真逆の想いを口に出そうとしたその時

 

『ゆえ―――』

 

悲しそうなのどかの顔が一瞬浮かんで霧散する。そんなのどかを思い浮かべぐっと歯を食い縛る。

重圧がなくなった。恐らくこれが最後のチャンスなのだろう。夕映はそう思った。ならば今自分が思っているこの想いを目の前のもう一人の怒っている自分にぶつけるだけだ。

 

『これが最後です。貴女はマギさんと付き合いです?たとえのどかを自分の親友を裏切ることになろうとも』

「……はい。私はマギさんとお付き合いがしたいです」

 

ですがっ重い体を何とか起き上がらせて何とか立ち上がった夕映が真っ直ぐもう一人の怒り顔の自分と向き合い。

 

「出来ることなら、のどかやエヴァンジェリンさんや茶々丸さんや千雨さんや亜子さん、風香さんや史伽さんや千鶴さん、マギさんを慕っている人と争うことなく裏切ることなく幸せに過ごしたい。ありきたりな一夫多妻のようなそんな漫画のような結果になっても、そうありたいと願ってるです。これが今の私の本心です」

 

今の自身の想いを包み隠さず伝えた。答えた後沈黙が続く。きれも不正解なのだろうか。また桁ましく鳴り響き、自分を今度こそ押し潰してしまうのだろうか。だがもうこれでいい。自分の本心は伝えたつもりだ。思い残すことは何もない。

 

「あぁ……でもこれで不正解だったら嫌だなぁ……」

 

―――――――――正解

 

「……え?」

 

先程までと全然違うか細い今にも吹いたら消えそうな正解音が聞こえ、押し潰そうとした重圧が嘘のように消えていた。

思わず怒り顔の自分を見るとまだ怒り顔ではあるが、少しだけ柔和になっている。

 

『それが、貴女のいえ私の本音です。けどいいです?貴女がなそうとしてることは重婚のようなもの、重婚は今の世では罪になるもの。今は子供の恋だとしてもいつかは瓦解するもの、その時に貴女は堪えれるです?』

「それは……正直分からないです。けど、今はこの瞬間を目一杯楽しみたいです。いつかきっと私達の関係がなくなるはずです。ですがこの一瞬一瞬が間違いではなかったと胸を張って言えるようになりたいです」

『……ならそうなるために、今は前だけを向いて歩くことです』

 

そう言って怒り顔の夕映は満足そうに笑うと砕け散った。残ったのは夕映1人。

 

「のどかや皆もこんな感じで自分と見つめあってるのですね……」

 

遥か先に見える微かな光に向かって歩きだす夕映。

 

「頑張ってです。のどかが、皆が私のように打ち勝てると信じてるです」

 

のどかもこんな暗闇に1人なのかと思った夕映。自身の親友の無事を祈るのだった。

残すことのどかだけとなった。しかしのどかの世界は夕映が思い浮かんでいる世界とはまた違うことを彼女は知らなかった。

 

 

 

 

 

 

「――――ここは、どこ?」

 

のどかが立っているのは真っ暗な空間……ではなく、色々な花で一杯の花畑だった。そして自身を見ると先程までの服装ではなく純白のドレスを着ていた。

小川のせせらぎと吹く風が心地よく、耳を澄ませば花達も歌が歌っている。

そして何処からかデフォルメされたうさぎや羊犬やらのぬいぐるみが現れ跳び跳ねたり回ったりと楽しそうにダンスを踊っている。

微笑ましい光景にのどかも最初は自分が花畑に立っていたことに警戒したが次第に心を許し顔が綻んできた。

するとうさぎのぬいぐるみがのどかに近づき手を引っ張る。どうやら一緒に踊りたいようだ。

踊ることを同意し一緒にぬいぐるみ達と一緒に楽しく踊り始めるのどか。

なんだか不思議の国のアリスの様だと思い笑みが浮かび上がる。

 

「うふふ、あはは」

 

ついには笑い声がこぼれたその時

 

『クスクスクスクス』

 

この穏やかな世界には似つかわしくない嫌な笑い声が聞こえる。

 

「っ!誰!?」

 

思わず踊るのを止め、笑い声が聞こえた方を見る。そこには自分が立っている。

しかし服は純白のドレスの反対の漆黒の黒いドレスで、髪の色も脱色しているのか白髪だ。

 

「わっ私?」

『そうよ。初めまして、になるのかな?表の私。私はそうね……"闇のどか"ってことにしましょうか』

「闇の、私?」

 

そうよとクスクスとまた笑う闇のどか。その笑いにはどこか色香を感じられる。しかし年相応ではない歪な色気にどこか不気味さを感じたのどか。

後退りすると闇のどかは此方に近づいてくる。闇のどかが近づくと闇のどかの足元にあった色とりどりの花は真っ黒の黒花になってしまう。うさぎや羊のぬいぐるみ達も闇のどかが近付くと一瞬ドロリと溶けた後に全身が真っ黒なぬいぐるみへと変わってしまう。

 

『私は、これまでの恥ずかしい時の嫌悪感、自分の気持ちを伝えられなかった時のもやもや、そして……マギさんに群がる雌共への敵意。それらの小さな負は最初は自我なんてなかった。けど日々、年々と負が積み重なって積み重なって私は自我を持てる程に成長した』

「そんな、私ゆえやエヴァさんにそんな気持ち持ったこと」

『ないって本気で言いきれる?少しの敵意、嫉妬が積み重なって私は自我を持ったって言ったわよね』

 

闇のどかの言ったことを否定しようとしたのどかの頬に指をゆっくりと這わせる闇のどか。氷のように冷たい指が頬に当たり全身の産毛が逆立ったように感じた。

 

『おっちょこちょいの私が怪我しそうになった時にマギさんに助けて貰った。それまで男が苦手だったのに助けて貰ったらころっと落ちちゃうなんて随分単純よね。その後双子がマギさんを気にするようになって、引きこもり気質のコスプレイヤー、次にエヴァンジェリン、傷持ち、ロボットに金持ちお嬢様、夕映にそう言えばウルスラのあの女もマギさんに色目使ってたわよね』

「っ!エヴァさんやゆえ達の事を悪く言わないで!!」

 

だって事実でしょ?のどかの反論を鼻で笑う闇のどか。気がつけばぬいぐるみ達がのどかと闇のどかを囲うように輪を作り徐々に輪を縮めていく。花も黒花なったものから次々と腐っていき、どす黒い泥へと変わっていき、のどかの足が少しずつ沈んでいく。穏やかだった風も吹き飛ばされそうな突風へと変わり、歌も背筋が凍るような叫び声呻き声へと変わっていく。

 

『エヴァンジェリンがマギさんを独り占めするような真似して、ずるいと思った。そうよね?私の初恋の相手を父親から息子に鞍替えしたあばずれの好き勝手さに嫌気がさしたよね?それに応援するって言ったのに私の好きな人を好きになった裏切り者……もううんざり。だから、いっそのことマギさんと愛の結晶を作っちゃう?』

「あ、あなたは何を言ってるの?」

 

闇のどかのぶっ飛んだ提案にのどかは目を丸くしてしまう。

 

『マギさんと私との間に隙がなきゃ他の女達がマギさんに手を出せなくなるでしょ?好きな人と友達が仲良くする。何馬鹿な事を言ってるの?所詮世の中奪い合いが常なんだから。だったら好きな人を独占するのは当たり前でしょ?あ、もしかしてまだ初な表の私じゃまだマギさんに初めてを捧げるのは無理かな。だったらその時は私が表に出てあげる。慣れてきてから表の私が出てくればいいわ。大丈夫、表の私が出てくる頃にはマギさんは私なしじゃいられない体に』

「やめて!!!」

 

闇のどかの悪魔の囁きを大声で遮るのどか。もうこれ以上闇のどかの戯れ言を聞きたくないと耳を手で塞ぐ。

 

『それかいっそのこと……殺しちゃおっか。邪魔な奴消して消して消して消して消して。まぁエヴァンジェリンは不死身だから苦労しそうだけど、そっちの方が効果的よ。その時は私がやってあげるわ。大丈夫、せめての情けで苦しまないようにしてあげるから』

 

そんな事を言っていると、いどのえにっきが急に現れ勝手にページが開きのどかに見せる。そこのページに書かれていたのは

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

 

ページに余すことなく乱雑に書きなぐられた殺すの文字。あまりの多さにページが真っ黒になってしまっている。恐ろしくなり思わずいどのえにっきを放り投げる。いどのえにっきはそのまま泥の中へ、ゆっくりと沈んでいく。

色々と酷いことが起こりすぎて、虚ろな目で耳を塞ぎ、のどかは自分の感情を爆発させた。

 

「エヴァさんにゆえのことを酷く言って、大事な純潔を簡単に散らすようなことを私の大事な人達を殺すなんて言うなんて……そんなの、そんなの私じゃない!!!」

 

闇のどかを否定するように叫んだ瞬間、ぬいぐるみも黒い泥も吹き飛んだ。そしてのどかが立っている地面が砕け散りのどかはまっ逆さまに落ちていく。

 

「きゃああああああああああああ!!」

 

落ちていくのどかは悲鳴をあげ、闇のどかは浮かびながら落ちていくのどかを見下ろしている。

 

『やっぱりまだ表の私の自我の方が強い、か。残念ー、このままあなたを呑み込んで私が表に出ようと思ったのに。まぁいいわ、まだ何もしないでおいてあげる。けど私はあなた、あなたが私を否定し続ければ私はあなたの中でどんどん大きく力をつけていく。くれぐれも私に呑み込まれないように気を付けることね。アハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハ』

 

闇のどかの笑い声が真っ暗な空間で響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――か―――どか!―――のどか!のどか目を覚ますです!!」

「………んぅ、ゆ、ゆ……え?」

「のどか!目を覚ましたです!?」

 

夕映が必死にのどかを呼び掛けていてのどかがゆっくりと目を覚ました。ほっとした夕映がのどかのことを優しく抱き締めた。

 

「あんたが最後まで寝てたからなのどかさん。さっきまで凄く苦しそうに魘されてたから茶々丸さんも薬を投与するか迷ってたから」

「のどかさん、無事に目が覚めて本当によかったです」

 

千雨や胸を撫で下ろした茶々丸がのどかの状態を話してくれる。どうやら自分達は丸1日魘されており、のどかは一番最後の目覚めだったようだ。

確かに今の自分は凄い寝汗だ。よっぽど酷く魘されてたのかを物語っている。

ねぇと亜子が手を上げて何かを言おうとする。

 

「自分が言える範囲でいいから夢の中で何があったか話し合わん?ウチは過去のトラウマを抉ってくるような嫌な夢やったわ。けど何とか乗り越えられたわ」

「あたしは一言で言うなれば自分のありかた、だな。誹謗中傷言われたりストーカーに襲われそうになったが、まぁ元々自己完結してたものだったし大したことはなかったさ」

「私は、自分の罪と見つめ合ったです。けどもう私は迷わず自分の想いを胸に前を進むです」

「私は……ごめんなさい。今はとても怖いものを見たとした言えない」

 

のどかだけはぐらかして答えた。言えない。自身が体験した夢を今は正直に語れるのは難しい。のどかの沈んだ表情で気まずい空気が漂う。

 

「まぁ皆無事に目が覚めたんだ。これで第一関門は突破したと見ていいだろ」

 

千雨が気まずい空気を払拭するために話を続ける。亜子や夕映は千雨に同調するように頷き、のどかもぎこちないながらも頷いた。自分は夕映達が言っているように自分の壁を乗り越えたのだろうか……いや乗り越えていないとのどかは結論付けた。自分は闇のどかを否定した。それなのに何故自分は目覚めたのか、今はそれが分からないため不安でしょうがない。すると

 

「ほぉ、随分早くに目が覚めたな。もう少し寝ているかそれとも駄目かと思ってたぞ」

「皆……」

「のどかお姉ちゃん!!」

 

不敵な笑みを浮かべるエヴァンジェリンと心配そうにのどか達を見ているマギと泣きながらのどかに飛び込んでいくプールス。

自分達に酷い目に合わせた張本人が現れた事に千雨が顔を強ばらせエヴァンジェリンに歩み寄る。

 

「よぉ。無事にお目覚めしてやったぞ。目覚めたら最初にあんたをぶん殴るって決めてたんだよ」

「ほぉ随分な言いようだな。力を求めていたのはお前達だっただろう?それに証拠にお前達随分と魔力を身につけたようだな。気が付いていないのか今の自分の状態を」

「は?……ってなんじゃこりゃ!?」

 

エヴァンジェリンに言われて千雨やのどか達は漸く自分達の状態に気付いた。今ののどか達は体に魔力のオーラで身に纏っている状態だった。エヴァンジェリンは順々にのどか達を見る。どうやらのどか達の魔法の属性を測定しているようだ。

 

「和泉亜子、お前の属性魔法は水のようだな。それに、珍しいな歌の魔法も開花してるようだな」

「う、歌の魔法?」

「よくアニメやゲームであるだろ。歌を歌って仲間を強化するそういう奴だ。クラスの奴らとバンドをしているだろう。それが影響してるのだろうな」

 

なっ成る程と、自身の属性の魔法と珍しいと言われた歌の魔法にどこか嬉しさを感じる亜子。

 

「次に長谷川千雨だがお前は雷の属性が強いな。流石はネットアイドルという所か。それと噪演魔法も使える様だな」

「余計なお世話だ!んでその躁演魔法って何だよ」

「私の人形使いみたいなものだな。しかし何処か違う所がありそうだな。さて、どんなものか楽しみだな」

 

くくくと笑いはぐらかすエヴァンジェリンに少し苛立つ千雨。勿体ぶらずに全部話してくれないともやもやしてしまう。

 

「それで綾瀬夕映だが、ほぉ雷と風か。どうやら坊やと同じ属性でお揃いとはな。どうだ綾瀬夕映、今からでも坊やに鞍替えするか?」

「それこそ冗談です。私はマギさんのため、そしてみんなのためにこの力を振るうです。その想いに嘘はないです」

 

ネギと魔法の属性を茶化されるが夕映は真っ直ぐとエヴァンジェリンを見てそう答える。そうかと夕映の答えにそれ以上は何も言わないでおくエヴァンジェリン。

そして最後はのどかであるがのどかのオーラを見て少々顔をしかめるエヴァンジェリン。

 

「最後はのどかだが、お前は……マギと同じ火と"闇"だな。それもどちらかというと闇の方が強いが大丈夫か?それにまだふらついているが」

「だ、大丈夫。さっきまで寝ていたからまだ本調子じゃないだけだよ」

 

のどかに飛び込んだプールスが心配そうにのどかの顔を覗き込んで、のどかは心配をかけないように微笑みながらプールスの頭を撫でるのどか。

しかしエヴァンジェリンから見て、のどかだけがオーラが不安定で歪なのだ。そのままオーラがのどかを呑み込んでしまいそうだ。

 

(何もなく杞憂であればいいのだが。今はのどかの言うことを信じるとするか)

 

そう思うことにした。これが後悔する展開にならなければいいのだが……

 

「皆」

 

と黙っていたマギが口を開いた。

 

「最初にこれを言うには辛い事に耐えた君達に言うことじゃないが、こんな無理なことをしないでくれ。君達に何かあったらそれこそ俺自身どうにかなってしまいそうだ」

 

マギにそう言われのどか達は顔を沈める。けど、とマギは話を続ける。

 

「自惚れるなって言われるかもしれないけど、正直言って嬉しさを覚えている自分もいる。ありがとう」

 

お礼を言うマギ。

 

「なに言ってるんだよマギさん。マギさんのサポートが目的だけど自分の自衛も出来ないとだろ?戦えるNewちうを楽しみに待ってろよ」

「ウチあんまりマギさんや皆の役に立てなかったら、だから今度は好きな歌で皆を手助けするから」

「私も迷いなく、好きなマギさんやのどか達のためにこの力を振るうです。だから期待して待っていて欲しいです」

「わ、私もマギさんのために頑張って修行します。だから応援してくれると嬉しいです」

 

のどか達がそう返すと

 

「……やっぱり俺って幸せ者だな。こんな素敵な子達に慕われているんだから」

 

とポツリと呟いた。ここで終われば染々と良い話で終わりそうだが咳払いをしたエヴァンジェリンがそうはさせない。

 

「あーお前達分かっているだろうが、今のお前達はトンネルを発破で強引に入り口を開けたに過ぎない。これから舗装して入り口を作りしっかり魔力の通り道を作らないとだぞ。まだまだ地獄の修行は今回のは入り口にすぎない。今からでも間に合うぞ」

 

エヴァンジェリンの脅しにのどか達は動じない。のどかの覚悟が決まったのを見てエヴァンジェリンはにやりと笑い

 

「そうか、では今日はゆっくりと休み、明日はお前達の魔法の詠唱キーを決めておけ。明後日からは引き返しておけばよかったと思うような修行を行うから覚悟しておけ」

 

こうして、魔法に片足を突っ込んだ少女達の最初の試練は突破した。しかしまだまだ波乱万丈な修行が待っているだろう。

しかし少女達は決して心が折れるずに最後まで乗り越えようと固く誓ったのだった。

 

 

 

 

 



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目覚めよ獣性 求めよ本能

修行3日目。アスナは雪山で凍死一歩になりかけながらも咸卦法を無意識に発動して何とか死なずに済んでいた。

一方ののどか達はネギに魔法の発動の詠唱キーが何なのかを教えてもらい、最初は自分に合うしっくり来る言葉が何かを探すことから始め、決めてからは最初は魔法の矢を出すことからが最初のステップだ。

しかし無理やり魔力の入り口をこじ開けたせいか、上手くコントロールするのが難しく、魔法の矢が明後日の方向に飛んでいったり、巨大な魔法の矢が放たれ大騒ぎになったり、魔力を放出しすぎて直ぐにガス欠になったりと問題だらけだった。多くの課題があるなと思ったネギである。

そしてマギは……

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

今日も雄叫びを挙げながらエヴァンジェリンに突貫している。

 

「ふっ今日も元気があるな」

 

そう言い微笑みを浮かべるエヴァンジェリンは容赦なく魔法の矢をマギに向かって放つ。その数優に100を越える。

 

「っ!!くぉぉぉ!」

 

マギは近くに刺さっているロングソードとブロードソードを抜く、そして双剣に魔力を流し込み強度を高め、迫ってくる魔法の矢を高速で剣を振り叩き落としていく。

全て叩き落とした頃には両腕の剣は刃こぼれが酷く使い物にならなくなった。直ぐに捨てて今度は湾曲した剣、ショーテルと同じく湾曲した短刀ククリを引き抜くと

 

「おらぁ!!」

 

魔力で強化した腕力でショーテルとククリを投擲する。高速で回転する湾曲の剣がエヴァンジェリン向かって飛んでいく。

 

「いいぞマギ。初日に比べて思いきりがついてきたじゃないか」

 

マギの戦い方を誉めながらマギが投擲したショーテルとククリを断罪の剣で弾き飛ばす。

その間にマギが間合いに入り、野太刀を横凪に振るう。しかしそれも断罪の剣によって防がれてしまう。

 

「くっはぁ!!」

「まだまだ甘いぞ」

 

もう一度野太刀を振るうがエヴァンジェリンにパリィされてしまい、左腕を斬り飛ばされてしまう。

 

「つっ、つぅーーーー!!」

 

マギは斬り飛ばされてしまった左腕に意識を集中する。すると斬り飛ばされた時に出た血が糸のようになり、左腕の斬れた断面と左腕とを繋げる。そしてそのまま近くに刺さっていたバスタードソードを掴むと

 

「くおぉら!!」

 

左腕を振り回しながらバスタードソードを乱舞して振り回す。だが

 

「ぐは!?」

 

上手くコントロール出来ずにそのままマギの体に刺さるという自爆をかましてしまった。

あまりにお粗末な自爆に深い溜め息を吐いたエヴァンジェリンはゆっくりとマギに近づき

 

「まだまだ詰めが甘いぞ馬鹿者」

 

魔力を込めた寸勁をマギの体に当てる。数秒は突っ立っているマギであったが

 

「………ごぱ」

 

口から普通の人であるなら致死量であるだろう血を吐き出しそのまま倒れてしまう。どうやらエヴァンジェリンの寸勁でマギの内側が破壊されたのだろう。

 

「マギ、お前は確実に少しずつ成長している。だがお前はまだ足りないものがある。それは……と今のお前に言っても無駄か」

 

白目を向いて痙攣してるマギに言っても意味はない。

 

「早く成長しろマギ。お前が直ぐに強くなると信じてるぞ。あぁ茶々丸、マギが倒れている。お前が今すぐ来い」

 

念話で茶々丸に来いと命じ、エヴァンジェリンは雪山を去っていった。

 

 

 

 

 

「うっ、うぅ……ん」

「お目覚めですかマギ先生」

 

次に目を覚ましたら何時も自分が寝泊まりしている洞窟で、外は真っ暗で夜になっていた。

マギの隣には茶々丸が座っており、焚き火がぱちぱちと鳴っている。どうやら茶々丸がマギが目覚めるまで付きっきりでいたようだ。

 

「ありがとう茶々丸。俺が目を覚ますまでいてくれたんだろ。体冷えてないか?」

「いっいえ、私は人ではないので寒さには平気ですし、マスターの命ですから。それに、私もマギ先生と一緒にいれるのは嬉しいですし」

 

茶々丸は自身の体が熱くなるのを感じている。そう言えばマギと2人でいるのは久方ぶりだっただろうかと少し懐かしさと嬉しさを感じる茶々丸。

とマギの腹が鳴った。恥ずかしさで顔を掻くマギに茶々丸は微笑みを浮かべる。

 

「マギ先生、簡単なご飯を用意しました。焼き魚とスープとおにぎりです」

「お、美味そうだ。けど、俺ばっかこんな待遇よくて良いのか?確かアスナもここの雪山でサバイバル修行をしてて初日にネギが色々とアスナにつくしてたらエヴァにぶっ飛ばされたんだろ?俺だけこんな良い思いしたら納得しないんじゃないか?」

 

こんな状況を見たら極限状態のアスナはずるいと喚くだろう。いやアスナじゃなくとも不公平だと異を唱えるだろう。

しかし茶々丸は冷静にこう答えた。

 

「これはマスターが言っていたことですが『確かに神楽坂は一度凍りつけばそこで死ぬ。そうならないように何かあったら私が救助する。だがマギは人として死ぬことはないが、肉体は何度も私に殺されているし、精神も肉体のダメージによって消耗してしまう。ならばこれぐらいの待遇はマギの精神を保つための救済措置だ』とのことです。私自身もマギ先生が身を削るその修行法は見ていて胸が痛みます。ですから今この時だけは少しでも心を休ませてください」

 

正直、エヴァンジェリンと茶々丸の好意には感謝している。死なないからと言っても体を貫かれ、切り裂かれ、氷の暴風で体をきりもみにされてたらいくら不死身でも精神は死にそうだ。

いただきますと言い、茶々丸が用意してくれた料理を口にする。簡単なスープだが暖かさが全身に染み渡る。焼き魚も程よい焼き加減塩加減で、握り飯も塩しかない握り飯だが噛み締めると幸福感が口一杯に広がった。

ものの数分で食べきってしまったが、よく味わって食べたから満足なマギである。

 

「お風呂も用意していますので、ゆっくりとつかって疲れを癒してください」

「何から何まで、すまないなありがとう」

 

自身のビームサーベルで雪を溶かし即席のお風呂を作った茶々丸に改めて礼を言い、お風呂で疲れを癒すのだった。

 

「―――ふぅ。いい湯だったよ」

「少しでも体が癒えてもらえたら私も幸いです」

 

長風呂でしっかりと疲れを取ったマギは着替えて焚き火に当たる。

 

「マギ先生、修行の方はどうでしょうか?」

「そうだな、段々と戦い方が分かってきた積もりだけど、何時もどこかで失敗してエヴァにやられて終わりだな。何でなんだろうな」

 

自身の腕を遠隔操作しようとしたが失敗してしまったことにへこんだ様子を見せるマギに茶々丸が

 

「それは、マギ先生が優しい人ですからマスターが傷つくのを恐れて本能で加減をしてしまっているのでしょう。大丈夫です。マギ先生は少しずつ成長しています。焦らなくても大丈夫ですよ」

 

と優しい言葉で励ましてくれるが、マギはもやもやが残っている。自分に何かが足りない。だがそれが分からない。今の自分に足りないものがなんなのか考えていると。

 

「ケケケ。相変ワラズ、我ガ妹ハ好キナ男ニハ大甘ダヨナ」

 

と何処からか声が聞こえてきた。声の正体を探すと。

 

「ヨォ」

 

と茶々丸の髪を掻き分け、チャチャゼロが現れそのまま茶々丸の頭に乗り掛かった。

 

「お姉様、付いてきたのですか?」

「オゥ、何カ面白ソウダト思ッタカラ勝手ニ付イテキタゼ」

 

人形だからか無表情なチャチャゼロがケタケタと不気味に笑う。

 

「お姉様、私が大甘というのはどういう意味ですか?」

 

茶々丸が少しだけ口調を強くするが、チャチャゼロは飄々としたような態度を見せて

 

「御主人ヤ我ガ妹ト違ッテ俺ハオ前ニ恋愛感情ヲ持ッテナイカラナ、ハッキリ言ッチマウガ、オ前マダビビッテルンダロ?」

 

図星だったのか固まるマギを見てケタケタと音を立てて笑うチャチャゼロ。

 

「ケケケ。マダ心ノ片隅デ自分ガ不死身ナ事ニ抵抗ガアルンダロウヨ。マァ記憶喪失デ新タナ人格ガ自分ガ死ヌコトガ出来ナイと知レバ困惑スルダロウゼ」

「それは、そうだが……」

「オ前ハモウ人ジャネェンダカラヨ、痛ミモ人間ノ時ノ名残ミテェナモンダロ。ソンナ名残サッサト捨テチマエバ、手ットリ早ク強クナッテ御主人ニ勝テルダロウヨ。俺トシテハ御主人とオ前ガ互ノ傷カナグリ捨テテ雪ヲ血デ真ッ赤ニ染メ上ゲルノヲ所望スルゼ」

 

とこれ以上チャチャゼロに喋らせないように茶々丸がチャチャゼロの口を押さえて喋らせないようにする。

 

「まったく、マギ先生にアドバイスを言ったつもりでしょうが、お姉様は口が悪すぎます。そんな軽々しく言えばマギ先生も困ってしまいます」

「ケケ、ダガソンナ悠長ナ事ヲ言ッテイル時間ガ無イコトモ分カッテルダロ?」

 

チャチャゼロの返しに黙ってしまう茶々丸をケタケタと笑うチャチャゼロ。そのままチャチャゼロを持ちながら洞窟の外へ、そろそろお暇するようだ。

 

「マギ先生、お姉様の言ったことはあまり気にしないで下さい。ですが、これだけは覚えておいて下さい。マスターは自分の痛みを忘れても、人への痛みはずっと覚えています。どうかマギ先生も人への痛みは忘れないで下さい」

「ケケケ。次見ニ来ル時ハモット楽シイ戦イヲ期待スルゼ」

 

それではとジェット噴射をして洞窟を後にする茶々丸である。

 

「人としての名残を捨てろ、か……」

 

チャチャゼロが言っていた事を復唱するマギ。だがそれは自身にとって大事なストッパーであることも理解していた。

どうするべきか、そんな事を考えながら魔力を回復するために就寝するのだった。

 

 

 

 

 

「よぉ、初めましてだな俺!」

 

夢の中、真っ暗な空間で俺に会った。マギはそう思った。

目の前のマギは一回りがたいがいい筋骨隆々と言って良いほどで体の色は3ーAにいる真名の褐色以上の漆黒であった。

服装もチェーン付きのジーパンに上半身は裸に革ジャンと、野性味溢れるワイルドと表した方がいいだろう。

 

「お前は何だ?俺の何なんだ?」

 

マギが訪ねると、ワイルドなマギはニヤリと笑う。笑った瞬間に牙のような鋭利な歯が現れる。

 

「俺様は破壊の黒マギさんと呼ばれてるぜ」

「何だよそのダサいネーミング」

「仕方ねえだろ理性の白マギの奴が勝手に呼称したんだからよ。そんなんだったら黒い野獣、BLACK BEASTマギとか荒ぶる獣、RAGING BEASTマギとか。呼び方なんてこっちの方がいかすよな」

「いやその2つも破壊の黒マギとそんな大差ないだろ。むしろ英語にしたせいで逆にださく感じる」

「んだよつまんねえ事を言うもんじゃねえぜ俺よ」

 

やれやれとおどけた様子を見せる黒マギに少々苛立ちが出てきたマギは

 

「それでお前はどういった存在なんだよ。お前が俺っていうことは分かるが」

 

目の前の黒マギが何者なのかを訪ねる。

 

「俺様は簡単に言えば本能の化身って所だな。お前の前の人格、つまりは記憶喪失前のマギ・スプリングフィールドが闇の魔法を乱用した結果、本能が闇の魔法で侵食され破壊の黒マギに変貌した」

「そんなお前が何で俺の前に?まさかその理性の白の俺と前の記憶の俺は破壊の黒の俺にやられたのか?」

 

いやと黒マギはマギが思い浮かべた最悪の結果を否定した。

 

「今も理性の白の俺と前の記憶の俺は大本の俺様と寝ずに戦っているぜ。まぁ精神が寝ずに戦うってのも何だか可笑しな話だけどな。俺様はまぁ蜥蜴の尻尾みたいな、破壊の俺様の残滓みたいなものさ。まぁ残りかすだからお前さんと話が出きるんだけどな」

 

快活に笑う黒マギを見て何とか目の前の黒マギがどういう存在かは理解した。

 

「それで何で俺の前に来た。まさか挨拶するだけに俺の前に来たんじゃないよな」

「あぁ。ずばり、エヴァに勝てなくてモヤモヤが溜まっている俺に俺様が手助けに来たってわけさ」

 

黒マギの手助けの言葉に訝しげな表情を浮かべていると

 

「俺様を受け入れろ。獣のような力強い獣性を、何者も破壊し強い相手に勝ちたい本能をよ。そうすればエヴァに勝てるだろうよ」

「だが、そんな事をすれば下手すれば俺は暴走するかもしれないだろう?」

「おい、おいおいおいおい。なにビビってるんだよぉ俺ぇ」

 

抵抗の色を見せるマギに黒マギは獰猛な笑みを浮かべ肩を組んでくる。

 

「俺様達はあの魔法世界に行くんだろ?どんな危険があるか分からないし、不死を断つ武具あっても可笑しくない。それにこんな所で悠長に修行をしてクソ親父の手掛かりをみすみす逃す可能性もある。最悪、のどか達に何かあったらどうするんだ?」

「それは、そうかもしれないが……」

 

まだ渋るマギに黒マギは甘い誘惑を囁く。

 

「それに、女の子っていうのは強い男に護られる方が心惹かれるもんだぜ。俺だって気になる女の子を護れば良い気持ちになるだろう?そんな事ないとは言わせねぇぜ。いい加減素直になっちまえよ」

 

どれほど時間が経ったか分からないが、黙っていたマギがゆっくりと首を縦に振った。

そんな様子を見せたマギを見て今まで以上に深い笑みを浮かべた黒マギはすっとマギに向かって手を伸ばす。

 

「そうと決まれば善は急げ。俺様の手を取れば直ぐ様俺に力が譲渡されて、俺は更に強くなる。獣の、本能の力をな」

「……」

 

マギは黙って黒マギの手を取り、力強く握手をする。その瞬間、マギの体に当てるとてつもない力が流れ込んでくるのを感じた。

 

「ディール。ここに契約は完了した」

 

あぁそれと、と黒マギは何かを言い忘れたとわざとらしい態度を見せながら

 

「俺様は自分の事を残滓や残りかすって言ったけどよ。それでもかなりの力があると自負してるから、扱いには気を付けろよ」

「どっどういうことだよ?」

 

こういう事さと黒マギが言った瞬間、黒マギが溜め込んでいたであろう。本能の、否"闇"が一気に爆発して放出された。

目の前でどす黒いと言って言い程の漆黒の深淵の闇が迫ってくる。

いけない、これは今の自分に扱える代物じゃない。そう感じたマギは逃げようとするが、動けない。黒マギががっちりと握手をしている手を決して緩めていないから。

その間に深淵の闇がどんどんとマギの体に入って来る。

 

「うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

「さぁ、俺様のこの力を上手く使いこなすことが出来るのか。はたまた俺様に呑み込まれるか。内側からじっくりと観戦させて貰うぜ。クハハハハ!」

 

マギの悲鳴と黒マギの高笑い。それはマギが目覚めるまで延々と続いたのだった。

 

 

 

 

 

 

修行4日目。まず最初にエヴァンジェリンはアスナの様子を見に行った。理由はただ単純、そろそろ限界に近づいていると読んでいたからだ。

現にエヴァンジェリンは岡の上からアスナを見下ろしているとうつ伏せで雪原に倒れているアスナがいた。手にはギブアップ用のハンドベルを持っている。

そうだ鳴らせ。そこでお前は終わりだ。エヴァンジェリンはアスナが結局折れてしまうと思い込んでいた。

だがそれは違った。アスナは折れかけていた精神を強引に奮い立たせ、エヴァンジェリンを絶対に見返してやると心に決めて咸卦法を発動してエヴァンジェリンに大声で悪態を吐いた後にハンドベルを見えなくなるまで遠くに放り投げると叫びながら駆け出していった。

限界を超えてむきになって更に成長したアスナ。このまま7日間を耐えきってしまうだろうなと、そうなったらそれはそれで楽しみだと思ったエヴァンジェリンである。

そんな事を考えている間にマギがいる場所に到着した。

 

「待たせたなマギ。今日も修行を開始する……マギ?」

 

返事がない。何時もならここで反応を返すマギだが、俯いたままで黙った状態だ。すると

 

「うぅ、うぅぅぅ……うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」

「おっおいマギ、一体どうしたんだ?」

 

エヴァンジェリンの心配など他所に唸りながらマギは近くに刺さっている剣の柄を掴む。

その剣はあまりに武骨過ぎて、剣の形をした鉄塊と言った方がいいだろう。大きく分厚い、この剣を使えばドラゴンでさえ叩き殺せそうだ。

剣の名はグレートソード。某隻眼隻腕の狂戦士が使っている剣に似ていた。おそらくこれもエヴァンジェリンの趣味だったのだろう。

そんなグレートソードの柄を強く持った瞬間、マギの足元からどす黒い深淵の闇が溢れ出す。そして

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

狂ったような雄叫びを天に向かって挙げながらグレートソードを一気に抜く。グレートソードには大きめな氷塊が付いたままだ。そしてその氷塊を

 

「アァァァァァァァァ!!」

 

叫びながらグレートソードを振り回し肩に担いだと思いきや遠心力を使い氷塊をエヴァンジェリンに向けて発射させた。

唸りを挙げながら高速でエヴァンジェリンに向かう氷塊。だがエヴァンジェリンは魔力で強化した腕で易々と氷塊を止めてしまう。

そして徐々に手に力を込めて氷塊にヒビが入りやがては轟音を立てて砕け散った。

 

「どうしたマギ。今日は随分と野生的だな」

 

表面上は何ともないと装っているが、内心で考察が走る。

 

(急にマギはどうしたっ?昨日まで普通だったのに、今のマギは暴走してるとしか考えられん。それにあの闇は何だ。まさか闇の魔法が発動してるのか?いや、その気配はまったく無い。あの闇はマギに溜まっているものが漏れだしているのか……)

 

エヴァンジェリンが考察をしている間にマギは口からお構い無しに涎を垂れ流しにしており、片腕でグレートソードを肩に担ぎながら四つん這いになる。その姿は正に獣だった。

 

「ぐるるるるるるるるる……」

「どっち道今はガス抜きをするのが先決か……さぁこいマギ、かかって来い」

「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

四つん這いのまま獣のように真っ直ぐとエヴァンジェリンに向かっていくマギ。そしてある程度の距離になると両足をバネのようにして跳躍し、グレートソードを縦に回転させながら、エヴァンジェリンに向かって叩きつけた。回転したことによって速さが付き更に威力が倍増する。

エヴァンジェリンは紙一重で避ける。グレートソードは地面に叩きつけられ叩きつけられた場所は轟音を立てながら砕けた。

 

「がぁぁ!がぁぁぁぁぁ!!」

 

バックステップで後ろに下がった後に突き攻撃をし、下から上に上がる昇龍拳のような凪払いの回転斬りを繰り出した。

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そして数秒滞空したと思いきやエヴァンジェリンに向かって突き刺し攻撃を仕掛ける。

 

「まったく、獣のように吠え狂戦士のように振る舞いながらも、しっかりと攻撃はしてくるのだな」

 

呆れと感心が混じった感嘆の声を挙げながらエヴァンジェリンはマギの攻撃を避けていく。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!」

 

ネギも使ったことのある雷の斧をマギに向かって落とす。これが当たれば少しは堪えるはず。だがマギはグレートソードを盾にして雷の斧を防ぐ。雷の斧が当たってもひびは1つも付いていない。マギが魔力で強度を増しているかもしれないが、それでも頑丈な作りのようだ。

 

「ぐるる」

 

今度はこちらの番と言いたげにマギは近くに刺さっていた剣を何本か引き抜き上へと放り投げる。そして落ちてきた瞬間に

 

「がぁぁ!がぁぁ!がぁぁ!!」

 

柄頭を殴り蹴り、剣を弾丸の様に飛ばす。真っ直ぐ飛ぶ幾つもの剣、それはエヴァンジェリンを突き刺そうと向かっていく。

だがエヴァンジェリンは向かってくる剣を冷静に断罪の剣と近くに刺さっていたブロードソードを引き抜き2刀流で弾き落とす。

甲高い音と火花が飛び散り、弾かれた剣はまた雪原に深々と刺さる。

 

「がぁぁ!ぐるぁぁぁぁぁぁ!!」

 

と今度は短い短剣を引き抜き肉薄してくる。そして間合いに入った瞬間、マギは短剣を雪原に突き刺し、勢いを殺さず大きく弧を描くように短剣を中心に右に薙ぎ払いの攻撃を右が終われば次は左に大きく薙ぎ払いをしかける。そして最後に跳躍し一回転をしながら剣を振り下ろした。

だがこれもエヴァンジェリンは楽々と避けてしまう。色々と多彩な技を繰り出すマギだが、どれも愚直で分かりやすい。マギの咆哮や雰囲気に呑まれなかったら落ち着いて冷静に対処できるものだ。

 

「いいぞマギいい戦い方だ。暴走している方がいい動きをするというのは複雑だがな……しかし攻撃の仕方が真っ直ぐ過ぎるのは考えものだな!」

「ぐるぁ!?」

 

マギの連撃の最後を避け、かるくジャンプしたエヴァンジェリンはマギの横っ面にローリングソバットをお見舞いする。

蹴り飛ばされたマギは何度か雪原をバウンドした後に地面に叩きつけられる。が直ぐに勢いをつけて起き上がる。何時もならここで少しはダメージを見せるものだが、まったく堪えている様子が皆無だ。

 

「これだけ攻撃しても堪えないか……ならば、少しは本気を出しても問題ないな。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来たれ氷精 闇の精 闇を従え吹雪け常夜の氷雪 行くぞマギこれが私の本気だ。闇の吹雪!!」

 

手加減なしの本気の闇の吹雪がマギに向かって放たれる。しかしマギは動じることなくむしろ

 

「がぁぁぁぁぁ!!」

 

雪原を思い切り殴った。次の瞬間、雪原にヒビがはいったと思ったら忍者が行うような畳替えしのように巨大な雪の壁となってそびえ立ち、マギを闇の吹雪から護る。氷の壁だからか闇の吹雪が当たっても少々削られるだけでびくともしない。

だがこのままではいずれ闇の吹雪に呑み込まれるのが関の山だろう。

 

(さぁ、ここからどう動く。見せてみろマギ)

 

マギの取った行動は……

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト」

「なっなに?」

 

魔法の詠唱だ。これにはエヴァンジェリンも目を見開く。まだマギには魔法の詠唱の修行をつけてはいないのだ。それなのに魔法の詠唱を始めた。

 

「来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎 闇の業火!!」

 

マギのガントレットから闇の業火が放たれる。その威力は記憶喪失する前のマギが放っていた闇の業火の数倍はある。

闇の業火は氷の壁を一瞬で蒸発させ、闇の吹雪と衝突する。

闇の吹雪と闇の業火。2つの力が拮抗するが、段々と闇の吹雪の方が押され始めた。

 

「マギの奴、これほどの力を持っていたなんて。いやこれは暴走している力がマギの力を増幅させているのか……!」

 

エヴァンジェリンは苦虫を噛み潰した顔になりながらも、魔力を上げ、闇の吹雪の力を上げる。形勢逆転し、闇の業火が今度は押され始める。

しかしマギは押されて焦る様子を見せるどころかにやりと笑った。まるで今のこの時を楽しんでいるような。これからどう逆転してやろうかと、そう物語っているようだ。

 

「がぁぁ……あぁぁぁぁぁ!がぁぁぁぁぁ!!」

 

咆哮し、闇の業火の魔力を増幅させるのと口から純度の高い闇の魔力の奔流を龍の咆哮が如く放つ。威力が増大した闇の業火と闇の奔流は闇の吹雪と拮抗することなく、一瞬で闇の吹雪を吹き飛ばし、そのままエヴァンジェリンの元へ向かって行く。

 

「くっ氷盾!あぁ!」

 

氷の盾を出してもそのまま吹き飛んで雪原に叩きつけられる。

その隙を逃さず、四つん這いのままエヴァンジェリンに近づくマギはエヴァンジェリンに覆い被さるようにして、身動き取れないようにする。さらに

 

「ぐぅぅ……がぁぁ!」

 

背中から何本もの闇の手が生えてエヴァンジェリンの手足にこれでもかと言わんばかりに掴んで逃れないようにする。

そして準備は整ったと、グレートソードをエヴァンジェリンの心臓部分に狙いをつけてそのまま刺してやろうと、一度大きく上へと剣を掲げる。

 

「ふっ暴走してるとは言え、この私を捕まえる事が出来るようになったか。上出来だ。お前の一撃、甘んじて受けるとしよう」

 

出来れば暴走していないお前の実力で私を捕まえて欲しかったなと思っている間にマギは雄叫びを挙げながらグレートソードをエヴァンジェリンの心臓に向けて勢いよく下ろした。

しかし寸での所でマギが手首をひねり、そのままグレートソードはマギの体に深々と突き刺さる。

 

「ぐっ……ぐぼぁ!!」

 

口から血溜まりを吐き出すマギ。その血溜まりはエヴァンジェリンの白い肌と金色の髪を真っ赤に染める。いきなりマギが自刃した事に少々驚いていると、ぽたぽたと暖かい雫がエヴァンジェリンの頬に当たる。それはマギの涙だった。

 

「ごめ、んな、さい……俺、エヴァに、こんなことする、つもりなんて、なかった、のに……気づいたら、こんな、ことに、なって、ほんとに、ごめんなさい!」

 

すんでの所で理性が暴走の獣の力に勝ったようだ。エヴァンジェリンの四肢を拘束していた闇の手もマギの理性が戻ったからか霧散していった。

 

「まったく、坊やのように子供みたく泣くんじゃない。元々私に傷をつけるのが修行の目的だったんだ。見ろ、お前の魔法の力でちょっと火傷してしまった。一応はこれで修行は完了だ。暴走していたがこの私に傷をつけたんだ。もっと少しは嬉しそうにしてみろ」

「あぁ……あぁぁぁぁぁ……!」

「……ふふ、まぁ今は泣きたいだけ泣け。私があやしてやるよ」

 

マギを誉めるが、未だに泣き止まないので微笑みながら優しく頭を撫でて、泣き止むまで子供のようにあやしてあげるエヴァンジェリンであった。

 

 

 

 

 

 

「それで、今日はなんで暴走していたんだ?」

「実は……」

 

マギは昨日見た夢の内容をエヴァンジェリンに話した。

 

「ふむ、私がお前をいたぶり過ぎたせいか……」

「そんな事ない。俺が本能の俺の誘いに簡単に乗ったからこんな事になったんだ。俺が弱いばっかりに……」

 

本能に負けて暴走した。その事実だけを重く受け止めすぎて落ち込んでいるマギをエヴァンジェリンが軽く小突く。

 

「何を言ってる。確かにお前は本能の赴くまま暴れたかもしれない。だが最後はお前の意思で止めたんだ。お前は完全に本能に負けた訳じゃない、もっと自信を持て」

「……あぁ。エヴァにそう言って貰えると少しだけでも自信が持てるよ」

 

エヴァンジェリンに誉めて貰った事にマギも少しだけだが顔色が戻ってきた。

 

「修行も第二段階に移行だな。今度は魔力のコントロールを重きにする。あれを暴走したとマギは言ったが、本能で戦っていたとしても戦い方は理にかなっていた。あれを制御出来るようになれば、更なる強化に繋がる。ふふ、お前がもっと化けるのが楽しみだ」

「あぁ。俺も、もうただ暴れるような戦い方で誰かを傷つけることになるなんて、真っ平ごめんだからな」

 

こうして、マギの最初の修行はマギが暴走するというトラブルで幕を閉じた。

しかしマギの修行はまだ最初の段階であり、これからもっと難しくなるであろう。

それでもマギは覚悟した。もうこれ以上自分が暴走して誰かを傷つける無いためにも、自分はもっと強くなる必要があるのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、今日はこれぐらいか。もっと遊びたかったんだけどなぁ」

 

マギの内側、黒マギは白い鎖でがんじがらめにされて身動きが取れない状態だ。

マギが暴走し、黒マギが内側からマギを操っていた。しかし後一歩の所でマギが理性を取り戻したのだ。

その結果、白マギと前の記憶のマギが一瞬の隙を突き黒マギを拘束、白マギが理性の鎖と言えるであろう白い鎖で黒マギを拘束した。

これでもう黒マギは悪さが出来ないだろうと判断した白マギと前の記憶のマギは黒マギの大本の元へ戻っていった。

 

「まぁいいさ。賽は投げられたってな。俺様の力をまた求めるか、それとも自力で道を切り開くか……俺がどう転んで行くか、見届けさせて貰うぜ」

 

黒マギの高笑いが延々とマギの内側の世界で響くのだった。

 

 

 

 

 

 



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3ーA探検家 アマゾン奥地で秘宝を見た! 探求編

マギが暴走し、エヴァンジェリンに食って掛かった修行4日目。

のどか達はある場所にいた。それは……

 

「なぁ……なんであたしらこんなジャングルに居るんだ?」

 

千雨がポツリと呟く。しかしその呟きもけたたましい鳥の鳴き声に掻き消されてしまった。

のどか達はマギやアスナ達が修行をしてる間に自分達も魔法の矢を出せるように修行をしていた。といっても魔法の矢が真っ直ぐ飛ぶのにかなり苦労したが……

 

『あっ危ないです!!』

『きゃあああ!?』

『どわぁぁぁぁぁぁ!!』

『ちっ千雨ちゃーーーん!!』

 

「……ほんとにあの時は死ぬかと思ったぞ」

 

魔法の矢が自分に迫ってきた時には短い走馬灯が駆け巡った千雨。だが死にかけたこともあったが何とか魔法の矢のコントロールが出来るようになってきた。

その矢先にのどか達は茶々丸に連れられ、このジャングルの入口に立っている。

 

「ここは南米アマゾンをモデルにしたジャングルです。気温は平均30℃以上、湿度は90%です」

「ふえー。そんな暑いところずっといたら干物になってしまいそうやね」

 

茶々丸のジャングルの説明を聞き、流れる汗を腕で拭う亜子。確かにこのままずっといたら体の水分が飛んでいってしまいそうだ。

しかし茶々丸は次にはこう言った。

 

「皆さんには今日を含めた4日間、ここでサバイバルの修行を行っていただきます」

「さっサバイバル、です?」

 

茶々丸の飛んでも発言とも取れる内容に目を丸くする夕映。

「ちょっと待ってくれよ茶々丸さん。あたしら昨日ようやっとって感じで魔法の矢の制御が出来るようになったのに、いきなりこんな所でサバイバルなんて、自殺行為にも程があるぞ」

 

千雨が抗議すると

 

「だが悪いが、今のお前達には強引な方法で強くなってもらうぞ」

 

魔方陣が光り、そこからエヴァンジェリンが現れる。

 

「マスターお疲れ様でした。マギ先生のご様子はいかがだったでしょうか」

「あぁ、散々私がいたぶり過ぎたせいか、溜まっていたみたいでな。爆発して私に襲いかかってきた。私もマギを抑えていたが油断して押し倒されてな、危うく刺されそうになった所でマギは理性を取り戻した。まったく、手のかかる弟子だよ」

 

旗から聞けばどこかいかがわしい雰囲気にも取れる内容にのどかや亜子は耳を赤くするが、まったくませた子供達がとエヴァンジェリンが鼻で笑い、先程まで起こった内容を話すと今度は羞恥で顔を真っ赤にするのだった。

 

「つまりなんだ?マギさんは暴走してエヴァンジェリン、あんたを襲おうとしたが何とか踏みとどまったってことか?」

「ああ。私も魔法世界に行くつもりだ。だが魔法世界で何が起こるか分からない。最悪私がその場にいないでマギが暴走した時に自分の身を護れるのは自分でしかない。世の中物語のように都合の良い展開になるとは限らない。最悪の場合……な。それが怖いと思ったなら今からでも立ち去れ。私は別に蔑んだり咎めたりはしない」

 

エヴァンジェリンの脅し文句にものどか達は逃げようとしない。ここで逃げ出してしまったらあの苦しい悪夢はなんのために味わったのか分からなくなってしまう。

逃げる姿勢を見せないのどか達を見て満足そうにエヴァンジェリンは微笑む。

 

「修行内容はいたって簡単。茶々丸が言っていたように今日を含めての4日間サバイバルをしてもらう。この入口に留まるのも可、動き回るのも可だ。だが、留まるのはお勧めはしないがな」

「それはどういう意味です?」

「それは」

「こういう意味だよ!!」

 

またも声が聞こえ、魔方陣からハルナが現れた。

 

「ハルナ?どうしてハルナがここに?」

「いやーエヴァッチに頼まれてさ。のどか達の修行のサポートをして欲しいってね♪」

 

だれがエヴァッチだと呆れ混じりの溜め息を吐いたエヴァンジェリンはハルナがやって来た理由を説明する。

 

「早乙女ハルナにはアーティファクトを使用し、ジャングル内でゴーレムを召喚してそのゴーレムと戦闘をしてもらう。この4日間で少しでも戦闘のいろはを叩き込むつもりだ」

「うっうぅ。それを聞くと段々と怖くなってくるな……」

「正直、そう簡単に強くなれるとは私も思ってない。そう思い、お前達にはあるものを用意した。茶々丸」

 

はいと茶々丸はのどか達に子供が使うおもちゃの杖と1冊ずつ本を渡す。そして千雨と亜子にはあるものを渡す。

 

「これは何ですか?」

「簡単に言えばあんちょこ本だ。お前達の属性に適した魔法の詠唱が書かれている。それを読みながら魔法を詠唱すれば、少しは制御もしやすくなるだろう。因みにマギや坊やの父親であるナギも戦闘中はメモ書きを見ながら戦闘していたそうだ。あの馬鹿に出来たんだ。お前達も直ぐに戦えるようになるさ」

 

エヴァンジェリンはメモを必死で読みながら戦うナギを思い浮かべふと微笑みを浮かべる。

 

「なぁエヴァンジェリン、あたしは何であんちょこ本の他にこののっぺらぼうの人形を寄越したんだ?」

「うちも。これは……マイク?」

 

千雨と亜子はあんちょこ本以外にのっぺらぼうの等身大の人形とマイクを渡されなんなのかと首を傾げる。

 

「長谷川千雨、お前の噪演魔法はどういうものか分からない。よってこの人形を貸す。この人形は魔力を消費し、念じる事で動くことが出来る。頑丈な作りとなっているから十分に護ってくれるだろう」

「なんかスタ○ンドみたいな感じだな」

「それと和泉亜子、お前の歌魔法はマイクを使うことで力が増幅される。そのマイクも魔力を送り込むことで力を発揮する。ただ魔力をかなり消費するから使う時と場所はしっかり見極めろよ」

「へーエヴァンジェリンさんは色々と珍しい物を持ってるんやね」

 

何でも揃っていると言えるこの状況に亜子も感嘆の声を挙げていると

 

「それと手っ取り早くこの修行を終えることが出来る方法は1つだけある」

「それってどういう事エヴァさん?」

 

のどか訪ねるとエヴァンジェリンはジャングルを指差す。

 

「このジャングルの奥に神殿を建ててある。その神殿に祀ってある宝を手に入れることが出来れば4日間修行せずとも直ぐに修行を終わらせることが出来る」

「成る程な。それは良いことを聞いた。けど、そう易々と宝が手に入るわけないだろ?」

 

千雨が警戒する。その通りだと千雨の警戒に肯定するように話を続ける。

 

「早乙女ハルナには神殿に近づくにつれゴーレムの強さ強度を増すように命じている。つまりこのジャングルの入口では道中倒せそうな雑魚モンスターを大量に出す予定で、神殿に近づけば近づく程に段々と数は減るが、逆に強さのレベルが高くなり最終的にはラスボスランクのモンスターになる訳だ」

「因みにジャングルの入口はスラ○ムドラ○ーとかそこまで苦戦しないのをばんばん出して、中盤でキ○ーマシン、ギガ○テス。最後は○ーマレベルの奴を出すつもりだからそのつもりで」

「あまりゲームをやったことないですが。なんとなく分かるです」

 

自分達がRPGのキャラクターになった感じだなと思ったのどか達。

 

「それと茶々丸も同行させる。この4日間、食事や風呂の世話を任せる。また戦闘面で茶々丸が危ないと判断したら介入するように命じている。ただし3回までと、最後の神殿には手を出さないようにしている。茶々丸が介入し3回目以降は自力で対処。それが出来ないようであればこの魔方陣に戻れ。その瞬間、修行はその場で終了。魔法世界への同行は無しとする。質問はあるか」

 

すっと千雨が手を挙げる。

 

「地図を貸してもらうのは駄目か?場所が分からなくて同じ場所をぐるぐるするのは正直非効率だからな。それと、もし神殿にたどり着いた時にその場で遭遇したモンスターに勝てないと判断したら逃げるのはありか?」

「まぁ其れぐらいだったらいいだろう。道に迷って遭難にならないように気を付けろよ。逃亡も良しとする。勝てないと判断した相手に無謀に突撃するのは蛮勇だからな」

「まぁこっちもラスボス相手に尻尾を巻いて逃げるなんて事が出来ないようにするつもりだから覚悟しときなよー」

 

のどかと夕映は察する。ハルナは本気でこちらを潰すつもりだと。彼女は例え友人相手でもやる時はやる凄みがある。

のどかと夕映が戦慄を覚えている間にエヴァンジェリンは地図を千雨に渡す。地図には事細かく場所の詳細が書かれていた。

 

「さて、これ以上説明する必要もないだろう。後は実戦あるのみだ。昼夜油断せずにこの4日間励めよ」

 

そう言ってエヴァンジェリンは魔方陣でジャングルを去った。

 

「そんじゃ私も移動するから。励んでよ~。のどからの動きは私のマンガの材料として有効活用させてもらうから」

 

ハルナは大型の鳥ゴーレムを召喚し、その背に乗り飛んでいった。

 

「……よし、ずっとここで雑談してるわけにも行かないし、行くか」

 

千雨が言ったことにのどか達も頷き、ジャングルの中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 

「さて、今あたしらはジャングルの奥へずんずんと向かってる最中だが、のどかさんに夕映さん、改めて聞くが早乙女ってどんな性格なんだ?」

 

ジャングルを前進するのどか達。千雨がのどかと夕映にハルナがどんな人物なのかを聞くと、夕映は遠い目をして答える。

 

「ハルナは例え親しい友人が相手でも自分の欲望には素直に爆進するです。そして彼女が好きなのは修羅場。私達がモンスター相手に苦戦している状況を嬉々として自分の漫画のネタにするはずです」

「おーけい。早乙女の性格がとってもいいというのが、よーく分かったよ」

「でっでも根が悪いわけじゃなくて、自分のしたいことに素直なだけだから!」

 

のどかがハルナのフォローをするが、夕映の説明を聞いてハルナがどう仕掛けてくるか警戒を強める。

 

「話しは変わるですが、千雨さんはその人形を動かすのに支障は無さそうです?」

 

夕映が千雨を気に掛ける。現在千雨の背後にベッタリとまさに背後霊やスタ○ドのように人形が歩いている。

 

「あぁ、ある程度の魔力を与えておけばそれ以上は食われないみたいだ。あたしのことよりも自分の事は大丈夫なのか?」

 

汗を拭いながらのどか達の事を心配する千雨だが

 

「私は図書館島で過酷な場所に行ったこともあるですし、体力には自信あるです」

「私も大丈夫。けど正直言うと熱い……かな」

「うちも夏の炎天下の中で試合や練習してるから暑さへの我慢はこの中では一番と言いたいんやけど、この暑さはグランドとは別物やな」

「くそ、やっぱインドア派のあたしがこの中で一番体力は下みたいだな……」

 

千雨がぼやいていると茶々丸が水筒を渡してくる。

 

「皆さん水分補給は適度に行いましょう。水分摂取を怠るのは一番危ないことです」

「そうだな。サンキュー茶々丸さん」

 

茶々丸に礼を言い水筒を傾ける千雨。冷えた冷水が千雨の体を冷やしていくのを感じる。一気に飲むのではなく少しずつ飲むのを心がける。

のどか達も水分補給のための小休止を取ることにしたその時、茂みが動いた。

早速仕掛けて来たかと警戒するのどか達。何が出てくるのだろうか。しょっぱなからえげつない姿のモンスターだろうか……

しかしその予想は真逆の可愛らしい白い野うさぎが一羽、茂みから現れたのだった。

 

「やーん!めっちゃ可愛いんやけどー!!」

 

狙っているのかそれとも自然にやっているのか首を傾げる野うさぎを見て心打たれた亜子が不用意に野うさぎに近づこうとしている。

だがハルナの事を聞いた千雨は警戒の色全開で急に現れた野うさぎを見ていた。

 

「なぁ夕映さんよ、早乙女がこんなあからさまな事をしてくるか?」

「そうですね、ハルナの事だから安心しきった所でえげつない事を仕掛ける可能性が大です」

「うん、ハルナならやりかねないかも……」

 

夕映とのどかの話を聞いて警戒度が更に上がる。あの野うさぎは絶対何かを仕掛けてくる。

 

「おい亜子さんよぉ、そいつから早く離れた方がいいんじゃあないか?」

「えーこんなに可愛いのに?警戒しすぎやよー」

 

思わずジョ○ョの登場人物の話し方になりながらも亜子に離れろと言うが亜子は完全に心を許しているが、それは起こった。

野うさぎがぶるぶると震えたと思いきや、某寄○獣のように顔がぱっくりと4つに割れ、割れた断面に夥しい数の牙が生えているのが見えた。

 

「キシャアアアアアア!!」

「!?きゃあああ!!」

 

奇声を挙げながら亜子に向かって跳び跳ねた野うさぎ擬きに思わず悲鳴を挙げる亜子。しかしこの展開は千雨は読んでいた。

人形に野うさぎ擬きを殴れと念じていたので直ぐに亜子の前に立ち、野うさぎ擬きを殴り飛ばした。鈍い音を出しながら飛んでいく野うさぎ擬きに呆然とする亜子。

 

「あ、ありがとな千雨ちゃん」

「だから油断するなって言っただろ。それよりもこれで終わりって訳じゃないだろ」

「ええ、ハルナのことです。直ぐに仕掛けてくるはずです」

「どうやらそのようです……皆さん、囲まれました」

 

茶々丸が言った通り、四方から何かが蠢く音が聞こえそして

 

『キシャアアアアアアアアアアア!!』

 

木々や茂みから先程殴り飛ばされた野うさぎ擬きが無数に飛び出してきた。その数は数えただけでも50は優に越えていた。

だが千雨はこの展開もある程度読んでいた。

 

「悪いが強引に進ませて貰うぞ。行けぇ!!」

 

千雨は人形に命じる。今大事なのは迫ってくる野うさぎ擬きを全滅させるのではなく、この場から逃げる事。そのために野うさぎ擬きが密集している所の一番薄い所を突く。

ス○ープ○チナやクレ○ジー・ダイ○モンドと比べたら些か遅いと思われそうだが、人形の高速ラッシュで野うさぎ擬きの壁を蹴散らし道を作る。

 

「今は逃げるぞ!!」

 

千雨に続くようにのどかに夕映に亜子そして茶々丸が急いでこの場から逃げ出し、それを追いかけるように奇声を挙げながら追いかける野うさぎ擬きの群れ。

 

「くっそ!しょっぱなから出鼻を挫かれた!!」

 

千雨の悔しげな叫びがジャングルに響くのだった。

 

 

 

 

 

 

野うさぎ擬きの群れから逃げ続けすっかり夜になってしまった。

野うさぎ擬きの群れから逃げ出して、400~500m行くか行かない所で千雨の体力が底をついてしまい、そこからは人形に念じて横抱きをしてもらった。

道中で野うさぎ擬きに食いつかれそうになった時は魔法の矢で撃退していった。

野うさぎ擬きが追撃を止めたのか段々と数が減っていき、遭遇するのがゼロになった時には夜になり、のどか達の魔力体力共々ゼロになって一歩前に進むのも一苦労に成る程だった。

最終的に茶々丸が案内し、ジャングルの中にポツンと建つログハウスに到着した。

元々ノリでこのジャングルを作り、ついでにこのログハウスを建てた模様で、ここをセーフハウスにすることを満場一致で決定した。

最初はこのログハウスを勝手に使っていいのか不安になったのどかや亜子だが、茶々丸が

 

「別にマスターはこのログハウスを使うなとは命じておりません。ですので大丈夫でしょう」

 

と言いきった。ならば存分使わせて貰おう。

茶々丸が簡単な料理ということでカレーを作ってくれた。疲れた体にカレーの辛みが更に食欲をそそりあっという間に完食してしまった。

 

「たく、初日からえらい目にあったぞ……」

「私も、かなりくたくたです」

「今日はもう動けそうにないよ」

 

今日味わった苦労を全てここで出すかのように大きな溜め息を吐く。

 

「……よし!」

 

そんなのどか達を見て意を決した亜子は今まで使っていなかったマイクを手に取った。

 

「亜子さんどうした?悪いけど今は音楽を聞く余裕はあたしにはないぞ」

「大丈夫。今は何も考えず聞いてくれればええから」

 

そしてゆっくりとしたテンポの歌を謡だす亜子。すると、先程までの疲労が段々と薄れていくのを感じた。

 

「この歌は何なのです?」

「癒しの歌って言うんやって。今のこの状況にピッタリやと思って、どうかな?」

「うん、聞いててとても癒されたよ。ありがとう」

「まぁ、やっぱなんやかんや言って歌って侮れないよな」

 

歌ってくれた亜子にお礼を言うのどか達。お礼を言われた亜子も顔を赤くしながら微笑む。

 

「皆さん。お風呂の用意が出来ました。今日の汗と疲れを流して明日に備えてください」

 

お風呂と聞いて顔を輝かせる夕映と亜子。

早速入ろうと準備をしようとした時に待ったをかける千雨。

 

「なぁ茶々丸さん、そのお風呂ってこのログハウスの中にあるのか?」

「いえ、マスターがせっかくだから露天風呂を作った方が面白いだろうと言うことでお風呂は露天風呂です」

「……そっか。あぁくそ」

 

風呂は露天風呂と聞いて悪態をつく千雨。

 

「どうしたの千雨ちゃん?もしかして露天風呂が嫌なん?」

「そうじゃないよ。なぁのどかさん、早乙女の奴は夜でも仕掛けてくるか?」

「……やるかもしれない。ハルナにとって昼も夜も関係ないだろうから」

「えぇ……早乙女さんも女の子なんだし夜は早く寝るんやないの?」

「いえ、ハルナは漫画の〆切を間に合わせるために何度も徹夜をしているです。恐らく今も寝ずに私達に何時仕掛けるか見計らっているはずです」

 

それを聞いてすっかりお風呂の雰囲気ではなくなってしまった。

 

「エヴァンジェリンも昼夜気を付けろよと言ってたからな。とりあえず交代制で入るか。時間は10分もあれば長風呂になるだろ?」

 

千雨の提案に皆賛成し、誰が最初に入るか決めることにした。

そして……

 

「にゃはは。やっぱ私が仕掛けるって思ったか。いいよいいよ、そういう反応を見せてくれた方が私としても面白いからね」

 

ログハウスから300m離れた岩山に陣を取っているハルナ。今は双眼鏡で、のどか達の行動を見張っていた。

何故ハルナがこの修行の敵役として参加したか、それはエヴァンジェリンと取引をしたからである。

因みにハルナはのどか達が飲んだあの劇薬を飲んでいる。何故飲むことになったのか、それは

 

「やっぱパワーアップアイテムとかそそるでしょ?」

 

と至極単純なものだった。これにはエヴァンジェリンも呆れ顔を浮かべてしまう程にである。

懇願してくるハルナにさほど興味はなかったエヴァンジェリンは交換条件としてのどか達の修行相手になるように提案、その条件を飲んだハルナはのどか達が魔法の矢の制御をしている間に薬を飲んだ。

薬はのどか達が飲んだ10倍希釈したものより少しだけ薄めた50倍の希釈でハルナに与えた。

 

「劇薬だとしても貴重な薬だからな。こいつにはそれ程興味はないし、50倍位でいいだろう」

 

との事である。飲んだ瞬間に激痛は起こらなかったが、酷い吐き気を覚えたハルナは横になった。

夢の中ではもう1人の自分に会うことは無かった。ただ描いては消え描いては消えてしまう終わりの無い原稿の完成を目指すと言った悪夢を起きるまで延々とやらされたのだ。

その甲斐あってかハルナも以前よりもパワーアップし、アーティファクトのゴーレムのクオリティも強度も上がった。デメリットとして精巧なゴーレムを描くと自分にもダメージが来るフィードバックが着くことになった。そして今に至る。

 

「折角ちょっちパワーアップしたんだし、この力を使わないと勿体ないでしょ」

 

双眼鏡でのどか達の様子を見ながら自分はカップヌードルをすする。監視していると、風呂の順番は千雨、夕映、亜子最後はのどかに決まったようだ。

 

「そんじゃ、狙うのはおっちょこちょいののどかに決ーめった!」

 

そしてスケッチブックにあるものを描くハルナ。それはジャングルのパニック映画代表の爬虫類。手足の無い長い体で音も出さずに獲物に向かって這って襲い掛かる姿は正に恐怖。

アナコンダ。その体長は10mを越えている正に怪物と言ってもいいぐらいの大きさだ。大蛇は下をちろちろと出しながら這ってのどかの元へと向かって行った。自分の欲望(漫画のネタ)の為にここまでする。引くのを通り越して感心するレベルまでに達していた。

場面は戻り、最後の番になったのどかが露天風呂に入り疲れを癒していた。

 

「ふぅ……今日は色々あって疲れたなぁ。けど自分が決めた道なんだし、マギさんや皆のために頑張らないと」

 

と改めて意気込みをする。人はリラックスしている時が一番油断するもの、大きく伸びをしたのと同時に近場の茂みが大きく動き出す。

何か来る。のどかは近くに置いていた杖に手を掛けるが、それよりも早くアナコンダが鎌首をもたげながら現れた。

 

「しゃあああぁぁぁぁぁ……」

「!?きゃあああ!!」

 

この大蛇、口を開ければ人1人は簡単に呑み込めそうだ。大口を開けてのどかに迫る。このまま呑まれてもハルナが直ぐにこのアナコンダのゴーレムを消すようにするから問題ないが、それでも丸呑みにされるのはかなり怖い。

哀れこのままのどかは丸呑みにされてしまうのかと思いきやのその時、大きな音がしてアナコンダは何かの力で弾かれてしまった。

障壁だ。のどかが魔法の障壁を展開しアナコンダの攻撃を防いだのだ。今さっき悲鳴を挙げていたのに障壁を展開する時間などあったのだろうか。防がれたのならもう一度攻めればいい。アナコンダがまたも大口を開けてのどかを呑み込もうとしたら

 

「――――――ねぇ、こっちはもうヘトヘトなの。だからもう……さっさと何処かへ消え失せて」

 

さっきまでおどおどし高い悲鳴を挙げたのどかとまったく真逆で、低い声色でアナコンダを睨み付けた。

このアナコンダには感情なんてものは持ち合わせていない。ハルナの命令だけで動いているゴーレムなのだから。しかし目の前ののどかを見て、この女はまずい。暗く重いのどかの雰囲気に、呑み込もうとしたらこっちが頭から尻尾まで喰われてしまうと本能に似た何かを感じ取った。

暫く睨み合っていたらアナコンダの方が折れて何処かへと逃げていった。

 

「あっれ!?なんでアナコンダの奴勝手に逃げ出して、のどかをしっかり狙えって命じたはずなのに……」

 

ぼやきながら双眼鏡でのどかの様子を見る。しかしそんなのどかがぐるんと首を動かし、ハルナが見ている双眼鏡としっかり目が合う。

 

「え?嘘見られてる?いやそんなわけない。ここからログハウスまで300m以上は離れてるのに」

 

きっと気のせいだとハルナは自身にそう言い聞かせているが、のどかがくすりと笑いながらゆっくりと口を開く。

 

あ・ま・り・ち・ょ・う・し・に・の・ら・な・い・で・よ・ね

 

「~~~~~~~~~!!」

 

思わず双眼鏡から目を離してしまった。何を言っているか聞き取れるわけなかったが、のどかはハッキリとそう言っていると分かった。

 

「なに、あれ……あれ本当にのどかなの……?」

 

目に精気が感じられず、空虚な目に見られハルナは息が詰まりそうになり、そのまま窒息してしまいそうになった。あののどかを冗談交じりでちょっかいを仕掛けたら、そのまま喰い殺されるイメージが頭から離れない。

 

「……のどかに手を出すのは極力控えよう。逆に返り討ちにされそうだし」

 

今はこの場から離れよう。それだけを頭にいれてハルナはログハウスから距離を取るようにした。

そしてハルナの気配が遠くになるのを感じたのどかは目を閉じる。目を閉じるとさっきまでの暗くのしかかる雰囲気は霧散していった。

 

「……あれ?あの大きな蛇は何処にいったの?」

 

呆然としながら周りを見渡す。どうやら先程までの事を何も覚えていないようだ。

 

「のどか大丈夫です!?」

 

のどかの叫びを聞いて、ようやく夕映と千雨と亜子が駆けつけるが、のどかしか居ないことに肩透かしをくらう。

 

「のどかさん、さっき凄い悲鳴を挙げてたが大丈夫なのか?」

「えっと大きな蛇が現れたんだけど、気がついたら居なくなってて」

「大丈夫なん?どこか怪我しとらん?怪我したならウチが手当てするよ」

「ううん。怪我はないけど、ビックリして気を失ったのかちょっとの間の記憶が曖昧で……」

 

とりあえずのどかが無事なのを確認してほっと胸を撫で下ろす夕映。

 

「とにかくのどかが無事でよかったです」

「けどやっぱ早乙女の奴仕掛けて来たか。もしかしたらあたしらが寝た後にも何かしてくるかもしれないから交代で寝るか」

 

千雨の提案にのどか達は賛成し交代で睡眠を取ることにした。

………しかし、深夜1時2時を過ぎてもハルナが一向に仕掛けてくる気配がないので、最終的には交代せずに皆一斉に寝ることにした。

こうしてのどか達のサバイバル生活の1日目が終了したのである。

 

 

 

 

 

 

 

 



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3ーA探検家 アマゾン奥地で秘宝を見た! 究明編

サバイバル生活2日目の早朝。のどか達は今後どういう風に動くかログハウスのリビングで作戦を練っていた。

今はテーブルの上に地図を開いて今自分達が何処にいるのかを確認する。

 

「今あたしらがいるのはこのログハウス、そして神殿があるのが此処。間違いないか茶々丸さん」

「はい。私はこのジャングルの地形を予め覚えております。ですので何処に何があるのかは全て把握しています」

 

ガイノイドである茶々丸が把握しているというのなら絶対なのだろう。千雨はログハウスと神殿がある場所に印を付けて距離を計算する。

 

「距離は約10km位か。近すぎず、遠すぎない距離感って感じだな」

「単純な計算をすれば目的地到着までの時間は2時間半といった所です。けど」

「ハルナがそう簡単に目的地まで行かせないよね……」

「近くなれば近くなる程にモンスターは強うなるって言ってたやね」

 

何もなければ2時間半で着けるが敵とエンカウントしてしまえば時間は倍に掛かると考えた方がいいだろう。

 

「あたしらは4日間此処で無事に乗り切るのが目標。だが、神殿の宝なるものを入手すればその場で修行は終了。あたしとしてはこのログハウス周辺でうろうろして出てきたモンスターを倒してそれで御仕舞いがいいんだが、それをやっても意味はないと思う」

「そうやね。あっちでは何が起こるか分からないし、ぬるま湯みたいな事をしてあっちに行って何か起こったりしたら申し訳がたたないし」

「目的地に行こうとしたら否応なしに強いモンスターと遭遇する。けどそう言った敵と戦う事が出来る様になれば私達も一気にレベルアップ出来るはずです」

「そうすれば自分達の身は自分で護れてマギさんの役にも少しは立つよね」

 

のどか達は改めてこの修行の目的とこの修行が終わった後の自分達のビジョンをイメージしやる気を高めた。

 

「そうと決まれば早速あたしらのポジション決めだ。茶々丸さんを除いて今のあたしらは4人。ド○クエしかり○Fしかりテイ○ズしかり、王道RPGは4人編成。前衛中衛後衛をしっかり決めるぞ」

 

効率を求め戦う際の編成を決める事にした。

 

「まずあたしは前衛だな。この木の人形……は味気ないな。なんやかんや言って昨日はあたしや皆を護ってくれたし。木の守護者≪ガーディアンオブザツリー≫って呼称するか。この木の守護者の頑強さはお墨付きだし、前衛にはぴったりだ。デメリットはこいつを操っているあたしが耐久力持久力ともに薄っぺらい紙装甲という所と、こいつはあたしから5m以上離れると動きが鈍くなって最悪機能を停止する。なので木の守護者はごりごりの近距離型だ。けどあたしの体力が続く中で前衛は全うするつもりだ」

 

前衛は千雨となった。

 

「私とのどかは前衛と中衛の遊撃をメインで行うのがいいと思うです。魔法の矢は勿論ですが雷の斧といった近距離でも使える魔法があるです。のどかと私で交代で前衛を回せば相手を混乱出来るかもです」

「私も近くで戦える魔法が多いから、前に出て戦うね」

 

夕映とのどかが前衛と中衛を交互で行うことになりそして

 

「ウチは中衛か後衛かなぁ。昨日の歌もそうやけど、ウチのイメージ的に僧侶っぽいし、後ろでバンバンサポートしとるのがぴったりみたいやし」

 

歌の効果でのどか達の疲れを癒したのは大きく、亜子は後衛でサポート兼遠距離を担当することになった。前衛1人、前衛兼中衛2人そして後衛1人。理想的なパーティーとなっただろう。惜しむのは完全な近接格闘が出来るのが千雨だけでスタミナが心許ない所だろうか……

そんなこんなで編成を決め目的地である神殿へと目指すのだった。

 

 

 

 

蔦が生い茂るジャングルを千雨の木の守護者が強引に引きちぎる等をして道を作っていく。

出発してからかれこれ1時間は経っているはずだ。が一向に目的地に到着する気配が全く無い。ジャングルで同じような光景の中を歩いているからか、倍の距離を歩いているのではないかと錯覚してしまう。

暫く歩いていると、目の前に看板が刺さっていた。近づいて看板の内容を読み上げる。

 

「これ、ハルナの字だ」

「『此処は中間地点。目的地の神殿まで後半分だよー』かふざけた書き方しやがって。でもあと半分で神殿に着けるわけか。けど」

「はい、中間であるならばここから昨日よりも強い敵が出てくるはずです」

「うぅ、昨日のうさちゃんを思い出すけど……よし!どっからでも掛かってこいや!!」

 

亜子が気合いの声を挙げた瞬間に

 

『シャルルルルウ!!』

 

顔が蜥蜴のヒューマン型のモンスターが現れた。リザードマン。西洋のモンスターの代表格だ。

リザードマンは各々剣に槍、弓に杖を持っている。リザードマンセイバー、リザードマンランサー、リザードマンアーチャー、リザードマンキャスターと言った所か。前衛2人に後衛2人これまた理想的なパーティーだ。

「来たか、それじゃあ行くぞ。亜子さん!」

「うん!『戦の歌』!~♪」

 

亜子はアップダウンの激しい歌を歌い出す。するとのどか達の体の内から力が沸き上がって来るのを感じる。戦の歌は身体能力を上げるバフの効果を持っているようだ。

 

「行け!木の守護者!!」

『シャアアア!!』

 

木の守護者とリザードマンセイバーがぶつかり合う。斬撃と木の守護者の拳の攻防、リザードマンセイバーが木の守護者と戦っている間にリザードマンランサーが夕映に突き攻撃を仕掛ける。

身体能力が向上している夕映はリザードマンランサーの突きを難なく避けて詠唱を始める。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」

 

ネギやエヴァンジェリンも使っている雷の斧。それが夕映の手から放たれ、リザードマンランサーに直撃する。かなりの威力だったようで、黒焦げになったリザードマンランサーはそのまま動かなくなった。

リザードマンアーチャーは支援魔法を行っている亜子に狙いをつける。さらにリザードマンキャスターがリザードマンアーチャーに強化のバフを掛ける。

そして亜子に向かって吸盤付きの矢が放たれる。殺傷力がない吸盤付きの矢と言ってもかなりの速さで当たればかなり痛いだろう。

そんな亜子を護るためにのどかが前に立つ。

 

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」

 

のどかが真っ赤に燃える炎の大剣で矢をそのまま焼ききりそして

 

「ええい!」

 

リザードマンアーチャーに向かって炎の大剣を放った。放たれた炎大剣はリザードマンアーチャーに直撃し、雷の斧を食らったリザードマンランサーのように黒焦げになり再起不能となる。

そしてリザードマンセイバーと戦っている千雨も決着が着きそうだ。大振りな剣を弾き無防備な腹が晒される。

 

「今だ木の守護者、畳み掛けろ!!」

 

千雨が木の守護者にラッシュを念じ、木の守護者はリザードマンセイバーに高速ラッシュを浴びせる。木の守護者の拳がリザードマンセイバーの体にめり込みきりもみ回転をしながらジャングル木々を薙ぎ倒していく。

そしてリザードマンセイバーも戦闘不能となり、リザードマンセイバー、ランサー、アーチャーは霧の様に霧散してしまった。

残るのはリザードマンキャスター1匹のみ。後衛だけなら倒すのは容易いだろう。

 

『クロロロロロ、クロロロロロォォォ……』

 

すると先程とは違ってか細い声で鳴出したリザードマンキャスター。観念したのかと普通なら勝利を確信するものだが、のどか達は一切油断しなかった。

何故なら先程よりも轟音と呼べる咆哮がジャングルに響き渡ったのだから。

 

「やっぱり助けを呼びやがったか。恐らくだけどさっきの奴らよりも数倍強いと考えた方がいいかもな……」

 

舌打ちをしながら汗をぬぐう千雨の前に上半身が裸だが筋骨粒々で正に巌と言っても過言ではない筋肉で、バトルアックスを持った巨大なリザードマンが現れた。

その形相まさに狂戦士、バーサーカーである。顔つきもリザードというよりもワニ(思わずクロコ○インを連想してしまった千雨である)に近い顔つきだ。

さらに上空では赤い飛竜に乗った槍を携えたリザードマンがのどか達を見下ろしていた。リザードマンライダーと言った所だろう。そして

 

「!亜子さん危ないです!」

「え?」

 

亜子の背後に限りなく軽装をし気配を殺したであろうリザードマンが立っておりそのまま亜子を結構強めに押し倒し、そのまま尻餅を着いてしまう。

 

「きゃあ!?」

『シャシャシャ』

 

尻餅を着いた亜子を愉快そうに眺めながら笑みを溢したリザードマンは木の後ろに隠れまたも気配を消してしまう。

気配を消しながら相手の懐に入りそして狩る。その姿は正に暗殺者、リザードマンアサシンである。

強靭な肉体で敵を蹴散らすであろうバーサーカー、上空から嫌らしく攻撃して高みの見物なライダー、油断しているところ背後に近づきぐさりのアサシン、そして後ろで他のリザードマンを支援するキャスター。ハッキリ言って先程よりも手が掛かりそうな相手である。

 

「どうする千雨さん?」

「どうするも何もさっきと戦い方は一緒だ。けど明らかに容易く倒れてはくれなさそうだ。それにずっと空に飛んでてあたしらを見下ろしているアイツが厄介だ。恐らく魔法の矢で落とすのは難しいだろうな……」

 

数秒程考えた千雨はよしと決めて

 

「茶々丸さん、頼んでもいいか?」

「分かりました。私が空の相手をします。此処で直ぐに私というカードを切るというのは良い判断です。流石ですね千雨さん」

 

リザードマンライダーの相手は茶々丸に任せる事にした。これで茶々丸が助太刀する回数は2回になってしまうが、ここでお助けキャラを使うのにのどか達は反論は一切しなかった。

 

「それで残りは隠れながらチマチマ攻撃してくる奴だな。恐らく補助役の亜子さんを攻撃してくるだろうから、夕映さんが亜子さんを護衛してくれるか?」

「分かったです。任せて下さいです」

「それと亜子さんはあたしらに防御特化の歌魔法をかけてくれないか?まだ身体能力の歌魔法の効果は残っているみたいだし、防御を上げて少しでも耐久戦に挑みたい」

「うん分かった………あった!行くよ『城壁の歌』!~~♪」

 

亜子はあんちょこ本に防御特化の歌魔法がないか探し、見つけて歌い出す。

先程のアップダウンの激しい曲とうって代わり、ゆっくりと力強い歌だ。城を護る頑強な城壁、それがのどか達に纏まれる。

「よし、第2ラウンドだ。気張っていくぞ!!」

 

千雨が木の守護者にリザードマンバーサーカーに殴るように命じる。木の守護者の拳がリザードマンバーサーカーの脇腹に入る。だが頑強な筋肉では木の守護者の拳は蚊に刺された程度のものだろう。

 

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」

 

のどかも炎の大剣を詠唱し、リザードマンバーサーカーに斬りかかる。少々苦悶の声を出し体に火傷の痕がついたが、元気な姿を見せるリザードマンバーサーカー。吠えながらバトルアックスを振り回す。簡単に周りの木々をぶった切るのは脅威だ。

だが……

 

「よし"印"は着けたぞ」

 

千雨は勝利への布石を打った。その布石とはリザードマンバーサーカーの殴った脇腹である。吠えながらバトルアックスを振り回すが、所詮生き物ではないゴーレム。パターンさえ理解してしまえば簡単に避けられるようになる。

最初は危なげに避けていた木の守護者も今ではすれすれに刃が当たりそうになるが易々と避けた後に脇腹に拳を当てていく。

同じ所を殴られればいくら頑強な肉体を持っていても堪えてくる。

 

「どんなに分厚い壁だって小さな傷を付けてそこを延々と突いていればいずれは綻び崩壊する。そこだ木の守護者ィ!!」

 

大振りな攻撃を避け木の守護者の高速で放たれた拳が抉るようにリザードマンバーサーカーの脇腹に入る。今までのダメージが蓄積されたこともありリザードマンバーサーカーが片ひざをつく。

 

「のどかさん今だ!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 静寂の闇 斬り崩せ 闇の刃!!」

 

のどかの杖の先から漆黒の日本刀の様な闇の刃で横に薙ぎ払う。致命傷だったのか悲鳴を挙げるリザードマンバーサーカーを見て……

 

「――――ふふ、自分の方が上だと思っていた相手が崩れるのを見るのは愉快だわ」

 

クスクスと千雨がギリギリ聞こえるであろう声で呟いたのを聞いて目を丸くする千雨。

 

(え?のどかさんてあんな事を平気で言うタイプだったっけ?)

「のっのどかさん?」

「……あ、あれ?私今何か言ったっけ?」

 

思わず首を横に振る千雨。どうやら先程言ったことを覚えていないようだ。

 

(何かのどかさん修行を始めてから少し可笑しくなってないか?警戒はしておいた方がいいな……)

 

のどかの動向を見張る事にした千雨だが、一方的に攻撃され頭に来たのか斬り倒された巨木を持って、バトルアックスと巨木を矢鱈に振り回し始めたリザードマンバーサーカー。手負いの獣程厄介なものはない。現に振り回している風圧で吹き飛びそうになる。

しかし、手負いということはあと少しで崩せるという事でもある。

 

「あと少しだぞのどかさん!」

「うん!」

 

暴れる敵に向かっていく千雨とのどか。

一方空でワイバーンの相手をする茶々丸。吠えながら火炎球を連続で茶々丸へ向かって吐くワイバーンだが、高速のジェット噴射で空を駆ける茶々丸に当たるわけがなかった。

 

「ここまで精巧なゴーレムを書き上げる事が出来るとは、早乙女さんの実力も中々のものですね」

 

ですが……と茶々丸の腕が肘から開閉し中からガトリングガンが現れワイバーンに向かって掃射される。ガトリングガンの弾が当たり堪らず悲鳴を挙げるワイバーン。

 

「私の敵ではありません」

 

茶々丸の心配はしないで大丈夫そうだ。

そして場面は変わりこんどは夕映と亜子がリザードマンアサシンの相手をしていたが、些か苦戦しているようだ。

『シャシャシャァァァァァ』

「こっこの! フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 雷の精霊5人! 集い来たりて 魔法の射手 連弾 雷の5矢!!」

 

連続で放たれた雷の矢を他愛なしと簡単に避けるリザードマンアサシン。アサシンの名は伊達ではないようで身体能力もずば抜けているようだ。

 

『シャアアア!!』

 

懐から数本の投げナイフを取り出し投擲してくる。投げナイフは夕映と亜子に当たるが、城壁の歌の効果の膜のような障壁に護られているお陰で傷はつかないが、攻めあぐねているのも事実。

 

「どうにかしてあのすばしっこい相手の動きを止めることが出来れば……」

考えを巡らせている夕映にあんちょこ本を捲っていた亜子の指が止まり、夕映の肩を叩く。

 

「夕映ちゃん、この歌なんやけど使えないかな?」

「……いけると思うです。亜子さんは歌う準備を私が敵の目を引き付けるです」

 

そう言い夕映は詠唱する。

 

「魔法の射手 雷の一矢!!」

 

夕映は連続で魔法の矢をリザードマンアサシンに向かって放つがリザードマンアサシンは木々を蹴りながら跳び、魔法の矢を避けていく。

それよりもリザードマンアサシンは亜子へ狙いをつけた。ゆっくりな歌だが、何処か調子やペースを乱される歌だ。先に戦闘不能にさせた方がいいと判断し、高速で夕映の目を惑わせた後に木の後ろに隠れ気配を遮断した。

 

「どっ何処です!?」

 

夕映は見当違いな所を見るが、リザードマンアサシンは亜子の背後に回り手刀を構える。いくら障壁を張っていてもこの至近距離でこの手刀が当たれば当分は動けないだろう。

 

「!?亜子さん後ろです!」

「は!!」

 

もう遅い。そう言いたげにリザードマンアサシンはにやりと笑い亜子に向かって手刀を振り下ろした。

 

「きゃああああ!!」

 

悲鳴を挙げる亜子。手刀が当たった瞬間に亜子の体が歪みそして蜃気楼の如く消えた。

 

『シュロロロ!?』

 

仰天し目を見開くリザードマンアサシン。そんなバカな、自分は確かに捉えていたはず。なのに当たった瞬間に幻の様に消えてしまうなんて。

と亜子の笑い声が聞こえてきた。

 

「引っかかったな。今の歌は『幻惑の歌』や。この歌を聴いた相手にウチの幻を見せ、その幻を攻撃させる。そして、やっと隙を見せよったな?これを待ってたんや!」

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 風の精霊11人 縛鎖となりて敵を捕まえろ 魔法の射手 戒めの風矢!!」

 

風がリザードマンアサシンを捕縛した。逃げようとしてもがんじがらめにされたかのようにびくともすんともしない。

 

「かなり手こずったです。相手は高速で動き、捉えられるのは至難。だったら誘い込み、動きを止めるのが最善です」

「漸く動きが止まってくれたから、ウチも思い切りやれるってもんや」

 

そう言って亜子はシュートの構えをする。サッカーで何回もボールを蹴ってきた亜子の脚。魔力で身体能力が強化されたシュートならかなりの威力が出るだろう。

リザードマンアサシンは何とか脱出しようとしたが、もう遅い。

 

「ええい!!」

 

亜子の必殺シュートがリザードマンアサシンのボディに入り、そのまま後ろに飛んでいった。巨大な弾丸と化したリザードマンアサシンは木々をなぎ倒していきながらそのまま……

 

『グアアアアアアア!!』

「うぉ!?すっごい勢いで飛んで来やがった!」

 

千雨とのどかと戦っていたリザードマンバーサーカー、後方にいたリザードマンキャスターに直撃した。そのままの勢いで仰向けに倒れていくリザードマンバーサーカーとアサシン。その上に

 

『クロロロロロォォォ……』

 

翼膜が穴だらけになったワイバーンが重なるように落ちてきて、目を回し戦闘不能になっているリザードマンライダー。

 

「特に苦戦せず、問題ありませんでした」

 

涼しい顔で地上に降り立った茶々丸。流石とのどか達が茶々丸を称賛していると

 

『グルルル、グルァ……』

 

まだ動けそうなリザードマンバーサーカーが戦闘不能になったリザードマンアサシンとワイバーンをどかそうとしている。がダメージが蓄積しているせいか思うように動けないようだ。終わらすには今しかない。

 

「のどかさん、夕映さん。マギさんとネギ先生がよく使ってたあれって使えるか?」

「うん、魔力はまだ十分にあるよ」

「私も問題ないです」

「それじゃあ思い切りぶっぱなしてもらってもいいか?」

 

千雨の頼みに頷いたのどかと夕映は詠唱を始める。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来たれ炎精闇の精!!」

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

 

その魔法はマギやネギが使っていた、必殺技とも言える強力な魔法。

 

「雷の暴風!!」

「闇の業火!!」

 

雷の暴風と闇の業火が混ざり合い、強力な1つの魔法となりリザードマン達に向かって行く。

リザードマンバーサーカーは強引に起き上がり、自分の上に倒れこんだアサシンとワイバーンとライダーを闇の業火と雷の暴風に向かって投げた。少しでも魔法の勢いを殺そうとしたが、魔法が直撃した瞬間に消滅してしまった。

 

『グルォ!!』

 

バトルアックスで闇の業火と雷の暴風を防ぐ。更にリザードマンキャスターがリザードマンバーサーカーに強化のバフをかけた。

バトルアックスと魔法が拮抗する。少しずつ歩き距離を近付けるリザードマンバーサーカー。このまま防がれてしまうのか。

 

「行くです!!」

「やああぁぁ!!」

 

夕映とのどかが腹から声を出した瞬間に闇の業火と雷の暴風の威力が少しだけ上がった。拮抗していたリザードマンバーサーカーのバトルアックスに少しの罅が入り、その罅がどんどんと広がっていき

鈍い音と同時にバトルアックスが粉々に砕け散った。悲鳴を挙げる間もなく、リザードマンバーサーカーは魔法の奔流によって消滅した。リザードマンキャスターと同じくだ。

そのまま闇の業火と雷の暴風は勢いを止めずに木々を薙ぎ倒し吹き飛ばし、1本の道を作った。

道の終着点に石の建造物が見えた。宝がある神殿であろう。

 

「……ふぅ」

「はふぅ」

 

全力で魔法を放ったからか座り込んでしまったのどかと夕映。

 

「おつかれさん。最終的に2人に任せる形になっちまったな。でもやっぱ凄いな。それをマギさんやネギ先生は使ってたのか……」

 

地面を抉り、木々を吹き飛ばしていった闇の業火と雷の暴風。マギやネギ程ではないが、この威力に舌を巻く千雨と亜子であった。

因みにだが、のどか達の魔力の順列は1位がのどか。2位が少しの差で夕映。3位が千雨で4位が亜子である。しかしそれでも魔力量ならば亜子でもかなりの量である。

 

『いやーさすがさすが。もうちっと苦戦するかと思ったけどにゃー』

 

何処からかハルナの声が聞こえてくる。

 

「まぁあたしらが本気になればこんなものってな」

 

中々の強敵を倒したことで少々調子が良くなった千雨。のどかや夕映に亜子も誰も大怪我をしないで勝利したことに気分も上昇していく。

 

『いやはや結構な力作だったんだけどな。お陰で召喚出来るゴーレムは1体位が限界かなーまぁあと少し歩いたら神殿だし、ゆっくりしてから来るといいよー』

 

言い終えたのかまたハルナの声は聞こえなくなった。なら少しだけ休み、目的地に向かって前進するだけだ。

しかしのどか達は連続で勝利したことによって心の何処かで余裕の感情が芽生えようとしていた。

これからが本当の地獄のようなものなのを知らず……

 

 

 

 

 

休憩し、簡単な昼食も食べて体力と魔力を多少回復したのどか達。闇の業火と雷の暴風で出来た一本道を歩き暫く……

 

「漸く着いた……!」

 

肩で荒い息を吐く千雨。あれから数キロは歩いて折角回復した体力も千雨だけ底を着きそうになっていた。

 

「この神殿にあると言われている宝を入手すればこの修行は終わると言ってたですが……」

「ねっねえ、もしかしてあれやない?」

 

亜子が指差した先、神殿の石の階段を登り終えた先にある祭壇に水晶で出来た髑髏が鎮座していた。恐らくしなくてもあれだろう。

 

「あれをゲットしちまえばこっちの勝ちだ。けど絶対最後のモンスターがいるはずだから皆油断するなよ」

 

千雨がのどか達に注意するように言い、のどか達が1歩踏み出した瞬間

 

ぞくっ

 

心臓を鷲掴みされたような、明確な敵意そして"殺意"を感じた時そいつは現れた。

 

「―――――」

 

何処から現れたか分からないが、神殿の石の階段をゆっくりと降りてくる全身が真っ黒の鎧に覆われた正に『黒騎士』が其処に居た。

 

(あ、駄目だ。こいつには勝てない)

 

黒騎士を見て千雨はさっきまでのリザードマンが楽に倒せる存在だったと強制的に思い知らされた。

 

『どーよ!?この私が作り上げた最高傑作は。さっきのリザードマンよりも10倍以上は強くなってると思うよー。んで色々と設定を凝りすぎたら……暴走しちゃった。ごめんなさい』

「…………は?」

 

今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。暴走、暴走と言ったか?

 

「おい早乙女!暴走ってなんだよ!?じゃあ今目の前にいるあのモンスターはお前が操作してるわけじゃないのか!?」

『いやー僕が考えた最強の~~って感じでラスボスに相応しいキャラを作ろうとしたら張り切り過ぎてねー凝った設定とか詰めに詰めた結果、私にも手に終えない最強モンスターになっちゃいました。私にも問答無用で襲いかかってきたし、だから死なないように頑張って!!』

「ふっふざけるな!!」

 

千雨が恨み節が混じった叫び声を挙げたのと同時に、黒騎士は虚空から自分の背丈以上に巨大な黒い大剣を出現させて握る。

握った瞬間に濃密な殺気が爆発した。その殺気にのどかや夕映に亜子は呑まれそうになる。

茶々丸は殺気に動じず、千雨は行きなりの理不尽な展開に怒りが湧いているお陰で何とか呑まれずに済んでいた。

黒騎士は階段から跳び、のどか達に向かって大剣を振り下ろした。

 

「死ぬ気で散れぇ!!」

 

千雨の怒鳴りの混じった命令にのどか達も漸く体が動くようになり、紙一重のタイミングで黒騎士の攻撃を避けた。

黒騎士の大剣がのどか達が居た地面に当たった瞬間、地面が抉れるのではなく、爆発し砂塵が舞った。

避けたのどか達を見て、黒騎士は1人に狙いを着けた。

狙われたのは千雨だ。千雨に向かって真っ直ぐ突っ込んで来る。

 

「クソ!木の守護者ィ!迎撃だ!!」

 

黒騎士の大剣の振り下ろし攻撃に合わせる様に、木の守護者の拳を合わせるようにぶつける。

甲高い音が響き、このまま拮抗するかと思いきや

鈍い音が聞こえ、木の守護者の拳が大剣によって砕けてしまった。そのままの勢いで木の守護者は吹っ飛び、神殿の壁に叩きつけられてしまった。千雨は直ぐに木の守護者を動かそうと念じてみるが、ダメージが大きいのか動きが鈍くなっている。

そんなのお構い無しに黒騎士は再度千雨に攻撃を仕掛ける。

 

「千雨ちゃんに『城壁の歌』最大室力!!♪~~!!」

 

亜子が千雨に城壁の歌をかける。膜ではなく障壁が千雨を護ってくれている。障壁が黒騎士の斬撃を防いでくれたが、斬撃の衝撃までは防げずに後ろに吹き飛ばされて、木の守護者と同じように神殿の壁に叩きつけられた。かはっ口から一気に空気が出ていくのを感じる。

 

「~~~~~~!!けど、痛いって事は生きてる!!」

 

痛みで生を実感するのも痛々しい話だが、黒騎士は追撃するために千雨に向かって駆けて行く。

 

「くっ来るなぁ!!」

 

思わず悲鳴を挙げる千雨にお構い無しにまた剣を振るう黒騎士。茶々丸がブーストを一気に噴射し、ビームサーベルを展開し、黒騎士の大剣から千雨を護る。

 

「ちゃ、茶々丸さん助かった」

「今のうちに下がって下さい。少しでも食い止めます」

 

ブースト噴射をしながら跳び膝蹴りを繰り出し、ローリングソバットを連続で浴びせる。しかし黒騎士は怯んだ様子を全く見せない。

だが茶々丸が黒騎士に注意を引いてくれたお陰で千雨が木の守護者に辛うじて念じて自分を米俵の担ぐようにして逃げた。

千雨がのどか達の元に到着したのを見て茶々丸がガトリングガンを出して黒騎士に向かって放つ。黒騎士が大剣の腹で弾丸を防ぐ。

 

「皆さん、今のうちに退避をここは私が食い止めます」

「だっだったら、茶々丸さんが食い止めてくれてる間にあのお宝をゲットしちゃえば!」

 

馬鹿野郎と亜子の提案を遮る千雨。

 

「あの茶々丸さんが自ら食い止めるなんて言ってるんだ。今下手に動いたらあの黒騎士の餌食になる可能性が高い」

「そうです。今は逃げて体制を立て直す方が得策です」

 

夕映も千雨の提案に賛成だ。なんやかんや言ってリザードマンとの戦闘でかなりの魔力を消費している。逃げて体制を立て直すのが先決だ。

しかし逃げるなら少しでも怯ませておいた方がいいだろう。

 

「のどか、闇の業火はまだ撃てそうです?」

「うん、逃げる時の魔力も考えたらあと1回位なら。ゆえは?」

「私もあと1回だけなら大丈夫です」

「なら」

「ええ。行くです! フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来たれ炎精闇の精!!」

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

 

今自分達が使える最大火力を黒騎士にぶつける。それから逃げればいい。

 

「雷の暴風!!」

「闇の業火!!」

 

雷の暴風と闇の業火が放たれた瞬間に茶々丸は飛び、魔法が当たらないようにした。雷の暴風と闇の業火を黒騎士は大剣で防ぐ。

防ぐ間に魔法の力が臨界に達し大きな爆発をもたらし、黒騎士はそのまま爆発に巻き込まれた。

しかし爆発が晴れても黒騎士には傷1つついておらず、精々鎧が汚れた程度だった。のどか達は爆発が起こった瞬間に一目散に逃げたために神殿にはポツンと黒騎士だけしか立っていなかった。

逃げたのなら追えばいいそう言いたげに黒騎士は一歩踏み出そうとすると、残っていた茶々丸が黒騎士にガトリングを浴びせる。

 

「悪いのですが、ここで足止めをさせて頂きます」

 

茶々丸と黒騎士の攻防はその後1時間以上続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

黒騎士から逃げおおせること数時間、やっとのこさのどか達は最初にベースキャンプにしたログハウスに到着した。

皆泥だらけ土まみれだ。道中何度か転んだのだろう。それほどなりふりかまっていられる状態ではなかったと言うことだ。

 

「皆無事です?」

「うん……」

「何とかって感じや」

「正直言ってもうあたしはもう動けそうにない」

 

千雨だけ木の守護者に抱えられるようにしてもらいながらここまで逃げてきた。それほどダメージが大きいのだろう。

もう日も暮れて夜となってしまった。

 

「これからどうする?個人的にはアクシデントに見舞われたからこの修行は一時中止っていうのが望ましいが……エヴァンジェリンのことだから絶対中止にしたらここであたしらの修行は強制的に終わりだろうなぁ……」

 

千雨は鼻で笑うエヴァンジェリンを思い浮かべる。いや実際鼻で笑うだろうなと確信する。

 

「それに私達が向かう場所は思いどおりに行かないアクシデントだらけの世界だろうし、ここで怖いから止めるなんて言い出したら私はもうマギさんと一緒にどこまでもいけないと思う。だから私は止まらない」

 

のどかは決意を新たにする。

 

「私ものどかと同じ考えです。私は自ら危険な道に行くと決めた。ならばこれも試練として糧にするです」

「ウチもここまで来たら最後まで頑張るって決めたんや。さっきのは正直怖かったやけど、ウチももう逃げないって決めたんや」

 

夕映や亜子も逃げずに立ち向かうことを決めていると

 

「皆さんどうやら無事みたいですね」

 

茶々丸がドアを開けて戻ってきた。体に目立った外傷はなく、精々のどか達と同じように土で汚れている程度だ。

茶々丸も無事に戻ったことに胸を撫で下ろすのどか達。

 

「茶々丸さんあの黒騎士はどうなった?」

「残念ですがそれ程ダメージを与えられた様子はありませんでした。しかしあの神殿を離れても追ってきはしませんでした。どうやらあの周辺で戦うように設定されているようです」

「よかったーこれで追ってきたらたまったもんやないもんなー」

 

黒騎士が留まっていることを知った瞬間、のどか達は一斉に腹の虫を鳴らした。思わず鳴ってしまった事に顔を赤くするのどか達を見て微笑む茶々丸。

 

「では消化のいいものを作りましょう」

 

そう言って茶々丸は多めの具材が入った雑炊を作ってくれた。それをよく味わって完食したのどか達であった。

 

 

 

 

 

夕食を食べた後、今日は一緒にお風呂に入ることにした。お風呂に入ったことで疲れを洗い流すことが出来て気持ちもスッキリすることが出来た。

とリラックスしていた時にログハウスにのドアが激しく叩かれ。

 

「ごめーん私なんだけど入れて貰えるかなー?」

 

ハルナの声が聞こえ、警戒しながら茶々丸がドアを開けると所々傷があり、服もぼろぼろになっているが至って元気そうだった。

とりあえず残っている食事と風呂に入ってもらい、綺麗になって満足な表情を浮かべるハルナに詰め寄る千雨。

 

「おい早乙女、何で暴走するまで設定細かくしたんだよ。召喚したお前が死にかけるとか笑い話にもならねえじゃねえか」

「いやー面目ない。一応ラスボスっていう訳だからさ、簡単に倒されるのも面白くないし、どうせなら強いモンスターを創ってみたいと言う欲がどんどんと膨らみ……今に至ります」

 

てへと舌を出しながら謝罪するハルナに青筋を浮かべる千雨が思い切りハルナの頬を横に引っ張った。

 

「いひゃいいひゃい!」

「テメー可愛く言って許されると思うなよ!さっきも言ったがお前が死にかけたら笑い話にもならねえだろうが!詫びにアイツをどうすれば倒せるか攻略を教えやがれ!!」

「おーいてて。強引に引っ張ることないじゃんか……あーもう遅いかもだけど、あんまり黒騎士に対して敵意とか向けない方がいいよ」

「どう言うことだよ?」

 

千雨が聞くのと同時に茶々丸が勢いよく椅子から立ち、神殿がある方向を凝視する。

 

「茶々丸さんどうしたのです?」

「濃密な魔力反応……!皆さん伏せて下さい!!」

 

慌てている様子を見せる茶々丸に驚いて言う通りに伏せるのどか達。次の瞬間

轟音と共に何かがログハウスに当たったのか大きく揺れ、食器が落ちて砕け散った。

 

「ななななな何だぁぁぁ!?」

 

行きなりの大きな揺れにパニックになる千雨にあーと申し訳無さそうにハルナが

 

「黒騎士は神殿周辺を護るようにインプットされてて神殿の側を離れないようにしてるんだけど、自分に敵意を向けた相手が遠くに居た場合……剣からビームが出る様になってます」

「おまっふざけんなよ!!!」

 

ハルナが付与させたまたも理不尽とも取れる設定に叫ばずにいられない千雨だった。

ログハウスの窓から外を見ると、黒い極光がログハウスの周辺の森を消滅させていた。焼却ではなく、消滅。それほど黒騎士が剣から放っているビームが強力ということが分かる。

 

「でもどうしてこのログハウスは無事なのです!?」

「マスターはここを気に入っていまして、何があっても壊れないように、ログハウス周辺に障壁が出る結界を施してあります。この障壁は例えマスターが本気を出しても壊れないはずです」

「けどこんなに揺れると怖いんやけど!!」

 

恐怖で涙目な亜子。ビームは絶えずログハウスに当たっている訳ではなく、断続的に放たれログハウスに当たるかログハウスの周りを消滅させている。

 

「当てずっぽうにビームを放っているみたいだけど!?」

「まぁ敵意が結構距離あるから正確な位置を把握してないんじゃない?私もビームが出せる位の設定しか着けてないからねー」

「何でそんな呑気な事が言えるんだお前はぁぁ!!!」

 

千雨の絶叫はログハウスに響いたが大きな揺れで直ぐに掻き消えてしまった。

そしてビームが止むまで2時間はかかり、衝撃とビームに当たるかもしれない恐怖でログハウスから一歩も出られなかったのどか達は寝るに寝られず、日が昇って来たときも眠ることができず。

 

「あ、あ……あ」

「のどか、大丈夫で……す?」

「あかん、不眠と熱気で目の前がぐるぐるしよる」

「あたしら、何でここにいるんだっけ?」

 

眠気に耐えられず目の前が真っ暗になり、気絶するように倒れ混み寝息を立てるのだった。

 

「やっぱ、のどか達は眠れなかったかー」

「それよりも何故ハルナさんは眠れたのですか……」

 

一方のハルナはビームが放たれている間も呑気な寝息を立てて爆睡しており、その図太さに茶々丸は戦慄を覚えた。

修行2日目、これにて終了である。

 

 

 

 

 



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3ーA探検家 アマゾン奥地で秘宝を見た! 解明編

修行3日目。気絶するように眠ってしまったのどか達。起きたのは正午を過ぎた位だ。そしてのどか達は衝撃の事実を茶々丸から聞かされる。

 

『転移の魔方陣が書かれた場所が無くなった!?』

「はい。どうやら昨日の黒い極光によって、あらゆる場所が破壊されたようです。その中に転移の魔方陣が書かれた場所も」

 

のどか達が寝ている間に被害がどのくらいかを確認するために周囲の状況を見て回った茶々丸。そしてその中に初日にこのジャングルに来た時に使用した魔方陣が書かれた入口が無惨な事になっていたと言う。

 

「じゃああたしら謂わば遭難したって扱いか!?もう此処から出ることが出来ないのかよ!?」

「いえ、マスターは影をつたって移動する術を持っています。何かあったときはマスターが私の影を伝って来てくだされば改めて転移の魔方陣を書いて頂ければ出ることが出来ます」

「ねっねぇ茶々丸さんはテレパシーみたいなのでエヴァンジェリンさんを呼ぶことは出来んの?」

「いえ、どうやらマスターが外部との連絡を断ってしまっているのかノイズのような雑音だけしか聞こえません。マスターを今すぐ呼ぶのは難しいかと……」

 

昨日は頑張ろうと決意を改めていたが、ビームよってログハウスが揺れ続けた結果恐怖が上書きされてしまった。このまま恐怖で一歩も動けなくなってしまうのか……

 

「ねーねー何でどっかのやさい王子みたいにもうだめだぁ、おしまいだぁ状態になってるの?私らつい最近に死ぬような目に会ってるんだからさ、もっとリラックスしよーよ」

 

ハルナは呑気に言いながらスケッチブックに自身のマンガのアイデアを書きなぐっていた。

 

「何でお前はそんなにゆっくりしてるんだよ早乙女!?昨日だってあんなに揺れて死ぬかと思ったんだぞあたしは!!」

「だってさエヴァンジェリンが張った結界が私が作った黒騎士で簡単に壊されると思ってなかったし、まダイジョブでしょって」

 

凄く呑気な返答にええと引き気味の千雨。なんやかんや言ってハルナはかなり肝が据わっている少女だ。

 

「それでどうする?選択肢は2つ。1、明日の最終日までこのログハウスに引きこもっているか。2、神殿の宝をゲットして早めに修行を終わらせるか。私としては2をおすすめするけどね。まぁエヴァンジェリンの事だから1を選んだらのどか達を魔法世界には連れて行かないだろうね。怖じ気ついた者は足手まといとか言って」

 

ハルナの言う通り、エヴァンジェリンは戦わずに最終日まで引きこもっている者を魔法世界には連れて行かないだろう。

昨日も言っていたではないか、自分達が向かう場所は死地と隣り合わせのような世界。自分達がマギの力になりたいとそう思い、自分達から危険な世界に足を運んだのだ。

 

「……あぁ怖いけど、正直引きこもっていたいけどやるしかねーか!!」

「うん」

「はいです!」

「最後まで諦めたくないから!」

 

昨日折れかけた覚悟を完了させたのどか達。こうしてあの黒騎士に挑むことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

神殿は黒騎士が地面に大剣を刺して佇んでいた。黒騎士は動じず、神殿に来る者達を排除するだけだ。

 

「おい黒騎士野郎!!」

 

自分を呼ぶ声が聞こえ、声が聞こえた方を見ると千雨と木の守護者に亜子が居た。

 

「それじゃ亜子さん、頼む」

「うん、歌魔法『戦の歌』~♪」

 

亜子が戦の歌を歌い千雨と亜子の身体能力が上がる。

 

「行け木の守護者ィ!!」

 

木の守護者に黒騎士に近づく様に念じる。黒騎士も地面から剣を抜き構える。そして間合いに入ってきた木の守護者に向かって横凪に大剣を振るう。

 

「今だ!」

 

千雨は木の守護者に避けるように念じ、木の守護者はスライディングのように横凪に振るわれた大剣を避ける。そしてついでに黒騎士の脛に木の守護者の足を当てる。

かんと乾いた音が聞こえるが、黒騎士にダメージというダメージは一切ない。そのまま黒騎士は大剣を舌に振り下ろし木の守護者を砕こうとするが、千雨は木の守護者に横に転がりながら大剣を避け、起き上がるのと同時にカエルパンチ黒騎士の顔面に当てるが、やはり乾いた音がするだけで黒騎士が堪えている様子はない。

黒騎士は木の守護者に横凪に振るう剣技や振り上げ振り下ろし、袈裟斬りに突き攻撃、時折回転斬りを繰り出す。木の守護者に全て避けるように念じ時折ダメージにならない攻撃をするように念じる千雨。

何故千雨と亜子がここにいるのか、それは黒騎士の攻撃パターンを見て覚えるためだ。やっていることは昨日のリザードマンバーサーカーと同じ。違うのは一回でも攻撃が当たってしまったらアウトと言うところだろう。

しかしいくら強い黒騎士でも生き物ではない。パターンさえ分かってしまえば幾らでも対処は出来る。気分は高難易度のアクションゲームだなと思った千雨である。

そして攻撃パターンが全て出しきった所で木の守護者は一気に後ろに下がる。

 

「よし、退避ぃ!!」

 

千雨の掛け声で神殿を後にする千雨と亜子。戦の歌によって身体能力が上がったことにより、直ぐに神殿を後にすることが出来た。

しかし、千雨達が神殿から出たということはあのビームがやって来るということだ。大剣の刀身から黒い極光のオーラが出て来始めた。そして千雨達がいる場所に向かってビームを放つ。

 

「っ!!伏せろ!!」

 

千雨と亜子と木の守護者は伏せる。その後直ぐに黒いビームが千雨達の頭上を通過していった。

そして何度か放たれたビームを辛うじて避けながら、千雨達はログハウスに帰還した。帰還した後もログハウスにビームが直撃するが、エヴァンジェリンが張った結界のお陰でびくともしない。

 

「大丈夫千雨ちゃん?」

「……正直、生きた心地がしない。けど、しっかり役割は果たしたぜ」

 

そう言って亜子が棒人間が書かれた紙をのどか達に見せる。それは黒騎士の攻撃パターンが棒人間として書かれていた。亜子はサッカークラブで棒人間で動きの研究をしていた。それを黒騎士の攻撃パターンに応用したのだ。

 

「結構雑に書いたんやけど、大丈夫かな?」

「ダイジョブダイジョブ。これをこうしてちょちょいのちょい♪」

 

亜子が描いた棒人間をスケッチブックで正確に書き直していくハルナ。その精巧さに今まさに動きだそうな躍動感を感じられる。これを見て、パターンを研究。明日、自分達があの黒騎士を出し抜き神殿の宝を手に入れ修行を完了させるために。

黒騎士の攻略の作戦決めは日付が変わるギリギリまでに行われたのだった。

 

 

 

 

 

そしてのどか達は4日目に神殿、黒騎士と最後の対峙をする。

 

「大丈夫ですか私が助力しなくても?」

「私もゴーレム1体位は召喚出来るけど?」

「ううん。これは私達がやらなきゃいけないことだから。だから茶々丸さんやハルナは手を出さないで」

「私達の修行なのですから、私達が決着を着けなければいけないです」

 

茶々丸とハルナの助太刀を拒むのどか達。しっかり対策はしてきた。後は実戦で試すだけだ。亜子があんちょこ本のページをめくり止めた。

 

「行くよ!歌魔法『獅子奮迅の歌』~~!!♪」

 

亜子はシャウトした。普段の亜子ではイメージ出来ない雄叫びの如く歌い出す。その瞬間、皆の身体能力は戦の歌以上に上がっているのを感じる。

獅子奮迅の歌。戦の歌の上位互換になる魔法。その歌を聴いた者は戦の歌の倍以上の力を身につける事が出来る。ただデメリットは強化してくれる時間が短いことと

 

「はぁ……!はぁはぁ……!!これ、結構、きっつい……!!」

 

亜子がバテそうになってしまうことだ。獅子奮迅の歌は亜子の魔力かなり消費させてしまう。決着は早めにつけるしかない。

そして作戦は至ってシンプル『4人で黒騎士をボコり怯んでいる隙に宝を手に入れよう』という簡単に思い付くような作戦だ。

だが、今は変に奇策に講じるよりかはシンプルな方が良いだろう。

黒騎士が大剣を構える。臨戦態勢は整っているようだ。ならこっちも応えてやろう。

 

「木の守護者ィ!!」

 

千雨が木の守護者に突っ込むように念じ、木の守護者は黒騎士に向かって突っ込む。

黒騎士は大剣を横凪に振る。しかし大剣は木の守護者に当たらず空を切る。木の守護者が上に跳躍したからだ。

 

「悪いがその攻撃は食らわないぞ!」

 

木の守護者の飛び蹴りが黒騎士の顔面に直撃する。大したダメージは入っていないようだが、数歩下がりよろける黒騎士。

 

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ」

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ」

 

詠唱しながら黒騎士に近付くのどかと夕映。

 

「来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」

「来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」

 

炎の大剣と雷の斧が黒騎士に直撃する。雷と炎が直撃し、黒煙が黒騎士の体から昇る。今度はのどかと夕映に狙いを付け大剣を振り下ろそうとするが

 

「おらぁ!!」

 

木の守護者が黒騎士に接近し、がら空きになっている脇腹めがけて思い切り殴り飛ばした。意識外からの攻撃によろけそうになった黒騎士はまたも木の守護者に攻撃をしようとしたが

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」

 

またも夕映の雷の斧が黒騎士に直撃し、明らかにダメージが入っているのが目に見えて分かるようになった。今度は夕映に突き攻撃をしようとしたが

 

「えーーい!!」

 

今度は亜子がサッカーボール大の瓦礫を黒騎士目掛けてキックをする。本来ならこんな瓦礫を蹴れば足の骨など簡単に砕けてしまうが、身体能力が向上しているお陰でいつもサッカーボールを蹴るように簡単に蹴れる。

高速で蹴られた瓦礫は正確に黒騎士の顔面を捉えた。行きなり瓦礫が顔面に直撃し面食らったのか手で顔を覆う仕草を見せる黒騎士。

そして今度は亜子にターゲットを絞り向かおうとするが

 

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」

 

またものどかの炎の大剣が黒騎士を斬り付ける。さらに

 

「オラオラオラオラララオラァ!!」

 

木の守護者の高速ラッシュが黒騎士の胴体に抉り混むように入っていく。

誰かが攻撃し、黒騎士が狙いを付けたらまた別の誰かが黒騎士を攻撃する。スイッチのように次から次へと移り変わる戦略で黒騎士を翻弄し、黒騎士は先程から攻撃できずにいた。

巨大な大剣を振るうことが出来ずに、遂に片膝をついてしまう黒騎士。今こそ好機と判断したのどかと夕映が大技を仕掛ける。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来たれ炎精闇の精!!」

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

「雷の暴風!!」

「闇の業火!!」

 

のどかと夕映の雷の暴風と闇の業火が放たれる。黒騎士は大剣を盾にして雷の暴風と闇の業火を防ごうとするが、踏ん張りが足らず、そのまま魔力の奔流に呑まれてしまった。

雷の暴風と闇の業火が晴れると、黒騎士は仰向けで倒れている。まだ消滅していないところを見るとまだ体力は残っているもだろう。

しかし今なら黒騎士の邪魔もなく神殿の宝を手に入れる事が出来るだろう。

 

「今がチャンスだ!今のうちに宝をゲットするぞ!!」

 

千雨の指示に皆が頷き、神殿の階段を登る。

………しかしのどか達は失念していた。この作戦『完膚なきまでに黒騎士を倒す』といった作戦ならばもっと安心して宝をゲットしてエヴァンジェリンを向かい入れていただろうに。

黒騎士から爆発のような轟音がし、皆は一斉に黒騎士の方を見る。

黒騎士の甲冑や兜にひびが入り砕けるとそのまま地面へと落ち

て漆黒の影のような体や顔が露になった。残った鎧は手と足と腰だけになり、いかにも身軽でありそうだ。巨大で武骨だった大剣ではなく、一回り小さい両手剣に変わっている。

黒目がなく白目しかない顔をのどか達に向けると次の瞬間黒いオーラを放出し体を覆う黒騎士。

 

「……おい、もしかしてあれって"第二形態"とかそう言った類いかよ?」

 

冷や汗を流しながらポツリと呟く千雨にハルナが

 

「あー、うん、そうだよ。因みに第二形態になると身軽になってバンバンビームを打ってくるから気をつけてねー」

「おっま!ふざけんなよ!!それを聞いてたら第二形態なんてさせずに倒す作戦を考えてたわ!!」

 

ハルナの遅れての報告に千雨は恨み節を延々と叫びたくなったが、今は早く宝を手に入れることが先決だ。

直ぐに階段を登るのを再開しようとしたが、黒騎士が一瞬で消えたと思いきや、のどか達の目の前に立ち塞がった。

両手剣に魔力を纏わせ、ビームを放とうとしたその時

 

「うおぉら!!」

 

やけくそ気味に叫びながら、千雨が木の守護者にタックルを命じ、木の守護者は黒騎士にタックルし、そのまま階段を一番下まで転げ落ちる黒騎士と木の守護者について行くように階段を駆け降りる千雨。

 

「こいつの相手はあたしがやる!!あんたらは今のうちに宝をゲットしてくれ!!正直持ちこたえて1分あるかないか位だから!!」

『千雨さん(ちゃん)!!』

 

鬱陶しいと言わんばかりに黒騎士は纏わりついている木の守護者を殴り飛ばした。殴られた胴体は歪に凹み、木屑が小さく舞った。

直ぐに起き上がるように木の守護者に念じる千雨。だが生まれたての小鹿のように足を震わせながら鈍重な動きで起き上がる木の守護者。

木の守護者をほっとき、黒騎士は階段を登り続けるのどか達に狙いをつけて両手剣にビームを纏わせ放とうとする。

 

「させるかぁ!!」

 

黒騎士にドロップキックを当てる木の守護者。だが攻撃を当てる度に動きが鈍くなっていく木の守護者。

鬱陶しく感じたのか、体を反転させて千雨と木の守護者に黒騎士はビームを放つ。

千雨はとっさに横に飛びビームを避けたが、木の守護者は避けることが出来ずに左腕に左脚が消滅し倒れてしまった。

直ぐに起き上がるように念じるが、ダメージプラス腕と脚が無くなったせいで思うように動かせない。

動けなくなった木の守護者に近付く黒騎士は両手剣を振り下ろし、胴体を両断した。上半身と下半身が離れたことによって千雨と木の守護者の繋がりも切れてしまったのか念じても動きはしなかった。

たった4日と短い日数であったが、半身のように自分を護ってくれた木の守護者の最期に悲しさや悔しさの感情が沸き上がる千雨。

そんな千雨にゆっくりと近付く黒騎士は剣先を千雨に向ける。『今からお前を斬る』と言いたげな黒騎士の目を見て千雨は諦めの色を見せる。

そして振り上げた両手剣を振り下ろそうとするのをジェット噴射のドロップキックで阻止した茶々丸と神殿の宝をゲットしたもはほぼ同時だった。

瞬間にファンファーレが鳴り響いた。今この瞬間をもってのどか達のサバイバル修行は終了した。のだが……

 

「やはり、止まってはくれませんか……!」

 

黒騎士の両手剣をビームサーベルで防ぐ茶々丸。修行が終わっても黒騎士は止まる様子を見せなかった。

 

『おい茶々丸。修行が終わったようだからそっちに行こうとしたが転移しないぞ。どういうことだ?』

「マスター、実は……」

 

念話をしてきたエヴァンジェリンにこちらのアクシデントを伝えると、ふっと笑い声が聞こえてきた。

 

『どうやら面白い展開になっているようだな。分かった。2分持ちこたえろ。影の転移でそっちに行く。私が来るまでくたばるんじゃないぞ』

 

そう言い残して念話を切ったエヴァンジェリン。2分、2分持ちこたえればエヴァンジェリンが助けに来てくれる。勝機は見えてきた。

だが茶々丸が鍔迫り合いをしていた黒騎士を蹴り飛ばしたあと直ぐにガトリングを展開し全弾を放ちそのまま片膝をついてしまった。

 

「茶々丸さん!!」

「申し訳ありません千雨さん。先程のジェット噴射と攻撃によって私のエネルギーはほぼゼロになってしまいました。今の私はただの動けない人形と同じです」

 

無防備な茶々丸を容赦なく蹴り飛ばす黒騎士。茶々丸は蹴り飛ばされそのままずるずる地面に倒れ混んでしまった。

のどか達の中で一番戦闘力があった茶々丸が戦闘不能になってしまった。ゆっくりとした足取りで千雨へと歩み寄っていく。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!」

 

それを阻止するために夕映が詠唱しながら黒騎士に向かって雷の斧を振り下ろす。雷の斧が黒騎士に直撃し紫電が走る。だが

 

「………」

 

黒騎士は特に堪えた様子もなく、千雨ではなく夕映に狙いを変えて夕映の体に蹴りをいれた。

 

「かっは……!」

 

体から酸素が抜ける感覚に顔を歪める夕映。本来なら肋骨が折れても可笑しくはなかったが、獅子奮迅の歌によって護られているお陰で大事はなっていない。

だがダメージが全く入っていないわけではない。

 

「げっほ!えっほ!え……!!」

「しっかりしろ夕映さん!!」

 

大きく咳き込む夕映に駆け寄る千雨を一瞥して今度はのどか達がいる神殿の最上に黒騎士は跳ぶ。今度はのどかに狙いをつけ黒いオーラを纏った両手剣を横凪に振るう。

とっさに炎の障壁を展開したのどかだが威力を殺しきれずに、亜子やハルナを巻き込みながら階段を転げ落ちてしまう。

 

「いっつう……」

「体が、痛い……」

「うぅ……骨が折れてないのが奇跡なんだけど」

痛みに悶えているのどか達。黒騎士は最上から跳び亜子の近くに着地すると、亜子の顔に脚を狙いつけるとそのまま下ろした。

 

「ひ!?」

 

短い悲鳴を挙げながら横に転がる。亜子の顔面があった場所はそのまま黒騎士の脚によって砕けていた。あと少し避けるのが遅かったら亜子の顔もどうなっていたか分かったものじゃない。

今だ倒れているのどかに蹴りを入れて強引に立たせ、首を掴む。そしてゆっくりと力を入れていく。

 

「本屋ちゃん!のどかちゃん!」

「この、私が作ったゴーレムがこれ以上勝手な事をするんじゃないわよ!行け剣の女神!!」

 

多少魔力が戻ったハルナは剣の女神を召喚し黒騎士へ攻撃を仕掛ける。

だが剣の女神の剣を片手で持った両手剣で防いでしまい、いとも容易く斬り伏せてしまった。他愛なしと言いたげに何もなかったかのように首を締める力をこめていく黒騎士。

のどか達は確かに魔力を手に入れ、強力な魔法を使えるようになった。だが、魔力は上がったが近接格闘といった身を護る術をまだ身に付けてはいない。魔法が使えなければ無力な少女と化してしまうのだ。

首を締め続けられ意識が遠くなるのを感じたのどか。一瞬マギの微笑みを浮かぶ。

 

「マギさん、ごめん……なさい」

 

それは何の謝罪なのか、のどか自身も分からなかった。だがよく分からない謝罪でも想いは届くのだ。

 

「………おい、何黒い手でのどかに触ってるんだ」

 

怒気を孕んだ声でマギが黒騎士の腕を掴んでいた。黒騎士がマギの方を見るより早く、ガントレットの方の腕で黒騎士の横っ面を殴り飛ばしたのだ。

黒騎士の拘束がなくなり地面に落ちそうになった所をマギが横抱きで受け止める。

 

「悪い、のどか……もっと早くこれればこんなことにならなかったのに」

「ううん、嬉しい。マギさんにこうやって抱き留められて」

 

首に跡を残しながらも笑みを浮かべるのどかに一瞬だけ悲しい顔をするが、マギは直ぐに微笑みを浮かべる。

 

「よく頑張ったな。あとは……俺に任せろ」

 

そう言って背中に担いでいたグレートソードを抜いて構える。

 

「ふん、どうやら間に合ったようだな」

 

と茶々丸の影からエヴァンジェリンがぬっと現れた。ボロボロになっている千雨や夕映を見て鼻を鳴らしながら

 

「良い格好になっているじゃないか。お似合いだぞ」

「うっせ。というか何でマギさんもいるんだよ?」

「あいつも影の転移魔法で着いてきただけだ。のどかが危ないのを目にしたら真っ先に向かって行ったというわけだ」

 

千雨とエヴァンジェリンが話している間に夕映はマギの事を見ていた。マギから感じる気配に全身の産毛が逆立つのを感じた。

 

「エヴァンジェリンさん。マギさんは一体どうしたんです?前のマギさんとは何処か違う感じがするです」

「ほう、綾瀬お前は感じ取ったようだな。そうだ、マギは新たなステップを踏んだのだ」

 

グレートソードを構え黒騎士と睨み合っているマギはハルナに呼び掛ける。

 

「なぁハルナ。あのゴーレムお前が出した奴だろうが……あいつぶった切ってもお前にダメージは来るのか?」

「え?まぁ暴走してるし多分だいじょぶでしょ」

 

現に散々攻撃を黒騎士に当ててもハルナはなんともなかったから大丈夫と言いきっていいだろう。

 

「あぁ。それを聞いたら……思う存分やれるな」

 

獰猛な笑みを浮かべるマギを見て、のどか達もぞくっとした感覚を味わう。数回大きく深呼吸し精神を集中させるマギ。

 

「SWITCH ON BERSERKER LEVEL……40!!」

 

次の瞬間にはマギはグレートソードを持ちながら四つん這いになる唸り声を出しながら歯を食い縛っている。

 

「マギさん!?」

「来るなのどか。大丈夫だと思うが下がってろ」

 

そう言いつつもどこか苦しげに唸り続けるマギを心配そうに眺めていると

 

「UUUU……GAAAAAAAAAAAA!!」

 

雄叫びを挙げながら目が赤く光出した。あまりの大きさにのどか達は耳を塞ぐ。今マギは人から荒々しく猛々しい獣へと変わったのだ。

吠えながら黒騎士に向かって突撃をかます。黒騎士は動じず両手剣に黒いオーラを纏いマギに向かってビームを放つ。このままいけばマギに直撃する。

 

「UUUUUUUU……AAAAAAAAAAAAA!!」

 

叫びながらマギはビームをグレートソードで両断してしまう。あれだけ苦戦を強いられていたビームをいとも簡単に斬ってしまったことに大口を開けてしまうのどか達。

 

「間合いに……入ったぞ!」

 

ビームを切り裂き、マギは間合いに入った。

 

「食らえ……狂牙の乱舞!!」

 

まず最初にグレートソードで黒騎士の胴体を貫き、そのまま闇雲にグレートソードを振り回した。かなり重量があるであろう大剣を小枝のように振り回す。黒騎士はなす術もなくただ斬られ続けられた。

 

「これで!終わりだ!!」

 

最後はグレートソードを下から上へと斬り上げながら跳び着地してから、また肩に納刀した。マギの後ろでバラバラになった黒騎士そのまま爆発するように消滅した。

 

「ふぅ……これで、完了、みたいだな」

 

獣から人へと戻り、玉の汗を流しながら大きく息を吐くマギ。黒騎士を倒した状態はかなり体力と魔力を消費してしまうようだ。

どかりと座り込みそのまま仰向けで寝っ転がるマギ。

 

「あーしんどかった」

 

仰向けに寝っ転がったマギにのどか達が駆け寄る。

こうして大変なトラブルが起こったが、のどか達の修行はなんとか無事に終わるのだった。

 

 

 

 

 



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SWITCH ON BERSERKER

今回は短めです。申し訳ないです。


のどか達がジャングルでサバイバル修行を行っている最中、マギは雪山にてエヴァンジェリンと対峙をしている。

 

「マギ、お前はあの時の野生の獣のように戦っていた時の感覚を覚えているか?」

「あぁ。あの時は体の奥底から力が沸き上がってくる感覚が後から後から押し寄せてくる感じだった。あと少し止まるのが遅かったら呑まれてたかもな……」

 

あの感覚は多分一生忘れないだろうと思ったマギ。少しずつ黒マギに精神を侵され本能で暴れる獣へと変わりエヴァンジェリンを襲おうとしたのは恐怖でしかなかった。

 

「その獣の力を自分の武器に出来ると知ればお前はどうする?その力を物にしようとするか?」

「どういうことだ?」

 

マギの疑問にエヴァンジェリンは説明する。

 

「きっかけは暴走だが、マギは簡易的に闇の魔法を使い自身を強化した。なら暴走しない範囲で使用すれば暴走せずに強化出来る筈だ」

「でもどうやって……」

「頭の中で扉をイメージして、それをゆっくり開けてみろ。全部ではなく少しずつ少しずつ開けるイメージをしてみれば上手く行く筈だ」

「……分かった」

 

マギはエヴァンジェリンに言われた通り、頭の中で扉をイメージしてみた。そしてドアノブを握り少しずつ扉を引きゆっくりと開ける。

よし、上手くいきそうだと思った矢先に

 

『なんだぁ?随分とお早いお呼ばれじゃねぇか』

 

黒マギの声が聞こえ、扉の奥から闇の魔法の魔力が濁流の如く流れ出てきた。

 

「!?ぐっが、がああああああ!!」

 

頭の中で不快感が溢れ出てきそうで、マギの理性を獣性が埋め尽くそうとする。

 

「GAAAAAA……GAAAAAAAAAAAA!!」

 

咆哮しながら暴走したマギがエヴァンジェリンに襲いかかろうとするが

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライナック 来たれ氷精闇の精!!闇を従え吹雪け常夜の氷雪 闇の吹雪!!」

 

闇の吹雪を詠唱していたエヴァンジェリンは本気の一撃をマギに放つ。

 

「GAAAAAAAAAAAA!?」

 

悲鳴を挙げながらきりもみ回転しながら飛んでいき、雪山に激突する。

激突して暫く痙攣していたが、直ぐに起き上がった。

 

「俺、どうなった?」

「暴走して私に襲いかかって来たぞ」

 

暴走は収まったようでマギが状況を聞いて項垂れてしまう。

 

「こうもいとも簡単に暴走しちまうなんて。我ながら情けない」

「だがこれで用途は分かった筈だ。今はゆっくり開ける事をイメージしろ。決して気を抜くな。でないとまた直ぐに暴走するぞ」

 

そうしてマギは夜通し頭の中で扉を開け続け、暴走したらエヴァンジェリンの闇の吹雪で吹き飛ばされるのを続けるのだった。

 

 

 

 

翌日の朝日が登り始めた所で

 

「はぁはぁはぁっ」

 

マギの体を黒い靄のようなオーラが纏っていた。

 

「第一ステップを通過したな。今からその状態を維持したまま私と戦い続ける。暴走せず少しずつ出力を上げていけ。そして暴走せずにその力で戦い続けられる限界値を知るんだ」

「了解だ」

 

そう言いつつ近くに刺さっていたグレートソードを抜き構えるマギ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

気合いを出しながらエヴァンジェリンに向かって行った。そして自分でも驚く

 

(体が何時もより軽い!)

 

自身の体が軽く感じる。そしてグレートソードも軽く持ててしまっている。この擬似闇の魔法のお陰でマギに力がついた事に改めて実感する。

それと同時に一種の快感が芽生え始めていた。本能のままに暴れられる力の解放に段々と抗えなくなりそして

 

「ふん」

「ごふぇ!?」

 

エヴァンジェリンの拳がマギの鳩尾にめり込み、膝から崩れ落ちた。

 

「漏れだしそうになっていたぞ。力の解放を常に少しずつ行うように意識しろ」

「わっ分かった」

 

その後も暴れそうになった時はエヴァンジェリンに止められ、少しずつものにするようにしていった。

そして1日飛んで4日目。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

叫びながら目を赤く光らせ、黒いオーラを纏いながらグレートソードを振るうマギ。その形相は荒々しいが目には理性がしっかり残っていた。

エヴァンジェリンは断罪の剣をマギに向かって連続で振るい何十合も打ち合う。

 

「うぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

鍔迫り合いから思い切り押し出し、空へとエヴァンジェリンを打ち上げた。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライナック 来たれ氷精闇の精!!闇を従え吹雪け常夜の氷雪 闇の吹雪!!」

 

空へと打ち上げられたエヴァンジェリンは闇の吹雪をマギに向かって放つ。

 

「ふぅぅぅぅ………」

 

深く息を吐き意識を集中させ、グレートソードの刀身に闇の魔法の黒いオーラを纏わせる。

 

「オラァ!!」

 

気合いを入れながらグレートソードから黒いビームを放ち、闇の吹雪と衝突し、そのまま闇の吹雪を消滅させ、そのままエヴァンジェリンに向かっていく。

エヴァンジェリンは右に避け、そのままビームは別の雪山を消滅させてしまった。

雪原にエヴァンジェリンは降り立ち、赤い眼光のマギと睨み合い数秒

 

「……よし、それまでだ」

 

戦意を解いたエヴァンジェリンが数回大きく手を叩いた。その音に応じるかのように、赤い眼光は消え黒い靄のオーラを霧散させたマギがグレートソードを突き刺し大きく深呼吸をする。

 

「たった2日でよくものにしたな。流石だな」

「はは、エヴァの教えがとても良かったおかげ……だ」

 

最後まで言いきれずに座り込んでしまった。かなり体力を消費しているようだ。

 

「まだかなり飛ばしすぎているようだな。今後は魔力の消費を最低限に抑え、小出しにしていくのがいいだろう」

「分かった。善処するよ」

 

そう言ってグレートソードを肩に担ぐ。こうやって肩に担ぐスタイルが落ち着くようだ。

 

「一時的に闇の魔法で狂戦士のような戦い方をする……SWITCH ON BERSERKERと名付けよう。そして強化する時はレベル10、20、30と繰り上げていけ。今はレベル40が限界だな。それを越えると意識を闇の魔法に持っていかれるだろう」

「分かった。強化する時はレベル40までにする。それは絶対だ」

 

そう固く誓っていると、茶々丸から念話で連絡が来た。念話の最中は鼻で笑っていたが、終えると舌打ちをした。

 

「どうやらあっちの修行でトラブルが発生したようだ。転移魔法も使えないようだ。今から茶々丸の影を伝って転移する」

 

トラブルと聞いて、マギの感覚がゾワリとした。のどか達が危ない目に会っている所を想像してしまい、いてもたってもいられない。

 

「エヴァ、俺も行きたい。のどか達が危険な目に会っているのに何もしないなんて出来ない」

「まぁ良いだろう。お前の修行の成果を発揮させる良い機会だろう。着いてこい」

 

エヴァにお礼を言い、マギはエヴァンジェリンの影の転移魔法でのどか達の元へ向かったのだ。

 

 

 

 

「……それでエヴァの転移魔法でのどか達の元へ飛んで来てあの黒騎士を倒したってことさ」

 

話しは今の時間に戻り、マギやエヴァンジェリン、のどか達は別荘の中央地点にある城に戻ってきていた。

 

「でも、間に合って良かった。君達に何かあれば……」

「無事で本当によかったレス」

 

合流したプールスものどか達が無事な事をほっとした表情を浮かべていた。

 

「あたしらも確かに危なかったけどさ、マギさんアンタは大丈夫なのかよ?黒騎士を倒したあの姿、まともな感じじゃないだろ。あれは一種のドーピングみたいなものじゃないのか?」

「そうだな。一応限界値はレベル40でこれ以上上はまだ見たことない領域だ。けど、レベル40が獣と人とのギリギリの境界線だ。余りレベルを上げすぎて獣の領域が多くなれば暴走する可能性は高くなるだろうな……」

 

ガントレットを何回か開閉しながら呟くマギを見てのどか達はマギの身を案じる。

 

「マギを心配するならもっとお前達は自身を強めることだな」

 

そう言ってエヴァンジェリンはのどか達を見る。

 

「まぁまずは無事に修行を終えた事を誉めてやろう。よくやったな」

 

上から目線の称賛を送るエヴァンジェリン。しかしと続ける。

 

「どうやらお前達は近接格闘を覚えた方がいいようだな。敵に近付かれてしまったらどうしようもなくなってしまったら話しにならないからな。修行の第二段階は近接格闘だ。この修行は私が付きっきりで行う」

 

エヴァンジェリンが付きっきりと言った瞬間、のどかや夕映は戦慄を覚えた。エヴァンジェリンのことだ。絶対優しく手心をくわえることは一切ないだろう。

 

「私の修行は厳しいぞ。骨が折れて砕けようが続ける積もりだ。まぁ酷い時は近衛木乃香に治療させてやる。怖じ気ついたか?尻尾を巻いて逃げても私は笑わないから安心しろ」

 

逃げても良いんだぞ?とエヴァンジェリンが目で語っていたが、のどか達は逃げる様子は一切見せない。

 

「……いいだろう。明日から開始する。容赦なく行うから覚悟しておけ」

 

こうして明日からまた新しい修行が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 



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夏祭りサバイバル

夏休み真っ只中、マギ達はエヴァンジェリンの別荘で修行を行いながら外に出てリフレッシュを行っていた。

現在、マギ、ネギプールスの3兄妹は太鼓や笛が賑やかな音色を立て、赤い提灯がズラリと並んでおり、色とりどりの屋台に子供達が楽しそうに集まっていた。

そう、今マギ達は夏祭りにやって来ているのだ。

 

「すごい人の量だな……」

「これが日本のお祭りなんだね!」

「とっても楽しそうレス!!」

 

人の多さに感嘆の声を挙げるマギと目を輝かせるネギとプールス。3人とも日本の夏祭りは初めてなので興味津々だ。

 

「しかし、のどか達遅いな」

「何か準備することがあるみたいだよ」

 

マギ達3兄妹だけが祭りの会場に来ていて、お馴染みのアスナ達はまだ来ていない。何か準備することがあるのだろうかと時計を見ながら待っていると

 

「お待たせー」

とアスナの声が聞こえて振り返り、あぁ成る程と納得するマギとネギ。アスナ達は浴衣を来ていた。

 

「そう言えばアタシ浴衣を着るの数年振りかも」

「えへへーネギ君どうかな?似合うー?」

「はい!アスナさんやこのかさんもとっても似合います。刹那さんも!」

 

アスナは鞠の刺繍をされた赤い浴衣。このかは優しげな緑で万華鏡のような模様が刺繍されており、刹那は爽やかそうな蒼の浴衣だった。

 

「あのマギさん、どうかな?似合ってますか?」

「のどか達とどれがいいか選んで決めましたです」

「正直わたしはこういった格好は活動以外じゃ着ないと思ってたんですけどね……」

「ウチらマギさんに似合ってるって言ってもらうために選んだんやよ」

 

のどかは紫陽花が刺繍されている紫の浴衣で夕映はピンクと白の浴衣で千雨はあざやかなオレンジの浴衣で亜子は水玉模様の水色の浴衣だ。

 

「あぁ、どれも皆に似合って思わず見惚れてしまったよ」

 

気障っぽい台詞に聞こえるが、マギは自分の正直な気持ちを口に出した。マギの誉め言葉にのどか達も嬉しそうにしているから間違ってはいないだろう。

遅れて古菲や楓にハルナも浴衣を着て現れた。

 

「ふわぁ、お姉ちゃん達皆きれいレス」

 

浴衣を見たプールスがさっきよりも目を輝かせている。

 

「あっちで浴衣のレンタルしてるみたいだからよかったらレンタルしてみれば?」

 

アスナからの提案によってマギネギプールスはレンタルしている場所へ向かった。

数十分後

 

「ふわぁ~かわいいレス!」

 

プールスはピンク一色の子供らしい浴衣を

 

「えへへ、ちょっと恥ずかしいな」

 

ネギは青色の少年ぽい浴衣だ。大人びているネギでは少々趣味が合わないようだ。そしてマギは

 

「これが甚平か。浴衣と違って動きやすいな」

 

浴衣ではなく黒の甚平を着ていた。個人的には動きやすくて良いなと思っているようだ。

 

「マギさん似合ってますね」

「そうか?ははありがとう」

 

のどかに誉められ、ガントレットで頬を掻くマギ。

 

「それで何でここの夏祭りに来ることになったんだ?」

 

マギが夏祭りに来た理由を訪ねようとすると

 

「それは私が説明しよう」

 

と黒い浴衣を着たエヴァンジェリンが不敵な笑みを浮かべながら現れた。

 

「どうだマギ?私の浴衣姿は似合っているだろう?」

「あぁ、そうだな。エヴァの金色の髪に黒の浴衣は合っているな」

「そうだろう。他の女達よりも似合っているだろう?」

 

エヴァンジェリンの物言いに何人かがムッとした顔になる。

 

「おいエヴァ、返答に困るのは勘弁してくれ」

「ははは冗談だ。さて、今日お前達に此処に集まってもらったのは他でもない……」

 

と理由を説明し始めたのだが、その内容が

 

「成る程、3ーAの一般人組に新しく認可された部活のことや、イギリスに行くことがバレたと」

「ごめん。アタシがいいんちょにお父さんの事を調べて貰って結果を受け取った時にまき絵や双子ちゃんが詰め寄って来て、あれよあれよといった結果に……」

 

3ーAにはマギやネギに関わっている魔法組と特に関わっておらず日常の学園生活を謳歌している一般人組に分かれている。

そんな一般人組のネギ大好きなまき絵やあやかに、マギを慕ってる風香と史伽にバレてしまった。

そうなれば基本イベント事大好きな他の一般人組の生徒にも知れ渡るだろう。

マギ達が行く魔法世界ではどんな事が起こるか分からない。最悪なアクシデントが起こる可能性を考慮したら無闇に一般人組の生徒を巻き込むわけにはいかない。しかしエヴァンジェリンはある事を考えていた。

 

「しかし、無理に突っぱねても引かないのは何時ものことだ。そこで……茶々丸、例の物を配れ」

「はいマスター」

 

仮のボディに入っている茶々丸がアスナ達に白い翼のバッジを配った。

 

「白い翼のバッジとか随分洒落たもんじゃねえか」

 

千雨がまじまじと見てから浴衣に着ける。

 

「これはナギ達が紅き翼と名乗っていたからな。それにならって白き翼と名乗ればいくらか格好がつくだろう」

 

白き翼の前はネギま部(仮)と名乗るには格好つかない名前だったために、エヴァンジェリンがそう考えたのだ。

白き翼のネームにカッコいいと納得しているアスナ達だが

 

「言っておくが、イギリスに行くまでにそのバッジを失くした者は強制退部だからその積もりでな」

『え!?』

 

強制退部に目を見開くアスナ達。段々とエヴァンジェリンが言いたい事が何か分かってきたようだ。

 

「この夏祭りで一般人組にバッジを奪われた者はバッジを奪った者と入れ替わりでイギリス行きを許可する。云わばバッジサバイバルと言った所だな。一般人組に遅れを取られないように精々気張ることだな」

「ちょっと待ってよエヴァちゃん!仮にいいんちょ達にバッジを取られて、魔法も知らないのに魔法世界に行ったら危険じゃない!」

「知らんな。何時ものノリと勢いで行けば何とかなるんじゃないか?」

 

そんな無責任なと思うアスナ達。だがこれは自分達の意思でバッジを奪おうとしてるのだ。こればかりは自己責任も問われるだろう

 

「あぁそれと、のどかに綾瀬に長谷川に和泉。お前達の中でバッジを奪われた者は、私の修行プラスイギリスは取り消しだからその積もりでな」

 

エヴァンジェリンの言った事にのどか達は顔を青くする。

エヴァンジェリンの修行。それは正に生き地獄と言って良い程の過激さで、ジャングルでのサバイバル修行の方が優しいと錯覚する程だった。

格闘技術を素人であるのどか達に骨の髄まで叩きつけた。初日から数日は死を覚悟する程であった。

修行はエヴァンジェリンとマンツーマンで行った。これはこのかのアーティファクトの完全治療が1日に1回しか使えないからだ。骨が砕けるか折れたらこのかの力で治癒してもらい。よく体を休ませている間に、次の人がエヴァンジェリンの相手をする。それの繰り返しを行ってきたのだ。

この修行のおかげでこのかのアーティファクトの修行にもなったのは複雑だったとこのかは溢していた。

そんな修行をまた行い尚且つイギリス行きは取り消しはかなり堪えるものだ。

ならば絶対にこのバッジを死守するだけだ。

 

「さてそろそろあいつらがやって来るだろう。纏まって動くんじゃあないぞ。せいぜい2人1組で動け。解散だ」

 

イギリス兼魔法世界行きを賭けたサバイバルが今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

のどか、夕映組は一般人組の襲撃に備えながらも夏祭りを楽しんでいた。

今は小休憩で人気のない林で休んでいる。

 

「まさかこんな事になるなんて……」

「うん、思いもしなかったよね」

 

白い翼のバッジを改めてまじまじと見てポツリと呟くのどかと夕映。

エヴァンジェリンは絶対にバッジを奪われたら行かせないと言っていたが、本当だろう。一般人組に遅れを取るぐらいなら足手まといになってしまう。

 

「でも、もし魔法を知らない人が魔法世界に行ったら」

「おそらくですが簡単な観光を終えて帰宅。いや、最悪の場合はマギさんだけが奥へ行く可能性が……」

 

マギに限ってそんな事はないと言い切りたいのどかだが、クウネルと話していた時に、この期を逃したくないと言っていた。

父であるナギの事を知るためなら、もしかしたら飛び出してしまうかもしれない。

そうはさせたくないから修行をしているのどか達であるが、一般人組がいたらかなり大きな足枷になってしまう。そうならないためにも

 

「このバッジは何が何でも」

「絶対死守……だね」

 

このバッジは守り通すと誓っていると

 

「やーやー良いバッジを着けているね。私はバッジ仙人!そのバッジをもっとよく見せてくれないかな!?」

 

へんなお面を着けた裕奈がのどかと夕映に近付いて来た。低クオリティな変装に思わず呆れるのどかと夕映。

 

「えっと裕奈ちゃん……」

「何馬鹿な事をやってるんです?」

「うぇ!?何でこんなあっさりバレるもんなの!?」

 

更に裕奈がポロっと自分でも正体をばらしてしまう。そんな裕奈に駆けてきたまき絵がドロップキックを食らわせる。

 

「あははははーごめんねー今のなしー!!」

 

誤魔化しの笑いを挙げながら倒れた裕奈を引きずるまき絵。後方からはアキラが走りよってきた。運動神経に自信がある裕奈とまき絵はのどかと夕映に狙いを着けたのだ。

 

「へーエヴァンジェリンさんから聞いたけど、カッコいいデザインだね!!もっとよく見せて見せて!!」

 

と言っているが、魂胆は見え見えである。油断した所をかっさらう積もりなんだろう。

 

「えへ、えへへへ。ほんとに素敵なバッジだねぇ……」

 

しかし顔が凄いことになっている。のどかのバッジにゆっくり手を伸ばすまき絵は目をギラギラと光らせ、息を荒げている。

その姿が、卑しい物乞いのように見えてしまい

 

―――汚らわしいなぁ―――

 

のどかの中で何かが冷えていくのを感じ、カチリとスイッチが切り替わった感覚が巡った。

 

「……ふぇ?いた、いたたたたた!?」

 

気づけばのどかがバッジに手を伸ばそうとしていたまき絵の手首を掴み、ゆっくりと力を込めていく。

 

「ねぇ、汚い手で私とマギさんの繋がりを奪おうとするのは止めてちょうだい」

「のっのどか!?貴女今何を言ってるか分かってるです!?」

 

今のはクラスメイトに言っていいことではない。

夕映がのどかを咎めようとする。と、ぱっとのどかがまき絵の手首を離す。手首には赤い痕が残っている。それ程強い力で握っていたのだろう。

夕映の方を振り返る。その顔には冷笑を浮かべており、夕映ものどかの冷笑を見て思わず竦み上がってしまう。

 

「何言ってるのゆえ?あいつらは私とゆえの大事なものを奪おうとした敵なんだよ?だったら敵をさっさと追い払わないと」

「のどかこそ何を言ってるです!?同じクラスメイトを敵って言っていいことと悪い事があるです!!」

 

のどかの雰囲気に臆さず言い返す夕映。自分達を敵と言われ流石に来るものがあったまき絵と裕奈はリボンと学園祭で使っていた拳銃型の魔法武器(景品として頂いた)を構える。

 

「ねえ本屋ちゃん。私達も馬鹿にされて笑って流せる頭の持ち主じゃないんだよ」

「そう言えば私達ってあんまり喧嘩とかしなかったよね。お祭りにかこつけて喧嘩祭りと洒落混もうか?」

「ねっねえ、ちょっと落ち着いた方がいいよ」

「ふふ、かかってきなさい。格の違いを教えてあげるから」

「のっのどか落ち着くです!!」

 

アキラと夕映が落ち着かせようとするが、喧嘩の火蓋は切って落とされた。

 

「敵を打て!!」

 

裕奈が唱え引き金を引き光弾がのどかに向かって行く。しかし

 

「何これ?こけおどし?」

 

のどかは無詠唱の炎陣結界で光弾をあっさりと防いでしまう。

 

「ええ!?何それ!?」

 

自分の攻撃が炎の壁に防がれた事に驚きを隠せないでいると

 

「ええい!!」

 

まき絵が巧みにリボンを操り、のどかの両手首に巻き付け拘束する。

 

「やった!」

 

上手く拘束出来たことにガッツポーズをするまき絵だが……

 

「これで私の動きを封じたと思っているなんて、こども騙しもいいところね」

 

両腕に魔力を回し、強引にリボンを引きちぎった。小気味のいい音で紙のように意図も容易くリボンがただの布へと変わる。

 

「ええ!?うそお!!」

 

のどかに引きちぎられた事に驚いていると、のどかはまき絵の間合いに入り、軽くまき絵の顎を殴った。殴られたことでまき絵は脳震盪を起こし、そのまま倒れてしまった。

 

「この!やったなぁ!!」

 

裕奈は再度のどかに狙いをつけるが、のどかは一瞬で裕奈に近づき、そのまま某傭兵が使っている格闘術で祐奈を地面に沈めた。

そして動きを取らせないように、肩の関節を固めて動けないようにする。しっかり痛みを添えて。

 

「いたたたたたたたた!!ギブギブアップ!!」

「まだよ。二度と歯向かえないように徹底的に痛めつけてあげる」

 

更に強めるのどか。アキラは顔を青くして助けを呼んだ方がいいのではと考え始める。

 

「のどか!やりすぎです!このままだと裕奈さんの肩が壊れてしまうです!!」

「なに言ってるのゆえ?敵はこうやって、徹底的に、潰しておかないと……」

「っ。のどか……ごめんなさいです!!」

 

これ以上はいけない。先に謝って、夕映は手に魔力をこめ、のどかの頬に平手を当てた。林に乾いた破裂音が響く。

叩かれたのどかは暫く呆然としていたが、暫くしていると、先程まで無かった目に光が戻ってきた。

 

「あれ?私、何をやっていたの?」

 

先程までの記憶が飛んでいるようで、倒れているまき絵や今自分が裕奈の肩を固めていることに目を見開いて驚愕する。

 

「わっ私なんてことを!ごめんなさい裕奈さん!!」

「あーいてててててて……変な世界が見えそうになった気がするよ……」

 

すぐに離れ謝罪するのどか。裕奈は何時ものノリを出そうとするが、やはりかなり痛かったのか目尻に涙を浮かべていた。

 

「……はれ?私、いつの間にか寝ちゃってたの?」

 

気を失なっていたまき絵も起き上がり、意識が朦朧としていたが、空気が重くなりすぎている事は何とか気がついた。

 

「ごっごめんなさい!ごめんなさい!私、私、なんてことを……!!」

「のどか、落ち着くです。今はここを離れるです!のどか行くです」

 

そう言って夕映は少しパニックになっているのどかを連れてこの場を離れようとして裕奈達の方を振り返る。

 

「裕奈さん、のどかの代わりに謝ります。ごめんなさいです。ですが私達が行く場所は、もしかしたら自分の身は自分で護らないといけない場所かもしれないです。ですから、私達のように特殊な訓練をしていない人を連れていくことは出来ないのです。分かって下さいです。それでは」

 

夕映は足に魔力を回し、跳躍しこの場を離れた。目の前で驚異的なジャンプを見て呆然としてしまう。

裕奈はのどかに肩を固められた時に、学園祭のマギとアーチャーの戦いを思い出してしまい、肩が震えた。

 

「ゆーな、大丈夫?痛かったらもう帰る?」

 

まき絵は裕奈を心配して声をかける。正直、もう祭りを楽しめる雰囲気ではない。だが裕奈は

 

「えー!?折角来たのにもう帰るの!?楽しい事にアクシデントはつきものでしょ!?これはこれ、それはそれで切り替えて楽しもうよ!!それにイギリスに行きたいならネギ君ダイスキないいんちょに頼めば一緒に行ける。でしょ?」

 

神父(美空)の教えを守り、元気な姿を見せるのだった。

 

「ゆーな……うんそうだね!折角来たんだから楽しまないと損だよ!!それに、私まだネギ君の浴衣姿を見てないからね!!」

「それなら、早く行こ?それと、汚れを落としてからね」

時には空元気も大事。そう言い聞かせ、まき絵達は祭りの会場へ戻った。

 

「……のどか、結構化けるようになったじゃないか」

 

木の影から様子を見ていたエヴァンジェリンはふっと笑いを見せていた。

近接格闘の修行を行うようになってから、のどかのあのような攻撃的な性格は時たまに出るようになった。

発動条件のトリガーは『のどかが危険な目に会いそうになった時』だ。今回のバッジが奪われそうになったのが危険な目かと言われれば……これはのどかの匙加減だろう。何かのどかの機嫌を損ねるような行動をまき絵が行ったことで強制的にスイッチが入ったのかもしれない。

攻撃的なのどかの相手もしたことがあるが、その時はのどかが気絶した時に変わっていた。攻撃的になり攻め方が苛烈だったが、結局はエヴァンジェリンの圧勝である。しかし負けていてものどかはクスクスと笑いながら

 

『今はせいぜいお山の頂上でふんぞりかえっていることね。近い内に貴女からマギさんを奪ってあげるんだから』

 

そう言い残して気を失ない、目が覚めると何時ものおどおどしてるが優しいのどかに戻っていた。しかし先程までの記憶は持っていないようで、いまいち状況が掴めずにぼうっとしていたのだった。

そんなことを思い出すエヴァンジェリン。

 

「少々、見張っている必要があるかもな……」

 

と呟き別の場所へ向かうエヴァンジェリンだった。

 

 

 

 

 

 

別の場所、風香と史伽は焦っていた。先程楓についていたバッジを手に入れようと2人がかりで飛びかかったが、残念。相手は忍者と言うこともあり、意図も容易くあしらわれてしまった。

 

「ぶー。悔しいんだよ!!」

 

楓に涼しいかおであしらわれた事に風香が憤慨していると

 

「お姉ちゃん、あれ見て!!」

 

史伽が指差した先には亜子と千雨が屋台を回っていた。亜子と千雨とは珍しい組み合わせだと思った双子だが、これは好都合だと思った。

 

「千雨ちゃんはインドア代表の子だよ。千雨ちゃんなら簡単にバッジをゲット出来るはずだよ」

 

風香と史伽は頷くとまず最初に千雨からバッジを奪うことに決めたのだった。

その風香と史伽に狙われている千雨は亜子と屋台回りの最中だ。

 

「はぁ、久しぶりのまともな休日やねー」

「そうだな……」

 

ほのぼのと言った感じで呟く亜子と千雨。

 

「別荘で体感した数十日は正に地獄と言っても良い程やったからなぁ。特に千雨ちゃんが」

「言わんでくれ。今でも思い出すとトラウマが発症しそうだ」

 

千雨は思い出し祭りには似つかわしくないげっそりとした顔を浮かべる。

のどか達の中で一番体力が低かった千雨はそれはもう酷く、何度も胃の中を戻したことか

 

「けど、この修行のお陰で私はかなりのレベルアップをした。文武両道なネットアイドルなんて、ちうが更なる高みに登ったもんだよ」

「そうやね。ウチも千雨ちゃんの配信見てみたけど、イキイキしててキラキラ輝いていたよ。とっても素敵やったよ」

 

素敵と言われ顔を赤くする。その顔の赤身が照れなのか喜びなのかは分からないが、亜子は嬉しそうににこにこと笑みを浮かべる。

ところで

 

「なぁ」

「うん……ウチらつけられとるね」

 

自分等に近づく2つの気配。それはよく知る幼い気配だ。

 

「捕ったぁ!!」

「やぁぁ!!」

 

風香と史伽が千雨に飛び掛かり、バッジを奪おうとする。まずは1個を絶対にゲットし、もう1個は後で考えればいい。そう判断した風香と史伽。

 

「ふっ……」

「ぶべぇ!?」

「きゃあ!!」

 

しかし千雨は風香と史伽が来ることを察知していたので楓の様に簡単に双子の突撃を避けた。びたんという擬音が聞こえような盛大に地面にダイブした風香と史伽。

 

「残念だったな。お前らの尾行なんてこのちう様がお見通しなんだよ」

 

千雨は自身が身に付けているバッジをこれ見よがしに風香と史伽に見せつける。

 

「どうせこの私からだったら簡単に奪えると思ったんだろ?どうだ?長瀬と同じように簡単にあしらわれてどんな気分だ?んん?」

「うわぁ、千雨ちゃん人が悪いなぁ」

 

千雨の挑発に苦笑いを亜子が浮かべていると。挑発に乗ってしまった風香と史伽は再度千雨に食って掛かる。

 

「うううう!そのバッジをよこせえ!!」

「よこすです!!」

「はっはっは!のろいのろい!あくびが出そうだ!」

 

双子のコンビネーションもエヴァンジェリンの攻め苦に比べれば赤子同然だ。

しかし段々と人の流れが大きくなってきた。このままいくと人混みに紛れて奪われる可能性が高くなりそうだ。

 

「千雨ちゃん逃げよう!」

「了解」

 

風香と史伽から逃れるためにその場を離れる。逃がすまいと千雨と亜子を追いかけるが

 

「おっ追い付けない!?」

「待ってぇ!!」

 

千雨と亜子は人の波をすいすいと避けていった。これには驚きを隠せない。

亜子はサッカーの経験者だ。人ごみもドリブルをイメージして避ければわけはないだろう。

しかし千雨は違う。風香と史伽からしてみれば千雨は運動がからっきしな少女なはずなのにどうしてと頭のなかで疑問符が巡っている。

追われている亜子と千雨は

 

「ねぇ千雨ちゃん……」

「ああ、なんというか逃げてる筈なのに追い詰められている感じだ」

 

気分は追い込み漁の魚だ。そしてその理由も直ぐ分かる。逃げた先は広い広場。

そこには屈強な体格の男子学生がずらりといた。各々胴着を着ている者もいるから武道を嗜んでいる者なのだろう。

そんな男子学生が一斉に亜子と千雨を見る。

 

「おい、この子達例のバッジを着けてるぞ。ターゲットだ」

 

1人の男子生徒がそう言い、男子生徒達がジリジリと亜子と千雨に近づいてくる。

 

「悪いなぁ嬢ちゃん。俺らそのバッジを手に入れるように頼まれてるんだわ。だから大人しくそのバッジを俺らに渡してくれないか?」

 

そう言って少しずつバッジに手を伸ばそうとしている男子学生。

 

「……なぁ亜子さんよぉ。これってあたしら襲われてるって判断しても大丈夫か?」

「大丈夫やない?」

「だったらよぉ……返り討ちにされても文句は言えねえよなぁ?」

「言えないんやないかなぁ」

 

千雨と亜子の話を聞いて男子学生の何人かが吹き出した。まるで自分達に勝てるとでも言いたげだ。

 

「おいおいお嬢ちゃん。まるで俺達に勝とうって言っているようじゃないか?悪いが俺達に勝とうなんて無理な話―――」

「とう!」

「ごぺえ!?」

 

亜子がジャンプし男子学生の顎を蹴りあげた。蹴られた男子学生は変な声を出して、数10cm浮くとそのまま背中から盛大に倒れた。

亜子に蹴り倒された男子学生を見て呆然とする男子学生達。すたんと着地した亜子は

 

「あっちゃー。手加減したんやけど、伸びとるなー」

 

とあれでも手加減したとそう言い放った。その言葉を聞いて、亜子の事を自分等が崇拝してる古菲と同等のレベルだと判断した。

掛け声を出して一斉に亜子に掛かる男子学生達。端から見たら女子生徒を男子学生が襲っている警察案件であるが実際は真逆である。

亜子の強烈な蹴り技で次々と男子学生達は戦闘不能となってしまっている。

エヴァンジェリンはサッカー経験者である亜子のキック力を存分に活かせるように、空手やキックボクシング、ムエタイ、カポエイラと蹴りが主流の武術を叩き込んだ。

元々運動神経が高い亜子はめきめきと成長していった。更には

 

「やあぁぁぁ!!」

 

逆立ちし、開脚し(スパッツを履いて)某黒足のコックのような回転蹴りを披露し始める。

亜子には敵わないと悟った男子学生は今度は千雨に狙いを付けた。

 

「はぁ、まぁあたしを狙ってくるのは分かってたけどさ」

 

やれやれとため息を吐く千雨。千雨を捕まえようと伸ばしてきた手首を掴み

 

「ほい」

 

思い切り捻ると

 

「おわぁ!?」

 

男子学生は盛大に大回転し、そのまま顔面から地面に激突した。鈍い音が聞こえ、もしかしたら鼻が折れてしまったかもしれない。

けど千雨は

 

「このちうちゃんにお触りしようとしたんだ。此ぐらいは当然だよな」

 

しれっと言ったのだ。まさかノーマークのような千雨の柔術に戦慄する男子学生。

千雨が柔術を身に付けるまでそれはもう血反吐ろな日々だった。

 

『うげぇ………』

 

近接格闘術の修行にて、千雨は自身が吐いた吐瀉物に沈んでいた。

 

『長谷川千雨、お前本当にセンスがないんだな』

 

修行相手のエヴァンジェリンは盛大な溜め息を吐いていた。

別荘での数日、千雨だけ色々な武術を教えているが、丸っきり成果がない。

というのも、千雨の元のポテンシャルに問題があるのだろう。

千雨はインドアなネットアイドル。元々体力は3ーAの中では下の部類、更にジャングルでの戦闘は木の守護者に任せきりであった。

そんな千雨に武術を教えるのは難しいだろう。

 

『わっ悪かったな……センスのないもやしっこでよ……』

 

膝が笑いながらやっとこさと起き上がる千雨。その顔は先程盛大に吐いたために青くげっそりとしている。

これ以上は無駄骨と判断したエヴァンジェリンは方針を変えることにした。

 

『長谷川千雨、お前には別の武術を叩き込む。柔術だ』

『柔術?それって柔道や合気道とか護身術として使われているあれか?』

『そうだハッキリ言ってお前は自分から前に出て戦うようなタイプではない。人形を前にして自分は後衛にいた方がお前向きだ』

『そりゃ、そうかもだけどよ。皆自分から攻めていく武術なのにあたしだけ相手の攻撃を待ってるような……』

『お前は何か勘違いしているようだが、大事なのは自分が死なんことだ。相手を倒すことじゃない。それはのどか達にも言っている。お前達の武術は自身を護るための最終防衛ライン。自分達から果敢に攻めても死に向かうだけだとな』

『……』

『分かったならさっさとやるぞ。言っておくが私は柔術だからと甘くするつもりはない。技が決まらなければそのまま沈めるからな』

 

そう言ってエヴァンジェリンは千雨に合気道等の柔術を教えていく。その言葉通り技が決まるまで何度もエヴァンジェリンに沈められていった。

そして今に至る。男子学生は躍起になって千雨に食って掛かっていく。それが千雨の誘いだと気づかずに。

千雨の柔術はほとんがカウンター。相手が敵意を持っていれば簡単に沈める事が出来る。

亜子の蹴り技の派手さはないが、確実に相手を倒すその流動は流れる川の様に綺麗だ。

ならばと1人の男子学生が気配を消し、少しずつ千雨の背後から近づいてきた。

あと少しで千雨の肩に触れそうだ。勝った、このまま掴んで押し倒しそのままバッジを奪ってやろう。

勝利を確信した瞬間、千雨が上に跳び、片手で男子学生の頭を掴みそのまま背後に回った。

 

「……は?」

 

理解が及ばないまま男子学生は振り返ると、千雨が男子学生の顔面を掴み、足を引っ掛け思い切り引いて大回転させた。

大回転している男子学生は悲鳴を挙げる間もなく顔面から地面に激突して動かなくなった。回転しすぎてか思い切り顔面をぶつけたからか伸びている。

背後から近づいてきたのは見えていないのに何故分かったのか、男子学生達は戦々恐々として千雨にもう近づく者は現れない。

種明かしをすると、千雨は雷の魔法を使う。そして雷の魔法をで人間の微弱な電気を感じている謂わばレーダーのようなもので人の気配を感じ取っている。だから人ごみの僅かな隙間だったり、背後の人の気配を感じる事が出来るのだ。

亜子と千雨、たった2人に苦戦していると

 

「何やら面白い事してるじゃん?」

「私達も参戦させてもらうアルよ」

 

ハルナと古菲が飛び入り参戦してきた。ハルナはアーティファクトで炎の魔神を召喚し次々と男子学生を蹴散らしていく。

男子学生が崇拝している古菲もお馴染みの中国拳法でノックアウトをしていく。

数分後には学園中の実力をもった男子学生、30人以上はたった4人の女子生徒によって全滅させられてしまった。

これには千雨と亜子を追いかけてきた風香と史伽も目を見開き、口を大きく開けるしか出来なかった。

 

「どうだ?あたしらの力は。正直此ぐらい出来ないとあっちじゃ難しいぞお。あたしらももしかしたら危ない場所にいくかもしれないからな。このとんでも学園に慣れてると痛い目みるかもな」

 

風香と史伽は悔しいが納得してしまった。目の前の千雨が次々と男子学生を薙ぎ倒す光景を見て、自分達じゃあの男子学生に軽々と持ち上げられてしまうだろう。

本来なら裕奈やまき絵と合流する筈だったが、こっちに来る気配がない。返り討ちにあって、戦意が折れたのだろうと判断する風香と史伽。

 

「まぁ此ぐらいでいいだろう」

 

と凛とした声が聞こえた方向からエヴァンジェリンとその後ろを茶々丸が歩いてきた。

 

「和泉亜子。長谷川千雨。それぐらい動ければ問題はないだろう。ただし、こいつらを蹴散らしたからと言って調子に乗るなよ。こいつらはゲームで言うところの戦うが簡単に死ぬNPC風情でしかないからな」

 

幼い見た目のエヴァンジェリンに言われプライドが傷ついた男子学生の何人かが起き上がりエヴァンジェリンに向かおうとする。

しかしエヴァンジェリンが男子学生達に殺気を飛ばす。鷹の目のように鋭い瞳孔で見られ心臓を鷲掴みにされた感覚が襲う。

 

「私ぐらいなら此ぐらい余裕だがな」

 

エヴァンジェリンの殺気を当てられ、亜子や千雨も青い顔で何度も頷いた。

 

「それで鳴滝風香鳴滝史伽、まだやるか?私としてはもっとお前達が無様に抗う姿を見てみたいのだがな」

「……ううん」

「……もう、ギブアップします」

 

なんだつまらん。小さく呟き風香と史伽を一瞥する。

 

「これにて茶番劇は終了だ。後は各々自由に過ごせ。言っておくが私が去った後にバッジを盗んでもイギリス行きは許可せん。それとバッジを持っている者は無くすんじゃないぞ。無くしたら、分かっているよな?和泉亜子、長谷川千雨」

「ふぇ!?」

「なんであたしらだけに言うんだよ」

「喧しい。私の無駄に長い時間をいお前達に分けてやったんだ。その労力を無下にするなと言っているんだ。しかし……まぁ及第点と言った所だな」

 

そっぽを向き呟くエヴァンジェリン。そんなエヴァンジェリンを見てニヤニヤしているハルナを見て睨む。

 

「ああそれと、のどかに綾瀬夕映に長谷川千雨に和泉亜子。お前達は私とマギと一緒に一足先にイギリスに行くぞ」

「「……え?」」

 

きょとんとした顔を浮かべる千雨と亜子。別の場所ではあやかとアスナが一騎討ちをしてアスナが勝利を収め、バッジサバイバルは魔法組の勝利で終わった。

そして、また別の場所では

 

「マギさん」

「千鶴」

 

花火が空に咲いている中で見つめ合っていた。

 

 

 

 

 



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自分が進むべき道

アスナ達がバッジ争奪戦をやっている中でマギはプールスを連れて屋台を回っている。

 

「すごいレス!キラキラピカピカってきれいなお店がいっぱいいっぱいレス!」

「そうだな。俺もこんなすごい光景を見るのは初めてだ」

 

記憶が無いから初めてなんだけどなとは口が裂けても言わない。そんなことを溢せばプールスが悲しい顔を浮かべるのは見てとれるからだ。

こんなに楽しんでいるなら折角だし何か買ってあげるかと考えていると

 

「あら、マギ先生。こんばんは」

「あっマギさんにプールスちゃん!やっほー!」

 

千鶴と夏美が現れた。どうやら彼女らも夏祭りに来たようだ。千鶴はおしとやかな青の浴衣と夏美は明るいオレンジの浴衣を着ている。

 

「どっちも似合っているな。とても綺麗だし、かわいいな」

 

似合っていると思いそのままストレートに声に出して誉めるマギ。

 

「ありがとうございますマギ先生」

「ありがとうマギさん!そういえばそのっ、コタロー君はどこに行ったか知ってる?」

「ネギと一緒に輪投げやるって言ってたな。どっちが多く点取れるか勝負するって」

 

尋ねられてマギは小太郎がいるであろう場所を指差した。

 

「ありがとうマギさん!その、千鶴姉……」

「良いわよ行ってきなさい。折角の夏祭りなんだし、思い出作りも大事よ」

「ありがとう!それじゃあ行ってくる!」

 

千鶴にお礼を言い、夏美は小太郎がいるであろう場所へと向かった。

と残された千鶴。これからどうするか折角だしゆっくりのんびりと祭りを見て回ろうとしたら

 

「なぁ千鶴。折角だし、俺達と祭りを見て回らないか?」

「え?宜しいんですか?」

「ああ。迷惑じゃなければどうかな?2人より3人の方が楽しいと思うんだけど」

「私も千鶴お姉ちゃんと回りたいレス!」

 

プールスも千鶴と回るのを望んでいた。折角慕っている人のお誘いだ。断る理由もないと判断した千鶴は早い。

 

「ええ。ではご一緒しましょう。参りましょうかマギ先生」

 

にこやかに笑い、一緒に祭りを回る事にしたのだ。

 

 

 

 

屋台を回ってプールスが気になったもの。白くて雲のようにモコモコしている、わたあめだ。

 

「マギお兄ちゃん、あのおじさんくもさんを作ってるレス!」

「いや、雲じゃあねえだろうけど、何を作ってるんだ?」

「あれはわたあめです。屋台の代表格とも言えるお菓子ですわ。甘くて口の中で溶けてしまうそういったお菓子です」

 

プールスは機械の中にざらめ糖を入れ棒をくるくると回し白いわたあめになっているのを目を輝かせて見ている。

折角なのでプールスに1つ買ってあげた。女児向けのアニメの袋いっぱいに入ったわたあめを受け取り、早速わたあめを一口食べるプールス。食べた瞬間に目を大きく見開き可愛らしく瞬きをする。

 

「あまくっておいしいレス!それにお口の中でとけちゃったレス!」

 

そう言ってわたあめをぱくぱくと口に運んでいく。マギもプールスから貰い食べてみる。

 

「ほぉ。甘いなまぁ砂糖だしな。けど口に入れて直ぐに溶けるって言うのは面白いな」

 

と夢中に食べて小さい手と口がべとべとになったプールスを見てくすりと微笑んだ千鶴はウェットティッシュを取り出してプールスの手と口を拭いてあげる。

 

「あらあら、かわいいお手手とお口がべとべとよ。拭いてあげるからじっとしてね」

「ありがとうレス千鶴お姉ちゃん」

「流石千鶴。手馴れてるな」

 

わたあめを食べてしばらく歩いていると、今度はマギがとある屋台を凝視した。

特別な鉄板の上でころころと球体を焼いていく。たこ焼きだ。

知識ではたこ焼きを知っているが、食べたことのないので味は分からないので今度はマギが興味津々にたこ焼きを見ている。

 

「どうだい外国人の兄さん?出来立て熱々を食べてみるかい?」

 

屋台のおっちゃんがマギにたこ焼きを勧めてくる。

 

「それじゃあ1個頂こうか」

 

毎度と屋台のおっちゃんは手馴れた手付きで出来立てのたこ焼きを船の形をした容器に次々と入れていき、ソースをたっぷりとたこ焼きに塗っていく。

マヨネーズ、青のり鰹節はつけるかと聞かれお願いするとマギは頼みマヨネーズ青のり鰹節の順番にふりかけていく。

 

「はいおまちどう!熱いから口の中、火傷しないようにね!」

「ありがとう」

 

お金を渡し、たこ焼きを受けとる。湯気が出てとても美味しそうだ。

 

「マギお兄ちゃん。食べてみたいレス!」

「待ってろ。熱いから冷ましてやるから。ふー……ふー……はいどうぞ」

 

プールスが欲しいとおねだりしてきたので息で冷まして渡し自身も1個竹串に刺して冷ます。

 

「マギ先生。冷ましてもまだ熱いと思いますのでお気を付けて」

「おう。気を付けるよそれえじゃあいただきます、と」

 

マギとプールスはたこ焼きを口に運び、咀嚼する。と

 

「「~~~~~~~~!!」」

 

身悶えをするマギとプールス。たこ焼きの表面は冷ます事は出来た。問題は中である。噛んだ瞬間にトロッとした生地がマギとプールスの口の中を攻めていった。

たこ焼きを食べた時の定番のはふはふをしながら熱々のたこ焼きと格闘し、何とか飲み込む事が出来た。

 

「熱くってびっくりした。たこ焼き、美味いが侮ってたな……」

「お口の中がアッチッチレス~」

「ふふ、大丈夫ですか?」

 

クスクスと笑う千鶴を見て、少々いたずら心が芽生えたマギは

 

「なぁ千鶴もたこ焼き食べるか?」

「え?良いんですか?」

「あぁ。折角だし一緒に食べないか?」

「それだったら、はい。頂けるなら」

 

分かったとマギはたこ焼きに竹串を刺して先程と同じように口で冷ます。そしてそのまま口へと運ぶ。

 

「はい、あーん」

「え?マギ先生?」

 

多少戸惑いを見せる千鶴。まさかマギからあーんをされるとは思ってもいなかったからだ。

 

「遠慮するなって。ほら」

「はっはい……あ、あーん」

 

内心、心音が高鳴っているが顔に出さないようにしてたこ焼きを咥える千鶴。

ばくばく心臓が鳴っており味など分からない状態だが、噛んだ瞬間にトロッとした生地に同じように悶える千鶴だった。

 

「ぷ……ははっ」

「もう、マギ先生ったら」

 

マギと千鶴の周りで甘い空気が漂っていて。周りの人達も当てられてしまった。

その後も熱々の(別の意味も兼ねて)たこ焼きに格闘しながら何とか完食したマギ達であった。

 

 

 

 

 

 

たこ焼きを食べた後も夏祭りを回ったマギ達。

口を冷やす代わりに食べたかき氷は逆に冷たすぎてきーんとなった事に身悶えした。

チョコバナナではじゃんけんで勝てばおまけしてくれるということでマギが連勝して両手にたくさんのチョコバナナを獲得し、それをほぼ全部プールスが平らげて(人の形を保つためにエネルギーと魔力を大量に消費してしまうため)しまい、周りの人を驚かせた。

食べ物以外に遊びも行い、輪投げではマギが全部のわっかを入れて大きなぬいぐるみをゲットして、型抜きでは一番難しいのをクリアして大金をゲットした。

さらに珍しく珍しくストラックアウトの屋台があり、試しにやってみたら力の加減を間違え、投げたボールが縁に当たった瞬間に的が全部一斉に落ちてしまい。居たたまれない空気になり、謝罪しその場を去った。金魚すくいも軽く本気になったら入れ食い状態になり、屋台のおっちゃんの泣きが入り、リリースしてこれまた謝罪しその場を去った。

このままでは屋台荒らしになってしまいそうなので今は祭り会場から少し離れた人気のない林で一休みしている。

歳があまり離れていない男女が人気の無い場所に来たらふしだらな展開になりそうだが、幸いプールスが居る。そう言った展開にはならないだろう。

……人がいないのが幸いと思う輩も居るが。

 

「ふー、結構回ったな」

「楽しかったレスし、お腹もいっぱいレス!」

 

満足そうなマギやプールスを見て千鶴も微笑む。

 

「良かったですね。それにマギ先生も記憶を失う前のように楽しんでいるようで良かったですわ」

 

千鶴の言ったことに反応するマギ。

 

「前の俺って千鶴と結構一緒に居ることが多かったのか?」

「そうですね……私はエヴァンジェリンさんやのどかさんと比べれば一緒に居る時間は少なかったですわ。それに二人きりという訳ではなく、園児の子達と一緒の時が多かったです」

 

成る程なと千鶴から聞いたことに頷く。

 

「なぁ千鶴から見て前の俺ってどんな感じだったんだ?」

 

試しに自分の事を聞いてみると千鶴も答えてくれる。

 

「学園に来たときは少しピリッとした雰囲気でしたが、暫くたってからは子供達と楽しく遊んでくれる良きお兄さんといった感じだったですわ。子供達もマギ先生に懐いていました。それに私が恐ろしい目に会った時も優しく抱き締めて下さいましたわ」

 

悪魔が襲来した時の事を思い出し、頬を紅潮しながら思い出す千鶴。つられてマギも赤くなりながらガントレットの手で頬を掻く。

 

「それに、学園祭時にマギ先生が不審者と戦っている時に私達が勝手に参戦してしまった時もマギ先生は傷付きながらも私達を護って下さった時、私は申し訳ないと思ったのと同時にただ者ではないと改めて思いましたわ」

 

そして真剣な顔でマギを見つめる。

 

「あの時の戦い、あれは学園祭における演出ではない。私でもあの場の殺伐とした空気は肌で感じていました。そして不審者も何もない場所から剣を出していました。そしてその剣を防いでいた。普通な事ではありません。マギ先生、貴方は何者なのですか?」

 

マギは驚きを隠せない。目の前の千鶴は魔法を知らない一般人組の1人だ。

しかし千鶴は元々マギの正体の核心に近づいていた。ネギが時間跳躍していない時間軸ではマギから正体を聞かされていたのだ。

マギは迷った。自身が魔法使いであり、不死の存在になってしまったと話していいのか……と

数分迷いマギは決心する。目の前の千鶴に対して変に誤魔化しをするのは逆に失礼に値するとならばここは正直に告白しよう。

 

「千鶴、俺は―――」

 

と正体を明かそうとした瞬間に自身に敵意が向けられていると察知すると、1本の魔法の矢が飛んで来た。

咄嗟にガントレットで矢を防ぐ。決して小さくはない破裂音が響く。

 

「きゃ!?」

「千鶴危ないから離れるな。プールス!!」

「はいレス!」

 

両手をスライム形態にし迎撃準備をするプールス。急にプールスの手が液体と個体の中間に変態した事に驚く千鶴。

そして茂みの奥からマギを攻撃した者の正体が現れる。

 

「……殺気が無いから誰かと思ったらあんたか、ガンドルフィーニ先生」

 

マギを攻撃したのは学園の正義の魔法使い筆頭とも言って良いガンドルフィーニ先生であり、その他にも魔法先生や生徒が何人か居た。

 

「まさか夏祭り中ずっと尾行してたのか?もしかしてこの前の事を根に持ってるのかよ。あれはもう決まった事だろうが。掘り返すような真似をするのは勘弁してくれよ」

「当たり前だ!私達がそう簡単に納得するわけがない!大罪人であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルをこの学園の外に出すなど、また世界に混乱と恐怖をばらまくだけだ」

 

そうだそうだとガンドルフィーニ側の魔法使い達が賛同するように叫ぶ。

 

「……おい、俺の前でまたエヴァの事を悪く言ったな。いい加減にしないと俺もまじで何するか分からねぇぞ」

 

怒りで逆立ったマギの髪がうねる。何故マギとガンドルフィーニがここまで揉めているのか、それは後程明らかになる。

 

「いくら学園祭の事があったからと言え彼女は悪の魔法使いだ。我々の目を欺くための演技だった可能性は捨てきれない。それにマギ先生、君も半ば仕方ないと言う状況だったとは言え不死身の存在になってしまった存在だ。もしかしたらエヴァンジェリンに洗脳されている可能性もある」

「……え?不死身?マギ先生、どういう事ですか?」

 

急にマギが不死身と聞かされて戸惑う千鶴。

 

「おい、何俺よりも先に俺の正体をカミングアウトさせてるんだよ。結構大事な事だし1から順番に話す積もりだったのに」

「何!?まさかまた君は自身の正体を関係ない一般人に明かす積もりだったのか!?ネギ先生といい何故君達は魔法世界の秩序を乱そうとするんだ!?」

「別に乱そうとは思ってねぇよ。千鶴が自分の力だけで辿り着きそうになっただけだ。それならはぐらかすのも失礼だろ」

「それは詭弁だ!君のような秩序を乱そうとする者はそういう事を平気で宣う……はぁ、これ以上は平行線だ」

 

ガンドルフィーニの纏っている雰囲気が変わった。戦闘態勢に入ったようだ。ガンドルフィーニに続くように魔法使い達も戦闘態勢に入る。

 

「マギ先生、君を拘束する。そしてエヴァンジェリンももう一度封印しこの学園から一歩も出られないようにする。そこの女子生徒も魔法の事やマギ先生の記憶を消去する。正義を……執行する」

 

杖を構え、少しずつにじり寄ってくる魔法使い達の据わった目に恐怖を覚えた千鶴はぎゅっとマギの裾を強く掴む。

 

「たく、こっちの都合も考えずに一方的だよな。それがあんたらの正義か……ふざけんなよ。秩序を護るのは立派だがな、やり方が強引なんだよ。プールス、千鶴に近づく奴には容赦するな。本気でやれ。俺が許す」

「はいレス!!」

「マギ先生!」

 

不安そうな千鶴に心配かけないように微笑みながら頭を優しく撫でる。

 

「千鶴、俺を信じてくれないか?」

「……はい、信じます」

 

ありがとう。そう言うとマギは構え魔力を全力で回す。闇の黒い魔力を全身を覆う。

 

「何とも禍々しい力だ……!油断するな!我々の正義を知らしめる時だ!」

「正義正義正義……そんなに固いから足下掬われるんじゃねぇか?」

「っ!馬鹿にするな!かかれ!!」

 

ガンドルフィーニの号令で魔法使い達は各々魔法を発動するために詠唱しようとする。

しかしマギは詠唱の間攻撃しないという優しい事はせず瞬道術でガンドルフィーニ達の前から消える。

 

「消えた!?何処へ行った!?」

 

目の前でマギが消えた事に驚き辺りを見渡すガンドルフィーニ達。

次の瞬間には短い悲鳴を挙げるか黙って気を失う魔法使い達。マギは高速で動きながら女性には当て身、男性は顎を殴るか蹴り挙げるか、腹を殴り戦闘不能にさせた。

 

「―――シャア!!」

 

マギが気合いの入った叫びを挙げた時にはガンドルフィーニ以外の魔法使いは地面に沈んでいた。

一方プールスの方も頑張っていた。

 

「やああ!!」

「ぐはぁ!?」

 

伸ばした手を鉄のように固くし殴る。男の魔法使いは障壁を展開するが、その障壁を越えて衝撃が男の魔法使いを巡りそのまま戦闘不能にさせる。

プールスも修行で1つの段階へ辿り着いた。

 

『プールス。お前はスライムだが、成長すれば恐らくもっと強力なスライムになる。そうすればお前もマギ達と一緒に戦える事が出来るだろう。強くなりたいか?』

『はいレス!もっと強くなりたいレス!!』

 

エヴァンジェリンがマギ達の修行の合間にプールスに稽古をつけていた。相手が少女でもエヴァンジェリンは情け容赦なかった。プールスも何度も泣いた。泣き、もっと強くなりたいと自身が願ったため、泣きながらエヴァンジェリンと半ばやけくそに戦った。

その結果、自身の体を鋼鉄に変える術を身につけた。

新しく身に付けたその力、某RPGの呪文から取って『アストロン』と名付けた。プールスはスライムからメタルスライムに成長したのだ。

魔法使い達の魔法の矢が斬撃もアストロンで防いでしまい、誰もプールスや千鶴に近づけない状態だ。

その間にマギが次々と魔法使い達を戦闘不能にしてしまい、残ったのはガンドルフィーニだけとなった。

 

「まだやるかいガンドルフィーニ先生?」

「まだだ!まだ私の正義は折れていないぞ!!」

 

そう言いガンドルフィーニは拳銃とナイフを構える。彼も譲れない想いがあるのだ。

 

「……あんたも悪い人じゃないんだけどなぁ。どうしても合わない所があるもんだなぁ」

 

ポツリと呟いたマギはまたも瞬道術でガンドルフィーニの間合いに入り、素早い動きで拳銃とナイフをはたき落とすと、ガントレットの方でガンドルフィーニの顔面を掴む。

 

「悪いがちょっと眠って貰うぜ」

 

そう言ってマギは自身の魔力をあえて送りガンドルフィーニの中の魔力を掻き乱す。

 

「がっ……あ……!?」

 

掻き乱されているガンドルフィーニにとってはたまったものではなく急激な吐き気に襲われ、そのまま白目を向きながら気を失ってしまう。

あれだけ勇ましくマギに掛かっていったガンドルフィーニに率いる正義の魔法使い達はものの数分で返り討ちにあってしまったのだ。

 

「この方、大丈夫なんですか?」

「まぁ体の中の魔力を強引にかき混ぜたんだ。暫くは起き上がれないだろ。流石はエヴァだな。効果覿面だ」

 

この魔力を強引に掻き乱す術はエヴァンジェリンから教わったものだ。敵を無力化させるステルスミッションがあったら最適だ。

 

「……この人達、どうするんですの?」

 

千鶴は寝っ転がっている魔法使い達を見渡してマギに訪ねる。マギは少し考えて

 

「まぁこっちは襲われた立場だ。正当防衛って事で何事もなかったように行こうぜ」

 

とほっといてこの場を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「まぁここに居れば変に襲われることはないだろう」

 

マギ達は人が密集している場所に移った。もうすぐ打ち上げ花火が上がる。そんな中でマギは千鶴と見つめ合う。

 

「千鶴、さっき俺の事を聞かされたけど、もう一度聞いて貰ってもいいか?」

「はい」

「ありがとう。改めて言うがそう、俺は魔法使いで学園祭の時に不死身の存在になってしまった」

 

マギは記憶を失っているために、ネギやエヴァンジェリンと言った色々な人から聞いたこれまでの自身の体感した経験を話した。

不死身になった時の話を聞いたときには千鶴は涙を流して謝罪した。マギは泣き出した事に戸惑ったが、マギが不死身になってしまった原因の1つにマギとアーチャーの戦いを邪魔してしまった事を後悔してしまった。

マギは慰めるのは逆効果かと思い、泣き止むまで優しく千鶴の頭を撫でてあげた。

泣き止んでからはこれからの目的を話す。

 

「俺達はこの夏休みに魔法世界に行き、クソ親父を探しに行く。もしかしたら危険な場所に行くかもしれない」

「だからのどかさん達は白い翼のバッジを付けているんですね。マギ先生達と一緒にその魔法世界に行くために。道理でのどかさん達の雰囲気が最近変わったわけですわ」

「あぁ。一緒なのがとても心強いと思う反面、のどか達の 人生を狂わしてしまった事に申し訳なさを感じている」

 

まだ負い目を感じているマギ。しかしのどか達は自分達で着いていくと決めた。覚悟は決まっているそんな覚悟を踏みにじるのは却って失礼というもの。

 

「でものどかさん達が羨ましいですわ。好きな人と一緒にそんな大冒険をするなんて。普通な人生を歩んでいたら出来ない事ですから」

「千鶴?」

 

何故其処でのどか達が羨ましいのかと首を傾げていると

 

「だって私はマギ先生、いえマギさん……貴方を好いて慕っておりますから」

 

千鶴の突然の告白と花火が上がったのが同時だった。プールスは打ち上がった花火を見ており千鶴の告白は聞いていなかった。

 

「え?どうして?」

 

いきなりの告白に驚いているマギ。

 

「コタロー君を襲ったあの悪魔に連れ去られて怖くて不安になっていた私をマギさんは優しく抱きしめて下さった時から私は貴方に心を許していました。欲をいえば私も魔法世界に行きマギさんを支えたいです」

「千鶴、それは嬉しいけど……」

「分かっています。私は自身を護る術もマギさんを助ける術も持っていません。出来るのは安全な所から貴方やネギ先生達の無事を祈るだけ……それしか出来ないのが悔しいです」

 

本当に悔しがっているようで肩を震わせる千鶴にそんなことないと首を横に振るう。

 

「俺やネギ達の無事を祈ってくれるだけでも支えになる。だからこそ俺も皆も無事に戻ってくると約束する」

「マギさん」

「千鶴……」

 

マギと千鶴は周りの目を気にせず抱きしめた。

……がそれを許さない者もいて

 

「おい、那波千鶴。誰の許しを得てマギに抱きついているんだ?」

 

不機嫌そうにしているエヴァンジェリンがひょっこりと現れ千鶴を睨んでいる。

 

「あらエヴァンジェリンさん。別にマギさんは貴方のものではありませんわ。なら私が抱きしめてもらってもいいのではありませんか?」

「ほうほうほう。大きく出たな15しか生きていない小娘が大きく出たではないか」

「マスター。どうか落ち着いて下さい」

 

余裕そうな態度を取る千鶴に対してエヴァンジェリンの目は鋭くなり、数度エヴァンジェリンの周りの空気が冷えていくように感じ茶々丸がおろおろする。

 

「あー千鶴さんも告白したか……大人っぽい人がライバルとか」

「うう、強力な人の登場やな」

「また新しい人がマギさんに近づくなんて……ふふ、邪魔だなぁ♪」

「のっのどか大丈夫です?やっぱり強く叩き過ぎたです……!」

 

結局マギの元に何時ものメンバー(1人何時もの状態じゃない)が集まったのであった。

 

 

 

 

こうして夏祭りは打ち上げ花火を見て幕を閉じたのであった。

 

『たーまやー!!』

 

 

 

 

 

 



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邪魔な小石は蹴りあげろ高い壁はぶっ壊せ

「納得いきません!!」

 

夏祭りを行った1週間前、学園長室内でガンドルフィーニの怒号が響き渡る。

 

「落ち着きなさいガンドルフィーニ先生。そんなに興奮しとったら頭に血が上って倒れてしまうぞい」

 

学園長が昂っているガンドルフィーニを落ち着かせようとしているが、ガンドルフィーニは聞く耳を持とうとしない。

 

「これが落ち着いていられますか!?魔法を知った一般人の生徒だけではあきたらず、大罪人であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルをこの学園の外に出し、魔法世界に同行させるなど、日本の魔法使いの信用を地に落とす事になるんですよ!?」

 

学園長室には魔法先生や魔法生徒が限界まで入れる位に集まっていた。その中には美空や刹那もおり、また件のエヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべ、マギは不機嫌そうに、ネギは黙っている。

ガンドルフィーニに続くように自分達の正義に信念を持っている魔法使い達も賛同するように叫んでいる。自分達の正義に信念を持つ魔法使い達を見て美空やグラサンをかけている神多羅木といったどちらかと言うと中立な魔法使い達は苦笑いを浮かべるか黙って事の顛末を見守るかのどちらかだ。

そしてエヴァンジェリンを大切な1人と考えているマギはガンドルフィーニ達の物言いに段々と眉が寄り始めどんどんと不機嫌になる。マギが爆発して暴れないように、このまま何事もないように祈るネギ。

 

「あー、ガンドルフィーニ先生。エヴァは学園祭中にマギ先生と一緒に超君と契約した傭兵の撃退に尽力してくれた。それに京都での問題に対しても多大に貢献してくれてわしとしても大変に助かっておるのじゃし、ナギ捜索も手伝ってくれればマギ君やネギ君も助かるじゃろうし、エヴァ自身もナギに言いたい事があるかもしれんしのお」

 

学園長は穏やかな口調で言い聞かせるようにガンドルフィーニ達"正義の魔法使い"にエヴァンジェリンの功績を言うが正義筆頭のガンドルフィーニは聞く耳を持たない。

 

「学園長!そんなたった2つの結果だけで何故簡単に許可しようとするのですか!?京都の件は目を欺くための演技かもしれませんし、傭兵や超鈴音とも裏で繋がっている可能性もあるんですよ!!」

 

酷い言われようだ。エヴァンジェリンが高額の賞金が賭けられているのもあるのかエヴァンジェリンの行動=悪と勝手に簡潔させらてしまう。

これ以上は我慢の限界だと判断したマギはガンドルフィーニ達正義の魔法使いに食って掛かる。

 

「あんたらは何を言ってるんだ?ネギ達から聞いたがエヴァのおかげで京都ではデカイ奴の復活を阻止出来たって聞くし、学園祭でも俺に協力してくれたから被害を抑えられたって。感謝するはずが非難するってどういうことだよ」

「我々は可能性の話をしているんだ!前回前々回は協力しているが魔法世界では裏切るかもしれない!」

 

負けじとガンドルフィーニは反論する。その暑苦しい姿勢に引き気味に溜め息を吐くマギ。

 

「なんでそうエヴァを悪者に仕立て上げようとするんかね。確かにエヴァは高額の賞金が賭けられている。でもそれは賞金稼ぎを返り討ちにしていたから増額したって聞いた。エヴァ自身も自分から人を襲うような下劣な真似はしていないって聞いた。だったら悪じゃない。俺はそう信じる」

「なんでそう簡単に悪を信じるんだ!?」

「決まってる。エヴァが俺にとって大切な人だからだ」

 

告白とも取れる大胆発言に学園長室内は大きくざわつく。エヴァンジェリンは不敵な笑みを浮かべているが、気分が良いのか笑顔が少々ひきつり頬も紅潮している。

自ら悪のエヴァンジェリンを大事な人と言った問題発言に異を唱えようとするガンドルフィーニ。だが学園長は若いっていいのぉとマギの大胆不敵な発言を愉快そうに笑い話にならない状態じゃないだったガンドルフィーニは先程から黙っているネギに視線を向ける。

 

「ネギ先生!君はどう考えているんだい!?君のお兄さんが悪であるエヴァンジェリン側に付こうとしている!これは君のお父様であるナギ・スプリングフィールドへの冒涜ともとれる行為ではないのか!?」

 

ネギは黙って聞いて、数十秒たってから口を開いた。

 

「ガンドルフィーニ先生。僕はその信念ある正義にある種の尊敬の念を持っています。ですが、その信念が些か強すぎて視界がぼやけてるのではとも思っています」

「なっ何だって!?」

「我々の正義が強すぎるだと!?」

「幾ら英雄の息子だからって!取り消せ!撤回しろ!!」

 

ネギの発言に非難轟々が浴びせられる。相手は子供なのに随分大人げないなと呆れているマギだが、ネギは臆する事なく反論する。

 

「だってそうじゃないですか。超さんの計画を頭が良いけど所詮子供が計画したものだって一掃した結果、超さんが作ったロボットや時間跳躍弾に苦戦したいたじゃないですか。僕が超さんを止めていなかったら、学園の人達をイベントと称して参加させなかったら、どうなっていましたか?」

「くっそれは……」

 

痛いところを突かれ押し黙るガンドルフィーニ達。

 

「それに、京都の件お兄ちゃんの傭兵の件で僕の師匠であるエヴァンジェリンさんが手助けしたことに終わった事に対して今さら物申すなんて、世の中後だしじゃんけんで勝てる程甘くはないと思いますが。僕よりも歳が上なんですから其れぐらい分かりますよね?」

「ぶふっ……くくくく。言うじゃないか坊や」

 

思わず吹き出すエヴァンジェリンを鋭い目で睨む正義の魔法使い達。だがエヴァンジェリンは何食わぬ顔で飄々としていた。

美空や神多羅木もネギの発言に吹き出しそうになったが、美空はシャークティーに神多羅木は刀子に諌められ何とか盛大な笑い声を挙げる事はなかった。

 

「今回師匠が魔法世界に同行し父さんを捜索の手伝いをしていただくのは僕やお兄ちゃんよりも強く経験も豊富というのもあり効率良く父さんを探せる。そう判断しました。僕はお兄ちゃんの次に師匠を信頼しています。貴方方、誰よりも」

 

ガンドルフィーニの体に衝撃が走りショックを受けた。つい最近まで真面目の模範生だと思われたネギがこの数ヶ月で自分達に反発する不良学生のようになってしまったことに。

くっと悔しそうに歯噛みをするガンドルフィーニ。

 

「何と言うことだ……ネギ先生が悪の道に走ってしまうとは。これでは君の御父上であり、英雄のナギ・スプリングフィールドが悲しむのではないのか!?」

「あ、いえ、父さんは英雄として皆さんから称えられていますが、性格はアレですし、皆さんの目線での僕の愚行も笑って流すかもしれないです」

 

ネギの口から出た父であるナギのアレな性格に思わず目が点になるガンドルフィーニ達。学園長やタカミチを見ると懐かしむ学園長とタカミチ。

 

「そうじゃのう。ナギはとても優秀じゃったが、優等生っていうわけじゃなかったのう。自信家で俺様な奴じゃったわりには魔法を詠唱する時はあんちょこ本を手放さない奴じゃった。じゃが曲がった事は大嫌い。気に入らない事があればどんな事にも反発しおった。例え其れが大衆的な正義であったとしても、自身の正義を貫く。そんな男じゃった。」

「彼は悪い人じゃなかった。けど我が道を往くそんな人だった。真面目なのは詠春さんだったなぁ。けど一緒にいてとても楽しかった。そんな人だった」

 

学園長とタカミチの思出話を聞き正義の魔法使い達の何人かはショックを受けている様子だ。まさか英雄であるナギがどちらかというとアウトローと呼ばれそうな側であることに。

 

「子は親に似るってこう言うこと言うんすかねー。ネギ先生やマギさんの性格も父親譲りってことっすか」

「美空、口を慎みなさい!」

 

シャークティーに叱られる美空。そんなことガンドルフィーニ達は関係ない。もうナギの名を使っての説得は無意味と言うことを思いしらされてしまったのだから。

 

「ガンドルフィーニ先生。もう止めましょう。これ以上私達が何を言っても無意味です」

「高音君!?君は何を言ってるんだ!?」

 

正義の味方筆頭とも言っていい高音がガンドルフィーニを静止させる。

 

「マギ先生」

「おう、君はたしか……高音だったか。悪い、今の俺は記憶がない。辛うじて君を認識出来る程度だ」

「いいえ構いません。ですが、私の話を聞いては貰えませんか?」

 

高音の頼みにマギは深く頷く。ありがとうございますと頭を下げる高音。

 

「まず最初に、マギ先生私は貴方の印象を、失礼ですがとても無礼な人だと思っていました。どんな時も口を開けば『めんどうだ』と口走る、あまり宜しくない性格だと」

「人から見たらそんな性格だったんだな、俺……」

 

苦笑いをして頬を掻くマギに申し訳ございませんと謝罪する高音。

 

「さらにそちらのエヴァンジェリンさんの封印を解いた時には、何て事をしたのだと、私は勝手に失望し落胆しました。英雄の息子である貴方がそんな非道な事を平気でしたなんて……と。そして私は貴方の道を正そうとそう決心しました」

 

勝手な物言いだと判断したエヴァンジェリンは高音に敵意を向けるが、話を続ける高音。

 

「封印を解いてもエヴァンジェリンさんは悪の道を邁進することなく。マギ先生も筋の通った方だと言うことが学園祭の一件知ることが出来ました。ネギ先生の言う通り、私は自身の正義を信じるばかり周りが見えずらくなっていたかもしれません」

 

そう言って高音はマギやエヴァンジェリンに頭を下げた。これには正義の魔法使い達も騒ぎだす。

 

「高音君!?君は何をやっているんだ!?悪であるエヴァンジェリンに頭を下げるなんて正気なのか!?」

「私は至って正気です。確かにエヴァンジェリンさん、彼女は高額の賞金が賭けられています。ですが、賞金を賭けられているからと言って本当に悪なのか、それは私の目で確かめるべきだとそう判断しました」

 

ですが、と話を続ける高音。ただ楽観的にエヴァンジェリンやマギを信じる訳ではない。

 

「私も知っていますが、魔法世界は危険な所です。あそこは私達人以外にも獣人や悪魔と言った亜人も普通に暮らしている世界。さらにドラゴンと言った魔物も闊歩しています。こちらの世界の理も効かない世界です。一歩危険な場所に足を運べば命の危機。そんな世界になし崩しとは言え、魔法を知った生徒も一緒に魔法世界に連れていくのは大変危険です。最悪命を落とす結果になるかもしれません。マギ先生、貴方に彼女達を護り抜く自信と覚悟は決まっていますか?」

 

黙っていたマギ。そして重々しく口を開く。

 

「正直言って自信は少ない。記憶を失い短い期間で戦い方をその身に刻んだ。魔法世界で通用するかは分からない。いざとなったら不死身になったこの体を肉壁にして護り通す。皆で無事に戻ってくる。その覚悟だけは本物だ」

 

真剣な眼差しで高音を見つめるマギ。その目には覚悟の色が濃く出ていた。

そう言ってマギは学園長に目配せをしてあるものを高音達に見せる。

それは契約書であった。其処にはこう書かれていた。

 

―――私、マギ・スプリングフィールドは魔法世界において同行者にトラブル、最悪死亡事案が発生した場合、全ての責任を取り、如何なる罰も受ける所存である

 

これを見てまたも正義の魔法使い達は騒ぐ。しかしネギとエヴァンジェリンも同じようだ。どうやら2人にはこれを見せてはいない様子だ。

 

「大切な者達が欠けるような事があれば、俺は皆の前に居る資格はない。死ねない身だ。大切な人を護れなかったら、どこか地下深くにでも幽閉され無意味な一生を過ごす位がお似合いだ。学園長にも許可を貰っている。契約が破棄されればこの契約書は直ぐに俺を拘束する」

「……どうやら、それが貴方の覚悟なのですね。分かりました。マギ先生、貴方を信じます。私も魔法世界に用があります。出来ればそちらで合流してお父様の捜索のお手伝いを出来ればと思っています」

「ああ、ありがとう」

 

と感謝の言葉を送るが、納得していない2人が居る。

 

「おいどういう事だマギ!?そんな話聞いてないぞ!」

「そうだよお兄ちゃん!僕や師匠に黙ってこんな事を決めるなんて!!」

「悪い2人とも。でもこれが俺の覚悟だ。誰かを失ってまで俺はのうのうと生きていきたくない。だったら後ろ指刺され一生罪を背負っていくのが相応しいと思って決めたことだ」

 

別にかっこつけている訳ではない。これがけじめだと判断したまでである。しかしネギとエヴァンジェリンがそれを聞いてはいそうですかと言ってくれるほど素直ではない。

 

「だったら私ももう一度封印されて一生空虚な生活をしてやる。おいジジイ!その契約書に追加しておけ!」

「学園長先生!僕もオコジョの刑を一生と契約書に書いてください!!」

「おっおい、エヴァ、ネギ、これは俺の覚悟だ。そんな――」

「バカは黙ってろ!!

「お兄ちゃんは黙ってて!!」

 

はいと思わず直立してしまうマギ。あまりのネギとエヴァンジェリンの気迫に変な声を出す正義の魔法使い達もちらほらいる。

 

「お前はそうやって全部自分で責任を背負おうとしている。お前1人に押し付ける程落ちぶれてはいないぞ。一緒に地獄に落ちてやる」

「お兄ちゃん。僕だって計画の発案者の1人で皆の先生なんだ。絶対に皆を護る。護れない者に自由はない。だからこそ僕も覚悟を決めたよ」

 

エヴァンジェリンとネギも覚悟を決めた。ガンドルフィーニ達はネギだけに馬鹿な真似はよせと必死に説得している。

が学園長がその契約書にネギとエヴァンジェリンの事も追記していく。

 

「学園長!?何を勝手な事を!」

「勝手とはなんじゃ勝手とは。ネギ先生とエヴァンジェリンが覚悟を決めたのに蔑ろにするのは酷じゃろうて。それに……この者達だけに責任を押し付ける積もりはワシもないからの」

 

そう言って学園長もある事を追記した。

 

――魔法世界にて上述の事が起こった際、監督不届きとして私近衛近右衛門は全ての役職から退いた後に残りの余生は幽閉され償いの念をもって償っていくことを誓う。

 

「学園長!?」

「ただ行ってらっしゃいと笑顔で送り出すわけないじゃろう。1人だけ安全圏でのうのうとするほど愚かなつもりはない」

 

学園長の覚悟に正義の魔法使い達も何も言えない。反論する意志もないと判断した学園長は話を続ける。

 

「これにて魔法世界にエヴァンジェリンを同行するという事で決定とする。マギ君、ネギ君そしてエヴァンジェリン。無事に戻ってくる事を強く願っている。そして願わくはもう1人一緒に戻ってこれると良いんじゃがなの」

「はいっ」

「ああ」

「ふん、まぁ任せておけ」

 

こうして、魔法世界にエヴァンジェリンの同行が認められたのであった。

 

 

 

 

「………ちっ英雄気取りの愚か者共が。今はせいぜい下らない三文芝居の茶番を演じておくがいい」

 

正義の魔法使いまじって、ネギとマギの覚悟を忌々しく浅い劇を見るかのように睨み付けているのを学園長とタカミチは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

「そう言うことで、お前達に何かあった時にはマギや坊やに私、ついでにじじいが責任を負う事になったからな」

「いやあたしらが知らない所でそんな大事な事が決まった事を今聞いてプレッシャーが凄いんだが!?」

 

成田空港にてマギに好意を寄せる者達通称『マギ組』のツッコミ代表である千雨がエヴァンジェリンにツッコミを入れる。

今日はマギ達が一足先にイギリスに行く日である。この日のためにパスポートを発行し、プールスに至っては国籍自体がないので葉加瀬が色々とやってくれている。

そしてネギやアスナ達は見送りというわけだ。

 

「改めて言うが其れぐらい魔法世界は危険な場所ということだ。マギや坊や、そして名誉顧問である私はお前達を護るという責任がある。だがそれでも何かトラブルが起こった時には自分達で対処しなければいけない。くどいようだが聞くぞ。それでも行くか?」

 

答えなど決まっていると言いたげな表情を浮かべているアスナ達。

 

「行くに決まってるでしょ?そんなんじゃ何のためにあんな修行をしたか分からないじゃない」

「あぁそうだな。特にあたしらはアンタにずっとしごかれて来たんだ。行くのは正直あたしらの我儘だ。けど好きな人が危ない場所に行くかもしれないなら心配になるに決まってるだろ」

 

アスナと千雨の答えにのどか達も頷く。ふっと笑ったエヴァンジェリンは

 

「肝は据わったようだな。さぁ行くぞ」

 

エヴァンジェリンの号令でマギ達は搭乗ゲートに向かう。

 

「お兄ちゃん。あっちに着いたらお姉ちゃんに僕は元気だって伝えておいてね」

「まぁお前も直ぐに来るんだけどな。あぁしっかり伝えておくよ」

「マスター。私の最終調整がまだ終わらないため、ネギ先生と遅れて向かう事をお許し下さい。それと千雨さん、ハカセから千雨さんに渡す物があるそうですが、それも後日に一緒に持ってきますのでそれまでお待ち下さい」

「あぁ分かった。後で来ればいい」

「あたしに渡す物?なんだろ。分かったよ待ってるから」

 

各々見送りの言葉を贈り、受け取りマギ達は搭乗ゲートの奥へ。

ネギ達の姿が見えなくなり、マギ達は気になる事があった。それは……

 

「エヴァ、その姿はなんだ?」

「一応私は高額の賞金首だからな。面倒な事が起こらないようにの変装だ」

 

そうエヴァンジェリンは何時もの幼女の姿ではなく、きりっとした目が鋭い魅力的な大人の姿になっている。

 

「私の設定は学園に居る魔法世界に精通している美人女教師と言った所だ。現地では本名で呼ぶなよ。直ぐに正体がばれるかもしれんからな」

「そっか。じゃあ今偽名を考えた方がいいかもな」

 

そう言ってマギは今のエヴァンジェリンに合いそうな名前を思案する。そして雪のように白いエヴァンジェリンの顔を見てポツリと呟く。

 

「……雪姫」

「雪姫?」

「あぁ。エヴァの肌って雪のように白くて綺麗だし、確か昔はお嬢様だったんだろ?だから雪のように綺麗なお姫様って事で雪姫。どうかな?」

 

結構いい名前をつけられたと思ったマギは珍しく鼻を鳴らす。エヴァンジェリンもマギに誉められた事に満足げだ。

 

「雪姫。いいと思います」

「私もエヴァンジェリンさんにぴったりだと思うです」

「まぁいいんじゃねーの?」

「うん!似合ってると思うで!」

「エヴァンジェリンお姉ちゃんお姫様みたいで素敵レス!」

 

のどか達の評価も高く、エヴァンジェリンも顔を赤くし口を引くつかせる。

 

「よし、それじゃあ今から私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルではなく雪姫だ。だっだが、まぁマギは私と2人きりの時とかはエヴァと呼んでいいぞ」

「あっあぁ。分かっ……た?」

 

エヴァンジェリン否"雪姫"大人の女性の顔を赤らめた上目遣いに心音が上がったマギは目線を反らす。そんな光景を面白くないと言いたげに頬を膨らませる亜子と千雨。

かくしてマギは雪姫達を連れて故郷へと戻るのであった。

 

「……あれ?今のってもしかしてマギ?何であんな綺麗な女の人を連れてるのよ?ていうかネギは一緒じゃないの?」

 

途中でネギの幼なじみとすれ違ったが、気付くことはなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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~第12章~ I'm home
帰って来た故郷


飛行機にて空の旅を堪能した後、イギリスへと到着したマギ一行。ウェールズ行きの電車に揺られ、そこから徒歩でマギやネギ達の故郷である村へと到着した。

 

「ここがマギさんの故郷なんですね」

「スッゴく自然が綺麗でのどかな所やね!」

「空気がすごく美味しいですね」

「言い方悪いけど電波通ってなさそうな雰囲気だな……」

「わーい!!」

 

のどか達は各々感想を言い、プールスに至っては草原を楽しそうに走り回っている。

 

「どうだマギ。久し振りに故郷に帰って来た感想は?」

「はは。やっぱり記憶がないから何も思い出せないや。けど……心にかな、暖かみを感じるよ」

 

エヴァンジェリン改め雪姫に故郷を見て何か感じるかと聞かれマギはその様に返す。確かに何の思い出も甦ることはないが、マギの言う通り心地よい暖かさを感じている。

目の前の自然を味わっている中でマギはある人物を待っていた。その人は……

 

「マギ!!」

 

走ってきたのであろう肩で息をする女性が此方に向かってきて来ている。マギとネギの従姉である。

 

「ネカネ……姉」

 

ネカネの顔を見てポツリと名を呟く。ネカネは事前にマギの事を手紙で知っている。記憶を失った事にはショックを覚えたが、マギが五体満足でいる事にほっとした様子である。

 

「マギ、随分逞しくなったわね」

「その、ネカネ姉も元気そう……だめだ。前のネカネ姉の事を知らないからなんて言っていいか分からねぇ」

 

申し訳なさそうなマギの顔をネカネは優しく包み込む。

 

「そんなことないわ。ネギから手紙で知らされた時はそれはショックだったわ。けどマギ、貴方が元気な姿を見せてくれた事が一番嬉しいわ」

 

マギは照れているのか嬉しいのか、ガントレットの手で頬を掻く。

と今度はプールスの方へ顔を向ける。

 

「それであなたが……」

「はっ初めましてレス!私はプールス・スプリングフィールドレス!」

 

初めて会うネカネにもじもじしながら自己紹介をするプールス。ネカネは微笑みながら

 

「初めましてプールス。ネカネ・スプリングフィールドよ。ネカネお姉ちゃんって気軽に呼んでくれて構わないわ」

 

プールスは顔を輝かせて何度もネカネの名を呼ぶ。

 

「私は雪姫だ。マギ達の付き添いで来た先生だ宜しくたのむ」

 

きりっとした態度で名乗る雪姫に大丈夫ですよと返すネカネ。

 

「ネギから手紙で聞いています。私は貴女の事を信じています」

「なんだ。折角名乗ったのに名乗り損だな。改めて、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ。この姿は変装でな、こっちでは本来の姿は見せない。宜しくたのむ」

「ええ。ようこそエヴァンジェリンさん歓迎するわ」

 

ネカネの微笑みに雪姫は不敵な笑みで返す。

 

「宮崎のどかです。宜しくお願いします」

「綾瀬夕映です。素敵な歓迎ありがとうございますです」

「長谷川千雨です。暫くご厄介になります」

「和泉亜子です。宜しくお願いします!マギさんの故郷って素敵な所なんですね!」

 

のどか、夕映千雨に亜子が各々自己紹介する。ネカネはうふふと

 

「可愛らしい子達ね。皆マギのガールフレンドなのかしら?」

「いや、まだそう言う関係ではいないよ。けど皆とっても素敵でとってもいい子達だよ」

 

ネカネに対して正直に答えるマギ。マギの返答にのどか達どころかネカネも顔を赤くしてしまう。

 

「マギったら、そんな事を平気で言うなんて……」

 

そしてネカネに連れられ故郷の村へと案内されるのであった。

 

 

 

 

村の色々な所を紹介してくれるネカネに元々異国文化に興味津々なのどかや夕映は目を輝かせ、外国に来たということに改めて興奮する亜子と外面は涼しげな顔をしているが、マギの故郷ということもあって内心は結構楽しんでいる千雨と多種多様な表情を浮かべていた。

道中マギを知っている村の住民がマギに挨拶する。一応住民達もマギの状態の事はある程度把握しており、マギもぎこちないながらも住民達に挨拶を返す。

 

「そしてここが、マギやネギが勉強をした学校よ」

「うわぁ……素敵な所ですね」

 

ネカネがマギとネギが育った学校を紹介しのどかが感嘆の声を挙げる。

そこからはネカネが学校を案内していく。雪姫はときおりほぉと声を出す以外は特に特別な感情は出さないでいた。のどか達は興味深そうに目移りしていた。

そしてマギは学校を見て微笑みを浮かべながら

 

「学校か、学校で俺何してたか何にも思い出せないがどんな生徒だったんだろうな」

 

と感傷にふけっていると

 

「そうじゃのぉ、素行は悪い不良学生を振る舞っておったが、授業は真面目に受けるのはナギに対する反発な事をしておったのぉ」

 

声が聞こえた方を振り替えると、長い長髪と立派な髭を蓄えたいかにも老賢者な佇まいの老人。この学校の校長でマギとネギの祖父が、ようと軽い挨拶をしながら登場した。

 

「あー……じーさんだよな」

「おいおいそんな顔せんでもよいぞ。しかし随分逞しくなったのう前と見違えたぞ」

「はは、ネカネ姉にも言われたけど、どうせなら記憶を失う前の俺に聞かせたかったよ」

 

自嘲気味な笑みを浮かべるマギに校長は肩を強く数回叩く。

 

「何を言っておる。記憶を失ってもお前はお前だ。立派に成長してくれて、わしは誇りに思うしコノエも鼻が高いじゃろて」

「……あろがとうじーさん」

 

今は称賛を素直に受けとるマギであった。

 

「さて、エヴァンジェリンにお嬢さんがた、長旅で疲れたろう。ネカネが食事を用意しておる。よく食べゆっくりするとよい」

 

校長がそう促し、マギ達はネカネが作った料理を食した。 ネカネの料理は食べた記憶は失ってはいたが、どこか懐かしさを感じる。そんな料理だった。

 

 

 

 

その日の夜。のどか達は部屋に案内され、静かな寝息を立てている中、マギと雪姫はネカネと校長に呼ばれた。

 

「そう……ネギも連れて魔法世界に……」

 

ネカネは悲痛な顔を浮かべながら俯く。やはり危険な場所へ赴く事に思うことがあるのだろう。

 

「なぜ急に魔法世界に行こうと思った?」

「クウネルさんにクソ親父が生きてることを聞いて、今魔法世界に行かないと当分、いやもしかしたらもう二度とクソ親父に会うことが出来なくなる。そう直感が囁いたんだ」

「あいつのあの態度は気に食わんが実力はあるからな」

 

ふうあやつかと溜め息を吐き呟く校長。どうやらクウネルのあの性格には校長も手を焼いているようだ。

 

「だがマギ分かっておるか?魔法世界はエヴァンジェリン程ではないが、強きまたは凶悪な魔法使いなどごまんとおる。お前やエヴァンジェリンはともかく、ネギやあの子達を連れていくのは危険じゃないのか?」

「じーさんの言う通りだ。けどのどか達が自分達の意思で同行するって言ってくれた。だったら彼女達を尊重することにした。それに自分達から硝煙舞う殺伐とした場所には行かないって決まったし」

 

修行が始まる前に不死身の体を使って危険な場所へ1人でも向かおうという話をマギがしたら、ネギやのどか達が必死に止め最後には涙目でマギが行くなら自分達も行くという一騒動が起こった。そして危険な場所でも対応出来るようにとエヴァンジェリンの地獄の修行を行ったのだ。

危険な修行をしたが、わざわざ危険な地雷原に突撃する必要はない。そう決定したのだ。

 

「そう言うことならお前を信じよう。それに魔法世界はネギも知らぬ世界が広がっておる。お前にとってもいい勉強になるだろうて」

「ありがとうじーさん。絶対に俺は誓ったことを破らない事を誓うよ」

 

マギは覚えてないが校長とマギは日本に行く前と同じような誓いを立てるのだった。

 

「マギ、どうか無理だけはしないでねお願いだから」

「分かってるよネカネ姉。無理はしない。けど自分の責務は絶対に果たすさ」

「エヴァンジェリンもあっちの世界で悪さだけはせんようにの」

「分かってる。マギと坊やを裏切る真似はしないさ。それと今の私は雪姫だ。私の本名を言っていいのはマギだけだ」

「ほぉ、あのばかたれからマギに心変わりとはな。おまえさんもやるのぉ」

「うるさい。あまりちょうしにのった事を言うならその立派なアゴヒゲを凍らせて氷柱みたいにするぞ」

 

とその後少しの雑談をして寝床に入ったマギ達であった。



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MOONLIGHT

今回とある作品の武器が登場します。
その作品を知らない方は申し訳ございません



マギ達がウェールズに到着した翌日。マギ達は改めてネカネに案内されて町並みを観光した。歴史を感じるような建物に広大な自然をふんだんに堪能する一行。

眼前に広がる草原でプールスと亜子とかけっこしたりして遊んでいると日が傾きもう夕食の時間だと言うことでネカネの家に戻ろうとして、マギはふと足を止めた。

 

「どうしたマギ?」

 

雪姫が呼び掛けてもマギは反応を見せず

 

「……呼んでいる」

 

とポツリと呟いた。

 

「呼んでいる?」

「あぁ何かが俺を呼んでいるんだ。声じゃない、何かを感じるんだ皆は何か感じないか?」

 

雪姫達は皆首を横に振る。雪姫達にマギを呼んでいる何かの気配を感じ取れない。

 

「呼んでる。呼んでるんだ……」

「おっおいマギ、何処へ行くんだ」

 

マギは自身を呼ぶ気配に導かれるように駆け出し、雪姫達も慌ててマギを追いかけた。

マギは導かれ、昨日訪れた魔法学校で足を止めた。此処にマギを呼ぶ存在が居るようだ。

しかし今度は地下に向かう階段を下りていった。

 

「おいマギ、この下にお前を呼ぶ者が居るのか?」

「あぁ。けどなんか人の感じはしない。なんか別の存在みたいだ」

 

雪姫に聞かれマギはそう答える。人の感じがしないどういうことなのだろうか。

 

「まさかマギさんやエヴァンジェじゃなくて雪姫みたいな、人じゃない奴が封印されてるのか?」

「いいえ。そんな話一度も聞いたことはないわ」

 

千雨の推測にネカネは直ぐに否定する。ネカネもこの学校で学んでいたが、校長はそういった話を隠すなんて真似はしていないと信じている。

到着した場所は英語で≪武器庫≫と書かれていた。物騒な場所なのに見れば鍵も南京錠も付けられていない。

取っ手を持ち、ゆっくり引くとぎぎいという音を鳴らしながら開いた。

中は誇りっぽく、真っ暗だったのでネカネやのどか達が初歩の魔法で火を点火させ壁に刺さっている松明に火を当て、武器庫が火の明かりで照らされる。

 

「どれもこれも随分古い武器です……」

 

夕映の言うとおり、最近の武具ではなく日本で刀というところの剣や槍が大事そうに置かれている。

 

「昔の戦争にここの村が基地として使われていたらしく、この学校が建つ前は前線基地が建てられていたらしいの。戦争が終わってからは使われていた武器は供養も兼ねてこの武器庫を作って閉まった後に上に学校が建てられたみたいなの」

「へーそうなんや……」

「どれもこれもお役目ごめんって訳だな」

 

 

亜子や千雨もまじまじと武具を見る。まるで博物館だと思ったのどか達。こんな場所にマギを呼んでいるものがあるのか

とマギが遂に歩みを止めた。

 

「これは、なんだ?」

 

マギは目の前のものをまじまじと見る。

それは1本の剣であった。

刀身は鉄ではなく宝石のようで、まるで芸術品のよう。

炎の光で刀身は青白く光る。

その光はまるで夜空を照らす月光であった。

 

「とっても綺麗レス……」

 

プールスは目の前の刀身の輝きに感嘆の声を挙げている。確かにこの月光のような輝きは美しいと思ったマギ達。

 

「でもこれって普通の剣じゃないよな。回りの剣と違って錆び付いていないし、魔法剣って奴か?」

「これって伝説の聖剣っていうやつかな?エクスカリバーとか有名やん」

「これがマギを呼んでいたものか?」

「あぁ。さっきからこの剣が俺を呼んでる。けど、この剣は一体何なんだ?」

 

マギは光輝く剣に手を伸ばそうとするが

 

「余りそれに触らん方がよいぞ」

 

後ろから校長の声が聞こえ皆一斉に振り替える。

 

「じーさん、触らない方がいいってどういうことなんだ?」

「うむ。どうやらその剣は呪われておるようで、剣を持った者達はことごとく可笑しくなったか命を失っておって、危険ということでこの武器庫に奉っておるというわけだ」

 

呪われていると聞かされ、亜子やプールスは小さな悲鳴をあげ、のどかや夕映に千雨は冷や汗を流す。

 

「呪われてるって、そもそもこの剣は何なんだよ」

「この剣はわしが生まれる前からこの地にあったらしくての――」

 

校長の話だと戦が終戦した時に武具を埋葬しようとしたら、混ざっていたらしい。

この剣も一緒に納めようと1人の男が剣を掴んだ。そして悲劇は起こる。

剣を掴んだ男は暫く静止していたが、目や鼻口耳から血を吹き出し絶命してしまったという。

場は混乱の大騒ぎになり、他の男達も剣を掴むが次々に血を吹き出すか、発狂し再起不能になるかのどちらかだった。

結果この剣が危険だという認識が浸透するまで10人以上は犠牲になったという。

その後はその場に居合わせた魔法使いが魔法で何とか剣を安全に運んで他の武具と同じように奉ったのであった。

これにて一件落着……とは問屋が卸さないようであった。

剣は奉られた後も人を呼んでおり、呼ばれた者はこの武器庫へ訪れ剣を握り絶命してしまった。中にはその剣の噂を聞いたのか手に入れようとする輩も現れるようになったという。確かに錆びることなく輝く剣などお宝でしかない。

が結果は同じ、酷い骸が剣の前に無残に転がるだけであった。

そして年月は経ち、学校が建設され、剣の事は『呪いの魔剣を触った者は呪いによって死ぬ』という警句として語り継がれ、学校の生徒や教師は誰1人剣に手を出そうとする者は居なかった。

ただ、どんな時代にも阿呆は必ず居るものだ。

学校の卒業生の男が度胸試しということで剣を掴もうとしたのだ。

だが呪いは迷信ではないというのは知っていたので、仲間を連れて、自身に呪いを無効にする魔法を盛大に掛けたそうだ。

そしていざと剣を掴んだのだ。魔法が効いているのか呪いが発現することはなかった。

男は調子に乗って勇者のように剣を掲げようとしたら、急に頭を抑え、叫びだし発狂しだした。

直ぐに仲間が先生や校長を連れてきた事によって命だけは助かった。

だが精神が逝ってしまい、薄ら笑いを浮かべながら

 

『悪魔が……竜が……獣が……月の化物が殺しにやってくる』

 

延々と呟き、哀れ度胸試しをしようとしたら病院のベッドの住民となり、未だに回復していないという………

 

「それがこの剣に関わった者の末路だ」

 

校長の話を聞いてすっかりすくんでしまったプールスやのどかや夕映。怖さとエグさが混じった話に嫌にイメージが浮かんでしまった。今日は中々眠れそうになさそうだ。

「なぁマギさん、校長先生の話を聞いたけど、別にマギさんが選ばれた特別な存在ってわけじゃなさそうだぞ?あたしから言わせれば甘い匂いで誘い込んで獲物を食べる食虫植物のようなもんだろ」

 

千雨の例えは的を得ているだろう。しかしマギは

 

「……でも俺はこの剣を取る。取らないといけない気がするんだ」

 

そう言いマギは剣へ手を伸ばそうとする。しかしマギの手首を雪姫が掴む。

 

「分かっているのかマギ、私とお前は不死身の存在であるが精神までもが不死身というわけじゃない。精神が死んでしまったら人の死となんら変わりがない。それに私達は魔法世界に行ってナギを探しに行くんだ。こんな得体の知れない物を手に入れるためじゃない」

 

志し半ばで途中退場なんてただの馬鹿だ。

 

「……ごめんエヴァ。けど、俺を信じてくれ」

 

マギは雪姫の制止を振り切り、剣を掴んだ。次の瞬間

 

「あっ、が!?」

 

マギの頭の中へ次々と映像が流れ込んでくる。それは膨大で次々と流れていく奔流のごとき激しさ。常人なら頭の中がパンクしてしまう程だ。

 

(これは……記録?いや、この剣に刻まれた記憶なのか?だめだ、意識、が………)

 

遂には意識を正常に保てなくなり、一瞬の気の緩みよって記憶の奔流に押し流されマギは意識をテレビの様にぶつりと切ってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ギ。―――――ギ。――――マギ。――――おいマギ!―――マギ!この馬鹿早く起きろ!!」

「……う、あ……?」

 

雪姫の怒鳴り声に反応するように、マギはゆっくりと目蓋を開け、そのまま上体を上げた。

 

「あれ?皆どうしたんだ?」

 

呑気にいやこれは寝ぼけて場違いな事を聞き出すマギに雪姫は割りと本気な拳骨を浴びせる。

悶えるマギにのどかやプールス達が飛び込んで来て、暫く混乱していたマギだが、漸く自分が何をやったのか思い出した。

 

「俺、ずっと意識を失ってたのか?まさか結構時間が経って……」

「いや、時間事態は10分も満たしておらん。お前が倒れてエヴァンジェリンは随分と慌てておったぞ」

「黙っていろじじい!それとマギ、今度勝手な事をしたら、許さないからな。覚悟しておけよ」

「あぁ。次からは絶対にしない」

 

憤っている雪姫に深々と謝罪する。

 

「そう言えばマギさん、もう剣を持っても何ともないのか」

 

千雨に聞かれ、マギは改めて剣を凝視する。もう何も起こらないようだ。

 

「これは俺がこの剣に認められたっていう事で良いんだろうか」

「いや、ウチらに聞かれても困るんやけど……」

 

苦笑いを浮かべる亜子。

 

「それで、マギさんは一体何を見たんですか?」

 

のどかに聞かれ、ぽつりぽつりと呟くように話し始める。

 

「見るというより、追体験してるような感覚だった。この剣を持ってでっかい悪魔だったりミイラになった王様だったり、白い竜や黒い竜やはたまた赤い頭巾のじいさんと、更には獣になった市民や神父や騎士と、見てるだけで正気を失いそうな化物と、他にも狂ってしまった狩人だったり、形容しがたい邪神のような化物だったり、義足じいさん、最後は月から化物が現れて……そいつらと死闘を繰り広げ、終わって気がついたら目を覚ましたって所だ」

 

聞いてる感じじゃラノベが数冊は作れそうだなとツッコミを入れる千雨。

 

「追体験と言ってもやって来た事はリアルでしかなかった。でも修行を行っていたから何とか勝てた。戦いの中で何回も身を引き裂かれたし、炎で焼かれたりしてたけど、不死身のお陰っていうのもあったんだろうな。多分今まで死んだり狂ったりした奴らはこれらの戦いに脳や精神が耐えられなかったからだろうな」

 

不死身様々だなとマギは少しおどけてみたが、反応が今一で滑ってしまい、急いで咳払いで誤魔化した。

 

「それでこの剣が何か分かったです」

 

夕映が剣の正体が何かを尋ねると、マギは真剣な顔に切り替え

 

「この剣は恐らくだが、この世界の物ではない。そして魔法世界の物でもないだろう」

 

この世界つまり地球産でも魔法世界産の剣ではないと聞き、驚きを見せるのどか達。

 

「どうしてそう思ったんですか?」

「あーのどか、理由としてはだな、俺が追体験した世界では亡者が闊歩してたし、悪魔や竜もいた。中世のファンタジーな見た目で最初は魔法世界かと思ったが、魔法世界には獣人や耳の長いエルフみたいな人がいると聞いた。がその世界ではそう言った人種を見ていない。竜の女の子や下半身が蛇なやつは居たがな。人が獣になってしまう世界は魔法は全然見られず、剣と銃が主流の近代ヨーロッパな世界だった。けど、地球でそんなパンデミックがあれば歴史に残るだろうし、邪神みたいな化物の存在が知れ渡っていたら、世紀のスクープになってそれこそ歴史に残っていただろうさ」

 

それとと話を続けるマギ。

 

「世界観が違うのに、同じ剣はある。俺はこの剣は何かしらの力によって様々な記憶が概念が形作られ剣となり、別次元世界からこの世界にやって来た。そう仮説を立てた」

「いや何かしらの力ってなんだよマギさん。それにどうやってこの世界にやって来たんだよ」

「いや正直言って謎の力としか言いようがないし、この世界に来たのも不思議パワーということだろうし、それに……今考察する必要もないだろ。この剣が俺のになったということが分かっただけでももうけもんだ」

 

ええぇとマギのあっけらかんな姿に千雨は思わず引いてしまう。がマギの言う通り訳の分からんものに対しても考察しても時間の無駄であろう。

 

「ですが別の世界、所謂平行世界というわけですか。前の私ならそのような世界を否定していたですが、未来から来た超さんも居るんです。平行世界があっても可笑しくはなKいのですね」

「けどほんまにかっこいいねその剣。まるでマギさんが勇者になったみたいやね」

 

亜子がマギの事を勇者と称賛し、勇者かと呟くマギ。

 

「まぁ勇者って器じゃねえな俺は。それはネギの方だろ。それにこの剣があった世界って王道勇者が裸足で逃げ出すほどのダークファンタジーな世界だったし」

 

と雑談を終える。

 

「それでこの剣は何て言う名前なんだ?随分と大層な名前でもあるんだろうな」

「あぁ。この剣は月明かりの大剣とか、月光の大剣とか、月光の聖剣って名前があるみたいだが。そうだな……月光の(つるぎ)。そう呼ぶことにするよ」

 

こうして月光の剣はマギのものになったのだ。マギが魔力を月光の剣に送り、それに呼応するように、月光の剣は刀身を美しい月の光を出すのであった。

 

「っ!」

 

とその時、マギは何かの気配を感じる。そしてそのまま月光の剣を持ちながら武器庫を飛び出していった。

階段をかけ上り地上に戻ると、月光の剣を何もない虚空に向けて構える。

 

「どうしたマギ。血相を変えて飛び出して」

 

追い付いた雪姫が訳を聞くと

 

「何かが来る。悪い気配がたくさんと」

 

そうマギが言った瞬間、目の前の空間が大きく揺らぎ大きな暗い大穴が現れた。

その暗闇の穴から

 

『うぉぉぉ……』

『ぐぁぁぁぁ……』

 

翼の生えた、太い角が付いた、腕が6本あるといった異形の悪魔達がぞろぞろと動物の群れのように現れた。

そんな異形の化物の最前列に居た悪魔が人の姿となり黒服とマントを纏いシルクハットを被った老紳士へと姿を変える。

 

「やぁ、まさかこんな早い形で再会するとは思わなかったよマギ君」

 

かつて学園に侵入し、ネギと戦ったへルマンがシルクハットを取り優雅に挨拶をし決まったとばかりに笑みを浮かべた。

のどかや夕映に亜子はへルマンの登場に驚き、へルマン襲来時には魔法を知らなかった千雨はだれだと首をかしげ、雪姫はあぁこいつかと然程興味なさそうに、プールスは嘗てよくしてくれたことを思い出し素直に喜んでいいのか複雑そうに。

そして名指しされたマギはというと……

 

「……すいません。どなたですか?」

 

申し訳なさそうに謝罪し、へルマンに名を尋ねた。

へルマンは笑みのまま固まり、しんと静まり返りとても居たたまれない空気となってしまった。

本来だったらと一触即発の張り詰めた空気になるはずだったのに、マギの一言によって色々と台無しなグダグダな空気になってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 



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悪魔再来

「ひどいじゃないかマギ君。まだそんなに経ってないのに私の事を忘れてしまうなんて」

「いや、忘れたんじゃなくてつい最近記憶を失くしてあんたの事を覚えてないだけだ」

 

そう言ってマギはまるで世間話をするようにへルマンに自身の記憶が失くなった経緯を話始める。

へルマンの後ろには殺気だった悪魔が鼻息を荒くするか、唸り声をあげるものもいる。そんな中で自身の事を話すのは変な光景である。

マギの話を聞き終えたへルマンは深い溜め息をついたあとに、残念そうではあるが、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

「その戦いでマギ君は記憶を失った訳か。折角優雅に挨拶し緊迫な空気を作りたかったのに残念だ。そして、君は我々寄りの存在になったようだな。我々と同じような匂いをしている。しかし君は不死身の存在になってしまったのか……もう成長することもなく、その成長を潰し、潰されるのを見ることが出来ないのもまた残念だ」

 

へルマンの勝手な物言いにマギは眉を寄せることもせず、おあいにくさまと月光の剣の剣先をへルマン達に向ける。

 

「俺は自分が不死身だからって胡座をかくほど怠惰に腐る積もりは毛頭もない。生に限界がないのならとことん前進して強くなるだけだ。俺が強くなるのを止めた時、それは平和な日常を謳歌している時だ。だから、今は目の前の障害を排除するだけだ」

「いいぞ、よい啖呵だ。流石はネギ君のお兄さんだ」

 

満足そうに微笑みを浮かべているへルマン。すると

 

「――――!―――!!――――!!!」

 

悪魔の群れの方から女の金切り声のようなものが聞こえてきた。

見れば鎖でがんじがらめになり、口には猿轡をはめられた、マギに返り討ちにあった女悪魔のサキュバスがマギを血走った目で睨んでいる。全身からマギを殺そうと殺気が溢れていた。

 

「あいつは何だ?嫌に俺を敵視してるが、俺があいつに何した?」

「あぁ彼女は前に私が麻帆良に来た時に同行してね、マギ君と対峙したのだが、その時彼女、今はプールスと言ったかな?プールスを虐めそこに居るお嬢さん辱しめた事でマギ君の怒りを買ってね、返り討ちにあったのさ」

 

プールスが虐められ亜子が辱しめられたと聞いた瞬間、マギの目がすうと細くなった。

 

「やられた後に戻ってきたが、マギ君にこてんぱんに伸されたのが堪えたらしくてね、元々のサディスティックな性格は引っ込んでしまい、本能で暴れる低級悪魔に成り下がってしまったわけさ。マギ君にリベンジ出来るってことで連れてきたが、無闇に暴れないようにああして鎖で縛っているが」

 

等と話しているとサキュバスは強引に鎖を破壊し、猿轡も引きちぎって取った。

 

「このビチグソ野郎!!よくもこの私にあんなひどい事をしやがったな!今からてめぇをズダボロにしてやる!!」

 

サキュバスの叫びに特に反応を示さないマギにさらにサキュバスは捲し立てる。

 

「何涼しい顔をしてるんだてめぇ!今からてめぇの手足を切り落としてその粗末なもん食い千切って目の前で潰してやる!!」

「人を虐めるのはよくって、やられると逆ギレとか、自称Sが聞いて呆れるな。調子づくなよあばずれが」

 

マギが鼻で笑った瞬間、サキュバスは体を肥大化させ、マギに向かって突撃しようとして―――――

 

『はぇ?』

 

次の瞬間には自身の眉間に月光の剣が深々と刺さっていた。

なぜ自分に剣が刺さっているのか分からず呆けた声を出していると

 

「ひどい事をした……か。俺の大事なプールスや亜子にひどい事をしておいて何自分だけ平気で被害者面なんかしてるんだ?」

 

目に光がないマギの冷笑を見てサキュバスは全身の悪寒が止まらなくなった。

前に自分と対峙したマギは人が傷つけられたことに対する怒りを露にしていた。

しかし今のマギからは怒りなど全く感じない。

あるのはただ単純な敵意や殺意のみ。マギにとっては目の前のサキュバスは家に湧いた害虫位の感情しか持ち合わせていなかった。

光のない目からは底の見えない暗闇が、そしてマギから漏れだしている闇の魔力が全身を蝕んでいる。

―――あ、こいつにはもう絶対に勝てない。

先程までのマギに対しての殺意は一気に萎んでしまった。

 

『ごっごめんなさ―――ぐぼ!?』

 

反射的にマギに謝罪しようとした瞬間に、マギはサキュバスの口を掴み、少しずつ手に力を込める。みしみしと嫌な音がサキュバスの顔面から聞こえる。

 

「おいおいさっきまでの威勢はどうしたんだよ?まさかもう戦意喪失だっていうのか?…………ふざけんなよ。プールスや亜子に酷い事しておいて、自分だけ被害者面しておいて、早々に心が折れたっていうのか?早く立て直せよ。俺の粗末なもの食い千切るんだろ?ほら掛かってこい」

 

と挑発しておきながらマギは手の力を緩めることは一切しない。サキュバスももう心がぽっきりと折れてしまった今あるのはマギに対する恐怖だけである。

 

「はぁ、もういいよ。もうつまらんから終わらせるわ。もう此方には来ないで、部屋の隅でぶるぶる震えてろ。そんじゃばいばい」

 

マギは月光の剣をサキュバスから引き抜くとそのまま首を切り落とした。首を切り落とされたサキュバスは崩れ落ちるように倒れ、そのまま灰のように消えてしまった。

 

「なぁネカネ姉」

「はっはい!」

 

急にマギに呼ばれ肩が上がるネカネ。

 

「雪姫から聞いたけど、俺とネギの故郷であるこの場所を悪魔が襲撃したんだってな。この悪魔の群れに此処を襲った奴は居るのか?」

「……ええ。今貴方と話した悪魔はスタンおじいちゃんを石にした悪魔よ。他にも居ると思うわ」

 

それだけ聞けば充分だ。マギは自身の影からグレートソードを取り出し左手にグレートソード、右手に月光の剣の二刀流で構える。

 

「過去の事は覚えてないが、ここいらで過去を乗り越えるって言うのも俺が前進する一歩になるだろう。遠慮なく掛かってこい。撫で切りにしてやる」

 

マギの挑発に悪魔達は咆哮を挙げながら、マギに食って掛かる。唯一へルマンだけは肩を竦めるだけだった。

しかしそこからは一方的な蹂躙だった。悪魔の群れの大木の様に太い腕や足や尻尾、剣の様に鋭い牙も、口から放たれる灼熱の炎も凍える凍土の吹雪も、蝕む毒も目から出される怪光線もマギには何の意味もなかった。

グレートソードで悪魔の攻撃を防いだ後に悪魔に向かって振り下ろし、凪ぎ払う。悪魔が密集してくれているお陰で多少雑に振っても悪魔達に当たる。

グレートソードは切るというより、叩き切るの方が合っている。悪魔達を叩きぶつ切りに切り崩す。悪魔がグレートソードに切られる度に鐘のような音が響き渡る。

月光の剣は切った悪魔の部位を灰にして消してしまう。不浄を浄化しているのであろうか。更に炎や吹雪や毒も浄化してしまう。

多勢に無勢な状況だと思われたが、たったマギ1人の無双状態となってしまっていた。

 

「まっマギを助けなくていいのかしら……」

「何を言ってる。あれの何処に助太刀する要素がある?今のマギには無用だ。黙って見守っていろ」

 

姉心で助けようとしたネカネに雪姫は手出無用とそう言った。

のどか達も最初はマギの容赦のない冷酷な姿に驚きと恐怖が湧いた。だが、マギの戦う姿を見ていると

 

――――あ、かっこいい

 

と思ってしまっていた。

 

(この子ら難儀な惚れ方してしまったようだな……)

 

校長はこの子ら大丈夫だろうかと心配しながら溜め息を吐いた。

そしてあれだけいた悪魔達はもうへルマンただ1人を残すだけとなった。

 

「残ったのはあんたのみだな。どうする?尻尾巻いて逃げ出すか?」

 

グレートソードの剣先をへルマンに向ける。がへルマンは笑みを浮かべている。

 

「逃げ出す?とんでもない。むしろマギ君に礼を言いたいぐらいさ。所詮低級悪魔程度がマギ君に勝てるとは毛頭も思っていなかったからね。私が望むのは一騎討ち。邪魔な悪魔達を掃除してくれてありがとう。それに……雑魚ばっかりの相手をして欲求不満なんじゃないかね?」

「……そうだな。あんたが強いっていうのは肌で感じていた。正直言って雑魚共を蹴散らしていた時もあんたと戦いたくてうずうずしてた所だ」

「ふふ、そうかい。だったら……」

「あぁ、とことん……」

「「やってやろうか!!」」

 

同時に吼えたマギは同時に突撃した。

 

「まずはごあいさつだ、悪魔パンチ!!」

「うおらぁ!!」

 

へルマンの悪魔パンチとマギのグレートソードの振り下ろしがぶつかり合い、今日一番の轟音と衝撃波が起こった。

 

「やっぱり、そう簡単にはいかないか」

「これでも元爵位の身だからね。そう易々と遅れは取らない積もりさ」

 

下級悪魔ならグレートソードで腕を斬られていたが、へルマンの腕はびくともしていない。

その後もへルマンは徒手格闘でマギに襲いかかり、マギはグレートソードと月光の剣で応戦する。

へルマンと戦い始めてどれくらい経っただろうか、段々とマギの中でへルマンとの戦いに愉しさを見出だそうとしていた。

強いへルマン、こいつを降す事が出来ればどれくらいの快感を感じる事が出来るのだろうか。

獣の本能が身体中を巡り、口角がどんどん上がっていく事が分かる。

 

「ふふ、愉しいのかいマギ君?」

「あぁ愉しいな。あんたは強い。強い奴と戦ってると、こう体の内から熱い何かが沸き上がってくる感じだ。このままあんたと戦っているのも悪くない」

「いい殺し文句じゃないか。私が女だったら良しと思ってしまうな」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ……けど」

 

気合いを出しながらグレートソードを横凪ぎに振るう。へルマンは両腕でガードし、数m吹き飛んだ。

 

「悪いが俺は強い奴と戦いを楽しむために強くなろうとしたんじゃない。大切な人を自分の力で護り抜くためだ」

 

グレートソードの切っ先をへルマンに向けてそう言い切るマギ。

ふむと顎に手を当てるへルマン。マギが言った事は旗から見れば安い芝居のような宣言に聞こえるかもしれないが

 

「ネギ君とは違い、マギ君は護るためなら相手を滅してしまってもいいと、そう思っているんだろう?」

「ああ。降りかかる火の粉は払うんじゃなくて、元から断つ方が手っ取り早い。それにあんたはこっちで倒しても死ぬわけじゃないんだろ?だったら遠慮なくやれるってこった」

 

マギはオーラを出しながらヘルマンを押していく。ヘルマンも笑みを浮かべ、人の姿から真の悪魔の姿へと戻る。

 

「さぁ第2ラウンドと行こうか!」

 

 力を解放したヘルマン。ネギも真の姿のヘルマンと戦うことはなかった。相手の力は未知数だ。

 だからこそマギは

 

「雪姫、あの力を使うぞ。いいか?」

 

 修行で身に着けた力を使うことを雪姫に許可を求めた。

 

「いいぞ。余裕をかましているその悪魔の度肝を抜いてやれ」

 

 雪姫は不敵に笑いながら使用を許可した。

 

「マギさん、どうか無理はしないで」

「あんま心配はしてないけどさ。調子乗って暴走しないでくれよ」

「マギさん勝ってな!」

「マギさんの勝利を信じてるです」

 

 蚊帳の外状態であったのどか達もマギの勝利を願う。

 ありがとうと言いながら、マギは四つん這いの状態になる。

 

「SWITCH ON BERSERKER LEVEL……40!!」

 

 マギの体に闇の魔法のオーラが身を包む。

 

「ああああああああ……AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 マギは雄叫びの咆哮を挙げながら、獣のように駆けてヘルマンに向かっていく。

 

「ふふ、まるで獣のようじゃないか?でも叫ぶだけでこの私に勝てると思っているのかい?」

 

 四つん這いの状態から飛び上がり、ヘルマンに向かってグレートソードを振り下ろすマギ。

 他愛なしと思いながら、ヘルマンは片腕でグレートソードを防ごうとする。防いだ後にご自慢の悪魔パンチをお見舞いさせてやろうと思いながら。

 だがそんなヘルマンの思惑通りはいかず、鈍い音がしてグレートソードを防いだ片腕はまるで肉や魚を解体するかの如く、両断されてしまう。

 

「なっに!?」

 

 これにはヘルマンも驚きを隠せない。真の姿の状態は人の形態よりもパワー、スピード、そしてタフさも数倍に上がるのだ。

 それなのに自分の片腕がいとも容易く切られてしまったのだ。驚くのは無理はないだろう。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 今度は叫びながら、グレートソードを横なぎに振るうマギ。

 

(まずい!!このままでは胴が両断される!ならば、魔力を胴体に集中して防御を上げるしかない!!)

 

 ヘルマンは瞬時に魔力を胴体に集中させる。ヘルマンの胴体にグレートソードが当たった瞬間に今まで一番大きい轟音と衝撃波が起こり、のどか達は耳を塞いで鼓膜を守る。

 

「UUUUUUUUUUUUUUUUU―――――GRUAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 マギは力任せにグレートソードをフルスイングし、そのままヘルマンをボールのように吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばされたヘルマンは数回バウンドしてから地面に叩きつけられる。

 

「ぐっふぅ!!」

 

 ヘルマンの胴体に一文字の傷が出来ている。魔力で体の強度を上げても傷がつき、血を流すことになるとは

 

「AAAAAAA!AAAAAAAA!!」

 

マギは追撃を絶やさず、ヘルマンに向かって連続でグレートソードで攻撃する。あれだけ息巻いていたのに、真の姿になってからヘルマンは攻撃することが出来ずにサンドバック状態になっていた。

 ヘルマンの体には段々と傷が広がっていき、確実なダメージを刻まれていた。

 そんなヘルマンはある感情で埋め尽くされていた。

 それは恐怖の感情ではなく、"歓喜"であった。今のマギの姿は自身が求めていた姿の1つの完成形。一切の躊躇もなく、相手を完膚なきまでに叩き潰す。そんな純粋な力を振るうそんな姿を素晴らしいと褒め称えたいと思うほど。

 だからこそ知りたい。そんな敵を容赦なく、完膚までに叩きのめす力の権化の存在がどうやって大切な存在を護ろうとするのか

 

「ますます興味をくすぐられるよ。悪魔パンチ!!」

 

 ヘルマンは残った腕でマギに悪魔パンチを放つ。ダメージを受けてもその脅威は失っていない。

マギはグレートソードでヘルマンのパンチを防ぐが、そのまま後ろに吹っ飛ばされてしまう。

 マギが怯んでいる隙にヘルマンは翼を広げ、上空へと飛び上がる。

 逃げたのか、一瞬そう思った。いや逃げた気配は全然感じられなかった。

 

『聞こえるかねマギ君』

 

 何処からかヘルマンの声が聞こえる。それがヘルマンからの念話だと気付くのに時間はかからなかった。

 

『今からこの村の住民を石化させた魔法を最大出力で放つ。そうすれば、この村の住民や、君が懇意にしている彼女達も漏れなく石と化すだろう。さぁ大切な者達を護り通すことが出来るかな?』

 

 ヘルマンは石化魔法を上空から放とうとしていた。ゴマのように小さく見えるへルマン。かなり上空に飛んだようだ。今から飛んでもヘルマンの元へ辿り着くころにはヘルマンは石化の魔法を放ってしまうだろう。

 

「GRUUUUUUUUU……くそっ!ずるいやり方をしやがって…!」

『悪魔だからね。さあグズグズしていると私が石化の魔法を打ってしまうよ』

 

 SWITCH ON BERSERKERを解除して悪態をつくマギ。こんなことをしている間にもどんどんと時間は迫っている。どうすればいいのか思案を巡らせていると

 月光の剣が刀身を煌々と輝かせている。まるで『自分を使え』とそう言っているかのようだった。

 

「……わかった。お前を信じる」

 

 新たに出来た相棒を信じるために、マギは月光の剣に魔力を送る。それに応える様に月光の剣は更に輝きを増したのだ。そして

 

「おらぁ!!

 

へルマンに向かって月光の剣を横に振るうと、月光の剣の刀身から月光の光の飛ぶ斬撃が放たれた。それと同時にへルマンも石化の魔法を口から放った。

月光の剣から放たれた飛ぶ斬撃は勢いを失うことなく、空へと飛んでいきそのままへルマンが放った石化の魔法と衝突した。

そのまま拮抗状態になる………かと思いきや、月の光の浄化の力によってへルマンの石化の魔法は霧散してしまった。

へルマンは驚きの表情を浮かべながらガードしようとしたが間に合わず、そのまま月光の斬撃はへルマンを両断した。

 

「ぐっむぅ……!み、見事だ」

 

くぐもった声を出しながらマギを称賛し、そのまま地面へと墜落するへルマンであった。

 

 

 

 

 

 

「……ふふ、こうまでしてやられるとは。やるじゃないかマギ君」

 

地面に墜落したへルマン。両断された下半身はもう消滅しており、今は上半身が少しずつ消滅しようとしていた。

 

「そうでもないさ。あんたは強かった。それにあんたが空に飛んだ時にこいつがなかったら今頃詰んでたさ」

「ははは。あんな切り札や、その剣を持っておいて謙虚なんだね。しかし、孫の成長を見たようで楽しかったよ」

 

おおらかに笑うへルマン。とても先程まで殺しあいのような戦いをしていた者の表情ではなかった。

 

「マギ君はこれから魔法世界に行くんだったね」

「何であんたが知ってるんだ?」

「私達を喚んだ者が言っていてね。マギ君が魔法世界に行くから君か君に従順している者を殺すか石にしろって言う命令でね。私としては殺しはお断りだったから適当に済まそうとしたんだけどね。結果は返り討ちでこの通りさ。話を戻そう。魔法世界はこの私よりも強い存在はごまんと居る。まぁこの私をこてんぱんに伸したんだ。君は魔法世界でもやっていけるだろう。けど、そこに居る彼女達を護りながらやっていけるかい?」

「あぁ。絶対にあの子達は護り抜く」

 

覚悟が揺らいでいないマギを見て結構と満足そうに頷くへルマンは、のどか達を見る。

 

「君達も私達を見ても逃げようとする素振りは見せなかったね。それほどマギ君の事を信頼しているんだろう。しかし、魔法世界は甘い世界じゃない。それだけは骨身に刻んでおいてほしい」

 

 ヘルマンの忠告を黙って聞いていたのどか達にも結構結構と頷く。そして最後はプールスだ。

 

「君もマギ君達に大切にしてもらっているようだ。私達とすごしていた時よりも強くなっているのが分かる。これからもどんどん成長していってくれると私は嬉しいな」

「はいレス!」

 

 さっきまで殺伐とした戦いを繰り広げていたのに、今は親戚のおじさんのお別れのようである。

 

「そろそろ時間だな。ではマギ君、次に会った時には誰かの依頼などではなく、個人的に君やネギ君の成長を見たいものだ」

「あぁ。その時はまた戦ってやるよ」

 

 マギが獣の様な不敵な笑みを浮かべると、ああそれは楽しみだと満足そうに笑い、ヘルマンは塵となり消滅した。

 さっきまで悪魔がいたのが噓のようにしんと静まり返っている。実害は特になく、あるのはマギが振るった事で地面のタイルが砕けた程度の軽いもので済んだ。

 

「しっかし、何で急に悪魔がやってきたんだろうな」

 

 千雨が呟く。のどかや夕映に亜子は悪魔たちの事は知っていた。だがマギや自分たちがここに居ることは、ネギや麻帆良の関係者しか知らないはず。

 

「だったら……そこの角で私達を厭らしい目で見ている奴に聞けばいいんじゃないか?」

 

 雪姫が近くの建物の角を見ながらふっと笑う。すると何者かがばっと飛び出した。かなりの速さを出していることから魔法使いの様だ。

 

「マギ」

「あぁ。捕まえる」

 

 雪姫に命じられ、マギは逃げた者を追いかける。鬼ごっこは特に起こることなく、あっさりとマギに捕まった逃亡者。

 

「くそっ!離せ化け物が!!」

 

 マギに捕まって肩を固められた逃亡者の男が口汚くマギを罵りながら逃げ出そうと暴れるが、びくともしない。

 

「えっとこの方は誰なんです?」

「マギさんこの人となんかもめた事でもあるん?」

「いや、特に何もなかったはずだけどな……」

 

 夕映や亜子に尋ねられるが、マギも首を傾げてしまう。自分は過去の事を覚えていない。そんな中で最近ガンドルフィーニやガンドルフィーニにつるんでいた者達とひと悶着あったが、その時にこの男はいなかった。

 

「この男、学園長室で私達を睨んでいた奴だな」

 

 つまらなそうに男を見下す雪姫。彼女は学園長室で自分達に敵意の視線を向けていたのがこの男だと言うことは見抜いていたのだ。さらに

 

「こいつは麻帆良の魔法使いではない。長年麻帆良に縛られていたからな。ある程度把握はしている」

「えっということは……」

「こいつは何処からかやってきたスパイだっていうのか?」

 

 雪姫は日本がある方角に向けて舌打ちをする。おそらく何らかの認識疎外の魔法で麻帆良に紛れ込んでいたのだろう。もう少し危機管理をしておけと学園長に恨みの念を送る。

 

「という事は、このスパイがあの悪魔達を召還したのでしょうか?でなければここに居る意味がないです」

「ごめんなさい。私のアーティファクトは相手の名前が分からないと効果を発揮できないので……」

 

 申し訳なさそうに謝罪するのどか。のどかのいどのえきっきは相手の名前が分かって効果を発揮する。目の前の男の名前が分からなければただの絵日記でしかない。

 

「さっさと吐いたらどうだ?そうすれば五体満足で生かしておいてやる」

 

 断罪の剣の切っ先を男に向ける雪姫。マギのおかげで柔和になっていると言っても敵に対しては容赦なく剣を向ける雪姫。しかし男は怯えることなくむしろ逆に雪姫やマギ達を嘲笑う笑みを浮かべていた。

 

「誰が貴様たち化け物に口を割るか。無様な姿を我々が見て嘲笑ってやろう」

 

 そう言って、男は歯を食いしばった。すると男が苦しみの表情を浮かべたと思いきや、足元からゆっくりと石に変わっていく。男は奥歯に石化する魔法薬でも仕込んでいたようだ。

 

「はっはは。ざまあみろ!せいぜい我々の正体も分からず指でもくわえているんだな!!」

 

 どう見ても自滅でしかないが、男は勝利を確信していた。今自分が出来るのはマギ達に対する嫌がらせ。なら存分に嫌がらせをしてやろうと、どんどん石化する恐怖に打ち勝とうとしていた。

 だが、マギはそんな事を許すはずがなかった。自分ならまだしも、のどか達も狙っていたのなら話は別だ。マギは男の頭を掴み、少し力を込めた。

 

「おっ俺を殺すのか?無駄だ、俺は下っ端。俺が死んだからって何の痛手にもならんぞ!」

「いや、のどか達の前で人殺しになるつもりなんてない。ただ俺の大切な人達を危険な目に合わせようとした奴が、クソガキみたいなしてやったりみたいな顔をしてるんだからな……俺もお前に嫌がらせをしてやろうと思っただけだ」

 

 そう言ってマギは男に魔力を送った。

 

「なっ俺に何をした!?」

「……石化した後に、あんたが意識を失わないように、延々と悪夢を見るように俺の魔力を送った。せいぜい、精神が壊れないように心を強く保つように頑張るんだな」

 

 マギがしてやったりな笑みを浮かべた瞬間に、男はさあっと顔を青くする。その悪夢が自身の精神をどれだけ蝕むか分からないのだ。下手したら死ぬよりも苦痛な目に会うのかもしれない。

 

「まっまってくれ!まってください!我々の情報を教える!だから、だから!!」

「嫌だよ。というかもう少し気丈な態度をとってくれよ。やっぱ下っ端だから心は弱いんだな」

 

 男の懇願を突っぱねるマギ。男は絶望な表情を浮かべながら石化してしまった。どんな悪夢を見ているのかは、男にしか分からない。

 

「さて、この男どうしよっか」

 

 マギの普通な態度に校長は深いため息をつき、ネカネはおろおろと動揺している。

 

「とりあえず、邪魔だしどっかに置いておくかの」

 

 という事で、石化した男を運んだのであった。

 

 

 

 

 

 



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覚悟完了

 ヘルマンら悪魔達を撃退したマギ。悪魔襲来後は特に大きな問題もなく、各々自由に過ごしていた。

 のどか、夕映、千雨、亜子らは校長が

 

「せっかくだから魔法について、色々と教えようか?」

 

 と提案してくれて、校長による特別授業が開かれることになった。

 校長の授業は厳しいものであったが、やはり学校の校長という事もあって分かりやすく教えてくれたことによってのどか達は麻帆良に居た頃よりもレベルが上がったのだ。

 プールスはネカネと共に買い物に行ったり、遊んだりしていた。ネカネはプールスがスライムの女の子でも普通に接してくれている。ネカネ自身も新しい妹が出来て嬉しいとのことだった。

 そしてマギと雪姫はというと……

 

「なぁエヴァ、なんで俺……釣りなんかしてるんだ?」

 

 マギは現在雪姫と一緒に池で釣りをしていた。

 

「ここに居た時のマギはここで釣りをしていたようだ。なら、ここで釣りをしていれば心が落ち着くかと思ってな」

 

 マギは日本で来る前のルーティンを行っていた。朝起きてのびのびと釣りをして軽く体を動かしてご飯を食べて寝るを繰り返している。

 

「お前はあの悪魔と戦った時にあの魔法を使ったからな。今は魔法世界に行くまでは心と体を安静しておけ。それに今日には坊やがこっちに来るんだからな。あまり坊やを心配させるようなことはするなよ」

「あぁ、分かったよ。エヴァの言う通りにするよ」

 

 そう言って釣り糸を垂らしていると

 

「お兄ちゃん!!」

 

 とネギが手を振りながらこちらに駆けてきて来る。

 

「おぉネギ。数日ぶりに会ったのになんか懐かしく感じるな」

「そうだね。お兄ちゃんが元気そうで何よりだよ」

「なんかあやか達が来たって聞いたが、何でだ?ばれたのか?」

「いや、ばれたんじゃなくてあやかさん達が自主的にこっちに来たというか……」

「流石はいいんちょだな。直ぐに行動に移すとは」

 

 微笑みながらネギの頭を撫でる。ネギも嬉しそうに微笑んでいたが、直ぐに暗い表情になってしまう。

 

「お姉ちゃんから聞いたよ。あの悪魔のおじさんが来たんだってね。僕もいればお兄ちゃんの手伝いが出来たのに、ごめん」

「大丈夫さ。なんやかんやで俺1人で解決したし、ネギが気に病む必要はないさ」

「それに坊やはトラウマを刺激されて足手纏いになっていたかもしれないな」

「うぅ、師匠そんなぁ」

 

 雪姫にすぱっと切られてしょんぼりするネギに再度ありがとなと言いながら頭を撫でてあげる。

 と微笑ましい光景が描かれていたが……

 

「こらぁ!!マギィ!!」

 

 赤髪ツインテールの少女がマギに向かって駆けていき、そのまま飛び蹴りを放ってきた。

 

「おわっ、あぶね」

 

 思わず顔を横にずらして赤髪の少女、アーニャの飛び蹴りを躱す。

 

「へ?うきゃぁ!?」

 

 まさかマギに避けられると思わなかったアーニャは変な声を出した後に悲鳴を挙げて大きな水柱を出しながら盛大に池へ飛び込んでいった。

 

「あっアーニャ!?」

「おぉ、随分元気なご挨拶だな。大丈夫か?」

 

沈んでいったアーニャを心配そうに見ていると、またも巨大な水柱が上がり、そこからアーニャが飛び出してきた。

 

「あっあんたねぇ!避けるってどういうつもりよ!?ここは詫びの1つとして1発もらうのが礼儀でしょうが!!」

「どんな礼儀なんだそれは」

 

 アーニャの無茶な要望にツッコミを入れるマギはううんと首を傾げる。

 

「なんか前だったら相手の顔を見たらその相手が誰かっていうのは分かるはずなのに、全然分からないぞ。俺って余り面識なかったのか?」

「そう言えば、お兄ちゃんはアーニャとはあまり会って無かったよね。会うのは何か大事な日な時だけだったし、基本お兄ちゃん此処に居た時は1人でいることが多かったし」

「何よそれ!?私は別に覚えていなくても問題ないってことなの!?」

「あーなんか悪いな」

 

 地団太踏むアーニャに頭を下げるマギ。

 

「そう言う事だ。お前の立場が分かったら早くマギと私の空間から立ち去るんだな」

「うっさいわね!それよりもあんた誰なのよ!?」

 

 雪姫に噛みつくアーニャにネギは慌てる。

 

「誰だって?私は坊やとマギの大事なお師匠様さ」

「ネギとマギの師匠ですって?って言う事はあんたが悪名高いエヴァンジェリンっていうの!?うっそ!私が聞いたのはエヴァンジェリンって私やネギよりも小さいちんちくりんの女の子って聞いたわよ」

 

 ちんちくりんと聞いた瞬間、雪姫から殺気が漏れ、雪姫の周りの空気が数度下がった。

 

「ほぉこの私をちんちくりんのガキと言ったか。誰から聞いたのやら」

「えっえっと、アスナってネギと一緒に暮らしてる女からです」

 

 雪姫の殺気に中てられ簡単に口を割ったアーニャ。アスナの最期が今日に決まった。

 

「そっそれで!お兄ちゃんは一体何をやってるの?」

「ん?あぁ、見ての通り釣りさ。過去の俺のやっていたことを再現していれば少しは気でも落ち着くかもなってな」

 

 話題をそらすネギにマギも答える。こうして何時までも釣りをしているのもあれという事で、マギは釣り糸を上げ、切り上げることにした。

 帰り道の道中、アーニャはマギに

 

「ねぇマギ、アンタも魔法世界に行くのよね?」

「あぁ、そのつもりだが」

「怖くないの?魔法世界ってこっちよりも危険がいっぱいなのよ?それにアンタより強い奴だって大勢居るはずよ」

「そうだな。だからこそ、負けないために強くなった積りだ」

「アンタが強くなったからって、アンタを慕ってる人が護れなかったら意味ないわよ。そこんトコロ分かってるの?」

「耳が痛い話だな。ベストを尽くすなんて言わない。俺はのどか達を護るために、残りの人生全てを賭けた。大切な人を護れなかった人生に意味はないからな」

「残りの人生って、ネギに聞いたけど、アンタもう不死身の存在になったんでしょ?残りの人生なんて無限にあるようなもんじゃない」

「それでも賭けるさ。それぐらい賭けなければ俺の覚悟をしってもらえないと思ったからな」

 

 マギの目を見て、マギが酔狂や伊達で言っているつもりではないという事は理解したようだ。

 

「エヴァンジェリンだったかしら?」

「雪姫と呼べ、マギ以外で今はその名前を呼ぶことは禁じている」

「あらそうなの?まぁどうでもいいわ。アンタマギとネギの師匠なのよね?だったらマギとネギが無茶しないようにしっかり見張ってなさいよ。この兄弟性格は似てないけど内側はそっくりだから、平気で無茶なんかするんだからね」

「ふん、貴様に言われなくても、そんなこと……十分に承知してるさ」

「だったらいいわ。これ以上あーだこーだ言うつもりはないわ。ただ1つ、絶対に無茶なんてするんじゃないわよ」

 

 などと話していると、うちに到着した。家の前ではアスナが待っていた。

 

「やっと帰ってきたわ。もうすぐ夕飯の時間よ。早く手を洗って――――ってどうしたのエヴァちゃん?なんでそんなに怒ってるの?」

「今の私は雪姫と呼べ。何、久しぶりに会ったんだ。貴様に特別メニューをご馳走してやる。拒否権はないぞ」

 

 と夕食前にアスナは雪姫の八つ当たりの餌食となり、夕暮れの村にアスナの悲鳴が響いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食を食べたのちに、ネギとマギは校長に連れられ、学園のある一室に案内された。

 校長が扉を開けると、そこにはかつて村が悪魔に襲われた際に迎撃しようとし石化された村人たちが鎮座していた。そしてその中にはネカネの父であり、ネギとマギの叔父もおり

 

「スタンおじいちゃん、おじさん……」

「じいさん……」

 

 幼いネギとマギを護るために自ら盾となった老人スタンもそこにいた。

 

「魔法世界に行くならスタンにもしっかり挨拶をしておけ」

 

 石になったスタンを改めて見て言葉を失うネギとマギ

 

「まったく邪魔よ。黙っているならどいてちょうだい」

 

 マギとネギを押しのけて、アーニャは石になった村人の1人の女性に近づき石像についている汚れやほこりを綺麗に掃除を始めた。

 

「じーさん、もしかしなくてもあの石像って」

「うむ。アーニャの母じゃ」

 

 ほこりをかぶってもアーニャは母親の石像を大事に拭いている。

 そんなアーニャを見て、ネギも覚悟が決まったかスタンと向き合った。

 

「スタンおじいちゃん。いえスタンさん。貴方が僕やお兄ちゃんを護ってくれて、もう6年が経ちました。貴方達のおかげで、今僕はここに居ます。貴方達のおかげで僕は、前にすすむことが出来ました。ありがとうございます」

「じいさん。俺はじいさんの事と何があったかは覚えてない。もしかして俺はじいさんとはそりが合わなかったのか、仲良かったのか……でもネギの言う通り俺たちはじいさん達のおかげで今がある」

 

 そう言ってマギとネギは頭を下げた。

 

「だから……行ってきます。帰ってきたときには出来れば父さんを連れて帰ってきますね」

「そん時はじいさんもクソ親父に言いたいことがあるかもしれないから、見つけたら首根っこ引っ張って持って帰ってくるよ」

 

 マギとネギは何も言わないスタンに今までの事を少しずつ話していった。

 

「スタン達を見て決意が揺らぐかと思ったが、杞憂に終わったようだな」

「当然だ。マギはともかく坊やはこの私が育てたんだ。簡単に折れるようには仕込んでいないさ」

 

 校長と何時の間にか来た雪姫はスタンに話し続けるマギとネギを見ながらそう話している。

 

「……この前に悪魔を召還したあの男だが、どこの奴かは検討はついている」

「まあこっちもどこの奴らかは予想済みじゃ。うちの者達にした仕打ち、そのつけを払ってもらわんとな」

「心配するな。それはマギと坊やがしっかりとやってくれるさ」

 

 と雪姫と校長が話している間にマギとネギはアーニャと一緒にスタン達を綺麗するために掃除を続けていると

 

「ネギ、アタシ達も手伝うわよ」

「マギさん。私達にもやらせてください」

 

 アスナやのどか達もやってきてマギ達を手伝い始めた。

 

「これ、ここは一応関係者は立ち入り禁止なのじゃがな」

「私が呼んだのよおじいちゃん。それにみんなネギとマギに協力してるなら立派な関係者でしょ。人手が多い方が助かるんだから」

 

 そう言ってアーニャがアスナ達に指示を出しながらテキパキと掃除をするのだった。

 

「どの子もいい子じゃのう」

「ふん、この私には足元にも及ばんがな」

 

 こうしてスタン達を2時間ぐらいかけて綺麗に掃除をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝、遂に魔法世界に出発する日である。

 マギはまだ朝日の上らない中、村が一望できる草原に立っていた。

 

「当分、この村を見る事ないからな。この光景を目に焼き付けておきたいな……」

 

 とマギが呟いていると

 

「マギさん」

 

 と呼ぶ声が聞こえ振り返ると千鶴がこちらに歩み寄ってきた。

 

「どうしたんだ?」

「これを、渡しておきたくて」

 

 そう言って千鶴がマギに渡したのはお守りであった。

 

「これは?」

「とある有名な神社のお守りです。マギさんが無事に帰ってこれるように御祈禱もしてきました。どうぞ」

 

 お守りを手渡す千鶴にありがとうとお礼を言うマギ

 

「でもどうして」

「……本当は私も行きたかった。ですが、私が行っても足手纏いになると思いました。だったらせめて、無事をお祈りするしか出来ないとそう思った次第です」

 

 千鶴の想いを確かに受け取って、マギは大事にお守りをしまった。

 

「ありがとう千鶴。確かに受け取ったよ」

「……ねぇマギさん。少し屈んでくれますか?」

「?あぁ、これでいい――――」

 

 マギが屈んだ瞬間、千鶴はマギの口に口付けをした。急に千鶴に唇を奪われた事に思わず呆然としていると

 

「これも無事をお祈りするおまじないです」

 

 としてやったりとウィンクをする千鶴はそのまま走り去りながら、一度振り返り手を振りながら

 

「無事に帰ってきたら、お返し期待していますね!」

 

 と言い今度こそ走り去ってしまった。まだ呆然としているマギの背後に雪姫が立っている事にも気づけなかった。

 

「随分と素敵な贈り物をもらったようだな」

 

 と不機嫌な様子を見せていたが

 

「エヴァ、絶対に皆で無事に帰ってこような」

 

 マギの真剣な表情に、形だけの不機嫌を止めた雪姫は

 

「何を言ってる。この私がいるんだ。絶対に無事に帰ってこれるに決まってるだろう」

「……そうだな。そうに決まってる」

 

 決意を新たにし、マギと雪姫は皆が待ってる集合場所へと足を運んで行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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いざ魔法世界へ

 濃霧がすごい中、集合場所についたマギと雪姫。そこにはもう皆が集まっていた。

 

「お兄ちゃんどこ行ってたの?」

「ちょっとな。もう皆いるようだな」

「うん。お兄ちゃんを待ってたんだよ」

「そうか。それは悪いことをしたな」

「大丈夫だよ。まだ時間はあるからね」

 

 さて出発しようとしたら、ネカネと校長が見送りにやってきた。

 

「ネギ、マギ、どうか怪我だけはしないで」

「うん、お姉ちゃん行ってきます!」

「ネカネ姉。無事に戻ってくることを祈って待っていてくれ」

 

 ネギはネカネが見えなくなるまで手を振りながら目的地まで向かっていった。

 

「やはり心配か」

「心配じゃなければ、こうやって見送りなんて行きませんよ」

「心配はせんでいい。あっちの世界ではナギの仲間がいるからのう」

「どうかネギ、マギ、無事で帰ってきてね」

 

ネカネは無事に皆が帰ってくるのを祈るのであった。

 

 

 

 

 

暫く歩いていると、前方に1人の女性が待っていた。

 

「貴方がマギ君ね。私はドネット・マクギネスよ。私がこれから貴方達を魔法世界へ案内するわ」

「よろしくお願いします」

 

マギとドネットが握手で応じる。

 

「さぁ皆、白いローブは着用してるかしら?でははぐれない様に私についてきて」

「はーい」

「はぐれるとどうなるです?」

 

 夕映が質問すると

 

「ゲートは手順通りの儀式を行いながら近づかないとたどり着けないの。私からはぐれたらこの濃霧の中を彷徨った挙句に村の出口に逆戻りになってしまうから、私から絶対に離れないでね」

 

 とのことだ。これは絶対に離れてはいけない。いざ出発、とアスナはまだ寝ているであろうクラスメイト達に向けて謝る。

 

「ごめんねまきちゃん、いいんちょ。行ってくるわ」

「なにがごめんねですの?」

 

 とあやかがアスナの背後に立っていた。

 

「いいんちょ何でここに!?まさかアンタついてくる気じゃ……」

 

 そうならば致し方ないが力づくで止めるしかないと構えようとするが、あやかは何時もの高笑いではなく、ふっと笑って首を横に振った。普段のあやかとは別の反応にアスナは面食らっているが

 

「それはもちろん、ネギ先生のためなら私もついて行きたいですわ。しかし、今回はこの私の力は何の役には立たない。そんな私はただの足手纏いになってしまいますわ」

「いっいいんちょその――――」

「黙って聞いていてください。ですから、ネギ先生の事は任せますわ。そしてあなたも絶対に無事に帰ってくることを約束しなさい」

 

 あやかは拳を握りしめて真っ直ぐアスナを見つめる。本当はあやかも行きたいだろう。しかし自分じゃ力不足を認識し悔しさを飲み込んでいるのだ。

 

「……わかった。絶対に皆怪我無く帰ってくるから、心配しないで待っててね」

「ええ。帰ってきたら、土産話をたくさん聞きますから、覚悟してくださいね」

「うん。それじゃあ……行ってくるわね。あやか」

「ええ。無事を祈ってますわアスナさん」

 

 あやかに向かって、手を振りながらドネットを追いかけるアスナ。そんなあやかはネギやアスナ達の無事を祈ってやまなかった。

 しかし、そんなあやかの想いを踏みにじる、勝手な動きを見せる者もいるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ドネットについて行きながら、マギ達は軽く雑談をしていた。

 

「なぁ千雨、なんか随分と大きい荷物を持ってるがそれどうしたんだ?」

 

 マギが気になったのは千雨の衣服を詰め込んだボストンバックとは違う巨大なスーツケースであった。

 

「ニューボディになった茶々丸さんから受け取ったんですけど、葉加瀬が私専用に作ったあるアイテムとかなんとか。茶々丸さんから葉加瀬の伝言で『危なくなったら開けてください』という事らしいです。現になんかプロテクトでもしてあるのかうんともすんとも言わないんです」

「危なくなったらか。何事もなければいいんだけどな」

「ですね」

 

 それよりもと千雨はマギの背中を見る。

 

「その剣野ざらしにしてて大丈夫なんですか?絶対に職務質問されますよ」

「そうだよなぁ。ドネットさん、これ、大丈夫ですか?」

 

 千雨の言う通り、現在マギは月光の剣を背中で担いでいる状態なのだ。本当はグレートソードと同じように自身の影にしまおうとした。しかし、月光の剣は意思を持って影にしまわれるのを拒否した。そして今は鞘のようなものに入れられている。

 

「大丈夫よ。その鞘に入っていれば封印状態になっているから。けどだからといってゲートポート内で振り回すなんてことはしないでね」

 

 とりあえずは大丈夫のようだが

 

「けど、何かあったときに使えないのは不便だな……」

「心配しないで。ゲートポートは常に最重要警備体制だからトラブルになった事は一度もないわ」

 

 と自信を持って大丈夫と言っているドネットを見て

 

「なぁ雪姫、のどか、夕映に亜子に千雨」

「どうした?……なんて阿呆な事は聞かないぞ」

「はい。私も何か胸騒ぎがします」

「マギさんとネギ先生が一緒に魔法世界に行く。何も起こらないはずないですね」

「うー。ウチ、普通に安心な旅がしたかったなぁ……」

「ぼやくなよ。あたしらは万が一の為に辛い修行をしてきたんじゃねえか。それよりもああまでフラグになること言ったら、100%何か起こるだろうが」

 

 マギ達は若しかしたら迫りくるだろう危険に改めて身構える。

 

「マギお兄ちゃん……」

「プールス、俺か雪姫か皆からは絶対に離れるんじゃないぞ」

「はいレス」

 

 心配そうに見てくるプールスの頭を優しく撫でる

 

「なんやビビってるのかマギ兄ちゃん!俺たちもあれから修行を続けて強くなってるんや。何が来ても恐るるに足らずや!!」

「まったく、随分と楽観的なのね。少しは緊張感を持てないのかしら」

「うっさいわちんちくりん女が」

「誰がちんちくりんよいぬっころのガキが!!」

 

 ドードーとマギはと言い合いになる小太郎とアーニャを宥める。

 

「それよりもアーニャはよかったのか?別に無理して来なくてもよかったんだぞ」

「いいのよ好きで来たんだから。それに魔法世界に行こうと思ったのは日本でネギと喧嘩した時から決めてたんだから」

 

 自ら魔法世界に行くことを決めたアーニャ。どうやら日本でネギがアスナ達と仮契約した事に対して一悶着あったようだ。

 

「まったく。坊やが心配なら素直にそう言えばいいのにな」

「うううっさいわね!性格キツイアンタみたいな年増が偉そうに言うんじゃないわよ!」

 

 年増と言った発言に雪姫はともかくドネットにまで飛び火してしまった。

 

「ほぉ。この私を年増とはな……死ぬ覚悟は出来たか小娘」

「わー!師匠どうか矛を納めてください!!」

「年増、か。そうね私ぐらいの歳ならそう言われてもしょうがないわね」

「大丈夫ですよドネットさん!まだ全然いけますって!私たち小娘なんかよりも大人の色気ムンムンですから!!」

 

 凍える殺気を出す雪姫を収めようとするネギと、沈んでいるドネットを必死で持ち上げるアスナとハルナなんともグダグダな感じになりながらも漸く目的地に到着した。

 

「うわぁ……」

 

 ネギは感嘆の声を上げる。ゲートはストーンヘンジとなっており、朝焼けに照らされ正に幻想的な雰囲気を醸し出している。

 早朝からずっと歩きっぱなしで各々体を伸ばしたりしている。

 

「俺たちだけかと思ったが、結構人がいるもんだな……」

「そうだね。あそこにいる人たち全員魔法世界に行くんだね」

 

 マギとネギがゲート前に居る人だかりを見ながら呟いた。ゲート前にはローブの集団がたむろっている。数は10人を超えている。これでも少ない方だとドネットは答えている

 

「ゲートは世界中で数か所しかない上に扉が開くのは週に一度、酷いときは月に一度くらいだからね」

「一週間に一度とか交流がないわけだ」

「さながら鎖国だな」

 

 和美がドネットの言った情報をメモし、魔法世界の流通を鎖国と例える千雨であった。

 

「まだ1時間位時間があるわね」

「それじゃあここらへんで朝ごはんを――――」

「飯アルか?」

「早よ食わんとなくなるでー」

 

 勝手に朝食を食べ始めた古菲と小太郎に全部食べられないようにマギ達も朝食を食べ始めた。

 

「――――」

 

 マギ達を黙って見ている者の視線に気づかずに……

 

 

 

 

 

 

 

 朝食を食べ終え、ゲートが開く時間が迫っていた。いよいよ魔法世界へ出発だ。

 

「いよいよだなネギ」

「うん。そうだね……」」

「どうしたんだい兄貴。武者震いですかい?」

 

 肩に乗るカモがネギの表情が固いことを指摘すると

 

「いや、さっきから空気が違うように感じるんだ。こう圧迫感というか」

「ネギも感じてるのか?俺もさっきから嫌な気配をピリピリと感じるんだ」

「おふたがたもですか?私も先程から誰かに見られている気配を感じていますが、相手の正体だけが分からない状態です」

 

 刹那も何かの気配を感じ取っていたようだ。しかし周りには同じ白フードだらけで誰が誰なのか分からずじまいだ。

 

「ドネットさん。この場所って結構野ざらしだけど、悪い奴とかの襲撃とかは大丈夫なのか?」

 

 警戒を兼ねて再度マギがドネットに尋ねると

 

「まさか。確かにここは野ざらしだけど、警戒もチェックも厳重よ。此処に忍び込める曲者がいるとしたら、それは最強クラスの魔法使いか、人間じゃないわね」

 

 ドネットがここまで自信満々に言い切るのならば、ゲートのセキュリティは本当に厳重なのだろう。

 

「そこまで言うのなら大丈夫なのかもな。色々と緊張しすぎて逆に変に気配に敏感だったのか?」

「そうかもしれないね。多分気のせいだったんだよ」

 

 ネギは緊張しての気のせいと言い聞かせていた。あまりピリピリしすぎてアスナ達を心配させないように、平常心を取り戻そうとしている。

 

「……どう思う刹那」

「私の三重の危険感知の術法にも異常はありません。問題ないと思いますが」

「用心したことに越したことはない……か」

 

 少しでも動けるもので警戒していた方がいい。マギは雪姫達にもアイコンタクトを送った。

 しかし……いよいよ魔法世界だ。時間なのかゲートの地面が眩い光を発し始めた。

 

「ビビってるかネギ」

「そうだね。緊張してるけど……どこかワクワクしてる僕もいるよ」

「俺もだ。どんな世界が広がっているか全然想像できねぇよ」

 

 アスナ達も魔法世界がどんな所か話の花を咲かせている。

 

「なんか遠足の引率みたいだなぁ」

「まぁこれぐらい気楽に行けたらいいんだけどな」

 

 まぁなんにせよ

 

「行くか!魔法世界へ!!」

『おー!!』

 

 光に包み込まれ遂にマギ達は遂に魔法世界へと旅立ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




次回からは遂に魔法世界編です。
正直言ってここまで長かったです。一時期はこのまま続けられるか心配な所がありましたが、これまで登録してくださった皆様や読んでくださる読者の方々
そして評価をしてくださった方や感想を送って頂いた皆様のおかげで続けることが出来ております。
まだまだ完結は先になりそうですが、どうか最後まで見ていただけると幸いです。


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~第13章~ Welcome to the magical world
密航者と襲撃者


遂に辿り着いた魔法世界……!



 光が晴れると、先程まで草原に居たのが今は何処かの建物にマギ達は立っていた。

 

「もう着いたのか。こんなに早いと飛行機いらずで便利だな」

「ここって何処なんですか?」

「ゲートポート。空港みたいな所よ」

 

 一瞬で転移した事に驚いていると、ハルナや夕映にのどかがそわそわとしていた。

 

「あのドネットさん!どっかで外を一望出来る場所ってないですか!?」

「ええあの階段を上がっていけば入国手続き前に街を見る事が出来るわ」

「まじで!?じゃあ見てきます!!」

 

 ハルナは我先にと階段へ向かって駆けだした。

 

「あ、ハルナ待って!」

「1人で行くなんてずるいです!あのマギさん、私達も……」

「いいよ。行ってきな」

 

 マギはのどかと夕映に行っていいことを許してあげる。

 

「マギさんあたしもいいか?魔法世界っていうのがどんなのか見ておきたい」

「ああ。いいさ見てきなよ」

「お兄ちゃん!私も見たいレス!」

「プールスもいいぞ皆から離れないようにな」

「マギ先生、私がプールスさんに付き添いをしますのでご心配なく」

「あぁ茶々丸、任せるよ」

 

 プールスと茶々丸が手をつなぎながらのどか達んいついて行った。

 

「お兄ちゃん行こう。これから入国手続きをしなきゃ」

「そうだな。ドネットさん、案内してくれ」

「分かったわこっちよ」

 

 ドネットに案内されてマギとネギは入国の手続きをすることにしたのだ。

 一方外を見るために階段を駆け上がったのどか達は、目の前の光景に目を輝かせている。

 

「すごいすごい!!これぞファンタジーじゃん!くー!来て本当によかったぁ!!」

 

 目の前のファンタジーさに興奮なりやまないハルナ。一方外の景色を見て千雨は冷めた目をしており

 

「なんだ結局、現実とまんま変わんないか」

「はぁ!?こんな光景を見て何にも感じないの!?」

 

 冷めた目をしてる千雨に食って掛かるハルナは外を指さす。そこには空飛ぶクジラが居た。

 

「クジラが空飛んでるじゃんか!他にもシャチとかアンモナイトみたいなとか!!」

「空飛んでるクジラ+現実だろ?飛行船や飛行機と何が違うんだよ」

「何でそんなに冷めてるのかなー!夢がないよ夢が!!」

「悪かったな!夢がなくて!でもこれがあたしなんだよ!」

 

 それに……と千雨は窓に張り付くように目を輝かせているプールスを見る。

 

「ふわぁぁ……茶々丸お姉ちゃん!あっちにはいったい何があるんレス!?」

「何があるんでしょうね。私もマスターに魔法世界の事は聞いていますが、どういったものがあるのかは分かりません」

 

 プールスと一緒に茶々丸が外の景色を見る微笑ましい姿があった。

 

「目の前の光景を楽しむのはプールスぐらいの歳で丁度うどいいんだよ。ここは見た目は完全にファンタジーな空想世界だが、この世界は現実だ。色々な国があって、思想があって、組織がある……テロリストとかの危険な組織とかもな。ここは魔法があるだけであっちの世界とまんま変わりはない。気を張ってないと、何かあったときには遅いからな」

 

 千雨の冷静な状況把握にハルナ達も改めて気を引き締めた。

 

「でも……少しはこの景色を楽しんでもバチは当たらないだろ」

 

 そう言って千雨も自分なりに窓の外の光景を楽しむことにした。

 外の景色を楽しむ者もいれば、大事な手続きをしなければいけない者もいる。

 マギとネギは刹那に付き添いをお願いし手続きを行っている。

 

「ではマギ・スプリングフィールド様、ネギ・スプリングフィールド様、杖刀剣等武器などはこの封印箱の中にあります。強力な封印でゲートポートを出ませんと開錠しませんので、ご了承ください。マギ・スプリングフィールド様のその剣の鞘も同等の封印が施されています」

「はい、色々とご迷惑をおかけしてすみません」

 

 ネギが封印箱を受付の女性に受け取る。

 

「こんな小さな箱に全部入ってるんですね」

「メガロメセンブリアでは武器類の携帯に許可証が必要になりますので、手続きをお忘れなく」

 

 魔法世界の技術に驚いているネギ間にマギが手続きを進めておく。手続きを終えておいた方が、何かあったときに武器を使う大義名分が立つってものだ。

 

「あの、スプリングフィールド様、もしよろしければ握手をしてもよろしいでしょうか?」

 

 と手続きをしてくれた女性が握手を求めてきた。

 

「え?あ、はい僕でよければ」

 

 ネギは女性の握手に応じてあげた。

 

「光栄です。お父様は私の憧れでした」

「ど、どうも」

 

 まさか握手を求められたことにドギマギをするネギ。

 

「あの、お兄様もよろしいでしょうか?」

「ええ、いいですよ」

 

 マギも受付をしてくれた女性と他に2人の女性とも握手をしてあげた。

 

「今日の事、絶対に忘れません。その、お兄様にとって、お父様はどういった人でしょうか?」

「そうですね……立派な、父親だと思いますよ」

 

 とにこやかに答えて、マギとネギは手続きを終えたのであった。

 

「お兄ちゃんが父さんの事をああ言うなんて」

「当たり前だ。おのお姉さん方の夢を壊すなんてそんな酷いことをするつもりはないよ。それに立派っていうのは皮肉だからな」

 

 等と話していると、ドネットが息を荒げながら走ってきた。

 

「大変よ!!ゲートに密航者が貴方達の生徒達よマギ先生、ネギ先生!!」

「ええ!?」

「まじか!?」

 

 急いで勝手に来てしまった生徒が誰なのか確かめなけらばいけない。

 到着すると、ゲートを護る警備の魔法使いに生徒が保護されている。そしてその生徒が

 

「ネギくーん!!これ一体どうなってるの!?」

「まき絵さん!?」

「えっとここ何処?私らさっきまで草原にいたはずなのに」

「裕奈さん!?」

 

 涙目のまき絵に混乱している裕奈とアキラが。さらに

 

「あ、マギ兄ちゃん!!なんかここすごいね!」

「映画の撮影現場ですか!?」

「風香に史伽!?お前らもこっち来たのか!?」

 

 まさかの風香と史伽も居た。そして

 

「申し訳ございませんわぁぁぁぁネギ先生ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「ええええ!?あやかさんもぉ!!?」

 

 涙で顔がぐちゃぐちゃなあやかも居たのであった。

 

「なっなんであやかが此処に居るのよ!?」

 

 密航者が自分のクラスだとアスナ達も聞き、急いで来てみれば約束をしていたあやかが居て吃驚仰天をしてしまった。

 

「アスナさんんんんんん!!私、私は、貴女と約束をしたのにこのていたらく!私合わせる顔がありm&riobaぼぶばらりou!!」

「あぁもう落ち着きなさいよあやか!もう涙でぐちゃぐちゃじゃない」

 

 涙を流し続けるあやかを宥め、何で密航してしまったのか訳を聞いてみる。

 それは1時間の前の話である……

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……アスナさん、絶対無事に帰って来てくださいね」

 

 アスナを見送りやり切った顔をしたあやかは、戻ろうとする。

 しかし戻ろうとした瞬間に、マギ達をこそこそと追いかける集団を見つけ、それがまき絵達だと分かると彼女たちを糾弾する。

 

「貴女達!何をしようとしてるのですか!?私達はあの夏祭りの日に約束をしたではないですか!それなのにネギ先生やアスナさん達との約束を反故にしようとするのですか!?」

「何言ってるのいいんちょ。一緒には行かないよ。ただアスナ達が何処に行くか気になって付いて行くだけだよ」

 

 裕奈は笑いながらそう答えた。のどかにあんな事をされたのに、なんやかんや言ってやはり彼女はタフである。

 

「それは屁理屈ではないですか!絶対にダメです!私はアスナさんと固い約束を結んだです。絶対に貴女達を行かせる訳にはいきませんわ!!」

 

 あやかの決意は固い。だがまき絵達、気になる男性がこの先に居るのにみすみす行かせる積りなど毛頭もなかった。

 

「何言ってるのいいんちょ!ネギ君がこの先に居るのに私はここで待ってるなんて嫌だよ!」

「そうだよ!僕らはダメなのに本屋ちゃんや千雨ちゃんはオッケーなんてずるいよ!インチキだよ!!」

「私達もマギお兄ちゃんと一緒にいたいです!!」

 

 あやかに負けじと反論をする。

 

「それにいいのいいんちょ。ネギ君達今度は別の場所に行くんでしょ?若しかしたら旅先で私達よりも年上の女の人にネギ君が盗られちゃうかもしれないんだよ!!」

「うっうぐ!?」

 

 嫌な事をイメージしてしまったあやか。今のあやかの頭の中では自分たちよりも大人の女性に、ネギが頭をよしよしされている光景が浮かんでしまっている。

 

「旅っていうのは何があるのか分からないんだよ。もしそんな人と出会って、そのままフォーリングラブなんてこともあるかもしれないんだよ!!」

「はぐっ!!」

『あやかさん。僕、この人と一緒になることに決めました』

「若しかしたら、もう帰ってこないかもしれないんだよ!!」

『勝手ですみません。ですが、もう麻帆良には帰ることはありません。勝手な先生でごめんなさい』

「あがぁ!!」

 

 あやかの足が生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えている。もうひと押しだろう。

 

「そんな事になって本当にいいの!?いいんちょのネギ君に対する愛はそんな程度なの!?」

「うっうぅぅぅ……」

「アスナとの約束と、自分の気持ち、どっちが大事なの!?」

「あっあぁぁぁ……」

「いいんちょ!!」

「あああああああああああああああ!!!」

 

 膝から崩れ落ちたあやか。堕ちたいいんちょはもう敵ではない。

 

「よーし!ネギ君達をおうぞー!者共ついてこーい!!」

 

 まき絵が先頭に立ち、マギ達を追い始める。その後ろをあやかがアスナに対して謝罪をしながらまき絵達について行った。

 が刹那に気づかれるという事で、距離を空けて付いて行ってたら案の定見失ってしまった。

 

「見失った!!というか迷った!!」

「というか霧が濃い!!もしかしてこのまま遭難しちゃうの!?」

「大丈夫だよ。でも、これだけ濃いと怪我しちゃいそう」

 

 マギ達を見失い、濃霧で立ち往生になりパニックになってしまった。アキラは大丈夫だと皆を落ち着かせようとするが、自分達がいる場所は土地勘も効かない地。この濃霧で何か事故にあうかもしれない。

 

「桜子!こうなったらあんたが頼りよ!あんたの運で道を切り開くの!!」

 

 一緒に付いてきた美砂がクラス1ラッキーな桜子に頼ることにした。皆も桜子の運の良さは知っており、完全に桜子の運だよりだ。

 急に頼られた桜子はうんうんと唸って

 

「こっちだよ!!」

 

 と根拠もなく、指をある方向を指した。皆桜子の運を信じ、そのまま前進する。

 結果としてはマギ達がいるゲートにたどり着くことが出来た。しかし下手をすれば神隠しにあい、彷徨った可能性もあった。桜子の運様様である。

 まき絵達はマギ達に気づかれないように離れた所から様子を眺めていたが、何を話しているのか気になっている。

 

「うう、何を話してるのか気になるよぉ……ちょっと近づいてみよう!」

「私も!気づかれないようにこっそりと!」

「僕も!」

「私も!!」

「ちょっと、あまり近づいでも大丈夫?」

 

 まき絵に続くように裕奈と風香と史伽とアキラがマギ達に接近していく。

 

「あの子たちは……!皆さんはここで待っていてください!私が連れ戻してきますから!!」

 

 あやかは何人かに待つように指示をし、近づくまき絵達を連れ戻そうをする。しかしタイミングが悪く、ゲートが光り輝き、転移の時間が迫ってしまっていた。

 

「え、え、え、なにこれ!?」

「すごい光ってるんだけど!?」

「きゃー!」

「怖いよー!!」

「とにかく逃げよう!何かまずい気がする!」

「皆さん!早く!ここから離れ――――」

 

 ようとするが間に合わず、まき絵達も光に包まれ、そのまま魔法世界へ転移されてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今に至る。

 

「私は!私は!!アスナさんとの約束よりも自分の欲に従ってしまいました!!何という愚か者!!私は委員長失格ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あー、大丈夫よあやか。アンタはよく頑張ったわよ。私も時折自分の欲に負けることだってあるし」

 

 未だに自身を責めておんおん泣くあやかを何とか慰めるアスナ。

 しかし困ったことになった。まさか魔法関係者ではないまき絵達がこっちに来てしまうとは

 

「どうしようお兄ちゃん!?こんな事になったら全部僕の責任に!!」

「全部お前だけの責任じゃないさ。けどこうなったらクソ親父の捜索は無理そうだ。まったく、この子達の行動力の高さには脱帽するよ」

 

 乾いた笑みを浮かべるマギ。まさかゲームをスタートする前にもうゲームオーバーになってしまったようなものだ。

 

「裕奈さん!言ったじゃないですか!今回は本当に危険な事になるかもしれないと!それなのに貴女ときたら!」

「ごめんって刹那さん。ちょっと見て直ぐに戻ろうとしたんだけど変な光にビビっちゃって。というかここどこ?さっきまで草原に居たのに。すごい建物だね。映画のスタジオ?」

 

 裕奈も刹那の剣幕を見て謝罪をしているが、ゲートポートに興味深々になっている。

 

「マギお兄ちゃん!僕らもここを探検したい!いいでしょ!?」

「だめだ。今君たちは所謂不法侵入をしているんだ。だからここから動くな」

「そんな!お姉ちゃんや私達はダメで何でマギお兄ちゃんはいいの!?」

「今さっき手続きをしてきたからな。というか、本当にどうすればいいんだドネットさん」

 

 マギはこんな時どうすればいいのかドネットに指示を仰ぐが、ドネット自身も驚きを隠せていない。

 

「裕奈!貴女まで来てしまったの!?」

「あ!お父さんと話してた美人さん!どうして此処に居るの?」

 

 裕奈が気軽にドネットに話しかけてきた事にマギは驚き

 

「裕奈と知り合いだったんですか?」

「裕奈の父と仕事の事で前に日本で会ってたの。その時会ってね。ってそんな事を話している暇はないわ。今回は事故みたいなものだけど、彼女たちはここで1週間軟禁をした後に記憶を消して強制送還してもらうわ」

「という事は俺たちも」

「……残念だけど、貴方達もここで1週間軟禁状態ね。貴方達は記憶は消さなくて大丈夫よ。今回は……残念だけどね。私も責任をもって貴方達と同じ処遇を受けるわ。今回は私もゲートが厳重だっていう事に甘えてしまっていたわ」

 

 そんな……とネギは力なく項垂れてしまった。せっかく手がかりを掴めていたのに、何もせずに終わってしまうなんて。

 完全に空気が通夜になってしまい、とても重い。こうなった原因が自分たちにあると理解したあやか達。

 

「本当に申し訳ありませんわぁぁぁぁぁぁ!!こうなったら私を殴ってください!いや!もう自分で自分を殴りますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「あやか!いいんちょ!!そこまで自分を責めないで!!」

 

 もういたたまれない空気になってしまった。

 

「ネギ、残念だが」

「うん、仕方ないよ。こうなったらもう」

 

 とその時、マギとネギは何かの気配を感じた。自分たちを狙っている……敵意を

 

「刹那さん、もう一度探知の術をお願いします」

「はっはい」

 

 ネギは刹那に探知の術をお願いする。

 

「警備兵さん。ここを警備する人は何人いますか?」

「なっ何を言ってるんだ君は?」

「ありったけ呼んでください今すぐに!」

「しかし君、いきなり何を」

「早くしろ!間に合わなくなったらどうするんだ!!」

 

 最初は丁寧な口調だったが、最後は声を荒げて警備兵に指示を出すマギ。

 

「古老師!アスナさんはまき絵さん達を護ってください!」

「了解アル!」

「分かったわ!」

 

 懐から携帯用の杖を取り出し、古菲とアスナがまき絵達の元へ付く。

 

「楓とドネットさんは入国管理局の方を!コタローはテラスにいるのどか達に伝達を!」

「心得たでござる!」

「わっ分かったわ!」

「了解や!」

 

 マギは楓にドネットに小太郎に指示を飛ばし、自分は影からロングソードとブロードソードを出す。有事の際を考えて、修行で使っていた剣はあらかた影に入れてきている。本当はグレートソードを出したいが、下手したらまき絵達を巻き込んでしまうと思い、今回はこの2本にした。

 

「アーニャ!携帯用の杖は持ってるよね!?僕と一緒に魔法障壁を全力で展開して!」

「ちょ!ちょっとネギ!?」

 

 アーニャは今一今の状況を掴めていない様子だ。

 

「マギ、私はどうするか?」

「雪姫は俺と一緒に居てくれ。そうすれば何かあった時は対処できやすい」

 

 雪姫はマギの隣に立って、何かあった時は勝手に動いてもらう。雪姫が近くに居てくれた方が心強い。

 

「ネギ先生!こんなに慌ただしくして大丈夫でしょうか!?」

 

 刹那は心配する。現に警備兵がマギやネギに対して何かを叫んでいる。

 

「僕の思い過ごしなら笑い話ですみます!その時はちゃんと謝罪しますので!!」

 

 どうか僕の思い過ごしであってほしい。ネギはそう願う。しかし現実は思い通りにはいかないものだ。

 

「……僕に気づいたのか。有り得ない事だけど、それも血のなせる技……か?まぁいい、挨拶だよ」

「っ!!ネギ!危ない!」

 

 何かの気配を感じ、咄嗟にマギがネギを突き飛ばした。

 そして次の瞬間には石の槍のような物が飛んで来て、ネギを突き飛ばしたマギの右頭部を吹き飛ばし、その勢いのままネギの右腕を軽く裂いた。

 マギの右頭部が鈍い音を出しながら砕け吹き飛び、ネギは裂けた腕から血が流れて止まらない。

 急にスプラッターな光景を目の当たりし、ネギが血を流しているのを見て、まき絵とあやかに風香と史伽は目玉をひん剥いてそのまま悲鳴を上げる。

 

「いやあぁぁぁぁ!!ネギ先生!!」

「ネっネギ君が血を流してるよぉぉぉぉ!!」

「マギお兄ちゃんが!マギお兄ちゃんがぁぁ!!」

「きゃあああああああ!!」

 

 パニック状態になってしまっている。

 

「ネギ!」

「ネギ坊主!!」

「大丈夫です!!お兄ちゃんのおかげで致命傷にはなっていません!!」

 

 しかし致命傷ではないが、血が流れているのは危険な状態には変わりがない。

 

「兄貴!」

「今のは石の槍!これは間違いない修学旅行の時の!」

「まさかマギ・スプリングフィールドに護られるとは、運が良かったねネギ君」

 

 そう言いながらこちらに近づいてくる者がいる。ネギは声の主を睨みつける。

 その者こそ、修学旅行でネギを襲った者。

 

「フェイト・アーウェルンクス!!」

「久しぶりだねネギ君。随分と力を付けたみたいじゃないか」

 

 フェイト・アーウェルンクスその人が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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最凶襲撃

 目の前で凄惨な光景を見てまき絵達一般人組は頭の整理が追いついていなかった。

 アキラは目の前の光景が撮影か何かだと思いたいが、目の前の光景が現実であるという事を理解してしまい、どうあがいても目の前の光景から逃避することが出来ないでいた。

 まき絵やあやかはネギが血を流していることにパニック状態になっており、頭が半分吹き飛んでしまったマギを見て風香と史伽は顔から血の気が引いて顔面蒼白になっている。

 一般人組が阿鼻叫喚な事になっているが、古菲がこのかを連れてきた。

 

「やだ!ネギ君大丈夫なん!?」

「大丈夫です!お兄ちゃんのおかげで致命傷にはなっていません!」

 

 ネギはローブを千切り、切られた箇所を強く縛って出血を抑えようとする。しかし出血が酷くこのままでは失血死してしまうかもしれない。

 

「このかお願い!あんたのアーティファクトでネギの事を治療してあげて!!」

「うっうん!わかった!」

 

 このかは自分のカードを取り出そうとして、はっと思い出す。

 

「あかん……!うちらのカード、あの箱に全部入ったままや!!」

 

 そう、アスナ達のカード、ネギの杖に刹那の刀や楓の忍具その他諸々などは封印箱に入ったまま。そして先程受付の女性の説明にあった通り、ここでは箱を開けることが出来ない。3分経つとこのかのアーティファクトの能力が効かなくなってしまう。タイムリミットは3分間である。

 どうすればいい……頭をフル回転して打開策を考えるアスナ達。そんなアスナのローブの裾を裕奈が引っ張る。

 

「ちょ!何してんの!?ネギ君が血を流して大変なのは分かるけど、マギさん頭半分吹き飛んで死んでるんだよ!?なんでそこまでネギ君だけに構ってるの!?」

「ゆーなちょっと黙ってて!マギさんは大丈夫だから!」

「何が大丈夫なの!?マギさん死んでるんだよ!?」

 

 とパニックで叫んでる裕奈にごめんと最初に謝り、アスナは平手を打つ。

 

「マギさんは大丈夫だから黙ってて!それよりネギは急がないと本当に死んじゃうんだから!!」

 

 アスナの言っていることが分からず、もう頭の中がぐちゃぐちゃになっている裕奈。

 アスナ達が叫んでいる間にもフェイトはゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「まったく、中途半端に力をつけていてもこのありさまか。無様というのはこのことだろうね」

「止まれ貴様!」

 

 警備兵がフェイトを捕縛しようと杖を向けた瞬間、フェイトの背後から長身の者と両手に刀を持った少女、そしてローブのフードを深くかぶった者が一瞬の内に魔法や刀で警備兵を無力化してしまった。

 

「何時まで死んだふりをしているんだい。マギ・スプリングフィールド。早くしないと、ネギ君が大変な事になってしまうよ」

 

 フェイトは感情の読めない口調でそう話している間に、マギのはじけた頭に、マギの脳や骨の破片や耳や目がまるで逆再生のように集まり、元に戻っていく。一般人組はマギの元にはじけた肉片が戻っていくのを見て口を開閉していると

 

「ぶはぁ!!!」

『きゃあああああああ!!?』

 

 マギが大きく息を吐きだしたのを見て、マギが生き返った事に正気を失いそうになってしまった。

 

「目の前が真っ暗になって意識が飛んでびっくりしたじゃねえか!何があったんだ!?」

「実際に見たわけじゃなかったけど、本当に不死身になったんだね。彼が一苦労しそうだ」

 

 マギはフェイトを睨む。

 

「誰だお前」

「僕はフェイト・アーウェルンクス。それよりも僕に構っていていいのかい?このままだとネギ君は死んでしまうよ」

 

 マギは先程まで意識を失って、状況が掴めていなかったが、ネギが血を流していて、時間がないというのは理解できた。

 

「このか!アーティファクト!!」

「マギさん!カードは全部あの箱の中や!!」

 

 ならばとマギはアスナの方を見て

 

「アスナ!お前があの箱をぶっ壊せ!!」

「え!?アタシ!?なんで!!?」

 

 なぜ自分なのかと再度聞くが。

 

「雪姫に聞いたぞ!雪姫と茶々丸と戦った時にアスナが雪姫の魔法障壁を無視して蹴り飛ばしたって!それにアスナのアーティファクトは魔法を無効化するんだろ!?だったらアスナ自身に何か魔法を無効化する力があるんじゃないのか!?」

『!!それだ!!』

 

 さっきまで騒いでパニックになっていた皆の心が1つになった。こうなったらアスナの力に頼るしかない。

 

「どうやら打開策が見つかったみたいだね。けど、君たちの思い通りにはさせないよ」

 

 長身の者と刀を持った少女がマギ達に突っ込んでくる。

 

「ここは俺が何とかする!アスナは箱の破壊に専念しろ!コタロー!楓!刹那も行けるか!?」

「おう!わかったわ!」

「承知!」

「了解です!!」

「雪姫はアスナ達やあやか達一般人組を護ってくれ!」

「あぁ。分かった」

 

 マギは影から刀とナイフを出すと刹那に刀、楓にナイフを渡す。

 

「とりあえずこれ使え!鈍だから愛用してるものよりも使い勝手が悪いだろうから、壊れても文句言うなよ!」

「いえ!感謝します!」

「ないより、ある方が心強いでござるよ!!」

 

 楓が長身の者へ、小太郎と刹那は刀を持つ少女へ、そしてマギはフェイトへ向かっていった。

 フェイトは地面から鋭利な岩を隆起させてマギを攻撃する。マギは腕が岩で吹っ飛ぶが直ぐにくっつけてロングソードをフェイトに向かって振り下ろすが防がれてしまう。

 

「てめぇが何者かは分からない。けど、ネギの敵だっていう事は理解できた。目的はなんだ、ネギをこの場で消すことか?」

 

 ロングソードに力を籠めるが、びくともしない。それどころかこの感触、本当に人なのかと思ってしまった。

 

「まさか。ネギ君と僕が出会ったのは偶然さ。目的は此処、ネギ君は不幸な事故というわけだ。まさか僕に気付くとはね。ただ気づかれた以上、応援は呼ばせないよ。今ここは外部と完全に隔絶してある」

「そうかい。でも残念だったな。こっちには最強の雪姫がいる。お前らが強いのは分かるが、雪姫がこっちに居れば百人力だ」

「雪姫、エヴァンジェリンの事か。確かに彼女は強敵だ。僕らが本気を出しても負けるかもしれない。けど大丈夫なのかい?僕が気にしてるのはネギ君であって貴方ではない。僕ばっかを気にしてると大変な事になるよ」

 

 こんな風にねとフェイトが思わせぶりな発言をした瞬間に、一般人組に向かって無数の矢が飛んで行った!

 

「雪姫!!」

「任せておけ!!」

 

 雪姫は咄嗟に一般人組達に氷の障壁を展開し、矢がまき絵達を襲う直前に止めた。

 まだ伏兵が居たのかとどこのどいつだと矢を放った正体を探ろうとすると

 

「此方だ戯け」

 

 マギの背後を何かが切り裂く感触があり、マギはくぐもった悶絶の声を上げる。背後からの奇襲に面食らっていると、フェイトがマギの腹に向かって殴りかかってきた。

 咄嗟に剣で防ぐが、剣の耐久力が足らず砕けてしまい、そのまま後ろに吹っ飛ばされてしまった。

 

「背中を無防備に晒すとは、まったく成長をしておらんようだな」

 

 マギの背中を襲った者はかつて学園祭でマギと一騎打ちを行った傭兵、アーチャーであった。

 アーチャーを見てマギは

 

「誰だアンタ!?初めまして!!」

 

 咄嗟に叫んでしまった。自身を見て忘れた素振り見せたマギにアーチャーはこめかみをピクリと動かし

 

「背中を取られた仕返しが随分と幼稚だな。君がそこまで子供っぽいとは思わなかったぞ」

 

 とマギを見下す態度を取っていたが、マギは逆に冷静に

 

「いや、俺つい最近過去の記憶を無くしてて、アンタの事も丸っきり覚えてないんだわ」

 

 馬鹿正直に答えておいた。でもな……と話を続けながら、マギはグレートソードを影から取り出すと切っ先をアーチャーに向ける。

 

「アンタが俺によって因縁の相手だっていうのは分かる。さっきから俺の中で『アンタをぶちのめせ』と五月蠅いからな」

「ほぉ、随分と威勢がいいが、果たして貴様だけで我々に勝てると思っているのか?」

 

 見れば楓は長身の者の魔法で黒い球体に閉じ込められ、小太郎は刀の少女の技で眠らされ、現在刹那が戦っているが、時間の問題だろう。

 フェイトとアーチャーそして長身の者。3対1の状況となっている。負けることはないだろうが、勝つビジョンもまったく浮かばない。それどころか戦いに気を取られ、アーチャーがまたもまき絵達非戦闘員を襲うかもしれない。

 どうすればいいと思案を巡らせていると、闇の中からぬっと黒マギが現れ、獰猛な笑みを見せる。

 

『分かってるんだろ俺?今の状況は俺が本気を出さないと皆を護ることが出来ないって。本気を出さないとなぁ』

 

 黒マギの悪魔の囁きがマギの頭の中で響く。しかし一理ある。今の状態で自分がびびって手を拱くことをしてしまい、最悪な結果になってしまったらと考えてしまう。

 

「雪姫、わるい」

 

 マギは雪姫に謝罪するが、雪姫は瞬時にマギの謝罪を理解する。

 

「やめろマギ!!あの魔法は闇と人の曖昧な境目があって、闇がどんどん浸食してきたらお前自身どうなるか分からないんだぞ!!」

 

 マギの魔法の使用を却下する雪姫。

 

「悪い。けど、今はこれしか方法がないだろ。アスナが箱を壊す間の時間稼ぎが出来ればいい」

 

 そう言ってマギは四つん這いになり

 

「SWITCH ON BERSERKER LEVEL……50!!」

 

 闇の魔法がマギを包み込む。だが次の瞬間

 

「がっ!?があぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 体に激痛が走った。LEVELが10上がっただけでここまで体に負担がかかるとは。しかしまだ50だまだ半分だと行けると自身に言い聞かせる。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 マギの咆哮にまき絵達は肩を震わせる。マギはグレートソードを肩に担ぎ、フェイト達に突っ込んでいく。

 

(第1にあのフェイト、第2にあの仮面野郎、第3にあのデカい奴だ!あのデカい奴の能力がどんなかは分からないが、あのフェイトを止めないとネギが狙われる!!)

 

 倒す優先順位を立てていると、長身の者がマギの前に立ちはだかる。

 

「邪魔ぁするなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 マギは先制攻撃でグレートソードを長身の者の者へ横なぎにフルスイングで振るう。そしてまた変な感触を感じた。この長身の者も人ではない。

 しかし、長身の者はグレートソードをいとも簡単に止めてしまった。マギが力を籠めてもビクともしない。

 長身の者の拳がマギの横っ面に突き刺さる。

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 殴り飛ばされたマギはそのままゲートポートの壁にめりこんでしまう。

 更にアーチャーが剣を空間から出現させて、マギに向かって連続で射出し次々とマギの体に刺さっていく。フェイトも魔法を詠唱し、巨大な石柱でマギを押し潰す。

 

「UUUUUUUUUUU……URAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 何とかフェイトが出した石柱を破壊する。しかし相手の方が上でしかもそれが3人もいる。

 ならば……

 

「LEVEL……60!!」

 

 50が駄目なら60だ。

 

「う、が、GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?」

 

 先程よりも強烈な痛みが体を巡るが、更なる力を感じる。しかし気を抜いたら持ってかれそうなのも事実だ。

 

「UROOOOOOOOOOOOOOOO!!!」

 

 マギはアーチャーに向かってグレートソードを振り下ろす。アーチャーは剣を何重にも重ね盾にするがマギのグレートソードが剣の盾を破壊する。

 

「哀れだな。まるで獣のようじゃないか。随分と辛そうだな。あの時の戦いの方がまだ理性的であったぞ」

 

 アーチャーの嘲笑に対してマギは持ってかれそうになりながらも踏ん張って笑みを浮かべる。

 

「ほんとは、アンタらを俺が倒せれば、よかったんだけど、な。俺が、何で1人で、お前らの相手したと、思って、るんだ」

 

 何かが砕ける音がし、アスナが封印箱を破壊したようだ。

 

「ネギ!!」

 

 封印箱を破壊出来た事に歓喜の声を上げるアスナ。これでネギを助けることが出来る。

 直ぐにアスナがこのかにカードを渡す。させないとフェイトと長身の者がアスナ達に向かって駆けていく。

 

「いか、せるかぁ!!」

「それはこっちのセリフだがね」

 

 マギがアスナ達の元へ戻ろうとしたら今度はアーチャーが邪魔しようと立ちはだかる。

 

「どけぇ!!」

「形成が逆転、先程とは立場が逆転してしまったな」

 

 LEVEL60がかなり体に負担をかけているようで、いつものマギの技のキレがなかった。グレートソードを振るっている間に、アーチャーの干将と莫邪の連撃でダメージを与えていく。

 だがマギは干将と莫邪でダメージを与えられるが、直ぐに傷は無くなる。

 

「どうやら、本当に不死身になってしまったようだな」

 

 干将と莫邪が体を貫通した。そのタイミングを逃さず、マギはアーチャーの腕を掴む。

 

「しまっ――――」

 

 アーチャーも今の攻撃は悪手だと直ぐに気づく。

 

「くらえ!!」

 

 マギの拳がアーチャーの顔面に抉るように入り、そのまま後ろへと飛んで行った。

 当分はアーチャーも動くことが出来ないと判断したマギは直ぐにアスナ達の元へ飛んでいく。

 何とかカードを発動することが出来たようだ。現にアスナとこのかの姿が変わっている。

 と長身の者がアスナとこのか、そしてネギに向かって、黒い炎のようなものを放っている。

 

「GRUAAAA!!」

 

 長身の者へマギが飛び、さっきと同じようにグレートソードの横なぎのフルスイングをお見舞いし、吹っ飛ばす。

 しかしマギが長身の者に気を取られてしまい、アスナの懐に刀を持った少女が入り込んでいた。

 アスナに斬撃をお見舞いしようとした瞬間に小太郎が割って入り、刀を持った少女を蹴り飛ばした。

 小太郎とアスナの間に入るようにマギも着地する。

 

「コタロ!アンタやられてたんじゃなかったの!?」

「やられとったわ!正直危なかった!というかマギ兄ちゃんもボロボロやないか!」

「大丈夫だ俺は文字通りの不死身だ!けど、くそっ、もう限界かよ……!」

 

 マギは肉体のダメージは無いに等しいがSWITCH ON BERSERKERの反動でかなりガタが来てしまっている。魔法を解いた瞬間、かなり足が震えている。

 だが、マギが時間を稼いだおかげで、このかのアーティファクトでネギの傷は無事に治った。

 

「ごめんお兄ちゃん。お兄ちゃんに無茶をさせちゃって……!」

「気にすんな。これで主戦力が戻った。アスナ、この鞘もその剣で壊してくれないか?」

「分かったわ!」

 

 月光の剣の鞘をアスナのハマノツルギで壊してもらい、月光の剣が眩い光を発した。

 

「よっしゃ、こっからは俺たちのターンだ。覚悟しろよ」

 

 マギが月光の剣をフェイト達に向けてセリフを決めたが

 

「いや、お前は後ろに下がってろこの馬鹿者が」

 

 怒気を孕んだ声で雪姫がマギに近づいてくる。

 

「あ、あの雪姫さん?」

 

 マギは今は敵よりも目の前の雪姫に恐怖を感じている。

 

「この、大馬鹿者が!!」

 

 雪姫の拳骨で地面に沈むマギ。

 

「なぜこんな無謀な戦いをしたんだ貴様は!私は貴様に自己犠牲の戦いを教えた積りはないぞ!これ以上そんな阿呆な戦いをするというなら貴様の体を氷漬けにして非戦闘員に格下げしてやるからそう覚えとけ!!」

「……はい」

「分かったら貴様は非戦闘員共を護ってろ!休んどけこのバカ!!」

「……はい」

 

 雪姫に叱られ、後ろに下がりあやか達を護る事に専念することになり、何とも居たたまれない空気がネギたちから流れてくる。

 

「のどか!綾瀬!お前たちも早く来い!和泉と長谷川もだ!」

「はっはい!」

「了解です!」

「うひぃ!怖い!!」

「マギさんのせいでとばっちりじゃねえか!」

 

 雪姫の怒号で急いで雪姫の元へ駆ける。

 

「茶々丸はプールスの元で待機。プールスはマギの元で待っていろ」

「承知致しました」

「はいレス!!」

 

 プールスと茶々丸はマギの元へと戻った。

 

「さて……待たせたな。此処からはこの私が相手だ。せいぜい震えて己の運命を受け入れろ」

 

 雪姫が不敵な笑みを浮かべながら魔力を解放した。

 

「えっと、マギさん……大丈夫?」

「……心と耳が痛い」

 

 まき絵に尋ねられ、沈んだマギが痛々しくそう答えた。

 さっきまで頑張っていたのに、何とも締まらない格好になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 



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飛ばされた白い翼

 ネギが戦線に復帰し、マギが後ろに下がり、先程まで別行動をしていたのどか達が合流し、数では此方側が有利になった。今度は此方から仕掛ける番だ。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 ネギが気合を出しながらフェイトに殴りかかる。しかしネギの拳はフェイトに簡単に掴まれ防がれてしまう。

 

「この程度なのかいネギ君? これぐらいの力なら此処へ来るのは早すぎたんじゃないかい?」

 

 軽くあしらわれ、逆に殴り飛ばされてしまう。ネギがダメージを負っているとはいえ、力の差がありすぎる。

 

「このやろ!!」

 

 小太郎もフェイトを殴ろうとするが、こちらも返り討ちにあってしまう。

 

「犬上小太郎か。君もあの時よりも力を付けたようだけどこの程度ならネギ君と差はないようだね」

 

 そう言いながらフェイトは詠唱をはじめ、空中に飛ぶ

 

「それに、僕たちはもう目的を果たしているからね。冥府の石柱」

 

 先程マギを潰そうとした巨大な石柱を何本も召喚し、こちらに向かって放ってきた。

 

「うわあああ!! 潰される!」

 

 迫りくる巨大な石柱を見て裕奈が悲鳴を上げる。

 

「これは、迎撃するしかないな。茶々丸、プールスやるぞ」

「はいレス!」

「了解です」

 

 マギは月光の剣に魔力を送り、茶々丸は腕をマシンガンへ変形させ、プールスは腕をアストロン化させる。

 

「おらぁ!」

 

 月光の剣の飛ぶ斬撃で巨大石柱を破壊する。が破壊したことで、砕けた破片がこっちに降り注ぐ。

 

「破片を迎撃します」

 

 こちらに落ちてくる破片をロックオンし、次々に破片を打ち落とし

 

「やああ!!」

 

 プールスは硬化させた腕を伸ばしながら破片や瓦礫を殴って粉々にする。

 

「うぉぉぉ! マギさんすげえ!!」

 

 迫りくる石柱を破壊したマギ達を見て裕奈達は大口を開ける。

 

「お前ら怪我はないか!?」

「う、うん! 大丈夫だよ」

 

 まき絵が大丈夫と言ってくれて皆が怪我していないことにほっとする。が、ほっとしたのと同時に違和感を感じた。

 

「どうしたんですかマギ先生?」

 

 怪訝な顔をしたマギを心配そうに眺める茶々丸に向き合って

 

「なんか、変な感じがするんだ」

「変、とは?」

「さっきの石柱、確かに脅威なのは変わらない。けど、なんかな、攻撃が雑っていうか、『はなからお前ら眼中にないんだよ』って言っているようなんだよ」

 

 それにとマギはフェイトとぶつかり合いをした時にフェイトはこう言った。目的は此処と……

 

「やばい、なんか絶対にやばい事が起こるぞ絶対に」

 

 マギの中で警鐘が鳴りやまない。その一方、雪姫とのどかと夕映がこれ以上被害が起こらないように何本かの石柱を打ち落とそうとしていた。

 

「行くよ! 歌魔法『戦の歌』!」

 

 亜子が歌魔法で雪姫達を強化する。

 

「行くぞ。私に続け。闇の吹雪!」

 

 雪姫は無詠唱で闇の吹雪を石柱に向かって放つ。闇の吹雪が直撃した石柱はあまりの威力に小間切れになって霧散する。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 来たれ雷精風の精!!」

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来たれ炎精闇の精!!」

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

「闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

「雷の暴風!!」

「闇の業火!!」

 

 のどかと夕映の雷の暴風と闇の業火が直撃し、破壊する。しかし2人で1本しか破壊できていない。というのはまだ彼女らの魔法の威力が足らないわけではない。フェイトの石柱の方が強力だということだ。

 そして千雨はというと

 

「おい長谷川! 貴様だけ何をさぼってるんだ!!」

「うっさいわ! 今どう見たってピンチだからこのスーツケースを使おうとしたらこのありさまだよ!」

 

 憤慨してスーツケースを指さす千雨。そこにはこう掲示されていた。

 

『生体認証に伴い、起動までお待ちください。残り時間1時間38分』

「葉加瀬の奴セットアップぐらいしてくれてもいいだろうが! いや、あいつもこんな事予想外だっただろうな!!」

 

 悪態を突きながらも1人で納得する千雨。出来ることなら千雨も魔法を使って援護をしたい所だが、千雨は攻撃魔法はあまり使えず魔法の矢と精々雷の斧程度である。殆どがかつての木の守護者を動かす魔力に回している。このスーツケースの中も木の守護者だと思うがなんでこんな七面倒な過程を組まないといけないのかと納得はあまりしていない。

 しかし……と千雨はマギと同じように思案する

 

「おい雪姫さんよぉ!!」

「何だ!? 戦わない役立たずに構ってる暇はないぞ!!」

「うっせぇ!! 自分が役立たずだって言うことはあたしが一番理解してるわ!! それよりも何か可笑しくねぇか!?」

 

 闇の吹雪を放っている雪姫に話しかけ、雪姫から役立たずと言われ千雨も即座に言い返す。

 

「何かあたしらアイツらの手のひらで踊ってる感じしねぇか!? さっきからあたしらの方が数も雪姫さんが居て有利になってる筈なのに全然勝ってる気がしねぇんだわ!!」

「えっ!?」

「それってどういうことです!?」

 

 雪姫も一筋の冷や汗を流し

 

「我々は、とっくに負けているというのか?」

「……かもしれねぇ」

 

 千雨は最悪なパターンを想像してしまう。皮肉にもその予想は見事に当たってしまうのは直ぐに分かることだった。一方で長身の者と戦っている楓と古菲も違和感が拭えていない。

 

(何でござるかこの感覚。戦う前から勝負は決まっていて、こっちが当に負けている……)

(嫌な気配が全然消えないアルよ。凄く気持ち悪いアル)

 

 しかし相手の攻撃が強力なのは確か。油断をしていたら相手の力に飲み込まれてしまうだろう。更に刹那は刀を持った少女と刀で渡り合う。

 

「ふふふ。皆あの時よりも美味しそうに育ちましたなぁ。それは貴女もですよ先輩」

「月詠、貴様……!」

 

 刀を持った少女は修学旅行で刃を振るった月詠であった。月詠は嬉しそうに狂気の笑みを浮かべている。しかし直ぐに残念そうな悲しげな顔をしている。

 

「でも、こんな楽しい時間ももう終わり。あぁ残念やわぁ」

「どういう意味だ!?」

「文字通り、この時間はもうお終い。さよなら先輩。無事だったらまた会いましょね」

 

 背筋が寒くなる刹那。

 

(何かが起こる。我々にとって良くない事がこの後直ぐに起こる!!)

 

 そしてアスナは石柱がまたもまき絵達に向かってきたので、ハマノツルギで石柱を打ち消す。

 

「やっぱり消せた!!」

「アスナもすげぇ!!」

 

 自身のアーティファクトのツルギが相性がいいと言う事が分かり、強く出るアスナに

 

「なぁアスナ!! 何か違和感を感じねぇか!?」

「ええ!? 違和感!!?」

「ああ! さっきから雰囲気は最終決戦なのに気分は茶番を味わってる感じだ! 何か、何か俺見落としてる事ないか!? アスナは勘がいいからよ何か分からないか!?」

 

 ……あ、とアスナは何かに気づいたようだ。

 

「そう言えば、あのフェイトって奴やあのでっかい奴と刀持った女の子の他にあと1人、フードを深く被った奴がいた。そいつがさっきから見えない!」

「ほんとか!? 頭吹っ飛んでたからここにはあのフェイト、デカい奴に仮面野郎と刀少女だけだと思った!!」

 

 だったらそのフードを深く被ったその人は何処にいる。マギは辺りを見渡し、見つけた。フードの者がストーンヘンジの中心に置かれた石を破壊しようといていた。

 それを見た瞬間、マギの背筋が寒くなっていくのを感じた。あれが壊されれば、何か良くない事が起こると直感が囁いている。

 

「やめろぉぉぉ!!」

 

 叫びながら石を破壊しようとしてる者へ向かおうとする。恐らくもう間に合わない。だが一抹の希望があるのならただ真っ直ぐ向かうしかない。マギが向かおうとしたその時

 

「偽・螺旋剣」

 

 仮面に罅の入った、何時の間にか復活したアーチャーがお馴染みの螺旋剣を高速でマギに向かって撃った。マギは防御する暇もなく、右肩に直撃し余りの威力にマギに右肩が抉られ、皮一枚で繋がってる状態になりながら、無数の剣がマギに刺さる。

 

「貴様が一番最初に気付くとはな。だがもう遅い。こちらの目的はほぼ完了している。思う存分貴様の邪魔をしてやろう!」

「ぐはぁ!!」

「マギさん!」

「マギ先生!!」

「マギ兄ちゃん!」

「「マギお兄ちゃん!!」」

 

 剣が体中に刺さり肩が抉れて叩きつけられるマギを見てアスナ達は悲鳴を上げる。痛みに耐えながらマギは自身の傷を治す事を集中させ、瞬時に体の傷を治す。

 まずいまずいまずいまずいまずい、まずいまずいまずいまずい!! マギの警鐘は早鐘を打っている。早く止めないと本当に大変な事になる。マギはまた四つん這いになる。

 

「マギさんアンタまたあれ使おうとしてるでしょ!? やめなさい! それ以上の自分の事を酷使しないで!!」

「黙ってろアスナ! 止めるにはもうこれしか……! SWITCHON ON BERSERKER LEVEL……うぐ!?」

 

 もう一度発動しようとした瞬間マギの体中に電撃が入ったような痛覚が巡る。体に力が入らない。

 

「どうやら貴様はもう使えないでくのぼうのようだな。事の顛末を寝転んで眺めているがいい」

「てってめぇ……!!」

 

 アーチャーの嘲笑にマギは何も出来ない。悔しさにマギが歯を食いしばって睨んでいる間に、フードを深く被った者が、石に罅を入れて破壊した。

 

「さて、僕達の目的は達成した。しかし、僕達を相手にしてよく持ちこたえたね。ネギ君、君の仲間をゴミと評価していたがそれは取り消そう。しかし……君はこの程度でこちらに来たのか。もう少し力を付けてきた方が良かったかもね」

「ま、待て……まだ僕は戦えるぞ!!」

「俺らを殺さんでよくデカい口が叩けるなてめぇ!!」

 

 無表情でネギと小太郎を見下すフェイト。ネギと小太郎はかなりダメージを負っていながらもまだ戦う意思を残している。そんな2人を一瞥し、フェイト、アーチャーに刹那達を適当にあしらっていた長身の者と月詠は石を破壊したフードの者へ集まる。

 

「フェイト様。楔の破壊完了、離脱用のゲート確保。脱出できます」

「うん……」

「ほな、ずらかりましょか~」

「私は別行動をしよう。君たちの目的に協力したのだ。君も私に分かっているだろうな」

「あぁ、ここに君が求めている物が眠っている。君が目的を達成する事を願っているよ」

 

 勝手に現れ、勝手に帰ろうとするフェイトに

 

「待て!! 君たちは何者なんだ!? いったい何を……」

「残念だけど時間切れだ。なかなか楽しめたよ。けど、今回はこの辺でお別れだ。君たちの理想を壊したお詫びとしてこれからの現実をプレゼントしよう。では君たちの健闘を応援しておこう……それじゃあね」

 

 ネギが呼び止めようとするが、フェイト達は消えてしまった。転移の魔法を使ったのか、フェイトが消えた瞬間に楔と呼ばれた石が崩れ落ちた。その瞬間にマギ達の足元に魔法陣が展開する。

 

「これは!?」

「兄貴! これは強制転移魔法だ!! マズイ! これじゃあ俺達何処かへ飛ばされちまう!!」

「どういうことカモ君!?」

「ネギ!!」

 

 カモにどういうものか聞こうとしアーニャが悲鳴を上げる。

 

「あいつらゲートの要石を! 世界と世界を繋げていた楔を壊していったわ! 多分! いや絶対扉を繫ぎ止めていた魔力が暴走する!!」

「なんだって!?」

 

 皆の嫌な予感が一致する。これだった、今から自身達に起こる大変な事はこれだったのだ。

 

「「「「マギさん!!!」」」」

「マギお兄ちゃん!!」

 

 倒れたマギにのどか達がしっかり掴まり、離れないようにする。

 

「お前ら、俺から絶対に離れるな! 雪姫! どうにかならないのか!?」

 

 マギは倒れながら、雪姫に助けを求めた。しかし雪姫は首を横に振りながら

 

「すまん。こればかりは私には何も出来ない」

 

 万事休すのようだ。何が起こっているのか理解不能な一般人組はただ単に困惑し騒ぐだけ。

 

「ネギくーん!!」

「ネギ先生!!」

「まき絵さん! あやかさん! 皆さん急いで手を────」

 

 間に合わなかった。轟音の爆発と目を焼くほどの眩い光がマギ達を襲う。

 

『きゃあああああああああああああ!!』

 

 悲鳴を上げながら、皆吹き飛ばれそうになっている。

 

「きゃああああ!!」

「マギさん!!」

「いやあああああああ!!」

「くそお!! 何なんだよこれえ!!」

「マギお兄ちゃん!! 怖いレスぅぅぅぅぅぅ!!」

「マギ兄ちゃん!」

「マギお兄ちゃぁぁぁん!!」

「のどか! 夕映! 亜子! 千雨! プールス!! 風香! 史伽! 手を! 伸ばせ!!」

 

 マギも痛む体に鞭を打ち、必死にのどか達に手を伸ばす。しかしそんなマギを嘲笑うかのようにのどか達は散り散りに飛んで行ってしまった。

 

「!! だ、駄目だ! 駄目だああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────!!」

 

 マギの悲痛な絶叫は転移で飛ばされるまで延々とゲートポートで響き渡っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────! ────い! ────先生! ────ギ先生! ────マギ先生!! 目を、目を覚ましてください!!」

「────! ────ん! ────ゃん! ────ちゃん! ────お兄ちゃん!! しかっりして!!」

「!! うわあああ!!」

 

 ネギと茶々丸に必死に呼びかけられ、マギは勢いよく上体を起こした。

 

「よかったマギ先生、大事はないですか?」

「お兄ちゃん、よかったよぉ。このまま起きないかと思ったよ」

 

 ネギと茶々丸は胸を撫で下ろした。マギは暫く呆然としていたが、段々と意識がはっきりするとネギの肩を掴み強く揺さぶってしまう。

 

「ネギ! 茶々丸! お前たちだけか!? 皆は!? のどかは!? 夕映は!? 亜子は!? 千雨は!? プールスは!? 風香は!? 史伽は!? 雪姫は……エヴァは何処にいる!?」

「おっ落ち着いてお兄ちゃん!! 僕もさっき起きたばかりなんだ!!」

 

 明らかに正気じゃないマギを何とか落ち着かせようとするネギ。茶々丸が状況を教える。

 

「時間は9時間57分が経過、フェイト・アーウェルンクス以下5名は転移呪文で逃走、『白き翼』メンバー及びあの場にいた者は敵魔法使いの強制転移魔法によって散り散りに飛ばされたものと思われます。消息は、不明です」

 

 茶々丸の報告を聞き、マギとネギの頭の中が真っ白になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 マギとネギは直ぐに皆の安否を確かめるために、仮契約をした者達のカードを使い、召喚、念話を試みる。しかし、結果は散々で、誰1人応じる者は現れなかった。

 

「ダメです! 反応がありません!」

「こっちもだ……くそくそくそくそ……みんな、みんな……!!」

 

 ネギは焦り、マギは明らかに様子がおかしくなっている。

 

「元々、カードの念話機能は簡単に妨害されてしまいますし、この地域一帯に天然の妨害岩が大量にあるようです。それにカードで召喚できる限界距離は5キロから10キロ、それ以上遠いと召喚は不能です」

 

 ネギは歯を食いしばる。つまりアスナ達は10キロ以上の距離にいるという事だ。

 

「………………」

 

 黙っているマギが勝手に駆けだした。

 

「お兄ちゃん待って!!」

「いけませんマギ先生!! まだ動ける状態じゃありません!!」

 

 ネギと茶々丸の静止の声を無視をし、どんどんと先に急いでしまう。そして巨大な岩を登り切り、遂にマギは立ち止まる。

 目の前に広がるのは広大なジャングル。修行で使っていた雪姫の別荘のジャングルの何十倍も広い。所々で獣たちの声が聞こえる。

 

「見渡す限りのジャングルですね……」

「茶々丸さん、僕らはどのくらい飛ばされたんでしょう。皆とはどれくらい離れてしまったんでしょうか?」

 

 今の自分たちの状況が絶望だというのは肌で感じる。しかしネギは気丈に振る舞い茶々丸に聞く。

 

「植生を見るにここは熱帯、メガロメセンブリアは温帯地域です。元の世界の気象学的常識が通用するなならばですが……少なくとも1000キロ程度で飛ばされたかと」

「っ! そんなに……」

 

 100キロ200キロ規模ではなく、千キロ。それだけを聞いて、ネギは想像出来なかった。茶々丸は何かを思い出した。

 

「そうですネギ先生! バッジを『白き翼』のバッジです。これには幾つかの機能がありますが、他のバッジの位置を探知する機能があります」

「ほんとですか!?」

「科学と魔法の融合ですので、ここでも機能するかと……」

 

 茶々丸がバッジを使い、他のバッジを探知してみる。暫く経って

 

「いました!」

 

 何とか位置を掴み取ったようだ。

 

「北西に2つ100キロと地点と180キロ地点です。他には東北東540キロに1つに北東に560が1つ。更にいくつか数100キロ単位で点在していますが、数が足りません。おそらく探知限界の1800キロを超えているものと……」

「そんな……!」

 

 そんな遠い地に皆散り散りに飛ばされた。しかもその中には『白き翼』のメンバーではないあやかやまき絵達の所在を知るすべを持っていない。

 

「……世界地図を出します先生。我々と皆の位置を特定出来るかと」

 

 黙っているネギに辛いが更なる現実を突きつける。

 

「ネギ先生、総面積は我々が住む地球の3分の1弱ですが、この『魔法世界』はそれでも尚、広大です。私たちが麻帆良学園に無事に戻るためには、この広大な世界から仲間達を探し出さなくてはならなくなったようです」

 

 まさか父であるナギを探す旅が、散り散りに飛ばされた仲間を探し出す旅になってしまった。

 と鈍い音が何度も聞こえてきた。見ればマギが何度も左拳を岩に叩きつけている。しかし傷は直ぐに塞がってしまう。それでもマギは何度も何度も左拳を岩に叩きつけて鮮血が宙に舞う。

 

「お兄ちゃん! 何やってるの!? 止めて!!」

「いけませんマギ先生! それ以上自身を傷つける真似は!!」

 

 ネギと茶々丸は必死にマギを止めようとするが

 

「うるさい!!」

 

 マギは何時もなら大事にしているネギや茶々丸を突き飛ばした。そして今度は額を岩にぶつける。痛々しい自傷行為にネギと茶々丸は息を呑む。

 

「何が短い期間で戦い方をその身に刻んだだ! 何がいざとなったら不死身になったこの体を肉壁にして護り通すだ!! 何が皆で無事に戻ってくるだ!! 何が!! その覚悟だけは本物だだ!!! 俺は! 何も見えてなかった! エヴァに修行をしてもらって強くなったと勘違いした、大馬鹿野郎だ!! 不死身だから皆を護れると驕り高ぶった愚か者だ!! その覚悟だけは本物だって言って自身に酔っていた最低野郎だ!!」

 

 左拳と同じように傷ついた額は直ぐに塞がる。遂にマギは思い切り額を岩にぶつけ、額の骨を砕いてしまった。

 

 

「俺は!! 弱い!!」

 

 涙を流しながら自分の弱さを実感したマギを見て、ネギも涙を流し悲痛な空気が辺りを漂うのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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合流目指せ

 あの後、なんとか気持ち切り替えたネギと茶々丸(マギは少し表情が暗い)は地図を見て自分達の位置を確認をする。夜になり、星から位置を割り出し、今自分たちがいる場所も分かった。

 エリジウム大陸、ケルべラス大樹林。今いる地の場所の名前である。メガロメセンブリアまで1万キロ近くあるという途方もない距離である。

 ただ幾人かは自分達と距離の近い者が範囲内に居ることも分かった。まず最初に同じ密林に居るABCと合流し、その後山脈を超えたDとEに合流し、南下した後に内海沿岸の町に行くのが得策だという事になった。ただ近くに居る人が誰かまでは把握は出来ていない。

 ネギは直ぐにでも動こうとしたが、茶々丸は待ったをかけた。今の自分たちには色々な障害がある。まず最初にネギの体力がまだ戻っていない事。怪我をこのかのアーティファクトで治療したが、その反動で今のネギは軽い熱状態であること。今無理をしたらかえってネギの体力を奪ってしまう。次に装備が万全ではない事。今のネギは愛用している杖がない。携帯用の杖は先の戦闘で破壊されてしまい、今あるのは指輪だけである。更に

 

「! ネギ先生! 静かにしていてください!!」

 

 頭上を下等種ではあるが、肉食の飛龍が鳴きながら飛び去って行った。此処は魔法世界のジャングル、地球のジャングルの猛獣や毒をもつ生物など目じゃない恐ろしいモンスターがうじゃうじゃとジャングルを闊歩しているのだ。

 それを聞きますますネギは探しに行こうとするが、めまいを覚えその場に座り込んでしまった。

 

「今は体を休めてください。無理をなさっては体に響きます」

 

 万全で捜索するために、今日はもう休むことにしたのであった。

 翌日、早朝に出発することにした。

 

「……行くぞ」

「うっうん!」

「分かりました」

 

 声色が低いマギが先頭に立ち、出発した。そして次の障害が……

 

 

 

 

 

 

 

「ギャアギャアギャアアアアア!! グルアアアア!!」

 

 咆哮を上げながら肉食の飛竜がこちらに飛んで向かってきている。かなり鋭利な牙が見え、あれに襲われたらひとたまりもないだろう。だが……

 

「っ!!」

 

 マギがグレートソードを飛竜に向かって振り下ろした。

 

「ぐぎゃ!?」

 

 グレートソードで飛竜が潰され、何も言えぬ死骸へと化してしまった。これで通算10匹目の死骸である。

 

「……さっさと前へ進むぞ」

「う、うん」

「マギ先生、どうか無理をしないでください」

「無理? 何言ってるんだよ? 死ねない俺に無理なんてあるわけないだろ」

 

 マギが発している強烈な殺気に中てられ、凶暴な肉食の飛竜や猿のモンスターにライオンやトラのようなモンスターや巨大な虫がマギを襲おうと牙を向いてこちらに迫ってくる。

 それをマギが全て返り討ちにしてしまう。それも全て頭を潰し直ぐに絶命させてしまった。

 マギは昨日の事でかなり参っているようで、八つ当たりでこっちを襲ってくる肉食を殺していってる。このままだとここら辺の生体系が崩れてしまいそうだ。

 

「お兄ちゃん、その、無理はしないでね」

「無理? 俺の何処が無理をしてるって?」

「いや、その……」

「……早く行くぞ。無駄な時間を過ごしてる暇なんてないんだからな」

 

 余裕がないせいで返答もどこかピリピリしている。更に最悪な事に

 

「お兄ちゃんの付けてるガントレットが……」

「これ以上マギ先生に無理はさせられません。ですが、今のマギ先生を止めることが私達で出来るかどうか……」

 

 マギが装着しているガントレット、それが所々から配線が見えてたり、部品が取れてしまって完全に壊れている。

 あの魔法の出力を強引に上げて更にフェイト達と1人で戦ったのだ。無理な使い方でがたが来てしまったのだろう。

 雪姫の警告を無視し、理性より闇の魔法が上回る程の出力を発動。今の所暴走する気配はないが、肉食の魔物を叩き潰している時はかなり危険な気配を醸し出している。要注意だ。しかしまだネギが本調子ではないのも事実。マギに護られている状態ではあるが、この状態がいつまで続くのか心配である。

 その後もあまりに巨大すぎる肉食が現れた際は身を隠すなどでやり過ごし、ただ前へ前へと進むのであった。

 前を進み続けて2時間は経とうとしていた。歩き続けてマギ達は大きな湖へ到着した。綺麗な光景にネギは感嘆な声を上げる。

 

「異世界の空に綺麗な湖。それに見たことのない不思議な動植物……こんな状況じゃなければここにキャンプでも張って、ゆっくりと魔法世界の秘境を楽しみたいところです」

 

 頬を赤くしながら思ったことを口に出す。しかしネギの顔が赤いのは興奮ではなく、体調不良の体温上昇だ。

 

「いいえネギ先生、もう今日は此処で休みましょう。これ以上はネギ先生のお体に障ります」

「ダメです! 僕たちが此処で止まっている間に何かあったら間に合わない事になってしまうかもしれません!」

 

 ネギは頑なに前に進もうとしている。マギは黙っているが、マギも早く前へ行きたいであろう。

 

「いいえいけません。ネギ先生が倒れてしまったら本末転倒です。まずはご自分の体を大事にしてください。どうか焦らないで」

 

 茶々丸はネギの体を心配するが、それでもネギは届かず

 

「分かりました。ですが15分です。15分休んだら直ぐに出発します」

「15分!? しかしそれでは休んだことになりません!」

「それ以上は休めません! 何としてでも今日中にたどり着かないといけないんです」

 

 ネギの考えは揺らがないようだ。

 

「……おい、休むんならさっさと休むぞ。今は1分1秒も時間を無駄にするわけにはいかないからな」

 

 マギの一声で休むことになったその時

 

「グルルルル……」

 

 マギ達の前に黒い虎のような黒い竜が唸り声を上げなら登場した。

 

「しまった! こんな近くに!!」

「ネギ先生!」

 

 黒い虎竜(こりゅう)は角を発光させると雷で攻撃してきて、迫る雷を避けるマギ達。

 

「魔法の射手光の光の三矢!!」

 

 ネギは無詠唱で魔法の矢を虎竜に向かって放った。これに驚いてさっさと此処から立ち去ってほしい。ネギはそう思ったが、考えが甘かった。虎竜は今度は角から魔法障壁を展開して、ネギが放った魔法の矢をいとも簡単に防いでしまう。

 

「魔法障壁を使う!? 野生の生き物なのに!!」

 

 ネギが驚いている間に、虎竜はまたも雷をネギに向かって打ってきた。ネギも咄嗟に魔法障壁で雷を防ぐが、鞭打った体で展開した魔法障壁だったため、直ぐに膝をついてしまう。

 

「ネギ先生!!」

 

 茶々丸がネギに駆けつけて抱き起す。無理に魔法を使ったせいで、今のネギは熱も上がり意識が混濁している状態だ。そのまま意識を失ってしまいそうだ。

 こうなったら自分がネギを護ろう。そう判断した茶々丸はネギを護るために虎竜の前に立ちはだかろうとしたその時

 

「ネギ、茶々丸、邪魔だ。後は俺がやる」

 

 マギが虎竜と対峙する。

 

「お兄、ちゃん……」

「マギ先生! 無茶をしないでください!!」

「無茶? 死なない奴が無茶をしないで何時無茶をするんだよ。それに……こいつから旨そうな匂いがして堪らないんだよ」

 

 見ればマギは口から涎を垂らし続け、まるで植えた獣の形相をしていた。虎竜もマギがネギよりも厄介な相手だと瞬時に察して威嚇しながら角を発光している。ネギはマギに止まってほしいと懇願したが遂に意識を失ってしまった

 

「……っ──!!」

 

 マギは雄たけびを上げながらグレートソードを虎竜に向かって振り下ろした。しかしマギのグレートソードは虎竜の魔法障壁によって防がれてしまい、有効打を与えることが出来なかった。かえって虎竜はマギに向かって雷を放つ。

 グレートソードで雷を防ぐマギは舌打ちをする。

 

「厄介な障壁だな。どうするべきか……」

 

 マギは少しの間思案し、何かを思いついたのか、グレートソードを影へ戻すと、両手を広げてゆっくりと虎竜へと近づいて行った。

 

「マギ先生何をやっているんですか!? いくらマスターと同じ不死身だからなど言って危ない真似は止めてください!!」

 

 マギは耳を傾けず、更に虎竜へと近づいていく。

 

「さぁ食ってみろよ。極上とまでは言えないだろうが、だが何の労力もなくただ飯が食えるんだぜ? こんな美味しい話はないだろう?」

 

 にやにやと笑いながらどんどん近づき、遂に虎竜の間合いまで近づいてきた。

 虎竜もただ近づいてくるマギを警戒している。魔法を使える虎竜の様な強力な魔法生物はかなりの知能を持っている。それこそ状況を理解することの出来るほどの知能をだ。

 そんな虎竜はグレートソードを持っていたマギが面倒な獲物であることは直ぐに理解できた。そんな相手が武器を消して自ら近づいてきたのだ。

 罠かと考える虎竜。しかしマギには2人の仲間がいる。そんな2人を護るために、勝てないと判断したマギが自ら餌という名の生贄となり2人を逃がそうとしていると段々考えるようになった。

 何て殊勝な心掛けだろうか。それに、今の自分は腹が減っている。無駄に体力を使わずに飯にありつけるならそれでよし。虎竜は咆哮を上げながらマギの右肩から心臓めがけて食らいつく。虎竜が食らいついた瞬間に血が舞う。

 

「マギ先生!!」

 

 悲痛な声を上げる茶々丸。楽に飯にありつけた。まぁこの人間を食ってまだ足りなかったら残りも食らってやろうかと強者の余裕を見せていた虎竜だが

 

「ぐるぅ!?」

 

 マギの血を飲んだ瞬間に顔を歪めてしまう。なんだこの人間の血は!? まるで嘗て自分が小さかった時に何も飲まず食わずでやっと飲んだ泥水よりもまずいではないか! 

 こんな人間食えたものじゃない。食って下手したら体調を崩してしまうと目の前の人間から口を離そうとした瞬間、マギが右腕で虎竜の頭を猫や犬のように撫でまわしたと思いきや、がっちりとロックして口から離れないようにする。

 

「……よぉぉく味わえよ。これがてめぇの最期の晩餐だ。まぁ不死身の俺を食っても栄養にはならねえだろうけどな」

 

 マギは不敵な笑みを浮かべながら背中に隠していた月光の剣を取り出し、そのまま虎竜の首に月光の剣を突き刺した。

 

「ぐるあぁぁぁぁ!?」

「やっぱりな。てめぇは相手に攻撃されている時しか障壁を張らない。こういう食事の時は油断して障壁を張らない。餌になった甲斐があったってものだ」

 

 虎竜は暴れてマギの拘束から抜ける。しかし月光の剣が致命傷になっているため、呼吸するのがままならない。もう自分の命は風前の灯火だというのは本能で察してしまった。 

 

「今度はこっちの番だ。てめぇが持っている極上の物、俺に寄越せ」

 

 傷を再生させてから、虎竜に向けて濃密な殺気を放つマギ。殺気に中てられ虎竜は此処で初めて恐怖を覚えた。そうだったのだ。自分は捕食者ではない。最初からこいつの食卓に並べられた料理であったのだ。

 こいつに食われたくない。虎竜は恐怖に負けて自身がもうすぐ死ぬと分かっていながらも翼を広げて湖から逃げ去ろうとした。しかしそれよりも早くマギが虎竜に向かって飛び

 

「あああああああああ!!」

 

 叫びながらマギはグレートソードで虎竜の頭を叩き潰した。なんてことない。力のある虎竜もマギにとっては今まで潰してきた魔法生物となんら変わりがなかったのだから。

 しかし虎竜は他の生物と違い、マギは腕を虎竜の死骸に突っ込むと何かを探していた。

 

「っ! これか!!」

 

 そして何かを見つけたのか腕を引っ張り虎竜の死骸から何かを引き千切った。

 力のある魔法生物は人と違い詠唱を唱えずとも魔法を使うことが出来るのは、魔力を作り出す事が出来る器官が備わっているからだ。

 それが今マギが持っている雷で光っている虎竜の魔力袋と呼ばれる、血を作る肝臓のように魔力を作ることが出来る臓器である。

 そんな虎竜の魔力袋をまるで極上の料理を今から頂くように涎を滴らせて大口を開けて、虎竜の魔力袋を一口で頂いた。

 何度も咀嚼して飲み込んだマギ。その口は恍惚笑みを浮かべていた。

 

「あぁ……旨いなぁ……」

 

 くくくと笑みを浮かべるマギ。純度100%の魔力を喰らった事で、マギの体は少しずつ力が戻って来て、少しずつ闇の魔力がマギから溢れだそうとしていた。

 

「いけませんマギ先生!!」

「もっとだ。もっと……クワセロォォォォ!!!」

 

 雄たけびを上げながら闇の魔力を放出するマギ。次の瞬間にはマギの意識は闇へと落ちていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ? 俺、何してた? 意識が、飛んでいたのか? いったい何時から?」

 

 気が付けば青かった空が夜の星空に変わっている。かなりの時間が経っているようだった。

 

「あの竜の肝を食ってからの記憶がない。何がどうなったん────」

 

 辺りを見渡して絶句してしまった。あんなに綺麗だった湖は見る影もなく悲惨な光景と変わってしまっており、自分が狩った虎竜の他に別の虎竜が転がっており、他にも蟹のような魔法生物に蛇のような魔法生物、狼種の魔法生物。猿と鬼を足したような魔法生物、色々な魔法生物が死屍累々に転がっている。

 どれもこれも頭を叩き潰されてるか、首を叩ききられているか死因は様々であるが、皆同じように腹を裂かれている。恐らくは自分のさっきに反応してここの周りの魔法生物達が自分を襲ったのが関の山だろう。

 そして自分の口回りが血で汚れ、同じように衣服にも血がこべりついてしまっている。

 

「まさかここの奴らの肝を全部食ったのか俺……腹とか壊さないかな?」

 

 と場違いな呑気なことを宣うマギ。得体の知れない生物の生の臓器をそのまま喰うなど、いよいよマギが普通ではないと証明することになってしまうが。

 とマギははっとして辺りを見渡す。そう言えばネギと茶々丸はどうした。

 見れば横になってぐったりしているネギとそのネギを護るように所々汚れているが壊れていない茶々丸が居た。

 

「おいっ茶々丸、ネギ、しっかりしろ」

 

 マギが茶々丸の肩を揺する。まさか自分がこの2人に手を掛けてしまったのか。最悪なビジョンが頭をよぎっていると茶々丸がゆっくりと目を開いた。

 

「茶々丸っ、大丈夫か? どこも怪我していないか?」

「マギ先生……はい、ネギ先生も少し熱が下がりました。ですがまだ油断は出来ません。私はネギ先生を護っていまして少々汚れた程度です」

「……よかった。お前達に何もなくて、何かあったら俺は……」

 

 折角調子が戻ったと思ったらまた情緒が不安定になりかけているマギの胸に茶々丸が飛び込んできた。

 

「ちゃ、茶々丸?」

「マギ先生、どうか自分の事を責めないでくださいっ。今回の事はマスターも予測出来ていませんでした。そんなマスターが出来なかったのにマギ先生が何故自分お一人で全ての責任を負おうとしているのですか」

 

 顔を上げた茶々丸の目には涙が流れる。マギの目の前に居るのは作られた少女ではなく、普通の女の子と変わらなかった。

 

「どうか、どうかご自身を傷つけるような真似はこれ以上しないでください。貴方が傷つく姿を見るのはもう嫌です」

「……あぁ、すまないな。悪かった」

 

 涙を流す茶々丸の頭を撫でてあやすマギ、しかし茶々丸は悲しみの感情でマギがこれ以上無茶をしないと約束を誓っていないことに気付かなかった。マギはこれ以降も飛んで行った仲間全員と合流するまで無茶な戦いを強いるだろう。

 

「……あぁ」

「茶々丸!? どうしたんだ!?」

 

 ふらりと倒れてしまった茶々丸に慌ててしまうマギ。

 

「やっぱり茶々丸、お前何か」

「いえ、そうではありません。今の私はエネルギーが、枯渇している状態です。人で言うなら、空腹状態になっているだけです」

「そんな……! 何か、何か出来ることは無いのか!?」

「いえ、大丈夫です。安静にしていれば、少しずつですが、回復をすることが、出来ます」

 

 それか、と茶々丸はポケットからゼンマイを出した。

 

「ゼンマイ? これってもしかしてこれを茶々丸に巻けばいいのか?」

「はい……ですが、何時もはマスターに巻いてもらっていまして、本来ならマスターに巻いてもらうつもりでしたので、その、心の準備が……」

「何言ってるんだ! 今俺が巻いてやるから待ってろ!」

 

 色々といっぱいいっぱいなマギは半ば強引にゼンマイを巻くことを強行するのだった。

 

「ここで、いいのか?」

「は、はい。その、優しくお願いします」

 

 マギはゆっくりと茶々丸の後頭部のゼンマイの挿入口にゆっくりとゼンマイを入れた。

 

「……うっ、くぅ」

「だ、大丈夫か? まさか入れ方が間違ってたか?」

 

 初めてのことでマギもどぎまぎしながら間違って挿してしまったのかと慌ててるが、

 

「だ、大丈夫です。あの出来るだけ、ゆっくりと魔力を送ってください」

「あ、あぁ分かった。ゆっくり、ゆっくりな」

 

 マギもゆっくりとゆっくりと茶々丸に魔力を送るのだが

 

「ふっふぅぅぅぅぅぅぅ」

「だ、大丈夫なのか? なんか辛そうに見えるが」

「ちっ違います。その、あの……」

 

 見れば茶々丸の頬が赤くなっており

 

「き、気持ちいいんです……」

 

 何時もは見せない茶々丸の艶やかな声に思わずマギも顔が赤くなる。茶々丸はクラスの中でも大人っぽい(ガイノイドだから歳は一番下だが)見た目なため、何かいけないことをしているような感じになってしまう。

 しかし魔力を送らないと。茶々丸を万全の状態にしていた方が今後の皆の捜索に支障をきたすことは無いだろう。

 

「茶々丸、もう少しだけ魔力を送るぞ。だから、少し耐えてくれ」

「は、はい分かりました。その、ゆっくりでお願いしますぅ……」

 

 マギは茶々丸へ魔力をゆっくりと送る。魔力を送っている間に茶々丸も変な声を出さないように口に手を当て、必死に耐えている。

 

「くぁwせdrffgyふじこlp~~~~~~~~~!!」

 

 ホントに何かいかがわしい事を茶々丸にしてるのではないかと、マギも変な気持ちにならないように耐えて、無心で魔力を送りながらゼンマイを巻いた。

 しかし無心過ぎてしまったのか、今のマギは魔力の肝を食べすぎて魔力が有り余っている。そのせいで、無意識に闇の魔力を茶々丸に送ってしまっていた。その結果……

 

「はぅ!!」

 

 魔力が充填した瞬間に、茶々丸の体が大きく揺れる。そしてそのまま倒れこんでしまった。

 

「ちゃっ茶々丸、大丈夫か?」

 

 マギは心配しながら茶々丸を抱き起す。が、茶々丸はそのままマギを押し倒してしまった。

 

「ちゃ、茶々丸さん?」

 

 マギはいきなり茶々丸に押し倒されたことに目が点になるがその張本人である茶々丸は

 

「はぁはぁはぁはぁっ」

 

 顔がオーバーヒートしそうな位に真っ赤で目の焦点が合っていなかった。

 

「茶々丸本当に大丈夫なのか!?」

「だ、だいじょうぶれひゅう。魔力は充分にたまりまひたぁ。でしゅがぁ体がとってもぽかぽかとあったかくてぇ、気持ちがいいんでしゅぅ……けど、体の奥がうずいてうずいてぇどうにかなってしまいそうなんですぅ……」

 

 赤い顔、呂律が回っていない口調、意識もどこか呆然としている。間違いない、茶々丸、酔っぱらってるとマギはそう判断する。しかしロボットも酔っぱらうのかと呑気な事を考えようとしたその時

 

「だからぁ……」

 

 何か嫌な気配を感じ取った瞬間

 

「この疼きをどうにかしてくださぁぁぁい!!」

「うぉぉぉぉぉぉ! 力強い!?」

 

 酔っぱらった茶々丸がマギに襲い掛かってきた。必死に抵抗するマギ。しかし茶々丸の力強さに戦慄を覚えてしまう。

 

「マギ先生! マギ先生! マギ先……マギさん! マギさん!! マギさああああん!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!! だっ駄目だ! 茶々丸! これ以上はお互いの為にならないいいいいいいいい!!」

 

 酔って暴走した茶々丸とマギの攻防は、そのまま茶々丸の酔いがさめるまで続くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その……昨日は申し訳ありませんでした」

「いや、お互い何もなかったんだ。今回の事は互いに何もなかったという事にしようさ」

 

 翌朝、昨日の事を覚えている茶々丸とマギは互いに背を向け顔が直視できなくなり、顔を赤くしながらマギに謝罪をする茶々丸にマギは特に何かを失っているわけじゃないので特に気にしないと茶々丸を安心させるようにそう言い聞かせた。

 そしてネギはというと……

 

「さっさぁ! もう十分に休みましたし行きましょう!!」

 

 茶々丸程ではないが顔を赤くしているネギが先に行こうと促している。

 

「ネギ、お前まだ顔が赤いじゃねえか。まだ本調子じゃないのか?」

「それでしたらもう少しお休みになった方が……」

「大丈夫です! 昨日しっかり休んだので体調は大丈夫です! 今僕たちは足を止めている時間は無いんですから!!」

 

 何かを誤魔化すように捲し立てるネギに首を傾げるマギと茶々丸。

 2人は気づかなかった。昨日の夜の出来事をネギは聞いており、気付かれないように寝たふりをしてあまり眠れなかったのだ。

 

(うう、お兄ちゃんと茶々丸さんの昨日の事が凄すぎて眠れなかったよぉ……)

 

 少年にとっては少々刺激が強い光景であり、当分は忘れそうになかった。

 こうして3人の出発は何とも気まずいスタートになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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アイドルと委員長のジャングルサバイバル

「はぁはぁはぁっ……くそ!」

 

 千雨が悪態をつきながら巨木の幹に隠れ、闊歩している甲殻類の魔法生物から身を隠す。

 マギ達と同じジャングルに飛ばされた1人は彼女であった。

 

「どっか見渡せる場所は……あそこだ!!」

 

 漸く全体を見渡せる場所を見つけ、とりあえず上ることにした千雨はそびえ立つ岩山を登り、登り終えてから辺り一面を一望し

 

「……本当にジャングルじゃねえか。何処なんだよここ」

 

 呆然としながら呟いてしまった。しかし千雨は1人ではなかった。何故なら……

 

「ちっ千雨さぁぁぁん! どうか、どうかあまり1人で先に進まないでくださーい!!」

 

 肩で息をしながら千雨の後を必死に追うあやかの姿があった。そう、今千雨は一般人組のあやかと行動を共にしているのであった。

 

「……ほんと、何であたしがこんな貧乏くじを引かないといけないんだよ……」

 

 天を仰ぎながら今の気持ちを吐露するのであった。

 

 

 

 

 

 千雨がジャングルに飛ばされる38時間前、千雨達マギ組(ハルナ命名)は動けなくなったマギの元から決して離れないようにしがみついていた。

 しかしそんな彼女達の想いを踏みにじるかのようにゲートポートの爆発がマギと千雨を離れ離れにさせてしまった。

 そして何も出来ないままこのジャングルに堕ちていった。

 

「くっそぉ、こんな出鼻を挫かれるようなアクシデントに会うなんて。マギさんかなりやばそうだった。あのままだと自分を責めて自暴自棄になってしまいそうだな……」

 

 千雨はマギの身を案じているが、自分自身もこんな所で1人なのだ。まずは身の安全を確保しなければ

 

「とりあえず今ここが何処か分からないからな。安全な場所を確保しないとな……」

 

 立ち上がり、行動に移ろうとしたその時

 

「いたたたたた!! ち、千雨さんどうか足を退けてくださいぃぃぃぃ!!」

「……は?」

 

 よく知る人の悲鳴が聞こえ、ゆっくりと自身の下を見てみると

 

「お、重いい……」

「い、委員長!?」

 

 あやかが文字通り千雨の尻に敷かれている状態であった。

 

「────びっくりしましたわ。まさか上から千雨さんが落っこちてきたのですから」

「そりゃ悪かったな。あたしだって好きで委員長の顔をあたしの尻で潰そうとしたわけじゃないんだからな」

 

 あやかを助け起こす千雨

 

「それにしても此処は一体どこなんですの? さっきまで凄い建物に居たと思いきや、いきなりこんなジャングルの中に立っているのですから」

「さあな。正直あたしだってここが何処なのか見当もついてないからな」

 

 千雨が分かると事は、此処がさっきまで居た文明的な場所ではなく、命の危険に脅かされる場所だっていう事だけしか分からない。

 これからどう動こうか考えていると、あやかは手を打ち勝手に納得している。

 

「分かりましたわ! これはゲームの世界なんですね?」

「はぁゲームだぁ?」

「だってそうでしょう? さっきまでは建物に居たのに今はジャングル。この前の学園祭に行ったゲームのようにステージが変わったのでしょうね」

 

 今の光景をゲームのステージと勘違いしているあやか。魔法を知らないあやかはそう思うのは仕方ないだろう。溜息を吐いた千雨はあやかがパニックにならない様に現実を教えることにした。

 

「いいか委員長、此処はゲームの世界じゃない。現実の世界だ」

「はい? 何を言ってるんですか千雨さん? このジャングル、どう見たって現実ではなく、千雨さんが教えてくれたバーチャルリアリティーというものじゃないんですか?」

「いや、だからな……」

 

 もっと詳しく教えようとしたその時、千雨は何か強い気配を感じ取った。

 

「? 千雨さん?」

「っ伏せろ!!」

「へ? きゃあ!?」

 

 何も分からずにいきなり千雨に押し倒され、パニックになってしまう。

 

「千雨さんいきなり何を!?」

「黙ってろ委員長! 今変に叫ぶと互いの為にならない!!」

 

 何を言っているのか分からず追求しようとしたが

 

「ギャアギャア! グルアアアア!!」

 

 2人の上空を肉食の飛竜が飛び去って行った。どうやら此方には気づいていないようでホッと胸を撫で下ろす千雨。

 

「よかった。この状況であんな奴とエンカウントしていたらどうなっていたか……」

「! 千雨さん、貴女、腕に傷が!」

「え? ……っち、まずいな。こんな状況で傷口から細菌とか入ったら洒落にならねえぞ」

 

 早く傷口を洗い流し消毒しなければと考えているとあやかが気付く。

 

「なんで、千雨さんが傷ついているのですか? これはゲームなのでしょう?」

「悪いが今のゲームでこんなにリアルな傷や血の演出なんて難しいんだよ。それに委員長もあたしに押し倒されて結構痛かったろ? あの時の電脳世界とは比べ物にならない……な?」

「え? え? 一体全体どういう……?」

 

 あやかは何が何だか分からず混乱している状態だ。

 

「もう一度言うぞ。これはゲームでも何でもない……本当の世界だ」

 

 まだ混乱しているあやかを連れて、とりあえず安全な場所を探す千雨。道中魔法生物に遭遇しない様に細心の注意を払い、冒頭の見渡せる場所で自身達がジャングルに居ることを認識しながら、何とか魔法生物の気配がない洞窟を見つけた。

 道中で拾った枯れ木を何本か拾い、焚火の準備をする。

 

「あたしは正直言ってまどろっこしい事は苦手だから単刀直入に言うぞ。ここは地球じゃない。魔法世界っていう別の世界だ」

「……え? 魔法世界? 地球じゃない? 何を言ってるんですか?」

 

 まだ混乱、現状に納得していないあやかを無視して、千雨はポケットをまさぐり、何か火をつけられる物が無いか探してみると壊れていない携帯用の杖を発見した。

 これを見せれば手っ取り早いと判断した千雨は呪文を唱え杖から火を出すと、枯れ木に火をつけ、燃えだしたらそのまま他の枯れ木に火をつけて焚火を完成させる。

 

「ち、千雨さん。今何をしたのですか? それはライターなどではないですよね?」

「あぁこれは魔法の杖で今のは簡単な火を灯す呪文だ」

「ま、魔法? 呪文? 千雨さん、貴女、私をからかってるのですか?」

「嘘だと思うならこの杖を持ってみな。それと火に手を近づけて見ろ。種も仕掛けもないし、火も本物なんだからな」

 

 疑いながら杖を持ち、自身が振っても何も反応がないし、火も本物だという事に驚いている。

 

「千雨さん貴女、魔法使いなのですか!?」

「いやあたしは魔法使いなんて大層なもんじゃねえよ。あたしはちょいちょい魔法が使えるだけのネットアイドルなだけさ。魔法使いはそれこそマギさんやネギ先生のことを言うんだよ」

「!! ネギ先生とマギ先生は魔法使いなのですか!?」

「あーそっからだよな。もういいや、ここまで来たらばらしても問題ないよな」

 

 千雨はあやかにマギとネギの事、そしてアスナやのどかや皆の事を色々と話した。といっても千雨も最近に参入した新参者だから、修学旅行の事や悪魔の襲来の事はマギ達から聞いたものなのだが。魔法世界来たのもマギとネギの父であるナギを捜索するためなのだと包み隠さず伝えたのであった。

 

「────そしてあたしらがゲートポートに着いたらあのテロリスト達と遭遇して、マギさん達がテロリスト達と戦ってそれでゲートポートが爆発してあたしら皆飛ばされて、今に至るってわけだ」

「……」

 

 千雨に今までの事を全て聞き、あやか通夜のように沈み俯いている。

 

「あ~委員長、色々とショックなのは分かるが今は早く気持ちを切り替える方が得策────」

「いいえ違いますわ! 私がまき絵さん達をしっかり止めていればネギ先生達にご迷惑をおかけすることはありませんでしたわ!! それなのにアスナさんと約束をしたのにこのていたらく! 私は自身が恥ずかしいですわ!! ネギ先生と無事に再会したら地面にめり込むほどの土下座をして謝罪しなければ!!」

 

 自分自身の不甲斐なさに憤慨しているあやか。ショックは受けていないと判断した千雨は話を続ける。

 

「だったら今はあたしらの身の安全を第一に考えないとな。まず最初にここはジャングルだ。文明なんて何処にも無さそうな自然地帯。今あるのは携帯食料とあたしのケータイとパソコンと……こいつらだ」

『ちうさまー!!』

 

 千雨は電子精霊達を召還した。

 

「まぁ! あの時のネズミさん達ですわね」

『お久しぶりですー』

「まぁこいつらが居ても何も変わらない役立たずだけどな」

『そんなひどいー!』

「だったら今夜なんだから星の位置から今の現在地とここから一番近い街を探せほら早く」

 

 千雨の戦力外通告に電子精霊たちは必死に猛抗議をしている。そんな抗議を無視して今後の目的を話し続ける。

 

「さっきも話したがあたしらの身の安全が第一だが一刻も早く力がある人と合流しないと」

「千雨さんは戦う術を持っていらっしゃるのですか?」

「……恥ずかしながらあたしはあまり攻撃系の魔法を持っていない。せいぜい魔法の矢、雷の斧、一番強い魔法で白き雷ってやつだけだ。それも威力は恐らく下から数えた方がいいだろうな」

「何でもっと頑張ろうとしなかったのですか?」

「うっせ言ってろ……と言いたいけどそうかもな。あたし自身が戦うんじゃなくて、人形に戦わせていたからな」

「その人形っていうのは?」

「修行で壊れた。だから恐らくこのケースの中にあるのはその代わり、なんだろう」

 

 といった千雨の横に傷一つないスーツケースが転がっている。ただ爆発の衝撃なのかうんともすんとも反応しない。

 

「木の守護者の代わりが絶対この中に入ってるんだ。あたしはさっさとそいつを呼び起こして一刻も早くマギさんと合流したい」

「マギ先生と? どうして?」

「あんたも見ただろ、あの時のマギさんの戦い方を」

「はい、あれは何というか人ではない別の何かのようでした」

 

 あやかはマギの戦い方を思い出し戦慄する。咆哮を上げたマギ、まさに人を超えた獣のようだった。

 

「あの戦い方はマギさんの精神を結構蝕むかなりやばい魔法だ。マギさんはあたしらをあのテロリストとか護ろうとしてくれた。本当はあたしらがマギさんを護ろうとしたのに。皆ばらばらに飛んで自分のせいだと責めてる。今はネギ先生よりマギさんの精神状態が危うい。下手したら暴走してしまうかも。そうすればあたしらじゃ止めるのは難しい。何せ死ねない不死身のマギさんだからな」

「その、本当なんですか? マギ先生は死ねないっていうのは」

「見たんだろ目の前で頭が吹き飛んだマギさんを。あの学園祭で無理して不死身になってそれでまた無理した結果、マギさんは記憶を失くした……いや心の奥底に堕ちていったって言った方がマギさん自身正しいと言ってたな。ただ分かることは記憶がリセットしてしまったせいで今のマギさんはネギ先生よりも精神が不安定だ。あたしはマギさんの支えになりたい。一刻も早くな」

 

 そんな決意を述べた千雨を見て、あやかは微笑んだ。

 

「何でそんなにやにやしてるんだよ。あたし何か変な事言ったか?」

「いえ、マギ先生やネギ先生が日本に来るまでは千雨さんは私達と距離を置いていました。それが今は誰かの為になりたいなんて言うなんて。恋って人を変えるんですわね」

「うっせ言ってろ。でもな……あぁそうだよあたしが此処までやるのはマギさんのためだ。そうじゃなきゃ今頃涼しいクーラーが効いた部屋でくつろいでいたさ」

 

 そっぽを向きながら頬を掻き

 

「その、ありがとな委員長。もしあたしが1人だったら今頃現実逃避をするために意味もなくパソコンを使ってブログを書いてたろうからな。余計な電力を消費しなくてよかった」

「でしたら、そんな委員長なんて他人名義な呼び方をしなくてもいいでしょうに」

「……わかったよあやかさん」

 

 と微笑ましい会話をしていた2人に横やりが入る。

 

『ちうさまー!!』

 

 位置情報を調べていた電子精霊達が慌てた様子で飛んできた。

 

「どうしたお前らそんなに慌ててよ」

『それがちう様、今我々が居る場所は────」

 

 電子精霊達の報告を聞き、千雨とあやかは愕然としてしまう。

 

「「310キロ!?」」

『はい……此処から一番近い人里までの距離がそれぐらいです』

「まじかよ310キロってどれくらいなんだよ……」

「東京から名古屋か新潟までの距離ですわ。しかしそれは何もない日本でのことです。しかしここは……」

「危険な魔法生物がいるジャングル。そんな場所で310キロを歩くなんて……」

 

 今の自分たちが限りなく無茶で無謀な状況にあると知ることになった。

 

『あの、今はお体を休めた方がよいかと』

「そうだな。あやかさん今は休むぞ。この洞窟はあまり魔法生物が寄り付かなそうだ。けど細心の注意は忘れるなよ」

「え、ええ。分かりましたわ」

 

 今はわめいてもしょうがない。そう判断した2人はとりあえず今は就寝するしかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洞窟にキャンプした2日目。千雨とあやかは周りを警戒しながらはるか先にある人里へ向かった。道中獣たちの鳴き声に気を付けて、見つからない様に隠れながらただひたすらに前へと進む。

 しかしここは熱帯林のジャングル。上空から照り付けてくる陽の光にどんどんと体力を奪われていく。

 

「なぁ、もう40キロ位は歩いてんじゃないか? こちとら8時間は朝から歩いてるんだからな」

『いえ、それが……まだ16キロしか歩いていません』

「はぁ!? 半日歩いてもそれぐらいかよ!」

「無理もありませんわ。常に方角を気にしながら周囲を警戒。迂回しながら安全そうな道を歩いているのですから」

 

 そう言ってあやかがペットボトルの水を飲もうとする。

 

「あまり水は飲まない方がいい。水や食料には限りがある。ジャングルの水は絶対に細菌だらけだ。飲むなんて自殺行為はしない様にな」

「ええ、そうですわね」

 

 今現在、水も食料も限りがある。しかしどう見たって1日ももたない量だ。

 

「唯一の救いはこいつらがまだ動けることだろうな。こいつらがいなければ何も出来なかっただろうから」

 

 千雨の周りでは電子精霊達が浮かんでいるが、墜ちそうなのをなんとか堪えてふわふわと危なげだ。

 

『が、がんばりまーす』

「大丈夫ですか? どこかお辛そうですが」

『はいぃ。僕達は近くで電気製品が稼働していないと活動出来ないんですぅ。少しずつですがケータイやノートパソコンのバッテリーも消費しているはずですぅ』

 

 電子精霊のこんにゃに言われ、千雨も自身のケータイとノーパソを確認する。見ればどちらも50%を下回っている。充電が切れるのも時間の問題だ。

 

「やばいな……急いで前へ進んで少しでも人里まで近づくぞ!」

『は、はいぃぃ……」

「分かりましたわ!!」

 

 千雨が先頭に立ち先導する。今は前に進むしかない。何か奇跡でも起きて、自分達を安全に人里まで連れて行ってほしいと懇願する千雨。

 しかしそんな奇跡なんて起きるはずもなく、結局本日歩いた距離は約50キロ近く。辺りはもう暗くなっており、ケータイとノーパソのバッテリーが今まさに尽きようとしている。

 

『ち、ちうさまー。もう僕達限界ですぅ』

「……わかった。今はもう休め」

『いえぇ、僕達いないと危険な場所の偵察出来ないし、ちうさま街の方角が分からないでしょー』

 

 と言っている電子精霊達は1匹1匹と消えてしまっている。

 

『あぁもう、限界……せめて街の方角だけでも書き残して……』

「おい、無理すんなって」

 

 そして電子精霊が書き残したものが

 

 まち あっち ⇐

 

 方角も何も書かれず、ただ矢印が描かれているだけであった。それを見た千雨とあやかの空気が死ぬ。

 

『どうかちうさま、しな、ない、で』

 

 不吉な事を言い残して、最後の電子精霊ねぎが目の前で消えた。電子精霊が消え、千雨とあやかだけになり、千雨は地面にへたり込んでしまう。千雨が動いてしまったことで矢印も動いてもう街の方角が分からなくなってしまった。

 

「千雨さん……」

「悪いあやかさん。もう……あたしは限界だ」

 

 好きな人が近くに居ない寂しさ。自分は何も出来ない無力感。暑さや歩いても歩いてもゴールに辿り着けない疲労感。千雨の心は折れかけていた。

 

「大丈夫ですよ千雨さん。しっかり休んだら前に向かって進みましょう」

「そうは言うがなあやかさん、肝心のあいつらはあたしのケータイとノートパソのバッテリーが切れたことでもう呼び出せない。今のあたし達が何処に居るかもわからない。それに何かあった時の防衛手段があたしのそこまで強くない魔法ときたもんだ。もう、詰んでるんだよ」

 

 甘かった。修行の時に死に掛けたが何とか乗り切り何処か心の中で浮足立って本場でも何とかいけると思ってしまっていた。しかし現実は甘くなく、今まさに自分の命の灯火は消えそうになっている。あぁ最期は好きな人の前で逝きたかったと諦めかけていると

 

「しっかりしなさい千雨さん!! 私はこんな所で挫ける積りはありませんわ!! きっとネギ先生やマギ先生も私達と離れ離れになって気を病んでいるはずです。なら私達が無事な姿を見せてお二人を安心させるのが今私達がすべきこと! ならばこんな所でへこたれている時間はありませんわ。千雨さん、私という非力な者の為にずっと前を歩いてくれました。私1人だけならとっくのとうにこの森の栄養分になっていたでしょう。ありがとうございます。ですが、貴女も3-Aの一員であるというのなら、こんな所で挫けていはいけませんわ!!」

 

 あやかが千雨に 咤激励をする。本当はあやかだって不安で心細く直ぐにでも折れてしまいそうだろう。しかしネギに会うために此処で倒れてはいけないと自らを奮い立たせ、今まで先陣を歩いていた千雨に感謝しながらこんな所で挫けるなと 咤激励を飛ばす。

 あやかの 咤激励のかいあってか、さっきまで沈んでいた心に少しだけだが活力が戻ってきた。

 

「……へっ。何の力も持ってない一般人組のあやかさんに此処まで言われちゃあ、ちう様の名前に傷がついちまうよなぁ」

「千雨さん……!」

「悪かったなあやかさん。でも、もう大丈夫だ」

「ええ。ならば、早く安全そうな場所に行き、もう休みましょう」

 

 あやかが千雨の手を取り千雨を立たせる。何とも心にしみる光景だろうか……邪魔者が現れなければの話だが。

 

「ぷぎゃぁあああああ!!」

 

 豚に似た甲高い鳴き声と大きな足音が聞こえ木々がなぎ倒されていく。千雨は何かやばい奴がこっちに近づいてくるのを感じて

 

「おいおい、何だよこいつ……」

 

 千雨とあやかの目の前に象かそれ以上の大きさの巨大な猪が鼻息を荒く出しながら登場した。2人に威嚇しているのを見てかなり興奮しているようだ。

 

「あやかさん、ゆっくり、ゆっくりと後ろに下がるぞ」

「え、えぇ……」

 

 音を立てずにゆっくりと下がる。魔法世界の猪だから魔猪と呼ぶことにするが、見ただけでは分からないがかなり空腹になっている。猪は雑食だ。食べようと思えばカエルやイモリも食するという。

 つまりこんなに巨大な体を維持するにはかなりの量の食事を取らないといけない。それこそ……此処に迷い込んだ哀れな人でも。自分たちなどぺろりと平らげてしまうだろう。そうならない為にもゆっくりとゆっくりと魔猪と距離を取る。そして距離を100m以上離すことが出来た。これ以上離れれば魔猪も興味を失ってくれるだろう。いや失ってほしいと願っていたが……

 ぱきりと折れた音がした。見ればあやかが足元にあった小枝を踏んでしまっていた。

 

「ぷぎゃぁあああああ!!!」

「──―走れ!!」

「ご、ごめんなさい!!」

 

 魔猪が甲高い鳴き声を出しながら突進を始めたのと同時に必死で駆けだし始めた。さっきまでここまでだと言っていたのに直ぐに気持ちを切り替えて魔猪から逃げる事だけを考える。

 やはり巨体のためかそこまで早くは動けないようだ。それに周りに木々があるために魔猪は木をなぎ倒さなければいけない。しかし迫力までは消えることがない。まさに自然の戦車だ。

 

「はぁっはぁっはぁっ!」

「止まるなあやかさん! 今は前だけ見て走れ!!」

 

 行け行け行けと叫びながら前へと向かって走る。少しでも距離を離し、魔猪に諦めてもらうために。しかしこの魔猪は地球に居る猪とはわけが違う。

 

「ぷぎゃあ!!」

 

 一声鳴きながら、魔猪の牙に光が集まっている。

 

「あの猪、何をしようとしていますの!?」

「まさか……! 避けろあやかさん!!」

 

 もう一声鳴いたと思いきや、魔猪の牙から雷が放たれ真っすぐあやかに向かっていく。

 

「きゃああああ!?」

「くっそ、間に合え!!」

 

 あやかを雷から護るため、千雨がとっさにスーツケースを前に出し、スーツケースが何か仕掛けがあったのか、雷から護ってくれた。しかしその結果眩い光で一瞬だが千雨とあやかから光を奪った。

 

「くっそ、動物も魔法を使うのかよ。目が、見えない……!」

「前が見えませんわ!」

 

 少しずつだが目が見えるようになっているが、それでもまだ周りが見えるほどに回復はしていない。だが魔猪が刻一刻とこちらに近づいてくるのは分かる。

 

「くそ、此処までかよ」

「まだ私はネギ先生の元に辿り着いていないのに……!」

 

 生暖かい風が当たる。もう食われるぐらいまでに近づいてきているようだ。否応なしに死の宣告が迫ってくる。

 そんな千雨の脳裏にマギの顔がよぎる。

 

「あぁ最期にもう一度会いたかったな……」

 

 辞世の句を詠んだその時

 

『認証完了。起動します』

 

 スーツケースから電子音の声が聞こえ、勢いよくスーツケースが開けられると、中から人型の何かが現れ、そのまま魔猪へとぶつかっていった。

 

「ぷぎぃ!?」

 

 くぐもった悲鳴を上げる魔猪はそのままもんどりうって仰向けに倒れて足をじたばたとしている。

 目が回復していき、千雨の目の前に騎士の鎧を着たロボットが仁王立ちをしていた。

 

『改めまして、初めましてマスター千雨。私は貴女を護るために作られた存在です。ですが今の私には名前がありません。どうが私に名前を付けてください』

 

 名もないロボットの騎士が千雨に名前を求める。いきなり登場し名前を付けてほしいと願いを言ってきた。千雨も最初はいきなり現れたロボット騎士に面食らっていたが。

 

「急に登場して名前寄越せと来たか。へっでもあたしを直ぐに護ったことに対しては高評価だ。そうだな……マギウス、魔導騎士マギウス。お前の名は魔導騎士マギウスだ。これからはこのちう様を護る務めをしっかり果たしやがれ」

『魔導騎士マギウス。とても良い名前ですね。私の名は魔導騎士マギウス。千雨様を護る剣となりましょう』

「あ、でも一々魔導騎士マギウスなんて御大層に呼ぶのはむず痒いからマギウスって呼ぶから、お前も千雨様じゃなくてちう様って呼べ』

『了解いたしました。ちう様。直ぐに愛称を付けてくださり、感謝の極みです』

 

 仰々しく喜ぶ姿を見せる魔導騎士マギウス、マギウスに千雨も満更ではなさそうだ。

 

「千雨さん、もしかして名前はマギ先生から取って付けたんじゃありませんこと? あのロボット騎士さんもどこか顔がマギ先生に似ていますし」

「いいだろ? あたしだけの騎士だ。だったら好きな人の名前も頂いても」

 

 鼻を鳴らし胸を張る千雨に呆れながら苦笑いを浮かべるあやか。しかしこんな事をしている間にじたばたしていた魔猪が起き上がる。

 新たに出てきた敵に警戒しながら嘶く魔猪。

 

『ちう様残念なお知らせがあります。私の無理な起動、そしてちう様の今の状態から分析して、私が万全な状態で稼働出来る時間は3分が限界です』

「まじかよウルトラマンと同じ時間しか戦えないのかよ……!」

『その3分であの猪を追い払うか、あるいは討伐するかのどちらかです。それと、ちう様これを』

 

 と言ってマギウスは千雨にキーボードに似た何かを渡した。

 

「マギウス、これは?」

『私は私自身でもある程度戦うことが出来ます。ですが、私はちう様あってこその真価を発揮することが出来ます。私を作って下さった創造主の葉加瀬様も仰っていました。『千雨さんは念じるよりもこうやって操った方がやりやすいだろうな』と』

「確かに、これで操った方があたし向きだ!」

 

 そう言って高速でキーボードを叩きマギウスに指示を飛ばすその瞬間、千雨とマギウスが繋がったように感じた。

 

「さぁ、やろうか、マギウス。猪退治だ!」

『御意!』

 

 マギウスは鞘から剣を抜き、魔猪に向かって突貫する。

 

「ぷぎゃぁあああああ!!」

 

 魔猪も新しい獲物としてマギウスに向かって襲い掛かる。

 

「! そこだ! いけぇ!」

『はぁ!!』

 

 マギウスは魔猪の突進を避けて魔猪の立派な牙に剣を振るった。剣はそのまま魔猪の牙を1本切り落とすことに成功する。

 

「! ぷぎぃ! ぷぎゃぁあああああ!」

 

 牙を切り落とされた魔猪は驚きと怒りで四方八方に体を振るい暴れた。

 ぶつかりそうになった瞬間にマギウスは盾で魔猪の暴走を防ぐがそのまま後ろに飛んで木に叩きつけられる。

 

「くそ! あんまり暴れるなよ! あやかさん! 何か説明書とかマニュアル無いか!? そこに武装とか書かれているだろうから!」

「え!? えーとえーと……ありました! 千雨さん!」

 

 あやかは千雨にマニュアルを投げ渡す。受け取る千雨はキーボードを打ちながらマニュアルの武装を見てみた。そこには今マギウスが振るって護っている剣や盾の事も書かれているが他にも幾つかの装備が書いてあった。

 魔法の矢ガトリング。腕をガトリングに変形してそこから魔法の矢をガトリングのように撃つことが出来る。

 断罪の剣ブレード。腕から魔力の剣を出すことが出来る。

 闇の業火ブラスト。腕をロケット砲に変形し、強力な魔力の砲弾を放つ。それ以外にもあと幾つかは載っているが今は省略する。

 どれも強力そうだ。しかしそれらを使うために、千雨の魔力を消費する。それに今の千雨はかなり体力も厳しい。今は一撃必殺位の強力な装備を使う方が手っ取り早い。

 

「マギウス! 荒っぽいが、闇の業火ブラストっていう奴を使うぞ!」

『……宜しいのですか? 恐らく闇の業火ブラストを使用すればちう様の魔力が底をつき、私の稼働も厳しくなると思われます』

「今はこの大技に賭けるさ。運が良ければ倒せるだろうし、びびって逃げてくれることを祈るだけさ」

『了解致しました。私はちう様の指示に従います』

 

 マギウスは腕をロケット砲に変形させ、魔猪の隙を伺いながら牽制をする。

 

「千雨さん、本当に大丈夫なのですか?」

「今はあたしの腕と、葉加瀬が作ったマギウスを信じろ」

 

 等と話している間に魔猪が大きく体を動かし、隙が出来た。

 

「今だ! 行けマギウス!!」

『闇の業火ブラスト!!』

 

 千雨がコマンドを送り、マギウスのロケット砲からマギが使っている闇の業火のような黒い炎の砲撃が、魔猪のどてっぱらに直撃した。

 

「ぷぎゃぁあああああ!?」

 

 魔猪はここ一番で大きな鳴き声を出している。かなりダメージは入っているのではないだろうか。

 

「これで、倒れてくれよ頼むから……!」

 

 千雨は懇願する。今の自分はもう限界だ。それにマギウスも膝をついている。

 

『申し訳ございませんちう様。今の攻撃で私の活動限界に達してしまったようです』

「あぁ。よく頑張ったよおつかれさ────」

「ぷぎゃぁああああああああああ!!」

 

 魔猪は腹から血を流しながらやたらめたらに暴れだした。どうやらあれだけの攻撃を食らってもまだ暴れられる力があるようだ。

 そのままマギウスを吹っ飛ばし、血走った目で千雨とあやかを睨んでいる。

 

「ぷぎぃいいいいいいいいいいい!!!」

 

 自分をこんな目に会わせた目の前の人間に報復するためにと魔猪は咆哮を上げながら突進をする。もう助からないと本能で察し、せめて道連れにしてやるまでだ。

 

「くそ、頑張ったのに此処までかよ」

「あぁネギ先生、お父様。先立つ事をお許しください」

 

 万事休すかと思われたその時

 

「────ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああ!!!」

 

 何処からか獣のような雄叫びが聞こえたと思いきや、魔猪の首に巨大な剣、グレートソードが突き刺さった。

 

「ぷぎぃぃぃぃぃぃぃ!?」

「あっあの剣はまさか!?」

 

 魔猪が悲鳴を上げている間に、グレートソードの持ち主、マギが茂みから飛び出してきて、そのまま魔猪の首に刺さったグレートソードを容赦なく引き抜く。引き抜かれた首から噴水のように血が噴き出す。

 

「ぷぎゃぁあああああ!!」

「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 

 容赦ない物騒な事を叫びながらマギはそのまま魔猪の首をそのまま叩き斬ってしまった。さっきまで暴れていた魔猪が何も言わぬ死骸へと変わってしまった。

 

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 荒い息を吐きながら、マギは血が付いたグレートソードを思い切り振るいそのまま血をはらって落とした。

 

「まっマギさん?」

 

 千雨はおっかなびっくりな様子で声をかける。するとマギはゆっくりと千雨の方を向く。ハイライトの無い死んだ目に千雨は思わず息を呑む。

 最初は呆然と見ていたマギだが、ゆっくりとマギの目に光が戻る。

 

「……千雨?」

「あはは、マギさん、随分ワイルドな感じになって────」

 

 マギはそのまま(血塗れ)勢いよく千雨に抱き着いた。

 

「ちょ!? マギさん!? その、少しはその血を落としてから────」

「よかった! 千雨! 君に何かあったら俺は、俺は……」

 

 見ればマギの体は震えている。いっぱいいっぱいであったマギは千雨に会えたことで限界になっていたのだろう。

 マギの危うさを察した千雨は優しくマギの背中をさすった。

 

「あぁ。あたしもマギさんに会いたかったよ」

「あぁ、あぁぁぁぁぁぁ……」

 

 泣きじゃくる子供のようにマギをあやす千雨。こうしてマギは無事に千雨と合流することが出来たのであった。

 

「その、私も居るのですが……」

『今はそっとしておいた方が良いのでしょう』

 

あやかとマギウスは蚊帳の外ではあるが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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溜まったら吐き出せ

 無事に千雨とあやかと合流することが出来たマギ。今は待っているネギと茶々丸の元へ案内をしている。因みにマギウスは省電力モードで千雨の横を歩いている。

 

「そういえば、如何してマギさんはあたしとあやかさんの居場所が分かったんだ?」

「……茶々丸が一緒に居て、近くに反応があったから向かった」

 

 マギのよそよそしい態度に千雨は少し悲しい表情を浮かべる。どこかマギは殺気だっているように見える。千雨しか見つかってまたも危険に晒されないように、ピリピリとした気配が漏れているようだ。

 

「マギさん、あたしは落ち着けとか無茶しないで。なんて事はあまり言うつもりはないぞ。あたしも漸く戦える。だから今はあたしの事よりも、まだ見つかってないのどかさんとかの事を心配してくれ」

『マスターであるちう様の事は私が護ります。ですので、マギ先生はどうか少しでも心を落ち着かせてください』

「……あぁ、分かったよ」

 

 千雨とマギウスに説得され、少しは柔和な雰囲気が戻ってきたが少しだけだ。まだ研ぎ澄まされたナイフのような鋭い気配が漂っている。

 

(やっぱかなり堪えてるなぁ。ここはあたし以外の誰かが一緒だったらなぁ。さっき茶々丸さんが居るって言ったけど、茶々丸さんはあまりこういった場面は大変だろうし……)

 

 等と先行き不安な事を考えている合間にマギ達はネギと茶々丸が待つ湖の湖畔に到着した。

 

「あ、あぁ。ネギ先生!!」

「あやかさん! 千雨さんと一緒だったんですね!」

 

 あやかは真っすぐネギに向かって駆けだし、ネギに抱き着き、ネギも倒れない様に足を踏ん張った。

 

「ごめんなさいネギ先生! 私達が勝手な事をしたばっかりにこんな事になってしまうなんて!!」

「大丈夫です。そんなに自分を責めないでください。僕は、あやかさんと千雨さんが無事で、よかっ、た……」

 

 ネギは最後は横になって倒れてしまった。

 

「ね、ネギ先生!?」

 

 顔が赤く息も荒いネギを見てパニックになってしまう。

 

「ネギ先生は現在体温の状態が不安定で、あまり無理をすることが出来ない状態なのです」

「そ、そんなぁ! ど、どうしたらいいのですか!?」

「とりあえず今はネギ先生を安静にする他ないだろ」

 

 パニックになっているあやかは今は保留にして、茶々丸と千雨がネギを安静にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まじかぁ。1万キロってどれくらいなんだよ」

『日本の東京からマルセイユ位です!』

『因みに普通車の年間平均走行距離も1万キロ位だそうです』

 

 1万キロという途方もない距離に唖然としている千雨に、こんにゃと(茶々丸のおかげでケータイとノーパソのバッテリーが充電出来た)マギウスが親切に教えてくれた。

 

「いくら地球の3分の1とは言ってもトンでも距離なのは変わりない。そんな広大な世界で白き翼のメンバー+αを探すなんて何処の無理ゲーだよ……」

 

 地図を見ながらぼやく千雨。

 

「残りの夏休みにで日本に戻ること自体難しいだろ。茶々丸さんの言う通り、あたしらにはバッジがある。ある程度の距離までは分かってるんだ今はそいつらの生存力に賭けよう。それよりも……バッジがない一般人組の安否がどうかだな」

 

 びくりとあやかの肩が大きく揺れた。

 

「あそこのゲートがあった場所はかなり治安とか管理体制はしっかりしてたが、こんな危険なジャングルみたいな所はいっぱいある。それこそ裏社会が仕切ってるようなダークな場所だってな。そんな場所に迷い込み、最悪……死んじまったらそれこそ、マギさんやネギ先生はもう陽の光世界を歩むことは出来なくなるだろうな」

「え? ち、千雨さん、それはどういうことですか?」

 

 千雨はあやかに包み隠さずマギとネギ、そして雪姫が麻帆良で交わした契約について話した。魔法世界で何かあった時には、マギやネギ、雪姫そして学園長も全責任を取ることになることを

 それを聞いたあやかはまたも大号泣をしてしまう。

 

「わ、私はなんと愚かな事をしたのですか!! 自らの欲に負け! ネギ先生を信じることが出来ずに何がネギ先生を愛してるですか!! その結果ネギ先生やマギ先生に余計な足枷を付けてしまった私は畜生以下の大罪人ですわ!! こんな私に委員長を名乗る資格などありません! 日本に戻ったら委員長の名を返上させていただきますわ!! ごめんなさいネギ先生! あああああああああああああ!!」

「あーと、落ち着けあやかさん。アンタはどっちかというと止めようとしてくれたんだろ。まぁ最後は負けちまったようだけど……あたしとしてはあやかさんよりも明石や佐々木やあの双子が問題だよ。自分の興味や欲望で突っ走りやがって、死ななくてもいいから痛い目見ればいいんだよ」

「千雨さん、それは言い過ぎでは……」

「いいや茶々丸さんこれだけは言わせてくれ。あたしはマギさんの為に少しは自分の生き方を捨てた積りだ。それなのにあいつらは自分の生き方捨てずに事故だとしても、勝手にこっちに来たんだ。自業自得だと思うね」

 

 断言してしまった千雨。さめざめと泣くあやか、何も言えず黙っている茶々丸。居たたまれない空気が漂い始めた。

 

「あやかさん、どうか自分を責めないで、ください……これは全部僕に責任が……」

 

 さっきまで横になっていたネギが幽鬼のような青い顔であやかに謝罪をする。

 

「おいネギ先生起き上がるなよ。あんた今に死にそうじゃないか」

「そうだぞネギ、今回は全部俺のせいだ。俺が敵を止めていればこんな事には……」

「マギさんも少し調子が戻ってきたのに、そのようにご自分を責めないで」

 

 このようにネギが起きたら互いに自分のせいだと自身を責め続けてしまうこの兄弟。とまたもネギが横になってしまう。またも息が荒くなっている。

 茶々丸がネギの額に自身の額を当ててネギの体温を測ると

 

「38.7度。またも体温が上昇を始めています」

「結構な熱じゃねえか。何でそんなに高いんだよ?」

「分かりません。このかさんの回復呪文が失敗するとは考えずらいです。すみませんデータ不足です」

「どどどどどうすればいいのですか!? 早くお医者様に見せないと!!」

「落ち着けあやか、此処はジャングルだぞ。何処に医者が居るんだよ」

 

 しかしこのままだとまたネギの体調が悪化してしまう。

 

「今はネギ先生を安静にすることを最優先としましょう。千雨さんは水を汲んできてください。私はネギ先生の体を拭きますので」

「了解だ!」

 

 千雨が水を汲んでくる間に茶々丸がネギの体を拭こうとするが、茶々丸がネギのズボンのベルトに手をかけようとする。

 

「ちゃっ茶々丸さん!? 何故ネギ先生のズボンを脱がせようとしているのですか!?」

「ネギ先生の体を拭いた後にパジャマを着せるだけです。何かおかしい事をしていますか?」

 

 真っ赤になるあやかに至極当然のように返す茶々丸。

 

(何をふざけた事を考えてるんですか雪広あやか! これは真っ当な看病行為! 何もやましい事をしているわけじゃないじゃないですか!)

 

 自らの欲の考えを恥、戒めとして自らの頬を思い切り平手で叩くあやか。そして真剣な眼差しで茶々丸に向き合う。

 

「茶々丸さん。ネギ先生の看病、私にも手伝わせてください。罪滅ぼし、なんて都合がよろしいかもしれませんが、ネギ先生が辛そうにしているのに何もしないなんて非道な真似できませんから」

「ありがとうございます。ではあやかさんはネギ先生を拭いてください。私はネギ先生のパジャマを用意しておきます」

 

 そう言って茶々丸はスーツケースからネギのパジャマを出す。その間にあやかはネギの体を拭く。

 しかしネギの半裸を見てまたも煩悩が蘇り、固唾を飲んでしまう。

 

(おおおおおお落ち着きなさいあやか! これは決してやましい事はしておりません! これは、そう! 大事な看病なのです! 絶対絶対淫らな事はしておりません!!)

「でででで、では! ────」

「何アホなことしてるんだよ」

「あいたぁ!?」

 

 ネギに伸ばす手がなんかいやらしいあやかに水を汲んできた千雨がチョップを当てる。

 

「さっさとやれよ。やらんならあたしがやるぞ」

「ちっ千雨さんは何も思わないのですか!? ネギ先生のお体を拭くんですよ!?」

「それこそ何言ってるんだよ。あたしにとってネギ先生は10歳の子供だぞ? そ、そりゃあ相手がマギさんになれば話は別になるだろうけどさ……」

 

 などというやり取りをしながら千雨が汲んだ水を飲ませあやかネギを拭き、茶々丸がパジャマを着せてあげた。その間マギは黙って魔法生物が来ない様に見張っていた。

 そしてネギを看病している間に日が沈み夕方になる。しかしネギは一向に回復する様子はない。

 

「熱が全然下がりません。原因も不明、このままではネギ先生の体力が減ってしまうばかりです」

「そんな……ネギ先生がネギ先生が、あぁ」

「落ち着けよ。ネギ先生がそう易々とくたばるような人じゃないだろ」

 

 気持ちが不安定になっている茶々丸とあやかを落ち着かせる千雨。もう一度水を汲もうとしたその時

 マギの方から獣の唸り声のような腹の音が聞こえてきた。

 

「大丈夫かよマギさん? 今尋常じゃない腹の音が聞こえたぞ」

「……あぁ。そろそろ限界が来たみたいだ。お前らもずっとネギを看病して腹、減ってるだろ? 何か食えそうな獣を狩ってくるよ」

 

 そう言ってマギは月光の剣を肩に担ぎ森の方へ向かおうとする。

 

「待った、あたしも行くぞマギさん。正直言って今のマギさんを1人にしておくのはなんかヤバそうだからな」

「好きにしろ。けど、これから見せるのは割とショッキングな光景だ。見ちまっても自己責任だからな」

「上等だよ。行くぞマギウス」

『了解致しました』

 

 マギは森に向かって全速前進していった。マギを追いかけるために千雨はキーボードでマギウスに横抱きにするように命じる。

 

「それじゃああたしはマギさんの手伝いをしてくるから、茶々丸さんは留守を頼むわ」

「分かりました。千雨さん、マギさんをお願い致します。今のマギさんはお一人にしておくのは危険ですから」

「心得てるさ。そういえば、茶々丸さんも何時の間にか先生からさん呼びになってるんだな。何か心変わりがあったのか知らないけど、いいんじゃないか?」

 

 ふっと笑いながら、茶々丸を少し茶化して千雨も森へと向かった。茶化された茶々丸は自分が酔っぱらった事を思い出し顔を赤らめながらも直ぐに気持ちを切り替えた。

 

「あやかさん、もう一度ネギ先生の体を拭いて水を飲ませてください。私はもう一度原因を考えますので」

「分かりました!!」

 

 あやかは直ぐにネギの元へ駆けた。

 

「ネギ先生が辛いのに私は何も出来ない。無力です……」

 

 何も出来ない自分にどうしようもない気持ちが渦巻いていると

 

「随分と困ってるみたいやな、茶々丸姉ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 腹が減る────

 喉が渇く────

 体が疼く────

 何かを喰わないとどうにかなってしまいそうだ。

 体に渦巻く獣の本能をどうにか抑えながら獲物になりそうな獣を探す。すると目の前にさっき殺した魔猪が鼻で地面を掘り進めていた。

 さっきよりも小ぶりだが、まぁいいか。

 涎を垂らしながら魔猪に向かって加速していき

 

「おらぁ!!」

「ぷぎぃ!?」

 

 魔猪の首に向かって月光の剣を振り下ろした。致命傷だったのか一撃で仕留め、魔猪は断末魔の悲鳴を上げながら地面へと沈んだ。

 死骸となった魔猪に近づき、魔猪の腹を強引に開き、魔法生物の魔法袋を引き千切るとそのまま咀嚼を始め、ある程度嚙み砕いたら飲み込んだ。

 

「えっと……マギさん、そんなの食って腹壊さないのか?」

 

 口やシャツの前が血みどろになっているマギにおっかなびっくりな形で尋ねる千雨。1日2日離れていただけで慕っている人が随分野性的になってしまってなんて声をかけていいのか分からなくなっていた。

 

「無理して魔法を使った代償で本能と理性のバランスが大きく乱れてしまってな。こいつらのこういった物を喰わないと正気を保つのがやっとやっとにな現状だ。笑っちまうよな、あんなにお前らを護るって言ってたのにこの始末だ」

「……なぁマギさん、そうやって自分を責めるのは止めないか? 今回の事はマギさんやネギ先生の全責任じゃない。あたし達の危機管理が甘かったっていうのもあるし、あのフェイトって輩と偶然遭遇したのもあるんだし、何よりマギさんがそうやって自分を傷つける事を言うのを見てられないよ」

 

 千雨が何とかマギが自身を責め続けないように説得するが、マギは首を横に振りながら

 

「そんな事ない。俺が弱いせいでこんな結果になったんだ。ごめんな千雨、あんだけ護るって約束したのにこんな結果になっちまって」

 

 まだ自分を責めるような言い回しに流石の千雨も我慢出来なかった。自分だって死に掛けたのにマギの自身を卑下する事を聞いてれば我慢は出来なかった。

 マギにガツンと言おうとしたが

 

「やれやれ、そうやって自分を責めるのは兄弟一緒だな」

 

 何処からか呆れた声が聞こえたと思えば、マギに向かって氷の柱が飛んで来てそのままマギを貫いた。

 

「ぐふぉ!!」

 

 そのままの勢いで後ろに吹っ飛び巨木の幹にそのまま氷柱が突き刺さると、氷が広がりそのままマギを拘束した。

 

「少し目を離した隙に随分と悲劇のヒーローが板についてきたじゃないか」

 

 所々汚れているが美しさは色あせていない雪姫がそこにはいた。

 

「なっ!? エヴァンジェリン!? 急に現れて何してるんだよ!?」

「雪姫と呼べ、と言いたいが今はマギに用があるから何も言わないでおいてやろう。さて……随分と辛そうだなマギ。今、楽にしてやろう」

 

 雪姫は拘束されているマギの氷を上半身の前だけ砕く。服ごとだ。そして何故か雪姫もシャツのボタンを取り、上半身を下着だけにした。

 

「ちょお!? なんであんたも服をはだけさせてるんだよ!?」

「黙っていろ。これはマギに対しての治療行為だ。それよりもなんだ? 私がこんな格好になっているからいやらしい展開を想像したか? ふん、青いな」

「なんだとこのやろ!」

 

 と反論しようとしたが、マギウスが勝手に動き千雨の目を覆った。

 

『いけませんちう様。ちう様が目の前の光景を見るのにはあと数年は待ってください』

「勝手な事するんじゃねえよ! というか別に見たくもないし!!」

 

 勝手に喚いている千雨を見てやれやれと肩をすくめながら、雪姫はマギの体に自身の体を密着させながら

 

「じっとしていろ。直ぐに終わるからな」

 

 マギの首に牙を突き立て、そのままかぶりつきマギから血と魔力を吸い始めた。

 最初は雪姫に吸われることに驚いていたが、暫く経つと少し落ち着きを取り戻し始めてきた。

 吸い始めから5分は経っただろうか

 

「よし、もういいだろう。少しは気持ちが晴れやかになったか?」

 

 マギの首筋から離れ、氷を解除させた雪姫。見れば血や魔力を吸われているにも関わらずマギの顔色は先程よりも晴れやかであった。

 

「あぁ、さっきよりも頭がスッキリしている。なんでだ?」

「あの魔法は闇の魔法の応用だからな。闇の魔法は文字通り闇だ。つまり負の感情が溜まりやすい状態になりやすい。だからこそ、私がお前の闇の魔力を吸いだしてあげたのさ。それと肌を密着させてたのは肌からもお前の良くない魔力を吸いだすようにした」

「そうだったのか……すまない雪姫。俺が不甲斐ないばかりにお前にこんな役目を任せてしまって」

 

 またも自分を下にして雪姫に謝罪をするマギ。折角吸いだしたのにまたも自身を責めようとするマギを見るに見かねた雪姫は

 

「ん」

「!?」

 

 何も言わず、強引にマギの唇を奪った。そして長めのキスをしてそのままマギの唇から自身の唇を離す。

 

「どうだ? まだ自分のせいだっていう考えは残ってるか?」

「いや、その……いいえ」

 

 呆けた声を出しながら座り込んでしまうマギに雪姫は優しく笑いかけながら、抱きしめた。

 

「マギ、今回の事はお前には非はない。お前は頑張った。ただ偶然に一般人組が紛れてしまったのとフェイト達と遭遇してしまった。誰もこんなアクシデントは想定していなかった。だから全ての責任をお前や坊やで負おうとするのは違う。この困難は皆で乗り越えるものだ。だからこそ、余計な重荷は私や其処にいる長谷川に寄越せ。それと、今居ないのどかの力やあの双子の運を信じろ。いいな?」

「……あぁ、分かった」

 

 雪姫の慰めにより落ち着きを取り戻したマギ。それとと雪姫は親指を噛みきり、血をマギの舌に落とした。

 その瞬間、マギの体に活力が戻ってきた。

 

「こんな獣の内臓を食うよりも私の血を飲んだ方がお前の精神にいいだろう。精神に不調を感じたら私に言え、そうしたら飲ましてやる」

「大丈夫なのか? 俺が雪姫の、その、血を吸って」

「何を言ってるんだ? お前に血を吸われたからって私がどうとでもなるものか。お前は黙って血を飲んでろ」

 

 雪姫の有無も言わさない態度にマギは丸めこまれてしまった。

 

「ていうかいい加減マギさんから離れろよ! そんな格好のせいでなんかそういう行為をしてると思っちまうだろうが!!」

 

 蚊帳の外であった千雨が顔を赤くしながらツッコミを入れた。そんな初心な反応を見せる千雨を面白がり

 

「なんだまだいたのか。もしかして、混ざりたいのか? 初めてがこんな森とは長谷川もマニアックな奴だな」

 

 とからかうが、そのあからさまなからかいにぶちりと何かが切れた千雨は

 

「は? お前だってまだ未経験だろうが。歳が上だからって調子に乗るなよ耳年増が」

「ぶぅ!?」

 

 思わず吹き出してしまうマギ。雪姫も雰囲気をがらりと変えてゆっくりと立ち上がる。

 

「ほぉ……この私をよりによって耳年増とな。大きく出たな貴様」

「そう言えばアンタとはこうやって人形がある時に戦った事はなかったな。あたしの本当の実力がどれくらいか見せてやるよ」

「お、おい2人とも」

 

 マギが止めようとするが止めることが出来ず。

 

「行くぞ。大きく出たことを後悔させてやろう」

「行けマギウス! 格下でもやれるってことを見せてやれ!」

『了解です』

 

 雪姫と千雨のマギウスの喧嘩は暫く続くのであった。

 

「────で、何か弁明があるか?」

「すまん。私もムキになっていた」

「あたしも怒りで我を忘れてた。ごめんなさい」

 

 マギ達の周りは更地となっており、そのど真ん中で雪姫と千雨、ついでにマギウスが正座をしている。

 あの後雪姫と千雨が喧嘩して、木はなぎ倒すは地面は抉るはの大惨事。このままいけばここら辺の環境が酷いことになってしまうかもしれなかった。

 

「こんな馬鹿な事、二度としない様に。いいな?」

「分かったよ。今回は私も大人げなかった」

「私も流せばよかったよ」

 

 2人も反省しているようなので、先に狩っていた魔猪を担ぎネギたちが待っている場所に戻っていく。

 

「さて、そろそろあっちでもけりが着いているだろう」

「けり? 何のことだ?」

「道中で小太郎に会ってな、坊やの匂いを嗅ぎ取ったらしくて『アイツの事だから全部自分のせいって塞ぎこんでるだろうから渇を入れてくる』といって坊やの所に向かっていった。だからそろそろ坊やも少しはスッキリしてる頃じゃないかと思ってな」

「だからさっきから湖の方でどっかんどっかん音がするのか」

 

 まぁネギと小太郎なら問題ないだろうと、思いそのまま湖に到着すると、思いの外かなり本気の戦いを繰り広げていた。

 

「おーおー、ガチバトルじゃねーか。茶々丸さん、どういう経緯であんなバトルになったんだ?」

 

 ネギ先生ネギ先生と泣きながら喚いているあやかをスルーして、茶々丸にネギと小太郎のバトルを聞いてみると

 

「はい、ネギ先生は思い悩んでおりまして、あやかさんがネギ先生を慰めていましたがネギ先生は間違った力を渇望しそうになり、そのまま小太郎さんがネギ先生を殴り飛ばして挑発をし、そのまま喧嘩へと繋がりました」

「そっか。でも、なんかネギ先生さっきよりも落ち着いてないか?」

「そうだな。どうやらいい方向に進んでいるみたいだ」

「え? マギ先生、千雨さんどういうことですか!?」

 

 あやかは今一状況を読み取れていない。その間に

 

「狗音爆砕拳!!」

「桜華崩拳!!」

 

 ネギと小太郎の必殺技がぶつかり合い巨大な水柱を作り出した。

 

「おーおー随分と派手な事をやるな。軍事演習の艦砲射撃かよ」

 

 必殺技を出しながらもまだも戦い続けるネギと小太郎を見て溜息を吐く千雨であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ネギと小太郎が喧嘩を続けて15分が経った。最初は互いに本気で殴り合っていたであろうが、今は何時ものように和気藹々とした友人同士の会話に戻っている。

 

「どや、もう熱は引いたやろ?」

「え? ……あ、本当だ。もう熱くもだるくもない!」

「コノカ姉ちゃんの完全治癒呪文が効きすぎたんやろ。さっきまでのネギの体の中で魔力が渦巻いておったで。溜まってる悪いもんはおもいきり出す。それが大事なことや」

「コタロ―君、ありがとう」

「へっ、お前の礼なんかきいとったら背中が痒くてしょうがな────」

「このおバカさん!!」

「ぐへぇ!?」

 

 小太郎がかっこつけようとしたらあやかの飛び蹴りが小太郎の顔面へと突き刺さる。

 

「ネギ先生は病人だったんですのよ! それなのにいきなり殴るなんて野蛮な事をして! これだから精神の幼い男の子は!!」

「うっさい! ネギは病人ちゃうわ! ただ不純物が体に溜まってただけや! それにネギだったらあれぐらいの荒療治の方がよっぽど効果的や!!」

 

 と今度はネギそっちのけで小太郎とあやかが取っ組み合いの喧嘩を始めた。と言っても小太郎の方が強いから適当にあしらわれているが

 とネギはあることを思い出し、小太郎に尋ねる。

 

「ねぇコタロ―君、さっき僕に足りないものがあるって言ったよね? それってなんなの?」

「あ? それは俺に勝ったら教えるって話や。勝ってないのに教えるわけないやろ」

「えー。引き分けは勝ちじゃないけど、負けでもないでしょ?」

 

 ネギの減らず口に呆れた溜息を吐いた小太郎はサービスやと教えてあげることにした。

 

「お前に無くてアスナの姉ちゃんにあるものそれは」

「それは?」

「”アホっぽさ”、かな?」

「アホッぽさ……」

 

 ぽかんと呆けたネギを見て小太郎は思わず吹き出してしまう。

 

「そんなアホ面を出せるなら何時かは身につく事が出来るやろ」

「なんだよそれ!」

 

 仲睦まじくしているのであった。

 

「ネギ、もう大丈夫そうだな」

「お兄ちゃん」

「おうマギ兄ちゃん!っていうか随分とデカいイノシシやな!マギ兄ちゃんが狩ったんか!?」

「ああ。ネギの回復祝いだ。肉は沢山あるんだ。たらふく食って力をつけていこう」

「え!?貴女エヴァンジェリンさんだったんですか!?でも別人……」

「魔法でそう見せてるだけさ。それとこの姿の時は雪姫と呼べ。まぁこれからよろしく頼むな委員長」

 

その夜はマギが狩った魔猪と茶々丸やあやかや千雨が近くで取ってきた野草や木の実で盛大なバーベキューをした。

こうしてネギとマギの元に茶々丸や千雨、小太郎と雪姫。かなり強力なパーティーに出来上がったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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残された手がかり 

正月が明けてしまいましたが、明けましておめでとうございます!

本年も自分の作品を少しでも多くの方に読んで頂ければ幸いです。


 千雨、あやか、小太郎そして雪姫と合流し、人里まで歩くこと4日

 

『まっ街だぁ!!』

 

 崖から見下ろし、拾い街が見えたことに歓喜の声を上げるネギや小太郎。

 

「いやぁ300キロをわずか4日で踏破するなんてな。最高の夏休みだよ」

「あはは……」

「何言ってるんや千雨姉ちゃん。姉ちゃん自分の人形におんぶ抱っこやったやろうが」

『ちう様を護るのが我が役目』

 

 毅然とした態度で答えるマギウスにへーへーと面白くなさそうな態度を取っている小太郎。

 

「そんな事よりも街や街! 先に行っとるで!!」

「あ、待ってよコタロ―君!」

 

 先に崖を飛び降りた小太郎に続くようにネギも崖を飛び降りたのであった。

 

「まぁ街は最初に居た所よりファンタジーっぽさが無い外観で安心した」

「私達も降りましょう」

「本当にあの街に誰かいるのでしょうか?」

「バッジの反応があったのは確かだ。しかし茶々丸の探索ではそのバッジの反応がここ数日全く動きがないとのことだ。無事かどうかは定かではない。マギ、気をしっかり持てよ」

「あぁ、分かった」

 

 マギ達も崖を飛び降り街へ向かうのであった。

 街に到着し、千雨の普通の街であってくれという願いは大きく裏切られた。

 見渡す限り自分達と同じ人以外にエルフのような長い耳を持つ男女や獣の耳の人や完全な獣人に小さな妖精もいた。これだけ聞けばよくあるオンラインゲームの光景だと思われるが

 

「残念ながら現実、か」

「千雨さん、早々に諦めた方がよろしいかと」

「かもなぁ」

 

 目の前の光景を見て乾いた笑みを浮かべる千雨。前の自分なら非日常な光景を見たらアレルギー反応のような反応を見せていただろうが、随分と受け入れられるようになったものだと自身を褒めてあげたいものだ。

 

「随分と治安が悪いようですね。あまり離れて行動するのはよろしくありませんわ」

「辺境の地だからな。こういった場所は自分の身は自分で護るのが常識だ。お前のように特に力のない者は力ある者に護られおけ。下手したら人攫いに襲われて奴隷商人に売り飛ばされるぞ」

「き、肝に銘じておきます」

 

 あやかと雪姫の前で食い逃げを行った不届き者が店の店主に魔法で吹き飛ばされてしまった。なんと治安の悪い事か。某漫画の犯罪都市並みだと言いたいぐらいだ。

 ネギと小太郎が色々な露店に興味を持ながら木の実を購入(お金は事前に両替済み)

 

「しかし曲がりなりにも人里だ。メガロなんたらに長距離電話か念話でもして助けを呼べばいいじゃないか?」

 

 千雨が今できるであろう最善策を提案する。それに誰も反対はしない。

 

「ドネットさんが健在なら今頃私達を心配して捜索しているかもしれません」

「……そう簡単にいけばいいのだがな」

「どういうことですか雪姫さん?」

 

 等と話していると街頭テレビでお昼のニュースを放送し始めた。獣耳の女性キャスターがニュースを読み上げる。

 

『6日前、世界各所で同時多発的に起こったゲートポート魔力暴走事件の続報ですが、各ゲートポートでは依然魔力の流出が続き復旧の目処は立たず旅行者の足にも……』

「我々の事件についてのニュースの様ですね」

「てか今のニュース世界各地って言ってたよな。あいつらあそこ以外も襲ったっていうのか」

 

 フェイト・アーウェルンクス達はマギ達がやって来たゲートポート以外のゲートも襲っているようだ。

 しかしそんなフェイト達の事を忘れるぐらい驚くことがマギ達を襲う。

 

『また依然犯行声明もなく、背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局により今日、新たな映像が公開され……実行犯と見られるこの外見上10歳程度の少年と10代後半から20代前半に見える青年に見える人間に、懸賞金付きの国際指名手配がなされました』

 

 マギとネギに懸賞金が付けられ、指名手配犯へとなってしまっていた。

 

「えっええ!?」

「バカ! 声を出すな!」

「はぁ? なんで俺に懸賞金が付いたんだよ」

「マギさん。今は人が集まっている所から離れた方がいい」

 

 ネギが驚き声を出そうとした所を素早く小太郎が黙らせてくれた。ネギ達の周りに居た者達は懸賞金の額で3年は遊んで暮らせるやらこの姿のままじゃないとか好き勝手に言ってくれている。

 更に映像はネギが要の石を破壊したり、マギが月光の剣で警備兵斬っている映像に変わっている。明らかに捏造映像だ。

 直ぐに人気のない路地裏に隠れ、何故こんな事になったのか言い合う。

 

「なんであんな捏造映像が流れてネギ先生やマギさんが指名手配犯になってるんだよ!? おかしいだろ!?」

「あいつやフェイト! 格下に邪魔されて頭に来て嫌がらせをしたにきまっとる!」

「いや、あいつらがこんな事をするか? 俺たちの事は眼中にないって態度を取ってたのに七面倒な事をするとは思えないけどな。雪姫はどう思う?」

 

 と雪姫の意見を聞こうとしたが、雪姫は黙っている。

 

「雪姫?」

「……まったく、またも下らない事をして来たものだな」

「雪姫、どうしたんだ?」

「ん? あぁ、すまないな。マギの言う通りこの件はあのフェイトは関係ないだろう」

「師匠何か知っているんですか!?」

「あぁマギや坊やに懸賞金を付けた者の正体はある程度把握した。しかしそれよりも今重要なのはこの街に居るであろう仲間を見つけることと、長距離の連絡は控えることだ。下手したら逆探知をされるかもしれないからな」

 

 一刻も早くこの場から立ち去ろうとしたその時

 

『なお、今回の事件の首謀者がかの悪名高い『闇の福音』、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという情報が今入ってきました。今まで消息を絶っていた闇の福音が今我々の前に牙を向かせています。メセンブリア当局はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの情報を求めており、情報提供者には100万ドラクマ、捕縛した方には1000万ドラクマをお送りします』

 

 それを聞いた瞬間、街頭ニュースを聞いていたガラの悪い者達が大声で騒ぎだし、自分が捕まえると豪語してそのまま喧嘩をおっぱじめる始末となってしまった。

 

「たく、こっちの気も知らないで勝手に祭りのようにはしゃぎやがりやがって」

「しかしマスターが此処に居ることを麻帆良の皆さましか知らないはずです。何故マスターが居ることを知っているのでしょうか」

「そんな、師匠までもが……」

「まったく、好き勝手な事をするやつらだ」

 

 ネギたちは雪姫までも懸賞金が付いたことにパニックになり、雪姫本人は魔法世界に自分が居ることをばらした相手に対して悪態を吐いた。

 とマギは黙っていた。どうしたのかと声をかけようとしたその時

 

「「「「っ!!」」」

 

 マギから途轍もない圧を感じて、見れば瞳孔を開いたマギが黙って肩に担いでいる月光の剣の柄を掴み騒いでいる群衆に向かおうとしている。

 明らかにやばいと判断した雪姫はマギの肩を掴む。

 

「おいマギ落ち着け」

「落ち着け? 落ち着けだって? あいつらは雪姫を、エヴァをまるで金のなる木のようにしか見ていない。ふざけんな。死なずとも死よりも辛い苦痛を与えないと俺の気が済まない」

「いやマギさんアンタそのままあいつら皆殺しにしそうな勢いだぞ。落ち着けって!」

「落ち着いてお兄ちゃん! 辛いのは分かるけど今は堪えて……!」

「マギ、私達の本来の目的はなんだ? この街にいるだろう仲間を見つけることだ。こんな事で騒ぎを起こすなんて馬鹿な事はしないことだ……気にするなこんな事しょっちゅうで私は別に気にしていない」

 

 雪姫達の説得により、マギは月光の剣の柄から手を離した。そして未だに街頭テレビ前で騒いでいる群衆を睨みつけて、その場から去ることにしたのだ。

 

「茶々丸、早くバッジの反応を追え。余り流暢にこの場に留まるのもよくはないだろう」

「はいマスター……反応ありました。この先50m、この路地の突き当り、あの酒場と思われる建物の前です」

「あの建物ですね!!」

 

 ネギはバッジの反応があった酒場へ突っ走った。

 しかし、バッジの反応があっても誰も見えない。

 

「なぁ茶々丸さん、雪姫さん、マギさん、あんま考えたくないけどよぉ……」

「はい、これは……」

「最悪な展開を考えた方がいいだろうな」

「くそ、くそったれが……」

 

 マギ達もネギに続くがいい結果を予想は出来なかった。

 

「そんな……」

 

 ネギは青い顔をした。ネギの足元、そこには白き翼のバッジだけが落ちているだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「最悪な展開だ。便利バッジも落としたら意味はないよなぁ」

 

 落ちていたバッジをまじまじと眺めながら溜息を吐く千雨。手がかりが途切れてしまい、このバッジの持ち主が誰なのかも分からずじまいだ。

 ネギは自身の懸賞金が付いた紙を貰い、自分に30万マギに60万懸賞金は幾段か落ちているが、アスナにやのどか果てにはプールスまでにも懸賞金がついてしまっている。幸いなのは一般人組に懸賞金がかかっていないことだ。

 懸賞金の紙を見てネギはまたも自分のせいだと悪い方へ考えを巡らせていると

 

「おいネギ、お前またも自分のせいやって思っとるやろ。この間の話忘れたんか? お前に足りんもんが何かって話を」

「でもこんな大変な状況になったのに、アホっぽさなんて!」

「だからといって悩んで状況が変わるんかいな。ネギ、お前の仲間はそう簡単にくたばるような貧弱な奴ばっかか? この程度の状況切り抜けられることを信じるんや」

「コタロ―君はなんの根拠でみんなの事を信じられるの?」

「なんの根拠もなく信じぬく事が仲間じゃないんかい」

 

 小太郎の言ったことに衝撃を覚えたネギ。

 

「せっかくの頭、もっと生産的に使うのがいい使い道やろ」

 

 確かに小太郎の言う通り、今は仲間を信じぬく事が大事だろう。ネギには確かに小太郎のようななんの根拠もないアホっぽさが必要なのかもしれない。

 千雨や茶々丸は小太郎の根拠ない自信に感心し、実際小太郎の自信に救われている所もある。

 

「ネギ先生、コタロ―君の言う通りです。このバッジが例えアスナさんのものであってもしぶとく無事にいるはずですわ!!」

 

 あやかも必死にネギを励ます。

 

 

「ありがとうな小太郎。俺より年下なのにお前の方がしっかりしてるよ」

「何言ってるんやマギ兄ちゃん。俺はアホやからアホなりに仲間を信じぬくだけや」

 

 子供らしく鼻をこする小太郎を見て微笑ましい光景になる。

 気持ちを切り替えて今後どうするかを話し合うことにした。

 

「それじゃあ、現状の確認といこう。何の因果かハメられてあたしらは賞金首のお尋ね者だ。こっちから捕まりに行って、メガロメセンブリアまで連行してもらった上で身の潔白を訴えるって手もあるが……」

「それは賢明ではないな。既にハメられる以上潔白を保証できる保証はない。ましてやこの私が一緒にいて正体があいつらにばれれば全員打ち首、或いは幽閉なんて結果だろうな」

 

 それだけは絶対にあってはならない。

 

「その理由では警察や大使館に助けを求めるのは難しいですわ。下手をすればその場で拘束されてしまいお終いです」

「てことは結局」

「あぁ、俺たちがやらなければいけないのは、自力で仲間を探し出し」

「自力でドネットさんか誰か信頼できる人の許まで辿り着くか、自力で元の世界に戻るしかないってことだね」

 

 これが基本方針となるだろう。しかし問題なのは今の自分たちの容姿だ。皆写真と同じだ。人が多い所にいれば見つかってしまうだろう。そんな中で仲間を見つけるのは至難だ。

 そんな中でネギがあることを思い付く。

 

「皆さん! 僕に考えがあります!」

 

 その考えとは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはとある酒場。客は先程の街頭テレビの懸賞金の話題で持ちきりだ。

 そんな酒場に団体の客が来店してきた。

 赤髪の青年と犬耳の青年と青年と同年代と、少し年上であろう金髪の女性が2人。猫耳の少女と緑髪の少女。そして赤髪で無精髭が目立つ少々くたびれている30歳後半から40歳前半の男だ。

 言わずもがな今来店してきた団体の客達はマギである。

 ネギの考えとは年齢詐称薬で各々の年齢を騙しての変装である。

 

「お兄ちゃん、こっちに座ろう」

 

 ネギがマギを呼ぶと酔っている客何人かが吹き出して大笑いをしだす。

 何故客達が笑っているのか分からず首を傾げるネギだが

 

「おいネギ、今の俺の姿はなんだ? 3、40代のおっさんだ。お前だって高校生位の姿がお兄ちゃんなんて子供っぽい呼び方したらおかしいに決まってるし、怪しまれるかもしれないからもう少し口調は考えた方がいい」

「あ、そう言う事か。なら……カウンターが空いてるからここに座ろうか、”兄さん”」

 

 少し声のトーンを落とし、マギを兄さんと呼んだネギ。マギもネギに促されるようにカウンター席に座った。

 

「あぁ、ネギ先生が年相応な呼び方ではなく、凛々しくマギ先生を呼んでいますわ。私、凛々しいネギ先生を見ていたら愛が溢れてしまいますわ……!」

「あやかさんあやかさん、鼻鼻。アンタの鼻から愛が溢れているからさっさと止めろ」

「マギ兄ちゃん、俺も呼び方変えた方がええか?」

「いや、お前の呼び方はどの年齢でも使えるからそのままでいい」

 

 等と話しながら皆が席に座り、カウンターのマスターに注文を聞かれ

 

「み、ミルクティーで」

「俺はこぶ茶で」

「私は宇治茶をお願い致します」

「おいアンタら注文のチョイスが、ていうかあたしも未成年だからな。オレンジジュース」

「私もミルクティーをお願いします」

 

 ネギに小太郎と千雨と茶々丸とあやかが酒を頼まないのを他の客が笑っているが、マスターは特に笑わずに注文の飲み物を用意してくれた。

 そしてマギと雪姫は

 

「俺は酒をくれ。マスターのお勧めでいいから」

 

 マギが酒を注文したことに、ネギ達は驚き

 

「に、兄さん! 兄さん今までお酒なんて飲んでいなかったのに急にお酒なんて」

 

 小声でマギに何故急に酒をと聞くと

 

「こんな容姿で酒を飲まないのは下手すると舐められる的になる可能性があるからな。それに俺は不死身でもう歳を取ることはないから俺にもう未成年とかはないからな。それに……今は少しでも飲んで酔いたい気分なんだ」

「それじゃあ私もご相伴にあずかろうかな。マスター私はワインを頼む」

 

 マスターはマギにジョッキの酒を出し、雪姫にはワインをグラスと瓶で出した。マギはジョッキを掴むと、一気に酒を飲み干す。かなりアルコールが強いのか喉をまるで炎が通っていくかの如くかっかと熱くなるのを感じた。

 どんとジョッキをカウンターに置いたマギに周りの客は拍手を送る。

 

「なんだ?」

「あぁお勧めって言われたから私が好きな奴を入れたんだよ。結構キツイやつでね、一気で飲んだらそのまま病院送りになる一品を飲んでもピンピンしてるとは、気に入ったよ」

「そりゃどうも。旨かったからもう一杯くれ」

「はいよ」

 

 マスターはマギの飲みっぷりに気に入ったのかおかわりを入れてくれる。そして出されたものをまたも一気で飲み干してしまう。

 マギの豪胆な飲みっぷりにネギ達はぽかんとして、雪姫はマギと飲むのが楽しみだと今後マギと飲む光景を想像して、自分もワインのグラスを呷った。

 そんなマギを見て、気に入ら無さそうに舌打ちをする集団があった。

 マギが酒を飲んでいる光景に唖然としてしまったネギだが、はっとしてマスターに出席簿を見せる。

 

「失礼ですが、この写真の中で見かけた人をいませんか?」

「何だいこりゃ? あぁさっきニュースで出ていた懸賞金をかけられた賞金首達だね」

「誰でもいいです? 誰か見ていませんか?」

「はは、馬鹿カ言っちゃいけないよ。こんな賞金首心当たりがあったら私が捕まえに行ってるよ」

 

 このマスターは嘘は言っていないだろう。さっきも食い逃げの輩を店主が吹っ飛ばしていたのだ。こんな治安の悪い街で何も力がない人がマスターなんかやっていないはずだ。

 手がかりが見つからない事に焦りを感じながら、マギは酒を飲んでいると、マギの肩を誰かが叩いてきた。

 振り返れば、マギよりも一回り大きいスキンヘッドのガラの悪い男がにやにやと笑いながら

 

「よお赤髪の兄ちゃん、その面が気に食わないから一発殴らせな」

 

 喧嘩を売ってきた。余りの無法地帯に驚きを通り越して呆れを見せる千雨と笑っている小太郎。

 そして喧嘩を売られたマギはというと

 

「……あ゛?」

 

 顔に青筋を浮かべ、スキンヘッドの男を見上げる形で睨みつけた。完全にスキンヘッドの喧嘩を買ってしまった。

 

「ちょ! 兄さん!?」

「放っておけ坊や、あの男が売って来たんだ。マギは喧嘩を買っただけだ」

「あの、マギ先生大丈夫なのですか?」

『危険なようなら助太刀いたしますが』

「余計な手出しは無用ですマギウス。あやかさん、マギさんはそんじょそこらのならず者に後れを取るほど弱くはありません」

 

 マギはスキンヘッドの男とメンチを切り

 

「いきなり殴らせろとか物騒じゃねぇか。なんでもかんでも喧嘩を売るのか? 喧嘩の大安売りか?」

 

 スキンヘッドの男を煽るとスキンヘッドの男は

 

「俺は昔、お前のようなアホ面の男にボコられたことがあってよぉ。それいこうてめぇみたいな赤髪の奴を見ると条件反射で喧嘩を売っちまうんだよお」

 

 スキンヘッドの男の後ろには取り巻きの軍団が居て、各々自分も伸された事を自己申告してきた。

 

「それって父さん、父さんの事ですか!?」

「ああん! あいつにんなでけぇガキが居たなんて話は聞かねぇぞ! それよりも赤髪の兄ちゃん、こいつを潰したら次はてめぇだ! 覚悟しておけ!」

 

 スキンヘッドの男の男はマギに殴りかかるが、マギはスキンヘッドの男の拳を簡単に避ける。

 

「くそ! 何で当たらねぇ!」

「そんな大ぶりな拳、避けてくれって言ってるようなもんだろうが」

 

 スキンヘッドの男はマギが言ったように大振りで拳を振るってはいない。的確にマギを倒そうと素早く拳を振っているのだ。それのなのにマギはスキンヘッドの男の攻撃を避けているのだ。

 

「あの男バルガスの攻撃を避けてやがる。俺はあの赤髪の男に200出すぜ!」

「いいや俺はバルガスに500出す! 行けバルガスやっちまえ」

 

 スキンヘッドの男の名はバルガスというようだ。マギとバルガスそっちのけで賭け事が始まるがバルガスの方がオッズが大きい。どうやらバルガスというのはかなりの有名人の様だ。

 

「やるねあのおっさん。けど相手が悪かったね」

「あぁ、バルガスはあんな図体だが高位の魔法使いだ」

 

 ネギ達の近くに座っていた獣人の女性と獣耳の女性がマギが勝てる要素はないと断言している。

 

「相手が悪かった? ふん、それはこっちの話だ。あの禿げ頭、マギがあいつとそっくりだからと言って喧嘩を売らなければ痛い思いをしないで済んだのにな」

「え? 師匠、どういうことですか?」

 

 ネギが雪姫はどういう意味なのか聞くと、まぁ見ておけとそれ以上は何も言わなかった。

 一方マギに喧嘩を売ったバルガスはマギに攻撃が当たらない事に埒が明かないと判断したようで

 

「どうやらこの俺を本気にしたようだな。ならば見せてやろう! 戦いの旋律 加速二倍拳!!」

「! 凄い、戦いの歌の上級です!」

 

 ネギはバルガスが戦いの歌の上級魔法を使うバルガスに素直に賞賛する。

 

「更に厳しい修行を重ねた俺は見事な瞬動術の使い手でもある! その滑らかさ、最早縮地レベル!!」

 

 バルガスはその巨体には似合わない高速移動を魅せる。その速さは残像が残るほどである。

 

「更に!!」

 

 バルガスは無詠唱で砂の魔法の矢を5本、出現させる。

 

「おぉバルガスの奴魅せるねぇ! 無詠唱で5本とは!」

「バルガス腕上げたな!」

「全方位から狙い撃てる砂矢5本に瞬動術! あのおっさん終わったな!」

 

 ギャラリーはかなり湧き上がっているが、バルガスの相手をしているマギ本人は冷めた目でギャラリーに魅せているバルガスを見ており、ネギ達はバルガスの身を案じていた。

 

「ははは! 悪いな兄ちゃん! 一発喰らってもらうぜ!!」

 

 準備が完了したバルガスはマギに向かって攻撃を仕掛けようとしたが……

 

「いや、長ぇんだよ。さっさとやれや」

 

 あろうことか、マギは月光の剣を高速で抜くとバルガスの腕を切断してしまった。

 

『……へ?』

 

 バルガスや取り巻き、ギャラリーは一瞬何が起こったのか分からないほど思考が停止していたが

 

「う、うぎゃあああああああ!? お、俺の腕がぁ!!」

 

 バルガスは叫びながらこれ以上血が出ない様にもう片方の手で押さえて止血する。

 

「て、てめぇ! 何武器使ってるんだよ!?」

 

 取り巻きの1人がマギに怒鳴り散らすが、マギははんと鼻で笑い

 

「武器を使っちゃ駄目って、こいつ言ってなかったからなぁ。それに、ショーみたいに派手な事をしてたからな。うざかったんだよ」

 

 マギの返しに我慢ならんと取り巻き達がマギを囲み武器を持っている者は武器を構え

 

『てめぇ! ぶっ殺してやるう!! 兄貴の仇だぁ!!』

 

 一斉にマギを攻撃した。しかしマギは何時の間に出したのか分からないが、グレートソードを出してそのままグレートソードを一回転横に振り回した。

 マギが横に振り回した結果、取り巻きの足はいとも簡単に切断されてしまった。

 

『ぎゃああああああああ!!』

『うわああああああああ!!』

 

 取り巻き達は足を切断され、断末魔の悲鳴を上げ、ギャラリーやあやかはスプラッタな地獄絵図にパニックの悲鳴を上げてしまう。ギャラリーもたまったもんじゃないだろう。ここら辺で喧嘩など日常茶飯事なものなのにこんな惨劇を見る事になるとは思っていないだろうから

 

「兄さん! そりゃあ喧嘩を売って来たのはあちらだったけど、だからってこんな酷い事を……!」

「まったく坊や、少しは落ち着け。落ち着いてもう一度目を凝らしてよく見て見ろ」

 

 ネギがマギを咎めようとしたが、雪姫に待ったをかけられたのでネギやあやかやは瞼を擦り、もう一度見てみると

 

「いてぇ、いてぇよぉ……」

「あ、あぁ死ぬぅ」

「助けてぇ……」

 

 ピンピンしているバルガスと取り巻きがそこに居た。

 

「ど、どういうことですか?」

「マギの奴、あの禿げを睨んだ瞬間にここ等一帯に幻術魔法をかけたようだ。おいマギ、これ以上続けるとそいつらの心が壊れてしまうぞ」

「あぁそうだな。こっちは色々といっぱいいっぱいだったのに、そっちの都合で喧嘩売って来たのが腹立っちまってたからな、少し痛い目を見てもらおうと思ってんだが、やりすぎたな。直ぐに解除するよ」

 

 そう言って、マギは指を鳴らした。その瞬間幻術が解除されたようで、さっきまで痛みで悶えていたバルガスや取り巻き達は目をぱちくりとして

 

「あれ、腕、ある……」

 

 バルガスや取り巻き達は無事な腕や足を見てほっとしていると、マギが優しくバルガスの肩を叩き

 

「よぉ、夢からお帰り。それと……お休み」

 

 そう言ってマギは情け容赦なくバルガスの顔面を殴り飛ばして、バルガスを床に叩きつけた。バルガスに続くように次々と取り巻きも床へ沈めていく。

 

『あ、悪魔だ……』

 

 幻覚で大怪我を見せて、現実でも情け容赦なくバルガスを沈めていくマギを見て、ギャラリーの客は戦慄を覚えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 マギがバルガスの後に取り巻き全員を伸したら、酒場の中は酷い有様になってしまった。

 

「いや良い暴れっぷりだったね。おじさん若い頃を思い出しちゃったよ」

「悪いマスター。店で暴れちまって」

「いいよ。元はと言えばバルガスが喧嘩を売ったのが事の始まりだったんだから。弁償はこいつらに払わせるよ。勿論いいえなんて言わせないさ」

 

 にっこりといい笑顔をしているマスター。場慣れしているのだろう有無を言わさず絶対払わせるという感覚がひしひしと伝わってくる。

 

「しかしお客さんの暴れっぷり、昔ここらへんで暴れてた彼を思い出すよ」

「それって……」

 

 ネギがその事を聞き出そうとするが、マスターが話を続ける。

 

「あのお客さんも強いが君達も強いだろう? どうだい拳闘士でもやってみないかい?」

「拳闘士それってなんやおっちゃん?」

「拳闘士っていうのはその名の通り拳で戦い武道大会とかで優勝して食べていくことさ。きっとガッポリ儲けられると思うよ。それに、強い相手と戦うのはワクワクしないかい?」

「強い相手、へっおもろそうやないか」

 

 小太郎は強い相手を想像し、期待に胸を膨らませているが

 

「コタロ―君っ」

「せやった。拳闘士っちゅうのは魅力的やが今は情報が欲しいんや。おっちゃん、何か思い出した事はないか?」

「うん? あぁ、思い出したよ。賞金首ではないけど、この子がね水を貰いに来たから気前よくあげたんだよ」

「! ほんとうですか!?」

「誰や!? 早う指させ!」

 

 マスターが出席簿で誰に会ったのか探し

 

「あぁこの子だよ」

 

 と指を指したのは、白き翼のメンバーでもなく、行方知らずの一般人組でもなく

 ────夏美であった。

 

「え?」

「へ?」

「はぁ?」

「な、夏美さん?」

「夏美姉ちゃん?」

「そばかすが可愛い子だったから間違いないけど、前の通りで何か男達とモメていたかなぁ。他にも女の子がいたか……そういえばチラッと見えたけど、確かこの子も一緒だったかなぁ。その後馬車に乗り込んでいったよ。奴隷商人にでも捕まったんじゃなければいいだが……」

 

 そう言ってマスターがもう1人を指さした。

 その子は……亜子であった。

 その瞬間、ネギ達は店が揺れるほど大声を出し、マギはがらりと雰囲気を変えて黙り込んでしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、ネギ達は散らばり待ちの住民や旅人に、夏美や亜子の情報を聞いて回っていった。

 聞いて行くにつれ、色々な情報を手に入れることが出来た。そしてもう一度あの酒場に戻って情報を纏めることにした。

 

「纏めると、夏美姉ちゃんと亜子姉ちゃんらしき人物が奴隷商人の一団に連れ去られた。行先は南のグラニクスっちゅう港町や」

「目撃者によれば他にも女の子がいたらしいのですが、誰かは不明です。ただ内1人が病気であったという事です」

「ということは、先程拾ったバッジは亜子さんの物っていうことですわね……」

「さて、ネギどないするんや?」

「行くしかないでしょう! 助けない理由がありません!」

「だな。しっかしまさか奴隷商人に捕まるとか、日本じゃあり得ない奴に捕まるなんてな」

 

 皆、迷いもなく決まっていた。

 

「しかしまさか夏美さんまでもがこっちに来ていたなんて、私はてっきり裕奈さんとまき絵さんと風香さん史伽さんアキラさんだけだと思っておりました」

「まっさか夏美姉ちゃんまでもがな……まぁ悩んでいる暇なんてないな。さっさと行くで!!」

 

 マギ達は港町グラニクスへ出発することにしたが、その前にマギがネギに待ったをかけた。

 

「皆、先に言っておきたい。その奴隷商人っていうクソ野郎が亜子に酷い事をしていたら……俺は自分を抑えられる自信がない。下手したらそいつを殺してしまうかもしれない。そうなったら俺の首を遠慮なく刎ねてくれ。首を斬られても俺は死なない。亜子の前で俺は、人殺しにはなりたくない」

 

 現に今、マギは体から殺気が漏れている。マギ自身抑えようとしているが、亜子が奴隷商人に捕まっていると聞いてからは、やっとこさ自分を抑えている状態であった。

 

「任せろそうなったら私が止めてやる。坊ややコタロ―ではお前を止めるのは厳しいかもしれないからな」

『私も尽力します。私なら多少無理をしても問題ありません』

「なに勝手な事を言ってるんだよマギウス! でも、そうだな、あたしもマギさんが人殺しになる所なんて見たくない。そうなったら荒っぽく止めてやるよ。マギウスがな」

「僕だって兄さんが非道な事をするのを黙って見ているわけないよ。僕が傷ついてでも兄さんを止めるよ」

「俺やってマギ兄ちゃんが人殺すとこなんて見とうないわ。そん時はぶん殴ってでも止めてやるわ」

「私は皆さんみたいに力はありません。ですが、言葉でマギ先生を止めますわ」

「私もマギさんを傷つけて止めるのは正直言えば出来ません。ですがマギさんを傷つけないで止めてみせます」

「皆……ありがとう」

 

 マギは深々と頭を下げる。少しだけだが、マギの殺気も薄れているように感じる。そして改めて酒場を後にしようとする。

 

「もう行くのかい? 店の修理を手伝ってくれてありがとな」

「いえ、マスターも情報をありがとうございました」

 

 ネギが代表してマスターにお礼を言った。

 

「グラニクスは此処よりも治安が悪い。気を付けてな」

「はい。あの、マスター。昔、この街にサウザンドマスターが来たことがあったんですよね?」

「あぁ、18.9年前だったかな。その時彼は放浪していてね。あぁ、その時風の噂で聞いたんだけど、一時、サウザンドマスターは背中に赤子を背負って旅をしてたって聞いたな。時折綺麗なお嬢さんが赤ん坊を背負って喧嘩をしてるサウザンドマスターを っていたけど、あのお嬢さんはサウザンドマスターの奥さんだったのかな」

(お兄ちゃんだ。父さんはこの世界でお兄ちゃんを連れて旅をしてたんだ。それにお嬢さんってもしかして母さんも一緒だったのかな……)

 

 マギは一応今年で18歳だ。逆算するとマギは赤ん坊の頃にこの世界に居て、暫くしてからウェールズに預けたのだろう。ナギの過去の話を聞いて、マギと雪姫はピクリと反応した。

 

「それで父……彼は、どんな人だったんですか?」

「そうだね。彼はこんな辺境でも名は知られていたし、戦を終わらせた英雄ってことで、どんな切れ者かと思ったんだが、うん、そうだな……バカっぽい奴だったよ」

 

 バカっぽい奴、それを聞いて雪姫は少し噴き出していた。まさかナギの事を知ることが出来るとは思わなかったネギは改めてマスターにお礼を言う。

 

「ありがとうございます。彼の事を聞けて良かったです」

「いいってことよ。君らはどこかサウザンドマスターに似ているな。仲間が奴隷商人に捕まって辛いだろうが、気持ちを楽にして頑張れよ」

「はい! ありがとうございます!」

「ありがとうなマスター。達者でな」

 

 と今度こそ酒場を後にするマギ達であった。

 

「……ふっ。中々、面白い奴らだったな」

 

 マスターは小さく微笑みグラスを拭き、次のお客を待つのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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私は囚われのお姫様

今話から色々と弄くってみました。


 自由交易都市グラニクス。そのなかで一際大きい施設に彼女は居た。

 

「……はぁ」

 

 給仕用のしっかりとしたメイド服を来た夏美が、外のラウンジを溜め息を吐きながら箒で掃除をしている。

 

「あ、空飛ぶ鯨だ」

 

 箒を動かす手を止め、呑気なことを口に出している。

 

「あんなのが空に飛んでいる。やっぱり夢だよね」

 

 そう言って割りと強めに自身のほっぺたをつねって引っ張る。

 

「けど、やっぱり痛い。痛いってことはこれは現実なの? でも痛いけど夢ってこともあるよね。だってこんなこと、現実じゃありえないもん! 誰か夢だって言ってぇ!!」

 

 思わず叫んでしまう夏美。しかし夏美の叫びに答える者は誰も居なかった。

 

「はぁ、そもそもネギ君やマギさんを尾行したのが間違いだったよ。突然見たことない場所にいて、さらに皆が遠い場所に居たから合流しようと思ったら、何だがよく分からないけどすごいバトルに遭遇して、気がついたら荒野にひとりぼっち……もうどこから夢なんだか分からないよぉ……」

 

 ぶつぶつと悲壮感漂う独り言を呟いていると

 

「ごらぁ!! 新入り何勝手にサボってるんだぁ!! 休むんなら仕事してから休めぇ!!」

「はっはいいい!!」

 

 遠くから夏美をどやす声が聞こえ、涙目になりながら掃除を終わらせる夏美であった。

 

「────ふぅ、ようやく休憩だよぉ」

 

 あれから必死に掃除以外の雑務を終えた夏美は休憩出来ることにぼやきながらとある一室に入った。

 

「あ、お疲れ様村上。その変なことされなかった?」

「ううん。だいじょぶ。ちょっとキツイバイトって感じだっただけだよ。それより……和泉さんだいじょうぶ?」

 

 其処にはアキラと顔が赤くぐったりと寝ている亜子がいた。

 

「うん。まだ熱があるし、意識も朦朧としてるけど、飲ました薬が効いているならあと2、3日もすればよくなる筈だって」

「そっかぁ。よかったぁ」

 

 安堵する夏美。しかしまだ余談は許さないだろう。

 

「荒野のど真ん中で、大河内さんと和泉さんと出会ってほっとしたけど、道中でへんな動物と遭遇した時はどうなることかと思ったけど、和泉さんが歌いながら足技で動物を追い払った時はびっくりしたよ。けど、無理しすぎたのか最後には青紫色の顔になって倒れちゃってどうしようかと思ったけどね」

「うん、でも村上が居て本当によかったよ。私だけじゃ水場や街道まで辿り着けなかった」

 

 荒野では亜子が孤軍奮闘で夏美とアキラを護ってあげていたようだ。しかし無理がたかって病気に侵されてしまったのであろう。

 

「でもでも! 街まで辿り着いて和泉さんの病気を治せる薬をくれるって親切な人がいたと思ったら、そのお代が首輪って……」

 

 亜子が病気と言う弱みに漬け込んだ輩がいたのだろう。しかし背に腹は代えられなかったのも事実であった。

 

「仕方ないよ。亜子の病気はあの薬でしか治せない。それに私達もお金が無かったし、連絡の手段も無かったんだから、ひとまずは働いて返すしか……」

「だからって100万ドラクマって一体どれくらい!? 何日働けば返せるの!? それにこの首輪奴隷の証だってよどれい!! 奴隷なんて現実的にありえないよ!!」

 

 あまりの展開に泣き出す夏美。無理もないだろう。今日から貴女達は奴隷です馬車馬のごとく働きなさいと言われても納得は出来ないであろう。

 

「そこだよ村上。村上はこれが現実だと思うの? この今のめちゃくちゃな状況が。街の人達を見たよね? 明らかに人の姿じゃない人もいたし、こんな場所世界のドコにもないよ」

「でも、夢って感じは全くないよ。お腹空くし眠くなるし、暑いし痛いし寝たら夢見るし……大体さ2人で同じ夢を見る?」

「うーん、もしかしこの村上は私の夢の中の登場人物かもしれない」

「ええ!? 私はちゃんと私だよー! それ言ったら大河内さんこそ私の夢の中の登場人物かもだよー!」

「それもそっかぁ……」

 

 と互いにうんうん唸っていると、あと夏美が閃く。

 

「分かったこれはゲームの中だよ! うん、それなら説明がつくよ。バーチャルリアリティーってやつでさ、知らない間に誰かにコンピューターに繋がれたんだよきっと!」

「バーチャル……なんだって?」

「え? 知らない? そっかぁどう説明したらいいかなぁ」

 

 アキラはよくわかっていない様子なので一から説明をしようとする夏美

 

「……ううん、此処はゲームの世界じゃないんよ」

 

 亜子がゆっくりと起き上がりながら夏美の言ったことを否定する。

 

「和泉さん!」

「亜子、まだ安静にしてなきゃだめだよ!」

 

 アキラは起き上がった亜子をもう一度横になるように促す。

 

「ごめんな。ウチがもっとしっかりしとったら、こんな事にならんですんだのに」

「何言ってるの和泉さんここは現実じゃないんだからそんなに自分を責めないで!」

「ううん村上さん、ここはゲームじゃない、現実なんや。残念やけど、この奴隷になったのも現実、ウチが病気なんてならなければ、こんな事には……」

「いいから安静にしてなよ亜子。熱のせいで現実と夢の区別がついていないんだね」

「ううんアキラ、今は辛いけど意識ははっきりしとるよ。けどショックかもしれんけど、きっとマギさん達が助け、に……」

 

 そのまま倒れるように横になり、そのまま寝息をたてる。

 

「和泉さん可哀そう。辛くて現実と夢の区別がついていないんだ」

「うん、でもマギ先生が助けに来てくれるって言うのは本当なんだろうね。けど、亜子が回復するまでは動きは取れないだろうね」

「うん……」

「これから私達、どうなるんだろう……」

 

 亜子に現実と言われ、不安になる夏美とアキラ

 

(マギさん、ネギ君、コタロ―君……)

 

 遠くを見つめ、何処かに居るであろうマギやネギや小太郎を想う夏美であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その2日後、マギ達もグラニクスに到着し、直ぐに移民管理局に足を運んだが……

 

「あぁ!? 何やて!? 『その3人は既に正式な奴隷です』たぁどーゆー意味やねん!!」

「ですから、た、確かにムラカミ、オコウチ、イズミの名前は見つけましたがその3人はその、ドルネゴス様のあの、せ、正規のど、奴隷として、登録されているということ、です……」

「んな訳があるかぁ!!」

「と申されましても……」

 

 移民管理局の職員の言い分に納得できない小太郎は思わず職員の胸倉を掴んでしまう。

 

「法的に問題はありません、これは写しになりますが」

 

 職員は青い顔で震えながら1枚の書類を出した。

 

「この奴隷契約書にも、お、御三方の魔術署名がし、しっかりとああります。100万ど、ドラクマの返済まではこの3人はた、確かに奴隷です……」

 

 そこには確かに亜子とアキラと夏美の名前が確かにあった。しかしかなり強引な手法である。困っている人に手を差し伸べるがなんて書かれているのか分からない書面にサインをさせて奴隷にするなど、あくどいにも程がある。

 

「あぁ!? ちょーしいい事言っとるといてまうぞ!」

「だだから私に言われましても……」

 

 やってる事がヤクザのそれであるが職員は小太郎の圧に押しつぶされそうになっているわけではない。

 

「それにみてみぃあの人を!!」

 

 そう言って小太郎はある場所に職員顔を強引に向ける。そこに居たのは

 

「……」

「おいマギさん落ち着けって」

「お願いですマギさん、どうか堪えてください」

『いざとなったら全力で止めます』

「兄さん辛いけど、今は耐えて」

 

 全身から殺気が漏れ出しており、血走った目で移民管理局の職員を見ていた。先ほどからビビッていたのは小太郎ではなく、マギであった。

 この移民管理局の職員も此処に赴任してからは色んなごろつきにいちゃもんを付けられてきたが、取るに足らないと思い、適当にあしらい続けてきた。

 しかし目の前のマギは違う。下手な事を言えば命を刈り取られるイメージが頭から離れない。だからこそ穏便に済ますように、必死に言葉を選んできたのだ。

 

「その内の1人がなぁ、うち等のマギ兄ちゃんの大事な人やねん。此処に来てからは餌を断たれた猛獣が如くや。アンタでも分かるやろこの殺気、俺らでも抑えるのがやっとや。その人が酷い目にあったらお前、ここ等一帯が焼け野原と血の海に染まるで」

「で、ですから私に言われても困るんですよぉ……」

 

 遂には涙目になる職員。大の大人が情けないとは思わない小太郎。普通の人ならマギの殺気でおかしくなっているだろう。現に職員もそろそろ限界のようだ。

 

「いいよ小太郎。これ以上その人を脅かすな」

(いや、アンタの殺気にビビッてるんやけどなぁ……)

 

 それを言わないのがお約束だろう。マギはゆっくりと近づき、職員と向かい合う。

 

「アンタは場所を教えろ。俺が話を付けてやる」

「そ、それは構いませんが、力づくで奪うようなことをすれば、貴方が犯罪者ですよ」

 

 馬鹿な事はやめたほうがいいと職員はマギを善意で説得するが

 

「構わねえよ。俺の大切な人に酷い事をした輩だ。そんな奴から取り戻すなら俺は喜んで犯罪者になってやるよ」

 

 そう言って身を翻し移民管理局を後にしようとするマギ。あぁそれと、と言って振り返り

 

「そうやって俺の事を止めようとするなら、亜子達の奴隷契約書の時に待ったをかけてもらいたかったな」

 

 冷めた目で職員を一瞥してから、今度こそ移民管理局を後にした。

 

「邪魔したな。せいぜいマギ兄ちゃんがゴ〇ラのように街を破壊しないことを祈っとるんやな」

「ご迷惑をおかけしました」

「邪魔したな」

「僕の兄さんがすみませんでした」

『それでは良い一日を』

 

 マギに続くようにネギ達も移民管理局を後にした。

 マギ達が居なくなりしんと静まり返った移民管理局。職員は限界に達して、白目をむき気絶してしまったのであった。

 

「────そんな、亜子さん達が奴隷だなんて……」

「まったく、面倒な事に遭遇したものだな和泉の奴は」

 

 あやかはショックを受け、雪姫は溜息を吐く。

 

「さて、場所は教えてもらったが、どうするんだマギさん?」

 

 雪姫、あやかと合流したマギ達はどうするかと話し合うが、答えは決まっていた。

 

「構う事ないわマギ兄ちゃん! 堂々と殴り込みや!!」

「うん、僕も賛成だ。もたもたしてたら亜子さん達に何が起こるか」

「あぁ、行くぞ」

 

 マギネギ小太郎の考えは一致し、直ぐに亜子たちが居るであろう場所へ殴り込みに向かおうとした。その時

 

「ふふ、殴り込みねぇ。それはあんまり賢明な判断じゃないな御三方」

「誰や!」

 

 声が聞こえた方を振り返ると

 

「流しのお姉さんのお話、ちょっと聞いてった方がいいと思うなー」

「和美さん! さよさん!」

「よっ♪」

 

 大胆不敵に笑いながら弦楽器を弾く和美と、彼女に憑いているさよ人形がそこにはいたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、夏美は今日も仕事を始めるが、そこにはふらふらの亜子が箒でラウンジを掃除していた。

 

「亜子! まだ寝ていないと駄目じゃないか! 誰がこんな事させたの!? まさかあの着ぐるみが勝手な事言いだしたの!?」

「ううん、ウチが自分から言ったんや。楽になって来たから仕事しますって」

「そういうこと! 別に私は意地悪を言ってるわけじゃないさね!!」

 

 大声で大股にこちらに近づいてくるクマににた獣人の女性、ここの奴隷たちを収める奴隷長のチーフである。

 

「薬は効いてるんだろ? だったら働いてもらわないとね! それに基本の魔力強化は風邪ひいてでも出来るもんさね。出来てるんだろ?」

「はい、何とかは出来てます」

「だったらそんな熱、動いてたら吹き飛ぶ!」

 

 亜子は何とか魔力強化で保っているが、それでも足はふらついている状態だ。

 

「まったく使えない新人が来たもんだね。アンタらには3食分きっちりと働いてもらうからね! でも休む時はしっかり休む! ただでさえ役立たずなのに動けなくなったらただの木偶の坊だからね!!」

 

 そう言ってチーフはまたも大股で自分の持ち場へと戻っていった。

 

「こわー。着ぐるみなのに全然愛嬌がないよ」

 

 夏美はチーフが居なくなったのを確認して小声でぼやいていた。

 

「ううん、あの人は着ぐるみじゃないよ。本当に獣人の人なんや。だからあんまりサボったらいかんで」

「亜子まだ熱があるんじゃないの? あんなのテーマパークとかの着ぐるみみたいなものでしょ?」

 

 未だに夏美とアキラはこの世界は仮想世界で、チーフも現実の存在ではないと思っているようだ。と手を止めていると

 

「ホラ仕事仕事!! 今日から興行で客がバンバン入って忙しいんだから!!」

「はっはいぃぃぃ!!」

 

 遠くからチーフの怒鳴り声が響き、急いで仕事に取り掛かる亜子達。

 

「はぁぁ、これが夢なら……王子様がさっそうと現れて助けてくれるのにね」

「うん、そうだね。とにかくいつまでもこんな事している場合じゃないね。早く誰かに連絡をしないと」

「うん」

 

 と夏美とアキラが話しながら掃除をしていると、遠くから大きな破砕音と

 

「おわっと! 何処見て歩いてやがる!!」

 

 ガラの悪そうな男の怒鳴り声が聞こえる。見れば亜子が倒れており、トサカのようなモヒカンの男のズボンに亜子がぶっかけてしまったであろう汚水がびっしょりとついてしまっている。

 

「すっすみません」

「すみませんじゃねぇよとろくせえな! てめぇ新入りか? おれの一張羅が汚れちまったじゃねえか!」

「こらこらあまり怖がらせるな」

「よく言うぜ! 洗った事ないくせに!!」

 

 トサカの後ろに色黒なのっぽと太っちょが亜子を虐めているトサカの行動を見てにやにやと意地汚い笑みを浮かべる。

 

「ご、ごめんなさいっ」

「おっとぉ、へぇ、なるほどなぁ」

 

 トサカは亜子を舐め回すように見て

 

「絹のように白い肌、ウチの座長もいい趣味してんじゃねえかおい!」

「よく見ろ、まだ子供だ。それに……」

 

 下品な笑を浮かべるトサカを咎めるのっぽを遮りトサカは下品な話を続ける。

 

「分かってねぇなぁ。こういうのが良いって好色家は居るんだよ。まぁあと2,3年もすれば食べごろだろうよ!」

 

 本人の前で好き勝手に言うトサカに亜子は何も言えずにいた。マギと離れ離れでしかも病気にかかっている。かなり精神的に弱ってるところに付け込まれてしまっている。

 

「ひっ」

「悪いなぁ嬢ちゃん怖がらせちまってよぉ。でもまぁ、悪いのはそっちなんだぜ? だからよぉ、俺のズボンの汚れを優しく綺麗にしてくれたら怒らねぇからよ」

 

 そう言って手を伸ばそうとしたトサカから亜子を護るようにアキラが前へと立ちふさがる。

 

「なんだてめぇ、てめぇも上玉じゃねぇか」

「亜子に手を触れるな」

 

 気丈な態度を取るアキラを嘲笑うかのように口笛を吹くトサカ。そしてポケットから球体の小型端末を取り出し、何かを見始める。

 

「ほう、オコウチアキラねぇ。3人で100万ドラクマとは何をやらかしたんだ? まぁいい、拘束 大河内アキラ」

 

 トサカが呪文を唱えた瞬間、アキラの首輪が光るとそのまま光がアキラの動きを封じてしまい、そのまま倒れてしまった。

 

「大河内さん!」

「アキラ!!」

 

 倒れたアキラを助け起こす。そんな亜子達をにやにやと笑い飛ばしているトサカ達。

 

「これに懲りたら二度と刃向かうなんて思うんじゃねえぞ! てめぇらが借金返済して身分買い戻すまでは所有物なんだからな。ま、てめぇらなら5,6年働きゃ返せるだろ。せいぜい頑張りな!」

「ええ!? 6年!?」

 

 夏美はショックを覚える。6年なんてその頃には自分たちは21歳で高校生活なんて無理な相談だ。それどころか6年も行方不明なんて親が心配する処の話ではない。

 

「ほら! さっさと立って拭きやがれ!!」

「きゃあ!」

(マギさん、助けて……!!)

 

 亜子はマギの微笑みを思い浮かべながら助けを呼んだその時

 

「おい」

「あぁ?」

 

 トサカの肩に手を置かれ、トサカが振り返った次の瞬間

 トサカを何者かがぶん殴り吹き飛ばし、壁に叩きつけた。

 

「ぐへぇ!?」

 

 鈍い悲鳴を上げるトサカ。いきなりトサカが殴り飛ばされ、のっぽと太っちょは呆然としていると

 

「俺の大事な人に、何気持ちの悪い事をしてるんだてめぇ……!!」

 

 怒り心頭なマギが亜子を優しく抱きしめながらトサカに殺気を飛ばしていた。

 

「マギ、さん……?」

「……大丈夫か? 亜子?」

 

 マギの登場に呆然としている亜子だが、次第に溜まっていた思いが溢れ、涙を流しながら

 

「マギさん……!」

 

 ぎゅっと抱きしめてきたので、マギも優しく亜子の背中をさすって上げた。

 亜子をトサカから救ったマギに続くようにネギと小太郎にマギウスに抱えられた千雨がやって来た。

 

「てめぇ! いきなり殴り飛ばすとはどういう事だあぁ!?」

「亜子たちは俺の仲間だ。てめぇみたいな下品な輩には指一本触れさせはしねぇ」

「てめぇは馬鹿か! 何寝ぼけた事を言ってやがる! 仲間だぁそいつらはこっちの100万の借金があるんだぜ!」

 

 等とほざいているトサカに小太郎が近づき、メンチの切りあいを始める。

 

「借金やて? アホぬかすなタコトサカ。イカサマで契約書にサイン書かせよってからに」

「へっ、イカサマ結構! 何か勘違いしてるようだが、借金返すまではその嬢ちゃん達はこっちの所有物なんだよ! 拘束 村上夏美 和泉亜子 」

 

 と今度は亜子と夏美を魔法で拘束するトサカ。

 

「あぅ!!」

「あぁ!」

「夏美姉ちゃん!?」

「分かったか? 所有者が所有物を好きにしていいのは当然だろう?」

「このっなんて非道な……!」

「分かったらあんまり調子に乗んなよ。その嬢ちゃん達の身が大切ならよぉ」

 

 トサカのあまりな態度にネギと小太郎は我慢の限界に達しそうだが

 

ブチリ

 

「「あ」」

 

 誰よりも先に堪忍袋の緒が切れるどころが堪忍袋自体をみじん切りにしてしまった男がいた。

 

「ネギ、小太郎……どいてろ」

 

 完全に切れてしまい、静かな怒りを見せるが殺気は先程よりも大きいマギが月光の剣を掴んでいた。

 

「へっやんのか? さっきのようにはいかね────」

 

 構えようとするトサカを無視し、マギは月光の剣を振るい、飛ぶ光刃がトサカを通り過ぎ、そのままラウンジの壁を破壊した。

 

「……へ?」

 

 何が起こったのか分からないトサカは呆けた声を上げていたが

 

「てめぇが持っているその端末、どうやらそれが亜子達に酷い事をさせてるみてぇだな。だったら……その汚ねぇ腕ごとぶった切って使えない様にしてやる

 

 マギは魔力を放出するが、その色はどす黒い真っ黒な闇の魔力であった。月光の剣もマギの魔力に呼応するように今まで以上に煌々と光だし、まるで歓喜の悲鳴を上げているかのように甲高い音が鳴り響く。

 

「なっ? え、ちょちょっと待て! 何だそのでけぇ魔力は!? 聞いていないぞ! おい待てって!!」

「ダメやマギ兄ちゃん! アンタまじでやる気やろ!? 夏美姉ちゃん達も居るんやぞ! スプラッタな光景を見せるのはあかん!!」

「駄目だ兄さん! 兄さんが血で染まる必要は無いんだ!!」

「マギウス、闇の業火ブラストの準備だ。マギさんがやりそうになったら撃て」

『了解しました』

 

 これは酒場でバルガスやその取り巻き達に見せていた幻ではない。マギは本気でトサカの腕を切り落とそうとしている。

 ネギ達の静止の叫びが聞こえていないのか、マギは月光の剣を振るおうとしたその時

 

「何やってんだいこの穀潰しが!!」

「もぺ!!」

 

 騒ぎを聞き、駆け付けたチーフがトサカを思い切りぶん殴った。

 

「まっママ!?」

「またアンタこんなもの持ち出して奴隷にちょっかいかけたんかい!? 好きにしていいだって!? 何勘違いしてるんだこの馬鹿垂れが!!」

「い、いやこれは成り行きで……」

「言い訳無用!!」

 

 トサカの言い分も聞かず、ママとトサカに呼ばれたチーフは容赦なく何度もトサカを踏みつけた。

 

「アンタらよりもこの子たちの方がずっと大事な身体なんだよ! 怪我でもさせたらどう弁償するってんだい!? 何度言えば分かるんだか!!」

「痛い! まっママお助け!!」

 

 さっきまでふざけた態度を取っていたトサカもチーフにはたじたじのようだ。

 さっきまで殺伐とした展開になりかけていたのに、とんだ肩透かしを食らった気分となり、マギも殺気や魔力が霧散していった。

 これでもう亜子達に酷い事をすることはもうないだろう。

 

「……あう」

「亜子!」

「亜子しっかり!」

「和泉さん」

 

 倒れそうになった亜子をマギが抱き留めて、皆が亜子へ駆け寄ってくる。

 そんな皆をぼんやりと眺めながら、亜子は意識を手放したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、ウチ眠ってしまったん?」

 

 気が付けば、亜子は寝泊まりをしている部屋に横になっていた。あれからどうなったのだろうか、ぼんやりしている頭で辺りを見渡すと

 

「亜子、気が付いたんだな」

 

 マギが微笑みを浮かべていた。

 

「マギ、さん……?」

「あぁマギさんだ。待たせたな、亜子」

 

 ゆっくりと起き上がった亜子はその勢いのままマギに抱き着いた。

 

「マギさん……! ウチ、寂しかった! 怖かった……!!」

「あぁ、俺もだ。亜子、会いたかった。君に何かあったらと思うも、俺は、俺は……」

 

 互いに安堵で身体が震えているが、暫くの間抱きしめあったのであった。

 暫くして少し落ち着いた亜子はマギに尋ねる。

 

「でも何でマギさん、おじさんみたいな格好なん?」

「あぁ、ちょっと訳ありでな。仕方なく年齢詐称薬での変装をしてるんだ。嫌ならこの場で解除しようか?」

「ううん、歴戦の戦士みたいで素敵やよ」

 

 マギと亜子は談笑をするが、マギが真剣な顔をして亜子と向き合う

 

「亜子、さっきチーフって呼ばれた獣人の人に話をしてみた。あの人は此処では一番話が出来そうな人だったからな。どうにかならないか話をつけたんだが……」

『────駄目だね。あの子たちの借金を帳消しにするって事はいくらなんでも無理さね』

『そんな!』

『どうにかならんのかクマのおばちゃん!』

『アンタは此処じゃまともなのに、それでも駄目なのか?』

 

 マギ達の懇願にもチーフは申し訳なさそうに首を横に振る。

 

『あの子達と奴隷契約を結んだドルネゴスは此処グラニクスでの有力者の1人、あんた達のような腕力は無いけど、権力を持っている。下手な事をすればあの子たちの身も危うくなる。私はチーフやあの馬鹿垂れ達にママと呼ばれて慕われてるけど、結局は奴隷長。しがない奴隷の身、残念だけど私にどうにかすることは無理さね。出来る事は馬鹿垂れ共があの子たちに手を出さない様に見張っている位だけさね』

『分かりました。僕たちの大切な生徒達なんです。どうかお願いします』

『夏美姉ちゃんたちが酷い目に会わない様に頼むなおばちゃん』

『亜子達をよろしく、お願いします……!』

『任せな。あの子達には指一本触れさせないよ』

 

 そして回想から今に戻る。

 

「すまない。今の俺達じゃ直ぐに亜子達を助け出すことは無理なようなんだ」

「ううん、ウチが助けてって思った時にマギさん来てくれたんやし、それだけでもウチは嬉しいんや。それにチーフもアキラや村上さんの前では厳しめやけど、ウチが働くって言うた時はウチの体の事心配しとったし、無理そうなら休んでもええって言ってくれたんや」

 

 チーフという事で、周りを甘やかさないためにあえての厳しめな姿を見せてるのだろう。やはり信頼は出来る人の様だ。

 

「正直に言えば直ぐに亜子に会えてよかった。まだ他の子が何処にいるか分からないが亜子と直ぐに出会えたならのどかや夕映や風香と史伽にプールスとも直ぐに会えるはずだ」

「そうなんや、まだ全員と合流出来てないんやね。その中でも風香と史伽はバッジがないからどこにいるか分からない……」

「今はあの子達の運を信じるしかない。今の俺は君をこんな場所から救い出すだけだ」

 

 マギはのどかや夕映たちの事も心配であった。しかし今は亜子やアキラや夏美が酷い目に会う前に救い出す事しか頭にない。最悪チーフがいない時を見計らってトサカのような最悪な連中に何をされるか分からない。今はそれが恐ろしいのだ。

 そんなマギを見て、亜子は小さく微笑んだ。

 

「どうした亜子?」

「うん、不謹慎やけど、なんか嬉しいなぁって」

「嬉しい?」

 

 この状況の何処に嬉しい要素があるのかマギは分からないがだって……と亜子は話を続ける。

 

「ウチ、まるでお姫様みたいやなって。マギさん前に言ってくれたんや、お前の人生って言う物語の主人公はお前なんだ。もっと好きなように生きていいんだよって。今のウチは悪い魔法使いによって囚われの身となったお姫様、そんでマギさんはウチを助け出そうとしてくれる王子様。そう思ったら、今の状況も悪くないなって思えるようになってん。だからウチは、マギさんがウチを救い出してくれるって信じとるから今は此処の仕事を頑張ってやり遂げるつもりや」

「そうか、強いんだな亜子は。この状況を嬉しいと思えるなんて、俺は君たちが何か酷い思いをしていないかとそれだけだった。なら、此処でやらなければ男じゃあないな」

 

 亜子は信じていた。マギが自分達を此処から助け出してくれるって。ならば、マギもここで応えるのが男である。

 この格好じゃ締まらないとマギは一度何時もの姿に戻して、マギは跪いて亜子の手の甲に優しく口付けをした。

 

「必ず、君を此処から連れ出す。だから俺を信じて待っていてくれ、お姫様」

 

 かっこよく決めた積りのマギ。暫くマギと亜子は黙っていたが、瞬間に顔が真っ赤になる2人。

 

「やってもらってあれやけど、結構恥ずかしいんやなこれ」

「いや、結構やる方も勢いが大事だな。素面だとやるの難しいだろこれ」

 

 と言いながらこの状況がまた可笑しくなって噴き出すマギと亜子であった。

 

「あぁそれからこれを」

 

 とマギはポケットから亜子の白き翼のバッジを出して手渡した。

 

「ウチのバッジ! 落としたと思ってたけど、マギさんが拾ってくれたん?」

「あぁ。もう落とさない様に気を付けろよ」

「うん!」

 

 亜子は服にバッジを付けた。

 

「俺の魔力が込められている。お前に悪い虫が来ない様に追い払ってくれるはずだ」

「ふふ、ウチのバッジが頼もしいお守りに変わっちゃったわ。ウチだけの特別なお守りや」

 

因みに亜子に悪い奴が近づこうものなら瞬時にそいつの脳内に鬼の形相のマギが現れ襲われるという過剰防衛なお守りと化してしまった。

 

「さて、もう行くよ。チーフはこのまま休んでていいって言っていたからもう少し休んでな」

「うん……」

 

 マギが部屋を後にしようとして、マギさんと呼び止める亜子。

 

「絶対、無理な事危険な事はしないようにな。ウチはマギさんが傷つく姿を見るのは嫌やからな」

「……あぁ分かったよ」

 

 約束し、今度こそ部屋を後にする。そしてドアを閉めたらもう一度年齢詐称薬を飲んで姿を先程と同じ3,40代へと変える。

 

「亜子、絶対に助けるから待っていてくれ」

 

 必ず助け出すと自身に言い聞かせ、マギはネギ達の元へ戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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拳王に 俺はなる!?

 亜子の元から去り、マギはネギと小太郎と千雨、マギウス、休みを貰ったアキラと夏美の元へと戻った。

 

「兄さん、亜子さんの様子は?」

「薬のおかげか大分調子が戻っている様子だ」

「よかった、亜子……」

 

 亜子が大丈夫だと耳にしてホッとするアキラ。その近くで小太郎と夏美が何かを話していた。

 

「何で見ただけで簡単にばれるんや」

「分かるよ。髪型や性格がそのままだもん。演技力がゼロ。これでも演劇の部活に入ってるからね、演技を舐めちゃいけないよ」

「完璧な変装のつもりやったんだけどな。けど、何で夏美姉ちゃんがついて来てんねん。俺は来るなって言ったやろが。おかげで借金や奴隷やら訳の分からん面倒事に巻き込まれおってからに。自業自得やで」

「ご、ごめん。けどコタロ―君何も話してくれないから気になったんだもん」

「何で夏美姉ちゃんが気になるんや?」

「だっだって、危険がどうとか言ってたし……」

「はぁ小さくて何言っとるか分らんわ。それに夏美姉ちゃんに心配される程俺は弱ぁないし、むしろ夏美姉ちゃんが心配や」

「な! 何言ってるの! いいんちょとちづ姉と私はコタロ―君の保護者なんだよ! 心配するのは当たり前でしょ! それとその変装調子がくるうからやめてよね!」

「何言ってるねん! この変装をとくのはまずいって言うたやろうが!」

「うるさい! うるさーい! 背が高くなる変装とか非常識でしょ! それに年下なのに背が高いとか生意気だー!」

「うっさいわ! 夏美姉ちゃんが他の奴よりちんちくりんなのが悪いんやろが!」

 

 女心が今一理解できない小太郎は夏美と微笑ましい喧嘩をしており、そんな2人をマギとネギとアキラと千雨が温かい目で見守っていた。

 

「あ、あの、ネギ先生、ですよね? 質問、いいでしょうか」

「ええ、大丈夫ですよアキラさん」

 

 アキラがおずおずとネギに質問をしてきた。

 

「まず最初に、貴方はネギ先生ですよね。そしてそちらの方はマギさん、そしてそこの女の子は長谷川さんで、そのロボットは何ですか?」

「はい、今はこんな姿ですが、僕はネギです」

「俺もこんななりだが、マギさんだよ」

「あたしも長谷川千雨で間違いないぜ。それとこいつはマギウス、あたしを護るように葉加瀬が作ってくれたロボットだ」

『初めまして、大河内アキラ様。私は魔導騎士マギウス、気軽にマギウスと呼んでください』

「は、はぁ……姿が変わってる担任と副担任にクラスメイト、そして流暢に話すロボット。これは、現実なんですね? さっきマギさんが使っていたのは魔法で、あの着ぐるみだと思っていたのは本物の獣人の人で、この世界は魔法世界、なんですね」

 

 アキラの質問に皆が首を縦に振る。

 

「それで亜子は、もうネギ先生やマギさんや長谷川さん側の人間で、道中で私や村上さんを助けてくれたのも現実。すみません、情報量が多すぎて何が何だか」

「そうだな、急に色々と言われても混乱するか。それじゃあ、俺らが何でこの世界に来ようとしたのかを教えた方がいいだろう。夏美、君も聞いていほしい」

「は、はい! 分かりました」

 

 そしてネギとマギで自分たちは魔法使いで、この魔法世界で行方不明の父の情報を入手したので、この世界にやって来た事を2人に全て話したのであった。

 

「……それじゃあ私達が来たせいで、ネギ先生とマギさんは何も出来ずに終わってしまったっていう事ですか」

「ご、ごめんなさい! 私達がよけいな事をしたせいで!」

「ほんまやで。しっかり反省しろよな夏美姉ちゃん」

「小太郎、今はそれを言う事はないぞ」

「へいへい」

「そんな事ありません。アキラさんや夏美さん、一般人組の方々が来なくてもあのフェイト達のせいで僕達は散り散りに飛ばされていたでしょうから。むしろ、危険な目に合わせてしまって、申し訳ありません」

「そうだ。俺が弱いばかりにすまない」

 

 とネギとマギが深々と頭を下げて、慌ててアキラと夏美が顔を上げさせようとする。

 

「ネギ先生マギさん頭を上げて! 私達が貴方達を責める権利はないし、むしろ私達に怪我を負わせないように護ってくれた事に感謝する立場だよ!」

「そうだよ! むしろ私達が勝手に来たせいで、ネギ君やマギさんに迷惑をかけちゃったみたいだし」

「おい、マギ兄ちゃんやネギには謝って俺にはないんかい」

「つーん」

「おいこら夏美姉ちゃん」

 

 またも小太郎と夏美が子供っぽい喧嘩をおっぱじめようとするが、マギがそれよりも早く大切な話を畳みかける。

 

「そして、君達の身にかかった借金とその奴隷契約は本当の事なんだ」

「そんな……」

「それじゃあ私達、6年もここで働かないといけないの!?」

 

 絶望に染まるアキラと夏美。

 

「そんな悲観的になるな夏美姉ちゃん。俺らが何とかするから安心して待っとれ」

「はい、僕たちが絶対に助けます。だから、信じてください」

「あぁ、亜子や君達をこんな所にずっと居座らせる積りはない」

 

 今はそれしか言えない。しかし早く亜子達を此処から連れ出す。それに変わりはないのだ。

 

 

 

 

 

 

 アキラと夏美は持ち場に戻り、マギ、ネギ、小太郎に千雨&マギウスは和美&さよと雪姫とあやかが居る場所に戻った。

 

「それで、亜子さん達が何で奴隷になっちまったのか、アンタは知ってるんじゃないか和美さんよぉ」

「そうだねぇ、まず結論から言うと、あの3人を力づくで助け出すのは今はまだ無理だね。色々な人から聞いたんだけど、和泉がこの土地の風土病にかかって相当ヤバかったというのは本当らしい。このあたり一帯の街はあの通り無法の街だったから助けてくれる人もいなかった。そこにここのボスが通りかかって、”親切”に魔法薬をくれたんだと。その魔法薬の名前は『イクシール』最高級の薬で一瓶使うと確かに100万ドラクマはするらしいからね」

「いや下心丸見えやないか!」

「酷いですわ! まるでそのまま3人を奴隷にするつもりだったみたいじゃないですか!!」

「みたいじゃあなかったんだろうな。3人はみてくれはいいんだ。いい儲けになると思ったんじゃねえか」

「亜子達をまるで商品のように扱いやがって……」

「兄さん落ち着いて」

「今お前が怒っても何も変わらないぞ」

 

 怒りに震えるマギをネギと雪姫が宥める。

 

「まぁそれでも和泉の病気は治ったみたいだし、もう借金返済の契約は結んじゃったみたいだからね。経緯はどうあれ和泉達は此処のボスの所有物。正式な奴隷であり、あの首輪は並大抵な魔法使いじゃ解除するのも厳しい。因みに無理に外そうとすれば……ボンっ!! だって」

「そんな!!」

「奴隷と同時に人質みたいなものじゃねえか」

 

 怒りに任せて無理に外そうしなくてよかったと、内心自身の行動を踏みとどまったマギはホッと胸をなでおろす。

 

「それじゃあ闇夜に紛れてそのボスをいてこまして契約を無しにするってのはどうや?」

「いやぁそれは一番お勧めできないね。第一和泉達の命が危ない。此処のボスはこの街の有力者の1人でいくつのか闘技場を経営してるみたい。過去にボスにいちゃもんつけた阿呆が次の日には惨い姿で見つかったってことはよく聞くらしくてね。やろうと思えば自分の手を汚さずに相手を消すなんて訳ないだろうさ。それにまだ皆と合流出来ていないのに揉め事は避けたいだろ」

 

 有力者という事はこの街の至る所に目があると思った方がいいだろう。下手をしたらこちらの人数を把握され、非戦闘員であるあやかが狙われる可能性がある。

 

「でしたらアスナさんが来るまで待って、アスナさんに首輪を解除してもらうというのはどうでしょうか?」

「そうや茶々丸の姉ちゃん! アスナ姉ちゃんならそれが可能やで!」

 

 アスナは魔法を無力化する術を持っている。上手く行けば首輪を外すことが出来るかもしれない。しかし

 

「確かに良い手かもしれないけど、さっきも言ったけど強引な手はお勧めしないし、下手をすればボスが和泉達を他の場所に売り飛ばすかもしれない。手っ取り早いのは今すぐに100万ドラクマを作ってそれで和泉達を買い戻すしかないだろうね」

「それが一番やがそんな大金直ぐに作れるわけないやろ。10年は遊べる額で6年働いてやっと返せるらしいんやで」

「いや、そうとは限らないみたいだぞ」

「師匠どういう事ですか?」

 

 雪姫はくいっと指である物を指さす。そこには『闘技大会 優勝賞金は100万ドラクマ』と書いてある貼り紙が貼ってあった。

 

『これだ!!』

 

 マギ、ネギ、小太郎は目を光らせ、手っ取り早い方法を見出す。

 それは、『自分たちが拳闘士になり、賞金をゲットしてまおう』というとてもシンプルな答えであった。

 

 

 

 

 

 

 

 強烈な日差しが闘技場にさしこむ中、マギ、ネギ、小太郎に雪姫が闘技場のど真ん中に立っていた。

 

「は! 何だてめぇら、てめぇらが拳闘士になりたいと言い出すとは思わなかったぜ!」

 

 顔に至る所に絆創膏をつけたトサカが観客席から見下ろし偉そうな態度を取っているが、別段マギ達は気にしないで

 

「金が欲しくてな」

「金です」

「あぁ金だ。俺たちは今すぐ金を手に入れなくてはいけない」

「まぁそう言う事だ」

 

 堂々と目的が金と言い切ったマギ達を気に入らなそうに睨むトサカ。

 

「金金金……てめぇら拳闘士を舐めてんのか!? てめぇらみてぇな馬鹿がやっていける世界じゃねぇんだよ」

「……っは」

 

 トサカが凄んでもマギは鼻で笑って返した。直ぐにトサカは鼻で笑ったマギを睨みつけた。

 

「てめぇ、何が可笑しいんだあぁ!?」

「いやなに、てめぇみたいな三下がやっていけるなら拳闘士も大した事は無いだろうなってな」

 

 マギが挑発し、トサカが顔に青筋を浮かべる。その様子を観客席からチーフと千雨と茶々丸、あやかに和美が見守っていた。

 

「おやおや、トサカをあんなに挑発して大丈夫かい? 私ほどじゃないけどトサカもある程度実力がある拳闘士なんだけどね」

「いやぁどうだろうね」

「はい、私も心配はしています」

「マギ先生、大丈夫なんでしょうか」

「まぁ、大丈夫だろ。それよか、手加減するかなぁ……結構キレてたし」

 

 チーフはマギを、千雨達はトサカの身を案じていた。

 

「……これでも俺は拳闘士としての誇りを持っている。てめぇ、覚悟は出来てるんだろうなぁ」

「あぁ? お前の言う誇りっていうのは、家の隅っこに溜まる塵みたいなもんだろう?」

「うわぁ」

「マギ兄ちゃんえげつないな」

「クク、マギの奴言うようになったじゃないか」

 

 ぶちりっとトサカからそんな音が聞こえ、目が据わったトサカが観客席から降り立った。

 

「座長は訓練士との模擬戦闘で勝ったら入団させてやるって言ったが、てめぇだけはこの俺が直々に相手をしてやる。訓練士の兄貴も強ぇが俺だって負けてねぇ。謝るなら今の内だぜ」

「悪いが謝るつもりはない。あぁそれと、お前に勝ったら雪姫も入団ってことでいいか? 雪姫が俺の相棒でな、俺より強いから下手したらここが滅茶苦茶になるだろうし、ついでに入団させてくれよ」

 

 謝りもしないし、条件を追加してきたマギの不遜な態度にトサカの怒りも頂点に達しそうだが、深く深呼吸をする。怒りは攻撃を乱れさせる。落ち着いて相手をするまでだ。

 

「いいぜ。この俺を再起不能にしてやったったら入団をOKにしてやるよ」

「言ったな? 言質は取ったぞ。チーフさん、そう言う事だからこいつに勝ったら入団を許可してくれるか?」

「まぁいいけど、大丈夫かい? 怪我をしても文句は言わせないよ」

「構わないさ。こいつに負けるぐらいじゃ、とても100万ドラクマなんて手に入らないさ」

 

 もう勝つ積りでいるマギにトサカは魔力を解放をした。

 

「今更謝っても遅いぜ。戦いの旋律 加速二倍拳!!」

 

 それはバルガスが使っていた戦いの旋律と同じであった。これが使えるという事は、トサカもかなりの実力者と見える。

 だが……

 

「ほぉ、成程な。そら、打って来いよ」

「……はぁ?」

 

 対してのマギは構えもせず、ノーガードでトサカに打って来いと挑発をする。

 

「てめぇ分かってんのか!? これを食らったら病院送りは確実なんだぞ!」

「御託はいいから早くしろよ。それとも何か? お前は挑発してくる敵には攻撃出来ない優しい奴(チキン野郎)なのか?」

「……あぁいいぜ。分かったよ。それなら、食らいやがれクソが!!」

 

 トサカは一気に間合いに入り、マギの顔面に拳を入れた。鈍い音が闘技場に響く。思わずあやかだけ手で目を覆い、チーフはもろに入ったマギに呆れの声を出している。チーフから見ればマギはかっこつけの阿呆にしか見えないだろう。

 しかし他の者達はあぁ、とこれから来る展開にトサカの身を案じていた。

 

「へっもろに入りやがった。俺を舐めすぎだ馬鹿が!」

 

 余りの衝撃に闘技場の土が舞い、マギの状態が分からないが手応えは十分にあり、これでマギはもう再起不能になったと自身の勝利を確信していたが

 

「……成程。いいパンチだ。普通の奴ならこれでノックアウト間違い無しだろうな」

「……へ?」

 

 土煙が晴れると、顔面にトサカの拳がめり込んでいるが、全然ピンピンしているマギがそこにいた。

 

「は? な、なん、で? 俺の攻撃は確かに当たって」

「あぁ確かに当たってるが、まぁその程度だったってことだよ。それじゃあ次は俺の番だ。しっかりガードしろよ。俺の拳には色々なものが詰まって、結構重いだろうからな」

 

 マギは魔力を解放し、左手に集中させる。その瞬間、トサカは全身から一気に汗が出る。それと同時に自分の首に鎌が当たるような錯覚を覚えた。

 あの拳はマズイ。本気で防がないと待っているのは”死”だ。

 マギはトサカのボディに拳を振りぬいた。今のマギの拳に宿るのは亜子に酷い事をしたトサカに対する怒りもそうだが、大切な者達を護れなかった自身の不甲斐なさ弱さ、その怒りが籠ったこの拳、それがトサカに放たれた。

 とっさに両腕を交差してガードするトサカ。次の瞬間にはトサカの体に衝撃が貫き

 

「もぺぇ!?」

 

 情けない声を出しながら後ろへ吹っ飛び、観客席幾つかを駄目にしてしまった。

 吹っ飛ばされたトサカの元へ向かうチーフ。其処には口から胃液の混じった涎を垂れ流し、白目を向いて気絶していたトサカの姿があったのであった。

 

「これで合格ってことでいいか?」

「まったく、此処まで強引な入団テストは初めてだよ。でもまぁ、合格だ。入団を認めるよ」

 

 こうして晴れて、マギと雪姫は拳闘士となったのであった。

 

「と次はそこの坊や2人だね。トサカが伸びちゃったから、此処からはこっちが仕切らせてもらうよ」

 

 チーフがネギと小太郎の入団のテストを担当することになった。

 

「といってもさっきトサカが言っていたように訓練士との模擬戦闘をしてもらうよ。訓練士は結構強いからね、怪我をしないように頑張るんだよ」

「強い奴か。楽しみやな」

「油断しないでねコタロ―君」

 

 小太郎は余裕綽々に構えているが、ネギは油断せずに待っている。この入団テストで勝てなければ意味はないのだから。

 暫く待っていると、選手入場口から一人の男がゆっくりと歩いてきた。筋骨隆々でいかにも強そうな……

 

「どこのどいつだぁ? 命知らずのガキどもは」

 

 バルガスであった。

 

「え?」

「は?」

「うぇ?」

 

 ネギ、小太郎、バルガスの時が止まった。

 

「なんだ訓練士ってアンタだったのか? 怪我の方と店の弁償の金は大丈夫だったのか?」

 

 マギは固まっているバルガスに気軽に話しかけた。

 

「てってめぇは!? てめぇも入団テストを受けに来やがったのか!?」

「いや、俺はもう終わった。俺の相手はあそこで伸びてるトサカ野郎がやってくれたよ」

 

 あれからマギがトラウマになったのかおっかなびっくりな態度を取るバルガス。しかしマギが入団テストをもう終えたという事を聞いてホッとする。

 しかしバルガスは失念していた。今から戦う相手がマギの弟であるネギと友人である小太郎だという事を

 

「いいかネギ、小太郎。あいつは酒場の時はあんな魅せる喧嘩をしようとしたが、実力は本物だ。最初から全力で行け。相手に付け入る隙を与えるな」

「言われるまでもないわ。行くで、ネギ!!」

「OK!!」

 

 マギに言われた瞬間にネギと小太郎は一気に魔力を解放した。そんな2人を見た瞬間、バルガス

 

(あ、駄目だ)

 

 心が折れ、瞬時に自分の負けを認識し、次の瞬間には2人に殴り飛ばされてしまった。

 ネギと小太郎。2人も晴れて拳闘士の仲間入りとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 そして、マギネギ小太郎雪姫が拳闘士となり、数日が経った。今日が拳闘大会の試合が始まる。試合はAブロックBブロックの2つに分かれており、互いのブロックの試合に勝ち進めた2組が本選の予選へ進めることが出来る。つまりは前座の前哨戦というわけだ。

 そして、今からネギと小太郎が最初の試合をする。相手は虎の獣人と妖精だ。前衛と後衛のオーソドックス、だが強力な相手になるだろう。

 

「ネギと小太郎の奴、初戦から強そうな相手と当たったな」

 

 選手控室の大型ディスプレイでネギと小太郎の試合を観戦して自分の試合を待つマギと雪姫。2人の試合は次の第二試合である。

 

「まぁ坊やとコタロ―ぐらいなら、あの相手位、容易く勝てるだろう」

「だな。相手も強いが、ネギ達の方が一枚上手ってことだな」

 

 試合開始のゴングがなり、まず最初に虎獣人が小太郎に仕掛けた。高速のラッシュ、その合間に何かの種を小太郎に向かって投げた。次に要請が呪文を詠唱すると種から蔦が生えて小太郎を拘束してしまい、動けなくなった小太郎に虎獣人の攻撃が入る。

 動けなくなった小太郎を援護するために、ネギが魔法の矢を虎獣人に向かって放つが、虎獣人は華麗に避けた後に、口から衝撃波を発しネギの魔法の矢を防いでしまう。

 自身の攻撃が衝撃波で防がれたことに驚いているネギに妖精が、小さい体からは考えられない大魔法を放った。

 大魔法に包まれ、姿が見えなくなり、勝利を確信する虎獣人と妖精。

 

「やるなぁあの2人。でも、相手が悪かったな」

 

 しかしネギと小太郎は虎獣人の左右に五体満足で立っていた。虎獣人が動揺している間にネギと小太郎は互いの強力な技を虎獣人に当てる。

 虎獣人も必死に受け止めようとするが、耐えきれずに直撃、そのまま戦闘不能になってしまった。虎獣人が戦闘不能になりそのまま妖精も降参した事によって、第一試合はネギと小太郎の勝利となった。

 

「まぁ、ネギと小太郎ならこれぐらいは余裕か」

「次は私達だ。坊や達に続くとするか」

 

 試合の準備をしている中でネギがインタビューを受けていると小太郎はオオガミコジローと偽名を名乗っていたが、ネギはインタビュアーのマイクを拝借し

 

『僕の名前は……ナギ・スプリングフィールドです』

 

 まさかの父の名前を使ったのだ。これには観客の殆どがどよめき、インタビュアーも慌ててネギにインタビューを続けた。

 

「ネギの奴考えたな」

「あぁ。あのバカの名前を使ったのは遠くに飛ばされた仲間に自身の事を知らしめる事と、ナギの名前を意識して相手が躍起になって修行にもなるだろうからな」

 

 ネギのインタビューを見て、段々と対抗意識が芽生えてきたマギの肩を優しく叩く雪姫。

 

「あまり意識を持っていかれるなよマギ。今は安定しているがお前の精神は今は不安定だ」

「あぁ、分かってるよエヴァ。けど、俺もちょっとやりたくなっちまったよ」

 

 インタビューも終わり、今度はマギと雪姫の試合が始まる。

 と選手入場口にトサカが壁に寄りかかって待っていた。

 

「なんだ、応援に来てくれたのか? 嬉しいね、一度戦えば友達ってか?」

「あぁ? んなわけねぇだろ。てめぇが惨たらしく負けちまえって言いに来ただけだ。さっさと行って負けちまえ!」

「あぁ、ご声援ありがとな」

 

 トサカをスルーして闘技場に入ろうとしたが

 

「待てよ」

「なんだ? 今から試合なんだ早くしてくれないか」

 

 トサカがマギを呼び止めた。

 

「てめぇはあいつの名前がナギだって知っていたんだよな?」

「だとしたらなんだって言うんだ?」

「……いや、何でもねぇ忘れろ。さっさといけ!」

 

 呼び止めておいてさっさと行けとはへんな奴と思いながらマギと雪姫は闘技場に入場した。

 

『さぁ! 興奮鳴り止まないミネルヴァ杯! Bブロック第一試合、西方はかつての英雄と同姓同名なナギ・スプリングフィールド選手と相方オオガミコジロー選手と同じグラニキス・フォルテ―スの新米自由拳闘士2名! 対して東方はこれまたベテランの拳闘士、竜人種のドラグ・マキア選手! 悪魔のジョウ・ワン選手!」

「へ! 何だよ。新人て聞いたがおっさんと女かよ」

「一回戦は楽に勝てそうだな」

 

 マギよりも大きい竜人とこれまた巨体の六本の腕の悪魔がマギを見下した態度で嘲笑っている。先程の虎獣人と妖精と違い、随分とアウトローな拳闘士のようだ。対してマギは別段気にしていない。涼しい顔で聞き流している。その態度が気に入らないのか舌打ちをする相手側。

 

『どんな試合を見せてくれるのでしょうか!? それでは試合、開始!!』

 

 インタビュアーが試合のゴングを鳴らす。

 

「なぁ雪姫、此処は俺1人でやらせてもらってもいいか? 俺の実力がこの世界でどれくらい通用するか試したい」

「そうか。まぁ無理はするなよ。ヤバそうなら直ぐに私も手を貸す」

 

 さっそくマギが1人で相手をすると宣言し、雪姫は後ろに下がって壁に寄りかかった。観客は何割かはざわつくかマギの蛮行を笑い飛ばしていた。相手はベテランの拳闘士、舐めてかかれば大怪我では済まない。

 対して相手もマギの言ったことに対して大声を出して笑い飛ばしていた。

 

「ぎゃははは! こいつ女の前でかっこつけようとしてやがるぜ! おいジョウ! 可哀そうだから一発くらい貰ってやれよ!」

「そうだな。おいオッサン! 大サービスだ俺を殴って見ろよ。その一発で俺を倒せるかな? まぁ無理だろうなぁ!!」

「おいおいジョウ! あんまオッサンをビビらせるなよ可哀そうじゃねぇかぎゃははは!!」

 

 まるで子ども扱い。普通なら頭に来るところだが、マギは

 

「おーそれはありがたい。んじゃ……お言葉に甘えて」

 

 マギは左腕に魔力を集中し、一気に解放しそのまま六本腕の悪魔を殴り飛ばす。六本腕の悪魔は悲鳴を上げずにそのまま吹っ飛び、選手入場口を砕き、そのまま瓦礫に埋もれてしまった。

 

「……は?」

 

 竜人は呆けた声を出しながら殴り飛ばされた相方を見た。六本腕の悪魔は白目を向きながら戦闘不能になってしまった。

 

「なぁ!? て、てめぇ! 弱いフリをしてやがったのか!? きたねぇぞ!!」

「別に弱いフリなんてしてないけどな。そっちが勝手に勘違いしてくれたおかげで楽に1人倒すことが出来た。ありがとうな」

 

 マギのお礼に竜人は青筋を浮かべ、魔力で自身の指の爪を鋭利に伸ばす。一本一本がまるで剣のように鋭くなっている。

 

「死ねやぁ!!」

 

 マギに向かって振り下ろす。その衝撃に土煙が舞いマギが見えなくなる。観客もマギが竜人の爪に貫かれてスプラッタな姿になっていると思い悲鳴を上げている。竜人も手ごたえを感じ、このままマギを引き裂いてやろうと息巻いていたが。

 

「成程な。この程度ならまだまだ俺の力も通用しそうだ。それじゃあお礼に、一発で沈めてやるよ」

 

 土煙からマギの腕が伸びて来て、そのまま竜人の顔にマギの拳がめり込む。

 

「のぺぇ!?」

 

 阿呆な悲鳴を上げながら竜人は地面に叩きつけられ、そのまま地面に亀裂を作ったまま沈み、痙攣をしながら戦闘不能になってしまった。

 あっさりとマギと雪姫が勝ったことに観客はぽかんとしていたが、インタビュアーがハッとして終了のゴングを数回激しく鳴らし

 

『しゅ、終了ぉぉぉぉ!! なんとぉ、新人拳闘士がこれまたベテラン選手を下してしまったぁ! しかもたった1人で完膚なきまでの完全勝利だぁ!!』

 

 土埃を軽く掃うマギに観客から歓声が上がった。マギは観客の歓声にこたえるように手を振っていると、インタビュアーがマイクを持ってマギと雪姫に近づいてくる。

 

『完膚なきまでの完全勝利おめでとうございます! まずはそちらの女性の方から、お名前と何故参戦しなかったのか教えて頂けないでしょうか?』

「名前は雪姫だ。私が参戦しなかったのは、私が出てしまえば簡単に終わってしまうのと、相方が1人で相手をしたいと言ったからな。尊重し任せたというわけさ」

『な、成程』

 

 インタビュアーは雪姫が誤魔化しで言っていないという事は肌で感じていた。雪姫から感じる力の気配は確かに本物で相手をあっさりと倒してしまうのは本当であるだろう。

 

『では次は男性の方にインタビューを行います! 素晴らしい勝利でした! お名前をお願いします!』

 

 マイクをずいっとマギの顔に近づけてくるインタビュアー。マギは雪姫の方を見ると、ふっと不敵に微笑み、雪姫は瞬時にマギの思惑を察しやれやれと肩を竦めた。

 そしてマギはマイクを受け取り

 

「俺の名前は……ネギ(・・)ネギ・スプリングフィールド(・・ ・・・・・・・・・)。ナギ・スプリングフィールドの息子だ」

 

 マギが自身の名前ではなく、ネギと答え更にナギの息子と暴露し、観客はまたもどよめきの声を出していた。

 

「ええ!?」

「ちょ! マギ兄ちゃんまじか!」

「マギさん、やりやがったな……」

「えっとこれ、大丈夫なのでしょうか?」

「分かりません。ですが、かなりリスクがあるかと」

「まったく、この馬鹿者が。まぁそう言う馬鹿な所がまた、いいと思っている私も居るんだがな」

 

 マギの仲間であるネギ達の反応は色々で別の場所では試合を見ていたトサカは驚愕な顔を浮かべていた。

 

『えぇ!? ナギ・スプリングフィールドのむ、息子さんですかぁ!? え、でも見た目の歳が同じくらいなのですが……』

「この世界は魔法世界なんだから年齢を変えるのは朝飯前だろ? 今は訳ありでこんななりだが」

 

 そう言ってマギは年齢詐称薬の若くなる方を飲んで、瞬時に10歳ぐらいの歳のマギへと姿を変えた。ネギの10歳の顔とはまた少し違い、マギの目は多少吊り上がっている。

 

「まぁこの姿も本来の姿じゃないけどな。まぁ本来の姿を見せられないのは残念だ」

『は、はぁそうですか。ですがナギ・スプリングフィールドの息子(仮)として聞きますが、何故この大会に参加しようと思ったのですか?』

「仮じゃないんだけどな。まぁクソ親父は行方不明っていう話だったのが、この魔法世界の何処かに居るっていう話を聞き、こっちに来たらトラブルに巻き込まれてな。俺や雪姫の仲間がみんな散り散りに飛ばされてしまった。アンタも知ってるだろ? ゲートを襲ったテロリスト達の事を。見つけたら落とし前を付けてやるさ。話を戻すと、此処に俺の大事な仲間の1人が奴隷になってしまっていた。俺は正式に仲間を取り戻すためにこの大会の本選の優勝賞金100万ドラクマを手に入れるために拳闘士になったのさ」

 

 そう言ってマギはまた3,40代の姿に戻った。今のマギのインタビューはかなりギリギリを攻めていた。この観客の中にはゲートポート襲撃事件の事を知っている者は殆どだ。下手をしたらマギ達の素性がばれてしまう。マギとしては勝手に懸賞金をかけた者達への牽制もかねていた。

 

『な、成程。もう本選そして優勝をイメージしているようですが、この大会の出場者もかなりのベテランの猛者達が参加しています。それらをかいくぐり本選の予選に辿り着けられると思いますか?』

「愚問だな。これぐらい余裕で勝てなければ、俺はクソ親父と並ぶことは出来ない。俺の最終目的は今まで育児放棄して何処をふらついていたか分からないクソ親父を見つけてぶん殴ることだからな」

 

 観客は黙ってマギの話を聞いていた。そしてマギが次に何を言うかを期待していた。

 

『ありがとうございます! それでは最後に、これからの大会に向けての意気込みをお願いしますでしょうか!?』

「この大会、そして本選に参加する拳闘士達よ! 英雄の息子、ネギ・スプリングフィールドがお前らに土の味を教えてやる! せいぜい首を洗って待っているんだな!」

 

 マギの宣戦布告に観客はしんと静まり返り、次の瞬間には闘技場を揺るがす程の大歓声に包まれた。

 観客のネギコールにマギは拳を天に向かって掲げながらマギは闘技場を後にした。

 

「大変だなマギ。恐らく坊やよりも目立っただろう。そっくりさんよりも血の繋がった親子の方が狙われるだろうな。路地裏とか気を付けた方がいいぞ」

「いいじゃねぇか。人気者には丁度いいトラブルだ」

 

 等と話していると、凄い形相のトサカがマギに近づきメンチを切って来た。

 

「おいてめぇ! てめぇがあのナギ・スプリングフィールドの息子だって!? ホラ吹かしてるんじゃねえぞ!」

「何でアンタがそんなにキレてるんだ? 別に俺がクソ親父の息子だからってアンタに何か迷惑をかけたか?」

「っそれは、そうだけどよ」

 

 トサカもそれを問われると、何も言えなくなってしまった。黙るトサカを押しのけマギは選手控室へと戻ろうとする。

 

「悪いがアンタに気をかけてる暇なんて無いんだ。俺は前しか向いてない。必ず大会に優勝するっていう未来にな」

 

 それだけを言い残し、マギと雪姫は後にした。

 

「……くそ!」

 

 トサカは気に入らなそうに悪態を吐きながら、壁を蹴とばすのであった。

こうしてネギ、小太郎改めナギとコジロー、マギ改めネギと雪姫は無事に一回戦を突破したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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オスティアへ向かえ!

 ナギ&コジロー、ネギ&雪姫の快進撃は止まらず、勝ち進み早くも1週間が経とうとしていた。ネギ&雪姫と相手をする拳闘士はネギの相手を一方的に倒した強さとナギの息子発言に刺激されて最初から本気で向かってきた。

 しかしネギは相手が2人で向かってきても1人で相手をすることをやめず、相手が武器を使ってきたら影に収用していた比較的殺傷力が低そうなメイスやハンマーを使って(それでも本気で使ったら相手は死にそうだが)蹴散らし続け完勝を続けていたのだ。

 1週間も経てばナギ&コジロー、ネギ&雪姫のネームも世界に広がり始めていた。ネームバリューはどちらも高いがやはりそっくりさんのナギよりも英雄の息子のネギの方が大きく差を着けており、オッズもネギの方が大きくなっていたのであった────

 

 

 

 

 砂漠地方テンペルラ。一面の砂漠地帯を四足歩行の竜が疾走しており、その背中にまき絵が乗っていた。

 

「はいよー! タマ! ストップ! ストーップ!」

 

 慣れた手綱捌きでタマと呼ばれた竜を停止させる。

 そんな逞しく竜を操る彼女を、裕奈が待っていた。

 

「ゆーなお待たせー! 買い出し行ってきたよ! 今日はマグロみたいなお魚ゲットしたよー!」

「お疲れまき絵ー! 運ぶの手伝うよ! 今日の賄い超期待だね!」

 

 現在の2人は私服ではなく、お店のウェイトレスが着るような制服を身に纏っている。

 

「おうマキエ、ユーナ! そろそろ昼時だから店に出てくんな!」

『ハーイ!!』

 

 恰幅のいい女猫獣人店主に呼ばれ、元気に返事をする2人。今まき絵と裕奈はこのお店に居候しながらお店のアルバイトをしているのだ。

 

「おー! 今日も元気一杯だね! でも相変わらずおっぱいは小さいねー!」

「もう! 何言ってるんですかトラゴローさんたら! やだー!」

 

 わりと本気でトラゴローと呼ばれた虎獣人にトレイを叩きつけるまき絵。トラゴローは頭から血を噴出してるが、周りは笑い飛ばすだけであった。

 

「それに比べてユーナちゃんはでっかいな!」

「ヒューヒュー!」

「この人たちは遠慮ってもんがないのか!」

 

 ユーナがまき絵と比べられ、口笛を吹かれ、明らかなセクハラ発言に裕奈もツッコミを入れるのであった。このお店に来客するのは物資を運搬する、日本で言いうトラックの運転手が殆どである。ガラは厳ついか悪いかといった人が殆どだが、人なりはいい人が殆どでまき絵と裕奈は遠慮もなく客と接することが出来ているのだ。

 

「マキエちゃんにユーナちゃん、すっかりお店の看板娘が板についてきたじゃねーか」

「ありがたい話だよ! 2人の評判を聞いて隣の街道の客が来てくれて大繫盛だよ」

 

 カウンターで女猫獣人店主と話しながら笑みを浮かべている人種の男性の名はジョニー。飛ばされたまき絵と裕奈をこのお店に連れて来てくれた親切な男である。

 

「ま、故郷に帰るまでの旅費を稼ぐ居候なんだけどね」

「いやはや、まだ子供なのにしっかりしてるよ。そういえば故郷の事は聞いてないけど、どこの出身なんだって?」

「それがね、彼女ら故郷は二ホン、って『あっちの世界』の出身らしいんだよ」

「え!? それってもしかしなくても旧世界の住人かい!? どうりで最初は言葉が通じなかったはずだよ」

 

 ジョニーはまき絵と裕奈の出身を聞いて愕然とした様子で驚いた。そしてそのまま裕奈を呼んだ。

 

「何ですかジョニーさん。いくら命の恩人だからって胸は触らせませんよ~」

「行き倒れを拾ったぐらいでそんな恩は着せないよ。故郷が旧世界なんだって?」

「え、ええそう、らしいですけど。旧世界とか現実世界とか、よくわかりませんけど」

 

 未だにここが地球ではないことをよくわかっていない裕奈にジョニーは成程なぁと納得する。

 

「おじさん、旧世界の人は初めて見たからサイン欲しいぐらいだよ」

「いいですけど、そんなに珍しいんですか?」

 

 ジョニーの冗談に戸惑いながら返していると、同情の眼差しで裕奈を見るジョニー。

 

「しかしそりゃ大変だな。せっかく旅費を稼いでも帰るのは厳しいかもしれないよ?」

「ええ!? それってどういう事ですか!?」

 

 急に帰れないと言われ驚きながらも訳を聞くと

 

「ゲートだよ。あの事件でゲートが全て壊されただろ? あのゲートはこっちとあっちを繋ぐ橋みたいなもんで、あれが壊されたって事は帰るのは至難だろうな。まぁ庶民の俺達にとってはだーれも気にはしちゃいないが。でも橋が一度壊れると繋ぎ合わせるのに数年はかかるらしいぜ」

「え、ええ!? そんな……」

 

 直ぐに帰れないと聞かされ、頭が真っ白になった裕奈はその場にへたり込んでしまう。

 

「お、おいユーナちゃん大丈夫かい?」

「ショックなのは分かるけど、気を落とすんじゃないよ」

「はい……」

 

 とても働ける状態ではないと判断した女猫獣人の店主は少し休むように言い、裕奈も少し休憩することにした。

 裕奈は頭の中で後悔と懺悔の気持ちでいっぱいいっぱいになってしまっていた。

 自分が好奇心でマギ達に近づいたことで、誘ったまき絵やアキラや風香と史伽と止めようとしたあやかを(夏美は気づいていない)を巻き込んで、まき絵以外のクラスメイトの安否も分からずじまい。どうして自分はもう少し物事を深く考えのないのかと心の中で自分を責めてしまう。

 と空中に浮かぶ映像を立ち止まって見ているまき絵を見つける。最初にまき絵に謝らないといけない。そう思った裕奈はまき絵に近づき。

 

「まき絵。その、ジョニーさんに聞いたんだけどね、私達旅費を稼いでも直ぐには帰れないかも────」

「ゆーなゆーな! 大変大変! あれ見て見て!!」

 

 裕奈の話を遮って、まき絵は映像を指さす。そこに映っていたのは……

 

『では、デビュー以来13戦全勝の快挙を成し遂げたネギさんにインタビューです! こんにちはー! ネギさん、今日は全国生中継ですよ!』

『全国中継? それじゃあ』

 

 と言って何かを飲み、姿を変えたネギ(マギ)がマイクを持ちカメラの前に立ち

 

『まき絵さん! 裕奈さん見てますか!? 僕です! ネギ・スプリングフィールドです! 僕以外にもお兄ちゃんや! コタロ―君! 千雨さんや茶々丸さんに和美さんにあやかさんも夏美さんもアキラさんも亜子さんも居ます!』

 

 少しでも本人に似せようと声も変え、ネギ本人を演じて見ているであろう一般人組に自分たちの事を教えていた。

 

「ネギ君!?」

 

 裕奈は驚きを見せて、まき絵は少々首を傾げていた。その間にもネギは話を続ける。

 

『ここは交通の便が色々あれなので、そうですね、1ヶ月後、オスティアで開かれる大会で会いましょう! 学園への帰り道も心配しないでください! 大会で会えるのを楽しみにしています!』

 

 それと……とネギは少々溜めてから、少し声のトーンを落とし

 

『風香さん、史伽さん、これをもし見ていたら、何とか無事にオスティアに辿り着いてください。お兄ちゃんは君達を護れない不甲斐ない男で済まないと自身の弱さを悔いています。今僕達が出来ることは皆さんが無事に辿り着けられることを祈るだけです』

 

 店の客はまき絵と裕奈の名前を聞き、ざわつき始めた。

 

『何ですか今の? 彼女へのメッセージですか? というか何時もの口調と違うのはなんで何ですかー?』

『あーそう言う事にしておいてください。あとこの口調についてはツッコミは無しの方向でいいですか?』

『あ、はーい』

 

 ネギの何も言うなという無言の圧にインタビュアーはこれ以上詮索するのは止めようと思った。そして中継映像は報道画面へと変わった。

 

「やった! まき絵帰れるって私達! ネギ君が言ってた場所に行けば!」

「うーん……」

 

 歓喜の声を上げる裕奈に対して、まき絵はうんうん唸ってまだ首を傾げていた。

 

「どうしたのまき絵? 久方ぶりに見る大好きなネギ君じゃん」

「さっきのネギ君、私が知ってるネギ君じゃない」

 

 まき絵は首を横に振るった。

 

「えー? 何言ってるの? 何時ものネギ君だったじゃない」

「ううん全っ然違うよ! 何時ものネギ君の目は可愛らしい目をしてるけど、さっきのネギ君の目はキリっとカッコイイ目つきだったし、それに風香と史伽の事を言った時は声が低かったし、雰囲気もまるでマギさんみたいだったよ!」

「えー!? じゃあ今のネギ君はマギさんだっていうの?」

 

 やはり何時もネギを見ていたまき絵は直ぐに先程のネギがマギだという事に気付いた。

 

「どうしたんだいユーナちゃん。さっきまで青ざめてたのに随分と大慌てで。さっきの男はマキエちゃんの彼氏かい?」

「ううん! さっきの人はマギさんだよ! でもマギさんがネギ君になってて、どういう事かさっぱりだよ!」

「ほー姿を変えてる、か。そのマギさんとかネギ君ていうのは魔法使いの様だな。それも闘技場に出てるんだ。結構強いみたいだね」

「へー魔法使いだったんだ! 学園祭の武道大会の時も凄い事してたし! やっぱりネギ君とマギさんって只者じゃなかったんだ!」

 

 普通ならもっと驚くものだがあっさりと納得するまき絵。これが3-Aクオリティである。

 ともあれ、これで2人の目的は決まった。

 

「ともかくガンガン旅費稼ぐっすよ! 目指せオスティア!」

「ネギ君達は無事ってわかったけど、アスナは大丈夫なのかなー」

 

 オスティアを目指すために、ジャンジャン稼ぐことにした裕奈とまき絵。

 無事に辿り着いたら、勝手な事をしてごめんなさいとネギ達に謝るために、沈んだ気持ちとおさらばし、頑張ろうと意気込む裕奈であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裕奈とまき絵がジャンジャン稼ぐと意気込んだ同時刻、インタビューを終えたネギ(マギ)が選手入場口の階段を下って行った。その道中でトサカが壁に寄りかかっている。

 

「ケッ、今日も勝ちやがったか」

「なんだ? 相手側に賭けたのか?」

「いいやテメェに賭けたよ。テメェの強さは重々身に染みたからな」

「そりゃどうも。これからも、ネギ・スプリングフィールドの応援よろしく」

 

 ネギが不敵に笑いながらトサカを通り過ぎようとしたが、トサカはそんなネギの態度が気に食わなく

 

「そうやって余裕ぶってるのも今のうちだ! テメェよりも強い奴なんてこの世界にはごまんと居るんだからな」

「……分かってるさ。俺よりも強い奴が居ることは身をもって知っている。だから俺は、そんな奴らから勝って、亜子やアキラや夏美を取り戻すんだ」

 

 本気と書いてマジと呼ぶくらい真剣な表情でトサカを見つめそのまま歩き去るネギ。ネギが伊達やかっこつけで言っていないことは肌で感じ、つまらなそうに舌を打つトサカであった。

 暫く歩いていると、曲がり角に待っていた和美がネギに手を振っていた。

 

「マギさん、いや今はネギさんて呼んだ方がいいかな? こっちこっち、ナギ君とコジロー君と雪姫さんが待ってるよ」

「あぁ、今行くよ」

 

 和美に案内され、皆が待っている場所に向かうと、雪姫と千雨にマギウスに茶々丸とあやかは各々手を振ってネギを迎えてくれたが

 

「なんだ。随分と不貞腐れてるじゃないか」

 

 ぶー垂れてるコジローと少々しょぼんとしているナギの姿があった。

 

「そりゃそうやろ。マギ兄ちゃんがネギの名前を使ったせいで、こっちの注目度はガクッと下がっとるんやで! そらそうやろ、ただのそっくりさんよりも英雄の息子の方が注目度は高いんやで。今マギ兄ちゃん外に出て見ろ、取材のやつらやにわかファンに野戦の挑戦者に絡まれるで」

「いやぁすまんな。ネギがクソ親父の名前を使ったらなんか対抗心がムクムクと湧き上がって来てな。んでなんでネギ当人はしょんぼりしてるんだ?」

 

 マギ(ここからは本名で)はネギが落ち込んでいる様子を尋ねると

 

「マギ兄ちゃんが自分のフリをしてインタビューをしたのを見て自分で子供っぽいって勝手にショックを受けてるんやと」

「僕ってあんな子供っぽい話し方をしてたのお兄ちゃん?」

「ん~まぁやっぱなんやかんや言ってお前まだ10歳だからな。少しは子供っぽい話し方の方がいいかと思ってな。どうだったあやか、俺ネギぽかったか?」

「そうですね。やはりマギ先生はネギ先生のお兄様という事もあってネギ先生の雰囲気をしっかり見ていると思いました。ですがやはりどこかぎこちなさはありました。ネギ先生はどこか大人びた雰囲気の中で時折見せる年相応な仕草が素晴らしいものでマギ先生のぎこちなさがネギ先生の良さを殺してしまっているのが悔やまれる点です。そもそもネギ先生の魅力とは────」

「あーOKOK、俺のネギの演技はまだまだだっていうのは良く分かったから」

 

 あやかの力説を途中でカットする。しかしマギがネギの名を使い、ネギがナギの名前を使ったのには訳がある。

 

「2人のおかげでメディアの露出は高いし、マギさんのインタビューは全国に中継されたしスプリングフィールドの名前で大暴れしてれば世界中に散らばった仲間も気づいてオスティアに向かってくれるだろうさ」

 

 和美の言う通り、闘技場の活躍を知れば散り散りになった仲間がオスティアに向かってくれるだろう。

 話を戻し、マギはこの1週間で和美に千雨にあやかと街で集めてくれていた情報をおさらいすることにした。

 

「やっぱあの事件で魔法世界全11か所のゲートポートが壊されたみたいだね。現実世界との橋は全て閉ざされ、復旧には2、3年はかかる。まさに最悪な状況ってわけさ」

「まぁあたしもそれを聞いたときは絶望しかなかったが、だがまだ希望はあったというわけだ」

「それが廃都オスティア。二十年前に戦争が起こるまでは風光明媚な古都で有名でしたが、今は殆ど廃墟となっており、観光の街へと変わっているそうです」

「その無人の街に今は使われてないゲートがある。そこは奴らフェイト一味に襲われてないし、ゲートも停止してるだけで生きているってわけさ」

 

 女性陣の情報収集により、かなりの情報と希望が集まったという訳である。自分たちが戻るためにはそのオスティアに向かうしかない。それにおあつらえ向きにその1ヶ月後にはオスティアにて拳闘大会の全国決勝が開催される。

 終戦20年を記念する祭りも行われ、かなりの盛り上がりが予想されるが、もっとも重要なのは

 

「この全国決勝の優勝賞金が100万ドラクマ! おまけに荒っぽいお祭りだから私達お尋ね者が落ち合うのにも持って来いってわけさ!」

「つまり、借金返済、みんなと合流、お家に帰る。この3点がこのお祭りで全て解決出来ちゃうかもってことですね!」

 

 ふよふよ浮遊していたさよ(少し千雨がびびっている)がしめてくれた。

 

「全て解決か。えーな! さんざんやられっぱなしだったんや。風がこっちに向いてきたみたいやんか」

「でもそのためにはネギ君とコタロ君にマギさんと雪姫さんがオスティアの大会参加の資格を手に入れないといけないけど、大丈夫そう?」

 

 自信はあるかと和美がネギに尋ねる。

 

「大丈夫です。こんな所で負けたら話になりませんよ」

「任せとき! あと10勝もすれば、参加資格は充分やしな!」

 

 ネギと小太郎が自身を込めてそう答える。しかしマギが……

 

「心配するな。もしネギと小太郎が途中で負けても俺と雪姫が居るんだ。俺と雪姫だけがオスティアの大会に行けばなんとかなるだろ」

 

 この一言で周りの空気が少し下がったように感じた。小太郎がマギを睨み、ネギも少々視線を鋭くしてマギを見た。

 

「おい、どういう事やマギ兄ちゃん。まるで俺らがどっかで負けるととでも言いたげやないか」

「別にそういうつもりで言ったわけじゃない。が、拳闘士は強い奴がいるんだ。そいつらに負けちまえばお前らが出来ることは何もなくなる」

「そうは言うけど、お兄ちゃんは大丈夫なの? お兄ちゃんだって、強い人が居るってことは承知してるでしょ?」

「あぁ重々承知だ。けど俺や雪姫には不死身っていうアドバンテージがある。いざという時は不死身を活かして勝利してやる。フェイトにボコボコにされた2人と違って、な」

「む、むむ……」

 

 バチバチとネギと小太郎とマギの間に火花が舞い散る。茶々丸とあやかとさよはマギ達の剣幕に泡を食い、和美はこの状況を面白がり、千雨と雪姫は男の意地に呆れる始末だ。

 

「そこまで言うんやったら、もしマギ兄ちゃんが途中で退場したら大笑いしてやるわ」

「だったら俺は鼻で笑ってやるよ」

「言ったなお兄ちゃん。決勝戦で会えるのも楽しみにしてるよ」

「その決勝戦にしっかりとお前らが居ることを祈ってるよ」

 

 火花段々と大きくなり、大火となりかけた所で、和美が数回手を叩き鎮静化させる。

 

「はいはい、内輪揉めなんてダサい事はやめやめ。今やらなければいけない事は、オスティアに行くこととその間に情報を集まること。1ヶ月もあるんだから少しでも遠くに行き、仲間の情報かつ本人を見つけることも可能だからね」

 

 熱くなっていた頭がクールダウンしていくのを感じ、ムキになってしまったことを反省する男3人

 

「危ない危ない。危うくマギ兄ちゃんに乗せられる所やったわ」

「僕も熱くなって周りが見えなくなる所だった」

「俺も大会の熱気に中てられすぎたみたいだな。すまん」

 

 マギが謝罪し、直ぐにネギと小太郎は受け入れた。だがと小太郎は拳を前に出す。

 

「そうは言っても俺らは仲間やけど、大会中は敵同士や。決勝戦に当たったら俺は本気でマギ兄ちゃんを倒すつもりや」

「うん、僕も全力でお兄ちゃんにぶつかっていくよ」

「あぁ来い。俺はお前らを弱いとは思っていない。決勝戦で全力で相手をしてやるさ」

 

 3人の男は互いの拳をぶつけ合い、男同士の誓いを立てるのであった。

 男同士の誓いを立てて今度は今ここに居る全員で白き翼の誓いを立てる。

 

「1ヶ月後のオスティアに向かって、行くぞ!」

『おー!!』

 

 円陣を組み、互いの手を重ねあいマギが誓いを言い、ネギ達が続くのであった。

 話も終わり、各自で自由行動をとる。ネギと小太郎はその場から離れる。注目選手が一か所に纏まっていると誰かに見られては不審に思われるかもしれないからだ。

 

「まったく、マギさんも人が悪いね」

「何がだ?」

 

 和美が笑いながら肘で突いてくる。

 

「あんな挑発するみたいな言い回しをしてネギ君とコタロ君を焚きつけるなんて。決勝戦で戦った時は大変そう」

「俺らは勝たなければいけないし、どっちかが残っていれば大丈夫なんて甘い事を考えてる暇なんて無いんだ。それに俺だって不死身がアドバンテージだとは思ってない。武道大会は戦闘不能とみなされれば負けだ。俺は死ぬことはないが気絶はするし、身動きを封じられてしまったら何も出来ない。俺だって無敵じゃない。さっきの挑発は俺への誓いの言葉だ。俺は絶対負けられないってな」

 

 ネギと小太郎へ対する挑発は自分も負けてはいけないという誓いを立てていた。そんなマギの肩を雪姫が優しく叩く。

 

「心配するな。お前の相棒はこの私だ。お前が無茶をしそうな時はこの私に任せておけ。むしろ私1人で十分だ」

「あぁ、頼もしい限りだよ。けど、基本は俺だけで勝ちたい。ヤバそうな時だけ頼んでもいいか?」

「好きにしろ」

 

 マギと雪姫のペア。この2人なら何事もなく優勝してしまいそうだなぁと思った千雨と和美、さよあやかであった。

 

「けど1ヶ月かぁ。その頃にはもう学校も始まってるだろうし、立派な行方不明扱いになって大騒ぎになってるだろうな」

「そうですね。あっちに残してしまった千鶴さん達が心配します」

 

 千雨とあやかがぽつりとつぶやいていると

 

「お前たちは何を言ってる? こっちの1ヶ月はあっちでは2週間も経っていないぞ」

「へ?」

「は? 何言ってるんだよ雪姫さんよ」

 

 雪姫の呆れたような物言いに目が点になるあやかと千雨。

 

「魔法世界と現実世界の時間の流れはかなり違う。この1週間の出来事も現実世界では2日しか経っていない。つまりこの世界自体私の持っている別荘と同じようなものだ」

「はぁ!そんな大事な話何で言わないんだよ!」

「聞かれていないからな。それに無事に帰れれば夏休み最終日位には戻れるんだ。ちゃんと戻れればそれでいいじゃないか」

 

終わり良ければ総て良しと言いたげなあっけらかんとした雪姫の態度に開いた口が塞がらない千雨。何かツッコミを入れようとしたが、諦めた。

 

「まぁそれもそうか。無事に帰れればそれでいいか。そんじゃあ少しはこの魔法世界を楽しみますか!」

『ちう様。無理に楽しむのはメンタルに支障が出てしまう可能性が』

「いいんだよマギウス。こんなの楽しんだもん勝ちだ」

「お、いいじゃん長谷川。そうそう楽しもう楽しもう。アンタも立派な3-Aの一員になってきたね」

 

千雨を茶化す和美を見て、笑うあやかとさよと茶々丸。そんな光景を見て微笑むマギ。

まだまだ時間に余裕はある。それを知って、少し雰囲気が柔和になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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求めよ必殺技! そして伝説の男……

 ネギは焦っていた。別に闘技大会で良い戦績を取れていないというわけではない。むしろ全勝無敗で勝ち進んでいる。それなのに何故気持ちが沈んでいるのか

 現に目の前の対戦相手も上の空で殴り飛ばしていた。彼らも決して弱くなはい、しかしネギの方が強いのだ。これでは自身が強くなっている実感をまったく感じられないのだ。

 このままずっと闘技場で戦っても、またフェイト・アーウェルンクスと遭遇し、彼と善戦出来るビジョンがまるっきり浮かんでこない。

 更に

 

AAAAAAAAAAAA!! GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!! 

 

 マギが四つん這いになり、ゲートポートで使っていた魔法で対戦相手を蹂躙している姿を見てしまい、今の自分とマギではかなり力の差が開いていることを実感していた。

 この前マギに言われたことを思い出し、胸が締め付けられるのを感じていると

 

「おいネギ、なーにそんな黄昏てるんや?」

「コタロー君……」

 

 小太郎がネギの頭を軽く小突いた。2人の周りには闘技場でファン達に手を振っているネギ(マギ)に黄色い声援を送るミーハーな集団が居た。

 

「ねぇコタロー君、僕思ったんだ。ここで戦っていればレベルアップ出来ると思ったんだけど、そんな実感があまりなくて、このまま行っても駄目な気がするんだ。何かが足りない。お兄ちゃんのような圧倒的な……何かが足りないんだ」

 

 ネギは焦っていた。僕にはお兄ちゃんのような圧倒的な”力”が足りない。と力を羨望していた。

 

「そうやな。お前が強くなるために足りないもん、それは」

「それは?」

「必殺技……やな」

「ひっ必殺技!?」

 

 小太郎のあっさりと言ったことに対してネギは愕然としてしまう。

 

「違うよ僕が言いたいのは────」

「何言うてんねん。とても重要な決め手やろうが。お前の何とか崩拳シリーズも悪くはないが、やっぱ必殺技っちゅうのはインパクトが大事なんや。それこそ仮面ラ〇ダーのような〇イダーキックやか〇はめ波のようにインパクトある技が。なんかないんか? 目からビーム出してネギビームとか全身から力を解放するネギカイザーとか」

「ないよそんなの!」

 

 ちぇーと残念そうにしている小太郎。しかし小太郎の言う事ももっともだ。今の自分には何か決定的な必殺技が無い。それこそ相手が戦闘不能になるような圧倒的な必殺技が無い事も強く実感していた。

 ネギは焦っていた。このままの自分はマギや師匠のエヴァンジェリン、クウネル、フェイト・アーウェルンクス、そして父のナギ。彼らのような本物には届かない……と

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日さんさんと太陽が照りつける中マギは街を千雨とマギウスと歩いていた。

 ネギが焦っている一方、マギはもやもやとしていた。

 対戦相手を悉く圧倒的な力で勝利をもぎ取ってきたマギ。

 しかしどの勝利も納得のいくものではなかった。

 理由は……弱い。いや、相手が実力がないというわけではない。ただ、単純にマギの方がレベルが上というわけである。

 といっても戦う数を重ねると相手もだんだんと強くなっている。

 雪姫の許可をもらい、SWITCH ON BERSERKERのLEVEL20で相手をしてみた。

 結果は瞬殺。相手も強者の雰囲気を出していたが、マギの狂戦士のような戦いかたに恐れをなしてしまっていた。

 だがマギが求めているものには届いていないそれがもやもやとしていたのだ。

 

「はぁ……」

 

 マギは深い溜め息を吐いていた。

 

「どうしたんだよマギさん。ずっと連戦連勝なのに浮かない顔して」

 

 幼女スタイルの千雨が心配そうにマギを見上げる。

 

「いや、相手に勝っても自分が強くなっている実感を感じなくてな。やっぱりあの力を使いこなさないと俺は前に進めなさそうだ」

 

 千雨はマギの服の裾を引っ張る。

 

「それは駄目だ。マギさんゲートポートで無理したのもう忘れたのか? あんた無理して一時ヤバそうになったし、ジャングルで魔法生物の内蔵を食って凌ごうとしたんだぞ。あたしは心配だ。もしマギさんが暴走した悪魔のような姿になるんじゃないかと思うとあたしは……」

「ありがとう千雨、心配してくれて。けど、爆発で散り散りに飛ばされた君達の恐怖の顔が脳裏に焼き付き、夢の中でもその光景が何度もループしている。俺はもう君達にあんな怖い目にあわせたくない」

 

 千雨は何も言い返せなかった。ここであたしらは大丈夫といってマギは安心するだろうか。いや無理だと千雨は心のなかで首を横に振る。

 夏休みの期間中に千雨は自分には合わないと思っていた修行を行い、過去の自分よりも体力が大きく向上し、自身を護る術を手に入れたと思っている。

 しかしそれでも千雨はマギウスがないと自分は何もできないと悟った。

 雪姫に伸されてやっと身につけた柔術も自分よりも格下にしか通じないと、バルガスやトサカには返り討ちにあってしまうとそう思った。

 そんな自分がマギを護るなど到底出来ないと改めて痛感した。

 

 

 

 

 

 

「駄目だぜお嬢ちゃん、女の涙で男が強さを求めるのを邪魔しちゃ」

 

 と屋台の椅子に座っていた褐色のがたいのいい男がマギ達に話しかけてきた。

 ただの飲んだくれが茶化してきたのかと思い千雨が言い返そうとしたが、マギが手で制す。

 

「人の話に勝手に入ってきたが、何かようか?」

「いやなに、アンタの戦いを見ていたが、中々筋がいい。が、まだまだ粗削りなようだな。どうだ? 俺が一から鍛えてやってもいいぜ? ただしレッスン一回に10万ドラクマだ。こいつはお得だぜ」

 

 酔った勢いの悪徳商法だと判断した千雨。マギも馬鹿馬鹿しいと判断し男の事を無視し行こうとしたが

 

「あの魔法はエヴァンジェリンの闇の魔法の簡易版ってところか? だが暴走を恐れてかなり力をセーブしてるな。あれじゃあ強くなろうとしても先に進むことは出来ないぜ」

 

 マギは足を止める。闇の魔法の事は発案した本人とマギ、ごく一部の人しか知らない禁術の禁術。それを知っているのだ。口から出まかせで言っているには的確すぎる。

 

「アンタ、何者だ?」

「名乗るほどの男じゃねえさ。まぁ、強いて言えば『最強の男』ってところかな」

 

 最強の男と名乗った男は立ち上がり、マギに歩み寄った。歳を変えているマギよりもかなりの巨体だ。

 

「……何をする気だ?」

「まぁ軽い挨拶だ。そんじゃ……しっかり受け止めろよ」

 

 男は呼び動作もなくいきなりマギに殴りかかった。咄嗟にマギは男の拳を防ぐ

 瞬間風圧が吹き起り、千雨のスカートが捲れそうになった。周りの人達も急な拳圧による風に悲鳴を上げている。

 

「急な攻撃、何の積りだ?」

「ふっ、俺の1億分の1本気パンチを防ぐとはな。普通の奴なら病院送りになっているんだけどな……合格だ! これを受け止められるなら俺の教えを受けるに値するぜ」

 

 不敵に笑う男にマギウスの銃口が向けられ、千雨もキーボードに手が当たるように準備していた。

 

「おっさん、妙な動きはするんじゃねえぞ。あたしのマギウスの銃口から火が噴くぜ」

『ちう様。ちう様のご命令があれは直ぐにでも撃てます』

「千雨、マギウス、待て」

 

 マギは千雨に何もするなと命じる。

 

「でもマギさん!」

「この人に敵意が無いのは本当だ。それに確かに手加減はされたみたいだ。けど、けっこう痺れてるけどな」

 

 マギは手を軽く振っている。未だにマギの手はじんじんと痺れている。

 

「あんた、何で俺にこんな事を急にしたんだ? それに俺の教えって」

「まぁその話は後にしようぜ。それに、あっちでもおっぱじめてるみてぇだぜ」

 

 その時轟音と共に塔や建物が崩れ落ちて、崩れ落ちた所にネギと黒装束に身を包んだ男が戦っている姿が見えた。

 

「ネギ先生!」

「ネギの奴、襲われているみたいだが、相手、かなりの手練れみたいだな」

 

 マギから見てネギが押されているのが分かる。現に黒装束の男が無数にネギに向かって伸ばしている影のようなものが刃状になっており、ネギを襲いながら次々に建物が崩壊していく。黒装束の男はネギを殺そうとしている。まさに命を賭けた真剣勝負だ。

 

「あらら、やっぱAAクラスはまだひよっこには無理があったみたいだな」

 

 男はぼそりと呟いた。男の呟きをマギは拾う事は無かった。

 

「おっおいネギ先生やばいだろあれ! 早くコタロー呼んで助けないと! マギさん!」

 

 マギは助け舟を出すか迷った。

 だって、遠目から見たネギの表情が……楽しそうに笑っていたのだから。

 その瞬間ネギは叫びながら魔力を解放、黒装束の男もネギが魔力を解放したことに驚いていながらも、自身も本気を出し、刃の影が一斉にネギに迫った。

 ネギは刃の影を殴るか蹴り飛ばすか、マントが刃の影に貫かれながらも紙一重で避けていき、収束されて放たれた百の影の槍も雪姫が使っている断罪の剣、歪でありながらも影の槍を蹴散らし、間合いに入った。そのままネギは黒装束の男を殴り飛ばそうとする。

 しかし、相手の方が一枚上手だった。

 黒装束の男は自身のマントを翻し、ネギの攻撃を逸らさせるとそのままネギの右腕を切断してしまった。更に伸びた影の刃がネギの腹を貫く。軌道を変えた事で心臓には達しなかったが、それでも致命傷だ。

 

「ネギ先生!!」

 

 千雨は悲鳴を上げる。これで勝負あり、黒装束の男の勝利かと思いきや、ネギはまだ諦めておらず今度は左腕を振るい、黒装束の男も影の刃で応戦しようとした。

 流石に助け舟を出そうと決めたマギ。マギは不死身で切られても何ともないが、ネギは不死身ではない。このまま出血多量で死んでしまう。

 とマギが動く前に男が飛び出し、ネギと黒装束の男の攻撃を止めてしまった。

 

「くっく、いい見世物だったが、この勝負俺に預からせろや」

「きっ貴様は! 紅き翼の!? 千の刃のラカン!! 馬鹿な! 紅き翼のメンバーの行方は詠春とタカミチ以外の行方知らずのはず!」

 

 黒装束の男は男の事を知っているようで動揺している様子だった。

 紅き翼。それはネギとマギの父であるナギが名乗っていた組織の名前である。

 

「ネギ!」

 

 マギも遅れながらもネギに駆け寄り、これ以上血が流れない様に傷口を強く抑える。

 

「お兄ちゃん、あの人、前に写真で見た人……」

「今は喋るな。傷口を縛るから抑えとけ、千雨!」

「了解だ!」

 

 マギウスで横抱きをされながらネギに駆け寄った千雨が綺麗な布でネギの傷口の断面を見ないようしながら傷口を強く縛った。

 

「あるラブら~? なんだそりゃ、知らねえ名前だな。俺がそのアラ何たらの面子だっていうならどうだっていうんだ?」

 

 ラカンと呼ばれた男は舌を出しながら余裕そうな態度を崩さない。

 

「ふ、貴様があの千の刃のラカンであるならば願ってもない事だ。私はボスポラスのカゲタロウ、尋常に勝負!!」

 

 黒装束の男、カゲタロウは影の刃をラカンに向けて放つが、ラカンは涼しい顔で影の刃を指で止めてしまった。

 

「っ! ぬううん!!」

 

 カゲタロウはネギと戦った時よりも大量な影の槍を放つ。が

 

「はっ甘ぇ!」

 

 ラカンはアーティファクトのカードを取り出した。その瞬間、カードからカゲタロウのような影の刃に似た光の刃が応戦し、カゲタロウの攻撃を寄せ付けないでいた。

 

「くっ理不尽な……! それが如何なる武具にも変幻自在・無敵無類の宝具と名高き」

「おうよ、今日は見料無料の特別サービス。これがアーティファクト『千の顔を持つ英雄』だ!!」

 

 ラカンの周りには様々は剣が現れた。

 

「ならば!!」

 

 カゲタロウは影を集約し一本の槍を作ったが、ラカンが剣達を射手し、剣の檻でカゲタロウを動けなくし

 

「いくぜダメ押し。必殺、斬艦剣!!」

 

 正に戦艦を両断出来そうな巨大な剣をそのままカゲタロウに向かって落とし、建物はそのまま崩壊してしまった。

 あまりの理不尽な力にネギは呆然し、千雨は開いた口が塞がらなかった。

 

(この人、強い。それにまだ力をセーブしている。駄目だ、今の俺に勝てるイメージがわかない)

 

 マギだけ、ラカンがまだ本気でないことを見抜き、その中で彼が本気になった時に勝てるイメージが全く浮かんでこなかったのであった。

 

「くっまだだ! まだこの程度では!」

 

 砂塵が晴れると五体満足のカゲタロウがまだやろうと息巻いていたが

 

「止めときな。俺が本気を出せばお前ぐらいなら芥子に消えてる。それに、俺は素手の方が強ぇ」

 

 千の顔を持つ英雄を解除し、カードに戻したラカンはもう戦う気はないようだ。

 

「先の戦ので雪辱を晴らせれば、この命など軽いものだ。いくらでも賭けてやろう!」

「なんだ、てめぇも俺らにボコられた口か。まぁあいにくだが、俺はてめぇらなんか少しも興味ない。それに」

 

 とラカンはネギの頭に手を置きながら

 

「そんなに俺と戦いたいなら、この俺の弟子に勝ってからにしてもらおうか。場所は闘技場、正式な試合でな」

 

 と勝手にネギを弟子にしてしまった。

 

「弟子、だと……?」

 

 これにはカゲタロウも納得しておらず、何よりネギ本人も血が足りのもあるが状況が上手く読めていない

 

「あぁまだ修行段階でな、こいつはこんななりをしてるがまだ10歳でな。見所あるだろ? まぁ少しの間待っててくれや」

 

 カゲタロウもネギが10歳と聞いて驚いているが、内心、そんな幼い少年が一時だけだが、自分を押していたことに、ラカンに鍛えて貰えればもっと強くなるのではないかと思い、楽しさも湧き上がっていた。

 

「ラカンさん……」

「いい線いってたぜ。けどま、まだまだだな。さっさと怪我直して俺の所へ来な。お望みの力が手に入るぜ」

 

 ネギに限界が来たのか、そのままラカンの話を聞き終えて気を失ってしまった。

 

「ネギ先生! ネギ先生しっかりしろ!!」

 

 千雨が意識を失ったネギを強く揺する。

 

「おい、その弟子とやら大丈夫なのか?」

「あ? おいおい片腕くれぇで情けねぇな」

「いや、腹の傷だと思うが」

 

 ネギが気を失った瞬間に、さっきまでラカンに殺気を向けていたカゲタロウが普通に話しかけてきて、ラカンも気楽な感じにカゲタロウの相手をしている。

 これではまるで茶番だ。まさかだが

 

「アンタら、まさか最初からグルだったのか?」

「ご名答。目の前で普通に話していたら普通に気づくか」

 

 ラカンとカゲタロウがグルでカゲタロウがネギの腕を斬り腹を貫いた事を承知だったのに涼しい顔をしたラカンにマギは静かに怒りの火を燃やし、黒い魔力を解放し敵意をラカンに向ける。

 マギに敵意を向けられてもラカンは涼しい顔を止めず

 

「待ちな。俺がカゲちゃんをけしかけたのはこいつをテストするためだ」

「テスト、だと?」

「おう、こいつの試合は見てた。確かに筋はいい。だが、自分に足りないものを求めていたが、何かまでは分かっていなかったみてえだったから、カゲちゃんが勝負をし、それで今の強さを計ろうと思った次第さ。カゲちゃんはAAクラスの実力者、良い感じに喰らいついていたな。もし何も出来ずにボロボロになってたら、俺は鍛えるつもりはなかったぜ」

「だからって態々腕斬ったり、腹を貫かなくてもよかったじゃねえか」

「それに関してはすまない。以外にいい動きをするもので、私も些か本気になってしまった。しかし貴公の弟に重傷を与えたのは事実。すまなかった」

 

 カゲタロウが深々と頭を下げて、彼が本気で謝罪しているのは感じ取れていたので、怒りや黒い魔力を霧散するしかなかったのであった。

 

「まぁ心配するな。腕の切断くらいなら、こっちの世界の治療で直ぐにくっつく。カゲちゃんの実力のおかげで切断面もきれいだからな。そんじゃネギの怪我が治ったら此処に来い。俺が強くしてやるよ」

 

 それだけ言うと、カゲタロウは跳躍し去っていき、ラカンは普通に歩いて去っていった。

あぁそれと、とラカンは足を止めて振り返ると

 

「ネギには俺とカゲちゃんがグルだった事はオフレコで頼むぜ。その方が面白いだろうからな」

 

とそれだけ言うと今度こそラカンは去って行った。

 

「マギさん……」

「大丈夫だ千雨、大丈夫だ……」

 

未だに怒りで震えるマギを心配している千雨に大丈夫だと言いながら、騒ぎを聞き駆けつけ、救急隊が来るまで怒りで体を振るわせるマギであった。



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各々進む道がある

現在ユリヤは王になるためにあっちへ行ったりこっちへ行ったりと奔走しております。
マジで楽しい……
それではどうぞ


「はぁ……」

 

 ネギがカゲタロウと戦っていた同時刻、あやかはテラスにて、憂鬱げな溜息を深く吐いていた。

 

「あやかさん大丈夫ですか?」

「ほうっておけ、どうせまた坊やが大変な時に何も出来ない自分が許せないっていう溜息だ。これで100回位は吐いたんじゃないか?」

「おおっと、雪姫さんは相変わらず辛辣だねぇ」

 

 あやかを心配する茶々丸とさよ。鼻で笑い飛ばす雪姫に苦笑いを浮かべる和美と反応はそれぞれであるが

 

「いえ、エヴァンジェリンさん、今は雪姫さんでしたわね。雪姫さんの言う通りです。この世界に来てから私1人では何も出来ないと強く実感され、そんな無力な自分が許せないんです」

「そんな! あやかさんはネギ先生の為に色々と尽くしているじゃないですか! あやかさんのおかげでネギ先生も嬉しいはずです!」

 

 さよは落ち込んでいるあやかを必死にフォローしているが

 

「いえ、それは結局それしか出来ないと暗に示しているだけです。私はアスナさんや刹那さんのように戦う力もなければ、このかさんのように癒す力も持っていない。私は役立たずですわ」

「……っチ」

 

 いい加減自分を卑下するあやかを見て鬱陶しくなった雪姫は隠さず大きな舌打ちをし、そこまで言うならとことん言ってやろうかと思ったその時

 

「たっ大変やよみんな!!」

 

 休憩に入った亜子が血相を変えて飛んできた。

 

「今聞いたんやけど、ネギ君が外で襲われて大怪我したって! それも腕がちょん切れるほどの!!」

「なっ、なぁ!?」

 

 ネギが大怪我、更に腕が切断されたと聞いてあやかは音を立てて席から立ちあがった。

 

「マギさんが言うにはネギ君の腕はちゃんとくっついて動けるようになるから心配は「ネギせんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!!」ちょ!? いいんちょ!?」

 

 亜子が最後まで言い切る前にあやかは絶叫しながらネギの元へ駆けていく。あやかのネギに対しての行動の速さに皆呆然としているが、雪姫だけは微笑みながら

 

「あるじゃないか。神楽坂や桜咲達に負けないほどの、坊やを想う”想いの強さ”がな……」

 

 あやかはネギが治療している手術室へ向かって走る。頭の中はネギの事で頭がいっぱいだ。

 

(ネギ先生、ネギ先生!! あぁおいたわしや! 私が不甲斐ないばかりにネギ先生だけが辛い目にあうなんて……!)

 

 別にあやかのせいではないのだが、今は自分が不甲斐ないばかりでネギが辛い目に会っているとしか頭になかった。

 そんなあやかの想いとは別に前方で言い争いをしているトサカと小太郎がいた。

 

「ただの才能にあふれた坊ちゃんかと思ったら意外と骨があるじゃねぇか。俺は見直したぜ」

「うっせぇわ! 俺らよりもへぼいくせに何上から目線で語っとんのや!」

「素直に褒めてやったんだ! それぐらい受け取れや!!」

 

 睨みあう小太郎とトサカの前をあやかが通り過ぎようとするが、あやかに気付いたトサカが止めようとする。

 

「待ちな。アンタがナギの関係者っていうのは知ってるが、ここからは拳闘士とここの関係者以外は立ち入り禁止ださっさと周り右して────「お退きなさい!!」もぺぇ!?」

 

 があやかの掌底がトサカの顎にクリーンヒットし、盛大に回転しながらトサカは顔からダイブしたのであった。

 あまりの光景に小太郎も吹き出して

 

「おいトサカさんよぉ、あやか姉ちゃんに殴り飛ばされた気分はどうや?」

「うっせぇ、黙ってろ……がく」

 

 当たり所が悪かったのかそのまま気絶してしまったトサカ。自分よりも力がないであろうあやかにしてやられ、トサカの自尊心はズタズタになってしまいそうだった。

 

「おっと待ちなあやか姉ちゃん。トサカの野郎の言い方が悪いけど、こっから先は立ち入り禁止や。ナギの治療が終わったら病室に移動するからそこで会うんやな」

「話してください! 私は今すぐにあの人の元へ!」

「大丈夫や。こっちの世界の医術はあっちの世界よりも何倍も凄い。何せ斬られた腕が元通りになるんや。あいつが心配なのは分かるけどな、今はあいつが無事に怪我が治ることを祈っておこうや」

 

 小太郎の説得で漸く落ち着きを取り戻したあやかはネギの元へ突撃することを諦めてくれた。今はネギの手術が何事もなく終わるのを祈るだけであった。

 というか、これではトサカの殴られ損であるが、それに対して誰もツッコミはなかったのであった。あわれトサカ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────あれ、ここ、は?」

 

 無事に手術が終わり、腕がくっつき腹の手術も無事に完了したネギはぼんやりと目を開けて、今の自分の状況を確認した。

 

(そうだ、僕はカゲタロウって人と戦って、でも届かなくて、それでラカンさんに助けてもらってそれから……)

「ネギ先生!!」

 

 自分が呼ばれたことにハッとして、見れば目を真っ赤に腫らしたあやかが自分を心配そうに見ていた。

 

「あやかさん……」

「よかったですネギ先生。今日はもう目覚めないかと心配で……」

 

 ネギが無事に目を覚ましたのを見て安堵したのか、あやかは止まっていた涙がまた流れだしてしまった。

 あやかが泣いている姿を見て胸が締め付けられる感覚に襲われネギは

 

「あやかさん……ごめんなさい」

 

 ネギは反射的に謝ってしまった。謝れた事にあやかは数回瞬きをしてしまう。

 

「何故、ネギ先生が謝るのですか?」

「僕は、この闘技大会に出れば少しは成長できると思いました。けど、僕は勝ち進んでも全く強くなっている実感も沸かなく、お兄ちゃんや師匠、父さんのような本物に辿り着けそうにありません。それに加えて僕は今日強者に会いました。その人に勝つことが出来なかった。そんな人に勝てないなら、僕はなんのためにここにいるんでしょうか。井の中でふんぞり返っているならいっそ────」

 

 それ以上は言えなかった。それを言ったら僕はもう立ち上がる事は難しくなるだろうとそう思ったのであった。

 あやかはどうすればいいのか迷った。もしアスナがここに居れば拳骨1回でネギのうじうじした状態を黙らせるだろう。

 しかしあやかはネギに拳骨とか平手打ちをするのは難しい。

 ならばどうするか、考えに考えた結果、あやかはこう言った。 

 

「でしたら、もうお辞めになったらどうですか?」

「え?」

「ネギ先生のお父様がこの世界では英雄だったからといって、ネギ先生も同じような道を歩む必要なんてないんです。そういった事はマギ先生や雪姫さんに任せればいいんです」

 

 あやかがもう強くなるのは辞めたらいいと言い、ネギは思わず目を点にしてしまった。魔法世界に来てから幾日か経ち、あやかは違和感を覚えていた。

 嘗ての麻帆良で見ていたネギの雄姿。その時は素敵だかっこいいといった感情が先走っていたが、魔法世界に来てからは確かに戦うネギを素敵だと思っていたが、今は心配の方が強くなっている。

 麻帆良の力により、麻帆良での出来事はごくごく当たり前の光景だと思われていた。だからこそネギが先生をやっていても、ネギがタカミチや超と戦っていた時も何重ものフィルターがかけられ、ただ単にネギがかっこいいとしか思えなかった。

 だが魔法世界に来てからは今まで何でもないと思っていた光景が、何重もフィルターにかけられた世界が、リアルな光景がそのまま目に焼き付けられた。ネギと言った幼い少年が何故傷つきながら戦わなければいけないのか。

 しかし、ネギが戦う姿を見て痛ましく思う反面、美しくいっそうかっこいいと思う自分も居たのは確かだ。

 その反面、ネギがこれ以上傷ついてもらいたくないのも事実。だからこそあやかはもうこれ以上ネギが辛い目に会わなくてもいいと説得しようとしている。

 対してネギは迷った。今まで迷った時はアスナ達に渇を入れられていた。しかしあやかのようにもう止めてもいいと優しく言われたことはなかった。

 もう無理をしなくてもいいのか。そうだ僕にはお兄ちゃんや師匠がいる。だったら僕が無理をしないでも……

 そんな事が頭をよぎった瞬間、フェイト・アーウェルンクスの事が頭をよぎった瞬間、ネギの考えは決まった。そう、ネギはどうしようもない負けず嫌いな所もあるのだ。

 

「あやかさん、僕を心配してくれてありがとうございます。けど、僕は一度決めたことにもう逃げることはしたくないです。例え僕の体を傷つけることになっても」

 

 改めて決意を固めたネギ。そんなネギを見て、ふっと微笑むあやか

 

「そうですね。ネギ先生は一度決めたら最後まで突き進む。そんな所が素敵ですからね」

「あやかさん?」

「私はそんなネギ先生が好きですから」

 

 好き、それを聞いてネギは目を点にしたが、次には顔を赤くしてしまう。

 

「えっとあやかさん、好きっていうのは」

「前まではネギ先生を弟のように想い接していましたが、こんな状況になってから不謹慎ですが、凛々しいお姿に、その魅力にまたも陶酔してしまいました。雪広あやか、改めてネギ先生の事を恋、慕っておりますわ」

「あの、あやかさん、その、えっと……」

「ネギ先生……」

 

 あやかの艶っぽい目にネギはドギマギしてしまい、流れ的にこのままキスをする流れになりそうだ。

 がそんな空気を読まずに

 

「ネギ君、いいんちょ~大丈夫? 一応ネギ君の着替えを持って来たんだけ」

 

 夏美が扉を開けて、ネギの着替えを持ってきたら目の前の光景を見てしまい、固まってしまうと

 

「えっと……ごゆっくり~」

 

 それだけ言うと扉を閉めてしまった。せっかくいい雰囲気(あやか目線)になりそうだったのに夏美のせいで台無しになり、あやかは夏美を追いかけて病室を後にした。

 

「夏美さあああん!! こんな事言うのも不謹慎ですが、もうちょっと空気を読んでくださいまし!!」

「ご、ごめんっていいんちょ! 許してぇ!!」

 

 2人の声がドップラー効果で段々と聞こえなくなる中

 

「あやかさん……」

 

 仮契約ではないキスを迫られ、呆然としながらあやかの名を呟くネギであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、医療技術によってもう歩けるまでに回復したネギは沈みゆく朝焼けを見ながら、切断された自身の腕の縫合部分を見る。もう神経も繋がっており指も動かすことが出来る。流石は魔法世界の医療技術だ。

 

「ネギ先生」

 

 千雨の呼ぶ声が聞こえ、振り返ると千雨と茶々丸と小太郎が居た。

 

「千雨さん、茶々丸さん、コタロー君」

「おう随分と堪えたみたいだな。けどあんまり心配させんなよ」

「はい、ご迷惑をおかけしました」

 

 頭を下げるネギに千雨が軽く小突いた。

 

「神楽坂の代わりだ。アンタは無茶しすぎだ。無理な時はさっさと負けを認めて次に勝てるようにしろよ」

「はい!」

 

 千雨の説教もしっかりと受け止めた。ま、分かってるみたいだからこれ以上は言わないでおこうかと思った千雨である。

 

「そんなネギに朗報や。さっき念報やけどアスナ姉ちゃんと刹那姉ちゃん達から連絡が入ったで」

「! 本当!?」

「生放送から4日経って初めての収穫だな」

 

 念報はかたごとであるが、アスナと刹那が無事だという事が伝わった。

 それだけ聞くとさっそくネギ達は行動に移すのであった。マギ達に直ぐに知らせて、さっそく捜索隊を結成することにした。

 

「ほほぉーこれが捜索ルートか。ホンマに世界一周やなぁ」

「人口密集地は大方カバーしています」

「これで駄目ならその後虱潰しで」

 

 空港内で世界地図を見ながらまじまじと呟いた小太郎に茶々丸と和美が答える。捜索隊は茶々丸と和美(少女スタイル)が担当することになった。

 

「この旅費でこれまでのお二方とマギさんとマスターのファイトマネーを消費してしまいました」

「ま、世界一周の旅費じゃしゃーないな」

 

 ぼやく小太郎。けどこれで仲間が見つかるなら安いものだろう。

 

「けど、こんな広い所を探すのに空の上から位置を確認するだけじゃ意味なくない? 朝倉」

 

 夏美の素朴な疑問に何処か嬉しそうに和美がポケットから取り出す。

 

「ふっふっふ! そこで御登場となるのが本作戦の目玉、これさ! じゃじゃーん! 仮契約カード!」

 

 それは和美の仮契約カードであった。カードの登場に一般人組のアキラと夏美、そしてあやかは首を傾げていた。

 和美は千雨が電子関係のカードが出てきたから自分は情報収集関連のカードが出ると読んでおり、それがドンピシャだったわけである。

 アーティファクトは『渡鴉の人見』。スパイアイテムである。

 最大6体のスパイゴーレムを超長距離まで遠隔操作可能とのことである。色々と制限はあるらしいが、それは相方のさよの協力をもって補うとのこと。

 これさえあれば仲間の捜索の力添えになるだろう。

 

「それはすげえがお前何時仮契約をしたんだ!?」

「えー? 一週間前ぐらいかなー」

「何時の間にやったんだよ! それに仮契約はあのオコジョが居ないと出来ないはずだろ!」

 

 千雨が和美に追求するが、和美はあっさりとカミングアウトとした。

 

「やったって何を?」

「やったちゅうのはこのボケネギが和美姉ちゃんとキスしたって話や」

「「ええ!? キス!?」」

 

 夏美とアキラは驚き、あやかはネギが和美とキスをしたという事を聞いて固まる。

 

「ここには仮契約屋あってね。まぁネギ君にお願いして、仮契約をしたって所さ。そんで記念に撮ってもらったのが、私の仮契約シーンの写真ってわけさ!」

 

 写真には和美とネギが仮契約のキスをしている所が激写されていた。ドッキリ大成功みたいな感じで笑っていた和美だが背筋が寒くなるのを感じ、振り返ると目が据わっているあやかが和美を見下ろしていた。

 

「和美さん、貴女ネギ先生と何をしたんですか?」

「ちょ! ちょっとストップいいんちょ! あたしは仲間を見つけるために協力したいと思ってネギ君に頼んだんさね」

「本音は?」

「自分のアーティファクトがどんななのか興味本位でもありました」

「和美さぁぁぁぁん!!」

「堪忍していいんちょぉぉぉぉぉ!!」

 

 怒りで和美を追いかけ回すあやかであった。

 

「なんやキスぐらいでうるさいやっちゃ。ネギなんて和美姉ちゃん以外にもやってるやろが」

「ちょ! コタロー君!」

 

 更に小太郎がカミングアウトをしたことで、和美を追いかけていたあやかが足を止め、小太郎の方に駆け寄り、小太郎の肩を思い切り揺すった。

 

「コタロー君どういう事ですか!? ネギ先生は和美さん以外にもあんなことをしたんですか!?」

「痛いわ! ネギの事になるとなりふり構わず過ぎるやろあやか姉ちゃん! 茶々丸姉ちゃん他に誰がネギと仮契約してんや?」

「ネギ先生はまず最初にアスナさん、次にこのかさん、次に刹那さんハルナさんそして和美さんと計5人がネギ先生と仮契約を行っています」

「そんな、もう5人とキスをしてるなんて……!」

「あの、アキラさん、それについては」

「因みにマギさんはのどかさん、夕映さん、千雨さんに亜子さんの4人と仮契約をしています」

「あの、茶々丸、何で俺の仮契約もカミングアウトしたんだ?」

「そんな亜子とキスをしておきながら、他の人ともそんな事を……不潔だネギ先生マギさん!」

 

 不潔と叫びながら走り去るアキラに何とか弁明をしようとするネギに、アスナ達とも仮契約のキスをしたことを聞いてショックで膝から崩れ落ちるあやか。

 

「まったくキスぐらいで騒いであほらしいわ」

「いいなぁ」

 

 そんなドタバタ劇を鼻で笑う小太郎にそんな仮契約を羨む夏美であった。

 なんてドタバタ劇を繰り広げていたが、搭乗時間が迫って来た。

 

「そんじゃそう言う事だから、行ってくるよ!!」

「行ってまいります」

「和美さん茶々丸さん、お願いします!!」

「皆の捜索頼んだで!」

「そっちも、借金返済頑張りなよ」

「茶々丸、みんなの事を頼んだ。けど、君も無理はしないでくれ」

「はい、マギさんもどうか無茶はしないでください」

 

茶々丸の頭に優しく手をのせるマギ。そんなマギをぽーっと見つめる茶々丸だが、直ぐにハッとして

 

「千雨さん、マスター、どうかマギさんの事をよろしくお願いします」

「あぁ分かってるって茶々丸さん。あたしらでマギさんの事は見てるから」

「マギの事は心配するな。お前は捜索だけに専念すればいい」

 

 一時の別れの挨拶を済ませ、空飛ぶクジラの飛行艇に乗り込んだ和美と茶々丸。彼女らが乗った飛行艇見えなくなるまで、見送るマギ達。

これからどうするか、ネギはもう決まっていた。

 

「コタロー君、僕は」

「分かっとる。何とかっておっさんの所に行って稽古つけてもらいに行きたいんやろ?構へんで。行ってこいや。出場権は任しとき」

 

小太郎はネギが考えていたことが分かっていた。だからこそ任せろとそう言い切ったのだ。

 

「コタロー君……ありがとう」

「その代わり、しっかりと強ようなってこいよ。お前の新必殺技、見れるのを楽しみにしとるからな。けど俺は実戦の方が成長するのが早いんや。うかうかして俺に抜かれない様にするんやな」

「うん、分かった。楽しみに待っててね」

 

そう言って、ネギは小太郎と拳を合わせた。威力が強すぎて拳圧で千雨が飛ばされそうになっているが。

そしてマギも雪姫に向き合った。

 

「雪姫、俺もラカンって人に会ってくる。あの人どうやら闇の魔法に詳しいみたいだし、若しかしたら何かヒントか収穫を得られそうだから、頼む俺も行かせてくれ」

 

マギは雪姫に頭を下げた。雪姫はマギには行くなと言いそうであった。闇の魔法は自身が編み出したものなのだから別に行かなくてもいいだろうと言われる可能性はあると思っていたからだ。

けどラカンの元へ行けば何かが掴めるかもしれない。マギの勘はそう囁いていた。だからこそ、マギは頭を下げる。そしてその答えは

 

「いいぞ、行ってこい」

「本当に良いのか?」

「あぁ、あのバカは文字通りバカだが戦いのセンスはある。それにあいつも闇の魔法の事は知っている。発案者の私が分からない見落としの点を見つけているかもしれない。お前が闇の魔法の魔法をあんな簡易的なもので制すのではなく、本当の意味で闇の魔法を制する事が出来ればお前は更に強くなれるだろうさ」

「ありがとう。けど、俺が行って出場権は大丈夫なのか?」

「あぁそれには心配するな。あのトサカが言っていたが、『座長がお前の相方のネギはもう充分戦ったから出場権はやるとよ。けどアンタは今まで何もしてないから、ネギに釣り合う奴なのか今後はアンタ1人で相手をしろってよ』との事だ。だからお前は心配するな。私1人でも出場権は手に入れられるさ」

「いや、それは心配してないんだが、相手を殺したりしないか?」

「心配するな。苦しませないで楽にさせてやるさ。ふふ」

 

いや、そのまま殺しそうなんだがというツッコミは皆飲み込んでおいた。何はともあれマギの出場権は問題なさそうだ。

千雨が雪姫に進言する。

 

「雪姫さんよ。マギさんの同行に許可してくれないか?マギさんの事だ絶対何か無茶をしそうだからな」

「好きにしろ。私としてもマギに何かあれば気が気でないのは確かだからな」

 

千雨がマギの修行に同行することになり……

 

「雪姫さん、私もネギ先生に同行したいです!」

「あー好きにしろ好きにしろ。お前が居ても居なくても正直変わらないからな」

 

ちょっと適当に相手をする雪姫。

こうしてマギに千雨、ネギにあやかが同行することになり、ラカンの居る場所へ向かう事になったのであった。

 



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最強に弟子入り!

まずは謝罪から入られせてもらいます
今回凡ミスで話をすっ飛ばして投稿してしまいました。
ということで今回は『オスティアへ向かえ!』と2話分投稿します。
変な投稿をしてしまい申し訳ありませんと同時に今後も私の作品を見ていただければ幸いです。



 マギとネギは街から大きく離れた場所で年齢詐称の魔法を解除し、何時もの姿へと戻る。その傍らには同じく姿を15歳に戻した千雨(獣耳)とあやか、そしてマギウスが居る。

 向かうはラカンの元である。

 

「その、ラカンという方はどういう人なんでしょうか?」

 

 あやかはラカンの事は何一つも知らないので、マギ達に聞いてみる。

 

「本当だったらメガロメセンブリアのゲートポートで会う予定の人でした。けどあの事件のせいで会えずじまいでした」

「それがあの事件で会えずじまい。この前会ったのか偶然なのか、はたまた俺たちの事を闘技大会で知ったのか、まぁ真相は分からずじまいだがな」

「あたしも見たけど、正直強いんだろうけど、胡散臭いというかいい加減というか、正直信頼出来るかは難しいな」

「まぁクウネルさんとは違ったベクトルって感じだな。でも悪い人って感じではなさそうだ」

 

 マギと千雨はラカンと少し話してはいるので、その中での彼の事をそう説明した。

 道中襲われない様に警戒しながら、マギ達はラカンが居るであろう場所に到着した。そこは何かの遺跡のようで、巨大な塔とオアシスの景観が中々の絶景となっていた。

 

「まぁ、素敵な所ですわね」

「このオアシスにラカンさんが」

「まぁ探してみるか」

「そうするか」

 

 オアシスの中に入り、ラカンの姿を探す。

 暫くオアシスの中を歩いて湖に到着した。そしてその湖畔にラカンが湖に向かって立っていた。

 その姿には闘気が満ちており、真剣味を感じる。マギ達が来るまで修行でもしていようというのだろうか。すると

 

「覇王!!」

 

 突如ラカンが叫びながら妙な構えをし始め

 

「炎……熱……」

 

 と思いきや今度は腕を前に出してスライドしたと思いきや

 

「轟竜!! 咆哮!!」

 

 空を切り、殴り

 

「爆烈閃光魔神斬空羅漢拳!!!」

 

 かなり長い技名であろうものを叫びながら正拳突きをするラカン。長い技名で正直語呂も悪いが威力は本物で拳圧だけで湖の水面が轟音を出しながら爆ぜた。

 あまりのでたらめな力にネギ、千雨、あやかは呆然としており、マギも黙ってラカンを見ていた。

 

「……くッ!!」

 

 こちらに気付いていないラカンは納得しておらず歯を食いしばっていた。

 

「……葱拳!! だめだ! これも語呂が悪い! それに決めポーズに入る時間もねぇ!!」

 

 その後も何か叫びながら正拳突きを続けるラカン。湖は何度も爆ぜている。

 

「駄目だ駄目だ! こんなネーミングじゃとても俺印の必殺技は名乗れねぇぜ!!」

 

 と何処から持ってきたのか黒板に必殺技の名前を書き殴る。やってる事はおふざけにしか見えないがいたって本人は真面目であった。

 

「クソ! そろそろ締め切りだ! だが燃えてきたぜ! そもそも漢字に拘りすぎたのがまずかったか!? それに普通な右ストレートっていうのも味気ねぇ! なんかないのか斬新な……ホラあんだろうがどっかのうんちゃら破みたいにビームみたいなのを出す、そうそれこそ全身で……」

 

 そして何かを掴んだのかピタリと止まるラカン。そんなラカンを何処かドン引きな目で見ている千雨。

 

「全身、そうだ! それだよ!!」

 

 そう言ってラカンはまた何か必殺技を繰り出そうとしている。

 

「エターナル────」

 

 無駄に洗練された無駄な動きでポージングをしながらラカンは全身に魔力をため

 

「ネギッ フィーバー!!」

 

 体を大文字にし、まさに全身から出た魔力の奔流がそのまま遺跡の小山に当たり、次の瞬間には魔力が爆ぜて小山を包み込んでしまい、小山のてっぺんを消滅させてしまった。

 爆風の風圧で飛ばされそうになるが、呆然としながらラカンのめちゃくちゃなバグっぷりに声が出ない千雨とあやか。

 

「お、おぉぉぉ……テキトーに全身から光線を出してみたが、まさかこれ程の威力とは」

 

 しかもテキトーに出したというぶっ飛び具合にもうこれ以上考えるのはよそうと思った千雨であった。

 

「完成だ! 奴の息子、ネギへの新・必殺技がな!!」

 

 頼んでいないのに勝手にネギの新必殺技を思案していたラカン。あまりのはじけっぷりにかえって心配になる千雨。本当にこいつに修行をしてもらって大丈夫なのだろうか

 

「ネギ先生、本当にあの人に師事していただいて大丈夫なのでしょうか?」

「あたしも反対だ。ああいうタイプはこっちの都合を考えないで事を進めるタイプだ。下手な事しないで本来の目的の親父さんの情報を聞いてずらかろう」

 

 あやかは心配になる。今までにない破天荒な振舞ぶりを見せるラカンを見て千雨もラカンと付き合うのは止めようと反対する。が当のネギは

 

「あやかさん、千雨さん覚えていますか? 今の僕に足りないのはアホっぽさという事を」

「え、えぇそうコタロー君が言っていましたわね」

「おいネギ先生まさか」

「今、僕が師事するとしたらこの人しかいない気がします!!」

 

 ネギの決意は固いようで、今すぐにラカンに師事してもらおうとしていた。

 

「ちょ! マギ先生! ネギ先生を止めてください!!」

「そうだよマギさん! このままだとネギ先生がバカっぽくなるぞ!!」

「いやぁ、こうなったらネギももう止まらねえだろ」

 

 だから諦めろとと優しくあやかと千雨に言い聞かせるマギであった。

 

「ラカンさん!」

 

 ネギはラカンへ声をかける。ラカンもネギの声でネギに気付いたようだ。

 

「おぉ! 来たな坊主! はっは正体はホントにガキだったみたいだな! さっそくだがお前専用の新・必殺技が今完成した所だ。今なら3割引きで特別に売ってやるぜ!!」

「いえ、その技はちょっと。ラカンさんしか打てなさそうですし……」

「えー何だよ金ないのか? ローンでもいいぞ?」

「そこまでにしてくれよラカンさん。今のネギじゃアンタのセンスには到底ついて行くのは厳しいだろうからさ」

 

 傑作なんだけどなと黒板に『エターナル・ネギ・フィーバー』と書いて使用方法も書いて残念そうにしているラカンにそう言うマギ。

 

「お前も来たなマギ。悪いがお前の新必殺はまだ作ってないんだ。すまん、出来上がったら詫びとして5割で売ってやるよ」

「魅力的だが遠慮するよ。アンタのセンスは凄いけど俺には到底理解出来なさそうだ」

 

 ちぇーと残念がるラカン。何というかとても分かりやすい人だなぁと思うマギ達。そんな事よりも

 

「ラカンさん、僕を、僕を鍛えてください! 僕に戦い方を教えてください! 時間がないですが強くなりたいんです!」

 

 ネギがラカンへ弟子入りを懇願し、ラカンもフッと笑みをこぼしながら

 

「俺の修行はキツイぜ。それでもやるかい?」

「構いません! どんな修行でも耐えて見せます!!」

 

 間髪入れずに耐えると宣言したネギを見て、笑いながらネギの頭に手を置いてわしゃわしゃと力強く撫で回した。

 

「随分素直な奴じゃねぇか。奴とは正反対だな。タカミチの言った通りだな。それでお前さんはどうするんだマギ?」

「あぁ。俺も頼みたい。それこそアンタを超えられるぐらい強くならねぇと俺はまた大切な者を護り切れない。それだけはもうたくさんなんだ」

「マギさん……」

 

 まだ皆を護れなかったことを引きずっているのか千雨が心配そうにマギを見ると

 

「はっはっはっはっは! 俺を超すと来たか!! いいぜ! それぐらい大きく出ないと面白くはねえわな!!」

 

 そう言ってラカンはマギの背中をばんばん叩く。あまりの威力にマギは前のめりに倒れそうになるのを踏ん張ってラカンを睨みつけた。

 

「あのーラカンさん、僕も今まで以上にもっともっと強くなりたいんですが……」

「いいぞいいぞ! お前らそん位欲張りなほうがこっちも面白い! 気に入ったぜぼーず共!!」

 

 強さに欲深いマギとネギが面白いのか豪快に笑うラカンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から20年前、魔法世界では未曾有の危機に瀕していた。

 些細な誤解と諍いから始まった争いが世界を南北に分けるほどの大きな戦へと発展してしまったのだ。

 そんな争いから無辜な民を護るために、颯爽と現れた男たちが居た。名は『紅き翼(アラルブラ)

 そのリーダーこそ、マギとネギの父であり、言わずと知れたサウザンドマスター、ナギ・スプリングフィールド。若干14歳で千の呪文を操ったという最強の魔法使い。

 このかの父であり、神鳴流剣士の近衛詠春。元政府側にいた無音拳の使い手ガトウ・カグラ・ヴァンデンパーク。その弟子であるタカミチ。その他etc.

 そして千の刃の男であり、伝説の傭兵剣士。自由を掴んだ最強の奴隷剣闘士。サウザンドマスターの唯一にして永遠の好敵手。勝敗は498対499。

 

『敵が多すぎるぜ』

『あぁ』

『二手に分かれるか』

『だな』

 

 敵に囲まれながらも不敵な笑みを崩さないナギとラカン。

 

『無茶やってくたばるんじゃねえぞガキ。てめぇとの決着はまだついてないんだからな』

『あんたこそなジャック』

 

 互いの健闘を祈りながら敵に向かって突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

「────そう、それが俺ジャック・ラカンだ!!」

 

 上記の『紅き翼』の説明はラカンの語りであり、あやかとネギは拍手をしながらラカンの話を聞いて、千雨は退屈そうに溜息を吐いてマギは黙ってラカンの話を聞いていた。

 

「なんだ、嬢ちゃんは興味は薄そうだな」

「まぁあたしはそこまで興味ないっていうか、まぁアンタの事だから多少盛ってるんじゃないかと思いながら聞いてたところだけどな」

「ぼっ僕は興味あります! 父さんの永遠のライバルっていう話だったですけど、もっと詳しい話を聞きたいです!」

「ダメだ」

 

 間髪入れずにダメと言われショックを受けているネギをからかうように

 

「俺の昔話を聞きたいならタダじゃあ聞けないぜ。10分聞いて100万は貰わねぇと割にあわん。それぐらい俺の昔話は大スペクタクルだからな」

「ええ!? 100万!!」

「んな昔話で100万ってぼったくりじゃねぇか」

「心配ご無用ですわネギ先生! 100万程度ならこの雪広あやかがお支払いいたしますわ!」

「落ち着けあやか。俺らの事なんだからそんな大金を請け負う必要は無いんだぞ」

 

 令嬢であるあやかがそれぐらい払ってやると暴走しそうになったところをマギが止めた。

 一回昔話は置いておいて、千雨が何故ラカンがメガロメセンブリアに来なかったのか聞いてみた。

 

「ラカンさん、アンタはあたしらがこっちに来た日に会う予定だったんじゃないか? それが何でこんな田舎に居るんだよ?」

「あぁそうれなぁ。実は……すっぽかした」

「「ええ!?」」

「いやすっぽかしたって……」

「いやホラメガロメセンブリアって遠いじゃねーか。それにだりーし、メガロメセンブリアって名前も長いし」

「名前が長いって理由にならねえだろ」

 

 堂々とすっぽかしたとのたまったラカンにネギとあやかは目を見開いて驚き、すっぽかしたラカンに呆れる千雨に、変な言い訳をするラカンにツッコミを入れるマギ。

 

「タカミチからの連絡でナギの息子が来るっていうからそりゃ行こうと思ってたんだけどな。何分10年は隠居してたから人里に出るのがおっくうでよ。と思ったらお前らの方から近くまでやって来やがった! いや、人間万事塞翁が馬! 何が起こるか分からねぇな!!」

 

 またも豪快に笑いながらネギをばしばし叩くラカンにもう千雨の信用度はゼロに等しかった。

 

「ごっ豪快な方なんですね」

「いやただ単に無責任なだけだろ。約束すっぽかした最低野郎じゃねえか」

「何というか、クソ親父の友達って、皆癖が強いんだな……」

 

 はぁと深いため息を吐くマギと千雨とあやかであった。3人のしらっとした視線に気づいたラカンはその空気を払拭するかのようにネギと対峙し

 

「そんじゃあいきなりだがテストでもするか。お前の力を見せて見ろ。全力で俺の腹を撃ってこい!!」

「はっはい! でも……」

 

 構えるがいきなりラカンの腹を撃てと言われて戸惑うネギだが

 

「いいから撃って来い! 情けないパンチなら修行はなしだ!」

「! はっはい!」

 

 修行は無しと言われ否応なしにネギは魔力を最大出力で解放するが

 

「違う!!」

 

 ラカンが求めていたのはそれではなかったようだ。

 

「闘技場で使っていたあの技、あれが今のお前の必殺技なんだろう? あれだ、あれを撃って来い」

 

 桜華崩拳、あれを所望しているようだ。しかしネギは戸惑う、闘技場で出していた時はかなりセーブしている。

 

「それにネギ先生はこっちに来てかなり力を付けてきてるし、学園祭で高畑先生と戦っていた時よりも威力は上がってるはずだろう。本気でやったらいくらなんでも」

 

 千雨もラカンがただじゃすまない事を危惧しているが、ラカンは不敵な笑みを浮かべている。

 

「嬢ちゃん、俺をタカミチみたいなぼーやと一緒にするんじゃないぜ。いいかぼーず、俺はお前の親父よりも強いとは言わねぇ。まぁ同じぐらいなのは確かだがな。で、お前が憧れている親父がお前みたいなひよっこがちょっと思いついて編み出したオリジナルの技でくたばるようなやわな奴だと思うか?」

「ッ!」

「どうだぼーず、最強の魔法使いっていうのがどういうものか試してみろよ」

「ああああ!!」

 

 迷いが無くなったのか、ネギは100は超えるだろう魔法の矢を右腕に収束する。ラカンもネギの力に感心しているようだ。

 

「ネギの奴あれ程までに魔法の矢を収束することが出来るようになったのか……!」

 

 マギもネギの成長具合に感心して、そして

 

「桜華崩拳!!」

 

 ネギの今出せるであろう最大威力の桜華崩拳がラカンの腹に直撃した。そのあまりの威力に衝撃がラカンの腹を突き抜け、そのまま先程ラカンが行っていた技と同じくらいに水面が爆ぜている。

 

「ネギ先生、物凄い力です!!」

「ネギもあれからかなり力をつけたみたいだな」

「というかあのおっさん大丈夫だよな。かっこつけた結果ミンチなんて結果になってないだろうな」

 

 水面が爆ぜた結果、濃霧のようになっておりラカンの姿が見えないせいで安否が分からずじまいだった。

 暫くすると目の前が晴れて、ぴんぴんしているラカンの姿が見えた。

 

「すごい! 無傷だ! さすがラカンさんだ────」

「ぐほぁ!!」

「ラカンさん!?」

 

 無傷というわけでもなく、口から盛大に血を吐くラカンに思わず吹き出すネギ。なんてことないただラカンがやせ我慢をしていただけであった。

 

「いてぇじゃねぇかコノヤロー!!」

「もろんぱ!!」

 

 さっきは本気で撃って来いって言ってたのに逆切れしたラカンのアッパーカットがネギの顎に入り、そのままネギは天高く打ち上げられてしまうのだった。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!! ネギ先生!!」

「あぁわりぃ! 大丈夫かぼーず!?」

「なぁマギさんや、あの人を師匠にして大丈夫かな」

「そうだな、俺も大丈夫か心配になってきたよ」

 

 ネギが殴り飛ばされ、あやかが悲鳴を上げ、ネギの魂が天に上るのを介抱して必死に押しとどめるラカンと、ラカンを師匠として師事して大丈夫かと心配になる千雨とマギと言った地獄絵図が広がっていた。

 というか、本当に大丈夫なんだろうか……

 

 

 

 

 

 

「────いやぁわりぃわりぃ! 反射的に殴っちまったぜ。まぁ合格だ。俺に血反吐を吐かせるなんて大したもんだぜ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 皆の介抱のおかげで一命を取り留めたネギは無事にラカンの弟子入りを果たした。次はマギである。

 

「よしマギ、お前も俺の腹を全力で撃って来い! ……って言いたいだけどな、お前の本気の一撃を喰らったら流石の俺もただじゃあすまないかもしれねえ。だから、さっき俺が消し飛ばしたあの小山に向かって撃て」

「……分かった」

 

 マギは四つん這いになり、神経を集中する。何度これを使っていても邪念や雑念が混じってしまうと意識が持っていかれてしまいそうになるからだ。

 

「SWITCH ON BERSERKER LEVEL……40!!」

 

 マギの体が闇の魔法を纏い、力が段々溢れてくるが

 

「もっとだ! マギ、お前それはまだ自分でも抑えられるだろう? 俺が求めてるのはお前の限界、ギリギリの限界だ。それを俺に見せてみろ!」

「っ! ふざけんなおっさん! アンタ何も知らねえから言えるんだ! その魔法は少しでもレベルがマギさんの心身を不安定にさせるんだ! あたしや雪姫さん達が心配してるのを知らないで勝手な事言うのも大概に────」

「いいん、だ千雨……」

「! マギさん!?」

 

 責め立てようとする千雨をマギが止める。

 

「ラカンさんの言う通り、だ。俺は今から強くなろうとしてるのに、俺自身の限界を見せないで何が強くなるだ。ただ、ラカン、さん」

「何だ?」

「俺が暴れたら容赦なく止めてください」

 

 ふっとラカンは笑いながら

 

「あたぼうだ。ガキの癇癪を止めるのは大人の役目だ。だから、思い切りぶちまけてみろ」

「ありがとう、ございます。すうぅぅぅぅ……LEVEL……60!!」

 

 マギは今自身が出せる限界値60まで上げた。身体中に激痛と不快感が駆け巡り、マギは押し潰されそうになるが

 

「UUUUUUUUU…………GAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 雄叫びを天に向かって吠え

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト!! 来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎!!」

 

 マギの右腕に闇の業火の魔力が集まる。今まで見たことない程の禍々しさだとネギが旋律していると

 

「……やっべぇ、ちと煽りすぎたか」

「ラっラカンさん?」

 

 冷や汗を流すラカンを見て不安になっていると

 

「ネギ、嬢ちゃん2人俺に掴まれ。いいか絶対に離すんじゃねえぞ!!」

「え、ええ?」

「おっさんやっぱやらかしたじゃねえか!!」

『ちう様私が壁となります』

 

 あやかは今一状況を読み取れず、察した千雨は大声でラカンを貶しながらもラカンに必死に掴まる。そしてマギウスに障壁展開のコマンドを送り、マギウスは両腕から魔法障壁を展開した。

 ラカンも自身のアーティファクトの『千の顔を持つ英雄』で剣のシェルターを作った。そして

 

「闇の業火!!」

 

 マギの右腕から今まで見ない最大の大きさの力強い闇の業火が放たれた。

 そして、形だけを保っていた右腕のガントレットは

 ばきんっと鈍い音を立てて砕け散り、残骸がパラパラと落ちていく。

 闇の業火は真っ直ぐ小山に向かっていき、そのまま直撃すると

 先程のエタノール・ネギ・フィーバーが霞むほどの爆音熱量とキノコ雲が立ち上った。

 

「「「────────────!!!」」」

 

 ネギ、あやか、千雨が悲鳴を上げているが、轟音のせいで聞こえなかった。

 暫しマギの放った闇の業火の熱波と衝撃波に耐えること数分、剣のシェルターを解除して見た目の前の光景は

 

「「……………………」」

「いや、ここまで来たら戦術兵器じゃねえか」

 

 小山は完全に消滅しており、小山があった所には巨大なクレーターが出来ていた。

 

「……どうだラカンさん、俺の限界の一撃、ご満足いただけたか?」

 

 すんでのところで解除したことで、マギは何とか暴走することなく解除してからラカンと向き合った。

 ラカンは暫く黙っていたが、不敵な笑みを浮かべながら

 

「あぁ、上出来だ」

 

と満足げにそう答えた。こうしてネギとマギはラカンに己の今の限界の力を見せる事が出来たのであった。

一方ラカンの心情はというと

 

(……やばかったな。もしマジで暴れられたら俺の腕一本は代償になってかもな)

 

内心、おっかなびっくりの冷や汗ものであったという

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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強くなるために

「しっかしお前ら随分と妙な鍛え方をしてるな。誰に教えてもらったんだ?」

 

 マギが地表を荒地にするという大事をしでかしたが、特に何かがオアシスに来るといった大騒ぎになることは無く、暫く経ってからラカンがそう尋ねてきた。

 

「僕とお兄ちゃんは、師匠……エヴァンジェリンさんに教えてもらいました」

「俺はあのさっきの魔法も雪姫に色々と教えてもらった」

「なにぃ!? あのエヴァンジェリンだって? はっはっは、道理でな。それとマギ、お前が言った雪姫ってなんだ?」

「俺がそう呼んでる。雪姫はこの世界でも狙われているからな。下手に本名を言ってばれちゃいけないから来る直前に俺がそう言う風に呼ぼうって決めたんだ」

 

 成る程なと納得するラカンだが、あることを思い出す。

 

「あの美人な姉ちゃんがエヴァンジェリンだとして、あいつ確かナギがかけた呪いのせいで学校に縛られたままじゃなかったか?」

「あぁ、それは前の俺がその呪いを解いたらしいんだ。ずっと学校に縛られているのは可哀想だと思ったんだろうな」

「まじか。それって結構適当な呪いだったはずだろ。それを解くとは流石はナギのガキってわけか」

 

 とそこで何かを察したのかにたにたといやらしい笑みを浮かべながら、マギの横腹を肘で小突き始めた。

 

「何だよ何だよエヴァンジェリンの奴、ナギの次はマギってか? しっかしナギと言いお前と言い気の強い女にモテるんだなぁ!」

「別にアンタが想像してるような関係じゃないよ雪姫とは。まぁ一緒には住んでるけど」

「何だよ同棲はしてるんじゃねえか。こりゃ秒読みって段階かぁ!?」

「むぅ……」

『ちう様気持ちを落ち着かせてください』

 

 ラカンが面白がっているのを見て心中穏やかじゃない千雨を宥めるマギウス。

 マギはラカンの態度に呆れのため息を吐き、ラカンは暫しマギを茶化すのを堪能してから何かを察して

 

「ていう事はあいつはマギが俺と修行をするって事を知ってるんだよな」

「そうだぞ。あの人はあたしら以上にマギさんを心配してるからな。言っとくけど、アンタがふざけた修行をしてマギさんが大変な目にあったら、あたしは一字一句溢さずにあの人に言うからな。まぁその時になったら止められなかったあたしにも何かしらの重い罰は課せられるだろうけどな」

 

 ラカンは過去の茶化して酷い目に会ったことを思い出す。なんやかんや言って彼女は自分と同等かそれ以上。何せナギが罠を仕掛けて騙し討ちをするぐらいなのだから。正面からやりあえば無事じゃすまないのが目に浮かぶ。

 

「……分かった! マギに対してはおふざけは無しだ!」

「ええ!? ラカンさん!?」

「えこひいきですわ!」

「うっせ! ネギには手を抜くとは言ってないだろ! 俺だって命は惜しい!」

(それにマギは下手をするとマジで危なさそうだからな。お遊び無しのマジな修行が良いだろう)

 

 あやかがブーイングをしているが、強制的に断ち切る。そして話を何故強くなりたいのかという理由聞きに強引に切り替えるのでった。

 

「それでネギ、改めて聞くがお前はどうして強くなりたい?」

「僕は、強くなって皆を護りたいです」

「弱いな」

 

 ネギのありきたりな強くなりたい発言を一掃するラカン。

 

「そんなよわっちい目標じゃねえだろ。お前の中には倒したい、越えたい相手がいる違うか?」

「……はい、僕は倒したい倒さなければいけない相手がいます」

「やっぱりな。俺に教えてみろ。口に出すと意識も固まってくるぜ」

「フェイト、フェイト・アーウェルンクスという少年です」

 

 その名を聞いた瞬間、ラカンの目の色が変わった。

 

「アーウェルンクス……そいつはまた、懐かしい名前だな」

 

 ラカンは遠い目をしながら思案顔に変わる。ラカン、もとい紅き翼もフェイトに強い因縁があるようだ。それを直ぐにネギも感じとり

 

「ラカンさん! もしかしてフェイトと何か関わりがあるんですか!? もしそうなら教えてください!」

「駄目だ。知りたかったら100万な」

「ええ!?」

「そんなご無体な!!」

「なぁマギさん、あれ絶対にネギ先生の事を思ってとかじゃあないよな」

「あの人の性格からして話すのが面倒とか、そういう感じだろうな」

 

 しかしフェイトの名を聞いてからラカンの目の色が変わったのも事実。ラカンは自前のキャスター付きの黒板を縦にして何かを書き出し始めた。

 

「あの、ラカンさん? 何を書いていますの?」

 

 あやかがおずおずと聞いてみると

 

「今から俺目線の強さを可視化したものを表にするのさ、その名を聞いたからには是が非でもぼーずを強くしないとな。が、それに伴いぼーずは今から辛い現実を見ることになる。それでもいいか?」

「はい! 構いません!!」

 

 まず最初に書いたのは0.5と書かれた、ラカンが描いたとは思えないようなデフォルトされた猫が描かれた。

 

「まずはこの猫が一番下だ。それに次はあやか嬢ちゃんは魔法は使えないんだろ? あやか嬢ちゃんが基準にすると、千雨嬢ちゃんは一応魔法は使えるんだろ?」

「一応はあの人に鍛えてもらいました。けどあたしはそこまで強くはない。あたしよりかはマギウスの方が強いはずだ」

『私のスペックは現在の兵器よりは上だと自負はしております』

「成程な、それじゃあ旧世界の現用兵器をこれ位にして、ぼーずはこれ位で、カゲタロウはこれ位それでマギはこれ位、タカミチはこれ位だが、あいつは本気をあんまり出さねえからなぁ」

 

 こんなもんかと表が出来上がった。

 一番下から

 

 0.5 ネコ

 1 あやか

 2 魔法使い(平均的魔法世界住人)

 3~50 旧世界達人(気未使用)

 100 魔法学校卒業生

 200 千雨 戦車

 300 麻帆良学園魔法先生(平均)本国魔法騎士団団員(平均) 高位と呼ばれる魔法使い

 400 マギウス

 500 ネギ

 650 竜種(非魔法)

 700 カゲタロウ

 ~~~~~~~

 1500 イージス艦

 

 という風に続いている。千雨は頭の悪そうな表を見ながら自分は一応戦車と同じだということにめまいを覚え、やはりカゲタロウの方が自分よりも強いという事を改めて実感したネギは渋い顔をしている。

 

「まぁこれは俺の主観で図った強さだからこれ位だろうって所だ。大体の物理的力量差だと思え。それに戦いってのは相性の問題だ。そっちのマギウスってロボットもイージス艦位は楽に落とせるだろ?」

『はい。私のスペックならイージス艦程度なら落とせると創造主も自負しておりました』

(落とせるんだなぁ。使い方誤らないように気を付けよう……)

「戦いには相性もあるが、その他に肉体や精神の健康状態、相手の油断、その場の環境、その他諸々……つまりは運も戦いに作用される。んで、ぼーずが倒そうとしてる謎の少年の強さは、これぐらいだろうな」

 

 ラカンはフェイトの強さを表に書き加える。ネギが気になっているフェイトの強さを見て、愕然とする。

 

 1500 イージス艦

 2000 タカミチ(本気かどうか怪しい)

 2800 鬼神兵(大戦期)

 3000 謎の少年(おそらくこれよりも強い)

 8000 リョウメンスクナノカミ

 

 イージス艦2隻分の強さを目の当たりにして、ネギとフェイトの圧倒的な力の差を痛感してしまうのであった。

 

「待ってください! ネギ先生は高畑先生に一度勝っています! 納得いきません!」

「それこそ環境やその時の状況だろうよ。言っておくがタカミチが本気の100%中の100%を出せば嬢ちゃん達が通っている学校はたちまち廃墟と化すだろうぜ。それにこの数字だって怪しいもんだ。あいつやベー時じゃないと基本本気出さねーからな。下手すると相手がぺしゃんこだぜ」

 

 確かにとネギも思い出す。学園祭の武道大会でタカミチと戦った時もどこか手加減とタカミチが油断して勝てたラッキーの勝利だったと。本気のタカミチと戦っていたら確実に負けていた。

 そんな手加減してくれたタカミチよりも、フェイトの方が上なんだと重い感情がのし掛かるのを感じた。

 と千雨がラカンに尋ねる。

 

「そう言えばマギさんが書かれてないけど、マギさんって今どれくらい強いんだ? まぁネギ先生よりかは強いだろうけど」

「千雨さん! ネギ先生の前でそんな……!」

「事実だろ? ネギ先生だってマギさんと差はあることは分かってるだろ?」

「はい……」

 

 ネギは力なく頷く。まぁ倒さなければいけないと思っている相手と力量差が開いていたら落ち込むよなとネギの心境は理解している積もりの千雨である。

 

「マギなぁ、さっきのを見てある程度分かった積もりだが、マギは力の振り幅が大きいからなぁ……」

 

 そう言ってラカンはマギの戦闘力を表に書き込む。皆が気にしてるマギの強さは

 

 8000 リョウメンスクナ

 2000~9999 マギ

 ~~~~~~~~~

 12000 ラカン(自称)

 

「9999!? っていうかおっさん何で自分だけ1万越えなんだよ!?」

「なんで俺だけ振り幅が大きいんだ?」

「お兄ちゃんあのリョウメンスクナよりも強いんだ。はは、流石だなぁ……」

「だっ大丈夫ですわネギ先生! ネギ先生は絶対に強くなれますわ!」

 

 千雨はラカンにツッコミを入れ、マギは首を傾げネギは乾いた笑みを浮かべあやかはそんなネギを必死に励ますのであった。

 

「仕方ねえだろ。俺は自分の強さに絶対的な自信を持ってるからな。そんで何でマギの強さの振り幅が大きいか。マギ、今のお前は未完成なスポーツカーだ。スペックは高性能なのにエンジンが不安定なせいで本来の力量を出すことが出来ていねえ。それこそまさに、あの闇の魔法擬きを使いこなせていないで、自分が扱える限界の下の力を使っていればそりゃ強くはなれねえだろうな」

「そうか……」

 

 ラカンに痛い所を突かれたがそれはマギ自身も承知をしていた。やはり自分は内なる力を乗りこなすしかないことを。

 

「それとネギ、お前とその謎の少年との力量差が分かった所でハッキリ言うと、正攻法で強くなるとしたら無理な話だな」

「っ……」

 

 無理と言われ下を俯くネギにあやか何を言えばいいのか迷っていたが、ラカンは呆れた溜め息を吐きながら

 

「おいおい、早合点するなよ。まともなじゃ無理だが、まともじゃない道ならないでもない」

「ほ、本当ですか!?」

 

 俯いていた顔を上げるネギ。

 

「ネギ、お前エヴァンジェリンに修行をしてもらってどの位経った?」

「えっと、3ヶ月位ですけど、師匠の別荘を使ったら7、8ヶ月は経っていると思います」

 

 それだけ聞くとラカンはニヤリと笑いながら

 

「ネギ、そしてマギ、お前らは親父のナギには似てねえ。どっちかと言うとお前らはエヴァンジェリン側の正反対の性質を持った奴だ。だからこそ、ネギはあいつが編み出した禁術、そいつを使いこなせるだろうな」

「師匠が編み出した禁術……まさか!?」

 

 あぁそのまさかだと肯定するラカンは

 

「闇の魔法、お前が手っ取り早く強くなるのはそいつを身につける他ねえ」

 

 そしてと今度はマギの方を向き

 

「マギ、お前はあの闇の魔法擬きは今後一切使わず、もう一度闇の魔法を己のものにしろ」

 

 そう言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マギとネギが最強(ラカン)に弟子入りしている間に別の所で自分なりに強くなろうとしている者がいた。

 魔法学術都市アリアドネー。学ぼうとする意思と意欲を持つものなら例え死神でも受け入れるを謳う、どんな権力にも屈しない世界最大の独立学園都市国家。

 そんな学園都市には皆成長するために生徒達が切磋琢磨していた。

 

「コレットも来るでしょー? 何時もの場所で待ってるね!」

「うん!」

 

 友人の女学生にコレットと呼ばれた獣耳の少女は友人が待つ場所に向かおうと準備した所で、ある少女を見つけた。

 

「あ、おーいユエー!!」

 

 呼ばれた少女はコレットと同じ制服を着た綾瀬夕映であった。

 

「あ、どうもですコレット」

 

 夕映はコレットに会釈する。コレットは笑みを浮かべながら夕映に近より

 

「これから皆と一緒に下の待ちでお夕食しない?」

 

 夕食のお誘いをしたが夕映は申し訳なさそうに首を横に振り

 

「ごめんなさいです。私は図書館に行ってまた調べものをしようと思ってるです」

「えー。折角の外出日なのに、残念だなー」

「誘ってくださってありがとうです。けど私はまだまだ知りたい事が沢山あるです」

 

 夕映が誘いを断るとコレットは残念がりながらも夕映の事を尊重するのであった。

 

「ユエはもう此処にはなれた?」

「はいです。コレットのおかげで少しずつですが慣れてきたです。ですが」

 

 そう言って夕映はポケットから白き翼のバッジを取り出し空へと掲げながら

 

「私はもっと強くならないといけないです。あの人のため、そして皆のために」

 

 決意を改めて口に出すのであった。

 何故夕映がここアリアドネーで生徒として活動しているのか、それは今から19日前、強制転移まで遡る。

 夕映は奇跡的にジャングルや無法地帯と言った危険な場所ではなくここアリアドネーに転移された。

 最初は強制転移に戸惑っていた夕映ではあるが、箒に乗って呪文詠唱の暗記で前を見ていなかったコレットがぶつかってきた。

 その時にコレットが持っていた杖に充填していた戦いの歌が半ば暴発で夕映にかかってしまい、夕映の魔力が勝手に全解放されてしまい、気を失ってしまいそのまま2日目を覚まさなかった。

 夕映が眠っている間は魔法を誤発動させてしまったコレットが自身の部屋にて責任をもって介抱をしてくれた。

 そして目を覚ました夕映に謝罪をしながら自己紹介をするコレットに面食らいながらも自身も自己紹介をする夕映。

 互いに自己紹介を終えてからは、コレットが夕映を見て貰うために先生の元へ向かった。

 

「それじゃあ診てみるわね。ちょっとくすぐったいけど我慢してね」

「はいです」

 

 夕映の体に魔方陣が展開され、ナース服を小さい妖精2人が夕映の体をぐるぐる回りながら検査をしていき、検査結果を教員に見せる。

 

「体に異常は無いようね。魔力にも問題なし。ただ……魔力が勝手に放出してしまうのはどうしてかしらねコレット?」

「うっ……すみません。私がぶつかった拍子に杖の魔法が暴発して」

「まったく、それで綾瀬夕映さん、だったかしら? 貴女は何処から来て何をしに来たのかしら?」

 

 溜息を吐いた先生は夕映に何故ここに来たのかを尋ね始める。

 

「はい、私は日本の麻帆良学園からやって来ました」

「日本、旧世界の国だったわね。それで貴女1人で来たのかしら」

「いえ、私以外に友人や先生と一緒に来たです」

「その先生というのは誰なのかしら? 教えてもらっても構わないかしら?」

 

 コレットはおや? と首を傾げる。先生の質問の仕方がまるで尋問に聞こえるからだ。

 

「マギさん、いえ、マギ・スプリングフィールド先生とネギ・スプリングフィールド先生です。あの、ナギ・スプリングフィールドの息子です」

「ええ!? スプリングフィールド!?」

 

 コレットは大声を出して驚く。先生はそんなコレットを注意するが、先生も驚いている様子だ。

 

「まさかあのナギ・スプリングフィールドに息子が居たなんてね。それで、何故ナギ・スプリングフィールドの息子がこの魔法世界に来たのかそしてユエさんは何故ここアリアドネ―に転移されたのかそれも教えてもらってもいいかしら?」

「はい。それは……」

 

 ナギの行方を捜すために魔法世界に来たら、フェイト・アーウェルンクス達に襲われゲートポートは崩壊してしまい、ゲートポートが暴走し強制転移で皆バラバラに飛んで行ってしまい、自分はここに飛ばされたことを全て話した。

 聞き終えた先生は黙っている。

 

「成程、嘘は言っていないようね」

「え? 先生、嘘って何ですか?」

「実はね、メガロメセンブリアからこんなのを送られたのよ」

 

 そう言って先生は魔法で空間に映像を展開させた。それはマギ達の写真が載った懸賞金の奴だ。

 

「ええ!? ユエも載ってる!? ユエってそんな悪い事をするような子なの!?」

「いっいえ! 私自身目の前のものを見てびっくりしてるです!」

「落ち着きなさい2人共。別に私はこのままユエさんをお縄に着けなんて酷い事はしないわ。実はさっきの検査の時に噓を見抜く魔法もかけさせてもらったわ。ユエさんが嘘を言えば直ぐに反応するんだけど、何も反応がないという事は、ユエさんは嘘を何1つついていない証拠よ」

「よ、よかったぁ」

 

 ほっと胸を撫で下ろすコレットと夕映。夕映自身知らぬうちに自分に懸賞金が賭けられたことにまだ驚いている。

 

「けど、どうして私にいえ、マギさん達にも懸賞金がかけられているんです?」

「それは分からないわ。けど、貴女達は何かしらに嵌められた可能性が高いわ。そこで何だけど、ここに居るつもりはないかしら?」

「ここ、アリアドネーですか?」

「ええ、ここアリアドネーは学ぶ意欲と意志を持つ者なら例え死神でさえ受け入れる。どんな権力にも屈しない世界最大の独立学術都市学園よ。ご友人やそのスプリングフィールド先生たちとの連絡が取れるか、こちらで情報が掴めるまで安心してここにいなさい」

「それは、ありがとうございますです」

 

 先生の温かい言葉に張っていた心が少しだけ和らぎ、少しだけ涙目になる夕映であった。

 

「よかったねユエ!」

「コレット、ありがとうです」

 

 まるで自分事のように喜ぶコレットに感謝の言葉を送る夕映。なんやかんや言って、今のコレットの存在は夕映にとって心の支えになっているのだ。

 

「あの先生、学びたい者は誰でも受け入れると言ったですよね」

「ええ、言ったわね」

「その、不躾であるのは重々承知してるです。ですが、私もコレット、いえコレットさんと同じ魔法騎士団候補生の授業を受けられないでしょうか? 最悪見学でも構わないです」

「ええ、ユエ、それは……」

「ふむ、一応理由を聞いてもいいかしら?」

 

 渋るコレット。魔法騎士団とは言わばエリート中のエリートであり、その中での精鋭『戦乙女旅団』はアリアドネー騎士団の華なのである。その反面授業、訓練共に厳しいものである。あまりの厳しさに涙を流し自ら辞退する者もいるという。そんな魔法騎士団の授業を何故夕映は受けたいのか。

 

「恥ずかしながら私は麻帆良でとある方に魔法のイロハを叩きこまれたです。魔法の事や戦闘の修行の御かげで幾段か強くなった自負はあったです。ですが、魔法世界に来て直ぐに敵に襲われた時は私は何も出来なかったです。せいぜい落ちてくる瓦礫を排除するのが限界でした。私はあの人がこれ以上傷つかないために強くなったはずなのに、あの人よりも強い存在はまだ居ることを痛感したです。私は出来る事なら此処でもう一度ゼロから学び、あの人のためにもっともっと強くなりたいんです」

 

 夕映の決意を黙って聞いていた先生は

 

「いいわOKよ。向学心旺盛な子はいつでも大歓迎! 掛け合っておいてあげるわ」

 

 サムズアップをするのであった。

 夜、改めてコレットの部屋でお世話になることになった夕映。コレットは夕映に箒と杖を渡してくれた。

 

「はい、杖と箒ね。ユエどっちも持ってなかったから」

「ありがとうですコレット」

 

 夕映は強制転移の時に杖が無くなってしまっていた。新しい杖を貰えるのは正直ありがたい。

 

「でも本当に大丈夫なのユエ? 魔法騎士団の授業本当に厳しいよ。それに私のせいだけど魔力のコントロールもあるし」

 

 検査後に去り際に先生に言われたことを気にしているコレット。

 

『ユエさん、貴女は今コレットが暴発させた戦いの歌が貴女を強化しているけど、その反面魔力が駄々洩れになっているわ。命にかかわるほど深刻ではないけど、気を抜いていれば直ぐにガス欠になるから気を付けてね』

 

 今の夕映は常に強化状態ではあるが、デメリットとして常に魔力が放出されてしまい、気を抜いてしまえば直ぐに行動不能になってしまう。現に夕映はコレットと話しながら魔力を抑えるといった器用な事を行っている。

 

「魔法騎士団も魔力のコントロールも今の私には必要な物だと思ったのが1つです。それに私は興味のあるものには意欲的なのが私です。そういうコレットはどうして魔法騎士団に?」

「だって魔法騎士団ってカッコイイじゃん! それに精鋭の『戦乙女旅団』は華だしちょーモテるんだから! 絶対になってやるんだって思ってるんだよね!」

 

 それを聞いて微笑む夕映。コレットは単純だと思われたのかと思ったが

 

「いえ、私のクラスメイトもそんな感じの人が多いので懐かしいなと思っただけです」

「そうなんだ! 私ユエのクラスメイトと仲良く出来そうだね!」

 

 と和気藹々と話していた2人だが、何かを思い出したコレットは話題を変えた。

 

「そう言えばユエ先生と話していた時に”あの人”ってよく言ってたけど、あの人って若しかしてユエの好きな人なの!?」

「うぇ!? えっと、その……はい、です」

 

 急に恋バナを吹っかけてきたコレットに戸惑う夕映だが、正直に頷く。それを見て勝手にはしゃぎ出すコレット。

 

「どんな人!? 若しかしなくてもさっき言ってたナギ・スプリングフィールドの息子さん!? どっちなの!?」

「えっと、マギさんです。その恥ずかしながら親友が最初マギさんを好きだったのですが、段々と私も惹かれていって、何時の間にか好きになっていたです」

「わーお青春だね! 親友と同じ人を好きになるなんて!」

「あ、因みにマギさんを好きな人は私を含めて9人位いるです」

「そんなに!? そのマギさんって人モテモテなんだね!」

 

 マギの話で盛り上がる夕映とコレット。その後はコレットが夕映からマギの事を色々と聞き出す質問攻めになったのであった。

 

「────それでマギさんは私達に向かって手を伸ばしてたです。あの時のマギさんの悲痛な顔は瞼に焼き付いているです」

「そっか、マギさん今頃自分を責めてるだろうね。でもマギさんのせいじゃないよね」

「そうです。マギさんは頑張っていたです。けど、マギさんは真面目な方ですから多分今も自分を責めてるかもしれないです。だから、私はここでもっと強くなって少しでもマギさんを安心させてあげたいのです」

 

 そう言って握拳を作る夕映だが次の瞬間には魔力が一気に放出してしまった。

 

「わー! ユエ抑えて抑えて!」

「ご、ごめんなさいです!」

 

 慌てて魔力を抑える夕映。かなりの魔力放出量に2人ともびっくりしてしまった。

 

「だったら私ユエの事を応援するよ! このまま魔法騎士団になれるように! それとユエの恋路もね!」

「ありがとうですコレット」

 

 その後消灯時間まで箒の浮遊の練習をする夕映とコレット。

 そして……

 

「コレット・ファランドールの遠い親戚、ユエ・ファランドールさんです。皆仲良く」

「よろしくです」

 

 コレットの遠い親戚としてコレットのクラスメイトの仲間入りを果たした夕映。何故偽名を使ったのか、それは昨日検査をしてくたかつコレットのクラスの担任の先生が

 

『本名で最悪身バレをしてしまうのはリスキーだから、だったらコレットの遠縁という事にしてしまえば怪しまれる確率はぐっと下がる』とのこと。

 

 会釈した夕映をクラスの皆は各々興味や怪訝、敵意と色々な感情で夕映を見ていた。

 席はコレットの隣となり、夕映はどっさりと魔法に関わる本を机に乗せた。

 

「すごいやる気だね」

「改めて基礎から学ぶのは大事なので、座学も全部吸収してやるです」

 

 そして夕映のアリアドネーでの学生生活が始まり冒頭に至り、そのまま時が流れて行った。授業は座学には旧世界についての事や魔法薬の実験、数式や文語等色々な授業を吸収していった。

 そしてその中で飛行訓練の授業が始まった。

 

「ユエ大丈夫? 行けそう?」

「が、頑張るです」

 

 緊張の面持ちで箒に跨る夕映。何度か深呼吸をしてから助走をつけてから跳ぶ夕映。だが

 

「うべ!」

 

 顔面から突っ込んでしまった。そう、夕映は魔法や戦闘の修行は付けてもらっていたが、飛行などの訓練は特にしていなかったのだ。結構重大な基礎であるはずなのに、大事な所で抜けているのはさすがはエヴァンジェリンといった所だろうか。

 

「ユエ大丈夫!?」

「だ、大丈夫です。やっぱり上手くはいかないですね」

「まったくどういう事ですか」

 

 顔に着いた土を払いながら問題ないとコレットに言う夕映だが、そんな2人に獣耳の褐色の少女が腕を組みながら近づく。

 

「ユエと言ったかしら新入りさん。ホウキも碌に乗れない人がこのクラスに居るなんて論外です。出来ないのなら見学に徹した方が良いのではなくて?」

「もー! いいんちょはまた直ぐに怒るんだから! 夕映はまだこっちに来て間もないんだから優しくしてよ!」

「いいんですコレット。いいんちょの言う通りです。箒に乗れない私が悪いんですから」

 

 注意したいいんちょことエミリィ・セブンシープの後ろでは夕映を下に見て笑う者や睨んでいる者も居る。魔法騎士団になりたいのに箒に乗れない夕映なんて論外だとそう思っているのだろう。

 エミリィの言っていることは至極当然なので何も言い返さない夕映。しかし目の前のエミリィ、真面目な所と気が強くそしてツインテールの髪型、あやかとアスナを思い出す夕映であった。

 

「貴女のように出来ない方がいると私達の士気に影響が出てしまいますわ。悪い事は言いませんから早めに去った方が身のためです」

「んな! そこまで言う事はないじゃんか!」

「いいえコレット、これは事実です。ですが、いいんちょ私は絶対にここを去るつもりはありません。絶対に私は強くならないといけないんです」

「そうですか。そこまで言うのなら私はこれ以上は何も言いませんわ。せいぜい赤っ恥をかかないといいですわね」

 

 それだけ言うとエミリィは次の戦闘訓練の場所に向かっていく。エミリィの取り巻きとクラスメイトの何人かは夕映を敵視しながらエミリィの後を着いて行った。

 

「何あれ感じ悪い! ユエももっと言い返せばよかったじゃん!」

「事実ですから。それに私はこの悔しさもばねにして成長してみせるです」

「ふぇぇ、逞しいんだねユエは。それじゃあ私達も戦闘訓練の場所に行こうか」

「そうですね。行くです」

 

 夕映とコレットも戦闘訓練の場所に向かった。戦闘訓練の場所には巨大な人形が立っており、その人形に魔法を当てるといった内容だ。

 

「それでは最初にエミリィ、やってみなさい」

「分かりましたわ」

 

 そう言ってエミリィは杖を構え

 

「氷槍弾雨!!」

 

 無詠唱で氷の槍を人形に向かって放ってのであった。

 

「さすがいいんちょ! 無詠唱で魔法を使えるなんて!」

「まぁ、これ位当然ですわ」

 

 クラスメイト達はエミリィを褒め称え、エミリィ自身も満更ではなさそうに胸を張っていた。

 

「うぅ流石だなぁいいんちょは。やっぱ成績上位者は伊達ではないかぁ」

「無詠唱とは流石ですね」

 

 コレットは悔しそうにしているが、夕映は感心していた。すると

 

「先生! 私ユエさんの魔法を見て見たいでーす」

 

 お団子ヘアーの生徒が茶化すような言い方をして提案した。魂胆としては箒が乗れない事と魔法が使えないことで馬鹿にしたいのだろう。

 

「あいつら子供みたいな事を! ユエ相手にしなくても」

「いいえ、私からお願いしたかった所です」

「ユエ!?」

 

 まさかの乗り気な夕映に驚くコレット。まさかの乗り気な夕映に戸惑うクラスメイト達。

 

「ユエさん無理をしなくてもいいんですわよ。貴女が魔法を使えなくても私はもう何も言いませんから」

「いいえいいんちょご心配なく。私は大丈夫ですから」

 

 そう言って夕映は人形と対峙する。

 

「先生止めましょうよ! このままじゃユエが笑い者になっちゃうよ!」

「いいえコレット、ユエは心配しなくても大丈夫よ。それと、貴女もユエの事をもっと目に焼き付けておきなさい」

 

 コレットは心配していたが、先生は心配はしていなかった。むしろ生徒達にはいい薬になるだろうと思っているぐらいなのだから

 

「先生、この人形をもしも壊してしまったら申し訳ないです」

「構わないわ。むしろ壊す勢いでやっちゃいなさい」

 

 サムズアップで許可する先生にクラスメイト達はどよめく。まさかあの転校生は人形を壊すつもりなのだろうかと

 ざわつくクラスメイト達はほっといて、夕映は大きく深呼吸する。そして魔力を解放し詠唱を始める。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ  来たれ雷精風の精!!」

(マギさん、恐らく貴方は自分のせいだと責めているかもしれないです。ですが、私はいまここで元気に頑張っているです)

「雷を纏いて吹きすさべ南洋の嵐」

(無茶だとは分かっているです。ですが、今は届いてほしいと思っているです見ていてくださいです)

 

 夕映の杖に魔力が集中する。クラスメイト達はまさか、いやこけおどしだと騒いでいるが、夕映には聞こえない。

 

「雷の暴風!!」

(これが今の私の力です!!)

 

 今までで一番強力な雷の暴風が杖から放たれ、人形に直撃しそのまま人形の上半身は砕け散り、地面を抉ったのであった。

 夕映がまさか雷の暴風を放った事にクラスメイト達は呆然としていたが

 

「す、すごい! 凄いよユエ! ユエってこんなに凄い魔法を使えたんだね!」

 

 コレットが夕映に駆け寄り夕映の手を握ってぶんぶんと振り回す。

 

「ま、まだまだです。それに、1回放っただけでもうガス欠です。まだまだ修行不足です」

 

 現に限界が来た夕映は膝から崩れ落ちて座り込んでしまった。そんな夕映をクラスメイト達は畏怖や驚きの目で見ていた。中にはエミリィや先生にばれない様に陰で夕映を虐めてやろうと思った生徒も居たが、そんな考えはまさに雷の暴風と一緒に吹き飛んでしまった。

 

「ユエさん! いくら貴女がそれ程までに強力な魔法を使えたとしても私はまだ貴女を認めようとはしませんから!!」

 

 それだけ言うとエミリィは足早にその場を去ろうとするが、待ってほしいですとエミリィを呼び止める夕映。

 

「確かにまだ私は箒で飛べない未熟者です。ですが絶対に貴女をぎゃふんと言わせられるように成長してみせるです。ですから、楽しみに待っていてほしいです」

「……そうですか、期待せずに待っていますわ」

 

 それだけ言い捨てると今度こそエミリィ達はその場を去って行った。夕映はエミリィの背を見続けていたがコレットが後ろから夕映を抱きしめて

 

「すごいじゃんユエ! いいんちょにあそこまで言い切るなんて! 私スカッとしちゃった」

「今のは自分に対しての宣言です。いいんちょを超えるぐらいじゃないと私はあの人には追い付けないと思っているですから」

 

 そんなコレットと夕映のやり取りを見て

 

(ユエ、この子は絶対に大きく化けるはずだわ。それが見れるのは楽しみね)

 

 そう先生は思うのであった。

 その後夕映は放課後になったら図書室で勉学に励み、完全下校時刻ギリギリまで飛ぶ練習を毎日続ける。そんな夕映に感化されてコレットも一緒に勉強に飛ぶ練習に付き添ってくれた。そんな修行を続けてきた結果遂に

 

「やった! やったよユエ!」

「出来た……出来たです!!」

 

 数mではあるが、箒で飛ぶことが出来るようになった。飛べるようになったことに夕映は歓喜に振るえ、コレットも自分の事のように喜んでくれたのであった。

 

(マギさん、私は絶対に貴方に追いつけるように頑張るです。だから、待っていてくださいです)

 

 何処かに居るであろうマギを想って、決意を改める夕映であった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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闇の魔法修行① 負の心をコントロールせよ

「だめだ。あたしは承認しかねるね」

 

 開口一番に千雨がラカンの提案を断る。

 

「おっさんやあやかさんは知らないけど、あたしとネギ先生は一度マギさんが闇の魔法を暴走させて世界を滅ぼしかけた最悪の未来を見てきたんだ。そん時のマギさんはまさしく化け物だった。マギさんとネギ先生があんな姿になっちまう可能性があるなら、反対だ。それにマギさんもさっきの魔法で腕が変異してるじゃねえか」

 

 現にマギの右腕に少々棘が生えていた。闇の魔法の暴走を抑えていたガントレットが破壊されたのだ。それで限界のSWITCHONBERSERKERの限界を使ったのだ。腕が変異してもおかしくはない。

 千雨はマギが暴走しないように、これ以上無理をしてもらいたくないと思っていたが

 

「いや千雨、俺は闇の魔法を完全にコントロールしたい」

「な!? ん何言ってんだマギさん! 下手をしたら暴走を……」

「暴走をさせないためだ。ラカンさんの言った通り俺は闇の魔法を完成させないといけない。ラカンさんが作ってくれた強さ表の俺の強さは安定してなかった。敵と戦っている時に不調になってしまったら本末転倒だ。俺は自分のせいで誰かを護り切ることが出来なかったら皆に顔向けが出来ない。だからこそ俺は闇の魔法を制したい」

 

 マギは譲る気はなさそうだ。千雨はマギを説得するために何か言おうとしたが、マギの真っすぐな目を見ていたら何を言えばいいのか分からなくなり、口を開閉することを繰り返して

 

「……分かったマギさんを信じる。けど、これだけは誓ってくれ。ぜっっったいに無理だけはすんなよ」

「あぁ、ありがとう」

 

 マギは反射的に千雨を強く抱きしめた。急に抱きしめられドギマギする千雨をあやかはまぁっと目を輝かせ、ラカンは下品な口笛を吹いて茶化した。千雨はそんなラカンに唸り声をあげている。

 マギの方針は固まった。次はネギである。

 

「んでぼーずはどうすんだ?」

「闇の魔法、ですか……」

 

 闇の魔法、それは雪姫もといエヴァンジェリンが10年の歳月をかけて編み出した技法。そのポテンシャルはタカミチやアスナが使っている咸卦法に匹敵する。

 が闇の眷族の膨大な魔力を前提とした技法の為、並大抵の人間には扱う事が難しく、故に今では知る者が少ない。

 そんな闇の魔法をマギは修学旅行時にその場の流れで使ってしまったのだ。最初マギが闇の魔法を使ったと聞いた時には雪姫は

 

『やはりそこはナギの血か……』

 

 と半ば投げやりになっていたという。

 話を戻すが、そんな闇の魔法が自分に合っているのかと思っているネギであるが

 

「闇の魔法、確かにお前向きだろ」

「ええ!?」

「確かにな」

「千雨さんまで!!」

 

 ラカンと千雨に闇向きと言われ

 

「だってさネギ先生、あんたさよく悩んでるし、1人でいるとき絶対暗いだろ。マギさんが鋭い刃みたいな闇だとしたらネギ先生の闇はじめじめした湿気のような闇だろ」

「そんな酷い!」

「言い過ぎですわ千雨さん!」

「いやだってそうだろ」

 

 千雨にすぱっと言われショックを受けるネギを擁護するかのように猛抗議するあやかをすぱっと切る千雨。こういうところは結構容赦のない千雨である。

 

「はっはっは! 言うじゃねえか千雨の嬢ちゃん! なんだぼーずは闇は不満か? エヴァンジェリンの元で修行をしてたんだろ? それにマギとお揃いじゃねえか」

 

 落ち込んでいるネギを笑い飛ばすラカン。ラカンにとってはネギの悩みなど笑い話でしかないようだ。

 

「まぁやるかどうかはお前の自由だ。それでも触りぐらい聞いても損はあるまい。いいか? 闇の力の源泉は負の感情だ。負とは否定、恐れ、恨み、怒り、憎悪……つまりはヤナ感じだ!!」

 

 急にアバウトな説明になった。確かに纏めると負の感情はヤナ感じなのだろう。

 

「そんじゃ修行その①だ! いくぞ!」

「はっはい!」

 

 ネギの了承も得ずに勝手に修行を始めるラカン。

 

「何事も気持ちとカタチが重要だ!! つまり闇の魔法を使うにはイヤーな気持ちになることだ! イヤーな顔をして、パンチを撃つ! さぁやってみろ!」

 

 ラカンはやってられっかと言いたげな嫌な表情を浮かべながら湖に向かってパンチを放つ。相変わらず威力は強大で湖面が爆ぜた。

 いきなりの無茶ぶりにネギは困惑しながらも

 

「い、イヤな顔して……撃つ」

「ダメだダメだ! 気持ちが全っ然入っていねぇ!」

 

 ネギのイヤな顔をして撃ったパンチはラカンが納得するようなものではなかった。

 その後も面倒くさそうなイヤな顔。水木し〇る風なイヤな顔。不機嫌なイヤな顔でパンチを放つがどれもただイヤな顔をしているだけでラカンが納得するようなパンチではなかった。

 

「もっと心の底から嫌な気持ちを思い出してみろ! なんかあるだろ!? 先生をお母さんって呼んだり、好きな子の縦笛を舐めてるところを女子に見つかったとかさ!」

「いえ、そう言った事は……」

「んな日本の男子中学生じゃねえんだから」

 

 ラカンの例えに千雨がツッコミを入れていると

 

「千雨の嬢ちゃんにはねえのか!? これだけは知られたくねぇ、自分だけの黒歴史ってやつが」

「え? あたし? 黒歴史……あたしの……」

 

 尋ねられ、思い出す千雨。あれはそう、ちうとしてデビューして間もないまだ駆け出しだった頃、少しでもインパクトを残そうと思い、張り切り過ぎて、逆に視聴者に引かれたあの屈辱的過去を思い出し……

 

「ぬがあああああああ!! 忘れろ!! あの忌々しい記憶を! ああああああああ!!」

「やっぱあるじゃねえか。嬢ちゃんも闇の素質ありだな。見たかぼーず、誰にだってイヤな気持ちはあるもんだ」

「は、はい。でもまだイヤな気持ちっていうのがピンと来なくて」

「たく千雨の嬢ちゃんが体張ったのにまだ分かんねえのか。だったら自分の不甲斐なさ、フェイト・アーウェルンクスに伸された時のことを思い出してみろ」

 

 ラカンにそう言われ、ネギはゲートポートでフェイトにあしらわれ、皆が散り散りに飛ばされた事を思い出した。

 いや、思い出したというよりもフラッシュバックに近かった。あの時の光景が鮮明に思い出され、ネギは段々と頭の中でパニックになり、目の前がグルグルと回り出し遂には

 

「僕って駄目な奴……全部僕が悪いんです……」

 

 体育座りで顔を膝に埋めてしまった。

 

「ネギ先生ぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ネギが完全な自虐モードになってしまい悲痛な悲鳴をあげるあやかにお構いなくラカンはネギに撃てと命じる。

 

「そうだぼーず! その状態で撃って見ろ!」

「嫌な顔をして……撃つ」

「それだ!!」

 

 げっそりとした正に幽鬼状態なネギの放ったパンチを見て漸く納得したラカン

 

「いやこれ絶対なんか違うだろ。大丈夫かよラカンさんよ」

「ふっ闇の力を使うには、まずは己の闇と見つめ合ねえとな」

「いやもっともらしい事言って誤魔化してねーだろうな」

 

 澄んだ瞳でもっともらしい事を言うラカンを疑いの眼差しで見つめる千雨。

 

「声が小さいぞぼーず! そのままイヤな顔をしてパンチ千本だ!」

「ぼっ僕はダメな男ですー!!」

 

 そのままネギはラカンに言われるまま、自身を責めながらパンチを千本撃つのであった。

 

「さて、次はマギの番だが、マギお前はもう闇の魔法自体は使えるからな。ネギみたいにイヤな顔をしてパンチを撃つなんてまどろっこしい事はしなくていい」

「そうなのか? じゃあどうすればいいんだ?」

「お前は座禅を組んで精神を統一させろ」

 

 随分とシンプルな事を要求してきた。しかしそれだけじゃあないだろう。

 

「ただ座禅を組むんじゃねえ。お前は自分が思い浮かべる嫌な事、ムカつく事を思い浮かべろ。お前の闇の魔法の発動のキーは怒りだと俺は読んでる。今のお前はムカつく事を思い浮かべても流せるような、感情のコントロールをメインに行え」

「感情のコントロールか。けど、なんで俺の場合は怒りなんだ? 確かに最近の俺は自身の情けなさ不甲斐なさに怒りを感じる事はあったが」

「お前はネギと違って落ち込むんじゃなくって怒りを表すタイプっぽいからな。ムカつくっていう方がしっくりくるだろ」

 

 傍らで自身を責めながらパンチを放つネギが居るおかしな光景の中でマギも納得し、座禅を組み、深呼吸をし精神を統一させながら自身の内側と見つめ合う。思考がクリアになっていき、様々な事が頭に浮かび上がる。

 ゲートポートでの戦闘。アーチャーに体を射抜かれ、アーチャーのすました姿が、皆を護れない不甲斐ない自分、そしてまだ見たことのないナギに対しての本能に近い嫌悪感、それらがマギの頭の中で駆け巡り

 

「ううぅぅぅ……UUUUUUUUUUUUUUUUU!! 

 

 段々と怒りの感情が溢れかえっていき、呻き声から唸り声に変わっていき、マギの体から黒い魔力が溢れてきた。マギに呼応するかのように月光の剣も甲高い音を響かせながら煌々と光始めている。

 マギがこのまま暴れるのではないかと思い千雨がマギウスを使いマギを止めようとしたら

 

「ま、最初はこんなもんか」

 

 ラカンが普通にマギに歩み寄り、マギの目の前でフィンガースナップをした。しかし音が渇いた破裂音ではなく、爆発音であった。あまりの大きさに千雨とあやかは耳を塞ぎ、至近距離で聞いたマギは耳から血を流していた。どうやら鼓膜が破れてしまったようだ。

 

「どうだ? 大丈夫か?」

 

 呼びかけられ、ラカンの方を向く。直ぐに鼓膜は再生したみたいだ。

 

「ラカンさん、俺は」

「やっぱすぐに流すなんて無理な話だったみたいだな。とりあえずはお前が暴れそうになった時は俺が止めてやるよ。今は少しでも怒りを流せられるように頑張んだな」

「……はい」

 

 そして直ぐに座禅を再開するが、またも直ぐに暴走状態になりそうになったのでラカンがフィンガースナップで暴走を止めるのを繰り返した。

 げっそりとした顔でパンチを放し続けるネギとフィンガースナップで毎回鼓膜が破れるマギと言った奇妙な光景を見て

 

「あの、千雨さん。これ大丈夫なんでしょうか」

「あぁ、もうこの後の展開が手に取るように分かるわ……」

 

 あやかは心配し、千雨はこの後の光景を予想するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イヤな顔をしながらパンチを千本撃つように言われたネギと、座禅を組んで怒りをコントロールする事を強いられたマギは修行を始めて1時間が経った。

 

「……1000!!」

 

 漸く千発目のパンチを撃ち終わったネギ。流石に疲れたのか膝から崩れ落ち水底に手をついた。荒い息を吐きながらも息を整えた。

 そして開口一番は疲れた、きついと言うかと思ったが

 

……死のう

「ネギ先生ぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「あやかさん! 急いでネギ先生のメンタルケアだ! あたしはラカンのおっさんに文句言ってくる!!」

 

 心が折れたネギをあやかが必死にネギのメンタルをケアしてる間に千雨はマギと一緒にいるラカンの元へ向かった。

 元々自分を責めやすいというのもあるが、まだ10歳の少年のネギでは無理があったのだ。いや、そもそも常人でも1000回も自分を責めれば心なんて壊れてしまうだろう。

 

「おいおっさん! あんたの馬鹿げた修行擬きのせいでネギ先生がダウンしちまったじゃねえか! どうしてくれるんだおい!!」

「え? まじか? あっちゃぁ……ちょっと不味いかもしれんな」

「やっぱ口からの出任せかこのやろ!!」

 

 マギウスにレシーブの態勢をとってもらい、千雨はマギウスの腕を踏み台にし、魔力で体を強化して、ラカンの横っ面にドロップキックを浴びせるのであった。

 

「悪いが俺は弟子なんてとったことないから効果的な修行なんてよく分かんねえんだよ。それにそのままだとパンツ見えるぜ嬢ちゃん」

「いって……! 鉄蹴ってるみたいだ……だったらもっと慎重にやってくれよ! あんたが思っている以上にネギ先生は繊細なんだからさ!」

 

 頬を少々赤くするがけろっとしてるラカンに蹴った千雨が足を擦りながら悪態を吐きながら抗議する。

 

「まぁちと不味い状況かもしれんがふつーの奴がヤな顔してパンチを100回でもやれば心が折れている所をネギはちゃんと1000回やりきった。それは則ちネギが己の内側とちゃんと向き合っている証拠だ。それと闇の魔法と相性が良いという所もな」

「そんなまた口からの出任せを……」

 

 千雨はラカンの言った事を出任せで片付けようとするが、ラカンは首を横に振りながら

 

「世の中は2タイプの奴がいる。光なタイプと闇なタイプだ。光タイプは何か失敗すると一時くよくよするがしばらくすればけろっとして次に切り替えられる奴だ。嬢ちゃんの周りにもそんな奴はいるだろ?」

 

 千雨はアスナをイメージした。アスナも落ち込む時はネギと同じくらい凹むが暫くすると勝手に立ち直っている。そんなイメージだ。

 

「俺やナギも光タイプだな。そう言った奴に闇の魔法は合わない。対して闇タイプは失敗すると自分が悪いって責め続けるがどういった所が悪かったのか突き詰め、同じ過ちを侵さないように自身をじっくり研究するタイプが多い。マギやネギにエヴァンジェリンといった奴の方が化けた時が一番脅威だ」

 

 成る程と思わず納得してしまった千雨。自分も闇タイプであり、配信して間もない時に失敗した時は自分は駄目だ向いてないと責めたことがあったが、その都度失敗した自分を見つめ直し、試行錯誤して今に至った所もある。

 この話しは一旦置いといて────

 

「なぁマギさん大丈夫なのか? さっきから近くで騒いでいても微動だにしてないぞ」

「ん? おおそうだな。おいマギ一旦中断だ。目を開けろ」

 

 ラカンに呼ばれたマギはゆっくりと目を開け──―

 

「……げ」

「げ?」

「げぼはぁ!!」

 口からハイドロ○ンプが如く常人なら致死量の血を吐き出した。

 

「マギさんんんんんんんんん!?」

おう千雨、最初は何とか流して耐えようとしたんだけどな、段々怒りに耐えきれなくなって気づいたら内臓系統にダメージが……ごふぇ! 

「あんたは! もう!! 寝てろ!!!」

「お、流れるように膝枕とはやるじゃねえか」

 

 血を吐き出し続けるマギを半ば強引に横にさせる千雨をニヤつきながら眺めるラカン。

 こうしてネギとマギの最初の修行は強引に中断することになったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 場面はネギに戻り、未だに立ち直れていないネギ。頭の中ではカゲタロウとフェイトに見下され、最後には千匹が合体した猫に伸されるという無様な光景が頭から離れなかった。

 

(あぁ、やっぱり僕は駄目なんだ……)

 

 体育座りで顔を埋めながらこれで何回目と深い溜め息を続ける。

 もう一度溜め息を吐こうとしたその瞬間、ネギの背中に暖かい感触が当たる。

 

「ネギ先生……」

「あやかさん、僕は駄目な男です……」

「そうやって自分を責めてはいけませんわ。今は思い切り涙をお流しくださいまし。それに……貴方を責める方なんて、私達の中には誰もいらっしゃらないのですから」

「……はぃ」

 

 ネギは小さく泣き、あやかは黙って優しく後ろから抱きしめ頭を撫でてあげたのであった。

 1時間も経てばネギも落ち着き、赤くなった目で付き添ってくれたあやかにお礼を言った。

 ネギのお礼を受け取りながらもあやかは尋ねる。イヤな気持ちなるものは掴みとったのかとそれに対してネギは首を横に振るう。

 

「すみませんまだ掴み取れていません。やはり僕ではお兄ちゃんのようには出来ないのでしょうか……」

 

 ネギはかつて闇の魔法を身に纏ったマギを思い出す。やはり自分はマギのようにはいかないのかと半ば諦めていたが

 

「ネギ先生、差し出がましいと思いますがよろしいでしょうか? そのイヤな気持ちはものにするのではなく、乗り越えるものではないでしょうか」

「え? どういう事ですか?」

 

 あやかの言う乗り越えることが今一掴めていないネギにあやかは話を続ける。

 

「ネギ先生、私には生まれるはずだった弟が居たことを前にお話しましたね」

 

 ネギは頷く。あやかには生まれるはずだった弟が死んでしまった事を麻帆良に赴任して間もない頃にあやかから聞いている。

 まだ幼いあやかにとって一番辛い悲しい出来事であった。

 

「ラカンさんがいうイヤな気持ち、その時の私は悲しみが溢れそうになっていました。何故弟が死ななければいけないのかと嘆きましたわ。でもそんな時にアスナさんが居てくれました」

 

 その当時のアスナは悲しみに明け暮れるあやかを蹴り飛ばすというかなりワイルドな慰めをし、逆に怒りで弟の死と言う悲しみを吹き飛ばしてあげていた。

 

「私が弟の死を思い出して立ち止まりそうになったときは何時もアスナさんがそばに居てくれましたわ。そのおかげで私は悲しみを乗り越えることが出来ました。だからこそ、私はイヤな気持ちは乗り越えるからこそ、それを力に出来るのだと私は思いますわ」

「乗り越える……」

 

 あやかの言葉をゆっくりと噛み締めるネギ。

 

「そしてイヤな気持ちを乗り越えるのは1人じゃないといけないわけではありません。私にとってのアスナさんだった時のように、私がネギ先生を支えます。頑張れって応援します。ですから、過去のネギ先生に僕はこんなに強くなりましたって見せられるように頑張りましょう」

「……はい!」

 

 どうやらネギも立ち直ったようだ。一安心と感じた千雨は、膝枕しているマギに目を向ける。

 

「なぁマギさん、マギさんもネギ先生のように乗り越える事が出来れば闇の魔法を使いこなす事は出来るのか?」

 

 マギは首を横に振る。

 

「いや、俺はもう闇の魔法を使う事が出来るから、もう乗り越えるとか生易しいものじゃあないと思う。乗り越えるなんて生易しい事をしてたら下から喰われそうだ。俺の場合は制しないといけない」

 

 マギはネギと違ってそう簡単にはいかないようだ。それを聞いたらますますマギが心配になる千雨であるが

 

「でも、千雨から『頑張れ』って応援してくれれば、俺だって頑張れそうだよ」

「ああ。分かったよ。マギさんが何も問題もなく修行が終えられるんだったら、思う存分応援してやるよ」

「ありがとう。千雨の応援があれば、何でも頑張れそうだ」

 

 マギは感謝の意を伝えるかのように千雨の頭を優しく撫でてあげた。

 こうしてマギとネギの修行1日目は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、早朝にて甚平に着替え、呑気に朝から枝豆をつまみに酒を飲んでいるラカンとマギ達が対談をする。

 

「んで1日経ったが、如何する? このまま闇の魔法を使う方針で構わないんだな」

 

 ラカンはネギに最終確認をする。ネギも頷きながら

 

「はい、強くなるためなら僕は覚悟を決めました」

「……とお前の弟は言ってるが、どうするんだ? 闇の魔法ははっきり言ってそう易々と使える代物じゃない事はお前がよく知ってるだろう?」

「まぁネギが決めたことに俺は一々口出しをするつもりはないさ。それに、ネギ自身も強くなるなら手っ取り早い方がいいと思ってる所もあるだろうさ」

 

 図星だったのか少し顔を赤くしながら目を逸らすネギを見てラカンは大笑いをする。

 

「いいじゃねえか誰だって手っ取り早く強くなれるならそれに越したことはないからな。だが……これを見ても心が揺れないか確かめさせてもらう。闇の魔法が適してない者が闇の魔法を使うとどうなるかをな」

 

 それを聞いてネギは驚愕の顔を浮かべる。

 

「ラカンさん、ラカンさんも闇の魔法を使えるんですか!?」

「まぁな。けど俺は闇の魔法を使わなくても全然強いが、出来ないわけじゃあない。んじゃしっかりその目に焼き付けておけよ」

 

 そう言ってラカンは酒を一気に飲み干すと、そのまま湖の浅瀬にどんどん入っていく。その顔は先程までの陽気な表情ではなく、集中している気の張った顔つきであった。固唾を飲みラカンを見ていると

 

「プラ・クテ・ビギナル 来たれ 深淵の闇 燃え盛る大剣!! 闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔!! 我を焼け 彼を焼け そはただ焼き尽くす者 奈落の業火!!!」

 

 ラカンの周りに強烈な魔力が渦巻き、そのままラカンはマギが行っていたように奈落の業火の魔力を手に集中させ、そのまま掌握し、そのまま魔力を取り込んだ。

 瞬間にはラカンの甚平が吹き飛び、褐色の肌が闇で黒く染まっている。闇の魔法の魔力充填・『術式兵装』である。余りの迫力に千雨とあやかは絶句する。ネギとマギは見抜く。ラカンと闇の魔法は水と油の如くまったく相性が悪い事を。現にラカンも脂汗を流し辛そうだ。

 

「やっぱ、キツイな……まぁこんな事をしなくても俺様は充分強いんだけどな……」

 

 とこぼしていると、ラカンの腕に亀裂が走り、そこから大量の魔力が漏れ出し始めた。

 

「い、いいか? これはこの技の一端にすぎん。この技の核心は、グッ! やっぱり無敵の俺様でも無茶だったみたい、だ……流石はエヴァの闇の魔法。こりゃ失敗だっ……った」

 

 段々と亀裂が増え、如何にもヤバそうだと思い何かあった時はマギとマギウスとネギがあやかと千雨を護ろうと判断したその瞬間

 

「たわらば!!!」

 

 盛大な自爆をし、巨大な水柱を作り出したラカンはどざえもんが如く水面にプカプカと浮かんでいた。

 

「らッラカンさん!!大丈夫ですか!?」

「あぁ~まぁ相性が合わねえ奴が使うとこんな感じになるんだなこれが」

「いや、あれだけ凄まじい自爆してても五体満足って」

「じょ、丈夫な方なんですわね」

「彼は私と同じロボットなのでしょうかちう様」

「あぁもう、ツッコミしきれねぇ……」

 

自爆したラカンを見て大騒ぎするネギだが、ラカン当人はあれだけ巨大な自爆をしてもぴんぴんしながらネギに話しかけ、ラカンの規格外な丈夫さにドン引きするマギ達であったのであった。



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全ての道は通ずる

 マギとネギが闇の魔法をものにする、制するためにラカンの元へ弟子入りしている中、別の場所で仲間たちがどう活動しているのか……

 

 

 

 

 とある場所にある古い遺跡。その地下にはRPGゲームでお馴染みな地下ダンジョンが広がっていた。

 地下ダンジョンと言えば財宝が眠っているのが常。その財宝を手に入れるために、冒険家達は危険を承知で挑むのだ。

 

「だからあんなあからさまな罠に首を突っ込むのに反対だったのよ!」

「いいだろ! そのおかげで追加ボーナスが手に入ったんだから!!」

「今は急ぐ。じゃないと生き埋め」

「急げ! こっちだ!」

 

 4人の若い男女が喚きながら崩れている最中のダンジョンから脱出するために出口へと駆けていく。

 エルフのような耳の長い箒に乗った女性が髪を括った男を責めるが、どうやら彼が罠でへまをしたようだ。しかしその彼の手には輝く偶像が握られている。恐らく重さが変わると作動する、某冒険映画でも使われるような有名な罠でもあったのだろう。

 同じく耳の長い女性が物静かにこのままだと崩れる事を他人事のようにぼやき、リーダーであろう大剣を背負った男が先導する。

 

「! 見ろ出口だ!」

 

 リーダーの男が指差した先に光が見えた。

 もう大丈夫だ。そう思った4人の頭上に巨大な瓦礫が落ちてくる。

 

「ちょ! ゴール手前でそりゃないでしょ!!」

「クレイグ! 迎撃!」

「無理だ! 間に合わねぇ!!」

 

 箒に乗った女性にクレイグと呼ばれた大剣を持った男は無理だと叫ぶ。

 最早これまでかと諦めかけていたその時

 

「リー・ド・ア・ブック・イン・ザ・リブラ 来れ 虚無の炎 切り裂け 炎の大剣!!」

 

 4人の後ろにずっと着いてきたのどかが予め詠唱しており、炎の大剣で落ちてくる瓦礫を切り裂いた。

 

「すまねぇ嬢ちゃん!!」

「お礼は大丈夫です! 今は先へ!!」

 

 クレイグがメンバーを代表しのどかへお礼をするが、のどかの言う通り、今はダンジョンを脱出するのが先決であった。

 

「────うへぇあと少し遅かったら、あの遺跡が俺らの墓標になっていたかも思うとゾッとするよ」

 

 崩れ落ちる遺跡を遠くの丘で眺めている髪を括った男が辟易とした様子で呟いていると、箒に乗っていた女性がのどかにお礼を言った。

 

「助かったわのどか。アンタが居なかったら一巻の終わりだったわよ」

「そんな、私だってアイシャさん達に拾ってもらわなきゃどうなってたか……」

 

 箒に乗った女性アイシャに改めてお礼を言うのどか。

 のどかは強制転移で遺跡に到着した。その時、その遺跡を攻略しようとした彼らと出会った。

 のどかは周りに仲間が居ないのを見て、1人で行動するよりも彼らと行動し、情報を集めた方が得策だと判断し仲間にして欲しいと懇願した。

 最初は自分等よりも年下ののどかを仲間にすることに渋っていたが……

 

「いやー! しかしホントに嬢ちゃん凄いね! アイシャに負けない位に魔法使えるし、罠発見能力もピカ一だし!」

「使える」

「その歳でそんなスキル、どこで身に付けたんだ?」

「いえ、クリスティンさんやリンさんのような本職の皆さんに比べたらまだまだです。その、部活で少々」

 

 お気楽な感じでのどかを誉めちぎる髪を括ったクリスティンと静かにサムズアップをするリンにどこで身に付けたのかと尋ねるクレイグに照れながらも、部活でと答えるのどかであった。

 閑話休題。

 

「さて、それじゃあ! お待ちかねのお宝山分けターイム!!」

 

 風呂敷を広げ、先ほどの遺跡で手に入れた宝の山を嬉々として山分けするクレイグ達。しかしのどかは宝には見向きもせず、目の装飾がされ、爪のように尖った指輪を愛おしそうになぞった。

 

「嬢ちゃん、ホントにその指輪だけでいいのかい?」

「そーそー遠慮すんなって! 今回は嬢ちゃん大活躍だったんだし」

「い、いえ! 私はこれだけで充分です」

 

 クレイグ達は宝を物色しながらのどかにその指輪だけでいいのかと尋ねる。

 

「これがのどかが探してたマジックアイテムなのね」

「はい! ついに、皆さんのおかげです!」

 

 アイシャはのどかが持っている指輪がをまじまじと観察する。

 のどかは探していたもの、名前を『鬼神の童謡』。これを手に入れるためにのどかは自分なりに動き、そして念願のこの指輪を手に入れた。

 これを使い、のどかが色々な意味で大活躍をするのは少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁん! せっちゃああああん!!」

「おおおおおおおおおじょじょじょお嬢様あああああああ!?」

 

 また別の場所ではとある村でアスナとこのかと刹那に楓が偶然合流した。

 この4人は村民に被害をもたらす2匹の黒龍を討伐するために、アスナは刹那、このかは楓と行動をしており、各々黒龍の角を折って追い払ったのだ。

 そして黒龍の角を持って村に戻って来て今に至るのだ。

 

「アスナぁ! 会いたかったぁ!!」

「このか少しは落ち着いて! 気持ちは分かるけど!!」

 

 泣きじゃくりながら抱きつくこのかを何とか落ち着かせるアスナであった。

 

「……そう、このかも他の皆とは会えなかったのね」

「うん。でもアスナと会えて嬉しい。ウチ正直言うとちょっとツラいと思ってた所やったし」

「そう、よく我慢したわね。偉いぞ」

 

 このかを優しく撫でて上げる。久しぶりの親友との再会に和気藹々とするアスナにこのか。

 そんなアスナを遠目で眺める楓。楓はアスナが前よりもかなりの成長を成し遂げたのを見抜いた。

 

「アスナ殿、かなり成長したようでござるな」

「分かるか楓。アスナさんは賞金稼ぎの中で魔獣討伐や私達を狙う賞金稼ぎの連中を返り討ちにしてきた内にな」

「ほぉ、それは何とも頼もしい限りでござるな」

 

 白き翼4人と合流出来たのだ。

 

「それじゃあ! この角を換金してネギ達が行こうとしてるオスティアって所へ行くわよ!!」

「「「おー!」」」

(ネギ、マギさん無事でいてよ。アンタ達絶対無茶するんだから……!)

 

 ネギとマギの事を憂いながらアスナ達をオスティアへ向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 またもどこかの霊峰、その頂にぼろぼろの胴着を身に纏った古菲が呼吸を整える。

 そして、頂に拳を当て、瞬間的に自分の最大の力を当てる。

 轟音を立てながら崩れるのを見て満足そうに頷く古菲。だが

 

「あ、足場のことを考えてなかたアル」

 

 頭の方は相変わらずだったようで、崩れる足場を瞬時に乗りながら無事な別の山に着地。

 

「うーむ、ちょっとやりすぎたアルな」

 

 今もなお崩れる岩山を見ながらそう答える古菲。いや、ちょっとではないだろう。己の肉体とその身に纏われた気だけで岩山を破壊するまでに至った古菲。流石は3ーAの1人である。

 

「だがまた一歩前進したアル。日々精進、これだから修行は止められないアル」

 

 そんな古菲の周りを小型の浮遊する数体の機械。

 

「うぉっなんアルかお前達!?」

 

 突然の出現に構える古菲に

 

「いた──!! くーへーさあああん! 探しましたぁ!!」

 

 小型の浮遊物体、和美のアーティファクトのゴーレムに乗ったさよが古菲に向かって飛び込んだ。

 此処で感動の再会、となればいいのだが

 

「おお!! 地味幽霊!!」

 

 さよが気にしてる事をバッサリと言い切った古菲であった。

 

「うわああん! くーへーさんのばかああ! 気にしてることをもおおお!」

「あははは冗談アル! 元気だたアルかさよ坊! それにしてもこんな広い世界でよく私を見つけられたアルなぁ!」

 

 こうして、確実に仲間が集まって行くのであった。

 

 

 

 

 

 

「ほんまか和美姉ちゃん!? 菲部長が見つかったって!?」

 

 闘技場に残っていた小太郎が和美が飛ばしてきた小型ゴーレムで衛星電話のように連絡をとる。その中で古菲が岩山を砕いたと言う話を聞いて頼もしく思うのと、状況が落ち着いたら古菲と一戦交えたいと思う小太郎であった。

 小太郎が和美の報告を聞いていると夏美が嬉しそうに手を振りながら小太郎に駆け寄る。

 

「コタロー君! ビックニュース! アスナと刹那さんがこのかと楓さんと合流出来たって! それに本屋ちゃんから連絡が!!」

「おお! マジか! こっちも菲部長が見つかったと和美姉ちゃんから連絡が来とった所や」

 

 と今度はアキラと亜子が小太郎に駆け寄る。目尻には涙が溜まっており、何か良いニュースでもあったのだろうか。

 

「今! イルカの獣人のおじさんが元気そうな裕奈とまき絵の写真見せてくれて!」

「2人共無事でオスティアに向かうために元気に働いとるって!」

 

 そう言って亜子が元気にピースサインで記念撮影してるウェイトレス姿の裕奈とまき絵の写真を見せてくれた。

 

「はは、ほんまにたくましすぎるやろこの2人!!」

「よかった、2人共元気そうで……!」

 

 何時もの感じな裕奈とまき絵を見て吹き出す小太郎に緊張の糸が緩んだのか静かに涙を流す夏美であった。

 

 

 

 

 

 

「さて、続々と仲間の情報が集まって嬉しい状況やけど、まだまだ油断できんのもまた事実や」

 

 小太郎は世界地図を開き、今分かってるメンバーの現在位置に目印をつける。一番遠いのはのどかであり、逆にアスナ達が一番目的地のオスティアに近いようだ。

 そしてまだ行方しらずなのはハルナに夕映、アーニャ、そしてプールスと風香に史伽。あとついでのカモ。

 夕映はアリアドネーに飛ばされたので一応は安全圏ではあるが、アーティファクトは強力ではあるが非戦闘員のハルナ、バッジのないアーニャに一般人組の風香と史伽。スライムではあるが、精神年齢は少女のプールス。カモは、まぁ何とかなるだろう。

 

「ハルナ姉ちゃんやアーニャは何とか生きて行けそうな気がするし、夕映姉ちゃんも大丈夫な気はするんやけど、一番の心配はあの双子の姉ちゃんや。アイツらはバッジ持っとらんし、戦いなんて持っての他や。プールスはまぁまぁ強いがまだまだガキやしな……」

「プールスちゃん、風香に史伽、大丈夫かな……」

「亜子……だ、大丈夫だよ! ぜっったい皆無事に集まる事が出来るって!」

「そうだよ。今は皆が無事でいる事を願おう。ね?」

 

 皆を心配する亜子を励ます夏美とアキラ。しかしそんな2人も行方が分からない者達の安否を憂いていた。

 

「そうや。皆無事じゃないと意味ないんや。それに、最悪な結果になったら、一番ダメージが大きいのはマギ兄ちゃんやからな。下手したらまじで大怪獣になりかねないからな」

 

 小太郎の言うとおりマギは皆の中で一番精神が不安定だ。キレてこの世の全てを破壊するようになったら止められる自信は正直ない。

 

「だが、今は皆が全員無事に集まれるのを信じるしかない。違うか?」

「え、雪姫さん!!」

 

 涼しい顔で戻ってきた雪姫。今日も1人で対戦相手を返り討ちにしてしまったのであった。

 

「おう、雪姫の姉ちゃん。今日も快勝だったようやな」

「あの程度のレベルにてこずる私ではないさ。そんなことより、プールスは坊ややマギと血は繋がっていないが、アイツもスプリングフィールド家の者だ。私もアイツには柔な育て方をした積もりはない。それに鳴滝風香と鳴滝史伽、あの双子もそんな簡単にくたばるような奴なら3ーAの生徒などやってはいけないだろう。今はアイツらの悪運を信じようとしよう」

 

 不敵に笑う雪姫を見て小太郎達は頷く。そうだ、何時も困難な事に遭遇しても持ち前のガッツで乗り越えて来た3ーAの生徒のしぶとさを今は信じよう。そして雪姫が直々に修行をつけたプールスもそう簡単にへこたれることはないだろう。今は彼女達を信じる。それしか出来ないのだから。

 そして……今まで何の話題も出なかったカモは泣いてもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな皆に心配されているプールス、風香史伽はというと

 

「うわああああああ!!」

「きゃああああああああああ!!」

「逃げるレスぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「おおおおお今は逃げろ! 後ろを振り返るんじゃないぞ嬢ちゃん達ぃ!!」

 

 草木も生えない山奥で奇跡的に合流出来たプールス、風香史伽そしてカモが必死に駆けていた。

 何故死に物狂いで駆けているのか、それは……

 

『ヴギョアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 

 熊よりも巨大な猿のような魔法生物に追われているのだ。

 首の周りに立派な鬣があり、仮に獅子猿と呼ぼう。獅子猿は血走った目で涎を垂らしながら咆哮を上げる。

 極限の空腹状態なのか、プールス達を獲物として追い回してるのだ。

 

「あう!」

「お姉ちゃん!」

 

 石につまづき盛大に転ぶ風香に悲痛な悲鳴を上げる史伽。獅子猿は動けなくなった風香を最初に食らいつこうと、大口を開けて襲いかかろうとするが

 

「アストロン! やあああ!!」

 

 腕を硬質化させるプールスは獅子猿の目に向かって伸ばした。

 目に直撃された獅子猿は甲高いうめき声を出しながら目を押さえていたが、直ぐに手を離し、血走った目でプールスを薙ぎ払った。

 

「きゃああああああ!!」

「嬢ちゃん!」

「プールスちゃん!」

「プールス!」

 

 地面を転がり、動けないプールス。今の薙ぎ払いでダメージを負ったのもあるが、もう心が折れかけているのもあった。

 もう何日もマギと一緒にいない。何時も一緒にいた兄の姿がないことが幼いプールスの精神を蝕んでいた。

 対して獅子猿はプールスは食えない獲物と判断し、プールスを遊んで殺そうと腕を振り下ろす。

 

(マギお兄ちゃん……!)

 

 プールスは今この場にいないマギを想うが獅子猿の腕は無慈悲に振り下ろされる。

 

 

 

 

 

 

「投影開始」

 

 獅子猿が腕を振り下ろす前に無数の剣が豪雨の如く降り注がれる。

 次々と剣が突き刺さり針のむしろとなり、最後は巨大すぎる大剣が獅子猿の脳天を貫き、獅子猿は物言えぬ死体へと変わり果てたのであった。

 

「大丈夫かな?」

 

 プールスを助けたのは、白き翼の仲間でも、現地で知った魔法世界の住人でもなく。

 

「全く、世話を焼かせるな君達は」

 

 マギを執拗に狙うアーチャーであった。



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ちびっこ達の神隠し

 プールス、カモ、風香史伽が何故アーチャーと一緒にいるのか、それは強制転移された日まで遡る。

 

「―――ここは、どこ……レス?」

 

 目映い光と衝撃波が去り、目を開けたそこは草木も生えていない渓谷であり、ぽつんとただ1人。プールスは立っていた。

 

「マギお兄ちゃん、ネギお兄ちゃん、アスナお姉ちゃん、エヴァお姉ちゃん、のどかお姉ちゃん……」

 

 皆の名を呼ぶが、返ってくるのはしんと静まり返った沈黙であった。

 周りに誰もいない。その事実がプールスの幼い心に深く突き刺さる。

 涙が溢れそうなのを堪える。今流してしまえば立ち直るのは難しくなりそうだから。

 しかし静かな渓谷はプールスの孤独な心を刺激する。

 耐えきれなくなったプールスは大声で泣き叫びそうになった。

 

「ぉぉぉぉぉぃ──おおおおおい、だれかいねえかぁ」

 

 遠方から見知った者のか細い声が聞こえる。

 流れそうになった涙を強引にぬぐい、目を擦るとカモがとことこと歩いているのが見えた。

 

「あぁ、兄貴も大兄貴もアスナの嬢ちゃんもいないで俺っちたった一匹、こんな誰もいない所に飛ばされるなんて……このカモミール・アルベール、一巻の終わりかも「カモおじちゃん!!」なぁぁぁぁ!?」

 

 小さいカモにプールスが飛び込んできた。そしてぎゅっと抱き締める。

 

「カモおじちゃん! カモおじちゃんレス!!」

「うごおおおおおお! プールスの嬢ちゃん、俺っちに会えて嬉しいのは分かるがちと力を緩めてくれ! このままじゃ俺っち熊の敷物みたいにぺっちゃんこになっちまうぜ!」

 

 めきめきとカモの骨が軋む音がし始めたので、カモに謝罪し抱き締めるのを止めたプールス。

 

「しかし、プールスの嬢ちゃんに合流出来たのは俺っちの運もまだまだ尽きてねえな! それでプールスの嬢ちゃん、嬢ちゃんの他に誰かいるのか?」

 

 首を横に振り、自分1人しか居ないことを告げるとそうかとあからさまにしょげるカモ。

 

「まぁ俺っちがしっかりサポートするから、今はこんな辛気臭い所を一刻も早く出て明るい場所に行こうぜ」

「はいレス!」

 

 いざ出発しようとしたその時

 

「おおおおおい! そこに居る誰かぁ!!」

「助けて欲しいです!」

 

 後方から2人、こちらに走り寄ってくる声が聞こえる。

 振り返り、そこにいたのは予想外の人物であった。

 

「風香お姉ちゃん、史伽お姉ちゃん!」

「よりによって一般人組の双子かよ……」

 

 プールスは嬉しそうに、カモは落胆の溜め息を吐いた。

 

「ここ何処なんだよ!? さっき凄い光で何も見えなくなったと思ったらこんな変な所に居るんだから!」

「マギお兄ちゃんは何処なの? それに此処なんか怖い……」

 

 風香は詰め寄り、史伽は恐怖で身体を震わせる。どちらも急な事にパニックになっている。

 プールスは2人のパニックに感化されそうになったが

 

「俺達は強制転移で何処に飛ばされたのか分からず仕舞い。それに兄貴達とも連絡が取れない言わば詰み状態ってわけさ」

 

 カモが現在の状況を簡潔に教えてくれた。風香と史伽はぽかんとしていたが

 

「「オコジョが喋った!?」」

「まぁそれが普通な反応だよなぁ」

 

 至極当然な事を呟くカモであった。

 

 

 

 

 

 プールス達は少し歩き、安全そうな洞窟を見つけこれ迄の事を風香と史伽にカモが教える。

 

「──とまぁこんな感じで兄貴と大兄貴は親父であるナギ・スプリングフィールドを探そうと魔法世界に来たわけだが、敵に襲われて、まんまとしてやられて俺っち達は強制転移魔法で飛ばされて気づけばこんな辺鄙で気味が悪いな場所に居るわけだ」

「そんな、マギお兄ちゃんはそんな危険な事をしてたなんて……」

「マギ兄ちゃんも何で僕達になにも言わなかったんだよ!」

(そりゃあ何も力の無い一般人組は足手まといになりかねないって言えないなぁ)

 

 除け者にされたと頬を膨らませる風香にキツイ事を言うのは酷だと思ったカモだが、ここはあえて現実を突きつけることにした。

 

「風香の嬢ちゃん、嬢ちゃんは魔法世界って聞いて物語とかのメルヘンな世界をイメージしたかもしれないが、魔法世界はそんな生易しい所じゃねえ。治安が良い場所から離れれば悪い悪党なんてごまんといるし、ドラゴンといった人を襲う魔法生物だっているんだ。自衛の手段を持たない嬢ちゃん達は言っちゃ悪いが足手まといになるかもしれないからな」

「だ、だったらカモおじちゃんやプールスはどうなんだよ! カモおじちゃんはオコジョだし、プールスはボクらよりも小さいじゃないか!」

「まぁ確かに俺っちは何の力を持ってないオコジョ妖精。けど、俺っちは頭脳専門。持ち前の知識でサポートするのが役割だ。そしてプールスはただの女の子じゃあない。マギの大兄貴が気になってイギリスまで着いてきた嬢ちゃん達とはわけが違うぜ」

 

 好意が分かるカモには風香と史伽の考えなどお見通しだ。何も言い返せず黙っている風香と史伽である。

 

「カモおじちゃん、誰か来るレス……」

 

 外へ気配を張っていたプールスはカモへ報告をする。それを聞き皆に緊張が走る。

 こんな人気のない場所にまともな人がいるはずもないだろう。

 いや、そもそも"人"ですら怪しいものである。

 いざというときは隠し持っているマグネシウムとチャッカマンで相手の目を潰す準備は出来ているカモ。プールスも直ぐに動けるように準備をしていると

 

「──―妙な気配を感じたと思いきや、まさか君たちだったとはな」

 

 仲間ではなく、マギを必用に付け狙うアーチャーであった。

 

「……よりによってアンタかよ。アンタ1人なのか? お付きのあのきわどい格好の姉ちゃんは一緒じゃねえのか?」

 

 アーチャーに舐められないように世間話をするかのように、話しかけるカモ。警戒のアンテナはびんびんに張って。

 

「今回はマスターはマギ・スプリングフィールド達がどうなったのか情報を集めるために別行動中だ。この地に用があるのは私だけだからな」

「こんな何にもない場所に何の用があるってんだよ。とても興味深いね」

「……何故そこまでづけづけと入り込もうとするのかな?」

 

 カモが飄々とした態度にアーチャーは気配を鋭くする。バイザーで隠れているが、目線も細く鋭利になっているだろう。

 

(カモおじちゃん……)

(プールスの嬢ちゃん、今は俺っちに任せてくれ)

 

 心配で小声で話すプールスに同じく小声で返すカモ。カモなりに何か考えがあるのだろう。

 

「頼みがある。俺っち達が仲間と合流するまで俺っち達を護ってくれ。俺っちこのなりで戦う事は出来ないし、プールスの嬢ちゃんもまだ子供だ。それにあっちにいる双子の嬢ちゃんは魔法を知らない一般人だ。仲間と合流するまでに無事なんて都合よくいくなんてこれっぽっちも考えてない。だからこそ、アンタに護衛を願いたいってわけさ」

 

 そう言ってカモは頭を下げた。まさかの敵に護って欲しいという提案にプールスに風香と史伽もざわついている。

 これには流石のアーチャーも面食らったようで

 

「私と君達は敵の間柄だと認識しているのだがな。私が君達を護る事に何のメリットがある。むしろ君達を見殺しにした方がマギ・スプリングフィールドのメンタルを傷つける事が出来ると思わないかね」

 

 正論である。アーチャーがカモ達を護る事に何のメリットもないのが現実だ。それどころかカモ達を見捨てる方がアーチャー自身都合がいいのだ。

 かもなとカモも数回頷く。カモ自身アーチャーが自分達を見捨てた方が都合が良いことなど百も承知だ。なのに何故カモは余裕そうな態度をとるのか

 

「だってアンタ、根っからの悪人っていうわけではないだろ?」

「……何?」

 

 アーチャーは眉を寄せる。まさか自分が悪人ではないと言われたのが予想外であったようだ。

 

「アンタは確かにマギの大兄貴の仇敵みたいなもんだが、俺っち達と遭遇しても冷酷に葬ることをしていない。それにアンタ弓兵を自称してるんだ。遠目で俺っち達の事を見てマギの大兄貴が見えなかったから接触してきたんだろ?」

 

 図星だった。アーチャーは魔力を使い、遠くからカモとプールスが風香と史伽と合流し、マギが居ないのを見て、非戦闘員の風香と史伽を見殺しするのは良心の呵責を感じ、偶然出会ったかのように装って接触を試みたであった。

 

「あんた、仲間にお人好しって言われたことあるだろ」

 

 アーチャーが黙ったのを見て、ニヤニヤ笑うカモを見て、別にコイツだけなら伸しても構わないだろうかとよぎったが、深い溜め息を吐きながら

 

「……私の目的の邪魔をしない。この条件を呑めば私は君達を仲間の元へ送り届けると約束しよう」

「分かった。んでその条件ってのは?」

 

 余裕な態度を取っているカモであるが、目の前のアーチャーがこの人の居ないような場所にただ単身で乗り込んできた訳はある程度予測出来ていた。

 

「この地にある不死を断つ刀。それを手に入れるまでは私の邪魔をしないこと。たったそれだけだ」

 

 不死を断つ。それは即ちマギを倒すために手に入れるつもりだ。

 プールスや風香史伽はマギを狙っている武器を手に入れる事に驚いていたが、カモはこの流れを読んでいたので

 

「分かった。俺っち達はアンタの邪魔はしない。その代わり、アンタも俺っち達を護ってくれ。いいか?」

「あぁ、交渉は成立って事で宜しいかな?」

「カモおじちゃん!?」

 

 プールスはカモが勝手にアーチャーと契約を結んだ事に意義を唱えるが

 

「プールス、俺っちはお前達をマギの大兄貴の元へ無事に合流させたい。そのためなら俺っちは敵に媚びへつらうのも躊躇わない。確かに俺っちの行為は裏切り行為でもある。でも、リスクを減らすためなら俺っちは頭を下げてやるさ」

 

 けどなとカモは不敵に笑いながら

 

「マギの大兄貴がそうやすやすとアンタに負けるなんて俺っちは微塵も思ってないからな」

 

 カモは信じていた。マギがアーチャーに負けることは絶対にない。

 

「大した自信だな。その根拠は何処から来るのかね?」

「根拠ならあるぜ。アンタ2回もマギの大兄貴に負けてるじゃねぇか。一度目は修学旅行で。二度目は学園祭で。強力なアイテムを手に入れたからってそう簡単に形成逆転が出来るもんか?」

「そうだな。最初は認識の甘さ。次は準備の甘さの結果だ。しかし3度目の正直と言うだろう? 次は負けないさ」

「へっ言うじゃねえか。ま、精々頑張りな」

 

 少々な舌戦を繰り広げ、カモとアーチャーが契約を結ぼうとしたその時。

 

「嫌だ!!」

 

 風香が叫んだ。皆が一斉に風香を見るが、風香は構わず叫び続ける。

 

「忘れるもんか! こいつはマギ兄ちゃんに酷いことした奴なのに何でこいつの手助けをしなきゃいけないんだよ!!」

「風香の嬢ちゃん、嬢ちゃんの気持ちも分かるがここは呑んで──―」

「うるさい! カモおじさんの裏切り者! もうボク1人で皆と合流する! こんな奴のやることなんて邪魔してやる! 皆はコイツに護られながら尻尾振ってればいいんだ!!」

 

 一気にまくしたて、最後は叫びながら洞窟を飛び出した。外は危険な筈なのに愚かな行動に走ってしまった。

 

「風香お姉ちゃん待ってレス!」

「外に出たら危ないよお姉ちゃん!!」

 

 史伽とプールスが飛び出していった風香を追いかけるために自らも飛び出していった。

 取り残されるカモとアーチャー。

 

「あー、やっぱり納得してもらう方が無理があったか。風香の嬢ちゃん連れ戻して来るからさっきの護衛の件なかった事にするんじゃねえぞ!」

 

 アーチャーにそれだけ言うとカモも風香を追いかけるために飛び出していった。

 洞窟にぽつんと取り残されたアーチャー。何か思う所があったのか黙っている。

 アーチャーの脳裏に浮かぶ光景は泣きそうになりながらも気丈に笑顔で”本来の記憶の持ち主”を見送ろうとしている赤い少女の姿があった。

 

「……やれやれ。あの小動物の言う通り、とんだお人好しのようだな私は」

 

 自虐的な笑みを浮かべ、アーチャーも洞窟を後にした。

 

「お姉ちゃん待って! 待ってってば!」

 

 洞窟から数百m離れた所で史伽が風香を捕まえる。

 

「離せよ史伽! 史伽もマギ兄ちゃんを裏切ってあの悪者に着いていけばいいんだ!」

「私だってマギお兄ちゃんに酷いことした人と一緒にはいたくないよ! でも、今は意地を張ってもマギお兄ちゃんには会えないんだよ!」

「でもだからってアイツに着いて行こうとするなんて! 史伽の裏切り者!」

「んな!? 言うこと書いて裏切り者とかお姉ちゃんのバカ

 」

 

 そのまま口喧嘩が勃発し、周りのことを考えずに大声で互いを罵り合う双子の姉妹。

 少しして風香と史伽に追いついたプールスとカモは喧嘩を止めようとして、なにかの気配に気づき上を見上げ、さっと顔を青くする。

 

「か、カモおじちゃん……」

「分かってる。嬢ちゃんら、黙って静かにこっちに来るんだ。絶対に叫ぶんじゃあないぞ」

 

 頭に血が登っててもプールスとカモが来ているのは気付いていた双子は尋常じゃないプールスとカモの態度に一度喧嘩を止めて上を見上げてしまった。見上げなかった方が良かったかもしれない。

 何故なら────龍のように巨大な白い大蛇がじっと風香と史伽を見ていたのだから。

 

「「──────!!」」

 

 声にならない絶叫を上げた2人であるが、直ぐに両手で口を覆い声を抑える。そして言われた通りにゆっくりと下がりカモとプールスの元へ行こうとするが、恐怖のせいか思った通りに足が動かない。

 お願い、どうか気づかずにどっかいって。必死に懇願する風香と史伽。

 因みに蛇に外耳はなく、音を感じ取る内耳は体の中に埋もれており、体の表面にあたった音が振動として内耳に伝わり、音を感じ取っている。 人間のように音を聞き取ることはできないが、全身を使って音の振動を感じ取れることから、聴力自体は他の動物よりも優れている。

 さらにかなりの巨体。普通の蛇よりも何倍も優れているだろう。つまり何が言いたいか

 

「────」

 

 声を抑えてもさっきの絶叫で風香と史伽の事はもう分かっていた。

 

「逃げろぉ!!」

 

 カモが叫んだのと白い大蛇が大口を開けて襲いかかるのはほぼ同時だった。

 紙一重で躱す風香と史伽。避けられたのが奇跡である。

 さっきまで2人がいた所は大蛇によって大きく抉られていた。

 あと数秒遅かったらと最悪のイメージをする前に3人と1匹は急いで大蛇から離れるために駆け出す。

 大蛇は人間の少女2人スライムの少女1人そして小動物を食らっても腹の足しにはならない事は承知していた。

 目の前に現れた獲物はただの遊び道具。自分はこの渓谷の主、王は何をしても許される。

 崖に自身の体を打ち付け、大きめの石や岩をあえて当たらないように調整し獲物に落としていく。

 そうだ、逃げろ逃げろ。逃げても意味がなく絶望した後に羽虫のように潰し、食らってやろう。

 

「あう!!」

「お姉ちゃん!?」

 

 風香が躓き転んでしまった。直ぐに史伽が助けに行く。

 

「お姉ちゃん立って!」

「っ……ごめん、足を捻ったみたい。史伽、ボクをおいて逃げて」

「何言ってるのお姉ちゃん! 馬鹿なこと言ってないで立って!」

 

 足を捻ってもう素早く走れないと悟った風香は史伽に逃げろと言うが史伽はそれを遮り早く立たせようとする。

 

「風香お姉ちゃん立って! 立つんレス!」

「何諦めようとしてんだ風香の嬢ちゃん! マギの大兄貴に会うんだろうが! だったら諦めるんじゃねえ!」

 

 プールスが少しでも抗おうと腕を硬質化して皆を護ろうと大蛇の前に立ち、カモは史伽の手伝いをしながら風香へ必死に呼びかける。

 やれやれこの玩具はもう終わりか。仕方ないさっさと潰して次の獲物か玩具を探すとしよう。

 大蛇は巨体を持ち上げると自身の体を武器のように振り下ろした。

 

「ごめん史伽、さっき裏切り者って言っちゃたけど、あれ本心じゃなかったんだ」

「そんなの今はいいから! 立って!」

 

 プールスは両手を組んで大きな盾を形成するが意味がないと理解はしていた。

 もう駄目だと諦めせめて少しでも恐怖を和らげるために両目を強く瞑った。

 しかし諦めていながらも風香と史伽、そしてプールスは強く願っていた。

 

 ―――マギお兄ちゃん助けて! 

 

 そして願いが通じたのか1本の閃光が大蛇に向かい、轟音を上げながら爆発した。大蛇は玩具で満足せずにその意識を手放したもであった。

 体が文字通り消し去って力なく崩れ落ちる大蛇を見て自分達が助かったのだと少しずつ理解していると

 

「やれやれ、危険だらけだというのに勝手に飛び出してからに。でも、無事で本当に良かった」

 

 どこか芝居かかっているが、心配げな優しい声色に振り返ると

 

「それで、護衛の件はOKということで構わないのかな?」

 

 バイザー越しではあるが不敵な笑みを浮かべ弓を携えているアーチャーを見てゆっくりと頷くしかないのであった。

 

 

 

 

 

 

 アーチャーと共に行動することになり、驚く事を知ることになる。

 ここの土地は外界と隔絶されているらしい。試しにプールスが持っていたバッジで連絡を取ろうとしても壊れているわけではないのにうんともすんとも反応しない。

 アーチャー曰くこの原因はアーチャー求めている武具に関係しており、皮肉にもアーチャーがそれを手に入れないと自分達はここから出られないと分かった。

 さらに隔絶されているせいか、ここの情報を誰も知らないらしい。

 それなのに噂に尾ひれがついて、ここには素晴らしい宝が眠っているなんて話でトレジャーハンターが意気揚々と入り、プールス達のように事故でこの地に飛ばされた者が戻ってくることはなかった。

 何年も何十年も人が戻ってくることはないこの地を人は『神隠しの地』と呼んでいた。

 目的の場所に向かう道中、カモやプールスはここの地が如何に危険で自分達の命を刈り取ろうとしているのかを身を持って理解することになる。

 

『────』

「きゃあああああ!! 首無しのお化けだぁぁぁぁ!!」

「こわいよおぉぉぉ!!」

「カモおじちゃん攻撃が効かないレス!」

「普通の攻撃が無効化されてるのか!? それとアイツを見てると心臓を締め付けられるような怖さが……!」

「ここは引くぞ! 早くするんだ!」

 

 見るも無惨な首無しの怨霊が襲ってきたり

 

『ウキャアアアア!』

「今度は武装した猿軍団があああああ!!」

『ウギョアアアアアアアア!!』

「それと巨大なお猿さんだあああああ!!」

 

 錆びた武器を装備した猿軍団と獅子猿に襲われたり

 

「わぁ、きれいな所。ここなら安心──―」

『ゴボァアアアアアア』

「いやあああ!! 今度は巨大鯉だあああ!!」

 

 巨大な湖の中にある雅な宮殿で一休み出来るかと思いきや、湖から巨大な鯉が現れ、呑み込もうと大口を開けてきた。

 ……とこのようにあらゆるものがプールス達を殺しにかかっていた。

 というよりこの地全体が殺意増し増しといった所だろう。

 まず倒せない怨霊の他に死角から現れた猿軍団。そして油断していた所で巨大な鯉。所謂初見殺しのような配置に辟易してしまいそうだ。

 それにプラスされるように敵全体の攻撃力が高い。猿軍団も油断したら直ぐに集団で袋叩きにされてしまいそうだった。

 数多の危険を掻い潜り目的の場所へと目指すプールス達。

 救いは道中でまともな食事にありつけられた所だろうか。

 アーチャーがサバイバルスキルと料理スキルを持っていたようで、現地で食料を調達しサバイバル飯をプールス達に振る舞った。

 その味わいは道中の死にかけた辛さを忘れる程の絶品であった。

 その後の艱難辛苦を乗り越え遂に

 

「漸く辿り着いたか……」

「なんじゃこりゃ」

「凄いレス」

「でっかいお城だ!」

「まるでここだけ日本みたい」

 

 眼前に巨大な日本のような城が見えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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取り残された武士の地

最近になって漸く一回目のエルデの王になりましたが
ラスボスを他の褪せ人に倒して頂いたので、己の強さに納得出来ず、レベル上げのためにカエルを狩る毎日。
最近全然執筆出来てない……

とりあえず今は焦らず続けます。


プールス一行はアーチャーの護衛の末に目的の地である城へと到着した。

城は所々崩壊しているが、荘厳な見た目はしっかりと維持はされている。

プールス達は崩れている城壁から侵入を試み、無事に侵入には成功出来た。城の中はあちこちに人の気配を感じる。

 

「さて、目的の地に辿り着く事は出来たが私達は招かれざる客。相手はこちらを見つけたら必ず襲って来る。言いたい事は分かるね?」

「おい嬢ちゃん達の前で血なまぐさい光景を見せるつもりか?」

 

カモがアーチャーに物申そうとしたが

 

「誰か来るレス!」

 

蹄と嘶きが聞こえ、その他にも大勢の足音が聞こえてきた。

急いで隠れられそうなしげみへと入る。

 

「いいか、呼吸はなるべく小さく、気配は殺せ」

 

アーチャーに言われ、小さい呼吸で身動もせずに気配を殺し悟られないようにする。

暫くすると馬に乗った者と走りでやってきた者が数人。

全員安土桃山時代で死闘を繰り広げたような鎧を纏い、手には太刀や槍、弓や鉄砲を装備していた。正に武士(もののふ)と呼ばれるような風貌だ。

 

「今ここらへんで声が聞こえたぞ!また内府の奴らか!」

「おのれ内府の奴らめ!我等葦の地へ土足に入り込み好き勝手に仲間を殺してからに!」

 

武士達は殺気立ちながら辺りを散策する。手に持っている刀や槍の刀身が怪しく光る。あれら全てが真剣で簡単に自分の命を狩り取ることが出来ると分かると固唾を飲まずにはいられない風香と史伽。

 

「もうよい!内府の奴らのことだ、もう移動していると考えた方が良いかもしれん。奴らは小賢しいが強いのは事実、これ以上あ奴らの好きにはさせぬぞ!」

 

馬に乗っている武士が部下の武士を指揮し別の場所に移動していった。暫くしてから殺気立った気配が無くなり、もう大丈夫と判断してしげみから出るプールス達。

 

「見ただろうあの武士達の異様な殺気を。もし見つかればこちらの大半が女子供だからと言って許す事はないだろう」

「でもよ、やっぱり不殺とか出来ねえものか?」

「……そうは言っていられなくなったようだな」

 

空を切りながら矢がアーチャーに向かって飛んでくる。

アーチャーは干将と莫耶を投影し、飛んでくる矢を切り落とした。

見れば先程の武士達が戻って来ようとしている。

彼らの索敵範囲の力を侮っていたと舌打ちをするアーチャー。直ぐに風香と史伽へ隠れていろと命じる。

しかしプールスだけは残った。

 

「どうした?君も早く隠れてほしいのだがね」

「私も覚悟を決めたレス」

「……そうか、ならそれなりに働いてもらうぞ」

 

プールスの覚悟を一掃せず、アーチャーは干将と莫耶を構える。

こちらへやって来た武士達。槍を持ったものが切先をアーチャーへ向ける。

 

「何者だ!?見慣れんやつ、新しい内府の者か!?」

「見ろ!こやつおなごを連れとるぞ!」

「おのれ内府め!おなごを連れて俺達から油断をさそうつもりか!?」

「しかしどうする?おなごを斬るのは武士の名折れぞ」

 

好き勝手に騒ぐ武士達を見てまるでこの前戦った猿軍団のようだなと思いだしていると

 

「ええい騒ぐな!我らは今内府の者共との戦の最中、今は仲間以外は全て敵だ!例えおなごであろうとも斬って我らは修羅になろうぞ!!」

『おおおおおおおおお!!』

 

馬上の武士の一声によりまずい方へ決意が固まり、一斉に襲いかかって来る武士達。

 

「話し合いの余地なし。いや、端から期待はしていなかったのだがね」

 

溜息を吐きながら魔力を解放しアーチャーは瞬道術を見せ、目の前で消えたアーチャーに驚いた武士達の後に立った。

そして振り返り動揺している武士達を連続で攻撃し違和感に気付く。

 

(何だこれは、まるで肉を切ったと思ったら豆腐を切ったかのように見た目に反して手応えがない……)

 

そして切っても血が直ぐに霧散してしまっている。

一方のプールスも武士達を殺さない程度に殴ったり蹴ったりしているが、妙な手応えに困惑しながらアーチャーを見る。アーチャーはそのまま戦えとプールスにアイコンタクトを取り、プールスも余計な事を考えないように武士達と戦った。

数分後には立っているのはアーチャーとプールスの2人だけ。アーチャーにかかった者は容赦なく切り崩され、プールスにかかった者はプールスが不殺で戦っていたので皆気絶だけで済んでいる。

もっとも硬質化している腕や足で殴られ蹴られされているので無事ではなく痙攣しているのだが。

 

「おのれぇ儂の部下を尽く蹴散らすとは……!ならば今度は儂が相手。我が必殺の槍を受けてみよ!いざ尋常に勝―――」

 

馬上で口上を述べていた武士は最後まで言うことなく事切れた。

何故ならアーチャーが弓と矢を投影し、矢で頭を貫いたからだ。

 

「済まない。だが君達の相手をしている暇も私にはないのでね。早々にかたを付けさせてもらった」

 

馬上から力なく落ちる武士。主がいなくなった馬は一回嘶くと何処かへ走り去っていった。

敵がいなくなり、しげみから風香と史伽とカモが出てくる。死屍累々の上に立つアーチャーを見て恐れも混じった目でアーチャーに尋ねる風香。

 

「こ、殺した……の?そりゃ相手は殺す気で来たんだし、正当防衛なのかもしれないけど……」

 

動揺しているためかなり目が泳いでいる風香。そんな風香を安心させるように優しめや声色を出すアーチャー。

 

「心配するな。私は誰も殺してはいない。というより誰も生きてはいないというのが正しいかな」

「え?それはどういうことですか?」

 

首を傾げる史伽。ちらりとアーチャーはプールスを見て、プールスもこくりと頷く。

 

「この人達と戦った時に違和感を覚えたレス。まるで目の前にいるのにここには居ないみたいな……」

 

プールスの表現に上手く理解出来ず首を傾げたままの風香と史伽に助け船を出すように説明するアーチャー。

 

「あの武士達はとっくの昔に亡くなった者達。所謂亡者と呼ばれる者達だ」

「亡者?ゾンビとは違うの?」

「ゾンビとはまた別物だ。あの者達は簡単に言えば実体のある幽霊のようなものだ。残留思念、地縛霊、この者達はこの地に縛られている。ゴーストタウンならぬ、ゴーストキャッスルに」

 

ゴーストキャッスルと聞き顔を青くする風香と史伽であるが史伽はあることに気付く。

 

「でもアーチャーさんが戦ってた武士の人達は血を流してたし幽霊なら死なないのに何で皆起きないの?」

「この者達は自分達がもう死んでいる事を理解していない。否もう死んで長い、もう死んでいることを忘れているのかもしれない。だからこそ生きていた時のようにこの城をさ迷い、嘗ての敵が来たように侵入者と戦い、そして死ぬ。彼らはそれを繰り返しているのだろう。延々と」

「なんか、可哀そう……」

 

風香は哀れんだ。死んでもなお敵と戦うために城を彷徨うなんて

 

「今は哀れむ暇はない。城にはまだ多くの武士が居るだろう。この場に留まるのは得策ではないだろう」

 

倒れている武士に少しの哀悼の意をこめて合掌しその場を後にする一行。

道中他の武士達が襲われる中、風香と史伽は邪魔しないために茂みや瓦礫に隠れていた。相手が生身の人ではないと知ったことで少しは落ち着きを取り戻したが、しかしそれでも見られたものではないのは確かなので極力目を閉じるか耳を塞ぐようにしていた。

カモはプールスと連携を取り、所々で目くらましのマグネシウム攻撃で相手の目を潰すファインプレーを繰り広げていた。

武士達と戦い、時に隠れるために廃墟の床下を匍匐前進で進み、落ちるすれすれの崖を渡るなどした。

その中で何回か人の白骨を見る。しかし格好がかなり時代錯誤していた。

アーチャー曰く、この地に迷い込んだ者か、はたまたトレジャーハンターの類か。いずれにせよこの地に入って生きて帰れなかった哀れな末路を辿った者達。自分達も最後はこうなるのではないかと最悪のビジョンが頭に浮かぶが頭を横に振り嫌なイメージを頭から消し去った。

暫く歩き、周りに敵の居ないエリアにたどり着いた。

 

「どうやらここはセーフハウスのような場所のようだな。暫くは此処で小休憩するとしよう」

「賛成だ。ずっと武士達の相手をしたり隠れたりしたせいで気が張りすぎたからな」

「ね、ねえあんな所に仏像があるよ」

 

風香が指差した所にポツンと仏像が置いてあった。6本の腕で禅を組む、鬼の形相を浮かべた仏像だ。

 

「ねぇ、お参りしとこうよ。少しでも供養出来るならさ」

「あぁ、そうだな。それがいいだろう」

 

風香の提案に誰も拒否はしなかった。皆仏像の前で跪き、合掌をした。その時不思議な事が起こる。

青い炎が燃え上がったと思いきやそのまま一行を包み込む。

思わず悲鳴を出す風香と史伽であるが、青い炎は全然熱くなかった。

戸惑いを見せているプールス、風香、史伽。しかしあるものを見てある場所に指を向ける。

 

「カモおじちゃんあれ!」

「なんだ?……おいおい、まじかよ」

 

カモも思わず唖然とする。カモが見たものそれは

 

「あ、あぁ……ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

アーチャーに斬り倒された武士がゆっくり起き上がり、何事もなかったかのようにまた城を徘徊し始めたのである。

 

「どうやらこの仏像に合掌した瞬間に力が発動するのだろう。今までの事が全てリセットされ、倒れた者は復活、城を徘徊し現れた敵を排除する。それを延々と繰り返すのだろうな」

 

アーチャーは呟き遠目で敵を探し求め徘徊する武士達を見る。バイザーで隠れているがプールスはアーチャーから哀れみを感じた。

 

「それで、目的の品まではあと少しなのかアーチャーさんよ?」

 

カモの問いかけにアーチャーは古い羊皮紙を取り出し、それを広げる。それは地図であり、恐らくはこの城の全体図であろう。

アーチャーはとある場所を指差す。

 

「この城から少し外れた場所にすすき畑があり、そこに1人の忍がいる。その忍が背に背負っている大太刀には力があり、まさに不死をも断つ力があると言われている」

「改めて聞くけどよ何でこんな地図があってそんな事を知ってるんだ?ここに入ってきた者は生きて出てこれなかったんだろ?」

 

カモの言ったことにプールスや風香史伽も頷く。これでは矛盾している。一方のアーチャーもそれはご尤もと頷きながら話を続ける。

 

「昔、ここを脱出出来た学者が居たらしい。その学者はここを調査するために来たらしく、なんとか武士達の攻撃を掻い潜り、身を潜めながらすすき畑に到着し忍びとであった。その時にこう尋ねられたそうだ」

 

――――御子様は何処だ――――

 

「その問いに学者は『御子なんて知らない』そう答えた瞬間に意識を失い、気づいたときには学者はとある街病院のベッドの上だった。学者を助けた者が言うには道端で倒れていたそうだ」

「それじゃあその忍者に御子なんて知らないって言えば!」

「上手くいけばここから出られる。そんでどこか見知らぬ所を当てもなく彷徨うってか?一応言っておくがここの外を出ても危険な魔法生物や山賊や人攫いなんてごまんと居ることを忘れるなよ」

「う……」

 

カモに指摘され言葉に詰まる風香に何も言わずに目を反らした史伽。史伽も出来ることならアーチャーの頼りにはしたくないもようだ。

 

「別に私はそれでも構わないよ。私は君達の意見を尊重しよう」

「いや今のは聞き流してくれ。大兄貴には悪いが俺は安全にこの子らを合流させなければいけないからな」

 

例えアーチャーに媚び売ってでもプールス達をマギの元へ連れて行こうと固い決意をカモは決意を変えなかった。

そして軽い食事を済ませると目的のすすき畑に向かうのであった。

そしてあるき続けて数刻、空も暗くなり満月が上り出したた頃。

 

「うわぁ……」

「キレイレス……」

「一面のすすき畑だ」

 

史伽、プールス、風香の順番で感嘆な声を上げる。

一面に広がるすすき畑を月明かりが照らし黄金に輝く幻想的な光景が広がっていた。先程まで殺伐とした場所と目の前の光景は高低差が激しい。

しかし一行の目的はすすき畑を見るためじゃない。すすき畑の奥に佇む1人の男に用がある。

すすき畑の奥に佇む男、それは城にいた武士のような整った装備ではなく、泥と煤、赤黒いのは恐らくは血だろう。薄汚れた格好に、片腕が精巧な義手となっており、背には大太刀を携えている。この男が件の忍である。

忍はこちらに気づき、虚ろな目を向け問いかける。

 

「御子様はどこだ」

 

感情のない機械的な問いかけ。何度も同じようにこのすすき畑に来た者へ問い続けているのだろう。

御子なんて知らない。だがアーチャーが答えたのは

 

「悪いが私は御子なんて者よりもその大太刀に用がある。私の目的のために、その大太刀頂きに参った」

 

そう答え、干将と莫耶を投影し構える。対して忍の反応は

 

「――――参る」

 

先程までの朧気な雰囲気から一変し、鋭い殺気をアーチャーに向けながら手に持っていた刀を構えるのであった。



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弓兵対狼

最近の推しは壱百満点原サロメお嬢様。
あの人は本当にすごいと思っております。
お嬢様の実況を耳に傾け、カエル狩りマラソンを行うカオス具合。



「──参る」

 

 刀を構えた忍が強靭的な脚力でアーチャーに向かっていった。

 干将と莫耶で刀を防ぎながらバイザーで隠れた目を大きく見開くアーチャー。

 忍や城の武士の亡者達からは何の魔力も感じない。しかし忍ば一瞬でアーチャーと間合いを詰めたのだ。

 つまり己の脚力だけで瞬道術並みの速力を出したというわけだ。

 

(これが己の肉体を極限までに高めた忍の力という訳か!)

 

 しかもこの忍、城の武士のような決まった型があるわけではなく剣筋もでたらめ。まさに戦う事だけに相手を殺すためだけの剣であった。

 アーチャーも忍の刀を防ぎながら干将と莫耶で攻める。忍の刀を弾き少しでも相手の体幹を崩す。

 

(っそこだ!)

 

 アーチャーは弾いた瞬間に忍の体幹を崩れ一瞬の隙を見つけ莫耶を突き刺そうとしたその時

 ばばばばばんと至近距離で爆発物が炸裂した。連続的な爆発音に思わず体が硬直するアーチャー。

 

(爆竹だと!? どこに隠し持っていた? あの義手か!)

 

 祝い事やいたずらで使われるようなちゃちなものではない相手の鼓膜を使えなくするような武器としての爆竹を隠し持っていることに驚くがアーチャーは忍の義手に爆竹を隠していたと直ぐに理解する。

 しかしそんな事を呑気に考えている間に今度は忍の刀がアーチャーの体に突き刺さろうと迫っていた。

 

「っく、うぉぉぉぉぉ!!」

 

 瞬時に魔力で体を強化し、忍の刀を踏んづけ何とか攻撃を防ぎそのまま忍の体を蹴りながら一度間合いから離れる。

 そして一度干将と莫耶を霧散させて今度は黒弓を投影し矢を何本か投影させるとそのまま弦を引き絞りマルチショットで忍に向かって放つ。

 魔力で強化された矢は弾丸同じ速度で忍に向かっていくが忍の動体視力により、あっさりと弾かれてしまった。

 

「やはり只の矢では駄目か。ならばこれならどうだ」

 

 そう言ってアーチャーは黒い1本の剣を投影する。それを細く1本の矢へと変える。

 

「赤原猟犬」

 

 先程と同じように弦を引き絞り放つ。

 真っすぐ黒い矢は忍に向かっていくが、忍は矢を弾き飛ばす。しかし今弾いた矢は普通の矢ではない。

 弾かれ天高く飛んで行った矢は軌道を変え、もう一度忍に向かっていく。

 そのまま矢は忍に当たる。そう思った。

 だが忍の義手から今度は傘が展開され、淡い紫の炎を上げながら回転し追尾の矢を弾いたのだ。忍はあの矢が自動追尾の力を持っていることを分かっていたのだろうか。いや、これは恐らく勘だろう。勘で察して傘を展開し弾いたのだ。

 忍はアーチャーの攻撃を読んだ。そして、アーチャーも忍が何らかの攻撃で矢を防ぐだろうと読んでいた。

 

「残念だがそちらが何らかの手で防ぐことは読んでいた……偽・螺旋剣」

 

 今度の攻撃は傘程度では防ぐことはままならないぞと付け加え、今度の攻撃は忍を爆発と轟音で包んだ。

 マギにも使ったことがある螺旋状の剣は魔力の無い忍ではひとたまりもないだろう。

 現に煙が晴れると黒ずんだ忍がうつ伏せで倒れていた。

 

「……これで終わりか。早い段階で倒すことが出来て良かった」

 

 そう言いながらアーチャーは目当ての大太刀を手に入れようと忍に近づく。

 ぴくりと忍の指が動いた。

 

「なにっ?」

 

 思わず距離を取ってしまった。馬鹿なあの攻撃を防いだというのか。ありえない直撃した致命傷いや死んでいても可笑しくないというのに。

 ゆらりと立ち上がり刀を構える忍を見て漸くアーチャーは確信する。

 

「まさか貴様、死んでも蘇る事が出来るというのか」

 

 城の武士とは違い死んでも蘇る事が出来る。なんとも厄介な能力を持っているのだろうか。

 

「まぁいい。死んでも蘇るというなら、蘇らないまで殺すまでだ」

 

 黒弓から干将と莫耶へ変え構える。対して忍は変わらずアーチャーに殺気だけを向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 アーチャーと忍が戦い続けてもう10分が経とうとしていた。プールス、カモ、風香、史伽は固唾を飲んで戦いを見守るしか出来なかった。

 忍は今度は剣術以外に拳や脚を果敢に使う拳法を繰り出してきた。剣と拳法といったトリッキーな攻撃に

 アーチャーは冷静を掻く事せずに攻撃を防ぐが、忍は今度は義手から斧を展開し力強く振り下ろし、干将と莫耶を砕いてしまった。さらに掌底をアーチャーの体に当てて吹き飛ばした。

 直ぐに干将莫耶を投影し、突貫するが今度は義手から筒が出て筒から炎が噴き出し、アーチャーは炎に包まれた。

 しかし魔力で炎を吹き飛ばす。大したダメージはなく、軽い火傷を負ったぐらいである。

 

「あぁ! 危ない!」

「もう見てらんないよ!」

 

 風香と史伽はあまりの激しさに手で顔を覆ってしまう。そんな中でもカモは状況を冷静に見ている。

 

「なんて奴だ。どの攻撃も急所を狙った迷いのねえ。戦い方も人のそれじゃねえ。獲物の喉笛を嚙み切ろうとする、狼……隻腕の狼だ」

「狼……」

 

 カモの例えにプールスはぎゅっと手を握るのであった。

 プールス達を蚊帳の外にしながらアーチャーは忍の攻撃に少しずつ慣れてきた。忍の刀を弾く回数も増えてきた。

 そして大きく弾き、体幹を大きく崩した。

 

「もらった!」

 

 好機と見て連撃を繰り出そうとするアーチャー。

 しかしそれは誘われたことに直ぐに気づく。

 今度は天狗が使うような団扇を取り出し、竜巻を起こし、忍は姿を消してしまった。

 

「くっしまった。こういう戦い方も出来たのか!」

 

 油断していたわけではない。しかしまさか姿を消すような道具をも持っているとは。

 しかも忍らしく気配を完全に消している。直ぐに索敵しようとして

 ぞくり。背中に気配を感じたのと同時に背中に激痛が走る。

 

「くっ後ろか……!」

 

 振り返れば義手から小刀が伸びていた。あの小刀で背中を刺したのだ。

 刺された瞬間びりっとした痺れと直ぐに目の前がぼやけ出した。

 

「毒か……」

 

 しかもかなり強力な毒の様だ。このまま悠長に戦っていたら毒で先に参ってしまいそうだ。

 

「しかし油断したな。私の方も誘っていたのだよ。そら……頭上注意だ」

 

 上を見て見ろと忍が言われたように上を見上げると

 何百本もの刀剣が忍に切っ先を向けていた。

 

「そら降り注げ!!」

 

 アーチャーが腕を振り下ろしたのと同時に刀剣の雨が忍に向かって降り注がれる。

 忍も最初は刀で刀剣を弾き飛ばしていたが、遂には捌ききれず体の至る所に刀剣が刺さっていく。

 降り終わった頃には忍は至る所に刀剣が刺さり針鼠状態となっていた。

 

「流石にこれ以上はない事を祈りたいな……少しずつだが毒が回ってきてる感覚が」

 

 そう言いながらアーチャーは懐から何らかの薬が入った瓶を取り出し蓋を開ける。毒消しの薬だろう。効くかどうか分からないが飲まないよりかはましだろう。

 飲もうとしたその時、手裏剣が飛んで来て瓶を弾き、瓶に入っていた薬は地面が吸ってしまった。

 

「……まだ動くのか。勘弁してもらいたいものだな」

 

 脂汗を出しながらも構えるアーチャーだが息は上がっており、少しずつ毒が体を蝕んでいっている。

 そして手裏剣を投げた張本人の忍は体中の刀剣を抜きながら

 

「まだだ……俺は、あの人のために……」

 

 あの人。生前忍が敬愛していた者のことなのだろう。死して尚、誰かのためにその刃を振るう忍の体から黑い瘴気が溢れだした。

 その姿は人でもなく、狼でもなく、まさしく修羅であった。

 

「何だよあれ、絶対にまともな力じゃねえぞ」

 

 忍から溢れ出る禍々しい力に戦々恐々するカモ。

 

「でも、あの人辛そうレス……」

「うん、それになんか」

「あの忍者さん悲しそう」

 

 対してプールス達は忍が無理をしていると直感で感じ取った。

 そしてこれが最後の復活、最後の戦いだという事も感じ取ったのであった。

 

「毒の回り具合からすると全力で戦う事が出来るのは持って1,2分が限界……か。ならば、魔力を回す。決めに行くぞ」

「……来い」

 

 アーチャーは干将と莫耶をブーメランのように投げ、新たに干将と莫耶を投影し突撃を仕掛ける。

 間合いを詰めた瞬間、今度は義手から槍が伸びてきて突き攻撃を繰り出してきた。

 もはや何でもありな吃驚義手に舌を巻きながらも忍の槍を飛び越えた瞬間に投げていた干将と莫耶が戻って来て忍を切り裂く。

 

「鶴翼二連!」

 

 追撃で干将と莫耶を振り下ろしたが、攻撃が当たった瞬間に今度は霧のように消え、直ぐに現れて刀を振るってきた。

 

「ぐっ……ごほ」

 

 刀を防ぐが思わず咳き込む。咳と一緒に血反吐が出た。激しく動いたせいか毒の回りが早まったのかもう時間が残っていない。

 

「がんばれー!!」

 

 応援の声が聞こえ、思わず声のした方を向くと

 

「がんばれ! まけんな!!」

 

 敵視しているはずの風香が応援していた。思わず目を丸くする(バイザーで隠れているわけだが)アーチャー。

 

「お姉ちゃん何で応援してるの? あんなにあの人事を敵視してたのに」

「だって、目的がマギ兄ちゃんの危険になることだからってあんなにきつそうになってでも必死になってるんだ。そんなのを見てたら思わず応援しちゃったんだよ」

 

 そう言いながらもアーチャーを応援する。風香。そんな風香を見ていたら段々と史伽とプールスも感化され始め

 

「お願い勝って!!」

「負けないでレス!!」

 

 必死でアーチャーを応援している少女達を見て、アーチャーは思わず顔が綻んでしまい

 

「ここまで応援してくれるのなら、応えなければ無作法というものだな」

 

 そう言い干将と莫耶を手放す。手から離れた双剣は魔力となって霧散する。

 目の前の忍を屠るには愛用している剣では足りない。

 あの修羅を超えるにはまさに必殺の剣が必要であった。

 イメージするのは最強の一振り。その剣を魔力で生み出せ。

 対して忍びも手に持つ刀を鞘に収め、背中に担いでいる大太刀を鞘からゆっくり抜く。

 禍々しくも力強いオーラが刀身から現れる。

 あの大太刀は強力だ。忍が構え、その切っ先を向けられているアーチャーは肌にびんびんと感じている。

 

「う……気持ち悪い……」

「なんか、体に力が入らなくなった。なにこれ……」

 

 大太刀が鞘から抜かれた瞬間に風香と史伽は急な吐き気に襲われ立っていられなくなり地面に座り込んでしまった。

 

「まさかあの大太刀、力の弱い奴から生命力を吸っているのか!? おい! 早くけりをつけないと嬢ちゃん達の身が持たねえぞ!!」

「どうやらそのようだな……」

 

 アーチャーは余計な雑念を捨て、集中する。

 

I am the bone of my sword

 

 詠唱をしながら何の剣も投影せずに忍に突撃するアーチャー。

 無策の特攻を仕掛けたのかと思われるかもしれないが、カモやプールスは何かしようとしているのを直感で理解し、風香と史伽もアーチャーが勝つことを信じていた。

 そして忍の大太刀がアーチャーの体を切り落せるまでの間合いに入る。

 

「────!!」

 

 忍は何も叫ばず、ただ目をかっぴらく。目はこれで終わりだと叫びながら大太刀をアーチャー向かって袈裟斬りで振り下ろす。

 大太刀が振り下ろされている間、アーチャーはイメージを続けていた。そして自身の体で回路のような物が迸り、繋がった。そして頭の中で一本の剣が出来上がった。

 それはこの記憶の本来の持ち主(……………………)がよく知るとある王が振るっていた光り輝く聖剣。その聖剣が振るわれる事により勝利に導く。

 そう、その剣の名は

 

永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)!!」

 

 逆手に持った光り輝く聖剣を忍が振り下ろすより早く振り上げる。

 聖剣が忍の体を深く切り裂く。

 そして聖剣から放たれた光の奔流が忍の体を突き抜け、そのまま忍の背後にあった廃城を包み込み、轟音と共に破壊してしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……見事だ」

 

 膝から崩れ落ちた忍はその一言をアーチャーへ称賛として送った。

 そして自身が持っていた大太刀を鞘に納めアーチャーへ渡す。

 

「これを、お主に託す。お主も斬らねばならぬものがあるのだろう」

「……あぁ、有難く頂戴する。感謝する」

 

 大太刀を渡され、感謝の意を見せるアーチャーに忍は頼みがあると言う。

 

「その大太刀、不死斬りで俺を斬ってくれ。俺はもう……その大太刀でしか死ぬことが出来ない」

 

 それに、と忍は続ける。

 

「俺の体はもう限界だ。これ以上は人の身を捨て、正に修羅となる」

 

 見れば聖剣に切り裂かれた体が少しずつだが修復していっているが、その体はもう人の体ではなかった。その体は少しずつだが化生の身へと変わろうしていた。

 化生の身になってしまえば自我などなくただ暴れる存在となってしまうだろう。アーチャーは慈悲を持って忍を斬る事を決めた。

 そして不死斬りの柄を掴み鞘からゆっくりと刀身を抜く。その瞬間アーチャーの体に激痛が走る。

 毒のせいかと思ったが、これは不死斬りが拒んでいるのだろうとアーチャーは理解する。

 しかし今は忍の名誉の為に、激痛を堪え、不死斬りを構える。

 

「名もなき忍よ。死して尚誰かの為にその刃を振るうその姿。そのような男と戦えた事に俺は誇りに思う」

 

 そう言いながらアーチャーは忍に向かって袈裟斬りに不死斬りを振り下ろした。

 不死斬りに斬られ、忍から鮮血が舞う。

 

「あぁ、御子様。出来れば、貴方の元へ――――」

 

斬られながらもその顔は穏やかな顔を浮かべながら、想う相手を呟きながら灰になり消えていく忍。

残ったのは忍の義手と鞘に収まった刀だけであった。

灰となり、空へと昇る忍を見上げながら不死斬りを鞘へ納めるアーチャーであった。

 

「終わったの?」

「あぁ。これであの忍も解放されただろう」

 

風香に聞かれ、微笑みを向けるアーチャー。

 

「ねぇ、あれ。あれってお墓?」

 

史伽が指さした所に、ススキ畑の真ん中に小さいお墓がぽつんとあった。

 

「そう言えばあの忍、この墓を護るように陣取ってたな」

「じゃあこのお墓が忍者さんが言っていた御子様レス?」

「おそらくはそうだろう」

 

アーチャーは義手と刀を墓へお供えする。

 

「どうか黄泉の国で自身が敬愛した者と再会出来るように、せめての手向けだ」

 

そう言ってアーチャーは合掌をする。アーチャーに続くようにプールス達もお墓に合掌する。

どうかあっちの世界で御子様と会えますようにと

と合掌をしていると、轟音と崩れる音が立て続けに起こった。

 

「なっなんだぁ!?」

「カモおじちゃん!!」

「どしたプールスっておいおい!城が!」

 

見れば城が大きい音を上げながら崩壊していた。

 

「おいおいアーチャーさんよ!ちいとやりすぎじゃねえのかい!?」

「いや、私のせいだけではないようだ。この空間はどうやらこの不死斬りと忍が保っていたようだ。そしてその要の忍が成仏したことにより止まっていた時間が一気に動き出したのだろう。それこそ浦島太郎の玉手箱のようにね」

 

それはつまり、城に居た武士達も無事に成仏が出来たということだ。しかしそんな悠長な事をしている暇はない。

 

「やばいじゃないか!だったら僕達も逃げないと!」

「私達も崩壊にまきこまれちゃう!」

 

大慌てを見せる風香と史伽にすまないとアーチャーは謝罪しながら座り込み

 

「どうやら毒のせいで限界が来たようだ。もう動くことも困難な状況になってしまった」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!終わりだぁ!ボク達はこの廃城と一緒に終えるんだ!この巨大な城がボクの墓標になっちゃうんだぁぁぁぁぁ!!」

「お姉ちゃん落ち着いて!!」

 

絶望で喚く風香を落ち着かせようとする史伽も顔は絶望に染まっていた。少しずつだが崩壊が進み、崩壊はススキ畑へと迫っていった。

もはやここまでかと覚悟を決めようとしたカモとプールス。とその時甲高い鳥の鳴き声が聞こえた。

 

「どうやら間に合ったようだな」

 

アーチャーがふっと笑みを浮かべていると、空から巨大な鷲に乗ってアーチャーのパートナーの千草が現れたのであった。

随分ナイスなタイミング。おそらく何処かで待機をしていたのだろう。

 

「アーチャー!無事かえ!?」

「あぁマスター、何とも感動的なタイミングだよ」

 

毒が回っているがまだ減らず口を出す元気はあるようだ。

千草は最初はアーチャーしか見ていなかったが、アーチャー以外にカモやプールス、風香と史伽が居ることに驚いている。

 

「何であの魔法使いの仲間が一緒に居るんや!?」

「話は後でしよう。それよりも彼女達も一緒に乗せて上げてほしいのだが構わないかな?」

「はぁ!?何言うとるねん!……って本当は言いたい所やけど、なんか危ない展開みたいやからな。早く乗りや!」

 

千草が早く乗れと促し、先に風香と史伽にプールスとカモを乗せてから最後にアーチャーが鷲に乗る。

 

「いいぞ出せ」

「いくで!振り落とされない様にしっかり掴まっとれ!」

 

鷲が甲高い声を一言上げながら羽ばたきススキ畑を脱出する。

間一髪の所で崩壊から逃れる事は出来た。下を見下ろすとお墓の寸での所で崩壊は止まっていた。

お墓は崩壊に巻き込まれずに無事なのを確認出来て、ほっと胸をなでおろすプールスと風香と史伽であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほいアーチャー。これを飲めば幾段か楽になるはずや」

「感謝するマスター」

 

千草が袖から解毒薬を出してアーチャーに渡し、感謝しながら解毒薬を煽る様に飲むアーチャー。

 

「それで、目的の物は手に入ったんかい?」

「あぁ。これだよ」

 

そう言ってアーチャーは不死斬りを千草に見せた。

不死斬りを見た千草は思わずうげっと声を出しながら

 

「それ、確かに強力な力を持っているみたいやけど、完全に妖刀の類やないか。絶対まともな代物と違うえ」

「あぁ。だからこそ、使える可能性は大いにあるというわけさ」

 

そう言って不敵に笑うアーチャーであるが内心では

 

(しかしこの不死斬りは人を選ぶようだな。どうやら私は選ばれた者ではない。使えるのは後1回か2回が限界だろう。使いどころを間違えない様に見極めなければな)

 

忍を斬るために不死斬りを使ったが、あの時不死斬りから拒絶されていた。本来は拒絶された者は使う事が出来ない所だが、アーチャーは忍を斬るために強引に使ったのであった。

 

「話は変わるけど、何であの子たちがアーチャーと一緒に居たんや?」

 

千草がプールス達を見て、プールス達も千草を警戒して見ている。

 

「どうやら強制転移であの地へ飛ばされたようだ。あのオコジョからの依頼でマギ・スプリングフィールドの元へ送り届ける事にした」

「それはええけど、お前もよく分らんな。敵の仲間を親切に送り届けるなんてな」

「まぁ、敵に塩を送るのもまた一興かと思ってね」

 

かっこつけがと千草に呆れられながらも、千草は外でマギ達がオスティアへ向かっているという情報を掴んでいた。

 

(待っていろマギ・スプリングフィールド。貴様を屠る準備は整った。首を洗って待っているがいい)

 

しかし限界が来たのか意識を手放すアーチャーなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




言い訳というかなんというか
今回の忍は隻狼をモデルにしておりますが、あくまでモデルにしているだけで本人ではございません。
SEKIROファンからしたら納得のいかない描写があったかもしれませんがご了承ください。


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闇の魔法修行② 闇の力を己のものにしろ

 アーチャーがマギを倒しうる力不死斬りを手に入れたことから視点をラカンの元で修行をしているマギ達が居るオアシスへと戻る。

 

「いやぁ! はっはっは! まさかエヴァの闇の魔法がここまで凄いとは思わなかったぜ! 俺じゃなければ死んでたなこりゃ!」

 

 盛大な爆発で自滅し包帯ぐるぐる巻き状態でありながらも快活に笑うラカン。明らかに重傷だったのにもう動けるラカンの出鱈目な回復力に呆れる者、感心する者、驚愕する者、どん引きする者と反応は様々であった。

 

「ん、まぁ……闇は止めとけ。死ぬわ」

 

 マジでときっぱりとそう言ったラカン。

 

「さんざん勧めといてあっさりと手の平返しやがったな」

「まぁこの俺でもこんぐらいの傷を負ったぐらいだからな。ネギじゃ下手すれば耐えきれず……ぼんっと人間爆弾になっちまうかもしれないな」

「そ、そんな! ネギ先生が!!」

「落ち着いてあやかさん! まだ僕がそうなるって決まったわけじゃないですから」

 

 ネギが人間爆弾になると聞いてネギが爆発四散する光景をイメージしてしまったのだろう顔面蒼白なあやかが悲鳴を上げてパニック状態になり、ネギが落ち着かせようと宥める。

 

「それでマギはこのまま闇の魔法の修行は続ける積りか?」

「俺は構わない。俺はもう不死身だから爆発しても再生は出来るだろうからな」

 

 俺は爆発には動じないと言い切ったマギを見て千雨はどこか悲しげな表情を浮かべた。千雨の顔を見て自身の身を顧みない言動は配慮が足りなかったと直ぐに謝罪する。

 

「まぁマギは闇の魔法の基礎は知ってるわけだし、あとは暴走しないようにするのが課題だが、ネギは闇の魔法の経験はゼロだ。といっても闇との相性が無いというわけじゃねえ。さっきはぼんっなんて言ったが、俺の見立てじゃ爆発する可能性はまぁ小さいだろ」

「そ、そうですか。よかったです」

 

 爆発はないだろうと聞き、さっきまでのパニック状態から少しは落ち着きを取り戻したあやか。

 

「だけどな、爆発しないと言っても適性が無ければどうなるか分からんのも事実だ。千雨の嬢ちゃんに聞いたがマギも闇の魔法を暴走させて化け物になっちまった未来もあったんだろ? ネギだって化け物になるかもしれないからな」

「……はい」

 

 ネギは化け物になったマギを思い出した。自分もあのような化け物になってしまったら本末転倒だ。何のために強くなろうとしたのかと無駄な努力になってしまうかもれしない。

 段々と臆し始めたネギを見て、ラカンは手の平を叩く。拳銃のような破裂音で下向きだった意識が元に戻る。

 

「今日はここまでだな。残り時間はとにかく体を動かしてさっさと寝ちまうのが一番だ。おら、ネギは湖の周りをランニング100周した後に筋トレの後にイヤな顔をしてのパンチ1000回だ! マギは同じように座禅」

「は、はい!」

「おう」

 

 ラカンに言われた通りにネギとマギはイヤな顔をしてパンチと座禅を組むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝、ネギは早く起きて雑念を捨てようと日課の拳法の型を行っていた。

 ネギは迷っていた。闇の魔法を身に着け、更に強くなりたいと願う自分もいれば、無理をして自分だけ強くなる必要はないと思う自分も居た。

 憧れの父の道、慕っている師の道。自分はどちらの道を進めばいいのか

 確かにフェイト・アーウェルンクスは強い。自分1人で戦えば勝つ可能性は低い。だが自分は仲間がいる。ならば仲間と一緒に倒せばいい。そうだそれがいい。

 だけど……

 

「僕は、どうする!?」

 

 震脚をしてから虚空の相手に鉄山靠を当てる。確かに仲間が居ればどんな困難も乗り越えることは出来るだろう。しかし逆を言えば仲間がいなければ何も出来ないのではないのか

 自分が強くなろうとしたのは、フェイトを倒す、超えるためではない。本来は大切な仲間、隣にいる者(アスナ)を護るために強くなろうとしたのだ。

 もうこれ以上誰かと離れ離れになるのはごめんだ。

 

「朝から鍛錬を行うなんて、流石ですわネギ先生」

「あやかさん。すみません、起こしてしまいましたか?」

 

 巻物を持ったあやかが微笑みを浮かべながら歩み寄ってくる。早朝にネギが居ない事に心配をかけたかと思い謝罪をするが、あやかは大丈夫ですと言いながらネギに巻物を渡す。

 

「ネギ先生、これをラカンさんが渡すようにと」

「これは?」

「エヴァンジェリンさんが昔に記した闇の魔法の巻物だそうですわ」

「これはただの巻物(スクロール)じゃないですね……」

 

 巻物からとてつもない力を感じ思わず冷や汗を流すネギにあやかは話を続ける。

 

「もし光の道を行くなら開けるな。闇の道を選ぶなら開けてみろとラカンさんが言っておりました」

 

 つまりこの巻物を開ければもう後には引けなくなる。

 

「ネギ先生……」

「あやかさん?」

「私はネギ先生が心配です。本音を言えばその巻物を開いては欲しくないと思っております。けど、もうネギ先生の考えは決まっている。そうでしょう?」

「……はい、ごめんなさいあやかさん」

 

 巻物を見てしまえばあれだけ迷っていたはずの気持ちがあっさりと固まってしまった。我ながら単純だなぁと自嘲の笑みを浮かべた。

 

「私から言えることは、修行を終えて、どうかまた元気な笑顔を見せてください。ただそれだけです」

「はい!!」

 

 一方マギは湖の浜辺で久しぶりに月光の剣を抜いた。月光の剣に魔力を送り、月光の剣が蒼く輝く

 

「ふっ」

 

 月光の剣を振るい、蒼い光刃が飛び湖の水面に当たり水柱が出来上がる。

 

「ふっ! はぁ!」

 

 今度は二度振り、2つの光刃が放たれる。

 

「……ふぅ」

 

 残心を解き鞘に納める。心なしかトサカの時に振るった時よりも光刃の威力が上がってるような気がするマギであった。

 

「……なぁマギさん」

「なんだ?」

 

 月光の剣を振るうマギを見ながらまだ寝起きなのか寝ぼけながら聞く千雨(マギウスはまだ起動していない)にマギは反応する。

 

「ネギ先生の奴、あの巻物を開くと思うか?」

「開くだろうな」

 

 マギはネギが巻物を開くだろうと確信している。ラカンの自爆を見て、下手をすれば死ぬリスクがあると一瞬はひよっているがネギは一度決めた事は絶対に曲げない。記憶がリセットされネギとの関係は短いがマギは心でネギを理解している積りであった。

 

「でもよ。心配じゃねえのか? マギさんだって闇の魔法を使う時は結構ヤバそうだったのに、マギさんよりも肉体も精神も幼いネギ先生に耐えられるのか?」

「正直言えば俺も心配さ。けど、ネギが決めた事なら俺はネギの気持ちを尊重したい」

 

 マギは誰が何と言おうがネギが決めた事を尊重すると決めている。

 

「ネギ先生もそうだけどよ、あたしはマギさんアンタが心配だよ。あたしはマギさんに何かあったら……」

 

 心配そうな千雨の顔を見て、マギは困った笑みを浮かべながら千雨の頭に優しく手を乗せた。

 

「悪い。勝手な事だと分かってる。心配をしてくれるのをありがとうと言うのも違うというのも分かってるけど、今は俺の事を信じてくれないか?」

「……まったく、女泣かせだよなマギさん。信じるよ。今のあたしはそれぐらいしか出来ないからな」

 

 心配する女に信じてくれとしか言えないマギに千雨もへっと笑いながらそう言った。

 ありがとう。再度マギは千雨にそう言うのだった。

 そして身支度を終え、マギとネギはラカンの元へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう! ぼーず! そんで決めたのか?」

「はい。それよりもラカンさんは体の方は大丈夫なのですか?」

「はっはっは! ガキに心配される程やわな身体はしてねうお」

 

 笑っているが眉間から噴水のように血を噴き出すラカンにネギは慌てるが、ラカンは直ぐに眉間に力を入れて止血する。止血の仕方もぶっ飛んでるのにもう何もツッコむかと誓った千雨。

 

「そんでどうすんだ? 光か? 闇か?」

「はい、僕……は父さんを目指すために、何より仲間を護るために僕は闇を選びます!」

 

 そう言い切ってネギは巻物を開いた。少し呆けた顔をするラカンだが、直ぐに笑みを浮かべ

 

「ほー。少しはビビるかと思ったが随分あっさりと決めやがったな」

「怖くないと言えば嘘になります。けど、今の修行の仕方をしても限界が来る。なら、闇の素養があるのなら僕は闇を選びます」

「あらら、兄弟どっちも闇を選ぶとはな。親父が聞いたら泣いちまうかもな」

「そうでしょうか。父さんなら背中を押すかもしれませんよ。それに僕は父さんじゃないですから」

「あやかの嬢ちゃんもいいのか? 多分ネギが思ってるよりもキツイぜ?」

「信じてますから。私はネギ先生が元気な笑顔をまた見せてくれると」

「いいねぇ。愛されてるじゃねえかネギ」

 

 ニヤニヤ笑いながらネギの脇腹を突くラカン。だが直ぐに笑みを引っ込め真面目な顔に戻り

 

「けど、その巻物を開けばもう後戻りは出来ねえぜ。覚悟は決まったと見ていいんだな」

「はい。絶対に乗り切って見せますよ」

 

 笑みを返すネギであるが

 

 ────ほう、言ったな餓鬼ガ────

 

 何処からか、聞きなれた声が聞こえてきた。

 見れば巻物が怪しく光り、巻物から何者かがゆっくりと姿を現してきた。

 その者はマギとネギの師であるエヴァンジェリンが一糸まとわぬ姿で現れたのだ。

 

『闇ガソレホド容易いモノでハナイことヲ知るがイイ』

「えっ師匠!?」

「何故ここにエヴァンジェリンさんが!?」

「いや違うあれは」

「巻物に刻まれた雪姫の記憶の幻影か」

 

 マギは直ぐに巻物のエヴァンジェリンが幻影だと見抜いた。そしてラカンが言っていた通りこれは正に決死の覚悟を決めて挑むことになりそうだと肌で感じた。

 急に全裸のエヴァンジェリンの幻影が現れた事に顔を赤くするネギに構わずエヴァンジェリンの幻影はネギの顔を掴んだ。

 その瞬間、ずぐんとネギの体に何かが強引に入っていく感覚に襲われ、激痛が走る。

 

「う、ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 

『打ち勝ってミセロ。デナければ貴様ハ終わりダ』

 

 悲痛な叫びを上げながらもプツンと切れたのか白目を向きながらネギは膝から崩れ落ちて倒れてしまった。

 

「ネギ先生!!」

 

 倒れたネギに直ぐに駆け寄るあやか。気づけばエヴァンジェリンの幻影は姿を消してしまった。

 

「おい今のエヴァンジェリンの奴は何処に行ったんだよ!?」

「今頃ネギの中にいるだろうさ。闇の魔法を使えるようになる試練だな」

 

 エヴァンジェリンの幻影は何処に行った千雨は問い詰めるがあっけらかんと答えるラカンは話を続ける。

 

「ぼーずがこの試練を乗り越える事が出来なければ、二度と目覚めることは出来ないか、目が覚めても魔法を使う事は出来なくなるかもな」

「おい! 何でそんな大事な事を言わなかったんだよ!」

「聞かれなかったから、なんて言うつもりはねえよ。ネギは闇を選んだ。ならこれ位は覚悟の上だろ?」

 

 千雨とラカンの話など耳に入っていないあやかは必死にネギに呼びかけ、ネギが息が荒くなっているのを見て、額に手を当てる。

 

「酷い熱……! 千雨さんネギ先生を運ぶのを手伝ってください!」

「あたしらが運ぶよりもマギウスを使う方がいいだろ! 頼むマギウス」

『かしこまりました。ゆっくりと運びます』

 

 マギウスがゆっくりとネギを少しでも涼し気な場所へと運んであげた。

 

「それで、お前は何か言わねえのかマギ」

「闇の魔法は生半可な魔法じゃない。ならその修行も半端なものじゃないっていうのは分かってた。なら俺はネギを信じる。それだけだ」

「ドライだねぇ。いや、これはネギを信頼してる現れってやつか? 麗しい兄弟愛じゃねえか」

「茶化すなよ。今はネギの元へ行こうぜ」

 

 そう言ってマギもネギの元へ往くのであった。

 

 

 

 

 

 

 日陰のある小屋にて冷えた水で濡らしたタオルでネギの体を少しでも冷やそうとするあやか。

 しかしうなされているネギは体をよじってしまい、何度もタオルがずり落ちてしまう。

 何度もタオルがずり落ちてもタオルを冷やし必死に看病するあやか。

 

「そんじゃボーズの事はあやかの嬢ちゃんにまかせて次はマギの番だな」

「あぁ頼む」

 

 マギの方も始まると聞き、千雨が反応する。

 

「なぁ本当に大丈夫なのかよ。今のネギ先生の状態を見てあたしはマギさんを信じるなんて自信を持って言えねえよ……」

 

 千雨は闇の魔法の修行の中止をマギに呼びかけるが、マギの目を見てしまった。

 ずるい。そんな目を見てしまったらもう何も言えなくなってしまうじゃないか。そんな言葉を千雨は飲み込んでしまう。

 

「千雨はあやかと一緒にネギを見ていてくれ。今のネギをあやか1人で見続けるのはかなり酷だろうから」

「何言ってんだ。あたしが見るのはマギさんであってネギ先生じゃねえ。あやかさんの手伝いはマギウスに任せる。マギウスなら人みたいに寝る必要もないからな行けるか?」

『はい。今のエネルギー残量なら24時間フル稼働で動けます』

「そうか、本当はロボットだからって酷使するのは躊躇いたい所だけど頼めるか?」

『私はちう様をサポートするために作られた存在。これぐらいのタスク何の問題もありません』

「それじゃあ頼む。そういうことだマギさん、もう何も言わせねえぞ」

「……ああ、ありがとう。千雨、マギウス」

 

 深々と頭を下げ感謝するマギ。そんなマギを照れくさそうに見ながら千雨はマギウスを自由行動に設定するのであった。

 

「準備は終わったぞラカンさん。始めようぜ」

「おう、そんじゃ最初はこいつを受け取れ」

 

 そう言いながらラカンはネギに渡した巻物とは別の巻物を受け取る。

 

「ラカンさんこれは? ネギの巻物とは違って禍々しさは感じないがとてつもない力を感じる……」

「これは俺が各地を旅した時に偶然手に入れた代物でな。何でも己の内側を具現化させるものらしい。修行で行き詰まった奴が己の内面と向き合う時に使うものらしいが、俺は元々使う必要がなかったからすっかりホコリ被っちまったようだな」

 

 ラカンのさりげない自負をスルーして巻物を凝視する。

 ”自身の内側を具現化させる”なんともおあつらえ向きな代物だろうか。

 この巻物を開けばどうなるのかある程度予想は出来てる。

 落ち着くために深く深呼吸を数回行い

 

「……よしっ」

 

 勢いよく巻物を開いた次の瞬間

 

「あぐっ!?」

「ちょ! どうしたんだよマギさん!?」

「今一瞬でかなりの魔力を持ってかれた……!」

 

 急な虚脱感に襲われ立っていられなくなり、片膝をつくマギ。巨大な注射器なイメージで体の魔力を吸い取られたのが分かる。

 

「だがこれで”条件は揃った”。だよな、俺?」

「え? マギさん何を言って──―」

 

 急に自問自答し始めたマギに千雨が混乱していると

 

『あぁ、これで俺は外に出られるぜ。俺ぇ』

 

 巻物が黒く光るとまず片腕がにゅっと出てきた。そこから少しずつ体が出てき

 

「──―はっはぁ。まさか本当に俺様が外に出られるとはなぁ。いい風が吹いてるじゃねえか。まぁそんな事はどうでもいいか。俺……参上!」

 

 上半身裸で革ジャンを着た、ラカンよりも真っ黒な肌をしたマギよりも2回り大きい、黒マギが牙の様に鋭い歯を見せながら不敵に笑って登場した。

 幻影エヴァンジェリンを見てからもう何も驚かないぞと思っていた千雨は急に現れた黒マギを呆然と見ていると、その黒マギが千雨をいやらしい目で見てゆっくりと歩み寄る。

 

「まっ、て……」

 

 マギは黒マギが何をするのか分かり止めようとするが上手く立てない。

 魔力を黒マギが現界出来るようにかなり持ってかれて今残っているのはほんの僅かしかない。急いで立ち上がり黒マギを止めたいが魔力が回復せず足に力が入らない。

 マギがもたついている間に黒マギは千雨の前に立ち、身長に差がありすぎるために見下ろす形で千雨の顔を見つめる黒マギ。

 

「……なんだよ」

 

 がたいがいいため内心ビビっているが顔には出さずに黒マギを睨みつける千雨。

 黒マギが千雨を見つめること数十秒。急に黒マギが千雨のあごに手を当てくいと上げる。

 

本体()の中からずっと見てたが、やっぱり良い女じゃねえか。すわりこんでるあんなヘタレなんか放っといて、今夜俺と熱い夜を過ごさないか?」

 

 しかし、ワイルドな風貌の黒マギの皮肉にも様になっている口説きに一瞬面食らいながらもあごの手を払い除け

 

「ふざけんな。あたしが好きなのはマギさんだ。てめえみたいに下半身でしか物事を考えるようなバカになびくわけねえだろ」

 

 千雨の堂々とした態度に見守っているラカンが口笛を吹く。

 だが、本能で動く黒マギには悪手な返しだった。

 手を払われ、きっぱりと断られた黒マギは最初はぽかんとしていたが、次の瞬間には狂ったように笑いだした。

 

「な、なんだよ。何がおかしいってんだよ」

 

 黒マギが急に笑いだしたのを見て警戒する千雨。

 いやぁ悪い悪いと形だけの謝罪をした黒マギは

 

「言ってなかったが俺様は本体の本能の部分が闇の魔法で具現化した存在だ。そんな奴が今みたいにあしらわれたら……逆に火がついちまうだろ」

 

 ……あ、失敗した。この手の類は自分が対処するのは無理なレベルだ。

 千雨は自分の取った行動に後悔してると黒マギが千雨の両肩に手を置きゆっくりと力を入れ始めた。

 こいつこのまま押し倒すつもりだ。しかもラカンやよりによってマギ本人の前で

 さあっと顔が青くなり、押し倒されないように魔力で体を強化するが焼け石に水であった。体格差もあって全然びくともしない。

 

「この! 離せよヘンタイ!」

「イヤよイヤよも好きのうちってなぁ。忘れられない体験にしてやるぜ」

「ひ、いや、やめて……!」

「やめろこのバカ!! 千雨にそんなことするんじゃない!!」

「たく、修行のはずがとんだR指定の展開になりそうだな。仕方ねえ。俺が止めるか」

 

 

 まだ魔力が回復せず叫ぶ事しか出来ないマギは悔しさで下唇を噛み血を流す。

 今の黒マギの凶行を止められるのは自分しかないと判断したラカンは黒マギを止めようとした瞬間、もう一度巻物が今度は白く輝く。

 あぁ自分はこんな事で純潔をちらしてしまうのか。顔は好きな人と同じなのに性格は真反対のそれに。

 

(あぁ、はじめてはこんなクソ野郎なんかじゃなくて、ちゃんとマギさんに捧げたかったな……)

 

 抗えられなくなり、押し倒され、諦めかけた千雨は一筋の涙を流す。

 

「へっへっへ。頂きま──―」

 

 千雨が観念したと思い、黒マギが千雨を手籠にしようとし

 突如伸びてきた2本の腕が黒マギの横っ面にめり込む。

 

「ごへぇ!」

 

 間抜けな悲鳴を上げながら黒マギは殴り飛ばされ、そのまま湖に突っ込み巨大な水柱を作り上げそのまま水底へ沈んでいった。

 

「……へ?」

 

 いきなりの事で頭の処理が追いついておらず呆然としていると

 

「本能があそこまで強大になるとここまで見境なくなり、獣に堕ちる……か。全く度し難いな」

 

 髪が白、肌も白、身に纏っている服も真っ白と白尽くしの理性を司る白マギが殴り飛ばされた黒マギを呆れた眼差しで溜息を吐き。

 

「間に合ってよかった。本当に……。千雨、立てるか?」

 

 倒れた千雨に手を伸ばす、もう1人のマギの姿があった。

 千雨はまだ頭の処理が追いついていない。ちらりと見て、よろよろとしながらも千雨に駆け寄ろうとするマギの姿。

 そして自分に手を伸ばしている”髪が逆立っていない”マギの姿。

 

「まさか、マギさん……なのか」

 

 自身に手を伸ばしているマギは最初に自分が好きになった、かつてのマギであった。

 黒マギを殴り飛ばしたのは白マギとかつてのマギであった。

 

「ああ。まさかこんな形で再会するなんてな。久しぶり、こんな状況で聞くのもあれだけど、元気にしてたか?」

 

 申し訳なさそうな笑みを浮かべるマギの手を掴み立ち上がる千雨。

 かつてのマギに対しての反応は礼でも抱擁でもなく

 

「この──―馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 本気のグーパンであった。魔力も混じった魂心の右ストレート、それがかつてのマギの頬に抉るように入った。

 千雨の拳を甘んじて受けたかつてのマギは仰向けに倒れた。

 そして倒れたマギの胸倉を掴み一気に責立てる。

 

「バカマギさん! 勝手に無茶したと思ったら勝手にいなくなりやがって! 好き勝手に無茶したアンタに色々と言いたい事があったのにそれなのに黒いマギさんに襲われかけたと思ったらヒーローみたいに颯爽と現れて、もう、頭の中がめちゃくちゃだよこっちは!!」

 

 涙目の千雨。そんな千雨の頭に優しく手を乗せ

 

「本当に済まなかった。俺のわがままでみんなに迷惑をかけてしまった。でも、あぁ、こんな事場違いで無神経だと思われてもしょうがないけど……また千雨を見ることが出来て嬉しい」

 

 微笑みながら今の正直な言葉を口に出す。それを聞いて限界が来たのかぼろぼろと涙を流し

 

「うわあああああ! 怖かったよおおおおお! マギさんに助けてもらえなかったら、あたし、あたしは……」

「怖かったよな。よしよし、もう大丈夫だから、今は思い切り泣きな」

 

 胸に顔を埋める千雨の頭を優しく撫で続けるかつてのマギ。

 そんな光景を複雑な眼差しで見つめる今のマギ。

 

「どうした? いかにも面白くないって言いたげな目をしてるじゃねえか」

「そんなんじゃない。ただ、俺は言わばバックアップのような存在であって、やっぱり千雨や雪姫達は前の俺の方が良かったんじゃないかって複雑な気持ちなだけだ」

「今はそっと見守ってやってくれ。このような状況じゃないとかつての俺は現界するのは難しいだろうからな」

 

 と目の前の光景を複雑な目で眺めているマギであった。

 

 

 

 

 

 千雨が泣き止んだ頃に湖に沈んでいた黒マギが浮かび上がってきた。

 

「はっはぁ! いやぁわりぃわりぃ。俺様としたことがついつい本気になっちまったぜ」

 

 湖から上がってきた黒マギは形だけの謝罪だけであまり反省してる様子はなかった。

 黒マギ曰く白マギと旧マギの気配は感じており、直ぐに助けると思い千雨にドッキリを仕掛けたのだという。

 本能の黒マギの言ったことは信用ならないために、旧マギと新マギは警戒を解かず千雨を護るように立つ。

 因みにかつてのマギが旧マギで、今のマギが新マギである。

 かつてのマギや今のマギでは言いづらいためにどうしようかということで

 

「旧作新作にちなんで俺が旧マギでお前が新マギっていうことでいいんじゃねえか?」

 

 旧マギの提案でそういう事になった。

 そして旧マギ新マギ白マギ黒マギの4人は向かい合う形で砂浜に座る。千雨は旧マギと新マギの間だ。

 

「それで、俺の修行って何をやればいいんだ? まさかこの4人で討論会をしろなんてわけじゃないよな」

 

 まさかと黒マギがげらげらと大声で笑いながら

 

「至ってシンプル。この俺様と戦い、俺様に勝てればいいだけの話だ。因みに闇の魔法の総元締めは俺様だ。その証拠に見てみろ本体の俺の腕を」

 

 そう言われ自身の腕を見て驚く新マギ。自身の変異していた腕が人の腕に戻っていた。

 

「俺たちは内側でこのバカを押し留めることに尽力していた。だが……」

「SWITCH ON BERSERKERだったか、あれを多用したことによってこの黒い俺は頻繁に外に出るようになり、今では内側の主導権は黒い俺が掌握しつつある状態だ」

「すまない。俺があの力を頼りにしすぎてしまったからに……」

「いや内側から見ていたがあの状況なら仕方ない。むしろあの状況を実戦経験が浅い今の俺に任せてしまい申し訳ない」

「あたしとしては何でも1人でやろうとするなって所だけどな。もっと周りを頼ってくれよ」

「「はい、すみませんでした」」

 

 千雨に咎められ頭を下げる旧マギと新マギ。頭を下げる旧マギと新マギをケラケラと笑いながら見ている黒マギ。

 

「まぁその白い俺の言った通り今魔力を総ているのはこの俺様で俺には貸してやってるだけだ。そして白い俺と旧俺がここにいるのは俺様の魔力の残り滓のおかげってわけだ。残り滓、出がらし、糞。ギャハハ! 俺様の糞だってよ! うんこだうんこ! ギャハハハハ!!」

 

 下品な言葉で大爆笑している黒マギを軽蔑な眼差しで眺めている千雨。

 

「あたしアイツ嫌いだ。小学生かよ。というか本能が具現化したんだろ? 下手したらガキよりたちが悪いじゃねえか」

「安心しろ千雨」

「俺達もアイツは嫌いだ」

「同じ俺達なのに何であいつだけあそこまで自由奔放なんだ? 本能だからか……」

 

 旧マギ新マギ白マギも皆千雨と同じ気持ちであった。

 閑話休題。

 

「そんじゃあやるとしようぜ。ルールは至ってシンプル。この俺様を屈服させられれば俺の勝ちだ。対して俺が心が折れたりしたら俺様の勝ちだ。その場合は……この俺様が俺と入れ替わる」

「んな!? なんだよその勝手な展開は!」

 

 千雨は納得出来なかった。今のマギは魔力など無いに等しい状態。

 

「心配すんなって。不死身はなくなっていねえから俺が死ぬことはないだろうぜ」

「そういう事を言ってるんじゃないぞあたしは! 今のマギさんはレベル最初期でラスボスと戦うような理不尽な展開じゃねえか!」

「千雨、大丈夫だ」

「っ、マギさん……」

 

 新マギは微笑みながらも千雨の反論を遮ってしまう。

 

「どの道もう死ねないんだ。だったら俺が折れるか、黒い俺が折れるかの我慢比べだ。そうだろ?」

 

 あぁそうだぜと不敵に笑う黒マギ。

 

「ハンデをつけてやるよ。白い俺と旧の俺を含めた3人でかかってこい。それぐらいでちょうどいいだろうぜ。安心しな。俺様が入れ替わってもちゃんと仲間は護ってやるよ」

「ほざいてろ。お前みたいな暴虐無尽な輩に仲間は任せられない。お前を打ち負かせて必ず力を制御してやる」

 

 そして、新マギは月光の剣を旧マギは断罪の剣を白マギは大きめのタワーシールド(白マギ曰く戦うのはあまり得意じゃないとのこと)をそれぞれ構える。

 対して黒マギは

 

「おお、これこれ。前から使って見たかったたんだよなぁ」

 

 マギが影に収納し、愛用していたグレートソードを取り出した。

 

「さらに」

 

 と黒マギがグレートソードに魔力を送るとグレートソードの刀身が真っ黒に染まった。そしてグレートソードを喜々としてプロペラの様に高速で回転し始めたのである。

 

「ま、マギさん本当に大丈夫なのかよ……」

 

 千雨は黒マギのぶっ飛んだ行動を見て心配そうにマギを見るが

 

「勝つさ」

 

 それだけしか答えないマギ。千雨ももう、何も言えなかった。

 

「そんじゃかかってこい。返り討ちにしてやるからよぉ!」

「行くぞ! 吠え面かくんじゃねえぞ!!」

 

 叫びながら黒マギへ突撃する3人のマギ。

 果たして圧倒的な力を持つ黒マギに勝つことは出来るのだろうか。

 

 

 

 

 



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闇の魔法修行③ 己を超えよ

 マギとネギが闇の魔法の修行を始めた同刻、闘技場に残った雪姫は1人で対戦相手と対峙していた。

 

「雪姫さんよぉ! 今日であんたの無敗記録を破らせてもらうぜ!」

「あんたみたいなのが1人目立ちしてるとこっちは商売上がったりなのよ!」

 

 ダークエルフのような褐色な耳長の男と猫の獣人の女が各々の武器を雪姫に向けながら吠える。

 現に雪姫は1人ですべての相手を地に沈めて来ている。

 更に容姿端麗な雪姫に男女問わずに人気になっており、闘技大会のオッズも雪姫とネギ(マギ)が同列1位であり、少し離れてナギ(ネギ)が3位。かなり離れてコジロー(コタロー)が4位となっているのだ。

 対戦相手は当て馬のような扱いには拳闘士のプライドが傷つくだろう。

 しかし雪姫本人は対戦相手に対して鼻で笑いながら

 

「端役がいちいち騒ぐな。騒いだ所で貴様達が勝てるわけじゃないだろう?」

 

 端役。そう言われてた対戦相手は雪姫が挑発したというのは分かってはいたが乗せられてしまい

 

「調子に乗るんじゃねえぞ!!」

「あたしらがあんたに地面の味を覚えさせてやるよ!!」

 

 雪姫に武器を振り下ろした。

 

「──まぁ、この位のレベルならこの程度か」

 

 軽く息を吐きながら肩に着いた土埃を払う雪姫。彼女の背後には巨大な氷山がそびえ立ち、その中に対戦相手が氷漬けになっていた。

 

『決着ぅぅぅぅ!! 雪姫選手今回も圧倒的な差を見せつけての完全勝利! これには観客の皆さんも納得の強さです!!」

 

 会場は雪姫コール一色であり、雪姫もパフォーマンスで観客に向かって手を振る。そんな雪姫にインタビュアーが近づく。

 

『雪姫選手。今回も鮮やかな勝利でしたね! 最初は1人での試合に納得出来ない人も多かったことですが、それらの声を黙らせる程の強さを見せましたが、ずばりこれ程の力を隠していたのは何故でしょうか?』

「なに、弟子のネギが1人で頑張りたいと言っていたんだ。なら弟子の顔を立てるのも師匠の役目だ」

『成程! お弟子のネギ選手の考えをくんであげたと。雪姫選手は弟子想いのお師匠様ということですね!』

「当然だ。アイツは私の大事な弟子だからな」

 

 雪姫の微笑みを見て思わず顔を赤くして呆けそうになるが、直ぐに意識を仕事に戻してインタビューを続ける。

 

『そのネギ選手ですが現在諸事情にて欠場しておりますが、噂では修行をしているとういうことですが本当でしょうか?』

「本当だ。アイツは自身の強さを磨くために修行を始めている。楽しみにしてるといい。アイツが強くなればそれこそこの闘技大会も大きく盛り上がるだろうさ」

 

 観客としては大会が盛り上がるなら是非もないと今は会場にいないネギコールが雪姫コールと交互に鳴り止まない。

 

「へんっ、もう完全に会場はネギと雪姫で一色みたいやな」

「はっ、相手にされてなくて面白くなさそうだなコジローさんよぉ」

「名前も出てないナギの代打に言われても別に悔しくともなんともないわ」

「何だとコノヤロー!!」

 

 ニヤニヤ笑いながら茶化してくるトサカを適当にあしらうコジローであった。

 

(マギ、これだけお膳立てしたんだ。しっかり強くなって戻ってこい)

 

 雪姫はマギが居るであろう方へ顔を向けて無事にマギが強くなって戻ってくることを願っているのであった。

 

 

 

 

 

 一方のそのマギ当人はというと

 

「──―あ? ここ、どこ、だ?」

 

 気を失っていたのか目を覚ますとマギはジャングルの中に居た。しかも強制転移で飛ばされた最初の森であった。

 

「何で俺、このジャングルに居る──―」

 

 マギは起き上がろうとして自身の下半身と左腕が無くなっているのを見る。

 

「……あぁ、そうだった。あの野郎」

 

 激痛に顔を歪めながら体の再生に集中をかけるマギ。

 直ぐに何が起きたのかを思い出す。

 

『ヒャッホー! 行くぜ行くぜぇ!』

 

 世紀末の悪役が言うような掛け声を上げながら黒マギはグレートソードを振りかぶりフルスイングで横に薙ぎ払う。

 新マギは月光の剣でグレートソードを防ごうとするが

 

『──―あ、だめだ』

 

 やばい何かを直感で感じ取った新マギはグレートソードを防ぐには防ぐ事は出来た。

 しかし後から来た衝撃波に体が耐えられず左半身が消し飛び、場外ホームランばりに空のかなたへと飛んでいってしまった。

 

『ギャハハハハ! バイバイキーン! てか!? まだまだ行くぞぉ!』

 

 愉快そうにケタケタ笑いながら黒マギは背中から龍のような翼を生やし、飛んでいった新マギを追いかけていった。

 

 

『新俺!!』

『やっぱり本体を狙うよな……行くぞ俺』

 

 なけなしの魔力で浮遊術を使い飛んで新マギと黒マギを追いかけようとする旧マギと白マギ。

 

『旧マギさん!』

『悪い千雨、ちょっと行ってくる』

 

 いつもなら不安な顔を浮かべる相手を安心させるために何かアクションを見せたい旧マギだが、今は時間が惜しいために微笑みを見せるだけだった。

 

『行くぞ旧の俺!』

『分かってる!』

 

 なけなしの魔力で黒マギを追いかける(といっても戦闘機並の速度は出ているわけだが)旧マギと白マギ。

 

『ラカンさんあたしをマギさん達の所へ連れてってくれ! あんたならそんぐらい簡単だろ!?』

『しょうがねえな。本来なら料金を取るとこだが今回は特別サービスにしてやるよ』

 

 その後をラカンに頼んで追いかける千雨であった。

 

「くそ、油断したわけじゃないがあいつとんでもなさすぎるだろ……」

 

 漸く体を再生し終えた新マギは黒マギに対して悪態をついていると

 

「よかった。あいつよりも先に見つけられた」

「まだ心は折れていないだろうな俺」

 

 白マギと旧マギが黒マギより先に見つけてくれた。手には血みどろの臓器を持って。

 

「白い俺、それは?」

「俺を探す道中で狩った亜成体の魔法生物の魔力袋だ。今の俺達じゃ成体を狩るのは厳しいと思ってせめての幼体と成体の中間をと思ってな」

「これを食って少しでも魔力を回復しろ」

「ああ、ありがとう。いただきます」

 

 白マギと旧マギにお礼を言い魔力袋にかぶりつく。

 血なまぐさい臭いと変な感触に不快感を覚え吐きそうになるが我慢し一気に飲み込んだ。

 飲み込むと少しだけだが魔力が体中を巡るような、そんな感覚が走る。

 これならと思いながら残りの魔力袋もすべて平らげる新マギ。口周りの血を拭う。

 

「よくあの時は食えたもんだな……俺、生レバーなんて食べたことないのに」

「あの時は意識は新俺だったが体を動かしてたのは黒い俺だったからな。あいつが暴れ過ぎてハイにでもなったんだろう」

「けど、少しは魔力は回復しただろ」

「ああ、ありが──」

 

 新マギがお礼を言う前にジャングルの木々が突如吹き飛んだ。

 

「みぃつけたぁ」

 

 グレートソードを担いだ黒マギが子供のようなニンマリとした笑みを浮かべながらの登場だ。

 

「くそ、もう見つかったか……」

「何言ってんだ? 俺達は同じ存在だ。何処に居るかなんて筒抜けなんだよ。例え地球の裏側のブラジルに居てもな。ブラジルに居る人聞こえますかぁぁ!? ぎゃははは!」

 

 ……今のを面白いと思っているのか? ありきたりなギャグを愉快に笑う黒マギを白けた目で見る旧マギ、新マギ、白マギ。全然面白くないこれを面白いと思ってやっている黒マギの神経が信じられないと思った3人であった。

 

「まぁ、温情でハーフタイムを設けてやったんだ。第一Rは俺様の圧勝だ。第二Rをおっぱじめようぜ。最初は……お前だぁ!!」

 

 黒マギが狙ったのは白マギであった。空気が切れるほどの轟音を上げながら白マギに向かってグレートソードを振るう黒マギ。火花を出してグレートソードとタワーシールドがぶつかり合う。

 

「前から気に食わなかったんだよなぁ! 理性だからってお高くとまってよぉ!」

「お前のような力が全てだと思ってるような愚か者がこれ以上力を振るうのは間違っている! いい加減大人しくしてくれないか!」

「嫌だね! 一度力を振るう快感を覚えちまったらもう後戻りなんて出来るわけねぇだろうがよ!」

 

 攻防を繰り広げながらそう言い争う白マギと黒マギだが、明らかに白マギが押されている。白マギ本人も自分は戦うのは得意じゃないと言っていたが本当だったのだろう。

 

「白い俺を助けるぞ新俺」

「わ、分かった!」

 

 黒マギに向かって飛び、月光の剣と断罪の剣を振るう。が

 

「そうだ! もっと! もっとこいよ!!」

 

 黒マギの背中から某山犬の姫が出てくる祟り神のような触手を無数に生やし新マギと旧マギの手足を絡め取り捕まえる。今の黒マギは闇の魔法の魔力を器用に使いこなしている。

 

「男の触手プレイなんて需要ないだろうけど、喰らいな! ホワァアタタタタ!!」

 

 鞭のようにしなやかでかつしっかりした硬さを持つ触手の高速の打撃が旧マギと新マギに襲いかかる。

 身動き出来ない2人のマギは触手の餌食となる。

 

「旧と新の俺!」

「何余所見してるんだぁ? 次はお前の番だぜぇ!」

 

 黒マギは触手を合体させ1本の太い触手へと変えた。剛腕と言える触手が白マギに迫り、白マギはタワーシールドで防ぐ。

 しかし防ぎきれる威力ではなかったために、白マギは後ろに飛ばされ、何本かの木々をなぎ倒した。

 

「うひゃひゃ。第2Rも俺様の圧勝。こりゃ俺様のストレート勝ちで決まりかぁ? キャ~! 黒マギ様ステキー! ヘーイありがとう仔猫ちゃん達〜! ん〜ま! ん〜ま!」

 

 黒マギが余裕そうに独り芝居を行い、それを見て新マギ達は怒りと苛立ちを積もらせる。

 

「あいつ絶対に負かす……!」

「あのアホ面をぼこっ面に変えないと気がすまねえ」

「同感だ……」

 

 新マギ旧マギ白マギは心が折れるどころか闘志を燃やし

 

「「「ウオォォォォ!!」」」

 

 雄叫びの咆哮を上げながら黒マギへと挑みかかった。

 新マギ達が黒マギに挑んでいる中、千雨はネギを看病していた湖にぽつんと立っていた。時折ジャングルの中でマギ達が戦っている衝撃音が聞こえる。

 ラカンに頼みマギ達を追いかける事になったのだが、その方法が剣を召喚し、マギ達が飛んでいった方角にぶん投げそれに乗って飛んでいくというぶっ飛んだ方法だった。

 波乗りラカンなどというふざけた命名をしたがどこぞの殺し屋の移動方法だろとツッコミたかったが、前から来る風圧で文字通り目も口も開けられなかった千雨であった。

 暫くはラカンの体にしがみついていた千雨であるが、漸く目的の場所へとたどり着いた。

 ラカンはネギの方へ戻ると言って同じように剣に乗って飛び去って行った。

 1人残された千雨。静かで時折戦いの衝撃波が聞こえる位である。

 獣達の声は全く聞こえない。皆黒マギに恐れているのだろう。千雨でも分かる位の圧倒的存在感。コイツに関わったら自分の命はないと本能で感じ取ったのだろう。

 

「でもどうすんだ……? 見守るなんて言ったがこんなのあたしだけじゃ手に負えないぞ」

 

 そうぼやき座り込む。そんな千雨を水底から狙う大きな影が1つ。

 その気配に千雨は気づかないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方のネギは死んだように眠っているが、酷くうなされ荒い呼吸が続いていた。

 しかも手足が裂傷し血が流れている。今はそこまで血は流れていないが、このままいけば血が圧倒的に足らなくなる。

 

「ああネギ先生。おいたわしや……!」

『あやか様、このままですと包帯が足りなくなってしまいます』

 

 嘆きの言葉を吐露しながらもテキパキとネギの看護を続けるあやかだが、マギウスの報告を聞きいよいよ不味くなったと焦りの色が見え始める。

 

「おう、どうだネギの調子は」

「ラカンさん!」

 

 そんな最中に戻ってきたラカンが様子を見に来た。

 あやかは必死にネギの現在の状態を話し始める。

 ラカンは黙ってネギの状態を聞いていたが、聞き終えた頃には汗を流して唸り出す。

 

「やべえな……下手したらマジで死ぬなこれ」

「……え? 死、ぬ? ネギ先生が死んでしまうのですか?」

 

 ラカンは言う。今のネギは精神世界と肉体がつながっており、精神世界の傷はフィードバックで体に伝わる。

 このまま体が傷つき続ければいずれ血が足りなくなって死ぬ。または精神が耐えきれなくなり死人同然の廃人になるか。

 

「運良く死なずに済んでも試練に打ち勝つ事が出来なかったボウズは二度と魔法が使えなくなるかもしれん」

「そんな……」

 

 代償の重さに絶句するあやか。魔法が使えなくなればネギは立ち直る事は出来なくなるかもしれない。魔法はナギと自分を繋ぐ橋でもあるのだから……

 

「とりあえず今はネギの傷だな。このままいけばマジで血が足りなくなって死ぬからな」

 

 そう言ってラカンは数枚の葉っぱを取り出す。薬草だろうか

 

「コイツを粉末になるまですり潰して傷口に塗って包帯を巻いてやれ。そうすれば傷は塞がるだろうからな。本来は売ってやりたいところだが特別サービスだ」

「ありがとうございます!」

 

 薬草を受け取り、早速近くにあった薬研で粉末にしようとしたその時

 

「がはぁっ!!」

 

 ネギが血を吐き出し四肢からも血が吹き出す。その血があやかの顔にベッシャリとくっついてしまった。今まさにエヴァンジェリンの幻影がネギの体を貫いたのであった。

 

「────―」

「おい嬢ちゃん大丈夫か?」

 

 流石に洒落にならないと思ったラカンはあやかに声をかける。一般人組のあやかには好きなネギが吐血するなんてショッキングで、発狂しても可笑しくはないレベルだ。

 しかしあやかは

 

「────むぐっ」

 

 叫びそうになった己の口を両手で塞ぎ、そのまま絶叫を飲み込んでしまった。

 そして顔には血が付きながらも薬研で薬草を粉末にし始める。

 あやかが薬草を粉末にし始めたのをぽかんと見ているラカン。今の光景は叫んでいても可笑しくはない状況だ。

 

『あやか様、無理であるならば私が変わりに行います』

 

 マギウスがあやかの事を考えての提案をする。今のあやかにネギの看護をするのは酷と判断してのことだ。

 しかしあやかは首を横に振る。

 

「いえ、マギウスさん。これは私がやらないといけないことなのです」

 

 何故ですか? マギウスの問にあやかは答える。

 

「私は魔法の事は何も知りませんでした。何も知らないで私はネギ先生の事を知っていたつもりでした」

 

 しかし蓋を開けて見ればどうだ。自分はネギのほんの僅かな表面しか知らなかった。そんな自分がネギを愛すなんて言っていたのが、悔しく情けなかった。

 

「故に私は決めたんです。私はどんな事になってもネギ先生を支えると。そのためなら私は絶対に逃げません。この愛は決して上面でも偽りでもないのですから」

 

 汗を滲ませながらも薬草を粉末状にする。

 そんなあやかの覚悟にラカンは茶化すことをせずにふっと微笑む。

 

「狂わしい程の愛か。愛されてるじゃねえかボウズ」

「ええ。私のネギ先生への愛は誰にも負けてはいませんから」

 

 あやかも微笑み返す。

 だからこそ、無理はしては駄目だ。あやかのネギへ対しての愛を見てマギウスはそう判断した。

 

『でしたら尚更お体をお休め下さいあやか様』

「マギウスさん?」

『先程からずっと看護を続け、更に先程の事でバイタルの低下が見られます。私はちう様から魔力を頂いており、戦闘ではないのなら数日は稼働する事は出来ます。私が交代いたしますのでどうか少しでもお体をお休め下さい。それに、あやか様の美しい髪が自身の血で傷んだと知ればネギ様も心を痛めてしまいますよ」

 

 マギウスの優しい説得に薬研を動かしながら聞いていたあやかはありがとうございますと微笑みを浮かべながら

 

「でしたら、ほんの20分程お暇を頂きます。マギウスさんお願いいたします」

 

 そう言ってあやかは滝の方へと向かうが、少し歩いたらふらふらと足取りが危うくなり始めた。どうやら無理をしていたようだ。

 

『ラカン様、どうかあやか様の事を見ていて上げて下さい。今は気丈に振る舞っていますが、少し休めば感情が押し上げて来ると思いますから』

「へいへい分かったよ。けどいいのか? 俺が覗くかもしれないって思わないのか?」

『ラカン様はいい加減な所が見られますが、泣いている女性を見て悦に浸るような方ではないと信じていますので』

「へっ言うロボットじゃねえか。まぁ任せな傷心してる嬢ちゃんを大人の余裕と抱擁力で癒やしてやるよ」

 

 手をひらひら振りながら去っていくラカン。別に抱擁力は必要ないのではとツッコミは入れないマギウス。

 マギウスとうなされているネギの2人きりとなり、改めてネギを見るマギウス。

ネギ・スプリングフィールド。自身を造ってくれた葉加瀬がモデルにしたマギ・スプリングフィールドの弟。

最初は自分をモデルの弟位の認識でしかなかった。しかし長いようで短い旅の中でマギウスは人同士の掛け合いや協力、泣いて笑って色々な営みを見てきた。

その中で知識では知っていた死という概念。ロボットで壊れても直せばまた動ける自分と違い、人は死ねばもう動くことはない。

では目の前のネギが死ねばどうなる。

 

ネギが死ぬ→あやか等が悲しむ→マギが悲しむ→千雨が悲しむ。

何より自分の主が悲しむ姿を見たくない。

 

『看護モードに変形以降開始』

 

ロボットの変形でよくありそうな擬音を出しながら姿を変えていくマギウス腕から副腕を展開し4本の腕となる。

 

『絶対に死なせはしません』

 

マギウスは4本の腕をフルに使いネギの看病を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――キャアアアア!!」

 

場所はジャングルへと戻り、マギ同士で戦っている中で千雨の声が聞こえた。

 

「今のは千雨!?」

「ああ?なんだ着いてきてたのか」

 

只事ではないと焦りの色を見せる新マギと呑気な声を出している黒マギ。新マギは黒マギを放っておいて千雨の元へ急ぐ。

 

「一旦中断だ!俺は千雨の元へ急ぐ!!」

「まぁしょうがねえか。俺様もアイツに何かあったら気分悪いからな」

 

黒マギも同意し千雨の元へ急行する。そしてマギ達が見たものとは……

 

「離せよクソガメ!!あたしは餌じゃねえんだぞ!!」

 

小山のように巨大な、まるで日本の怪獣映画に出てきそうなワニガメのような、この湖の主とも言えそうな魔法生物が口から触手を出して千雨を捕えていた。

ワニガメの口にはミミズのように動く疑似餌があり、それで魚を誘い込み捕食するのだ。

しかし千雨を襲っているワニガメもどきはもう別の生物が口の中で共生しているのかと言いたげに触手が蠢いているのであった。

 

「千雨を離せデカガメ!!」

「その子はお前の餌じゃあないんだぞ!」

 

新マギと旧マギ、白マギが千雨を助けようとワニガメもどきへと突撃するが

 

「――――――!!」

「「「ぐああああああああ!!」」」

 

ワニガメもどきは口から炎を吐き出し、炎がマギ3人に直撃しふっ飛ばされる。

 

「マギさん達!!」

 

マギ達がふっ飛ばされ悲鳴を上げる千雨。悲しいかな、今のマギの強さはネギよりも若干強い位の力まで落ちている。ネギよりも若干強い位なら目の前のワニガメもどきは今のマギでは太刀打ち出来ないということである。

 

「あ~あ~なっさけねぇたらありゃしねえな。ここは俺様がさくっと助けちゃって、改めて俺様の魅力を見せつけちゃおっかなぁ」

 

力の大元は黒マギとなっている。黒マギなら目の前のワニガメもどきは簡単に倒せるだろう。今は自分がという事に拘りを持っている時ではない。千雨が助かるのならそれでいい。新マギはそう言い聞かせる。

―――否、本当にそうだろうか。一瞬の疑問が頭を過り、月光の剣の柄を持っている手に力が入る。

自分は何の為に強くなろうとしている。答えは自分の大切な人達を護る。救うためだ。

ならば、今千雨を救うのはだれか。旧マギ、違う。白マギ、それも違う。ならば黒マギ、勿論違う。

自分だ。自分が千雨を助けなければいけない。なら、どうすればいい……

力だ。力を、寄越せ……

 

「ん?……おっと」

 

意気揚々と千雨を助け出そうとした黒マギは自身の体から力が抜けて持ってかれた感覚に襲われ、体が少しよろめいたが直ぐに踏ん張り態勢を取り戻す。

黒マギがふらついている間に新マギがワニガメもどきへ突っ込んでいく。

 

「へ、漸く兆しが見えて来たか」

 

新マギに追い抜かされた黒マギは不敵に笑いながらそう呟いた。

 

(不思議だ。さっきよりも体が軽い)

 

さっきよりも体の軽さを実感しながら、新マギは月光の剣に魔力を送る。煌々と蒼白く刀身が輝く。

 

「AAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

雄叫びをあげ、月光の剣を振るう。光波が飛び、そのままワニガメもどきの触手を切り裂いた。

 

「―――――!!」

 

自身の器官を斬られ激痛で悲鳴をあげるワニガメもどきはそのまま千雨を落としてしまう。が、寸止めの所で新マギが片手の横抱きで受け止めた。

 

「マギさん……」

「大丈夫か千雨?」

 

触手の粘液まみれになっているが、大した怪我がないのを見て安堵する新マギ。

一方のワニガメもどきは自分よりも遥かに小さい相手に大事な触手を切られた事に怒りが頂点に達していた。

報復するために、口に魔力を溜め放とうとして、ピタッと口を止めてしまった。

見てしまった。見えてしまった。新マギから放たれる濃く濃密な殺気を

 

「――――失せろ」

 

このまま食って掛かれば、食われるのは自分の方だ。

本能で理解したワニガメもどきは巨体の割には驚く程の機敏さで踵を返し、水底へと潜って行くのであった。

脅威が去って少し落ち着くが、まだ他の脅威自体が無くなったわけではない。

 

「やるじゃねえか。目力だけであのカメを追っ払うなんてよ」

 

嬉しそうににやりと笑う黒マギ。新マギや倒れている旧マギと白マギも急いで構えようとするが

黒マギからドラゴンのような腹の虫が鳴り出し

 

「……そういえば腹が減ったなぁ。飯にでもしようぜ」

 

勝手に戦意を解いた事にマギ達はずっこけそうになるが、何とか堪える。

しかしマギ達や千雨も空腹を覚えていたので、モンスターを文字通りハントして、簡易な夕食を取ることにしたのであった。

マギとネギの修行はまだまだ終わりを見せないのであった……

 

 

 

 

 

 

 



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闇の魔法修行④ ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん

「マギさん! 手が!」

「え? ……黒く戻ってる」

 

 夜。某海賊漫画や龍玉の格闘漫画のような巨大な魔法生物の簡易な丸焼きを食していると、千雨が新マギの右手が黒く戻っているのに気づき声をあげた。

 新マギも右手が黒く、闇の魔法が自分に少し戻っているのに気づいて驚く。

 

「さっきのデカガメを追っ払った時にはもう俺様から魔力を奪っていっただろ。見ろよ、俺様の誇らしい肉体が縮んじまったぜ」

「何言ってんだ。全然変わってないだろが」

「スルーしとけ。コイツの言ってることを一々真に受けてもしょうがない」

 

 黒マギは自身が縮んだと言っているが、その巨体が変わった様子はない。精々1cm縮んだかその程度だろう。千雨が黒マギにツッコミを入れようとするが、白マギがそれを諌める。

 

「けど、何でいきなり力が戻ったんだ……?」

 

 あの時は無我夢中で力が戻った実感がわかない。

 

「まぁじっくり考えてもいいが、時間は有効に使わなねぇと勿体ねえぜ?」

 

 黒マギがまともな事を言っているが、それが別の意味も含んでいると察するマギ達。

 

「どういう事だ?」

「あと3日もすれば俺様は完全な実体を手に入れることが出来るってわけだ」

『……は?』

 

 黒マギの言っている事が分からず目が点になっているマギ達を放っておき、黒マギは話を続ける。

 

「今の俺様は巻物に召喚された言わば霊体の状態。しかし3日もすれば俺様の体は魔力で作られ、ゆくゆくは俺様単体で顕現出来るってわけさ」

「なんだよそれ!? ラカンのおっさんは一言もそんな事を言ってなかったぞ!! それにアンタだってマギさんが折れちまったら入れ替わるとは言ったけど、そのまま居座るとは言ってなかったじゃねえか!!」

「けど巻物にはそう書いてあるぜ。ほれ、ここの一番下にしっかりとよ」

 

 黒マギは巻物の一番下を指差す。魔法世界の文字はまだ完全に読む事は出来ない千雨ではあるが、米粒のように小さい一文が巻物の一番下に分かりづらく書かれているのを見つけた。

 

「いやちっっさ!! こんなの詐欺の常套句じゃねえか!!」

 

 納得がいかず声を荒げる千雨。そんな千雨の肩に手を乗せ首を横に振る新マギ。

 

「千雨、俺は巻物を取った時に禍々しい力を感じていた。この巻物は自分にとって良くない代物だってことは」

「だったら何で──────」

「こうでもしないと俺が強くなることが出来ないと思ったからだ」

 

 新マギの曲げない信念に押し黙ってしまう千雨。強くなるためにはリスクを覚悟しないといけない。

 

「けど、時間がないならさっさと続きを始めるぞ」

 

 新マギは丸焼きを急いで口に頬張る。

 

「おお。いいぜいいぜ。夜通しやり逢おうぜ」

 

 黒マギもグレートソードを構えて不敵に笑っている。

 

「旧の俺と白い俺は千雨の事を見ていてくれ。今日みたいな事がまた起きるかもしれないから」

「あい分かった。俺達が加勢した所で戦力差は余り変わらないだろうからな」

「業腹だが、全て新しい俺に任せる事になる。何も出来ず、申し訳ない」

 

 加勢出来ない事に白マギと旧マギは新マギに謝罪するが、気にはしていまい。と言いたげに首を横に振るう。

 

「……ごめんマギさん、あたしが来なきゃ他の2人も一緒に戦えたのに……」

「そんな事ないさ。千雨に見守ってもらえればそれだけで頑張れるからさ」

 

 新マギは月光の剣の剣先を黒マギに向けて構える。

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 新マギは吠えながら黒マギに向かって突撃したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……しかし、修行を始めてマギ、そしてネギは何の成果も得られずに、2日が過ぎようとしていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 場面は変わり、2日目の夜。ネギはまだ目を覚ます様子はない。

 

「ネギ先生……まだ目を覚ましません。もう2日経っておりますのに……」

 

 マギウスと交代でネギを看病しているあやか。目にはくまが出来ておりまともな睡眠は取れていないようであった。

 

「もうすぐラカンさんに頂いた薬草が切れてしまいます……」

『申し訳ございませんあやか様。私の魔力の残量も残り僅かとなりました。恐らく稼働できる時間は夜明けまでかと思われます』

 

 マギウスの方も限界に近いようだ。

 

「おう、ぼーずの様子はどうだ?」

 

 ラカンが甚平に着替えて様子を伺ってきた。

 

「ラカンさん、今ネギ先生はどのような状態なんですか……?」

「今のぼーずのいる空間は現実の数倍。10日は戦い続けてるだろう。俺も一度似たようなものをくらった事があるがまさに無限地獄だった。普通の奴なら一日だってもたねえだろうが、やっぱり闇の魔法との相性は悪くないみたいだな。が……」

 

 ネギの状態を診てラカンは

 

「もって今日の夜明けまでだろうな。夜明けまでに糸口を見つけなければ二度と目を覚まさないか、魔法は使えなくなるだろうな」

 

 残酷な現実を突きつけた。嬢ちゃんも覚悟は決めておけよ。もうタイムリミットが迫ってる事に蒼白になるあやか。

 そんなあやかの眼前にラカンは単眼の装飾が施された禍々しいナイフをテーブルに刺す。

 

「これは……」

「このナイフをエヴァの巻物に刺せ。そうすればぼーずの命は助かる。が、闇の魔法は二度と使えなくなる。判断は嬢ちゃんに任せるさ」

 

 そう言ってラカンはまた去る。少ししたらまた様子を見に来るぜと気楽に言い残して。無責任に聞こえるが、これはあやかを信頼している所もあるのだろう。

 ナイフをテーブルが抜き取り、柄をぎゅっと握りしめた。

 

「マギウスさん、私は、私はどうすればいいのですか……」

 

 本音を言えば直ぐにでもナイフを巻物に突き刺したい。しかしまだネギは戦っているのだ。そんなネギの覚悟を自分が踏みにじる真似をしていいのだろうかと葛藤が頭の中を巡っていた。

 そんなあやかにマギウスが優しく肩に手を置く。

 

「マギウスさん?」

『今ネギ様のバイタルチェックを行いました。今も変わらず危険な状態です。しかし例えるなら崖際で踏ん張っている、そんな状態でもあります。ラカン様は今日の夜明けがリミットとおっしゃっていました。ならば夜明けまでネギ様を信じて待ってみましょう』

 

 それは今あやかが聞きたかった言葉かもしれない。ネギを慕い信じると豪語するあやかでもネギの命に関わるならその決意も揺らぐ。だからこそ、第三者からの言葉で改めて自身の信条を強くすることが出来る。

 

『ですが、もしバイタルが急激に変化する事があれば、その時はナイフを刺すことを提案します。もし躊躇ってしまうのならば、私がナイフを刺しましょう』

「ありがとうございますマギウスさん。ですが、これは私の役目です」

 

 迷っていた心も決まった。自分は何があってもネギを信じぬくと。それを思い出させてくれたマギウスに礼を言う。

 

「ありがとうございますマギウスさん。貴方はネギ先生やマギ先生に似て優しい方なのですね」

『私はマギ様をモデルにしたただのロボットです。人のような優しさというのはデータでしか認識しておりません。ですがちう様が悲しむ姿を見たくないのです』

「ふふ、それを人は優しいというのですよ」

 

 マギウスさんのおかげで平穏を取り戻したあやかはネギの手を握りしめたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃マギの修行も佳境に入ろうとしていた。ジャングルの奥から轟音と貴金属のぶつかる音。時折月光の剣が出た蒼い光波と闇の魔法の触手が顔を覗かせる。

 

「なぁマギさん」

「何だ?」

 

 戦いを遠巻きから見ることしか出来ない千雨は旧マギに問う。

 

「この修行、もしタイムリミットまでに間に合わなかったら前のマギさん達もこのまま現界し続けるのか?」

「どうだろうな。まぁおそらくは千雨の予想通りかもな」

 

 曖昧な回答ではあるが、旧マギはそうだろうと答える。

 その答えを聞いて千雨はポツリとつぶやく。

 

「あたしさマギさん達がそのまま居続けるならそれでいいかもなってそう思っちまってさ。どうせなら戦うのは黒いマギさんに任せちまってあたしらは後ろで茶でもすすってればなーって」

「……それは本心かい?」

 

 少し意地悪な問いかけに千雨も苦笑いをしながら

 

「ううん、今のはリミットが迫ってナーバスになっていた戯言だと思ってくれ。それに、そんな未来今のマギさんが納得するわけないだろうし」

「あぁ。思えば今の俺には酷な事を強いらせてるわけだな。まだ日が浅いのに過酷な戦いを任せることになるわけだから」

「だが、身勝手ではあるが、俺にはこの試練を超えてもらわないと俺達の存在も危ういかもしれない」

 

 戦いの光景を真剣な眼差しで見ながら白マギはそう言った。

 

「どういう意味だよ白マギさん」

「今回使った巻物はある種の呪いのアイテムだ。何の代償も払わないという生易しい代物じゃないだろう。今の俺は旧の俺、そして今の俺は黒い俺と比べたら希薄な存在だ。もし、黒い俺が現界することになったら入れ替わるどころか、希薄な俺達はあいつに吸収されてしまうかもしれない」

 

 そう推測した白マギの体が急に透けだした。

 

「白マギさん体が!」

「始まったか。黒い俺が持っていこうとしてるな。だが、下品なあいつと1つになるなど……虫唾が走る」

 

 ふんと全身に力をこめ、透けていた体を元に戻す白マギ。ますます黒マギの暴走に歯止めがきかなくなりそうのをみて時間がないのを嫌でも実感してしまう。

 

「本当に大丈夫なのかマギさんは……」

「大丈夫かもしれないし、大丈夫じゃないかもしれないな」

 

 こればかりは断言出来ない旧マギ。

 

「ただこれだけは言えるが、今の俺がきっかけを掴む事が出来れば、大きく変化する事が出来るだろうな」

「マギさん、どうか無事に乗り越えてくれ……」

 

 千雨は未だに戦い続けている新マギが無事に試練を乗り越えられるように祈り続けた。

 その新マギはと言うと……

 

「がはっ……!!」

「おいおいどうした俺ちゃん? もぉへばっちまったのかぁ~?」

 

 巨木に闇の魔法の触手によって串刺しにされ、磔にされてしまっていた。

 

 

 

 

 

 2日2晩戦い続けてマギ(黒マギと2人しかいないため呼称は戻す)は勝てるヴィジョンが全く浮かんでこなかった。

 相手している黒マギが闇の魔法をふんだんに使用し、触手のように器用に使い続けてマギを翻弄していた。

 対してマギの武器は月光の剣だけであった。マギが月光の剣を振るい光波を出しても黒マギが触手で防いでしまう。

 しかもこっちは両腕2本だけに対して黒マギは触手が無数にあるせいで半ば強制的に防戦一方になってしまうのだ。とにかく手数に圧倒されてしまう。

 これまで触手によって頭を割られたのが5回、手足を折られたのが10回、ねじ切られたのが20回、そして体を貫かれたのが今体を巨木に磔にされて30回を迎えた。

 圧倒的な力量差。例えるなら自分はライターの火だとしたら黒マギは山火事を起こせる程の大火であった。

 しかも黒マギがいちいち大げさにマギの状況を叫ぶのだ。必要以上に煽ってきて、それが苛つかせ焦らせる。

 怒りや焦りで攻撃が大雑把になれば攻撃なんてちっとも当たらない。そしてあっさり返り討ちにあってしまう。

 そんな一方的な攻撃に晒せれ続けて、遂にはタイムリミットの夜明け前に迫っていた。

 しかしマギはまだ諦めておらず、月光の剣を構え、目はまだ死んでいない。

 

「まだだ。まだ俺はやれるぞ」

「おいおい、ここまでくればただの往生際が悪いクソガキとおんなじだろ。見ろよ、お日様がそろそろおはようございますしそうだぜ? 日が完全に登ったら俺はゲームオーバー。晴れて俺様が現界して大暴れ出来るようになるってわけだ」

 

 夜空が東から青白くなり始めている。夜明けが近いのだろう。黒マギの言う通りもう時間がない。

 

「まだ完全に夜が明けたわけじゃない。俺は、まだ諦めない」

「……はぁ、いい加減うざったくなってきたなぁ」

 

 そう言って黒マギは闇の魔法の触手でまたもマギの体を貫いた。

 

「がはぁっ……!」

「言い訳みたいに大層な御託並べやがってよぉ。うざいったらありゃしねーぜ。おい俺よぉ、何でこの修行を始めたのかわかってるのか?」

「当たり前だ。俺はこの修行で闇の魔法を完全にコントロールするためだ!」

 

 ……あれ、本当にそうだったか? 噛み合わないパズルのように違和感を覚える。

 手段と一番大事な目的が入れ替わり、重大な事を見落としていてならない。

 一度頭の中のパズルをすべて崩し、もう一度組み立て直す。そうすることで頭の中で色々と浮かび上がる。

 麻帆良学園。3ーAの生徒達。アーニャ、あやか、アスナ、このか、せつな、カモ、小太郎、風香、史伽、茶々丸、夕映、亜子、千雨、プールス。皆の顔も浮かんできた。

 そして最後に浮かび上がったのは、ネギ、のどか、そしてエヴァンジェリンだった。

 何故皆を思い浮かべたのか。決まっている……自分が皆を護りたいからだ。そう思った瞬間、最後のピースがピタッとはまった。

 

「──―あ」

 

 ぽつりと言葉が溢れたと思いきや

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 突然狂ったように笑い出すマギ。天を仰ぎ笑い続けるその姿はタイムリミットで可笑しくなったのだろうとそう見て取れる。

 そんなマギに向かって、黒マギはまたも闇の魔法の触手で貫こうとマギに向かって突き出した。

 しかし触手はマギを貫くどころか、マギは触手の束を掴んだ。先程までの力の差が嘘のようである。

 

「そうだ……何を俺は回りくどい事をしてたんだ。俺はただ単純に皆を護れる力を手に入れるために闇の魔法を使いこなそうとしていたのに」

「漸く分かったか。そうだ、自分が護るという本能にも勝る欲望。ネギでもエヴァでもない。俺自身が皆を護るという傲慢とも言える力への渇望だからこそ」

「あぁ、だからこそ俺は闇の魔法を完全に制しなけれなならない。ということで、その力俺に寄越せ」

 

 そう言って黒マギから伸びている触手を数本引きちぎった。引きちぎられた触手はトカゲのしっぽのようにのたうち回るが、マギが握りしめると触手は魔力の霧となり霧散し、マギの腕に吸収された。手のひらまで黒かった右手が肘の辺りまで黒く戻ってきた。

 

「漸く半分位まで戻ってきたか。だが、まだ足りない。そのまま全部寄越せ」

「へん、やなこった。そんなに欲しいなら、力づくで奪うんだなぁ」

 

 そう言って黒マギは魔力を開放した。禍々しい黒い魔力がグレートソードを包み、漆黒の黒刀へと姿を変える。

 

「あぁ、その積もりだ。力づくで全部奪ってやるさ」

 

 マギも魔力を開放し、月光の剣が蒼白く煌々と輝く。そして互いに刃を構える。

 

「もうそろそろ時間だな。互いの最大の一撃をぶつけ合うなんて何とも唆られる展開じゃねえか」

「ふっそうかもな。けど……勝つのは俺だ」

「ギャハハハハ。それはどうかな? ここでお約束を破った大どんでん返しな展開になるかもしれないぜぇ?」

「ハハハハハ」

「ギャハハハハ」

 

 互い笑い合っているが

 

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 次の瞬間には足を踏み込み刃を振るう。2つの力がぶつかり合った瞬間

 2人が居るジャングルが文字通り吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2つの力がぶつかった瞬間には千雨は少し離れた場所で戦いを見守っていたが、巨大な力の爆発に千雨は悲鳴を上げた。

 

「なななな何だぁ!?」

 

 いきなり目の前のジャングルが轟音と共に爆裂すれば目が飛び出す程の仰天になるだろう。

 しかしかなりの至近距離で大爆発が起こればその分の衝撃波も凄まじい事になる。

 

「白い俺! 盾を構えて障壁を張れ! 俺もなけなしの魔力で障壁を張る!」

「了解した!」

 

 旧マギと白マギの判断は早く、白マギはタワーシールドを湖の浜辺に刺し魔法障壁を展開し、旧マギも障壁を展開する。

 

「千雨! 絶対離すなよ!」

「死んでも離すか!!」

 

 千雨が旧マギの腰に抱きついた瞬間、衝撃波が襲ってくる。体感10秒程であったが、気を抜いたら吹き飛ばされそうだった。

 衝撃波が晴れると千雨の目の前にあったジャングルは巨大なクレーターへと変貌を遂げており、開いた口が塞がらない千雨。

 

「新の俺と黒い俺が最大の力を使ったんだろう。勝負が決まったのかもな」

「それじゃあマギさんが……」

「まだ分からない。もしもな事もあるかもしれない。だから千雨、最悪の場合は覚悟しておいてくれ」

 

 そんな話をしてしばらく待っていると、新マギと黒マギが戻ってきた。どちらもぼろぼろで汚れていた。

 

「ま、マギさん。どうなったんだ……」

 

 千雨がおそるおそる新マギに結果はどうなったのか聞くと、黒マギがグレートソードを地面に急に刺した。いきなりの黒マギの行動に千雨は警戒をするが、黒マギは大きく伸びをするとそのまま背中から寝転んでしまう。

 

「は?」

 

 黒マギが急に寝転んだのを見て千雨は呆然としていると

 

「負けた負けた。俺様の負けだ」

 

 黒マギが自身の敗北を宣言するのであった。

 

「え? 負けって……」

「二度も言わせんじゃねえよ。この俺様が負けを認めてやったんだ。もっと喜ぶところだぜ?」

 

 というか黒マギは他のマギたちよりも巨体であったはずなのに、格好は元のままだが、背は同じ位に縮んでいた。

 そして、新マギの右腕も元の漆黒に戻っていたのである。

 

「それじゃあ……!」

 

 千雨は期待の混じった眼差しで新マギを見ると、新マギも頷き

 

「何とかぎりぎりで間に合った。試練、クリアしたぜ」

 

 ヘロヘロながらも新マギは震える手で千雨に向かってサムズアップをした。

 もう大丈夫だ。それが分かった瞬間、千雨は体を震わせ感極まってそのまま新マギに抱きついた。受け止めきれずにマギは仰向けで倒れてしまう。抱きついた千雨は嗚咽をこぼしていた。

 

「うぐっ、よかった……! あんまり心配させんじゃねえよバカ……」

「ごめん。心配かけて」

 

 泣きじゃくる千雨をあやすように頭をなで続ける新マギであった。

 

「ヒューヒュー! そのままブチュっとやっちゃいなYO!」

「茶化すな痴れ者が。しかし、クリア出来て良かった」

「だな。今の俺には色々と無理をさせてしまったな。けど、これでとりあえずは大丈夫だろうな……」

 

 茶化す黒マギを諌める白マギ。そして朝日を見ながらぽつりと呟く旧マギ。

 ぎりぎりではあったが、試練をクリアすることが出来たマギであった。

 

 

 

 

 

 

 時間は少しだけ遡り、ネギの方も決着が付きそうであった。

 うなされ夥しい血を流していたが、それがピタリと止み静かな時間が流れまるで死んでしまったようだった。

 小さく呼吸はしている。しかしそれは弱々しく、ネギの体が限界に近い事を意味していた。

 

『あやか様……残念ですが、そろそろ時間です。夜が、明けてきました』

 

 朝日が差し込み、もう時間がないのを物語る。あやかはナイフを両手で持ち巻物に目を向ける。しかし、ナイフを握る手は震えていた。

 

『あやか様、もしも無理であるならば私にナイフをお渡しください』

 

 ここで一分一秒でも躊躇いナイフを刺すのが遅れればネギの身に何が起こるのか分からない。

 マギウスならばネギの身を第一優先にし躊躇なく刺すことが出来るだろう。

 しかしそんなマギウスの好意を受け取りながらもあやかは首を横に振る。

 

「ありがとうございますマギウスさん。ですが、これは私がやらなければいけないことなのです」

 

 あやかは数回深呼吸をするが、ネギの事を考えると罪悪感で目を閉じてしまう。しかし、目を反らし逃げてしまえば、二度とネギと向き合う事は出来ないと判断し、目をかっ開き

 

「あああああああああ!!」

 

 今日を払拭するために叫びながら、巻物に向かってナイフを振り下ろす。

 ナイフは巻物に当たる僅か数cmで止まった。

 何故なら、ネギの2本の指がナイフを挟み止めてしまったのだから。

 

「……え? ネギ、先生?」

「はい。ご心配をおかけしましたあやかさん。ぎりぎりでしたが、間に合いました」

 

 呆然としているあやかに衰弱していながらも微笑むネギ。とそこに寝起きのラカンがやって来る。

 

「そろそろ時間だろうと思って来てみれば、何とか会得したみたいだな闇の魔法を」

「はいラカンさん」

 

 ネギの両腕には刻印が浮かび上がる。この刻印こそが闇の魔法を会得した証拠である。

 

「ま、とりあえずはおめでとさんって所だな。けど気を付けろよ、そいつはバンバン使っていい代物じゃねえってことを忘れるなよ」

「はい、それは重々承知の上……です」

 

 ネギは暴走し、悪魔の形相になったマギを思い出す。だがそれでも自身が大きな一歩を踏み出せたのも間違いはないのだ。

 決意をあらたにしていると、からんという音がする。あやかがナイフを落とした音だった。

 

「おめでとうございますネギ先生。ですが、私は最後までネギ先生を信じる事が出来ませんでした。不甲斐ない私で申し訳ございません……!」

 

 遂にはぼろぼろと涙をこぼし始めるあやか。しかしネギはあやかを咎める事はしない。あやかはネギの事を思って行った事であるからだ。

 

「そんな! あやかさんは僕を今まで見てくれていたのに、そんなあやかさんを咎めるなんてしません。絶対に!」

「あぁ、ネギ先生、その言葉をいただけて、私は十分で……す」

 

 糸が切れたように前のめりに倒れそうになるあやかを抱き留める。

 

「嬢ちゃんはほぼ寝ずにお前を見てたからな。緊張の糸が切れたんだろうよ」

「はい。本当にありがたい限りです」

 

 ネギはゆっくりとあやかを横に寝かせてあげた。

 

『ネギ様、私もそろそろエネルギーが切れるようなので、強制スリープに入らせていただきます』

「うん、マギウスもお疲れ様」

 

 マギウスも目から光が消え、スリープモードに入ったようだ。暫し時間が過ぎているとマギが戻って来た。

 

「ネギ、目が覚めたようだな。闇の魔法は使えるようになったのか?」

「お兄ちゃん。うん、何とかギリギリで……ってお兄ちゃんが4人いる!?」

 

 マギの声が聞こえて振り返れば、マギが4人に増えたことに驚き目を見開いた。

 

「そう言えばネギが眠った後にこっちも修行を始めたからネギが知らないのも無理ないか」

 

 新マギは修行のこと、こっちも闇の魔法を使うための基盤が固まったことを話した。マギの方も無事に終わったと知って喜ぶネギ。

 

「それじゃあそこにいるお兄ちゃんは……」

「そうだ。久しぶりだなネギ」

 

 かつて自分とずっと一緒に居てくれたマギだと知った瞬間に、ネギは旧マギに飛びついた。そしてぎゅっと旧マギを抱きしめる。

 

「酷いよお兄ちゃん……! 勝手に僕達の前からいなくなっちゃうなんて……!」

「あぁ、悪いな。酷い兄貴でごめんな」

 

 涙を流すネギをあやすように優しくネギの背中に手を回し撫でまわす。

 久方ぶりの兄弟の再会。このまま少しでも一緒にいさせてあげたい。しかし、時はそう兄弟に甘くなかった。

 

「んじゃそろそろ時間だな。さっさと俺の中に戻ろうぜ」

 

 黒マギが時間だと言った。見れば黒マギの足から少しずつ消滅していっていた。

 

「おい黒マギさん! アンタ足が消えてるぞ」

 

 慌てる千雨を馬鹿にするかのように深い溜息を吐く黒マギは説明する。

 

「おいおい何馬鹿な事を言ってんだ? 俺様はあの巻物で俺の中から出てきたんだ。俺が試練をクリアしたなら、俺様がこの世界にいる必要はないんだよ」

「俺達は魔力の残り香で実体を保っていたんだ。まぁつまり、時間切れだ。俺達は魔力に戻り、俺の体に戻る」

 

 見れば、白マギもそしてネギをあやす旧マギも少しずつ体が薄くなっていた。

 

「そうか、もう時間がないのか。残念だな、せっかくこうしてネギと話せるかと思ったんだけどな……」

「そんな! お兄ちゃん、もう行ってしまうの?」

 

 残念がる旧マギ、もう旧マギが行ってしまうと知りショックを覚えるネギ。

 しゅんと沈むネギを見て、何を思ったのか、旧マギはネギの両脇を持って、上へと上げる所謂高い高いを行った。

 

「お兄ちゃん!? 何やってるの!?」

「……そう言えば、昔は馬鹿みたいに斜に構えていたせいで、お前と接する時間をあまり持てなかったからな。失ってから大事にな事に気付くってよく聞くが、正にそうなんだな」

「お、お兄ちゃん、僕そんなに小さくないから、その、嬉しいけど、恥ずかしいよ」

「悪いな。けど、もう少しだけこうさせてくれ」

 

 顔を赤くしながら恥ずかしがるネギを降ろすが、少しでも多くネギと接しようと、普通の兄弟のようにじゃれ合うネギと旧マギ。微笑ましい光景でもあるが、それもあと数分あるかないかである。

 

「なんか、複雑な気持ちなんだが」

「そうだな。けど、少しでも昔の俺の自由にしてあげたい」

 

 複雑に見ている千雨と、旧マギの気持ちを尊重してあげたい新マギは旧マギとネギの戯れを微笑みながら見ていた。その間にも白マギと黒マギは消滅を続け、今ではもう胸から上までしかなかった。

 

「どうやら俺達が先に戻るようだな。何も手伝う事が出来ずにすまなかった。俺の内側で俺が頑張るのを応援するよ」

「そんなことない。白い俺が千雨のそばにいてくれたから俺も頑張る事が出来たんだ」

「……ありがとう」

 

 そう礼を言い、微笑みながら消滅し、新マギに戻っていく白マギ。

 

「けっ折角俺様が大暴れしようとしたのになぁ。言っとくが俺様はまだ諦めたわけじゃねえぞ。調子乗ってまたへまでもしたら俺様が大暴れしてやるぜ」

「あぁ、そうならない様に頑張るさ」

「へっそうやって精々いきっておくんだな」

 

あ、そうだと何か言い忘れたのか黒マギはにやりと笑いながら

 

「ただ戻るのは癪だから、ちょっとちょっかいかけさせてやるぜ」

「は?おいそれはどういう――――」

「じゃあな!ぎゃははは!!」

 

 そう言って黒マギはだらしなく舌を出しながら消滅し、新マギの中へと戻っていった。ちょっかいを出すという何か不吉な事を言い残して。

 そして残りは旧マギだけになった。旧マギも段々と消えて行っていく。

 

「さて、俺の番か……」

「お兄ちゃん、また会える?」

 

 不安げに旧マギを見上げるネギの頭に優しく手を置く。

 

「すまない。まだ俺は俺でやらなければならない事があるからな。だから……勝手な物言いだが、後は頼むぞ俺」

「ああ、任せろ俺」

 

 固く誓いを立てる新マギに頷き返す旧マギ。

 

「それじゃあ皆、またな」

 

 そう言って旧マギも魔力となって霧散し、新マギに戻り、マギ1人だけとなった。

 

「どうだマギさん、体に変な感じあるか?」

「そうだな。足りないものが全部器に戻って来た感じだ」

「つまりは大丈夫ってことだよな。ならよかった」

 

 こうして、どちらも危ない橋を渡ったが、無事に闇の魔法の修行を終えることが出来た。

 

「しかし闇の魔法を使えるようになったが、まだまだスタートラインだ。これから修行はもっと厳しくなる。本番は此処からだぜ」

「はい!」

「あぁ、望むところだ」

 

 やる気に満ちているネギとマギ。これから更に過酷な修行が始まるかと思いきや

 

「んじゃ修行の前に腹いっぱいに飯食って寝ろ!」

「っておい今から始めるんじゃなかったのか!?」

「まぁそうだがネギは今までずっと血を流し続けてただろうし、腹も減ってるだろ。腹が減ってたら修行は出来ねえぜ」

「そこは戦だろ」

「戦も修行もどっちも変わらねえだろ! んじゃ今から飯だ! いっぱい食え!」

「はい!」

「そうだな。そう言えば腹が空いたな」

 

 そう言ってマギとネギは腹を満たすためにラカンについて行った。

 

「……まぁなんやかんやであたしも腹減ってたし、マギウスにも魔力をあげなくちゃな」

 

 少し遅れてマギ達について行く千雨。その後、あやかも目を覚まし、皆で腹を満たすために豪快なバーベキューを行うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マギ達がバーベキューを行っている間、廃都オスティアが一望出来る岩山にフェイト・アーウェルンクス達が居る。その背後には石化している巨大な竜の姿が。

 そんなフェイト達の元に巨大な鷲が降り立った。鷲からアーチャーが降り、続いて千草に、カモにプールス、風香と史伽も降りた。

 

「やあ。目的の物は手に入ったのかな」

「おかげさまでね。不死斬り、手に入れることが出来たよ」

 

 そう言って背中に担いだ不死斬りを見せるアーチャー。

 

「それは良かった。けど……どうしてネギ君の仲間が一緒にいるのかい?」

 

 感情の無い目でプールス達を見るフェイト。カモとプールスは警戒するが、風香と史伽はびくりと肩を震わせる。

 

「この子達は君達が行った強制転移の魔法で私の目的地に飛ばされたみたいでね。そこのカモ君に依頼されて、マギ・スプリングフィールド達と合流出来るまで護衛してほしいという訳さ」

 

 プールス達が何故いるのかの理由が分かると、そうかいとさほど興味無さそうにフェイトはプールス達を見るのを辞めた。

 

「まぁっ可愛いお嬢さんやなぁ。この子達がひどい目にあったら刹那センパイも怒ってもっと強くなるかえ?」

「ひっ」

「ちょ、やめてよ!」

 

 風香と史伽を見て、狂気的な笑みを浮かべながら鞘から少し刀身を抜く月詠に怯える声を出してしまう風香と史伽。

 

「月詠! その風香と史伽とかいう子は魔法に巻き込まれた一般人やえ! 魔法使い共はどうなっても構わんがこの子達に手を出すのは許さんえ!」

 

 鷲を札に戻し、月詠が風香と史伽に手を出さない様に牽制する千草。

 

「あらら千草さんそんなムキになって怒らんでも。ほんのちょっとの冗句やえ。ごめんなぁ、怖がらせて」

 

 けたけた笑う月詠にすっかり腰が抜けてしまった風香と史伽。そんなやり取りを見ててフェイトは小さく溜息を吐いた。

 

「さぁネギ君早く来るんだ。君なら僕達の計画を止められるかな」

「舞台は整いつつある。さぁマギ・スプリングフィールド。貴様はこの私が断ち切ってやろう」

 

 マギ達が気付かぬ内に物語は大きく動き出そうとしているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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栄光を掴め! 目指せ魔法騎士団!

 綾瀬夕映。麻帆良学園の3-Aの生徒であり、2年生の3学期に麻帆良学園にやって来たマギとネギと知り合い、魔法に触れ、マギ組の1人となり何時しかマギを慕うようになった。

 そんな彼女はエヴァンジェリンの師事の元で地獄のような修行を行い、魔法を身につける事が出来た。夏休みにはマギ達について行き、魔法世界へと降り立つが、偶然(自分でそう言っている)居合わせたフェイト達の姦計により、強制転移で皆と離れ離れになってしまった。

 飛ばされた夕映はアリアドネーにてコレットと出会う。出会い頭にコレットが練習していた魔法が暴発、夕映を強化する事が出来るがデメリットで魔力が垂れ流しな状態となってしまった。

 強化したが、コントロールが難しい、ならば襲撃時に何も出来ず不甲斐ないと思った自分を鍛え直すために、ここでゼロから学び直すのがいいだろうと、コレットの遠縁という事で『ユエ・ファランドール』という偽名で魔法騎士団のクラスに転校生として入った。

 入った当初はいいんちょであるエミリィや他のクラスメイト達からは白い目で見られるのが殆どであった。箒での飛行訓練では飛べなかったのをクラスメイト達の笑い者にされ、戦闘訓練では雷の暴風を放った事で皆の度肝を抜いた。

 それ以降はエヴァンジェリンのしごきも相まって、実践訓練でも頭角を現し、ペーパーテストでも好成績。さらに当初は数m浮かぶのがやっとだった飛行訓練でも普通に飛行が可能となるまで急成長を遂げていた。

 ただ唯一の弱点は……

 

「弱点はトイレが近い事だね」

「そんな事メモしなくていいです!!」

 

 トイレでメモしていたコレットにツッコミを入れる夕映であった。

 

「でもこんなにトイレが近くて大丈夫なのユエ? 今度の選抜試験中にトイレ行きたくなったらやばくない?」

「う、正論です……けど、そもそもこの学校の購買の飲み物が面白美味しいのが問題で……」

 

 正論にもごもごと個室越しに言い訳をする夕映にコレットは溜息を吐き

 

「大体いいんちょの前であんな啖呵切っちゃって。もし負けたりしたらユエが笑い者になっちゃうんだよ?」

「それは……」

 

 エミリィに啖呵を切った。それは今夕映がトイレに入っている数日前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 座学の授業で、魔法世界での英雄である、ナギと紅き翼の名が出て、学校が終わった放課後に図書館にて魔法世界の紅き翼、そしてマギとネギの父親であるナギについて調べていた。

 

「やはり故人となっているんですね。マギさんやネギ先生の事は書かれていない。息子が居るという情報は無し……マギさんやネギ先生のお父様であるナギ・スプリングフィールド、出生やその歩は特段変わった情報は記されておらず……」

 

 ナギの事が書かれた本を数ページめくると、ナギが10歳の時の写真が載っていた。

 

「真面目なネギ先生やちょっと気の抜けたマギさんのお顔とは違う、元気そうな何処にでもいそうなわんぱく少年って感じだったんですね」

 

 率直な感想を呟き、他に何か情報がないかとページを捲ろうとしたら

 

「ユエ何見てるの?」

「あ、コレット。実はナギさんの事について色々と」

 

 ナギの名前が出た瞬間にコレットの目が輝く。

 

「何だ! ナギ・スプリングフィールドの事を調べてるなら聞いてよ! 私大ファンなんだから!」

「そ、そうなのです?」

 

 そうと言いながら興奮止まずにコレットは何処から取り戻したのか数々のナギが描かれたグッズを取り出して、しまいにはナギのファンクラブの会員証を掲げた。5桁の会員証は凄いのかよく分らないが。

 

「と、そう言えばユエの好きな人ってナギ・スプリングフィールドの息子さんなんだよね!? マギさんってナギ・スプリングフィールドの事を仲良いの!?」

「えっと、コレットが聞くとショッキングな事かもしれないですが、ナギさんはマギさんが小さい時とネギ先生が小さい時にナギさんの故郷に預けたきり行方不明になってしまって、親子の時間がなかったせいで、ネギ先生はお父様を慕っているのですが、マギさんがその”クソ親父”とナギさんを呼んでいまして……」

「く、クソ親父って……めっちゃお父さん嫌ってるじゃん」

「はい、出会ったらぶん殴るとも言ってましたし」

「そんな物騒な事誓ってるの!? うわぁ聞きたくなかったなぁ、英雄の家族の知られざる事情」

 

 アイドルの黒い噂を聞いてショックを覚えるファンのようにコレットも流石に堪えたようだ。

 

「ごめんですコレット。こういう話は聞きたくなかったですよね」

「う、ううん大丈夫……と言えば嘘になるけど、英雄も人だからね。何か事情でもあるんだよきっと」

「そうですね。きっとそうです。そう言えば、コレットは私に何か用でもあったんですか?」

 

 夕映に声をかけてきたのだから何かあると思ったら、コレットもナギの事で興奮していたが思い出したように懐から1枚の紙のようなものを取り出した。

 

「そう言えば夕映に見せたいものがあってね。もしかしたらお友達の情報になるかもしれないと思って」

「なんですかそれは?」

「グラニクスっていう街で行われてる拳闘士の大会の録画でね、その録画に面白い物が映ってたんだよ」

 

 そう言って再生ボタンを押した。映像が立体で映り出し、そこにはグレートソードを担いだネギ(マギ)がインタビュアーにインタビューされていた。

 

『おめでとうございます。ネギ選手! 今回も圧倒的な勝利でしたね』

『あぁありがとう』

『やはりオスティアへの出場も視野に入れていますか?』

『当然だ。というかそれしか頭にないからな』

 

 マギがインタビュアーからの質問に答え続ける。

 

「これってユエが言ってたネギ先生っていう人だよね。けどユエが言ってた通りの真面目な感じじゃないし、何ら少年じゃねいよね。おじさんじゃん」

「いえ、これはマギさんです。どうやら何かわけあってネギ先生の名前を借りているようです。姿も年齢詐称薬を使っているはずです」

 

 何故ネギの名を使っているのか、いやそれよりも重要な情報をマギは言っていた。

 

(オスティアにて拳闘士の大会があるようですが、マギさんはそれに出場する。何か出ないといけない事情があるようです。それに今度オスティアにて記念式典があってその警備任務で各学年から2名募集していたはずです。なら私がその警備任務で選ばれたらマギさんと合流出来る可能性は大いにあるです)

 

 コレットの話が耳に入らずに思案にふける夕映。その間にもマギへのインタビューは続き

 

『ネギ選手、未だに観客の中ではネギ選手がナギ・スプリングフィールドの息子だと認めない派がいらっしゃいますが、ここで何かナギ・スプリングフィールドについて面白エピソードとかお聞かせ出来ないでしょうか?』

『面白いかどうか分らないが、旅の途中で酒場のマスターに聞いたんだが、クソ親父は俺が赤ん坊の頃に俺をおんぶしながら旅をして時折喧嘩して母さんに怒られていたらしいが、ほんと何やってるんだ話だよ』

『あ、あはは。随分とアグレッシブなお父様だったんですね』

『しかも子守りしながら小悪党を蹴散らしたなんて話も聞いたぞ。ホントクソ親父は馬鹿野郎だ』

 

 呆れたように顔に手を当てるマギを見てインタビュアーは乾いた笑いを上げていた。

 

『で、では今回も圧倒的な勝利を見せてくれたネギ選手でしたぁ!!』

 

 そこでインタビューは終わった。

 

「はえ~赤ん坊を子守りしながら凄い事をやってたんだねナギ・スプリングフィールドって」

「ですが、マギさんはオスティアに行くと言っていたです。だったら私もオスティアへ行きたいです」

「だったら今度記念式典の警備任務に絶対行こうよ! ユエなら絶対行けるって! 私もユエと一緒に行きたいし!」

「はいです!」

 

 と息巻いている夕映とコレット。しかし2人の勢いを邪魔をする者が現れる。

 

「気に入りませんわ」

「わっいいんちょどうしたのそんな怖い顔して」

 

 現れたのはいいんちょことエミリィ。その顔は不機嫌を露わにしていた。

 

「いいんちょ、気に入らないとはどういうことです?」

「この私の前で私のナギ様の評価を下げようとする噓つきのペテン師がまた現れたからに決まっています」

「……噓つき? ペテン師?」

 

 エミリィのマギに対しての侮辱の言葉に夕映がぴくりと反応する。

 

「いいんちょ私のナギ様だなんて、まるでファンクラブの一員みたいじゃない」

「まるで? 笑止! これを見なさい!」

 

 エミリィはコレットと同じナギファンクラブの会員証を見せた。コレットと違うのは78と2桁の数字であった。

 

「かっ会員№78!? 2桁の№生まれて初めて見た!」

「ふふん、貴女のような5桁の末端の会員が真のナギ様のファンである私の前で得意げにナギ様を語るなど笑止千万!」

 

 かなりの格上を目の当たりし、打ちひしがれるコレット。そんなコレットを見て、気分が乗ってきたのか更に畳み掛けるように話を続ける。

 

「過去にナギ様を騙った詐欺師は数多く居ました。大方今回も過去にナギ様にコテンパンにやられたかで逆恨みででっち上げの法螺話でナギ様の評価を下げようという魂胆なのでしょう。ですが、そんな出鱈目を信じるほどナギ様のファンは愚かではありません! それに、この噓つきが悪目立ちしているせいで、ナギ様にそっくりの選手が全然目立っていません! 名前も一緒なのは何かあるかもしれませんが、顔立ちが正にナギ様と瓜二つ、そしてインタビューもとても爽やかな受け答え。ナギ様が居なくなってナギ様ロスで皆が絶望していた中で、その方は迷える私達の為に天が遣わしたナギ様の生まれ変わりに違いありません!」

「ど、どうかなぁ……? それに、このネギ選手が嘘言ってる証拠もないんだしさ」

 

 コレットは目が右往左往と泳ぎながら力説してるエミリィを宥めようと必死だった。何故なら自身の後ろに座っている夕映の髪がゆらゆらと動いているのがちらちらと見えている。

 マギの事を悪く言われればいい気はしない。怒髪冠を衝くとは正にこのことだろう。

 

「いいえ。この男はナギ様ファンクラブの敵とみなします! どうやらこの男はオスティアでの拳闘士の大会に出場するようですが、丁度記念式典がオスティアで行われますから、私が学年代表で警備任務に行き、息子を名乗る不埒物をしょっ引いて見せます! そうすれば……」

『ありがとうございます。あの男のせいで全然目立つ事が出来なくて。お礼に食事を、いや結婚してください!』

『わ、私でよければ喜んで!』

 

 勝手な妄想に花開くエミリィは悦で顔が歪んでいた。コレットでもエミリィがどんな妄想をしているかは分かり引いていたが

 

「ええ! いいんちょもオスティアに行くの!?」

「当然です。オスティアに行くのはこの私しかいませんから」

 

 胸を張りそう言い切るエミリィにコレットは焦りを見せる。

 

「えぇぇ、いいんちょも参加するなんて……こりゃオスティアに行くのが遠ざかるよぉ」

「ふん、貴女のような落ちこぼれがおこがましいのです。オスティアに行くのはこの私が相応しいのですから」

「……いいえ」

 

 今まで黙っていた夕映が口を開く。

 

「ユエさん何か言いましたか?」

「オスティアに行くのは私とコレットです」

「ユエ! ちょっと落ち着いて! 髪がまだうねってるよ! 魔力を抑えて! ガス欠になっちゃうよ」

 

 エミリィを見上げる形で啖呵を切った夕映。コレットは夕映がガス欠にならない様に気に掛ける。

 

「貴女がですか? つい最近まで箒での飛行が出来なかったのに大きく出ましたね」

「私はたった今ですがオスティアに行く目的が出来ました。少なくともいいんちょのようにファンクラブといった邪な理由でオスティアに行くのは魔法騎士団としていかがなものかと思うです」

「なっユエさん貴女……!」

 

 エミリィは夕映に何か言おうとしたが、夕映はエミリィを避けて図書館を去ろうとする。遠巻きで見ていた学生がモーセの十戒の如く夕映を避ける。

 

「あぁそれと」

 

 図書館を出ようとし、一度止まって振り返ると

 

「人を見かけで判断するなんて、ファンクラブ会員№2桁が聞いて呆れますです」

「ユエさん! 貴女それは言ってはいけない事ですよ!!」

 

 エミリィが流石に聞き捨てならない事を夕映が捨て台詞で言ったので声を荒げるが、夕映はエミリィを無視して図書館を去った。

 そして暫く歩いてぺたりと座り込んでしまった。

 

「ふぅ……」

「ユエ大丈夫!? ここで座っちゃうといいんちょが追ってくるだろうから部屋に戻ろ!」

「面目ないです……」

 

 ぐったりしている夕映を担いで急いで自室へと戻ったコレット。タッチの差でエミリィが走って来た。しかし2人の姿がないのを見て小さく舌打ちをする。

 

「まったく、逃げ足は速いのですから。けど、さっきのユエさんが言っていたこと……」

 ────私はたった今ですがオスティアに行く目的が出来ました────

 ────人を見かけで判断するなんて、ファンクラブ会員№2桁が聞いて呆れますです────

「まるで、ユエさん自身に何かオスティアに行く理由があって、ナギ様の息子を騙るあの男を庇うような言動、もしかしてユエさんはあの男と何か関係がある……ユエさん、貴女はいった何者なの……?」

 

 夕映がエミリィに宣戦布告をし、そして時はトイレの中の夕映に戻る。

 

「もぉユエは購買の飲み物を暫く禁止にするよ。もし選抜試験中にもようしちゃったら目も当てられないよ?」

「うう、申し訳ないです……」

 

 コレットに注意され、しゅんとしてしまう夕映。そんな夕映を可愛いと思ったのか夕映の頭を撫でまわすコレット。

 

「でもユエの気持ちも分かるよ。自分の好きな人を馬鹿にされたら怒るのも無理ないし、いいんちょに勝つために特訓を頑張っていっぱい汗かいて喉も乾いて飲み物いっぱい飲んだらトイレも近くなっちゃうよね」

「すいませんです。けど、マギさんの事を悪く言われるのは我慢できなくて」

「ううんいいんだよ! 好きな人の為に頑張る。恋する乙女として当たり前の原動力。打倒いいんちょ! おー!」

「お、おー!」

 

 迫る選抜試験の為に改めて気合を入れる2人であった。

 選抜試験は百キロ箒ラリー。武装解除の魔法を使用可の妨害ありの脱がしあいである。

 

「でも改めて考えるといいんちょは強敵だよ。戦闘訓練の時もいいんちょは無詠唱で魔法使ってたし、油断ならぬ相手だし、それに他にも参加する人もいるらしいし、しっかり対策を考えないと」

「はい、そうです。けど、ここで挫けたら何も出来ないです。やるだけやってやろうです」

「そうだね。それぐらいの勢いじゃないといいんちょは超えられないよね! よし、休憩終了! 午後も特訓だよユエ」

「はい!」

 

 夕映とコレットは特訓を続け、そして選抜試験の日がやって来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして最後にユエ&コレットチーム!!」

 

 選抜試験当日、実況アナウンサーに紹介された夕映とコレット。周りからは落ちこぼれコンビ等と野次を飛ばされるが気にしない姿勢を取る2人。

 

「てっきり尻尾を巻いて逃げ出すかと思いましたが、まぁ褒めてあげます」

「どうもです。ですが、終わった後に同じ台詞が言えるか見物です」

 

 夕映とエミリィの間でばちばちな火花が飛びあい、他の参加者は眼中に無かった。

 

「い、いよいよだねユエ。うぅ、今更ながら緊張してきたよぉ」

「大丈夫ですコレット。この日の為に特訓をしたです。努力はきっと裏切らないです」

「……うん! 後はやるだけだ!」

 

 そして選抜試験参加者は各々箒に跨る。そして

 

「では……スタート!!」

 

 合図で皆が一斉にスタートした。

 最初は都市内を飛ぶ事となっている。

 トップはエミリィとエミリィの幼馴染兼従者のベアトリス。2番目は獣人の少女のコンビ。

 そして3番目に夕映とコレットが続いていた。他の参加者を出し抜き、3番目を維持している。

 

「落ちこぼれコンビ! お前らはびりっけつでノロノロ飛んでればいいのよ!」

 

 2番目を飛んでいる獣人コンビが夕映とコレットに仕掛けてきた。

 

「来たよユエ!」

「コレット手筈通りに」

「了解!」

 

 受けて立つ夕映とコレット。各々詠唱を始める。

 

「アネット・ティ・ネット・ガーネット!」

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ!」

「パクナム・ティナッツ・ココナッツ!」

「ハイティ・マイティ・ウェンディ!!」

 

 ────風花・武装解除────

 ────熱波・武装解除────

 

 夕映とコレットが風の武装解除、獣人コンビが炎の武装解除の魔法を放った。

 力は拮抗する……かと思いきや、夕映とコレットの武装解除の魔法が徹り、獣人コンビの衣服が吹き飛び、あられの無い姿になってしまう。

 甲高い悲鳴を上げて体を隠そうとする獣人コンビ。ここアリアドネは普通に男性も暮らしている。つまりこの選抜試験は男性に自身の下着姿を見られてしまうというとても恥ずかしい選抜試験なのである。

 

「やった! 上手く行ったよ!」

「次です! 加速!」

「了解! 加速!!」

 

 相手を退けた事により、勢いに乗って加速する。その先に飛んでいるのはエミリィのコンビだ。

 

「見えた! いいんちょのコンビ! 距離300!」

「私のタイミングで魔法障壁展開!」

 

 更に速度を上げる夕映とコレット。ここで仕掛けるようだ。エミリィも返り討ちにしようと杖を構える。

 

「来なさい落ちこぼれコンビ。ここで返り討ちにして差し上げます。タロット・キャロット・シャルロット」

 

 ────氷結・武装解除────

 

 エミリィから放たれた氷の武装解除の魔法は夕映とコレットが張った二重の結界とぶつかり、氷の武装解除の魔法が砕け、煙幕となりエミリィの目をくらます。

 その間にコレットが煙幕から飛び出た。

 

「風花────」

 

 コレットがエミリィに向かって風花・武装解除を使おうとしたが、エミリィは不敵に笑いながら、無詠唱でもう一度氷結・武装解除をコレットに当てる。当たったコレットの服は凍り付き、砕け散った。驚きの様子を見せるコレットだが、その目は待ってましたと語っていた。

 

「っ! まさか!」

 

 気づいた時には遅く、エミリィの背後に回った夕映が無詠唱で風花・武装解除を放ち、エミリィの服を吹き飛ばした。

 

「油断したですねいいんちょ」

「やったねユエ!」

「引くですよコレット!!」

「ガッテン!」

 

 無事だったマントで身を隠し、夕映とコレットは先を急ぎ、スピードを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 都市歳外壁をトップで抜けた夕映とコレットのコンビ。そのスピードは衰えずむしろ益々速度を上げていた。

 

「凄いよユエ! いいんちょを出し抜くなんて!」

「あれは上手く行っただけです。それよりもコレットを囮にしてしまって申し訳ないです」

「いいって! あれぐらい安い安い!」

 

 夕映の謝罪もコレットは特段気にせずおおらかなに返すのであった。そのままの速度を維持して、巨大な森まで飛び続けた。

 

「ねぇユエ! ちょっと飛ばしすぎじゃない!?」

「いえ、このままの速度を維持するです。いいんちょの事です。多分もう立て直してもうすぐそこまで来てるはずです」

 

 夕映は警戒を怠っていない。夕映の考えている通り、エミリィのコンビは夕映とコレットのすぐ近くまで迫っていたのであった。

 

「コレット、この森を突っ切ってチェックポイントまでショートカットは可能です?」

「えーお勧めしないなぁ。この森、魔獣の森って言って普通に人を食べちゃうような魔法生物も居るから危ないよ!」

「そうですか。もし私で対処出来ない相手が出るかもしれないですし、分かったです。正直に森を迂回するです」

 

 ルールに乗っ取り魔獣の森を大きく回りながらチェックポイントを目指すことにした。

 

「それよりもさっきからユエ調子よさそうじゃん! 一体どうしたの?」

「分からないです。体の奥底から魔力が溢れて体中が熱く感じるです」

「急にだね何でだろう」

「分からないです。今はチェックポイントを目指すです」

「そうだね! 急ごう!」

 

 とコレットが羽織っているマントの中で何かが光る。コレットが取り出したのは1枚のカード。

 

「これ、ユエがこっち来た時にばらまいたカード。渡しそびれてたし、いい加減返さないと」

 

 等と考えていたら、目の間の森が爆ぜ、エミリィとその相方のベアトリクスが飛び出してきた。

 

「いいんちょのコンビ! もう追いついて────」

 

 後ろに巨大な鷲のような竜を連れて。

 

鷹竜(グリフィン・ドラゴン)!? いいんちょの奴、とんでもないものを連れてきちゃった!!」

 

 竜種は流石にエミリィでも相手にして勝てる確率が低い。鷹竜は口を開けると、口に風の魔力が集約していく。

 

「カマイタチブレス! あれに当たったらいいんちょの体がバラバラになっちゃうよ!」

「! いいんちょ!!」

 

 考えるよりも早く、夕映はエミリィ達の元へ飛んで行った。鷹竜がブレスを吐く寸前に夕映が割って入り、障壁を展開した。夕映の障壁は鷹竜のブレスを防ぐが、鷹竜のブレスの方が上で、徐々に押され始めていた。ついには夕映の服が刻まれて消し飛んでしまった。

 

「ユエさん逃げなさい! これ位の相手私だけで何とかなります! それにあなたと私は敵同士! 何故敵に情けを」

「逃げないです! こんな状況、私が慕うあの人は絶対に逃げない! むしろ自分を犠牲にしてでも誰かを護る! ならば! 私は最後まで逃げない!」

 

 裸になっても諦めず、夕映は吹き飛ばされない様に足を踏ん張り耐える。しかしもうダメだと思ったその時

 

「ユエ! これを!!」

 

 コレットが夕映に向かってカードを投げる。キャッチした夕映はカードを見て驚愕する。

 

「これは! パクティオーカード! コレットが持っていたです!?」

「ごめん! 渡しそびれてた! でもこれがあれば何とかなる!?」

「はい! なるです! 来たれ!」

『夕映』

 

 夕映の頭に一瞬マギの顔が横切る。

 

(マギさん、私に力を貸してくださいです!)

 

 夕映はカードの力で麻帆良の制服に魔法使いのマントと帽子を被った姿へと変身した。

 

「魔法使いの従者 ユエ・アヤセ!」

 

 変身も完了し、思わず決めポーズを取ってしまった夕映。その姿にコレットはもちろんエミリィとベアトリクス、何故か鷹竜もぽかんと呆然としていた。

 

「いいんちょ!」

「は、はい!」

 

 夕映に呼ばれ思わずびくっとするエミリィ。

 

「この魔獣を倒すです」

「ええ!?」

 

 夕映が鷹竜を倒すと言った事に、エミリィは反対であった。そしてエミリィの従者であるベアトリクスも

 

「無茶ですユエさん! 相手は下位の竜種といっても立派な竜! 私達では相手をするのは無理です!」

「そうです! 無茶なんかせずにここは逃げる選択が正しいはずです!」

 

 エミリィとベアトリクスの言っていることは間違ってはいない。しかしいいえと言いながら夕映は空間にディスプレイのようなものを展開し、鷹竜の事を調べている。

 

「この時期の鷹竜は凶暴で一度目を付けられたら、この箒で逃げ切るのは困難。ならば私達でこの鷹竜を倒す。荷が重いことかもしれないです。けど、この4人なら大丈夫!」

 

 夕映は自信をもって言い切り、そんな夕映を見ているともう何も言えなかった。

 

「コレット! キツイと思うですが囮を任せて貰ってもいいですか!?」

「ガッテン! やってみせるよ! 何をすればいい!?」

「あの岩山まで飛んでください! なるべく派手な色の魔法を使って鷹竜をおびき寄せてほしいです!」

「うひー! 責任重大! でも頑張るよ!」

「ベアトリクスもお願いしてもいいですか!?」

「私もですか!?」

「お願いします!」

「……分かりました!」

 

 コレットとベアトリクスは魔法の矢で鷹竜を攻撃し、刺激された鷹竜は方向を上げながらコレットとベアトリクスを攻撃し、攻撃を躱して2人は森へと飛んで行った。

 

「よし、行ですいいですかいいんちょ?」

「何故勝手に仕切るのですか!? それに危険な役目を2人に任せるなんて!」

「あの鷹竜の主な攻撃は先程のカマイタチのブレス。ですが、森の中では木々が多いためにカマイタチブレスを出しても当たる確率は格段に下がるです」

 

 夕映は映像で見ながら鷹竜の情報を纏める。夕映のアーティファクトは魔法世界の情報を閲覧する事が出来るもの、魔法の百科事典みたいなものだろう。

 

(あぁこのアーティファクトが使えれば、少しはあの人の役に立つ事は出来たでしょうか……)

 

 学園祭でマギと仮契約をしていたが、特に使うタイミングが無かった。それについて夕映は自身を責めた。まるでキスがしたいだけに仮契約をしたのではないかと思ってしまったからだ。

 だが、ここで今使うことが出来た。ならば今後は思う存分使ってやろうと思っていると

 

「ユエさん、あなたは何者なのですか? そのパクティオーカードは誰かと仮契約をした証拠、それに先程アヤセと言っていました。それがあなたの本当の名前なんでしょう?」

「いいんちょ……隠していてすみませんです。実は少々訳ありで……」

「それは、あのナギ様の息子名乗っている人とも関係があるのですか?」

「……はい。ですが、これだけは信じてほしいです。私はあの人のために、ここで強くなりたいと思い、別に邪な思いなどありません!」

「ユエさん……」

 

 箒で飛びながらのやり取り、その間にコレットから念話が飛んでくる。

 

『ユエー! もう限界! まだ囮してないといけない!?』

 

 夕映は手頃な木に降り立ち、鷹竜を待ち構える。手鏡を動かして光を反射させる。

 

『準備OKですコレット! このまま光が見える所まで飛んで私が見えたら散開するです!』

「こっちを見るですタカトカゲ! 私が相手です!」

 

 鷹竜に聞こえるほどの大声で挑発する。ターゲットをコレット達から夕映へと変更した鷹竜は夕映に向かってもう一度カマイタチブレスを放った。

 カマイタチブレスを障壁で防ぐ夕映。一度だけなら障壁で防げることは実証済み。後は

 

「今ですいいんちょ!!」

「ああもう! どうなっても知りませんよ!! 氷槍弾雨!!」

 

 氷の槍が豪雨のように鷹竜に降り注ぐ。鷹竜は障壁を展開し、氷の槍を防ぐ。夕映から注意が移る。近づくのは今。

 

「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ 闇夜切り裂く一条の光 我が手に宿りて敵を喰らえ」

 

 鷹竜に近づくために氷の槍の間をかいくぐり、詠唱を続ける。そして先程調べた鷹竜の弱点である角に携帯していた儀式用の短剣をぶっ刺した。

 自分の角に短剣を刺された事に激昂した鷹竜は翼で夕映を打って夕映を飛ばす。

 

「ユエ!」

「ああ!」

「ユエさん!」

 

 コレット達は悲鳴をあげる。しかし、夕映は意識を手放してはいなかった。しっかりと鷹竜に狙いを定めて

 

「白き雷!!」

 

 短剣を避雷針にし、夕映から放たれた雷が鷹竜を捉える。鷹竜は短い悲鳴をあげ、そのまま感電し崩れ落ちたのであった。

 

「や……やった、やったぁ! 凄いよユエ! 鷹竜を倒しちゃうなんて!」

「私だけの力じゃないです。皆の、いいんちょの協力あって出来た事です。ありがとうございましたいいんちょ」

「……ふん、礼はいいですわ。それに完全に仕留めたわけじゃありません。1分もすれば復活しますわ」

「もー素直じゃないんだから。けど、これでレースはパーかぁ。ショックだねユエ」

「いえ、今はこの勝利を喜びましょう」

 

 夕映達は鷹竜が目覚める前に魔獣の森を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、結局ビリとビリ2位か。カッコ悪いな」

「もう過ぎた事ですよ。いつまでもみっともないですよコレットさん」

「そもそもいいんちょがズルして森を突っ切ろうとしたのがきっかけだけどね」

「うぐ……」

 

 ぼやくコレットを注意するが、痛い所を突かれ押し黙るエミリィ。

 

「でも残念だねユエ。これでオスティアに行くのが難しくなっちゃね」

「仕方ないです。でも、目的地は決まっているので、どうにかいけないか先生に相談してみますです」

 

 騎士団としてではなく、白き翼として、仲間と合流するために動こうとする夕映

 

「ユエさん、何かオスティアに行く用があったのですか?」

「え? えっとそれは……」

 

 ベアトリクスは質問して、かわりにコレットが焦る様子を見せるが

 

「ベアトリクス、ユエさんにはユエさんなりに何か事情があるのでしょう。余計な詮索は淑女にあらずですよ」

「わかりました。申し訳ありませんユエさん」

「いえ、お気遣いありがとうございますです」

 

 もうびりっけつには変わりなく、ゆっくりとゴールに向かっている4人。しかしゴールに到着した瞬間に歓声が待っていた。何故びりっけつなのに歓声が上がるのか分からなかったが

 

「凄いよあんた達!」

「学生があんなのを倒すなんて見た事ありませんわ!」

「あ、そうか。竜を倒したから」

 

 漸く納得したコレット。と拍手をしながらこちらに歩み寄る1人の女性。

 

「その通りよ。この選抜試験は優秀な人材を選び抜くためのもの。お祭り中のオスティアは何かと物騒になるから即戦力が欲しいのよ。竜を倒せるぐらいの実力があるならその資格は十分あるわ」

「ぐ、総長(グランドマスター)!?」

 

 驚くコレット。彼女はこの学院で一番偉い麻帆良で言う学園長である。

 

「竜を倒した者には特別枠を与えて合格とみなしましょう」

「ごっ合格!?」

 

 喜ぶ姿を見せるコレット。しかし他の生徒達がコレットと夕映を押しのけ、エミリィとベアトリクスを称えた。誰一人夕映が鷹竜を倒したと思っていないようだ。

 

「ちょっと! 竜を倒したのはユエなのに何でいいんちょだけが担がれてるのよ!!」

「仕方ないです。私達が倒したと言っても誰も信じてはいないでしょうし」

 

 憤慨するコレットを宥める夕映。正直言えば誰からも褒められ称えられないのは悔しい。けど、自分が竜を倒したという事実は変わらないのだから。

 

(それにマギさんなら『あんまり褒められるのは好きじゃない』とか言ってかもしれないですし)

 

 そんな恥ずかしがるマギを想像して小さく噴き出す夕映であった。

 そしてオスティアへ行けるのは夕映とコレットが返り討ちにした獣人コンビとエミリィとベアトリクスのコンビで決定となりそうな所で

 

「待ってください! ありもしない栄誉で選ばれるなんて、私のプライドが許されません! あの竜を倒したのは私ではなく、ユエさんです。ですから、私は辞退し、ユエさんとコレットさんに特別枠を譲らせていただきます」

 

 エミリィの突然の辞退と竜を倒したのが夕映という事を聞き、周りの生徒達は困惑している。

 

「いいんちょ……」

「ふん、これで貸し借りは無しです。ですので総長、突然事ですがそう言う事ですので────」

「あら、何か勘違いしていないかしらエミリィ」

 

 ふふと微笑んでいる総長。

 

「特別枠は最初から4人よ。優秀な候補生は何人いても構わないのだから」

 

 お茶目にウィンクをする総長。どうやら最初から夕映達をからかっていたようだ。少しの間状況が掴めなかった夕映とコレットであったが、先にコレットが理解し夕映に飛びついた。

 

「やったぁ! ユエ! 私達もオスティアに行けるよ!」

「コレット! はいです!」

 

 喜びを露にする夕映とコレット。少し経ち、状況を理解した生徒達も皆夕映とコレットに拍手を送った。

 もうそこには夕映とコレットを落ちこぼれコンビと馬鹿にする者は誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ皆頑張って来なさい」

「お土産期待してるねー!」

 

 4日後、先生とクラスメイト達に見送られ、オスティアに向かう夕映達。

 

「はー……オスティアかぁ。あのナギのそっくりさんに会えるかなぁ。それにユエも友達と会えるといいね」

「はいです。皆、マギさん、待っていてください。私は少しだけ強くなって皆に会いに行くです」

 

 夕映はカードを空にかざしながらそう呟く。その胸には白き翼のバッジを付けて

 

「そのカードがユエさんのオスティアへ行く目的の1つなのですね」

「わ! いいんちょ居たの!?」

 

 エミリィがベアトリクスを連れて夕映に用があって来た。

 

「えええっと、いいんちょこれには」

「下手な嘘はつかなくていいです。私はもうユエさんがあなたの遠縁というのではないのは分かっていますから」

「え?」

 

 嘘を見破られ、動揺を見せる夕映に心配しないでください。そう言ったエミリィ。

 

「私はユエさんについて何も報告するつもりはありません。あなたがオスティアへ行くのは、あのネギ・スプリングフィールドという男の人が関係している。そうですね?」

 

 エミリィの問いに夕映は首を縦に振る。そうですか……納得したような顔をしてからエミリィは夕映に頭を下げる。

 

「ユエさん、あなたにとって、あのネギ・スプリングフィールドという方は大事な方なのですね。それなのに私はその方に対して酷い侮辱の言葉を言ってしまいました。許されることではないのは重々承知しています。申し訳ございませんでした」

「顔を上げてくださいいいんちょ! 私もあの時はいいんちょに酷い事を言ったです。だからお相子ということで……」

「そうそう! どっちも悪くって、どっちもごめんなさいすればいい話だって」

 

 コレットが言う通り、2人で謝罪をしたことで、この場は納める事になった。そして握手をすることで改めて夕映とエミリィは友人となった。

 

「えっと、ユエさんあなたパクティオーカードを持っているという事はその、仮契約をしたという事ですよね?」

「あ、はい。その、したです。仮契約」

 

 エミリィが聞きたいことを察し夕映は顔を赤くする。

 

「そそそそその、書いてある名前がマギ・スプリングフィールドという名前ですが、もしかして」

「はい、マギさんは正真正銘ナギ・スプリングフィールドのご子息です」

 

 マギの名前を聞いて、エミリィは興奮気味である。

 

「ナギ様にご子息がいる噂はありましたが、まさか本当だったとは」

「あ、因みにこの前インタビューをしていたネギ・スプリングフィールドがそのマギさんで、ナギ・スプリングフィールドと名乗っていたのはマギさんの弟のネギ先生です」

 

 まさか自分が詐欺師だと言っていたマギがナギの子供だと知った時のエミリィのショックは計り知れない。

 

「まさか、ナギ様のご子息を詐欺師だと言いつけていたなんて、ナギ様のファンクラブとしてあるまじき失態……! 穴があったら入りたいです……!」

「まぁしょうがないよ。いいんちょ以外にも偽物だって疑ってる人はいっぱいいるんだからさ」

 

 ショックを見せるエミリィを慰めるコレットはあることに気付く。

 

「今ネギ先生って言ってたけど」

「はい、マギさんとネギ先生は私達のクラスでネギ先生が担任で、マギさんは副担任として授業を教えてくれたんです」

「!! 英雄のご子息の授業ですって!? 詳しく聞かせなさい!」

「私も興味ある! 教えてユエ!」

 

 こうして、オスティアへ行くまでマギとネギの話をコレット達に話す夕映であった。

 

「そう言えば、ユエさんは私の事をいいんちょと言っていましたが、あれは何だったんです?」

「すみませんです。いいんちょは私達のクラスの委員長のあだ名みたいなもので、懐かしくて、思わず呼んでいたのです」

「……エミリィで構いません。同じ呼び方だと、あなたのご友人が困惑するでしょう」

「ありがとうございますエミリィ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん?」

「どうしたネギ?」

「いや、今夕映に呼ばれた気がしてな」

 

 場所は闘技場に戻り、修行から戻って来たマギはネギとなり相手選手を地に沈めていた。

 

『決着うぅぅぅぅぅぅぅ!! ネギ選手の完封勝利!! これでオスティアへの本選の出場権を獲得しましたぁぁぁぁ!!』

 

 歓声に包まれる会場。確実だった出場権を獲得し、晴れて本選へ出場できるようになったマギであった。

 

「行方知らずの綾瀬だが、なんだかんだ言ってオスティアへ行く算段をつけているかもしれないな」

「ああそうだな。夕映はきっと大丈夫だ。だからオスティアで待っていてくれ夕映」

 

 その後ナギとコジローペアもオスティアへの出場権を獲得したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「あれが、オスティア……」

 

 別の場所ではアスナがオスティアが一望できる場所でオスティアを見ていた。

 バラバラに散っていた仲間が遂に集結する。

 

 

 

 

 

 

 



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集え 狂乱の祭りの地へ

「すごいな……ここがオスティアか」

 

 オスティアに降り立ったマギ一行はオスティアの賑わい具合に感嘆の声を上げていた。

 街を歩く人人人の姿、種族も様々でマギ達と同じ人の姿もあれば、エルフのように耳の長い種族、角がある種族獣耳の種族、二足歩行のイルカのような亜人の姿もあった。

 今オスティアで行われているのは『オスティア終戦記念祭』しかし終戦記念というわりには厳格な祭りではなく、まさにどんちゃん騒ぎの大賑わい。今オスティアに集まっているのは観光客はもちろん、あらゆる人間の区別なく参加すること事が可能ということで、お尋ね者や賞金稼ぎといったごろつきも祭りに参加しているというぶっ飛んでいるのだ。

 それが7日7晩も続くというのはこの祭りはそれほどまでに大事なのだろう。しかも今年は終戦20年という節目でもあるのだ。いつもよりも多くの人で賑わうだろう。

 

「どこか、学園祭の仮装行列みたいですわね」

「こっちは皆本物だけどな」

 

 学園祭を懐かしむあやかに千雨も同意する。

 

「あっちではクソ親父の映画なんて上映してるみたいだな」

「あんな奴でも戦争を止めた英雄だからな。映像作品になっていてもおかしくはないだろうさ」

 

 マギはナギの映画の垂れ幕を見て、複雑な顔を浮かべている。

 

「お、マギ兄ちゃんあれ見て見い」

 

 小太郎が指さした方向には、グレートソードを担いだマギと雪姫、ネギと小太郎の闘技場の選手としての垂れ幕が飾ってあった。現に垂れ幕の下でミーハーなファンが記念撮影をしており、どっちが優勝するのか賭けをしており、ヒートアップした何人かが野良試合という喧嘩をし始めた。

 

「すっかり俺らも有名人やな。こりゃ今のうちサインの練習をした方がええか」

「もうすっかり調子に乗ってるんだから」

 

 いい気分な小太郎に水を差す夏美。夏美、アキラそして亜子も一緒にオスティアにて給仕の仕事をすることに。オスティアの闘技場での給仕も亜子達がやることになっていて、マギ達も亜子達が一緒に居た方が安心はする。

 とそう言えばネギが居ない事に気づいたマギ。

 

「ネギの奴、どこに行ったんだ?」

「若しかしたら仲間の誰かがもう来てるかもしれないから探してみる……と言っていたが、観光もしたいのだろう。坊やもまだまだ子供だからな」

 

 雪姫には一言言っておいたみたいだ。しかしネギはただの子供ではないので、1人にしといても問題はないだろう。

 

「しっかし、改めてけったいな人混みやな。ここまで多いと人で酔っちまいそうや」

「それぐらいこの祭りがこの世界の人にとっては大事って言う事だろ? だからこそ、警戒もしとかないとな。いつどこで狙われるかわかったもんじゃないからな」

『半径100m以内では敵性反応は見られず。強いて言えば野良試合で戦っている選手とそれを取り締まろうとしている警備の者達のみです』

 

 マギウスもスキャニングは絶えず行っているようだ。

 道中、屋台の物をつまみながら、マギ、雪姫、小太郎目当てのファンの相手をしたり、野良試合とかこつけて喧嘩を吹っかけてきたごろつき共を地に沈めてと各々祭りを楽しんでいると

 

「お兄ちゃん! 皆さん!」

 

 ネギが嬉しそうに手を振っており、その後ろにはアスナが居た。

 

「あぁ……アスナさん……!」

 

 懐かしい友の姿に安堵の表情を見せるあやか。

 

「あやか、皆久しぶり!」

 

 アスナの方も皆が元気そうな姿を見て喜びを見せるのであった。

 

「ってなんか凄いロボットがいるんだけど!」

『初めましてアスナ様。私は魔導騎士マギウスと申します。以後お見知りおきを』

 

 訂正、新たな顔ぶれに驚きも見せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。アスナと行動していたこのかと刹那に楓と合流し、そこにラカンも加わりレストランへと入った。ラカンは先にアスナと会っており、挨拶にセクハラをかまし、アスナに殴り飛ばされたのであった。

 ラカンに驚きを見せるこのか達、思わず膝をついてしまう刹那と楓(スーツ姿)。このか(獣耳)は父の詠春とラカンが友人ということもあり、すっかりと警戒を解いており、ラカンもすっかりこのかに気を許していた。

 武人として、ラカンの凄さを見抜く刹那と楓はラカンに助っ人を頼んだ。

 

「ラカン殿の御噂はかねがね、出来れば我々にお力添えをいただきたいのですが」

「えーめんどい。残念だが刹那の嬢ちゃん。俺は俺の為にしか戦わない。ま、どうしてもって言うなら500万は頂かないとなあ」

「ごめんなさい刹那さん。ラカンさんはこんな人なんです」

「そういうこった。自分らの尻は自分らで拭くこった」

「はい、お尻はしっかり僕が拭きますので」

 

 ネギがお尻を拭くと言ったことに赤面するアスナと刹那。この一ヶ月でネギも色々と変わったことを実感した。

 自分達がやらなければならない事は3つ。亜子達の解放、他の仲間との合流、帰還ゲートの発見と解放である。

 

「亜子達の解放は俺とネギのどっちかが優勝すれば問題ない。ま、俺に任せておけ」

「むう、お兄ちゃんはまた自分だけで何でもやろうとして」

 

 マギの豪胆な態度にネギも頬を膨らませる。そんなマギをちらちらと見るアスナ。

 

「アスナさん、何でお兄ちゃんをちらちら見てるんですか?」

「えっと、その……なんでマギさんはおじさんの姿をしてるの?」

 

 今マギは拳闘志ネギの姿になっている。つまりはおじさんの姿だ。しかもアスナが好みの少し覇気がないくたびれた姿の

 

「あ、もしかしてアスナ、マギさんがおじさんの姿だからドキドキしとるん?」

「まぁ、アスナさんたら」

「神楽坂、あんたそんなに節操がなかったのか」

「神楽坂、私の前でマギに色目を使うとはいい度胸じゃないか」

「うぇ!? ちょ皆!?」

 

 はしゃぐこのか、呆れるあやか、ジトの目の千雨に目に殺気を混じってアスナを睨む。たじたじなアスナは必死に弁解する。

 

「マギさんがおじさんの格好になってるのがびっくりしただけで、そのなんかいいなぁって思って」

「だから色目使ったのだろ貴様」

「しまった! 墓穴を掘った!」

 

 自分から白状した事にもう弁解できないアスナ。

 

「そっか、アスナってオヤジ好きなんだ」

 

 納得した素振りを見せたマギはニヤリと笑って

 

「だったら今日は一緒に寝るか? 楽しい夜にしてやるぜ?」

「……え? ええ!? マギさん何言ってるの!?」

 

 マギの大胆なセクハラ発言に羞恥で真っ赤になるアスナ。

 

「ほわぁ……マギさん大胆やわぁ」

「あ、あのマギさん? 流石にお言葉が」

「少し離れていた間に髄太とワイルドになったでござるな」

 

 このか達からの様々な反応。対して件のマギは

 

「あー……悪い、またやっちまった」

 

 口を押えて、申し訳なさそうに謝罪するマギであった。

 

「え? どういう事なの?」

「実は……」

 

 マギは闇の魔法をもう一度使えるようになるために、ラカンの元で修行をし、何とか使えるようになったのだが、その時に黒マギがマギにちょっかいをかけたようだ。

 

「その結果、黒マギの感覚が混じったのか、時折何も考えずにぽろっと口から変な事を口走ってしまう。だからさっきの事は聞き流してくれていい」

「ああ、うん分かったわ。けど、その感じだと私以外にも言ってたみたいね」

「そう通りだよ神楽坂。マギさんは修行から戻ってきたら、所かまわずナンパはするわ、喧嘩を売られれば直ぐに買っちまうわで大変だったんだよ。その時も思わず言った感じになるから場が変な空気になったちまったし、その場を修正するのが大変だったよ」

「まったく、私はお前を軽薄な男にするためにラカンの元へ行かせたわけじゃないぞ。これではラカンと同じじゃないか」

「なんだ雪姫? そんなむくれちまって。だいじょぶだって! 俺にとって一番はお前や千雨達なんだから!?」

 

 冷ややかな目で雪姫はマギの口を凍らせ、千雨は無言でマギの脇腹を突いた。

 

「少しは冷やして黙ってろ」

 

 口が凍ってるためマギは黙って頷いた。マギを皆が可哀想な目で見ると言ったグダグダな空気が漂っていた。

 話を今後の事に戻る。他に散り散りになった仲間の捜索だが、それは茶々丸と和美にさよがやっており、着実に仲間と合流が出来ている。

 そして最後のゲートの捜索と解放であるが

 

「それを刹那さん達にお任せしたいんです」

 

 嘗てのオスティアは今のオスティアよりも大きい浮遊大陸だったが、そのほとんどが地へと堕ちて行った。旧オスティア大陸のどこかにゲートはあるが、今は魔獣蠢く複雑怪奇なダンジョンと化しており、今は許可を受けた熟練の冒険者しか入ることが出来ないのだ。

 

「とても危険な任務です。ですがあなた方にしか頼めない。すみません」

「何を謝るのですかネギ先生。こういう時こそ我々を頼ってください。必ずゲートを探し出して見せます」

「……お願いします」

 

 マギも凍った口のままだが、刹那達に頭を下げて頼み込んだ。

 

「それじゃ今後の方針も決まったわけだし! アタシ達も刹那さん達と一緒にゲート捜索行ってくるわ」

「いえ、アスナさんとこのかさんは僕達と一緒に居てもらいます」

「ええどうして? 別に魔獣ぐらいなら何とかなるわよ?」

「いえ、魔獣ではなく、むしろ魔獣よりも厄介というか」

 

 どう言えばいいのか迷っているとラカンが

 

「フェイト・アーウェルンクスだろ? ぼーずが危惧してるのは」

 

 フェイト・アーウェルンクスの名を出した瞬間、皆の警戒が一気に上がる。

 

「お前らがウチに帰るまで、もう一戦交わる事になるだろうからな。何せそのフェイト・アーウェルンクスっていうのは、俺らがかつて戦った奴らの生き残りだろうからな」

 

 ラカンがフェイトのいる組織とかつて戦った事がある。その事実を知り刹那が代表として聞く。

 

「ラカン殿、フェイト・アーウェルンクスの組織の目的がどんななのかご存知でしょうか?」

「えー? 知らね。悪い奴らなんだからどうせ世界征服とかじゃねえの?」

 

 かなりいい加減な答え方にずっこけそうになる皆。雪姫と千雨はラカンのいい加減さに溜息を吐いた。

 

「おれはそういうめんどーな事は考えないんだよ。ただあのアルが言うには『あいつらは世界を終わらせるつもりです』だそうだ」

「世界を」

「終わらせる……」

 

 世界を征服するどころか、終末を迎えようとしている。それほどにぶっ飛んだ考えを持っている組織だったとは

 

「だったら簡単だ」

 

 マギが氷を噛み砕き

 

「あのフェイトって奴らが世界を終わらせるっていうのがある種の救いとか考えているカルト的な考えを持っている組織かもしれないが、この世界の奴らがそんな事を望んではいねえ。だったら俺らがその目的を叩き潰す。それだけシンプルな事だ」

 

 マギの言った事に皆も頷く。

 

「いいんじゃね。それぐらいシンプルでよ」

 

 大声笑うラカン。

 こうして、来るかもしれない敵に備えて、マギ達はそれぞれ動くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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前を向け

「ふんふふんふーん♪」

 

 亜子は洗濯物を運びながら鼻歌を歌って上機嫌だった。マギやネギ達が本選に出場権を獲得し、自分達もついて行くことになった。しかも自由時間も貰えるようになり、自分の時間を確保することが出来るようになった。

 それにチーフが言うには

 

「今回の大会の出場者の質は前よりかは落ちてるから、このままいけばあの坊や達が優勝してもおかしくはないだろうね」

 

 との事だから今は安心してこの仕事を頑張ろうとしていたが、出鼻を挫く事が起こった。

 

「きゃ!」

 

 洗濯物で前が見えなかったせいで、曲がり角で誰かにぶつかってしまった。

 

「す、すみません! ……あ」

「ちっテメェか……」

 

 しかも最悪な事にぶつかった相手がマギ達を目の敵にしてるトサカであった。

 

「ご、ごめんなさいトサカさん」

「だからトサカ様って言ってるだろうが! すっとろいガキが! 何洗濯物に顔をうずめてやがった……」

 

 亜子が顔を埋めていたのがマギの服だと気付いたトサカは嫌な笑みを浮かべた。

 

「おいおいまさかお前あのオッサンの服のにおいでも嗅いでたってのか? はっ、これは随分な話じゃねえか! まさかお前がオッサンの匂いを嗅いで興奮する変態なガキだったとはなぁ!」

「なっ」

 

 一番見られたくない相手に色々と言われ、羞恥で顔が赤くなる亜子にトサカは更にまくしたてる。

 

「まさかな話じゃねえか! けどあいつらが拳闘士やってるのはお前らの為だからな! しっかし人気の拳闘士の目的がお前のような奴隷のガキを救い出すなんて話、あいつのファンが知ればどんな反応をするのか見物だなぁ。もしかしたらもっと食いついてファンも喜びそうだよなぁ!」

 

 トサカは面白がって亜子の反応を見るが、亜子の目はトサカに対しての反抗の目ではなく、どこかトサカに哀れみの目を向けていた。

 

「あ……? なんだその目は」

「……可哀想」

「あ?」

 

 亜子の可哀想発言にトサカの顔に青筋が浮かび上がる。

 

「今のトサカさんは自分よりも上の人に羨んで、下の人をからかって安心しようとしとる。ウチも一緒やった。背中に傷があったから一歩引いて皆を見てて、皆が輝いているように見えて、そんな皆を羨む自分がとても嫌やった。けど、あの人が言ってくれた。自分の人生の主人公は自分やって」

 

 だからと亜子はトサカに負けない様に目をそらさずに言い切った。

 

「ウチはあなたみたいな人にはならない。絶対に!」

「ちっ……何も知らねえガキが生意気言うんじゃねえぞ!!」

 

 トサカは頭に血が上り、そのまま亜子を叩こうとした。誰も周りに護ってくれる者はおらず、亜子は思わず目を瞑った。しかしマギ達の他にも亜子の味方は居る。

 叩こうしたトサカの手を誰かが掴んだ。

 

「誰だ!? 手を離しやが……れ」

 

 最初は威勢が良かったトサカの手を掴んでいるのが目が据わったチーフだと分かった瞬間、顔から血の気が引いていた。

 

「あんたよりもこの子達の方が大事だって何度言えばいんだい!? それに女の子を叩こうなんてそんな曲がった性根、あたしが直々に直してやるよ!」

「あだだだ! ゆ、許してママー!!」

 

 亜子を叩こうとしたトサカがチーフにボコボコにされ、そのまま医務室へと運ばれていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは! いやぁ、いい啖呵だったじゃないか亜子ちゃん」

「ううん、ウチトサカさんに酷い事言っちゃった……」

「いいんだよ。あのバカにはあれぐらい言わないと。けどねぇあのバカの事、あんまり悪く思わないでもらえるかい? あいつも久しぶりに故郷に帰って来て気が立ってるんだよ?」

「故郷ですか?」

 

 そう言ってチーフは雲海を指さす。

 

「あの雲の真下にあたしらの故郷があってね。オスティアが崩落した時に真っ先にあたしらの故郷が犠牲になった。その時はまだあたしは10代の美少女、トサカは5歳だったかねえ。住む場所も無くなったし、奴隷商人に買われて、自由になるまで奴隷生活さね」

「大変だったんですね」

「そりゃまあね。けど、それだけであいつの性格がひねくれたわけじゃないからね。また何か言われたら直ぐに言いな。あたしがぶん殴ってやるからね!」

「あ、あはは。お手柔らかにお願いします」

 

 何かあったら直ぐにぶん殴る。改めて文明の違いを感じた亜子であった。

 そんな豪快なチーフであるが、亜子を慈愛のこもった眼差しで見た。

 

「亜子ちゃん、アンタは早くこんな所から出ていくべきだよ。アンタはトラブルで奴隷になっただけだからね。それに、アンタには待っている人が居るんだろ?」

 

 チーフにはお見通しだったようだ。

 

「あのネギって男はあんなに歳を取ってないだろ? それに名前も偽名。それとアンタが好きな男……だろ?」

 

 チーフはなんでもお見通しだったようで、亜子は首を縦に振った。

 

「絶対に幸せは逃しちゃ駄目よ。自分の人生なんだからちゃんと自分で切り開かないと」

「……はい!」

 

 見た目が怖いかもしれないチーフだが、誰もが信頼している、奴隷達のママであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、ちょっと早いお休み貰っちゃったなぁ」

 

 チーフに

 

「今日はもう上がっちゃいな。夏美ちゃんとアキラちゃんも少し働かせたら上がらせちゃうから」

 

 との事で、まだまだ時間に余裕があるぐらいであった。一応奴隷扱いということで制服のメイド服のままだが。

 

「お祭りすごいなぁ……」

 

 夜の祭りの光景も昼とは違かった。賑やかな中で照明が綺麗であり、その中を家族やデートで歩く者達が見える。

 

「うちも、マギさんと歩きたいなぁ……」

 

 と呟いていると

 

「あれ? 亜子じゃないか。仕事はもう終わったのか?」

「あ、マギさん、じゃなくてネギさん! もうお話は終わったん?」

 

 アスナ達と話をしていたマギが戻って来た。一応今はネギということでネギと呼んでいる亜子。

 

「別にマギでいいだろ。俺もずっとネギに扮していると野良試合に絡まれるし、ファンも色々と追っかけてくるからさ」

 

 一瞬でネギからマギに戻る。これで必要以上に絡まれることは無いだろう。

 

「おいマギ、今日はもう何もすることはないから和泉と一緒に居てやれ」

「え? いいのか雪姫?」

「和泉さんずっと働きづめだろ? 折角の休みの時間もマギさんと一緒に居た方がいいだろ」

「千雨さん」

「そういうことだ。マギ、和泉をエスコートしてやれ」

 

 それだけ言い残して、雪姫と千雨は闘技場関係者のエリアへと入っていった。

 

「えっと、それじゃあ。少し周りでも回るか?」

「うん! 行こう行こう!」

 

 疲れが一気に吹き飛んだ亜子はマギと一緒に夜のオスティアの街を歩くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中、出店の料理を摘まんだり、路上のパフォーマンスを見たり、夜景を見たりした。

 しかし亜子の顔色が少し悪いのに気づきどうしたのかと尋ねてみれば、亜子は昼間の事を話した。

 

「そうか、トサカの奴亜子に手を出そうと」

「でもトサカさんの気持ち分かるんや。ウチも前までそうだったから」

 

 亜子はトサカに同情をしているが

 

「何言ってるんだ。亜子はしっかりと前を向いているじゃねえか。トサカはまだ、同じ所をぐるぐる回ってるんだ。もう亜子とトサカの生き方は似てもいない。むしろお前もこうやって生きて見ろってトサカに見せつけてやれ」

「うん……」

 

 まだこれが自分の生き方というのを確約出来ていない亜子は胸を張る事が出来ないでいた。と少しトイレに行きたくなってきた。

 

「ねえマギさんちょっとお手洗い行ってきてええかな?」

「ああ行って来い。俺は此処で待ってるから」

 

 亜子はトイレに行き、マギはベンチに座り亜子を待つことにした。しかし亜子は他者に劣等感を感じているトサカを悪く思う事が出来ないようだ。だが、そういった同情は却って相手を傷つける。

 どうしたものかと考えていると

 

「ねえお兄さん、今1人?」

「これから私達といいことしない?」

 

 随分と露出が激しい女性が2人、マギに絡んできた。あぁそういう類の女かとマギは冷めた顔で2人の女を見る。ここは治安がいい日本ではない。しかも祭りの最中だ。こういった女の1人や2人いてもなんら驚くことは無い。

 

「悪いな、俺今連れが居るんだ」

「えーだったらそのお連れさんも一緒でいいよぉ」

「……連れは女の子なのだが」

「いいていいて。女の子でも普通に相手するから」

 

 こちらの都合など全く聞かずに金を稼ぐことしか考えない。といっても相手はそれが仕事なのだが。

 

「マギさん、お待たせ……どういう状況なん?」

 

 トイレに行ってたらマギが知らない女に絡まれてた。それだけ聞くと逆ナンされていると分かるだろう。

 

「あら、連れの女の子って随分子供ね。そんな子供で楽しめるの?」

「それにその格好ってあの奴隷達の格好よね? やだぁ奴隷相手って随分お兄さんマニアックなのね」

「それに、傷ありなんて女として半減しちゃうわよね。こんな子ほっといて私達と遊びましょうよ」

 

 見ず知らずの女に自分のコンプレックスを突かれるのは好い気はしない。折角マギと2人でなんだかんだいって楽しんでいたのに気分が台無しだ。

 

「断る。この子は俺にとって大事な人なんだよ。平気で人の大事な人の事を蔑むことを言う女の相手を誰がするか」

 

 マギがきっぱり断りの態度を見せてくれたことに亜子は嬉しく、対して女達は面白くなさそうだ。

 

「それに、隠すならもっとちゃんとやれよ。香水でちゃんと隠れてないぞ。染みついた血の匂いが」

 

 え? と亜子はマギが言っている事がよく分ってなかったが、女の1人が舌打ちをしながら、胸の谷間からナイフを取り出すと、マギに向かって投擲したが、マギはナイフを指で挟みキャッチする。

 

「賞金稼ぎか。オスティアに着いたらそろそろ来るかと思ったら、まさか女2人が最初の相手になるとはな」

「ち! ばれちゃ仕方ないね! けど残念だったね。いい思いさせてから殺して突き出してやろうと思ったのによ!」

 

 本性を現して口調が荒くなった賞金稼ぎの女A。賞金稼ぎの女Bも何処に隠し持っていたのか、ナイフを両手に構えた。

 

「悪いな。俺は純潔なんだ。お前らに俺の純潔は渡せないな」

 

 マギは不敵に笑いながらそう口に出すが、直ぐに手で口を塞ぐ。今のも思わず出てしまったようだ。

 

「悪い亜子、今のは聞き流してくれ。あと危ないから離れてろ」

「う、うん……」

 

 マギの純潔発言に亜子も顔を赤くしてしまった。

 

「残念ね! 女も知らずにあの世に行くんだから!」

「あたしらの誘いに乗ればよかったのよ!」

「ああ、くそ。こんな奴らに言いたくなかったのに……」

 

 そうぼやきながらマギはまたもネギへと変身をした。

 

「おい、あそこにいるのって今度のナギ・スプリングフィールド杯に出るネギ選手じゃねえか!?」

「え!? ネギ様がそこに居るの!?」

「おいネギ選手が女拳闘士と野良試合してるぞ!」

「俺ネギ選手に100かけるぞ!」

「俺は女の方に1000だ!」

 

 マギはネギに戻ったことで、ネギに絡んできた相手と野良試合をしましたという口実を作るためである。

 

「まさか巷で騒がしてるネギ選手だったなんてねぇ!」

「アンタを倒せばあたしらの名が上がるってものよ!」

「御託はいいからさっさとかかって来いよ。面倒だし2人掛かりでも構わないし、せめての情けで顔だけは勘弁してやるよ」

 

 手招きで挑発するマギに、血の気が多いのか挑発に乗った女賞金稼ぎ達。

 

「調子に乗ってるんじゃね────」

 

 仕掛けようとした賞金稼ぎAが先に動いたマギの掌底の餌食になった。女の体にマギの掌底がめり込み、賞金稼ぎAは白目を向きながら泡を吹いて気を失った。

 おおとどよめく野次馬達。誰もマギを酷いとは思ってない。これは野良試合のストリートファイト。戦いに男も女も関係ない。

 

「1人は終わり。もう1人はまだやるかい?」

「ひっひい!」

 

 まさか相方があっさりやられるとは思っていなかった賞金稼ぎBは自分だけじゃ勝てないと判断し、野次馬に紛れてる亜子を見た。そうだ、あの女を人質に取ろう。

 瞬時に亜子を人質に取ろうとしたが、マギが察知し、賞金稼ぎBの顔を鷲掴みにし、そのまま地面に沈めた。

 

「あがっ! な、なん、で? 顔は狙わない、って……」

「お前今亜子を人質に取ろうとしただろ? テメェみたいな外道は女でも容赦しねえぞ」

 

 そう言ってマギは手に力を込めて万力の如く閉めていった。

 

「ゆ、許して……」

「許すも何もそれがテメェの選んだ道だ。そのまま懺悔しておけ」

「ま、マギさん! だめ! そのままやとその人死んじゃう!」

「こら! 何をしとるか!」

 

 亜子が止めるように懇願してる間に、祭りの間を警護してるものが血相を変えて駆け付けた。野良試合はある程度許しはあるが、殺しはご法度である。

 マギは警備の者が来ていたのは分かっていたので、直ぐに力を緩めた。

 

「ご苦労様です。野良試合を頼まれたんですが、質の悪い輩みたいでして、私の連れを人質にして勝とうとしたんですよ」

「貴方はもしかしてネギ選手ですか!? いやぁウチの息子はあなたのファンでして。いやはや有名人は辛いですな!」

「ほんとですよ。ではこの人をお願いします。ああそこに伸びてる人もその人の仲間です」

「わかりました。では連れていきますので」

 

 そう言って警備の者は仲間と一緒に賞金稼ぎAとBを連行しようとしたところで、マギが呼び止めた。

 

「あぁあと一言言いたいことが……あんまり調子に乗ってると今度は容赦しない。檻の中で少し反省してろ」

 

 マギの圧に屈したのか、賞金稼ぎBは涙目で頷くしか出来なかった。これであの賞金稼ぎ達が絡む事は無くなるだろう。

 マギは野次馬の前で一礼した。その瞬間拍手が起こる。日本なら警察沙汰だが、日本ではない。野良試合には男も女も関係ないのだから。

 

「行こうか亜子」

「うん」

 

 直ぐにネギからマギへと戻り、亜子を横抱きにして跳び、その場を後にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「折角の休みなのに、とんだ事に巻き込まれちまったな」

「そうやね。でも久しぶりだけどマギさんと一緒になれて楽しかった」

 

 場所を移し、夜景一望できる場所に座った。丁度花火も上がって、夜空に綺麗な花が咲く。

 

「綺麗」

「ああ、そうだな」

 

 あらかじめ買っておいたジュースを飲み干す。話は先程のトサカの話に戻る。

 

「トサカには俺やネギが眩しく思えるんだろうな。才能あって皆の人気者そりゃ、眩しく見えるだろうな。けど、誰もがそんな人生を望んでるか?」

「それはどういう?」

「ネギだってそうだ。クソ親父が英雄なんてなっちまったからあいつは英雄の息子っていう人生の主人公になっちまった」

「それはマギさんと一緒じゃ……」

 

 そうだ。マギもネギと同じナギの息子という英雄の息子である。マギは深い溜め息を吐いた。

 

「俺は、ネギ程素直じゃなかったのかもな。時折夢で見るんだ。陰で延々と笑われる夢を。昔の俺はどうやらネギと違って凡人だったみたいだ。英雄と違う英雄と違うって妬みや羨みからの蔑む笑い声がな。俺を俺として見てくれたのはネカネ姉とおじさん、それとスタンじーさんだった。そんで少し経てばネギがやって来て、ネギは俺と違って頭が良かった。俺は悔しかったさ。それに幼いネギを妬ましくて、そんで気持ちがすさんでいって最後はネギを避けていった。そこで夢は終わった。そこで昔の俺が現れて言ったんだ。すまんって。だから俺もトサカの気持ちは感覚では分かるつもりだ」

「マギさん……」

「多分、ネギに付いて行って日本に行こうと思ったのはくすぶっていた俺が変われると思ったのかもな。そのおかげで皆に会えたわけだし。あぁ人生ってやっぱり自分で前向いて行かないといけないんだなと思ったよ」

 

 マギの話を最後まで聞いて亜子はおもむろに立ち上がった。

 

「ウチもそうやった。背中の傷で色々と諦めてた。けどマギさんが言ってくれたことで、ウチも自分の人生としっかり向き合う事が出来た。皆変わろうと思えば変えられるんだって」

 

 だから……と振り返って亜子は微笑む。

 

「色々と辛い事もあるかもやけど、絶対に前を向いて頑張って絶対にハッピーエンドを迎えるんや」

「……ああ、そうだな」

「だから、頑張ってマギさん」

「おう」

 

 花火もフィナーレが近いのか、連続で上がって空に咲き誇った。

 

「ほんと、亜子は俺には勿体ない素敵な子だよ」

「ふぇ!? 今のって、また思わず言ったん?」

「……どうかな」

 

 照れ隠しで顔を逸らしたマギ。今のは勢いで言ったのか、それとも本心で言ったのか。

 それはマギ自身も分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




すみません。
話のストックがゼロになりました。2週間投稿なので間に合うとは思いますが、もしかしたら投稿出来ないかもしれません。
今は間に合うように頑張ります。


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脅威 黒い猟犬

 亜子と夜の街を遊んだ翌日。マギは雲海を見下ろしながら物思いにふけていた。

 

「まだ見つかってないのどか、夕映、プールス、風香史伽元気かな……」

 

 頭の中で彼女たちの顔が浮かぶ。まさか何か大変な目にあっているのではないかと最悪なイメージを払拭しようと顔を思い切り振るう。亜子と一緒にすごしていても最近はナーバスに陥りがちになっていると実感している。

 いかん、気持ちを切り替えようと思ったその時。

 

『マギ先生──!!』

 

 和美のアーティファクトに乗ったさよが慌てた様子でマギの元へ飛んで行った。

 

「さよじゃないか。どうしたんだ?」

『大変なんです! 本屋さんが! 本屋さんが!』

 

 さよの口から先程心配していた一人ののどか名前が出て、マギの顔色が変わる。

 

「のどかが、のどかがどうしたんだ!?」

『うひぃ! その、本屋さんがこっちに来る途中で、賞金稼ぎの集団と出くわしてしまったようで、今ゲート捜索してる刹那さんと楓さんが救援に向かっているそうなんですが、その相手も名うての傭兵組織らしくて!』

 

 マギの気迫にビビりながらも状況を伝えてくれたさよ。しかしのどかが傭兵組織に狙われていると聞いた瞬間にマギの顔から感情が消えた。

 

「分かった……のどかがどこらへん居るか分かるか?」

『え、えっと、西の方角、距離は50㎞以内です!』

「分かった。教えてくれてありがとう」

 

 そう言ってマギは雲海を見下ろして、飛び降りようとしたその時

 

「マギ」

 

 雪姫がマギを呼び止める。マギが振り返ると、雪姫の他に千雨とマギウスも居た。

 

「マギ、私の手が必要か?」

「……いや、いい。俺一人で十分だ」

「そうか、なら1つ言っておく、絶対に相手は殺すな」

「……何だよ。俺がまるで殺すようないいようじゃないか」

「そうだよ。マギさん今の顔、相手を無感情で殺す殺し屋の目をしてるぞ」

 

 千雨の悲痛な顔でマギも少しいつもの調子を取り戻したのかごめんと短く謝った。

 

「もう一度言うぞマギ、絶対に殺すな。相手が賞金稼ぎであってもだ」

「分かったよ。だが、俺のセーフラインを余裕で超えたら……死んだ方がましだと思うほどの地獄を見せてやる」

 

 マギは影からグレートソードを出して肩に担ぐと崖から飛び降りた。暫くしてから下界で轟音がしてそれが少しずつ遠ざかって行った。マギがのどかの元へ文字通り飛んで行った音だろう。

 ぽつんと残された雪姫と千雨達。

 

「エヴァンジェリンさん」

 

 千雨が雪姫ではなくエヴァンジェリンと呼んだ。そして何時ものように呼び捨てじゃなくさん付けで呼ぶ。

 

「長谷川、貴様が礼儀正しく私を呼ぶとはな……何だ?」

「マギさんの元へ行ってくれないか? ああは言ってたけど、今のマギさんは何処か危なっかしいから。ホントはあたしも一緒に行きたいけど、あたしが足を引っ張ることなったら」

「ふん、貴様に言われるまでもないわ」

 

 雪姫は背中蝙蝠の羽を出して崖を降りて行った。残ったのは千雨とマギウスとさよだけ。

 

「くそ、あたしも何かしたいけど、マギウスは遠隔操作は出来無いし……」

『申し訳ございませんちう様。私の遠隔での限界は100m以内でして』

『大丈夫です! 直ぐに他の皆さんが来ますから!』

「他の皆さん? 誰だよ?」

 

 言っている意味が分からないでいると

 

「私の事だよ!」

 

 後先考えないハイテンションの声が聞こえ、雲海を切り開き魚の顔をした飛行艇が現れた。甲板に居たのは

 

「おっ久! どうよこの私のグレート・パル様号は! というか千雨ちゃんの隣に居るカッコイイロボは何なの!? どことなくマギさんに似てるし!」

「やっぱテメェか早乙女! というか何だよその飛行艇!」

 

 まさかのハルナの登場に驚きを見せる千雨。

 

「ふっふっふって不敵に笑ってる場合じゃなかった。さっきマギさんが超特急で飛んで行ったし、その後直ぐにエヴァンジェリンさんも飛んで行ったの見えたし、のどか所へ行ったんでしょ? 千雨ちゃんも乗っていくっしょ?」

「ああもちろんだ! 行くぞマギウス」

『かしこまりました』

 

 マギウスが横抱きで千雨をグレート・パル様号の甲板に飛び乗った。

 

「よっし行くよ茶々丸さん! 取舵一杯!!」

「了解です!」

 

 操縦は茶々丸がやっている。ハルナが途中で茶々丸と和美を乗っけたそうだ。舵を取り、のどかが居る方へ進路を取り、全速で飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 のどかは現在ピンチに陥っていた。あと少しでオスティアに到着なところで傭兵結社『黒い猟犬』と出くわしてしまった。のどかと行動していたトレジャーハンターのメンバーは皆倒されてしまい、残ったのはのどかのみとなった。

 のどかはとっさにダンジョンで手に入れたアイテム『鬼神の童謡』、さらに文字を読み上げる魔法具を道中で手に入れ、えにっきを読まずとも相手の心の内を読む事が出来るのだ。因みに試しに使ってクライグ、アイシャ、クリスティンの三角関係を知ってしまい、無暗に使っては行けないと誓ったのであった。

 そしてのどかは黒い猟犬の名前を聞き、隊長が偽名を使い、本名が恥ずかしい名前だということ、見た目が厳つい山羊の骨の魔族が実は気が弱く温厚な性格だということ、爬虫類の男は故郷に病気の母がおりお金を仕送る母思いなこと、巨大なミミズのモンスターを使役している見た目がわからないが胸に飽くなき探究を求めている事を知った。そして彼らの目的がのどかを餌にして白き翼を捕らえる事だった。

 のどかは相手の目的を知り、何とか出し抜こうとしたが、黒い猟犬が連れていた巨大ミミズのモンスターの触手に捕らわれてしまった。

 胸の事しか考えていない者に襲われそうになるが間一髪刹那と楓が助太刀に来てくれた。しかし黒い猟犬は転移魔法の札で少し離れた場所に転移。残された刹那と楓の上空に巨大な魔法陣が展開し雷撃が2人を襲う。のどかは遠い所から2人が雷撃に包まれる所を見ている事しか出来なかった。

 

(あぁ、私は無力だ。エヴァンジェリンさんの元で頑張ってもいざという時にこうやって足手まといになるなんて……)

『────まったく、情けない。自分じゃ何もできないと可哀想なヒロインを演じるなんて』

 

 のどかの中でのどかを呆れるような嘲笑うような声が聞こえる。

 

(だ、誰なの!?)

『あー、そういうありきたりな台詞は充分だから。いいからさっさと私に体を明け渡しなさい』

 

 声……のどかと同じ声がそういった瞬間にのどかの意識がぷっつりと切れ、がくんとのどかは顔を俯かせる。

 

「ふ、仲間が雷で焼かれるのに耐えられず気を失ったか。まぁ無力になった方がこっちとしては扱いやす──―!?」

 

 黒い猟犬のリーダーザイツェフ、本名チコ☆タンの腕を意識が失ったのどかがいきりなり掴み、その力が万力の如くギリギリと締め付け始めた。

 

「ぐおぉ!? この、離せ!!」

 

 あまりの激痛に腕を振り回し、のどかを放る。しかしのどかは空中で体を捻って音もなく着地をする。そして顔を上げるのどか。その顔は先程と真逆の冷笑を浮かべている。

 

「クスクス……」

「貴様、さっきまで俺達に怯えていた娘か?」

 

 チコ☆タンはのどかの雰囲気がガラッと変わったことに警戒をする。他の仲間ものどかの変わりように驚いているようだ。

 

「あら、こんな小娘にビビッてるなんて可愛いこと。黒い猟犬じゃなくて、黒い子犬ちゃんに改名した方がいいんじゃないかしら?」

 

 のどかは黒い猟犬を挑発するが、黒い猟犬達は別に動じてはいない。

 

「舐めるなよ。俺達はプロフェッショナルだ。戦いの最中に性格が変わる奴などごまんと見てきた。それに、小娘程度の挑発でムキなるほど幼稚ではないのでね」

「僕も。それに君を攻撃したらなんかヤバそうな雰囲気をビンビンと感じるんだよね」

「俺もだ。それに、いくら賞金稼ぎだからって女の子を甚振るなんてことすれば故郷の母ちゃんに顔向けできねーからな」

「私もネ。それに未成熟なおっぱいを散らすのはいささか勿体ないネ」

 

 のどかは黒い猟犬に挑発は効かないのを分かっている。だが、更に畳み掛けるように黒い猟犬特にリーダーのチコ☆タンに狙いをつける。

 

「あら、チコ☆タンちゃんは我慢も出来るのね。偉いわねチコ☆タンちゃん。ご褒美になでなでしてあげようかしら?」

 

 ぶちりとチコ☆タンの堪忍袋の緒が切れたようだ。偽名を使うまでに本名がばれるのを嫌っていたのにのどかのせいで部下に自分の本名をばらされさらに嘲笑の的にしたのだ。チコ☆タンとしては今ののどかは生かして返すつもりはなくなっている。

 

「ちょちょっと待ってよ隊長! たかが女の子の挑発じゃないか! それに僕ら隊長の名前がザイツェフじゃなくてチコ☆タンだからって笑ったりしないよ!」

「黙ってろモルボルグラン! 俺の本名をばらした挙句ああやって馬鹿にしやがって! 首だけ残しておけば賞金は手に入る!」

 

 魔族、モルボルグランの静止を振り払い、魔力で強化したチコ☆タンの拳がのどかの顔を捉える。しかし、のどかはクスクス笑いながら指をクンッとすると、のどかの影が盛り上がり、チコ☆タンの拳を防いでしまった。

 

「く、操影術か!?」

 

 のどかは高音と同じような操影術を使った。しかし高音のように覆面の黒装束の影ではなく、のっぺりと薄く、顔には複数の目があるだけの不気味な姿をしている。

 

「なんだこの影は!? 触れたら最後と言いたげな不気味さは……!!」

 

 チコ☆タンは戦慄する。のどかが出したこの影はこの世のものとは思えないものだった。しかしチコ☆タンは隊長としてのプライドがある。のどかに屈せず攻撃を繰り出した。そしてのどかとチコ☆タンは攻防を短いが30秒ほど続いた所で

 

「ムム!?」

「おいどうしたんだパイオ・ツゥ!」

 

 蜥蜴男がコートと帽子で身を包んだ者をパイオ・ツゥと呼び、パイオ・ツゥは何かに気付く。

 

「雷撃の勢いが落ちてるネ。可笑しい、まだ全然100秒も経っていないのに!」

 

 パイオ・ツゥに続き、モルボルグランと蜥蜴男も刹那と楓を襲っている魔法陣が徐々に小さくなっているのを見た。そして魔法陣を消していっている張本人はハマノツルギを持ったアスナであった。

 

「何と!? あの雷撃を消しているのはあの娘か!?」

 

 パイオ・ツゥはアスナが雷撃を消しているのを驚いているとのどかはくすりと笑いながら影を引っ込めた。

 

「あら、随分と早い到着ね。でも、私の為に血相を変えて駆けつけてくれるなんて素敵な人。ならば私も非力な女に戻りましょうか」

 

 のどかから張りつめた気配が消え、そのまま地面に倒れてしまった。急に人が変わり、急に気を失ったことにチコ☆タン達も理解に追いつかないでいると、ぞわっと自分達の命が握られた感覚に襲われる。

 チコ☆タン達からのどかを護るように、マギが音もなく立っていた。

 

「な、この男、どこから!?」

 

 急にマギが現れた事にチコ☆タン達は行動に移せなかった。マギは倒れたのどかを見て、歯を食いしばりながら持っていたグレートソードを横に振り回した。それだけの風圧で吹き飛ばされるチコ☆タン達。マギはチコ☆タンに狙いを定め、がら空きになった胴に拳を当てた。

 

「紅蓮拳」

 

 炎の拳はチコ☆タンの体の表面を焼き、チコ☆タンは膝から崩れ落ちた。

 

「が、は」

 

 致命傷にはなっていないが、暫くは動く事は出来無いだろう。

 

「むぅ、小癪な!!」

 

 パイオ・ツゥは使役しているミミズモンスターでマギを襲わせる。マギは倒れているのどかから離れ、少しでも被害に合わせないようにする。

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビス  来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎」

 

 マギは詠唱し、拳に魔力を集中させる。

 

「固定 掌握 魔力充填 術式兵装『夜叉紅蓮』!!」

 

 マギはかつて使っていた夜叉紅蓮の姿へと変わる。しかしその姿はかつての姿と少し変わっている。腰まで伸びていた髪は肩甲骨程の長さに整っており、右腕が巨大化しており、禍々しさが増していた。そして紅蓮の角が一本伸びていた。まさに姿は夜叉そのものであった。遠目で見ていたアスナ達はマギの変わった姿に呆然と見ていた。

 マギは瞬道術でパイオ・ツゥの前まで移動し、巨大な右腕でパイオ・ツゥを鷲掴みすると、容赦なく地面に叩きつけた。

 

「ぐふぇ!?」

 

 パイオ・ツゥは変な悲鳴を上げ、亀裂が走った地面に沈んだ。ぴくぴくと痙攣はしているが、マギは容赦はしたつもりだ。殺してはいない。

 

「2人目」

「キシャアアアアアアアア!!」

 

 ミミズモンスターは主がやられ、仇を討とうと牙を光らせマギを喰らおうと襲い掛かる。

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 炎の国ムスペルヘイムの入口に立つ巨人スルトよ 我が手に授けん 全てを灰燼に帰す 猛々しい剣よ 炎の擲弾!」

 

 マギは巨大な炎の剣をグレネードランチャーのように放つ。炎の剣は地面に刺さると巨大な爆音と火柱を上げる。ミミズモンスターは悲痛な悲鳴を上げながらこんがりと焼ける。しかし生命力は高いのかまだ辛うじて生きている。

 

「うはははは! やるじぇねぇか! この俺が本気を出しても大丈夫な相手に久しぶりに会え──―」

 

 蜥蜴男の戯言など聞く耳持つつもりもないマギは蜥蜴男の背後に回り、振り向きざまのどてっぱらに本気の一撃を当てて戦闘不能にする。

 

「3人目。残りは……」

 

 残ったのはモルボルグラン。相手が魔族だと瞬時に理解するマギは油断などせずに一気に攻める。

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 炎の国ムスペルヘイムの入口に立つ巨人スルトよ 我が手に授けん 全てを灰燼に帰す 猛々しい剣よ 炎の擲弾! 装填!」

 

 炎の擲弾を右腕に装填する。対するモルボルグランの内心はというと

 

(おいおいおい! 隊長や皆があっという間にやられた相手に僕が勝てるわけないじゃん! それにこの青年の使ってる魔法ってあの闇の福音が使ったっていう伝説の魔法じゃないのかい!? そんな魔法をなんで使う事が出来るの!? もしかして闇の福音の身内か何か!? だからあんなに高額な賞金がかかってるのか! うわー帰りたいよ!)

 

 骸骨なため表情は読めないが現在冷や汗顔面真っ青な積りだが、6本の骨の腕で攻める。しかしグレートソードで骨の腕を弾き飛ばす。そして間合いに入り、右腕でモルボルグランを殴りつぶす。

 

「右腕解放」

 

 右腕に装填していた炎の剣がパイルバンカーのように貫くと、モルボルグランを縫い付けている地面が爆発で吹き飛んだ。黒い猟犬はマギになすすべもなく全滅した。いやチコ☆タンはまだ辛うじて動けるようだ。性懲りもなく何か仕掛けようとしている。

 

(く、くそぉ。俺達黒い猟犬がまるで子供のようにあしらわれるだと……だが、油断したな、この俺には更に二段階の変身能力が……!)

「……はあぁぁぁ」

 

 マギの漏れた吐息とあからさまにヤバそうな雰囲気にあっさりと戦意が折れて気づかれないように直ぐに顔を伏せたのであった。夜叉紅蓮を解除するマギ。

 

「これで4人……ぐ」

 

 反動が来たのか、マギの体の中で何かが蠢く感覚が巡り、荒い呼吸を整えようとする。

 

「いやぁ強いね君」

 

 炎の剣が刺さっているとにマギに話しかけるモルボルグラン。

 

「悪いなアンタはヘルマンのおっさんと同じ魔族だからな。手加減は出来なかった。その剣も暫く経てば消えるだろうから」

「ははは。まぁ僕を止めるにはこれ位はしないとねうん。けどその若さでそれほどの力。完敗だよ」

 

 マギは黙ってモルボルグランに一礼すると

 

「……ん」

 

 のどかの意識が戻ったようで、マギはグレートソードを肩に担ぐとのどかの元へ急ぐ。

 

「のどか、おいのどか」

「……ん、マギ、さん?」

「あぁマギさんだ。のどか、今までよく頑張ったな」

 

 のどかはマギの顔を見て暫く経つと、勢いよくマギに抱き着いた。

 

「マギさん、マギさん……会いたかった」

「あぁ俺もだ」

(ふふ、若いっていいねぇ)

 

 倒れているモルボルグランの横で抱擁をするマギとのどかの元へボロボロながらも歩けるぐらいまでに回復したトレジャーハンターのクレイグ達が駆け付けた。

 

「アンタが嬢ちゃんのナイト様かい?」

「随分といい男じゃない。まぁクレイグ程じゃないけど」

「アンタがクレイグさんか? 今までのどかの事をありがとうございます」

「いやいや、俺らも嬢ちゃんには助けられちまってたからな。それと助かったぜ。あいつらマジでやばい奴らだからな。それに強いなアンタ、さっきの技何だったんだ?」

「……何だもう終わったのか。随分と早かったな」

 

 上空から声が聞こえ、皆が上を見上げると雪姫がゆっくりと降りてきた。

 

「……綺麗」

 

 思わずアイシャが言葉をこぼす。

 

「あぁ雪姫、問題なく終わったよ」

「そうか。のどか、久しぶりだな」

「雪姫さん、はい! お久しぶりです!」

 

 と雪姫はのどかをじっくりと見る。雪姫に頭のてっぺんからつま先までまじまじと見られ、首を傾げるのどか。

 

「あの、雪姫さんどうかしたんですか?」

「いや……のどか、お前どこか体に異常を感じたことは無いか?」

「異常、ですか? いえ、別に問題ないですよ?」

「そう、か……ならいいんだが」

 

 雪姫は歯切れが悪くそう答える。

 

(のどかの内側で闇の魔法に似たような力が混ざりかけている。杞憂に終わればいいんだがな……)

 

 その後遅れてはせ参じた千雨達。グレート・パル様号に乗っていたこのかがクレイグ達を癒してくれた。黒い猟犬達は負けた事ですごすごと引き下がってくれた。とりあえず無事にのどかと合流する事は出来た。

 

「え、なにこれ?」

「女の子がいっぱいだぁ」

「おばか」

 

 クレイグは女子が殆ど占める光景に呆然し、クリスティンは惚けた顔を浮かべているのをアイシャがツッコむ。

 

「しっかし凄かったねマギさん! 遠目から見てたけど、あんなド派手な技を使うなんて!」

 

 ハルナは興奮冷めやらぬ様子でマギに詰め寄っている。

 

「何言ってんだ。マギさんにはあんまり無理はしてもらいたくないんだこっちは」

「そうよ! なんなのマギさんさっきのは前のときよりもヤバ目だったじゃない」

 

 千雨とアスナはマギに詰め寄ってくる。2人も物申したいのだろう。

 

「言いたい事は分かるが、今回はのどかをいち早く助けたかったから容赦してほしい」

「ごめんなさいマギさん。その……」

「いいんだ。のどかに何かあった時の方が俺は辛い」

 

 マギは騒動によってなりふり構わず突き進む傾向が強くなっている。ほんとこの人とネギは似てるわよね……とアスナは思った。

 

「そういえばそのネギはどうしたのよ?」

「ネギ先生はラカンさんと何か話があるって。あやかさんが付き添いしてるよ」

 

 千雨がネギの行方を教えるとアスナは嫌な顔をした。

 

「アタシあの人苦手なのよね。出会い頭に人の胸を突いたんだから」

 

 暫くしたらオスティアに到着したグレート・パル様号。クレイグ達はここからは別行動する積りのようだ。

 

「そんじゃ俺達はここで。嬢ちゃん、また何かあれば会おうぜ。ま、この祭りじゃ直ぐに会うだろうし。闘技大会に出るんだろ? 応援に行くぜ」

 

 そう言って宿を探しに行ったクレイグ達に感謝の言葉と見送ったマギ達。

 ハルナもグレート・パル様号を格納するために何処かへ飛んでいき、別行動することになった。とネギとあやかが戻ってきて、ネギが悩んだ様子でこちらへやって来た。

 

「ネギ、お前に渡すもんがあるぞ」

「お兄ちゃん、何渡すものって」

「ほれ」

 

 そう言ってマギはネギの杖を投げ渡した。

 

「僕の杖! どうして?」

「ハルナが飛ばされた時に一緒にあったようだ。よかったな。お前その杖、大切にしてたもんな」

 

 ネギにとってナギが使っていた杖は大切な繋がりだ。そんな杖が戻ってきた。しかしネギは嬉しそうな顔から直ぐに何時もの難しい顔を浮かべてしまう。

 

「どうしたんだ? 折角大切な杖が戻ったのに難しい顔を浮かべて。ラカンさんと何か揉めたのか?」

「うん……ねぇお兄ちゃん、アスナさんは何者なのかな?」

「あ? アスナ?」

 

 ぽつりと呟くように話すネギ。今日ネギはあやかを付き添いにしてラカンと話をすることになった。最初は闇の魔法がちゃんと作用するのかの確認を、ネギが色んな女子と仮契約している事を茶化されたりした。

 しかし話はアスナの事になるとラカンの茶化した態度も引っ込めた。何故アスナが魔法無効化の力を持っているのか、両親の不在、ナギやタカミチ、このかの家である近衛家との付き合い、保護、そしてこの世界との関わり合いを。ネギはここでアスナと合流したときにアスナにある薬を飲ませた。アスナもここに来るまで今まで体験した頭痛のようにかつてここにいたような幻覚や夢を見るようになったと告白した。

 ネギは怖くなった。アスナは自分が考えている以上に魔法世界に大きく関わっており、もし知ったとき自分がどういう行動をするのかという恐れがあった。だからこそ、ネギはマギの答えを知りたかった。

 そしてマギの答えは……

 

「いや、アスナはアスナだろ?」

 

 ありきたりというか、普通な回答だった。

 

「え? そ、そんなあっさりと」

「だってよ、アスナがとてつもない奴だって知ったら、お前はアスナとの接し方を変えるのか?」

「そ、それは……」

 

 言葉に詰まるネギ。マギは雲海を見つめながら

 

「俺も本能な感覚でアスナが普通じゃないっていうのはこっちに来てここで合流してから感じていた。けど、アスナはとっても元気で友達思いのいい子……それだけじゃいけないのか?」

 

 その言葉を聞いてネギは付き添いをしてくれたあやかの言葉を思い出す。

 

『ラカンさん、貴方がなんと言おうとも私はアスナさんと友だと最後まで言い続けます』

『へぇ、けどあやかの嬢ちゃんはお姫様の秘密を知りたいとおもわねえのか?』

『そうですわね、私としてもアスナさんの出生は気にならないといえば嘘になります。けど、私にとって大事なのは泣いてる私の背中を蹴り飛ばす、そんなお馬鹿で、大切な親友。それだけわかっていれば満足です』

『成るほどな。あのお姫様もいいダチをもったじゃねえか』

『ええ、あの子には大切なお友達が多くいますから』

 

 そうだったとネギはあやかの言ったことに何度も頷き

 

「僕はまた色々と深く考えすぎてたみたいだ」

「まぁアスナのことを気になるのは間違いじゃない。今は皆と無事に合流することを第一優先にしよう」

 

 と話していると

 

「ネギ! 聞いたわよ! あんたもマギさんと同じあの闇の魔法なんて危なかっしいもんに手を出したそうね!?」

 

 件のアスナが鬼の形相で寄ってきてネギの頬を摘み引っ張る。

 

「まったくあんたはアタシの知らない所で無茶して! それで何かあったらどうするのよ!?」

「待ちなさいアスナさん、ネギ先生は皆さんを護るためにその力を手にしました。頭ごなしに否定するのはお止しなさい」

 

 あやかの待ったに頬を伸ばしていた手を止めた。そして直ぐに謝る。アスナ自身もネギが心配だったのだ。

 

「けど、あんた1人で無茶しないこと! アタシだってここに来るまで修羅場乗り越えたんだから」

 

 と少し揉めたが、収まるとこで収まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 あの後、ラカンに呼ばれたマギとネギ。指定された場所に着くと先にラカンが待っており、雲海を見つめていた。

 

「悪かったな。さっきはネチネチとした感じでよ」

「い、いえ僕はその、気にしてはいませんから」

 

 ネギ顔を見ずにの謝罪だが、悪かったという気持ちは言葉から感じ取れはした。

 

「この雲海の下に広がる廃墟な、昔は大小百の島々が天然の魔法の力で浮かぶそりゃあキレイな古都だったんだよ。メシは美味い美女も多い。この世界の文明の発祥の地とも言われてな。歴史と伝統のウェスペルタティア王国、麗しき千塔の都、空中王都オスティア」

 

 ラカンが歴史を話し始め、その話がアスナに大きく関わる事を直感で理解するマギ。

 

「その王族の血筋には代々不思議な力を持つ、特別な子供が生まれてきた。この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力。『黄昏の姫御子』完全魔法無効化能力者」

 

 その力はまるっきりアスナと同じ。つまりアスナは……

 

「20年前の大戦の時にな、あの壮麗だった島々が全部落っこちた。直径50キロに及ぶ巨大魔法災害『広域魔力消失現象』によってな。百万人の難民と様々な問題を残して王国は滅んだ」

(マジか。魔力が消失なんて、そんな凄い力をアスナは持っているのか……?)

 

 マギが戦慄を覚えていると

 

「俺達、というかお前らの親父は己の私欲のために戦争おっぱじめたバカ共を暴き出し、世界を2つに分けていがみ合ってた連中をまとめ上げて、諸悪の根源をぶっ潰して世界が滅ぶのを喰い止めた。だが、1つの国と1人のか弱い女の子を守る事は出来なかった。ったく、何が英雄だよ」

 

 呆れたように言っているが、ラカン本人も戒めとしてそう言っているように聞こえた。

 

「けどまぁ、あそこまで言い切るなんてな。ありゃいい女になるぜ絶対に」

 

 けど、ラカンは嬉しそうにそう言った。

 

「ぼーずとマギ。お前らとあの嬢ちゃんは言ってみりゃあのバカの忘れ形見だ。今度はお前らが守ってやってくんねえかな。あの嬢ちゃんをよ」

「はい!」

「まぁ俺はアスナを護るネギや皆を護るさ。俺はネギの兄貴だしな」

「だ、駄目だよ! お兄ちゃんはそうやって無茶するんだから! 僕もお兄ちゃんを護るよ!」

「いやそれ言ったら誰がお前を護るんだよ」

「それを言うならお兄ちゃんでしょ?」

 

 どっちが護る問答になっているのをラカンは愉快そうに笑いながら

 

「まぁお前らは皆を護るためにあいつの禁術に手を伸ばしたんだからな。まぁ頑張れよみんなを護れるようにな」

「はい!」

「勿論だ」

 

 雲海に太陽が沈み、星が光りだす。翌日には終戦記念祭が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 



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宿敵?との再会

 オスティア終戦記念祭が開催され、メガロメセンブリアの元老院議員主席外交官とヘラス帝国の第三皇女が固い握手を交わす。メガロメセンブリアの主力艦隊、鬼神兵、ヘラス帝国は巨大な古龍龍樹そして戦乙女の鎧を纏った夕映がいるアリアドネー戦乙女騎士団が式典を警護している。

 

(このオスティアの何処かにマギさん、そしてのどか達がいるはずです。どうにかして皆と合流することは出来ないでしょうか……)

「ユエどうしたの? もしかしてマギさんの事考えてるの?」

「はい。ですが、今は目の前の事に集中するです」

「その通りです。この平和な式典が必ず無事に終わる保証はないのですから」

 

 エミリィに注意され、気を引き締め直す夕映。そしてそのマギはと言うと……

 

 

 

 

 

「うおらぁぁぁぁぁ!!」

 

 グレートソードで向かってきた相手を斬り飛ばしたマギ。雪姫も相手を地に沈めている。

 

『決着ぅぅぅ!! 話題筆頭のネギ・雪姫両選手、優勝候補に余裕の圧勝! 批判的な意見もねじ伏せるその実力、本戦でも振るわれるのか楽しみです!』

 

 予選で対戦相手を完封無きまでに叩き潰したのであった。

 

 

 

 

 試合も終わり暫しの休息、マギは祭りを楽しむ者達を見下ろしていた。

 

「平和だな。クソ親父が護った世界……か」

 

 ナギが護ったのが目の前に広がる光景だというのが今一まだピンと来てはいない。そして昨日ラカンが話していた内容、それを思い出す。

 

「アスナの出生の秘密、20年前の大戦で島々が崩落……ん20年前の?」

 

 そこでマギは気づく。

 

「大戦が起こったのは20年前、俺はまだ生まれてない。けど、ラカンさんが言ってたお姫様がアスナっていうことは……アスナって今幾つなんだ?」

 

 アスナの正体に近づく大きな気づき。しかしマギはそれ以上入り込もうとはしない。

 

「……これは俺1人で紐解くのは無理だ。これは雪姫や千雨達の協力が必要だ」

 

 あくまでも慎重に自分に言い聞かせて、マギは自分に何か強い気配を向けられていることに気付く。気配を向けられた方向を見る。

 そこには自分をバイザー越しに自分を見ているアーチャーの姿が。

 

「あいつはゲートポートでフェイト・アーウェルンクス達と一緒に居た」

 

 マギは警戒を強めてアーチャーへ近づく。そして互いの間合いまで近づいた。

 

「まさかこんな場所で貴様とまた会う事になるとはな」

「……ああ。けど、なんでアンタが此処に居るんだ?」

「貴様が此処に居る情報は私のマスターの式神で把握済みだ。私から貴様に贈り物をと思ってね」

「贈り物?」

 

 思わせぶりは言い回しに怪訝な顔を浮かべるマギの胸に誰かが飛び込んできた。むせてしまうが誰が胸に飛び込んで来たのか下を向くと

 

「マギお兄ちゃん……!」

「プールス!」

 

 プールスが泣きじゃくりながらもマギの胸に顔を埋める。

 

「マギ兄ちゃん!」

「マギお兄ちゃん! 会いたかったー!」

「風香、史伽! お前らも一緒か!」

「俺も居ますぜ大兄貴!」

「カモ!」

 

 風香と史伽もこっちに走って来てカモがマギの肩に飛び乗った。

 

「この子達が私の目的の地に飛ばされてね。そこのカモ氏に依頼され、貴様と合流するまで護衛を任されたのだ。これで私の仕事は終わりだ。それじゃあ失礼するよ」

「おい、待ってくれ」

 

 アーチャーが立ち去ろうとし、マギがアーチャーを呼び止める。

 

「何かね? 私は早くこの場を後にしたいのだがね」

 

 アーチャーはマギと会話したくないと雰囲気がそう語っていた。が

 

「この後一緒に飯行かね?」

「……何?」

 

 まさかの食事の誘いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 オープンテラスのレストランにマギとプールスと風香と史伽にカモとアーチャーが座る、戦った相手と食事をするという奇妙な光景が広がっていた。

 

「何でも好きなもの頼みな。無事に再会出来たお祝いだ」

「やった! ボクハンバーグ!」

「私はスパゲッティ食べたい!」

「わたしはお子様ランチ食べたいレス!」

「そんじゃ俺っちは酒と簡単なツマミ」

 

 プールス達はメニュー表を見ながら何を頼むか楽しそうに選んでいた。そんな彼女達を微笑ましくマギが見ていると

 

「マギ・スプリングフィールド、何故貴様が私を食事に誘ったのか理解に苦しむのだが?」

「アンタはプールス達を危ない事から護ってくれたんだろ? 恩人をそのまま帰すなんて真似はしたくない。今俺は訳ありで拳闘士をやってるから金に余裕はあるんだ。遠慮なく頼んでくれ」

「……理解不能なのだが。BLTサンドとコーヒーのセット。それ以上の施しは受けん」

「了解了解。もっと値の張るもの頼めばいいのにな。俺はステーキのセットでも頼みますかね」

 

 アーチャーとマギも決まったのでマギが注文し、皆で食事をした。

 食事をして、食後のお茶も終わり、マギはアーチャーに話を切り出し始める。

 

「なぁ、俺はつい最近に記憶が失って? 過去の記憶が無い? 状態なんだ」

「そのようだな。久方ぶりに貴様を襲った時の第一声が初めましてには虚仮にされたと思ったぞ」

「まぁ俺も知らない奴から襲われてびっくりしたというか……なぁ俺ってアンタとは何か因縁があるのか?」

「何故貴様にその事を話さなければいけないのかね? 私は貴様とは友人でも何でもないのだから」

 

 取り付く島もないとは正にこの事だろう。困ったマギはこれならいけるかと

 

「今から色々とアンタに質問するかアンタはYesかNoで答えてくれ」

「…………まぁそれぐらいならいいだろう」

 

 数秒黙り込んでからのいやいやながら応じた。それほど俺と話すのが嫌なのか……そう思いながらもマギは質問を始める。

 

「アンタと俺は昔から馴染でなにかのトラブル、因縁があるのか?」

「Noだ」

「俺はアンタから物品または金を借りてそのままとんずらした?」

「Noだ」

「もしかして、アンタの大切な相手を傷つけ、または……殺害したなんて事をしたのか?」

「Noだ」

 

 今の所全部No。流石に最後はNoだと思う。そうじゃなかったら俺はお天道様の下を歩く事は出来ないだろうし。

 全部No。ここでマギがパターンを変えて見た。

 

「俺が何かしたとかじゃなくて、俺という存在がアンタに大きく関係している?」

「Yesだ」

 

 NoではなくYesで返って来た。そのまま質問を続ける。

 

「俺がアンタの人生に迷惑をかけているのか?」

「Yesだ」

 

 これもYesで返って来た。マギは最後の質問をした。

 

「アンタにとって、俺は居てはいけない存在だと思っているのか?」

「……Yesだ」

 

 まさかの存在全否定にマギは言葉を失う。何もしていないのに恨まれるというのはこういうことなのか。

 

「まいったな。アンタに対して非道な事はしてないが、俺の存在自体がアンタにとっては煩わしいってわけか」

「そうだ。だからこそ私は貴様を斬れるであろう不死斬りを手に入れたのだから」

「だろうな。アンタの背中に指してる大太刀、それから嫌な気配をビリビリ感じるぜ」

 

 マギは不死斬りから感じる嫌なぞわぞわした感覚を不快に感じていた。

 

「ならばここで味わってみるか? 不死斬りの切れ味を」

 

 アーチャーが背中に手を回し柄を握ろうとした瞬間

 

「待ってくれ」

 

 待ったをかけるマギ。

 

「実は俺は、今亜子を奴隷から解放するために拳闘士をやってるんだ。この終戦記念祭中にやってる拳闘大会で優勝して100万ドラクマを手に入るまでは待ってはくれないか?」

「何だそれは、命乞いをしようとでもいうのか?」

「命乞い、じゃあないな。俺は死ぬつもりはないから。けど、皆が無事に合流して、現実世界に帰る算段がついたら、アンタが決戦の場でも見繕ってくれ。だから今は見逃してくれ」

 

 マギは頭を下げる。アーチャーはマギの下げた頭を見ながら

 

「その大会には貴様の弟も出ているのだろう? ならば弟に任せればいいのではないのか?」

「あぁ、だが俺は俺自身の力で亜子を救い出したいんだ」

「随分と己に酔った考えだな」

「そうだな。誰かを救うにはこれぐらい我儘じゃないとな」

 

 じっと見合うマギとアーチャー。暫くするとアーチャーが溜め息を吐いて席を立った。

 

「興が削がれた。ならば作ってやろうじゃないか。貴様が死ぬに相応しい舞台を」

「ああ、ありがとう」

「……馳走になったな。それだけは礼を言おう」

 

 そう言ってアーチャーはレストランを去っていった。アーチャーが見えなくなってからマギは深く息を吐いた。

 

「よかった。相手が場所を考えずに斬りかかってくるような輩じゃなくて」

「まぁあいつ手段の為には冷酷な手段を使うような奴じゃないみたいですぜ」

 

 カモの言う通りだなぁと思ったマギはプールスに尋ねる。

 

「プールス、お前一緒に居たけどアーチャーって奴はどういった奴なんだ?」

「えっと……優しい人だったレス」

「だよなぁ……」

 

 プールス、風香と史伽の格好が綺麗であり傷なんて1つもなかった。それはアーチャーが此処まで来るまでしっかり護衛してくれたからだろう。

 

「道中で山賊みたいな人が襲ってきたときも追い払ってくれたんだよ!」

「千草お姉ちゃんもお風呂一緒に入ってくれた時も髪をといてくれたんです!」

 

 アーチャーのマスターである千草も道中でプールス達の世話を焼いてくれたみたいだ。そのせいかすっかりなついてしまったようだ。

 

「マギお兄ちゃん、本当にあの人と戦うレス?」

「そうだなぁ。お前らの恩人と戦うって抵抗あるなぁ」

「ですけど、相手はやる気満々ですぜ。あいつは大兄貴を倒すためなら己の命散らす覚悟であの大太刀を手に入れましたし」

「そっかぁ。どうにかして穏便に事を済ませる手段は無いかねぇ」

 

 マギはもう一度大きい溜息を吐くのと同時に少し離れた場所で大きな音がした。

 

「なんだ? また誰かが野良試合をおっぱじめたのか?」

 

 騒ぎを起こしたのは誰だと目を細めて見ると、殴り合うネギとフェイト・アーウェルンクスであった。

 

「ネギとあいつはフェイトって奴か? 何であいつがオスティアに居るんだよ」

「あ! そう言えばアーチャーとフェイト・アーウェルンクスは一緒に此処に来たんだった!」

「いや、そう言う事は先に言えよカモ。仕方ない、俺がネギに助太刀に行ってくるから、カモとプールスは雪姫か千雨と合流してくれ。風香と史伽を忘れるなよ」

「了解だぜ!」

「はいレス!」

 

 マギは月光の剣を抜くとフェイト・アーウェルンクスと殴り合っているネギの元へ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネギは怒りで頭が沸騰しそうだった。フェイト・アーウェルンクスと会ったのは偶然だった。ゲートポート以来であった2人は何故かお茶を飲むことになり、ネギはミルクティーでフェイトはコーヒーを飲むことになり、フェイト・アーウェルンクスがミルクティーを飲むネギを挑発し、ネギもムキになり反論するという何時ものネギじゃ見られない光景にネギと一緒に居たアスナと刹那は戸惑った。

 フェイトはある提案をしてきた。それはネギや仲間を現実世界に無事に戻れるようにするからアスナをこちらに寄越せというものだった。しかもアスナの今の性格や記憶を偽りの物とまるで人形に対して言う冷たさにネギの我慢を限界を迎え、テーブルを蹴り上げてフェイト・アーウェルンクスに殴りかかった。しかしネギの拳を涼しげに受け止めるフェイト。しかしフェイトはB案を出してきた。

『僕らは君達には一切手を出さない。けど、僕らの計画に一切手出しするな』というものだった。フェイト達の目的は大きく言えばこの魔法世界を破滅させることであった。しかしフェイトは言葉巧みにネギを追い詰める。君の目的はこの魔法世界から無事に仲間たちと日本に戻る事であり、あやかや夏美アキラ達と言った一般人組はこの魔法世界なんて関係ない者達だ。この世界が破滅しても何の関係もない。世界の終わりじゃなく生徒達の安全を優先すべきだと正論でネギの退路を断っていき、フェイトの案を飲むように誘導する。

 そしてネギが折れてフェイトとの交渉を呑もうとしたが、アスナがハリセンボン状態のハマノツルギでネギを叩き、ついでにフェイトにも一発喰らわせた。アスナが完全に終始フェイトのペースだった状況をぶった切った。アスナの後押しよってネギの腹も決まり、ネギはフェイト達の組織と完全に敵対する事になった。

 フェイトが空へ逃げ、巨大な岩の柱を何本も出現させアスナ達へ落としてきた。アスナの周りは祭りに来てる人たちがいる。今の状況をよく分っておらず困惑していた。しかしアスナのハマノツルギによって岩の柱は瞬く間に消失していく。

 

「す、すごいアスナさん……」

「ほんま、凄いですわー」

「アスナの奴、あそこまで力を付けたのか」

 

 アスナの力に舌を巻く刹那に同意する声が2つ、1つは

 

「マギさん!」

「おう、なんか凄いのが見えたから助太刀に来たぜ」

 

 ぶっ飛んで駆け付けたマギでありもう1つは

 

「うふふ久しぶりですセンパイ。この時が来るのを心待ちにしておりましたわ」

「月詠!」

 

 修学旅行で刹那と刃を交えた剣士月詠。彼女もフェイト達と行動を共にしていた。その理由は

 

「この数週間、ずっとおあずけを食らってまして、どれほど長く感じた事か。目の前の御馳走に手を出せなくて、せつなくてせつなくなって……もう、どうにかなってしまいそう。早くウチの疼きを満たしてもらいたいです」

 

 刀を舐めながら恍惚な狂気の笑みを浮かべる月詠。見た通りヤバい奴だと分かったアスナ。月詠の目的は刹那。だからこそ刹那がこの場で月詠の相手をするべきだと判断したが、マギが刹那の前に立つ。

 

「マギ先生……!」

「刹那、お前はネギの元へ行け。相手はフェイトだ。今のネギが必ず勝てる可能性は低いだろうからアスナと一緒に助太刀に行ってくれ」

「でしたら! マギ先生がネギ先生の元へ! この女の相手は私がします!」

「もーなんですのオニイサン。ウチはセンパイと斬り合いたいのに……」

 

 割って入ったマギを気に入らないと睨む月詠。しかし何かに気付いたのかマギを見て目を黒く爛々と光らせている。

 

「まぁ、まぁまぁまぁまぁ! 何ですのオニイサン! 鬼もビックリの真っ黒さ! そんなオニイサンと斬りあったらとっても面白そうですなー。センパイとの前にオニイサンにお相手してもらいますー」

 

 月詠が刹那じゃなくマギに狙いを変えた。マギとしては好都合ではあるが、月詠の狂いっぷりはマギが色んな人と会った中で一番だと思った。

 

「行けアスナ刹那。ネギを頼む」

「分かったわ! マギさんも気を付けて!」

「……御武運を!」

 

 アスナと刹那がフェイトと戦っているネギの元へ駆けて行った。残ったのはマギと月詠だけ。

 月詠は刀を構える。太刀と小太刀の二刀流だ。

 

「ああん、ウチこれ以上お預け喰らったら────周りの木偶を斬ってまいそうですぅ」

 

 気持ちが高ぶっているのか、白目が真っ黒に染まっている。

 

「そうか。もう我慢する必要はねえぞ。遠慮せずにかかって来い」

 

 月光の剣を構えるマギ。

 

「そうですか。では……遠慮なく行かせてもらいますー」

 

 瞬道術を使い間合いを詰めてくる月詠。

 

「おらぁ!」

 

 月詠の攻撃を防いでからマギが月光の剣を振るうが月詠の刀で簡単に防がれる。

 

「あらー、オニイサンの剣は我流なんですねー。けど、随分と荒々しい太刀筋。まるで獣みたいですねー」

「やっぱ剣士相手じゃ俺の剣は正に付け焼き刃か。だが、まだまだこれからだ!」

 

 マギと月詠は何十何百合と斬り合う。だがマギは魔法や光刃で月詠を攻撃は出来なかった。下手をすれば周りの人に被害が及んでしまう。しかしこのままではやられはしないが、月詠がマギとの相手に飽きて刹那を追いかけるかもしれない。

 

「もーオニイサンただその綺麗な剣をぶんぶん振り回す事しか出来ないんですかー? それだけならウチ、センパイの所に行きたいんですけどー」

「まぁそう焦んなよ。まだ誰にも見せてないとっておきの奴をアンタに見せてやる」

「まー。とっておきってどんなものですかー?」

「今から見せてやるよ……マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 冥界の地の底よ 断罪の炎 罪深き者の魂ごと焼き尽くせ 黒き炎! 固定 掌握!」

 

 マギの体を黒い炎が包み込み、全身を真っ黒にし、魔法で出来た布がマギの顔を覆った。

 

「術式兵装 冥府の番人!」

「あらーオニイサンが真っ黒になってしまいましたー。けど、体が真っ黒になっただけと違います?」

「ただ体が黒くなったかどうか……御照覧あれってな!」

 

 叫んでマギが月詠に向かって突っ込む。何も考えない突撃。やはり見かけ倒しか。月詠は期待していたのもあり心底がっかりし溜息を吐く。

 

「こんな人を楽しそうなんて思うようになるなんて、ウチの勘も鈍りましたなー。それじゃあオニイサン、さようならー」

 

 月詠の太刀が当たろうとした瞬間、とぷんという擬音が聞こえそうな感じでマギが地面に沈み、月詠の太刀が空を切る。

 

「な!? 消えた?」

 

 初めて動揺を見せた月詠の背後にマギが現れ、マギの月光の剣を驚異的な速さで振り返った月詠が太刀と小太刀で月光の剣を防ぐ。

 

「どういうことですか? 今オニイサンがウチの目の前で消えたと思ったら背後に現れましたけど」

「この冥府の番人は影の力に特化した形態。今のは『影走り』俺の影に潜って移動出来る。今アンタの攻撃を避けて背後に回ったわけだ」

「そうですかーそりゃ随分と厄介なものですねーけど、そう簡単に手の内を明かして大丈夫なんですのー?」

「ああ大丈夫だ。だって使う事が出来るのは『影走り』だけじゃないからな。魔法の射手! 連弾・闇の20矢!」

 

 マギは魔法の矢を放つ。しかし月詠は魔法の矢を避けてしまう。

 

「残念ですねー。そんな分かり切った魔法の矢なんて避けてくださいって言っているようなものですよー。ほら、ウチが避けたせいで他の木偶当たってぇ!?」

 

 余裕綽々で避けたと思えば月詠の足元から魔法の矢が飛び出してきて油断していた月詠の体に魔法の矢が直撃する。

 

「な、何で? ウチは確実に魔法の矢を避けたのに」

「『影伝い』建物の影とアンタの影を繋げた。建物の影から伝ってアンタの影を出口にして飛び出してきたってわけさ。因みに」

 

 マギが地面を踏みぬくとマギの足が影に沈んだと思いきや、月詠の小さな影からマギの足が飛び出して月詠の体に直撃する。

 

「例え小さな影でも影さえあればアンタに攻撃が当たる。人間って些細な角度でも影って出来るもんだからな」

 

 咳き込みながらマギを見る月詠。その目は先程の狂気の笑みは引っ込み、多少の苛立ちが見えている。

 

「これでも女なんですけどー。オニイサンは女相手も容赦ないんですねー」

「悪いな。拳闘士をやってると女の拳闘士も相手するんだ。それに真剣勝負に女も男も関係ないだろ」

「それはそうですねー!」

 

 本気になったようで太刀筋が鋭利になる。遊びを捨てた狂人の刃、気なんて抜くようものならいとも容易く切り捨てられるだろう。そのせいか影走りと影伝いを使うタイミングを掴めずにいた。どんどんと押されていき、遂に月光の剣が弾かれてしまう。

 

「斬魔剣 弐の太刀!」

 

 月詠も刹那と同じ神鳴流の使い手であり、月詠の斬魔剣 弐の太刀によってマギの体が斬られ、上体がゆっくりと離れ地面へと落ちていく。

 

「あらまーウチが本気を出したらこの程度ですかーやっぱりオニイサンって見かけ倒しだったみたいですねー」

 

 そしてマギが地面に落ちた瞬間、黒い泥水の様に弾け飛んだ。残った下半身もどろどろと崩れ落ちる。

 

「あらー?」

 

 月詠が首を傾げていると、誰かが肩を叩いてきたので、振り返ると五体満足のマギが

 

「ハイ残念。といっても俺不死身だから斬られても死なないんだけどな」

 

 月詠の腕を掴み、力任せにぶん回して地面に叩きつける。月詠がくぐもった悲鳴を上げるが構わず追撃する。

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 来れ 静寂の闇 斬り崩せ 闇の刃! 装填 左腕解放」

 

 マギの左腕から解放された闇の刃が月詠の横の地面に突き刺さる。

 

「何処を狙っているんですかー? しっかりとウチを狙わないと」

「いいや、これでいいのさ」

 

 マギの言っている意味が分からず、月詠はマギが甘い行動をしたと判断し、起き上がろうとした時に気付く。

 

「体が動かない……!」

「『影縫い』アンタの影を俺の闇の刃で縫い付けた。多分数分は身動きは取れないぜ。あぁ因みにさっきのは『影法師』っていう影で俺の分身を作る技な」

「そうですかー色々と話しますねー。それで、身動き出来ないウチに何をするおつもりですかー?」

「え? いや、俺は何もしないけど」

 

 そう言ってマギは月光の剣を鞘に納める。月詠はマギの行動に理解不能になっている。

 

「お前は刹那の宿敵みたいな奴だろ? 俺が倒しちゃったら駄目だろ」

「……随分と甘い考えをお持ち何ですね。センパイじゃウチを斬れませんよ。今の内にちにウチを討っておいた方がセンパイの為じゃないですかー?」

「は? 何言ってんの? 刹那がお前なんかに負けるわけないだろ」

 

 マギは呆れた様子で

 

「お前みたいな人を斬るのが大好きな狂人じゃなくて、大切な人の為に剣を振るう刹那の方がずっと強いに決まってるじゃないか」

 

 断言して踵を返し、ネギ達の方へ向かう。

 

「そう言う事だから、俺は失礼するよ」 

 

 影走りを使いネギの方へ急ぐ。

 

(この冥府の番人、奇襲とかには結構使えそうだけど、俺の戦闘スタイルとは違うな……いざという時以外は使わなくていいか)

 

 初めて使った冥府の番人はマギにはしっくり来なかったようで、お蔵入りまでは行かないが使用回数は今後は少なそうである。そして残された月詠は

 

「マギ・スプリングフィールド……あの人の命を斬った瞬間、どんな感覚になるんやろなー……あぁ今から想像したら、ウチは……」

 

 どうやら月詠に興味をひかれたようだった。

 

 

 

 

 

 時は少し戻り、ネギとフェイトが一騎打ちした時間へ戻る。ネギは闇の魔法でフェイトと渡り合う。だが、フェイトからは付け焼き刃やら一時的なドーピングだと評されてあしらわれてしまう。

 しかもフェイトは曼荼羅のような魔法陣を何重にも展開していたようで、ネギの攻撃を喰らっても平然としていた。フェイトがネギに攻撃を仕掛けようとしたその時

 

「斬空閃!!」

 

 飛ぶ斬撃がフェイトに飛んできた。だが魔法陣で簡単に防がれる。

 

「ご無事ですかネギ先生!」

「刹那さん!」

 

 遅れて刹那が助太刀に参じた。

 

「桜咲刹那、まさか君が来るなんてね。月詠さんはどうしたのかな」

「月詠の相手はマギ先生がして下さった。もうじきアスナさんも来る。覚悟するんだフェイト・アーウェルンクス!」

 

 アスナの名前を聞いて数秒思案顔(無表情だから分かりづらい)を浮かべるフェイト。

 

「まぁいい、君やお姫様が助太刀に来ようが僕に勝てる可能性は低いだろうけどね」

 

 余裕の雰囲気を見せるフェイトに今度は2人がかりで挑む。フェイトは鋭利な岩の柱を出す他に岩の剣を振るってくる。ネギは断罪の剣、刹那は太刀とアーティファクトの短刀を展開して戦う。

 

(何だこの違和感は……相手の攻撃から何も感じない。何の感情も虚無だけだ。まるで、機械と斬りあっているような……)

「戦いの最中に考え事かい? 随分と僕も舐められたものだ」

「刹那さん!」

「っ! しま……!」

 

 はっとする刹那。フェイトから感じる違和感に気を取られてしまい、間合いを詰められるのを許してしまう。隙だらけの刹那の胴体にフェイトの拳が突き刺さる。

 

「こっは……これは、古菲と同じ中国拳法……!」

「皮肉なものだ。君達が努力や功夫とか言って強くなろうとしても、僕は元々こういう風に造られている。これ位の事はある程度出来るんだよ」

 

 岩の剣で追撃しようとしたところで

 

「雷の斧!」

 

 ネギの雷の斧がフェイトの岩の剣を砕いた。

 

「そうだネギ君、それでこそだ」

 

 フェイトはそう言いながら、ネギと一騎打ちをする。しかしフェイトの攻撃が苛烈さを増し、殴り飛ばされ闇の魔法も解除されてしまう。

 

「どうしたんだい? 立ちなよネギ君。失望させないでくれ。こんな程度じゃないだろう? 全てはここからだ」

 

 急いで体勢を立て直すように体を動かすがダメージと闇の魔法の反動か指一本も動かせなかった。

 このままやられてしまうのかと思いきや、何処からともなくのどかと小太郎が現れた。急な登場にフェイトもワンアクション遅れている間に、のどかが黒い猟犬に使った鬼神の童謡をフェイトに向ける。

 

「我 汝の真名を問う!」

「……君は」

「へ! 油断したなフェイト! とんだ大間抜けやな! ほなな!」

 

 フェイトが攻撃する前に小太郎が影の転移でその場から退散した。

 横槍を入れた事が気に入らないのか溜息を吐いたフェイト。足元に水の転移を展開するフェイト。

 

「まっ待て!」

 

 ネギの静止の叫びも無視し小太郎とのどかを追跡するために転移をしてしまうフェイト。残ったのはネギと刹那だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、ネギ達何処まで行ったんだ……!」

 

 マギは建物の屋根を飛びながらネギ達を探す。相手のフェイトは自分は戦った事は無いが、強敵なのは分かる。

 大きく跳躍した時に辺りを見渡し、マギの目にフェイトに体を一部石化された小太郎とフェイトに狙われているのどかの姿が見えた。その光景が見えた瞬間にマギの行動は早かった。

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビス  来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎 固定 掌握 魔力充填 術式兵装『夜叉紅蓮』!!」

 

 夜叉紅蓮になり、のどかの元へ飛び込んでいき、異形化した右腕を叩きつけてのどかからフェイトを離す。

 

「大丈夫かのどか?」

「ま、マギさん! はい、大丈夫です」

 

 のどかをフェイトから護るように立ちはだかるマギ。

 

「まさかネギ君よりも君が先に来るなんてねマギ・スプリングフィールド」

「てめぇがこの子に手を出すんじゃねえ。この子は俺にとって大事な人だ」

「へぅ……」

 

 堂々と大事な人と言われ、顔を赤くするのどか。

 

「それじゃあ今度は君が僕の相手をするかい?」

「てめぇが所望なら、喜んで相手をしてやるぜ」

 

 今度はグレートソードを影から出して構えるマギ。のどかを狙われ殺意が増しているマギは自制が少々効かない状態であったが

 

「マギさん!」

 

 今度はアスナが駆けつけ、フェイトに向かってハマノツルギを振るうが軽々と避けられてしまう。

 

「マギさんネギは!?」

「まだ合流してない。けどお前が先に来たなら好都合だ! 俺とお前でこいつの相手をするぞ」

「分かったわ!」

 

 魔法を無効化するアスナが来て更に空から剣が何本も降り注いで来て

 

「よお!」

 

 このかを連れたラカンが現れた。

 

「ラカンさん」

「お前らウロチョロするなよ。探すのに時間が掛かっちまったじゃねえか」

「コタロー君半分石になってるやないか! ウチに任せて!」

 

 直ぐにこのかがアーティファクトで小太郎を直ぐに癒す。更に

 

「お兄ちゃん!」

 

 雷の暴風を闇の魔法で纏ったネギが飛んできた。少し遅れて刹那も駆けつけてきた。

 

「新世界最強の傭兵剣士に、英雄の息子の兄弟に新旧世界のお姫様とはこちらも分が悪い。今日はここら辺で失礼するよ。次に会えるのを楽しみにしているよ」

 

 フェイトは数で不利と判断し、この場を退散する事を選んだ。のどかを追跡した水の転移で逃げる積りだ。

 

「フェイト待て!」

「口より手を動かせぼーず」

 

 そう言ってラカンはフェイトに向かって剣を投げ、マギもラカンと同じようにグレートソードを投げる。しかし当たらず、フェイトは転移してしまう。

 

「ちっ逃がしたか……」

 

 舌打ちしたマギはのどかの方を向く。

 

「何でのどかがフェイトに狙われたんだ?」

「その、前から考えていまして、あのフェイトって人の本名が分かれば私のアーティファクトで情報を引き出せると思って」

「そうか。けど、無茶はしないでくれ。のどかがさっきフェイトに襲われてるのを見た時は肝を冷やしたぞ」

「ごめんなさい。私も何かお役に立てたらと思って」

「……ありがとう。まぁのどかが無事でよかったよ」

 

 微笑むマギにのどかも微笑み返す。敵が去った事で緊迫した空気も薄れるがラカンが先程から思案顔だ。

 

「どうしたんですかラカンさん」

「ん? ああ、さっきのフェイトって奴、遠い昔に会ったことがある。俺の記憶が正しければ厄介な相手だぜ」

 

 ラカンが厄介と言う位フェイトは強敵なのだろう。

 

「こりゃあますますアレ(……)の完成を急がないとな」

「ラカンさん、貴方があのフェイトとどういった関係なのか、教えてくれませんか」

「500万」

「こんな時でもお金取るんですか!?」

「だって話してもつまらねえし。別に女でねーし』

 

 詰め寄られても金銭を要求するのは流石という所だろうか。

 

「それよりも、そろそろ動いた方がいいな。俺ら暴れすぎたからアリアドネーの警備隊がそろそろ来るだろう。俺が囮するから皆は早く此処から離れてくれ」

 

 マギが囮になり、他の者は散り散りになって別の場所に合流する事になった。

 大きく飛び跳ね、自分に注目が集まるようにする。見ればアリアドネーの警備隊がマギを捉える。

 

(よし、食いついた。後は軽く煽って離脱を──)

「其処の男止まるです! 周りを巻き込んだ乱闘騒ぎの容疑で拘束させてもらうです!」

 

 アリアドネー警備隊から聞き慣れた声が聞こえた。直ぐにその声の主の元へ跳んだ。マギに近づかれたアリアドネー警備隊の1人は驚きで声が出ない。それは急にマギが跳んできたからではない。

 

「マギさん……!!」

「夕映、何でアリアドネーに!?」

 

 まさかの場面での再会に戸惑うマギと夕映だった。

 

 

 

 

 



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フェイトの正体 英雄の過去

「夕映、まさかアリアドネーの警備隊になっていたなんて」

「マギさん、会いたかったです……!」

 

 漸くマギに会えた事に嬉しさを顕にする夕映。しかし感動の再会に浸れる暇はなかった。

 

「ユエー! どうしたの!?」

「コレット!」

 

 夕映と行動を共にしているコレットが近寄ってくる。

 

「あ、その人がユエの言ってたマギさん? 初めまして! 私コレット! ユエとはルームメイトなんです!」

「あ、あぁどうも。マギ・スプリングフィールドだ」

「スプリングフィールド! やっやっぱりナギの息子なんだ! うわぁ! 英雄の息子とお話してるよ!」

 

 コレットが興奮していると、遠くからエミリィが率いるアリアドネー警備隊が飛んで来た。

 

「こうしちゃいられないです! マギさん急いで逃げてくださいです! アリアドネー警備隊もマギさんが賞金首という事は知れ渡ってるです! 私を攻撃してくださいです! 私が気絶すれば警備隊の動きも鈍るかもしれないです!」

「馬鹿野郎! 大事な人の夕映に攻撃なんか出来るわけねえだろ! むしろ俺に攻撃しろ! やられたフリしてこの場から離脱する!」

 

 俺に攻撃しろとマギが訴える。しかし夕映はマギに攻撃など出来なかった。相手は慕う人、そんな相手を手に掛ける事に躊躇ってしまう。その間にも他の警備隊が刻一刻と近づいて来る。

 

「……ごめんなさいです!!」

 

 迷った末、一番威力の低い雷の魔法をマギに当てる。

 

「ぐぉっ」

 

 直撃したマギは煙を出しながら落ちていく。

 

「あぁ!」

 

 夕映は反射的にマギに手を伸ばそうとするが、マギは目で訴えかける。自分を助けるようなまねをすれば他の警備隊に怪しまれる。そんな危険な橋を夕映に渡ってはほしくないマギは

 

「マギウス・リ・スタト・ザ・ビスト 冥界の地の底よ 断罪の炎 罪深き者の魂ごと焼き尽くせ 黒き炎! 固定 掌握! 術式兵装 冥府の番人!」

 

 冥府の番人になり、地面に墜ちた瞬間に影走りで一気に離脱した。使い勝手が悪いと言っていたが、戦線離脱にはもってこいだと再評価したマギであった。

 マギを見逃す形となった夕映。マギに攻撃し体が未だに震えている。

 

「ユエさん大丈夫ですか!? あぁこんなに震えて……よっぽどさっきの男が凶悪だったのですね!」

 

 エミリィは震える夕映を優しく抱きしめた。夕映が震えるのは恐怖だと思っているようだが、実際はその真逆である。

 

「私がマギさんを……」

 

 マギ本人は気にするなと言ってくれそうだが、当分は引きずってしまいそうであった。

 

 

 

 

 

 

 アリアドネーの追跡もかいくぐったマギはオスティアから離れた場所に隠してるグレート・パル様号に合流する。ネギ達も無事に戻ってきた。しかしハルナと千雨がかすり傷等を負っていた。マギウスも小破しているらしく、茶々丸がメンテナンスをしている。どうやら調という名前のフェイトの部下と衝突し、のどかとハルナと千雨とマギウスが相手をしたのだが、相手のアーティファクトが厄介な代物だったようだ。

 ともあれ無事に皆が集まった所でネギから報告がある。

 

「えーというわけで本日1時をもって僕たち白き翼は世界滅亡を企む謎の組織『完全なる世界』残党と戦う事になってしまいました!!」

『わー!!』

 

 ネギが申し訳なさそうに伝えても3ーAの何時ものノリでイベント事のようだ。あまりの軽さにネギもズッコケそうになる。

 

「ですが、皆さんに相談する前に危険な状況に追い込んでしまいごめんなさい」

 

 ネギの謝罪もネギを慕う者代表としてあやかが前に立つ。

 

「そんなに自分を責めないで下さいネギ先生。私の他に何人かは魔法のことなど何にも知らない者達でしたが、この2ヶ月であらゆる事を体験しました。危険な者と対峙する覚悟は出来ております。私なりに全力でネギ先生や皆さんを支えるつもりですわ」

「それでも皆さんを安全に帰してやると言われたのに」

「あーあんまり気にしないほうがいいさねネギ君」

「そーそー。悪モンの提案なんてこっちが不利になるのがお約束だもんね」

 

 ネギが引きずっている事を和美とハルナは軽く流している。

 

「ですが、朝倉や早乙女さんの言う通りフェイトの思い通りに動かない方が良かったかもしれません。フェイトと対峙した時にあの者が落としたこれを拾いました」

 

 刹那が見せたのは大きく翼を広げた鳥の両翼に天秤のはかりの皿が付いた代物。

 刹那の説明を簡略化すると契約の言葉を魂まで縛り付けて生涯絶対遵守させるといった恐ろしい魔法具。あのままフェイトに屈していたらそれこそ皆を無事に帰す事など出来なくなっていただろう。

 

「つまりアスナの咄嗟の行動がファインプレーになったというわけか」

 

 マギがそう言った瞬間にハルナや和美がやんややんやとアスナをもてはやす。もてはやされてアスナも悪い気はしないもよう。

 

「皆、俺からも報告がある。聞いてくれ」

 

 と今度はマギがアリアドネー警備隊になった夕映と遭遇した事を話した。

 

「そうですか、ゆえがアリアドネ―の警備隊にでも元気そうでよかったです。マギさんに魔法を当てたのはどうかと思うけど……

 

 夕映が無事なのを聞いてホッとするのどか。最後の方は何を言っているのか聞き取れなかったが。

 

「確かあの警備隊になるのって結構エリートな奴じゃないとダメなんじゃなかったけ?」

「ということはユエは私達を裏切ったということかー!」

「ちょっとやめなさいよ。わざと言ってるからって縁起でもない」

 

 和美とハルナがふざけて喚くのをアスナが諌める。

 

「でも綾瀬さんだってあの賞金のリストに載ってたよな? それなのになんで警備隊に入れてるんだ?」

「アリアドネー側で賞金リストを改竄したのかもな。仲のよさそうなルームメイトも出来ていたみたいだからな」

 

 結論で今夕映は危険視する必要はないが、注意はしとこうね位に留めておくことにした。

 今はフェイトの本名+目的を知るのが最優先。のどかのマジックアイテムである『鬼神の童謡』によってフェイトの本名を知ることが出来た。空間に名前を書き出すのどか。フェイトの真の名は……

 

「テルティウム。ラテン語で3番目という意味ですね」

 

 仰々しい名前でも出てくると思いきや、番号を示す名前であった。

 

「3番目ってそれって人の名前なの?」

 

 ハルナの疑問も最もだが

 

「ですが日本でも一と書いてはじめさんとか三郎さんとか呼びますし」

 

 返したネギの言ったこともごもっともだった。

 

「3っていうことは1と2もいるアルか!?」

「下手したら4も5も居るって事やろ……」

「あんなのがいっぱいにいると思うと」

「ぞっとするアルな」

 

 無表情のフェイトの群生をイメージする古菲や小太郎達。

 

「……本当に番号を意味してるんじゃないのか?」

 

 マギがポツリと呟いた事に皆がマギに注目する。

 

「どういう意味だマギ」

「いやな雪姫、俺がフェイトと対峙した時にあいつから感じたのは『本当に人間か』っていうことだ。まるで人ならず者というか」

「それって私みたいなレスか?」

「いや、プールスみたいに後天的なものじゃない。最初から作られた存在というか」

「人造人間? ホムンクルス?」

 

 ハルナがフェイトの正体を予想する。

 

「まぁそういったものと考えてもいいだろう。けどフェイトの正体がどうこうよりもフェイトの目的を知る方が大事だろ? のどかが頑張ってくれたおかげでフェイトの目的を知ることが出来た」

 

 無理をしてまでいどのえにっきでフェイトから情報を入手したのどかを皆が称賛し、さっそくいどのえにっきを見たのだが

 

「うーんこれは、なんとまぁ」

「随分と分かりやすい情報」

「まるで読んでくれって言っているような」

 

 デフォルメされたフェイトが載った絵日記から情報の一部を呼んだ各々の感想はまさにそれだった。親切に分かりやすくなっておりこちらが読むことを想定しているものだった。

 

「続きも読みたいけど、石になっちゃってるからなー」

 

 いどのえにっきはフェイトの石化の魔法によって完全に石になっているためにページを捲ることが出来ない状態になっている。

 もう一度カードに戻したらどうだと誰かが言うが

 

「一回戻してもう一度出すと情報はリセットされちゃうから」

 

 折角の情報が無くなるのは痛手だと思っていると

 

「でも、そこのページ隙間が空いとるで。ナイフでゆっくりとはがせば見れるんとちゃうか?」

 

 小太郎がナイフを隙間に入れてゆっくりと剝がす。しかしあと少しで剝がれそうといった所で

 

「もうここまでいったらべりっていけばいいじゃないまどろっこしいわね」

 

 アスナがページを掴んだ瞬間にぱりんと小気味良い音を出しながら砕け散った。

 

「何やってんねんアスナねーちゃん!」

「アスナさーん!」

「バラバラやん!」

「上げて落とす真似してんじゃねえよ!」

「ひーん! だってぇ!」

 

 皆にブーイングを受けながら砕け散ったページの修復をすることになった。砕け散ったページが無くなっていないか皆で必死に探すのであった。

 

「やれやれだな……雪姫、のどか、千雨、茶々丸いいか? 少し話がある」

「分かった」

「何ですか?」

「随分とシリアス顔だが、何か大事な話でもあるのか」

「では、少し離れた場所に移動しましょう」

 

 雪姫達マギ組を呼んでページを修復しているネギ達から離れた場所でプールス達を保護してくれていたアーチャーと遭遇したこと。そしてアーチャーがマギを殺せるであろう武器を手に入れたこと。そして来る時にアーチャーと決闘する事全てを話した。

 

「正気かよマギさん!? マギさんを殺せるかもしれない武器を手に入れた相手と決闘するなんて、あたしらでそいつをたたんじまった方がいいって!」

「私も千雨さんの意見に賛成です。そのような要注意人物とマギ先生を2人だけで戦わせるわけにはいかせません」

 

 千雨と茶々丸は反対であった。といってもそれはマギが心配であるからだ。しかしのどかと雪姫は

 

「私も千雨さんと茶々丸さんと同じくらい心配です。けど、私はマギさんの気持ちも尊重したいです」

「まぁ私のマギがそんな輩に後れは取らんと信じているが、不死を殺せる武器は数多くある。もしマギが危ない目に会いそうになったら私が助太刀に入ってやる」

 

 まるでマギとアーチャーの決闘の場に雪姫が一緒に居るという発言にのどかがぴくりと反応する。

 

「何でマギさんと一緒に居るのが雪姫さんなんですか? 私だって決闘の時には一緒に居たいのに」

「何、いざという時にマギを助けるならこの中で一番実力がある私が一緒に居るのが当たり前だろう?」

「私だってこの1ヶ月は様々なダンジョンや遺跡に潜ったりしたんです。夏休みの修行の時よりも大きく成長しました」

「だろうな。だが、私は場数が違う。年季が違うんだ。ここは私に譲った方がマギの為かもしれないがな」

「でも雪姫さんっていざという時におっちょこちょいになるんでしょ? 聞きましたよ。マギさんのお父さんに力を封印された時は落とし穴に落とされたって。ドジっ子な人にいざという時は任せられませんよ」

「……言うようになったじゃないかのどか。流石は私が認めた者だ。くふふふふふ」

「どうも、雪姫さんが改めてそう言ってくれてうれしいです。あははは」

 

 互いに目は笑っていない笑みを浮かべるのどかと雪姫に背筋をぞくっとさせるマギと千雨。一方で壊れたページの修復が終わったネギは書かれていたページを見ていたが、ネギにとっては書かれていたら不味いことがあったのか顔を強張らせて読んでいる。

 

「ネギ、何か他の情報がそのページに書いてあったのか?」

 

 のどかと雪姫に日和ったマギがネギの方へ避難した。慌てたネギは折角修復したページをまたくしゃっと丸めてしまった。

 

「う、ううん。フェイトの奴嫌がらせしたかったみたいで大した事は書いてなかったよ」

「あー! なにくしゃって潰してんやネギ! 折角頑張って修復したってのに! どうしてくれんやこのぼけ!!」

 

 慌てて言い訳をするネギにツッコむ小太郎。マギを置いてワーワー騒ぎ出すネギ達。

 

(俺に見せないようにしたのは俺が見ちゃまずい事でも書いてあったのか……)

 

 内容は気になるが、多分話してはくれないだろうと結論づけるマギ。

 すると静観を決め込んで酒を飲んでいたラカンが腰を上げた。

 

「うーしお前ら、ここまで来たらしょうがねー。俺も少しネタバレしてやろう。てきとーに並んですわれ」

 

 そう言ってラカンは懐から一個のフィルムを取り出した。

 

「と言っても今を生きる俺が過去を語るなんて面倒な事はしたくねー。ということで俺様の生きる伝説をフィルムにした! 制作費はネギとマギの給料から差し引いてな!」

「ちょ! ラカンさん!?」

「何処までも勝手だなこの人……」

 

 ネギのツッコミとマギの呆れをスルーして、ラカンはフィルムを映写機にセットする。

 上映が開始されると壮大な音楽と有名な映画のロゴを真似たラカンフィルムとデカデカと現れた。映像編集も出来るとはどれだけ器用なんだとマギが思っていると

 

「ちょ! ラカンさんでっかい!」

「おっさんが真ん中じゃねえか!」

「もっとネギ君とマギさんのお父さんを大きく映してよー!」

「黙って見んかー!」

 

 ラカンがど真ん中に映っておりナギやクウネルや詠春が周りを囲っている絵に皆がブーイングをしている。

 

「いいのかマギ」

「いいって何が?」

「あのバカの、ナギの事を知るのがもしかしたらお前が気にするかと思ってな」

 

 雪姫がマギを心配するが

 

「大丈夫だろ。それに俺自身クソ親父が何をしてたのか気になるしな」

 

 マギ自身ナギが何をしていたのか気になるのもあり、映画を見ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 映画は終わった。簡潔に纏めるならノンフィクションの大スペクタクル映画と言った所だろうか。

 まず最初はナギ達とラカンが戦った所から始まり、ナギとラカンの一騎討ちになり、その後なんやかんやあってラカンが仲間になった。

 その後、ヘラス帝国との戦、その戦にフェイトの組織が噛んでいる。そしてナギ達に協力を求めたのがアリカ王女と呼ばれた1人の女性。

 アリカ王女が現れた瞬間にマギの心が大きくざわついた。

 アリカ王女は帝国と連合の争いを止めようとしたがそれは叶わずナギ達に協力を求めた。と言っても最初の方はナギとアリカ王女の仲はあまり良いというものではなかった。

 時が経つに連れ、『完全なる世界』との繋がりが見え始め、その頃にはアリカ王女もナギに少しずつ心を開いていった。

 だが、敵の繋がりの証拠をナギと協力している議員に持って行ったら青年のようなフェイトが成り代わっており、反逆者に仕立て上げられてしまった。連合からも狙われる事になったナギ達。

 転戦しながらも幽閉されていたアリカ王女を救出。

 そして決戦。ナギ達とフェイトに似た青年とその仲間達との死闘が始まり傷を負いながらも何とかフェイト似の青年を倒すことが出来た。

 追い詰めたのだが、ナギは不意打ちを食らう。しかも特大の魔法を受け止めようとしたラカンの両腕が吹き飛んでしまった。皆が満身創痍になった所で敵の親玉『造物王(ライフメイカー)』が登場した。もはやこれまでなのか。映画を見ていた皆はそう思っていた。だが、ナギは折れてはいなかった。そしてナギが師と仰いでいるゼクトと一緒に造物王に戦いを挑む。

 結果を言うならナギは造物王を倒してしまった。ラカンでも勝てないと思った相手に勝ってしまった事に見ている者も思わず呆然としてしまった。

 しかし造物王が行っていた儀式は完了しており、世界が終わろうとしていた所でアリカ王女、連合と帝国が決戦の場に馳せ参じ、皆の力で世界を救ったのであった。

 そして争いを続けていた連合と帝国は手を取り合いナギ達は世界を救った英雄として讃えられた所で映画は終わった。

 皆は拍手喝采。各々が映画の感想を述べる。

 

「あぁ、ネギ先生のお父様はまさしく英雄でした。そんな方のご子息であるネギ先生と居られるなんて、私は幸せ者ですわ……!」

 

 あやかに至っては感涙の涙をながしている始末。更にネギも感動の涙を流していた。

 しかしマギは

 

「……」

 

 涙を流さず怒りもせず、思案顔を浮かべている。

 

「どうしたマギ。ナギの活躍を見て何か思う事があるんじゃないのか?」

「いや、確かに世界は救われめでたしめでたしって感じだけどさ。何か核心までは到達してないきがするんだけど」

「あたしも思った。おっさん、あんた色々と端折っただろ」

「流石は嬢ちゃんだな」

 

 世界は救われた。しかし、まだ大きな問題が残っているのは事実だった。

 しかしラカンが作った映画はこれだけだったので、ナギの事を知るのはまだまだ先になりそうであったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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命の洗濯

 ナギ達の過去を纏めた映画の上映が終わり、その後直ぐにネギと楓が仮契約を行った。楓がネギと仮契約するという事は、唇と唇を合わせる行為なのだがあやかは猛反対するのだと思いきや

 

「ネギ先生に必要なのは強力な力であり仲間です。戦闘経験もあり忍びである楓さんのフットワークの軽さならば強力なアイテムが出てくるはずですわ。ならばこの場で私情は挟みませんわ」

 

 ……とは言っているが今にも血涙を流しそうなほどに下唇を噛んでいたが。

 早速仮契約をすると一枚のボロ布のようなアーティファクトが出てきたが、実際はボロ布の中に中々に大きい庭付きの家が格納されているというのが楓の談。隠れ家とは楓らしいアーティファクトである。

 そしてその流れで古菲も仮契約をしろとハルナが押すのだが、古菲本人がひよったのと2人連続は許容範囲外だったようで、あやかが暴れそうになったので古菲の仮契約は先送りになったのであった。

 オスティアに戻ってきた時に夜明けになっていた。皆はオスティアで名所になっている温泉施設へと足を運んだ。

 早速脱衣し、浴場に足を運ぶと、眼前には巨大な温泉が幾つもあった。

 先に体を洗い湯に浸かる男衆。程よい湯加減が体を癒やす。

 

「ふぅ~いい湯加減やな」

「朝風呂っていうのもオツなもんだな」

 

 フェイト達との戦闘や映画の上映でクタクタになっていたからか湯が身に沁みる。感嘆な声を上げる男達。

 

「あの映画のお陰でフェイトの目的もあらかた分かったけど」

「今は亜子達を奴隷から解放するのが第一目標だ。今はそれに集中しようぜ」

「けどよ大兄貴……」

「マギ兄ちゃんだってヤバい状況なん理解してるんか?」

「そうだよ。僕もお兄ちゃんが心配だよ」

 

 ネギ達も雪姫を通してだがマギがアーチャーが不死を斬る刀を手に入れた事を聞いており心配していたが

 

「なに、俺は負けるつもりなんてないし、不死身の俺がそう簡単にくたばる事はないさ」

 

 咄嗟に口を押さえてない所を見て本心で言ったのだろう。闇の魔法の修行を終えてからというのもマギは自身の身を顧みない言動や行動が目立ってきた。そんな兄を見てモヤモヤする弟のネギ。しかし根拠はないがマギが大丈夫と言い切るなら信じるしかないのも事実だった。

 微妙な空気になったが、カモがわざとらしく咳払いをして場の空気を切り替えようとした。

 

「ま、まぁ大兄貴を信じて、この話は一旦置いといて折角温泉に来たんだし、ここは一大イベントと洒落込もうじゃないですか!」

「何カモ君一大イベントって?」

 

 ムフフと笑いながら勿論と目を輝かせながら

 

「そりゃ、覗きですぜの・ぞ・き!! こんな大きな温泉に来たんだしやらないなんて勿体ないですぜ」

「アホらし。女の裸見て何が面白いや」

「なっ何言ってるのカモ君。だめだよ僕そんな事しないからね」

「お、面白そうじゃねーな。遠慮しておく。雪姫に〆られたくないし、のどか達に白い目で見られたくないからな」

 

 カモの誘いに小太郎は興味なさげにネギは断りマギは一瞬乗り気だったがすぐに理性が戻って断った。

 誰も乗って来なかったので一匹で行くかとカモは女湯と繋がっていそうな場所を探していると他の入浴客にぶつかってしまった。

 

「あぁすまねえな」

 

 ぶつかってしまった相手はザイツェフ……ではなくチコ☆タンであった。

 

「あんたは……」

「黒い猟犬!!」

「のどか姉ちゃん狙ったちゅう傭兵共か!!」

 

 相手がマギと戦っている相手だと知るとネギと小太郎は臨戦態勢に入るがチコ☆タンはまてまてと慌てながら

 

「こっちには戦う意志はない。だから鉾をおさめてくれ」

「そうそう。俺らは朝風呂浴びに来たんだよ」

「そんなかっかしないで今は温泉を楽しもうよ」

 

 トカゲ男とモルボルグランも一緒に居た。チコ☆タンと一緒に朝風呂を浴びに来たのだろう。だが2人にも戦う意思はない。

 

「落ち着けよお前ら。そんなに気を張るなよ」

 

 マギはチコ☆タン達が報復する気配を全く感じてないためリラックス状態だ。マギが落ち着いている様子を見せているのでネギ達も構えを解いた。

 

「すみません。お兄ちゃんと戦った人達と偶然出会って気が張ってしまいました」

「いやいや気にしてないよ。君らは我々を見逃してくれたからね。それに今はオフだし金にならない事はしない主義なんだ」

「なんや骨の兄ちゃんが風呂に入ってると出汁取ってるみたいやな」

「ガハハハッまた言われたなモルボルグラン!」

「もう何回も言われてるけど未だになれないなぁ……」

 

 ネギと小太郎もチコ☆タン達と世間話をするぐらいに打ち解けたようだ。

 

「そう言えばお前らにあと1人仲間がいたよな? あいつはどうしたんだ?」

「おおそうだそうだ。奴とは話が合いそうと思ったのにいないのか?」

「ん? パイオ・ツゥの事? あいつ女だよ?」

『ええ!?』

 

 チコ☆タンの衝撃発言に驚きを見せるネギとカモ。まさかぶちのめした1人が女であった。

 

「言っとくが俺は謝らないぞ。あいつはのどかやのどかと同行していた人達を辱しめようとしたんだからな」

「まぁパイオ・ツゥは仕事の時も胸の事にこだわるからな。恨まれるのもしょうがない」

 

 チコ☆タンも苦笑いを浮かべるのを見るにパイオ・ツゥの胸への探求心は辟易しているようだ。とその時

 

「きゃあああああ!!」

 

 女湯から悲鳴が上がる。しかも声はのどかのようだった。

 

「パイオ・ツゥの奴またやってるな。あいつ温泉に来ると他の入浴客にちょっかいをかけるからな」

 

 チコ☆タン達は呆れた溜息を吐いているが、この場にはパイオ・ツゥよりもヤバい奴が居る。

 

「……」

 

 マギの顔から表情が消えた。

 

「お、お兄ちゃん?」

 

 ネギはマギに声をかけるがマギからは何の反応もなかったが

 

「────マギウス・リ・スタト・ザ・ビス  来たれ炎の精闇の精 闇よ渦巻け燃え尽くせ地獄の炎 固定 掌握 魔力充填 術式兵装『夜叉紅蓮』」

 

 無機質な声で夜叉紅蓮となったマギは女湯との境目になっている壁を見る。日本の銭湯のように上部の方は空いているのだ。マギは無言でその壁へと走る。

 

「お、おい。幾ら此処の警備が緩いからといっても覗き防止の結界はしっかり貼られているんだぞ!」

 

 チコ☆タンの静止の声を無視しマギは男湯と女湯の境目の空間に異形化した右腕を振り下ろした。右腕が空間に接触した瞬間に結界が展開され、スパークが走る。しかしマギが力を入れると硝子が砕ける音と同時に結界はいとも簡単に砕け散ってしまった。

 マギは最初から結界などなかったかのようにそのまま女湯へと侵入してしまう。

 邪な想いは微塵もなく。マギは女湯へ入ってしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 一方、時は少し戻り女湯。パイオ・ツゥが好き放題していた頃。温泉の一か所にのどか達が入っている。因みに雪姫は一緒に入っていない。理由としては

 

『温泉は興味はあるが、大衆浴場はあまり好みじゃない』

 

 という理由である。他の理由もあるだろうが今はそう言う事にしておこう。

 浴場の岩場に腰掛けて古菲は思案顔を浮かべながら

 

「ちょっといいアルか本屋。話があるアルよ」

「何ですか古菲さん?」

 

 数秒黙ってから真剣な顔で

 

「恋っていうのはどういう感じアルか?」

 

 のどかに恋について問いかける。

 

「なんやくーふぇ恋したん!?」

 

 恋バナに興味津々な感じで顔を輝かせながら詰め寄るこのかにたじたじになりながら古菲は

 

「い、いやまだそこまでいっていないというか……そもそも恋というのがよく分からないというのが本心アル。だからこそ、人を好きになった本屋に聞きたいと思った次第アル。本屋、恋とはどんなものアルか? 人を好きになるとどういう気持ちになるアルか?」

 

 真剣に問いかけるとのどかももじもじしながらもマギを思い浮かべながら

 

「そうですね……恋をするとその人の事を考えると胸がドキドキしてぽかぽかと暖かなるといいますか」

 

 自分の感覚を古菲に伝える。古菲は恋の感覚を聞いてうむむと唸る。

 

「ドキドキ、ぽかぽか……まだよくわからないアル……」

「だったらくーふぇもやって見ればいいんやよ!」

「いや、まだ私には意中の相手は……」

「だったら最初に思い浮かべた人でえーから!」

 

 このかの押し気味に戸惑いながらも古菲は最初に思い浮かべる相手をイメージする。もやもやとしていたシルエットも少しずつ形になる。それは自分が教えている弟子の少年の……

 

「う、うむむ……何か胸にドキドキとした感覚が」

「ホンマ!? それからそれから!?」

 

 興奮気味なこのかに古菲は

 

「……ん? けどこの感覚は、ドキドキというより、もにゅもにゅ?」

「ふむふむ、素晴らしき感触。これは高得点を与えてもいい逸品ネ」

 

 褐色の多腕の少女に背後から胸を揉まれる古菲。気配を感じられず、背後を取られ胸をもまれた事に驚く古菲。のどかも思わず悲鳴を出してしまう。

 

「何奴!?」

 

 素早く回し蹴りを少女に繰り出すが瞬道術で避ける少女。そしてそのまま今度は刹那の背後に周り胸を揉む。

 

「モフフフフ。まだまだ発展途上でありながら将来は有望な物を持ってるね。嗚呼おっぱいに幸あれ」

 

 見た目は少女だが、この少女こそチコ☆タンの仲間であるパイオ・ツゥその人である。パイオ・ツゥはこんどはこのかの胸を堪能してから最後はのどかに狙いをつける。

 

(まさか賞金首の仲間に出会えるとは……そしてあの時に堪能出来なかったあの少女のおっぱいを揉むチャンスネ。ここで思い切り揉みしだいてやるネ)

 

 パイオ・ツゥにこのままのどかの胸も辱しめられてしまうのか。だがその時、上から何かが落ちてきて、のどか達が入っている温泉の湯が弾ける。

 

「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 現れたのはマギであった。マギが自分のピンチにまた助けに来てくれた。のどかの気持ちは高揚するが、今自分の格好を思い出して羞恥の気持ちが大きくなる。それはこのか達も一緒で

 

「きゃあああ!! マギさんここは女湯や! 勝手に入ってきたらダメやえ!」

「……その声はこのかか。心配するななぜなら」

 

 湯気が切れると、マギはタオルを顔面できつく縛り、目隠してしている。しかも下半身は影にあらかじめ収納していたズボンをはいており自分の下半身を見せない徹底ぶり。

 

「覗きはダメだからな。徹底的にしてから来た」

「あぁそういう事なら安心……なわけないやろ! どんなことしても女湯に入るのはダメやって!!」

 

 納得しそうになるが直ぐにツッコミを入れるこのかを無視し、パイオ・ツゥの方を向く。

 

「まさかもう一度のどかを襲うとするとはわな……てめぇのリーダーからお前が女と聞いた時は一瞬罪悪感が生まれたが、のどかを辱しめようとした蛮行。もう一度お灸をすえてやる」

「モフフフフ。まだまだ諦めないネ。けど、ここは逃げるのが得策!」

 

 マギの殺気でパイオ・ツゥは一目散に逃げだす。しかしマギは目隠しをしながらもパイオ・ツゥの後を追う。

 

「な!? 一切の迷いなくこの私を追いかけるとは!」

「てめぇの邪な気配は目隠ししても余裕で感じ取れるんだよ!」

「モフフフフにじみ出てしまったカ。おっぱいに対するあまねく溢れる探求心が!」

「ぬかせ!!」

 

 周りの女性の悲鳴を無視してパイオ・ツゥを追いかけるマギ。ぽつんと残されたのどかは

 

「ああやって私のピンチに颯爽と現れるのも素敵な所……かな」

「いや、あれは」

「ただの心配性じゃないアルか?」

「恋もあそこまで行くと正に恋の病やな」

 

 マギを艶っぽい目で見るのどかにツッコミを入れるこのか達であった。

 同時刻に夕映達アリアドネーの騎士団達も朝風呂に来ていた。エミリィ達は男湯にマギ達が入っているのではという話になって何故か女性が男湯へ侵入する流れになりそうであった。

 そんなわいわい騒いでいる蚊帳の外で夕映は自身のカードを見つめていた。

 

「ユエ。そんなにカードまじまじと見て、やっぱりマギさんに魔法当てたのを気にしてる?」

「はい。マギさんにあの程度の魔法は効かないのは分かっていますが、私がマギさんに剣を向けた事が……」

「だったらさ、今それでマギさんに謝ったらいいじゃない。マギさんだってユエの事を許してくれるって」

「そうでしょうか?」

「そうそう! こういう時は当たって砕けろだよ」

「……はい。そうですね」

 

 数回深呼吸していざ念話をしようとした。

 

「モフフフフ! そう易々と捕まるわけないネ!」

 

 夕映の前をパイオ・ツゥ走り去る。滑りやすい大浴場で走るなんて随分とマナーが悪い子供だと夕映が思っていると

 

「待ててめぇ!!」

 

 その後をマギが追いかけているのを目の当たりにして夕映の頭の中が真っ白になった。

 

「ま、マギ、さん? いったい何をしてるんです?」

 

 殆ど消え入りそうな程小さな声であったが、マギは夕映に気づき目隠しした顔を夕映に向ける。

 

「そこに夕映が居るのか? 聞いてくれ、今逃げた奴がのどかの胸をまさぐろうした不埒者なんだ協力してあいつをとっちめて────」

「バカァァァァァァ!!」

「あばぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 鷹竜に当てた白き雷を割と本気でマギに当ててマギは情けない悲鳴を上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうマギさんたら。のどかの為とはいえ無茶をしすぎです」

「すまん。頭に血が上って周りが見えてなかった」

 

 あの後結局パイオ・ツゥは逃げおおせてしまい、仲間のチコ☆タン達が胸を揉まれた者達に謝罪したという。マギは夕映が秘密裏に逃がしてくれたおかげで他のアリアドネーの騎士団に見つからずに済んだ。

 が現に皆にばれない様にこっそりと夕映から説教を受けるハメになった。と言ってもマギも頭に血が上っていて周りが見えなくなっていたので猛省しているわけだが。

 

「でも私もごめんなさいです。2度もマギさんに魔法を撃ってしまって……」

「夕映が責任を感じることはないさ。最初は俺が逃げるために、2度目は俺がバカな事をしたんだから」

 

 したかった謝罪も結局はマギは気にはしていなかった。沈黙が続く。

 

「さっきの姿。あれは闇の魔法ですよね?」

「あぁ。あの姿は俺が選んだ道だ。皆を護るために手に入れようとした力」

 

 禍々しいそして力強い姿。あの姿を手に入れるためにマギは自身を責めたのだろう。ぎゅっと拳に力をこめる夕映。

 

「私も……私もマギさんや皆の為に強くなりましたです。今は一緒にはいられないです。けど、この力は絶対にマギさんや皆の役に立つです。だから待っていてください」

「……おう。待ってるよ」

 

 マギが微笑むと夕映はその、ともじもじしながら

 

「もし無事に戻ることが出来たら、その時は……マギさんがぎゅっと抱きしめてもらってもいいですか?」

「……あぁ」

 

 マギは夕映の頭を優しく撫でながら

 

「俺も、のどかも、皆が夕映を待ってる。だから無理はしないでな。俺もあんま無理はしないつもりだから」

「はいです!」

 

 夕映は元気よく返事をすると待っているであろうコレット達の元へ急いで戻る。

 

「ユエさん何処に行っていたんですか!? 早く女湯で暴れ回った不埒者を探しますよ!」

「ごめんなさいエミリィ。直ぐに行くです!」

「どうだったユエ? 久しぶりに好きな人とおしゃべり出来て」

「コレット……はい。よかったです」

 

 夕映の表情は先程よりも明るかった。

 やはり風呂は命の洗濯。色々な悩みも一緒に洗い流してくれるものだと夕映はそう思ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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新たな壁は出来るもの

「うううううおおおおおおらああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 雄叫びとともにグレートソードで相手をなぎ倒すマギ(ネギ)

 大会の予選も大詰めでマギと雪姫のペアは最後の予選相手を蹴散らした所である。今日朝風呂を浴びたおかげか頭もスッキリしている。

 

『ネギ選手圧勝!! これでネギ選手と雪姫選手の決勝トーナメント出場が決定しました!!』

 

 喝采に応えて一礼してから戻るマギ。

 

「マギさんお疲れ様! それと決勝進出おめでとう!!」

 

 選手入場口に戻るとタオルを持った亜子が駆けつけてくれた。

 

「おうありがとな」

 

 亜子の労いの言葉を受け取りながらマギは亜子からタオルを(雪姫は特に動いていないから亜子からの気持ちだけを)受け取る。

 

「もう少しで自由の身だ。待っていてくれ」

「はい!」

 

 しかし亜子は心配そうに

 

「でもマギさん大丈夫なん? 決勝トーナメントっていうことは、強い人がいっぱい出場するんやないの?」

「大丈夫大丈夫。俺には雪姫が一緒に居るんだし、それにネギ達も決勝トーナメントに出場するだろうし、俺に何かあったらネギ達に任せるさ」

「随分と後ろ向きな事を言うじゃないか。そこは和泉を安心させる台詞を言う所じゃないのか?」

 

 マギの若干後ろ向き発言に雪姫がツッコミを入れるがマギは不安気味に

 

「なんか変な胸騒ぎを感じてな。この決勝トーナメント……何かありそうだ。ネギ達の試合の後にネギと戦ったカゲタロウが出場するんだが、その相方がシークレットなんだ。絶対何かある」

 

 そう言ってマギはネギ選手からマギに姿を戻すと簡単な変装をする。

 

「観客席で見て見ようぜ。カゲタロウの相方がどんな奴……か」

 

 マギが観客席に向かい、その後を雪姫と亜子が続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぼーず。マギ、てめぇらは確かに強くなった。この短期間で驚くほどにな。成長のスピードならナギも上回るかもな」

 

 上映会の帰りにマギとネギを呼んだラカンがそう言ってくれた。だが直ぐにまだフェイトに及ばないと言われて凹むネギではあるが。しかし直ぐにネギは立て直す。ネギはフェイトがアスナを狙っていると判断した。

 

「まぁそれよりも今は大会に集中しな。大会に優勝出来ねぇようじゃフェイトには勝てねえだろうからな」

「はい……」

「そうだな。俺達が今やらなければならないのは亜子達を解放する事だ」

「もっとも、今のお前らならどっちでも大会優勝は確実だろうけどな。ということでへい千雨君頼むぜ」

「なんであたしがアンタの助手みたいな扱い何だよ」

 

 待機していたらしい千雨がぶつくさ文句を言いながら黒板を転がしてきた。

 

「久々に俺式強さ表で解説してやろう!」

「あ、懐かしいですね」

 

 最初に書いたのはカゲタロウ。そしてネギはラカンの元で修行したことによって基礎能力はカゲタロウと同等かそれ以上になった。そして闇モード使用で出力は50%アップ。闇の魔法を発動する事によってさらに倍の2200にまで上がるとのことだった。前の自分よりも4倍の強さに喜ぶがフェイトはそれよりも強いと書かれてそのまま落ち込むのであった。完全にぬか喜びである。それでも力量差は闇の魔法の術式兵装を効率よく行えば差を埋めることができるのではないかというのがラカンの談ではあるが

 

「それでも奴のモノホンの力はもっと高いと俺は読んでいるがな」

「む……」

 

 そう簡単にフェイトと力量の差は埋められない事を知り現実を思い知らされるネギであった。

 

「おいおっさん。ネギ先生の事は分かったが、マギさんの力はどのぐらいになったんだよ」

「おおマギが、マギは俺から見てな……」

 

 そう言ってラカンが書いたマギの力は

 リョウメンスクナよりも更に上であり、ラカンよりも少し下位の所であった。しかもフェイトと同列かそれよりも少し上というかなりの上昇ぶりである。

 

「まじかよマギさんもかなり強くなってるじゃねーか! しかもフェイトと同列って」

「まぁマギはかなり強くなった。下手したら俺ら『紅き翼』と同じくらいにな。だが……それは万全の状態だった時の場合だ」

「どういうことだよ」

「簡単だ。今のマギはかなり不安定だ。修行の時に無理して闇の魔法を改めてものにしたからな。かなりの高火力は出るがその反面メンタルがグラグラだ。下手に陥るとかなり弱体化する。その理由はマギも分かってるだろ?」

「ああ。俺が思わず衝動的に発言してしまう所も闇の魔法を制ししきれていない証拠だ」

「お兄ちゃん…………」

 

 悔しげに拳を震わせるマギ。そんなマギを見てふっとラカンは笑いながら

 

「仕方ねえな。悩める若人を導いてやるのも人生の先輩ってな。ありきたりだが大切な事を教えてやろう。いいか、戦いにて大事なのは? 敵を圧倒できる力? 戦い方を編み出す頭脳? どっちも大事だ。が、最も大事なのはここだ」

 

 ラカンはマギの胸に手を当てる。

 

「心が折れちまったらどんなに強いやつでさえ使い物にならなくなる。まぁ俺やナギはそういうことは一切なかったがな」

「だろうな。ラカンさんやクソ親父にはそんなイメージは一切わかないけどな」

「心を強く持てばお前の闇の魔法はだいじょぶだろ。それに今回の大会はイレギュラーがなければ楽勝だろ。よっぽどの珍事がなければ……な」

 

 そう言って笑うラカン。その笑みは特に印象的であった。時は今に戻る。

 

「どうしたマギ、急に黙って」

「いやさ、ラカンさんが言ってた事を思い出してな。案外カゲタロウの相方はそのラカンさんだったりしてな」

「そんな軽く言っとるけど大丈夫なん?」

「どうなんだろうな……まぁ、その時はその時でやるしかないかな」

 

 などと話している間に観客席に到着したのであった。

 

 

 

 

『紅き翼! 千の刃のジャック・ラカ────ン!!』

 

 口は災いの元とはよく言うがもし過去に戻れるのなら少し戻って軽率な発言をした自分を軽く締めてやりたいと思ったマギ。カゲタロウの相方はまさかのラカンでマギと同じく観客席に居るネギと小太郎そして周りの観客も驚きで声が出ない様子だ。

 ラカンは出鱈目な力で対戦相手を秒で地面に沈めて完勝してしまった。

 

「どういう事やネギ!? なんであのおっさんが選手で出場しとるんや!?」

「ぼ、僕にも何がなんだか!!」

 

 小太郎に詰め寄られるがネギも未だに困惑している。

 

「落ち着けよ。今はラカンさんが戻った控室に行ってみようぜ」

 

 と纏め上げたマギの顔にも一筋の冷や汗が流れる。早速控室に向かうマギ一行。途中で千雨とあやかと合流するが、2人も試合を見ていたようでラカンの出場に驚きと焦りの表情を浮かべていた。そしてネギが控室のドアを開けるとラカンとカゲタロウが祝勝の酒を飲もうとしている最中であった。

 

「どういうことなんですかラカンさん!? なんで貴方がカゲタロウさんと」

「ああカゲなぁ、お前が腕切られて気失ってた時に話してみたら気が合ってな! カゲが大会出るって事でな俺も出ようって思ったんだよ」

「なんですかそれ聞いてないですよ!!」

 

 マギはカゲタロウとラカンが繋がっている事は知っていたがネギは知らされていないので抗議する。

 

「それに何でラカンさんが大会に出場してるんですか。今朝は今回の大会は楽勝だって言ってたのに」

「俺が出ないとは言ってないし〜」

「ああ言えばこう言うおっさんだな……」

 

 とぼけるラカンを白い目で見る千雨。

 

「そうか! あれやな! 師匠が弟子へ向けての最終試験的な」

「おお漫画やアニメでよくあるパターンか」

「いやぁどうかぁ? ラカンさんがそんな殊勝な心意気を持ってるとは思えないんだけどな……」

 

 小太郎と千雨が勝手に納得する。しかしラカンが弟子思いな男ではないだろうと思うマギ。

 

「で、ではもしラカンさんが優勝することがあっても賞金はこちらに渡していただけるのですね?」

「あ゛〜ん? 何ふざけた事いってんだ? 俺が優勝したら賞金は俺のもんに決まってるだろ!!」

 

 あやかの言ってことはあまりにも虫が良すぎることであった。これにはラカンも面白くないだろう。

 

「まぁ落ち着いて話を聞けやぼーず。てめぇはあのフェイトと決着を着けたいんじゃないのか?」

 

 フェイトの名を聞いてネギも落ち着きを取り戻した。

 

「俺様とナギは永遠のライバル。負けはしたもののフェイトとナギは同格。てことはどういったもんかというと……俺の登場にぎゃーぎゃー喚く奴がフェイトをどうにか出来るのか? ましてやナギに追いつく事が出来るか?」

「で、でもフェイトとラカンさんは違います! ラカンさんは別次元の強さで父さんとは……」

 

 呆れた溜息を吐くラカン。

 

「なーにが別次元だ。何も違わねぇよ。まったく何も見えてねぇな我が弟子は。ぼーずてめぇは『本物の強さ』がほしかったんだろ」

 

 本物の強さ。その言葉を聞いてネギも口を閉ざす。

 

「フェイト、エヴァ、それにナギとそこに居るマギ。そして俺がその舞台への扉だぼーず」

「で、でもラカンさんそうは言っても……」

 

 ネギにとってもラカンと戦えるのは滅多にない機会だとは分かってる。しかしもしもの事があってラカンが優勝する事になれば賞金はラカンのものにそうなっては元も子もない。ネギはラカンを説得しようとするが

 

「御託はいい。戦ろうぜネギ」

 

 今までにない獣のような獰猛な笑みを見せネギを圧倒してしまった。

 

 

 

 

 

「あのー……なーんか俺だけ蚊帳の外な感じなんだけど」

 

 完全にラカンとネギが戦う流れになっていた。

 

「あー? ……いいや別にお前とは」

 

 さっきまで獰猛な笑みを浮かべていたのにマギが話しかけた瞬間に興味が失せたかのようにそっぽを向いて耳をほじり出した。

 雑な感じで相手をされて流石のマギもカチンと来た。

 

「なんだよラカンさん。さっきは俺も本物の強さってカテゴライズしてたじゃないか」

「したよ。確かにお前の強さは俺らレベルだ。だが朝にも言ったがお前の精神はブレブレだ。万全のお前と戦えないのは正直つまらねえしよ。だったらナギや伸び代があるネギと戦った方が面白えよ」

 

 お前は眼中にないと回りくどく言われた気がした。弟のネギと比べたられるのはまだいい。だがナギと比べられるのは我慢ならんと腹の奥底で黒い感情がグツグツと煮える感覚があった。そのまま爆発しそうになるが、何とか耐える。

 

「──―成るほど、な。要するにあんたはビビってるわけか」

「……へえ?」

 

 マギは笑みを浮かべる。しかしその笑みは日和った子供が見せるぎこちない笑みと同じだった。対するラカンはマギの言葉に特に反応を見せる事なくにやにやと笑う。

 

「ラカンさんは言ったな。俺の強さはあんたらレベルだって。もし英雄の仲間で最強と謡われたあんたが只の英雄の息子にやられちゃったら面子が丸潰れだよなあ」

「悪いが俺に安い挑発は効かないぜ。言いたい事があるなら全部吐いちまいな」

 

 ラカンはマギに続きを促す。

 

「そうだ。俺は自分の、心の不安定さを気にしてた。何かあった時はネギ達に任せようと後ろ向きな考えだった。けど、ラカンさんが俺に全くの眼中にないという事を今知って俺の今の気持ちは単純だが、むかつきと悔しさだ」

 

 ぎゅっと拳を握る。少しずつマギから魔力が溢れだす。マギの異常な魔力の上昇にネギや小太郎に千雨やあやかはびびっているが、雪姫カゲタロウは特に気にしておらず、ラカンはニヤリと楽し気に笑う。

 

「ああ……もう誰かに後の事を任せるなんて後ろ向きな考えは止めだ。ラカンさん言ったな俺がその舞台への扉だって。だったらその役目は俺がやってやるよ。いや、ネギが舞台に上るかなんてもうどうでもいい」

「俺がラカンさんやネギを喰らって俺の強さの糧にしてやる。優勝するのはこの俺だ」

 

 マギが魔力を解放した瞬間空気が揺れた。ラカンとカゲタロウワイングラスとボトルが砕け散り、部屋の窓ガラスも割れた。さらに周りでも悲鳴が上がる。どうやらマギの魔力で周りにも何かしらの被害が出てしまったようだ。

 マギの実質的な宣戦布告にラカンは

 

「……いいねぇ。やっとらしい顔になってきたじゃねえか──―マギ

 

 さっきのネギの時よりも愉しそうに笑みを深めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ。さっきの揺れ何だったんだろうね。結構揺れたね」

「そう、です……ね」

 

 闘技場の外にいたコレットと夕映も揺れを感じていた。夕映だけは揺れの正体を分かっていた。

 

(今の魔力の感じはマギさん? あの人に何かあったです……?)

 

 出来る事ならマギの元へ行きたいが、今は行くことが出来ない自分の立場に歯嚙みしていると

 

「いやーまさかジャック・ラカンが出場するなんてね。会場大騒ぎだった! そろそろトーナメント表が出来上がったみたいだから見て見ようよ!」

 

 コレットがそう言うので早速出来上がったトーナメント表を見て見ると

 

(ネギ先生とコタロー君はここのブロックですね。順調に行けば決勝戦までマギさんと当たらないみたいです)

 

 では肝心のマギは何処だろうと探し見つけた。しかしある人物を見て夕映の思考は暫し止まる。何故かそれは

 

「うっそ! マギさん順調に行けば準決勝でジャック・ラカンと戦うじゃん!!」

 

 コレットは驚きの声を上げる。周りの者達もジャック・ラカンと英雄の息子が戦う光景が見れると先の事なのに興奮鳴り止まない状態だ。

 

「あぁ! まさか千の刃のジャック・ラカンとナギ様のご子息であるネギ・スプリングフィールドという世紀の一戦がこの年に行われるなんて!! これはどちらを応援すればいいのでしょう! やはりナギ様のご子息であるネギ選手を……」

「お嬢様、英雄のご子息も魅力的かと思われますが、ジャック・ラカン様も大変魅力的です。何故なら──―」

 

 

 ナギのファンであるエミリィはマギを応援するつもりだが、彼女の使いの者であるベアトリクスがラカンについて力説し始めた。隠れファンだったようでいつもは無口な彼女の饒舌な語りにエミリィも若干引き気味である。

 

「大丈夫かなー。超有名人が相手になるなんて。ジャック・ラカンが出場するって分かってジャック・ラカンに客が持ってかれてるし」

 

 ラカンが出場してネギ派ナギ派に続いてラカン派が現れて少しずつラカン派に流れているようだ。賭けのオッズも1位はラカン、2位にネギ、3位にナギと大きく変わったようだ。

 コレットは心配そうに夕映に尋ねるが

 

「……大丈夫です」

 

 夕映は心配はしていない様子。

 

「マギさんは絶対に勝ちます。私はマギさんを信じてるです」

「そっか。それじゃあ大丈夫だね」

 

 夕映が信じているなら大丈夫なんだろうとコレットもそれ以上は何も言わなかった。

 こうして決勝トーナメントは大波乱が起こりそうであった。

 

 

 

 



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Training Sparring! Sparking!!

 ラカンそれにネギに宣戦布告をしたマギ。

 その後一旦闘技場から離れたマギ一行。落ち着いた所でオスティアの恥にてネギに頭を下げるマギ。

 

「すまん。ラカンさんは兎も角お前にまで喧嘩売るような真似しちまった」

「大丈夫だよお兄ちゃん。ああいう風に言われたらね」

「もうしゃあないわな。あんま気にすんなマギ兄ちゃん」

 

 ネギと小太郎は気にはしていない様子だったが

 

「呑気にしてられないぞマギさん。おっさんが出場するなんてかなりヤバいだろう」

「千雨嬢ちゃんの言う通りだ。ただでさえフェイトや敵組織の問題だってあるのに問題を増やしやがって!」

 

 

 千雨とカモはラカン出場を危惧してる。

 

「俺とプールスとあやかの嬢ちゃんでジャック・ラカンの弱点がないか調べるために図書館で調べてきた」

「そうだったか。ありがとなプールス」

「ハイレス!」

 

 マギに褒められ嬉しそうにする。しかしほのぼのとした空気はすぐに終わる。

 

「あんまりいい話じゃないから心して聞いてほしいでさ……こっちの世界では魔法使いの方が戦果が大きいのが普通なんですが、あのおっさんはそういった常識はあてはまらない」

 

 ラカンの戦果を纏めると

 先の大戦で沈めた艦の数は137隻。数だけならナギを上回るらしい。

 他にも9体の鬼神相手に素手で戦いを挑んだといった逸話は事欠かないらしい。更に驚く事に

 

「兄貴と大兄貴、帝都の守護聖獣古龍・龍樹は見ましたかい?」

「ああ見たぞ」

「なんか物凄く強いらしいねあの怪獣」

 

 式典で帝都の象徴とも言える神々しくも豪然たる姿を見せた龍樹。それも当然で古龍は最強種と謳われる存在で、マギの隣に居る雪姫と同格の存在である。

 

「その怪獣は雪姫お姉ちゃんと同じ位強いんレス?」

「そう言われてるらしいな。まぁデカいだけの古龍と私が同じと言われるのは気に食わんがな」

 

 ちなみに雪姫は同格とは思ってはいないようだ。

 

「そんな古龍とあのおっさんは引き分けになって以来友達とかなんとか……」

「ええ!?」

 

 あまりのとんでも情報にネギも大声で驚いた。

 流石の規格外過ぎて嘘なんじゃないかと言いたいが、あながち嘘ではないと決定づける出来事があった。

 このかから聞いたが、ラカンとこのかが一緒に居た時にフェイトの仲間に襲われたらしい。しかも敵のアーティファクトが無限に広がる空間でそこに閉じ込められていたのを気合で破壊したという理不尽な手段だったらしい。

 そして千雨もラカンに強さがどれ位なのか聞き

 

「1万2千。それがあのおっさんの強さらしい」

 

 あまりのぶっ飛び具合に言葉も出なくなる。

 

「でも、マギ兄ちゃんはおっさんよりも少し下位なんやろ?」

 

 ラカンは早朝にマギとネギに呼ばれた時に強さ表を見せてもらいその時にマギの強さの位置はラカンよりも少し下であった。

 

「ああ。その後おっさんに正確な数値を聞いたが1万ジャスト。それがマギさんの強さ。おっさんとは2千と埋められない差ではないだろうが」

「さっきラカンさんに宣戦布告してからずっと心がざわついてる。こんなにも心が乱れるなんて……正直言って今の俺は万全の状態じゃあない。しかも俺の方がラカンさんと先に当たる。この状態の俺で勝てるかどうか……」

 

 マギは自分の状況を危惧してる。何かあってもおかしくない。

 完全にお通夜モードの空気の悪さ。そんな空気の悪さの中で2回手を叩く音が響き渡る。あやかである。

 

「皆さん。何故始まる前から諦める空気になっているんですか? 勝負はまだ始まっていないのですよ」

「そうは言うがあやかさんだっておっさんの規格外の強さは目の当たりにしてるだろ?」

「あら? 千雨さんはネギ先生とマギ先生が身を削る修行をし乗り越えたのを見ているのにお二人を信じる事が出来ませんの? そこのコタロー君も幾らか強くなっていますでしょうし」

「おい、何で俺だけそんなぞんざいな扱いなんや」

 

 それでもあやかはネギやマギの勝利を信じている。1人でも信じてくれる者がいるだけで少しは気持ちが救われるものである。

 

「……」

「どうしたネギ。難しい顔をして」

「お兄ちゃん、皆さんちょっと来てくれませんか? 見せたいものがあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 ネギに着いていき、オスティアが離れた浮遊してる岩礁地帯。何故こんな場所に連れてきたのか。それはあまりに威力が大きく、オスティア周辺には軍隊もいるので大騒ぎになるのは避けたいからとネギは言った。

 ネギが見せたいもの。それはラカンと一緒に完成させるつもりだった新呪文。

 その名は千の雷。ネギの放った巨大な雷は100mを超える巨岩は熱されたバターのように溶けて吹き飛んでいた。

 

「凄まじいですわネギ先生! これほどまでに強い魔法を使えるようになりましてあやかは感激しております!!」

「流石は兄貴でさ! これを使えるならあのラカンだって目じゃねえでさ!」

「何いってんや。威力が高くても詠唱が長ければ意味ないやろ。狙ってくだいって言ってるもんや」

 

 あやかやカモが称賛するが小太郎は冷静に今の千の雷の欠点を指摘する。ネギも小太郎が言っている事は分かっている。ネギが目指しているのは千の雷をラカンに当てるのではなく

 

「そうか。闇の魔法で」

 

 千雨はネギの目的を理解したようだ。

 

「そうです。闇の魔法・術式兵装。本来千の雷は対軍勢用の広範囲呪文で、使用される魔力は直線的に放出される雷の暴風の10倍以上。これを自身に装填すればあるいは……」

 

 単純計算でもかなりのパワーアップである。これは勝ち目があるのではないかと先程のお通夜モードも払拭さるかと思いきや

 

「「無理だな」」

 

 今まで黙っていた雪姫ともう1人の声がすっぱりを言い切った。

 

「ふふ、『こんな事では勝てない』と自分の顔に書いてあるぞ。自身が信じきれていないコトを仲間に賛同してもらって安心を得ようなどとは」

「あ、あなたは!?」

「図星か? ぼーや。ククク、いいぞいいぞ。そういう卑屈な行動も嫌いではない。もっとも相手があのラカンならば仕方ない。もはやあのアホはもはや存在そのものが反則のようなものだからな」

 

 ネギに闇の魔法の修行をつけてくれたエヴァンジェリンの幻影が不敵な笑みを浮かべながらの登場だ。

 

「ま、師匠!!」

「エッエヴァンジェリン……さん! けどなんでやなんでエヴァンジェリンさんがもう1人おるんや!?」

 

 急に現れたエヴァンジェリンの幻影に驚きを顕にするネギと小太郎。

 

「ぼーやに闇の魔法の相手をしていた私の幻影か。裸にボロ布切れ一枚とは、我ながらみすぼらしい格好だな」

「おい。何で本物の私が居るんだ? これじゃあ私のキャラが薄くなってしまうじゃないか」

 

 雪姫は自身の幻影を白い目で見てエヴァンジェリンの幻影も雪姫に文句を垂れる。キャラが薄まるといったメタい事を言って空気がぐだぐだになりそうになるのを切り替えるエヴァンジェリンの幻影。

 

「どうするぼーや。あんなアホを相手にする方が愚かだ。今回は諦めたらどうだ? 私も軽蔑はせんぞ」

 

 それにとエヴァンジェリンの幻影はマギの方を向く。

 

「ぼーやの兄であるマギ、貴様もだ。どうやらあのアホと同等の力を身に着けたようだがそれでも貴様のメンタルの力ではあいつには勝てないぞ。本物の私だってそれぐらいは分かっているだろう?」

 

 しんと沈黙が続く。しかし雪姫は自身の幻影の言ったことを一蹴するかのように不敵に笑う。

 

「幻影の私はぼーやの修行を見たくせに何も分かっていないな。ぼーやはうじうじ悩むくせに一度決めたら突き進む頑固者だ。それはマギも一緒だ」

「そういう事や幻のエヴァンジェリンさん。折角の忠告悪いけどな」

「師匠、僕は逃げる訳にはいきません」

「俺なんかネギとラカンさんに宣戦布告しちゃったし、ビビって尻尾巻いたら格好つかないしさ」

 

 呆れたように溜息を吐きながら片目でマギ達を見るエヴァンジェリンの幻影。

 

「だが万の一つも勝てんぞ。あのアホは何も考えていない。無意味な勝負だ」

「はい。でも……ラカンさんは漸く1人の男として僕を見てくれました。だったら僕は逃げません」

「ふ、そうか。だったらもう何も言わん。精々足掻けばいいさ」

 

 ネギが逃げる積もりはないと分かるとエヴァンジェリンの幻影ももう言う事はないだろう。

 話は変わるが

 

「何故幻の師匠がここに居るんですか?」

 

 幻影のエヴァンジェリンが独り歩きしていることにも驚きだが、何故ここに来たのかネギが聞こうとすると

 

「それは主らの修行を手伝いに来たのじゃ」

 

 今度は聞き慣れない女性の声が聞こえ、声が聞こえた方を見ると子供の姿に変わりケモミミを被ったこのかとのどかにアスナとまき絵に祐奈と彼女らの護衛のために居たマギウス。そして角が生えた褐色の美女が居た。

 

「主らがネギとマギか。メンコイ子に中々にいい男じゃな」

 

 褐色の美女はマギとネギを物色していると

 

「ネギくーん!! うわーい! 会いたかった!!」

「うぷ! まき絵さん。無事で何よりです。ゆーなさんも」

 

 感極まったまき絵が再会のハグをネギとする。

 

「ゆーなさんもご無事でなによりですわ」

「いやーいいんちょも変わりないようだねー! それよりもさっき凄い雷がなってたけどまさかあれもネギ君の魔法だったりするの?」

 

 祐奈が質問しようとすると

 

「千の雷。電撃系では最大規模の大呪文じゃな。サウザンドマスター。すなわちそなたの父君得意の古代語呪文じゃった」

 

 褐色の美女は纏っていたマントを脱ぐと中々に攻めた格好の装束を着込んでいた。あまりの際どさにプールスには早いと思ったマギはプールスの目を手で隠す。

 色々と詳しく説明する美女が何者なのか訪ねようとするが、ネギがナギの息子だと改めて知ったまき絵と祐奈がわちゃわちゃとネギに質問攻めしたりネギに杖に跨って飛んでほしいと懇願されたりした。

 

「それよりあんたは誰なんだ? どこかで見たことあると思ったんだがな」

 

 千雨は褐色美女を何処かで見ており思い出そうとするが先に祐奈が

 

「そうだった! この人の正体を聞いて驚かないでよ!! なんとこの人はヘラス帝国第三皇女テオドラ様だよ!!」

「テオで良いぞ」

 

 帝国の第三皇女のテオドラだった。確かにラカンが見せてくれた映画に彼女は出てきていた。その時はまだじゃじゃ馬娘と映画の中のラカンが言っていたように幼い少女であった。

 ラカンがどういう風に自分の説明をしたのか気になるテオドラだが、マギとネギの方を見て申し訳なさそうに

 

「マギにネギよ、妾はナギやアリカとは友人じゃった。じゃが、妾はアリカ達に何もしてやらなんだな。許せ」

 

 謝罪するがネギにからしたら何の話か見えてこない。

 

「あの何の話なんでしょうか?」

「ウヌ? ……まさかラカンから何も聞かされておらなんだか? いや! なんでもない。忘れるのじゃ」

「えちょ、待ってください! 今の話は」

「ネギ、忘れろって皇女様が言ってるなら今は忘れて置こうぜ」

「でも!」

「ワーハッハッハ!!」

 

 ネギが納得していないと暑苦しい男の高笑いが轟く。

 

「いよぉ! お前らがマギとネギかぁ!? 確かにどっちもまだまだガキだなぁ! とう!!」

 

 中々に高そうな単車を乗った変な髪型の男が単車から飛び乗り着地する。

 

「おうおうおう! 俺様はケチな政治屋やってるリカードってもんよはっはぁ!!」

「随分と暑苦しい自己紹介だな」

 

 あまりの暑苦しさに千雨が呆れた声を上げていると

 

「ふふ、その男の暑苦しさは昔からね」

「おう!?」

「さらに誰!?」

「セラスよ。よろしく」

 

 箒に乗ったアリアドネーの総長であるセラスも優雅に箒から降りて自己紹介をする。

 

「まさかメガロメセンブリアの元老院議員にアリアドネー騎士団総長が揃い踏みとはな。ってアリアドネーの総長って事は夕映が今お世話になってる人か」

「初めましてマギ君ネギ君。貴方達の教え子のユエさんはとても優秀よ。このまま騎士団にスカウトしたいぐらい」

「それは嬉しい事を聞きましたが、俺達の大事な生徒であり仲間です。時が来たら俺達と帰るのでそのつもりで」

「あら残念ね。さて世間話はこれぐらいで。私達は貴方達のお父さん達にはお世話になったのよ」

「ヌァハッハッハ! ナギのアホとラカンのバカとは酒飲みの腐れ縁よ!」

「は、はぁ」

「クソ親父と貴方達が」

 

 マギがナギをクソ親父と呼んでほんとにクソ親父って呼んでるんだなとリカードは愉快そうに笑うと

 

「さて、本題だが。お前らはあのラカンを相手にするわけだな。再度聞くが生半可な覚悟じゃ負けるぞ。それでも挑むんだな」

「はい。もう決めたことなので」

「逃げるなんて格好がつかない事はしないって決めたからな」

 

 マギとネギは逃げないと目が語っているのを見て気に入ったとリカードは高笑いを上げる。

 

「俺達が修行を見てやる。ラカンの野郎がナギ以外の奴に負ける姿を見てぇしな! 光栄に思えよ魔法世界でも5本の指に入る教官の元で稽古をつけてもらえるんだぞぉ!」

 

 リカードが言っている事は嘘じゃあないだろう。雰囲気からして彼は強者だというのはひしひしと伝わる。しかし

 

「悪いが俺は辞退するよ」

 

 マギはリカード達の修行を辞退すると言った。これにはリカードやセラスそしてテオドラも驚きを見せる。

 

「なにィ!? マギお前は準決勝でラカンに当たるんだろ!? 俺らが修行を見ればもっと強くなれるってのに!!」

「お気遣いありがとうリカードさん。けど、俺には雪姫っていう師匠がいるから」

 

 マギは雪姫の方を見る。雪姫も満更でもないと微笑みを浮かべる。

 

「雪姫ぇ? というかさっきから余裕そうに佇むそいつは誰なんだ?」

 

 リカードが訝しげに雪姫をまじまじ見ると幻影のエヴァンジェリンが呆れた様に息を吐きながら

 

「間抜け。そいつは正真正銘本物の私だ」

「なにぃ!? 本物のエヴァンジェリンだとぉ!? エヴァンジェリンはナギが力を封印してあっちの世界の日本って国の学校に閉じ込めてたはずだろ!?」

「あ、その封印は俺が解きました」

「なんとまぁ。ナギがかけた封印を息子のマギが解くとはのう」

「流石はあの人の息子と言った所かしら」

 

 

 驚くリカードとテオドラ、感心するセラスと反応はそれぞれだが

 

「まさか雪姫を捕縛しようとは思いませんよね? もしそうなら抵抗させていただく所存だ」

 

 マギはグレートソードを構えて抵抗の姿勢を見せるが

 

「いや止めとくぜ! 流石に力を全力で出せるであろうエヴァンジェリンの相手なんか無理に決まってるだろう!」

「そうね。彼女と対するなら軍隊を呼ばないと勝てそうにないわ。それに」

「今は頼もしいナイト殿に護られておるようじゃしの」

「おい私は別にお前達とは友人でもなんでもないからからかわれてもムカつくだけだぞ」

「まったくナギの次はその息子とはな。本物の私は随分と節操がないみたいだな」

「ふん、残念だったな。巻物に封じ込められていたカビ臭い幻に言われてもどうってことないぞ」

 

 雪姫の挑発に殺気を高める幻影のエヴァンジェリン。強さは雪姫と同等なため、ぶつかったら最終決戦と化すだろう。

 なんとか2人を宥める事に成功する。

 

「ナギの息子の1人を見てやれないのが残念だが、ガキ2人を徹底的に鍛えてやるぜ! 其処のガキがネギの相棒だな!? お前は俺が重点的に見てやるぜ!!」

「お、おう」

 

 指を指された小太郎はまだリカードの熱さについて行けずたじろいでいる。

 こうしてリカードが基本的な体術をセラスがネギの千の雷を完成させる手助けを。テオドラは全体の総指揮と修行の場を設けてくれた。

 テオドラが持ってきたのは雪姫が持っている別荘と似たダイラオマ。その中では3日を30まで濃縮出来る。これでネギと小太郎の修行を行おうとの事だった。

 

「それでエヴァンジェリン……じゃなくて雪姫だったか!? お前さんはどういう修行をするんだ!?」

「やかましい。喚かなくともすぐに用意する」

 

 リカードに急かされて鬱陶しがりながらも雪姫は自身の影からテオドラが用意したダイラオマと似たような物を出した。中には古戦場が広がっていた。

 

「雪姫これは?」

「これは……『虚無の箱庭』だ」

 

 虚無の箱庭。そういった瞬間にリカード、セラス、テオドラも目を開いて息を呑む。

 

「虚無の箱庭って、随分とたいそれた名前だな。それでこれってテオドラ様が持ってきたものとどれほど時間の流れが違うんだ?」

「ない」

 

 きっぱりとないと言い切った雪姫を見て首を傾げるマギ。

 

「言葉の通りだ。この虚無の箱庭には時間の概念がない(………………)。この中で体感する時間は私でも分からない。外と同じ1日かもしれない。それか10日、1ヶ月、1年10年……100年かもしれない、空虚とも言える空間が広がっている」

「おい、雪姫さん。まさか……」

 

 千雨は雪姫が何をするのか分かり、冷や汗が止まらなくなる。

 

「マギは試合以外はこの中で私と延々と戦ってもらい、精神的な不安定さを強制的に無くし、ラカンと戦えるようにする」

「おいちょっと待て! 雪姫さん、いやエヴァンジェリン!!」

 

 千雨は雪姫呼びではなくエヴァンジェリンを呼び捨てで叫ぶ。それほどまでにキレているのだ。

 

「黙って聞いてればあんたがやろうとしてるのは終わりのない無間地獄であんたに殺され続けるってことだろ!? 無理矢理戦い続けてメンタルを矯正させるなんてそんなの……洗脳と大差ないじゃないか!!」

 

 肩で息をする千雨。皆も思っている事は一緒だ。雪姫が行おうとしている事は正気の沙汰でない修行だということを

 

「長谷川。貴様が言っている事は正しい。終わりのない空間で戦い続けるというのは常人なら発狂することだろう。だが、マギは私と同じ不死身の存在。時から逸脱した存在なら可能な修行だ」

「は、はぁ!? エヴァンジェリンと同じ不死身だとぉ!? 俺達はラカンからそんなこと聞いてないぞ!!」

「ああ、本当です……ほら」

 

 マギは親指を軽く噛んで血を出し、逆再生のように傷が塞がる所を見せた。

 

「まじか。ナギの息子が不死身だなんて世間が知ったら大騒ぎのニュースじゃねえか」

「まぁなるようになったとしか言いようがないんですけどね……けど、ラカンさんの強さは分かってるあの人の強さは正に非常識だ。だったら俺も非常識なやり方で強くならないと、あの人には勝てない」

「マギさん……! だったらあたしも」

「長谷川、入る事は勧めんぞ。常人が入ったら体が耐えきれず消滅するとも言われている。それにもし100年も時間が経つものならお前は老衰で死ぬぞ。プールスも駄目だからな」

「ハイレス……」

 

 人からスライムへと改造されてしまったプールスも駄目だと釘をさす雪姫。しゅんとするプールスを優しくあやすマギ。

 

「心配してくれてありがとな。正直言えば俺も自分がどうなるか分からないから不安だ……けど、絶対に克服してそのままラカンさんに勝って優勝してみせるからさ。だから……たのむ雪姫」

「ああ。分かった」

 

 マギも覚悟を決めて虚無の箱庭に入るための魔法陣に向かう。千雨が呼び止め、マギが振り返ると千雨とプールス、のどかがマギに飛び込んだ。マギは受け止めて優しく抱きしめた。

 

「ほんと、俺には勿体ない位いい子達だ。お陰でやる気が満たされたよ」

 

 気合十分のマギは魔法陣の上に立つ。魔法陣が光だし、マギは振り返りながら

 

「それじゃ皆、また明日会おう」

 

 それだけ言うとマギと雪姫は光と共に消えてしまった。虚無の箱庭に入ったのだろう。残ったのはネギ達だけ。

 

「おーしガキども! 気持ち切り替えるぞ!! 俺の予想じゃあれは化けるぞ。俺らも気合入れて修行しないと無駄になっちまうぞ!!」

「はい!!」

「おう! やったるで!!」

 

 リカードの喝にネギと小太郎も応え、彼らも修行を始めるのであった。

 一方の虚無の箱庭に入ったマギの感覚だが、第一の感想は変なのだった。

 空を見上げると雲が不規則に動き、北極南極でよく見られる白夜が古戦場を照らしてくる。

 

「よっし雪姫、早速始め―――」

 

 振り返りながら言うマギだが最後まで言い切れなかった。無詠唱で放った雪姫の闇の吹雪がマギの上半身を吹き飛ばしてしまったからだ。力なく崩れ落ちる下半身。痙攣してるのか時折ピクピク動く。

 

「もう修行は始まっているぞ。お行儀よくよーいどんで始めるわけないだろたわけ。早く再生をしろ。それに……もう、暴れたくてうずうずしてるだろ?」

 

 急速にマギに肉片等が集まっていき、再生していく。完全に再生されたマギは笑みを弧に描く

 

「―――くくくく……ギャハハハハハ!!! あぁぁぁぁぁぁぁぁ、そうだよ? 千雨達の前では平静を保ってたが限界だったぜぇぇ。久しぶりの二人っきりだなぁ。思い切りイチャイチャデートを楽しもうぜエヴァ!!」

 

 その瞬間からマギから黒い魔力が吹き出した。今喋っているマギは本当にマギか、またはちょっかいを出すと言っていた黒マギがそう言わしているのかは分からない。

 

「今は精々そうやっていきっていればいい。私はお前のその不安定な心を矯正してやる。掛かってこい」

「それじゃ……お言葉に甘えまして!!」

 

 甲高い嗤い声を上げながら、マギは雪姫に掛かっていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。決勝トーナメントの記念すべき第一試合であり、マギと雪姫の試合なのだが……

 

「遅い……遅すぎだろ……!!」

 

 千雨が焦りと苛立ちの表情を浮かべていた。それもそのはず、あと1時間もすれば試合が始まるというのに虚無の箱庭から一向にマギと雪姫が顔を出さないでいる。

 もし1分でも遅刻しようものなら棄権扱いになってしまう。ハルナが乗ってきたグレート・パル様号を飛ばせば10分で闘技に着くことが出来る。だが刻一刻と秒が刻まれるのを感じるのは心臓に悪い。

 

「千雨さん、今はお兄ちゃんと師匠を信じましょう」

「そうは言ってもだな……」

「! 千雨ちゃん。魔法陣が!」

 

 のどかが指を指す。虚無の箱庭の魔法陣が現れた。そこからマギと雪姫が姿を表す。

 

「マギさん遅かったじゃねえか!! ……マギさん?」

 

 だが様子がおかしい。目は虚ろでぼうっとしておりまるで覇気がない。その姿は幽鬼のようだ。

 

「マギさん! おいマギさんしっかりしろって!!」

 

 千雨がマギを揺するとマギの目に光が戻りだした。

 

「……あぁ、千雨。久しぶりだな」

「久しぶり? 何言ってるんだよまだ修行が始まって1日しか経ってないぞ?」

「1日……そっか。まだ1日しか経っていないんだな」

 

 受け答えは出来ているがまだぼんやりしている。

 

「あの中は昼夜がずっと白夜だったのと、時間の感じ方が全然違うように感じて、どの位の時が過ぎたのか全然わからないし、ずっと雪姫に殺され続けたからか感覚が完全に狂っちまった」

「あの、マギさんは本当に大丈夫でしょうか雪姫さん」

「心配するなのどか。まだ荒削りだが、マギの強さは完成しつつある」

 

 不安げなのどかに雪姫は自信ありとそう答えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ始まりました決勝トーナメント!! 今年度はあのジャック・ラカン、英雄の息子のネギ・スプリングフィールド、そしてそっくりさんのナギ・スプリングフィールドといったそうそうたる顔ぶれが揃っております! そして今日は決勝トーナメントの第1試合! ネギ・スプリングフィールド選手の試合が始まる……はずなのですか、ネギ選手は一向に姿を見せません。会場に居るのは間違いないのですが、緊張でもしているのでしょうか!?」

 

 インタビュアーの実況に熱が入るがマギの姿が闘技場に見えない。観客席でもマギの姿が見えないためにザワついている。

 

「お兄ちゃん大丈夫かな……」

「ずうっとぼーっとしとったからな。雪姫さんがはりきり過ぎたせいでダウンしちまったんやないか」

 

 ネギと小太郎もマギの幽鬼のような姿を見ているから心配になっていると

 

「おいおい!! 何時まで待たせるんだぁ!? ビビってるんか!?」

「ジャック・ラカンが出るって分かって怖気づいたんじゃねえのか!!」

「やっぱり英雄の息子っていうのは法螺話だったのか! だっせーの!!」

 

 マギが姿を見せないのに痺れを切らしたのか一部のモラルのない観客が野次を飛ばしてくる。内容も嘘つきやら腰抜け等の品のない内容だった。

 流石に酷いと思ったネギが野次を飛ばす観客の元へ行こうとして小太郎が止めたその時

ズンと途轍もない重圧がネギ達を襲う。

 

「ななんやこの凄まじいプレッシャーは!?」

 

 小太郎は何が何だが分からないでいると

 

「お、おいあんた震えているが大丈夫なのか!?」

「あ、あんたこそ大丈夫なのかよ!? あんた、自分が漏らしてる事に気づいてねえのかよ!?」

「え? ……うわぁなんじゃこりゃ!?」

 

 野次を飛ばしていた観客の何人かが体の震えや気づかずに失禁するのが見えた。本能が敏感に恐怖を感じ取ったのだ。

 観客席でひと騒動があったが、その間にマギが選手入場口からゆっくりと登場したのだが

 

「う、なんや……あれ……?」

「あれがお兄ちゃんだっていうの……?」

 

 現れたマギの姿を信じられないと見てしまった。

 擬音で例えるならグゴゴゴゴゴという圧迫感、ズオオオオと引きずり込まれそうになる感覚。そしてマギから生気を感じられない。闇、否闇をも超えた虚無の存在に感じてしまった。

 マギが姿を見せた瞬間、観客席でのパニックも加速する。

 

「ぎゃああああ! 髪が真っ白になっちまった!!」

「おれ、もう限界……うおうぇぇぇぇぇ!!」

「うわああああ! こいつ吐きやがった! やべ俺もオロロロロ!!」

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっている。中には失神する者も続出している。マギの仲間であるネギや小太郎、千雨やあやか、プールスのどかも気をしっかり持とうと踏ん張っている。

 

『ちう様バイタルが不安定ですが大丈夫ですか?』

「だい、じょうぶだ。けど、やばくなったらアタシ以外も頼む」

『了解いたしました』

 

 脂汗を流しながらも気丈に振る舞う千雨。

 

(これがマギさん!? 昨日の面影なんて全くないじゃねえか!)

『こ、これがあのネギ・スプリングフィールド選手なのでしょうか!? 今までの雰囲気と全く違います! というかこれ以上時間が経つと大会に支障をきたしそうなので早速試合を始めたいと思います!! それでは試合を開始いたします! レディ……ファイト!!』

 

 インタビュアーも限界が来そうだったので、直ぐに試合のゴングを鳴らした。

 

「くそ! 英雄の息子がなんだって言うんだ!!」

「ジャック・ラカンと戦うのは俺達だ!!」

 

 マギの大戦相手も恐怖に呑まれそうになるが、そこは拳闘士。恐怖を払拭し無詠唱で魔法の矢を展開する。その数有に100は超える。魔法の矢が一斉にマギに向かっていく。

 

「マギ」

 

 黙っていた雪姫がマギを呼ぶ

 

「やれ」

 

 たった2文字の命令。マギは自分に迫ってくる魔法の矢を凝視し、軽く手を振るった。

 次の瞬間にはマギが軽く手を振るっただけなのに魔法の矢が次々と撃ち落とされてしまった。

 

「な!?」

 

 相手は簡単に自分らの魔法の矢が撃ち落とされてしまったことに仰天しながらも直ぐに次の行動に移ろうとした。

 が爆発の煙からマギが飛び込んできてマギが相手の顔面を掴み、そのまま地面へと沈めた。

 グシャリという聞こえちゃいけない音が聞こえ、相手選手はうめき声を出すことなく戦闘不能となった。

 試合開始してから1分も満たずにマギの圧勝で終わった。

 皆状況が分からず呆然としている。そして特別席でカゲタロウと一緒に試合を見ていたラカンは

 

「やっべぇな……マギの奴強くなりすぎじゃね?」

 

 冷や汗を流しているのであった。

 

 

 

 



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DOGEZA

 トサカは悪態をつきながら通路を歩いていた。理由はもちろんマギ(ネギ)の事である。先程の試合で圧倒的な強さで対戦相手をいともたやすく瞬殺してしまった。

 さらに面白くない事に、2回戦目の試合はどちらの選手も棄権してしまった。理由はどちらかが勝っても次に戦うのが相手を容赦なく地に沈めたマギということもあり、完全に戦意が折れてしまって逃げてしまったそうだ。あの後も闘技場の至る所で失神者を続出させるといったのもあって、それが更にトサカの苛立ちを加速させる。

 初めて対峙した時から自分よりも強かった相手が少し時間が経ってから更に強くなっていた。どんなずるい手(半ば合ってる)を使ったらあれ程までに強くなれるのだろうか。

 しかも準決勝ではあのラカンと戦う。英雄の1人と同じ戦いの場で相見えて拳をまじ合わせる。拳闘士としてこれ程までの誉れはないだろう。自分には持っていない物を持っていマギの存在が恨めしかった。だからこそ

 

「これを使って、これ以上あいつがすまし顔出来なくさせてやる」

 

 笑うトサカだが、その顔は誰が見ても歪んで見えたのであった。

 

 

 

 

 

「ふわぁ……マギさん凄い強かったなぁ。びっくりしたわ」

 

 何時もの作業着で働く亜子はせっせと働いていた。亜子もマギの試合を見ていたが、文字通りびっくりするような試合だったからだ。

 選手入場口から出てきたマギを最初に見たときは本当にマギなのかと思ってしまった位である。亜子でもあのマギを見た瞬間には身の凍る感覚になったのだ。そして容赦なく相手を倒す。今までのマギは相手に対してもそこまで酷い倒し方をしなかったのに今回は本気だった。

 休み時間の時に千雨達に会うことが出来てマギの事を聞いてみたが

 

「すまん。あたしらもどんな修行をしていたのか聞くことは出来なかった。けど分かることは、マギさんはおっさんに勝つために無理しようとしていることだけだ」

 

 以前の自分だったら自分を解放するためと嬉しい気持ちになっていただろうが、あのマギを見てしまったらそんな気持ちよりも心配の気持ちの方が勝ってしまった。どうかマギに何の問題も起こらないでほしいと願っていると

 

「おいネギ! てめぇこっちこい!」

 

 嫌な展開が起きてしまったと亜子は天を仰ぎ見る。

 声の上がった方へ向かうとトサカがマギを何処かに連れて行こうとしている。亜子はトサカに気づかれないよう後を着ける。

 そして人通りが少ない通路に着くとトサカがマギに壁ドンを仕掛けた。

 

「悪いが俺、そっちの気はないんだけどな」

「安心しろ。俺だっててめぇ見たいないけ好かない野郎なんて大嫌いだ。だがな、これを見ればもうそんな生意気な態度は取れないぜ」

 

 そう言ってトサカは手に持っていた小型端末を操作すると映像が再生された。映っていた映像はマギが人気のない路地裏で元の姿に戻るものだった。

 

「いやぁ驚いたぜ。皆の人気者のネギ選手がまさか世間を騒がせてる賞金首の1人だったとわなぁ」

 

 こっそり映像を陰から見ていた亜子の顔がさあっと青ざめる。

 バレた。よりによって一番バレてはいけないタイプのトサカにマギの正体を知られてしまった。

 トサカは弱みを握れたと思っているようで下卑な笑みを浮かべる。しかし、マギはというと冷や汗も流さず黙ってトサカを見ていた。

 自分が思っていた反応が見れなかったのが面白くなさそうに舌を打ちながらまくしたてるように話を続ける。

 

「それに、色々と調べたらてめぇがまさか英雄の息子のマギ・スプリングフィールドだったとわはなぁ。40のおっさんに化けたり10代のガキになったりと色々と大変だな」

「いやほんとにな。誰の仕業か分からないがほんとほとほとに参っちまうよ。お陰でこそこそと元の姿に戻ったりこの姿になったりして。全然若いのに四十肩になっちまいそうだ」

 

 マギは肩を回しながらトサカに対して愚痴を零した。正体がバレているのにマギの態度が気に入らないトサカは歯が砕けんばかりに食いしばる。

 

「てめぇ分かってんのか!? 俺はてめぇらの弱みを握ってるんだぜ? この情報をリークしちまえばてめぇやてめぇの仲間を全員捕らえる事が出来るってことによ!」

「……はぁ。話がぐだぐだとまどろっこしいんだよ。それで、俺にどうして貰いたいんだ?」

 

 マギは目をそらさずトサカを真っ直ぐ見る。動揺を見せないマギに押されかけるトサカだが、折れずにポケットから亜子達が首に着けているのと同じ首輪を取り出した。

 

「まぁ、同じ釜の飯を食った仲だ。通報はしないでやるよ。だがな、お前は俺の下僕になってもらうぜ。俺に跪いて今までの舐めた態度を取っていた事への謝罪のおまけ付きで……な」

「なっ!?」

 

 亜子は思わず声を出してしまいそうになるが直ぐに口を噤んだ。もし亜子が居ることがバレてしまえばトサカは手に持っている映像を横流しするかもしれない。

 

「さぁどうするよ。てめぇに出来るかなぁ? てめぇよりも弱い俺なんかに頭を下げることがよ! ハハハハハ!!」

 

 トサカは自身の勝ちを実感していた。マギを自分が掌握しているというとても心地よい高揚感を感じている。トサカは思う。自分よりも弱い相手に屈服するなんてそんなのプライドが許さないと。

 しかしトサカのその考えは間違っていた。マギはトサカが思っている以上の男だった。

 

「なんだそんな事か」

「……は? てめぇ今なんて言ったんだ?」

「そんな事かって言ったんだよ」

 

 マギは言われるままトサカに跪く。いやそれどころかもっと姿勢を低くし手を地面に置き、深々と頭を下げる。

 それは、土下座。極度に尊崇高貴な対象に恭儉の意を示したり、深い謝罪や請願の意を表す場合に行われる日本の礼式の1つである。

 

「トサカ様。今までの数々な無礼な態度を取ってしまい申し訳ございませんでした。貴方の下僕となりますのでどうかその映像は流さないでください」

 

 棒読みではなく、感情を込めた謝罪と懇願。まさかマギがあっさりと頭を下げた事にトサカは却って混乱してしまい

 

「てってめぇ何考えてるんだ!? そう簡単に格下に頭下げやがって……てめぇにはプライドってもんがねえのかよ!?」

「無い」

「は……はぁ!?」

 

 あっさりと無いと言い切ったマギに更に戸惑うトサカ。

 

「こっちは亜子達を助けるためにこの後にラカンさんに挑むんだ。それなのに自分のプライド何か気にして余計な問題を増やすわけにはいかないんだよ」

 

 だから、そう言いながらマギはトサカから首輪を取り

 

「亜子達を助けるためなら俺は喜んで頭を下げてやる」

 

 所で……一度溜めてからマギは目を開く。試合時の空虚な目をトサカに向ける。自分の顔がよく見えるマギの虚ろな目で見つめられトサカの口から変な空気が漏れ出した。

 

「俺達の賞金って結構な額だったよな。総額なら10年は遊んで暮らせる額だって。人ってのは欲に目が眩むもんだ。もし、金に眩んであんたから約束を破ったら……どうなるか分かってるよな? 

 

 マギの圧に押されてしまったトサカ。自分がマギを脅していた筈なのに完全に立場が逆転してしまっている。口を何度も開閉して後ずさりをするトサカを見て亜子が思わず飛び出す。

 

「マギさんストップストーップ! それ以上はいかんってー!!」

 

 亜子が飛び出す事でトサカも恐慌状態から抜けマギが持っている首輪を引ったくる。

 

「だ、誰がてめぇみたいなバケモンを下僕にするか!!」

 

 そう捨て台詞を吐いて走り去っていた。残されたマギと亜子。トサカの背中を見ながらマギは力なく笑いながら

 

「バケモン……か。そうだよな。普通の人からしたら俺なんかバケモンだよな。それに最近人の感覚が鈍っているように感じてるし」

 

 自虐をこぼす。そんなマギの手を亜子は強く握りしめて

 

「マギさんはマギさんや。そんな事を言わんといて」

「ありがとな亜子」

 

 礼を言うマギの顔は笑顔ではあるが、何処か影がある。そんなマギの顔を見て亜子は泣きそうになるが涙は堪えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「亜子どこに行くの!?」

「うん、ちょっとトサカさんの所」

 

 何処かへ向かおうとする亜子にアキラは訪ねると亜子はそう答えた。

 まさか自分からトサカの元へ行こうとする亜子にぎょっと驚くアキラ。

 

「ちょっとトサカさんに言いたいことがあるから」

「だ、駄目だよ亜子! あの男にまた酷い事をされちゃうよ!?」

 

 何処か怒った様子の亜子を止めようとするが、亜子は扉に着くとノックもせずに扉を開けた。部屋は薄暗く、本を読んでいるトサカとカードゲームをしてるトサカの取り巻き達。

 

「なんだてめぇ! 仕事をサボってるのか!」

「チーフには一言言ってお休みをもらってます。ウチが用があるのはトサカさんですから」

「……あぁ?」

 

 チビとふとっちょがガンを飛ばしてくるが亜子は無視をする。読んでいた本を閉じると亜子の方へ顔を向ける。

 

「もしかしてさっきの事か? だったら安心しろあんなバケモンの相手なんかもう御免だからな。あの映像もとっくに削除した。だからもう──―」

「いえ、それもあります。けどウチが最初に言いたい事は……トサカさん、何であんなダサいことしたんですか?」

「……何?」

「ちょ亜子!?」

 

 亜子の言ったことにトサカはピクリと反応しアキラは露骨に慌てだす。カードゲームを中断し亜子の方を見る取り巻き達。一触即発の空気だ。

 

「今俺の事なんて言った?」

「こそこそ後をつけて弱みを握ろうなんて、セコくてダサいことしたんですか? って言ったんです」

「てめぇ! アニキに向かって!」

「女だからって容赦しねえぞ!」

 

 チビとふとっちょが亜子に殴りかかろうとしたが、亜子の方が早く動き、チビの顔面すれすれに蹴りを繰り出し当たる寸前に脚を止めた。

 

「言っときますけど、ウチは風邪引いてヘロヘロだった頃と違いますから。それに、結構足には自信あるんですよ?」

「……やめとけ。お前らじゃ相手になんねえ」

「でもトサカのアニキ!」

 

 何か言おうとした取り巻きを拳で沈めたトサカは亜子と向き合う。

 

「何で俺に構う。確かに俺があいつを強請ろうとしたが、俺が負けて終わりな話だろうが」

「チーフから聞きました。トサカさんの過去を」

 

 トサカ、チーフ、バルガス達は故郷が壊滅した後に奴隷となった。チーフとバルガスはまず最初にトサカ達を解放するために拳闘士になり金を集め解放した。そして今度はチーフとバルガスを解放するためにトサカが拳闘士となり長い時をかけてチーフとバルガスも解放することが出来たという。

 

「チーフを解放した人がそんな姑息な事をしたなんて思いたくないんです」

「……はっ」

 

 トサカは亜子の思いを鼻で笑う。軽薄な態度を見せるトサカをアキラは睨みつける。

 

「まるで俺がいい人みたいに言ってるがな、俺みたいなクズが出来る事は拳闘士しかなかっただけだ」

「本当のクズやったら、解放された後に恩を返さずに逃げ出すはずやろ。でも長い時をかけてチーフを解放するなんて生半可な覚悟じゃなかったはずや」

 

 亜子の言う通りである。拳闘士はボクシングのようなスポーツではなくローマのグラディエーターのようなもの。危険が隣り合わせ、それなのに逃げ出さずやり切るのは凄い事だろう。

 

「ウチの国に隣の芝生は青く見えるって言葉があります。トサカさんはマギさんの力を見て羨ましいと思いました。トサカさんの気持ちはウチも痛いほど分かります。けど、トサカさんだって普通の人なら嫌になって逃げ出す事を最後までやり遂げたじゃないですか。それなのに、たった1つのやらかしで今までの頑張りをムダにするような真似なんてやめましょうよ……!」

 

 それが亜子の本音だった。自分を一時脇役だと思いこんでいたからこそトサカの自分よりも上位の者へ対する考えは共感出来るものがあったからだ。

 暫し続く静寂。それを打ち破るのはトサカの自虐的な笑であった。

 

「最初てめぇを助けたアイツはいけ好かない野郎だと思った。英雄の息子を自称した時はふざけてるのかと思ったさ。けどな俺が18年でやり遂げた事をアイツはたった一月で成し遂げようとしたのが妬まして仕方なかった。何とかアイツの弱みを握って揺さぶろうとしたが……相手が悪かった。アイツはイカれてる。敵わないとかそれ以前の問題だ。相手にすることが馬鹿馬鹿しい話だったんだ」

 

 トサカは端末を操作し映像を消去するのを亜子に見せた。

 

「もう金輪際アイツのようなバケモンには突っかからないようにするさ。クズはクズらしくテメェよりも弱い相手にイキってやるさ」

 

 そう言って取り巻き達と部屋を後にするトサカ。残ったのは亜子とアキラだけ。

 

「何だあの男は。まったく反省する気がないじゃないか……!」

「ううん。トサカさんはあれでいいんやよ」

 

 言いたいことを言い切って満足な亜子であった。

 そして本日の大会が全て終わり、亜子は飲食スペースの掃除をしていると

 

「今日もお疲れ様」

「チーフ。お疲れ様です」

 

 仕事を終えたチーフが労いの言葉を送ってくれた。

 

「聞いたよ。トサカに面と向かって言ってやったんだって?」

「はい。でもウチも出過ぎたマネをしちゃったんじゃないかって……」

「いいんだよ。それにトサカの気持ちが分かってるつもりなんだろ? だったらトサカにだって亜子ちゃんの言葉は届いたはずさ」

「……はい」

 

 豪快に笑うチーフとそれにつられて笑う亜子。所でとチーフは話題をマギの話に戻る。

 

「今日の試合はヤバかったね。元拳闘士から見てもあれはぶっ飛んだ強さだったよ。色々と犠牲にしてる。下手したら壊れちまうよ」

「そうですね。だからこそ、ウチも出来ることはして行きたいと思います」

「そうかいしっかりやりな。けど、かなりライバルが多そうだけど大丈夫なのかい?」

「はい。皆ライバルでもあるけど、仲間でもありますから。それに……もう、脇役に戻る積もりはないですから」

 

 強い子だ。こんなに真っ直ぐと言い切るなら大丈夫だろう。

 そう、チーフはそう思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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各々の思うところはある

何とか今年中に投稿出来ました。
今年もありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。


 虚無の箱庭の中の修行。しかしそれは果たして修行と否人の戦いと呼んでいいものだろうかと異議を唱えたい程の過激なものだった。

 咆哮を上げながらも我流でありながらも洗練された剣技を古戦場に刺さっていた錆びた剣で繰り出し続けるマギに対して雪姫も錆びた剣で防いでいたが、先に雪姫の方の剣が砕けてしまう。マギがそのまま剣を振り下ろそうとするが、雪姫は折れた剣の柄を持ちながら断罪の剣を出してそのままマギに突き刺した。

 血反吐を吐くマギ。マギの血反吐が雪姫の顔にかかるが、雪姫はそのまま断罪の剣を横に振るう。

 マギの上半身はそのまま地面へと落ちる……ことなく逆立ちになり、跳躍する。空中で構えまた雪姫と斬り合う。残った下半身は断面から血が溢れるが血が腕の形となり何本も増殖する。血の腕は近くに刺さっている剣を抜くと下半身も雪姫に斬りかかる。

 永遠と呼べる時間の中でマギは斬られた体を魔力で操る術を会得していた。

 下半身の腕の何本かを地面へと潜らせ下からの奇襲で雪姫の四肢を捕らえる。一瞬動けなくなったすきにマギが持つ剣が雪姫の体を貫いた。貫かれた瞬間に雪姫から鮮血が撒き散る。

 離れた体を再度合体させるマギだが、雪姫の無詠唱の闇の吹雪で細切れに吹き飛ばされ、再生し無詠唱闇の業火を放つのであった。

 胸を貫かれても戦い、胸や胴を切り裂かれても戦い、四肢が吹き飛ばされても戦い、首をはねられ頭蓋を砕かれようとも再生し、戦い、戦い、戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い戦い……戦い続けた。

 無限に続く戦いの地獄。その中で少々の休憩を挟んだ。

 

「驚いたぞマギ。よもやこの私を3回も殺す事が出来るようになろうとは」

「そっか。その何倍も殺され続けてるからあんまり実感わかないけどな。100回殺されてから数えるの止めちゃったし……」

 

 遠くを見つめるマギ。白夜なため、見つめる先の光が朝日なのか夕日なのか分からないな……と疲れた笑みを浮かべる。

 

「戦い続けて、ラカンに勝つビジョンは浮かんだかマギ」

「……分からん。この修行のお陰で戦う時のスイッチの切り替え方は分かったと思う。けど、ラカンさんと戦い勝てるかは分からないな。闘技場じゃあ俺はネギ・スプリングフィールドだからな」

 

 闘技場のルールの中に不死身の者の出場を固く禁ずるというものがある。不死身であれば死ぬことがないためにゾンビ戦法が相手側に圧倒的に不利になる。というのもあるが不死身の存在が忌むべき者として見られているのだ。

 

「ラカンさん相手に縛りがある戦いはただでさえ勝率を下げてしまう。俺は出来ることなら不死身なことを周りバレない形でラカンさんと互角の勝負をしなきゃならない。ならば一手でも多く勝つための手段を増やしたい」

 

 どんな手を使っても勝利を掴みたい。だが制約はある。どうにかしたいのが本音だ。そんなマギを見て雪姫が

 

「マギ。もし私が1つの手段をお前に提供すると言ったらどうする?」

「え? そりゃあ喜んでいただきたいけど。何をするんだ?」

「……こうするんだ」

 

 雪姫はいきなりマギに自身の唇を合わせてきた。いきなりのキスに戸惑っていると、マギの舌がしょっぱさを感じ

 

(これ、血だ。俺……雪姫のエヴァの血を飲んでるのか?)

 

 雪姫が口を離す。いきなりの接吻と血を飲んだことにマギも呆然としている。

 

「エヴァ……いきなり何を?」

「ふふ。いきなりでびっくりしただろう。しかし準備は整った」

「準備?」

 

 何の準備だか分からないでいたら地面が輝き始めた。よく見るとそれは魔法陣であった。しかもこれは

 

「これはパクティオーの魔法陣?」

「そうだ。しかしこれは坊やが神楽坂達にやった仮契約なんかではない。仮契約よりも強力な本契約(・・・)の魔法陣だ」

 

 雪姫が説明してる間に魔法陣の白い光から血を連想させる赤黒い光へと変わっていく。

 

「お前に私の血を飲ませたのはより強い繋がりを持たせるため。血と血で魂の繋がりを作る。私が主でお前が従者だ」

 

 等と話している間にマギのパクティオーカードが完成した。自分のカードの絵を見るマギ。

 

「……まさか俺が自分のカードを持つことになろうとはな」

 

 ぽつりとそう呟いていると

 

「……すまない」

「なんでエヴァが謝るんだ? このカードが手段ってことだろ?」

「そうだが……さっきはあんな態度を取ったが騙すように私はお前の唇を奪った。随分な悪女だな私は」

「何言ってるんだよ。そんなこと言ったら過去の俺はのどか達とキスをしたんだろ? そんな事を言えば俺の方が罪づくりだろ。それにエヴァが騙すように俺にキスをしたとか言っても、俺は別にエヴァの事を嫌いにはならないよ」

 

 マギが正直に自分の気持ちを伝えると雪姫もといエヴァンジェリンはマギの肩にもたれかかった。

 

「ありがとうマギ」

「俺の方こそどういたしまして。けど良かったのか? 本契約をしたのが俺で」

「何を言ってる。私が本契約をするのはお前以外にいるわけがないだろう」

「……そりゃあ。名誉な事だな」

 

 そう暫くゆっくりとしていたマギとエヴァンジェリンは修行を再開したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方ネギと小太郎も修行を行っていたがネギはいまいち修行に集中出来ないでいた。

 

「どうしたんやネギ。そんなぼーとしとったら強くはなれんで」

「うん。ごめん。お兄ちゃんの事が気になって」

「仕方ないのう。少し休憩するか」

 

 ネギが修行に身が入っていないようなので、テオドラが小休止を設けてくれた。浜辺で座り込んで遠い目をするネギ。

 

「なんやネギまだマギ兄ちゃんの事を考えとったんか?」

「うん。考えもするよあんな戦い方をお兄ちゃんがするなんて……コタロー君はお兄ちゃんを見て何も思わなかったの?」

「何も思わん。マギ兄ちゃんがあんな戦い方をするようになったからと言って一々気にしてたらしょうがないわ……とホンマは言いたい所やが、あれは異常すぎたわ。相手を潰すに躊躇っちゅうものがなかった。あれは戦士とか生易しいものとちゃう。相手を殺すことに躊躇わない戦いやった」

 

 小太郎もマギの戦いを思い出したのか汗を滲ませていると

 

「マギは自身の人間性を賭けたのだろう。ラカンと戦い勝つために、のう」

「テオドラ様……」

 

 テオドラが話に割って入り、ネギの隣に座る。

 

「妾もマギの戦いを見たがあれは異常を通り越しておった。まったくエヴァンジェリンの奴。マギの奴を歩く厄災にでもさせる積りか。あれは下手をすれば兵を総動員させて止めなくてはいけないほどの脅威となる。しかし、エヴァンジェリンはそれをしてでもマギをラカンへ勝たせるつもりじゃ。さっきも言ったが人間性を勝利に賭けるためにベッドしおった。さて、お主はどうするネギ」

「どうするって……」

「お主の兄は勝利を掴むために大切な物を賭けた。ならばお主は何を賭ける」

 

 テオドラの問いかけにネギは暫し思案するが

 

「……分かりません。僕は何を賭ければいいんでしょうか」

「何やネギ! そこでパッと何を賭けるか答えるんが男やろが!」

「なっそれだったらコタロー君は何を賭けるっていうのさ!」

「うえっ? それは……なんやろな」

「もう! 自分が直ぐに答えられないなら偉そうにしないでよ!」

「うっさいわ! 文句が言う暇あるんやったらお前もパッと言ってみろや!」

 

 口喧嘩から取っ組み合いの喧嘩になり、テオドラは2人の喧嘩を笑いながら眺めていた。

 

「よくよく考えてみたらお主らはまだ10の少年じゃったな。といってもマギもまだ20も満たない少年じゃったはずらしいじゃったらしいがのう……まぁよい。ならば主らは堅実に強くなってゆけばよい。だからこそ、ネギ……もう少しちこう寄れ」

「はい? ……あの、近くに寄りましたが何をするんですか?」

「それは……こうするためじゃ!」

 

 テオドラに言われたとおりに近くによるとテオドラはネギにキスをした。いきなりテオドラにキスをされて目を白黒にしていると、カモが魔法陣を書いてる事に気付く。いつの間にと色々と言いたかったが、これは何時もの仮契約の魔法陣だと直ぐに分かった。

 口を離すとテオドラにカードが握られる。

 

「妾からの勝利のおまじないじゃ。これで少しは憂いは断ち切れたかのう?」

「えっと、その……はい」

 

 してやったりといたずらが成功したとちろりと舌を出すテオドラを見て惚けるネギであった。

 

「てかネギええんか? 相手はおえらいさんのお姫さんやろ。そんな簡単にチューしても大丈夫なんか?」

「え……あぁ! ど、どうしよう! 僕捕まっちゃう!?」

「妾からしたんじゃから問題はないじゃろ! 主はどーんと構えとれ!!」

「そっそんなテオドラ様──!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──―はぁ」

 

 ネギがテオドラと仮契約をしている最中、千雨も物思いにふけっていた。理由としては自分がマギの元に居られなかったという事と……

 

「あたしはいざという時に何も出来ないな……」

 

 思い出すのはフェイトの仲間である一人調と遭遇して戦った時である。というが戦ったのはマギウスではあるが。魔法世界に入ってからあらゆる修羅場に立ち会ってきた積りだったが、それでも死にかけたのはあの時が初めてだった。のどかやハルナのアーティファクトや助太刀に入ってくれた小太郎がいなければ自分は死んでいただろう。

 

「千雨さん」

「のどかさんか。どうした? あたしと一緒で物思いにふけりたい感じか?」

「うん……そうですね。私も足を引っ張るばかりで」

「何言ってんだ。戦力じゃ一番下のあたしがいるんだぞ。のどかさんは全然足手まといじゃないって」

 

 等と話していると、暇をしていたリカードとセラスがやって来た。

 

「おうおうどうした小娘共! 何か悩んでるならオッサンに話してみろ!」

「相変わらず暑苦しいオッサンだな。いやさ、あたしはあんまり戦いとかは慣れてないからさ。どっちかというと後ろで指示飛ばす方だ。雪姫さんにしごかれて簡単な護身術みたいな体術は使えるが、恐らくあたしよりも弱い相手にしか多分使えない。この先の戦いであたしよりも弱い奴なんて出て来ないだろうからさ」

「何だそんな事で悩んでたのか。だったら俺が嬢ちゃんの手ほどきを俺がやってやろうか?」

「いや、あたしのどんくさい運動能力はそんな一朝一夕で改善出来るほどじゃない。だったらリカードさんがマギウスに体術を付けてくれないか」

 

 マギウスがリカードに歩み寄る。

 

「おう、ロボットに修行を付けろっていうのか。しっかし、ロボットが俺の戦い方で強くなるのか?」

『はい。リカード様の戦闘スタイルを見せて頂ければ、私の方で分析、解析をします』

「ほー随分とハイテクって奴だなぁ。おし! ならば俺の戦い方を存分に見せてやる! そこのスライムの嬢ちゃん! お前さんも暇してるんだろ!? 俺が見てやるから一緒にやるかぁ!?」

「はっはいレス!」

 

 リカードに誘われ、プールスも一緒に修行をすることになった。プールスもマギに負担をかけないように自分も強くなりたいと思っていたところである。

 

「のどかさん。貴女は私が見てあげるわ。貴女からもセンスを感じますし、少しでもレベルアップをしていきましょうか」

「はい! よろしくお願いいたします!」

 

 少しでも手助けになりたい……その思いで、マギウスとプールスそしてのどかも更なるレベルアップを目指すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 マギとネギ達が修行をしている同刻、オスティアの酒場でラカンとカゲタロウはカウンターで酒を飲みかわす。明日は自身とマギの試合である。遂にナギの息子と戦えると思うと武者震いが止まらない。興奮を抑えるために酒を呷る。しかしアルコールの度数が足りないのか、振るえは止まらず笑みは深まるばかりである。

 

「ラカン殿、随分と酒のペースが早いが大丈夫か」

「おおカゲちゃん。明日はマギとの試合だからな……震えが止まらねえのよ。こんなに興奮したのはあいつと喧嘩した以来だな」

 

 ラカンはナギとの戦いを思い出す。あの時の戦いは正に血沸き肉躍るものであった。

 

「して明日の試合はどういう流れになると」

「そうだな。まず最初に言える事と言えば……カゲちゃん、アンタはマギに負ける。それも結構あっさりとな」

「そうか……英雄の息子と一太刀交わしたい思いだったが、それも叶わずか」

 

 自分が負けると言われてもカゲタロウは随分あっさりと受け入れた。カゲタロウもマギの試合を見て圧倒的な力に自分がマギに勝つイメージが全く浮かばなかった。

 

「そして俺だが、まぁ勝率は五分五分か6:4位だろうな。マギの力は未知数だが、油断は出来ねぇな。まぁ楽に勝てる相手じゃあねえな」

 

 だからこそ燃えるってもんだと拳を握る。そして再度酒を一気に呷った。498対499、ナギとの勝敗は自分の負け越しであったが

 

「ここでマギに勝って勝敗はイーブンにしてみるか」

「いや、息子に勝って勝敗をイーブンにするのはいかがなものか?」

「いいんだよ。あそこまで強くなりゃそんなに変わんねえだろ!」

 

 マギとの決戦を楽しみにしながら飲み続けるラカンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……遂にその日は来た。

 

『さぁ、皆さんその日は来ました!! 千の刃、ジャック・ラカン。そして英雄の息子ネギ・スプリングフィールドの準決勝が間もなく始まります! 会場の皆様も今か今かと待ち望んでおります!!』

 

 控室で入場を待つマギと雪姫。マギは目を瞑り瞑想をしている。

 

「マギ、気分はどうだ」

「あぁ……大丈夫だ」

 

 瞑想を終えたマギが立ち上がると

 

「マギさん!」

 

 控室に亜子が飛び込んで来た。

 

「おぉ亜子。どうした?」

「うん、マギさん緊張してると思って応援に来たんや」

 

 そんな亜子の手にはマイクが握られていた。

 

「亜子、そのマイクは?」

「うん、マギさんに歌をプレゼントしたくてええかな?」

「雪姫」

「まぁ時間はあるだろうから、時間は守れよ和泉」

「うんありがとな雪姫さん。それじゃいくで」

 

 亜子は久方ぶりに歌魔法を歌い始める。その歌は力強いモノではなく、聞いていると心がやすらいでいく感じであった。亜子が歌い終わるとマギの頭がすっきりした。

 

「亜子、今の歌は?」

「癒しの歌っていう歌。どうやった? 少しは落ち着いたかな?」

「あぁありがとな」

 

 歌ってくれた亜子に礼を言いながら微笑み

 

「……勝ちに行くぞ」

 

 決意を固め、選手入場口に向かうマギと雪姫であった。

 

 

 

 

 

 



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