トーカちゃんに命を捧げる (コヨーテ)
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遅刻
ふとつけっぱなしのテレビを見ると、嘉納総合病院の院長が遺族に無断で臓器移植手術を行ったとの報道が流れていた。
「となるとようやく金木研が喰種になったわけか。僕という異分子がいてもこうなるとは、運命なんて眉唾ものだと思ってたけど案外そうでもないかもしれないね」
カタカタとキーボードを叩きながら呟く。今やっているのはパソコン内のデータの整理だ。ここには他人に知られてはまずい情報が多く入っている。
例えば表社会に潜む喰種の住所や顔写真、務めている仕事場や通っている学校まで多くの個人情報が詰め込まれている。他にも一般人が知ってはいけない厄ネタばかりがこのパソコンには集められている。
「さてと、僕はこれからどう行動すべきか・・・・・・とりあえず銃弾でも買ってこようか」
これから20区の情勢は大きく動き出す。ならば僕も備えが必要だ。銃弾と言っても普通の銃弾じゃない。買ってくるのはQバレット、溶かした赫子を練り込んだ銃弾だ。
威力は低いが当然喰種にも有効。高レートの喰種には赫子で弾かれて終わりだが、撹乱くらいには使えるだろう。無論一般に販売はされてないが、それでも裏社会では高値で売られている。横流しか密造か、品質が良ければどっちでもいい。
そんなことを考えていると携帯が鳴り出した。電話をかけてきたのはトーカちゃん、こんな夜中になんのようだろうと思いながらも応答する。
「もしもしトーカちゃん、依子だよー」
『依子今日休み?先生が心配してたけど』
「え、もう学校?」
慌ててパソコンの時刻を見ると八時半を過ぎていた。どうやら窓のない部屋に閉じこもって、ずっとパソコンに向かい合ってたせいで時間がわからなくなってたらしい。
「ウッソだろ!もう朝かよ!」
『まさか寝坊したの?』
恐らく朝のホームルームが終わった今、無断欠席の僕を心配して電話をかけてきてくれたのだろう。トーカが連絡してくれなかったらいつまでも気づかなかったと思うから感謝しかない。
「寝坊じゃなくて徹夜・・・・・・今それはどうでもいいや。ゴメントーカちゃん、『小坂依子は一時間目は休みます』って先生に言っといて。二時間目から行くから」
『わかった、じゃあ学校で。もう授業始まるから電話切るよ』
「おけ」
切れた電話を見ながらフーと息を吐く。まさかもう朝になってたとは。更に遅刻だ。家から学校までは20分もあれば着く。なら学校の準備に十分かけるとして、まだ二時間目までは余裕があるな。
「なら卵かけご飯でも食べるか」
そう思いパソコンを閉じてキッチンに向かう。冷蔵庫から卵と冷凍ご飯を出して、ご飯をレンジで温める。その後どんぶりに入れたご飯の上に卵を乗せて醤油をかければ完成だ。
「いただきまーす」
うん、美味い。そのまま七分ほどで食べ終わると後片付けをして、学校に行く準備を始める。その時また携帯が鳴った、今度は電話ではなくメールのようだ。誰からだろうと思い差出人を見てみる。
「お、エトじゃん」
差出人の名は高槻泉、小説家だ。それでいてSSSレート喰種『梟』でありアオギリの幹部でもある。メールの内容はいたってシンプル、次の土曜に会えないかというものだった。
特に断る理由もないので了承のメールを送り返す。しかしエトは僕のことをどう思っているのだろう。僕は彼女を友人だと思っているが、エトからどう思われているかはあまり考えたことはなかった。
単なる捕食対象としか見られてなかったらちょっとショックだな。そう考えつつ時計を見る。
「あ、もう時間だ。学校行こ」
────────
「徹夜の身にボソボソ喋る教師の授業はキツいよ。眠さがヤバい。なんとか耐え切ったけどさ」
「じゃあなんで徹夜したんだよ」
放課後の教室でトーカちゃんが正論を浴びせてくる、これに関しては全面的には僕が悪い。今度からはなるべく早く時計を見ながら作業をしよう。そう心に誓った。
「時間見忘れてた、窓のない部屋にいたらいつのまにか朝だった」
「時間感覚狂ってない?ゲームはほどほどにしときなよ」
「そうするよ。あ、そういえばトーカちゃんってどっか行きたい場所とかある?今度出かけよーよ」
別にゲームをしていたわけではないのだが、わざわざそれを言う必要はないだろう。話は変わるが最近遊びに行ってないから今度二人でどこか出かけたい。いつも僕が行き場所を決めてるから、今回はトーカちゃんに決めてもらおうと思っての質問だ。
「行きたいとこ?」
「そう、いつもは僕のチョイスだからたまにはトーカちゃんが行きたいところに行こうよ。行ったことない場所とかさ」
ピンと人差し指を立ててテンション高めに言葉を促す。トーマちゃんは少しばかり考るそぶりを見せた後口を開いた。
「動物園は前行ったから・・・・・・水族館でも行こっか」
「いいね、イルカショーとかサメとか見て回ろうか」
トーカちゃんの言葉に同意した僕は、バックから手帳を取り出すと予定がないかどうか見ていく。休日に行くとして直近の土曜日はエトに会いに行くから行けない。ならその次の日の日曜だ。
「次の日曜日バイトのシフト入ってる?」
「日曜は元からバイトはナシ、依子がいいならその日で大丈夫」
「なら日曜で決定!集合場所と時間は後々連絡するね」
手帳に予定を書き込んでいるとなんだかワクワクしてきた。一緒に遊びに行けるのは本当に楽しみだ。そう思ってると突然教室のドアがガラリと会いて教師が話しかけてきた。
「小坂、お前この前の件で話があるからちょっと来い」
要件とはなんだろう、もしかすると同級生と喧嘩したことを責められるのだろうか。まぁそれしかないだろう。他に何かやった覚えはない。
「じゃあトーカちゃんは先帰ってて。また明日」
「依子なんかやらかしたの?」
「なんでもないよ。些細なことさ」
放課後雑談してただけだからこの後トーカちゃんはすることがない。説教が長引いて待てせるのもアレだから、先に帰るように促す。そのまま教師の方に歩みを進めて別れの挨拶。
「バイバイ」
────────
「しかし40分も説教するとはなんなんだ、先に仕掛けてきたのは向こうなのに」
そう呟きながらバックを持って学校の外に出る。その時夕日が目に入った。綺麗な綺麗な夕日だ。そういえばトーカちゃんに初めて出会った日もこんな夕日だったっけ。
ねぇ、トーカちゃんは知らないと思うけどさ、僕にとって君は光なんだ。太陽のように輝いてはない、月光のように美しいわけでもない、でも僕にとって君は世界で一番の光。側で行き先を示してくれる誘導灯のような光だ。
まだ出会ってからそこまで経ってないというのに不思議だよね。けど僕は臆病者だ。本当に君のためを思っているのなら、トーカちゃんがが喰種だってことを知ってるって打ち明ければいいのに。そして君の全てを受け入れればいいのに。
『人間関係は化学反応』打ち明けたら望む望まないに関わらず、僕らの間には何か変化が起こる。その結果今の関係性が変わってしまうことを恐れて、僕は一歩を踏み出せない。
ここは漫画じゃない、現実だからこそトーカちゃんが僕をどう思っているのかわからないんだ。もしかすると僕という人間はそこまで好かれてないかもしれない。
そこまで仲良くない相手に『私は君の全てを知っています』『けど受け入れますよ』されたところで気持ち悪いだけだ。
トーカちゃんの全てを受け入れようとして逆に拒絶されるのが怖いんだ。重いとかそういう理由で離れられるのが怖いんだ。本当に情けないけどね。
だから、今はまだこのままで。
──────────
その日の夜、満月がアスファルトの道路を照らす。スニーカーで地面を踏みしめながらたどり着いたのは14区にあるバー、名を『Helter Skelter』。とある喰種が経営するバーだ。
ドアを開けると中に客はいなく、椅子に一人の女性が座っているだけだ。彼女こそこのバーの経営者、イトリだ。僕を見ると驚いたような顔をした。だがそれも一瞬、その後は笑みを浮かべていた。
「珍しくない?依子があたしに会いに来んの。てかお酒飲めんの?」
「飲めない、コーラある?」
「ここはバー、お子様の飲み物は置いてないって前も言わんかった?」
「そういや言ってたね。まぁいいや、そうかもと思って持ってきてるし。今日はゆっくり情報交換でもしながら飲もうと思ってさ」
持参のコーラをバックから取り出す。その様子をイトリは呆れた顔で見ていた。カウンター前の椅子に腰掛けるとコーラの蓋を開ける。
「そろそろマスク慎重しようと思ってるんだよね。どんな柄が良いかなぁ」
「やっぱ道化柄?
「えー、あれ前が見づらいんだよ。喰種にはへっちゃらなのかもだけど人間の僕にはきついのなんの」
そう言い終わるとコーラを口に含んだ。炭酸の刺激が口内を蹂躙する。この瞬間はたまらない。やはりコーラは正義、コーラ最強。
「うん、美味い」
トーカちゃんはオリ主のこと友人だと思ってます。
オリ主はトーカちゃん関連になると途端に弱気になります。
オリ主の具体的な経歴などは二話以降です
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馬鹿
小坂依子はピエロの新参メンバーだ。加入したのはいつだったか、確か何年か前にウタが連れてきた気がする。見たことないタイプの人間だった、ヒトだというのにあたしらの中で居場所を獲得していく面白い人間。そして気づけばピエロになっていた。
「風の噂で聞いた話だけど・・・・・・リゼ、一昨日死んだんだってね」
依子は酒を飲みながらあたしに話しかけた。何故依子が酒を飲んでるのかと言うとあたしが勧めたからだ。コーラを飲み干した依子に押し押しで行ったら見事飲んでくれた。未成年なのに大丈夫?ってからかい混じりに聞くと『合計年齢は20超えてるからおけ』と返されてしまった。なんのことだろう。
しかしリゼのことをどこで聞きつけてきたのやら。実際にリゼに鉄骨を落としたのは同じピエロのメンバーである喰種捜査官なのだが、依子はそれを知らない。
それどころかその喰種捜査官と会ったことすらない。あの子はたまにフラッとくるだけ。ピエロの策謀陰謀享楽活動にはあまり関わってない。
本人は加入直前に『ピエロに加入はしたいけど、活動はあんまりできないと思うよ?僕学生だから』と言い残している。その言葉を聞いたあたしは大笑い、そのままどこかズレてる少女を歓迎したことを覚えている。
「お、耳が早いねぇ。流石は情報通ってとこかな?」
「やっぱイトリも知ってるんだ。ま、本職の情報屋には敵わないか」
飲み終わったコーラ瓶をテーブルに置くと、依子はバックから薄い紙束を取り出しあたしに差し出した。
「これ何?」
「とある香水会社に作ってもらった書類。流し見でいいからとりあえず読んでみてよ」
「ふむふむなるほど・・・・・・・・・」
それはとある香りの香水を作成する過程を記したものだった。題名は『
「そこの社長と個人的な繋がりがあってね、香水作成を手伝ってもらったんだ。毎回毎回喰種の死骸から服ぶんどるのも面倒じゃん?」
喰種の集まりに行く時、依子は死骸から取った服を着る。流石に人間の匂いのまま行くわけにはいかないからだ。だが確かに毎回そうするのは手間がかかる。なるほど、だからこんな香水を考えたのか。
「それで、今からその香水をつけてくるからどんな感じか見てくれる?実際喰種の嗅覚を誤魔化せるのか心配なんだよね」
「おーこのイトリ様に任せなさい」
その後香水をつけた依子の匂いは完全に喰種のものだった。それに驚きつつ、有効活用したら面白いことになりそうだなと内心ほくそ笑む。そんなこんなで今夜はお開きになった。
ただ一つ気になったのは依子が持ち歩いてた白いアタッシュケース、いつもは拳銃しか持ち歩いてなかったと思うけどクインケを持つようになったのだろうか。喰種の匂いでクインケを持つとか面白いね。
───────
「満月が綺麗だなぁ」
二十区の道路を歩きながらそう呟いた。喰種香水は大成功、イトリの嗅覚すらも誤魔化せるなら並の喰種なんてお茶の子さいさいだろう。特に何に利用しようとかは考えてないが、これを使うことでやれることの幅が広がるのは確かだ。
今日せっかくの香水が実戦で使えると判明して気分がいい。更に酒の酔いも合わさって最高の気分だ。てかなんで喰種のバーに普通のお酒が置いてあるんだよ。そうツッコミたくなるのを抑えた、夜道で一人でツッコんでたらそれはただの危ない人だ。
そして酔いと高揚が
「よし、この勢いで金木研に会ってみるか」
どうせ退院したら接触するつもりだったんだ。今会ってもいいだろう、今は九時だしどうせ起きてる。小説でも読んでる気がしてきた。そんなことを考えながら歩いていたら、前方にとある二人組を発見した。一人はどこかで見たことある男だ。
「嘉納院長か!」
朝の謝罪会見で見た顔だ。遺族に無断で行った臓器移植手術、実際はリゼの赫包を金木研に移植しただけなのだが。僕の言葉に反応した男は僕問いかけた。
「ああ、私に何のようかな?」
「いやいや別に用とかないんだけど・・・・・・」
一瞬頭によぎる思考、この男を今殺したらどうなるか。少なくとも東京喰種と言う漫画において展開されたストーリーは粉々になり、この世界は全く別の道筋を辿ることになるのは確定だ。そんな思考が脳内を駆け巡る中、嘉納の隣の男が僕の方に近づいてきた。
「あれ?貴方が持ってるのクインケじゃないですか。その割には背もちっちゃくてとても喰種捜査官には見えないんですけどねぇ」
目の前の男の正体には心当たりがあった。嘉納と一緒にいてCCGの知識がある黒髪の男、それでいてこの喋り方。そして今はリゼ確保から二日。
「おいおいおい、いきなり旧田かよ。この時間は愛しのリゼと一緒時いると思ってたけど」
その言葉を二人が耳にした瞬間、世界が静止するような感覚がした。そして目の前の男が僕を捕まえようとしてきた。流石に今の言葉は失敗だった、酒のせいだ。
全部酒のせい。普段の僕がいきなり路上で喧嘩を売るわけがない、生まれて初めての酒だったからこうなってしまったんだ。恐らく旧田は怒っている、表情を見ればわかる。顔は笑ってるけどあれは怒りの笑いだ。
「なんで僕の名前知ってるんですかねぇ。ただの厨房が」
「旧田君、一応捕まえてくれるかな。どこから情報が漏れたのか興味がある」
「あれ、これもしかしてヤバいパターン?」
慌てて僕は逃げる、だが旧田相手に生身で逃げるなんてことは不可能だ。
「さぁ纏え」
アラタ proto
「全力で逃げる!」
僕は馬鹿だ、なんでこんなことしたんだろう。多分全国の酒飲みもみんな同じこと考えてる。今までは酔っ払いの心理を理解できなかったけど今は理解できる。酒飲んでる時って正常な判断ができない。
「纏うクインケ・・・・・・・・・」
流石の旧田も驚愕しているか。そう、この前1区で捜査官の死骸を漁ってたら見つけたものだ。僕は時々クインケ調達のために捜査官の死骸を探す、クインケは愛蔵用としても価値があるし高値がつくからね。
「ごめんね旧田!アラタキック!」
「ガハッ!」
そのまま旧田に蹴りを一発食らわせる。この時点ではまだ喰種化手術を受けていないようで、やけにすんなり蹴りが入った。しかしそこは旧田、そのまま起き上がって僕を追ってくる。
しかしそんなのは意に介さず僕は逃げる、路地裏に逃げ込む。するとそこには目が赤い青年がいた。
「おいお前喰」
「囮になってくれ!」
喰種の言葉を聞き終える前に旧田を喰種に押し付ける。全くもって外道のやり方だ、だが効果はあったらしい。後ろで旧田と喰種が戦闘になった音が聞こえた。
その音を聞かずに僕は逃げる、そのまま市街地の屋上を駆けて行って少しした頃、旧田の気配がしなくなった。逃げ終えたかと思ったその時、全身に苦痛が走った。
「アラタが僕を食べてる・・・⁉︎そういえばあったな、原作でそんな描写」
痛い、全身を虫に喰われるような痛みだ。まずい解除しなければ、そう思い背中のスイッチを押す。するとみるみるうちに全身に纏っていたアラタがアタッシュケースに収納されていく。
「クソッ、鍛えてなかったせいか」
体がもう動かない、特等なら喰われながらも戦うことすらできそうだが、あいにく僕は一般女子高生。そんなことはできないのだ。どうしよう、意識を失うことはないけどこのままずっとここにいるわけにもいかない。
本当に嘉納に話しかけなければよかった、もう酒は二度と飲まない。そう考えてると後ろから誰かが駆け寄ってきた。
「依子!依子!大丈夫!ッ⁉︎この匂い・・・・・・喰種⁉︎」
声の主は親友。ああ、最悪だ。
オリ主は普通に倫理観ないです
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