かつての熱は失ったものの、今こうして中学でも部活として選んだという事は僕の中でそれなりに好きな物ではあったのだろう。
その程度の、スポーツの中では好き、程度の存在であったバレーが少しだけ特別な物になったのは、中学最後の試合。
地区予選3試合目、相手はどうやらハーフらしく、中学生離れした体格のエースを軸にしたワンマンチーム。3枚ブロックをものともせず上から打ち抜いてくる、味方からしたら頼もしく、相対している身からしたら絶望としか言い様のないような存在。
僕自身は上を抜かれることはなかったものの、幾度となくブロックを弾き飛ばされた。そんな相手を主軸とした攻撃は止まらず、1セット目を取られ2セット目もじりじりと点差を離されてしまっている。今は監督がタイムを取りつかの間の休息を取っているが、チームの顔色は暗い。
(もう無理かな…まあ、あんな”エース”相手によく戦ったほうデショ)
たかが部活。今から努力でなんとかなるなんてことはないし、なんでもがむしゃらにやればいいってもんじゃない。監督やコーチなんかは大会が始まる前に全ての試合に勝って全国に行くのだと口では言ってはいたが、どれだけ頑張っていようと上に行けば行くほどいずれ限界は訪れるのだと僕は中学生ながらに理解していた。
力が及ばずに負けを認めるのは気に食わないが、僕たちの限界は今この試合だったというだけの話なのだろう。
もう負けるのか、このまま終わるのか。チーム全体としても諦めムードの中、チームメイトがボソッと呟いた。
「一番長身の月島でも止められないなら、もう無理じゃんか…」
そんな諦めきった呟きは、僕の幼馴染の山口にも聞こえていたらしい。
「ツッキーが負けっぱなしな訳ないだろ!」
「でも、実際止められてないじゃんか…」
「……っ!」
何でかは分からないが僕の事を慕ってくれているらしい山口はすかさず反論したけれど、反論に反論で返され、何か言おうとするも言葉が出ず悔しそうに、下を向いてしまった。
そんな姿を見たから、という訳ではないが、反応する気もなかったのに気づけば僕も口を挟んでいた。
「いいよ山口、僕が止められてないのも事実だし」
「でもツッキー…「けど」 !!」
「自分で言うのはともかく他人に無理って言われると腹立つよね。」
別に山口のフォローをするつもりではないし、口に出した事が本心だ。負けるのはしょうがない。僕が相手のエースを止めれていないのも事実だ。それでも、自分が諦めるだけならまだしも、他人に無理だと言われるのは腹が立つ。
ー
今思えば、バレーに熱を失って以来、本当に久しぶりに目の前のボールの事だけを考えていたかもしれない。
タイムが終わり、ピーーーッ!!!というホイッスルとともに試合が再開される。
相手のサーブをリベロが拾い、
セッターへとトスが上がる。繋いだ攻撃はブロックを避けたが、あいにくとリベロの正面に行ってしまい綺麗に上げられてしまった。
ー
チームに緊張が走る中、僕の頭の中は今日で一番考えが巡っていた。
助走距離・セッターのトス・スパイカーの目線・今までのスパイクの傾向
止められなかったとはいえ、ただただブロックを弾かれていたわけじゃない。試合を始めた時と比べたら格段に情報は増えている。
何より、人間とは慣れる生き物だ。大きく弾き飛ばされていた試合序盤と比べ、辛うじて繋げるくらいには壁として機能してきている。
頭の中で冷静に分析をしながら、コート上の全てを把握する。
綺麗なAトス。十分な助走距離。今日の試合で幾度となくこちらの3枚ブロックを打ち抜いてきた攻撃パターン。今日一日試合を通して決め切ってきた自負があるのだろう、自身に満ちた表情。
ー|あぁ、このスパイクを完璧に止めたら気持ちがいいだろうな《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》ー
そんな余計な事を考えているのにも関わらず、いつも以上に頭は冴え渡り相手の挙動が良く見えていた。
スパイクが決まると確信しているスパイカーの表情
力強く振り下ろされるスパイク
しかし、止めるには十分なほどに”知って”いるのだ
相手の視線、高さを確認しながらジャンプをする。弾かれない様に、自分でも柄じゃないと思うほどに力を籠めた両腕にスパイクの衝撃が伝わる。今までブロックを砕き打ち破ってきたスパイクは
ドシャット!
相手チームのコートに叩き落された。
僕らのブロックを打ち破り続けたスパイクが完全にシャットアウトされた事実に僕たちチームは一瞬静まり返り、数瞬後まるで試合に勝利したかのような盛り上がりを見せた。
「月島ナイスー!!!」「ツッキィィー!!!」
山口なんかは泣きそうな表情を見せている。興奮したチームメイトにたかられながらも相手のコートへと目を配ると、驚愕の表情を見せた後、悔しそうに顔を歪める相手チームのエースの姿に、少しだけ留飲が下がる思いがした。
これでこちらのチームに流れがくるかと言えばそんなことはない。
当然だ。どれだけ綺麗にブロックをしたとしても所詮は25点中の1点にしかすぎない。元々の自力が違うし、一度渾身のスパイクを止められた相手のエースは調子を崩すどころかより燃え上がったようで、試合終盤だというのに勢いは増してきていた。
結局試合は2-0で敗退。僕の中学でのバレーは地区大会第三試合で幕を閉じた。
学校へ戻りミーティングを終え帰路に着く。引退試合ということもあり涙ぐむチームメイトもいたが、僕の胸中にはあの試合で相手のエースのスパイクを止めたブロックの感触がずっとちらついていた。
後に高校で完全にバレーに嵌った瞬間と比べればあまりにも微かな。けれどもこの時、確かな熱が燻っていた。
そんな、僕が少しだけバレーに嵌った瞬間の話。―――――
拙作を最後までお目通しくださり、ありがとうございます。
初めてこういった文章を書いたので駄文&ボリューム不足甚だしいですが、
少しでも楽しんで読んでいただける部分があれば嬉しいです。
御目汚し失礼いたしました…!
目次 感想へのリンク しおりを挟む