主人公は霧雨魔理沙 (魔王ヘカーテ)
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序 まだ気付かない

 今日も私は博麗神社に入り浸っていた。神社に来て縁側に座り茶を飲む。それが魔法の研究、キノコの採取に並ぶ私の日課であるからだ。

 

「こうして異変がない日が続くと修行してる意味あるのかなって思っちゃいますね。」

 

そう言って団子を頬張りながら私の隣に座る巫女は博麗霊夢。十年以上前に先代博麗霊夢が失踪した際に急いで博麗の巫女に抜擢された奴で、今でこそ先代に引けをとらない強さを誇るがその強さの源が茨木華扇ということを考えるとなんだか気の毒に思える部分もある。

 

「はっはっは!確かにそうだ。ちょっとくらいさぼったってどうってことないさ。」

 

「いえ、明日も華扇さんの修行がありまして,,,。」

 

「よくやるよ。まったく。」

 

修行嫌いの霊夢のせいで華扇のとばっちりを受け、彼女と一緒に鬼のような(実際に鬼だが)華扇から逃げ回っていた日々が懐かしい。

 

「そういう魔理沙さんも毎日魔法の研究頑張っているそうじゃないですか。この前神社に来たアリスさんが言ってましたよ?捨食と捨虫を習得したのに、まだ研究。あいつは気でも狂っているのかって。」

 

「まあ、日課だからな。弾幕はパワーだ。極太のレーザーと濃密な弾幕こそ一番美しい。それを発展させ、もっと発展させ、もっともっと発展させる。そして、だれにも負けないようになる。」

 

「先代みたいに?」

 

「いいや、あいつ以上だ。もし、あいつが戻ってきたら腰ぬかさしてやるさ。」

 

私の帽子には白のリボンの他に霊夢のリボンが括り付けてある。彼女が失踪する前に私に渡してきた物だ。それは、私にまだ私が霊夢に執着していることを思い知らせてくれる。まあ、霊夢を超えてやるだなんていつまでも思っている時点でわかりっきっている話だが。

 

 私は一つ残っていた三食団子を頬張る。その団子の中には上質なこしあんがたっぷりと詰まっていた。

 

「おお、これお高いものじゃないか?中にあんこが詰まっている。」

 

「この団子、河童の里で新しく売り出したものなんです。見回りしていた時にアリスさんと会って、それで教えてくれたんですよ。」

 

「近所のおばちゃんかよ。あいつも人が変わったもんだ。てか、お前アリスとの遭遇頻度高くね?」

 

昔じゃ考えられんな。あれ?今日アリスと

 

「しまった!今日アリスにあいつのメンテナンス手伝うように言われてたんだった!」

 

私は大いに焦った。彼女を怒らせるとオーラだけで世界が破滅するかのようなヤバさを持つ。

 

「すまん!アリスとの約束思い出した!じゃあな!」

 

私は次元魔法の魔法空間から箒を取り出すとフルスロットルで彼女の家に向かった。フルスロットルで空を飛ぶのはいつぶりだろうか?

 

 

 

 




どうもお久しぶりです。長らく投稿できなかったのは大学生になるということでバタバタしていたからですごめんなさいだから殺さないで。もう一つの私の小説がちょっとアウトな方面へ突っ走っているのであっちはお休みです。ちなみに時系列はもう一つの小説と同じです。
オリキャラの方の霊夢はどんな程度の能力にしましょうか。


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第一話 きっかけはすぐそこに

「まさか魔理沙ともあろう者が約束の日を間違えるなんてね。」

 

 「ちょっと焦っていた時の顔おもしろかったよ?」

 

 「そんなに言うことないだろ?」

 

そう言って顔を赤面させている魔理沙はお茶菓子のクッキーをまた一つ口の中に運んだ。かなり焦ってかっ飛ばしてきたのにまさか約束の日が明日だなんて骨折り損もいいところだろう。おまけにアリスとモーヴから馬鹿にされるという始末。

 

「じゃあ、今!今やっちまおうぜ?」

 

「ダメよ。河童にモーヴの新しい交換パーツを頼んでんのよ。それが届くのが明日。」

 

「今日一日羞恥心に苦しんで過ごすんだね。」

 

魔理沙はこの二人に馬鹿にされることなど別によかった。別に何にもなるわけではないのだ。

 

しかし、

 

「いやあこれはいい記事が書けそうですねえ。『霧雨魔理沙には意外な一面が?』とか。うーん、インパクトに欠けるな…。」

 

何故かここにいる射命丸文。彼女の存在が羞恥心にどっぷり漬かっている魔理沙の顔を落胆に染め上げていた。

 

「そんな記事出されてみろ。幻想郷一の異変解決者の異名が泣くぜ…。」

 

「おや?最近誰も貴女を怖がって寄ってこない。人里で買い物するにも一苦労だと貴女自身嘆いていたではありませんか。」

 

「それと何の関係があるんだよ。」

 

「皆、少しくらいは貴女に親近感がわくのでは?」

 

「ああ、そうなるように書いてくれ。」

 

魔理沙が半ば呆れた声を出すと、文が新聞を床に置いてあったバッグから取り出した。

 

「大丈夫ですよ。私は、はたてとは違います。事実をそのままにエンターテイメント性に富んだ書き方をするだけです。」

 

そう新聞をテーブルの上に広げドヤ顔をする文。こういう奴が一番タチが悪いから困る。しかし、新聞屋とはいつも興味関心を引く記事を書いてくれるというもの。

 

「なぁ、これって」

 

魔理沙が新聞の見出し記事を目の色を変えて指さした。

 

『道端に咲いている花にご注意⁉花が人妖の精気を吸い上げる!』

 

目立ちたがり屋な子供のようにゴシック体で大きく書かれてあったそれは、これはとてつもなくヤバいやつだぞ。そうに違いない!早く調査しなくてもいいのかよ?と言わんばかりに魔理沙の直感を刺激していた。

 

「これですか、実はあなたにも話しておこうと思ったのですが…」

 

文は察したように語り始める。文の話を聞いていくうちに段々と魔理沙の口元が悪だくみをしている少年のようににやついてきた。

 

「丁度1週間前、山童達が集団で栄養失調状態と極めて似た状態で発見されたんです。なんでも、新しいカード販売の会議をしていたとか。」

 

「で、その原因となったものがその精気を吸う花ってやつか。そいつはどこにある?」

 

魔理沙はまるで新しい発見をした幼い子供のように目を輝かせていた。

 

「おお、興味がおありで。しかし、貴女は勘違いをされている。」

 

「?、どういう意味だ。」

 

「そうですねぇ、『どこ』っていうより普通の花がその精気を吸う花になっていっているという感じですね。ですから、日に日に精気を吸う花が妖怪の山全体に広がりつつあるという感じです。それで頭の固いお偉いさん方を妖怪の山の妖怪総出で説得しまして。守屋神社には既に調査依頼をしていますが、今日の夜か明日の早朝に博麗の巫女に話を持ち込む手はずとなっているでしょう。」

 

「異変の可能性が出てきた。というわけか。」

 

先代から変わりどちらかと言うと聖寄りな感じで人妖ウェルカムな博麗霊夢だが、それでも博麗の巫女という存在自体を目の敵にする妖怪たちも一定数いる。妖怪の山の仲間意識が強い妖怪たちなんかが特にそうだ。

 

―そんな妖怪たちがアイツのとこに頼むだなんてよっぽどの事じゃねえか。こいつは面白そうだ。―

 

すると文は思い出したように言った。

 

「ああ、そうそう。魔理沙さん貴女もこれに首を突っ込んだ方が良さそうです。私もその花に触れてみたのですが、やはり妖力を吸われました。その後、倦怠感が凄かったのですがね。これの意味することが何なのか、貴女は知っているはずです。」

 

文は記者でありながら単純な魔力、妖力でいえば幻想郷でもトップであり、弾幕、体術共に実力がある。そんな彼女が倦怠感を感じるほど力を吸われたとなると並みの奴では力をすべて吸われる可能性がある。

 

それはすなわち"死"を意味する。

 

そんな花が幻想郷に広がったら死体のハーヴェストマーチであろう。

 

 それに気づいた瞬間、魔理沙の好奇心は歓喜の雄叫びをあげた。今日はなんて日だ!こんなに面白そうなことは久しぶりだ。また、異変が起きてくれるかもしれない!もはや異変というものは今の彼女にとっては暑い夏の日、喉に流し込むキンキンに冷えたラムネみたいなものである。

 

「というわけで早く貴女も行った方が良いですよ!」

 

文は勢いよく魔理沙を指差したつもりが、肝心の魔理沙はもう既にいなかった。

 

「すんごい勢いで飛び出していったねー。魔理沙。」

 

モーヴの漏らした感嘆の声で、文は魔理沙がもうアリスの家からいなくなっているということに気づく。

 

「では、私もこれで…。」

 

そそくさと帰り支度をする烏天狗をアリスが呼び止める。

 

「あ、クッキー持って行って頂戴。私たちそんなに食べないし。」

 

アリスが指差した先の山のように残っていた紅茶味のクッキーは天狗たちのその日の夕食となった。

 




オリキャラざっくり紹介

モーヴ・マーガトロイド

・アリスが完成させた完全自律人形
・アリスそっくりな見た目
・たまに里の子供たちと遊んでいる
                    以上



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間 主人公は三人だったのかもしれない

「静かすぎる。」

 

 いつもは聞こえる土の中の魂のかけらのざわつきが聞こえなくなっていた。花たちのざわつきが消え失せていた。私は、その静けさで目を覚ましてしまった。何千、何万年と生きてきた私の妖生でこんなことは初めてである。

 

―くるみとエリーの気配が無い―

 

 私は夢幻館の主である。配下の者達の気配は常に感じ取るようにしていた。たとえ今が夜中で二人ならとっくに眠っている時間であっても、だからといって二人の気配が感じ取れないほど私は弱くはない。館の隅から隅まで調べたが彼女らは何処にもいなかった。

 

―おかしい―

 

何かがおかしい。妙な胸騒ぎがした。私はいつもの服に着替えると館を出た。

 

館を出て目に映っていた景色は、なんとも醜いものであった。

 

目に映るもの全てが欲望に飲み込まれてる。全てが力を欲している。

 これが自然の摂理が引き起こしたことではないことだけは理解できた。しかし、世界の根本が変わりかけているのも事実。

 この狭間の世界であれ、現実であれ、世界というものは大いなる意思によって動いている。それは不変であるべきだ。今まで何度もこの世界に手を加えてきた小さな意思たちでさえも世界の根本を変えることはおろか手出しをすることさえ出来なかった。

 

―何が起きている?―

 

 私はくるみとエリーを探しながら思考を巡らせた。館の周りの向日葵はまるで誰かに命じられているかのように土の中の魂の欠片を吸い続けていた。それだけではない。私からも力を吸おうと、うねりを手繰り寄せている。それだけの力を吸えばいくらかは成長するはずが、向日葵達は何も変わらない。ただただ、醜くなっている。それだけだ。ここで確信した。命達をこんな見るに堪えない無残な姿にした者にはそれ相応の罰を与えないといけない。

 

「くるみ?エリー?」

 

 湖に出ると地面に横たわった二人がいた。湖は向日葵畑に比べて開けているため、二人が此処にいて安堵した。この時、私は静けさで目を覚ましたことを幸運に思った。なぜなら二人は体を崩壊させていたからだ。くるみは右足を先から膝まで、エリーは左手を完全に失っていた。その断面からは鮮血が少しずつ、閉めの甘い蛇口から滴る水のように流れている。地面は飽きることなく鮮血を吸い続けていた。

 

「なっ!」

 

 二人に駆け寄ると、ずっと頭の中をぐるぐると回っていたあってほしくない事が起きているということを思い知らされる。恐らくは向日葵達に力を吸われすぎたのだろう。まだ残っている体が酷く痩せこけているところを見ればたやすく考えられることだった。

 

 しかし、不幸中の幸いだ。二人とも微かに息をしている。虫の息よりも酷く弱々しいが、今打てる最大限の良き選択をせねばならない。

 

―こんなに命を冒涜して、魂を、在ることの美しささえも踏みにじったやつを、許すものか。―

 

 私は二人を優しく抱えながら、当てのない復讐心を燃やしていた。

 



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第二話 くだらないもの

 ――深夜、人里、鯢呑亭。

 

 意気揚々と妖怪の山に向かえばもう解決したと門前払いを喰らい、せめて騒ぎの原因となった花を見せろと騒いだが『全部燃やした』と。やってらんねぇと魔理沙は一人寂しく吞んでいた。隣には大きないびきを立ててカウンターに涎を垂らしながら寝ている萃香がいるが、気にしたら負けである。 

 

 

「あーあ。ったくよ。なぁんだよ、にとりの奴。『燃やせば万事解決だったよ☆騒ぐほどの事でも無かったし、原因解明はゆっくりやってくよテヘペロ☆』じゃねえよ!」

 

 もう既に一升瓶五本分は飲み干したであろう日本酒をまたぐいとのどへ通し、猪口をカウンターのテーブルに叩きつける。顔が赤くなりながらも悲壮感漂う魔理沙の顔を見れば、理由がどうであれ誰もが同情するだろう。

 

「まあまあ、また異変起こってくれる時まで気長に待てばいいじゃないですか。(起こったらたまったもんじゃないけど)幻想郷一の異変解決者がそんなに泣きながら飲んじゃって、情けない。」

 

 そう言いつつも魔理沙が久しぶりに鯢吞亭に来たのだ。クジラの被り物とその座敷童らしからぬふくよかな胸をいつも以上に揺らし、奥野田美宵は陽気に鼻歌を歌いながら失恋の中をさまよい歩く乙女のような魔理沙のために料理を作っていた。

 

「魔理沙さん、和食派でしたよね?これ、食べて下さい。」

 

 美宵は魔理沙にとても細い魚の煮付けを出した。その煮付けはショウガと醤油の絡み合うとても心地良い匂いを出していた。それを見た途端、魔理沙の目が新しい出会いを果たした乙女のように輝く。

 

「アジメドジョウか!これはまたいい魚をだしてくれるじゃないか!」

 

口の中に運べばウナギより濃く、風味豊かな味がする。その味にいつしか魔理沙の口元もだいぶ緩んだ。

 

「かぁー。せっかく霊夢がらみの事かもしんねぇって思ったのによ。こんなんじゃ多分違うだろうなァ。」

 

「?、ああ。あの霊夢さんのことですか。」

 

 魔理沙がこんなにも異変に執着する理由は単純な好奇心の他にもう一つある。それが失踪した博麗霊夢の手掛かりをつかむことだ。魔理沙は異変が起こるたびに霊夢の仕業じゃないかと心を躍らせ解決に向かうが、そんなものはただの幻想に過ぎなく、大体はそこら辺の妖怪が起こしたものであった。

 

「あーあ、いつ帰ってくるんだよアイツはぁ。早くしねーと霊夢もおめえ超えちまうっての。」

 

「いつ聞いてもその話、ややこしいですね。ダブル霊夢。まあまあ、すぐ帰ってきますよ。それまでに強くなっていればいいはなしですよ。」

 

そう言って美宵は魔理沙に自信作の天ぷら盛り合わせを差し出した時、彼女は目の前の光景に驚愕した。

 

魔理沙が寝ていたのである。

 

 なんと彼女が喋った数秒間で寝たのである。萃香と全く同じ寝方をしており、鬼と魔法使いが二人そろって涎を垂らし寝ている光景ほど『シュールな絵面』という言葉が似合うものはない。

 

「やはり、ここにいましたか…。」

 

店の引き戸をガラガラと開けて入るな否や神妙な顔をしていたのは射命丸文であった。

 

「かなり、吞んだみたいで。」

 

「はい。」

 

文は頻繁に鯢吞亭を呑みに訪れているが、いつもと違う常連に美宵は質問せざるを得なかった。

 

「何か、あったんですか?」

 

魔理沙の隣にそっと腰かけると文は口を開いた。

 

「手遅れという言葉に片足を突っ込んでいるような状態になってしまった異変が今起きているのです。魔理沙さんを門前払いにしなければ事態はもう少しマシになったものを。」

 

「え?!それって人妖の力を吸う花がナントカってやつですか?今日魔理沙さんそのことで泣きながら呑んでましたよ?なんで解決させるんだー!って」

 

「魔理沙さん、かなり酷い形で門前払いを喰らったようでしてね。解決すらしてないのに。上のくだらないプライドのせいで。その結果、死人が出ました。それも、かなりの数。」

 

先ほどまでの、まるで喜劇を見ているかのような店の空気はすっかり消え失せてしまった。

 

「貴女も気を付けた方が良いでしょう。多分、これから人間も妖怪もたくさん死にますよ。」

 



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第三話 二日酔いと黒幕

 それは七色か、それよりもずっとずっと多いかもしれない不規則に放たれる幾千、幾万の星がこの青空を、大地を埋め尽くしていた。

 

魔符『スターダストレヴァリエ』

 

 今となっては幻想郷一の異変解決者が放つ弾幕。弾幕はパワーなどとほざいている者がこれほどまでに美しい弾幕を生み出せるのか、スペルカードの使用者を見れば見るほど摩訶不思議である。人間と妖怪どちらの間でもこれをお目にかかれたものは幸福になる、などとくだらない話が出回るほど皆が一度は見てみたい弾幕の一つであり、それを見た者は当分の間は話のネタがそのことだけでもつようになる。

 

 しかし、そんな弾幕も二日酔いの魔女が放つのでは格好が付きやしない。

 

「な、なんか、妖精たち、殺意持って撃ってきてない?目もすっげぇ怖いし…。私何かしたかなあ。」

 

 チルノや光の三妖精を筆頭に妖精とはどこにでもいて悪戯にニコニコして弾幕を撃ってくる(別の意味で)馬鹿な奴らである。そんな風に普段から何も考えず、お気楽に弾幕を撃ってくる奴らがこうも集団で執拗に明確な意思を持って行動すること自体、異常であった。

 

「そうかもしれませんね。魔理沙さん、彼女たちから何か盗んだんですか?」

 

 スペルカードを放っても尚、弾幕は豪雨のように迫りくる。いつもなら余裕綽々と回避できる弾幕も今日ばかりは魔理沙の体のあちこちを掠めていった。

 

「いやあ、良い記事が書けそうですよ。これだけ良い絵が撮れれば。」

 

 自分が狙われない事を良いことに、文は次に発行する新聞用の写真を撮ろうとここぞとばかりにシャッターを切っている。あまりにもカメラのフラッシュが縦横無尽に視界に入ってくるものだから魔理沙の頭痛はひどくなっていく一方であった。

 

「お、おい…。おめえ、後で覚えていろよ。」

 

 魔理沙の箒の操作もおぼつかなくなってきており、不正確で鮮やかな弾幕を避けることでさえ困難となっている。

 

―ああ、頭いてェ。―

 

 これが魔理沙の思考回路の大半を占めていた。文から異変のことを聞かされ我が世の春が来たと飛び出してきたはいいものの自分が昨夜大量の酒を吞んだものだからひどい二日酔いでしばらくは弾幕ごっこも出来ないであろう状態であった。

 

「ちっくしょう、こうなったらマスタースパークで一気にケリをつけてやる…。おい!文!真正面にはいるなよ!」

 

「マスタースパークですか。はいはい、わかりましたよ。」

 

 取り出したミニ八卦炉を構えてみても魔理沙には魔方陣を組み立てる余裕などありはしない。

 

「ああ!もうめんどくせえ!マスタースパーク!!」

 

 ミニ八卦炉から轟音と共に放たれた虹色の光は眼前の妖精をピチュンと言わせながら消し飛ばした。妖精の群れの中にぽっかりと穴が開き、そこからは妖怪の山らしきものが見える。

 

「っしゃあ!いくぜぇ!」

 

 魔理沙は最後の力を振り絞り、箒を加速させなんとか妖精の群れを脱した。妖怪の山はもう目と鼻の先である。

 

「いやあ、大変でしたねぇ。」

 

 文の余裕な顔が魔理沙を苛立たせる。なぜ自分だけがこんな目に合うのか、世の不条理というものを少しばかり感じていた。しかし、そんな苛立ちなどすぐに消え失せることとなる。

 

「おいおい、山ってあんなに白っぽかったか?」

 

 いつもは青々とした妖怪の山に白っぽい斑点がいくつもあるようにみえるのである。

 

「なんだあ?河童共の新しい光学迷彩の実験かぁ?」

 

「魔理沙さん、下、見てみて下さい。」

 

 なんでぇ、頭あんま動かしたくねえよ。痛ェし。

 

 そう魔理沙が言いかけた時、文の顔が青ざめている事が分かった。彼女が青ざめる時は霊夢にコテンパンにされると悟ったときぐらいなものだ。そうとなると興味がわいてくる。魔理沙が頭痛が酷くなるというリスクを負ってまで見たものとは、

 

 地面にある白っぽい斑点、正確に言うと白っぽい斑点のように見せる何かであった。

 

「なんだあ?よくわかんねえな。ちょっとスピード緩めるぞー。」

 

箒を徐々に減速させ更には地面へ近づいてみる。斑点の正体は意外なものであった。

 

花である。スズランだの、ジャスミンだの様々な花が咲いていた。

 

「おいおい、こいつぁどうなっているんだ?なんでこんなに花が…なっ!!」

 

よく目を凝らせばどの花の集合地の上にも白骨化しかけの小動物の死骸がこれでもかというほど散らばっていた。

 

「これが精気を吸う花ってやつか。なあ、文。」

 

「そうです。まさか、一夜でここまで広がっているとは。」

 

「あの様子じゃ、妖怪の山全体はもうご愁傷様ってわけか。でも、白骨化するまで精気を吸ってるとして何がどうなってこうなったんだ?」

 

文は、またカメラを構えた。そのレンズは花を映している。

 

「それを私たちが探るんじゃないですか。」

 

「それは、困るわね。」

 

その声と同時に斜め上から強力なバレットが一つ魔理沙の顔を掠めた。すんでのところで顔面直撃コースをいっていたであろう。

 

「誰だ!!こちとら二日酔いで頭が痛ェんだよコンチクショウ!!顔面直撃で頭痛が酷くなったらどうしてくれんだ!」

 

バレットが撃たれた方角を振り向けば、そこには風見幽香の姿があった。

 

「全く、ざまあないね。ふざけているのか?」

 



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間 紅い霧を振り払う三人目

 大いなる意思は私を創った。

 

 小さな意思達は私の姿を描き、創ってくれた。

 

『東方紅魔郷』

 

これが始まれば、私は幻想郷に存在していた事になるはずだった。

 

大いなる意思に時間があれば…の話。

 

私は存在と無の狭間に今でもいる。でも、そんなことももう終わり。

 

まず、私の手元には風符と花符の二つが存在した。この事実から私は自然を操る能力があるのではないかと考えた。見事に当たり。私は少しずつ、ほんの少しずつ自然を操れるようになった。

 

私は理解している。幻想郷という保証されない楽園を壊しているということを。

 

私はいわゆる主人公という存在の一人の予定であったのだろう。でも、大いなる意志は確かに言った。

 

「そんなんじゃぁ、愛されやしない。」って。

 

丁度いいじゃないか。ならばこれは、私の最初で最後の大いなる舞台。憎まれ役をもっともっと買わなければ。

 

そうじゃないと、面白くない。

 

私は異変の黒幕だ。

 

それだけが、その曇りなきどす黒い事実のみが私を私たらしめてくれる。

 

命は悲鳴を共鳴させそれに釣られて大地もゆらめく。そして命は変形し、私を形作ってゆく。

 

私は私という存在を確立させたいだけなのだ。言ってしまえばそれを成した後はどうでも良い。

 

あの花に引っかかり無惨に少しの肉片になってしまった者達を見るとゾクゾクする。私の体が着実に作られているという事実を実感できるからだ。

 

「なんて哀れなんでしょう。」

 

私は自分が憐れみの感情を一つも持ち合わせていないことを理解している。この狭間という虚しさでずっとずっと口元を歪ませているのだから。

 

存在することができるって普通のことじゃないのよ?

 

「だから、そんなに焦らなくても良いじゃない。博麗霊夢?」

 

「だからと言って、アンタを放っては置けないわよ!」

 

「そんな、能力の暴走状態で何が出来る?確かに素晴らしい能力だわ。空を飛ぶ程度の能力。つまりは何にも縛られない能力。でも、存在することにもしないことにも縛られていない。いや、縛る事が出来なくなってしまった。」

 

「!!」

 

「君も、私も同じ。不確実な存在。」

 

「何故こんなことを?幻想郷に存在したいのなら思念体にでもなってとっととこの中から出れば良いじゃない。」

 

「何故か?そりゃあ、私という存在を幻想郷に確立させるためだよ。元々私は異変解決者として存在する予定だったんだ。こう、なんてかな、盛大にぱぁーっていかないと。」

 

そうだ!異変解決者として存在するはずの世界から存在を拒まれ、復讐しに来たっていう設定だったら面白いぞ!

 

「私を討ち倒すのは、霧雨魔理沙かな?ねえ?博麗霊夢。」

 



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第四話 異変解決開始

 

「っぱはぁ!!水がうまい!!」

 

河童の里、砂利の上にあぐらをかき5リッターボトル入りの水を飲み干し、凄まじい光が出てそうな爽やかな笑顔をする魔理沙であった。その隣には神妙な顔をした河城にとりが魔理沙と同じ様にあぐらをかいて座っていた。

 

「盟友。酔いはさめたかい?」

 

「おうよ。ばっちりだぜ!」

 

「そうか…。すまないな。あんなこと言って追い返す真似なんざしてしまって。」

 

「しゃあない。おたくらはメカニック。あんな戦闘小隊寄越されちゃそうもなるさ。」

 

「でも、こうして文が呼び戻してくれた。こっちでも色々情報収集しているんだ。収穫だってある。あと必要なのは…」

 

「その情報から黒幕を割り出しぶっ飛ばす奴。つまりはこの私。霧雨魔理沙サマだ!ダハハハハ!」

 

ー先程まであんな酷い状態だったのに、水を飲めばもうこれか。魔女とはみんなこんなものなのか?ー

 

先程までの酷い頭痛で気付かなかったが、いつの間にか文が消えていた。

 

「おい、文はどこ行きやがった?一回ぶっ飛ばさないと気がすまないんだが。」

 

「あゝ、彼女なら『号外新聞つくってきまーす♪』とか言って飛んでいったぞ。」

 

ーぶっ飛ばすって、何があったんだ?ー

 

「まあいい。君と情報共有がしたい。中に入ってくれ。」

 

「おうよ!なんだなんだ?」

 

言われるがままに、にとりについていく。その先は彼女の部屋である。この部屋はいつも通り最先端を行く機械文明の宝庫といった有様で、四方八方エアディスプレイが煌々と光を放ち、暗い部屋の明かりとしてまで機能していた。

 

「早速だがこれを見てくれ。」

 

「こいつは!あの花じゃねえか!」

 

にとりが立体分析装置のディスプレイを指差す。その中には魔理沙が見た『精気を吸う花』がガラス詰めにされ浮かんでいた。

 

「我々はこれを変異種と仮だがそう呼称している。大丈夫だ。擬似結界を張ってある。まぁ、そんな顔をするってこたぁ、あの死骸の山を見ちまっているってことか。」

 

「ああ、骨が群れを成して転がっていたさ。おお怖い。」

 

「それなら話が早い。結論から言ってしまおう。現時点で分かっていることは3つ。1つ目、吸い取られた生体エネルギーは何者かによって亜空間というべき空間へと送られている。2つめ、超自然的な力が加わって花を変異させている。3つ目、思ったよりも感染スピードが速い。」

 

「ほーぉ。よーく分かった。(嘘ぴょーん)一つずつ説明してくれ。」

 

「では優先して対策を練らなければいけないものから説明しよう。」

 

二人は最新型の大型PCの前に移動した。彼女が慣れた手つきで電子キーボードに指を躍らせ「ドラァ!」と勢いよくエンターキーを押す姿は魔理沙にとっては見慣れた光景である。それに対し、幻想郷のマップが画面に静かに表示されるさまは少し虚しさを感じてしまう。

 

「最重要課題は花の感染スピード、まず変異種の発生源は妖怪の山のど真ん中あたりだ。」

 

マップの北西部分、妖怪の山と呼ばれる地域に表示された赤い点がその位置を示していた。ところが、にとりがキーボードを操作していくうちに点は増え、しまいには幻想郷全体をぐるりと囲むようにして赤い輪っかが出来ていた。

 

「ほーらこのとおり、私たちみんな花に囲まれちまった。」

 

「おいおい、私の知らないところでこんな事が…。んでよ、これどんくらいのスピードでその、えーと、」

 

「感染スピード?」

 

「そうそう、感染スピード。最初に変異種が発見されてどのくらいでこんな地図に花冠作っちゃったわけよ。」

 

「約一週間だ。」

 

「んへえ……。一週間!!ンン!!??」

 

魔理沙が情けない声で驚く事は人間の時以来であった。

 

「てこたあ、かなりまずくねぇか!?ポツンとした赤い点が一週間で幻想郷囲んでんだぞ!」

 

「だから魔理沙呼んだんだよう!燃やしても5時間経てば元通りに花がさいてんだよう!もうにとりちゃんお手上げ!どうしよう幻想郷!」

 

にとりの幻想郷を憂う一言を遮るかの様にジージーと音が鳴った。その音の発生源はにとりの腕時計からである。

 

「なんか鳴ってるぞ。」

 

「あゝ、変異種の調査隊の奴らからの着信だね。」

 

「何だ、調査だなんてそんな事やってたのかよ。」

 

「バッキャロー。調査しないと何も分からないだろう?っともしもしー?どうしたー?」

 

ーいつも思うが、霊夢の“勘”ってやつはすげえんだな。こんな事しなくたってアイツはすぐ黒幕に辿り着く。ー

 

魔理沙が霊夢との思い出にふける瞬間だった。

 

『にとり!人里に変異種が!』

 

その大音量で響く焦燥に駆られた声の奥からは、数多の人間の叫び声が狂った芸術のように渦巻き、響いていた。

 



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第五話 君は人間か人形か?

「どうなってんだよ!ちい!切っても燃やしてもキリがねえ!」

 

「妹紅姉ちゃん…。怖いよう。」

 

「へっ!大丈夫さ!ねえちゃんが何とかしてやる!」

 

その業火は人々を焼く事なく、見事に変異種だけを包んでいた。とはいえ、地面からは異常なまでの成長速度で花が咲き誇っているのだ。流石の妹紅でも人里中に炎を踊らせる事は難しい。

 

ーこいつぁ、他の場所はもっと酷えだろうな。この子たちの親も、もしかしたら…ー

 

「皆、とにかく屋根の上に登りなさい!今梯子を掛ける!大丈夫さ、皆が登る時間くらい妹紅ならどうって事ない!」

 

「サンキュー!慧音!」

 

慧音の大声というものは寺子屋の子供達にとって恐怖の象徴であったがこの時ばかりは頼もしい限りであった。

 

「よし、登りきったな!皆!落ちるんじゃないぞ!」

 

「慧音先生は!どうするの!」

 

「此処に結界を張った後、逃げ遅れている人々を救助する!」

 

それを聞いた妹紅が呆れたように肩をすくめる。

 

「慧音、おまえ阿呆か。ガキンチョ共には良き教育者がセットてもんだろ?私が行く。結界は五重にしておけ。」

 

妹紅が飛び立つと火柱が次々とあがり、器用に炎を操りながら、寺子屋を後にした。

 

人里を見下ろせば、白く、綺麗な花畑が人骨と共に栄えていた。しかし、意外なことに多くの人々が屋根の上に上がり事なきを得ていたのだ。何故かと妹紅が思考を巡らせているとその疑問をかき消す声が聞こえてきた。

 

「まだ花に飲み込まれていない人は自力で上がって!動けない人から先に引き上げていくわよ!」

 

アリスであった。彼女は精気を吸われ、動けなくなっていた人々を魔法糸で引っ張り上げていたのだ。

 

「ハイハイー!もう大丈夫だよぉー!アリス引っ張り上げてー!」

 

妹紅は驚愕した。触れれば精気を吸われるというのに、平然と花の上に立って逃げ遅れている人を救助している金髪の少女がいたのだ。彼女はモーヴ・マーガトロイドである。この日、アリスと一緒に人形劇を披露しに来ており、その人懐っこい性格で里の子供たちの間では人気者である。彼女は人形であり、生体エネルギーを持たないため変異種の上で逆立ちしようが関係ないわけだ。

 

「おい!危険だぞ!」

 

しかし、妹紅は彼女のことを知らなかった。すぐさますっ飛んでいくと衰弱している人間ごと彼女を引っ掴んだ。

 

「ちょっと何するのよ!まだ里の人間全員助けられてないんだよ?」

 

「馬鹿野郎!てめえまで死ぬ気か!力ぁ吸われてお陀仏だぞ!」

 

「私人形だからそんなの関係ないもん!いいから離してっ!」

 

モーヴが妹紅の腕を強引に引きはがすと「絶対みんな助ける!」と勢いよく地へ向かって飛んだ。

 

しかし、その意思も無駄となる。

 

急に人里中の花々が魔法にでもかかったかのように家屋の何倍もの高さまで急成長したのだ。茎は異常に太くなり、その周りには那由他の数にも思える花が咲き誇っていた。その姿は植物の理を大きく外れ、ただただ人々に恐怖を与えるものであった。

 

「おいおい!冗談だろ!」

 

「まずい!モーヴ、それから離れなさい!」

 

そうアリスが叫んだ時、既に手遅れとなっていた。まるで意思を持っているかのように蔓を伸ばしてきたソレにモーヴの手足は雁字搦めとなってしまった。

 

「な、なにこれ!」

 

「モーヴ!!」

 

「畜生!!」

 

アリスが巧みに人形たちを操り、モーヴに絡みつく蔓を切断していくがすぐ再生し、妹紅が焼き払おうとしてもすぐに再生し、ソレの周りをぐるりと周り同じ事を試しても完全な無駄となり、完全ないたちごっことなってしまった。そればかりか、段々と蔓は増え、モーヴの頭と胴体少しを残してすっかり飲み込まれてしまった。

 

「アリスー!助けてよお!」

 

「どうやって生きてるんだよ。これ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『地に伏せよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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間 More Brad!!

「計画は順調だよ。博麗霊夢。運がいい君は、特等席でこのミュージカルを楽しむといい。」

 

「あんた、今のうちに覚悟しておくのね。」

 

「おやおや、強がりかい?ま、シナリオは君の臨む未来に進むよ。レイムちゃんったら私のシナリオに口うるさく言ってくるもん。手直しして納得してもらうまでどれだけかかったか。」

 

「はあ?私はあんたの馬鹿げたシナリオとやらに付き合った覚えは無いし、今すぐでもあんたをぶっ飛ばしたいところだわ!!」

 

「??ああ、違う違う。君じゃない。君の後の博麗霊夢だよ。」

 

「は、はぁ!?」

 

ー1年前ー

 

私はアストラル体となってレイムと接触を図った。無事に彼女に接触することに成功し、計画への勧誘するために色々と熱弁した。

 

が、しかし

 

「そんなことするのであれば、いっそのこと幻想郷を崩壊させてくれればいいじゃないですか。」

 

「だ!か!らぁー!いいじゃんかー!私をド派手に!盛大に!バァー!って打ち倒してよおー!」

 

困ったものだ。異変解決者の博麗の巫女にとって美味しい話だと思っていたが、とんだ計算違いもいいところだ。

 

「あんな、恩を仇で返すような連中なんざ到底徹尾助けたくありません。助けてもらったと思わせる事自体が嫌です。」

 

「ワオ、博麗の巫女らしからぬ発言。」

 

まぁ、大いなる意思も私の事巫女って言ってたし、私も大概だけど。

 

「説教が飛んで来ないだけ、貴女はだいぶマシです。」

 

彼女の目には一点の曇りもないドス黒い闇が浮かんでいるだけだった。この目を見れば彼女が博麗の巫女としてどのような仕打ちをされてきたのか語られずともよくわかる。

 

「じゃあなんか報酬好きなものあげるって言ったら?」

 

「別に欲しいものは無いので。」

 

こんな目してるもんなァ、物とかいらなそうだもん。なんか事象とか現象とか?いや、もういっそ他の人に?ダメだ。結界を操れるのは彼女しかいない。

 

「じゃあ、ウィンウィンの関係に持ち込むとしよう。」

 

「と、言いますと?」

 

「私は幻想郷に大異変を起こし、打ち倒され、語り継がれるような黒幕となる。これはオモテのテーマね。」

 

「オモテも何も無いと思いますが…」

 

「まあまあ、んで、裏のテーマが君の幻想郷への復讐ってのはどう?君の目を暗くさせた奴らにツケを払わせるんだ。うんとたまりにたまった膨大なツケをね。」

 

そう、私が言った途端に彼女は目を輝かせえらく食いついてきた。

 

「乗ります!」

 

「そんなに食いつくほど博麗の巫女ってヤバいの…?」

 

「そりゃあ、異変解決しても賽銭どころか礼の一つも来やしない。来るのは罵倒と厳しい修行と博麗の巫女はなんたるかって話を押し付けられることです。魔理沙さんがいなければ私が異変起こしてますよ。」

 

冗談で言ったつもりだけど。まあ、好都合といえば好都合。私が華々しい最期を迎えるために協力してくれる?のかな?まあいいや。

 

「で、私は何をすればいいのです?妖怪殺し、人殺しなら進んで引き受けて差し上げますよ?」

 

「わお怖い。でも、そのつもりだよ。てか、それしないと私の力が集まらない。私も今アストラル体でやっとこさ此処にいれるからさ。」

 

私は目の前の小動物が寝そべっているコスモスの花に対し、因果改変を施す。

 

「あそこの小動物。よく見ていて。」

 

たちまち、ソレのエネルギーを吸い尽くし、骨を残して綺麗さっぱり命を私のものとした。

その醜い光景を見たレイムは口元を緩ませていた。

 

「良いですね。それ。凄くいい!」

 

「まず計画の第一段階では博麗大結界に沿って今見せた花を大規模に展開していく。んー、君に分かりやすいように全部白色で統一しておくよ。」

 

「それで?その第一段階とやらでは私は何をすればいいのですか?」

 

「私に力がある程度貯まるまで花を『隠して』欲しいんだ。あの花はまだどうしても邪気を隠し切れない。どうかな?できる?」

 

「それは…、博麗大結界を応用すれば出来そうですね。第一段階は妖獣、野獣などの低知能の生物がターゲットということですね。」

 

「力がある程度集まったら第二段階!此処ではレイムちゃんお望み!大規模殺戮!どんどん力を吸いまくりまーす!」

 

ーそして現在。ー

 

「お、キタキタ。」

 

『抵抗』の感触が走った。それは、私の合図にレイムが答えたということ。

 

「ははっ!べらぼうに強いじゃあないか!これがレイムちゃんの能力『地を這わせる程度の能力』とでもいうのか!負けないぞお!」

 

レイムも気合が入っているのか『抵抗』の感触がすごく強い。

 

「何が起きているのよ!説明しなさい!」

 

「オペラの幕が今まさに開かれたのさ!演者も!オーチェストラの楽団も!観客も!全て揃った!君達は運がいい。実に運がいい!」

 

 

 

「さあ、とくと踊り狂え!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六話 リーインカーネーション

ーなんかやべえ通信入ったからフルスロットで箒かっ飛ばしてるがー

 

『まず霊夢の能力で対象を無力化若しくは弱体化。後に魔理沙が高火力で対象を殲滅。』

 

「何て安直な作戦なんだぁ、オイ。」

 

作戦を思い出せば思い出すほど魔理沙の怪訝な表情は度を増すばかりだ。

 

「んでよ、本当に大丈夫かぁ?こんな作戦。」

 

通信機越しに顰めっ面をされるにとりは肩をすくめた。

 

「仕方がないだろう?少なくとも試してみる価値はあるさ。」

 

「あのー、私は今どう言った状況で連れてこられたんですか?」

 

魔理沙の後ろで困った表情のまま愛想笑いを浮かべる霊夢がいた。誰だっていきなり首根っこを掴まれて半ば強引につれて来られたらそうなる。

 

「ちいと人里でボヤ騒ぎがあってよ、そんで霊夢が必要となったんだ。」

 

「はぁ…。」

 

「おい魔理沙。理解していないようだが?」

 

「うるしゃい。黙っとれ。」

 

「異変、ですか?」

 

「ああ、何故かお花ちゃん達が人の精気ドレイン祭り開催させちまってよ、その原因究明にこの魔理沙様は勤しんでいるってワケさ。で、今度は人里でお祭りが開いちゃっているから向かってんだよ。」

 

「成程!私は吸収能力を弱体化させるために必要だったんですね!」

 

「今の説明で理解できるのかい!?」

 

「霊夢はお前さんみたいに石頭じゃないんでな。」

 

森を抜け、見晴らしのいい草原に出た。そこは妖精が多発する地帯であり、いつ襲われても不思議では無い状況であった。

 

スパン。

 

突如、上から一つのバレットが魔理沙の頬を掠めていった。

 

「ちぃ!早速お出ましかこんちくしょうめ。」

 

しかし辺りを見回してもバレットの発生源が見つからない。妖精どころか陰陽玉すらいない。その弾幕は濃密さを増す一方であり、極め付けは古い時代の弾幕のような一発一発が殺意に満ちた弾幕である。

 

「何だぁ、こいつぁ気味が悪い。」

 

縦横無尽に降り注ぐ弾幕はやがて星型弾も交えて美しく、より回避が難儀なものとなっていった。

 

「何だこの弾幕、見覚えがある…。まさか?いや、そんなこたねえはず。」

 

「この星型弾、魔理沙さんの使うやつとそっくりですね。」

 

この霊夢の何気ない一言が魔理沙の疑問を確信に変えた。その刹那、全てのバレットが消え、ようやく弾幕の主が姿を現した。

 

「魔梨沙。こんな所で何をしてるの?それに後ろに見えるのは博麗の巫女かしら?その娘は私達にとって邪魔な存在よ。消してしまわないと。」

 

その者は緑のロングヘアーに瞳は更に深い緑を宿らせ、身に纏う紺のマントは新月の夜を思わせる。

 

「何故だ?何故あんたが此処にいる?」

 

「何をおかしな事を言っているの?まさか、そこの巫女に洗脳されたのかしら?全く、貴女もまだまだね魔梨沙。」

 

ー魅魔様だ。すっげぇ懐かしい姿してるなぁ。だが魔力の流れがまるで違う。それに本来の魅魔様は西洋系統の魔力だがこいつは東洋系統の魔力だ。ー

 

「少し手荒な治療になるけど…覚悟なさい!」

 

ーこいつは偽物ってことは間違いない。だが作りが精巧過ぎる。一体誰が?これも異変の一部なのか?ー

 

魅魔(偽)は不敵な笑みを浮かべながら魔理沙のオーレリーズサンを思わせる四つの大きな玉を浮かべ魔理沙達へ回転させながら飛ばしてきた。

 

「まずい!霊夢しっかり捕まってろ!」

 

「へ?」

 

その玉は彼女達の前で突如破裂し、放たれた幾千幾万のバレットは全て満遍なく彼女達に向け襲い掛かる。それは魅魔の常套弾幕であり、かなり強烈なもので並の妖怪が受けようものなら成すすべなく無残なタンパク質に早変わりする事になるほどだ。

 

「ふいー。間一髪ってとこかな。」

 

しかし魔理沙は余裕綽々とした表情でそれを転移魔法で容易く避けていた。

 

「いきなり何ですかあれ!しかも反則弾幕じゃないですか!」

 

「ありゃスペルカードルールが制定される前の弾幕でな。いわゆる『殺しの弾幕』ってやつだ。しかも相手が魅魔様ときた。ちいと厄介だなこいつぁ。」

 

「え?魅魔様?!あれが?!いつもと全然違うじゃないですか!」

 

「安心しな、ありゃ偽物だ…っと!」

 

次に魅魔様(偽物)は大小様々な星型弾を繰り出す。弾幕のパターンだけは本物のようであり、かえって魔理沙には好都合である。

 

「懐かしいなぁ、この弾幕。よくこれでボコされたっけな。」

 

『殺しの弾幕』。その名の通りこの弾幕は正真正銘の決闘、つまりは殺し合いで相手狙いの弾がかなり多い。しかし、それ故にフェイントやスピードの緩急をつけ照準をずらすなど現在の弾幕ごっこに比べ避け方のレパートリーが豊富である。聞こえはかなり物騒だが実際はスペルカードよりも攻略はしやすい。

 

魔理沙は自分に向けられた弾幕を利用し、姿をくらませ転移魔法で一気に魅魔(偽物)の後ろに回り込む。

 

「っ!魔梨沙が…消えた?」

 

「後ろにいたりしてな。」

 

「なっ!?」

 

「ほうら、かわいい背中がお留守だぜ!」

 

星符 「アステロイドベルトナイトメア」

 

一際大きな星型弾達が魅魔(偽物)に向け飛んでいく。それらは外見からは考えもつかない質量を有しており、魅魔(偽物)の体を目を覆いたくなるほど確実に抉り取った。

 

「あがぅっ…あら、魔梨沙?一緒に、人間に…復讐をするの。これだけ…あなたが成長していれば。フフっ。」

 

「あんたは未来で楽しくやってるさ。安心しな。」

 

「そう…。なのかしら、ね……。」

 

息絶えた魅魔(偽物)の表情はとても穏やかで(半分顔面抉れたが)その酷く抉れた箇所から彼女の中身が嫌でも見れる。抉れた中身は白い花であった。我こそが女王と言わんばかりに咲き誇る花々が魅魔という虚像を作り上げていたのだ。

 

「オイオイ、どうなっている?こいつぁ例の『花』だ。」

 

「この花がですか。」

 

先程まで魅魔だったものは少しずつ身体が解け、白い花へその形を変えて行く。

 

「それにしても自然過ぎる命でしたね。誰かが作ったにしては完成され過ぎています。」

 

「しかも思考が『あの時』そっくりときた。悪趣味だなぁ。こいつぁ。」

 

偽物の器を精巧に作ったとてその魂まで精巧に作り出す事は熟練の魔法使いでも到底出来る事では無い。あの偶像神ですら困難を極めるだろう。

 

「おいにとり!今の全部見てたか?」

 

「そういえば通信機付けっぱなしでしたね…。」

 

「一応は、カメラにも鮮明に写っているし大丈夫だ。これから解析してみる。それと魔理沙。」

 

「何だ?」

 

「あれほど通信機付けっぱなしで転移魔法をするなと言っただろう?全く。おかげてノイズがうるさいったらありゃしない。」

 

「ああ。すまん。急ぎ人里へ向かう。」

 

ーあ、魔理沙さん説教始まる前に逃げた。ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第七話 これで君は前に進める

『地に伏せよ』

 

その声が響いたと同時に全身に鉛がのしかかるような感覚に襲われる。全ての因果が地に伏すこととなる。

 

これが霊夢の能力『地に伏せさせる程度の能力』

 

失踪した先代霊夢の『空を飛ぶ程度の能力』とは真反対に位置する能力である。霊夢はまだ完全に自分の能力を操る事が出来ず、能力を使う相手を限定する事が出来無い。故に無差別に発揮してしまう。

 

「相変わらず強いな!気ィ抜いてたらやられちまう!」

 

だが魔理沙はそれ以上のメリットがあると考えた。無差別ということは狙いを定める時間が要らなくなり、かつ広範囲に瞬時に『花』を無力化出来ると考えたからだ。

 

「どんぴしゃりってとこかな?」

 

見渡せば先ほどまで邪念たっぷりだった花々が地に抑えつけられ、吸収範囲を縮小させている。

 

しかし、例外が一つ存在した。

 

「ったく今日は最悪な日だわ!モーヴが花に囚われたかと思えばお次は体が鉛のように重たいったらありゃしない!」

 

モーヴに巻き付く花々は、完全自律人形である彼女の永久機関のエネルギーによって霊夢の能力に対抗していた。

 

「何、この殺意の塊は…。ねぇ、アリス大丈夫?ねえってば!」

 

「自分の心配しなさいってのよ!」

 

重くなった自分の頭を何とか上げ、アリスが見たものは擬似物質化された魔法で編み込まれた『マジックミサイル』であった。それらはモーヴに巻き付く花々にめがけ一直線に飛んでいく。轟音と共に超高速で飛来するそれをアリスは知っていた。「弾幕はパワーだぜ⭐︎」だの「この本借りてくぜ!多分返す!」だの抜かすあの憎たらしい白黒の物である。

 

「全く、遅すぎるのよ魔理沙。」

 

マジックミサイルはモーヴへの被弾を避け命中し、派手に爆発する。その刹那、魔理沙が全速力で突っ込み、モーヴを花々から引き離す事が出来た。しかし、余りにも無理矢理過ぎたため彼女の右腕がバギンと音を立てもげてしまった。

 

「モーヴ!大丈夫か!」

 

「おそーいよ!危うく機能停止してた!あとランボーだよ!

 

「こいつぁ元気そうで何よりだ。右腕はまたアリスに作ってもらえ。」

 

「もー!」

 

『魔理沙!地面に結界を張って!』

 

「んぁ、アリスなんか言ったか?」

 

「はあ?何言ってのアンタ?てかこれどう言う状況なのよ!アンタ何か知ってるんでしょ!最悪な日よ全く!」

 

霊夢の能力で全身が重く動かないアリスも辛うじて怒鳴る元気ぐらいはあったようだった。

 

『魔理沙!』

 

やっぱり聞こえる。何処かノイズがかかって聞き取りづらく、くもっているように聞こえづらい。

 

でも、なんか聞き覚えがある声。

 

「この声、よく知ってる…。」

 

「どうしたの魔理沙?」

 

「アンタ遂に最後の頭のネジが吹っ飛んだのかしら?」

 

『ねぇ!聞こえているんでしょう!』

 

霊夢だ。何故すぐ気付かなかったのか。あの時、目の前で消え失せた霊夢が今、語りかけてきている。

 

「霊夢か!霊夢なんだな!何処だ!何処にいる!」

 

『今すぐ地面に結界を張りなさい!早く!』

 

「なんだって急に!」

 

『説明してる暇がないの!早』

 

ーそうは問屋が卸さないってね。まだ邪魔はさせない。してはいけない。博麗霊夢。ー

 

霊夢の声はプツリと途切れてしまう。魔理沙は平行になってしまう会話の意味がようやくわかった。

 

下でくたびれている花々が霊夢の能力に抗い、魔力が急激に上がっているのだ。

 

「モーヴ!上海と蓬莱とお前さんで結界を張ってアリスを守れ!」

 

次に起こる事は容易に想像できる。力の板挟みという奴だ。魔理沙は『魔法使い』になってから色々な魔法を使いこなせるようになったが、どうも結界魔法だけは苦手である。

 

「結界魔法だけは苦手なんだヨォォ!」

 

彼女はすぐさま人里を覆い尽くせる程の結界を花々に掛けるが、所詮は無駄な足掻きだと彼女自身が一番分かっていた。自然を操る魔法というものは東洋魔法であれ、西洋魔法であれ、同時に広範囲であればあるほど自然の因果を操ればその力は比例していく。

 

ーおお!霧雨魔理沙はようやく気付いたようだよ。今まではある一定の範囲で独立させた術式を『同時に』展開していただけだからね。それを繋げたらレームちゃんといい勝負すると思うよ。まぁ、今邪魔するのは得策じゃないよ。君が戻る頃に幻想郷が消え失せていたら嫌でしょう。博麗霊夢?ー

 

花々は魔理沙の結界など最も簡単に打ち破り、霊夢の力を押し返すまでの力を放つ。更に霊夢がこれを抑え込まんと力を強める。

 

「うおぁ!こいつぁやべえ!」

 

魔理沙は間一髪で自らに結界を張ることが出来た。しかし、二つの力のぶつかり合いは凄まじくバレット一つでも放とうものなら歪み落ちる程だろう。それ以上に危惧すべきはこれ以上どちらかの力が高まれば人間など簡単にひしゃげてしまうという点である。見渡せば、もう声すら出せず悶え苦しむ人間達の姿があった。

 

「霊夢!強すぎだっ!このままじゃ人間がひしゃげるぞ!」

 

「で、でもっ!ものすごい力で押し返されてっ!今弱めたらそれこそ、ここの人達全員死んでしまいます!」

 

このまま能力を発動させていれば人間がひしゃげ、それを止めても人間が死ぬ。おまけに力の出どころすら見当がついていない。

 

「こいつぁ…お手上げってか?」

 

霊夢のすぐ下でペちゃりと音を立てて、何かが赤く鉄臭い液体を撒き散らし、肉塊と化した。

 

その様を見た霊夢の口元が緩んでいる事に一体誰が気付いたのか。少なくともその表情は負の感情の物では無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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間 夢、現存

心から信頼できる友達が出来た。はじめての『トモダチ』だ。

 

「私は永遠に語り継がれる黒幕になる。」

 

彼女はとても壮大な夢をいつも私に語ってくれる。夢を語る彼女の目はいつも輝いていた。

 

 

私は、彼女の夢が好きだ。だから私は今唄う。目の前の全てを地に叩き落とす。

 

『地に伏せよ』

 

彼女は

 

「レームちゃんの夢も絶対叶えるからね。」

 

そう言ってくれた。私の夢は彼女のものに比べ段違いに小さいものだ。だが彼女はそれでも良いと言う。私が理由を問うと

 

「夢を持ったら一緒に前に進めるでしょ?」

 

無邪気に笑い、その澄んだ青い瞳は真っ直ぐと私を映していた。

 

彼女を永遠に語り継がせる時が来た。あの彼女の花々は何を見ていたのだろう?恐怖に歪んだ顔か。それとも救世主による安堵か。

 

『もっと咲かせよう!まだ輝ける!』

 

彼女の声が聞こえて来る。そうだよ、君はもっと輝ける。私がいくら地に打ち付けようがその能力を抑え込もうが君はそれをも超えてしまっている。

 

「おい霊夢!強すぎだ!このままじゃ人間がひしゃげるぞ!」

 

ああ、邪魔が入った。彼女も抵抗しているんだ。ふと辺りを見渡すと上と下から力の板挟みで今にも潰れそうな人間で溢れ返っていた。ざまあみろ。誰一人として同情するもんか。私は守りたい者を守る。お前達はそうじゃない。

 

「で、でもっすごい力で押し返されてっ、今やめたらそれこそここの人達が死んでしまいます!」

 

我ながら良い演技が出来た。特に顔。魔理沙さんを騙している事は少し気が引ける。だけど、躊躇いを打ち破らなければ私は前に進めない。

 

「こいつぁ…お手上げってか?」

 

彼女の力はどんどん増していく。悲鳴すらも出せなくなるような苦しみを味わってもらわなければここまでやってきた意味がない。

 

『いざ、作戦第二段階!いくよ!レームちゃん!』

 

人間も妖怪も皆許すものか。皆地に伏して彼女の糧となれ。苦しんでも怨んでも泣いてもツケはまだたっぷりと残っているぞ。後悔する暇をも与えず彼女は無慈悲に生命を飲み込んでいく。

 

ほら、

 

ペちゃり

 

心地いい音を立てて一人、唯の肉の塊になった。力の板挟みに耐えられず体の内側から破裂したのだろう。所詮はこうなって当然の塵芥共だ。

 

気分が少し晴れた。

 

「霊夢!すまん!」

 

その魔理沙さんの言葉が聞こえたかと思えば、私は博麗神社の石畳の上に立っていた。

 

しまった、やられた。転移魔法を使われたんだ。いい所だったのに。

 

『あーあ、邪魔されちゃったね。』

 

「力はちゃんと集まってる?それが気がかりなんだけど。」

 

『あーそれなら大丈夫!一応弾幕戦は出来るほどまでは集まったよ!』

 

「念には念を入れてもっと力は集めないと。人里はどうしたの?」

 

『霧雨魔理沙が、すっごい猿芝居はじめてなんか可哀想になったから引き上げた。「霊夢が飛ばされてしまったー!!!」

ってさ。すっごい顔して。』

 

あの人は良い人だ。現に私のことをフォローしようと躍起になってくれている。私にとっては彼女と同じくらい大事な存在。しかし今は難しい存在となった。

 

『魔理沙は、君のこと大事そうだったし何かフォローしにそっち行きそうだね。』

 

「なら行動は早めにってね。作戦第二段階は始まったばかりなんだから。」

 

『レームちゃん、顔が明るくなってるね。嬉しいな。』

 

「そう?いつも通りだよ。」

 

いつもは憂鬱な博麗神社からの景色が、少しだけ美しいと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話 情け無い意地の先

『花の異変対策本部(仮)』

 

達筆な文字が書かれている看板が天狗の詰所に置かれてあった。

 

「人里に『花』による攻撃を確認。霧雨魔理沙、博麗霊夢の二人がこれを沈黙化。されど人里の被害は甚大なり。か。」

 

相次ぐ悪い報告に犬走椛は頭を抱えていた。白狼天狗である彼女は、哨戒班の隊長である事を理由に現在起きている異変の情報収集任務の統括を(半ば強引に押しつけられたが)担っている。

 

「これで現状、確認が取れているのは紅魔館、永遠亭、命蓮寺、博麗神社、守谷神社。守谷神社を除いて連絡が付くのが不思議なほど壊滅的な状況。」

 

椛は睨めっこをしていた資料を空に投げ散らかす。

 

「あー!もう!なぁーんで魔理沙さんを追い返したんだよぅ!しかも博麗の巫女にも絶対協力しないとか言っているし!バッカじゃねーのー?術の出どころもわかってない、黒幕見当つきません、黒幕探せって無理あるってもんだろこれぇ!」

 

「あやや。椛が珍しくキレてますねー。」

 

詰所の引き戸をガララと開くやいなや射命丸文が小馬鹿にするように言った。

 

「良いですよねー。文さんは。さぞ自由にやってんでしょうけどこっちはみんなにやな仕事押し付けられてんですよ!」

 

「まぁまぁ、そうカッカしない。せっかく椛にいい知らせを持ってきたってのに。」

 

「新聞の売り上げでも伸びましたか?」

 

「霧雨魔理沙、博麗霊夢、東風谷早苗他異変解決者を正式編入させることになりました。」

 

全てに疲れ果てたように曇っていた椛の目が輝く。

 

「ほ、本当ですか!誰がそんな事。」

 

「私だ」

 

文が開けっぱなしにしていた引き戸から二人の直属の上司である飯綱丸龍が歩いてきた。

 

「ああ!流石です飯綱丸様!何処ぞのガセネタ捏造してクソみてえな新聞記事書いてる鴉天狗とはえらい違いです!持つべきは有能な上司。はっきりわかんだね。」

 

自分の業務が楽になるとわかり、耳と尻尾をフル稼働させた椛が飯綱丸に勢いよく抱きつく。

 

「しかし、飯綱丸様。他の大天狗様やお上の反対も多かったのでは?」

 

文は笑いながらも怪訝な目で質問を投げかけた。

 

「あ、確かに。それ気になります。一体どんなカラクリで?術とか?」

 

「いや、みんな色んな所との癒着が有るからそれをダシに脅した。」

 

「やり口がどえらいヤクザだった!」

 

ーいや、飯綱丸様も人のこと言えないのでは?ー

 

「という訳で異変解決者なども交えた御前会議が開かれる事となった。初めからこうすればよかったものを…。」

 

「全くそのとぉーりですよ!で、御前会議はいつやるのですか?」

 

「3時間後だ。今、同胞達が全力で彼女らを探している筈だ。椛、お前にも手伝ってもらいたい。」

 

椛の耳と尻尾がひどく項垂れ、飯綱丸を抱き締めていた腕も解け、そのまま滑らかに床に伏していった。

 

「うー。それじゃあ私も外出て探してきますぅ。」

 

「いや、お前はここから千里眼で博麗の巫女を見つけるだけでいい。文から聞いたがお前の負担が大き過ぎる。少しはサボっておけ。これは上司命令だ。」

 

嬉しい業務命令に、椛の耳と尻尾がまたフル稼働していた。

 

 




椛  「目標補足!って、もう他の鴉天狗と行動しているじゃないですか。」
飯綱丸「なんだと?誰と居るんだ?」
椛  「えーと、あれです、最近、もてはやされてる三人組の特級戦闘員です。」
飯綱丸「まずいな…。アイツらは巫女をかなり見下しているからなぁ。何をしでかすか…。」
椛  「うわっ!めっちゃ巫女の身体痣だらけですよ!」
飯綱丸「いかん!椛、正確な場所を教えてくれ!お前はここで待機だ。」


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第九話 バケモノへの目覚まし時計

 懐かしいトラウマが霊夢を襲う。

 

集団心理とは恐ろしいものだ。無理矢理に具現化された偶像と空想を盲信し、それらは刃となり異端者のレッテルが貼られた者を容赦無く切り裂く。人間を軽蔑する妖怪も、妖怪を軽蔑する人間も、本質的には何ら変わりはない。言わば同じ穴のムジナだ。

 

ー妖怪の山 天魔の御所 天魔の御前ー

 

天魔は酷く頭を抱えた。最早、御前会議どころでは無かった。長い間天狗達の総代を務めてきた彼女でさえ心底狼狽えるとんでもない厄介事を起こしてしまったからだ。

 

鴉天狗の最上位階級に位置する『特別級』にわずか18の歳で上り詰めた、檳榔、濡羽、相済。彼女らが霊夢を半ば拷問のように酷く痛めつけて持ってきたのだ。更にはことの重大さがわからぬ様で虫の息の霊夢をせせら笑っている。

 

「別に博麗の巫女がなんだと言うのですか。こんな奴に何故頼るのです?」

 

檳榔の言葉に同調する様に濡羽も頷く。

 

「この様な我らの不意打ちにも対応出来ぬような腑抜けなど役に立つはずが御座いません。」

 

この御前で周りに集う天狗も同調の声を上げ、彼女らを称賛する声一色になってしまった。差別と嘲りをかき混ぜた醜い盲信に満ちた空間は、最早天魔ですらも太刀打ち出来ない姿無き怪物と化してしまった。

 

相済が霊夢にトドメと言わんばかりの蹴りを入れようとした刹那、御前の扉が勢いよく音を立ててあらぬ方向にひん曲がり開く。

 

「だああ!魔理沙さん!それ引き戸だって!なぁんで蹴破っちゃうんですか!」

 

「んなこと知るか!蹴破る前に言えよ!」

 

考えうる最悪な展開がやってきた。盛大に扉を破壊して入って来たのは霧雨魔理沙だ。隣には守矢神社の巫女である東風谷早苗もいる。

 

「おーい天魔ぁ!来てやったぞこんちくしょう!」

 

ーまずい!非常にまずい!東風谷早苗はまぁ置いておこう。だとしてもだ、霧雨魔理沙は今代の霊夢の保護者的な立ち位置で非常に可愛がっていると聞く。更には人間だった時でさえおっそろしい高火力の魔法を躊躇なくぶっ放して来たのに今はただの魔法使いだぞ!怒らせたら非常にまずい!

 

ここで天魔は重大な事に気がつく。

 

ーあれ?でも待てよ?もう見られちゃまずい惨状があります。もう本人目の前です。周りは隠そうともしません。ー

 

天魔の頭脳が音速をも超えるような速さで今ある情報を全て処理する。その結果、一つの結論に至った。

 

これ、詰んでね?

 

ズカズカとあいも変わらず礼儀知らずに御前に足を踏み入れる魔理沙。天魔は何かの間違いで彼女の視界が極端に狭くなっている事を願っていたが、ど真ん中に倒れている霊夢を見逃すはずも無かった。

 

「おい…霊夢なのか…?」

 

血を流し、まるでぼろ雑巾かのように倒れており踏みつけられているのが霊夢だと気付いた魔理沙は星形弾を檳榔、濡羽、相済にありったけ放つ。三人は鴉天狗である。速さが売りの連中とだけあり、魔理沙の弾程度避けることは造作も無い。

 

「おい、天魔。私を呼び出したのはこんな悪趣味を見せびらかせるためか?」

 

ーっざけんじゃねえ!私だって博麗の巫女をこんなにするつもりなんざ微塵もねえよ!コイツらだよ!この三馬鹿トリオが見事にやってくれちまったんだよぉ!ー

 

なんとかポーカーフェイスで威厳を保っている天魔を他所に置き、檳榔が口を開く。

 

「なぁに、我らに協力するほどの価値があるかちょいと試しただけだ。そうしたらこのザマさぁ。」

 

「ほぉー。私達異変解決者に泣きついといてまだそれか。あいも変わらず下らんプライドだ。」

 

「泣きついた?協力させてやっているのに酷い言い草だな。お前もこの巫女みたいにしてやってもいいのだぞ?」

 

三人が一斉に短刀を抜き構え、その刃を魔理沙に向ける。

 

「お前らが話の通じない屑だというのがよぉーくわかった。」

 

魔理沙がいよいよ八卦炉を構える。

 

「うちの可愛い霊夢をこんなにしやがって…生きてここから出られると思うなよ?ぶち殺すぞ小鴉共!」

 

「やめろ、お前ら!」 「魔理沙さん!」

 

双方、制止の声も聞く耳を持たず鋭い殺気を放つ。一触即発の張り詰めた雰囲気に周りの天狗も黙りこくり、言葉にならない重い重圧だけがこの空間を漂う。

 

「はあぁぁい!天魔様ァ!治療室ゥ!簡易的ですが準備ができましタァ!」

 

この空気を切り裂き、間に入って来たのは犬走椛であった。張り詰めた空間に足を踏み入れるのには相当な勇気が必要であったのだろう。言葉は単語しかまともに喋れていない事に加え、彼女の顔からは冷や汗が滝のように流れていた。

 

「うむ、直ぐに博麗の巫女を運べ。魔理沙、今回は部下の行き過ぎた真似については私から謝罪させて欲しい。(ナァァイス椛!よくやった!後で5000回もふってやらぁ!)」

 

「そ、そぉですよ魔理沙さん!それに今は霊夢ちゃんの治療が最優先です!」

 

「…。そのようだぁ。」

 

早苗の説得により、魔理沙は構えていた八卦炉を下ろし、彼女らと御前を後にする。そこには静けさと殺気だけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話 カーテンコール

治療室と言われ、煌びやかな装飾が施された引き戸を引けばあらびっくり。飯綱丸が布団で寝かされているではないか。

 

「おいおい、先客がいるじゃんか。なんだぁ?どっかですっ転んだのか?」

 

しかし、魔理沙はこの軽口をすぐに後悔する。飯綱丸の布団は血で滲んでいる事に気がついたからだ。

 

「いけない、包帯変えないと!」

 

椛が飯綱丸に駆け寄る。おいおい、霊夢が先だろと言いたいところだが彼女も相当な重傷であった。今日に限って薬草の類いをスカートに入れていない。

 

「早苗さん、永遠亭に薬をもらって来て!強力な傷薬と止血剤をうんと。代金はツケてもらって!(踏み倒す可能性大!)」

 

「は、はい!」

 

ドタドタと床を鳴らしながら早苗は部屋を後にする。

 

「こいつぁ仕方ねえや。」

 

魔理沙はこれでも魔法使いの端くれだ。医学的な事は魅魔様に叩き込まれた。

 

「霊夢の応急手当ては私がやるよ。」

 

それに魔理沙はここに来てから霊夢に違和感を覚えていた。何故か霊夢の中にもう一つ毛色の違う東洋魔術の脈が流れているような感覚がするのだ。

 

ー何だ?この脈は?霊夢の物じゃない。呪術や封印魔法でもない。あの三人の仕業か?ー

 

「なぁ、あの鴉供は何者なんだ?そしてなんで飯綱丸がそんなザマになっている?」

 

この質問を投げかけた途端、椛の雰囲気が変わる。怒っているような、悲しんでいるような。椛は悔しそうに唇を噛む。

 

「正直、あの三人をぶちのめして欲しかったです。飯綱丸様は霊夢ちゃんを助けようとして、あの三人に、返り討ちに…。」

 

椛の言葉にだんだんと怒気が混ざるのを感じた。そして何よりも三対一とはいえ大天狗である彼女が簡単にやられたという事実に驚いた。

 

「そんなに強えのか!何故霊夢を襲いやがったんだ?こいつは恨まれるような事をする娘じゃない。」

 

「山妖怪の古臭い考え、一種のプライドって奴ですかね。今も、今でさえもここ以外の全てを軽蔑している妖怪がいるんです。もう、遅れているのに。その流行はとうに過ぎたというのに。彼女らは、檳榔、濡羽、相済はその種の妖怪なのです。」

 

飯綱丸に巻かれた包帯が椛の涙で滲んでいた。

 

「その下らないプライドに、天性の才能が合わさったらどうなるか。私みたいな、私達みたいな弱い妖怪は、低い天狗は、軽蔑され、蹂躙されていくだけで。」

 

椛は飯綱丸の包帯を取り替え、彼女に再び布団を被せる。

 

「あの時、魔理沙さんを止めたのは霊夢ちゃんが第一っていうのもあったけど、あいつらに一矢報いるのは私の様な弱い者であって欲しいんです。あいつらが特級を貰った時から私達は一層軽蔑されるようになってしまったから。」

 

丁度、魔理沙も霊夢の手当てを済ませた。胸と腰に浅い刺し傷と全身に打撲痕。魔理沙は今日ほど回復魔法が苦手である事を悔いたことは無かった。

 

「魔理沙さん、二人を任せても大丈夫ですか?」

 

「別にいいが、なんか用事か?」

 

「監視業務です。今、妖怪の山の天狗達がここに一斉に集まってます。更に異変に対する御前会議も行われるはずなので二、三日は警備が手薄になってしまいます。私達がしっかり哨戒任務をこなさないと我々のテリトリーが侵されてしまうので。」

 

ー天下の天狗様も大変だなぁ、オイ。ー

 

「あいわかった。こっちはまかせんしゃい。手ェ抜くんじゃねえぞ?」

 

「ありがとうございます!そしてごめんなさい。色々愚痴ってしまって。」

 

椛が足早に部屋を去ると魔理沙は飯綱丸の布団を少しだけ剥がす。ここで魔理沙の仮説が一つ外れてしまう。

 

「特に異質な脈は見当たらねェな。」

 

霊夢に流れる異質な東洋魔術の脈。これの正体があの三人によってもたらされた物だとすれば飯綱丸にも同様の物が発現していると踏んだが彼女にはそれが無かった。更に、それには天狗特有の脈の流れではなく大陸由来の東洋魔術の脈の流れに近い物だ。

 

かと言って霊夢に危害を加えてもいない。時限式か?それとも術者が近くに?でもそれなら脈のままじゃなく術を組むはずだ。まるで霊夢に何かが隠れている様な…。

 

隠れる!まさか!霊夢の中に何かがいる?!

 

魔理沙が霊夢の脈を開こうと手を掛けた瞬間、彼女の体から思念体が影の様に這い出てくる。

 

「まだ君は舞台に上がるべきじゃない。ハナからヒーローを出す物語が何処にいる?君は満を辞して舞台に上がらなきゃ。」

 

「んだ、と。てめ、ぇ!…。」

 

突如として魔理沙を襲った睡魔は彼女を朝まで眠らせる事となる。正確には神経魔法で眠らされたワケだが、彼女がそんな事を知る由も無い。

 

夜も更けて、屋敷の皆が寝静まった頃、霊夢はむくりと起き上がった。

 

「外に出よう。」

 



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間 「紅魔郷」没コード

今日も愚か者はバケモノに餌をやる。

 

幻想郷を脅かす大きなバケモノに。

 

道化師はどちらだ?私たちかな?それとも、そのアホ面晒してバケモノに餌をやっているお前達か?

 

もう言い訳は出来ない。哀れなお前たちはもう後戻りさえも出来ない。

 

「外に出よう。」

 

何故なら、お前たちはついにバケモノの目を覚まさせた。哀れな事に愚者ではない。ジョーカーなんだよ。

 

お前たちはジョーカーに何の手札で対抗する?何で対抗できる?

 

「守る人は選ぶ。守るべき人は選別されなければいけないんだ。愚か者は地獄へ徒党を組んで行進して行けばいい。」

 

私たちの物語は、終わりの始まりを迎えようとしている。

 

「魔理沙さん、椛、早苗ちゃん、龍さん、ここの部屋の人達は守るべき存在。でも、私が裏切るべき存在。」

 

「楽しいショーは、私達だけの物。そうでしょ?レームちゃん。」

 

たとえ博麗の巫女として外れた道を歩む事になろうと、たとえそれが地べたを吠えて這いずりまわり、何もかもがペテンになるとしても、私達は楽しい楽しい舞台の幕を開かなければならない。そして、最初にスポットライトが当たるのは今もバレバレな監視をしているあの憎たらしい鴉の三人組だ。

 

「どう演出しようか。迷うなあ。何たって私達が直接手を下す記念すべき第一号だもん。」

 

この長い長い廊下が彼女らの生への最後の猶予。

 

「もう少し、ゆっくり歩こうか。私がまだ酷く弱ってるって、思う存分見下してくれなきゃ。あの嘲りの目を最高潮にさせてから深い深い谷底に突き落とすかのように、何もかもまやかしだと気付いてしまった目にさせるのが楽しみでしょうがない。」

 

しかし、そんな猶予も直ぐに終わってしまう。

 

「すごい、綺麗な満月ね。」

 

屋敷の重く、大きな玄関扉を開けた光景は言葉にし難いほど美しい物だった。

 

「月が、紅い。」

 

私は言葉を漏らしてしまった。こんな偶然があるものか、こんな好機があるものか。

 

「ねえ、レームちゃん!空が、月が真紅に染まってるよ!」

 

「貴女は見た事ないんだ。あれ、外の世界じゃストロベリームーンっていうんだよ。」

 

まるで、あの時みたいだ。私が、博麗神社を出発するはずだったあの時みたい。

 

「誰と話しているのかな?もう、いかれになってしまったか?」

 

あの三馬鹿トリオがまんまと食いついて来た。もう笑みが溢れてしまう。誰と話しているだなんて言ってるあたり彼女らはレームちゃんの中にいる私には全く気付いていないようだ。

 

「言うのがあまりにも遅すぎるわ。哀れね。いかれになる楽しさを知らないなんて。こんなに楽しくて楽しくて仕方がないのに。」

 

「おやおや、本当にイカれてしまったようだ。こんな奴に異変解決なぞ任せられないねっ!!」

 

三馬鹿トリオの主戦法は不意打ち、騙し討ち、トリックを用いた攻撃。1回目襲わせた時に同じ手を使っていた。会話の途中で小刀を投げてくることはね!不意を突く嘲りの刃なんて私の指二本で止められる。

 

「全く、もっと他にいいの無い?飽きちゃうわよ。それに会話は楽しまなきゃ損でしょ?」

 

「ねね!レームちゃん!私今指2本で止めてるよ!褒めて褒めて!」

 

彼女らの顔が真っ青になっていく様はいい気味だ。レームちゃんの腹から私の手が伸びているんだ、流石の三馬鹿トリオもレームちゃんの異常さに気付くだろう。私がいるという異常に。私はゆっくりと彼女の体から実体化し、『花』を通して奪い取った命を使い、存分に魔力を溜め込む。

 

「やぁ、初めまして。やっと実体化出来たよ。」

 

「何?なんだ貴様は?まさか、博麗の巫女が異変の黒幕なのか?」

 

「違う違う。私がレームちゃんをたぶらかしたの。そして、私こそ君達が今殲滅しようとしている『花』を操る黒幕ってとこかな?」

 

レームちゃんを色とりどりの花で飾りつけ、纏わせる。晴れ舞台にふさわしいドレスだ。そして、私の言葉を真実とする証明。異変の黒幕というのは畏怖の念を持ってもらわないと。

 

「つまりは、君達の敵だよ!君達が血眼になって、哀れに這いずり回って探している異変の黒幕はここにいる!」

 

これからもっと楽しくなる。私が討ち倒してくれるのは一体誰だ?霧雨魔理沙か?それとも博麗霊夢か?案外、私の隣にいるレームちゃんだったりして。

 

「私は沙月麟!47年前、この空のように月さえも紅く染まり、それでも飽きる事なく幻想郷を紅に染めたあの日に存在するはずだった人間さ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




霊夢の居場所は突き止めた。でも、何も境界が存在していない場所にいる。私がいくら境界を操ろうと虚数は虚数。

「霊夢。」

幻想郷は彼女を必要としている。

何故なら、彼女こそ、博麗霊夢こそ主人公だからだ。

「すべては嘘。しかし、真実。霊夢の全ては虚数の塊ね。」

八雲紫。今日も霊夢を探し続ける。


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第十一話 穴の空いた結界

47年前、一人の吸血鬼が起こした異変。『紅魔郷異変』

 

代々の巫女の中でも稀に見るぐうたら巫女とされていた先代の博麗霊夢。まだこの頃は『普通の魔法使い』であった霧雨魔理沙。この二人によってこの異変は解決された。

 

しかし、三人目の異変解決者が在るはずだった。それが沙月麟。彼女はその存在を抹消された。しかし、消しきれてはいなかった。彼女は世界を覗いた者により見つかり、小さな意思達は虚しい空間に漂う彼女に姿形を与えてしまった。

 

「さぁ、弾幕ごっこと洒落込もうじゃぁないか!君達は、今!私を討ち倒すべき役と成り果てた!君達はこの劇で良い役回りを演じられているよ!」

 

それがこのザマだ。存在と嘘っぱちの狭間にいた哀れな少女は今や、新しい博麗の巫女と手を組み大異変を起こしている。

 

「だが、君達は主人公じゃない。さぁ来なよ。君達はどう私を討ち倒すのか見せてよ。」

 

「五月蝿い!弾幕ごっこ云々なんざ知るか!弱いもの同士仲良く馴れ合ってくたばれ!」

 

「よせ、濡羽!」

 

とうとう痺れを切らした濡羽が二人の真正面へ突っ込む。鴉天狗である彼女は、文ほどではないが異次元のスピードを誇り、他の二人も同様に鴉天狗のスピードを活かした立ち回りが得意である。それを活かした連携こそ彼女らの一番のウリだ。しかし、濡羽は自らが嘲笑した相手に挑発されたという事実が許せなかった。我を忘れ、一人霊夢と麟を殺しにかかったのだ。

 

「全く、こっちは二人だと言うのに一人で突っ込むなんて、本当に頭が悪いのね。」

 

霊夢は今までのお返しと言わんばかりに彼女を嘲笑い、お札を構える。

 

突如として濡羽が二人の視界から消えた。と思いきや彼女は持ち前の素早さでフェイントをかけ真後ろに回っていたのだ。

 

「まずはお前だ!博麗霊夢!命を奪った奴らにあの世で詫びろ!」

 

濡羽は小刀を抜き、霊夢に突き刺した。刃が肉を掻き分ける良い感触が手元に伝わ…らない!

 

確かに刺さった。ただ、何か感触がおかしい。何か野菜を切っているような、植物を切るときのような感触が手元に伝わる。

 

「あづっ!」

 

後ろから濡羽の腹にお祓い棒が突き刺さされた。熱い痛みが腹から伝わってくる。

 

「あ、あああああ!私の腹にぃ!」

 

濡羽の視界には彼女自身の血で真っ赤に染まった紙垂が見えていた。

 

ーう、後ろからやられた!一体誰が!まさか、まだいるのか?異変の首謀者が!ー

 

濡羽の目の前に存在する霊夢がほろほろと崩れてゆく。

 

「なっ!」

 

霊夢の形をした何かが段々と白い花の塊となってゆく。これが濡羽の疑問に対する答えだ。

 

「正解は〜?『私が精巧に作ったレームちゃん人形にまんまと食いついてしまって後ろから本物のレームちゃんにお祓い棒でグサリ』でした〜!」

 

「あははははは!本当に本当に愚かで滑稽ね。どんな気持ち?自分よりずっと格下だと思って嘲笑って奴が自分より一枚上手でした。だなんて。ザマァ無いわ!」

 

「何故、いつ入れ替わった!」

 

「馬鹿ね、博麗の巫女は結界術を嫌と言うほど叩き込まれるの。始めから私は結界を織り込んでその中に身を潜めていただけ。」

 

霊夢は自分のこめかみを人差し指で軽く叩いて見せた。

 

「貴女達とはここの出来が違うのよ。」

 

「貴様ぁ!」

 

濡羽はお祓い棒を抜こうと全身に力を込めた。だが何故だか力が入らない。濡羽は直感で嫌な予感がした。自分の腹からとても嫌な予感が。

 

恐る恐る再度自分の腹に目をやると植物がお祓い棒の刺さっている傷口から飛び出していた。それに気づいた瞬間、植物は濡羽の体中に蔓を伸ばした。彼女は自分の結末を悟ってしまう。

 

「あ…あ、あああ!やめろ!やめろ!」

 

「んー、君達はバケモノを叩き起こしたんだから。そのツケは払わないと。」

 

麟が無邪気に笑う。そして白い蕾が花を咲かせんと一斉に顔を出す。

 

「助けて!助けてェ!檳榔!相済!みんなぁ!助けてぇ!」

 

「叫んだってぇ〜無駄!無駄!無駄ァ!なんでさっきからあの2人は助けに来ないと思う?」

 

濡羽は檳榔、相済の方を見てみると呆けた顔をしたままその空間に留まっているばかりであった。

 

ーそういえばそうだ。あの2人は微塵も動いていない。何故だ!私を見放す訳がない!ー

 

レームちゃんが隠れていた様に、私達は今折り重なった結界の中にいるんだよ。だから、何処からも、誰からも見えないし、聞こえない。

 

麟がそう耳打ちすると濡羽の目から光が消えて無くなってしまった。

 

「リン。少し肉体は残しておこうよ。いい見せしめになる。」

 

「レームちゃんそれはいいアイデア!分かったよ、やってみる!」

 

麟が指を鳴らすと濡羽の体中にある植物から白い花々が一気に開花する。

 

「や…め、…。」

 

濡羽はか細い声で抵抗したがそれは無駄に過ぎなかった。

 

『結界解除』

 

霊夢と麟がまたいきなり現れたかと思えば、檳榔、相済。この2人に突然汚らしいナニカが投げつけられる。檳榔はそれを抱き抱える様に受け止めた。それは血塗れて肉は所々剥げており、右腕は今にも千切れそうになっている。顔面は所々骨が見えており、目だったと思われる所からは白い花が咲いていた。

 

「それなーんだ?」

 

麟は無邪気な笑みを浮かべていた。

 

「濡羽…なのか?これは?」

 

「だぁいっ正解〜!まともに殺し合いをすればこうなる。だから私達は弾幕ごっこで勝負しようと言っているんだよ。」

 

「私達は貴女達に有利な条件で戦おうとしているのよ?もう劇の幕は貴方達が開いたんだから。討ち倒したり討ち倒されたり、この出し物を楽しむしかない。」

 

霊夢はいつか、優香に言われた事を思い出す。

 

『貴女のその曇りきったどす黒い目は、残念だけど貴女自身で晴らすしかない。とっても残酷な話だけどね。自分の過去は自分で討ち倒さないと前に進めないのよ。』

 

これは復讐か?

 

否、

 

全くもって否。

 

弱い自分を討ち倒せよ、私。

 

紅い月は我こそが女王だと言わんばかりに輝いている。まだ夜は眠らない。

 

「さぁ!弾幕ごっこだ!スペルカードは無制限!クライマックスはまだまだこれから!」

 

「楽しい夜になりそうね。」   「長い夜になりそうだ。」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十二話 金切り声のシアター

観測された過去はとても悲惨なものである。弱き者が群れを成して弱き者を討たんと指をさす。命を断とうとし、醜い魂に成り果てた哀れな少女はその心にバケモノを飼う。彼女に向けられた救済の一切合切はバケモノの泣きじゃくる声によって遮られてしまう。



戦いの布告はとうに過ぎ、視界一面反則かと思えるほどの濃密な弾幕が埋め尽くしていた。

 

「泣いて詫びようとコンティニューなんて出来ないわよ?」

 

そう言葉を溢して、霊夢はスペルカードを構えた。我こそが女王だと言わんばかりの真紅の満月は、まるで何もかもを嘲笑っているかのように美しく淡い輝きを放っている。

 

 ー『霊符』夢想封印  零ー

 

霊夢の代表的なスペルカード。五つの光弾が一筋の高火力のビームと共に放たれる。それらは檳榔、相済が大量に放つバレットなど一瞬で蹴散らしてしまう。魔理沙が先代の使用していたスペルカードを今代の霊夢に教え、霊夢が魔理沙の魔法を取り入れアレンジしたものだ。この弾幕は、西洋魔術と東洋魔術のハイブリッドとなっており、魔法の脈の流れがより不規則になりやすいため弾の軌道予測がより困難となっている。

 

「なんだこの軌道の弾幕は!?」

 

しかし、その光弾は2人にかすりもしない。真正面の弾幕を打ち消しているだけであった。檳榔は空中に止まりやすいバレットを撃つ事が得意であり、それが視界を遮るほどの濃密な弾幕を作り出す。

 

「やはりこの視界では狙いは定まらないだろう!」

 

「濡羽をあんなにされたら黙ってなんかいられん!じっくりと嬲り殺してくれるわ!」

 

濃密な弾幕というのは弾幕ごっこにおいて回避率を上げるための常套手段である。スピードをウリにしている彼女らは、相手にわざとスペルカードを使わせ視界が開けたと共にバレットの隙間から奇襲する戦法を得意とする。

 

「まずは指先!」

 

霊夢と麟のシナリオは全て予定通り演じられている。哀れな鴉天狗は馬鹿踊りをしているに過ぎないのだ。霊夢は麟に華を持たせる為に夢想封印を放った。仕留めるためじゃあない。

 

「かかった!」

 

濃密な弾幕の中に作られた一本の道。この中に入ってしまえばどんな速さも意味を成さない。

 

「これでいい?リン!」

 

「おっけえ!いくよぉ!」

 

ー『花符』徒花ニハ後悔ヲー

 

麟はその手に持つニ胡に魔力を込め奏でる。魔力を持った音を反響させ、その空間に漂うエネルギーを増幅させ、貫通力を持たせた花形の弾幕を広範囲に作り出す。空間に魔力を放ち、何も無い空間に瞬時にバレットを出現させるので非常にいやらしい弾幕といえるであろう。

 

「散れ、徒花よ!」

 

花の形を崩したバレットは四方八方の空間を切り裂いてゆく。

 

「なっ!」

 

「あ、相済!」

 

瞬時に現れた多数の弾幕を避け切ることはどんな弾幕狂いでも困難である。十六夜咲夜の『時止め』による弾幕が代表例だ。幻想郷最速とされる射命丸文でさえこの弾幕の餌食となり、毎度の如くレミリアの盗撮に失敗しているのである。幻想郷最速が避けきれないような弾幕をそれ以下の人妖が避けられるはずもなく、相済の顔面と心臓をバレットが貫いた。瞬時に亡骸となった彼女は空から地へ真っ逆さまに落ちていく。その結末を見届けた霊夢は口元を緩ませた。実にいい気味である。

 

「やったぁ!レームちゃん、初めて当てたよ!レームちゃん相手じゃ当たらなかったけど!」

 

麟はこれが初めての弾幕ごっこの実戦であった。練習では当てられなかったスペルカードの弾幕が敵を貫くさまは圧巻であり、彼女に大いなる歓喜をもたらした。

 

「アハハ!興奮し過ぎよ、リン。」

 

特別階級の戦闘員とあろうものがこの短時間でもう2人も殺されている。妖怪の中でも抜きん出た強さを誇る天狗でだ。檳榔は酷く困惑する。もう打てる手が無い。連携のみが持ち味だった彼女にはもう剣が残っていない。ついさっきまで持っていた自分達の強さに対する絶対なる自信が、まるでボロボロと音を立てて崩れていくような感覚を味わっている。

 

「こんな、こんな馬鹿な事があるものなのか!こんな馬鹿な事が!」

 

全てはまやかしだという事に気付いた時にはもう遅かった。

 

「でも君は何かしてくれるんでしょ?隠し球を持ってたり、奥の手があったり。さぁ!それを見せてよ!物語はクライマックスに程遠いはずなんだ!」

 

しかし、ここで一つ大きな誤算があった。檳榔はただただ怯え、震えていたのだ。恐怖に顔を引き攣り、歯をガチガチ鳴らし、目からは大粒の涙を際限なく落としている。黒幕を討ち倒さんとする勇敢な役を演じてもらうはずが、ただの腰抜けになってしまったのである。

 

「なんで怯えているの?君は私達をあんなに見下して、嘲笑っていたのに?」

 

これには霊夢と麟の二人は心底失望し、肩をすくめた。やはり他者を見下さないと生きていけない者は、どれほどの力があろうと弱く哀れなものだという事実は人間も妖怪も同じである。

 

目の前には立ち向かったら確実な死がある。そんな時、誰しもが取る行動はただ一つ。

 

「ぐっ!!」

 

逃亡である。

 

ーまだ!天魔様の屋敷へ戻ればみんながいる!ー

 

しかし、いくら飛んでも目の前の屋敷には近づけない。3秒も飛べば辿り着ける距離なのに。同じ空間に囚われているような感覚が檳榔を襲う。

 

「はい、残念!私たちが逃げる事を想定していないとでも思った?泣く子の叫び声すら無に帰す『神隠しの結界』がここら一帯に張ってあるんだよ。試しに叫んでみたら?」

 

 『神隠しの結界』とは霊夢が八雲紫に教わった防護結界であり、結界の外から対象を一切認識出来なくする結界である。博麗の『結界』とは、いわばズルだ。結界は普段は防御として用いる側面が強いが編み方を変えれば攻撃結界、封印結界etc…更には多重に重ね、少し離れた空間同士を無理矢理繋ぎ移動するという荒技までなんでも出来てしまう。正に文字通りなんでもアリだ。

 

麟は怯える檳榔の肩にポンと手を置いた。

 

「まぁまぁ、私達は君を生かすつもりだよ。でも条件付きだけど。どう?君にとってはいい話だ。」

 

絶望的な状態に置かれた檳榔にとってそれはそれは甘美な誘いであった。

 

「でも残念だね。君たちの最高潮の見せ場はとうの昔に過ぎていたんだ。」

 

 

 

 

 

 

 




この劇の主人公は誰だ? 次回予告

レミィ「いつまで経ってもこっちが再開しないから遊びに来たわ!」
モーヴ「わーい!吸血鬼さんだー!」
三咲 「伏線張りやってみたいとか言って進めてなかったみたいですけど、もう少しで再開するそうですよ。」
フラン「私の出番いつ?」
妹紅 「あれ?もう私の出番無いの?」
アリス「知らん間に私の家になんか増えとる…。」


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間 欲しかったモノ

霊夢「これをこうして…っと。んー。かなり芸術的ね!」
リン「このパーツをそっちにくっつけてみれば…。」
霊夢「いいねえ!完璧!」
リン「完成!天狗の十字架はりつけー!」

……

リン「生き残ってしまった君は、沙月麟が黒幕だとみんなに言えば良い。簡単なお仕事さ!」


 「霊夢!大丈夫なの?こんなに服を真っ赤にして!」

 

丑三つ時、博麗神社に戻ると魅魔様が駆け寄ってくれた。(足は無いけど)

 

「大丈夫ですよ。これは全部妖怪の返り血です。」

 

いつもは子供っぽい姿になって妖精と遊んでいる彼女が、今日は珍しくあの偽物のようにすらりとした大人びた姿になっている。

 

「まさか黒幕だったり?」

 

リンは「レームちゃんにサプライズを用意するんだ!」と狭間の世界に戻ったっきりで連絡が取れなくなってしまった。リンが戻ってくるまでまた退屈な時間を過ごさなければならない。

 

「いえ、野良の妖怪です。黒幕については何も…。」

 

魅魔様は私を抱きしめてくれた。

 

「血がついちゃいますよ。」

 

「いいじゃない。貴女が頑張っている証拠よ。」

 

これが俗に言う『愛』というものなのだろう。しかし私は、とうの昔にそれを素直に受け取れなくなってしまった。

 

「さて、着替えなくちゃね。あとお風呂沸いているから入ってきなさい。鬼達が先に入っちゃって少し冷めてるけどピースちゃんに頑張ってもらいましょ。」

 

「ありがとうございます。」

 

理由は分かっている。愛を受け入れたら、今までの自分を否定してしまうから。

 

「またすぐ行かなくちゃいけなくて…。」

 

もしかしたら、あの辛さ、痛みは無駄なものだったのではないか、外の世界にいた時と変わらず感じている孤独、閉塞感、絶望にも等しいものを感じずに済んだのではないか。

 

「少しは寝ていきなさいな。体が保たないわよ?」

 

それらこそが私の自尊心なのだ。のうのうと無償の愛を受け入れて育った連中とは違う。

 

「向こうで休ませてもらえるので。」

 

私は違う。愛を受け入れたら奴らと同じになってしまう。他人を平気で踏み躙り、徒党を組んで右を向いて同じ人生だ。愛を喰らえど食らえどそれはとどまる事を知らずに愛欲しさに不幸者を演じ始めるただの道化師だ。

 

でも私より何倍も幸福で、何倍も救いも希望もあって…

 

パチン

 

両頬を優しく叩き、つまみ、こねくり回される。

 

「こーら、無理しないの。ボーッとしちゃってるじゃない。先代みたいにもっとぐうたらしてないと。」

 

「でもみんなは常に先を目指せと言います。先代はもっと優秀だったって。休んでる暇なんて無いって。でも、もっと強くなろうとすると笑われて…」

 

その烏合の衆にうんざりしたから今、リンと好き放題やっているのだ。いつも都合の良い事ばかり言って、肥大したまやかしの正義を振りかざし、私から膨大な負債を借り入れているんだ、払ってもらうべきツケをここで愛で返されちゃたまったもんじゃない。

 

「じゃあぐうたらしてないと。ぐうたらしてたから優秀だったのよ。努力なんてしなくっていいの。」

 

魅魔様は好きだ。ちゃんと物事の全体を見て意見してくれる。頭ごなしに自分の思想を押し付けてくる奴らとは違う。

 

「でも、それだけみ〜んな救いを求めてるのよ。」

 

「分かってます。私がもっと強くなくちゃ…。」

 

「違う違う。」

 

「え?」

 

「みんな道標が欲しいのよ。でも、それは溢れすぎている。だから、明確にそれを持っている人に口出して、見下して、胸を張って自分自身に言い聞かせたいの。『生きる目的を見いだせずにいれなくても大丈夫』ってね。」

 

もう少し早く、外の世界にいた頃に魅魔様に出会っていたら、私はリンを否定していたかもしれない。



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第十三話 終わりの始まり

朝日が昇りかけている明け方。外から聞こえてきた一筋の悲鳴で魔理沙は目を覚ました。

 

「ふごっ!!」

 

すっかり眠りこけてしまっていた魔理沙は数秒間、いつの間にか空になっていた部屋をボーッと見つめていた。

 

「そうだ!霊夢…がいない!」

 

ようやく思考を取り戻し、部屋の中に重傷で看病していた霊夢がいない事を認識した。この状況は魔理沙にとって最悪だった。

 

「まさかさっきの悲鳴は!」

 

最悪の事態が頭によぎってしまい、廊下に飛び出す。

 

激しい静寂が彼女の恐怖心を掻き立てる。

 

魔理沙は勢いよく外に出ると、最悪の事態よりもタチの悪い光景が広がっていた。

 

「なんてぇこったい…。こいつぁ!」

 

あの憎ったらしい三馬鹿トリオ鴉が天魔の屋敷の真ん前で磔にされていたのである。

 

「ま、魔理沙さん!これ!」

 

腰を抜かし、か細い声で磔を指差しているのは、昨夜永遠亭に薬を貰いに行っていた早苗だった。どうやら先程の悲鳴は早苗のものであるようだ。

 

「早苗!どうなってやがる!何が起きた!」

 

「知りませんよお!やっとお薬の交渉出来て帰ってきたらこうなってたんですよお!」

 

彼女の周りには腰を抜かした時に落としたであろう八意印の薬が大量に転がっていた。

 

「ひでえな…。」

 

三馬鹿トリオのうちの2人は体のあちこちを切断された後に継ぎ接ぎされたようで一つの十字架にまるで多足の化け物が磔にされているようだった。杜撰な縫い目からは絶え間なく血が滴り落ち、血だまりがあちこちに出来ていた。更には所々にそのめくれた皮膚から白い花が咲いている。

 

「こいつは黒幕の仕業か。とんだ悪趣味だな。お前らをいつでもこうする事が出来るぞってか?」

 

「魔理沙さん!この人生きてます!」

 

早苗がそう言って指差した奴(檳榔と言ったか?)は虚な目で歯をガチガチと鳴らしていた。試しに手を振って見せてもそれに対し何も反応が無く、精神魔法の痕跡も感じ取ることが出来ない。

 

「精神が完全にイカれてやがる。どんな事をされたらこんなになっちまったんだよ。」

 

まあ、こんなキメラ紛いの物をデカデカと残して行くような奴にやられたんだ。誰でもこうはなるか。そう魔理沙は自分を納得させた。

 

 

 

「何々?どうしたの?」 「なんださっきの悲鳴。」 「うるさいなあ。」

 

先程の悲鳴を聞きつけ次々と天狗達があつまる。しかし、この惨劇を見た途端、皆青ざめた。早苗のように悲鳴をあげる者もいればその光景に耐えきれず嘔吐、逃げ出す者もおり、次第に感情は飛び移り連鎖を繰り返し、やがて大混乱となった。

 

「落ち着いて下さい!一体何の騒ぎです?!」

 

場を切り裂くような声を出して割入って来たのは白狼天狗、哨戒部隊隊長の犬走椛であった。

 

「いよう、隊長どの。見なよこの有様。」

 

「うぐっ、これは酷い。一体誰がこんな事を。」

 

椛の顔から血の気が引いていく。

 

「屋敷の前に堂々とこんなモノを…。完全なる愉快犯ですね、これは。」

 

「黒幕が本腰入れて攻めて来やがった。恐らく見せしめだよ。こいつぁ。」

 

しかし、内心魔理沙も椛もざまあみろという気持ちの方が勝っていた。惨たらしい殺され方をされたとはいえ、これまでの行いを見ていたらこれでは済まされない気もする。なのでサンプル採取と原因調査が済めば野良の妖怪の餌にでもしようと椛は考えていた。

 

「沙月麟がやった…」

 

「え?」

 

「沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!沙月麟がやった!」

 

突如として檳榔が叫び出す。

 

「馬鹿野郎!無闇やたらに叫ぶんじゃねえ!失血するぞ!」

 

ーちくしょう!天狗は磔にされている!サツキリンってなんだよ!霊夢はいない!何がどうなってんだ!ー

 

「んな事より椛!お前哨戒班だろ?霊夢を見てないか?朝起きたら何処にも居ねえんだ!」

 

「そんな、見てないですよ!あの傷じゃ何処にも行けないでしょう!……まさか魔理沙さん!」

 

「考えてもみろ。こんなトチ狂った状況、朝になったら博麗の巫女が姿を消している、サツキリンってのはおそらく犯人!怪しさ満点の状況だ!最悪そのサツキリンってやつが霊夢を…。」

 

ー霊夢の中に潜んでいた者。まさか、あいつが『サツキリン』なのか?だとしたら目的は何だ?精神操作か?洗脳か?ー

 

「私ならここに居ますよ?」

 

魔理沙の後ろからひょこっと霊夢が顔を出した。

 

「霊夢!何処行ってたんだよ!そんな動いちまって大丈夫なのか?!まだ傷は痛むだろ?」

 

「いやあ〜すみません。博麗神社に戻ってたんですけど、そこで寝ちゃって。…で、この騒ぎは何です?」

 

霊夢のすぐ後ろには歪み切った空間が佇んでいた。恐らく結界をねじ合わせて移動して来たのであろう。その空間の先には朧げながらも博麗神社が見えていた。

 

「成程、これは酷いですね。結構複雑なカンジですが…。」

 

霊夢は誰の答えも聞く事なく十字架へ歩み寄る。

 

「なぜ、彼女を下ろさないのです?」

 

「良いのかよ?昨日あんだけそいつらにやられたんだぞ?ざまあみろとか内心思ってねえんかよ。」

 

ー霊夢の魔法の脈はいつも通りだ。一つしかない。やっぱり霊夢の中に何かがいたのか。魅魔様に見張りを頼むかぁ?少し考えないとな。ー

 

「私は博麗の巫女ですから。どんな仕打ちを受けようと今は水に流しましょう。彼女から異変解決の手がかりが掴めるかもしれないですし。」

 

「あ、あ、あああああ!」

 

霊夢が檳榔に近づくにつれ、彼女はその発していた奇声をより大きくさせ、目からは大粒の涙が落ちており、終いには首を大きく横に振っている。まるでこれから自分を助けようとしている博麗の巫女に怯えているようであった。

 

ーったく馬鹿馬鹿しい。おそらくアイツは霊夢に報復でもされるって思ってんだろ。調子乗っといてこの末路か。情けねえ。ー

 

手枷が外された瞬間、檳榔はその震える手を霊夢に伸ばしたように見えた。しかしその腕には、一輪の美しく白い花が咲いていた。

 

「霊夢ちゃん!危ない!」

 

反射的に動いたのだろう。それを一番近くで見ていた早苗が霊夢を覆い被さるように庇った。

 

『あーあ。ほんとに生かしてあげるつもりだったんだけどなぁ〜。』

 

「や、やめて…。あ、ああ!」

 

『うるさいうるさーい!違反は違反!厳罰にぃ、処す!』

 

直後、檳榔の体が白い花に覆われ、無惨な姿に変わり果てた。精気を吸われ尽くされ、維持できなくなったその身体は朽ち果て、腕がぼとりと落ちる。

 

「全員、地面から離れろ!」

 

魔理沙が叫ぶと皆一斉にまるで空へ逃げるかのように飛び上がる。直後、それを見計らっていたかのように白く美しい花畑が辺り一体に出現した。

 

無惨な三天狗の死体を彩る花弁が吹雪き、その中から1人の少女が現れた。

 

「演者も、客人もお揃いかな?」

 

その姿は金髪ではあるものの、先代の博麗霊夢の巫女服の色調を真逆にしたものを身に纏っており後頭部には大きなリボンを身につけている。その少女は花畑から魔理沙を見上げ口元を緩め呟いた。

 

「満を持して舞台に上がる時だよ。愛しき…愛しき主人公。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









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