PhantasyStarOnline2-IF-「A.B.T」 (あるふぃ@ship10)
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第1話「A.B.T開催」

―新光歴242年3月31日

 

アークス総動員による決死の戦いによって、終の女神シバもとい【深遠なる闇】は消滅した。

【深遠なる闇】の消滅によって、これ以上ダーカーが増えることは無くなったが、既に産み落とされたダーカーは未だに各惑星に身を潜めている。

残存するダーカーの殲滅、そしていつしか訪れるかもしれない危機に対し、万全な状態を維持するため、10番艦"ナウシズ"の守護輝士、あるふぃは一つの提案をした。

それが、アークス同士による戦技大会、「ARKS Battle Tournament(アークスバトルトーナメント)」通称「A.B.T」である。

強大な敵がいない現状、日に日に衰えていく戦闘能力を維持するため、アークス同士による模擬戦を行い、選手同士で研鑚しあうことが目的だ。

優勝者には、多額のメセタと合わせて、"最強"の称号が与えられる。

賞金を求めて戦うもの、その名を求めて戦うもの、ただひたすらに己の実力を試すもの。

思惑は様々だが、急遽開催されたにも関わらず、参加するアークスの数は7月に開かれた第1回の時点で当初の予想を遥かに上回った。

これを見てA.B.T運営は、1年に1度の予定であった大会の開催期間を、半年に1度で行う方針とした。

 

 

 

そして今日、243年1月17日―

 

 

『アークス達による技と技のぶつかり合い。己の力を示し、頂点へと昇り詰めるのは誰か!第2回アークスバトルトーナメント、ナウシズブロックの開幕だぁぁぁぁ!!!!!』

 

司会の言葉に呼応、観客の大歓声が響き渡る。

ショップエリアの隅から巨大モニター越しに、大盛り上がりの会場の様子を見る女性が1人。

 

「ここにいたのねあるふぃ。」

 

あるふぃと呼ばれた女性は、声のした方を振り向かずに話す。

 

「まリスか。随分と早い帰還だな。帰るのは開会式後だと思っていたが。」

 

まリスと呼ばれた少女は、あるふぃの横へと並ぶと、口を開く。

 

「ダーカーの数が想定よりも少なかったから、早めに帰ってこれたのよ。」

 

「なるほど、なら丁度いい。今から各ブロックの出場者と組み分けの発表だ。今回のトーナメントは盛り上がるぞ。」

 

「と言っても目立つのって、あたしとあるふぃにクオン、リランぐらいじゃないの?」

 

「まぁ見れば分かる。」

 

他にもいると言わんばかりに、あるふぃは顔をニヤつかせる。

なんのことやら分からないまリスは、あるふぃのニヤついた顔を見て薄気味悪さを感じながらも、再び巨大モニターの方を見る。

 

『―さぁそれでは気になるトーナメント表の発表だ!今回は第1回に比べて強力なアークスが盛りだくさん!今回の組み分けは...これだぁ!!!』

 

「......うっそぉ....」

 

モニターに映るトーナメント表を見て、まリスは唖然とする。

 

―シップ代表を決めるトーナメントは2日間行われる。

1日目の予選はAブロックからHブロックの計8ブロックに分かれており、それぞれのブロックで勝ち抜いた8名が、2日目の最終ブロックへと上がる。

最終ブロックでは、勝ち残った8名で再びトーナメント方式で試合を行う。

そして決勝で勝利した者がそのシップの代表となり、後日、各シップの代表が集まり、その回の最強のアークスが決まるのだ。

 

「ナウシズの主力勢揃いじゃない。それに...」

 

「今回は前回と違って皆の都合を合わせたからな。更には豪華なゲスト付きだ。まぁ、8割方姉の要望だがな。」

 

あるふぃの言葉通り、今回のトーナメント表には、ナウシズでも名だたるアークスが多く参戦していた。

 

第1回ナウシズ代表のあるふぃ。

前回に続き今回も参戦となるクオン、リラン。

前回は長期の任務と被ってしまい、不参加となっていたまリス、蝉時雨。

ハルコタンの巫女、アリスとアリシア。

そして...元守護輝士であり、第1回A.B.Tでウル代表となったユウ。

 

観客は彼らの名前を見た瞬間、一瞬ざわつきがあったが、すぐに大歓声へと変わった。

名だたるアークス達の対決をこの目で見ることができる。

観客の全員が、これから始まるであろう激戦に心を躍らせていた。

 

「順当に行けば、全員最終ブロックでぶつかりそうね。」

 

まリスの言う通り、有力なアークス達はそれぞれが各ブロックにばらけていた。

 

「そうだな。今回も最後まで、良い戦いができそうだ。」

 

2人が話していると、トーナメント表の発表が終わり、次のプログラムへと移行していた。

 

「さてと、対戦相手が分かったことだし、私は部屋に戻るぞ。」

 

あるふぃはサッとモニターから目を離し、部屋へ戻ろうと振り返る。

 

「あぁそうだ...」

 

思い出したかのように口を開くと、あるふぃはそのままの状態で話を続ける。

 

「油断して途中で敗退、なんて興の冷めるようなことはしないでくれよ?」

 

あるふぃの挑発的な言葉に、まリスは笑みを見せながら言葉を返す。

 

「あたしを誰だと思ってるの?あるふぃこそ、いつもみたいに慢心して隙を突かれないことね。」

 

その返事を聞き、あるふぃは楽しそうに一笑いし、再び自室へと歩みを進めた。

 

「「それじゃあ、決勝で」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――惑星ハルコタン・灰の領域

 

 

 

 

「どこまでいけるかなぁ...」

 

端末モニターに映るトーナメント表を見ながら、アリシアが呟く。

 

「お互い最終ブロックまでいければ十分じゃない?」

 

アリシアの呟きに対し、アリスが冷静に答える。

 

「そうだよね...きっと最終ブロックの相手はまリスさんになるだろうし...」

 

「こっちもこっちで相手はあるちゃんだろうから...特殊なルールとはいえ、勝てるビジョンが思い浮かばないや。」

 

アリスはお手上げといったように両手を上げる。

すると、2人の背後に小さな灰のつむじ風が巻き起こり、その中心から1人の女性が姿を見せる。

 

「かかっ。なんじゃなんじゃ、アリスもアリシアも、戦う前から空気が重いのう。」

 

「「ヒメ様!!」」

 

ヒメ様と呼ばれたその女性は、灰の神子スクナヒメその人であった。

スクナヒメはそこに漂う重い空気を壊すかのように、大層に笑う。

 

「まだ戦ってもおらぬのにそんな弱気では、勝てるやもしれぬ戦いも勝てなくなるぞ、2人とも。」

 

「そうは言われても...これまでの実力を見てると勝てる見込みが全く無くて...何か弱点があればいいんですけどね...」

 

アリシアの言葉に同調し、アリスもうんうんと頷く。

その言葉を聞いたスクナヒメは、少し悩むと、開いていた扇をパンっと畳み、笑みを見せる。

 

「ふむ...弱点を突くのは難しいが......あの2人と渡り合えるだけの力は、おぬしらの身にしかと宿っておるぞ?」

 

「「え...」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――フランカ'sカフェ

 

 

 

 

カフェの入口近くの広いテーブルで、セラフィム、蝉時雨、クオン、リランは集まって食事をしていた。

 

「今回の出場者は豪華ですね...」

 

セラフィムは端末のモニターに映る選手表を見ながら唖然とする。

自身が知る強力なアークス達が揃いも揃ってずらりと並んでいるのだから無理もない。

その様子を見て、蝉時雨が声をかける。

 

「あなたは出場しないのですか?前回最終ブロックまで勝ち残ってましたよね。」

 

「あれはあるふぃさんからお試しでと言われたので参加しただけで...そもそもボクはサポートとしての立ち回りがメインなので、1対1の勝負は苦手なんですよね。チーム戦とかあれば参加したいですけど...」

 

「チーム戦ですか...面白そうですね。今度あるふぃに提案してみますか。」

 

セラフィムと蝉時雨がそんな話をしていると、一通り食事を終えたのか、クオンが勢いよく席から立ち上がる。

 

「どうしたんですかクオン。急に立ち上がって。」

 

「特訓!!!」

 

蝉時雨の問いに対しクオンは元気に答えると、勢い良くゲートエリアへと駆けていった。

 

「いったいどこに...」

 

「おおかた、VR空間でしょうね。あそこには特訓に最適なトレーニングダミーがいますから。」

 

フォトナーとの終戦後、各艦にはそれぞれの艦に所属する守護輝士の戦闘データを元にしたトレーニングダミーが登録されている。

腕試しと称して守護輝士のトレーニングダミーに挑むアークスは多く、打ち倒した者には報酬も用意されているため、中々の盛り上がりを見せている。

 

少し遅れて、同じく食事を済ませたリランは静かに立ち上がった。

 

「私も行ってくる。」

 

そう言うとリランも、足早にゲートエリアへと向かっていった。

 

「2人とも行っちゃいましたね...」

 

「トーナメントに向けてやる気があるのは非常にいい事ですが...そのままにした食器を片付ける人の事も考えて欲しいものですね。どうやらあとで、お説教が必要なようです。」

 

「あ、いやいいですよ。ボクが片付けておくので、お気になさらず。」

 

蝉時雨の"お説教"という言葉にヒヤッとしたのか、セラフィムは慌ててその場をなんとかしようとする。

 

「あら、いいのですか?では、よろしくお願いしますね。」

 

声のトーンが優しくなったのを感じ、セラフィムはホッと心を落ち着かせた。

 

「蝉さんは特訓とかしないんですか?」

 

クオンとリランが頼んだ食器をまとめながら、セラフィムは蝉時雨に問いかける。

 

「あるふぃ達の戦いは日々この目で見て大体理解しているので、そこまで問題はありません。ただ一つ懸念があるとすれば―」

 

蝉時雨は残った少量の紅茶を飲み干してから言葉を続ける。

 

「ナウシズにはユウのトレーニングダミーはありません。」

 

「じゃあユウさんが対戦相手になったら...」

 

「あるふぃやまリス風に言うなら、"ぶっつけ本番"ということですね。私に出来ることは、当日いつでも全力を出せるよう、しっかりとコンディションを整えておくことぐらいです。」

 

"ぶっつけ本番"

何事も用意周到に事に取り掛かる普段の蝉時雨からは、聞くことの無い言葉だった。

 

「では、すみませんが、2人の分の食器はよろしくお願いしますね。」

 

「任せてください。トーナメント、頑張ってくださいね。」

 

蝉時雨は優しい笑みを見せ、"ありがとう"と一言礼を言うと、自分の分の食器をキッチンに返し、その場をあとにした。

 

(皆すごいなぁ...ボクなんか予選ブロックを勝ち抜くので必死だったのに、皆は既に最終ブロックの対戦相手のことを考えてる。)

 

セラフィムは空の食器をまとめながら、一緒に食事をしていた3人を思い返す。

 

(もしかしたら本当にチーム戦もあるかもしれないし、それ以外でもサポート役としてしっかり立ち回れるよう、ボクも特訓しておかないと...!)

 

 

 

 

近づく闘争に静かに心を躍らせる者。

来る試合に向けて英気を養う者。

目標を見据え対策を練る者。

ぶつかるであろう強敵に向け、己の力を高める者。

周りに感化され、より強くなろうと決意する者。

様々な熱意が飛び交う中、最強を決める戦いは、まもなく始まろうとしていた。

 

 




【あるふぃ】
ナウシズの守護輝士であり、A.B.Tの提案者。
ラスタークラス提唱者ではあるが、A.B.Tにおける規則に伴い、ファントムクラスでの出場となる。

【まリス】
ナウシズの守護輝士。
ヒーロークラスの使い手。
一般のアークスからは"黒き死神"と呼ばれるあるふぃとは対照的に、"白き戦姫"と呼ばれている。

【アリシア】
ハルコタンの白の巫女でエトワールクラスの使い手。
アリスと共にハルコタンとその神子、スクナヒメを守護する。
その身に宿すは【氷桜の魔眼】と呼ばれる護りの力。

【アリス】
ハルコタンの黒の巫女でブレイバークラスの使い手。
アリシアと共にハルコタンとその神子、スクナヒメを守護する。
その身に宿すは【薪炎の魔眼】と呼ばれる攻めの力。

【セラフィム】
テクタークラスの免許皆伝者。
複合テクニックを熟知し、支援のみならず火力に置いても並のアークスを越える実力を持つ。

【蝉時雨】
まリスの近縁であり、彼女をアークスとして育て上げた第一人者。
まリスと同じくヒーロークラスの使い手。
自身にかけているリミッターを解除した彼女の力は計り知れない。

【クオン】
リランと共に"ナウシズの双星"と呼ばれるエトワールクラスの使い手。
普段は見た目に等しく元気な子どものような振る舞いを見せるが、戦闘の際は普段の振る舞いに反し、凄まじい冷静さと圧倒的な威圧感を発する。

【リラン】
クオンと共に"ナウシズの双星"と呼ばれるエトワールクラスの使い手。
まリスに憧れヒーロークラスの習得を目指すが、適性が足りず断念。
だが憧れは捨てきれず、ヒーロークラス特訓時に扱っていたソードをエトワールのダブルセイバーとして機能するようジグに調整してもらった。


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第2話「A.B.T予選」

第2回A.B.Tの開催が宣言され、出場選手と各ブロックのトーナメント表が発表された。
選手は各々、来る2日後の試合に向けて準備を進める。



―A.B.T開催の宣言から2日後

 

『―あれから2日が経ち!とうとうこの日がやってきた!!最強を目指すナウシズのアークスたちよ!富と名声を手にする準備はできたか!?第2回A.B.Tナウシズ予選ブロックの開始だぁぁぁぁ!!!!』

 

司会の開催宣言に対し、観客の大歓声が応える。

 

『良い熱気だ!!!どうやら皆、この日を心待ちにしていたようだ!!この勢いのまま試合を始めていきたいところだが...まずは改めて、ルールの確認といこう!!』

 

司会の言葉が終わると同時に、VR空間のメインモニターにA.B.Tの大会ルールが表示される。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――― A.B.T ルール ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

①出場者は全員、参加登録時に申請したクラスが装備可能なイデアルシリーズが大会中のみそれぞれ貸し出され、原則としてその武器のみの使用となる。

②個々の持つ特殊な能力については使用禁止。

③制限時間以内に、下記のいずれかの勝利条件を先に満たした者の勝利となる。

・対戦相手の武器を場外へ弾き飛ばし無力化する。

・対戦相手を場外へ落とす。

・対戦相手を戦闘不能(HPバー0)にさせる。

※VR空間を利用した特別なフィールドと武器のため、実際に負傷することはない。

 受けた分のダメージはデータとして処理され、モニターに映る選手ステータスのHPバーがその分だけ減っていく。

 なおHPバーが減るほど、その選手に対し身体的負荷(身体が重くなったり本当に傷を負ったかのような感覚)がかかるため、実際にダメージを受けたような感覚になる。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『―以上が大会のルールだ!また予選ブロックは各ブロック同時並行で試合が行われている!ロビーやショップエリアにあるモニターでは、ランダムに試合の様子が映し出されるが、個人で気になる試合がある場合はそれぞれの持つ端末で見ることが可能だ!会場に来てくれている者は生で戦いを見ることも出来る!気になる試合を実際に足を運んで見るもよし!生で見ながら別の試合を端末で見るもよし!自由に観戦してくれ!!』

 

司会は一息ついたあと、再び口を開く。

 

『...さて、それでは始めよう!!最終ブロックへと勝ち上がるのははたして誰なのか...第2回アークスバトルトーナメントナウシズ戦予選ブロック...スタートだぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

アークス同士による互いの実力がぶつかり合う戦いが、観客の大歓声と共についに始まった。

 

 

 

 

 

 

 

**********

 

 

出場選手には、それぞれ専用の個室が設けられ、皆、次の試合に向けて準備を整えている。

あるふぃもまた、もうすぐ始まる試合に備え精神を研ぎ澄ましていた。

 

「......よし、行くか。」

 

静かに椅子から立ち上がり部屋を出る。

選手専用通路では出番が近いアークスが何人か出入りしている。

通路を抜けた先にある広い選手控え室では、何人かのアークスが集まって会話をしたり、モニターで観戦したりしている。

フィールドへ向かい際にちらりとモニターを見ると、既に準備の出来たブロックから試合が始まっているようだった。

控え室を抜け、各ブロックの選手入場口へと進む。

既に観客の熱気は十分で、入場口を出ずとも、いまかいまかとこの後始まる試合に期待で胸を膨らませているのが伝わってきた。

 

「まだ始まったばかりだというのに...かなりの盛り上がりだな。」

 

『これより、Aブロック第3試合を始めます。出場者のアークスは、入場してください。』

 

機械的なアナウンスが流れる。

 

「さて、予選で1番の強敵だ。少しは気合いを入れないとな。」

 

軽いストレッチをし一呼吸すると、あるふぃはフィールドへと歩みを進める。

フィールドに出るとすぐに、大きな歓声があるふぃと反対側から入場してくる選手を迎えた。

初期配置に着くと、対戦相手の女性があるふぃへ声をかける。

 

「まさか、1戦目からあなたと戦うなんてね。」

 

「私も、初戦の相手がお前になるとは思わなかったよ。今回は、あまり悠長にしてはいられないな。」

 

「そうよ、油断してるとあっという間に終わっちゃうわよ?」

 

『Aブロック第3試合、モミジ選手vsあるふぃ選手。スタート。』

 

機械音声と共に、ビーッ!!という大きなブザー音が鳴り響く。

 

「さぁ行くわよ!!」

 

試合開始の音とほぼ同時に、モミジはあるふぃの頭上にタリスを素早く投げる。

直後、投げた先へワープをし、武器をソードへ切り替えてあるふぃの頭上から振り下ろす。

それに対しあるふぃは身動きひとつしなかった。

 

「っ!!」

 

モミジは背後にいつの間にか配置されていたビットに気づく。

見ると開始時にロッドを構えていたはずのあるふぃが、いつの間にかライフルに切り替えていた。

ビットから撃ち出された弾に対し、振り下ろす動きから無理矢理身体をひねり、何とかソードで防ぐ。

直後、あらかじめ試合開始時の位置に置いていたタリスへとワープした。

 

「まぁ、さすがにそう簡単にはいかないわよね。」

 

「当たり前だ。長い付き合いだからな。何をしてくるか大方の予想は付く。」

 

「はぁ...これだからお互いに手の内を理解している相手はやりにくいのよ...ね!!」

 

モミジは武器をツインマシンガンに切り替え、地面を乱れ撃ち、フォトンによる煙幕を発生させる。

煙幕があるふぃと共に、フィールドのほとんどを包み込む。

タリスで再び上空へとワープしたモミジは、氷と光属性のテクニックを織り交ぜた氷光の槍を大量に生成する。

それは雹のように降り注ぎ、地面へと刺さった光の槍は、氷纏によってしばらく形が残った。

さらにモミジは、炎属性のテクニックをまばらに放つ。

至る所で炎テクニックによる小さな爆発が起きると同時に、熱によって溶けた氷光の槍が、さらに濃い煙幕を作り出した。

続けざまにモミジは雷属性のテクニックを放つ。

小爆発によって散った火の粉が、雷属性のテクニックによって激しい爆発を起こす。

度重なる爆発が収まり、煙幕も徐々に晴れたのを確認したモミジは、地上へと戻る。

 

「これならどうかしら?」

 

一息付きながら、あるふぃのいた場所を確認する。

だがそこには、カタナを持ち、さきほどと変わらずその場に立ち続けるあるふぃの姿があった。

 

「ふぅ...並のアークスなら、今ので決まっていたぞ。」

 

「これでも無傷って...規格外にもほどがあるわよほんと。」

 

「無傷というわけでもないさ。」

 

あるふぃはモニターに映る自分のHPバーを指す。

あるふぃのHPバーは確かに、僅かに減っていた。

 

「あれでこれしか減ってないのは実質無傷みたいなもんでしょ!」

 

「ははっ、まぁそれもそうだな。さてと...」

 

あるふぃは軽く笑いながらも、武器をライフルへと切り替える。

 

「負けず嫌いなお前の事だ、まだ続けるんだろう?」

 

「...当たり前よ。あなたの言う通り、私は諦めが悪いからね...!!」

 

モミジはそう言うと同時に足を強く踏み込み、あるふぃへと向かっていく。

それを迎え撃つようにあるふぃは無数のビットを展開させモミジを攻撃していく。

ビットから放たれる弾幕を躱し、受け流し、前へと進む。

なんとか進み続け、至近距離へと近づいたモミジは持っていたソードを力強く振り上げる。

あるふぃはカタナへと切り替え、素早く振り下ろす。

両者の刃が激しくぶつかり、ガキンッ!!という激しい音が鳴り響く。

しばらく鍔迫り合う2人だったが、頭上に出現した複数のビットを確認したモミジはその場から素早く離れ、ビットから放たれた弾をツインマシンガンで相殺する。

直後、モミジの背後にあるふぃが現れ、カタナを横薙ぎに払う。

モミジはなんとかソードで防ぐが、不意の攻撃に受ける準備が万全ではなく、少し弾き飛ばされると同時に体勢が崩れる。

その隙を見逃さず、あるふぃは瞬く間に距離を詰め、カタナで連撃を叩き込む。

怒涛の連撃をモミジは必死に受け流し続けるが、反撃の隙が全くない。

あるふぃからなんとか距離を取ろうとモミジは連撃の合間を狙って離れた場所にタリスを投げる。

急ぎワープを行い距離を取る事に成功するが、あるふぃは追撃をせず、ただ一言だけ言った。

 

「その辺り、足元に気をつけた方がいいぞ。」

 

「っ!?」

 

いつの間にかモミジの周囲には、いくつもの地雷式ビットが散らばっていた。

直後、それらを防ぐ態勢を整える暇もなく、周囲のビットが次々と爆発を起こす。

爆発によって辺りが煙に包まれる。

 

「くっ...」

 

―まともにくらった。

 

その様子を目の当たりにしていた観客も、モミジ自身もそう確信していた。

だがモミジは、自身の身体がまだ問題なく動くことに気付いた。

 

「これって...!!」

 

「そう、ただのダミーだよ。」

 

あるふぃは、構えていたライフルから銃弾を1発撃つ。

それはモミジの持つ武器へと当たり、予想外の出来事に油断し手を緩ませてしまっていた為、武器を容易く弾き飛ばされてしまった。

弾かれたそれは宙を舞い、フィールド外へと落下する。

 

直後、試合開始時にも聞いたブザー音が鳴り響く。

 

『ビーッ!!モミジ選手の無力化を確認。勝者、あるふぃ選手となります。』

 

観客の歓声がフィールドを包み込む。

結果はあるふぃの圧勝ではあったが、そのあるふぃに果敢に挑んだモミジにも、観客から盛大な拍手が送られた。

 

「はぁ...最初から最後までダメだったわね。完全に手玉に取られてたわ。」

 

「ルール上、個々の能力の使用ができないからな。お前の能力は強力すぎた分、それに頼りっきりな戦闘スタイルだったのが敗因だろう。」

 

「ぐうの音も出ないわ...今度ファレグさんにでも修行させてもらおうかしら...」

 

「いや...ファレグだけはやめておけ。」

 

「あら、どうして?」

 

即答するあるふぃに対し、モミジは疑問を抱く。

 

「........とにかくやめておけ......」

 

過去に何かあったのか、あるふぃは軽いトラウマでも思い出したかのように頭を抑えていた。

 

「...ふーん.....なんとなく察したわ。それはそれとして、今後の予選ブロックの相手はあなたなら問題ないだろうから心配することもないだろうし、帰ってゆっくり休ませてもらうわ。明日の最終ブロック、観客席から見てるわよ〜。」

 

モミジはあるふぃに背を向け、入退場口のテレパイプへと向かいながら手を振る。

 

「あ、そういえば―」

 

転送する直前で、モミジは思い出したかのように振り返る。

 

「もし負けたら、私の"あるふぃに着せたい服リスト"の中から1着来てもらうから♪」

 

「っ!!おい待て!!」

 

あるふぃの静止の声が届くよりも先に、モミジはテレパイプを通じて帰ってしまった。

 

「はぁ...戦い以外となるといつもこれだ...」

 

試合には勝ったというのに、なんだかやるせない気持ちになったあるふぃは、ガクッと肩を落としながら退場していった...

 

 

 

 

********

 

 

その後も、各試合は順当に進んでいった。

予選にも関わらずどこの試合会場も席を埋め尽くすほどの勢いで、明日に待つ最終ブロックにもかなりの期待が寄せられていた。

 

そして全ての予選ブロックが滞りなく行われ、早くも戦いは明日の最終ブロックへと続く...




【モミジ】
あるふぃと付き合いの長いアークス。
過去にあるふぃがアークスになる前に過ごしていた研究所と同じ施設に居たことがある。
相手を惑わせる能力に長けている。


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第3話「A.B.T最終ブロック」

ついに開催となった第2回A.B.T。
初日の予選ブロックは順調に進み、無事に最終ブロックである2日目を迎えた。


―A.B.T2日目

 

フィールド上に、予選ブロックを勝ち残った8人のアークスが立ち並ぶ。

 

『さぁ!昨日より始まった第2回A.B.Tナウシズ戦だが、無事問題なく、最終ブロックの選手が全て決まったぞ!!!では改めて、予選を勝ち抜いた屈強なアークス達を紹介していこう!!』

 

直後、モニターが切り替わり、フィールドに立つアークスそれぞれに対し、司会の紹介と共に一人一人順番に映し出していく。

 

『Aブロックを勝ち抜いたのはやはりこのアークス!ナウシズの守護輝士でありこのトーナメントの発案者、あるふぃ!!初戦は付き合いの長いモミジと激しい攻防を繰り広げたが、持ち前の読みの鋭さから常に優位に立ち回り快勝!その後もさすが守護輝士といった実力でいとも容易くここまで勝ち上がってきた!!』

 

『Bブロックを勝ち抜いたのはハルコタンの黒の巫女、アリス!さすがはハルコタンの神子スクナヒメに仕える者といった実力でここまで勝ち上がってきた!その力は強豪ひしめくこの最終ブロックでも通用するのか!!』

 

『Cブロックを勝ち抜いたのは"ナウシズの双星"の1人、リラン!前回の第1回A.B.Tでは準決勝で惜しくもあるふぃに敗れてしまったが、今回は大きく立ちはだかるもう1人の双星を打ち倒し、リベンジに望めるのか!!』

 

『Dブロックを勝ち抜いたのはリランと同じく"ナウシズの双星"と称されるクオン!第1回A.B.Tでは決勝まで勝ち上がり、あるふぃと激戦を繰り広げた猛者だ!前回惜しくも手が届かなかったナウシズ代表の名を今度こそ掴み取り、最強への挑戦権を手にすることができるのか!!』

 

『Eブロックを勝ち抜いたのは第1回A.B.Tウル代表、ユウ!!今回はナウシズに所属中ということもあり特別こちら側での参戦だ!そして前回ウルの猛者を制しウル代表となったアークスといった腕前で、このナウシズ戦においても最終ブロックまで順調にコマを進めてきたぞ!!』

 

『Fブロックを勝ち抜いたのは蝉時雨!守護輝士であるまリスの縁者でもあり、アークスとして入りたての頃の彼女を育て上げた立役者だ!!予選ブロックではまリスの弟であるいリスに勝利!守護輝士に並ぶ者と称されるその実力はいかに!!』

 

『Gブロックを勝ち抜いたのはナウシズのもう1人の守護輝士、まリス!あるふぃの妹であるみにふぃを制し、最終ブロックへと勝ち進んだ!!この最終ブロックでも守護輝士としての威厳と実力を見せるのか!!』

 

『Hブロックを勝ち抜いたのはハルコタンの白の巫女アリシア!黒の巫女アリスと共にスクナヒメに仕え、星を守護する実力者だ!予選では体力温存の為か少々危なっかしい部分もあったようだが、この最終ブロックではどこまで力を発揮できるのか!!』

 

『―以上の8名が今日!ナウシズ代表の座を巡り勝負することとなる!!果たして最強への挑戦権は誰のものになるのか...再びあるふぃが手にするのか!もう1人の守護輝士、まリスのものになるのか!前回のリベンジに燃えるクオン、リランのどちらかが取るのか!ハルコタンの巫女、アリスかアリシアのどちらかの手に渡るのか!今回のダークホース、蝉時雨かユウのものになるのか!みなこれから始まる激戦を、最後までしかと見届けてくれ!!!』

 

観客の大歓声がフィールド内に響き渡る。

 

「この盛り上がりよう...まるでライブ会場ね...」

 

「最終ブロックは予選と違って1試合1試合が全てこのフィールドで行われるからな。予選の時は各所に散らばっていた観客が、最終ブロックでは一斉にここに集まるわけだからこうもなるさ。」

 

「なるほどね...」

 

そう言いながら、まリスはモニターに映る選手たちの顔をずらっと見る。

 

「それにしてもまぁ、勝ち上がってくる選手に関しては大方予想通りといったところじゃない?」

 

「観客の予選突破予想ではいリスの名が挙がっていたが、やはり蝉相手では厳しかったようだな。」

 

「基本的な戦闘能力だけで見るなら一般のアークスより頭1つ飛び出てるぐらいだから、蝉相手なら仕方ないわ。...今度特訓してあげようかしら。」

 

「それは楽しみですね。まリスが教えるのであれば、次また戦う時があればその時は負けてしまうかもしれません。」

 

ふふっと余裕の笑みを見せながら蝉時雨は言う。

その様子から、口ではそう言うが、実際はまだ負けるつもりは無いのだろう。

 

『さぁ選手紹介も終わったのでそれではさっそく...ん?』

 

司会の進行が突然止まり、一時の沈黙が訪れる。

司会は自身の端末に届いた通知を開き、連絡の内容を一通り読み終えると口を開く。

 

『おぉっとこれは...A.B.T運営部からルール変更の知らせだ!!なんと今回の最終ブロック、イデアルシリーズによる武器制限を解除し、普段扱っている武器の使用が可能に!!そして個々の持つ能力も解禁して良いとのことだぁぁぁぁ!!!!これは予選以上の激しい戦いになること間違い無しだ!!!!守護輝士とそれらに並ぶとも言われる実力者達の本気の戦いが見れるぞぉぉぉ!!!!!』

 

ナウシズでも名だたるアークス達の本気の戦いを生で見ることが出来る。

観客たちはより一層の盛り上がりを見せた。

 

「はぁ!?能力使えるならあるふぃなんかけちょんけちょんだったわよ!?」

 

「ちょっ、落ち着いて姉さん!そもそも能力ありの手合わせでもあるふぃさんに勝ったことないでしょ!?」

 

「うっさいわねクレハ!!あれはただの手合わせだから手を抜いているだけよ!本気を出せば少しは―」

 

「モミジ、残念だけど、お姉ちゃんも手合わせの時は本気出してないよ。」

 

「んなっ...みにふぃちゃんまで......!!」

 

......一部不満を持つ観客もいるようだが。

 

「なんだかあの辺り、賑やかですね。」

 

「あるふぃさんの妹さんと、友人さんかな?」

 

「いリスも同じこと思ったりするんですか?」

 

「んー......能力が使えたところで、その時はスリス姉さんも同じことだから、どちらにしろ勝てないんじゃないかなぁ...あの人の場合、それだけ自分の能力に自信があるんだと思うよ。」

 

観客席でセラフィムといリスが話し合う中、フィールドに並ぶ者出場者達も、今回の突発的なルール変更について話していた。

 

「へぇ、面白いことを考えるじゃないか。」

 

「そんな簡単にルール変えちゃって大丈夫なの?」

 

「どちらにしろ、本戦では同じルールになるからな。早めに体験できると思えば、問題ないと思うぞ。それに...」

 

あるふぃは他の出場者達の様子をチラリと見てから言う。

 

「どうやら全員、やる気は十分なようだしな。」

 

『それではさっそく始めていこう!第一試合の出場選手以外は控え室で待機していてくれ!!』

 

司会の指示に従い、あるふぃとアリス以外の出場者はその場を去っていく。

 

「......さて、まずは私たちなわけだが...スクナから聞いたぞ。秘策があるようだな。」

 

「うん。まだ付け焼き刃だけどね。でも、いい勝負にはなると思うよ。」

 

「なるほど、それは楽しみだ。」

 

軽く言葉を交わしながら、2人とも決められた開始位置へと向かう。

 

『さぁ...まずは第1試合!ナウシズの守護輝士、あるふぃ対!!ハルコタンの黒の巫女、アリスの試合だぁ!!!』

 

再び歓声が湧き上がる。

 

『両者とも既に配置に付き、準備は万端のようだ!!それではさっそく始めていこう!!!』

 

お互いに武器を構え、司会の合図を待つ。

 

『...最終ブロック第1試合!あるふぃvsアリス!試合スタートォォォ!!!』

 

 

 



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第4話「黒き死神vs黒の巫女」

突然のルール変更にも関わらず、より大きな盛り上がりを見せるA.B.T。
予選を勝ち上がり、最終ブロックへとたどり着いた8人の猛者たちの戦いがついに始まる。


『―最終ブロック第1試合!あるふぃvsアリス!バトルスタートォォォォ!!!』

 

「行くよ!あるちゃん!」

 

試合開始のブザー音と同時に、まず先に動いたのはアリスだった。

愛刀である"レンゴクトウ・グレン"を構え、一気に間合いを詰める。

 

『まず動いたのはアリスだ!あるふぃとの接近戦に持ち込むつもりだぁ!』

 

「来い!アリス!」

 

向かってくるアリスに対し、あるふぃもカタナを構え応戦する。

ガキンッ!!という刃が激しく交わる音が鳴り響き、続けざまにアリスは素早い連撃で斬り込む。

あるふぃもそれを防ぐように、幾度となくカタナを交える。

 

「アリスさん、開幕で一気に仕掛けに行きましたね。」

 

セラフィムとまリスの弟であるいリスは、観客席から試合の様子を見ていた。

 

「アリスさんはカタナでの戦いがメインだからね。あるふぃさんに遠距離からの攻撃が可能なロッドやライフルを使わせない距離まで詰めて戦うのが1番良いと思うよ。ただ...あるふぃさんの最も得意とする武器がカタナであるという点を除けばだけど......」

 

「え?あるふぃさんて普段からロッドで戦っているイメージがあるのでそれが一番得意なものとばかり...」

 

「姉さんから聞いたんだけど、あるふぃさんが言ってたらしいよ。"最も得意とするものは、普段は使わずここぞと言うべきに出すべきだ"って。元々ブレイバーを扱っていたこともあって、カタナにおいては他の武器種よりも数段得意なんだってさ。」

 

「でも、今回は最初から使っているんですね。」

 

「そこはきっと間合いの問題だよ。ライフルに関しては明らかだけど、ロッドは近接も出来るけど今のアリスさんのように至近距離に詰められると上手く武器を振り回せない。あるふぃさんの実力ならそもそも近づけさせない戦い方もできると思うけど...観客を意識してるのかな?」

 

2人が話す間も、あるふぃとアリスは何度も刃を交えていた。

アリスの猛攻をあるふぃは幾度となく受け流し、ところどころに反撃を織り交ぜる。

 

『アリスが果敢に攻め立てる!!あるふぃも合間を縫って反撃を仕掛けるが、完全に攻めに転じられないでいる!これは僅かながらアリスが優勢か!?』

 

実況の通り、試合が始まってからしばらく、アリスは途絶えることなく攻撃を続けていた。

僅かな隙を突いてあるふぃも反撃を繰り出すが、その全てをアリスは捌き再び斬り込む。

だがそれを何度か繰り返しているうちに、変化が起きた。

 

 

 

―アリスが押されはじめている。

 

 

 

「...くっ!」

 

「どうしたさっきまでの勢いは。早くその秘策とやらを見せてくれてもいいんだぞ?」

 

攻勢一転、あるふぃがアリスへ斬り込む。

アリスはあるふぃの連撃を必死になって受け流す。

 

『おぉっと先程まで果敢に攻めていたアリス!息切れかぁ!?ここに来てあるふぃが本格的に反撃を開始したぁ!アリスはこの猛攻を凌ぎきれるのかぁ!?』

 

「どうして急に...」

 

セラフィムがその状況を見て不思議に思う。

先程まで圧倒して攻めていたアリスがいつの間にか防御に徹しているのだから無理もない。

 

「多分、あるふぃさんの反撃一つ一つが、アリスさんの攻撃の軸をずらしていたんだと思う。ペースが乱れれば攻めるアリスさんは余計にスタミナを使うし、手数も完全じゃなくなる。必要最低限の攻撃で、先手を打ってくる相手のペースを乱す...これがあるふぃさんの戦い方......」

 

なおも続くあるふぃの反撃に、アリスは防戦一方となっていた。

 

「この程度でペースを乱されているようでは、まだまだだな。」

 

「この...っ!!」

 

続くあるふぃの連撃を、ただひたすらに防ぐ。

しかし反撃の隙など無く、なんとか息を整えようと距離を取ろうとするとほぼ同じタイミングで距離を詰めてくる。

そんなアリスを見かねたのか、彼女の内に宿る力が声をかける。

 

(―だから最初から私と替わっておけばよかったのに...随分と無茶をするじゃない。)

 

(今の自分の力でどこまで渡りあえるかと思ってやってみたのだけれど......やっぱりあるちゃんは強いなぁ.....)

 

(もう十分腕試しはできたでしょう?久方ぶりの強者との戦いに気持ちが疼いているのよ。早く替わってくれない?)

 

(まったくもう、せっかちだなぁ......分かったよ。あとは存分に戦っておいで―)

 

なんとか攻撃を防いでいたアリスの手がピタッと止まり、あるふぃの一振りがアリスに届きかける。

だがその刃が届く間際、アリスの周囲に炎が巻き上がり刃を押し返した。

あるふぃはそれを見て咄嗟に後ろへ下がり、様子を伺う。

 

『おぉーっとなんだぁあれは!?突如アリスの身の回りを激しい炎が取り囲んだぁ!!!』

 

「.....なるほど、それが秘策というわけか。」

 

炎の中から感じる覇気から、何かを察するあるふぃ。

アリスの周囲に巻き上がっていた炎が四散する。

服装に変化はなかったが、髪の毛先は燃えるようになびき、瞳からは常に炎がごうごうと燃え盛っていた。

 

「初めましてと言った方がいいかしら。ナウシズの守護輝士。」

 

「実際にこうして話すのは初めてだな。スクナから存在自体は聞いたことがある。会えて嬉しいよ―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【薪炎の魔眼】(アリス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***************

 

フィールドを、炎を纏った無数の武具が飛び交う。

使用者の周囲から放たれるそれは、一直線に対象へと向かう。

 

「くそっ...やりづらいな...!!」

 

向かってくる武具を躱し、【薪炎の魔眼】(アリス)の懐へと入り込むが、薙刀、刀、双剣、短剣...次々と切り替わる得物に間合いを狂わされ、あるふぃは翻弄される。

立て直そうと後ろに下がると再び炎纏の武具があるふぃへと降り注ぐ。

なんとか全てを防いではいるが、なかなか攻め手に欠けていた。

 

「この程度でペースを乱されているようではまだまだね、ナウシズの守護輝士さん。」

 

さきほどアリスに対し放った言葉をそっくりそのまま返され、あるふぃは思わず苦笑いをする。

 

『まるでさっきまでとは別人のような圧倒的な攻めを見せるアリス!!これがアリスの能力か!?再び守りに転じたあるふぃだが、この猛攻を再度返すことはできるのかぁ!?』

 

「...まったく、仕方がないな......」

 

小さく呟くと、あるふぃは飛び交う武具を防ぐ合間に持っていたカタナを素早く納め、ロッドへ切り替える。

 

「今度はテクニックでなんとかするつもり?いいわよ、やってみなさい。」

 

【薪炎の魔眼】は腕を振り上げ頭上に無数の武具を顕現させ炎を纏わせる。

上げた腕を振り下ろすと同時に武具はあるふぃへと向かっていく。

そして―

 

 

 

 

 

あるふぃはその手にもつ武器、"グリムリーパー"を一振する。

その一振によって、あるふぃへと放たれた武具が全て消し飛んだ。

 

「っ!?」

 

【薪炎の魔眼】(アリス)は驚きを隠せなかった。

先程までとはまるで違う圧倒的な威圧感に僅かに足がすくむ。

 

(まさかこれは...恐れ?この私が......?)

 

「最終ブロックは始まったばかりだからあまり使わないでいたかったが、相手が相手だ。」

 

そう言い放つあるふぃの瞳と愛用の武器である"グリムリーパー"のフォトンで形成された刃は、血のような深紅に染まっていた。

 

「悪いが、これからの対戦相手のことを考えるとあまり長くは使っていたくないんだ。一撃で決めさせてもらうぞ。」

 

「...へぇ、この私を一撃で落とせると......まぁいいわ、私もこの状態でいられる時間には限りがあるからね。一撃で灰塵にしてあげるわ。」

 

お互いに武器を構える。

僅かな時間、無音に近い静けさが会場を包み、観客達も思わず息を飲む。

 

刹那、あるふぃが一気に突っ込む。

 

(っ!?速い!!)

 

今までとは桁違いの速さに【薪炎の魔眼】(アリス)の反応が僅かに遅れる。

無数の武具を飛ばし、遅れを取り戻そうとするが、あるふぃはそれらを"グリムリーパー"で弾きながらも、減速することなく突っ込んでいく。

一瞬で距離を詰め、懐に入ったあるふぃは、フッと【薪炎の魔眼】の前から姿を消す。

 

(この殺気...後ろっ!!)

 

「ふんっ!!気配がだだ漏れよ!!」

 

背後に視えたあるふぃに対し、構えていた"レンゴクトウ・ヒガン"を力強く振るう。

だが―

 

「っ!?」

 

背後に現れたあるふぃに確実に当てたはずの刃は物体を斬るような感触はなく、ただ空を切る。

それと同時に、真っ二つとなったあるふぃの姿は、霧のようにふわっと消えた。

 

「これは...幻影っ!?」

 

「ファントムらしい技だろう?もっともそれは、対人でしか通用しないがなっ!!」

 

あるふぃは消える前と同じ【薪炎の魔眼】(アリス)の目の前にいた。

力を溜めた渾身の蹴りが、隙を見せた【薪炎の魔眼】(アリス)に直撃する。

 

「ぐうぅっ...!!」

 

十分な防御ができず、もろに蹴りを受けた【薪炎の魔眼】(アリス)は激しく吹き飛ばされる。

なんとか地面に着地し、反撃を行おうと顔を上げヒガンを構え直した次の瞬間―

 

『決まったぁぁぁぁぁ!!!!さすがは守護輝士あるふぃ!満を持して準決勝へと進出だぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「ちょっと待ちなさい!私はまだ戦え―」

 

(私たちの負けだよ【薪炎の魔眼】(アリス)。自分の立っている場所をよく見て。)

 

観客の大歓声によって【薪炎の魔眼】(アリス)の声が掻き消される中、宿主の声が彼女の脳にはっきりと伝わる。

 

「......っ!!」

 

【薪炎の魔眼】(アリス)の立っている場所。

そこはまぎれもなく、フィールドの場外だった。

あの蹴り1発で、あっという間に数十メートルも飛ばされていたのだ。

状況を理解した【薪炎の魔眼】(アリス)は、武器を納め、やれやれといった様子で大きくため息を付き、愚痴をこぼす。

 

「......はぁ...まったく、これだからルールのある試合は苦手なのよ。」

 

(まぁまぁ、私達だってまだ完全に"繋"に慣れていない状態だったし、どちらにせよ時間の問題だったでしょ?)

 

宿主に正論を言われ、【薪炎の魔眼】(アリス)は口を紡ぐ。

そこに、フィールド内からあるふぃが【薪炎の魔眼】(アリス)へ声をかける。

 

「久しぶりに良い相手と巡り会えた。ところで、まだその戦い方には慣れていないんだろう?完全にものにした時にまた、勝負をしようじゃないか。」

 

あるふぃの挑発的な言葉に【薪炎の魔眼】(アリス)は一瞬イラつきを見せたが、すぐに落ち着きフッと笑う。

 

「ふんっ......傲慢甚だしいわね......いいわ、覚えておきなさい。次戦う時ははルール無用の真剣勝負よ。せいぜい私を失望させないよう、腕を鈍らせない事ね。」

 

その言葉を最後に、アリスの身体がふらっと揺れる。

 

「っとと...急に戻らないでよもう...」

 

ふらつきながら小言を言う姿を見て察したのか、あるふぃの雰囲気が少し優しくなった。

 

「ふむ...悪くない太刀筋だったぞアリス。だがその秘策、ルールがそのままなら使えなかったぞ?」

 

「大丈夫よ。だってルール変更の提案をしたのは、他でもないヒメ様だもの。」

 

「......なるほどな。通りで2人とも、ルール変更の時に僅かににやついていたわけだ。」

 

あるふぃはやれやれといった様子で両手を軽く上げる。

 

「どうしてアリスさんは、最後に正面にいるあるふぃさんではなく背後に攻撃を振ったんですかね?」

 

「...姉さんから聞いたことがあるんだけど、あるふぃさんは殺気だけで、相手に幻影を見せることができるって言ってたよ。さっきの様子だと、《背後から襲う》という殺気をアリスさんにぶつけることで、アリスさんはその殺気から背後にあるふぃさんの幻を視てしまって、そこに向けて武器を振るったんだと思う。」

 

いリスの言葉にセラフィムは唖然とする。

このような恐ろしい技を扱えるあるふぃが第1回A.B.Tの本戦1回戦で敗れたというのだ。

ナウシズ以外の守護輝士も、このように異次元の強さを持っているのだろうか...

 

なおも止まぬ大歓声の中、あるふぃとアリスの退場を確認した司会は大きく声をあげる。

 

『さて!!!まだまだ最終ブロックは始まったばかりだ!!!!ボルテージの配分を間違えて終盤でへばるなよぉ!?それでは続いて第2試合、選手入場!!!!』

 

 




【薪炎の魔眼】
星の意志によって創造された、ハルコタンの巫女に代々引き継がれてきた炎の加護。
現黒の巫女であるアリスの内に宿り力を貸している。
以前から人格はあったが、表に出ることはできなかった。
今回のA.B.Tにおける対守護輝士の秘策である"繋"を会得したアリスによって、一時的だが表に出ることが可能になった。

【いリス】
まリスの弟。
第2回A.B.Tに出場したが、予選で蝉時雨を相手に敗退。
セラフィムと共に観客席から最終ブロックの戦いを見届ける。

【クレハ】
モミジの弟。
今回は不参加だったが、第1回A.B.Tではリランを相手に接戦を繰り広げた程の実力者。
モミジの趣味のせいか、女装していることがたまにある。

【みにふぃ】
あるふぃの妹。
実力は一般のアークスと比較するとそれ以上だが、身体が弱く体力が少ないため、あるふぃのサポートを主にしている。
しっかり者で家事ができるため、あるふぃにとって自慢の妹。



【紅蓮の瞳】
あるふぃが自身に宿る力を発揮する際に、瞳の色が紅く染まることから付けられた呼び名。
フォトン量、身体能力等をただ純粋に向上させるという単純なものだが、それ故に長時間の維持を可能とする。
ただし、これはあるふぃの持つ全てを増幅させる能力の為、ダーカー因子でさえも増幅させてしまい、扱うタイミングを間違えればダーカー化の恐れもある諸刃の剣。

【フォトン式格闘術】
あるふぃがファレグから学んだ徒手空拳による格闘術に、自身のフォトンを纏わせることでさらに威力を増大させたもの。
【薪炎の魔眼】を場外へと蹴り飛ばした際に使われた。
武器にフォトンを流し込み、力を増幅させて放つのが基本的なアークスの戦い方故に、この戦い方はファレグから直接技術を叩き込まれたあるふぃのみが会得している。

【繋(つなぎ)】
ハルコタンに伝わる秘術。
宿主と加護のフォトンリンクを深めることで、一時的に宿主の身体を借りて表に顕現することができる。
この技を完全にものにすることができれば、宿主自身の意志で加護の力を最大限に発揮することができるようになるという。
アークスではリサとハリエットが、これに似た技術をもっていた。

【グリムリーパー】
あるふぃの専用武器。
ファントムクラスに普及されているグリムアサシンをあるふぃ用に調整したもの。
フォトンで構成されている刃は、持ち主であるあるふぃの状態によって色が変化する。

【レンゴクトウ・グレン】
アリスの愛用する深紅のカタナ。
このカタナから飛ぶ斬撃は炎を帯びる。

【レンゴクトウ・ヒガン】
【薪炎の魔眼】の力を顕現させた、柄から剣先まで全てが炎で構成されたカタナ。
宿主が最も得意とするカタナを意識して形を成しているが、所有者の意志によっては様々な武器種へと変化することが可能。


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第5話「ナウシズの双星」

あるふぃとアリス、もとい【薪炎の魔眼】の試合はあるふぃの勝利に終わった。
そして第2試合、あるふぃへのリベンジに燃える2人の戦いが始まる。


『第2試合、選手入場!!!!』

 

 入場を促す司会の声に応じ、フィールドに2人の少女が現れる。

 

『これも何かの巡り合わせか!ナウシズの双星がここに揃う!!"双星の一"クオン!!そして相対するは、"双星の二"リランだぁぁぁぁ!!!!』

 

歓声と共に大きな盛り上がりを見せる観客達に対し、フィールドに立つ2人は静かに、お互いを見据えていた。

 

(この日のために2日間しっかり特訓してきたんだ...大丈夫、今の私ならクオンに勝てる。)

 

リランはパンパンッと顔を2度両手で叩き気合を入れると、武器である"グランスティル"を構える。

 

「クオン、この試合であなたが負けたら、双星の肩書きを入れ替えるっていうのはどう?」

 

「へぇ...随分と強気だねリラン。いいよ。でも今回は、前回以上に負けられないんだよね。」

 

クオンも自身の武器"桜剣プルクラケウス"を構える。

 

『両者とも既にやる気満々のようだ!!それではさっそく始めよう!最終ブロック第2試合!クオンvsリラン!バトルスタートォォォォ!!!』

 

試合開始のブザー音が鳴り響く。

 

「それはこっちも同じっ!!」

 

その言葉と同時に、リランが素早く前に出る。

クオンも迎え撃つように同じく前へと出る。

2人は互いに至近距離へ入ると、同時に武器を振るった。

互いの武器が強くぶつかり、その後も激しい打ち合いが幾度となく繰り返される。

 

『おぉっとこれは第1試合とは違い、開始早々に両者共に攻めの構えだ!!!この試合、どちらが先に優勢となるのかぁ!?』

 

その後も両者とも決して下がることはなく、互いに回避と防御を交えながら攻撃を加えていく。

手数は少ないが一撃が重いウォンド。

一撃は軽いが手数が多いダブルセイバー。

お互いの欠点を補い、戦場においてナウシズ最強のエトワールコンビと称される2人が、今は互いに相争っている。

リランが手数で攻め、クオンがそれを防御し、合間を縫って強力な一撃を放つ。

リランはそれをダブルセイバーで素早く受け流し、ウォンドの威力に引けを取らない強力なカウンターを繰り出す。

さらにクオンはそれを防ぐ......序盤から戦いは苛烈を極め、観客達は早くも、大きな盛り上がりを見せていた。

 

「お互いすごい気迫と勢いですね。最初からせめぎ合いで...」

 

「実力が拮抗している分、少しでも手を緩めて相手のペースにさせてしまったら取り返しがつかない。それをお互いに理解しているからこそ、最初から全力なんだろうね。」

 

数十回の激しい攻防の末、両者共に一度距離を取り、息を整える。

  

「やるじゃんリラン。3度は確実に当てたと思ったんだけど、見事に受け流されちゃった。」

 

「私も、2度は当てたと思ったんだけどね。お互い、2日間の特訓の成果が出てるってことかな。」

 

「そうかもね。それじゃあ......これも相手にできるか、試してみようかな!!!」

 

クオンはそう言うと、ほんの少し距離を取り、すぐさまデュアルブレードへと切り替える。

 

「デュアルブレードか...!!!」

 

リランは再び武器を構え、クオンが一気にリランへと踏み込む。

再び、互いの武器が激しくぶつかり合う。

 

「クオンさんのデュアルブレードの扱いって、ウォンド程じゃないですよね。返って不利なのでは...」

 

「でもここであえて出してきたってことは、何かあるんだと思う。」

 

クオンの奇妙な作戦に疑問を感じるセラフィムといリス。

そんな2人をよそに、クオンとリランは互いの武器を何度もぶつけ合う。

先程と同じく、一進一退の攻防を繰り広げるクオンとリランだが、しばらく刃を合わせた後に、クオンが仕掛けにいく。

 

「ウォーミングアップはここまで。ここからが本番だよ!」

 

クオンはエッジを残しながら後ろに下がりつつ、素早くウォンドへ切り替え、エッジがリランに当たると同時に高密度のフォトン帯"ルミナスフレア"を放つ。

 

「っ!?」

 

2方向からの同時攻撃に対し、リランは危なげなく回避を行う。

体勢を立て直そうと1度距離を取ろうとするが、ウォンドから放たれた吸引性のフォトン"ブラックホールラプチャー"によってリランの動きが阻害される。

そこへ再び、デュアルブレードのエッジがリランへと襲いかかる。

 

「どう?リランもダブルセイバーばかり使ってないで、他の武器種も手を出してみたら?」

 

クオンはそう言いつつ、ウォンドとデュアルブレードを巧みに使い回し、リランのペースを崩す。

 

『おぉっとここで遂に長く続いた均衡が崩れたかぁ!?クオンのウォンドとデュアルブレードの2種の武器による巧みな立ち回りがリランを苦しめる!!!』

 

「っ!!...このっ!!」

 

完全にクオンのペースに飲まれ、攻撃の機会を失ってしまったリラン。

なんとか形勢を戻すため、リランは自身の持つダブルセイバーに力を込めた。

 

「..."グランスティル"......拘束解除!!!」

 

リランの声に応じるように、彼女の持つダブルセイバーが形を変えていく。

一目見るとソードと見てもおかしくはないであろうリランの武器は、まさに両剣と呼ぶに相応しい、ダブルセイバーの本来あるべき形となった。

武器の拘束を解除したリランは、クオンの猛攻を素早く掻い潜り、懐へと近づいていく。

 

『ここでリラン反撃に出る!!クオンの攻撃を素早く避けながら、間合いへと踏み込んでいくぅ!!!』

 

「やるじゃん...もし私がデュアルブレードじゃなくダブルセイバーを使っていたら、負けていたかもね!」

 

クオンは手をとめず、間合いを詰めようとしてくるリランに対しなおも攻撃を続ける。

デュアルブレードのギアを飛ばしながら、"ブラックホールラプチャー"を展開し動きを阻害する。

だがリランはそれらを難なく躱し、ついにクオンとの距離はリランの間合いにまで近づいた。

 

「もうそんな小賢しい手は通用しない!!」

 

リランはクオンに対し、解放した"グランスティル"による連撃を叩き込む。

クオンはウォンドによるフォトンのバリアでそれを防ぐ。

だがリランはそれに構うことなく、バリアに対しただひたすらに攻撃を続ける。

 

『クオンはひたすらに守り、リランはひたすらに攻める!!この競り合い、どちらが先に息を切らすのかぁ!?』

 

「くっ...!!」

 

少しして、クオンの顔色が怪しくなる。

リランの攻撃を耐え続けていたバリアに、ヒビが入り始めたのだ。

リランはなおも、攻撃を続ける。

 

「バリアが壊れるまで殴り続けるなんて...無茶苦茶過ぎるって!!」

 

「これが私の全力だぁぁぁぁ!!」

 

リランの力を込めた強烈な一振によって、ついにクオンのバリアが割れる。

 

「っ!!」

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

 

リランは"グランスティル"から巨大な剣を生成し、それを力強く蹴り放つ。

 

「ぐぅぅぅ...!!!」

 

クオンはギリギリの所でバリアを再展開するが、放たれた巨大剣をまともに受け、徐々に後方へ押し出されていく。

 

『リランの"セレスティアルコライド"を正面からまともに受けたクオン!!このまま場外へと押し出されてしまうのかぁ!?』

 

「......やっぱり、リラン相手に...温存はできないね...!!」

 

このまま場外へと落ちてしまうかと思われた瞬間、クオンはバリアを解きながら体を回転させることで巨大剣をなんとか受け流す。

 

「っ...だめか...ならもう1度...!!」

 

「......"もう1度"だなんてそんな甘い考えは通させない!"双星の一"の力、見せてあげる!!」

 

リランが再びクオンへと近づこうとする中、クオンは1度大きく深呼吸し、武器である"桜剣プルクラケウス"を掲げる。

 

「真名解放...起きて!!"アルトリウス"!!!」

 

クオンが声を上げると、"プルクラケウス"に付けられたリボンがスルスルと解かれる。

完全にリボンが解かれると、武器全体を白く輝くフォトンが包み込む。

 

『これは...ついにクオンも本気モードだ!!!双星同士の本気のぶつかり合いだぁぁぁ!!!』

 

「"真櫻剣アルトリウス"...クオンさんも本気ですね。」

 

「...勝負あったね。」

 

「え?」

 

セラフィムはいリスの言葉に首を傾げる。

 

「ここからもう一悶着あると思ったんですが...いリスから見たらもう勝敗は決まってるんですか?」

 

「うん。たぶん、答えはすぐ分かるよ。」

 

クオンとリランが再び激しくぶつかり合う。

最初の数回は互いに一進一退の攻防を繰り広げていたが、その均衡はすぐに崩れ去った。

 

「うぐっ...!」

 

リランが僅かに押し込まれていた。

 

『おぉっとリラン早くも押し負けている!これはさすがに先ほどの無理な攻めもあって息切れかぁ!?』

 

クオンのバリアに対する強引な攻め、長時間の拘束解除により、"グランスティル"は既に消耗しきってしまっていた。

 

「リラン、残念だけど、もう詰みだよ。それでもまだ試合を続ける?」

 

"アルトリウス"による殴打やフォトンのビームがリランを襲う。

リランは必死になってクオンの攻撃を防ぐが、ビームの衝撃により後方に大きく飛ばされる。

 

(くそっ...!!あそこで押し出しきれなかったせいだ...!もっとギリギリまで解放を温存して、セレスティアルコライドの威力に更にブーストをかけられたら...!!)

 

なんとか踏みとどまったリランは、そんな事を考えながらクオンを見据える。

 

「...あそこで決めきれなかったから、もう少し武器の解放を遅らせておけば...そう思ってる?」

 

「っ!?」

 

クオンの核心を突いた言葉にリランはドキッとする。

クオンは驚くリランに対し、静かに語りかける。

 

「PvPにおいて1番大事なのは、相手の行動に対して自分がどう動くかじゃなく、自分が動きやすいよう相手にどう立ち回らせるかだよ。例えば、遠距離攻撃を多用して近づかせないようにすることで、相手は無理矢理近づこうとして自身にブーストをかける、とかね。」

 

「まさか...っ!」

 

「もう分かったみたいだね。」

 

リランは理解した。

これまでの戦いの経緯全てが、クオンの計算通りであったことに。

 

「くっ......うあぁぁぁぁ!!!」

 

リランはこれまでの操られていた試合の流れに、悔しさのあまり雄叫びを上げながらクオンへと迫る。

それに対しクオンは、周囲に多数の方陣を展開する。

 

「これで終わりだよ..."ルミナスフレア・イクシード"...フォイア!!」

 

方陣とクオンの持つ"アルトリウス"から凝縮されたフォトンのビームがリランへ放たれる。

 

「ぐっ.....!!」

 

数発受け流すことはできたが、今のリランにそれ以上を防ぐ力は残っていなかった。

残りのビームがリランに被弾する。

 

「ぐっ...うぁぁぁぁっ!!」

 

リランが吹き飛ばされると同時に、モニターのHPバーが0になる。

 

『き...決まったぁぁぁぁぁ!!!!クオンとリランのエトワール対決!!リランの戦闘不能により、クオンの勝利!!!!"双星の一"の威厳を示したぁぁぁぁ!!!!』

 

試合終了のブザー音と共に、観客の歓声が飛び交う。

クオンはリランの元へ近づくと、リランへと手を差し伸べる。

リランはその手を掴み、クオンに助けられながら起き上がる。

 

「っ...はぁ...やっぱり強いなぁクオンは...」

 

「特訓してるのはリランだけじゃないからね。」

 

「この2日間、あるふぃの対策ばかりしていると踏んで油断していると思ったのだけど...」

 

「ん?私はリランとの対戦もちゃんと考えて特訓してたよ?」

 

「嘘...だって2日間しか無かったのに2人分の対策を練るなんて...」

 

「相当きついだろうね。ましてやそのうちの1人はあるちゃんなわけだし。だから―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2日間VRルームを貸し切ってそこで生活した!!!」

 

「!?」

 

クオンの衝撃的な言葉と圧倒的な練習量の差に、リランは目を大きく見開き口をあんぐりと開け、しばらく返す言葉を失ってしまった。

 

「.........はは...そりゃ勝てないや...」

 

『開幕から最後の最後まで、手に汗握る激戦を見せてくれた彼女らに盛大な拍手を!!!』

 

観客の拍手に見送られながら、クオンとリランは退場していった。

 

「......それではこの興奮を維持したままさっそく第3試合へと行こう!!...最終ブロック第3試合!両選手入場!!!!」

 

 




【桜剣プルクラケウス】
クオンの持つオリジナルのウォンド。
桜色の剣の形をしたもので、ウォンドとしての機能も有する。
刀でいう鍔の部分にリボンの装飾が施されているが...

【グランスティル】
リランの持つオリジナルのダブルセイバー。
スティルシリーズをモチーフとしており、普段はジェンスティルのような形状をしている。
本来の力を解放することでプレザスティルと似た形になるが、武器そのもののフォトン出力はそれらを圧倒的に凌駕している。
だが、出力が激しいため、長期の解放を行うと武器が破損する恐れがある。

【真櫻剣アルトリウス】
クオンの持つ"桜剣プルクラケウス"の真の姿。
クオンがその名を呼ぶことでリボンの装飾が解け、刀身が白く輝く。
この状態では一般のエトワールを越える殲滅力と範囲を持ったフォトンアーツを放つことでき、クオンはそれらを放つ際、「イクシード」と付け加えて呼んでいる。


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第6話「英雄2人」

"ナウシズの双星"クオンとリランによる対決は、激闘の末、クオンの勝利に終わった。
続く第3試合。
かつての守護輝士と、守護輝士を育てた者の対決が始まる。


『第3試合はこの2人!!ウルの元守護輝士、ユウ!そして対するは守護輝士に並ぶ実力者、蝉時雨!!』

 

歓声がフィールドに現れた2人を迎える。

 

「よろしくお願いしますね、蝉さん。」

 

「えぇ、お互いに全力を尽くしましょう。」

 

(予選の試合を度々見てはいましたが、ユウの実力はあまり測れなかった...まずはどれほどのものか、試してみる必要がありそうですね。)

 

『直前の第2試合はエトワールクラス同士の対決だったが、今回はヒーロークラス同士の対決だぁ!!さてさて、両者とも準備はいいかぁ!?それではさっそく始めよう!最終ブロック第3試合!!ユウ対蝉時雨!!......バトルスタァァトォォォ!!!』

 

まず先に仕掛けたのは蝉時雨だった。

手始めに、ツインマシンガンをユウに向かって放つ。

ユウはそれを素早く避けつつ、同じように蝉時雨に向けてツインマシンガンを放つ。

両者の撃ち合いがしばらく続く中、突如ユウがタリスによるワープで蝉時雨の背後へと回り、ソードを横薙ぎに払う。

蝉時雨はそれをジャンプしながら避け、持っていたツインマシンガンをソードへと切り替え、着地と同時に振り上げる。

一方ユウは、振り払ったソードを既に構え直し、それを力強く振り下ろす。

互いのソードが激しくぶつかり合い、大きな音を立てる。

僅かな鍔迫り合いの後、更にソード同士による打ち合いが続く。

ユウはタリスを巧みに使いこなし、蝉時雨の背後や頭上を取りながらソードを振るっていく。

蝉時雨も負けじと、しっかりとユウの動きに対応する。

 

「すごい...これがハイレベルなヒーロークラス同士の戦い...」

 

セラフィムは驚嘆する。

ヒーロークラスは後継クラスの中でも特に打撃、射撃、法撃をバランス良く使い分ける事が大事なクラスだ。

だがそれらを使い回そうとした時、どうしても武器を切り替える際のタイムラグなどによって隙が生じてしまう。

しかしユウと蝉時雨にはそのような隙が一切存在しなかった。

 

各種武器を巧みに使い回しながらの激しい攻防がしばらく続き、その後お互いに1度距離をとる。

 

「...いい動きですユウ。さすがはウルの守護輝士をやっていただけのことはありますね。」

 

「蝉さんこそ、なぜ守護輝士ではないのか不思議に思う程の強さですよ。」

 

「私はあの2人ほど、実績も基礎的な能力も高くありませんから。それに、戦場に出て戦うのはあまり好きではないんですよ。」

 

「...にしては楽しそうに戦うじゃないですか。」

 

「あなたが相手だからですよユウ。友人との試合は今後の連携にも役立ちますし、同じヒーロークラスである以上、戦い方に関して参考にできる部分が見つかるでしょうから。」

 

蝉時雨はフッと軽い笑いをしながら、頭の中で今後の作戦を練る。

 

(......ここまでは善戦出来ていますが、やはり純粋な戦闘力ではユウの方が上ですか......多少の消耗は覚悟で、いくつか()()必要がありそうですね。)

 

「さて、もう少しあなたの動きを見てみたいところですが、試合の制限時間があまりありません。少し、本気を出させてもらいます。」

 

蝉時雨は1度深呼吸をし、その後再び口を開く。

 

「...拘束制御術式3号(プロテクション・ドライ)解除(リベレイト)!!」

 

蝉時雨の纏うフォトン量が一気に跳ね上がる。

見た目に変化はないが、対立するユウからして見れば、明らかに雰囲気が変わったのを感じ取れた。

 

「蝉さんの拘束制御術式...話には聞いていましたが、実際に目の当たりにするのは初めてですね。」

 

「1段階解除するだけでも身体に多少の負担がかかりますからね。戦闘に滅多に出ないうえに、極力使わないようにしているので、実際に見たことがないのも無理ありません。」

 

蝉時雨はソードを構え直す。

 

「さて、第2ラウンドといきますよ...!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いのソードが何度も激しく交わる。

ツインマシンガンによる撃ち合いやタリスによる裏の取り合い。

お互いにヒーロークラスとしての戦い方をフルに活用し、一進一退の攻防を繰り広げる。

 

『両者共に一切引けを取らないぶつかり合い!!どちらが先に崩れるかぁ!?』

 

(くっ...これでも決定打にはなりませんか...!!)

 

潜在能力の一部を解放した蝉時雨だが、ユウを押し切るには未だ十分とはいえないものだった。

蝉時雨に僅かに焦りの表情が現れる。

 

(このままでは埒が明きませんね...長引けが長引くほどこちらの消耗が激しくなる一方......なら!!)

 

「...拘束制御術式2号(プロテクション・ツヴァイ)解除(リベレイト)!!」

 

一瞬距離をとり、蝉時雨は更に自身の力を解放する。

 

「っ!!」

 

今度は観客からも見てわかるぐらいに、蝉時雨の身の回りをフォトンが激しく巻き上がる。

 

「すごいフォトン量...あれが蝉さんの本来の力...!!」

 

「あれ程のフォトン量でまだ全力じゃないなんて...さすがスリス姉さん...!!」

 

蝉時雨の秘める力に感心するセラフィムといリス。

相対するユウは覚悟を決め、武器を強く握りしめる。

 

「さすがにこれは...僕も本気を出した方が良さそうですね!!!」

 

張り上げた声とともに、ユウの髪が逆立ち、瞳の色が青からオレンジへと変わる。

 

「なるほど、それがあなた特有の...ヒーロータイムですか...!!」

 

(あるふぃから話は聞いていましたが、実物を前にするとよく分かる...なんていう凄まじい覇気!!)

 

蝉時雨はユウから放たれる覇気を浴び、気持ちが押し潰されるような感覚に陥る。

だが負けじと武器を強く握りしめ、自分に喝を入れるように大きく声を発する。

 

「はっ!!」

 

蝉時雨は勢いよく、ユウに向かって飛び込む。

ユウも迎え撃つように前へと飛び込む。

互いに間合いに入ると、両者同時にソードを振り下ろす。

ソード同士が激しく衝突する。

2人の剣速は先程よりも遥かに増し、およそ大剣とは思えない速度で打ち合い始めた。

 

『これは目で追えなくなるほどの剣速同士のぶつかり合い!!!速い!!速すぎるぅぅ!!!』

 

何十合と打ち合う2人だったが、蝉時雨の剣速がわずかに鈍る。

 

「くっ...!!」

 

(やはりこの程度ではユウのヒーロータイム相手に有利は取れない...なら一か八か、ここで使うしかない!!)

 

蝉時雨はユウを1度引き離し、自身もさらに距離をとる。

 

「...ユウ、時間もありません。この一撃で決めましょう。これを受けてもなお、立っていられたらあなたの勝ちです。」

 

蝉時雨は大きく深呼吸をしながら、自信の持つ武器"光跡剣レリクシオン"を頭上へ掲げる。

 

拘束制御術式1号(プロテクション・アインス)...限定解除(クロノリベレイト)!!」

 

蝉時雨の纏うフォトンが爆発的に跳ね上がる。

 

―束ねるは星の息吹。輝ける命の奔流。

 

「っ!!」

 

徐々に、"レリクシオン"に光の粒子が集まるのを見て、ユウは全てを察する。

 

「...分かりました蝉さん。ならば僕は全力で、それを迎え撃ちます!!」

 

ユウはその手に持つ"コートエッジVer3"を構え、強く握りしめる。

身に纏うフォトンが更に跳ね上がりながら、"コートエッジ"の輝きが増す。

周囲を漂う煌びやかなフォトンが、装甲のように刀身を包み込む。

 

―集いし光は極光となりて、深き闇を打ち祓う。

 

光の粒子は"レリクシオン"を軸にしながら、柱のように延びる。

 

 

 

 

 

 

「...その身に受けよ!!」

「薙ぎ払え!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

揺るぎない(エクス)―」

「ヒロイック―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曙光の煌剣(カリバー)ー!!!「セイバァァーー!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

互いの全力を込めた一振が激しくぶつかる。

フィールドには、戦闘によって観客に被害が出ないよう特殊な加工を施された対フォトンバリアが張られているが、2つの凝縮されたフォトンの衝突による余波だけはどうしても防ぎきれなかった。

抑えきれなかった衝撃波によって、会場全体が少し揺れる。

どよめく観客たちの中、2人の立つフィールド内は激しい光に包まれた。

 

『これはとてつもないフォトンの衝突だぁぁぁ!!!この戦い、いったいどちらが立っているのかぁ!?』

 

激しい光が徐々に収まり、フィールド内が晴れていく。

観客全員が、2人の立つフィールドを凝視する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―そこには、どちらも倒れることなく、お互いを見据えて立っている2人の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

『おぉっとこれは見事に相殺されたか!?あの激しい衝突が起きた後も、両者共に立ったままだぁぁぁ!!!』

 

 

 

蝉時雨が呟く。

 

「......なるほど......これがウルの守護輝士......やはり...強い...ですね...」

 

その言葉を最後に、蝉時雨はその場にバタりと倒れる。

同時に、蝉時雨のHPバーが0になる。

 

『これは......き、決まったぁぁぁぁぁ!!!!蝉時雨戦闘不能につき、第3試合勝者は...ユウだぁぁぁぁ!!!!!』

 

ユウは急ぎ蝉時雨に駆け寄り、肩を貸しながら立ち上がる。

そこに、待機していたメディカルチームが集まり、蝉時雨をタンカーへと横たわらせる。

 

「はぁ...VRだから多少の無理は問題ないと思っていましたが...それでも反動は軽減されないようですね...」

 

横たわる蝉時雨は、どっと疲れた様子で小さく呟く。

 

「...蝉さん、どうして最後のあの時、本当の全力を出さなかったんですか?」

 

傍に立つユウの質問に、蝉時雨は少しの間を空けて答える。

 

「......あれから先は、ここで使っていいような代物ではないからですよ。かつての【深遠なる闇】のように、本当に強大な悪と対峙した時に、最終手段として使うものなんです。」

 

ほんの少し間を空けて、蝉時雨が続けて話す。

 

「...さぁ、あなたは次の試合に向けて少しでも長く休憩しておきなさい。次に勝ち上がる相手がどちらにしろ、今以上の消耗戦になるのは確実ですから。」

 

「分かりました。蝉さんも、ゆっくり休んでください。」

 

拘束を解除した反動によって動けない状態の蝉時雨は、メディカルセンターの係員によってタンカーで運ばれていった。

 

「蝉さん!!いくらVRでも、身体への負担は相応に掛かるんですからね!あんまり無茶しないでください!!」

 

係員の怒る声が蝉時雨の耳に響く。

 

「久しぶりに楽しかったものでつい......すみませんね、ナディア。」

 

「まったくもう...」

 

やれやれといった様子でナディアと呼ばれた係員はため息を吐く。

 

『激戦を繰り広げてくれた両者に、盛大な拍手を!!!』

 

観客の拍手と歓声が会場全体を包み込む。

蝉時雨が運ばれていくのを見届けたユウは、観客の喝采を浴びながら、静かにその場を後にした。

 

「ちょっと僕、スリス姉さんの様子見てくるね!」

 

いリスはセラフィムに断りを入れると、急ぎ席を立ち、観客席を後にした。

 

『さぁそれでは続いて第4試合!!選手...入場!!!』

 

 




【拘束制御術式(プロテクション)】
蝉時雨に施された、自身の出力するフォトン量を制御することができる術式。
普段からフォトンの出力を制限することで、解放時に圧倒的な爆発力を発揮できるようにしている。
4段階の術式が施されており、2段階解放により守護輝士並、全てを解放することで【深遠なる闇】を灰塵にさせるほどのフォトン量と身体能力を発現する。

【ヒーロータイム(Verユウ)】
ユウの使用するヒーロータイムは一般のアークスが使うようなヒーロータイムとは異なる。
まず見た目に大きな変化が起き、髪が逆立つ、瞳が橙色になるという点。
また、範囲、威力共に絶大な技"ヒロイックセイバー"はこの能力のフィニッシュ技である。

【光跡剣レリクシオン】
蝉時雨専用のソード。
所有者である蝉時雨の能力"拘束制御術式"に耐えうるだけの性能が施されている。
蝉時雨から溢れ出る膨大なフォトンを溜め込むことができ、それを一気に放出することができる。

【コートエッジVer3】
ユウ専用のソード。
アークスに広く普及されているのはコートエッジver2までだが、かつてウルの守護輝士を担っていた際に、それをユウ専用に調整し改良されたもの。
あるふぃのグリムリーパーと同じく、刃を包み込むフォトンコートは持ち主の状態によって色が変化する。


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第7話「白き戦姫vs白の巫女」

最終ブロック予選第3試合。
できる限りの拘束を解いた蝉時雨だったが、守護輝士として腕を上げていたユウには届かなかった。
ヒーロークラス同士の対決はユウの勝利に終わり、予選最後となる第4試合へと続く。



『第4試合...選手入場!!』

 

司会の声に応えるように、フィールドに新たな2人が入場する。

 

『第4試合の選手はこの2人!!あるふぃと並ぶナウシズのもう1人の守護輝士、まリス!!そして対するは...ハルコタンの白の巫女、アリシアだぁぁぁ!!!』

 

2人目の守護輝士の登場に会場は一層の盛り上がりを見せる。

そんな中、まリスは目の前に立つアリシアをまじまじと見つめる。

 

「......その雰囲気、アリシアじゃないわね?」

 

「おや、さすがは守護輝士、理解が早いようですね。」

 

「普段あたしを前にした時のアリシアとは雰囲気が全然違うもの。それ、アリスもやっていた技よね。」

 

「その通りです。私達の星(ハルコタン)ではこれを、"(つなぎ)"と呼びます。普段は巫女が私達《魔眼》の力の一部を行使するのに対し、"繋"は私達が一時的に巫女の器を借りることで、《魔眼》の力を最大限に行使するというものです。」

 

「つまり...あるふぃとシバみたいなものかしら。」

 

「そう思っていただいて構いません。当代の白の巫女は黒の巫女より"繋"の扱いに長けていたので、【薪炎の魔眼】(彼女)とは違い、こうして最初から【氷桜の魔眼】()が前に出ているのです。」

 

『それでは2人とも準備はいいかぁ!?...第4試合!!まリスvsアリシア!!バトル...スタァァトォォォ!!!』

 

まリスは試合開始の合図と同時に、"聖剣エクシオン"を構える。

 

「...武器を構えなくていいの?」

 

まリスは一向に武器を構えない【氷桜の魔眼】に疑問を投げかける。

 

「武器を出さずとも、私は戦えますから。」

 

「舐められたものね...でも武器を出さないからといって、容赦はしないわよ!!」

 

まリスは勢いよく【氷桜の魔眼】へと突撃し、横薙ぎに"エクシオン"を振る。

未だ動かぬ【氷桜の魔眼】に直撃するかと思われた刹那―

 

ガキンッ!!

 

金属同士が激しくぶつかった様な鈍い音が鳴り響く。

まリスの"エクシオン"を防いだ正体は、【氷桜の魔眼】を守るように突如現れた、氷の壁だった。

 

「っ!!」

 

まリスは何かを察し、素早く距離をとる。

 

『おっと、まリスどうした!?先手を打ったにもかかわらず素早く後退したぞ!?』

 

「へぇ...これは中々厄介ね。」

 

見ると、氷壁に触れたエクシオンの剣先がほんの少しだが凍ってしまっていた。

 

「いい判断です守護輝士。もしあのまま無理に押し通そうとしていたら、私に届くよりも先に剣が凍って砕け散っていましたからね。」

 

「なるほど...これが【氷桜の魔眼】の力ってわけね。」

 

まリスは剣先にまとわりついたままの氷を炎属性のテクニックで溶かそうとする。

 

「無駄ですよ。【氷桜の魔眼】の影響による氷は、私自身の意志か、【薪炎の魔眼】の炎でしか溶かせませんから。」

 

【氷桜の魔眼】の言う通り、炎属性のテクニックがエクシオンを包み込むが、氷は一切溶けることはなく、逆に消化されるかのように、燃え尽きてしまった。

 

「...貴方が勝利する方法はただひとつ。武器が完全に凍りつく前に、勝負を決めること。ただそれだけです。」

 

「そう、面白いじゃない。」

 

まリスはそう言うと、武器をソードからツインマシンガンへと切り替える。

 

「なら、それに触れないように戦えば問題ないってことよね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

まリスはツインマシンガンで至る所から弾丸を浴びせるが、全てが氷壁に防がれてしまっていた。

タリスのワープを巧みに使い、多方面からの同時攻撃も試すが、それすらも全て氷壁によって防がれてしまう。

 

「どれだけ攻撃をしようとも、私に届かぬと知りながら...存外、粘りますね。」

 

「この程度で諦めるほどあたしは甘くないわよ。あんたも、いつまでも守ってないで、少しは攻めてきたら?」

 

「良いでしょう......なら、こういうのはどうです!!」

 

【氷桜の魔眼】は足場をトンっと音を立てて踏み直す。

すると踏み直した足先からまリスに向かって、氷が素早く這っていく。

 

「っ!!」

 

まリスはタリスで空高く飛び、這い寄る氷を避ける。

 

「そこです。」

 

空中のまリスに対し、【氷桜の魔眼】は氷の槍を複数生成し投擲する。

 

―氷桜流「氷槍無尽」

 

「くっ!!」

 

ツインマシンガンでは撃ち落としきれないと察したまリスは、投擲された複数の氷槍を"エクシオン"の一振でまとめて砕き割る。

だが、氷槍を砕くと同時に、"エクシオン"の凍結が一気に進行する。

 

「...どうやら安全なところなんてどこにも無さそうね。」

 

「当然です。私がその気になればこのフィールド全体を氷漬けにすることも容易いですが、それではこの催しが面白くなくなってしまいます。これでも、情けをかけている方なのですよ?」

 

「......へぇ?」

 

【氷桜の魔眼】の言葉に、まリスの声色が僅かに怒りを露わにする。

 

「守護輝士に情けなんて、随分と舐めたことしてくれるじゃない。なら、まずはあんたのその余裕を無くすとこからね!!」

 

まリスは先程と同じように、タリスのワープを駆使しながら、ツインマシンガンによる多方面からの射撃を浴びせる。

 

「またですか。残念ですが、その技が通用しないことは、先程証明したはずです。」

 

「それは、あたしが踏み込まなければの話でしょう?」

 

「っ!!」

 

気が付けば、まリスが"エクシオン"を構えて飛び込んで来ていた。

 

「いつの間に...!!」

 

「これが慢心ってやつかしら。上空からの射撃に気が行って、こんな簡単な侵入すら気づかないなんて...この距離なら、壁なんて関係ない!!」

 

まリスは"エクシオン"を勢いよく振るう。

ついに【氷桜の魔眼】に一撃入るかと思われた。

だが【氷桜の魔眼】に届くよりも前に、"エクシオン"が再び何かに阻まれる。

 

「!?」

 

「...その素早い身のこなしは賞賛に値します。ですが、私の守りが氷壁だけだなんて、一体いつ言ったのでしょう?」

 

『こ...これは、まリスの渾身の一撃が入るかと思われたが、アリシアの飛翔剣がそれを防いだぁぁぁ!!!』

 

【氷桜の魔眼】の両手には、アリシアが扱う"残雪"が握られていた。

 

「それは...アリシアの...!!」

 

「えぇそうです。彼女の持つ"残雪"に、私の氷を纏わせたもの。名はそうですね..."氷華残雪"とでも呼びましょうか。そして私の氷に触れたということは...分かりますね?」

 

「っ!!」

 

気づいた時には既に、まリスの"エリクシオン"が完全に凍りついてしまった。

 

「...貴方の負けです。」

 

『まリスの持つ武器が完全に凍ってしまったぁぁぁ!!!これば続行不可能か!?』

 

「.........ふん、あんまり守護輝士を舐めない方が良いわよ......【氷桜の魔眼】!!!」

 

「っ!?」

 

まリスは無理やり、"エリクシオン"を押し込み【氷桜の魔眼】を弾き飛ばす。

 

「くっ...なぜ...なぜ砕けない!!」

 

「エクシオンにはね、相手に剣の間合いを分からせにくくするために、刀身が見えないよう透過性のある特殊なフォトンの膜を纏っているの。」

 

「そしてこの膜は刀身が見えていたとしても完全に消えたわけではないのよ。だからあんたが凍らせようとしていたのは、エクシオンを覆っているフォトンの膜だっただけ。」

 

まリスは凍った"エリクシオン"をまじまじと見つめる。

 

「それにしても、これはこれで良い見た目ね。まるでクリスタルのように輝いていて...綺麗だわ。」

 

「この...!!」

 

「さて、ネタばらしにだいぶ時間がかかってしまったわね。制限時間も残りわずかだし、この辺で決めさせてもらうわよ。」

 

まリスは片手で振り回していた"エクシオン"を両手で握り、力を込める。

 

「行くわよ..."エクシオン"!!」

 

まリスが声を上げると同時に"エクシオン"にまとわりついていた氷が弾け飛ぶ。

同時に、まリスの背にフォトンで形成された羽が生える。

 

「これほどのフォトン量...一体どこから...!!」

 

「どこも何も、あたしが元々持っているフォトンに他ならないわ。あんたは今まで、あたしの力のほんの一部にしか触れてなかっただけよ。」

 

「そんな馬鹿な...アリシアの記憶には、そんな桁外れのフォトンなんて...」

 

「そりゃあ無いでしょうね。これを今まで見たアークスは、あるふぃと蝉といリスぐらいよ。」

 

「...っ!!」

 

「あんたには()()を使うだけの相手だと認めてあげる。さぁ、自慢の氷壁であたしを止めてみなさい!!!」

 

まリスは勢いよく【氷桜の魔眼】へと突撃する。

 

「くっ...!!」

 

【氷桜の魔眼】は向かってくるまリスを止めるため、氷壁を幾重にも張る。

 

―氷桜流「多重氷壁」!!

 

だが、まリスは"エクシオン"で難なく氷壁を破壊していく。

 

「っ...まだです...!!」

 

【氷桜の魔眼】は無数の氷槍を生成し、まリスへと降り注がせる。

 

―氷桜流「氷槍無尽」!!

 

だが"エクシオン"による圧倒的な剣速によって、氷槍の全てが砕き落とされた。

 

「なるほど、これが守護輝士...どうやら、多少の無理は必要なようですね...!!」

 

―氷桜流奥義...「永久凍桜」!!

 

【氷桜の魔眼】は"氷華残雪"の片方を勢いよく地面に突き刺す。

すると、突き刺した場所から扇状に一瞬にして巨大な氷桜が出現した。

 

「っ!!」

 

「はぁ...はぁ...これでどうです...!!守護輝士!!」

 

『なんという大技!!突然現れた氷塊に、まリスが飲み込まれてしまったぁぁぁ!!!』

 

氷桜に囚われてしまい、微動だにしないまリス。

だが数秒後―

 

 

 

 

 

 

ピキッ

 

 

 

 

 

 

氷桜にヒビが入り始める。

 

「なっ...まさか...!!」

 

 

 

 

 

 

ピシピシピシピシ...!!

 

 

 

 

 

 

氷桜に更に亀裂が入る。

直後、轟音と共に氷桜は崩れ落ち、砕けた氷による白い煙の中から、まリスが飛び出てくる。

 

「...言ったはずよ!!守護輝士を舐めるなってね!!!」

 

まリスはついに【氷桜の魔眼】の目の前に辿り着く。

 

「とった!!」

 

「くっ!!」

 

まリスは"エクシオン"を素早く振り上げ、思いっきり振り下ろす。

【氷桜の魔眼】はなんとか受け止めようと、"氷華残雪"を頭上に構える。

 

(【氷桜の魔眼】...!!)

 

「っ!?待ちなさいアリシア!!今出てきてしまっては―」

 

大きな爆発音が鳴り響くと共に、フィールド全体が煙で見えなくなる。

 

『まリス、アリシアに渾身の一撃!!これは決着かぁ!?』

 

煙が徐々に消え、視界が晴れる。

 

「...っ」

 

「......急に出てきたら危ないじゃない、アリシア。」

 

『これは...まリスの攻撃はアリシアに当たっていない!!わざと外したのかぁ!?』

 

「ごめんなさい...【氷桜の魔眼】(彼女)がこれ以上無理するのを見ていられなくて...」

 

「【氷桜の魔眼】の実力ならともかく、今のはあなたがこれをまともに受けたらいくらVR空間でも無事でいられる保証はできなかったわよ?」

 

「まリスさんなら、気付いてくれると信じていたので。」

 

「......た、たまたまよ。」

 

「それでも、さすがはまリスさんでした。ありがとうございます。」

 

アリシアの感謝の言葉に、まリスは照れくさそうに顔を背ける。

 

「あっ、そうだ―」

 

アリシアは"残雪"を場外へ放り投げる。

 

「あっ...」

 

「どちらにしろ、今ので私の負けは決まっていましたから。」

 

『おぉっとアリシア、ここで自ら武器を場外へと手放した!!これはルールにより...まリスの勝利だぁぁぁ!!!!』

 

司会の決着コールに、観客席から歓声が巻き起こる。

 

「いいの?あんなことして。【氷桜の魔眼】が怒ったりしない?」

 

「元々、最後の技を突破された時点で、どうすることもできませんでした。それは、【氷桜の魔眼】(彼女)自身が1番分かっているはずです。」

 

アリシアはさらに、言葉を付け加える。

 

「本当は私が表に立って戦いたかったんですけど...今の"繋"の練度じゃまリスさんとまともに戦える気がしなくて...」

 

「じゃあ、アリシアとアリスがその"繋"ってやつを完全にマスターしたら、あるふぃも混ぜてハルコタンで2対2なんてどう?」

 

まリスの提案に対し、アリシアは驚きつつ、少し間を空けてから答える。

 

「えぇっと...【氷桜の魔眼】(彼女)はやる気満々ですね...」

 

「それは何よりだわ。でもあたしが望んでいる戦いはアリシアの器を借りた【氷桜の魔眼】ではなく、【氷桜の魔眼】の力を最大限に扱えるようになったアリシアよ?」

 

「うっ...それはだいぶ先になりそうですね...」

 

「ゆっくり慣れていったらいいわ。脅威が去った今、特訓するだけの時間はたっぷりあるもの。」

 

「...まリスさんとあるちゃんとどこまで戦えるようになるか分からないけど...もっといい勝負ができるように頑張ります!」

 

『激戦を繰り広げた2人に盛大な拍手を!!!』

 

観客達の喝采を浴びながら、まリスとアリシアはフィールドを後にした。

 

『さぁ!!最終ブロックの予選はこれにて終了だ!!そして時刻はちょうどお昼!!ここでフィールドのメンテナンス等もあるので、1時間ほど各自休憩をとってくれ!!』

 




【氷桜の魔眼】
星の意志によって創造された、ハルコタンの巫女に代々引き継がれてきた氷の加護。
現白の巫女であるアリシアの内に宿り力を貸している。
炎を放出する攻めに特化した【薪炎の魔眼】と対極に位置し、氷を纏うことや氷壁を生成するなど、守りに特化している。


【聖剣エクシオン】
まリス固有のソード。
透過性のある特殊なフォトンを纏っており、刀身を視認させづらくすることも可能。
蝉時雨の持つ"光跡剣レリクシオン"と同じ特製を持っており、溜め込んだフォトンを一気に放出する技も兼ね備えている。

【氷華斬雪】
アリシアの扱う"斬雪"に、【氷桜の魔眼】の扱う氷を纏わせた状態。
触れた物は例外なく凍り付き、これによって斬られると、傷口から徐々に体が凍り付いていく。
この武器とまともに打ち合えるのは、【薪炎の魔眼】の扱う多岐にわたる炎纏の武具のみ。


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第7.5話「休憩時間」

予選を勝ち抜いた8人の激戦は一区切りつき、準決勝を迎える。
激戦による損傷や今後の試合を考慮し、フィールドのメンテナンスが行われることになったと共に、時間も良い頃合いだったため、大会から1時間のお昼休憩が設けられた。


1時間の休憩が与えられた出場選手及び観客達。

昼食を食べながら、先程までの試合を思い返して盛り上がる者たち。

試合での選手達の激戦に影響を受けてか演習クエストに向かう者たち。

各々が休憩時間を自由に過ごす中、アリス、リラン、アリシア、セラフィムは、フランカ'sカフェで昼食を摂っていた。

 

「ここに居ましたか。さながら、反省会といった雰囲気ですね。」

 

そこにもう2人、蝉時雨といリスが歩み寄る。

 

「大丈夫なの?蝉さん。そんなすぐ動いて...」

 

アリスが心配そうに蝉時雨に問いかける。

 

「VR空間だったこともあってか、使用直後の反動は想定通りでしたけど、実際にかかった負担はそこまでだったみたいです。それに、いリスがフォトンを分けてくれたおかげですぐに動けるようになりました。」

 

「それは良かったです。じゃあ、座って一緒に食べましょう?」

 

アリシアに誘われ、蝉時雨といリスは同じテーブルに着く。

席に着いたばかりの2人は端末からメニューを開いていくつか料理を注文する。

 

「皆さん、試合お疲れ様でした。想像以上の大激戦で、びっくりしました。」

 

セラフィムが、最終ブロックに出場した4人に労いの言葉をかける。

 

「...まぁ、私とアリシアに関しては、大激戦を繰り広げたのは私達じゃないんだけどね....」

 

アリスがごにょごにょと少し小さな声で言う。

 

「え、それってどういう...」

 

「えっとね―」

 

 

 

 

 

*****

 

セラフィムの疑問に対し、アリシアが"繋"について、その場にいる全員に説明した。

 

「―なるほど、そのような技がハルコタンにはあったのですね。」

 

"繋"について説明を聞いた後、まず最初に蝉時雨が口を開いた。

 

「結局私もアリシアも、あの2人には勝てなかったけどね。」

 

「でもその技を覚え始めたのは2日前でしょう?それであれだけやりあえたのですから、十分なのでは?」

 

「そうですね。本当はもう少し善戦したかったんですけど...やっぱり本気になった2人には歯が立ちませんでした。」

 

「まリスさんは謎の羽が生えるし、あるちゃんの蹴りは想像以上に強烈だし、あの2人どんだけ規格外なの...」

 

「まリスの"エクシオン"には私の"レリクシオン"と同じく、フォトンを溜め込む特性があるんですよ。まリスがその身に備えているフォトンと"エクシオン"の溜め込んだフォトンを一気に放出すると、溢れ出たフォトンがあのように羽の形となって現れるんですよ。」

 

蝉時雨はまリスの羽について説明をすると、続けて試合中に【薪炎の魔眼】を一撃で場外へと飛ばしたあるふぃの蹴りについて説明を始める。

 

「あの時見せたあるふぃの蹴りはただの蹴りじゃありません。フォトンは本来、武器を通して使うことで初めて威力を発揮するもの。ですがあるふぃの場合、武器を使わずとも、身体の一部に自身のフォトンを纏わせて打ち込むことができます。武器を通さない点から、求められる技術とフォトン量は非常に高い為、能力によってほぼ尽きることの無いフォトンを扱えるあるふぃだからこそできる芸当です。格闘技術に関しては、ファレグから教わったそうですよ。」

 

「うっそ...ファレグって、マザークラスタのあのとんでもなく強い人よね?あるちゃんやまリスさんが本気で挑んで、なんとか勝負には勝ったけど、直後にはピンピンしてたって...」

 

蝉時雨から事の次第を聞いたアリスは、最後の言葉に驚きを隠せなかった。

 

「そのファレグを師としたあるふぃの格闘術ですから、桁外れの威力も納得できるでしょう?あれでも手加減しているでしょうけど、少なくとも私はまともに受けたくないですね。」

 

「あはは...」

 

蝉時雨の言葉を聞いたアリスは、思わず苦笑いをする。

そんな様子を見ながら、蝉時雨は次にリランへ声をかける。

 

「リランは大丈夫でしたか?武器の方、かなり無理をさせてましたが。」

 

「思ったよりもダメージは少なかった。たぶんあのVR空間、実害が出ないように本来よりも早めに限界を迎えるようになっているのかもしれない。」

 

「...なるほど。私があの場を出た後、身体が少し楽になったのもそれなら納得がいきます。」

 

「でも驚きました。リランがあんなに鬼気迫る勢いで暴れてるの、初めて見ましたよ。」

 

セラフィムが述べた感想に対し、リランは少し恥ずかしそうにしながら答える。

 

「あれはその...相手がクオンだったっていうのもあったからつい気合いが入っちゃって...」

 

「そのように全力で挑める相手がすぐ側にいるというのは良い事だと思いますよ。ただあの暴れっぷりは、普段のリランからはとても想像できない立ち回りでしたけどね。」

 

ふふっと笑う蝉時雨を見て、リランは少しむすっとした顔をしながら言葉を返す。

 

「そういう蝉さんも、ユウさん相手に結構本気だったじゃん。」

 

「ユウの実力を推し量るには、あそこまで解放しなければならないと思ったからです。今回負けはしてしまいましたが、十分な情報を得ることが出来ました。」

 

「その感じだと、次は勝てるってこと?」

 

「...それはどうでしょうね。私やあるふぃ、まリスと違い、能力にあまり頼らず、自身の持つ力のみで守護輝士にまで上り詰めた正真正銘の実力者です。きっと私が今回得た情報をもとに様々な作戦を仕掛けたとしても、機転を利かせてすぐ対策されてしまうでしょうね。」

 

「それは次また負けた時用の保険?」

 

「...リラン?」

 

一瞬空気がピリつく。

あるふぃやまリス程ではないにしろ、彼女も負けず嫌いであることには変わりないのだから、癇に障るのも分からなくもない。

蝉時雨以外の全員が理解した。

 

 

 

あ、これ説教タイム(怒られるやつ)だ。

 

 

 

「...ごめんなさい。なんでもないです。」

 

「よろしい。」

 

リランは事が起こる前にすぐに謝った。

その言葉を聞くと、蝉時雨からは先程までの周りが凍りつくような雰囲気は消え、いつもの優しい蝉時雨に戻っていた。

 

「アリシアもまリス相手に中々奮闘していましたね。《魔眼》の力は、それほどまでに強力ということですか。」

 

「...私たちが今まで《魔眼》の力を行使していた時は本来の3割程度、さっきの試合で引き出せたのは6割程と、【氷桜の魔眼】は言っていました。」

 

「6割の時点でまリスに本気を出させるとは...その"繋"を完全に扱えるようになった時、勝つのはまリスではなくアリシアかもしれませんね。」

 

「一体いつになるのやら...ヒメ様が言うには、母様達も"繋"の修練に励んだそうですけど、完全習得に数年かかったそうです。」

 

「でもコトシロが言ってたでしょう?『お前たちには先代の2人よりも秘めたる才能がある。"繋"の完全習得にはそう時間もかからないだろう』って。」

 

アリスのコトシロの声真似を聞いてか、アリシアが思わず吹き出し笑い出す。

 

「え、そこそんな笑うとこ?」

 

「ふふ...ごめんごめん。思った以上に似てたものだからつい...」

 

「あっ、皆さん、もうそろそろ時間になりますよ。」

 

注文した品を黙々と食べていたいリスは満足気に完食すると、ちらりと時間を確認して皆に伝える。

 

「うっそ...私まだ食べ終わってない...」

 

「まったくダメだなぁアリシア。お喋りに夢中になるからそうやって時間ギリギリになって―」

 

「お待たせしましたー!追加でご注文のあったデザートです!」

 

誰が頼んだのか、皆それぞれが顔を見合わせる。

 

「あ...追加で頼んだの忘れてた...」

 

アリスが小さく声を漏らす。

 

「では、お転婆な巫女2人は置いて、私たちは先に席を取っておきますか。」

 

蝉時雨はいじわるな顔をしながら他の3人に声をかける。

 

「ちょっと待って!!すぐ食べ終わるから...んぐっ!!」

 

「もー...急いで食べると危ないでしょアリス...ほら、始まるまでまだ少し余裕はあるんだから、無理しないの。」

 

忙しなく食べて喉を詰まらせるアリスに対し、姉のようにアリシアは語りかける。

アリシアは蝉時雨にアイコンタクトすると、蝉時雨も理解したようで軽く頷き、他の3人を連れて一足先に会場へ向かっていった。



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第8話「黒き死神vs双星の一」

休憩時間が終わり、ついに準決勝が始まる。
ナウシズの代表となるアークスは誰になるのか。
それが決まるのも目前となっていく。


『―さて!!続々と会場に戻って来ているようで何よりだ!!まもなく最終ブロック準決勝が始まるわけだが、予選の激戦を鑑みて、フィールドを囲む防護バリアを大幅にアップグレードしたぞ!!これにより、今後の試合も安全に観戦することができるだろう!!』

 

観客達が続々と戻り、一通り席に着いたのを確認した司会は、再び声をあげる。

 

『次の選手達の準備は既に万端!!観客達もそろそろ集まりきってきただろうか!!!』

 

観客達は、大きな歓声で司会に応える。

 

『いい返事だ!!それではさっそく再開していこう!第2回A.B.Tナウシズブロック準決勝第1試合!!選手入場ぉぉぉ!!!』

 

直後、会場が暗転すると同時に、両側の選手ゲートにスポットライトが照らされる。

 

『...第1試合ではアリスを圧倒し勝利!!この流れで、ナウシズ代表の座を再びその手に掴むのか!!ナウシズ守護輝士が1人、あるふぃ!!!そして対するは、第2試合でリランを手玉に取り快勝!!第1回A.B.Tのリベンジなるか!!双星の一、クオン!!』

 

両者がフィールドに現れ、互いを見据える。

2人とも既に武器を構え、準備を済ませていた。

 

「...最初から全力というわけか。」

 

「うん。あるちゃん相手に長期戦は分が悪いからね。」

 

普段鍔の辺りに着いているリボンは既に解かれていた。

クオンは武器を構えた時から既に、"プルクラケウス"を解放していたのだ。

 

「良い判断だ。前回の私との戦いで学んだようだな。なら、最初から私も本気でいこう。」

 

言葉を言い終えると同時に、あるふぃの瞳と"グリムリーパー"の刃が紅く染まる。

 

『両者とも開始前から本気モードだ!!それではさっそく始めよう!!ナウシズブロック準決勝第1試合!!あるふぃ対クオン!!バトル...スタァァトォォォ!!!』

 

試合開始のブザーと同時に、あるふぃはクオンの前からフッと姿を消す。

 

「っ!!」

 

背後から恐ろしい殺気を感じ、咄嗟にバリアを展開する。

だが一切攻撃は来る事がなく、あるふぃは依然、開始時と同じ位置に立っていた。

 

「...その技、相変わらず厄介だね。」

 

「それはお互い様だろう?全方位からの攻撃を全て吸収し溜め込むフォトンのバリア。硬さ、持続、吸収性、解放時の威力...どれをとっても"アルトリウス"を持ったお前に勝るエトワールなど居ないだろう。どれだけ殺気を放ったところで、全方位を守られては打つ手がない。さて、どうしたものか...」

 

あるふぃは考える素振りをする。

 

「そんな悠長に考える時間なんか与えないよ!」

 

クオンはふわっと浮き上がり、"アルトリウス"を掲げる。

 

「"グリッターストライプ・イクシード"...フォイア!!」

 

無数のフォトン帯が放たれ、あるふぃへと向かっていく。

素早く避けたあるふぃだったが、クオンの放ったフォトン帯は僅かに数を減らしただけで、なおもあるふぃへ向かって飛んでいく。

 

「追尾付きか...!!」

 

迫るフォトン帯を避け続けるあるふぃに対し、クオンは更に追い打ちをかける。

 

「"ブラックホールラプチャー・イクシード"...フォイア!!」

 

「っ!!」

 

あるふぃの回避先を読み、吸引性のフォトンドームを設置する。

一般的なブラックホールラプチャーよりも更に強力となった吸引性は、あるふぃの動きを止めるには十分なものだった。

 

「"ルミナスフレア・アドバンスドフォーカス"...フォイア!!」

 

無数に展開された方陣から放たれたフォトンのビームは、一際大きな方陣に集中し、その方陣を介することで、より強力なビームとなってあるふぃへと放たれるかと思われたその時―

 

パチンッと指を鳴らす音と同時に、クオンが生成した全ての方陣が、どこからともなく現れたレーザーで撃ち抜かれ形を失う。

 

「っ!?いったいどこから...」

 

「私を追い込むのに頭を回しすぎたか?私がただお前の攻撃を避けてるだけだと思わないことだ。」

 

クオンはハッとして上を見る。

上空には無数のビットが浮いていた。

 

「しかし..."アルトリウス"があってこそか、バリアを張りながら攻撃も行えるとは、中々に厄介なものだな。隙があればいつでもビットを使ったのだが...」

 

『クオンの猛攻を避けながらもしっかりと反撃の態勢を整えていたあるふぃ!!さすがは守護輝士!これは一筋縄では行かないぞぉ!!』

 

「でもあるふぃさん、試合が始まってからまだ1度もクオンさんに直接攻撃を仕掛けていませんね。」

 

観客席から観ていたセラフィムは疑問に感じた。

それに対し蝉時雨が答える。

 

「エトワールのバリアは一定量の攻撃を吸収、蓄積し放つ強力なもの。そして"アルトリウス"の許容量は一般的なエトワールのそれとは比べ物にならないほどです。いくらあるふぃといえど、下手に攻撃をすれば吸収されてクオンの攻撃手段を増やすだけでしょうね。」

 

「でも、それだとあるちゃん一生攻撃できなくない?」

 

アリスが更に疑問をぶつける。

 

「クオンのバリアも無尽蔵という訳ではありません。なんなら、どの技を放つよりも、バリアを維持し続ける方がしんどいでしょうね。一瞬でもバリアを解けば、周囲に散りばめられたビットとあるふぃの殺気による騙し討ちが待っている。消耗戦を仕掛けられているのは、あるふぃではなくクオンの方なのですよ。」

 

「でも問題なのは時間...ですよね?」

 

アリシアの問いかけに蝉時雨はこくりと頷く。

 

「その通りです。この状態が続くのであれば、制限時間内にクオンのバリアが解かれることは無いでしょう。時間切れとなれば、常に攻めに回っていたクオンの判定勝ちとなります。あるふぃはあるふぃで、どこかのタイミングで必ず仕掛ける必要があります。」

 

 

 

「―って感じでお互い考えてるんじゃないかな?」

 

「さすがだなクオン。戦闘における読みの鋭さは素晴らしいものだ。...普段のお前もそのぐらいしっかりしていると助かるんだがな...」

 

あるふぃは小声で、不満の声を漏らす。

 

「...最後よく聞こえなかったけど...なんか言った?」

 

「いいや何も?幻聴か何かだろう。」

 

試合中のクオンは普段とは比べ物にならないほど集中力が高い。

おそらく聞き直さずとも、あるふぃの小言も聞こえていたのだろう。

クオンは少しむすっとした顔をする。

そんなことも気にせず、あるふぃは話を戻す。

 

「さて、お前の言う通りこの試合、私がいつ仕掛け、クオンがどれだけ耐えられるかが勝負の分かれ目だ。すぐ根を上げてくれるなよ?」

 

「...根性対決なら負ける気はしないよ。あるちゃんなら、理由は言わなくても分かるでしょ?」

 

「ふん、ただの強がりにならないといいな。」

 

「その言葉、そっくりそのまま返すよっ!!」

 

再び、クオンが攻撃を仕掛け、あるふぃがそれを避け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*********

 

―試合開始から十数分。

1試合の制限時間は原則として20分、その時点でお互いの有利不利に明らかな差が無ければ、さらに時間が10分追加され、1試合の最大時間は計30分となる。

 

『さぁ試合時間はまもなく残り僅か!!この流れは...延長戦に突入かぁ!?』

 

「ちょこまかと逃げ回ってばかり...あるちゃんらしくないね!!」

 

「まぁそう言ってくれるな。それなりに反撃はしているんだから。」

 

あるふぃの言う通り、序盤は回避の一手だったが、中盤からは徐々に反撃を仕掛け、今となっては攻防の差などほぼないようなものだった。

 

試合時間残り5分。

この会場にいる誰もがこの試合は延長戦にもつれ込むと確信していた。

―ただ1人を除いて。

 

「...さて、そろそろ時間だな。」

 

「...時間?どういう意味?」

 

「そのままの意味だよ。」

 

「...通常の試合時間は20分。そして残りは5分。でもこの状況が続けば間違いなく延長戦に入るね。それを含めると残り15分。まだまだ時間はあるように思えるけど?」

 

疑問を感じるクオンに対し、あるふぃは含み笑いをしながら答える。

 

「"この状況が続けば"な。」

 

あるふぃはロッドからライフルへと切り替える。

 

「さてと、準備は整った。まずはこれでいこう。」

 

パチンッと指を鳴らすと、空中には序盤に見せた時と比べ、数え切れないほどのビットが出現していた。

 

「何この量...!!」

 

『これは...空を覆うほどの大量のファントムビットだ!!!一体いつから準備していたのかぁぁぁ!!!』

 

「気づかれないようだいぶ神経を使ったよ。その分、お前へと向けた攻撃のほとんどが命中することは無かったが...まぁそれも結果的には正解だっただろう。」

 

あるふぃは腕を振り上げる。

 

「時間にしておよそ2分。さぁ、自慢の根性で耐えてみろ!」

 

あるふぃが腕を振り下ろすと同時に、無数のビットがクオンに向けて一斉に射撃を始める。

 

「くっ!!」

 

クオンはバリアの強度を上げ、維持に集中する。

まるでゲリラ豪雨のように勢いよく降り注ぐフォトンの弾丸に身動きが取れず、ただバリアで凌ぐことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―クオンにとって、2分がこんなにも長く感じたことなど無かっただろう。

なんとかビットの一斉掃射を耐え忍んだクオンは、軽く息を荒らげながらも、顔を上げあるふぃを見据える。

 

「...はぁ...はぁ......」

 

「あれを耐えるとは、さすがの根性だな。」

 

「...言ったでしょ......根性なら....負けないって....」

 

「そうか。なら、次はどうだ?」

 

あるふぃはロッドへ切り替え軽く一振する。

 

「っ!?」

 

クオンの目に映ったもの、それは突如としてあるふぃの頭上に現れた、無数の氷槍だった。

だがそれはただの氷槍ではなく、光属性のテクニックでコーティングしたものに、炎を纏わせたものだった。

 

「私の友人の技を参考にしたものだ。炎を纏わせる点はアリスとの戦いでおおよそ理解した。フォトンの消費はかなり激しいが、これだけあれば数も威力も申し分ないだろう。」

 

あるふぃはロッドを振り上げ、にやりと笑う。

 

「そら...いくぞ!!」

 

あるふぃがロッドを振り下ろすと同時に、3属性を使った無数の槍がクオンへと放たれる。

 

「くっ...!!お願いアルトリウス...もう少しだけ頑張って!!」

 

クオンは息を上げながらも、なんとか力を込め、再びバリアの強度を上げる。

 

「っ!?」

 

一発目の槍を受けたクオンがわずかに後ろへと押し出される。

 

(なにこの威力...!!このまま受け続けたら...確実に場外に...!!)

 

槍をバリアで受けるごとに、クオンが徐々にフィールドの端へと押し込まれていく。

 

「.......!!」

 

『残り時間わずかのタイミングであるふぃの壮絶な反撃!!!そして少しづつフィールド端へと追い込まれていくクオンはこれを耐えきり延長戦に持ち込めるのかぁ!?』

 

(...延長戦までとっておきたかったけど...もう使うしかない!!)

 

クオンは攻撃を耐えながらバリアの内側にフォトンを溜めていく。

 

「"ブーステッド・オーバードライブ"..."プロテクトリリース・アドバンス"!!」

 

エトワールのスキルである"オーバードライブ"のエネルギーを、"アルトリウス"によって強化された"プロテクトリリース"に乗せることによって、自身を中心にとてつもない威力の大爆発を起こす。

それはあるふぃの放った3属性の槍を全て消し飛ばした。

なんとか、場外へと押し出される危機を脱したクオン。

だがあるふぃは、この瞬間を待っていた。

 

「やっと殻を外したな。」

 

「っ!!」

 

フィールドのほぼ中心にいたあるふぃは、一瞬でクオンの懐へと潜り込んだ。

クオンがバリアを再展開するまでの時間は僅か1秒。

そのたった1秒に、あるふぃは勝負を仕掛けた。

 

あるふぃがクオンの目の前から姿を消し、背後に現れる。

 

(これは幻...本物はきっとまだ目の前に―)

 

身構えるクオンに対し、あるふぃが更に仕掛けた。

 

「っ!!」

 

(何これ...幻が...複数...!?)

 

クオンが視たものは、背後のみならず、左右、更には上からも迫ってくるあるふぃの姿だった。

 

「っ...!!」

 

予想外の出来事にクオンの思考と身体が僅かに固まる。

既に1秒は経過していたが、思考が硬直したことによって延ばされたこの一瞬の隙が、勝敗を決した。

 

武器と武器が交わる。

静寂が訪れた会場に、場外へとカランと音を立てながら落ちる"アルトリウス"の音が鳴り響く。

 

『...しょ...勝負ありぃぃぃぃ!!!!クオンがバリアを解いた一瞬の僅かな隙を突いたあるふぃ、クオンの武器を場外へと弾き飛ばし、見事勝利だぁぁぁぁ!!!』

 

盛大な歓声が巻き起こる。

力無く座り込んだクオンに対し、あるふぃは静かにしゃがみ、声をかける。

 

「大丈夫か?クオン。フォトンの使いすぎで疲れたか?」

 

「...いよ...」

 

「ん?」

 

かすかに聞こえた小さな声に、あるふぃは聞き直そうとする。

 

「ずるいよあるちゃん!!あんなに何度も殺気ぶつけなくてもいいじゃん!!ほんっっっとうに怖かったんだけど!!!」

 

クオンは俯いていた顔を上げ、あるふぃへと訴える。

顔を上げたその目には、僅かながらに涙が浮かび上がってきていた。

 

「なっ...」

 

あるふぃは慌てて、クオンの頭に優しく手を乗せる。

 

「す、すまなかった。お前が相手だから、どうしても加減が難しくてな...」

 

いつ涙が零れてもおかしくないような状態のクオンを、あるふぃは必死になだめる。

 

「そ、そうだ、今度、カフェで新メニューが追加されるんだが、なんでも地球の料理をモチーフにしたみたいで、エビが多く使われたものらしい。お詫びとして、今度それを奢ってやろう。」

 

「......ほんと?」

 

「あ、あぁ......だからその...泣くのは勘弁してくれ...な?」

 

「.......うん...」

 

クオンは零れそうになる涙をぐっと堪え頷く。

 

「...あんなに慌てているあるふぃさん、新鮮ですね。」

 

「...ちっちゃい子の涙に弱いのかな...」

 

セラフィムとアリスは、そんな事を呟きながら、驚いた顔でフィールドの様子を見ていた。

 



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第9話「ウルvsナウシズ」

あるふぃとクオンの試合はあるふぃの勝利に終わった。
次に控えるは守護輝士同士の戦い。
ウルとナウシズの主力を担った2人が、ついにぶつかる。


準決勝第1試合を終えたクオンとあるふぃはフィールドを去り、その場には既に、まリスとユウが準備を整えて立っていた。

 

「控え室のモニターで見てたわ。蝉相手に快勝なんて、以前会った時に比べてとびっきり強くなったじゃない。」

 

「あれから随分と時間が経ってますからね。」

 

「最後に会ったのは、あたしがブレイバーの頃だっけ?あの頃は蝉相手に、手も足も出ない状態だったのにね。」

 

「あの時はまだまだひよっこで、お姉ちゃんに色々と教わっている最中でしたから...」

 

「......での暮らしはどう?」

 

「楽しく過ごさせてもらっていますよ。ただここに来てだいぶ経ってきたので、そろそろウルの皆に会いに行かないといけないなって思ってます。」

 

「そう...うん、決めるのはユウだもの。あなたにとって、居心地の良い方を決めるといいわ。」

 

「...まリスさん、ここはそんなしんみりとした話をする場所じゃないですよ。」

 

「ふふっ、それもそうね。久しぶりに会えたものだから、つい色々話したくなってしまったわ。」

 

まリスは"聖剣エクシオン"を構えると、気合いを込めながら声を上げる。

 

「来なさいユウ。蝉に勝ったその実力、あたしにも見せてちょうだい!!!」

 

「はい!!行きます!!まリスさん!!」

 

『それでは始めていこう!!...準決勝第2試合!!ユウvsまリス!!バトルスタァァトォォォ!!!』

 

ユウは開始の合図と共に凄まじいスピードでまリスへ接近し、"コートエッジver3"を力強く振るう。

まリスもそれに応戦するように"エクシオン"を振り、互いの刃が激しくぶつかる。

お互いに放った渾身の一振りは大きな衝撃を発生させ、フィールドを包む保護バリアが振動を起こす。

 

「気合を込めた最初の一振とはいえあの威力...やはり守護輝士は、規格外ばかりですね。」

 

「そういう蝉さんもユウくんと激戦を繰り広げたじゃないですか。」

 

「ユウは私に合わせてくれていただけですよ。今後の展開を見ていけば、ユウの本当の実力がおのずと分かります。」

 

蝉時雨とアリシアの会話の最中、ユウとまリスは互いに刃を押し合い、鍔迫り合いの状態にあった。

 

「良い一撃じゃない...踏み込みが甘かったら打ち負けていたかもね。」

 

「そんなこと言って...速度も合わせた僕の一振をその場に立ったまま迎え撃てるなんて、さすがはまリスさんです!!」

 

ユウは鍔迫り合いから離れながら、素早くツインマシンガンに切り替え、まリスに向けて放つ。

辺りが煙に包まれる中、まリスが煙の中から飛び出しユウに接近する。

ユウらまリスの一振をタリスによるワープで上空へ避けると、身体を切り返し、まリスに向けてソードを振り抜く。

だがまリスもタリスによるワープで避けると、ユウより上を取り、再びソードを振り抜く。

さすがに空中では身動きが取りにくかったか、ユウが地面へたたき落とされる。

なんとか受け身をとったユウは、空中にいるまリスに向けてツインマシンガンを連射する。

まリスもツインマシンガンを構え、ユウの放った弾丸を相殺していく。

地面へと着地したまリスはソードへと切り替えながら、尚も撃ち続けるユウの弾丸の雨を駆け抜ける。

まリスが間合いまで迫ってくると、ユウもソードへと切り替え、互いにソードを振り合う。

激しい火花が散り、刃の交わる音が幾度となく繰り返される。

両者共に一切引くことなく、状況は均衡していた。

 

『お互い少しも押されることなく何度も刃を合わせる!!先に崩れるのはどちらだぁ!?』

 

 

 

 

観客たちが熱狂する中、蝉時雨達の元に、1人の少女が駆け寄ってくる。

 

「あっ!蝉さん!それに皆も!!」

 

「おや、ろんじゃないですか。任務は終わったようですね。」

 

「うん、大会が気になって急いで終わらせてきたよ。...ユウくんは?」

 

「今試合中ですよ。相手はまリスです。」

 

「まリスさんが相手!?ユウくん大丈夫かな...」

 

ろんは心配そうにフィールドで戦うユウを見守る。

 

「―っ!!」

 

ユウはふと、観客席にいるろんが視界に入った。

すると突然、ユウの手に力が入る。

 

「っ!?」

 

急に力を増したユウの剣圧に押され、まリスは1歩後ろに下がった。

 

『おぉっと先に崩れ始めたのはまリスの方か!?1歩後ろへと下がってしまったぁ!!!』

 

「何よ...急に力が増したじゃない。」

 

「...これ以上彼女に心配をかけたくないので。」

 

「...なるほどね?」

 

まリスはユウの発言から何かを察し、これ以上押されないよう力を入れる。

 

「男らしさが上がったわね、ユウ。」

 

一言だけ言うと、まリスは交わる剣にさらに力を入れ、ユウを後方へ弾き飛ばす。

 

「だけどあたしにはあたしで、この先で会う約束をしている人がいるの。だから勝ちたいのなら...ありったけをぶつけてきなさい!!!」

 

"聖剣エクシオン"を両手で構える。

同時に、まリスの背中からフォトンによって構成された白い翼が生える。

 

「...分かりました。まリスさんの本気と僕の本気、どちらが上か勝負です!!」

 

ユウは"コートエッジver3"を上へ掲げ、そして素早く振り下ろす。

それと同時に、髪の毛が逆立ち、瞳の色が橙色に染まる。

 

『お互いここから本気モードだ!!!勝敗の行方はいったいどうなる!?』

 

先に動いたのはまリスだった。

素早く前へ飛び込むと、一瞬にしてユウの懐へと入り、"エクシオン"を振りかざす。

ユウはそれに対し冷静に、しっかりと迎え撃つ。

両者の刃が再び交わるが、先程までよりもさらに衝撃が増し、フィールドを包む保護バリアが大きく振動する。

まリスは競り合う事無く、タリスによるワープで背後へ回り込むと、再びソードを振るう。

ユウは前方へ飛びながら身体を翻し、宙を舞いながらツインマシンガンでまリスを攻撃する。

まリスはソードを盾に弾丸から身を守る。

弾丸を撃ち続けながらも、ユウはタリスでまリスの背後へと回り込み、切り替えたソードを振るおうとする。

だがまリスはそれを見越して、上空へとワープする。

 

「っ!!」

 

自身の放ったツインマシンガンの残弾が、ユウへと向かう。

ユウは咄嗟にソードを構え直し、弾丸を防ぐ。

弾丸を防ぎ切ったユウは前を見るが、まリスは追い討ちをかけることなく、距離を置いて静かに立っていた。

 

「なかなかやるじゃない。」

 

「まリスさんに並ぶため、あの頃からだいぶ鍛えてきましたから。」

 

「なら、あたしもその努力に応えてあげないとね。」

 

まリスが再び前へ飛び出す。

対するユウは先程とは違い、まリスと同じように前へ飛び出す。

勢いに乗った2人の刃が激しく交わる。

 

「...そろそろまリスが決めにいきそうですね。」

 

蝉時雨がふと呟く。

 

「え?まリスさん既に本気で戦ってない?」

 

アリスが不思議そうな顔で蝉時雨を見る。

 

「あれはただ"エクシオン"を媒介としてフォトンの出力を上げただけ。まリスの本当の力は、それだけではありません。それについては、いリスも知っているでしょう?」

 

「...うん。」

 

いリスは小さく返事をする。

 

「まぁ、見ていれば分かりますよ。」

 

いったいなんの事やら理解できないアリス達は、蝉時雨に対し疑念を抱きつつも、フィールドのユウとまリスへと視線を移す。

 

「...もっと戦っていたい所だけど、次もあるし、ここらへんで決めさせてもらおうかしら。」

 

「おかしなことを言いますね。お互いが本気になってからそれなりに時間が経ってますが、未だに勝敗が決まるほどの決定的な差は無いように感じますよ。」

 

「そんなの簡単な話よ。あたしがまだ本気じゃなかったってこと!!」

 

不意に、ソード同士で競り合っているにも関わらず、まリスの懐からツインマシンガンが飛び出す。

 

「っ!?」

 

ユウは急ぎその場を離れる。

まリスは左手に構えたツインマシンガンの一丁をユウに向けて撃つ。

 

「くっ!!」

 

ユウは咄嗟にソードで弾丸を防ぐ。

 

「まだまだ!!」

 

ユウはまリスの声がした上空を見る。

そこには、四方八方に浮かぶ無数の弾丸が、今まさにユウに向けて放たれようとしていた。

ユウはその場を離れようとタリスでワープする。

 

「逃がさないっ!!」

 

だが、先を読まれたまリスに背後へワープされ、ソードで叩き落とされる。

 

「ぐっ....」

 

もはや避ける時間などない。

ユウはソードを構え、あらゆる角度から飛んでくる弾丸を防ぎ続ける。

それでも、全てを防ぐことはできず、何発か直撃してしまう。

 

「くぅ...っ!!」

 

ユウがついに膝をつく。

この隙を見逃さず、まリスはユウへと迫り、ソードを振るう。

 

(―ユウくん...!!)

 

「...!!」

 

「んなっ!!」

 

突如、ユウを中心に衝撃波が発生し、まリスが吹き飛ばされる。

地面へと着地したまリスは、ユウの様子を見て驚く。

 

「へぇ...ユウもまだ力を隠してたってわけね。」

 

稲妻のようなものが、ユウの周囲をバチバチと走る。

見た目の変化こそそれだけだったが、対峙しているまリスからすれば、明らかに威圧感が高まっているのを感じた。

 

「.......」

 

ユウは一切口を開かず、ただ静かに"コートエッジ"を構えると、蝉時雨との試合で見せた時と同じく、刀身が眩い光に包まれる。

 

「...まさかこの試合を通してその域に達するなんて驚いたわ。でも...勝つのはあたしよ!!」

 

まリスは"エクシオン"を振りかざす。

背中の羽が一際大きく広がり輝きが増す。

"エクシオン"に光の粒子が集まり、巨大な光の剣と化す。

 

「あれは蝉さんと同じ...」

 

セラフィムの呟きに対し蝉時雨が口を開く。

 

「確かに技の原理は私と同じですが、威力も範囲も、私とは比べ物にならないほどです。」

 

「さぁ...フォトンの力比べよ!!!ユウ!!!」

 

「.......!!」

 

ユウは渾身の力を込めて、思い切り"コートエッジ"を振り抜いた。

同時にまリスも、"エクシオン"を思い切り振り下ろす。

 

「(エクスカリバー!!!)」

 

両者の全身全霊を込めた一振が衝突する。

フィールド内は光に包まれ、衝撃が強すぎるあまり、保護バリアに亀裂が入る。

亀裂から光が漏れだし、観客のほとんどが思わず目を閉じる。

しばらくして光が収まり、その場にいた全員が目を開け、フィールドに注目する。

そこには、倒れ込むユウと、息を荒らげながらも毅然と立つまリスの姿があった。

 

『......勝負ありぃぃぃ!!!ユウの戦闘不能につき、勝者は....まリスだぁぁぁぁ!!!!』

 

歓声が響き渡る。

まリスはユウの元に近づくと、優しく声をかける。

 

「ユウ...大丈夫?」

 

声をかけられたユウはゆっくりを目を開ける。

 

「まリスさん...僕は...負けたんですか?」

 

「えぇ、フォトン切れでね。それにしてもユウ、あんた、まだまだ強くなれるわよ。」

 

「...?それってどういう...」

 

「そのうち分かるわ。でも大きな脅威が去った今、それがまた現れることになるかどうかは分からないけどね。」

 

まリスは含ませたような物言いをしながら、そっと手を差し出す。

 

「ほら、立てる?」

 

ユウはまリスの手を借りながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

『準決勝に相応しい試合を魅せてくれた彼らに盛大な拍手を!!!そして今から、フィールドのメンテナンスに伴い、30分ほど休憩となる!!メンテナンスが完了次第、ついにナウシズの代表が決まるぞぉぉぉ!!!!』



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第10話「死神vs戦姫」

ユウに覚醒の兆しを感じつつも、なんとか勝利を収めたまリス。
A.B.Tはついに決勝を迎える。
ナウシズの頂点に立つのはあるふぃか、まリスか。
2人の守護輝士の戦いがいよいよ始まる。


『...さて!!フィールドの準備も整い、観客もほぼ全員が戻ってきたな!!!それでは本日最後の試合!!ナウシズ代表の座を争う2人を紹介していこう!!』

 

会場が暗くなり、フィールド両端の選手入場口にスポットライトが照らされる。

 

『まずはこの選手!!死神と恐れられた腕は確かなもの!!これまでの相手に大きな苦戦もなく、圧倒的な先読みと技術によって順調に決勝まで勝ち上がってきた!!第1回に続き、今回もナウシズ代表の座を手に入れるのか!!!ナウシズ守護輝士が1人!!"黒き死神"...あるふぃ!!!!』

 

『対するは!!準決勝で第1回ウル代表のユウに見事勝利し、決勝へとコマを進めたナウシズのもう1人の守護輝士!!ナウシズ代表の座を手に入れ、まだ見ぬ強者達と相見えることができるのか!!"白き戦姫"まリス!!!!』

 

司会の紹介と共に、2人がフィールドへ入場し、静かに向かい合う。

 

『この場に参加した名だたるアークス達を打ち倒し、今ここに向かい合う2人の守護輝士!!ナウシズのアークスならば1度は考えたことがあるだろう!!どちらの守護輝士がより強いのか!!それが今!!この場で決まろうとしている!!!!』

 

大歓声が会場を包み込む。

決勝戦ということもあって、未だかつてない量の声援が飛び交い、場の雰囲気が盛大に盛り上がる。

 

「さて...調子はどう?」

 

「まぁ、悪くはないな。修復作業で休息の時間が増えたのが幸いだった」

 

「なら良かったわ。クオンとの試合でだいぶ無理をしているように見えたから、少し心配していたのだけれど」

 

「それを言うならお前もだぞまリス。ユウとの戦いで、相当力を出していたじゃないか」

 

「予想ではもう少し楽できると思ったのだけどね。終盤になって、ユウから今まで感じた事の無い威圧感を感じたの。あれはきっと、ユウ自身もまだ自覚してないさらに上の力だったわ」

 

「ほう、それはつまり、まだユウは強くなると...それは楽しみだ。だが今は、お互いに目の前の相手との試合に全力で挑まないとな」

 

両者とも楽しそうな笑みを見せながら、武器を構える。

あるふぃのカタナの刀身と瞳が深紅に染まり、まリスの背には、白く輝く翼が現れる。

 

『両者ともに用意はできたようだ!!!それでは本日最後の戦い...A.B.Tナウシズブロック決勝戦!!あるふぃ対まリス!!バトル......スタートォォォォ!!!!』

 

試合開始の合図とともに、大きな白い極光と一筋の紅い閃光が激しく衝突する。

互いの武器が交わり、その衝撃によってフィールドの各所に亀裂が入る。

激しい衝突の後、あるふぃは瞬間移動を繰り返し、何度もまリスの死角から武器を振るうが、まリスはそれを全て防ぎカウンターを仕掛けていく。

カウンターを仕掛けられたあるふぃは、それすらも把握済みとばかりに、何度も軽やかにそれを避けたのち、素早く距離を取る。

 

「...反応速度に疲労の色は見えないな。安心したよ」

 

「決勝を楽しみにしていたのだから当然でしょう。残念な思いはさせないわ」

 

「それは嬉しい限りだ。なら...次は少し攻め方を変えよう」

 

そう言うと、あるふぃは武器をカタナからロッドへ切り替え、まリスに向けて様々なテクニックを放つ。

 

「避けるなり相殺するなり、好きにするといい」

 

「なら...突っ込ませてもらうわ!!」

 

力強く踏み込んだまリスは、勢いよくあるふぃへと突撃していく。

炎、氷、雷、風、闇、光...様々なテクニックの降り注ぐ中、必要最低限の回避とソードでの相殺を行いながら、まリスは素早くあるふぃとの距離を詰める。

 

「そこっ!」

 

まリスは間合いに入ると、素早くソードを振るうが、あるふぃはそれをロッドの柄で受け止める。

続けてまリスは受け止められたソードに力を込めあるふぃをのけぞらせると、素早く回し蹴りを行う。

 

「っ...!!」

 

不意を突かれたあるふぃは後方へ蹴り飛ばされる。

まリスは追撃をかけようと、一直線にあるふぃの目前へと向かっていく。

少し前へ駆けだしてすぐ、何かセンサーに引っかかったようなごくわずかな小さな音をまリスは聞き取った。

 

「っ!?」

 

足元に敷かれたいくつもの地雷式ビット。

まリスがそれに気づくと同時に、すぐ近くのビットが起爆する。

周囲にあった別のビットも連鎖するように爆発し、辺り一帯が煙に包まれる。

直後、漂う煙の中から飛び出すまリスの姿が試合を見ている全員の目に映った。

刹那の差で地雷ビットの爆発から逃れ上空へと飛んだまリスの背後に、黒い影が舞う。

あるふぃはまリスに向かって、勢いよく鎌を振り下ろす。

 

「残念っ!!」

 

まリスは切り替えたソードで鎌をひっかけるとその場でくるっと回転し、その勢いであるふぃを地面へ叩き落とした。

あるふぃは寸前のところで受け身を取り、すぐに体勢を立て直す。

 

「...っつぅ...さすがに全て思惑通りとはいかないか」

 

「あれだけのビットを既に仕掛けられてるなんて思わなかったわ。仕掛け始めたのは...試合が始まってすぐからかしら。蹴られたのもわざとで、地雷原に誘い込む為でしょう?」

 

「ご明察。空中の追い打ちはただの欲張りだがな。そのせいで結局巻き返されてしまったのが勿体ない」

 

『わずかに押されていたあるふぃだったがビットの大量爆発により形勢逆転!!しかし直後の追い打ちをまリスに見切られてしまい、再び体力勝負はまリス側が有利ぁ!!』

 

「で...いつになったら本気を出してくれるの?そのままの状態で戦って勝てるほどあたしとあんたの差は開いていないっていうのは、よく分かっているでしょう?」

 

「......そうだな。もう少し渋っておきたかったが、やむをえまい」

 

あるふぃは、左目を覆う眼帯を外す。

閉じていたあるふぃの左目が開き、フォトナー特有の瞳が現れる。

その瞳は小さな稲妻を走らせながら、しっかりとまリスを見据える。

 

「さて、本番といこうか」

 

「ふふっ...この威圧感...やっぱり全力のあんたとは戦い甲斐があるわ」

 

まリスはソードを構え直すと共に、背に生えるフォトン状の翼の光を更に強く輝かせる。

周りを漂うフォトンが、それに感応するかのように眩い光の粒子となり辺りを舞う。

 

「「................っ!!」」

 

一時の間を置き、両者同時に前へ飛び出す。

互いに間合いまで近づいた瞬間、まリスがソードを素早く横に振り切るが、それはいとも容易く空を切る。

目の前から消えたあるふぃはまリスの頭上へ現れ、カタナを振り下ろす。

まリスは振り切った勢いを殺さず、そのまま回転をしながら剣先の角度を上へ変える。

互いの武器が激しくぶつかりフィールドを囲む防壁に衝撃が伝わる。

同時に上からの衝撃によって、攻撃を防いだまリスの足元を中心に、フィールドに大きな亀裂が入る。

まリスは片手にツインマシンガンの一丁を出現させるとあるふぃへ向けてすぐさま撃ち込む。

あるふぃは瞬時に姿を消し射撃を回避すると、次はまリスの懐へと現れ再びカタナを振るう。

だがまリスは既に右手に持っていたソードをタリスへと切り替え、その場から姿を消し、あるふぃのカタナが空を切る。

先ほどとは逆の立ち位置になり、あるふぃの頭上へとワープしたまリスは、再びソードへ戻し、あるふぃに向けて思いっきり振り下ろす。

あるふぃはカタナで攻撃の軌道をずらし、まリスのソードは地面に激しく打ち降ろされる。

その隙を突き、あるふぃは力強くまリスに蹴りを放つ。

 

「くっ...!!」

 

なんとか防御をしたものの、フォトンを込めたあるふぃの蹴りの威力は完全に抑えきれず、激しく遠くへ吹き飛ばされる。

一般的なアークスの純粋な体術とは違い、あるふぃは自身のフォトンをその身に纏わせて体術のダメージを底上げすることができる。

武器を介さずフォトンによる攻撃を行うことができるのは現存するアークスの中でもあるふぃただ一人。

たとえまリスだとしても、生身でまともに受ければそれで決着がついていただろう。

 

「ほう、よく守ったな。」

 

まリスはなんとか受け身を取り、急ぎ顔をあげると、既にあるふぃの頭上には複数の属性から構成されたテクニックによる無数の槍がまリスへ向けられていた。

 

(あれはクオンとの戦いの時に見せた...!!)

 

あるふぃが掲げたロッドを振り下ろすと同時に、無数の槍がまリスに向かって飛んでいく。

まリスはすぐに体勢を整え、急ぎ回避行動を起こす。

向かってくる槍を避けながら、僅かな隙を狙って、まリスはあるふぃの周囲にタリスを複数投げ飛ばす。

 

「っ!!」

 

「さっきの蹴りは効いたわ。お返しにこれでも喰らいなさい!!」

 

あるふぃを包囲するように設置されたいくつものタリスを巧みに使い、まリスは様々な角度からツインマシンガンによる射撃を行う。

 

「逃げ場はないか...いいだろう...!!」

 

あるふぃは持っていたロッドを素早くカタナへ切り替え、飛んでくる弾丸を全て弾き落とす。

 

『なんと!!まリスの放つ無数の弾丸を全て弾く!弾く!弾き落とす!!!これはまさに神業だぁぁぁ!!!』

 

しばらくまリスによる弾丸の雨が続き、それを弾くあるふぃによって、辺りには煙が立ちこみ始める。

煙によって完全にあるふぃの姿が見えなくなると、まリスは射撃を止め、ソードに持ち替えてあるふぃの反撃に備える。

 

(まだ煙の中にいるわね...動く気配が未だに無い...どういうこと?)

 

不穏に思うまリスに対し、突如煙の中から1本のカタナがまリスに向かって飛んでくる。

 

「なっ!?」

 

予想外の攻撃に手が緩み、持っていたソードが弾き飛ばされてしまう。

ソードは宙を舞いながらまリスの後方へ飛び、地面に突き刺さる。

 

「ちっ!!」

 

「この大会のルールにおいて武器を手放すことは大きなリスクを伴う。だからそれに準ずる行動をするはずがない。そう思うのも無理はないだろうな。」

 

あるふぃの声が、弾き飛ばされたソードの方面から聞こえた。

振り向いたまリスの視線の先には、地面に刺さるソードの前に立つあるふぃの姿があった。

 

「あとはこれを場外に放り投げればまぁ終わるわけだが...」

 

「くっ...」

 

悔しがるまリスに対し、あるふぃはにやりと笑いながらカタナを納める。

 

「まだ終わらせるわけないだろう?」

 

あるふぃは肉弾戦の構えをとると、まリスに対し、クイクイと手招きをして挑発する。

 

「取り戻してみなってことね...上等っ!!」

 

まリスは力強く踏み込み、あるふぃに向かって突っ込んでいく。

 

『武器を駆使した射撃やテクニックの激しい攻防の次は、徒手空拳による肉弾戦の始まりだぁ!!!!』

 



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