転生特典として世界最強の魔法を選んだけど、まさかネタ魔法扱いされてるなんて思わないよね? (苺1円)
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プロローグ

めぐみんとオリ主で爆裂魔法を同時詠唱するシーンがやりたかった(なお書くの疲れて物語の冒頭だけ短編として載せる模様)


死ぬというのは明確な終着点であり物語で言えばエピローグ、ゲームで言えばエンディングと同じ意味を持つ、そんな持論とすら表現できない程に当たり前の常識が覆されることになるとは誰が想像できるだろう?それも、異世界に転生するという形で

 

先程までの女神を名乗る存在も不可思議としか言いようのない部屋も、まだ死ぬ間際の幻想だなんだと言い張ることもできただろう、あの時点では現実味も薄くどこか感覚も曖昧だったような気がする、だが今はどうだろう?どう足掻いても否定の言葉が浮かばないほどに……肌をなでる風も、踏みしめた大地も、行き交う人々も、僕が五感で感じる全ての要素が、これは紛れもない現実だと脳に刻みつけてくる

 

「いや、今だと六感か」

 

僕が転生時の特典として選んだのは【転生先の世界で最も威力の高い魔法】その副効果だと思われるが、魔力というものを鮮明に感じ取ることができる、それこそ、鮮明すぎて……酔ってきてしまう程度には

 

「最悪の気分だ……」

 

自らの肉体を巡る膨大な魔力だけならまだ大丈夫だが、流石に周囲の生物やら自然に溢れる魔力すら情報として脳裏に叩き込まれるのは如何なものか、もはやデメリットじゃないだろうか?

慣れたらどうにかなる気もするが、いったいどれだけの時間がかかるのか、まったくおそろしいものだ

 

それはそれとして女神から魔王を倒してほしいなどとは言われているが、期待していたナビゲートも特にない現状…正直何をすればいいのか分かっていない、酔ったうえに次の目的地もわからないとは踏んだり蹴ったりだが、僕が道具も持たずに異国に迷い込んだようなものなのだから現実なんてそんなものか、世知辛い

 

「どうやらお困りのようだね?」

 

そんな折に差し伸べられた手は地獄の亡者が蜘蛛の糸に縋るような必死さで掴むべきなのかもしれないが、あいにくそんな単純な性格をしてるなら女神に対して第一声で胡散臭いなどと言っていない

 

「お礼として渡せるようなものは手持ちにないですよ」

「自分から助けようとしてお礼の品を強請るような性格はしてないつもりなんだけど!?」

 

まるでボケにツッコミをするようなテンションで目前にいる白髪の少女は叫んだ、あまり唐突に大声を出すのは相手に驚かれるからやめたほうがいいと思うが

 

「なんであたしが勝手に叫んだみたいになってるんだろう……まあそれはいいとして、あたしはクリス、冒険者ギルドへの道が分からなくて困ってるのかな?良かったら案内するよ?もちろん、無償で」

「すみません、冒険者ギルドってなんでしょう?」

「あれ?そこからなんだ……」

 

どうやらこの世界においては常識の範疇に当たるもののようで、困惑の表情を見せた白髪の少女、クリスと名乗った人物はなんとも優しいことに冒険者ギルドについて簡単な説明をしてくれるのであった

 

「……………って感じかな」

 

まとめると異世界版のハローワークである、これなら確かに常識として知っていると思われるだろう内容、そしてナチュラルに無職扱いされた僕は泣いていいだろうか?事実無職だけど

…………

そんな紆余曲折ありながらも冒険者ギルドと呼ばれる建物の内部へ足を踏み入れた僕が抱いた感想は単純明快

 

「気持ち悪い……」

 

建物内という、限定的な空間に多くの人々がいる光景、ではなくその多くの人々から発せられる魔力の奔流、この世界にきてからずっと感じていた酔いが悪化するのが手にとるように分かった

 

「大丈夫?」

 

案内は完了したはずなのに何故かまだ隣にいるクリスにも心配される始末である、僕の顔色は相当に悪いらしい

 

「大丈夫とは言えないですけど、いずれ慣れるので…」

 

というか慣れないと生活もままならないのは目に見えている

道中でクリスと会話をしていて聞いた話だが、この街は初心者の街と呼ばれており、魔王軍との戦争が激化しているという王都は、その名称に恥じることなく馬鹿みたいに人口が多いそうで、魔王を倒すという役目を背負った自分が王都に行かない選択肢を取るかと言われたら迷いなくNOを突きつける用意はできている

というわけで若干覚束ない足取りで冒険者ギルドの受付へ並ぶ僕、こういう具合の悪いときはやはり人気(にんき)がある受付嬢なんて無視して人気(ひとけ)が少ない所へ並ぶに限る

そんな選択を肯定してくれるかのようにほんの僅かに待っていたら次の方どうぞなんて声がかかった、ふと隣の列を見れば並んでいる人は減るどころか増えている現状、魔が差さなくてよかった

 

「はじめまして、冒険者の方ですか?それとも冒険者登録ですか?または依頼でしょうか?」

「登録でおねがいします」

 

ここで結構重要なことなのだが、僕はクリスに助けてもらっていなければ詰んでいた可能性がある、どうやら冒険者登録にこの国の金銭であるエリスというものが1000必要らしいのだ、この金銭を返さなくていいと言いつつ渡してきたクリスが善良過ぎて無職扱いされたことは別に気にならなくなった、まあ返さなくてもいいと言われてもあとで絶対に返すつもりだが

 

「はい、確かに1000エリスです、では職業の決定になります、この水晶に触れてください」

 

これが僕が普通のハローワークではなく異世界版のハローワークと表現した理由、職業が自身の能力値というなんとも人材管理に便利そうなシステムの結果次第で自由に選択できるらしい

さて僕はどんな能力値を有しているのか、わずかな高揚を覚えながら僕が水晶に触れた途端、職員の表情が驚愕に染まった

 

「魔力が飛び抜けて高い…これならアークウィザードにもなれますね」

「冒険者で」

「はい?」

 

これは事前にクリスから情報を教えてもらっていたので即決だった、まあ職員のひとが驚く理由もわかる、アークウィザードとは上級職と言われている名前からして特別そうな職業で、並の能力値ではなることができないもの、それに最初からつけるメリットは計り知れない、対して僕が選択した冒険者という職業、それは器用貧乏で複数の職業のスキルという特殊技能を習得できるが、その全てのスキルが専門の職業に比べて効果が低く、習得に必要なポイントとやらも多いらしい

 

だがこと僕においては事情が変わってくる、特典として世界最強の魔法を得ているために、それを最終手段として扱い、他にも取れる選択肢を増やすというのは、おそらく理に適っているだろう

 

「再三確認しますが、本当に冒険者でよろしいのですね?」

「はい」

 

そうして最終確認を終えた僕の職業が冒険者として設定され、その能力値や職業、スキルが記された前世で言うところのスマホと同じレベルの便利アイテム、冒険者カードが手渡される段階になって、再度職員の表情が変わった

 

「え?あの、え?爆裂魔法?」

 

どうやら僕が授かった最強の魔法は爆裂魔法というものらしい

さて、どんな魔法か今から非常に楽しみである

…………

とまあこのときの僕は知らなかったのだ

爆裂魔法が世間にどんな扱いをされているのか

だがそれ以上に……

無類の爆裂魔法好きに目をつけられた僕が、なんともおかしな冒険をすることになるなんて




こんな中途半端な作品ですけど、読んでくださったみなさん、ありがとうございます


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現実は無常

流石に短編のだけだと原作キャラとの絡みが少なすぎる、ということで不定期連載に変更


人間に備えられた慣れる力というのは案外馬鹿にできないものだということを強く実感する

 

平和になった日本にて生を受けた前世とは比べることすら難しいほどに文明の発達に差があるにも関わらず、こうして宿屋の硬いベッドにて安眠と呼んで差し支えない質の眠りを取ることができている、馬小屋?論外、考慮するに値しないことを冒険者登録をしたあの日に体感した、だが何よりも変わったのは剣を用いて生物を斬ることが日常の風景と化したことだろう、なんならはじめて生命活動を続ける生物を斬りつけたというのに多少の精神の乱れもなかったのだが、これ女神にこの世界に転生するときに細工されていたりしないだろうか?そう考えると全て慣れの問題ではなく女神的なパワーによる………不穏なことは忘れるが吉、僕は特に何にも気づかなかった、よし、それでいい

 

まあ実際のところは異世界に順応できているなら女神パワーでも慣れでもどちらでもいい、懸念としては魔力酔いの回数は減ったものの未だに油断すると酔うこと、第六感という、人間に翼が生えたような未知数の感覚には諸々の事情は通じないらしい、無常である

 

そんな思考を巡らせつつも毎日の日課となった【平原に捨ててきた剣が部屋にないか】の確認をする作業に移るが、わずかに目線をずらせば自らの存在を主張するようにベッドに堂々と立てかけられた実戦では使いそうにない装飾が僅かに施された剣が目に入る………冒険者登録から1週間で何故に僕は呪われているのだろう?ただ理由が明確なのは悲しい事実である

 

とある魔道具店にて店主さんも僕も、まさか勝手に所有者を定めるまで呪いが表面化しない剣だとは露知らず、どんな手法でも錆が取れない代わりに折れず曲がらず摩耗しない殴打武器という剣としての役割を完全に放棄した代物という店主さん紹介のもと出世払いで買うことにしたのだが、僕が触れた瞬間に魔力の9割ほどを吸い取って刀身が鏡として使えそうなレベルの輝きを取り戻したのだ

 

しかもその切味は神器とやらと同等レベルと店主さんが断言、ここまでなら別に呪い要素などないのだが本題はここから、この剣は定期的にある程度の魔力を強制的に僕から徴収していくのだが、定期の期間、なんとピッタリ1日、吸い取る量は初回よりは少ないとはいえ体感で全体の6割は吸われている、剣士として生きていくならなんの問題もない素敵スペックの呪い武器、そう、剣士として生きていくなら………

 

僕はこいつのせいで今日まで1度として爆裂魔法を使えていない!!そろそろ本気で対策を考えないと手札の中でも最高戦力を潰されているのは痛すぎる、まだ試し撃ちもできていないというのに………まあ出世払いを店主さんが呪いの負い目から無料にしてくれたため資金を使うことなく武器を用意できたことだけはこの剣に感謝してもいいかもしれない

 

当初の目的であった初心者用モンスターのジャイアントトードが特に力を込める必要すらなく一刀両断できていることもありがたいが、これはどちらかと言えば実は盗賊とかいう怪しさ全開の職業についていたクリスから教えてもらった潜伏スキルの影響が大きいので除外、ん?僕この世界でクリスに頼りすぎじゃないか?なんなら呪いの相談もクリスにする予定だったし……たまには自分で対策を考えてみるか、手詰まりになったら相談するということで

……………

 

「それであたしに相談にきたと」

「はい、知識不足であることは実感しているので」

 

いつものようにジャイアントトードを作業感満載の様相で狩った帰りに冒険者ギルドで発見したクリスに武器に呪われて困っているという相談をしている僕がいる、いや詰まるの早すぎるだろ情けないと思われそうなところだが慣れたとは言っても必要な知識が不足しすぎているのは自覚している

 

「ちょっと剣見せてもらってもいい?」

「これです」

 

特に躊躇なくまた捨ててきたはずなのに手元にある剣をクリスに手渡そうとしたところで異変が、クリスの顔が引き攣っており普通に渡せる状況でもなさそうである、明らかに呪われている雰囲気みたいなものはない剣なのだが、呪いを可視化でもできるのだろうか?なにその便利スキル、あとで教えてもらいたいものだ

 

「これ……高位のプリーストなら解呪もできるだろうけど……その、ね、多分翌日にはまた呪われてると思うよ」

 

………詰んだ、いやまだそうと決まったわけじゃない、最悪の場合は魔力を吸われてもなんとか補充して爆裂魔法を使えれば、なるほど、その方向で聞いてみるか

 

「まあ呪いは残念だったということで諦めますけど、吸われた魔力をなるべく早く回復する手段は存在していたりしますか?」

「それならマナタイトっていう便利アイテムがあるけど……」

 

それは僥倖、だがそれほど次の言葉を渋るのは何故だろうか

 

「モノによっては家と同じくらい高いよ?」

 

どうやら、爆裂魔法はしばらくお預けらしい、泣いていい?




なんで未だにこいつ爆裂魔法撃ってないの?なんならネームドだとクリスとしか会話してない現状、ストーリー書くのって難しい


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前途が多難

「本当に申し訳ないとは思うのですが、しばらくジャイアントトードの討伐を制限させていただいてもよろしいですか?」

 

僕の冒険者登録を担当したことから、すっかり数少ない顔馴染みの1人となった、けれど別に名前などは知らない職員から告げられた言葉を飲みこむまでの数瞬が一度時間が止まるという工程を挟んだのではないかと錯覚するほどに長く感じる

 

ただの現実逃避だとは自覚しながらも、別の解釈はできないだろうかと食材の下処理を行うような丁寧さで意味を咀嚼していき……やはりと言うべきか結論は1つしか出せないことを悟った、さようなら、安定した(と思っていた)収入

 

そこまでは理解できたが、肝心のことが何もわかっていない、僕が今まで(クリスから)聞いた話のなかには特定の依頼を制限されることがあるなんて話はなかったはずだ、何か僕に大きな過失があったのだろうか?理由を知らなければ同じことを繰り返すかもしれない、もしくは平常時では起こりえない事件でもあったのか、そんな二重の恐怖心から僅かばかりの焦りを滲ませながら理由をたずねれば、ひどく単純明快な返答があった

 

「狩りすぎです、他の初心者の皆様が困惑するレベルでジャイアントトードが近辺から消えているそうで、狩るなとは言えませんが考慮していただかないと困るのが現状になります」

 

心当たりは……当然のように存在している、潜伏スキルを使用してからゆっくりとジャイアントトードに近付いて剣を振り下ろすだけで報酬が貰えるものだから、ついつい冒険者ギルドに併設されている酒場でジャイアントトードの唐揚げが値引きされる程度に狩ってしまっていた僕、ベテラン冒険者などから酒のつまみが安くなったことに感謝をされたことすらあるために浮かれていたが、そうか、他の初心者に迷惑をかけているなら自重しないという選択肢はない

 

納得もほどほどに、途方に暮れている事実は変わらぬまま受付を離れた僕は依頼ボードの目前にて次の金策について思考を巡らせる

 

とは言ってもジャイアントトードの討伐並びに納品は常設された依頼であったため金策と呼べるレベルの安定性を叩き出していたが、普通に受注するとなるとそうはいかない

 

依頼が解決したなら当然その依頼は取り下げられるし、かといって一度に多額の金銭を獲得できるものは大半がベテラン冒険者が命をチップに討伐できるかの博打をするモンスターであったり危険地帯に赴いて数ヶ月探し続けることでようやく発見できるレアアイテムの採取であったり、僕ではどうあっても手が届かないものばかり

 

モンスターの討伐なら武器の強さでなんとかなりそうなものだが、いかんせん使い手である僕が強化されているわけではないために特定のラインを超えた強さのモンスターには太刀打ちできないだろうことは容易に察せられる

 

爆裂魔法を使える状況を整えることができたなら現状も変わるだろうか?いや、そこに多額の金銭が必要だから稼いでいるという前提があるのだから考えるだけ無駄か

 

そして次に考えるのはジャイアントトード以外の常設依頼、だがこれに関してはあまりに受けたいとは思えない、何せ先程狩りすぎを理由に注意されたばかりなのだから、明らかに初心者用依頼として張り出されている常設依頼を受け続けるとか、また何か起こりそうな予感しかしないのが実情

 

ここまで考えて明確になってきたのは、冒険者という職で安定性を求めることそのものが間違っているのではないかという疑問、だが安定だけを考えて普通の職についたりバイトをするというのは魔王討伐のために必要な経験が積めないし、何よりモンスターを倒しているだけで物理的にレベルとかいう謎システムで強くなれるのだから利用しない手はない

 

そろそろ考えるべきだろうか?パーティを組むという選択肢を、だが固定のメンバーでパーティを組む場合において優先されるのは実力の釣り合いもそうだが、依頼先において自身の命を、背中を、相手に預けられるだけの信頼があるかどうか、そんな相手は僕に存在していない、いやクリスならそれだけの信頼はあるが相手が忙しそうなのでノーカウント、となると臨時パーティを………

 

「すまない、クリスが言っていた冒険者とは君のことで間違いないだろうか?」

 

不意に、背後からかけられた声に聞き覚えなどなく、それでも当然のように振り向いたのはクリスという名前が聞こえたから

 

「クリスさんが何を言っていたのかは知りませんが、あなたが僕だという確信を持って近付いたなら僕なのでは?」

 

僕にとっては平常運転であるが人によっては邪険に扱われていると感じるような皮肉めいた言葉を伴わせながら、声の主だろう人物へと視線を投げかければ……

クリスが楽しげに話していた少し変わっているが心から信頼している友人とやらの特徴と合致する、金髪の女性がいた

 

………何故か僅かに頬を赤く染めながら




主人公の思考を垂れ流してると文章は書きやすいけどキャラとの会話激減、困ったものです


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不安な結果

まるで案山子のようだと言われてもおかしくはないほどに何か動作をするでもなくひたすらに棒立ちを続ける僕へ向けて、しばらく躊躇していた相手方は一度ゆっくりと息をはきだすと覚悟を決めたような面持ちで、ある程度の加減はあるだろうが、それでも当たればひとたまりもないことが容易に想像できる力の込めた剣を振りかぶり……僕めがけて振り下ろす、続けざまに行使される剣技にぎこちなさなどなく、幾度も振るってきた代物だろうことが伺い知れる、そして剣の重さに振り回されている様子もないことから女性だからと物理関連の能力値を甘く勘定するべきではないと考えを改め直す僕ではあるが……

 

いくらなんでも目前の光景には絶句せざるえない

 

それは相手を絶対に勝たせるという意志が透けてみえる八百長か、もしくは剣術の美しさを見せるために相手へ攻撃を当てないことを意識した演舞のように、ただひたすらに振るわれる剣は空を切る

 

当たればひとたまりもないという命中する前提の思考が当然のように否定されている現状になんとも言い難い感覚を覚えた、擬音で表現するならモヤモヤする、という具合に

 

何せ僕は相手が剣を振るう覚悟を決めていない段階からすでに動く素振りすら見せていないし実際に動いていないのだから、もはや不自然さすら感じる空振りにどんな感想を抱けばいいのか検討がつかない

 

当事者から見ても不思議な光景は傍から見れば遊んでいるようにしか思えないだろうという評価をもって相手を見やれば、自身の視線がひどく冷たいものになっていることを自覚することができる、事前に聞いていたがここまで酷いとは思わなかった、そんな意図が込められた僕のアイコンタクトを終了宣言として相手はこれまで振るっていた剣を手元に戻して………

 

「はぁはぁ、どうだろうか?」

 

疲労による息切れなどではなく先程の視線が原因だろうか?明らかな興奮による息遣いから、クリスから聞いていた少し変わっているが、という言葉を全力をもって否定したい衝動に駆られるのは別に間違っていないはずだ

 

どうしようもない変人、というか変態に投げかけられた疑問の答えなんて特に考える必要すらなく決まりきっており……

 

「壁扱いでいいなら」

「それでも問題ない、いや、ぜひやらせてくれ!」

 

そんな僕の割と尊厳を無視した発言にも鼻息を荒くして喜ぶ変態には、遠慮なんて単語を忘れて接しても問題ないような気がする今日このごろ、数時間前に臨時パーティについて悩んでいた僕の臨時メンバーがこれで大丈夫なのか、また別の不安が脳裏をよぎるのだった

 

………数時間前………

 

「私のことはダクネスと呼んでくれ」

 

呼んでくれ、という言葉選びにわずかな違和感を覚えた僕だが、特に気にすることでもないため相手の名乗りに返答するような形で自身の名前を告げる

 

依頼書が貼られたボードの前では邪魔になるだろうと食事で賑わう昼時でもなければ酒が進む夜中でもない中途半端な時間帯のおかげか空いている酒場の席へ移動して対面に座っている僕達だが、何も頼まないのに場所を借りるというのはいかがなものかという余計な日本人精神が働き、何か頼もうと思いメニューを手に取ろうとしたところで……面倒なので放置という結論を僕の脳は弾き出した、日本人精神とはなんだったのだろうか

 

「こちらから話しかけたのだから、多少なら好きなものを頼んでくれても構わないが……」

 

僕がメニューに手を伸ばした様子を見ていたダクネスの気遣いだろう言葉ではあるが、クリスに多量の恩があるのにその知り合いにも恩を増やすなんて論外である、そんな他者の厚意は素直に受け取るべきという思想に真っ向から喧嘩を売るような理由と、おまけのようなものになってしまうけれど頼みたいものが思いつかないという理由もまた事実である

 

「そうか?なら早速本題に入ろうと思うのだが……」

 

特に遮る理由もないためどうぞと続きを促しつつ手持ち無沙汰を解消するように呪いの剣へ手を伸ばせば、ジャイアントトード討伐制限が出る直前に平原に突き刺すことで捨ててきたのにすでに帰ってきていることが確認できた、やはりあとでどの程度の速度で帰ってくるのかなどの検証は必要な予感がする、ただ今はまだ思考の海に潜る時間ではないとダクネスの話へ耳を傾ける

 

「パーティを、組んでくれないだろうか?」

 

却下、反射的に僕の口から飛び出た言葉に若干驚くような表情を見せたダクネスが一応理由を聞いてもいいだろうか?とおそるおそる問いかけてくるが、別にダクネスに非があるというわけではないのだ、それこそ、先程パーティを組むのに重要なことを考えたばかりなのだから……

 

「前提として、クリスさんという共通の友人がいるというのは間違いない事実ですが、それだけです、僕は別にあなたに命を預けられるほどの信頼がない」

 

どうにも返答が冷たくなってしまうのは仕方ないことだろう、命の問題というのは、それほどに重く受け止めるべきものなのだから、ただ予想外だったのは……

 

その言葉を受けたダクネスが、悲しげな表情を浮かべるでもなく、驚愕で顔を強張らせるでもなく、背中を少し強めに震わせたあとに恍惚とした表情を見せはじめたことだ

 

この瞬間、もしかしてダクネスは……という疑問が浮かんできたが、この世界にきてから割と頻度が増えた現実逃避気味の思考で強引に注目点を逸らす

 

まあ逸らしてもなお次の言葉を告げるのに躊躇いがうまれた僕はなんら正常だと思う

 

「臨時パーティなど、いかがですか?」

 

それでも言い放ったのは、ひとえに目下の問題、つまり金策について考えていたからに他ならない

 

「いいのか?」

「いいも何も、こちらからお願いしたいくらいです」

 

そうなのだ、例え目前の変態がダクネスだったとしても、いや逆だ、ダクネスが変態だったとしてもクリスから聞いていた話ではダクネスはクルセイダーという攻守一体の上級職についており、これ以上ない優良物件なのは間違いないのだ、おそらくは

 

「その…言いにくいのだが…」

 

そして唐突にはじまったダクネスの告白こそが冒頭のそれに繋がるものであり……

 

「私は、攻撃が当たらないんだ」

「少し考え直していいですか?」

 

その考え直した結果として、僕はダクネスが実際にどれくらい攻撃が当たらないのかを試したいからある程度本気で攻撃してほしいと提案し、戦闘しても問題ないよう二人で平原に場所を移すのだった




ダクネスの変人具合を表現しつつストーリーを進めるのは難しいという答えを作者は得たのだった、この先のストーリーも不安です


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仲間の意味

はじめてついた感想が考察だった作者「こんな作品でもわりかしちゃんと読んでくれるひといるんだな〜」
読んでくれてるみなさんに感謝を!


人間が取得できる情報というのは、そのほとんどが五感のうち視覚によって確保されるものであるため、私達にとってもっとも重要性及び依存性が高いのは視覚なのだ、などという話を前世では何度も耳にしてきたのは間違いなどではなく、事実光源として利用できるものが乱立する木々の隙間から降り注ぐ陽の光だけという現状において、隣を歩くダクネスも普段より僅かに慎重な様子を見せている、ただ僕みたいな感覚を備えた存在には当てはまらないというのも異世界の常識として頭の片隅にでも置いておくべき情報だろう

 

例え視覚が使い物にならない状況が訪れたとしても、魔力の流れなどから情報を拾い集めることは容易で、もはや視認性の悪い空間においては魔力による探索のほうが簡単で確実性も高いのだ、例としてあげるなら……

 

「ダクネスさん、発見しました」

 

未だ視界に捉えていないゴブリンの発見だって行えてしまう、ただし日常生活では問題なくなったが魔力による探索に頼りすぎると相変わらず酔うので使用はほどほどに

 

「では、手筈通りに」

 

僕の言葉に頷いたダクネスは大きく息を吸いこんで声を張りあげた

 

「さあ、かかってこいゴブリンども!私が相手だ!捕らえるというならやってみるといい!そして拠点に連れ帰ってあんなことやこんなことを……」

 

デコイという対象とした存在の注目を集めるスキルを使用しつつ放たれた大声はしっかり相手方に届いたようで、まだ遠方と言える位置にいるゴブリンたちが明確にこちらに接近してきているのが感じ取れる、やはり変態性に目を瞑れば高い耐久能力を有しつつ全ての敵を引きつけるような囮役すら特に拒否することもなく実行してくれるダクネスは割と引く手数多な気がする

 

まあ普通のパーティだと制御不能という点だけはどうにもならないのが困りもの、ではあるが僕としては独壇場的に敵を集めてくれるほうが遥かにやりやすいために、互いの事情が噛み合えばダクネスとの臨時パーティはしばらく続けることだろう

 

そんな思考をゴブリンとの距離が残り僅かになったところで強制的に打ち切り、潜伏を使用してダクネスともゴブリンとも離れた木の影へ身を潜める

 

ここからは簡単な仕事だ

 

木の影を上手く利用して、ダクネスへ接近するゴブリンたちの背後へ回り込む、幸いにもゴブリンという種族のほとんどは魔力を感知する感覚を持たないものが多いことは確認済みのため、この行動の成功率は非常に高い

 

あとは群れのなかでも他の個体の視界に入っていないものだったり互いを視認する2体を同時だったりと処理していけば十数体程度なら殲滅可能となる

 

これが幾度かダクネスと協力して依頼を受けたときに何故か比率高めのゴブリン討伐を楽に達成する方法なのだ

 

やはり僕だけでは群れとなったゴブリンを気付かれないように個々で処理をしていくのは困難だ、これはダクネスのデコイというスキルあってのもの、ダクネスだけでは群れとなったゴブリンを殲滅するための火力がない、というか攻撃が当たらないのでどうしようもない、とまあダクネスとの何度かの共闘というのは僕にパーティを組むことの大事さを教えてくれたのは間違いない事実ではありつつも、どうしてもダクネスに命を預けるビジョンは浮かばないのであった

 

「寄ってたかって1人に殴りかかるとは、なんて卑劣な!はぁはぁ」

 

棍棒で殴打されながら興奮する変態を見ていて命を預けたいと思える人間がいるなら見てみたいものである

 

…………

 

「では依頼完了です、おつかれさまでした」

 

あのあとすぐに最後に残った数体のゴブリンも片付けて冒険者ギルドへ帰ってきた僕達は、馴染みだと僕が勝手に思っている職員から達成報酬を受け取り山分けとする、当初は報酬は要らないなど宣っていたダクネスも金銭トラブルで絶縁したという体験話のように見せかけた前世のネットで転がっていた話をしてやれば素直に報酬を半分で分けるようになっていた、正直うすうすダクネスの金銭感覚がおかしいことは気付いてるのだが、指摘する意味も特にないため気づかないフリを続けている、というか貴族関連の騒動に巻き込まれたくないので、そこは鋼の意思で触れない覚悟である、推定貴族の娘が冒険者をやっているなどすぐに思いつく理由としては碌なものがないために

 

だがどうしても気になることというのは人間存在するもので

 

「そういえばダクネスさん、この街に人間以外の気配が多い理由を知っていたりしますか?」

「なんだと?それは本当なのか?」

 

これはまた予想外の反応である、てっきり説明でもはじまるのか、はたまたはぐらかされるかの二択だと思っていたのだが完全に知らない様子で……

 

「それ以上言うな、戦争が起こる、わかったか?」

 

唐突に肩に手が置かれ、耳打ちしてきたのはダストとかいう冒険者、本名なのだろうか?そうだとしたら親はずいぶんと子供という存在に恨みでもあったのか、そんな想像よりもはるかに物騒な内容なだけにダクネスとこの話題を続ける気も失せたところで、気の所為だったみたいです、と言葉を残して僕は冒険者ギルドをあとにした




戦闘描写をしようと思ったら特に描写もせずフラグ建設してた、いつかしっかり書きたいな


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