バトルスピリッツ -Stardust Deal- (レイメイミナ)
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第零話 「とりあえず自己紹介でも」

〖注意〗この話は本編ではなく、本編を楽しんでいただくための世界観・キャラクターの設定解説です。
そんなもの無しにフラットに見たい方は見なくても大丈夫です。


 

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〖世界観・あらすじ〗

 

ただ星が空を埋め尽くす何も無い世界に、5つの世界がある。それ等は、『オリン』『ウル』『エジット』『インディーダ』『アマハラ』と呼ばれている。それぞれの世界にはそれぞれの文化が育っているが、5つの世界の何処にも属さない団体である、『星騎士』の登場によって事態は変わる。5つの世界に散らばる10人の星に選ばれた少女、『星巫女』は、未だ誰も触れることが無かった世界であるウルに向かい、そこの星巫女達に協力を迫ろうとする……………。

 

 

 

『オリン』

 

5つの世界の内、最も技術が進んでいる世界。「ギリシア」という大陸と、荒れ果てて人が住めるような環境ではない他の大陸が世界を構成している。

「ギリシア」には、12の大国が存在しており、それぞれが日々睨み合っている。特に冷害が続いている「アルテミス」と水的資源に乏しい「アポローン」はそれぞれがそれぞれの資源を狙って戦争を続けていた。現在は「ギリシア」で最も栄えている国である「ゼウス」の仲介もあって終戦を迎えたが、お互い欲望を抑え続ける毎日を送っている。

「バトルスピリッツ」は、代理戦争として行われる。

 

 

 

『エジット』

5つの世界の内、最も水が少ない世界。世界全体が1つの国として纏まっており、各地区にいる統治者が本部と連携して食い繋いでいる。

どの地域も年に4度しか雨が降らないので、雨乞いによって雨を降らせられる「星巫女」の存在をかなり大切にしている。飢えに苦しむ人が多すぎる為、各地で小さな争い等が度々起きるが、『オリン』ほど規模は大きくない。

「バトルスピリッツ」は、上級身分の嗜みとして行われる。

 

 

 

『ウル』

 

5つの世界の内、最も平和な世界。すべての世界の特徴が繋ぎ合わさった世界で、国の数が最も多い世界でもある。

技術の発展もそこそこで、現在は特にこれといった大きい争いも起こっていない。しかし昔は2度連続で世界全体を巻き込んだ大戦争が勃発しており、戦争から半世紀以上経った現在でも傷が癒えていない。戦争が起こらないのはその為だとも考えられるが、元々武闘派だった国が現在は大人しくなっていることが根拠として強い。

「バトルスピリッツ」は、単なるゲームとして遊ばれている。

 

 

 

『インディーダ』

 

5つの世界の内、最も文化色が強い世界。歌、絵、詩や食など、とにかく文化という文化をこよなく愛する世界。国毎に独特の文化があり、それぞれがそれぞれを敬う理想の世界である。

その反面、「自分の国が1番栄えている」というプライドが国を包み、笑顔で睨み合っているのが現状。戦争というものは起こらないがスポーツは存在するため、ラフプレイによって相手に意図的に怪我を負わせたりする嫌がらせめいたことをよくする人が多い。

「バトルスピリッツ」は、世界全体に共通する文化である。

 

 

 

『アマハラ』

 

5つの世界の内、最も信仰が強い世界。世界全体が1つの宗教で統一されており、宗教上の食い違いで争いが起きるケースがほとんど。また、宗教を最優先としているためか、世界で最も技術水準が低い。

しかし一方で、宗教間の戦争が起こらないという利点があり、世界で最も紛争が少ない。他の世界と比べても、ここまで起こらないのはかなり珍しい。

「バトルスピリッツ」は、神に送る儀式として行われる。

 

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〖設定〗

 

『バトルスピリッツ』

5つの世界に共通して存在するカードゲーム。戦争、遊び、儀式など、その用途は世界毎に違うが、ルール等は全て同じ。

 

 

 

『星巫女』

 

それぞれの世界に2人ずつ、合計で10人存在する特別な存在。決まって女性がなるため、こういう名が付けられた。

全員何らかの占いを得意としている。

 

 

 

『星騎士』

 

突如出現した、5つの世界の何処にも属さない組織。その目的は「星巫女の保護」であると主張しているが、真相は不明。

 

 

 

 

〖星巫女(主人公)陣営 キャラ紹介〗

 

 

 

地球の巫女『星野愛衣《ホシノアイ》』

 

本作品の主人公で高校1年生。スポーツも勉強もてんでダメだが、バトルスピリッツでは無類の強さを発揮する。家がかなり厳しく、店舗での大会はあまり行けることは少ないが、インターネット大会では多大な成績を残している。

キースピリットは『緋炎龍皇グロウ・カイザー』。主に赤属性を好んで使用しており、お気に入りのカードは『真・炎魔神』。話題についていけずクラスに溶け込めずにいたが、一夏との出会いにより運命が変わる。

 

 

 

月の巫女『桜月一夏《サクラヅキイチカ》』

 

愛衣の前に突如現れた。容姿端麗且つ、スポーツ万能、勉学にも冴えているなど、完璧超人の要素を全て持っている。しかし出自に謎が多く、また箱入り娘だったらしいので世間知らず。その上天然なところも持ち合わせている。

キースピリットは『黒紫騎士シュバル・バット』。主に紫属性を使うが、バトルスピリッツでは愛衣に数歩劣る。一夏との運命的な出会いにより、これまでの人生とは大きく外れた道を歩むことになる。

 

 

 

木の巫女『風花勇樹《カザバナユウキ》』

 

エジット出身のお姫様。ついに現れた地球の巫女である愛衣と接触するためにウルにやってきたが、元の世界とレベルが違いすぎて苦戦している。オリンの星巫女であるル=ヴィールとは神話故か仲が悪く、何かと目の敵にしている。

キースピリットは『雷狼牙王クローム・ランポ』。主に使うのは緑属性で、何かとコアブーストをしたがる。これからの戦いに、エジットの星巫女として身を投じていく。ちなみに、名前は本名ではなく自分の名前をウルの言語に翻訳したもの。本当の名前はウルの人間には発音不可らしい。

 

 

 

天の巫女『クー・ルーラ』

 

インディーダから個人的な趣味でやってきた。花と音楽が大好きで、バトスピでもそれらにちなんだデッキを用いる。その包容力は老若男女問わず数々の人をダメにしてしまう。

キースピリットは『フェニックスプリンセス・フェニル』。黄属性を使い、マジックで相手に何もさせなくするよりも、反撃の余地を残して相手を弄ぶようなプレイをする。愛衣曰く、「1番相手にしたくない」。旅の余暇で曲を奏でる。その場が激戦となることを知らずに。

 

 

 

火の巫女『ル=ヴィール・エレクルシア』

 

オリンに広がる12の国の1つ、「アルテミス」の第弐遊撃部隊隊長兼第肆特殊戦術部隊隊員。戦争を終え暇を持て余していたところ、地球の巫女の出現により新たな命令が下り、同じ星巫女として保護に向かう。

キースピリットは『極光機動スーパー・スターク』。白属性を使った攻防一体の隙のないバトルを得意とし、圧倒的なパワーで敵を追い詰める。軍人として、巫女として、それが正義だと思いながら、絶対なる悪と戦い続ける。

 

 

 

海の巫女『ダイ・コーカイ様』

 

勿論本名ではなく自称。「蒼波海賊団」次期船長の看板を背負い、ウルへ単独で海賊行為のために訪れた。本名はオリンの国の1つ「ポセイドン」に置いて来た船員しか知らない。

キースピリットは『神海皇子ガブル・シャック』。青属性の使い手で、とにかく派手なバトルを好み、派手であれば敵も褒める。褒めるが叩き潰す。どんな荒波にも耐え抜き、風が止む頃には仲間を連れて高笑いをする、そんな彼女に海賊達はついて行く。

 

 

 

 

 

〖星騎士(敵側)陣営〗

 

土の巫女『コード:星秤《ホシバカリ》』

 

星騎士が保有する星巫女の1人。星騎士団団長に対し完全なる忠誠を誓っており、妃となる予定も立てているらしい。

6色すべてを盛り込んだ混色デッキを扱う。キースピリットは『節制の光龍騎神サジット・アポロドラゴン・テンパランス』。自分の信じる者、愛する者の為に戦い続ける。その先に待つものを信じて。

 

 

 

金の巫女『コード:繧ュ繝ゥ《キラ》』

星騎士が所有する星巫女の1人。忠誠というよりは、単純に興味本位で協力している。意外にも義理堅い者が多いアマハラ出身である。

色を問わず、気分でデッキを入れ替える。かつての禁止カード、『大天使ミカファール』の他、数多の制限カードを以て愛衣達に立ちはだかる。

 

 

 

『コード:魔騎《マキ》』

 

星騎士団副団長。義理堅い精神を持っているようだが、その実態は誰よりも恐ろしいと言われている。

白と紫の混色を使う硬派のバトラーで、キースピリットとして『オラクル二十一柱 VII ザ・チャリオット』を持つ。その実力は、ハイランカーでさえも唸らせる。

 

 

 

『コード:妖焔《ホムラ》』

 

星騎士団副団長。のらりくらりとした性格で、任務も真面目にやることは少ない。しかしその実力は本物であり、愛衣達を追い詰める。

攻撃的な赤と緑の混色デッキを使う。キースピリットは『超神星龍ジークヴルム・ノヴァⅩ』で、本気モードになると性格が変わる。

 

 

 

『コード:繧「繝ウ繝弱え繝ウ (解析不能・発音不可)』

 

星騎士の団長。顔も声も、名前さえも誰も知らない。知っているのは星秤だけで、彼女も他言は絶対にしない。

『時空龍皇クロノバース・ドラグーン』や『オラクル二十一柱 ⅩⅩⅠ ザ・ワールド』など、色を問わず様々なカードを使う。

 

 

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はじめまして、レイメイミナです。
普段はニコニコ等で動画投稿していますが、技術的に動画が作れない完全オリジナルのものをこちらに上げたいと思っています。
それと大分ぼかすつもりですが、やっぱ百合が強くなると思います。だって百合好きだもん、しょうがないね。
苦手な方は途中退場してください。でもできるだけガールミーツガールの範疇に納めようと思いますのでよろしくお願いします。


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第一話 「そんな不思議な出来事があるんですよ」

〖注〗本作は「バトルスピリッツ」シリーズを原作とした二次小説です。

誤字・脱字等発見しましたらコメントにてお教えください。時間があったら直します。

それと本作はテンポを良くするため、コアや手札などの細かい情報は省いております。お手元にカードを持ちながらご購読するとわかりやすいです。

 

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この世界では、バトルスピリッツというカードゲームが全てを決める。

 

そんな世界があったら行ってみたい。そんな私の名前は星野愛衣(ホシノアイ)、高校生。

今絶賛ピンチ中。

 

「ゲームにばかり現を抜かしているからこんな点数になるんです」

「赤点回避したからいいでしょー」

「よくありません。せめて平均を上回らないと……」

 

平均なんてどっかの天才が全部ぶっ壊す弱い数字アテにしないで欲しい。というか高い点数取ったところで私が人生勝ち組になれるわけでもない。きっと私の身には余るような会社に就職させられて、そこでこき使われるだけなんだから、私の人生はほぼ詰んでいると言っても過言ではない。

 

「罰として今日の夜ご飯はナスをメイン食材にします」

「ちょ……!?」

 

ナスはやめて。本当にやめて。

 

「わかったよ勉強すればいいんでしょ!今日塾あるから行ってくる!」

「そう。期末はこんな点数取らないようにしなさいよね」

「はいはいわかりました!行ってきます!!」

 

 

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私が塾?勉強だと?そんなことするわけないじゃん。

 

「アーサーの『界放』発揮。破壊した異海神の『根源回帰』を発揮できないようにします。更にレベル4の効果、相手のスピリットが1体もいないので、ライフを2つリザーブに置きます」

「ライフで受けます、参りました」

「対戦ありがとうございました」

 

やっぱり私はバトスピをしているときが1番楽しい。

親の目があるからカードショップでの公認大会は偶にしか出れないけど、実力は本物。あのガーディアンの面々にも太刀打ち出来る自信はある。親の言うことなんて知るか、私は私の世界で生きさせてもらう。

 

「本日の優勝は『ラスター』選手です!」

「シーズグローリーだ!やったやった!!学生が買うには難しかったからなぁ!!」

「やっぱり強いなぁ、『赤色の姫君』は」

「ねぇ、そのダサい2つ名やめてくれない?」

「何を言いますか!今やラスターさんはバトスピ部の期待の新人!我々は家臣として、いずれ『チャンピオンシップ』にも出場させたいと考えております!」

 

おっさん達の感性はよくわからない。それは私に流れるJKの血故なのか。まぁいいや、そんなこと。

チャンピオンシップかぁ。興味はあるけど、あれ大体テスト期間と被ってるんだよね。それに会場も遠いし、行くだけでどれだけかかることやら。

 

「今日は気分がいい、よし!なんかパックでも買おうかな!」

「姫、それなら新弾をフラゲされるのは如何でしょうか」

「もう、店員さんも乗らないでよ。それにフラゲって店側としてどうなの?」

「何も問題はありませんよ」

「そっかそっか、じゃあ1BOX」

「かしこまりました」

 

たったの1BOX。総枚数162枚の束が。これから私の人生を大きく変えることになると、この時の私は思いもしなかった。

 

 

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仲間達と共にパックを開け、すっかり日が沈んだ20時半。帰路についた私は少々人に奇異な目で見られる顔をしていた。

 

「まさか契約Xレアが6種揃うなんて…………!」

 

運営から事前に初回生産分の封入率は3倍になると告知されていたけど、予想以上。しかも内1枚はシークレット。これでニヤつきを抑えられるわけが無い。

 

 

 

家の前まで来ると、隣の家の屋根に登っている、1人の女性がいた。

すっごく美人だな、と思った。でもあんな所にいるのは流石に危ない。注意しなければ。

 

「あ、あのー!」

「…………ん?そこの家の人?」

「はい。えっと、危ないから降りた方がいいと思うんですけどー!」

「…………あぁ、ごめんなさい。月が綺麗だったから、つい注意が疎かになったわ」

 

声、めっちゃ綺麗なんだけど!?

何その透き通るような声、耳聞こえない人も聴力回復するレベルなんだけど!それに顔!!美しさの中に年相応の可愛さもあって最早核爆弾!!それに多分同い年、だよね?え、こんな綺麗な人隣にいたの?嘘でしょ?というか同い年ってことはもしかしたら私と同じ学校かも…………いやいや、きっと偏差値高いお嬢様学校にでも行ってるに違いない。もし同じ学校なら人気にならない筈がない。

なんてちょっとパニクってたら件の美人が玄関から出てきてた。何しても画になるな畜生。

 

「あなた、名前は?最近ここに引っ越してきたから、知らなくて」

「あぁ、見ないと思えばそうだったんですね。私は星野愛衣です。そっちは?」

 

どうやら引っ越してきた人らしい。うん、なら噂にならなくても不思議じゃないな。

 

「私は、桜月一夏(サクラヅキイチカ)。よろしくね、星野さん」

「こ、こちらこそよろしく」

 

挨拶の意の握手を交わす。手、めっちゃ綺麗だった。

 

 

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3日後。

土日に新弾のデッキを1つ組んで、ネット大会で暴れまくっていい気分のまま登校したら、とんでもないことになった。

 

「テスト明けで突然だが転校生だ」

「桜月一夏です。よろしくお願いします」

「仲良くするように」

 

えぇぇ………………。

いや、期待してなかったわけでもない。もしかしたら、とは思っていたけど、本当になるとは思わないじゃん。そして案の定美人だどうのとザワザワしている。

 

「席は星野の横が空いてる。そこを使ってくれ」

 

え、マジで?

 

 

 

体育館裏は私にとっての聖域だ。

何せ陽キャ(というよりは基本グループで活動している連中)の比率が八割であるこの学校でこんなジメジメしたところに人気は無い。ぼっちの私には打って付けの場所というわけだ。

しかし今は、その聖域を脅かされそうになっている。

 

「………………」

「…………あの、桜月さん?」

 

こういうとき、他の女子がいれば恐らく黄色い声を上げていただろう。だが私はそんな声は上げられない。だって壁ドンだよ?あの少女漫画で1度は見ただろう壁ドン。いきなりそんなことされて頭の中がハテナマークばかりの私がそんな声上げられるわけが無いでしょ。

 

「あなた、デッキを見せて」

「で、デッキ?」

「いいから」

 

デッキって、バトスピの?いやいや、そんなわけがない。というか大体、いきなり壁ドンした挙句開口一番がそれって怪しさ満点。いくら顔が良いからって何してもいいわけじゃないんだぞ。

 

「デッキって、これで大丈夫?」

「ええ、それよ」

 

まさかのダメ元でバトスピのデッキを出したら通った。マジか。

 

「契約スピリットを使った赤のデッキ…………それにこれは、やっぱり間違いないようね」

「なにが………………?」

 

何が何だかわからない、でも馬神弾に限ってはいきなり異界グラン・ロロに飛ばされたのだから私の比ではないんだけれど。でも私だってセーラー服に身を包んだ一介の女子高生。念仏みたいに意味不明な言葉を並べられながら自分のデッキを見られると混乱もする。

 

「……これから話すことはきっとすぐに受け入れられないと思うわ。けれど、聞くだけ聞いて欲しい」

「いや、既に意味不明過ぎるんだけど…………」

「まず、あなたと私は『星巫女』という存在に値するわ。あなたはわからないけど、私は月を司ってるの」

 

聞いてないし、あと出だしから意味不明。どこぞのキャプターかって。

 

「今、この世界に危機が迫っているわ。『星騎士』達によって、星巫女の力が悪用されようとしている」

「うん、まず用語の説明から頼みたいんだけど」

「そうね、星巫女は星の洗礼を受け、神に選ばれた存在といったところね。私にも全容はわからないのだけれど」

 

新手の宗教?壺とか売りつけられたりしない?桜月さんがカルト漬けになってないことを祈る。

 

「それで、星騎士は私達を狙う存在と思ってくれたらいいわ」

「うん、まぁそれでいいけど。なんとなく実感が湧かないことだけはわかる」

「まぁ無理もないわ、見たところこの世界は平和そのもの。星騎士達の姿なんて何処にもなかったし」

「まぁでも居るにはいるっていうのがあなたの見解です、と」

「そういうこと」

 

ここまで胡散臭いという言葉が似合うこともそうそう無い。それを本当だったところで、私はその事実に対してどう対応していくべきかはわからない。

 

「それでつまり、私にどうしろって?」

「私と協力して、一緒に戦って欲しいの」

 

アニメなんかではよくある展開。となると今の私のポジションが言うべきことは。

 

「……却下。そんなこといきなり言われて、信じられるわけないでしょ」

「………………そう」

 

当然の反応、当然の態度。

隣の席とは言っても黒板の方見てればいいだけだし、これからこの人と関わることは無いだろう。家が隣だとしても、近所付き合いが皆無に等しい私には関係ない。

 

「なら」

「……なら?え、あっちょ」

 

再び壁ドンされた。胃の辺りに自分のデッキケースを押し付けられて。

 

「『その目で見てもらう』しかないわね」

「その目で…………?」

 

 

 

「ゲートオープン、界放」

 

瞬間、私達の目の前に星空が広がり、その直後、光の『ゲート』が開かれた。

 

 

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一瞬何事かと思ったら、特に身体に変化は………………あった。

 

「何、この格好…………!?」

 

私が来ていたセーラー服は一体どこへ、今の私が身に纏っているのは、黒インナーに赤いコートのようなもの。左肩、左前腕と右脚の脛は白い鎧が覆っていて、ちょっとだけ重い。

まるでソードアイズの主人公、ツルギ・タテワキのバトルフォームを中途半端に再現したみたいな姿でめっちゃくちゃ恥ずかしい。

 

「ようこそ、バトルフィールドへ」

「桜月さん…………?」

 

対面には桜月さん。あっちも黒インナーで、紫色の巫女服のようなものを纏っている。随分と毒々しいコスプレだけど、美人は何を着ても似合うのは本当らしい。ムカつく。

というか結構離れてるんだけど、なんか彼女の言っている言葉が直に脳に入ってくる感覚がして、落ち着かない。

 

「どう、この景色は」

「なんというか……こう、既視感の塊みたいだなって」

 

異界見聞録シリーズやソードアイズで見慣れた景色。違うところは星空が広がっていることぐらいか、凄い綺麗。

 

「そう。ではバトルを始めましょう」

「やっぱりするのか…………」

「こっちの契約スピリットは『相棒騎士バット』。トラッシュを貯めると同時にカウントを増やす、蝙蝠の騎士よ」

 

あぁ、そういえば契約スピリットは初期の手札に含めるとき、バトル前に提示しなきゃならないのか。

 

「…………こっちは『相棒竜グロウ』。味方に体制貫通を付与する契約スピリット……だけど」

 

説明要る?これ。

 

「上を見て。一際強く光っている星があるでしょう」

「星?」

 

確かに、上を見ると一番明るい星があるけど。

 

「あれの方向のバトラーが先攻、後攻を選べるわ。じゃあ、星野さんの先攻で」

「ジャンケンとかダイスじゃないのね。わかったわかった」

 

バトスピはまず、スタートステップから始まる。その次にコアステップ、これは先攻1ターン目にはない。そこからドロー、リフレッシュ、メインステップと続いていく。私のデッキは、少しだけ後攻の時の方が強いけど、勝つ分には支障はない。

 

「スタートステップ」

 

『ターン01』

 

「ドローステップ、メインステップ」

 

今のところ、手札は良好。確定で初手に入るグロウはともかく、『エンシェントドラゴン・フェブラーニ』があるのは嬉しい。しかしバーストで警戒させるとカウンターが効かない。ここは、スピリット一体だけ呼んでターンエンドにしよう。

 

「『相棒竜グロウ』を召喚」

 

 

目の前にある盤面にカードを軽い音を立てて置く。その後、リザーブからコアを1つ、いや2つでいいか。グロウの上に乗せる。2コスト分はどうやら勝手に払ってくれたらしい。これで召喚は完了。

すると、荒野に赤い魔法陣が展開された。意味不明な文字が刻まれた魔法陣の中心には赤いクリスタル、バトスピで言うシンボルを模した模様が。そこから這い上がるように赤い腕が生え、カードに描かれた、小さな赤い竜が顔を出す。

 

「出た…………!」

 

バトラーなら夢にまで見た存在、スピリット。それが今、目の前にいる。こんなの、胸が高鳴るしかない。

いや、落ち着け私。技術の進んでいる現代ではAR技術を使ってCGとしてスピリットが出現するじゃないか。こんなことで浮かれては、この自称星巫女とやらがなんだか厨二的な話をしてたことを忘れてしまう。私はスピリットに出会うためにここに来たのか?いや違う、私は巻き込まれただけ。なんだかんだバトスピやっちゃってるけど、状況的に言えば被害者と言えるのだ。よし正気に戻った。さっさとターンを進めよう。

 

「よしこれで、ターンエンド」

 

『ターン01 エンド』

 

 

「スピリットを出しただけ?」

「グロウは初動のカード。このデッキは基本的な動きが多いし、こんなものでしょ」

「……そう」

 

さぁ、1日で学校の話題をかっさらったこの女の実力を見ようじゃないか。

 

「スタートステップ」

 

『ターン02』

 

「コアステップ、ドローステップ」

 

 

「メインステップ。私もまずは、『相棒騎士バット』を召喚するわ」

 

 

荒野に出現した紫の魔法陣。そこから無数のコウモリが出現し、それらが形を成すように固まっていく。相棒騎士バットの姿が取られ、意思を持って盾から剣を取り出した。

契約スピリットは序盤のシンボル固めにおいて言えばこれ以上無いほどに強力だ。だからといって考え無しに出すのもアレだが、とりあえず出しておけば困ることは無い。

 

「バットの効果。デッキを上から1枚破棄」

 

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〖契約煌臨元〗/〖スピリット〗Lv1 , 2「このスピリットの召喚/アタック時」

自分のデッキを上から1枚破棄できる。その後、自分のカウント4以上のとき、相手のスピリットのコア1個をリザーブに置ける。

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破棄されたカード:『魔侯騎士ランペルード』

 

「系統:血晶を持つカードが破棄されたため、カウント+1」

 

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〖魂状態〗〖契約煌臨元〗/〖スピリット〗Lv1 , 2

〔重複不可〕自分のデッキから系統:「血晶」を持つカードが破棄されたとき、自分のカウント+1する。さらに、自分のデッキは相手の「デッキは破棄されない」効果を受けない。

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一夏:カウント0→1

 

血晶、血契約と呼ばれるデッキはバットのこの効果を中心としてカウントとトラッシュを同時に貯めていく。必要分貯められる前に決着をつけないと。

 

「続けてネクサス、『マルグゥル礼拝堂跡』を配置」

 

桜月さんの背後の星空に、朽ちた教会のような景色が写っていく。

 

「配置時効果でデッキを上から1枚破棄」

 

破棄されたカード:『ジェリーム』

 

「血晶のカードが破棄されたので、デッキから2枚ドロー。バットの効果で、カウント+1」

 

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Lv1 , 2「このネクサスの配置時」

〔ターンに1回:同名〕自分のデッキを上から1枚破棄できる。それが系統:「血晶」を持つカードのとき、自分はデッキから2枚ドローする。

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一夏:カウント1→2

 

手札とカウント、トラッシュを増やした。血契約としては理想の動きといえる。にしてもあんな緩い条件で2枚ドローって、オーバースペックすぎない?

 

「アタックステップ、バットでアタック。アタック時効果でカードをトラッシュへ。血晶なのでカウント+1」

 

一夏:カウント2→3

 

「あのBPと張り合いたくないなぁ。ライフで受ける」

 

バットが剣片手にこちらへ突っ込んでき………………ん? え、あ。そうじゃん。この手のバトルって大体スピリットが突っ込んでくるやつじゃん! てちょ、やばいやばいやば…………!

 

「いッッッッ!!」

 

愛衣:ライフ5→4

 

 

痛い、痛い、痛…………いやマジで痛い。えっこんな?こんな痛い?こんな痛みを伴う行為をかつては毎週日曜朝7時にお送りしてたの? アニメの主人公達がどれだけ辛い思いをしているのかその身になって理解した。これをスリルとして楽しんでいる馬神弾さんの思考が余計にわからなくなったけど。

 

「ターンエンド。先制点は貰ったわ」

「普っ通に痛いし、初動先手取られたし…………もう手加減無しだから!覚悟しろ!スタートステップ!」

 

『ターン03』

 

「コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ!」

 

 

「『マグマンモス』を召喚!バーストセット」

 

グロウと同様、魔法陣か展開される。今度はその魔法陣を中心に大地が割れ、その中からマグマンモスが派手に飛び出してきた。地面はいつの間にやら元通りに。

 

「契約スピリットは破壊されても、〖魂状態〗としてフィールドに残り、効果を発揮し続けるわ。破壊する為に2枚もカードを使っても意味は無いと思うのだけれど」

「私がコウモリ風情に気を取られるとでも?バカ言わないでよ」

 

ダウト。割と気を取られてる。まぁいいか、どの道あいつは潰した方がいいし。私が狙ってるのはバットじゃなくてシンボル。シンボルがある限り、高コストのスピリットを早期に召喚、または小型スピリットを大量に展開されるリスクがある。何しろドローが得意な紫は、キーカードを抱え込みやすい。大事になる前に潰せるものは、潰す。

 

「アタックステップ、マグマンモスの効果発揮。コア2個ずつを自身とグロウの上に置く」

 

愛衣:『マグマンモス』Lv1→Lv2

『相棒竜グロウ』Lv1→Lv2

 

 

「マグマンモス以外にコアを置いたため、カウント+2」

 

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Lv1 , 2「自分のアタックステップ開始時」

自分のトラッシュのコア5個までを系統「緋炎」を持つ自分のスピリットに置ける。この効果でこのスピリット以外にコアを置いたとき、自分のカウント+2する。

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愛衣:カウント0→2

 

「更にマグマンモスLv2の効果。このスピリットの効果で自分のカウントが増えたとき、BP12000以下の相手スピリットを破壊する。対象は相棒騎士バット!」

 

一夏:『相棒騎士バット』Lv2 破壊→魂状態へ

 

「無駄よ、契約スピリットの相棒騎士バットは、相手によってフィールドを離れるとき、〖魂状態〗としてフィールドに残るわ!」

「そんなの百も承知!本命はここから!自分のカウントが増えたとき、カウント2以上ならこのバーストが開く!バースト発動!『エンシェントドラゴン・フェブラーニ』!!」

「なっ!?」

「効果で2枚ドローし、バースト召喚!維持コストはマグマンモスから確保!」

 

愛衣:『マグマンモス』Lv2→Lv1

 

今度は空に魔法陣が展開された。そこから翼が生え、エンシェントドラゴン・フェブラーニがゆっくりと顔を出す。その巨大な翼を羽ばたかせ、その巨体をこのフィールドに運んできた。コスト8の大型ともなれば、やはりその迫力は段違い。

 

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セットしてあるこのカードは、自分のカウントが増えたとき2以上なら、バースト条件を無視して発動できる。

[バースト:〖相手のスピリット/ブレイヴの召喚時〗発揮後]

自分の赤シンボルがあるとき、自分はデッキから2枚ドローする。

この効果発揮後、このカードをコストを支払わずに召喚する。

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「バースト……!カウントを条件に発動するなんて……」

「まだ終わりじゃないよ。相棒竜グロウ、アタック!アタック時効果でカウント+2!1枚ドロー!」

 

愛衣:カウント2→4

 

「これで星野さんのカウントは4……!〖契約煌臨〗には丁度いいタイミング……!」

「よし、フラッシュは無し。そっちはどうする?」

「ッ……!? ……ライフで受けるわ!」

 

一夏:ライフ5→4

 

「くっ!!」

「ターンエンド。良かったね、まだ生きれるよ」

 

『ターン03 エンド』

 

なんだろう、目に見えて『格』がついているから、気分が高まっている。まるで自分が王にでもなったかのような、自分が誰よりも強いと錯覚しているような、そんな高揚感。このバトル、クセになるかも。

 

「ここからよ……スタートステップ」

 

『ターン04』

 

「コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。手札の『黒煙竜フォグニール』の効果を使用。破棄することで、デッキを3枚破棄。バットのカウントを増やす効果は、魂状態でも発揮される」

 

破棄されたカード:『ノワールシュート』『デモンズスカル』『捻れた古大樹』

 

──────────────────────────────────

手札にあるこのカードは、自分のメインステップに、魂状態/煌臨元を含む自分の「相棒騎士バット」がいるとき、破棄することで、自分のデッキを上から3枚まで破棄する。

──────────────────────────────────

 

「ふむ、カウント4か…………」

 

カウント4が意味するもの。それは新効果〖契約煌臨〗を持つスピリットだけの効果、〖オーバーカウント〗の最低条件を達するということ。契約スピリットはせいぜいBPが馬鹿みたいなことになるだけで済むけど、大きめのスピリットはそうにもいかない。

 

「続けて、『ジェリーム』をミラージュセット。マルグゥル礼拝堂跡をレベル2に上げて、ターンエンドよ」

 

桜月さんの背後に紫のリングと、その中にいるスライム状の生命体が出現する。アニメではスピリットのミラージュは見たことなかったけど、こっちではこんな感じなのか。

このフィールド、確実にカウンター狙い。血契約はアタックステップに契約煌臨するのが多いから、それ目当てっぽい。

 

『ターン05』

 

「…………メインステップ」

 

傍から見れば相手には反撃の手立てが無いようにも見える。だがしかし、それは素人の思考。何も出来ないように見えて、裏では何かを仕込んでいるのだ。本当に何の手立てもないときは、あの手札を切ってフィールドをスピリットで埋めるか、バーストでも伏せる以外は無い。だがバーストではなくミラージュ、それにフィールドは相変わらずがら空き。確実に『誘っている』。それにジェリームのミラージュ効果はコアシュート、迂闊に近づける訳が無い。

だから、ケアできるようになるまで何もする必要は無い。

 

「『赤の世界』を配置。アタックステップ、マグマンモスの効果でグロウにトラッシュのコアを追加。カウント+2して、ターンエンド」

 

愛衣:カウント4→6

 

「ッ……!?」

「っ、どうやら図星っぽいね」

「……やはり、噂通りの実力のようね」

「あなたは少し甘いかな。フェイントは一重も二重も掛けないと普通にバレるよ」

「ご忠告どうも…………メインステップ」

 

『ターン06』

 

「『相棒騎士バット』をもう1体、リザーブのコア全てを乗せて召喚。効果で1枚破棄」

 

破棄されたカード:『虚栄の鎧』

 

「カウント+1、さらにカウント4以上なので、マグマンモスのコアをリザーブへ」

 

一夏:カウント4→5

愛衣:『マグマンモス』Lv2→Lv1

 

「コアシュート、ね」

「アタックステップ、バットでアタック! 効果でデッキを破棄、カウント追加!」

 

一夏:カウント5→6

 

これで相手のカウントは6、大体〖契約煌臨〗持ちのXレアが出せるラインだ。つまり相手のデッキはここからが勝負。それに加え、バットのコアシュート。1つとはいえバカに出来ないウザさがある。それにフェブラーニは今コアが1つしか乗っていない。

あれ? これ、結構ヤバくない?

 

「そしてさらにフェブラーニのコアをリザーブへ!」

「やられた…………!」

 

愛衣:『エンシェントドラゴン フェブラーニ』Lv1→消滅

 

「フラッシュタイミング!〖契約煌臨〗!!『血盟十三候フォールンハイド』をアタック中のバットに煌臨! フォールンハイドの効果により、カウント4以上であればソウルコアを必要としない!」

 

バットの背後に魔法陣が展開される。そこから生じた黒い煙がバットを包み、その中から黒い吸血鬼が出現した。

 

「効果でカウント+1、グロウのコア3個をリザーブへ! さらにフォールンハイドの〖オーバーカウント〗により、赤の世界を消滅させる!」

「ハッ!?」

 

一夏:カウント6→7

愛衣:『相棒竜グロウ』Lv2→消滅(魂状態へ)

『赤の世界』Lv1→消滅(カウント6以上の為、転醒不可)

 

──────────────────────────────────

フラッシュ[《契約煌臨:血契約&C3以上》『お互いのアタックステップ』]

自分のソウルコアをトラッシュに置くことで、対象のスピリットに手札から重ねる。

[ターンに1回:同名]手札にあるこのカードは、自分のカウント4以上のとき、ソウルコアをトラッシュに置いたものとして契約煌臨できる。

 

Lv1,2『このスピリットの煌臨時』

自分のカウント+1する。その後、このスピリットを無職として扱い、相手のネクサス/ネクサス1つのコア3個をリザーブに置く。

《OC条件:カウント5以上》

〖OC中〗Lv1,2『お互いのアタックステップ』

相手のネクサスすべてのLvコストを+1する。

──────────────────────────────────

 

「さらにフラッシュ、ジェリームのミラージュ効果発揮!デッキを破棄!」

 

破棄されたカード:『黒紫騎士シュバル・バット』

一夏:カウント7→8

 

「系統:血晶が破棄されたので、マグマンモスのコアをリザーブへ!」

「ちょ、ちょっ……やばっ!?」

 

愛衣:『マグマンモス』Lv1→消滅

 

人を呪わば穴二つ……か。今度はこちらが更地になる番みたいだ。それにカウント8なら、Xレアを出すタイミングとしても最高。だったら、このカードは今切るべきだ。

 

「へ、へぇ、さっきの意図返しのつもり?」

「いいえ、倍にして返すつもりよ。フラッシュタイミング」

「ですよね……」

「黒き翼!紫電の一閃!夢幻の常闇より来たれ、騎士王よ!『黒紫騎士シュバル・バット』!!魂状態のバットに、レベル2で〖契約煌臨〗!!」

 

紫の人魂の上に魔法陣が展開される。バットの形を模したそれは、その身体から無数の蝙蝠を召喚する。そして、人魂自ら魔法陣を潜り抜け、巨大な人型を取る。蝙蝠が人型に集まり、鎧を形成していく。やがて、紫の騎士がフィールドに登場した。

 

「やっぱり来た……紫の、Xレアカード!」

「さぁ、ここからが真骨頂!!」

 

突然巻き込まれたバトル、1度は乗り気にもなったけど、今は大分ピンチみたいだ。

 

To be continued…………

 

──────────────────────────────────

今日の相棒カード!

『相棒騎士バット』は、召喚時にデッキを破棄! そのカードが系統:血晶ならカウントを追加! しかも『メビウスリング』や『サン・エロファント大聖堂』のようなデッキ破棄のメタカードを無効化する効果を持つ!!

このカードでカウントを一気に貯めよう!!

──────────────────────────────────

 

「次回予告」

 

馬鹿デカいスピリットが登場してついに私、大ピンチ!!

 

………………な、わけないじゃん!!!

次回はシュバル・バット及び桜月一夏打倒のため、私の策が炸裂するよ!!

 

次回!『私の本気を見せてやる』お楽しみに!!

 

──────────────────────────────────

あとがき

どうも、レイメイミナです。こんなに遅くなってしまって申し訳ない。

段々と内容が気に入らなくなり、一から書き直し。その上リアルも多忙期に入ってしまい、元々遅筆なのがさらに遅れてしまいました。

ですが今回次回で魅力的なバトルを繰り広げていきますので、皆さんこれからもよろしくお願いします!次の更新は未定です!!では!!!!

 

※ 2022/10/21 指摘されたルールミスと色々気に食わない点を修正致しました。



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第二話「私の本気を見せてやる」

〖注〗本作は「バトルスピリッツ」シリーズを原作とした二次小説です。

 

誤字・脱字・ルールミス等発見しましたらコメントにてお教えください。時間があったら直します。

 

それと本作はテンポを良くするため、コアや手札などの細かい情報は省いております。お手元にカードを持ちながらご購読するとわかりやすいです。

 

──────────────────────────────────

 

十二星座が煌めく星空の元。広大なフィールドに佇む、紫の騎士。

私の傍に、スピリットはいない。

 

「シュバル・バットの煌臨時効果、コスト合計が自分のカウント以下になるまで、トラッシュからスピリットを召喚するわ!」

「ダブルシンボルスピリットのフォグニールを出せない分、まだマシってとこかな……」

「トラッシュから『ジェリーム』2体と、『黒紫騎士シュバル・バット』をもう1体召喚!!」

 

シュバル・バットのコストは8、ジェリームはコスト0だからコスト合計に嵩張らない。

 

「大量展開じゃなくて、フィニッシャーの補充を選んだってわけ……!」

 

でもこれは、逆に好機かもしれない。ターンがこっちに回れば、相手側のブロッカーが少ない。となれば私は次のターン、カード次第で戦える。

 

「フォールンハイドのアタックはライフで受ける!きゃあっ!!」

 

愛衣:ライフ4→3

 

いけないいけない、つい女の子みたいな声が出てしまった。いや私女なんですけどね。でも驚くより馬神弾さんみたいに歯を食い縛って耐え切って、ニッ、って笑って相手ドン引きさせたいじゃん。ねぇ? わかる? わかるよね?

さて、現状の話に戻ろう。私の手札は現在6枚ある。内1枚は防御マジック、『絶甲氷盾』。しかしこのカードは現在機能しない。何故なら相手のネクサス、『マルグゥル礼拝堂』の効果でアタックステップを強制終了できないのだ。ホントに終わってるよあのカード。ほんとマジで。だからこそ、もう1枚の『こいつ』が活きる。

 

「ッ……はぁ、よし!どんどん来い!」

「お望み通り行かせて貰うわ! シュバル・バットでアタック! アタック時効果で1枚破棄、カウント追加!」

 

効果の頭に〖契約煌臨元〗とある契約スピリットの効果は、契約煌臨元カードになっても発揮され続ける。

 

破棄されたカード:『デスリザレクション』

一夏:カウント8→9

 

「さらに、シュバル・バットの効果でトラッシュから『黒煙龍フォグニール』を召喚!効果で貴女のリザーブのコア4つをトラッシュに置き、シュバル・バットのシンボルを3つに固定するわ!!」

 

──────────────────────────────────

Lv1,2,3,「このスピリットの召喚時」

相手のリザーブのコア4個をトラッシュに置く。その後、トラッシュから召喚していたとき、このターンの間、〖契約煌臨〗を持つスピリットカード1体のシンボルを紫シンボル3つに固定する。

──────────────────────────────────

 

紫の魔法陣から黒い煙が溢れ、紫の光と共に龍の形となっていく。今絶賛焦ってるのでこれで終了!

 

「へぇ…………」

「さぁこれで終わりよ。正直、このバトルに有意性は感じなかったけれど、貴女が状況について理解を示してくれるなら、それで」

「何勝手に終わらせようとしてんの?」

「っ……?」

「まだ終わらないよ、バトルは。ライフかデッキが無くなるまで絶対に終わらない。それが……バトルスピリッツだ!! フラッシュタイミング、『白晶防壁』!!」

「白晶防壁っ!?」

 

──────────────────────────────────

〖フラッシュ〗自分のスピリット1体を回復させる。または、自分のカウント1以上のとき、自分のライフは1しか減らない。

──────────────────────────────────

 

「ライフで受ける!! ……ぐっ! これでこれ以上ライフは減らない! どうだ!!」

「そんな…………!?」

 

愛衣:ライフ3→2

 

あっっっっっぶなぁ〜…………! 危うくガチで負けるとこだった。雑に回してもこれだけやれるって、強すぎでしょ血晶。

 

「ターン、エンド……!」

「スタートステップ。コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。行くよ、私の本気を見せてやる。〖契約煌臨〗!!」

「契約煌臨……!ついに来た……!」

 

こういうとき、主人公というのは大体カッコいい召喚口上を全てアドリブで言っている。小学四年生の最上駿太君はともかく、中3の馬神弾さん(いやあれで中3はビビった)や恐らく高校生ぐらいであろう烈火幸村でさえ滅茶苦茶にカッコつけるのだ。では高校1年、そんじょそこらにいるであろう周りに馴染めてないだけのこの私はどうだろう。

いや、言うに決まってるよ。だってカードバトラーだもん。

 

「業火の炎を身に纏い、緋炎を統べる紅蓮の龍皇!『緋炎龍皇グロウ・カイザー』!!レベル2で魂状態のグロウに契約煌臨!」

 

赤い魔法陣が三重に発生し、その直後に2本の火柱が立つ。小さい火の粉が集まり、グロウの形を取ったところで、その背後に巨大な炎が噴き出る様は、まるで火山の噴火だ。グロウはやがて炎に身を包み、その中から巨大な人型の龍の影が現れる。カーテンを破くように炎を掻き消し、赤のXレアカード、『緋炎龍皇グロウ・カイザー』が登場した。正しく圧巻、これぞ赤のドラゴンだ。

 

「これがグロウ・カイザー……緋炎のドラゴン……!」

「多少荒いけどどんどん行くよ、ネクサス『灼熱のエデラ砦』を配置!効果でカウント+1、ジェリーム1体を破壊する」

 

──────────────────────────────────

Lv1,2「このネクサスの配置時」

自分のカウント+1し、BP5000以下の相手スピリット1体を破壊する。

──────────────────────────────────

 

愛衣:カウント6→7

一夏:『ジェリーム』→破壊

 

「余分に2つ乗ってるから破壊時効果は意味が無い……!」

「続けて『赤刃竜ワイバルト』を召喚!」

「炎契約スピリットを直に召喚した……?」

「アタックステップ、ワイバルトでアタック!効果でカウント+1し、もう1体のジェリームとフォグニール、フォールンハイドを破壊する!」

 

愛衣:カウント7→8

 

「ッ! これで星野さんはカウント8……!シュバル・バットでブロックよ!!」

 

何気に初めてのバトルだ。折角だし観戦しよう。

ワイバルトは持ち前の翼を活かし、空で火球を撃ってシュバル・バットを迎撃。対するシュバル・バットも負けじと避けてはコウモリ型の炎をワイバルトに飛ばしていく。やはり高所を取ったワイバルトに分があるらしく軽々と避けていく。しかしそこで、隙を見たシュバル・バットが自身をコウモリにしてワイバルトに纏わり付く。体勢を崩したところで背後に回り、人型に戻ってワイバルトを蹴り、地上に叩き落とした。蹴った勢いのまま剣を抜き、そのまま串刺しにされ、ワイバルトは炎を上げて大爆発。よく頑張った。あとはリーダーに任せんしゃい。

 

「さぁ、グロウ・カイザーでアタック!!効果でカウント+2し1枚ドロー!」

 

愛衣:カウント8→10

 

「さらにグロウ・カイザーの効果!レベル1のシュバル・バットを破壊!!」

「なっ……!」

「緋炎龍皇グロウ・カイザー、〖オーバーカウント〗発揮!!煌臨元の相棒竜グロウを破棄することで、ライフを2つリザーブへ!!」

「きゃっ、あぁっ!!」

 

一夏:ライフ4→2

 

……ちょっとエロいと思ってしまった自分を殴りたい。

 

「さらにフラッシュタイミング、『ヴォルカニックフレイム』!このカードはカウント5以上のときコスト4になる!レベル2のシュバル・バットも破壊!!」

「バット!!」

「続けてワイバルトを手札に戻す」

 

──────────────────────────────────

自分のカウント5以上の間、手札にあるこのカードのコストを4にする。

 

〖フラッシュ〗BP25000以下の相手のスピリット1体を破壊する。この効果は相手の白の効果では防げない。その後、魂状態/契約煌臨元を含む自分の『相棒竜グロウ』がいるとき、自分のトラッシュにある系統:『緋炎』を持つスピリットカード1枚を手札に戻す。

──────────────────────────────────

 

どうだ見たかこの野郎。これが赤色の姫君様の力だ!!

 

「あなたの敗因、教えてあげる。手札の管理がなってなかった、それだけ。あなたは強かったよ」

「ッ……!」

「さ、グロウ・カイザーのメインアタックだよ」

 

グシャアアアァァアアアッッ!!

勝利の確信を喜ぶようにグロウ・カイザーが吠える。それは同時に、桜月さんにトドメを差す合図ということだ。

 

「…………ライフで受けるわ。……ッ!きゃああっ!!」

「ふぅぅ…………勝った」

 

剣刃編からの伝統、勝ったら決め台詞の時間だ。これもしっかり言う。何故ならカードバトラーだから。

 

「ライフゼロ!つまり、勝利ッ!!」

 

──────────────────────────────────

 

いつの間にやら元の体育館裏に戻ってきていた。さっきのあれは夢か幻みたいなものだったのだろうか。

 

「……負けたわ。完膚無きまでに」

 

前言撤回、やっぱり現実みたい。

 

「えぇ、あぁ……そっすね」

 

気まっずい。一体どうすればいいんだこの空気。ねぇ何とか言ってくんない? 間を持たせるのとか無理に決まってるんですけど?

 

「え、えぇと。じゃあこの話は無かったってことで!ハハハ…………はぅっ!?」

 

突然グッと両手を掴まれ、距離を縮められた。というかこの人いっつも突然だな。心臓に悪すぎる。

 

「星野愛衣……さん」

「な、なな、なんでしょうか……?」

「貴女に、『一目惚れ』してしまったみたい」

「………………ひゃい?」

 

──────────────────────────────────

 

なぜこの女は私に着いてくるのだろうか。いや、家が隣と言えばそこまでなんだけど……そういうことではない。

 

「あの、なんですぐ後ろ歩くんです?」

「そんなの、家が隣だからに決まってるじゃない」

 

いやだからそうじゃなくてね?

 

「いや、滅茶苦茶私のこと見てたじゃないですか。それにさっきのこともあるし……」

「……あぁ、あれね。心配しないで頂戴。あれは貴女にじゃなくて、貴女のその腕前よ」

「うん、最初からそう言って欲しかった」

「それで、その強さの秘訣が知りたくなったのよ」

「それはどうも……別にデッキを上手く回す方法なんてネットに沢山転がってるよ? 私だってあの緋炎デッキは事前情報を元にバスコードで話し合って組んだから」

「へぇ、そうなのね」

「…………」

「…………」

 

え、それだけ? 嘘でしょ?

 

「…………それで、あの……なんの御用で?」

「これからの貴女の予定に付き合うつもりよ」

「え、なんで」

「きっと貴女程の使い手なら、放課後はずっとバトスピしてるだろうと思ったから」

「うぐっ」

 

普通にその通りなのでやめてください。

 

「だから、これからの予定を教えてくれないかしら」

「んー……家帰ってから着替えて、カードショップに行くけど」

「そう、わかったわ」

 

──────────────────────────────────

 

「いらっしゃーい……って、星野ちゃんじゃないか」

「どもー店員さーん。私のレシピ、ちゃんとサンプルに役立ててますか?」

「いやーその節はどうもー」

 

私はデッキ構築に自信があるので、カードショップの店員さんにサンプルデッキのアドバイスをしたりすることもある。今回のは私がこの前入賞した赤白アマテラスのデッキ構築を基にしたサンプルデッキだ。

 

「それで、その後ろにいる美人さんは……?」

「まぁ流石に目につくよね……」

「……? 普通にしているつもりだけど」

「あなたみたいな顔面だけで栄誉賞取れそうな美人は立ってるだけで注目されるんだよ?」

「そう」

 

かぁー、美人の余裕ホント腹立つわー。でも美人だから許してしまう不思議。美人ってだけで免罪符になるの怖すぎない?

 

「おぉ! これまた姫に負けず劣らずのべっぴんさんじゃないか!」

「全然なってないけどフォローありがとうキチさん」

「キチさん?」

「吉本さん。引き運強いから訓読み取ってキチさんね」

「ふーん……」

 

どうでも良さそうに聞き流された。桜月さんの視線はショーケース内のカードに向けられているみたい。

 

「へへ、どうせウエハースのキャラ目当てですよ、姫に頼んで案内してもらっただけに違いない……」

「相変わらず暗いな〜東さん」

 

40代弱くらいのキチさんと大学生くらいの東さんはこのカドショの常連で、ここに来ると大体いるのでもはや住み込みの客なんじゃないかと疑っている。そんなわけないんだけど。

 

「それより貴女、『姫』って呼ばれてるの?」

「おっさん共が勝手に呼んでるだけだよ。ここでやってる大会にたまに参加して、その度に入賞してるから『赤色の姫君』だなんて呼ばれてる」

「へぇ、やっぱり実力は周知なのね」

「まぁそれほどでも……ふへへ」

「ありそうな顔してますよー姫」

 

全くうるさいなぁここの男衆は……その賑やかさも私が気に入ってる所なんだけどね。

 

「それで……桜月さんはここについて来て何するつもりだったの?」

「そうね…………思えば考えてなかった気がするわ」

「……え?」

 

ノープランでついて来たの? え? マジで?

 

「そ、そっか、それじゃあ…………」

 

そういえば、さっきのバトル、ちょっとデッキ内容が気になったような……。

 

「そうだ。あなたのデッキ、見せてよ」

「……? 私のデッキ?」

「そう。あなたも私のデッキ見たんだし、これでお相子ってことで」

「なるほど、そういうことならどうぞ」

 

さてさて、私をちょっと焦らせた血契約デッキのレシピというものを見せてもらおうじゃないか。

 

 

 

「ふーむ…………思ったんだけど、私としてはフォグニールは3枚も要らないと思う」

「え? でも、手札から破棄したときの効果は強力よ。確実に引き入れる為に3枚入れるのは妥当だと思うのだけれど……」

「ふーん、でもフォグニールの効果はターンに1回しか使えない。複数来たときに残った1枚が動きを邪魔するノイズになるんだよ。それにフォグニールなんか無くても充分貯められる。その影響でノロイリカは3枚にして、フォグニールは1枚に留めておいた方がいいよ」

「なるほど…………流石は星野さんね」

「ふふ、クラスメイトとここに来るのはあなたが初めて。だからさ……そんな畏まらずに下の名前で呼んでよ。私もそうする」

 

私としては初めて出来たバトスピをしてる女友達だ。親睦を深めても悪くないよね。

 

「そう、じゃあ…………愛衣さん」

「なーに? ……一夏」

 

その時間にはいつものような賑やかしい声は聞こえず、ただ私達の仲睦まじい会話が綴られていった。

 

──────────────────────────────────

 

翌日、私達は一緒に登校するようになり、陰気臭いぼっちと突如現れた美少女転校生が仲良く会話している姿にクラスメイト(の1部)が戦慄していた。

 

「さて、えー……連日で悪いんだが。転校生の紹介だ」

「…………は?」

「入ってきなさい」

 

担任の苦手な命令口調の合図と共に入ってきたのは、桜月さんとは似ても似つかないような明るそうな女子。

 

「どうも! 風花勇樹(カザバナユウキ)です!! これからここで一緒に過ごすのでよろしく!!」

 

なーんか、嫌な予感がしてきた気がする。

 

To be continued…………

 

──────────────────────────────────

 

今日の相棒カード!

『緋炎龍皇グロウ・カイザー』は『相棒竜グロウ』に契約煌臨する赤のXレアカードだ!

 

アタック時に相手のスピリットを破壊! さらに煌臨元カードを1枚破棄することで相手のライフを2つ破壊して回復できる!

 

圧倒的なパワーで勝利を掴み取れ!!

 

──────────────────────────────────

 

「次回予告」

 

突如現れた転校生パート2、その名も「風花勇樹」! どうやら彼女も星巫女とやららしい。

 

というかこいつのせいで私の逃げ道消えたんだけど!? どうなってんの!?

 

こうなったらバトルで鬱憤晴らしてやる!!

 

次回!「星巫女にロクなやつはいない」お楽しみに!!

 

──────────────────────────────────

 

あとがき

どうも、レイメイミナです。

受験生として苦労しながらも頑張ってます。課題多すぎ。

さて私が執筆を怠っている間にも契約編4章の情報がやって来ました。どうやらブレイドラが契約スピリットになるそうですが、出すかどうかは未定です。

それでは。



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第三話「星巫女にロクなやつはいない」

〖注〗本作は「バトルスピリッツ」シリーズを原作とした二次小説です。

 

誤字・脱字・ルールミス等発見しましたらコメントにてお教えください。時間があったら直します。

 

それと本作はテンポを良くするため、コアや手札などの細かい情報は省いております。お手元にカードを持ちながらご購読するとわかりやすいです。

 

 

──────────────────────────────────

 

 その日、私は恋をした。

 

 その人が繰り出す、赤赤とした炎に。その人が散らす、熱に満ちた火花に。

 

 与えられた使命がこれほどまでに都合が良いと思ったのは、その日が初めてのことだった。

 

 この人と一緒にいれば、きっと家族を助けられる。そう思った。だから…………。

 

──────────────────────────────────

 

「どうも! 風花勇樹です!! これから一緒に過ごすのでよろしく!!」

 

 私に続く、2人目の転校生。転校手続きの時にそんな話は一切聞いていなかった。どうせ連続で来るなら同時に転入させようという話になると思うのに。

 つまり、彼女が勝手に書き換えた、もしくは校長を洗脳したことになる。故に彼女は、私の中では「危険人物」だ。

 

「お前の席は……無いからちょっと待ってろ。倉部ー、空き教室から適当に机と椅子持ってこい」

「はぁ!? なんで俺ぇ!?」

「うちのクラスで1番腕っ節が強いのがお前だからだ。彼女になってくれるかもしれんから頑張れ」

「いやー、どうもすいません……へへ」

 

「御愁傷様……思ってないけど」

 

 愛衣はそう言いながら掌を擦り合わせる。言葉の割には1つも興味が無さそうだ。それは私もだけれど。

 

「なら言う必要は無いんじゃないかしら」

「ふっ、人の悪口言っとらんと務まらんのだよ。陰キャってのは」

「貴女も大変ね」

「うん。あなたのせいも入ってるけどね? いきなり『手を繋いで行きましょう』とか言い出した上にクラス入るまで離してくれなかったから注目浴びたでしょうが」

「友達って、そういうものなんじゃないの?」

「はぁぁ、友達の基準が小学生レベル……」

 

 やっぱり「ここ」のルールはわからない。生まれはこの世界だけど、ずっと隔絶されて生きてきた私には学校という社会のルールが理解できないのだ。

 愛衣とそのような会話をしていたら、倉部さんが風花勇樹の分の席を持ってきた。

 

「よいしょ、っと」

「ねぇ、なんで私の後ろなの?」

「あぁ? そりゃあ、転校生といえば窓際だろ?」

「あっそ」

 

 漫画の見すぎ、というところかしらね。

 

「ありがとー、今度君の恋愛運を占ってしんぜよう」

「占いねー。期待しとくぜ」

「ほいほーい」

 

 愛衣の方を見てみると、如何にも嫌そうな顔をしている。彼女はああいう場の空気を嫌っているから、嫌悪感というのが顔に出てしまっているのだろう。

 

「さて、と。これからよろしくね。『星巫女』のお二人さん?」

「…………!?」

「…………!」

 

 一転、愛衣の表情が一気に驚愕の顔に変わった。かく言う私も、きっとそういう顔をしているのだろう。何故ならそれほどの緊急事態だということだから。

 

「よし、じゃあ朝のホームルームを……」

 

──────────────────────────────────

 

 昼休み、私達は早速彼女を屋上へと呼び出していた。

 

「え、えーと……なんの御用で」

「はぁ、わからないかなぁ?」

「ああ、いえ、あのぉ二人のことは内密にするのでなんというか斬首は勘弁というか…………」

「そんな残酷な刑はこの国には存在しません。まぁなんで呼んだかといえばまぁそりゃ……」

 

 そこまでで口を閉じ、両手で風花さんの肩を取る。

 

「え、なっなに」

「お前ぇっ!! お前さえいなければっ! 私はっ! ただの中二趣味に巻き込まれただけの一般人で済んだのにぃっ!!」

「あっ、あっ、あぅっ! くび、くびが!」

 

肩を激しく揺らしながらそう豪語する様は、正しく八つ当たりのそれだった。

 

「こら、そこまでにしときなさい」

「シャーッ!!」

「威嚇しないの」

「うぅ、いたた……目が回る」

 

 引き剥がしたら今度は猫のように威嚇するし、八つ当たりされた風花さんは首を痛めている。あれだけ揺らされていたら当然だろう。

 

「お前のせいで一夏の言ってたこと全部ホントのことになったったじゃん!!」

「『ちゃ』って言えてないよー」

「うるせー!!」

「はぁ、もう収拾つかないわね。愛衣、ほら」

 

 人は水を飲むと落ち着くらしい。どうやら水の中に含まれる成分に精神を鎮める作用があるそうだ。なので私の水筒を差し出してみる。

 

「…………これ飲みかけだよね?」

「えぇ、そうよ」

「つまり……間接キスってことだよね?」

「…………?」

「うーむ、殺されそうだからやめとく」

 

 …………間接キス、っていうのはよくわからないけれど、それってそれほどに重い罪なのかしら。

 

「はぁ、落ち着いたみたいだから釈明させてもらうよ。何かやけに不憫な気がするけど……」

「どうぞ。現実逃避しがちだったから頭に血が上ってたのかも」

「いや度があるでしょ…………」

 

 それには同感。

 

「はぁ……まずね、わたしもその星巫女の一人。生まれは違うけどね」

「生まれって、外国人ってこと?」

「そんな狭い範囲じゃないよ。わたしはこことは違う世界から来た、言わば『外界の民』ってとこ」

「ふーん、何ひとつもわからん」

 

 頬杖をついて考える素振りをするが、理解はできていない。どうやらこの手の話は愛衣にとっては大きすぎたらしい。私が噛み砕いて説明する必要がある。

 

「愛衣、この世界の他にも、あと4つの世界があるの。彼女はそのうち1つの世界から来たってことよ」

「ふーん。わからない」

「…………界渡、みたいなものよ」

「なるほどわかった」

「わかんのかよ!!」

 

 バトスピ関連の用語を出した途端すぐに脳が活性化する辺り流石は愛衣、という感じ。風花さんもその落差のあまり素の出ているツッコミを繰り出してしまった。

 

「ごめんなさいね、この子バトスピだけが生き甲斐みたいなものだから」

「なんか闇が深い…………ま、まぁいいや。わたしはその4つの世界の中でもトップクラスの存在! 何せ『エジット』のお姫様だからね!!」

「…………エジット?」

「そう! エジット!」

「へー…………は!?」

「確かにエジットの星巫女は現在の王妃だって聞いたことはあるけど、まさか貴女の事だったなんて」

「えっへん!」

 

 誇らしげに胸を張ってる姿はあまり威厳を感じないけれど。

 

「それでだね、今エジットは凄い危機的状況にあるんだよ」

「危機的状況、とは?」

「とは、にっくき『星騎士』達による貴族の襲撃とそいつらの従属化。即ち、侵略」

「星騎士…………あー、そんなのもあったような」

「覚えてなかったのね……」

「バーッて言葉の洪水浴びせられて覚えられるわけないでしょ。で、そいつらそんなこともやってたのか……」

 

 星騎士は高貴さとは裏腹にかなり残虐的な精神を持つ者達の集まり。略奪行為を平気でこなす悪人の集団だ。その名すら知られていない辺り、ここウルにはまだ手は届いていないはず。

 

「ということで、戦力の増強を目的に他世界の強めの人をこっちに連れてこようって話になった訳。それで白羽の……弓だっけ?」

「白羽の矢、ね」

「そうそれ。白羽の矢が立ったのが君、星野愛衣ということなんだよ!」

「はぁ……つまりそれ自分達の為に他の世界から人拉致ってるってことでしょ? それなんてワート……」

「人聞きの悪いことを言わないで欲しいなぁ? ちゃんと特例措置で扱うし福利厚生もしっかりしてるよ。それに終わったら返すんだし」

「逆に言えば終わるまで帰れないってことでしょうが!」

「仕方ないんだよぉ。エジットは資源自体が少ないから兵隊を充分に養えないし、そのせいで士気はダダ下がり。それに貴族はどんどんあっちに行っちゃうからもうギリギリなんだよ……それに戦力とは言ってもやるのはバトスピだから」

「だとしても拉致って兵役はさすがに無くない……? 帝国時代の日本ですらもうちょっとマシだったよ」

 

 確かに愛衣の言う通り、見ず知らずの人間を他世界に連れ込み、自軍の戦力とするのは酷い話。しかし、エジットにもエジットの事情というものがあり、これには政治的な話が絡んでいる。複雑な状態だし、実際風花さん自身も罪悪感は感じているみたい。

 

「君らの国の話は知らないけど……わたしとしては、君の扱いはかなり良さげにしたいつもりなんだよね」

「はぁ?」

「だってさ、君はわたしと同じ星巫女な訳でしょ? つまり実質的にわたしと同じ身分ってこと」

「随分話が飛躍してるわね……」

「喜べ星野愛衣、君はわたしと同じ姫様待遇だぞ?」

 

 そう高らかに宣言する風花さんに対し、愛衣はというと……。

 

「ふーん」

「ちょ、興味無さすぎない!?」

 

こういう様子。

 

「だって私はもう姫扱いだからいいし」

「えっ、そうなの?」

「1部の連中が勝手に騒いでるだけだけどね。悪い気はしないから勝手にやらせてるだけ」

「え、えぇ……」

「諦めなさい、愛衣はこういう人間よ」

「一夏はなんで会って2、3日でそんな誇らしげに私のこと語るのさ……」

「ふふっ」

「そのお上品な『テヘッ☆』やめろ。可愛すぎて最悪死人が出る」

 

 可愛いと死人が出る……? ウルは不思議ね。

 

「とにかく、私はその話に乗る気はないので」

「あ、ちょっ、待って! 立って終わりの雰囲気出さないで!」

「風花さんごめんなさいね。愛衣はまだ他の世界の事は何も知らないから、少しだけ時間をくださらない?」

「はいはい、もうすぐ休み時間終わるよー」

 

「えぇぇ…………?」

 

 予鈴のチャイムを聞きながら愛衣について行く。

風花さんとは教室でまたすぐ出会うけど、きっと話はしてこないでしょう。まぁ恐らく、いつかはこの話をもう一度するんでしょうけど。

 でも今はまだ何も知らない愛衣を危険に晒したくないから、ここはお暇を頂くことしか出来ない。いつか5つの世界を守るために共に戦う日が来るでしょうから、その時まで待っていて頂戴。

 

──────────────────────────────────

 

 放課後……。

 愛衣がよく行くカードショップでバトスピをしているところだった。

 

「お、いらっしゃいませー」

「この時間帯で私達以外とは意外な…………げっ」

 

 愛衣のさり気ない駄洒落はともかく、入口に立っていたのは紛れもない風花勇樹本人だった。しかも、その家臣と思しき男達を引き連れて。

 

「へぇ、ここが星野愛衣のハウスね……」

「違いますが」

「まぁいい、話に乗る気がないなら強制連行するまで!」

 

 どうやら昼休みの話をまだ根に持っていたらしい。

 

「……は? いやいや普通に拉致被害だから」

「我姫ぞ?」

「助けてこの人話通じない」

「私に言われても……頑張れとしか言えないわ」

「ふっふっふ、ここでの決め事はカードゲームで決めると聞いた。バトスピの強さはエジットにおいて貴族のステータス! 国王の娘たるわたしも誰にも負けない自信がある!!」

 

 武力行使という訳では無いのは良かったけれど、1つの世界を統治していると仮定すれば彼女の腕前は相当のものとなるはず。

 

「気をつけて、愛衣」

「クックック、心配には及ばないよ一夏。行くよ家臣達!」

「応ッ!」

「は、はいっ!」

 

 彼女の呼応に合わせて後ろに立ったのはこの店の常連であるキチさんと東さん。どちらもここで凌ぎを削っている間柄で、愛衣に並ぶ実力を持つ……らしい。

 

「抵抗するというのなら……こっちも行くよ!」

「「ハッ! 全てはエジットの為に!!」」

 

──────────────────────────────────

 

「『インペリアルドラモン パラディンモード』でアタック! 効果でトラッシュのコアを全てこのスピリットに乗せ、相手のスピリット全てを疲労させる!」

「な、なんだとっ!?」

「『機動要塞キャッスル・ゴレム』を召喚、効果でデッキを15枚破棄です……」

「もうデッキが!?」

「『航宙龍アストラ・ドラゴン』、4点でアタック」

「ま、マジック! 『白晶防壁』!」

「フラッシュ、『レーザーボレー』。白のマジックの効果を無効にします」

「ぅえっ!? ら、ライフで受ける!」

 

 結果は愛衣陣営の圧倒的勝利。強いとは思っていたけど、まさかここまで完封しての勝利だとは思わなかった。

 

「つ、強い……! どうなってんのあんたら……」

「あっさいカードプールでしたねぇ」

「中々骨のあるやつだと思ったけどな!」

「へへ、まぁ僕の海賊キャスゴには負けますけどね……」

「す、すごいわね……」

「そりゃあ、キチさんは暗黒の剣刃編を生き抜いた古株だし、東さんは青デッキのスペシャリストだからね。んでもって私は優勝を何度も勝ち取ってきたバトルスピリッツ・クイーン!!」

「うがぁぁぁ!! 悔しいぃぃ!!」

 

 そう悔しがって地団駄を踏む姿はとても王妃とは思えない。というかこの子、結構弱かったような…………。

 

「むぐぅぅ……!」

「…………」

 

 見るからに面倒そうな目をしている。実際、愛衣はこういうのに極力関わりたくないみたいだ。クラスでの様子を見るに、何事にも無関心。人と関わることを嫌い、このような小さなコミュニティ内で小さな承認欲求を満たすだけ。それが星野愛衣という人間像なんだと、私は思っている。

 でも私は、愛衣は本当はどうしようも無いお人好しでもあって、そんな自分が嫌いだから関わろうとしないだけなんじゃないかとも、思っている。

 

「はぁ……君、ちょっとこっちおいで」

「ん……?」

「なんもしないから。ね? いいでしょ? 近衛のお二人さん」

「……どうする?」

「んーむ……」

 

 愛衣に問いかけられ、うねりながら考える家臣2人。やはり保護対象とはいえ、抵抗されたからか、警戒を解けない様子だ。

 

「わたしは大丈夫だから、お前達はこの2人にバトルの稽古でもされておいてて」

「……まぁ、殿下がそうおっしゃるのなら」

「ここのバトルも知りたいからな……」

 

 2人のことを思ってか、風花さん自身が命令という形で従わせた。

 

「うん、それでよし。一夏も来てよ」

「え、私も?」

「いいから」

 

 それから愛衣に手を取られ、無理やり引っ張られて店を後にする。

 やっぱり、この人の手は暖かい。

 

──────────────────────────────────

 

 連れられた先は町の路地裏。人気も少ないし、内緒話にはうってつけだ。

 

「それでさ、なんで私をそんなに付け狙うの? 別に私じゃなくてもいい感じの強い人でいいじゃん」

「う…………言いたくない」

「そっか。でも私も知らないと納得出来ないよ。言え、とは言わないからさ」

「……そんなに知りたい?」

「うん。話し合いはマイナスの状況をゼロにして、プラスに向かうってことだと思うから。お互いにとっての『プラス』のためにまずは『ゼロ』にしたい。だから教えて欲しい」

「…………」

 

 愛衣は強いだけじゃなく、優しい。口こそ悪いし、偶に奇行も目立つけど、その心はいつも人のことを思っている、そんな人間なのだ。そんな愛衣からの優しい訴えには、流石の風花さんも口を開こうとしていて。

 

「…………笑われるような話、なんだけどね」

「……うん」

「わたしってさ、ほら。お姫様だから。世界でたった独りのお姫様」

「そうだね」

「兄様も弟もいるけど、食事以外は全然顔を合わせないし。わたしの名前の後ろには、いつも『様』だとか『殿下』とか……そう言われてきたから」

「うん、そっか」

「だからわたし、対等に扱ってくれる人が今までいなかったの。星野愛衣の存在を知って、すぐに飛び付いた。『同じ星巫女なら、同じ扱いをしてくれるかもしれない』って、そう思ったから」

「なるほど、通りで理論が飛躍してたわけね」

「なんかさ、ここまで長く喋ったけど、結局わたしが欲しかったのはただの『友達』。わたしの名前を呼び捨てにして、どうでもいいことで笑い合って、お互い忖度なんてない物言いで……そういうのが欲しかっただけ。すっごくくだらない、小さい我儘なんだよね」

「ふーん……確かに小さいけどさ。くだらなくはないよ」

「……え?」

「友達なんて、多分作ろうと思えばすぐに作れると思う。でも、作ってからはきっと、いなかった頃よりずっと楽しく感じられる。だから、くだらないなんてこと、絶対に無いと思うよ」

「くだらなく、ない……」

「友達なんて、いればいい気がする。ただいるだけ。友達でいる限り、絶対につまらないことは無い。そう、絶対に」

 

 そう言いながら私の方に振り向くのは、ずるいと思う。そうやって私を巻き込んで、愛衣の言いたいことの踏み台にされる。

 でもそれでいい。愛衣のためなら、喜んでなれる。愛衣の言うことは、私も信じられるから。

 

「なんて、友達一夏しかいない私が言っても説得力ないんだけどね。アハハハ……わっ」

 

 そう補足を入れて苦笑する愛衣の手を、風花さんが勢い良く掴んだ。

 

「そんなこと、言われたことない……わたしが何を言っても、家臣は頷くだけ。でも、あなたは違う…………!」

「お、おぉ……」

「あなたはわたしに『否定』と『肯定』をくれる……そんなの初めて。これが『友達』なんだね。愛衣」

「…………うん。まぁ、ね」

「えへへ。やった」

 

 そうはにかむ姿も王妃の威厳は感じられない。

 そう、ただ愛衣と何も変わらない、1人の少女だと思うだけ。

 

「さて、それでなんだけど」

「うん」

「このしんみりした空気どうしようか」

「え?」

 

 さっきまでの空気、今ので全て台無し。

 

「どうしよっか一夏」

「困ったら私に振るの、やめてちょうだい……」

「だってホントに困ってるもん」

「え、いや、そもそも崩さないとダメなの……?」

「ダメじゃないけどこのまま帰るのは違うから。あなたの真意はわかったけどそれはそれとして私はお前に陽キャムーブぶつけられたこと根に持ってるんだからな?」

「陽キャムーブ……とは」

「は? 朝ホームの男子に占いの約束貼り付けてたじゃん。普通にコミュ力高いの普通に腹が立った」

「り、理不尽……!」

 

 失念していた。確かに愛衣は優しいけど、こういう情緒不安定な一面も持っていたんだった。

 

「うーん、この鬱憤どうしようか。うん! ここは安心と信頼のバトスピでどうにかしよう!」

「え、バトスピはさっきやった……」

「デッキは違うから実質初めてだよ」

「し、使用者が同じなんですけど……!?」

「はい四の五の言わずにデッキ用意するー。さぁ行くよゲートオープン!」

「えっ!? かっ、かかかか」

「界放!!」

 

──────────────────────────────────

 

 これでいいのだろうか。

 フィールド外にある光の道に座り、そう考える。どうせ答えなんてわからないのだと早々に諦め、視線をフィールドに向ける。

 

「ほんっとにそっくりだなぁ……よし、じゃあそっちの先攻ね」

 

 星空を見ていると、一際輝く星は確かに愛衣の方へと傾いていた。この世界では、傾いている方が先攻か後攻かを選ぶことが出来る。

 

「なんか不憫な目にしか遭ってない気がするけど、こうなればヤケだ! メインステップ、『樹精フタバ』を召喚!」

 

 緑色の魔法陣が出現し、その中から、頭頂部に子葉が生えた精霊が出現する。第1ターンは契約スピリットは無しで、通常スピリットのみが召喚された。

 

「召喚時効果でカウント+1、更にコアブースト! これでターンエンド!」

 

勇樹:カウント0→1

 

「相棒狼ランポは殴らないとカウント増やせないからね……そこは褒めてやろう。じゃあこっちのターン、『相棒竜グロウ』を召喚」

 

 赤い魔法陣が出現し、そこから湧き出た炎が小さい竜の形を形成する。炎が晴れ、そこから相棒竜グロウが現れた。

 

「続けてミラージュ、『夕暮れのジェネバーグ森林』をセット」

 

 愛衣の背後に、夕暮れ時の森林の背景が映し出され、同時にそれを囲うかのように多数の赤いリングが出現した。

 愛衣の狙いは恐らく、手札を確保して早期にXレアを引き込むことだろう。つまり、風花さんからすれば今が狙い時。

 

「アタックステップ、グロウでアタック。効果でカウント+2、1枚ドロー」

 

愛衣:カウント0→2

 

「ジェネバーグ森林のミラージュ効果発揮。緋炎の効果でカウントが増えたので、1枚ドロー」

「もう手札が戻っちゃった!」

「それで? このアタックはどうする?」

「はっ、そうだった! えっと、ライフで受ける! きゃあっ!」

 

勇樹:ライフ5→4

 

 グロウが風花さん目掛け、掌に溜めた火球を放つが、ライフを意味するバリアがそれを阻んだ。バリアが砕けた衝撃で、風花さんは悲鳴を上げてよろける。

 

「よし、ターンエンド」

「くっ……でもこれでわたしのコアは増えた! このターンでどんどん攻め込むよ〜?」

「はいはいお好きにどうぞ」

「メインステップ! 『雷雲平原』を配置!」

 

 風花さんの背後に、雷鳴が轟く平原の背景が映し出される。お互いにミラージュネクサスを使い、状況を有利に運ぼうと画策している。

 

「そしてそして、『相棒狼ランポ』! 真打の登場だ!」

 

 緑色の魔法陣から小さい竜巻が吹き、その中心に雷が落ちる。そこから、小柄な青い狼が現れた。

 

「はいはい真打真打」

「ちょ、何その反応!?」

「いいからさっさと進めてよ」

「ぐ……『グルナバートの大滝』を配置! 効果でカウント+1し、ランポがいるのでコアブースト!」

 

勇樹:カウント1→2

 

 手札を増やす愛衣に対し、風花さんはコアを増やしていっている。お互いの動きに対し、お互いどう動くかが鍵になる。

 

「アタックステップ! 相棒狼ランポ、行け! アタック時効果でカウント+2、コアブースト!」

 

勇樹:カウント2→4

 

「カウント4……」

「そう、さらに雷雲平原の効果発揮! 碧雷のアタック時、更にコアブースト出来る!」

「このターンだけでもう3コアブースト……愛衣、ショップの時より動きにキレがあるわよ。気をつけて」

「問題なーし。心配しなくても大丈夫だよ」

「そう言ってられるのも今のうちだよ。フラッシュタイミング、『契約煌臨』!! 来たれ、『エクレ……」

「『エクレル・ヴェスパー』ね」

「ちょっ!?」

 

 ランポが緑色の魔法陣を潜り、黄色に黒のラインが入った巨大な蜂の姿へと変化した。けど……それより宣言を奪った愛衣の方が気になる。

 

「え、なんでわかったの!?」

「そんなの流れでわかるよ。エクレル・ヴェスパーは発売前から割と注目されてたし」

「え、えぇぇ…………」

「それよりターン進めて」

「ち、調子が狂う……煌臨時効果でカウント+1。さらにグロウを重疲労にする!」

 

勇樹:カウント4→5

 

 疲れてしゃがんでいたグロウが突然、緑色のオーラと共に押し潰されていく。重疲労とは、疲労状態から更に疲労した状態のことで、1度の回復では行動できない厄介な効果だ。

 

「これがウザイんだよなぁ……雷契約は重疲労させまくるから」

「これだけじゃない! エクレル・ヴェスパーのオーバーカウント発揮! グロウをデッキの下に戻すことで、回復!」

「グロウは魂状態でフィールドに残す」

 

愛衣:『相棒竜グロウ』→デッキの下へ(魂状態としてフィールドに残る)

 

「それで、ライフで受ける! ぐッ……! はぁ……」

 

愛衣:ライフ5→4

 

「よし! 再びエクレル・ヴェスパーで……」

「ライフ減少により、手札より『覇王爆炎撃』を使用!」

「ひゃい?」

「エクレル・ヴェスパーを破壊!!」

 

勇樹:『エクレル・ヴェスパー』→破壊(煌臨元のランポは魂状態へ)

 

「ここで覇王爆炎撃!?」

「ちょちょ、ランポの効果でフラッシュ以外でマジック使えないでしょ!?」

「確かにね。でもこいつは手札にある間は相手の効果を受けない優れものだからね」

「け、契約煌臨元のランポは魂状態でフィールドに残す……これでターンエンド」

「『ウッドゴリラ』とかあったらヤバかったからなぁ、ここで打点潰せて良かった」

「ぎくっ」

「……? まさか持ってたりした?」

「え、と……ひ、秘密です…………」

 

 これは、持ってたやつね。

 

「あっぶな……九死に一生得たかなこれ。メインステップ…………」

 

 自分のターンを宣言してから、愛衣が固まった。

 

「あ、あれ?」

「愛衣、どうしたの……?」

「…………やっべ、プレミった」

「「え」」

 

 プレミ……って、もしかしなくてもプレイミスってことよね。もしかして、さっきの見事なカウンターが、プレイミスだったってこと……?

 

「まぁいいや、過去の過ちは忘れよう。バースト伏せて、ネクサス『溶岩海のエデラ砦』を配置! 効果でカウント+1、更に樹精フタバを破壊!」

 

愛衣:カウント2→3

勇樹:『樹精フタバ』→破壊(トラッシュへ)

 

愛衣の背後に、ジェネバーグとは別の、溶岩の海に囲まれた崖の背景が映し出される。

 

「カウントが増えたとき2以上なので、『エンシェントドラゴン フェブラーニ』のバースト発動!」

「何そのカード!?」

「2枚ドローしてバースト召喚!」

 

 空中に赤い魔法陣が展開され、そこから翼、顔、胴体と、ドラゴンが次々に身体を出現させていき、地上に舞い降りる。

 

「お、ラッキー。『赤の世界』も配置!」

 

 愛衣の背後に、ドラゴンの頭部を模した火山の風景が更に映し出される。

 

「コストにはソウルコアを、余分にコアを2つ乗せとく、っと」

「だから何そのカード!?」

「何って、再録されて値段が下がったカードですが?」

「いやそういうことじゃなくて!」

「じゃあアタックステップ」

「話聞けー!」

 

 さっき言っていたプレイミスとは何の事だったのだろうか、少しもわからない。私にはまるで、研磨し、洗練された、完璧なプレイングのように見える。

 

「フェブラーニでアタック! 赤1色でコスト5以上のスピリットがアタックした時、赤の世界の『転醒』を発揮!」

 

 そう宣言した瞬間、愛衣の聖装に施された、赤いクリスタルが光ったように見えた。

 

「転醒……?」

「紅蓮の大地よ。転じて目醒め、赤き炎の龍となれ! 『赤き神龍皇』、転醒!!」

 

 赤の世界が吐き出す炎がネクサス全体を飲み込み、赤い渦となってゲートの形になる。そこから這い出てきたのは、赤い皮膚に白い装飾が施された人型の赤いドラゴン……まるで赤の世界を象徴するかのような、紅蓮の龍だった。

 

「な、なな、何それ……」

「転醒時、カウント+1」

 

愛衣:カウント3→4

 

「転醒時効果は対象無しで不発、効果により、フェブラーニに赤のシンボルを追加」

「は、ダブルシンボル!?」

「せいかーい」

「そんなの聞いてないって!!」

「更にフラッシュ、『契約煌臨』! 『赤刃竜ワイバルト』!」

 

 赤い魔法陣が展開され、その後ろにグロウを模した赤い炎が出現する。その炎が魔法陣を潜り、鎧のような身体の赤い龍が現れた。

 

「効果でカウント+1、ジェネバーグ森林の効果で1枚ドロー……なんかカウント伸びないな」

 

愛衣:カウント4→5

 

「ら、ライフで受ける! うぐっ、ああっ!!」

 

勇樹:ライフ4→2

 

 フェブラーニの炎は赤き神龍皇の効果で強化されており、バリア1枚では防ぎ切れない。2枚張ることでなんとか防いだが、結果的にライフを2つ失う形となった。

 

「続けてワイバルトでアタック! グロウの効果でカウント+2、1枚ドロー! ジェネバーグ森林の効果で更にドロー!」

 

愛衣:カウント5→7

 

「ふ、フラッシュタイミング! 『ウッドゴリラ』をコスト5として、レベル2で召喚!」

 

 ワイバルトの目の前に緑色の魔法陣が展開され、そこから蔓が伸び巨大なゴリラの形となる。そのままワイバルトを、全身で受け止めた。

 

「効果でカウント+1、さらにカウント2につき相手スピリットを重疲労にする!」

 

勇樹:カウント5→6

 

 風花さんのカウントは6、つまり3体まで重疲労にすることが出来る。そして、愛衣のスピリットは全部で3体。全て重疲労となる。

 

「愛衣、不味いわよ……!」

「わかってる」

「そのアタックはウッドゴリラでブロック!」

 

 全身で受け止めるウッドゴリラを、ワイバルトは炎で引き剥がす。負けじとジャンプして空中のワイバルトの迎撃にかかったウッドゴリラだったが、残念ながら空はワイバルトの領域。一方的に炎を浴びせられ、地上に墜落し、緑の光を伴って爆発…………したかに思えたが、爆発を見届けたワイバルトの目の前に突然、無数の蔓が襲い掛かる。

 

「これは、ウッドゴリラのレベル2効果……!」

「そう! ウッドゴリラのレベル2ブロック時効果でBP+5000! これでBP15000!」

 

 蔓がワイバルトを引っ張り、地面に引き摺り落とす。そのままウッドゴリラが上から強烈なパンチを加え、ワイバルトは爆散。

 

愛衣:『赤刃竜ワイバルト』→破壊(煌臨元のグロウは魂状態へ)

 

「……ターンエンド」

「ふぅ…………乗り切った」

 

 思い返すと、フェブラーニのアタックの時点でウッドゴリラを召喚すれば、ライフは2つも減らずに済んだのだろう。コアが欲しかったからだと思えるが、そういう甘さは、愛衣に1歩及ばない一因と言える。

 

「でも手札はゼロだよ?」

「わかってる。だからこのドローに……賭ける!」

「……」

 

 心無しか、愛衣の表情が柔らかく見えた。彼女がバトルの中で成長していくのを、祝福しているかのように。

 

「スタートステップ。コアステップ、ドローステップ……リフレッシュステップ、メインステップ!」

「これは……」

 

 デッキのカードをドローした瞬間、風花さんの表情が明るくなった。それは、逆転の一手を引いたことに他ならない。

 

「魂状態のランポに、『契約煌臨』……! 雷鳴轟く紺碧の王者! 『雷狼牙王グローム・ランポ』!!」

 

 三重に魔法陣が展開され、そのうち2つから巨大な竜巻が起きる。ランポを模した緑の風が中心の魔法陣の上に現れ、竜巻の中に飲み込まれる。空に雷鳴が鳴り響き、一際大きな落雷が、巨大な竜巻の中心に落ち、風が払われたその先に、強大な、青い大狼が佇んでいた。

 

「っ……風つよ、これが緑のXレアね……!」

「続けてウッドゴリラをレベル3にアップ。アタックステップ、グローム・ランポでアタック!!」

「来る……!」

「ランポの効果でカウント+2、コアブースト!」

 

勇樹:カウント6→8

 

「さらに雷雲平原の効果でコアブースト!グローム・ランポの効果で、重疲労している2体のスピリットをデッキの下に戻す!」

「フェブラーニは戻るけど、赤き神龍皇は相手の効果でフィールドを離れるとき、裏返して配置出来る! 効果でウッドゴリラは破壊!」

「ぐっ……戻したスピリット1体につき、ライフをリザーブに置く!」

 

愛衣:ライフ4→2

 

 グローム・ランポが咆哮を上げ、それに応えるように空から2対の雷が愛衣に落ちてくる。

 

「愛衣!!」

「やっぱそれか……あっ、がはッ!!」

「よし、これでわたしの……勝ちだぁぁっ!!」

「そんなわけ、ないでしょ……! これで追い詰めたつもりなら、詰めが甘いにも程がある」

「なっ……!」

「フラッシュタイミング! 『白晶防壁』!!」

「持ってた!!?」

 

 この土壇場で防御マジック、やはり愛衣は……凄い。

 

「凄いとしか、言いようがない……!」

「ライフで受ける! ……ッ!! これで、ライフはもう減らない!」

「そんな……!?」

 

愛衣:ライフ2→1

 

 余裕でも、ピンチでも、戦い抜くその心。そしてどんな逆境でもひっくり返せるその実力。あぁ、私は貴女のそんなところに、惹かれたんだ。

 

「メインステップ、『契約煌臨』! 緋炎を束ねる蒼炎の龍皇! 『緋炎龍皇グロウ・カイザー』!!」

「来た! 愛衣のキースピリット!」

「これが、赤のXレア……!」

「続けて、『マグマンモス』をレベル2で召喚! 『カウントドロー』をミラージュでセットし、ジェネバーグ森林を手札に戻す。アタックステップ、マグマンモスの効果でトラッシュのソウルコア以外のコア全てをグロウ・カイザーへ!マグマンモス以外に置いたので、カウント+2!」

 

愛衣:カウント7→9

 

「グロウ・カイザーでアタック! グロウの効果でカウント+2、1枚ドロー!」

 

愛衣:カウント9→11

 

「更にBP20000以下の相手スピリットを破壊! カウントドローのミラージュ効果でカウント分『強化(チャージ)』! イレブン強化(チャージ)でBP31000以下のスピリットを破壊する!!」

 

勇樹:『雷狼牙王グローム・ランポ』→破壊(煌臨元のランポは魂状態へ)

「グローム・ランポ!!」

「カウントを-3して、このスピリットによるライフ減少を、白の効果で防げなくする」

 

愛衣:カウント11→8

 

「これが……星野愛衣の実力…………! す、凄い……!」

 

 そう、これが愛衣の実力。こんなに強くて、魅力的なバトルを見れるのは、とても貴重なことなのだ。

 

「ライフで受ける……あああっ!!」

 

「ライフ0、つまり! 勝利ッ!!」

 

──────────────────────────────────

 

「……改めて考えてみたんだけどさ」

「うん」

「わたし達、バトルする必要あった?」

「ないね」

「否定しちゃったよ」

 

 そう、このバトルは確かに良いものだったけど、本当によく考えてみるとやった意味はあまりなかった。

 

「ま、いいでしょ。理由なんて。何も考えずワイワイバトスピするのが……『友達』、でしょ?」

「っ……! まぁ、うん。そうだね」

「気をつけなさい……愛衣ってああいうずるいところあるから」

「ずるいってなんだずるいって。どこがだ」

 

 そのまま3人で談笑して、その場は解散となった。だけど私は見逃さなかった。あの風花さんの目が、自分と『同じ』ものだったことを。

 

「ライバル……ってところかしらね」

 

──────────────────────────────────

 

 後日、学校にて。

 

「うーん、明日のテストは覚悟しておいた方がいいかな」

「マジかー!」

「アタシのノート見るー?」

「みるみる〜」

 

 転校生である勇樹は、完全にクラスに馴染んでいた。偶に見かける『占い系JK』として。

 

「はぁ〜、この世のリア充全員滅ばないかな」

「思想が果てしなく強いわね……」

 

 なんて愚痴ってたら、勇樹がこっち向かって来て……。

 

「愛衣ー、勉強手伝ってくれなーい?」

「は……?」

「ねーいいでしょ? 友達なんだから」

「ぐっ…………言っとくけど私は全然勉強出来ないからね?」

「困った時は助け合い! でしょ!」

「はぁ…………わかったわかった」

「やったー!」

 

 なんか隣の視線が凄いことになってるけど、今はこの異界のお姫様との友情を優先しよう。

 自分の人生が狂い始めてから、早3日。一つだけわかったことがある。

 

 私を含め、星巫女にはロクなやつがいないということだ。

 

──────────────────────────────────

 

 愛衣達が知らない間にも、物語は動き始めていた。

 

「…………あれが、星野愛衣……か」

「そこの君ー! 危ないから降りてきなさーい!」

「もうちょっと見せてくれ」

「そういう問題ではなくてね!?」

 

To be continued……

 

──────────────────────────────────

 

 今日の相棒カード!

 

 『相棒狼ランポ』はアタック時にカウントを2つ、コアを1つ増やす使い勝手の良い効果を持つ!さらに系統「碧雷」を持つスピリットのバトル中は相手はフラッシュ以外でマジックを使えない!

 

 相棒狼ランポで、勝利を掴め!!

 

──────────────────────────────────

 

 次回予告

 

 ハイパーアルティメット美少女なお姫様! それがわたし、風花勇樹!

 

 実は本名じゃないんだよね。ウルの言葉に訳しただけー。

 

 って、愛衣が知らない女とつるんでるー!? これは友達として、邪魔な虫は排除しなければ!!

 

 次回!!「もう何があっても受け入れよう」

 

 諦めないで! そんな女よりわたしを選んで!!

 

──────────────────────────────────

 

レイメイミナです。

えー、皆さんは好き嫌いはするタイプですか?私はします。多分皆さんも食べ物に限らず、好きか嫌いかの区別を付けるでしょう。

それが悪いこととは限りません。本当に嫌いだと感じるものは、本能が危険信号を出しているからだとも言えます。

私はこのお話を書いてる途中に嫌いなものがひとつ増えました。それは『バトル描写描き切った後にルールミスが発覚すること』です。

これも悪いことではありません。その分私の実力が上がるので良いことと言えます。しかし私はそれが発覚するとメンタルがボコボコになるタイプの人間なのです。

どうぞ皆さん、じゃんじゃん指摘して私を苦しめてください。Mではありません。

それでは。



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第四話「もう何があっても受け入れよう」

〖注〗本作は「バトルスピリッツ」シリーズを原作とした二次小説です。

 

誤字・脱字・ルールミス等発見しましたらコメントにてお教えください。時間があったら直します。 

 

それと本作はテンポを良くするため、コアや手札などの細かい情報は省いております。お手元にカードを持ちながらご購読するとわかりやすいです。

 

──────────────────────────────────

 

 それは、ある帰り道の事だった。

 一夏、勇樹らと別れ、小腹が空いたのでコンビニで何か買おうかと足を踏み出したとき…………。

 

「見つけたぞ、星野愛衣」

 

 そう、彼女は現れたのである。

 先に言っておこう。このような逢い引きは通算3回目だ。さすがにそこまで経験していれば、この白髪でグレーの軍服っぽい服を身につけている私より1から2歳くらい年下であろうこの少女がどんな存在かはわかる。その上で私はこう思った。

 

『不審者って本当にいるんだな』、と。

 

「え、あ、はい。私が星野愛衣ですけど」

「やっぱりか。昨日はお前の行きつけの場を監視していたが現れなかった。どこに行っていた!」

 

 100%不審者じゃんこいつ。というかその前に私のストーカーじゃん! 怖!?

 

「いや、その日はさすがに勉強やばくて塾に行っただけだけど……」

「そうか。お陰でこちらは警察隊に追い回されてえらい目に遭った。責任を取ってもらおうか」

「いや知らんわ」

 

 ていうか警察隊って言い方何? 戦争の世界の住人だったりします?

 

『この世界の他にも、あと4つの世界があるの』

 

 という私のストーカー1号にして第1の友人の言葉を思い出してみる。もしかしてこの子、そういう系……?

 

「知らんだと? 知らんのは貴様の方だ。貴様が平和を謳歌している中俺がどのような仕打ちを受けてきたと思っている……!」

「それこそ知らんよ……」

「この世界に来て1日目、誰も使っていない森林地帯にテントを立てたら地主を名乗る者にこっ酷く叱られた」

「そりゃそうだろ」

「2日目、護身用の武具を手入れしていたら、警察に捕まった」

「普通に銃刀法違反だよ」

「3日目、お前達を監視する為に高台に登ったら警備に怒られ、再び警察に捕まった」

「そりゃ普通に危ないし中学生くらいの子がそんなところにいたら不審がるでしょうよ」

「そして4日目……お前達が集まっていた店に1日中張り込んでいたら警察に3度捕まった! そこから合わせて7回は捕まっている! どうなっているんだここの警察は!」

 

 そうかそうか、この子はこの世界のルールを何も知らずに来ちゃったタイプの子なんだろう。その状態でここに来てそうしていられる神経の図太さには参るね。というか7回捕まるのはもはや常習犯だよ。何やってんのさ。

 

「だがようやくここで会うことができた。今こそ貴様を、我が母国アルテミスの軍門に下らせる時だ!」

「えっ嫌ですけど……」

 

 こいつも私狙い? 私はどこの桃色姫様かっての。

 

「抵抗するというのなら、俺も武力を以て力づくで連れて帰る!!」

 

 そう言ってこの不審者さんはデッキを取り出してきた。やっぱりか。

 

「武力っていうかバトスピ…………」

「さぁ、いざ尋常に勝負!!」

 

 意気込んでいる不審者さんを横目に、私はすぐ後ろにいたお巡りさんに顔を向けた。これで12回、8回目だっけ? まぁいいや、どうでもいいなそんなこと。とにかくここでもう1回捕まることになるわけだ。

 

「ちょっと君」

「なっ…………」

「あのねぇ。今まで何度も言ってきたけど道端の人にそうやって絡むのは……」

「俗な言い回しをするな。そして神聖な戦いに水を指すな!」

「いやこの国では決闘は禁止なんですけど」

「ということだから。ちょっと署まで来てもらうよ」

「ちょ……ちょ!? 離せー!!」

「行ってらっしゃい」

「君も事情聴取でついて来てもらうからね」

「…………え?」

 

 あぁ、どうにでもなれ。もう何があっても受け入れよう。

 

──────────────────────────────────

 

「じゃあまず、お名前は?」

「ル=ヴィール・エルクルシアだ」

「ご住所は?」

「城塞国家アルテミス、ズボウク市商業区のN3-5-5だ」

「…………ご両親、保護者の名前は?」

「親はいない。保護、管理している存在というのであれば、同じくズボウク市住宅区にある孤児院の院長が該当するが、あそこはもう潰れている」

「はぁ…………」

 

 という会話を恐らく何度もし続けてきたんだろうか、警官達の反応が薄い。いや私もそうだけど、異世界人とのファーストコンタクト相手が王女様だったので幾らかインパクトは薄れている。まぁこれでも驚いてる方。

 

「あのねぇ、こちらとしてもこう何度も君みたいな子をここに連れてくるのは嫌なんだよ」

「だったら連れてこなければいいじゃないか」

「そういう訳にも行かないが我々なの! わかったらもう変なことはしないように!」

 

 その言葉を最後に沈黙が訪れる。警官達はうんざりしている様子で、対するエレクルシアさんとやらはこれ以上言う事なしと言わんばかりに堂々と座っている。

 そして私もまた、この沈黙は気に食わない。

 

「あの、ここからは私がお受けしてもいいですか……?」

「え? いいけど……」

「ありがとうございます」

「なんだと…………?」

 

 警官の人に一言礼を言ってからヴィールちゃんに席を代わってもらう。これは、私の悪癖ってやつかな。

 

「……じゃあ、あの子とはどういう経緯でああなったのですか?」

「あの子とは親戚関係で、今日から家で住むことになったんです」

「現場を抑えた者によると、口論になっていたと聞いています。そこのところは?」

「虚言癖……みたいなものがあるんですよ、彼女。それに年頃ですし、私も段々面倒になって軽く返してたらなんかムキにさせちゃって…………で、そんな感じです」

 

 無論全部嘘である。あの子とは今日が初対面だし、血の繋がりもないし、虚言癖はまだわからないけどまぁ嘘をつくようなノリの人間ではない。

 とにかく今は、何となく説得力のありそうななさそうな嘘で場を切り抜けるしかない。

 

「ふーむ……一応、精神鑑定には異常はありませんでした。幻覚を見ているようなものでも無いし、あなたの発言も合致している。ただどうにも他人行儀な感じで……」

「遠い地域の親戚だから交流があんまりなくて、相談して家が引き取ることになったんです。だから、親がいないのは事実で…………とにかく常識とは斜め上の行動をする子なので」

「うーん…………」

 

 いけるか?

 

「どう?」

「どうかなぁ……」

 

 い、いける?

 

「でもなぁ……」

「うん……」

 

 いけない……?

 

「…………わかりました。君も引き取ったんだから、ちゃんと面倒見ていてくださいよ」

「あ、はい。わかりました…………」

「…………!」

 

 いけ、た。けど…………なんか最後ペットみたいな扱いされてない?

 まぁとはいえこれで取り調べは逃れたってことで、ひとまずは良しとしよう。うん。

 

「ふぅ、よし」

 

──────────────────────────────────

 

「カツ丼、出なかったな」

 

 なんてくだらない呟きをしながら、今はコンビニで惣菜パンをヴィールちゃんと一緒に食べている。ミートソースデニッシュは今日も最高。

 

「なぜ、あのような真似を?」

「助けてあげたのに悪いことしたみたいな言い方やめてよ」

「…………見方によるが、俺はお前のことを襲った。そんな相手に、なぜああやって肩入れをしたんだと聞いている」

 

 対するヴィールちゃんはクロワッサンに豪快にかぶりついている。好物がわからなかったからとりあえず大きめのクロワッサンをあげた。

 

「そりゃさっさとあの状況を切り抜けたかったからね」

「だったら関わる必要はなかっただろうに。俺は今までも自分だけでどうにか切り抜けてきた」

 

 確かに、至極真っ当な言い分だけど。私にだって反論の1つぐらいはある。

 

「私も、できれば関わりたくなかった。でもねぇ、人が連れ去られるのを見るのは気分が悪いよ。お腹の奥がぐるぐるして、心臓が締め付けられる感覚。それと終わらせたい気持ちを擦り合わせて、ああいう形で行動した。それだけのことだよ」

「わからないな、そんな節介を焼いたところで、多くの者はそれを利用してしまうだけだというのに。今だって、俺はお前のその優しさを使って飯を食っているんだぞ」

 

 とはいえ容赦無く食べるその精神はどうかと思う。おかわりでも要求されそうな勢いだな……。

 

「腹を空かせてる人が自分を頼ってるのに、無視するのは酷いと思うからね」

「例えお前が軍人で、俺が敵国兵だったとしてもか」

「じゃあそこに2人きりでこのままじゃガチ遭難コースの山の中という条件を追加しよう」

「勝手に付け加えるな!」

「ふふっ」

「笑うな…………全く、変なやつだ」

「私からすれば君の方が変だけど?」

「ぐっ……」

 

 実際、ノープランでここに来て優雅に野宿生活営めるような図太い神経をお持ちになっているみたいだし。さすが軍服を来ているだけはある、と思う。

 

「言っていろ。お前は、必ず! 我々が…………んぐ、保護するからな」

「とりあえず食べ終わってから言おうか」

「さらばだ。星野愛衣!」

 

 そのままクロワッサンを咥えて走り去ってしまった。どうやらお気に召したらしい。まぁとりあえず、今日はもう遅いし帰ろう。

 

──────────────────────────────────

 

 翌日、休日なので勇樹とカドショ巡りに行こうという話になっていた。

 

「おっはよー! 今日は快晴だねー、まぁエジットの日差しには負けるけどね」

「君さぁ、仕事と称して遊んでるだけでしょ」

「えっへへ。好きを仕事にするのは素敵だと思います」

「それっぽいこと言っちゃってー」

 

 女子高生らしい、らしいのか? いやわからないけど。私達らしい会話をしながら歩き出す。今日はカードショップの名産、大阪の日本橋に行く予定だ。

 

「大阪って、あれでしょ? 『なんでやねん!』ってやつ」

「大阪弁ねそれ。私は大阪といえば粉物と焼きそばのイメージかなぁ、たこ焼きとか」

「粉物かぁ。わたしってそういうの初めてかも」

「エジットには名産とか、そういうのないの?」

「あるとすれば…………ジャガイモぐらいかなぁ」

「ジャガイモかぁ……」

 

 エジットって凄い悲惨な環境なんだな……まぁパッと見で思いつくのは一面砂の砂漠ぐらいなもんだけど。

 

「ところでさ、愛衣」

「ん、何?」

「これってなんかデートっぽくない?」

「デート? 色恋なら告ってから言って」

「おお愛衣よ! 貴女はどうして愛衣なの!」

「それ告白じゃないし。というか私ロミオじゃないし!」

「アッハハ! 毒で倒れるのは御免だよ?」

「やらないよ……」

 

 なんて他愛もない会話をしていたところに現れたのだ。

 そう、彼女が。

 

「また会ったな。星野愛衣」

「フルネーム呼び……」

「誰こいつ」

 

 こいつとか言うなよ王女様。

 

「俺はオリンが誇る12の大国のうち1つ、アルテミスから来た第弐遊撃部隊隊長兼第肆特殊部隊員にして星巫女の1人。ル=ヴィール・エレクルシアだ」

「なんて?」

「今凄い縦文字が通り過ぎてったんだけど」

「人の役職になんてことを……」

 

 この子軍人っぽいとは思ってたけどまさか本当に軍人、いやそれもまさかそんなめんどくさい肩書きの人だとは思わなかった。

 

「今日は星野愛衣、お前に用があって来た」

「あぁ、左様ですか……」

 

 「(よう)」と「(よう)」、そんなくだらんギャグはさておき、用とは?

 

「星野愛衣、俺と一緒に暮らせ」

「………………は?」

「はぁぁぁあああっ!!?」

 

 なんで勇樹が私より驚いてんだよ。いやそれよりも、こいつ何言ってるの!? 何言ってくれちゃってるの!!?

 

「不服か? 人並に家事はするぞ」

「正妻か!」

「ふざけんな正妻ポジはわたしのもんだろうが!!」

 

 こいつもこいつで何言ってんだ。

 

「はぁ…………違う違う。住めるところがないから家に置かせてくれ、ということだ」

「勘違いワード2連発するのやめてくれませんか……?」

 

 全くもう、心臓に悪い。こいつら基本的にこの世界(ここ)と感覚がズレまくってるから会話するの凄い疲れる。

 

「いや、私はいいんだけど……親がどう言うか…………」

「そんなもの銃で脅せばいいだけだろ」

「横暴!!」

「そうだよ義母様は武力じゃなくて言葉で丸め込むべきだよ!」

「なんで肯定的なの?」

「あやべ」

 

 なんなんだこいつ……なんでさっきから私の事付け狙ってるみたいな言動してるんだ……?

 

「とにかく、家主は何とかして説得させるから、これからよろしく頼む」

「あー……はい、よろしく」

「よろしくできません」

「は?」

 

 ちょいちょいちょい、君にその権利はないでしょうが。

 

「愛衣がよろしくしてもなぁ、わたしはよろしくしないんだよ! 突然現れて勝手に同棲しやがって…………許さん!」

「……お前は何を言っているんだ?」

 

 すいません、私にもわかりません。

 

「バトルだよバトル! 私が勝てば同棲の約束は取り消させてもらう!」

「同棲じゃなくて居候でしょ」

「そんなことはどうでもいい!」

「いいだろう。お前達のバトルのような文字通りの『遊び』と、戦争の道具としてバトルしてきた俺とどちらが強いか、決めようか」

「決闘成立! ゲートオープン!!」

「いや私がまだ納得してな──」

「「界放!!」」

「話を聞けー!!」

 

 その瞬間、辺りが光に包まれた。

 ねぇここ公共の場なんだけど。大丈夫? 色々とんでもないことになったりしない?

 

──────────────────────────────────

 

 まぁいいやそんなこと。終わってから何も変わってなければ問題は無し。

 改めて中央から見つめてみると、めちゃくちゃ距離あるなここ。そう思いながらフィールド外の光の道に腰を下ろす。

 ……怖いなここ!?

 

「よしよし、愛衣から色々と教えてもらい進化したこのデッキで、お前をギッタギタにしてやる!」

「やってみろ。俺の軍は強いぞ」

 

 あの子、自分のデッキを軍とか言っちゃうのか。可愛い。

 最初は意識してなかったけど、勇樹の服装はいかにも現代満喫してる風の緑を基調とした私服から、白を基調に、緑のスカーフと金の煌びやかな装飾が施された皇帝を連想するものへと変わっている。私はコート、一夏は巫女服と来て、本人のイメージに近いものがあてがわれるらしい。私のはなんか謎だけど。

 ヴィールちゃんの服装も、グレーの軍服から白の軍服へ。腰にグレーのマント、赤のライン、黒の軍帽と、とにかく『我が軍最高!』的な主張が強いデザインだ。こういうバトルフィールドに来ると服装が変わるみたいなの、めちゃくちゃいいと思う。

 

「星はわたしの方に向いてるから……わたしが先攻で」

 

 2人の服を鑑賞しているうちにバトルが進んでいる。どうやら勇樹の先攻から始まるみたいだ。あいつ、初動ミスらなければいいけど。

 

「スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。早速このカード!「緑の世界」を配置!」

 

 勇樹の後ろに巨大な樹が生え、そこから伸びた根が勇樹側のバトルフィールド全体を侵食した。緑の世界だとこうなるのか……。

 

「配置したときコアブースト! さらに増やしたコアで「相棒狼ランポ」を召喚! これにてターンエンド!」

 

 緑の魔法陣から小さな竜巻が起こり、中心に落雷が落ちる。その衝撃と共に、ランポが出現した。

 よしよーし、ちゃんと緑の世界とランポの同時召喚で始められた。緑の世界は運ゲーだけどね。

 

「スタート、コア、ドロー、メイン」

 

 ステップを省略した効率的な宣言、傍から見ればただの厨二病である。

 

「「相棒機スターク」、出撃」

 

 白の魔法陣が空中に展開され、そこから勢いよく白い影が飛び出し、地上に降り立つ。

 あれこそが事前評価1位の最注目株、相棒機スターク。発売から今日に至るまで、あらゆる白デッキに投入されている。そんなに時間経ってないけど。

 

「スタークの効果、起動。カウントを1つ加え、トラッシュにコアブースト」

 

ヴィール:カウント0→1

 

「白もコアブーストするのかよ……」

「バーストをセットし、ターンエンド」

 

 契約スピリットが抱えるメリットとデメリット、それは『契約スピリット1枚でデッキを特定出来ること』。例えば相棒騎士バットや相棒鳥フェニル、あいつらはその性質上、デッキ構築にかなりの制限が出るから、出た瞬間にデッキが割れる。同様に相棒鮫シャックも基本的には青の蒼波やデッキを早めに掘り進める必要のある海賊キャスゴ等への採用に限定される。

 しかし、それ以外の相棒竜グロウ、相棒狼ランポ、そしてこの相棒機スタークだけは例外(例外多すぎる気もするけど)。グロウはフェブラーニとの併用で、カウント2増やして3ドローできる動きが可能。ランポはアタックするだけで緑デッキでの最低限の仕事をこなせるし、スタークに関しては存在する限り無限にコアを増やすコアブーストマシーンだ。

 つまり何が言いたいかと言うと、この段階ではまだヴィールちゃんのデッキ内容は読めない。銀零だと思って舐めてかかると突然ラグナ・ロックが飛んできてゲームセットの可能性すら有り得るのだ。勇樹はそこを念頭に置いて次のターン、プレイする必要がある。

 

 勝ちたいんだったら頼むので契約煌臨してアタックとか返り討ちに合うから絶対するなよ。ずぇーったいにするなよ!

 

「まぁそれだけなら……よし、メインステップ。『雷雲平原』を配置!」

 

 よし。

 

「アタックステップ、相棒狼ランポで、アタック!」

 

 よしよし。

 

「来るか……」

「アタック時効果! カウント+2してコアブースト、更に雷雲平原の効果でカウント+1!」

 

勇樹:カウント0→2→3

 

「よーしよし、勇樹成長してるじゃん……」

「更にフラッシュタイミング!」

 

 …………うん?

 

「「オオカブト公」をランポに『契約煌臨』!」

 

 ランポが走る勢いのまま目の前に出現した緑の魔法陣を潜り、消えると同時に魔法陣から巨大な羽根を持つカブトムシを模した殼人、オオカブト公が現れた。じゃなくて。

 

「バッカヤロー!」

「うええ!? だってここで攻めたいしコア増やしたいし……」

「アタックする時は相手のライフを減らすことのリスクを! 召喚時効果、煌臨時効果、配置時効果を持つカードを出す時はバーストへの警戒を怠らずにって言ってるでしょ! なんで全部やるの!!」

「うぅ〜……でももう出しちゃったし……」

「うんそれはもうしょうがないけど……」

「説教は終わりか?」

 

 あ、ヴィールちゃんのことほっぽり出してた。

 

「あっ……はい。スミマセン」

「と、とりあえずっ! オオカブト公の煌臨時効果! カウント+1して、スタークを重疲労に!」

 

勇樹:カウント3→4

 

 オオカブト公がその大剣をスターク目掛けて振り被ると、スタークに突然強力な磁場が形成され、地面に叩きつけられた。

 

「よ、よし! これでスタークは次のターン動けない……」

「なるほど、それが狙いか。ならばバースト発動だ」

「あぁ〜やっぱり!?」

「オオカブト公をデッキの下に戻す。更に相棒機スタークがいるため、カウント3を加える」

 

ヴィール:カウント1→4

 

「一気にカウント4!? ……ランポは魂状態でフィールドに残すよ!」

 

勇樹:「オオカブト公」→デッキの下へ(煌臨元のランポは魂状態に)

 

「バーストより出撃せよ、「移動神殿都市エラスパレス」」

 

 白い魔法陣からゆっくりと、背に巨大な都市を乗せたこれまた巨大なサイが歩き出てきた。本っ当にデカい。

 

「うおお、でっか…………」

「背中に神殿乗ってるんだけど……」

「スピリットに驚いている暇があるならターンを進めろ」

「あっそうだった。といってもやれることないし、ターンエンド」

 

 不満気にターンエンドを宣言した勇樹。その顔にはいかにも「カウント追いつかれた〜」という優越感の崩壊が垣間見える。やっぱりこいつ王族だよ。

 

「メイン、スタークの効果を起動」

 

ヴィール:カウント4→5

 

「あちゃー、カブト公の効果で重疲労した時に緑の世界転醒させてれば、効果発揮させずに済んだんだけどなぁ……」

 

 まぁハシビローダー握ってたらその限りでも無いけど。

 

「うぐっ……まぁ後の事はいいよ!」

「バーストをセットし、「フェルマータ銀砂湖」をセット」

 

 ヴィールちゃんの背後に、白いリングに包まれた美しい銀色の砂景色が映し出される。

 

「残りのコアをスタークとエラスパレスに2個ずつ乗せ、エンドステップ。フェルマータ銀砂湖のミラージュ効果を起動。自分の手札が相手以下で、カウントが相手以上であれば、デッキから1枚ドロー。ターンエンド」

「うぐ、ドローまでされた……でもわたしだって負けてない! メインステップ、これも愛衣に教えもらったカード!「テッポウナナフシ」を召喚!」

 

 緑の魔法陣から鉄砲の胴体に昆虫のような細長い脚が生えた生物が出現する。

 ここでアレを引けたのはかなり大きい。手札を破棄するというディスアドバンテージよりも、手札を引き直せるアドバンテージの方が、今は大きい。事故ってる時は尚更だ。

 しかし、ここでもバーストの警戒を怠ってはならない。

 

「手札を全て破棄して、相手の手札の枚数分ドローできる。よって、3枚ドロー!」

「…………バーストは無しだ」

「よし!」

 

 よし、と喜んではいられない。ここでバーストを控えたということは、別の条件、またはここで開いてもメリットが無い状態。1度開けばその後はストレス無く過ごせるが、開かなければまた警戒しなければならなくなる。その心労は計り知れない。ソースは覇王相手にミリ単位でのプレイングを要求された私。

 

「アタックステップ、テッポウナナフシでそのままアタック!」

「ブレイヴ単体でアタックだと……?」

 

 上手いよ勇樹。ダンさんよろしく、勝つためにカードを捨てれるようになってる。まぁ後はナナフシ効果で引いた3枚の内容によるかな……。

 

「フラッシュタイミング、「バインディングサンダー」でドカーン!!」

「おおっ!」

「エラスパレスを重疲労! おねんねしてもらうよ!」

「何っ!?」

 

 エラスパレスの頭上に落雷が落ち、その衝撃で怯んだ隙に磁場が形成され、エラスパレスは立ち上がるのが困難となった。

 しかも、今はカウント4。ということは……。

 

「今度は忘れないよ! 相手のスピリットが疲労したとき、緑の世界の「転醒」を発揮! 来たれ、「緑の自然神」!!」

 

勇樹:カウント4→5

 

 スカーフの煌めきが強くなり、緑の世界の根が動き始める。本体の方に戻り、大樹の中心が裂かれて緑色の門が形成される。そこから現れたのが、全身緑の猿の格好をした巨人。

 

「転醒だと……!? アルテミス軍では多くの敵を倒した撃墜王(エース)だけが所持することを許される強力な効果……!」

「ふふん!」

 

 転醒は異界見聞録シリーズのアニメ内では光主しか使用できない強力な効果とされていた。ヴィールちゃんの世界では、説明の通りの貴重且つ強力なカードなのだろう。

 

「転醒時効果! 疲労してるスタークはデッキの下に戻ってもらうよ!」

「させるか! スタークは魂状態で残す!」

 

ヴィール:「相棒機スターク」→デッキの下へ(魂状態に)

 

「けどこれでブロッカーゼロ! ライフで受けるしかないよ?」

 

 まぁバインディングサンダーはメインステップに打った方が良かったかもだけどね。もうアタックしちゃってるのでこのプレミは伏せておく。

 

「お前如き、ライフを減らさずに勝てると思っていたが……仕方ない。ライフで受ける!!」

 

ヴィール:ライフ5→4

 

 テッポウナナフシが遠心力でヴィールちゃんに突撃する。バリアが展開され、その行く手を阻む。テッポウナナフシは跳ね返されたが、それと同時にバリアは粉々に砕けた。

 

「ッ……! バースト発動! 「クリアウォール」!」

「銀零の防御マジック!」

「ウソっ!?」

「カウント2を加え、ライフを1回復!」

 

ヴィール:カウント5→7

     ライフ4→5

 

 ここでバーストか……一気にカウント7まで伸ばされたのは勇樹的に不味い。もし手札にXレアがあった場合、勝つ可能性が限りなく低くなる。まぁ別に勝っても負けてもどうでもいいんだけど。

 

「うぐぐ……ターンエンド!」

「はぁ……よもやライフを減らさざるを得ないとは、高を括っていたのは俺か……!」

 

 ライフ1つで大袈裟だねぇ君。どんな縛りプレイ?

 

「勝ち目はほぼ0だけど、愛衣との同棲だけは絶対に阻止する!」

 

 そんなに嫌なの? アレと私が一緒に住むの。

 

「寝床が無いのは流石に困る。だからこそこのバトル、勝たせてもらう」

「寝床って……お前がそう思ってる場所がわたし達にとってどれどけ重大な場所か……!」

 

 達……って、勇樹と一夏のこと? いやいや、そんな期待されてもカードしかないって。

 

「メイン。出撃だ、光の如き純白の機神よ。「極光機動スーパー・スターク」を魂状態のスタークに「契約煌臨」する!!」

 

 白い魔法陣が出現し、その中からスタークを模した氷の結晶が出てくる。その氷が変形し、頭部の形になったかと思えば、その下から無数の魔法陣が出現し、巨大なロボットが召喚され、頭部がドッキング。氷に色が入り、極光機動スーパー・スタークが完成した。

 その現れ方はなんというか何処ぞのダイバーズである。

 

「人の話を聞けって…………で、でかっ」

「お前らの事情など知らん。とにかく俺の生命に関わる問題である以上、こちらの意見は貫かせてもらうっ!」

 

 まぁあっちは私利私欲、こっちは生命の危機なんだからキレるのも仕方ないよね。じゃあなんで勇樹は張り合ってんの? こわ。

 

「アタック、スーパー・スタークの効果起動! 系統に「銀零」を持つ全スピリットに白のシンボルを追加! さらに、アンブロックだ!!」

「アンブロック!?」

 

 銀零の事前評価を爆上げした強力なフィニッシャー能力。運営は恐らくバーストスピリットを大量に並べてスーパー・スタークのバフ効果で一斉に殴るっていう動きを想定してたんだろうけど……。

 如何せんスタークの単体性能ばかりが独り歩きして、今の所結果残せてないのが悲しいところだよなぁ。バーストも一弾だけじゃあの程度だし。コンセプトが迷子なんだよね、銀契約。

 

「スーパー・スターク、突貫ッ!!」

「ちょちょちょ、ちょっ。わたしのライフは5! スーパー・スタークはどう見積ってもトリプルシンボル! エラスパレスは疲労してるからこのターンでの勝ちは無理だよ!」

「フラッシュ起動、「白晶防壁」! 回復しろ、エラスパレス!」

「はぁっ!?」

 

 うっわぁ、メインに撃てばいいのに手出しできないのをいい事にフラッシュで撃ちやがった。流石軍人汚い。仁義とか地平線の果てにかなぐり捨ててる。

 

「待って待って、流石にトリプルはちょっと受けるの凄く怖いと言いますかないというか…………」

「受けろ」

「………………。ひゃい…………」

 

 これは怖い。

 

「ッ……! いっっったぁっ!!!」

 

勇樹:ライフ5→2

 

「一気に3つもとか……おかしいでしょ……」

 

 今回は使用してなかったけど、あのスーパー・スタークはオーバーカウントで手札を3枚になるよう破棄する効果も持ってる。ほぼほぼ回避不可能の3点プラス2点ペケエックスが待ってるのだ。普通に考えてイカレてる。そしてこれが大会で活躍できてないのもイカレてる。

 

「エラスパレス、突撃」

 

 その命令に応じるように、エラスパレスが野太い咆哮を上げた。

 

「効果により、回復する」

「こっ、こんなのオーバーキルだあああぁぁ!!!」

 

勇樹:ライフ2→0

 

 

 

「我が軍の、勝利だッ!!」

 

──────────────────────────────────

 

 さて、周りを見てみると…………こっちに気付いてない? もしかしたら認識阻害のようなものが働いてこっちが突然消えたり現れたりしたのを認識出来てないのかもしれない。凄いぞバトルフィールド、全力で都合のいい設計にされてる。

 

「ま、負けた…………!」

「中々骨のあるバトルだった。アルテミスなら軍曹レベルといったところか」

「やった!」

「ちなみに俺は中尉だ」

「あぁん!?」

 

 こらこらナチュラルに煽らない。

 

「そんな階級高かったんだ君。私普通にヴィールちゃんって呼んじゃってたけど」

「呼び名などどうでもいい。俺は名前もロクに呼べず朽ちていった仲間を何人も知っている」

「ハイハイ、暗い話はそこまで。…………で、勇樹はなんでそんな頑なに拒んだの?」

 

 お待ちかねの弁論タイムだ。私本人が了承してるのに勝手に拒否して勝手にバトルして勝手に負けたこいつがなんでそうしたのかを知りたい。

 

「だって……そいつ軍人でしょ? 軍人ってそういう欲が強いから愛衣がナニされるかわかったもんじゃないっていうか……」

「何されるって……?」

「そりゃあセッ──」

「何言っとんのー!?」

 

 勇樹が公共の場でとんでもないことを口走りそうになったので慌てて口を塞いだ。危ない危ない、お子様だっているんだぞ。

 

「するわけないだろ。俺は女だぞ? 女が女に欲情するわけが無い」

「へぇ〜、オリンって遅れてるんだね〜……?」

「ほほほふえるあ。はへえない(頬をつねるな。喋れない)」

 

 頬をつねられてジタバタしてるヴィールちゃん可愛いな。

 

「っ……とにかくそういうことはしないから安心しろ。あとそういう欲は強くない決して絶対」

「凄い強調してるけど……?」

 

 そんなに否定したいのか。私だって強い方だと言われたら反射的に違うって言いそうだけど。というか、大体の人はそうじゃない?

 

「じゃあこれからわたしは愛衣とデートなのでっ! 行こっ!」

「あぁ、うん……なんか楽しみづらいけど……」

「あんな女忘れて”わたしと”めいっぱい楽しもうっ!」

「わかった、わかったから引っ張らないで!」

「はいはーい!」

 

 それからヴィールちゃんのことを埋めるかのようにやたらハイテンションの勇樹に付き合うので必死で、私はヘトヘトになった。

 夕方頃になって勇樹がラブホの予約しようと言い出したから流石に止めた。こいつは私をどうしたいんだ……。

 

「…………あの2人ってそういう関係なのか……? ウルはよくわからん」

 

──────────────────────────────────

 

 疲れ果てて泥のように眠る3歩手前の状態で家に着いたら、玄関前でヴィールちゃんが座り込んでいた。

 

「え……ヴィールちゃん、どした?」

「…………悪戯はやめろと言われた」

「あー…………」

 

 いかにもウチの母が言いそうなことだ。

 

「私の部屋、2階の窓開けてあげるからそこから不法侵入しちゃって」

「いいのか?」

「いいよいいよ。別世界から来たんだから法なんて適用されません」

「かたじけない……!」

 

 それから、私と母親から身を隠すヴィールちゃんの共同生活が始まりましたとさ。めでたしめでたし。

 

To be continued…………

 

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 今日の相棒カード!

 

 今日の相棒は、「相棒機スターク」!

 

 毎ターンに1度、カウントとトラッシュにコアを追加! しかもアタック時、手札かトラッシュの「銀零」を除外することで、バーストを無条件に使用可能!

 

 スタークを使って、キミだけのデッキを作り出せ!

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 次回予告

 

 皆さんは絶対に怒らせたらいけない存在ってありますか?

 

 姉? 母? それともマナーの悪い客? どれもありますけど、1番は…………。

 

 次回、「この人は怒らせたら不味い」

 

 お楽しみに!

 

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あとがき

投稿遅れてごめんなさい! 普通にサボってました!

寒さでやる気というやる気が削がれてしまい、動画編集と共に創作意欲が削がれてました。

 

おかげで前後の噛み合いがちょっと…………「あ、この辺りからサボってたな」っていうのが一瞬でわかるかもしれません。

 

サボりまくってた影響か、こっちはまだ2色分の販促が済んでないのに最終弾のグロウが公開されてしまいました。このままじゃ、アカン。

 

次はなるべく早く投稿しますので、どうかお許しを。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!



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