10年越しの再会 (幸(pixivでも活動中))
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10年越しの再会

―エドラスから魔力が失われて、10年―

 

「―――すみません…

お聞きしたいことがあるのですが…」

 

城の門番に話し掛けたのは

淡い色のフードを深くかぶった女性だった…

フードの隙間からは隠し切れない

紺色の長い髪がサラサラと流れていた

 

「怪しい奴だな…」

「…この城に、ミストガ………

いえ、ジェラール陛下はおられますか?」

「…何故、お前のような不審者が

陛下に会おうとする…?」

「…私は17年前、親に捨てられ

路頭に迷っていたところを

陛下に救って頂きました…

だから…御礼を言いたいのです」

「………城に入ることは許すが

不審者として捕らえたということにさせてもらう…」

「はい、それで構いません…」

「では、着いて来い」

「はい…

(ミストガン……やっと、会えるんだね…)」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

私はジェラール……エドラス王国の王だ

 

「……父上、何故…貴方は

あのようなことを言ったのですか…?」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

少し前に連れ戻した父は病魔に蝕まれていた…

 

「おお……ジェラール、か…」

「父上…」

 

衰弱しきった体は…父の命が

もう長くないことを示していた…

 

「儂は、夢を見た…」

「夢…?」

「…10年前、儂の野望を砕いた3人の滅竜魔導士…」

「………」

「その中に…少女がいた筈だ…」

「…ウェンディがどうかしたのですか?」

「夢の中で…その少女が儂に語り掛けてきたのだ…

『もうすぐ、そっちに行くから…

だから…待っててね、ジェラール』と言っていた…」

「…!ウェンディが……?」

「…お前はあの少女のことを

今も尚、愛しているのだろう…?

 

……儂の…最期の……願い…だ…

せめて……幸せに………なりなさ………

 

…………………………」

 

私の手から父上の手が力なく滑り落ちた…

 

「っっ………父上っ!!」

 

何度呼びかけても返事はなかった…

私の父であり前国王でもあった

ファウストは……今、息を引き取った…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「……ウェンディ…

君は、本当に来る気なのか……?」

 

私の私室に向かって来る足音が聞こえた…

人数は……3人、か…?

2人は兵士、もう1人は……誰だ?

 

「…失礼します、陛下

不審者を捕まえたのですが…

この者はどう致しましょう…?」

「……………」

 

入ってきたのは兵士2人と

フードを表情が確認できない程深くかぶった

体のラインから女性と分かる少し小柄な人物…

女性のフードからは紺色の長い髪が

サラサラと流れていた…

 

「………(まさか…)」

「……ミスト…ガン……なの…?」

「!」

 

女性の口から零れたのは、柔らかな声…

その人物が呼んだのはアースランドで

私が正体を隠す為に使っていた名で……

その声を聞いて、私は一歩、また一歩と歩み寄った…

 

「ミストガン…?何を言っているんだ、この女は!

この方は!ジェラール陛下だ!」

「…知っています

17年前…陛下は私にそう名乗ったのですから…」

「そうか……知った上で違う名を呼んだのか……

…その罪、万死に値する!」

 

兵の1人が剣を振り上げるのが見えた

 

「待て!」

 

剣の切っ先がフードの女性に………

 

「っウェンディ!!」

 

ウェンディが口元を緩めるのが分かった

隠し持っていたナイフで剣の矛先をずらし

剣が衣服を少し切り裂くのも構わず、

私の元へ走り寄ってきた…

 

「ミストガンっ!」

 

そう言ってウェンディは私に抱きついてきた…

勿論、私はそれをしっかりと受け止めた

抱きついた拍子にフードが外れ

隠されていた顔が露になった

 

鳶色の大きな瞳…

紅く上気した頬…

薔薇色の唇…

 

間違いなく、私が別れても尚

愛し続けたウェンディ・マーベルだった…

 

「陛下!その女からお離れ下さい!」

「…いや、この娘は私の知り合いだ

少し二人で話をする時間が欲しい……人払いを頼む」

「わ、わかりました!おい、行くぞ!」

「あ、ああ…」

 

兵士達は去って行った…

 

「……ミストガン…」

「ウェンディ……綺麗になったな…」

「ミストガンは…王様っぽくなったね」

「ところで、どうやって

アースランドからエドラスに来たんだ…?」

「…空間を捩曲げる魔法を

ある魔導士に使って貰ったの…」

「そうか、妖精の尻尾の皆は…?」

「………」

「…ウェンディ?」

「私一人で来たの…」

「……一人で…?」

「…うん、皆…結婚したからね…」

「結婚?」

「ナツさんには幼なじみのリサーナさん

ルーシィさんには星霊でもあるロキさん

グレイさんにはジュビアさん

ミラさんにはフリードさん

エルフマンさんにはエバーグリーンさん

ガジルさんにはレビィさん

アルザックさんにはビスカさん

 

そして、エルザさんには…

アースランドのジェラール…

 

…皆が幸せになっていくのを見て

私は胸が苦しくなっていくのが分かったの…

どうして私は幸せになれないんだろう…

アースランドにもジェラールはいるけれど

彼はエルザさんのことが好きだったから…

 

私が大好きだったジェラー………ん~ん、

ミストガンに会いたいな…って思ったの…」

「ウェンディ…」

「どうしたの?ミストガン」

「私は、ジェラールだ…」

「…え?」

「また昔のように…

ジェラールと呼んでくれないか…?」

「……ジェラー…ル…っ」

 

ウェンディは私の背中に腕を伸ばしてきた

 

「ウェンディ……リリーと…シャルル、

あの二人はどうしている?」

「リリーは相棒のガジルさんを見守ってるよ

シャルルとハッピーも結婚したんだ…」

「アースランドには…戻れるのか?」

「……戻る方法なんか無いよ…

妖精の尻尾を脱退して…

皆、少し悲しんでたけれど…

笑顔で送り出してくれた…

 

…あと、グランディーネと別れるのも辛かった…」

「グランディーネ?」

「天竜グランディーネ…

私に滅竜魔法を教えて育ててくれた…お母さん…」

「………」

「『どんなに離れてしまっても

例え一生会うことが出来なくても貴女は私の娘……

だから、幸せになりなさい』って…」

「ウェンディ……すまない…」

「…ジェラール……大好きだよ…」

「……私もだ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

その後ウェンディを解放して

城の散歩をさせたのだが…

散歩を終えて帰ってきた

ウェンディは顔を真っ赤にしていた

 

……人払いを頼んだはずだったが何故か城中の人間に

一部始終を見られてしまったようで

かなりの人数に質問攻めにされたらしい…

『陛下にはこんな素敵な恋人がいたのか』やら

『結婚はいつですか』やら…

 

「……………」

「ウェンディ」

「…?」

「私と結婚してくれないか?」

「っっ………!!?」

 

顔がこれ以上ないという程真っ赤になった

 

「駄目か…?」

「ぇ……あ、その…っ!」

「…ウェンディ……」

「…ジェラー…ル?」

 

ウェンディの耳元に唇を寄せ…

 

「愛している」

 

そう囁いた…

直後に耳まで真っ赤になった

ウェンディは倒れてしまった

 

…すぐに返事を聞くことができなかったのは残念だが

目覚めた時の彼女の反応が楽しみで

自分のベッドにそっと横たわらせた…

 

ウェンディの額にキスを落とし

傍のソファーに腰掛け

彼女が目覚めるのを待つことにした…[newpage]

私は気絶したウェンディをまじまじと見ていた。

…そして、そんな私を扉から見ている城の者達……

私は『見るな』という意味を込めて睨んだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

(グランディーネ……

どこ行ったの?グランディーネ…)

 

大好きな…突然いなくなってしまったグランディーネ

……泣いていた時、出会ったのは旅をしているという

男の子だった。名前は……ジェラール…。

大好きだった……ずっと一緒にいてもいいか

聞いてみたら、『勿論』と言ってくれた。

だから…信じてたの、ずっと一緒にいられるって……

…だけど、貴方は私に別れを告げた。

すごく辛かった……どうしてグランディーネも

ジェラールも私の元から去っていくのか、

わからなかった…

 

(……会いたいよ、ジェラール…っ!)

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ん……」

「…ウェンディ、起きたのか?」

「…!ジェラールっ!!」

 

私は思わずジェラールに抱きついた。

 

「…ウェンディ…?」

「ジェラール…!」

「…どうか…したのか?」

「っ……!!」

 

夢の影響を受けて抱きついてしまったけれど、

私はそこでやっと思い出したの。

どうして気絶したのかを…

 

―私と結婚してくれないか?―

―愛している―

 

顔が赤くなっていくのがわかったから、

すぐにジェラールから離れた…

 

「ウェンディ?」

「ぁ、…う……」

「…エルザ・ナイトウォーカーはいるか?」

「何でしょうか」

「その扉の前にいる全員を

自分の持ち場に戻らせるんだ」

「わかりました」

 

「ウェンディ」

「………」

 

とりあえず私は顔を背けた。…けど、

ジェラールは背けた顔を指で持ち上げて……

固まってるとジェラールが顔を近づけてくるのが

見えたから、ベッドの奥へ逃げようとしたら

後頭部を押さえられて……唇同士が

触れる寸前で止まった。…目の前には

微笑んでいるジェラール…

 

「…驚いたか?」

「………」

 

ちょっとだけ…本当にちょっとだけ期待してたから

少し怒って頬を膨らませた。

 

「…嗚呼、なるほど…」

 

低く笑って、頬に唇を当てたジェラール

 

「………」

「唇がよかったんだな…?」

「っっ………!」

「ウェンディ……

言わないと何もわからないだろう?」

 

…とりあえず、アースランドでもエドラスでも、

ジェラールは変わらないんだなぁ…と思った。

どっちも本命に対して意地悪だから…

 

「…ウェンディ?」

「……………まだ、いい…」

「そうか…」

 

数回、深呼吸をして気持ちを落ち着けた。

 

「…ジェラール、私ね…まだ一応魔力はあるんだ」

「………」

「けど、使わないし使えない……使う気も無いの」

「……ウェンディ」

「もうエドラスは魔力が無い世界だから…」

「…ありがとう…」

「ジェラール…」

「なんだ?ウェン…っ」

 

一瞬だけジェラールの唇を塞いだ…

直後、多分離れないように後頭部に手を当てられた。

 

「……え…」

「…お返しだ」

 

唇を押し当てられた後、少しだけ舐められた…。

唇が離れて安心した瞬間、抱き寄せられた。

 

「…ジェラー…ル……」

「…愛している…」

 

何故か、すごく甘い声でそう言われた。

……心臓が、壊れそう…

 

「もう一度言う。…私と結婚してくれないか?」

「ジェラール……わ、私…」

「………」

「ジェラールの事が、好き……大好き…っ」

「…それは、承諾と受け取っていいのか?」

「………うん…っ」

「…嬉しいよ、ウェンディ」

「……すごく、恥ずかしい…っ」

「こういう事に慣れていないんだな…」

「うん、それに…っ」

 

私は外へと繋がる窓を指差した。そこには、

沢山の人がこっちを凝視している姿があるから…

 

「………ね?」

「………ああ…」

 

ジェラールが遠い目をしていた。チャンスだと思って

ジェラールの頬にキスをしようとしたら、

すぐに気付かれて片腕を掴まれて……

頬を舐められた後、キスされた…。

…絶対にジェラールには敵わない、

そう思った瞬間でした…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ジェラールは王様だから、

私だけに構っていられない……

ちょっと寂しかったけれど、

ジェラールの後ろ姿を見送った。

 

「……………」

 

…まだ私の部屋が無いからジェラールの部屋で

一月程過ごすことになるらしいけど………

それって、寝る時も…だよね…?

……幼い頃は毎日一緒に寝ていたけど、

今…一緒に…寝れるのかな…?

想像したら、目の前が真っ暗になった…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ディ……ウェンディ…」

「っ……?」

「大丈夫か?」

 

映ったのは、超至近距離のジェラールの顔

 

「……!!」

 

逃げようとしたけど、動けない……

理由は、お姫様抱っこされてるからで…

 

「ただいま、ウェンディ」

「……おかえり、なさい…」

 

ソファーに降ろしてもらえたから、気絶する直前に

考えた事を話すことにしたんだけど…

 

「ジェラール…」

「なんだ?」

「あの、本当に……

この部屋で一月も……一緒なの?」

「…嫌なのか?」

「い、嫌じゃないけど……

すごく…恥ずかしいから…っ」

「…ウェンディの意思次第で

別の部屋にすることもできる」

「!じゃ、じゃあ…」

「だが、そうなると俺は寂しいな…」

「!!」

 

少し悲しそうなジェラール……

そんな顔されたら断るなんて出来ないよ…っ

 

「ジェ、ジェラール…」

「どうした?」

「わ、私……一緒の部屋が、いいな…」

 

勇気を出してそう言うと

ジェラールは微笑んでくれた…

 

「ウェンディ…」

「…?」

「食事と入浴、どっちを先にしたい?」

「?…食事…」

「わかった、…入って来てくれ」

 

部屋に入って来たのは…

専属のコックさん?と豪華な料理で…

 

「陛下、この女性が…?」

「ああ」

「綺麗な御方ですね……

この方が王妃となるなら、皆も納得でしょう…」

 

王妃?……私が?王妃って何だったかな…?

…あ、王様のお嫁さんだ!

………ジェラールって、本当に王様なんだね…

 

「ようやく御結婚相手を決められましたか、

皆の苦労も浮かばれますな…」

「そうだな…」

「…ジェラールって、

どうして今まで結婚しなかったの?」

「…それは、」

「陛下が見合い話を断り続けたからですよ」

「え!?」

「『初恋の少女が忘れられない』と

言っておりましてな…」

「…あの、まさか……ジェラール…?」

「君の事に決まっているだろう?ウェンディ…」

「…!!」

 

体温が一気に急上昇した気がする。

 

「お熱いですな、

では邪魔物は退散するとしましょうか…」

 

ジェラールの顔を見てられなくて、

食事に集中することにした…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「美味しかった…」

「それはよかった」

「………」

 

ジェラールは食事をしている間、

殆ど私の顔だけを見ていた気がする…。

 

「ウェンディ」

「…?」

「一緒に入るか?」

「………何に?」

 

…なんとなく、答えはわかってた。

けど、当たらないで欲しかったの…

 

「バスルームだ」

 

当たって欲しくなかったのに…!!

 

「…え、遠慮します…」

「何故だ?」

「…アースランドから、

何も持って来れなかったから…」

 

要するに『着替えが無い』ということで……

『きっと諦めてくれる』

……この時の私はそう思っていた…

 

「………」

 

何か考えている様子のジェラール

 

「…ココの服を借りて来る」

「……えぇ!?」

 

ジェラールは部屋から出て行ってしまった。

…そんなに私と入りたいの!?

 

―数分後―

 

「ウェンディ……ウェンディ?」

 

とりあえず私はベッドの下に隠れていた。

…けれど、すぐに見つかってしまって…

 

「ココに何着か貸して貰った」

「ジェ、ジェラール……私、

今日はお風呂は…いいから…っ」

「…?」

「私、もう眠たくて…」

「…じゃあ、俺も寝ることにする」

 

どこに行っても爆弾しかない!!

確実に毎日これが続くんだよね…!?

…慣れないと、ダメ…だよね…

 

「………ジェラール」

「どうした?」

「先にお風呂、入ってて欲しいな…。

私、少し時間が経ったら入るから…」

「…わかった」

 

―数分後―

 

少し破れてしまったローブと下着を脱いで、

バスタオルを体に巻き付けてバスルームに向かった…

少し広い浴槽に浸かったジェラールがいた…。

………ジェラールも、オトコノヒトなんだね。

改めて実感して少し赤くなった…

 

「……………」

「ウェンディ、体でも流そうか?」

「だ、大丈夫!!」

 

ジェラールに背を向けて、スポンジに

ボディーソープを垂らした後、

泡立てて体に擦りつける。

…ただ、それだけの行為なのに

ジェラールの視線を感じる…。

ちょっと後ろを向いたら視線が合った。

…なんとなく気まずくなって体を洗う作業に戻った。

…暫くして、シャワーで体中の泡を落とした。

次は髪を洗わないと……シャンプーと

コンディショナーは見つかった。……頑張らないと!

 

*~*~*~*~*~*~*

 

シャワーで髪を洗い流して、

顔に付いた水滴を払うように

数回顔を横に振った。すると…

 

「…色っぽいな」

 

ジェラールがそう呟くのを聞いた。

…浴槽に入りたいけど、それはジェラールの傍に

行くということで……だけど、こういう事は

毎日続くだろうから慣れないといけなくて…っ

 

「っ…ジェラール」

「なんだ?」

「…私がそこにいる間、後ろ向いてて…」

「……………わかった…」

 

私はほっとして浴槽に体を沈めた。

ジェラールは言われた通りに

後ろを向いていてくれてる。…記憶にある限り、

彼の髪は跳ねてたけれど今のジェラールの髪は

まとまっていた。その髪に触れてみたいという衝動を

抑えて、浴槽から上がった。

 

「先に上がらせてもらうね…」

「ああ」

 

バスルームから出て着替えを済ませる。

部屋で暫く待ってるとジェラールが

バスローブ姿で上がってきた。

それを見た私は瞼を指で擦った…

 

「眠いのか?」

「……うん…」

「じゃあ、もう寝るか?」

「……うん…」

 

頷くとベッドに入るように促されたから、

ゆっくりと布団を体にかぶせた。

眠る為に瞼を閉じて……頭に何か硬い物が当たった。

何かと思ってみると、ジェラールの胸板…

 

「…俺の事は気にしなくていい」

「……………」

 

絶句する私をどう思ったのか、私を抱き寄せて…

頭を何度も撫でてくれた…。すごく恥ずかしいけれど

それと同時に同じくらい幸せ……

少しウトウトしてきて、瞼が重い…

 

「…おやすみ……ジェラー…ル……」

 

私はそう言って眠りについた…。

 

「おやすみ、ウェンディ…」

 

ジェラールがとても優しげな声で

そう言った事を私は知らない……

 

*~*~*~*~*~*~*

 

眠りについたウェンディ……

穏やかな寝息を立てて眠る彼女を見て

ふと昔の事を思い出した。

 

(そういえば、17年前も

こうして一緒に眠っていたな…)

 

紺色の髪に触れ、口付けた…

 

(随分と、大きくなったものだ…

あんなに幼かったというのに…)

 

思い出されるのは幼い彼女と旅した日々

そして…彼女をギルドに預け、別れたあの日………

仕方がなかった。自分はアニマを塞ぐ為に

アースランドに来ていたのだから……

まだ幼いウェンディを危険な事に巻き込むのは

駄目だと思った。だから……離別を選んだ。

 

「………すまなかった…」

 

だが、もう何があっても手放さない…

そう強く誓って眠りについた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

鳥の囀りで目が覚めた

腕の中にいるのは、幸せそうな寝顔のウェンディ……

自然と笑みが浮かぶのがわかった

 

「………さて」

 

ウェンディが起きてしまう前に

色々とやらなければならない事がある

早く済ませなければ…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…っ………」

「起きたか?ウェンディ」

「…ジェラー…ル…?…あれ?ここは……」

「…まだ寝ぼけているようだな

顔を洗って、これに着替えて来るといい…」

「…うん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

蛇口を捻って水を出し、顔を洗った

 

(そうだ……私、エドラスに来たんだ…)

 

顔と手に付着した水滴をタオルで拭き取って

服を着替えた後、部屋に戻った。

 

「おはよう、ジェラール」

「…おはよう、ウェンディ」

 

ジェラールは余所行きと思われる服装で

サングラスをかけていた。

 

「ジェラール、どこかに出掛けるの?」

「ああ、ウェンディも来るだろう?」

「え……いいの?」

「というより、来てくれないと困るんだ

今日は君の為に出掛けるのだから…」

「私の為…?」

「主に君の衣服や下着を買おうと思っている」

「し、下着!?」

「君の下着を俺が買うのは流石に嫌だろう?」

「私も一緒に行く!」

「では、行こうか…」

「うん!」

 

差し延べられたジェラールの手を握った…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―城下街―

 

なんか、道行く人々に

ジロジロと見られている私達…

 

「……ジェラール。もしかして

私達の事…ばれてるの?」

「…ああ、私の事は確実にばれている。

だが、ウェンディ…君の事は知らないはずだ

だから…私と一緒にいる君が珍しいのだろう」

「そ、そっか…」

「………ウェンディ…」

「どうしたの?ジェラー…」

 

握っている手を突然引き寄せられて

バランスを崩した隙に唇を重ねられた。

………街中で、公衆の目の前で…

 

「ジェ、ジェラー……ル…っ」

 

唇を離された直後、私は体を離そうとしたけれど

ジェラールの力が弱まることはなくて…

施された2回目のキス

…けど、それは凄く荒々しくて……

舌を侵入させて絡ませる…

所謂ディープキスと呼ばれるものだった

 

「…ン………ふ…ッ」

 

離れたくても後頭部は押さえられていて……

角度を変えながら施される濃厚な口付け…

だんだん白い靄みたいのが見えてきて……って、

ダメ!このままじゃダメ!

躊躇ったけど、ジェラールの舌を少し強く噛んだ…

 

「っ……!」

 

ようやく離れてくれたジェラール

 

「…ジェ、ジェラールの…いじわる…っ」

「……すまない。だが、君が

あまりにも可愛らしかったのでな…」

「いきなりなんて、ひどいよ…」

「…例え街中であっても、

君に了承さえ得ればいいのか?」

「!!」

「…どうした?」

 

…ジェラールは、意地悪だ…

この10年で凄く意地悪になってる…

 

「…ウェンディ?」

「…いきなりで、いいけど……

あまり人目が無い所がいいな…」

 

そう言うとジェラールは嬉しそうに微笑んだ

 

「わかった」

「じゃあ、早く行こう…?」

 

一刻も早く、この好奇の視線から抜け出したくて

私は速足で歩き始めた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

衣服(と下着)を買ったんだけど、

とにかく私は一刻も早く帰りたかった

いや、だって衣服を買うのはともかく、

ジェラールはランジェリーショップにまで

着いて来たんだよ!?

恥ずかしいし恥ずかしいし恥ずかしいし……

下着を選ぶ所も見られるし………

 

ジェラールは『男性が女性に

服のプレゼントをするのは脱がせたいから』って……

帰っても何をされるかわからないよ~!!

助けて、グランディーネ…!

 

そんな事を思っていると…

 

「…大丈夫だ。君が

了承するまでは、絶対に手を出さないから…」

「…うん!」

 

安心してジェラールに抱きつくと、

離れようとした時に一瞬だけ唇を重ねられた。

 

「ウェンディ、愛している…」

「…私もだよ、ジェラール…」

 

二人で手を繋いで、帰る為に歩き出した…

 

(正直に言うと手を出したいのは山々だが、

こちらの一方的な気持ちでそういう事をするのは……

やはり互いの合意の上でなくてはな…)

 

ジェラールがそんな事を考えていたなんて、

私は知る由もなかった…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

…今、私はジェラールと一緒に

バスルームの浴槽にいます。

さらに詳しく言うと、

後ろから抱きしめられている状態で……

ものすごく恥ずかしいです…。

早く、この状況から抜け出したい…

お互い殆ど裸で…

後ろから抱きしめられてるって、

なんだか危ない状況だと思うのは私だけかな…?

 

「…ウェンディ…」

「っ!!」

 

み、耳元で甘い声で囁かないで…!

すごく心臓に悪いよ…

 

「今、何を考えているんだ…?」

「…ジェラールは本当に意地悪になったね」

「ウェンディ限定だ…」

 

耳に息を吹き掛けられて

なんか背筋がゾクゾクした…

 

「ジェラー……っ!」

 

今度は耳朶を甘噛みされて軽く舐められた…

 

「…んっ……!」

 

必死に声を抑えると

聞こえてきたのはジェラールの笑い声…

 

「…感じたのか…?」

「!!ち、ちがっ…!」

「じゃあ、いちいち可愛い反応をしないでくれ…」

 

その後に付け加えられた言葉を聞いて

私は顔が真っ赤になるのを感じた…

 

―襲いたくなる…―

 

恐る恐る後ろを見ると、

そこには少し微笑んでいるジェラールが……

ただ、ちょっと目が変なだけで…

いや、身の危険を感じる程で……

 

「あの……ジェラール?

手は出さないって、言ってた…よね?」

「ああ、君が了承するまでは手を出さない」

 

確認して、少し安心したのも束の間…

 

「だが、我慢するのが大変なんだ…」

「は、離して!ジェラールっ」

「嫌だ、と言ったら…?」

「………手は、出さない?」

「…ああ、約束する」

「……なら、いいよ…」

「………こっちを向いてくれるか?」

「………うん…」

 

向かい合わせの状態で抱きしめられ、

黙ってしまったジェラール…

居心地悪いし、恥ずかしい…!

突然、体同士が離れて温もりが消えた。

何かと思って彼の名を呼ぼうとしたら

 

「ジェラー……っ!?」

 

胸元に、違和感…

見ると、ジェラールが私の胸元にキスを落としていた

バスタオルのすぐ上、胸を見られていないと

少し安心して……さらに違和感を感じた。

 

………吸われてる…?

え、ジェラール?手を出さないって

そういう事はしないってだけで、あの…

愛情表現はどんな事をしてでもするって事?

 

「…ジェラール、何…してるの?」

「………」

 

ジェラールの唇が胸元から離れた

私の胸元には紅い痕……

所有印とかキスマークとか

呼ばれるものが刻まれていた…

 

「……ジェラー…ル?あの……こ、これ…」

「君が俺のだという証拠だ」

「っ……!」

「…俺はそろそろ上がるが、

君は気持ちが少し落ち着いてから

上がって来るといい」

「……うん…」

 

バスルームから出て行ったジェラール

 

「……………」

 

胸元の所有印を指でなぞった。

感じるのは愛されている実感と幸福感…

 

「だけど、やっぱり

ジェラールは……意地悪になったね…」

 

そう呟いた後、

脱衣所から出て行くような音が聞こえたから

私も腰を上げて、脱衣所へ向かった…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

パジャマを着て、髪を乾かしてから

ジェラールの待つ部屋に戻った。…だけど、

 

そこにいたのはバスローブ姿のジェラール

……そして、知らない紅い髪の女性だった…

 

「ジェラール様、何がしたいですか?

私(わたくし)、ジェラール様の為なら

何でもしますわよ?」

「………」

 

硬直して動けない私に気付いた女性は

 

「あらあら、こんな汚らわしい方が

王城にいるなんて……貴女は

お呼びではありませんことよ…!

すぐにこの城から出てお行きなさいっ!」

「………っ…」

 

涙が、零れ落ちた…

ジェラールに顔を見られたくなくて、

部屋から…城から走り去った…

 

「ウェンディっ!!」

 

ジェラールの引き止める声が

聞こえたけれど、無視して走り続けた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

走って走って走って……走り疲れて、

浅い呼吸をしながら、ゆっくりと歩く…

 

「……私、ジェラールと釣り合わないのかな…?」

 

シャルルがいてくれたなら

慰めの言葉をかけてくれたんだろうけど、

もう会うことはないから……

 

「………ジェラー…ル…っ」

 

涙が、溢れた…

とめどなく溢れて、止まってくれなくて…

 

「…わたしじゃ、だめ……なの…?」

「そんな事はない…」

「っ誰!?」

 

聞こえた声に驚いて、振り向かずに

少し大きな声でそう言うと

誰かに後ろから抱きしめられた

 

この、香りは……

 

「……ジェラー…ル?」

「…ああ」

「あの女の人は?親しいなら、

ちゃんと仲良くしないと……」

「…あの女性は見合いを断った者達の中の一人だ」

「……?」

「俺が一方的に断って腹が立ったのだろう。

城に押しかけるようになってな…

だが、君にプロポーズしたことを話した」

「………」

「…もう城に来ないよう言っておいた」

「………」

「…ウェンディ…?」

「……私……ジェラールと釣り合」

 

『釣り合わないよね』

そう言おうとしたら、強引に

体をジェラールの方に向かせられて

キスで言葉を封じられた…

 

「っ……!」

 

さらに涙が零れ落ちたのがわかった

 

「………そんな事はないと言っただろう…?

俺が君を選んだのだから……

『釣り合わない』というのは周りの勝手な意見だ。

君が気にする必要はない」

「……でも…っ」

「…ウェンディ、泣かないでくれ…」

 

そう言ってジェラールは

目尻に溜まった涙を舌で舐め取った後、

私の体を強く強く抱きすくめた

 

「……ジェラール…」

「…ウェンディ、何があっても

俺は君を手放すつもりはない」

「…あり、がと…っ」

 

私は知らなかったけれど、

その時ジェラールは冷たい目である一点を見ていた。

そこにいたのは、さっきの女性…

 

「……ジェラール、さま……お幸せに…っ」

 

女性がいなくなって

ジェラールは私を抱く力を強めた…

 

「っ…ジェラール…?」

「…ウェンディ、

悲しい思いをさせてしまってすまない…」

「大丈夫だよ…」

「……そうか」

「……ちょっと、苦しい…」

「すまない…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ウェンディ、安心して眠るといい…

君は…俺が守るから……」

「……ジェラール、あの……」

「どうした?」

「…覆いかぶさられてる状態で

私が眠れると思うの…?」

「………すまないが、

今日一日我慢してくれると助かる」

「……わかったけど…

恥ずかしくて眠れないよ…」

「………早く眠らないと…」

 

ジェラールは私のキャミソールの内側に

手を侵入させて、ブラジャーで隠されている

胸を撫で回した…

 

「…今から俺が

しようとしていることは、理解できるだろう…?」

「っ…ジェラールは

そんなことしないって信じてるから…」

 

そう言うと、ジェラールは笑みを浮かべた。

 

「…我慢の限界かもしれない…」

 

ブラジャーの外側にあった

ジェラールの手が少し内側に入っ、て…?

 

「ジェラールっ!?」

 

混乱してきて、彼の名を呼んだ直後、

唇を塞がれて……舌で唇を舐め上げられた…

一旦離れたジェラール…

……私、すごくドキドキしてる……だけど、

 

「ジェラール、眠れば…いいんだよね?」

「……………ああ」

「私…寝る事にするから、あの…

できれば、離れて…欲しいな…」

「………嫌だ」

 

そう言ってジェラールは私の胸に触れていた手を

服の内側から引き抜いた…

 

「ウェンディの姿を真近で見ていたい」

「……わかった、この状態で寝てみる…」

「……ああ」

「お、おやすみ…」

 

体を撫で回されたり、

あちこちにキスされたりするのを

必死に我慢し続けて、いつの間にか私は眠っていた…

 

―ジェラール視点―

 

ウェンディが眠ってしまった…

 

「………」

 

彼女から体を離して

隣で仰向けの状態で天井を見上げる。

 

(………明日から、

ちゃんと我慢できるか不安でならない…)

 

隣のウェンディの寝顔を見た。

 

(眠ってくれなかったら、恐らく………)

 

…とにかく精神的に強くなろう。

そう思って、寝る事だけに集中した…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

…目が覚めた。

少し暗いが、どうやら朝になったらしい…

隣に寝ているウェンディを見た。

………昨晩、襲いかけたからか

罪悪感しか沸いて来ない…

もう少し一緒に眠っていたいが、

……俺が何をするかわからない…

名残惜しいが、ベッドから起き上がり、

衣服を着替え、書き置きを残して部屋から立ち去った

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「……ん…」

 

目覚めると、隣にいたジェラールがいない…

 

「………」

 

少し沈んでたら、書き置きを見つけた…

 

「『行ってくる

昨晩はすまなかった』…?」

 

昨晩?昨晩、昨ば………

………絶対、思い出さない方がよかった…!

とりあえず、買って貰った服に着替えたけど

 

「………」

 

退屈で…否応なしに思い出してしまうのは

昨晩……寝る直前に、襲われかけた時の事…

 

「………っっ」

 

お風呂では、まだ大丈夫だったのに…!

……あれ?私、お風呂で何かされたような…

 

―君が俺のだという証拠だ―

 

「っ……!!」

 

確認の為にキャミソールの下の肌、

胸元を見ると…紅い痕があった…

 

「これって………キスマーク、だよ…ね?」

 

普段は見えない場所に付けてくれた事は

嬉しいけど、その…気付くと恥ずかしい…!

 

多分、私の顔は耳まで真っ赤だと思う…

今日、ジェラールとどんな顔して話せばいいの…!?

 

*~*~*~*~*~*~*

 

今日分の仕事が終わって私室に戻るところなんだが…

ウェンディにどのような

顔をすればいいのか全くわからない…

……共に入浴する事や寝る事は

はっきり言って、かなり……きつい…

まだ初日は大丈夫だった。

だが、昨晩から非常にまずい事になっている。

 

「………」

 

あれこれ考えている間に

私室に着いてしまった。仕方ない…

 

「…ウェンディ、いるか?」

 

扉を開けてそう言った瞬間、

窓の外から僅かに音がした。

 

「……………」

 

ウェンディは確実にベランダにいる。

…一応、話をしなくては…

出来る限り平常心を保つんだ…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「………ジェラール」

「ウェンディ」

「…どうかしたの?」

 

私は笑ってみた。

けど、絶対上手く笑えてない…

 

「…別の部屋に移りたいか?」

「……え?どうして…?」

「(…そんな風に聞かれても困るんだが…)

…また昨晩のような事が起こりかねない」

「…!」

「まだ、嫌だろう…?」

「………………ジェラールの事は大好き…

だけど、離れるのは寂しいから嫌だよ…」

「また、ああいう事になってもいいのか?」

「……一緒にお風呂に入るのも眠るのも、

すごく恥ずかしいけれど、ジェラールの事が

大好きって気持ちの方が強いから…」

「(…すぐにでも押し倒したい…)

……このままで、いいんだな?」

「……うん」

「………結婚するまでは、何とか我慢する」

「……け、結婚…」

「…どうした?」

「…私が赤くなる原因とか

わかってて聞いてる、よね…?」

「…どうだろうな…」

「ジェラールのいじわ…っ」

 

体を抱き寄せられて、一瞬キスをされた…

 

「…部屋に戻ろう

(何とか、我慢しなくては…!)」

「………うん」

 

ジェラールは本当に意地悪というか…

少し、Sなのかな…?

まあ、どんなジェラールでも大好きだけど、

やり過ぎないでね…?

 

幻のバレンタイン

 

―10年前、アースランドの妖精の尻尾―

 

今日は、バレンタインデー

好きな男の人に気持ちを込めた

チョコレートをあげる日で……

 

「…できた…っ」

 

他の皆さんは、もうチョコを作り終えていて、

私は……ようやく作る事ができて…

 

他の皆さんに好きな人がいるように、

私にも…好きな人が……会いたい人がいる…

 

「……ミストガン…」

 

だけど、彼は別の世界の人で……

エドラスに戻ってしまったから、

もう…会いたいと思っても……

 

「どうしたの?ウェンディ」

「シャルル……ハッピーにはチョコ、渡せたの?」

 

必死に笑顔を作って、尋ねた。

 

「なっ!どうして私がハッピーなんかに…!」

「傍にいるんだから、

ちゃんと渡さないとダメだよ…?」

 

―いなくなってからじゃ、もう遅いから…―

 

「…ウェンディ」

「なぁに?」

「そのチョコ……」

「っ!!」

 

遅いだろうけど、急いで後ろ手に隠した。

 

「……それ、ジェラールって奴に渡す気?」

「…『ジェラール』には、エルザさんがいるよ?」

「違うわよ、もう一人の方」

「!」

「…ミストガン…だったわね」

「……渡せないよ…」

「ウェンディ…」

「…ごめんね、シャルル……

私、少し一人になりたいの…」

「わかったわ……ごめんね…」

 

ラッピングしたチョコを傍に置いて、

いつの間にか私は眠っていた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「………」

 

自分が眠りに落ちているのが分かった。

…だが―――…自分がいるのは、

アースランドの妖精の尻尾……それも、

ウェンディの部屋で……しかも何故か

自分は昔のように複数の杖を背負っていて……

 

「……ウェン…ディ…?」

「………」

 

眠る彼女の頬には涙の跡があった…

ふと、可愛らしくラッピングされた

小さな箱が目に入った。

 

「…これは……」

「……ジェラー……ル……」

「!」

「……会いたい…よ……」

「ウェンディ…」

 

ラッピングを解き、箱を開けると…

『ジェラール ずっと大好きだよ』

と書かれたチョコが姿を現した。

 

「………ありがとう、ウェンディ…」

 

チョコにかじりつくと、広がったのは

甘味と、その中に潜む僅かな苦味…

 

「………」

 

杖を持っているという事は

恐らく今だけは魔法が扱えるはず…

俺は眠る彼女に、手紙を書いた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「……ん…」

 

私、寝ちゃってたんだ……あれ?

チョコの箱が空になってる…

……仕方ないよね、渡す事はできないから…

 

「……?」

 

なんで手紙が浮いてるの…?

私はその手紙を取って、読んだ…

書かれていたのは………

 

『君が眠っている間に

チョコを食べさせてもらった。

とても、美味しかった……

 

俺も、君の事が好きだ

 

ミストガン』

 

「………え…」

 

次の瞬間、感じたのは…

ミストガン……ジェラールの、匂いで…

 

―…また、いつか会えるといいな…―

 

「っジェラール…?」

 

匂いはすぐに消えてしまったけれど、

確かに聞こえたジェラールの声…

 

「……ジェラール…、

私……絶対に会いに行くから…。

だから…待っててね…?」

 

私がアースランドから

エドラスに渡る事になるのは、

それから約10年後の事だった…

 

チョコに込めた想いと……

 

「ジェラール……喜んで、くれるかな…?」

 

今日はバレンタインデー

好きな人にチョコをあげる日…

 

私は頑張って

チョコレートケーキを作ってみたんだけど……

 

「誕生日でもないのに、おかしくないかな…」

 

バレンタイン…といえば、

10年程前…不思議な事があった…

 

渡せるはずがないチョコを作った私は

自分の部屋で眠ってしまって……

起きたら、作ったはずのチョコが無くなっていて……

ミストガン…ジェラールからの

手紙があって、彼の声も聞こえて……

すごく嬉しく思ったのを覚えてる…

 

「…ジェラール…」

 

思い出して、幸せな気持ちになった…

 

「ウェンディ様、ちゃんと作れましたか…?」

「はいっ!」

「それはよかった……ささ、陛下がお待ちです」

「…え?」

「お部屋へお急ぎ下さい」

「あ、あの…?」

 

…よく分からなかったけれど、

ケーキが入った箱を持って部屋に急いだ…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「………ジェ、ジェラール…」

「…どうした?」

「あの、ね………その…っ」

「……」

「…今日は、何の日か…分かる…?」

「バレンタインデーだろう」

「っ……!!」

 

私は恥ずかしさのあまり、

ケーキの箱を無言で突き出した。

 

「…ウェンディ?」

「…っ……」

「…口で言ってくれないと、

何も分からないだろう…?」

 

耳元で囁かれて、顔が赤くなって……

 

「…バレンタインの、チョコ…」

「ああ、それで…?」

「?」

「義理か、本命……どっちだ?」

「っっ……!!」

 

―ジェラールの意地悪っ!!―

 

「っ……本命、だよ…?」

「…よく言ってくれた。

本当に…嬉しいよ………ただ、」

「…?」

「俺達のこういう所を覗き見するのが

城の者達の楽しみというのが………」

「……………え?」

 

見ると、窓や扉の隙間に沢山の人達が…!

 

「見せつけてみるか…?」

「……はい?」

「俺達の愛情の深さについてだが…」

 

―もう、無理だよ…―

 

そこまでの記憶を最後に、

私の意識は完全に途切れた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

………私は今、

ウェディングドレスを脱いでいる最中です。

り、理由は……ジェラールと、その…

結婚、したからで……っ

 

ジェラールが結婚を決めるまでの時間が

すごく早かった気が………決断して、

行動して……もう、あっという間で…

 

「終わりましたよ、ウェンディ様」

「!ありがとうございます…」

「是非、陛下と幸せになって下さいね!」

「はい…!」

 

元の服に着替えて外に出ると

 

「お姉さん、一人?」

「…?」

 

現れたのは、白髪の青年だった。

 

「ねぇ、一人?」

「…大切な人を待っている最中です」

「そんな奴よりさぁ、俺と遊ばない?」

「嫌です」

「そんな冷たい事言わないでさぁ…」

「っ!」

 

左腕を強く掴まれた。

振り解こうとしても、全然ダメで…

 

「…遊ぶって、何をするんですか?」

 

嫌な予感しかしないけど、聞いてみた。

 

「ん?ラブホでヤるに決まってんじゃん♪」

「は、離して!」

「離す訳ないだろ?」

 

気付かれないように懐からナイフを抜いて……

 

「あ…っ!」

 

気付かれてナイフを奪われた。

 

「せっかくお姉さん綺麗なんだから、

こんなの物騒なの持ってちゃダメじゃん♪

罰として、ここでヤらせてもらお~♪」

「!!」

 

青年が私を押し倒して服に手を伸ばす…

 

「…ジェラール…っ」

「…ん?なんで王様の事、呼び捨てにしてんの?

あっ!もしかして王様の彼女!?」

「ジェラール、たすけて…っ」

「そんな人を襲えるなんて光栄だな~♪」

 

上着が切り裂かれた…

 

「っっ―――…!!」

「じゃ、いただきま~…」

(ジェラール…っ)

 

目を閉じてジェラールの事を思い浮かべた。

………すると…

 

「がっ!?」

 

青年が倒れてきた。

 

「………?」

 

誰かが青年を持ち上げて道端に放り投げた。

見えたのは青色の髪と

顔の右側の特徴的な赤い刺青…

 

「…大丈夫か?ウェンディ」

「ジェラー…ル…っ!」

 

すごく嬉しくて…思わずジェラールに抱き着いた。

 

「……帰ろう」

 

そう言ってジェラールは

羽織っていた上着を私にかけてくれた…

 

「…心配かけて、ごめんなさい…」

「………」

「…ジェラール、やっぱり怒ってるの?」

「……いや…」

「………」

 

お互い、ほぼ無言で城に帰った…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―バスルーム―

 

ジェラールに後ろから抱きしめられてます…

 

「ジェラール……何か喋ろう…?」

「………ウェンディ」

「?」

「君を誰かに取られるのは、我慢ならない」

「…私も、ジェラールじゃないと嫌…」

「…嬉しい事を言ってくれるな…」

「私…ジェラールと結婚できて、すごく幸せ…」

「…結婚、か…」

「…?」

「…もう、我慢しなくていいだろう…?」

「っ!」

 

ジェラールの手が胸に触れた…

 

「ジェ、ジェラー…っ」

「…こっちを向いてくれるか?」

「う、うん…」

 

ジェラールの方を向くと、一瞬キスをされた…

 

「…続きはベッドで…」

「……っっ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

私が先に上がって待つ事になりました。

……これまでにない程にドキドキしてます…

体温が急上昇している気さえして…

 

「待たせたな…」

「っ!」

 

そこにいたのはバスローブ姿のジェラール…

ジェラールは私の前に立つと

瞼、頬、額、そして…唇にキスをしてきた。

唇にキスをした時、ジェラールは

私の後頭部に手を添えて…ベッドに押し倒した。

ベッドのスプリングが軋んだ気がした。

私に深い口付けをしながらも、

片手で器用に私の服を脱がしてくジェラール…

 

「…ン……んん…っ」

「………」

 

唇を離す際に、舌を強く吸われて、

私は少しびっくりして固まってしまった…

唇が離れると、舌同士が

銀色の糸で繋がってるのがわかった…

 

ジェラールはコツン、と額を合わせて

 

「…ウェンディ…」

「…ジェラー…ル…」

 

彼の仄暗い瞳が眼前に広がってる…

 

「覚悟は、できているか?」

「………」

 

私は返事の代わりに

一瞬、唇を押し当てて精一杯笑った…

 

「…あまり優しくできないかもしれない…」

「…それでも、大丈夫だよ…」

「……ありがとう…」

 

…それから先は、覚えてはいるけれど、

恥ずかしくて…幸せな時間でした…。

…ジェラールは、すごく…激しかったです。

 

彼とずっと一緒にいられる。

そう思うと、とても幸せで…

 

例え何があっても、ずっと大好き…

ううん、愛してるからね?ジェラールっ!

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「……………」

 

ウェンディは初めてだろうから

出来れば優しくしたかったのだが、

途中から歯止めが効かなくなった。

途中から……………

いや、思い出すのは止めておこう…

 

「…ウェンディ…」

 

堪らなく愛しい存在……大切に、したい…

眠るウェンディを抱き寄せ、瞼を閉じる。

 

「…おやすみ…」

 

そう呟いて、俺も眠りについた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…っ………」

 

目が開いた…。ぼんやりとした意識で

温もりが傍にあるのが嬉しくて、

ジェラールに擦り寄った…

 

(まだ、寝てるのかな…)

 

ジェラールの顔を見ようとして、固まった。

理由は、お互い上半身裸だったからで…

昨晩何をしたか、一瞬で思い出した。

 

「っっ………」

 

ジェラールに抱きしめられている中で、

私はなんとかこの状況から

抜け出そうとしたんだけど………

 

「……ウェンディ…?」

「っ!!」

「今日は起きるのが随分と早いな…」

「…ジェラール…」

「どうした?」

「あの……下着、だけでも…」

「………」

「恥ずかしい、から…」

「……ダメだ」

「ジェ、ジェラー…」

 

一瞬の口付けの後、

 

「…何もかも見せ合ったのだから

今更恥ずかしがる事も無いだろう…?」

 

そう囁かれて、私は真っ赤になった。

 

「昨日は、とても可愛らしかった…」

「……ジェラールは、今度から

もう少し優しくして欲しいな…

今、すごく腰が痛いの…」

「…努力はする」

「……ジェラール…」

「なんだ?」

「何か…胸を隠せる物が欲しい…」

「…布団で十分だろう?

俺はウェンディの裸体を

誰にも見せる気は無いから大丈夫だ」

「…何が、大丈夫なの?」

「他の者達に見られる心配は無い」

「………ジェラールでも、恥ずかしいよ…」

「何もかも見せ合った仲だろう?」

「で、でも…っ」

「…それ以上言うと、また手を出すぞ?」

「……!!」

 

仕方なく、口を噤んだ…

 

「いい子だ…」

 

頭を撫でられて、囁かれる。

 

「起きるのは、まだ早い。もう少し寝るか…?」

「……うん…」

「………」

 

ジェラールは少し微笑んで、

私に数回啄むようなキスをしてきた…

 

「おやすみ、ウェンディ…」

「…おやすみ、ジェラール…」

 

私は顔を赤くして、目を閉じた。

大好きなジェラール……

ずっと、ず~っと一緒にいようね!

 

間接キスとプレゼント

 

今日はホワイトデー…

妻となったウェンディにバレンタインの

お返しをと考えているんだが……

 

―バレンタインデーのウェンディが気絶した後―

 

気絶したウェンディと、彼女が

持っていたケーキの箱を抱き留めて…

睨んで『見るな』と訴えても

観衆(城の者達)には効果がなく……

 

「………ウェンディ…」

「………」

 

真っ赤になった彼女は可愛らしいが、

俺は彼女を起こすために

 

「早く起きないと手を出すぞ」

 

観衆がどよめいたが、そんなことは関係ない

 

「っ!!」

 

目の前の鳶色の瞳は見開かれていて…

 

「ようやく起きたか」

「……っ…」

「ウェンディ、ケーキを一緒に食べないか?」

「……うん」

 

ケーキの箱を開けると

表面に『大好き』と書かれていた

 

「……」

 

少し笑みが浮かんだ…

ナイフで切り分けず、スプーンで

少し掬い取り、口に運んだ…

 

「……」

 

真剣に俺を見ているウェンディ

 

「…腕を上げたな…」

「…!」

 

はにかんだウェンディの口元に先程

俺が使ったスプーンで掬い取ったケーキを近づけた…

 

「………ジェラール……何、かな?」

「食べるだろう?」

「いや、あの……

それはジェラールのために作った…」

「俺一人では食べ切れそうにない」

「………」

「…ウェンディ」

「………っ!」

 

真っ赤な顔で口を開けて、スプーンに乗ったケーキを

素早い動作で取り、すぐに口を離したウェンディ

…俺はウェンディが先程口に含んだ、

何も乗っていないスプーンを

自らの口に運び、再び口に含んだ…

予想通り、動きを止めたウェンディ

 

…まぁ、間接キスをしている訳だからな……

観衆の目の前で、『見せ付ける』のは実に簡単だ…

 

キョロキョロと何かを探しているウェンディだが、

探しているであろう別のスプーンは生憎、

今日はこの部屋に置いていない。

 

口に含んだスプーンを引き抜き、

再びケーキを掬い取って彼女の口元に運んだ――…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

あの日は幸せだった…

普段の何倍もの時間をかけながらも

ケーキを一緒に食べてくれた彼女は

最後まで真っ赤な顔をしていて

本当に可愛らしかった…

 

「………」

 

何故か可愛らしい服を買いたくなった。

よし、買って来よう。

……ウェンディのためではなく、自分のために

やっているような気がするのは気のせいか…?

 

*~*~*~*~*~*~*

 

色々買って、部屋に戻って来た。

…正直、何故買うことになったのだろうと

思い始めているし、ウェンディの反応が不安だ…

 

「………」

 

扉を開けようとして、後ろから声が聞こえた。

 

「ジェラール、おかえり!」

「ウェンディ…」

「…?」

「バレンタインのお返しをと思っていたんだが…」

「何か買って来てくれたの?見せて!」

 

無言で袋に入れていた一応

ラッピングをしてもらった箱を渡した。

 

「部屋に入ってから開けてくれ…」

「うん!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「………」

 

絶句されるのはわかっていた。

何故ならプレゼントは

『メイド服』と『猫耳&尻尾』で…

 

「………ジェラール?」

「……それらは着なくていいし、捨てても構わない。

…もう一つ、あるだろう…?」

「…?……ぁ…」

 

先程の二つは軽い冗談のつもりだったが……

買ったら買ったで、何か……

まぁ、残る一つは相当選んで決めた。

 

「…ドレ、ス……?」

「王妃なのだから、民の前に出る際には…っ」

 

言葉の途中で抱き付かれた。

 

「嬉しい…!」

「…喜んでもらえて何よりだ…」

「これもちゃんと着るから安心してねっ!」

 

そう言って彼女は先程の二つを持って行って……

 

「……ああ、楽しみにしている」

 

……あれらは買わない方が

よかったかもしれないな……



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幸福の天使

10年越しの再会の続きです、pixivにも同じものを投稿済みです。


二人分の体重で軋むベッド…

ジェラールの深い口付けに必死で応える…。

 

「…ンっ、んぅ……!」

「………」

 

……少し息苦しいけれど、

なんだか頭がぼ~っとしてきた…

私の表情を見たらしいジェラールは

唇を離して胸を揉み始めた。

 

「……んっ、ゃ…ぁあ…!」

「…嫌じゃ、ないだろう…?」

 

ジェラールは意地悪な笑みを浮かべていた…

胸を揉みながら、耳朶を甘噛み…

 

「っ、や……やめ…!」

「ここまで来て、止める筈ないだろう…?」

「ジェラー…っ、んん…!」

 

鎖骨から胸元に舌を這わせられて、

背筋がゾクゾクした…

 

「…我慢強いのは結構だが、

そういう表情は相手を欲情させるだけだ…」

「っ…よ、欲情って……!?」

「…俺だけがウェンディのそういう一面を

知っているのだと思うと、少し…興奮するな…」

「…興奮、って……ひゃ!」

 

ジェラールの舌が胸の先で止まっていた。

 

「……ジェラー…ル?」

「………愛している…」

「…わ、私も…だよ……ジェラー…っ」

 

私が言い終わっていないのに

言葉はいらないとでも言うかのように唇を塞がれた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

今日もジェラールより早く目が覚めた。

理由は……昨晩そういう事をやったからで…

そういう事をした翌日は決まって早く目が覚めて……

 

現在、抱き枕状態の私は違和感を感じた。

腰が痛いのは……いつもの事だから

いいんだけど、今朝はなんだか

頭が酷くぼんやりとしてて……

暑いのか寒いのか、よくわからなくて…

 

「…ジェラー…ル…」

「……………ウェンディ…?」

「頭がぼんやりするの…」

「………」

 

ジェラールが私の額に手を当てた。

あ、少しひんやりしてる…

 

「…熱があるな」

「熱…?」

「ああ、少し待っていてくれ…」

 

ベッドから抜け出て、私の傍から

離れて行こうとするジェラールの腕を掴んだ。

 

「…ウェンディ?」

「…行かないで…」

「……すぐに戻る」

 

私の手を振り解いて

部屋から出て行ったジェラール…

 

「………ジェラール…」

 

少し寂しく思ったけど、眠る事にした…

 

「……ジェラール、早く…戻ってきて…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ウェンディ、今戻っ…」

「………」

 

俺が部屋に戻った時、ウェンディは眠っていたが、

その顔には涙の痕があった…

 

「…すまない…」

 

そう言って、冷え〇タを彼女の額に乗せた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…っ……?」

「…大丈夫か?」

「ジェラール…」

「…食事は出来そうか?」

「…うん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

お粥を食べて、水に溶けた粉薬を凝視中…

 

「これ、苦い…?」

「ああ、かなり苦い」

「………」

「自分では飲めないようだな。

俺が飲ませてやろう…」

「え?」

 

飲ませる…?

あれ?なんでジェラールが薬飲んで……?

………なんとなく意味がわかったから、

とにかく逃げようとしたけれど………

腕を掴んだ後、後頭部に手を添えられて……

ジェラールが行ったのは、口移し…

とても苦かったけど、なんとか飲めました。

 

「…ちゃんと飲めたな…」

「……うん…」

「…どうだった?」

「……何が…?」

「口移しの感想だ」

「………びっくりした…」

「そうか…」

「…あの…眠っても、いい…?」

「ああ…」

 

そう言ったジェラールは

私の口端に付いていた水を舐めて、

私を抱き上げてベッドに降ろした…

 

「ゆっくりと眠るといい…」

「……おやすみ、ジェラール…」

 

額に口付けられて、指を一本一本絡められた。

 

「ジェラール…」

「今日はずっと君の傍にいるから、安心してくれ…」

「うん…!」

 

幸せを感じて、目を閉じた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

…鳥の、囀り…?

 

「…っ……」

「……起きたか?」

「…ジェラール…」

「熱は……下がったようだな…」

「…うん」

「…よかった…」

「看病してくれて、ありがとう…」

「…いや」

「…ジェラール」

「どうし…」

 

ジェラールにキスをした…

すぐに唇を離したら、後頭部に手が…

 

「ちょっ、ジェラー…っ!」

「ウェンディ…」

「……っ…」

 

施された深い口付け…

なんだか、いつもより熱く感じて…

服の上から胸を撫でられた…

 

「っっ……!」

「……いつもより熱いな…」

「ジェ、ジェラール……」

「なんだ?」

「看病のお礼のつもりだったんだけど…」

「そうか」

「…ジェラールは…何を思って……」

「誘っているのかと思った」

「っ!?」

「病み上がりの妻を襲うわけないだろう?」

「つ、妻……」

「…そう呼ばれるのは、まだ慣れていないんだな…」

「…うん」

「…ウェンディ」

「?」

 

ジェラールは頬、額、唇の順にキスを落とした後、

私を抱きしめてきて…

 

「行って来る」

「…い、いってらっしゃい…」

 

仕事に向かったジェラール…

 

「………」

 

暇になったから、着替えて…出掛けることにした…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―夕方・城下街―

 

ウィンドウショッピングを楽しんで

今、城へ帰る最中です。

 

(ジェラール、もう仕事終わってるかな…)

 

そんなことを思っていたら

 

「ウェンディ」

「あ、ジェラール」

 

変装中のジェラールが現れた

 

「帰ろうか」

「うん。………わざわざ

迎えに来てくれて、ありがとう…」

「…結婚式直後のようなことが

あっては困るのでな…」

「…ごめんね…」

「俺は君を誰かに取られるのが嫌なだけだ」

「ジェラール…」

「帰ろう…」

「…うん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

食事を済ませて、現在二人で入浴中です。

……未だに私はジェラールに

背を向けて体を洗ってます。

理由は…明るい所で裸体を見せるのは、

まだ抵抗があるからで……

 

「ジェラール、後ろ…向いててね…」

「ああ」

 

ちらりと後ろを振り向くと、

ジェラールはちゃんと後ろを向いてくれていた。

浴槽に身を沈めて……

少し経って、後ろから抱きしめられた。

 

「ジェラー…ル?」

「………」

「どうかし…」

 

耳朶に、生暖かい何か…舌が当たって…?

 

「ジェ、ラー………ル…ッ」

「……どうした…?」

「何、して…っ!?」

「…悪戯だが?」

「……………」

「…病み上がりの妻を襲う気は無い」

「本当…?」

「ああ」

「…よかった」

「…どうかしたのか?」

「!…大丈夫、だと思う…」

「そうか…?」

「…うん」

「…こちらを向いてくれるか?」

「うん」

 

ジェラールに向き直ると、改めて抱きしめられた。

 

「…愛している」

「……私もだよ…」

 

『例の日』から一月は経つけれど、

どうしてか…何の兆候も無い。

…もし、私が考えていることが当たっていたら

嬉しいけど、違うよね…

 

妊娠、しているかもしれないなんて…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

暗い、暗い…。此処はどこ…?

 

―グランディーネっ!―

 

あれは、幼い私と……グランディーネ…

ああ、私は夢を見ているんだ…

 

グランディーネ……私の、お母さん…

 

―グランディーネ、ずっと一緒にいようね…―

 

その言葉に頷いてくれたのを、

私は今でも覚えている…

 

(グランディーネ…)

 

『……ディ…』

(…え…?)

『ウェンディ…』

(グランディーネ…?)

『…ウェンディ?』

(グランディーネ……私は元気だよ)

『そうみたいね…

とても幸せそうな顔をしているから』

(グランディーネは、寂しくない…?)

『大丈夫よ、ウェンディ』

(グランディーネ、私ね…)

『……子供でもいるの?』

(えっ!!?)

『貴女から違う命の気配がしたのよ』

(本当…?)

『私が貴女に嘘をつく必要があるのかしら…』

(うれしい…っ)

『そっちで上手くやっているようで安心したわ…』

(妖精の尻尾の皆は…)

『…シャルル、と言ったかしら…

その子が私に貴女の近況を聞いてきたの』

(シャルル…)

『今日貴女から聞いたことを伝えておくわ』

(ありがとう、グランディーネ…)

『幸せにね、ウェンディ……』

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ん……」

「…もう起きたのか」

「…ジェラール…」

「おはよう、ウェンディ」

「…っ…おはよう…」

 

夢でグランディーネに

言われた事を思い出して、赤くなった…

 

「…ウェンディ?」

「ジェラール、あのね……

言わないといけない事があるの…」

「…?」

「私……妊娠、してるみたい…」

「……本当、か?」

「うん、グランディーネも言ってたよ」

「……どうやって、グランディーネに会ったんだ?」

「…夢だけど、しっかり覚えてるの」

「…そうか」

 

何故か、右手首を掴まれて…

 

「ジェラール?」

「…ウェンディ」

 

そのまま、押し倒された…

 

「……あ、の…?」

「…暫く、見れなくなるからな…」

「…何が?」

「ウェンディの『可愛い』姿だ」

「っ!!?」

 

ジェラールの言葉の意味は、理解できた。

だからこそ、身の危険を感じた…

 

その直後、唇を塞がれて……

舌が侵入してきたのがわかった。

 

「…ん……ッ」

 

執拗に…何度も何度も舌を絡められて……

その間、私は目を強く閉じていた。

呼吸が苦しくなってきた頃に舌を吸われて、

唇が離れた後に目を開けた…

 

「…可愛い姿が見れた…」

「…ジェラー……ル…」

「暫く、我慢できそうだ…」

「…ここから先は、しないんだね…」

「妊娠しているのだから、

そんなことをする筈ないだろう…?」

「よかった…」

「皆が起きる時間になったら、医者に診せに行こう」

「…うんっ」

「ゆっくり過ごそうか…」

「…ベッドで…?」

「ああ」

「………」

「……………」

 

ジェラールに抱きしめられて長時間過ごしたので……

私はまともに頭が働かず、ぎこちない動きしか

できない状態でお医者さんに

診てもらうことになりました…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

検査が終わって…

 

「…陛下、王妃様…」

「……早く言ってくれ」

「………おめでとうございます!」

「…!」

 

ジェラールは、私を抱きしめた。

私は真っ赤になった……だって、

少し前まで抱きしめられてたから…

 

「っ……!」

「ウェンディ…!」

 

腕に力が込められた…

 

「…陛下。嬉しいのはわかりますが、

王妃様の意識がありません…」

「!ウェンディっ!?」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ん……」

 

何故かベッドに横たわっていた私…

 

「大丈夫か?」

「…ジェラール…っ」

 

また、抱きしめられた…

 

「……ウェンディ…」

「……どうしたの…?」

「…愛している…」

 

頬に片手を添えられた後、ジェラールの顔が

近づいてきて……ゆっくりと唇を重ねられた…

 

すぐに唇は離れて、お腹を撫でられた。

 

「…ウェンディ」

「…?」

「寂しい思いはさせたくない…

だから、できるだけ早く戻るようにする………

仕事に行ってもいいか…?」

「いってらっしゃい、私…待ってるね…」

「ああ、行ってくる」

 

部屋を出て行ったジェラール…

 

「……ウェンディを、頼んだ…」

「…?」

 

ジェラールの姿が見えなくなると、

長い緋色の髪が視界に映った…

 

「…エルザ、さん…」

「…エルザ・ナイトウォーカーだ。王妃よ、

貴女はアースランドの私を知っているのか…?」

「はい、私は妖精の尻尾の魔導士でしたから…」

「…エルザは、元気か…?」

「幸せに暮らしてますよ」

「そうか…」

「……あの…エルザさんはジェラールに

頼み事でもされたんですか…?」

「陛下のいない間、

貴女の世話と護衛をするようにと…」

「そうですか…」

 

エルザさんは私に跪いた…

 

「あ、あの…」

「誠心誠意、貴女に仕えることを誓う…」

「仕える…?………じゃあ、普段通りに過ごして……

友達になって下さい」

 

こんなことを言い出した理由は、

国の皆が私を王妃扱いして

『ただのウェンディ』として見てくれないから……

ジェラールしか、そういう風に見てくれないから……

友達を一人でも作りたかったから…

 

「……は?」

「これは王妃としての命令じゃなくて、

ただのウェンディとしてのお願いです」

「しかし…」

「ダメ…ですか…?」

「………」

「エルザさん……」

「……わかり……わかった」

「ありがとうございますっ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ウェンディ、今戻っ………」

「あっ、ジェラール!」

「陛下…」

 

ジェラールが目を白黒させていた。

 

「ナイトウォーカー…?」

「なんでしょうか」

「…ウェンディ?」

「友達になってもらったの!」

「……そうか…」

 

ほんの少し、微笑んだジェラール…

 

「では、これにて失礼します」

「また来て下さいね、エルザさん!」

「ああ、ウェンディ…」

 

エルザさんが見えなくなると、

突然ジェラールに抱きしめられた…

 

「……ジェラール?」

「…寂しくなかったか…?」

「エルザさんが友達になってくれたから、大丈夫…」

「そうか…」

 

一瞬、唇を重ねられた…

 

「ジェラール…?」

「…ナイトウォーカーに

嫉妬するとは、俺も重症だな…」

「…嫉妬…?」

「ああ、…食事は済んだか?」

「うん」

 

私は俯いていたから、ジェラールが

笑みを浮かべているのに気付かなかった…

 

「先に入って待っている…」

「うん、わかった…」

 

ジェラールがバスルームに行って、

私はジェラールが少し前に増設した…

私専用の衣装室(ジェラールには無い)で

下着とパジャマを選ぶ…

 

…そういえば、ここにはプレゼントされた服以外に

膨大な量の下着と衣服があるけれど、

私はその殆どを自分で選んだ覚えがない。

つまり、ジェラールが買って来ているということで…

…しかもサイズがぴったり合っていて……

 

………ジェラール、凄いね…

 

「…これとこれにしよう…」

 

シルクのパジャマと

レースがあしらわれた下着を選んで脱衣所に向かった

下着まで脱いで、自分の身体を見た。

…衣服で隠せる部分のあちこちに

無数のキスマークが刻まれている。

これは……あの、ジェラールと

そういうことをした時に基本的にされることで……

 

タオルを身体に巻き付けて、

バスルームに足を踏み入れた。

 

「………」

「ジェラール?」

「!ウェンディか…」

「どうかしたの…?」

「…いや」

「?」

 

少し不思議に思いながらも、

私は巻き付けていたタオルを取ってから

シャワーで身体を流して……

 

ザバ…ッ

 

「え」

 

振り向く前に、後ろから抱きしめられた…

 

「……ジェラー…ル…?」

「…ウェンディ」

 

耳元で囁かれて、吐息が……っ

 

「ジェ…ジェラール?私、今…裸…っ」

「知っている」

「ならっ、離れて…」

「ああ、少し待ってくれ…」

「…?……っ!!」

 

項のほんの少し下…多分衣服を着ても

見えるか見えないか…という場所に唇を落とされた。

 

「ジェラー………んっ!」

 

少しの間そこを吸われて、

唇が離れると同時に身体も離れた…

 

「……俺は上がることにする」

「……うん」

 

バスルームから出て行ったジェラール。

私は暫くシャワーを浴びて、きちんと身体を洗って、

少し浴槽に浸かった後、脱衣所に向かった。

身体を拭いて、頭を乾かして、パジャマを着て……

部屋に戻るとジェラールは本を読んでいた…

 

「…ジェラール」

「案外、早かったな…」

「そう…?」

「…寝るか?」

「うん」

 

二人でベッドに横たわる…

 

「ねぇ、ジェラール…」

「どうした?」

「腕枕、して…?」

「…わかった」

 

ジェラールが私の方に腕を伸ばしてきたから、

少し頭を上げて……腕枕をしてもらった。

 

「…ふふ」

「幸せそうだな…」

「うん、……グランディーネに、

ジェラールを紹介…したい…な…」

「……ああ、俺も君の母親に会ってみたい…」

「……ジェラー…ル…」

「眠いなら、眠った方がいい」

「…ん……おやすみ…ジェラー…」

「おやすみ、ウェンディ」

 

唇を重ねられた記憶を最後に、

私は眠りに落ちていった…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「……ん…」

 

何故か、花畑で眠っていた。

…隣にはジェラールがいて…

 

「…ウェンディ、ここは一体…」

「……夢、なのかな…」

 

『……ウェンディ…』

 

「グランディーネ…?」

「!」

 

突然現れたグランディーネ

 

「グランディーネ、どうしたの?」

『……貴女だけを呼んだつもりだったのだけど…』

「あのね、グランディーネ。この人は…」

「ジェラール・フェンリルだ。

昔はミストガンと名乗っていた…」

『貴方が…私がいなくなった後、

ウェンディを救ってくれた子?』

「ああ…」

『ありがとう、貴方のお陰で

ウェンディは独りにならずに済んだわ…』

「あれは……偶然だ」

『それでもウェンディを救ってくれたのは事実よ。

……大体予想はできるけど、

貴方達二人の関係は…?』

「え……それ、は…っ」

 

『グランディーネに紹介したい』

そう思ったのは事実だけど、

関係を言うのは恥ずかしい…!

えっと…『ふ』で始まって

『ふ』で終わる3文字の………

 

「夫婦だ」

 

キッパリと、ジェラールは言った。

きっと私の顔は真っ赤になってる…

 

『やっぱり、そうだったのね…。

じゃあウェンディは貴方との子を身篭っているの?』

「っ!!?」

 

グランディーネ!?そんなに直球で聞いて来ないで…!

 

「ああ。一度ウェンディが

襲われかけた事があったが……」

『貴方が守ってくれたのね…。

………身篭っている、という事は……

そういう事をしたのね…?』

 

グランディーネの纏う空気が

少し変化した…ような気がする…

 

「?ああ……

その時のウェンディは、とても可愛らしかった…」

 

天空魔法の源『空気』が集まって……

 

「っグランディーネ!!」

『ごめんなさいね、ウェンディ…――』

 

グランディーネがジェラールの方を見て、

ゆっくりと口を開けた。

私はジェラールの前に立って…

 

「天竜の…」

「『――咆哮!!』」

 

全く同じ咆哮がぶつかり合った。

けど、さすがグランディーネ…

私の咆哮はゆっくりと押し負けていって……

私に当たる寸前で、咆哮が消えた。

 

「…グランディーネ?」

『私が貴女を傷つけると思った?』

「でも、ジェラールを…」

『何故か、怒りが芽生えたのよ…。

…ウェンディにジェラール、

また此処に来て…話を聞かせてくれないかしら?

貴方達を気にかけている、もう一人の私や

妖精の尻尾の皆にも伝えられるわ…』

「うんっ!

また来るね、グランディーネっ!」

「どうすれば此処に来れるんだ?」

『…私に会う事を強く願って眠れば大丈夫よ』

「わかった」

「妖精の尻尾の皆によろしくね!お母さん!」

『ええ…』

 

ウェンディとジェラールが消えて…

 

『イグニールにメタリカーナ、

貴方達も…こんな気持ちだったのね…。

子が親から離れていくのは、少し辛くて…

そして――…相手に意地悪してしまいたくなる…。

幸せになるのよ……二人共…』

 

*~*~*~*~*~*~*

 

二人同時に目が覚めた。

 

「…ジェラール、夢の内容覚えてる?」

「…ああ。君の母親は少し過保護だな…」

「グランディーネは人が好きなのに……

ジェラールに咆哮を放とうとするなんて…」

「…だが、君を想っての事だろう…」

「…うん!」

「…ウェンディ、愛している…」

「…私も、だよ。ジェラール…」

 

 

…それから、悪阻が来て……

いろんな人にお世話になって、

お腹も大きくなっていって……約10ヶ月後…

 

「………いっ…!!?」

 

陣痛が来た…。今までよりも…

凄く…重くて…痛いっ…!

 

「ぁ、…ぅ、だれか……たすけ…っ」

 

私の意識は、そこで途切れた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ディ………ウェンディ!!」

「……ジェラー…ルっ!!?…痛っ!痛い…!!」

「頑張れ……頑張るんだウェンディ!」

「頭が見えて来ましたよ!」

「っっ~~~!!」

 

痛みに耐え続けて……

 

産声が…命の声が聞こえた…

 

「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「……!」

「可愛らしい女の子ですよ!」

「女…の子…?」

 

抱かせて貰った、小さな命…

 

「私と、ジェラールの…娘…」

「よく頑張ったな、ウェンディ…」

「……うん…っ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

いろいろと落ち着いて…

 

「ミスティって名前はどうかな?」

「……明らかに『ミストガン』から

取られている気がするが…」

「うん。でも『ミストガン』だって

『ジェラール』だったでしょ?

ミストガンの『ミス』と私の『ディ』

……だけど『ミスディ』だと

何か変な感じだから…ミスティ。ダメかな…?」

「いや。それでいい…」

「これからよろしくね、ミスティ…」

 

眠るミスティを二人で撫でた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―数週間後―

 

ただいま授乳が終わったので

ベビーベッドに寝かしつけたところです。

 

「おやすみ、ミスティ…」

「ご苦労だったな…」

「お帰りなさい、ジェラール」

「ただいま、ウェンディ…」

「……グランディーネに、報告したいなぁ…」

「そうだな…」

「グランディーネ、喜んでくれるかな…?」

「大丈夫だ…」

「…うん!」

 

グランディーネの事を考えて

眠りについたんだけど…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―翌朝―

 

『――ディ………ウェ……ディ…』

 

すごい近くからグランディーネの声がする……

 

『…ウェンディ』

「………?」

 

声も匂いも雰囲気もグランディーネと一緒。

…だけど、そこにいたのはシルバーに

薄いスカイブルーが混ざった髪の綺麗な女の人で……

 

「……貴女は…?」

『…天竜グランディーネよ』

「……え?」

『思念体を弄りに弄ったら、こんな姿になれたわ』

「…グランディーネ、なんだね?」

『そうよ』

「グランディーネ!私ね、娘ができたの!」

『…まだ赤ん坊ね』

「名前はミスティ…」

「……どうしたんだ?ウェン……」

『………』

 

ジェラールとグランディーネの視線が合った

 

「…ウェンディ。その女性は…?」

「グランディーネの思念体だよ」

「グランディーネは竜ではなかったか…?」

「…なんか色々やったら、

人間になれたって言ってたよ」

「………」

『今日から此処に住まわせてもらおうかしらね…』

「嬉しい…!」

「……そう、だな…

(ウェンディとの夫婦生活が…っ!)」

『よろしくね。ジェラール…』

「……ああ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

今日の城は少し騒がしく感じる…

いや、理由はわかっている。

わかってはいるんだが………

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―今朝の出来事―

 

『よろしくね。ジェラール…』

 

目が、全く笑っていない…

 

「……ああ…」

 

一応そう言ったが、この女性(竜)は

ウェンディの母親で……

 

「…俺は貴女をどう呼べばいいんだ…?」

『好きに呼べばいいんじゃないかしら…』

 

やはり、全く笑っていない…

 

「では、……義母上…」

『そうね、それでいいわ』

 

………平行世界のアースランドから

妻の母(姑)がやって来た…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディがミスティを抱いて

義母上が城を見て回っている…

 

城の皆にウェンディが自分の母だと紹介した結果、

『祖母』にしては明らかに

若すぎる容姿(恐らく20代後半)の彼女に対する

疑問の声が聞こえる…

 

「グランディーネは

私を育ててくれたお母さんなんです!」

 

ウェンディのその言葉に納得したらしい城の者達…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

問題は、義母上がウェンディの前では

にこやかに表情を変えるのに対し、俺と二人になると

あまり表情を変えなくなることで…

 

「…義母上」

『何かしら』

「………俺の何が気に食わないのかを

教えてもらいたいのだが…」

『そう…ね。私も

人の事を言える立場ではないけれど、過去に

ウェンディを泣かせた事があるから…かしらね』

「………」

 

幼い彼女にギルドへ預ける事を話したあの日の事か…

 

『私も、同じ事をしたのだけれど…』

 

そういえば、初めて出会った彼女は

何かを探しながら泣いていた…

 

『自分の事を棚に上げるのもどうかと思うけど、

他人がそうしたのを聞くと何か……

怒りが込み上げてね…』

「……そう、か…」

『ジェラール、貴方はウェンディを…

私の子を幸せにしてくれるの?』

「ああ、約束する」

『それを聞いて安心したわ……

もし、違う答えだったら『咆哮』を

使っていたかもしれないわね…』

「………」

 

この人は、恐ろしい…

 

『…貴方の子供の教育方針は?』

「…それなりに自由に育てて、

少しずつ王族としての教育を…」

『……魔力があったとしても使う事ができないのは、

私としては悲しいけれど……仕方ないわね…』

「………」

『とりあえず、自由に育てるといいわ。

……そして、あの子達を絶対に幸せにしてあげて…』

「!」

 

義母上の思念体が僅かに歪んだ

 

『この私は思念体……

私は一旦消えるけど、また時々来るわ…』

「…ああ」

『本当の私に会いたくなったら、

あの場所へ来なさい………

ウェンディを、よろしく頼むわ…』

「…勿論だ」

 

綺麗な笑顔を見せた後、

義母上の思念体は掻き消えた…

 

「ジェラール!

グランディー……あれ?」

「ウェンディ」

「グランディーネは?」

「一旦アースランドへ戻るらしい」

「そう…」

「また来ると言っていた。

本来の姿の自分に会いたくなったら、

あの場所に来い……とも言っていた」

「いつでも会えるんだねっ!」

「ああ…」

「?」

 

俺はウェンディを抱きしめた…

 

「…ジェラール?」

「絶対に幸せにする。

もう君の泣き顔は見たくない…」

「……私、幸せだよ?

ジェラールと結婚できて、子供もできて……」

 

ウェンディの唇に自分のソレを重ねた……

ウェンディの顔は相変わらず真っ赤で…

 

「…俺も、幸せだ…」

「……不意打ちは卑怯だよ…」

「……そうか」

 

俺はウェンディを抱きしめたまま、

ベッドに倒れ込んだ。

 

「!」

「不意打ちでなければ、いいんだろう?」

「……ジェラールの意地悪…」

 

再び唇を重ね、抱きすくめた…

 

 

『二人目』の子供ができるのは、

もう少し先の話―――…

 

嘘をついてもいい日?

 

今日は4月1日、エイプリルフール

 

「エイプリルフール、か…」

「陛下?」

「いや、何でもない…」

 

どうウェンディをからかうか、少し考えた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ウェンディ」

「ジェラール!」

 

ウェンディの傍に控えていた

ナイトウォーカーをミスティと一緒に下がらせた

 

「あのね、私……ジェラールの…ことが…」

「………嫌い、か…?」

「!大好き、だよ…?」

「…そうか、俺もだ…」

 

ウェンディを抱き寄せて、耳朶を軽く舐めた

 

「っ!!?」

 

明らかに驚いている様子だ。

 

「襲ってもいいか?」

 

目を合わせて発言すると、ウェンディは

まるで助けを求めるように視線を彷徨わせた。

…が、ナイトウォーカーとミスティは

退室させたため、誰もいない事に気付いたのか、

あっという間に顔が赤くなった。

 

「……ジェラー…ル…?」

「なんだ?」

「私ね、今週は……その…っ」

 

なるほど、本気にしたのか…

いや、本当にする事もできるが……

 

「ウェンディ」

「…?」

「冗談だ」

 

耳元で、囁いた。

 

「………??」

「今日はエイプリルフールだろう?」

「!ジェラールの意地悪っ!!大嫌い!」

 

大嫌い=大好き、ということか…。

俺はウェンディを抱き寄せて

 

「本当に実行してもいいのか?」

「!!」

 

固まったウェンディにキスをして、

 

「愛している」

 

そう言って退室した。

次はどう可愛がるか、少し楽しみで笑みが浮かんだ…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

天竜の………

 

ジェラールにからかわれて、

暫く真っ赤な顔をしていたら

大好きな匂いを嗅ぎ取った。

 

「グランディーネ…」

 

現れたのは人の形をした思念体……それでも、

私のお母さんである事に変わりはなくて……

 

『ウェンディ?』

「あのね、ジェラールが―――…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

今、ウェンディがミスティに授乳をしている…

口を離したミスティを見ると、俺に見られている事に

気付いたのか慌てて衣服を着直した。

 

「……っ…」

 

ミスティをベビーベッドに寝かせ、

ほんのり赤く染まった顔でベッドに潜り込んできた…

 

「……ジェラール…」

「ウェンディ」

「?」

 

俺は彼女を抱きしめて、そのまま倒れ込んだ。

 

「っ!」

 

視線を彼女の目から唇へと移し、

顔を近付け……ゆっくりと唇を重ねた…

 

「愛している…」

「……うん」

「……返事は?」

「…え?」

「君からの返答がまだなのだが…」

「っ!」

 

更に赤くなった頬を両手で包み込み、

唇が触れるか触れないかの位置まで顔を近付けた。

 

「………好き…」

「よく聞こえなかった…」

「……大、好き…っ」

「俺もだ」

 

そう言って唇を重ね、抱きしめた…

 

「っっ…!」

「…おやすみ、ウェンディ…」

「……うん…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

目が覚めた。だが、目の前にいるのは…

 

「…義母上…?」

『………』

 

…とりあえず、相当怒っているようだ。

なんとなく空気が震えているような……

 

『…ジェラール』

「…はい」

『あまりウェンディをからかわないであげて』

「…?」

『可哀相で堪らないわ』

「………」

『……………』

 

無言で口を開け、放たれた咆哮…

……凄まじい激痛が残された…

 

「……グランディーネっ!?」

『…ウェンディ』

「ジェラール!大丈夫っ!?」

「……ああ…」

 

体中痛くて立ち上がる事すらできないが…

 

「治癒魔法…!」

 

体中の痛みが少しずつ引いていく…

 

『…ジェラール、また何かあったら……

わかって、いるわよね…?』

「……はい」

『ウェンディ、後はよろしく頼むわ』

「!う、うん…」

 

義母上の気配が消えた…

 

「…ごめんね、ジェラール…」

「何故、君が謝るんだ…?」

「私が今日の出来事、

グランディーネに話したりしたから……」

「……いや、大丈夫だ。

遅かれ早かれ、いずれこうなっていた」

「…?」

 

不思議そうな彼女を、ようやく

動くようになった体で抱きしめた。

 

「止める気は、ないのだから……

こういう事はこれからも起きる」

「…え……」

 

固まったウェンディの耳朶を、甘噛みすると

 

「ひゃ…っ!?」

 

可愛らしい反応が返ってきた。

…そして同時に殺気を感じた…

 

「………帰ろうか」

「……うん。またね、グランディーネ!」

 

彼女がそう言うと、優しい風が吹いた…

 

………義母上は怖いが、俺はウェンディを愛している

…そして彼女を『からかう』ことを

止めるつもりは全くない。…義母上からの

厳しい仕打ちは覚悟しておこうと思う…

 

天竜グランディーネのとある一日

 

マグノリア郊外の森にある小さな小屋、

私は定期的をそこを訪ねている。

 

「………天竜」

『こんにちは、ポーリュシカ』

 

エドラスにおけるグランディーネである彼女は、

本名で呼ばれるのを嫌っている…

 

「…エドラスは…」

『ウェンディは元気よ。…元気、だけど……』

「…?」

『ミストガンは……困った子ね…』

 

私はエドラスにおけるジェラールである彼を

アースランドでは『ミストガン』と呼んでいる

 

『ウェンディをからかう事を止めないから、

制裁をしたというのに……

全然効いていなかったわ…』

「あいつ、そんな奴だったのかい…」

『ミスティは可愛らしいけれど、

ミストガンには困ったものね…』

「……困ったところで、何もできないだろう…?」

『………はぁ……また来るわ…』

 

妖精の尻尾に寄って、ウェンディ達の近況を話すと、

二人のエクシードは安心したようだった。

…暫く『思念体』で活動して、夜を迎えて……

 

*~*~*~*~*~*~*

 

いつものようにお風呂に

一緒に入ったウェンディとジェラール。

だが、現在ウェンディはジェラールに後ろから

抱きしめられ、彼曰く『悪戯』をされている……

 

耳朶を甘噛み…

 

「っ……」

「ウェンディ…」

 

熱っぽい声で囁かれ、首筋に舌を這わせられ、

ジェラールの手がウェンディの

下腹部をなぞった瞬間……

 

凄まじい勢いでバスルームの扉が開いた。

そこにいたのは、天竜グランディーネで…

 

「…グランディーネ…」

『………』

「……………」

 

『悪戯』が中止され、普通に上がる事になった二人。

…グランディーネの視線は冷たい…

 

「グランディーネ…」

『…ウェンディ』

 

眠るミスティを少し撫でた後、

 

『また、来るわ』

「……うん、またね」

 

終始ジェラールを冷たい目で見たまま、消え去った。

 

「……ウェンディ」

「…?」

「……義母上は、厳しいな…」

「そうだね…」

 

ウェンディは困ったように笑った…

 

自重する人しない人

 

グランディーネが来なくなった……

というより、私達の前に姿を見せてくれなくなった…

 

夢で『来るのを自重する』とは言ってたけれど、

来た痕跡しか見つけられない…

 

「……グランディーネ…」

「…義母上が来ないのが寂しいのか?」

「……少しだけ…」

「………」

 

ベッドで抱き寄せられている状態で、

ジェラールに唇を塞がれた。

……深い、口付け……

舌を何度も絡められて、

…パジャマのボタンが外されて、

下のキャミソールを一気に捲り上げられた。

舌を少し強く吸われて……唇が離れた…

 

「……ジェラー…ル…?」

「俺では寂しさを埋められないか…?」

「…何か、違わない…?」

 

無視して、ブラジャーを外された

 

「……!!」

「愛情が足りないのか…?」

「違うよ、ジェラー………んっ…!!」

 

胸元に吸い付かれて声が出そうになるのを

必死に堪えるけれど、時折舌で舐められて……

 

「…っ……ンっ……!」

「声、出してくれ…」

「…愛情は、十分…足りてる、よ…っ」

「……そうか」

「…っ大好き、だよ……ジェラー……っ!!」

「ありがとう、ウェンディ…」

 

言葉を遮るように唇を重ねられた

 

―いつも、言わせてくれないね…―

 

*~*~*~*~*~*~*

 

早朝、目が覚めた。

………ほぼ全裸で、布団をかけられていて……

抱きしめられている状態…

 

「……ジェラール…」

 

名前を呼んでも、腕に

力を込められただけで起きてくれない…

 

「……はぁ…」

 

その時、ジェラールが寝た振りをしているのに

私が気付く事はなかった…

 

意地悪ジェラールと天狼島

 

黙々と、朝食を食べています。

………食べ終わった!…よし…!

 

「ジェラール」

「どうした?」

「ジェラールは、本当に意地悪だよね」

「…どこが、どういう風に意地悪なんだ?」

「…!そういうところ、だよ…」

「…?」

「わからない振りとか、

起きてるのに寝てる振りとか………

じ、焦らすの…とか……っ」

「…そうした方が可愛いウェンディを見れるからな」

「ジェ……ッ!!」

 

向かい合って座っていた

ジェラールが立ち上がって……

 

「…ウェンディ」

「………」

 

目の前に立ってる……嫌な予感が…

 

「……ジェラー…!!」

 

言葉が途切れた。

理由は、至近距離にジェラールの顔が

移動してきたからで………唇が触れる1秒前…?

 

…何もしてこないから、

自分から唇を押し付け…たら、

後頭部を押さえられて………えぇ~~っ!?

 

………酸欠寸前になるくらい、

長い時間その状態でした…

 

「…可愛いな」

「……黒いね…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―アースランド・天狼島―

 

大木に凭れ掛かり、海を眺めている黒髪の青年…

 

「……ナツ…」

 

呟いた言葉は風に掻き消された。

 

「また海を……いえ、

その向こうを見ているのですか?」

「!」

 

凭れ掛かっている大木の枝に、

重力を無視したように乗っている

ウェーブのかかった金髪に

天使の羽の髪飾りを着けた少女。

 

「…メイビス」

「また悲しい顔をして……

それでは昔と同じですよ、ゼレフ」

「……君には感謝をしているよ。

世界が僕を拒まなくなって、

それでも居場所のない僕を

此処にいさせてくれているから…」

「妖精の尻尾にいる『彼』にも、

いつでも会えますしね…」

「……うん」

 

ほんの少し、笑みが零れたゼレフ

 

「ようやく笑ってくれましたね」

「……ぁ…」

 

枝から飛び降り、ゼレフの隣に着地したメイビス。

身長差から彼女は彼を見上げる形になる。

 

「どうか絶望ではなく、希望を見出だして下さい。

今の貴方なら、それが可能な筈ですよ?」

 

満面の笑みを浮かべたメイビスにゼレフは…

 

「僕が過去に奪った沢山の命…

…だけど希望なら、既に見出だしてるよ…」

「本当ですか?それはよかったです」

「…君が希望になってくれたから…」

「……私が希望、ですか?

ありがとうございます、ゼレフ。

…さて、この嬉しい出来事を

三代目に伝えに行きましょうか」

「え…?」

 

間抜けな声を出した時には、

既に足元の魔法陣が輝いていて

 

「行きましょう?」

「…うん」

 

差し出された手を躊躇いがちに取った時、

転移魔法が発動し……天狼島から

二人の姿は消えていた…



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色々まとめ その1

幸福の天使の続きです、pixivにも同じものを投稿済みですが、此方では分割させて頂きます。


初代マスターと黒魔導士の来訪

 

転移したのは、妖精の尻尾のギルド内部…… 

突然現れた私達に、驚いている皆さん 

 

「暫くぶりですね、三代目」 

「………はい…」 

 

少し疲れたような声を出す三代目。 

…ゼレフはというと、『彼』… 

ナツ・ドラグニルを見ていた… 

 

「……ナツ…」 

「あ?」 

 

彼はゼレフに気付くと、溜め息を吐いて会話を始めた 

 

…黒魔導士であったゼレフは、 

妖精の尻尾に少しは打ち解ける事ができていますが、 

独立ギルド・魔女の罪の3人は 

未だ厳しい目で警戒しているようです… 

 

「…天竜さん」 

『はい?』 

 

妖精の尻尾の皆さんは、私の一挙一動に驚いたり、 

静まったりと…忙しいですが、竜の皆さんは別です。 

天竜さんはよく来てくれますが、ナツさん曰く 

火竜さんは『イグニールは時々しか来ねぇけど、 

いつも見守ってくれてる』らしく、 

あまり見かけません… 

 

「エドラスへ行った子はどうですか?」 

『…あっちはあっちで、楽しそうよ。 

…夫が意地悪だから困ってるようだけど……』 

「そうですか、幸せそうで何よりです…」 

 

ゼレフに少し駆け足で近付いて、 

後ろから抱きついてみました。 

驚いた様子のゼレフと、 

それ以上に驚いている三代目… 

 

「三代目、ゼレフが私に 

希望を見出だしてくれたんですよ?」 

「………」 

 

絶句している三代目… 

 

「ゼレフ、少し屈んで下さい」 

「?うん…」 

 

私の身長に合わせて屈んだ彼の両肩に手を伸ばし、 

そのまま軽く勢いをつけて唇同士を触れ合わせた… 

 

直後に後ろへ向かって倒れた三代目と、 

静まりかえったギルド… 

ゼレフは…一瞬何が起こったか分からなかったのか、 

キョトンとしてましたが……楽しくて笑顔を浮かべる 

私を見て、自分の唇を指で触れて……… 

少しだけ頬が赤くなりました。 

 

「……メイ…ビス…?」 

「さて、出掛けましょう?」 

 

動かない彼の手を引いて、ギルドの扉を開けて 

マグノリアの街へと足を踏み入れました。 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

光と闇

 

ギルドから飛び出して、 

思うままに走って……止まった。 

 

「ゼレフ、大丈夫ですか?」 

「……うん…」 

「よかった……妖精の尻尾は 

かつて私が理想とした形となってくれました。 

…三代目には感謝しなくては…」 

 

それと同時に思い浮かんだのは… 

「ルーメン・イストワールは妖精の尻尾の闇」と 

言った三代目の息子、大鴉の尻尾マスター・イワン。 

そして、その情報の漏洩をもたらした……… 

 

「……プレヒト…」 

「!」 

「闇に落ちてしまった、プレヒト…。 

私の浅はかな人選の結果が情報の漏洩を……… 

私の、せいで……っ」 

 

涙が零れてしまった……自分の浅はかな判断で 

かつての妖精の尻尾が危機に陥った事に…… 

 

「……メイビス… 

(…泣いている顔は初めて見た…。 

いつも泣き顔を見せていたのは僕だったから……。 

…僕の『光』が陰っているのは、嫌だな…)」 

 

「…泣いてなんか、ないです…… 

全然…泣いて、なんか…っ」 

 

急に抱き寄せられた後、 

一瞬だけ唇を重ねられました… 

 

「………」 

 

全く予期していなかった行動で、涙が止まりました。 

 

「泣かないで…… 

君は…僕の『光』だから…」 

「…ありがとうございます…」 

 

貴方がプレヒトを死なせた者でも、 

何も思いませんよ?だってプレヒトを 

次期マスターに選んだ私が悪いんですから…… 

光、ですか……光の神話……我がギルドの、光…… 

どうか途絶えないで下さいね… 

出来れば、使う時が来ない事を祈ります。 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

元毒蛇の女性と毒竜の滅竜魔導士

 

「さて、行きま……」 

「…メイビス?」 

 

視線の先にいたのは、 

蛇になる呪いをかけられていた女性 

 

「あ……マスター・メイビス…」 

「こんにちは、キナナさん」 

「……はい」 

 

彼女も結婚しているのだけれど… 

 

「夫婦生活はどうですか?」 

「……お互い『慣れる』ことに必死です…」 

「慣れる…?」 

「キュペリオス……蛇だった頃と、今との……… 

昔は、どこに行くのも一緒だったから……」 

「お風呂も、ですか?」 

「っ!!」 

 

何気なく言ったことに彼女は赤面していた 

 

「………」 

「キナナさん?」 

「…コブラは、優しいんです…。 

私を気遣って………何もしない。 

ただ『お前の声を聴かせてくれ』って…」 

「コブラさんは、………来ましたよ」 

 

遠くから、走って来る男性がいた 

 

「キナナ、聴こえたぞ~!」 

「コブラ…」 

「さて、帰りましょうか。ゼレフ」 

「…あの二人は?」 

「キナナさんが彼の事を想うと、 

いつも彼はどこからでも飛んで来るらしいです」 

「……」 

「前にキナナさんは『誰の声かも分からなかった 

昔と比べれば、一緒に暮らせている今が幸せです』と 

言っていました」 

「幸せ…」 

「…ふふっ」 

「メイビス?」 

 

転移魔法で天狼島へと帰って来ました。 

場所は、露天風呂… 

 

「一緒にお風呂、入りませんか?」 

「………ぇ…?」 

 

全く予期してなかったらしいゼレフの声を聞いて、 

私は笑みを浮かべました… 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

一緒にお風呂!

 

「どうしても一緒は嫌なんですか?」 

「…嫌という訳じゃないけれど、ちょっと……」 

「………私と一緒に入るのが、 

そんなにっ、嫌ですかっ!?」 

「……メイ、ビス…?」 

「いっじょにっ、 

はいっでぐれないどっ、わたし…っ!!」 

「………………一緒に入れば、いいんだね…?」 

「…ぐすっ、…はい…っ」 

「一緒に入るから、泣き止んで…?」 

「……!はいっ!」 

 

泣き顔を笑顔に変えて、 

その場でワンピースごと全部脱いで、 

露天風呂に浸かりました。 

此処は濁り湯なので、色々と大丈夫です! 

 

「…メイビス、隣…いいかい?」 

「はい」 

 

振り返ると、タオルを巻いたゼレフがいました。 

少し離れて隣に浸かっていたので、 

距離を詰めて抱き着いてみました! 

 

「っ……!!」 

「ゼレフっ♪」 

 

倒れかけた身体をなんとか踏み止まって、 

小さな私の身体を抱き寄せる形になった 

ゼレフの顔は少し赤くて…… 

 

「ふふっ♪」 

 

間近にあるゼレフの唇を塞いでみました! 

 

「っ!!」 

 

唇を離すと、さらに赤くなって……… 

抱き寄せられました。 

 

「ゼレフ?」 

「………こうしている間なら 

お互い何もできないから…」 

「…積極的ですね♪」 

「……………」 

 

上がるまでの間、ず~っとそのままの状態で、 

後ろから見えたゼレフの耳は赤かったです! 

ふふふ…♪ 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

一緒に就寝♪

 

露天風呂から上がって、ゼレフを連れて歩きます… 

 

「…どこに行くの?」 

「洞穴です」 

「…?」 

「一緒に寝ませんか?」 

「っ……!!?」 

 

ゼレフの顔が赤くなりました。 

…私、何か変な事でも言ったんでしょうか? 

 

「……言葉の意味、わかって、いるのかい?」 

「?」 

「………深い意味は無いんだね…」 

「はいっ!」 

 

心なしか安心したような…… 

微妙に複雑な表情のゼレフを引いて歩きます。 

 

到着したのは、 

洞穴は洞穴でも、生活できる洞穴です! 

とりあえず、大きなベッドを置いてます。 

広くて、寝心地のいいベッドです! 

 

何故か離れようとしている 

ゼレフに抱き着いて、見上げます 

 

「……わかったよ…」 

「ふふっ♪」 

 

二人でベッドに横になっているのですが、 

ゼレフはこっちを向いてくれません… 

 

「…ゼレフ」 

「…何?」 

「こっち、向いて下さい…」 

「っ!!」 

 

一瞬固まったように見えたゼレフは、 

きちんと私の方に向き直って… 

 

「メイ、ビス……」 

 

どこか暗い彼の片手を握って、 

手の甲にキスをした後、満面の笑みを浮かべて… 

 

「おやすみなさい」 

「っ……!」 

 

赤くなったゼレフを瞼に焼き付けて、 

手を握ったまま眠りにつきました… 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メイビスが眠って……

 

僕の手を握って眠るメイビス… 

閉じられた瞼、ふっくらとした唇、 

……幸せそうな表情…… 

 

「~~っっ!!」 

 

何を見ているんだ僕は!?……冷静になるんだ。 

…僕の『闇』を照らしてくれる『光』…… 

彼女なら、どんな状況でも 

輝き続けられるんだろうな… 

 

「………」 

 

握られた手を握り返して、 

メイビスの顔に僕の顔を近付けて……… 

 

「…………っ…」 

 

逃げるように、額に唇を当てて、すぐに離した。 

…絶対、顔が赤い…… 

握られた手は、そのままで…… 

所謂『生殺し』状態で夜を過ごした… 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

―翌朝― 

 

「おはようございますゼレフ」 

「…おはよう」 

 

一睡もできなかった… 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

聞こえる声

 

『行くぜ、キュベリオス』 

 

返事をする、蛇… 

 

『やったな、キュベリオス!』 

 

嬉しそうな声は、キュベリオスに対してのもの。 

私に対してじゃない… 

 

「コブラ……」 

 

私の事を呼んでくれないのが、 

少しだけ悲しくて、涙が零れた… 

 

「エリック、エリック…っ」 

 

―…ナ……キナナ…っ― 

 

「!」 

 

目を開けると同時に 

飛び込んできたのは、心配そうな顔のコブラ… 

 

「……コブラ、どうしたの…?」 

「お前がうなされてんのが聴こえた」 

「…心配、してくれたんだ…」 

「当たり前だろ…」 

 

心が暖かい… 

 

「ありがとう、コブラ…」 

「……キナナ」 

「?」 

 

抱き寄せられた。 

…私は積極的にコブラにスキンシップをしないし、 

それはコブラも同じだったから……驚いた。 

 

「……上手くは言えねぇが、 

俺は例え過去がどんなもんでも……お前が大切だから 

また一緒にいたいと思ったから一緒になった…」 

「…ありがとう、コブラ……嬉しい」 

「…お前が 

キュベリオスだった頃の自分を思い出す度に… 

嬉しくもあるが、お前が『キュベリオス』に対して 

嫉妬のような感情を抱くのも 

仕方ないのかもしれねぇ。だが……」 

 

とても強く、優しい声で… 

 

「俺はそういう部分も全部引っくるめて………っ」 

 

その後の言葉にならない言葉は、 

心が聞き取ってくれた。 

すごく、嬉しい…… 

 

「コブラ、ありがとう…」 

 

―大好き、だよ…― 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

恋愛相談(海へLet's Go♪)

 

「……メイビス…」 

「どうしました?」 

「誰かに……相談したい事があるんだ…」 

「私が相談に…」 

「っ!メイビスじゃ…意味が無いんだ…」 

 

悩みの種である彼女に相談できる訳がない… 

 

「…そうですか……」 

「!」 

 

気付くと、そこはマグノリアの街中… 

 

「………」 

「マスター・メイビス…?」 

「キナナさんにコブラさん、デートですか?」 

「えっ……」 

「っっ…!黒魔導士、来い!」 

 

隻眼の青年に引きずられる… 

 

「メイビス……少し二人で話して来るね…」 

「わかりましたゼレフ」 

 

にっこりと微笑んだメイビス、…可愛い… 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

「ったく、あの小せぇマスター 

どうにかなんねーのかよ!?」 

「それがメイビスだから…」 

「……………黒魔導士」 

「…?」 

「あの小せぇマスターにベタ惚れのくせに、 

驚く程ヘタレなんだな…?」 

「っ……!!」 

 

彼は心の声を聴く魔法も使うんだった…! 

 

「一緒に寝ても手が出せねぇか…」 

「!!それは……」 

「…光として見てるから 

手が出せねぇか……俺と同じだな」 

「え…?」 

「何でもねぇよ、 

……うるせぇ声が聴こえてきやがった…」 

「ゼレフっ♪」 

「メイビス…」 

「海、行きましょう! 

妖精の尻尾メンバーは強制参加です♪」 

「え?でも僕は……」 

「行きましょう?」 

「………うん」 

 

手を握って、転移魔法で海に飛んだ… 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

………着替えた。うん、僕は着替えた。 

水着なんか持ってなかったし、 

着替える勇気も無かったけれど、 

なんとか調達して、シャツ&短パンの下に 

着てるだけで……脱ぐ勇気は………… 

海辺には僕一人。………他の皆はどこに……? 

 

「ゼ~レ~フっ♪」 

 

身体が硬直した。 

理由は、言葉と共に何かが背中から…… 

抱きついてきたから、で……それが何…… 

誰かなんて分かっているからで… 

 

「……メイ、ビ…ス……?」 

「はい♪」 

 

すぐに僕の正面に来た彼女は、 

ストライプ柄の水着姿… 

 

「っっ~~………!!」 

 

直視できる訳がなくて、俯いた。 

 

「ゼレフ?」 

 

俯いた先に覗き込んできて…… 

 

「……メイビス…」 

「はい?」 

 

僕はシャツを脱いで、彼女にかぶせた。 

 

「?」 

 

脱ごうとするメイビス… 

 

「脱がないでっ!脱がな………」 

 

言葉が止まった。……今、 

メイビスは僕が着ていたシャツを……………っっ!! 

 

「…ゼレフ…?」 

 

赤面して倒れたゼレフを、 

メイビスは不思議そうに見ていた… 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

サプライズゲストを呼びました

 

何故かゼレフが気絶してしまいました。 

………サプライズゲストを呼んでみましょう… 

 

工夫して……出来る限り 

大規模な転移魔法を発動させる…… 

 

「!」 

 

天竜さんがこっちへ来ました。 

本人曰く『人間風お洒落』のキャミソールと 

ふわふわとしたスカートです。 

 

私は彼女に笑いかけました。さて…… 

 

「そういえば、ウェンディの旦那様って… 

どんな人なんですか?」 

「………」 

「…グランディーネさん?」 

「………意地悪で、性格が黒くて…」 

「散々な評価ですね」 

「…でも、ウェンディを大事にしてくれる人…」 

「…ふふっ」 

 

人物指定、開始。 

エドラスのジェラール、 

アースランドの天竜の娘、ウェンディ・マーベル、 

その二人の間に生まれた娘、 

人物指定、終了。 

 

指定した人物を強制的に 

呼び寄せる魔法を使い、呼び寄せた二人… 

 

「……………」 

 

周りの状況が変わったことに驚いているようです。 

………ミストガンがウェンディを 

押し倒してますけど…… 

 

無言で天竜さんが前へ進み出ました 

 

「照破・天空穿」 

 

ミストガンが吹き飛ばされました。 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

泳ぎました・死にかけたよ…

 

吹き飛ばされたミストガンが 

遥か遠くの海に落ちて……帰って来るのが 

大変な様だったので転移魔法で 

戻って来てもらいました… 

事情説明をして、水着に着替えてもらいました 

……うん、私も泳ごう! 

皆さんも集まって来ましたし…… 

ゼレフのシャツを脱いで… 

 

「ゼレフ!ゼ~レ~フっ!」 

「……っ…?っっ!!?」 

 

目覚めたゼレフの顔は真っ赤です。 

 

「ゼレフ、泳ぎましょう♪」 

「っ……!」 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

…目が覚めた瞬間に映ったのは、 

僕がかぶせたシャツを脱いで 

水着姿に戻ったメイビスだった。 

………うん、心境的には……助かったんだと思う。 

だけど、やっぱり直視できない…! 

 

泳ごうと言われて、そのまま手を引かれる。 

ある程度進んだ所で、 

僕の両手を握って……泳ぎ始めた。 

……メイビスが海水から顔を上げる度に……… 

水飛沫と共に……………かわ…いぃ…… 

 

 

…どうやら見ている内に 

足が止まってしまったみたいで、 

メイビスが……あ……、ぅ、え……? 

 

抱き着いてきて、 

………動け、ないよ…!誰か助けて!! 

 

きょろきょろと周りを見渡した結果、 

近くにいたのは元・悪魔の心臓のウルティア。 

なんだかよく分からないけど、一人で佇んでいた。 

僕は助けを求めて必死に視線を送って、 

助けてもらった………死にかけた……気がした………

 

*~*~*~*~*~*~*

 

注目の的

 

「ゼ~レ~フ~~っ♪」 

「……………」 

 

メイビスに抱きつかれてて、 

……注目の的になってる僕。 

 

「皆さん、揃いましたね!じゃあ相談会です♪ 

何を話し合うかは自由ですっ!男女に別れて、始め!!」 

 

ナツに引きずられる…… 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

「相談つっても話す事なんかねぇんだけど」 

「同感だ」 

「……おい、てめぇら…… 

面白れぇ話、してやろうか?」 

 

そう言ったのはコブラ 

 

「黒魔導士がな、初代マスターと風呂入ったり」 

『初代と入浴!!?』 

「寝たらしいんだが」 

『寝た!!!?』 

 

全員の視線が僕に突き刺さる…… 

 

「……………」 

 

僕は、俯いた。視線が痛い… 

 

…メイビス……お風呂……一緒に、寝……… 

 

「なにを話しているんですかっ?」 

 

背後から聞こえた声に、固まった。 

 

「…初代がゼレフと寝たって聞いたんだけど」 

「風呂に入ったって本当か?」 

「ふふっ、本当のことですよ♪」 

 

………視線が、痛い… 

 

「私が起きた時、 

ゼレフの目元にはクマができていました。 

やっぱり寝れなかったんですね…」 

(うわぁ………生殺し…) 

 

今度は生暖かい視線が…… 

 

「昔プレヒトも全く同じことになってましたけどね」 

「……え……?」 

「私が選んだ二代目…… 

あれ以来、プレヒトは……… 

ふふっ♪今思い出しても……」 

 

…たしか、悪魔の心臓のマスター… 

…そっか……昔、メイビスと……………… 

 

魔力が渦を巻く… 

漂う魔力は黒くて、そして… 

 

 

不穏な魔力に気付いたのか、メイビスは… 

 

「ゼレフ」 

「…なに?」 

 

唐突に、触れる寸前まで近づけられた唇。 

………………ちょっと待って… 

 

「…メイビス?」 

「やっぱりゼレフといると楽しいです」 

 

一瞬、触れ合った……その…… 

……変わらず微笑んでいるメイビス… 

 

僕は頭を冷やすために海に飛び込んだ…。 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

天使と毒蛇

 

「そういえばキナナって、 

コブラの本名知ってるの?」 

「っ!」 

「……私はコードネームを名乗るの止めたのに、 

コブラはそのままなんておかしいゾ」 

「ソラノさん…… 

私はコブラの本名は知ってますよ? 

…でも、絶対に口にしないって約束したんです」 

「…心の中では呼んでるってことか…… 

まぁ、私もコードネームなんてどうでもいいし 

本名を呼ばれようと関係ない…… 

大切なモノが戻れば、どうだっていいゾ」 

「……うん」 

「…ユキノ、」 

 

彼女は同じ髪の色をした女性と親しげに話し始めた… 

 

「………」 

 

ソラノさんとユキノさんを見ていると、 

いつかの記憶が蘇った気がした。 

 

─エリック…─ 

 

私のどこかに残っているキュベリオスの記憶が 

時々、戻ってくる。私はキュベリオスではないし、 

もう戻ることはできないけれど、 

過去の私と違ってエリックに声を届けられる。 

…彼の願いを叶えていける。 

 

─…キナナか?─ 

 

不意に聞こえた声に思考が一瞬止まった。 

 

─そっちでなんかあったのか?─ 

 

─…ううん、なんでもないよ。 

ちょっと名前を呼びたくなったの─ 

─そうか…─ 

 

何を伝えるか迷って…… 

きっといつも思っていることを言葉にした 

 

─エリック、…大好き─ 

─……知ってるに決まってるだろ?…俺もだ─ 

 

 

 

───私の昔からの同僚はどこにいようとも、 

妻(キナナ)との会話で 

ピンク色の空間を形成することがある 

(byソラノ(昔は天使になりたかった)─ 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

海への想いと親ドラゴン

 

「ミストガンとはどんな感じだ?ウェンディ」 

「…ど、どんな感じって……?」 

「あ、私も気になってたんだっ!」 

「…昔はそんなことなかったんですけど、すごく…意地悪なんです…」 

「それは腹黒いという意味かしら?」 

「……はい」 

「こっちのジェラールとは正反対なのね…。エルザ、ジェラールは最近押してる?」 

「ジェラール、少しは積極的になった?」 

「…何故お前達に心配されなければならない」 

「だってジェラールって…」 

「もういいわ、メルディ…少し泳いできましょう。私達には関係のない話だし、それに………」 

「……ウル?」 

「海へ来るのは、久し振りだもの……」 

「…一緒に泳ご?ウルティア」 

「そうね」 

 

 

 

ーその頃…ー 

 

「ナツにガジル、聞きたい事がある」 

「どうしたミストガン」 

「ドラゴンの親とは全員が攻撃的なのか?」 

「………は?」 

「何言ってやがる」 

「……いや、義母上がかなり攻撃的で気になっただけだ」 

「ん~……ウェンディはグランディーネは優しいドラゴンって話してたんだけどな…」 

「何か怒らせるようなことでもしたんじゃねぇのか?」 

「ああ、心当たりは幾つもある」 

「「………………」」 

 

 

 

その頃、同時刻の海辺では……海に飛び込んだゼレフが、メイビスに乗られた状態で気絶していた…… 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

じんこーこきゅー

 

僕は頭を冷やすために海に飛び込んだ。 

……冷たい、………少し落ち着いたかな… 

 

「ふふっ♪ゼ、レ……」 

 

聞こえた声に呼吸が止まった。 

後ろを振り返ろうとした瞬間…… 

 

「フ~~~っっ♪」 

 

逃げる暇なんかある筈もなく、後ろから飛び付いてきたメイビス。 

綺麗な金色と眩しい水着姿が見えた気がしたけれど、 

まるで銃弾のような勢いを殺す事も出来ずに僕はそのまま海の方へと……… 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

ふふっ♪ゼレフに思い切り抱き着いてみました! 

うん、温かい。これこそ人肌ですね♪ 

 

「……ゼレフ?………あ、」 

「…………」 

 

ゼレフが動かなくなっていました。 

口元に手を当てます。呼吸音はありません。 

胸元を触ってみます。反応はありません。 

 

「もう、仕方ありませんね…」 

 

ゼレフを浜辺まで引き摺って、仰向けに寝かせます。 

胸元に両手を当てて、薄く開いた唇を塞ぎます。 

どこか心臓がバクバクと音がする気がしますが、気のせいです。 

 

「…ん………」 

 

口を通して、息を送り込む。 

再び息を吸って、息を吹き込む。 

その作業を何度か続け、心臓マッサージを数回。 

それが終わったら人工呼吸。それを繰り返す。 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

「っ……」 

 

ーあれ、僕どうして寝てるんだっけ? 

身体にかかる重みは何……………っっ!!? 

メイ、ビ……ス…?なんで顔が目の前に…… 

唇に何か当たって…………え?これメイビスの……ー 

 

顔に熱が集中する。 

目の前のメイビスの目蓋が開いて 

 

「やっと起きてくれたんですね♪」 

 

唇を離して満面の笑顔で嬉しそうに話すメイビス 

 

「………あり……がと…ぅ……」 

「無事でよかったです♪」 

 

ーああ、本当に優しいな……ー 

 

 

 

一方、後方では…… 

 

「ウル、……黒魔導士ゼレフって……」 

「随分とヘタレね。普通なら、男女逆でしょ……」 

 

その様子を二人の女魔導士が盗み見ていた… 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

二人のジェラール

 

俺はすぐ側にいる、自分と同じ容姿の…… 

いや、並行世界の自分を見続けている

 

「………」 

「……………なんだ?」 

「…ああ、まさか会うことになるとは思っていなくてな…」 

「…本当に同一人物なんだな…」 

「………君はエルザと結婚したんだろう?」 

「っ!……ああ…そういう君は……ウェンディと…」 

「ああ、ウェンディは……可愛い」 

「…エルザも強くて……基本的に凛としているが、時々とても可愛くなる……」 

「ウェンディは常日頃から可愛らしいが、少し意地悪をすると…涙目で…」 

「……意地悪?」 

 

…別方向から聞こえてきた声に固まった。理由は…… 

 

「…義母上……」 

 

不思議そうに俺を見てくる義母上… 

いや、これは…… 

 

「流星!」 

 

不穏な空気に気づいたこちらの俺は逃げたようだ

 

「…ジェラール」 

「…はい」 

「………」 

「………」 

 

沈黙が続く

 

「……………今日は、楽しんでおきなさい」

 

何かを必死に堪えて、立ち去った義母上

 

「……今日は……」

 

要するに後日、制裁か…… 

止める気がないから仕方ないが、毎回義母上の攻撃は容赦がないな…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+シャルル

 

「ジェラール!」 

 

ジェラールにぎゅっと抱きつく。 

 

「どうした?ウェンディ」 

「ふふっ、何でもな…」 

 

何故か凄く至近距離にジェラールの顔があった。 

 

「ジェラー…っ」 

 

名前を呼ぶ前に触れ合った唇。 

 

「………っ」 

 

ジェラールの背中に腕を回して、 

深い口付けになんとか応える。 

…息苦しくなってきた辺りで舌を吸われた。 

 

「は……はぁ…っ」 

「御馳走様」 

「ジェラールの………ばか…」 

「………」 

 

ぎゅっと抱き締められる。 

 

「…グランディーネに叱られるよ?」 

「愛情表現の一環だ」 

「…他の人達も見てるよ?」 

「それでもいい。 

アースランドにいられるのは今日だけだ。 

思い出作りをしないとな」 

「………うん」 

「ウェンディ…愛している」 

「…私もだよ、ジェラール」 

 

*~*~*~*~*~*~* 

 

シャルルに話しかける。 

 

「シャルル」 

「なに?ウェンディ」 

「幸せ?」 

「な、なによ急に……」 

「私は幸せだよ?大切な人と一緒にいられて」 

「………」 

「シャルルは?」 

「幸せ…よ。ハッピーと一緒にいられて 

母さんも時々、妖精の尻尾に来てるの」 

「良かったね、シャルル」 

「ウェンディ…」 

「うん?」 

 

シャルルが抱き付いてきた。 

…私も抱き締め返す。 

 

「ずっとずっと、大好きだよ。シャルル…」 

「………私もよ、ウェンディ…」 

「泣かないで、シャルル」 

「…ウェンディだって泣いてるじゃない」 

「………私達、ずっと…親友だよ」 

「当たり前じゃない…」 

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

「お姉さん、一人?」

 

知らない男性に話し掛けられた。

一瞬顔が引き攣ったけど、笑みを浮かべて

 

「一人じゃないです。夫と娘と一緒に来てます」

「…ちっ、ナンパ失敗…」

 

男性は去っていきました。

 

「…ウェンディ」

 

聞こえた声に振り返る。

 

「ジェラー…」

 

最後まで言い終わる前に抱き締められた。

 

「ル?」

「…何もされなかったか?」

「うん」

「良かった…」

「ジェラール、ありがとう…」

「ウェンディ…」

 

顎を軽く持ち上げられたから素直に目を閉じた。

唇が触れ合うと同時に何故か押し倒された。

 

「…?ジェラール…?」

「……………すまない。今退く」

 

素早い動作でジェラールは上から退いてくれた。

 

「ジェラール……どうしたの?」

「…いや、何でもない。すまなかった…」

「?」

(周囲の情報を忘れて襲いかけた…!)

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ジェラールと一緒に手を繋いで波打ち際を歩く。

 

「思い出作りはもういいのか?」

「もう充分して来たよ。

沢山話して…沢山笑って…」

「…そうか」

「海、またいつか3人で来ようね」

「ああ」

 

初代に呼ばれて、集合写真を撮りました。

 

「写真が出来たら天竜さんに渡しますね」

「はい。よろしくお願いします」

「……じゃあ、そろそろ時間ですね」

「………はい、初代」

 

預けていたミスティを受け取って

転移魔方陣の上に二人で乗る。

 

「皆さん、大好きです」

「ウェンディ…」

「シャルル、ハッピーと幸せにね」

「ウェンディこそ…そっちで幸せになるのよ」

「うん!」

 

その言葉を最後に、アースランドから私達は消えた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「あ、陛下!王妃様!何処へ行かれていたのですか!?

皆、心配したんですよ!」

「すまなかった。少し出掛けていたんだ」

「今度はちゃんと城の者に伝えてから出掛けて下さい」

「ああ」

 

兵士さんが去って行った後、ジェラールは

ミスティを抱き上げてベビーベッドに移した後…

私を、ベッドに押し倒した。

 

「…ジェラール?」

「ウェンディ…」

 

啄むようにキスを繰り返される。

割り込んできた舌に素早く舌を絡めとられた。

 

「……っ…」

 

舌を吸われて、少し意識がクラっとした。

 

「ジェラー…ル……?」

「今朝の続きだ」

 

耳元でそう囁かれて、二人でベッドに沈み込んだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ベッドに沈んでキスを何度も繰り返す。

繰り返す度に少し身体が火照ってくる。

身体の内側の熱が上がる。

 

「…っ…」

 

舌でペロリと唇を舐められて軽く唇を開く。

ジェラールの舌が咥内に侵入してきた。

 

「…ん……っ」

 

身動ぎしようにも後頭部に手を添えられていて無理。

舌同士が触れ合う。素早く絡めとられる。

その内に上衣を片手で器用に脱がされる。

肌着の中に手を入れられて、

ブラジャーを上にずらされて胸の先端を撫でられた。

 

「っ…!」

 

あちこち舌で刺激され尽くした後、舌を吸われた。

 

「…は……っ」

 

離れた唇、銀色の糸は直ぐに消えた。

額にキスを落とされて、

 

「今は、此処までだ」

「…え……どうして…?」

「……そんな顔をしても今はダメだ」

「………」

「まだ食事が済んでいない」

「……あ、うん…」

 

仕方なく火照った身体を無視して

ずれたブラジャーの位置を元に戻した。

 

「あぅ……あー…」

「…ミスティ、ご飯にしようね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

食事を済ませて、ミスティをお風呂に入れる。

 

「きゃぅ、きゃっきゃっ…」

 

少し、熱が引いた気がする…。

 

「温まったみたいだね。上がろう…」

 

脱衣場でミスティの身体をしっかり丁寧に拭いて

ベビーオイルを塗って、おむつと服を着せる。

ミスティに母乳をあげて素早くパジャマを身に付けた。

 

「ジェラール、上がったよ」

「ああ、入ってくる」

 

ミスティを寝かせるために子守唄を歌う。

 

「眠れ眠れ 母の胸に

眠れ眠れ 母の手に

こころよき 歌声に

結ばずや たのし夢

 

眠れ眠れ 母の胸に

眠れ眠れ 母の手に

暖かき そのそでに

包まれて 眠れよや

 

眠れ眠れ かわい若子

一夜(ひとよ)寝(い)ねて さめてみよ

くれないの ばらの花

開くぞや まくらべに……」

 

ポンポンと優しく身体を撫でながら歌う。

 

「眠れ眠れ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「すー……すー……」

「おやすみ、ミスティ」

 

額に口付けて呟く。

 

「………」

 

ベッドに腰掛ける。

 

「熱、大分冷めて良かった…」

 

そのまま仰向けに寝転がる。

 

「ウェンディ」

「あ、ジェラール」

 

ジェラールがお風呂から上がったみたい。

 

「ミスティは寝たか?」

「うん」

「そうか」

 

そう言って歩を進めるジェラール。

 

「…ジェラール?」

「………」

 

にっこりと笑うジェラール。

…うん、嫌な予感がする。

ベッドに乗って、両腕で抱きしめられる。

 

「…ウェンディ」

「っ!」

 

耳元で囁かれる。

どうしよう……熱が、引いていたのに…戻ってきた。

 

「続きをしよう」

 

返事代わりにキスをすると、

パジャマのボタンが外された…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

今日はハロウィン。

民や兵達にお菓子を配って

エドラスは軽くお祭り騒ぎだ。

 

「ふぅ…」

「ジェラール」

「ウェンディ?」

 

見ると、黒と藍色の配色の

魔女風衣装のウェンディがいた。

 

「お菓子をくれなきゃ悪戯するよ?」

「…ほら、お菓子だ」

 

余っていたお菓子をウェンディに差し出した。

 

「ふふ、持ってたんだね」

「ああ、悪戯してもらえないのが残念だ」

「…ジェラールらしいね、

悪戯じゃないけど…これならいいかな…」

 

頬にキスを落とされた。

 

「ふふっ」

 

ふんわりと笑うウェンディ。

 

「ウェンディ」

「?」

「悪戯、していいか?」

「…うん!」

 

ウェンディの帽子を取って

頬にキスをした後、

唇を滑らせながら耳を甘噛みした。

 

「っ………!」

「ウェンディ…」

「…ジェラール」

 

ふと扉の方を見ると数人張り付いているのが見えた。

 

「……………ウェンディ、此処までだ」

「…?」

「城の者に見られている」

「…!!…わかった」

「ウェンディ」

「?」

 

思い切りウェンディを抱き締めた。

 

「愛している」

「…私もだよ」

 

その後、人払いをして三人でのんびりと過ごした。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

瞼を開く。

正面にはジェラールの胸元、少し顔を上げると顔がある。

軽く抱き締められている状態で、

なんとか左腕を持ち上げる。

ジェラールの顔に触れる。

 

「ふふ」

 

肌を撫でながら唇に触れる。

 

「………ジェラール、大好き」

 

精一杯力を入れて、身体を動かしてキスをした。

 

「…………」

 

ジェラールから身体を離す。

後ろ向きになって顔を隠す。

 

(ジェラールが寝ている間に私は何をしてるの…!)

 

きっと私の頬は真っ赤になってる…。

 

「ウェンディ…」

「っ!」

 

耳元で囁かれて心臓が跳ねた。

くぐもった笑い声が聞こえる。

 

(ジェラール、起きてたんだ…!)

「随分と愛らしい事をするな」

「………ジェラール、いつから…起きてたの?」

「ウェンディが起きる前から」

 

頬が、さらに赤くなった。

 

「ウェンディ、こっちを向いてくれ」

「…いや」

「ウェンディ…」

 

…耳元で囁かないで欲しい。

ジェラールは何を思ったのか、

私の肌着を捲って…噛み付いた。

 

「っ……ジェラール?」

 

数回舐められた後、吸い付かれた。

 

「っ!ジェラール、わかった!わかったから!」

 

ジェラールの顔が離れるタイミングで正面を向いた。

吸い付かれた所に手を当てる。

…見えない、よね?

 

「隠せる場所にしておいたから大丈夫だ」

「………」

 

ジェラールは私の髪を鋤いて

 

「真っ赤だな。可愛らしい」

 

髪にキスをした。

 

「…ジェラールの意地悪」

「ウェンディが可愛いのが悪い」

「…耳元で囁かないで、心臓に悪いよ…」

「…俺がそれを聞くと思うか?」

「…思わないです」

「じゃあ諦めてくれ」

「……うん」

 

それから1時間位、心臓がうるさかったです…。

ジェラールの意地悪…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールが風邪を引いたみたい。

 

「………ジェラール」

「なんだ?」

 

素早く額同士をくっつけて、熱かどうか確認する。

うん、熱い…。

 

「…ご飯、食べよう」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

お粥をスプーンに掬って、ジェラールの口元に運ぶ。

 

「ジェラール、……はい」

「…自分で食べれるのだが」

「…いつかのお返し」

「成る程、では口移しまでやってくれるのか?」

「っ……!!」

 

思い出して頬が熱くなった。

 

「君には無理だろう?」

「………」

 

すごく、恥ずかしいけど…

 

「出来るよ」

「………」

「ジェラール、笑わないでよ…」

「…いや、あまりにも可愛いものだから」

「子供扱いしないでよ」

「そういう意味ではないんだがな…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

深呼吸、深呼吸……うん、準備万端。

水に溶けた粉薬を口に含んで、

ジェラールに口移しをした。

 

「………」

 

少し頭が、ぼーっとする。

 

「ウェンディ、ありがとう。無理はしなくていい」

「…無理なんか」

「してるだろう」

「……………」

「君は基本的にされる側だろう?

奉仕されるのは嬉しいが無理にしようとしなくていい」

「私、いつもされてばかりだよ?」

「俺の性格上、仕方ない」

「………」

「…ウェンディ、いいな?」

「……………うん…」

 

ジェラールに、喜んで欲しかったのに…

 

「…けほっ」

「!ウェンディ、移したか?」

「…私も薬飲むね」

「…すまない」

「ジェラールが謝ることないよ。

私が勝手にしたんだから……んくっ」

 

水と一緒に薬を飲み込んだ。

 

「………ウェンディ」

「ん?」

「一緒に寝ようか」

「うん」

 

抱き合う形で眠りに付いた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールからの荒々しいキスの雨に必死で応える。

 

「……っ…」

 

口端から唾液が零れる。

キスはまだ止まない。

まるで食べられるような錯覚さえ覚える口付け。

未だに慣れないけどジェラールだから安心できる。

 

「……んん…っ!?」

 

舌を、強く吸われた。

ゾクゾクと背筋が…身体が強く反応する。

 

「はー、はぁ…っ」

「ウェンディ」

「……?……あっ」

 

耳朶を数回甘噛みされた後、息を吹き掛けられた。

 

「……ジェラー…ル…っ」

 

ジェラールの手は下着の上から敏感な場所を触ってる。

 

「んん……っ!」

「…可愛いな」

「意地悪、しないで…!」

 

ジェラールは笑みを浮かべながら

 

「…わかった」

 

最後にキスを落とした。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「………」

 

目が覚めて布団を捲って自分の身体を見る。

胸元に集中して、キスマークが複数、以上。

 

「………腰が痛い」

 

朝、起きれるかな?

…眠るジェラールの腕(肩に近い)に吸い付いた。

 

「ん……」

 

痕が付いたのを確認して再び眠りに付いた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン+シェリア+メスト

 

ぷかぷかした世界で足元が覚束ない。

倒れかけて、ぐいっと抱き寄せられた。

 

「…ジェラール」

「……ここは、どこだろうな」

「うん、どこだろうね」

 

足元の感覚がしっかりして来た。

うん、大丈夫。

 

「行こ「ウェンディー!」…え?」

 

聞こえた声に振り返る。

ピンク色の髪。青色の瞳。

ああ…

 

「シェリア…!」

「ウェンディ、会いたかった!」

 

シェリアに抱き付かれる。私も抱き返す。

 

「ウェンディ、彼女は?」

「友達のシェリアだよ」

「初めまして、シェリアです」

「ああ、初めまして」

「貴方とウェンディの関係は?」

「……!」

「夫婦だ」

「夫婦……つまり、愛!」

 

あ、シェリアがキラキラしてる。

 

「ウェンディ、彼を愛してる?」

「………っっ」

 

頬が、熱い。

 

「…うん」

「ところで此処はどこだろうな」

「どこだっていいよ。

もう会えない筈のウェンディにこうして会えたんだから」

「シェリア…」

 

「ウェンディ…?ジェラール…か?」

 

今度は別方向から聞こえた声に振り返る。

 

「ドランバルトさん!」

「ドランバルト…?」

「ジェラール……?それとも、ミストガン…?」

「…ミストガンだ」

「お前が…ミストガンなのか」

「ドランバルトさんは元評議院で

現在は妖精の尻尾の人です。優しいんですよ」

「俺は一時、ミストガンの弟子を自称していた」

「成る程、アースランドにいない俺を利用したのか」

「…ウェンディは

自分のジェラールに会いに行くと言ってギルドを去った」

「………」

「ウェンディは、ちゃんと会えたんだな」

「うん。ウェンディは愛する人に巡り会えたの♪」

 

そう言って笑うドランバルトさんとシェリア。

 

「…ウェンディは愛されているな」

「…うん」

「「ウェンディ」」

「なぁに?」

「幸せにな」

「愛、してるよ?」

「シェリアもドランバルトさんも元気でね」

 

にっこりと笑う二人を最後に、

その世界から弾き出された。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メスト+カーチャ

 

―……ト……さん……―

 

意識が浮かぶ。ぼんやりとした声が聞こえる。

 

―…メストさん…―

 

見えたのは紺色の髪。

 

「…ウェン……」

「メストさん」

 

短い、紺色の髪…。

 

「…カーチャ?」

「はい」

 

何処で寝ていたかを確認して、慌てて飛び起きた。

 

「すまない!疲れただろう…!」

 

膝枕で寝ていたらしい。

 

「いえ、大丈夫ですよ」

「…そうか」

「幸せそうに寝ていましたね」

「ああ、不思議な夢を見た」

「どんな夢ですか?」

「それは――」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ウェンディさんに会ったんですね」

「ああ」

「幸せにしてるようで良かったです」

「そうだな」

「メストさん」

「なんだ?」

「私、昔はウェンディさんに嫉妬してたんですよ?」

「……っ…」

「メストさんは私を時々ウェンディさんと間違えるし」

「それは…すまなかった」

「ふふっ、許してあげます。

メストさんの家には私しかいないですしね」

「カーチャ…」

「はい?」

 

ポケットに忍ばせていた指輪を差し出す。

 

「結婚してくれ」

「っ………!」

「………」

「喜んで!」

 

笑いながら指輪を受け取ってくれたカーチャ。

 

「私、本当はもう少し待つつもりでいました。

貴方の中ではウェンディさんの存在がとても大きかったから」

「…それは」

「でも、吹っ切れたみたいで良かったです!」

「…カーチャ…」

「ずっと一緒にいましょうね、メストさん!」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

「ジェラール」

「どうした?」

 

只今、ジェラールに伸し掛かられています。

 

「…ど、退いて?」

「嫌だと言ったら?」

「………グランディーネ、まだかなぁ」

 

小さく呟く。

 

「…ウェンディ、嫌か?」

「………今日は、というか

一週間は我慢してくれるといいなぁ」

「一週間…?

………ああ、もうそういう週が来たのか」

「…っ…うん」

「なら我慢しよう」

 

そう言いつつも退いてくれないジェラール。

 

「ジェラール…?」

「じゃあウェンディをしっかり堪能しないとな」

「…え?」

 

頬をペロリと舐められる。

耳朶を数回、甘噛みされながら舐められた。

 

「ん、んぅ……っ!」

 

くつくつと笑い声が聞こえる。

そのまま食べるような勢いで唇を荒々しく塞がれた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

うぅ、ジェラールの意地悪…。

なんか終わったらキラキラしてる。

黒っぽくキラキラしてる…。

 

「ジェラール」

「なんだ?」

「お仕事、行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくる」

 

額にキスを落とされた。

笑みを浮かべながらジェラールを見送る。

 

「さて、今日は何をしよう?」

 

痛む下腹部を押さえながら思考を巡らせた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ウィンドウショッピング中…

 

「あれ、可愛いなぁ……あ、あれも綺麗…!」

「…あれ、王妃様?」

 

聞こえた声に身体が硬直する。

 

「久しぶりだね、お姉さん♪」

「っっ………!」

 

結婚式直後の…!

思わず後退りすると、目の前の彼はにぃっと笑って

私を、抱き締めた。

 

「…い、や…!」

「うん、本当に可愛いね♪

思わず襲いたくなっちゃう位…」

「やだ……!」

 

男性の腕の中でじたばた暴れる。

服の内側のナイフを落とされた。

 

「行こうか、王妃様」

 

ぐいっと顔を近付けられてキスをされた。

直後に手を引かれる。

 

「………っ」

 

涙が零れ落ちた。

急ぎ足で手を引かれる中、

心の中で必死にジェラールに助けを求める。

 

(ジェラール…!)

「ふんふんふふ~ん♪」

「助けて…!」

「あはは、無駄、…っっ!」

 

突然、男性の足が止まった。

 

「……?」

「…………ジェラール、陛下」

「…!」

 

ジェラールが男性の首根っこをギリギリと掴んでいた。

 

「く……っ」

「…もう二度とか彼女に近付くな」

「………」

「返事は?」

「………はい」

「それでいい。ウェンディ、帰るぞ」

 

素早くジェラールは私の手を取って城へと歩き出した。

 

「…ジェラール、ごめんなさい」

「…………無事で良かった」

「…ごめんね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

只今、抱き締められてます。

 

「…ジェラール」

「ウェンディ……

本当に、君を取られるのは我慢ならない」

「うん。私もジェラールじゃないと嫌」

「ウェンディ…」

 

肌に直接手が触れる。

胸元に指が行ったり来たりする。

 

「ん……」

「………」

 

キスをされてベッドに倒れ込んだ。

 

「ウェンディ、愛している」

「私もだよ、ジェラール」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

上を肌着だけにされて

身体の至る所にキスを何度もされる。

 

「ジェラール…?」

「消毒」

「…じゃあ唇だけでいいよ。そこにしかされてな…」

 

言い終わらない内に噛み付くようなキスをされた。

 

「ん………っ」

 

数回、啄むようなキスを繰り返される。

 

「……………ウェンディ」

 

名前を呼ばれて強く抱き締められる。

 

「…心配しなくても

私はジェラールのだから大丈夫だよ?」

「………」

 

ガリ…と唇を噛みながらジェラールは

鎖骨にキスを落とした。

 

「ジェラール…」

 

自由に動く右手でジェラールの頭を撫でる。

 

「………」

「好き、大好き…」

 

それから1日中、抱き締められながら過ごしました。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ウェンディを抱き締める。

黒い感情が自分を支配する。

 

「…ジェラール」

「君は俺のもの、それは分かっている…」

「…うん」

 

直にウェンディの肌に触れながらキスをする。

 

「ウェンディ…」

 

熱を籠めて声と視線をやる。

 

「……!!」

 

肌着を剥ぎ取ると小振りな胸が顔を見せた。

 

「ジェラール…?」

 

胸元に所有印を一つ付けて唇を滑らせる。

 

「っ……ジェラール、ダメ…!」

 

するな、と言われるとしたくなる。

だが、ギリギリで止めなければならない。

 

「ウェンディ…」

 

舌先で鎖骨をなぞる。

ウェンディの身体が震える。

 

「だめ、だめ…!」

 

涙目で懇願する彼女を見て溜め息をつく。

 

「…わかった」

 

態々、耳元で囁いた。

 

「…ジェラールの…意地悪」

「してもいいのか?」

「…だめ」

 

あまりに可愛くて、くつくつと笑う。

 

「肌着、返して?」

「ああ」

 

肌着を返す。

…少し、感情が落ち着いた。

 

「ウェンディ…」

「?」

 

何も言わずに抱き締めた。

 

「っ………」

 

ウェンディの顔は真っ赤になっている。

 

「いつまで経っても慣れないな?」

「………」

 

満足して、解放した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

更衣室で衣服を脱ぐ。

日々ジェラールには愛を貰っているから

私も何か返そうと思って、服を着替えた。

…正直とても恥ずかしいけれど

きっとグランディーネも応援してくれる。頑張ろう…!

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ウェンディ、今帰っ………」

「お帰りなさい、ジェラール!」

「………ウェン…ディ…?」

 

今、私はメイド服を着ています。

 

「こほん…

今日は精一杯奉仕させていただきます、陛下」

「どうしたんだ?」

「たくさん愛情を貰っているので」

「…成る程、どう奉仕してくれるんだ…?」

 

耳元で囁かれる。

頬が熱いけど、耐える。

 

「少し仮眠を取りますか?」

「………」

「…陛下?」

「少し、よそよそしいな」

「………これが終わるまでは…」

「わかった。割り切る」

 

ソファーに腰掛けて膝の上をポンポンと叩く。

変わらず頬が熱いけど、暫くは我慢、我慢。

 

「…いいのか?」

「はい」

「じゃあ遠慮なく…」

 

ジェラールに膝枕。うん、頑張れ私。

 

「……真っ赤だな」

「……………」

 

黙ってジェラールの頭をポンポンと撫でる。

 

「おやすみなさい、陛下」

「……あぁ」

 

少ししてから寝息が聞こえてきた。

 

「疲れてたんだね……毎日お疲れ様」

 

~1時間後~

 

「陛下、陛下……」

「………ウェンディ」

「そろそろ…」

「…そうだな」

 

起き上がった直後に、キスをされた。

 

「っ……!」

「おはよう、ウェンディ」

 

コンコン…

 

「陛下、王妃様。夕食をお持ちしました。

ごゆっくりどうぞ…」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「………ウェンディ」

「ミスティが寝ようとしてるので」

「わかった」

 

~数分後~

 

「どうしました?陛下」

「もう、いいだろう…?」

「………うん、そうだね」

 

ホワイトブリムを外して口調を元に戻した。

 

「一緒に入るか?」

「…うん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

身体を洗い終わって

ジェラールに後ろから抱き締められてます。

 

「…耳まで真っ赤だな」

「………意地悪」

「どこがどう…意地悪なんだ?」

 

耳元で囁かれてゾクゾクした。

 

「ジェラー…っ」

 

耳朶を甘噛み…

 

「っ……は…ぁ…」

「…感じたか?」

「っ……そういう、ところが…!」

 

低い、笑い声…

耳朶は変わらず甘噛みされ続けてる。

 

「ジェラー…ル…っ」

「ウェンディ…」

 

熱の籠った声で呼ばれて身体の熱が上がる。

 

「ジェラール……あの」

「ここで、するか?」

 

頬が、熱い…

 

「…うん」

 

期待を込めて頷いた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディの護衛

 

街に買い出しに出掛けようとしたんだけど…

 

「ウェンディ」

「なぁに?」

「今日から護衛を付ける事にした」

「…うん、わかった」

「アリアにドラン、入れ」

「「はっ」」

 

入って来たのはどこかエルザさんに似た

長い緋色の髪の女性とドランバルトさんに似た少年だった。

 

「王妃様、アリアと申します」

「ドランです」

「よろしくお願いしますね」

「「はい!」」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「バニラアイスを3つお願いします」

「バニラ3つですね。………はい、どうぞ」

「ありがとう」

「王妃様…?」

「私達の分は、その……いいですから」

「もう買ってしまいましたから、一緒に食べましょう?」

「は、はい…」

 

三人で椅子に座って一緒に食べる。

 

「…ん、美味しい」

 

黙々とアイスを頬張る二人。

私も笑顔でアイスを食べる。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ペットショップに立ち寄る。

 

「可愛い…!」

 

いろんなペットを見て癒された。

うん、また来よう。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「あれ、かわいいなぁ…」

「陛下からのポケットマネーがございますが」

「大丈夫、ジェラールと今度来れたら言ってみるから」

「それまでになくなったら…」

「それでもいいの。私の我が儘で

そんな大事なお金を使う訳にはいかないもの」

「王妃様…」

 

~夕方~

 

「うん、今日は楽しかった…

アリアさんにドランさん、ありがとうございました!」

「いえ、私達は」

「護衛ですから…」

「一緒に付き合ってくれたじゃないですか

嬉しかったです。いつも一人だったので」

「王妃様…」

「寂しかったんですね…」

「また、よろしくお願いしますね!」

「「はい」」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+エドシェリア

 

城内で視線を感じて振り返る。

見えたのはメイド服とピンク色の髪。

 

「……シェリア?」

「っ……わわ、王妃様…」

 

昔のシェリア…に似た子は、まだ十代位かな?

 

「貴女の名前は?」

「っ……シェ、シェリア…ですっ」

 

ああ、こっちのシェリアなんだ。

びくびくしながら話すその子はまるで昔の私みたい。

 

「ふふっ」

「…っ……?」

「お話、しよう?」

「えっ、……わ、私…なんかと…?」

「うん、部屋に行こうか」

「は、はい…っ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「シェリア」

「…お、王妃様…」

 

視線があちこち向いてるシェリアを

ぎゅっと抱き締める。

 

「わ、わわわ…!」

「大丈夫だよ、怖くない」

「王妃様……そんな…っお、おそれ多い…です…!」

「友達になろう?シェリア」

「わ、私…と……ですか…?」

「うん!」

 

解放すると、シェリアは恥ずかしそうに笑って

 

「…はい、王妃様」

 

ぎゅっと握手をした。

 

「…シェリアは引っ込み思案なんだね」

「…ご、ごめんなさい…っ」

 

泣きそうになるシェリアの頭を撫でる。

 

「シェリアを見てるとね…昔の私を見てるみたいなんだ」

「…え?」

「私もそんな風にオドオドしてたから」

「ぜ…全然そんな風には…」

「実際そうだったんだ…

シャルルによく叱られたなぁ…」

 

…シャルル…元気かな?

 

「王妃様……?」

「うん。いろんな人達に出会って、変われたんだ」

「…私も、変われる…でしょうか…?」

「うん!」

「…っが、頑張って…みます…!」

「頑張って、シェリア!」

「あ、あの……また、来ても…いい、ですか…?」

「もちろん!」

「…あ、ありがとうございます。王妃様…!」

「ウェンディでいいよ?」

「そんなっ…おそれ多い…!」

「大丈夫だよ、私が許可してるんだから」

「……………ウェン…ディ…さま」

「様はいらないよ」

「…ウェンディ………さ」

「さんもダメ」

「っ………ウェン、ディ…!」

「よく言えました。

今日から私達は友達だよシェリア♪」

「は、はい…!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+エドウェンディ

 

「王妃様、王妃様に客です」

「…?」

「どうぞ、ごゆっくり…」

「ええ」

 

その人を見て、驚いた。

私と同じ紺色の長い髪、鳶色の瞳。

エドラスの、私だ。

 

「暫くぶりですね。王妃様」

「ウェンディさん…」

「まさかあの時の小さな少女が再び

このエドラスへ来るなんて……。

…別れは、辛かったでしょう?」

「…はい」

「あと…王妃様って、そんなにも陛下の事が好きだったの?」

「はい!」

 

笑顔で言った。

 

「ご息女がいるとも聞くし…ふふっ」

「…?」

「結構、一度決めたら止まらないタイプ?」

「…エドラス行きは最初は

いろんな人から反対されましたけど…

結局、皆さん私の意志は変えられなかった。

皆さんには、愛する人が傍にいた。

私は……世界を越えないと会えなかった」

「ふふ、一途だったのね」

「…はい」

 

ミスティを撫でるウェンディさん。

 

「この子が、ご息女?」

「はい、ミスティです」

「かわいいわね」

「あぅ……きゃっきゃっ…」

「ミスティ、喜んでるみたい」

「…連れて帰りたい位」

「だ、ダメです!」

「クス、冗談よ」

「………また来て下さいね」

「気が向いたらね」

「同じウェンディなんですから」

「…そうね、また来るわ」

 

ヒラヒラと手を振った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

泣いているミスティを慌てて抱き上げる。

 

「ミスティ、何かな?」

「おぎゃあ、おぎゃあ!」

「…ご飯かな?」

 

母乳を与えてみる。

 

「ん………」

「あ、ご飯だね……良かった」

 

…グランディーネはどんな想いで私を育ててくれたんだろう?

 

「…森、行ってみようかな」

 

グランディーネが私にしてくれたみたいにしてみよう。

 

「ドランさんにアリアさん、少し出掛けますね」

「「はっ」」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

揺りかごをゆらゆらさせながら、ミスティを世話する。

 

「きゃっきゃっ」

「ミスティ、楽しいね」

 

揺りかごに小鳥が止まる。

ミスティがそれに触れようと手を伸ばす。

素早く羽ばたいていった小鳥。

 

「うー……」

 

ミスティの側でガラガラを鳴らす。

 

「きゃっきゃっ」

「…ピクニックみたいでいいなぁ…

今度はジェラールも一緒だと嬉しい…」

「王妃様っ!」

「…?………っ」

 

目の前にいたのは、熊だった。

腕が振り上げられたのを見て、

私はミスティを庇うように揺りかごに覆い被さった。

 

「痛……っ!」

 

背中に焼けるような痛み。

その一瞬後に何かを裂くような音が聞こえた…。

 

「…王妃様!大丈夫ですか!?」

「…背中が少し痛いだけです。それより…」

 

熊は無惨な姿になっていた。

 

「………ごめんね」

「王妃様……」

「さあ、帰りましょうか…

こんなのミスティに見せられないし…」

「「はっ」」

 

*~*~*~*~*~*~*

ジェラールが慌てた様子で部屋に入って来た。

 

「ウェンディ!」

「ジェラール…」

「話は聞いた。…背中、見せてみろ」

「…あはは、服を駄目にしちゃった…」

 

背中に指先が触れる。

 

「…痛かっただろう」

「…少しだけ。もう傷薬は塗って貰ったよ」

「………」

「ジェラール?」

「…すまない」

「…私が勝手にしたことだから、謝らなくていいよ」

「………」

 

ジェラールに後ろから抱き締められる。

 

「こっちこそ、ごめんなさいジェラール…

勝手に出掛けて、勝手に怪我して…」

「………もう謝らなくていい」

「……はい」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

―3年後―

 

「パパ」

「どうした?ミスティ」

「いつも、おしごと、おつかれしゃま」

「ありがとう、ミスティ」

 

ジェラールがミスティの頭を撫でた。

ミスティは嬉しそう…

 

「ママも、いつもあそんでくれてありがとう」

「ミスティ…」

「おばあちゃんも、すき、だいすき!」

「嬉しいわ、ミスティ」

 

グランディーネも嬉しそう。

 

「…家族団欒の時間を邪魔すると悪いから、そろそろ帰るわね」

「またね、グランディーネ」

「また来て下さい、義母上」

「またね~!」

 

グランディーネは扉をパタンと閉めた。

ミスティはベッドに寝そべった。

 

「パパ!ママ!またあのおはなしして?」

「好きだね、ミスティも」

「妖精の尻尾の話か?」

「うんっ!」

「昔々、アースランドのマグノリアという街に、

妖精の尻尾というギルドがありました…」

「いつも、わからない……

アースランドって、どこにあるの?」

「遠い遠いところだよ。ママはアースランド出身で」

「パパはエドラス出身だ」

「それじゃ、ミスティはアースランドにはいけないの?」

「うん、ごめんね。もう行けないんだ……会えないんだ…」

 

脳裏に皆さんの顔が浮かんだ。

 

「…ママ、かなしいかおしないで…」

「ママは大丈夫だよ。さ、続きを話そうか。

妖精の尻尾はとても賑やかなギルドで毎日が大騒ぎでした―――…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「すぅ……すぅ……」

「おやすみ、ミスティ」

 

眠るミスティの額に口付けた。

 

「…妖精の尻尾が恋しいか?」

「少し思い出しただけだよ。

あの頃は私は幼くて、ただ…楽しかった…

皆さんと一緒にいた日々は一生分の宝物…」

「…俺も、宝物だ」

「こっちに来てからの日々も宝物だよ?」

「分かっている」

「ふふっ、大好きだよ?ジェラールっ!」

「俺も、愛している」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ+オーガスト

 

―アースランド・天狼島―

 

私はゼレフに寄り掛かっています。

 

「平和ですね…」

「うん」

「ねぇ、ゼレフ……

もう世界を壊すなんてことしないですよね…?」

「………」

「ゼレフ…?」

「もうしないよ、ナツや……君がいてくれる。

それだけで満たされるからね」

「…良かった」

「君は僕の恋人だから」

「…うん」

 

少し、頬が熱くなった。

 

「…ああ、そうだ。君に会わせたい人がいたんだった」

「?」

「…おいで、オーガスト」

 

ゼレフがそう言うと、金髪の老人が現れた。

 

「はじめまして、かあ……初代殿」

「…はじめまして?」

 

何かを言いかけたみたいだけど…?

 

「オーガスト、自己紹介」

「はい、父さん」

「……………父さん…?」

 

ゼレフの、子供…?誰との子…?

一瞬、老人の姿が金髪の幼児に見えた気がした。

 

「我が母は貴女です。……お母さん」

「……………?私、産んだ覚えがない…ですよ…?」

「君のところの2代目が取り上げたらしい」

「プレヒトが?………ゼレフと…私の、子…」

「はい」

「………」

 

正直、混乱したけれど

 

「…オーガスト、こっちに来て…屈んで下さい」

「!………はい」

 

屈んだオーガストの頭を撫でる。

 

「はじめまして、オーガスト…

知らない内に、こんなにも大きくなってしまったのですね…」

「っ………はい…」

「私よりも大きくなって……

これじゃあ抱っこもおんぶも出来ないじゃないですか…」

「その、気持ちだけで……十分です…っ」

「…これからは、家族として過ごしましょうね」

「…はい、母さん」

「メイビス、あと何日かしたら妖精の尻尾に行くよ。

もう一人、特定の人に紹介したい女性がいる」

「…オーガストも、その女性も、貴方の部下ですか?」

「そうだよ、名はアイリーン・ベルセリオン。

君のところのエルザの母親だ」

「………え?」

「うん、そういう事だから」

「…じゃあジェラールのお義母さんになりますね」

「うん」

「楽しみにしてますね、ゼレフ♪」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エルザ+アイリーン

 

―妖精の尻尾・ギルド内部―

 

「リサーナ」

「なに?ナツ」

 

セミロングに髪を伸ばしたリサーナは振り返る。

ぎゅっとリサーナを抱き締めるナツ。

 

「…ナツ?珍しいね」

「………」

 

ナツはリサーナの大きくなったお腹を撫でる。

 

「…セツナの事?」

「ああ、イグニールからも言われた。何があっても守れって」

「ナツ、大好き!」

「俺もだ」

 

笑い合いながら抱き合う二人。

 

「グレイ様!」

「…んだよ」

「ジュビアもグレイ様を愛しています!」

「……………」

「グレイ様は……その…」

「俺もお前を愛してるよ」

「ジュビア、嬉しい…!」

 

ルーシィをお姫様抱っこしているロキ。

レビィを後ろから抱っこしながら座っているガジル。

そしてエルザと談笑しているジェラール。

各々がギルドで思い思いに過ごしている時、ギルドの扉が開いた。

 

「やぁ、ナツ」

「兄ちゃん」

「エルザ・スカーレット、君に紹介したい人がいる」

「…?」

「アイリーン」

 

現れたのは長い緋色の髪をおさげにした女性。

 

「…久しいな、エルザ」

「…誰だ?」

「私はお前の母親だ」

「……!?」

「エルザの、母親?」

「…その男がお前の夫か」

「エルザの母親が生きていたとは驚いた。てっきり…」

「夫は私が殺した。エルザ…お前を守る為にな」

「………何故、今更ここに?」

「陛下が挨拶でもと申すのでな、それだけだ」

「…お母さん」

「………達者でな、我が娘」

 

そう言うとアイリーンは姿を消した。

 

「ナツ、僕も帰るよ」

「またな、兄ちゃん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールは他国への出張中。

ミスティは少しの間だけグランディーネに預ける事になった。

 

「王妃様」

「はい?」

「会議で決まった事なのですが

エドラスとアースランドのバランスを保つ為に

たまにでよろしいので、王妃様が人目のつかない所で

魔法を行使して頂きたいのですが…」

「…エドラスは魔力の存在しない世界ですよ?」

「はい。だからこそです」

「……………わかりました」

 

それが、この世界の為になるのなら…

 

「アリアさん、ドランさん、出掛けましょう」

「「はっ」」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

洋服屋を見て回ってます。

 

「あ、かわいい服。

…ミスティには、まだ少し大きいかな…」

 

…ミラさんから教えて貰った変身魔法で

私が子供になって着るのはどうかな…?

……………ダメだ。ジェラールが、何をするのか分からない…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―自室―

 

多分弱い魔法よりも強い魔法の方がいいよね?なら…

空気を精一杯吸い込んで…

 

「ドラゴンフォース」

 

…!少し、疲れる…

もう解いてもいいか……な?

 

「ウェンディ、今帰っ………」

「ジェラール…」

 

現在の私の容姿…ピンク色の髪、あちこちに羽がついてる。

 

「………ウェンディ?」

「…うん?」

 

何故か、即ベッドに押し倒された。

 

「…それは、魔法か?」

「うん、私が人目につかない所で

魔法を使うように会議で決まったんだって」

「………魔法の名前は?」

「ドラゴンフォース。滅竜魔導師の竜の力を発現させた戦闘形態」

「そうか」

 

首筋に噛み付かれる。

 

「ジェラール…?今の私は危ないんだよ?」

「それでもいい」

 

肌着の内側に手が潜り込んで、胸を撫でる。

私が手を、足を動かす度に鋭い突風が吹く。

 

「ウェンディ、終わるまでその姿を維持出来るか?」

「…頑張ってみる」

「ああ、頼んだ」

 

本格的に身体を愛撫され始めた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「お疲れ様、ウェンディ」

「はー……はー……」

 

なんとか最後までドラゴンフォースを維持出来た。…もう解けたけれど。

 

「新鮮で良かった。

いや、行為の最中の蹴りで少し意識が飛びそうになったが…」

「だから、危ないって……

あくまで、あれは戦闘形態なの…」

「ピンク色の髪も綺麗だった」

「…ありがとう」

 

それから暫くしてその出来事を忘れていった…。

二人目の子供が、生まれた。

ただ…ピンク色の髪の…あちこちに羽根のような痣のある女の子。

 

「ピンク色の髪…」

「ナツさん?でも、私…ジェラールとしか…」

「尋問して参ります」

「あっ……」

 

―1時間後…―

 

「僕じゃないですって!覚えがありません!」

 

やっと見つけた!

 

「待って下さい!彼は関係ないです!」

「…王妃様…しかし」

「私、思い出したんです。

ピンクの髪になった時が一回だけありました」

「…わかりました」

 

ナツさんに向き直る。

 

「ごめんなさい…」

「………別に、いいです。

……………エドラスに来たのが、リサーナちゃんだったら良かったのに…」

「………ごめんなさい…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ウェンディ!あの子は俺達の子か?」

「うん、間違いないよ。ドラゴンフォース状態で…その…」

「…ああ、そういえばそうだったな」

「名前、何にしようか?」

「シリル、はどうだ?」

「うん、それにしよう!よろしくねシリル!」

「あぅ~」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

―アースランド・コブラ(エリック)達の家―

 

「コ……コホン、…エリック」

「今コードネームで呼ぼうとしたなキナナ」

「…うん、ごめんなさい」

「俺と二人だけの時は

お前の知る俺の名でいいと言ってるだろう」

「ギルドでの癖が抜けなくて…」

「…全く」

 

ぐいっとキナナを抱き寄せるエリック。

 

「…テイクオー…」

「魔法も今はいい。仕事じゃねぇんだ。

今のお前を堪能させてくれ」

「…うん!」

 

幸せそうにエリックに寄り掛かるキナナ。

 

「幸せだね、エリック」

「…ああ」

 

その日は1日、お互い寄り添って過ごした二人。

 

「エリック、今日は毒…食べる?」

「明日でいい」

「うん、わかった。

…また一緒に仕事行こうね」

「俺はお前としか仕事はしない」

「ふふ、そうだね(大好き)」

「…口で言ってくれ」

「大好きだよ、エリック」

「ああ、俺もだ。キナナ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

「ママ~、シリルのお世話終わった~?」

「うん、気持ちよく寝てるよ」

 

ミスティが私に抱き付いて来た。

私はミスティの頭を撫でる。

 

「えへへ」

「パパ、遅いね」

「今日は早く終わらせるって言ってたのに…」

 

今日は珍しく仕事を早く終わらせると張り切っていたジェラール。

 

「パパ、もしかしたら

遅くなるかもしれないから二人でご飯食べようか?」

「やっ!」

「ミスティ…」

 

コンコンッ

 

「俺だ、今戻った」

「あ、パパだ!」

 

急いでドアを開けに行くミスティ。

 

「おかえりなさい、パパ!」

「ただいま、ミスティ」

「おかえりなさい、ジェラール」

「ウェンディ」

「?」

 

ジェラールが私に近寄って顎を持ち上げながら

キスをされたんだけど………ディープキスだった。

離れようにも後頭部はしっかりと押さえられていて不可能で…。

ミスティが不思議そうな顔で見てる……ごめんねミスティ。

 

「は…ぁ…っ」

 

ようやく離してくれた…!

 

「ジェラールの…意地悪…!」

「そうだな、後でちゃんと……」

 

可愛がってやるからな。

声に出さずに唇の動きだけでそう言ったジェラール。

 

(………黒い)

「ミスティ、ご飯を食べるか?」

「うん!でもさっきママとパパ何してたの…?」

「っ………」

「イチャイチャしていたんだ」

「イチャイチャって何?」

「ママとパパは夫婦だからな。

パパがミスティやシリルを可愛がるように

たまにはママも可愛がってあげないと可哀想だからな」

「それがイチャイチャ?」

「………まぁ、もう少し別の言葉だが、それでいい」

「わかった!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「くー、くー……」

「…ウェンディ」

「っ!」

 

素早くベッドから抜け出そうとしたら咄嗟に腕を掴まれて、

そのまま押し倒された。

 

「………ミスティが横で寝てるよ?」

「声を殺せばいいだけだろう?

それとも…きちんとそういう部屋を取るか?」

「……………」

 

ジェラールは意地悪な笑みを浮かべて

 

「ああ、それとも寸止めがいいかな?」

「っ………!グランディーネっ」

 

名を呼ぶとグランディーネの思念体が現れた。

 

「何かしら?ウェンディ」

「助けて」

「………ジェラール、何をしようとしたの?」

「はい、義母上。抱こうとしました」

「……………」

 

ジェラールに向かって、とても小さな咆哮が放たれた。

 

「…少しは自重しなさい」

「……はい、義母上」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メイビス+オーガスト

 

「オーガスト」

 

幼い幼児の姿の彼と手を繋ぐ。

…私は幽体だから向こうに感触は無いのだろうけれど

オーガストは嬉しそう。

 

「お母さん」

「なんですか?」

「僕を抱き締めて下さい」

「…はい」

 

ぎゅっとオーガストを抱き締める。

 

「…願いが叶った…っ」

「ごめんなさい。感触、無いですよね…」

「それでもいいんです。

それに肉体のある貴女は……」

「…光の神話の事、知っているんですね」

「…はい」

「ゼレフ、ですか?」

「はい、父さんはお母さんの肉体の秘密を知っています」

「…何の為に?」

「アクノロギアを倒す為と、…ある目的の為に。

でもアクノロギアはもういないから、

その必要もなくなったと言っていました」

「………そう、ですか」

「お母さんは……もう肉体を利用される事は絶対に無いです」

「………」

「僕や父さん、それに妖精の尻尾がいるでしょう?…だから」

「……考えてみます。ありがとう、オーガスト」

 

オーガストの頭を撫でる。

 

「はい」

 

…三代目に伝えて、竜の方に頼んでみましょう。

流石に、ギルドメンバーに頼むのは憚られます…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

とある日のエドナツ

 

「あぁあ、とんでもない事を言ってしまった…!」

「どうしたんだ?ナツ」

「ルーシィさん…実は、王妃様に対して

エドラスに来たのがリサーナちゃんだったら良かった…

なんて言ってしまって…」

「なんでそんな事を言ったんだ?」

「…無実なのに、尋問されてイライラしてしまって…」

「なら王妃様に謝るのはどうだ?」

「…合わせる顔が無いです。

…王妃様は向こうの僕達と別れてまで

こっちに来たって分かっていたのに…!」

 

通りかかったウェンディさんに話しかける。

 

「ウェンディさん、僕…どうすればいいんでしょう?」

「…自分で謝った方がすっきりするわよ」

「………はい、謝って来ます!」

 

急いで王城に向かう。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

真っ先に見つけたメイド服を来たピンク髪の少女に話しかける。

 

「すみません。王妃様にお会いしたいんですが」

「わわわ…。

でしたらウェン……王妃様の部屋にご案内しますね」

「……はい、よろしくお願いします」

 

今、この子…王妃様の事を名前呼びしようとしてたような…。

 

それはともかく、少女に付いて行く。

少女はとある部屋の前で止まって、ノックした。

 

「王妃様、王妃様…」

「あ、シェリア!

もう…名前で呼んでって言ってるのに…」

「えっと、その……お客様です」

「…あ、ナツさん」

「王妃様…あんな事言って、ごめんなさい!」

「……いいんです。

リサーナさんに、会いたかったんですよね…?」

「………もう会えないと、理解はしているんです」

「私が妖精の尻尾を出る前の

リサーナさんの近況なら伝えられますよ?」

「…是非、聞かせて下さい」

「ふふっ、リサーナさんは…

向こうのナツさんと結婚されました」

「向こうの僕と…」

「子供はまだいなかったみたいですけど、

毎日、楽しそうにしてました」

「リサーナちゃん…」

「竜のお義父さんや

時々来るお義兄さんに時々叱られながら

日々、幸せそうでした」

「………」

 

リサーナちゃんが幸せなら、僕はそれで……いい。

いい加減、吹っ切れないと…!

 

「…ありがとうございました、王妃様」

「…いえ、私も…時々皆さんの事を思い出すので」

「王妃様、………ありがとうございます。

そして、本当にごめんなさい」

 

困ったように笑う王妃様を見て、踵を返した。

リサーナちゃん、そっちの僕と幸せにね…。

さて…明日からも仕事、頑張ろう!

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

ミスティとシリルとジェラールと…

家族水入らずで森でピクニック中です。

 

「ぽかぽかだね…」

「うん!」

「時間作らせてごめんね、ジェラール」

「…俺は基本的に仕事でいないからこそ、

こういう時間も必要だろう?」

「…うん」

 

シリルを揺りかごでゆらゆらさせながら

二人でミスティと手を繋ぐ。

 

「えへへ…」

 

小さな手、青い髪、鳶色の瞳。

私達の可愛い愛娘。

 

シリルは羽のような痣があちこちに付いていて

ピンク色の髪、同じ色の瞳。

…大きくなったら痣…分からなくなるといいのに…

 

「ミスティ」

「なぁに?ママ」

「大好きよ」

「ミスティもパパとママが大好きだよ!」

「ありがとう、ミスティ」

 

ミスティの頭を撫でる。ニコニコしてて嬉しそう。

 

「ミスティ、ママの膝枕で寝てみる?」

「うんっ!」

「おいで」

 

膝をぽんぽんと叩くとミスティはその上に頭を乗せた。

 

「ママ…」

「なぁに?」

「大好き…」

 

ミスティの額にキスを落とすと、

ミスティは眠りに落ちていた。

 

「…ふふ」

「ウェンディ」

「なに?ジェラール」

 

顎を引かれた直後、軽いキスをされた。

 

「…此処では、ダメだからね」

「分かっている」

「分かってるなら、いいの」

「…ウェンディ」

「うん?」

 

額、頬、鼻、首筋の順にキスを落とされた。

 

「愛してる」

「私も……ジェラールを愛してるからね」

 

抱き寄せられて、その日は

のんびりとピクニック気分を楽しみました。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ

 

―アースランド・妖精の尻尾地下―

 

パキィ……ン…

 

魔水晶から解き放たれ、倒れるメイビス。

 

「………ありがとう、ございます。イグニールさん」

「…我らにしか頼めなかったのだろう?」

「…ギルドメンバーに、

私を傷付けて…なんて言えませんからね」

「あの男とは親密にしているのか?」

「…はい」

 

幻の衣服を身に纏い、立ち上がったメイビス。

 

「大切で……愛していて……」

「ならば支えてやれ。お前にしか出来ないのだろう?」

「勿論です」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―天狼島―

 

「ゼレフ、オーガスト」

「メイビス、………?」

「お母さん」

 

ゼレフに腕を掴まれる。

 

「君、……その身体…」

「はい、私の肉体です」

 

嬉しそうに笑う二人。

 

「お母さん!」

 

メイビスに抱き付くオーガスト。

メイビスの頭を撫でるゼレフ。

 

「これで、本当に触れ合う事が出来ますね」

「メイビス、君は僕らが守るから」

「はい、信じてますよ…ゼレフ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

十数年前の妖精の尻尾

 

―十数年前・アースランド―

 

風が頬を撫でる。

今日は皆で花見に来ています。

 

「こらナツ、グレイと喧嘩しないの!」

 

喧嘩するナツさんとグレイさんをリサーナさんが咎める。

 

「グレイ様!」

 

グレイさんに後ろからハグするジュビアさん。

 

「ロキ」

「なんだい?ルーシィ」

 

どこか甘い雰囲気のルーシィさんとロキさん。

 

「シャルルー、これ食べよう?」

「そうね、ハッピー」

 

仲良く食事をするハッピーとシャルル。

 

「………」

 

笑みを浮かべながら手で髪を鋤くエルザさん。

 

「ねぇ、ガジル。それ…美味しい?」

「うめえぞ、レビィ」

「…よかった」

 

レビィさんの手料理を食べるガジルさん。

 

「キナナ、毒くれ」

「うん。じゃあ少し向こう行こうね、コブラ」

「ああ」

 

キナナさんに食事の為に連れ出されるコブラさん。

私は何をしているかというと皆さんを眺めながら

昔のことを思い出してます。

 

(そういえば昔、ジェラールに

頬にキスされたことがあったな…)

 

まだ一緒に旅をしていた頃、

花畑で髪に花を差されて、喜んでる間に頬にキスを落とされた。

 

「今考えると、あれは……」

 

深い意味はないよね、たぶん。

 

「おーい、ウェンディー!」

 

ナツさんに呼ばれて私は立ち上がった。

 

―ジェラール、貴方にとって

私は特別じゃないかもしれないけれど、

私にとって貴方は特別だったの。

 

きっと、いつか…会いに行くからね…?―

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールとミスティへの

バレンタインプレゼントを作っているウェンディ。

 

「ミスティにはマシュマロ詰め合わせ、ジェラールには…」

 

出来上がったチョコレートケーキを見る。

 

「…ミスティ、欲しがるかな…?

クッキーも作ろうかな…」

 

結果的にチョコチップクッキーに加えて

複数のパンダチョコも作ったウェンディ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

作ったプレゼントに綺麗にラッピングをして、

部屋へと戻ったウェンディ。

 

「ミスティ」

「なぁに?ママ」

「バレンタインのプレゼントだよ」

「……?」

 

ラッピングをしたマシュマロと

チョコチップクッキーとパンダチョコを渡す。

 

「開けてもいい?」

「もちろん」

「………わぁ…可愛い!」

「食べていいよ」

「うんっ!ママ、ありがとう!」

 

頭を撫でてジェラールに向き直る。

 

「ジェラール」

「…ん?」

「バレンタインの、プレゼント…」

 

チョコレートケーキを渡そうとして、腕を引かれた。

 

「っ……!」

 

唇にキスを落とされた。

チョコレートケーキの入った箱は

既にジェラールが持っている。

 

「………」

「ありがとう、ウェンディ」

「…うん」

 

頬を染めながら俯いたウェンディ。

 

「美味しいよ、ママ」

「今年も美味しいな」

「…よかった」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ+オーガスト

 

―天狼島―

 

「ゼレフー、オーガストー……いないですね」

 

可愛らしくラッピングしたチョコレートを取り出すメイビス。

 

「折角、作ったのに…」

 

何も無い場所から現れたゼレフとオーガスト。

 

「ただいま、メイビス」

「あ、ゼレフにオーガスト」

「お母さん、ただいま帰りました!」

「おかえりなさい二人共…プレゼントがあるんですよ?」

「「?」」

「ハッピーバレンタイン!」

 

そう言ってラッピングした包みを渡す。

 

「バレンタイン…?」

「バレンタインデーは大切な人に

チョコをあげる日なんですよ?」

「…ありがとう、メイビス」

 

メイビスの額にキスをしたゼレフ。

 

「っ……!」

「幸せを噛み締めながら食べるよ」

「…少し、不恰好ですけど」

「メイビスからの贈り物なら、なんでも嬉しい」

「…ゼレフ……………あ」

「どうかしたのかい?」

「もう1つおめでたい事がありますよ!」

「…うん?」

「ナツとリサーナの間に女の子が生まれました」

「!ナツに……子供が…?」

「はい!」

「…なら君はギルドにいないと」

「…リタの時のような思いはもうしたくありません」

「………チョコ、一緒に食べようか?メイビス」

「そうですね、ゼレフ」

「お母さん、チョコレートありがとうございます」

「ふふ、本当にオーガストは小さい頃の私みたいですね」

「今でも小さいけどね」

「むぅ、失礼ですね…」

「僕は、本来の年齢はもう老人ですから。

お母さんのいる此処でだけなら、あの頃の…

父さんにオーガストと名付けられた日の姿でいたい」

「…オーガスト」

「出来るだけ、長生きして下さいね。私達は」

「不老不死だからね。少しでも長く君と一緒にいたい」

「はい。善処します」

「…チョコ、食べましょう」

「はい」

「うん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ+ナツリサ

 

―妖精の尻尾―

 

「コブラ、私型チョコとキュベリオスチョコ、

どっちがいいかな?」

「勿論、両方だ」

「うん、わかった。

…キュベリオスの方には毒が入ってるからね」

「ありがとう、キナナ」

「どういたしまして」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

慌てた様子でギルドに帰って来たナツ。

 

「リサーナ!」

「おかえり…ナツ。セツナ、無事に生まれたよ」

 

赤子を抱いているリサーナ。

 

「リサーナ…よく頑張ったな!」

 

リサーナを抱き締めるナツ。

 

「うん、ナツもセツナに触れてあげて」

「…おう」

 

赤子の小さな手を握るナツ。

 

「………小さいな」

「うん、可愛いよね。私達の……娘。

…ちょっと、疲れちゃった…。少しだけ眠るね…」

「ああ、ゆっくり休め」

「傍にいてね、ナツ」

「…ああ」

 

眠りに落ちたリサーナの手を握り、赤子の頭を撫でるナツ。

 

「…リサーナ、セツナ…。

何があっても、父ちゃんが守ってやるからな」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

花・ミスウェン

 

アリアさんとドランさんに付き合ってもらって

花屋で花を買ってきました。

 

「あ、ママ!」

「ただいま、ミスティ。はい、プレゼント」

 

ペチュニアの花を一輪、ミスティの髪に挿した。

 

「うん、可愛い…」

「なぁに…このお花…?」

「ミスティが大好きって意味の花。

詳しい話はパパから聞いてね」

「うんっ!」

 

―ペチュニアの花言葉……

心の安らぎ、あなたと一緒なら心がやわらぐ―

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ただいま、ウェンディにミスティ」

「おかえりなさい、パパ!」

「おかえり、ジェラール」

 

ジェラールには白のツツジの花と青のヒヤシンスを送った。

 

―白のツツジの花言葉……初恋―

―青のヒヤシンスの花言葉……変わらぬ愛―

 

「…ウェンディ?」

「プレゼント、華やかでいいよね」

「…そうだな、ありがとう」

 

ジェラールから赤い薔薇の花束を渡された。

 

「…奇遇だね」

「そうだな」

 

―赤い薔薇の花言葉……愛情、美、

情熱、熱烈な恋、あなたを愛している―

 

「ジェラールはシンプルだね」

「……愛している」

「…うん、私もだよ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

花・ゼレメイ+オーガスト

 

「お母さん、プレゼントがあります」

「…?」

 

オーガストに赤いカーネーションを差し出されました。

 

「ありがとう、オーガスト」

「花言葉は、母への愛です」

「…私も、オーガストにプレゼントです」

 

胡蝶蘭をオーガストに差し出しました。

 

「花言葉は、幸福が飛んでくる。純粋な愛…ですよ」

「僕も大好きです、お母さん」

「メイビス、僕には?」

「勿論ありますよ?ゼレフ」

 

ゼレフにはアイビーの花束をあげました。

 

「花言葉は、永遠の愛…」

「僕も君をずっと愛し続けるよ、僕の…一番大切な…」

「私も、愛していますよ。ゼレフ…」

 

ぎゅうっと抱き締められました。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

花・コブキナ

 

―コブラ達の家―

 

「キナナ」

「なぁに?エリック」

「プレゼントだ」

 

鈴蘭をキナナの髪に挿したコブラ。

 

「鈴蘭…?」

「ああ、毒を扱う俺達にぴったりな花だ」

「ありがとう、エリック。大切にするね」

 

―鈴蘭の花言葉……

再び幸せが訪れる、純粋、純潔、謙遜―

 

「キナナ」

「ん?」

 

ぎゅっとキナナを抱き締めるコブラ。

赤くなりながらも抱き返すキナナ。

 

「好き(大好き)」

「俺も愛している、キナナ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

花・ナツリサ

 

―ナツ達の家―

 

「リサーナ!」

「うん、ちょっと待って。

セツナにご飯あげてるから」

「おう」

 

―数分後―

 

「どうしたの?ナツ」

 

カランコエの花を一輪差し出したナツ。

 

「…カランコエ…?

珍しいね、ナツがプレゼントくれるなんて…」

「お前、俺をなんだと思ってるんだよ…」

「ナツはいつも態度で示してくれるからね」

「たまには、いいだろ…。

俺は、絶対にお前達を守る」

「…うん、ありがとう。ナツ」

 

カランコエの花言葉……幸福を告げる、あなたを守る、

たくさんの小さな思い出、おおらかな心。

 

(花言葉を選んで花を渡すってのは

ミラからの受け売りだったけど、

リサーナが喜んでくれて良かったな)

 

「セツナ、パパからのお花だよ」

「あうー…」

「ふふ、セツナも嬉しいのかな」

 

セツナと遊んでいるリサーナごと、抱き締めるナツ。

 

「………うん、やっぱりこっちの方がナツらしいね」

「うるせぇよ…」

 

リサーナの唇を塞いで、舐めた。

 

「っ……!」

「何もしねぇよ。

今日も一緒に過ごそうな、リサーナ」

「うん!愛してるからね?ナツ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ+オーガスト

 

―天狼島―

 

野原に寝転んでいるメイビスとオーガスト。

 

「オーガスト」

「なんですか?お母さん」

「幸せですね」

 

そう言ってオーガストを抱き締めるメイビス。

 

「……はい…っ!」

「…メイビス」

 

傍に座っていたゼレフが声をかける。

 

「ゼレフ、どうかしました?」

「………」

 

メイビスを後ろから抱き締めたゼレフ。

 

「っ……!」

 

頬を染めるメイビス。

 

「家族団欒というのは良いものだね」

「…そうですね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ

 

―ナツ達の家―

 

「ねぇ、ナツ」

「ん?」

「私ね、ナツの奥さんになれて幸せだよ。

子供の頃からずっと好きだったからね」

「……そうか」

 

頬をポリポリと掻くナツ。

 

「可愛い子供もいて、ナツがいて、…幸せなの」

「…おう」

「ナツは幸せ?」

「幸せに決まってんだろ」

 

そう言ってリサーナを抱き締めるナツ。

 

「…良かった」

「つーか、いきなりどうした?」

「ん?ナツといられて幸せだなぁって思ったから…」

「毎日一緒にいるだろ」

「うん、そうだね。毎日が幸せだよ。

そういえば、この前ミラ姉が

私に変身してた日があったよね」

「ん?ああ、匂いで分かったけどな」

「ドッキリ仕掛けるつもりだったのに…」

「お前の匂いを間違えるはずないだろ?」

「ふふっ、うん。嬉しいよ」

「リサーナ…」

 

リサーナに顔を近付けるナツ。

一瞬、驚きながらも微笑んで目を閉じるリサーナ。

軽いキスを交わして顔を離す。

 

「…愛してる」

 

小声で呟くナツ。

 

「もう…聞こえないよ、ナツ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス・王城―

 

ぬいぐるみを作っているウェンディ。

 

「うん、出来た!」

「ママ、どうかしたの?」

「ミスティへのプレゼントだよ」

「…?」

「パパとママのぬいぐるみだよ」

「わぁ……!」

 

ぎゅっと2つのぬいぐるみを抱き締めるミスティ。

 

「嬉しい…!」

「大事にしてね」

「うん!」

「あ、もう1つあった…。はい」

「…?これ、ママ…?」

 

小さなぬいぐるみを差し出すウェンディ。

 

「うん、小さい頃のママのぬいぐるみだよ」

「これも、くれるの…?」

「もちろん」

「小さいママも大事にするねっ!」

「ありがとう、ミスティ」

 

そう言ってミスティの頭を撫でるウェンディ。

嬉しそうに微笑むミスティ。

 

ガチャ…

 

「…ウェンディ、ミスティ、今帰った」

「おかえりなさい、パパ!あのねあのね!」

「うん、どうした?」

「ママがね、ぬいぐるみ作ってくれたの!」

「…パパとママと……嗚呼、小さい頃のママか」

「大事にするの!」

「そうしてくれると嬉しい」

 

ベッドに横になって、ぬいぐるみを愛で始めたミスティ。

 

「…ただいま、ウェンディ」

「おかえりなさい、ジェラール」

「…指を見せてみろ」

「え…?いや、怪我なんて」

「してるだろう?」

「……はい、ごめんなさい。何回か刺しちゃった…」

「痛いなら隠すんじゃない」

「…ミスティに喜んで欲しくて頑張ったの」

「お疲れ様、ウェンディ」

「うん、ありがとう。ジェラール」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―シリルが生まれて半年程経過した、とある日の事―

 

「ウェンディ、今度の休みに皆で温泉行かないか?」

「うん、いいけど…普通の温泉?」

「混浴の」

「…あはは、好きだねジェラールも…」

「そうしないと俺一人で入らないといけないからな」

「それは寂しいよね…」

「ああ」

「うん、じゃあ今度の休みに皆で行こうね」

 

その話を部屋の外で聞いていたグランディーネ。

 

「……………」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―休日・温泉宿―

 

「…奇遇ですね、義母上」

「そうね」

「もしかして、心配してくれたの?」

「貴女が何もされないか、心配でね」

「…今日は何もしませんよ。

夜には部下達も来るように呼んでいるので」

「あと、こっちの妖精の尻尾の皆さんも!」

「そう。…なら、いいのだけど」

 

ミスティがグランディーネに抱き付く。

 

「おばあちゃん、久しぶり!」

「久しぶりね、ミスティ」

 

ミスティの頭を撫でるグランディーネ。

 

「部屋に行きましょう」

「うん!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「広~い!」

「ジェラール。宴会場は別の場所なの?」

「ああ」

「なら大丈夫だね」

「早速温泉に入るか?…家族風呂だが」

「そうだね、入ろうかな…」

「義母上も一緒に入りますか?」

「…そうね。シリルは私が入れるわ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

各々、湯浴み着を着用して風呂へと向かう。

体を洗い終わって湯船に入る前にお湯を体にかける。

 

「ミスティ、おいで」

「ママ、まだ入っちゃダメ?」

「うん、もう少し待ってね」

 

少量のお湯を繰り返しミスティの体にかける。

 

「もう入っていいよ、ミスティ」

「わーいっ!」

「ゆっくり入るんだよ?」

「うんっ!」

 

かけ湯を終えて湯船に浸かるウェンディ達。

 

「………あったかい…」

 

頭に濡れたタオルを各々乗せる。

 

「ウェンディ」

「どうしたの?ジェラー…」

 

ジェラールに抱き寄せられたウェンディ。

 

「ジェラール?」

 

耳を舐めた後、甘噛みされる。

 

「ん…んぅっ…!」

「ジェラール、止めなさい」

「ただの愛情表現です」

「子供達の前でよく出来るわね」

「………愛している」

「…うん。よく知ってるよ?」

 

抱き寄せたまま、数回軽いキスをする。

 

「………もう、いいかな?」

「ああ」

 

その後、ゆっくりと体を暖め、そして上がった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「気持ち良かった…」

「あったかかった!」

「ウェンディが色っぽくて可愛かった」

「はぁ……」

 

浴衣を着て、お茶とお茶菓子を頂いて、

思い思いに時間を過ごした。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―夜―

 

「そろそろ行くか?」

「うん」

 

宴会場へと向かい、続く襖を開ける。

 

「陛下、王妃様!」

「皆、ご苦労。今日は楽しんでくれ」

『はいっ!』

 

和やかな雰囲気の中、料理を食べる。

 

「ん、美味しい…」

「王妃様」

「あ、シェリア!」

「陛下は……部下の方々とお話されていますね」

「緊張を解すのに必要なんだって。

シェリアは私とお話するのかな?」

「はい、王妃様」

「………」

「…王妃様?」

「名前で…」

「こんな所では呼べないですよ…!」

「ああ、うん……ごめんね。我が儘だった…」

「王妃様」

「…?」

 

別方向から聞こえた声に振り返る。

 

「お久しぶりです。王妃様」

「ウェンディさん!」

「え、ウェン…?」

「シェリア。ウェンディさんはエドラスの私です」

「…………エドラスの?」

「そうなの、可愛いメイドさん」

「…か、可愛いだなんて…」

 

シェリアを撫でるエドラスのウェンディ。

 

「さてと、王妃様。飲みません?」

「ま、まだ早いですよ…。まだあの子達もいるし…」

 

視線をミスティへと向けると眠そうにしていた。

 

「あ…」

「俺が行く」

「ジェラール」

「陛下」

「…ミスティ、眠いか?」

「…パパ…?…うん」

「じゃあパパと一緒に部屋に行こうか」

「ふぁあ……うん…」

「義母上、シリルを…」

「お願いするわ」

「はい」

 

シリルを抱いてミスティと手を繋いで

部屋から出るジェラール。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ミスティ、着いたぞ」

「………うん…」

 

シリルをベビーベッドに寝かせ、

ミスティを布団に入らせた。

 

「パパ…ぎゅってして…」

「わかった」

 

ミスティを抱き締めて、背中を撫でる。

 

「……ん…ぅ…」

「おやすみ、ミスティ」

 

眠りについたのを確認して、ゆっくりと体を離す。

…すると次の瞬間、襖がゆっくりと開いた。

 

「…ジェラール」

「義母上、どうかされましたか?」

「子供達は私が見るわ。…だからウェンディをお願い」

「ウェンディを?…わかりました」

「…さあ、シリル。そろそろ寝ましょうね…」

 

部屋を後にするジェラール。

 

(ウェンディに何かあったのか…?)

 

そう思いながら宴会場へと急ぐ。襖を開くと……

 

「あ、ジェラール~!」

「…酒を飲んだな」

 

周囲を見渡すと、すっかりと出来上がっていた。

ついでに、ビンゴゲームが始まっていた。

 

「あ、当たったぞ~!」

「む~…」

 

喧騒を聞きながら、ウェンディに近付く。

 

「随分と酔ってるな。ウェンディ」

「えへへ、そうかな?」

「顔が真っ赤だ」

「あのね、今ふわふわするの」

「酔っているから当然だな」

「ジェラールっ」

「なんだ?」

「大好き!」

 

そう言ってジェラールに抱き付くウェンディ。

 

「…ああ、俺もだ」

 

頭を繰り返し撫でると、そのまま重力がかかった。

 

「…寝たか」

 

ゲームの進行具合を見ると、もう終盤だった。

 

(終わり次第、全員部屋に戻らせるか…)

 

そう思い、終わるまで静観して全員部屋まで戻らせた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディを抱き上げて部屋に移動し、布団に入らせる。

 

「すー……すー…」

「おやすみ、ウェンディ」

 

頬に口付けて、眠りについた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

―アースランド―

 

仕事中のコブラとキナナ。

 

「テイクオーバー・スネークソウル…」

 

キュベリオスの姿になったキナナ。

その姿のキナナを優しく撫でるコブラ。

 

「…仕事」

「分かってる。…来たみたいだな、キナナ!」

「うん!」

 

大荷物を持った男達に襲い掛かった二人。

キナナはバッグを絡め取って奪っていき、

コブラは男達を伸していく。

 

「な、んだ!?貴様、ら…!」

「魔導師ギルドの者だ」

「魔導師!?」

「キナナ、終わったか?」

「うん、全部取ったよコブラ」

「く、そ……!これでも喰らえぇ!」

 

男がキナナの方へと向き直り、素早くナイフを突き刺した。

 

「つっ……!」

 

魔法が解け、人間の姿に戻ったキナナ。

 

「……よくも俺の妻を…!」

「これ、人間…か?」

「毒竜の咆哮!」

 

咆哮が放たれ、男に直撃した。

 

「ぐあぁぁああ!!」

「ふん、そのまま弱れば少しはアイツの痛みも…」

「コブラ、大丈夫だよ…?」

「キナナっ!」

「少し肩を刺されただけだから…手当てすれば、すぐに…」

「ギルド帰るぞ」

「…でも、これ持ち主に返さないと」

「っ~~~!!

俺が急いで返して来る。だから、そこから動くんじゃねぇぞ」

「うん、少し痛いけど待ってるね」

 

それから凄まじい速度で帰って来たコブラ。

コブラに背負われているキナナ。

 

「ごめんね、今日は足手まといで…」

「…前は戦うのが怖かったんだろ、お前は」

「コ……エリックの役に立ちたくて魔法を覚えたの。

折角なら毒蛇に変身する魔法が良かったよね。

私も、キュベリオスみたいに…」

「…お前はお前だ」

「うん、分かってるよ?でもね…」

「いい。声は聴こえた」

「…うん、ありがとう。ごめんね…エリック」

 

その後、ギルドに帰って手当てをしたキナナ。

コブラはそれを、心配そうに見つめていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ロキルー+ジェラエル+グレジュビ+ナツリサ+ゼレメイ

 

城からのお呼ばれで

舞踏会に参加する事になった妖精の尻尾。

 

「流石。慣れてるね、ルーシィ」

「当たり前じゃない。だってあたしは…」

「ハートフィリア家の一人娘で僕の奥さんだね」

「…ロキ」

「あの日、ご両親と妹さんに代わって

僕が君を幸せにするって誓ったからね」

「うん、ありがとう」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「エルザ」

「な、なんだ?ジェラール」

「もう少しリラックスするといい」

「いや、だが…」

「俺と踊るのは嫌か?」

「…そんな筈ないだろう」

「そんなに緊張していては踊り辛いだろう?」

「………すぅ、はぁ…」

「落ち着いたか?」

「ああ」

「じゃあ続きを踊ろう、エルザ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「グレイ様」

「おう」

「ジュビアは幸せです!」

「踊るだけで幸せなのか?」

「はい!こんな機会、滅多にありませんから」

「そうか」

 

ジュビアに素早くキスをしたグレイ。

 

「…グレイ…様…?」

「…酔いが回って来たか、少し風に当たって来る」

「ジュビアもお供します!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

テラスに出ているナツとリサーナ。

 

「ねぇ、ナツ。踊ろうよ?」

「俺が踊れないって知ってるだろ?」

「私がリードするから!」

「…ナツかい?」

 

別方向から聞こえた声に振り返る二人。

 

「兄ちゃん…と初代!」

「お義兄さん、お久しぶりです!」

「久しぶり、ナツとリサーナ。セツナは元気かい?」

「おう!」

「なら良かった」

「ナツ達は踊らないんですか?」

「…嫁にリードされるのはちょっと…な」

「男としての尊厳に関わるからね」

「ナツ…。はぁ…初代達は踊らないんですか?」

「私もゼレフもこういう経験が無いので」

「なんだ。兄ちゃんも踊れないのか」

「うん、残念ながらね。

メイビスのドレス姿を見れただけで良しとするよ」

「俺もリサーナのドレス姿だけでいい」

「ナツ…」

「どうした?リサーナ」

 

ナツに抱き付くリサーナ。

 

「リサーナ…?」

「踊れない代わり。ぎゅってさせて」

「おう」

 

ゼレフはメイビスを膝の上に乗せて、その光景を眺めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

王城で舞踏会を開く事になった為、

ドレスに着替えるウェンディ。

 

「ママ、きれい!」

「ありがとう、ミスティも可愛いよ」

 

そう言って、子供用ドレスを着たミスティを撫でる。

 

「えへへ…」

「ミスティ、パパは暫くは来れないと思うから

その間はママと一緒にいようね」

「うんっ」

「ウェンディ、シリルは私が見るわ」

「お願いね、グランディーネ」

「ええ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―ダンスフロア―

 

暫くの間、壁の花を決め込み、

踊りの誘いを断り続け、踊る男女には目も暮れず、

退屈そうなミスティを連れてテラスへと出たウェンディ。

 

「…涼しいね、ミスティ」

「うん」

「パパがいないと寂しいね…」

「…うん、パパ…まだかなぁ…?」

 

ウェンディの姿が見える位置にいる

ダンスフロアにいるグランディーネは周りを見渡した。

そして探していた人物を見つけて話し掛けた。

 

「…仕事は、終わったのかしら?」

「はい、義母上」

「ウェンディ達はテラスにいるわ」

「わかりました、行ってきます」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

二人でテラスに座り、外を眺める。

 

「星、綺麗だね」

「うん」

「流れ星も見えたら良かったね、お願い事も出来るから」

「今でもキラキラしてるからミスティは来れて嬉しい」

「中はもっとキラキラしてるけど、パパがいないとね…」

 

その時、ウェンディはとある匂いを嗅ぎ取った。

 

「っ……!」

 

振り向く前に後ろから強く抱き締められた。

 

「ウェンディ…」

 

頬を紅潮させ、言葉を紡ぐウェンディ。

 

「ジェラール、お帰り。仕事は終わったの?」

「ああ」

「パパっ!」

「ただいま、ミスティ」

「うんっ」

 

ウェンディを姫抱きして目蓋に口付けるジェラール。

 

「っ……」

「私と踊って頂いてもよろしいですか?」

「喜んで、陛下」

 

ゆっくりと手を重ねたウェンディ。

そしてダンスフロアで踊る二人…。

 

「力を抜いてくれ、俺がリードする」

「う、うん……」

 

倒れそうになったウェンディを抱き留める。

 

「ご、ごめんなさい…」

「踊れそうか?」

「うん、頑張る」

「いい子だ」

 

ジェラールから促されるままに踊るウェンディ。

暫くすると踊りが止まった。

 

「お疲れさま、ウェンディ」

 

頬にキスを落とされ、赤くなるウェンディ。

 

「少しだけ…楽しかった」

「また機会があったら来ような」

「その時は、またよろしくお願いね、ジェラール」

「喜んで」

 

家族全員で笑いながら部屋への帰路へと歩き出した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

グランディーネが映像魔水晶を持って来た。

 

「何の魔水晶?」

「私の可愛い娘の昔のライブ映像よ」

「…ライブ?」

「娘ということは…ウェンディの?」

「ええ」

 

魔水晶の映像が映し出された。

 

『続いては天空シスターズ!シェリア&ウェンディ!』

 

その後に聞こえたのは凄まじい歓声。

それでウェンディは『これ』が何かを察した。

 

「グランディーネ…?なんで、これが…あるの…?」

「妖精の尻尾に映像魔水晶が残ってたから持って来たのよ」

「…少し恥ずかしい…」

 

『曲は天使に滅LOVE!』

 

ガチャ

 

「王妃様、陛下、何かありまし…?」

「あ、シェリア」

「…この映像の子、私…ですか?」

「うん、向こうのシェリアと昔の私だよ」

 

『滅LOVE♪滅LOVE♪フォーエバー♪』

 

「滅らぶ♪滅らぶ♪」

「ミスティ…、あ、シェリア踊ってみる?」

「えぇっ!?」

「ほら、こういう風に……」

「…こう、ですか…?」

 

赤くなりながら踊るシェリア。

 

「うん、上手いよ。シェリア!」

「…恥ずかしい…!」

「なんというか…

アイドルのような事をしていたんだな、ウェンディは」

「と、時々しかしてなかったよっ!

当時は凄く…恥ずかしかったし…」

 

『恋する気持ちも♪明日の天気も♪フォーエバー♪』

 

「………」

「ジェラール?」

「恋しい気持ちはあったか?」

「…うん、とてもジェラールに…恋い焦がれてたよ」

「すまなかった」

「今は一緒にいられてるんだから、それでいいよ」

「滅らぶ♪滅らぶ♪ふぉーえばー♪」

「ミスティ、気に入ったのかな?」

「踊り出さないといいのだが…」

「楽しんでくれたみたいね」

「義母上」

「…その映像魔水晶は誰にも見られないようにしててね」

「わかったわ」

 

―後日―

 

衣装部屋に例のライブ衣装のワンピースが追加されていた。

 

「えーと、ジェラール?」

「なんだ?」

「これ…」

「着てみたらどうだ?」

「う、うん…」

 

ライブ衣装を着用したウェンディ。

 

「この服、羽根がないんだね…」

「無いなら生やせばいいだろう?」

 

意地悪な笑みを浮かべるジェラール。

 

「…いや、その……アレは本当に危な…」

 

言い終わらない内に姫抱きされ、

ソファーに押し倒されたウェンディ。

 

「ウェンディ、ドラゴンフォースを」

「もう…どうなっても知らないからね…」

 

思い切り空気を吸って、

ドラゴンフォース状態になったウェンディ。

ジェラールに唇を軽く吸われ、

衣服の内側に手が潜り込んだ…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディのトレーニング

 

―トレーニングルーム―

 

ラフな格好でドラゴンフォースを使い、

その力を抑える訓練をするウェンディ。

 

「ジェラールが、

きつくならないように、頑張らないと!」

 

サンドバッグに向かって蹴りを入れると、

結構な距離を移動して、戻って来た。

 

「むむむぅ…」

 

呼吸をし、息を整える。

身体に迸る魔力を抑えるようにして

再び蹴りを入れると、それほど飛ばなかった。

 

「やった…!後は、持続できるように頑張ろう!」

 

それから暫く訓練を続けて、部屋へと戻った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ジェラール!」

「訓練お疲れさま、ウェンディ」

 

頬をキスを落とされた。

 

「あのね、ドラゴンフォース中に

戦闘力を抑える訓練をしてたの。

何もしてない位の状態には制御出来るようになったよ」

「……フ」

「ママ」

「なぁに?ミスティ」

「ミスティね、風が出せるみたいなの」

「………え?」

 

ミスティが開けた窓に向かって咆哮を放った。

 

「ね?」

「…君の子だから、もしかしたらとは思っていたが…」

「ミスティ、それは他の人がいる所では使ったら駄目だよ?」

「なんで?」

「絶対に隠さないといけない事なの」

「…うん、わかった」

「ミスティ、おいで」

 

とてとてと歩いてきたミスティを抱き締めるウェンディ。

 

「ママ…」

「大好きよ、ミスティ」

「ミスティも!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ

 

―アースランド・天狼島―

 

眠っていたメイビスが目蓋を開けると、

すぐ間近にゼレフの顔があった。

身体は抱き締められている。

 

「っ…………!」

 

顔を赤くしながらも、昨日何があったかを思い出した。

小さな家を作って、そこで一緒に語り合いながら眠ったのだ。

 

「……オーガスト…?」

―何ですか?お母さん―

 

オーガストから念話が飛んで来た。

 

―ここにいますか?ちょっと見渡せなくて…―

―はい、直ぐ後ろにいます。

父さんのあんなに幸せそうな寝顔、久しぶりに見ました―

―…オーガストも幸せですか?―

―当然です―

―良かった…私は少し恥ずかしいですけど…―

 

「ん………メイ…ビス…」

 

ぎゅうっと腕の力が増した。

メイビスは頬を染めながら、一瞬ゼレフの唇を塞いだ。

 

「…大好きです…ゼレフ」

「…おはよう、メイビス。僕もだよ」

 

額にキスを落とされ、再び二人は抱き合った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ

 

―ナツ達の家―

 

「…ねぇ、ナツ」

「なんだ?」

「ずっと抱き締められてると動けないよ…」

「別に今は動けなくてもいいだろ?

セツナは今日1日だけミラ達の所に預けてんだからな」

「それは、そうだけど…」

 

後ろから抱き締めた状態でリサーナの髪の匂いを嗅ぐナツ。

 

「ナツ…?」

「うん、リサーナの匂いだ」

「当たり前じゃない」

「もっとリサーナの匂いが欲しい」

「…うん?」

 

抱き上げられ、ベッドに降ろされたリサーナ。

リサーナの両脇に手を置いたナツ。

 

「…ナツ?何をする気かな…?」

「分かってるだろ…?」

「っ………」

 

息を呑むリサーナ。楽し気に目を細めるナツ。

 

「…引っ掻いてもいいなら」

「ちょくちょく引っ掻かれてるから平気だ」

「…よろしくね、ナツ」

「おう、リサーナ」

 

互いに笑顔を浮かべたのを合図としたのか

キスを交わし、ナツの手がリサーナの胸元に潜り込んだ…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス・墓地―

 

グランディーネに子供達を任せて、

私達は前エドラス王の…お義父さんの墓にいます。

 

「今年も来ました、父上」

「…お義父さん、ジェラールは

とても意地悪ですけど、凄く優しいです」

「墓の前で言う事か…?」

「ジェラールは、私の何よりも大切な人です」

「ウェンディ…」

 

墓に線香を設置して、花を飾って、蝋燭に火をつけた。

そして、水をお供えして季節の食べ物もお供えして、

線香をあげて、二人で合掌した。

 

「…ねぇ、ジェラール」

「…なんだ?」

「お義父さん、優しかった?」

「あの戦いが終わってからはな」

「…そっか」

「どうした?」

「私ね…グランディーネの事はお母さんと思っているけれど、

本当のお父さんの事って何も知らないなぁって思って…」

「……?」

「私はね、400年前から来た子供だったの。

グランディーネが私を育ててくれて…

でも、それ以前の記憶がないの…」

「あまりにも幼かったからじゃないか?」

「…でも、覚えてないのは悲しい」

「義母上や俺達がいても、悲しいか?」

「悲しくないし、幸せだよ?

お墓参りすると、少し考えてしまうから…」

「………」

「グランディーネ曰く、私は孤児だったらしいから

私がグランディーネに会った時点で、両親はもう…」

 

ぐいっと抱き締められた。

 

「…ジェラール?」

「悲しい記憶は幸せな記憶で

上書きしていけば、やがて薄れる」

「…うん、そうだね。…ごめんね、こんな話して…」

「君には笑顔でいて欲しい」

「大好きだよ、ジェラール」

 

そう言って、腕を背中に回した。

 

「ウェンディ」

「なぁに、ジェラー…」

 

顔を上げると同時に、唇を重ねられた。

 

「愛している」

「私も!」

 

私は笑顔でジェラールに抱きついた。

 

(私の両親へ、私は今とても幸せです。

私を生んでくれて、ありがとうございます)

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス・王城―

 

「ねぇ、ジェラール」

「なんだ?」

「私も公務とかしようか…?」

「………」

「だめ?」

「いや、してもいいのだが…」

「?」

「他人とダンスとかは…出来るか?」

「頑張れば大丈夫だよ」

「腰を触られても平気か?」

「……うん。それがお仕事だから」

「…わかった」

「前回は全然踊らなかったから、

少しは踊らないと評判良くないよね…」

「君はそんな事は気にしないでいいのだが…」

「私は、王妃なんだよ…?」

「…そう、だな」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―夜会―

 

「王妃様、私と踊って頂けますか?」

「はい」

 

ダンスの誘いを受けるウェンディ。

目の前の男性は心の中でガッツポーズをして

ウェンディの手を引いた。

 

「よろしくお願いしますね」

「はい、王妃様」

 

曲に合わせてダンスを踊り、

曲が終わると共にダンスを終えた。

ペコリと礼をして、その後も複数人と踊ったウェンディ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―自室―

 

「疲れた…」

「お疲れ様、ウェンディ」

 

ウェンディを後ろから抱き締めるジェラール。

 

「ジェラール」

「夜会に出るのは時々なら、君も大丈夫か?」

「うん、時々なら大丈夫だよ」

「ウェンディ」

「なぁに?」

「揉もうか?」

「………何処を?」

「腰や肩、首なんかもどうだ?」

「ああ、マッサージなんだ…お願い」

 

そう言ってベッドに寝転ぶウェンディ。

ジェラールの手が首を、肩を、腰を揉んでいく。

 

「ん~……♪」

「気持ちいいか?」

「うん、上手だね。ジェラール」

「まぁな」

 

一頻り揉んだ所で首筋にキスを落としたジェラール。

 

「っ!」

「ウェンディ…」

「ジェラー…ル?」

「疲れたなら、もう寝るか」

「…うん、おやすみなさい」

 

向かい合わせの状態にされて

ジェラールの上に伸し掛かる体勢で眠りについたウェンディ。

彼女を愛しく思いながら布団をかけて

ジェラールも眠りについた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

テーブルの上にどっさりと置かれた手紙の束。

 

「これに全部返事すればいいんだね」

「休憩しながらするんだぞ?」

「うん、行ってらっしゃい。ジェラール」

「ああ、頼んだ」

 

ジェラールを見送って、大量の手紙と向き合った。

一枚手紙を取り出して呼んだ。

 

「…王妃様へ、本当に王妃様は綺麗で可愛いですね。

ずっと買い物に出掛けている時に

ストーカーさせて貰っています…」

 

………破り捨てたくなるのを堪えて

誰なのかを把握して、即返事を書いた。

 

「もう、つきまとわないで下さい…っと」

 

本当にもう…これっきりにして欲しいかな…。

 

「さて、次々……王妃様へ、

友達と喧嘩してしまいました。

どうすれば仲直り出来ますか?…え~と……」

 

さらさら…

 

「うん、次!」

 

それを何度も繰り返した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―夕方―

 

「終わったぁ…」

 

ガチャリ…

 

「王妃様、そろそろ終わりましたか?」

「はい、ここに置いているのは全部返事の手紙です」

「ご苦労様でした。では、持って行きますね」

「はい」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ただいま、ウェンディ」

「おかえりなさい、ジェラール」

「ミスティとシリルは?」

「もう寝かせたよ」

「そうか」

「ねぇ、ジェラール」

「ん?」

「手紙の中にね、ストーカーからの手紙も入ってたの」

「………懲りないな」

「そうだね」

「あの時、もう近付くなとは言ったが…」

「今までも何ともなかったから、

もう大丈夫だとは思うんだけど…」

「警備を強化しようか?」

「……大丈夫だよ、今まで通り

アリアさんとドランさんから

離れないようにすればいいんだから」

「………」

「心配しなくても大丈夫だよ、ジェラール」

「…ウェンディ」

 

強く抱き締められた。

 

「………」

「大丈夫だよ、ジェラール」

 

そのままベッドに倒れ込んだ。

…その日はずっと、抱き締められながら眠りました。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ザアァァァ……

 

「雨だね」

「そうだな。

…13年前に君と再会したのも雨の日だったな…」

「うん、大好きなジェラールが会いに来てくれて…

とても嬉しかったよ…?でも、それどころじゃなかったね」

「…あの時、君は俺の言うことを聞いてくれなかったな」

「妖精の尻尾を見捨ててシャルルとだけ

逃げるなんて出来なかった…。

妖精の尻尾は化猫の宿を失った私達が

ようやく得た居場所だったから…。

ジェラールも、妖精の尻尾が大事だったでしょう?」

「あの時は、そんな事を考える余裕がなかった。

どうしても全員逃がすには時間が要る。なら…」

「だから私だけだったんだ…。

…もう少し聞かせて?どうして、私だったの?」

「君は当時の俺にとって大切な存在だったからだ」

「…あり、がと…」

 

頬を染めるウェンディ。

赤くなった頬を撫でるジェラール。

 

「最初にエドラスに来て…どうだった?」

「妖精の尻尾は私の知る皆さんとは別の人達で…

こっちのエルザさんは敵で…

こっちのルーシィさんと会って…

こっちのナツさんに王都まで送って貰って…

皆さんの魔水晶を取り戻すのに必死で…」

「結果、君達は父上の野望を砕き、仲間を取り戻した」

「そしてアースランドに帰った…。

結局ジェラールとは、あまり話せなかったよね」

「でも、あの時はそれで良かった。猶予すらなかったしな」

「…うん、だから私が10年かけてエドラスに来た。

とても大切だった、大好きだった、会いたかった…」

「ありがとう、ウェンディ」

 

―全てを捨ててまで、来てくれて…―

 

そう思いながらウェンディに口付けたジェラール。

 

「大好きだよ、ジェラール…」

「俺も愛している、ウェンディ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスティ+シリル+ミスウェン

 

ミスティとシリルを連れて、紫陽花を見に来ています。

 

「いろんな色で綺麗だね」

「うん!」

「紫陽花はこの時期しか見れないから、

ちゃんと堪能しておこうね」

「うん!」

「ねぇ、ミスティ」

「なぁに?ママ」

「お花は好き?」

「うんっ!」

 

にっこりと笑うミスティを抱き締める。

 

「ママ…?」

「ママも大好きよ、お花も…ミスティも…」

「ミスティもママが大好き!」

「ありがとう」

「あ、虹だ!」

 

そう言われて空を見ると綺麗な虹が出ていた。

 

「綺麗ね…」

「うんっ!」

「そろそろパパの所に帰ろうか…?」

「パパ、帰って来てるかなぁ…」

「多分、帰って来てるよ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―自室―

 

「おかえり、ウェンディにミスティ」

「ただいま、パパ!」

 

ジェラールに抱きつくミスティ。

 

「ただいま、ジェラール」

「…ウェンディ」

「…?」

「例のストーカーは牢に入れておいた」

「…ありがとう、これからは安心して外に出れるね」

「ああ」

 

シリルをベビーベッドに寝かせて

ミスティの方を見ると、ぬいぐるみを愛でていた。

それを見て微笑んでいると、ジェラールに抱き締められた。

 

「どうしたの?ジェラール」

「心配事がひとつ減った」

「うん、どうして私を抱き締めてるのかな…?」

「妻を愛でるのは当然の事だろう?」

 

頬を優しく撫でられる。

 

「ジェラー…」

 

最後まで言う前に口付けられた。

 

「ウェンディ、愛している」

「…うん」

 

私は返事代わりに背中に腕を移動させた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―7月6日―

 

「お願い事?」

「うん、ミスティはどんなお願いがあるの?

ママが短冊に書いてあげる」

「ん~と……しゃがんで、ママ」

 

ミスティの口元に耳を近付けると耳打ちされた。

 

「ママとパパとおばあちゃんとシリルと…

ずっと一緒にいられますようにって…」

「わかった。書いておくね」

「うんっ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ペンを出して、短冊にミスティの願い事を書いた後、

別の短冊に自身の願い事を書くウェンディ。

 

「ミスティとシリルが健やかに育ちますように…っと」

 

ベランダの笹に短冊を飾りに行くと、

ジェラールの短冊を見つけた。

 

「これからもエドラスは平和が続く…

断言して書くんだね、ジェラールは」

 

それからその日はミスティとシリルと過ごし、

夜は星空を見ながら娘と談笑した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

キィ…と何かが開く音で目が覚めたウェンディ。

ベランダの方へ視線を向けると、

ジェラールが短冊を見ていた。

それを見てネグリジェ姿のまま、ベランダへと出た。

 

「おかえり、ジェラール」

「!すまない、起こしたか…」

「今日は遅かったんだね」

「中々仕事が片付かなくてな」

 

星空を見上げるウェンディ、

釣られてジェラールも星空を見上げる。

 

「綺麗だね、天の川」

「そうだな」

「ジェラール、私思ったんだけどね…

彦星と織姫は決まりなんて守らなくていい。

神様なんか倒して好きな時に会いに行けばいいと思うの」

「…いかにも妖精の尻尾らしい考えだな」

 

苦笑するジェラール。

 

「うん!だって、それが妖精の尻尾でしょ?」

「ああ、そうだな」

 

ジェラールがウェンディの肩を抱いた。

 

「…ジェラール」

「ウェンディ、君自身の願い事はないのか?」

「もうないよ、この世界に来て叶ったから」

「そうか」

「ジェラールは?」

「…君が来てくれてからは、無くなった」

「殆ど同じ願いだったんだね」

「そうだな」

「…ずっと、一緒にいようね」

「言われなくとも、そのつもりだ」

 

そう耳元で囁かれて、ウェンディは満足そうに微笑んだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

一家で私有地のプールに来たジェラール達。

脱衣室で水着に着替え、

バーベキューセットをプールに持ち込む。

 

「ちゃんと体操するんだぞ」

「は~い!」

 

ウェンディと一緒に体操をするミスティ。

やがて体操が終わり、ミスティにアームヘルパーを付け、

二人で浅めのプールに入った。

 

「ぷかぷか~」

「ミスティ」

「なぁに~?」

「ママと追いかけっこしようか?」

「うんっ!」

「じゃあ最初はママが鬼ね、

ミスティはママから逃げるのよ?」

「うんっ!」

「よ~い、ドン!」

「きゃ~っ」

 

ミスティが手足をパタパタさせて逃げ、

少し遅れてウェンディがそれを追いかける。

ジェラールはその様子を微笑みながら眺めていた。

 

「捕まえたっ!」

「わ…っ」

 

ミスティを後ろから抱き締めて捕まえたウェンディ。

 

「ママ…」

 

ミスティも小さな手をウェンディの手に重ね合わせる。

 

「…じゃあ次はミスティが鬼ね」

「頑張ってママを捕まえるのっ!」

 

一瞬、ミスティに頬擦りをして解放したウェンディ。

 

「よ~い、ドン!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ちょくちょく妻子の様子を見ながら、

バーベキューをしていたジェラール。

 

「一先ずこれ位にするか…。

ウェンディ、ミスティ。食事の準備が出来た。

タオルで体を拭いてから水分を取ってくるといい」

「うん、わかった。ミスティ、上がろうか?」

「うんっ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

普段着に着替えて戻ってきた二人。

テーブルとイスが人数分置かれていて、

テーブルの上に焼かれた肉や魚介類や野菜、

焼きそばやフルーツなどが準備してあった。

 

「熱い内に食べるといい」

「ありがとう、ジェラール」

「美味しそう!」

 

談笑しながら食べるウェンディとミスティ。

 

「ママ、美味しいねっ!」

「うん」

 

暫くすると、食材が尽きてきた。

 

「ウェンディ、次で最後でいいか?」

「うん」

 

そう言うとジェラールは肉の入ったパックを2つ差し出した。

 

「これは…?」

「牛の丸焼きの一部だ」

 

フルーツを食べていたミスティが寄って来た。

 

「これもお肉?」

「ああ、美味しいぞ」

「ありがとう、嬉しい。いただきます…」

「いただきま~す」

 

牛の丸焼きを頬張る二人。

ジェラールは自分の分の食材を食べる。

 

(美味しい…!

脂が抜け落ちてて、サッパリしてて…臭みが少ない…!)

「喜んで貰えて何よりだ」

 

少ししてジェラールも食べ終わり、

後片付けを手伝うウェンディ。

 

「ありがとう、ジェラール。楽しかったよ」

「ミスティも楽しそうにしていたな」

「うん、……ジェラール」

「どうした?ウェンディ」

 

ジェラールの頬にキスをしたウェンディ。

 

「毎日お疲れ様」

「君といると、疲れも忘れる」

「…ちゃんと休んでね?」

「分かっている」

 

グランディーネがシリルを連れて呼びに来て、

その日は帰路についた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―夜・ベランダにて―

 

二人で浴衣を着用し、買ってきた線香花火に着火して

斜め下45度に向けてパチパチと音を立てる花火を見る。

 

「…綺麗だね」

「そうだな」

「花火って言ったらね、

昔…ナツさんとガジルさんと一緒に花火玉を作ったの」

「そうか、楽しかったか?」

「うん、私の花火玉は少し小さかったけれど、

小さな…でも綺麗な花火になってくれたよ」

「よかったな」

「うん、……あ、もう落ちちゃうね…」

「ウェンディ」

「どうしたの?ジェラー…」

 

素早くキスをされたウェンディ。

その間にウェンディの線香花火がポトリと落ちた。

 

「愛している」

「うん…よく知ってるよ」

 

そう言って、また線香花火を出して着火した。

パチパチと花火がウェンディの顔を彩る。

 

「…綺麗だな」

「そうだね」

 

終始ジェラールは花火と共に

主にウェンディの顔を見ていた。

 

「ジェラール」

「なんだ?」

「線香花火ってこんなに小さいのに凄く綺麗…」

「子供でも楽しめるように作られてるからな」

「あの子達が大きくなったら…一緒に楽しもうね」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夏の日のミストガン

 

外で向日葵を愛でているウェンディとミスティ。

それを少し遠くから見ているシリルを抱き抱えたジェラール。

 

「………夏になるとナツを思い出すな…」

 

ウェンディが以前、ナツを兄のように慕っていたと

聞いていたジェラール。

 

「…少し変な気持ちになるな…」

「うー…?」

 

シリルの声を聞いて、ジェラールは微笑んだ。

 

「ああ、なんでもない。シリル」

 

シリルの額に口付けて、頬を優しく撫でた。

 

「ジェラール!」

「パパ~!」

 

二人の声を聞いて、手をヒラヒラと振った。

 

(向こうでも、彼らは元気にしているんだろうな)

 

そう思って、空を見上げて、少しの間目蓋を閉じた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+ミスティ

 

「ママ~!」

「どうしたの?ミスティ」

「お医者さんごっこしよう?」

「うん、ならママちょっと着替えてくるね」

「うんっ!」

 

数分後、白衣に着替えて来たウェンディ。

 

「始めようか」

「は~い」

「まずはママがお医者さんね」

「うん」

「お胸の音を聞きます、ポンポンしますね」

 

玩具の聴診器を胸に当てるウェンディ。

 

「お喉を見ますね、口をあ~んして下さい」

「あ~…」

 

口を大きく開けるミスティ。

少しして役割を交代して似たような事をする。

その様子を微笑ましく思いながら

見ていたジェラールだが、暫くすると…

 

「メスを」

「はい」

「…血が固まっていますね、切除します」

「はい」

 

ミスティが理解しているかは置いておいて

段々と生々しくなっていく内容に、ジェラールは困惑した。

 

「…義母上」

「なにかしら?」

「あれ、止めなくてもいいのか…?」

「ウェンディも3歳位から治癒魔法を教えていたから

あれ位大丈夫でしょう」

「………」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「……処置は終了しました」

「はい」

「…うん、お疲れ様。ミスティ」

 

そう言って、ミスティの頭を撫でるウェンディ。

 

「途中から、よくわからなかった…」

「難しい言葉を何度も使ったからね…」

 

何事もなく終わり、ほっとしたジェラール。

 

「パパ」

「ん?」

「診察、しましょうか?」

「ああ、頼む」

 

その後、ジェラールも遊びに付き合い、

ミスティは楽しそうにしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

アースランドの夏祭り

 

―アースランド・天狼島―

 

「ゼレフ」

「おかえり、メイビス」

「妖精の尻尾メンバーと…

まぁ、それ以外にも来る人はいますけど…

夏祭りに行くんです。来ませんか?」

「………」

「…ゼレフ」

「うん、わかった。三人で行こう」

「え?僕もいいんですか?」

「親子で行くのもいいよね、メイビス?

君はその姿で他の人の前には出ないし」

「…わかりました。お母さんもいいんですか?」

「勿論です。行きましょう」

 

メイビスの魔法で浴衣の幻覚を身に纏い、

夜になってから夏祭りへと出掛けた三人。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メストとカーチャを見つけた。

 

「メストさん!あのお面、ニコに似てます!」

「よし、取ってやろう」

 

「彼は…評議院ではなかったかな?」

「正確には評議院に潜入していた我がギルドのメンバーです。

…自分の記憶を消していた影響で、

他のメンバーに説明するのも面倒だったのか妻以外には

偽名であるドランバルトを引き続き名乗っていますがね…」

「一番最近に結婚したんだってね」

「そうですね。

ある事件で彼女と出会い、親睦を深めていったようです」

 

「ありがとうございます、メストさん!ニコのお面…!」

 

カーチャを撫でるメスト。

それを見て、ゼレフもメイビスを撫でた。

 

「次、行きましょうか」

「そうだね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「キナナ、何が欲しい?」

「コブラがいれば何もいらないよ」

「キナナ…」

 

キナナの肩を抱くコブラ。

 

「彼、本名は分かっているのかい?」

「妻以外の他人に知らせるつもりがないみたいです。

パートナーですから仕事にも二人で行くんですよ」

「彼らの場合、二重の意味でのパートナーだね」

「そうですね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ナツ、猫のお面ありがとね」

「おう、………ん?兄ちゃんに初代?」

「やあ、ナツ」

「兄ちゃん、その子…誰だ?」

 

ナツはオーガストの方を見ている。

 

「…はじめまして、叔父さん」

「おじさん?」

「もしかして、初代とお義兄さんの子供…?」

「そうだよ」

「はい」

「名前は?」

「オーガストです」

「兄ちゃん達に子供がいたのか~!」

「この子、初代似なんですね。頬っぺた柔らかい…」

 

リサーナがオーガストの頬をぷにぷにしている。

 

「リサーナ」

「どうかしましたか?初代」

「セツナもこれ位大きくなったら可愛いでしょうね」

「そういえばセツナの名前は誰が考えたんだい?」

「私達二人でです」

「どういう風に?」

「ナツの名前と私のリサーナのさ行から取りました」

「兄ちゃんとこのオーガストは?」

「僕がメイビスと共に過ごした日々の月からだよ」

「ふ~ん。じゃあ兄ちゃん、またな!

リサーナ、もっと祭りを楽しむぞ!」

「では初代にお義兄さん、また…」

「はい」

 

ひらひらと手を振って、ナツ達と別れた。

花火の音を遠くに聞きながら、木に登り、花火を眺める三人。

 

「皆さん、楽しそうでしたね」

「僕らも楽しかったよ」

「はい」

「オーガスト、私の上へどうぞ」

「え?」

「いいから」

 

頬を染めながら、メイビスの膝の上に座ったオーガスト。

オーガストを後ろから抱き締めるメイビス。

メイビスの肩を抱くゼレフ。

 

「幸せですね…」

「そうだね」

 

花火が終わるまで、三人はそうして過ごしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス―

 

親子で夏祭りへやって来たジェラール達。

 

「何が食べたい?」

「私はりんご飴」

「えっと…」

「他にもみかん飴とかあるみたいだね」

「じゃあ、みかん飴!」

「わかった」

 

屋台に向かい、りんご飴とみかん飴を買って食べ歩く。

 

「ん、美味し…」

「美味しい…!」

「あ、ミスティ。気に入ったみたいだね」

「うんっ!」

「ママが今度、作ってみるね」

「わぁいっ!」

 

食べ終わった後、ウェンディは金魚すくいに挑戦するが

悉くポイが破れ、撃沈した。

 

「…ヨーヨー、釣ってあげて。ジェラール…」

「ああ。…元気を出すんだ、ウェンディ」

 

ジェラールは意気消沈するウェンディの頭を撫でて、

水ヨーヨーを釣る為に屋台へと向かった。

 

「これはこれは陛下!御家族で来られたのですね。

しかし陛下が相手でも、此方は商売です!どうぞ!」

 

ジェラールは微笑んで、こよりを受け取った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ジェラールを待っているウェンディ達。

 

「あ、グランディーネ…?」

「ウェンディ」

「おばあちゃん!」

「何故か男性数人から声をかけられたわ」

「グランディーネ、綺麗だからね…」

「…そう?」

「うん、浴衣も似合ってて…

不思議な髪の色とすごくマッチしてると思うよ」

「…人間というのは、ああいう風に

知らない人にでも声をかけるものなのね」

「綺麗な人なら尚更かな…」

 

そこにジェラールが帰って来た。

 

「ウェンディにミスティ、取って来た。

…義母上もいらしていたんですね」

「ええ」

「あとお面も取って来た」

 

渡されたのは白猫と青猫のお面。

 

「シャルルに似てる…、こっちはハッピー?」

「ああ」

「ありがとう、ジェラール」

「青猫さん、貰ってもいい?」

「もちろん」

 

お面を頭に引っ掛けて、今度はわたあめを屋台で頼み、

食べながら喧騒から少し離れた場所へと移った。

 

「…そろそろか」

 

わたあめを幸せそうに頬張るミスティ。

 

「甘い…」

「もう少しで始まるから、全部食べてしまうんだぞ。ミスティ」

「うん」

 

それから少しすると、花火が上がり始めた。

 

「美味しかった…!」

「私が捨てて来るわね」

「よろしくお願いします、義母上」

 

グランディーネが食べ物の残骸を捨てに行き、三人になった。

 

「きれ~い!」

「うん、本当に綺麗…」

「…ウェンディ」

「ん?どうしたの、ジェラー…」

 

素早くウェンディに口付けたジェラール。

口付けた直後に何かを呟いたが、

花火の音で書き消され、よく聞こえなかった。

 

「っ……?」

「…花火、綺麗だな」

「…うん」

 

ジェラールに手を握られた後、

指を一本一本絡ませられたので、ウェンディも指を絡ませた。

 

「大好きだよ、ジェラール」

 

ジェラールは何も言わずに微笑んで、ウェンディを抱き締めた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―映画館―

 

子供達をグランディーネに預けてホラー映画を見ている二人。

 

映っているのは学校で幽霊に追い掛けられ、逃げる少女。

 

「………」

 

少し震えながら、ジェラールの手を強く握るウェンディ。

そんなウェンディを抱き寄せ、頬に数回キスをするジェラール。

頬を紅潮させながら映画に集中しているウェンディ。

 

慌ててロッカーの中に逃げ込む少女。

ガタガタ…とロッカーが震え、ギィ…と入口が開けられると

ウェンディから引き攣った声が零れた。

 

『何してるんだ?』

『…先生…!』

 

安心したように息を吐いたウェンディ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「怖かったか?」

「うん…」

「今度は別のホラー映画を見てみるか」

「っ…!…あ、これなら大丈夫そう…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

暫くその映画を見ていると、ウェンディが

「嘘っぽい」やら

「こんなに一気に血は出ない」やら、

やたらとダメ出しをする。

 

「ウェンディ、スプラッタ系は平気なんだな…

というか、すごく冷静だな…」

「だって、作り物っぽいから」

「………」

 

乾いた笑いが出たジェラール。

ウェンディは終始、ダメ出しをして

怖がる素振りもなく映画を見終わった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「そういえばアースランドにいた頃、

こういう映画を一緒に見ようって誘ってくれた子がいたの。

でも私が映画にダメ出しばかりするから、

その子とはそれっきりになったの」

「その子の性別は?」

「?男の子」

「……そうか」

 

ウェンディを強く抱き締めたジェラール。

 

「…私はジェラールのだから、大丈夫」

「…そうだな」

 

手を繋いで、二人で城へと帰って行った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―夜中―

 

衣装部屋で様々な衣服を着ながら、

ジェラールに抱かれる妄想に耽るウェンディ。

 

「………」

 

水着、織姫風の浴衣、レースクイーン風の衣装、

網目のボンデージ、女騎士風の衣装などに

着替えては妄想に耽る。

 

「…決まらないよ…」

 

結局衣装が決まらなかったので、選んだ全ての衣装を抱えて

ジェラールの待つ部屋へと向かうウェンディ。

 

途中で、ふらふらと城内を歩くミスティと鉢合わせた。

 

「…ママ?」

「…ミスティ、トイレかな?」

「…うん」

 

目蓋を擦りながら喋るミスティ。

 

「ママ、そのお洋服は…?」

「っ…!…ファッションショーでもしようかなって思って」

「ならミスティ、頑張って起きてるね」

「…うん、ごめんね。トイレはこっちだよ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスティをトイレに連れて行き、

自室でファッションショーを開く事になった。

 

まずは水着。

 

「…80点」

 

採点はジェラール担当である。

 

「ママ、綺麗!」

 

にこやかに笑って、別室で着替える。

次は織姫風の浴衣。

 

「100点」

 

そうして別室で着替えるのを繰り返し、

ファッションショーは終了した。

ミスティが我慢しきれず眠ってしまったので

ベッドへと運ぶジェラール。

 

「ジェラール」

「ん?」

「何が一番似合ってたかな?」

「織姫風浴衣」

「うん、ありがとう」

「…ところで、なんで

こんな時間にファッションショーだったんだ?」

「……うん、ちょっとね…」

 

その言葉に溜め息をつき、

ウェンディの顎を持ち上げたジェラール。

 

「ウェンディ…」

「…………………今度、する時とかにね……

どんな衣装がいいかとか……考えて…たの…」

 

頬を紅潮させながら白状したウェンディ。

最後の方は小さな声で喋っていた。

 

「じゃあ今度はあの浴衣で頼んだ」

「…うん」

「ウェンディ」

「なに?ジェ…」

 

素早くジェラールはウェンディにキスをした。

同時に身体を強く抱き締める。

 

「っ……!」

 

ウェンディは顔を赤くしながら、それに応えようと

両手をジェラールの背中へと移動させた。

ジェラールは舌を割り込ませ、咥内を荒らした後、

ゆっくりと唇を離した。

 

「ご馳走さま、ウェンディ」

「…うん」

「また、後日にしよう」

 

そう言ってベッドに横たわったジェラール。

ウェンディは頬を染めたまま、ベッドに横になり、

ジェラールにすり寄った。

ジェラールはそんなウェンディを抱き寄せ、

二人で眠りについた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グランディーネ+ミスティ

 

ウェンディとジェラールがデートをしている最中、

グランディーネは孫二人を預かっていた。

 

「おばあちゃん」

「なにかしら?ミスティ」

「ママとパパは?」

「少しの間、二人だけでお出かけしているの。

大人しく待ってましょうね」

「うんっ!」

 

眠っているシリルを撫で、続けてミスティの頭を撫でた。

 

「えへへ…」

「ねぇ、ミスティ」

「?」

「パパはママに優しくしていると思う?」

「?うん」

「そう…」

 

グランディーネは度重なる『意地悪』を思い出しつつ、

少し溜め息をついた。

 

「おばあちゃん」

「なにかしら?」

「おばあちゃんは、たまに…

いなくなっちゃってる事があるね…」

「私も時々お出かけしているもの」

「そっか…どこにお出かけしてるの?」

「…これから私が言う事を

パパとママ以外には内緒に出来るかしら?」

「…?うん」

「なら言うわね。…アースランドよ」

「っ…!ママのいたところ!」

「ええ」

 

表情が輝くミスティ。

 

「アースランドって、どんなところなの?」

「…そうね。ミスティや…ママが使うような魔法を

使う事が出来る人達があちこちにいる世界よ」

「わぁ…!」

「でも、私にしか行く事が出来ないの。

ママやパパ、ミスティ達は行く事が出来ないの」

「…なんで?」

「私は少し、特殊な状態でエドラスに来ているから…

私の本体は向こうにあるもの」

「本体?」

「少し難しい話よ…。まだ分からなくても大丈夫」

「??」

「ママ達が出かけている間や夜に二人の面倒を見る時は

向こうの話をしてあげるわね」

「…!うんっ、ありがとう!」

 

笑顔になったミスティの頭を撫で、

それから少し経って帰って来た二人を出迎えた。

 

「おばあちゃん、楽しみにしてるねっ!」

「ええ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドシェリア+ウェンディ

 

「シェリア」

「先輩、なんですか?」

「陛下達の部屋、綺麗にしてきて」

「わかりました」

 

シェリアが先輩メイドに頼まれ、王達の私室に入ると、

そこには色々なもので汚れたベッドシーツがあった。

 

「…これって…」

 

汚れた理由を想像して、頭を振って掻き消した。

 

「王妃様はそんなこと……しない」

 

ガチャリ

 

「あら、シェリア」

「…先輩、これ…」

「ふふっ、陛下達…昨晩はお楽しみだったみたいね♪」

「っ…!洗って来ますっ!」

 

ベッドシーツを素早く畳んで、洗う為に走り出したシェリア。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

洗濯洗剤を汚れた箇所にかけて、下洗いをする。

 

「王妃様は、そんなこと…しないもの」

 

ぶつぶつと呟きながら汚れを落とす事に没頭するシェリア。

暫くして、汚れを取り切り、

シーツを軽く畳んで洗濯ネットに入れ、

洗濯機の中に入れて洗濯を開始した。

 

「あとは待つだけ…」

「シェリア」

「なんでしょうか、先輩?」

「陛下はね、実はロリコンなの」

「………」

「だって10歳近くも歳の離れた子を妻にしたのよ?」

「…王妃様からはお互いに幼い頃出会って

恋をしたと聞きました」

「へぇ、シェリア…王妃様と仲良いのね」

「…はい」

「いつもどんな話してるの?」

「それは―――…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

(先輩、質問攻めが凄かった…。

王妃様、もう帰って来てるかな…?)

 

洗濯の終わったシーツを持って、

再び王の私室へ向かうシェリア。

 

「失礼します…」

「あ、シェリア!」

「…ウェンディ」

「きちんと名前で呼べたね、偉い偉い♪」

「シーツのお取り替えに参りました」

「…あ、シーツ?洗ってくれたんだ…」

「はい……あの、ウェンディ…」

「なぁに?」

「…陛下と、Hなこと…されてるんですか…?」

「……っ…」

 

頬を染めて俯いたウェンディ。

 

(やっぱり……してるんだ…)

「私は…ウェンディが…

そんな事してないといいなって…思ってたんです」

「…ごめんね、シェリア」

「…私、まだそういう事…受け入れられなくて…」

「きっと、もう少し大人になって…

大好きな人が出来たら分かると思うよ?」

「…はい」

 

畳んでいたシーツをベッドに取り付けたシェリア。

 

「シェリア」

「はい」

「その年頃の時にああいう事関係は堪えるよね。

私の場合は…皆さんは私に配慮してくれていて…

嗚呼、でも…もう会えないっていう事実が寂しいな…」

「ウェンディ…?」

 

ウェンディは困ったように笑って

 

「時間が解決してくれると思うよ」

「時間…ですか?」

「うん!」

「…わかりました」

「シェリア、こういうのは直ぐに慣れる必要ないよ」

「はい」

 

少し微笑んで、退室したシェリア。

 

「……シェリアに…した後の洗濯とか掃除とか

いかないように、少し掛け合ってみようかな…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グランディーネ+メイビス

 

―アースランド・妖精の尻尾―

 

思念体として行動していたグランディーネは

この日、妖精の尻尾に留まっていた。

 

「グランディーネさん」

「…メイビス」

「少し、相談事があります」

「ええ、何かしら?」

「オーガスト、見てないですよね…?」

「…大人に連れられて外に行っているのを見掛けたわ」

「ああ……オーガスト…また…」

「…どうしたの?」

「…先日皆に、オーガストの事を紹介したんです。

私とゼレフの息子だって…」

「良かったわね、皆祝ってくれたでしょう?」

「…はい。……でも本来の年齢を明かしたら、

その日以降、ワカバやマカオ達に連れられて夜の酒場とかに

行っているらしいんです…」

「確か、結構な高齢なのよね…」

「はい、姿の関係上…ジュースとか

ミルクとかを頼んでるらしいんですけど…。

悪い影響とか出ないか心配で心配で…!」

「悪影響は出ないと思うわ。

だって恐らく彼はもう人生観固まってるでしょう?」

「それは…そうですけど…」

「心配なら貴女も付いていけばいいわ」

「私の外見年齢何歳だと思ってるんですか…!」

「変身中の貴女の息子よりは上よ」

「………わかりました、こっそり付いて行ってみます」

「止めさせる事が出来るのは貴女だけよ、頑張りなさい…」

「相談に乗ってくれて、ありがとうございました。

グランディーネさん」

 

ふ…と幸せそうに笑ってグランディーネの思念体は薄れ、

エドラスへと渡って行った…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス・王城―

 

「ねぇ、ジェラール」

「なんだ?」

「………最近、ずっと帰り遅いね…」

「仕事が長引いてるからな」

「…そっか、頑張ってね」

「ああ、行って来る」

 

ドアが閉まり、1人になったウェンディ。

 

「………寂しいよ」

 

―別の日―

 

ジェラールの私用の財布からカフェのレシートを見つけた。

 

「……………」

 

―また別の日―

 

くんくんとジェラールの匂いを嗅ぐウェンディ。

 

「…どうした?」

「ん、なんか最近匂いが違うね」

「違うシャンプーやボディソープを使っているからな」

「そうなんだ…」

 

―また別の日―

 

ジェラールは自室で知らないアクセサリーや小物を見つけた。

 

「ああ、ちゃんと渡した財布は使っているのか」

 

そう気にも留めていなかったが……

ウェンディの帰りがここ最近遅いらしい事を聞いていた。

 

「………」

 

ひとつ頭に思い浮かべた可能性を掻き消した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ただいま、ジェラール」

「おかえり、ウェンディ。今日も遅かったな」

「うん、今日も大事な用事があって…」

「………」

「どうしたの?」

 

ぐいっと顎を持ち上げて耳元で名前を囁いた。

 

「ウェンディ…」

「っ……!」

「隠し事、してないか?」

「…なんで、そんな事…言うの?」

「………少し、疑問に思っただけだ」

「…ジェラールも隠し事とか、してない…?」

「ああ…君も俺と同じ事を考えていたのか」

「!」

「俺は隠し事はしていない」

「でも…カフェのレシートとかあったよ…?」

「義母上と行っただけだ。

君は…夜遅くまで何をしているんだ?」

「…ジェラールに、喜んで欲しくて…」

「………?」

 

後ろ手に持っていた紙袋を差し出したウェンディ。

 

「開けて」

「…ああ」

 

丁寧に包装された包みを開けて、

出て来たのは立派な王冠だった。

 

「…これは」

「王様なら、王冠もいるでしょ…?

持っていないようだったから、作ってみたの」

「…疑って、すまなかった」

「うん、私も…疑ってごめんなさい…」

 

ジェラールは王冠を置いてウェンディを抱き締め、

謝罪の言葉を何度も口にしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

―アースランド・コブラ達の家―

 

「っ………!」

 

キナナと共に寝ていた所を、魘されて起きたコブラ。

 

「………」

 

隣にいるキナナを撫で、ほっと一息ついた。

 

「…どうかした?エリック」

「…起きてたのか」

「うん、たった今ね、…それで何かあったの?」

「…昔の夢を見ただけだ。

お前…キュベリオスがいなくなった頃の、

いくら探しても見つけられなかった時の夢を…」

「…エリック」

 

ぎゅっとコブラを抱き締めるキナナ。

 

「…お前は優しいな」

「エリックが悲しいなら、私だって悲しい…。

エリックの声はいつだって私に聞こえるもの」

「…ありがとう、キナナ」

 

コブラは抱き返した後、ベッドに転がり、再び眠りについた。

 

「大好きだよ、エリック…」

(ああ、俺もだ)

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ+ハッピー+シャルル

 

―ナツ達の家―

 

「リサーナ」

「なぁに?」

「愛してる」

 

そう言ってリサーナを抱き締めるナツ。

 

「うん、よく知ってるよ…ナツ」

 

腕をナツの背中へと移動させたリサーナ。

それをじっと眺めている、

久々に泊まりに来たハッピーとシャルル。

 

「でぇきてぇる」

「こら、ハッピー。いい雰囲気なんだから邪魔しないの」

 

暫く抱き締め合って、離れる際に頬にキスをしたリサーナ。

にこりと笑い、ナツも笑い返す。

 

「セツナ、ぐっすり寝てるね」

「そうね」

「リサーナ、ハッピーとシャルル、もう寝るか?」

「うん」

「あい!」

「そうするわ」

 

ナツはハッピーをお腹の上に乗せて、

リサーナはシャルルを隣に寝かせて、4人で眠りについた。

 

「おやすみ、ナツ」

「また明日な、リサーナ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

オーガスト+ゼレメイ

 

―夜・酒場―

 

喧騒の中、ジュースを飲んでいる子供姿のオーガスト。

 

「………」

 

周りを見渡し、自分を追い掛けて来ていた

母がいないのを見て、椅子から降りて外へと出ようとして…

入ってきた人物にぶつかった。

 

「…やぁ、オーガスト」

「お父さん」

「メイビスを探してるのかい?」

「はい」

「きちんと外にいるよ。

もう少ししたら入って来るように言っておいたよ。

…オーガスト、一旦変身魔法を解くんだ」

「どうしてですか?」

「その姿だとお酒が飲めないから」

「何故お酒を飲む必要が…?」

「僕と晩酌、したくないかい?」

「!」

 

一瞬で変身魔法を解き、本来の姿に戻ったオーガスト。

 

「うん、じゃあ頼もうか。何がいい?」

「それでは…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「お待たせしましたっ」

 

食事が終わり、従業員がお酒を持って来たので礼を言うゼレフ。

 

「ありがとう」

「では、ごゆっくりどうぞ」

「…父さん」

「じゃあ、飲もうか?」

「私が御酌します!」

「メイビス、来たのかい」

「はい」

「母さんも飲みますか?」

「いえ、私は…肉体の年齢が、ちょっと…。

なので私が御酌しますね、存分に飲んで下さい」

 

メイビスが各々のグラスに御酌する。

御酌が終わると、二人はグラスを手に取り、

乾杯して、少しずつ飲んで、おつまみを食べ、また飲む。

 

「美味しいね」

「はい」

「メイビス、」

「はい?」

「お裾分け」

 

そう言ってメイビスの唇に一瞬キスをしたゼレフ。

 

「っ……!」

「父さん、母さんの肉体年齢は…」

「うん、知ってるよ。

ただ…メイビスはもうお酒を飲む事が出来ないから、

お酒の味を少しでもと思ってね」

「…甘い、ですね」

「僕はそういうお酒にしたから」

「気遣いありがとう、ゼレフ」

「どういたしまして」

 

そう言って、またオーガストとお酒を飲み合うゼレフ。

フライドポテトを食べながら、その様子を眺めるメイビス。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―天狼島―

 

小屋で語り合うゼレフと子供姿のオーガスト。

 

「楽しかったね、オーガスト」

「まさかお父さんとお酒を飲める日が来るなんて…」

「良かったですね、二人共。

さて…そろそろ寝ましょうか」

「そうだね、おいで…メイビス」

「はい」

 

メイビスを抱き締め、横になったゼレフ。

それを眺めながら、オーガストは目蓋を閉じた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

シェリア+シャルル

 

―アースランド・妖精の尻尾―

 

シェリアが遊びに来て、シャルルを抱っこしている。

 

「久しぶりだね、シャルル」

「そうね」

「…ウェンディも、愛する人と一緒にいられて幸せだよね」

「…ええ」

 

シャルルはウェンディが妖精の尻尾を

脱退した日の事を思い出していた。

 

「ウェンディね、絶対に自分のジェラールに

会いに行くって言って、ギルドを出たの」

「うん、アタシにも最後に会った時そう言ってた」

「少し泣きながら、決意のこもった目でね…」

「うん」

「エルザが宥めて、皆で笑って送り出したの」

「うん」

「ウェンディはね、ギルドの誰かが大切な人と結ばれる度に

それを心から祝福してて…でも、寂しかったんでしょうね。

だから……世界という壁に隔てられていても

ミストガンに会いに行った…」

「うん、愛する人が傍にいるのは幸せな事だからね。

アタシだって…そう。きっと、世界中の誰もがそうだと思う」

「私もそうね。ハッピーといられて幸せだもの」

「そういえば結構前にウェンディが

愛する人と一緒にいる夢を見たの」

「ウェンディ、幸せそうにしてた?」

「うんっ、アタシもウェンディに

愛してるって伝えられて嬉しかった」

「なら、良かったわ…」

「じゃあアタシはそろそろ帰るね。

シャルル、また話そうね」

「ええ、また来てね…シェリア」

 

お互い笑顔で手を振って別れた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスのパーティー・ミスウェン

 

―エドラス―

 

パーティー会場となった城で

ジェラールが大人の女性達と会話しているのを

眺めているウェンディ。

 

「………」

 

特に何を思う事もなく軽食を済ませていく。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

暫くすると、ジェラールの周りに

妙齢の女性達が集まっていた。

若い令嬢達と親しげに話すジェラール。

それを見て面白くなさそうな表情のウェンディ。

ウェンディはカクテルを手に取り、飲み始めた。

 

「んく……んく……っ」

 

そこにエドラスのウェンディ、

アリア、エルザが集まって来た。

 

「今日は飲んでますね、王妃様」

「陛下は……ああ、成る程」

「…いくら仕事でも、ああいうのを見ると、

心穏やかではいられなくなるのですね、王妃様は」

「当たり…前…です…!」

 

カクテルを飲み干し、頬を上気させながら話すウェンディ。

 

「ジェラールは…自覚が足りないんですっ!

あんな風に…他の女性と親しくして…!

私が…どんな思いをしているか…!」

「まぁまぁ、王妃様」

「…ジェラールは…12歳頃の私で…

抜いたことがあるんですよ、きっと…!

私だって…あの頃の、ジェラールで…!」

「お、王妃様…?」

「お水を持って来ました、飲んで下さい」

 

水を渡され、ゆっくりと飲む。

 

「…はぁ……ジェラール…」

 

水を飲んで少し落ち着き、気分が沈んだウェンディ。

 

「…あ、」

「「!」」

 

近付いて来た人物に気付き、道を開けた三人。

 

「…ウェンディ」

「っ!」

 

鼓膜を震わせる優しい声、後ろから抱き締められた。

 

「…ジェラール」

「かなり酔ってたな、ウェンディ」

「…うん、ごめんなさい」

「いや、君が悪い訳ではない…。

だが、ああいう事は大声では言わないこと」

「はい…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

衣装部屋でドレスを脱ぎ、ネグリジェに着替えたウェンディ。

 

「ただいま、ジェラール」

「おかえり」

「あの……ごめんなさい、あんな事…他の人の前で…」

「いや、それはもういい。

基本的に俺がそういう目で見るのは君だけだ」

「うん、私もだよ。……それは、昔から?」

「再会してからの話だ。

俺は君でそういう事をした記憶はない」

「そ、そっか…」

「君は、していたんだな」

「っ……!」

 

顔を真っ赤にして俯くウェンディ。

 

「ウェンディ」

 

名前を呼びながら、指で顎を持ち上げ、

唇にキスをしたジェラール。

 

「今日は、もう寝るか」

「…うん」

 

二人でベッドに横になると、

ジェラールはウェンディを抱き締めた。

 

(逞しい、腕……男の人の…身体…)

「おやすみ、ウェンディ」

「…おやすみなさい、ジェラール」

(あの頃はずっとずっと、焦がれていたよ…ジェラール)

 

最後にそう思って、胸元に擦り寄った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ジェラエル

 

―アースランド・エルザの家―

 

エルザを押し倒しているジェラール。

 

「エルザ」

「鎧のままではやり辛いだろう…

待っていろ、今換装を解…」

「いや、いい。エルザ…」

「なんだ?」

「くっ、殺せ…と言ってみてくれ」

「………ああ…。

くっ、殺せ…!……これでいいのか?」

「ああ」

 

エルザにキスをし、胸に触れるジェラール。

 

(本当は裸エプロンとかも着せてみたいんだがな…)

 

舌を肌に這わせながら、下へと滑らせていく。

 

「エルザ…」

 

愛しげに名を呼んで、鎧の下からショーツを取ろうとして

エルザの顔を見て、動きが止まった。

 

「……っ…」

 

エルザが涙を流していたのだ。

 

「…すまない」

 

そう言って、エルザから身体を離し、

部屋を出ようとするジェラール。

 

「あ………ジェラー…」

 

名を呼ばれるのを無視して、扉を閉めた。

 

「…お前を傷付けたくはないんだ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―魔女の罪・会議中―

 

「ねぇ、ジェラール。最近エルザとはどうなの?」

「…唐突だな、メルディ」

「そうね、確かに最近聞いてなかったわね」

「ウルティアまで…。

昨日の夜、そういう事をしようとしたんだが

エルザが泣いてしまって、それ以上の事が出来なかった」

「ふ~ん、なんで押さないの?」

「エルザを傷付けたくない」

「エルザがそれ以上の事を望んでいるとしても?」

「…泣いたという事は傷付いたという事だろう」

「他にも涙を流す理由は沢山あるわ。

涙って嬉しい時にも流すのよ?」

「………」

「貴方達、子供の頃から想い合っていたんでしょう?」

「…ああ」

「なら、エルザを信じなさい」

「わかった」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「エルザ」

「…ジェラール」

 

昨晩と同じようにベッドで押し倒しているジェラール。

 

「俺とこれ以上の関係になるのは、嫌か?」

「…私は、こういう関係になるなら

相手はお前しかいないと考えているし、お前じゃないと嫌だ」

「…ありがとう、エルザ」

 

そう言ってキスをし、衣服の胸元に手を入れた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

鳥の囀りで目が覚めたエルザ。

目蓋を開けると、至近距離にジェラールの顔があった。

お互い身体に何も身に付けておらず、裸の状態である。

直ぐ様、換装で衣服を身に纏おうとすると

両腕で抱き締められた。

 

「…ジェラール、起きていたのか」

「ああ、おはよう。エルザ」

「おはよう、ジェラール」

 

身体を離されたので換装で衣服を身に纏った。

 

「昨日は、可愛かった」

「っ………!!」

 

顔を真っ赤にするエルザ。

 

「可愛いな」

「………」

「…エルザ?」

「あまり見るな…」

 

顔を赤くしたまま、そう呟いた。

 

「ああ、わかった」

 

ジェラールはそう言ってベッドから出て、軽装に着替えた。

そして背中合わせでベッドに座っている二人。

エルザの右手に自分の左手を重ね、握り締めたジェラール。

 

「っ……!」

「見なければいいんだろう?」

「…ああ」

 

暫くの間、二人はそのままの状態で過ごしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グランディーネ+ジェラエル

 

―アースランド・妖精の尻尾―

 

「ジェラール」

「…天竜グランディーネ…俺に何か用か?」

「ええ、貴方はエルザを愛しているのよね?」

「ああ」

「…ミストガンがね、ウェンディを愛しているんだけど

愛し方がちょっと…ね…?」

「……?」

 

その後、グランディーネからミストガンがウェンディを

『愛する』時の詳しい内容を聞いたジェラール。

 

「主に、言葉攻め…?」

「そうね、彼は相当黒いから」

「黒いというか、それはドSなのだと思うが…」

「…ええ、貴方は…真似しないようにね」

「………ああ」

 

グランディーネと別れ、家に戻り、一人考えるジェラール。

 

(やってみたいな。今日実践してみよう…!)

「ただいま、…帰っていたのか。ジェラール」

「ああ、…エルザ」

「なんだ?」

「……ベッドに横になってくれ」

「!…わかった」

 

ベッドに横になったエルザの両脇に腕を付き、唇を重ねた。

舌同士を幾度も交わらせ、部屋に水音が響く。

 

「…っ……は……」

「エルザ…」

 

何かを言おうとして、

エルザを傷付けるかもしれないと思い、止めた。

 

「……?」

「愛している」

 

赤く染まった頬に口付けて、肌着の下に手を入れた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドエルザ+エドウェンディ

 

これはウェンディが再びエドラスにやって来て

ジェラールと結婚した頃の話である。

 

―エドラス・城下町―

 

エドラスのエルザはカフェで軽食を取っていた。

そこで偶然ばったり会ったエドラスのウェンディ。

 

「お隣、いいかしら?」

「…ああ」

 

隣に座り、同じように軽食を取るエドウェンディ。

 

「…こちらのウェンディか…」

「ええ、王妃様は元気にしているの?」

「ああ、陛下と仲睦まじくしている」

「そう。なら安心した…。

それで、貴女は?エルザさん?」

「…何がだ?」

「少し…落ち込んでいるように見えたから」

「………陛下を取られた気がして、少し…な」

「あら……そうだったの」

「私は…10年前からずっと陛下を見ていたんだ。

どんなに言い寄っても、振り向いてくれなかったがな…。

王妃様は…いい子だ、嫌いになどなれない。

だが、陛下を取られて少し辛い…。

私の方が、長く側にいたのにな…」

「陛下も罪な人ね…」

「…ああ」

「私は…陛下に時々会う度に

胸元を見られて残念そうな顔をされるから

少し複雑な気分になるわね。

まるで自分を通して自分じゃない誰かを見ているようで…」

「…割と陛下も失礼なんだな…」

「ふふ、そうね…」

「…君とは友達になれそうな気がする」

「あら、私もそう思ったところよ」

 

お互い一瞬笑って、飲み終わったカップを軽く当て合った。

 

「よろしく頼む、ウェンディ」

「ええ、エルザ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メスカチャ

 

これはウェンディがエドラスへ渡る前の話である。

 

―メストの家―

 

メストは、カーチャと同棲していた。

最初は、星霊魔法を失い、

一般人と変わらない状態になってしまった

カーチャを保護する為だった。

しかし同棲し、一緒に生活していく内に

別の感情が生まれたのである。

 

寝ぼけ眼で目蓋を擦りながらリビングへ向かうメスト。

 

「メストさん、おはようございます」

「…おはよう、カーチャ」

「朝食、もう出来てますよ」

「ああ、ありがとう」

 

椅子に座り、テーブルに並んでいたトーストにかじりつく。

 

「毎日すまないな、カーチャ」

「メストさんといると幸せな気分になるので平気です」

 

そう言って微笑むカーチャ。

 

「っ……!」

「メストさん、頬っぺたにマーガリン付いてますよ?」

「…なに?どこだ?」

「…ほら、此処ですよ…」

 

そう言いながらメストに顔を近付け、頬を舐めたカーチャ。

その行動に赤面するメスト。

 

「頬っぺたに付けたら駄目じゃないですか」

「………」

「…メストさん?」

「……ああ、すまない。今後気を付ける」

 

必死に気持ちを切り替え、スープを飲むメスト。

カーチャも微笑んで、朝食を摂り始めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「じゃあギルドに行って来る」

「いってらっしゃい、メストさん」

 

扉が閉まり、一人になったカーチャ。

 

「さて、家事をしないと…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夕暮れ時に帰って来たメスト。

 

「おかえりなさい、メストさん!」

「ただいま、カーチャ」

「お夕飯にしますねっ」

「ああ、頼む」

 

その後夕飯を食べ終わり、思い思いに寛ぐ二人。

 

「カーチャ」

「どうかしましたか?」

「君用に抱き枕というのを買ってみた」

「…??」

「気に入ったら寝る時に使ってみてくれ」

 

そう言って、大きなニコラの抱き枕を

ズルズルと引き摺ってきた。

 

「ニコラの抱き枕…!

ありがとうございます!大切にしますっ!」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メスカチャ

 

隣町からの買い物帰りのカーチャは

大きな荷物を抱えて歩いていた。

 

「ふぅ…」

「おい、そこの女!」

「?」

 

知らない声に呼び止められて、振り向いたカーチャ。

 

「有り金全部寄越しな!」

「…ダメです」

「ああ!?」

「これはメストさんが貯めてくれたお金です。

渡してなんかあげません!」

「つーことは…どうなってもいいんだなっ!?」

「っ……!」

 

現在出せる全速力で走り出したカーチャ。

 

「待ちやがれ!」

「っ…………ぁ、」

 

暫く走ったところで石に躓き、身体が倒れる。

目を閉じた瞬間……

 

「…カーチャ」

「っ!」

 

カーチャはメストに荷物ごと抱き抱えられていた。

 

「メストさ…」

 

言い終えない内に身体を離し、

瞬間移動をし、男を殴ったメスト。

 

「…もうカーチャに近付くな」

「この野郎、魔導師か…!くそ…っ!」

「逃がすか」

 

男を気絶させて、肩に担いだ。

 

「突き出して来る。

少し待っていてくれ、カーチャ」

「あ、…はい」

 

一連の様子を少しボーっとしながら見ていたカーチャ。

 

(メストさん、かっこよかったな…)

 

そう思いながら、荷物を持つ手に力を籠めた。

 

「…ただいま、カーチャ」

「…おかえりなさい、メストさん。

助けてくれて、ありがとうございます」

「…荷物、貸してくれ」

「じゃあ、遠慮なく…」

 

荷物をメストに渡したカーチャ。

その直後、メストはカーチャの肩を抱いた。

 

「っ……!」

 

赤面するカーチャ。

直後に視点が次々とあちこちに目まぐるしく移動した。

 

「…着いたぞ」

「……ありがとう、ございました…」

 

頭が上手く働かないまま、感謝を述べた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―翌日・妖精の尻尾ギルド内部―

 

「ドランバルト、ウェンディから聞いたよ?

例の同棲してる子のピンチを救ったんだってねぇ」

「…カナか、情報が早いな」

「ウェンディから電話で情報貰ってね」

「ウェンディは何処からその情報を得たのかは…」

「カーチャに電話貰ったってさ」

「カーチャに?」

「余程嬉しかったのか

少し興奮気味に話してたって言ってたよ?」

「そうか…」

 

そこで、ウェンディが会話に入ってきた。

 

「ドランバルトさん、カーチャさんは

とても嬉しそうに話してましたよ?」

「ウェンディ」

「大切な人が守ってくれるって凄く素敵な事だと思います!」

「大切な人って……俺達はまだそういう関係では…」

「ふふ…」

「まだ…?へぇ、意識はしてるんだ?」

「っ……!」

 

顔を赤くするメスト。

その後もカナがメストをからかうのを

ウェンディは微笑みながら眺めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン?

 

「ウェンディ」

「…ふぅ、ただいま…シャルル」

 

巨大な袋を持って帰って来た

サンタコスチュームのウェンディ。

…袋の中には明らかに何かが入っている。

 

「それ、なに?」

「ん?今開けるね」

 

袋を下ろし、開けたウェンディ。中を見たシャルルは驚いた。

 

「……これ、ジェラール?」

「違うよ、ミストガンだよ」

「……ん…」

 

目蓋を開けたミストガン。

 

「ウェン…ディ…?」

「久しぶり、ミストガン」

「…俺はエドラスにいた筈だが」

「私が誘拐したの」

「…そうか」

「…嬉しくない?」

「いや、嬉しいよ。久し振りだな、ウェンディ」

「ジェラールっ!」

 

ミストガンに抱き付くウェンディ。

微笑んで、頭を撫でるミストガン。

 

「…先にギルドに行ってるわね」

「うん、私はもう少ししてから行くね」

 

気を利かせたシャルルが家を出て行き、二人きりになった。

 

「あのね、ジェラール」

「ん?」

「私、ジェラールの事が…」

「………」

「好き」

 

微笑んで、ウェンディを抱き締めるミストガン。

 

「っ……!」

「俺もだ」

「ジェラール…も?」

「ああ、俺も君の事が好きだ」

「嬉しいっ!」

 

頬を紅潮させて笑うウェンディ。

頬を撫でて数ヵ所にキスを落とすミストガン。

そんな時、家のドアが開いた。

 

「?」

「独り占めはいけねぇな、ウェンディ」

「…ラクサスさん?」

「よぉ、ミストガン」

「………」

 

ウェンディから体を離し、庇うように前に出たミストガン。

何故かその時、ウェンディの視界が歪んだ。

 

「っ……?」

 

次いで足下が覚束なくなり、座り込んだ。

心配するような表情のミストガンの声も

ラクサスの声も聞こえない。

そしてウェンディは、倒れてしまった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ベッドで目覚めたウェンディ。

 

「…夢…?」

 

頬をつねってみた。痛い。

 

「…そうだよね、エドラスに行ける訳ないものね…」

 

眠るシャルルを撫でて、ため息をつくウェンディ。

 

「…でも、いい夢だったな…」

 

呟いて、ある決意を強めた。

 

 

 

―現実にするために、私は頑張るんだ!―

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+アイリーン

 

「すぅ……すぅ…」

「…よく眠っているな」

 

ウェンディに膝枕しながら、そう呟く長い緋色の髪の女性。

 

「…今の内に付加(エンチャント)を…」

 

ウェンディの目蓋に手を被せ、何らかの術を行使しようとする。

 

「…ジェラー…ル…」

「愛しい者の夢でも見ているのか」

「…ん……エルザ…さん…?」

「……私はエルザではない」

 

身動ぎをして、起き上がったウェンディ。

 

「…アイリーンさん?」

「………ようやく起きたか」

 

術の行使を止め、優しげに笑うアイリーン。

 

「おはようございます」

「よく眠っていたな」

「そうですか?」

「…体は大事にしろ」

「……?」

 

言葉の意味を理解出来ずに首を傾げるウェンディ。

 

「あまり性的な事はしようとはするな」

「っ……!この前、

私のことをガキがってバカにしたくせに…!」

 

ウェンディは頬を紅潮させながら膨らませた。

 

「そなたに傷が出来ては困る」

「……人格付加術、またやってみます?」

「…いいのか?」

「はい!だって私は、いつだって自分の体に戻れますから!」

「…耐性を付けさせ過ぎたか」

 

小声で呟くアイリーン。

 

「?」

「いや、今日はいいわ」

「そうですか……大きいお胸…」

「…触って我慢しなさい」

「はい」

 

アイリーンの胸と自分の胸を見比べて、肩を落とすウェンディ。

 

「また来るわね、おチビちゃん」

「…エルザさんには、まだ会わないんですか?」

「…時が来たら会いに行くわ。

だから、誰にも私の事を言ってはダメよ」

「…わかりました」

「じゃあね、おチビちゃん」

 

部屋から立ち去ったアイリーン。

 

「また来て下さいね、エルザさんのお母さん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ラクサス+ウェンディ

 

―妖精の尻尾・ギルド内部―

 

「ラクサスさん」

「なんだ?」

「ラクサスさんはミストガンの事、どう思ってました?」

「当時の印象は…他人に素顔を見せるのが嫌いで、

仕事以外の何かをやってる変な奴…だったな」

「…変人に思ってたんですか?」

「正体を隠す以上、顔を見せられないのは分かるが

ギルドに来た時、全員を眠らせるのはやり過ぎだからな」

「………」

 

頬を膨らませるウェンディ。

 

「そんな顔をするんじゃねぇ、

ったく…好意を寄せてるのが丸分かりだな…」

「っ……!?こ、好意って…!」

 

赤面するウェンディ。

 

「違ったか?」

「…ミストガンは、私の…恩人で…大切な…人で…」

「ミストガンの話で拗ねたり、

赤面したりするのが証拠だと思うが…」

(言い返せない…、人に指摘されたのは…初めて)

「エドラスの話は以前聞いたな。

…以前の俺が無理矢理あいつの素顔を晒させた時と違い、

あいつはお前にだけは素顔を自分から晒したんだろう?

それは憎からず想っていたという証拠だ」

「…そう、でしょうか…?」

「ああ、だから胸を張って行って来い」

「?」

「あいつに会いに行く計画でも何でも好きにやれって事だ」

「っ……!でも、それは…」

「このギルドの奴らの事はもう熟知してるだろう?

どんな理由があっても家族は笑顔で送り出す…そんな奴らだ」

「……わかりました、少し考えてみます」

「後悔しないようにな、ウェンディ」

「ありがとうございます、ラクサスさん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+アイリーン

 

人格付加術をお互いの体に使い、

体を入れ換えたウェンディとアイリーン。

 

「ああ…若い体…!」

 

猛ダッシュで逃げようとするアイリーン。

 

「ダメですよ、アイリーンさん」

 

アイリーンの魔力を使い、自分の体を捕まえたウェンディ。

 

「毎回の事ですが、私の体を

持ち逃げしようとしないで下さい」

「…少し位…」

「ダメです!一生戻って来ない気がします…」

「……意地悪ねぇ」

「…大きいお胸…少し重いですけど、幸せです…」

「なら、ずっとその体で…」

「ダメです、私は自分の体が好きなんです。

どんなに傷だらけになったとしても、自分の体がいいんです」

「…どうしてかしら?」

「私がこれまで生きて来た証ですから」

「生きて来た証ねぇ、私は自分の体なんていらないけれど」

「………私は過去は詮索しません」

「それにしても、この体…可愛いわね…。

小柄で、胸も小さくて…」

「私はそれを気にしてるんですが…」

「それも生きて来た証でしょう?」

「はい」

「ちゃんと成長するといいわね」

「…そう願ってます、さてと…」

 

アイリーンの魔力で強引に

双方の体の人格を元に戻したウェンディ。

 

「またやりましょうね」

「…そうね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ(アイリーン)+エルザ

 

人格付加を互いの体に行い、

入れ替わったウェンディとアイリーン。

 

「シャルル、ちゃんとアイリーンさんを見張っててね」

「任せて、ウェンディ」

「じゃあ妖精の尻尾で演技をして来るわ」

「…良い時間になるといいですね」

「ふふ、そうね。行って来るわね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―妖精の尻尾・ギルド内部―

 

アイリーンはエルザをじっと見つめていた。

 

(エルザ……随分と大きくなったのね…)

 

エルザにそっと近付き、抱き付いた。

 

「…ウェンディ?」

「………エルザ…さん、少しの間…このままで…」

「分かった」

 

数分の間エルザに抱き付いて、笑顔で離れた。

 

「急にどうしたんだ?」

「…抱き付きたくなったので」

「そうか」

 

エルザは微笑んで、頭を撫でた。

 

「またいつでも抱き付いて来るといい」

「…はい」

 

返事をして急ぎ足でギルドを出た。

追いかけて来たシャルルが語りかける。

 

「あれだけで良かったの?

もっとやりたい事があったんじゃ…」

「いや、あれだけで十分よ。

これであと数年は我慢出来るわ」

「…そう」

「さあ、あの娘の元に帰りましょう」

「そうね、ウェンディが待ってるわ」

(いつかちゃんと会う時まで…達者でな、エルザ)

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ

 

―ナツ達の家―

 

眠るハッピーに膝枕しながらリサーナは口を開いた。

 

「ねぇ、ナツ」

「なんだ?リサーナ」

「私、ナツのことが好きだよ?」

「…リサーナ」

 

リサーナを一瞬抱き締めたナツ。

 

「俺も、リサーナが好きだ」

「…嬉しい」

 

頬を染めながら笑うリサーナ。

 

「なぁ、リサーナ」

「なに?」

「ミラやエルフマン達から許可を取ったら、な…」

「??」

「……結婚とか、どうだ?」

「っ………!」

 

頬を真っ赤に染め上げ、硬直したリサーナ。

 

「嫌か?」

「……………全然嫌じゃない、凄く嬉しいよ…!」

「そうか!」

 

そう言って笑顔を見せたナツ。

 

「…あ、イグニールさんに許可は…」

「とっくに貰ってる、兄ちゃんにもな」

「うん、もう少ししたら…

ミラ姉達に二人で話に行こうか」

「おう!」

 

―後日―

 

「ミラ、エルフマン、俺にリサーナを嫁にくれ」

「…ナツ?」

「なんだと!?」

 

訝しげにするミラジェーンと声を荒げるエルフマン。

 

「う~ん……リサーナはそれでいいの?」

「うん!ナツの事、大好きだから!」

「ふーん、なら…私は承諾するわ。

ナツの強さは知っているもの、

きっと何者からでもリサーナを守り抜いてくれるわ」

「姉ちゃん…!」

「あら?エルフマンは反対なの?」

「確かにナツの強さは知ってるが……リサーナなんだぞ。

俺達の可愛い妹なんだぞ…!」

「でもリサーナはナツを選んだのよ?祝福しなくちゃ」

「…………リサーナ」

「なぁに?エルフ兄ちゃん」

「幸せに、なれよ」

「うんっ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ

 

ギルドで結婚式をあげる事になったナツとリサーナ。

 

「じっちゃんが神父役かぁ」

「結婚式、ドキドキするね」

「そうか?」

「…ナツのお嫁さんになれるんだよね…」

「…リサーナ」

「…お互い頑張ろうね、ナツ」

「おう!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ナツとリサーナが結婚とはめでたいねぇ」

「カナは結婚しないの?」

「今のところ、予定はないね」

「カナが結婚する事になったらギルダーツが大変よね」

 

談笑する女性陣。

レビィはガジルを時々眺めながら、笑みを浮かべた。

 

「なに笑ってるの?レビィちゃん」

「る、ルーちゃん!」

「ガジルを見てるの?」

「…うん、ナツとリサーナが結婚するって聞いて…

私もガジルとずっと一緒にいられたらな…って」

「じゃあギルドで結婚する

第二組目はレビィちゃん達かな?」

「…結婚…」

 

頬を染めて、呟くレビィ。

 

「うん、出来たら…凄く嬉しいな…」

 

はにかんで、そう発言するレビィを

ガジルはしっかりと見ていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「新郎新婦入場だよ!」

 

そう言われてギルドの扉を見つめるギルドメンバー。

 

ウェディングドレスに身に付けて歩くリサーナ。

タキシードを身にまとい歩くナツ。

 

「うぅ……リサーナ…!」

「エルフマン、あまり泣くんじゃないわよ」

「エバ…」

 

 

「リサーナ、綺麗ね…」

「そうだな」

「ねぇ、フリード」

「なんだ?ミラジェーン」

「ずっと私の隣にいてね」

 

その言葉に一瞬呆けたフリードは微笑んでミラの手を握った。

 

 

神父役のマカロフがナツとリサーナに

愛を誓い合うかの台詞を述べて行き…

 

「では、誓いの口付けを」

 

リサーナにゆっくりと口付けたナツ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

式が終わり、タキシードからいつもの服に着替えるナツ。

 

「ナツ」

「父ちゃん」

 

赤髪の中年の姿をしているイグニールが現れた。

 

「必ず守り抜けよ」

「おう!」

 

その返事にイグニールは微笑んで、霧散した。

 

「結局兄ちゃんは来なかったな…」

「私から伝えておきますよ」

「初代!」

 

ふわふわと浮いているメイビス。

 

「結婚おめでとうございます、ナツ」

「ありがとな、初代」

「きっとゼレフも喜んでくれます。

さぁ、リサーナを迎えに行くといいですよ」

「またな、初代」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ナツ!」

「リサーナ!」

「…行って来なさい、リサーナ」

「うん、ミラ姉」

 

ミラにそう言われ、ナツに近寄るリサーナ。

 

「えっと…お疲れ様…」

「帰るか!」

「うん、これからよろしくね…ナツ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス―

 

ホワイトデーに複数のお菓子や果物を

持って帰って来たジェラール。

 

「チョコレートファウンテン?」

「ああ、食べ方はチョコフォンデュのようなものだな」

「チョコフォンデュ…!」

 

扉からノック音が聞こえ、コックが入って来た。

 

「陛下、準備が終わりました」

「すまなかったな」

「いえ、御家族の喜ぶ顔が見たいのは当然の事です。

では、ごゆっくりして下さい」

 

そう言って、湯煎されたチョコレートをセットされた

チョコレートファウンテン機材を運び込まれた。

ジェラールがスイッチを入れると、

チョコレートが噴水状に流れ始めた。

 

「わぁ…!」

「すごい!」

「好きに取って食べるといい」

「えっと、じゃあ…」

 

バウムクーヘンを手に取ったウェンディ。

フォークに刺して、チョコレートを付けて、口へと運んだ。

 

「…美味しい…!」

「それは良かった」

「ママ、ミスティにも頂戴!」

「うん!」

 

バウムクーヘンにチョコを付けて、ミスティの口へと運んだ。

 

「美味しいっ!ママ、もっと頂戴!」

「うん」

 

フォークでチョコを付け、ミスティの口へ運ぶ。

 

「っ~~♪」

 

ミスティの幸せそうな顔を見て、微笑むウェンディ。

 

「ウェンディ、俺にもくれるか?」

「うん」

 

チョコを付け、ジェラールの口元へと移動させた。

 

「はい、ジェラール」

 

ジェラールが頬張り、微笑んだ。

 

「美味しいな」

「うん」

「パパ、ママ、もっとしよう?」

「じゃあ…今度は苺にしてみようか」

「うんっ!」

 

そんな会話を弾ませながら、

チョコレートファウンテンはその後も暫く続いた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「美味しかった…」

「ウェンディ」

「チョコ、付いてるぞ」

「え?」

「ほら、ここだ」

 

ウェンディの口端を舐めたジェラール。

 

「本当に付いてたの…?」

「ああ、…美味しいな」

「あ、パパとママ、イチャイチャしてるー!」

「そんな事ないよ、ね?ジェラール」

「ママは可愛いからな」

「…ジェ…ラール…」

 

子供の前で赤面しながらも、

その日を楽しく過ごしたウェンディだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

とある日のグランディーネ

 

一家で私室で寛いでいると、

グランディーネが何かを持って帰って来た。

 

「おかえり、グランディーネ」

「おばあちゃん、おかえり!」

「ただいま、…ウェンディ」

「なに?」

 

何かを言い淀んで、持っていた袋の中から箱を取り出した。

 

「…え」

「………」

「ママ、小さくて可愛い!」

 

グランディーネが持って来たのは猫耳ビキニ姿の

ウェンディのフィギュアだった。

 

「…義母上」

「なにかしら?」

「これは何処で入手したのですか?」

「色々と売ってある店だったわね」

「何処です?」

「言うと潰しかねないから言わないわ」

「また買う気なのですか?」

「気が向いたらね」

「………はぁ」

 

頭を軽く押さえて、ため息を吐いたジェラール。

 

「ママ、ママ」

「…あ、どうしたの?ミスティ」

「このお洋服可愛いね」

「これ、水着なんだよ」

「水着?」

「うん」

「…けどミスティはこんなの持ってないよ?」

「ミスティには、まだ早いよ。

これはね、もう少し大人になってから着るものなの」

「そうなの?」

「うん」

 

暫く談笑して過ごして、

 

「じゃあ、また行って来るわね」

「いってらっしゃい、おばあちゃん!」

 

ひらひらと手を振ってグランディーネを見送った。

 

「すっかり人間社会に溶け込んで来たな」

「元々人間が好きだから、興味があったんじゃないかな」

「………はぁ」

「ジェラール、どうしたの?」

「いや、ああいうフィギュアとは

複数売ってある物だろう?」

「…まぁ、そうだね」

「君の、ああいうフィギュアが他にも

売ってあると考えると…、少し……な」

「本物の私はジェラールのだから大丈夫」

 

一瞬、ジェラールは目を丸くして、直ぐに微笑んだ。

 

「…そうだな」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ

 

―天狼島―

 

「ねぇ、ゼレフ」

「なんだい?メイビス」

「皆、結婚しましたね」

「そうだね」

「ギルドの皆から提案されたんですけど…

私達も、ギルドで結婚式挙げたらどうかなって…」

「…僕は君のギルドの人間ではないよ」

「でも、私の大切な人です」

「………ギルドで死者が出るかもしれない」

「最近は私達も安定してアンクセラムの黒魔術が

発動してませんから大丈夫だと思います」

「…そんなに、僕と結婚したいのかい?」

「……!はい」

 

頬を染めて笑って答えたメイビス。

 

「なら、結婚してみようか。式はいつだい?」

「えっとですね―――…」

 

それから数日後…

 

―妖精の尻尾・ギルド内部―

 

『おめでとう、初代!』

 

ギルド総員で祝われ、照れるメイビス。

 

「ま、まだ結婚してませんよ…!」

「でも兄ちゃんと結婚するんだろ?」

「ナツ、私がお義姉さんになるんですけど…大丈夫ですか?」

「おう!リサーナもいいよな?」

「初代がお義姉さんだなんて…光栄です!」

「ありがとう、ナツにリサーナ」

 

「良かったですね、初代!」

「レビィ」

「大切な人とずっと一緒にいる誓いをする…素敵ですよね!」

「レビィも俺と結婚して嬉しかったのか?」

「当たり前じゃない、ガジル!」

「ふふ…」

 

「俺はギルドの人間ではないが…呼ばれていいのか?」

「貴方のお義母さんも来るそうですよ、ジェラール」

「…ああ、あの人か…」

「改めて、おめでとうございます。初代」

「ありがとう、エルザ」

 

「一なる魔法、愛…」

「どうしたんだい?ルーシィ」

「こうやって愛は広がっていくのね、ロキ」

「そうだね、ルーシィ」

 

「グレイ様、素晴らしい事ですね♪」

「そうだな」

「ああ、ジュビア達もそろそろ子供とか…!」

「その話は家でする」

「!ジュビア、楽しみにしてます!」

 

その時ギルドの扉が開き、

ゼレフ、オーガスト、アイリーンが入って来た。

 

「やぁ、メイビス」

「ゼレフ…」

 

一旦外に出た二人。

幻のウェディングドレスとタキシードを身に纏い、

少しの間抱き合った。

その間、ギルドのメンバーは素早く準備を開始した。

 

「久しいな、エルザ」

「…ああ」

「………」

 

何も言わずにエルザを抱き締めたアイリーン。

 

「…本当に、大きくなったな」

「…お母さん」

 

 

「オーガストは子供の状態で来たんだね」

「折角なのでお母さんに似たこの姿にしました」

「本当に初代の子供なんだな…」

「はい!叔父さん」

 

「入場しますよ~!」

 

メイビスの声が聞こえ、マカロフは頭を切り替えた。

 

「初代、お入り下さい」

 

赤い絨毯の上を進むゼレフとメイビス。

 

「お母さん、お父さん…」

「兄ちゃん、幸せになー!」

「初代も幸せになって下さいねー!」

 

声の方向にニコニコと笑顔を向けながら歩く二人。

やがて、神父役のマカロフの前で止まった。

 

「汝、ゼレフ・ドラグニルはメイビス・ヴァーミリオンを

妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、

病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、

死が二人を分かつまで、愛を誓い、

妻を想い、妻のみに添うことを、

神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「誓います」

「汝メイビス・ヴァーミリオンは、

ゼレフ・ドラグニルを夫とし、

良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、

病める時も健やかなる時も、共に歩み、

他の者に依らず、死が二人を分かつまで、

愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、

神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

「はい、誓います」

「では、誓いの口付けを」

 

メイビスに向き直り、

ヴェールを持ち上げて頬に触れるゼレフ

 

「………」

 

目を閉じるメイビス

 

(愛しているよ、メイビス)

 

そう思いながらメイビスの唇に口付けたゼレフ。

 

途端、周囲から歓声があがった。

 

「兄ちゃん、おめでとう!」

「「「初代、おめでとう!」」」

「お父さんにお母さん、おめでとうございます!」

 

その後はゼレフがメイビスを姫抱きしたまま、椅子に座り

二人共、様々な人との談笑を楽しんでいた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ジェラエル+アイリーン

 

―夜・エルザの家―

 

「ただいま、エルザ」

「おかえり、ジェラール」

 

そう言いながらジェラールはエルザに対し、

こちらに来るように手招きした。不思議そうに近寄るエルザ。

ジェラールは微笑んで、エルザの唇に口付けた。

 

「っ……!」

 

後頭部に手を添えて固定し、深い口付けをするジェラール。

顔を真っ赤に染めて、口付けに応えるエルザ。

舌を絡ませ合って唾液が零れた時、何故かドアが開いた。

 

「邪魔するわよ、エル……ザ…」

 

入って来たのはアイリーンだった。

急いで唇を離したジェラール。

ジェラールとエルザは揃って後ろを向いた。

 

「…い、一体なんの用だ…!」

「…お楽しみ中だったのね、悪かったわ…続けなさい」

「「!?」」

 

ぎょっとしてアイリーンを見る二人。

 

「だから、続けなさい。愛し合うのよね?」

「いや……その……さっきのは、単なる愛情表現で…」

「そ、そうだ!そういう意味でやっていた訳ではない!」

「あら?そうなの?」

 

クスクスと笑いながら話すアイリーン。

 

「まぁ、いいわ。少し顔を見に来ただけだから」

「…母さん」

「また来るわね、私の可愛いエルザ」

「はい」

 

そう言ってアイリーンが帰った後、

二人は普通に過ごして、一緒のベッドで眠りについた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

アイリーンから邪魔をされて数日後…

エルザが夜中、目覚めると裸の状態のジェラールが映った。

 

(そういえば…)

 

愛し合った事を思い出し、頬を染めるエルザ。

 

(ああ、だが…)

「お前は本当に優しいな」

 

眠っているジェラールにそう呟く。

 

「優し過ぎて、少し不安になる位に」

「…俺はお前を傷つけたくないだけだ」

 

ジェラールが目蓋を開けて、そう呟いた。

 

「私がお前を嫌いになると思うのか?」

「…場合によっては」

「そんな事はない、絶対にな」

「………」

「…ジェラール」

 

ジェラールの目を見て、名を呼ぶエルザ。

ジェラールの目は不安気に揺れていた。

 

「私には、お前しかいないんだ」

「……わかった」

 

次の瞬間、ジェラールはエルザの唇を荒々しく塞いだ。

エルザは一瞬驚き、目を見開いたが、

嬉しそうな表情をして、ジェラールの頭を撫でた。

少しして口付けが終わると、エルザは微笑んだ。

 

「ジェラール」

「辛くなったら言ってくれ」

「ああ」

 

緋色の髪に口付けて、ジェラールはエルザを抱き締めた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

―アースランド・コブラ達の家―

 

「エリック!」

 

そう言ってコブラに抱き付くキナナ。

 

「どうした?」

「…最近、甘えてないなって思ったの」

「…そうか?」

「そうだよ!エリック」

 

にこっと微笑んで上目遣いのキナナを見て

コブラはキナナに頬擦りした。

 

「っ……!」

 

途端に頬を染めたキナナ。

 

「どうした?」

 

優しい声で、訊ねるコブラ。

 

「な…なんでもないよ…」

 

頬を染めながら、自分とコブラの手を重ねたキナナ。

不思議そうにキナナを見るコブラ。

 

「…大好き…エリック…」

「…ああ、俺もだ」

 

その日は暫くの間、二人は手を握り合っていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス・王城―

 

今日はミスティの4歳の誕生日。

部屋で一家団欒で過ごしていた。

 

「ねぇ、ミスティ」

「なぁに?ママ」

「誕生日プレゼント、何が欲しいのかな?」

「んーとね…」

 

少し考える素振りを見せた後、ミスティは口を開いた。

 

「弟が欲しい!」

「……うん?弟…?」

(弟って事はジェラールと…

そういう事を頑張ってしないとダメだよね…)

 

そう思って赤面するウェンディ。

そんなウェンディの肩を抱いたジェラール。

 

「…ジェラール」

「わかった。ミスティ、パパ達頑張ってみるからな」

「うんっ!」

 

その日から暫く、夜になるとジェラールに抱かれる

日々を過ごしたウェンディ。

定期的に医者に見せに行き、そして…

 

「おめでとうございます、陛下に王妃様」

「ようやくか」

「これで男の子ならいいね」

「ああ、それはもう少し待とう」

 

―5ヶ月後―

 

「男の子ですね」

「ミスティの要望通りになったな」

「…うん」

 

お腹を擦るウェンディ。

 

「よろしくね、…クリス」

「その子の名前か?」

「うん」

「いい名前だな」

「ありがとう、ジェラール」

 

―更に5ヶ月経過―

 

「っ……ぅう…」

「大丈夫か?ウェンディ」

「……うん、はじめましてだね…クリス」

 

腕に抱いている我が子に頬擦りするウェンディ。

 

「よく頑張ったな」

「…無事で良かった…」

 

―数日後―

 

「ママ」

「…どうしたの?ミスティ」

「お願い叶えてくれてありがとう!」

「どういたしまして」

「ミスティはシリルとクリスの…お姉ちゃんなんだよね」

「うん、そうだよ」

「ミスティ、頑張って妹達を助けれるようになるからね!」

「ああ、期待している」

 

ジェラールが頭を撫で、ミスティは嬉しそうに微笑んだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

シリル+ウェンディ+エドナツ

 

シリルは一人悩んでいた。

 

(シリルの髪、皆と違う……なんで…?)

 

そこでウェンディに聞こうと駆けて行く。

 

「ママ、ママ…」

 

スカートをシリルに引っ張られ、

シリルの背丈に合わせて屈んだウェンディ。

 

「どうしたの?シリル」

「シリルの、髪、…なんで、皆と一緒じゃないの…?」

「…どうして皆と髪の色が違うのか、かな?」

「うん」

 

部屋に自分達しかいないのを確認して、

ウェンディはドラゴンフォースを発動させた。

 

「それはね、シリルはママが

こういう姿の時に授かったからだよ」

「シリルと、同じ髪…!」

「シリルも、ちゃんとパパとママの子供だよ」

「よかった…」

 

微笑んだシリルに頬擦りをして、

ウェンディはドラゴンフォースを解除した。

 

コンコン…

 

「王妃様、失礼します」

「ナツさん」

「シリル様もこんにちは」

「こんにちは。…ナツお兄ちゃん、また遊んで?」

「はい、少し待って下さいね…。

王妃様、陛下からのお届け物です」

「?ジェラールから?」

「はい、よいしょっと…」

 

大きな包みを持って来たエドナツ。

 

「開けて下さい」

「………わぁ…!」

 

中に入っていたのは、所々に蝶の模様があり、

大量のクリスタルで彩られたドレスだった。

 

「ありがとうございます、ナツさん!」

「いえ、プレゼントされたのは陛下ですから…。

大事になさって下さいね」

「はい!」

「…さて、シリル様。遊びましょうか」

「うんっ!」

「暫くお邪魔しますね、王妃様」

「毎回シリルと遊んでくれて、ありがとうございます」

「…いえ」

 

シリルがエドナツと遊ぶのを、

ウェンディは楽しそうに眺めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

とある日のエドナツ

 

―城下町―

 

ナツは散歩していると、白髪の女性とぶつかった。

 

「あ、すみませ……リ…サーナ…ちゃん?」

「?私はユキノですけど…誰かと勘違いしてませんか?」

「……ああ、本当にすみません。

知り合いの子と似ていたので、つい…」

(リサーナちゃんは、向こうの僕と

今も幸せにやっているんだろうな…)

 

少し物思いに耽っていたナツの手を取るユキノ。

 

「…?ユキノ、さん?」

「少し、お茶しませんか?」

「いい、ですけど…?」

「では、行きましょう。

此処の近くに美味しいカフェがあるんです」

 

ナツの手を握り、先導するユキノ。

 

(積極的だな、この子…。僕には、ない個性だ…)

「貴方の名前は?」

「ナツ・ドラギオンです」

「ナツさん、ですね。今更ですが初めまして」

「はい、ユキノさん」

 

自己紹介の間も手を繋いだまま、歩いている。

暫くそのままの状態で歩き、カフェへと着いた。

 

「何名様でしょうか」

「二人です」

「はい、こちらの席にお座り下さい」

 

店員に促され、座る二人。

 

「このカフェってどんなメニューがお勧めなんですか?」

「男性ならビーフシチューが絶品ですよ」

「ありがとう、ユキノさん」

「いえ、私が突然誘ったのに優しいんですね…ナツさんは」

「…優しい?」

「はい、初対面の人と突然お茶なんて…おかしいでしょう?」

「…こんなに綺麗な人とお茶なんて、

滅多に出来る事じゃないですよ」

「…綺麗?私が?」

「はい。……そろそろ頼みましょうか」

「ふふ、そうですね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「パンケーキ、美味しそうでしたね」

「此処のパンケーキ、大好きなんです。

ナツさんこそビーフシチュー、どうでしたか?」

「とても美味しかったです」

「それは良かった!」

 

そう言って微笑んだユキノ。

 

「っ……!」

 

頬を染めるナツ。

 

「では、私が払いますね」

「…え?」

「素敵な方と知り合えたお礼です」

「で、でも…女性に払わせる訳には…!」

「う~ん、…じゃあ…これを代わりに受け取って下さい」

 

名刺を渡されたナツ。

 

「いや、あの…ユキノさん?」

「連絡先は書いてるので気軽にご連絡下さいね!」

「………はい…」

 

観念した様子のナツは少し項垂れた。

ユキノは会計を済ませた後、外で待っていた姉と談笑する。

 

「ひどいぞ、ユキノ。

私とカフェで食べるって約束破ったゾ」

「ごめんなさい、姉さん。

でも、姉さんが遅れて来てくれたお陰で

素敵な方と出会えました」

「…へぇ~…、どんな奴だったんだゾ?」

「それはですね―――…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

(名刺、貰ってしまった…)

「笑顔、可愛かったな…」

(今度また暇が出来たら勇気を出して連絡してみよう…)

 

そう思ってナツは帰路に着いたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

かつてラブレターを書いていたウェンディ

 

―数年前・アースランド・5月23日―

 

自分の部屋で手紙を書いているウェンディ。

 

「ジェラールへ

今、何をしていますか?

どんな事を考えていますか?

 

私はジェラールにとても会いたいです

幼い頃から、ずっと大好きです…」

 

恋文の日という事で毎年この日になると

届く事のない手紙を書き続けているウェンディ。

 

「ジェラール…大好き」

 

そう呟いて、封をした手紙に頬擦りする。

 

「いつか、渡せる日が来るよね…、

だって私はその為に…世界を越える事が出来る人を

探してるんだから…。だから会いに行くからね…?」

 

ポタリと手紙に涙が落ちた。

 

「だから…待っててね……ジェラール…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

アースランドへの近況報告

 

―エドラス―

 

手紙に家族写真を添えて封をするウェンディ。

 

「…うん、じゃあこれと…

その映像魔水晶もよろしくね。グランディーネ」

「ええ、分かっているわ…行ってくるわね」

 

手紙を受け取り、目蓋を閉じると

グランディーネの姿が掻き消えた。

 

「…行ってらっしゃい、お母さん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

―アースランド・妖精の尻尾―

 

「お邪魔するわよ」

「グランディーネさん、お久しぶりです」

「ええ、メイビス…。今日は届け物があるわ」

「…手紙?」

「あと映像魔水晶も」

「ミストガン達関係ですか?」

「ええ、近況報告よ」

「じゃあ、皆にも見せましょう!」

「ええ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ミストガン達から連絡?」

「ええ、そうよ…ナツ」

「サンキューな!グランディーネ」

 

手紙を出して、魔水晶を使って写真を大きく映して

話し始めるグランディーネ。

 

「じゃあ手紙を読むわね。

 

皆さん、お久しぶりです。元気にしていますか?

私達は元気です、最近三人目の子供が生まれました。

青色の髪の長男です、クリスと名付けました。

長女はミスティ、紺色の髪の子です。

性格は少し大人しいですが、家族思いです。

次女はシリル、ピンク髪の子です。性格は活発的で、

よくこっちのナツさんに遊んで貰ってます。

ピンク髪の理由は多分…私がドラゴンフォース状態の時に…

その……身籠った子だったので…。

ミストガンとは上手くやれてます。

意地悪な時も多いけど、とても優しいです。幸せです。

皆さんにも沢山の幸せが訪れますように願います。

それでは、また何かあったら連絡しますね。

 

…以上よ」

「ウェンディ…幸せなんだな」

「ドラゴンフォース状態で身籠ったって、

魔法を使ってるの?」

「ええ、たまに人目のない場所で

使うように決まったらしいわ。

…ミスティも天空の滅竜魔法を

受け継いでしまったようね。

窓に向かって咆哮を放っているのを時々目撃するわ」

「魔法を隠さないといけないのが少し悲しいね」

 

そう呟くリサーナ。

 

「…ええ」

 

 

「三人も子宝に恵まれてて、いいなぁ…」

「俺達にはヤジェとシュトラがいるだろ?」

「そ、それは…そうだけど…!」

「もっと子供が欲しいのか?レビィ」

「大丈夫だよガジル、あの子達だけで…幸せだから…」

「ギヒッ」

 

 

「ミストガンは意地悪なのね…」

「ミラジェーンは俺の性格は不満か?」

「…ミラジェーンじゃなくてミラって呼んで?フリード」

「………ミラジェーン」

「二人っきりの時にしか呼ばないんだから、もう…」

 

 

「グレイ様!ジュビアに意地悪して下さい!」

「……これでいいか?」

 

ジュビアを抱き締めるグレイ。

 

「…はい、ジュビア幸せ…!」

 

 

「あと、私が頑張って撮った日常の映像魔水晶よ。

暇があったら、皆で見なさい」

 

映像魔水晶を起動させて、眺めるナツ。

 

「向こうの俺も楽しそうだな…」

「最近、素敵な女性と会ったという報告を

シリルから貰ったわ」

「へぇ、そうか!」

「向こうのナツも素敵な人と会えたんだね…良かった」

 

そう言ってセツナに頬擦りするリサーナ。

 

「ママ…?」

「セツナ、大好きよ」

「…ん!」

 

 

「さてと、そろそろ戻るわね」

「二人の近況報告ありがとうございました」

「ふふ、喜んでくれて何よりよ」

「…はい、またよろしくお願いしますね」

 

頭を下げるメイビス。

 

「貴女も、ゼレフとは上手くやれているの?」

「…はい、昔からゼレフは優しいです」

「それは良かったわ」

「それでは、また…」

「ええ」

 

別れの挨拶を皆に済ませて、

グランディーネはエドラスへと戻っていった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

フリミラ

 

―10年程前―

 

ナツと楽しそうに談笑するリサーナ。

エルフマンとデートに出かけたエバーグリーン。

 

弟妹の和やかな…幸せな雰囲気を感じながら

ミラジェーンは口を開いた。

 

「ねぇ、フリード…」

「?なんだ、ミラジェー…」

 

言い終えない内にフリードの手を握り、キスを落とした。

 

「…ミラ…ジェーン?」

 

少し頬を上気させたフリードは困惑した声を出した。

 

「…好きよ、フリード」

 

耳元で小声でそう呟いたミラジェーン。

 

「……あ、……いや…その、だな…」

「ふふっ、フリード可愛いわねっ♪」

「…からかうんじゃない」

「あら、本当よ?」

「…ミラジェーン…」

「フリードは?」

「……………」

 

その言葉に、頬を真っ赤に染めるフリード。

 

「気持ちは一緒なのかしら?」

「………おそ…らく…な…」

「嬉しいわ、フリード!」

 

ミラジェーンはフリードを思い切り抱き締めた。

豊満な胸の感触がダイレクトに伝わり、

一瞬固まったフリードだが、ゆっくりと…

ミラジェーンの背中に腕をまわした。

 

「…ずっと一緒にいてね?フリード」

「…ああ、善処する」

 

ミラジェーンは微笑んで、

フリードの頬にキスをしたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

とある日のエドナツ

 

ドキドキしながら、ユキノに電話をかけるナツ。

 

『はい、もしもし…どなたですか?』

「あ、僕です。ナツです。ユキノさん、お久しぶりです」

『まあ、ナツさん!電話を頂けて嬉しいです!』

「あの…突然ですみません。

今度の日曜日に逢いませんか…?」

『はいっ、喜んで!』

「…良かったです、断られるんじゃないかと思いました」

『…?どうしてですか?』

「少し不安に思っていただけです、気にしないで下さい。

それじゃあ、日曜日にまた…」

『はいっ♪』

 

―日曜日―

 

カフェの前で待ち合わせをし、待っているナツ。

 

「お、ナツじゃねぇか!」

「る、ルーシィさん…」

「どうしたんだ?こんな場所で」

「ある人と待ち合わせをしてるんです」

「…へぇ」

 

意地悪そうに笑うルーシィ。

 

「じゃ、あたしもその子を見てみるかな」

「………え?」

「その子…女なんだろ?」

「ままま、まだ彼女なんかじゃないです!」

「へぇ、ナツが女をデートに誘うなんてなぁ…」

「デー…ト?」

「おう!そりゃ、逢うんならデートだろ!」

 

「ナツさん、お待たせしました!」

「あ、ユキノ…さん?その男性は?」

 

ユキノの隣にいるのは金髪の男性だった。

 

「お前がナツか」

「は、はい…」

「弱気な奴だな」

「…すみません」

「ユキノ、本当にこいつで…」

「い、いいじゃないですか!スティング!」

 

「なかなか可愛い子じゃないか、ナツ」

「…はい、笑顔が素敵なんです」

「大事にしろよ?」

「…まだそういう関係じゃないですって…」

 

小声で話し合うナツとルーシィ。

 

「こほん……ナツさん、少し歩きましょうか」

「はい」

 

その後、暫く歩き回り、買い物をするユキノと

その荷物持ちをするナツ。

…そして、後ろでニヤニヤ笑いながら

追いかけるルーシィとスティング。

 

「ナツさん、荷物持って貰ってすみません」

「いえ、大丈夫ですよ」

「……此処で少し待ってて下さい」

「?」

「すぐに戻りますから!」

 

笑顔でそう言うユキノを見送るナツ。

少しの間ベンチに座って待っていると…。

 

「ナツさ~ん!」

「あ、おかえりなさい」

「はい、プレゼントです!」

 

受け取った箱を開けると、十字の中心に

星が付いたイヤリングが入っていた。

 

「…イヤリング?」

「はい、私のとペアです」

「あ、ありがとう…」

 

笑顔を見せたユキノに頬を染めるナツ。

 

「喜んで貰えて良かったです!」

「今度、何かお返しします」

「いえ、大丈夫ですよ。

こうして時々会ってくれるだけで幸せなので」

 

そう言って、また笑顔になるユキノ。

 

「ありがとうございます、

僕も…ユキノさんと会うのは楽しいです」

「ナツさん…」

 

頬を染めたユキノがナツに顔を近付け、

驚いて目を閉じるナツ。

ユキノはナツの頬にキスをした。

 

「っ………!」

「じゃあ、そろそろ帰ります。また連絡下さいね!」

「あ……はい」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ルーシィと一緒に帰っているナツ。

 

「ナツ、押されっぱなしだったな」

「…仕方ないじゃないですか、ルーシィさん」

「ま、相手がああいう性格なら

釣り合い取れてるんじゃねぇのか?」

「……可愛いです」

「…べた惚れか、まぁ精々頑張れよな。応援してるからな」

「ありがとうございます、ルーシィさん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツ+イグニール

 

「なぁ、イグニール」

「どうした、ナツ」

「滅竜魔導師って子供出来難いのか?」

「…何故そう思う?」

「いや、セツナもなんだが…

ガジル達んとこのヤジェとシュトラも

妊娠とか…かなり時間かかったみてぇだったから」

「………」

「グランディーネの話ではミストガンも相当な頻度で

やってるみてぇだし…滅竜魔導師って子供作り難いのか?」

「…そうだな、竜の因子が体を守っている影響だろう」

「竜の因子?」

「そうだ、お前達滅竜魔導師の持つ竜の力…その作用だ」

「そうか……サンキューな、イグニール。謎が解けた」

「ああ、何でも聞け」

「じゃあ…イグニールって俺以外に子供いたりするのか?」

「……………」

「…イグニール?」

「それは答えられない」

「ちぇっ、何でも答えてくれるんじゃねぇのか…」

「…すまないな、ナツ」

 

―奴は今、何をしているのか……イグニア―

 

遠い地にいるもう一人の息子を思いつつ、

イグニールはナツを宥めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

フリミラ

 

―9年前・アースランド―

 

「なぁ、ラクサス…」

「どうした、フリード」

「俺はミラジェーンの前で男を見せたいんだ…。

だが…ミラジェーンは俺を翻弄してくる…」

「フリード…ミラの前でカッコつけるよりも、

あいつが沈んでる時とかに支えになってやる方がいい。

その方がミラは助かるし、

お前はあいつの支えになれると思うぞ」

「…すまない、ラクサス。助かった」

 

―後日―

 

看板娘の仕事が終わった後、

てきぱきと片付けを済ませていくミラジェーン。

 

「ミラジェーン、手伝おうか?」

「大丈夫よ、もう少しだから…」

 

片付けが終わり、フリードの隣の席に座るミラジェーン。

 

「フリード…」

「どうした?」

「少し…疲れちゃった…」

 

そう呟いて、フリードの肩に凭れかかった。

 

「…ミラジェーン…」

 

名を呼んでミラジェーンの肩を抱くフリード。

 

「今日ね、少しセクハラみたいな事されちゃったの」

「…誰にだ?」

「ふふ、大丈夫よ。きちんと仕返ししたから」

「…俺の気が収まらない」

「優しいわね、フリードは…」

「俺はミラジェーンが…大切なだけだ」

「ありがとう、フリード…大好きよ」

 

そう言って、フリードにキスをしたミラジェーン。

 

「ああ、俺もだ」

 

そう言って、フリードはミラジェーンを抱き締めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

―エドラス―

 

ベッドでゴロゴロしながら、

ジェラールに話し掛けるウェンディ。

 

「ねぇ、ジェラール」

「…どうした?」

 

読んでいた本からウェンディへと視線を移したジェラール。

 

「構って…?」

「…わかった」

 

返事をして、ベッドに腰掛けると

二人分の体重でスプリングが軋んだ。

 

「…ウェンディ」

 

首筋に口付けて、そのまま下へと

唇をずらしていくジェラール。

 

「ジェラール?」

「…何から何まで可愛いな、君は」

「?」

 

手の甲に口付けた後、紺色の髪を鋤きながら

愛しそうに口付けていく。

 

「ジェラール」

「ん?」

「愛してるからね…?」

「…ああ、俺も…君を愛している」

 

そう呟いて、唇にゆっくりと口付けて、

二人は暫く抱き合ったまま、その日を過ごした。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+アリア

 

アイリーンの衣装で自室で過ごすウェンディ。

 

「失礼します、王妃さ………ま?」

「あ、アリアさん」

「なんという格好を…!」

「アリアさん、この衣装…どう思いますか?」

「王妃様が着るには、些か…」

「…やっぱり、胸が足りません…?」

「!?いえ、そういう事ではなくてですね…!」

「…?」

「………少し、着てみたいような…

なにか妙な親近感が湧いてくる衣装ですね」

「あ、やっぱりですか?」

「…やっぱり?」

「私が知っている人に貴女にそっくりな方がいるんです」

「はぁ、そんな偶然もあるのですね…」

「はい、…あの…会った時から思っていたのですが…

エルザさんとは血縁関係にあるとかではないですか?」

「嗚呼、エルザですか…従妹ですよ」

「やっぱり血縁だったんですね!」

「…やっぱり?」

「あ、いえ…何でもありません…」

「エルザとは仲良くして頂けているようで感謝しています」

「エルザさんは友達ですから…」

「エルザは、貴女と同名の女性とも友達のようです」

「ウェンディさんと…、友達が多いのは良い事です。

アリアさん、今度アリアさんと同じようなサイズの

この衣装を探してみますね」

「…ありがとうございます、王妃様。

それでは失礼します」

「またお話しましょうねっ!」

 

アリアを微笑んで見送り、

ウェンディはその後も自室で過ごした。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+ドラン+エドウェンディ

 

「ドラン君」

「どうかされましたか?王妃様」

「君は向こうの世界ではね、

小さな子が好きなお兄さんだったんだよ」

「………え…?」

「小さい私にとても優しくしてくれた人」

「…それって…ロリコンじゃ…」

「そうとも言うかもしれないね」

「…僕は、胸が大きい女性が好きです…」

「……私も胸が大きくなりたかった…」

 

コンコン…

 

「王妃様、お邪魔します」

 

そう言って現れたエドウェンディ。

 

「ウェンディさん」

「王妃様、久しぶりね」

「はい!」

「…あら、こんにちは。ドラン君」

「は、はい…」

「可愛いわね」

 

そう言ってドランの頭を撫でるエドウェンディ。

 

「…嬉しくありません…」

「ドラン君はウェンディさんと親しいの?」

「街中で会う度に…その…」

「会う度に可愛がってるのよ」

「可愛がる……ウェンディさんは

ドラン君に恋愛感情とか持って…?」

「いいえ?ただ可愛いから可愛がるだけよ。

あのピンク髪のメイドさんも可愛いわよね」

「そういうものなんですか…」

「ええ、じゃあ失礼するわね。また来るわ」

「また今度ですね、ウェンディさん」

 

エドウェンディが部屋から立ち去り、ドランは口を開いた。

 

「僕、あの人苦手です…」

「どうして?」

「…好みの方ではあるんですけど、

会う度にちょっかいをかけられるので…」

「可愛いって言われるの、嫌?」

「当たり前です、僕は男ですから」

「…男性はやっぱり

カッコいいって言われる方がいいのかな?」

「はい」

「ドラン君がもっと大きくなったら、

きっと素敵な人が見つかるよ」

「…頑張ります」

「うん、頑張って」

「王妃様、今日は帰ります」

「またね」

「はい」

 

その頃アリアの部屋では…

 

「うん、ぴったりね…流石王妃様」

 

アリアはウェンディから貰った

アイリーンの衣装を身に纏って寛いでいた。

 

コンコン…

 

「入るぞ」

「!エルザ…」

「アリア、今週の予定だ…が……」

 

アリアの服装を見て一瞬固まったエルザ。

 

「…なんという格好をしている」

「王妃様からのプレゼントよ、

何故か見た時に親近感が湧いたから着てみたの」

「まぁ、似合っていると思うが…」

「ありがとう、エルザ」

「外を出歩くには中々勇気がいる格好ではないか?」

「…そうかしら?」

「まぁ、アリアが大丈夫ならいいとは思う」

「それで?何か用があったんでしょう?」

「いや、いい。明日また来る」

「そう、じゃあ…また明日ね、エルザ」

「ああ、じゃあな…アリア」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

母親トーク

 

グランディーネ、メイビス、アイリーンは

たまに集まって、色々な事を話し合っていた。

 

「こんにちは、メイビス」

「グランディーネさん、おかえりなさい」

「今回は遅かったわね」

「ちょっと孫達に引き止められてね…」

「ミストガン達の近況はどうですか?」

「相変わらず性格が黒くて、

ウェンディが時々真っ赤になっているわね」

「…でも愛してくれているんですよね?」

「ええ、そうじゃないと私の咆哮が飛んでいるわ」

「それは良かったです」

「…メイビス、オーガスト様はどうなの?」

「オーガストですか?オーガストは…可愛いです」

「あのオーガスト様が可愛い、ねぇ…」

「何をするにも私達の後ろを付いてきて…

健気で、愛らしくて…」

「想像出来ないわ…」

「変身魔法の影響もありますけど、

自分の子供は可愛らしいものですね。

…エルザには会いに行ってますよね?アイリーンさん」

「ええ、この前見に行ったら…愛し合う直前だったわ」

「まぁ」

「…!」

 

目をキラキラさせるメイビス。

 

「私に気付いたら直ぐに止めて取り繕っていたけれど…

クスクス…あの状況じゃあ、ねぇ…?」

「私はそういう状況は、もう見ないわね。

孫達と別室にいるもの」

「………」

「貴女は陛下とはそういう事はしないの?」

「私は…肉体年齢が…子供の時のままなので…」

「そう、したくはならないのかしら?」

「…体が耐えられないと思います。

でも一緒にいられるだけで十分幸せです」

「そういう事ばかりが幸せじゃないものね」

「…ふむ、ラーケイドを呼ぶか…?」

 

小声で呟くアイリーン。

 

「…妙な企み事は止めなさい」

「…いや、ラーケイドのあの魔法をかけられたら

メイビスはどうなるかと思っただけ…」

「?」

 

不思議そうな顔のメイビスに

アイリーンは魔法の効果を耳打ちすると、

メイビスの顔はあっという間に赤くなった。

 

「……か……かい…?」

「…ね、楽しみでしょう?」

「い、いいです!遠慮します!

私は、ゼレフといられるだけで…!」

「そう、残念ね…」

「あまり虐めては駄目よ」

「クスクス…それもそうね」

 

真っ赤な顔のメイビスを宥めて、

その後も他愛ない話を続けたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メスカチャ

 

昨晩、同衾したメストとカーチャはベッドで

抱き合いながら、お互い裸で眠っていた。

 

「…ん…」

 

鳥の囀りで目が覚めたメスト。

 

「…カーチャ」

 

未だ眠っているカーチャの額にキスを落とすと、

カーチャの目蓋がゆっくりと開いた。

 

「……メスト、さん?」

「おはよう」

「…おはようございます、…痛っ」

「!大丈夫かっ!?」

「だ、大丈夫です。少し…痛むだけですから…」

「そ、そうか…」

 

カーチャから視線を逸らして話すメスト。

 

「…メストさん?」

「いや、その…全裸だろう?」

「!…メストさんになら、いいんですよ?」

「…カーチャ…」

 

逸らしていた視線をカーチャに戻すメスト。

 

 

ピンポーン…

 

「…すまない、俺が出てくる」

 

そう言いながらパンツを穿いて急いで玄関に向かうメスト。

 

「はい、お願いしますね…メストさん」

 

全裸の状態のカーチャは布団を被って、そう呟いた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「おい、ドランバ、ル…!?」

「なんだ、グレイか…何の用だ?」

「お前、その格好…!」

「…急いでいたんだ、仕方ないだろう」

「………はぁ~、服…着ろよ」

 

頬を赤くしながら話すグレイ。

 

「急ぎの用じゃないのか?」

「いいから服着ろ」

「…頻繁に服を脱ぐお前には言われたくないのだが…」

「急いで服着ろ」

「…ああ、わかった」

「話の内容はギルドでするから、いつも通り来い」

「わかった」

「…じゃあ、ギルドでな。…嫁さん大事にしろよ」

「お前もな」

 

立ち去ったグレイを見届けて、

カーチャのいる寝室へと戻ると、

カーチャは衣服を身に纏っていた。

 

「メストさん、もう終わったんですね」

「ああ、グレイだったが…大した用事ではなかったらしい」

「そうですか、じゃあ…朝ご飯作りますね。

リビングで待っていて下さい」

「ああ、頼んだぞ…カーチャ」

「お任せ下さい、メストさん!」

 

お互い微笑んで、メストはカーチャの頬を撫でた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

一家で移動遊園地に来たジェラール達。

 

「わぁ…!」

「本当にこんなに広いのに時期が来たら移動するの?」

「ああ」

「ウェンディ、こっちを向いて」

「?どうしたの、グランディー…」

「…トロイア」

 

ウェンディに魔法をかけたグランディーネ。

 

「グランディーネ、こんな所で使ったら…!」

「地味なものだから大丈夫よ、

これで貴女も思う存分楽しめるわ」

「…ありがとう」

「ウェンディ、何の効果のものなんだ?」

「酔い止めだよ、私は滅竜魔導士だから乗り物に弱いの」

「…そうか」

「パパ、ママ、おばあちゃん、早く行こう?」

 

ミスティに言われて、三人は歩き出した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メリーゴーランドに乗る事にしたジェラール達。

 

「ミスティはママと乗ろうね」

「うんっ」

「シリルはパパとだな」

「うん」

 

各々、馬に跨ると少し経って動き出した。

 

「動いてる…!」

「お馬さん♪お馬さん♪」

 

娘達の反応を楽しみながら、

微笑むジェラールとウェンディ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

クレープ屋で並んでいるウェンディ。

 

「パパ、くれーぷってなぁに?」

「特に女の子が好んで食べるお菓子の事だ」

「女の子が?パパは?」

「…まあ、パパも食べるが…」

「一緒に食べよ!」

「ああ」

「買って来たよ〜」

「ママ、おかえり!」

「ジェラールにはチョコクレープで、

私達は生クリームクレープだよ」

「頂戴、頂戴!」

「はい、どうぞ」

 

全員にクレープを渡したウェンディ。

早速クレープを頬張るミスティとシリル。

 

「もちもち…」

「美味しいっ!」

「良かった……あ、シリル…

口の周りにクリームが付いてるよ?」

「?」

「…もう、仕方ないなぁ」

 

指でクリームを取っていき、最後にその指を舐めた。

 

「…あまり汚しちゃダメだよ?」

「…うん?」

 

その様子を見ながら黙々とクレープを頬張るジェラール。

 

「…たまには食べてみるものだな」

「クレープ、気に入ったのかしら?」

「…まあ、多少は…といったところです」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

その後、様々なアトラクションを楽しんで

最後に観覧車に乗る事にした。

 

「もう夕方だね」

「うん」

「ここ、高いね」

「観覧車だからな」

 

暫くして、頂上まで行った頃…

 

「高い高〜い!」

「シリル、そんなに窓にべったりしたらダメだよ」

「ミスティも見て見て!夕焼け綺麗だよ〜」

「…うん、すごく綺麗…!」

 

娘達の様子を見ながらウェンディは微笑んだ。

 

「ウェンディ」

「どうかし…」

 

言い終えない内にウェンディの唇に口付けて、

髪にもキスを落としたジェラール。

 

「…今度は何処に行きたい?」

「…家族で行ける場所なら、どこへでも」

「フ……わかった」

 

クリスを抱いたグランディーネは

その様子を愛しそうに見守っていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ラクサス+フリード&フリミラ

 

─アースランド・妖精の尻尾─

 

「なぁ、ラクサス」

「どうした?フリード」

「ラクサスは…ミラジェーンについては

俺よりも詳しく知っているんだな…」

「まぁ、付き合い長いからな」

「………」

 

ラクサスに対し、少し黒い感情が芽生えるフリード。

 

「そんな顔をするな、

…お前の方がこれから沢山知っていけばいいんだ」

 

フリードの頭に掌を乗せて、そう呟いたラクサス。

 

「…ラクサス、俺は…」

「アイツはお前の嫁なんだから、

お前はそういう機会にも恵まれている」

「…ありがとう、ラクサス」

「しっかりやれよ?」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─自宅─

 

「フリード、おかえりなさい」

「ミラ…」

 

ミラジェーンを抱き締めたフリード。

 

「…どうしたの?」

「俺はお前の事をラクサス程知らないと落ち込んでいた」

「ふふ、ラクサスとは付き合いが長いもの…。

フリードはこれからよ、いくらでも機会があるでしょう?」

「…そうだな、お前を…もっと知りたい…」

「…ふふ、大好きよ…フリード」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ

 

─ナツ達の家─

 

「ねぇ、ナツ…」

「ん?どうした、リサーナ」

「私って…足手まといかな?」

「…なんでそう思うんだ?」

「100年クエストのメンバーに呼んで貰えないから」

「んな訳ねぇだろ…俺がじっちゃんに言ってるんだ。

リサーナだけは絶対にメンバーに入れるなってな」

「…どうして?」

「俺はお前には傷付いて欲しくねぇ」

「…でも、それでも私はナツと一緒にいたいよ?」

「お前が傷付く場面は見たくねぇ」

「……ナツ…」

「…俺は…お前がいなくなるのは、もう懲り懲りだ。

二回目は、耐えられねぇ。だから、連れて行かない」

「……………うん、わかったよ…ナツ。

私、ギルドで待ってるよ。皆や…セツナと一緒に…」

「…ありがとな、リサーナ。…悪い」

 

そう呟いてリサーナを抱き締めたナツ。

 

「ナツの想い、ちゃんと伝わったよ…。

我儘言ってごめんね、ありがとう…ナツ。大好きだよ」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

「ただいま、ジェラー…ル…?」

 

自室に帰って来たウェンディが見たのは

何故か大型の水鉄砲を構えたジェラールだった。

水鉄砲から水が射出され、ウェンディの衣服を濡らしていく。

 

「ちょ…、待って…!服が…濡れ…!」

 

微笑みながら水を射出し続けるジェラール。

少しして水で服がずぶ濡れになったウェンディは座り込んだ。

 

「もう…なんなの…?」

「ウェンディ、おいで」

「いや、私…今濡れてるから…」

「構わない」

「…うん…」

 

濡れた衣服でジェラールの上に座ったウェンディ。

 

「…なんで水鉄砲なんか…」

「君の透けた下着姿を少し見たくてな…」

「……はぁ…」

 

水に濡れた影響で体のラインが露わになっている上に

下着まで薄ら視認出来る状態のウェンディは頬を膨らませた。

 

「…ジェラールのバカ」

「ああ、本当に君は可愛いな」

「…む〜…」

「ウェンディ」

「?」

「そういう状態もエロいな」

「…こうなったの、誰のせいだったかなぁ…?」

「ああ、悪かった」

 

自分が濡れる事も厭わずに

ジェラールはウェンディを抱き締めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+ミスティ

 

ウェンディはミスティとケーキを作っていた。

生地を焼きながら、氷水を入れたボールの上から

生クリームを作るためのボールを入れ、

それにグラニュー糖を20g入れてから

ミスティに泡立て器を握らせた。

 

「ミスティ、この泡立て器で混ぜ混ぜしてくれるかな?」

「うんっ」

「頑張ってね」

「パパとシリルの為に頑張る!」

 

張り切って生クリームを混ぜ始めたミスティ。

7分のタイマーを設定して他の準備に取り掛かるウェンディ。

 

─7分後─

 

ピピピピピピ…

 

タイマーが鳴り出し、ウェンディはミスティの様子を見た。

 

「少し疲れちゃった…」

 

ウェンディはクリームを掬って泡立て器を持ち上げると、

クリームがとろりと落ち、

落ちた跡が積もってゆっくりと消えていった。

 

「うん、完璧だよ。ミスティ、ありがとう」

「えへへ…」

「じゃあ、ケーキにする為に二人で塗っていこう?」

「うんっ」

 

スポンジケーキにヘラでクリームを塗り始めた二人。

 

「………美味しそう…」

「まだ食べちゃダメだよ?」

「分かってるよ、ママ」

 

─数分経過─

 

ケーキにクリームを塗り終わり、箱にケーキを入れ、

ミスティの頭を撫でるウェンディ。

 

「もしかしたらミスティは料理の天才かもしれないよ?」

「ありがとう、ママ!」

「きっとパパ達も喜んでくれるよ」

「うん」

「今日はありがとうね、ミスティ」

「楽しかった」

「それは良かった」

 

ケーキの箱を持って、談笑しながら娘と自室へと帰って行った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+グランディーネ

 

「ねぇ、ウェンディ」

「なに?グランディーネ」

「貴女達の夜の営みについてなんだけど…」

「…?」

「もう少し…御淑やかに出来ないものかしら…?」

「でもジェラール、喜んでくれるよ?」

「もっと…普通な夜伽を…ね?

…少し耳を澄ますと、貴女達の声が聞こえてしまうのよ」

「……グランディーネはどうだったの?」

「…私の子供は貴女だけよ、それに…

竜と人では勝手が違うから参考にならないわ」

「…そう、でも…心配してくれるのは嬉しいよ」

「ええ…あまりに頻繁にしているから、

あと…プレイ内容が時々…ねぇ?」

「仕方ないよ、ジェラールが望むんだから。

私も…ジェラールに喜んで欲しいし」

「愛されるのは幸せでしょう?」

「うんっ、大好きな人とそういう事をするのは幸せだよ」

 

ウェンディの頭を撫でて、グランディーネは霧散した。

 

─幸せなら、いいわ…─

 

「ありがとう、お母さん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

コブラとキナナは二人で街を歩きながらのんびりしていた。

 

「キナナ、何を食べたい?」

「クレープ…かな」

「わかった」

 

コブラは店でクレープを二人分買ってきて、キナナと分けた。

 

「フルーツたっぷりだね」

「そういうのが欲しいという、お前の声が聴こえた」

「ありがとう、エリック」

 

礼を言って、クレープを食べ始めるキナナとコブラ。

 

「美味しいね」

「甘いな」

「うんっ」

 

クレープを食べ終わり、幸せそうなキナナ。

 

「美味しかった…」

「キナナ」

「?どうしたの、エリッ…」

 

突然キスをされて、舌で唇を舐め上げられた為、

真っ赤になったキナナ。

 

「…っ……」

「唇に少しクリームが付いてたぞ」

「そ、そっか……あり、がとう…」

 

真っ赤な顔で、目を伏せる。

 

(…色っぽいな)

「キナナ、立てるか?」

「う、うん」

「じゃあ、次行くか」

「そうだね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

花屋に到着した二人。

 

「花屋?」

「お前へのプレゼントだ………これだな」

「…スターチス…?」

 

─スターチスの花言葉・変わらぬ心、途絶えぬ記憶─

 

「俺達の関係にぴったりだろう?」

「…うん、ありがとう…エリック」

「これを花束にしてくれ」

「はい、奥様へのプレゼントとは…良いものですね」

「大事な妻だからな」

「…はい、出来ましたよ。お代は──…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブラが花束を持って、手を繋いで帰っている二人。

 

「今日は楽しかったよ?」

「それは良かったな」

「うん、…また…デートしようね。エリック」

 

そう言って、指を絡めたキナナ。

 

「…ああ」

 

コブラもまた指を絡め、恋人繋ぎをしながら

家へと帰っていった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+エドシェリア

 

「ウェンディ!」

 

突然エドシェリアが部屋に入って来た。

 

「どうしたの?シェリア」

「あの…給料で服を買ったんです」

「うん……あれ…その服…」

 

シェリアが着ていたのは赤ジャケット風の衣服にスカート。

 

「私も同じの持ってるんだよ」

「そうなんですか?」

「うん、ただ…」

 

─最近はずっと夜伽専用服なんだよね…─

 

「………」

「ウェンディ…?」

「うん、何でもないよ。似合ってるね、シェリア」

「ありがとうございます」

「あまり汚したり、破れさせたりしたら駄目だからね?」

「わかってます」

「…可愛いね、まるで…」

 

─あの頃のシェリアみたい─

 

「…?」

「シェリア、私の友達によく似てるんだ」

「そうなんですか…?」

「うん、元気で明るい子だったよ」

「元気で…明るい…」

「シェリアも頑張ろうね、私も手伝うから」

「はいっ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドガジレビ

 

エドガジルは取材の為、街中を歩いていた。

 

「さて、次の場所に移らなくては…」

「…あんた、記者?」

「はい、私に何か?」

 

エドレビィに話しかけられたエドガジル。

 

「ああ、あの割と有名な記者か…護衛してあげようか?」

「それは願ってもない申し出ですが…」

 

ちらりとレビィの背後を見るガジル。

レビィは何か大きな物を背負っていた。

 

「それ…なんですか?」

「悪漢撃退マシンだ」

「マシン…?機械…ですか?」

「最近完成した物で、調子がいいんだよ」

「はぁ…それでは、お願いしても宜しいですか?」

「任せて!」

 

ガジルの隣を歩くレビィ。

 

「見つけたぞ、クソ記者!」

「!」

「発射」

 

レビィは背中のマシンのスイッチを押し、

ロケットパンチを起動させ、一撃で悪漢の一人を撃退した。

 

「がっ…!?」

「な…なんだ、この女!」

「護衛です」

「私が相手してやるから、かかってきな!」

(割と度胸あるんですねぇ…)

「女と思って侮るなよ、総員かかれ…!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ふぅ…」

 

悪漢達を一人残らず伸したレビィ。

 

「…じゃあ、目的地に行こうか?」

「華麗な戦いでしたよ、……お名前をお聞きしても?」

「レビィ」

「ふむ、知っているかもしれませんが、ガジルです」

「よろしく、ガジル」

「はい、レビィさん」

 

握手を交わして、二人は取材現場へと向かって行った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ん〜…っ…出来た!」

 

ガジルが取材している最中に

背負っていた機械を修理したレビィ。

 

「レビィさん、こちらも終わりましたよ」

「じゃ、送って行こうか?」

「ありがとうございます、優しいですね」

「勝手に乗り掛かった船だ、最後まできちんとしないとね」

(本当に…凄い人だな)

 

*~*~*~*~*~*~*

 

そしてガジルの家まで到着した。

 

「帰りは何事も起きませんでしたね」

「それじゃ、私は帰るから…」

「あ、レビィさん」

「…?」

 

帰ろうとして呼び止められ、不思議そうに振り返るレビィ。

 

「今日は、ありがとうございました」

「…あんた、割と危険な橋渡ってたんだから

あちこちから不興も買ってたんでしょう?」

「まぁ、それが僕の信じる道でしたから」

「なら、次も護衛してあげる」

「…また、巻き込む訳には…」

「私はあんたを…ガジルを気に入ったんだ。

だから護衛するんだよ」

「ギヒッ……

では、またよろしくお願いしますね、レビィさん」

「任せて!」

 

次の日取りを打ち合わせして、その日は別れたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

レビィ+ウェンディ

 

─ウェンディがエドラスに行く前の話─

 

レビィの大きくなったお腹に触れるウェンディ。

 

「お腹、大きくなりましたね…」

「うん、この子達も早く産まれたいのかな」

「…あの、レビィさん」

「なに?ウェンディ」

「赤ちゃんが出来るって事は、ガジルさんと…

その…あんな事したんですか?」

「っ…!」

 

頬を染めるレビィ。

 

「…うん、ガジル…優しいんだよ…?」

「ふふ、知ってます」

「終始私のペースに合わせてくれて…とっても優しい…」

「………」

 

ウェンディも頬を染めて、レビィのお腹を撫でる。

 

「きっと…産まれて来るのは可愛い子達なんでしょうね」

「うん、何があっても守るんだ!

私とガジルの…可愛い…子供なんだから…」

 

愛しげに笑みを浮かべて、自分のお腹に触れるレビィ。

 

「絶対に…守って…あげるの…」

「きっと守れますよ、お二人のお子さんですからね」

「ありがとう、ウェンディ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+エドシェリア+ミスティ

 

─これはシリルが産まれる前の話─

 

ウェンディの大きくなった

お腹に触れるシェリアとミスティ。

 

「動いてますね…」

「ママ…この子の名前は?」

「シリルだよ」

「早く産まれてお姉ちゃんに顔を見せてね、シリル!」

 

ウェンディのお腹に頬擦りするミスティ。

 

「あの…ウェンディ」

「なにかな?シェリア」

「…陛下と…その…エッチな事…されたんですか…?」

 

頬を染めて、ウェンディは頷いた。

 

「うん…」

「エッチ…?」

「あ、まだミスティ様には早い話でした」

「ミスティにはまだこういう話は出来ないの…ごめんね」

「…?」

 

首を傾げるミスティ。

 

「ジェラールはね、結構意地悪なんだよ?」

「陛下が…ですか?」

「うん、でも…すごく私を大事に丁寧に扱ってくれる…」

「………」

「愛情が…伝わってくるの…」

「陛下の事、大好きなんですね。ウェンディは…」

「当たり前だよ、ずっと会いたかった人なんだから…」

 

ミスティはウェンディのお腹をぺたぺたと触り続ける。

 

「あ、今…ぽんって動いた!」

「お腹を蹴ったんだね」

「産まれて来られるのが楽しみですね」

「うんっ!どんな子になるのかなぁ…?」

「ずっとずっと…ママが守ってあげるからね…シリル」

「ミスティもお姉ちゃんらしくなるように頑張る!」

「私も微力ながらお手伝いします!」

「ありがとう、シェリアお姉ちゃん!」

「お…お姉ちゃん…?」

「ミスティ、シェリアの事を気に入ったみたいだね」

「あわわ…」

「頑張ってね、シェリア『お姉ちゃん』?」

「は、はい……が、頑張ります…!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

─コブラ達の家─

 

「エリック」

「なんだ?キナナ」

「大好きだよ。今も…

きっと、キュベリオスの頃からも…」

 

頬を染めて、コブラの手を握るキナナ。

 

「…キナナ」

「あの頃はキュベリオスの記憶を微かに持っていたから

ずっと誰かを待ってたよ。それから結構かかったね」

「…悪かった」

「エリックを責めてるんじゃないよ。

私…君とリンクしてた時もあったんだって…。

エリックはそんなにも『私』を求めていたんだね…」

「当たり前だ、当時の俺にとって

お前は唯一無二の友で…何よりも大切だった…。

そんなお前が長い間、行方不明で…どんなに…!」

「…うん、その間はエリックも私も満たされなかった。

でも、今は一緒にいられる。ずっとずっと…最後まで…」

「…ああ、愛している。キナナ」

「私もだよ、エリック」

 

軽いキスを交わした後、

コブラはキナナをベッドに押し倒した。

 

「…エリック…?」

「久々にやるか?」

「…うん」

 

キナナの返事にコブラは微笑んで、

彼女の衣服に手をかけたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ(アイリーン)+エルザ

 

─これはウェンディがエドラスに行く前の話─

 

「こんにちは、おチビちゃん」

「アイリーンさん」

「ちょっとエルザと出かけてみたいの、

体、貸してくれる?」

「そういう事なら大丈夫ですよ」

「ありがとう」

 

互いに人格付加を行い、体を入れ替えた二人。

 

「じゃあ、行って来るわね」

「はい、楽しんで来て下さいね」

「ええ」

 

部屋を出て、ギルドへと向かうアイリーン。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─妖精の尻尾─

 

「エルザさん」

「どうした?ウェンディ」

「少し…二人で出かけませんか?」

「ああ、そうだな。そういうのもたまにはいいな」

「…!はい」

 

エルザと街を出歩くアイリーン。

 

「…ケーキでも食べるか?」

「はい」

「すまない、いつものを二つ頼む」

「いつものだね、ちょっと待っててくれ…」

「ああ」

 

椅子に座り、ケーキを待つ二人。

少し待つと、二つのケーキが運ばれて来た。

 

「ここのケーキは絶品だぞ」

「ふふ、ありがとうございます」

「なに、ウェンディが

こういう頼みをする事なんて珍しいからな」

「…いただきます」

 

ケーキを軽く切り分け、口へと運んだアイリーン。

 

「っ……!」

「どうだ?」

「美味しい…!(味覚があるっていいわね…)」

「それは良かった。…うん、美味しいな」

 

ケーキを幸せそうに食べるアイリーン。

それを嬉しそうに見守るエルザ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ケーキ、美味しかったです」

「やっぱりここのケーキは絶品だな」

「はい」

「また二人で来ような、ウェンディ」

「ええ…エルザ」

 

声のトーンを変えて小声で呟いたアイリーン。

 

「…ウェンディ…?」

 

エルザの困惑したような声色に気付き、アイリーンは

 

「いえ…なんでもありませんよ。エルザさん」

 

ウェンディの様な笑顔でエルザに話しかけた。

 

「なら…いいのだが…」

「エルザさん、また二人でお出かけしましょうね」

「…ああ」

 

アイリーンの頭を撫でるエルザ。

 

「………」

「今度はまた違った場所に行こう」

「はい、大好きです…エルザさん」

「ああ…私もだ。ウェンディ」

「じゃあ、ギルドに戻りましょうか」

「そうだな」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「今戻ったわ、おチビちゃん」

「アイリーンさん、おかえりなさい」

「エルザとのお出かけ、どうだったの?」

「ええ、とても楽しかったわ」

「それは良かったです!」

「…また時々エルザについての頼み事を

するかもしれないから、その時はよろしく頼むわね」

「はいっ!」

「じゃあ体を元に戻すわよ」

 

再び人格付加を互いに行い、体を元に戻した二人。

 

「じゃあまた来るわ、おチビちゃん」

「はい、また来て下さいね。アイリーンさん」

 

アイリーンがウェンディの部屋から去るのを

ウェンディは微笑んで見送った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスのハロウィンパレード

 

ハロウィンパレードに参加する事にしたウェンディ。

 

「どの衣装にしよう……これでいいかな?」

 

エイリアンの衣装を身に纏い、外へと出掛けた。

 

「「王妃様!」」

「アリアさんにドラン君」

「我々も一緒に行きます」

「ふふ、二人も準備万端ですね」

 

アリアはアイリーンの衣装を、

ドランは勇者風の衣装を身に纏っていた。

 

「王妃様なら参加するだろうと、陛下から」

「はい」

「…流石ジェラール、鋭いね」

 

話しながら賑わう城下町にあるハロウィンパレードの

スタート地点に向かった三人。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ハロウィンパレードが始まり、仮装して

それを眺めているジェラール。

 

(ウェンディ達は……あそこか)

 

ウェンディの姿を見つけ、微笑むジェラール。

 

「まるでエイリアンが二人に追い回されているようだな」

 

楽しそうにするウェンディを見て、笑みを深め、

民にバレない内に城へと戻ったジェラールなのであった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールとウェンディは山道を歩いていた。

 

「平気か?ウェンディ」

「うん、大丈夫…」

「…そこに山小屋があるようだ、休んで行こう」

「うん」

 

二人で山小屋に入り、焚き火を付ける。

 

「山小屋…昔、二人旅してた時みたいだね」

「ああ、そうだな」

 

そう言ってウェンディを抱き寄せたジェラール。

 

「っ……!」

「あの頃から比べると随分と大きくなったな、ウェンディ」

「…うん」

 

ジェラールは丸鶏を電動串に刺して

焚き火にセットし、焼き始めた。

 

「…それは?」

「回転して自動で焼いてくれるという物らしい」

「便利だね」

「ああ」

 

焼いている間中、ウェンディを愛で続けたジェラール。

 

「焼けたようだ、食べるか」

「うん」

 

肉を分け合って食べる二人。

 

「美味いな」

「うんっ」

 

二人は黙々と食べ続け、皿は空になった。

 

「ウェンディ」

「なに?」

「一緒に寝るか?」

「…うん」

 

一つの毛布に二人で包まる。

 

「本当に…あの頃みたいだね」

「ああ…おやすみ、ウェンディ。…愛している」

「おやすみなさい、ジェラール。私もだよ」

 

軽いキスを交わして二人は目蓋を閉じたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールに何か二人でおやつを作ろうと誘われ、

キッチンへと向かったウェンディ。

 

「珍しいね、ジェラール」

「まぁ、たまには…な」

「頑張ろうね。…それで、何を作るの?」

「林檎のカップケーキだ」

「林檎…ジェラール、林檎剥くの上手かったよね」

「…あの頃は本当に一人旅の予定だったからな」

「ふふっ、そうだね」

「じゃあ、作るか」

「うん」

 

メモに書かれたレシピ通りにウェンディは事を進める。

 

材料

林檎、バター、蜂蜜、牛乳、ホットケーキミックス。

 

まずはバターを耐熱容器に入れ、電子レンジで溶かし、

それに蜂蜜、牛乳を入れて混ぜ、それが終わった後に

ホットケーキミックスを入れて混ぜた。

 

「えっと、次は……

ジェラール、林檎の準備は出来て…るね」

「ああ、適当に切り分けて…オーブンの準備もしておいた」

「ありがとう、ジェラール」

「かなり久々に君にこういう事をした気がする」

「二人で作るのって…いいね」

「ああ」

 

切り分けられた林檎を入れて混ぜ、型に流し入れ、170℃に温めておいたオーブンで25分程焼いた。

 

「…出来たか?」

「うん。…味見していい?」

「ああ」

 

出来上がった林檎のカップケーキに齧り付くウェンディ。

 

「美味しい…」

「それは良かった。ミスティ達にも持って行くか」

「うん」

 

二人で微笑み合いながら、カップケーキを皿へと移して

子供達の待つ部屋へと戻って行った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メスカチャ

 

娘とベッドで川の字になって話すメストとカーチャ。

 

「ふふっ、もう…メストさんったら…」

「…カーチャ、笑わなくてもいいだろう」

「ねぇ、ママ…」

「メリア、どうしたの?」

「この写真の人、だぁれ?」

「…ウェンディさんだよ。ママの友達なんだ」

「メリア、この人みたいになりたいっ!」

「じゃあ…まずは魔法を覚えないとね…」

「瞬間移動の魔法だと便利だな」

「星霊魔道士でもいいと思いますよ、

…幸い私が使っていた鍵だけは残っていますし」

「星霊?」

「うん、星霊界に住む星霊をここに呼び出す魔法なの」

「…メリア、パパとママの魔法、どっちも覚えたい…!」

「欲張りだね、でも…大変だよ?」

「頑張るの!」

「…じゃあ明日から三人で魔法の特訓しようか…?」

「ありがとう、ママ!」

「あと、ウェンディさんみたいに勇敢にならないとね」

「…?頑張るねっ」

「頑張ってくれ、メリア」

「うんっ!パパ、ママ、大好きっ!」

 

その後も談笑しながら、親子で仲良く過ごしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスティの修行

 

「ミスティ」

「どうしたの?パパ」

「そろそろ勉強や修行を始める時期だな」

「…?」

「まずはドランから剣術を習わせるか…」

「??」

「ミスティ、少し待っていてくれ」

「うん」

 

そう言ってドランに話に行った

ジェラールは少しして戻って来た。

 

「パパ、おかえり」

「ああ、ミスティ。ちょっと付いてきてくれ」

「うん」

 

ミスティと手を繋いで歩くジェラールは

ある部屋の前で止まった。

 

「ドラン、準備は出来たか?」

「はい、陛下」

 

返事に頷き、扉を開けた。

 

「ミスティを少しの間、頼んだぞ」

「はい!」

「ミスティ、ドランから剣術を習ってみてくれ」

「剣術?」

「ああ」

「剣…今回は木刀を相手に向かって振るんだ」

「それだけでいいの?」

「ああ、それだけを集中してやってくれればいい」

「頑張るっ!」

「頼んだぞ、ドラン」

「はっ!」

 

部屋から立ち去ったジェラール。

ミスティに竹刀を握らせるドラン。

 

「ミスティ様、まずは…僕と打ち合いましょうか?」

「うん」

「では、竹刀を両手で持って…

自分の目の前に見えるようにして下さい」

「こう…?」

「はい、次はですね…声…大声を出しながら

僕に向かって竹刀を振って下さい」

「すぅ…はぁ……やあぁああああ…っ!」

 

竹刀同士がぶつかり合い、ドランはそれを力で振り払う。

 

「わ…っ」

「僕にそうやって何度も声を出しながら向かって来て下さい」

「ええぇぇぇえーいっ!たぁっ!とぉっ!やぁっ!」

 

その後も幾度も竹刀がぶつかる音が部屋に響く。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…今日はここまでにしましょう。

よく頑張りましたね、ミスティ様」

「はぁ…はぁ…っ」

「では陛下の所に行きましょうか」

「うん…っ」

 

疲れたようにしながらも父親に会えると聞いて

微笑みながら、とことこと歩くミスティ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「陛下、ミスティ様の今日の剣術稽古終了しました!」

「ご苦労だった。ドラン、下がっていいぞ」

「はっ!」

 

部屋から退室したドラン。

 

「パパー、ミスティ頑張ったよ?」

「ああ、剣術稽古お疲れ様。…早速次の稽古だが…」

「陛下、お呼びでしょうか?」

「ナイトウォーカーか、ミスティに槍術の稽古を…」

「パパ…、ミスティもう今日はやだよ…」

「っ!」

 

少し落ち込むエドエルザ。

 

「…そうか、なら…部屋まで送ろう。

ナイトウォーカー、すまないが…下がっていいぞ」

「…はい」

 

意気消沈した様子で退室したエドエルザ。

ミスティと手を繋いで自室まで歩くジェラール。

 

─自室─

 

「ミスティ、今日は疲れたんだな。ゆっくり休んでくれ」

「…うん、パパ…明日はちゃんと

槍術?っていうのやるから、あのお姉ちゃんに言っててね」

「ああ、わかった」

「パパ、ミスティ…頑張るね」

「無理はしないようにな」

「うんっ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ・ガジレビ

 

グランディーネにシリルがピンク髪である理由を聞いた

リサーナとレビィ。

 

「ウェンディがドラゴンフォース状態で身篭ったからね…」

「ドラゴンフォース状態で…?」

「身篭った…?」

「…危ないから貴女達は真似したら駄目よ」

「「………」」

(話すんじゃなかったわ…)

 

この後の展開が容易に想像でき、項垂れるグランディーネ。

 

(もしナツと…)

(もしガジルと…)

((ドラゴンフォース状態でしたら、

どうなるんだろう?))

 

そういう好奇心が芽生えたまま、仕事を終わらせて

自宅へと戻った二人。

 

─ナツとリサーナの場合─

 

「ねぇ、ナツ」

「なんだ?リサーナ」

「ドラゴンフォース状態で、その…やってみない…?」

 

一瞬固まったナツ。

 

「何言ってんだ?あれ、戦闘用だぞ?」

「グランディーネさんに聞いたんだ。

シリルちゃんがピンク髪の理由…

ウェンディがドラゴンフォース状態で身篭ったんだって」

「ウェンディのドラゴンフォースは

見た目的にも変化があったからだろ」

「うん、そうなんだけど…気になって」

「気になって…で言い出す事じゃねぇ…危ねぇだろ」

「そこはナツだから信頼してるよ」

「っ……はぁ、本当にいいのか?」

「うんっ!」

「…全力で加減はする」

 

そう言って、ドラゴンフォースになったナツ。

 

「よろしくね、ナツ!」

「…ああ」

 

─ガジルとレビィの場合─

 

「ねぇ、ガジル」

「どうした?レビィ」

「ドラゴンフォースになってよ」

「…あ?」

「だから…ドラゴンフォースに…」

「今、戦闘中じゃねぇだろ…」

「…立体文字・鉄!」

 

唐突に口の中に飛び込んで来た鉄を齧るガジル。

 

「…美味かった。で、どうしたんだ?」

「…ウェンディがドラゴンフォース状態で身篭ったって

聞いたから…それならガジルがその状態で私としたら、

どうなるかなって思って…」

「…戦闘用なんだぞ、お前に危険な事は出来ねぇ」

「でも…気になるの」

「……加減はするからな」

「っ…!ガジル…!」

 

ドラゴンフォース状態になり、レビィを押し倒したガジル。

 

「ガジル、大好きだよ」

「俺もだ、レビィ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスのクリスマスパーティー

 

アリアやドラン、シェリア等その他数名の

親しい少数メンバーでクリスマスパーティーを開いていた。

 

「王妃様」

「なにかな?シェリア」

 

プレゼント箱を二つ取り出したシェリア。

 

「ミスティ様とシリル様にお渡し下さい」

「ありがとう、シェリア。きっとあの子達も喜ぶよ」

「そうだと…嬉しいです」

 

微笑むシェリアの頭を撫でるウェンディ。

 

「あ…王妃様、向こうで女王様ゲームをやるそうなので

一緒に行きませんか?」

「うん、ちょっと待っててね」

 

カクテルを飲み終わり、立ち上がったウェンディ。

…ただ、若干ふらついて歩いていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「王妃様にシェリアか」

「エルザさん、王妃様をよろしくお願いします」

「ああ、…少し酔ってるみたいだな」

「エルザさん、女王様ゲームって…」

「王様ゲームのようなものだ、女王が番号で命令を…」

「女王って、私でもいいですか…?」

「………ちょっと皆と話して来る」

「はい」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

満場一致で仕方ないという事でウェンディが女王になった。

 

「では1番と3番の方、ポッキーゲームを始めて下さい」

「1番…」

 

エルザが番号を読み上げ、

 

「…3番」

 

アリアが番号を読み上げた。

微妙な表情で互いを見る両者。

仕方ないといった表情をした後、

渡されたポッキーの端に齧り付く。

慌てた様子で背後へと視線を移したドランとシェリア。

 

「始め!」

 

ぽりぽり…

 

「…綺麗です」

 

ぽりぽり…

 

気になるのか、ちらちらと

後ろを向いているドランとシェリア。

 

ぽりぽり…

 

「はい!そこまで!」

 

ぽきっ…

 

ポッキーから口を離し、反対方向を見て

遠い目をするエルザとアリア。

 

(これ、暫く続くんだろうな…)

 

そんな事を思いながら、ウェンディからの

数々の無茶ぶりに応え続けた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…すぅ…すぅ…」

 

テーブルで眠りについているウェンディ。

 

「ようやく眠られましたね…」

「大変だったな…」

「ドランさんの付箋取りが一番大変でした…」

「よく頑張ったな、シェリア」

 

そんな事を口々に言っているとジェラールが入って来た。

 

「…すまない、どうやら世話をかけたようだな」

「陛下!」

「今日は皆、大変だったようだな…ゆっくりと休んでくれ」

『はっ』

 

眠るウェンディを抱き上げ、連れ帰ったジェラール。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ウェンディ」

「…っ……?」

「あまり皆に無茶をさせないようにな」

「…うん…、…ジェラール…シェリアから…

プレゼント貰ったから…あの子達に……」

 

そこまで言って、ウェンディは再び眠りに落ちた。

 

「ああ、わかった。おやすみ、ウェンディ」

 

ウェンディの額に口付けて、布団をかぶせた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

「キナナ」

「どうかした?エリック」

 

家事中に振り返るキナナ。

 

「お前を愛している」

「よく知ってるよ?」

「昔は…たった一人の友としてだったが…

お前が人間だったと知って…そういう感情が芽生えた」

「…記憶がなかったから私もエリックを求めてたよ」

「キナナ…」

「記憶に唯一あったのは優しい声…

顔も名前も分からない…きっと大切な人だと思ってたの」

「ああ、大切だ…ギルドの奴らよりも…よっぽどな」

「ふふ…今は夫婦だからね」

 

コブラはキナナを後ろから抱き締めた。

 

「…テイクオーバー・スネークソウル」

 

蛇の姿になり、コブラに巻き付いたキナナ。

 

(大好きだよ…エリック)

「ああ、俺もお前を愛しているからな…キナナ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

「ママ」

「どうかした?ミスティ」

「やきもちってどんな意味?」

「…大好きな人が自分以外に好きだっていう人がいると

それを嫌う気持ち…かな?」

「…パパがママ以外に好きな人がいたらやきもち焼くの?」

「うん、そうだね…ママはパパが大好きだから」

「そうなんだ…」

(…そういえば、ミスティが生まれる前に

やきもち焼いた事があったなぁ…)

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ねぇ、ジェラール」

「どうした?ウェンディ」

「その…私がエドラスに来る前に…

ジェラールと仲が良かった女性とか…いた…?」

「…何故、そんな事を聞くんだ?」

「以前はジェラールにも

そういう女性がいたのかなって…気になって…

良い雰囲気になったりとか…

一緒に夜を共にした人とか…いたのかなって…」

「もしかして…嫉妬してるのか?」

「………」

「可愛いな」

 

ウェンディの頭を撫でるジェラール。

 

「…それで…いたの…?」

「…いないよ。君以外に想っていた者はいなかったし、

そういう関係になった者もいなかった」

 

その言葉に、ほっとした様子のウェンディ。

 

「ウェンディ」

「?」

 

ウェンディを抱き締めたジェラール。

 

「俺は君だけを愛していたよ」

「…私もだよ、ジェラール」

 

ウェンディもジェラールの背中に腕をまわし、

暫くの間、二人は抱き合っていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

傷跡・ミスウェン

 

ジェラールはベッドの上で全裸のウェンディの胸に顔を埋めていた。

 

「…ウェンディ」

「…なぁに?ジェラール」

「よく見ると体のあちこちに傷があるな…」

「いろんなことがあったからね…」

 

唇を噛むジェラール。

 

「…俺がその場にいられれば、こんな怪我などさせなかったのに…」

 

傷に触れながら、そう呟いた。

 

「ジェラール…」

「すまない、ウェンディ…」

「その気持ちだけで十分だよ、ありがとう。ジェラール」

「………」

 

ジェラールはウェンディを強く抱き締めて、暫くの間そうしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─翌日─

 

城内を散歩していたウェンディは周囲の人々から

視線を感じていた。

 

「……?」

「っ…!王妃様…!」

「あ、シェリア」

「その…言いづらいのですが…赤い痕が沢山…あります」

「っ……!!」

 

ウェンディはその場から駆け出して、自室に閉じこもった。

 

(ジェラールのバカ!)

 

ウェンディは赤面して、ソファーに座り込んだ。

 

「…本当に一杯付けてある…」

 

その日、ウェンディは自室から出ずに過ごしたという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

傷跡・ガジレビ

 

お互い裸の状態で眠っているガジルとレビィ。

 

「……ん…」

 

なんとなく喉が渇いてレビィは目を覚ました。

レビィはガジルに抱き締められていた。

 

「…ガジル、ガジル…」

「………どうした?レビィ」

「その…喉が渇いて…水を取りに行きたいんだけど」

「ああ、わかった」

 

そう言って、レビィを解放したガジル。

 

「ガジルの分も取って来るね」

「ああ」

 

キッチンへと向かい、冷蔵庫を開けて、

水の入ったペットボトルを出し、二つのコップに注ぎ、

レビィはガジルの元へと歩いた。

 

「ただいま、ガジル」

「おう、…平気か?」

「うん、今日もそんなにキツくはないよ」

「そうか、なら…いい」

「いつも私を気遣ってくれてありがとう、ガジル」

「お前が俺のせいで苦しむのは嫌だからな」

「…水、飲もう?」

「ああ」

 

コップの水を飲み、一息つく二人。

 

「…ガジル、傷跡がいっぱいあるね…」

「そうか…?」

「うん、少し心配…」

「これでお前を守れるなら安いもんだ」

「…ガジル…」

 

不安そうなレビィの頭を撫でるガジル。

 

「…俺はお前が側にいてくれれば、それだけでいい。

お前は笑ってた方が俺は嬉しいから…笑っててくれ」

 

レビィはその言葉に頬を染め、笑顔を作った。

 

「ああ、不安そうな顔より笑顔が一番だな」

「…大好きだよ、ガジルっ!」

「ギヒッ…俺もだ、レビィ」

 

レビィを再び抱き寄せて、ガジルは目蓋を閉じた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

傷跡・ナツリサ

 

ナツとリサーナはベッドで

裸で抱き合って眠りについていた。

 

「んぅ……」

 

ナツの腕の力が強まり、少し苦しそうなリサーナ。

 

「……ナツ……ナツっ!」

「……ふぁ……どうかしたか、リサーナ?」

「少し苦しくて…」

「…ああ、そうか…悪い…」

 

リサーナから離れたナツ。

 

「アニマルソウル・猫」

 

慌てて魔法で服を着たリサーナは

ナツの体をまじまじと見つめた。

 

「…どうした?」

「ナツ…傷だらけだね」

「…?そんなのウェンディに治して貰えばいいだろ?」

「……ナツ?」

 

訝しげにリサーナに名を呼ばれて、ナツははっとした。

 

「そうだったな、そういやウェンディは…」

「うん、エドラスで幸せにしてるよ」

「ああ、そうだな」

「ポーリュシカさんに傷薬貰ってみる?

少しは傷跡が消えるかもしれないよ」

「おお、いいアイデアだな。リサーナ」

「強いのは良い事だけど、もっと自分を大事にしてね?

…もしもナツがいなくなったら、私……」

「いなくなったりしねぇよ。

お前やセツナを置いていったりは絶対にしない」

「…うん、信じてるよ…ナツ」

「おう!」

 

リサーナがナツに擦り寄り、

ナツはそんなリサーナを抱き締めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

傷跡・ジェラエル

 

ジェラールとエルザは先日ベッドで同衾したため、

お互い裸で眠っていた。

 

「……ぅ……」

 

少し冷えたのか、重い目蓋を開いたエルザ。

体はジェラールに抱き締められている。

 

「……お前にも傷、あるんだな…」

 

そう呟きながら、ジェラールの胸元の

細かい傷に触れて…キスを落とした。

 

「ジェラール…いつも私を守ってくれてありがとう」

「…エルザ…?」

「起きたか、ジェラール」

「…エルザ、体に結構傷があるな」

「まぁ、色んな戦いを潜り抜けているからな…」

「エルザ」

「どうし…」

 

言い終えない内にエルザを強く抱き締めたジェラール。

 

「お前は俺が守る。守ってみせる。

…もう、これ以上傷など増やさせない」

「…守られるだけの私だと思うのか?」

「ああ、お前は強い。…だが、それでも…」

 

腕の力を強めるジェラール。

 

「ありがとう、ジェラール。私もお前を守るからな」

「ああ、頼りにしているよ。エルザ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドナツユキ

 

ナツはユキノと一緒に眠っていた。

 

「………」

「…すぅ」

 

眠るユキノの表情を見て、

ユキノの胸元に視線を落とすナツ。

そこには所有印が複数刻まれていた。

 

「…はぁ…」

「……ナツ…どうか…しましたか…?」

 

起き上がったユキノ。

 

「!す、すみません。起こしてしまって…」

「…いえ」

「どこも痛みませんか?」

「ふふ、大丈夫ですよ。とっても優しかったので」

「…なら、良かったです」

「…痕を胸に付けるのが好きなんですか?」

「えっと…目立たない場所がいいかなって…」

「本当はどこに付けたいんです?」

「…首筋…とかに…沢山…付けたくなります…」

「…今度、そうしてみますか?」

「…えっ!?」

「今の時期はマフラーを付ければ大丈夫なので」

「……えっと…」

「なら、また今度考えましょう?ナツ」

「…はい、ユキノさん」

 

ユキノはナツの手を握って、

口付け、頬擦りをして離した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ

 

その日、私はゼレフに来賓として

アルバレス帝国に招待されていました。

 

「…ここがアルバレス帝国…ゼレフが作った国…」

「おお、お待ちしておりましたぞ」

 

目の前に現れた老人に私に訊ねる。

 

「貴方は?」

「私はアルバレス帝国大臣ヤジール」

「大臣…」

「私が陛下のおられる所までご案内致しましょう」

「お願いします」

「参りましょうか」

「…はい」

「本当に幼子の姿なのですね」

「私はこの姿の時に

アンクセラムの黒魔術にかかってしまいましたからね。

でも、いいんです。一生忘れられない冒険はしましたし、

大切な思い出も親友もきちんと私の中にあります」

「…思い出は分かりますが…親友…?」

「…はい、大切な親友です」

「何か色々な事があったんですね」

「まぁ…そうですね…」

 

その後は他愛ない話をしながら

目的地へと向かいました。

 

「到着しました」

「やあ、メイビス。待っていたよ」

「ゼレフ!」

 

私はゼレフの腕の中に飛び込みました。

ゼレフによって抱き締められる体。

 

「ゼレフ…」

「…メイビス」

 

暫く抱き合った後、地面へと降ろされました。

 

「コホン、陛下…」

「インベル」

「陛下、その娘との関係は聞いています。ですが…」

「クスクス、ここでやる事ではないわね」

「アイリーン、貴女は陛下とその娘とは

最近個人的に交流がある様ですが…」

「ふふ、気になるの?インベル」

「…いえ、特には」

「父さんの…妻……つまり、母さん…?」

「?」

 

不思議な魔力の男性に妙な事を言われました。

 

「ラーケイド、君はあくまで僕の作った本だ。

よって、メイビスは君の母ではない」

「そうだな」

 

老人の姿のオーガストがそう呟いた。

 

「オーガスト様、そのような態度は…」

 

アイリーンさんを無言で睨むオーガスト。

 

「…皆、知ってるだろうけど

紹介するよ。僕の妻のメイビスだ」

 

ゼレフに抱き上げられました。

 

「…よろしくお願いします…?」

『………』

 

少しの沈黙が下りた後、それぞれ返事をして

部屋から退室して行った皆さん。

 

「…ゼレフ」

「なんだい?メイビス」

「一緒に帰りますか?」

「そうだね、帰ろうかな…。

ヤジール、僕の留守中は頼んだよ」

「お任せ下さい、陛下」

 

ゼレフの手を握って、私達は天狼島へと戻りました。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+グランディーネ

 

ウェンディが夜にジェラールと眠りに付こうと

ベッドに潜り込もうとするとミスティがいた。

 

「…ミスティ?」

「今日はミスティがパパと寝るの!」

「……うん、わかった。パパとのんびりしててね」

「うんっ!」

「ジェラール、ミスティをよろしくね」

「ああ」

 

部屋から退室し、グランディーネが

使っている部屋へと向かうウェンディ。

 

「…あら」

「ミスティがジェラールと一緒に寝るって聞かなくて…」

「取られちゃったのね」

「うん、でも…たまにはいいかなって思った。

昔みたいに一緒に寝よう?グランディーネ」

「ふふ、そうね。ウェンディ…」

 

グランディーネのベッドに潜り込み、微笑むウェンディ。

 

「じゃあ、何を話そうか?」

「何でもいいわよ、可愛い娘の話は何だって嬉しいわ」

「そっか、じゃあ──…」

 

微笑みながら、グランディーネと談笑して

その日は眠りについたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスの人達との関係+ミスウェン

 

ウェンディが城内を散歩していると、ココと遭遇した。

 

「あ、こんにちは!王妃様!」

「こんにちは、ココさん」

「陛下とは相変わらず仲が良いみたいですね」

「少し意地悪ですけどね…」

「でも、その一面は王妃様にしか見せないんでしょう?」

「…はい」

「王妃様、これからも陛下と仲睦まじくして下さいねっ!」

「勿論です」

 

ココと別れて再び散歩を始めたウェンディ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「王妃様、陛下は今日はご一緒ではないのですね」

「ヒューズさん」

「王妃様はこの世界で唯一の魔力を持った存在…と

以前バイロが興味深そうに言っていました」

「…バイロさんがそんな事を…」

「ええ、前国王陛下の影響かバイロは未だに

魔力に執着がある様なので…」

「でも…エドラスはもう…」

「陛下の尽力でもう魔力を必要としない世界になりました」

「はい」

「ですが王妃様、自分自身の魔力…

それを利用しようとする者達の存在を知っていて下さい」

「…わかりました」

「それでは、王妃様。俺はこれで…」

「はい、教えてくれてありがとう。ヒューズさん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「んー、王妃様。ご機嫌麗しゅう」

「シュガーボーイさん」

「陛下とは仲睦まじくされているようで何より」

「はい」

「お子様方も健やかに育っているようで…」

「はい」

「ところで王妃様、俺は王妃様と

同名の女性が最近気になるんだが…」

「ウェンディさんが?」

「最近見かけるとドキドキするんだ」

「…ウェンディさん、彼氏はいないみたいですよ」

「よし!今から頑張って来るよ、王妃様!」

「健闘をお祈りしてますね〜」

 

走り去って行ったシュガーボーイさん。

 

「ぐしゅしゅ、これはこれは王妃様…」

「!バイロさん…びっくりしましたよ…」

 

背後から声をかけられ、驚くウェンディ。

 

「王妃様、人目につかない場所で

魔法は使われてますかな?」

「…はい」

「ぐしゅしゅ、この世界を安定させる為…

今後も続けて下さるようお願いします」

「…わかっています」

「…魔力を直接抽出した方が早いんですがねぇ…」

 

小声で呟かれた言葉にウェンディは過去の記憶が

フラッシュバックした。

 

「…もうあんな事は嫌ですからね」

「あのような事をまた王妃様に対して行えば、

陛下がお怒りになられるので、決行する気はありません」

「…私が時々魔法を使えば済む話なんですよね?」

「左様でございます。では、これにて…」

「……はぁ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─自室─

 

「疲れた…」

 

ベッドに寝転んでいるウェンディ。

 

「…今戻った。ウェンディ…疲れているようだな」

「おかえりなさい、ジェラール」

 

ベッドに寝転んだジェラールに抱き締められた。

 

「ウェンディ、今日は何事も無かったか?」

「…うん、特に何も無かったよ。

でも少しだけ疲れたかな…」

「そうか…」

 

頬にキスを落とされ、

ジェラールの体に擦り寄るウェンディ。

 

「…私がこの世界を安定させなきゃ…」

「…ウェンディ?」

 

ウェンディが呟いた言葉が聞き取れず、

訝しげに名を呼ぶジェラール。

 

「ううん、何でもないよ。ジェラール」

 

そう言って、ジェラールに一瞬

治癒魔法をかけたウェンディ。

 

「…少しでも疲れが取れるといいな」

「ありがとう、ウェンディ」

 

唇にキスをし、暫くの間

ジェラールはウェンディを愛でていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールが隣国視察に行くというので

付いて来る事になったウェンディ。

グランディーネが徹底的に車酔い対策や加工をして

作られた車に乗り込む。

 

「………」

「あまり緊張しなくてもいいからな、ウェンディ」

「…緊張するよ…いつもの態度じゃ、駄目だから…」

「…無理はしないようにな」

「うん」

「…君が今まで使っていた食事マナーは

王族として振る舞う時は使えないんだ」

「…?」

「だから、俺がここで口伝しておく」

「…うん」

「まずはな───…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「おお、ジェラール陛下!

よく来られました。…おや、王妃様も御一緒でしたか」

「ウェンディです、今日はよろしくお願い致します」

「そのように緊張なさられなくても大丈夫です」

「…はい」

「では、此方へ…」

 

通された部屋でジェラールが対応している間、

ウェンディはなるべく王妃らしく振る舞うようにしていた。

そして、暫くして…食事の時間が来たようで

ディナーが運ばれて来た。

ナプキンを膝の上に置いておく。

 

(王妃らしく…王妃らしく…

ジェラールに教わったように…正しく…)

 

出されたステーキ肉に対して

左手にフォーク、右手にナイフを持って

ステーキをカットしていき、カットが終わった後に

ナイフを皿の上方に置いて、フォークを右手に持って

肉を刺して食べた。…口を閉じたまま咀嚼していく。

 

(美味しい…)

 

そう思いながら、ステーキを黙々と食べていく。

ステーキを食べ終わり、今度は魚料理を

フォークの腹に乗せ、食べていく。

 

(これも、美味しい…)

 

これも黙々と食べ終わり、

ナイフを4時の方向に、そしてフォークを

左右対称の八の字になる様置いておく。

次はスープをスプーンで奥から手前にすくい、

スープの熱を冷まさず、音を立てずに飲んでいく。

 

(うん、美味しかった…)

 

多少の時間をかけてスープを飲み終わり、

スープ皿の中にそのままスプーンを置き、

食べ終わった為、ナイフとフォークを揃えて

3時の方向に置き、二つ折りにしたナプキンの内側で

口元を拭き取って、無造作に軽く畳んでテーブルに置いた。

 

食事が終わり、再びジェラール達が会話を始めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─車内─

 

「今日はお疲れ様、ウェンディ」

「…ねぇ、ジェラール」

「どうした?」

「今日の私、どうだった…?」

「食事のマナーは完璧だった、

今朝に俺が教えた通りしてくれて見事だった」

「…良かった」

「王妃としても…良かったと思う」

「ジェラールには及ばないよ」

「…今日のような事は恐らくこれからも何度かあると思う」

「うん、これからも頑張るね」

「ああ、よろしく頼む」

 

そこで運転手のナツが

 

「王妃様、どうでしたか?」

「…少し、難しかったです。

今日ナツさんは車に乗ってるので元気ですね」

「それはもう!…あ、えぇと…」

「ナツ、俺の事は気にしないでいい」

「陛下を無視だなんて、そんな…!」

「…ふふ、今日は緊張したけれど新鮮で良かったです」

「そうか」

「なら良かったです!…そろそろ城に着きますよ」

 

城に着いた為、お互い車から降り、

少しの間ジェラールはウェンディを抱き締め、

ゆっくりと唇に口付けた。

 

「…ウェンディ、戻ろう」

「うん!」

 

手を握り合って、二人は城内へと帰って行った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスの様子を魔水晶で眺めるリサーナ

 

エドラスの妖精の尻尾の様子を収めた

魔水晶を眺めているリサーナ。

魔水晶の内容は結婚した二人や

その他のメンバーを映した様子だった。

 

アルザックとビスカ、ガジルとレビィ、

グレイとジュビア、ナツとユキノ。

 

「皆、幸せそうで良かった…」

『あ、リサーナちゃん!』

 

ふと映像の中のエドナツがリサーナに話し掛けて来た。

 

「…?」

『そっちの僕と、幸せになってね!』

 

笑顔でそう言ったナツを最後に、映像は途切れた。

 

「ありがとう、ナツ。勿論、幸せだよ…?

皆や…ミラ姉とエルフ兄ちゃんも元気そうで安心した…」

 

別れ際の二人を思い出し、少し瞼を閉じたリサーナ。

 

「…私も、皆の幸せを願ってるからね。

大好きだよ、エドラスの皆」

 

そう呟いて、リサーナは瞼を開けて微笑んだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

─これはミスティが産まれる前の話─

 

その日は戴冠記念日の式典が終わり、街は祭で盛り上がっていた。

 

「お疲れ様、ジェラール」

「…街に出掛けるか?」

「…お忍びでデートもいいよね…」

「では、行くか」

「うん!」

 

変装して、街へと繰り出した二人。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

購入したアイスをベンチで頬張っている二人。

 

「美味しいね、ジェ……ミストガン」

「そうだな、美味しいな」

「ビターチョコ、美味しい?」

「ああ」

「そうなんだ…」

「チョコミント味、美味しそうだな」

「うん!」

 

ジェラールは素早くウェンディに顔を近付け、唇を舐めた。

 

「っ……!」

「うん、甘いな」

 

真っ赤な顔で俯いたウェンディ。

 

「意地悪…」

「俺はそういう性格だからな」

 

微笑みながら話すジェラール。

真っ赤な顔でアイスを食べ続けるウェンディ。

 

「…ウェンディ」

「なに…?」

「此処で寝ても大丈夫だぞ」

「…?」

「膝枕、してやる」

「…え?」

 

ポンポンと膝を叩くジェラール。

 

「…いいの?」

「ああ、たまには民達に見せ付けるのもいいと思ってな」

「…ミストガンらしいね、お邪魔します…」

 

ウェンディはジェラールの膝に頭を乗せた。

 

「ああ、おやすみ。ウェンディ…」

 

ジェラールは顔を近付けて口付けをし、

ウェンディの頭を撫で続けた。

 

「おやすみ、ミストガン」

「…ああ、愛している」

「私もだよ…」

 

そう呟いて瞼を閉じたウェンディ。

最後に額に口付けて、ジェラールは

眠るウェンディを時折愛でていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…ウェンディ」

「…ん……ぅ…」

 

ジェラールの膝枕で目覚めたウェンディ。

 

「おはよう、ウェンディ」

「…おはよう…ジェラール…」

 

瞼を擦りながら欠伸をしてから起き上がり、

ジェラールに寄り掛かってから体勢を整えた。

 

「ウェンディ」

「…?」

「少し歩こうか」

「うん」

 

手を繋いで歩く二人。

暫くすると、演劇をやっているのが見えたので

少し観賞してみる事にした。

劇の内容は魔王ドラグニルとジェラールの決戦だった。

最後まで観て何かを思い付いたのか、

ウェンディは演劇のスタッフに話し掛けた。

 

「すみません!」

「どうかなされましたか?」

「あの…演劇の内容なんですけど、

もう少し捻りを加えるのはどうでしょうか…?」

「捻り、とは…?」

「そうですね………こういうのはどうでしょうか…?」

 

その後、ウェンディはスタッフに耳打ちをした。

 

「─────…っていうのは、どう思います?」

「おお、良い劇になりそうですな!」

「…演劇、これからも頑張って下さいね!」

「はい、アドバイスありがとうございます。王妃様」

 

ジェラールの元に戻って来たウェンディ。

 

「では、帰るか」

「うん!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

時は流れ、シリルが生まれてから

家族で演劇を見に来たジェラール一家。

過去に見た演劇とは内容が変わっていた。

演劇の内容は魔王を裏切ろうとして捕らえられた

眷属マーベルをジェラールが助け出す話になっていた。

 

「ねぇねぇ、ママ」

「どうしたの?ミスティ」

「マーベルって……ママ…?」

「…うん、ママの事だよ。頭いいね、ミスティ」

「えへへ…」

 

嬉しそうに笑うミスティの頭を撫でるウェンディ。

 

「昔、演劇のスタッフに耳打ちしていたのは

こういう事だったんだな…」

「そうだよ。当時の私はああせざるを得なくて…

でも、演劇の中だけでなら…こういうのもいいかなって」

「他の妖精の尻尾メンバーにも言える事だが…

あの時はありがとう、助かったよ。我が家族」

「どういたしまして、じゃあ帰ろうか」

 

立ち上がったウェンディの頬に口付けて、

ジェラールはウェンディの肩を抱いた。

 

「ああ、そうだな。ミスティ、おいで」

「うん、パパ!」

 

ジェラールはミスティを抱き上げ、

ウェンディはシリルを抱っこをしながら

城へと帰って行ったのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

今日はバレンタインデー、好きな人にチョコを渡す日。

ウェンディは張り切ってチョコレートケーキを作っていたら

ミスティがキッチンに入って来た。

 

「どうしたの?ミスティ」

「あのね、ママ…私もチョコ…作りたい…」

 

娘の思いがけない一言にウェンディは目を見開いた。

 

「…好きな男の子でも出来たの?」

「…?好きな男の子?」

「うん、バレンタインデーは女の子が好きな男の子に

チョコレートを渡す日なんだよ」

「…ミスティ、わかんない…」

「…もしかして、パパに渡すのかな…?」

「うんっ!」

 

頬を紅潮させて笑うミスティにウェンディは微笑んだ。

 

「じゃあ、一緒に作ろうか?」

「よろしくね、ママ!」

「うん、じゃあ…ママが

作ったチョコを冷蔵庫に入れてくれるかな?」

「うん!」

 

ウェンディはチョコレートを細かく刻み、

お湯を入れたボウルで湯煎する。

チョコレートに満遍なく熱が通るように

大きく何度も掻き混ぜ続け、チョコレートが溶けて

滑らかになった所で湯煎のボウルを外して

ゴムべらでチョコレートを持ち上げて、垂らした。

 

「うん、ダマは無いから大丈夫」

 

溶けたチョコレートにマシュマロ10個と

グラノーラを4つかみ程投入し、よく混ぜ続ける。

ミスティはキラキラした目をしている。

 

「ママ、すごい!」

「ありがとう、ミスティ。…うん、これくらいかな」

 

バットにクッキングペーパーを敷いて、

出来たチョコを全て入れていく。

 

「これで良し…ミスティ、よろしくね」

「はーい!」

 

バットを受け取り、慎重に冷蔵庫へと運ぶミスティ。

 

「…ママ、冷蔵庫に入れたよ!」

「ありがとう、じゃあママは

チョコレートケーキを作るから見ていく?」

「うん!」

 

─1時間後─

 

チョコレートケーキを焼き終わり、

冷蔵庫のチョコが冷えるのを待っている二人。

 

「冷蔵庫のチョコはそろそろかな?」

「楽しみ!」

 

ウェンディは冷蔵庫を開けて、

出来上がったチョコを取り出し、

12等分に包丁で切り分けた。

 

「完成だよ、ミスティ」

「美味しそう…!」

「まずはパパに味見して貰おうね」

「うんっ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─自室─

 

「ジェラール」

「パパ!」

「どうしたんだ?二人共」

 

後ろ手に隠していたチョコの包みを前方へと移動させた二人。

 

「…バレンタインか、ミスティも…ありがとう」

「パパ!食べて食べて!」

「ああ」

 

マシュマロとグラノーラ入りのチョコを食べたジェラール。

 

「美味しいな」

 

表情が華やぐミスティ。

 

「ジェラール、こっちも…」

「…ああ」

 

チョコレートケーキの包みごと、

ウェンディの手を取って引き寄せて、頬に口付けた。

 

「…ゆっくりと味わって食べるからな」

「…うん」

 

ウェンディは頬を染めて、気恥しそうにしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

ジェラール達は一家で花見をしていた。

 

「…桜、綺麗だな」

「そうだね、ジェラール」

 

そう言いながら、キャリーカートからギターを出したウェンディ。

 

「…それは?」

「ミスティ達に少し歌を教えようと思って」

「そうか、なら俺は見物していよう」

「うん、じゃあ…ミスティ、シリル!」

「なぁに?ママ」

「どうしたの?」

「歌の勉強をしてみようか?」

「!うんっ」

「どんな歌?」

「じゃあ先にママが歌うから、その後二人で歌ってね?」

「「うん」」

 

二人の返事を聞いて、ウェンディは

ギターを弾きながら歌い出した。

 

「春が来た 春が来た どこに来た

山に来た 里に来た 野にも来た

 

花がさく 花がさく どこにさく

山にさく 里にさく 野にもさく

 

鳥がなく 鳥がなく どこでなく

山でなく 里でなく 野でもなく

 

…二人共、せーの…」

 

ウェンディの合図に二人は一瞬顔を見合わせた後

 

「「春が来た 春が来た どこに来た

山に来た 里に来た 野にも来た

 

花がさく 花がさく どこにさく

山にさく 里にさく 野にもさく

 

鳥がなく 鳥がなく どこでなく

山でなく 里でなく 野でもなく」」

 

曲に合わせて歌い終わり、ギターの音も止まった。

ウェンディはギターを置いて微笑んで、二人の頭を撫でた。

 

「二人共、上手だったよ」

「えへへ…」

「ありがとう、ママ!」

「また今度練習しようね?」

「「うんっ!」」

 

はにかんだ二人をウェンディは優しく抱き締めた。

ジェラールはそんな光景を微笑みながら眺めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

天竜グランディーネの悩み

 

洗濯担当のメイド達がジェラール達の私室へと入り、

重なったベッドシーツを剥がして部屋を出た。

 

「ふふ、陛下…昨日は王妃様と

制服プレイを楽しんでいたみたい。

いつもの赤ジャケットも制服みたいだし、

やっぱり陛下はそういう趣味なのね♪」

「王妃様、色んな衣装を持たれてるものね…。

どんなプレイでも王妃様なら頑張ってやりそうね」

「ふふ、そうよねっ♪」

 

そんな会話を少し離れた所から

聞いていたグランディーネは、夕方頃に

部屋に戻って来たウェンディに詰め寄った。

 

「…ウェンディ」

「どうしたの?グランディーネ」

「貴女達の夜伽の話なのだけど…」

「…?」

「コスプレした状態でするのは止めなさい」

「…でもジェラールが喜んでくれるし、

ジェラールが喜ぶなら私も嬉しいし、

妖精の尻尾でもコスプレとか皆やってたよ?」

「…はぁ」

 

溜め息を吐いて、エドラスでの思念体を維持するのを止め、

アースランドへと戻ったグランディーネ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…メイビス」

「どうかしましたか?グランディーネさん」

「ウェンディがよく夜伽の時に

コスプレをしているのだけれど…」

「はい」

「…このギルドのコスプレ趣味が

あの子をおかしくしたんじゃないかしら?」

「…はい?」

 

首を傾げるメイビス。

 

「どうしたんだ?グランディーネ」

「あら、ナツ。ウェンディが…ね───…」

 

悩みをナツに相談したグランディーネ。

 

「じゃあ俺がウェンディを正しい道に連れ戻さねぇと!」

「…どうやってエドラスに行く気なの?」

「そりゃあ……」

「思念体を扱えなければ行く事は不可能よ」

「でもグランディーネ、困ってんだろ?」

「ええ。ウェンディ…聞く耳を持たないもの」

「なら、尚更俺が行かねぇと!」

「…ありがとう、ナツ。その気持ちだけで十分よ」

「…でもよ…」

「今日はもう少しこっちに居座るわ、メイビス」

「はい、ゆっくりして下さいね」

「たまにはウェンディ達に

こっちの土産話も持っていかないとね」

「ナツ、ギルドの皆を連れて来て、

グランディーネさんに色々な事を話して下さい」

「おう!任せとけ!」

「メイビス、貴女は来ないの?」

「もう少ししたら私も来ます」

「そう、…ゼレフとは仲良くしている?」

「…ゼレフとオーガストとアイリーンさんとは

仲良くやれています。…ただ、他の方々とは…まだ…」

「人とは一気に親密になれるものではないわ。

ゆっくりと距離を縮めればいいのよ」

「…はい」

 

そう返事をして、メイビスは何処かへと転移した。

 

「じゃあナツ、よろしく頼むわね」

「おう!」

 

ナツは笑ってギルドの皆を呼んで来て、

グランディーネは様々な話を微笑みながら聞いていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドエルザとミスティとドランとウェンディ

 

修行中にドランからエルザが妊娠した事を聞いて

部屋を飛び出したミスティ。

 

「ミスティ様!?」

「エルザお姉ちゃんの所に行くの!」

「僕も行きます!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─エルザの自室─

 

「結婚に妊娠…おめでとうございます、エルザさん」

「ああ、祝ってくれてありがとう。ウェンディ」

 

エルザとウェンディが言葉を交わす中、

ミスティとドランが部屋へと飛び込んで来た。

 

「おや、どうかされましたか?ミスティ様」

「エルザお姉ちゃん!赤ちゃん、出来たのっ!?」

「はい」

「赤ちゃんって…どうやって出来るの?」

 

ミスティの言葉に固まるエルザとウェンディ。

 

「…と、鳥さんが運んでくるんだよ」

 

ウェンディの咄嗟の嘘にミスティは首を傾げる。

 

「そうなの?エルザお姉ちゃん」

「…はい」

「そうなんだ!」

 

楽しそうに微笑むミスティ。

 

「ねぇ、エルザお姉ちゃん」

「なんでしょうか?」

「あのね…いつか私、もっと強くなって…

お腹の中の子を守ってあげる!」

「…はい、期待していますね。ミスティ様」

 

微笑んでミスティの頭を撫でるエルザ。

 

「えへへ…」

 

その光景を見ながらウェンディは昔の事を思い出していた。

 

─私がエルザさんを守ります─

 

(まるで、あの時の私とエルザさんみたい…。

ミスティからそんな言葉が聞ける日が来るなんて…

大きくなったね、ミスティ)

 

そう思いながら、ウェンディは満面の笑みを浮かべていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスに行こうと努力するナツ

 

「むぅう〜〜〜…!」

 

思念体を生み出す為に出来る限りの魔力を練るナツ。

 

「はぁあ…!」

 

練った魔力を前方へと放出すると…

 

「さぁ、俺の思念体!出て来やがれ!」

 

集まった後、形を留める事なく霧散してしまった…。

 

「くっそー!もう1回だ…!」

「おい、ナツ。何をしてるんだ?」

「お、ドランバルトか。あのな…エドラスにいる

ウェンディに会いに行く為の思念体を作ろうとしてんだ」

「…多分そんな事しなくても

会いには行けると思うが…」

「…本当か?」

「ああ、俺は何年か前に夢で

ウェンディとミストガンに会ったからな」

「その夢はどうやって見たんだ?」

「…ウェンディの事をぼんやりと考えながら寝たと思う」

「よし分かった!ドランバルト、ありがとな!」

「ああ、会えると良いな」

「おう!」

 

─その日の夜─

 

眠るリサーナを抱き寄せて、頭の中は

ウェンディの事だけを只管考えて眠ったナツ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「っ…!ナツさん!」

「ウェンディ!」

 

再会できた喜びのあまり、ナツに抱きつくウェンディ。

傍にいたミストガンはムッとしている。

 

「…ウェンディ、嬉しいのは分かるが…」

「ナツさんだ!ナツさん!」

「…はぁ…」

 

溜め息を吐くミストガンとウェンディの頭を撫でるナツ。

 

「あの、ナツさん!最近のエドラスの状況はですね!」

「おう」

 

微笑みながらナツに耳打ちするウェンディ。

 

「へぇ、今はそんな風になってんのか…、

そっちの俺も元気そうで良かったな…」

「シリルはエドラスのナツさんに、

ミスティはエドラスのエルザさんに懐いてます」

「へぇ…」

 

そこまで聞いて、再会の目的を思い出したナツ。

 

「…ウェンディ」

「どうかしましたか?ナツさん」

「ベッドとかで…その…する時な…

アイドル衣装とかは…止めるべきだと思う」

「…ジェラールが喜んでくれるから…大丈夫です」

「いや、そういう事じゃ…」

「ウェンディ、少し席を外してくれるか?」

「…?うん、わかった」

 

ミストガンに言われて少し離れた所に移動したウェンディ。

 

「さて…ナツ、何か俺に言いたい事があるんだろう?」

「…コスプレしてするのは止めた方がいいと思う」

「断る」

(ああ、本当に聞く耳持たないんだな…。

グランディーネ、苦労してんだな…)

 

そんな事を思うナツ。

その時、三人の視界が揺れた。

 

「…なんだ?これ…」

「…どうやら夢から覚めるらしいな」

「…ナツさん!是非…また来て下さいね!」

「ああ、また会おうな…ウェンディ!ミストガン!」

「そうだな、ナツ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「……夢…?」

「ママ…どうかした?」

 

一緒に寝ていたシリルが訊ねて来た。

 

「うん、素敵な夢を見ていたの」

「どんな夢だったの?」

「アースランドのナツさんに会う夢だよ」

「ママが昔いた所のナツお兄ちゃん?」

「うん、元気で…優しくて…強くて…

乗り物が苦手なお兄ちゃんだよ」

「乗り物…ママも苦手だよね?」

「滅竜魔導士共通の弱点だからね…」

「ふぅん…お話、もっと聞かせて?」

「…うん!あのね…」

 

娘にナツの事を話し続けて、夜は更けていった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ナツに再会した夢を見た翌日、ジェラールは

シリルにべったりしていた。

 

「パパ…?」

「愛する俺の子だ…」

 

夢の影響でシリルをナツと少し重ねて

決してシリルから離れないジェラール。

 

「ピンク色の髪…綺麗だな、シリル」

「ありがと…?」

 

溜め息を吐いて、シリルを抱き締める。

それを見ていたミスティが

 

「シリルばっかりズルい!

ねぇ、ママ!私もピンク髪になったら

パパ、ミスティにもべったりしてくれるっ!?」

「…そんな事しなくても大切にしてくれるよ?

(私がドラゴンフォースを使うたびに

寝取られた気分になってるんだろうな…)」

「…む〜…!」

 

ふと、此方に視線を向けたジェラールが

 

「おいで、ミスティ…」

 

そう呟くと、ミスティは喜んで

 

「っ!パパ〜っ!」

 

ジェラールの腕の中に飛び込んだ。

 

「…ウェンディも、来るんだ」

「…私は…こっちでいいよ…?」

 

ウェンディはジェラールの横を素通りして

背中から抱きついた。

 

「…あまり子供達を困らせないでね?」

「……ナツを思い出すと、今でも少し嫉妬心が湧く」

「どうしてナツさんに…?」

「…君がとても慕っていたからな」

「けど、お兄ちゃんとしてだよ?」

「………」

 

ジェラールは黙って、ウェンディの片手に口付けた。

 

「大好きだよ、ジェラール」

「…ああ、俺もだよ。ウェンディ…」

 

ウェンディはそう告白して、腕の力を強めた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

─これは未だ新婚時代の

ジェラールとウェンディの話である─

 

二人が初めて体を重ねて、少し日数が経ち…

朝食を摂っているジェラール。

 

「………」

 

その様子をぼーっと眺めているウェンディ。

 

「…食べないのか?」

「…あ、食べるよ。食べるから…」

 

スープをスプーンで掬い、口元に運んでいく二人。

 

(…ジェラールの何でもない仕草に、

すごくドキドキしてるのはどうしてかな…?)

 

スープを飲むジェラールを凝視するウェンディ。

 

「…ウェンディ…?」

「…何でもないよ。

ちょっと…ドキドキしてるだけだから…」

「?」

「…うん、大丈夫。ちゃんと食べるよ」

 

そう言って少し時間をかけて朝食を完食した。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ソファに二人で座っていると

ジェラールの手が肩に触れた。

 

「っ……!」

 

ウェンディは顔を真っ赤にして俯いた、が…

顎を持ち上げられて赤面した顔をジェラールに見られた。

 

「フ……」

「っ……!」

 

頬に口付けられて、直後に強く抱き締められたウェンディ。

 

「…鼓動が早いな」

「…ドキドキしてる、から…」

「何故だ?」

「…わからないよ…」

「何があっても大丈夫だ、俺が側にいるからな」

「………うん」

 

ゆっくりとジェラールの背中に腕を回して、

ウェンディは赤面しながら温もりを感じていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─前回に引き続き新婚時代の話である─

 

「陛下には、まだ側室がいないわね」

「ええ、まだ私達にもチャンスはあるわ!」

 

貴族や侍女達のそんな会話を遠くから聞き取って

少し落ち込むウェンディ。

 

「………」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ふと仕事中のジェラールの様子を覗いたウェンディ。

 

「…あの、陛下?」

「…どうした?」

 

侍女がジェラールににこやかに話し掛け、

ほんの少し媚びたような目付きや

自然なボディタッチをする。

 

(……………)

「本日は天気も良いので…少し散歩に行きませんか?」

「…悪いが、まだ仕事中だ。

終わってから気分転換はする」

「…承知しました、陛下…」

 

侍女が立ち去るのを確認して

ウェンディも悶々としながら部屋へと戻った。

 

─夜─

 

ウェンディは仕事を終えて帰って来た

ジェラールに抱きついた。

 

「…今日、ジェラール…色んな女性から

色目使われてた…!」

「…ウェンディ…?」

「ジェラールは私のなのっ!

私しか見ていないと嫌なのっ!」

 

涙を流しながら叫ぶウェンディ。

そんなウェンディの涙を舌で丁寧に舐め取り、

抱き締めたジェラール。

 

「そんな心配をしなくとも

俺は君だけしか見ていない」

「…ほんと?」

「当たり前だろう?」

「…良かった…!」

 

ウェンディは微笑んで、

ジェラールの背中に腕をまわしたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夢の中での再会

 

─アースランド・妖精の尻尾─

 

「なぁ、エルザ」

「ナツ、どうした?」

「俺、この前…夢でウェンディとミストガンに会ったんだ」

 

笑いながら、その時の出来事を嬉しそうに話すナツ。

 

「夢、か……そういったものであっても

ウェンディに会えるのであれば

今度全員で押し掛けてみるか?」

「おっ!それいいな!」

「ちょっと、今ウェンディについて話してなかった?」

「お、シャルルか!実はな…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ウェンディに…会える…?」

「おう!俺とドランバルトが証人だ!」

「…ドランバルト?」

 

シャルルがメストのいる方向を見て、

溜め息を吐いた。

 

「…そういえば彼も

ウェンディを引き摺っていたものね。

…ギルドメンバーではないけれど、

蛇姫の鱗のシェリアにも連絡を入れるわ。

あの子もウェンディに会いたいだろうから…」

「おう、皆で押し掛けようぜ!」

「ええ、ウェンディ…元気かしら…?」

「元気っぽかったぞ」

「それは自分で確かめるわ」

「じゃあ俺が他の皆に方法を伝えておくから

今夜にでも実行するぞ!」

「ええ、そうね」

 

そしてその日の夜、それぞれがウェンディの事を

思いながら眠りについた…

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「わぁ…」

 

夢の中に現れた大勢の人々に驚くウェンディ。

 

「ウェンディー!」

 

名を呼びながらウェンディに抱きついたシェリアとシャルル。

 

「また会えたねっ!」

「うん、久しぶり…シェリア、シャルル」

「久しいな、ウェンディ」

「はい、エルザさん!」

「ミストガンとは仲良くしているかい?」

「ロキさん!はい、とっても幸せです!」

「それは良かった、ね?ルーシィ」

「そうね…幸せそうで安心したわ」

「…ウェンディ」

「…?どうかしましたか?レビィさん」

「胸、少し大きくなったんだね…」

「…子供を3人も産んだからかもしれません」

「子供…かぁ…」

 

そこまで言って頬を染めたレビィ。

 

「ギヒッ、どうした?レビィ」

「な、ななななんでもないよ?ガジル!」

 

慌てた様子で話すレビィに

クスクスと微笑むウェンディ。

 

「ウェンディ、もうエドラスには慣れた?」

「はい、大分慣れましたよ。リサーナさん」

「そっか、…この前は

そっちの妖精の尻尾の魔水晶ありがとね」

「喜んでくれたなら何よりです、

リサーナさんは…ナツさんと一緒で幸せですか?」

「うん、幸せだよ?ハッピーや可愛い娘に

時々お義兄さんやお義父さんも来るから…

毎日飽きないよ。…ナツのお嫁さんになるのは

子供の頃からの夢だったからね」

「…子供の頃からの恋が成就するって…いいですよね」

「うん、ナツ…大好きだよ」

 

そう言ってナツの肩に寄り掛かるリサーナ。

 

「…俺もだからな、リサーナ」

 

リサーナの頭を撫でながら、微笑むナツ。

 

「愛が成就するのって素敵ですよね、グレイ様!」

「ああ、そうだな」

 

ジュビアの肩を抱いているグレイ。

 

「成長したねぇ、ウェンディ」

「カナさん!」

 

ウェンディの頭を撫でるカナ。

 

「お姉さん、嬉しいよ」

「カナさん…ありがとうございます!」

「…んで、酒とかは飲めるようになったのかい?」

「…多少は。飲み過ぎると酔っ払っちゃいます」

「そうかい、大人になったんだね…ウェンディ」

 

しみじみと呟いたカナ。

 

「ねぇ、ウェンディ?」

「どうかしましたか?ミラさん」

「グランディーネさんから時々聞いているけど

ミストガンは、本当に黒いのかしら?」

「…はい、黒いですよ」

「そうなの…ねぇ、フリード」

「なんだ、ミラジェーン」

「黒くなって欲しいの」

「…俺には無理だと思うが」

「いいえ、きっとやれると思うわ」

「み、ミラジェーン…」

 

フリードに躙り寄るミラジェーン。

ミストガンはというと、ウェンディ達から

少し離れた場所でラクサスと話していた。

 

「マスターは元気か?」

「ああ、まだ元気だ」

「…昔と比べ、良い面構えになったな」

「まぁ色々とあったからな」

「フ……経験を積んだか」

「ああ」

「…それにしても、ウェンディは愛されているな」

「お前に会う目的も含まれてたぞ」

「…そうか、それは嬉しいな」

「元気でやれよ、ミストガン」

「お前もな、ラクサス」

 

その後も暫くの間、談笑していると

突然全員の視界が揺れた。

 

「これは…?」

「夢から覚める合図です!」

「また会おうな、ウェンディ!ミストガン!」

「はい、皆さんもお元気で!」

「また会おう、妖精の尻尾」

 

その言葉を最後に、全員夢の中から弾き出された。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

リオンとシェリア

 

─蛇姫の鱗─

 

「リオンっ!」

「どうした?シェリア」

「アタシね、ずっとリオンに伝えたかった事があるの」

「…なんだ?」

「ギルドの皆とは違うの、ウェンディ達への感情とも

まるで違う意味で…」

「………」

「愛してるよ、リオン」

 

頬を染めながら、シェリアは笑って告白した。

シェリアの告白で静まりかえったギルド。

 

「………」

「…リオン…?」

「…それで今までのお前は

時折俺ばかりを見ていたんだな」

「…うん」

「俺が他の女性に目移りした時も、欠かす事なく」

「…それが愛でしょ…?」

「…そうなんだろうな、

まだ俺には愛という物はよく分からない」

「そう…なんだ…」

「…だから」

「っ…?」

「これから知っていくか、二人でな」

 

シェリアに手を差し出したリオン。

 

「っ…うん!愛してるよ、リオンっ!」

「ああ、これからよろしく頼んだぞ。シェリア」

 

シェリアがリオンに抱きついて、

トビーが騒ぎ、ユウカが宥め、ジュラは微笑んでいた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスティ+ドラン+ウェンディ

 

釣り道具を持ったドランが

ミスティに対して話し掛けた。

 

「これもサバイバル修行の一環です、

今日は釣りに行きませんか?ミスティ様」

「うんっ!」

「ドラン君、釣りに行くの?」

「昨日のはあくまでサバイバル修行です、王妃様」

「…私も行くよ、保護者役として…ね」

「お、王妃様…」

「ママも来てくれるのっ?」

「うん、ちょっと着替えてくるから待っててね」

「うんっ!」

 

─数分後─

 

「ただいま、じゃあ行こうか」

「うん!」

「はい…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

釣りをするため、湖へとやって来た3人。

 

「懐かしいな…」

「王妃様?」

「私、ギルドにいた頃は野宿も沢山したから

サバイバル体験もいっぱいしたんだよ?」

「そうだったんですか…」

「うん、あの日々は宝物…ドラン君、釣竿借りるね」

「あ、はい」

「沢山釣ろうね」

「はい、ミスティ様…まずはですね…」

「うん、こう持つんだね」

「はい、それで次は───…」

 

ドランに教えて貰いながら釣りに挑戦するミスティ。

ウェンディはそれを視界に映しながら釣りを続けた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「…釣れたは釣れたけど…」

「大物はいませんね…」

「お昼、まだ…?」

「…少し待っててね、二人共」

 

ウェンディは衣服を脱ぎ捨て、水着姿になり、

ゴーグルを付けて湖へと飛び込んだ。

 

(……魚は…いた!)

 

素潜りをして、真っ先に見つけたナマズに対して

ドラゴンフォースを発動させて捕まえた後、

水中から顔を出す直前でドラゴンフォースを解いた。

 

「…ぷは…っ」

「王妃様!」

「ママ…それって…」

「…うん、結構大きいナマズだね」

 

大きなナマズを抱いて包丁を手に取るウェンディ。

暴れるナマズをまな板に押さえて、

 

「…ごめんね」

 

そう呟いて内臓を引き摺り出した。

その後、動かなくなったナマズを丸焼きにして食べた三人。

 

「美味しかったですね」

「うん!」

「ご馳走様でした…」

 

火の後処理をした後、昼寝をする事になった。

 

「…王妃様、水着…なんですが…」

「何かな?」

「…い、いえ…僕は向こうで寝て来ますね…」

「…うん?じゃあママと寝よっか?ミスティ」

「うんっ!」

 

ドランが少し離れた場所に、

ミスティはウェンディと一緒に眠った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「お昼寝もしたし、クーラーボックスの魚達は

夕食のフライにしてフライドポテトも

付け合わせにして貰おうか?」

「楽しみ…!私も…いつかママみたいに

大きな魚捕まえられるようになりたい!」

 

苦笑いするドランはウェンディから視線を外している。

 

「ミスティならきっとなれるよ」

「うんっ!」

「では、帰りましょうか」

「そうだね」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

城に帰って来たウェンディ達にシリルが

 

「ママ!なんでシリルを連れてってくれなかったの!?」

「もう少しシリルが大きくなったら

連れて行って色々教えてあげるわ…私が直々にね」

「おばあちゃんが教えてくれるの!?やったー!」

 

ちなみに現在のウェンディの姿は

水着+前を全開にした上着を羽織っただけの状態である。

 

「…凄い格好だな、ウェンディ」

「そうかな?」

「少し…くるものがあるな」

「…ジェラール…?」

 

グランディーネの咎めるような声と視線に

ジェラールは咳払いをした。

 

「魚はこれか、シェフに渡して来る」

「魚のフライとフライドポテトを付け合わせにね」

「ああ、わかった」

 

クーラーボックスを持って

ジェラールは部屋を退出したのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ロキとルーシィ

 

「ねぇ、ロキ」

「なんだい?ルーシィ」

「あたし達って、いつも…その…する時…ね?」

「うん」

「なんで、いつも星霊界のロキの部屋でなの?」

「君に無駄な魔力を使わせたくないからだよ」

「…なんで?」

「…知っての通り、僕は星霊で…人間界へは

自分の魔力か君の魔力を使って来ている。

それなのに、君に魔力を出させるなんて有り得ない。

君の魔力は君のもの、僕の魔力は僕自身のもの。

それに…僕はありのままの僕を君にあげたいからね、

だから星霊界なんだ。僕は魔力によっての肉体ではなく

素の自分を君に出せる、それに…星霊界の衣装の

ルーシィも可愛いしね」

「…わかったわ、じゃあもう一つ質問」

「うん、なんだい?」

「前はあたし以外の女の子にも声をかけてたけど…

それはどうしてかしら?」

「可愛い女の子がいたら声をかけないと失礼だろ?」

 

その言葉にルーシィは明後日の方向を向いて

 

「…あたしもその可愛い女の子の一人か…」

 

そう呟いた。

 

「それは違うよ、ルーシィ」

「………」

「君は出会った頃から特別だった。

…最初は僕の事情であまり関わりを

持たないようにはしていたけれど…

あの一件で君は僕の一番の特別になった」

「それからずっと特別?」

「勿論さ!僕はルーシィだけを愛しているよ」

「だから…他の子にも声をかけなくなった?」

「そうだよ」

「…ありがと、ロキ」

「ルーシィ、今から星霊界に行かないかい?」

「何をするのかなぁ?」

「単なる散歩…いや、デートだよ。

行こうか?ルーシィ」

「…もう、仕方ないわね…。

ちょっと着替えてくるから、そこで待ってて」

「うん」

(最近感じてたモヤモヤ、取れて良かった…)

 

自室に入る直前、ルーシィは

 

「ロキ」

「どうかした?」

「これからもよろしく頼むわよ?」

 

そう言って微笑んだ。

 

「うん、僕は君をずっと守り続けるよ。ルーシィ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家の父の日

 

ジェラールは職務中、珍しく考え事をしていた。

明日は父の日である。…父親として

家族にしてやれる事を考えていた。

 

「…そうか…」

「…陛下?何かございましたか?」

「いや、何でもない。

明日の分の仕事も今日中に済ませておく」

「…はい?」

「明日は休みを取らせて貰う」

「は、それは別に宜しいのですが…大丈夫ですか?」

「多少努力すれば大丈夫だ」

「はい、それでは私も手伝わせて頂きます」

「…すまないな」

「いえ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─翌日─

 

「おはよう、ジェラール」

「ああ、おはよう。ウェンディ」

「すぅ…すぅ…」

「ミスティ達はまだ寝てるね」

「そうだな、ウェンディ…」

「なに?」

「家族でピクニックに行かないか?」

「うん、いいけど…お仕事は大丈夫?」

「今日の分は昨日終わらせたから平気だ」

「そうなんだ…頑張ったんだね、ジェラール」

「…俺は家族が欲しい物や美味しい料理は

いつでも手に入れる事が出来るが、

家族と過ごせる時間は少ないからな…。

普段は子供達にも構ってあげられない…

だから今日は家族との時間だけに費やす事にした」

「…ありがとう、お父さん」

 

そう言って手を握ったウェンディ。

 

「君には子供達の世話ばかりさせて申し訳ない…」

「大丈夫だよ、私…あの子達のお母さんだから」

「………」

 

黙ってウェンディを抱き締めたジェラール。

 

「…すまない」

「大丈夫、二人で…頑張ろうね」

 

そんな会話が部屋の中でされる中、

グランディーネは部屋の外で壁に寄りかかっていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

私有地まで特製の車でジェラールが運転し、

到着して子供達が車を降りた。

 

「わぁーい!」

「シリル、あまり遠くまで行ったらダメだからね?」

「む〜!わかってるもんっ!」

「おばあちゃんはクリスを抱っこしてるわね」

「お願いね、グランディーネ」

 

車の荷物を全て降ろしたジェラールは

見渡しの良い場所にシートを敷いた。

 

「ミスティ」

「なぁに?パパ」

「剣術稽古、パパとしてみるか?」

「うんっ!」

 

ミスティに木刀を渡して、ジェラールも木刀を握って

娘を見据えた。

 

「…来い」

「ええぇぇえぇい!やあっ!とぉおおお!」

「…ふっ!」

 

次々と打ち込まれる木刀を打ち払うジェラール。

 

「っ…たぁああああっ!」

 

そんな親子の風景を眺めてウェンディは微笑んだ。

 

「頑張って、ミスティ」

「…うんっ!」

 

それからも暫く剣術稽古を続けた二人。

 

「はぁ…はぁ…っ」

「…そろそろ疲れただろう、ミスティ」

「うん…でも…」

「今日のパパとの稽古はここまでだ」

「…ありがとう、パパ」

「昼御飯でも食べるか」

「うんっ」

 

その後、グランディーネとシリルが作った

ケバブのピタパンを皆で食べて

ジェラールはクリスを抱っこしながら

皆の様子をじっと見ていた。

 

(今日、皆と過ごせて良かった)

 

ミスティがウェンディに楽しそうに話しかけ、

ウェンディもそれに応え、シリルは

グランディーネの膝枕で気持ち良さそうにしている。

 

その後は皆で写真を撮り、荷物を片付けて

ジェラールの運転で城へと戻った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─夜─

 

お風呂から上がった後、ジェラールから

離れないミスティとシリル。

 

「そんな風にしなくても今日は

パパは仕事に行かないから大丈夫だぞ」

「じゃあ…一緒に寝よ?」

「うん!」

「…そうだな、家族皆で寝るか」

 

ベッドを繋げて、ジェラールとウェンディが

子供達を挟んでグランディーネが

ウェンディの隣に寝る事になった。

 

「わぁーい!」

「おやすみなさい、パパ、ママ、おばあちゃん」

「おやすみ、ミスティ、シリル」

「ああ、おやすみ」

「ゆっくりと眠るのよ」

「「うん!」」

 

二人が目蓋を閉じて少しすると寝息が聞こえてきた。

 

「…今日はありがとう、ジェラール」

「あまり俺は時間を作ってやれないからな…」

「今日は良いパパしてたね」

「そうだと嬉しいが…」

「…また、構ってあげてね?」

「…ああ」

「おやすみ、ジェラール」

「おやすみ、ウェンディ」

 

二人はそう声を掛け合って目蓋を閉じた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ

 

「…メイビス」

「なんですか?ゼレフ」

「僕はね、最初は父さんと母さん、そしてナツ。

この三人だけが愛情の対象だったんだ」

「………」

「父さんと母さんには感謝しているんだ。

ナツと僕を生んでくれたから…」

「はい、親には絶えず感謝するものですからね」

「ナツは…400年間ずっと愛していた。

忘れた事なんて一時もなかった。

ナツが僕を壊してくれる時と、

いつか再会する時をずっと待っていたんだ。

…そして…300年以上経って、

君と出会った…メイビス」

「…初めての出会いは水浴び中でしたね、

あの時魔法を教えてくれてありがとう、ゼレフ。

お陰で仲間を守り、ギルドを設立出来ました」

「…他者への愛を知った瞬間に君は命を散らせた」

「あれは…きっと私の愛が足りなかったから…」

「…うん、そうだったんだろうね。

それが果たされていたなら、

僕らはきっとあの時に一緒に…二人で…」

「…ごめんなさい…」

「いいよ、謝らせるために言ったんじゃないから。

…それから暫くしてオーガストが僕に…

メイビスとの息子だって伝えて来た。

…大切な君との息子…それなら愛情の対象だ。

僕は必死にオーガストを愛そうとした、

…アンクセラム神には

何度も彼を殺そうとさせられたけど…」

「…命を尊く思えば思う程…命を奪う…」

「そうだね、最近は多少制御できるようには

なってきたけれど…発動しかけたら、

転移するようにはしてるよ。

愛する君達を殺したくないからね」

「…私も、多少は発動の予兆が

感じ取れるようにはなってきました」

「じゃあ、発動しそうになったら僕に言って?

そして一緒にデートに行こう」

「………」

 

ぽかんと口を開けているメイビス。

 

「どうかした?」

「…丸くなったんですね」

「愛する君達が一緒に歩いてくれるからだよ」

「今のゼレフの愛情の対象、どれくらいいますか?」

「ナツに君、オーガスト、…あとリサーナ…かな?

ナツの妻なら僕の義妹になるからね」

「もしかして…ナツや私との関係で決めてます?」

「そうだよ」

「もっと、愛情の範囲が広がるといいですね」

「…あまり広げたくはないな」

「どうしてですか…?」

「僕は広くて浅い愛よりは

狭くて深い愛の方が好みだからね。

…その辺り、君には感服するよ。

君の愛は広くて…結構深いからね」

「ギルドの皆は家族ですからね…」

「うん、すごいよ。メイビス」

「…ありがとうございます?」

「メイビス、愛してるよ」

 

そう言ってメイビスを抱き締めたゼレフ。

 

「…私もですよ、ゼレフ…」

 

メイビスも返事をして

ゼレフの背中に腕を伸ばした…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

思い出話をするガジルとジュビア+グレジュビ

 

「ガジル君」

「なんだ?ジュビア」

「そういえば幽鬼の支配者にいた頃にですね…」

「ああ」

「───…という事がありましたね」

「そういや、そうだな」

「あの時のガジル君は…」

 

和やかに昔の思い出をガジルと話すジュビア。

それを面白くなさそうに眺めるグレイ。

 

(…俺の知らない話で盛り上がってるな…)

 

本当に面白くなさそうな表情をしているグレイ。

ジュビアはそれに気付いていないが

ガジルはそれを認識していた。

 

少し経って思い出話が終わり、

ジュビアは笑顔を浮かべて楽しそうに過ごし始めた。

 

「………」

「ギヒッ、グレイ」

「なんだよ、ガジル」

「ずっと俺達の…ジュビアの事見てただろ?」

「…悪いか」

「あのな…あいつがあんなに笑顔を浮かべて

積極的な性格になったのは、お前に会ったからだぞ」

「………」

「昔のあいつは暗い性格してたからな」

「…それなら、嬉しいんだがな」

「だから胸を張れ、

あいつはお前がいたからこそ変われたんだ」

「…悪かったな、ガジル」

「気にしてねぇから平気だ」

「…おい、ジュビア!」

 

グレイからの呼び掛けに反応したジュビアは

グレイの元へと戻って来た。

 

「はい!なんでしょうか、グレイ様!」

「あのな…」

「さっきの話の最中、俺に嫉妬してたってよ」

「…ガジル君に?グレイ様が…?」

 

喜びで表情が華やぐジュビア。

 

「おい、ガジル!」

「ギヒッ、本当の事だろうが」

「愛してます!グレイ様っ!」

 

ジュビアがグレイに抱きつき、

グレイはそんなジュビアを照れながら支えていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メリアの修行+メスカチャ

 

カーチャが子犬座の鍵をメリアに渡した。

 

「ニコラ、大事にしてあげてね」

「うんっ!すぅ…開け!子犬座の扉!ニコラ!」

 

鍵を使い、解錠する仕草をしたメリア。

 

「ププーン」

 

ニコラが出て来た瞬間、

カーチャの瞳から涙が零れ落ちた。

 

「ニコ…?」

「プーン!」

「…?ママ、知ってる子なの?」

「うん、ママの…大切な星霊だった子だよ」

「そうなんだ!よろしくねっニコ!」

「ププーン」

 

ニコに頬擦りするメリア。

ニコを愛しげに撫でるカーチャ。

 

「久しぶりだね、ニコ…会いたかった」

「ププーン!」

「これからメリアとも仲良くしてあげてね」

「プン!」

「ふふっ、私じゃもう魔力を扱えないから…

再会する事は諦めてたの…すごく、嬉しい…」

 

言いながら、大粒の涙を流すカーチャ。

 

「…カーチャ」

 

様子を見ていたメストがカーチャを抱き締めた。

 

「メストさん…っ!」

「嬉しいなら、いくらでも泣くといい」

「ひっく……ぇぐ…!」

 

カーチャが泣き止むまで、

メストはカーチャを抱き締め続けていた。

 

「ニコ、ママとも仲良くしてね?

きっとママも喜んでくれるから…」

「ププーン!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ハピシャル

 

「ねぇ、シャルル」

「なに?ハッピー」

「オイラ達、夫婦なんだよね?」

「そ、そうね…」

 

頬を赤らめながら返事をするシャルル。

 

「卵だって生まれたもんね!」

「ええ」

「子供の名前…何がいいかなぁ…?」

「そうね…女の子なら…シャーリーとか?」

「男の子なら……うーん…」

「もう少し悩んだって罰は当たらないわ」

「うん!オイラ、もっとかっこいい名前を考えるよ!」

「よろしく頼むわよ、…お父さん…?」

「うんっ!シャルル、これからもよろしく!」

「ええ、大好きよ…ハッピー」

「…オイラも!」

 

ハッピーは笑顔でシャルルに抱きついたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

夏祭りに来ているジェラールとウェンディ。

 

「ねぇ、ジェ…ミストガン」

「なんだ?」

「飴、食べよう?」

「そうだな、何の飴がいい?」

「じゃあ…蜜柑がいいな」

「わかった、買って来るから待っていろ」

「うん」

 

屋台に向かい、林檎飴と蜜柑飴を買ってきたジェラール。

 

「食べるか」

「うん」

 

飴に齧り付く二人。

 

「美味しい…」

「…ああ」

 

飴を食べながら、移動を始めた。

 

「…何かするの?」

「金魚すくい」

「あの子達の分?」

「ああ」

 

金魚すくいの屋台に到着し、

ジェラールは歩を進めた。

 

「いらっしゃい」

「金魚をすくいたいのだが」

「あいよ!」

 

ボイとお椀を渡されたジェラール。

あまり金魚を追いかけず、素早い動作で金魚をすくう。

 

「お!やるね」

「すごい…!」

 

数匹すくい、ボイを返した。

 

「頼む」

「あいよ!」

 

金魚の袋を貰い、上機嫌のウェンディ。

 

「すごかったよ」

「次は射的をするか」

「頑張って!」

 

射的の屋台で銃を受け取り、

小さなぬいぐるみだけを狙って落としていく。

 

「…こんなものか」

 

ぬいぐるみを詰めた袋を貰い、帰路に着いた二人。

 

「あの子達、喜ぶかな?」

「喜ぶだろうな」

「だよね!」

「…ウェンディ」

「ん?どうかし…」

 

ウェンディに口付けたジェラール。

 

「また来よう」

「…うん、大好きだよ」

「ああ」

 

手を繋いで、二人は微笑みながら帰っていった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ジェラエルの子供

 

「ママ」

 

そうエルザに呼び掛ける短い緋色の髪の幼い少女。

 

「どうした?リリア」

「今日はママとね…一緒にクエスト行ってみたい…」

「…危険だぞ?」

「大丈夫、ママの魔法は少しだけ使えるから…」

「…どうする?ジェラール」

「………」

「パパ…」

「しっかりと守ってくれ、エルザ」

「分かっている」

「ありがと、パパ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

野犬の群れを追い払うクエストを受けて、

リリアとママはギルドを出たの。

 

「リリア、私の後ろに隠れていろ」

「で、でも…!」

「お前に傷一つ付ける訳にはいかない」

「ママ…リリアも…」

「ダメだ」

「…ママの後ろに隠れてるね」

「ああ」

「…換装・天輪の鎧」

「…別に換装しなくとも…」

「リリアはママを守りたいの」

「…ありがとう」

「あ、ママ!野犬の群れ!」

「…ああ、追い払うか」

「うんっ」

 

ママは何本も剣だけを魔法空間から引き抜いて、

野犬の群れに目掛けてザクザクと地面に刺した。

 

「キャゥン!」

 

悲鳴をあげて大半の野犬は逃げたけど、

残った少数の野犬はママに飛び掛って来た。

 

「ふっ!はっ!」

 

ママは1本の剣だけで野犬を討伐していく。

 

「すごい…」

「ガゥウウ!」

「!リリア!」

 

ママからの声に、はっとなって見ると

リリアに視線を向けて

今にも飛び掛かろうとしている野犬がいた。

 

「…すぅ…」

 

リリアは深呼吸をすると、

剣を強く握って、野犬を…斬った。

 

「…リリア、見事だった」

「…ありがとう、ママ」

「では、帰るか」

「うんっ」

 

換装を解いて手を繋いで依頼人さんの所まで行って、

報酬を貰ってギルドまで戻って、

マスターに報告して家まで帰ったの。

 

「リリア、大丈夫だったか!?」

 

心配していたのか、パパが真っ先に

リリアに詰め寄ってきた。

 

「うん、大丈夫だったよ!」

「野犬を1匹退治してくれた、

見事な太刀筋だったぞ」

「そうか…」

 

安心したのかソファに座るパパ。

 

「パパ、ママ、今日はありがとう」

「…少しずつでいい、強くなろうな」

「うん」

「リリア、危険な事はしようとするんじゃないぞ?」

「うん、ママの魔法ももう少し覚えたいから…

そしたら、もっと頑張るね!」

「ああ、期待している」

 

ママに頭を撫でられて、リリアはママに抱きついたの…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ジェラエル+子供達

 

「リリア、シェル」

 

エルザに名を呼ばれて振り向くリリアと

リリアより少し歳上の青い髪の少年。

 

「なぁに?」

「ママ」

「今日は出かけるぞ、家族皆でな」

「!うんっ」

「うん、準備しようか。リリア」

「うん、お兄ちゃん」

 

我が子達の様子を眺めていたエルザは

ジェラールに背後から抱き締められた。

 

「…どうした?」

「充電だ」

「今日は一日中一緒なのだから必要ないだろう」

「………」

 

腕に力を入れたジェラール。

 

「…仕方ないな」

 

そう言ってジェラールに身を預けたエルザ。

それから少し経って、

子供達が荷物を持って来たので

家族で外へと出かけた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「わ〜いっ!」

 

はしゃぐリリアとその様子を見守るシェル。

そしてシートの上で子供達の様子を眺めている

ジェラールとエルザ。

 

「…楽しそうだな」

「ああ」

 

暫くするとリリアが疲れたのか

シェルに手を引かれて帰って来た。

 

「ママ、リリアが眠いって」

「では私が膝枕をしてやろう」

「…お邪魔します…」

 

リリアがエルザの膝枕で眠りにつき、

シェルはじーっとその様子を見ている。

 

「シェルも眠りたいなら膝枕で眠っていいぞ」

「うん、お邪魔します…ママ」

 

シェルも膝枕で眠りにつき、

エルザは二人の頭を撫でた。

 

「…エルザ」

「どうし…」

 

エルザに一瞬口付けたジェラール。

 

「愛している」

「…ああ、私もだ…ジェラール」

「…この光景、写真に収めてもいいか?」

「別に構わないが…」

 

エルザが子供達に膝枕している光景を

セルフタイマーでカメラで写真に収めたジェラール。

 

「よし」

「…よく寝ているな」

「ああ、そうだな」

 

─1時間後─

 

「シェル、リリア」

「…んん…」

「…パパ…?」

「そろそろ帰るか?」

「ん……うん…」

「…また…一緒に…」

「ああ、また一緒に出かけよう」

 

二人は欠伸をして、お互いの手を繋いで

両親に小さな手を差し出した。

 

「手、つなご?ママ」

「パパも」

 

二人は微笑んで、差し出しされた手を握って

家族四人で帰路に着いたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

夏祭りに来ているコブラとキナナ。

飴を二人で齧りながら、祭りくじを引く。

 

「ハズレか」

「私もハズレ…」

「まぁ、こんなもんだろ」

「そうだね…」

「次、行くぞ」

「うんっ」

 

二人で手を繋いで、出店を見て歩く…。

 

ヒュー……ドン…!

 

「始まったか」

「うん」

 

近くにあったベンチに座って

キナナはコブラに寄りかかった。

 

「綺麗だね」

「ああ、お前の匂いも感じられて結構気分がいい」

「…はい、毒だよ」

 

手を軽く毒素化させて

コブラの口の前に持って行ったキナナ

 

「…遠慮なく頂くからな」

「うん、………っ…!」

 

毒素化した手を食べる…というより

丹念に舐め上げているコブラ。

 

「擽ったいよ、エリック」

「お前の味がする、美味いな」

「…それなら、良いんだけど…

(少し…変な気分にもなってきちゃう…)」

「っ!」

「…あ、聴こえた…?」

「ああ、じゃあ一気に吸引するからな」

「うん」

 

コブラは口を大きく開けてキナナの手の

毒素を一息に吸引した。

 

「ご馳走様、キナナ。ありがとう」

「どういたしまして…花火、見てよっか」

「ああ」

 

コブラはキナナを抱き寄せて

二人は身を寄せ合いながら花火を眺めていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディがジェラールをどう思っていたか

 

─これはウェンディがエドラスに行く前の話─

 

今日はジェラールがエルザに会うため

妖精の尻尾に滞在していた。

 

「エルザ」

「どうした、ジェラール」

「実はな───…」

 

ウェンディはジェラールとエルザを見つめていた。

 

(容姿と聞こえる声は全く同じ…。

でも…匂いは違う。

…彼は私の好きなジェラールじゃない…)

 

ウェンディはジェラールを見る度に

ミストガンと重ねてしまい、

少し悲しい気持ちになっていた。

 

(…ミストガンに幻の手紙を貰ってから

私はミストガンに会いに行くための方法を

ずっと探してる…。

ジェラールとミストガンを重ねるのは

いけない事なのに…失礼…なのに…。

重ねてしまう…)

 

顔を両手で覆い、涙が頬を伝う。

 

(ジェラール…会いたい…会いたいよ…!)

 

ウェンディはそう強く願った…。

そしてエドラスに渡る方法を見つけたのは

それからまもなくの事だった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

再会できた事を喜ぶウェンディ

 

─これはウェンディかエドラスに来て

まだそれ程日数が経っていない頃の話─

 

「ジェラール!」

「どうした?ウェンディ」

「私ね、ジェラールの事…大好きだよ!」

「…ウェンディ」

 

ウェンディを抱き締めるジェラール。

頬を染めながら背中に手を伸ばすウェンディ。

 

「俺も君を愛している」

「…ずっと…会いたかったの…やっと、会えたね…」

「…ああ」

「大好きだよ、ジェラール…!」

 

僅かに涙を滲ませながら愛を囁くウェンディ。

ジェラールはそんなウェンディを強く抱き締めて、

愛を囁いていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

外でウェンディが緑のワンピースを着て

お揃いの格好をしたシリルと遊んでいる。

ウェンディが座り込んで下着が見えてしまう。

 

「っ…!」

 

それを遠目に眺めるジェラール。

暫く妄想に浸っていると…

 

「何を見ているのかしら?ジェラール」

 

丈の長い緑のワンピースの上に

一枚羽織ったグランディーネに咎められた。

 

「…義母上」

「ニルビット族は大人もこんな服を着ていたそうね」

「………」

 

その後、城に戻りウェンディに迫るジェラール。

 

「どうかした?ジェラール」

「そのワンピースで…する事はできるか…?」

「………まぁ、皆…こういう服も着てたし…

大丈夫…だよ…?」

「そうか…なら、」

「だけど…条件付きだよ。

一週間は…そういう事は禁止にするからね」

「ああ、わかった」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エクシード一同で子育て

 

エクスタリアまで卵を落とさないように

運んで来たハッピーとシャルル。

 

「父さん、母さん!ただいま〜!」

「おう、帰ったか!」

「おかえりなさい、ハッピー、シャルルちゃん。

…って、あら…?その卵は…?」

 

二人を出迎えると同時に卵を

不思議そうに見つめるラッキーとマール。

 

「その子は…」

「おいら達の子供なんだよ!」

「こ、子供だとっ!?い、いつの間に…!」

「女王様に報告しなくちゃ…」

 

バタバタと走り回りながら

シャゴットの元へと飛んで行ったラッキー。

 

「…あら、行っちゃったわ…。

…大丈夫?シャルルちゃん?」

「…?」

「子供を育てるなんて初めてで不安でしょう?」

「…はい」

「最初はここにいる皆で、育てていきましょうね」

「…はい、ありがとうございます…マールさん」

 

少し経って、エクシード達が集まって来た。

 

「子供産んだんだね」

「おめでとう!」

「おめでとう、王女様に王子様!」

「王子…?」

「そうだよハッピー、王子様!」

「おいらが…王子…!」

 

えっへんと威張るハッピー。

 

「聞きましたよ、シャルル!」

「母さん」

 

シャゴットがシャルルを抱き締めた。

 

「体や翼に異常はない?」

「大丈夫よ、母さん」

「…私の時とは違うのね、良かった…」

「女王様!子育てするんでしょ?」

「…ええ」

「頑張ろ〜!」

『お〜!』

 

エクシード達が子育ての準備を進める中、

オロオロしているハッピーとラッキー。

 

「ととととと父さん!おいら、何すれば…?」

「ま、まずは卵とシャルルちゃんの

安否を確認するんだ、そして…」

「そして?」

「ハッピー、飯を取ってくるぞ!」

「あいさー!」

 

そうしてエクスタリアの外へと繰り出した二人…。

 

「卵はね、常温で…暑くもなく寒くもない温度で

暖めるのが一番なのよ、シャルル」

「母さん…うん」

 

卵をぎゅっと抱き締めるシャルル。

 

「無事に生まれて来てね…」

 

コン…と卵が震えた。

 

「っ!あ…」

 

慌てて卵を置いたシャルル。

 

「もう少しよ、シャルル」

「うん…」

 

軽い力で卵を抱き締める。

 

ピシピシ…っ

 

僅かに音が聞こえ、シャルルはゆっくりと卵を置いた。

 

段々とひび割れていく卵、卵が割れると…

小さな純白のエクシードが顔を出した。

 

「まー…」

「エリス…!」

「エリス…。良い名前ね、シャルル」

 

エリスを腕に抱いて、涙を零すシャルル。

 

「無事で良かった…」

 

そんな感動の場面で

 

「ご飯取って来たよ〜!」

「あいー!」

 

ハッピーとラッキーが乱入してきた。

 

「あ…シャルル、その子!」

 

状況に気付いたハッピーがエリスに頬擦りする。

 

「…エリスよ、ハッピー」

「エリス、エリスかぁ…可愛いね!」

「うん」

「シャルル似だね!」

「うん」

「お魚食べるかな?」

「まだ食べないと思うわ」

「そっかー…」

「大きくなったら、色んな事を教えてあげましょ…」

「うん!シャルル、大好きだよ!」

「私もよ…ハッピー」

 

眠るエリスをベッドに移して、その日の

エクスタリアはお祭りのように賑わっていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディとシャルル

 

─夢の中にて─

 

「ウェンディ!」

「シャルル!」

 

抱き合う二人。

 

「久しぶり、シャルル」

「そうね…ねぇ、ウェンディ」

「どうかした?」

「私ね、卵産んだの」

「!もしかしてハッピーとの子供…?」

「ええ、そうよ」

「シャルルも…やることやってるんだね…?」

 

頬を染めながら話すウェンディ。

 

「もう子供を3人も産んでる

あんたに言われたくないわよ!」

「ふふ…、シャルル…

卵を産む時、大丈夫だった?」

「…とても苦しかったけれど、ハッピーが

傍に居てくれてたから…我慢できたわ」

「…私もミスティの時はとても苦しかったな…、

でも…ジェラールが居てくれたから…」

「そうね、大切な人との大切な子供だから…

大切な…愛する人が傍に居てくれるなら平気よね」

「うん、そうだね…」

「娘にはエリスと名付けたわ」

「あ、女の子なんだ」

「ええ、子育てに迷った末にエクタリアで

母さんやマールさん達に色々と教わって…

慣れていこうと思って…卵を連れて行ったの」

「よく知ってる人からの知識は貴重だもんね」

「ええ、エリスはそこで産まれてくれたの」

「うん」

「その後、色んな事を教えて貰って

ギルドに戻って…家で育てられるように

準備をしたの。ギルドでは託児所みたいな事を

一応やってるから…家でもきちんと育てれるようにね」

「へぇ…託児所なんてやってるんだ」

「ギルドでも子持ちが増えてるから…

依頼中とかでもギルドに預けられるようにね」

「ギルドの皆は家族だから…

雰囲気に慣れさせる目的もありそうだね」

「ええ、そうね」

「シャルル、ギルドの事を教えてくれてありがとう。

少し懐かしい気持ちになれたよ…」

「ウェンディ…」

「また、ここで話そうね」

「勿論よ、ウェンディ」

 

視界が強く揺れ、

咄嗟にシャルルを抱き締めたウェンディ。

 

「…またね、シャルル」

「また会いましょ、ウェンディ」

 

笑顔で二人は夢から醒めたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドシェリアとエドリオン

 

街中でシェリアはリオンを見掛け、見つめていた。

 

「…リオンさん…」

 

頬を染めて、名を呼ぶ。

 

「ん…?」

 

呼ばれた事に反応して振り返るリオン。

 

「!」

 

オロオロして動けなかったシェリア。

 

「俺を呼んだのは…君かな?シェリア」

「…はい」

「今日は…お仕事は終わったのかい?」

「すぅ、はぁ…大体は、終わりました」

「じゃあ今日はカフェで奢ろうか」

「…いいんですか?」

「女性に払わせる訳にはいかないからな」

「…女性…」

「じゃあ行こうか」

「はい…!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─翌日・王城─

 

「…♪」

「今日はご機嫌だね、シェリア」

「はい、ウェンディ。あの…昨日は…

リオンさんと…カフェで…」

「一緒に食べたの?」

「はい!」

「…もしかして、恋…?」

「っ!!」

 

顔が真っ赤になったシェリア。

 

「恋してるんだ…?」

「……っ…」

「いいと思うよ、いいよね…恋って…」

「…はい」

「私は幼い頃からジェラールに恋していたの、

とても優しかった…ジェラールに…」

「ウェンディ…」

「シェリアも、実るといいね…?応援してるよ?」

「はい、ありがとう…ウェンディ!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールとウェンディはミスティを連れて

街中を歩いていた。

 

「ウェンディ、ミスティ、

いくらお金があるといっても無駄遣いは駄目だからな」

「はーい」

「うん………、っ…!」

 

ふとウェンディは宝石店を見つけ、

外から見えるダイヤの指輪に目をキラキラさせている。

 

「…入るか?」

「うん!」

 

宝石店に入った3人。

煌びやかな宝石に目をキラキラさせるミスティ。

 

「綺麗…!」

「…君が見ていたのは、これか?」

 

ダイヤの指輪、値段は…100万。

 

「私のお小遣いじゃ足りない…」

「10ヶ月分貯める必要があるな」

「………」

 

先程「無駄遣いするな」と言われた手前、

尻込みしているウェンディ。

 

「………ねぇ、ジェラール…

私、もうすぐ…誕生日だったよね…?」

「…そうだな」

「誕生日…プレゼントに…これ…欲しいな…」

 

ジェラールは溜め息を吐いて、

ダイヤの指輪を購入しに行った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─王城─

 

ダイヤの指輪をはめて、ご満悦のウェンディ。

 

「暫くは節約するんだぞ?」

「ふふ…うん、ありがとう…ジェラール!」

「キラキラしてて綺麗だね」

「宝石は皆キラキラしてるんだよ?」

「うん、綺麗だった!」

「きっとミスティも将来素敵な人に

プレゼントして貰えるよ」

「楽しみ♪」

 

3人でそんな事を談笑しながら

グランディーネの部屋へと向かったのだった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスのある日の午後

 

ウェンディとグランディーネとシリルが

一緒にケーキを食べたりして過ごしている。

クリスはお昼寝中。

クリスの頭を撫でてグランディーネは話し出した。

 

「そういえばアルカディオス大佐と

ヒスイ女王の子供が公務に就いたそうよ」

「へぇ…私の子供達も将来

公務に就く日が来るのかな…?」

「きっと来るんでしょうね」

 

そんな話をしていると訓練を終えた

ミスティとドランが部屋へ入って来た。

 

「ただいまっ!」

「只今戻りました、王妃様」

「ミスティとドラン君の分のケーキもあるよ、

一緒に食べよう…?」

「うんっ」

「では…お言葉に甘えさせて頂きます」

 

ケーキを頬張る二人。

 

「美味しい…!」

「ミスティ様、食事中は出来るだけ

食事に集中しましょう」

「…はーい」

 

やがてミスティはケーキを食べ終わり、

シリルと遊び始めた。

 

「ふぅ…」

「ドラン君」

「どうされました?王妃様」

 

ウェンディは微笑みながらドランの耳元で

 

「今仲良くしておけば将来

王子の椅子に着けるかもよ…?」

 

そう冗談ぽく囁いた。

 

「………え…?」

(王妃様は何を言って…?いや、でも……

そういう風になる可能性も無くはなくて…

…でもミスティ様、王妃様に似られるのなら

体は小さいかもしれなくて…って、

何を考えてるんだ、僕は…!)

 

困惑した表情のドランの頭を撫でるウェンディ。

 

「冗談だから、あまり深く考えなくて大丈夫」

「…はい」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ロキルー

 

依頼中にルーシィは戦闘中、二体同時開門を

維持し続け、魔力が尽きかけていた。

 

「全く、素早いわね…!」

「姫!」

「ルーシィ、大じょ…」

「…あ」

 

とうとう魔力が底を尽き、バルゴとロキは

星霊界に戻っていく。

 

「ルー…‼」

「…ごめん…なさ…!」

 

ルーシィは疲労で地面に座り込み、

荒い呼吸をする。

 

「…ず〜っと逃げ回ってたが…

どうやら俺の勝ちみてぇだな?」

「…うるさいわね」

「さて…どうしてやろうか…?」

 

下卑た笑みを浮かべた男がルーシィに近寄り、

その身を拘束した…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─星霊界─

 

魔力切れによって星霊界に強制的に戻された

ロキは急いで自分の魔力を使って人間界へと戻り、

ルーシィを探し始めた。

 

先程の戦闘のあった場所に戻ったが、

既にルーシィの姿はなかった。

 

「ルーシィは……あっちか!」

 

僅かに感じるルーシィの気配を辿っていき、

ボロボロの洞窟を走り抜ける。

そして、奥で暴行されていたルーシィを見つけ、

男に光を纏った攻撃をぶつけた。

 

「レグルスインパクト!」

「ぐあぁっ!」

 

一撃で男は伸び、傷ついたルーシィを

お姫様抱っこするロキ。

 

「…遅くなって、ごめん」

「…ロキなら助けに来てくれるって、信じてたから」

「こんなにボロボロになって…」

「…ケホッ、…平気よ…ありがとね…ロキ…」

「ルーシィ…」

「…帰ろ?あたし達のギルドに」

「そう…だね」

「…暗い顔しないの、

あたしはロキを信じてるから…

どんな目に遭っても絶対助けてくれるって」

「勿論だよ、ルーシィ」

 

ロキはルーシィに触れるだけの

口付けを落とし、微笑んだのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+エドシェリア

 

「ウェンディ…」

「どうかした?シェリア」

「せ、先輩から…小説を借りたんですけど…」

「うん」

「その…内容が……少しエッチな内容で…」

「…うん、直ぐに返そうね…」

 

笑顔でそう言うウェンディ。

 

「…でも…興味も…」

「まだダメだよ、シェリア。

まだシェリアには早いの」

「……はい、返して来ます…」

「…大好きな人とは会えてる?」

「は、はいっ!」

 

嬉しそうに微笑んだシェリア。

 

「なら良かった。何かあったら、また来てね」

「うん、ウェンディ…!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

セツナとイグニールと…

 

ナツとリサーナが出掛けている間、

イグニールは外で遊ぶセツナを見守っていた。

 

「………」

「…えっと…これ!」

 

そんな時、セツナの傍に赤髪の青年が現れ、

イグニールは目を見開いて

セツナの傍に急いで走り寄った。

 

「…じぃじ…?」

「よう…親父」

「何用だ、イグニア」

 

イグニアと呼ばれた青年は嘲笑を浮かべて言った。

 

「まさか、こんなガキの子守りをしているとはな」

「…俺の孫だ」

「『実の』孫じゃねぇだろうが」

「………」

「…じぃじ、この人…だぁれ…?」

 

イグニールの後ろに隠れたセツナが

怯えたように話し掛ける。

 

「俺の…もう一人の息子だ」

「…?」

 

意味が分からず小首を傾げるセツナ。

 

「イグニール!帰った…ぞ…?」

「お義父さんの知り合い…?」

「パパ!ママ!」

 

セツナは両親の元に行くために走り出したが…

 

「セツナ!行くな!」

「…?じぃじ?」

「こいつが孫、か」

 

そう言って、イグニアがセツナの首根っこを掴んで

顔をじっと見つめた。

 

『セツナ!』

「やっぱり親父の匂いは殆どしねぇな」

「誰だ、テメェ…!セツナを離しやがれ!」

 

そう言ってイグニアに殴り掛かるナツ。

 

「ナツか。俺はイグニールの実子、イグニアだ。

そんな必死にならなくても、返してやるよ」

 

空中に向かってセツナを放り投げたイグニア。

 

「動物の魂・ハーピー!」

 

魔法でハーピーに変身したリサーナが

セツナを強く抱き締めた。

 

「ママぁっ!」

「セツナ…!」

「セツナ…良かった!

…イグニールの息子って、どういう事だよ!」

「竜には家族を形成する習慣がねぇ。

繁殖期に子を作り母親が育てる。

父親とは二度と会わないのが当たり前だ」

「イグニール、本当なのか…?」

「…ああ」

「………」

「こっちで平和に暮らしてるって

風の噂で聞いたんでな。会いに来てみれば…

孫相手に日和やがって…」

「…元気そうで何よりだ、イグニア」

 

イグニアは呆けたようにイグニールの顔を見て…

 

「…また会いに来るから待ってろよ、親父にナツ」

 

微笑んだ後、竜の姿になって飛び去った。

 

「…イグニア」

「あいつ、イグニアっていうのか」

「ああ、そうだ」

「あいつの話、全部聞かせて貰うからな」

「…俺も知っている事は少ないが…いいのか?」

「おう!」

「…セツナ、もう大丈夫だよ」

「…こわかった…」

 

ナツがイグニールに話を聞いている間、

リサーナはセツナを抱き締めながら、

頭を撫で続けていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

月見団子を食べながら

ジェラール達は一家で月見をしていた。

 

「綺麗だね」

「うんっ」

「お団子おいしい…!」

「そういえば…月には兎さんが

住んでいるっていう言い伝えがあるんだよ」

「っ!兎さんが?」

「会ってみたいな…月にいるうさぎさん…」

 

月に行ってみたいと言う娘達。

 

「じゃあ…ジェラール」

「…なんだ?」

「またドロマ・アニムを作って?」

「……ウェンディ、何を言っているんだ?」

「ドロマ・アニムで月まで行こうと思って…」

「はぁ…バイロ、そこにいるな?

今の発言に対する意見を聞かせてくれ」

 

木陰からバイロが現れ、呆れ顔で

 

「王妃様、侵略兵器でも作る気ですかな?」

「…月、私も行ってみたかったな…」

「…ウェンディ、月に行きたいのは分かった。

だが…エドラスの月には良くないものがいる」

「そんなの初めて聞いたよ?」

「…そうね、『あれ』は良くないわね」

「グランディーネ…?」

「義母上もご存知でしたか」

「…ええ」

 

両親達が話している間、

月見団子を二人で頬張るミスティとシリル。

 

「何のお話かな?」

「むずかしい話かな?」

 

「よくわからないけど…月には、行けないんだね?」

「当然だ、行く手段が無いからな」

「残念…」

「…わかってくれたなら、いい」

「…ジェラール」

「どうし…」

 

ジェラールに抱きついたウェンディ。

ジェラールもそれに応えるように抱き締めた。

 

「…本当に行ってみたかったの…」

「色んな問題があって不可能なんだ」

「…いつか、詳しく教えてね」

「ああ、勿論だ。ウェンディ…」

 

ジェラールは暫くの間、

ウェンディを抱き締め続けていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

フリミラの子供

 

綺麗な緑の長髪を後ろに纏めた少女は

もぐもぐと袋菓子を食べていた。

 

「フィーラ!もう…零してるわよ?」

「片付けておいて?ママ」

「フィーラ…」

 

ミラジェーンは愛娘に昔の自分の姿を見ていた。

 

「…なに?」

「昔のママにそっくりだなぁって思って…」

「…ママの子供なんだから、似るの当然だよね」

「うん、それは…そうなんだけど…」

「パパは今日も雷神衆での仕事?」

「そうね」

「最近…あまりパパ、家にいないよね」

 

少し落胆したような表情のフィーラ。

 

「フィーラ…」

「だから、あたしがママを守ってあげるの」

「…頼もしいわね」

「だってパパがいない時に誰がママを守るの?」

「ママだって強いのよ?」

 

白い目でミラジェーンを見るフィーラ。

 

「本当よ?」

「ママが戦ってるの…見た事ないよ」

「フィーラの前では見せた事ないもの」

「…だからママが強い、なんて…」

「じゃあ、少し待ってて…フィーラ」

 

部屋から出て行った後、

何故か林檎を持って来たミラジェーン。

 

「林檎?」

「えいっ」

 

グシャッと林檎を片手で潰した。

 

「………」

「…どう?」

 

ドン引きしている様子のフィーラ。

 

「フィーラ、引かないで…?」

「いや、そこまでママが力持ちだなんて…」

「フィーラ、聞いてる?フィーラ?」

 

考え込む娘を相手にミラジェーンは

どうしたものかと真剣に悩んでいた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ロキルーの子供

 

ルーシィ似の少女がぬいぐるみで遊んでいる。

 

「今日は何をしようかな…?」

「スピカ」

「なぁに?ママっ!」

「大好きよ」

「スピカもっ!」

「ねぇ、スピカ。パパのことは…?」

 

心配そうに娘に話し掛けたロキ。

 

「パパも大好きだよっ?」

「ありがとう、スピカ。

僕もスピカが大好きだよ」

「えへへ…」

 

頭を撫でられて微笑むスピカ。

 

「今日はママもパパもお家にいてくれるの?」

「そうよ」

「嬉しい…!」

 

喜びを表すように、ぬいぐるみを

ギュッと抱きしめるスピカ。

 

「スピカ、スピカはどんな魔法を覚えたい?」

「ん〜と、ママと同じのを…

そしたらパパも呼び出せるんだよね?」

「そうだよ、でも鍵を貸す必要があるね」

「まずはニコラから…」

「そうだね、ニコラなら安全だし…」

「星霊って、皆優しいものね。

スピカ、明日から星霊魔法の特訓始めようか?」

「うんっ」

「ママみたいな星霊魔導師になれるといいね」

「頑張るね、パパにママ!」

 

娘の言葉に微笑んで、二人は娘を愛でていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グレジュビの子供達

 

黒髪の少年と青い髪の少女が遊んでいる。

 

「グレージュ、ムース」

「はい、ママ」

「ママ…!」

 

返事をしたグレージュと母に抱き着いたムース。

 

「ムースは相変わらず甘えん坊ね」

「ママ大好き!」

「ママもムース達が大好きですよ」

 

そう言いながらムースに頬擦りするジュビア。

そんなジュビアにグレージュは問いかける。

 

「ママ、パパはどこに…?」

「ああ、ちょっとナツさんと

小競り合いをしてるみたいで…」

「喧嘩ですか?」

「ええ、まぁ…そうね」

「ギルドの方でも、よく喧嘩してますよね」

「…仲がいいからこそ…だと思うわ」

「仲がいいんですか?喧嘩してるのに…」

 

微笑んだジュビアはグレージュの頭を撫でた。

 

「グレージュも仲良くなった男の子の友達が

出来たら分かると思うの」

「…はい」

 

玄関のドアが開く音が聞こえ、

ジュビアと子供達は出迎えに行った。

 

「ったく、ナツの野郎…」

「おかえりなさい!グレイ様!」

「おかえり、パパ!」

「おかえりなさい」

 

妻と子供達の出迎えに微笑んだグレイ。

 

「ただいま、ジュビア、ムース、グレージュ」

 

玄関が閉まり、中からは賑やかな声が漏れていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナの子供

 

紫髪の短髪少年がコブラと

一緒に修行をしている。

 

「サイモン、俺の手に向かって思い切り拳で殴れ」

「うんっ!」

 

サイモンと呼ばれた少年は父の拳に向かって

思いっ切り力を込めて拳をぶつけた。

 

「…いい感じだな」

「良かった…」

「エリック、サイモン!ご飯にするよ〜!」

「じゃ、戻るぞ。サイモン」

「うん、ママ…綺麗だよね」

「当たり前だろ、俺の妻だからな」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─食事後─

 

コブラはキナナが腕から発生させた毒を

舐め取って吸収していた。

 

「ん……っ」

(ママ、赤くなってる…)

「ご馳走様、もういいぞ。キナナ」

「…うん」

 

キナナは火照った顔を冷ますように

水で顔を洗いに行った。

 

「パパ、ママの毒って美味しいの?」

「ああ、絶品だ」

「ふーん…」

 

サイモンは訝しげにしていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ロメオとアスカ

 

─ウェンディがエドラスに渡る前─

 

「やっぱり男の子は7歳以上かな…」

「どうしたの?ウェンディお姉ちゃん」

「ん?えーと、ね……アスカちゃんは

ロメオ君の事、どう思ってるの?」

「?大好きだよ?」

「…その好きって気持ちは

とっても大事な気持ちなの。

その気持ちを捨てないでね?」

「…?うんっ」

 

返事をしたアスカの頭を撫でたウェンディ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─そして現在─

 

「ナツ兄、今日も仕事?」

「おう、今日もセツナ達のことを

頼んだからな…ロメオ」

「任せとけって」

 

ナツはニッと笑って仕事に出掛けた。

 

「ロメオ」

「どうした?アスカ」

「最近、皆…私達に子守りを頼んでばかりだね」

「…仕方ないだろ?最近は俺達が一番

ここに居残る可能性が高いんだからな」

「…悪い事ばかりじゃないけどさ…。

その子守りのお陰で、

凄くあの子達に懐かれてるもの」

 

尊敬する人達のまだ幼い子供達に

二人はとても懐かれていた。

 

「…懐かれるのは嬉しい。

でも…あまり私情を交えた事はやりづらくなるな」

「ロメオ…」

 

そう言ったロメオの手をそっと握ったアスカ。

 

「…じゃあ、今日も皆と遊ぶか。

やれるな?アスカ」

「もちろん!…たまには私にも構ってね」

「…ああ、それは…分かってる…」

 

頬をポリポリとかいたロメオに

アスカは微笑んだのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─エドラス─

 

「ウェンディに報告よ」

「なに?グランディーネ」

「最近子守りをしているロメオとアスカは

時々ちょっと良い雰囲気になっている事が

あるみたいだったわ」

「…アスカちゃん、良かった…」

「何か入れ知恵してたの?ウェンディ」

「ああ、うん。こっちに来る前に…ちょっとね」

「ふぅん…?」

「好きって気持ちは大事にして、

捨てないでって言ったの」

「自分と重ねたのかしら?」

「…うん」

「貴女はよくここまで頑張ったわね」

「大好きで、会いたかったから…」

「…頑張ったわね、偉いわ。ウェンディ」

「ありがとう、グランディーネ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

オーガストの回想

 

僕は、父さんに口付けをされて

身篭った瞬間に死んでしまった母さんの

お腹の中でじっとしていた。

…それから暫くして、僕はプレヒトによって

取り上げられ、捨てられた。

 

…その後に色々あって、父さんと出逢えた。

僕は、父さんに名前を貰った。

父さんが母さんと過ごした月日を表す名前だった。

 

僕は笑って父さんと国作りを始めたんだ…。

 

─そして、現在─

 

「母さん」

「どうしました?オーガスト」

「僕を、抱き締めて下さい」

 

微笑んで、僕を抱きしめた母さん。

後ろから父さんが母さんの頭を撫でていた。

 

「オーガストはこれが大好きなんですね」

「…昔からの、夢だったので…母さんに…

一度だけでいい、抱き締めて欲しかった…」

「何度でも、こうしてあげますよ。オーガスト」

「…はい、嬉しいです。母さん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メスカチャ

 

ギルドから我が家に戻ったメスト。

 

「おかえりなさい、メストさん!」

「おかえり、パパ!」

「ププーン!」

 

カーチャとメリアとニコが出迎え、

メストは笑って

 

「ただいま」

 

そう言ってそれぞれの頭を撫でたが、

ニコにだけは躱され、鼻で手を刺されてしまい、

痛がるメスト。

 

「ダメだよ、ニコ」

「ニコ…」

「痛た…、か…歓迎してくれてるんだよな?」

「プン!」

 

力強く頷いたニコに苦笑いしたメスト。

 

「ご飯、もう出来てますよ」

「ああ、ありがとう。カーチャ」

 

そして家族でご飯を食べ、別々に風呂へ入り、

就寝の時間になったのでニコを星霊界に返した後

メリアをベッドで寝かしつけて

夜空を見ている二人。

 

「メストさん」

「どうした?」

「月が、綺麗ですね…」

 

そう言って振り向いた際に微笑んだカーチャ。

 

「…意味、分かって言ってるのか?」

「勿論です」

 

頬を染めて笑うカーチャを

メストは抱き締めた。

 

「暖かいです」

「カーチャ、俺も…君を…愛している」

「…はい、私も愛してますよ。メストさん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツとセツナの特訓

 

イグニアとの一件が発生した後日、

ナツはセツナに特訓を受けさせていた。

 

「パパぁ…疲れたよぉ…」

「父ちゃん達がいなくても、

セツナは自分の身を守れるようにだな…」

「…セツナ、パパみたいに

火を食べる事だけしかまだ出来ないよ…?」

「じゃあ、パパの火をちょっと貸してやる」

 

ナツから発生した炎を吸い込んだセツナ。

 

「…んくんく…」

「セツナ、今食べた火を

お腹に力を入れて吐き出してみろ」

「……は…っ」

 

小さな炎の咆哮が吐き出された。

 

「あ……出た…」

「よくやったな、セツナ!」

 

そう言ってセツナの頭を撫でるナツ。

 

「パパ…!」

「よし、今日はここまでだ」

「…うん、セツナ頑張るね」

「ああ、頑張れよ…セツナ」

 

ナツとセツナは家に着くまで

手を繋いで歩いていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

禁断の衣装部屋]

 

「ミスティ、ミスティ!」

「どうしたの?シリル」

「あのお部屋、入ってみよ?」

 

そう言ってシリルが指さしたのは

ウェンディの衣装部屋。

 

「…でも入っちゃダメって言われてるよね?」

「ダメって言われたら入りたくなるの!」

「それは…そうだけど…」

「入ろっ?」

「……パパ、ママ、ごめんね…うんっ!」

「やった♪」

 

衣装部屋の扉を開けて、中に入った二人。

 

『わぁ…!』

「お洋服がいっぱい…!」

「可愛い服もある…!」

「…着てみたいけど、大きいね」

「うん、ママのかな?」

「多分。この赤い服、いつか着てみたいな…」

 

赤ジャケット+スカートの組み合わせの服を見て

そう呟いたミスティ。

 

「きっとパパが買ってくれるよ!」

「うん、そうだと嬉しいな…」

 

そう話していた時、衣装部屋の扉が開いた。

 

『っ!!』

 

慌てて隠れた二人。

 

「あれ?開けた覚えがないのに…」

(ママの声!)

(うん)

 

キョロキョロと辺りを見渡すシリル。

子供用の服を見つけ、いそいそと着替える。

 

(何してるの…?)

(シリルに合いそうな気がするの)

(………)

 

軽く溜め息を吐いて、手伝うミスティ。

靴の音がやけに間近で響いた。

 

「…ミスティにシリル…?」

「ママ…」

「………」

 

マネキンの振りをしているシリル。

 

「…可愛いマネキンだね」

「う、うん…」

「ねぇ、ミスティ。シリルはどこかな…?」

「そ、それは…」

 

視線を右往左往させるミスティ。

その様子にウェンディは微笑んで

 

「シリル、そのお洋服…あげよっか?」

「ホント…!?…あっ」

 

シリルはしまった、という顔をした。

 

「二人共、お洋服に興味あるの?」

『うんっ』

「じゃあ…興味のある服を教えて?」

 

それぞれが指さした服を覚え、

微笑んだウェンディ。

 

「うん、わかったよ。パパに頼んでみようね」

『わぁいっ』

「…じゃ、部屋に戻ろうか」

『うんっ!』

 

娘達と手を繋いで、

ウェンディは衣装部屋を後にしたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グレジュビ

 

グレイが朝目覚めると、部屋は水浸しだった。

 

「ジュビア、また溶けたのか?」

「………」

 

返答は無い。

 

「ったく、する度に朝溶けるんじゃねぇよ…」

「………」

 

ピンポーン…

 

「ん、誰だ…?」

「俺だ」

 

瞬間移動で部屋に入って来たメスト。

 

「ドランバルトか、気をつけろよ」

「…?」

「その辺にジュビアが転がってる」

「は…??」

 

びしょ濡れの部屋を見て、

分からないと言うように困惑するメスト。

 

「誰にも言うんじゃねぇぞ」

「訳が分からなさすぎて誰にも言う気にならん…」

 

─そして後日─

 

お酒を飲んで酔っ払っている女性陣。

 

「ジュビアはですね!

グレイ様と夜を共にした翌日は何故か

びしょ濡れの部屋に倒れているのです!」

「…それ、溶けてるんじゃないの?」

 

カナが口を挟む。

 

「ジュビアは水ですからね〜♪」

「あはは…」

 

女性陣は笑って、ジュビアが

酒を飲み過ぎて溶けてしまわないように

それとなく宥めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ハピシャル

 

朝、先に目を覚ましたシャルルは

隣に寝ているハッピーを眺めていた。

 

「…むにゃむにゃ…お魚〜…」

「昨日はあんな風だったのに…

呑気な顔して寝てるわね…。

ハッピー、起きなさい…ハッピー?」

 

布団ごとハッピーを揺り動かして

起こそうとするシャルル。

 

「…うぅん……シャルル…?」

「起きた?」

「うん……おはよう、シャルル!」

 

笑顔でそう言ったハッピーに微笑んだシャルル。

 

「ええ、おはよう。ハッピー」

「えへへ…」

 

シャルルは人間態に変身し、

 

「ご飯作って来るわね」

 

そう言って台所へと消えた。

ハッピーも人間態(青髪の童顔の青年)に

変身して衣服を見に纏い、ベビーベッドに近付いた。

 

「おはよう、エリス!」

「う〜…」

「シャルル、もう少ししたら来るからね…

それまで待ってるんだぞ…」

「…う」

 

それから暫く経って、カンカンと

何かがぶつかる音が聞こえた。

 

「ご飯、出来たわよ」

「今日のご飯は何かな〜?」

「魚料理よ」

「わぁい!シャルル、大好き〜!」

「ふふ、本当に魚が好きね…ハッピーは」

「あい!」

「先に食べてて、エリスにご飯あげてくるから」

「あい」

 

エリスを連れて部屋の奥へと消えたシャルル。

魚料理を食べていくハッピー。

 

「シャルルの料理はすっごく美味しいなぁ…」

「…ありがと、ハッピー」

 

部屋の奥からシャルルの声が聞こえた。

 

「おいら、シャルルもエリスも大好きだよ?」

「そんなこと知ってるわよ、

…私も大好きよ、ハッピー」

「うん!」

 

それから少ししてエリスを連れて戻って来た

シャルルと楽しげに会話をしながら

エクスタリアでの朝は過ぎていった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ

 

ベッドで半裸で抱き合って

眠っていたナツとリサーナ。

 

「ナツ〜、リサーナ〜」

 

ハッピーが二人に触れて起こそうとする。

 

「…ん……ハッピー…か?」

「あい!」

 

先に起きたナツが未だ腕の中で眠っている

リサーナの頬をゆっくり横に引っ張った。

 

「リサーナ、起きろ〜…」

「んぅ……ニャ…ツ…?」

 

頬を引っ張られ、上手く喋れないリサーナ。

 

「おう、起きたか!」

 

リサーナの頬を元に戻したナツ。

 

「…うん、おはよう…ナツ」

「おはよう、リサーナ」

 

二人の間で和やかな雰囲気が漂う中…

 

「昨日は凄かったね!」

 

空気を読まずにそう発言したハッピー。

…雰囲気が何か音を立てて崩れた。

 

『ハッピー…?』

 

二人で頬を赤らめながらハッピーを呼ぶ。

 

「昨日はさ!ベッドも軋んでリサーナの声も…」

「言わないで、ハッピー…!」

 

真っ赤になって両手で顔を覆ったリサーナ。

 

「ちょ…っ、ハッピー、向こうに行くわよ!」

 

慌てた様子のシャルルに

ずるずると引っ張られていくハッピー。

 

「いやードラゴンはすごいねー」

「あんた何言ってんのよ…」

 

そこまで言ってシャルルは

 

(もしかして、ウェンディも…?)

 

そう思いながらもハッピーを

部屋の外まで引っ張っていった。

 

「…ハッピー達、行ったぞ」

「………」

 

頬を赤く染めたままのリサーナ。

 

「リサーナ」

「…なに…?」

「リサーナの作った飯が食いたい」

「…うん、わかった。準備してくるね…」

 

素早く下着と衣服を身に纏い、

リサーナは部屋を出て行こうとして

 

「ナツ」

「ん?」

「大好き」

「俺もだ」

 

お互いに愛を交わして離れたのだった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドシェリア+先輩

 

ウェンディとお揃いの赤のジャケット服と

スカートを着用して街を歩くシェリアは

 

「…シェリア?」

「!先輩…」

 

メイドの先輩と遭遇した。

 

「偶然ね」

「はい」

「ふぅん、今日はその服なんだ…」

「…?この服が何か…?」

「聞きたいの?」

「…はいっ」

 

先輩はシェリアの態度に少し笑って

 

「その服ね…王妃様がよく着てるの」

「…?最近はあまり着られてませんけど…?」

「それは当たり前よ、だって…

夜伽の後に部屋に散らばってるんだから」

「……よ、よと…っ」

 

先輩の発言に頬を染めたシェリア。

 

「そ、陛下と夜…運動会をする時にね…?」

「……っ…」

「きっとあの服は王妃様の勝負服なのよ…!」

 

その後も先輩と会話を続けたが、

シェリアにはあまり聞こえていなかった。

 

─自宅─

 

鏡の前に立っているシェリア。

 

「…王妃様、この服をそういう風に…」

 

ぼんやりとリオンの顔が頭に浮かんで来た。

 

「…まだ想いを伝えられてないじゃない…」

(でも多分まだ相手にされない気がする…)

 

そんな事を思いながらリオンを想って

ベッドに転がっている抱き枕を

ぎゅっと抱き締めて瞼を閉じた…。

 

「リオンさん…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

外は降り頻る雨。そんな雨の日の朝、

ベッドで半裸の状態でジェラールは起きた。

 

「…外は雨か…」

 

眠るウェンディの頬に口付けて

ベッドから離れようとすると…

 

ぎゅ…っ

 

ウェンディに腕を掴まれた。

 

「ウェンディ…?」

「…行かないで…独りにしないで…」

 

眉を下げて悲しそうな表情のウェンディ。

 

「どうかしたのか?」

「…雨は、あまり好きじゃないの…。

またジェラールが…いなくなる気がして…」

「…君との別れは雨の日だったな…」

「…うん、だから…今日は

離れないで…一緒にいて…?」

 

ジェラールは微笑んだ後、身体をベッドに戻した。

 

「ああ、どこにも行かないよ…。

もう二度と…君を置いて行ったりしない」

 

ウェンディを強く抱き寄せたジェラール。

 

「…嬉しい」

 

ウェンディは微笑んで、

暫くジェラールに身を委ねていた。

抱き合ったり、何度も顔に口付けたり、

その後胸板の上で瞼を閉じると、

心臓の鼓動が聞こえた。

 

(ちゃんと傍にいてくれる…あの頃、みたいに…)

 

共に旅をしていた幼い頃を思い出しながら

ウェンディは再び眠りについた。

 

「…もう二度と、離れたりなどしないからな…」

 

ジェラールはそう呟いて、

眠るウェンディの唇に口付けた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

クリスマス

 

─ウェンディがエドラスに行く前の妖精の尻尾─

 

妖精の尻尾メンバーは男性陣が大騒ぎし、

それぞれの女性メンバーはそれぞれの方法で

それとなく彼氏を宥めていた。

 

「皆さん、楽しそう…」

 

皆の様子を眺めて、そう呟いたウェンディ。

 

「ウェンディは混ざらないのかい?」

 

ウェンディにそう問いかけたカナ。

 

「私は……いいんです」

「…なんで?」

 

そう聞いてきたシャルルを撫でた。

 

「もしかして、ミス…」

「………」

 

沈黙に何かを悟ったシャルルは

 

「全く…いい加減次に進みなさいよね…」

「できないよ…」

 

沈んだ声で呟いたウェンディ。

 

「ウェンディ」

「…カナさん」

「無理に進む必要はないと思うよ」

「………」

「大切で…大好きな人だったんだろう?」

「…はい」

「なら、忘れる必要はないさ。

その思い出を胸に抱いて追い続ければ、きっと…」

「会える…でしょうか…?」

「私はそう思うよ。…ま、そんなこと言ってるから

上昇志向強くて将来有望なイケメン逃すんだよ」

 

ウェンディの頭をポンポンと叩いて、

カナは酒瓶の蓋を開けた。

 

「…ミストガン…」

「まぁ、あんたの場合…

本当に白馬の王子様だったからなぁ…」

 

カナはそう呟いて、酒を飲み始めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─現在・エドラス─

 

外に降る雪を眺めているウェンディ。

 

「雪だな」

 

短く呟いたジェラール。

 

「あのね…昔からジェラールと…

雪を見てみたかったの」

「君と旅をしていた頃は夏だったしな」

「うん、ホワイトクリスマスだね」

 

ジェラールはウェンディを抱き締めた。

 

「…愛している」

「私もだよ、ジェラール」

 

─夜─

 

一家で団欒していると、クリスマスケーキと

七面鳥の丸焼きが運ばれてきた。

 

「わぁ…!」

『美味しそう…!』

「今日はクリスマスだからな、存分に食べてくれ」

『うんっ!』

 

七面鳥の丸焼きを切り分け、

それぞれの皿に乗せてから食べていく。

 

「美味しいわね…」

「美味しいよ、ジェラール!」

 

義母と妻の反応にジェラールは笑顔になった。

 

『もぐもぐ…』

 

笑顔で丸焼きを頬張るミスティとシリル。

和やかな雰囲気で丸焼きを食べ終わった後、

クリスマスケーキを切り分け、皆で食べたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

荒れるミラジェーン

 

─ウェンディがエドラスに行く前─

 

ミラジェーンは荒れていた。

 

『姉ちゃん、俺…エバと結婚することにしたよ』

 

本来なら喜ばしい筈の弟の発言に何も言えず、

ミラはヤケ酒をしていた…。

 

「み、ミラ…」

「…何かしら、エルザ…」

 

地の底から響くかのような

ドスの効いた声で喋るミラ。

 

「っ…エルフマンが選んだんだ、

祝福してやらないのか…?」

「エルザに私の何が分かるの…?」

 

先程と変わらない声色で話し続けるミラに

エルザは…というか

最強メンバー&ウェンディは引いていた。

…結果、大半のメンバーが

ギルドから離れたのである。

そしてカナとラクサスが残り、慰める羽目になった。

 

「ラクサス、俺もミラジェーンを…」

 

フリードが進言するのを

 

「死に急ぐな、フリード」

 

そう言って力強く止め、その場を離れる事になった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

暫く経って、やっぱり心配になったらしい

フリードとウェンディとシャルルがギルドに戻り、

ミラの元へ行くと、そこには…

ボロボロになったラクサスと、

酔い潰れて眠るミラと、

酔っ払ったカナの姿があった。

 

「…ビッグスロー、いるか?」

「おう、いるぜ。

ラクサスを帰らせるんだよな?」

「そうだ、頼んだぞ。俺はミラジェーンを」

「じゃあ私はカナさんを運びますね」

 

それぞれ別の方向を目指して夜道を歩く。

 

「……まったくミラの奴…」

 

ウェンディは苦笑いをした。

 

「…でも、ま…アンタが誰かと

結婚することになったら

今回以上に大騒ぎだろうね…」

 

そう呟いた直後、背中の重みが増した。

 

「…そうだと、嬉しいですね…」

 

ウェンディははにかんで、雪を踏み締めながら

カナの家まで夜道を歩き続けた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

孤児院シスター

 

─ウェンディがエドラスに行く前─

 

「カナ」

「なんだい?親父」

 

父に話し掛けられたカナは振り向いた。

 

「孤児院での調子はどうだ?」

「ん……まぁ、いい感じなんじゃないかな。

ウェンディとシェリアも

色々と手伝ってくれるしね」

「ほう…」

「だから、心配しないでいいよ」

「頑張れよ」

「じゃ、行ってくるからね」

 

カナを見送ったギルダーツ。

傍を通りかかったミラジェーンが

 

「勿体ないわね、あんなにいい子なのに…」

 

そう呟いた。

 

「…あいつも孤児院にいたから返したいんだろうな」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─孤児院─

 

「というわけで、ウェンディにシェリア、

シスター服に着替えてくれたかい?」

「はい、カナさん」

「シスター服も可愛いね」

「シャルルも着替えるかい?」

「え、いや、私は…」

「3人で頑張ろう、シャルル?」

「っ……」

 

青のシスター服を貰って、人間態に変身し、

着替えたシャルル。

 

「なんで私まで…」

「あははっ、似合ってるよ!シャルル」

 

3人でシスター服を着て、

カナを手続い、子供達と話をしたり…

遊んだりして時は過ぎていった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「カナさん、お疲れ様です」

「うん、今日もありがとう。助かったよ」

「また是非呼んでね。愛を教えるって楽しい…」

「私は、ちょっと疲れたわ…」

「じゃあ、私はもう少しやることやってから

戻るから、もう3人は帰ってていいよ」

『はい、ありがとうございました!』

 

孤児院にカナを残して、

3人はギルドへの道を歩いていった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

決められた量の仕事を終え、

今日子供達とウェンディ達を撮った

写真を眺めるカナ。

 

「様になってるねぇ、流石は天空シスターズ」

 

青服のシスター服を身にまとい、

子供達に笑顔で応対している姿は

とても煌びやかに見えた。

 

「子供達もあんたらの事が好きだって言ってたよ。

今度、聞かせてやるとするか!

さて、私もギルドに帰らないとね…」

 

カナは立ち上がり、写真を大事そうに

バッグに入れて、孤児院のドアを開けて

大好きなギルドへと戻ったのだった…。



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色々まとめ その2

色々まとめの続きです。


ミスティとウェンディ

 

剣の稽古から部屋に戻って来たミスティ。

 

「おかえり、ミスティ」

「ただいまぁ…今日も頑張ったよ」

「お疲れ様、お風呂…ママと入ろっか?」

「うんっ」

 

─お風呂─

 

ミスティの体の所々に

痣がついているのを見つけたウェンディ。

 

「痣、痛くない…?」

「稽古だから、平気だよ」

 

そう言って笑ったミスティの頭を

撫で回した後、小さな体を抱き締めた。

 

─夜─

 

眠りについたミスティの体のあちこちに

治癒魔法をかけた後、ウェンディは話し出した。

 

「そういえば、

グランディーネの修行もハードだったね」

「…そうね」

 

そう言って、母と笑いながら話し合った…。

 

 

その一方、ドランは修行中のミスティに

付けられたたんこぶや青あざによって

その日は友人達に散々からかわれていたという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

妖精の尻尾の新年会

 

─夢の中─

 

「おう、来たか!ミストガンにウェンディ」

「ナツさん!皆さん!」

「妖精の尻尾勢揃いか」

「皆で新年会したいなぁって思って…

夢の中でならウェンディ達にも会えるから

皆に言って来ちゃった」

「ルーシィさん…」

「新年会といえば隠し芸、

という訳でやるぞ!ガキ共」

「…マスターも本当に元気そうだな」

 

ミストガンが安心したようにそう呟いた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「開け、金牛宮の扉…タウロス!

からの…タウロスフォーム!」

 

タウロスフォームの

ルーシィをじっと眺めているロキ。

 

「…ロキさんからしてみたら、

これってNTRなんじゃ…?」

 

小さな声でそう呟いたウェンディ。

 

「ねぇねぇ、ウェンディ!」

「どうしたの?シェリア」

「天空シスターズ、またやろうよ!」

「い、いいけど…」

「やった♪」

 

出て来ていたホロロギウムが

 

「お洋服は此方です」

 

天空シスターズの衣装を出した。

それを身にまとってマイクを手に取った二人。

 

『滅LOVE♪滅LOVE♪フォーエバー♪』

「フォーエバー!」

『恋する気持ちも♪明日の天気も♪』

「フォーエバー!」

 

歌で盛り上がる中、酔ったカナが酒を飲みながら

 

「いいねぇ、人妻シスターズ」

 

そう呟いてロメオが少し赤面していた。

 

「…全く、お互い苦労するな」

「君は…」

「リオンだ、グレイの兄弟子で

そこで歌っているシェリアとは付き合っている」

「…そうか、…ウェンディは本当に愛らしいな」

「シェリアも負けてないがな」

 

二人の間でバチバチと火花が散った。

 

「シェリアは疲れた俺を癒してくれる」

「ウェンディもそうだな」

「…未だに過去について何も言えない俺に

何も言わずに着いて来てくれている」

「………」

「俺はそんなシェリアを愛している」

「ああ、俺もウェンディを愛している」

 

言い合った後、握手を交わした二人。

その後は暫くの間皆で

天空シスターズライブを眺めていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

化猫の宿の話を家族にするウェンディ

 

ウェンディは家族に化猫の宿の話をしていた。

 

「私はね、昔…パパに化猫の宿という

ギルドに預けられたの。そこで色んな事を

教わって…それから7年間楽しく過ごしてたんだ」

『化猫の宿…』

「でも…そこにいた筈の仲間達はマスターであった

ローバウルおじいちゃんが作った意思のある幻で…

それが明かされた日にマスターも

化猫の宿も消滅して…

私は妖精の尻尾に移る事になったの」

『幻…?』

 

愛娘二人が揃って首を傾げた。

 

「本当はそこに無いもの…かな?

…でも、皆…本当に優しかったの…」

 

思い出して涙ぐんだウェンディを

抱き寄せたジェラール。

 

「あの時の老人は君のためだけに

その無数の幻を維持し続けたんだな」

「…うん、皆のこと…マスターのこと…

今でも大好きなんだ…。大切な、思い出だから」

「…ウェンディ、大丈夫よ。

もう私は貴女の前から姿を消さないわ」

「…ありがとう、グランディーネ…大好き」

 

ウェンディはそう言って、母に擦り寄った。

 

「ウェンディ…愛しているわ」

「うん、私も」

 

グランディーネは微笑んで、ウェンディを撫でていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディの見た夢

 

「…さん、お母さん…」

「っ…?」

 

ウェンディが瞼を開けると、青色の髪の少女が

自分を起こそうとしていた。

 

「………?」

「…どうかした?お母さん」

「…ミス…ティ?」

「…?そうだけど、熱でもある?」

 

そう言って額に触れて来る

成長したように見えるミスティ。

 

「………」

「うん、熱はないね。…変なお母さん」

「最近お母さんはいつもお父さんに

構っているから疲れてるんだよ〜」

 

別方向から聞こえた声に振り返った。

そこにはピンク髪の少女がいた。

 

「…シリル」

「お母さん、昨日ミスティがドランと

喧嘩したんだって〜」

「ちょっ…!それ、

言わないって約束したでしょ…!?」

 

怒るミスティに口笛を吹きながら

受け流すシリル。

 

「…ドラン君と?」

「最近、仲良くしてるみたいだよ?」

「っ……!」

「おめでとう、ミスティ」

「…言わないでって言っておいたのに…」

 

そう言っていじけるミスティ。

そんな会話をしていると、ドアが開いた。

 

「ただいま、母さんに姉さん」

 

入って来たのは青色の髪の少年。

 

「…クリス?」

「母さん、どうしたの?」

「…なんでもないよ」

「クリス、今日の成果は?」

「今日もそんなに成果は出てないよ、

魔力復活は遠い道のりだから」

「…そっか、お疲れ様。クリス」

「うん、ありがとう。ミスティ姉さん」

 

そんな会話を遠い気持ちで

聞いていたウェンディは混乱していた。

 

(ミスティにシリルにクリス…

あんなに大きかったかな…?

というか、ここ…本当に私の知ってる所かな…!?)

 

そう思い、頭がぐちゃぐちゃになって来た所で

ぷっつりと意識が切れた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「おはよう、ウェンディ。…どうかしたか?」

「…おはよう、ジェラール」

 

瞼を開けると大切な人の顔と

まだ幼い娘達と息子の姿を捉えて、

ウェンディはほっとしたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

─これは、ずっと先の未来の話─

 

熟年夫婦となったジェラールとウェンディは

のんびりと過ごしていた。

クリスも巣立ち、部屋に二人きりで…。

 

「ジェラール、仕事お疲れ様」

 

ジェラールの長くなった髪を漉きながら

膝枕をしているウェンディ。

 

「…ああ、ウェンディ…」

「どうかした?」

「今日、一緒に寝るか?」

「いつも一緒に寝てるでしょ…?」

「そういう意味ではないよ」

 

ジェラールの返答にウェンディは

少し躊躇って、そして頷いた。

 

「うん…」

「そうか、それは良かった」

 

ウェンディの手に口付けて、ジェラールは微笑んだ。

 

コンコン…

 

「入るわよ」

 

部屋に入って来たのはグランディーネ。

 

「グランディーネ!」

「義母上」

「あら…お邪魔だったかしら…?」

「ううん、今日もこっちに来たんだね」

「ええ、貴女もいるし…

こっちの世界も気に入ってしまってね」

「それは何よりです」

「…ウェンディ、愛しているわ」

「私もだよ、グランディーネ」

 

グランディーネが自分の部屋に戻っていき、

そのまま夜までのんびりと過ごした…。

そして暫く経って医者に体を診せたところ、

ウェンディの妊娠が発覚した。

 

「母さん、父さん、おめでとう」

「おめでとう、でも相続とか

後継者問題とか大変だね…?」

「男の子?女の子?」

 

ミスティ、シリル、クリスが口々に話す。

 

「女の子だよ」

 

そう言ってお腹を撫でるウェンディ。

 

「妹なんだね」

「私の妹かぁ…」

「結構年齢が離れた妹か…」

「生まれて来たら、仲良くやってくれ。

…悪いことは教えるんじゃないぞ?」

 

ジェラールの言葉に

異口同音に子供達は返事をしたのだった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

夜にジェラールが帰って来ると、

何故かウェンディは子供の頃の姿をしていた。

 

「おかえり、ジェラール!」

「…ウェンディ?」

「ミラさんに教わってた変身魔法を使ったの」

「…ミラジェーンに…?」

「ジェラール、私に何かして欲しい事とかある?」

「では…ビキニに着替えてくれるか?」

「………何も、しないよね…?」

「もちろんだ」

「それなら…うん、着替えてくるね」

 

黒のビキニを着て首には首輪をして

戻ってきたウェンディ。

 

「ただいま、ジェラール」

「…ウェンディ」

「なに?」

 

ジェラールにベッドに押し倒されたウェンディ。

 

「………」

「何もしないって約束だったよね…?」

「…ああ、何もしないよ」

 

そう呟いた後、ウェンディに頬擦りして

ギューッと抱き締めたまま瞼を閉じた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─朝─

 

「…っ……」

 

魔法が解けて昨晩のことを思い出し、

顔を真っ赤にしているウェンディ。

 

「………」

 

無言で佇んでいるグランディーネ。

 

「…ウェンディ…?…義母上」

 

少し寝惚けた様子で起き上がったジェラール。

 

「ウェンディは本当に愛らしいですね」

「それで子供の格好させて

アレコレしたのかしらねぇ…?」

「いえ、抱き締めて寝ただけです」

 

無言でグランディーネが口を開けた。

…咆哮が放たれ、壁にめり込んだジェラール。

その後グランディーネはアースランドに渡り、

メイビスとアイリーンにこのことを

愚痴ったのは、また別の話である…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

リオシェリ

 

朝、シェリアはベッドで目覚めた。

リオンは隣で未だに眠っている。

…自分の姿を確認すると、半裸の状態だった。

ふと、床に散乱した服や下着を見て

昨晩のことを思い出して赤面するシェリア。

 

「アタシ、昨日リオンと…」

「…どうかしたか?シェリア」

「っ…!り、リオン!」

「体が痛むのか?」

「ん〜…、大丈夫。そんなに痛くないから」

「そうか、それは良かった…」

「………」

「………」

 

無言で見つめ合う二人。

 

「…ご飯、作ってくるね」

「ああ、…シェリア」

「なに?」

「あとで話したい事がある」

「わかった。…愛してるよ、リオン」

「…俺もだ、シェリア」

 

寝室へと続くドアを閉めて、

シェリアは顔を真っ赤にしている。

 

(昨日リオンと…ひとつになっちゃった…!

憧れていた事ではあったけど、

すごく…恥ずかしかった…!

でも、勝負服で行けって助言してくれた

ウェンディ、ありがとう…!

……幸せ、だなぁ…)

 

緩み切った顔でシェリアは

キッチンに立ったのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

とある日のミスウェン一家の朝食

 

コックにより朝食が運ばれて来て

食事の席に付いた一同。

 

メニューはトマト、肉、キノコ、ソーセージを

炒めたものと、目玉焼きとスープだった。

 

「うぅ…トマト嫌い…」

 

トマトを目にして呟くシリルと、

無言で我慢して真っ先にトマトを食べるミスティ。

 

「シリル、目を閉じて食べてみたら?」

「…う、うん…」

 

トマトを口の前に持って来て、

目を閉じて食べるシリル。

 

「…ジェラール」

「どうかしましたか?義母う…」

 

グランディーネに呼ばれて、そちらを向いた

ジェラールの目の前でソーセージの間のトマトを

思い切りフォークで刺した。

 

「………」

 

僅かに顔を顰めたジェラール。

 

「昨日は、凄かったわね?」

 

そう言って刺したトマトを食べたグランディーネ。

…その後何でもない会話をしながら

食卓は賑わっていたという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミストガンとゼレフ

 

─夢の中─

 

「こんにちは、ウェンディ」

「初代!」

「そちらでのことは

グランディーネさんから色々と聞いていますよ」

「…は、はい…」

 

ウェンディと一緒に来ていたミストガン。

 

(彼女が初代妖精の尻尾のマスターか。

…本当に、幼子の姿なんだな…)

「多分、初めまして…になるのかな?

並行世界のエドラスの王」

「貴方は…?」

 

話しかけて来た黒髪の青年。

 

「僕はゼレフ、ナツの兄でメイビスの夫で…

アルバレスという国の王をしている」

「貴方も国王か…」

「王としての話でもするかい?」

「…そうだな」

 

少しの間、国王としての会談をした後、

それぞれの妻を見遣る。

 

「…貴方の妻は一生あの姿なのか?」

「僕らはもう一生成長しないから、

姿は変わらないよ。…死ぬことすらない」

「不老不死なのか…?」

「そう、アンクセラム神の呪いにかかってね。

でも、そのお陰で一生一緒に居続けられる」

「…辛くはないのか?」

「辛くはないよ、愛する者と

一緒に居られるのは幸福だからね」

「…そう、か…」

「君は…妻は大事かい?」

「当然だ」

「…ウェンディはナツを慕ってくれている、

ついでに兄の僕のことも慕っている」

「………」

「嫉妬しないのかい?」

「そういうのは嫉妬に値しない」

「そうか、…僕はメイビスがとても愛おしい」

「俺もウェンディが愛おしい」

「お互い、頑張ろうか。色々とね…」

「ああ」

 

「ゼレフ!」

「ジェラール」

 

妻に名を呼ばれて、二人は妻の元へ歩き出した…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミストガンの生誕祭

 

今日はジェラールの生誕祭。

生誕記念の挨拶を済ませ、

豪華なパーティが行われている。

ミスティとシリルもドレスを着て

それに参加(クリスは留守番)。

 

「これ、美味しい!」

「うん!」

「ミスティ、シリル。

王族として振る舞うようにね…」

「ん?うん…?」

「振る舞う…?」

(まだ分からないか…)

「…パパ、忙しそうだね」

「パパはお仕事、沢山あるからね…」

 

忙しそうに職務に励むジェラールを眺めて

ウェンディ達はパーティを楽しんだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夜、職務を全て終わらせて帰って来たジェラール。

 

「…俺は疲れた、明日は休みにする…」

「いいの…?」

「生誕祭だったんだ、

それ位の我儘は許されるだろう…」

「じゃあ、明日どこか連れてって〜!」

 

そう子供達にせがまれたため、

ウェンディがジェラールに回復魔法をかけた。

 

「…ありがとう、大分楽になった」

「どういたしまして。…明日も頑張ろうね」

「ああ…おやすみ、ウェンディ」

 

ウェンディに口付けて、ジェラールは横になった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ガジルとローグ

 

剣咬の虎のメンバーは

妖精の尻尾に遊びに来ていた。

ナツと楽しげに話すスティング。

ルーシィと話すユキノ。

エルザと話すミネルバ。

そしてガジルと話すローグ。

 

「…火竜やウェンディは

夜は過激みてぇで信じらんねぇ…。

俺らはまともだよなぁ?ライオス」

「ローグだ、…俺はリードしてもらう方が好みだ」

「…ライオス?」

「お嬢は可愛い、

恥ずかしがりながらも…俺に…」

「…お前もそっち側かよ…」

「ミネルバのご飯、美味しいよ〜?」

「フロッシュ」

「ローグ、ミネルバとご飯食べるの。

フローも一緒に食べるの。

すごく美味しいの〜」

「ほぉほぉ、まるで家族みてぇだなぁ?」

 

ガジルの発言に頬を染めるローグ。

 

「お、お前こそどうなんだ!ガジル」

「あ?レビィ達のことか?

あいつらに何があっても守り抜く」

「…愛しているのか?」

「ギヒッ、当然だろ」

「………」

「お前こそ、大切なら守れよ」

「当たり前だ、お嬢は…俺の…」

「分かってんなら、いい」

「…感謝する、ガジル」

「ギヒッ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ダンとソラノ

 

ソラノが今いるのは草原、

そこで何故かソラノは手を叩いていた。

 

パン!パンパン!

 

「あいつ…来ないゾ。

折角私が呼んでやってるのに…!」

 

怒りに震えながら地団駄を踏んでいると、

遠くから凄まじい勢いで何かが迫ってきた。

 

「そ、ソラノたーん…!」

 

ソラノはやって来たダンを見下した。

 

「すぅ…ソラノたん!会いたかったぜよー!」

 

そう言ってソラノを強く抱き締めたダン。

 

「ちょ…っ!?何してるんだゾ!」

「ソラノたん、大好きぜよ〜」

「だ、ダン…」

 

頬を染めたソラノはダンの背中に

腕を伸ばして抱き合う状態になった。

 

「相思相愛き!」

「う、うるさいゾ…!」

 

ソラノは顔を耳まで真っ赤に染めて、

ダンと暫くの間抱き合っていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

プレゼントと好きな理由(ミスウェン)

 

部屋でのんびりしている時、ウェンディが

ラッピングされた包みをミスティに渡した。

 

「…?これ、なに?」

「パパとママからのプレゼントだよ」

「っ!開けていい?」

「もちろん」

 

ミスティが包みを開けると、

出てきたのは衣装部屋で見た

赤ジャケット服と黒のロングスカートだった。

 

「わぁいっ!これ、欲しかったの…!」

「喜んでくれて良かった…」

「…でも、スカートは短い方が良かったな…」

「駄目だ、今は寒いからな」

「やだやだ〜!」

「ちゃんと短いスカートも用意するから、

タイツを履けば平気でしょ?ジェラール」

「……まぁ、いいだろう」

「やったー!」

 

喜ぶミスティの頭を撫でたウェンディ。

…その日の夜、すやすやと眠る子供達を撫でて

ベッドに寝ているウェンディとジェラール。

 

「どうしてミニスカには反対なの?」

「………」

「ジェラール…?」

「俺はあの衣装のことをある記録映像で知った」

「…記録映像?」

「…君が、王国軍に捕まった時に

バイロが撮った映像だったらしい」

「………」

「君にあの衣装はよく似合う。

…が、あの衣装を見る度に

たまに記録映像のことが頭にチラつく」

「…大丈夫だよ、ジェラール。

もうあんなことにはならないから」

 

そう言って、ウェンディは

ジェラールの手を握った。

 

「それは分かってはいるが…」

「ミスティも、あんなことにはならないよ」

「…そう、だな。俺がそんなことさせない」

「でしょ?」

「ああ」

「…ミスティがあの衣装を着ても

何も言わないであげてね…?」

「…ああ、分かった」

「話してくれて、ありがとう」

「…ウェンディ」

「大好きだよ?」

「俺もだ」

 

そう愛を囁き合って、瞼を閉じた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夢の中でピザパーティー

 

─夢の中─

 

ミストガンとウェンディが訪れると、

そこはピザパーティーが行われていた。

 

「わぁ…!」

「お、ミストガン達も来たか!」

「ナツ、これは…?」

「今日、海行ってタコ獲れたからな…。

どうせなら夢でピザパーティーでもと思ってな」

「ジュビアが獲ったんですよ?」

「ありがとうございます、ジュビアさん」

「俺は持ってるタコごと

抱きつかれて大変だったけどな…」

 

そう言って苦笑いするグレイ。

 

「じゃ、作るか!」

「そうだな」

 

ピザ作りに取り掛かった妖精の尻尾一同。

ガヤガヤしながら、ピザを作り、焼いて…

ジェノバソースとタコのピザが完成した。

 

「上手く出来たな!」

「ああ」

「美味しそう…!」

「食うぞー!」

 

ピザをそれぞれ切り分け、口に運ぶ。

 

「…美味しい…!」

「美味いな」

「喜んで貰えて良かったぁ、

…また、皆でこういうことやれるといいね」

「そうだね、ルーシィ」

「今度は、あの子達も連れて来れるといいな…」

「セツナ達のことか、

もっとウェンディ達のことを教えてやらないとな」

「多分だけど互いに認識できてないと

ここに来れない気がするしね」

「ミストガン、ミスティ達に

もっと妖精の尻尾のことを話してみよう?」

「ああ、そうだな」

 

子供達も此処に来れるよう考えながら

暫く賑やかなピザパーティーは続いていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

初めての文通

 

パパとママが最近私とシリルに

アースランドの話を沢山聞かせてくれる。

…今日は聞かせてくれるだけじゃなくて

映像ラクリマ?っていうものを見せてくれた。

そこには、パパとママのお友達っていう人達や

沢山の子供達がいた。

 

「わぁ…!」

「いっぱい…!」

 

その中で私が気になった子が

どこか私に似てる気がする

メリアっていう女の子だった。

なんだか可愛いのを抱いてた。

 

「おばあちゃん、私…手紙書くね!」

「あらあら、誰か気に入った子がいたの?」

「うんっ」

 

私は机に向かって一生懸命手紙を書いた。

暫く経って手紙を書き終わって

シールを貼って封をした。

 

「メリアちゃんって子に届けてね!」

「わかったわ、ミスティ」

 

おばあちゃんはアースランドに向かったみたい。

メリアちゃん…お返事してくれるかな…?

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─アースランド・妖精の尻尾─

 

メリアはエドラスで撮られたっていう

映像魔水晶を見せてもらった後、

ニコを呼び出して遊んでたの。

 

「ミスティって子、少しメリアに似てたね…ニコ」

「ぷぷーん?」

「似てたよ〜?」

 

「…失礼するわね、メリア」

「グランディーネさん…?」

「貴女にお手紙よ」

「メリアに…?あ、ミスティって書いてある」

「そう、ミスティから貴女への手紙よ」

「…開けていい?」

「もちろん」

 

封を開けて、手紙を読む。

 

『メリアちゃんへ

はじめまして、今日映像ラクリマを見ました。

そこには色んな子達がいたけど、

私はなんでかメリアちゃんだけが気になりました。

とりあえず…抱えてる

その可愛い子の名前はなんて言うの?

お返事下さい、待ってます。

…なんでメリアちゃんだけ気になるのかなぁ?

ミスティより』

 

メリアは紙とペンを持って、お返事を書いた。

 

『ミスティちゃんへ

はじめまして、メリアっていいます。

私がずっと抱っこしている子の名前はニコです。

私の可愛いお友達です。

メリアもミスティちゃんがなんでか気になったよ。

なんでなんだろうね?

そういえば、時々メリアのパパ達が

ミスティちゃんのママ達と夢で会うって言うよ。

…いつかメリアとミスティちゃんも

夢で会えるといいよね。

メリアより』

 

「これ、ミスティちゃんにお願いします」

「わかったわ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─エドラス─

 

「ミスティ」

「あ、おばあちゃん!渡して来てくれたの?」

「ええ、手紙を預かったわ」

「え?もう…?」

「せっかくだから読んだら?」

「うんっ!」

 

私は手紙を読んだ。

 

「ニコっていうんだね、

夢…そこでならメリアちゃんに会えるのかな…?」

 

私はその日の夜、手紙を枕元に置いて寝た。

 

─いつかメリアちゃんと夢で会えますように…─

 

*~*~*~*~*~*~*

 

梅干しが嫌いなミスティとシリル

 

今日の朝食は複数の種類のおにぎりだった。

梅干しのおにぎりにそれぞれ当たり、

嫌そうな顔をするミスティとシリル。

 

『梅干し、嫌い…』

「好き嫌いしちゃ駄目だよ、二人共…」

『ママだって梅干し嫌いでしょー!』

 

声を揃えて反論するミスティとシリル。

 

「………」

 

その後は無言で匂いで

梅干し入りおにぎりを避ける母娘三人。

 

「あまり匂いをかぐものじゃないわよ…」

 

溜め息を吐いて、梅干しおにぎりと

それ以外に分けたグランディーネ。

 

「む〜…」

 

まだ疑っている様子のシリル。

 

「…パパが全部食べようか?」

「でもシリルはおかかが食べたいの!」

「…2つある筈だから分け合って食べなさい」

「シリルがおかか2つ食べる〜!」

「じゃあツナマヨ2つは私が食べるね〜!」

「…おかかひとつで我慢する…」

 

娘達のやり取りをジェラールとウェンディは

微笑ましそうに眺めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

嫁について語り合うミストガンとガジル

 

─夢の中─

 

「よう、ミストガン」

「ガジルか、…レビィは一緒ではないのか?」

「…今日はあいつはいねぇよ」

「そうか」

 

とりあえず椅子に座って話すミストガンとガジル。

 

「…お前は自分の嫁が

背中剥き出しなのを見てどう思う?」

「…とても、いいとは思うが…

そういう姿はあまり人に見せたくはないな」

「そうか…?」

「ああ」

「そういえば昔まだヤジェとシュトラが

赤子だった頃に小むす…ウェンディが

レビィにニルビットのワンピースを

勧めたことがあってな…」

「…ああ(あのワンピースのことか…)」

「当時の俺の頭ん中には

そっち方面のことしか浮かばなかったぜ…」

「そうか、…そういうこともさせやすいしな。

恐らくウェンディは育児が少しでも

楽になるようにという思いからだったんだろうが」

「だろうな…、そして俺は

レビィにそのことを言った結果…

変態と言われて数日間まともに

口を聞いて貰えなかった」

「まぁ…正直に言えば、そうもなるだろう」

「お前は嫁の服の趣味について、

どう思ってるんだ?」

「…可愛らしいとは思っている、が…

元はといえば俺が脱がすために

全部用意したものだからな…」

 

その言葉に絶句したガジル。

 

「…どうした?」

「お前も大概変態なんだな…」

「…そうかもな」

 

ミストガンは微笑んで、頷いたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グランディーネとバイロ

 

赤ジャケット服とスカートを着たミスティが

自慢するようにくるくると回っている。

グランディーネが微笑んで、それを眺めていると

部屋にバイロが入って来た。

 

「…陛下はおられぬようですね?」

「今日はここにはいないわ」

「そうですか、…それはそれは…」

「何か用があったのかしら?」

「陛下にお話が御座いまして…、

それとは別に貴女様にも少し聞きたいことが…」

「何かしら?」

「王妃様は魔力を持たれているでしょう?」

「ウェンディ達に何かするつもり…?」

 

バイロを鋭く睨んだグランディーネ。

 

「いえ、ただ…持たれているなら出来るだけ

魔力を外に放出して欲しいのです。

…貴女様も、持たれてますよね…?」

「…その程度でいいのなら、いくらでもするわ」

「ぐしゅしゅしゅ…

では、よろしくお願い致しますね」

 

そう言ってバイロは部屋を出て行った。

 

「…彼は悪人ではないようだけど、

よく分からないわ…」

 

グランディーネは溜め息を吐いて、

ミスティを愛で始めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ツインテールにしてみたいミスティとシリル

 

グランディーネがアースランドから

持って来たウェンディの写真を眺めている

ミスティとシリル。

 

「昔のママ、可愛いね」

「うん、髪型も色々あるね」

「…よく見るツインテール?っていう髪型、

私達もしてみたいね…」

「でもシリル達の髪、こんなに長くないよ…?」

「短くても、多分できる気がする…」

 

赤ジャケット服とロングスカートを着ている

ミスティはヘアゴムを4つ持って来て、

必死に髪を結ぼうとしたが上手くいかない…。

 

「む〜…!」

「どうしたの?ミスティにシリル」

「あ、ママ!ミスティがね、

髪をツインテールしてみたいって!」

「…髪が短いから、

写真みたいにはならないと思うけど、

ママがやってあげる」

「本当?」

「うん、ちょっとじっとしててね」

「うんっ!」

 

ミスティの髪をヘアゴムで周辺の髪をまとめて

小さなツインテールを作ったウェンディ。

 

「ツインテール…!」

「ミスティ、可愛い…!」

 

「失礼します、王妃様」

 

部屋に入って来たシェリア。

 

「あ、シェリアお姉ちゃん!見て見て〜!」

「ミスティ様、可愛いですね」

「私もシェリアお姉ちゃんみたいに

これから髪を伸ばすの!」

「ミスティ、ツインテールが

気に入ったみたいだね」

「そうですね、…あの…王妃様」

「どうかした?シェリア」

「あの…ミスティ様が着られている…

お洋服なんですが…」

 

語尾に向かう毎に小さな声になっていくシェリア。

 

「…?シェリア?」

「…い、いえ…やっぱり何でもありません…!」

 

首を傾げたウェンディと

赤面して部屋を出て行ったシェリア。

 

「シェリア、何の用だったんだろう…?

ミスティにシリル、もう少し大きくなったら

ママが昔使ってたものをプレゼントしてあげる」

『わ〜いっ!』

 

愛娘二人の頭を撫でて、ウェンディは微笑んだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン・コブキナ

 

─エドラス─

 

「ウェンディ」

「どうかした?ジェラール」

「今日は何の日か分かるか?」

「ホワイトデー」

「ああ、ということでプレゼントだ」

 

プレゼントされたのは

薔薇の飾りの付いたティアラだった。

 

「これ、私に…?」

「ああ」

「ありがとう、大切にするね。ジェラール」

 

微笑んだウェンディを抱き寄せた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─アースランド・コブラ達の家─

 

「キナナ」

「どうかしたの?エリック」

「お前にプレゼントだ」

 

後ろに隠していた薔薇の花束を出したコブラ。

 

「わ…ありがとう」

「いつかみたいに鈴蘭でも良かったんだが…

サイモンのことを考えるとな」

「ふふ、そうだね。大好きだよ?」

「俺もだ、キナナ」

(パパ達、またイチャついてる…)

 

サイモンはそう思いながら、

遠い目をしていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスに行く前のウェンディ

 

「エルザ」

 

カナに呼び止められ、振り返ったエルザ。

 

「どうした、カナ」

「エルザの今後のために

こんな本があるんだけど…」

 

1冊の本をエルザに渡したカナ。

 

「…?」

 

表紙を見て訝しげにしながらも

本を1ページめくり、赤面したエルザ。

 

「か、過激過ぎる…!」

 

そう言って本を地面に放り投げ、去ったエルザ。

…偶然、その本を拾ったウェンディ。

 

「…?この本は…?」

「ウェンディかい、いやね…エルザに

その本を貸そうとしたんだけど断られちゃってねぇ」

「はぁ…」

「折角だからウェンディに貸してあげるよ」

「いいんですか…?」

「それで今後の勉強をするといいさ」

「はいっ!」

 

─夜─

 

食事を終えて、カナから借りた本を

読んでみたウェンディ。

 

「っ……!?」

 

描かれている内容に赤面しながらも

震える手でページを進めていった…。

 

─翌日・妖精の尻尾─

 

「か、カナさん…」

「ウェンディ…どうだった?」

「ほ、他にも…こういう本…ありませんか…?」

 

赤面しながら小さな声でカナの耳元で囁いた。

 

「へぇ…気に入ったんだ…?」

「っ……!」

「まだあるよ、今度また貸してあげる」

「本当ですか…!?」

「勿論さ、…ウェンディもそういう事に

興味のある年齢になったんだねぇ…」

 

そう呟いて、カナはウェンディの頭を撫でた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドラスに行く前のウェンディ

 

S級クエストから帰って来たウェンディとシャルル。

…しかし、何故かギルドには誰もいない…。

 

「…?皆どうしたのかな…?」

「おっ、お帰り〜!

あんたがいない間に大変なことになってんだよ〜」

 

そう言いながら、カナが2階から降りて来た。

 

「もう皆2階に行ったよ」

「とりあえず私達も2階に…」

「まったく…何で騒いでるのかしらね…」

 

シャルルを抱っこして2階に上がると、

そこには依頼書が貼ってあった。

『失踪したミラジェーンを探せ』

という依頼書が…。

 

「…ミラさん、いないんですか?」

「ああ、突然いなくなったんだ…。

最初に依頼を受けたラクサスと

フリードは帰ってこない、エルザや

お父さんは逃げる様に他の依頼を受ける、

他のメンバーも皆及び腰で…困っててね」

「じゃあ私が探しに行ってみます!」

「あんただけじゃ危ない、私も行くよ」

「じゃあ私達3人で行くのね」

「頑張りましょう!カナさん!シャルル!」

「勿論だよ」

「まったく…世話が焼けるわね…」

 

という訳で探すあてもないため

人に話を聞きながら探し回る3人。

 

「目撃情報ありましたか?」

「いや、私は聞けなかった」

「怖い顔をした白髪女性って…」

「シャルル…?」

「うん、目撃情報はあったわ…えっと──…」

 

シャルルの聞いた目撃情報を頼りに

次の街へと歩く3人。

…と、何かをズルズルと引き摺る音が聞こえた。

 

『…?』

 

音のする方向を見ると、ミラジェーンがいた。

…大きな角を引き摺って歩いている。

 

「ミラさん!」

「ミラ、探したんだよ!」

「ところで何してるの…?」

「……あら、ウェンディにカナ、シャルル」

 

反応したミラの表情は暗かった。

 

「急に失踪って…何があったんですか?」

「………」

「ミラ?」

「………マンと…」

「え…?」

「エルフマンとエバーグリーンに

子供が出来ちゃったの…!

私、それがショックで堪らなくて…!」

「おめでたですね…!」

「良いことじゃないか」

「良いことじゃないわよ…っ!

私が…どんな思いでそれを聞いたか…!」

「…でもミラさんに家族が増えるんですよ?」

「…家族…」

「それとも弟に先を越されて悔しいのかい?」

「悔しくなんか…ないわ…、

フリードは…私に優しいもの…」

「ナツさんとリサーナさんも仲がいいですよね」

「まぁ、あの2人は結婚までしてるし…」

「リサーナの時はまだ祝福できたのに…

どうしてエルフマンの時は…」

「それだけ溺愛してるってことじゃないかい?」

「………そうね、そうかもしれないわね。

いい加減、弟離れをしないといけないわね」

 

ポイッと角を投げ捨てたミラ。

 

「ギルドに帰るわ。…祝福してあげなくちゃ」

「ミラさん…!」

「無事解決したわね」

 

その後、ギルドに戻ったミラはエルフマンと

エバーグリーンを呼び出していた…。

 

「おめでとう、2人共」

「姉ちゃん、認めてくれるんだな…!」

「ええ、幸せになりなさい。

エバーグリーン、お腹の子を大切にね」

「当たり前じゃない…」

 

─化猫の宿跡─

 

そこにはドラゴン姿のグランディーネがいた。

 

「ただいま、グランディーネ」

「おかえりなさい、ウェンディ。

今日も元気で安心したわ…」

「えへへ…今日はね、ミラさんが

失踪したから探しに行ってたの。

ミラさんはエルフマンさん達に

子供ができたのが受け入れられなかったんだって」

「そうなの…」

 

グランディーネは大きな手でウェンディを撫でた。

 

「弟離れしないとダメって思ったらしくて

ギルドに戻ったらエルフマンさん達を

呼び出してたよ。多分祝福の言葉を

かけたんじゃないかな…?」

「…ウェンディ」

「なに?グランディーネ」

「また元気な姿を見せて頂戴ね」

 

そう言って軽くウェンディを抱き締めた。

 

「うん、また来るね。グランディーネ…大好き」

 

ウェンディとグランディーネの触れ合いを

シャルルは微笑みながら眺めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─天空シスターズのライブ中─

 

「「滅LOVE♪滅LOVE♪フォーエバー♪」」

『フォーエバー♪』

 

隅っこでそのライブの様子を見ているエリゴール。

 

(フォーエバー…!)

 

声には出さずに心の中で呟く。

手にはウェンディの団扇を持っている。

 

「「恋する気持ちも♪

明日の天気も♪フォーエバー♪」」

『フォーエバー♪』

(フォーエバー…!)

 

少し頬を染めながら応援するエリゴール。

ライブ終了後、二人にインタビューがあった。

 

「ズバリ質問です!好きな方はいますか?」

「うん!アタシはいるよ!」

 

即答したシェリアと

赤面して固まったウェンディ。

 

「わわ、私は…!」

「はい、ウェンディさん」

「…いますけど、全然会えない状況で…

でも…いつもその人のことを想って歌ってます」

 

(好きな奴、いるのか…)

 

インタビューを聞いて、

少し気分が落ち込んだエリゴール。

 

(…だが、応援してるぞ…ウェンディ)

 

ライブが終わった後、

さっさと帰ろうとしたエリゴールは

呼び止められた。

 

「エリゴールさん!お久しぶりです!」

 

驚いて後ろを見たエリゴール。

そこにはウェンディがいた。

 

「…小娘」

「もう小娘じゃありませんよ〜」

「…そうだな、お…大きくなったな」

「はい」

 

にっこりと笑うウェンディを直視出来ず、

エリゴールは明後日の方向を向いた。

 

「今日はライブに来てくれてありがとうございます」

「…たまたまだ」

「ふふっ」

「…これからも、応援してるからな…」

「っ!はい、ありがとう。エリゴールさん」

 

少し微笑んで、エリゴールは

ライブ会場から立ち去った…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ママ友会

 

アースランドでグランディーネは

メイビスとアイリーンに愚痴っていた。

 

「夜、ミストガンはウェンディに対して

年々過激になっていくプレイがちょっとねぇ…。

私、竜だから耳を澄ませば聞こえるもの…」

 

厳しい表情で呟くグランディーネ。

 

「流石に○辱紛いになったり

昔の衣装でのプレイが増えていくと

笑えなくなるんじゃないの…?」

 

帽子に触れながら話すアイリーン。

 

「でも愛し合えるのなら良いことなのでは…?」

 

不思議そうに話すメイビス。

 

「良くないわよ…!…そういえばアイリーン」

「何かしら」

「貴女はエルザとジェラールがコスプレして

そういう事をするなら、どう思うの…?」

「特に何も思わないわ。

エルザの魔法はそういうものだし…

ジェラールは奥手気味だもの」

「…ミストガンと性格取り替えて欲しい位だわ」

「断固拒否するわ…」

「…愛し合えるって良いことですよね?」

「良いことかもしれないけど、

たまにプレイ内容が、ねぇ…」

 

話は無限ループしながら

グランディーネの愚痴は続いていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

露出度高めのニルビット衣装(ミスウェン)

 

グランディーネが週刊ソーサラーの

ウェンディ特集の雑誌を沢山持って来た結果、

衣装部屋に沢山衣服が追加された。

 

「今日は…これにしようかな」

 

上半身がほぼビキニだけのニルビット族衣装を

身にまとい、衣装部屋を出たウェンディは

即ジェラールに引き止められた。

 

「ウェンディ、その衣装はいけない」

「…なんで?」

「露出度が高過ぎる…人前で着て欲しくない」

「…じゃあ、他の服にするね」

「ああ…(妖精の尻尾の面々も

露出度の高い者がいたな…)」

 

ワイシャツとスカートに着替えて

衣装部屋から出て来たウェンディ。

 

「これでいい?」

「ああ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディの出ている週刊ソーサラーを

見ているミスティとシリル。

 

「ママ~、ミスティもこういうお洋服欲しい~」

「ミスティがもう少し大きくなったら着れるわよ」

 

そうミスティに笑顔で話すグランディーネ。

 

(義母上の前では駄目だとは言えない…)

 

複雑な表情をしながら、そう思うジェラール。

 

「将来これ着るの楽しみだなぁ…」

 

そう呟いたミスティの頭を

笑顔で撫でるグランディーネ。

ジェラールはそれを複雑な気持ちで見ていた…。

 

─後日─

 

楽しそうにシェリアに

ソーサラーを見せるミスティ。

 

「王妃様…と…向こうの私…?」

「この人シェリアお姉ちゃんに似てるね」

「そうですね、ミスティ様。

(もしかして向こうの私…小悪魔的な人?)」

 

大胆な衣装を身に着けた雑誌のシェリアに

少し赤面するエドシェリア。

 

─その日の夜─

 

頑張って小悪魔的な衣装を身に着けようとする

シェリアだが、実行しようすると頭の中が

爆発し続けていた…。

 

翌日、シェリアがウェンディに

『どうしたら向こうの自分の様になれるか』

相談に行くと、

 

「わ、わわ…私には無理…!」

「……王妃様でも恥ずかしかったんですね…」

 

その後、何故か例のソーサラーが

エドウェンディの手へと渡り、

嬉々としてシェリアを小悪魔スタイルに

仕上げるのは、また別の話である。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ミスティ」

「なに?ママ」

「もう勝手に雑誌を持ち出しちゃダメだよ」

「………」

「あ…あれはパパやおばあちゃんやシリルや

シェ…シェリアには見られてもいいけど

それ以外の人たちには…ダメなの…!」

「ごめんね、ママ…」

 

眉を下げて反省する

ミスティの頭を撫でたウェンディ。

 

「もういいよ、ミスティ…」

「…うん、…でもね…

1個だけ本が見つからないの…」

 

ミスティの言葉に固まったウェンディ。

 

「そ、そう…なんだ…?

早く…見つかるといいね…?」

「うん」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─後日─

 

例のニルビット族衣装を着て

ルーシィから教わったダンスを

ジェラールの前で踊っているウェンディ。

 

「見事だ、ウェンディ」

「ルーシィさんから教わったの」

「ルーシィから…」

「ちゃんと…踊れてる?」

「ああ、とても目の保養になっている」

「よかった…」

 

微笑んで、ウェンディは暫く踊り続けていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ポーリュシカとグランディーネ

 

─マグノリア郊外の森の小屋─

 

グランディーネはポーリュシカの元に

訪れていた。

 

「天竜」

「こんにちは、ポーリュシカ」

「…なんでか私はね、

時々マカロフのことが頭にチラつくんだよ」

「………」

「昔っから無茶をして、その度に

治してやってるのに、また無茶をして…

放っておけないったらありゃしない…」

「それは、恋ではなかったのかしら…?」

 

グランディーネの言葉にポーリュシカは

遠い目をした。

 

「恋…ね。人間は嫌いと誤魔化しては来たけど

そうだったのかもしれないね…」

「ポーリュシカ…」

「私はこの想いを抱えて生きていくよ、

…他の奴らには言うんじゃないよ?」

「分かっているわ、…また来るわね」

「いつでも来るといい、…グランディーネ」

「ありがとう、グランディーネ」

 

お互いの名を口にして、二人は別れた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グランディーネ+ナツ

 

─ウェンディがエドラスに行って直ぐの頃─

 

「…ウェンディ…」

 

外で空を見上げてボーッとしているナツ。

 

「ウェンディ…元気かな…」

「…ナツ?」

 

それを見かけたグランディーネ。

 

「…よう…グランディーネ…」

「どう見ても元気が無いわね…」

「ウェンディが…向こうに行っちまって…」

「…今日はとりあえず、

リサーナに思い切り甘えて来なさい」

「…おう…」

 

フラフラとした足取りで

ギルドへと向かったナツ。

 

「…エドラスに行く方法、

探してみようかしらね…」

 

その後、色々なことを試したグランディーネ。

結果として、夢の中で会えたため、

そのことを妖精の尻尾の皆と蛇姫の鱗の

シェリアに報告したという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

赤ジャケット服のリサーナ+ナツリサ

 

─これはウェンディがいなくなって

落ち込んだナツのその後の話─

 

リサーナはウェンディが着ていたのと

同じ赤ジャケット服とスカートを着ていた。

 

「うん、サイズぴったり…!」

「…ただい…」

「あ、ナツ!あのね、

これ昔エドラスで買った服なんだよ!」

 

リサーナの姿を見て硬直したナツは

 

「リサーナ〜!!」

 

勢いよくリサーナに抱き着いた。

 

「…どうしたの?ナツ」

 

ナツの頭を撫でながら、

まるであやす様に話すリサーナ。

 

「悪りぃ、ウェンディのこと思い出しちまって…」

「一緒の服だもんね、仕方ないよ…」

「なぁ、しばらくこのまんまでいーか?」

「うん、大丈夫だよ」

「ありがとな、リサーナ…」

 

それから数日間、リサーナに

その衣装を着せた状態で抱きしめて

眠ったナツは次第に元気になっていった。

 

(これでいいんだよね、ナツ…)

 

時折、リサーナはナツの頭を撫でて微笑んでいた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールのパジャマを着ているウェンディ。

 

「…これ、ズボンいらないね…」

 

パジャマは上半身の方のみでも

相当大きなサイズで、ウェンディの

下半身を完全に覆い隠していた。

 

「少し動きづらいからベッドに乗って…」

 

ベッドでゴロゴロと寝転ぶ。

 

「ジェラールの匂いがする…」

 

大好きな人の匂いに包まれて

幸せそうなウェンディ。

そんな時、ジェラールが帰って来た。

 

「今戻った、ウェン…」

「ジェラール…!」

 

自分のパジャマを着ているという状況に

少し理解に手間取ったジェラール。

 

「…俺のパジャマを着たのか」

「うん」

「感想はどうだ?」

「ジェラールの匂いに包まれて幸せ!」

「そうか」

 

微笑んだ後、パジャマの内側から

脚を伝って下着を履いているか

確認したジェラール。

 

「っ……!?」

「まあ…下はびしょびしょにしたしな…」

「ジェラール…?」

 

赤面したウェンディ。

 

「ああ…すまない、気になってつい…な」

「もう…」

 

ジェラールの繰り返し頭を撫でるウェンディ。

 

「何もしないから安心してくれ

(どちらでも悪くない眺めだな…)」

「………」

 

ジェラールをぎゅっと抱き締めたウェンディ。

 

「…これ以上、下に触るのはダメ」

「ああ、分かっている。

愛しているよ、ウェンディ…」

「私もだよ、ジェラール…!」

 

お互い頬擦りをして、その日はそのまま

ベッドで過ごしていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ギルティナからの旅行客

 

蒼い竜に乗って草原に降り立った金髪の女性。

 

「ここがイシュガル…!

水神竜様!ようやく着きましたね…!」

 

蒼い竜は直ぐ様、青髪の青年の姿となり、

女性の口に指を一本当てた。

 

「メルでいいと言った筈だよ、カラミール」

 

カラミールと呼ばれた女性は

一瞬頬を染めて、頷いた。

 

「はい、メル様…!」

「…ここが大陸のどの辺に位置するのかは

分からないが、人の気配に向かって歩こうか」

「はい…!」

 

メルと呼ばれた青年…メルクフォビアは

カラミールに手を差し出した。

 

「行こうか、カラミール」

「はい、メル様」

 

二人は手を繋いで、メルクフォビアの感覚を

元にして、近隣の街に向かった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─マグノリア─

 

「人が沢山いるね」

「すみません、此処は何処の街でしょうか?」

 

通行人に対して、話し掛けたカラミール。

 

「此処はマグノリアだよ。フィオーレ一の

魔導士ギルド・妖精の尻尾がある街さ!」

 

「マグノリア…。メル様、どうされますか?」

「人の営みを見て回るのも勉強の内だよ。

私は他の国の人の営みを見て回る

必要があると考えたから、此処にいるのだから。

…ギルドがあるというのなら、手っ取り早く

そこに住む者達がどう暮らしているかを

見るチャンスだ。逃す手はない」

「そうですね、メル様…。

すみません、妖精の尻尾に行くには

何処へ行けばよろしいのでしょうか…?」

「それはね…───…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─妖精の尻尾─

 

セツナの面倒をギルドで見るために

たまたまギルドに居座っていたイグニールと

ブツブツと愚痴を言いながら

愛娘のぬいぐるみを愛でるグランディーネ。

そんな二人は別の竜の気配を感じると、

警戒レベルを引き上げた。

 

「此処が妖精の尻尾…」

「…カラミール、そこで止まってくれ」

「…?はい、メルさ…」

 

ギルドに入ろうと扉を開けたカラミールを

制止し、進み出たメルクフォビアに対して

敵意を向ける二人はほぼ同時に咆哮を放った。

メルクフォビアは急いで、水を操り、

強靭な水のバリアを張って、咆哮を防いだ。

 

「ま…」

「私はギルティナ大陸に住む水神竜、

メルクフォビアだ。まさか、生きていたとは

驚きだよ。炎竜王に天竜」

「………」

 

無言で睨むイグニール。

 

「何の用で此処まで来たのかしら…?」

 

敵意を収めないグランディーネ。

 

「人の営みを見るため…では駄目かな?」

『人の営み…?』

「そう。私が収める街で

もっと人を受け入れるには…

良き街とするには、どうしたいいかと考えてね」

 

そこまで言われて、漸く敵意を解いた二人。

 

「要するに、共存派か」

「それなら安心ね、五神竜だからって

危険視し過ぎたわね…どこかの竜の

息子さんと違って人の良さそうな竜ね」

「………」

 

グランディーネの発言に

押し黙ったイグニール。

そしてメルクフォビアの水によって

ずぶ濡れになったギルド内部。

 

「メル様…!ご無事ですか…!?」

「見ての通り無事だよ」

「…その娘は?」

「この子はカラミール、

私に人との共存の道を示してくれた子だ」

 

そう言いながら、

カラミールを抱き寄せたメルクフォビア。

 

「っ…!め、メル様…っ!?」

 

メルクフォビアの行動に赤面したカラミール。

 

「もしかして…彼女さんかしら?」

「か、彼女…!?い、いいいぃぃいえ!

違います…!」

「あらあら、真っ赤になって…

可愛らしいわね」

 

クスクスと笑うグランディーネ。

…と、その時ギルドの面々が帰って来た。

 

「帰ったぞ!イグニールにセツナ…!

…って、ギルドずぶ濡れじゃねぇか!」

「パパ!」

 

ナツに擦り寄るセツナ。

 

「あのね、あのメルクフォビアっていう

竜さんにじーじ達がぶつかったら、

こうなっちゃったの…」

「竜…?」

「はじめまして、妖精の尻尾の魔導士達」

 

尚もカラミールを

抱き寄せたままのメルクフォビア。

 

「………」

 

赤面しっぱなしのカラミール。

 

「友好的な竜のようだ、俺達に攻撃されても

敵意は一切なかったぞ。ナツ」

「攻撃したのか…!?」

「ええ、そうよ」

 

その後、なんやかんやと話し合い、

いつも通りのギルドの日常に戻った。

 

「…賑やかで仲のいいギルドだね」

「良い人の営みですね、メル様」

「そうだね、カラミール」

 

その後、度重なる話し合いの結果、

『何故か』ギルドに泊まることに

なってしまい、狼狽えるカラミール。

 

「いいじゃないか、カラミール」

「でも、ですね…メル様…!

ベッドが、一人用しかないんですよ…!」

 

どう見ても一人用のベッド

(少しだけ横にも広い)しか

用意されていなかったのである。

 

「何か問題でもあるのかい?」

 

意味が分かってなさげなメルクフォビア。

 

「いえ、あの…ですね…!」

 

赤面したカラミール。

 

「じゃあ、もう眠ろうか。カラミール」

 

電気を消され、ベッドの端に寝転んだ

メルクフォビアと、赤面して混乱しながら

ベッドの端に寝たのは良かったが、

速攻で抱き寄せられて心臓が爆発しそうに

なっているカラミール。

 

(メル様と一緒に寝るだなんて…!)

 

ぽんぽんと頭を撫でられながら、

優しく宥められ続けて

 

(…大好きです、メル様…)

 

そう最後に思って、

カラミールは眠りに落ちていった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ハピシャル+エリス

 

「ハッピー、エリスにご飯あげるから

少し後ろ向いてなさい」

「あい!」

 

シャルルに言われて後ろを向いたハッピー。

 

「ほら、エリス…」

「んむ…」

 

エリスにミルクをあげるシャルル。

 

「あら、飲まないわね…。

そろそろ離乳食に挑戦させてみようかしら」

「離乳食…?」

「そう、ミルク離れして

普通のご飯も食べられるようにすることよ」

「エリスと一緒にお魚食べられるように…!」

「なるわよ」

「シャルル〜、離乳食…賛成だよ!」

 

その時、家のドアが開いた。

 

「ただいまー!」

「ご飯中だった?二人共」

 

帰って来たのはナツとリサーナだった。

 

「おかえり、パパ!ママ!」

 

二人に抱き着くセツナ。

そんなセツナを撫でる二人。

 

「リサーナ、シャルルがね

エリスを離乳食に挑戦させたらって

言ってるんだ。エリスとお魚一緒に

食べれるようになったら嬉しいなぁ」

「そうなんだ…。

じゃあ、一緒に作ろうか?シャルル」

「いいの…?」

「もちろん、同じママでしょ?」

「そうね…!」

 

ということで台所に立ったリサーナと

人間態に変身したシャルル。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツはエリスを抱っこして、

ハッピーは必死にエリスに話を聞かせていた。

 

「エリス、空を飛ぶ時はね…

こう…ジャンプして…

シュバっと翼が出てきて、それから

空を飛ぶんだよ!」

「にー…?」

「あとお魚はね、すっごく美味しいんだよ!」

「にー…」

「これ、お魚図鑑!どれも美味しそうだよね」

「に〜…」

「ハッピー、多分エリス…困ってるぞ」

「ええっ!?なんで〜!?」

 

その後はセツナがエリスを撫でたり…、

喧騒を聞きながら離乳食を完成させた二人。

 

「よし…!」

「まずはエリスの分…!」

「次は皆の分だね…!」

「そうね、リサーナ!」

 

そして総勢6人分の料理を完成させた。

 

「皆〜、朝食できたよ〜!

…って、お義父さん…!?」

 

いつの間にか来ていたイグニールに

驚くリサーナ。

 

「邪魔してるぞ」

「ご、ごめんなさい…!

お義父さんの分の朝食も…!」

「いや、俺は飲み物だけでいい」

「…いいんですか?」

「ああ、俺のことは気にするな」

「は、はい…」

 

テーブルにそれぞれの朝食を並べ終え、

それぞれ朝食を取る。

 

「エリス…これ、食べれる…?」

「にゃ…?」

 

離乳食に反応を示したエリスは

クンクンと匂いを嗅いで、

ゆっくりと食べ始めた。

 

「良かった…」

「シャルル〜、お魚の燻製美味しいよ〜!」

「喜んでくれて何よりよ、ハッピー」

「やっぱりリサーナの飯は美味ぇな…!」

「ありがと、ナツ」

「もぐもぐ…」

「これだけの人数で食事ってのも悪くねぇな」

「だろ?イグニール!」

「ああ」

 

賑やかな食事をしながら

和やかな雰囲気が漂っていた…。

 

この日の夜、夢の中でシャルルは

ウェンディに楽しそうに話したという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

シリルの体質

 

最近、シリルは林檎の匂いが好きになったらしく

ちょこちょこ嗅いでいる。

 

「良い匂い…」

「あまり嗅ぐものじゃないよ?シリル」

 

ウェンディからの注意も気にもせず、

林檎の匂いを嗅いでいる。

 

「最近、シリル…

料理とかの匂いにも凄く喜ぶよね」

「うんっ!だって、いい匂いがするから!」

(前からそんなに匂いに敏感だったかな…?)

 

ウェンディが少し考えている間、

グランディーネは妙な表情をしていた。

 

─夜・グランディーネの部屋─

 

「すぅ…すぅ…」

 

眠っているミスティと、何故か

聞こえてくるとても小さな声に

妙な顔をしているシリル。

 

「何の声かよく分からないけど、

夜たまに変な声が聴こえる…」

 

軽く耳を澄ますと聞こえる

小さな声に戸惑うシリル。

 

「…しっかり寝なきゃ…」

 

シリルの頭を撫でるグランディーネ。

 

「おやすみ、おばあちゃん…」

 

グランディーネに撫でられ続けて、

シリルはいつの間にか眠っていた…。

 

─翌日・早朝─

 

「ジェラール、ウェンディ」

「…どうかされましたか?義母上」

「夜伽の時の声、これからは少し抑えなさい」

「…なんで?」

「シリルに少し聴こえているわ。

滅竜魔導士の体質だけが遺伝してるみたいね」

 

グランディーネの言葉に固まった二人。

 

「…たまに私は寝る時に聴力を閉じることを

しているから、シリルに少し教えてみるわ」

「ありがとう、グランディーネ…。

そんな事、できるんだね…」

「たまに閉じないと、もっと咆哮放ってるわよ」

「…感謝します、義母上」

 

─後日─

 

シリルを自分の部屋に呼び出したグランディーネ。

 

「聴力のコントロール…?」

「夜、変な声を絶対に聴かないようにするためよ。

あれは良くないわ…」

「……?」

「毎日、少しずつ

できるようになっていけばいいわ。

…人が直ぐにできることではないもの」

「うん、よろしくね…おばあちゃん」

「ええ」

 

グランディーネはシリルの頭を撫でて、

コントロール方法を教え始めたのだった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

嫁を自慢するローグ

 

ガジルに会いに

妖精の尻尾を訪れているローグ。

 

「お嬢のことを皆は怖がるが、実は素顔は

温和で可愛い系が好きなんだぞ」

「ほぉ…?そういや、ライオス」

「ローグだ」

「お前、嫁のことを名前で呼ばないのか?」

「…二人だけの時か、それに加えて

フロッシュもいる時だけだ」

「つまり他の奴らがいる時は

恥ずかしくて呼べない、と…」

「誰がそんなことを言った…!」

 

二人の間でバチバチと火花が散る。

それを宥めるようにレビィは

 

「でも、大切な人にしか見せない一面って

きっと皆あるよね…。ミネルバのこと、

少しだけ分かる気がする…!」

「そうか、お嬢のことを分かってくれるか!」

「うんっ!大切にしてあげてね…?」

「ああ、勿論だ」

 

ローグは微笑んで、誇らしげにしていた。

その場を立ち去るガジルにカナが声をかけた。

 

「なんだい、嫉妬でもしたのかい?」

「他人の性癖なんざこれ以上知りたくもねぇよ」

 

ナツとウェンディの夜のことを思い出し、

 

(なんで他の滅竜魔導士は

色々とアレな面があんだよ…。

ライオス…お前だけは

あんな風になるんじゃねぇぞ…)

 

そう強く願ってガジルはギルドを出た。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ガジル+メタリカーナ+ガジレビ

 

銀髪の中年男性の姿のメタリカーナと

ガジルは話をしていた。

 

「相変わらず目付きが悪いのぅ…」

「うるせぇよ」

 

口では悪態を付きながらも

内心嬉しがっているガジル。

 

「それに比べて嫁と孫は可愛いのぅ」

「…まあな…」

「大事にするんじゃぞ」

「分かってるよ…」

「それにしても大きくなったのぅ…」

「ギヒッ…」

「昔は喧嘩ばかりしていて

大丈夫かと心配したものだ…」

「まあな…」

 

ガジルの頭を撫で回すメタリカーナ。

内心すごく嬉しいガジル…。

 

「さぁ、お前の家族の元へと戻るといい」

「ああ…じゃあまたな…」

「うむ…」

 

メタリカーナの元から家へと戻ったガジル。

その日の夜は、レビィに甘えていた。

 

「今日のガジルは甘えん坊だね…?」

「…悪りぃな…」

「何かあったの?」

「…メタリカーナに会ってな…」

「お義父さんに?」

「ああ…帰っちまった後、

なんか寂しくなっちまってな…」

「私なら、いくらでも

ガジルを甘えさせてあげるよ…?」

「…頼む…」

 

ガジルの頭を撫で回すレビィ。

レビィの胸に対して頬擦りするガジル。

 

「胸に向かって頬擦りしないの!」

「ちっ、たまにはいいじゃ…」

「もう…仕方ないなぁ…」

「…ありがとよ…」

 

レビィは撫でる。ガジルは頬擦りする。

それを暫く繰り返して、レビィは

ガジルを抱き締め、ガジルは

レビィに強く抱きついた。

レビィは抱き締めながら、ガジルの背中を撫でる。

ガジルはゆっくりと眠りに落ちていく…。

 

「おやすみ、ガジル…」

 

寝息を立てているガジル。

その様子に微笑むレビィ。

 

「さて…私も寝なきゃ…。

…大好きだよ、ガジル…」

「…ギヒッ」

 

レビィは微笑んで

ガジルに擦り寄って瞼を閉じた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディ+ミネルバ

 

─これはウェンディがエドラスへ行く前の話─

 

「コホン、ウェンディ…」

「ミネルバさん!」

「少し買い物に付き合ってくれぬか?」

「?いいですけど…?」

 

ということで街へと繰り出した二人。

 

「今日は服を探していてな…」

「どんな服がいいんですか?」

「………ろ」

「ろ…?」

「ローグが喜ぶような…可愛いものを…」

 

頬を染めて発言したミネルバに

ウェンディは微笑んだ。

 

「そういうことなら、喜んでご一緒します」

「あ、ありがとう…」

 

その後、様々な店に入り、

清楚可愛い系のものを買い漁った…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「それは外にも着ていくんですか?」

「着ていく訳がなかろう、これは

ローグに見せるために買ったのだ」

「可愛いものがお好きなんですね!」

「…他の者には内緒だからな?」

「はい!」

「今日は楽しかったぞ、ウェンディ」

「私もです、ミネルバさん」

「…ではな」

「はい」

 

微笑みながら、お互い手を振って別れた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

皆既月食を楽しむミスウェン一家

 

今日は皆既月食の日、

段々と消えていく月に不安の声をあげる

ミスティとシリル。

 

「お月様、消えてくよ…?」

「なくなっちゃうの…?」

 

月に対して別のことを思って、

それを振り払うように頭を振ったジェラール。

 

「もう少しすると、いいものが見れるぞ」

「「…?あっ!」」

 

空に真っ赤な月が現れた。

 

「赤〜い!」

「月〜!」

 

大喜びではしゃぐミスティ達。

 

「二人共、あまりはしゃぐと

お月様もびっくりするよ…?」

 

ウェンディにそう言われ、返事をする二人。

 

「うんっ!」

「わかった!」

 

そんな二人の頭を撫でるジェラール。

 

「ふふっ」

 

そんな様子をグランディーネは

微笑みながら眺めていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ソーサラーのグラビアの是非を問う男性陣

 

─アースランド・妖精の尻尾─

 

グランディーネからの報告で

ミストガンとウェンディがコスプレプレイを

頻繁にしているという報告を受けた男性陣。

 

「…ミストガン、ウェンディに

そんなことやらせてるのか…!」

 

手から炎が溢れ、激怒しているナツ。

 

「今更だけど、ソーサラーの

グラビアって必要なの?」

 

不思議そうに話すグランディーネ。

 

(俺、稼がせてもらったから何も言えねぇ…)

(僕、散々稼がせてもらってたよ…)

 

内心そう思って黙っているグレイとロキ。

過去に子どもができたときに

「永遠の童貞だと信じてたのに!」と

ファンからの中傷を受けたため、

なんとも言えなくなったガジル。

 

「ミストガン、ぶん殴ってやる…!」

 

一人燃えるナツ。

 

「ええ、ナツからの言葉なら

少しは反省してくれるかもしれないわね」

「よし、夢でぶん殴って来る!」

 

…その後、夢で本当にミストガンを

ナツは殴っていたという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

フェアリーヒルズを出た二人

 

─これはウェンディがエドラスに行く前の話─

 

「ウェンディ…私が

言いたい事は分かってるわよね?」

「…うん、シャルル」

 

ベッドの上は悲惨な状態となっていて

とても寝れるような状態ではない。

 

「ミストガンを想ってるのは、

よく分かるわ。でもね…同室の私の身も

考えて欲しいの…」

「…うん、…ヒルズ…出ようか?」

「…?ウェンディ、行く所あるの?」

「グランディーネのところ」

「…化猫の宿がある所ね」

「うん」

「…そうね、そこに小屋でも建てて…」

「グランディーネも歓迎してくれると思うの」

 

ヒルズの退去手続きを済ませて、

荷物をまとめて化猫の宿跡地へと向かった二人。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「あら、どうしたの?ウェンディにシャルル」

「ヒルズを出て来たから、

今日から此処に住もうと思って…」

「それは嬉しいわ、また一緒にいられるわね」

「うん!」

 

それから数日かけて小さな小屋を二つ完成させて

そこに住み始めた二人。

 

─朝─

 

二人が外へと出るとグランディーネが出迎えた。

 

「おはよう、二人共」

「おはよう、グランディーネ」

 

グランディーネに

スリスリと頬擦りするウェンディと

そんなウェンディの頭を

やたらと撫でるグランディーネ。

 

「くすぐったいよぉ」

「ごめんね、あまりにも愛しいものだから…」

「えへへへ…」

「ずっと此処にいてもいいのよ…?

(返答は分かっているわ…)」

「そうしたいよ…でもね…」

「そうよね、どうしても

エドラスに行きたいんでしょう…?」

「…うん…」

「私は止めはしないわ、娘の幸せの為だもの…」

「ありがとう…それまではここにいてもいい?」

「もちろんよ…」

 

無言で抱きつくウェンディ。

 

「愛しているわ、ウェンディ…」

「私もだよ、グランディーネ…」

 

ウェンディを抱き締めるグランディーネ。

 

「ウェンディー、そろそろ行くわよー」

「待ってよ、シャルル〜」

 

シャルルに着いて行くウェンディ。

 

「行ってらっしゃい、二人共」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディのお産を見守るミストガン

 

─これは遠い未来の話─

 

歳を重ねて、クリス達も大きくなって巣立った。

そしてウェンディは妊娠し、御産をしていた。

 

「うぅ…っ」

「ウェンディ」

 

ウェンディの手を握るジェラール。

 

「…ジェラー…ル…」

「君なら大丈夫だ…」

「…ん…っ」

 

…それから少し経って…

 

「お産まれになりました、陛下!」

「!」

 

ウェンディの頭を撫でたジェラール。

 

「お抱きになりますか?」

「…抱いてあげて…?」

「…ああ」

 

産まれたばかりの赤子を抱いて微笑むジェラール。

 

「…ウェンディ」

「…よろしくね、私達の新しい娘…。

そうだね、名前は───…」

 

その子に名前が付けられるのは、遠い未来の話である。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウルティアとカナ

 

妖精の尻尾に魔女の罪の二人は

様子を見に来ていた。

 

「ジェラール、最近エルザとはどう?」

「いや、どうと言われてもな…」

「向こうのジェラールは積極的って聞いたよ?」

 

メルディの発言に顔を顰めるジェラール。

 

「…俺は俺なりにエルザを大事にしている」

「そう、なら良かったわ」

 

「ウルティア、此処に来るなんて珍しいな」

「あら、グレイ。…最近は海でよく会うわね。

…リオンもだけど…」

「…ああ」

 

「海…」

 

ウルティアの背後から抱きついたメルディ。

 

「…?メルディ?」

「…ウル、寂しいの?」

「寂しくはないわ、貴女がいるじゃない」

「うん…!大好きだよ、ウル…!」

「ふふ、大きい子供を持ってると

時々嫌になっちゃうわね…」

「ウル、私もう子供じゃないんだけど…」

 

微笑んだウルティアに抱きついているメルディ。

それを眺めながらカナは酒を飲んだ。

 

「少し前のウェンディや

ウチのチビ達は小さくて可愛くてねぇ…」

「メルディも可愛かったわね…」

「う、ウル…」

 

頬を染めるメルディ。

 

「ウェンディは自分の王子様の所に

無理にでも行っちまってねぇ…。

まぁ、夢で会えるからいいんだけどさ…」

「その王子様とやらに

私達も会ってみたいものね…。

積極的なジェラールなんて見た事ないもの…」

「じゃあ今日招待するから泊まっていきなよ」

「本当?楽しみだね、ウル!」

「ええ、そうね…メルディ」

 

その日、夢でミストガンに会った二人だが、

知っているジェラールとのあまりの差に

驚愕していたという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

「ジェラール、起きて?朝ごはん出来てるよ?」

「…ああ、おはよう。ウェン…」

 

休日、ウェンディに起こされた

ジェラールは起きた直後に硬直した。

理由はウェンディが裸エプロンだったからである。

 

「ウェンディ…?」

「ご飯食べよ…?」

「あ、ああ…」

 

朝食の間中、ウェンディの姿を

チラチラ見ていたジェラール。

ウェンディが食器を片付けている間も

じーっと見ていたジェラール。

 

「…うん、終わったから…少し着替えてくるね」

「そうか…」

 

少し気を落としたようなジェラールに

気付きながらも、衣装部屋へと向かい、

普通のメイド服に着替えてきたウェンディ。

 

「ジェラール」

「どうした?」

「耳かきするから、ちょっとこっちに…」

 

ソファーに座って寝招きするウェンディ。

ジェラールは遠慮なく

ウェンディの膝の上に頭を乗せた。

微笑みながら耳かきをするウェンディ。

 

少し時間が経って耳かきが終了し、

少しウトウトしているジェラール。

 

「お昼寝する?」

「…ああ」

 

膝枕を続けようとするウェンディを抱き寄せて、

自分の上に乗せてから瞼を閉じたジェラール。

 

「…たくさんお昼寝してていいよ…?」

「…ああ」

 

そのまま夜まで一緒に寝続けた二人。

食事と風呂を済ませ、ジェラールは

ウェンディを膝の上に座らせて

読書をしている。

目元をゴシゴシと擦るウェンディに

気付いたジェラール。

 

「もう寝るか」

「…うん」

 

本を戻してベッドに横たわり、

ジェラールはウェンディを抱き締めた。

 

「おやすみ、ウェンディ」

「おやすみ、ジェラール」

 

軽いキスを交わして、二人は瞼を閉じた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレメイ

 

─海─

 

「ゼレフ〜!こっちですよ〜!」

「今行くよ、メイビス」

 

海ということで水着姿のゼレフとメイビス。

(オーガストはスプリガン12の会議の為留守)

 

「ビキニか、可愛いね」

「ありがとう!

ゼレフは…うん、初対面の時よりかは

露出が増えましたね…」

「あの時は水浴び中だったからね」

「そうでしたね、かき氷でも食べますか?」

「うん」

 

手を繋いで、かき氷を頼んだ二人。

スプーンでシャクシャクと

かき氷を頬張るメイビスを

幸せそうに眺めているゼレフ。

 

「あまり一気に食べると頭が痛くなるよ…?」

「だ、大丈……ぶ…っ!?」

 

頭を押さえたメイビス。

 

「だから言ったのに…」

「うぅ…っ」

 

ゆっくりとかき氷を食べているゼレフ。

 

「それ、まだ食べれるかい?」

「は、はい…!」

「それは良かった……あ、そうだ」

「…?」

 

首を傾げるメイビスのかき氷をスプーンで

すくい取って、メイビスの口に運んだゼレフ。

少し赤面しながら、それを食べたメイビス。

 

「…どうだい?」

「美味しい…」

「じゃあ君が食べ終わるまでしてあげるよ」

「…じゃあ、その後は私の番ですね…!」

「そうだね」

 

二人は交互にかき氷を食べさせ合っていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディがエドラスに向かう前

 

─化猫の宿跡地─

 

シャルルは朝食を見て思い悩んでいた。

 

(最近、ご飯は肉料理ばかり…。魚…食べたいわね…)

「シャルル、食べないの?あ、ソーセージじゃ嫌だった?」

「魚の燻製とか…フライとか…」

 

シャルルの発言を聞いて、ニコニコと笑うウェンディ。

 

「な、何よ…?」

「ううん、彼みたいなこと言うなぁって…」

「っ…!!」

「ふふっ、じゃあ今晩は魚ね」

(余計なこと言うんじゃなかったわ…!)

 

その後、ギルドに行ってシェリアと

遊びに行き、その様子を親しげに話した。

 

「最近、シャルルはね…

フィッシュフライバーガーとか魚を

すごく嬉しそうに食べるんだよ…?」

「それは愛だね…!」

 

シャルルを眺めながら

ウェンディとシェリアはニコニコと笑い合った。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

イグニア襲来

 

「パパ…!」

 

リサーナと出かけていたセツナが戻って来たが、

リサーナの姿が何故か無い。

 

「…セツナ、リサーナは?」

「…また怖い竜さんが来て…ママを…」

「イグニアか、…ナツ」

「今度はリサーナを…!」

 

怒りに震えるナツ。

…というのも、これまでに彼に数回

セツナを誘拐されていたのである。

それも理由が『お前を強くするため』である。

 

「リサーナを助けに行かねぇと…!」

「セツナは俺が見ている、

そして俺も行くぞ…ナツ」

「ありがとな、イグニール…!」

 

セツナを抱き上げ、

直後に家から飛び出した二人。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

嫌がるリサーナをズルズルと引き摺りながら

移動しているイグニア。

 

「離しなさいよ…!」

「…人質なら人質らしくしてろ、

ガキの方は少しでも手加減間違えると

殺しかねなかったからな…」

 

その発言に目を鋭くしたリサーナ。

 

「だから今回はお前にした。

多少手荒に扱っても死なねぇからな」

「…なんで毎回こんなことするの…?」

「ナツを強くするためだ」

「こんなことしなくても…ナツに言えば…」

「俺を殺せる位に強くなってもらわなきゃ困る。

でないと、面白くねぇからな」

「…なんでナツに執着するの…?」

「イグニールの息子で、曲がりなりにも

アクノロギアを殺したからだ。

アイツは俺が殺す筈だった」

「それ、ナツのせいじゃ…!」

「うるせぇ」

 

イグニアの声と同時に腕を強く握られ、

そこを中心に熱が発せられた。

 

「っ……!!」

 

片腕に火傷が生じ、

痛みで大人しくなったリサーナを

草原に放り投げたイグニア。

抵抗無く倒れ、ぐったりしているリサーナ。

 

「うぅ…っ」

「…そろそろか」

 

リサーナに目を遣ることなく、

正面を見据えるイグニア。

 

「リサーナ…!リ…っ!?」

「ママ…!」

 

リサーナの状態を見て、怒りに震えるナツと

構わず走ろうとしてイグニールに止められたセツナ。

 

「炎竜王の崩拳!」

 

ナツはイグニアに対して技を放ち、

イグニアはそれを腕で受け止めた。

 

「いい怒りだ、前回より強くなったな…?」

「なんでこんな事しやがる!?

リサーナを傷付けやがって…!」

「やっぱりこの人質は効くんだな?」

「うるせぇ!俺の大事な奴を…傷付けんじゃねぇ!!」

 

至近距離で咆哮を放ち、

それをまともに食らったイグニア。

 

「つ……っ!」

 

急いでイグニアの背後に倒れている

リサーナを抱き上げて、離れたナツ。

 

「ナツ、セツナも頼む」

「ん?ああ、わかった…!」

 

イグニールからセツナを渡され、

走り去っていったナツ。

 

「いい一撃だ…」

「イグニア…」

「なんだよ」

「俺が見ていてやるから、

ナツとは正々堂々と喧嘩してくれ」

「…なんだよ、それ。

それじゃアイツは強くならねぇ」

「いや、強くなる。

戦いの経験が必ずアイツを強くする」

「俺を殺せる程にか…?」

「…いつかはな」

「……まぁ、考えておいてやるよ。親父」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツは急いで蛇姫の鱗に行き、

リサーナの火傷をシェリアに治療してもらった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

クリス+エドシェリア+先輩

 

クリスの世話を頼まれたシェリア。

抱っこして、顔をじーっと見つめる。

 

(クリス様、可愛い…。

私もいつか、リオンさんと…)

 

クリスの世話をしながら妄想するシェリア。

 

「………」

「シェリア、手が止まっているわよ?

クリス様にミルクをあげてちょうだい」

「はい…」

 

妄想しっ放しの状態で片胸を出して

クリスの口を付けさせた。

…当然、母乳は出ない。

その様子を見てニコニコと微笑む先輩。

 

「はっ…!すみませんっ!つい…!」

「面白いことするのね、シェリア」

「………」

 

慌てて衣服を元に戻して赤面しているシェリア。

 

「ミルクの作り方、分かるかしら?」

「えっ、あっ、はい…」

「クリス様にミルクをあげられるわね?

…将来の練習と思って頑張りなさい」

「はっ、はいっ」

「ふふっ♪」

「……準備してきますっ!」

 

先輩にクリスを預けてミルクの準備に

取りかかったシェリアに先輩は微笑んでいた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

そして後日このやらかしを

ウェンディに話したシェリア。

赤面するシェリアを撫でているウェンディ。

 

「大変だったね、シェリア」

「………」

「二人におっぱいを

飲ませないといけないから大へ…」

 

最後まで言いかけて赤面したウェンディ。

赤面した状態で赤面している

シェリアの頭を撫で続けていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

今日は新しい衣装で外に出掛けた結果、

民衆に嫉妬したジェラールによって

赤ジャケット服&スカートに着替えさせられ

ウェンディはベッドに押し倒されていた。

 

「………」

 

無言で首筋やら腹部に刻まれる無数の所有印。

 

「ウェンディ…」

 

名前を呼びながら所有印を舌で舐めていく。

 

「ん…っ!」

「君は俺の妻なのだから、ああいうことは控えてくれ」

「でも…新しい服で出かけたくて…」

 

ジェラールはウェンディを抱き締めて、

唇に深く長く口付けた。

舌を絡め、吸いながら服の上から軽く胸を揉む。

 

「俺は君にそうされると黒い感情が止まらなくなる」

「…ジェラー…ル」

 

探り当てた胸の先端を摘みながら舌を強く吸い上げた。

 

「っ〜〜〜〜…!!」

 

目が少しトロンとしているウェンディ。

 

「だから…本当に控えてくれ」

 

強く抱き締めて、耳元で囁くと

ウェンディはゆっくりと頷いた…。

その後ジェラールは今の所有印塗れの

ウェンディの姿をカメラで撮りまくっていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

衣装部屋でへそ出し黒猫衣装を着て、

猫の鳴き真似をしているウェンディ。

 

「にゃっ、にゃぁ、にゃ〜…」

 

衣装部屋から聞こえる声に反応して

シリルが入ってきた。

 

「猫さん、いるの…?」

「っ!!」

「あ、ママ、可愛い!シリルもその服欲しい…!」

 

ポカーンとしているウェンディ。

そこにシリルを追いかけてきた

エルザもやって来た。

 

「…王妃さ……ウェンディ、なんという格好を…」

 

あっという間に小さな騒ぎになった。

 

「どうかし…た…」

 

ジェラールまでやって来た。

 

「…ウェンディ、その格好は愛らしいが、

俺に甘える時にだけ着て欲しいんだが…」

「し、試着してたらシリルが来ちゃって…」

「猫の声が聞こえたから見に来たら、

ママだったんだよ〜?」

「はっきり言わないで〜!」

 

ウェンディの頭を撫でるジェラール。

 

(人前だと恥ずかしい…!)

「本当に愛らしいな」

「つ、続きはまた今夜にでも…」

「…ああ、楽しみにしている」

「今夜って何するの〜?」

 

そうシリルが不思議そうに訊ねたが、

 

「シリル様、もう勉強のお時間です」

 

慌てたエルザが話を変えた。

 

「えー?」

「さぁ、行きましょう…」

「はーい」

 

引き摺られながら返事をしたシリル。

ウェンディを撫でるジェラール。

 

「エヘヘ…」

「今夜が楽しみだ」

「うん…」

 

頬に口付けられて、頬擦り返すウェンディ。

 

(今すぐにでも…)

「夜まで待ってね」

「…ああ」

 

─一方その頃、勉強中のミスティとシリルは─

 

「ママあの格好で夜なにするのかなー?」

「パパに甘えるんじゃないの?」

「猫のマネして甘える…?変なの…」

 

そんな二人の会話を

先生をやっているエルザが注意する。

 

「勉強中に私語は厳禁です!」

『はーい』

(全くあのお二人は…、

子供の前であんな話をするなんて…)

「その話もっと聞かせてくれないかしら?」

 

そう言ってグランディーネが乱入してきた。

 

「あ……えっと…」

「子供の前でなんですって?」

(声に出してない筈なのに…)

「さっきからボソボソ呟いてるわよ?」

「その…ですね…王妃様が全身猫コーデで

今夜、陛下と何かをするという

お話をされていて…」

「へぇ…」

 

ダラダラと汗をかくエルザに

グランディーネは微笑んだ。

 

「教えてくれてありがとう。

勉強終わったらお茶にでもしましょうか?

エルザ、貴女もいっしょにどう?」

「は、はい。喜んでお受けします…」

「別に貴女を責めることなんてしないわ、

この子達よく貴女の話をしてくれるのよ」

「それは…嬉しいです

(申し訳ありません、陛下…ウェンディ)」

「ふふっ、勉強が終わるまで

私もここで待たせてもらうわ」

 

頬を叩いて表情をキリッとさせたエルザ。

 

「では、勉強を再開する!」

『はーい』

 

勉強の様子をにこやかに眺めるグランディーネ。

…その日の夜、ジェラール達が予定していた事は

どうやら中止になった様である。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グランディーネ+ミスティ+シリル

 

─とある日の夜伽中(最近はほぼ毎回)の話─

 

グランディーネは孫二人を寝かしつけている。

ふと、外をチラリと見てシリルに言った。

 

「シリル、耳を塞いでなさい」

「うん、おばあちゃん」

「いい子ね…」

 

耳栓の上から軽く手を当てているシリル。

その様子にポカンとするミスティ。

 

(なんで耳栓なんか…?)

「ミスティ…気にしなくていいわよ…」

「うん…?」

(寝る前に何かお話しでも

した方がいいかもしれないわね…)

 

耳栓しながら、グランディーネに擦り寄る

シリルを撫でるグランディーネ。

そしてシリルに対抗して、

グランディーネに抱きつくミスティ。

 

「ふふっ…」

 

孫達を撫でながら、グランディーネは微笑んでいた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

メイビスとラーケイド

 

私は現在、アルバレス帝国に滞在しています。

この国にいると、オーガストは老人の姿なのが

少し残念です…。可愛い息子なのは

変わりませんけどね…。

 

「母さん!」

 

私に話しかけて来たのはラーケイド君、

私のことを『母さん』と呼んで来ます。

 

「どうかしましたか?」

「と、父さんが…!」

「はい、ゼレフがどうしましたか?」

「私のことを息子だと言ってくれて…!」

「おめでとうございます、…ラーケイド」

 

喜ぶラーケイドに微笑む私。

 

「か、母さん…」

「どうかしましたか?」

「私は…貴女の息子になっても…」

「いいですよ?

子供が増えるのは嬉しいことです」

「っ……!ありがとうございます!」

「これからもよろしくね、ラーケイド」

「はい、母さん…!」

 

私は気付きませんでしたが、

この様子をオーガストは無表情で見ていたとのことです。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エドエルザのとある日の一日

 

エルザは一頻りの鍛錬を終えた後、

出されたケーキを頬張っていた。

 

(うむ、美味いな…)

 

ふと、視界の端に青の短いツンツンヘアーが見えた。

 

「ケーキを頬張る時のお前は本当に嬉しそうにしているな」

「イザーク…」

 

たった今、目の前の椅子に座って

エルザを眺めているのはエルザの夫である。

 

「どれ、俺も一口…」

「ああ、美味だ…」

 

言葉を言いかけて、イザークの顔が

間近にある事に気付いたエルザ。

…そのままクリームの付着した唇を舐められた。

 

「っ……!」

 

顔を真っ赤に染めたエルザは

 

「甘いな…」

「………」

 

ケーキを食べる手が止まってしまった。

 

「…食べさせてやろうか?」

「た、頼む…」

「ああ、わかった…」

 

エルザの手からスプーンを取り、

ケーキを切り分けてエルザの口元へと運んでいく。

頬を真っ赤に染めて、食べるエルザを

幸せそうに眺めるイザーク。

…最後の苺まで食べさせ終わった後、

エルザを撫でた後、綺麗になった皿を持って

部屋から退出したイザーク。

…ドアを閉めると部下であるドランがいた。

 

「た、隊長…」

「見ていたのか?感心しないな…」

「あ、…いえ、少しだけで…」

「お前は今日、ミスティ様との訓練だったろう?」

「はい、ミスティ様に沢山打ち込まれて来ました」

「…大変だな、お前は…」

「いえ…」

「…傷の手当てをしてやる」

「はい、ありがとうございます…隊長」

 

ドランの頭を撫でて、イザークは

ドランを治療するため、医療室に向かった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ヤジェとシュトラ

 

─妖精の尻尾─

 

黒髪の少年は片割れである青髪の少女に話しかけた。

 

「シュトラ」

「なに?ヤジェ」

 

ルーシィの書いた本を読んでいたシュトラは

本に視線を向けたままヤジェに返事だけをした。

 

「この前の依頼、どう思った?」

「うーん、私とヤジェが組めば簡単だったね」

「そうだな…俺とシュトラが組めば楽勝だ」

 

にっと笑ったヤジェにシュトラも微笑んだ。

 

「そういえば…依頼から帰る度に

皆にワーッて来られるよな…?」

「うん、でも頼られるのは良いことだし…」

「頼られてるのか?俺達…」

「そう思うよ。子供達の中できちんとした魔法使えるのって

私とヤジェ位でしょ?」

「うーん、そういえばそうだな…」

「皆から頼られるのは良いことだよ、ヤジェ」

「…そうだな、二人で

もっと強くなろうな。シュトラ」

「うんっ!」

 

二人は笑い合って、

それぞれの趣味に没頭していた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

親達から見たヤジェとシュトラ

 

─ナツとリサーナ─

 

「ガジルからは想像もつかねぇよな…」

「でもレビィはしっかりしてるから…」

「ん〜、そりゃそうだが…レビィ似ってことか…」

「そうかもね」

「ロメオやアスカ以外にも頼れる奴がいるのは

良いことだとは思う」

「うんうん!」

「でもガジルは気に入らねぇ…!」

「あはは…」

「そういやリサーナ、この前の火傷は平気か?」

「うん、シェリアのお陰で跡形も無いよ」

「毎回巻き込んで悪ぃな…」

「…仕方ないことだから…」

「………」

 

─ロキとルーシィ─

 

「レビィちゃんに似て可愛いわね」

「まだあの年齢なのに、

もう依頼に行ってて凄いと思うよ」

「魔法覚えきるのも一番早かったし…」

「うん、スピカにもゆっくり教えないとね」

「そうね、ロキ」

「愛してるよ、ルーシィ」

「…もう」

 

─ジェラールとエルザ─

 

「あの年齢で魔法を扱えるのは凄いな」

「シェルでもあと少しかかりそうだしな」

「そうだな、シェルは最近母さんにも

教わってるようだから、あと少しだろう」

「…リリアはまだまだだな…」

「私が直々に教えているんだがな…」

「年齢的にもう少し長い目で見るべきだ、エルザ」

「…ああ、そうだな…ジェラール」

 

─グレイとジュビア─

 

「レビィ達の教えが余程良かったんだろうな」

「流石ガジル君!ジュビアもムースに

きちんと教えないとダメですね…!」

「頻繁に水になられて親として困るからな…」

「はい!ジュビアがきっちり魔法の基礎を

覚えさせるので、期待して待ってて下さい!」

「おう…グレージュは小さいフィギュアみてーの

作れる位だな、今ん所」

「小さ過ぎて可愛いんですよね…」

「ああ…って、おい…今どっかで

水の音がしたぞ…ムース探すぞ!ジュビア」

「は、はい!グレイ様…!」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

草原でジェラールに膝枕しているウェンディ。

 

「ウェンディ、少し顔を近付けてくれるか?」

「ん?」

 

にっこりと微笑むジェラール。

 

「…?」

 

不思議に思いながら顔を近付けるウェンディ。

ジェラールは後頭部を手で固定してキスをした。

 

「ん…」

 

頭を撫でて最後に唇を舐めた。

 

「…はあっ…」

「ご馳走様」

「もうっ…」

「君があまりにも可愛くてな…」

 

頬を赤らめながらジェラールを撫でるウェンディ。

 

「…疲れたら、俺の横で休むといい」

「んー…(横になる)」

「あの頃も小さかったが、今でも小さいな…」

「もうっ…」

「可愛い可愛い…俺のウェンディ…」

 

胸板に顔を押し付けるウェンディ。

ジェラールはウェンディを撫で、

ウェンディはジェラールにすりすりしている。

 

「本当に愛おしい…」

「…私も…」

「ここで少し寝るか…?」

「うん…(少しウトウトしている)」

 

瞼を閉じて優しく頭を撫で続けるジェラールと

眠りに落ちていくウェンディ、

ジェラールもウェンディを

軽く抱き締めて次第に眠りに落ちた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

暫くして、グランディーネと娘達が迎えに来た。

仕方ないなぁ、という顔のグランディーネ。

 

『パパとママ寝てる〜!』

「ええ、暫くそっとしてあげてね…」

 

注意も空しく、周りでキャッキャする二人。

グランディーネに口に人差し指を当てる仕草を

されて漸く座った二人だが、ソワソワしている。

暇なので水辺で遊び出した二人。

その音で目を覚ましたウェンディ。

 

『あ、ママ!』

「ん…みんな?」

『おはよう!』

「おはよう…?」

『パパ、まだ起きないね…』

「もう少し寝かせてあげてね…?」

『うん!』

 

娘達をなでなでし、娘達は嬉しそうに擦り寄る。

グランディーネはその様子を微笑みながら眺める。

 

「……ん…」

『パパ〜』

 

娘達を撫でるジェラール。

 

『わ〜い』

「義母上達も来られたんですね」

「貴方達がどうしてるか気になってね…」

「一緒に寝ていただけです」

「そうなの…」

 

ウェンディも二人と一緒に時折撫でるジェラール。

 

「そろそろ帰ってご飯にでもしましょうか…」

「そうですね(娘達を抱き上げる)」

『わーい、ご飯〜』

 

笑顔で後ろをついて行くウェンディ。

 

『今晩はなんだろう〜?』

「なんだろうな…?」

(お肉がいいなぁ…)

 

こうして一家でお城へと帰って行った…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夕飯は魚だった。

少し悲しそうなウェンディ。

 

『わーいお魚ー!』

(二人共喜んで……ん?ウェンディ…?)

(ステーキ…ポークソテー…

ハンバーグ…ミートローフ…)

 

肉料理のことを考えているウェンディ。

ジェラールはこっそり部屋を出て行って

シェフに肉料理をオーダーした。

 

(甘いわねぇ…)

 

ジェラールが部屋に戻って暫くすると

肉料理が運ばれてきた。

キラキラした顔で肉料理を頬張るウェンディを

幸せそうに眺めるジェラール…。

 

(幸せそうだな…)

 

満面の笑みのウェンディ。

笑顔で食べ終わった孫達を連れて

退席したグランディーネ。

 

その後は二人で晩酌をしていた。

 

「…まだ飲めるか?」

 

ボーっとしているウェンディ。

 

「今日はこれくらいにしておくか…」

 

ジェラールに擦り寄るウェンディ。

 

「みんなのところに戻ろう…」

 

ウェンディをお姫様抱っこして

寝室に向かったジェラール。

 

「あら?もういいのかしら?」

「はい、義母上」

「ママ、顔真っ赤〜!」

「ママはあの飲み物には弱いからな…」

「あははは〜」

「さて、皆で寝るか…」

「ええ」

 

その日はウェンディを中心に皆で眠りについた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ロメオとアスカ

 

ウェンディがエドラスで着ていた

赤ジャケット服と黒のスカートの衣装を

時折着るようになった妖精の尻尾の

女魔導士達(レビィはガジルが頑なに止めた)。

 

「ロメオ!」

「なんだよ、アス……カ…」

 

アスカもその衣装を身にまとい、

ロメオの前でクルクルと回ってみせる。

 

「どう?」

「どうって…それ、確か

ウェンディ姉が着てた衣装だろ…?」

「でも皆着てるでしょ…?」

「…スカートがもう少し長ければいいと思う」

「…なんで?」

「なんでって、そりゃ…」

 

顔を赤らめるロメオ。

ニヤニヤとしながら、それを眺めているカナ。

 

「若いっていいねぇ…」

「ねぇ、ロメオ。なんで?」

「…見えるだろ、下…」

「………」

 

立ち止まってスカートをギュッと握ったアスカ。

…その後はお互い赤面しながら、

子供達の相手をしていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

魔法講師をするシェリア

 

学校の卒業生として魔法講師をしているシェリア。

 

「…という訳で、皆も沢山頑張れば

魔法だって覚えられるよ!

アタシだって頑張って勉強して覚えたんだから」

 

天空の滅神魔法を少し使って風を起こした。

 

「せんせー!」

「ん?なにかな?」

「大魔法乱舞?っていうイベントで

せんせーと戦ったっていう女の人って誰ですか?」

「今はこんな人、妖精の尻尾にはいませんよね?」

「ああ、ウェンディのこと?」

『ウェンディ…?』

 

揃って首を傾げる子供達に感慨深げに

シェリアは当時の思い出話を始めた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「─…だから、ウェンディは今では向こうの世界にいるんだよ」

『ウェンディ、すごーい…!』

「愛する人に会う為に世界の壁すら

飛び越えて…ああ、素敵…!」

「…そういえば、せんせーって

その『愛する人』っているの〜?」

「いるよ〜?リオンっていってね──…」

 

そこからシェリアの惚気話が始まった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

家に戻り、当時着ていた

セーラー服を持ち出したシェリア。

 

「シェリア、それはまずい…」

 

シェリアの肩を掴んで止めたリオン。

 

「なんで?ジュビアはブレザー着てたでしょ?」

「うっ…」

 

言葉に詰まった挙句、家を飛び出したリオン。

向かった先はグレイの家。

 

「あ、リオンだ…!」

「リオンさんだ〜…!」

 

グレージュとムースに出迎えられた。

 

「二人共、グレイはどこだ?」

「自分の部屋にいるよ」

「でもママが入っちゃダメって言って…」

「よし、ありがとう」

 

グレイの居場所を認識したリオンは

グレイの部屋に向かい、ドアを開けた。

 

「グレ…、っ……!?」

 

リオンが見た光景は、ジュビアが制服姿で

グレイに擦り寄っている姿だった。

そのままドアを閉めて、即家に帰ったリオン。

 

「おかえり、リオン。どこに行ってたの?

あのね、ついさっきね…」

(助けてくれ、ウル…!)

「…どうかした?リオン」

 

ウルの声が聞こえた気がして顔を上げたリオン。

視線の先にいたのは、どこか疲れた表情をした

ウルティアだった。

 

「じゅ、ジュビアが制服で夜這いで…!」

 

混乱したまま話すリオン。

 

「ああ、グレイね…ジュビアに困ってるの…、

そう…私はグランディーネさんに困っててね…」

「あの人も制服で夜這いなのか!?」

「いや…その…氷の造形魔法で

大量の人形を作らされて…」

「まさか人形でハーレム…!?」

「り、リオン…?」

「それが壊す目的で、なのよ…」

「ごめんなさい…、

リオンはアタシのせいで混乱してて…」

「そうなのね…」

(この人も大変そうだなぁ…)

 

暫くリオンは混乱したまま、話は続いていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

再びギルティナからの旅行客

 

水神竜メルクフォビアの背中に乗って

風を浴びているカラミール。

 

「メル様、今日はどこへ行かれますか?」

「この前行った妖精の尻尾に行ってみようか」

「…はい、メル様。

(メル様と一緒にいられる…幸せ…)」

 

幸せオーラを撒き散らすカラミール。

 

「…カラミール、私と旅することが

そんなに幸せなのかい?」

「…!は、はい…!メル様と旅行できるなんて

光栄で堪らなくて…!」

「…そうか」

 

人気のない草原に降り立ち、

人の姿を取ったメルクフォビア。

 

「では、行こうか。カラミール」

 

メルクフォビアに差し出された手を

ゆっくりと握ったカラミール。

 

「はい、メル様…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─妖精の尻尾─

 

「…相変わらず和気藹々としたギルドだね」

「そうですね」

「いらっしゃい、水神竜さんにカラミールさん」

「こんにちは、マスター・メイビス」

「またお邪魔させてもらいますね」

「はい、是非ゆっくりとしていって下さいね」

 

セツナの世話をしていたイグニールが

メルクフォビアを見ると手招きをした。

 

「何かな?炎竜王」

「…息子達が何故か話をしたがっている、

話をしてやってくれ」

「そうか、わかった。

では行ってくるよ、カラミー…」

 

振り返ったメルクフォビアだが、

何故かそこにカラミールの姿がなかった。

 

「…カラミール?」

「カラミールさんなら、我がギルドの

女性陣に引っ張られていきましたよ?」

「…そうか、なら安心したよ」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─男性陣の話─

 

「水神竜さん、貴方はあのカラミールという

女性をどう思っているのかな?」

 

単刀直入に本題に切り込んだロキ。

 

「…そういう話か、彼女は

私の世話をしてくれている」

「うん」

「彼女は私に人と竜の共存の道を示してくれた、

…嘗ては本来の凶悪な竜であったこの私に」

「イグニアみてぇにか?」

「そうだよ」

「…でも、変わったんだろ?」

「そうかもしれないね」

「…好き、なのか?」

「…いきなりだね、

今の彼女は私にとっては…そうだね…

傷ついて欲しくない人、かな…?」

「それ、愛って言うんじゃないのかな?」

「…それはまだ分からないかな、

彼女の気持ちも考えなければいけないしね」

『……………』

 

─女性陣の話─

 

「カラミールさん!」

 

ジュビアが乗り気に話しかけた。

 

「は、はい」

「メルクフォビアさんとはどういったご関係で…!?」

「メル様は私の恩人で、

エルミナになくてはならない御方です」

「カラミール自身はどう思っているんだ?」

「…?何を、ですか?」

「メルクフォビアさんについてじゃないかな?」

「は……!?」

 

頬を染めたカラミール。

 

「め、メル様は…私がそのような感情を

抱いていい御方では…!」

「お、これは…」

 

ニヤニヤとするカナ。

 

「応援してるよ!」

「な、なんなんですか…!?」

 

女性陣全員から生暖かい視線を貰ったカラミール。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

再び同室を勧められ、周囲の思惑に

気付きながらも混乱しているカラミール。

それを見ながら

メイビスは楽しそうに微笑んだ。

 

「仲良くなるって良いことですよね!」

 

怪訝な表情のグランディーネ…。

 

「…グランディーネさん、何か…?」

「竜は色々とすごいから…」

「でも紳士的な方みたいですよ?」

「夜になると…こう…」

「滅竜魔導士だけじゃなくて竜もそうなんですか?」

「あれより凄いわよ…」

「…でも、想い合ってるようですし… 」

「…とりあえず耳栓用意した方がいいわよ…」

「…まだそこまでは行かない気がするのですが…」

「皆豹変するのよ…」

「……?」

 

そしてメイビス達に止められるカラミール。

 

「ど、どうかされましたか?」

「いえ、何も…」

「……?メル様、どうします?」

「ご厚意に甘えるとしようか」

「は、はい…!」

 

…そして翌日、特に何も起きなかったようで

グランディーネは安心したのだった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

オーガストとラーケイド

 

この日、メイビスは

アルバレス帝国に滞在していた。

 

「母さん!」

「どうかしましたか?ラーケイド」

 

メイビスに話しかけたラーケイドはにこりと微笑んだ。

 

「…呼んでみただけです、母さん」

「……?」

 

すると、急に別方向から手を引かれたメイビス。

 

「…母さんに馴れ馴れしくするな」

 

聞いたことのない声にメイビスが其方を向くと、

自分と似た金髪の、険しい表情の青年がいた。

 

「…おや、そのお姿は…」

「えっと…?」

 

一体誰なのか心当たりのないメイビス。

 

「母さん…私はオーガストです。

…若い頃の姿を取らせて頂きました」

「オーガスト…!?」

 

少しの間驚いた後、華やいだ表情になった。

 

「屈んで下さい、オーガスト!」

「はい、母さん」

 

メイビスの背丈に合わせて屈んだオーガスト。

そのオーガストの顔をぺたぺたと触るメイビス。

 

「わぁ…!小さい頃も私によく似てましたが、

大きくなっても私に似てくれたんですね…!

そして、どことなくゼレフにも似て…!」

「…嬉しいです、母さん…」

 

そう言いながらもラーケイドを

牽制しているオーガスト。

 

「…これはこれは…、では私はこれにて…」

「………」

 

ラーケイドが視界から消えた後、

母との触れ合いに集中するオーガスト…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ゼレフの元へと移動したラーケイド。

 

「父さん」

「何かな、ラーケイド」

「オーガストさんが私に冷たいのです」

「…そんなの昔からだろう?」

「…最近さらに冷たくなった気がします」

「……………。

(オーガストは僕らの息子で、

ラーケイドにはドラグニルの性を与えて、

昔から結構な期間、僕の息子と公言していて…)

…ラーケイド、理由がわかったよ」

「では、教えて頂いても…?」

「…オーガストは恐らく君に

嫉妬のような感情を抱いている。

そして僕が君を認めた以上、

君を以前よりも敵視している」

「…?何故ですか?」

「昔から君が僕の息子だと

周りに言い続けていたから…だと思うよ。

要は、君に僕らを取られたくないんだ」

「…私はオーガストさんとも

仲良くしたいのですが…」

「向こうが認識を改めてくれるのを待とうか…」

「はい、父さん…」

 

ラーケイドはゼレフに慰められていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ

 

サイモンへのクリスマスプレゼントを

買うために店を見て回っている

コブラとキナナ。

 

「俺は蛇の置物かぬいぐるみで良いと思うが…」

「夢がないよ、エリック…。

あとそれは別に私が魔法を使えば済むことでしょ?」

「ならペットとして蛇を…」

「…蛇から離れようよ、エリック…」

「あいつ、蛇好きだぞ?」

「それは私が蛇になるからでしょ?」

「それはそうだが…」

「エリックも蛇が欲しいからって我儘言わないの。

エリックが欲しくても、サイモンも欲しいとは

限らないよ…?」

「…ペットでいいと思うんだが。

あいつ、まだ魔法の制御出来てないから

心の声も聴き取り難いからな…」

「………」

 

その発言を聞いて立ち止まったキナナ。

 

「キナナ…?」

「キュベリオスの頃は聴き取れなかったんだよね」

「…ああ」

「今は声を届けられて嬉しいよ、エリック」

「俺も…お前の声を聴けて嬉しい」

「…じゃあプレゼント、ペットの蛇にしよっか?」

「そうだな」

 

蛇を購入して、手を繋いで歩く二人。

 

「サイモン、喜ぶかな?」

「だから言ったろ、あいつも蛇好きだって」

「うん!」

(お前達の声は、聴いていて幸せになるな…)

 

コブラはそんなことを思いながら、

キナナの手を握っていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ナツリサ

 

セツナをギルドに預け、ナツとリサーナは

雪降る街でデートを楽しんでいた。

 

「…さみぃな」

「じゃあ、こうしてあげるよ。ナツ」

 

リサーナに後ろから抱きつかれたナツ。

 

「あったけぇな…」

「…うん、ナツも暖かいよ…」

「…リサーナ、手を出せ」

「?」

 

ナツに言われるまま手を差し出したリサーナ。

その手を握って歩き出したナツ。

 

「今日は積極的だね、ナツは…」

「そうか?」

「うん、すごく…いいと思う」

 

ナツの手をしっかりと握って

ナツと並んで歩くリサーナ。

 

「今年もナツと一緒で幸せだよ」

「来年からもよろしくな、リサーナ」

「もちろん!」

 

その後は二人で肉まんを頬張ったり、

買い物したりしながら

互いに笑顔で二人きりの時間を楽しんでいた。

 

─一方エドラスでは─

 

ミスティ達はシリルよりも大きなテディベアを

プレゼントとして貰い、遊ぶ時も寝る時も

一緒で二人でテディベアに頬擦りしながら、

テディベアに抱きついて眠りについていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスティの誕生日

 

今日はミスティの誕生日である。

プレゼントを両親から貰い、満面の笑みのミスティ。

 

「ありがとう!」

 

微笑む娘を見て、ウェンディはミスティが

産まれた当時のことを思い出していた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「グランディーネ…!」

「どうしたの?ウェンディ」

「こ、子育てって…どうすれば…?」

「私も手伝うわ、安心しなさい…ウェンディ」

「う、うん…!」

 

一方ジェラールはというと…

 

「俺は父親になるとは……大丈夫だろうか…?」

「ジェラール…?」

「…俺はまともな父上の記憶など殆ど無いんだぞ?」

「…大丈夫だよ、私もグランディーネしか…

ううん、いろんな人達に育てられたから…」

「ウェンディ…」

 

それからも二人は色々なことに悩みながらも

ミスティはすくすくと成長した…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「パパ!ママ!」

 

愛娘を抱き締めるジェラールとウェンディ。

それを嬉しそうに眺める、

シリルを抱っこしているグランディーネ。

 

グランディーネは後日、

この日の様子を写真に撮り映像魔水晶にも残して

アースランドの妖精の尻尾へと持ち帰ったのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスティとメリア

 

ミスティはこれまでのメリアとの手紙を

眺めながら微笑みつつ、年賀状を書いていた。

 

「これからもよろしくね、と…。

あとはこの写真を貼って…と…」

 

グランディーネの元へと走るミスティ。

 

「おばあちゃん!これ!メリアちゃんに!」

「わかったわ、渡して来るわね…」

 

年賀状を受け取って、

思念体の維持を解除したグランディーネ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「あ、グランディーネさん!」

「こんにちは、メリア。これはミスティからの年賀状よ」

「っ…!じゃあ、これをミスティちゃんに…!」

 

メリアも同じく年賀状を渡し、ミスティからの年賀状を眺めた。

 

「大きいテディベア可愛い…!ミスティちゃんに

これからもよろしくって言ってて下さい…!」

「ええ、わかったわ…」

 

思念体をエドラスに戻らせたグランディーネ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「おばあちゃん、おばあちゃん!メリアちゃん、元気だった…?」

「ええ、これを渡されたわ。

あと『これからもよろしく』らしいわ」

「!うん…!」

 

微笑みながらメリアからの年賀状を眺めているミスティ。

 

「ニコちゃん、いいなぁ…可愛いなぁ…!

星霊界のお洋服いいなぁ…!」

 

年賀状を持ったまま、父の元へ走ったミスティ。

 

「パパ!」

「どうした?」

「メリアちゃんが着てるこの青いお洋服!同じの作って…?」

 

キラキラした目で父を見上げるミスティ。

 

「一着だけだぞ…?」

「わ〜い!」

 

喜ぶミスティの頭を撫でるジェラール。

 

(いつかこのお洋服を着てメリアちゃんに会うんだ…!)

 

この日からミスティは

アースランドのメリアや他の子供達を

強く思いながら眠るようになった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

とある日のジェラエル一家

 

アイリーンに外に出るように

促されたエルザ達家族は

外に出た瞬間に竜に遭遇した。

 

「…そんなに身構えなくても大丈夫よ」

「…母さん…?」

「竜の姿…?」

『おばあちゃんの声…!』

「…全員、私の背に乗りなさい。

今日は空からの地上を見せてあげるわ」

 

少し戸惑いながらもアイリーンの背に乗ったエルザ達。

 

「しっかり掴まっていなさい…!」

 

そう言って空高くへと翔んだアイリーン。

 

『わぁ…!』

 

空からの景色にはしゃいでいるリリアとシェル。

 

「危ないから母さんの傍にいるんだ、リリア」

「落ちるぞ、シェル」

 

それぞれ我が子を抱き抱えたエルザとジェラール。

 

「リリアとシェルは楽しんでるみたいね」

「母さん、その姿は…一体…?」

「…私も昔は色々とあったってことよ…」

「……風が気持ちいい…」

「空の旅、存分に楽しみなさい」

 

それから30分程、アイリーンは空を翔び続けていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

髪を短く切ったウェンディ

 

─ミスティが産まれて一年程経過した頃─

 

最近ミスティに髪の毛を引っ張られていたウェンディは

思い切ってショートヘアーにして帰って来た。

 

「ただいま!」

「おかえり、ウェンディ。…昔みたいだな」

「…短くしてみたよ…?」

「おかえりなさい、懐かしいわね…」

「えへへ…」

 

ウェンディの頭を撫で回すジェラールとグランディーネ。

その日から暫く、ミスティは

今まで引っ張っていた髪の毛が

なくなったことに少し戸惑っていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─現在─

 

今までのアルバムを眺めていたミスティは

ショートヘアーの母の写真を見つけた。

 

「ねぇ、この写真のママはどうして髪が短いの?」

「ミスティに髪がかからないようにする為だよ?」

 

敢えて違う理由を答えたウェンディ。

 

「短い髪のママも綺麗だね」

 

その様子を眺めていたグランディーネは微笑んでいた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ウェンディが載っているソーサラーを

アースランドから持って来たグランディーネ。

 

(ウェンディ、薄着だな…)

 

そんなことを思うジェラール。

 

「懐かしいなぁ…」

 

ジェラールが良くない表情をしていることに

気付いたウェンディ。

 

「もう昔のことだよ…?」

「だが…君がこんな姿を晒していたと思うとな…」

「もう…」

 

ウェンディを抱き締めるジェラール。

 

「…ずっとジェラールに

見てもらえたらって思ってたよ…」

 

その言葉を聞いて、ウェンディの耳元で

何か囁いたジェラール。

 

「…うん…」

 

頬を染めるウェンディの頭を撫で、ウェンディは擦り寄った。

…暫くすると、ジェラールは自分の頭を壁へとぶつけ出した。

 

(ウェンディはこの衣装を…!)

「半分は子どもの着る服じゃない…」

 

そう呟くグランディーネ。

 

「…ドレスとか…」

「……」

「………」

 

お互い無言のジェラールとグランディーネ。

 

(ジェラールのためなら…また着てもいいかな…)

 

無言でウェンディを抱き締めるジェラールだった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

フリミラ一家

 

雷神衆の長期依頼が終わったフリードは、

ミラとフィーラにお土産を買おうと決心したものの、

何を渡すべきか悩んでいた。

 

「……ミラ達は何が喜んでくれるだろうか…?」

 

フリードは暫く悩み、とある店を見つけた。

 

「…そういえば、近日中にあの日が来るな…」

 

何かを決心したフリードは店に入って行った…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「パパ、遅いね」

「そうね、帰って来るのが楽しみね」

「…うん」

 

リビングでわくわくしながらフリードの帰りを待つ二人。

…直後、ドアの開く音が響いた。

 

「帰って来たわね」

「う、うん…!」

 

玄関へと向かう二人。

 

「ただいま、今戻ったぞ…」

「遅い!全く…何してたの…?」

「フィーラ、そんなこと言わないの…!」

 

内心微笑みながら娘を宥めるミラジェーン。

 

「…二人にお土産だ」

『?』

 

ラッピングされた小さな袋をそれぞれ渡された

ミラジェーンとフィーラ。

 

「あと、これもだな…」

 

続いて色鮮やかな花束を渡された。

 

「…ありがと、これ…なに?」

「…袋の中身を見れば分かるとは思うが、逆チョコというヤツだ」

「まぁ!」

 

頬を染めて笑ったミラジェーン。

 

「もうすぐバレンタインだろう、

早いとは思うが…俺からの気持ちだ」

「へぇ…ふ〜ん…?」

「な、なんだ。フィーラ…その顔は…?」

「パパにしては気が利いてるね!」

「一体俺を何だと思っているんだ…」

「ありがとう、フリード」

 

フリードに抱きついたミラジェーン。

 

「…ミラ」

「私もフィーラもフリードが大好きよ」

「…ああ、これで俺も暫くはお前達と共に過ごせるな」

「きちんと構ってね?パパ」

「ああ、分かっている。フィーラ」

 

娘を撫でて、フリードはミラジェーンの頭も撫でた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

グレジュビ+ガジレビ

 

「グレイ様〜!」

「どうした?ジュビア」

「少し小さいですが、ジュビアチョコです!

愛を込めたので味わって食べて下さいね!」

「おう、ありがとな」

 

包装紙の形からして人型チョコを

受け取ったグレイ。

 

「が、ガジル…!」

「なんだ?」

「はい、これ…!」

 

ハート型のチョコを手渡したレビィ。

ガサガサと包装紙を開けるガジル。

 

「おっ、鉄も入ってるじゃねぇか」

 

ハートの中心部の穴には

鉄がたっぷりと詰め込まれていた。

 

「喜んでくれると思って…」

「ギヒッ、ありがとな…」

 

レビィの頭を撫でるガジル。

 

「ガジル君、ガジル君にもプレゼントよ」

「あ…?」

 

ジュビアから四角いチョコを貰ったガジル。

 

「友チョコだから安心してね!」

「…なんだ、あいつ…」

 

そう言いながら、レビィのチョコを

頬張るガジル。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

酒を飲んでいたカナに話しかけるレビィ。

 

「どうしたんだい?」

「うん…ジュビアのテンションには

中々ついていけなくてね…。

ジュビアの本命がガジルじゃ無くてよかった…。

ライバルにすると大変だろうから…」

 

ニヤニヤしながら酒を飲むカナ。

 

「酒は美味いし、レビィの話も面白いねぇ…」

 

カナは酒を飲みながら、

レビィの話を楽しげに聞いていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ベビードールにカーディガンを羽織って

娘達を撫でているウェンディ。

 

「………」

 

無言でその姿を凝視するジェラール。

 

(その格好は危険だな…)

 

そんなことを思いながら凝視し続ける。

ウェンディは娘達を寝かしつけた後、

ベッドに潜り、ジェラールも潜った。

ジェラールに擦り寄るウェンディ。

 

「いいか…?」

 

そう耳元で囁くと、ウェンディは赤面した。

 

「義母上、お願いします」

 

無言でシリルに聞こえないようにするグランディーネ。

 

「ありがとうございます…」

 

もじもじしているウェンディを抱きかかえて

部屋を移動したジェラール。

別室に到着した途端にベッドに押し倒され、

赤面しているウェンディと笑顔のジェラール。

 

「じぇ、ジェラー…」

「こんなに透けてると子供の教育にも悪いな…」

「っ……!」

「お仕置きだなっ…」

「あ……」

 

そしてジェラールはウェンディに口付けた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

シーツはボロボロになっていて、ウェンディの表情は蕩けている。

 

「あぅ……」

「ご馳走様、ウェンディ…」

 

蕩けた表情のウェンディの頬に口付けて、

愛しそうに抱き締めた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夢の中でプールに入っている一同。

ビキニ姿で得意気に胸を見せ付けるウェンディ。

…ミストガンの顔を想像する女性陣。

 

ミストガンの元へと飛んで来たシャルル。

 

「…どうかしたか?」

「…ウェンディの…その…胸が大きくなったのって…」

「…まあ…な…」

「………」

「………」

「…ウェンディにあまり変なことしたら許さないわよ…」

「…ああ…」

「ウェンディのこと…大事にしてね」

「ああ…」

「なら、いいわ…」

 

そう言って、女性陣の方へと飛んで行ったシャルル。

 

「………」

「ジェラール〜!」

 

自分の元に来たウェンディを抱き締めたミストガン。

 

「えへへ…」

 

擦り寄るウェンディを繰り返し撫でる。

 

「今日は来れて良かったな…」

「うんっ!」

 

二人で寄り添いながら、皆の元へと向かった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

プールで水をパシャパシャかけ合っている

ミスティとシリルを楽しそうに眺めているグランディーネ。

 

(二人共、可愛いなぁ…)

 

そう思いながら二人の側に行き、

水のかけ合いに混ざるウェンディ。

それを眺めながらクリスの世話をするジェラール。

 

(幸せだなぁ…)

 

そう思いながら水にぷかぷかと浮くウェンディ。

真似するように二人も水にぷかぷかと浮いた。

 

「楽しいね…」

『うんっ!』

「ふふっ」

 

それから暫く経ち、皆日焼けした。

 

「日焼けしちゃったね…」

『えへへ…』

(これって傷扱いになるのかなぁ…)

『このままがいい!』

「そっかぁ、うん…いい思い出…かな?」

 

ドヤ顔する娘達を撫でるウェンディを

楽しそうに眺めるグランディーネ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夜、水着が当たっていた部分を確認するウェンディ。

 

「…日焼け部分と比べると凄いね…」

 

プールでグラサンをかけていたため、

顔が悲惨なことになっているジェラール。

 

「…ジェラール、昔みたいに覆面っぽくする?」

「…治して…下さい…」

「うん、じゃあ治すね…」

「ありがとう…」

「…王様だものね…」

「まあ…な…」

 

ジェラールの頬に口付けながら治癒魔法をかけるウェンディ。

 

(癒される…)

 

少しの間口付けた後、頬擦りして治癒魔法を止めた。

 

「…これで治ったよ」

「すまないな…」

 

ウェンディの頭を撫でるジェラール。

 

「どういたしまして」

 

ウェンディはそう言いながら微笑んだ。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

エルフマンとエバーグリーンの子供

 

短い栗色の髪の少女がぬいぐるみで遊んでいる。

度のない眼鏡を外し、ぬいぐるみをじっと見つめると

ぬいぐるみは石と化した。

 

「遊ぼう…?」

 

石と化したぬいぐるみはリーフに意により

動き出し、リーフと遊び出した。

 

「楽しいね…」

 

少しの間、ぬいぐるみと遊んでいると

 

「またぬいぐるみと遊んでんのか?リーフ」

 

後方から聞こえた声にリーフは微笑み、振り返った。

振り返ると同時にぬいぐるみは石から元の状態に戻った。

 

「せんせ〜!」

 

現れたビックスローに抱きつくリーフ。

ビックスローの人形達がリーフの周りを飛び回る。

 

「パッパちゃん達も〜♪」

「お前の魔法は少し効率が悪い、俺が鍛えてやる」

「せんせ〜♪」

「無機物にテイクオーバーとか、良さそうだな…」

「?」

 

きょとんとしているリーフ。

 

「エバに似て可愛くなったな…」

「…?ありがとう…」

 

頬を染めるリーフをビックスローは撫でていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夢の世界

 

真っ暗な世界でミスティは戸惑っていた。

目の前に浮遊する小さなピンク色の何かがいる。

 

「ミスティ、ミスティ〜」

「シリル…?ちっちゃくなっちゃった…」

 

ミスティの肩に乗る妖精姿のシリル。

 

(なんか変な感じ…)

「ここ、どこかな…?」

「どこだろう…?」

「歩いてみよ!」

「うんっ!」

 

ふよふよと浮遊しながら先導するシリル。

 

「ミスティ〜、あっちに人がいっぱいいるよ〜?」

「いってみよ!」

 

次第に見えてきた見知った姿にミスティは呟いた。

 

「ん?あれママかな?」

「ママ〜!」

 

ウェンディの周りを浮遊しながら回るシリル。

 

「ミスティ!と…シリル…?」

「うんっ!シリルだよ?」

「すっかり小さくなって…」

「…シリル達みたいな子供も沢山いるんだね」

「今日はみんなにも来てもらったの!」

 

ミスティは自分と似た髪色の少女を見て微笑んだ。

 

「えっと…メリアちゃん…?」

「ミスティちゃん!」

 

喜ぶミスティとメリアを見てウェンディは思った。

 

(まるで双子みたい…)

「あの子達、

まるで同一人物みたいですね…ウェンディさん」

 

カーチャがウェンディに話しかける。

 

「きっと…平行世界の…」

「メリアも仲良くなれたみたいで嬉しいです」

「はい…何か不思議な気分です」

 

セツナが移動するシリルを見ている。

 

「…?」

「遊ぼ…?」

「いいよ〜!」

 

キラキラした目になったセツナ。

 

「なにして遊ぼっか?」

「追いかけっこ!」

「わーい!」

 

早速逃げ出すシリルと追うセツナ。

…その様子を、少し離れた所から見ているリーフ。

 

「…妖精さん、可愛い…」

 

無意識に眼鏡を外そうとして…

 

「リーフ、石にしようとしたらダメだからね!」

 

フィーラに止められた。

 

「…はっ!」

「もう…」

 

また別の所からシリルを見ているムースとグレージュ。

 

「妖精さん、可愛いね。お兄ちゃん」

「可愛い…」

 

ハッピーにすりすりされているシャルルは

恥ずかしがっている。

 

「ちょっと…人前よ…?」

「だってシャルルが可愛いから…」

 

シャルルはエリスを抱っこし直すと、シリルがエリスに寄ってきた。

 

「あぅ…」

 

そっと指先に触れるシリル。

結果、捕まえようとしているエリス。

 

「わ〜」

 

笑顔で逃げたシリル。

 

「う〜…」

 

少し残念そうなエリス。

 

「ふふっ…捕まえちゃダメ…」

 

エリスを撫でるシャルル。シャルルに擦り寄るエリス。

 

「こっちに来たよ、ヤジェ」

「ああ…」

 

指先にシリルを乗せるシュトラを見て、

少し指を差し出すヤジェ。

シュトラの指先からヤジェの指に着地するシリル。

…するとヤジェは次第にガジル似の笑みを浮かべた。

ヤジェの指の上でコロコロ転がるシリル。

 

(他の子より少しだけ硬い指だなぁ…)

 

ツンツンとシリルに触れるヤジェ。

 

「きゃ〜」

 

コロコロと転がるシリル。

満面の笑みを浮かべるヤジェ…。

そこにやって来たミスティ。

 

「ミスティ〜!」

 

ミスティの元へ飛び立ったシリル。

ヤジェの笑顔がちょっと怖いミスティ。

 

「ミスティ〜?」

「な、なんでもないよ〜」

「えへへ〜」

 

その後もシリルは子供達に可愛がられていた。

一方大人たちはウェンディ成分を補給している。

皆から順番に抱き締められているウェンディは

大泣きしているナツを宥めている。

 

「ナツさん、泣かないで下さい…」

「気が済むまでさせてあげて…?」

 

リサーナがそう言ったので

ウェンディは黙って抱き締められている。

…それを見て若干面白くなさそうなミストガン。

 

「君は何も思わないのかい…?」

 

そうリサーナに語りかけるミストガン。

 

「……?あの二人は兄妹みたいなものだから…」

「むぅ…」

 

ナツから奪うようにウェンディを

抱き締めたミストガン。

…渡さないと云わんばかりにナツに抱き締められるウェンディ。

 

「今日位いいじゃねーかよ…」

 

サッとウェンディの前に立ち塞がるミストガン。

 

「……」

「じぇ…ミストガン、今日位は…」

「……わかった……」

 

不満そうに答えたミストガン。

 

「ナツさん!」

 

皆がウェンディを抱き締めていく。

その光景に呆然とするミスティとシリル。

そんな様子を眺めながら夢から覚めた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミストガンはウェンディをすぐ様抱き締めた。

再び呆然とするミスティとシリル。

穏やかに眠っているクリス。

 

「いつかクリスも一緒に行けるといいね…」

「もう少し大きくなってからだね…」

 

ウェンディに抱きつく娘達。

そんな様子を見ながら、

もっと抱きつきたかったと思うミストガンだった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

クリス+ジェラール

 

ミスティ、シリル、ウェンディ、グランディーネに

抱っこされているクリスは大人しくしているが、

ジェラールが抱っこすると…

 

「うー!」

 

抵抗するクリス。

 

「わはは…」

「うー…」

 

ジェラールの顔面に蹴りを入れたクリス。

 

「うっ」

「うー!」

 

離せ、と言わんばかりに暴れるクリス。

 

「わんぱくだな…」

 

胸板周辺で抱っこし直すジェラール。

 

「うー…」

「ママが恋しいか…?」

 

そう言ってウェンディの方を向くと

クリスは嬉しそうに返事をした。

 

「うー!」

 

無言でウェンディに近寄るとクリスがはしゃぎだした。

 

(クリスは俺が嫌いなのか…?)

 

そう思いながらクリスをウェンディに抱っこさせた。

ウェンディに嬉しそうに擦り寄るクリスを

複雑な気持ちで見つめるジェラール。

 

「……」

「落ち込むこと無いわ…」

「義母上…」

「父親には懐かなかったりするものよ…」

「………」

 

ジェラールの頭を撫でるグランディーネ。

 

「…ありがとうございます…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン一家

 

お揃いのワンピースのミスティとシリルを

ベンチブランコで揺らしているウェンディ。

 

『わ〜い!』

 

ジェラールはクリスの面倒を見ているが、

足で少し蹴られた。

 

「こらこら…」

「う〜…」

「わんぱくめ…」

 

足で何度も蹴ってみるクリス。

 

「わはは…」

 

効果がまるで無いのを見て、諦めたのか

擦り寄って来るクリスを撫でるジェラール。

 

「…あぅ…」

 

グランディーネは笑顔でその様子を眺めていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

コブキナ一家のハロウィン

 

サイモンは南瓜の帽子を被り、

ペットとして迎え入れた蛇(ヴェレーノ)を

時折撫でながら母が作った

南瓜のバスクチーズケーキを頬張っていた。

 

「ママのケーキ美味しい…」

 

ヴェレーノにもあげようとして、

 

「サイモン、ダメだよ」

 

母に止められた。

キナナは魔女風の格好をしていた。

 

「ママ、パパは?」

「ふふ、それはね…」

 

サイモンが訝しげにしていると、

誰もいなかった筈の背後から声がした。

 

「ここだ」

「わっ!」

 

驚いて後ろを向いたサイモン。ニヤリと笑う父は

蝙蝠を思い起こさせる仮装をしていた。

 

「驚いたか?サイモン」

「そりゃあ…うん」

 

ヴェレーノはキナナの腕に巻き付き、

キナナは愛しそうに撫でる。

 

「じゃ、皆でケーキ食べよう?」

「うん」

「ああ」

「シュー…」

 

家族全員でケーキを笑顔で頬張ったのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

無言でお互いの瞳を見つめ合っている二人。

お揃いの色なので嬉しそうに目を細めるウェンディ。

そんなウェンディを撫でるジェラール。

嬉しそうに抱きつくウェンディ。

 

「ふふっ」

 

ひたすらスリスリし合っている二人。

そんな両親を眺める子供達。

それに気付いて、子供達を二人で交互に撫でていく。

撫でられて幸せそうなミスティとシリル。

ウェンディに抱っこされて嬉しそうなクリス。

…ジェラールが抱っこした瞬間、クリスは暴れ出した。

 

「あぅ〜!」

「うう…」

 

少しショックを受けているジェラール。

ウェンディが後ろから抱き上げて撫でるように目配せした。

 

「うぅ〜♪」

「ジェラール、今の内に…」

 

小声で話すウェンディ。

ジェラールはそっとクリスを撫でた。

 

「あぅ…?」

「ふふっ…」

「…う〜…」

 

ジェラールは暫くの間、クリスを撫でていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

火を起こした後、さつまいもを焼きながら

アースランドのナツの話を

始めたウェンディと、それを聞きながら

少し楽しそうなグランディーネ。

しかし少しムスッとしているジェラール。

父が何故不機嫌になったのか分からない娘達。

 

『……?』

 

何故不機嫌になったのかを

こっそりと教えたグランディーネ。

 

『そうなの…?』

「まあ離れ離れだった時間が長かったし…」

 

ウェンディの頭を撫でているジェラール。

 

「まあまあ…」

 

ジェラールは出来上がった焼き芋を

一瞬口に放り込んで、直ぐに

ウェンディに口移しした。

 

「ふふっ…」

 

赤面しながら焼き芋を頬張っているウェンディ。

唖然としている娘達。

 

「皆の前でやらなくても…」

「我慢できなかった…」

 

そう言って、ジェラールは次に出来上がった

焼き芋を家族達に分け与えていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

「ジェラール」

「どうした?ウェンディ」

「今日、何の日か覚えてる?」

「もちろんだ」

 

ウェンディの頭を撫でるミストガン。

嬉しそうに微笑むウェンディ。

 

コンコン…

 

「陛下〜!王妃様〜!」

「ココか、どうした?」

「結婚記念日、おめでとうございます!」

「ああ、ありがとう」

「それで、ですね…」

「どうした?」

「皆、入って」

 

エルザ、シュガーボーイ、ヒューズ、バイロが

ホールケーキを移動させながらやって来た。

 

「陛下に王妃様、おめでとうございます。

結婚記念日として僭越ながらケーキを焼かせて頂きました」

「ありがとう、エルザ」

「陛下に王妃様、本当におめでとうございます」

「ありがとう、皆」

「味わって食べて下さいね!」

「ああ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ケーキを切り分け、二人きりで食べる。

 

「美味しいね…」

「ああ」

「ウェンディ」

「?」

「エドラスに来てくれてありがとう」

「…うん」

 

頬を染めて、ケーキを頬張るウェンディ。

外出していたグランディーネ達が帰って来た。

 

「美味しそうなケーキね」

『ずるーい!』

「皆で食べるか」

「そうだね」

 

ケーキを皆で食べ、その日は二人抱き合って眠りについた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

─夢の中─

 

「ウェンディ〜!」

「ナツさん!」

「ミストガンも来たのか!向こうで皆待ってるぞ!」

「そうか、では行くか…」

「うん!」

 

ミストガンとウェンディの結婚記念日ということで

ガヤガヤと騒ぐ面々。

 

シェリアに誘われて天空シスターズ再結成したり、

ミストガンはライブを見ながらラクサス達と語り合ったり、

皆でローストチキンを食べて騒いだり…。

 

「二人共、元気で何よりだ」

「マスターもご健在で何よりです」

「うむ、…ミストガン」

「はい」

「そっちで幸せにな」

「───……」

「…ミストガン…どうかしたの?」

「…ああ、いや…何故かマスターが父上と重なってな…」

 

無言でミストガンに抱きついたウェンディ。

 

「………ありがとう、ウェンディ…」

 

*~*~*~*~*~*~*

 

朝、眠り続けるミストガンとウェンディを起こさないように

グランディーネと子供達はそっと起床して、

二人を見守っていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

城下町にお菓子作りのための材料を買いに来ている

ジェラールとウェンディ。

 

「あの子達、どんなお菓子だと嬉しいかなぁ…?」

「青リンゴのパイとかどうだ…?」

「うん、そうだね…!」

「…ついでに青リンゴのお酒も作ろうかな…」

「一緒に作ろうね!」

「ああ…」

「リンゴ〜♪」

「ふふっ、楽しそうだな…」

「うん!」

 

買い物を済ませ、

2人で沢山のリンゴの入ったカゴを持って帰路に就いた。

笑顔のウェンディ。

 

「たまには2人きりもいいな…」

「うん…」

 

次第にゆっくりと歩く2人。

笑顔で手を繋いだジェラールの手を握り返すウェンディ。

そのまま寄り添い合う2人だが、

周囲の民達に何か噂されている。

 

(少し見せつけたいな…)

 

そんなことを考えるジェラールとは裏腹に

赤面して少し歩く速度を早めるウェンディ。

 

(名残惜しい…)

 

チラッと顔を見上げたウェンディは

 

「…少し屈んで…?」

 

屈んだジェラールの頬に背伸びしてキスをした。

 

「ふふっ…」

 

赤面して手をぎゅっと握るウェンディ。

応えるように握り返すジェラール。

 

「早く帰らないとな…」

「うん…」

 

自室へと戻った2人は愛娘達に出迎えられた。

 

『パパ〜!ママ〜!』

「ただいま…」

 

娘達の頭を撫でるジェラール。

 

「今日は皆にお菓子を作るからね!」

『何作るの〜?』

「青リンゴのパイだよ」

『わーい!!』

 

その後2人は大量の青リンゴのパイを作り、

ついでにアップルティーと簡易的なお酒を作った。

青リンゴのパイを食べた娘達の反応は…

 

『美味し〜!』

「良かった…!」

 

夢中でパイを頬張る娘達。

ジェラールもウェンディもパイを食べ始める。

 

「良かったな…」

「うん!」

 

幸せそうにしているウェンディを撫でるジェラール。

他愛ない話を続けて時間が過ぎていった…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

パイとお酒が余ったため、エルザの部屋に向かった一同。

 

『これ、どうぞ〜!』

 

扉を開けると、エルザ、イザーク、アリアがいた。

 

「これは陛下に王妃様、ミスティ様にシリル様も…」

「申し訳ありません、陛下…暫くエルザには

子に悪影響を及ぼす可能性のあるものを

与える訳にはいかないのです…」

「お酒なら、私が飲みます」

 

そう言ってお酒を飲み始めたアリア。

…結果、彼女は……

 

「ママ…?」

「…アリア…どうした…?」

 

訝しげにするイザーク。

 

「ママ〜!」

 

エルザに抱きつこうとするアリアを必死で止めるイザーク。

 

「ママのお腹に帰りたい〜!」

 

ポカーンとしているエルザ。

 

「…イザーク、後は頼んだ。帰るぞ」

「へ、へい…!?」

 

家族を引き連れて扉を閉めたジェラール。

…翌日明らかになるが、その後のエルザ達は

かなり大変だったようである…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

少し先の未来

 

「ミスティ姉さん」

「なに?クリス」

「……研究が一通り終わると女の子達に囲まれるんだけど、どうにかならない?」

「クリスはモテてるんだよ」

「…魔力復活させたいだけなんだけどなぁ」

 

ミスティは腕時計を見て

 

「あ、そろそろ約束の時間…!」

「ドランさんとのデート、楽しんでね。ミスティ姉さん」

「で、デートじゃないってばぁ…!」

 

そう言いながらも慌てて部屋を飛び出したミスティ。

 

「ミスティ姉さん、楽しそうだなぁ…。まぁ、僕も研究楽しいけど…」

 

─いつの日か、必ずエドラスに魔力が満ち溢れますように…─

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ミスウェン

 

ジェラールは『仕事』に疲れ、ベッドの上で眠っていた。

…眠り始めてどれ程経ったかは分からないが、

暫くしてジェラールの頭は、何か柔らかいものの上にゆっくり移動させられた。

 

「…ん…」

「…まだ眠ってていいよ…?」

 

愛おしい声が聞こえて、ジェラールは再び眠りについた。

…ウェンディはジェラールが起きるまで、膝枕をしていたという…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

夜、ジェラールがウェンディと二人で眠っていると、

ウェンディが少し苦しげな声を発した。

ハッとして目覚めたジェラールは、ウェンディの様子を見てみた。

 

(魘されている…?)

 

取り敢えずジェラールはウェンディを抱き寄せて、

頭を繰り返し撫でた。次第にウェンディの声は

聞こえなくなり、代わりに静かな寝息が聞こえ出した。

 

「…君は俺が守るからな…」

 

そう呟いて、ジェラールは眠るウェンディを強く抱き締めたのだった。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

仕事から帰って来たジェラールは明らかに疲れていた。

 

「ウェンディ…」

「…ジェラール、おいで…?」

 

ベッドに座っていたウェンディはジェラールに向かって両手を広げた。

ジェラールは躊躇うことなく、ウェンディの肩を押して

ベッドに横たわらせ、胸に顔を埋めた。

そんなジェラールをひたすら撫でるウェンディ。

 

「暫くはこのままで頼む…」

「…うん、毎日お仕事お疲れ様…」

「…ああ…」

 

ジェラールの頬にキスを落とした。

ジェラールはウェンディを強く抱き締める。

ウェンディはジェラールに何度もキスを落としていく。

…そうして眠るまでの間、二人はそうしていた。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

ウェンディは眠っているジェラールに膝枕をした。

 

「ん……」

「いつもお疲れ様…」

 

額にキスを落とすウェンディ。

ジェラールが眠そうに瞼を開けると、

ウェンディの腕を掴んで、強く抱き締めた。

 

「………!」

「ウェンディ…」

 

寝ぼけ眼でウェンディを抱き締めながら擦り寄るジェラール。

ウェンディは赤くなりながらも、ジェラールにされるがまま

身を預けていた…。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

外で遊ぶミスティの体操着姿を

何とも言えない表情で見ているジェラール。

 

「……………」

 

ドランと遊び出したミスティを見て

 

「!」

 

慌てて止めに行こうとしたのを

 

「まあまあ…」

 

ウェンディに止められた。

 

「…彼はミスティの教育係…それだけの筈だ…」

「もう……」

「…少し不安定になって来たから、また夜…頼むぞ?」

「…どの格好がいい?」

「…織姫のような衣装がいいな」

「ふふっ…いいよ…」

「君は本当にいい子だな…」

「えへへ…」

 

ウェンディを抱き締めながら頭を撫でるジェラール。

 

*~*~*~*~*~*~*

 

一方ドランと手を繋ぐミスティ…。

 

(ミスティ様は陛下達の大切なご息女…!)

 

そう思いながらも、何故か内心嬉しいような気分のドラン。

 

「ドラン〜!もっと遊ぼ〜?」

「は、はい!」

「えへへ〜」

 

それをチラッと見たジェラールはムスッとしている。

それを見かねた様子のグランディーネ。

 

「貴方ねぇ…」

「ミスティが取られてしまう…」

「いずれそうなるものよ…」

 

ウェンディを強く抱きしめるジェラール。

 

「はぁ…」

 

グランディーネは溜息を吐いて、困った表情をしていた…。



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