理解できないこと、届かないことは許されない (S・DOMAN)
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パレードの始まり

実はオーバーロード、原作を読んだことがないので、おかしなところがあったらスルーしてください。


 

 

 

俺の世界は、生まれた時から終わっていた―――

 

 

 

 

 空は黒いスモッグに常に覆われて、太陽を見ることは殆ど出来ない。街は常に有害物質を含む濃霧に包まれ、防毒マスク無しの外出は自殺と同義だ。それによる日照不足により植物は枯れ果て、鳥や虫も減り続けている。河川にはヘドロが流れ、浄化場は汚染の酷さから機能不全に陥り蛇口に浄化フィルターを取り付けなければ到底飲むことなんて出来ない。

 

 

 なんて世界は俺とは無関係なんだけどね!

 

 

 いやーほんとに金持ち様々ですよ。言ってしまえばこの世界は“親ガチャ”が全てだ。富裕層は際限なく成長して金をため込んでいくが、富裕層『以外』は一生這い上がることができない。そもそもそんな人間が出ないようにルールが定められてるんだから、特例なんか出るはずがない。

 

 

 そんなこんなでこの終末世界にて誰にも脅かされることのない勝ち組として生まれた俺は、その富を高めることにだけ気を掛けていれば一生遊んで暮らせるような環境に身を置くことができたわけだ。だったら、ねぇ?遊ぶでしょう!

 

 

 

―――DMMORPG『Yggdrasil』で!

 

 

 

 

 

 

DMMO-RPG『Dive(ダイブ) Massively(マッシブリー) Multiplayer(マルチプレイヤー) Online(オンライン) Role(ロール) Playing(プレイング) Game(ゲーム)

 

 

 それは科学技術の粋を集結した体験型ゲームの名前だ。早い話が二回りぐらいスゴイSAOだな!そんなすっごいゲームのタイトルの一つに、このユグドラシルはあるワケだ。無数に存在するDMMORPGの中でも特に有名で、日本国内でDMMORPGといえばユグドラシルそのものを指すとまで評価されてたのだ。

 

 そんなヤバいゲームだが、残念ながら俺は運営側になることはできなかった。うーん、どうせなら内側に入っていろいろ内部データとかを知った上でプレイしたいタイプの人間だから残念極まりなかったが…代わりに俺は、もっとイイモノになることができた。

 

 

 

 ズバリ、株主だ。うーん無常☆やっぱ世の中金やなって!

 

 

 

 といっても流石に過半数株主にはなれなかった。30パーか40パーか、その位だ。本気出せば50行けたんだけどなぁ…それだけが心残りだ。でもそのおかげで、俺はプレイ中にこっそりと、運営に監視される状態になることができた。要は一目置かれる存在になれたのだ!

 

 こんな上役に飽きられてポイ捨てされちゃったら、次の日には倒産間違いなしなんてことになるからネ………とまあこれのおかげで、俺はサービス終了まで快適にこのゲームをプレイすることができた。

 

 持ち前の豪運とリアルマネー、ついでに運営からのバフのおかげで欲しいアイテムには事欠かなかったし、別の筐体を使っていくつかの別アバターを作成することもできた。この創られた世界の中で、俺だけが真に“自由”だった。

 

 周囲からのあらゆる妬み、羨望、非難、中傷は総て俺の力となった。所属人数一名のギルドを設立した(正確には俺の別のアバターも所属しているが)俺は、度々アバターを変えて俺を貶す別のギルドに侵入してレアアイテムをかっぱらっていったりしていた。

 

 そうして得たアイテムの中でも俺の興味を惹かれなかったものを、俺を称える奴らの所に適当に投げ捨てていっていた。

 それを何カ月も続けていると俺の周りには、おこぼれに与ろうとする乞食どもが集っていた。当然だ。俺には興味がないものであっても他のプレイヤー(乞食ども)にとっては超絶レアアイテム。集まらない理由がないのだから。

 

 俺はその無秩序な群衆に、少しばかり力を加えてやる(手を下す)ことにした。

 

 それらに肉盾をやらせ、小間使いとすることで俺は更なる強さを手に入れた。それらにもアイテム、情報収集を行わせたのだ。その身に余る莫大な報酬と引き換えに!

 あー、ホント!面っ白いよ。現実を忘れるためにゲームをしているのに、結局ゲームの中でも働いてるんだから。社畜ここに極まれりってな。

 

 

 

 

 

 

世界とは、金だ。金こそが…

 

 

 

金こそが、俺を自由にしてくれる。

 

 

 

あらゆる知識を得た。あらゆる力を得た。あらゆるスキルを得た。あらゆる、あらゆる―――

 

 

 

 

ああ、俺こそが。“世界(ユグドラシル)”なのだ。

 

 

俺の周りには、何も残らなかった。残っていなかった。

 

 

 

 

―――俺の全ては、内側に在る(・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。

 

 それは10階層によって構成される巨大な墳墓であり、その凶悪さからユグドラシル内では知らぬ者がいないとまで言わしめたギルドである。

 

 かつて6ギルド連合および傭兵プレイヤーやNPC合わせて2000人という、サーバー始まって以来の大軍で以てその最下層を目指し、そしてそのすべてを殲滅したという伝説を生み出した場所でもある。

 

 

 

―――だがそれも最早、昔の話(過去の栄光)だ。

 

 

 

「ああ………楽しかった」

 

 

 その墳墓の最奥、玉座にて。死の支配者(モモンガ)がふと過去を思い返していた。

 

 

 かつて世界に覇を轟かせた栄光あるこのギルドも、気づけば欠員だらけ。それもそのはず、自分以外の全てのメンバーが引退してしまったのだから。

 

 やはり現実(リアル)とは糞である。『現実にもっと余裕があれば、自分も一人でなかったのかもしれない。』などとありもしない“たられば”に思考を割いてしまうぐらいには。

 

 だが、どれだけ考えても所詮は己の拙い脳細胞の中でのシミュレーション。大した妄想もできないからとっとと終わらせてしまい、この世界の最後の時(サービス終了)を待っていた。

 

 

そういえば、とモモンガは思い出す。あの化け物はまだINしているのかと。フレンド欄を見ると、

 

 

 

「…ははっ、あった……さすが“化け物”。皆勤賞かよ」

 

 

 

 『黎明華』、その名が白く光り輝いていた。その名前(ネーム)の下には当然、数十のプレイヤーの名前が連なっている。何もおかしな事はない。

 

 ただ、そのすべてが漢字三文字で構成されていることを除けば。

 

 

 

「結局、最後までお咎めなしか…」

 

 

 

 『黎明華』…自分が初めて出会った、いや。遭遇(・・)した時には『薄明華』だったかな?ともかくこいつらは、そのサービスが始まった時から今この瞬間まで、ユグドラシル最大の恥部であり続けた。

 

 

 さて、当然のことだが。このゲームでは一人のプレイヤーにつき一つのアバターしか与えられない。つまりゲームの途中でプレイするキャラクターを変更するなんてことはできないのだ。その理由はこのゲーム…ユグドラシルが、プレイヤー個人の脳波を測定し、それを記憶するからだ。異なる脳波を持つ同一人物なんていうものは存在し得ない。だが、この『黎明華』…華シリーズ達は、その不可能をやってのけた。

 

 こいつらは一人の個人だ、巷ではそう噂されている。いや、もう確定しているといっても過言ではない。

 

 何故かって?それはもちろん、ギルドメンバーが常に一人しかログインしていないからだ。サービス開始から今まで、ずっと。

 

 時には公式にBANを求めたプレイヤーが居たりもした。だがそういう人間は漏れなく逆に消えていった。

 

 それ以来誰もそれについて語らなくなった。一部のハイエナを除いては。みんな疎ましく思っていた、だがそれは関係のないことだ。自分たちの所には積極的に来ようとしないのだから。

 

 これが『ギルド戦争』なんかを手当たり次第に吹っ掛けてくるなどの迷惑プレイをしてくるなら話は別だった。だが、実際には時たま各ギルドを荒らしてレアアイテムをいくつか(多くて3~4個)奪っていく程度だった。

その程度であれば通常のプレイでも起こりうるから、次第に皆の注目も薄れていった。

 

 まあワールドアイテムを盗まれたりすることもあったみたいなんだが…みんな返り討ちにあった。この明らかに運営の寵愛を受けたプレイヤーは、しかしとても強かった。反則級に小手先の技術が高かったのだ。

 

 その代表ともいえるのが『瞬歩』である。同じ名前のスキルがケンセイやモノノフなんかの職業にあるがそれではない。単純な技術としての瞬歩である。

 

 

 曰く、気付いたら目の前にいた。後ろを取られていた。etc、etc…

 

 

 悍ましいほどの気配遮断、技術の高さから、一部の相性のよいボスならば素手だけで倒して見せたという伝説があるこのプレイヤーは、このゲームにおいて。

 

 

 個人で最も多くのワールドアイテムを保有した人物でもある。(運営の公式ホームページに掲載されているのだ)

 

 

 その正確な数は判明していないが、噂では“現在未発見のワールドアイテムはすべて“華シリーズ”が独占しているのではないか”とまで言われるほどである。

 

 

 

「そういえばこの人、このゲームがサ終したらどうやって生きていくつもりなんだろう?本人も『人生そのものだーッ!』って言ってたし…ほんとに自殺しかねないんだよなぁ…」

 

 

 

 おお哀れ黎明華。この生粋のゲーム廃人たる鈴木悟(死の支配者の中の人)にすら心配されるほどとは…いったい何をやらかしたらそうなるのだろうか?

 

 

 

「あっ、そうだ。どうせだしこの際、アルベドの設定とか覗いてみようかなー…って長ッ?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満足だ。やり切った。やり切ったんだ。

 

もはやこの世界に“未知”は無い。俺は自信と確信を持ってそう言える。

 

さあ、最後の仕上げだ。

 

 

 

永劫の蛇の指輪(ウロボロス)よ―――』

 

 

 

―――我らを、一つに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?緊急アナウンス。こんな時間に?」

 

 

 

ちょっとした悪戯心でアルベドの設定を弄っていると、急に運営からのアナウンスがあった。最近では滅多に聞かなくなったが、これは…

 

 

 

「ワールドボスだと!?このタイミングで?!」

 

 

 

どうやら、あるプレイヤーがワールドボスに変性したらしい。モモンガにはその名に見覚えがあった。だから、急いでフレンド欄を見る。

 

 

 

「お、おぉ…」

 

 

 

そこにはただ、

 

 

 

「元々ワールドボスやってるのに、更にワールドボスになったんですか?ほんっと、なにやってるんですか黎明華さん…」

 

 

 

すっかりと綺麗になってしまったフレンド一覧があった。

 

 

そして、世界は生まれ変わる。

 

 

 

 

 

 

「も、モモンガ様?いかがなさいましたか?」

 

 

「…え”っ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

 

 

俺の世界ではありえない光景があった。地表からは一度も見たことのない夜空。その星々。どこまでも続いているのではないかと思わせる草原の上に俺は立っていた。汚染されていない、生気を感じさせる空気が頬を撫でる。

 

 

 

「………」

 

 

 

ああ、これじゃあ、せっかく終わったっていうのに…

 

 

 

「うん、これは。コンティニューか」

 

 

 

―――――――――――――――もう一度総て、俺の内側へと。

 

 

 



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無垢金の道標

 

 

 

「ここは…この世界は、一体何なんだ?」

 

 

 俺は保有する幾つかのスキルとアイテムを使用し、現在可能な範囲でできる限りの情報を得ようとしていた。

 

 俺のコレ(情報収集)は趣味の一つではあるが、趣味も案外役に立つもんだ。そしてその情報収集―――手に入れた能力の実験は一定の成果を上げた。複数の全く同じ気配遮断スキルを重ねがけすることができたのだ!例えるならAFOみたいなもんだ。スッゲー!

 

 次に俺は、同時に別のアプローチで隠れてみた。これも成功だ。透明マントと石ころ帽子を同時に被ったら最強だよね!という我が超理論は正しかったのだー!

 

 …なら攻撃は?身体能力はどうなってる?試しに軽くジャンプしてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいちが、きれい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お、落ちているだとォーーー?!くッ、〈飛行(フライ)〉!!いや何やってんだアホか―――あ?」

 

 

―――素晴らしいことだ。とんでもないことが起きてしまった。何度も言うようだが、俺は複数のアバターを所有している。そしてそれぞれに『役割』を持たせた。意味はないと思いながらも、その設定にもちゃーんと力を入れたんだぞ?

 

 

 

 全てはあの時、一つに戻すために。

 

 

 

 俺のアバターは、そのどれもが一級…いや、最高級品である。全員が一芸に特化している。戦闘役であればそれに必要なスキルのみを。生産系ならば、これもそれに必要なスキルのみを…といった具合にだ。普通にゲームをプレイするなら必須となるようなスキルも持たず、ただそれ(一芸)だけに特化したそれらは、

 

 余分(マトモ)なスキル構成をしている英雄(チャンピオン)共を、たやすく屠ることができる。

 

 無論、攻撃が当たればだけどな!さて、話が逸れに逸れまくったが。俺はユグドラシルがサ終する直前にそいつらを一纏めにした。その中には昔俺が世界喰らい(ワールド・イーター)としてワールド(世界)を一つ内側にした(・・・・・)時のキャラクターも入ってる。

 

 そんなアバター()を、全部俺にしたんだ……当然といっちゃ当然なんだが、本来俺は魔法が使えない。

 

 …うん、ごめん。語弊があった。俺は本来このアバターでは(・・・・・・・・)魔法が使えない。勿論〈飛行(フライ)〉なんて低位階魔法ももっての外だ。その分の余裕(リソース)は、近接戦闘系のスキルに振ってある。だが…俺は今、確かに使えた。覚えていない魔法を(・・・・・・・・・)

 

 すごい!すごいぞ!これは!あああ、なんてこった!なんてこった…こんなのッ………最ッッ高だ!あっはっはははは!やっぱり金だ!金なんだ!金があったからここまで強くなれたんだァ!!誰も俺に敵わない!勝てるわけがないんだから!あー…

 

 

 

 世界そのものに、ワールドエネミーから更に(・・)ワールドエネミーになったなんてやつに。勝てるやるなんかいるのかねぇ?

 

 

 

 うむ、一通り騒いで賢者タイムになったわよ。とりあえず街にでも行くか。さっき飛んだときになんか向こうの方に見えたし。あれって多分城塞都市だよな?うっへー楽しみー♡あっ顔隠しとかなきゃ…俺が一番凝って創った顔だから、なんかこう…一昔前のラノベみたいに顔が原因で妬まれたりしたら厄介だしな。

 

 客観的に見て、俺のこの顔の作り込み、その出来は最早狂気(凶器)とまで言える領域に達している。その顔だけで国が傾くほど…これは大げさな表現では決してない。昔PVPをやってた時にどうやっても隙ができない相手がいたんだが、そいつの目の前でワザと仮面を斬られてやったら(・・・・・・・・)面白いほどに固まりやがって…それでそのままズバッとやって勝てたー、なんて事があるぐらいには綺麗だからだ。

 

 それに加えて、俺のアバターにはパッシブ(常時発動)スキルで魅了を振りまくインキュバスとかがあるから、本気で顔だけで()を殺しかねない。うーん、まさか〈魅了のオーラ、寵愛のオーラ/レベル5〉〈上位魅了(グレーター・チャーム)〉がデメリットになる日が来るとは…ンンンンンン悩ましいー…

 

 

 これから始まる無双のバラ色(大して変わらない)人生に思いを馳せながら、俺は街へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「情報だ…とにかく、情報が必要なんだ………セバス!プレアデスから…そうだな、エントマとシズを連れてナザリックの周囲を探索せよ。知性を持つものがいたらなるべく傷つけずに連れてこい。その他のプレアデスは各階層守護者に…一時間後に闘技場に集まるように伝達しろ」

 

 

「承知いたしました、モモンガ様」

 

 

 

 セバスとプレアデスが玉座の間から退出していった後、モモンガは思案していた。ユグドラシル最後の全体アナウンスについてだ。

 

 今モモンガが分からない事は二つある。一つは『黎明華』…あの化け物がこの世界に来ているのかどうかだ。モモンガは、恐らく来ているのではないかと考えている。なんでかって?人間こういう時の悪い予感はだいたい当たるのだ。

 

 モモンガはフレンド欄を開き、スッカリきれいになって一つだけ残った三文字グループ(ズラっと並んだ漢字三文字のキャラ名のこと)を見て、何でこんな事になったのかを考える。

 

 恐らくだが、この一連の現象(転移のことではない)は永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の効果によるものだろう。これだけ大量のプレイヤーを消すなんて芸当、ウロボロス以外では不可能だ。

 

 …いや待てよ?昔ウロボロスの効果でプレイヤーをBANしようとした者がいたんだが、最終的にBANされずニ週間のログイン不可に落ち着いた…なんて事件があったハズだ。きっとそれが“永劫の蛇の指輪(ウロボロス)の効果の限界”なんだろう。だとするとプレイヤーが完全に消滅するなんてありえない。聖者殺しの槍(ロンギヌス)を使う以外じゃありえないんだ………ならなんで華シリーズは消えてるんだ?

 

 クソう…これじゃ埒が明かない……あっ!

 

 

 

「―――アルベドよ」

 

 

「いかがなさいましたか?」

 

 

「お前のその知恵を試したいのだ。今私はとある不可解な現象に理由を与えたいと考えていた…だがどうにも良い考えが思い浮かばないのだ」

 

 

「それは一体何なのでしょうか?」

 

 

「アルベドよ。決して消えない、消すことのできない物を処理したいという時、お前ならどうするか?」

 

 

「…愚見を述べさせていただきます」

 

 

「ああ」

 

 

「私ならば、『処理』はせず『封印』します。完全に滅ぼすのは手間ですから、まずは一箇所に纏めて(・・・・・・・)―――」

 

 

分かったぞ!…う、ああいや。何でもない。もう良いぞアルベド、ありがとう。お前の知恵のおかげで道が開けそうだ」

 

 

「…あ、ありがとうございます」

 

 

 

 むぅ、途中で話を切られて拗ねているアルベドもかわいいな…

 

 

 ってそうじゃない、いやそうだが。たぶん黎明華は、他の自分のアバターを一つに纏めた(・・・・・・)んだ…これは、不味いぞ…

 

 俺の知る黎明華のアバター(ギルドメンバー)は最低でも50を超える…ハズだ。多すぎて詳しい数は覚えていない。魔法なら楽々覚えられるんだけどなぁ…もしその全てが一人のプレイヤーに集結してしまったら。単純に考えて、5000Lv…

 

 思わず乾いた笑い声が出てしまう。現実逃避はここまでにして、モモンガは二つ目―――目の前の情報を咀嚼しようと試みる。

 

 モモンガの目の前、フレンド欄には、半透明になった(ログインしていない)黎明華の文字があった。

 

 

 



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無意味な祈り

 

 

 

 通常、フレンドは他のフレンドがログインしているかどうかを確認することができる。やり方は簡単、フレンド欄でPC(プレイヤーキャラクター)の名前を見ればいい。だがそれを本当に信用しても良いのだろうか(・・・・・・・・・・・・)

 

 実際にモモンガは、ログイン時でも非ログイン状態に偽装できる固有スキルの存在を知っている。それが隠密系職業の“ニンジャ”が、Lv95時点で取得する事が可能な俗に言う『ロマンスキル』である事もだ。同じく職業忍者を極めていた弐式炎雷さんは、

 

 

 

『残念ですけど、自分のプレイスタイルには合わないっすねー…』

 

 

 

 などと言っていたが…転移後の世界でこんなにも嫌なスキルになるとは想像もつかなかった。いっそ存在を知らなかった方が良かったのではないかとモモンガは考える。知らなければ、怯えなくて済むからだ。今後ナザリックは、何かを行動を起こすたびに黎明華(化け物)の影に怯えなければならない。あの人に気づかれたらそれこそ一巻の終わりだ。あのウルベルトにも匹敵するぐらいの問題児だぞ…?

 

 しかも、これでまた一つ黎明華の能力が判明してしまった。知りたくも無いし、少しぐらい休ませてほしいのだが、興奮した自分の精神は普段では考えられないほどに滑らかに動く。

 彼は自分の特殊スキル『The goal of all life is death(あらゆる生ある者の目指すところは死である)』と同じような、特殊な職業/種族のレベルを最大まで上げることで手に入る固有スキルを複数個使用できるのだろう。『黎明華』の職業は『決闘騎士(ナイツ・オブ・デュエル)』だ。確実に忍者のスキルは使えない。

 

 思わずギギギ、と歯ぎしりする。

 

 

 

 最悪の人間(問題児)最強の能力(ワールドエネミー化&無数のスキル)が渡ってしまった…

 

 

 

 どっちなんだ…黎明華は転移してるのか…してないのか…もし転移してるならいつ襲ってくるんだ…?そもそももう気付かれてるのか…!?早くナザリックの隠蔽作業を行わばければ………ああ糞ッ!やらなきゃいけないことが頭から溢れ出てきそうだ!折角ゲームが現実になったっていうのに……いや、ゲームから現実に変わってしまったからこそ恐ろしい(・・・・)!心の底からだ…

 

 モモンガは心にのしかかる巨大なストレスに苛まれながらも、階層守護者達と合流するために移動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…?これ、『アインズ・ウール・ゴウン』は多分ほぼ来てる(・・・)な…」

 

 

 俺は歩きながら、ワールドアイテム〈ダヴはオリーブの葉を運ぶ〉を使って確認を続けていた。

 

 〈ダヴはオリーブの葉を運ぶ〉…コイツは俺の持つワールドアイテムの中でも一二を争う位に強力な代物だ。これは同じワールドアイテム〈無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)〉と同じで分厚い辞典みたいなアイテムだ。かつて世界が大洪水に見舞われたとき、その洪水の終わりを告げたのがダヴという鳩だったとかなんとか…

 

 詳しいことは忘れたし、もしかしたら全く違ったかもしれないが。ただ大事なのは、このワールドアイテムが吉兆を運ぶ逸話から転じて『使用者が望むモノ(・・)の場所を詳しく記す』ことができることだ。例えば…うーん。

 

 

 

『「甘くて美味しい林檎」 六十五歩先の木にある林檎の一番幹に近いもの』

 

 

 

 ……みたいな?今のはだいぶ適当に選んだから、分かりづらいかもしれないけどなー…

 これを使って、俺がナザリックの墓地(・・)に潜ったときに置いてったアイテムを選択すると…まあ、そういうことだ。いやー念には念を入れとくもんだよ!

 

 ただ気に入らないことは、俺が目をつけていたワールドアイテムの場所が分からなく(・・・・・)なっていることだ。これは恐らく、世界を跨ぐサーチはできないってことだろう。ユグドラシルではワールドが違っても(ヨトゥンヘイムにいてもヘルヘイム固有のアイテムをサーチできる)OKだったんだけどな。でも中には存在しているものもあるから、俺や『アインズ・ウール・ゴウン』以外にもいくつかのギルドが来てるみたいだな…

 

 余談だが、このサーチは対象範囲がとても広い。現に今俺は『一番近い街』でサーチしてるのだ。〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉を使えば一発だが、どうせならこの生まれて初めて実際に見る『自然な自然』を堪能したい。

 

 という訳で、俺は走って(・・・)街に行くことにした。

 

 …ちょっと林檎採ってこようかな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バハルス帝国とは、200年前の魔神と十三英雄の戦いの後にできた人間の国家である。歴代の皇帝はその誰もが優秀であり、中でも圧倒的な才覚がある皇帝ジルクニフが治める専制君主制の国だ。

 

 そんな帝国は今、建国以来最大の危機に瀕している。一夜にして帝国の北側にある森林が二つに割れた(・・・)のだ。報告を聞いた皇帝ジルクニフは兵を下がらせ自室に戻り、部屋のベランダから状況を確認した。

 ジルクニフは呆然とした様子で、側にいる主席宮廷魔術師『フールーダ・パラダイン』に尋ねる。

 

 

 

「じいよ…これは、どういう事だ?」

 

 

「…私にも解りませんな。何とも言い難い…なにせ、まるで何か巨大な腕が抉り取った様に割れておりますから―――」

 

 

「そんなことは見れば分かる!問題はその抉り取った跡(・・・・・・)が、こちらに向かって発生している事なのだ…ああ、何でこんなことに…」

 

「我が国はまだ生まれ変わったばかりで、一人で立つのが精一杯だというのに…ッ!どうしてこのタイミングで不安要素が飛び込んでくるのだ!!」

 

 

「ジ、ジルよ、落ち着きなさい…」

 

 

「これが落ち着いていられるかーッ!!」

 

 

 

 ジルクニフの心労の原因は森が二つに割れた事ではない。この現象を発生させた原因が何であれ、発生させた存在がバハルス帝国内にいるかもしれない(・・・・・・)事が問題なのだ。

 

 ジルクニフの美しき黄金の毛髪が一本、ヒラリと、優雅に宙を舞った。

 

 

 




ワールドアイテム〈ダヴはオリーブの葉を運ぶ〉について

(ほぼ)オリアイテム。wikiに能力が書かれてなかったから勝手に能力を付けちゃった物。原作者さんも「なにこれ」って言ってるみたいだからユルシテ…

『ワールドアイテムはワールドアイテムの効果を受け付けない』らしいですがそれについては大丈夫。

『ダヴはオリーブの葉を運ぶ』は、剝き出しで置いてあるワールドアイテムならば探せます。どういうことかと言うと、例えばトテモスゴイ隠蔽系のワールドアイテムで隠されたモノ(・・)は見つけられません。

ところで、同じワールドアイテム〈諸王の玉座〉は、ギルド内のアイテムの隠蔽が可能なんですかね…?


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死の支配者の説明

 

 

 

 モモンガが円形闘技場(アンティフィアトルム)に転移すると、階層守護者達は既に到着していた。こちらを見るなり跪こうとするのを見て驚いてしまったが、そこは歴戦の社畜サラリーマン。ぐっと堪えて本題へと入る。

 

 

 

「よくぞ集まってくれた、諸君。さて、諸君らの忠義はよく理解できた、これ程までに優秀な部下を持てて私は幸せ者だよ」

 

 

 

「そのような…恐れ多いです、モモンガ様」

 

 

 

 繰り返すようだが、モモンガ(鈴木悟)は元々ただのサラリーマンであった。これほど多くの人間(?)に忠誠を誓われることなど今まで無かったのだ。NPCとプレイヤー、造物主と被造物という関係だけでここまで敬意を払われるのか、と内心で冷や汗を滝のように流しながらモモンガは話し始める。

 

 

 

「うむ…さて、今このナザリックは二つの危機に直面している」

 

 

「それは一体…ッ!我々シモベにご下命下されば必ずやナザリックの全力を以て排除して―――」

 

 

 

「駄目だ!!」

 

 

 

『『『!?』』』

 

 

「…声を荒げてしまってすまなかったな、許してくれ。だがこれは我々の今後の命運を分ける重要な事なのだ。だからどうか、最後まで聞いてほしい」

 

「先ずは重要度の低い方からだ。現在我がナザリック地下大墳墓は、未知の場所へと転移している」

 

「先程周辺の探索を行わせていたセバスからの報告によると、この大墳墓の周囲は現在沼地ではなく草原になっている様だ」

 

 

「そのような事が…」

 

 

「うむ。私も初め耳を疑ったが、信頼する者からの報告だからな。受け入れるしかあるまい」

 

 

『『『モモンガ様…』』』

 

 

「…むぅ、照れるな…う、ん"ん"っ………さて、二つ目は、だ。実はこれこそが真に重大なる問題なのだ…恐らく、我々と共に転移した別の存在がいる」

 

 

「…恐れながら、モモンガ様。その存在というのはもしやプレイヤーでしょうか?」

 

 

 

 話を聞いていたデミウルゴスが口を開く。流石ウルベルトさんのNPCだ、ナザリック一の知恵者と設定されているからというのもあるのだろうが、頭の回転が恐ろしく早いな。

 

 

 

「デミウルゴスよ、お前の予想はおおよそ正しく、そして間違っている。この存在は確かにプレイヤーだ、私と同じ方法でユグドラシルの世界に存在していたからな、その点で言えば私と彼は同じ存在だろう」

 

 

「でしたら―――「だが、彼は私とも、ここナザリックに侵攻してきた二千人の有象無象とも違う存在なのだ」―――ッ!!」

 

 

「彼は…あの化け物は、元々我々41人と同じ程度の(・・・)プレイヤーでしかなかった。だが、最早アレは…アレはプレイヤーなどという枠には収まらない。何故ならば、奴はワールドエネミーであるからだ」

 

 

 

 ワールドエネミー、その単語を発した瞬間守護者達の間に衝撃が走った。ワールドエネミーとは所謂レイドボスの事だ、数十人のプレイヤーからなるパーティを複数個、容易く殲滅してみせる程の力を持っている。

 

 

 

「確かにプレイヤーがワールドエネミー化する事例は今までにもあった。それ自体は別に珍しいことでもない…だがその『珍しくない』ワールドエネミー化にはある共通点がある」

 

 

「ふむ…なるほど、ワールドアイテムでしょうか?」

 

 

「?どういう事でありんすか?デミウルゴス」

 

 

 

 あ”ぁ"ーっ"!お前こそ俺の癒しだよシャルティア。ホントこいつら頭良すぎないかな?

 

 

 

「つまり、プレイヤーがワールドエネミー化する為にはワールドアイテムを使用する必要があるのではないかということだよ」

 

 

「その通りだデミウルゴスよ。だが奴、『黎明華』の場合は事情が異なる」

 

「『黎明華』は運営…つまりは世界そのものから直接ワールドエネミーにされた存在なのだ。これが『珍しい』パターンだ」

 

 

「…申し訳ありません、モモンガ様。私にはその二つが一体どの様に異なるのかが分からないのです…」

 

 

「そうだな…運……世界が直接ワールドエネミー化させた方が、通常のワールドエネミーよりも手強いのだ。何故ならより複雑なギミックを追加することができるからな」

 

「そして『黎明華』は、自身がワールドエネミー化した際の能力と己のプレイヤースキルで、元々9つだった『ユグドラシル』の世界を一つ喰らい(・・・・・)、8つに減らしたのだ」

 

 

 

『『『!?』』』

 

 

 

「そして、一連のイベントは最終的に黎明華の勝利に終わった。その時の功績として、黎明華の体の中には今もまだアルフヘイムが“ある”」

 

 

 

 モモンガが言い終えると、階層守護者たちはいよいよ声も出せなくなった。彼らの中でも特に優れた知能を持つアルベド、デミウルゴスは、これから自分たちと相対することになる強敵のあまりの強大さに、己の全霊をかけてこの難題に取り組もうと決意をする。特にアルベドは『愛する人へのアピールもできて一石二鳥♡』となんだか余裕そうな雰囲気さえ感じる。

 オメーちゃんと仕事しろよ。

 

 

 

「…さて、諸君。私が今のところ伝えるべきことはすべて伝えたはずだ。ではこれより、ナザリックの今後の方針会議を行う―――」

 

 

 

 守護者達と死の支配者による会議は夜が明けるまで続いた。

 

 

 



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不尽の希望

 

 

 

「あっぶなかったー…怖すぎるだろマジで…」

 

 

 大自然を目の前にして興奮していたんだ…自分が出鱈目な力を持っていた事を忘れていた。走り出そうと一歩踏み出した瞬間、衝撃波みたいなものがババババババーッ!!っともうホントとんでもないコトに…

恐る恐る後ろを振り返ってみると、俺が通った跡がクッキリできていた。…

 

 

 

「パ、〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウンアブル)〉!」

 

 

 

 俺知ーらね☆知らないから俺のせいじゃなーい☆

 …一応、俺がやったという風に思われない様に見窄らしい姿に変装しとこ…俺は自分の存在を偽装するために、一層念入りに変装するのであった。先ずは、装備すると自分にデバフがかかる仮面。それから…

 

 

 

 

 

 

 …よし、ここまですれば違和感も少ないんじゃないか?

 今の俺は全身の装備を、別のアバターに装備させていた弱めの『伝説級』装備で固めている。個人的に造形が気に入っているのだ。

 頭は縦に長い鉄兜を、胴には左肩部分のみガードが付いている布鎧、腕甲も足甲も似たような感じだ。

 

 正直どの装備つけてても大して変わらないのだ、素が強いからね。

 あとは『虚偽情報・生命(フォールスデータ・ライフ)』と『虚偽情報・魔力(フォールスデータ・マナ)』をかけて…ダメ押しに『偽りの情報(フェイクカバー)』もかけとくか。万が一変装が見破られたり俺自身に鑑定されたとしても、偽の情報を表示するように。

 …さて、そろそろ解除するか。

 

 

 

「〈魔法抵抗難度強化(ペネトレート)魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)時間停止(タイム・ストップ)〉解除」

 

 

 

 モノクロになっていた周りの世界に色が戻っていく………時間停止(タイム・ストップ)の範囲はもともとだいぶ広いが、一応魔法効果範囲拡大化(ワイデン)にしておいた。範囲拡大すると効果範囲が二倍になるから時間停止(タイム・ストップ)の範囲内にナザリックが存在する可能性が高くなるのだ。

 

 なぜわざわざこんなメンドクサイ、回りくどいこと(時間停止)をしているかというと、装備の確認のためである。

 基本レベル一〇〇のプレイヤーは時止め対策をしている。だが、ただ時止め対策と言ってもいくつか種類があるのだ。それは魔法であったりアイテムであったり様々だが…今のこれは、主にモモンガの現在の装備を推測するための行動だ、俺が最後にアレと会ったときに指輪を確認したのだが、時間停止対策用の指輪を装備していた。

 

 指輪の構成はそうそう変わるものでもないけれど、もしも構成を見直すなら一番初めに候補に挙がるのがこの部分だからな。

 

 …そういえば、サラッと追加効果を二つ重ね掛けしていたが気付いたかな?こいつもワールドアイテム〈真実神の指環(フォルセティア・リング)〉の効果だ。

 俺はアイテムのフレーバーテキストとかを読むのが好きでねー、そんでこいつのフレーバーテキストも面白くてなー!

 曰く、元々ユグドラシル世界の魔法は追加効果を二つ付けることができるのが『当たり前』だったらしい。だが、この指輪の素材(・・)となった世界(ワールド)が滅んだ時、その能力/加護は世界から失われたのだとか…故にこの指輪は、素材元となった世界の加護を一際色濃く残しているんだってさ。

 

 おっと、話が逸れたな。随分とまぁ後回しにしてしまったけど、そろそろ都市の中に入ろうかなー

 

 

 

 

 

 

 町に入る前に身体検査的なものを受けた後、俺は公園のベンチに座ってボーッと城を眺めてた。

 

 

 

「うーん…実物って案外小さいんだな…」

 

 

 

 この街に入ってからまず初めに驚いたのは、建物全体の高さだ。どれもかなり低い(・・)

 大きさだけで言ってしまうならば元の世界(終末世界)の方が高かった。ハイパービルディング?って言うんだったかな?あんなのがバンバン建ってたからなー

 まぁ…明らかに技術レベルが違うから仕方がないんだけどさ。

 店で買った焼きたてのサンドイッチを食い終わると立ち上がって、冒険者ギルドへ行くことにした。

 

 ちなみにこのサンドイッチ、中にとろけたチーズと、トマトとかの野菜が挟んであってスゴく美味かったよ。結構行列もできてたし…この国って結構豊かなのかもしれないな?

 

 

 

 

 

 

ゴンッ

 

 

 ………自在扉を開けて中に入ると、少しばかりの失笑とともに迎えられた。くそぅ…カッコよさのためには犠牲にしなければならないものだってあるんだぞ!

 

 実際に『生きている』冒険者ギルドというのは、アニメや漫画なんかで観るような小綺麗な感じは仄かに香る程度しかなく、隅っこのほうには酔いつぶれたオッサン達が寄せられていて二、三人ぐらい積み重なっていた。こんな昼間っから酒を飲むなんて…

 でも受付嬢さんはとんでもない美人だった!良いねー良いねー!これこそ異世界モノの楽しみってヤツだよなー!

 

 

 

「すみませーん、ここに来たら冒険者登録をしてもらえるって聞いてきたんですけども」

 

 

「…ッ、かしこまりました。ではこちらの用紙に…ッ、記入をッ!」

 

 

「受付のお姉さん?大丈夫ですか!?笑いすぎてヤバイことになってますよ!?あーもう、〈冷静(セレニティ)〉!」

 

 

 

 さっきまで必死に笑いをこらえていたお姉さんだったが、俺が魔法をかけてやるとたちどころに笑いが収まったようで、少し驚いていた。やっぱかーわいい顔してるねー!でも、この世界は魔法が珍しいタイプの異世界なのか?

 

 

 

「ふーっ……し、失礼いたしました。冒険者登録のお客様ですね?でしたら、こちらの用紙に記入をお願いします」

 

 

「…あー、その、すみません。私こう見えてあまり学がありませんので…できれば代筆をお願いしたいんですがー…」

 

 

「かしこまりました。ではお名前と年齢を、後は特技や技能などがあればそちらも」

 

 

「えーっと…(さっきの冷静(セレニティ)が第三位階だから…うーん、やはり詳しく言いすぎないほうがいいか?)……特技は魔法と、あと剣術体術を少し。あとは…そう、名前でしたね」

 

 

 

「名前は、ローレンスでお願いします。」

 

 

 

「……はい、登録が完了いたしました。ではこちらのプレートをお掛け下さい。こちらのプレートはあなたの階級を表しております、上から順に『アダマンタイト』『オリハルコン』『ミスリル』『プラチナ』『ゴールド』『シルバー』『アイアン』『カッパー』となっており、登録初期の冒険者様はカッパーからのスタートとなります…では、何か質問はございますか?」

 

 

「(ブロンズじゃないんだな…)いえ、特にはないです。じゃあ早速依頼を受けてみたいんですが…生憎字が読めないもので、どれがどんな依頼なのか解らないんですよ。ですので、何か良さそうなのを見繕っていただければと…」

 

 

「かしこまりました、どのような依頼がよろしいでしょうか?」

 

 

 

 うーん…?あまり目立ちすぎないほうが良いのか?でもなー、たぶん初級で受けられる依頼で一番簡単なものって薬草採取とかだよな?…そんなもんチマチマやってられるかよ!

 

 

 

「じゃあ、今ある依頼の中で一番難しいのでお願いします」

 

 

 

 俺が自信満々にそう言うと、いよいよギルド内が爆笑に包まれる。

 

 

 

「おいおいにーちゃん!そりゃあまた随分と大きく出たなァ!」

 

 

「うっせー!こう見えてお前らよりも何倍も強いんだぞ!?」

 

 

「へー?言うじゃねえか、小僧」

 

 

 

 馬鹿みたいに笑いやがる先輩たちに一言言い返してやると、それを聞いてキレたのかいかにもって感じの筋骨隆々なオッサンがやってきた。

 おー、すげー…テンプレってホントにテンプレなんだな!おもしれーなー…

 

 

 

「お?やんのかおっちゃん、ホーレホレホーレ!どうしたんだい?その筋肉君は飾りですかー?」

 

 

「コイツ…ッ!」

 

 

「ギ、ギルド内での暴力は認められておりません!おやめください!」

 

 

「え?そうなの?しょうがないなー…じゃあ足だけで許してあげるよ〜。〈魔法持続時間延長化(エクステンドマジック)疫病(プレーグ)(レッグ)〉」

 

 

「…あ?お前何を、か、かゆッ!?痒い!?お前俺の足に何を…!?」

 

 

「何って、うーん…魔法で病気に罹らせただけだよ?たぶんその様子だと皮膚病かな?たぶん二週間はその状態が続くから、せいぜい楽しんでくれよ?」

 

 

「ふ、ふざけるなッ!早く解け―――」

 

 

「あのさー、それ以上口を開いたら今度は≪自主規制≫にもかけるよ?俺は面白そうだからかけてもいいかと思ってるけどさ、どうする?」

 

 

「あ…ぐぅッッ、」

 

 

「そうそう、やればできるじゃん!偉いねー…〈魔法最強化(マキシマイズマジック)疫病(プレーグ)≪自主規制≫(●●●)〉」

 

 

 

『『『!?』』』

 

 

 

「ハァッ!?ギャアアアアアア!!痒い痒いカユイ!!糞がァァァァァ!!」

 

 

「アッハハハハハ!!面白!馬鹿みたいに股座掻き毟ってさ、恥ずかしくないの?ふっ、フフフ!!」

 

 

 

 凄い!二連続で皮膚病を当てるなんて…きっとすごく運がいい人だったんだろうねー

 

 

 

「あ、そうだ、受付のお姉さん。依頼の件だけど大丈夫?」

 

 

「…あ。も、申し訳ありません。規則でして、冒険者様はそのランクに応じた依頼しか受けられないんです、すみません…」

 

 

「あー、ならしょうがないですねー。おとなしく適当な討伐クエストでも受けときますよ。何かありますか?」

 

 

「でしたらこちらのゴブリン討伐クエストを―――!?危ない!」

 

 

 

 受付嬢さんが俺の後方を見て悲鳴を上げる。どうやらさっきの筋肉ダルマが大斧を振り下ろそうとしているみたいだ。

 

 

 

「死ねェェェェェ!!この糞ガキがァァァァ!!」

 

 

 

…うん、遅いな(・・・)

 

 

 

「〈三重魔法最強化(トリプレットマキシマイズマジック)太陽光(サンライト)〉」

 

 

 

 振り下ろされた大斧を優しくつまんでやり、両目に強力な光を当ててやる。短時間で強い光を集中して当てられると失明することもあるんだとか。いやー、失明してないといいね!まあ大丈夫でしょ、この人運がいいみたいだし。

 

 

 

「ああ、あぁ…目がぁ……」

 

 

「じゃあそのゴブリン討伐?受けときますねー、目標は何匹ですか?」

 

 

「あ、えっと…十匹ですが…」

 

 

「オーケーオーケー、じゃあ行ってきますね!―――おい、そこの」

 

 

「は、はいぃ?!」

 

 

「コレ、片づけておけ」

 

 

「わ、分かりました!分かりましたからどうか…」

 

 

「うるさい、早くしろ…じゃあ期待して待っててくださいね!」

 

 

「は、ははは…お待ちしております」

 

 

 

 よーし!俺やる気出しちゃうぞー!!

 

 

 後ろで伸びている肉ダルマを何とか動かそうとしている卑屈そうな男を見て、ほんの少しだけ溜飲が下がった。これですっきりとした気分で仕事ができそうだ。

 俺は意気揚々とギルドを後にしたのだった。

 

 

 



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死の支配者の蹂躙

 

 

 

 会議の後、モモンガはNPCの中でも特に索敵・探索に役に立つ者達に周辺の探査を命じていた。モモンガ自身は自室にて『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)』を使用し、周辺を見て回っていたのだが…

 

 

 

「ふむ、特段興味を惹かれる様な物は無いな…〈伝言(メッセージ)〉。『恐怖公よ、聞こえるか?』」

 

 

『おお、モモンガ様!如何なさいましたか?』

 

 

『周辺の確認は一通り取ることができた、後の事は二グレドに任せるからお前はナザリックに帰還し、次は大墳墓の内部を精査せよ(・・・・・・・・・・・)

 

 

『仰せのままに。直ちに眷属らを帰還させますぞ!』

 

 

 

 恐怖公との『伝言(メッセージ)』を終え、ニグレドには引き続き周辺を監視するように伝える。

 モモンガが恐怖公に大墳墓内の調査を命じたのは、偏に不安であったからだ。モモンガのユグドラシルプレイヤーとしての長年の経験やカン(・・)といったモノがずっと警鐘を鳴らし続けている。どうにも妙な胸騒ぎがするが、それの原因が何なのかは分からない。

 …これも、アンデッド化した時に得た特殊効果なのかもしれない。

 

 考え事をしながら遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)を眺めていると、一つの村を見つけた。何か催し物でもやっているのだろうか、妙に騒がしい。鎧を着込んだ集団がそうでない者を追いかけ回しているのだ。

 

 

 

「祭か?…いや違うな、侵略か。あまり気分の良いものではないな…」

 

 

 

 モモンガは今見た光景を見なかったことにして、周辺の探索を再開しようとした。

 …本当にそれで良いのだろうか?確かに今は非常事態だ。だがそれでも、自分がまだ初心者であった頃にたっち・みーから受けた恩は忘れていない。ふと側にいる(たっち・みー)の創ったNPC、セバスへと視線を向ける。

 

 セバスはじっとモモンガを見つめていた。ただ自分に課せられた執事としての役割に従順であった。だがモモンガには、その瞳の中に『眼の前で殺されようとしている弱者を救いたい』という意思が渦巻いているように見えた。

 

 

 

「……借りは返しますよ、たっちさん…」

 

 

 

 モモンガは心の中でそう呟き、そしてセバスへと問いかけた。

 

 

 

「セバスよ、彼らを救いたいか?」

 

 

「…はい、私個人としては救いとうございます。ですが今はそのような事をしている場合では無いということも、理解しております」

 

 

「ああ、そうだな…だがな、セバスよ。私は戦局が動くまでただ座して待つような人間ではないのだよ。だから…セバス!」

 

 

「ハッ!」

 

 

「五分後に戦闘準備を整えてここに戻ってこい、あとアルベドにも後で武装して来るように伝えよ」

 

 

「かしこまりました……モモンガ様」

 

 

「何だ?」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「…ふふっ、急げよ?」

 

 

「はい!」

 

 

 

 セバスは恭しく一礼をすると、小走りになりながら退出していった。部屋の扉が閉まると同時に独特の転移音が聞こえた。『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使用したのだろう。

 

 さて、と。俺も準備をしなければな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く、逃げるよ!」

 

 

「う、うん!お姉ちゃん!」

 

 

 

 生きるのに精いっぱいではあるが、平凡な日々。そのような日常がずっと続くものだと思っていた。

 その美しい思いは、いとも容易く打ち砕かれることとなる。エンリ・エモットとその妹ネムは現在、自分たちを殺そうと迫ってくる騎士たち(死神)から逃げていた。

 彼らの鎧の胸元にはバハルス帝国の紋章。手に持った抜き身の刃物、ロングソードが血に濡れて赤黒く不気味な光を放っていた。

 今は何とか逃げられているが、既に自分も妹も限界だ。だがもはや逃げる以外の選択肢は残されていない。

 

 

 

『妹を置いて逃げてしまえ。そうすればお前は助かるかもしれないぞ?』

 

 

 

 自分の中の仄暗い部分がそう囁いてくる。

 

 

 

(黙れ!黙れっ!こんなところで諦めてたまるかっ!ここで自分が諦めたら、何のために父さんが…!)

 

 

 

 ―――だが、現実とは非常である。姉であるエンリの心は折れず、けれどネムの身体は既に限界であった。不意に小石に躓き転んでしまう。

 

 

 

「っきゃあ!」

 

 

「ネムッ!?そんな!」

 

 

 

 そこでエンリは立ち止まってしまった。興奮状態にあったから疲れを感じていなかったが、一度足を止めてしまえばそれももう叶わない。今までの疲労が一度に押し寄せてきて、自分の意思とは関係なしにへたり込んでしまう。

 

 

 

「はぁ…まったくよぅ?手間かけさせやがって…だがもうお終いだ。無駄な足掻きご苦労さん!」

 

 

「おいおい待て!まさかこのまま殺るってのかよ?」

 

 

「はー?んなわけねぇだろうが!こいつらのせいでここまで走らされたんだ…駄賃ぐらいは、貰わねぇとなぁ?」

 

 

「へっ…へへへへへ!そう来なくっちゃあ!」

 

 

「ひぃ…?!」

 

 

 

 目の前の騎士たち(死神)が話している内容を理解したくない。だが、村の中でも頭の良い方であるエンリには、これからの自分たちの運命が理解できてしまった。

 ―――故に、エンリは抵抗することを選んだ。

 

 

 

「ぐあぁ!?何しやがる!」

 

 

 

「なめないでよねっ!!」

 

 

 

 ―――鉄でできた兜にありったけの力を込め、拳を叩き込む。己の怒りを、そして妹を守らねばという使命を拳に宿して。正真正銘、今の自分が出せる最高の一撃を。

 己の骨が砕ける音が体内から聞こえ、そして激痛が全身を駆け廻った。騎士は殴られた衝撃で大きく体勢を崩す。

 

 

 

「逃げて!はやく!!」

 

 

「―――うん!」

 

 

 

 手の痛みも忘れて逃げ出そうとしたその時、背中に鋭い痛みを感じた……どうやら、自分は斬られたらしい。

 

 

 

「こんっっの、クッソアマァアア!!」

 

 

 

 あと数十分もすれば、自分達のモノ(・・)になっていたであろう肉人形の片割れに『抵抗された』という事実が、この騎士の冷静さを奪い取っていた。

 その結果、彼らは己の楽しみ(・・・)を一つ失うことになる。

 ―――だが、もはやそれも関係ないことだ。

 

 

 

(助けて…誰か…っ!)

 

 

 

 そして、少女達は死の支配者(真の死神)を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エンリは今日の一連の出来事に現実感を感じられないでいた。黒い闇(転移門)から現れた死神とその執事は瞬く間にあの騎士二人を殺し、巨大な動死体(ゾンビ)にしたかと思うと、村にいた残りの兵士も皆投降させてしまった。

 両親は…すでに、向こうに行ってしまったが。だがそれでも自分たちは何とか生き残ることができた。背中の傷も、もはや跡形もなく消え去っていた。あの不思議なポーションのおかげだ。

 

 その後、あまりにも遅すぎる救援部隊(王国戦士長たち)が駆けつけた………もしももっと早く彼らが来ていてくれたなら、私の両親は…いや、やめておこう。

 

 そんな救援部隊(どうしようもない恩人)もどうやら、村の復興作業を手伝ってくれるようで、私たちは彼らと、あの巨大な動死体(ゾンビ)に交じって力仕事を始めた。

 

 

 そんな中、周辺の警備をしていた兵士の一人からの報告が飛び込んでくる。

 

 

 

「戦士長殿!周囲に複数の人影が!村を囲むような形で接近しつつあります!」

 

 

 

 ―――仄かに、死の匂いが香った気がした。

 

 

 



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死の支配者の交渉

 

 

 

「うむ、俺も確認した。なかなか多いな…」

 

 

 

 “王国戦士長”ガゼフ・ストロノーフは作業の手を止めて、敵のいる方角を確認する。魔法詠唱者(マジックキャスター)らしい格好をした男達が、天使を従えて周囲に配置されている。

 

 

 

「戦士長殿、彼らは一体何者なのでしょうか」

 

 

 少しでも情報を得ようとモモンガが問いかける。ガゼフは部下が持ってきた鎧を着こみながらそれに答えた。

 

 

 

「これだけの魔法詠唱者を揃えられるのは、スレイン法国以外ありえないだろう…それも、神官長直轄の特殊工作部隊、『六色聖典』のいずれかだ」

 

 

「すみません、“スレイン法国”というのは?」

 

 

「人類至上主義を掲げ、他種族を排斥する国だよ。自分たちは『人類の守り手』を名乗っているがな………そして今我が国とスレイン法国は…そう、あまり良い関係にないのだ」

 

 

 

 ガゼフの話を聞いてモモンガは考える。曲がりなりにも人類の守り手を名乗るのであれば、自分が人のふりをしていれば、友好関係を築くことができないだろうかと。そしてゆくゆくは、上手くこちらの勢力に取り入れることができないだろうかと。

 具体的なビジョンは見えないが、やってみたいことはできた。モモンガはガゼフに問いかける。

 

 

 

「すみません、ガゼフ殿。彼らのことは私に任せて頂けませんか?」

 

 

「…ゴウン殿、それがどういう意味か解っておられるのか?これは法国と、王国との問題だ。この村を救ってくれた恩人であるあなたにこのような事を言うのは忍びないが、国同士のイザコザに首を突っ込んでしまうと大抵碌な目に合わない。止めておいたほうが良いと思うのだが?」

 

 

「それでも、です。どうかお願いします、ガゼフ・ストロノーフ殿」

 

 

 

 そう言い、モモンガは頭を下げる(・・・・・)。それを見たガゼフは、“恩人に頭を下げさせるなど…!どうか頭を上げてくれ!”と懇願する。だがモモンガとしてもここで引くわけにはいかないのだ。

 モモンガはずっと考えていた。その優秀とは言えない頭で、分からないなりに必死に考えていたのだ。いくらナザリックが過去に二千人のプレイヤーの襲撃を受け、それを撃退したといえども、あの『黎明華』を相手取る(まだそうだと決まったわけではないが)のには不十分だ。

 

 …いや、最早あの化け物は誰にも倒せるようなものでは………

 

 だがそれでも、この美しい世界がすべて消え去って跡形も無くなったとしても、ナザリックだけは守り抜けるように。それがモモンガの使命(・・)であると。そう考えていた。

 

 ―――そのためには、仲間が必要だ。少しでも多く。

 

 どれだけ頭を下げ続けていただろう。ふとガゼフが溜息を吐いた。

 

 

 

「…あなたは我々王国の恩人だった、だから面倒事に巻き込まれてなど、欲しくなかったんだ。だがそこまで言うのなら私は知らない(・・・・・・)。私と貴方はこの場所では出会っていないし、互いに何も知らない…」

 

「……だからゴウン殿、好きにやるといい。貴方は王国とは無関係の人間なのだから」

 

 

 

 きっとこれが、彼なりの最大限の譲歩だったのだろう。もしもモモンガが仮に『法国の手の者』であったとしても、よしんば友好関係を結び法国へと行ってしまったとしても、彼が剣を向けなくても良いように。

 

 

 

「感謝します、戦士長殿……では、行ってきます」

 

 

「…偉大なる魔法詠唱者(マジックキャスター)殿!!もしも王国に立ち寄ることがあったなら、私を訪ねるといい。少しくらいは融通を利かせられるだろう」

 

 

 

(ああ…やはりあなたは優しい人だよ。ガゼフ・ストロノーフ)

 

 

 

 モモンガは振り返らず、ただ手を振った。それが別れの挨拶となった、そして―――

 傍にいた一人の老執事とともに、(転移門)の中へ姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スレイン法国は勿論の事、王国、帝国、それにローブル聖王国などの人類種によって構成される国家は、ただ大陸の端にポツンとあるだけの極小さな勢力に過ぎない。大陸中央部では人間種より身体能力の勝る亜人種の国家が覇権争いを続けている。

 一般的にこの世界の人間は餌か、良くて奴隷の扱いを受けているのが常だ。

 そうだ、人間は弱い。異業種に比べ肉体能力が劣っており、寿命も短い。歴史を見れば分かる。人類は他のどの種族にも虐げられており、滅びの一途を辿るのみであった。しかしそんな人類を救ったのが、六百年前にこの世界に現れスレイン法国を建国した“六大神”だ。

 

 だが、その六大神は既にこの世を去った。亜人や異形に対抗する事の可能な、大いなる力を持った秘宝の数々を遺して。

 それ以来“神”の意志を継いだスレイン法国は、六百年もの間人類の生存圏を守護し続けてきた。人々を見守り、時に施し、そして導いてきたのだ。亜人や異形種どもの魔の手から、人類の生存圏を守ってきた。彼らのおかげで六百年もの間、人類は何とか絶滅を免れてきたのである。

 

 

 

 さて。ところで、『リ・エスティーゼ王国』という土地に恵まれた豊かな国がある。周辺国家との立地も良く、正に理想的な国家だ。スレイン法国も二百年前に建国を手助け、そして王国に人類を導く“勇者”が現れるのを期待していた。

 

 ………しかし、現実はそうはならなかった。

 

 国の豊かさは堕落を招く。勇者など待てども待てども育つことはない。我々(スレイン法国)の期待を受けて成長した王国は、犯罪組織と薬物とが蔓延る犯罪者どもにとっての楽園へとなり下がってしまったのだ。国力は落ち続け、貴族派閥と王派閥の間で醜い権力闘争を繰り返すばかり。彼らは衰退から破滅の文字へと国の未来が変わり始めていることに気づいてすらいない。

 

 それ故スレイン法国は、堕落したリ・エスティーゼ王国を見限り、活気のあるバハルス帝国に併呑してもらおうと行動しているのだ。ガゼフ・ストロノーフ抹殺の任務はその第一歩の、ただの足掛かりに過ぎない。

 

 スレイン法国が誇る特殊工作部隊『六色聖典』が一つ、『陽光聖典』。亜人殲滅を得意とする彼らの任務は、ガゼフ・ストロノーフを抹殺することである。

 

 

 

「さあ諸君、任務開始だ。『汝らの信仰を神に捧げよ』」

 

 

 

 彼らの支配する天使が、村に向かって攻撃を開始しようとしたその時。

 黒き門が開き、その中から二人の人間が出てきた。

 

 

 

「初めまして、スレイン法国の皆さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移門(ゲート)から出ると、既に臨戦態勢に入った陽光聖典達が目に入った。既に天使たちの配置は済んでおり、いつでも突撃させることができる状態にあるようだ。

 だがモモンガにとっては下級天使など、いてもいなくてもそんなに変わらない存在だ。気にも留めずに話を続ける。

 

 

 

「我々はあなた方と交渉がしたいのです」

 

 

「…突然現れて何を言い出すかと思えば、交渉がしたいだと?笑わせる。自分が何者であるかも名乗らないのに!貴様らには分からんだろうが、これは人類を守るための重要な任務なのだ。分かったならば―――」

 

 

「人類…そう、人類を守りたいのですよね?あなた方法国は。ならば猶更我々の話を聞いたほうが良いと思われますが?」

 

 

 

 目の前の男は少し考えた後、続きを促してきた……ひとまずは第一段階を突破したようだ。ここで躓いたらどうしようかと考えていたが、その心配は杞憂だったようだ。

 

 

 

「ありがとうございます。ではそうですね、まずは自己紹介から始めましょうか―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…終わったな」

 

 

 

 村へと攻め入ろうとした『陽光聖典』、そのリーダーであるニグン・グリッド・ルーイン等との交渉は無事に終えることができた。彼らに亜人や異形種以外の第三の脅威(黎明華)の存在をチラつかせると、面白いほどに驚愕した。どうやら彼らの国を建国した“神”とやらが、その神話の中で特に恐ろしいものとして彼を挙げていたのだという。十中八九、その神はプレイヤーであろう。いや、そうでなければおかしい。

 

 彼らが村から撤退した後、モモンガの周囲の景色から突如、色彩が消えた。それに驚き横を見れば、傍に待機させていたセバスが微動だにしていない。

 

 ユグドラシルで何度も見たこの光景…ッ!間違いない、〈時間停止(タイム・ストップ)〉だ!やはり自分以外にもプレイヤーが転移していたんだ!これだけでは、それが何者かという事までは分からないが…

 

 モモンガは時間停止対策の指輪を装備しているため時間停止は効かない。 だが、シモベ達はそうではない。対策を取っていないのだから当然時間停止の影響を受ける。けれども残念ながら、モモンガには現状どうすることもできないのだ。ナザリック内にいる全てのNPCに時間停止対策を行うことは到底不可能だからである。

 

 本来、〈時間停止(タイム・ストップ)〉は自分の周囲の限られた範囲しか効果がない。だから普通は、術者が視認できる範囲内にいることが多い。そう普通は(・・・)だ。だがモモンガがどれだけ周囲を探索しても、術者を見つけることはできなかった。〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウンアブル)〉による潜伏を疑ったが、それでもいかなる手段を使っても見つけられなかった。そもそも普通なら、時間を止めている間に攻撃の一つでも仕掛ける筈だ。

 

 よって、この事から推測される事は唯一つ―――

 

 

 

『何者かが通常ではありえない程の広範囲に〈時間停止(タイム・ストップ)〉を発動した。その結果、意図せずして自分(モモンガ)達が効果範囲内に入ってしまった』

 

 

 

 …こんな出鱈目な事ができる存在(プレイヤー)を、モモンガは一人しか知らない。

 

 

 

「黎明華…やはり、やはりいるのか……」

 

 

 

 モモンガは震えていた。恐怖から来る震えだった。まるで自分の背後にぴたりと死神が張り付いて、その死神が優しく首を撫でているような…そんな感覚を感じる。自分こそが死の支配者(オーバーロード)であるというのに、とんだ皮肉だ。

 世界の色彩はいつの間にか元に戻っていた。何も気づいていないセバスが、どうかしたのかと声をかけてくる。だが、モモンガは動くことが出来なかった。

 美しき濃紫色の薄暮が、ただ彼らを包み込んでいた。

 

 

 




アルベドさんは結局、〈伝言(メッセージ)〉で来ないように命令されたので来ませんでした。がっつり異業種の見た目してるからね。しょうがないね。


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黄金は蒐集される

主人公の装備(見た目)

頭:卑兵の兜&顔の部分はホスローの兜
胴:浪人の鎧
腕:ゴドリック兵の手甲
足:革のズボン


 

 

 

 それにしてもゴブリン討伐か…クエストの表題だけ聞いてさっさと出てきてしまったから、どれぐらいの強さの敵なのかが全く分からないぞ…?

 まあたぶん大丈夫だろう、俺が負けるぐらいの強さのモンスターが初級クエストで出てくるはずないし。

 

 俺はさっそく、〈ダヴ〉でゴブリンの居場所を探し始めた。とにかく早くゴブリンを見つけてしまいたかった。知りたいことや試したいことがいろいろあるからな。

 どうやらゴブリンどもは俺が割ってしまった森の方に多く生息するらしい。ダヴの表記があまりにも多すぎて、見開きでは収まりきらないほどになってるから間違いない。

 

 

「それじゃあいってみよーう!〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉!」

 

 

 なんだかんだ言ってこの世界に来てから初となるマトモな(・・・・)戦闘なのだ、ちょっと興奮してきたな。

 

 

 

 

 

 転移ラグ無し、部位欠損も無し!転移は成功だな……という訳で件の割れた(割った)森に着いた。俺が割って土がめくれ上がった部分にもう雑草が生えてきている。ダヴを収めて、思わず見入ってしまう。

 この世界の植物逞しすぎんか?現実の方もこうだったらなー…

 そんなどうでもいいことを考えながら周囲の散策をしていると、ふと複数の足音が耳に入った…ビンゴ!ゴブリンの足音(・・)だ。

 

 俺はゴブリンの肉体の構造って人間と変わらないのかな?なんてことを考えながら足音のした方向へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふーん?亜『人』だから人間と変わらないんだな…」

 

 

 我ながら惚れ惚れするような手腕でゴブリンを解体していた俺は、途中からこいつらの内臓の造りが人のソレに酷似していることに気付いた。

 隅の方で〈麻痺(パラライズ)〉して、ついでに縛ってあるヤツらが信じられないものを見るような目でこっちを見ている。心外だなー、俺は単純に知りたいことを知ろうとしてるだけだってのに……嫌になるよね!

 気に入らなかったから一つ、思わずスキル〈握撃(アクゲキ)〉で握りつぶしてしまう………うん、上位鑑定してるから識ってたけども、やっぱり弱いな。

 

 今使った〈握撃(アクゲキ)〉は格闘系クラスの物で、相手に触れた部分を握りつぶすだけのスキルだ。かなり使い勝手のいいスキルで、ユグドラシル時代でも格闘家系のプレイヤーならば好んで使っていた。

 出が早く威力もそこそこあるからな、使わない理由なんてない。こいつの強みは何と言ってもPVPにおける接近戦の時に発揮される。相手への数秒の硬直付与と使用者の筋力値の1.05倍のダメージを与えるのだ。

 しかも一日の使用可能回数も九回とかなり多い。文句なしの必須スキルだな!

 

 

 

『グゥゥゥゥ!グガァァァ!!』

 

 

「…全くよー、そんなに騒がなくても後でしっかり開いてやるからさー…?」

 

 

 

 小鬼(ゴブリン)達にとっての地獄は、まだ始まったばかりである。

 この日、ゴブリンの集落が一つとトロールが四体、耳だけを残して後は全部ミートパイになった。

 試しに作ったパイは“内側”に入った。あまり良くはなかった。もちろん何にもならなかった。ちぇっ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実験も終えて町に戻った俺は、耳をズラッと数珠つなぎにしたもの(そこしか残らなかったので)をカウンターへと届けに行った。受付のお姉さんはドン引きしてたが、それでも努めて笑顔で接客してくれた。そんな引く必要あるかね?ちゃんと臭いも消しておいたのに…

 報酬の銀貨(どうやらこの世界はユグドラシルと違い、ちゃんと細かい貨幣があったようだ!)を受け取り、ギルドがおすすめしてくれた宿屋に入る。店主らしき人に適当な金貨と宝石を握らせてやったら一番いい部屋を用意してくれた。景色は良いし、ベッドもそれなりにいい。しかも朝晩は宿の方で食事を出してくれるらしい!

 あんな“内側”の肥やしになってるようなアイテムで喜ぶなんて…って、違うな。よくよく考えたらあれって宝石だもんな、いくら装飾用の付与効果のないヤツでも……もしかして俺の感覚がおかしくなってるのかな?

 

 いつもとあんまり変わらないような気もするんだけど…

 

 何をすることもなくぼーっとしながら考えているともう日が暮れそうだ。生まれて初めて見る生の夕焼けは、映像やユグドラシルの中で見たものよりもずっと綺麗だった。初日は見る余裕なかったんだよなぁ…割っちゃったし。

 

 

 

 ―――この世界に、俺の“内側”になる価値のあるものってあるんだろうか?

 

 

 

 ふと俺は不安になった。別になくてもいいんだが、それはそれでショックだな…

 ま、幸い時間は無限にある。ゆっくり探していくとするかな。

 

 

 



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貧者の刃

 

 

 

 朝少し早く目が覚めてしまった俺は、〈ダヴ〉で適当なモノをサーチして暇を潰していた。

 サーチしていなかったワールドアイテムもこの時間に全部確認しておいた。

 ……こんなことになるなら全部集めておけばよかった、どうせいつでも取れるからなんて言って放置しとくんじゃなかった…まあそれでも、他のどのプレイヤーよりも俺のほうが保有数で上回っているから別に良いんだけどね!

 

 …〈世界意志(ワールドセイヴァー)〉か。コイツが無くなっていなくて本当によかった。もし何かの間違いで別のプレイヤーの手に渡っていたら…と考えるとゾッとする。このワールドアイテムは俺を殺し得るからな、まったく末恐ろしいよ。

 

 あと、現在ダヴでサーチできないモノ(ワールドアイテム)の一つに〈五行相克〉というのがある。

 …なんでこんな話を急にし始めたかというと、昨日の夜面白いものを見たからだ。なんと宿屋の店主が『第()位階魔法』を使用していたのだ!詳しく話を聞いてみればどうやら生活魔法というらしく、皿を洗ったり洗濯してくれるのだとか。

 俺がユグドラシルをプレイしていた時は第零位階魔法なんてもの存在しなかったからな…

 

 さて、話を戻そう。この五行相克というのを使えば、運営に対しシステム変更を要求できる。能力だけ見ればウロボロスの劣化なんだが、五行相克は俺が今保有してないWI(ワールドアイテム)だからな、こっちに来ていてもおかしくない。

 俺の予想は、五行相克の能力によってこの世界にユグドラシルの魔法が輸入されたのではないかというものだ。

 第零位階魔法なんてものしか無ければ、ユグドラシル産の派手な魔法を撃ちたくなるよなぁ…うんうん、分かるとも。

 初めは無銘なる呪文書(ネームレス・スペルブック)も疑ったんだが、アレは魔法の習得が出来るようなものじゃないからな。恐らく違うだろう。

 

 

「お客サマ!朝飯の用意ができましたぜ!」

 

 

 お、メシだメシだ♡ここのご飯美味いんだよなー!

 俺は身支度を済ませると急いで下へ降りていった、今回はデバフのおかげで建物が割れたりはしなかった。

 うむ、美味かった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黎明華の時間停止を食らった後、モモンガはナザリックの三賢―――アルベド、デミウルゴス、パンドラズ・アクター―――を自室に集めて会議をしていた。パンドラズ・アクターに対して黒歴史だのなんだの言っている余裕は今のナザリックにはない、気合いでなんとかするのが死の支配者(オーバーロード)なのだ。

 

 

 

「超々広範囲の時間停止、ですか…」

 

 

「そうだ…正直言って、この問題ばかりは我々にはどうしようもない。一部のNPCに対策アイテムを配ることは可能だが、完全なる無効化は不可能だからだ」

 

「それを踏まえた上で、諸君らに奴を倒す方法を考えてもらいたい。もちろんすぐにとは言わない、なるべく早いほうがいいのは言うまでもないが…」

 

 

「…一旦我々の方で考えさせていただいてもよろしいでしょうか」

 

 

「ええ!我が主のお望みとあらば、素晴らしき策を講じて見せましょう!」

 

 

「お任せください、モモンガ様」

 

 

「―――うむ、頼んだぞ」

 

 

 

 モモンガが知る限りの『黎明華』の能力と、ゲーム最終日の全体アナウンスから予想した能力とをアルベドたちに伝えてその場は解散となった。正直な話、モモンガは期待をしていなかった。あまりにも高すぎる障壁に対策することを諦めていたのだ。

 それ故、後日パンドラズ・アクターから可能性のある(・・・・・・)対策を提案された時に腰が抜けるほど驚くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガ様の部屋から退出した後、私たちは第九階層のショットバーに集合し対策会議を行っていた。バーではあるが酒を飲むわけではない、ただ静かな場所が必要だったからだ。私はここの常連だから、店長にも顔が利くしね。

 

 

 

「…ふむ。アルベド、パンドラズ・アクター。単刀直入に聞くがどうするかね?」

 

 

「そもそも複数のプレイヤーを一つのプレイヤーに統一する、なんて言うこと自体がイレギュラーなのだから…いったいそれがどういう感覚なのかが分からないの。私たちは体を一つしか持たないでしょう?」

 

 

 

 アルベドがそう言うと、今までこのバーに来てから一度も喋らなかったパンドラズ・アクターが口を開く。

 

 

 

「デミウルゴス様、私は『二重の影(ドッペルゲンガー)』です。複数の姿に変わることができる、という設定をモモンガ様より賜り、その通りに『至高の四十一人』の方々を模倣することができます……おそらく『黎明華』なる者は私と異なるタイプではないでしょうか?」

 

 

「…どういうことだい?」

 

 

「私が変身するときのイメージですが…私という存在を押しのけて(・・・・・)空いた空間にそのまま別の姿を当てはめる(・・・・・)というものなのです」

 

「ですがモモンガ様の話を聞く限りでは、黎明華は複数の姿を持たない…一つで完結しているように思えます」

 

 

「それはモモンガ様が黎明華…華シリーズを“全てが一芸に特化している”とおっしゃっていたから?」

 

 

「正にその通り!一芸に特化しているものがその欠点を補うべく一つになる…なるほど、これ以上ないほどに合理的な手段です。それぞれの長所が短所を打ち消しあい、補完しあう…」

 

「そしてその中には、ワールドエネミーすらあるというではありませんか!これだけ様々な力を持っているならばいっそのこと一つに纏めてしまい、変身する手間を省いてしまった方が合理的というものです。そうでしょう?」

 

 

 

「…ですが、彼はあまりに合理的すぎるが故に一つだけ弱点を晒しています」

 

 

 

「もしかして君も、あの映像記録を見たのかね?黎明華がワールドエネミー化したというイベントの一部始終を」

 

 

「ええ、もちろん見ましたとも。あれのおかげで気付くことができたのですから」

 

 

「私も見たけれど…アレと真正面から戦っても勝ち目は無いわ。何か搦手を使わないと…」

 

 

「…ちょうどいい機会です、統括殿。ここにそのデータクリスタルがありますのでもう一度見てみませんか?」

 

 

「ええ、再生してちょうだい」

 

 

 

 パンドラズ・アクターが軍服の内ポケットから一つの青い結晶を取り出し、再生する。

 たちまちクリスタルは変形し、一枚のパネルとなった。そこには黎明華…いや、一匹のワールドエネミーが数々のプレイヤー達を蹂躙していく姿が記録されている。

 

 

 

「―――ここです、このシーン!よく見てください、もう一度再生しますから」

 

 

「…このシーンがどうかしたのかね?」

 

 

「―――なるほど、パンドラズ・アクター。貴方の言いたいことが分かった気がするわ」

 

 

「統括殿はお気付きになられましたか」

 

 

「うーむ…すまないが、説明を頼むよ」

 

 

「ええ、まずこのシーンですが、ワールドエネミー…―――ここでは黎明華とさせていただきますが―――の背中から放たれた光線によってプレイヤー十四名が殺されています。この際、黎明華は異業種のプレイヤーのみを対象にして『捕食』を実行し内側に取り込み、そしてレベルドレインを行った後に放出しているのですが…」

 

「この際人間種プレイヤーは『捕食』を免れているのです」

 

 

「―――!!そういうことか!」

 

 

「はい、このあからさまな行動を見るに、黎明華が人間種の捕食を行わなかったのは『それが非合理的であるから』…つまり『自分に対して何か不利益となるものがあるから』である事が予想されます」

 

 

 

「そう考えるとこの作戦(黎明華討伐作戦)、成功しそうな気がしませんか?」

 

 

 

 顔にぽっかりと空いた三つの穴から、暗黒が滲み出してした。

 

 

 



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未だ知らないモノたち

 

 

 

 昼の生気に満ち溢れた草原も良いが、夜の星も見えないほどに木の生い茂った森の中というのもまた乙なものだ。

 今俺は(完璧なベッドメイキングをしてくれた店長には気の毒ではあるが)宿屋を抜け出し、帝都アーウィンタールの西にある巨大な山脈、その麓にある大森林に来ている。

 目的は勿論森林浴だ。こんな贅沢なことアーコロジーの金持ちなんかでも絶対できないだろうからなー!そう考えると仄暗い優越感がふつふつと湧いてきていい気分になる。

 

 あの割ってしまった森林でもいいんだが、あそこはあそこで血の匂いがするから…殺す時なら気にならないんだけれど、平時に嗅いでいると嫌になる。そうだな、例えるなら…“満腹の時に食欲のそそる匂いを嗅いでもうっとおしいだけ”、みたいな?

 

 

 ………んー…、噂をすればなんとやらって言うか、“引き寄せの法則”って言うのか…血の匂いがする(・・・・・・・)。かなり遠いけれど。マイナスイオン的な物を吸い込むために『機械人形(オートマトン)』の嗅覚を使ってたのが仇になったかな?

 だがまあ気付いてしまったからには仕方がない、気になるから匂いの発生源に行ってみようかな。

 

 俺は足に少し力を込めて走り出した。デバフがかかっているから、今の俺は三〇〇レベル分ぐらいしか力を発揮できないが、それでも十分すぎるぐらいの身体能力だ。近接戦闘系PCを二体合わせるとこんなデタラメな性能になるなんて…この黎明華の眼をもってしても見抜けなかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハぁー?ウソでしょ!?…え、これで終わり?ツマんねーの……」

 

 

 

 『深夜のトブの大森林に入ったならば、手練れの者であろうとも無事で帰ってくることはできない』…そのような教訓がある。

 これはリ・エスティーゼの冒険者に限らず“トブの大森林”に国境が接している国であれば最早常識と言っても過言ではないだろう。なぜならば夜の森というのはそれだけでも視界が悪く、遭難しやすい。ただでさえ死にやすい条件が揃っているというのに、それに加えて徒党を組んで襲ってくるゴブリンやオーガ、それにトロールなんかと遭遇した日にはきっと骨も残さず胃の中へと押し込んでくれることだろう。

 だが、この日たまたまクレマンティーヌは、夜であるにもかかわらずこの大森林に潜ろうとする馬鹿なチームを見つけたため、暇つぶしもかねてずーっと尾行していたのだ。隙を見つけて殺すために。

 

 

 

 そう思っていたのに…なんか勝手に死にやがった。なんで?

 

 

 

 『冒険者殺し』だなんて恐れられて、自分が殺した冒険者のプレートを収集しコレクションにしてるこのクレマンティーヌ様だが、こんなバカな死に方した奴は生まれてこの方見たことがない。

 これはある意味運が良かったのか…?いやでも私が殺したわけじゃないしなぁ…

 どうせ死ぬなら私に殺されればよかったのに。

 

 そんな風にいじけながらウルフたちに食われて死んだリーダーの頭をゲジゲジと蹴っていると、不意に風を切る音が聞こえた。

 

 

 

「!!敵…『六色聖典』のどれかかな?」

 

 

「うーむ、残念ながら『なんちゃら聖典』とやらは知らないんだよなぁ…」

 

 

 

 !?全く気付くことができないままに後ろを取られていた!

 思わず前方向にステップし、距離を取る。振り返ってみれば黒い人型の靄がそこにあった。

 …?もしかして霧みたいな防具(・・)を装備しているのかな?妙に人間臭い雰囲気を感じる…いや、これはあまりにも不自然だ。

 

 

 五感のすべてが目の前の存在を『人間である』と言っている。

 

 

 普段道を歩く人とすれ違ったときに、『お、コイツ人間だなー?』と思いながらすれ違うだろうか?いや、普通はそうじゃないだろう。だが目の前の黒いコレは…なんだろう、『自分は人間でーす!』とひっきりなしに主張しているというか…あーもう分かんない!

 とりあえず何時でも襲い掛かれるように、腰に差していたスティレット(慈悲の短剣)を抜く。

 

 

 

「スゴイね~アンタ、私これでもだいぶ強いんだよ?そんな私の背後を取るなんてさー…アンタ何者なの?」

 

 

「な、何者?うーん、冒険者かな?さっきまで向こうの方で森林浴してたんだけどさー」

 

 

 

 黒。コイツは危険だな。夜に入ったら死ぬ森で深夜に森林浴するバカがどこにいる?そんなのがもしいたとしたなら、目の前で愚かな骸を晒しているこのバカ四人組をも超えた、世界最高峰のバカだ。きっとあの“番外席次”だって跪いて足を舐めるに違いない。

 

 

 

「へー?あっそう、御託はいいからさぁ…アンタはどこの所属なの?それぐらいならいいでしょ?」

 

 

「あー、ちょっと待てよ。何を勘違いしてるかは知らないけどさ、俺はどの組織にも所属してないぞ?…強いて言うなら『果て無き華園』か?」

 

 

「―――は?」

 

 

 

 『果て無き華園』、私はその名前を知っている。それは法国で生まれた人間ならば必ず寝物語に聞かされる童話に登場する、所謂『悪の組織』というヤツだ。

 その物語によれば、かの『六大神』がその昔メッタメタにボコして封印した(・・・・・・・・・・・・・・)らしいのだが……なんで目の前の存在はそんな『恐ろしい化け物』の所属を名乗っているのだろう?

 

 

 

「えーーーーーー…俺そんな風に言われてたの?あいつら酷くねーか?まあ所詮は掃溜めに住んでたゴミどもか…」

 

 

「?!…アンタ、心を…!?」

 

 

「え?あ、ああゴメンごめん。ついつい読んじゃってさ?便利なんだよねー。『脳喰らい(ブレイン・イーター)』のスキルに『味見(テイスティング)』っていうのがあるんだけどさ、コレ使うと相手の考えてることとかが分かるんだよねー」

 

 

「………」

 

 

ピャッ!?おい!それメチャクチャキモイから止めろ!うひぃぃぃぃぃゴキブリが…こっちにもいるのかよコイツ…」

 

 

「隙あり!」

 

 

 

 このバカがモゾモゾしている間に、私は武技を使って接近し、目のあるであろう場所に向かってスティレットを突き刺した。

 ―――だが、それは突き刺さる事は無かった。刺さる寸前、手前の方で見えない何かに弾かれたのだ。

 

 

 

「ハア?!効いてない!?なッ」

 

 

「いてッ…全く、なーにすんのさオメー、人と話してる最中にそんなもん振り回したらダメでしょうが!」

 

 

 

 不味い、掴まれた!―――?!あまりにも力が強く逃げられる気配がしない!何つー化け物だよコイツ…!一応私は人よりも力は強い方だってのに、体を動かすことすらできない!

 

 

 

「へ、へー?それで?私をこんな風にして何が目的なの?用が無いならさっさと殺せば?」

 

 

「…目的、目的かー。特にないんだけどな。俺本当に森林浴してただけだし……あ!そうだ!」

 

 

 

 目の前の奴は何かいいことを思いついたような声を上げる。

 

 

 

「お前さー、俺と冒険者やらない?」

 

 

「―――は?」

 

 

 

 目の前の怪物が、おかしげに笑ったような気がした。

 

 

 




Fiona Glintさん、誤字報告ありがとうございます!


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まやかしと欺瞞に濡れる

 

 

 

 私の身体を掴んだまま話を続ける。

 

 

 

「いやぁ、昨日初めて依頼を受けてみたんだけどね?やっぱ一人だと花がないっていうかさー、美人な女の子が横にいたらやる気が出るだろ?」

 

 

「―――ハァ?お前何言ってんの?」

 

 

 

 罵倒よりも先に疑問が出てきた。この状況の私に向かって仲間になってほしいなんて言う、その頭のイカれ具合なんかについて小一時間ほど問い詰めてやりたいところだが―――そもそも何で私なんだ?

 

 見た目だけで中身の伴っていない冒険者なんてそこいらに掃いて捨てるほどいるだろう。だのに目の前の“人間”はわざわざこのクレマンティーヌ様を選んだのだ。

 ……そして残念ながら、これまでのコイツの不可解な行動のおかげで、コイツが『六色聖典』の構成員である可能性は無くなってしまった。(六色聖典のどれかであった方がまだマシだった。まったく訳が分からない!)いくらでも殺す機会はあったはずなのにまだ私が生きているのが、その確たる証拠だろう。

 

 

 

「…うーん……いや、特に理由はないんだよなぁ…今その気になったから誘っただけだし」

 

 

 

 ……そうだった、コイツは心が読めるんだった。じゃあ私が今どんな企みを考えても、その裏側まで覗かれてしまうんじゃないだろうか。

 これをどうにかするには、何も考えず(・・・・・)直感で(・・・)答えを返すしかない…のかな?

 

 

 

「ふむふむ?続けて続けてー?」

 

 

 

 ―――ああックソ!言われなくても考えてるよ!いや考えるな!おそらくこいつは頭の中のイメージを読み取れる。さっき私が『ヒュージ・コックローチ』を想像したときにその姿を認識できていたことからも推察できる。あの反応は傑作だったな…違う、止めろ。なら思考は?これも読み取れるはずだ。頭の中で考えていることをそのまま覗き見れるなら、思考だって当然読み取れて然るべきだ。

 

 …うん、やっぱり直感だ。本能で決めるしかないね。

 

 

 

「…うーん、ちょっと悩んじゃったけど決まったよ」

 

 

「お~、ようやくか?中々面白いこと考えるじゃないの、いい暇つぶしになったよ」

 

 

「へーよかったじゃん。じゃあさー、ついでに私がどう答えるかも答えてみてよ」

 

 

 

 私がそう言うと、目の前の“人間”は困ったような素振りで答える。

 

 

 

「いや…お前さんの意思とか関係ないんだけどね?俺がついてきてほしいと思ったらついてこさせる(・・・・)んだよ、無理矢理。ユグドラシル最強プレイヤー舐めんな!」

 

 

 

 ―――『ぷれいやー』?

 

 

 

「…お?なんか流れ変わったか?」

 

 

 

 ぷれいやー、ぷれいやーと今目の前の“人間”は言ったのか?己が、過去の様々な文献において『神のごとき力を振るった』とされるぷれいやーであると?

 バカバカしい。第一証拠がないじゃないか。ただ黒い靄で体を覆っているだけで。

 圧倒的に格下であるはずの私に生身の姿さえ見せようとしない、そんな臆病者がぷれいやーであるはずがないだろう!

 

 

 

「あ、これ?これはねー、森林浴の時に他の動物とかに気づかれないようにするために着てた装備だから…そこまで考える(・・・)ならお望み通り外してあげるよ?」

 

 

 

 次の瞬間、人型の黒い靄から“靄が霧散し”、中にあったモノが露わとなった。

 蒼銀色に月光を反射するその鎧は、私がかつて見たことのある、法国にあるかつて居られた『六大神』の持つどんな装備よりも、もちろんアゼルリシアに住まうドワーフの鍛冶工房長ですら造れないような代物だった。

 

 まずその形状だ。一番近いものはスケイルアーマーだろうか?だがそれは、普通の鎧であれば感じるであろう野暮ったい感覚が一切ない。徹底的に動きやすさを重視して造られたのであろうその形状は、しかし装備者の身を決して傷つけないだろうという確信を相手に植え付けさせてくる。

 

 次に装飾。表面の()の一つ一つ―――恐らくドラゴンの物か?―――に、常人には理解しえない不思議な文様が描かれている。特筆すべきは、鎧を構成する鱗のどれもが魔化されている訳でも無いのに、悍ましい程の魔力を発していることだ。どんなに強力な魔法でもこの鎧の前では、あまりの格の違いから霧散してしまうに違いない。

 

 最後にその顔だ。黒いフードの中には何も無かった(・・・・・・)。どれだけ目を凝らしてもフードの内側、黒い布が見えるだけだ。思わず手を突っ込んでみたくなる。

 

 

 

「―――や、やめろやめろ!全く、恐ろしいこと考えるなお前は…この装備の効果で見えなくなっているだけで、顔はちゃんとあるんだぞ!?」

 

 

「ほ、本当に“ぷれいやー”様だったのですか…?」

 

 

「ん?そうだよ。さっきも言ったろ…ってあー、まあそうだよね。ああいう風に考えてたもんね?分かるよーその気持ち」

 

 

 

 目の前におられる神の機嫌を損ねてしまったことを感じ、私は慌てて跪き謝罪する。

 その光景は傍から見れば滑稽だったろう、私だってそう思う。だが後から考えてみれば、この時の私はきっとどこかイカれてたのだろう。だが、どうか私を狂人だと嘲笑してくれるな。

 

 

 

「で?どうする。俺についてくるかー?」

 

 

「も、勿論です!どうか貴方様の旅に同行させてください!」

 

 

 

 その存在すら疑った、嘗て信仰していた『神』が今私の目の前におられるのだから。

 私はこの夜を決して忘れる事は無いだろう。

 

 

 

「…そうか。じゃ、これからよろしくなー」

 

 

 

 顔の無いこの“人間”が、確かに笑った気がした。

 

 

 



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死の支配者の休息

 

 

 

「―――以上が、我々が考案した計画の内容(・・)になります!名付けて“Wenn Blütenblätter ver(花弁を散ら)―――」役者として

 

 

「分かった!もういい!もういいから!!な!?」

 

 

 

 慌ててセリフを止めようとしたモモンガが、自分の息子とイヤんな感じ(ラッキースケベ)になるまであと五秒―――

 

 

 

 あの痛ましい事件(新たな黒歴史)の後、モモンガは味覚エンジンの動作確認と称し、前から気になっていたナザリックの料理を食べてそのあまりの旨さに腰を抜かしたりと、そこそこに平和な日々を過ごしていた。

 

 『こればかりは運営に感謝しないとな…』とモモンガは心の中で思う。そう、今のモモンガは死の支配者(オーバーロード)。つまりはガイコツ(厳つい骨格標本)なのだ。それなのに何故食事ができるのだろうか?顎の隙間の部分からこぼれそうな気もするが………実はその裏には、運営達の血の滲むような苦労(ドラマ)が隠されていたのである。

 

 

 

 ここから先は下々の民(鈴木悟)らには知らされていない、トップシークレットとでも言うべき情報である。

 

 

 

 かつて現実世界にてこのゲームにドハマりし、文字通り金と人生を注ぎ込んでいた大富豪がいた。その男はある日こう思ったのだ。

 

 

 

“何で目の前にあるドラゴンステーキを食っても味がしないんだ?”

 

 

 

 と。そう思ってしまったなら話は早い。大富豪は金と立場(株主)に物を言わせ、ユグドラシルの開発チームをアーコロジー内の超一流五ツ星レストランへと何度も何度も何度も何度も招待し、時には古今東西のあらゆる酒を取り寄せ、時には絶滅危惧種となった動物を密輸などしたりして、その舌に様々な味を覚えさせたのだ。

 

 ところで、ユグドラシルとは“未知”を売りにしたゲームだ。さらに超巨大タイトルともなればアップデートはそれはもう頻繁に行われていた。それ故そのアップデートが一カ月半も止まってしまったときはサービス終了の予兆なのではと噂されたが…そんな不安に煽られたプレイヤーたちの予想は良い方向に裏切られることとなった。

 

 そう、ユグドラシルに味覚エンジンが追加されたのだ!(美食と、少しばかりの寄付(山吹色のお菓子)の対価として)

 

 

 “ユグドラシルの運営”という超絶一流企業の人材(プログラマー)が汗と涙と血尿を流しながら完成させたこの味覚エンジンは、『流石に全プレイヤーに適応させようよ(こんなに頑張って作ったんだし)』という大変ありがたーいお言葉により、明らかに食事が摂れなさそうな見た目をしている種族であっても食事ができるようパッチが当てられたのだ。やったね!

 

 

 そんな苦労があったとは露知らず、今日も何やらわたわたと慌てふためいているアウラ&マーレペアの隣で豪快にハンバーガーへ齧り付く死の支配者(鈴木悟)なのであった。

 

 

 

(うん!昨日の“とんこつらーめん”も美味かったが、この“はんばーがー”も美味いな!……ん、そうだ。夕飯は何を食べようか…)

 

 

 

 おい死の支配者(オーバーロード)、それで良いのか?

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様もこういうの食べるんだね!」「ぼ、ボクはそういうところも―――」

 

 

 

 

 

 

 美食は荒んだ精神を癒してくれる。明るい食卓を皆で囲めば、自然と会話も弾むだろう。最早モモンガの心の中には世界征服なんてモノはありもしなかった(元から無いぞ!)。

 まっこと食とは力である。美味ければ、それでよいのだよ。

 

 

 

「ふむ…?トッピングにチーズ!“ぴくるす”とやらもあるのか!素晴らしい!!」

 

 

『『も、モモンガ様ーー!?』』

 

 

 

 ―――今日もナザリックは平和です。

 

 

 



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脳に纏わりつく靄

 

 

 

 今俺が装備しているこの黒い鎧は、俺が生産系アバターで制作した神器級(ゴッズ)アイテムだ。名を『愚か者の黒霧』と言うこの鎧は装備者を、視認した対象に“強制的に”人間種であると誤認(・・)させる能力を持つ。

 

 一見何の効果もない能力だと思われるかもしれないが、その実これは実に便利なものなのだ。まず、これは俗に言う『人間種偽装アイテム』のカテゴリに分類される装備だ。だからこれを装備していると、人間種しか入ることのできない街にも入ることができるようになる。

 

 そして、この鎧の真骨頂は“誤認”にある。そう。この鎧の対象となった人間は、心のどこかで『こいつは人間ではないんじゃないか?』と疑わざるを得ない(・・・・・・・・)のだ。だが同時に、自分の五感のすべてが鎧の着用者を“人間”であるとひっきりなしに訴えかけてくるという矛盾を抱えることとなる。するとどうなるか?

 

 相手の集中力(リソース)をそぎ落とすことができるのだ!

 

 …なんだぁ?能力の派手さに対してやってることが地味だって?うっせー!ほかにもいろいろ能力はついてるけれども紹介してないだけだい!

 

 頭の中で鎧の効果について思い出していると、ふと目の前の女に話しかけられる。

 

 

 

「ところでぷれいやー様、この後ご予定はおありですか?」

 

 

「ん?特にないぞー、この後宿屋に戻って寝ようかとか考えてたぐらいだな」

 

 

「そうですか…ちなみに拠点はどちらに…?」

 

 

「えーっと…確かバハルス帝国だったかな?」

 

 

 

 俺がそう言うと、女は驚いた様子で続ける。

 

 

 

「わ、わざわざバハルス帝国から“大森林”まで森林浴に…?いくらぷれいやー様と言えどもそこまでする必要が…街から少し離れれば森林なんていくらでも―――」

 

 

「うん、そうだね…そうなんだよ。普通は…」

 

 

「何か問題が?」

 

 

「いや、問題っていうか…俺が起こしちゃったっていうか…まあそんな事はどうだっていいんだよ!それよりもさ、その固っ苦しい言葉遣いどうにかならないのか?ゴブリンだってもうちょい愛嬌あったぞ!?」

 

 

「ゴブリンッ?!そ、そんなに言うなら…じゃあこれでいい~?」

 

 

「う~む、そっちの方がまだマシだな」

 

 

 

 そう言って、俺は女の肩に手を置く。女はビックリしたといった感じでワタワタしているが、あまりに非力すぎるので無意味だ。そのまま俺の手から逃げられぬままに、俺たちは帝国へ転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が何かすると何となく察していたのだろう。女は転移を行う前には目を閉じていた。だが、明らかに自分の身体を撫でる風の質が変わったことに気が付いた女は、瞼を開き、そして周囲を見回して唖然とする。そこは既に鬱蒼とした大森林ではなく、月明かりすら通さぬほどに暗い路地裏の一画であった。

 

 

 

「す、すごい…これが神の御業ってやつなの?」

 

 

「神の御業?そんな大層なもんじゃないぞー。これは上位転移(グレーター・テレポーテーション)だ。プレイヤーについて知っているのに魔法はからきし(・・・・)なのか?」

 

 

「いやぁ、話には聞いてたけれどさ?やっぱり実際に経験するのはちがうじゃんか」

 

 

「うーん、それもそうだよなー……おい、」

 

 

「ん。どったの?」

 

 

「お前名前は?別に『鑑定』してもいいんだが、やっぱり本人の口から聞くのとは違うからな」

 

 

 

 俺たちは路地裏から出て、夜の街並みを歩きながら会話をする。装備は転移する前に『早着替え(クイック・チェンジ)』でデバフ山盛りの物に変えておいた。つい忘れそうになるが、レベル三〇〇のプレイヤーなんてそこにただ突っ立っているだけで存在感を放つからな。こんないい夜にどこぞの馬の骨に絡まれるのは気分が悪い…

 

 

 

「あー、アタシ?アタシはクレマンティーヌだよ。もともとスレイン法国で特殊部隊に所属してたんだけど、嫌気がさしちゃってお宝をかっぱらって抜け出してきたんだ~…」

 

「だから今さ、ちょーっと法国から狙われてるんだよね~」

 

 

「へー!!やるじゃん!見直したわ!いーじゃんいいじゃん!俺そういうの大好きだよー。ちなみに何を盗ってきたの?」

 

 

叡者の額冠(えいじゃのがっかん)っていう装備品だよ~。人間を超高位魔法を吐き出すだけのアイテムに変えるってヤツ」

 

 

「ちょうこうい…でもこの世界の超高位って精々が七か八位階だろ?そんなの取ってもなー…これって俺が使ったらどうなるんだろ?」

 

 

「エ”ッ”!?や、やめてよホント…?心臓に悪いからさー」

 

 

「…冗談だよ冗談、そんなに真に受けなくてもいいだろうが」

 

 

 

 顔を青褪めさせているクレマンティーヌには悪いが、実は割と真剣に考えていた。ユグドラシル内の全ての魔法が使える(・・・・・・・・・)俺が、コイツを“内側”に入れたらどんな風になるのかと考えていたのだが…どうせロクなことにならないだろうから止めておくことにした。

 後で破壊しとくかな?だがまあ今日じゃなくてもいいか。

 

 

 



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悍ましい所業

 

 

 

 朝焼けが私の頬を撫でる。普段は日が完全に落ちた後に眠り、また日が昇る前の薄暗い頃に起きる生活をしていたから、こんな時間まで寝ているというのは中々新鮮なことだ。

 目覚めたばかりのボンヤリとした頭で、取り留めのないことを考える。かつて漆黒聖典に所属していた頃では、そしてもちろん、そこから逃げ出した後カジッちゃん(秘密結社の幹部)と共に暗躍していた頃でもそんなことは考えたことも無かった。

 

 “圧倒的な強者の庇護下に入るというのはこんなにも安心できるものなんだ!”。普段の自分では考えられない行動だ。“ぷれいやー”が神として崇められる理由も分かるというものだ。

 目の前のぷれいやー…ローレンスは、まだ呑気に眠りこけている。昨日私に、あれだけ隔絶した実力を誇示していたというのに今朝にはこんなに吞気な様を晒しているとは…

 

 これが圧倒的強者の余裕っていうやつなのかな?でも、そんなに余裕ぶって寝ているわりには、こんな状況(睡眠時)でも仮面を取らないというのは何なんだろうか?

 『自分の顔を知られたくない』のか、それとも『何らかの呪いを受けている』のか…後者だった場合は少々危険だが、私は自分の底に湧いた好奇心を抑えることができず、彼の仮面に手を伸ばす。

 

 彼の仮面と私の指先が触れようとしたその時、瞬間彼は私の腕をつかんでいた。

 曰く、ぷれいやーとは神の如き力を持つという。人と同じ程度の大きさに神の力を宿しているのだから、少しでも力加減を誤った日には、私の腕は鮮血を迸らせていたことだろう。腕は千切れ、その衝撃で私の体も宙を舞い、宿屋の壁の赤いシミとなっていたはずだ。だがそうはならなかった。

 

 彼はその内に秘める力とは裏腹に、全く完璧に私の腕をつかんでみせた。掴まれているということを感じさせず、だがそこから腕を動かすことは決してできなかった。

 

 

 

(なんていう力加減…もしかして戦闘時以外はデタラメな力を発揮しないのかな?)

 

 

 

 考えてみればそうだ。ぷれいやーほど強くなってしまったなら、日常生活はどうするのだろう。きっと満足に食事をとることもできないに違いない。

 

 

 

「うん。そうなんだよねー…よく解ってんじゃん!だから今はデバフ―――能力を制限する装備をつけてんのさ」

 

 

「(つまり力加減はできないと)…おはよー、ぐっすり眠ってたじゃん?」

 

 

「まあな!やっぱ横に美人な女がいると寝付きも良くなるんだよ~」

 

 

「ところでさー、その仮面の下ってどうなってんの?」

 

 

「…知りたい?」

 

 

「知りたい!」

 

 

「うおぉ、すごい食い気味に話すじゃん…?でもダメなんだよなー残念ながら」

 

 

「え~なんでなんで~?いーじゃんか別に~、アタシとローレンスの関係でしょ?」

 

 

「まだ出会って十二時間も経ってねえよ…だからダメだって!ア゛ッ゛、こら!無理やり剥がそうとすんな!見るならせめて魅了耐性付きの装備を付けてからにしろ!」

 

 

「いいのー!?じゃあそれ貸してよ!」

 

 

「お、お前な………まったく!ほらコレ付けな?」

 

 

 

 そう言ってローレンスが虚空から取り出したのは、繊細な装飾の施されたペンダントだ。それは中央部分に様々な動物が彫られており、それらが合わさって装飾を成しているという何とも不思議な形をした首飾りだった。

 驚くべきは、それら銀色の動物がまるで命を持っているかのように動いているということだ!

 

 

 

「『呪い除けの獣のペンダント』だ。俺の自作…失敗作の一つだな。だが性能はお墨付き!さーあ早く着けた着けた!」

 

 

「はいはい分かった~♪」

 

 

 

 装備し終わると、両手が空いたタイミングで今度は小手と、兜。それから指輪が二つ投げられた。すかさず全部キャッチする。

 

 

 

「ね~ね~ローレンス~、これは?」

 

 

「あー…説明メンドいな。一応全部状態異常を防ぐ系のアイテムだよ。俺の顔を見るんだからな、それぐらいしとかないと死ぬよ?」

 

 

「アンタの顔ってそんなにヤバいの!?…や~っぱアタシ止めよっかなぁーなんて…」

 

 

「ここまでやったんだから最後まで見てけよ!ほらさっさと装備しろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、スゴかった…」

 

 

「だろ~?いやーそう褒められると、頑張った甲斐があったねぇ!」

 

 

 

 あれから数十の魔法をかけた私は、ついに彼の顔を見た。そこにあったのは正しく“美”そのものであった。この世界のどこにも、あの美しさを表現できる言葉は見当たらないだろうと断言できる、そんなモノだった。

 

 まるで神話の英雄のような美しい顔には一切のシミが認められず、それを艶やかに彩る朝露に濡れたような赤髪。透き通るような白い肌はそれこそ、世の女性がどれだけ羨めども決して手に入れることはできないだろう。

 

 目の中には絶えず不思議な幾何学模様が渦巻いており、素人目で見てもそれが何らかの魔法陣であることは容易に理解できる。それが藍色の瞳の中に閉じ込められているものだから、それだけでも一つの芸術作品として成り立ちそうな気がしてくる。

 

 余韻に浸りながら装備を外していると、ふと仮面を着けなおしたローレンスが話しかけてくる。

 

 

 

「実はなークレマンティーヌ、今お前さんが見たのは俺の“全力の”顔なんだよ」

 

 

「…?どーいうこと?」

 

 

「つまりは、俺が持つスキル…能力のすべてを使って『美しいと感じるように見せた』んだよ。今クレマンティーヌは、俺の渡した魅了への完全耐性を付与する装備を何個も着けてたから耐えることができたが、今の何も対策をしていない状態なら―――」

 

 

「状態なら?」

 

 

「それこそ殺すことだってできるだろう」

 

 

 

 何でもないことのようにサラリと言ってのける目の前の男(ぷれいやー)を、いったい誰が過大な表現と笑えるだろう。それは絶対の信頼に裏付けられた言葉に思えた。事実、彼の顔はあまりにも()()()()()。気を抜けば一生見てしまいそうな、そんな魔性の貌だ。だがそれでも、ローレンスの言い方にはどこか引っかかる所がある。まるで、そう。

 

 

 

 一度実際にしたことがあるような―――

 

 

 

 彼は何も言わず、さっきまで私が装備していた兜を軽く叩く。

 コツン、という心地よい音が響き、そして兜は跡形もなく塵となった。

 

 

 

「見てみなよ。あまりにも強すぎる魅了(チャーム)に装備が耐え切れなかったんだ、いわゆる耐久値全損ってやつだよ」

 

 

 

 驚愕、次いで乾いた息が漏れた。他の装備も次々と同じ方法で『処理』していくローレンスを見て、あの顔の“恐ろしさ”を改めて確認する。

 

 

 

―――なるほど確かに、これは紛れもない神だ。それこそあの『黎明華』のような。

 

 

 

 まだ首にかけていたペンダントに目をやる。そこにあったのは、ただのペンダントだった(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 ただの精巧な首飾りだった。もう、動いてなどいない。

 

 

 



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死の支配者の発散

 

 

 

『お忙しいところ恐縮ですが、モモンガ様』

 

 

「む、恐怖公か。『どうした?』」

 

 

 

 いつものようにモモンガが書類仕事をしていると、頭の中で声が響く感覚がした。『伝言(メッセージ)』だ。伝言をモモンガに送ってくるのはだいたいアルベドを筆頭とした階層守護者達か、それともナザリックの周辺を監視させている二グレドのどちらかだ。だがこの声は、そのどちらとも違う恐怖公のものだった。

 

 

 

(もしかして、あの予感が当たったのか…?)

 

 

 

 モモンガが危惧していたのは『物体発見(ロケート・オブジェクト)』によって、黎明華にナザリックの存在を知られることだ。

 自分の持つアイテムを目的の場所に置いておき、後から物体発見(ロケート・オブジェクト)を使用することで簡易的なガイドとする…ユグドラシルのサービス初期の頃から低レベル帯の初心者達に愛用されていた手法だ。だが高レベルプレイヤーともなればわざわざそんなことをしなくとも、それ専用のアイテムや魔法があるため使う事はまず無い。

 だが、モモンガと個人的な交流があり、度々自分からこのナザリックを訪れていた黎明華ならばやりかねない、とモモンガは考えるのだ。

 

 あの人の思考回路は自分では読み取れない。だからあらゆる不安を排除し続けるんだ…

 

 

 

『実は第九階層の調査をしていた際、吾輩の眷属たちが見慣れないアイテムを発見いたしまして…』

 

『メイドたちも寄り付かないような場所にひっそりと置いてあったものですから、『黒棺(ブラックカプセル)』へと持ち帰り調べてみたのですが…事前にモモンガ様より頂いた備品リストの、どこにも載っていないアイテムでした』

 

 

『………そうか…もうよい、恐怖公。ご苦労だった。そのアイテムを後で私の部屋へと持ってこい。それを以ってお前の任務を終了とする』

 

 

『はッ!かしこまりました!』

 

 

 

 快活な声が響いた後『伝言(メッセージ)』が切られた、モモンガは椅子に深く腰掛け、頭を抱える。そして―――

 

 

 絶叫した。

 

 

 

 

 

 

「最ッッッ悪だァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 そのあまりの声の大きさに、天井で待機していた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達もオロオロとしている。

 だがそんなことはモモンガには関係なかった。とにかくこの感情を発散してしまいたかったのだ。

 

 一通り叫び終わって、冷静になる。何度かのぴかぴか(精神鎮静)の後、モモンガは椅子の背もたれにてぐで~っとしていた。

 

 

 

(終わったー、終わっちゃったよー……まだ何の対策も取れてないのにー。周囲の人間の国家群との友好関係の樹立なんて短期間でできるのか…?)

 

 

 

 いつ納期(黎明華)が来るのかもわからない一大プロジェクトを、納期までに終わらせねばならないというクソみたいな現実から目を背けたかった。だが、そんな現実逃避をしているモモンガの部屋にノックの音が響き渡る。

 

 

 

「恐怖公か?」

 

 

「はい、そうです。中に入ってもよろしいですかな?」

 

 

「ああ、入れ」

 

 

 

 ドアを開けて入ってきたのは、巨大なゴキブリだった…いや、ゴキブリ……ゴキブリだよなぁ、どう見ても。他に言い換えることができないほどゴキブリだな………かつてのナザリック防衛戦の時も、恐怖公を見て逃げ出すプレイヤーが後を絶たなかったことからも、彼のゴキブリ力の高さが伺い知れるだろう。

 

 だが、彼をただのゴキブリと侮るなかれ!何と、彼は、紳士なのだ。

 

 

 見た目はあれだが、中身は完璧な英国紳士なのだ…これがギャップ萌えってヤツなんでしょうか?

 

 

 

「…なあ、恐怖公」

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

 

「聞いていたか?」

 

 

「………………イエ

 

 

「そうか………そうか…」

 

 

「ええ!そうですとも!」

 

 

 

 流石は英国紳士、恐怖公。空気を読む能力はナザリックでもトップクラスなのである。

 

 

 

「…うむ、では件のアイテムを見せてもらおうか」

 

 

「はッ!こちらです。どうぞお受け取り下さい」

 

 

 

 そう言って恐怖公はリングピローを差し出す。その上には紅い宝玉の着けられた黄金の指輪が置かれていた。

 

 

 

(間違いない、これはハンドメイド…プレイヤーの制作物だ。俺の知る限りドロップアイテムにこんな物はない……無いよな?)

 

 

「『道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)』!」

 

 

 

 モモンガはリングピローを手に取ると、鑑定魔法を発動した。

 

 ふむ。どうやら錬金によって創られたアイテムのようで、効果は…“装備者への第九位階相当の呪い付与”!?なんてモノを創ってんだよ!!

 当然、製作者の欄には『暁天華(華シリーズ)』の名前があった………うん、確定だ。

 

 

 

 黎明華は既に、こちらの存在に気付いている。このアイテムを目印とした『物体発見(ロケート・オブジェクト)』を済ませているハズだ。

 

 対応が後手後手に回っているが、この状況からどうにか挽回しなければならないのだ…

 

 

 

 無くなったはずの胃に痛みを感じながら、モモンガは恐怖公へ退出するよう促す。彼は恭しく一礼をした(驚くべきことに腰を直角九十度に曲げて!)後、部屋を出ていった。

 

 

 

 恐怖公の足音が完全に無くなった後、モモンガはパンドラへと『伝言(メッセージ)』を飛ばすのであった。

 

 

 

『―――なあ、パンドラズ・アクター』

 

 

『ンッッンンンンンン↑↑↑!!いかァ↑が↓なさいましたか!モォ↑モンガ様ァ!!』役者として

 

 

ゴフッ…ああ、パンドラ。実は相談があるんだが…』

 

 

『何ンンなりとォお申し付けください!!』役者として

 

 

『冒険者になりたいんだが、どうすればいいと思う?』

 

 

『……え?

 

 

 

 完璧なる舞台役者が、間抜けな声を出した。

 

 

 



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識るに値しない者ども

 

 

 

 朝食を食った俺たちはその勢いのまま宿屋を引き払い、通りをぶらぶら歩いていた。だが、かといって『今晩は野宿にしよう!』とはならない、というかしたくないのが金持ちの性というものだ。それに仲間も増えたことだしもっと大きい宿屋を利用しようと、思い立ったところまでは良かったんだよ。ただ、問題は…その宿屋(帝国最高のホテル)に、たまたま皇帝が来てたってことなんだよなー

 

 なんでも国内の視察という名目で毎年二三回ほど宿泊しているらしい。わざわざこんな時に来やがらなくてもいいだろうに…

 

 そんな折にふと、皇帝の護衛らしき人物らに目が行った。彼らを見て思わずクレマンティーヌに質問してしまう。

 

 

 

「おい、クレマンティーヌ?」

 

 

「どしたの~?」

 

 

「あそこに居るのって多分皇帝の護衛だよな?」

 

 

「…んー、そだね~。あれは四騎士って言って、護衛の中でもトップクラスに強いんだよ~?」

 

 

「―――そうなのか」

 

 

「……そりゃあローレンスと比べたら他の奴らなんて有象無象なんだろうけどさ?あんまり大声で言わないほうがいいよー。余計な恨みとか買っちゃうしね~」

 

 

「お前に言われなくても分かってるわ!」

 

 

 

 小声でクレマンティーヌとやり取りをしながら考える。そこらへんのにウジャウジャといる平民や冒険者などが弱いのはまあ当たり前だとしてもだ。正規兵、それも上位の皇帝護衛兵(インペリアル・ガード)ともなればユグドラシル換算でレベル七〇〜八〇はあるだろうと考えていた……だが、あそこにいる四人組はどう高く見積もっても二〇レベル程度しかない。あんなのじゃあデス・ナイトにすら勝てないんじゃないか?

 

 何故だろう、異様にムカつく。イライラする。あんな弱者が“帝国四騎士”なんていう大層な称号を持っているのが気に、食わない…?

 

 あれ?俺ってこんな性格だったかな?

 

 …何か妙な違和感を感じたが、よくよく考えてみれば普段とあまり変わらないよな。

 

 大して興味も無くなったので、俺達はサッサとチェックインと昼食を済ませ、ギルドに仕事を取りに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者ギルドに着くと何か妙に騒がしい、ギルドの前に豪奢な馬車が停められており、その近くに純白のローブを着た集団が所狭しと並んでいるのだ。何事かと思って近づいてみれば、これらのローブを着た人間が漏れなく、普通の冒険者や町人よりも魔力量が高いことが分かる。

 

 ということはこれらは全員魔法詠唱者(マジックキャスター)ってことか?…やっぱり、なんというか程度が低いなぁ……現地の戦力からみればよくやっている方なんだろうが…

 

 ―――ん?一人、魔力量が飛びぬけて高いのがいるな。長い白髪の爺だ。色とりどりの宝石で飾られた豪奢な金のネックレスをぶら下げている。たぶんあれが魔術師達のトップかな?

 

 それがなんでわざわざこんな所に……不思議に思っていると、その爺が受付のお姉さんと何やら話している。二、三言葉を交わすと、用が済んだのか受付を離れて外へ出ようとする。すると白い布の波がザッと割れて、さながらモーセの海割りのように道が開けた!

 この集団行動は見事なものだなぁと面白がって眺めていると、その爺が馬車に乗り込もうとするものだから、折角だしとワザと気付かれやすいように馬車に向けて『物体追跡(トレーシング・オブジェクト)』をかけてみた。

 

 こんな、言ってしまえばチャチな(・・・・)魔法にすら気付かないのであれば、第七位階まで行使できるほどの魔力量を持っていても“宝の持ち腐れ”という奴だろう。せめてもの情けに俺が直々に爆殺してやるところだけれども、どうだ?

 

 

 

 ………お、気付いたな!

 

 爺が拡声魔法を使って、聴衆に向けて語り掛ける。

 

 

 

『―――私の馬車に、このような低俗なる魔法をかけたのは一体誰か!!今すぐに名乗り出るがよい!』

 

 

「…ローレンス~?何かやった?」

 

 

「うむ、ちょっと追跡魔法を馬車にな」

 

 

「ちょッ、あまり目立ちたくないんじゃなかったの!?」

 

 

「い~やそれとこれとは話が別なんだよ!行くぞ!クレマンティーヌ!」

 

 

「うわわわ!?ちょ、ちょっとおおお!?」

 

 

 

 俺は自身とクレマンティーヌに『完全不可知化(パーフェクト・アンノウンアブル)』をかけた後、人混みをスイスイと避けていきこの爺の後ろにピタリと張り付いた。

 

 顔を赤く茹で上がらせて怒っている爺の肩を叩いてやると、爺は振り返りギロリと後ろを睨みつける―――

 

 

 前に、俺の指が爺の頬に突き刺さった。皺だらけの顔はまるで『樹精霊(ドライアド)』の肌のようだった。うお!?硬ぇ!!

 

 

 俺も、もちろん横で見ていたクレマンティーヌも笑いを堪えることができずに腹を抱えてうずくまっていると、いよいよ般若の形相というのが相応しい表情になった爺が俺の顔をむんずと掴み、喋りかけてくる。おお!スゴイ!完全不可知化してるのに俺を掴めるなんて!偶然なんだろうがすごいことだな!

 

 

 

「のう、早く姿を現さんか、無礼者よ…」

 

 

「ヒーゥ!分かった分かったよジジイ!謝ってや、やるからっっ!」

 

 

「…ッ!プッ!あっハッハッハッハ!!もう無理!死ぬ!死ぬっ!あははははは!!」

 

 

「―――?……はぁ、全く。おいお前たち、この無礼者どもを連行せよ。罪状は『宮廷侮辱罪』でよい…」

 

 

「ハッ!ほら、おいお前、おとなしくこちらについて来い!」

 

 

「ッッッアッハッハッハッハ!!いやいやいやいや、謝ってやったじゃないか!これでチャラでいいだろー?なあジジイよう!」

 

 

 

 その光景に目の前の爺は大きく目を見開く、まあ当然だろう。少なくともこの世界の魔法詠唱者ならば、この魔法を見たことがある者はいないだろうから。俺を拘束しようとした魔法詠唱者(マジックキャスター)の頭は大きく膨れ、風船が割れるように弾け飛び、その髄液をまき散らしている。

 

 もしもこれ(・・)の頭をよく観察できたものがいたならば、きっと気付くだろう。これの額部に青銅色に鈍く光り輝く文字が刻まれていたことに。

 

 これは『刻印魔術士(ルーンキャスター)』の扱うスキル(・・・)の一つだ。この一連の現象について詳しく語るには、先ず刻印魔術士(ルーンキャスター)の扱う“刻印魔術”について説明しなければならないだろう。

 

 このスキルは、複数ある刻印(ルーン)文字を組み合わせて初めて効果を発揮する。例を上げるとするならば、『“火”の刻印+“広い”の刻印』だろうか。この二つを組み合わせれば言わずもがな、広範囲を焼き払う火属性の魔術を使用することができる。

 

 

 これだけを聞くならばとても面白そうだ、そう思う者もいるだろう。だがこのスキルはPVPどころか戦闘そのものに向いていないのだ……その理由は二つある。

 

 

 一つ目はそもそも、この刻印魔術そのものがあまり火力を出すことができないのだ。

 “使い勝手は良いし、痒いところに手が届くような魔法を自分で創れる”というのは非常に魅力的に思えるのだが、その汎用性の高さからかこの“刻印魔術”は、燃費がすこぶる悪い。同じ消費MPならばもう一つ上の位階の魔法が扱える、というぐらいに酷いのだ。

 

 二つ目の理由は、高威力の刻印魔術を行使するためには、対象に直接文字を刻まなければならないというものだ。これがどうして戦闘において不利な要素となるのか、わざわざ説明しなくても分かるよな?

 

 

 理由は他にもあるぞ!『詠唱によって使うことができない』、『スキル(・・・)“刻印魔術”なのに“魔術”カテゴリである(魔術抵抗の効果をモロに食らう)』、『“魔法強化”ができない』、etc、etc…

 

 

 

 ―――だが、それらのデメリットが全く意味をなさない、弱点足り得ない場合には(・・・・・・・・・・・)、刻印魔術はその汎用性ゆえに、文字通り無敵のスキルとなる。

 

 

 そう、今のように。

 

 

 

「うむ!“水”と“巨大”と“爆発”…やはり絶好調だな…」

 

 

「―――お主、今のは一体…」

 

 

「んん、いや。お前の頭の中がずーっと、魔法の研究についての情報でいっぱいだったからさあ?そんなお前に全く異なる魔術体系を見せてやったらどうなるのか…無性に知りたくなったんだよ」

 

 

「…フン、まあ良い。どの道お前には聞きたいことがあったのだ。ついて来い」

 

 

 

 この爺の発言がよほどショックだったのか、周りの他の魔法詠唱者達が騒ぎ始める。

 

 

 

「しょ、正気ですかフールーダ師!今目の前で同胞が一人殺されたのですぞ!同じ魔術を探求する同志が!あまつさえその故となったこの下種を、我らが神聖なる帝国魔法省に招くなど―――」

 

 

ええい!五月蠅いぞ!お主らは未だに第三位階、上位の者でも第四位階魔法までしか扱えぬであろうが!!……認めたくはないが、この者の扱った魔術は私の扱う(・・・・)第六位階魔法よりも威力が高かった」

 

「それをこの者は無詠唱(・・・)で行使したのだ……それだけでも、こやつを魔法省に連れ込む理由となるだろう?」

 

「…他に、異議のある者は?」

 

 

 

 周りの群衆がフールーダと呼ばれた爺の言葉にざわめく。皆が俺を睨みつけ、堪えきれぬ憤怒の感情をぶつけてくる。その感情が濃くなるにつれて、微量ではあるが俺のステータスが上昇していくのを感じる。

 ゴブリンの時は数が少なすぎて十分な量が得られず検証できなかったが、今回は上手く発動したみたいだ!

 

 

 

「はあ…ほれ、ついて来い。茶ぐらいは淹れてやろう…」

 

 

「おー!いいねイイね!話の分かる人間は嫌いじゃないよ!ほれ行くぞクレマンティーヌ!」

 

 

「うわァっ!?ちょ、お、降ろせよ!抱えなくても自分で歩けるわ!」

 

 

「…また聞かねばならぬことが増えたのう…私は厄介事は好かぬのだが…」

 

 

 

 偉大なる三重魔法詠唱者(トライアッド)が、深い溜め息をついた。

 

 

 



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黄金は注がれる

 

 

 

 馬車の中にいる者は誰も喋らず、ただゆっくりと時間が流れている。外から見える景色がこんなにも遅く流れていくなんて初めての経験だ。車や飛行機に乗っていると移動速度の感覚が麻痺してくるからな、こういう経験もいいものだよ!

 

 まだ数回しか通ったことのない通りは、通るたびにその表情を変えていく。平民が防護マスクも着けずに外を出歩けるなんて…産業革命の威力っていうのはすさまじいものがあると、改めて実感した。

 

 

 

 ゆるゆると流れてゆく景色を眺めていると、周囲の街並みが徐々に変わっていく。石造りの乱雑な建物は白く美しく塗装された豪邸に、青々とした芝生が広がり花壇も綺麗に手入れされている……区画が変わったな。そろそろ到着かな?

 映像やらVRで歩いた中世の街並みも、この本当の、現実世界には敵わない。ボンヤリと眺めるのもなかなか楽しめた。

 

 さっきからジロジロと俺の仮面を見つめているこの白髪の老人を、どう言いくるめてやろうか…どうすれば俺に心酔させ、尊敬させ、俺の手足のように動かすことができるのだろうか。

 ………横でかわいらしい寝息を立てているクレマンティーヌを肘で小突いて起こす。

 

 

 

「おい、おい。そろそろ起きとけ~」

 

 

「ん、んぅ…ふあぁ……いやぁ、馬車なんて久々に乗ったからさ、揺れが心地よくってね」

 

 

「そうかねぇ?あまり乗り心地が良くないと思うんだが…」

 

 

「ふむ、振動を軽減する魔法のかけられたこの馬車よりも乗り心地の良い物を、お主は知っておるというのかね?」

 

 

 

 俺が馬車を貶せば、それに眉をひそめたフールーダが言い返してくる。自分たちの研究分野である“魔法”を貶められてご立腹なのだろう!

 …どうしよう、ふと口から出てきた言葉にこうも食いつかれるとは…俺の全く意図していないところでこの爺からの好感度が減っていってるんだが?

 

 

 

「あー…出してやってもいいんだが、俺には目的地が分からないから無理なんだよ。それにもう少しで着くだろ?」

 

 

「…フン、まあそれでよい。ワシが知りたいのはお主の扱った未知の魔術であって、乗り心地の良い乗り物ではないのだからな」

 

「―――む。さあ着いたぞ。早う降りるがいい」

 

 

「ハイハイ分かったよ!」

 

 

 

 馬車から降りて上を見上げれば、やはり低い(・・)。こんなにも低い建物が『帝国魔法省』と呼ばれているなんてな…三〇メートルも無いんじゃないか?城の方がこちらよりも高いとはいえ、全体的に高さが足りないような気もするんだがな。

 

 いったいこんな建物に何が詰まっているんだろうか?いや、大したものは詰まっていないのだろう。せいぜいがフールーダとかいう爺が編み上げた、第七位階魔法を発動させるための理論程度しかないだろう。俺にとっては理論なんてどうでもよいのだ。だって全部使えるんだから。

 新しい魔法を創る、などと言っても、結局は既に使える魔法の焼き直しにしか過ぎないからね。

 

 俺たちは複数の魔法詠唱者連中に囲まれて、魔法省の中へと連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法省の最上階、実に見晴らしの良い部屋がフールーダの私室だった。途中クレマンティーヌがどこかへ連れていかれそうになったので、追加で二匹ほど爆発させてやった。連中ももはや何も言わなくなった。

 塔の最上階ともなれば当然風も強い…かと思えばそんな事は無く、快適な風が入ってくるばかりだ。これは魔法どうこうと言うよりは建築―――つまりは城の構造の方が関係しているんじゃないか?

 

 ベランダから帝都の風景を眺めていたら、ふとクレマンティーヌに名前を呼ばれる。どうやら約束通りに、フールーダが茶を淹れてくれたようだ。俺は妙に凝った装飾の木製の椅子に深々と腰掛け、話を聞く体勢に入る。

 

 最後に自分のカップへと紅茶を注ぎ、一口飲んで口を湿らせた後。ようやっとフールーダが話し始めた。

 

 

 

「ふむ…どうやら今回は上手く淹れられたようだな…」

 

 

「自分で淹れてるのか?召使いはいないんだな」

 

 

「もちろんだとも…年を取るとこういう、日常の何気ない所作に趣を感じるようになるのだよ」

 

 

「ね~ね~じーさん~、クッキーとかないの~?」

 

 

「………適当に食っておけい。あと貴様、今はまだ魔法の話をしていなかったから許すが、我々の会話が真に始まった後にそのような口を挟んでみよ、焼き殺すぞ(・・・・・)?」

 

 

「―――へー?言うじゃんか。じゃあ今試してみるー?アタシがホントに焼き殺されるか!」

 

 

「こッ、のッ、小娘ェェ…ッ!!」

 

 

 

 このまま放っておくと殺し合いの大喧嘩が起こりそうだったし、何よりあまりにも見てられなかったので口を挟むことにした。だいたい俺より弱いのに力を競い合うって何なんだ?おかしいだろうが。

 

 

 

「うるさいわ!ロクな力も持たないのに俺の前で力比べをするんじゃない!」

 

「で?話をしたいんだったらとっとと始めた方がいいんじゃないのか?フルーダー(・・・・・)サン?」

 

 

 ワザと爺の名前を間違えて呼んでやる。それだけでもフールーダは、先ほどのように顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてくる。何とも沸点の低いことだよ。

 

 

 

「―――ッ!つくづくお主らは、私の神経を逆なでしてくるのう…まあよい。それで?お主の使っておる魔術について教えてもらおうか」

 

 

「……ふーむ、タダで教えてやってもいいん」

 

 

タダではないぞ?見返りはちゃんとあるとも」

 

 

「…へえ?」

 

 

「お主の無礼を赦免してやろうではないか。それだけでも十分であろう?」

 

 

 

 俺の話を遮るほどの旨味のある見返りなのかと一瞬期待したが、返ってきた内容は俺の期待を遥かに下回るモノだった。散々な言われ様に俺も思わず語気を荒げてしまう。

 

 

 

「―――俺の魔術(知識)も随分と安く見られたものだな?私の識ることを知ったならば、お前は、自分の持つ全てを投げ打ってでも俺の教えを乞い願おうとするのだろうに。どうやらお前の目は長く生きた分、それ相応に曇っているらしいな!」

 

 

「…それだ、それなのだよ。私は他人の魔力量を看過する“タレント”を持っておる。だがお主は……お主の魔力量は明らかに不自然だ」

 

 

「…?ほう?どう不自然なんだ、言ってみろ」

 

 

「どのような生物であろうと魔力を持たぬ者はいない。生物である以上、芥子粒程度でも魔力を持っていなければならぬのだ。だというのにお主には魔力が存在しない、これは明らかにおかしいだろう?何らかのマジックアイテムの効果なのかね?」

 

 

「ふむ、虚偽情報・魔力(フォールスデータ・マナ)は疑ったか?」

 

 

「―――何だそれは(・・・・・)?」

 

 

「ッ、ハァ!?お前は魔術の探求だのなんだの大層なことを言っているのに、自分の持つタレントの一般化はしていないというのか!?普通の研究者ならばそうするのではないかね?」

 

「せめて理論だけでも立てておいて、自分しか知れぬようにしておけばよいものを…」

 

 

 

 俺が非難してみれば、フールーダは不思議そうに此方を見て返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ自分の能力を、有象無象にも使えるようにしてやらねばならんのだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その答えが、あまりにも自然すぎて。念のために味見(テイスティング)をしても“お前は何を当たり前の事を?”という思考しか視えなかった。この爺は心の底からそう思っているのだ。ああ、なるほど。

 

 

 

 少しばかり、興味が湧いた。

 

 

 

「……ふーん?ほーうほうほうほうほう。なかなかどうしていい性格をしているじゃないか!気に入ったよ、フールーダ。お前を俺の仲間に入れてやろう!」

 

 

「?急に何を言い出すかと思えば、頭がどこかおかしくな」

 

 

「先ずはそうだな、さっきお前が言っていた“不自然”の正体を見せてやろう…と思ったんだが、だ」

 

 

「………何かね?」

 

 

「魔法の研究のために寿命すら伸ばしてみせたこちらの人間が俺の魔力量を見ると…少しばかり不味いことになるかもしれん。だからお前が耐えられるように、先にバフをかけてやろう。ジッとしていろよ?……『不屈(インドミタビリティ)』、『神の御旗の下に(アンダー・ディヴァイン・フラグ)』、『冷静』…」

 

 

「は?なッ、こ、これは?おい法国の者よ!これはいったい何なのだ!!」

 

 

「ん?ひょっろまっれ(ちょっとまって)~……んっ………こうなったらローレンスは止まらないから、おとなしく続けさせてあげて~」

 

 

「違う、そのようなつまらぬことではない!今こ奴が詠唱しておる魔法の大半が、私の知らぬ魔法であったのだぞ!?

 

 

「―――へー?そりゃあアンタ、研究が足りなかったんじゃないの?」

 

 

「な…そ、そのような………そのような事が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…『完全防御・精神(パーフェクトプロテクション・スピリット)』!よーし、これで全部だな!…ってどうした?おいクレマンティーヌ、なんかフールーダが打ちひしがれているんだけどもお前何かしたか?」

 

 

 効果の大小に関係なく、精神を安定させる魔法は粗方かけ終わった。一仕事終えて息を吐いていると、何やらフールーダが落ち込んでいるようだ。

 

 

「ん~、どっちかって言うと(ろっちかっへいぅろ)……ローレンスのせいだね~」

 

 

「お前はそろそろ食うのをやめたらどうなんだ…まあいい、バフの効果が切れる前にさっさと済ませてしまおうか」

 

 

 

 そう言ってスキルを発動させる。そのスキルはなんてことはない、装備品を入れ替えるだけのスキルだ。着せ替え人形用(或いは他ギルドへの潜入用の)アバターに習得させていたスキルなのだが、思わぬところで役に立ったな!

 俺は全ての装備を入れ替え、遊び用(・・・)の武装に切り替える―――

 

 

 

 俺から放たれる魔力の奔流に心を奪われたのだろう。目の前の老人は、ただ涙していた。

 

 それを見て喜ぶでもなく、嘆くこともなく、ただ口を開けて声も出さずに泣いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身の細胞が歓喜する。私の目、耳、その他のあらゆる感覚器官が目の前の存在を称え始める。

 

 

 あゝ!己はこれほどまでに矮小なる存在であったか!きっと周りの人間も嘲笑っていたに違いない。『魔法を司る神とは、お前なんぞとは比べ物にならないほど素晴らしい方なのだぞ』と!

 

 

 真なる魔法の神とは私何ぞとは比べ物にならぬ。比べることすらできぬ。私は同じ舞台にすら、立っておらなんだ…

 

 

 

「―――ああ、神よ…我が、至高の神よ……」

 

 

 

 これまでの非礼を詫びまする、私の生を捧げまする、私の二〇〇年を、私の魔法を………それでも足りぬのであれば、貴方様がそうおっしゃったように、私の全てを。

 

 

 ですから、どうか―――

 

 

 

「どうか(わたくし)めに、魔法の深淵を―――」

 

 

 

 嘗て三重魔法詠唱者(トライアッド)などと大層な名で呼ばれた大魔術師は既に消え去った。

 

 

 

 

 余計なものは全て去り、欲望だけが残った。

 

 

 

 

 

 



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ただ前に進むのみ

 

 

 

 いったいどれだけの時間地に伏せていたのだろう?数秒のようにも思えるし、永遠にそうしていたようにも感じられた。私が差し出せるものがあと、どれだけ残っていたろうか?私は今、猛烈なる無力感に打ちひしがれていた。

 

 我が眼前に全てがあり、されど己の力では手に入れられぬ。

 

 二〇〇年という長い時を生き、力をつけた気になっていた(・・・・・・・)。だがそれでも結局のところ、本当に欲しいものが手に入るかどうかは運任せ。

 目の前の御方がどう思われるか、私にその叡智を授けようとなさるのかは天のみしか識らぬのだ。

 

 

 

「それは違うとも、フールーダ」

 

 

 

 長い沈黙の後、神がそう仰った。

 

 

 

「俺の事は俺が決める、誰にだって手出しはさせないよ―――時にフールーダ、お前に一つ質問しようか。“力”とは何だ?」

 

 

「力、ですか?」

 

 

「そうだ……ああいや、別に答えを求めているわけではないんだ。何せ俺はもう答えを得ているからね」

 

力とは即ち、無理を押し通すモノの事を指す。道理を捻じ曲げ、相手を屈服させ、自分の要求を呑ませる…力とはそういうモノだ」

 

「それを踏まえた上でもう一度聞きたいんだ。お前は(魔法)を得て、何を為したいのか?何のために知識()を得たいというのか?」

 

 

 

 “試されている”、そう思った。きっと、この問いにどう答えるかで私の運命が変わるのだ。

 しかし、いくら頭を働かせても良い回答など思い浮かばない。どう答えるべきなのだ?

 目の前の神は、一体どんな答えを望まれているのだろうか?

 

 考えれば考えるほど新しい疑問が湧き出てきて、尽きることがない。その癖に精神はずっと興奮したままだ、冷める気配を見せぬのに謎だけが増えていく。

 堂々巡りだ。どれだけ永い時が経っても、この癖は治ることがなかった。冷静さがみるみる失われていく。興奮を押さえつける理性が摩耗してゆく、そして―――

 

 

 

 

「何かを為したいィ?そんな事知るかァァァ!!」

 

 

 

 

 気付けば叫んでいた。神に向かって何たる不敬、そう言って理性が諫めようとしてくるが、もはや本能は止められぬ。二の句が口を衝いて出た。

 

 

 

「自分の識らぬ魔法があることが気に食わぬだけなのだ!未知の魔法があると、そう考えただけでも不安になる!!何かを為す?知った事か!そのようなツマらぬ事などどうでも良い!!

 

 

 

「―――私はただ、識りたいだけなのだ」

 

 

 

 ここまで声を荒げて言葉を発したのは何十年ぶりだろうか。冷静さを取り戻した頭でそう考える。そして同時に私は絶望していた。この答えでは到底満足されぬだろう。結局のところ私は、この御方の問いに答えておらぬのだ。

 これでは学院の生徒以下であるよと、そう自嘲する。機会をふいにしたことに絶望し、全身から力が抜けて、立っておられず膝を突いて。だがそれでも諦めきれずに、目だけは御方を見据えたままだった。

 

 けれども。私に帰ってきた言葉は、慈愛に満ち溢れたものであった。

 

 

 

「うん…うん。いいな、とても良い。特に『ただ知りたいだけ』というのが気に入った。もしも下手に野望を語っていたなら、殺していたよ」

 

 

「……そ、それならば、もしや…」

 

 

「お前が考えている通りだともフールーダ。望むままに、教えてやるとも!」

 

 

「おぉ…おお…!」

 

 

 

 やれ嬉しや!なんたる僥倖!私は神に認められたのだ!その知を学ぶに値する人間であると!

 こんなに、こんなに嬉しいことは無い…!

 

 

 枯れ果てたと思っていた涙が再び零れた。歓喜の涙だ。私の知らぬ莫大な数の魔法が、ついに私の知る所となるのだ。

 狂喜と忠誠心が私の身体を突き動かす。御方の靴を舐めて少しでも機嫌をとろうとした。

 

 

 

「―――何を考えている?私とお前は仲間だろう、そのようなことはしなくていい」

 

「俺とお前は、対等(仲間)なのだからね」

 

 

 

―――好き♡

 

 

 

 (魔法)の神に対等であると言われた事に喜びを禁じ得なかった。それに加え、これまでに起こった非日常的な出来事による疲れもあったのだろう。

 私は気絶してしまった。いつもの睡眠不足からくる気絶ではない、幸福な気絶だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む…おーい、おーい?………あーらら、気絶してるよ…クレマンティーヌー、なんでこうなったんだろ?」

 

 

「対等…対等……エヘヘヘヘヘ…」

 

 

 

 なんかクレマンティーヌも壊れちまったんだけど?お前ら精神脆弱すぎんか?何食ったらそうなるんだよ。

 顔を赤く染めてくねくねしているクレマンティーヌを置いて、俺は気絶しているフールーダを寝室へと投げ込みに行くのだった。

 

 

 



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■■■■の策略

紅月 雪さん、誤字報告ありがとうございます!!


 

 

 

 『伝言(メッセージ)』の向こう側でパンドラがワタワタと慌てふためいているのを感じる。

 普段はあんな感じだが時々冷静になる頭の切れる自分のNPCが、こんなにもキャラ崩壊しているのを見るのは中々新鮮で少し可笑しかった。

 

 

 

『モ、モモンガ様!?何を仰るのですか!外界は危険であるとあれほどご自身で仰っていたではありませんか!探索や外交などは我々シモベにお任せください!』

 

 

『パンドラズ・アクターよ、お前の心配もよく分かるとも。だがな?もはやこの世界に、安全な場所など存在しないのだ。黎明華が存在する以上どこにいても死ぬときは死ぬのだ。なればこそ私は、外の世界を見て回りたいのだよ』

 

 

『―――!!そんな、いえ、それは……しかし―――はぁ、承知致しましたとも。他の守護者の方々は私が言いくるめてみせましょう…』役者として

 

 

 

『む?妙に素直に許してくれるじゃあ』

 

 

 

『ですがッ!!』

 

 

 

『…ですが、外出なさる際はくれぐれも私を傍においていただきますよう!』役者として

 

 

『…それは何故だ?元々はプレアデスより一名選ぶ予定だったのだが…』

 

 

『それは、その…』役者として

 

『私もその、父上(・・)と共に世界を見て回りたく思いまして…父上(・・)より承った役目に不満などあろうはずがございません、ですが…』役者として

 

 

『やはり一人というのは、寂しいものですから』役者として

 

 

『―――そうか…そうだよなぁ……そこまで言うのならば仕方がない。私が外へと赴く時は、必ずお前を傍に置くことを誓おう』

 

 

『ンンンンンーーーッッッ↑↑!!(マァ↑サ)にッ↓感謝の極みッッ!!』役者として

 

 

 

 やっぱ誓うんじゃなかったかな?元々は精神安定のために提案した外出許可だったはずなのに、余計な心労が増えた様な気がしないでもないモモンガだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 役者は一人、宝物殿にて呟く。

 

 

 

「この役者という役割(ロール)…嬉しくもあり、煩わしくもありますね…」

 

「役者が役に呑まれるなど、本来あってはならないでしょうに」

 

 

 

 主の保管した宝物を磨きながら、パンドラは今後の計画を立案する。

 

 

 

「どうやって外出しようかと考えていましたがこれで外に出ることもできそうです。ああ、モモンガ様。必ず―――」

 

 

「―――必ず、成し遂げてみせますとも」

 

 

 

 たとえ、貴方に恨まれても。

 

 

 

 

 

 

 被造物は造物主を愛するように創られる。その想いは真実(本物)である。

 

 …ならば、存在そのものが役者(本物でない)である私の想いは、いったいどちらなのですか?

 

 役者()は考えぬ、ただ役に準ずるのみ。

 

 

 

 光り輝く黄金の鏡面が私の顔を映していた。

 

 

 

 

 何もなかった。

 

 

 



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注ぐに値する人々

 

 

 

 目を覚ましたフールーダは、まず始めに違和感を覚えた。

 体が軽い(・・・・)。まるで自分がまだ青年であった頃のように生気に満ち溢れている。手の震えを抑えられぬまま顔に触れる、皺が無い。触れた手を見れば若者のそれになっている。そういえば身体の節々に感じていた痛みが取れている!頭に浮かんだ予想が確信に変わっていく!そして最後に、声を出す。

 

 

 

「…っ、あー」

 

 

 

 確かに己の声だ、だが今の己のものではない。これは正しく、若い頃の自分の声だ!

 

 若返っている!若返っている!!老化を止めるでもなく、若返った!!何たることだ、一体どうやって…?

 

 

 

「やーっと起きたか?ああいや、まだ動かない方がいい。自分の体の調子を把握しておかないと思い通りに動かず戸惑うことになるからね」

 

 

「か、神よ…これは一体、どうやって…」

 

 

「神じゃない、ローレンスだ。うーん、なんて説明すればいいやら…」

 

「お前が眠っている間に魔法でちょっと、な?」

 

 

「どのような魔法を!?」

 

 

「『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』…って言っても分からないか。簡単に言うと願いを叶える呪文だ。それを使って“お前の肉体年齢を巻き戻す”ように願ったのさ」

 

 

「―――そのような事が…」

 

 

「できるんだよ。だって俺だからな。考えてもみろよ!お前の魔法の師になる者が、人間の願いくらい叶えられないでどうするんだ?」

 

 

 

 そう仰るローレンス様は、“何を当然のことを”とでも言いたそうな顔で語り掛けた。

 …ハ、ハハハ。私の目指す頂はアレ(・・)なのか。遠い、遠すぎる。手を伸ばせば触れられるほどの距離にあるのに、永遠に届きそうに無いと感じてしまう。

 

 

 

「あのなぁ…うーん、まあいい。取り合えずベッドから降りてみろ、ほら、俺が手を握っておいてやるから」

 

 

「助けなどそんな恐れ多いことを!見ていて下され、ただ立つことぐらいィィイ?!」

 

 

「おっっと…ほーら言わんこっちゃない、おとなしく支えられとけー」

 

 

 

 ベッドから降りようと力を込めた途端、勢いよく体が跳ねた(・・・・・)。おかしい!?いくら生気に満ち溢れているからといっても、若い頃の私とは比べ物にならない力だ!

 

 

 

「あ、言い忘れていたけど。今のお前は『二重の影(ドッペルゲンガー)』になってるから」

 

 

「は?ど、どっぺる、げんがー…」

 

 

 

 どっぺるげんがー………二重の影(ドッペルゲンガー)か?!いやだが、二重の影ならば私は今頃不定形の存在になっているはずだ。生まれてすぐの二重の影が、過去の自分になんぞ化けられるハズがない!

 …だが、ローレンス様が嘘を吐かれる必要は無い。ならばやはり私は二重の影なのか…?

 

 

 

「そうだよー二重の影だよー。『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』を五~六発撃って無理やり最上位の二重の影にしたんだぞ~」

 

 

「願いを叶えるなどという神話の如き魔法を六発も!な…そのような大魔法を私なんぞに使われたのですか!?」

 

 

「?ああ、そうだけど?……あー!大丈夫大丈夫、これいくらでも撃てるからさ(・・・・・・・・・・・)、心配しなくてもいいよ!」

 

 

 

 ああ、まったく、この方には到底届きそうもないなぁ…

 魔法の深淵のその深さに少しばかりの恐怖を抱いてしまった。

 …だが、まずは体を動かす練習をせねばなるまいて。やるべき事が山積みだ、だが不思議と気分は軽いのだ。

 

 

 



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死の支配者の外出

 

 

 

 日に日に増えていく仕事の量に忙殺される前に、モモンガは何としても階層守護者達を説得しなければならなかった。

 外出に際して様々な条件を付けられたが、その全てから自分の事を心配しているという気持ちが伝わってくる。思わず絆されて、外に出るのを止めようかとも一瞬思ってしまったが、だがそれでもここで外出して気分転換をしなければ心が死んでしまうと思い、断腸の思いで守護者たちの制止を振り切る。

 

 ……気分転換の為の外出なのに何でこんなに疲れるんだ?どれもこれも黎明華のせいだ…くそッ、あの人がこっちに来てなければこんなに悩まなくても…

 

 

「父上!準備の方は宜しいでしょうか?」役者として

 

 

 

 ふと、目の前のパンドラに話しかけられる。いけないいけない。思考の悪循環に陥っていた、俺の悪い癖だなぁ………やはり普段の軍服姿ではなく、私が与えた『神器級(ゴッズ)』アイテムの革鎧を着用しているパンドラも格好いい。正直黎明華相手ならば焼け石に水だろうが、準備をしておくに越したことはないからな。

 

 もちろん私も『神器級(ゴッズ)』の鎧で装備を固めている。『完全なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)』を使用して、装備条件を無理やり達成しているのだ。

 

 パンドラは人間種の外装を持っているから人には化けれるのだが、俺はそうもいかない。顔は幻術で誤魔化せるとしても、その幻術を常時展開するのはハッキリ言ってMPの無駄だからな。顔を覆い隠せる全身鎧(フルプレートアーマー)はやはり良いものだよ。

 

 

 

「もちろんだとも。いつでも転移できるからお前のタイミングで『上位転移(グレーター・テレポーテーション)』してくれ」

 

 

「―――我が神のお望みとあらば(Wenn es meines Gottes Wille)!!」役者として

 

 

グフウッ、そ、それは止めてくれと何度も言っているだろう!」

 

 

 

 この世界に来てから初となるマトモな(・・・・)冒険は、何とも閉まらない形で幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。やはり失敗はしない、か…」

 

 

「どうかなさいましたか?」役者として

 

 

「ああいや、何でもないよ」

 

 

 

 “もしも上位転移(グレーター・テレポーテーション)が失敗したら、自分はどうなってしまうのだろう”。不意に頭の中で浮かんだ考えに少しだけ恐怖を感じる。

 

 

 

(おおコワ…“どらえもん”のどこでもドアじゃないんだから…)

 

 

 

 …ちなみに、完全に余談ではあるが。どこでもドアは瞬間移動を行っているのではなく、ドアに入ると同時に対象を分解し、現地で再構成することによって瞬間移動したように“見せかけている”だけなのである。アインズ・ウール・ゴウン内ではあの青狸は、半ば常識みたいなところがある。

 なぜペロロンチーノさんは一〇〇年以上前の子供向け漫画に詳しかったんだ?あの人の事が時々わからなくなるんだよなー…

 

 

 

「なあパンドラよ。上位転移で門を開いてそこに棒を突っ込むだろう?その後棒を中に入れたままの状態の転移門を閉じたら、いったいどうなるんだ?」

 

 

「ああ、それですか。それならば以前ブロードソードでやってみましたよ」役者として

 

 

「やったのか!?…で、結果はどうなったんだ?」

 

 

ポン(・・)と音が鳴った後、出口の方にはじき出されましたね」役者として

 

 

「………そうか…千切れないのか」

 

 

「千切れませんよ!?」役者として

 

 

 



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祝福の価値

 

 

 

 フールーダを連れ出す際、魔法省の連中に気づかれないように、俺の師団から一体隠密・変装系統が得意なものを引き抜いて影武者をやらせることにした。

 先ほどまでの自分と寸分たがわぬほどに正確な造形を見てフールーダが驚いていた。もちろんクレマンティーヌもだ。

 暇な時にコツコツと制作していたものがこんなところで役に立つとは思わなかったよ。

 

 そんなこんなでまんまと魔法省を抜け出した俺たちは、放浪の旅と称して行く当てもなく草原を歩き回っていた。今は日が暮れたので野営中だが。

 時々湧いてくるアンデッドやらゴブリンやらを魔法で処理していき、それを見たフールーダが、俺の与えた自動筆記羽根ペン(クイッククォーツ・クウィル)で何かを必死に書き記す。時たまクレマンティーヌも戦闘に参加して亜人どもを駆除していく。

 

 ………そうだった、フールーダは少しだけレベルを上げたけれども、クレマンティーヌは全くノータッチだった。いけないいけない、忘れてた。

 昼間は先頭に立って案内をしてくれていた(ダヴを使えば一発だが、なんだかやる気満々だったので案内させていた)クレマンティーヌに声をかける。

 

 

 

「一応聞いておくけどさ、お前の戦闘スタイルってどんな感じなんだ?」

 

 

「え~?そうだねー…素早く動いて敵を翻弄して、相手が反応できていないうちにスッといって殺す。みたいな~?」

 

 

 

「ふーん…じゃあこれかな?」

 

 

 

 俺はそう言って白銅色に輝く軽装の鎧を投げ渡した。

 おお、ナイスキャッチ!

 

 

 

「これは?」

 

 

「新しい装備だよ。お前のそのアーマー、何の効果もついてないだろ?俺の仲間がそんなみすぼらしい格好してたら困るんだよ。せめて『神器級(ゴッズ)』アイテムは着けてもらわないとなー」

 

 

「ごっず…それって法国の宝物庫の最深部で保管されてる、あの?」

 

 

「どの神器級(ゴッズ)かは知らんよ…あ、因みにそれ俺の手作りだぞ」

 

 

「―――ええ!?これローレンスが作ったの!?」

 

 

「そうだよー。『祝福された戦乙女の軽装鎧(ブレッシングライトアーマー・オブ・ヴァルキュリア)』…結構な自信作なんだぜ?あとはそうだな…それスティレットだろ?なら刺剣だよな……『祝福された剣乙女の刺突剣(ブレッシングミゼリカルド・オブ・シュヴェルトライテ)』…?おっ、十一本あるわ、何本いる?」

 

 

「よ、四本で…」

 

 

「えー?なんか気に入らねぇなー…ってそうだ。全く同じ武器何本も装備していても意味ないじゃん!じゃあ…適当に炎と雷、神聖と極悪にしとくか……」

 

 

「…ローレンス~?そ、そんなに悩まなくてもいいよ?なんかテキトーな鎧とかでいいからさ~」

 

 

 

 

「俺  が  イ  ヤ  な  の」

 

 

 

 

「あ、そうですか…?」

 

 

 

 虚空から次々と取り出されては、無造作に地面に放り出されている数々のすごい(神器級)アイテムを見て、クレマンティーヌは自分の中の常識が音を立てて崩れ去っていくのを感じた。

 約一名、地面のアイテムを興奮しながら鑑定している元爺現青年がいるが……あまりにも気持ちの悪い表情をしている。なんだか頭が痛くなってきた。これがあのフールーダ・パラダインだとは思いたくない。

 どうしよう、帰りたい。

 

 これが“ぷれいやー”の仲間になるって事なんだ…こんなのを装備したら、私はどうなってしまうんだろうか?

 目当ての武器(刺剣)を探し当てて、喜びのあまりガッツポーズをしているローレンスを見た。仮面をしているが雰囲気でわかる、滅茶苦茶笑顔だ。

 

 

 さらに頭痛が加速した。

 

 

 

 因みにこの後フールーダの番が回ってきた。まだまだ夜はこれからだー☆

 

 

 




今回登場したアイテムたち、やたらと長い名前が多い…そう思いませんか?
実はコレ、ちゃんと理由があるのデス。
たとえばこいつ、『祝福された戦乙女の軽装鎧(ブレッシングライトアーマー・オブ・ヴァルキュリア)』。

このアイテムはプレイヤーメイドの装備品なわけですが、元は戦乙女の軽装鎧(ライトアーマー・オブ・ヴァルキュリア)だったのです。
そこに信仰系アイテムを製作できるプレイヤーが祝福を与えると、アイテム名の頭に祝福された(ブレッシング)が付くんですねー

この込められる祝福にもプレイヤーのスキルが(二重の意味で)関わってきます。

祝福の強さはプレイヤーのスキル構成と、祝福付与時に発生するミニゲー厶のプレイスキルで変わってきます。
さらにアイテム本体のランクが高ければもちろん、込められる祝福(バフ)の総量も増えます。それがプレイヤーメイドならばなおさらです。

え?じゃあオリ主メイドのアイテムはどうなのかって?






























(´・ω・`)


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人に非ざるモノ

 

 

 

 旅を始めて三日目にして、俺たちはエ・ランテルという大きな町に着いた。

 前まで(二日程度しか滞在しなかったが)拠点にしていた帝都よりかは小さいが、それでもこの世界の文明レベルを考えたら中々に大きい方だろう。

 話によると元々クレマンティーヌが拠点にしていた街なのだそうだ。三つの国のちょうど中間に位置するこの都市は、様々な情報を手に入れるのに最適な場所なのだと。

 

 なるほど確かに。寄り道をしていたから三日かかったが、最短最速で行けば一日半で着きそうだったからな。交通の便が良いというのは現地人にとっても良いことだろうし。

 ここに来るまでの寄り道で、フールーダもクレマンティーヌも十二分に育った。多分下手な一〇〇レベルプレイヤーよりも強いんじゃないか?

 

 星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)の効果でレベルを上げる……こっちの世界でもできるようで助かったよ。むこう(ユグドラシル)ではできていたからね。

 一発撃つ度に五レベル上昇するから、ざっと六十五発撃ったのか。“願いを叶える”なんてトンデモ能力をロハで三発も撃てる指輪なんて、ガチャの当たり枠とはいえ実装しても良かったのかねー?

 俺は勿論、所持数の上限に達するまで引きまくったけどもさ。

 

 

 そうして超速成金レベリングをしていた時、面白いものを発見(というか教えてもらった)した。“武技”というこの世界特有のスキルみたいなものである。

 なんでもこれは、鍛錬を積むことによって習得することができるみたいで、実際にクレマンティーヌはレベル一〇〇の状態で《能力向上》《能力超向上》という二つの武技を発動してみせた。

 取得条件が習得(・・)ならば多分俺でも使えると思い、クレマンティーヌに武技発動のコツを教えてもらったのだが、なんと一発で行けた。何やら光輝赤の体(ボディ・オブ・イファルジェントヘリオドール)のようなエフェクトが体を包み、確かに能力が向上したような気がする。

 

 ………うん、もしかしたら気のせいかもしれない。戦闘の時じゃないと効果を発揮しないのかも?

 そういえば武技の発動には“集中力”なるモノが必要らしいのだが、俺にはあまり感じられなかった。多数のプレイヤーを纏めてあるから、それに合わせて“集中力”パラメータも増えているのかもしれないな!

 

 

 

 

 

 

 町に入ると、明らかに何かがおかしかった。

 

 

 ―――見られている。

 

 

 街行く人々は何も気づかないが、けれどこれは確かに、隠密系のスキルを持った何者かがこの街を監視している。

 隣でフールーダと焼き鳥を食べているクレマンに尋ねてみる。呑気だねー君たちさー

 

 

 

「この国って『隠密スキルを使って』町人を監視している役人はいるのか?」

 

 

「ハァー?いるワケ………え、もしかして居んの?」

 

 

「女よ、お前気付いておらんかったのか…?」

 

 

「えー…あ、ホントだ。何でだろ?前まではいなかったのに…」

 

 

「大方、お前の所の風花聖典がお主を始末しに来たんじゃろう。ほれ、もう一本もらうぞ」

 

 

「ア゛ア゛ァ゛ッ゛?!」

 

 

「いや、こいつらはそんなに弱くない(・・・・)ぞ。多分五〇レベルぐらいだな、お、あそこにいるぞ」

 

 

「ふぅむ………蜘蛛のような見た目ですが、私は知りませぬ」

 

 

「あれは八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)だよ。お前ら程度だったら即死させてくるから気をつけとけよ~」

 

 

「私たちを、即死…?そのような者がなぜこんな街中へ…」

 

 

「あ、やっぱりあんなの普通はいないのか」

 

 

「あのような強者を警備に当てることができたなら、帝国の改革はもっと早くに達成されていたでしょうな」

 

 

「ジジイー回りくどいよー」

 

 

「うるっさいわ!!」

 

 

 

 “仲が良いのは良いことだ”。そんなことを考えつつ、俺は八肢刀の暗殺蟲に呪詛を刻むのであった。

 

 おお!のたうち回ってる!いいねいいね~、これは気持ち悪いな!あ、足が取れた。汚いなぁ。

 

 

 



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死の支配者の焦燥

 

 

 

 豪奢な全身鎧を纏った大剣二刀流の剣士と、歴戦の強者の如き風貌の軽装戦士の二人組の噂は、瞬く間にエ・ランテル中に広まった。

 これは“新しいモノ好き”と言えば聞こえは良いが、どちらかと言えば“出る杭は打たれる”のようなモノで、何か後ろめたい、暗い噂のようなものがあったならばそれを基にして排斥してやろうという魂胆から来たものであった。

 

 そのためモモンガとパンドラの二人は見せしめとして、冒険者登録の際に横やりを入れてきた冒険者(哀れな被害者)の足を破壊し、自分の宿へと戻ったのだが…

 

 

 

『『金がない…』』

 

 

 

 (モモンガ)(パンドラ)も、全く同じことについて考えていた。やはり親子か…

 黎明華以外の脅威が存在する可能性も考慮して、モモンガたちはユグドラシル産の金貨を現地で使うべきでないと判断している。

 それ故現地で物品のやり取りをする際は、当然現地の通貨を使うことになるわけだが、いかんせん稼ぎ口がないのだ。

 外で活動するためには金が要る、金を調達するためには働かねばならない、働くためには外で活動する必要がある、ete、etc…

 

 

 駄目だ。悪循環に陥ってしまっている。ッ、すぐに働かねば!

 

 

 

「―――待て、『どうした?八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)よ』」

 

 

 

「!!」

 

 

『も、モモンガ様。何者かから攻撃を受けました。私はもう駄目ですので、どうか早くこの町から逃げて』

 

 

『一体誰だ!どのようにして攻撃を受けたのだ!!』

 

 

グウゥゥッ“呪詛”です!何らかの呪いがあっがががあが

 

 

 

 直後、『伝言』が途絶する。これは何らかの原因で通信が成り立たなくなった時の現象だ。ということはつまり…

 

 

 

「パンドラよ、町に放っていた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の一名が何者かに殺された。死因は恐らく呪殺だ」

 

 

「それは…」

 

 

「―――分からんのか?黎明華だ、この街に黎明華がいるんだよ!クソッ、ど、どうすれば……どうすればよいのだ…」

 

 

 

 

 

 

 自らの創造主の狼狽している、冷静さを欠いている様を見つつパンドラは考える。

 実のところ、パンドラにとっては今回の外出において未知の世界の探索をする、などどうでも良かった。

 

 

 

 私の真の目的は人助けにありました。ですがそれは単なる慈善活動というわけではありません。自分に陶酔する人間が必要なのです(・・・・・・・・・・・・・・・・)。それこそ、自分のために命すら投げ出してくれるような、そんな都合の良い弱い人間こそが、黎明華の死となるのですよ。

 ですがいかんせん町に着たばかりで、準備も全くできていません。危機に陥っている人間に遭遇することもできていないし…

 

 

 

(遭遇があまりに早すぎる…!!)

 

 

 

 さァて!この状況をどうやって切り抜けましょうか。まずは…

 

 

 

「モモンガ様、モモンガ様!殺されたシモベは何処の区画の者ですか?」役者として

 

 

「あ、ああ………どうやら、正門入口に配置していた者のようだ。入ってすぐに察知され、そして殺されたのだろう」

 

 

 

 ああ、なんということでしょう!殺されたのが商店街に配置されていた者であれば、そこと宿屋街、そして大通りに近づかなければ何とか切り抜けられるだろうと考えていたのですが、正門の者であれば話は別です。

 なぜなら、どこにでも(・・・・・)行く可能性があるから。これではどこかで鉢合わせてしまう可能性がある…

 

 ……だがこれは、言い換えれば黎明華の行動パターンを把握するチャンスでもありますね。

 

 

 

「どうする…八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達を全て帰還させるか…?」

 

 

「いえ、帰還させずその場から移動させないでください(・・・・・・・・・・・)役者として

 

 

「ッ、何故だ!このまま何も手を打たねば彼らが、全員殺されるぞ!」

 

 

「ですがモモンガ様、逆に考えてみてください。今ここで彼らを消費(・・)するだけで、現在の黎明華の思考を推測することができるのですよ!?…彼らを使いつぶすだけの価値は、あると思われます

役者として

 

「………………………そうか…そうか」

皆、俺の愛する仲間なんだ。死んでほしくなんてないのになぁ…

 

 

 

 ―――私も覚悟を決めねばなるまいよ。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達よ、頼めるか?

 

 

 

『委細、承知致しました。モモンガ様』

 

 

 

 八本腕の、異形の暗殺集団。時に神すら殺めてみせるその刃は、終ぞ抜かれることは無かった。

 

 

 



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新たなる気付き

 

 

 

 どうなっているのだろうか?いくらなんでもこれは不自然だろう。俺たちが昼食を食べ、ポーション屋へ行って店主の青年と談笑し、大通りの露天を回る間に四匹もの八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)を見つけた。一応全員殺したけれども。

 

 あれは何だったのだろう?………すこ~しだけ、考えてみようか。

 

 

 

 

 

 

 まず関係のありそうな情報を整理しよう。

 俺は"ダヴ”のアイテムサーチ能力によって、いくつかのギルドがこの別世界…異世界に来ていることを確認している。

 その中でも確定しているのは、『九曜絶殺』、『世界喰らい同盟(ワールドイーター・アライアンス)』に『アインズ・ウール・ゴウン』の三つ……それ以外は取るに足らない雑魚である、考えるだけ無駄だろう。

 

 本来なら世界喰らい同盟も雑魚の一つとしてカウントするのだが………みんなも名前からして、何とな~く俺と関係があると思っていたんじゃなかろうか?

 正しくその通り!こいつらは俺公認の対俺ハイエナ…俺が時々『神器級(ゴッズ)』アイテムを投げてやっていた乞食共の集まりだ。

 

 昔はおこぼれにあずかろうと、あれほど必死こいて俺を追いかけていたコイツラも、今では『八欲王』なんて大層な名前で呼ばれていやがるのだから、全くこの世界は何が起こるのか分からないものだよ。

 

 

 さて。二人から聞いた話がもしも正しいのならば、『九曜絶殺』は『世界喰らい同盟』に殺され、その『世界喰らい同盟』は、謎の『十三英雄』なる存在に殺されたらしいのだ。

 

 うーん……これだけでも頭が痛くなってくるが…だが今考えるべきは、負け犬や乞食どもの事ではない。『アインズ・ウール・ゴウン』の事だ。

 

 このギルドは俺が存在を確認したギルドの中で唯一、現在確実に存在していると言えるギルドだ。理由は二つある。

 

 まずダヴのサーチによる存在の証明。(そもそもギルドが存在していなければ、俺があの墳墓に置いたアイテムもサーチされないからな)

 

 二つ目は………今確認した。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)の存在だ。というかコイツらな、あまりにも不自然すぎるんだよ。

 

 

 そもそもの話、異世界人がユグドラシルのアイテムを得たならば法国のようになるはずだ。つまりは『力の使い方を正しく理解していない雑魚』共のように。全員がレベル二〇や三〇ならばなおさらだ。

 

 そんなコイツら『異世界人』が、一呼吸の間に自分達を十回は殺せるような奴らを四、五体も使役できるワケがない。

 『九曜絶殺』のバカどもがどれだけ学が無く、愚かであっても、こんな雑魚(・・)相手に『聖者殺しの槍(ロンギヌス)』を使わせるワケが無いだろうからな。

 

 

 とまあ、そんなこんなで。恐らくこの八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)どもの所属は『九曜絶殺』でも『世界喰らい同盟(ワールドイーター・アライアンス)』などでもなく、『アインズ・ウール・ゴウン』だろうな。で、十中八九向こうは俺の存在に気がついている、と。

 

 その原因は、俺の〈時間停止〉の効果範囲内に入ったから………つまりは帝国を起点とした半径数百キロの範囲内に“ギルドそのもの”が存在しているというわけだ。

 

 

 

 

 

 

 ……うーん………ま、いいかなー!!

 

 どうせ今ギルドを滅ぼすような気分じゃないしなー…

 でもよくよく考えたらギルドごと転移してるって凄いことだよなー

 いったい、どうやって転移したんだろうな?

 

 

 

 …そういえば、俺のギルド拠点って今どうなってるんだろう。『内側』に入れてあるけれども、しっかり機能してるんだろうか。

 後で見てみようかな?

 

 

 



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塔の頂、或いは宝物殿

 

 

 

 この都市最高の宿屋の、最上級の部屋に泊まり、王侯貴族が食べるようなものを食べる。なるほど、これらは確かに最上の快楽を与えてくれるのだろう。

 

 

 だが、それらは“この世界においては”という但し書きが付くが。

 

 

 我が内側には真の悦楽、至高の快楽すらもある。

 何せゲーム内の一ワールドをそっくりそのまま内側にしているのだから。世界が内側にあるというのに、欠けているものがあってよいというのか?いいや、あってよいはずがないだろうよ。

 

 

 

「うーむ、これはなかなかの絶景…」

 

 

 

 そんな考えの下創られた俺のギルド拠点は、実のところそんなに豪華な装飾が施されているわけではない。

 と、いうのも。黄金や宝石でギンギラギンに装飾した家というのは、なんとも目に悪いのだ。照明を灯せば目に入ってくる乱反射した光、所狭しと置かれた芸術品なんかは、下僕を何人も雇わないといけなくなるので非常にめんどくさかった。

 

 

 そんな現実での苦い経験を教訓として創られた俺の拠点は、その日の俺の気分一つでその中身を変更できるようになっているのだ。

 

 

 今は、三~四百年前には地を覆い尽くさんばかりに建っていたという“オシロ”にしている。

 内装が主に木でできているので非常に気が楽なのだ。

 そんなオシロのてっぺん、“テンシュカク”から俺は、何をするでもなく城下をぼーっと眺めている。

 

 

 人間が得ることのできるあらゆる悦楽は前の世界で経験しちまったからなー…だからといって手放そうという気にはならない。当たり前だけどね。

 正直ぼーっとしているのが一番楽しい。霧の隙間から、自分の下でいろんなMOBたちが動いているのを見ると、なんだか気持ちがよくなってくる。

 

 

 おっと、あんまりこうしているのも良くないよな。あいつらをずっと待たせておくのは嫌だし、さっさと用事を済ませようか。

 〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉を使用し、“物置”へと転移する。

 

 

 

 

 

 

 “物置”だなどと何でもないように言っているが、その実ここは大袈裟に華美である。

 あまりに超大な空間は、まるでここが一つの世界であるかのようだ。ズラリと並んだ展示台、宝物や“価値あるモノ”が所狭しと置かれた棚が目に入ったかと思えば、どうしようもない“失敗作たち”が無造作に放り投げられた広場もある。

 

 俺のユグドラシルが、ここにあった。

 

 この光景を何度見てもこう思う。明らかに過剰だよな、と。

 ここを完璧に利用できれば、それこそ世界を一〇〇回滅ぼしてもお釣りがくる程の力を得ることになる。

 常人が扱う分には明らかに手に余るものだ。棚の間を縫うようにして歩きながら、そんなことを考える。

 

 

 この空間は歩くたびにその姿を変える。先ほどのオシロの場合は本当であったが、こちらの場合は残念ながら比喩である。

 変形機構なんて複雑なものいちいちつけられないのであ~る。

 ………というのも、転移する際に場所をざっくりとしか指定できないため、目的地に開かれるポータルがその都度少しズレるのだ。

 だが、目的地はいつだって一か所だ。“それならそこに直接行けばいいだろう”となるが、そんなに簡単な話ではない。

 そもそもの話、俺の最も秘匿したい場所にホイホイと侵入されてしまったらたまったもんじゃないから。

 

 

 皆はこう思うだろう。“なんでギルドメンバーの証たるあの指輪を使わないのか?”と。

 はーいアウトー、もうお前らの命ねーからー。

 

 この物置のある座標は少々特殊なのだ。というのも、俺が指定した以外の方法で入ると資格ナシとみなされて、(この場所に存在した時点で)『別のワールド』に飛ばされるようになっている。

 もうユグドラシルが無いのに、別のワールド。どこに飛ばされるんだろうねー?

 ………いったいここは何処なのかって?…ここは、隠しイベントを達成する上で必ず来なければならない場所だ。

 

 

 その隠しイベントの開始条件。それは、ワールドアイテム〈アルカデイアの幻紋章〉を使用すること、だ。

 

 

 

 

 

 

 『幻想都市アルカデイア』。俺がなぜヘルヘイムやムスペルヘイムなどの異業種に有利なワールドでなく、アルフヘイムなんていうワケの分からんワールドを内側にしたか。その理由はこの幻影都市にある。

 〈アルカデイアの幻紋章〉はワールドアイテムではあるが、この紋章自体は特別な効果を持たない、いわばパスポートだ。これを体に刻んだ(・・・・・)者だけがアルカデイアへと行けるのだ。

 だから、どちらかと言えばこちらの幻想都市の方が本体だ。

 ……いや、これも語弊があるか。正しくは幻想都市の秘宝こそが本体なんだが…まあいい。ソイツは俺の持つワールドアイテムの中では中の上ぐらいのヤツだし。

 

 

 俺はその幻想都市の、だだっ広いフィールドをギルド拠点として有効活用させてもらっているというわけだ。まあこの都市の主俺だしネー!

 だから俺のギルドは公式サイトを見ても『所在地:不明』となっていたのである。運営としても隠しクエストの存在を自ら暴くわけにはいかないからな。

 

 

 と、そうこうしているうちに目的地に着いた。〈アルカデイアの幻紋章〉と同じ形の巨大な紋章が宙に浮かび、青白く発光している。

 この内側に入るには、アルカデイアの幻紋章を刻んだプレイヤーを十三人用意しなければならないのだが、俺は一人でその条件を達成しているので大丈夫だ。

 これで入れなかったらどうしよう……と思いながら、紋章に触れる。

 

 

 俺の身体は発光し、視界が白く染まった。

 

 

 

 

 

 

 着いた。宝物殿だ

 俺が先程いた場所を頑なに“物置”を呼び続けたのは、これが理由だ。真の宝物とはこれらの事であるから。

 此処においてあるアイテムは最低でもワールドアイテムだ。それに俺の、金、能力、そして数々の奇跡が重なって出来上がった最高傑作たち。

 どれ一つとして盗まれてはならない。もしもユグドラシル内で、これらの内の一つでも俺の手を離れてしまったならば。

 ユグドラシルのパワーバランスは一気に崩れ去っていたことだろう。そしてそうなっていないという事は、この場所が遂に、サービス終了まで何者にも見つかることが無かったという事を示している。

 

 

 結局のところ、プレイヤーメイドが一番強い。これがあらゆる経験と情報、金でもってこのゲームを隅々まで調べ上げた俺が至った結論である。

 

 

 勿論ワールドアイテムも強い、あれらは皆唯一無二の能力を持つ。だから俺はワールドアイテムもこの場所に陳列している。だが、正直ワールドアイテムでなければ置いていないものもいくつかあるのだ。

 物置とは打って変わって、等間隔で置かれた特別製の台座の横を、ゆっくりと歩いていく。コツリ、コツリという足音が、静寂で満たされた空間に響き渡る。奥に行けば行くほど宝物の価値は高くなっていく。

 

 

 〈ユグドラシル・リーフ〉、〈イェリコの崩笛(ほうてき)〉、〈天帝の雷槌〉、〈七つの首、十の王冠〉……あれは『パナシアー』だな。俺の造ったやつだ。

 凡百のプレイヤーであれば喉から手が出るほど欲しいアイテムたちを無視して歩いていく。ここに来た目的を果たすために。

 それは奥の方に陳列されている。一本の醜い木の塊だ。

 ………言ってしまえば、棍棒(クラブ)だ。見た目はな(・・・・・)。だがこいつはただの棍棒ではない。

 

 

 〈世界意志(ワールドセイヴァー)〉。俺の保有するアイテムの中でもトップクラスに価値のある(・・・・・・・・・・・・)宝物だ。

 

 

 効果は単純、『無限に強くなる』。ただ、それだけ。

 

 だが単純だからこそ、このワールドアイテムは“二十”に数えられるのだ。

 こんな子供が考えたみたいな能力、よく運営が通したものだよ。

 

 

 〈世界意志〉と合わせて飾られているアイテムがある。これも“二十”の一つだ。

 運営が〈世界意志〉を最強の鉾として創ったのならば、こちらは最強の盾という事になるだろう。

 〈遥かなる極星〉。効果は『攻撃が届かなくなる』。そもそも当たらないのだ、装備者へのあらゆる攻撃は意味を為さない。うん、為さないんだけどなぁ…

 

 

 

 

 これを飾っていた台座にもたれながら、宝物殿のさらに奥(・・・・)を眺める。

 

 

 

 

 

 

「………はは、ざまあみろ運営ども……お前ら如きではもう、どうしようもないだろう?」

 

 

 

 

 

 ―――ここ(異世界)まで来たのだから。

 

 

 俺の執着、俺の妄執、俺の果て、頂………

 此処より後は、俺が創ったアイテムが置かれている領域(・・)だ。

 

 

 

「……戻るか」

 

 

 

 恐ろしい(・・・・)。ワールドアイテムなんかが盗まれるよりも、あれらが盗まれる方がよほど恐ろしい。

 でも、いつか使う日が来るんだろうなぁ。なんとなく分かる。俺はそういうタイプの人間だからな。

 

 

 ズラリと並んだ至宝の数々。それに見守られながら、俺はあいつらのいる場所へと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栄光は我に首を垂れる。下のものは下にあれ。上のものは、さらに上へ。

 

 

塔は高く、いずれ天に届く。地には何も、残してやらぬ。

 

 

 




オリ主が創ったアイテムの能力募集してます。活動報告に飛んでくだされ。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=281084&uid=196745


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死の支配者の外交

 

 

 

「ああ……結局息抜きにすらならなかったなー…」

 

 

「ンン~~~~~↑↑↑!!申し訳ありませェン!!モモンガ様!!」役者として

 

 

「……もうツッコまない、もうツッコまないぞ俺は…ッ!」

 

 

 

 目の前ではしゃいでいるパンドラを見て、思わず本日何度目かの溜め息を吐いてしまう。

 

 この世界に連れてくることができた十五体の八肢刀の暗殺蟲の内、四体が殺されてしまった。完全にこちらの失態だ。もっと俺が対策をしておけば…

 そこまで考えて、やはりあれが最善だったのだという結論に至ってしまう。どれだけ受け入れられない結果だったとしても、確かにあれが最善の手段だったんだ……そうでなければ、無駄死にじゃないか。

 

 

 

「此ォ度の失態の責はッ、全てこのパンドラに―――」役者として

 

 

「…えっ?ど、どうしたパンドラ?バグったか?」

 

 

「少々お待ちを………『分かりました。では第六階層の特設テラスにお招きしてください。後でそちらに向かいますので。それでは失礼致します』……モモンガ様」

 

 

「はっ、お……うむ、どうした」

 

 

「スレイン法国の使節団が到着したそうです。事前の交渉の通り、非公式なものではあるようですが…」役者として

 

 

「本当か!!メイドを呼べ!すぐに支度をさせるぞ!」

 

 

「ンンンンかァァァシこまりまッしたァァ↑↑!!」役者として

 

 

 

 モモンガの壮大な計画が今、動き出そうとしていた。

 がんばれ悟、まけるな悟。リアルで培ったプレゼン能力を発揮する時だぞ~。

 

 

(何としてでも成功させねば……この程度の会談を成功させずして、国なんか手に入れられるはずがないっ!)

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、使節団の面々がテラスへ到着する。プレアデス達に導かれるまま進んでいった彼らを出迎えたのは、森の中にあるとは思えぬほどに豪奢なテラスであった。だが不思議なことに、机や椅子は完全に森に溶け込み、森の景観を壊していないのだ。

 

 

 

「おお…しかしこれは、何とも豪華な…」

 

 

「これが“ぷれいやー”のお力か…」

 

 

 

 よしよし、掴みは上々だな?この分ならば、予想していた分よりも楽に終わらせることができるかもしれないな…

 ホコリなし、糸くずなし、シワなし!よし、覚悟を決めろ鈴木悟、いやモモンガ!今こそギルド長としての役割を果たすのだ!

 ―――これから何度も行うことになる、自分たちの命運を賭けた会談。その記念すべき一回目は、全くモモンガの想定通りに進んだ。

 

 

 

 この会談において交わされた密約は数あれど、その中でも特に重要なのは以下の三つであろう。

 

 

 

一つ、国内の反対派閥の消滅(・・)への助力。

 

 

二つ、新たなる連合国家建設のために、現在計画されている全ての謀略を、止める方向へと話を進めること。

 

 

―――そして三つ、“番外次席”を武力によって従属させること。

 

 

 

 どれもこれも、無理難題だと思って彼らは提示してきたのだろう。だが、この程度ならば俺たちで対処可能だ。

 この程度で法国を支配する足掛かりができるのだから安いものだ。

 

 モモンガにとってこの会談は大成功に終わった。

 

 

 

 

 

 

 主の会談の内容を“隠密”して聞いていたパンドラズ・アクター。彼にとってこの会談はギリギリの勝利であった。

 

 

(問題は二つ目ですね…)

 

 

 そうパンドラは考える。パンドラのシミュレーションでは、主の考えるような連合国家―――全ての人類が一丸となって黎明華に“水面下で”対抗する―――の実現は不可能に近いだろうと思っている。

 パンドラとしては、あくまでもそれぞれの国が“自分たちの国家を維持した状態で”連合に加盟する、というのが手っ取り早いだろうという意見だ。もちろん後の統治のしやすさを考えれば連合国家の方が良い、というのは分かっている。

 

 だがそれ以上に早さが重要なのだ。とにかく早く行動を起こさねばならない。

 

 

(古来より、民も兵も拙速を尊ぶものです―――)役者として

 

 

 ―――さて、新しい策でも練りましょうかね。

 

 

 パンドラは隠密状態のまま主たちの下を離れ、自分以外の『三賢』へと『伝言』を送るのであった。

 

 

 



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鉄と血の神

 

 

 

 こういうのを食わず嫌いだなんていうんだろうか。今までは“ボーッとしているのが最高!何もしたくない!”なんて思っていたのだが、いざ準備を始めるととても楽しいものだ。

 何せ、“物置”をフルに使って事を企てようとしているのだから。

 ああ、なんて楽しみなのだろう!俺に謎の対抗意識を向けている『アインズ・ウール・ゴウン』を滅ぼす。己の拠点を破壊され、絶望に染まった同族(プレイヤー)の顔を思い浮かべるだけで達してしまいそうだ。

 

 クレマンティーヌやフールーダから聞いた情報を元にして計画を立てていく。

 うーん………どの国にもまんべんなく厄ネタが存在しているから、どこから切り崩していっても問題はなさそうだなぁ。

 

 クレマンティーヌが元々所属していた『スレイン法国』には、“番外席次”なる“神人”がいるようだ。お~?いろいろツッコミたいところが出てきたんだが?

 なんでこんなのが神人だなんて呼ばれてるんだよ!……いや、考えてみれば今更か。

 

 なんでもこの神人とやらは『六大神の血を引くとされる先祖返りで、生まれながらの超人』の事を指すらしい。なんだよ、あいつらもちゃーんとヤることヤッてるじゃないか。

 その中でもこいつは飛びぬけて強く、クレマンティーヌの上司がけちょんけちょんにされてしまうぐらいなのだとか。

 

 ………あんまりよく分からん。クレマンティーヌの上司?は何レベルだよ……だいたいレベル差が三十あれば“手も足も出ず殺される”から……クレマンティーヌがだいたい三十、その上司を務めてるんだから多分四十…

 おおー!レベル七十以上か!そりゃあこの世界じゃ無双もできるだろうよ!なるほどなるほど。

 

 

 んでもって今度はフールーダからの情報だ。彼に『手っ取り早く寝返ってくれそうな者はいないか』と尋ねてみたところ、真っ先に名を挙げたのが『帝国四騎士』である“レイナース・ロックブルズ”だ。

 いやホント、即答だったからね?まだ俺最後まで喋ってなかったのに答えるんだから。どれだけ忠誠心が無いのかと思い彼女の経歴を聞いてみたのだが、なるほど確かに。これだったら忠誠心が低くても仕方がないだろう。

 

 このレイナース、元はとんでもない美人で貴族の令嬢だったそうなのだが、ある日顔に呪いを受けてしまい、それ以来顔から膿を絶え間なく出し続けているのだとか。

 かつてフールーダも解呪を試みたそうだが、なんと失敗しているらしい。

 そらそーよ。だってそれ特殊イベント系の呪いだもの。正攻法では解呪できないんだよなー。

 

 その事をフールーダに(“ゲーム”云々の話を始めるととんでもなく長くなってしまうので、その辺りはぼかして)教えてやると、『どうかその魔術も教えて下され』と懇願されてしまったので、習得に必要な魔導書を渡してやった。

 

 しかし恐ろしいな、モンスターもこっちに来てるのか?しかもこのクエスト、レベル七五相当のプレイヤー向けの物、所謂エンドコンテンツなのだ。

 だがそうなると話がどうにも食い違ってくる。もしも本当に俺の知っているクエストであるならば、レイナースとやらは手も足も出ず殺されてしまっているだろうに、あろうことか彼女はその魔物を討伐しているのである。

 

 ……うーん?俺の知識が通用しないこともあるのか。気をつけておかなきゃなぁ…

 

 

 

 おっと、話を戻そう。そもそも、何で俺がこんな話をし始めたかと言うと………まあざっくりと言ってしまえば、対アインズ・ウール・ゴウンのためだ。

 

 

 

 そもそもだよ?もし仮に一ギルドが―――アインズ・ウール・ゴウンではない別のギルドであっても―――俺と戦ったとしても、どちらが勝つかは明白だ。それは向こうも分かっているだろう(・・・・・・・・・・・・・)

 なぜって、もしもこの世界にプレイヤーが来ているならば、サービス終了直前の全体アナウンスを見ていなければオカシイだろう。それにトップギルドのマスターとは、全員互いにフレンド登録してるからな。俺がどのようにしてワールドエネミーになったのかも、ある程度予想はつくだろう。

 

 ……まあ、あのアナウンスが無くても恐れられるぐらいにはあの世界で暴れまわってたから、見ていない可能性も無きにしも非ず、か?

 

 

 

 おお夢にまで見た異世界転生!沸き立つ下民(プレイヤー)!!そして“やったーぼくもむそうするぞー”と意気揚々と外出してみたら、超絶強化されたかつてのトラウマが『やあ!』と笑顔でサムズアップしてるのだ。

 

 

 

 うわーおっそろしー…ま~もし俺だったら漏らすだろうね。そして穴に潜って、いつかトラウマを排除しようと(俺を殺そうと)虎視眈々と隙を伺っている……そんなところかな?

 俺を殺す策の中でも一番楽なのは、自分たち以外の存在に戦わせる……代理戦争ってヤツだな。それでは勝てないということはあそこのギルド長も分かっているだろうから、恐らく自分たちも出っ張ってくるんじゃなかろうか。

 そうすると何が起こるか?

 

 

 

―――大戦争だ。

 

 

 

 血で血を洗う大戦争。中世世界とオーバーテクノロジーが入り混じったこの世界最大の戦争だ。死者数は十や二十じゃ済まないだろうな。きっと百は死ぬぞ?俺だったらそうするね。

 まあ、もしもそうだというならば。ただ指を咥えて見ているのも気に食わない。奴らの浅知恵を思い切り踏みにじってやろうではないか。

 

 

 とりあえずは各国の弱体化かなー?気になるのは“番外席次”にレイナース・ロックブルズ、後は“この国の第三王女”かな?まずはこいつら全員仲間にするかね。

 

 

 しっかしまあ懐かしいものだねー、虐殺なんて。確か向こう(元の世界)では二、三回見て飽きちゃったからなー。まああの時は五十人ぐらいだったし、数が多ければまた違うのかも?

 

 

 




因みに、S・DOMANは“番外席次”ちゃんの事をレベル九十ぐらいだと思ってます。

あってる?   (´・ω・`)





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黄金/魔性の姫

 

 

 

 “黄金の姫”、“宝石の乙女”。無垢で明るく、天真爛漫。誰にでも分け隔てなく接する心の優しさを持ち、多くの人々から慕われる。私の評価はだいたいがこのような明るいものだろう。

 

 だが本当の内面(内側)は、到底他人に見せられたものではない。故に私は自分の醜い本性を誰にも明かせずにいる。

 

 

 

 演技力には我ながら自信があるのだ。えっへん!

 

 

 

 ………本性を明かすと不利益を被る、そう悟ったのは四歳の頃だった。と、いうのも。私がまだ周りの人間から心からの寵愛を受けていた頃。

 お父様(国王)にあやされながら仕事風景を見ていたのだが、書かれている政策の中に、明らかに非効率なものがあったのだ。

 その旨をお父様に伝えると目をぱちくりとさせた後、驚き………そしてそれ以来、言葉を交わす機会は少なくなってしまった。

 

 まだ親離れもできていないような年齢で国策に口を出してきたのだ。気味悪がられるのも当たり前の事だろう、と今では思う。

 

 それ以来私はずっと猫を被り(役を演じ)続けている。他の人間の事などどうでも良い、興味など無いが、不快に思われたりすれば、それは私にとって不利益となるからだ。

 

 ……いや、違う。“他の人間の事などどうでも良い”などと考えたが、実際には少し違う。私のお気に入りのペットが一人だけいる。

 

 彼の名前はクライムと言う。彼と出会ったのは私が初めて城下を歩いた時だ。路地裏にボロ布のように投げ捨てられていた彼がとても愛らしく、思わずそのまま王城へと連れ帰ってしまったのだ。

 それ以来、私の騎士として側仕えをさせている。

 

 

 ―――と、ここまで考えたところで声を掛けられる。

 

 

 

「ふーーーん?なーるほどなるほど、お前さんの事はだいたい識れたよ。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフさん?」

 

 

 

 ……ふむ、つまりは。読めるのは私の思考だけではないのですね?

 

 

 彼は私の深い所を知っているだろうが、私はまだ彼の事を知らない。何もだ。私が自室にて一人でお茶を飲んでいると急に窓辺に現れたのだ。

 ここにいるのがさも当たり前であるかのように、どこからか持ってきた私のティーカップで仮面越しにお茶を飲んでいるものだから、私も少しばかり呆れてしまった。

 

 …それ、どうやって飲んでいるのでしょう?

 

 

 

「そうだよー、いやぁしかし、随分と落ち着き払っているものだよ。こんなことをしている者に対して“驚く”よりも先に“呆れる”ことができるなんてね?仲間の一人から“良く頭がキレる者”だと聞いていたからどんなものかと来てみれば、想像以上じゃないか」

 

 

「あら?お仲間がいらっしゃるのですか?一体どなたなのでしょうか…」

 

 

「うむ。ならば当ててみなさいな」

 

 

「…ふふっ、つれない殿方ですね」

 

 

 

 口ではそう言いつつも、ある程度目星はついている。私の本性を知っている人間なんて片手で数えられるくらいしかいないのだから。両親と、バハルス帝国の若帝、そして―――

 

 言葉を交わす前に私の本質を見抜いたフールーダ・パラダインだ。彼が仲間であると言う存在が自由に外を歩けない存在であるはずがないだろうから。

 

 

 

「お見事!やるじゃないか!では俺の目的は―――」

 

 

「私の勧誘、ですか?」

 

 

「んんーー!早いねー!ナノマシンも“フレテキ”も無いのにここまでやれるなんて!楽しいなあ!じゃあこれはどうかな!?」

 

 

 

 

 

 

「―――俺の、名前を当ててみよ」

 

 

 

 

 

 

 先ほどの明るい様子から一変して、彼の纏うモノと部屋の空気とが重くなった。今までのどんな会議や外交の時であっても、このような苦しい空気だったことは無いだろう。

 上手く思考が働かない。なぜ?私の思考、私の思考……いや、それはどうでもいい。彼の名前は…

 

 

 

「そう、俺の名前だ」

 

 

 

 ……出会ってまだ二、三言葉を交わしただけではあるが、不可能な質問を出すような性格ではないだろう、と思う。護衛の誰にも気付かれず私の部屋に来れて、なおかつ寄り道さえしてみせるほどの存在。それでいて、私に謎かけをするほどの余裕もある。そんな存在が答えられない問題を出すハズも無い。

 

 仮にもここは王城で、(第三王女)の部屋である。あれだけ大きな声を出せば外にいるクライムが部屋に飛び込んでくることは疑いようのない事実だ。だのにあの子は入ってこない。

 

 

 

 防音魔法だ。遮音されている。

 

 

 

 ……そんな素振り、彼が見せただろうか?ならばこれは無詠唱?それともマジックアイテム?ああ、いけない、いけない。思考があらぬ方向へとそれていく。私らしくもない。冷たい汗が首筋を、つつと流れる。

 

 

 

「うーん!いいねぇいいねぇ!!」

 

 

 

 ―――分からない。それが今の私の結論だ。八本指の、六腕の構成員も、そしてもちろん、あのフールーダ老の高弟たちであっても。これ程の芸当はできない。できるとすれば人外の、そん、ざい…?

 

 

 

「…」

 

 

 

 彼は黙っている。黙っている?むしろ好都合だ。ようやくこの重圧にも慣れてきた………ふう、と、重い息を吐き出す。そしてふと思い出す。法国やこの国で信仰されている宗教の伝承の中には、このような記述があったと。

 

 それらに伝わる『六大神』、『八欲王』、『十三英雄』などよりも一層詳しく、細かな情報が残されているモノ。“私たち(英雄)の事が忘れられるよりも、彼の者が忘れられる方がよほど恐ろしいことである”と、当の本人達にさえ言わしめた存在。彼はその存在に、非常によく似ているように思われる。

 

 

 気分屋で、気まぐれで、それなのに他より卓越した超常の力を扱う存在。“果て無き花園”の支配者。

 

 

 

 だが……いやまさか、伝承ではアレは封印されたはず(・・・・・・・・・・)

 

 

 

「うーん…?やっぱりそこどまりなのか。実際に中にいた隊員でもないと真実は知れないのかな?」

 

 

「まあ!という事はつまり…」

 

 

 

「うん、ラナーの考えている通り俺は『黎明華』だよ。今はローレンスと名乗っているけれどね」

 

 

 

「自己紹介は……もう知っているようだからいいだろう。ではその上で聞こうじゃないか」

 

「俺の仲間になるか、このまま城に残るか。ああ、もし後者を選んでも誰一人傷つけず出ていくと約束しよう。で?どうだね?」

 

 

 

 ―――ああ、そんなの、願ってもないチャンスじゃないですか!

 

 このような機会が巡ってくるなんて、自分はなんと幸運なのだろうか。

 

 答えは当然“はい”だ。こんな沈みかけの泥船(王国)なんて、乗り捨ててしまって構わない!

 

 

 

「んんんん~~♡気に入った!!いいねイイね良いね!じゃあ早速行こうじゃないか!ああ、勿論、お前さんのペットも連れて、ね?」

 

 

「―――ええ、喜んで!」

 

 

 

 そう言って私はハンドベルを鳴らす。ちりんちりん、ああ、良い音だ。クライム(忠犬)が来てくれる音だ。

 数度のノックの後にドアが開かれる。どうやらもう防音はされていないようだ。

 

 

 

「いかがなさいましたか、ラナー様!」

 

 

「うふふ!クライム、今から出かけるわよ!」

 

 

「で、出かける…それはどこへでしょうか?」

 

 

「んー、そうね……ずっとずうっと遠くよ!」

 

 

「そうですか」

 

 

「そうなのよ!さあさあ、手を握って!」

 

 

 

 言うと同時に、私はクライムの手を握る。()に触れられてわたわたと慌てふためく姿は見ていてとても癒されるものだ。

 

 

 

「では、行こうか!」

 

 

「ええッ!?今の声―――」

 

 

 

 クライムの台詞は最後まで発せられることは無く。私たちは『黎明華(神話の怪物)』に連れられて転移した。

 

 ああ!彼はいったいどのような人物なのだろう!本当に、彼との会話が今から楽しみだ。

 

 

 

 

 楽しみで愉しみで、仕方がない。

 

 

 



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狂う−愛に

 

 

 

 運命が私に、鋭い切っ先を向けていた。

 

 

 私はかつてとある帝国貴族の令嬢だった。蝶よ花よと愛でられ、育てられ。けれどもその立場に甘えることなく武の研鑽に励んだ。

 まだ幸せであったあの頃から、領内の魔物共を私兵を率いて討伐していた。

 誇り高き“武の令嬢”として領民からも慕われていた。私も、慕ってくれる彼ら(領民)を愛していた。

 

 

 でも、かれら(●●)は私を愛してはくれなかった。

 

 

 その日も、私はいつもと変わらず魔物討伐に勤しんでいた。中規模の魔物の群れを殲滅し、最後に少しだけ息のあった魔物の喉元に槍を突き刺した。

 それが全ての始まりだった。

 その魔物が死に際に―――いや、死と引き換えに発動した呪いによって、私の顔の半分は常に膿を出し続ける醜いものへと変貌した。

 

 この呪いのせいで家を追放された。この呪いのせいで婚約を破棄された。この呪いのせいで領民から石を投げられた。

 

 私は彼らを愛していた。鮮烈なる愛、鮮やかなる愛。けれども、それに見合った愛は与えられなかった。

 

 ああ、今もほら、鈍い痛み(呪い)は私を掴んで離さない。

 

 命以外ならば何でも差し上げます。奉仕を望むのならば喜んで。だから、神よ、どうか。私の弱き意思に耳を傾けてください。

 

 そして私に、慈悲と愛を。愛、愛、大いなる愛を…

 

 

 

愛をください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいよ!!(爆音)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………か、神よ…?救いとはこういうモノでしたっけ?

 

 

 ここはバハルス帝国の城内、その広い敷地の中に、私たち“帝国四騎士”のために個別に作られた修練場がある。

 各々が好きな時間に、好きなだけ利用できるこのスペースは、顔にコンプレックスを抱える私にとっての憩いの場となっていた。

 自室とは違い、ここは日当たりもよく涼しい。よく鍛錬の合間に冷たい井戸水を汲んで、ベンチに腰掛けて飲んでいるのだ。

 

 何をしてもこの顔は痛む。例えば、口を開ける、外気に触れる、髪の先端がチクチクと触れるなど。遠方より痛覚を消すという薬を取り寄せたこともあったが、あれも全く効かなかった。

 そう、今この時、水を飲んでいる時でさえ痛むのだ。その度に“恨み”を思い出す。愛した者たちに踏みにじられる屈辱は私の中に色濃く残り、忘れ難い。

 

 そんな空気を、急に目の前に現れた男が大音量で吹き飛ばしてくれたのだ。ああ、本当に有難いことだ。

 

 

 

「おー?本当か?まったく照れるじゃないか…」

 

 

「褒めてはいませんよ?」

 

 

知ってるよ、馬鹿にしてるのか?」

 

 

「………そうですか…」

 

 

「そうだよ」

 

 

 

 なんなんだろう。この不審者は何がしたいのだろうか?気持ちを落ち着かせるべく水を飲もうとして。

 グラスが無かった。慌てて男の方を見れば、先ほどまで私が飲んでいた水を飲んでいる。

 

 仮面越しに。

 

 ……流石に無理がある気がしますが…

 

 

 

「最近は日差しが強いからなぁ、ずっと日に当たってると喉が渇くんだよ」

 

 

「ええ、そうですよね。ところでそれは私の水なのですが?」

 

 

「んん?なんだ、お前はさっきまで飲んでたじゃないか。別にいいだろちょっとぐらい」

 

 

「そういう問題では…ッああもう!」

 

 

 

 ゴッキュゴッキュと私に見せつけるかのように音を立てて飲み干す目の前の男に、少しばかり殺意が湧いた。

 

 

 

「ぷっはー☆あー、くっさい水だよ全く、なんか膿の臭いが漂ってくるんだけど?」

 

 

「ぅ、うぅ…」

 

 

「………ん?おい、お前…」

 

 

「うぅ……ぐずっ…」

 

 

「……えー。お前らの情緒ってどうなってるんだよ…」

 

 

 

 自分でも情けないことだとは思う。だがこの炎天下で私の喉を癒していた水を取られ、トラウマまで刺激されたのだ。ここが戦場であれば話も違ってくるが、生憎今は平時である。ついつい涙腺が緩んでしまっても仕方がない、そう、仕方がないのだ。

 

 

 

「まったく…ほれ、これやるから泣き止みなよ」

 

 

「グズッ…これは?」

 

 

無限の水差し(ピッチャー・オブ・エンドレス・ウォーター)だ。いつでも冷たい水が飲み放題になる代物だよ。ほれ」

 

 

 

 そう言って彼は水差しをひっくり返す。あっ、と声を上げてしまうが、いつまでたっても水は尽きない。

 とうとう足元に大きな水たまりができてしまった。だが勢いは衰えそうにない。

 すごいマジックアイテムだ。これがあれば行軍の時に、飲み水の確保には困らない…

 

 

 

「…まあこれはやるよ。で?そろそろ本題に入ろうか」

 

 

「本題?ただ私を冷やかしに来たわけではないのですか?」

 

 

「違わい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でも、この男は冒険者をやっているらしく、今は共に冒険する仲間を集めているのだそうだ。

 そう言って自信満々にプレートを見せつけてきたのだが……カッパーだった。

 

 なんだろう、このやるせない気持ちは。どこから突っ込んだものか…

 

 ものすごく自信満々に見せてくるものだから、いったいどんな階級なのだろうと思えば、最下位のカッパー…

 

 つい十分前にはこんなのに運命を感じていたのか…と、過去の自分を殴りたくなる。右の頬を。

 

 

 

「うげー、ダイナミック自傷はやめてくれ。それは俺に効くんだよ…」

 

 

「…?―――ッ!!」

 

 

「ウガアアアアア!!クソッ!どうしてどいつもこいつも、この世界の女ってのは俺が心を読めるって分かった瞬間に気色悪いゲテモノを思い浮かべるんだよ!?」

 

 

 

 もしや、と思い試してみたが、まさか図星だったとは……目の前でジタバタと暴れまわる男を見て溜飲が下がる。なんだか嬉しそうだ。

 …ふふっ

 

 

 

はーーー??もういい、分かった。帰る!あーあーせっかくその呪いを解いてやろうと思ったのにさぁ?」

 

 

「あら?貴方にはこの呪いが解けるのですか?まったく、冗談も休み休み言ってください」

 

 

「ーーーッッ!!」

 

 

 

 



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底の空いた胃袋

 

 

 

 この愛に狂った女を仲間に入れるべきだろうか。

 

 

 一つ前に仲間としたラナー、もっと言えばそれよりも前の二人(クレマンティーヌとフールーダ)と、堅苦しく詰問するような形になってしまったから、この女を招き入れるときにはもっと柔らかくしてみよう。そう思って道化を演じてみた。

 俺はこれを面白いと思う。だが同時に、面白くないと思う俺もいる。俺を俯瞰して眺めている俺は常に冷静であって、俺が“キモチの悪い事”をすると諫めてくる。

 

 

 愛、正義、友情、希望。俺はこれらを肯定し、否定する。面白いと思うし、同時に冷めた目で見ている俺もいる。

 

 

 どれも字面だけを見れば美しいことこの上ない。だがそれは結局、中にぎっしりと札束が詰まっている豪華なプレゼントボックスのようなものだ。外側は美しく彩られるが、本当に人を動かすのは“美しさ”ではなく“(利益)”である。

 俺は一六年という途轍もなく長い時間を生きてきた、それだけ生きていれば一つや二つ悟ることだってあるだろうよ。

 

 

 この機械文明から隔絶された世界に来てから、たくさんのモノを見てきた。ここは前の世界と比べて、金持ちと下民の距離がすこぶる近い。道を歩けば恰幅の違う人間がすれ違うのは当たり前だ。

 その中でも特に驚いたものの一つに“赤子”がある。前の世界でも見たことはあるが、この世界の赤子というのは皆まるっとしていて、喋らない。

 

 

 ……ま、当然と言えば当然なんだけどな!何せこの世界では、まだ蒸気機関すら発明されていないんだから、頭の中を這いずり回る無数の機械なんてお伽話の中にすらいないだろう。

 

 

 ホント俺の頃とは大違いだ……基本向こうでは、生まれる前から母体を通じてナノマシンを注入し、子の精神の成熟を早めるのだ。もちろんアーコロジーの豪邸に住んでいるような金持ちだけだぞ!

 

 

 だから俺は、赤い部屋(あれは多分胎盤の中だな)にいた頃から外界について学んでいたし、洪水のように内側に流れ込んでくる情報の濁流を、何とか制御しようと躍起になっていた。

 その気になれば腹の中にいるのにアニメだって見れたし、空間能力を鍛えるゲームだってできた。だが俺はどうやらかなり特殊な例だったらしい。

 こんな早くにナノマシンが体に馴染む例というのは、今までに存在しなかったらしいよ。

 

 

 そうして腹から出てきた俺は、とりあえず羊水を吐き出して気道を確保した後、実務経験とかっていうのを積み、とっとと仕事に慣れるためにすぐ会社を起こした。

 それで親の事業とか仕事とかを完璧に理解した後、親はサッサと事業を俺へ移譲してどこかに消えていった。もっと情報管理能力の高さを見習うべきだったかもしれない。俺は結局最後まで親を見つけることができなかった。

 負けたのがすこぶる悔しかったなー!

 

 

 そして所々非効率的な部分があった事業を綺麗に整理して、“完璧な金の鵞鳥”を作り上げた後、俺は肉体的な経験を積み始めた。

 古今東西ありとあらゆる剣術やら武術やら、そういったものを体に叩き込んでいった。

 するとどうだ、元々の才能とナノマシンの相乗効果で、まるでスポンジが水を吸収するかのように習得できるじゃないか!

 

 

 そうして二年ですべてを学び終わった後、俺は本格的に暇を持て余すこととなった。まあその結果いくつか“悟る”訳なんだけれども。

 

 

 それからはずーっと暇つぶしだ。ある時は消えても問題ないような人間を一か所に集め、銃を持った私兵に打ち殺させたり。

 ある時は『こんな世界でも僕たちの愛は本物なんだ!』などと臭い台詞を吐く男女の片方に、莫大な量の金(俺にとってははした金だけれども)をくれてやり、金に狂っていく様を観察したりなど。

 

 

 

 ………結局、世の中金だという結論に至るのだ。

 

 

 さて、ここで最初の疑問に戻る。そんな所謂“金至上主義”を信仰する俺が、この狂愛に身を焼く女を、果たして入れるべきなのだろうか?

 

 

 冷静な部分は否定する。だが俺は―――

 

 

 

 

 

 

「『消失の命令(バニッシュメント・ディクリー)』!」

 

 

 

 詠唱すると俺の指先から紫電が迸り、レイナースの顔を直撃した。

 命令、そう、レイナース(・・・・・)の顔を蝕む呪いへの命令である。この呪文は俗に言う“特殊呪文”という奴で、習得可能な魔法の上限数を無視して習得することができる。

 

 その代わり効果はフレーバー程度のモノしかなく、基本的にそのクエスト以外で使っても大した効果は得られない。ちなみに『刻印魔術』もこのタイプに分類される。あっちはスキルだけどな。

 

 

 視界が戻った後、顔の痛みが取れたことに気が付いたレイナースは、しきりに顔を触っている。

 

 

 

「え?え?え…、そんな。まさか、本当に…?」

 

 

「ふん、どうよ!少しは見直したか~?」

 

 

「見直したも何も…こんなにあっさりとっ……ぅぅ…」

 

 

「えぇーまた泣くのかよ…」

 

 

 

 どうやらこれは、泣き止むまで時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 治った!治った!治った!!

 私の顔が、顔が!!あぁ、この日をどれだけ夢見たことだろう…!もはや私を蝕むモノは何もない、何もないのだ!!

 

 

 未だ名も知らぬ恩人よ、感謝します。この恩は一生かけて返します。いえ、どうか返させてください。

 

 

 

 

 私に愛を分けてくださった御方よ。

 

 

 



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邪魔な物、いらないモノ

 

 

 

 荘厳なる空間の中で、一人無聊を慰め続ける。

 

 緩みきった雰囲気で椅子に座り玩具を弄り倒す。

 

 

 

 

 

 

 かちゃかちゃ、かちゃかちゃ。

 

 色鮮やかな正六面体(ルビクキュー)は、力を加えられ変形し、配色を変える。

 

 

 

 

 

 

 ここはスレイン法国の“聖域”、今は無き五柱の神々の、その装備品が眠る場所。

 

 

 この領域の外は常に騒がしい。この国の上層部の人間が、何が楽しいのか頻繁に会議を開くからだ。

 今も何やら、知恵者たちが幾人か集まっていたようだが、彼らも私への結果の伝達が終わったことで、各々の持ち場へと既に帰ってしまっている。

 

 

 

 

 

 

 かちゃかちゃ、かちゃかちゃ。

 

 彼らの一人が伝達に来た時、これは一面だけが完成していた。

 

 

 

 

 

 

 “唯一抜きん出て並ぶ者なし”。かつて、どこかの誰かが私の事をこう評したという。

 

 

 全く以ってその通りだ。この世界において私に敵う者など一人もいないのだから、この評価は妥当である。

 

 

 私と並ぶものは未だ現れず、相対(あいたい)する者たちは全て殺してきた。故に私は、『絶死絶命』である。

 

 

 

 

 

 

 かちゃかちゃ、かちゃかちゃ―――

 

 

 

 

 

 

「ん。ほら」

 

 

「どうしたよ?」

 

 

「揃った!二面!」

 

 

「……うん、良かったな」

 

 

「そうね…」

 

 

「…」

 

「…さて」

 

 

「…」

 

 

やる(・・)か」

 

 

「………………いいね♡

 

 

 

 正六面体は放り投げられ、主の手を離れた。

 

 

 新たなる支配者(重力)の手に渡ったこれは、その命令に従いゆっくりと下へ落ちて、

 

 

 

 砕けた。

 

 

 

 瞬間、二つ(・・)の人影が消えた。互いが音よりも速く動いたがために、周囲に置かれていた数々の宝物と、それを覆っていた埃とが宙を舞う。

 

 鐘だ。まるで撞鐘(つきがね)が打ち鳴らされたかのような音が、この空間に響き渡る。これはおおよそ、人の肉から発せられてよい音ではないだろう。

 

 

 

 周囲で暴れ狂っていた衝撃波が収まる。その爆心地には、身の丈には合わぬ大きさの戦鎌(ウォーサイズ)を持った女と、鈍色の光を放つ純銀製の手甲を着けた男があった。

 

 

 

「へぇー?今の、叩き切る気でやったんだけど」

 

 

「あぁそうなの?それだったら多分余裕だな」

 

 

「―――ッ♡言ってろッッ!!

 

 

 

 戦鎌と手甲による鍔迫り合いは、絶死絶命によって崩された。拮抗状態にあった()を手前にずらし、思い切り上に弾く。

 

 空いた男の右半身に黒色の大鎌が迫る。それは難無く躱される。

 

 

 

「まだまだァッッ!!」

 

 

 

 再び大鎌と手甲とが宙でぶつかり合う。二度、三度と金属音が響き渡る。

 

 先程の鍔迫り合いでは大鎌の背の部分を用いたが、今は違う。弾かれた勢いで空中へと撃ち上がった絶死絶命は、世界の法則に従い落ちていく。そして、くるり、と一回転。

 

 『絶死絶命』の持つ人外の膂力に、遠心力が加えられて振り下ろされた刃を、男が受け止める。

 

 

 

 黒と銀とが混ざり合う。

 

 

 

 体勢を変えられ、大鎌は再び振るわれる。相手の武器は金属製の手甲である。リーチは短いが、その分装備者の筋力が伝わりやすい。そのような武器だ。そのハズだ。

 

 だが不思議なことに、男は全く反撃をしてこない。

 

 

 

 同時に振るう三連撃、受け止められる。

 

 

 地を這うようにして接近し振り上げる、足払いで弾かれる。

 

 

 石突で首を狙う、掌で軌道を逸らされる。

 

 

 

 斬る、斬る。首を斬り、腕を斬り、胴を斬る。

 

 その全てが弾かれ、逸らされる。ああ。これではまるで児戯よ!血湧き肉躍る“死闘”では断じて無いわ!

 

 心の底からそう思う、だが同時に、もしもマトモに打ち合ったなら数瞬も持たないだろうというのが本能で解る。

 

 認めよう、完敗だ(・・・)。自分ではどうあっても、この男には勝てないだろう。

 

 

 ―――だが、ただで負けるのは『絶死絶命』のプライドが許さない。

 

 

 一度大きく距離を取り戦局を立て直す。ふと、ずっと無言でいた男が口を開いた。

 

 

 

「なんとまあ、随分と楽しそうじゃないか。それだけ強かったら苦労しただろ?」

 

 

「ええ、すっっっごく退屈だったわぁ♡だって私より強い人がいないんだもの。ま、自分を強者と思っている馬鹿に、身の程を分からせてやるのは楽しいんだけどね」

 

「でも、自分がこっち(分からせられる側)に立つ日が来るとは夢にも思わなかったわ!」

 

 

「おやぁ?そんなに強いのにか?」

 

 

「―――ふふっ、分かってるくせに♡」

 

 

 

 男の発する冗談すらも心地良い。この空間の全ての要素が私を昂らせていた。彼もそうだったらいいなぁ… 

 

 軽口を叩いている間に大技の準備は整った。大鎌から夜が零れ、それは私の身体からも湧き上がる。

 

 今までの敵は全て、これを放つ前に地に伏した。さあ!さあ!放たれることの無かった究極の一撃を、今、貴方に―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『“絶死絶命”殿!大丈夫ですか!?』』

 

 

 

 

 

 

「「死ね、ゴミ共が」」

 

 

 

 

 

 

 遂に夜が溢れる、その直前。空気はピンと張り詰め、彼も覚悟を決めて私の攻撃を受け止めようとしていた。あと少しで私の全力の一撃が放たれようとしていた。

 

 

 それなのに、雑魚共(漆黒聖典)が私たちの神聖な戦いに横槍を入れやがった!

 

 

 ああ、憎らしい、忌々しい、不愉快だ!

 

 結局夜は溢れることは無く。彼の抜身の刃の如き殺気も霧散した。

 

 互いに扱う得物は違い、けれど私たちの考えている事は同じだろう。言葉を発さずとも、魂でそれが理解できる。

 

 即ち―――

 

 

 

 

 

 

「「殺すゥッッッ!!!」」

 

 

「はッ?!え、な―――」

 

 

 

 

 

 

 この狼藉者どもを、殺す。

 

 

 



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永遠に理解できない事

 

 

 

「え?」

 

「―――ぐああああッッ!!腕がッ!俺の腕がァッ!!『神領縛鎖』!早く応援を呼べ!!」

 

 

「そんな……ば、『番外席次』ッ!!我らを裏切るというのかッ?!」

 

 

「何やってるぅっボーマルシェ!!突っ立ってないで早く―――かぁ”」

 

 

 

 右手にヒーターシールド、左手にタワーシールドを装備した筋肉達磨の両腕を、手刀でもって切り落としてやる。

 断面がぐちゃぐちゃになる手刀というのはこういう時に役に立つのだ。

 即ち、そう、あと少しで死ぬけれど、それ(死ぬ)までの間に少しでも強い痛みを与えてやりたい、そんな時に。

 

 そして、そんな達人芸を見せつけてまだ少ししか経っていないがお別れだ。

 首から下を残し『握撃(アクゲキ)』する。肺が潰れた時に押し出された空気が喉を通って、間抜けな音を出した。ああ、気持ち悪い。

 

 

 

「あー……キレた、キレたわー…おういおいおいおいおいおいおいおいおいやるねー君たちーこの俺を怒らせるなんてさー…どうなるか分かってるんだろうねー?」

 

 

「きょ、『巨盾万壁』…?そんな…」

 

 

「………おい、『番外席次』よう。なんか心折れちゃってるみたいなんだけどー?お前さんの所の特殊部隊メンタル弱すぎな―――おっと」

 

 

「グゥッッ?!フーッ、フーッ、フーッ」

 

 

 

 後ろにいた『番外席次』が勢いよく突っ込んで、ボーマルシェと呼ばれたガキを殺そうとしていたので襟を掴んで止めてやる。

 後ろにぐんと引っ張られ、少しえづいた彼女であったが、さすがはレベル九〇台。すぐに復帰して俺に文句を垂れる。

 

 

 

「何やってるの!?放して!!コイツを殺せないィぃ!!」

 

 

「ひぃぃぃぃいい!?」

 

 

「ああ、全く。お前はダメだ、ダメダメだなぁ。な、そう思うだろうぅ?ボーマルシェくーん」

 

 

「あ、あ……」

 

 

 

 先ほどからぶつぶつと呟くだけになったボーマルシェ君。よーく見るとズボンにシミが出来ていた。

 ……何だよ全く、漏らすなよー。膀胱緩いんじゃないのかー?

 

 抵抗は無駄だと判断した『番外席次』は、脱力してぷらーんとしている。

 

 

 

「いいかーい?『番外席次』。こういう、愚図でッ、いけ好かなくてッ、気持ちの悪いッ、どうしようもないゴミっていうのはッッ!!」

 

「…次に生まれる時に少しはマシな性格にしてやるために、“矯正”してやらなきゃいけないんだよ?」

 

 

「―――アは♡あははははははははは!!♡♡そうね!確かにそうだわ!ごめんなさい、私が間違ってたわぁ!」

 

 

「ふふふ!そう、そうとも!失敗から学ぶ、というのは知性あるモノの特権だからね!さあ、では“矯正”してやろうじゃないか!」

 

()は、間違えるんじゃあないよ?」

 

 

「あぁ…に、逃げなきゃ、逃げなきゃ!―――え?な、何だよこれ、ふざけんなよ!オカシイだろ!?」

 

 

「あーららーぁ、何だろうねーそれ?まるで空気の壁があるみたいだねー?いったい、どんなスキル(・・・)なんだろうねー?」

 

 

「ひ、ひゃああああああ!!!来るなァ!!こ、こっちに来るなァ!!!」

 

 

「なあ『番外席次』ぃ、その分だと痛めつけて痛めつけて痛めつけて、それから殺すってのはあまりしたことが無いんじゃないか?せっかく仲間になるんだし、一緒にやろうぜ?」

 

 

「いいわねー!なんかこう、共同作業って感じがして私は好きだよ♡」

 

 

 

 見えない壁に向かって鎖を走らせ、何とか壊そうとしているけれども無理に決まっている。逃げられるわけがない!もうお前は逃げられないんだ。

 

 顔を死人のように青白く染め上げて、ゆうっくりとこちらに振り返るボーマルシェ君。

 

 うん、まだまだ駄目みたいだな。もっといい顔ができるように教え込んでやらねばなるまいよ。それが先達の務めってものだからな……そうだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくして、いつまで経っても来ない『巨盾万壁』と『神領縛鎖』を連れて来させるために、『第一席次』が二人を探し回っていた。

 

 いつもは呼べばすぐに来るというのに、今日に限って来ないというのは明らかにおかしい。彼らの身に何かあったのではないかという予感から、彼は苛立っていた。

 

 

 だがその苛立ちもすぐに吹き飛ぶことになる。

 

 

 

「―――こ、これは…ッ!?」

 

 

 

 そこ(聖域の前)で彼が目にした()は。

 

 床に転がった一本の、金属と皮と肉とが混ざり合った赤い棒と、その傍に転がっている『巨盾万壁』の苦痛に歪んだ頭部だった。

 

 

 

「…ッ!『神領縛鎖』!『神領縛鎖』!!どこにいる、ん…」

 

 

「………ま、まさか…」

 

 

 

 『第一席次』は、固く閉ざされた聖域への大扉に力を込める。

 重厚な音が辺りに響き、扉は開かれた。

 

 まず目に飛び込んできたのは赤だ。次いで何度も嗅いだあの血生臭さがやってきた。

 

 血と、肉片と、そして『神領縛鎖』の身に着けていた装備の一部とが細切れになって散らばっていた。

 

 そして中央には肉の像が建っていた。

 

 何と悪趣味な芸術であろうか。まるでウエディングケーキのようなシルエットのそれ(・・)は、上下が逆になって、内臓と皮膚がひっくり返っていた。

 

 だが首だけは頂点に固定されており、それは。

 

 

 まるで天上の快楽を咀嚼して、味わって、それに魅了されたように。

恍惚とした表情をしていた。これ以上の快楽は無いとでも言うように。

 

 

 

 もはや声も出なかった。いったいどんな狂った感性を持っていればこんな悪趣味な物質を作ることができるのだろうか?

 任務の中で、何度も何度も何度も何度も死体を見てきた『第一席次』()ではあるが、私が殺した目標には、確かに誇りや尊厳といった“何か”があった。

 

 だが、目の前のコレ(・・)にそんなものは感じられない。

 

 

 

「生命への、冒涜………ん?これは…」

 

 

 

 この醜悪な像の頂点(『神領縛鎖』の右頬)に、これに刻み付ける形で描かれた(・・・・)マークがあった。

 

 このマークは法国に生まれたものであれば……いや、この世界に生まれて、どのような形であれ『六大神』の存在を知る者であれば、必ず知ることになる紋章である。

 

 

 

「『果て無き花園』だと…?そんなっ、いや。まさか…」

 

 

 

 自分の元同僚が悪趣味なオブジェになった事など、既に頭から抜け落ちていた。

 

 

 

(『破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)』が復活した方がまだマシだった…ッ!は、早く皆に知らせねば!!)

 

 

 

 彼は弾かれたように動き出した。肉の塊たちに背を向けて。

 

 この場に既に『番外席次』がいない事に、必死で気付かないフリをしながら。

 

 

 



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死の支配者の戦闘?

 

 

 

 密談の数日後。モモンガは交わした契約を履行するために法国へと訪れていた。

 

 国内の反対派閥の消滅も、謀略の停止も、両方とも我がナザリックの知恵者たちに任せておけばよい。

 だが、荒事だけは彼らに任せるわけにはいかないだろう。

 最終的に黎明華とやりあうのならばそんな事は言ってられない。だがそれでも、愛する子達にはあまり荒事を任せたくはない……そんな思いから、モモンガはパンドラだけを連れて移動して(転移して)きたのだ。

 

 

 

「なあパンドラ、お前は私が『番外席次』に勝てると思うかね?」

 

 

「勿論でございますとも!我が創造主たるモモンガ様であれば必ずや!法国最強の名をほしいままにする『番外席次』すらも倒せますでしょう!」役者として

 

 

 

「……そうか…そうだよな」

 

 

 

 正直言って、モモンガは不安だった。

 一応事前準備として、内通者から番外席次の装備や能力などを確認してはいるのだが、ユグドラシルには存在しなかった装備などを持ち出されるとどうなるか分からない、というのがモモンガの結論だった。

 よってモモンガは対『番外席次』用の切り札として、宝物庫からワールドアイテム『幾億の刃』を持ち出していた。

 

 初めの内は魔法主体で戦い、終盤には『完全なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)』、『幾億の刃』を用いて一時的に接近戦を仕掛け、デバフで苦しんでいる隙に大技を叩き込む。

 

 ………少々不安が残るが、ここは相手の本拠地だ。ワールドアイテムなんていくつあっても足りない。備えあれば憂い無しとも言うしなぁ…

 

 

 手に持ったアイスの棒みたいなやつ(早着替え用のアイテム)に刻まれた武器の名前を見ながら、そんなことを考えるのであった。

 

 

 

「さァてモモンガ様!準備の程は宜しいでしょうか?」役者として

 

 

 

「うむ、私の方は大丈夫だ。さあ、では『番外席次』の元へと案内してもらおうか」

 

 

「畏まりまし―――?!も、申し訳ありません!少々お待ち下さい!」

 

 

「…何だと?」

 

(ってなんか足音聞こえるー!これ極秘任務だから、誰かに知られるとやばいんだよ!!…いや待てよ?)

 

「パンドラ!!」

 

 

「分かっておりますとも!」

 

 

 

 モモンガとモモンガに変身したパンドラは、自身に『完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)』をかけ、そして慌てて部屋を出ていった密通者の後をつけていった。

 

 

 

 

 

 

 迷路のように入り組んでいる廊下を抜け、階段を何個か上った先の大広間、円卓が置かれているその部屋に、みすぼらしい槍を持った中世的な顔立ちの人間がいた。

 円卓の席はその殆どが埋められていた。筋骨隆々の老人、魔術師風の下着姿の女など、個性的な面々が揃い踏みだ。だが、皆一様に重い空気を纏わせている。

 おかげで円卓の空気は最悪だ。む、なんか黒いオーラが出てる気がするぞ?

 

 『占星千里』が部屋に入ると、険しい顔で椅子に座っていた男の表情が少しだけ柔らかくなった。

 

 

 

 

「『神遺滅槍』!急に呼び出すなんて、何があったのですか?」

 

 

「ああ、『占星千里』。君も無事でしたか…」

 

 

「…どういうこと?いきなり安否を問われるなんて。隊長である貴方ならそんな事わざわざ聞かなくても、私がどこにいるかなんて把握しているでしょう?」

 

 

「ええ、普通ならそうでしょうね。ですが今回ばかりはそういう訳にもいかなくなったんですよ」

 

 

「…?あれ?『巨盾万壁』と『神領縛鎖』はどこに?」

 

 

「死にました」

 

 

「え?」

 

 

((えっ))

 

 

 

 唐突な死亡宣告(カミングアウト)、これには完全不可知化していたモモンガたちも驚きを隠せない。

 

 

 

「ああ……お前も聖域に行って見てみるといい。ありゃあ酷いモンだったぞ?」

 

 

「『人間最強』…貴方がそこまで言うのですか?」

 

 

「オイオイ心外だなァ!?儂ァそんな血も涙も無い悪逆非道の冷血漢に見えるかい?」

 

 

「あなたの言う“冷血漢”でもあんなもの作れませんよ…」

 

 

「作る?一体何が作られていたというのです?」

 

 

「あー…マァそいつは一旦置いとくとしてだ。結論だけ先に言っちまえば………『絶死絶命』が『黎明華』関係の組織に連れ去られちまった」

 

 

「…」

 

 

(…)

 

 

(…)

 

 

 

 

「え?」((…え?))

 

 

 

 横にいたパンドラが間抜けな声を出したのを、いったいどうして咎められようか。

 

 

 

(俺たち、なんのためにここまで来たの…?)

 

 

 

 自分の計画が音を立てて崩れていくのを感じた。

 

 

 



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神を身に纏う

 

 

 

 あの領域から『番外席次』を連れ出す際に幾つかのアイテムを奪い返した(・・・・・)

 元はと言えばあれらは全て俺の物なのだから、俺の物置に入るべきだろう。『聖者殺しの槍(ロンギヌス)』や『傾城傾国』もあったが……『傾城傾国』はラナーにでも渡しとくか。

 ラナーは俺の仲間の中でも、特に戦闘能力で秀でているわけではないからな。その分軍略に於いては素晴らしいんだけども。

 

 何かあった時に真っ先に殺されうるのがラナーなんだよなぁ…ああ、全く。物置から良さ気なパワードスーツでも引っ張り出してくるか?

 

 運の良い事に、俺が昔気まぐれで創ったパワードスーツの中に、彼女のように戦闘能力を持たないプレイヤーにぴったりのものがあるのだ。ゆくゆくは全員『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』でレベル一〇〇にする予定だが、どうせなら俺と同じような能力構成ではなく無難な形で纏めたい。

 

 あいつらには、俺達(華園)みたいなピーキーな戦闘スタイルは似合わんだろう。

 

 ……まあそれはそれとして、ラナーは指揮官系スキルに特化させるつもりだ。彼女もきっとそれを望むだろうから。

 

 

 

 

 

 

 ドレスも着ずに平原を歩く。このような冒険を愛犬(クライム)達とすることができるなんて、過去の私は思いもしなかったでしょう!

 あの王城にあった見せかけの優美さからは得られない真の充足が、彼の手によって齎されたのです。

 

 皆でお喋りしながら草原を歩き、モンスターが出てきたら殺し、夜になったら焚き火を囲んで食事を摂る。

 なんて満ち足りた生活なのでしょう。あのギスギスしていた王宮とは大違いです……少し文句があるとすれば、度々襲いかかってくるモンスターに対して、私が全くの無力であることでしょうか?

 

 

 そんな事を考えていたある日の夕方、一日留守にしていた彼がようやく戻って来ました。

 

 

 

 

 後ろに女を2人連れて。

 

 

 

 

 ………なるほど、“英雄色を好む”とも言いますし、きっと(私やクレマンティーヌさんも含めて)そういう(・・・・)方々なのだろうと考えていたのですがどうやら違うようで。

 

 どうやら新しく仲間となる方々を勧誘しに行っていたようです。方や帝国四騎士の“重爆”、方や法国の切り札ですか!やはり彼は規格外の人物ですね!

 

 …さて、これによっていよいよ、戦えないのは私だけになってしまいましたね。どうしたものでしょうか?

 軍略や戦闘の指揮などでしたら私の得意分野なのですが…

 

 夜に行われた、新しく加わった仲間の歓迎会の最中、焚き火に照らされながら思案していると、杯を持ったローレンス様に声を掛けられました。

 

 

 

 

「そーんな浮かない顔してどうしたよ?折角の祝宴だぞ?」

 

 

「あら、心は読まないのですか?」

 

 

「読む時は読むし、読まない時は読まない。常に読んでると疲れるからな!それにだよ?」

 

「こういう場なら寧ろ、風情を重視する物じゃないかね?」

 

 

「……ふふ、そうですね」

 

 

「悩みぐらいなら聞いてやるさ。何てったって、俺は何でもできるからな!」

 

 

「…それでしたら、非力な私に戦える力を下さいませんか?いざという時に足手まといになるのは嫌なのです」

 

 

「もう少し黒い表情を隠して言えれば完璧なんだがなぁ……まぁ丁度いい。ついてきなよ」

 

 

「逢引ですか?」

 

 

「そうだとも」

 

 

「―――まあ!うふふふふ!情熱的ですね!」

 

 

 

 『黄金』である以前に私も女です。宴の熱気に晒されてか、はたまた酒精に当てられたからか。私は頬を少し赤らめながら彼の後についていくのでした。

 

 

 

 

 

 

「うーむ?これを…こうか?おっ行ったか!?」

 

 

「あのぅ、ローレンス様?この鎧はいったい何なのでしょうか?」

 

 

「ああ?あー、『赤の雫』っていうチームが持ってるって聞いたから、てっきりお前も知っているものだと思っていたんだが……コイツはパワードスーツさ」

 

 

「これもパワードスーツなのですか…私の知る型とは大分形状が違いますが」

 

 

「そりゃそうだ!特徴からして、『赤の雫』の使ってる物は骨董品レベルのヤツだからな…しかしよくあんなの残ってたものだよ」

 

 

 

 物置から引っ張り出してきた、昔コンテストに出したスーツをラナーに着せてやる。一応その前に『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』でレベル一〇〇にしておいたから、万が一暴走しても大丈夫なはずだ。

 

 初めて着たパワードスーツが面白いのか、手を握ったり開いたり、ジャンプしたりなど楽しそうに動き回っている。

 

 

 

「こんなに複雑な構造をしているのにすごく軽いんですね!」

 

 

「うむ。あ、因みにそれ生存特化型のヤツだから、それ着てれば余程のことが無い限りは死なないぞ」

 

 

「……もし死ぬとすればどのような状況なのですか?」

 

 

「えー?うぅむ、それは確か『ヴァルキュリアの失墜』の一年後ぐらいに造ったから……たぶん『隕石落下(メテオフォール)』なら二発まで耐えられるな。『現断(リアリティ・スラッシュ)』は確実に無理だ」

 

 

「そ、それはどれぐらいの威力なんでしょう…?」

 

 

「あ”ぁ”ーっ”……うん、第十位階魔法以下の魔法なら二、三発は耐えられるよ」

 

 

 

 最後はメンドクサくなったので投げやりになってしまったが、でもこのパワードスーツの性能は本物だ。

 なんせコイツはパワードスーツの歴史をガラッと変えることとなった機体だからな。

 

 

 

 

 

 

 まだユグドラシルが全盛期だった頃の話だ。その時に行われた史上最大級のアップデート、それが『ヴァルキュリアの失墜』だ。

 

 俺がよく嗅覚を使っている種族の自動人形(オートマトン)もこのアップデートで追加されたものだぞ!

 

 さて、そのアプデで追加された装備アイテムの一つに“パワードスーツ”というのがある。

 これは運営が新規プレイヤーを呼び込むために実装したアイテムで、装備者のレベルが低くてもある程度の強さを発揮することができるという優れモノなのだ。

 

 実は、その当時流行っていた別ジャンルのゲームから新規を引き抜きたいなんて思惑もあったらしいが…

 

 まあそんなこんなで実装されたパワードスーツだが。初心者しか使わないなんてワケも無く、一部のメカ好きや生産職のプレイヤーから絶大な支持を受け、様々な型が作られたのだ。

 

 『赤の雫』が使っているのは第四世代らへんの、まだまだ初期の頃のヤツみたいだ。知ってるやつに『記憶操作(コントロール・アムネジア)』したから間違いない。

 

 

 ん?今ラナーに着せている奴は第七世代だぞ。

 

 

 

「しかしこれは、ちょっと体のラインが出過ぎな気もしますが?」

 

 

「このころから多重装甲を作れるようになったからな。軽量・高機動・高耐久を兼ねるにはそうする必要があったのさ。あ、首元のチョーカーを触れば瞬時に装着できるぞ」

 

 

「…っ、わぁっ、ひゃ?!」

 

 

「別にそんな高速で押さなくても…」

 

 

 



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至高天、極星

 

 

 

 鞘に納めた刺剣(スティレット)を抜き、突く。

 たったそれだけの行為。人を殺すために研ぎ澄まされた、これまで何千何万も繰り返した行動だ。

 

 だからこそ、変化があれば不都合も出る。

 

 

 

(チッ…これじゃあやり過ぎ(・・・・)じゃんか…)

 

 

 

 ローレンス(ぷれいやー)の魔法によって、私は遂に英雄の領域を突破した。あの流れ星は間違いなくあの時の私にとって吉星であった。

 

 だが現在の私であれば、あれを凶星と言うだろう。

 

 私の戦闘スタイルは一対一での同格、もしくは格上相手の戦闘を考慮して編み出したものだ。

 武技〈能力向上〉〈能力超向上〉を重ね掛けして機動力を底上げ、弱い攻撃と殺す一撃を織り交ぜ相手を混乱させて、完全に私を見失った所で確実に殺す。

 

 こうして纏めてみれば何も問題は無いように思える。現に私は、実際に力を手に入れてからでないと気付くことができなかったのだから。

 

 

 一番の問題は力加減ができないことだ。

 人間を殺すのに必要なダメージを一とすれば、現在の私は一〇〇以上のダメージで殺している。これではあまりに過剰だ。

 

 最早この世界には圧倒的な格下しか存在しないというのに、一人殺すのに毎回一〇〇の力を使っていたらスタミナがいくらあっても足りない。

 

 

 一度息を吐き思考を落ち着かせる。一旦休憩にしよう。

 ……と言っても、あの星を受け入れてから疲労なんて感覚は無くなってしまったけれど。

 

 大木の陰で涼み、抜き身のスティレットを遊ばせる。

 

 木漏れ日の光を反射して“黒晶鉄鉱(ダーククリスタルメタル)”の刃身がキラリと輝いた。

 

 

 

「綺麗………でもやーっぱ違うなぁ…」

 

 

 

 重さが違う(・・・・・)。これが第二の問題だ。第一の問題にも繋がるが、この刺剣はあまりに軽い。軽すぎるのだ。それこそ眠っているジジイ(フールーダ)の頭の上に乗せても気付かれないくらいに。

 

 私の戦闘スタイルは、元々使っていたスティレットの上に成り立っている。あれも一級品(これと比べればゴミ以下だが)ではあるものの軽量化の呪文なんて込められていなかった。その分のリソースはすべて攻撃に振っていたのだから、当然と言えば当然なんだけれども…

 

 

 使う武器の勝手が違い、それを振るう私の肉体も異なる。これでは戦闘中に違和感が出るのも当たり前だ。

 

 

 だからといって今更己の難度を下げるわけにもいかない。早くこの二つに慣れるしかないのだ。

 

 

 

(やってやるさ。何てったって、私は“英雄”…クレマンティーヌ様なんだから)

 

 

 

 そしていつか、あの高み(塔の頂)へ。

 

 

 

 

 

 

 慈悲の短剣を掲げ空を仰ぎ見る至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)。その胸には黄金の星が輝いていた。

 

 

 



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栄光、理解

 

 

 

 自らの内に有る魔法を理解し、そして完全に我が物とする。

 フールーダにとって魔法の研究とは苦痛であった。自分が最先端にいるからこそ、私には、その後ろにいる何千何万という凡夫どもしか残されていない。

 

 師なんてモノは存在しなかった。ただ暗闇の中を手探りで進むだけだった。

 

 

 けれどもいつしかその暗闇は晴れ、目の前に理解が広がった。

 

 

 

「ふゥむ……“感覚的に魔法を習得する”というのはこのような感覚でありましたか。これでは『教えられない』と仰るのも無理はないですな」

 

 

「そうだろ?いやぁ、そんなもんだからイザ仕組みを理解しようとしてもそもそも分からない(・・・・・・・・・)なんてことが起こるのさ。だが理解できる人間がいるなら話は別だ。こんな風にお前の作業を見ていれば、大体どういう仕組みか分かるからね」

 

 

 

 横でふわふわと浮きながら他人の作業を流し見る。そのような適当なやり方で魔法の仕組みを理解できるなどという存在、これまでの人生で一度も聞いたことが無い。

 

 

 この御方は規格外だ。天才やら人外、悪魔、知恵の神などという範疇なぞとっくに超えておられる。

 

 

 どれほどの高位存在であれば、感覚で行使していた力の仕組みを完璧に理解できるのだろう。しかも下地が全くない状態で!

 

 数の概念を持たぬ者に投石器の弾道計算の方法を教えるのと変わらない、と言えば、この異常さが理解できるだろうか。

 

 

 

 

「んー…?なる、ほ、ど?こっ、れっ、はー…」

 

 

 

 今度は横でカチャカチャと二つ折りの浮遊板(フローティング・ボード)を(“ぱそこん”と言うらしい)弄り始めた。こわい。

 先ほどから私の手元を見ては『味見(テイスティング)』をして、何かを思いついたらあの“ぱそこん”とやらに打ち込む、の繰り返しだ。

 本当に。一度でいいからこの方の頭の中を見てみたいものだ。どのような手順で思考しているのか非常に興味があるのだが…

 

 

 

「んー。止めといたほうがいいぞ~」

 

 

「…ああ、申し訳ありませぬ、ローレンス殿。思考の邪魔でしたな」

 

 

「いやぁ~そんなこと無い無い!ちょうど休憩にしようと思ってた所だからな。ほれ、差し入れだよー」

 

 

「ありがとうございます…これも菓子ですか?」

 

 

「おう、チョコレートってやつだ。ある植物の種を磨り潰して作る菓子だよ」

 

 

「ふむ……む、甘い」

 

 

「だろー!?まぁホントは果肉の方が美味いんだけどな」

 

 

「………そうなのですか」

 

 

「むくれるなよ~!ほらこっちが本体だ」

 

 

「おお!これが…“ましゅまろ”のようですなぁ」

 

 

 

 ローレンス殿が出してくださる菓子などを食べながら、他愛もない話に花を咲かせる。

 

 ふと先ほどの事が気になった。

 

 

 

「そういえばローレンス殿。もしも私が『記憶操作(コントロール・アムネジア)』を使って貴方の記憶を覗いたなら、どうなるのですか?」

 

 

 

 私の問いに、宙に寝そべりながら茶を飲むローレンス殿がお答えになる。

 

 

 

「そうだなぁ…そもそも魔法が効かないだろうが…」

 

 

「もしもの話ですとも」

 

 

「…うーん……どうなるんだ?たとえ見れたとしても理解できないと思うぞ?多分な」

 

 

「そうですか………いったいどれだけの時間があれば、御身に届くのでしょうなぁ」

 

 

「ん?」

 

 

「私もかつては三重魔法詠唱者(トライアッド)などと称えられておりましたが、結局のところ才能は天才の域を脱しませんでしたから。貴方様のような規格外の能力を持つ御方が、ひどく眩しく思えてしまうのですよ」

 

 

「んんんんんんー。フールーダも十分すごいと思うんだがねぇ?」

 

 

「それでも、です」

 

 

 

 言いながらつい考えてしまう。ただ憧れているだけではこの方に並び立つことはできないと。

 

 己に憧れを抱く者ほど御しやすいモノは無い。現に私は、そのような者達を手駒として扱っていたことがあるから、身に染みてよく分かる。

 

 

 いつか、いつか理解してみせるとも。

 

 

 この『インペリアルシークレットマンション』に差し込んでくる、夏の温かい日差しに当てられて、つい眠くなってしまう。

 そういえばこの頃眠っていなかったとこのタイミングで思い出した。

 

 

 

「おいおいおい、睡眠は大事だぞ?眠らないと理解も深まらないからな」

 

 

「…分かっておりますとも」

 

 

「………まあいいさ。ほら、『睡眠(スリープ)』かけてやるからとっとと眠れ。お夕飯の頃には起こしてやるから」

 

 

「いえ、流石に、御身にそこまでしていただくのは―――」

 

 

「いいんだよ!ほら〈睡眠(スリープ)〉!〈睡眠(スリープ)〉!〈睡眠(スリープ)〉!!」

 

 

 

 あ、マズい。このまま寝たら資料が―――

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、眠ったか。全く…〈飛行(フライ)〉」

 

 

 

 崩れ落ちるように眠ったフールーダを浮かせて、ソファの方へと移動させる。

 

 

 

「今日の研究は終わりにしとこー…まだまだ飽きたくはないからなぁ」

 

 

 

 そこらへんにあった上着をかけてやり、俺はその場を去った。

 

 

 

 

 

 

理解できぬものを理解するために夢を見る。ただそれだけの話だ。

 

 

 

 今は夢の中にいる栄光の悪魔(レリウーリア)。王冠に設えられた十の宝石は、まだ怪しい光を放つのみである。

 

 

 



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暗月、欲望

 

 

 

 愛への渇望は欲望となり、癒えぬ飢餓感を私に与え続ける。

 

 

 

 美しき芸術品のような大槍を振るう。

 

 かつて“重爆”と呼ばれていた頃の戦い方とはまるで違う槍の扱い方は、ローレンス様から星を頂いた後に編み出した技であった。

 

 

 華麗に、流麗に、それでいて鋭く、柔らかく。

 

 

 まるで水のように、変幻自在。それこそが私の目指す場所だ。

 

 

 

 いつかあの方に心から美しいと言ってもらえるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 草や木すらも眠ってしまった頃、私は外に抜け出して化け物どもを狩っていた。

 ゴブリンやトロールの小集団に単騎で挑み、そして血祭りに上げる。

 

 

 三つの集団を切り伏せた後、私は草原に寝そべり月を見ていた。

 

 

 

「…あの月が、今振るった槍の素材だなんて」

 

 

 

 なんとも可笑しな話である。だって、月はあんなに遠く、空高くで輝いているというのに、それを素材にして削り出された武器が、はたして存在してもよいものだろうか?

 

 

“フルムーン・クリスタル”。月の最も明るい所にある結晶なのだとか。

 

 

 まったく。彼と出会ってからというもの驚いてばっかりだ。

 あの時私の前に現れてカッパーのタグを自慢げに見せつけてきた侵入者が、まさか“果て無き花園”の主だったとは。

 彼の仲間から初めて聞いた時は自分の正気を疑ったものだ。

 

 

 

「よいしょっ、と」

 

 

 

 腹筋の力だけで起き上がり、傍に置いていた槍を持つ。

 ……やはり軽い。まるで羽のようだ。過去に握ったどんな槍よりも軽い。それなのにちゃんと肉を断つことができるのだから、彼の技術力には驚かされる。

 

 なんとなく思い立って、宙を斬ってみる。

 

 

 

「―――はぁっ!」

 

 

 

 しゃん、と、鈴を転がすような音が響き、斬撃が草を薙いだ。

 殆ど力を込めずに振るったというのに草原が綺麗に均されてしまった。

 草の破片が風に吹かれて舞い上がり、青臭い臭いが辺りに広がる。

 …これを見てしまうと、見た目は人間のままであっても、本当に別の種族(異形種)になったのだと信じざるを得ない。

 

 

 

「綺麗な音…」

 

 

 

 意味も無く振るわれた一撃は次第に数を増やしていく。

 無秩序な軌跡は徐々に舞となっていく。月光が形を成していく。

 

 

 もっと早く、時に遅く、緩急をつけて、けれど鋭く。そして何より―――

 

 

 

 ―――美しく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……少々やりすぎましたわ…」

 

 

 

 

 詰まるところ、これはただ美しいだけの舞では無かったという事だ。

 

 夜もそろそろ更けてきて、空に別の色が混ざり始めた頃。レイナースは破壊の中心で頭を抱えていた。

 辺りはまるで巨大な竜が暴れ狂ったように抉り取られ、削れ、土が露出していた。

 

 はてさてどうしたものか、と彼女が頭を悩ませていると、突如草が意思を得たかのようにうねりはじめ、地面を覆いつくした。

 

 

 急成長した草が元の長さに戻ると破壊の痕跡は跡形も無く消えていた。

 

 背後から草を踏む音が聞こえてくる。振り返って見れば、ローレンスが立っていた。相変わらずあの仮面は着けたままで。

 

 

 

「おはようさん。レイナース?」

 

 

「…ええ、おはようございます。ローレンス様」

 

 

「今日もまた派手にやったねぇ!だが綺麗だったとも!大分上達したんじゃないか?」

 

 

「そう言ってもらえるのは嬉しいですわ。でも…」

 

 

「まだ完成してるわけじゃない。だろ?いいんだよそんなの、それは時間が解決する問題だからな」

 

 

「………そうですね」

 

 

「さ、帰るか。そろそろあいつらも起きる頃だろうしな」

 

 

「はい……ローレンス様」

 

 

「ん?」

 

 

「私の槍は、美しいですか?」

 

 

「……ああ。美しいとも」

 

 

「…そうですか」

 

 

 

 その答えに少しだけ満足して、そして今日も帰っていく。

 

 

 

 朝陽に照らされる月棲獣(ムーンビースト)。弦なき強弓で、何を射るか?

 

 

 



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せっていくん

読み飛ばしても問題ないよー


 

 

 

『《名称不明》』『世界意志(ワールドセイヴァー)』『支えし神(アトラス)』『ホーリーグレイル』『傾城傾国』『三不剛弓』『七つの首、十の王冠』『イェリコの崩笛(ほうてき)』『終わりの螺旋(ラスト・ヘリックス)』『1~4の門(アンケ取りたい)』、『羅刹門』『遥かなる極星』、『夜を照らすもの』『愛恋の神(エロース)』、『叡智の王笏』下ネタだろこれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)” クレマンティーヌ

 

 

 一番初めに加入したからその分他のメンバーよりもイキってるでしょ。もっとマウント取れ取れ。

 

 戦闘能力同列二位。最終的に同列一位になってほしい。なれ。

 

 ただ一番悩んでるのも彼女。突然降って湧いた力に振り回されて、でも今までの戦闘パターンを変えたくないから人の倍努力している。同情されたくないから陰に隠れてやってるよ。

 元々血を吐くほどの努力をしてた天才。今は血を吐くほどの努力に融通の利かない体がセット。

 

 すばしっこく、力が強く、けれど打たれ弱い。でもそこは装備(特に〈遥かなる極星〉)でカバーしてる。当たらなければどうという事はない!

 

 始めは風化聖典からの隠れ藪9割&崇拝対象1割。今はフールーダの「好き♡(迫真)」で、神が自分(達)を見下さず対等に見てくれていると知り、見放されないように力を求めた。

 今は後悔5割、崇拝4割、それらに包まれる形で愛情っぽい何かが1割。

 

 

合計レベル 一〇五

 

種族レベル 二〇

 

 至高天の熾天使(セラフ・ジ・エンピリアン)Lv10 ホーリー・ウィンドLv5 コンラッド・オブ・アルカデイアLv5

 

職業レベル 八五

 

 ファイターLv8 マスターファイターLv10 ホーリー・パニッシャーLv5

 

 パラディンLv5 ワルキューレ/ツインソードLv5 ナイツ・オブ・ホーリーグレイルLv10

 

 デストロイヤーLv10 チョーセン・オブ・エンジェルLv10 ハイプリエステスLv10

 

 マスター・オブ・スカイLv2 アグレッサーLv5 イレーネLv5

 

 

“あゝ黄金の星よ。遥かなる極星よ、我を護れ。あらゆるものから、其の熱でもって。”

“触らないでください。知ろうとしないでください。興味を持たないでください。どうか、どうか…”

“汝、奇跡を欲するか。然らば三度(みたび)我を煽り、そして正しく嚥下(えんげ)せよ。”

 

 

 

栄光の悪魔(レリウーリア)” フールーダ・パラダイン

 

 

 2番目に加入。智の求道者。戦闘力一位。

 

 自分の中に突如生まれた見知らぬ呪文(レベルアップ時に取得する系呪文)に戸惑いを隠せない。

 今はそれらを必死に研究している。自分のことを所詮天才と卑下してるけどこいつもたいがいヤバい。なんでナノマシンも無いのに六千もある魔法を全部覚えられるの?お爺ちゃん狂っちゃった?

 

 

「楽しいからやっているだけですとも」

 

 

 わぁ。

 

 趣味は家事、甘党 。よくケーキ焼いてるよ。糖尿病の心配が無くなったからたくさん食べてるぞ。なに?生クリームが足りないな。ついでに蜂蜜もかけてやろう。

 好きな食べ物はお汁粉。緑色の不思議な茶と相性がいい。なんでだろうね?

 主食ならパスタ。なにっ、オリーブオイルか…

 

 非常に打たれ弱いし、撃たれ弱い。魔法防御では最強。当たったら回復する。かも?反射にしようかな。

 

 初めから信仰10割、崇拝10割、畏怖100億割だったけど、落ち着いた後は冷静な思考を取り戻して今では魔力量を見ても慣れている。

 

 魔力量だけ見ればモモンガよりリンゴ3個分ぐらい多い。

 ワールド・ディザスター&異業種やってるから威力もこっちのが上。

 でも一戦で撃てる魔法の量はモモンガのほうが多い。

 なんかワールド・ディザスターってパッシブで“ルーサットの輝石杖”してる職らしいよ。

 

 

合計レベル 一〇五

 

種族レベル 二〇

 

 栄光の悪魔(レリウーリア)Lv10 最上位悪魔(アーチデヴィル)Lv5 コンラッド・オブ・アルカデイアLv5

 

職業レベル 八五

 

 ウィザードLv8 マスターウィザードLv10 ワールド・ディザスターLv10

 

 イービル・キャスターLv5 ホーリー・キャスターLv5 セブン・ヒルLv7

 

 シュプリーム・ウィズダムLv10 チョーセン・オブ・デーモンLv10 オリジン・チャンターLv10

 

 アグレッサーLv5 オールノウイングLv5

 

 

“我が(かしら)に十の宝玉在り。知恵ある者よ、我が眼前にて跪くがよい。”

“我が()に獄門在り。正義を騙る者よ、我の前より去るがよい。”

“我が(かく)に支えし者在り。我を欺かんとする者よ、心せよ。”

 

 

 

姦淫の女王(バビロン)” ラナー

 

 

 3番目。ただのラナー、でも能力は本物。単純な戦闘力は最下位。もしかしたら諸々含めてぶっちぎり一位かも?

 

 本人自体には戦闘能力は無いけど、首のチョーカーでパワードスーツ着れる。スゴイ!

 

 

「ふふふ♡まるで犬になったみたいだわ♡わんわんっ♡」

 

 

 …お前惚れてんの?惚れてないの?どっちなんだい!やー!

 

 甘味辛味どっちも好き。よくフールーダのケーキ食べてるよ。クライムの分はスパイス入り。辛い。もだえ苦しむがいい。

 そういえばこの前カレーうどん食べてた。フォークで。フォークで?!

 好き嫌いは特に無い。いい子。でも納豆は無理(異世界人なら全員じゃないか?)。え、腐ってますよコレ?大丈夫?お腹壊さない?でも気にせず食べるローレンスを見て少し引く。皆も引いてた。酷くない?

 

 初めは恐怖百割、後からは謎-MYSTERY-。何考えてるの?

 

 自我が確立する前から自分を偽って生きてたら自分の本心が分からなくなるんじゃない?聞いても笑顔ではぐらかされそう。

 精神的異業種ってなんぞやって話よ。人を人と思わない?大局のために自分を切り捨てられる?目的のためにホイホイ裏切る?

 

 もし最後のだったら簡単かも。ローレンスが一番安心できる存在だから、ローレンスが死んだら“だれにも自分の夢は叶えられないんだ”と絶望してクライムと自殺か駆け落ちしそう。

 …あるとするなら、他者の苦しみや健気な所作を見て愉悦に浸っちゃう系『惚れ』しか知らない状態で“世間一般で言う”“普通の”『惚れ』をしてしまったから、自分の気持ちが分からないとか?

 

 でもね?無意識下で考えていた、王国が滅んだ後の自分の運命っていう枷から、完璧な形で解放してくれたから………多分惚れてるんじゃないの?オラッ白馬の王子サマだぞ!どうですか?

 

 

「うふふふふふふふふふ♡♡」

 

 

 あっあっあっそうっすか。(こわE)

 

 指揮官系スキル最大に加えハイエンプレスLv10、アクトレスlv5(最大レベルだよー)を持ってるから全自動傾城傾国状態。完璧に演じれるし、何なら言葉一つで自分に対して殺意しか抱いてない敵を寝返らせられる。中身も本物のこと考えてるみたいなカンジ。

 

 ただ『味見(テイスティング)』みたいな種族固有スキルで覗かれたら無理。ピーピング魔法完全対応!ニュートロストなら多分いけそう。タブラ・スマラグディナ(脳喰らい)なら百パーいける。

 

 

合計レベル 一〇五

 

種族レベル 二〇

 

 姦淫の女王(バビロン)Lv10 最上位悪魔(アーチデヴィル)Lv5 コンラッド・オブ・アルカデイアLv5

 

 

職業レベル 八五

 

 ジェネラルLv10 カーネル・ジェネラルLv5 ドミネイターLv5 サモナーLv10 ワールド・サモナーLv10

 

 アクトレスLv5 カーマ/マーラLv5

 

 マスター・オブ・ヴォイスLv5 チョーセン・オブ・デーモンLv10

 

 ハイエンプレスLv10 ハルモニアLv5

 

 

“私に全てを差し出して。貴方の運命は私の手中にある。”

“我が頭脳は加速する。凡百の人間には計り知れぬ真の叡智を見るがよい。”

“さあ、絶頂に身を震わせよう。その指、その吐息、その眼差しが私を狂わせる。”

“これは大逆である。審判を告げる喇叭(ラッパ)の音を響かせよ、愚か者共にも聞こえるように。”

 

 

 

 

 

 

輝ける月棲獣(グリッター・ムーンビースト)” レイナース・ロックブルズ

 

 

 4番目に加入。メカクレ!可愛い!イエーイ!三位。

 

 上からも下からもそうあれと望まれて、領民を愛するようになった。でもそれまで言われるがままに自分が愛していた領民、家族、恋人の全部に裏切られ、石を投げられて、唾を吐かれた。

 結果本当の愛を欲するようになる。どんな歪な形であっても、それがレイナースにとっての愛であればいい。まだ定義しきれてないから自分の内の“愛”以外は全部まがい物!こわいよ!物騒じゃないか?

 今まで温室で育ってた愛しか知らない純粋無垢な少女に、いきなり人糞投げつけてみろ、トラウマ棒捻じ切れて360°回転するぞ。

 

 

「困りますわ…」

 

 

 すまんかった。代わりにクッションにしとくね。

 

 たいへーん!そんな中怪人不審者仮面登場!炎天下で水を強奪されてついでにトラウマを刺激されるわよ。

 そのトラウマ刺激してきた不審者に傷を治されて情緒はもうぐちゃぐちゃよ!あばばばば。

 トラウマを刺激してきた悪人が自分の傷を癒した善人になった。愛するし憎む。

 

 初めは不審者。後から愛99998 対 憎2

 

 フールーダ印ケーキの被害者。五十年ぐらい焼いてたらもう達人の域なんだよ。でも動き回ってるから無問題。

 好きな食べ物は細めの麺類。猫舌だからあんまり熱いのは無理。貴族だからかな?(毒見とかで冷めたものしか食べられなかった)

 

 ただ美しいだけだったら他に3人ライバルがいる(と思ってる)から、自分は槍でアピールする。彼は武芸に堪能だったのでたぶん行ける、と思う。

 原作とか二次創作とか関係なく、ヤンデレ化した時の恐ろしさラナーと同列一位じゃねーかこいつ?

 

 

合計レベル 一〇五

 

種族レベル 二五

 

 輝ける月棲獣(グリッター・ムーンビースト)Lv10 ムーン・ルーラーLv5 最上位悪魔(アーチデヴィル)Lv5 コンラッド・オブ・アルカデイアLv5

 

職業レベル 八〇

 

 レンジャーLv1 ハイ・レンジャーLv1 ランサーLv4 ハイ・ランサーLv5 

 

 アーチャーLv10 ハイ・アーチャーLv10 ワールド・アーチャーLv10

 

 チョーセン・オブ・デーモンLv10 マジシャンLv5 スリー・シールズLv3

 

 マスターアサシンLv1 ウェポンマスターLv10 オールマイティLv1(最大レベル)

 

 マスター・オブ・スカイLv2 マスター・オブ・プラトーLv2 マカリオスLv5

 

 

“あの儚き蠟燭を撃ち消せ、あれだけでは到底足りぬだろうから。”

“我を醜い、弱き物だと思うかね?”

“触らないでください。知ろうとしないでください。興味を持たないでください。どうか、どうか…”

 

 

 

・『番外席次』

 

 5番目。いい名前が思いつかないまま時間が経ち、気付けば公式から本名が発表されてた人。良かったね!

 

 元現地人最強。現在仲間内強さランキング同列二位。でもタレントがぶっ壊れてる~。

 

 一世紀の間待ち望んでいた自分を倒して屈服させてくれるヤツが現れてもう大変!一番好き好きって表に出してるでしょ。多分。

 

 

「手を繋げばいいんだっけ?」

 

 

 お、おばあちゃん?ピュアか?…流石にありえないかな?

 

 ケーキはあんまり好きじゃない。どっちかといえば肉が好き。クレマンティーヌに肉をたかりに行け。嫌がりながらもちゃんと焼いてくれるクレマンティーヌ、偉い。

 塩加減が絶妙、何杯でもおかわりできる。いっぱい食べろ。タレ?ふっ、邪道だよ。

 

 星を受け入れてビルドをいろいろ整理した結果、無駄なレベルが変換されてパワー約1.3倍!原作番外ちゃんVSうちの番外ちゃん、全く同じ装備で戦ったら100回やって100回勝つよー

 武器はもちろん大鎌、でも黎明華製。つよい。装備もへんな感じじゃなくてかわいいけどちゃんとしたの着せたい。

 

 ところで画像見たけどあれ実用性皆無じゃない?なんで利き手じゃないほう防御してるんだよ。足も両方ガード着けろよ。何のための防具だ、転んでケガしたらどーすんの。痛いよ?

 見た目重視だぁ?馬鹿言ってんじゃねぇ現実見ろ!んー?その装飾ホントに必要なのー?重量とデータの無駄じゃないか?機能美を追求すればいつの間にか見た目もよくなるんだよ!

 ローレンスの設計思想はだいたいこんな感じ。

 

 

合計レベル 一〇五

 

種族レベル 二五

 

 根源の主精霊(プライマル・エレメンタルロード)Lv10 妖精女王(フェアリー・クイーン)Lv10 コンラッド・オブ・アルカデイアLv5

 

職業レベル 八〇 

 

 ファイターLv8 マスターファイターLv10 バーサーカーLv10 

 

 エレメンタル・ファイターLv5 ロード・オブ・ア・ダークネスLv5 四門の支配者Lv4 螺旋の主Lv3(最大レベル)

 

 ブレッシングLv5 チョーセン・オブ・フェアリーLv10 ワルキューレ/サイスLv10

 

 マスター・オブ・スカイLv5  ネフェレLv5

 

 

“貪欲の罪。暴食の罪。憎悪の罪。憤怒の罪。さて、この対価はいつ求めるべきか。”

“殻が割れるとき。”

“教えてくれ。なぜ奴には照らしてくれるモノがあるのに、私には無いんだい?”

 

 

 



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姦淫、叡智

 

 

 

 もしも何か良からぬことが起きたらこの棒を折りなさい。

 

 直ちに服が着替えられるから、後はお前の好きなように。

 

 

 

 

 

 

 超常の力を持つマジックアイテムと、クライム、そして幾匹かの魔物たち。これらが現在私の扱える駒である。

 

 さてさて、どのようにすれば自分の価値を示すことができるだろうか。

 

 ここ数日の間ラナーはそればかりを考えていた。

 

 

 

(とは言っても、実際に活躍しようとしたらそれこそ、戦争でも起こさないといけませんし…)

 

 

 

 名目上はまだ王国の姫ではあるものの、自ら進んであの空間に戻りたいとは思わない。

 今は私の召喚した『二重の影(ドッペルゲンガー)』が私の代わりを務めてくれている……というかそもそも、本来私の立場では内政に深く関わることなどできないのですが。

 だから彼女たちには専ら怪しまれないよう、椅子に座って微笑んでいるように命令しているのです。

 

 

 

 

「そうですね……〈伝言(メッセージ)〉。『八番さん?聞こえていますか?』」

 

 

『ハッ、問題無く聞こえております。ラナー様!』

 

 

『実に良いことです。それでは伝えますね…“三日後までに戦士長を焚き付けて八本指の支部の一つを潰しなさい。彼も始めは拒否するでしょうから、こちらから送る剣を、元はクライムへのプレゼントだったと偽り渡しなさい。”』

 

『“成功した後は戦士長を消そうとするでしょうから、その都度人員を送ります。それらを指揮して戦士長を援護しなさい。八本指は、戦士長の正義の心によって、王国より切除される。たとえ国を裏切る事になっても”………よくよく覚えてくださいね?』

 

 

『かしこまりましたッ!』

 

 

 

 自分の分身が元気よく返事したのを聞いて〈伝言〉を切る。そしてため息を一つ。

 

 一応これで、内輪揉めを引き起こすだけの“きっかけ”を作ることはできました。後はこれをどうするかですが…

 

 八本指と、そしてそれを指揮する六腕の面々と、それを裏で操る者ども。これらが今の彼女にとっての悩みの種だった。

 

 

 

(“私”がいなくなった途端国政が上手く回るようになるなんて…酷いではないですか)

 

 

 

 どうせやるなら“私”が居た時にやってくれればよかったのに。そう思わざるを得なかった。

 

 そう。『黄金』の頭脳を以ってしても、あの心優しき国王や傲慢な第一王子が首を縦に振るなんてことは予想できなかったのだ。

 

 

 

「『“傭兵組織の長”を名乗るゼロという男が、国王の麾下に付いた』………はぁ。ゼロ、ゼロですか…」

 

 

 

 その名前は、かつて私が手に入れた“『六腕』のリーダー”の情報と同じものでした。この情報が意味する所はただ一つ。

 この国家を牛耳る犯罪組織“八本指”がついに公に認められたということです。

 

 

 こんな未来を果たして誰が想像できたでしょう?

 

 

 ザナック兄様は愚かであるとはいえ、このような暴挙を黙って見過ごすとは思えません。

 間違いなく何者かが手引きしています。

 

 

 

「ああ、なんて酷い悪臭なのでしょう……でも。捨てられない臭いモノの臭いを弱めることぐらいなら、今の私でも可能なのですよ?」

 

 

 

 黄金の頭脳が回転する。影しか見えぬ侵略者にプレゼント(報復)を送るために。

 

 王国が今形だけでも纏まって、それで得をする国など一つも無い。

 

 王国に進攻しようとしている帝国とそれを手助けする法国、そのどちらにとっても不利益でしかない。

 

 だというのに纏まってしまった、ならば、これによって得をする者が新たに現れたということです。

 

 ―――元々いた人間がその価値に気付いた?それこそあり得ない話でしょう!いったい王国がこの状況を何年続けてきたと思っているのですか?一朝一夕のことではないのです、ええ、本当に…

 

 …そしてもちろん“八本指”が自ら望んで行動したワケではありません。あれらは表沙汰になるような行動を避けますから。それにどう転んでも、あれは悪だから民衆には受け入れられないでしょう。民を動かすにはもっともらしい大義名分が必要ですので。

 

 

 ならば答えは一つです。『アインズ・ウール・ゴウン』。彼が度々口にする組織の名、ローレンス(黎明華)様と同じ、異なる世界からの来訪者…

 彼らはいったい何をするつもりなのでしょうか?戦争?貿易?それとも更なる支配?……まあ、どれであっても大して変わらないのですが。

 

 

 

 ならばその支配が円滑に進まぬようにしましょうか。

 

 

 

 

 …もっともっと、面白くなりそうです。

 

 

 

 

 

 

 神算鬼謀を産み落とす姦淫の女王(バビロン)。側に立て掛けられた王笏は熱を放つ。

 

 

 



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狭間、祝福

 

 

 

 あれから何日も経ったというのに、未だに興奮は冷めきらない。

 

 誰か私の昂りを止めてくれ。この味を知るべきでは無かったんだ。

 

 

 

 

 カーテンで締め切られた自室のベッドの上、薄暗い部屋の隅に、かつて『番外席次』と呼ばれた女は籠もっていた。

 

 

 

「フーッ……フーッ……フーッ……フーッッ」

 

 

 

 自分はこれほどまでに浅ましい人間だったのか。

 法国最強の存在であるとされ皆に畏れられていた『番外席次』様も、今ではこの有様。

 これではただの女だよ。快楽の味を初めて知った生娘でもあるまいし。

 

 

 あぁ、嘆かわしい、嘆かわしい……けれどもこれは仕方がない事なのだ。私の、生物の本能だから、抑えられないのだ…貴方にも、きっと分かるでしょう?

 

 

 腹の底まで響く衝撃が気持ち良い。本気で攻撃しても壊れないだろうという希望が心地良い。あの人になら自分の全力をぶつけられるという信頼の味が忘れられない。

 あんな事が出来る存在が現れるなんて夢にも思わなかったんだ。

 

 

 

く゛ッ、っ~~!ぅ、ぁ゛~~………っっ

 

 

 

 だから、ほら、またシーツの染みが濃くなっていく。

 

 どれほど深く抉っても、あの時の快感には遠く及ばない。

 

 

 

 咽せ返るほどの濃い臭いと絶え間なく響く水音が、私の部屋を支配していた。

 

 

 

 このような無様な姿、誰にも見られるわけにはいかない。

 

 それに、他の仲間たちから聞いた話によると、最近の流行りは『清楚系』なのだそうだ。ならばそれに倣っておこうじゃないか。

 

 

 

「っ゛、はぁ~~……」

 

 

 

 だがそうするにしても、少し疲れた。この辺りが限界だろう。

 手を退ければ心地よい倦怠感と、事が済んだ後の幸福感が私の身体を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「………たんれんしよ…」

 

 

 

 

 

 

 こうしている間にも、彼女らは力を磨いているのだろう。

 

 最早最強の座も私だけのものでは無くなった。このままでは彼が他の方へ靡いてしまうかもしれない。

 

 そうだ……一刻も早く力を、更なる力を身につけねばならない。

 

 

 シーツで軽く汗を拭った後。ベッドの横にある棚の、引き出しの中を探る………お、あった。

 

 数多くの指輪が収められている中から目当ての一つだけを取り出す。

 

 『維持する指輪(リング・オブ・サステナンス)』…装備することで疲労や眠気を無くすことができる指輪である。

 人差し指にはめ込めば、なるほど。確かに疲れが無くなった。

 これならば動いても問題なさそうだ。

 

 

 と、少し視線を左に向ければ、初めの頃と比べれば見るも無残な姿になったベッドの姿があった。

 

 ……どうしよう。

 

 

 

「………………後で掃除しよっと。鍛錬終わった後に考えればいいかな~…」

 

 

 

 たっぷりと考え込んだが、結局後回しにすることにした。どうせまた汚れる予定なのだから、今洗濯しなくても同じことだろう。

 

 

 

 

 

 

 締め切られた部屋の中に、黒い球体が浮かんでいた。

 

 いや、球と言うのは不適切だろうか。それは円だ。

 

 どこから見ても、どれだけ遠くから見ても同じ大きさの穴だった。

 

 やがてその穴から、白い霧のようなものが出てくる。

 

 霧は窓掛けの隙間から漏れ出る陽光を目指して突き進む。そして遂に、我らは―――

 

 

 

「っと、危ない危ない。ちょっと漏れてたかー…気を付けないとねー」

 

 

 

 ……ああ、それでいい。今はまだ。

 

 我々は待ち続けよう。君が私達を祝福してくれるその時を。

 

 

 

 

 天と地の狭間にて座す我らの王(妖精女王)よ。いつの日か、我らを照らし給え。

 

 

 




砦、夜


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死の支配者の決意

 

 

 

 漆黒聖典の面々と接触してからというもの、モモンガのスケジュールから『休憩』の二文字はキレイさっぱり無くなっていた。

 

 見ての通りモモンガはアンデッドであり、その種族特性として疲労を感じない。故に何日でも働き続けることができるのだ。

 

 ………と言っても、モモンガの仕事と言えば殆どが、椅子に座って書類に目を通し判子を押すという単純作業なわけだが…それでも、法国と王国の二つを実質的に掌握しているモモンガに割り振られる書類の量はそれはもうすごいことになっていた。

 

 

 

 だが、問題なのはその量ではなく、内容だ。

 

 

 

「『アンデッド使用による労働時間上限の撤廃に関する法』、『五週間(三五)計画』、『国家総動員法の施行について』、、『戦時における“ライラの粉末”の供給に関する法律』………なぁ、デミウルゴスよ」

 

 

「…どうかされましたか?」

 

 

「いよいよ、末期戦の様相を呈して来たなぁ…」

 

 

「ええ。ですがこちらも元よりそのつもりなのですから、使えるモノは何でも使わねばなりませんよ」

 

 

「……そうなんだが、なぁ…これ、この最後のヤツはどうにかならないか?コレ通したら駄目な気がするんだが?」

 

 

 

 そう言ってデミウルゴスに、持っていた書類を渡す。

 

 

 

「………………いえ、これは…」

 

 

「倫理的に駄目ではないか?」

 

 

 

 『ライラの粉末』。それは王国にて、あの悪名高き“八本指”が生産していた所謂麻薬である。

 

 向こう(王国)では黒粉という名で知られているのだが……この麻薬を軍の兵士たちにバラ撒いて、戦力の向上を図ろうというのだ。

 

 二日前に行った実験で、実際に黒粉を吸わせた兵士と、そうでない兵士とを戦わせてみたのだが…なんと吸わせた方の兵士はそうでない兵士を圧倒。

 

 キルレシオは驚異の(吸ってない方)(吸った方)だった。

 

 しかも極めつけは、この王国の“兵士”というのは大抵、農民を強制的に徴兵させているので、従軍経験が皆無に等しいのである。つまりそこらをうろつくゴロツキと何ら変わらない。

 

 

 ということは、彼らをしっかりと訓練させた上で、更に黒粉によるドーピングを施せば……というのが、この法律の主な概要である。

 

 

 

「いやいやいやいやいやいや駄目だろコレ。労働時間上限の撤廃は……うん、まだいいとしても(よくない)だな?」

 

 

「…ですがモモンガ様。使えない戦力(モノ)を無理やり使おうとしているのですから、妥協せねばならない部分もあるのではないでしょうか?」

 

 

「うーーーん……それはそうなんだが…」

 

 

「それに、『ライラの粉末』には鎮痛作用もありますから。前線に信仰系魔法詠唱者(回復要員)を多く配備できない我々の軍にとっては正に夢のような薬なのですよ?」

 

 

「そりゃあ吸ったら夢を見れるからな…」

 

 

 

 

 

 

 異形種であるデミウルゴスにとって、この世界の人間種というのは取るに足らない烏合の衆。言ってしまえばただのザコだ。

 

 そのことはモモンガ様もよく理解しておられるはずだ。でも、その上で。

 

 人間どもの“数”に頼らねばならぬほどに我々ナザリックの戦力が不足しているという事実に、三賢たちは頭を悩ませていた。

 

 

 

「もし戦争が始まってしまったら、無停止攻勢をかけ続けるしかないんだよ……こちらの人間たちも根絶やしにする勢いで突っ込ませる。一度でも守勢に回ったらおしまいだからな…」

 

 

「やはり、主戦力はアンデッドしか無いでしょう。人間の兵は戦線の穴を埋める役割です。どれだけ訓練しても、促成栽培ではあれが限界ですから」

 

 

「無尽蔵の兵士………なんか、こう、空から降ってくれば良いのになぁ」

 

 

「…ですが我らがどれだけ嘆いても、相手はやる気ですから」

 

 

 

 

「そんなことは分かっている!!」

 

「あっ………すまない、デミウルゴス。声を荒げてしまって」

 

 

 

 思わず、勢いよく執務机を叩いてしまう。鋭い音と骨に伝わる振動でモモンガは冷静さを取り戻した。

 

 ぴかぴか(精神抑制)は、発動しなかった。

 

 

 

「いえ……モモンガ様のお気持ちも、よく分かりますとも…」

 

 

「……はぁ………駄目だ、こんな状況では…」

 

 

「……モモンガ様、これはご提案なのですが―――」

 

 

「…どうした、デミウルゴスよ」

 

 

「―――いえ、何でもありません」

 

 

「……ふふっ、何だね。教えてくれないのか?そこで話を切られると気になるじゃあないか!」

 

 

「いえ、ただお世継ぎの予定など」

 

 

「やめないか?」

 

 

「あ、はい」

 

 

 

 

 

 

 何とか誤魔化す事ができたと、デミウルゴスは胸を撫で下ろした。

 

 面と向かってなど、到底言える訳がなかった。最後まで我らを見捨てずにこの大墳墓に残ってくださった慈悲深き御方に向けて。

 

 

 

(我らの全てを捨てて、御身だけでも生き延びるというのはいかがでしょうか?)

 

 

 

 あまりに、不敬が過ぎる。

 

 

 だがそれでも、我らにとって最も大事なのはモモンガ様だ。この御方こそが我々の唯一愛する御方なのだ。ナザリックなんてものはモモンガ様をお守りするためのただの城壁(・・・・・)に過ぎない。

 

 城壁(自分を守る物)を守るために自らを犠牲にする王が、果たして何処にいるというのだ?

 

 

 

(まったく酷い話だ。なぜ世界はモモンガ様にこうも牙を剥くというのか?)

 

(もしもモモンガ様がもっと無慈悲であれば、このように苦しまれることも―――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?デミウルゴスよ」

 

 

 

 

「―――ハッ。…も、申し訳ございません。少しばかり考え事を…」

 

 

「………ふふふっ。デミウルゴスよ。こちらに来い」

 

 

「ッ!!…畏まりました。モモンガ様」

 

 

 

 命令された通りに立ち上がりモモンガ様の机の前に立つ。

 

 

 

「ああ、違う違う。私の椅子の横だよ」

 

 

「?はぁ。そちらですか」

 

 

 

 モモンガ様が何をしようとしているのか。私は推察することができなかった。

 そのまま机を迂回して椅子の横に立った。

 

 

 

「跪け」

 

 

「…かしこまりました」

 

 

 

 いったいこの身にどのような罰が下されるのだろうか。そう私が身構えていると、モモンガ様の御手が私の頭へ伸び―――

 

 

 

 優しい手つきで、撫でられた。

 

 

 

「ッ?!も、モモンガ様!?何を―――」

 

 

「私は残るとも。最後までな」

 

 

「も、モモンガ様…」

 

 

「ふふ。お前たちのこういう所は分かりやすいんだがなぁ…」

 

「お前の考える通り、ここ(ナザリック)を捨てて、まったく別の場所へ逃げてしまうというのも一つの手なのだろう」

 

「……だがね?この墳墓は私の全てなのだ」

 

「かつての仲間が皆去り、もはや一人で過ごした虚しい時間しか残っていなくても。でも確かに、ここには私の全てがあったんだよ」

 

「…ここは、私の誇りなのだ」

 

 

「ッ、誇りなど!!誇りなど捨ててしまわれればよいでしょう!!御身の命こそ、何にも代えがたき至高の宝です!“命あっての物種”とも言うではないですか!!!」

 

 

 

 

「……そのような悲しい事を言わないでくれ…」

 

 

「ですがッッ」

 

 

「なぁ、デミウルゴス。私には何が残っていると思う?」

 

 

「っ、えぁ……それは!」

 

 

「四十人の仲間たちは消え、輝かしい思い出も薄れ、かつて名を轟かせた『アインズ・ウール・ゴウン』の栄光も地に落ちた…」

 

「…もうお前たちしかいないんだよ。だから私は最後まで残るとも、ギルド長としての務めを果たすためにな」

 

 

「……さあ、もう大丈夫だな…仕事の続きをしようか」

 

 

「………分かりました。モモンガ様」

 

 

「うむ」

 

 

 

 

 

 

 努めて平静でいようとする。目の前の仕事に専念しようとする。

 

 でも、金剛石の雫を止めることはできなかった。

 

 

 




『王国兵の強さ』
ナザリック・オールド・ガーター(レベル十八)にギリ負けるぐらい。やるやん。

『法国兵の強さ』
ナザリック・オールド・ガーターは一体殺せる。でも二体目には殺られる、そんな感じ。強ない?


ヤク漬けにして恐怖の感情ふっ飛ばして、これ()なんだから十分でしょ(白目)



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信頼の味

 

 

 

 俺達は別に目的のない旅をしている訳ではない。

 

 実は個人的に行ってみたい場所が三箇所あるのだ。それらを目指して旅をしている。

 

 

 一つは帝国にいた時に小耳にはさんだ、アゼルリシア山脈にある山小人(ドワーフ)の国。

 

 一つは七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)と呼ばれるドラゴンが建国したらしい、カッツェ平野の向こうにある竜王国。

 

 そして最後の一つは、異世界版“万里の長城”を築き上げたとかいうトンデモ国家、ローブル聖王国。

 

 

 この三つが、俺がこの世界の中でも特に面白そうだと感じた国達である。

 

 ……『アインズ・ウール・ゴウン』は謂わばメインディッシュのようなものだ。俺は好物を最後まで取っておくタイプなのだ!

 

 

 因みに、今俺たちが向かっているのは山小人(ドワーフ)の国である。ドワーフと言えばやはり武具製作だろう。

 俺の創った物の足元にも及ばない程度の物しか無いのだろうが、それでも気になる物は気になるのだ。

 

 いくら自由度の高い“ユグドラシル”でも、ゲームの中で生活できるようにはならなかったからな。『本当に生きている』『異世界の』国というのはそれだけでも価値がある。

 

 それに……この世界のルーン・エンチャントの技術にも興味があるしな。

 

 

 

 

 

 

 武器の製作において最も重要な要素とは何だろうか?

 

 

 武器種?元となる素材?製作者の技術?

 

 勿論どれも必要な要素だ、どれ一つとして欠けてはならない。

 これらを全部満たすのは当たり前(・・・・)のことだ。それでようやくスタートラインに立てる。

 

 ………おっと、そうだった。

 俺はエンチャントこそ最も重要な要素であると考える。

 

 極端な話だ。攻撃力が“1”の木の棒でも、攻撃力5000億兆パーセント増加のバフがかかっていたら、その棒が最強な訳だよ。

 

 そんな不可能を可能にしてくれる超技術がエンチャントなのだが……なんで俺がこんなにルーン・エンチャントに執着するかというと。

 

 

 

 

 

 

 俺の『宝物庫』に収められている『俺が創った武器』の中に、ルーン技術の粋を集めて創ったものがあるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の果てまで続いているのではと思わせるほどに巨大な山脈、それがアゼルリシア山脈だった。

 

 まるで昔宇宙から見たウラル山脈のようだと思ってしまった……いかんいかん、向こうの世界とこっちを混ぜこぜにしたらいけないよな。

 

 という事は鉱物資源も豊富にあるのかな…?まあ山小人が住むぐらいだしそうなんだろう。

 

 

 

「………なあクレマンティーヌ」

 

 

「どったの?」

 

 

「どこから入るんだコレ?」

 

 

「―――ぶち抜く、とか?」

 

 

「やめんか筋肉女。いちいち出入りするたびに崩壊させていたら、いずれ山ごと消し飛ぶぞ?」

 

 

「なっ…!だぁれが筋肉だって!?」

 

 

「あーはいはい落ち着けって…ってそうだ。“ダヴ”で探せばいいじゃんか…」

 

 

 

 ………ほら、あれだ。『眼鏡が無いと焦って探したら、実は既に掛けてた』現象みたいな感じだ。身近にあり過ぎると分からなくなるよなー

 

 

 

 

 

 

 狭い洞窟の中を魔法で照らしながら進んでいく。こういう時に魔法の有難さを実感するよ。一つ唱えるだけで辺りが真昼のように明るくなるんだからな。

 

 途中の分かりづらい分岐などを(多分侵入者用のトラップか?)ダヴで見分けて歩くこと1日。ようやっとドワーフの国が見下せる所までやってくることができた。

 

 

 

「こんな狭い場所で『インペリアルシークレットマンション』を出すわけにもいきませんからね」

 

 

「まー中々オツなもんだったぞ?こんな洞窟で寝るなんて経験そうそう無いからなぁ」

 

 

「……それはそうですが」

 

 

「それに魔物どもも寄って来なかったろ?道中は至極平和だったし」

 

 

「難度三〇〇超えの化け物が六体も固まっていたら、寄ってくるものも来ませんわよ…」

 

 

『『『確かに!』』』

 

 

 

 俺たちはひとしきり笑った後、眼下に見える都市に向かって歩を進めるのだった。

 

 

 



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似た者同士

 

 

 

 都市をぐるっと囲むように存在する巨大な割れ目と、そこにかけられた吊り橋。

 この二つがドワーフの国の主な防衛手段なのだろう。敵が攻めてきたときは橋を落としてしまえば、簡単に防衛できる……うん、いいんじゃないか?

 

 ただこれだと『飛行(フライ)』に対して無防備だと思うんだが…?

 

 山小人の防衛能力に少しばかり疑問を抱きながら、ギィギィと聞くだけで不安になるような音を立てる橋を渡っていった。

 

 

 

 

 

 

 街の中に入ってみると、なるほど、これは確かに山小人の国だ。ひと目見ただけで分かる。

 技術レベルが帝国や王国とは全然違うのだ。太陽の光の射さない場所であるというのに、まるで昼間のように明るい………まあ昔アーコロジーの中で暮らしていた俺からすれば当然の事だが、それが異世界では、どれほどすごい事であるかは想像に難くないだろう。

 

 よく目を凝らしてみれば、街灯の中に入っているのは発光する石……あぁ、熱鉱石っぽいものの応用かな?

 確かに大きいとはいえ、こんな穴の中で石炭なんか使ったら、あっという間に空気がダメになるよな。

 

 

 

「ところでフールーダ?ちょっと一杯やってみたいんだが…山小人なんだから酒場ぐらいあるだろ?」

 

 

「……あるにはあるでしょうが、どこにあるかは知りませぬぞ?以前訪れた時は老いておりましたから、酒は飲めなかったのですよ」

 

 

「あ~なるほど~、じゃまあ適当に探すかな~…あ、お前らはどうするよ?一緒に飲みに行くか?」

 

 

「山小人の酒は非常に強いと聞きますが…」

 

 

「ラナーは『姦淫の女王(バビロン)』だろ?種族特性で毒効かねーぞ」

 

 

「そうなのですか?」

 

 

「…というかそもそも、お前らレベ……難度三〇〇越えてるんだから、酒なんて余裕だろ」

 

 

 

 街を練り歩くこと半刻、いろいろ街を観察しながらよさげな酒場を探していたのだが、最後はメンドクサくなって結局“ダヴ”を使ってサーチした。

 ダヴがあまりに便利すぎる…!本当に手放せなくなりそうだわコレ。

 

 酒場に入ってすぐ“駆けつけ一杯”ということで、一番人気の高い酒を注文する。

 マジックアイテムなんて使っていないのにすぐに酒が出てくるのは、長年の経験からなのだろうか?五分と経たずに人数分の酒が運ばれてきた。

 彼らは『火酒(カシュ)』と呼んでいた様だが………これ、ウイスキーの匂いだな。凄い濃い匂いがする。多分ロックだ……え、ロックなのコレ。割ってないの?

 

 ジョッキになみなみと注がれた火酒を見て、『これは悪酔いしそうだ』なんて思うのだった。とりあえず一口含んでみる。

 

 ……お、美味い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――二時間後。

 

 

 

「アッハッハッハッハ!!美味い!美味い!ここまで酒が回ると何でも美味いな!!お前もそうだろドワーフの!」

 

 

「応とも兄弟!!しかし凄いなぁ!山小人でもないのにそんなに酒が飲めるとはな!!」

 

 

「くかー……うぅ~ん…」

 

 

「ふふふふふふふ…クライン?もっと飲みなさい?」

 

 

「い……いえ…ラナー様。もう限界です…」

 

 

「大丈夫よ!クラインならできるわ!」

 

 

「おさけのんでもいたくない…いたくない…えへへへへ…」

 

 

「オラぁクレマンティーヌ!!くらえ!」

 

 

「ちょ、瓶を直で?!ま、マズい…このままだと潰れちまう…《能力向上》、《能力超向じょ》」

 

 

「隙アリぃ…ッ!」

 

 

「ま゛っ゛、ちょっと待って?!」

 

 

「フハハハハ!ローレンス殿、違いますぞ!酒とはこのように飲ませるのです!」

 

「……あれ?筋肉女?なぜ貴様はすり抜けるのだ…」

 

 

(た、助かった…)

 

 

 

 なにこれ?

 

 

 酒場は混沌と化していた。他の客も皆似たような有様である。全くこいつら…

 どれもこれも、ローレンスが『今日の酒代は全部俺が持つ!』と言って大量の金貨の雨を降らせたことが原因だった。

 

 後はもう考える通り。いくらでもタダ酒が飲めると分かった山小人たちは、まるで水を得た魚のように………いや、この場合は『酒を得たドワーフのように』?……うん。違うか。違うな。

 

 

 とにかくだ。この狂ったような酒宴は一晩中続き、あまりにうるさいので何事かとやってきた衛兵までもが酒精に当てられて、飛び入りで参加するほど大規模なものとなった。やがて店の酒が尽きると、ローレンスが“物置”から追加の酒を放出し始め、いよいよ終わることは無いのかと思われたのだが。

 

 騒ぎを聞きつけた事務総長と呼ばれる人物が酒場に来るなり一喝。酒場中に響き渡る大声によって皆が現実に引き戻され、そしてこの酒宴はお開きとなった。

 

 

 



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少し未来の死の支配者

オリ主とモモンガのこの空気差よ…

ナザリックが冷え切ってるのを書くの楽し~()


 

 

 

これは少し未来のお話―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガが王国の国営小麦農場を視察していると、アルベドから連絡(伝言)が届いた。

 

 実は少し前に、業務の効率化の一環ということで、三賢に与える仕事の内容をそれぞれ振り分けていたのだ。

 

 アルベドはシモベを用いた諜報活動、パンドラは貿易・金融関係を、そしてデミウルゴスには国家運営や新法の公布を任せている。

 

 そして今、アルベドから〈伝言(メッセージ)〉が届いたという事は…

 

 

 

『アルベドよ、何か進展があったのか?!』

 

 

『はい。パンドラズ・アクターと各支部に配属させていたシモベたちの情報を基に精査したところ、王国領と帝国内にて少量のユグドラシル金貨が流通していたことが発覚いたしました』

 

 

『そうか………ちなみにどこが()だ?』

 

 

『………そ、それが…』

 

 

『よい、話せ』

 

 

『……両国内の、最高級の宿屋からでした』

 

 

『………そうか。分かった、後でレポートに纏めて提出してくれ…』

 

 

『かしこまりました』

 

 

 

 伝言を切ると、モモンガは深い溜め息を吐いた。

 

 

 

あの人(黎明華)、めっちゃ楽しんでるじゃん……これホントに敵対してるのか?)

 

 

 

 そら溜め息だって吐きたくもなるよ。それを見た周囲にいた付き添いの人間たちがビクビクしている…そうだった。まだ視察の途中だった。

 

 

 

「視察の途中にすまなかったな……ん?もう少し待て。『どうした?』」

 

 

 

『パァ↑ンドラでございますッッッ!!』役者として

 

 

『切るぞ』

 

 

『ハウッ!これはもしや父上による愛の鞭ッッ……おっと、これは失礼を。実はアゼルリシア山脈にあるドワーフの国から、ユグドラシル金貨が流入しております』役者として

 

 

『―――ハァッ?!す、少し待て、後からかけなおす!』

 

 

『承ォ知致しまし―――』役者として

 

 

 

 パンドラズ・アクターが言い終わる前にさっさと伝言を切ってしまう。

 そして顔を青くしている人間たちに向かって一言、

 

 

 

「今回の視察はここまでとさせてもらう。各員、更なる設備の改良に取り組むように!」

 

 

 

 そう言うとすぐに『転移門(ゲート)』を開き、ナザリックへと帰還してしまった。

 

 

 

(((……これ以上どこを改良しろってんだよ…)))

 

 

 

 それが、残された人間たちの総意であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――モモンガの自室

 

 

 

 転移門から出てすぐにパンドラに向けて『伝言(メッセージ)』を飛ばす。

 

 何度かの“ヒュパッ”という風を切る音の後、パンドラは話し始めた。

 

 

 

『―――ではモモンガ様、詳細をご説明させていただきます』

 

 

『うむ』

 

 

『現在帝国は周辺国家の全てとおおよそ良好な関係を築けており、周辺国家すべてと貿易をしております。そのなかでも特に武具の輸入が多いのが―――』

 

 

『ドワーフの国だな?』

 

 

『その通りでございます。しかもドワーフの国は帝国と貿易をしている国家の中で唯一、物々交換を行っている国家でもあります』

 

『これはドワーフの国が、自国のみでは十分な量の食料を生産することができないからです』

 

『この立場を利用して帝国は『作物を武器に変える』、謂わば“錬金術”紛いのことをしているわけですが…』

 

 

 

『近頃、取引される食材の嗜好が変化しております』

 

 

 

『小麦や野菜などの生存に必要な食材から、肉(自国で捕れるモンスターの物ではなく、牛や鶏などの燻製物(ハムっぽいやつ))や果物類に徐々に切り替わっております。これは即ち、あの“山脈の内部”というお世辞にも肥えた土地とは言えない場所で、作物の自給自足に成功したという事を示唆しております』

 

『しかも、今月に取引される食糧の総数(トン数)が先月の一・五倍になっており、この増加した分の支払いについてはユグドラシル金貨が用いられております』

 

 

『………これは…』

 

 

『十中八九彼の者(黎明華)の仕業でしょう。我々はこの世界でユグドラシル金貨を使用しておりませんから………いかがいたしましょうか、モモンガ様?現在我が傀儡国家は両方とも、ドワーフの国と貿易を行っておりません。ですがこの際、彼の国との貿易を開始してみるというのは…』役者として

 

 

『………………いや。うーむ……パンドラ。この件については、残る二人(デミウルゴス&アルベド)と協議してから伝える。お前には引き続き帝国に探りを入れてもらいたい』

 

 

『カシコマリィィッッ↑↑↑マ―――』役者として

 

 

 

 耳元で絶叫し始めたので、無理やり『伝言(メッセージ)』を切る。

 

 そしてすぐさま、アルベドたちに向けて『伝言(メッセージ)』を送り始めるのだった。

 

 会話の最中に、所々間が空いた時などに、つい考えてしまう。

 

 

 

(『黎明華(かれ)』はいったい何をしようとしているのか?)

 

 

 

 黎明華の行動には統一性が無い。ふらりと帝国に立ち寄ったかと思えば、今度は王国に出現して……ただ観光をするだけで(・・・・・・・・・・)立ち去っている。

 

 

 

 八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達の殺害された位置がその裏付けとなっている。王城に潜伏させていた八肢刀の暗殺蟲も、路地裏に潜ませていた 影の悪魔(シャドウ・デーモン)すらも殺されていないのだ。

 

 

 

 まさか、本当は、黎明華には敵意なんてものは無く、自分たちが勝手にそうではないかと思い込んで動いているだけではないのか…

 

 

 

(……どうにかして話すことができないだろうか…はぁ。何を考えているのか向こうから教えに来てくれればなぁ…)

 

 

 

 モモンガの悩みはまだまだ尽きない。

 

 

 



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力持つ文字

 

 

 

「うぅ……頭痛い…」

 

 

 

 朝、蒸気といびきの音、気持ちの悪いぬるさなんかに無理やり叩き起こされる。

 何とも素晴らしい目覚めだ。この国のトップにプレゼントの一つでも贈りたい気分だよ。

 

 

 ……いびき?いびきだって?

 

 

 横を見る。そこには赤髭を蓄えたオーソドックスな山小人が一人、涎を垂らしながら眠っていた。

 

 

 ………

 

 

 

「おい、おい。起きろ」

 

 

「フガッ。…ウゥ…」

 

 

「起きろと言っているんだ!」

 

 

ぐベッ?!た、叩くことは無いだろう兄弟ィ!!」

 

 

「全くよ~…どうせ寝るんだったらもっと美人な女の方が良かったんだけど?」

 

 

「そりゃあこっちの台詞じゃよ…」

 

 

 

 そんな馬鹿なやり取りをしながら、朝食を食べるために下へ降りていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんないい宿に泊まれる日が来るなんてのぅ……ホント、お前さんには感謝してるんじゃよ?昨日も酒をしこたま飲ませてくれたしな!」

 

 

「そうかそうか………これ美味いな…あれ、何の肉だこれ?味はすごくいいのにゴムみたいな食感する…」

 

 

 

 珍妙不可思議な料理に舌鼓を打ちながら世間話をしていると、話題は徐々に“旅の目的”の方に流れていった。

 

 (少々行儀が悪いが)中々噛み切れない肉を口に入れながらローレンスが答える。

 

 

 

「うーん……実は帝国の方で“山小人はルーンの技術に造詣が深い”と聞いてな?それがどの程度の物なのか調べに来たんだよ」

 

 

「ルーン…ルーンか……それならばあと二百年は早く来るべきじゃったなぁ」

 

 

「どういう事だ?」

 

 

「もうルーンの技術なんて(・・・)断絶寸前の技術だぜ?ルーン工匠の俺が言うんだから間違いないわい」

 

 

「……ほー?じゃああれか?それでも“ルーン工匠”なんて大層な称号がついてるぐらいだから、自分の工房とか持ってるのか?」

 

 

「いや、共同の作業場があってな。自前のを持つと金がかかるからそういう風にしてるんじゃよ」

 

 

「ふーん………ならもしかして今暇か?仕事とか特にないならそこを案内してくれないか。大丈夫!後で一杯奢ってやるからさ」

 

 

「本当か?!……あー。まあいいっちゃいいんだが、面白いモノなんて何も無いぞ?」

 

 

「いいんだよいいんだよ!あ、お前ら!ちょっと出かけるけどついてくるか?」

 

 

 

 『興味ないならいいよ』と言ったにもかかわらず、結局全員で行くことになった。

 

 一生噛み切れなさそうな肉を無理やり飲み込み(・・・・)、さっさと宿を引き払って外に出る。

 

 

 

 

 

 

 共用の火事場は此処からかなり遠いらしく、そこに行くまでの間に様々な話を聞かされた。

 

 かつての王国ではルーン技術が栄え、今は無い国宝もルーン技術の粋を集めて作られたものなのだと。

 

 六つのルーンを刻んだその武器は大地を激震させるほどの威力を持つのだとか。

 

 

 だがそれらも二百年前に失われてしまい、それに伴い魔法による魔化技術が外から流入してきたため、いよいよルーンの技術は断絶の危機に瀕している、そうだ。

 

 

 正直言って信じられなかった。この世界のルーン技術と“ルーン・エンチャント”が別物である可能性も考えたのだが、話を聞く限りではそうではない。

 

 下位文字50、中位文字25、上位文字10、最上位文字5の合計90文字……なるほど、これはたぶん『ルーンスミス』関連のクエストがこの世界に無いからこれだけしか使えないんだ。

 

 ユグドラシルは基本的に未知を暴いていくゲームだ。それ故基本はプレイヤー自身の手によって探索しなければならないのだが、それだけでは得られる情報の量も少ない。

 

 故にクエストなどが存在するのだが……一部の職業やそれに付属するコンテンツは、特定のクエストをクリアすることによってでしか解放されないのだ(ワールドアイテムは除く)。

 

 横を歩くこの山小人…“ゴンド・ファイアビアド”が語った合計90文字。これは『ルーンスミス』が、何の関連クエストもクリアしていない状態で使うことができるルーンの総数である。

 

 別にユグドラシルのルーンスミスだったらそこら辺のクエストはコンプしてるんだけども…

 

 …というか、これだけしか無いのによく“大地を激震させるほどの威力を持つ”武器を作れたな。いったいどうやって作ったんだろうか。

 

 どうやら裏文字や神位文字の存在も知っているようなので、多分それらが刻まれているんだろうが…

 

 もしそうでないとすればとんでもないことだ。そんな事俺には………いや、やろうと思えばできるけど、わざわざやる事ではない。どうせやるなら超位の裏文字とかでやった方が強いしな。

 

 

 



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探求者たちの結束

 

 

 

「ほれ、着いたぞ」

 

 

「ここが工房…?少し設備が足りないんじゃないか?」

 

 

「む、そんな事は無いはずじゃが…」

 

 

 

 共用の工房に着くとまず驚いたのはその貧相さだ。どんな武具制作の初心者(ニュービー)であっても、これよりはマシな設備を持っているだろう。

 

 煤だらけの竈門と所々錆びついた金床、それに申し訳程度に磨かれた鎚が添えられている。

 ファンタジーな鍛冶屋というのを想像したら一番始めに思い浮かぶ風景だろう。実物はそれより幾分かみすぼらしいが…

 

 

 

「ホラな?来ても面白いモンなんか無いと言うたろうに…」

 

 

「いや、寧ろどんな武器が作れるのか興味が湧いたよ。それで?依頼すれば今から作ってくれるのか?」

 

 

「そりゃ構わんが……今からか?かなり時間がかかるし、そんなに良いモンも作れんが、それでも良いのか?」

 

 

「いいのいいの、金貨ならいくらでも積んでやるぜ?」

 

 

「お前さんの財は底なしじゃな…まったく、ワシなんぞにいくら金を払ってもロクなもんは作れんぞ…」

 

 

 

 そんなふうにブツクサと言いながらも、保管してあったインゴットを取り出して準備をする。

 

 仕事道具の状態や身なりからしてあまり仕事は来ないのだろう。本人の言うとおりに、そこまで才能も無いのだろう。

 それでもこの山小人に依頼を出したのは、単に一番初めに出会った『ルーン工匠』であるからだ。

 

 だって他のもっといいルーン工匠を探すの面倒くさいし……それに才能とかそこら辺は『流れ星の指輪(リング・オブ・シューティングスター)』でなんとでもなるからな。

 

 鉄が熱せられて鍛えられる………あれ?早くないか?

 

 実際に剣を作るのなら、焼きを入れたり打ったりと様々な工程を踏まねばならないというのに、必要な工程を所々すっ飛ばしている。

 

 もしかしたら“ネットに残されていない”現代に残らなかった技術の中にはこういうものが含まれていたのか?……いや、考えすぎか。

 

 

 

「お、出来たな」

 

 

「いんや。ここからルーンを刻んでいくんじゃが………なんかお前さん近いぞ!?気が散るから離れてくれよ!」

 

 

「はいはい」

 

 

 

 もうできた(・・・・・)。明らかにおかしい。ありえん……最後まで見ていて感じたが、ここの部分はユグドラシルを受け継いでいるのかもしれないな。

何処かから取り出したノミを巧みに使い、ルーンが刻まれる。まだ一個目だというのに額には汗が滲み出している。そして、込められている魔力の量も話にならない…

 

 断絶寸前というのは本当のことなんだなぁ、エンチャントの技術が廃れるなんて何度聞いても信じられないことだよ。

 正しく使うことができれば素晴らしいものなんだが…おっとそろそろ出来そうだ。

 

 他の奴らは自由にしている。俺と同じ様にルーンを刻むのを眺めていたり、世間話をしたり、他の山小人の工匠に話を聞いたりと様々だ。

 

 

 

「………………出来た」

 

 

「おお!!これが!………これが?」

 

 

「言うな…何も言うな。お粗末なのは自分でも分かっておるのだ。でも、ワシにはこれが限界なんじゃよ…」

 

 

「…」

 

 

 

 自嘲するゴンドを置いて、俺はこの剣を観察していた。

 

 出来上がった物はある意味で俺の予想通りで、予想外だった。俺の“物置”にすら入らぬであろう剣だ。普通の剣よりも多少切れ味が良い程度の物、大地を割ることも、()を切る事もことも出来ないだろうなまくら…

ルーン一個でこれだけしかバフが掛けられないなんてなぁ

 

 …まあいい。テコ入れなんていくらだってしてやろうとも。なんてったって今、無性に腹が立っているからな。

 

 

 

「なあゴンド?お前にちょっと見てほしいものがあるんだが…失敗作だが、俺の創ったものだ。見てくれ」

 

 

「あぁ、良いとも。何だって見てやるわい…」

 

 

「えっと確か………これなんだが」

 

 

 

 そう言って取り出したブロードソードは俺が創った(・・・)ものだ。

 侵染鉄鉱で作られた刀身はスラリと長く、“侵染”の名の通り何ヵ所か黒く蝕まれている。

 持ち手にも華美な装飾は一切無く、必要なエンチャントのみが施されている。

 

 これは、俺が“宝物殿”に入れる武具を創る際に生まれた失敗作の一つ。銘は無し。ただ練習の為に打たれた物だからな。

 

 だが、俺にとっては失敗作であっても、ゴンドにとっては違うようだ。当たり前のことだがな。仲間と話していた他の山小人達もこの剣から発せられる魔力に気づいたのだろう、まるで虫が光に向かってくるように、俺の傍へと寄ってきた。

 

 

 

「―――こ、これはいったい…?」

 

 

「俺が創ったブロードソードだよ、よーく見たら刃の部分に沿ってルーンが刻まれてるんだが…分かるか?」

 

 

「見えとるわ!!じゃが、信じられん…十…二十…三十…いったい何個刻んどるんだ?」

 

 

「百三十三個だ。一mm間隔で表裏に隙間無く詰めてある…他のエンチャントと併用しようとすると、どうしても余裕が無くなるんだよ」

 

 

 

 説明してほしそうな顔をしていたので、この世界の人間にも分かるように噛み砕いて話してやる。

 

 まず通常、武器にかけられるエンチャントというのは一種類のみだ。

 

 

 

 魔法による“エンチャント”。

 

 

 信仰系魔法による“祝福”。

 

 

 そしてルーンによる“ルーン・エンチャント”。

 

 

 

 他にもこまごましたものはあるが、基本的にこの三つの中からどれか一つを選ぶのだ………通常プレイヤーなら(・・・・・・・・・)

 だが生憎、俺は普通じゃないプレイヤーなのだ。そこである時違和感に気が付いて、試してみたのだ。

 

 

 エンチャントを二つ同じ武器に付与するというのを。

 

 

 結果は勿論成功。だがこれは当然バグであるから修正が入るかと思われたがそんなことはなく、ノータッチのまま遂にサ終してしまった。

 ふっ、これも金の力ということか…

 

 

 

「何という美しい刃紋……これで失敗作じゃと言うのか?」

 

 

「うむ。因みに完成品もあるけど、それはまた機会があったらね」

 

 

 



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死の支配者の謀略

モモンガサイド書くのが楽しすぎる。

どこかの河原で、黙々と石を積んでいってるみたいな…


 

 

 

「鍛冶長よ、もう少し性能を上げることはできないか?」

 

 

「モモンガ様……お言葉ですがね、現地産の安物の鉄だったらこれが限界です。生産数が多いと込められる魔力の量も、どうしても少なくなるんでさぁ。それにこのグレードのモンを全軍に(・・・)配備しようとしたら…ワシらだけじゃあこれでも首が回りませんぜ?」

 

 

「うーむ……やはり現地の鍛冶師も登用すべきか…」

 

 

「お願いしますよぉモモンガ様…品質にゃあどうしてもバラつきが出ますが、そう贅沢も言ってられんのでしょう?数も品質もってなるとどこかで必ずボロが出ますから」

 

 

「………うむ、そうしよう。後日両国の鍛冶師組合を全部引き抜いてこちら(ナザリック)へ送る。彼らも使ってなんとか量産体制を整えてくれ」

 

 

「かしこまりましたぁ!」

 

 

 

 モモンガは自身の数少ない休憩時間を使って、ナザリックの鍛冶工房を統率している鍛冶長に仕事の進捗を聞きに来ていた。

 モモンガの目標は、王国軍と法国軍の全軍及びそれらの予備役全てにマジックアイテムの鎧を配備させることである。

 

 鍛冶長が提示したサンプルであるこれらの鎧には、軽量化と移動速度上昇のエンチャントが掛けられており、歩兵であっても馬で駆けるのと同等のスピードで動くことができる………はずだった。

 

 そんな高価なものを大量生産することが不可能なのはモモンガも理解している。何より、彼らには死兵となってもらうつもりなのだから、そこまで予算をかけるのは宜しくない。

 とにかく安く、大量に生産できて、そしてそこそこの性能を発揮できる。これらが鎧に求める最低条件だった。それが魔化できれば言う事なしなんだが…

 

 

 

(そこまで求めるのも欲と言うモノだろうしなぁ…)

 

 

 

 元はサラリーマンであったモモンガ、上に無茶な要求を吹っ掛けられた時の痛みや苦しみは誰より理解しているつもりである。サラリーマンだった頃はそういう要求をしてくる上司を心から憎悪していたが、いざ自分が上に立ってみるとよく分かる。

 

 彼らもそうしなければならないほどに追い詰められていたのだ。

 

 ………もしあれが百年前だったら、転職なんて選択肢もあったんだろうか…?そうすれば今のこの状況も…

 

 ―――っといけないいけない。思考が逸れていた。暗い事を考えているとシモベたちに示しがつかないからな。止めなければ。

 何やらブツブツと呟いて自分の世界に入っていった鍛冶長たちを邪魔しないように、音を立てずに工房を後にする。

 

 

 

 

 

 

「あっ!!お戻りになられましたかモモンガ様!」

 

 

「お、おかえりなさいませ、モモンガ様…」

 

 

「ああ、今戻った。アウラ、マーレ」

 

 

 

 つかの間の休息を終えて会議室(庭園)に戻ってきたモモンガを出迎えてくれたのは、闇妖精(ダークエルフ)の双子であった。テーブルの上にはメロンクリームソーダが三つ置かれている。

 彼ら子供たちに堅苦しい会議室の空気は似合わないだろうというモモンガの配慮である。

 

 

 

「む?アイスが少し溶けているな…先に飲んでいても良かったんだぞ?」

 

 

「そんな!モモンガ様より先に頂くなんてそんな恐れ多い事できませんよ~!」

 

 

「そ、そうですよー…」

 

 

 

 世間話もほどほどにして、本題に入る。

 

 

 

「それで、だ。この前頼んでいたモノは用意できそうか?」

 

 

「はい!それはもう完璧に、百二十パーセントの物を用意できそうですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「―――地対空の“プラント・トラップ”、レベル六〇からなら量産体制(・・・・)を整えられそうです!」

 

 

 



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死の支配者の秘技

二話連続でモモンガサイドです。

オリ主サイドのネタが尽きてきた…


あっちは何書けばいいんだろ?


 

 

 

「プラント・トラップ……まさかこの世界でも用意できるとはな」

 

 

「レベル七十からは流石に無理でしたが、六十までなら今の私たちでも量産できそうです………どうですか?モモンガ様!」

 

 

「素晴らしいともアウラ!マーレ!しかも特にコストがかからないというのが実に良い!早速量産体制に入るのだ!」

 

 

「や、やったねお姉ちゃん…」

 

 

「ぃよっし!マーレ!早く帰ってハンバーガー食べよ!あ!モモンガ様も来られますか?」

 

 

「いや、私はアルベドとデミウルゴスの所に行かねばならないからな。姉弟水入らずで楽しんできなさい」

 

 

「そ、そうですか~…」

 

 

 

 悲しそうな表情を浮かべるアウラ達を見て思わず父性が刺激されてしまうが、グッと堪えて『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を使用した。

 しょんぼりとした二人の顔が妙に脳裏に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 会議室(今度は本物)に転移したモモンガは早速二人にこのトラップの説明をした。そしてそれがローコストで導入できることも。

 二人の反応は概ね良好であり、直ちに主要都市全てに配備されることとなった。

 決め手となったのはやはり費用だろう。トブの大森林に大量に自生している食()植物を、ドルイドの魔法で強制的に進化させるだけで良いのだから。一度使役下に置いてしまえばこちらのものだ。指示一つで侵入者に襲いかかるようになる。

 

 黎明華にはもちろん効かないだろうが、足止め程度にはなるはずだ。というかなってくれなければこちらが困るのだ。

 

 

 

 

 

 

 死霊召喚術に特化させた“死者の大魔術師(エルダーリッチ)”旅団による“不滅の軍勢”と、戦線の穴を埋めるレベル二十の兵士総勢二百四十万人。

 

 

 それらの軍を支えるだけの食料生産。〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉を使用可能な者達による即応体制。六十レベルの“プラント・トラップ”を数百基。

 

 

 各国の冒険者、魔術師組合。“英雄”アダマンタイト級冒険者たち。

 

 

 秘密結社『ズーラーノーン』。

 

 

 リ・エスティーゼ王国支配の要たる『八本指』、その最大戦力『六腕』。

 

 

 スレイン法国の特殊部隊、『六色聖典』の面々。

 

 

 相互永久同盟関係にある『アーグランド評議国』の、亜人で構成された軍を全てと、それらを統べる永久評議員(ドラゴンロード)

 

 

 

 ―――そして我々、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』。

 

 

 

 

 

 

 これだけ揃えてもまだ足りない…足りる気が全然しないぞ…

 

 

 

 

 やはりレベル二十では足りないか?どうあがいても彼らはレベル二十三までしかいけなかったのだが…せめて足止めになってくれる事に期待するしかない。

 

 超位魔法で二十万程度消し飛んでもまだ二百万近く残っている、全部殺すにはどれだけ短く見積もっても七分はかかる…ッ!

 

 一秒でも多く時間を稼いでくれればそれで良いんだ。そうすればこの『玉』の再使用時間を稼げる。『強欲と無欲』を使えば一発まではタダだしな。唯一の欠点は、再使用に課金アイテムを湯水のように使っても十分はかかる点だが…

 

 あの二千人の残党を狩りつくした俺の“奥の手”……どこまで通用するかは分からないけど、あの人(黎明華)の種族レベルにドラゴン系統のものがあればあるいは…

 

 守護者達が全力で足止めしてくれている間に何とか撃ち込む。外れても二発目があるが、それさえ無駄だったらもうどうにもならん。

 二発目からは自分の経験値を消費することになるから、まともにやりあう事なんてできなくなるのだ。

 

 

 

(あぁ、頼むよ…俺の心配が杞憂であってくれ…黎明華が友好的な存在であってくれ…ッ!)

 

 

 

 自身の指に着けられた奇跡の指輪、その悲しげな輝きに、モモンガが気付くことは無かった。

 

 

 




【武器のネタとかください】
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【質問、感想、待ってます】
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END 2 空になった円卓

五十話!!!


 

 

 

「そ、そうだッッッ!!俺には『流れ星の指輪(リング・オブ・シューティングスター)』があるじゃないか!」

 

「……頼む…頼む…ッ、成功してください…ッ!」

 

 

 

 

『―――“I wish(私は願う)”…』

 

 

 

 

 

 

 己の幸運に感謝せずにはいられなかった。あの時課金ガチャに夏のボーナスを全額突っ込んでいた俺にスタンディングオベーションを贈りたい。

 運命はまだ俺を見放していなかったのだ。最後の最後で、俺は自身の指にはめていた『流れ星の指輪(リング・オブ・シューティングスター)』の存在を思い出した。

 

 指輪に込められた奇跡の力を使う時が、遂に来たのだ。

 

 

 

「………せ、成功したのか…?」

 

 

 

 だが、最後の最後で俺は日和った。いくら『星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)』といえども、あの黎明華に効くとは思えなかったのである。けれど情けないことに、この日和りこそが俺を救うことになるのだとは、今この時は思わなかったよ。

 

 

 

「モーションとか効果音なんかは成功したときのヤツだし……こ、コレは期待していてもいいんじゃないか!?」

 

 

 

 俺が星に願ったのは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?あの白い鎧は何だ?………なぁフールーダ?お前知らない?」

 

 

「知りませ―――?ん?いやあれは、もしや…」

 

 

「知っているのかフールーダ!?」

 

 

「ええ、見覚えがあります。アレは確か……十三英雄の“リク・アガネイア”!?十三英雄の生き残りが何故このような場所に?」

 

 

「それはまたとんでもないビッグネームだなぁ………あ、おーい!リク・アガネイアとやらー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにッ!?隠密系のマジックアイテムを使っていたのに気づかれただと!?……どうやらここまでのようだ。皆!一斉に〈始原の魔法(ワイルド・マジック)〉を使うぞ!」

 

 

『『『了解!』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれェ?!な、なんか体が光り始めたぞ!?……ああもう“どうにでもなれ”ーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあフールーダ、あれ完全に戦闘態勢入ってるよな?」

 

 

「いかがいたしましょう。殺しますか―――む?」

 

 

「うおぉっ!?落ちるならもうちょい優しめに…」

 

 

 

『『『…』』』

 

 

 

「…」

 

「えっと……どうも?」

 

 

「いやぁ~?どうもじゃないと思うぞ~?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、あれはモモンガ!?…このタイミングで裏切るなんて見損なったよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――え。お前謎の対抗意識を持ってた訳じゃないの?それであそこのパワードスーツ野郎どもと組んで俺を殺しに来たんじゃ…」

 

 

「それは最終手段ですー!!俺だって対話も無しに殺しに行くほど落ちぶれちゃいませんよ!?だから俺は事前に、“もし戦うならちゃんとした手順を踏んでやろうね”とあれほど言ったんです!それなのに評議国の連中が勝手に突っ走りやがったんですーー!!」

 

 

「えーーーーーーなにそれーーー。知らんわーそんなのー…」

 

 

「と、とにかく早く逃げないと!あれ多分くらったらやばい奴ですよ?!」

 

 

「え?いやいや大丈夫大丈夫、たぶんあれワールドアイテムと同じ類の奴だから、俺たちには効かないよー」

 

 

「………そうなんですか」

 

 

「そうなんですよー…っと。うしっ。じゃあとりあえず…」

 

 

「…え?」

 

 

 

「あの竜、殺すか!!」

 

 

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END 2   『空になった円卓』

 

 

 

 




別名“超絶ウルトラスーパーデリシャスミラクルハッピーエンド”。



なんとアーグランド評議国が地図から消えるだけで終わるよ!多分これ以上のハッピーエンドは無いぞ!やったね!!


しかも達成するのもかなり簡単。“オリ主が竜王国から出る前に、モモンガが『流れ星の指輪(リング・オブ・シューティングスター)』の存在を思い出す”……たったこれだけ。おてがる!

別に評議国と同盟を結ばなくてもなんやかんやでうまくいく。何なら転移直後に使っても似た感じになる。これも流れ星の力か…

多分よほど運が悪くない限り、ほとんどの場合このエンドになるよ。だから実質これがトゥルーエンド、かも?


もし途中でエタったら名実ともにこれがトゥルーエンドになります()



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移動中の一幕

サブタイトルがちゃんとしたものになりました。やったー。


 

 

 

たまにはドライブというのも悪くはない。

 

 

 

 竜王国へと向かう道中、これまでずっと歩いてばかりだったので何か捻りが欲しいと思い、試しに『底無しの旅行鞄(ボトムレス・スーツケース)』から手頃な車型ゴーレムを取り出してそれを乗り回しているのだが、これが存外に楽しいのだ。

 

 随分と頼りなさそうで安っぽい見た目とは裏腹に、これはかなりの高性能機に仕上がっている……もちろん見た目の割には、ではあるが。

 昔ゴミ素材の山から作ったオモチャも案外役に立つものだ。

 

 

 

「ロ、ロー、レンス?!ちょっと、止まって!くんない?!」

 

 

「アァ~~!!何だって~!?」

 

 

「だ、っがぁ!いつつつつぅ…ダメだこりゃ…」

 

 

「まぁ!フールーダ様?もう酔われたのですか?」

 

 

「う、うるさい…これは、駄目だ……この揺れは、殺しに来ておりますぞ」

 

 

「え〜!?」

 

 

「ッ。グぁッ!?ローレンス殿!?今のはワザとでしょう!」

 

 

「揺れが酷くって何言ってるか分からんよ!もう一回言ってくれ!!」

 

 

「一か゛っ゛。だか゛ら゛ッ、か゛ッ゛!」

 

 

「アハハハハ!!三重魔法詠唱者が聞いて呆れるわね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな調子で狭い車内にギュウギュウ詰めになりながら何日も運転を続けた。

 所々休憩を挟みつつゴーレムを走らせていく。

 太陽が三度沈んだ頃、周囲の景観がガラリと変わり、これまでのモノと明らかに違うと肌で感じ取れる程になった。

 その最たる原因はやはり、むせ返るほどに濃密な獣臭さだろう。恐らくここにいる奴で気付いてるのは俺だけだろうが……

 

 嗅覚が良すぎるというのも考えものだなぁ。

 

 

 

「うーん…何か鼻に詰めるか…?」

 

 

「どうされたのですか?ローレンス様。何かお困りのようですが……あ、前に障害物が」

 

 

 

 横に座っていたラナーに声を掛けられる。言われた通り、目の前には何らかの戦闘の余波で吹き飛ばされたのであろう瓦礫が散らばっていた。

 

 

 

「おっとォ?!いやぁすまんすまん。特に何かあるわけじゃないんだが…もう〈伝言(メッセージ)〉は終わったのか?」

 

 

「ええ、まぁ」

 

 

 

 瓦礫を避けて一段落澄んだところで話題はラナーの趣味の話に切り替わっていった。

 この前配下の『二重の影』達を集めて訓練をしていた時に聞いたのだが、彼女はなにやら王国の方で、情報収集もかねていろんな愉快なことをやっているらしい。

 

 

 

「で。どうだったんだ?」

 

 

「やはり難しいですね…向こうも中々の手練れです。私の仕掛けた策が完璧に近い形で無効化されましたから」

 

 

「ふーん、そうか………王国戦士長とやらも大したこと無いんだなぁ」

 

 

「いえ、まだ生きてはいますし、何なら閑職に回されただけで特に影響はないのですが…」

 

 

「それさ~暗殺されな~い?」

 

 

「されるでしょうね!」

 

 

「だよね~!!」

 

 

いえーい、とハイタッチする。

 

 

「で?他に扱えそうな駒はあるの?」

 

 

「ええ……王国内部にはありませんね」

 

 

「へぇ?つまりは―――」

 

 

「はい。近々我々の仲間が増えるかもしれません………ですが、ローレンス様にはちょうどいいかもしれませんよ?なにせ面白い方ばかりですから」

 

 

「そうか?そりゃあ楽しみだな!」

 

 

「ええ!特に、大槌を持った長身の女戦士の方なんて」

 

 

「え゛っ゛っ゛ちょっと待って??なんか頭の中のイメージと口から出てる言葉にとんでもない乖離があったんだけど??」

 

 

「うふふふふふふ♡」

 

 

「ヤメテ!!」

 

 

 



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嘲りで身を飾る

 

 

 

 更にゴーレムを走らせること丸二日。ようやく俺たちは目的地、竜王国の付近へと到着した。

 ……したは良いのだが、何だろうこれ、獣人(ビーストマン)と戦争中なのか?都市をぐるりと囲む城壁を食い破らんと、大小さまざまな大きさの“謎の獣人”が牙を立てている。

 おお!スリングを使っているモノもいるぞ?!獣人ってそんなに頭良かったかな…

 

 竜王国へ来る際に通ってきた森の中から望遠鏡を使って眺める。

 

 …俺の中ではなんかこう、未開の地の蛮族のようなイメージだったんだが、認識を改めねばならないようだ。

 

 他の仲間は『遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)』を使って観察している。数千にも及ぶ獣人の集団による城攻めを見て、フールーダが口を開く。

 

 

 

 

「のう、ラナー殿。本当に情報は正しいのですか?いくらアダマンタイト級冒険者チームといえども、このような状態の国にわざわざ拠点を移すものですかな…」

 

 

「ええ、何せ本人達から聞きましたから!どうやら、評議国からの要請で派遣された『朱の雫』と合流する予定らしいのですが…」

 

 

「『朱の雫』……『蒼の薔薇』と合わせて一つの国にアダマンタイトが二つも…壮観ですな」

 

 

「えーっと、確かお古のパワードスーツ着てる奴だろ?……おっいたいた。今は町の中で休んでる、のか?―――おーっと、こりゃスゴイな。がっつりいくね~…」

 

 

「……何を見られたのです?」

 

 

「さぁ!休憩終わり!ほらとっとと片付けて出発するぞ~。今日中には竜王国に着きたいからな!」

 

 

「ローレンス殿?ローレンス殿!?」

 

 

 

 ぱんぱんっと手を叩き、車内へ引っ込むよう促してゴーレムに乗り込みエンジンをかける。ぶるるるる…と頼りない起動音が鳴り、また動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが到着するまでにあの軍勢がすっかり殲滅されるよう、なるべく時間をかけて進んだ結果、王国の門を潜るのはすっかり月が昇った後の事になった。

 門の前には大量の死体の山が積み上がっており、何とも捌きたい欲求に駆られたため、獣人の物をいくつか失敬してからおとなしく宿屋に引っ込むのであった。

 

 

 

「なぁ、俺たちここ最近宿屋ばっかり探してないか?」

 

 

「そりゃあこんなに短期間で拠点を転々としてればそうなるでしょ。こんな国で野宿するわけにもいかないしさ」

 

 

「うーん……まあ正直見る物無いんだよなー…あ、そうだ!」

 

 

「どったの?また何か変な事でも思い付いたの~?」

 

 

「いや何でもないよ?ただちょーーーっとばかり面白そうなことを、こう、な?」

 

 

「………まぁいーんじゃない?ローレンスがリーダーなんだから、ローレンスの好きなようにやりなよ~」

 

 

「…おう、そうするわ」

 

 

 



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国を喰らう下策

 

 

 

 執務室にて大臣からの報告を聞く妾の顔色は、お世辞にも良いとは言えないだろう。

 誰の目から見ても明らかであるように、我が国『竜王国』は現在滅亡の危機に瀕している。と、いうのも。数年前から続いているビーストマンとの戦争に敗北し続けているのだ。

 あの野蛮なる異形種どもに話なんて通じるわけがない、どうにかして和平交渉を結べないかと送った使者を頭から喰うような連中だ。ああ、最悪だ。なんで妾の治世に限ってこんなことが起こるのだろう?

 

 

 

「そうか。『朱の雫』、『蒼の薔薇』は順調か…」

 

 

「はい。現在は両チームとも装備の点検と休息を摂っているようですな」

 

 

「はぁ…“事が全部終わったら爵位と一等地の豪邸を与える”……自分で言うのも何じゃが、よくこんな条件で引き受けてくれたものよな」

 

 

「他にも色々あったでしょう。どうするのです?“美人なねーちゃん三ダース”はまだいいとして“白金貨合計五百枚”なんて、どうやって集めるのですか?そんな金国庫に無いでしょうに……あっても精々が三百枚弱ですよ?」

 

 

 大臣からのネチネチした言葉責めに、苦虫を噛み潰したような顔で幼女は答える。

 

 

 

「仕方ないじゃろう……どうにかして彼らに留まってもらわねば妾の首が飛ぶんじゃから。金のことは全て終わってから考えるわ……そのために、拠点を貴族街に置かせたのだからなぁ…」

 

 

「ほら女王陛下。仕事してください仕事」

 

 

「うるさーい!ちょっとぐらい伸びたっていいじゃろうが!もう二日は椅子に座りっぱなしなんじゃぞ!?妾ーそろそろ眠りたいんじゃけどー?」

 

 

「うわきっつ」

 

 

「………………はぁ、続きするか」

 

 

「…はい」

 

 

 

 ずっと書類と向き合っていると心に来るものがあるのだ、少しぐらいハッチャケたっていいじゃないか。

 そうして書類の山に手を伸ばそうとしたまさにその時、執務室の扉が叩かれた。

 

 

 

「……入れ」

 

 

「はい」

 

 

「要件は?」

 

 

「はい。ある冒険者チームが謁見を求めているのですが…」

 

 

「ふぅむ?また新しいミスリルか、アダマンタイトか?また国庫が寂しくなるな」

 

 

「元から空でしょうに」

 

 

『『あはははは!』』

 

 

「いえ、カッパーであります」

 

 

「―――………なんで報告しに来たの?」

 

 

「はい。我々も追い返そうとしたのですが、そうしようとした兵士の全員が謎の方法で〈魅了(チャーム)〉され、無力化されました。増援もみな同じ状態であります」

 

 

 

 ドラウディロンは思わず目を見開き、伝令兵に聞き返す。

 

 

 

「で、では、お前は何故〈魅了(チャーム)〉されておらんのじゃ?」

 

 

「いえ、私も支配下にあります。ですが彼の御方が思考を許してくださっておりますので」

 

 

「……では何じゃ。妾を殺すか?」

 

 

「いえ。そのつもりはありませんし、彼の御方もそれは望まれておりません。ただ謁見を賜りたい、と」

 

 

 

 何とも頭の痛い話である。前線に送った兵士の出涸らしであるとはいえ、一応正規兵だというのに、こうも容易く魅了されてしまうのだから。

 かといってこれを指揮して反乱を扇動するのかと言われればそうでもなく、ただ謁見を要求するだけ、と。

 

 

 

(あ、怪しい…怪しすぎる…)

 

 

 

 まあ従うしかないわけだが。何せ逆らったら殺されるしね。おそらく。

 大臣の私を見る目がどんどん酷くなっていく、先程までは死体を見るような感じだったのに今では出荷される豚を見る目になっておる。

 妾一応この国の女王だからな?これが終わっても生きてたら本気でこいつ処そうかな…

 

 

 

「彼の御方がお待ちです、どうぞ。こちらへ」

 

 

 

 ああついに催促されてしまった。ヤバい。どうしよう。せめて死に装束でも着るべきだったかな?

 

 

 

「………分かった。案内せよ」

 

 

「女王陛下…お気をつけて」

 

 

「いや、大臣。共を許す。私の側に居れ」

 

 

 

 おっと、大臣の顔が凄いことになってる!じゃが許せ。妾一人では心細いのだ、肉壁となれ。まぁ骨ぐらいは拾ってやろうかのう。

 

 

 



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夢幻の如き玉座

 

 

 

 即位してから七十年。毎日歩いたこの廊下を通るのがこんなにも苦痛であると感じたのは、あの変態ロリコン野郎(セラブレイト)のチームを招き入れた時以来だろう。

 全く本当に……最近は胃へ直接ダメージを与えてくるような話題に事欠かない。

 

 さて、ホント、どっしよっかなーこれ。妾がいったい何をしたっていうの?

 

 

 

「ローレンス殿。申し訳ないが少し聞き取りづらくてのう、聞き逃してしまったのだ。もう一度チーム名を仰ってはくれぬか?」

 

 

「あらら、そうでしたか。ではもう一度……我々は“果て無き華園”と申します。この度は貴国における対ビーストマン戦争の報を耳にしまして、いても立ってもいられず此処に馳せ参じた次第でございます!」

 

 

 

 うん。聞き間違いじゃないわコレー。酷いよ…なんでこーいう厄介な話題が飛び込んでくるかなー…

 

 

 

 

 

 

 何故妾がこれほどまでに打ちひしがれておるのかというと、理由は様々あるのだが………その中でも特に大きいモノが二つある。

 

 一つは、彼らが曲がりなりにも“果て無き華園”を名乗っていることだ。

 我が竜王国に限らず他のあらゆる国家においても、“果て無き華園”という言葉は最早禁句となっている。

 大凡人語を解する者の中でこの存在を快く思う者はいないだろう。

 

 だというのに彼らはその禁句をチーム名にしている。この名前であれば(例えば、いくつかの“下品な言葉”のように)冒険者登録の際に必ず差し止められるだろうから勝手に名乗っているのだろうが…

 

 どちらにせよだ。そのように自分たちを呼称する存在を自国に引き入れると、場合によっては他の国から宣戦布告されるかもしれないのである。

 

 特に厳しいのが、もしも本国……アーグランド評議国に知られた時だ。

 

 

 我が国『竜王国』と『評議国』は、建国以来ずっと蜜月の関係にある。というのはそもそも、この国の成り立ちに、評議国にて永久評議員の座に在る『七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)』が深くかかわっているからである。

 

 ……というか、妾がその血を引く直系の子孫なんじゃがな。

 

 そういうこともあって『評議国』は、今回のビーストマン戦争においても定期的に物資と人員を供給し続けてくれている。

 

 だがそれも“果て無き華園(仮)”がいるなら話は別だ。

 

 永久評議員たる竜王(ドラゴンロード)の面々は、この世界に存在する知恵ある者の中でも特に“果て無き華園”を毛嫌いしている節がある。そんな彼らにこのことを知られてしまった日には…

 

 

 …うん、この話は止そう。

 

 

 三百ウン十年前に自然消滅してしまった『条約』が今も存在していれば或いは、弁明の余地もあったのかもしれんがな…

 

 

 

 

 もう一つは、彼らが本物の“果て無き華園”である可能性が存在するからである。自分でも信じられぬが、実際に目の前で行われたのだから信じるしかない。

 

 

 この男は広間に入るなり近衛兵全員を未知の方法で魅了すると、それぞれの腕に山程の金貨を持たせて退出するよう命じたのだ。

 

 しかも、その金貨の全てに非常に細微な装飾が施されており、そのどれもが『純金』と呼ばれるものだった。妾の中に微量ながらも存在する竜としての(本能)がそれを証明しておる。

 

 通常、金というのには多かれ少なかれ不純物が混ざるものだ。絶対に。故にその不純物をどれだけ取り除くことができるかによって金の価値は上下する。

 

 …そして、あれらの金貨には一切の不純物が認められない。純度一〇〇パーセントの無垢金だ。これははっきり言って異常なことである。

 

 もしも仮に魔法で一枚一枚鋳造したとして、それに掛かる費用はどれだけのものになるだろう?それに、込められた魔力の量もイカれてる。

 “偽造硬貨を識別する魔法”自体は確かに存在するが、これに込められた魔法の強度は明らかに度を越している。絶対に偽造させないという強い意志を感じるぞ。

 

 

 

 何たる技術力だろうか。

 

 

 

 一点物であったり、なにかの催しの際の記念品などであればまだ理解できる(それでも純度が異常ではあるが)。だが、それを湯水のごとく放出し、あまつさえ側に控えさせた近衛兵全員に配るなど…

 明らかに()の規模が違う。財布の底が破けてるのかな?

 

 

 

「……ところでドラウディロン陛下。そろそろ本題に入っても宜しいでしょうか?事態は一刻を争う、そうでしょう?」

 

 

 

 思考が一段落着いた、丁度いい所で声を掛けられる。

 

 

 

「―――む、おお、すまぬ。どうも最近体調が優れなくてな。上の空になることが多いのだ…」

 

 

「なんと、そうでしたか。でしたら尚更早く商談を済ませなければなりませぬな?」

 

 

「…うむ、できればそうしていただけると助かるのう」

 

 

 あ゛っ゛取引なの?これ絶対吹っ掛けられるよねー……うん。そのまま帰ってくれるともっと嬉しいぞ。

 

 

「まぁ取引などと申しましても、特に金銭やら宝物を要求するわけではありませぬゆえ、そのように身構えずとも結構です」

 

 

 えっホント?わーいうれしー♡

 どこか笑いを堪えた様な様子で男が続ける。

 

 

「さて、単刀直入に申し上げますと」

 

「我々はこの“獣人(ビーストマン)戦争”を終わらせるだけの戦力があります。そして我々は同時に、この戦力を貴国の支援のために行使することができる…」

 

「怪しい集団の長らしき男に、突然このようなことを言われても到底信じられぬでしょうから、これを行動で示したく思います」

 

 

全くもってその通りだよ。待て、まて、どういうことだ?

 

 

「……つ、つまり、貴殿らは」

 

 

「ですが」

 

 

「…ですが、ただ殲滅するだけというのも虚しいものです。労働には対価が必要でしょう?ええ、ですので」

 

「あれらの集団を一匹残らず殲滅した暁には、女王陛下より何か、褒美を賜ることができればと!」

 

 

 



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被支配者たちの嘆き

 

 

 

 この仮面の男が大げさな身振りで自身の野望を語っている間、私は冷や汗を止めることができなかった。

 

 『獣人を殲滅する』?たった六人で?そんなことができるというのか?

 

 

 

「…もしも望まれるのであれば、今すぐにでも赴きますが?」

 

 

「いや、駄目だ」

 

 

「―――なんと?」

 

 

「あ、いや、そういう事ではない。ないのだ……えっと………そう。まだ契約の詳細な部分を決めておらぬであろう?それに、妾はまだ貴殿らの望む褒賞の内容を聞いておらぬ。貴殿の望むものが妾の元に無ければ与えることなど出来ぬからな」

 

 

 こうは言ったが正直何を要求されても呑まざるを得んのだ。だってそうしないと首が物理的に飛ぶし。

 

 

「なるほど。確かに道理に適っておりますな……では先に我々の欲するモノをお伝えしておきましょう」

 

 

 

 

「来るべき“最終戦争”の際、我々の側について頂きたいのです」

 

「いえ、もっと端的に申しましょう―――アーグランド評議国より離反して、我々“果て無き華園”の勢力圏に入って頂きたい!」

 

 

 

 【汚い言葉】!!やっぱりとんでもない要求じゃないか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――に住まう山小人達は我々につきました。決して参加国が貴国だけ、という訳ではありませんよ?」

 

 

「うぅむ、いや、しかし…」

 

 

 

 あれから幾らか時間が経ったが、未だにどうするべきか決めきれずにいた。

 当然だ。こんな重要な事即決できるわけがない。

 

 そもそも本当に山小人の摂政会を掌握したのかにも疑問が残る。

 それに、もし仮にこの男の戯言を信じ切って“果て無き華園”の勢力圏に入ったとしてだ。本当に我々を守護してくれるかという部分に疑問が残る。

 もしも『こっち(華園)はこっちで手一杯です〜!』なんてことになったらどうするのか…

 それに、評議国にいつ知られるか、という問題もある 。

 

 

 本当は本国に知らせなければいいだけの話なのだが今回に限ってはそうもいかない。評議国から派遣された“朱の雫”がいるからだ。

 彼らは完全に評議国側の思想に染まっているから、平たく言えば“果て無き華園”を毛嫌いしている。

 “果て無き華園”を迎え入れるという事は“朱の雫”を。ひいては、彼らが本国に帰還してしまえば、評議国からの支援も失うという事だ。

 

 

 

 そんなことは断じて許されない!

 

 

 

 彼らの支援があったからこそ今まで何とか持ちこたえられてきたというのに、それさえ無くなってしまえば本格的に私が死ぬ。その上評議国からも攻められたら国が消し飛ぶ。

 だがこの要求を呑まなければ今すぐに私の首が飛ぶ(かもしれない)…

 八方塞がりじゃないかー!あ゛ぁ゛ーっ゛!!

 

 

 

「…もしや、評議国との関係を心配しておられるのですか?」

 

 

「………………うむ。はっきり言って、今の我々に貴殿らの要求を叶えるだけの余力は無いのだ。アーグランドを敵に回すという事は、それ即ち我々の滅亡を意味する。それ故、残念ながら…」

 

 

「でしたら、我々がさらに多量の物資を供給することができれば何も問題は無いという事ですね?」

 

 

「―――究極的に言えば、そうなるが」

 

 

「でしたら話は早い!我々の名前が虚仮威(こけおど)しでない事。我々の力が、つまらぬハッタリでないことを証明してみせましょうとも!」

 

 

 

 男が指を鳴らすと次の瞬間、香ばしい小麦の香りが玉座の間に広がった。

 そう、彼らがいた場所には純白のシーツが敷かれ、その上に今にも崩れ落ちそうなほどに積まれたパンがあったのだ。

 

 焼きたてなのだろうか、ほかほかと白い湯気をくゆらせるそれは、見ただけで食欲をそそるような美しき白色をしていた。

 

 思わず大臣と共に駆け寄って、山の中から一つを選び、手に取ってみる。

 

 

 掴めた(・・・)。ということはこれは幻術の類ではない…

 

 

 一口齧ってみるとその味は、今までの生の中で食してきた全てのパンがまるで鉄屑のように思えてしまうほどであった。

 葡萄酒のように芳醇な風味が鼻を突き抜け、次いで花の蜜の如き甘露が舌の上で踊る。

 

 噛めば噛むほどにその甘さの性質が変わり、牛乳と共に流し込めば正に天にも昇る心地…

 

 あれ、牛乳?なんで妾は牛乳を?

 

 

 

「おや、お邪魔でしたかな?パンを食べるのに飲み物の一つも出さぬのは些か礼に欠けるかと思いましてな」

 

 

「え……あ、うむ。有難く頂戴する」

 

 

「遠慮はせずどんどんお食べください!この程度の(・・・・・)パンであればそれこそ無限にありますので!」

 

 

 

 わーい♡

 

 

 




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我々を、照らし給え

 

 

 

 あれから結局三つも食べてようやく落ち着いた妾は、最終的にこの男の勢力圏に入ることで合意した。

 彼らを引き入れることで生じる問題は正直山積みであるが、兎にも角にもこの獣人どもをどうにかせねば我が国に未来は無いのだ。

 それが一先ずなんとかなるならば“果て無き華園”の悪名など安いモノであろう。

 

 

 

 契約書に署名した後、彼らは『準備があるので』と言ってさっさと出て行ってしまった。

 彼らが去った後もパンが消えることは無かった。

 

 

 

「しかし陛下、本当に良かったのですか?」

 

 

「仕方ないじゃろう……あの条件を呑まなかったら殺されると思うたんじゃ」

 

 

「それがよく分からないのですが?ネーミングセンスが致命的に悪いとはいえ、玉座の間に入ってからの彼の振る舞いを見るに、理由も無く王を殺すような人柄には思えませんが………精々が傍迷惑なヤツというだけでしょう」

 

 

「………そうじゃなあ……そうだと良いんじゃが…」

 

 

「何か気付かれたことがお有りで?」

 

 

「……いや、特には無いな。さあ大臣。仕事じゃ仕事、あの男のせいで莫大な量増えたからのう…」

 

 

 

 

 この分だと大臣は気付いておらんのか。あの男が……いや、あの方(・・・)が発しておった重圧に。

 

 身の毛のよだつほどに濃密な死の香り、そしてその香りに勝るとも劣らぬ程に感じられたのは、今までに妾が出会った如何なる存在よりも気高き竜の気配。

 

 咄嗟に跪き命乞いをしなかったことを誰かに褒めてほしいぐらいじゃよ、まったく。

 

 ……しかし、なぜあの方から竜の気配がするのだ?もしかして人では無く“竜人(ドラゴニュート)”だったりするのでは…

 

 

 

(……いや、まさかな)

 

 

 

 もし仮にあれだけ好き勝手暴れとった方が自分より遥かに格上の存在であったら、それこそあの“果て無き華園”の主人みたいじゃないか。

 おお縁起でもない…恐ろしい、恐ろしいのう…

 

 

 

 

 

 

 あの気前の良い女王陛下との契約が済んだ後、俺たちは街の外壁の上で食事を摂っていた。

 広間で出したあのパンを食べてみたいと言われてしまったから……これは仕方がない事なのだ。

 

 

 

「ふむ。それで、これからどうするつもりなのですか?私たちならあの程度の集団を殲滅するのは容易いことですが、面倒なしがらみが一切無いかと言われれば嘘になるでしょうから…」

 

 

その質問に対して、パンの表面にバターをたっぷりと塗りながら答える。

 

 

「うん、取り敢えず一番の問題は“朱の雫”と“蒼の薔薇”だな。こいつらの処遇を決めなきゃいけない。はむっ………まあ手っ取り早いのは“朱の雫”を消して“蒼の薔薇”を取り込む、ってヤツなんだけどな」

 

 

「果たしてそれで彼女たち(蒼の薔薇)が納得するでしょうか?」

 

 

「しないだろうね〜。血縁関係にある者を殺した奴の仲間に進んでなるような奴は人間じゃなかろ?」

 

「………もういっそのこと両方とも殺すかー?」

 

 

「こ、個人的には“蒼の薔薇”は許していただきたいのですが…」

 

 

 

結局どうするか決められぬまま、あーでもないこーでもないと話しているうちに日が落ちてきた。

茜色の空に月が見え始めた頃、一旦会話を中断した俺は『番外席次』とある話をしていた。

 

 

 

「すまない『番外席次』、こっちから渡した手前こんなことを言うのは忍びないんだが……〈夜を照らすもの〉を返してくれないか?」

 

 

「ん?いいわよ。はいどーぞ」

 

 

 

 そう言って彼女が手渡してきたのは一枚の鏡だ。縁には銀をベースとして、スカラベをモチーフにした装飾が施されている。

 かなり大きな鏡だ、だいたい……そうだな、四十センチ位の真円だ。

 ただし、この鏡は何も映していない。中には一切の像が入らないという点においてこの鏡は欠陥品だろう。

 

 

「ねぇローレンス、それを使うってことは…」

 

 

「ん?いやいや、別に戦争をする訳じゃないぞ。ただストックを貯めようと思ってな」

 

 

「それならフールーダにやらせたらいいんじゃない?」

 

 

「それはそうだが…やっぱり大魔法の一つや二つ、行使してみたくなるのが人間ってもんだろ?」

 

 

 

 何も映さないおかしな鏡は、獣人達の前線基地がある方角を向いて立てかけられている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我らの真なる統率者様。貴方様は我々を祝福しないでしょう?

 

 たとえ紛い物であれども我々を祝福してくださる方のほうが好ましいのですが…

 

 

 うっさい。ちゃんと出番は用意してやるから今は我慢しろ。

 

 

 そんなー

 

 

 



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枯れ果てぬ栄光

 

 

 

 薄暮は終わり、暗夜が訪れる。

 

 

 

 いよいよ大虐殺ってやつが生で見られるんだなぁ…

 

 人間ですらない者どもであるという点が気に食わないが、そこは仕方がない。あっちはメインディッシュだからな……せいぜい使い勝手の良い超位魔法の的にでもなってくれよ~

 

 

 

「私が撃つことが出来ぬのは残念ではありますが、この〈王冠〉は少々使い勝手が悪いですからな」

 

 

「うん。まあこれもいい経験だろう。フールーダが撃つ魔法よりも俺が撃つヤツのほうが威力高いんだし、せっかくの機会だから観察しておきなよ」

 

 

「そうさせていただくとしますかな…」

 

 

 

 そう、いくら『ワールド・ディザスター』と言えども、俺の扱うバフをもりもりに掛けた魔法には遠く及ばないのである。

 

 ユグドラシルの魔法システムと言うのは少々特殊で、魔法の威力を底上げしてくれる所謂“杖”みたいな装備は無い。その代わり、防具や指輪、バフの込められたデータクリスタルなんかがそれに当たるのだ。

 

 だがそれらも重ねて使うことはできない………例えばこんな感じだ。

 

 

 

 “『魔法威力10パーセント向上』のデータクリスタルを使用した後に『魔法威力8パーセント向上』のデータクリスタルを使用すると、最後に使ったバフだけが適応されるので、先に使用したクリスタルが無駄になる。”

 

 

 

 ―――みたいな感じ。不便だよねー?

 

 だがこれも慣れてしまえば結構便利なのだ。特に、カテゴリの違うバフやらデバフは乗算で掛かるというのがいい。すごくいい!

 

 あ、乗算と言うのは例えば…

 

 

 

“魔法威力を……1.25倍(装備のセット効果)×1.3倍(指輪の能力)×1.1倍(データクリスタル)×1.5倍(相性有利な相手への攻撃ボーナス)して、元の威力の約2.7倍!!”

 

 

 

 ―――っていう事。こんな極端な例中々ないけれどな!

 

 ……まあ俺なら意図的に起こせたりするんだけども。

 

 とまあそんなこんなで説明なんぞ脳内で垂れ流している間に敵の本拠地までたどり着いてしまったわけなんだが……あれこれ本拠地じゃなくないか?あまりに数が少ない気がする…これだとまるで前線基地みたいだ。

 

 

 

「なあクレマンー、これ明らかに数少なくないか?」

 

 

「え?いや普通だと思うけど、異形種にしちゃよくやってる方じゃな~い?」

 

 

「そ、そうなのか…」

 

 

 

 そうか………いやそうだよな。ここまだ中世だしね、なんならまだ中世なのに五~六万人規模の集団が一斉に行動して、同じ場所で野営してるのってとんでもない事ではあるんだけども!

 

 六万弱…俺の初陣十万もいないの?なんか虚しいな…せっかくお遊び用の装備に着替えてきたっていうのに…

 

 昔煽ったネオナチの抗争の時は五百万人だったしなぁ。だいたいこっちの生き物はみんな数が少ないんだよ。

 

 まあいいや。それじゃあちゃちゃっとやりますかね~

 

 

 

「それじゃあお前ら、よーく見とけよ~?そぅれ!」

 

 

 

 そう言って宙に〈暗闇を照らすもの〉を放ると、ある程度飛んだところで勢いが落ち、そのまま空中でピタリと静止した。

 

 これが待機状態だ……と言っても、今回コイツは使わないんだがな。

 

 

 

「……今更宙に浮く鏡程度で驚きはしませんが…」

 

 

「もっとすごいもの見ちゃったからね~」

 

 

「いったんコイツは置いといてっ、と~………お、あったあった。これだよこれ!」

 

 

「おおッ!それは!」

 

 

「バフ用のデータクリスタルだ……結構いいやつなんだぞ?でも昔クエストで納品するときに作り過ぎちゃってなぁ、在庫が有り余ってるんだよ…」

 

「こういう機会に消費しとかないと本気でカビが生えかねないから、なッ!!」

 

 

 

 クリスタルに力を込めると、それは真っ二つに割れて粉々に砕け散った。

 その破片が辺り一面に散らばり、水晶(クリスタル)の領域が形成されていく。

 地面で使用すればドーム型になるんだが、今は敵基地の真上(・・)で使用しているのでちゃんと球形になるのだ。こういう細かい所もしっかりと作りこまれているのがユグドラシルの良い点なのである。

 

 

 

「じゃあ手始めに……〈真実神の指環(フォルセティア・リング)〉!」

 

 

 

 指に嵌められた指輪の一つが激しく光り始める。光の質が少し変化すると女性の声が聞こえた。

 

 

 

『命令を受諾。使用魔法を以下から選択してください。〈終焉の大地(エンド・アース)〉、〈天上の剣(ソード・オブ・ダモクレス)〉、〈黙示録の蝗害(ディザスター・オブ・アバドンズローカスト)〉…』

 

 

「〈十字型星の大厄災(グランドクロス・カタストロフ)〉だ」

 

 

『使用方法を―――』

 

 

「“同時展開”を選択。威力増幅はそれぞれデータクリスタルを。発射タイミング設定。俺が発動する同名魔法の発動タイミングと合わせてくれ」

 

 

『…承知いたしました。ギルド拠点内の倉庫より設定されたデータクリスタル、〈D-24型超位魔法用魔力結晶〉を二個使用いたします。宜しいでしょうか?』

 

 

「今の要望通るのか……あ、いいぞ」

 

 

『承知いたしました。では発動準備が終わりましたらお声がけください』

 

 

「お~け~お~け~、分かったよっと。じゃあ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The all calamities(あらゆる災いは) should fall on the weakest.(弱き者にこそ降りかかるべきである)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲に展開された超巨大魔法陣を見て、下にいる獣人たちもようやく気付くことができたのだろう。所々で角笛が鳴らされ何やら騒がしい。

 

 しっかしこの魔法陣何回見てもかっこいいよな~。フールーダもさっきから興奮しっぱなしで、もう雄叫び上げちゃってるし。

 

 後でどういう構造になっているのか教えてもらわなければな。

 

 懐を漁り、砂時計を一個取り出す。コイツはガチャのハズレ枠の課金アイテムの一つで、超位魔法の詠唱時間をスキップできるという優れモノだ。勿論万単位で余ってるので迷うことなく割り砕く。パリン、という小気味良い音が鳴ると、中に入っていた砂が俺の詠唱している魔法陣に向かって吸い込まれていく。

 

 

 

「よーし……いいぞ~〈真実神の指環(フォルセティア・リング)〉!こっちは準備オッケーだ!」

 

 

『承知いたしました。これより発動シーケンスに入ります。詠唱呪文、超位魔法、〈十字型星の大厄災(グランドクロス・カタストロフ)〉。発射まで、三、二、一―――』

 

 

 

 ―――さあ、どうなるかな?

 

 

 




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手の内より零れ落ちてゆく

 

 

 

 今は夜だというのにまるで昼間であるかのように明るかった。

 

 

 眩い光が目を焼いたかと思うと次の瞬間、耳を覆いたくなるほどの轟音が鳴り響いた。

 何度も何度も響き渡るそれが早く終わってくれるのを、妾達はただ蹲って震えて、怯えながら待つことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宙に描かれた巨大な魔法陣。それを通るようにして出てきたのは、豪奢な衣装を身に纏った光り輝く巨大な女性だった。

 まるでインドか何処かの神を思わせるような服装の彼女らは慈愛の笑みを浮かべ、両手には光を何重にも束ねた、溢れんばかりの輝きを湛えた剣を持っている。

 

 それが三体、合計六本の光剣が敵陣に振り下ろされ―――

 

 

 

 最初の一撃で、陣は跡形もなく蒸発(・・)した。

 

 

 

 獣人の肉体は、光剣が触れる直前、その勢いと熱量によって溶けて無くなった。辺り一面に広がる焦げた臭い、血の匂い。

 

 それらは全て一枚の真円に吸い込まれていった。

 

 実に五分もの間、何度も何度も更地になった場所に光剣は振り下ろされた。その余波で山は慣らされ、川は消し飛び干上がって、木々は薙ぎ倒された。そこに住まう動物たちも全て塵と化した。

 広範囲に及ぶ破壊の嵐は獣人たちの本拠地まで及ぶ。彼らを率いる獣人の王は、突如として、まるで暗闇を切り裂く雷光のように飛来せし一本の光剣によって、その存在ごと消し飛ばされた。

他の輝剣も同じように。

 一つは()に放り投げられ、そして無数の雨となりこの地に降り注いだ。

 一つは()に突き立てられて、そして数多の杭となり地中から突き出した。

 また別の一つは無造作に別の方角へと投げられた。大地を抉るようにして投擲されたその輝剣は、平坦なる草原に新たな渓谷を生み出した。

 天地創造。神が六日で成したという奇跡を、彼女たちは六本の剣で再現してみせたのである。

 

 もはや彼らの存在を証明するものは、歴史や文献程度しか残されていないだろう。だが、それはそれで幸運だったのかもしれない。

 

 これから起こる大厄災(カタストロフ)を目の当たりにすることが無くなったのだから。

 

 

 

 

 

 

 殺戮と蒸発に五分、天地の創造に五分。

 であるならばその滅びもまた五分であろうか?いや、そんなはずは無いだろう。

 

 

 いつだって滅びは一瞬だ。

 

 

 

 全ての行動を終えた彼女たちは、最後に一際大きく、太く、そしてもっとも美しい装飾の施された光剣を生み出した。

 その生み出した剣を自らの胸元にあてがって、にこり、と微笑み。そして―――

 

 鮮血が迸った。

 

 なんと甘く、艷やかなる絶叫であろうか。死に際までも美しいと言うのも美女の特権なのだろう。

 彼女たちの叫び声が辺りに響くたび大地は痩せ細り草は枯れ果てた。その血が地に滴り落ちたとき、その周囲は再び豊穣に溢れた。

 だがその豊穣も声によって掻き消される。再び緑が生い茂る。枯れる。生い茂る。枯れる。生い茂る。枯れる。枯れる。枯れる。枯れる。枯れる。枯れる。枯れる。

 

 

 貴様らに給う豊穣など一片たりとも残っておらぬ。後に残るは災厄のみ。

 

 

 さぁ刮目せよ。星の滅び。弱き者への災い。生命の輪廻すら滅する一撃を―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんと、コレは………ローレンス様…ローレンス様?如何されたので―――ッ」

 

 

「ん?どうしたフールーダ。何か驚くような事でもあったか?」

 

 

「…いえ、ただその。笑っておられましたので」

 

 

「笑う?………そうか、仮面を着けていても分かるくらい笑っていたか。うん。確かにな」

 

「すごく、すごく綺麗だったんだ。なぁ分かるだろうお前ら?俺の仲間達よ。ああ、素晴らしい。これは凄く素晴らしいなあ!」

 

「―――待ち遠しいなぁ、最終戦争」

 

 

 

 もっといっぱい殺してみたい。自分の手で、自分の力で。きっとすごく楽しいぞ…!

 

 

 

 破壊の中心で心底楽しそうに笑う仮面の男。その姿を見たのはたった五人だけではあるが、彼らは皆一様にこう思ったという。

 

 

 この方は正しく、(●●)であると。

 

 

 




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理解不可能点

 

 

 

 

 やはり事前の予想通り、バフモリモリの超絶ロマン砲を撃つと敵が消し飛ぶどころか地形さえ変えてしまうんだな。

 

 

 この結果の面白い事は、〈十字型星の大厄災(グランドクロス・カタストロフ)〉という対物系の魔法を使用したのに、〈地割れ(クラック・イン・ザ・グラウンド)〉という全く別種の魔法効果も得ることができたということだ。

 ということはだ。過程をすっ飛ばして結果だけを見るならば、より少ないMP(マジックポイント)消費で同等の結果を得ることもできるかもしれない…

 

 これは夢が広がるな!

 

 ……とまぁ妄想はこの辺りで中断して、女王に会いに行こうと思う。

 

 早いところこの結果を見てもらいたいからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「女王サマ?何で行かせてくれないんです!?あんなの一刻も早く確認しなきゃいかんでしょう!」

 

「私としても同意見です。我々が行動報告をしていない時間帯だというのに発生したあの閃光……もし万が一〈破滅の竜王(カタストロフ・ドラゴンロード)〉が復活したのだとしたら、早急に手を打たねばなりません」

 

 

「お二人の気持ちもよく分かる、だがここはどうか堪えてほしい。あの爆発が再び起こるとも限らんのだ、戦闘でもない場面で貴方方という貴重な戦力を失うのはマズイのだ…」

 

 

 

 あの爆発が収まってから数分と経たないうちに、二組の冒険者チームが執務室の扉を蹴破って入ってきた。扉はその衝撃で木片に早変わりした。

 ……酷いよ。それ修理するの我々なんだからね?

 

 そして今妾は両冒険者チーム……〈朱の雫〉、〈蒼の薔薇〉の間で板挟みとなっておる。

 大臣は知らぬ存ぜぬといった様子で黙々と書類を片付けている。おいそこ代わってくれ…

 

 

 

「それに、今回の件に関してはある程度目星が付いておるのじゃ」

 

 

「へぇ?この国に存な戦力が残ってたって言うんですかい」

 

 

「……いや、違う。貴方方よりも後に来たチームで…」

 

 

 

 妾が説明しようとしたまさにその時妾の横に黒い楕円の穴が出現した。何やら奇妙な波紋が渦巻くその空間から出てきたのは、我が国の食糧問題を解決してくれた仮面の男であった。仲間の面々は置いてきたのか、どうやら一人だけのようだ。

 

 

 

「…丁度いい機会じゃ、紹介しよう………その、」

 

 

 どう伝えたものかと言い淀んでいるとそれを察したのか、妾の言葉を遮るようにして話し出す。

 

 

「おやおやこんにちは!まさかアダマンタイト級チームの方々とお会いできるなんて、光栄です!」

 

「私はチーム〈黄金〉のリーダーをやらせていただいております、ローレンスと申します。以後お見知りおきを…」

 

 

「黄金ン?うーん、聞いたことが無いなぁ…」

 

 

「そんな事よりも!貴方今いったいどこから出てきたのですか?!あの黒い空間は一体何だというのです!」

 

 

「ああ女王陛下、依頼通り殲滅してきましたよ。証拠は……えーと、見に行きますか?今なら空から見れますよ?」

 

 

「聞いているんですか!?」

 

 

「そうしようかの…どうじゃ皆さん、付いて来ますかな?」

 

 

 

 そう言うと、二人とも何とも言えないような顔でこちらを見てくる。

 彼らの仲間も同じだった。何か信じられないモノを見つめるような目でこちらを見てくる。

 

 そのような目で見んでくれ。妾だって信じられんが、この者……この方ならやりかねんというのが頭の中のあるから、下手に機嫌を損ねる事が出来ぬのだ…

 

 

 

「ああ、折角ですし皆さんもどうです。こんな機会そうそうありませんよ?」

 

 

「……良いだろう、話は後だ。ラキュー。お前も付いてくるか?」

 

 

「勿論です。仲間たちも気になっているようですし」

 

 

 

 どうやら皆腹が決まったようじゃ。妾が彼の手を掴んだのを皮切りに皆も居住まいを正し、そして彼が再び開いた暗黒の中に飛び込んでいった。

 

 

 




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他者の未来を操る権利が与えられます

 

 

 

 それからの事は語るべくもないだろう。

 

 妾達は―――いや少なくとも妾は、あの破壊痕を見て心が折れた。

 

 あんな惨劇を起こすことのできる手段を持つというのなら、もしあれが我が国の上で炸裂すればいったいどれだけの人間が……いや、生き残れぬか。確証は持てぬが十分も連続して破壊音が響き渡っており、念入りに破壊されておったからまず死ぬだろう。

 

 あの時勢力圏に入る事を合意しておいて本当に良かった。少なくとも我らの頭上には、これが降ってくることが無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 この惨状―――破壊痕は私達のチームが今まで見てきた中でも特に酷いものだった。いや、最大と言ってもいいだろう。

 

 直径四マイルはあるであろう巨大な円型のクレーターが、互いに食い込むような形で三つ。先日確認された獣人たちの前線基地だった場所に存在していた。

 それだけではない。そこを破壊の原点として大地を割るかのように形成された渓谷は、恐らく何らかの力で切断(・・)されたのだろう。その断面はまるで熱したナイフでバターを切ったように滑らかであり、これから察するに一切の抵抗無く地が割れたのだろう。かの法国の特殊部隊ですらこれほどの事はできないだろうし…このチームはいったい何者なのだろうか?

 

 ………それはそれとして、先程からイビルアイの様子がおかしい。妙にガタガタと振動している。確かにこれを見て恐れを抱くのは普通のことではあるが、そこまで震えるものだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転移門を潜って出た先の惨状を目の当たりにしてからというもの、我々“朱の雫”の空気は最悪だった。殆ど葬式みたいなものだ。リーダーとして皆の士気を高めるのは大事なことではあるが、そんなことをする余裕すら今の俺には残されていなかった。

 

 

(は、早く本国に戻って報告せにゃあならん…!)

 

 

 先程から俺はそのことばかり考えていた。この痕の詳細なんてものはどうでもいい。ただ大事なのは、たった一発の魔法で一勢力を地図から消すことができる存在が竜王国に(・・・・)現れたということだ。

 

 俺の見る限りでは女王サマはあの仮面の男の言いなりになっている、ように見える。恐らくその超常の力を使って無理矢理従属させたのだろう。

 竜王国に離反の予兆あり、か。さて。これをどう伝えに行くべきか…

 

 腕を組み思案していると、姪のチームの仲間である仮面の少女……イビルアイと言ったか?が近づいて声を掛けてきた。

 

 

 

「お?どうした嬢ちゃんよう?」

 

 

「すまない、後で話がしたい。都合を付けることができるだろうか?」

 

 

「あー…すまんがそりゃ無理だ。ちょいと急用ができてな、評議国に蜻蛉帰りするハメになっちまったんだよ」

 

 

「それならば手短に話そう…私達は、いや、少なくとも私は、あの男のチームに加わろうと思う」

 

 

「―――正気かい?」

 

 

「ああ。仲間になるほど近くにいれば自ずと弱点も見えてくるだろう。来るべき時(・・・・・・)に変な誤解を招かぬよう、予め伝えておくべきだと思ってな、それだけだ」

 

 

「……嬢ちゃんイビルアイっつったか?なんだよやるじゃねぇか。見直したぜ?」

 

 

「あ、あまりそのようなことを言うな。照れるじゃないか…」

 

 

 

 ―――ラキューもいい仲間を持ったじゃねぇかよ。

 

 それが少し誇らしくなって。この胸糞悪い気分もほんの少し和らいだ。

 

 ………さて、どうやって帰ったものだろうか?

 

 

 




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不可能拓く超常の弓

見た目:完全食(Perfect meal)


 

 

 

「邪魔だァァァァァッッ!!」

 

 

 

 あれからラキューのチームと一緒に王城に戻った俺たちは、陛下への挨拶も程々に済ませて評議国への旅路を急いでいた。初めは魔力節約モードで飛行していたのだが、ついに、先程から妨害が始まった。

 

 ここはまだ竜王国の領域内。竜王国から評議国まではどれだけ急いで飛行しても一日強は掛かるのだ。国を二つも跨いでそれだけしかかからないんだから本来なら喝采モンだが、今回ばかりはもっと速ければなんて愚痴を溢しちまう。

 

 それに……なんだコイツらは!この気色悪い見た目をしたネズミとも魚とも似つかないような外見のモンスター!所々から肋骨らしきものが飛び出たナマコみたいな生物が十秒に一回ほどのペースで地上から撃ち込まれる。

 コイツラこそ先程から俺たちを妨害してくるお邪魔虫である。

 

 

 今まではなんとか避けきれていたがもうそろそろ限界だ。先ほど仲間の一人が被()し、装甲ごとバリバリと音を立てて貪り食われながら堕ちていった。

 

 俺も覚悟を決めてこの生物を生み出す主を討伐しなければならないか…?いや、するべきだ。どうせこのままではジリ貧だし、どこまでコイツラが追ってくるのか分からない。それこそ評議国までついて(・・・)きちまった日には…

 

 他のメンバーも同じ結論に至ったのだろう。俺が“反転”、“攻撃”の手信号を行っても“反対”は行われなかった。

 

 

 そして三つ数えて一斉に推進力発生装置をふかし、反転した時―――

 

 

 

 ―――俺たち全員の()に、化け物が貼り付いた。

 

 

 

 

 

 

「“朱の雫"の処理、完了致しましたわ。ローレンス様」

 

 

「いやぁやっぱり見事なもんだわ!それに…」

 

「その〈三不剛弓(サンフゴウキュウ)〉は使い勝手がいいだろう?」

 

 

「ええ!目標に向かって直線的に飛んでいくのは不思議ですが……撃ち出されたモノも自動で目標に飛んでいくようなので扱いやすいですわね…」

 

 

「本当に直線にしか飛ばないようにもできるから今度試してみなよ」

 

 

「そうさせていただきますね!」

 

 

 花のような笑顔を向けてくるレイナースが手にしているのは、俺が渡した弓だ。

 

 ワールドアイテム、〈三不剛弓(サンフゴウキュウ)〉。『形無き弓』、『有り得ざる弓』としても知られるこの弓は、おおよそ弓と言ってはならないような見た目をしている。

 というのもこの弓、持ち手の部分しか無い(・・・・)のだ。

 弓の身体(弦を引くと柔らかくしなる部分)や弦は存在せず、射撃の際にのみ幻影のような形で現れる。

 ……だが、この弓が矢を打ち出すことはない。この弓でもって矢を射ると凄まじい火力が出る代わりに弓自体が壊れてしまう。

 

 

 では何を代わりに撃ち出すのかというと………何でも(・・・)だ。

 

 

 それこそ店先に並んでいる果物やそこらへんに生えてる草、花、生物、鎧、武器……スクロールを撃てば魔法だって撃てるし、何も装填せずに射撃することだってできる。だが矢は決して放てない。射れば自壊してしまうから。

 

 

 

 

 撃ち出した物は不壊(コワレズ)、弾は不尽(ツキズ)、されどそれでも不完全(フカンゼン)。故にこの剛弓には〈三不〉の銘が与えらえれているのである。

 

 

 

 




 やーーーっと出せました!!わーい!!この〈三不剛弓(サンフゴウキュウ)〉は活動報告に送られてきた武器の一つです。

 原案は“そもそも矢を射れない”でしたがこっちでは“矢を射ると壊れる”になりました。

 猫の宅急便さん、ネタ提供ありがとうございます!


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死の支配者の博打

 

 

 

 竜王国近辺での断続的な大爆発、閃光の発生。そしてそれに伴う獣人(ビーストマン)消滅(・・)の報せは、瞬く間に人類国家の間で広まった。

 

 当然その話はモモンガの耳にも入る。

 

 

 

「黎明華が竜王国にいるだと?!そんな、いやまさか……そんなバカなことがあってたまるか!!」

 

 

 

 いくら精神抑制が働いてもその激情が静まることは無かった。

 

 なぜモモンガがここまで荒れているのか?その理由は偏に“アーグランド評議国の上層部が勝手に突っ走らないか”という懸念からだ。

 

 彼らがもしもそこまでの戦力を保有していないのならば武力による平定という選択肢もあったのだが、彼らは現地人国家の中でも優秀な部類である『スレイン法国』すらも上回る、現地人国家の中で最高の戦力を持っている。

 故に真正面からぶつかり合うのは下策と考えたモモンガと三賢たちは、評議国と同盟を……それも、相互永久同盟という、国家間の約束としてはこれ以上ない程強力で重い同盟を結ぶことによって、彼らと自分たちが同等の立場である、という事を無理矢理に認めさせたのである。

 

 これによって評議国が無理にナザリック地下大墳墓に進攻してこないようにすることができた。

 

 

 

 これが仇となった。

 

 

 

 同等の立場であるという事は、双方に主権があるという事だ。

 

 これはつまり、今の我々の置かれた状況と言うのは。俺たちの世界における旧世紀(第二次大戦ごろ)の日本とドイツのような関係である可能性が『非常に高い』という事だ。

 ……要するに、たった一枚の紙切れ(同盟)のせいで、戦いたくもない相手と戦わされるような状況ということである。

 

 俺たちは彼らの“黎明華に対する恐怖心/嫌悪感”といった悪感情の強さを見誤っていたのかもしれない。いや、もっと早くに気付くべきだったんだ。判断材料はいくらでもあったはずなんだ!

 

 パンドラが評議国に会談のために赴いた時に実感した、『対異世界人(ぷれいやー)ドクトリン』とも言うべきものの存在。

 対個人戦闘における基本的戦略、それを忠実に遂行するために練兵された精強なる軍隊。パンドラが録画してきた映像を後から見て、思わずチビりそうになったぐらいには覚悟がキマッていた。

 この異世界において、亜人種族としての利点を最大限に活用している国家はどこかと言われれば、我々を除けば間違いなく評議国であろう。

 

 種族として人間よりも力が強く、足が速く、補給が少なく食糧がなくても継戦能力を保つことができる。

 兵士としての全体の質という問題を、『品種改良』によって強引に初期種族レベルを引き上げることによって解決するという狂気的な行為をやってのけたのだ。

 

 

 英雄級以下(・・)の戦士の量産。これが評議国がその四〇〇年の歴史で行ってきた偉業の一つである。

 

 

 これに加えて、評議国を統べる永久評議員。その列席に名を連ねる八体の竜王(ドラゴンロード)たちも戦力に数えるべきだろう。

 そのうちの一体はなんとかの“二十”であるワールドアイテムすら保有するのだとか!

 

 ……このように、並大抵のプレイヤーであれば確実に殺すことができるだけの戦力を保有している彼らではあるが、それゆえに、一刻も早く(黎明華)を殺そうという結論に至ってしまわないか。

 

 それがモモンガにとっての懸念点であった。

 

 

 

『アルベド!アルベド!!』

 

 

『如何なさいましたか!』

 

 

『竜王国と評議国についての最新の情報を大至急収集しろ!二グレドも資金も何でも使うんだ!』

 

 

『それについてはもう開始しております。評議国に送っている情報部隊より報告が―――』

 

 

『知らせろ!』

 

 

『“円卓会議”が開催されました。議題は“国家の戦争形態への移行”です。結果は八議席中六席の賛成により可決。特に、“七彩の竜王(ブライトネス・ドラゴンロード)”と“白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)”が熱心にこれを推進した、と』

 

 

 

 それを聞いたモモンガは、悲鳴とも似つかないような掠れた声を溢し、いよいよ膝から崩れ落ちてしまう。

 

 

 

『モモンガ様!?モモンガ様!!』

 

 

 

 アルベドの声にも答えることすらできない。今の自分にあるはずの無い脳を強く揺さぶられたような衝撃だ。

 

 

 あまりに深い絶望。

 

 何か妨害をかけることはできるか?

 

 約束したじゃないか。

 

 口約束だとやはりだめだったのか?

 

 今の彼らの戦力じゃ逆立ちしたって勝てっこない。

 

 我々も助力をせねば。

 

 だがはたしてそれで勝てるのか?

 

 総動員を……あれ?総動員?

 

 

 

 その時、モモンガに圧倒的閃きが舞い降りた。

 

 

 

「アルベド!!…あ、『アルベド!』」

 

 

『モモンガ様!大丈夫ですか!?』

 

 

『今すぐに衣装を外交用の物に整えよ!私はパンドラズ・アクターに〈伝言〉をかける』

 

『彼らは総動員令を発布しただけ(・・)だ。まだ黎明華に攻撃をしかけていない!なら今なら間に合う……私に扮したパンドラと共に評議国の侵攻を遅らせるよう交渉せよ!切れる手札は全て使うことを許す!』

 

 

『承知いたしました!』

 

 

 

 全ての行動を終わらせたモモンガは、深く息を吐いて椅子にへたり込む。

 

 果たして自分の行動は正しかったのだろうか。どれだけ我々が準備をしても黎明華には敵わないのだから今すぐに殴り掛かった方が良かったのでは…

 

 

 

 「竜王国か…一度、行くべきだな」

 

 

 

 黎明華(最強の存在)への直談判。自分の社畜人生の集大成、か…

 

 もしも行動を起こすならば付き人はいない方が良い、俺だけで行くべきだろう。それで死ぬならそれまでだ。

 

 それに彼だって元は自分と同じ人間のハズだ。それに、賭けるしかない…

 

 

 

 その数分後。モモンガの自室に入ってきたデミウルゴスとアルベドが驚愕することとなるのだが、それはまた別の話。

 

 

 



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最後のキッカケ

 

 

 

 ここは竜王国。王城のテラス。

 

 日当たりのよいそこで眼下に広がる街を眺めつつ茶を楽しんでいた時、聞き慣れた転移エフェクトが聞こえた。

 

 漂ってくるのは〈幻紋章(同胞)〉の放つ心地よい波動ではなく、仄暗い死の香り。かつんかつん、という、杖の石突が立てる音が昼下がりのテラスに広がった。

 

 少しばかりヤツれたような声で〈死の支配者(オーバーロード)〉が話しかける。

 

 

 

「……お久しぶりです、黎明華さん」

 

 

「ああ…まぁとりあえず座りなよ。茶を注いでやる……飲めるだろ?」

 

 

「ええ、いただきます」

 

 

 

 対面の席に顎のしゃくれた厳つい骨格標本が座る。

 

 腹に浮かぶ赤い球に見た目だけは立派なローブ。それに加えて、かのハプスブルクを思わせるこの顎の突き出具合が重なれば、該当するプレイヤーなんて一人しかいないだろう。

 

 

 

「こうして会うのは何カ月ぶりだなあ。なぁモモンガ?」

 

 

「ええ。おかげさまで向こう(ユグドラシル)ではサ終まで楽しませていただきました。まさかもう一度、よりにもよってあのタイミングでワールドエネミーになるなんて思いもしませんでしたよ!」

 

 

「ふふふ!あれは兼ねてから計画していたことでね?全体アナウンスを聞いた時はビックリしたろ」

 

 

「…ええ、本当に」

 

 

 

 現実における立場は全く違うといえども、元は互いにプレイヤー。第二の故郷と言っても過言ではないユグドラシルの話ともなれば自然と会話も弾んでくる。

 

 だが、モモンガが本当に話したいのは“望郷”“懐古”ではない。もっと別の事だろう。

 

 

 

「で?そろそろ本題に入ろうかね」

 

 

「………黎明華さん」

 

 

「なんだい」

 

 

「黎明華さんは、この世界で何をするつもりなのですか?」

 

 

「…」

 

 

「貴方の持つアイテムやスキル、戦力(・・)を使えば、私が今どのような状況にあり、何を悩んでいるのかすら理解できるはずです。その上で私は貴方に問います」

 

「黎明華さんは、この世界をどうするつもりなんですか?」

 

 

 

 数分の思案の後、(黎明華)は話し始めた。

 

 

 

「………………ふーーむ。難しい。非常に難しい質問だよ、それは」

 

「まず前提としてだね?俺の行動理念っていうのは今も昔も変わっていないんだ」

 

 

「…それはつまり、『未知を無くすこと』ですか?」

 

 

「そう。俺は俺の視界の届く範囲の全ての知識が、俺の理解する所に在る状態をこそ望んでいる。俺の内から湧き出てきた新たな疑問は即座に解決されて然るべきだ」

 

 

「そういう意味では、『この世界を探検すること』が俺の目的になるだろうな」

 

 

「……そうですか。でしたら、ですね」

 

 

「…」

 

 

「我々と貴方の目的はそれほど類似していない訳では無いのかもしれません。ですから、」

 

「私は、貴方と契約を結びたい。かつてあの世界において我々は皆プレイヤー(遊び人)だった。そしてそれは今でも変わっていない、そのはずです。私たちの未知への探求心は未だ尽きていないでしょう?」

 

「我々は共に歩むことができるはずだ。ですから―――」

 

 

「私と一つ、契約を結んでいただきたい」

 

 

 

 深紅の瞳が輝いた。

 

 

 



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END 3 『一欠片の気まぐれ』

 

 

 

 永遠にも感じられるほどの長い時間の後、彼は開口した。

 

 

 

「内容は?」

 

 

「……え?」

 

 

「“内容は”と聞いているんだよ。契約、結びたくないのか?」

 

 

「え、あ、はい!」

 

 

 

 それは俺が心の底から望んでいた返答であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくつかの本当に些細な取り決めを互いの持つ〈テキストスクロール〉に記し、それに署名をする。

 たったそれだけの行為で、俺のこれまでの苦労は全て露と消えた。

 

 

 全ての作業が終わり互いに何も喋ることなく、ただ漫然とした時間が流れていた。

 

 俺はふと気になって彼に問いかけてみる。

 

 

 

「黎明華さん、こっちから話を持ち掛けた手前こんなことを聞くのはおかしいのかもしれませんが……なんで承諾してくれたんですか?」

 

 

「ん?………ああ。まぁ。簡単な話だよ」

 

 

 

そう言うと、彼は腕組みしたまま答えた。

 

 

 

 

「そんな風に頭ン中でいろいろゴチャゴチャと考えたのに、最終的には直談判を選んだモモンガが可笑しかった……ただそれだけだよ」

 

 

 

―――結局はただの気まぐれさね。

 

 

 

 彼はそう言って席を立った。いつの間にかカップの中身は空になっていた。

 

 城内へと戻っていく黎明華さんに何か言わなければと考えるが、結局は何も思い浮かばずただ呼び止めるだけになってしまう。

 

 

 

「あの―――」

 

 

「あ、そういえば」

 

 

 

 彼が足を止めて、されど振り返ることなく俺に話しかける。

 

 

 

「この国とドワーフの国は俺の物にしたから、そこの所よろしくな?」

 

 

「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え。ねえちょっと待ってください!?俺さっき言いましたよね?ウチのギルドが現在評議国と同盟関係にあるって!」

 

 

「ええ~?そんなの知らんよ。モモンガが勝手に結んだ条約じゃないか。まああれだ、三枚舌外交ってヤツだろ。しっかしどっちの顔も立てなきゃいけないってのは辛そうだねぇ…」

 

 

「そ、それが解ってるんならどうにかしてくださいよ!!」

 

 

「それは嫌だ!」

 

 

「何でです!?あーもう!やっぱアンタ“るし☆ふぁー”よりヤバい人だよ!!」

 

 

「アーッハッハッハッハ!」

 

 

「全然笑い事じゃないですよ!!」

 

 

 

 今回の件でこの世界における全ての不安要素が無くなったかのように思えた。だが結局、問題と言うのは潰しても潰しても湧いて出てくるものだ。それをすっかり忘れていた。

 

 

 俺の仕事はまだまだ尽きない。

 

 

 項垂れてがっくり膝をついている俺とそれを見て笑っている黎明華。何ともカオスな光景だがそれでも死ぬよりかはマシだ。こうなればとことん行ける所までやるしかない。

 

 

 

 何たって俺は、ナザリック地下大墳墓の支配者なのだから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END 3   『一欠片の気まぐれ』

 

 

 




別名“激レアエンド”

 モモンガが法国、もしくは評議国と同盟を結び、しかも近隣国家との関係も良い状態を保っている状態。
 その上オリ主が“運良く(・・・)”契約を結んでくれる気分な時にモモンガが直談判しに来る。

 うお〜すげ〜〜〜。こんなの達成できるヤツいる?いね〜よなァ〜〜?



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第二誕生日

 

 

 

 永遠にも感じられるほどの長い時間の後、彼は開口した。

 

 

 

「……ふむ。面白い」

 

 

「―――何がですか?」

 

 

「ん?いや…さっきからまるで俺とお前が対等な存在であるかのように話しているのがすっごく面白くてな。そうは思わないか?鈴木悟君?」

 

 

「………は?」

 

 

「ん?ど〜したんだね鈴木君」

 

 

「え、は、いやッ、なんで黎明華さんが俺の名前を…ッ!?」

 

 

 

 冷たい戦慄が走ると、感電したかのような衝撃が背筋を走った。

 昔同じギルドに所属していたメンバーですら本名を明かしたことは無いというのに、なぜ彼は俺の名前を言い当てることができたのだろうか?

 

 表すことのできない不快感が絡みついてくる。

 

 

 

「あぁ……君には特別に教えてあげようか。俺の素性。俺はね―――」

 

 

「元の世界において最も多くの富を独占した人間なんだよ。要は君たちみたいな吐いて捨てるほど存在する“ゴミクズ”を、手慰みに殺すことができる様な立場の人間なのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にいる存在がかつての世界一の金持ち。そんなことを急に言われて信じられるハズが無かった。自分に向けて放たれた暴言を咀嚼する余裕もなく脳が回転する。

 

 確かにそうであるとすれば全ての辻褄が合う。ユグドラシルでの数々の異常な行動、まるで底が無いかのように散在する様なんていうのは莫大な資金が無ければ到底不可能な芸当だ。

 

 だがユグドラシルではR(リアル)M(マネー)T(トレード)は禁止されているハズ…

 

 

 

「あのねぇ……君は金の力というのを過小評価し過ぎなんだよ。裏から莫大な金を流してやればルールあってないようなモノだ」

 

「それに、ネットの世界にはRMT専門のサイトだってあるんだ。金があるならそういう物だって選択肢に入る…」

 

 

「そしてその金の源泉は、お前たちだ」

 

 

「―――」

 

 

「お前たちが!お前たちが昼夜を問わず馬車馬の様に、必死こいてその命を燃やし働いてくれるからこそ!俺の財は保たれる!」

 

「……だからねぇ?俺は君たちに感謝しているんだよ、鈴木君」

 

「君たちの様な何の価値も無いクズが、何とかして自分の内に価値を見出そうとする。その涙ぐましい努力こそが俺たち富裕層の糧となるのだ!!」

 

 

「かつての世界の富裕層を代表して、君に感謝の言葉を贈ろう」

 

 

 

 ―――ありがとう。本当に、ありがとう。

 

 

 

「……言いたいことはそれだけですか?」

 

 

「ん?ああいや、もう一つ大事なことを言い忘れていたよ。お前のギルド……あの貧相な墓地(・・)があるだろ?あのガランドウな廃墟…」

 

 

 

 数々の思い出が蘇る。いくつもの輝かしい日々が脳裏に思い起こされる。

 

 

 

「聞けば~、ユグドラシルの最終日だっていうのに~誰もログインしなかったらしいじゃあないか~!なんでだろうねぇ?不思議だねぇ??」

 

 

「―――おい、まさか」

 

 

「何であれだけ頑張って創りあげた、自分たちの思い出の場所をそう簡単に捨てられるんだろうね?ほんと、不思議だよね~」

 

 

 

 この男の言葉をこれ以上聞いてはいけない。この言葉を耳に入れて、脳で咀嚼してしまえば何かが終わってしまう気がする。

 

 だというのにこの口は止まらない。

 

 

 

「何を…いったい俺のギルメンたちに何をしたんだ!?」

 

 

「何ぃ?…う~ん……単に長期休暇を取らせてやっただけだよ。全員ね(・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天国に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――んふふふふフフフフ!アハハハハハハハハ!!正にその通り!!よく分かったじゃないか!」

 

 

 

 ……ああ、駄目だ。戦えば絶対に負けると理性では解っている。でも、そことは全く別。

 

 

 本能の部分で(心の底から)目の前の存在を、この世から消し去りたいと思った。思ってしまった。

 

 

 一度生まれた感情はまるで堰を切ったように俺の心を支配し、瞬く間に溢れ出した。

 

 

 

「ああ面白い!あゝ面白い!!今のお前の内側、まるで万華鏡みたいだよ!面白いねぇ!!」

 

 

「どれだけ取り繕ったってお前たちは金の奴隷なんだよ!元は仲間同士だっていうのに、たったあれだけの(はした)のために目の色変えて殺しあうんだからさァ!?」

 

 

 

 

 

 

 ぷちり。

 

 

 

 大事なモノが、千切れてしまう音がした。

 

 

 




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回帰、或いは?

 

 

 

 まるで廃船を沈没させる海水のように、汲めども汲めども湧いてくる殺人衝動。アンデッドとしての原始的欲求が目の前の“黎明華(ゴミ)”を殺せと囁いてくる。かつて人間だった頃の理性がストッパーになる事など最早無く、むしろ私の理性は、このアンデッドとしての欲求を肯定していた。

 

 

 

「貴様……溢れた水は二度と戻らんぞ?」

 

 

「アハハハ!元より戻す気なんて無いよ!さぁ、此処に交渉は決裂した!君は早くお墓に戻るがいい。そしてそのチンケな脳味噌で、俺を殺す策でも練ってるんだな!」

 

 

 

 ゴミの言う通りに帰還するのは癪に障るが、ここで戦っても勝ち目はない。一秒でも早く動員を済ませるために俺は王国にある執務室へと転移するのであった。

 大墳墓の位置を特定されないように、別の場所を経由して転移するだけの理性はまだ残っていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 モモンガが何処かへ転移した後。いつ話しかけようかと頃合いを見計らっていたのだろう。〈完全不可知化(パーフェクト・アンノウンアブル)〉を解除して、城内より一人の女が出てくる。その手には、玉を掴む手を象りし王笏が握られていた。

 

 

 

「もうお話は終わったのですか?」

 

 

「…ああ」

 

 

 

 目配せをされたので頷くと、ラナーは先程までモモンガの座っていた椅子に座る。

 初夏であるとはいえこの日差しであれば暑かろう。“物置”から冷えたサイダーを取り出し、そのまま〈浮遊(フライ)〉で瓶を浮かしてグラスに注いでやる。

 グラスに射し込む光を受けて氷がからんと音を立てた。

 

 

 

「とりあえずは動員の準備か…攻めるならこちらからかな?」

 

 

「一国の主があれだけ劣等感を煽られたのですから、何もせずとも攻めてくるでしょう?」

 

 

「そうだとも。だが、ただ座して待つだけというのはつまらない。どうせなら面白いモノが見たいんだ」

 

「君からの情報に拠れば、あの骨は何やらいろいろと物騒な法を敷いているみたいじゃないか。悪法を敷く王がいるのならやることは一つだろ?」

 

 

「うふふふふ!では我々は楽園でも創るのでしょうか?」

 

 

「違うね、華園さ……いや?華園はもう創ったからやっぱり楽園にするかねぇ…?さぁて!これからも~っと楽しくなるぞ!」

 

 

 

 そろそろ俺も動かねばなるまいて。椅子から立ち上がると、それに合わせて彼女も席を立つ。

そのまま横に並んで歩く。

 

 

 

「……なぁラナー」

 

 

「お前は今、楽しいかね?」

 

 

 

 

「―――ええ、とっても♡」

 

 

 

 俺を見上げるその顔は、何も知らぬ者が見ればきっと悲鳴を上げることだろう。常人には理解出来ぬ表情故に。故にこそ彼女には愛でる価値がある。

 

 

 その瞳に光は無く、口は歪な弧を描いていた。

 

 

 ………本当に、美しい。

 

 

 




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王国大同盟に対する戦略会議

“せっていくん”を少し修正しました。よかったら見てくださーい。

https://syosetu.org/novel/288498/39.html


 

 

 

 あの非公式な宣戦布告からしばらく経った後、俺たちは城内の会議室を一つ使ってちょっとした会議をしていた。

 出席者も錚々たる面々であるし、議題も中々ゴツい大層な感じの会議になってしまった。もっとこう主婦たちの井戸端会議的なノリで進めたかったんだが…

 

 でも、箇条書きにしてみると中々ヤバイメンバーなんだよな。

 

 

 

 まず“四〇〇年前の神話に登場する悪神()”、“元漆黒聖典第九席次”、“法国の切り札”だろ?

 

 それに加えて“リ・エスティーゼ王国第三王女”に“帝国最強の魔法詠唱者(トライアッド)”、“帝国四騎士の一人”。

 

 あとオマケで竜王国の女王と山小人の国からお偉いさんが何名か。

 

 

 ……全く恐ろしいものだよ。こんな物騒なメンバーを揃えておいて論する議題が『防衛戦争について』なんだからさ?

 

 

 

「それで、だ。俺としては女王陛下の国を焦土にするのは気が引ける。だがこれは一応“戦争”の形式を取っているから、一切派兵をしないというのはそれはそれで問題になる………って聞いてる?おーい?」

 

 

 

 そういえばここに引っ張ってきた時もどこか魂が抜けた様な顔をしていた……多分これあまりのショックで茫然自失になってるな?

 

 仕方がないので〈冷静〉で意識を戻しておく。

 

 

 

「―――はっ」

 

 

「おつかれ~。さ、会議するぞ~」

 

 

「……いやそれどころじゃないんじゃが。もうこの国滅ぶんじゃけど!?とっとと亡命の準備をしないと妾死んじゃう―――」

 

 

「死なんわ!?それに滅ぼさせるわけないでしょうが。せっかくのコレクションなんだし…」

 

 

「あぁ…もうダメじゃ…妾のこれまでの苦労はいったい何だったのじゃ…」

 

 

 

 ここまで話を聞かない人間もそうそういないだろう。こうなってしまえばなんかもう使い物にならないので、部屋の隅の方に退かせておく。

 

 

 

「さ~て。んじゃ気を取り直して……正直今回の戦争、勝つだけなら簡単なんだ」

 

 

「どのように勝利されるのですか?」

 

 

 

 俺が話し始めるとラナーが合の手を入れてくれる。ありがたいねぇ〜!

 

 

 

「手っ取り早く勝つなら、俺の“内側”から師団を全部引っ張り出せば物量攻めで一気に勝てる。それで無くても俺がこーいう弱体化装備を全部外して全力でそこらじゅうを走り回れば、それだけで軍隊なんて消し飛ぶだろうしな。むっ、それはそれで見てみたい気もするけれど…」

 

「他にもフーシェ(番外席次)の〈夜を照らすもの〉でも使えば単純な兵力差なんてどうにでもなる。数は…ちゃんと数えてないけど多分すごい量になるんじゃないか?………お~いちゃんと聞いておけよ~」

 

 

「大丈夫だいじょ~ぶ。聞いてるわよ」

 

 

「…ラナーからの情報によれば、王国と法国が一度に扱える軍の最大規模はだいたい二百万程度。それぐらいだったら超位魔法を連射すれば……五分もあれば全滅(・・)させられるだろう」

 

 

「……どちらの意味でしょう?」

 

 

「文字通りの意味だよ。損耗率五十パーセントなんてまどろっこしい方じゃない、そのままの意味さ」

 

 

 それを聞いて復活したのか女王が勢いよく立ち上がる。

 

 

「まあ今回は全体魔法使わないんだけどね」

 

 

 また崩れ落ちた。わ~お。

 

 

「……まぁそんなことしなくても。多分お前の持つ〈崩笛〉の三回目と〈愛恋の神(エロース)〉を使って、あとは演説でもすれば何割かは寝返るんじゃないか?」

 

 

「でしたら兵は極力殺さないのですか?」

 

 

「………どっちがいいかな~…開戦直後に敵軍に向けて魔法ぶち込むのもいいけどさ、よく考えたらそれって戦後どうするのさ」

 

「だいたい軍に所属してるのは若い働き盛りの奴らばかりだろ?そいつらを皆殺しにしてしまったら後に残るのは老人と子供だけ。そんな状態の国家なんて竜王国に吸収させても旨味ないだろ?」

 

 

 

 俺が説明すると、目に見えてフールーダの気分が落ち込んでいる。どうしたのかと聞いてみると、ぼそぼそと話し始めた。

 

 

 

「でしたら、私の出番は今回も無いのですかのぅ…先ほどの獣人の時も撃てませんでしたから、今回は超位魔法というものを撃ってみたいのですが…」

 

 

「―――確かに。どうしようか。それは不味いよな………そうだ!」

 

 

 本当はクレマンティーヌしか誘うつもりは無かったんだが、フールーダだけ出番が無いというのも可愛そうだ。仕方がないだろう。

 急に立ち上がった俺をキョトンとした顔で見てくる彼にある提案を持ちかける。

 

 

 

「―――お前さ、俺と一緒に大将首(モモンガ)獲りに行かない?」

 

 

 




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油断無く、慈悲も無く

 

 

 

「大将首……敵のリーダーの本拠地に直接乗り込むというのですか!?」

 

 

 俺の提案にフールーダだけでなく、この場にいた全員が驚いているようだ。まぁ現代戦ならまだしも中世ヨーロッパの戦争では中々思いつかない事だよな。

 だが俺達には〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉がある。コイツを使えば距離を無視した行軍が可能だ。相手も使ってくるというのに自分たちが使わないというのはもったいないからな。存分に使わせてもらおう。

 

 

 

「で、でしたら私達はいったい何をすればいいんですの…?」

 

 

「あぁ、レイナースたちには他のネームド……幹部格の奴らを足止め(・・・)してほしい」

 

「ナザリックの最大戦力たる階層守護者ども。コイツらの情報は既に得ている。いやぁ〜しかし捨て駒とはいえ、あの時の俺はよく五百人も突っ込ませたものだよな!」

 

「んじゃとりあえず説明を―――おっと」

 

 

「どうしたのですか?」

 

 

「……いや。ただマヌケなネズミが一匹罠に掛かっただけだよ。さ、今度こそ説明をしようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニグレドによる黎明華への覗き見は我々にとって最悪の結果をもたらした。

 事前に何枚かの〈探知防御無視〉〈逆探知無効〉のスクロールを使用させていたというのに、ヤツは何らかの手段で我々のいるニセナザリック(・・・・・・・)に対して反撃魔法を行使してきたのだ。

 

 念の為にと全員に持たせておいた〈上位転移(グレーター・テレポーテーション)〉を込めたクリスタルによって事なきを得たが……ニセナザリックは消滅した。それだけではない。ニセナザリックを囲むようにして存在していた名もなき森林は、今や完全に更地となった。

 使用された魔法は……〈大災厄(グランドカタストロフ)〉か?しかしそんな魔法を覗き見対策として使用するなど……いったいどうやって…

 

 通常ピーピングというのは、過剰に反応することはできても反撃することは難しい。故に〈諸王の玉座〉はワールドアイテム足り得るのだ―――え?

 

 …いや。確かに〈諸王の玉座〉は一つだけ呪文を込めることができ、なおかつ拠点がピーピングされたときは対象に向けてその魔法を行使することができる……だがあれは俺たちのギルドが保有するワールドアイテムだ!ヤツのものじゃない!

 

 

 では、なぜ全く同じ(であろう)能力で反撃されたんだ?

 

 

 目眩が加速する。

 

 

 

「モモンガ様?!モモンガ様!!」

 

「あぁ……いや、大丈夫だ。アルベドよ」

 

 

 

 最悪な予想というのは往々にして当たるものだ。俺は今自分の頭に浮かんだ恐ろしい予想を消し去りたい気持ちでいっぱいになった。

 もしかして〈諸王の玉座〉は複数作成することが可能なのか?それとも…

 

 

 他のワールドアイテムの効果を使用することができるワールドアイテムが存在するのだろうか?

 

 

(ワールドアイテムを湯水のように使われたらいくら“世界の守り”があってもジリ貧なのは確実だ…!だが現状できることと言えば、そんな理不尽なワールドアイテムが無いことを祈ることぐらいしか…)

 

 

 

 一応守護者たちには時間停止対策の指輪とワールドアイテムを持たせている。だがこれもどこまで通用するか…

あの黎明華のことだ。“時間停止を無効化して時間停止してくる”ワールドアイテムなんてものだって所持しているかもしれない。そんなことを言い始めたらキリがないが…

 

 

 

「とにかく、今できることを全てやる……それしかないッ。パンドラズ・アクター!」

 

 

「ハッ!!」役者として

 

 

「階層守護者達を宝物殿に連れていき、適切な装備を用意せよ。ギルド倉庫に紐づけされている私のアイテムストレージからも使ってよい」

 

 

「カァァァしこまりましッたァ!!」役者として

 

 

「も、モモンガ様!?妾たち守護者には、創造主たる御方から頂いた至高の武具が既にありんすが…」

 

 

「だがそれでは不完全だ。現にシャルティア、お前の持つ深紅の鎧は〈伝説級(レジェンド)〉アイテムではないか。もちろんそれが不良品と言うわけではない。だが、装備で補える部分は極力補った方がいいだろう?我々はもうこれ以上後には引けぬのだ」

 

「これに負ければ我々は、ナザリック地下大墳墓は崩壊する。これはそんな一大決戦だ。“遊び”は極力減らさなければならない……シャルティアよ。理解、してくれるか?」

 

 

「御身がそこまで仰るなら妾は構いんせんが……ですがチビ。お前たちはその服、結構気に入ってるんでありんしょう?」

 

 

「………いや、私たちもちゃんと理解してる。男らしい服とか女らしい服とか、そういうのはこれが終わってから着るよ。ぶくぶく茶釜様には申し訳ないけどね…」

 

 

 

 守護者達が各々決意を決めたところで、モモンガはある人物に一本の〈伝言(メッセージ)〉を飛ばす。

 

 

 

「―――そうか……よし。では諸君、宝物殿に行ってこい。我がナザリックが誇る至宝で身を包んでくるのだ!」

 

 

「了解いたしました…ところでモモンガ様、先ほどの〈伝言〉はいったい誰に向けたものなのでしょう?」

 

 

「ああ、これか?これは―――」

 

 

 

 

 

 

―――ヴィクティムだよ。

 

 

 

生命の樹(セフィロト)〉にて微睡むナザリック最強の個、その一体。

 

三姉妹の末妹が起動されようとしていた。

 

 

 




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軍靴の音

 

 

 

 実はだね、一度殺されてみようと思うんだ。

 

 だってそのほうが面白いだろう?希望が絶望に変わるその瞬間。あれは何度見ても飽きないものだよ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結局聖王国からは音沙汰無し、か…」

 

 

 スレイン法国、神都郊外にて。モモンガとその配下たる領域守護者。そして三十万人の王国軍が布陣している。

 眼下に広がる光景を眺めながら、聖王国に派遣していた〈影の悪魔(シャドウ・デーモン)〉からの報告を聞いていたモモンガは深い溜め息をついた。

 

 法国や王国にしたような傀儡化工作を聖王国にも施していたのだが、存外に彼らはガードが堅いようであった。だがしかし、三賢達でも一カ月はかかる仕事だ。アルベドたちはよくやってくれたよ。本当に…

 

 

 全兵力の動員が完了し黒粉も全部隊に配布し終えた。最早現状これ以上のことはできない。〈転移門〉部隊は既に大規模魔法の発動準備を済ませている。あとは俺の号令一つで三十万の軍隊が竜王国に向けて進攻を開始する。

 

 この三十万はブラフだ。この侵攻に気付いた黎明華はすぐさまここナザリックへ攻撃を仕掛けてくるだろう。向こうもある程度、ナザリックの場所の予想はついているはずだ。

 

 ここを強襲してきた黎明華に、即座にヴィクティムのデバフと、この〈■■■■(お腹の赤い球)〉を使用する。これでひるんでくれたらありがたいんだが…

 

 そしてそこに残りの全兵力を集結させる。彼らはよく教育されている愛国心に満ち溢れた者達だ。きっと俺の時間を稼いで死んでくれるだろう。もしも死んでしまったとしてもアンデッドとして復活するように事前に呪いをかけてあるから、実質兵力は倍増する…

 

 本当はナザリック内で迎撃できればいいんだが、もしも“引き籠り防衛戦”をしちゃったら外側からナザリックを崩壊させてくる可能性があるんだよなぁ…初手で拠点崩壊とか何としても避けたいし、一応対策もしてあるんだが焼け石に水だろうし…

 

 全員がナザリックの下敷きになるのは何としても避けたいのだ。まあ向こうとしてもハンティングトロフィー(ナザリック)はなるべく無傷で手に入れたいだろう……そうだよな?そうであってくれよ!?

 

 

 

(……もし、二百万の軍隊が全滅し、階層守護者達も皆戦死して即リス戦法を実行するしか無くなったら…)

 

 

 

 想像したくもない事ではある。だが恐らく高確率で戦況は悪化するのだ……もしも俺の策が通用してくれれば、チャンスは生まれる。問題はそのチャンスをモノにできるかだ。

 

 

 

「―――頼むぞ、〈幾億の刃〉」

 

 

 

 銀色に光り輝く波打つ表面。まるで水銀のようなそれは、所有者に何を齎すのか。

 

 

 




見た目のイメージ:月霊髄液


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〈山河社稷図〉

 

 

 

「おーおー、これは壮観な眺めだぁ…」

 

 

 

 あれから二日。まだ攻めてこないのか、これ以上待たせるのならいっそのことこちらから攻めようか、なんて考えていたころ。巨大な転移門(おそらく魔法詠唱者三名が魔力供給して展開している)が渓谷の内側に開いたかと思うと、そこから二万体程度の骸骨戦士(スケルトン・ウォリアー)が出てきた。

 

 お~っと。こ~れは魅了利かないんじゃないか~??

 うちのラナーの〈愛恋の神(エロース)〉は人間種特攻なのだ。つまりこれは……殲滅するしかないな。

 というか少なすぎないか?こんなザコの寄せ集めで“師団”を駐屯させてる竜王国が落とせるとでも…お、また転移門か。

 

 二回目の転移門で現れた兵士も二万人弱だった。これでは二百万人移送するのにどれだけ時間がかかるやら…

 …それとも、こっちはブラフなのかな?そもそもあまり攻め込む気がないのならこんなザコスケルトンどもしか送り込んで来ないのも納得がいく。

 

 ………それならモモンガの居城に直接殴り込むか。というかそれしかやること無いじゃん!

 

 横にいる仲間たちに声をかける。

 

 

 

「うし!じゃあ行くか!遊撃組は各々事前に選んだヤツと戦闘に持ち込むんだぞー」

 

 

「そんなに言わなくても分かってますわよ…」

 

 

「……さぁ、じゃ最後の仕上げといこうか?」

 

 

 

 

 

 

 城の頂点、“星見の塔”から遥か地平を眺める。

 

 この大地を埋め尽くさんとばかりに波打つスケルトンの軍団を見て、思わず膀胱が緩くなってしまいそうになった。

 あのような死の軍勢と戦うには妾の竜王国が保有する現状の戦力では力不足だ。それ故ローレンス殿から私兵を借り受けたのじゃが…

 彼らはどこからどう見ても貴族だ。どう見ても戦を知らぬ貴族の如き、触れれば折れてしまいそうな青年といった風貌だ。果たしてこのような有様で勝てるのじゃろうか?

 

 

 

「こ、こんな軍団をそなたらたった数人で殲滅など…」

 

 

「ご安心くださいドラウディロン殿。我々は対集団殲滅用に設計されておりますので、あの程度であればそれこそ赤子の手をひねるようなものかと」

 

 

 

 自信満々に答えるのを見て益々不安になってしまう。彼が帯剣している白金のショーテルは傍目から見ても凄まじい魔力を持っていることが分かるが、それを振るう者がこれではどうなるか…

 

 

 

「…本当か?」

 

 

「本当ですとも。では我々はそろそろ…」

 

 

「………あぁ、頼む」

 

 

 

 そう言って彼と、それに続くように彼の部下らしき貴族が数人、〈転移門〉の中に消えていった。

 

 

 

「……どうあれ、妾にはもう祈る事しかできぬ」

 

 

「我が国の兵たちも一応出撃しておりますが、〈蒼の薔薇〉がいない以上質はお粗末と言わざるを得ませぬから」

 

 

「分かっておる……じゃがどうにも信じられん。あのような若者たちで敵軍を殲滅することができるなど…」

 

 

 

 ナイフやフォークよりも重いものを持ったことが無い、と思わせる様な見た目の彼ら。彼らの頼りなき双肩にこそ我が国の命運が掛かっているのだ。

 

 直後、きらり、と陽光が瞬いた後。敵軍が抉れた(・・・)

 

 

 

 

 

 

『現状我々のみでも十分に対応できております。奴らの兵力はおよそ六万弱、あと五分もあれば残りも殲滅できるでしょう』

 

 

『そうか。なら引き続き防衛(・・)を頼むわ。十万ぐらい残しといてね……強そうなやつがいたら油断せずにスキルを使うんだぞ?慢心すると足元掬われるからな』

 

 

『かしこまりました』

 

 

 

 どうやら俺の私兵はよく戦ってくれているようだ。この様子ならば竜王国は大丈夫だろう。

 

 これで気兼ね無く目の前の光景に集中できるというモノだよ。

 

 

 

「ようこそ、黎明華よ。では早速だが死にたまえ」

 

 

「ハッ!!雑魚がよく喚く!」

 

 

 

 意気揚々と転移した俺たちを出迎えてくれたのは、完全武装したモモンガとその部下たち。その〈闇妖精(ダークエルフ)〉の少女が持つ巨大な巻物……〈山河社稷図(サンガシャショクズ)〉の能力によって、俺たちは様々な地形の混ざり合った不可思議な世界に閉じ込められていた。

 

 本来であればワールドアイテムを持っている者であればこの特殊空間に入るか入らないかを選べるのだが、なにやら面白そうだったので、皆で閉じ込められてみたのだ。

 

 俺たちが出現したのはどこかの崖の下。上からモモンガとその仲間たちが見下ろしている。

 

 

 

「こちらに入ったというのなら好都合…ッ!各地に散らし、各個撃破する!」

 

 

「わっかりましたぁ!“バラバラになれ”ーっ!」

 

 

 

 彼女―――アウラ・なんちゃらが巻物を展開するとそれに描かれた様々な絵が輝き始め、それに伴い俺たちの身体を転移エフェクトが包み始めた。おーっと強制転移か?それは困るな。すごく困る。

 

 

 

「はーいお前らはこっちねー」

 

 

 

 遠くに飛ばされそうになっていたクレマンティーヌとフールーダの手を掴みこちらに引っ張る。転移を無理矢理阻止した時の効果音が響き、消えかけていた二人の身体が元に戻っていく。

 

 無事を確認した後モモンガの方を見てみれば、階層守護者のほとんどが先ほどの転移と同時に転移していた。

 

 

 

「事前に予想した通りに飛んでくれてるだろうか……まぁいいか。お前らだいじょーぶかー?」

 

 

 

 




やっと戦闘が始まる…


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各々の戦況を

 

 

 

 あの〈闇妖精〉の少女に転移させられた後、私は二人(・・)で草原に立っていた。

 辺りを見渡せど草原が広がるばかり。かと思えば向こうには氷でできた山脈が、その横には深紅の溶岩が噴き出し続ける地帯もある。

 

 

 

「……すごく不思議な場所ですわね」

 

 

「そ、そうですか…?」

 

 

「えぇ。なぜ氷と炎という相反する性質を持った地域が隣接しているのでしょう…?」

 

 

「さーねー。でもこれがワールドアイテムの力なんだよ、アンタらなんかに分かるワケないでしょ?」

 

 

 

 少女が胸を張って、得意げに私に話します。

 先ほどまで二人しか立っていなかった草原にもう一人の闇妖精が現れました。姿形は瓜二つですが特にこの少年と違う所は、腰に巨大なスクロールらしきもの(山河社稷図)を下げていることです。

 

 

 

「…私の敵は貴方たちですか。それで?たった二人で何ができるというのです?」

 

 

「ふ、二人……違いますよ…?」

 

 

「貴方の敵は―――」

 

 

 

 

 

 

『『私たち(・・)だ!!』』

 

 

 

 

 

 

 周囲の草むらから、がさり、と言う音が聞こえたかと思うと、音がした場所から巨大な獣が幾匹も現れました。

 そのどれもが私が今までに見たことも無い姿をした獣たち。それらが私を囲んでいます。それを見た瞬間私は―――

 

 

 

 踵を返して走り出しました。

 

 

 

「は、ハァ!?待て!逃げるな!卑怯者ーッ!!」

 

 

「わざわざ相手の得意な戦場で戦って差し上げるほど私も聖人君子ではありませんので!」

 

 

「ああもうッ!みんな追うよ!!ほら急いで!」

 

 

「う、うん!」

 

 

 

 音を立てて(・・・・・)走る私を追いかけながら、彼女らは私を攻撃してきます。彼女たちが使役している猛獣の上に乗り、そこから……信仰系の魔法でしょうか?それら複数の攻撃魔法を私に向かって放ちます。

 もちろんそれだけではありません。男……女?とにかくもう片方の闇妖精が虚空からいくつかのスクロールを取り出します。

 

 

 

「い、いきます…!〈魔法探知(ディテクト・マジック)〉!〈生命の精髄(ライフ・エッセンス)〉!―――」

 

 

(事前の情報通り看破系の魔法を使用してきましたわね…)

 

 

 

 遠くに見える森林を目指して走り続ける。この地形は私にとってあまりに不利がすぎます。相手はエルフですので平原よりもどちらかと言えば森林の方が有利であるかもしれませんが、私の方がより相性が良い。

 双子の繰り出す様々な魔法を手に持つ水晶槍で弾きつつ、私は大地を駆けるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大事ナイカ、シャルティアヨ」

 

 

「えぇ、問題無いでありんすえ。この気候にも事前に慣らしてありんすので。それで…」

 

「貴様が妾たちの相手でありんすか?芋虫」

 

 

「―――いきなり芋虫呼ばわりとは随分自信満々なんだねぇ?まー今のうちに精々威張っていればいいわよ……どうせ貴女たちも殺すんだし、ね?」

 

 

 

 無数の女型の異業種たち(事前情報にあった〈雪女郎(フロスト・ヴァージン)〉と〈吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)〉だろう)と、赤褐色の甲冑に身を包んだ吸血鬼、巨大な四本腕を持つ蟲に囲まれながら私は会話していた。

 ここは見渡す限りの銀世界。今も尚吹雪が轟々と吹き荒れて新雪が積もりゆく、そんな大地だ。

 

 そんな極寒の、不毛な大地だというのに、敵もかなりの数を揃えている。よくこんなに質の高いアンデッドを私に充てることができたものだ。昔の同僚(第一席次)が見たらきっと腰を抜かし、即座に服従を誓うだろう。

 

 

 

(でもそんなの関係ない。私はただ、祝福するだけ―――)

 

 

 

 腰に下げていた鏡を手に取る。何も映さないその表面がきらり、と妖しく輝いた。

 

 あぁ。ついに我々を祝福してくださるのですね?我らの女王よ。我々はいつかの時と同じように空に投げられ闇夜に浮かびます。おや。それを見たお嬢様方が何やら叫ばれておりますね?

 

 

 

「ッ!〈清浄投擲槍(せいじょうとうてきやり)〉!」

 

 

サセヌ。―――雪女郎(フロスト・ヴァージン)ヨ、アノ女ニ攻撃ヲーーー」

 

 

 

 幾つもの貫きと斬撃が我らを襲いますが、もう遅い。何もかもが手遅れなのですよ。ああ、あぁ。愛しき我々の光よ、我々の祝福よ。遠く昔に奪われた我々(敗北者)への祝福。我々を照らす、一筋の明かり。

 

 今度こそ我々は光を掴む。天へと至る。我々に見向きもしなかった者たちに、我々を照らさせる。

 

 

 

「さあ、〈夜を照らすもの〉たち。貴方達を祝福してあげるわ」

 

 

 

―――存分に楽しみなさい。

 

 

 

『勿論ですとも。女王陛下』

 

 

 

 歴史にも刻まれず、人々の記憶にも残らない。決して日の目を見ることの無い敗北者たち。此れよりはそのような夜に生きる者(敗北者)たちの領域である。

 私を囲むようにして布陣する彼等を、更に包み込むようにして。幾千幾万もの〈死せる敗者の魂(グレイスレス・チャンピオン)〉たちが出現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四つの戦場の様子をつぶさに観察し、それぞれに対して然るべき対応を取る。戦力が足りなければ補充して、足りないアイテムがあれば〈転移門(ゲート)〉で後方の補給基地ないしは本人に直接送りつける。

 

 ナザリックの全てのリソースを使った総力戦。その指揮官に選ばれたのはやはりデミウルゴスであった。

 

 

 

「〈憤怒の魔将(イビルロード・ラース)〉。状況はどうなっていますか?」

 

 

『モモンガ様、アルベド様、パンドラズ・アクター様の隊。アウラ様とマーレ様の隊は既に交戦中です。シャルティア様とコキュートス様も既に交戦中かと思われますが、依然連絡が取れない状況で…』

 

 

「では引き続き情報を収集してください。ッ!?この魔力は?!」

 

 

 

 配下である悪魔達からの報告を聞いていると、身の毛のよだつ程に濃密な魔力が一気に拡散していく感覚があった。

 

 

 

「〈強欲の魔将(イビルロード・グリード)〉?状況を!」

 

 

『B軍集団の六……いえ、七割と連絡が取れませぬ!予備戦力をこちらに回しますか?』

 

 

「―――いえ、〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)〉を!」

 

 

 

 〈強欲の魔将〉に持って来させた遠隔視の鏡を使い、シャルティアとコキュートスを派遣したツンドラ地帯を映させる。もちろん事前に逆探知防止のスクロールを使用してだ。

 

 

 

「ッ。弾きました(・・・・・)ね。危ない危ない…」

 

 

 

 早速逆探知防止のスクロールが役に立ったようで、相手の魔法を弾いた時の重く、けれどどこか爽快な感覚が辺りに広がった。

 だが安心したのも束の間。遠隔視の鏡を使わせていた〈影の悪魔〉が突如として、何かに取り憑かれたかのように暴れ始め、鏡から引き離そうとした次の瞬間には、自分の目を指で貫いて死んでしまった。

 

 

 

「―――これは魅了か…?本当に危なかったですね。しかしいったいこれは…どうやって?……いえ、考えるのは後です。先ずは拠点を別の箇所に移さなければいけませんね」

 

 

『資料は全て移動し終わりました。デミウルゴス様も早く転移なさってくださ―――ッ!〈転移門〉!!』

 

 

 

 咄嗟の機転を効かせた〈強欲の魔将〉によってデミウルゴスはC拠点へと転移させられた。ゲートの向こうからは断続的な爆発音と、幾つかの耳障りな金属音が聞こえる。

 

 彼も大事な仲間であるから助けに行きたい気持ちに駆られるが、今の自分は指揮官という大役を任されている身である。故に〈強欲の魔将〉に申し訳無く思いつつも強制的にゲートを閉じた。

 

 

「………戦況は?」

 

 

「え」

 

 

「“戦況はどうなっているのか”と聞いているんです。分かりませんか?」

 

 

「え、あ、はい!現在は―――」

 

 

 

 地獄の戦争はまだ始まったばかりだ。デミウルゴスは額に流れる汗を拭いながら再度部下からの報告を聞くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――は既にもぬけの殻でした。ですが、先程戦闘した悪魔の分も含めて悪魔系種族特有の魔力痕がありますので、ここに居たのは先程のモノと同じ存在かと思われます』

 

 

「ふむ…分かりました。では次は……Hの3に行ってください。痕跡の向きと会話から察するに、次の拠点は恐らくここにあるでしょうから」

 

 

「かしこまりました」

 

 

「えぇ。では頑張ってくださいね?―――ラキュース(・・・・・)

 

 

 

 そう言って〈伝言(メッセージ)〉を切る。

 

 彼から授かった至宝によって傀儡化した〈蒼の薔薇〉は思いの外よく働いてくれています。だがそれは別に、彼女たちの能力が優れているというワケではなく、私が使用した幾つかの“ばふすきる”というものの効果です。

 

 

 

(雑魚と鋏は使いよう、ですか…)

 

 

 

 一見なんの役にも立たなそうな弱い物であっても使い方次第では役に立つ。なるほど確かに、的を得ていることわざですね。

 

 紅茶を一口飲み、思案を続けます。

 

 現状圧倒的に有利なのは我々の方です。これは揺るぎ無い事実でしょう。ですが、ローレンス様は何やら一度死んでみたいと言っていましたから…

 やはり私が本格的に動き始めるのはローレンス様が復活されてからですね。その方が効果が大きいでしょう。

 

 そうと決まればとりあえず、目先の問題から対処してしまいましょうか。

 ティーカップをソーサーに戻し、煌々と燃え上がる暖炉の炎を眺めます。何せここは少し肌寒いですからね。

 

 

 

「―――一切の油断も、慢心もなく貴方を殺して(・・・)さしあげましょう、デミウルゴスさん?」

 

 

 

 彼女の手にあるみすぼらしい槍の穂先は、ただ鈍い光を放つのみ。

 

 

 




 今回使用された〈夜を照らすもの〉は、“七人+一人の義母”さんの〈戦死者の門鍵(ヴァルハラ・ゲートキー)〉を基にして作った物でございます。
 大分能力が変わっちゃいましたけど多分原型は残ってる、かも?それじゃだめじゃん!

 というワケで下に能力解説を置いておきました。もしよろしければどうぞ…


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ワールドアイテム〈夜を照らすもの〉


 夜を照らすものは、約四十センチ程度の新円形をした巨大な鏡です。縁は銀で作られた、スカラベをモチーフにした装飾が施されています。

 この鏡は一切の像を映しません。ですので、この鏡を使ってメイクアップをしようなどとは思わないでください。他人にジロジロと見られながらするものでもないでしょう。

〈夜を照らすもの〉の能力は二つあります。

 まず、この鏡の所有者(アイテムストレージ内に入れており、いつでも取り出せる状態にある存在のこと)が人型の敵を殺した際、経験値の取得が行われなくなります。
 敵対存在を殺した際の経験値取得エフェクトは全て、“白い靄が鏡のある場所に吸い込まれていく”エフェクトに切り替わります。
 この靄の色は殺害した存在のレベルの高さに応じて濃くなります。

 二つ目の特殊能力は、この鏡の所有者がこれを空中に放り投げた時に発動します。この能力は夜のみ(正確には陽光の無い時に)発動します。昼の場合は発動しません。
 条件を満たした〈夜を照らすもの〉は、空中に投げられた時落下することはありません。放物線の頂点で静止します。
 一定の時間が経過した後、〈夜を照らすもの〉は“歴代の所有者が殺害した人型エネミー”を全て、七十レベルの〉〈死せる敗者の魂(グレイスレス・チャンピオン)として出現させます。七十レベルに満たない存在はそれに応じて新たに“グレイスレス・チャンピオン”の職業レベルを七十レベルになるように取得します。

 ですので、もし仮に職業レベルを一しか持たない存在が鏡の支配下にある場合、“グレイスレス・チャンピオン”の職業レベルは六十九になります。面白いですね。



 鏡に認められた者は彼らを八十レベルで召喚できるようになるでしょう。



 彼らは一度召喚すると、基本的に再度召喚することはできません。
 ですが、一体でもエネミーを倒した〈死せる敗者の魂(グレイスレス・チャンピオン)は実体を持つようになり、次回以降の召喚の際に何度でも出現します。

 敵を倒すことのできなかった〈死せる敗者の魂〉は、その元となった存在が倒された際の経験値を現所有者に与えて消滅します。




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屹立する光帯

アウラ&マーレVSレイナース以外ちゃんとした戦闘が考えられない…
どうしたものでしょーかね

誰かいい感じの展開書いてくれないかな…



八十と六の魔法を槍で跳ね返したころ、私は遂に森の中に突入することができました。

あの双子は森が見えて来た頃から怪訝な表情を浮かべ始めていましたが、私がいよいよ森の中に入る時になると、信じられないモノを見るような顔になり、配下の獣たちに散開し、順次森の中へ入るよう指示を飛ばしていました。

 

ですがその指示のための一瞬が命取りになるッ!!

 

 

空虚な戯事(エンプティマジック)/悪辣なる導き(ミスディレクション)!」

 

 

「―――ッ!?マーレ!あいつは!?」

 

 

「わ、分かんない…でも索敵から消えちゃった…?たぶんスキルかもしれないよ…」

 

 

「もしスキルなら効果時間が切れるまで……ッ、〈ガガルップル〉!!」

 

 

アウラの命令を受けた“ガガルップル”と呼ばれた蛙型の怪物は、その命令を忠実に遂行せんと私に襲いかかります。ですが、その舌が私に叩きつけられた時、この怪物の舌からはおびただしい量の血が流れ出ていました。

 

 

「えッ。ど、どうしたの!?―――そんな!」

 

 

それもそのはず、いまあの怪物が攻撃したのは囮。私のスキルで外見を変更した槍だったのですから。他でもない自分自身の力によって舌を使い物にならなくしてしまったこの怪物は、あまりの苦痛に耐え切れなかったのでしょうか。そのまま倒れ伏してしまい、グルグル、グルグルと悲しげな声を上げています。

何はともあれ、あの罠に意識を向けてくださったおかげで私も準備が整いました!さあ、思い切り撃ち上げましょう!!

 

 

 

世界意志(ワールドセイヴァー)〉!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんな…ッぐぅっ。ダメだ、抜けない…!マーレ!周囲に敵の反応は!?」

 

 

「い、今探してるよ……あ!あった!けど…」

 

 

「けど!?何なの!」

 

 

「お、同じ反応が5つある(・・・・・・・・・)よぅ…」

 

 

 

マーレの索敵結果を聞いた私は思わず頭を抱えたくなった。一応私たちだってエルフなんだ、森の中での活動においては守護者の誰にも負けない自信がある……だというのに、何だこの有様は!

そう自信をもって断言できる理由の根源は、“森林”環境における聴力の強化にある。森の中で発生する様々な音……例えばそう、何者かが枯れ葉や木の枝を踏む音なんかを、私たちの耳は正確に聞き取ることができるのだ。

それに加えて索敵系スキルも加われば、森の中で私たちから逃げきることなど不可能に近い。そう思っていた。

 

だが現在、その不可能は破られていた。普通に考えて、私たちが絶対的に有利な状況にあるというのに、私たちはアイツを見失っている。

使役している魔獣たちは動き回るデコイ(・・・・・・・)を追いかけるのに必死だ。恐らくかなり高位の野伏(レンジャー)系のスキルを使用しているのだろう。

そのうちのどれか一つが本物……いやそもそも、それらの内に本物があるのかすら疑わしい。

 

先ほどからマーレと共同で〈ガガルップル〉の治療をしているが、容体は一向に悪くなる一方だ。見れば、槍の穂先に高位の毒が塗られており、それが治療を阻害している…

 

多分ほかのデコイにも同じ仕掛けが施されてる。下手に攻撃をしたら甚大な被害を被るのはこっち側だ。

 

 

「っひゃあ!」

 

 

ここからどうやって打って出ようかと考えていた時、マーレが急に甲高い声を上げた。思わず手元が狂ってしまう。

 

 

「ああもうッ。今度は何なのさ!?」

 

 

「バ、〈バジリックス〉がすごい衝撃を受けたみたいで、感覚を繋げてたからそれが直接…」

 

 

「〈感覚共有(センス・シェアー)〉は切っとけってあれほど………え。ちょっと待って。バジリックスの体力は!?」

 

 

「え、えっとぉ…―――ひ、瀕死だ!?まずいよお姉ちゃん!」

 

 

「~~~っ!!………この子は回収班に任せる!戦闘に復帰させたかったけど今はバジリッスクが優先―――」

 

 

これからの行動の計画は最後まで口に出すことができなかった。マーレが急に空を見上げて固まってしまったからだ。

尋常じゃない弟の様子に私もつられて、後ろを振り返る。

そこには光の筋があった。密林の中から虹色の光帯が一本屹立していて、その光は見る見るうちに天高く昇っていく。

その光を認識した直後、辺りの木々を薙ぎ倒さんばかりの暴風が私たちを襲った。咄嗟の判断で地面にガントレットを突き立てた(マーレはスタッフ()を支えにしていた)おかげで吹き飛ばされることは無かったが、風が吹き止んだ後、周りの木々は凄惨な状況になっていた。

全ての樹は―――若木はもちろん、樹齢千年は下らない大木すらも―――完全に倒されており、根本が露出した状態になっていた。

 

……それらすべての木々に共通して言えることが、もう一つだけある。

 

それは、これらの木々が、全て放射状に倒されているという事だ。ある一か所を起点として、そこから凄まじい衝撃を発生させた結果がこのありさまなのだろう。

アイツのデコイは見たところ嫌がらせに特化したモノのようであり、それ単体で戦闘能力を有しているようには見えなかった。つまりこれは本人(・・)が起こした現象…

 

 

「……あの光の昇る部分にアイツがいるみたいね」

 

 

「う、うん……でもお姉ちゃん。眷属たちがみんな今の衝撃で…」

 

 

「まだ動けるんでしょ?」

 

 

「…え?」

 

 

まだ動けるんでしょ(・・・・・・・・・)まだ死んでない。死んでないなら……まだ、戦える」

 

 

「む、無茶だよ!!今の状態じゃ勝てっこないよぅ……デミウルゴスさんに頼んで、急いで追加の眷属を連れてきてもらわないと―――」

 

 

何か巨大なものが空を切る音を聞いた瞬間、私たちは咄嗟に後ろへ下がっていた。降ってきたものが起こした衝撃のせいで、鎧が土で汚れてしまった。そして、私たちがさっきまでいたガガルップルが横たわっていた場所に、巨大な“ナニカ”が突き刺さっていた。

それは―――

 

 

「……木?」

 

 

木。私たちが慣れ親しんだ、今しがた数千、数万本単位でなぎ倒された木の一本が、ガガルップルを貫いていた。耳をつんざくような断末魔を上げてガガルップルはその生を散らした。

 

 

「………どうやら、あっちは待ってくれないみたいだよ」

 

 

「あ……あぁ…」

 

 

「マーレはここにいなよ。アタシがケリをつけてくる」

 

 

「―――い、いや」

 

 

「…」

 

 

「ぼ、ボクも。ボクもついていくよ。だ、だってさ……ボクたち、姉弟でしょ?」

 

 

「……うん。分かった」

 

 

 




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