巡り廻った先の世界で (稗田之蛙)
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Chapter1:いせきエリア
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 目に入る全ては真っ暗に塗りつぶされている。

 灯りがないというだけではない。この世界の全てが消し去られた後だからだ。

 深淵。虚無。魂の消え失せた世界。

「……本当におもしろいな。お前は」

 Charaは深淵をじっと見つめる()()()()()の存在を感じ取って、何も見えない暗闇の中から薄らと笑いを浮かべた。

 ➖➖世界を消し去ってしまった事への後悔か? やり遂げてしまったのは自分達にほかならないのに、今更感傷に浸るフリとは笑わせる。

「お前は、戻りたいというのか? 自ら”何度も”破壊した世界に?」

 皮肉を言ってみせても、深淵を見つめるパートナーの気配が消える事はない。

 

 そもそも、Charaにとって『このやり取り』をする事自体が数回目なのだ。

 一度目ならば、あの大虐殺(Gルート)はこのパートナーの並ならぬ好奇心から来るものだと理解出来る。Charaがよく知るアズリエルも、それに近しい行動を取っていた時期はあった。もっとも、アズリエルの場合はあらかたやり尽くすとその行為に飽きてしまったが。

「改めて言うが……アイツよりもずっとお前の心はゆがみ、ひずみ、壊れている」

 だが二回目以降ともなれば、パートナーの行動は探究心の域を逸していた。

 何度も何度も、モンスター達をことごとく殺し回って、Charaの元へ会いに来る。

 この地下世界で隠された何かを探し回る為? それともどれだけ早くモンスターを殺し回れるか競技的な楽しみ方をしているのか?

 Charaは何巡もする世界でパートナーの行動を窺って、その本質を理解しようとした時期もあった。

 だがパートナーがそこまで高尚な好奇心や向上心を持ち合わせていない事は、早々に察した。

「私には、もはやお前の感情は理解出来ない」

 果てしない殺戮を幾度か繰り返して、Charaにとってもパートナーの行動は理解の範疇を超えていた。

 ➖➖今では薄気味悪さすら感じる。

「お前は一体何を求めているんだ?」

 問いを投げかけてみても、それに対しての返事は無い。代わりに返ってきたのは、この世界の再構築する事の要求。

 どうせ答えなど返ってくるはずもないと分かっていたし、Charaは分かりきった質問をした自分自身にも呆れた。

 結局のところ、パートナーが何を求めてこの世界を繰り返しているのかなんて、もう分かるはずもなかったのだ。

 

 そうして幾度目かも分からぬやり直しの世界で、Charaは初めて違和感を覚えた。

「…………」

 目の前が眩しい。地下世界と地上の世界を繋ぐ亀裂から陽光が見える。

 体の感覚がある。背中にゴワゴワとした草花の感触がする。

「どういう事だ」

 周囲には黄色い花畑。物語の始まりの場所。ヤツの……FRISKを通して何度も体験したこの地点。

 違うのは、FRISKがいるべき場所にCharaがいるという事だけ。Friskがいない。

 ゆっくりと体を起こして周囲を確認する。やはりFRISKはいない。

 今までこんな現象は無かったはずだ。なぜ今回はFriskではなく自分がいる?

『……なんでCharaがここにいるんだい?』

 そういった疑問をハッキリと言葉にしたのはChara自身ではなく、物語の主人公たるFRISKを出迎えるはずのFlowey➖➖もとい、Asrielだった。

 

「どれだけ時が流れても、離れられない運命なんだね…ボクたちは!」

 Asrielは思いがけない旧友との再会に心の底から歓喜した。なにせ、どれだけ時間を繰り返そうがCharaとAsrielは会えなかった。

 ……もっとも、それはAsrielからの視点の話。Charaにとってはこの再会の反応も、FRISKを通して幾度となく眺めてきた。

 そして地下世界の皆を虐殺するアイデアに「素晴らしい」と賛同し、そして、自分もその虐殺の対象であると気づいた途端に彼が恐怖に怯え、自分の父親を殺してまで命乞いするサマも……。

「……アズ、これはキミの仕業か?」

「なんのことだい? ボクは新しい人間が降ってきたと思って様子を見に来て……そこにCharaが居たんだ!」

 意地の悪い笑みを浮かべているが、どうやら嘘はついている様子はない。再会を喜んでいる事がありありと理解出来ただけだ。

「何が原因かは分からないけど。ボクにとっては理屈なんてどうでもいいのさ。Chara、復活したキミへ素晴らしい提案があるんだ。きっと賛同してくれるはずさ!」

 あくどい顔でニンマリと笑うAsriel。それに対して、Charaの反応は少々冷ややかなものだった。

「地底の世界を破壊し尽くすっていう提案? それとも地上の世界へ繰り出して人間達を皆殺しにする計画?」

「ハハハ、どっちも素敵なアイデアだろう? 特に後者については、今度こそボクは怖気づかないって約束もするよ!」

「……あっ、そ」

 Charaは興味なさげに相槌を打った。何故なら、どちらも既にやり尽くしたからだ。何度も、何度も。

 それこそ、Asrielがこの地下世界で時を繰り返し過ぎて飽いたのと同じような心境に近い。

 それを知らないAsrielは、ひどく困惑の表情を浮かべた。

「……どうしたんだい? もっと喜んでくれると思ったのに」

 Asrielの言葉にCharaの顔が少し歪む➖➖実際、Charaは地下世界を破壊する行為を「楽しい余興だ」とパートナーに対して賞賛した事がある。

 そしてそれを完全に成し遂げた時は『ケツイ』で満たされ、極点へ到達し力を得たCharaは何ら未練もなくこの世界を消し去った。

 この時は、パートナーの思惑によってイヤというほど繰り返す事になるのはCharaも予想していなかったが……。

「チョコレートだって同じフレーバーを繰り返して食べてると飽きるもんだよ」

 そういって適当に誤魔化した。なにせAsrielにはそんな事が繰り返されているという認識はない。

「……あー、えーっと」

 ますます困った顔をするAsriel。しかし、彼は考えている内にCharaの様子から何か感じ取った。

「Chara」

「なんだ」

「なんか前より雰囲気変わった? なんか、虚無ってるていうかさ」

「…………」

 Charaは何も答えない。実際、Chara自身でももはや分からないのだ。一体あと何回この虚無的な繰り返しに付き合わされるのか。

「まぁ、いいや。ボクだってそういう心境に陥る事もあったよ。好奇心が満たされ過ぎた? っていうかさ」

 Asrielはそういって悲しそうに苦笑した。しかしすぐに大げさな悪役笑いを浮かべて、「でも、キミと直接出会えた事でそれも少しは解消されるって思っているよ!」とCharaへ言い放った。

「なんだ、久々にバトルごっこでもするのか? お前、それで私に何度泣かされたか覚えてないのか」

 CharaもAsrielのこの態度に「くくく」と笑みがこぼれる。Asrielはバツが悪そうに呻いたが、誰かの足音を感じ取って勝ち誇ったようにニヤけた。

「あぁ、”こういうケース”っていうのはボクも今まで見た事もないからね。それじゃあ、ボクは遠巻きに見守ってるから久しぶりの再会を楽しんできてよ」

 そういうとAsrielは地中へ大急ぎに潜って行った。

 CharaはAsrielの態度にやや呆れながらも、本来ここで何が起こっただろうかと記憶の中から思い返す。

 ここではFRISKのヤツがAsrielに襲われるのが本筋だったろうか。その後に、確か➖➖…………

「……Chara?」

 ……Torielが、迎えに来てくれるのだったか。

 

 厄介事を避ける為にもCharaは別人のように装ってみたが、特徴的な容姿やその態度からTorielはすぐにChara本人だと見抜いてきた。いや、本人がそう信じたいだけなのかもしれない。

「これくらい一人で通れるから。いちいち手を繋ごうとしないでよ」

 Charaは目の前にある針の通路を前に、Torielにそう言い切った。実際、何度も経験したせいかどういう道順で通れるかはCharaは完璧に覚えている。が、しかしその言い草に、若干ヒステリックに叫ぶToriel。

「何を言っているの? 間違ったところを歩けばあなたは大怪我するのよ!」

 彼女の言い分も当然といえば当然だ。彼女からしてみればまかり間違えて怪我をさせるわけにもいかない。

「こうやって貴方と再会出来たのですから……もう二度と酷い目に遭わないようにしなくちゃ……」

「…………」

 Charaが生前の頃、TorielはCharaの事を我が子同然に扱ってくれていた事がある。その事に関しては、Charaも感謝してはいる。

 一度死んだはずの自分の子供が、なにかの拍子に生きて戻ってきたらこういう反応するのも仕方ないのかもしれない。

(……だからといって彼女は正直なところ過保護がすぎないか。FRISKを通して薄々察していたけれど)

 Torielが甲斐甲斐しく手をつなごうとしている場面に対して、周囲のモンスター達から向けられる奇異の目が痛い。

 Charaは、なんだか少々気恥ずかしさめいたものを感じて針の通路を早足で進んだ。

「とにかく手繋ぐのはいらないから」

「ああぁ!! だめだって言ってるでしょう!」

 TorielがCharaを抱きかかえようと全力疾走するのに対して、Charaも追いつかれまいとダッシュを強いられる。

 

 ナプスタブルークは通路の上で寝転んでいると、Torielが必死の形相で人間の子供を追いかけているのに気がついた。

「……あ、えっと……」

 何事かあったのかと、あわあわとしながら子供➖➖Charaの手前に立ち塞がろうとするナプスタブルーク。

「どけ!!」

「あ、うん……ごめんなさい……」

 Charaの鬼気迫る剣幕に思わず道を譲るナプスタブルーク。Torielが横を走り去る間際に、「何故止めてくれなかったの?」と言わんばかりの批難の目で睨みつけてきた事も相まって彼はその場で静かに泣いた。

 

 ともあれ、二人は何事もなくホームへ辿り着く事になった。

 元女王たるTorielがずっと傍を追いかけてくれば、ここいらのモンスターは人間の子供に手出しし辛いのは一種の道理でもあったが。

(……ん?)

 Charaはここまでの流れに違和感を感じた。そもそもFRISKと自分の立場が入れ替わっている時点でイレギュラーが発生しているのだが、ここに至るまでどのモンスターも殺してはいない。

 ナプスタブルークに対しては少々酷い対応をしてしまったが……それでも殺し合いに比べたら幾分か穏便な方といえるだろう。

「もう、頑固ね……久々なんだから親子らしい事させてくれたっていいじゃない……」

 ゼェゼェと息を切らしながらもたっぷりとふてくされた表情を見せつけてくるToriel。彼女の存在も相まって、モンスターを殺し回れる状況ではなかったというのもある。

「……まぁ、今までにも『誰も殺さない周回(Pルート)』はあったけれど……」

 今回パートナーの意思が何処に働いているのか、今はまだ判明しないところはあるが。

 どう転ぼうが、最終的にはやり直されのだろう。パートナーのさじ加減で、FRISKを含めた皆の努力は全て徒労に終わった。

(アズが望んだように、あのまま幸せに終わらせてやればよかったものを……)

 Charaはその点においてもパートナーを理解しかねている部分がある。完璧ともいえるハッピーエンドを迎えたにも関わらずそれも捨て去って、大虐殺を完遂してみせたからだ。

 そんな事を考えると、ほっぺたをふわふわとした両手で突然押し潰された。

「ほら、そんな仏頂面なんてしないの。可愛い顔が台無しよ」

「…………」

 ますます顔が険しくなるChara。「私はCharaじゃない」と言おうとした矢先。

「今日はバタースコッチパイを焼いてあげますからね。それに、貴方の大好きなチョコレートもたくさん用意するわ」

 美味しい物が食べられそうなので、Charaはおとなしくその言葉を呑み込んだ。

 

「本来は私がここにいるはずはないんだ」

 Charaは庭でバタースコッチパイを堪能しながら、その一切れをAsrielに分け与えつつ此処に至るまでの事を少しずつ打ち明けていく。

「その、FRISK? って子が本来落ちて来るはずだったって?」

「そうだ」

 FRISKが辿る軌跡については、分岐点が多い。

 ありとあらゆるモンスターやAsgore、そしてAsrielと死闘を繰り広げて地下世界を脱出する(Nルート)事から始まり、モンスターの誰も殺さず(Pルート)に地下世界から脱出する道筋さえある。その時にはAsrielも……。

「そこでボクが救われるって? ハハ、面白いねその話」

 Asrielはゲラゲラとバカにしたような顔で笑う。

「お前、信じてないだろ」

「だって、ボクが改心すると思う? いいや、しないね。むしろ良い子ちゃんぶって利用してやって……最後の最期に全部奪い取ってやるって断言するよ」

「はぁ、なんでそんな自信満々に言える?」

「だって、アイツらだけ幸せになるエンディングでボクが救われるわけないだろ?」

 その辺りについては細かく説明してやっても仕方がないので、Charaは「はいはい」と軽く聞き流した。

「私が本来現れるのはその真逆、地下世界の住民を虐殺する(G)ルートだ。FRISKの……といっていいのか……ともかく、ヤツの異様なケツイが成し遂げられる事によって、私は力を得て復活する」

「ワオ! それは素晴らしい事だ! もしかして、その影響のおかげでキミはこういう形で新しい世界に復活したのかもしれないよ?」

「…………」

 ハッキリ言えば、Charaの意思でそれを実行する事も出来なくはない。FRISKがハッピーエンドを迎えた時、あの理解出来ないパートナーに対して嫌味のつもりでFRISKに成り代わってそのエンディングをぶっ壊してやった(ソウルレスエンディング)事もあった。

 ……だが今回に限ってはCharaが全く介入していない部分で起こった事だ。

「ともかく、この復活は私の意思じゃない。不本意だ」

 だからこそCharaはまるで自分が何者かに弄ばれているようで、不快な心境だった。

「……じゃあ、キミはどうするっていうのさ」

 Asrielがどこか心配したような表情でCharaの表情を窺う。

「なんでそんな顔をするんだ」

「だって、Charaは昔から突拍子もない事をするからさ。……自分を傷つけたり」

 Asrielがそんな『Floweyらしくない』表情だったワケを理解して、Charaは鼻で笑う。

「ああ、なるほど。それで私の身を案じてるわけか。相変わらずお優しい事で……」

 皮肉っぽく言い放つと、Asrielがむっとする。

「何だよ、それ。ちょっと、ムカつくんだけど」

 少しだけ拗ねたように言うAsrielだったが、Charaがバタースコッチパイをもう一切れ差し出してきたのでその場は渋々矛を収めた。

 

 少なくとも、Charaは今回の世界で無意味に死ぬつもりはない。

 FRISKを通さず地下世界で生きる事について、Charaにとっては生前以来の体験だった。

「Chara、貴方が戻ってくるなんて本当に夢みたいだわ」

 Torielが自分の生還を心の底から喜んでくれる事について、正直なところ気分は悪くない。

「これでAsrielも生きていてくれたら……」

 Torielはそこまで口に出してから、ハッと我に帰った様子で「ごめんなさいね」と苦笑した。

「……いいや、大丈夫」

 Charaは、Asrielを誘ってみて三人で一緒に暮らすという事も考えてみた。

 自分が口添えすれば、Torielも彼の現状を受け入れてくれるかもしれない。

 だが考え直した。Asrielはそれを拒絶するだろうし、Floweyと化した彼と過ごしたところでろくな結果にならないだろう。

(このまま平穏に暮らすのも悪くないが……)

 地下世界の面々を虐殺する事への執着は、Charaの内面からとうに失せていた。

 CharaはCharaであって、あのパートナーとは性質が違うのだ。Friskがモンスターの皆と仲良くなっていくルートでは、それを応援していた事が無いといえば嘘になる。

 特に、Asrielが一時的にでも救われた事については……Friskのケツイなければ成し得なかった部分が大きいだろう。

 その点においては、CharaからFriskに対して好意的な気持ちもあった。

 

 久々にTorielとの交流を堪能したCharaは、就寝の準備を終えてベッドに入り込む。

「さぁ、おやすみなさいのキスでもしましょうか」

「要らないよ。……いや、無理矢理迫って来ないでって。ホント要らないから」

 Charaの物言いに冗談っぽく泣き真似をしながら部屋を出ていくToriel。Charaはその様子にため息をついた。

「Friskなら愛想良く受け入れて上手く喜ばせるだろうな」

 苦笑しつつベッドに寝転んだ。

 

 ……どうしてこんなにも自分は、Friskに対して複雑な思いを抱いているのだろうか。

 CharaもFriskに対する感情は、決して悪いものではないはずだ。

 なのに、以前にその幸せをブチ壊すように最後にはFriskへ成り代わってしまった。

 パートナーへの嫌味や当てつけが理由だったが、それはあくまでCharaの自己満足だ。

 Friskにしてみれば堪ったものではなかろう。自分の努力が全て無駄に終わったのだから。

「……いや、私が手をくださなくてもきっとリセットされていたに違いない」

 Charaは自分を納得させようとした。実際、そうでなければおかしい。あれだけ無意味に虐殺を繰り返したパートナーがそこで歩みを止めるだろうか。

(まぁ、悩んだところで私には関係のない事だ。どうせ幸せになるのはFrisk達だけなんだから……だって……)

 

『だって、アイツらだけ幸せになるエンディングでボクが救われるわけないだろ?』

 

 Asrielの言葉が脳裏によぎって、Charaの胸の中でドクンと心臓が脈打った。

 ……あの行動に移したのはパートナーに対しての悪感情だけが原因だったか?

 私は本当にFriskのヤツに何ら悪感情は持っていなかったのか?

 もしかしたら……私はFriskの幸せを妬んでいたのではないのか?

 皆に囲われて、皆に慕われて、皆が幸せで、それなのに私はその場に居なくて……忘れ去られていて……アズリエルでさえ私よりもあいつの事を……。

 ……もしも、そうだとしたならば……この世界にFriskが居ないのは……パートナーのせいなどではなく……『無意識に私が望んだせい』という可能性はないか……?

 

 言い知れぬ感情が湧き上がった途端、Charaは傍にあった目覚まし時計を壁に投げつけた。

 金属がバラバラになる甲高いが部屋中に鳴り響く。

 

「Chara? 一体どうしたの……」

 Torielがドアを少し開いて心配そうにCharaの様子を窺っていた。

「……なんでも、ない。ただ蜘蛛が出たから、驚いて……」

「そう? でも蜘蛛だけで貴方がそういう風に取り乱すなんて思えないわ」

「違う、本当に虫は苦手で……」

 Charaは慌てて誤魔化そうとするTorielは痺れを切らしたのか、強引に部屋に押し入った。

「Chara、貴方が何を悩んでいるのか私には分からないけど……貴方は一人じゃないのよ?」

 そういってTorielは両腕をCharaに回し、優しく抱きとめる。

「一人で抱え込むのはもう止めなさい。私達は家族なんだから」

 Charaは押し黙ったまま、彼女の優しい慰めに何処か自己嫌悪めいた感情が芽生えかけていた。



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HOME(後編)

『きょうは ステキな日だ』

 鳥の囀り。小動物達の足音。黄色い花の芳香がツンと鼻をくすぐった。

『はなが さいている。ことりたちも さえずっている』

 目の前に立ちふさがっているのは、あの忌々しい骨野郎。

 ヤツの手の内は何度も何度も戦って完璧に覚えたはずなのに、アイツを一回殺すまでにこっちは幾度となく殺される。

『こんな日には おまえみたいなヤツは……』

 もうこいつと戦うのはイヤだ。

 どうせ全部がリセットされるんだから無意味だ。

『じごくで もえて しまえば いい』

 私が、こいつが、また痛い思いをするだけじゃないか。

 

「……んっ……うぅ……はぁ……!」

 ベッドの上でCharaは汗だくになって跳ね起きた。荒くなった呼吸を整えつつ、額から垂れてきた冷や汗を拭い取る。

 周囲を見回してみれば、なんてことはない子供部屋。もちろんあの忌々しい骨野郎がいるわけがない。

「……最悪」

 吐き捨てるように呟いて、再びベッドに倒れ込んだ。

 

「大丈夫、Chara? なんだか目にくまが出来ているようだけど……」

 Torielは心配そうにCharaの様子を窺う。

 実際問題、Charaはホームに住み始めてから連日連夜悪夢に魘されていた。

 悪夢の対戦相手はあのSANSに限らず、Undyneだとか、他のモンスターだとか、とにかくChara(Frisk)を幾度となく殺してきた強敵達だ。

 夢の中では毎回殺されて、目が覚めた後は決まって酷い寝不足に襲われる。そんな日々が続けば精神も参ってくる。

「ずっと土の中で寝てたんだ。寝床が変わったら寝付けなくなっても仕方がないよ」

 小粋なジョークを言ってみせたつもりのCharaだったが、下手な冗談にTorielが泣き出しそうな顔をしたので取り繕うのになおさら参った。

 

「SANS相手に何百回も戦ったって? Chara、気でも狂ってんの? バカなの?

「弱ってる友人に対して酷い言い草だなこのクソ花

 Asrielに正直に不眠の悩み打ち明けてみたが、その原因を話すと正気を疑われた。

 過去に色々悪ふざけをした事もあってか、AsrielもSANSの強さについては熟知している。軽くトラウマになったほどだ。

 SANSの実力については此処で仔細を記すまでもない。それは相手にとってまぎれもない『悪夢』だ。

 そんな相手と幾度となく戦いを繰り返すなんてAsrielからしても常軌を逸している。

 Charaも下手すれば数百回以上殺された経験があるし、しかもそれが無為な戦いだと感じてきてパートナーの意思に付き合わされるのは嫌気がさしていた。

「SANSにやり返したら気が晴れるんじゃない?」

「……力を得る為だったらヤる気も起きたんだけどな」

「あー……」

 何とも言えない表情を浮かべながら、Asrielは言葉を濁した。異常なほどこの世界の周回を繰り返したCharaにとって、もはやSANSと戦う意義など見いだせないのだ。

 しばしの沈黙の末、Asrielは何か考えついたようにおそるおそるCharaに提案する。

「……じゃあさ、逆に仲良くなってみるっていうのはどう?」

「興味がわかないね。アイツとはFriskを通して散々仲良くなったさ」

 Asrielは慌てたようにぶんぶんと顔を横に振る。

「違う。Frisk? っていうヤツじゃなくて、キミが直接SANSと仲良くなるんだよ!」

「はぁ?」

 Charaは思わず素っ頓狂な声が出た。「コイツは一体何を言っているんだ」とばかりに珍しく表情が崩れている。

「なんの為に? 仮に仲良くなっても、リセットされるって思ったらやるだけ無駄だろ」

「だって、このままだとキミの精神が持たないじゃんか! ボクとしても、Charaが壊れていく姿はあんまり見たくないし……彼と直接友好的に接すれば、そのトラウマも拭えるかもしれないよ」

 そこまで言われてしまうと、流石に反論できない。

 確かに、これ以上あの骨野郎の相手をするのは限界かもしれない。悪夢は毎晩のように襲ってくるし、睡眠時間も削られ続けている。

 それにSANSに対するトラウマは、Charaの精神的な問題だ。パートナーが手出し出来る領分じゃない。

 たったそれだけの理由でも、今のCharaにとっては前向きになれた。

 ーーそれに、悪夢に出てくるのはSANSだけじゃない……。

「……分かったよ。やってみるよ」

 Charaが素直に同意を示した事に、Asrielは冗談ぶって相手を脅しつけるような悪役笑顔を披露した。

 

「だめよ。Snowdinの方へ向かうなんて」

 Asrielの安っぽい悪役顔とは打って変わって、Torielは鬼の形相でCharaを睨みつけている。

 二人とも親子だというのに、脅しつける顔でこうも威圧感が違うか。

「……いや、皆に久しぶりに会いたくなって……」

「貴方、自分はCharaじゃないって散々言ってたわよね?」

 Charaはヒキガエルが踏みつけられた時のように呻いた。完全に図星を突かれている。

「……Chara。地下の世界は貴方が自由に出歩けていた頃とは違うのよ」

 Torielの言葉には重みがあった。彼女の言葉通り、地下世界のモンスターは人間に寛容ではない。

 人間はモンスターにとってAsgore王に捧げるべき対象だ。もちろん、親子として暮らした事のあるCharaがAsgoreに直接対面出来ればその限りではないかもしれない。

 だがこのホームからAsgoreの居る場所へ行くのに、どのモンスターとも出会わずに辿り着くというのは現実的ではない。

 Charaの事を知らないモンスター達が、きっと何体も襲いかかってくるだろう。

「じゃあせめて人伝にパ……じゃなくて、Asgoreに私が蘇った事を伝えるっていうのはどうだろう? そうしたら事情を知ってるヤツを道案内につけてくれて、それで襲われる事もなくなるんじゃあないか?」

「まぁ、それは考えつかなかった冴えた名案! Charaったらやっぱり頭の良い子ね♪」

 Charaの筋道の通った提案を聞いてTorielの表情は般若の面から慈母の微笑みに様変わり、それを見たCharaも「ホッ」と一息をつきかけた。

「絶対に、だめよ」

 つきかけた息のやり場を失って、Charaは思わず引き付けを起こしそうになった。

 

 考えてみればTorielの心配も道理だ。死んだ人間が蘇った時点でそもそも与太話なのである。

 TorielがChara本人であると確証したのも『Charaでないと知り得ない話』という事をいくらか話し合ったから判明したのであって、Charaが『Chara本人である』という保証など赤の他人からしたら分かるはずもないのだ。

 むしろ生前の近しい人物であってさえも「Torielが迷い込んだ子供を保護する為に、入れ知恵や容姿を整わせてCharaになりすまさせようとしている」なんて勘ぐってくる事もありえない話でない。

「でも、私は外に出て他のモンスターと会いたいんだよ」

 食器を洗う彼女にCharaは上目遣いで頼み込む。

「遺跡の方に色々な子がいるじゃない」

「私はその子達以外とも仲良くなりたいんだ」

 床を忙しなく掃除しているTorielに対して、Charaもその横で雑巾がけをしながら追いかけた。

 Charaはこの事に対して半ばヤケになっていた。いつリセットされるかどうかも分からない世界においては、もはや自分の精神状態の改善こそが唯一のやるべき事だという信じて疑う事はない。

「Chara」

 Torielの足がピタリと止まり、床を這うCharaの方へ向き直った。その表情はいつもよりもずっとずっと真剣だ。

「Asgore王の手元に、あと一つ人間の魂(ソウル)があれば地上への道は開けるのよ」

「知ってる」

 Torielは少し驚いたように眉を動かしたが、そのまま独り言のように呟いた。

「……その目的の為にAsgoreが貴方を、Chara本人だってわかった上で殺さないって保証が何処にあるの……?」

 そうなれば、今度こそ私は彼の事を心の底から許せなくなる。涙ながらにそう漏らすTorielを見て、Charaは胸の中がズキリと傷む。

 こんな反応をするTorielなど今まで見た事がない。それもそうだ。Chara自身が舞い戻ってきた事自体がイレギュラーなのだから。

 

(……だけど、私は……)

 

 一連のやり取りを経て遺跡の出口を破壊する事をケツイするToriel。

 だが周回を経て彼女の行動を知っていたCharaは、扉の前で立ち塞がる彼女と真っ向から対面した。

「どうしたのChara? 今から危ない作業をするから、上に戻ってて欲しいのだけれど」

「危ない事は慣れてるから平気だ」

「お願い。いい子だから、言うことを聞いて」

「私はいい子じゃないから聞けない」

「Chara……」

 Torielは困ったように微笑んで、Charaの瞳を見つめる。

「他の迷い子ならいざしらず、貴方は地上に帰りたいっていうわけでもないでしょう……?」

「まぁ、そうだな」

 その辺りについて、Charaは否定するつもりもない。人間世界を消し去るのが飽いたとて、人間達と過ごしたいわけではない。

 もしもそれを嘯いたとしても、母親同然に過ごした事のあるTorielのその薄っぺらい嘘を容易く見抜くだろう。

 その言葉を聞いて、Torielは俯いて大きなため息をついた。➖➖ついてから、両手の平に火炎の球を生み出す。

「なら、せめて貴方が他のモンスターにやられない強さを持っている事を今ここで示して」

 Torielはそう言って、Charaに向けて勢いよく炎の玉を投げつけてきた。

 Charaは咄嗟に体を反らしてそれを避ける。背後にあった壁に直撃したそれは、まるで壁そのものが爆発したかのように轟音を立てて大穴を開ける。

(……これは、ハードモード並か?)

 Torielにとって、Charaという存在はFrisk以上にここを通す道理がない。万が一にも夫が我が子同然だった子供殺すなんてストーリーは見たくない。

 ➖➖絶対にここは通さない。貴方は私が守ってみせる。Asgoreにこの子を殺させない。

 火球の威力の違いは、そのケツイの現れだろう。手加減の度合いもFriskの時より数段は少ない。

 ……いや、UndyneやSNSとの死闘をくぐり抜けてきたCharaにとってもはや彼女の実力など何ら問題ではない。

 その魔法が初見であろうが完璧に避けきってみせるという自信がある。Charaにとってそれよりも問題なのは……。

 

 

 ➖ーFriskのように攻撃しないままで、Torielは本当に諦めてくれるのか……?

 

 

「Chara、回避するのはとてもお上手だけど。なぜ貴方は攻撃してこないの?」

 何度攻撃を繰り返しても反撃してこないCharaに対して、Torielは不審に思ったような顔で問いかけてくる。

「……Torielをき、傷つけたくない」

 思わず声が上ずった。それがCharaの本心かその場しのぎの嘘デタラメなのか、Torielには判別しかねる。

「Chara」

 口下手な子供へTorielは少し呆れたような、少し嬉しそうな顔を浮かべながら。諭すように言葉を続ける。

「だったらなおさら貴方はAsgoreの元へ行かない方がいいわ。私にそんな態度を取るのなら、父親のような存在だったAsgoreと対面した時に自分の身を守れるの?」

「……」

 Charaは押し黙り、何も言わずにTorielの顔を見据えた。

 その様子に、Torielは困ったように眉を下げて苦笑する。

「Chara、貴方が何を考えているのか分からないけど、上に戻りましょう? それで、誰も傷つかずに、誰も死なずに済むんだから」

 

「……違うんだ」

「え?」

「私は、Asgoreとの殺し合いの夢を見るのが……イヤだ……」

 Charaは顔を隠すように俯いた。その表情はTorielからも窺えない。

「……Chara?」

 困惑するTorielに対して、Charaは必死に言葉を紡ぐ。

「暗闇の中に一人でいて……『夢』を見たんだ……アイツの技を完璧に覚える為に、何度も何度も殺し合って……殺されたり、痛い思いしたりした事を……」

「……Chara」

 目の隈を作った原因の一端を理解して、Torielは優しくCharaの体を抱きしめる。

「そんな事は、起こり得ないわ。ここを塞いでしまえば貴方がAsgoreに出会う事なんてない。貴方が殺されたり、あの人を殺したりする悪夢が現実になる事もない」

 ケツイを改にするToriel。しかしその腕の中でCharaはバッと顔をあげると、目に涙をためて言い放った。

 

「……私が眠れない理由は殺されたり殺したりする悪夢が原因じゃない……この機会を逃してしまえば、Asgoreにとって私がそれだけの存在でないと二度と証明出来ない事だッ!!」

 

 あのCharaが目に涙をためてそう慟哭するのを目の前に、Torielは驚愕の表情を浮かべずにはいられなかった。

「Torielは、それでもAsgoreが私を殺すだろうから外へ出るなって言うのかい!? 一緒に暮らしていた時に感じたAsgoreからの好意は、私の妄想だったていうのかよ!!」

「Chara……違うわ、あの人は本当にAsrielや貴方の事を……」

 Torielが動揺しながらも弁明しようとすると、Charaは一筋の涙をこぼしながらぐずぐずになった声色でTorielに訴えかけた。

「じゃあ……ここを、通してよ……Torielの攻撃を避け続けたのを見ただろう……私は強いから、通してよ……」

「Chara……」

 Torielの堅いケツイは、もはや彼の表情と同じくグズグズに溶けかかっていた。

 

 ……Charaが遺跡の出口を歩いている途中、のっそりと黄色い花が生えて目の前に立ち塞がる。

「名演技だったよ。Chara」

「……何の話だ?」

「とぼけちゃってぇ。ボクは視点が低いから全部見えちゃってたよ」

 Asrielは葉っぱを器用に両手のように使い、指で両の目を掻き毟るような仕草をする。

「こうすれば目も赤くなって、涙もいくらか溜まるでしょ」

「…………」

 Asrielの洞察に、Charaは黙り込んだ。Asrielはそれを肯定と受け取って気を良くしたのか、鬱陶しそうにするCharaに対して絡み続けた。

「やっぱりCharaはCharaだよ。他人を騙して利用する事もいとわないその精神。幾度と繰り返してもう飽いたって素振りをしているけど、その本質はボクの知っているキミと何ら変わってない」

「別に、そんなんじゃない」

「いいや、そうさ。君がどれだけの嘘を重ねて、偽ってきたかなんて……君の事なら全て分かる」

 そう言って、Asrielは心底喜んだように下品な笑いを浮かべる。

「君はね、自分すら騙してるんだよ。パートナーとやらに主導権を握られていたから不愉快そうに振る舞っていたけど、その実は他者を虐げる事を楽しんでいる」

「はいはい、そう思いたいなら思うといいさ。私はお前みたいな性悪じゃあないよ」

 売り言葉に買い言葉。Charaはそのやり取りを適当に聞き流そうとつとめ、出口の先へ先へと進もうとする。

「じゃあ、なんで」

 その背に向けて、とても物悲しそうな作り声で話しかけるAsriel。

 

「……なんで、幸せそうなFrisk達をそっとしてあげなかったんだい?」

 

 突如としてAsrielが居た地点の土がえぐれるように弾け飛んだ。CharaがAsrielに対して殴りかかったらしい。

 Asrielは寸前で地面に潜り込んで回避し、また離れた地点から顔を出してCharaを煽る。

「ははっ! やっぱり図星だ。でもその様子だと、わざわざ演技なんてしなくてもあのオバサンくらい一撃で倒せたんじゃないの? アーッハッハッハ……」

 そう言い残すと、Asrielは地面に潜り込んだまま姿を消してしまった。この場に戻ってくる気配もない。

 Charaは手指の根本から血がにじむのをかばいながら、やり場のない怒りにギリギリと歯ぎしりをする。

 そうして、そのまま遺跡から脱出するのであった。



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Chapter2:スノーフルエリア
スケルトン兄弟(前編)


「おい、ニンゲン」

 遺跡を脱出したCharaが村へ向かう道中、ゲートっぽい代物をくぐる直前に背後からそんな声が聞こえてきた。

(あぁ、SANSが出て来るのはこの辺りだったな……)

「はじめて会うのに挨拶もなしか? こっちを向いて、あくしゅしろ」

 Charaは大きめのため息をつきながら、SANSと対面する為に後ろを振り返る。

 SANSは振り返った人物に対してブーブークッションを握らせようとするが、寸前でそれを止めて訝しげに声をかけた。

「……おい、ひでぇツラしてんなアンタ」

 SANSが目の前にしたCharaの姿は異様ともいえるものだった。Chara目元には目立つ黒い隈があり、その瞳はどんよりと濁っているように見える。その上フード付きのパーカーを人相を隠すように着込み、口元をマフラーで隠しているから、他人から見たら不審者そのものだったからだ。

 

「……Asgore以外には自分の正体を隠していくつもりですって?」

 Charaが遺跡から発つ寸前、Torielと和解しスノーフルエリアを渡るための防寒着を受け取った直後、そのような考えをCharaは打ち明けていた。

「あぁ、そうさ。生前の知り合いばかりとは限らないし、そもそも死人が生き返ったなんて噂が広まると皆が混乱するだろう?」

 スノーフルに薄着で赴くのも気が向かなかったし、正体を隠す意味でも防寒着があった方がCharaにとって都合が良かった。

「それにしても……後生大事に死人の服を保管していたのか」

 Torielが用意した防寒着は、Charaが生前付けた事のある代物だった。この数日間過ごした間に与えられた着替えは新品のものだったから、特に気にしていなかったが。

「そりゃあ、貴方との大事な思い出だもの」

 自分の遺品がいくらか保管されているのは、周回を経たCharaとって既知の事実。……しかしいざ面と向かって直接言われると面映ゆいものがある。

 Charaは所在なさげに頬を指で掻いていると、Torielは防寒着の他にもやたらフリフリとしたファンシーな衣服を見せつけるように広げていた。

「ところで貴方が住み始めてから夜なべで作ってたんだけど、出発する前に一回着てみない……?」

*そんなのおことわりだ

 

 SANSの反応を見て、衣服も時間をかけて見繕ってきた方がよかったかと少し後悔するChara。

「ここいらは寒いと聞いてな。来る途中で親切なモンスターに防寒着を与えてもらったんだ」

「ははは、そりゃあ運がよかったな。身ぐるみを剥がされても文句が言えない場所だ。オイラはSANS。見ての通りのスケルトンさ。ニンゲンが此処に来ないか見張ってろって言われてんだ」 

 そう言ってから、Sansは再び何気ない視線でCharaを見つめ続ける。

「どうしたんだ。そんなに私は魅力的か?」

「あぁ、とんと骨抜きだぜ。スケルトンだけにな」

 

 ツクテーン

 

(……絶対それが言いたかっただけだろう………)

 お約束の冗談にCharaは愛想笑いとばかりに乾いた笑いを浮かべた。

「そんな風に、不倶戴天の敵にでも相まみえたような目つきで睨みつけられちゃあな」

 その言葉を聞いた瞬間、Charaの顔が引きつりかける。Charaの表情の変化を見たSansはすぐに冗談だと言いのけた。

「なんてな。オイラのジョークだよ。あんまり怖がんなって」

(最高に笑えないジョークだ……)

 Charaにとって、今回の出会いにおいては彼と敵対的になる予定はない。地獄の業火に焼かれるのはもう懲り懲りだ。

 とりあえずトラウマを払拭する糸口を見つける為に、SANSと直に友好的に接するというのが今回の考えなのだが……。

「あー……いや、遺跡にいたモンスターと他のヤツと争わないって約束してて。その第一歩としてアンタとお近づきになりたいんだけど」

「おいおい、『あったばかりで いきなり ともだちには なれないぜ』とでも言って欲しいのか?」

 苦手だ。こっちの状況を見透かしてるのか見透かしていないのかよく分からないこの立ち振る舞い。何百回殺されたのもあいまって、話をしようとすると体が強ばる。

「仕方ないな」

 Charaが怖がっていると受け取ったSANSは苦笑しつつもゆっくりとした仕草で両腕を広げた。

 

『オレをにがしてくれるのか? そうか……やっと、か。ありがとな……けっしん してくれてさ。ツライだろ……?』

 

 Charaは、虐殺の末にSANSとの決戦に至った時に一度だけ和平を結ぼうとした事があった。

 SANSのあまりの強さに和平の提案に逃げたのか、それともSANSの置かれた状況に同情したのかは今となってはよく思い出せない。

 

『これまで つみかさねて きたものを ぜんぶ ムダに するなんてさ』

 

 パートナーにとっては、それさえも『この選択肢を選んだらどうなるか』という好奇心からくるものだったのかもしれないが。

 度重なる激痛と死で疲弊していたChara/Friskにとってその提案は受け入れるに値するものだった。

 

『でも このことは… オレが ムダには しないぜ……さあ……』

 

 なんにしても、異常なほど繰り返された激戦から先へ進みたいが為に彼らはSANSの元へ歩み寄った。

 その結果どうなったか。

 

『こっちへ こいよ』

 

 

 両腕を広げたSANSに対して、Charaは反射的に彼を突き飛ばして挙げ句、足早に数歩下がる。

「……おかしいな。ハグしようとしただけなのにな」

 Charaはハッとした表情を浮かべ、どう誤魔化したものかと慌て始める。

「いや、違う……殺されそうとか思ったんじゃなくて……私はニンゲンだから、初対面のモンスターが怖い? ……そうじゃなくて……」

 必死に取り繕おうとするCharaを見ている内に、不審そうにしていたSANSは納得したのかそうでないのか、したり顔をする。

「意外にウブなんだな」

 揶揄われたCharaが赤いほっぺたを更に真っ赤にして反論しようと口を開いた瞬間、「サァァァンズ!!」と森の奥から聞き覚えのある声が響いてきた。

「その、ちょうど良い形のランプにかくれてくれ」

 Charaは何か言いたげだったが、渋々近くにあったランプの後ろに隠れた。

「よう Papyrus」

「よう! ……では ぬあぁいッ!」

 Papyrusはパズルの調整をしていないSANSをアレヤコレヤと叱りつける。

「勝手に持ち場を離れてフラフラと……! こんなところでなにをしているのッ!」

「そこのランプをみてる」

「そんな! ヒマは! ぬあぁ……」

 Papyrusの声が気の抜けたように間延びしていく。SANSも「あー」と相変わらず気の抜けた声をあげた。

 ランプの影からCharaが見えてる。正確には防寒着で着太りした分、何者かが隠れているのかが傍から丸わかりになっていた。

「兄ちゃん、誰かが隠れてるようにみえる」

「そうだな」

「……まさか」

「あぁ、そこにいるぜ。ニンゲンの子供が」

 SANSの対応に微妙な感情が沸き起こって眉間にシワを寄せるChara。

「なんだって! あんなにお洋服を着込んでいるなんて……なんて気合いの入ったオシャレさんなんだッ!!」

「どうする、Papyrus」

「まずいよ。それに比べてオレサマは、ヨソイキのカッコウどころかご近所行きのカッコウすらしていないッッ!!」

「それ一着しかもってないだろ」

「こうしちゃいられない! にいちゃん! 身だしなみを整えにいくぞ!」

「いってらっしゃい」

 SANSがついてこない事にも気づかず別の場所へ向かうPapyrus。Charaはのそのそとした動作でランプの裏から出てくると、SANSの方を見て批難代わりに目を細めた。

「そんな事しちゃ可愛い顔が台無しだぜ」

(ひでぇツラだって言ったクセに……)

 わざわざ告げ口してくるのはどうかと思ったが、CharaもPapyrusに見つかって殺されるとは思ってはいない。周回を繰り返して理解したが、Papyrusは最初から最後まであぁいうヤツなのだ。

「そういう風に、まるで殺されるなんて思ってないような態度だったからちょっとイジワルしたくなってな」

「……はぁ」

 そしてSANSはこういうヤツなのだ。人の心理を見透かしたような反応を取る。

 Charaもその点についてはある程度覚悟の上だ。Friskではなく自分自身がこのようにおちょくられるとまでは思っていなかったが。

「どうした?」

「別に……ただ、まぁ今までの印象とは違うから、上手くいったと思って」

「ん? あぁ、トントン拍子だったな。スケルトンだけに」

 

 ツクテーン

 

 *……ツッコむ必要性を感じない。

「正直な話、おいらにはお前さんがニンゲンかどうかいまいち確信がもてなくてな」

「着膨れはしてるし不眠症で目の下が黒いけど、ニンゲンだよ」

 ……たぶんね。

 ぽつりと自信なさげに付け加えてから、CharaはPapyrusの後を追いかける。

 

 

 スノーフルの森を道行く最中、防寒着の中から着信音のメロディ。色々と必要になるので出発時に受け取っておいた携帯電話。

 着信はTorielからのものでないだろう。Charaは無視しようかとも思ったが――何故か少しの胸騒ぎが起きて――その着信を受け取った。

『――ザ―――ザザ―――』

「あー、もしもし? SANS? Alphys?」

 電波状況が悪いのか、相手の声がよく聞こえない。Charaは受話口に耳をぴったりひっつけて、相手の要件を聞き取ろうとした。

 

『……に、異常な数値を観測しました。エラーコード#……』

 

 ガチャ、ツー、ツー。

 

「……レア電話? しょうもない」

 Charaが異常とは何の事かと考えながらも、胸騒ぎは単なる杞憂だったと判断してそのままPapyrusを追う事を優先した。



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スケルトン兄弟(後編)

「ワン!!! 子犬に撫でられたッス!!!」

 物思いに耽けながら犬型のモンスター『イヌッス』のお腹をワシャワシャと撫でまくっているChara。

「……なんで私がこんな事しなきゃいけないんだ」

 Charaはなんだかバカバカしく感じて目の前のモンスターを殺害してみようかと思ったが、そうするとSANSやUndyneの心象がよろしくないと考え直した。そもそもここまで赴いた理由がFriskを介さず一部のモンスター達と友好的に接してみたらどうかという話から端を発する。

 それを踏まえると、殺す事が本末転倒に思えてここに至るまでついに実行しなかった。

 

 それと、いくらかの発見があった。

 まずFriskとCharaでモンスター達の態度が違う。Torielがその最たる例であったが、それ以外のモンスター達もCharaの風貌に怯えたり、あるいは挑発してきたりもした。

 目の前のイヌッスみたいにFriskの真似をするだけで懐柔出来たヤツもいるにはいるが、1から10まで同じ台詞・反応を示してくれるわけではない。

(気をつけて! そのコイヌちゃんなんだか性格の悪いヤツに感じるサ!!)

 という眼差しで警戒を促しているイヌッサ。とりあえず見せつけるようにイヌッスを撫で続ける事で仕返ししておいた。

 

「ヘンなイヌ! サンキュッス!」

(うちの亭主の方がいっぱい撫でてもらってたのサ……)

 ぶんぶんと手を振るイヌッスと、棒切れを投げ遊んでもらう事で少し機嫌を直したイヌッサ。二体の見送りを背に、Charaは森の奥へ進んでいく。

 もう一つはFriskとCharaはやはり違う存在だという事だ。Friskは愛嬌のあるニンゲンとして振る舞う事が多くあったが、Charaはそれを真似て取り繕うのが精一杯だ。

 しかし、それで「自分がFriskより劣っている」とも思わない。Friskの振る舞いはAsrielの事もふまえて評価するが、それだけの話だ。リセットされ続ける世界で友情を築く事など何になる。

 そんな事を考えながら○✕の床が描かれたパズルのエリアへと到達する。

「ニンゲン!」

 その場にいたパズルの作成者……もといPapyrusが目をキラキラとさせて話しかけてくる。Charaは少し苦笑いしつつ、彼の衣服に視線を落とした。

 ……なんだろう。『ジュウニヒトエ』というヤツか? 

 他の住民から借りたコートだかガーディガンだかの上着を何重にも着込み、手袋、マフラー、イヤーマフ、ブーツ着用。おまけにニット帽までかぶった完全防備の格好。

「ニェッヘッヘ、オレさまのファッションに見とれたか!?」

「ダサいヤツめ」

「ニンゲン! オレさまに負けたからといって、そんなに自分を貶す事はないぞ!」

 相手のファッションに困惑しながらも正直な感想を放ってやると、Papyrusは満足げに頷いている。

「お前のカッコウは、ダサくなんかない。しょうじきイケてる。……だがしかし!! オシャレならオレさまだって負けてはいないぞ!!」

 Papyrusはそう叫ぶと、勢いよくバッと両腕を広げた。風にあおられて、何重にも着込んだ上着が虹色になってなびいている。それはさしづめ、雪景色に浮かぶオーロラのように……

 

*だからどうした。

 

「いや、まぁ、そうだね」

 困ったぞ。もしかしたらSANS相手以上に調子が合わせ辛いかもしれない。

 Charaは心の中でそんな事を思い悩む。Papyrusの振る舞いに不快感といったものは感じないが、ノリについていけるかといえばついていけない。Charaの性格からしてついていけたら大事なものを失う気がする。

(……Friskへの考え方を撤回すべきか)

 思い返せばAsrielの事を抜きにしても、FriskはCharaよりも他人と仲良くなるのが上手だった。そこにパートナーの意思がいくらあったのかは知るよしもないが、Charaが「誰彼と親密になる」というのはこのままでは難しいのではないか。

(…………)

 汚泥のような感情がハートの中に溜まっていくのを感じる。

 

『やっぱりCharaはCharaだよ。他人を騙して利用する事もいとわないその精神。幾度と繰り返してもう飽いたって素振りをしているけど、その本質はボクの知っているキミと何ら変わってない』

『君はね、自分すら騙してるんだよ。パートナーとやらに主導権を握られていたから不愉快そうに振る舞っていたけど、その実は他者を虐げる事を楽しんでいる』

 

 Asrielから言われた事を想起する。Friskと違って、自分は友達を作る事すらままならない。そう思うと途端に胸が苦しくなって、羨望とも嫉妬ともつかぬムカつきが溢れそうになった。

 ――その時。ぎゅっと手が握られる感触。

「ど、どうした。 そんな感動するほどオレさまのファッションがイカしてたか?」

 我にかえると、Papyrusが心配そうにこちらを見つめていた。Charaが表情を曇らせていた事から、泣き出しそうなのだと勘違いされたようだ。

 Torielの時と同じように、思いっきり泣いてみて相手の同情を誘ってみようかという思いがCharaの頭によぎった。

 お優しいPapyrusの事だ。それを導線に和解する事などは容易いだろう。だから、ここはショートカットのチャンスなのではないか。

(…………)

 だが、やめた。

 Charaは涙の代わりに微笑みを浮かべ、そしてPapyrusの手を握り返す。

「大丈夫。なんでもないから。心配してくれてアリガト」

 

 Papyrusと軽く交流を経てから○✕のパズルを解いているさなか、SANSが怪訝そうに話しかけてきた。

「こういっちゃなんだが、第一印象とはちょっと違うなお前さん」

「何が」

「もっと狡猾なヤツだと思った。仲良くするフリして、騙し討ちするとか」

 どうやら、CharaがPapyrusに対して、それ以外のモンスターにも敵対的な事をする気配がないのが不思議らしい。

 Charaは肩をすくめると、小さくため息をつく。

「そうした方が殺すのにためらいない?」

 その言葉にSANSは少し考えるように黙り込んで、しばらくして口を開く。

「いいや、どっちにしろPapyrusはお前さんを殺すような事はしないだろうな」

「まぁ、そういう子だろうね。彼は」

 パズルを解きながら会話を続ける。しばらく無言でパズルを解く時間が続いた。

 それから、またSANSは問いかけてくる。今度は少しだけ声のトーンを落として。

「お前、何か企んでるんじゃあるまいな?」

 その問いにCharaは一瞬動きを止める。トラウマからか、肩が少し震えた。

「私は――」

 言葉に詰まる。何を企んでいるかといえば、パートナーの呪縛からきた副産物(トラウマ)を拭いたい以外は特にない。

 しかし漠然と「その答えでは大した意味はない」という意思が、この世界を巡り廻ってなんとなく芽生え始めている。

「私は……」

 答えに思い悩んでいる様子をみて、SANSの顔色が険しくなった。

 

 SANSはCharaがどういう事を経てきたのか、うっすらと勘づいていた。

 何処か諦観としたような、投げやりとも思える態度。

『ある日、突然何の前触れもなく、何もかもがリセットされる』

 それを知りながら生きている者の表情。SANSとCharaはその点において似通っている。

 ただ違うのは、その道筋で「非道な事を愉しんでいた」かどうか。

 やろうと思えばモンスターを殺し尽くして、なお余りある力を持っているかもしれない。その素養が窺えるCharaを警戒するには十二分であろう。

 

「……私は、皆と仲良くなりたい」

 しかし、返ってきたのは意外な回答だった。SANSは思わず聞き返してしまう。

「仲良く? はは、それはモンスターの皆って事かい?」

「うん。それにアンタとも」

 その返答は予想外すぎて、さすがのSANSも呆気に取られた。Charaの意図が読めない。一体何故、自分なんかと。

「あー、そりゃ光栄だね。でもなんでなんだい?」

「……わからない」

 Charaは自分の胸元に手を当てて、そう答える。漠然とした考え。自分の心が分からないからこその困惑。それが表情にあらわれている。

 その瞳には悪意も敵意も浮かんでない。ただ純粋な疑問だけが映っている。まるで迷子の子供のように途方に暮れていて……。

 

「なんかやけに難しくないこのパズル?」

「そりゃ、お前さんの為にオイラが改造しておいたからな」

 ……疑問に映っていたり途方にくれていたのは地面の○✕パズルに対してだったかもしれない。

 

 ともかくとして、Charaは一旦パズルを中断してSANSの方に向き直ると、再びその胸の内を言葉にした。

「わからない。けれど皆と仲良くなれれば、私の中で何かが変わる気がする」

 その時のCharaがどんな心情なのかは、不明瞭だ。本人もよく理解していないのかもしれない。

(こいつは……本当によくわからんニンゲンだ)

 だが、Charaの言葉に嘘偽りは感じられない。その言葉は不思議と真実味を帯びていた。

「……そうかい。まぁせいぜい頑張りな」

 だから、SANSはそれ以上深く聞くことはしなかった。

 

「ニンゲン。解けないのか!? よぉし、この偉大なるパピルスさまが、このナゾをといてやる!」

「あー……うん……」

 

*頑張りな、とかいっておきながら難易度爆上げしてやがったあの骨。

 

 元々の問題は一筆描きの要領で✕のスイッチを○に書き換えればよかったと記憶しているが、SANSの手によって固まった雪が追加されていて幾分にも複雑さが増している。解答不可能なパズルではなさそうなだけに、放棄するのはどうにも癪だ。

「どう、パピルス。解けそう?」

「まったく心配には及ばん! ここを、こうすれば」

 Papyrusはデタラメに歩き回って、やがてマークを一色に染め上げた。Papyrusは「やった! とけた!」と大喜びする。

「……パピルス、✕マークじゃなくて○のマークに書き換えるんだよ」

 ✕✕✕✕……。

「ニャ! ハハ! ハハハ! オレさまとした事が。ルールを、間違えてしまった!」

 Charaは乾いた笑いを浮かべながら、ため息をつく。この行為に対する感情が怒りや殺意でないだけ成長したかもしれない。

 ……改めて、パズルのマークを見回す。一筆描きの要領で解くのは変わらないのだろうが、いかんせん難易度が段違いに高い。端に一つだけ✕が残ったりするところまでは解けたが、こういった問題はその残った一つを潰すのが命題だ。

「ニンゲン! ムズカシー問題だが、二人で、一緒に先に進もう! オレさまも最後まで付き合うぞ!」

「…………」

 

*ズルい事を思いついた。

 

 Charaは無言で端に✕を一つ残すところまでパズルを進めると、ちょいちょいと手招きする仕草をPapyrusに向ける。

「ん? なんだ?」

 その動作に誘われるように、PapyrusがCharaの元に近寄る。――カチリッ。

 ○○○○……。最後の✕マークをPapyrusが踏みしめた事で○マークに書き換わり、先に進む道が開かれる。

 それをみたPapyrusは驚愕し、そして歓喜して走り出した。

「すばらしい! 実に見事だ! オレさまの協力のおかげだ! わーい!」

「そうだね」

 一筆描きのパズルで『二筆目』を入れるのは酷いズルだとは理解しているが……別にいいじゃないか。Papyrusが喜んでくれてるんだし。

 

 少し先の道で様子を窺っていたSANSにすれ違い際にそんな視線を送ると、向こうもこちらの表情から察してくれたらしい。

 肩をすくめて、やれやれといった態度で小言をいってくる。

「まったく、やっぱり第一印象通りだったな」

「狡猾なヤツだ、って?」

「あぁ、そうとも。オイラは一人で解ける方法も用意しておいたんだぜ?」

 確かに、もう少し真面目に考えていたら正攻法で解決出来ていたかもしれない。

 だが、SANSの言い方からしてこれも想定内だったように思える。その証左に、ズルをしたのにSANSの口元が緩んでいるのが見えたからだ。

「そっか。でもごめんね。私は他人を騙して利用する事もいとわないニンゲンなんだ」

 Charaはニコリと笑みを浮かべてそう答える。それは今までも、これからも。その事実は揺らぐ事はない。

 自分は自分さ。アズ。




幕間-オワライチョウ
*オワライチョウが パタパタとんできた!

(……芸人か)
 Charaはエンカウントした相手がオワライチョウだと気づいて、微妙な顔を浮かべた。
 このモンスターとはノリが合わない。
「“こおり”ゃ どうもまいど!」
 会って早々、凍るように寒いギャグ。それをわざわざこちらに言い聞かせてくるのだから、Charaはどうにも苦手だ。
(……とりあえず。コイツと和解する方法はなんだったかな……)
 記憶の中でFriskがどう対応していたか思い出す。Friskを上手くトレースすれば、手酷い事にはならないはずだ。

[ネタをひろうする]
 
「れ、冷凍庫にいれとーこー……」

 …………。

*かぜが ないている。

「……それ、おもろいと思うてますのん?」
「…………」
[わらう]
*オワライチョウが おもしろいことを いうまえに わらった。

「な、そのブキミな顔やめーや!!」

[ヤジる]
*オワライチョウに やじを とばした。
[ヤジる]
*オワライチョウに 「おもんない」と つげた。
[ヤジる]
*オワライチョウに 「お前はいろんなネタに手を付けるが、ひとつだって面白いネタはない」と つげた。
[ヤジる]
*オワライチョウに 「誰もお前を愛さない」と つげた。

「………!!!!」

*オワライチョウは いいかえそうとした……が ショックで たちなおれない。

*YOU WIN!
*0EXPと、12ゴールドを獲得した!


 Friskとは随分違う手筈でオワライチョウを退けた気がしたが、「とりあえず殺さずに済んだのでまぁいいか」と先に進むCharaであった。


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ホテルスノーテル

 スノーフルの町についたCharaは、一目散にとある場所へ向かった。

「いらっしゃい。高級ホテルスノーテルへようこそ! 一晩80ゴールドです」

「はい」

 道中で色々な手段で手に入れたゴールドを受付のモンスターに手渡し、部屋の鍵を受け取る。

 部屋に入ると、Charaは荷物をベッドの上に置いて窓の外を見た。

 雪原が広がっており、そこから視線を上げると町の景色が見える。

「さて、雪景色も見納めかな」

 暖炉に火を入れながら、感慨深くCharaは呟く。

 Friskを通さずに地下世界を見回るのはいつぶりか。しばらくはこの雪も見られないだろう。

 これからはウォーターヘルやホットランドに向かう事になる。

 それを踏まえると、いつまでも防寒着で完全武装しておくのは得策ではない。

 持っていく衣服を選ぶついでに、一度ここで睡眠を取ってを休息につきたいところだが……

 

「……~~♪ ……~~♪」

 

 隣の部屋から聞こえるいびきが酷い。しかも器用にゲームオーバーの音色奏でてるからChara的に不快感が増す。

「あっつぅ……」

 不快感があるのは騒がしい音色のせいだけでなく、肌が汗ばんでいるのも原因だ。防寒着は通気性が悪いし、暖炉のおかげで部屋の温度も十分。

「一旦、シャワー浴びるか」

 衣服を乱暴に脱ぎ捨てたのち、バスルームに入って蛇口を捻る。

 冷たい水が身体に降り注ぎ、心地よい刺激となって全身を包む。

 しばらくすると水は温水に変わり、程良い温度の湯になってCharaの頭上から降り注いだ。

 

 ふと鏡に映っている自分を見つめる。パッとしない色をした赤毛の髪。血液を思わせるような気持ちの悪い真っ赤な瞳。

 そして……骨が浮き出た脇腹や足の部分には、うっすらと残る青黒いアザ。

「…………」

 自分の体を見ると、どうしてもFriskとくらべてしまう。なぜこんな見た目で生まれて来てしまったのかわからない。

 もし自分がもっと美人な人間だったなら、いやもっと普通だったら……違った人生を歩んでいたかもしれない。

 ……でも、それは考えても仕方のない事だ。自分は自分。今更容姿なんて変えられないし、変えるつもりもない。

 そんな事を考えつつ、シャンプーを手に取り頭を洗おうとした時、Charaは自分の背後にある気配に気づいた。

「アズ?」

 どうせ勝手に入ってきたんだろうと思いつつも、一応声をかけてみる。しかし返事はない。

 まぁ、アイツ以外に他人の入浴シーンに突入するデリカシーの無いモンスターなんていないだろう。

 Charaはそう考えて背後の気配を気にせず、自分の髪を洗い始める。

「昔みたいに背中洗ってやろうか? とはいっても、花のお前に背中があるか甚だ疑問だが……」

 小粋なジョークをいってみせても、相変わらず返事はない。ただ、こちらの様子を伺うように、何かが動く音がしただけだ。

「…………」

 暖かいシャワーを浴びているのに、背筋に冷たいものが走る。悪寒。

「アズ。冗談はよせ」

 再度呼びかけても、やはり返答はない。

 ゆっくりと振り返り、おそるおそる"何か"の正体を確認する。

 

 

 

 

「や、やぁ……」

 

 そこにいたのは花やお化けの類ではなく……トカゲに似たモンスターの子供であった。

 彼(彼女?)は、Charaにバレたとみるやいなや、大急ぎでその場から駆け出す。しかし、乱暴に脱ぎ捨ててあった衣服を踏んづけて前のめりに転倒。そのまま備え付けの花瓶をひっくり返す形で頭から被り、水まみれのぐっちょぐちょに成り果てた。

「あーあー、あー……」

 予想していたものとは違う惨状を目の前に、Charaは「どうしようこれ」と額を覆った。

 

「待って! 風呂なんて一人で入れるってば!!」

「うるさい。人の一張羅ずぶ濡れにしやがって」

 モンスターの子は制止を振り切り逃げようとするが、そこはCharaだ。力づくで簡単に押さえてみせて、仕返しとばかりにやたら乱暴にその子の体をスポンジで洗ってやる。

「ああああああああ! やめてぇぇぇぇえ!! 身体が削れてるゥゥゥゥゥ!!」

「バカ。削れてるのは垢だ垢。まったく、こういう子ってどーして背中に垢が溜まってるんだか」

 

『この毛玉、見た目白いクセに背中は汚ないな。洗ってやるからちょっとじっとしてろ』

『やめてCharaァァァ!! 毛が抜けちゃうううう!!!!』

 

「……ふっ」

 目の前の子供がAsrielと風呂に入った時と同じような調子だったので、Charaは思わず小さく笑いを漏らす。

「これでよし。で、どうして部屋に忍び込んできたんだ? まさか、私の体に興味があったわけでもあるまい」

 泡だらけになった子供を抱きかかえながら冗談まじりで訊ねる。すると、その小さな口をモゴモゴと動かして答えが返ってきた。

 

 時を遡る事、数十分。

「わて……お笑い芸人の道……挫折してしまいそうやねん…………」

 外から町に戻ってくるなり、しくしくと泣いて住民達に慰めてもらっているオワライチョウ。

 いや、まぁ、芸人の道を挫折しそうになったのは今回に限った事じゃなかったが。その理由を聞いて皆は驚愕した。

「何重にも衣服着込んだ、今まで見た事もない不審なヤツが……えろう怖い顔で眼前まで迫ってきて、わての事『お前のネタはつまらない』だの『みんなお前の事を嫌ってる』だの『殺されないだけマシと思えこの三流芸人』だの罵倒しくさって……挙げ句に金品を奪っていったんや……」

 その真に迫ったオワライチョウの語り口に、住民にも恐怖が伝搬したのか……スノーフルの町中ではCharaの噂がひそやかに囁かれていた……。

 

「で、お尋ね者をお縄にしてやったら皆のヒーローになれるかなーって」

「芸人……ッッッッッ!!」

 因果応報。前話で犯した罪が背筋を伝う。ボスモンスター以外だろうが幕間だろうが容赦なく自身の行動が反映されるのがこの地下世界。

 あの芸人どうしてやろうか、と考えていると腕の中のモンスターの子が怯えたように震えだす。それを見てCharaはため息を吐いた。

「私が悪かった」

 モンスターの子はCharaの思いがけない態度をみて目を丸くする。うんうんうなってから、自分に都合よく考えたのか。怯えた表情からうってかわって自慢げな顔つきになった。

「オレの説得術で改心したって事だな!」

「あー、うん。そうだね」

 ともかく自分が悪い事をしたのは事実だ。スノーフルを離れる前にオワライチョウを探し出して、素直に謝罪すべきだろう。

「……オワライチョウには酷い事をしたから、後でちゃんと謝るよ」

「ひどい事しない?」

「しない」

「へへ、じゅあ後でアイツのところへ案内してやるから。ちゃんとあやまれよ!」

「はいはい……」

 モンスターの子についた泡をシャワーで洗い流し、抱きかかえた形で湯船に浸かった。

 

 こうして一緒にお風呂入ってみると、なんだかアズとの時間を思い出す。

 あれはシャワーを浴びせると痩せた犬みたいになってたから、湯船だと抱き心地はイマイチだったなぁ。乾かした後だと凄いモフモフになるんだけど。

 それに比べて、爬虫類(?)のモンスターは水場だと抱き心地が独特だ。抱きしめれば跳ね返る弾力があって……ふわふわなモンスターとはまた一味ちがうこの感触がクセになる……。

 

「なぁ」

「?」

「そういう風に無遠慮に抱きしめられるとハズいんだけど」

「………………………」

「え、なんでそんな黙り込んでブキミな笑い顔すんだよ。オイ!? オイ!!!」

 

*君に最初から主導権があるとでも思っていたのか?

 

 その夜、ホテル『スノーテル』に幼き悲鳴が大きく響いた。

 あまりの絶叫に飛び起きた隣室の客を発信源に、「あれはきっと非業の死をとげたモンスターの怨念に違いない」と噂が立つ。この影響で泊まった部屋が曰くつきの部屋とされたのはこの時のChara達に知るよしもない。

 

 それとは別に、Charaはモンスターの子を抱きまくらにしていつもとくらべて少しだけ安眠を得れたという……。



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ルートファクター

 スノーフルの宿屋にて。その一室にニンゲンの子供とモンスターの子が一緒に寝ていた。

「……久々にマトモに寝た気がする」

 Charaは今日に限っては戦闘の復習、もとい悪夢を見る事はなかった。

 久しぶりにゆっくり眠れた事で、疲労が取れてスッキリした気分で目覚めた気がする。鏡で目元をみてみると、あれだけ酷かった目の隈もわずかに解消された。

 ベッドの方を見ると、しくしくと泣いているモンスターの子供がいる。

「……じゅんけつをけがされた……」

「お前、その言葉の意味分かってないだろ」

 

 ただ欲望に突っ走って抱きまくら代わりにした事は悪いとは思い、罪滅ぼしのつもりでホテルで朝ごはんは奢ってあげる事にした。

 高級ホテルと銘打っているだけに出てきたパエリアは、サフラン入りの黄色いごはん。本格的だ。

 近くの川で採れたであろう貝やエビを入れてたき込み、お肉、ピーマンなどでかざりつけた、なかなか豪華なごはん料理だ。

「うまそー……!」

「ぜんぶ食べていいよ。私は腹が膨れるだけで満足だし」

 といいつつCharaも甘いデザートは全部自分の手元に置いている。モンスターの子供は苦笑い。

 ともかく、Charaは気になる事があったのでモンスターの子供に尋ねる事にした。

「父さんと母さんは心配してないのかい」

 よく考えれば、このモンスターの子供には両親がいたはずだ。一晩居なくなって心配しているに違いない。……心配されたままさっきみたいに「純潔を汚された」とか嘯かれたらこの周回が詰む。

「フッ……アンタをお縄にかけようとして家を出た時に『キケンな任務に出る。探さないでくれ』って書き置きをちゃーんと残してきたぜ……」

「あぁ、うん。一旦今すぐ帰れ

 

 たんこぶを3つ頭にこさえて、再びCharaと合流したモンスターの子供。約束通り、二人はスノーフルから遺跡の方に戻る形でオワライチョウの住処へ向かう。

「なんやー、営業は無期限休止……って、げぇ!! あの時の不気味スマイル!?」

 Charaに対して妙なあだ名を付けているオワライチョウ。ツッコミたい気持ちもあるが、Charaは彼から奪った金銭を半ば強引に返却してから頭を下げる。

「すまなかった」

「…………は?」

 不気味スマイルに対して悪印象しか持ってなかったオワライチョウは素っ頓狂な顔をする。そうして、防寒具の完全防備を解いたCharaの素顔を訝しげに覗き込んだ。そして驚きの表情を浮かべる。

「……Chara?」

「そうだ」

 ……生前、オワライチョウとCharaはいくらかの巡り合せがあった。もっとも、お互いの評価は芳しくなかった。だから顔を見られたくないモンスターの一人だったのだが。

「い、一体何がどうなってるねん……お前さん、死んだはずじゃあ……」

 オワライチョウは、思い当たる事があったのか拝むような仕草でCharaに赦しを乞うた。

 

「スノーテルのお化けっちゅうんは、Charaの事だったんかいな!! じょ、成仏してくんまし!!!!」

「いやそのお化けこの子の事だから」

「えっ、オレ死んでたの!?」

 

 与太話どっとはらい。気を取り直して……

「なんで蘇ったのかは、私にだって分からない」

「む、むむむ……」

「だけど、オワライチョウ。これだけは言える。蘇ったのはキミと喧嘩したいからじゃない。……だから、昨日は戦いを避ける為に罵詈雑言を吐いて怯ませてすまなかった」

 オワライチョウはポカンとした顔でCharaを見つめる。Chara当人もその反応の意図が分からず、不思議そうに見つめ返す。

「お前、Charaやないな?」

「いやChara本人ですけど」

 Charaが当然のようにそう切り返しても、オワライチョウは鼻で笑うように受け答える。

「わてが知ってるCharaはそんな素直なヤツちゃいまんがな」

 ……確かに、とChara自身も思う。生前だったらオワライチョウの態度に皮肉で返して、それ以上は関わらなかったかもしれない。

 だがGルートを異常なほど繰り返して辟易している今のCharaには、モンスター相手に啀み合い続ける事は虚しく感じる。

「なんが目的かしらんが、故人のフリしてわてを騙そうとしてもなんの得もあらへんで!」

「な、なぁ。故人ってなんの事だよー……思ってたよりミステリーだったのか……?」

 

 …………。

 

「ライちゃん。お父ちゃんが嫌いでも家出したらダメだよ。Chill達が探し回るハメになるんだから」

 オワライチョウはCharaが自分のあだ名を呼んだの境に「ぶふぉっ」と咳込む。

「な、なんでそれしっとるんや!!」

「Chara本人だから。他の事も知ってるよ。たとえば酒場で大人達に怪談話を聞かされた後に、布団におね……」

「あーあーあーあーあーあー!!!!」

 耳を塞いで大声を上げるオワライチョウ。わけがわからず不安そうにするモンスターの子供。

「お、おい。酷い事しないって約束だろ……?」

 Charaは無言でモンスターの子の頭をぽんぽんと撫で、仕草で「心配しないで」と伝えてからオワライチョウと向き合う。

 しばらく経ってオワライチョウが落ち着いたところで、彼は観念したかのように口を開く。

「……しかたないやろ。笑いのセンスが違う……コメディアン性の違いってやつや!」

「…………」

 そして母親が居なくなって、なおさら父親との仲が悪くなった。Friskを通して知り得たオワライチョウの事情はそういうところだ。

「それで、なんや。わてが家に戻るよう説得してくれ、って誰かに頼まれたんか?」

「もう何回かヤジってやったらそうなるかもしれない」

「いやもうほんま勘弁してつかぁさい……」

 オワライチョウが本気でしょげている様子を見て、Charaはくすくすと笑う。ひとしきり笑ってから真剣な表情で告げる。

「冗談さ。でも、きちんと探してくれる人がいるのはキミが愛されている証左さ。だから昨日は『誰にも愛されてない』なんてヤジってごめんなさい」

 素直に謝られて、オワライチョウはまたポカンとした顔になる。そうして少しだけ考え込んでから、オワライチョウは言う。

「……ま、えぇわ。昨日の事は許したる。ただ、Charaにどういわれても家に帰って父ちゃんと仲直りとかせぇへんで!」

 オワライチョウの言い分にCharaは苦笑する。その点についてはこの時点でCharaから働きかけるのは野暮だろう。

(……とはいえこの芸人が父親と和解させられるかといえば……)

 

 一応、手段がないわけでもない。遥か前の周回でFriskがやり遂げていた事だ。

 亡くなったはずのオワライチョウの母親を連れて来ればそれは成し遂げられる。

 彼の母親は生きているのだ。ただ、他のモンスターと精神が結合した『アマルガム』という異常な状態で……。

 今その仔細を告げてもただの不謹慎な冗談としか受け取らないだろうし、もし信じてもらってもAlphysに対してオワライチョウが殴り込む形になりかねないが……。

 

「ライちゃん」

「ライちゃんいうのやめーや」

「オワライチョウ。もしお母さんに会えるなら、もう一度会いたかったりする?」

 Charaの唐突な質問に、オワライチョウは訝しげな顔をする。ただ挑発の類でない事だけは察したようで、その問いに短く言葉を返した。

「……せやな」

 

 結局、その場の話はCharaとオワライチョウが和解するだけに留めた。

「……ねぇ、Charaだっけ? あのさ」

 スノーフルの町に戻る際、一部始終を聞いていたモンスターの子がおそるおそるCharaに声をかけてきた。

 その様子はまるで目の前に幽霊がいるような幼い態度で凄く怯えていて、Charaはそれが新鮮に感じて微笑ましく思った。

「よかったな、強盗じゃなくて幽霊を捕まえたって町の皆やアンダインに自慢出来るぞ」

 Charaのからかいに対して、モンスターの子は慌てて首を横に振る。その仕草にCharaは思わず吹き出しそうになったが、そうすると泣かせてしまいそうなので堪えた。

「ち、違うよ! オワライチョウにちゃんと謝ったんだからお縄にかけようなんて考えてないさ! オレが聞きたいのは……Charaは死んでから蘇ったって本当なの?」

「……そうだよ」

 肯定した後、Charaは自分の胸に手を当てる。

 自分は一度死んだ。この世で肉体を失った後、Gルートの先で力に目覚めて死という概念を超越した存在になった。はずだ。

「でもなんで蘇ったかは、私自身分からないんだ」

 モンスターの子の質問に答えた後、自分が何故蘇ったのか気になった。

 だがどれだけ記憶を辿っても思い当たる節はない。自分の力や今まで得た知識の範疇外の何かが、自分とFriskを取り替えたとしか思えない。

 

『……に、異常な数値を観測しました。エラーコード#……』

 

「…………」

 少し前に聞いた電話の内容が頭の隅っこで引っかかったものの、それが関連しているのか確証は得られない。

 Charaがそんな事を考え込んでいると、モンスターの子供が不思議そうに顔を覗き込んでいた。

「で、でもさ。誰かを呪い殺す為に蘇ってきたわけじゃあないんだろ? はは……」

「それは、まぁそうだけれど」

「なら、怖がらないようにする。蘇ったヤツが知り合いにいるって自慢出来るしな!」

 モンスターの子供の笑顔を見て、Charaは自然と口元を緩めた。

「ああ、それいいね。是非とも友達に紹介してくれ」

 そう言って笑い合う二人。ひとしきり笑い合ってから、Charaはモンスターの子に打ち明けた。

「私はこのまま都へ向かおうと思う」

「へぇ、Asgore王に頼んでロイヤルガードになるの?」

「それもいいな。死んでも蘇るヤツが騎士になって平和を取り仕切るとなったら色々と便利だろう?」

 冗談か冗談じゃないのか分からない切り返しで受け答えながら、Charaはホットランドの方向を眺める。

「たとえそれが一瞬だけだとしても、自分自身の目で平和になった世の中を眺めてみるのも悪くない」

 その為には、オワライチョウの母親も連れ戻そう。

 

 ――目指すはしんじつのラボ。Pルートだ。



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巡り廻った先の罪業

・今話より固有名詞を日本語表記で統一。


 キャラはホテルで身支度を整えていた。

 パーカーがついた……生前の知り合いから『キャラだ』と認識されない、なおかつホットランドで熱中症にならない薄着の衣服。

「アンダインみたいに干からびるなんてバカやるわけにはいかないしな………」

 

 そのままの格好でウォーターヘルに続く道の途中、パピルスと対峙する。

 吹雪でお互いのシルエットがうすらとしか見えない視界の中、現れたニンゲンの影をみてパピルスは神妙な語り口調を始めた。

「ニンゲンよ。複雑な感情について語ってもよいか?」

 Charaはその問いに対し、「いいとも」と答える。

「それは、自分と同じようにオシャレが大好きな者を見つけた時の喜び。とっても難しいパズルを協力して解いた時の達成感……イケてて頭もいいヤツに、イケてると思われたいという願い……」

 そこで一旦区切ってから、パズルのエリアの時のようにジュウニヒトエに着た防寒具をバッと広げて言い放つ。

「それこそ、きさまが今抱いている感情だなッ!!」

 

*ちがうとおもう。

 

「オレさまにはそんな感情さっぱりわからんがッ!! 何しろ、オレさまは偉大なるパピルス様だからッ!! 友達がたくさんいるヤツの気持ちなんて、フツーに知ってるし!」

 その言葉を聞いた直後、やれやれと呆れていた様子のキャラのシルエットが少し強張った。

「……そうだな。私はそんなヤツの気持ちはよく知らない」

「そうか、孤独なニンゲンよ。貴様は哀れだ……」

 パピルスはやけに悲しげに言うと両手を大きく広げる。

「だが案ずるな! オレさまが貴様を一人ぼっちにはしない! この偉大なるパピルス様が、きさまの……」

 

 そこまで言いかけたところで、パピルスはためらうように視線をそらす。

「だめだ……やはりこんな事は許されん……オレさまは、貴様とは友達にはなれないのだッ!」

 つよくてゆうめいじんのにんきもの、ロイヤルガードになる夢を叶える為に。ニンゲンを捕まえねばならぬ。

 パピルスはケツイをあらたに、キャラのいる方へ振り返る。だけれど吹雪が晴れた事によって目に止まったニンゲンの表情に、そのケツイが少し揺れる。強張っていた。

「ニンゲン。複雑な顔をしているようだな。あぁ、分かるぞ。オレさまと戦いたくないというお前のその気持ちが」

 そう言ってパピルスは両腕を大きく広げ、ゆっくりとキャラに近づく。小柄な子供を捕らえる為に。

「だが安心するがいい。これはあくまで捕らえる為だ。殺す為ではなぁいッ!!」

 しかし、そんなパピルスの歩みは途中で止まる。なぜならキャラがパピルスに『抱きついてきた』からだ。

 それはパピルスにとって予想外の行動だった。捕まえるはずのニンゲンが逆に自分を捕まえにくるなんて。思わず動揺したパピルスは「キャア!」という、なんともいえぬ珍妙な叫び声をあげた。

「ニンゲン! オレさまたちにそういうスキンシップはまだ早いと思うぞ!!」

 温厚天然なパピルスが珍しく身内以外を叱りつけている。しかしキャラは抱擁を解くつもりはまったくなかった

 

「……ごめん薄着すぎたからあったまらせて……」

 キャラの歯が細かい動作でカチカチと打ち震えている。演技ではなく、本気で寒そうだった。

 

 ……ジュウニヒトエの防寒着をほどいて、キャラはパピルスの正面に包まる形で二人羽織。

「ニンゲン……オシャレやイメージチェンジも大事だけど、おそとの気温考えないと風邪ひいちゃうでしょッッ!!!」

 あのパピルスにド正論で叱られる。その事実にキャラは若干バツが悪そうにしながらも、防寒着の中から顔だけをひょっこり出して受け答えた。

「いや、こんなに寒いなんて私も思わなくて……」

 パピルス相手ならば和解するにそんなに時間はかからないだろうと踏んでいたが、それ以前の吹雪くシーンが予想以上に寒かった。速攻で終わらせるつもりだったはずが、さすがに楽観的すぎたとしか言えない。『殺害』という手段なら、寒いどうこう以前に決着をつけられるのかもしれないが……。

(とはいえ、寒いという理由だけでこの周回で殺すのは……)

 キャラが寒そうな顔で考え込んでいるのもあり、パピルスは妙案とばかりにニンゲンへ告げた。

「ニンゲン。ウチの牢ならここよりはあったかい。今すぐオレさまに捕まるのだ!!」

「牢ったってガレージでしょ。そんなとこ寒くてじっとなんかしていられないよ」

 仲良く二人羽織をしながら、ウダウダと言い合うニンゲンとスケルトン。当人達はわりと大真面目なだけにシュールな光景である。

「ムムム……だったら……」

 

 サンズは家に帰ってきたパピルスに気づくと「おかえり」と声をかける。パピルスはいつも通り「ただいま!」と元気よく返すが、その声は少し震えていた。それを気にする風でもなく、なにげなく話題を振るサンズ。

「ニンゲンを捕まえにいったんだろ? どうだった?」

「と、とうぜんオレさまのスペシャルこうげきによって捕ったさ! 今はきっちりかっちり牢屋に押し込んでるよッッ!! ニャハハハハ……」

 パピルスはサンズと二人っきりの時は「オレさま」ではなく「ボク」という一人称を使う事が多い。

 その事からサンズは何があったのか色々と察して、その上で気づいてないフリを続ける。

「そうか。とりあえず捨て猫拾ってきたなら何かあったかいものでも飲ませてやるといい」

 サンズはパピルスの衣服の膨らみを見ないフリをして、そんな事を忠告してから自室へ閉じこもった。

「……」

 サンズが自室へいくのを確認してからパピルスは、早足で階段を駆け上がっていく。部屋に入ったパピルスはジュウニヒトエに着込んだ衣服の前面を開いた。

 キャラが、まるでリラックスして溶けた猫のようにぬるりと這い出てきた。暖房の効いたおうちのあったかさを堪能しているようだ。捨て猫キャラはベッドの上に「よいしょっと」と呟きながら腰掛けて足をプラつかせる。

「……そんな風におくつろぎに出来るのはアンダインが来るまでだからねッッ!!」

 パピルスは困ったような表情でまたキャラを叱りつけた。手元にはあたたかい市販品のハーブティー。キャラは「アズがコイツに飽きるのに時間が掛かった理由が少し理解できた気がする」と思いつつ、これを機会に胸中の懸念を彼に打ち明けることにした。

「ねぇパピルス。私がサンズやアンダインと仲良くなるにはどうすればいいと思う?」

「なんだと? まさか、ニンゲンは兄ちゃんやアンダインともお近づきになりたいというのかッッ!!」

 パピルスの驚きの声に対して、キャラは素直に頷く。

「…………なんてすばらしい考えだッッ! その気持ちを素直に打ち明ければ兄ちゃんもきっとよろこぶぞ! アンダインだってきっと考えを変えてくれるはずだ!」

 キャラはパピルスを伴って「友達になりたい」と打ち明けた時のアンダインの反応を思い浮かべて、乾いた笑いを浮かべる。

「うん、でもそれでいいか正直不安なんだ」

 

 アンダインについては、フリスクの振る舞いを模範するという手が一番だろうか。一応(オワライチョウと一悶着あったものの)ここに至るまでどのモンスターも殺していない。

 ただ問題は元々アンダインが敵対的なモンスターなだけに、イレギュラーが発生したら挽回する手段を考えなければならない。

(アンダインにも何十回か殺されて苦手意識があるから、そこも隠し通さないといけないよな……)

 それはサンズにも言えた事だ。しかもサンズはキャラの内面をいくらかを察していそうだから、キャラに心を許してくれるかどうかはもはや不安しかない。

 少なくともフリスクの時とは違った対応を食らう事は覚悟しておかなければならないだろう。

 数百回Gルートを巡り回ったというのを理由にサンズにダストシュートされるのは御免被る。

 

 頭の中であぁでないこうでないと考えていると、パピルスが目を細めて語りかけた。

「……ニンゲンよ。なぜそんな風に難しそうな顔をしているのだ?」

「いや、だって、あの二人相手に『友達になって欲しい』と素直に告げても……」

「ニンゲン……」

 パピルスは困惑したように顔色をすると、諭すような口調でキャラに話を続けた。

「オレさまは複雑な事はよくわからない。だがオレさまが考えるに……あれこれ難しく考えものではないと思うのだ」

「えっ?」

「友達というのは、本来そういうものではないか?」

 相手の言葉に、キャラは思わずその顔を見つめ返す。その疑問に応えるようにして、パピルスは多少胸を張りながらも言葉を選ぶようにして、ゆっくりと語り始める。

「本当にあの二人と仲良くなりたいなら、まずはその想いをまっすぐに伝えるべきだ。そうすれば二人ともきっとわかってくれるはずなのだ! オレさまが言うのだから間違いないッ!」

「…………」

 目を丸くするキャラに対して、パピルスは自信満々に言い切った。

 

 成る程、確かにその通りだ。無知の知。不知の自覚。

 知りすぎる者は時に愚者だ。「自身のトラウマを拭いたいから」「虐殺に嫌気がさして、逆の事をしたくなった」と自分本位な動機が相手にとって何になる。あの二人にはイメージトレーニングや台本の推敲を重ねてから「友達になって欲しい」と迫っても『打算ありき』と看破されてしまう可能性の方が高いだろう。

 ならば最初から自分の考えを打ち明けて、その上で二人がどう思うかを伺う方が賢い選択かもしれない。

 パピルスのようなヤツにそこまで言わせておきながら、ウダウダと悩んでいるのは格好がつかない。

「パピルス。ありがとう。おかげで勇気が出たよ」

 そう言っておとなしく捕まっているフリをして、パピルスを家から送り出した。アンダインに「ニンゲンを捕まえた!」「そのニンゲンがアンダインと友達になりたいと言ってる!」などと報告に向っているのだろう。

 

 キャラはまず隣の部屋の扉をノックし、ドア越しに声を掛ける。

「サンズ。いる?」

「いないぜ」

 開幕早々ツッコミたい気持ちを抑え、シリアスな会話を続ける。

「えっと、アンダインの元に連れて行かれる前に話したい事があるんだけど、今いい……?」

「悪いな。今はちょっと手が離せないんだ」

 サンズの部屋へ耳をすましてみると、大きな物音が響いている。硬いモノ同士が竜巻の中でぶつかる音と共に、イヌが唸るような声。

 ……まぁ、確かに手が離せないというか、忙しいのは確かだろう。

「だけれど扉越しに話すのなら構わないぜ? なんだ」

「……」

 キャラは一瞬黙り込んだ後、胸の内にある漠然とした感情を少しずつ紐解いて語り始めた。

「昨日も言ったけど、私はモンスターの皆と……サンズとも仲良くなりたい」

「おいおい、このままここにおとなしくしてるとお前さんは他のモンスターに殺されるハメになるんだぜ?」

 状況的にあまりにも平和ボケした発言に聞こえたのか、少々真面目な口調で切り返された。しかし、キャラは怯むことなく続ける。

「正直にいえば、私は誰にも殺されない自信がある」

「……ほう?」

 キャラの言葉に関心を示すようにサンズは低い声で唸る。

「パピルスはもちろん、アンダインにもアズゴア王にも……そしてアンタにもだ」

 キャラはいくらか自嘲気味に笑ってみせる。話を少し盛ったが、自分が殺されない事は正直この話の要点ではない。

 重要なのはそれによって何がなせるかだ。少しの間を空けた後、キャラは慎重に言葉を紡ぐ。

「私はそれくらい強いのさ。しかし、事は穏便に済ませたい。私だってモンスター達と平和的にやっていきたいし、仲良くなりた……」

「いや、待て」

 サンズはそこまで聞いてキャラの話に口を挟む。それから数秒ほど考えたような沈黙の後に静かに言葉を発した。

「それはお前さんの本心と違うな」

「……なんだって?」

 キャラは嘘偽りなく自分の胸中でもっともふさわしい表現で相手に伝えたつもりだったが、聞き手のサンズに否定される。

 そんなキャラ自身が心外だといわんばかりの対応で聞き返すと、サンズは深くため息をついたのちに会話を続ける。――その声色は今までとくらべて、どこか冷たい。

「お前は、初対面の時は『モンスターなんて殺しても構わない』という性根が透けてみえる危うさだった。そのせいかモンスターと仲良くなりたいと思い至った動機がまるで『分からない』という素振りだ。まぁ、分からないってのは本当だったんだろうが……今日に至っては、まるで善人にでも生まれ変わったような――いや『もともと自分は善人でした』とでも言いたげな振る舞いをする。それが真実なら、お前は実に賞賛すべき人間として改心をしてくれたってコトだ。

 

 

 ……なーんて、そんなわけがないだろう。昨日まで命を軽々しく考えていた傲慢ヤローが、今日では平穏を願う我々のよき友人だって? ウケ狙いでやってるとしたら最低最悪の笑えないジョークだぜ」

 そこで一旦言葉を切ると、事実を突きつけるような質問の仕方を投げてくる。

 

「おまえが胸に抱いているものは、そんなキレイゴトじゃあないんだろう?」

 

 ……今まで犯してきた罪の数々が、キャラの背筋に冷たく伝う。

 今更になって劫罰という名の払い切れない毒蜘蛛が皮膚の中を這い回る感覚を感じる。

 地獄の底で燃やされるような、肌がピリピリと灼けつくような瘙痒感。

 それが全身を駆け巡った後、心臓がバクバクと脈打って杭を打たれたような鈍痛が襲う。

(……痛い。苦しい。辛い。怖い。嫌だ)

 扉の向こうの相手と言葉を交わすたびに、胸の奥から湧き上がるような負の感情が膨れ上がっていく。

 無意識のうちに胸を押さえつけ、呼吸が乱れ、手足が震える。

「…………違う……」

 それでも、反論しようと口を開く。Gルートを介さない自分が、そんなに醜い存在ではないと心の何処かで信じている。

「じゃあなんで『モンスターと仲良くなりたい』のか、言ってみろ」

「それは、モンスターと啀み合ったりするのが嫌だったからで……」

「成る程、それはとても妥当な理由だ。だったら遺跡の奥でひっそり暮らしている方がよかったんじゃないか?」

「…………自分がアズゴア王から毛嫌いされてないって、証明したくて……」

 キャラはもっともらしい口実を積み重ねて、滑稽な事実から目を背ける。

 積み重ねていくモノはキャラの精神の重圧となって、その本質から足を踏み外させ人を盲目にさせる。

「……モンスターを殺したら、アンタやアンダインに……嫌われそうだから……」

 そこまでいってから、お互い押し黙ってしまう。

 そうして訪れたたった数十秒の静寂。世界が滅び去った虚無の空間でたった一人永い時間を過ごしてきたはずなのに、その静寂にキャラは耐えきれなくなって心の奥底に溜まっていた汚泥を吐瀉した。

「……私は、モンスターを誰一人殺さず、モンスターの皆と仲良くなりたい。それをやり遂げた奴がいるのに、自分がそれを成し遂げる事ができないなんて、自分が殺すだけが能の、劣っている奴だなんて、認めたくない……」

 今回のように、フリスクと同じ条件に放り込まれたならばなおさらだ。

 

 キャラは本音を吐き出すように、自分の気持ちを語る。フリスクに抱いた劣等感と真正面から向き合うべく。

 扉越しに聞こえる声は震えており、そのうめき声はサンズ側には泣いているようにも苦しんでいるようにも聞こえる。

「……ありがとよ。今度こそ正直に話してくれて」

 サンズの部屋から聞こえる物音はとうに止んでいた。元々大げさに掻き立てた物音だったのか。本当に忙しかったのか。今となってはキャラには分からない。

 だが、少なくとも扉の向こうのスケルトンは自分を突き放すような冷たい口調ではなかった。

「悪いがオイラはお前さんのいう『やり遂げた奴』っていうのがいまいち思い当たらないんだ」

「…………」

「けど『他者を傷つけないという信念』が動機がそういう感情からであれ、純粋な動機であれ……正直な話、他人からしたらどうだっていいんだ。その動機がどんなものだろうと、重要なのはそれを途中で投げ出さないという強いケツイだ」

 キャラにとって耳が痛い。そのケツイの本領は扉の向こうの人物と本気で殺し合った時に発揮されたのだから。

「で、そこでオイラからの提案だ」

「……提案?」

「そうだ。もしもアズゴア王のいる王宮までモンスターの誰も殺さず行けたのならば……お前さんの望む通り友達っていうヤツになってやってもいい。どうだ? 信念を抱く一つの動機になるだろう。抵抗しなきゃ自分が殺されるかもしれないっていう状況においてもそういう事を成し遂げられるニンゲンだったら……一人だろうが二人だろうがオイラは大歓迎だぜ?」

 サンズがそう言葉にすると目の前の扉が開かれ、キャラに対して気さくなウインクが向けられる。

「っつーわけだ。アンダインが来る前に、さっさとここから出て行けよ。パピルスの事だ。ニンゲン捕まえたって報告するのためらって、まだスノーフルにいるかもしれないぜ」

 そういってサンズは暗に逃走を促す。キャラはそれに素直に従い、急いで扉から外に出て行こうとするが、ふと思い出したかのように立ち止まる。

「……パピルスとお友達になったらまたここに来ていい?」

 そう問いかけると、サンズは二階からそのまま玄関を見下ろしながらこう答えた。

「言ったろ? 抵抗しなきゃ自分が殺されるかもしれないって状況でそういう事が成し遂げられるなら、大歓迎だって」

 サンズがそう言うと、キャラは口を固く結んで家から出ていった。

 

 

 

 

*自分が劣っていないという証明の為にも『決して誰も殺さない』というケツイを抱いた。



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ウォーターフェルへ

 パピルスは、自分が見た光景を信じられなかった。家に留守番しているように約束したニンゲンが、ウォーターフェルへの道に現れたからだ。

「ニンゲン、オレさまがスパゲッティを用意してなかったからおなかがすいて抜け出してきたのか……!」

「えっと、うん……まあそんな感じかな……」

 先の反省で幾分か厚着の姿にしてきたキャラ。パピルスは会う度に相手が着替えている事に「やはりオシャレさんだ……」と誤解しつつも、キリッと表情を切り替えて現れたニンゲンを叱りつける。

「でもダメ! ここをニンゲンの通る道にしてやることはできないのだッ!!」

 パピルスが指差した先には、ウォーターフェルの入り口がある。雪景色のスノーフルとは違い、水面(みなも)の世界が広がっている地帯だ。

 そこに向かうのはパピルスには到底許容できない。何故ならアンダインがいる。本人が向かうと話し合う前に殺されてしまう。

「ニンゲン、オレさまはアンダインに話をしにいく。お前が友達になりたいという気持ち、アイツならきっと分かってくれるはずなのだ。……だからおとなしくお留守番しててねッッ!」

 そう言って、パピルスは逃げ出した猫を捕まえるようにニンゲンを抱きかかえようとするが、キャラは手を突っ張ってそれに抵抗する。

「待って。パピルスの協力は嬉しいけど、そういう事は私自身が向かった方がいいと思うんだ」

 パピルスはその言葉に一瞬呆けた顔をするが、すぐに首を横に振った。確かにキャラの言い分は理解出来る。だがパピルスからしたらこの小柄な子供がアンダインに酷い目に遭わされるビジョンが思い浮かんでしまうのだ。

 パピルスが目を細めて押し黙ったまま見つめてくる事から、キャラの方も自分に対する想像を察した。

 面倒だがここで諦めては今までと何も変わらない。フリスクへの対抗意識もあって、ここは何としても彼を殺さず押し通す事に躍起になっていた。

「……トリエルといい、優しすぎるのも難儀だな」

 キャラはぼそりと呟くと、抱きかかえようとしてくる相手をぎゅっとハグし返してから一旦離れた。

「私は、そんなに信用出来ないか? アンダインと直接会ったら友達になれないと思っているのか」

「むう」

 このニンゲンは悪いヤツではない。だから信じたい。しかし悪いヤツでないからこそ酷い目に遭ってほしくない……。

 お人好しのパピルスはそう考えて何も言えずに黙ってしまう。しかし思案している内に、妙案を思いついたとばかりの明るい表情。

「いい事を思いついたぞニンゲン。ここを進むにふさわしいヤツかどうか、このパピルス様が直々に試してやろう!」

 

 どうしてこうなった。キャラは頭を抱えたくなった。

 途中までは至って真面目な展開だったはずだ。自分だってそう務めたつもりだ。

 なんならパピルスと戦って力を示して、納得した上で通してもらうというシナリオだって考えていた。

 

「ニンゲン! 似合っているぞ!」

「…………ありがとう」

 何故にスノーフルのショップでデートをするハメになったのだろうか。

 その理由はパピルスの提案で『友人同士がお互いに似合う服を見繕う』というシチュエーションでテストをする事になったからだ。

 曰く、アンダインとちゃんと仲良くできるかどうかの大事な試験。薄着過ぎてパピルスの衣装にくるまった事も強く関係しているようだ。まぁ、フリスクもデート自体はやっていたが……。

「ふふん、ニンゲン。きさまのファッションセンスはしょうじきステキだが……オレさまのコーディネートはもっとステキだ!!」

「ぞんじております……」

 自信満々な様子でそう言うパピルス。キャラは顔を赤くして俯いている。なにせ当人達は小っ恥ずかしい格好――世間的にいえばファンシーで可愛らしいオシャレ――をしている。

 フリルがあしらわれたスカートに、レースがふんだんに使われたブラウス。いかにも女モノだ。

 更に言えばパピルスも同じ服装である。二人共サイズが違うだけで同じデザインの服を着ている。つまりペアルック。

「いいか。仲のいい友人同士は、こうやって同じ服を着るのだ」

 そういって誇らしげなポーズでキメるパピルス。しかしこの格好は男性的(少年的)印象のパピルスに少々似つかわしくない。

「あの、パピルス。こういうのはやっぱり、私達には似合わないんじゃないかな? あと出来れば私は顔が隠れた衣装が……」

「ニェッ!? きさまはオレさまが選んだものが似合わないっていうのか! それは、ザンネンだ……」

「ごめん、でもパピルスの体格なら……ほら」

 少女趣味的なスカートの代わりに、キャラが選んだのはゴシックな黒いズボン。それに白いレースを合わせる事でカジュアルながらも落ち着いた雰囲気になる。これならメンズ衣装で押し通せなくもない。

「こっちの方が似合うよ」

「おおッ! 確かにそうだッ! ニンゲン、おまえは見る目がほんとうにあるなッ!!」

 キャラは愛想笑いの表情を浮かべる、そんな事はお構いなしとばかりに上機嫌なパピルスはくるりとその場で回っていた。

 

 どうやら気に入ってくれたようで一安心。

 キャラは自分の衣服は戻してこようかと試着室へ向かおうとしたが、パピルスは止めるようにその腕を取った。

「ニンゲン、せっかくだからこのままアンダインに会いにいくぞッ!」

「……は?」

 困惑するキャラを余所に、パピルスは店員を呼びつけて会計を済ませてしまう。

「いや、この格好はかなり無理があるだろう」

「ニェッヘッヘ、だいじょうぶだ。オレさまが選んだコーディネートなら、アンダインもきっとメロメロになるに違いない!」

 そう言ってさりげなく手を繋いでくるパピルス。そしてキャラの方はもう逆らう事を諦めて、されるがままの状態で引っ張られるしかなかった。

「そんな風にセッティングしてくれるなんて、パピルスはアンダインの事がよっぽど好きなんだな」

「ああ、もちろんだッ! アンダインはとても強いし、カッコイイし、驚くくらい乱暴者だっ! それに皆を守ってくれる、すごくいいヤツなんだぞッ!」

 パピルスは嬉しそうに語る。しかしその一方でキャラは少し暗い表情を見せた。

(アンダインのそういう気概は私もイヤというほど知っているが……)

 モンスターを虐殺し廻るGルートにおいて強大なケツイで立ちはだかる強敵。

 サンズとは違ったベクトルの強さを持ち、悪鬼羅刹を食い止めようとする彼女は正真正銘ヒーローと称してもいい。

 その勇気と決意は、未だ悪夢と成り代わってキャラの精神を蝕んでくるような代物だ。

 ……もしもう一度彼女と相対すれば、自分は何を選ぶのだろうか。

 力によって殺さずに屈服させるか、フリスクを模範していい子ぶるか、あるいは……。

 

 パピルスと手を繋ぎながら雪道を進む。手を振り解かないのはパピルスが楽しんでいる様子をありありと見せつけてくるからであり、それがまた複雑な気分にさせる。

 ……とはいえ、これもまたパピルスのご機嫌取りなのだと思えばいい。

 そんな事を考えながらパピルスと共に道を歩く中、キャラはスノーフルの町を眺める。

 雪が積もり、寒々しい景色が広がる。家の中ではモンスター達が暖炉の前で温まっている姿が見える。

 市民が殺されたり避難したりしているGルートと比べてずいぶんと平和なものだとキャラは思いながら、パピルスに視線を向ける。さっき買ったばかりの衣服を大事そうに抱きかかえた彼は、その視線に気づいて「ニンゲン、皆とも仲良くなりたいのか!」と目を輝かせる。

「あ? あぁ、うん」

「ニンゲンは良いヤツだな!」

 キャラの生返事に対してパピルスは屈託のない笑顔。その純粋な言葉を受けて、キャラは困ったような表情で微笑む。

「アンダインもきっと、お前を認めてくれるだろう。でも気をつけろ。ヤツはとても強い」

 その言葉から要はテストは合格したという事を察したキャラは、「そう」とだけ短く答えてウォータフェルの方を向く。

 パピルスは、にぱっと明るく笑ってキャラの横に立ってポーズを決める。

「ニンゲン。オレさま達は、友達だな!」

 キャラは無言でそれを見た後、ますますぎこちない笑みを浮かべる。しかし否定するでもなく、素直に肯定する事もない態度にパピルスはますます笑みを深めた。

 

 パピルスにとってキャラは不思議なニンゲンだった。人間でありながらモンスターである自分達と友達になりたいと言う。好戦的なアンダインとも和解する覚悟もあるらしい。

 そして、このニンゲンはモンスターとの共存を望んでいる。

 パピルスにはそれがとても嬉しかった。彼の夢はロイヤルガードになって皆の人気者になる事だが、皆が仲良く友達になれる事も夢に見ている。

 だが自分の夢を理解してくれて、更に協力までしてくれるなんて!

 

 そんな風に目を輝かせて喜んでいるパピルスを目の前に、キャラはなんとも言えない表情で立ち尽くす。

 異様に買いかぶられているような気がして、胸の中が少し濁るような感触がした。

「……」

 パピルスの言う『友達』という言葉を反芻しながら、キャラは複雑な気持ちのままスノーフルの町をスケルトンと一緒に過ごす。

 何気ない会話をしたり、自分がどれだけ強いか自慢し合ったり……そうして、しばらく歩いている内にウォーターフェルの入り口に辿り着く。

「着いたぞニンゲン! ここがスノーフルとウォーターフェルを繋ぐ道だ」

 パピルスが指差す先には、トンネルがあった。ここから先に行けば、アンダインが待ち構えているウォーターフェルだ。

「ありがとうパピルス」

 そう言って礼を言うと、パピルスは満足げに胸を張る。

「ニンゲン。やはりオレは先に行ってアンダインに話をつけておく。だからきさまはゆっくり進むといい!」

「うん」

 そう言ってパピルスと別れた後、フリフリと手を振って見送るキャラ。

 パピルスの姿が見えなくなったところで、小さくため息をつく。

「はぁ……」

 パピルスには悪いが、彼とのデートは少し疲れた。今度は主導権を相手に渡さず、自分がエスコートした方がいいだろう。

(……リセットされずに関係が続いたら、今度はフリスクの模範でなく私なりのやり方で正直に接するか)

 新しい衣服に身を包んだキャラはそう考えながらトンネルを歩く。そうしてウォーターフェルに入ってすぐ、見張り小屋で肘をついているサンズやアンダインを探しているモンスターの子供と出くわした。

 二人はキャラの人影を見るなり「よう」と気さくに挨拶を向けてきたが、キャラの姿形を認識して目を丸くして固まってしまう。

 そんな二人の反応を見て、キャラは首を傾げる。

「どうかしたか? やはり、マスクで顔を隠しているのは不審か?」

「あー……」

 キャラに問われ、サンズは言葉を濁らせた。どうしようかと悩んで、ちらと横目でモンスターの子供を見やる。モンスターの子はキャラをじっと見つめていたが、やがて口を開く。

「キャラったら、アンダインに会いに行くからおめかししたんだな!?」

「……」

 モンスターの子供からしてみれば、キャラが色気のない防寒着の重武装からフリフリなファンシー衣装にわざわざ着替えてきたのだからそうとしか映らない。

「でも、そーゆーのはキャラに似合わないような気がするぜ。だってそれ女の子の衣しょ……」

 モンスターの子の言葉を聞いたキャラは黙って、にこにこと笑っているモンスターの子供の頭を鷲掴みにする。

「んぐっ……な、なんで怒るの……!?」

「別に」

 そう言いながら、グリグリと乱暴に頭を掴む手に力を込める。その容赦のなさに、モンスターの子供は思わず悲鳴を上げていた。

 

「やぶ蛇だな」

 サンズが呆れたように呟く。

 トラブル回避の為に元の衣装に戻してくる事を勧めた方がよいか、それとも今の格好のまま通してよいか。モンスターの子の頭が揉みほぐされるサマを眺めながらサンズは悩んでいた。



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Chapter3:ウォーターフェルエリア
どんな衣装?


「や、やぁ。アンダイン。今日の報告をしにきたぞ! えっと、例の人間についてだが……」

 人間目撃の報せを受け、ウォーターフェルで待ち構えるアンダイン。その鋭い眼光は、この水辺の冷たい空気よりも冷たく研ぎ澄まされていた。

「お前、ちゃんと戦ったか?」

 そんなアンダインの声に、事態の報告にきたパピルスは困ったような表情を見せる。

「あ、あぁ!! もちろんだとも!! それはもう果敢に!! ……でも、結局は……」

 そう釈明するパピルスを前に、アンダインは一瞬だけ眉を寄せた。

「ではアタシが直接ヤツのソウルを奪いにいく」

 アンダインはそう言うと、パピルスの胸の奥が跳ね上がった。

 彼女の気持ちを察したパピルスはすぐに言葉を続ける。

「でもアンダイン! そこまでしなくても! だって、あの人間は――」

 だがアンダインはそれを遮るように睨み付ける。

 その瞳は、静かな怒りの色に染まっていた。それに気圧されて一歩、二歩とパピルスは引き下がる。

「……わかった。オレさまも、出来る限り協力はする」

 そういって、パピルスはその場から一目散に退散した。

 アンダインは押し黙ったままその背を見送る。そして、やがて諦観とした吐息と共に俯いた。

 彼女はこうなる事を薄々理解はしていた。パピルスは優しすぎる。直接トドメは刺せまい。

 ならば自分が代わりに、人間のソウルを奪い取る他ない。

 決意を固め、顔を上げたアンダインの耳元に、水草が不自然にガサガサと揺れ動く音を聞いた。

 音の方に振り向いた。水草の間から……赤い目が光った。人間だ。

「…………」

 アンダインは槍を手に取る。柄を握り締め、今すぐにでも投げつけようかとも思った。

 ……いや、しかし。人間が潜んでいるあの水草は学術的に……保護されている種だ。

 槍をぶん投げれば、その射線上の水草が薙ぎ払われようか。そう考えたアンダインは思い留まり、静かに槍を下ろす。そしてその場から、一旦退散した。

 

 それからしばらくして、二体の子供がその水草から這い出てくる。キャラと、モンスターの子供だ。

「み、みたか? アンダインのあの目! サイッコーだよな!!」

 感激した様子で、モンスターの子供は目を輝かせている。

「おまえ、すっっっっっっっごく羨ましいぜ!! どうやったらそんなに気に入ってもらえるんだ!?」

 キャラはモンスターの子供の大声に軽く耳を塞ぎながら、テキトーな表情で答えた。

「精一杯オシャレしたから」

 相変わらず、キャラはパピルスに着せ替えられたゴシックなドレスを着飾っている。正直、スカートは穿き慣れてないから歩き難い。

 キャラの返答を聞いたモンスターの子供は興奮した面持ちで叫んだ。

「じゃあ、オレも同じ格好すればアンダインにあぁいう目で見つめられるかな!?」

「はぁ?」

 キャラは面倒臭そうな目でモンスターの子供の方を見た。キャラは品定めするようにジロジロと見つめる。

「……まぁ、私より似合うんじゃないか? アンダインの気も惹けるだろうさ」

 キャラの適当な評価を聞いて、モンスターの子供はパァッと表情を明るくさせた。

「なぁ! その衣装くれよ! 衣装代は払うからさぁ!」

 そういって、モンスターの子供はスカートを軽く引っ張った。キャラの白くて細い太股が露わになる。

「っ!!」

 想定外の事態に、キャラは顔を真っ赤にしてモンスターの子供の方に振り返る。

 その直後、ウォーターフェルに「バシーン!」と小気味の良い音が鳴り響いた。

 

「もしもし! こちらパピルス!」

 キャラがウォーターフェルを進んでいる内に携帯電話が鳴った。相手はパピルスだ。

 これは、まぁ、今着ている服装を聞かれる流れだろう。

 キャラは、頬を押さえてぐすぐすと泣いているモンスターの子供をちらりと見てから、ため息をついてパピルスとの会話を続ける。

「お友達に私の服装でも聞かれたか」

「お、おぉ! そうだ!! えっと……その……まだ、オレさまとのペアルック、なのか?」

 やたら女々しい声で訊ねてくる。キャラは少しばかり言葉が詰まった。

「いや、着てない」

 呆れからか、とっさにそう答えてしまった。

 電話の向こうから「がびーん」という音が聞こえてきそうなくらい、パピルスはショックを受けた。しかし。

「……いや、待てよ。そうか! オレさまと友達だとバレると、厄介だ! ニンゲンは機転が利くな!」

 どう足掻いてもコイツはポジティブに受け取るのか。キャラはまたもため息をつく。

「じゃあまたな!」

 パピルスはそういってガチャ切り。

 キャラは携帯電話を閉じる。それからしばらく歩いて、まだ泣いているモンスターの子供へと向き直った。

「殴ったのは悪かった。だけど、スカート捲るお前も悪いんだぞ」

 そう言って、キャラはモンスターの子供の頭を撫でる。

 涙目のまま、モンスターの子供はキャラを見上げた。

「だって、母ちゃんのげんこつよりずっとずっと痛いんだぜオマエのビンタ……」

 モンスターの子供はそう呟いて、またグスグスと泣き始めた。

 モンスターの子供の頬は赤々と腫れている。一応、キャラとしては死なないように手加減はしたつもりだったが。

「……私は、スカートを捲られて脚や下着を見られるのが嫌なんだ。分かるか?」

 ウォーターフェルを進める脚を止め、何がいけなかったのか噛み砕いて相手に諭す。

 素っ裸のモンスター相手に理解を求めても詮無き事かもしれないが……一応モンスターにも被服の文化があるので、それくらいはモンスターの子供も理解したようだ。

「ごめん……」

 モンスターの子供は俯いたまま謝罪する。キャラはそれを見て、また小さく吐息をついた。

 フリスクを通してこういう態度を見てこなかっただけに、対処に困る。

「まぁ、私の痩せ細った脚や色気の無い下着を見て喜ぶヤツなどそうそう居ないだろうがな」

 スカートの両端を軽く摘まんで、ギリギリのところを見せながらおどけてみせた。ところが、ぶんぶんとモンスターの子供は首を横に振る。

 その様子に、キャラはきょとんとした。

 キャラの予想に反して、モンスターの子供はキャラの太股を見ながら顔を赤くしている。

「はしたないぜ。そういうの」

 ……見くびってた相手に、ド正論を吐かれた。キャラは固まり、未だモンスターの子供の視線が自分の脚に注がれている事に気がついて、顔がみるみると紅潮していく。

「ヘンタイ!!!」

「え、理不じっ」

 パシーン、と。もう一度ウォーターフェルに小気味の良い音が鳴り響いた。




【後書き】
 だいぶ間が空きました。こういう短い形でも、投稿は続けていこうかと思います。


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