二重人格系TS娘が征く、ダンジョン×学園都市モノ (ずっと病んでる。)
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慢心TS娘ならチート持ちでも許される。
「
『学園都市アヴァロニア』と呼ばれる、大洋に浮かぶ人工島の一角。この島の出入り口となるゲートにて、潮風に吹かれる美少女が一人。
そう、
今日
「案内係を務めさせて頂きます、
案内係だという女生徒の後ろを着いて行く。割と好みの顔をしている。
「ゲートから左に行けば商業区、右に行けば居住区で……」
コチラが興味を示していない話題を精一杯説明してくれるニノ前ちゃん。彼女も案内係を任されたモンだから頑張ってるんだろうな、と暖かい眼差しで見守る。
「……えっと、アレが研究区域で、———聞いていますか、七ヶ堂さん?」
「あぁ、悪い悪い。ちょっと気疲れしちゃってさ」
テキトーに誤魔化しておけばいいだろうと思って気疲れしたという設定にしておいた。
「確かに、私も初めて来た時は気疲れしてしまいましたね。ここって何でもありますもんね」
「———ん?今な………いや、やめとくわ。あの奥の何?」
内なる魂が叫んでいたが、どうでもいいことだったので言うのをやめた。話を合わせるために、適当な建物を指差して質問する。
適当に指差しては見たが、あの建物割と気になってきた。アレはなんだろうか。途轍もなくデカい。
「あー、アレが校舎ですよ!パンフレットの表紙にもなっていた筈です!そしてそんな校舎の奥には……………」
「———
とある男子生徒が、そのように大きく叫んだ。その声を聞き付けた辺りの生徒達が、一斉に響めきだす。
はて、風紀委員とな???
「ふ、風紀委員ですよ、七ヶ堂さん!!風紀委員が戻って来たって!!………あぁ、皆無事に帰って来れたんでしょうか……」
なんだか知っていて当然のことらしい。何とも言えない疎外感を感じる。我、転入初日ぞ?
一般的に風紀委員といえば、学園の風紀を守る役割を持つ委員会のことだ。学園都市ともなれば、その委員会にも大きな役割が与えられているということなのだろうか?
黙っていても望んだ答えが出ないので、ニノ前ちゃんに聞くことにしよう。うん、そうしよう。
「風紀委員って〜のはなんなんだい?ニノ前ちゃん」
「えぇと、そうですよね!説明しますね。ここでの風紀委員というのは普通の学園と同じ、風紀や治安を正す役割の他に、""ダンジョン""の攻略を目指す役割も熟しているんです!」
———ダンジョン!?ダンジョンだって?そんなモンが、此処に有んのかよ。
通りで、この『学園都市アヴァロニア』には国や研究機関といった胡散臭いモンが関わってるなと思っていた。
「……ダンジョンっていうのは、どういうものなんですか?」
「…………七ヶ堂さん、何だか口調が……?」
「いえ、それよりもダンジョンのことも知らずに学園都市までやって来たんですか!?というよりも、生きていればダンジョンくらい……」
ダンジョンというのはですね!という言葉に続いて彼女は説明していく。これまで通りに、ニノ前さんは優秀な説明役を努めてくれそうですね。
話によれば、この世界にはダンジョンというモノが突如として出現し、その周りに学園都市が設立。この学園都市というのが『学園都市アヴァロニア』。
・『学園都市アヴァロニア』は、世界各国から支援を受けており、商業区、研究区域などが伴っているのも、そのおかげ……らしい。
・さて、ダンジョン。ダンジョンという名前をしているだけあって、その中には従来のRPGのようにモンスターがいる……らしい。
・そのモンスターが死んだ時に落とす、謂わばドロップアイテムが新たなエネルギー資源として注目されている………らしい。
・そんな新たなエネルギー資源に世界中が躍起となり、ダンジョンの攻略を目指している……らしい。
「どうして、学園都市なんですか?当の大人達がダンジョンまで赴けばいい話では?」
そう、それだ。ここがダンジョン攻略のために設けられた土地だというのなら、学園都市とする必要はない。研究区域があったとしても、商業区なんてモンも必要ではない筈だ。
「…………ダンジョン適正があるのは、学生のみなんですよ。モンスターを倒せるのは学生だけなんです。———だから、大人達は支援に回っている」
「戦う理由は様々ですが、お金だったり、将来保証だったりを売りにして学生達を集めているんです」
「でも、私のように戦えなかった人々もいます。そんな人達も、戦える人々をサポートしたりして、生き延びている。……私はダンジョンなんかには二度と行きたくないですよ」
成程、ね。ダンジョンと『学園都市アヴァロニア』。学生と大人。だんだん闇が見えて来たような気がするわ。
此処に居る連中は、甘い蜜に釣られてやって来たような輩もいるわけだ。
「———そんなダンジョンを一早く攻略するための組織が"風紀委員"、か」
「………はい、お察しの通りです。だから、彼等は私達のようなリタイアした人々にとっては、希望なんです」
リタイアした人間にとっての希望とすら言わしめる彼等の存在が気になって来た。ニノ前ちゃんと見に行くことにするか。
「それなら、希望とやらを拝みに行かないとな。行こうぜ、ニノ前ちゃん」
「———!?は、はい!!」
▼
目的地に近づくにつれて、人混みが激しくなってきた。それだけ風紀委員というのは期待されているのだろう。
隣のニノ前ちゃんを見れば、瞳をキラキラさせてヒーローを待ち望む子供のような顔をしていた。
ダンジョンから帰って来たって話だし、そうなると近くにダンジョンがあるわけで………。
目当てのモノはすぐに見つかった。大きな塔に紐付くようにして、コレまた大きな洞穴。
おそらくアレがそうであろう。知らない人間がパッと見てわかる程には存在感がある。地下へと続く階段は、宛ら冥獄への階段だろうか。
そんな階段を登って来た集団がいた。彼らが顔を現した時、周りの群衆がドッと湧く。
「(そうか、アレが風紀委員なんですね。予想していたよりも強者だ。学生の飯事遊びじゃない。彼らは覚悟を決めている)」
「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
風紀委員の先頭集団を歩く女子生徒の姿がハッキリとすると、今まで以上に場が盛り上がる。
「………彼女は?」
「風紀委員長の
「その人気は然る事乍ら、実力も高い。」
そうでなくては風紀委員長なんて役職任されないんですけどね、とニノ前ちゃんが笑う。
ダンジョンのことを話していた時は暗い顔をしていたというのに、もう顔が晴れたのか。
………それも
キリッとしている瞳がいいと思いますよ、先輩。
彼女の後に続いて、風紀委員の猛者達が隊列を成している。
そんな風紀委員達であるが、どうやら雲色が怪しい。
「保健委員、保健委員を呼んできてくれ!!遠征による怪我人、死者多数!!保健委員を直ちに!!」
風紀委員の誰かが切実に叫んだ。先頭の風紀委員長、戦石先輩も苦しげな表情を浮かべ歯噛みしている。
そうか、ダンジョンの攻略を目指すということは犠牲も付き物。だから、ニノ前ちゃんもダンジョンから逃げたのだ。
保健委員が学園都市の救護だということを知る。どうやら、この学園都市での委員会の役割というのは生半可なモノではないらしい。
皆、覚悟を持ってダンジョンへと挑んで儚く散る。戦闘から退いたモノ達も、挑み続ける彼らの助けとなるために支援の道へと進んでいくらしい。
ずいぶんと美しき精神で成り立ってるモンじゃないですか、学園都市。
それなら
「
「………はい、生徒であれば誰でも。で、でもあんな光景を目の当たりにして行こうと思えるんですか!?」
転入初日でもダンジョンには入れるらしい。これはチャンスだ。自分の実力を試すことが出来るらしい。
ニノ前ちゃんは必死に止めてくれるが、お手並拝見と行きたいモンだよ
『学園都市アヴァロニア』。なかなかに面白い所かもしれない。ここでなら、退屈凌ぎくらいにはなりそうだ。
▼
ニノ前ちゃんによると、ダンジョンに入るにも学園都市で何をするにも『学生証』というモノが必須らしい。
これに日々の活躍が記されたりするんだとかなんとか。
そんな『学生証』を渡しそびれていたと言って、ニノ前ちゃんが渡してくれた。自分の顔写真が貼り付けてある。普通の学生証と変わらないが、特別なんだってさ。
「まだ、クラスのことすら説明していないのに本当に行ってしまわれるんですか?」
「あぁ、どうやら風紀委員とかいうのに充てられたらしい。我ながら馬鹿だと思うよ」
本当はウズウズが止まらないだけなんだ。早く暴れたくて仕方がない。ここでなら許されるのだ。15年間、碌に使って来なかった"チート"が。
「………あの、死なないで下さいね。ダンジョンは危険な場所ですから、ダメだと思ったら帰って来てください。私、待ってますから!帰って来なかったら恨みますよ!」
そんな彼女の痛切な想いを背に受けて、ダンジョンの入口へと歩き出す。
ダンジョンに入るには受付を通る必要があるらしく、そこを管理するという生活委員にギョッとした顔で驚かれた。
「キ、キミ!丸腰でダンジョンに潜る気かい!?何か武器がないと………」
「———
その時私は言い訳して無理矢理にダンジョンへと入れてもらえたが、本来であれば戦う為の手段を持って臨むらしいということを知った。
▼
…………これが、ダンジョン。
空気が湿っていて、薄暗い。開け放たれた空がないせいか、圧迫感に押し潰されそうになる。
この空気感にやられたら、ニノ前ちゃんのように恐怖で何も出来なくなるはずだなと納得する。
じゃあ、いっちょやってやりますか。
残念だったのは、ある程度成長していた少女の身体を乗っ取るようにして後から意識が芽生えたこと。まぁ、幸いにも少女の意識は死んでなくて、今はこうして
それでも、どちらもコレが自分の身体だと思ってるわけで、二人格で一つの身体を巡って喧嘩しあってたら不気味がられて親に捨てられたりもした。
俺達を拾い上げた道場のジジイは、俺達の絶大な力を恐れた。それ故に、下界との情報を完全に遮断することで、精神の成長を促し力の抑え込みを図ろうとしていた。
だから、知らなかった。『学園都市アヴァロニア』の存在もダンジョンの存在も。
現実寄りだと思っていた世界で自分の力を発揮できる場があるなんて、許される場所があるなんて。
「(学園長だとかいう、あの女には感謝だ。何処から聞きつけたのかは知らないが、あの人の御蔭で此処へと至れた)」
俺と私、主人格であるのは転生者である俺。それに引っ張られるようにして私も恋愛対象を女の子としている。
二重人格TS転生者である紅白は、その一つの身体を二人で使い分けている。だからこそ、口調も変われば一人称もバラバラとなる時があった。
それが七ヶ堂紅白の正体。
そんな彼女達が、一人一つ許された絶対的な力。人格によって分けられた力が猛威を振るう時がやって来たのだ。
▼
初めに餌食となったのは、緑色の体表をした人型のソレ。記憶によると、どうやらコレがゴブリンであるらしい。
道場の裏山で見かけた、猿や猪とは違うモンだと一目でわかる。どう考えても異質だ。この世の生物とは言えないほど凶悪で醜い。
そして、コイツが最初の実験台。俺達の前に現れたのだから仕方ない。相手は群れとなって行動するモンスターらしいが、10匹程度だ。
それなら余裕でやれる筈だ。
物語の中なんかだと、ゴブリンは人間の女を
孕み袋として活用するらしい。だからだろうか、目の前のヤツらも下卑た笑みを浮かべている。
良かったなお前ら、幸せモンだよ。最後に見る光景がこんな美少女だなんてなぁ?
向かって来たゴブリンを素手で往なしていく。俺が触れた箇所からゴブリン達の身体が砂塵を散らすように崩壊していく。
次に向かって来た奴に拳を打つ。そうして触れられた部分に大穴が開き、朽ち果てた。
これが俺の与えられたチート【破壊】。
何物をも破壊し、風化させていく。それは散り征く花の如く儚く、錆び征く鉄のように脆くさせる力。
仲間達が原因不明の死を遂げて逝くことに、露骨に焦りを見せ始めたゴブリン達。弓を持っていたモノ達が遠距離からの攻撃を図り、矢を放った。
そんな弓矢を私は避けないで受けた。少女の柔い肌が切り裂かれ、血が溢れる。だがしかし、そんな傷もすぐに再生していく。
舐めプというものだ。
これが私に分けられたチート【創造】。
何物をも創り出し、それは傷さえも回復させる力を持つ。万物の法則を無視した力。
これこそが彼等のみに許された絶対無敵のイカサマ能力だったのだ。
この力は人類の敵にこそ映える。此処がとんでも世界でよかった。こんな力、現実世界じゃ使い道ないだろう、と独りごちる。
ゴブリン達がいた場所に光り輝く石を発見した。拾い上げて見てみると、紫色に輝くソレは宝石のようではあるが、どこか不気味な印象を与えられる。どうやら、これが魔石らしい。
弱いモンスターだったということもあり、大きさはかなり小さい。
魔石は新たなエネルギー資源。これこそがダンジョンに生きるモノ達の稼ぎとなっているらしい。
リスクはあるが、大量に仕留めることが出来たならば、学生の内に油田を掘り当てたくらいの額にはなるんだとか。それが目当てでダンジョンに潜ってる奴も少なくはないらしい。
別に金が欲しいわけではないが、学園都市で生きていくなら必須だろうと思い、魔石をポケットに詰めた。
それよりも、だ。もっと強い奴と戦いたい。俺達のチートが通用しないような相手もいるんじゃないだろうか。より深くに潜ろうと決めた。
▼
道を阻む、小物のモンスター達の相手をしているうちに開け放たれた場所へとやって来ていた。
血の匂いがする。それも人間の血だ。
此処で何かがあったのは間違いないと踏んで、辺りを捜索する。
「おーい、誰か居ませんかね〜?っと」
誰かがこの声に反応してくれれば良いと思って危険を顧みずに声を上げてみた。
すると、どうだろうか。暗がりの辺りから少女の呻き声が聞こえて来た。咄嗟に足に力を入れ、すぐさまに近寄る。
その光景は、酷いモンだった。
一人の男は頭部を潰され、どんな顔をしていたかも窺えない。もう一人の男は心臓を一突きにされている。この男は、こんな事をしたモンスターと応戦したのだろう。何箇所も骨折して、紫色に腫れ上がっている。
呻き声がしたんだ、生存者が居るはずだと死体を退かしていく。見つけてあげなければならない。其れが強者の定め。
結論から言えば、生存者はいた。
死んでいった彼らによって護られるようにして、覆われていた少女。それが唯一の生存者。生きてはいるが、それでも状況は芳しくない。
彼女の四股は辛うじて繋がってはいるものの、引きちぎり損ねたという印象を与えられる。目は濁り切っており、その目は只々死を見つめている。綺麗な顔の持ち主だったことが一目でわかるというのに、今は恐怖で顔が歪んでいた。
「大丈夫ですよ、私達が来ましたから。貴女のことは、絶対に生きて帰します」
言ったでしょ?私達は絶対無敵のイカサマチート持ちだって。生きているなら治してあげられる。それが私の【創造】の絶対力。
これで、傷は癒えたけれど彼女の心は壊れてしまったのかもしれない。流石に、心を癒すような事は出来ない。———もしかしたら、此処で死んでいたほうが………。
そんな馬鹿なことを考えている時だった、背後から大きな足音が聞こえて来たのは。
「(これが、彼等を殺った存在!?)」
ソイツは引き締まった肉体と赤黒い体を持ち合わせた存在。宛ら、鬼のようだった。
彼らの返り血を受けたのだろう。ポタポタと滴り落ちる鮮血が印象を強める。
今までのソレとは明らかに違う脅威。
ダンジョンが弱肉強食たらしめんとするように、強者は其処に存在する。
「(コイツはビギナー殺しって感じの野郎だな)」
今はお互い睨み合うようにしてジリジリと間を詰めている状態だ。相手も窺っているのだ、俺の力量ってやつを。モンスターの癖に生意気にもね。
一発入れてやれば俺の勝ちなのだ、相手は図体もデカい。それならば先手必勝とばかりに一閃する。———が、しかし、目の前の奴は俺の力を分かっているが如く避けて見せる。
こんなナリだというのに、案外動きもぬらりとしていた。これがモンスター。如何にも、一筋縄とは行かないらしい。
チッと舌打ちをし、構えを取る。育て親である道場のジジイに仕込まれた、武道による其れを。
化け物相手には通用しないかもしれない。それでも、一撃入れてやるなら此の構えでなくてはならない。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
鬼の咆哮が、嘶きが、脳を震わせ行動を遅れさせた。これが狙いであったのだろう。奴も一撃で終わらせる気でいたのだ。
一気に此方との間合いを詰め、その馬鹿みたいに太い腕で俺の土手っ腹を貫いて見せた。
————見事。………だがしかし、俺達の勝ちは揺るがない。
其れはもう決定事項だったのだ。予定調和だったのだ。七ヶ堂紅白は、身体に穴を開けられたくらいでは死にはしない。
寧ろ、此れを待っていた。相手が間合いを詰めてくるのを待っていたのだ。ぬらりと動く相手の懐に潜り込むために、態と打たせた。ただ、それだけだったのだ。それだけの事だったのだ。
「———じゃあ、さようなら。」
彼等を嬲った鬼は、紅白によって受けた引っ掻き傷から体の【破壊】が始まっていく。灰が宙を舞うように腕から崩壊を始め、やがて核で有る魔石だけを遺して姿を消した。
もう、其処にはハナから何も居なかったと言わんばかりに静寂だけが残された。
ま、こんなモンか。幾ら強者と言えど、このくらいなら風紀委員長様も難なく倒して見せただろう。
ゴブリンのモノよりも大きな魔石を拾い上げた。此れが、彼等の心臓なのかは定かではないが、あまり気分の良いモンでもないなと思う。
じゃ、生き残りの彼女を連れて帰還するとしますか。勿論、お姫様抱っこで抱えてね?
▼
弱り切った彼女の事は、生活委員を経由して保健委員とやらに任せる事にした。
受付の生活委員の連中は、無傷で帰って来た俺の事を信じられないという風に目を剥いていたが、モンスターに遭遇しないで帰って来ただけだろう。なんて暢気な事を考えてたよ。
まぁ、初日だし此のくらいでいいでしょう。
今日は疲れてしまったので『学生証』を見せて、自分の部屋まで案内してもらった。
此処は、全寮制なのだ。金が掛かりまくってるだけあって、1人一部屋。なんて贅沢な事なんでしょうか。
ようやく着いた自分の部屋。備え付けのベッドくらいしかなくて閑散としている。
———もう寝てしまおう。明日また、ニノ前ちゃんにでも説明して貰えばいい。
そうしてベッドに倒れ込んだのだが、部屋の戸をノックする音で起こされた。此の学園都市で、俺の部屋に訪れるような知り合いはニノ前ちゃんくらいのはずだが…………。
「あ、あの………夜分遅くにごめんなさい。」
俺の部屋に訪れたのは、ダンジョンで助けた少女だった。まだ心細いのか、身を小さく小さくして胸を手で押さえ込んでいる。
彼女の『学生証』を漁ったのだが、確か名前は…………
あの時は死んだような目をしていたが、今は視点がキョロキョロして、ビクビクとしていて可愛いと思う。
「……あの、一言御礼が言いたくて、保健委員の人に救けてくれた人のことを聞いて来たんです」
「…………ダンジョンでは、救けて頂いてありがとうございました」
ふーん、いい娘じゃん。勇気ちゃんは態々俺に礼を言いに来てくれたというわけらしい。
「………そ、それでお願いがあるんです。ワタシまだ、あの時の事がフラッシュバックしちゃって
———だから、今晩ワタシと一緒に寝てくれませんか!?」
………………………………!?だ、大胆な女!?女子同士と言っても、こちとら恋愛対象女の子なんですけど!!
今の勇気ちゃんは弱り切っている。付け入るなら今しかない。———で、でも俺は初対面の女と一緒に寝るような軽い女じゃ…………。
「はい、そうしましょう!!そうですよね、心細いですよね!!女の子同士だから大丈夫です!!合法ですよ!———私に、任せてください♡」
……………どうやら俺の中に居る、もう一人の私は、俺以上に女好きだったらしい。
てか、自分で思いつくような設定なんで設定被ってたら教えてください。すぐに消します。
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可愛い子なら養ってあげたい。
出せるのは、まだまだ先なんだけどね…………。
朝起きた時、隣に儚げな美少女が眠っているモンだからギョッとした。昨晩は全て私の方に任せていたので、俺は知らん!
『童貞だっただけでは?』
…………ど、童貞ちゃうわ!
てな具合に私と一悶着ありまして、勇気ちゃんの様子を覗き見る。彼女は昨晩も魘されていたようで、汗をぐっしょり掻いている。
それでも、私による献身的な寝かし付けは効いたのだろう。幾分かマシな顔になっている。昨日のことはトラウマになっているだろう。もしかしたら、悪夢に苛まれた可能性もある。彼女が一刻も早く、乗り越えられる日が来る事を祈るばかりだ。
そのためなら、俺も助力する気でいる。だ、だって俺たち二人で寝ちゃったわけで………。こんな状態の子を放って置くのも良心が痛む。
「………………んっ。ん〜?……あれ?」
勇気ちゃんが目覚めたようだ。寝起きも悪くない。心理学なんかに精通しているわけでもないが、正気に戻ってからの状況を診て置くべきだろう。
取り乱すのか、現実を直視して絶望に泣き喚くか、もう乗り越えられた、なんてことは無いと思う。仲間を失ったんだ、それに本人だって酷い目に遭った。
………そんな彼女に、今俺がしてやれる事とは。
「———抱き締めてあげることですね!」
私は、寝起きでポヤポヤとしている勇気ちゃんを抱き止める。彼女の頭を自身の胸に持っていって、後頭部を撫でてあげる。昨晩彼女にしてあげたように、眠れない夜に母親がしてくれるような事の真似事を、高校生の歳になる彼女にしてあげる。
「…………いい子ですね、勇気ちゃん。今後、貴女に幸あらんことを祈るばかりです。———そのためなら、私達は貴女のために…。」
「…えっと、あの、紅白さん?ワタシはもう………。———っ!?」
何かを言い掛けた途端に、雰囲気が暗くなる。如何やら、嫌なことを思い出したらしい。きっと大丈夫だとか何とか言おうとしたのだろう。そのせいで、要らない事を思い出すことになったのか。
「俺のことが、名前がわかるか?昨日のことは?昨晩のことは?全部、思い出せるか?」
「……………
え、何その反応。昨晩なんかあったの?俺の意識は閉ざしてたから記憶が無い。私と記憶の共有を行えば良い事ではあるのだが、怖いのでやめとこう。
其れよりも、彼女は全部覚えているらしかった。不都合な記憶は忘れる事も大切だが、覚えていなければ話が進まない。勇気ちゃんには悪いが、これからは戒めとして生きるしか無いのだ。
「勇気ちゃんは、これから如何したい?」
「……………………ワタシは。………紅白さん、貴女と一緒に生きて行きたい、よ。」
ん"ん"っ〜〜〜〜!?
卑しか女ばい、
「…足手纏いになるのも、わかってる。貴女は、ワタシ達が勝てなかったモンスターにも勝てるような強い人だって事も知ってる。」
「———それでも、どうかワタシを死に損ないのワタシと一緒に居てください。」
此れが、彼女の誠心誠意。本心。精一杯搾り出した答え。それを彼女が望むというのなら、烏滸がましくも与える側に回ってみよう。
「———あぁ、此方こそ頼んだよ勇気ちゃん。なんなら、もう俺達がキミのことを離さない。離してやらない。」
彼女は、顔をグシャグシャにして泣き出した。童が漏らすような、心の底からの感涙。
あ〜あ、これでは彼女の目元が腫れていくではないか。彼女の顔を拭ってやって、背中を摩る。
彼女と共に生きて行くというのなら、学園都市での身の振り方を考えねばならないな。これ以上の不幸を味合わせるわけには、いかないわけで。
▼
備え付け時計を見ると、丁度7時だった。というか、俺まだこの学園都市の事何にも知らないな。
だいぶ落ち着いて来た勇気ちゃんから聞き出す手もあるのだが、負担は掛けさせたくたい。
…………こんな時ニノ前ちゃんが来てくれれば———おっと、朝っぱらから部屋をノックする音だ。勇気ちゃんは隣に居るし、となると…。
「……あの、七ヶ堂さん!居るんですよね!?帰って来てますよね!?………お願い。」
お、この声はニノ前ちゃん!グッドタイミングだ。扉を開けてやると、不安そうな顔で俯いたニノ前ちゃんが立っていた。
「………七ヶ堂、さん?———良かったです!」
俺を視認したニノ前ちゃんの顔がパーッと明るくなって、抱きついて来た。
………………抱きついて来た?抱きついて来た!?えー!?この子も、こんな大胆な子だったのか!?嘘だろ!?…………あ、いい匂いする。
「……………良かった、よかったよぉ……。
不安だったんですよ?……帰って来てないんじゃないかって。自分の力を過信してダンジョンで其の儘ってケースもあるんですからね?私、ずっと怖かったんです。顔も見せに来てくれなかったから心配で心配で…………。」
「帰ってから何も言いに行かなかったのは悪かったけど、俺、ニノ前ちゃんの部屋知らないし……。」
「あっ。……………………………ごめんなさい。」
ニノ前ちゃんが、そっと胸元から離れて行く。少し名残惜しいが、取り乱していた末の行為であったのだろう。女子同士のハグなんて普通だって言うし。———うん、たぶんそうだな!
ニノ前ちゃんと遣り取りしていると、不意に俺のシャツをグイグイと引っ張られていることに気づいた。
振り返って見れば、勇気ちゃんがシャツの端を持っている。不安気な表情を浮かべて、捨てられた子犬みたいな顔を向けられたモンだから構ってやりたくなった。
「———大丈夫ですよ、勇気ちゃん。貴女の紅白は何処にも消えたりしませんから!」
ふんすふんす、と自信一杯に鼻を鳴らした。この子が必要としてくれるのなら、負けるわけにはいかない。
———たとえ此処が、前人未到の弱肉強食であるダンジョンを兼ねた『学園都市アヴァロニア』だったとしても。
それならば、まずは学園都市の事を知らなければならないわけです。
「ニノ前ちゃん、丁度良い所に来ましたね。貴女を必要としていたんですよ?」
「………ふぇっ?私、ですか?——はい!私に出来ることなら尽力致しますよ!それが我々サポーターの役目ですから!」
「そうと決まれば、まずは朝食に行きましょうか。私の後ろの彼女についても紹介したいんです。———友人であるニノ前ちゃんに、ね?」
▼
俺達は、腹拵えと状況を説明する為に、食堂へと場所を移した。
此処、『学園都市アヴァロニア』では商業区へと足を運べばレストランやファストフード店といったサービスも受けられる。
まぁソレは、ダンジョンで稼いでる奴やサポートでそれなりの実績を出してる奴等が対象であるらしい。
それでも、中には日銭を稼ぐことすら精一杯の人間もいるわけで。日銭を稼ぐ事すら出来ない奴でも、人間は食わなければ生きてはいけないわけで。
そんな人間向けに寮に併設されているのが、今来ている『学生食堂』であった。これは何とも学生らしいモンだね。
学食でなら、低額でお腹を満たすことが出来るらしい。だからだろう、想像以上に人々で溢れている。救済目的でもある学食に頼らざるを得ない人々を、こんなにも抱え込んでいるようだ。それでも、此処に世話になっている人物は一握りだって言うんだから不思議なモンだね。
学園都市には、学食にいる人数の何百倍もの学生が居るんだとか。
俺も注文してみた『鮭の塩焼き定食』を口に運んでみる。見掛けは普通の鮭の塩焼き。鮭の身だって固くなく、箸を入れれば直ぐに解れた。味も悪くはない。ボリュームだって、それなりにある。この値段であれば、安いくらいだろう。
「(成程、これなら育ち盛りの人間が飢え死にするようなことはない。………まぁ、ダンジョン以外で死なれちゃ困るってわけか。)」
「此処は、自給自足ですからね。自分で稼がなきゃ碌なサービスも受けられません。だけど、学食だけは別です。此れがあるから、私のような人もお腹を空かしたりはしない。」
「———それでも、学食にすら来れないような人々もいるんです。………落ちこぼれは此処じゃ死を待つしかない。」
学食を救いとするニノ前ちゃんと、そんな言葉を痛烈な表情で否定する勇気ちゃん。
彼女達は見て来たのだろう。味わって来たのだろう。此の学園都市の闇を。だからこそ言えるのだ。此処では弱者に救済はないのだと。低額でサービスを受けれると言ったって稼げないような人間は対象外なのだと言うことを。
自分の考えを打ち破られたようだ。此処じゃあ、ダンジョン以外で死ぬような事が無いとも言い切れないらしい。
———いや、即ちダンジョンが全てなのだろう。結果を残せなければ生きて行けないということなのだろう。
「……ニノ前ちゃんに紹介するのが遅れましたね。此方は那賀川勇気ちゃん。ダンジョンの中で知り合ったんです」
私がニノ前ちゃんに紹介すると、勇気ちゃんはペコリと一礼するだけだった。
先程の一件のせいか、敵視している節があるらしい。私は友人である二人にも仲良くして欲しくはあるが、馬が合わないなら仕方ない。この対応を見るに、勇気ちゃんは日銭を稼ぐのにも苦労していたのかもしれない。
「あの、
「———はいはい、もう暗い話は無しで!折角ご飯食べてるんだから不味くなるような話は終わりにしよう」
というか、ニノ前ちゃんの下の名前は駒奈というらしい。案内係の時は教えては貰えなかったが今朝知ることが出来たので良しとしよう。
いつか駒奈ちゃんって呼ぶことにする。
暗い話は中断させて、知りたいことを聞くことにしよう。例えばそう———魔石の換金とか、ね?
「ニノ前ちゃん、魔石を換金したいんだが、どうすればいいんだい?」
「———七ヶ堂さん、昨日モンスターを倒したんですか!?」
物凄く驚かせてしまったようだ。
するってぇとなんだ、ニノ前ちゃんは俺が倒せるとすら思って居なかったってこと〜???
「初日は大抵ダンジョンの空気に怖気付いて、腰を抜かせて帰って来るんですよ。だから、パーティーを組んだり対策を組んだりするんです。」
「……だから、すぐ帰って来るだろうと思って昨日も待ってたんですけど帰って来なかったから。……死んだんじゃないかって。見殺しにしてしまったんじゃないかって。」
「……………そうなんだ。七ヶ堂さんは強い人、だったんですね」
滅茶苦茶悪い事してしまった気分になる。罪悪感とか、あーいうやつがする。しかし、ダンジョンを進んだから勇気ちゃんを救けられたわけだし仕方無し。
「魔石の換金ですね!換金所に案内しますよ」
▼
食事を済ませた俺達が、次に向かったのは生活委員が運営するという換金所。
この学園都市、大抵のことは『生活委員会』が裏方の運営に関わっているらしい。生活委員に所属していれば、仕事が回されて来て生活出来るくらいの賃金も貰えるらしいのだが、俺には縁の無い話かもね。
換金所の受付で、生活委員の担当者に昨日集めた魔石と、学生証を提示した。魔石で得たお金や実績が、学生証に記録されていくんだとか。本当とんでもなく便利だね。
そして、昨日の魔石が幾らになったかと言うと、なんと"3万円"。
昨日ので3万円って凄くね?これ本当に学生の内に油田掘り当てるくらいの額に成りかねないな。
転入初日で、オーガを倒したとかで騒がれもしたが、栄光だとか名声だとかに興味が無かったモンだから適当に流して置く。
ニノ前ちゃんも、勇気ちゃんも凄いことなんだと言ってくれたが、俺ってただチート使ってるだけの下衆だしなぁ……。
▼
そんなこんなで今は換金所を出て、商業区をぶらりとしている。
勇気ちゃんは、心細いのか俺と手を繋ぎたがっていたので手を繋いで並んでいる。側から見たらカップルみたいだね、なんて。
「七ヶ堂さんなら学年トップも狙えますよ!」
ニノ前ちゃんが囃し立ててくれるのだが、学年トップとかいう肩書き、凄い面倒くさそう。今はただ、勇気ちゃんと生きて行ければいいのだが……。
思索に耽っていると、前の人混みが割れて、自分に続く道が出来た。さながら、モーセの海割りのように。そんな道を歩いて、此方にやって来た人物。帯刀しており、スカートから伸びるタイツに包まれた脚がすらりと伸びている。
俺は、私は、この人物を知っている。
「(———風紀委員長、
自惚れでも無ければ、自分の元へと真っ直ぐに向かって来ている。何の用があって?其れよりも、彼女が纏う闘気は商業区で放って良いモンじゃない。
周りの生徒が露骨に騒めき出す。手を繋いでいる勇気ちゃんが、より強く握り締めた。ニノ前ちゃんだって唖然としている。異様な光景。
「漸く見つけたぞ、期待のルーキー七ヶ堂紅白。———貴様の実力、本物かどうか見せてもらう!!」
どうやら風紀委員長様の、お目当ての人物とは俺だったらしい。
感想、評価等いただけると筆が進みそうです。
無理矢理の決闘は、学園都市あるあるです。
次は勇気ちゃんの視点になりそうなので、先輩と相見えるのは次の次になりそう……。独自の設定ばっかりで説明回が続きそうですが、何処かの作品で見たようなツギハギ設定なんで入りやすいかと。要望があれば、設定集として纏めて出します
引き続き、大きな設定被りありましたら報告お願いします。即刻削除いたしますので。
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落ちこぼれならダンジョンで死にもする。
ワタシ、
中学生の頃は、俗に言う優等生だった。テストの点だって悪くない。校内順位は上から10番以内には入れていた。スポーツだって大抵は卒なく熟せる。だから、勘違いしていた。ワタシは、やれば出来る子なんだと思っていた。何でもやってみれば出来るのだと。
『学園都市アヴァロニア』に入学した時は自信に満ち溢れていた。此処で稼ぎまくってやるんだって意気込んでいた。
『学園都市アヴァロニア』に入学する理由は人それぞれであるが、ワタシは金銭目的だった。お金が必要だったのだ。家族がマトモな生活が送れるように、と。ワタシが稼いでやるんだと本気で考えていた。
ワタシの家は決して裕福じゃない。三姉妹の長女として産まれたワタシ。父は病気で亡くなったから、三姉妹を母が女の手一つで養っている。それがワタシの家族だった。
まだ小さい双子の妹達では役不足で、基本的にワタシが家事を、母が遅くまで働きに出るというのが日常。それでも、妹達も小さな事は手伝ってくれる事もあったし、別に苦ではないと思っていた。仕方ないと諦めていたのかもしれない。
ワタシが財布を預けられていたから、知っている。ウチの経済状況では妹達二人を一気に高校進学させてあげられる程のお金が無いということ。ワタシが高校進学するのでも精一杯だったのだ。
勿論、推薦制度を利用したり、奨学金制度に支えてもらうという手もある。それでも全然足りない。ワタシが就職するくらいでないと、下の子達は苦労するだけだった。
そんな時、回って来たパンフレットが『学園都市アヴァロニア』への入学案内だった。この学校のシステムは渡りに船と言ってもいい。
全寮制。学費要らず。学園都市内には独自のシステムがあり、金銭に困る事もない。商業区や研究区では生活のサポートも受けられる。"成績"次第では進学先や就職先にも困らない。世界各国からの支援もある。注目が集まれば、それだけで今後は生きて行ける。
そして何よりも、ダンジョン。此処で魔石を集められれば、勉学に励みながらも稼ぎも出せる。危険な場所である事は周知の事実となっていたが、それでもこれ以上の場所はないと思った。此処でなら家族が生活に困らなくなるくらいに稼いでやれるんだ、と。そうて決まれば、
最後まで母は『学園都市アヴァロニア』への入学を反対していた。
こんな危険な場所に行く必要は無い、お金の事は心配する必要は無いのだと止めてくれた。
でも愚か者だったワタシは、家族のことを考えて危険を冒しに行くのだというのにどうして止めるのだと。大体、ワタシが学園都市に行かないとダメな理由は両親にあるのではないか、なんて馬鹿を言って母と喧嘩を繰り返した。
入学が決まった夜、母の小さなすすり泣く声が聞こえて来た。こんな生活の中でも泣くような事は無かった母が見せた、唯一の泣き声を鮮明に覚えている。
それでも、親不孝だったとしても成果を上げて"卒業"さえしてくれば母だって『良くやった。自慢の娘だ』って褒めてくれる筈だって思っていたのだ。愚かにも、ね。
▼
ダメだった、なにもかも。
ワタシって思っていたより全然強くない。モンスターなんか倒せるわけが無い。
初めてダンジョンに潜った時、恐怖で身が震えた。目尻は熱くなり、歯がガチガチと音を立てる。蔓延する死の空気に耐えられなかった。日常では一切触れることのないソレに打ち震えるしか無かった。
初めてはコレで終わり。
次にダンジョンに潜ったのは、武器を買い込み充分に準備をした時だった。初めて出会したモンスターは、小さい狼のようなモノ。これなら倒せると思って剣を振るったが上手くはいかない。
腹部に突っ込んで来たオオカミに吹っ飛ばされて、身悶える。そのままの勢いで追撃して来たオオカミに、ただただ恐怖して必死に逃げ回って地上に戻った。やっと戻れた時には満身創痍。お腹に出来た青タンが痛くて痛くて、泣きたくなる。何にも出来ない自分が情けなくなって涙する。
2回目はコレで終わり。
次は、あのオオカミではない奴にしようと意気込んで、また馬鹿みたいにダンジョンに向かった。でも、ゴブリンが他の生徒を襲っている現場を見た所で脱兎の如く逃げるしか出来なかった。
あの生徒がどうなったのかは知らない。ワタシが加勢したところで勝てるわけでもなかった。地上に戻って生活委員に報告するくらいが精一杯だったのだ。去り際、あの子とは目が合った気もしたが恨まないで欲しい。ワタシだって生きるのですら辛いのが現状だったのだ。
この頃になったら嫌でも理解らされた。
ワタシは劣等生。落ちこぼれ。ダンジョンに夢見ていただけの無能、だったのだ。
この学園都市での"成績"とは強さ。モンスターの討伐数とか、ダンジョン踏破階数とか、そういうモノだった。お勉強が出来るだけじゃ、この学園都市では一銭にもならなかった。
ワタシの様な落ちこぼれにも、学生の支援やダンジョンに潜る人のサポートという役に周れば日銭くらいは貰える。時給600円程度。
それでも戦えないなら破格の給料。生きて行く分には困らない。『学生食堂』を利用すれば食費も高くはならない。節約して貯めていけば、何れは多少贅沢も出来るような時給。それが600円。
だがしかし、自分の日銭を稼ぐだけで満足する事は出来ない。
一人で生きて行くなら、その道を選んでいたかも知れない。楽な方へ、楽な方へと。なんとしてもダンジョンから逃げる道を選んでいたと思う。
怖くて仕方ないダンジョン。それでもワタシに逃げる道は無かった。離れた家族三人を養っていけるだけの額を稼げるのはダンジョンしかなかった。…………ダンジョン以外には無かったのだ。
▼
まずはパーティーを組んでみることにした。自分と同じような行き先もない、実力もない落ちこぼれで構成されたパーティー。
皆、強くはなかった。それでもパーティーメンバー全員がダンジョンから逃げるような事は無い。彼らもワタシのように事情が有るのだと悟るのに時間は掛からなかった。
リーダーの
以上四名が、ワタシ達の落ちこぼれパーティーのメンバー。
最初は全然ダメダメだった。四人で一体のモンスターを倒すのでやっと。それでも、ソロの時よりは充実感がある。
負けて、負けて、負けて。勝って、負けて。時に落ち込み、時に泣く。時に喧嘩して、時に笑う。落ちこぼれだけで構成されたパーティーだったけれど、確かに成長しているのが分かった。これから、この四人でなら何処までも戦って行ける。………そう、思っていた。
▼
角内『ごめんなさい!風邪引いちゃったみたいです。今日のダンジョンは行けそうにないです』
「……だってさ。どうするよ、リーダー?」
「今日は、三人で四層までにしておこうか。……流石に角内さんが居ないと連携も変わって来るもんな」
欠員が出たことにより、今日の冒険は初心者ラインの四層まで。そう決めたワタシ達は、今日も今日とてダンジョンに繰り出す。
本当は、もっと早く、より強いモンスターを倒して稼ぎたいのだが、急いては事を仕損じる。何事も一歩ずつ確実に進んで行けばいい。———事実、ワタシ達は強くなっている。
「———ふッ!!……こんなもんか。うん、俺達強くなってるよ」
里中くんが切り裂いたことで、マーチハウンドが魔石と化した。ワタシが命からがら逃げ出したモンスターを倒すことに成功したのだ。
上路くんが猛攻を耐え受け、ワタシが槍で貫き傷口を増やす。弱ったところに里中くんの剣で一刀両断。
本来であれば、角内さんが後方から弓を放つことで、脚を封じたりも出来るのだが残念ながら、今日彼女はいない。
それでも、培った連携は三人でも発揮出来たようだ。ホッと胸を撫でる。けれど、今回はアーチャーの角内さんだったから良かったが、タンクの上路くんが居なければダンジョンに潜らない方がいいだろう。彼の存在は無くてはならない。
「もう少し奥の方へ行こうか。五層に降りなければ変わりはしないだろう」
この時、誰かが過ちに気づくべきだったのだ。もしくは、三人なのだから早めに切り上げるべきだった。
———ワタシ達に、あんな悲劇が待ち受けていようとは誰も想像もしていなかったのだ。
▼
「…………随分開けた場所に出たな。セーフティーゾーンか?」
「……此処で休んで行くか?」
「…………それより、何か変じゃない?まるでモンスターが居ない。こんなことって………?」
此処にはモンスターが全く居なかった。と言うよりも、此の場所を避けているような印象すら受ける。……妙、だと思う。ダンジョンの経験値は低いが、明らかにおかしい。
「…………気味が悪いな。そろそろ離れて……
———お前達、得物を構えろッ!!」
普段は声を荒げるようなことは絶対しない上路くんが大きな声で呼び掛ける。ワタシ達は焦って、武器を手に持つ。
薄暗く、視界のハッキリとしない周囲を見回す。原因が居る筈だ。………何処に。
上路くんが睨む方向を見た瞬間に理解した。声を荒げた原因が、其処には居たのだ。
霧のように霞む空気の中でも、開けた場所だったから刹那で分かる。"鬼"、だ。
まさしく鬼。日本の妖怪とされるソレがいる。小さな頃の絵本で見たような、のほほんとしたモノではない。眼光は鋭く、その目線だけで人間を射止めることが出来るかもしれない。
———此処は、鬼の根城だったんだ。
呆けている場合ではない。逃げなければ、コイツには敵わないのだと本能が告げている。
「………コイツは不味いかもな。——お前達だけでも逃げろ。殿は、俺が務める。……逃げる時間くらいなら稼いでみせるさ」
「——なに言ってんだよ、上路!?」
ハハッと格好付けて笑う上路くんの言葉を、里中くんが否定する。ダメだ。彼を見捨ててはダメだ。ワタシ達二人だけ生かされて、どうなると言うのだ。
「ダメだよ!!三人で逃げ切ろうよ!!」
「——馬鹿言ってる暇じゃないだろうッ!?」
こんな上路くんは初めて見た。彼は今この瞬間、誰よりも覚悟を決めていたのだ。
まだ三人で生きる道がある、だなんて馬鹿な事を考えているワタシの手を、里中くんが引っ張って走り出す。リーダーである彼が、上路くんを見捨てると決断したのだ。苦渋の決断を下したのだ。ワタシは意識をハッキリとさせて、自分の足で走り出した。
後方から、ドッゴンと鈍い大音が聞こえて来たので、思わず振り向いてしまう。上路くんが大盾ごと5、6m程殴り飛ばされていた。盾で防げたからか、死んではいない。
良かったと安堵するが、油断していた。
——鬼は此方に向かって来ていたのだ。より弱そうなワタシを狙って、もう背後まで迫って来ていた。
我ながら、馬鹿をやったと思う。出会した時点で、既に詰んでいたのかもしれない。
———蹂躙が開始する。
鬼は、女であるワタシの細い腕と胴体を掴んで、両方向に強い力を加える。——千切ろうとしている。ワタシの腕を。
「——ッ!!痛いッ痛いッ痛いッ!!あ"ぁ"ああああぁぁああああ"あ"!!」
筋繊維が、ブチブチと千切れていく。二の腕を境に腕と胴が離されていく感覚がする。まさしく絶叫。痛みに耐えられなくて、一瞬意識が飛びそうになる。
里中くんは、鬼の体に剣を突き刺さしてはいるものの、その猛々しい筋肉ではびくともしていない。
「止せッ!!やめろッ!!やめてくれよぉ!」
彼の必死の叫びも虚しく、鬼は左腕、右脚、左脚と順番に順番に同じ行為を繰り返して行く。あくまで、引き離すつもりではないらしい。辛うじて繋がっている四股がぶらりと揺れている。
右腕の時点で、もうワタシは抵抗の意志すら無かった。終わったのだ。全て。
「——うぉおおおおおおおおおおおお!!」
どうにか立ち上がり、此方までやって来ていた上路くんが、鬼に向かって体当たりをする。それでも、その巨体はビクともしない。何度も何度も何度も当たってみせるが、蹌踉けることすらないようだ。
いずれ、周囲の虫が鬱陶しくなったとでも言いたげな態度を放つ鬼は、玩具であるワタシを地面に投げ捨てて、彼等を見やった。
もう四股は動かない。マリオネットみたいになっていて、芋虫のように這うしかない。それでももう、逃げる気力すらない。
———あぁ、一度だけでも母に電話して謝っておけば良かったな。
「——那賀川は、やらせんッ!!俺がキサマを止めてみせるッ!!」
「絶対に護り通してやるッ!!」
二人は、ワタシを護るように鬼とワタシとの間に入る。そんな事をしないで欲しい。どうかワタシなんか見捨てて逃げて欲しい。
………そういう旨の言葉を発したいのに悲鳴を上げすぎて喉が枯れてしまっている。カスカスとした音が途切れ途切れで出てくるくらいだった。
最初に里中くんの胸をその剛腕で一突きにして、屠った。次に上路くんの頭部を、両の手を組んでハンマーのようにして——ダブルスレッジハンマーというプロレスの技らしい——拉げる。
彼等は最後までワタシを護るようにしてくれた。死体となった今でも、鬼を阻むようにして倒れ込んでいる。
そうして、ワタシ達のパーティーは壊滅したのだった。
興味を失った鬼は、死に損ないのワタシなどに目もくれず遠ざかって行く。
———あぁ、このままならワタシも二人の元へと行けそうだ…………。
本当に馬鹿な人生だった。誰も幸せに出来ず、そればかりか他人を不幸にしてばかりだった。ワタシが馬鹿だったから里中くんも、上路くんも死んでしまった。……ワタシのことはいいから、どうか"勇気"ある彼等に救いを。
……ワタシが死んだら保険金とか出るのだろうか。最期に考えるのは、やっぱり家族のことだった。………どうか、ワタシの保険金で暮らしが楽になりますように。
光が差したような気がする。眩しい程の聖光が照らしてくれたような気がする。……ワタシなんかでも天国からの迎えが来たというのだろうか。いや、それはないか。
『大丈夫ですよ、私達が来ましたから。貴女のことは、絶対に生きて帰します』
そんな言葉が聞こえて、ワタシ、
勇気ちゃんの曇らせたまんねぇ^〜
予想以上に長くなりそうだったので、2話に分けることにしました。本編楽しみに待っていてくれてる人が居るなら、嬉しいな……。
引き続き、大きな設定被りありましたら報告お願いします。即刻削除いたしますので。
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