ガールズ&パンツァー  ~ 時空を超えた狼サムライ~ (鷹と狼)
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登場人物 

登場人物

 

日本陸軍

 

桜井勇介

 

所属 日本陸軍 第1→第4戦車連隊 遣欧、外人部隊

階級 軍曹 (マレー・フィリピン) 曹長(内地)→ 少尉 (ドイツ留学)

1927年7月16日 (ベルリン攻防→大洗女子学園)

身長 170

年齢 18 

出身地 兵庫 神戸

搭乗戦車 九七式中戦車 → Ⅱ号戦車→ パンターⅡ中戦車

車長

所持物 STG-44突撃銃 ワルサーP-38 九五式軍刀(狼虎)

特技 剣術 射撃 車輛の運転

CV 宮野真守 モデル 伊集院忍

 

1936年、神戸の水害で両親を亡くして陸軍幼年学校に入隊。

新設したばかりの第1戦車連隊に配属、操縦員として1942年1月、援軍としてマレー攻略に従事。第4連隊転属後、フィリピンの戦いで初めて対戦車戦闘で打ち勝った引き換えに負傷、入院の為に本土に帰投。半年間教官を勤めた。

1943年、上官から対戦車戦闘を学ぶために、大賀晴香と豊田純子と共にドイツ留学。遣独伊-155潜水艦に乗艦した。

戦況が悪化、急遽特別外人戦車隊を編成。試作戦車パンターⅡの車長としてノルマンディー、バルジ、ベルリン攻防戦で戦い。ベルリン市街地の民間、異邦人の護衛で戦死した。

射撃は基、剣術は七段。戦車の砲撃で軍刀の狼虎で敵の砲弾を真っ二つに斬る手腕。

戦後、勇介は兄の洋介と並び、鷹の桜井洋介。狼の桜井勇介と称された。

服装は日独の軍服問わず、略帽と首元に真っ赤なスカーフ。東南アジア攻略で仲間の血で染めたものか、真相は不明。

 

 

 

 

大賀晴香

 

所属 日本陸軍

階級 軍曹(日本滞在時) → 曹長(ドイツ留学)

1928年12月11日

身長 160

年齢 17

出身地 鹿児島 錦江

搭乗戦車 Ⅱ号戦車 → パンターⅡ

副長=砲手

所持物 九九式狙撃銃 九四式拳銃 ニ式銃剣

特技 狩 料理 刃物捌き

CV 豊口めぐみ モデル ミリアリア・ハウ

 

 

錦江の狩人、陸軍の下士官にスカウトされて特別に入隊。射撃の腕はぴか一、富士山の演習場で桜井勇介と戦車に惹かれ、戦車科に配属して彼の元に就いた。

自称、100発100中。狙撃手と砲手のプライドが高く、短気な性格の奴が大嫌い。狙った獲物は逃がさない。稀に戦車から降りて、狙撃銃で敵歩兵の指揮官や敵車輛の車長級を狙い撃つ。

 

また、彼女の兄は二式水上戦闘機のエースパイロット。大賀虎雄大尉。

 

 

 

 

アリシア・A・フェアバンク

 

所属 ドイツ国防陸軍

階級 曹長

1928年 10月27日

身長 162

年齢 17 (ベルリン攻防 → 大洗学園)

出身地 ドイツ ミュンヘン 

搭乗戦車 Ⅱ号戦車 → パンターⅡ

電信員

所持物  調律道具

特技 ピアノ、ヴァイオリン演奏 調律

CV 高垣彩陽

 

日独のクオーター。下級貴族出身でピアノとヴァイオリンが趣味で、調律師も兼ねている。ミュンヘンの妖精と称されたピアニストとヴァイオリニストだが、国防軍の電信員に徴兵された。軍隊に入っても調律道具は肌身離さず所持している。

聴力が高く、どんな暗号も傍受して解読するどころか僅かな物音でも敏感する人間エニグマ。

戦況が悪化、歩兵隊や航空隊、潜水艦部隊から勧誘されても頑固に断り続けた。純粋な日本人の桜井勇介の武士道に触れてパンターⅡの電信員として属した。

 

 

 

 

 

 

パウラ・M・オットー

 

所属 ドイツ国防軍

階級 伍長

1929生4月10日

身長 161

年齢 16 (ベルリン攻防 → 大洗学園)

搭乗戦車 Ⅱ号戦車 → パンターⅡ

装填手 = 砲手

所持物 C96拳銃

特技 スポーツ全般

CV長沢美樹  モデル 早川涼

 

日独のハーフ。1936年のベルリンオリンピックで興味津々になり、オリンピック選手を目指すことを目標に国防軍に入隊。だが、第2次欧州大戦により東京、ロンドンオリンピックが中止。少しでも生存率を高める為に戦車搭乗に志願、桜井勇介のパンターⅡの装填要員でも装填しながら身体を鍛えている。

 

 

沖田真澄

 

所属 県立大洗女子学園生徒1年生

1998生3月17日

身長 155

年齢 16

搭乗戦車 パンターⅡ

操縦手

特技 車輛の操縦

CV 寺崎裕香

 

かつての操縦手、豊田純子と元零戦エースパイロット、沖田進次郎の孫。

大洗女子学園に入学、自動車部

 

 

 

桜井志帆

役職 戦車道関係者

年齢 9X

CV 横山智佐

 

桜井勇介の実姉、戦時中の沖縄戦で従軍看護婦として派遣。

捕虜となり、戦後の日本へ帰国。

 

里見マリー

役職 戦車道関係者

年齢 8X歳

CV坂本真綾

 

旧姓熊井、元日系アメリカ陸軍情報部。

戦後、日本に移住した。元海軍パイロット里見一平と結婚。 

 

 

 

パンターⅡ

ドイツのパンター派生型戦車。たった2輛しか生産していない希少な戦車。設立した外人部隊の勇介たちが使用、ノルマンディー攻防から導入。マーキングは、狼の首元に真っ赤なスカーフと刀。

連合軍がノルマンディーに上陸して、ドイツ軍が本国の敗走時に待ち伏せ、米英軍の歩兵、戦車を撃退し、情報錯乱しながら撤退。

ラインの守り作戦の戦闘で手強い戦車と遭遇、激しい勝負で引き分け。ライバルになり、燃料を受け取って無事に帰投。しかし、砲塔の損害が激しくG型の砲塔に換装。

首都ベルリンにソビエト٠ロシア軍の侵攻で市街地の民間人、異邦人を助ける為に奮闘。ベルリン駅で避難列車をキール、ウィルヘルムスハーフェン港の出発まで守備、戦車の操縦員除いて撃破。乗員4名は戦死した。

 

 

 

 

 

ドイツ第3帝国軍

 

ホルスト・ハイムマン

 

所属 ドイツ機甲師団 → 黒森峰学園

階級 少尉

出身地 ドイツ サンセンヌ

身長 175

年齢 18

車長

戦車 ティーガーⅡ 876号

戦歴 ノルマンディー攻防 ラインの守り

所持 MP-40短機関銃 P-08ルガー拳銃

CV 緑川光

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アメリカ陸軍戦車隊

 

フィリップ・W・エヴァンス

 

所属 陸軍第100連隊 戦車部隊 → 大学選抜チーム

階級 曹長 → 少尉 → 大尉

出身地 ロサンゼルス リトル٠トーキョー

身長 180

年齢 24歳

車長

戦車 M-4シャーマン → M-26パーシング

戦歴 アフリカ戦線 ノルマンディー作戦 パリ解放作戦 バルジの戦い ベルリン攻防戦 日本上陸作戦

所持 M-1カービン M-1911拳銃 九八式軍刀

CV 中村悠一 モデル 羽鳥芳雪

 

日米のハーフ、アメリカ有数の富豪出身。

幼少時代に差別を受けながら妹のステラを守りながら家族以外の人を不信。学校で良い成績だが差別の受けにくい陸軍に入隊して数年、戦車の訓練生時代でヴェンと出会い、ナバホの儀式で精神を保った。初陣のアフリカ戦線以来、共に闘い、欧州のノルマンディー作戦以降、主要作戦に参加。末期のベルリン郊外にて日本駐在武副官、松本義孝中佐から軍刀を譲り受けアメリカに帰国、日本進攻で輸送船に乗船時、沖縄近海の航海で潜水艦の魚雷にて戦車もろとも戦死した。

気付いた場所が島田家の敷地内、以後は当家の島田アリスに従事しながら戦車道がある大学に通学。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴェン・タタンカ

 

所属 陸軍第100連隊 戦車部隊

階級 一等兵 → 上等兵 →伍長

出身地 アリゾナ

身長 169

年齢 19歳

戦車 M-4シャーマン → M-26パーシング

戦歴 アフリカ戦線 ノルマンディー作戦 パリ解放作戦 バルジの戦い ベルリ攻防戦 日本上陸作戦

通信士

所持 M-1ガーランド(戦車搭乗用)ナイフ インディアン・フルート

特技 ナイフ裁き 乗馬 演奏 儀式

CV福山潤

 

ネイティブアメリカン、ナバホ族の戦士。

コードトーカーの通信士であり、車長のフィリップとはアフリカ戦線からの付き合い。

戦いの無い時はインディアン・フルートで演奏、戦いの前後にイェイビチェイの儀式は欠かせない。

日本進攻時、乗船していた輸送船が撃沈、フィリップと戦車共々戦死。

フィリップとM-26と共に島田家の敷地内。以後は従事、大学に通いながら馬関連の牧場でアルバイト。

 

 

 

 



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プロローグ

 

 

 ドイツ第3帝国  首都 ベルリン

 

 

 

「10時方向にT34、距離300、撃てぇ!」

 

 

パンターⅡの主砲が火を吹き、1輛のソ連軍の戦車が撃破した。

 

 

「よしっ!!ん…!?」

 

 

市街地の右方向の通路から年端もいかない丸腰の少年少女こと、ヒトラー・ユーゲント3人がソ連兵士に追われていた。

 

 

「助けて…助けて下さい…!」

 

 

「…私たちは兵隊じゃありません…!」

 

 

「逃がすか、ナチスの害獣を駆除だ!!」

 

 

5人のソ連兵がマンドリン銃を向けた時

 

 

「させるかっ!!」

 

 

「「 ぎゃっー… 」」

 

 

桜井勇介は車体から身を乗り出し、所持していたSTG-44突撃銃を発砲。ソ連兵を薙ぎ倒した。

 

 

「あ…ありがとうございます…」

 

 

「困った時はお互い様だ!このベルリン市街地に避難ができる場所はないのか、アリシア…?」

 

 

「…今、無線で…あぁ、ベルリン駅で避難民及び異邦人のスウェーデン行きの避難列車が停車しているとの情報が!」

 

 

「パウラ、純子、パンターの弾薬、燃料は?」

 

 

「砲弾があと12発、車載銃はまだまだ!」

 

 

「まだ燃料はあと半分です!」

 

 

勇介は目を閉じて考え、開眼して決断を下した。

 

 

「これからベルリン駅に向かうぞ!」

 

 

「ベルリン駅へ!?」

 

 

「そうだ、ベルリン駅に非戦闘員と民間人、異邦人の護衛に往くぞ!!その道中に非戦闘員の回収も着手する!」

 

 

「「「 り、了解!! 」」」

 

 

「純子、ベルリン駅に進路を執れ!」

 

 

「了解!!」

 

 

勇介たちが乗車するパンターⅡはベルリン駅へ走行中、逃げ遅れた幾人の難民を車体に乗せて向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルリン駅ー

 

 

 

 

 

ベルリン市街から民間人と非戦闘員、異邦人が続々と集結。

 

使用する列車の車両は客車のみならず、貨物車も動員する。行き先はスウェーデン経由のキール港及びヴィルヘルムス・ハーフェン港行きの列車が難民を乗車させていた。

 

 

「急げぇ!」

 

「皆さん!急がずに乗車して下さい!!」

 

 

駅員が誘導する中、数発の砲弾が風を切って駅付近に着弾した。

 

 

「きゃあああー!!」

 

 

「大変だ!ソ連兵だ!!」

 

 

「に、逃げろ~!!」

 

 

「……もう駄目だ………皆殺しにされる……」

 

 

難民の大半が絶望、ソビエトロシア兵がベルリン駅の出入口に侵入を仕掛けた時だった。

 

 

 

「ウラー!!ウラー!!…………ぎゃああぁー…」

 

 

別の方角から砲弾が着弾、ロシア兵が薙ぎ倒された。

 

 

「……何が起こったんだ……?」

 

 

「戦車だ!ドイツ軍の戦車だ!」

 

 

「…助かった……」

 

 

パンターⅡの砲塔から勇介が拡声器を持って出た。

 

 

「『ドイツの難民、日本の異邦人の皆さん!我々が殿を務めます。慌てずに一刻も早く脱出して下さい!!』」

 

 

「桜井車長、ロシア軍中隊戦力がベルリン駅に行進しています!」

 

 

「わかったパウラ!ふぅ、晴香、純子、アリシア、パウラ。君たちは逃げ遅れた難民と異邦人を駅に誘導させて共にスウェーデンへ行け!!」

 

 

「「「「 っ!? 」」」」

 

 

勇介の突然の命令で大賀晴香、アリシア・フェアバンク、パウラ・オットー、豊田純子は言葉を失った。

 

 

「……車長…何故ですか…!?」

 

 

「この大戦で、俺の命令一つで君たち乙女の手を血に染めた責任がある。その責任を負う為に……」

 

 

「車長!あたしは残るぜ!!薩摩の意地を見せてやる!」

 

 

「わたくしも残りますわ」

 

 

「車長!あたしも残ります!この国の首都ベルリンは大事な故郷です!ロシアの好き勝手にさせたくありません!」

 

 

「…みんな……」

 

 

勇介が目元を拭いた時、豊田純子も手を挙げた。

 

 

「車長!私も残り戦います!」

 

 

純子も残留することを志した勇介は左手を差し出し、制止した。

 

 

「純子、君はスウェーデンへ難民たちと行け!」

 

 

「っ!?なぜ私だけなのでしょうか?私と共に戦い…」

 

 

「落ち着け!どちらに行ってもどっちかが生き残る!生きて残ることが人間としての鉄則だ!!」

 

 

勇介の言葉で純子は涙を堪え

 

 

「……車長……最後とは言いません、何か形見を下さい!!」

 

 

「…ふっ…わかった…」

 

 

勇介はドイツの留学時から支給していた、ノルマンディー攻防から被ってきた国防軍の戦闘帽を純子に渡した。

 

 

「……この帽子を、俺が日本に帰還するまで預かってくれ!そして、姉さんと兄貴、澪にもよろしく頼む。」

 

 

「車長、……武運を祈ります……」 ビシッ

 

 

純子は車長の勇介に敬礼、勇介も彼女に敬礼。

 

そして、無言のままベルリン駅のホームに向かい、侵入した数人のソ連兵を拳銃で薙ぎ倒し、スウェーデン行きの難民列車に乗車した。

 

 

 

勇介は車内に戻り、STG-44とWP-38拳銃、軍刀桜狼を所持した頃にソ連T-34戦車、数十人のソ連兵が接近した。

 

 

「車長!ソ連兵が!!」

 

 

「来やがったか……露助ども!ここから一人たりとも通さんぞ!!皆、弾薬を全て敵にくれてやれ!」

 

 

「「「 了解!! 」」」

 

 

「さぁ、露助ども……貴様らの骨を焼き付くすまで斬ってやる!!」

 

 

晴香とパウラは車内で砲弾が尽きるまでパンターⅡの火を吹き続け、何輛かの敵戦車を撃破。

 

勇介とアリシアは砲塔の背後で隠れながら銃撃、そして、パンターに接近した敵兵を軍刀の狼虎で何人か斬り倒した。その光景は戦場に現れたサムライだった。

 

「うおああぁ!!」  スパアァン  「はぁ…はぁ……がはっ!?」

 

 

勇介の左肩に銃弾が被弾して膝を着いた。

 

 

「車長!……ぎゃっ……」

 

 

「アリシアっ!?」

 

 

「……車長…(ステラ、シャル)…お先に……」

 

 

アリシアは凶弾に被弾して戦死。その時に、勇介の前方にIS戦車が出現した。

 

 

パンターⅡ車内ー

 

 

「晴さん、前方にIS戦車!(シャル、マリーさん、お先に)」

 

 

「まだまだだ!最後の一撃、喰らえ!!(兄ちゃん、さようなら…)」 

 

 ドゴオオン

 

 

パウラが装填した砲弾が、晴香の放った一撃でソ連IS戦車を撃破した引き換えに、ノルマンディーから搭乗して共に戦った愛車のパンターⅡが炎上した。

 

 

「…パンターが燃えて……晴香……パウラ……」

 

 

ベルリン駅の方から汽笛が鳴り響き、ヴィルヘルムス経由のスウェーデン行きの列車が出発した。

 

 

 

「純子、……行ってしまったか……もぅ……ここまでか……皆、……ありがとう……儚い人生だったなぁ~……晴香……アリシア……パウラ……純子…姉さん…兄貴……澪……済まない…ハイムマン…今、そっちに逝…」

 

 

 

 

勇介が微笑む時に空中から滑空音が鳴り響き、ソ連のカチューシャロケット数発が飛来してパンターⅡに着弾。

 

木っ端微塵に粉砕された。

 

 

 

その日、ドイツ第3帝国は連合国に無条件降伏。

 

桜井勇介帝国陸軍少尉以下、大賀晴香帝国陸軍曹長、アリシア・A・フェアバンク国防曹長、パウラ・M・オットー国防軍伍長はベルリン駅で戦死した。

 

 

遥か彼方のアジアにて、

 

 

 

彼らの家族である桜井洋介と大賀虎雄、敵国の友人であったステラ・A・エヴァンスとシャルロット・F・トラインは訃報で嘆き悲しんだ。

 

 

そして嘆き悲しんだ彼らも、後を追うかのように戦争末期のシンガポールとマラッカ海峡上空、終戦後の北方の占守島上空、枕崎台風で命を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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一人の少女が夢を見て、目を覚ました。

 

 

「…はっ!?……なに…、今の夢…?」

 

 

少女は先程見たベルリンの攻防の夢を思い出す。あの日本軍人がなんでベルリンで戦い、なぜ戦車で戦い、死ぬ直前の最後の最後まで微笑んだのか。

 

 

「……あっ!もう家じゃないんだ!」

 

 

その少女、西住みほは目覚まし時計を止めながらそう呟き、朝の準備をするのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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第1話 時を越えし戦車

 

 

 

 

戦車道、それは茶道、華道と並ぶ乙女の嗜みといわれる乙女の武道。世界中で乙女の嗜みとして受け継がれてきた。

 

礼節のある、淑やかで慎ましい。そして、凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸でもある。

 

そんな武芸が頻繁に行われているこの世界で一隻の船、「県立大洗女子学園」の学園艦であった。

 

その学園艦の甲板上にある学校の倉庫前に幾人の生徒たちが集い、その娘たちは今年20年振りに復活した戦車道の履修者たちであった。

 

 

「会長…今あるのはこのⅣ号だけです」

 

 

倉庫に戦車が1輛、それでは戦車の数が足りず試合にもならない。そして片眼鏡をした河島桃がそう言うと小柄のツインテールをした子で生徒会長である角谷杏が

 

 

「そっか、じゃあ。1輛確保したとして、これだけの人数だとすると……河嶋いくつ必要?」

 

 

「全部で6輛必要です」

 

 

「っとなると、あと5輛か…んじゃあ、みんなで戦車探そっか」

 

 

と、角谷会長は戦車探しを提案する

 

 

「して、いったいどこに?」

 

 

赤いマフラーの鈴木貴子ことカエサルが質問して聞く。

 

 

「いやー、それがわかんないから探すの」

 

 

「なんにも手がかりないんですか?」

 

 

「ない!」

 

 

一年生らしき子がそう訊くと、会長は胸を張って言う。

 

そして皆は各自、戦車を探しに行くのであった。

 

それからしばらくしてほかのチームは次々と戦車を見つけ出した。あるものは森の中から、またある者は崖の中腹にある洞窟から、またある者は池の底、またある時はウサギ小屋など普通はあり得ない場所から発見された。

 

 

報告を聞いた生徒会は

 

 

「Ⅳ号に38t、Ⅿ3リーに八九式中戦車に三号突撃砲…ティーガーやパンタークラスの中、重戦車じゃないのは残念ですが…」

 

 

「まあいいんじゃない?たった一日だけでこんだけ見つかるなんて結果オーライだよ」

 

 

生徒会室で報告を聞いた河島が杏に沿うと杏はのほほんとした表情で干し芋を頬張りそう言う。そして副会長である小山柚が

 

 

「会長、たった今自動車部の人たちがレストアの件引き受けてくれるそうです」

 

 

「ご苦労さん小山」

 

 

自動車部の人たちに戦車のレストアと整備を頼みに行き戻ってきた小山に角谷はねぎらいの言葉をかけるのであった。

 

 

「パンターね……パンターで変な夢見たな…」

 

 

西住みほ、磯部沙織、五十鈴華、秋山優花里の一行が森の中で38t軽戦車を発見。生徒会に報告して校舎に戻る頃だった。

 

 

「ふっふ~ん、楽しみだなぁ~♪」

 

 

「何が楽しみなんですか?」

 

 

沙織の言葉で華が訊くと嬉しそうに

 

 

「だって明日、格好いい教官が来ると言ったんだよ!もし告白されたらど~しよ!!」

 

 

と、雰囲気の中で優花里も嬉しそうに呟いた。

 

 

「私も明日から本格的な戦車を動かせるのが楽しみです!ね、西住殿!!」

 

 

「…う……うん……(あの夢、…何だったんだろう…)」

 

 

優花里の言葉にみほは嬉しそうに言う彼女の反対に、元気なく答える。今朝見た夢が頭から離れないのであった。

 

 

「あら…?」

 

 

すると突然、華の足が止まり、鼻で何か匂いを嗅ぎだした。

 

 

「どうしたの?もしかしてまた何か匂うの?」

 

 

「はい……向こうの方から先ほど鉄と油の匂いがするんですが…」

 

 

「本当に華の嗅覚ってどうなっているの?私も華道習おうかな?」

 

 

「多分、私の能力だと思いますが……あっちのほうです…しかし…油の他に…何か異臭を…」

 

 

「異臭…?」

 

 

「おぉっ!!また新たなる戦車があるんですか?では善は急げ、パンツァーフォーですね!!」

 

 

優花里の言葉に、一行は華を先頭にその場所へ向かう。どのくらい歩いたのか、木々が空を覆い薄暗いところに来ていた。

 

 

「なんだか……薄暗いところまで来たみたいだね……」

 

 

「何か、出てきそうな雰囲気ですね?」

 

 

「うん……お化けが出そう……」

 

 

みほと華、沙織が呟いていると少し開けた場所に到着。光が射し込む場所に、その光があるものが照らされていた。そこで中型戦車を見つけた。

 

 

「これは!?…パンター…かな?」

 

 

「いいえ、これは......!…パンターⅡ……パンターⅡです!!」

 

 

沙織は首を傾げ、優花里は戦車捜索以上に興奮していた。

 

 

「いやぁ~生産数たった2輛しかない貴重な戦車がここで見つかるとは~」

 

 

「この戦車……昨夜の夢見たことが……」

 

 

「「 え…? 」」

 

 

みほの言葉で3人は注視。

 

 

「ベルリン中央駅で闘った……」

 

 

「そ…そんなばかな~」

 

 

「間違い無い、…狼の首元に真っ赤なスカーフと刀…」

 

 

沙織が否定的な言葉を言い放ち、みほはパンターⅡを触ろうとした時―

 

 

 

 

ガタンッ

 

 

 

 

「…え…?」

 

 

戦車の中から物音がした。

 

 

「中から物音が…」

 

 

「こ…怖いこと言わないで…」

 

 

「野良猫じゃないですか…?」

 

 

「とにかく調べてみよう……っ!?これは…!?」

 

みほはパンターⅡによじ登り、砲塔から見下した時に彼女は驚いたように目を見開き、砲塔後部に負傷して横たわったドイツ軍軍服を着た少女を見つけた。

 

 

「(もしかして…)うっ!?」

 

 

キューポラのハッチを開ける。その瞬間、内部から鉄と生臭い血の匂いがした。

 

 

「どうしたのですか西住殿?」

 

 

優花里がそう訊くと、みほは慌てた表情で告げた。

 

 

「砲塔後部と内部で怪我した人がいる!」

 

 

「「「 えっ!? 」」」

 

 

みほの言葉で三人が驚き、優花里も車体によじ登って砲塔の後部とその中をみると、血まみれの少女三人が倒れていた。

 

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」

 

 

「……うぅ……」

 

 

一人の少女はうめき声をあげ、更にみほはもう一人、中に入って脈で確認した。

 

 

「…生きている……よかった……沙織さん、…生徒会に連絡してください!秋山さん、五十鈴さん!手伝ってください!」

 

 

「わかりました!」

 

 

「う、うん!」

 

 

みほの言葉に優花里と華はパンターⅡの乗員を運び出し、沙織はポケットから携帯電話を取り出した時ー

 

 

ガサッ  「…動くな!!」

 

 

「ひっ!?」

 

 

「きゃああぁ!!」

 

 

草木が覆うところからドイツ軍の軍服を着て、左肩から流血した男が左手にSTG-44突撃銃、右手に軍刀を構えていた。

 

 

「ちょっと、あなたは誰なのよ!?」

 

 

「はぁ…はぁ…貴様ら……俺の仲間に手を出したら許さんぞ…!」

 

 

「あの、落ち着いて下さい!!」

 

 

「黙れ!!…はぁ…はぁ……来るな穢らわしい露助が……!」

 

 

男の気が荒れ、軍刀の刃先を向けていた。沙織たちはどうしようも抑えることは難しかった。すると、みほは三角巾を持って近づいた。

 

 

「あなた……左肩に怪我を!?…手当てしますから動かないで下さい……」

 

 

「く…来るな...! …あ…あぁ……」

 

 

男は軍刀の刃をみほに向けた時、彼女の顔を見つめながら小銃と軍刀を地面に落とした。

 

そのスキにみほは男性に近づき、どす黒く変色した左肩の出血部に三角巾を傷口に当てて圧迫した。

 

 

「……酷い怪我……一体何が……え…?」

 

 

「…み……お……みお……なぜ……君が…」

 

 

彼の顔は微笑み、安堵して倒れた。

 

 

「みほさん!」

 

 

「西住殿!」

 

 

「みほ!大丈夫…?」

 

 

沙織たちは凄く心配しながらみほの元へ来た。

 

 

「大丈夫です…っ!?凄い熱……この人も助けましょう!!」

 

 

「わかりました!」

 

 

「西住殿のご指示ならば!」

 

 

華と優花里は男と3人の少女たち救助を優先、道端にある太い枝と、優花里の自前のロープで簡素な担架橇の工作で沙織は動こうとはしなかった。

 

 

「わたしは反対だよ、わたしたちに暴力的で野蛮、刀を向けられたのが腹が立つ!」

 

 

「武部殿、文句を言うのは後回し、簡素な担架橇を作ったので急いで校舎へ!!」

 

 

「はぁい…」

 

 

沙織は小声でブツブツと呟きながらパウラを乗せた橇を引き運び、華はアリシア、優花里は晴香、そしてみほは男性を橇で引き運んだ。

 

 

「…この人…どこかで…」

 

みほは勇介の顔を確認しながら確認した。しかし、どこで見たのか思い出せなかった。

 

 

「………み………お…………み……お……」

 

 

桜井勇介は高熱で苦しむ中、うわ言で最愛の人の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンターⅡは生徒会の指示により自動車部が回収、その中に滞在する一年生の部員が接触した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おばあちゃん……おばあちゃんは…この戦車に…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第2話 夢の中の別れ 

 

 

 

 

戦車を探していたみほたちは山の中で中型戦車を発見する。

 

しかし、その戦車は大洗学園に所属に存在しないパンターⅡ。

 

戦車の内外に負傷した男女4人が倒れていた。みほたちは生徒会に連絡、戦車乗員の4人は保健室へ運ばれるのであった。

 

保健の先生からは傷は大した事はないのだが、リーダー各の男性は高熱で意識が無く、眠っているために暫く泊めることになった。

 

そして、パンターⅡは自動車部により格納庫に運ばれた。

 

 

 

生徒会長室には会長の角谷杏、副会長の小山柚子、広報の河島桃の三人衆がいた。

 

 

「小山〜例の戦車の乗員はどう~?」

 

 

「はい、保健室の先生によれば3人は大した事はないのですが、男の左肩が鉄砲の弾に撃たれた怪我で発熱を……」

 

 

「そっか~で、河島、彼らの身元が何かわかった?」

 

 

「はい、彼らの所持品には日本刀や銃が入っておりました。そして彼らの身分を証明する手帳があったんですが………いささか不可解で……………」

 

 

「不可解?」

 

 

「はい、所属が大日本帝国陸軍と表記。あと2人の手帳の表記がおそらくドイツ語。ですが、大日本帝国陸軍は存在しません。格好はナチスドイツの軍服。リーダー各の所持物に日誌があります。みて下さい会長」

 

 

「日誌…?桜井勇介……あれ?……この日付って……」

 

 

「どうしました会長?」

 

 

角谷が首を傾げ、それを不思議に思った河島が訊くと、会長室の扉からノックが掛かった。

 

 

「し、失礼します」

 

 

そこへ、発見者であるみほたち4人が入室。

 

 

「あ~西住ちゃんお疲れ~で、あの4人はどうしてる?」

 

 

「はい、静かに寝ています。どうしたのですか?皆さん?」

 

 

「ああ、実はね。発見された子たちの所持品を見ていたんだよ」

 

 

「所持品?」

 

 

みほは首をかしげると、優花里は机の上に置かれた彼らの所持品を見て目を輝かしながら驚く

 

 

「おぉっ!これは大戦時のドイツ軍のSTG-44突撃銃とワルサーP-38拳銃!C96拳銃とMP-40短機関銃!それに旧日本軍の九九式狙撃銃と九四式拳銃!ニ式銃剣まで!軍服はドイツ軍なのですが……」

 

 

「じゃあ、もしかしてサバゲーの人なのかな?戦車も趣味で作ったり…」

 

 

「いいや、調べたら銃も戦車も作りものじゃなく本物だ。サバゲーとかゲームであそこまではしないだろう」

 

 

沙織の言葉に河島が否定する。

 

優花里は首を傾げ、手帳を取って確認した。

 

 

「日本軍とドイツ軍の手帳、編成としては外人部隊ですね…しかし、なんであんなところに……」

 

 

「秋山ちゃ~ん、手帳に身分と日誌が記してあるから視てちょうだい!」

 

 

優花里は角谷の指示でページを捲った。

 

 

桜井勇介少尉

 

帝国陸軍第1戦車連隊所属 → ドイツ特別遣欧外人部隊

 

 

「…遣欧外人部隊…っ!?…1941年…マレー…翌年フィリピン…43年からドイツ留学…44年…ノルマンディー…ライン…最近の出来事…5月のベルリン…これは!?」

 

 

年月とある地名に驚きを隠せなかった。

 

 

「1945年…もしかして…」

 

 

「あの人たち、1945年の時代からやって来たの!?」

 

 

沙織は両手で頬を重ねながら驚愕した。

 

 

「わからない…ただの空想日記かもしれない。後のことはあの4人が目が覚めないとわからないよ」

 

 

角谷はお手上げと言いたげに両手を上げる。

 

実際、日記や証明書を見ても偽造や空想で書いた可能性があり、これ以上のことは当の本人たちから聞き出さないとわからない。

 

 

そしてみほたちと生徒会たちはこの不可思議で不可解な思いを抱きながら解散するのであった。

 

その中で突然、優花里が何か思い出したことを述べた。

 

 

「皆さ~ん、私はあることを思い出しました!もしかしたら…怪奇現象に巻き込まれた軍人だったりして…」

 

 

「え…?」

 

 

「ほら、米軍でバミューダ海域で忽然と消えた軍艦や航空機もあるでしょう?」

 

 

「秋山、何が言いたい?」

 

 

「あの戦争で戦った元兵士たちの証言、ベルリンの戦いで1輛のパンターが殿を務めた中央駅で、ソ連軍のロケット攻撃を受けて撃破。ですが、現地で破壊されたパンターが破片どころか遺体すらなかった。もしかしたら神隠しにあった。」

 

 

「神隠し?」

 

 

「そのよた話どこで聞いたの…?」

 

 

 

 

 

そして、みほは軍刀を持って一人保健室に入り、先ほど運ばれた4人を見る。

 

皆静かに目をつむり、ピクリとも動かない。

 

 

そんな中みほは、先ほど軍刀を持った男の横に座りじっと顔を見る。

 

 

「(あなたはいったい誰なの?何であんな暗い森のところに居たの?なんで怪我をしていたの?あの夢は…あなたの記憶なの?)」

 

 

みほはそう思って男と軍刀を見ていた。だが男は目を覚まさずただ目をつむるだけであった。

 

 

 

「桜井勇介……どこかで聞いた名前……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桜井勇介は夢を見た。暗黒の場所で一人彷徨い、道なき道を歩いていた。

 

 

 

 

「(…暗黒の地獄だな…ここは……あの戦争と言えども、俺…は敵を殺し…味方をも見捨て、見殺しにした……当然のことか……)」

 

 

 

「(勇介)」

 

 

 

その名前の言葉で本人は後ろに振り向いた。

 

 

勇介の血の繋がった兄、家族である桜井洋介と昨年結婚した雪の姿もあった。

 

 

「(あっ……兄貴……雪義姉さん……)」

 

 

「(…勇介…よくベルリンで民間人を守り抜いたことを、僕は誇りに思うよ)」

 

 

「(よくがんばったね、勇介さん。じゃあ、あたしたちは逝くね…逝きましょう…あなた)」

 

 

妻の雪は、夫の洋介の手を繋いで、光が輝く門に向かいくぐった。

 

 

「(あっ兄貴…義姉さんっ!待ってくれぇ!!)」

 

 

「(勇介さん!)」

 

 

「(….澪…)」

 

 

再び勇介の背後から呼ぶ声が聞こえた。赤十字看護服を着た、彼の婚約者である西澤澪だった。

 

 

「(…勇介さん、…約束して…生きて……わたしの分も生きて下さい)」

 

 

その言葉を伝えた澪は、洋介と雪がくぐった光の門をくぐった。

 

 

「(…澪…っ!待ってくれ澪!!…僕を…僕を置いて逝くな!!兄貴、義雪姉さん!澪~!)澪っ!」

 

 

「きゃっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、勇介は目が覚め、みほは驚きを隠せなかった。

 

 

「はっ……ここは…どこだ……澪…?」

 

 

「…ここは学校の保健室です。落ち着いてください…えっと…桜井さん…!」

 

 

「…学校の保健室…?…どういうことだ…ここは露助の捕虜収容所じゃないのか…?…どこのドイツの学校なんだ…澪…」

 

 

 

「ここは大洗女子学園です。あの、…わたしは澪ではありません…西住みほです…」

 

 

 

「大洗…?…西住みほ…澪…じゃないのか…?…人違いをして…す…すまない…///」

 

 

勇介は恥ずかしさの余り、目を反らし頬を掻いた。そして、みほは勇介の軍刀狼虎を差し出した。

 

 

「これ、あなたの所持していた刀をお返しします」

 

 

「あ…ありが…」

 

 

「…う、…う~ん…虎雄兄ちゃん…どこに…逝くの…?…あ…?」

 

 

その時、パンターⅡの副長である大賀晴香がベッドから目覚めた。するとー

 

 

「あっ澪さん、お久し振りです!いつこのベルリンへ…あれ?」

 

 

「…シャルロット…あ…?」

 

 

「……ステラ…置いて逝かないで…はっ…?」

 

 

その後、アリシアとパウラはうわ言を叫びながら目覚めた。

 

パンターⅡの乗員全員が目覚めた時、みほは沙織、華、優花里。そして生徒会に連絡した。

 

 



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第3話 戦車道の勧誘

 

 

生徒会室ー

 

 

 

勇介たち4人はみほたち3人に生徒会室に案内され、生徒会長たちを待っていた。

 

 

 

「…あの方たち、なんでパンターⅡごと森林に…謎でありますね…」

 

 

「でもあの車長さん、スッゴくいい男性~///彼氏になってくれるかな~///」

 

 

「さっきまで野蛮、暴力的でブツブツ呟いたのにですか…?」

 

 

「わ〜わ〜!!……仕方ないじゃん、顔がどす黒く汚れててわからないよ///」

 

 

優花里は神妙な目付きで睨み、沙織は車長の勇介を見て赤面したものの、華が発見した当時の言葉を呟いた。

 

 

「あいつら、なんであたしをここに寄越したのでしょう?」

 

 

「まぁまぁパウラ。西住さんから聞きましたがここは学園艦と説明をしてくれましたが、どうやってベルリンから……それに、長い間で憧れた日本にいるなんて夢みたいです///」

 

 

「日本ねぇ〜…確かに所々日本語が書かれてあるが、どうも日本には思えない…ねぇ、車長…車長…?」

 

 

パウラはなぜ乗員をこの部屋に案内したのか疑問に感じ、アリシアはやや興奮しがちで、長年の夢であった日本への訪問だった。

 

晴香はこの大洗女子学園艦とは疑念に感じ、未だに信じられなかった。

 

右手に軍刀の狼虎、頭部と左肩に包帯を巻かれた勇介は窓越しで景色を観察していた。

 

 

「(…あの夢は一体何なんだ…兄貴と雪義姉さん……澪はどうしているんだ…)」

 

 

考えていると扉が開く。

 

そしてそこから小柄で女子学生、ツインテールで干し芋を片手に持つ少女と、少し背が高く、親しみやすそうな少女、そして黒髪で片眼鏡をかけた目の鋭い少女、そして最後に勇介たちを救助した4人組の女子だった。

 

勇介たちは、軍隊経験者の癖で起き上がりビシッっと直立の姿勢を取ろうとする。

 

 

「ああ、いいよ。そんなに畏まらなくて」

 

 

干し芋を持った少女、角谷杏がそう唱える。雰囲気としゃべり方を見て恐らくこの子が責任者なのだろう

 

 

「……あんたがここの責任者か?」

 

 

「まぁ〜そうなるかね〜私はこの大洗女子学校の生徒会長の角谷杏だ。よろしく」

 

 

「あ…あんたが…生徒会長さんか…」

 

 

理事長か校長じゃないのは残念だが、学校の生徒の中ではトップという立場には変わりない。

 

 

勇介は彼女たちの前に向けようと体を動かそうとすると角谷杏は

 

 

「いいよ、無理しないで怪我しているんだし」

 

 

「いいえ、大丈夫です」

 

 

初対面の相手に体を横向きにするのは失礼と実感しながらも、勇介たちは体を彼女の前に向ける。

 

 

「あなたたちが俺たちをここに運んでくれたのですか。生徒会長さん。それと後ろにいるのは…?」

 

 

「うんそうだよ。あ、あと後ろにいるのが同じ生徒会の…」

 

 

「生徒会副会長をしています。小山柚子です」

 

 

「河嶋桃だ、生徒会広報をしている」

 

 

「そして、そっち居る四人の子達が君達を見つけ救助した」

 

 

角谷杏会長が右側の生徒会役員の紹介をすると左側にいる四人の女の子が自己紹介する。

 

 

「えっと、西住みほです。よ…よろしくお願いします」

 

 

「自分は秋山優花里です」

 

 

「私、武部沙織であります!」

 

 

「わたくしは五十鈴華と申します」

 

 

と、礼儀正しく挨拶をした。

 

 

「あなたたちが助けてくれたのですか…心より感謝します」

 

 

と、勇介は頭を下げ、その動作に晴香達も頭を下げる。 

 

 

「あっ!?いえ、そんなに頭を下げないでください。私たちは当たり前のことをしただけですから!?」

 

 

西住みほと名乗った子は慌ててそう言うが勇介は

 

 

「いえ、命を救ってくれたんです。頭を下げて礼を言うのは当然です」

 

 

と、そう言うと。会長たちは感心した表情をしていた。

 

 

「ふ〜ん…君は礼儀正しいね…で、君達は一体何者なの?うちの学校の裏山にいたけど?」

 

 

そう言うと、勇介は目線で晴香達を見ると彼女達は頷く。彼の言いたいことが分かったのだろう。

 

 

そして勇介たちは角谷会長たちに自己紹介をする。

 

 

「俺は大日本帝国陸軍第4戦車連隊、欧州派遣外人部隊、戦車連隊所属、桜井勇介。階級は少尉です!」

 

 

「同じく、第4戦車連隊の大賀晴香。階級は曹長です」

 

 

「ドイツ国防陸軍、アリシア・A・フェアバンク。曹長ですわ」

 

 

「ドイツ国防陸軍、パウラ・M・オットー。伍長です」

 

 

と自己紹介するが、角谷会長らはまるで訳が分からんというような表情をしていた。

 

 

その裏で優花里と華はこそこそ話しをしていた。 

 

 

「(日本陸軍って…随分前に解体されたよね優花里さん?)」 

 

 

「はい…1945年の敗戦と同時に無くなったはずです。それに遣欧部隊とかいう部隊は聞いたことがありません)」

 

 

と、何やら話しているみたいだが声が小さいため聞き取れなかった。すると角谷は

 

 

「ふ~ん…で、生年月日と出身は何処?」

 

 

「え?1927年7月16日、兵庫の神戸です」

 

 

「あたしは1928年12月11日、鹿児島の錦江村出身」

 

 

「私は1928年10月27日、ドイツのミュンヘン出身ですわ」

 

 

「あたしは1929年4月10日、ドイツのベルリン出身です」

 

 

と、そう言った瞬間、余計に角谷たちの顔が曇った。

 

 

だが、勇介はそんなことを気にせずに質問した。

 

 

「…すみませんが角谷会長さん。こちらからも質問しても構いませんかね?」

 

 

「ん?何?」

 

 

角谷会長がそう訊き、勇介はあることを訊いた。それは

 

 

「戦争はどうなったんだ…終わったのか…どうなったんだ?」

 

 

「「「「 え? 」」」」

 

 

勇介の質問に角谷たちは目を点にし驚いた顔をする。

 

彼は気になった。あのベルリンの戦いのあと、戦争がどうなったか、それを確認したかった。

 

 

「戦争って何?まさか第二次世界大戦?」

 

 

角谷が首をかしげてそう訊くと

 

 

「第二次世界大戦…?」

 

 

「ねぇ…ベルリンは…?ドイツはどうなったの…?」

 

 

パウラがそう訪ねると、河嶋と名乗る女が

 

 

「貴様!!いい加減にしろ先から聞いていれば、日本陸軍だとかベルリンとかデタラメな事ばかり言って!ちゃんと真面目に答えろ!!」

 

 

と、いきなり怒鳴ってきた。その言葉にパウラが

 

「真面目に答えているわ私たちはドイツ軍と日本の軍人!さっきまでベルリンで戦ってたの!あんたこそ、ここが日本の学園艦だなんて、おかしなことを!!」

 

 

「なんだとっ!黙って聞いていれば!!」

 

 

と、勇介たちにつかみかかろうとした瞬間

 

 

「車長、軍刀を借りるよ」

 

 

晴香は勇介の狼虎を鞘から抜き、河嶋の首筋に刃を近づけた。

 

「あなた、負傷しているあたしの妹分に手を出せば、首をバッサリ切り、皮膚を引きずりだすわよ」

 

 

「ひっ!?」

 

 

「も、桃ちゃん!?」

 

 

「晴香姐さん!?」

 

 

と、晴香が河島の腕を掴んで抑え込み、首筋に狼虎の刃をつけて、殺気のこもった眼で静かに呟いた。

 

 

「え!?」 

 

 

「あら、狩人みたいですね」

 

 

「いや、違うと思うよ?」

 

 

「おおっ!あの人の持っている軍刀、綺麗に輝いていますね!」

 

角谷の後ろで沙織たちが驚き、他の人たちは違ったことを言っていた。

 

 

「お、お、お前は!?」

 

 

「彼の補佐官であり副長よ。それよりあなたがケガ人相手に手荒なことをしようとするなんて、あまり褒められた行為ではないわ…あたしは短気な奴は大嫌いなんで、いっそここで始末してあげちゃる…徴兵される前、あたしは狩人をやっていたんで…」

 

 

「ひっ!?ゆ…柚子ちゃん助けて~!!」

 

 

晴香の言葉に、河嶋は泣きながら嘆いた。

 

 

「晴香、止めんか。この人達は俺たちをここまで運んでくれた人だ。それに、狼虎を返せ!」

 

 

「…分かりました。」

 

 

そう言い晴香は河嶋の手を放し、軍刀狼虎を勇介に返却した。

 

そして河嶋は腰を抜かしたように座り込み、ガタガタ震えていた。

 

 

「すみませんな会長さん、どうやら互いに話の噛み合わないところがある。ここはひとつ情報交換しながら互いの状況を確かめたい」

 

 

「お〜いいねぇ、君は話の分かる人で良かったよ。あと、さっきの河嶋の行為はごめんね~河嶋は結構気が短いところがあるんだよ」

 

 

「いや、謝るのはこちらの方だ。民間人、学生さんに刃物を向けてしまった。ほれ晴香、謝れ…」

 

 

「車長の命令と言えどもヤダ、あたしはあんな奴に頭を下げたくない」

 

 

「あはは~じゃあ、お互い様だね」

 

 

勇介の言葉で、晴香はそっぽ向いた。

 

 

「ええ…では、ここで互いの問答をしましょうか」

 

 

勇介たちと角谷は自分たちの知っている状況を交換し始めるのであった。

 

 

「じゃあ、桜井君だっけ…今は何世紀の西暦何年?」

 

 

「今は20世紀の1945年でしょ?」

 

 

「…」

 

 

聞かれた西暦を答えると角谷達一同が急に黙り込みそして歯切れの悪そうに勇介達に言う。

 

 

「えっと…非常に言いにくいんだけど、今は21世紀で2012年なんだけど…」

 

 

「「「「 えっ!? 」」」」

 

 

角谷から今は21世紀で、勇介達のいた1945年から約70年も経っていると言われ彼らは絶句した。

 

 

 

「2012年だと!?あたしたちがいるのは1945年!2012年って70年後の未来じゃないか!?」

 

 

「まさか、あたし達がちょっと気絶している間に70年の時が流れた訳じゃないよねえ!?」

 

 

「ですけど、わたくし達は全然歳をとっていないですよね?本当に70年後ならわたくし達は80超えの老人に成っている筈ですわよ?」

 

 

「それに、数時間気を失っていただけで…そこはもう未来だったなんてそんな小説みたいな事…」

 

 

「まるで、『浦島太郎』みたいだ」

 

 

晴香とパウラが驚愕し、アリシアは疑問を浮かべていると勇介は、日本の民話にある『浦島太郎』に例えた。すると

 

 

「じゃああたし達は、本当に未来の世界しかも70年後の日本にいるって事!?」

 

 

「そんな…まさか!!」

 

 

騒ぎ立てる。一方それを他所に角谷達は

 

 

「(会長、彼等のあの反応を見る限り嘘をついている様には見えないですし、もしかしたら彼等はタイムスリップして来た人達なんじゃあ)」

 

 

 

「(タイムスリップって、あの過去や未来の時代に時空移動する?どう思う河嶋、彼等がタイムトラベラーだと思う?)」

 

 

「(にわかには信じられないませんが、彼等の持っていた銃や刀が本物だった事に加えて、彼等の乗っていた戦車の登録番号を調べてみましたがどこの学校の物とも一致しませんでしたから断定は出来ません)」

 

 

と耳打ちし、角谷達の左隣のみほ達も

 

 

「(え〜とっ…つまりあの人達は現代の人じゃなくて過去の人って事かな?)」

 

 

「(そう言う事ですよ西住殿!まさか、ドイツ軍の外人部隊に日本人が居たとは知りませんでした…)」

 

 

「(要するにあの人達は、過去からやって来たって言う事なの!?)」

 

 

「(これはあまりにも荒唐無稽な仮想小説の内容みたいです!)」

 

 

そんな事を耳打ちするみほと沙織、華と優花里。

 

すると勇介達は、冷静に落ち着きを取り戻すと彼は生徒会役員とみほ達に向き直り真顔でこう問いかけた。

 

 

「本当に此処が未来の世界なら、教えてくれ戦争はどう成ったんだ?」

 

 

『!!』

 

 

勇介からそう聞かれて一同はばつが悪そうな顔をする。

 

 

「それを聞いていいの?君達にとっては残酷な事実かもしれないそれでも聞くの?」

 

 

「構わない、それに知りながら目をそむける者は知らずにいる者よりも罪は重い!」

 

 

「そう、世の中には知らない方が幸せって言うけどわかったよ…」

 

 

勇介達に、その後の戦争の行方を説明する為この中で一番そう言うのに詳しい勇介が適任と考え角谷は、秋山優花里に任せる事にした。

 

 

「では、ここからは秋山優香里がご説明させていただきます!!」

 

 

1945年4月30日ドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーが自殺し5月2日ソ連赤軍によりベルリンが陥落、ドイツ第三帝国崩壊、ドイツは無条件降伏した。

 

8月15日、同盟国である日本も無条件降伏し第二次世界大戦が終結した。

 

そこからナチスドイツのユダヤ人の大量虐殺などが発覚しドイツは戦争責任を問われた。

 

戦後ドイツはアメリカとソ連に東西で分割統治され西ドイツと東ドイツに別れ再びドイツが統一したのち、1990年10月3日「東ドイツ」が『ドイツ連邦共和国』に編入された。

 

 

「そうか、結局ドイツ…祖国日本は戦争には勝ってなかったか…」

 

 

「あたし達のやってきた事は全て無駄だったって言うの…」

 

 

「クソ、あたしらは何の為にここまでして来たんだよ…」

 

 

悔しそうに悪態をつくも直ぐに冷静さを取り戻した。

 

 

「次は私達が、君達に訊く番だね〜」

 

と今度は角谷が、勇介達がどう言った経緯でここに来たのかを訊いてきた。

 

そして、勇介はことの経緯を話す。

 

第二次世界大戦が始まる以前、陸軍幼年学校に入学。

 

様々な理由により新設したばかりの戦車学校に志願し、1941年12月の開戦、マレー半島の攻略、翌年にフィリピンの攻略に参加。

 

攻略を終えた勇介は本土に帰還、1年弱で戦車学校の教官に着任。

 

だが、対戦車戦闘の技術を習得するために、下士官少女の大賀晴香と共に1943年、ドイツに留学。

 

ドイツの戦車学校で学んで1年後、通信科のアリシア、駐在武官の一員のパウラと共にフランスのノルマンディー前夜に、戦車部隊に配属され米英など連合軍の上陸に備え、防衛に参加したが、連合軍を撃退せず、日本の航路を断たれ、絶望した。

 

戦争末期、ドイツ国防軍兵士は寄せ集めの実戦経験の少ない外人達をとるに足らない格下の連中だと見下していた。

 

勇介たちをみくびり、日本人は拳銃しか使えず戦車もろくに動かせないとバカにしていた為、自分達は戦場で手柄を立てる必要があったのだと。

 

最初は慣れないパンターⅡ戦車を受領、戸惑っていたがフランスのノルマンディー攻防戦で重ねる事によって次第に鍛えられていき、腕を磨いた勇介は、数々の戦場で国防軍の為に戦線を突破して道を切り開いて行ったのだと。

 

その後勇介達はその功績が認められてドイツ国防軍の精鋭部隊ラスナー戦車部隊に配属になり、戦争末期最大のラインの守りこと、アルデンヌ攻防戦と撤退戦。

 

1945年の4月末にソビエトロシア軍が大規模な攻勢に出た為、自分達が単独で、ベルリン駅に集うドイツ民間人、日本異邦人をキール、ヴィルムスハーフェン港からスウェーデンに逃す為に守ることに阻止を図り、多数のソ連軍戦車を撃破するもその間に自分達の戦車が損傷を負い、ベルリン駅で意識を失った事を話した。

 

 

「話を聞く限り君達は、何かの拍子で時代を超えて未来にやって来たと考えられるんだよね〜」

 

 

「そうなるのかな?」

 

 

「それで…あたしらこれからどうすればいいんだろう…」

 

 

「その事で君達と話をしに来たんだよ。君達は、これからどうする?元の時代に戻りたい?」

 

 

杏が勇介達の今後の事についての話に移った。

 

 

「いいや、俺達は生きているそれだけで十分だ」

 

 

「家族のことは?親兄弟とかは」

 

 

そのことで勇介たちはハッとした。 

 

アリシアとパウラは一人っ子で、ドイツにいる家族はどうなったか分からない。

 

晴香の兄は戦闘機パイロットであり、家族は消息不明。

 

勇介の両親は水害で亡くなっていた為に、姉は従軍看護婦、兄は戦闘機パイロットであった為に消息が不明。

 

そして、パンターⅡの操縦士の豊田純子と、自身の婚約者の西澤澪の行方が気になっていた。

 

 

「親族は戦死通告を受けた筈だ。戻る必要はない死人は戻らなくていい。それに例え戻れたとしても俺らにはもう居場所はない、ソビエトロシア軍を散々苦しめた俺達を連中が見逃してくれるはずがない恐らく激しい報復が待っているだろうな…」

 

 

「そうなると君達はこれからどうやった生活していくの?」

 

 

「そうよ、住む場所と生活費とかはどうするの?アルバイトをして稼ぐにしても履歴書の作成や住民票とかが必要になるんだよ?」

 

 

「そうだ、お前達は過去の人間なんだ、本来なら存在してはならないんだぞ!それに、お前達この時代の日本のお金なんか持っていないだろ!!」

 

「確かに、…あたし達の今後の生活を考えると衣食住も必要だねぇ。それにあたし達の待ち合わせってドイツのライヒスマルクしか持っていないよ」

 

 

「そこで、君達に提案なんだけど〜、まず第一に君達が大洗女子学園に身を置くそうすれば色々と援助してあげるし、君達の身の安全や秘密の保障を取り付けてあげるよ」

 

 

杏は、勇介達に都合のいい提案を持ちかけて来る。しかし、これには何か裏があると感じた勇介は、こう問い返す。

 

 

「それで、見返りは何だ?そこまでしてくれるからには何かしら条件があるんだろ?」

 

 

「察しがいいね〜、話が早くて助かるよ桜井勇介君、実は君達と君達の乗っていた戦車共々うちの学園の戦車道に入って手を貸してほしいんだ。これが条件なんだよ〜」

 

 

勇介達には拒否権がない条件だった。

 

この時代、そしてこの日本には彼らの頼れる身寄りがない為、断る事は得策ではないと考える。

 

 

「戦車道?何だそれ…初めて聞くね?」

 

 

「あたしも聞いた事がない?」

 

 

初めて聞く単語に晴香とパウラは頭を傾げ、角谷が戦車道について説明する。

 

 

「戦車道ってのは、その名の通り戦車を用いて行われてる武道だよ。今じゃあマイナーな武芸となっているけど、昔は華道や茶道と並び称される程の伝統的な文化で、世界中で女子の嗜みとして受け継がれて来たんだよ。礼節のある、淑やか慎ましく、凛々しい婦女子を育成する事を目指した武芸なんだよ〜」

 

 

「戦車で、婦女子を育成ですか…なにか全然結び付かないですね…わたくし達が居なかった戦後では世界はそこまで様変わりしていたんですねぇ…」

 

 

と戦車道と言う初めて行く武道にアリシアは、人殺しの兵器である戦車が今では、スポーツの一環という事に驚いたがちょっと納得がいかない様子だった。

 

それから勇介達は、角谷から戦車道と言うものを色々聞かされ、そして数年後に日本で行われる世界大会に向けて文部科学省から全国の高校や大学へ戦車道へ力を入れるよう要請があり、これにより大洗女子学園がかつて存在した戦車道を復活させる事や、戦車道の履修者への特典や優遇措置の約束をした事や戦車道の西住流の名門家の西住みほ戦車道に入ってもらって近く開催される全国大会に出場する事などを話した。

 

 

「成る程話は大体は分かった。しかし、解せねぇなぁ…何故俺達に好条件を出してまでその戦車道に参加して欲しいんだ?人数や戦車の数も揃ってしかも戦車道の名門の西住みほさんが居るのに?そもそも戦車道の履修者を集めるにしてもこの高待遇は異常だ!角谷会長あんた、他に何か隠しているんじゃねぇのか…?」

 

 

机を叩き、述べながら勇介は睨んだ。 

 

 

「…いや〜ちょっとそれは言えないんだよね〜。事情は後々説明するからぁ、だからここは取り敢えず納得して貰えないかな?」

 

 

「まぁ、人には言えない事が一つや二つあるから、これ以上の詮索はせんが…」 

 

 

「…そうしてくれると助かるよ…」

 

 

冷や汗と頬を掻く角谷を見て勇介は、これ以上の詮索はやめとく事にした。

 

角谷は、笑って誤魔化してはいたが何処となく真剣な目をしていたのでこれは、ただ事ではない重大な事があると勇介は悟った。

 

 

「(いいんですかこの学園の事を言わなくて?会長、もし言えば彼等が協力してくるかも知れないですよ?)」

 

 

「(それもそうだけど、あの子達の目もあるしさぁ〜その際であの子達に余計な心配や重い責任を負わせたくないし)」

 

 

耳打ちしてくる河嶋を他所に杏は、後ろのみほ達の方を見る。当のみほ達は、高待遇の訳にそこまで気にしている気配はなかった。

 

 

「まぁ、そう言うわけで君達も私達も一緒に全国大会で出場して優勝すれば、全国から人気者になれるかも知れないし楽しいと思うよ〜。それに戦車道に男性がやっちゃいけないってルールもないし大丈夫だよ」

 

 

角谷はそう言って干し芋を食べる。

 

それを聞いて勇介は、ある一言を角谷達に問い質した。

 

 

「楽しい…なぁ、あんた達は…人を殺した事があるか?」

 

 

『え!?』

 

 

「ないよー」

 

 

「ある訳ないだろ!!何を聴いてくるんだ貴様!!」

 

 

「私もありませんよ!」 

 

 

と真顔で答える杏や怒号する河嶋や困った顔する小山がそれぞれ否定する。

 

 

「ふぇっー!?いや…あのその…あ、ありません!」

 

 

「自分もそんな事はしませんよ!」

 

 

「わたくしもありませんわ!」

 

 

「ある訳ないよ!そんなの!!」

 

 

みほ達も否定する。突然、勇介から思わぬ事を言われて最初皆戸惑うが否定した。

 

 

「そうか、俺自身は家族と別れ、生活に困らない陸軍に志願し、彼女たちは別に兵隊になって、殺人狂な訳じゃないし好き好んで殺していた訳でもない。ただ、あんた達と違う事は…この軍服を着てるって事だ。命令…とあらば殺るのが俺達軍人だ。だから俺達は、殺られる前に殺る相手が俺達を殺す気なら俺達は躊躇なく相手を殺す!だから、俺達は常に米英、ソ連兵を憎み、一人でも多くの敵を殺さなければならない、そうしなければ自分が殺されてしまうからだ。だから俺たちはずっとそうやって多くの敵を殺して来た。それが俺達軍人の仕事だからだ。何故人を殺すのか?それが兵士に与えられた任務だからだ」

 

 

「な…貴様らは、人を殺して何も感じないのか!?心が痛まないのか!罪悪感は無いのか!命令だから任務だからと割り切るのか!!」

 

 

「なら、聞くがお前達は今まで殺した虫の数を覚えているか?虫を殺して何か感じるか?そんな事引きずって気にしていたらこっちがやられる戦場では、一瞬の迷いが命取りになる。目の前の敵を一瞬でも早く殺した方が生き残る。何も感じないと言えば嘘になるがそれでも俺達はやるしか無かったんだ。死にたく無い、戦いたく無いと思っても相手はこっちの意を汲んでくれない。軍人は、本来国民の生命と財産、国家の主権を守る為に存在している。決して、安直なヒューマニズムによって戦うものではない。戦場はそもそも敵を殺す場所だ。俺達は、その覚悟を持ってこの軍服を着ている。死から目を背けてはならない、殺した人々を忘れてはならない、何故なら、彼らは殺した俺達の事を決して忘れないのだから。話を聞く限りあんた達は、戦車に対する意識が甘く・危機感に疎く・戦車を武道の一環と勘違いしている様だが戦車が活躍するのは人々が狂い殺し合う戦争だ!結局戦車は兵器で人殺しの戦争の道具、戦車の操縦は殺人術、どんな綺麗事やお題目を口にしても、それが真実!戦車は祖国を守るために戦い、多くの伝説を残したかも知れんが、その伝説は多くの人々の屍の犠牲の上に成り立っている。あんた達には、戦車を操るという事が人を撃つ事がどういう事かどんな気持ちか分かるか?撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ!あんた達には、その覚悟があるのか?戦争の反省をどう活かし恒久の平和でいられるかを考えるのが今を生きる君達の使命なんじゃないか?」

 

 

『…………』

 

 

皆が黙り込む。

 

確かに戦車は人を殺す為に造られた殺人機械だが、彼女達にとっては一種のステータスに等しい。戦車と言う兵器が及ぼす影響知らず・考えずに乗りこなそうとしている。

 

あの地獄の様な戦場で、対米英露戦を経験している勇介達にしてみれば、兵器を扱うと言う事にどれだけの多くの兵士の命を救うと同時に多くの兵士の命を奪うと言うのか嫌と言うほど経験した。

 

 

「勇介車長、落ち着いて!気持ちはわかるけど冷静になって」

 

 

「すまない晴香、すみませんな角谷会長少し熱くなったしまた」

 

 

勇介が謝ると角谷は首を左右に振った。

 

 

「うんうん。ごめんね…君達の気持ちも考えないで」

 

 

「いえ、角谷会長。悪いが条件を呑むかどうかは少し仲間達と考えさせてもらえませんかね。こっちも色々と気持ちの整理とかもしたいので」

 

 

 

「うん分かったよ〜じゃぁ落ち着いたら生徒会室に来てね。待っているから〜」

 

 

角谷が別の用事で生徒会室から退室しようとする。

 

 

「あの…桜井さん、桜井さん達はなんで戦うですか?」

 

 

みほが何故戦うのかを聞いて来た。そして

 

 

「西住みほさんだったっけ…簡単だ"死にたくない"ただそれだけだ。理由はいつだって単純だよ」

 

 

「そうなんですか」

 

 

そう聞くとみほも生徒会室から退室して行く。

 

 

 

 

 

 



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第4話 立ち上がる狼

 

 

 

勇介達との交渉に失敗し一時保留となって生徒会室から退室し、でんぐり返しで戻る為廊下を歩いている角谷達は

 

 

「…会長…彼ら本当に協力してくれますかね?」

 

 

「それはわからないよ河嶋、多分彼らはきっと事実的には戦争は終わっても、あの子達の心のどこかでは戦争は終わってないかもしれないよ。だから彼はあんな事を言ったんだと思うよ」

 

 

「ですが、もし彼等が協力してくれればもしかしたらこ

の学園は…」

 

 

「かもしれないよ河嶋。でも、私達が彼等にとやかく言う資格はないのかもよ」

 

 

「ですが、彼らは本当に協力してくれるでしょうか?彼等戦争で受けた心の傷が癒えてないなら協力してくれる可能性は…」

 

 

「大丈夫だよ小山そう言うのは時間が解決してくれる。彼らは、きっと協力してくれるよ。今は彼らを信じるしかないよ…今はね」

 

角谷はただ信じる事しか出来なかったのだった。

 

一方、角谷達の後方を歩くみほ達は、生徒会役員に連れられる形で生徒会室に向かいながら勇介の事を話していた。

 

 

「それにしても他の人達もそうですが…あの桜井勇介って人は、只者ではありませんよ!あれだけの数の勲章を授与されしかも私達と同いくらい年齢で大隊を指揮する尉官クラスの少尉と言う事はかなりのエリートですよ!」

 

 

「少尉って…軍隊でどれくらい偉いの?ゆかりん」

 

 

「現場部隊の小隊長レベルです。少尉の階級は普通なら20代後半から30代前半くらいなんですが、若干10代で20人の部隊を指揮率いる少尉なんてエリート中のエリートです!」

 

 

「…そうなの!?…それに…やっぱりあの時は顔が汚れてよく見えなかったけどさ、かなりのイケメンだったよね!1927年生まれで1945年から来たって言ってたからえっと…18歳か!ってことは、ちょっと年上の高身長イケメンエリートって事!きゃあ~超ハイスペックじゃん!」

 

 

顔を赤くする武部沙織。

 

 

「ちょっとところじゃないですよ沙織さん。あの人は70を越えていますよ…」

 

 

「ちょっと華~…」

 

 

「桜井さんは確かにかなりの美男子でしたわね。他の皆さんの女子隊員も優しそうな方でしたし」

 

 

「ねぇねぇ~みほは、あの人の事どう思う?こう、印象とか雰囲気とかさ」

 

 

唐突に沙織から勇介の第一印象を聞かれて面食らうみほ。

 

 

「え、桜井勇介さんの事?えっと…ちょっと怖そうな人って感じがしたけどでも、何処か思いやりのある優しい人なんだなぁって思うよ…だけど…どこかで」

 

 

「へぇ〜なんで…どこでなにであったの…?」

 

 

みほはあの見た夢を除き、頭を傾げながらも中々思い出せなかった。

 

 

「あの時、桜井さんの言った事は私達に戦車に乗る事はそれだけ大きな責任を背負う事だから遊び半分で乗るんじゃなくて真剣に考えて欲しいって言いたかったんだと思うんだ」

 

 

「ふむふむ、人に対して思いやりがあってそれでいて不器用な優しい人っ事か」

 

 

「あの人たちの証言としては…おそらくベルリンで消えた戦車隊員ですよ...!あぁ…ぞわぞわします…」

 

 

みほから見た秋人の人柄を何やらメモる沙織。

 

 

優花里は昨日、みほたちに唱えた言葉が事実だった事を、興奮し、身体が震えていた。

 

 

その後みほ達は、角谷から取り敢えず帰宅を言い渡され更に勇介達の事はまだ他言しない様に言って戻っていた。

 

 

 

 

 

 

そして勇介は、今校舎の屋上に留まった。

 

 

 

 

 

「車長…わたくしたちは…あの時代に戻ることはできないのですわね…」

 

 

「…恐らくな…アリシア……生き延びるには、この世界における庇護者が必要だ。我々自身がこの戦車道の競技をリードできる立場に立っておればいい!我々が競技に勝たせることは不可能ではない!その結果、我々は発言力を確保できるはずだ!」

 

 

「車長、あたしたちの介入で勝つかもしれないが、我々を見て大きく変わる。それでいいのか…?」

 

 

「俺は間違っているかも知れないが俺たちは70年前の人間だが、今はこの時代が俺たちの生存場所だ。ここでしか生きられないのであれば、この場所で精一杯生きようと思う。戦車道がどうの考える余裕はないゼ!」

 

 

「晴香さん、時代談議はどうでもいい、現実にあたしたちとパンターⅡはこの時代にやってきたんだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴香達と話した結果『私達は上官であり、車長の判断に従うだけだよ』と言われ、アリシアとパウラと同じ考えだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先は、生き地獄かも知れんぞ!」

 

 

「地獄ならとうに落ちてるんですよ!そのために、桜井勇介と言う車長についていきます!」

 

 

 

晴香、アリシア、パウラは彼に敬礼し、勇介も彼女たちに返礼した。

 

 

 

 

生徒会室

 

 

 

 

勇介、晴香、アリシア、パウラは生徒会長の椅子に座る角谷杏の前に立った。

 

 

「それで、君達の答えを聞かせてくれるかなぁ〜?」

 

 

「あぁ、俺達が、話し合って出した答えを伝える。…戦車道に入ります」

 

 

「そっかぁ、本当にそれでいいんだね〜?」

 

 

「あぁ、俺達には他に選択権がないしこの時代に頼れる人もいないからな。それになによりも、西住さん達には、助けてもらった恩義がある。彼女達から拾ってもらったこの命この学園を全国大会優勝に押し上げる為に使ってあげようじゃねぇか!!」

 

 

「そう。じゃあ改めてこれからよろしくねぇ〜桜井勇介君~♪」

 

 

角谷は勇介に右手を差し出し、勇介もそれに習って右手を差し出して互いに握手をする。

 

すると、勇介は

 

 

「それで、入るに当たってこちらからも少し条件を付けさせて貰いたい」

 

 

「何かなその条件って?」

 

 

「俺たちの愛車、パンターⅡ戦車の所有権と有事の際の指揮権は俺が執らせてもらう事、何かあればこちらは独断で行動する。構いませんかね?」

 

 

勇介は、角谷達に戦車道に入る際の条件を提示した。

 

 

「な!?貴様そんな勝手が許されるわけ…」

 

 

「むっ…」

 

 

河嶋が怒鳴り込んだ時、晴香は手を握り掛けた。 

 

 

「いいよ」

 

 

「か、会長!?」

 

 

と、勇介の提示した提案は難なくOKが出たのだった。

 

 

「後で自動車部の子達に君達の乗っていた戦車に連盟公認の装甲材と判定装置を付けされてもらう様頼んでおくからねぇ〜」

 

 

「あぁ、分かりました、助かります。あと!」

 

 

勇介がお礼を言うとふっと何かを思い出した様だった。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「俺達は、暫くの間どこに住めば良いのでしょうか?」

 

 

「あっ!そうだったねぇ〜ごめんごめん。河嶋何処かいい所ない」

 

 

「確か学生寮にまだいくつか部屋が余っていたと思いますが、彼等の存在は機密ですから他の生徒と接触する可能性があります」

 

 

「そこでいいんじゃない〜」

 

 

「しかし、会長…」

 

 

「大丈夫だ、住まわせてくれれば後の事はこちらでなんとかする」

 

 

勇介達は、戦争で何度も野宿を経験しているので問題はないが、甘梅雨しない屋根があるだけマシだ。

 

 

それに、角谷にしてみれば勇介達の存在は極秘だが、学生寮に置けば下手な行動も起こさないし監視しやすいのだ。取り敢えず角谷は、勇介に寮の鍵を渡しといた。

 

 

「あ、そうだ!これ、預かっていた君達の所持品と学園からの支給品を君達に返すよ」

 

 

角谷が出してきたのは、勇介達が着用する大洗学園の制服や銃だった。

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「これが、未来の学園制服ですか~」

 

 

アリシアは、真っ先に制服を手に取りながら目を輝かしていた。

4人は試着し、勇介に関しては学ランの制服に軍刀狼虎を帯刀ていた。

 

 

すると、小山が帯刀する軍刀を目にし、不思議そうに訊いてきた。

 

 

「桜井さん、その刀…大切な物なんですか?」

 

 

「えぇ、この刀は死んだ父の…いや、先祖代々形見なのでこれだけはどうしても」

 

 

「そうなんですか」

 

 

「それで、取り敢えず俺は退室します」

 

 

そして、勇介は、紙袋に入れられたみんなの所持品を持って生徒会室を退室して保健室に戻り、怪我が完治していないので今日は安静にする様にする。

 

 

 

 



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第5話 大嵐生徒の親交と洗車

大変お待たせしました!

今年度も、よろしくお願い致します。


 

 

 

大賀晴香曹長、アリシア・A・フェアバンク曹長、パウラ・M・オットー伍長は学園で寝泊まりする夜、車長の桜井勇介少尉はレンガ倉庫の内部に、自動車部の手により改装を終えた愛車のパンターⅡの側に寄った。

 

 

「ふふっ…愛車パンターⅡよ…、俺はドイツの留学に来てから、初めて戦場で戦ったノルマンディーからベルリンまで、戦い抜いたな…」

 

 

勇介の脳裏では、43年のドイツ戦車学校に留学してから米英軍により海路が遮断、外人部隊に編入。

 

下級貴族のアリシアのコネでパンターⅡを受領、駐在武官の元に務めるパウラと、ここにいない豊田純子と共に激戦をくぐり抜けて戦った。

 

 

「…ハイムマン…父さん、母さん…志帆姉さん、兄貴、…純子…澪…俺は生き延びたが…この時代で頑張るぜ…」

 

 

勇介は愛車を撫でながら、欧州の戦場で逝った戦友、両親と姉弟。パンターⅡの乗員と婚約者の名前を呟いた。するとー

 

 

カラン カラン

 

 

「ん…?誰だ…!?」

 

 

腰のホルスターからP-38拳銃を抜き、警戒しながら音が鳴ったドラム缶に赴いた。

 

だが、そこにはスパナが落ちていた。

 

 

「スパナか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、レンガ倉庫の前には戦車道履修生や生徒会にⅣ号戦車D型をはじめ、各場所に見つけ出した38(t)戦車C型・八九式中戦車甲型・Ⅲ号突撃砲F型・M3中戦車"リー"が並んでいた。

 

 

「八九式中戦車甲型・38(t)軽戦車・M3中戦車リー・Ⅲ号突撃砲F型・Ⅳ号中戦車D型。どう振り分けますか?」

 

 

「見つけたもんが見つけた戦車に乗ればいいんじゃない?」

 

 

「そんな事でいいんですか?」

 

 

適当な事を言う角谷に、小山はそれでいいのかとツッコミを入れる。

 

 

「38(t)は、我々がお前達はⅣ号で」

 

 

「え、あ。はい」

 

 

河嶋から搭乗する戦車を決められて返事をするみほ。

 

 

「では、Ⅳ号Aチーム、八九式Bチーム、Ⅲ突Cチーム、M3Dチーム、38(t)Eチーム、明日はいよいよ教官がお見えになる粗相のない様綺麗にするんだぞ」

 

 

「どんな人かな?」

 

 

Ⅳ号(西住みほ・武部沙織・五十鈴華・秋山優香里)

 

八九式中型戦車(磯辺典子・近藤妙子・河西忍・佐々木あけび)

 

Ⅲ突(カエサル・エルヴィン・左衛門佐・おりょう)

 

M3(澤梓・山郷あゆみ・丸山紗季・阪口桂利奈・宇津木優季・大野あやの)

 

38(t)(角谷杏・河嶋桃・小山柚子)

 

言った感じにチームの編成発表されて戦車道の教官が来るまでに戦車を洗車する様、河嶋から言われ、沙織は戦車道の教官がどんな人かとワクワクする。

 

そんな時、角谷が履修生の方に振り返り、次の指示を出した。

 

 

「それからみんなに、朗報があるんだ〜」

 

 

『朗報?』

 

 

「今回助っ人としてこの大洗女子学園戦車道特別チームとして此処に配属することになる者達が今日此処に来る」

 

 

「どんな人達なんですか?」

 

 

「その子達は、とある事情を抱えている子でね〜。この大洗女子学園の力に成ってくれる筈だから」

 

 

「そんなに強い人達なんですか?」

 

 

「強いよ〜、幾多の戦車戦を何度も経験して戦ってきた強者だから〜」

 

 

「すごい、その人達が加わってくれるなら百人力だ」

 

 

角谷が、皆んなにそう言うと心当たりのあるみほ達は、小声でヒソヒソと耳打ちをする。

 

 

「(ねぇ、その助っ人って…)」

 

 

「(まさか…)」

 

 

「(もしかして…)」

 

 

「(桜井さん達の事なんじゃ…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃勇介達は、森の中でパンターⅡに乗り、腕時計を確認する。

 

 

 

「そろそろグランドに行くか、エンジン点火!!」 

 

 

 

そして、勇介は操縦席でパンターのエンジンを始動させる。凄まじい独特のエンジン音が唸りを上げる。T-34とカチューシャロケットからの砲撃で多少は損傷を負ったがエンジンは何ら問題なく燃料を加えれば再び動かす事ができた。

 

 

「エンジンの調子は如何ですか車長?」

 

 

「いい音だ、ご機嫌に吠えてる」

 

 

「よし、行きますか~♪」

 

 

「ええ、わたくし達の晴れ舞台へ参りましょう!」 

 

 

「まさかまた、この時代でみんなと戦車に乗る事になるとはねぇ」

 

 

「これもまた運命なのかもしれないね車長!」

 

 

みんながそれぞれの思いを呟き 

 

 

「よし、それじゃあ…」

 

 

『パンツァーフォー!!』

 

 

4人が同時にそう言うと同時にパンターⅡ戦車はグランドに向かって走行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!来たみたいだね〜」

 

 

 

そして森から純白の塗装され、砲塔に赤いスカーフを首に巻いた黒い狼が描かれたドイツ国防軍の車輛パンターⅡ戦車が現れ、履修生の方に正面を向けて距離は10m前後のところで停車する。

 

 

「大きくて強そうな戦車だね」

 

 

「どんな人が乗っているのかな?」

 

 

ワクワクしながら見ていると、パンターⅡ戦車の砲塔と車体にあるハッチが開き、そこからドイツ軍のM36野戦服の軍服を着た3人の女と一人の男が出て来て降りて来た。

 

 

「あれは、…幻のパンターⅡ戦車…ドイツ軍の36年型野戦服だな?」

 

 

「それに、男の人…?…男の人が混じっているよ?」

 

 

パンターⅡ戦車と勇介達の着ている軍服に歴女の一人で欧州戦史に詳しいエルヴィンが驚き、一年生のチームの澤梓が戦車に女子の他に男子も混ざっているのに驚く。

 

そんな彼女らを余所に勇介達は一子乱れぬ態勢で整列し、一人ずつ一歩前に出て自己紹介をする。

 

 

「guten Tag、ドイツ国防陸軍外人戦車ラスナー部隊。日本陸軍戦車連隊第3戦車大隊小隊長、桜井勇介少尉です!」

 

 

「同じく第3戦車大隊所属、大賀晴香。階級は曹長です!」

 

 

「わたくしは、アリシア・A・フェアバンクです。ドイツ国防陸軍曹長ですわ。」

 

 

「あたしは、パウラ・M・オットー。ドイツ国防陸軍伍長だよ!」

 

 

勇介、晴香、アリシア、パウラの階級が高い順に挨拶をする。

 

その姿を見て事情も何も知らない(生徒会メンバーと勇介達を救出したみほ達を除く)みんなは困惑した。 

 

 

「(((( やっぱり桜井さん(殿)だった ))))」

 

 

「…外人部隊…ってなんですか?意味が分からないですけど… 」

 

 

「キ、キャプテン。この人達、軍事マニアか何かでしょうか?」

 

 

「厨◯病?」

 

 

「コスプレかな?」

 

 

「ドイツ国防軍だって!?」

 

 

「ドイツ国防軍と日本陸軍…?第二次世界大戦のドイツの敗戦と共に解体された筈?それにドイツ軍に日本人が居たとは聞いたがラスナー部隊…?それに外人部隊が居たなんて聞いた事がないぞ…」

 

 

「私達と同じ分類の人間か?」

 

 

「全く訳がわからん…ぜよ」

 

 

などと様々な声が行き交っていると 

 

 

「はいは〜い。みんなの言いたい事は分かるけど、取り敢えずこっちに注目ね〜」

 

 

干し芋を食べながらそう言うと、生徒会一同に目を向け、河嶋が説明する。

 

 

「信じられないかもしれないが、彼らは、今から約70年前の第二次世界大戦の真っ只中のヨーロッパからタイムスリップして来た本物の日本軍人、ドイツ軍の軍人だ。昨日、山の中で西住達が戦車の中で負傷をして意識を失っていた彼等を救出手当て等をした後、意識を回復した彼等と取り引きをし此処での衣食住などの援助をする代わりにこの学園の戦車道に入って協力してもらう事になっている」

 

 

河嶋がそうみんなに説明すると更にみんな困惑した。

 

 

「過去から来たって本当なんですか!?」

 

 

「タイムスリップって!そんなアニメみたいな事が本当にあるんですか!?」

 

 

「どうやって過去から来たんですか!?」

 

 

「そう言えば昨日山の中で怪我をした4人組の男女が見つかって担架で保健室に運ばれたって噂になった様な?まさかあの人達が!?」

 

 

「て言うか、西住先輩達この事知ってたんですか!?如何して教えてくれなかったんですか!?」

 

 

「ご、ごめんね。会長から守秘義務が課せられて言えなかったの…」

 

 

などと質問の嵐が飛び交い会長の命令とは言えみんなに隠し事をしていた事を謝るみほとその後ろではどこか罪悪感を感じ詫びる沙織と優花里と華達。

 

 

「いやちょっと待って!質問は一人一つにしてくれない私達複数人の質問を聞き取って答えられる訳ないじゃなんだから!」

 

 

晴香が言うと他のメンバーも頷き、質問攻めにしていた女子達みんなは落ち着き鎮まる。最初に質問して来たのは一年生の澤梓だった。

 

 

「私、一年生の澤梓です。あの過去から来たと言うのは本当なんですか?」

 

 

「本当よ、実際あたし達が来たのは1945年のベルリン攻防よ…」

 

 

次は、バレー部のキャプテン磯部が質問して来た。

 

 

「私、磯部典子バレー部のキャプテンです、ところで、バレーは好きですか?よかったらバレー部に入部しませんか!?」 

 

 

「おーい…それ質問じゃなかって勧誘じゃねぇ?」

 

 

「スポーツ!?あたし、スポーツに興味が…」 

 

 

「と言うか、私達はまだここの学園の生徒じゃないから入れないでしょ!」

 

 

スポーツ好きのパウラが眼を輝かした時、勇介と晴香がツッコミを入れる。

 

そして次に歴女達が質問して来た。まず、最初にエルヴィンが質問してきた。

 

 

「私は、エルヴィンだ。それで、貴殿達はどんな偉人が好きなのだ?」

 

 

「俺は、かつての上官の山下将軍だ」

 

 

「おおっ!山下元帥か。確かに海の山本、陸の山下と並ぶ名将だ」

 

 

「あぁ、元帥?俺は山下将軍の指揮下のマレー作戦で世話になったお方だ」

 

 

「あたしは、鹿児島出身の村田径芳よ」

 

 

「私は、左衛門佐と申す。」

 

 

「私は、おりょう。薩摩出身の村田径芳は射撃の名人ぜよ」

 

 

エルヴィンとおりょうの後、次にカエサルが質問してきた。

 

 

「君達は、イタリア語やラテン語には興味ないか?」

 

 

「わたくしは、英語とイタリア語とラテン語はもちろん、フランス語とロシア語も話せます。貴族としての嗜みですわ」

 

 

「へぇ〜貴族!それは興味深い!」

 

 

アリシアは出来ると言い、イタリア語やラテン語が出来て常識と思っているカエサルは、何でも興味を抱いたようだった。

 

 

すると、手をパチパチさせながら角谷が

 

 

「はいはい〜。みんな他にも聞きたい事があるかもしれないけど、それくらいね〜!質問は戦車の洗車が終わってからね〜」

 

 

「いいか!お前達、彼らの存在は機密なんだ。決して口外するんじゃないぞ!!」

 

 

 

『はい!』

 

 

河嶋が勇介達の存在を他の誰にも話すなと釘を刺す。そして、戦車道履修生達は、自分達が見つけた戦車を洗車する。

 

 

勇介達との、交流を終え洗車に入ろうとしていた時、勇介の元にみほがやって来た。

 

 

「あの、桜井さん!?」

 

 

「西住さん、何ですか?」

 

 

「あの、その怪我の方は大丈夫ですか?」

 

 

「あぁ、まだ少し痛むがだいぶ良くなった」

 

 

勇介は、軍帽を脱ぐと額には包帯が巻かれていた。

 

 

「そうですか、それと…よかったんですか」

 

 

「よかったと言うのは、戦車道に入った事か?」

 

 

「はい…桜井さん達は戦争で心に傷を負っている上に、剰え戦車道に懐疑的でしたし」

 

 

「確かにまだ戦車道についてまだ納得していない所もある。だが、これは、俺達が決めた事だ。西住さんが後ろめたく思う事じゃない筈だ。それに俺達には、この時代、元の時代のどこにも居場所なんてないんだ!それに、逃げたくないんだ!自分の運命から…」

 

 

勇介は、悲しそうな表情でそう言って自分らの戦車の方へと歩いて行った。

 

 

 

「(桜井さん…私に何か桜井さんを癒す為になにか出来ることはないかな?…自分の運命から逃げたくない…)」

 

 

みほは、心の中で勇介を癒す為に自分に何か出来ないかと思った。そしてその後、戦車道履修生達は、自分達が洗車する戦車を見つめていた。

 

 

「ガッチリしてますねぇ」

 

 

「いいアタック出来そうです」

 

 

そう言ってバレー部の4人は八九式中戦車を見る。

 

日本初の国産量産型戦車で18口径57m砲を搭載しているが装甲の厚さが17mと非常に薄く脆いのだ。

 

勇介と晴香も、戦車教育時代に世話になっていた。

 

 

「砲塔が回らないな」

 

 

「象みたいぜよ」

 

 

「ぱおーん」

 

 

「戯け!三突は冬戦争でロシアの猛攻を押し返した凄い戦車なのだ!フィンランド人に謝りなさい!!」

 

 

「「「 すみません! 」」」

 

Ⅲ号突撃砲を象みたいと揶揄する歴女達にⅢ突を擁護するエルヴィン。

 

カエサル、左衛門左、おりょうはフィンランドがどっち方面にあるのか分からないのに取り敢えず頭を下げる。

 

Ⅲ号突撃砲がフィンランドに配置されるのは冬戦争じゃなく継続戦争。

 

Ⅲ号突撃砲の当初の任務は戦車との交戦ではなく、歩兵の支援だった。対戦車用自走砲としてⅢ号戦車の車体を流用したⅢ号突撃砲。高速の75m砲を備えた車高が低いドイツ軍最強の対戦車兵器であり、1945年の終戦までに数多くの連合軍戦車を撃破した。

 

 

「大砲が二本あるね」

 

 

「大きくて強そう」

 

 

そう呟きながら、M3中戦車リーを整備する一年生チーム。

 

大口径砲の75m砲を車体の右側に搭載しているのが特徴だ。M4シャーマン中戦車が登場するまでアメリカ軍の主力戦車。

 

勇介は、1942年のフィリピンの戦いにて、米軍戦車との戦いにて何度かM3中戦車と遭遇し戦った事があるが、手強かった。

 

 

「うわぁ!ベタベタする」

 

 

「これはやりがいがありそうですね」

 

 

武部がⅣ号の車体を手で触れると車体には油汚れで気色の悪い感触がし拒絶した。

 

その後、皆は汚れてもいいように制服から体操着に着替えた。そしてみほは手慣れた様にⅣ号の車体に上りキューポラの中を覗くとみほは鼻を摘んだ如何やら戦車の中は悪臭が漂っている様だった。

 

 

「車内の水抜きをして錆び取りをしないと古い塗装も剥がしてグリスアップもしなきゃ」

 

 

みほは目の色を変えて的確に清掃する場所を指示する。その一方でみほの隣では優花里が目を輝かせてみほを見ていた。

 

 

「こいつを掃除するなんて久しぶりだな」

 

 

「そうですわね、戦場じゃそんな余裕なかったから車体のあっちこっちに泥や砂埃が付いているし、車内は埃で汚れているわね」

 

 

「あたし達、良くこの中で気持ちよく休んでいたんだな…そして、純子と共に…」

 

 

晴香とアリシアとパウラがパンターⅡを見て言ってると、つい数日までいた仲間だった純子の名前を呟いた。

 

 

 

「おーい、思い出に浸ることは悪くないが…早急に取り掛かるぞ」

 

 

「「「 はーい 」」」 

 

 

勇介が言い晴香達も清掃を開始する。

 

彼らは野戦服のままだが、頭を保護する為制帽から鉄製のM35鉄帽ドイツ軍を象徴するヘルメットを被っていた。

 

 

「ちょっ、ちょっと沙織さん!もぉ〜冷た〜い」

 

 

「だ、誰ですか!?」

 

 

沙織が、ホースで水を掛けたらその水が華に掛かり、ホラー映画に出てきそうな女幽霊みたく恨めしそうな声でゆっくりと沙織の方に振り返る姿を見た秋山は背筋が凍る様な寒気が走った。

 

そしてⅣ号戦車の隣の歴女達のⅢ号突撃砲では

 

 

「高松城を水攻めじゃぁ!!」

 

 

「ルビコンを渡れ!!」

 

 

「ペリーの黒船来航ぜよ」

 

 

「戦車と水と言えばノルマンディーのDD戦車でしょ!」

 

 

「「「 それだ!! 」」」

 

 

水と自分達の専門歴史絡めて清掃する歴女達。

 

 

「もうびしょ濡れ」

 

 

「恵みの雨だぁ!」

 

 

「ブラ透けちゃうよ」

 

 

子供の様にはしゃぐ一年生達。ホースを上に向けて噴水みたいに水を出して雨を降らせている様だった。

 

 

「今日は戦車を洗車すると言っただろ」

 

 

「うまいね〜座布団一枚」

 

 

「決してそう言う意味で言ったのではありません」

 

 

「それよりちょっとは手伝ってくださいよ」

 

 

河嶋が戦車を洗車と言って戦車と洗車をかけたと思ったのか、座布団一枚と言うが河嶋本人は別に洒落で言ったわけでない。しかも、角谷と河嶋二人だけが体操服ではなく、制服のままで38(t)を清掃していたのは、副会長である小山一人だけだった。

 

しかも彼女だけ体操服でなくビキニの水着姿で。当の二人は傍観者気取りで何にもしない、小山の言う事も最もな意見だった。

 

 

すると

 

 

バァン  カキイィン

 

 

「「「 ひいっ!? 」」」

 

 

38tの車体に一発の弾丸が弾かれ、生徒会長たちは驚愕した。

 

それは、九九式狙撃銃を構えて撃ち放ち、身体が赤黒く染まった晴香だった。

 

 

「おい、会長と河嶋!!小山さんが懸命に洗車しているのに、なにサボっているんだ!!働かぬ者には、あたしが頭部に風穴を開けてやるぞ!!」

 

 

「ひいいぃ~!!」

 

 

それを見た河嶋は慌てながらブラシを持ち、車体を擦り、清掃した。

 

 

「本物の鉄砲だ~!」

 

 

「凄い、九九式狙撃銃だ!!」

 

 

 

 

 

 

一年生と歴女たちは興奮した。

 

 

 

勇介達もパンターⅡを洗車する。車体の内外を掃除すると

 

 

「中も結構泥や埃が溜まっているわね。車体にも、敵の返り血を浴びている…戦場だったからあんまり気にしていなかったらけど、改めて見ると結構汚れてるわね」

 

 

「こいつを受領して以来、いつも戦闘で清掃する暇がなかったからいい機会だ。」

 

 

勇介はそう言って雑巾であらゆる所を念入りに拭いていく。

 

 

そして日が沈む頃には戦車の洗車は終わっていた。みんな体操着や顔は油や煤で汚れていた。

 

 

「よし、良いだろう…後の整備は自動車部の部員に今晩中にやらせる。それから、お前達の戦車の判定装置と装甲材も今晩中に自動車部の部員にやらせる。それでは…本日は…解散!」

 

 

疲れてふらふらになった河嶋が、解散の号令を掛けその日は解散となった。

 

 

「早くシャワー浴びたい」

 

 

「早く乗りたいですね」

 

 

「う、うん…」

 

 

早く戦車に乗りたくて爽やかな優花里とは逆に何故かみほの表情はどこか元気の無い堕天使ブルーだった。

 

 

「…」

 

 

そんなみほの事を勇介は、黙って見つめていた。

 

 

 

 



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第6話 故郷と身内の経緯

 

 

洗車も終わり日が暮れ空は茜色に染まっていた。

 

勇介達は、角谷から渡された寮の鍵を持って学生寮に向かっていた。それまで勇介達は、戦車の中や格納庫で過ごしていたので部屋で寝泊りすると言うのは久しぶりだった。

 

角谷から渡された寮の鍵は一人一人違う番号が書かれ各人一人一人バラバラの部屋の様だった。

 

晴香、アリシア、パウラは、角谷に教えて貰った寮に向かっている途中に突然勇介が足を止めた。

 

 

「どうしたの車長?」

 

 

「ちょっと一人で考え事がしたいから君達は、先に行っててくれ」

 

 

「いいけど、すぐに戻って来るのよ」

 

 

勇介は、皆とは別に一人別行動を取ることにした。そして勇介は、学園艦のデッキに行きそこから海を眺めていた。

 

 

「ここが未来の日本の世界か…あのノルマンディー海岸で見た夕日…未来でも夕日は変わらないなぁ…しかしこの学園艦本当に街を丸ごと載せた船と言うより、海上の都市だな」

 

 

角谷から学園艦の事は聞いていた。

 

本当に巨大な船だった。全長が7600m・高さ440m・3万人を収容できると来た。超巨大な船でそこに街を丸ごと一つ載せているので、船よりは水上都市。

 

勇介は、物思いにふけりながら海を眺めていると向こうのデッキから声が聞こえて来た。

 

 

「港はどっちかな?」

 

 

「はぁー…そろそろ丘に上がりたい。アウトレットで買い物もしたいし」

 

 

「今度の週末は帰港するんじゃ」

 

 

「どこの港だけ?私港、港に彼が居て大変なんだよね〜」

 

 

「それは、行き付けのカレー屋さんでしょ!」

 

 

とみほ達が話し合っていた。すると、みほ達が勇介に気付いた様で声を掛けてきた。

 

 

「あ!桜井さん!」

 

 

「きみ達か、こんな所で奇遇だな」

 

 

「桜井さんは、ここで何をしていらしゃったんですか?他の皆さんとご一緒じゃないんですね」

 

 

「あぁ、晴香達は先に帰った。俺は、ここでちょっと夕日を眺めていたんだ。これから角谷から用意された宿舎にかれる所だ」

 

 

「そうなんだ。だったらさ桜井さんも一緒に帰らない」

 

 

一緒に帰らないかと誘われた。別に拒む理由も無いので承諾する事にした。すると、優花里が

 

 

「あ、あのよかったらちょっと寄り道して行きませんか?」

 

 

「え?」

 

 

「ダメですかね?」

 

 

そんなこんなで、優花里に連れられる形で5人は、とある店にやって来た。

 

 

「戦車倶楽部?」

 

 

プレートの看板を見てそう言う。中に入ると如何やら此処は戦車関連の商品を取り扱っている様だ。戦車倶楽部には、書籍やプラモデルの他に戦車の転輪や砲身まで販売しているらしい。

 

 

「こんな店があるんだ」

 

 

「凄いですね」

 

 

「でも、戦車ってみんな同じに見える」

 

 

沙織が言うと

 

 

「ち、違います!!全然違うんです!どの子もみんな個性と言うか特徴が合って動かす人によっても変わりますし」

 

 

優花里は、異議を申し立て戦車に対し熱弁する。

 

 

「華道と同じなんですね」

 

 

華がそう言うと、沙織はうんうんとなんか納得したかの様に頷く。

 

 

「うんうん女の子だってみんなそれぞれの良さがあるしね。目指せモテ道!」

 

 

グッドサインする沙織。確かに女の子には色々とその子の良い所があるが、モテ道ってなんなのか疑問に思う。

 

 

「話が噛み合っている様な?ない様な?」

 

 

「と言うか、話の内容ぐだぐだじゃないか!?思い切り話の路線が脱線してるんじゃないか?」

 

 

三人を見て苦笑いをする二人。その後優花里は、戦車倶楽部に設置してある戦車のシミュレーションゲームをやり武部と五十鈴の二人がその後ろから見ていた。

 

そして、勇介は戦車の歴史に関する書籍の増版を手にし、項目を開いた。

 

 

「…これは…」

 

 

みほは店内に設置してあるテレビに目を向ける。未来のテレビは本体が薄くカラー映像で鮮明に映し出される様だ。

 

 

『…次は、戦車道の話題です。高校生大会で昨年MVPに選ばれて国際強化選手となった西住まほ選手にインタビューしてみました』

 

 

画面に出て来たのはドイツ軍のパンツァージャケットを模した戦車服を着た茶髪の女性が映る。

 

 

「(西住?そう言えば西住さんと同じ名字だな。西住さんの身内か?)」

 

 

どこかみほに似て、そしてみほと同じ西住の姓である事から身内かと勇介はそう推測する。

 

 

『戦車道の勝利の秘訣とは何ですか?』

 

 

『諦めないこと。そしてどんな状況でも逃げ出さない事ですね』

 

 

アナウンサーが西住まほにインタビューをしまほは、カメラに向かってそう言う。みほは、ニュースを見て暗い顔になる。

 

 

「大丈夫か、西住さん?顔色が優れない様だが」

 

 

「うんうん何でもない。大丈夫だよ」

 

 

「そう…か…ん…?」

 

 

すると、沙織がみほの落ち込んでいるのを見ていると、テレビに顔見知りの人物らしき者が写っていた。

 

 

「どうしたのですか、桜井殿…?」

 

 

「いや…気のせいかな…?…何でもない…」

 

 

優花里が察したのか、勇介はみほにそっぽ向いた。

すると沙織が

 

 

「そうだ!みほの部屋遊びに行っていい?」

 

 

「私もお邪魔したいです」

 

 

「うん!」

 

 

とみほは嬉しげに頷く。

 

 

「あの…」

 

 

優花里が恐る恐る手を挙げる。

 

 

「秋山さんもどうですか?」

 

 

「ありがとうございます!!」

 

盛り上がる女子達。

勇介は場違いな様子だと感じ、退散すると思っていると急にみほに呼び止められる。

 

 

「あの!桜井さんもよかったら一緒にどうですか?」

 

 

「え!?…いいのか過去から来た得体の知れない男の俺なんかを家に招いて?」

 

 

「そんな事無いです!例え桜井さんが過去から来た人だとしても桜井さんは桜井さんです。それに、桜井さんは悪い人じゃ無いと思うんです。よく知りもしない相手を見た目で判断するのは良くないです!知った上でも他人が人を判断する事は間違ってます。無理か如何かを決めるのは自分だけです」

 

 

「そうだよ。こんなにイケメンの悪い人が居るわけないよ。だからさ桜井さんも一緒に行こうよ」

 

 

「私も桜井殿達が悪い人では無いと、信じています」

 

 

「わたくしもそう思います」

 

 

勇介は、この時みほが得体の知れない男を家に誘うなど警戒心がないので警戒心を匂わせる言葉を言う。幾つかの戦場で、多くの米英仏露兵や現地パルチザンやゲリラやレジスタンスを殺して来た勇介をいい人呼ばわりしたことに関して思っていた。

沙織は世の中には優しい言葉と綺麗な顔で近づいてきて女性を騙す男も居ることを実感した。

一方のみほは、他人と距離を取る勇介に心を開かせようと試みる。 そして、沙織や優花里や華も追随する。

 

 

「それに、桜井さん、今日の晩ご飯はどうするつもりなんですか?」

 

 

「一応、戦闘食があるから今日はそれで済まれるつもりだが?」

 

 

「ダメですよ!それじゃぁ栄養が取れないですよ。ちゃんとご飯を食べないと!」

 

 

食事は軍用食で済ませようとする勇介に、みほは軍用食だけでは栄養のバランスが取れないと言って尚更彼を誘って来る。

 

 

「あはは…俺の負けだ…わかったそれじゃあお言葉に甘えさせて貰おう」

 

とこの時ばかり勇介は流石に折れ、両手を上げながらみほ達の誘いに乗ることにした。

 

勇介の食事はドイツ軍に支給されたレーションしか食するのが無いから食事会に誘われて若干嬉しい気もする。

 

帰り道にスーパーで晩ご飯の材料を買ってからみほの住んでいる寮に向かった。

その途中では何人かの人からの視線を感じていたが無視する事にした。服装が目立つのは分かるが今の勇介にはこれしか着る物がないのだから仕方ない。

 

 

「散らかってるけど、どうぞ」

 

 

「かわいい」

 

 

「西住さんらしい部屋ですね」

 

 

「…可愛いな…」

 

 

みんながみほの部屋に入って行く。そこには、傷だらけで包帯グルグル巻き姿のボコボコのくまのぬいぐるみが沢山あった。

勇介は何がかわいいのかよく分からないがボコを見て何処となく魅了し、呟いた。背負っている雑嚢と軍刀、拳銃を下ろした。

 

 

「よし!じゃあ作るか。華は、じゃがいもの皮剥いてくれる」

 

 

「え?あ、はい」

 

 

「私ご飯炊きます」

 

 

沙織にそう言われて材料の入った袋を持ってキッチンに行く華、優花里は、そう言うと背負っていたリュックを下ろし、鼻歌で歌いながらリュックから飯盒炊飯を取り出す。

 

 

「何で飯盒?いつも持ち歩いてるの?」

 

 

「はい。いつでも何処でも野営出来るように」

 

 

そう得意げに言う優花里。

 

優花里の装備を目の当たりにした勇介は、兄の洋介や陸軍幼年学校時代の演習を懐かしく思った。

 

 

「うわぁ!」

 

 

突然キッチンの方から華の悲鳴が聞こえてきた。行ってみるとどうやら彼女は包丁で指を切ってしまったらしく血が出ている。

 

 

「すみません。花しか切った事ないもで」

 

 

「ああ!待ってて絆創膏何処にしまったかな?」

 

 

みほは、どこかにしまった絆創膏を探してあっちこっち引っ掻き回す。

 

 

「みんな意外と使えない、はぁ〜よし!」

 

 

コンタクトを外して眼鏡に変え溜め息を吐く沙織。

 

勇介は素早く腰に掛けている雑嚢から綺麗な白い布生地を取り出して水筒を持って華の所に向かう。 

 

 

「見せてみろ」

 

 

「え!?///」

 

 

勇介は華の手を取った。見たところ軽い切り傷の様だ。勇介は怪我をした華の指を水筒の水で血を洗い流して雑菌し、次に布生地を指に強く結び指を圧迫し止血して応急処置をする。

 

 

「これでよし!圧迫したから大体の出血は治まる。後は絆創膏を張れば大丈夫だ。後は俺が代わるやるから五十鈴さんは西住さんの所に行って絆創膏を張ってもらいな」

 

 

「ありがとうございます。桜井さん」

 

 

「華…いいなぁ…わたしも怪我して桜井さんに手当てして貰おうかな~…」

 

 

「…冗談じゃないぞ武部さん、負傷をしない方が良い!」

 

 

「…ぶぅ~…」

 

勇介が沙織に注意すると、彼女は膨れっ面になる。

お礼を言うと華はみほのところに行き絆創膏を貼ってもらう。勇介は華から受け取った包丁でじゃがいもの皮を剥いて切って行く。

 

 

「へぇー桜井さんって医学の知識だけじゃなくて料理とかも出来るんだ」

 

 

沙織が感心した様に話しかけて来た。

 

 

「医学って程じゃない応急処置を陸軍幼年学校でちょっと習っただけだ。料理も母から教養として教わった程度だし、軍隊生活でも当番制でやっていたからな」

 

 

「へぇーそうなんだ。じゃあ、桜井さんはじゃがいもの皮剥きと野菜の下処理をお願い。私は、煮込みと味付けをするから」

 

 

「分かった」

 

 

その後、買ってきた材料で、出来上がったのが肉じゃがだった。久しぶりに食べる日本食だ。

 

 

「じゃぁ食べようか」

 

 

「はい!」「はい!」「はい!」「あぁ!」

 

 

「「「「「 いただきます! 」」」」」

 

 

合掌一礼して肉じゃがを食べる。

肉じゃがは、勇介がドイツに居た頃、晴香と純子が作ってくれた事があった。幸いドイツにはじゃがいもがあるので材料は何とかなった。

 

 

「う〜ん美味しい!」

 

 

「いや〜あ、男を落とすにはやっぱ肉じゃがだからね」

 

 

「落とした事あるんですか?」

 

 

「何事も練習でしょ!」

 

 

「と言うか、男子って本当に肉じゃが好きなんですかね?」 

 

 

「都市伝説じゃないですか?」

 

 

「そんな事無いもん!ちゃんと雑誌のアンケートにも書いて合ったし。そうだ!男子の意見も聞いてみよう。丁度、桜井さんもいる事だし。ねぇ、桜井さんは肉じゃが好きだよね!!…え?」

 

 

沙織がなんか勇介に振ってきた。だが、勇介の目から涙が流れた。

 

 

「懐かしい味だな…俺は、2年も欧州に滞在したからそう言うのはよくは分からん、他の男は知らないが昔、母が作ってくれた肉じゃがに似ていて俺は好きだな」 

 

 

「本当!」 

 

 

「あぁ、これ程美味しい武部さんの料理を将来毎日食べられる男は幸せ者だな」

 

 

「やだもー////この料理を毎日食べたいって、それってもう完全にプロポーズじゃない!!そりゃあ私は、港に彼が居る恋多き乙女だけどさ///別に、いやって訳じゃないよ!!桜井さんとは、実質70歳の歳の差だけど全然私構わないから!!」

 

勇介が気の利いた言葉を掛けると沙織は顔を赤くしなにやらぶつぶつ呟いている。

 

 

「武部さん?」

 

 

「あ!でも、私はまだ花の女子高校生だから結婚は卒業するまで出来ないからそれまではお預けにしよ!桜井さんは、式はどこであげたいあと子供は何人ほしい!」

 

 

「あの武部さん!?」

 

 

「何ですか!旦那様」

 

 

勇介が声を掛けると、武部は顔を赤らめ満面の笑みで勇介を『旦那様』呼ばわりし、夫婦気取りでいた。

勇介は何のつもりで言ったかに傾いていた。

 

 

「あの、俺は何か誤解する様な事を言ったのなら謝るが、あれは、武部さん作った料理を褒めただけであって断じてプロポーズではない」

 

 

「誤解?」

 

 

「そうだ、すまん…それに、俺には婚約者がいる…///」

 

 

勇介は、誤解させた事を、赤面しながら謝ると、沙織は顔を真っ赤にさせて両手で顔を覆い隠す。

 

 

「///きゃぁ!!恥ずかしいぃ〜////」

 

 

その後は、何とか誤解が解けたが沙織にはこの事は、黒歴史になったのかも知れない。

 

すると、華が勇介の気になった言葉を質問した。

 

 

「あの…?桜井さん…いま、婚約者がいると…?」 

 

 

「…あ…あぁ…///」

 

 

「「「「 え…?ええぇっー!! 」」」」

 

 

みほ達4人は、勇介に婚約者がいることを驚愕した。

すると沙織は勇介の軍服の襟首を掴み、問い詰めた。

 

 

「さ…ささ…桜井さん、婚約者がいるの〜!?一体どんな女性~!?」

 

 

「お、落ち着け武部さん!ど…どんな女性って…今写真を見せるから…」 

 

 

そして勇介は胸ポケットから写真を取り出し、みほ達に渡した。

 

 

「こ…これは…?」

 

 

1942年12月、広島の呉写真館で撮った記念写真。

 

写っている人物はモノクロでありながら自身の姉、従軍看護婦の桜井志帆と兄の海軍の准士官、桜井洋介と恋人の従軍看護婦の神矢雪。

 

洋介の後輩である下士官の沖田進次郎と当時の大賀晴香と豊田純子。

 

そして、陸軍下士官時代の勇介と婚約者、従軍看護婦の西澤澪だった。

 

 

「…確かに当時の写真ですね…」

 

 

「桜井さんのお姉さんは綺麗な人〜!お兄さんと後輩さんもイケメンだ~!」

 

 

「だが武部さん、姉さんからの電報で兄貴は雪さんと結婚したからな…後輩さんは分からんが…」

 

 

「えぇ〜!うぅ残念…」

 

 

「だから沙織さん、桜井さんのお兄さんも70年前の人ですよ」

 

 

優花里は当時の写真で目を輝かし、沙織は洋介と進次郎の美男子であることを誉めたにも関わらず、結婚したことでガッカリした。

 

華も沙織の言葉に突っ込んだ。

 

 

「桜井さんこの方が澪さん…婚約者ですのね…」

 

 

「あぁ…俺が静岡の陸軍幼年学校の演習でちょっと負傷…当時の彼女は見習いの赤十字看護婦であったために、えっと…惚れた…///」

 

 

華の言葉で、勇介は赤面になりながら頬を掻いた。

 

 

「あぁ~わたしもそんな出会いがしたいなぁ~…だけどよく見るとこの婚約者、みほにそっくりだよ~!」

 

 

「あら…確かにみほさんにそっくりですね~」

 

 

「…桜井さん…だからあの森の中で…」

 

 

「あ~!思い出しました!!」

 

 

「「「「 !? 」」」」

 

 

突然、優花里が声を上げて、4人は彼女を注視した。

 

 

「桜井勇介殿は…つい最新の戦時資料で調べたのですが、戦車の武勇伝で、桜井勇介大尉殿とそのメンバーはベルリン攻防戦で、大多数のソ連軍戦車を前に、多くの民間人を救った英雄です!!そして、あなたのお兄さんの桜井洋介海軍少佐と大賀晴香少尉殿の兄、大賀虎雄海軍大尉も、海軍戦闘機乗りの凄腕エースパイロットですよ!!」

 

 

「え…俺が大尉…?メンバーとベルリンで民間人を救った英雄…兄貴と晴香の兄も…エースパイロットだって!?」

 

 

「えぇ〜!桜井さんとお兄さん、大賀さんのお兄さんも英雄〜!どうしよう…英雄の妻となれば…どんな女性になれば~…」

 

彼女の言葉で英雄と聞いた勇介は、目を見開いた。

あのベルリン攻防で戦死した勇介たちは二階級特進していたのを実感した。

 

 

 

 

 

 

歴女宅 ー

 

 

 

 

「やはりそうだったのか~!!」

 

 

「ん…?どうしたのだエルヴィン?」

 

 

「なにがやはりなのだ?」

 

 

エルヴィンは大洗の応援にやって来たパンターⅡの搭乗人物が気になり、戦時関連の本を開き、確認していた。

 

 

「あ…あのタイムスリップした者たち、メンバーの桜井勇介は旧陸軍大尉殿…ベルリン駅で敵戦車を撃破し、さらに民間人を守った英雄だ~!」

 

 

「なんだって!?」

 

 

「…桜井勇介…っ!?…もしかして、彼の兄は…零戦のエースパイロット、桜井洋介なんじゃ…」

 

 

「桜井洋介!?ラバウル六勇士の厚木十三大佐の部下、桜井少佐の弟ぎみ!?」

 

 

「あ〜っ!六勇士を思い出した!!パンターⅡの大賀晴香さんの兄が、ラバウル六勇士の一員の大賀虎雄大尉!!」

 

 

「なんと!?…しかし…激戦地のベルリンで戦った彼らはなんでここに…?」

 

 

「わからんぜょ…とにかく調べるきに!」

 

 

「「「 おぅ!! 」」」

 

 

次々とお龍とカエサル、左衛門座は驚愕し、彼らの経緯を調査するために資料を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

「桜井殿、あなたは戦場でどの位に戦車を仕留めたのでありますか…?」

 

 

優花里の質問に、勇介は天井に向けて語った。

 

 

「ん…?初陣のマレー作戦に関しては操縦手、今は車長、俺が少なくとも敵を直接仕留めた戦車及び装甲車は15、敵機は8機だ」

 

 

「15っ…それに航空機も…!?」

 

 

「あぁ、晴香とパウラも砲手に携わり、パウラは10、晴香は砲手を兼ねての敏腕狙撃兵だ。75を仕留めたな…」

 

 

「75っ!?」

 

 

「航空機を除いて、丁度100撃破!?それは凄い武勇ですね!!」

 

 

沙織は数に驚き、優花里は目を輝かしていた。

 

そして勇介は、家族に関して質問し、優花里は深刻な顔をした。

 

 

「秋山さん、その戦時で俺の兄貴は…姉さんは?どうなったんだ…?」

 

 

「はい、ですが…大賀晴香殿にも辛く残酷な事実になります…」

 

 

「…構わない…仲間の晴香にも事実を伝えなければならん……」

 

優花里の口から、勇介の兄たる桜井洋介は呉で別れた後、1943年1月に南方の最前戦、ニューブリテン島のラバウル基地に配属。

 

現地に配属していた晴香の兄、大賀虎雄の経緯もあり、山本五十六元帥の指示で特殊飛行部隊『ラバウル六勇士』を編成した。

 

結成してから翌年の2月、六勇士は戦局の濃厚で解散。洋介は空母部隊、虎雄はシンガポールに配属。

 

45年の戦争末期、7月末に大賀虎雄はマラッカ海峡で戦死。

 

本土防空と特攻隊の護衛を担い、終戦後の8月18日に、桜井洋介は占守島の戦いでソビエトロシア軍との戦闘で戦死した。

 

 

「…そう…か…兄貴が…晴香の兄貴も…戦死したんか…」

 

 

70年遅れの戦死通告を知った勇介は食事を止め、みほの部屋は静かになった。

 

 

「でも、お姉さんの桜井志帆さんは戦後生き延びました!」

 

 

「…姉さんが、そうか…よかった…」

 

 

姉が無事であったことは、何よりの気休めだった。

 

するとみほがテーブルに飾られている花に目を遣る。 

 

 

「お花も素敵」

 

 

「ごめんなさい。これぐらいしか出来なくて」

 

 

「うんうん。お花があると部屋が凄く明るくなる」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

みほがそう言うと華は嬉しそうに礼を言う。その後、食事を終わらせて皆は帰るため寮の入り口の前で別れる事にした。

 

 

「じゃあまた明日」

 

 

「お休みなさい!」

 

 

「お休みなさい!」

 

 

「桜井さんもお休みなさい」

 

 

「あぁ、お休み」

 

 

みほは沙織達に手を振って別れる。

 

 

「やっぱり転校して来てよかった」

 

 

と嬉しそうに言う。 

 

 

「桜井さんは、部屋の場所分かりますか?」

 

 

「いいや」

 

 

「それなら一緒に行きましょう!」 

 

そう言うとみほは勇介の部屋を探しにいく。

勇介も角谷から渡された鍵で部屋に行くのだが、部屋の鍵の番号を見て部屋に向かう。すると、そこは 

 

 

「ここが俺の部屋…」

 

 

勇介の部屋は何と先居たみほの部屋の隣だったのだ。

 

 

「此処って私の部屋の直ぐ隣みたいですね」

 

 

「そうだな…まぁなんだ、隣同士これから宜しくな」

 

 

「はい!こちらこそよろしくお願いします」

 

と軽く一礼した後、勇介とみほは自分の部屋へと入って行った。

 

 

勇介は部屋のベッドに寝転ぶと、あることを考えた。

 

 

「…なぁ姉さん…兄貴…澪…俺が呉で別れた後になにがあったんだ…?」

 

 

自身の家族と恋人が、あの戦禍で何があったのか、自ら調べに打って出るのであった。

 

 

 

 



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第7話 血統の補充操縦士

 

 

 

翌朝、目が覚めた勇介は、まだ時間に余裕があったのでゆっくりと朝の身支度をして、学園から特別に支給された大洗の男性学生制服を着用した。

 

 

そして軽い朝食を済まし、腰に軍刀狼虎を帯刀し、P-38拳銃をホルスターに入れて部屋を出た。

 

晴香、アリシア、パウラも大洗学園の制服を着用し、学園に通学した。

 

 

「学校か…俺の年齢はまだ学生の身分でありながら…行くのが久しいな~!」

 

 

勇介が暫く歩いていると目の前にふらついて歩く大洗女子学園の生徒がいた。

 

どこか具合でも悪いのか、本来人とあまり接触してはいけないが困っている人を見捨てる様な薄情な奴ではないため心配した勇介は、その女子生徒に声をかける事にした。

 

 

 

「おい!あんた大丈夫か?どこか具合でも悪いのか?」

 

 

「辛い…」

 

 

「は…?」 

 

 

「生きているのが辛い…これが夢の中ならいいのに…」

 

 

「おい!君しっかりしろ!」

 

 

「だが、行く!…行かねば」

 

 

彼女は極度の低血圧の様だったために、それでも登校しようとするその根性は褒めてあげるにも関わらず

 

 

「肩は…無理か…仕方が無い」

 

 

肩を貸そうとしたが勇介と彼女の身長の差は開き過ぎるため断念して、勇介は彼女の前に出て屈む。

 

 

「乗れ、途中までおぶって行ってやるから!」

 

 

「…すまない、親切な人恩に着る…」

 

 

彼女は、遠慮なく勇介の背中に乗せる。

 

女性の体重は意外と軽く、自身が武装する人間に対して警戒心が薄い事を考えながら暫く歩いていると、後ろから声を掛けられた。

 

 

「桜井さん!!」

 

 

「西住さん?」

 

 

声のした方を振り返るとみほが走ってやって来た。

 

寝坊して慌てて来た様子で、みほは勇介の背負っている女子生徒を見て事情を聞いて来た。

 

 

「どうしたんですか?この人背負って!?」

 

 

「あぁ、実は学園に向かう途中この子が貧血でふらついて歩いていんで学園まで手を貸してあげているんだ」

 

 

「そうだったんですか。やっぱり桜井さんは、優しい人です。五十鈴さんが怪我をした時もこの人が困っている時も桜井さんは助けてくれる優しい人です」

 

 

「う…よしてくれ、俺はそんな大層な人間じゃない」 

 

 

そんな風にみほと会話して歩いていた。

 

背負っている彼女は、ほぼ寝ている状態だったが、そんなこんなで学園の校門の前まで来ていた。

 

 

「西住さん、後はこの子の事頼めるか?」

 

 

「はい!分かりました。それじゃあ後で」

 

 

「あぁ」

 

 

勇介は、彼女を下ろしてみほに彼女の事を任せる事にした。そして、別れ際に彼女から声を掛けられた。

 

 

「親切な人…あんた名前は?」

 

 

「桜井勇介だ、本日付けでこの学園に通うことになった」

 

 

「覚えた、わたしは冷泉麻子。桜井さんこの借りは必ずいつか返す」

 

 

別れ際に彼女、冷泉麻子から学園まで運んでくれた恩を返すと言われた。

 

他人に受けた恩をきっちり返すとは義理堅く。

 

そう思い勇介は、人気のない裏門から学園内に入る事にした。

 

そして、校門の前には風紀委員の腕章を付けたおかっぱ頭の少女園みどり子が校門前に立っていた。

 

 

「冷泉さんこれで連続245日の遅刻よ」

 

 

「朝は何故来るのだろうか…」

 

 

「朝は必ず来る物なの!成績がいいからってこんなに遅刻ばかりして留年しても知らないよ」

 

 

「えっと西住さん。もし、途中で冷泉さんを見掛けても今度からは先に登校する様に」

 

 

「あ、はい」

 

 

「…そどこ」

 

 

「何か言った?」

 

 

「別に…」

 

 

麻子は、反発する様に園みどり子の名前を略してそど子と呼んだ。

 

聞こえたみどり子は、キリッと睨みつけて言うと、麻子はさっき言ったそど子呼びをはぐらかして、みほに担がれながら校内に入って行く。

結局麻子は、勇介に背負って貰ったのにみほと揃って遅刻確定だった。

 

 

「あんたも悪かった…」

 

 

「あ…いえ」

 

 

「いつか借りは返す」

 

 

彼女は勇介だけではなく、みほにも礼を言って借りを返すと言って二人は教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、午前の授業が終わり午後になり戦車道履修生達と、軍服に着替えた勇介達が戦車格納庫に集合していた。

 

 

「遅いから心配しました」

 

 

「寝過ごしちゃって」

 

 

「そう言えば勇介車長も遅かったですね。何かあったの?」

 

 

「何って…人助けってやつだ」

 

 

「教官遅〜い焦らすなんって大人のテクニックだよね」

 

 

すると、空からジェットエンジンの独特の轟音が聞こえて来た。

 

 

上空から戦後に設立した防衛組織、航空自衛隊の『C-2改』が飛んで来た。

 

 

C-2改は低空飛行を開始すると後部のハッチを開けてそこから帝国陸軍の後継組織、陸上自衛隊の最新鋭10式戦車が空挺降下して来た。

 

着地した10式戦車は、駐車場に停めてあった赤い車に激突し赤い車はそのまま吹っ飛ばされる。

 

 

「学園長の車が!」

 

 

「あ〜やっちゃったね〜」

 

そのまま10式はバックして赤い車を踏み潰してぺしゃんこにしてしまう。あの戦車の乗員はいつか学園長から訴えられるんじゃないか?

 

 

「ポテチ…」

 

 

「あぁ…ありゃ完全に廃車だな」

 

 

学園長の車をお釈迦にしたにも関わらず10式戦車はこっちに向かって来て停車する。そして女性が上半身をキューポラが出して挨拶して来た。

 

 

「こんにちは!」

 

 

そして、みんなはそれぞれのチームで整列をし、その前に戦車道の教官が立つ。

 

 

「騙された」

 

 

「でも、素敵そうな方ですよね」

 

 

沙織は女性の教官だったので落胆し、華がフォローする。

 

普通戦車道の教官なんだから女性だと、心の中で実感した。

 

 

「特別講師の戦車教導隊蝶野亜美一尉だ」

 

 

「よろしくね。戦車道は初めての人が多いっと聞いていますが、一緒に頑張りましょう」 

 

 

 

元気よくあいさつをする蝶野亜美一等陸尉。

 

 

そして蝶野が周りを見て回るとみほの方に目が止まった。

 

 

「あれ!?西住師範のお嬢様じゃありません?師範にはお世話になってるんです。お姉様もお元気?」

 

 

「あぁ…はい」

 

 

「西住師範って?」

 

 

「有名なの?」

 

 

周りが騒めくと蝶野が西住流について説明する。

 

 

「西住流って言うのはね、戦車道の流派の中でも最も由緒ある流派なの」

 

 

「(…西住流…お姉さん…やはり、テレビとやらに写っていた人物が…西住さんのお姉さんか…)」

 

 

昨日、戦車倶楽部のテレビでインタビューで応えていた人物が、みほの姉だったのを勇介は確信した。

                

 

「教官!教官はやっぱりモテるんですか!?」

 

 

そんな中、みほの顔が暗くなって行くのを察した沙織は手を挙げて蝶野に質問をする。彼女の質問に蝶野は首を傾げる。

 

 

「うん…モテると言うより狙った的を外した事はないはないわ!!撃破率は120%よ」

 

 

 

「「「「 おおお!! 」」」」

 

 

「「「「(それ、答えになっていないでしょ?) 」」」」

 

 

 

心の中で勇介たちはそう突っ込んだ。

 

すると蝶野がそう言って周りを見渡していると勇介達の方を見てやって来る。

 

 

「君達が過去からタイムスリップして来たって言うのは、角谷さんから聞いているわ。初めまして私は、日本国陸上自衛隊戦車教導隊蝶野亜美階級は一等陸尉よ。他国では大尉に相当するわ」

 

 

「整列!!」

 

 

勇介は階級で反応し、彼の合図で、3人は一子乱れぬ横列に並んだ。

 

 

「此方こそ一尉、自分は大日本帝国陸軍少尉、第4連隊戦車部隊所属、遣欧戦車外人小隊の桜井勇介です!」

 

 

「…桜井…勇介…?…あっ…ドイツのベルリンで民間人を守った伝説の……し、失礼しました!桜井大尉殿!!」

 

 

勇介の存在を知った蝶野は慌てて彼に敬礼した。

 

時代と組織は違えど、彼の階級は蝶野と同じ位、まさか年下の人物が同じ階級、最も、自身が戦車に関する戦史で刻まれていた事に驚いた。

 

 

「かしこまらなくっていいですよ。自分はそう言う堅苦しいのは苦手ですので一尉。それにあなたはこの学校の戦車道の教官として、私はそれを習う生徒としていますので立場上はあなたが上です!」

 

 

「そう言っていただけると助かります、大尉殿!」

 

 

安心したように言う蝶野

 

 

「こちらが、パンターⅡの搭乗隊員です」

 

 

「大賀晴香、陸軍曹長。砲手担当です!」

 

 

「アリシア・A・フェアバンク、国防陸軍曹長。通信担当ですてよ」

 

 

「パウラ・M・オットー、国防陸軍伍長。装填担当です!」

 

 

「(この方たちが、ベルリン駅で民間人を守り、戦った伝説のメンバー…そして、桜井志帆さんと桜井洋介少佐の弟君の勇介大尉と、大賀虎雄大尉の妹様…大賀晴香少尉……)」

 

 

蝶野亜美は、冷や汗を掻きながらベルリン駅で民間人を守った伝説の隊員を見て興奮していた。

 

 

そして、次に優華里が手を挙げて練習内容を聞く。

 

 

「教官!本日はどの様な練習を行うのでしょうか?」

 

 

「そうね、本格戦闘の練習試合。早速やってみましょう」

 

 

「え!?あの、いきなりですか?」

 

 

いになりの実戦に焦る小山柚子。

 

 

「大丈夫よ。何事も実戦!実戦!戦車なんてバーっと動かしてダーっと操作してドンっと撃てばいいんだから。それに、桜井勇介大尉殿達の実力も知りたいであります!」

 

 

「まぁまぁ一尉、俺たちはそんな大したテクニックじゃありません」

 

 

蝶野の説明にみんな不安そうな顔をする。

 

そんな下手な説明で戦車を操縦出来れば誰も苦労せず、こんな説明に関して彼らの戦車学校の教官の雑な指導はなかった。

 

勇介は、蝶野の前に謙虚な姿勢を向け、自身たちが搭乗するパンターⅡに向かった。

 

 

「それじゃあそれぞれのスタート地点に向かってね」

 

 

そう言われて各チームは皆、自身の乗る戦車に向かう。

 

 

「どうやって動かすのこれ〜?」

 

 

「知ってそうな友達に訊いてみようか?」

 

 

「ネットで聞いた方が早いんじゃない?」

 

 

戦車に触れた事も増して乗った事もない一年生チームが操縦出来るはずもなく戸惑う。

 

 

一方でバレー部チームは

 

 

「ここで頑張ればバレー部は復活する!!あの廃部を告知された日の屈辱を忘れるな!ファイトォー!!」 

 

 

「「「 おおお~!! 」」」

 

 

バレーチームは戦車道で、悲願のバレー部を復活させる為に、キャプテンの磯部を中心に皆一致団結する。

 

 

また、歴女達は 

 

 

「初陣だぁー!」

 

 

「車篝の陣で行きますかねぇ〜」

 

 

「ここはパンツァーカイルで」

 

 

「一両しかないじゃん」

 

 

と相変わらずブレない様子だった。

 

 

「はい!みんな早く乗り込んで!!」

 

 

「我々も乗り込みますか」

 

 

「うん」

 

 

手を叩いて指示する蝶野に言われ角谷は、38(t)戦車に乗ろうとしたが、車高が高くて登れなかった。

 

 

「河嶋〜」

 

 

「は!」

 

 

仕方なく河嶋を呼び、呼ばれた河嶋は角谷の所に行くと戦車の前で四つん這いになり角谷は四つん這いになった河嶋を踏み台にして車体に乗る。

 

 

「しかし、いきなり試合なんて大丈夫ですか。それに、桜井くん達は、本物の軍人ですよ!勝てますか?」

 

 

「まぁ、どうにかなるから」

 

 

「じゃぁ、各チームそれぞれ役割を決めてくれる。3名のチームは車長と砲手、操縦手。4名はそれに加えて装填手。5名は通信手ね」

 

 

とそれぞれのメンバー役割分担を各チームで決める様言われる。

 

 

そして勇介達は、搭乗するパンターⅡに向かっていた。

 

 

「いいか、君達!俺達の未来での最初の任務は大洗の乙女達とこの試合で勝つ事だ!戦死者の出ない戦いだ!だが、だからと言って備えを怠り慢心せず常に万全の状態で俺達は戦う!勝利を我が手に!」

 

 

 

「「「 はい!! 」」編成は、いつも通りでいいわね」

 

 

 

「そうですわね、とそれしか考えられないですわよね」

 

 

「それじゃあ、俺が車長を、パウラが装填手、アリシアが無線手、晴香が砲手だ」

 

 

「決まりですね」

 

 

「だけど車長、操縦手は…?」

 

 

「…っ!?」

 

 

その筈だった。

 

勇介たちパンターⅡ操縦手の豊田純子は、あの1945年の5月、地獄の様なベルリン駅で別れて数日、肝心な操縦手が欠けていた。

 

 

「…よし、…操縦は俺に…」

 

 

「ん…?」

 

 

勇介たちが相談する中、パンターⅡの操縦席から物音が鳴った時、パウラがMP-40を構えた。

 

 

「誰だ、出て来なさい!!」

 

 

すると、操縦席のハッチから一人の大洗女子生徒が両手を上げながら出てきた。

 

 

「わわっ…すみません!撃たないで…わたしは自動車部の者です!」

 

 

「あ…あ…あなたは…!」

 

 

「じ…純子…!」

 

 

アリシアは目を見開きながら驚愕した。その女子生徒の顔は、ベルリンで生き別れた豊田純子だった。

 

パウラは両手で彼女の肩を掴んだ。

 

 

「純ちゃん!あなたはいつ、どうやって…この時代にやってきたの…!?」

 

 

「あ…あの…人違いです…わたしは1学年の…沖田真澄です!」

 

 

「…沖田真澄…?…純ちゃんじゃないの…?」

 

 

「…純子は…わたしの曾祖母です!」

 

 

「なんだって…あんたが…純子の玄孫……」

 

 

沖田真澄がかつての操縦手、陸軍伍長の豊田純子の玄孫だと聞いたパウラは口を開いたままになりながら、驚きを隠せなかった。

 

 

「そうか…純子が無事に脱出し…生きていたんだ…」

 

 

勇介は晴香たちに背を向けながら、涙ぐみました。

 

 

彼の絶対の指示で、地獄絵図と化したベルリンを離脱、そして今、彼女に成り代わり。玄孫がこの大洗で再会したのであった。

 

 

「…桜井勇介さん…大賀晴香さん…アリシア・フェアバンクさん、パウラ・オットーさん……あなた方は曾祖母の純子さんから聞いています。このパンターⅡの操縦手に志願させて下さい!!」

 

 

真澄の熱烈な志望で頭を下げた。だが

 

 

「車長、あたしは反対です!この娘は純子の子孫であっても純子ではありません!」

 

 

「お願いします!!わたしは曾祖母から特殊車輛をイヤと言うほど習いました!」

 

 

「あたしもパウラの意見に同意するよ。戦車の操縦は他の車輛と容易くない。操縦手は、ただ扱う代物とは違う、仲間の命を預けるのも大事な使命なのよ!」

 

 

「車長……如何しますか……?」

 

 

パウラと晴香が真澄の操縦手搭乗に猛烈に反対する中、勇介が近寄って来た。

 

 

「手を見せろ」

 

 

「はっ…はい!」

 

 

真澄は勇介の前に手を見せ、彼はジィっと見つめた。

 

 

「…彼女の手に嘘はつかん…沖田真澄」

 

 

「はい!」

 

 

「ウチの…パンターⅡ操縦席に座れ…」

 

 

「はい!!」

 

 

その時点で、勇介は決断した。

 

 

「「車長!?」」

 

 

「今は大洗生徒との戦車試走と試射だ、生徒会と自動車部の方々を追及する。責任は俺が取る」

 

 

晴香とパウラがどよめいた時、アリシアに聞いた。

 

 

「なぁ、アリシアは反対か…?」  

 

 

「いえ、わたくしは車長の決定に従います。あの方は、わたくしを見込み、スカウトした時の目になっていますゆえ」

 

 

勇介の目は変色し、輝きながら笑みを浮かべていた。

 

 

「(…沖田…俺の勘が正しければ、もしかしたら…兄貴の後輩の…)」

 

 

 

 

 

 



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第8話 黒狼の狩り

 

 

 

「よし!取り敢えず指定された場所に移動するぞ。沖田真澄、行くぞパンツァーフォー!」

 

 

「り…了解!」

 

 

桜井勇介の合図で黒狼のマーキングが描かれたドイツ戦車、パンターⅡが走行する。

 

 

「(こいつぁ、いい勘をしていやがる)」

 

 

沖田真澄が操縦席に座り、扱う戦車はかつて、70年前にベルリン攻防戦で戦ったパンターⅡ。

 

森林が覆う区域に突入する

 

 

だが

 

 

ガタッ

 

 

「おっと…こら、沖田さん!履帯を障害物に乗せるな~!」

 

 

「すっすいません…大賀さん!」

 

 

 

晴香が真澄に激を飛ばした。

 

 

彼女の重圧なのか、曾祖母の豊田純子が扱い70年前の仲間の前で、真澄は更なる重圧で操作が頑なになった。

 

 

それが心配になったアリシアが、真澄に優しく声を掛けた。

 

 

「…真澄さん…慌てない慌てない…肩の力を抜いて…」

 

 

「はっはい!」

 

 

「アリシア、余計なことを言うな…」

 

 

「車長……」

 

 

アリシアを制止した勇介は、キューポラの砲塔で支給された地図を広げ、確認した。

 

 

「…うん…沖田さん、◯◯◯地点へ走行してくれ!」

 

 

「り…了解です…!」

 

 

真澄が扱うパンターⅡは擬装網で緑に覆われ、勇介の指示で緑が覆う高地にたどり着いた。

 

 

そして各チームは指定された位置に到着する。

 

 

 

『皆スタート地点に着いた様ね!ルールは簡単全ての車両を動かなくするだけ、つまりガンガン前進してバンバン撃って!やっつければいい訳。分かった!』

 

 

 

そして、蝶野は無線でルールを説明するが、流石に説明がシンプル過ぎる。

 

 

 

 

 

「本当…適当ね」

 

 

 

「シンプル is ベスト」

 

 

 

アリシアとパウラも呆れる。

 

 

 

『戦車道は礼に始まって礼に終わるの、一同礼!』

 

 

 

『よろしくお願いします!!』

 

 

 

『それでは、試合開始!』

 

 

 

全員が挨拶をして蝶野が試合開始の合図を出して試合開始だ。

 

 

 

「先に誰から倒しておくの?」

 

 

晴香に言われて勇介は、地図を見て、今いる地点から出会う可能性が高いのは、Ⅳ号Aチームと八九式Bチームと三突Cチームとなれば話は早い。

 

 

 

「まず、三突のCチームからだ。あれは厄介だからな!」

 

 

 

「先にⅣ号じゃないの?確かに三突は脅威だけど乗っているのは大した実戦や実力も無い娘達ばかりじゃない」

 

 

「確かにそうだが俺は言ったはずだ、誰が相手であろうとも油断するな。西住さん達のⅣ号はD型だ、主砲は砲身の短い24口径75mm砲歩兵支援用の榴弾しか飛ばせない。それに対して三突の長砲身48口径75mmと車高の低さを利用されて待ち伏せを喰らう可能性がある。先に潰しておいて損はない、不安の芽は摘んでおくに限る!」

 

 

 

勇介の言う様にⅣ号D型は当時主力だったⅢ号戦車の火力支援の為に作られ主砲の砲身が短く榴弾を飛ばす事が主で、ティーガー級の装甲は分厚い重戦車には歯が立たない。

 

対して三号突撃砲は高速の48口径75ミリを搭載しているがそれでもパンターの厚さ40ミリの正面装甲が弾を弾く。

 

三突がパンターを倒すにはパンターの側面を約300メートル近くの距離から砲撃するしかない。だが、2000m先からでも戦車を撃破出来るパンターに近付くのは至難の技なので三突の車高の低さを利用して林に身を隠してパンターの側面装甲を砲撃してくる事を警戒していた。

 

対する勇介たちは得意なゲリラ戦で挑むことにした。

 

 

「成る程ね、分かったわ」

 

 

「さあ、黒狼が狩りのタイミングだ!真澄、任せたぞ!」

 

 

「は…はい!!」

 

 

そして、真澄は操縦桿を握ってパンターⅡを動かし、敵を求めて発進する。

 

 

 

 

 

勇介達は、辺りを見回せる丘を陣取り、勇介は双眼鏡で辺りを探っているとドカーンと爆音が聞こえて来た。爆音のした方を見ると林の中で幾つかの煙が上がっていた。

 

どこかのチームが接触し交戦に突入。しかも、同じ所から同時に煙が上がっており、恐らく敵戦車は2両以上いる事になり3チームが同時に接触した可能性が高い。

 

 

 

「始まったか!?こうしちゃいられない!晴香、行くぞ!」

 

 

 

「了解!沖田さん、行くわよ!」

 

 

 

晴香がそう言って真澄はパンターを発進させ向かう。

 

そして勇介は、地図を見てあの3チームと現れるであろう場所の距離と時間を計算した。

 

 

 

「よし、晴香、真澄!この先に川があった筈だ。その川沿いを少し登った所に橋があるそこで迎え撃つ!」

 

 

 

「「了解!」」

 

 

 

「パウラ、何時でも撃てる様徹甲弾を装填しておいてくれ!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

一方のBチームとCチームの両方から追われているみほ達は

 

 

「危ない!」

 

 

みほが叫ぶと、寝ていた女子生徒は起き上がり迫って来たⅣ号戦車の車体に向かって大きくジャンプしたが着地に失敗し掛ける。

 

 

 

「痛!!」

 

 

 

そして、掛けた女子生徒の顔を見ると、今朝勇介が背に乗せていた少女だった。

 

 

 

「あ、今朝の!」

 

 

 

すると、キューポラが開き中から武部が顔を出して

 

 

 

「あれ、麻子じゃん!?」

 

 

 

「沙織か?」

 

 

 

「あ、お友達?」

 

 

 

「うん、幼馴染み。何やってんのこんな所で!?授業中だよ!」

 

 

 

「知っている」

 

 

 

「はぁ〜」

 

 

 

冷泉の幼馴染みである武部は、冷泉がまた授業をさぼったなと思い溜息をつくと。後ろで爆発が起こった。

 

 

 

ドカーン

 

 

 

「「「うわわぁ」」」

 

 

 

「あの!危ないから中に入って下さい!!」

 

 

 

砲塔から頭を出しては危ないと判断したみほは、車体の上に乗る冷泉も一緒にⅣ号の中に入れる。

 

 

「はぁ〜酸素が少ない〜」

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

「麻子低血圧で…」

 

 

「今朝も辛そうだったもんね」

 

 

「麻子と会ったの?」

 

 

「うん、今朝桜井さんに背負って運ばれている所に偶然会ったんだ」

 

 

「だから二人共遅刻したんだ」

 

 

 

 

そして砲撃が響く中、勇介はパンターⅡから降りて単独で武装、擬装網を被り斥候、地図を視ながら確認した。

 

 

「(あそこに吊り橋か…あのワイヤー…錆び付いて…危ねぇな…ん?)」

 

 

双眼鏡で確認すると森林からⅣ号戦車が走行、みほが下車して、ゆっくりとつり橋を渡っていた。

 

 

「おいおい…吊り橋を渡るなんて…敵さんの的になるぞ…っ!?」

 

 

 

勇介が思った時、Ⅳ号は左に寄り掛けながら、ワイヤーを擦り、バランスを崩した途端、滑空音が鳴り響き、車体に被弾しつつも不発だった。

 

 

「危ねぇな…」

 

 

Ⅳ号の右側に三突と八九式が走行、左側にt38とM-3戦車が走行していた。

 

 

「2輛で獲物を封じるのはいいが、西住さんたちに手を貸すか…おっ」

 

 

すると、吊り橋でバランスを崩しかけたⅣ号は立ち直った。

 

 

「さっきまでのⅣ号とは違う…操縦手が代わったのか…?くっ!」

 

 

脅威になることを実感した勇介は、駆け足で擬装、待機したパンターⅡの元に戻った。

 

 

 

 

パンターⅡの乗員は、勇介が戻ってくるまで待機していた。

 

 

「いいのですか、他の戦車を砲撃しなくて?」

 

 

 

「あぁ、沖田さん。とりあえず、大洗の方々と何より西住さんの実力も把握しておきたいからね」

 

 

 

「それが、勇介車長の気になる相手を試そうとする彼の悪い癖が…」

 

 

 

晴香は、勇介のいつもの癖が出た事に内心溜息を吐く。すると

 

 

「ただいま!」

 

 

「車長!」

 

 

茂みの中から斥候から帰ってきた勇介が帰還した。

 

 

「どこまで行ってたのですか…?」

 

 

「沖田さん、出動だ!目標は、川沿いの広場だ!!」

 

 

「はっはいっ!!」  ガチャ

 

 

イメージトレーニングしていた真澄は、勇介の指示で走行レバーを倒し、出動した。

 

 

「さて、腕が鳴るねぇ~♪」

 

 

晴香は手を鳴らしながら主砲のグリップを握り締めた。

 

 

「激しい砲撃ですわね…真澄さん…?」

 

 

「うぅ…はぁ…はぁ……」

 

 

次々と砲撃が鳴る中、アリシアは真澄の息がやや荒い異常に気づいた。

 

 

「真澄さん!」

 

 

「はい!?」

 

 

「…緊張していますか…?」

 

 

「い…いえ…これから本当に…戦場へ行くのですね…」

 

 

真澄が操作するパンターⅡが森林から抜け出した頃、砲撃が静かになった。

 

 

「おぉ…やったんだな~」

 

 

勇介が目の当たりにした光景は、つり橋で西住みほのⅣ号が全て撃破、殲滅したことだ。

 

 

 

『DチームM3、Eチーム38(t)、Cチーム三号突撃砲、Bチーム八九式いずれも行動不能!』

 

 

 

無線から蝶野が申告する証として、それぞれの車輛に、白旗が掲げられていた。

 

残るは、勇介達のパンターⅡ戦車Fチームとみほ達のⅣ号戦車Aチームの2チームだけとなった。

 

そしてそこから、戦車道の名家の西住みほとドイツ国防軍最精鋭の外人戦車部隊隊長の桜井勇介の一対一の一騎討ちが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

「いよいよ桜井殿パンターⅡとの一騎討ちですね西住殿」

 

 

 

「うん、そうだね」

 

 

 

「桜井さん達の戦車…どこに?」

 

 

 

沙織が呟きながら、辺りを警戒しながら探した。

 

 

 

「居ました!あそこです!!」

 

 

 

優花里がある方向に指を指してそう言って、皆がその方向を向く。

 

Ⅳ号戦車の車体後方の直線上にパンターⅡがいたのだ。

 

 

 

「いつの間にあんな所に」

 

 

 

「全然気付きませんでしたわ」

 

 

 

「まずいですよ、この橋でパンターⅡとの対決は逃げ場がないのでこちらが不利です。今ここで砲撃を食らったら…」

 

 

 

優花里がそう言うと、橋の上では左右に移動する事が出来ず前後にしか行けず砲撃する側からすれば恰好の標的だ。

 

更にドイツの戦車パンターはティガーと並び、連合軍の兵士に恐怖症を引き起こさせる程恐れられていた。

 

パンター75ミリの主砲はどんな装甲板も破壊するのだ。

 

Ⅳ号戦車では砲弾が届かないし、接近しても厚さがあり、IS-2の122ミリの弾も跳ね返してしまう怪物、その改良型のパンターⅡ未知数の戦車の攻略は難題だった。そんな時

 

 

「待ってやる!」

 

 

「「「「 え!? 」」」」

 

 

「君達が橋を渡り終えるまで待ってやると言っているんだ!」

 

 

砲塔の上で仁王立ちしている勇介は、みほ達のⅣ号戦車が橋を渡り切るまで砲撃しないと宣告する。

 

 

「随分気前がいいんだね」

 

 

「うん…冷泉さん、このまま橋を渡って下さい」

 

 

「分かった」

 

 

みほは、少し迷ったが勇介の事を信じて麻子に橋を渡る様指示する。そして、その間勇介は約束通りみほ達Ⅳ号が橋を渡り終えるまで一切砲撃しなかった。

 

そしてⅣ号が橋を渡り終えると勇介はキューポラの中に入る。

 

 

「さてと、どう攻めてやろうか?」

 

 

お互い睨み合って動こうとしない。

 

西部劇の荒野の決闘の撃ち合いの様に冷静さを保って相手より先に撃った方が勝つのだ。

 

Ⅳ号D型の砲身の短い75mmでは、例え零距離からでも弾かれる。

比較的薄い側面装甲か、エンジンを積んでいる後面、履帯を破壊するか、そしてパンターには、砲塔と車体との間に小さな溝がありそこを砲撃されると砲塔を旋回できなくなるのだ。

 

 

「秋山さん聞いて、これからパンターの右側にまわるから破甲砲弾でパンターの砲塔を狙って下さい」

 

 

「了解です!」

 

 

「冷泉さん、パンターⅡの右側に回って下さい!」

 

 

「わかった」

 

 

最初に動いたのはみほ達だった。

 

Ⅳ号は大きく迂回しようとする。勇介は、これを見て側面か後面を砲撃するのだと判断した。

 

 

「やはり側面か!沖田、左に旋回」

 

 

「了解!」

 

 

勇介が真澄にそう指示すると彼女はパンターを前進させ左に旋回させる。

 

まずは、Ⅳ号の第一弾が発射されたが、砲弾はパンターの近くの地面に着弾し、急いで優花里は次の弾を装填しテパンターに狙いを定める。

 

続いて第二弾が発射され砲弾は、パンターの砲塔上面に当たって跳ね返った。そして今度は、パンターがⅣ号に狙いを定める。

 

 

「狙いが定まった!今度はこっちの番だ」

 

 

「撃って!」

 

 

晴香の引き金でパンターの75mm砲が火を吹き掛けた時、真澄の操作ミスでパンターⅡは地面を横滑り砲弾が岩場に向かって飛んで行く、そして砲弾は岩場を撃破、飛び散った岩がⅣ号戦車の側面に命中、パンターⅡは砲身が損傷。

 

Ⅳ号とパンターⅡから撃破判定のフラグが立った。

 

 

『AチームⅣ号、FチームパンターⅡ。引き分け!』

 

 

無線で蝶野が、みほたちⅣ号と勇介達Fチームが引き分けの宣言をした。

 

だが、この結果は想定外だった。

 

幾ら戦車道の家元の西住みほがいると言え、他は今日戦車に乗った娘ばかりの素人集団。

 

対して勇介達は、第二次欧州大戦の米英露戦で幾多の戦車戦を繰り広げて来た職業軍人と言える猛者と言えども、自然の脅威には逆らえない。

 

 

 

『回収斑を派遣するので行動不能の戦車はその場に置いて戻って来て』

 

 

 

無線から蝶野が行動不能の戦車は回収斑が回収するとの事で撃破された戦車から各チームの女子達が戦車から降りて格納庫に向かう事にした。

 

 

 

「やはり、彼女と彼等に戦車道を受講させたのは正しかった」

 

 

「作戦通りだね」

 

 

38(t)の中では、生徒会の河嶋と角谷は、上手く行ったと言わんばかりに笑う。

 

 

 

 

そして、勇介達もパンターに乗って格納庫に向かって走っていた。

 

 

 

「みんなグッジョブベリーナイス!初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来よ!特にAチームとFチーム良くやったわね」

 

 

 

夕刻、一同は格納庫の前に立つ蝶野の前で整列をした。

 

そして、今回の練習試合でのMVPが発表されみほと勇介のチームがMVPに輝いた。

 

みほ達は、引き分けたとは言えそれを聞いてみんなは喜んだ。

 

勇介達は、幾らMVPを貰っても素人集団相手に勝ったと言う気がしないと言った複雑な気持ちだった。

 

 

「後は日々走行訓練と砲撃訓練に励む様に、分からない事があったらいつでも明示してね」

 

 

「一同礼!」

 

 

『ありがとうございました!』

 

 

と河嶋の号令で一同礼をして解散となった。

 

 

 

 

 



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第9話 浴場の交流

 

 

 

 

 

試合後、勇介は格納庫で収納する愛車パンターⅡの砲塔に居座りながら、軍刀狼虎の手入れをしていた。

 

 

「これが、戦車道ね~……」

 

 

「桜井大尉殿!」

 

 

「わわっ…蝶野一尉…!」

 

 

陸上自衛官の蝶野亜美が、10式戦車で帰隊する前に勇介の元に挨拶しに赴いた。

 

 

「本日の練習試合、引き分けでありながらお疲れ様でした!さすがはベルリンの民間人を守った、伝説の英雄ですね!!」

 

 

「で…伝説の英雄は大袈裟です。ただ俺は軍人として、敵を討ったまでです…」

 

 

「私はあなたとお兄様みたいに、国を守るために、自衛隊に志願したのです!」

 

 

「そ…そうですか…///」

 

 

蝶野の言葉で勇介は謙虚であり、頬を掻きながらやや照れていた。

 

 

「大尉殿のお姉様が知ったら、さぞお慶びになられますよ」

 

 

「……姉さんか………」

 

 

「ご高齢でありながらお元気です。わたしの力添えで、お会いしますか?」

 

 

「……いや……今は会う気分にはなれません…」

 

 

「え…なぜですか…?」

 

 

「…俺は…70年の時代を越えたにしても、こんな顔、それにあの戦争で、この手で幾人の敵の血を染めている…こんな俺は、姉に会う資格はない!」

 

 

「大尉殿……」

 

 

蝶野は勇介に姉である志帆に再会することを躊躇していた。

 

 

 

蝶野亜美の視点では、桜井勇介の運命はタイムスリップに翻弄され、戦争はまだ終わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、みほ達は煤と汗で汚れた体を洗い流す為に学園の大浴場に来ていた。

 

 

 

「は〜ぁ、何か告白されるよりドキドキした」

 

 

 

「された事ありましたけ?」

 

 

 

「お父さんは、いつも私の事大好きだって言ってるもん」

 

 

 

「いいお父さんだね」

 

 

沙織が、父親からよく大好きだと言われている事に対してみほは優しい父親と称える。

 

 

 

「最初はどうなる事かと思いましたけど、凄くワクワクしました!」

 

 

 

「はい!大変充実してました」

 

 

 

優花里が言うと沙織と華が頷く。

 

 

 

「「 うんうん 」」

 

 

 

「でもさぁ〜、車長はやっぱみほがやってよね〜」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

「わたくし達では、やはり戦車の事よく分かりませんし」

 

 

 

「西住殿は、頼りになりますし」

 

 

 

沙織から戦車長は、みほがやってと言われて驚くみほ。

 

華と優花里が、みほが戦車長に成る事に反対は無く、寧ろ大賛成だった。

 

 

 

「え!え!私が!?そんな私なんて全然頼りになんか…」

 

 

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

「よろしく!」

 

 

 

「よろしくお願いたします」

 

 

 

「…は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

最初こそ謙遜していたみほだったが、華、沙織、優花里から一同にお願いされみほは、少し戸惑うも覚悟を決めて皆に頭を下げて承諾する。

 

 

「他はどうします?」

 

 

「私は何が向いているかな?」

 

 

「えっと…誰とでも仲良く話せるから通信手はどうでしょう?」

 

 

「いいかもメール打つの早いし」

 

 

「それは関係ないんじゃ?」

 

 

「ぶー」

 

 

「あとは…」

 

 

みほが戦車長に成る事が決まり、他の皆の配置についてどうするか考えて沙織が通信手になる事が決まった。そんな中、華が意を決してみほに申し出た。

 

 

「あ、あのわたくし砲手をやってもいいですか?」

 

 

「え?」

 

 

「…ジンジン痺れた感じが忘れられなくて、それに強い自分に成れそうなんです」

 

 

「じゃぁ五十鈴さんが砲手で」

 

 

「では、私が装填手をやります!」

 

 

「後は、操縦手…」

 

 

華が自ら砲手をしたいと名乗り出た。

 

あの試合での八九式を撃破した時の快感が忘れられず、そして強い自分になりたい為、優花里は装填手に名乗りを挙げた。

 

これで、残るは操縦手のみとなった。そんな時、隣の風呂に入っていた冷泉麻子が上がるところに皆の視線が冷泉に向けられる。

 

 

 

「麻子、操縦手お願い」

 

 

 

「もう書道を選択している」

 

 

 

「え〜」

 

 

沙織から操縦手を頼まれたが、既に書道を選択したと言って突っぱねる。

 

 

「冷泉さんが居てくれると助かります」

 

 

「あ、あの冷泉さんお願いします」

 

 

「あの運転はお見事でした!」

 

 

みほ、華、優花里も麻子に操縦手をしてくれる様頼み込む。

 

だが

 

 

「悪いが無理…」

 

 

呟きながら、大浴場から出て行く。

 

 

「麻子!遅刻ばっかで単位足りてないじゃん!戦車道取れば色々特典が有るんだよ!!このままじゃ留年なんでしょ」

 

 

すると沙織が麻子の遅刻癖で進級に必要な単位が足りていない事を言い、戦車道に入れば挽回出来ると述べ、出て行った筈の冷泉が戻って来た。

 

 

「わかった…やろう戦車道…」

 

 

そして、麻子は沙織に自分の一番気にしている所を突かれ渋々ながら戦車道に入る事を決め、それを聞いて皆満面の笑顔を浮かべる。

 

 

「西住さんに借りがある…それにあの人にも…」

 

 

「つか単位欲しいんでしょ?」

 

 

「借りを返すだけだ」

 

 

 

麻子は、みほと勇介から今朝遅刻しそうな時に助けて貰った恩を返す為に入ると言う。

 

 

「あっ…西住さん!」

 

 

「あれ、大賀さんたちですね」

 

 

出入り口から勇介を除くパンターⅡの乗員、晴香とアリシア、パウラ。そして沖田真澄が浴場にやってきた。

 

 

「いやぁ~お見事です。やはり、あの戦場で経験してきた方々は違いますね…」

 

 

「そんなこと…戦車道の試合は、あの地獄の戦場に比べればなんとも…」

 

 

「…そうですわね…」

 

 

優花里の言葉で、晴香とアリシアは欧州戦線での戦歴において、気まずい雰囲気だった。

 

 

「しかしながら…日本に来てから、ここの浴場…ドイツと違って広く、身体の筋肉が解せるね~♪」

 

 

パウラは緊張を解すかのような言葉で、ゆっくりと身体を浸していた。

 

 

「ドイツにこんな風呂はないのですか…?」

 

 

「えぇ、兵士が戦う戦場の風呂は常にドラム缶での入浴よ」

 

 

「へぇ~」

 

 

「あの…戦争でお辛いことばかりの中、楽しいことはありましたか…?」

 

 

アリシアの言葉に沙織は感心し、華は戦場の娯楽を尋ねた。

 

 

「うん……そうねぇ~…ノルマンディーの海岸でバレーやアルデンヌで年末年始の遊技くらいよ…」

 

 

「ノルマンディー…アルデンヌ…凄いところで足を踏み入れたのですね!」

 

 

優花里の目は人一倍輝いていた。

その中で、パンターⅡを操縦した真澄は

 

 

「…おばあちゃんは、死と隣り合わせの戦場で…」

 

 

「沖田真澄」

 

 

「はい!」

 

 

「あなたの操縦でわかったことは、純子とレベルが全然違うわね!」

 

 

「…あ…はい…やっぱり~…」

 

 

副長の大賀晴香の言葉に真澄は応じる。

 

本日のぶっつけ本番のパンターⅡの肝心な操作にて、ミスをした。

 

祖母たる純子の教えにより、扱い方は段違いだった。

 

 

「でも、今のあたしたちのパンターⅡには操縦手がいない。あなたが良ければ、操縦席に座ってもいいわよ」

 

 

「本当ですか!?」

 

 

「えぇ、わたくしたちは嘘は付きません。このままトレーニングすれば、純子さんの孫なら…」

 

 

「だけどねアリシア、この娘は純子の孫だけじゃないわ」

 

 

「え…?どういうことですの…?」

 

 

晴香の言葉で、アリシアははてなを浮かばせた。

 

 

「あたしの推測としては、沖田進次郎さんの孫ではないの…?」

 

 

「沖田進次郎…?沖田真澄さんの祖父が、あのラバウル六勇士のエースパイロットの一人ですね!!」

 

 

「は…はい!!」

 

 

真澄が沖田進次郎の孫だと聞いた優花里が反応した。

 

戦時、遥か彼方の南方、激戦地ラバウルにて、肩を並べた敏腕の零戦パイロットの厚木十三と桜井洋介、そして沖田進次郎。

 

ゲタバキ=二式水上戦闘機乗りの大賀虎雄と零式水上観測機の実兄、沖田新一郎と金城幸吉のペア。

 

 

「と…言うことは、この場にいない桜井勇介殿と大賀晴香殿、沖田真澄殿は運命共同体ですね!」

 

 

「……運命ね……偶然にしても恐ろしいわね…」

 

 

「…ねぇ秋山さん、あたしの兄…大賀虎雄は…あの戦争でどうなったの…?」

 

 

「あなたに気まずいことですが、語ってもいいでありますか…?」

 

 

「えぇ…」

 

 

優花里が知る限りの解説を行った。

 

1945年7月31日、哨戒任務でシンガポールの海軍基地から出撃。

 

マラッカ海峡上空でイギリス空軍の戦闘機と交戦、激闘の末に戦死となった。

 

 

「…それでも兄の運命だと受け入れるよ。それに、この沖田真澄さんの祖父は兄の戦友、これも何かの縁かも知れないね~」

 

 

「縁…おばあちゃんが導いてくれたのかも知れません」

 

 

「そう言えば、純ちゃんは…元気にしているの?」

 

 

パウラは、純子に尋ねた。だが

 

 

「…おばあちゃんは…去年、逝きました…」

 

 

 

「そうなんですね…神は…なんでわたくしたちを……」

 

 

パウラとアリシア、晴香は気持ちが沈んでいた。

 

純子は上官の勇介と晴香とドイツに軍事留学。だが、戦局の悪化で海洋航路が封鎖され、欧州に留まることになった。

 

ドイツでアリシアとパウラと出会い、パンターⅡに搭乗。

 

ドイツ軍の精鋭戦車部隊、ラスナー部隊の一員となって、激闘をくぐり抜けた。

 

敗戦が濃厚となったベルリン攻防にて、ソビエトロシアの激戦で軍人と民間人が混乱に陥る中で、スウェーデンへ避難するヴィルヘルムスハーフェン及び、キール港に向かうベルリン駅に、勇介たちパンターⅡが走行した。

 

ベルリン駅で純子は勇介たちと涙ながらに別れ、キール港行きの列車に乗車した。

 

その途中、アメリカ軍に捕らえられアメリカの捕虜となった。ドイツは降伏し、その3か月後に日本は降伏した、

 

それから純子は1年アメリカで暮らし、復員する船で日本に帰国した。

 

帰国した純子は、沖田進次郎と結婚。彼と共に激動の日本で暮らしながら、至っていた。

 

沖田純子の回想を聞いたみほは眼を見開いていた。

 

 

「…あなたたちも、戦車道以上の激戦地で戦っていたのですね…」

 

 

「はぁ~…わたしもその時代に生まれて恋がしたいなぁ…」

 

 

「沙織さん、どこを聞いてらっしゃるの…?」

 

 

沙織は真澄の祖母の経緯を知り、何処となく文句垂れていた。

 

 

「お互いに5人揃いましたね」

 

 

「改めてよろしくお願いします」

 

 

 

 

「んじゃあ〜やっぱあそこ行かなきゃ!」

 

 

 

沙織が買い物に行こうと提案する。

 

 

 

 

 

一方、晴香達は解散した後、勇介と合流。

 

学園からの支援金を元手に近くのホームセンターに行きこれからの生活に必要な必需品を買いに来ていた。

 

 

 

「うぉ〜、ここが未来の日本の雑貨屋か!凄い、ドイツやオーストリアの雑貨屋とは比べ物にならない!」

 

 

 

「人多いし迷いそう」

 

 

 

「二人ともあんまり騒がないでくださいまし!周りに迷惑ですわよ!」

 

 

 

ホームセンターで興奮する晴香とパウラをアリシアが注意する。

 

 

「ねぇ車長、ここからは各自自由行動にしませんか?」

 

 

「そうだな、じゃあ各自各々必要な物を買うとするか」

 

 

「賛成!」

 

 

 

パウラが買い物は各自でやろうと提案して勇介が承諾する。

 

そして各自散らばり各々の買い物をする。勇介達の部屋にはベッド、テレビ、冷蔵庫、タンスと言った必要最低限の物しか無く、他にも必要な物を買う為色々なところを廻って行った。

 

勇介たちは、生活雑貨と日用品や衣類品、食品などを買い占める。そして、勇介は携帯ショップに行き4人分の携帯を学園名義で購入した。

 

その後、必要な物を買った勇介達は、帰ろうとしたが、勇介だけまだ残ると言うことで、晴香達は先に寮に帰って行った。

 

勇介は、暫く店内を彷徨いていると

 

 

「何でここ何だ?」

 

 

「てっきり戦車道ショップに行くかと…」 

 

 

勇介は聴き慣れた声だった。

 

声のした方を見ると其処には買い物に来たみほ達ともう一人の怠けそうな黒髪の子が居た。

 

 

「あれ?桜井さんじゃん」

 

 

「おっ君たちか」

 

 

沙織が勇介に声を掛けて来た。

 

 

「桜井さんは、こんな所で何を?」

 

 

「見てわからんか、買い物だ。一応寮には必要最低限の生活必需品はあるが他にも必要な日用品と、角谷たちから必要になるだろうからって勧められた携帯をさっき晴香達と買いに来てたんだ」

 

 

「へぇ〜桜井さん携帯買ったんだ。カラーリングは黒、ちょっと携帯貸してくれない?」

 

 

「まぁ、別に構わんが…ほら」

 

 

沙織が携帯を貸してと手を差し出して来たので、勇介は何の躊躇いもなく沙織に買ったばかりの携帯を手渡した。

 

 

「携帯なんかどうするんだ?」

 

 

「どうするって、これから戦車道をする仲間なんだからさぁ、連絡先くらい交換しといた方がいいでしょ。あと、みほ達の連絡先も入れておくから」

 

 

「(……仲間…か)」

 

 

沙織は勇介の携帯に自分のとみほ達の連絡先を交換した。沙織から過去から来た自分たちを仲間と言われてどこか嬉しい気持ちであった。

 

 

「そう言えば君たちは、何か買いに来たのか?」

 

 

「戦車道する為に必要な物をね」

 

 

「ここに戦車道に必要な物なんて無いだろ?」

 

 

「だって、もうちょっと乗り心地良くしたいじゃん!乗っているとお尻痛くなちゃうんだも〜ん」

 

 

「え!?クッション引くの!?」

 

 

「ダメなの?」

 

 

沙織は、戦車の乗り心地が悪いからとクッションを買いに来たと言った。

 

 

「ダメじゃないけど、戦車にクッション持ち込んだ選手見た事ないから」

 

 

「あ、これ可愛くない!?」

 

 

「これも可愛いです」

 

 

戦車にクッションを引いてる奴なんて見たことも聞いた事が無い。沙織がハート型のクッションと華が和風感のあるクッションを互いに手に取って見せ合っている。

 

 

優花里はガッカリと肩を落としている。そんな中、麻子は勇介に話しかける。

 

 

「やぁ……」

 

 

「ん…君は?」

 

 

「あんた確か今朝の……桜井さんだったか?もしかしてあんたも戦車道を?今朝は、世話になった。最初は書道を選択していたが西住さんと桜井さんには今朝大きな借りがあるから借りを返すために戦車道に入った…」

 

 

麻子は、勇介に頭を下げて礼を言う。

 

 

「借りを返すって別に俺は、恩返しして欲しくって助けた訳じゃないが」

 

 

「それでも、私は受けた恩はきっちり返す」

 

 

今朝ふらふらして遅刻しそうな所を背負って学園まで送り届けたぐらいの恩を返すことで、義理堅い彼女に勇介は正直感服した。

 

 

「あとさぁ〜、土足禁止にしない?」

 

 

「「「「 え!? 」」」」

 

 

「だって汚れちゃうじゃない?」

 

 

「土禁はやり過ぎだ」

 

 

「確かに、裸足で戦車に乗る奴なんて聞いた事ないね。足挟んだり切ったりで怪我するだけだぞ」

 

 

沙織が戦車で、土足禁止にしようと言い出したので麻子と勇介が反対意見を述べる。

 

 

 

「えぇ〜じゃぁ、色とか塗り替えちゃダメ?」

 

 

 

「ダメです!戦車はあの迷彩色がいいんですから!!」

 

 

 

土禁に不貞腐れ次は戦車の色変えを言い出した。すると、優花里が戦車の塗装替えに反対し迷彩色がいいと、彼女なりのこだわりだった。

 

 

「あぁ、芳香剤とか置きません?」

 

 

「鏡とかも欲しいよね!携帯の充電とか出来ないのかな?」

 

 

そんなやり取りをしている時、西住みほは絶句していた。

 

 

 

翌日、各チームの戦車は変わり果てていた。

 

 

八九式は車体と砲塔に"バレー部復活!"とスローガンが書かれ、三突は赤、青、白とカラフルな色に塗装され更には新撰組の誠の旗に海援隊の旗、真田家の家紋の真田六文銭や武田信玄の風林火山の旗を掲げ、M3は全身ピンク一色に塗装され、38(t)に行った手は車体が金色に統一されている。唯一変わってないのはみほ達のⅣ号戦車とパンターⅡだった。

 

 

「やたらカラフルだ…」

 

 

勇介が各チームの戦車を見て出た一言だった。

 

 

「かっこいいぜよ」

 

 

「支配者の風格だな」

 

 

「うむ」

 

 

「私はアフリカ軍団仕様が良かったのだが…」

 

 

「これで自分達の戦車が直ぐにわかる様になった!」

 

 

「やっぱピンクだよね」

 

 

「かわいい」

 

 

各チームは満足そうに述べる

 

 

 

「いいね〜河嶋この勢いでやっちゃおか」

 

 

 

「はっ、連絡して参ります」

 

 

 

「えっ!?何ですか!?」

 

 

 

河嶋はその場を離れて何処かに行ってしまった。隣に居る小山はわからない様だった。

 

 

 

「む〜私達も色塗り替えれば良かったじゃん!」

 

 

「あぁ、38(t)が!!三突が!!M3や八九式が何か別な物に!!あんまりですよね!」

 

 

各チームの戦車を見て沙織は餅みたいに頬を膨らませ戦車の塗装をしたかった様で、優花里は各チームのメンバー達によって変わり果てる戦車達を見て声を荒立てる。

 

 

「あんなカラーリング…敵さんにここだと教えているようなものですわね…」

 

 

「えぇ…」

 

 

「これじゃ、戦車じゃなくて面白オブジェだな。まぁ中々奇抜ではあるが」

 

 

「ふふっ」

 

 

するとみほが突然笑い出した。

 

 

「に、西住殿?」

 

 

「戦車こんな風にしちゃうなんて考えられないけど、何か楽しいね。戦車で楽しい何て思ったの初めて」

 

 

笑ってそう述べる。

 

 

「そう言えば桜井殿も戦車の色を変えたのですか?」

 

 

「あぁ、1年の激しい戦闘であっちこっちひび割れや剥がれがあったしな…」

 

 

Ⅳ号戦車の隣にある勇介達のパンターⅡはダークイエロー。長い月日と戦闘により愛車の塗装はひび割れや剥がれがあり、迷彩は日本の様な迷彩を発揮するのでそれ以外の所では目立ち難く、新たにダークイエローを塗装した。

 

 

 

「やはり桜井殿は分かっています!やっぱり戦車はあの迷彩色が良いですよね!!」

 

 

「まぁな」

 

 

優花里の勢いに押される様な形で同意した勇介。

 

パンターⅡの車体には黒狼と日本刀が描かれていた。

 

それが戦時で戦ってきた桜井勇介のシンボルマークであった。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、ある学園で英国洋式の広間でアフタヌーンティーをしながら電話をする金髪を三つ編みに束ねた美少女とその周りにその美女と同じ髪型をしたオレンジ色の髪をした美少女と金髪を黒いリボンで束ねた美少女が居た。

 

 

「大洗女子学園、戦車道を復活されたんですの?おめでとうございます。結構ですわ。受けた勝負は逃げませんの、試合楽しみにしていますわ」

 

 

そう言って受話器を置く。

 

 

 

 



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第10話 いざ行かん、大洗へ

 

 

 

 

 

勇介達は、戦車道の訓練に明け暮れていた。

 

 

訓練内容としては、走行訓練、射撃訓練など勇介達にとっては基礎中の基礎と言える様な初歩的なものばかり。

 

勇介は、訓練中各チームの力量を測ってみた結果、全員が素人。これで全国大会出場出来るか不安になっていた。

 

彼らは、各チームの戦車の特徴を活かす為、訓練内容を考える必要があった。

 

東南アジア、欧州の米英露戦の戦車戦で激しい死闘を経験した勇介は、これ以上に機動力が重視されると考え、大洗女子学園の戦車道履修生達を敵陣の守備を突破出来る機動性に優れた攻撃部隊に育てようと考えた。

 

その中で、沖田進次郎の孫、沖田真澄も勇介たち4人からパンターⅡの操縦を受けていた。

 

 

「…おばあちゃんもこの席で、死にもの狂いで操作して戦ったんだ!やってやる、冷泉先輩みたいに超一流の操縦士になってやる!!」

 

 

 

夕方 

 

 

「今日の訓練ご苦労であった!」

 

 

『お疲れ様でした〜』

 

 

「えぇ、急ではあるが、今度の日曜日練習試合を行う事になった」

 

 

戦車道の訓練が終わり空はすっかり夕暮れ時に成っていた。

 

生徒会の号令と共に挨拶、皆が疲れ果てている中で、河嶋が突然の他校との練習試合の話が出て皆戸惑い騒ぎ出す。

 

 

「相手は聖グロリアーナ女学院」

 

 

すると、勇介が相手校の学校名を聞いて難しい顔になる。

 

 

「どうしたの?」

 

 

「聖グロリアーナ女学院は全国大会で準優勝のした事のある強豪です」

 

 

「準優勝!?」

 

 

優花里が聖グロリアーナ女学院が準優勝を収める程の実力者と言うのだ。

 

 

 

「聖グロリアーナ女学院…か…いっちょ調べてみるか…」

 

 

勇介が小声で学院名を呟き、興味本位で調査しようとした。

 

 

「日曜は学校へ朝6時に集合!」

 

 

そんな中、集合時間を聞いて絶望の顔をする人物がいた。

 

 

「…やめる」

 

 

「はい?」

 

 

「やっぱり戦車道やめる」

 

 

「もうですか!?」

 

 

麻子が突然戦車道を辞めると言い出し、みほ達は戸惑う。

 

 

「麻子は朝が弱いんだよ…」

 

 

 

沙織が麻子の朝弱い事を皆に伝える。

 

彼女は昨日の朝会った時かなりフラついていた。そして、帰って行く麻子をみほ達は追って必死で説得しようとする。

 

 

「ま、待ってください!」

 

 

「6時は無理だ!」

 

 

「モーニングコールさせていただきます!」

 

 

「うちまでお迎えに行きますから」

 

 

「朝だぞ…人間が朝の6時に起きれるか!?」

 

 

麻子は言う。

 

そして優花里が更に麻子に追い討ちを掛ける言葉を放つ。

 

 

「いえ、6時集合集合ですから起きるのは5時ぐらいじゃないと」

 

 

「人には出来る事と出来ない事がある!短い間だったが世話になった!」

 

 

言って立ち去ろうとしている麻子を勇介が呼び止める。

 

 

「…待てよ、冷泉さん」

 

 

「何だ?桜井さん……」

 

 

「君の決めた事に俺はとやかく言ったり意見を押し付ける気はないが、君が俺と西住さんに借りが合ってその借りを返す為に戦車道に入ったんだろ?なのに自分は早起き出来ないから戦車道を辞めると?一度引き受けた事を途中で放り投げるっては俺は感心せん、そう言うのを恩を仇で返すって言うんだぞ!」

 

 

「うっ」

 

 

「そうだよ、麻子!!麻子が居なくなったら誰が運転するのよ!?それに良いの単位!!」

 

 

「うっ…」

 

 

勇介と沙織が麻子の痛い所を突く。麻子は、何処か後ろめたさを感じている様子だった。

 

 

「このままじゃ進級出来ないよ!?私達の事を先輩って呼ぶ様になっちゃうから!私の事沙織先輩って言ってみ!!」

 

 

「さ、さ・お・り…せん…」

 

 

「(どことなく…無理しているなぁ…)」

 

 

歯切れが悪そうに『沙織先輩』と呟く麻子。

 

そんな麻子を見兼ねて沙織が溜息を吐き、次に麻子にとっては恐怖の呪文とも言える単語を言い放った。

 

 

「はぁ〜…それにさ、ちゃんと卒業しないとお婆ちゃんめちゃくちゃ怒るよ?」

 

 

「おばぁ!?」

 

 

麻子は『お婆ちゃん』と言う単語を聞いて、先ほどまでとは打って変わり借りてきた猫の様に大人しくなったが、身体が震え、怯えた顔になった。

 

 

「(冷泉さんの婆さんは…怖い人なんだろうなぁ…)」

 

 

「わかった…やる…」

 

 

色々と迷った末に、戦車道を続ける事を承諾してくれた様子で、冷泉麻子の脱退は何とか免れた。

 

 

 

 

訓練が終わった後で勇介とみほ、他のチームの車長である磯部典子、澤梓、エルヴィンの代わりにリーダー格の装填手カエサルが生徒会室に集められた。

 

今週末の日曜日に行われる聖グロリアーナ女学院との練習試合に向けて、作戦会議が行われた。

 

 

「いいか!相手の聖グロリアーナ女学院は強固な装甲と連携力を活かした浸透強襲戦術を得意としている。とにかく相手の戦車は堅い、主力のマチルダⅡに対して、我々の砲は100m以内でないと通用しないと思え!!そこで一両が囮となってこちらが有利になるキルゾーンに敵を引き摺り込み、高低差を利用して残りがこれを叩く!」

 

 

「(成る程、聖グロリアーナはイギリス戦車のマチルダⅡか、ドイツの戦車学校で鹵獲した車輛を見物したな…)」

 

 

河嶋はホワイトボードに張られた図面のマチルダⅡと聖グロリアーナの戦い方を説明する。

 

マチルダⅡは、大戦初期のフランス侵攻時、ドイツ軍を手こずらせた戦車。

 

速度も主砲も平均的だったが分厚い装甲でドイツ軍の対戦車砲やⅢ号戦車、38(t)戦車の主砲を跳ね返していた。

 

88ミリ高射砲で撃破した影響で、後にティーガー戦車を開発するに至った。

 

 

河嶋の言葉を聞いて皆頷き勝利を確信する中で、みほだけが不安げな顔に気付いた角谷が話し掛ける。

 

 

「西住ちゃん〜どうかした?」

 

 

「あ〜いえ…」

 

 

「いいから言ってみ〜」

 

 

最初こそ遠慮していたみほだが、角谷からそう言われてみほは静かにこう言った。

 

 

「…聖グロリアーナは、当然こちらが囮を使って来る事は想定すると思います。裏をかかれて逆包囲される可能性があるので…」

 

 

「あ〜確かに!」

 

 

 

みほが言うと、皆は納得する。

 

 

「(へぇ〜中々分かっているじゃん、西住さんは流石戦車道の名家のお嬢さんってだけはあるなぁ~)」

 

 

そんな時

 

 

 

「うるさい黙れ!私の作戦に口を挟むな!!そんな事を言うのならお前が隊長をやれ!!」

 

 

 

「えぇ!!…すみません…」

 

 

 

河嶋に怒鳴られ謝るみほ。

 

 

すると勇介が進言した。 

 

 

「いや、西住さんが謝る事はない、西住さんの言う事にも一理ある。作戦に絶対に成功するなんてものは存在せん。敗北を目的とした作戦で戦闘を始める間抜けはいねぇ、戦争だろうが競技だろうが、最後の最後で何が起こるか分からないし誰にも予想は出来ん。だが、やるからには全ての力を勝利に注ぎ込むべきだ」

 

 

「桜井さん…」

 

 

「なんだと!桜井!貴様まで私の作戦に異論を唱えるのか!?」

 

 

みほを庇うと河嶋は、今度は勇介に突っかかる。

 

 

「この作戦の本質自体は悪くないので良いとして、問題は相手は準優勝の強豪校なんだろ。この作戦が必ず成功するって保証はどこにも無い。作戦ってのは最悪の事態を想定し、相手の先の先まで策を練らなければならないのが勝負の鉄則だ。この作戦には失敗した時の具体的にどのような行動にでるか明確に示されん、第一の段階で失敗した時点で大洗が勝利する全ての可能性が消失する。その程度の事も見抜けず慢心している様じゃ、まだまだ甘ちゃんだな」

 

 

「何を!?偉そうに、何様のつもりだ!!」

 

 

「日本陸軍少尉だ。戦争や戦車戦もろくに知らない小娘が!軍人の言葉に耳を貸さんか!」

 

 

「ひぃっ…」

 

 

河嶋の怒声を聞いた声で、勇介は軍人と言いながら軍刀を床に突き立てた。

 

大戦初期のマレー、フィリピン、ノルマンディー、アルデンヌ、ベルリンの戦車戦闘を経験した熟練の若干軍人。その光景を見た河嶋は涙目で脅えた。

 

そんな中、角谷が納めに入る。

 

 

「まあ、まあ、でもまぁ、隊長は西住ちゃんが良いかもね」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「西住ちゃんがうちのチームの指揮取って!」

 

 

 

「へ!?」

 

 

 

「あ、それと桜井君」

 

 

 

「何だ?」

 

 

 

「君には副隊長補佐兼と隊長代理を務めてくれないかな?本当は副隊長は君にやってもらいたいんだけど〜、副隊長は河嶋にもう決まっちゃってるんだけど、河嶋だけだと心配だからさ、その補佐役をやって貰いたいんだ。それに君との約束に有事の際の指揮権の移譲も有るからね。西住ちゃんに何かあった時はその時はよろしくね〜」

 

 

そう言うと角谷は笑顔で拍手をし、それに釣られる様に他の娘たちも拍手をする。

 

 

「(副隊長補佐か、小隊長の俺が補佐役と隊長代理とはねぇ)…わかりました。陸軍少尉、桜井勇介、引き受けます」

 

 

 

「頑張ってよ〜っ、二人とも勝ったら素晴らしい賞品挙げるから」

 

 

 

「え!?何ですか?」

 

 

 

「干し芋3日分!!」

 

 

「(要らねぇ~)」

 

 

「あの、もし負けたら?」

 

 

 

磯部典子が負けた時の処遇があるのか聞く

 

 

「大納涼祭りで履修生全員アンコウ踊りを踊ってもらおうかな〜?」

 

 

「(アンコウ踊り…なんじゃそりゃ…?)」

 

 

そう角谷が言うと皆が固まり、顔が青ざめていた。

 

みほは、転校してきたばかりなのでアンコウ踊りを知らず、勇介は神戸と欧州暮らしだったのでそもそも知らないので首を傾げる。その後、作戦会議はお開きになり各々帰宅して行く。

 

勇介とみほは、帰りを待っていた沙織達と晴香たちと合流する。

 

 

「アンコウ踊り~!?」

 

 

「ねぇ真澄…なんなの、アンコウ踊りって…?」

 

 

「うぅ…聞くだけでもおぞましい~…」

 

 

アリシアとパウラの質問で、真澄はアンコウ踊りを聞いただけで震えた。

 

 

「アンコウ踊り…恥ずかし過ぎる!!あんなの踊っちゃたらもうお嫁に行けないよ!!…いや、今すぐ桜井さんと婚約すれば…」

 

 

「絶対ネットにアップされて全国的な晒し者になってしまいます」

 

 

「一生笑われますよね」

 

 

「そんなにあんまりな踊りなの…?」

 

 

「どんな踊りか逆に気になるが、そんなに嫌なら勝てば良いだけの話だ!」

 

 

負けたらアンコウ踊りを踊らされる羞恥と絶望する皆に、勇介が勝てば良いと言う。

 

 

 

「そうよ、勝とうよ!!勝ってばいいでしょ!!」

 

 

 

「わかりました!負けたら私もアンコウ踊りをやります!西住殿一人だけに辱めは受けさせません!!」

 

 

「わたくしも恥を忍んでやります!」

 

 

「私も!」

 

 

負けたらあんなに嫌がっていたアンコウ踊りをやると言い出したのだ。

 

みほはいい友達を持った様であり、勇介は少し微笑んだ。

 

 

「皆でやれば恥ずかしくないよ!!」

 

 

「ありがとう」

 

 

「それよか、私は麻子がちゃんと来るかの方が心配だよ…」

 

 

「仕方ねぇ、俺も一緒に行って冷泉さんを起こすの手伝ってやるよ」

 

 

「ありがとう~桜井さぁ~ん」

 

 

 

皆の一番の心配事は今この場に居ない麻子がちゃんと起きてくる事かだった。

 

早起きが苦手な遅刻魔の麻子が時間通りに来る確率は低い。

 

そこで、勇介も彼女を起こすのを手伝うと述べると、沙織が泣き付いてきた。その後皆はそれぞれ家路に着いていく。

 

 

翌日、時刻は日がまだ登らない4時、勇介は目を覚ます。軍人として規則正しい生活を送って来た為、早朝に起きるのは難しくなかった。

 

ベッドから起き上がると顔を洗って歯を磨いた後軽く朝食を取り軍服に着替えて、寮を出る。

 

 

「あ!おはよう桜井さん」

 

 

寮の前で沙織が待っていた。昨日、一緒に麻子を迎えに行くと約束したが勇介は彼女の家の場所を知らない為、寮で待ち合わせする事にしたのだ。

 

 

 

「おはよう武部さん。それじゃぁ、早速行こうか」

 

 

「うん、ねぇ桜井さん、ちょっと手を繋いでいい…///」

 

 

「え...?///」

 

 

そして、勇介は沙織に麻子の家に案内してもらう形で向かう。

 

 

「なぁ…武部さん……」

 

 

「…えへへ…私はちょっとでも、桜井さんと恋人のつもりでいたいの…///」

 

 

「そ…そうなのか…」

 

 

数十分くらい手を繋ぎながら歩いて川沿いにある赤い壁の1階建ての平屋に着いた。

 

そして沙織がインターホンを鳴らす

 

 

 

「麻子!!起きてる試合に行く時間だよ!!」

 

 

玄関前でそう言うが返事は無かった。

何回かインターホンを鳴らすも返事が無く、完全に爆睡していると直感した。

 

すると、沙織は携帯を取り出して誰かに電話を掛ける。

 

 

『もしもし?』

 

 

「もしもしみほ!今、麻子ん家何だけど、やっぱ起きなくてさぁ!!どうしよう?」

 

 

みほに連絡して応援を要請する、電話の向こうでみほがため息を吐いているのを想像する。

 

その後、沙織が電話を切ってポケットにしまうのと入れ替わる様に鍵を取り出した。

 

 

「も〜うこうなったら中に入って起こすしか無い」

 

 

 

そう言って沙織は、玄関の扉の鍵を開けて中に入って行く。

 

 

 

「桜井さんも上がって!多分麻子はまだ寝室で寝てると思うから。麻子!起きてよ!!」

 

 

 

そう言うと沙織は麻子の寝室に直行した。

 

勇介も玄関に入って上がり、ある事に気づいた。玄関の靴置き場には入って行った沙織の革靴の他に麻子の物と思われる革靴と他の靴もサイズからして彼女の靴の様だ。

 

他の靴は一切見当たらなかった。それに、あれだけインターホンを鳴らして家族の誰一人として出て来なかったのも不思議だった。

 

そんな事を考えながら勇介は麻子の寝室に向かう。そこでは寝ている麻子の布団を武部が剥ぎ取ろうとしていた。

 

 

 

「うーんもう麻子起きてよ!!試合なんだから!!」

 

 

 

「…眠い」

 

 

「単位はいいの!!」

 

 

「よくない…」

 

 

「だったら起きてよ!!」

 

 

「不可能なものは不可能…」

 

 

沙織がどれだけ布団を引っ張ってもびくともしない。側には目覚まし時計が2、3個置いてあるにも関わらず起きられない。

 

勇介は、麻子に近づいて布団越しから冷泉の頭を人差し指で突っつく。

 

 

「おい冷泉さん、起きる時間だ。早く起きないと遅刻するぞ!」

 

 

 

「…ん?…っ!?な…なんで桜井さんがここに居るんだ!?」

 

 

「昨日、武部さんと一緒に冷泉さんを起こしに行くと約束したんだ」

 

 

「そ、そうか…だが…いきなり女子の部屋に入って来て…突っついて来るのは…い、いただけないぞ!」

 

 

「はぁ~そいつは悪りぃな、だがこうでもしないと冷泉さん起きないだろ!」

 

 

 パッパラパ~!

 

 

「っ!?」

 

 

すると、突然外からラッパの音が鳴り響き、勇介は軍人の癖で身体が動き、沙織が窓を開けるとそこには優花里が居た。

 

 

「おはようございます。桜井殿!」

 

 

「「 お~おはよう… 」」

 

 

勇介が挨拶をして来たので二人も挨拶を返すと向こうからⅣ号がやって来てⅣ号の砲身が上を向くと

 

 

 

ドカーン

 

 

 

Ⅳ号がいきなり発砲する。

 

 

「なんだ!?」

 

 

「どうしたの!?」

 

 

Ⅳ号の砲撃音に驚いて目を覚ます近隣の住民達に

 

 

「すみません!空砲です!」

 

 

キューポラから顔を出しているみほがそう言って砲撃音で驚いてしまった人達に謝罪する。

 

 

「(やれやれ…騒音出されればそりゃ近所迷惑だな…)」

 

 

 

「「 おはようございます 」」

 

 

「はぁ〜…私を起こすだけなのに…ここまでするとは…」

 

 

「それぐらいやらないと冷泉さん起きないだろ」

 

 

 

その後、麻子は渋々起き上がり、制服を持ってパジャマのまま沙織に担がれる形でⅣ号に乗り込む。

 

 

「あの、桜井さんも一緒に乗って行きますか?」

 

 

 

「ありがとう西住さん、その気遣いは無用だ。…そろそろ来る頃だな」

 

 

勇介はみほの誘いを断り自身の腕時計を見る。すると、地震のように家の家具が揺れ始め、それと同時に独特のエンジンの馬力の音と履帯の動く音が聞こえて来た。

 

 

「おっ、来たな!」

 

 

勇介がそう言うと、みほ達も後ろを振り返ってみると向こうから勇介の愛車パンターⅡがやって来た。

 

パンターⅡは、Ⅳ号の後ろで止まり、キューポラから晴香達が顔を出す。

 

 

「迎えに来ましたよ~車長~!」

 

 

「さっさと行きましょう!もうみんなは先に行って待ってますよ~!」

 

 

「もう残っているのはあたし達だけだよ」

 

 

「早く行こう!!」

 

 

「あぁ、万が一の時のためにメンバーを呼んでおいた。もし、冷泉さんが起きなかった場合最終手段としてそのままパンターに乗せていくつもりだった」

 

 

そう言って勇介は、パンターⅡに搭乗した。

 

 

「じゃあ!桜井さん達は、私達の後について来て下さい!」

 

 

「わかった。よし、沖田さん!このままⅣ号の後に付いて行くぞ!」

 

 

 

「了解です!」

 

 

 

そして、Ⅳ号が発進すると勇介達のパンターもⅣ号に続く様に動き出し、真澄の操作で住宅地を走行して行く。

 

 

「なになに?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「す、すみません」

 

 

朝っぱらの住宅地で戦車の走行音に住宅の人々が家から顔を覗かせる。みほは、騒音を出している事に謝罪する。

 

 

 

「あら〜Ⅳ号久しぶりに動いているの見たわね〜おや!?パンターは初めてだね、うちにあったんだね?」

 

 

「すご〜い戦車!」

 

 

「戦車道復活したって本当だったのね」

 

 

「試合か、頑張れよ!」

 

 

「ありがとうございます!頑張ります!!」

 

 

 

花に水やりをしていた老婆は動いているⅣ号を見て懐かしむと同時に大洗にパンターがあった事に驚いた。

 

そして、家の二階の窓から顔を出している子供と母親は興奮しながら戦車を見て、隣の家のおじさんは応援してくれた。そして、みほがお礼を述べる。

 

 

勇介、晴香、アリシア、パウラが、この様に住民から暖かく見送られるのはドイツの首都ベルリン防衛以来。

 

 

「こうやって、人々に見送られるのも久しぶりですわね車長…」

 

 

「あぁ、あの世界大戦で6000万人の人々が命を落としたのにそれを皆70年で簡単に忘れ、兵器である筈の戦車が今では競技の一つとしてこうして人々に普通に受け入れられているんだな」

 

 

「そうね…」

 

 

 

「「「 … 」」」

 

 

 

そんな人々とは、裏腹に70年の時を越えた勇介達は複雑な心境だった。彼らは、未だに戦車が競技の一つとして扱われることに抵抗があった。それは、あの戦争を戦った人達は多くの戦友を失い、多くの敵兵を殺してきたことだ。

 

その戦車が、競技となっているなど戦争を命懸けで戦った兵士達や死んで行った者達に対しての侮辱でしか無い。

 

その後、みほ達や勇介達は他の戦車道の履修生達と合流して学園艦の甲板に大洗に寄港するのを待っていた。

 

 

「久しぶりの陸だ。アウトレットで買い物したいなぁ」

 

 

「試合が終わってからですね」

 

 

「えぇ〜昔は学校がみんな陸にあったんでしょ…いいなぁ、私その時代に生まれたかったよ」

 

 

「私は、海の上が良いです。気持ちいし星もよく見えるし」

 

 

「西住さんは、まだ大洗の街歩いた事無いですよね?」

 

 

「あ、うん」

 

 

「あとで、案内するね」

 

 

「ありがとう」

 

 

大洗に来たことのないみほに大洗の街を案内しようと提案する。

 

一方の勇介達は陸地の方を見ていた。

 

 

「いよいよ…70年の未来とは言え、母国の日本に帰って来たんだ!」

 

 

その後学園艦は大洗の港に着き、港に着きみほ達は、学園艦を降りて行く。

 

勇介たちのパンターⅡが降りて、真澄以外は次々と下車した。

 

 

「やりました…ここが日本に到着しましたのね…お婆様の故郷、坂東はどこかしら…」

 

 

「やっと日本だよ…ステラ…マリー…シャルロットさん…あたしとアリシアさんは一足先に…」

 

 

「…ここが未来の…お父ちゃん…お母ちゃん…虎雄兄ちゃん…あたしは日本に帰ってきたよ…」

 

 

「日本だ…日本の土だ!…3年振りに帰って来たんだ~!」

 

 

アリシア、パウラ、晴香、勇介は日本の地に足を踏み入れ、歓喜の余り涙を流した。

 

 

その時、大洗の学園艦の隣に大洗よりも一回りも二回りも巨大な学園艦が大洗に寄港して来た。

 

 

 

「デカっ!!」

 

 

「あれが…聖グロリアーナ学院の戦車ですか?」

 

 

「うん……」

 

 

皆は、その巨大さに圧倒されていた。そして、学園艦からチラッと聖グロリアーナ戦車が見えた。

 

 

「(マチルダⅡと、その前方には…チャーチル戦車か…面倒な奴がいるな)」

 

 

マチルダの先頭を走るチャーチル歩兵戦車を見てそう述べる勇介。

 

チャーチル歩兵戦車は、戦時のイギリスの首相ウィンストン・チャーチルの名が付けられた戦車。

 

 

最後の侵攻作戦となったアルデンヌ戦にも導入され、勇介達も何度か戦った事のある相手だった。

 

 

 



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第11話 聖グロリアーナの淑女

 

 

 

 

 

戦車道の試合は午前8時に開催されるので、勇介は軽く散策した。

 

 

 

「これが、70年後の日本か…俺の故郷の神戸もどんな光景に…」

 

 

浸透する中で、大洗の市街地では試合の為の通行規制が敷かれ、アウトレットの広場には見学者が溢れていた。

 

ある通りには、祭りの如く屋台が設置されていた。

 

 

「試合が始まる前の祭りだな…父さんと母さん、姉さんと兄貴の祭りが懐かしいな…」

 

 

心の思い出では幼少の頃、家族と祭りに赴き屋台で遊び、盆踊りで踊った記憶が蘇る。

 

だが、後の神戸の水害で両親は亡くなり、生き残ったのは長女の志帆と兄の洋介だ。

 

するとー

 

 

「あの〜すいませーん」

 

 

「写真撮ってもいいですか?」

 

 

「んが…?」

 

 

勇介の背後に、次々と女性が並んでいた。

 

 

「あー…いいけど」

 

 

「やった!」

 

 

勇介の言葉で女性は喜んだ。

 

 

「どこを撮れば…?」

 

 

カシャッ

 

 

女性が次々と勇介の隣に並び、写真を撮っていた。

 

 

「ありがとうございまーす♪」

 

 

「あの~…俺と写真撮ってどうするんだ…?」

 

 

「だって、この試合のイベントで、ドイツ軍のミリタリーコスプレの人と記念写真が撮りたくて~♪」

 

 

「コスプレ…?仮装のことかな…変なの…」

 

 

21世紀に来た勇介は、頭を傾げるばかりであった。

 

 

「もうすぐ0800時か…さて、戻るか…」

 

 

「おやめなさい!」

 

 

「っ!?」

 

 

腕時計を見て時刻が迫った時、女性の嘆きが聞こえた。

 

 

「ちょっとやめて下さい。わたくし急いでますの…!!」

 

 

勇介が声のした路地を掛け着けると、金髪を三つ編みに束ねた女性が、ガラの悪い3人の不良連中に絡まれていた。

 

 

「いいじゃねぇか~君イケてるじゃん俺らと遊ぼうぜ」

 

 

「その服聖グロリアーナだな~」

 

 

「へぇ〜お嬢様ばっかしの学校じゃん♪」

 

 

「離して下さい!!」

 

 

嫌がる彼女を強引に手を引っ張る不良達。

 

周りの人達は関わりたくないと言った感じで見て見ぬふりをして通り過ぎて行くだけだった。そんな状況を見兼ねた勇介は怒りを顕にした。

 

 

「おい、貴様ら!何やっとるか!彼女は嫌がっているだろうが!!男三人で寄ってたかって、嫌がる女を無理やり手籠にするとはみっともねえ」

 

 

「何だ?こらぁ〜正義のヒーロー気取ったんじゃねぇぞ!ミリタリーコスプレ野郎が!俺らの邪魔すんじゃねぇよ!」

 

 

助けに入った勇介に、不良の一人が勇介の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「なぁ、痛い目みないとわかんねぇかぁ~?」

 

 

「カハハハハハ〜♪ミリコス野郎に攻撃開始〜!ペッ」

 

 

もう一人の不良が、勇介の頬に唾を吐いた。

 

 

勇介は不良の腕を掴んで背負い投げを食らわせる。

 

 

「ぐはっ…」 

 

 

「何しやがんだ!テメェ!」

 

 

「ヤロォー!よくもやりやがったなぁ!」

 

 

不良の一人が投げ飛ばされたのをみて他の不良二人が勇介に殴り掛かろうとしていた。

勇介は、不良の一人を腕を掴んで四方投げを食らわせもう一人の不良も小手返しを食らわせて不良達の攻撃を跳ね除ける。

 

バシッ 「ぐはっ…」

 

 

ドシッ 「ぶへっ…」

 

 

すると頭に来た不良達はポケットからポケットナイフを取り出した。

 

 

「畜生〜!こいつめ!」 

 

 

「そいつを出したからには覚悟は出来ているんだろうな?」

 

 

「あ?」

 

 

「刃物を向けたからには覚悟は出来ているんだろ?」

 

 

「何言ってやがんだぁ?」

 

 

「そいつは脅しの道具じゃねぇって言ってんだ」

 

 

『うるせぇ!!死ねぇ!!』

 

 

不良達は三人一斉に勇介に襲い掛かった。

 

 

「危ない…逃げて!!」

 

 

「大丈夫だ、それにお嬢さん。両手で目を隠し、じっとしていろ」

 

 

「え…?はい」

 

 

彼女は叫ぶが、勇介は余裕の笑みを浮かべて追及言、彼女は両手で目を隠した。

 

帯刀する軍刀狼虎を握り、抜刀術の構え、不良達に斬り込む。そして

 

 

スパアアァン

 

 

「あぁ~あ…服を斬ってしまったか…」

 

 

「「「 え…? 」」」

 

 

勇介はいつの間にか不良達の背後にいて、軍刀狼虎を鞘に納めたと同時に、不良達のポケットナイフの刃が斬り折られ、更に不良達の衣服がバラバラに切り刻まれ、全裸になった。

 

 

「ぎゃ~///…な、何だよコイツ!」

 

 

腰のホルスターからワルサーP-38拳銃を右手で構えた。

 

 

「最後に忠告する。その娘を解放し、失せろ!!」

 

 

勇介の眼は、戦場で戦った眼に変色していた。

 

 

「ややや…やべぇよ~!」

 

 

「逃げるぞ!覚えてろ~!!」

 

 

不良達は顔を青ざめ、両手で急所を隠しながらそそくさと逃げて行った。

 

 

「へっ…貴様らなんかもう忘れたぜ。…終わりましたよお嬢さん。大丈夫ですか?怪我はありませんか?」

 

 

彼女は勇介の合図で、目を隠した両手をおろした。

 

 

「え!?…だ、大丈夫ですわ。助けていただきありがとうございます。あの…あなたは…?」

 

 

彼女は目の前の光景に呆気にとられていたが直ぐに我に返る。

そして、勇介の頬の汚物をハンカチで拭いた。

 

 

「おっと…すみません。俺は、初めて大洗にやってきた仮装の通行人ですよ。あっ…しまった時間が…じゃあ、俺は急いで行かなかればならない所があるので、これで…」

 

 

「あ、あの…」

 

 

彼女が呼び止める間もなく勇介は敬礼し、走り去っていった。

 

試合の時間が押していたので勇介は彼女の声には気付かなかった。

 

 

「ダージリン様~!」

 

 

「あら、オレンジペコさん…」

 

 

聖グロリアーナの生徒、従者のオレンジペコが隊長のダージリンを探しに赴いた。

 

 

「あの…なにかあったのでございますか…?」

 

 

「いいえ…不思議なお方、またお逢い出来るかしら…?…///…いけませんわ!急がないと試合に遅れてしまいますわ!」

 

 

走り去って行く勇介を見て、ダージリンは顔を少し赤くしてそう言うと彼女は試合会場に急いで行った。

 

だが彼女は知らなかった、彼とまた巡り会う事になる事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「車長、どこに行ってたの!?」

 

 

「すまんすまん、ちょっと大洗の町の探索に…」

 

 

副長の晴香が叱り、車長の勇介は彼女の前でお辞儀しながら謝罪する。

 

叱る中でアリシアとパウラ、真澄が会場を見渡した。

 

 

「…しかし…大きな会場ですね…」

 

 

「えぇ…いつか見たベルリンオリンピックを思い出しますわ♪」

 

 

「えっ…?お二人は戦前のドイツのオリンピックを観たのですか…?」

 

 

「えぇ、パウラと会場の観客席にアメリカからきたハーフの娘と仲良くなり、友人になりました」

 

 

「あたしはオリンピックの光景を見て、いつかスポーツ選手として参加することが、あたしの夢!」

 

 

「…戦車に乗る前の夢…凄いなぁ~…アリシアさんとパウラさんの友人、どんな娘かな~」

 

 

観客達はモニター画面から試合会場の様子を見ていた。

 

その観客で、ある学園と学院から赴いた隊長と人物が席に座っていた。

 

 

試合会場では大洗の車長達は戦車の前で整列をする。

 

勇介達4人は、ドイツ軍36年型野戦服から黒い戦車服に袖を通していた。そうして待っていると履帯の音がして来た。

 

あのチャーチルを先頭に左右にマチルダ5両を従えて聖グロリアーナ女学院の戦車隊がやって来た。

 

 

「おぉ…さすが強豪校だけに、車輛のフォーメーションがいいな…」

 

 

「なに感心しているのよ車長!」

 

勇介が感心している時、戦車隊が止まるとチャーチルから一人の女性隊長、ダージリンが出てきた。

 

彼女が降りて来て、河嶋と挨拶を交わす。

 

 

「本日は、急な申し込みにも関わらず試合を受けていただき感謝する」

 

 

「構いません事よ。それにしても…"個性的な戦車ですわね"」

 

 

ダージリンは口を抑えてクスクスと笑いながら言う。

 

ピンク一色のM3やカラフルな三突や金色の38(t)、願望を綴った八九式などを見れば誰だってそう思う。そして、河嶋は彼女からそう言われてたじろぐ。

 

 

「ですが、わたくし達はどんな相手にも全力を尽くしますの!サンダースやプラウダみたいに、下品な戦い方は致しませんわ。騎士道精神でお互い頑張りましょう!」

 

 

 

そう言って彼女の周りを見渡すと、彼女の視線が勇介に向けられる。

 

 

「あら?そちらのチームには男性の方が…あら…あなたは!?」

 

 

「ダージリン様どうしたんですか?」

 

 

聖グロリアーナの隊長、ダージリンが勇介を見て驚き、彼女と同じ髪型をした女子が首を傾げて聞いて来た。

対する勇介も彼女を目の当たりにする

 

 

「あぁ、君は…!?」

 

 

「桜井さん?…聖グロリアーナの隊長の方と知り合いなんですか?」

 

 

「あぁ、ちょっとな実はな…」

 

 

みほの質問で、勇介は知り合った経緯を話した。

 

 

「そうだったんですか…」

 

 

「いいないいなぁ〜…そんな少女漫画みたいな事、桜井さんにされてみたいなぁ~」

 

 

晴香と優花里は納得し、沙織は膨れっ面に不満気で呟いていた。

 

ダージリンは再びあの時のお礼を言って自己紹介をする。

 

 

「先ほどは、本当にありがとうございます。改めまして聖グロリアーナ女学院の隊長ダージリンと申します。以後お見知り置きを」

 

 

「大洗女子学園戦車道の助っ人です」

 

 

勇介はダージリンの前に名前を名乗らず、互いに挨拶をする。

 

 

「この試合で勝敗がお決まりしたら、教えてくださいね♪」

 

 

「えぇ、お互い正々堂々で頑張りましょう」

 

 

「えぇ、望むところですわ」

 

 

そう言ってる間に、ドイツ軍の野戦憲兵に酷似する服を着た審判が立ち入り、皆お互いに相手同士向き合って整列する。

 

 

「それではこれより聖グロリアーナ女学院対大洗女子学園の試合を始める!一同、礼!」

 

 

審判が号令すると互いの車長はお辞儀をして、自身の戦車に乗り込んで行く。

 

そして、両校の戦車隊は指定のスタート地点に移動して待機し審判からの試合開始の合図を待っていた。すると

 

 

『用意はいいか、隊長?』

 

 

「あ!?はい…」

 

 

『全ては貴様に掛かっている。しっかり頼むぞ!』

 

 

河嶋から無線で連絡が入り全てはみほに掛かっていると言われた。そして、審判が両校の指定の位置を確認すると

 

 

『試合開始!』

 

 

アナウンスで試合開始の合図が流れると、全車輛が一斉に走り出す。

 

 

 

 

 

 

 



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