幻術なのか!? (スージーサーモン)
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幻術なのか!?神童・鬼灯水月



第二部でサスケの相棒ポジになるかと思いきや、活躍せぬまま退場した神童水月。

二代目水影を先祖に持ちながら、勿体ないヤツだよなぁと思いつつ…。


 

 

 姓は鬼灯。名は水月。

 

 忍び五大国の一つ、水の国の忍びの隠れ里『霧隠れの里』にて、彼は神童と謳われた存在だ。

 

 ただ、神童と謳われた鬼灯水月はある日、何の前触れもなく忽然と姿を消した。霧隠れの里に存在する特殊な能力を持った忍刀の一本と共に…。

 

 自ら里を抜けたのか、他里に拉致されたのか、それとも──殺害されてしまったのか…。それは誰にも分からない。

 

 一つだけ言えることは、霧隠れの里にとって大きな損失ということだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「水月、あなたには私の懐刀になってもらうわよ」

 

「えェ…めんどくさいのは嫌だ」

 

 霧隠れの里から忽然と姿を消した鬼灯水月は現在、()()()()調()の男と共に行動していた。

 

 正確には、拉致されたと言うべきなのだろう。

 

「なら…『()()』を刻まれる方がいい?」

 

「ボク、ガンバッテ懐刀ニナル」

 

 鬼灯水月を拉致したのは全世界に悪名を轟かせる忍であり、木ノ葉隠れの里の抜け忍──大蛇丸である。

 

 特殊な能力を持った者達を収集する趣味を持つ大蛇丸に、水月は目を付けられたようで、執拗に追いかけ回された結果、今に至るようだ。

 

 水月にとって殺された方が良かったのか……それは分からない。

 

 ただ一つだけ言えることは、水月はこれから大蛇丸に扱き使われるということだけだ。水月の場合、大蛇丸に目を付けられただけではなく気に入られてしまっている。恐らく、壮絶な追いかけっこの最中に水月の才能を目の当たりにしたのだろう。

 

 水月にとって、大蛇丸に目を付けられたのが運の尽き。

 

「まァ、そう悲観することはないわ。

 あなたは神童と謳われていることもあって、今でも十分に強い。私の懐刀として働いてくれるなら、そのお礼に私が直々に鍛えてあげる…どう?」

 

「いいよ」

 

 しかし、条件の良さもあってか、水月は先程の片言な様子とは打って変わり、真剣な表情で即答する。

 

 悪名高い大蛇丸ではあるが、忍としての実力は超一流。どうやら、水月はそれを知っているようだ。大蛇丸が直々に鍛えてくれたならば、更なる強さを手に入れることができると思ったのだろう。

 

 鬼灯水月は血筋故か、純粋な戦闘狂でもあり、常に強さを追い求めているのだ。

 

「交渉成立ね」

 

「これから頼んだよ…大蛇丸」

 

 鬼灯水月は大蛇丸に拉致された。

 

 だが、連れてこられた新たな場所で、有意義な時間を過ごすのだろう。

 

 そして、神童と謳われた彼は更なる進化を遂げることとなる。

 

 数々の伝説を遺し、『幻影』と恐れられた二代目水影・鬼灯幻月の子孫──鬼灯水月。彼もまた、先祖と同じく数々の伝説を……もしかしたら、先祖を超える伝説の数々を遺すのかもしれない。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 『伝説の三忍』の1人に数えられる大蛇丸にとって、鬼灯水月という存在はかなり特別なものだった。

 

 先祖の血を濃く受け継ぎ、才能豊かで、何れは自身を上回るだろうと思えてしまう。教えたことをとてつもない早さで吸収し、昇華していく。

 

 鬼灯水月は才能に恵まれていた。

 

「水月、あなたには私が最も尊敬する二代目火影…千手扉間様の忍術を極めさせようかしら」

 

 その水月に、大蛇丸は多くの忍術を習得させるつもりだ。それも、禁術指定されている厄介なものばかりを…。

 

 『忍術の発明家』と謳われる一方で、あまりにも危険な忍術も数多く開発した故に、他里では卑劣極まりない人物として恐れられた二代目火影・千手扉間の忍術を極めようとさせているのが証拠である。

 

「あなた、チャクラ量も()()()()()()()()()()だし、二代目世代を超える可能性を秘めているわ」

 

 大蛇丸は水月を鍛え上げるのにかなり乗り気だ。

 

 恐らく、同じく三忍と謳われる1人──自来也に対して、秘かに対抗心を燃やしているのだろう。本人は決してそれを認めない上に、もしかしたら無自覚かもしれないが、大蛇丸は師として()()()()()を持っている自来也に負けたくないのではないだろうか…。

 

「ふふ…あなたの存在が公になった時、()()()()も驚くでしょうね。楽しみで仕方ないわ」

 

「別に僕は…あ、はいスミマセン。

 ガンバッテ修業シテ強クナリマス」

 

 そして、水月が大蛇丸の望み通りに成長した時、この忍界に大きな影響を及ぼすはずだ。

 

「それじゃあ、どの忍術から習得してもらおうかしら?

 水遁系はあなた得意だから自力で習得できるでしょうし…『飛雷神の術』?それとも…『穢土転生』にする?

(さて…この子はどこまで成長してくれるかしらね?

()の奴らを3人くらい殺ってくれれば万々歳なのだけど…)」

 

 ここに、禁断の師弟が誕生してしまった。

 

 ただ、大蛇丸の真の目的は水月を懐刀にし、自身の命を狙う者達を抹殺することだ。

 

 自身の手を汚すことなく、新たな弟子に厄介事……それもかなりの無理難題を押し付ける。もっとも、これは水月に可能性を見出だしたからなのだろう。

 

 とはいえ、神童と謳われた子供がこれからどこまで成長するのか、大蛇丸は純粋にそれを楽しみにしている。

 

 大蛇丸は忍術の扱いに関しては超一流の忍だ。

 

 鬼灯水月が大蛇丸の下でどこまで成長するのか見物である。

 

 






お気に入り登録してくれた方、申し訳ないです!

書き直したくなり、再投稿となってしまいました!また改めてお気に入り登録、執筆の励みになるので感想、ご評価よろしくお願いします!!


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幻術なのか!?心地好い雷



続けてもう一話!


 

 

 鬼灯水月は雷遁が()()()()()

 

 鬼灯一族には肉体変化能力──『水化の術』という秘伝忍術があり、人から水へ、水から人へと変化することができるのだが、それ故か雷遁に非常に弱いのである。

 

 だが、それも過去の話だ。

 

 水月は水遁の性質変化の他に、雷遁の性質変化を有していたらしく、雷遁チャクラを己自身に当てるという荒療治を施し、それによって弱点を見事に克服してみせたのである。

 

 しかも今となっては、弱点だった導電性を逆に利用してすらいる。雷遁チャクラを身に纏い、身体を活性化させる『雷遁チャクラモード』というものがあるが、水月は良すぎる導電性を逆に利用することで、体内に迸る雷が神経の伝達スピードを底上げする現象を従来の雷遁チャクラモードよりも遥かに優れたものへと昇華したのである。

 

 水月が得意とする水遁は優劣関係上、土遁に弱いとされている。だが、土遁は雷遁に弱い。水月は弱点だった雷遁を克服し、尚且つ雷遁の使い手としてもかなりのレベルに達したことで、同時に二つの弱点を克服することに成功したのだ。

 

 その上、水月は雷遁を克服したことで霧隠れの里に存在する特殊な能力を持った忍刀の一本──『雷刀・牙』の使い手にもなった。

 

「チッ!

 よりにもよって、オイラが苦手な雷遁使いかよ!?」

 

「自分で弱点言っちゃうなんてバカなヤツだね」

 

 そして水月は現在、二刀一対の雷刀・牙を手に大蛇丸関連の敵と戦っているところだ。正確には、戦わされているというべきだろうか…。

 

「オイラの芸術の凄さも理解できねェようなガキが図に乗ってんじゃねェよ!うん!!」

 

 相手は、忍び五大国の一つ、土の国の忍びの隠れ里『岩隠れの里』の額当てをし、その額当てに横一文字の亀裂を入れ、黒地に赤い雲模様の入った外套を身に纏った金髪の煩い忍だ。

 

 出身里の額当てに横一文字の亀裂を入れているということは、この敵は抜け忍。しかも抜け忍であるということを自ら進んで主張しているということは相当な手練れ。

 

「優劣関係があるとはいえ、簡単に不能になるガラクタに興味なんて持つはずないでしょ…。

 アンタがS級犯罪者なんて嘘でしょ?」

 

 もしくは、自身の力を過信しすぎている愚か者だろう。

 

 どちらにせよ、大蛇丸に弟子入りしたことで雷遁と剣術のレベルが更に向上した水月にとって、油断をしなければ勝てる可能性が十分にある相手である。

 

「ブッ殺す!!」

 

「はいはい…あーまたガラクタ斬っちゃったなァ」

 

 しかも、雷遁チャクラによる身体活性でスピードは圧倒的に水月が優勢。それに、雷刀・牙に雷遁チャクラを流すことで斬れ味を底上げし、敵が放ってくる爆発する奇形物を細切れにし、土遁の術で形成されたそれを弱点の雷遁で斬ることで不発にしている。

 

 この勝負、優位に立っているのは見るからに水月だ。

 

「さて…アンタには『暁』についてじっくり話をしてもらおうかな?」

 

「くッ!」

 

 雷刀・牙の切っ先を向け、水月は不敵な笑みを浮かべている。

 

 大蛇丸に拉致され、弟子入りし、早いことで1年。水月は大蛇丸の期待どおりに……いや、期待以上に成長しているようだ。

 

 実力だけではなく、意外にもそこそこ知謀に長け、得意の水遁忍術を用いることで隠密活動もできる水月は立派な懐刀である。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 自身の力を過信しすぎている愚か者は、どうやら水月だったのかもしれない。

 

「戦いを優位に運んでいたにも拘わらず逃がすなんて…あなたもまだまだね」

 

「返す言葉もございません」

 

 優劣関係上、土遁に対して優位にある雷遁で戦いを優位に運んでいた水月だったが、生け捕りにすることは叶わず、かといって殺すこともできず、優位に立っていたことで生まれてしまった余裕が弊害となってしまい、水月は大きな失態を犯してしまった。

 

 敵を取り逃がしてしまったのである。

 

 大蛇丸の命を狙う犯罪組織『暁』の情報を得る為の絶好の機会を水月は逃してしまったのだ。

 

「まあでも、私の後釜相手に戦いを優位に運んだことだけは誉めてあげる。ギリギリ及第点ってところね」

 

 本来なら、水月の失態は罰則ものだ。

 

 だが、相性の良さもあったとはいえ、S級犯罪者を相手に生きて戻ったことだけは誉められてもいいのかもしれない。

 

 残忍な性格で恐れられている大蛇丸も、弟子が可愛いのだろう。

 

「水月…次はないわよ」

 

「酷くない?

 大蛇丸が暁を抜けたりしなきゃ…あ、はい…肝に銘じておきます、師匠」

 

 もっとも、同じ過ちを犯す愚か者は弟子失格。大蛇丸はろくろ首のように首を伸ばし、水月に最後通告を言い渡す。

 

 もう失敗は許されない。

 

 そもそも、相手は大蛇丸と同等の実力を持ったS級犯罪者。今回は相性が良かったのもあるが、次に戦う相手は逆に相性が悪いかもしれない。

 

 水月からしたら、あまりにも無理難題すぎる。

 

「あなたなら大丈夫よ」

 

 それでも、水月に無理難題を強いるのが大蛇丸だ。どんな無理難題でも何だかんだで頑張ってこなそうとする水月が見ていて飽きず、可愛いのだろう。ここまで飽きさせない弟子は、大蛇丸にとっても初めてのことのようだ。

 

 何より、どんな形にもなれる変幻自在の水のように、どのような状況にも柔軟に対応する。

 

 大蛇丸は弟子の成長を純粋に楽しんでいるのだ。

 

「大蛇丸の甘い言葉は怖すぎる…槍が降りそうだな」

 

「本当に降らせるわよ」

 

 この師弟、意外にも仲が良い。

 

 

 



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幻術なのか!?師匠に似た拾い癖



大蛇丸って拾い癖あるよね。



 

 

 少女は全てを諦めていた。

 

 このまま奴隷として生き、使い物にならなくなったら母親のように塵のように捨てられるのだろうと…。

 

「反吐が出る」

 

 だが、少女はある日救われた。

 

 それまで少女を奴隷として扱き使っていた男達が次々と、小さな水の塊で頭を撃ち抜かれて死んでいき、少女は解放されたのである。

 

「大丈夫?」

 

 チャクラを感じ取れる少女が何一つ感じ取ることができず、何もいないはずの目の前から聴こえてくる声。その声の主が少女を救ったのだろう。

 

「あ、ごめん。

 術、解除するの忘れてた」

 

 すると、白髪の少年が姿を露にする。

 

「こ…子供?」

 

「うん、子供だね。つか、君も子供だけどね。

 僕と同じ歳くらいかな?」

 

 少女と同じ歳頃の少年に、少女はただ驚いていた。

 

 こんな少年が、大人の忍達を殺したのかと…。

 

「僕は水月。君は?」

 

「あ…ウ、ウチは、()()

 

 白髪の少年が水月と名乗り、名を聞くと、赤い髪の少女は香燐と名乗った。

 

「香燐か。

 ねェ、君がこんな場所に居続けたいなら、それはそれでいいけど…もし君がこんな場所に居たくないなら、連れ出してあげるけど…どうする?」

 

 その香燐に水月は唐突に提案をする。

 

 水月は自身の姿を消し、少しではあるが香燐という名の少女の置かれた現状をその目で見ていた。

 

 自身と同じ歳頃の少女が大人の男達に噛みつかれ、回復役として奴隷のように扱われていた。水月はその光景に表情を険しくし、大人の男達を嫌悪し、憎悪を抱いたのである。

 

 そして、水鉄砲の術で頭を撃ち抜き殺害した。

 

「ど、どうして…ウチを助けてくれるの?」

 

「うーん、どうしてかな?

 ただ、君が奴隷のように扱われるのを見て嫌な気分になったのは確かかな。だから、気分?

 まあ、安心していいよ。僕はそこに転がってる屍達のように君を扱うことはないし、師匠にも酷いことしないように言ってあげるから」

 

 水月がたまたま目撃した光景が、たまたま水月の嫌いものだった。理由はそれだけ。

 

 だがそれでも、香燐という少女にとって、水月は命の恩人であり、救世主のような存在だろう。

 

 地獄から救い出してくれた神様にすら思えているかもしれない。

 

「お、お願い…ウチを…ここから連れ出して」

 

「うん、いいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い髪の少女──香燐は夢を見ていた。

 

 自身を地獄から救い出してくれた水月と出会った日の夢を…。

 

「水月」

 

 だからなのだろう。目覚めた香燐の第一声は水月の名前だった。

 

「どうしたの?」

 

「!?」

 

 ただ、水月がベッドに腰掛けていたのは想定外だったようだ。優れた感知術の持ち主でもある香燐だが、さすがに睡眠中には感知術は発揮されず、寝起きは精度が鈍くなっている。

 

「ど、どどど、どうしてここにいんだよ!?

 よ、よよよ、夜這いか!?」

 

 今すぐに会いたいと思いつつ、今一番会いたくないと思っていた水月がすぐそばにいたことに、香燐はいつになく動揺しており、変なことまで口にしてしまっていた。

 

 もっとも、それはもしかしたら香燐が隠している願望なのかもしれないが…。

 

「夜這いされたいの?なら今度してあげるよ。

 まあ、それはともかく…珍しく香燐がなかなか起きてこなかったからね。もしかしたら、体調が悪いのかも?って心配だったから…けど、大丈夫そうだね」

 

「え…あ、う、ウソ!

 もうこんな時間!?」

 

 香燐が水月に連れられてこの場所にやって来て半年。彼女も最初こそ、また同じような地獄か、それ以上の地獄を味わうことになってしまうかもしれないと毎夜毎夜恐怖で眠れなかったようだが、水月が香燐を傷つけるはずもなく、水月の師匠──大蛇丸も香燐の素性をすぐに見抜き、彼女はこの場所で大切に扱われていた。

 

「ご、ごめん…寝坊しちゃった」

 

「環境にも慣れて、少し気が緩んだみたいだね。

 けど、悪いことじゃないと思う」

 

 寝坊したことに落ち込む香燐だが、彼女がこの環境に慣れたことを嬉しく思う水月は、励まそうと香燐の赤い髪を優しく撫でる。以前の劣悪な環境のせいもあり、彼女は男に触られようとすると酷く震え怯えてしまう。だが、救い出してくれた水月に対してだけは、最初こそ震えてはいたが、全てを許すことができるまでになっていた。

 

「水月、ありがとう」

 

「ん?」

 

 だからこそ、香燐は水月に感謝の言葉を伝えたくなったのだろう。

 

 水月のおかげで、香燐は救われた。

 

 不思議と、水月のそばにいれば大丈夫とすら香燐は思えてしまっている。

 

「僕は良い人材を求めてフラフラしてただけで、たまたまだよ。だから、香燐がそこまで僕に感謝することはないよ」

 

 水月はこう述べているが、そのたまたまに……香燐は救われたのだ。そして、香燐は水月がそのように述べるのを理解していながら、感謝の言葉を述べた。

 

「ウチ、頑張って強くなる。

(ウチが水月を支えるんだ)」

 

 香燐は強く決意する。

 

 地獄から救い出してくれた水月の為に、香燐は強くなる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 大蛇丸の右腕──薬師カブトは深い溜め息を吐き、呆れた表情でこう述べた。

 

「水月…大蛇丸様の弟子だからって、()()()まで似なくてもいいんじゃないかな?」

 

 どうやら、溜め息の原因は水月にあるようで、水月がまた誰かを拾ってきたようだ。

 

「いやー、つい…ね。

 それに、()()()()()()()は同郷の顔馴染みだし、何より戦力として申し分なしじゃない?

 だって、あの鬼人と氷遁の使い手だよ?」

 

 しかも、相当な手練れと、香燐と同じく特殊な血族のようである。

 

 同郷ということは、つまりは霧隠れの里の忍……いや、元霧隠れの里の忍だ。

 

「まあ、大蛇丸なら許してくれるでしょ!!」

 

「まったく君は…」

 

 霧隠れの里の『忍刀七人衆』の1人で、鬼人の異名で恐れられる桃地再不斬と、再不斬の部下で霧隠れの里の暗部……追い忍部隊に所属していた氷遁使いの天才・白。

 

 この2人は水月と旧知の仲で、水月の誘いならば悪いことにはならないだろうと誘いを受け、このアジトまでやって来たようだが…。

 

「大蛇丸だと!?

 水月、お前の師匠ってのはまさかッ!!」

 

 ただどうやら、水月の師匠が木ノ葉隠れの里の抜け忍で、S級犯罪者の大蛇丸だとは聞いていなかったようだ。

 

「そうだよ。

 まあ、再不斬先輩と白も、絶対に悪いようにはしないって僕が約束するよ。再不斬先輩達があんな()()()()()()()()()()るなんて勿体なさすぎだしね!」

 

 恐らく、先に大蛇丸の名を出していたらついてこないだろうと思い、水月は教えていなかったのだろう。

 

 現に、再不斬と白は強い警戒心……強い敵意を水月とカブトに向けている。

 

 鬼人・再不斬が大蛇丸を知らないはずながなく、残忍さも再不斬の耳に届いているのだろう。

 

 しかしまさか、霧隠れの里に在籍していた時分に可愛がっていた神童が、まさか大蛇丸の弟子になっていようとは…。

 

「テメエ…少し見ねェ間に外道に成り下がりやがって…」

 

「凄い言われようだね。

 けど…外道はお互い様だし、再不斬先輩と僕よりも外道なヤツはこの世にわんさかいるよ」

 

 水月が大蛇丸の弟子であることは疑いようのない事実だが、外道に成り下がった……それは少し違うかもしれない。水月は大蛇丸に拉致された被害者であり、弟子になり鍛えられてこそいれど、彼は未だに犯罪行為を犯してはいないのだ。

 

 いや、一つだけ犯してはいるが、草隠れの里の忍を何人か殺害し、香燐を草隠れの里から連れ出したのが水月の犯行だと知る者はいない。

 

 だが、大蛇丸に拉致されて以降の水月を知らない再不斬からしたら、悪名高い大蛇丸の弟子になった=外道に成り下がったということなのだろう。

 

「それと…多分、再不斬先輩じゃあ、もう僕には勝てないよ?」

 

「へッ、ガキが言うようになったじゃねェか!

 面白ェ…外道に成り下がった後輩を再教育してやる!」

 

 ただ、再不斬は気付いていない。

 

 かつての後輩が大蛇丸の下でどれだけ実力を伸ばしたのかを…。もう、先輩風を吹かせることなどできないことを…。

 

 

 






香燐が水月を慕っている……幻術なのか!?

大蛇丸の影響か、各地をフラフラしては色々と拾っている模様。拾い癖も師匠譲り。

再不斬、白生存!

波の国編は途中で閉幕!
一度目の戦闘はあるも、二度目の戦闘前に、水月が再不斬と白のもとに赴きアジトに拾って帰った模様。

ちなみに、ガトーショコラは水月に殺され、チンピラ達も皆殺しに…おかげで、波の国の橋は完成。

しかし、二度目の戦闘がなかったせいで、第7班の成長がないという…。


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幻術なのか!?陸に上がった河童

 

 

 残忍さ、冷静さ、賢さ、拾い癖、忍術の才能。

 

 何だかんだでそっくりになりつつある忍界一傍迷惑な師弟──それが、水月(弟子)大蛇丸(師匠)である。

 

 つい最近も、水月が霧隠れの里の抜け忍で、鬼人の異名で恐れられる桃地再不斬と、氷遁使いの白を拾ってくるなど、拾い癖は益々師匠譲りのものとなっているようだ。

 

 数少ない違いは、水月がオネエ口調ではなく、自身の体に禁術をかけたり、様々な薬品を投与したりする変態……マッドサイエンティストではないことだろうか…。水月も弱点であった雷遁を克服する際、自身の体に雷遁を当てたりしているが、それは弱点を克服する為なのでまったく別である。

 

「水月…頼んだわよ」

 

「はいはい。

 大蛇丸が御執心の()()()()()()()()()()()()()()()()…でしょ?」

 

 その傍迷惑な師弟は現在、今後の計画を入念に話し合っているところだ。

 

 しかも、水月は大蛇丸に任務を与えられているようだが、またいつものように無理難題を押し付けられているらしい。とはいえ、その無理難題を難なくこなすのが水月で、大蛇丸も水月に絶大な信頼を寄せているからこそ任せるのだろう。

 

「返事は一回…何回も言わせるんじゃないわよ、まったく。

 はあ…今はそれよりもサスケくんについてよ。()()()()()()()()()()()()()()サスケくんに写輪眼を開眼させるには、同年代の子に圧倒的な力の差を見せつけられ、打ちのめされること。つまり、己の無力感に苛まれることよ」

 

 そして、今回与えられた無理難題というのが、木ノ葉隠れの里の下忍で、大蛇丸が欲する少年──うちはサスケの身に宿った強大な力を目覚めさせろというものである。

 

 水月がこれまで与えられた無理難題の中でも、そこそこのレベルの無理難題かもしれない。もし、うちはサスケの身に宿った強大な力が目覚め、水月が殺されたらどうするつもりなのだろう。

 

「私の懐刀なら余裕よね」

 

「うっかり殺しちゃわないように頑張る」

 

「サスケくんを殺しちゃったら、私があなたを殺すわ」

 

 どうやら、水月が殺される可能性など微塵も考えていないようだ。寧ろ、水月が対象をうっかり殺さないかを心配しているらしく、大蛇丸は釘を刺している。

 

 それにしても、大蛇丸に狙われてしまうとは……可哀想の少年が存在したものだ。水月はそう思わずにはいられない。自身は、大蛇丸に拉致されるも、弟子となり、立派な懐刀になるように鍛え上げられ、様々な忍術も教えてもらい、『呪印』を刻まれることなく自由に行動させてもらっているが、うちはサスケという少年は水月と違い、大蛇丸に呪印を刻まれようとしているのだ。

 

 蛇は執拗。

 

 大蛇丸から逃れることはできない。

 

 水月はその少年に哀れみを感じずにいられなかった。

 

「任せたわよ、水月」

 

 とはいえ、水月は師匠の命令に忠実に行動するのみ。

 

「はいはい」

 

「返事は一回。守らなかったら、次からはその度に草薙の剣で刺すわよ」

 

「ハイ…」

 

 師匠に本当に忠実なのかは怪しいところだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「香燐は僕とセットみたいなものだけど…もう1人がよりにもよって()()()なんて…嫌だなァ。

 大蛇丸め…いつか絶対に殺してやる」

 

「そ、そう…なのか?

(ウ、ウチが水月とセット…それってつまり!?)」

 

 水月が大蛇丸に狙われる少年に対して哀れみを感じたのはほんの一瞬のみ。香燐はともかくとして、無理難題を押し付けられた上に、嫌がらせのような人選をされたことで、大蛇丸に対して殺意ある悪態を吐いていた。

 

 対して、水月と共に行動するのが常な香燐は、水月にセット扱いされていることに、運命共同体と言われたかのような気分になり、内心かなり舞い上がり有頂天状態である。

 

 しかし、あともう1人は違う。

 

 水月の言葉に激怒し、問答無用で斬りかかってきたのだ。

 

「水月、言葉に気を付けろ。貴様が大蛇丸様の唯一の弟子でなければ、僕は今ここで貴様を殺していたところだ」

 

「殺していたところだって…すでに殺そうとしてるよね?」

 

 香燐は水月を慕っており、良好な関係を築き上げることができているようだが、もう1人は違う。瞳の下付近に赤い隈取りがある古風な外見の少年──君麻呂は、水月と犬猿の仲らしく、会う度に何かとこうして衝突しているようだ。

 

 ただ実際のところは違う。大蛇丸を崇拝するあまり、大蛇丸の唯一の弟子である水月に嫉妬しているだけ。嫉妬心が強すぎてしまい、嫉妬心が殺意へと変化(進化)してしまったのだ。

 

「黙れ。口を開くな。喋るな。

 陸に上がった河童如きが、あの方の名を易々と口にするな。呼び捨てにするなど言語道断。

 次に、僕の前で大蛇丸様の名を呼び捨てで口にしたら…殺す」

 

 その殺意は本物で、水月でなければ間違いなく殺されていただろう。

 

「さすがに今のはイラっときたなァ。

 確かに僕は水分をよく摂取してるかもしれないけど…」

 

 だが、君麻呂では水月を殺せない。

 

 君麻呂は大蛇丸のお気に入りで、大蛇丸から力を分け与えられている。ただ、弟子ではない。そこが、水月との明確な違いであり、水月と君麻呂の差なのだ。

 

「君じゃあ、僕は殺せないよ。

 大蛇丸を崇拝してる程度の君じゃあね」

 

「殺──ッ!?」

 

 そしてその差を、君麻呂は身に染みて理解することとなる。

 

 水月に斬りかかった君麻呂は一瞬で地面に仰向けに倒され、水月は馬乗りになって君麻呂の眉間に人差し指を突き当てている。

 

「言葉に気を付けるのはいったいどっちかな?」

 

 目は一切笑っていないが、にこやかな笑みを浮かべた水月は、人差し指を眉間から肩へとずらし、君麻呂に問い掛けた。

 

 

 ━━ 螺旋水鉄砲

 

 

 ただ問い掛けるのではなく、君麻呂のその身に理解させるように問い掛けた。

 

「ぐうッ!

(た、ただの水の塊が何て威力なんだッ!

 僕の屍骨脈の硬度を上回り貫通した!?)」

 

 鬼灯一族の秘伝の水鉄砲の術は印を必要とせず、チャクラ量も少なく、それでいて至近距離で絶大な威力を発揮できる暗殺や拷問にもってこいの水遁忍術である。

 

 水月が今放った水鉄砲の術は、そこに更に螺旋回転を加えることで威力を底上げしており、あらゆるものを貫通してしまう。

 

 水鉄砲の術は、水月が最も使い慣れた忍術であると同時に、最も頼りにしている忍術だろう。その忍術を同じ里の仲間に使うとは……水月の怒り具合がハッキリと現れているようだ。

 

「え!?

 ちょッ、な、何やってんだよ水月!!」

 

「うーん…お仕置き?

 僕のこと、陸に上がった河童とか言いやがったし」

 

 そして、水月の言葉に浮かれて思考が別次元へと行ってしまっていた香燐がようやく異変に気付き動揺するも、その異変の理由を水月から聞き納得していた。

 

「あー…な、なるほど。

(君麻呂…水月に河童は禁句だ。

 カブトですら危機感覚えたって言ってたくらいだし…)」

 

 だからきっと、香燐が水月を止めることはないだろう。寧ろ、止められるはずがない。

 

「あと二、三発くらい…いいよね?」

 

「ッ!?

(な、何だ…こ、この…人間が抗うことのできない荒れ狂った大海のような強大で禍々しいチャクラは!?)」

 

 君麻呂は決して弱くはない。大蛇丸のお気に入りの1人で、大蛇丸の護衛役として存在しているエリートだ。

 

 だがやはり、大蛇丸お気に入りのエリートと、大蛇丸の唯一の弟子の間には明確な実力の差がある。水月がたった今それを証明している。

 

「安心しな…殺しはしないから」

 

 それはまるで、広大な海そのもの。君麻呂には、水月を推し量ることなどできない。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 忍び五大国の一つ、火の国の忍びの隠れ里『木ノ葉隠れの里』にて、中忍選抜試験が開催されることが大々的に告げられた。

 

 今回、木ノ葉で開催される中忍試験には、同じく五大国の一つで、木ノ葉の同盟国でもある風の国の隠れ里『砂隠れの里』も参加を表明しており、その他にも小国の隠れ里が幾つも参加することとなっている。

 

「ここが木ノ葉か…和かだねェ」

 

「平和ボケ感が漂ってるな。

(ウチもこんな里に生まれたかった…あ、そしたら水月と出会えなかった?それは嫌だな)」

 

 そして、近年誕生した小国の隠れ里──音隠れの里からも参加者がいる。

 

 ただ、音隠れの里の忍を甘く見てはならない。油断したが最後……大波に拐われ、深海深くへと沈められることとなる。

 

 






水鉄砲の術っていいよね。

途中からほとんど印の設定がなくなりつつあったけど、水鉄砲の術は見るからに印が必要なさそうだけど、木遁を砕いたり威力は高いし。

━━螺旋水鉄砲
水鉄砲の術に螺旋回転加えて威力を上げている。砂漠大葬にも耐えた君麻呂の屍骨脈を簡単に貫通する威力。



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幻術なのか!?水月の中忍試験

 

 

 どの隠れ里でも共通のことだが、忍者の階級は上忍、中忍、下忍とランク分けされている。ちなみに、忍者が請け負える任務にもS~Dランクまでで分類されてあり、高い地位に在籍している忍は高いランクの任務を与えられ、報酬も高い。

 

 ただ、誰しもが必ず上忍になれるわけではない。

 

 忍一族出身の者なら、下忍には簡単になれる。中忍にも、時間をかければなれるだろうが…。

 

「階級にはまったく興味ないんだけどなァ」

 

「けど、他の里だったら…それが木ノ葉だろうと砂だろうと、水月ならすでに上忍になってるんじゃないか?」

 

 もっとも、階級にまったく興味を示さない強い忍も存在する。水月がまさにそうだ。恐らく、所属する里が『音隠れの里』なのもあるだろう。

 

「かもね。けど、音隠れって()()()()()()()からなァ。それに、僕は上忍になるよりも暗部入りしてるかも?」

 

 音隠れの里は、小国である田の国の大名が実体に合わない軍備増強を目論み、そこを大蛇丸に付け込まれる形で設立された隠れ里だ。しかし、名目上は田の国の里だが、実態はどこの国にも属さない独立勢力──大蛇丸の組織のようなものなのである。S級犯罪者として世界に名前を轟かせる大蛇丸の組織ということは、つまりは隠れ里ではなく犯罪組織になるのではないだろうか…。

 

 水月は階級に興味を示していないが、その犯罪組織内でも幹部級の実力者。大蛇丸の唯一の弟子であり、多くを教えられ育て上げられた懐刀だ。

 

「あー納得。水月は隠密活動も得意だもんな。

 最強の暗部って恐れられてそう」

 

 その水月は現在、下忍から中忍へと昇格する為の中忍試験が木ノ葉隠れの里で開催されようとしており、階級に一切興味を示していない水月は()()()()()から中忍試験に参加することになっている。

 

 とある理由とは、もちろん大蛇丸からの命令だ。

 

「僕、そこまで強くないよ?」

 

「毎回無理難題押し付けられて、完璧に遂行してるじゃねェかよ。あの鬼人に勝ってるし」

 

 今回の命令も、大蛇丸から押し付けられた無理難題だ。もっとも、大蛇丸はそれだけ水月を信頼しており、水月の実力なら完璧に遂行すると確信しているからこそ任せている。

 

「あの勝負は、僕が再不斬先輩の首斬り包丁を両断したところで中断したから勝ったわけじゃないよ」

 

 大蛇丸に比べたら実力は劣るものの、鬼人と恐れられる桃地再不斬と対等に戦える程の実力を持つ水月は香燐の言う通り、忍び五大国の隠れ里に所属していたとしても、間違いなく上忍になっていただろう。もしくは本人の言葉通り暗部に所属し、若くして分隊長になっていたかもしれない。

 

 もちろん、水月が若くしてそこまでの実力を持っているのは大蛇丸の英才教育の賜物であり、水月本人の努力と才能だ。

 

「まァ、次やったら勝つけどね」

 

 その水月が与えられた無理難題は、中忍試験に出場して()()()()()に接触し、少年の身に宿った強大な力を開眼させろというものである。

 

「それよりも、あれが大蛇丸に狙われる可哀想なうちは一族の最後の末裔…()()()()()()か。香燐…どう?僕もチャクラ感知はできるけど、香燐みたいに正確にチャクラ量の多さまでは把握できないからね」

 

 その少年──うちはサスケに視線を向ける水月は、自身よりもチャクラ感知能力に長ける香燐に頼み、現在のうちはサスケの実力を分析し始めた。

 

 分析の内容次第で今後の計画が変更される場合もあり、これは非常に重要なことである。

 

()()()ってのを開眼したら分からないけど、今はまだ大したチャクラ量じゃないな。それよりも、うちはサスケの隣にいる()()()()()がやべェよ。

 そこそこのチャクラ量かと思いきや、奥底にとんでもないチャクラ隠し持ってやがる。もしかしたら…水月に匹敵…いや、それ以上かもしれない」

 

 香燐の分析では、大蛇丸が何故狙うのか疑問に思うだろうが、水月が与えられた無理難題を完璧に遂行したならば、きっと疑問も解消されるのだろう。

 

「もしかしたら、あの金髪が木ノ葉の()()()なのかもしれないね。

 ありがとう、香燐。計画通り…()()()()で接触するよ」

 

 そして分析の結果、当初の予定通りに計画が遂行されることが決まった。

 

 これから、水月は大蛇丸の無理難題をいつもの如く、難なくこなすのだろう。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 中忍試験は第一の試験(筆記試験)から始まり、第二の試験、それから……本選となる。

 

 水月と香燐、それから君麻呂の3人は難なく第一の試験(超難関筆記試験)を通過し、第二の試験へと進んで行った。

 

 大蛇丸の護衛を担当するエリート集団『五人衆』の中でも最強を誇る君麻呂。

 

 水月に見初められ、常に共に行動する理系女子の香燐。

 

 大蛇丸の唯一の弟子である水月。

 

 この3人が賢くないはずがなく、()()()()()()()()に気付きながらも、頭脳のみで第一の試験を突破したようだ。

 

 そして第二次試験は、事前に配布された天の巻物、地の巻物、この二つを巨大なサバイバル演習場(立ち入り禁止の危険地帯)──別名『死の森』で奪い合う(殺し合う)、必然的に半数が脱落する過酷な試験である。

 

 忍の世界では常に死が付きまとい、隣り合わせ。

 

 忍になった以上、誰しもが死を覚悟しておかなければならない。そこに階級など一切関係ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すでに、多くの忍を殺したことがある水月にとって、下忍を相手に巻物を奪い合うなど最低難易度の任務のようなものでしかないだろう。

 

「弱すぎる…話になんない。

 火遊びしてるんじゃないんだよ?僕達は命のやり取り……つまり殺し合ってるの理解してる?」

 

 だからなのだろう。水月の今現在の表情からは、強い失望と落胆が手に取るようにハッキリと感じ取れる。

 

 

 ━━ 大玉水鉄砲

 

 

 人差し指から等身大の水の塊を放ち、向かってくる火球を鎮火させて深い溜め息を吐き出し、そして……抑え気味ではあるが、水月は殺気を込めて淡々と言い放つ。

 

 火遁忍術を放った少年──うちはサスケに対して、水月は厳しい言葉を述べた。

 

「──ッ!?

(な、何…なんだ…コイツは!?

 ほ、本当に同じ人間なのか!?波の国で戦った再不斬以上の殺気だ!!)」

 

 木ノ葉隠れの里のエリート忍者一族の最後の末裔であるうちはサスケは、同じ歳頃のはずの水月から放たれる抑え気味の殺気で畏縮してしまっている。

 

 どうやら、エリート忍一族の末裔同士でも、水月とうちはサスケの間には大きな実力差があるようだ。

 

「ほら、もう目の前だよ」

 

「!?

(や、殺られる!!)」

 

 目で追えぬ速さでうちはサスケの眼前に移動した水月は、額に指を突き付け水鉄砲を放とうとしている。

 

「…はあ…君、忍やめたら?」

 

 だが、額に指を突き付けられたうちはサスケの様子を目の当たりにし、水月は再び深い溜め息を吐く。

 

 うちはサスケは水月に完全に怯えきり、震え、抵抗の素振りが一切見られない。

 

 あまりにも不様な姿を目の当たりにした水月は、うちはサスケの額に当てていた指を下ろし背を向けた。忍にとって、背中を見せることがどれだけ危険で愚かな行為か……だが、そのような行動をとってしまうのも仕方がない。

 

()()()()()()()ね」

 

「ッ!?」

 

 水月のがら空きの背中を、うちはサスケはただ見ていることしかできなかったのだ。そして、()()()()()()()()()()()()と動けないでいる。

 

「弱いって本当に罪だよね」

 

「なッ!?」

 

 水月は背を向けた状態から、うちはサスケの視界から瞬身の術で消え、彼の仲間の目の前へと移動すると、水月の殺気で腰を抜かしたピンク色の髪の仲間(女子)──春野サクラの肩に指を当てた。

 

「あうッ!!」

 

「サ、サクラッ!!」

 

 そして、水鉄砲の術で春野サクラの肩を撃ち抜き、水月は口角を上げる。

 

「仲間すら守ることができない。

 くく、さーて…次はどうしようかな?額を撃ち抜かれて楽に死にたい?それとも…蜂の巣にしてあげようか?」

 

 大切な仲間が死に行く光景を前に、うちはサスケは何を感じているのだろう。

 

 大切な仲間が死に行くなかでも、うちはサスケは恐怖に支配されているのだろうか…。

 

 それとも、己の無力さに苛まれているのか…。

 

「や、やめろォォォ!!」

 

 愛情深いうちはサスケは後者なのだろう。彼の愛情深さは()()()であり、一族の特性なのだ。

 

「!

 そう来なくっちゃ…開眼おめでとう」

 

 うちはサスケの瞳に……心が写る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体から溢れ出る赤いチャクラ(九本の尾)が体に巻きつき、()()()()()()()の力を底上げする。

 

「水月、サスケくんに写輪眼を開眼させたことは褒めてあげるけど、これは余計よ。

()()()()まで目覚めさせないでくれるかしら」

 

「これは僕も想定外。

 まァ、責任持って対処しとくよ」

 

 中忍試験第二の試験で、二つの強大な力が目覚めてしまった。

 

 1人は瞳に力を宿し、1人はその身に九本の尾を持つ魔獣を封印されている。

 

「よくもサクラちゃんとサスケを…テメエらブッ殺してやる!!」

 

 そして、九本の尾を持つ魔獣を封印された金髪の少年──うずまきナルトが仲間を痛めつけられたことに激しく怒り狂い、水月へと襲いかかってきた。

 

 怒りは人を強くする。だがそれと同時に、目を曇らせるものでもある。

 

「その程度の力じゃあ、無理だよ…狐くん。

 僕に挑むつもりなら、もっと九尾の力を使いこなせるようにならないと…」

 

 

 ━━ 水遁・白鯨牢(はくげいろう)

 

 

「なッ、何だってば──ッ!?」

 

 鯨を象った水遁を水月が放つと、その鯨がうずまきナルトを呑み込み、身動きを封じてしまっていた。

 

「殺しはしないよ…君を殺したら、うちはサスケが失格になっちゃうからね。溺水して気を失ったら吐き出させてあげる」

 

 目覚めた力も、今はまだ脅威ではなく…。

 

 水月は本当に難なく、大蛇丸からの無理難題をこなした。

 

 






━━大玉水鉄砲
水鉄砲は大きさを調節できる。

━━水遁・白鯨牢(はくげいろう)
水牢の術が水遁の鯨の胃の中に変わっただけ。ただ、水牢の形状を保つ為に術者が水牢の一部に触れていることが不可欠という欠点がこの術には一切ない。白鯨はチャクラで操られている為、水月の周りに浮いている。

波の国の強化イベントがなかったナルトくんとサスケくん。
死の森で強化イベント発生。
サスケくん、写輪眼開眼。サクラが水鉄砲で撃たれ、イタチと同じセリフ「殺す価値もない」と言われたことで、一気に巴模様が二つに。

ナルトくん、怒りで溢れでる九尾チャクラ。
サスケだけではなく、サクラもやられてしまったことで、波の国よりも怒り倍増。一気にネジ戦並に。
でも、水月の白鯨牢に捕らえられてしまう。



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幻術なのか!?剣体瞬忍

 

 

 木ノ葉隠れの里の下忍、春野サクラは困惑していた。

 

 気を失い、目が覚めたら、目の前で下忍レベルを遥かに超える戦いが繰り広げられていたからだ。

 

 しかも、片方は自身に怪我を負わせた上に、彼女のチームメートにまで危害を加えた本人だ。

 

「僕の獲物に手を出すなんてやってくれるねェ」

 

「あら、早い者勝ちよ」

 

 そしてもう片方は、草隠れの里の額当てをしている。会話の内容からして、自身(サクラ)が気絶していた間に、この者に何かされてしまったことが伺える。

 

 先に手を出したのは音隠れの里の額当てをした白髪の少年だが、草隠れの里の下忍が横槍を入れたことで戦いに発展したのだろうと、春野サクラは結論付けることにした。

 

「う…」

 

「え…?

(サ、サスケくん!?しかもナルトまで!?

 そ、それに、サスケくんの()()()()は何なの!?)」

 

 ただ、冷静さを取り戻し始めた彼女は、そこでようやく異変に気付くのである。

 

 チームメートのうちはサスケとうずまきナルトが、傷だらけの姿で気絶していることに、春野サクラは驚愕する。それと同時に、うちはサスケの首筋になかったはずの痣があることに気付き、事態は自身の手に負える状況ではないことを悟ってしまったようだ。

 

「ど、どうしよう…わ、私…どうすれば…」

 

 目にも止まらぬ速さで剣術の応酬が繰り広げられるなか、春野サクラは絶望的なこの状況に打ち震えるのみ。

 

 しかし、音隠れの里の白髪の少年と草隠れの里の下忍は、最悪の師弟──水月と大蛇丸だ。彼らはいったい何をやっているのだろうか…。

 

 水月がうちはサスケを襲撃したのも、うちはサスケに写輪眼を開眼させるという大蛇丸からの無理難題を遂行する為だった。

 

 そして、水月は大蛇丸の部下(弟子)として完璧に目的を遂行した。

 

 だというのに、水月と大蛇丸は下忍どころか中忍ですら容易に立ち入れない程の戦闘を繰り広げている。理解に苦しむ状況だ。

 

「ねェ、ピンク色の髪の君」

 

「え?」

 

 すると、大蛇丸から距離を取った水月が春野サクラの前に立ち、彼女へと声をかけた。

 

「君達がここで殺されようと僕にはまったく関係ないことだけど、それはそれで気分が悪いし…とりあえずは守ってあげるから大人しくしててね」

 

 

 ━━ 鬼灯水竜陣

 

 

 声をかけ、返事を待たずして水月が五指に水遁チャクラを込め、大木の枝の上に叩き付けると、激しい水竜巻が春野サクラ達を守るように覆う。

 

「その結界内に入れば一先ず安全だから」

 

 これは、触れた対象を水竜巻に呑み込み溺死させ、あらゆる忍術を水竜巻の激しい勢いで跳ね返す強力な水遁結界術だ。

 

 その言葉に、春野サクラは面食らった様子を見せているが、それは無理もないことだろう。何せ、水月は己達に襲いかかってきた存在だ。彼女も怪我を負わされている。そんな危険な人物が自身達を守る為に戦うなど…。

 

 しかし、春野サクラは今……その言葉を信じる他ないのかもしれない。

 

 何故なら、大蛇丸はあまりにも強く、春野サクラではどう足掻いても勝つことはできないのだ。

 

 それならば、今は水月の言葉を信じるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名刀『草薙の剣』を手に、大蛇丸は唯一の弟子──水月と壮絶な斬り合いを展開していた。

 

「──ッ!

(まったく…()()()()()()なってきちゃったってところかしら?)」

 

 驚くべきことに、S級犯罪者として世界に名を届かせる大蛇丸ですら水月に手を焼かされている。それどころか、大蛇丸も本気になりつつあるのではないだろうか…。

 

 水月と大蛇丸は、自身等の間に繋がりは一切ないと周囲に思い込ませる為に、わざと壮絶な斬り合いを展開している。水月の結界術で表向き守られている春野サクラも、これだけ壮絶な殺し合いを見せられては信じてしまうだろう。もちろん、春野サクラを欺く為だけではない。水月と大蛇丸がいる場所に、試験官や木ノ葉の暗部の部隊が急ぎ向かっているからでもある。大蛇丸が中忍試験に潜り込んでいたことに気付いたのだろう。

 

 そして、水月と大蛇丸は試験官や暗部に、斬り合いを展開している光景を見せることで、己達が敵同士なのだと欺くつもりでいる。

 

 もちろん、大蛇丸の目的であるうちはサスケに関しては、気絶する前にそう思い込むように演技していた為に、そこから水月と大蛇丸の関係性が発覚することはないだろう。

 

 うずまきナルトに関しては、騙されやすい性格な為にどうとでもなるはず……というのが水月と大蛇丸の見解だ。

 

「大した剣術の腕前ね。

(この子、水遁と同じくらい雷遁の扱いに長けてるから厄介なのよね)」

 

「師匠のご指導の賜物かな」

 

 ただ、大蛇丸にとって想定外だったのは、水月がここに来て悪癖が出しつつあることだ。水月は冷静沈着にみられがちだが、相手が強ければ強いほど戦闘にのめり込み、戦闘狂の一面を見せ始めてしまったのだ。

 

 今も、大蛇丸を相手に雷遁チャクラを迸らせながら『雷刀・牙』の一振りを振るっており、水月は大蛇丸が冷や汗を流す程の戦闘力を見せている。

 

「くッ!」

 

 水月は目にも止まらぬ速さの剣術に体術も織り交ぜ大蛇丸を翻弄している。

 

 水月が刀に纏わせた雷遁チャクラは、刀だけではなく水月自身も纏っており、身体を活性化することで身体能力を飛躍的に向上させているのだ。

 

 だが、大蛇丸もただ防戦一方なわけではない。放たれた蹴りを難なく躱し、水月のもう片方の足を狙い草薙の剣を振るう。

 

「ヤッベ…楽しくなってきた!」

 

 しかも、大蛇丸が応戦することで水月は更に速さを増していき(笑みを深くし)、戦闘にのめり込んでいる。大蛇丸の斬撃を後方宙返りで躱した水月は地に着地し、瞬身の術で大蛇丸の背後へと回り込み、鋭い突きを放つ。

 

「──ッ!

(速い!

 もしかしたら…何れ()()()すら超えるかもしれないわね)」

 

 辛うじて背後に振り返り、水月の刺突を受け流した大蛇丸だが、防戦一方となり追いやられていく。

 

 そして、水月の猛攻に圧されてしまった大蛇丸は、肩付近に突き技を受けてしまう。

 

「ぐッ!

(このッ──バカ弟子!あとで覚えてらっしゃい!)」

 

 しかも、水月の追い討ちはそれだけで終わることはなく、刀を握る右手ではなく、左手の人差し指を大蛇丸の額に向けると、指先から鋭い光線のような水の塊を放つ。

 

 

 ━━ 波動水鉄砲

 

 

 印を結ぶこともなく、指先から放たれた光線のような水鉄砲は、並の忍……いや、上忍だろうと殺されかねない威力だ。

 

 日頃の鬱憤を吐き出すかのように、殺意ある一撃を大蛇丸へと放った水月は実に良い笑顔である。

 

「あなた…私に殺されたいのかしら?

(ムカつくけど…また一段と強くなったわね。しかもこの子の場合、忍戦術が戦闘に特化し過ぎてるのよね。

 普通の忍戦術は体術、幻術、そして忍術からなる。けど、水月の場合は『剣体瞬忍』ってところかしら…)」

 

 教え子からの殺意ある一撃をどうにか躱していた大蛇丸。だが、その表情には余裕さが一切ない。

 

「気持ち悪い…」

 

「本当に殺すわよ」

 

 ろくろ首のように首を伸ばすことで、大蛇丸は殺傷力が高すぎる水月の忍術を躱していたが、その光景はおぞましく、水月はつい本音を漏らしてしまう。もっとも、大蛇丸も本気で躱していたようで、強い危機感を感じていたようだ。

 

 水月の忍戦術は剣術、体術、瞬身、忍術を駆使し、効率的に相手を殺す。雷遁は忍刀の斬れ味向上と、肉体活性による身体強化によって体術と瞬身の術の威力と速さを向上させており、印を結ぶ必要もない殺傷力が高すぎる忍術を扱うなど、戦闘狂でありながらも堅実で賢いものだ。

 

 故に、大蛇丸は水月が何れは忍界最高峰の万能型になれるとまで評価し、水月の戦術を剣体瞬忍と呼ぶ。

 

 大蛇丸にとって、水月はこれまで鍛え上げた弟子達の中でも傑作と呼ぶに相応しい存在だろう。

 

 だからといって、弟子を甘やかすつもりなど一切ない。

 

「…!

 どうやらここまでのようね。

(これ以上戦うと、水月の戦闘欲が更に増して危険だから()()()()()()()()()だわ)」

 

「大蛇丸!!」

 

 すると、水月にとっては残念なことであり、大蛇丸にとっては計画通り、水月と大蛇丸が戦っていた場所に1人の忍が姿を現した。しかも何の因果か…。その()は、大蛇丸がまだ木ノ葉隠れの里に在籍していた頃の弟子だったのである。つまり、水月にとっては姉弟子ということだ。

 

「試験官さん?どうしたの?

 僕…今からコイツと続き…戦うとこなんですけど」

 

 大蛇丸の計画では、音隠れの里の下忍が如何に強いのかを示す為に、それを試験官──みたらしアンコに見せつけることが目的の一つ。

 

「下忍が戦って勝てる相手じゃないわ!

 あなたは引っ込んでなさい!!」

 

「いやいや…寧ろ試験官さん如きじゃあ瞬殺だよ?

 僕より弱いでしょ…邪魔だから下がってて」

 

 幸いにも、その計画は水月の戦闘狂な一面のおかげで簡単に達成することができるだろう。

 

「久しぶりね、アンコ。

 ただ残念だけど、私達に感動の再会はないわ。この子が言った通り、あなたじゃあ相手にならないわ」

 

「ッ!?

(な、何て殺気なの!?し、しかも…音隠れの下忍の殺気も凄まじい!本当に下忍なの!?)」

 

 再び、忍刀で斬り合いを始める水月と大蛇丸(弟子と師匠)

 

 何が真実で、何が偽りなのか…。周囲は欺かれる。

 

 

 






斬拳走鬼ならぬ剣体瞬忍。剣術、体術、瞬身、忍術である。水月の戦闘スタイルは、万能型の中でも超攻撃特化の万能型。

━━ 鬼灯水竜陣
うちは火炎陣みたいなもので、水遁チャクラを五指に込め、叩き付けることで水竜巻の結界を張る。

━━ 波動水鉄砲
螺旋水鉄砲よりも威力は上。こちらも印なし。


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幻術なのか!?強者



この暑さの中で胃腸炎はヤバいよヤバいよ。辛かった。



 

 

 最悪の師弟──水月と大蛇丸が、傍迷惑な自作自演の激闘を繰り広げるよりも少々時は遡り……第二の試験1日目──試験開始から1時間が経過した頃、水月と常に行動を共にしているはずの香燐は珍しく別行動を取っていた。

 

 しかも、水月とは別の相手と行動を共にである。

 

「水月と一緒じゃないだけでも憂鬱なのに、()()()()()()()()()()()アンタと2人1組(ツーマンセル)なんて人生最悪の日だな。どうしてウチが…あとで滅茶苦茶甘えさせてもらわないと割に合わねェ」

 

 それも、まさしく水と油の関係性な相手だ。

 

「あの河童(水月)を大切に想うお前と気が合うのは嫌だが奇遇だな。

 僕にとっても人生最悪の日…いや、違うな。僕にとっての人生最悪の日は、常にあの河童を瞳に捉え──ッ!?」

 

 片や、水月を心から大切に想い、常に身近で水月を支え、助けられる存在であろうとする香燐。

 

 片や、大蛇丸を心から心酔し、大蛇丸の為ならば己の命を犠牲にすることも厭わない君麻呂。

 

「ちッ…そんなに水月を見たくねェんなら、両目ともブッ壊してやろうと思ったのによォ」

 

 ただ、大切な者の為に強くあれる2人ではあるが、少々どころではなくかなり危険な思想を持っている。

 

 香燐は水月に危害を及ぼそうとする者、手を煩わせる者、色目を使う女を容赦なく叩き潰す(血祭りに上げる)

 

 対して君麻呂も同じくだ。自身にとって大切な者──その対象こそ違えど、大切な者の為ならば慈悲の欠片も一切ない。

 

 たとえそれが、同じ里の忍だろうとも…。

 

「香燐…貴様…

(今の術は何だ?

()()()()()()()()()()()()()()していた…)」

 

 水月に向けての文句は、香燐に向けての文句同然。

 

 香燐が君麻呂に向けて放った忍術は、水月が大蛇丸から教わり習得し、それを香燐が水月から教わり習得した超高等忍術で、大抵の相手であれば一撃昏倒どころか、当たり所次第では命を奪う威力を持つ危険な忍術だ。

 

 今の術を顔面に受けていたならば両目共失明どころか、君麻呂でも危なかっただろう。

 

「そういえば、アンタは水月に次ぐ実力者って言われてるんだったな…君麻呂」

 

 もっとも、香燐は本気だった。本気の殺意を持って君麻呂へ攻撃した。

 

 そして、今この瞬間も君麻呂の命を狙っている。

 

「いい機会だ。目的の巻物もすでに手に入れてるしな。

 今ここでアンタを半殺しにして、ウチが水月に次ぐ実力者になってやる」

 

 どうやら、狙っているのは命というよりも水月に次ぐ実力者という周囲からの認識であり、君麻呂の座だ。

 

 その上、殺すよりも質が悪いことに、半殺しにした後に医療忍術で回復させるという屈辱を与えるつもりでいる。

 

「貴様は危険だ。

 四人衆を超える実力を手にし…僕に迫りつつある。僕にとってもいい機会だ。出る杭は打たせてもらう」

 

 だが、水月に次ぐ実力者とされている君麻呂を相手に、香燐は有言実行を果たすことができるのか…。

 

 そもそも、今は第二の試験真っ只中。仲間内でこのような内輪揉めを起こしている状況ではないはずだが、2人を止められる者はここにいない。

 

「打てるもんなら打ってみな」

 

 完全に殺り合う気満々だ。

 

 いつの間にか、香燐はチャクラ刀を手にし、君麻呂は骨の刀を手にしており、2人から放たれる強い殺気(チャクラ)がこの空間を支配している。

 

 そして、誰の合図もなく2人は互いに斬りかかった。

 

 水月に次ぐ実力者と、それに匹敵するくノ一の戦いが今──幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強者は強者を呼び寄せる。

 

「おい…コイツって確か…」

 

「ああ…僕はあまり期待していないが、一応は()()()()()()()だ」

 

 第二の試験の真っ最中、水月不在をいいことに凄絶な仲間割れを展開し始めた香燐と君麻呂の前に突如襲いかかってきた砂の塊。その砂の塊の操り手は、大きな瓢箪を背負った砂隠れの里の下忍──我愛羅である。

 

「砂瀑の我愛羅だっけか?」

 

「くく…得体の知れない音の忍達…楽しめそうだ」

 

 ただ、話がまったく通じなさそうで、戦いに餓え強者を常に求める狂犬のようだ。我愛羅の場合、眼の周りの隈の酷さから例えるなら、狂犬よりも狂狸と言ったところだろうか…。

 

 つまり我愛羅は、強者にだけしか嗅ぎ取ることのできない匂いを嗅ぎ取ってしまい、ここにやって来てしまったということである。

 

「暴走しかけてねェか?」

 

「そのようだ」

 

 こうして、予期せぬ戦いがまたしても幕を開けることとなった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 小規模ではあるが、人間数人程度なら簡単に呑み込んでしまうだろう砂の津波が香燐と君麻呂に迫り来るなか…。

 

「思ったよりも遅かったな…()()

 

 窮地に立たされていたにもかかわらず、眉一つ動かすことなく、動揺した様子すら見せなかった香燐が、にこやかな笑みを浮かべながら口を開き、その場に悠然と姿を現した大切な者の名を口にした。

 

 

 ━━ 水遁・激浪

 

 

 現れた者──水月は口から荒く激しい大量の水を吹き出し、押し寄せる砂の津波を押し止め、香燐へと振り返り申し訳なさそうに謝罪し、続けて疑問を口にする。

 

「アイツと戦ってたらちょっと熱くなってしまってね…ゴメンよ。

 それにしてもさ、何で香燐達が砂瀑の我愛羅と戦ってんの?」

 

「そんなのウチが聞きたいくらいだ!」

 

 水月が木ノ葉隠れの里の第7班──うちはサスケ等を襲撃し、目的を難なく遂行した後、チャクラを探り香燐のもとまでやって来たら……あらびっくりな状況だ。

 

「君麻呂が挑発…いや、僕以外に対してするはずないか」

 

()()()していない」

 

 香燐と共に行動している君麻呂は、そう答えつつも遠い目をしている。どうやら、思い当たる節があるのだろう。

 

 そもそも今は第二の試験の真っ只中。水月と香燐、そして君麻呂が、他の下忍達と遭遇し、戦いに発展する可能性は十分にあり、他の出場者達も戦いを繰り広げているはずだ。水月以上のチャクラ感知能力を持つ香燐ならば、無駄な戦いを避けて行動できるはずだが…。

 

「新しい獲物が来たか!

 オレをもっと楽しませてくれ!音の忍達!!」

 

 ただ、香燐と君麻呂はどういうわけか、とてつもなく厄介で面倒な相手を呼び寄せてしまったようだ。

 

 香燐は気付いていないが、恐らく香燐と君麻呂の強い殺気に我愛羅は引き寄せられてしまったのだろう。その証拠に、君麻呂は挑発はしていないと口にしたが、理由を察しているのか少し反省気味で、水月が現れたというのにいつものように絡んでいない。

 

 もっとも、香燐と君麻呂が戦っていたことを知るはずもない水月は、砂隠れの里の忍が2人に襲いかかってきたと解釈しているだろう。

 

 しかも、目があった相手は誰でも殺してしまうような質が悪い人物ときた。水月がそう解釈してしまうのは当然で必然のことで、襲いかかってきたのは事実だ。

 

「砂隠れの里の()()()()()()…我愛羅か。

 はあ…聞きはしてたけど、噂以上の情緒不安定さだな」

 

「くくく、貴様達音の忍は他とは違い、かつてないほどにオレを楽しませてくれそうだ!!」

 

 だが、香燐と君麻呂が戦っていなければこのような状況になっていなかったのは事実。大きな瓢箪を背負った砂隠れの里の下忍──我愛羅が目を血走らせ、狂気に満ちた表情で襲いかかってきた原因は香燐と君麻呂にある。

 

「はあ…じゃあ、楽しさよりも恐ろしさを与えてあげるよ」

 

 しかし、砂瀑の我愛羅という異名まで持つ隈が凄い彼も、水月が現れてしまうとは運がない。

 

「水月…程々にな。

 一応、()()()()にあるんだ」

 

「わかってるよ。

 けど、香燐に危害を加えようとしたんだからそれなりには…ね」

 

 香燐と君麻呂が己の大切な存在を想う心が強いあまりに仲間内であろうと殺り合ってしまっていたように、水月もまた同じく……己の大切な存在に危害を加えられそうになったのだから、怒りを見せるのは当然のこと。

 

 香燐と君麻呂と比べ、違うことがあるとするならば、それは……我愛羅がこれまで感じたことのない強大すぎる殺気(チャクラ)だろう。

 

「ッ!?」

 

 水月から向けられる殺気が重く乗しかかり、我愛羅の狂気満ちた笑みが驚愕へと変わると、警戒心を最大に高めたのか、砂を盾のように展開している。

 

「一瞬も気を緩めちゃダメだよ」

 

 雷遁チャクラを全身から迸らせる水月は右手に雷遁チャクラの槍らしきものを形成すると、不敵な笑みを浮かべ……我愛羅が気付いた時にはすでに目の前に…。

 

「!?」

 

 爆発的な砂埃が宙に舞う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬の出来事だった。

 

「ぐッ──はあ、はあ…うッ!」

 

 そして、砂埃が晴れた先では、我愛羅が肩に手を当て地面に膝を突き、手で押さえた肩から血を流していた。

 

「う…うそ…が、我愛羅が怪我をッ!?」

 

「す、砂の盾を破られたってのか!?」

 

 遅れてその場にやって来た我愛羅のチームメートであり、我愛羅の姉兄でもあるテマリとカンクロウは、怪我を負った彼を()()()()()()()()にし、驚きのあまり動けずにいる。

 

「砂で軌道を辛うじて反らされちゃったか…。

 君の意思とは別で動いてるみたいだし凄いね、その砂。そうでなかったら、君の首は今頃…僕の足許に転がってたよ」

 

 対して、我愛羅に傷を負わせた張本人である水月は冷めた笑みを浮かべながら我愛羅を見下ろしている。ほんの一瞬で、我愛羅の今現在の実力を理解してしまったのだろう。

 

「思ったよりも反応が速かったな。けど、今のが最高速みたいだね。それに、砂の盾って思った以上に脆いし…終わりだね。これ以上戦っても弱い者虐めになりそうだし…バイバイ」

 

 すると、水月は雷遁チャクラを解除して我愛羅に背を向け、手をヒラヒラと振りながら香燐のもとへとゆっくり歩いて向かう。

 

 水月のあまりにもの行動に、驚きすぎて言葉すら出ない我愛羅は、水月の後ろ姿をただ見ていることしかできずにいる。

 

 無防備に背中を晒し、香燐に怪我がないかを心配する水月。しかし、我愛羅は何一つ行動を起こすことができない。

 

 もしかしたら、強者を嗅ぎ取る強者故の感覚が嗅ぎ取ってしまったのかもしれない……己よりも強い存在を…。きっと、我愛羅にとっても人生で初めての経験だろう。

 

 これは、本能の逃避だ。

 

「怪我は?」

 

「まったく!それにしても相変わらず速ェな…『水月流()()()()』だっけ?あれでまだ一段階目なんだから半端なさすぎだっての。

(けど、まだ対応できる…今のウチなら何段階目まで対応できるんだろうな)」

 

 一方で、我愛羅になど最初から興味の欠片もなかっと香燐は、水月の今の攻撃に感嘆の声を上げながらも、強さへの貪欲さを見せている。香燐の眼は水月の動きを捉えており、ハッキリと見えていたのだ。

 

「水月、貴様…我愛羅に怪我を負わせるとは何を考えている。奴がどういった存在なのかを忘れたわけではあるまい」

 

 それともう1人……水月の行動を君麻呂は当然のように責め立てる。

 

 もちろん、水月からしたら自身の行動は何一つ間違ってはいない上に、殺してないのだから責め立てられる理由はないと思っている。

 

「別に…香燐に危害を加えようとしたから、その仕返し。それに、『()()()』ならあの程度の傷…すぐに治るでしょ。それよりも、お前の()()()()()()から次の指令だよ…」

 

「!」

 

 そもそも、水月が香燐達と合流した目的は我愛羅と戦う為ではなく、我愛羅との戦いは完全な予想外だ。

 

 端から興味もなく、今はこれ以上関わるつもりも一切ない。

 

「さっさと行くよ」

 

 真の強者は多くを語らず、ただその強さだけを相手に恐怖として植え付け、その場から悠然と立ち去っていく。

 

 






水月にありとあらゆる忍術を教える過程で、螺旋丸も教えていた大蛇丸。水月がそれを香燐に教えていた模様。

綱手曰く、習得できるのは四代目と自来也のみとのことだけど、大蛇丸からしたら、「自来也とミナトにできて、私にできないなんてことないのよ」と、影で頑張って習得した模様。ただ、戦闘スタイルが違うのもあり、大蛇丸は基本使わない。

けど、「私の弟子が真の螺旋丸に至ったら面白いわね」と思ったりしている。


━━ 水遁・激浪
口から荒く激しい大量の水を吹き出す。
鬼灯一族では、この水遁が扱えれば一人前の鬼灯一族として認められる。一族内での扱いは、うちはの豪火球と似たようなもの。ただ、水月のそれは膨大なチャクラ量もあって、本気を出せば鬼鮫の本気の爆水衝波に匹敵する。

術名は後々に出し惜しみしてる水月の雷遁チャクラモード。
大蛇丸との共同開発。木ノ葉流体術奥義『八門遁甲』を参考にしている模様。
違いを挙げると、身体から迸る雷遁チャクラを雷遁チャクラの武器…槍などに形態変化させて扱うこともできる二段構え。


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幻術なのか!?弱者



呪印の状態1はカッコイイけど、状態2は……状態3が出ると思ってたんだけど、3はなかったね。




 

 

 左半身を覆う呪印。

 

 チャクラの大きさも、質も、すべてが以前までとまったく違う。

 

「サ…サス…ケ…くん?」

 

 その変貌に、ピンク色の髪の少女は驚き、震えている。

 

 ただ、少年の名を呼ぶ少女の声は一切届いていない。

 

 少年──うちはサスケは、歓喜に震えている。

 

「ふ…くくく…力がどんどん溢れてくる。今なら、全てを燃やし尽くせそうだ。今のオレの火遁は火遊びなんかじゃねェぞ…地獄の業火だ」

 

 大蛇丸に刻まれた呪印が、うちはサスケに新たな力を与えた。今までと何もかもが違うことを感じ取り、何でもできると錯覚してすらいる。

 

「さぁて…借りは返させてもらうぜ」

 

 呪印を刻まれる前に、圧倒的な力の差を見せつけられ敗北した相手に、今は勝てる気ですらいる。

 

「サ、サスケくん、待って!

 そ、その人達は敵じゃないの!た、確かに最初は襲われたけど、今は違うの!!」

 

 だが、その力は闇の力。力を得たことによる代償は大きい。

 

 そしてもう一つ……その力は仮初めのものでしかなく、真の力には到底及ばないものだ。

 

 助けにやって来たフリをし、少女を騙して様子見を行っていた水月は、呆れ果てた表情を浮かべながら前に出る。

 

「はあ…やれやれ。春野サクラ…だっけ?とりあえず、何か変なことになってるみたいだから少し相手するよ」

 

 深い溜め息を吐く水月は心底呆れているようだ。圧倒的な力は、まだ底を見せてはいない。うちはサスケが味わった力は、氷山の一角にすぎない。

 

 水月の力は深海の如く深く、推し量ることができないのだ。

 

「焼き尽くしてやる」

 

「(これで本当に強いなら凄いと思うんだけど、弱く見えるんだよね…どうしてなのか…。)

 ん?」

 

 しかし、うちはサスケは水月との力の差を痛感する以前に、他にも上がいることを味わうこととなる。

 

「香燐?」

 

「ウチがやる」

 

 赤い髪が靡き、強大なチャクラが荒々しくその空間を支配している。

 

 すると、前に出た香燐は後ろを振り返り、水月ににこやかな笑みを向けてこう告げた。

 

「水月…今のウチの力をしっかりと見てくれ」

 

 そして、うちはサスケへと視線を戻した香燐は、水月が水鉄砲が放つ時と同じように構え、印を結ぶこともなく人差し指から鋭く閃く一筋の炎を放つ。

 

 

 ━━ 火遁・閃火

 

 

「おお!

 香燐も印なしの術を開発したのか!」

 

 それは、水月の波動水鉄砲に酷似していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地獄の業火?

 はッ、()()()の間違いだろ」

 

 赤い髪の少女──香燐は、うちはサスケの放った火遁の威力のなさを鼻で笑いながら素早く印を結ぶ。

 

 そして、印を結び終えた香燐は心底呆れた表情を浮かべており…。

 

 

 ━━ 火遁・双龍炎弾

 

 

 香燐から放たれた火遁は激しく、荒々しく、双頭龍の形を象ると、うちはサスケが放った複数の小さな火の玉を呑み込み、そのままうちはサスケへと迫って行く。

 

「地獄の業火とか言うんだったら、せめてこれくらいの火遁を使えるようになってから言えっての」

 

「!?」

 

 同じ火遁使い。だが、香燐とうちはサスケの間には天と地の差がある。

 

 弟子でこそないが、香燐も大蛇丸から忍術の手解きを受けており、彼女の忍術の才能はなかなかのものだ。そもそも、水月が見初めたくノ一であるのだから、うちはサスケの火遁忍術が火遊びに見えてしまうのも当然だろう。

 

「く、くそがァ!!

(ぐ…な、何故…だ…何故なんだッ!

 オレは復讐者だ!たとえ悪魔に身を委ねようとも強くならないといけない!だからオレは新たな力に目覚めた!それなのに…どうして勝てない!?)」

 

 ただ、このままでは香燐の火遁がうちはサスケを燃やし尽くしてしまう。

 

 そもそも、香燐の目的はうちはサスケを殺すことではない。大蛇丸から刻まれた呪印に適合できるかどうか……その経過観察のようなものだ。

 

「香燐、気持ちはわからなくはないけど…やりすぎ。

(というか、僕と同じこと言ってるし。そりゃあ、同じ火遁使いの香燐からしたら、あの程度(火遊び)で地獄の業火とか言われたらイラっとくるよね)」

 

 

 ━━ 水遁・双龍水弾

 

 

 すると、香燐がうちはサスケを殺すことだけは避けるべく水月が間へと入り、双頭龍の形を象った水遁を放ち、香燐が放った火遁を鎮火する。

 

 水月が行動を起こしてなければ、うちはサスケは焼き殺されていたはずだ。

 

「ご、ごめん」

 

「謝る必要はないよ…わかってるから」

 

 自身の浅はかな行動を謝罪する香燐に対し、水月は責めることなく、優しくフォローする。元々、原因はうちはサスケ達を襲撃した水月にあるのだが、今回先に仕掛けてきたのは水月を敵と思い込んだままのうちはサスケだ。香燐はただ、応戦したにすぎない。もっとも、水月が敵であることは疑いようのない事実である。

 

 そして、この忍の世界は弱肉強食。常に死と隣り合わせで、弱ければ死に、強ければ生きる。賢くない者はいいように利用される。

 

「うちはサスケ…忍の世界では弱ければ死ぬ。変な力に目覚めて強くなった気でいるみたいだけど、あまり強い言葉も遣わないほうがいいよ。弱く見えるし。というか、弱いよね」

 

 うちはサスケは大蛇丸の呪印に適合できたが、水月や香燐からしたら雑魚でしかなく、同じ歳頃ではあるが経験の差か……簡単に何色にも染まる利用しやすい子供だ。

 

「う、うおォォォォォ!!」

 

 自身の弱さを受け入れきれず、逆上して闇雲に突進してくる様がうちはサスケの幼さの経験の乏しさ、忍としての実力のなさを物語っている。

 

「愚かで弱く、殺す価値すらない。それが今の君だよ…うちはサスケ」

 

「ぐッ、あぐ!」

 

 水月は突っ込んできたうちはサスケの足を素早く払って転けさせ、人差し指を額に突き付け馬乗りになる。

 

 実力、経験、賢さ……うちはサスケは何もかもが劣っている。埋めようのないとすら思える現実(水月)が、うちはサスケの目の前に聳え立っている。

 

「(オレはアイツを…イタチを殺すまで、こんなところで立ち止まってられるか!)

 オレは負けるわけにはいかねェんだ!!」

 

 だがその現実が、うちはサスケに更なる力を与えるのだ。

 

「…!

(写輪眼は負の感情の大きさで瞳力が増すんだったっけ?

 二つ巴だったのが、()()()に進化したね)」

 

 水月に負け、大蛇丸に負けた上に呪印を刻まれ、そして水月と香燐にも負け、うちはサスケは三度の敗北を味わった。その三度の敗北で己の無力さを痛感し、うちはサスケの写輪眼は完成形へと至ったのである。

 

「進化した写輪眼の力がどれ程のものか気になるから、面倒だけどまた相手してあげるよ。

 けど…この短時間で四度も敗北を味わう忍も稀だよね」

 

 とはいえ、それで水月に勝てるのか…。

 

 うちはサスケは、額に突き付けられた水月の手を払いのけ、再び戦いを挑む。

 

「黙れ!

火遁・豪龍火の術 !!

 

「へェ…ほんの少しだけマシになったね」

 

 瞳力が増したことで、チャクラ量も増したうちはサスケは、水月から火遊びと言われないレベルの火遁を放った。龍を象った豪火……その威力はこれまでの比ではない。

 

「まだだ!!」

 

 更に、うちはサスケはその豪火の龍を連射する。

 

 三度の敗北が、うちはサスケをここまで成長させるとは…。

 

「けど、まだまだ香燐には劣るね」

 

 

 ━━ 水機銃

 

 

 それでも、水月にはまだ勝つことはできず、香燐の火遁にも劣ると告げられてしまう。水鉄砲を連射させ、うちはサスケの豪火の龍は瞬く間に鎮火されてしまった。

 

「はあ…はあ…く…くそ…」

 

 今の火遁の連射で大量のチャクラを使い果たしてしまったうちはサスケは、チャクラも残り少なく満身創痍。チャクラ量も増しこそしたが、水月と香燐に比べたらチャクラ量の差も大きい。

 

「香燐、御手本を見せてあげたら?」

 

「えー…仕方ねェな」

 

 香燐は気怠そうにしながらも、複雑な印を素早く結んでいき、寅の印で締めると、今度は先程の二の舞にならないように、うちはサスケにわざと当たらないように火遁を放つ。

 

 

 ━━ 火遁・五龍連天火

 

 

 香燐が放つ五つの火龍。それは、うちはサスケが連射した豪火の龍を遥かに凌ぐ大きさと威力を持ち、着弾すると同時に爆発を起こし、その余波でうちはサスケは吹き飛び、大木に叩きつけられてしまう。

 

 これぞまさしく業火と呼ぶに相応しい火遁。

 

 もっとも、香燐にとってそのようなことはどうでもいいことだろう。彼女にとって何よりも大切で重要視するのは、己の力が水月の役に立つのか、水月を支えるに相応しいのか…サスケはただそれだけなのである。

 

 復讐の為に力を渇望するうちはサスケとは違う。

 

 香燐は大切な者の為に強くあろうとする。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 中忍試験第二の試験のゴール地点となっている中央の塔。

 

「ご苦労様。

 あなた達のおかげで、サスケくんは今まで以上に力を渇望し…ふふふ、闇に堕ちるわ」

 

 中央の塔にて、水月達を待ち構えていた大蛇丸は、呪印を刻んだうちはサスケの現在の状態を聞き、嬉しさのあまり狂気に満ちた笑みを浮かべ、感極まっている。

 

 獲物が自分好みに染まるのが余程、嬉しいのだろう。

 

「大蛇丸って趣味悪いよね」

 

「それはウチも同感。

(あんなガキのどこがいいんだ?まァ、どうでもいいか…)」

 

 水月と香燐からは趣味の悪さを指摘されているが、大蛇丸はまったく気にしていない。

 

「大蛇丸様…。

(くッ、あんな弱いガキよりも僕の方が…いや、大蛇丸様が決められたことだ。僕は大蛇丸様の命令に従うのみ)」

 

 今回ばかりは、君麻呂も大蛇丸の趣味の悪さに思うところがあるらしく、水月と香燐に珍しく絡んでいない。うちはサスケの弱さを目の当たりにしてしまったのが原因だ。

 

「ああ早く…()()()()()()()()()()が欲しいわ」

 

 ただ、大蛇丸が欲しているのはうちは一族の身体と写輪眼で、強大な力を秘めていることは事実。そして、写輪眼の瞳力は闇に堕ちることで増す。大蛇丸の狙いはまさにそこにあり、うちはサスケは今回の四度の敗北で己の無力さを痛感し闇に呑まれ、今まで以上に力を渇望していることだろう。

 

 力を渇望するあまり、力を得る為に手段を選ばない可能性もある。

 

「あんなに嬉しそうな大蛇丸見るの初めてかもしれない」

 

 事は大蛇丸の計画通り。愚かな子供は、何色にも簡単に染まるのである。

 

 






香燐の性質変化の一つは火遁。

火遁・閃火
水月の波動水鉄砲の火遁版。

双龍水弾と双龍炎弾。
双頭龍の形を象った水遁と火遁。水遁・水龍弾、火遁・火龍炎弾の上位版。

火遁・五龍連天火
豪龍火よりも大きい龍を象った炎を五匹放つ。
着弾と同時に爆発する。

水月の水鉄砲シリーズ。
水機銃。
水鉄砲を連射する。

サスケくん、闇堕ち進行。
水月に負け、大蛇丸に手も足も出ずに呪印を刻まれ、呪印に目覚めたのに水月と香燐に負け、写輪眼が完成形に至ったのに水月に負け…短時間で四度も負け…。

サクラは水月に表向き助けられたことで、騙されております。


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