ヤンデレのある進撃 (らららさん)
しおりを挟む

訓練兵団期間
1話 主人公、動きます!


進撃の巨人の世界にて主人公がいろいろと女キャラにやられちゃうやつを望んでしまった。
これから頑張っていこうと思います。不定期更新かもしれませんが、温かい目でお願いします…。
主人公の外見は皆さんの想像にお任せします。これ!というのはないので皆さんがそれぞれ思う主人公を想像してみてください。もちろん自分に置き換えちゃってもOKです。

こちらの作品は大人版の内容を無くしたverとなっており、内容自体は全く一緒です。




現在845年 ウォールローゼトロスト区

 

オレンジ屋根の家が並ぶ昼。僕ことハーヴェン・シュタークスン(あだ名はベン)は父を見送っていた。

 

「シガンシナ区に行くんだね」

 

「あぁ、出張だ。1週間で戻るから、しっかりとママの言うこと聞いていい子にしているんだ」

 

「もう子供じゃないよ。じゃあ行ってらっしゃい」

 

僕はパパを見送った。手を振って、ママとともに。また普通に1週間後に戻ってくる。そしてまた普通の生活が繰り返される。この100年の平和が続く壁内で。

 

「じゃあハーヴェン、買い物行ってもらっていい?」

 

「うん、わかったママ」

 

食べ物を買って、帰る。いつもと同じである。僕には友達と呼べるものはいなかった。一人でいることが多かったため、一人でできることをしていた。トレーニング、読書、弓、どれも独りで出来ることだった。

買い終わったら、ママと一緒に料理しよう。パパが戻ったらまた弓でも教えてもらおう。僕にとっての楽しみはそれらだったから。

そして…。

 

パパは、その日から、帰ってこなかった。

 

845年

シガンシナ区が突然現れた超大型巨人によって突破。壁は、大きな突風と爆発により開かれ、瓦礫が飛び散りシガンシナ区は惨禍に見舞われた。

僕のパパは瓦礫につぶされてしんじゃった。もう、パパは帰ってこない。家族をなくした。

だから僕は、決めた。パパの死地を見ると、そして戦うことを決めた。そのとき、僕の中に流れる血液は血管を高速で巡るようだった。筋肉が緊張している。

僕は、訓練兵団に入る。巨人を倒す、その力を手に入れる。

僕は…

 

 

 

 

2年後…

 

 

 

 

 

847年

俺は、訓練兵団に入隊した。亡きお父さんのため。お母さんには反対されたけれど、俺は結局自分の意思を示しここにこれた。

お母さんは幸い生きている。トロスト区はまだ巨人のたどり着く場所ではないからだ。

俺は、巨人を倒すことができる兵団、調査兵団に憧れた。そのため、ここで力をつけていく必要がある。

 

「貴様の名前はなんだ!」

 

胸に拳を当てて声を出した。

 

「ハーヴェン・シュタークスンです!」

 

 

 

 

 

 

現在、兵舎の寝室。外を眺める。

坊主頭ことコニー・スプリンガーは外で走っている人を見ながら声を発した。

 

「まだ走っているぜ…」

 

外では入団式で蒸かした芋を食っていた女性、サシャ・ブラウスがへとへとに走っていた。腕も上がらず、息も苦しそうだった。

 

「なぁベン、教官ムっちゃ怖かったよな」

 

「まぁ確かに怖かった。けど、その前で堂々と芋を食えちゃうあの娘の方が怖かったかも」

 

「まぁ…ある意味な…」

 

「なんか終わったあとにご褒美でもあげた方が今後のためにもなるかも」

 

「やめとけやめとけ。繰り返すだけだって」

 

肘を柵についてコニーは手を振った。

 

「でもなぁ…」

 

あまりにもかわいそうだと思わんか?盗んだのはさすがにあれだが、でもなぁ…まじで死んじゃうぞ。

 

「なんか持っていこ。死んじゃうからさ」

 

「おいおい、そんなことしたらベンもサシャと同じにならないか?」

 

「え?」

 

「”え?”って…だって持っていくと言ったら飯とかだろ?」

 

「まぁ…そんなものかな?」

 

「どっから取るのさ?」

 

「え…あ…」

 

「だろ?サシャも食糧庫から盗んだのに、ベンも盗む気か?」

 

確かにご褒美といっても、飯くらいか…。まぁ、バレなきゃいいだろ?

 

「大丈夫だ。ちっと人の眼盗んでいくだけさ」

 

「見つかっちゃったら大変だからな、俺はいかないぜ」

 

コニーは過ぎ去ったサシャを確認し、スッと立った。

 

「さて、俺は戻るとするが?」

 

「じゃあ先に帰っててくれ。俺は褒美を渡しに行くからさ」

 

「気をつけなー」

 

コニーは手を後頭部に当てのほほんとした感じで兵舎に戻っていった。

そういやあいつも敬礼を逆にして頭をつかまれたっけ…。しかもそのまま上にあげられていたし、それも込みで俺に忠告していたのだろう。

さて、俺達だけ飯食ってあの娘にないのはやっぱりかわいそうだろう。早速…

 

「あ、ハーヴェン!」

 

「んぇ?」

 

振り返ると、笑顔で手を挙げている女性。センターで分けてその先を結ぶ髪型をしている、元気な女性だった。

 

「えぇ…っと…誰だっけ?」

 

「えぇ?忘れちゃったの!?私!ミーナ!」

 

「お、おう…ミーナか」

 

「うん、この際ちゃんと覚えてね。仲間のことは大切にしないといけないでしょ?」

 

「あぁ、その通り、だよな」

 

やっべぇ忘れてた。この娘…なんだっけ。入団式にては人一倍自分のことを主張していた人だった気がする。

 

「確か…なんか家畜以下!なんて叫んでいたり…?」

 

「ぐぇ…そこだけ覚えているの…」

 

「あ、当たってたか」

 

「まぁ…そうだけどぉ…」

 

ちょっと涙目になってしまったミーナ。確かにこの発言はかなり恥ずかしかったものだろう。

 

「ごめんなミーナ」

 

「…まぁいいけど。改めて、私はミーナ・カロライナ。さっきのご飯では話せなかったけど、これからよろしくね」

 

「うん、俺はハーヴェン・シュタークスン。気軽にベン、と呼んで。こちらもよろしく」

 

「ふふ、ご飯の時は一人黙って食べてたから、あまり愛想よくないのかなと思ってたけど…。でも、普通に接しやすそうでよかった」

 

「そう思われていたか。俺も、ミーナくらいの積極性がないとだめかな」

 

「まぁ積極的なのはいいかもしれないけど、急にそうすると精神的に疲れちゃうからね。まだいいんじゃない?」

 

「そっか。じゃあ今のままで」

 

「うん、それじゃあ私兵舎に戻るから。明日から頑張ろうね」

 

「お互いにね。それじゃあ」

 

手を振ってミーナは兵舎に戻っていった。

さてさて、食糧庫から盗むって言ってもなぁ…。あ、ご飯の時に残っているのがあったりしないかな。それだったら早く済むんだけど。

食堂に戻り、まだ片されてない食器。その他もろもろ、飯は残っているようだ。そうだなぁ…汁物を持っていくわけにはいかないし、やっぱりパンとかがいいかなぁ。水は…水袋で事足りるな。

少しくらいパンを持って行って…水をこれに入れて…あれ?

 

「これと…あとは水…」

 

金髪の娘がパンを持ちつつ水を探していた。いや、水を入れる袋か。

 

「あの」

 

「へっ!?わ、私?」

 

後ろから声をかけられて驚いている。咄嗟に振り返って慌てている様子だった。

 

「驚かしてごめん。俺はハーヴェン、気軽にベンと呼んでほしい。君は?」

 

「私はクリスタ。クリスタ・レンズ。えっと…ベンはどうしてここに?」

 

「いや…サシャっていう娘に水やパンを…と思ってね」

 

「あ!私もなの!パンはとっておいたんだけど、水を入れる袋がないなぁって」

 

「あぁ、それなら俺が持っているよ。これから入れてくるから一緒に行こうか?」

 

「ほんと?じゃあお願いしようかな」

 

「もちろん。じゃあ入れてくる」

 

そして俺は水を井戸から手に入れ、袋に移した。あれだけ走っているならば水は必須だろう、喉からからだろうし。

 

「…よしっ!これだけありゃあ十分だろ。早速持っていくか」

 

水袋に水を入れて蓋をしクリスタと合流した。

 

「入れてきてくれたんだね!じゃあ彼女がいるところに行こうか」

 

「うん、そうしようか」

 

クリスタはパンを持ち、俺は水をもってサシャのいるであろう場所へ向かう。

せっかく仲間といるんだ。色々と交流を重ねるのは大切だろうと思い話をしてみる。

 

「そういえば、クリスタはどうして入団を?」

 

「えっと、私は…。そ、そういうベンはどうなの?」

 

濁らされた…言えないのかもしれないのかな。

 

「俺は、5年前にシガンシナ区に出張で向かった父が巨人の脅威によって亡くなった…。だから、そのまま怒りでここに来た…かな」

 

「え…父が、死んじゃった…の?」

 

「まぁ、確かにそうだね。でももう過去とは決別した。亡くなった人は残念だけど帰ってこない。引きずるんじゃなく、胸に思い、前向きにって決めたんだ」

 

「そうなんだ。ベンって強いんだね」

 

「強い?」

 

「うん、精神がっていうこと」

 

「…そりゃ、ありがたく受け取るよ。んで、あの娘はこの先か?」

 

「え…うん。て、ていうか、私に理由を聞くんじゃなかったの?」

 

「確かに聞きたいけど…なんか話したくないって感じがして」

 

「別に話したくないわけじゃないけど…でも、気を使ってくれてありがとう」

 

「こっちが急に聞いたのが悪いしな。まぁ初対面なら、まずは世間話からだよな。好きな食べ物だったり、趣味だったり?」

 

「あはは、確かに初対面だよね。でも、せっかくだし話そうかな。…私は、皆の役に立ちたいから、そんな感じ…かな」

 

「みんなの役に?…立派じゃないか」

 

少し間をおいて、俺は返事をした。

 

「そう…?そういわれると嬉しいかも。志望理由を話した相手なんてまだいなかったから。この理由じゃあ志望には乏しいかなって思ってたけど…」

 

「いいと思う。他人のために何かをしてあげようと思えるのは、誰にもできることじゃないからさ」

 

「でも、ベンはあの娘に私と同じことをしようとしてたよね?」

 

「まぁ、俺は困った人を放ってはおけない性格なもんで…。親には見切りをつけることに慣れろって言われたけどさ」

 

「…やっぱベンって話しやすい性格だね。最初はちょっと怖かったけど、全然優しいね」

 

「え?あ、ありがとう…。でも、クリスタもそうだった。これから頑張っていこうな」

 

「うん。これからもよろしく…って、あ!」

 

「ん?…お」

 

「いた!倒れちゃってる!」

 

クリスタは足を速め倒れている娘ことサシャのもとへ向かう。

すると、倒れているサシャの体がピクっと震えたことに気づいた。俺は、とっさにクリスタに言った。

 

「クリスタ、何か様子が…」

 

「えっ?」

 

そして、倒れていたサシャは獣の如く鋭い眼光と口?でクリスタの持っているパンへと飛び掛かった。

 

「ヴァウ!!!」

 

「きゃあ!」

 

「大丈夫かクリスタ!…とサシャ」

 

パンを咥えたまま手足で獣の態勢を保っているサシャ。

 

「うん、大丈夫だよベン。それより…」

 

ついに人間の言葉を発した彼女。

 

「これは、パァンッ!!!!」

 

大きい声で口にした食べ物の名を叫ぶ。少々呆気に取られていたが、とりあえずはこの水も渡さないといけない。

 

「大丈夫?えっと…サシャ。ほら、水だ「くださいっ!」…よ」

 

持っていた水袋を獣のするどい爪のようにかすめ取り、蓋を開けて水を勢いよく飲み始めた。

 

「…んぐ…ぷはぁっ!…神様ですか!」

 

「「え?」」

 

「あなたたちがぁ…神ぃいいいい!」

 

奇声とも取れる声で俺達を崇めてしまっているサシャ。俺はやめてくれと言おうとしたとき、向こうの闇から人影がうっすらと見て取れる。

 

「うるさい、あんたら」

 

「ん?」

 

俺はその発言をした方向へ視線を向ける。闇から現れたのは、そばかすのついた目つきの鋭い女性だった。

 

「いや、うるさいのはこいつか…」

 

その女性は水を飲んでいるサシャを見下していた。水袋から口を放した彼女は最後の力を使い切ったかのようにクリスタの膝へ顔を預けて目を閉じた。

 

「あの、あなたは?」

 

「まずは自分から名乗るものだろ?」

 

「それも…そっか。俺はハーヴェン。この娘はクリスタ。そして寝ているのがサシャだ」

 

「ふ~ん?礼儀いいねぇ。あんた、だまされやすいタイプだろ?それに…お前もな」

 

「え…私?」

 

「[いいこと]しようとしてるだろ?」

 

「え…?私がこうしたいと思ったのは…役に立つ人間だと…思われたいからかな」

 

「は?知るかよ。とりあえずこいつを運ぶぞ。えっと…ベン、だっけか?」

 

「ん?あぁ」

 

「あんたも手伝え…て言っておきたいが、それはまた先にしてやるか」

 

「え?いや、手伝うよ」

 

「バカかてめぇ。恩もねぇやつに手を貸すとか」

 

「そうかぁ?…ま、手伝わなくていいとそっちが言っているなら下手にでしゃばるのも一方的なありがた迷惑だろうし。俺は帰るとするよ」

 

「そうそう、お前はこの娘より賢そうだな。引き際を知っている。それじゃ、さっさと運ぶかー」

 

「あ、その前に君の名前を教えてよ。これからともに切磋琢磨していく仲だからさ」

 

「…ユミルだ」

 

「ユミル…か。わかった。そんじゃ明日から頑張ろうな、ユミル、クリスタ」

 

「うん、頑張ろうね」

 

「へいへい」

 

俺はここでユミル、クリスタ、サシャと別れた。ユミルとサシャに関してはあまり話せなかったが、とりあえずは会話できてよかった。

これからつらい訓練期間の始まりだ。少しでも人脈を広げとこう。自身の保身にもつながるし、いろいろと役立つこともあるから。




全年齢版でした。こちらも続けて投稿していきたいと思います。
感想、よければお願いします。待ってます(^^♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 ぶら下がり訓練

俺はユミル、クリスタ、サシャと別れ兵舎へと戻っていた。男子寮、とでもいえばわかりやすい。

俺の部屋にはコニー、マルコ、フランツがいた。ドアの横にある名簿に書かれている人たちだ。

 

「ん?遅いぞベン。もうとっくに部屋に戻らないといけない時間を過ぎてたぜ。見つかったらやばかったな」

 

コニーはベッドに座りながら俺に言った。確かに戻るときには外に誰もいなかった。あの時見つかれば危うくサシャと同じことをされたかもしれない。

 

「今度からはしないよ。流石に罰を食らうのは勘弁だからね」

 

「でも、どうして外に行ってたんだい?」

 

「それは…というか、君…名前はなんていうんだ?」

 

俺は横から介入したセンターわけの髪の短い男性に急に質問された。ちょっとそばかすついている感じだが、ユミルみたいに目つきは悪くない。むしろ優しい感じだ。

 

「あぁ、ごめん。つい言い忘れちゃった。僕はマルコ・ボット。マルコって呼んで」

 

「そうか。俺はハーヴェン・シュタークスン。気軽にベンでいいよ。よろしくな」

 

「うん、よろしくね」

 

握手をし、互いのことを知る。

するとまた一人、坊主頭の背の高い男性が介入した。

 

「じゃあ僕も自己紹介させてほしい。僕はフランツ・ケフカ。フランツでよろしく」

 

「おう、よろしく」

 

フランツとも握手をし、俺たちは互いに顔を覚える。皆、これから訓練を一緒にやっていくメンバーだ。ちゃんと最初の交流はやっておくほうがいいだろう。

その後、マルコは口を再び開いた。

 

「それで、話を戻すんだけど…」

 

「あぁ、俺が遅れちゃった理由か。そんな大層なものじゃないけどさ。さっき走ってた娘、いたよね?そいつに水を持って行ってただけ」

 

「そうか、あのサシャっていう人だよね。優しいねベン」

 

「ま、そのおかげで教官に見つかっちゃ俺たちが連帯責任をとらされるかもしれなかったんだぜ」

 

「悪かった、コニー。今度からはしない」

 

「わかってくれりゃいいけど…でも、その優しさはやめるなよ?良いところなんだからさ」

 

「そう言ってもらえるのはうれしい」

 

コニーは少し笑みを浮かべつつ、思い出したことを話し始めた。

 

「そういや俺、ベンの入団式の時のこと覚えてるんだよね」

 

「え?ベン何かされたの?」

 

マルコは不思議とコニーの発言に興味を持つ。

 

「よく覚えているね。まだ顔も名前も知らない人なのに」

 

フランツはコニーの記憶について関心を示していた。

 

「何かしたっけか俺?」

 

「あぁ、俺が敬礼逆で怒られたから他のやつがどんな怒られ方すんのか見ちゃっててよ」

 

「なんか…趣味悪くない?」

 

マルコは思わず口に出す。

 

「へ、仕方ないだろー?んで、ベンは出身地を言わないで怒られたって話」

 

「あ、確かに。朝のことなのにもう忘れてたよ。しかも俺自身が」

 

確かに、俺はトロスト区の出身であることを飛ばして教官にみっちり怒られてたが、今の今まですっかり忘れてた。そういうことは忘れちゃうたちかもしれない。

マルコは言う。

 

「まぁでも終わったことだし、今は明日からのことを考えるほうがいいかもしれないね」

 

「明日から大変だよなー。俺ついていけっかなー」

 

コニーは訓練についてはネガティブ思考である。事実、巨人と戦うのは死と隣り合わせなことだ。生き残るためならば、どんな辛い訓練であろうと従わざるを得ないだろう。地獄はここではなく、卒業したあとからだからだ。

 

「明日は状態を空中で維持する、いわば立体起動術を扱う基礎をやるんだよね?」

 

フランツはしっかり者で、明日のこともこと細かく調べたり、勉強するような性格である。

 

「ま、俺天才だし。そんなもの簡単に踏破してみせるぜ」

 

「そっか、じゃあ明日に備えて寝ようか」

 

「そうだねベン。よし、寝坊しないように僕が声かけるよ」

 

「いや、自分で起きられるってマルコ。なぁ、コニー、ベン」

 

「はは、大丈夫だよ」

 

「あぁ、天才だし」

 

「ほら、マルコ」

 

「そっか、なら大丈夫か。心配しすぎだね。あははっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

 

「何をやってるんだ!貴様らの部屋だけだぞ!遅刻してるのは!!」

 

「「「「すいませんでした!」」」」

 

遅刻した。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

そして、今回はなんとか怒りを治めてくれた。俺たちだけを叱る時間もないのだろう、みんなを待たせているから。

隊列に戻り、俺たちは教官の話を聞いた。

 

「いいか貴様ら。今からやる訓練は、立体起動において基礎となるぶら下がりだ。静止し、体重操作を覚えろ」

 

そしていくつかある訓練用装置に一人ずつ挑んでいく。ほとんどの者はしっかりと静止し難なくとこなせているようだ。

 

「次」

 

「はい」

 

俺の番になり、腰の装置にフックをつけて徐々に上げていく。足は完全に地面と離れたが、俺もとくに難なく静止できた。

 

「うん、合格だ。よし、おろせ」

 

おろしていく中、反対側から大きな声が聞こえた。

 

 

 

「何をしているエレン・イェーガー!早く体勢を起こせ!」

 

…周りに比べて大きく失敗を披露している一人の青年がいた。エレンというらしい。普通は立ったままの姿勢を維持できるが、彼は体勢が真逆になっているらしい。顔は絶望という感じだ。

無事俺はおろしてもらい、人が少し集合しているエレンという青年の前に向かった。その途中、ユミル、クリスタ、サシャは難なくこなせていた。コニーも、マルコも、フランツもできたらしい。

ならば、彼だってすぐにできると俺は思っている。これに特別才能などは必要ないと思えるからだ。

俺は突着すると、姿勢を正そうと必死な彼を見ていた。

 

「なんか、不思議と絶対にできない感じがする…」

 

ぽつりとつぶやいた。

彼にはさほど才能がないのか、それはわからない。でも彼は諦めはしていない、きっとできるはずだ。

 

「あ、ここにいたんですね」

 

「ん?」

 

後ろから声をかけられた。こんなに人がいるから俺じゃないのかもしれないが、一応振り向いてみる。

 

「そういえば名前を聞いてませんでしたね」

 

「君は…」

 

茶髪の流した髪が特徴な女性。そして芋というイメージが強く残る人でもある。

 

「サシャ、だよね」

 

「はい、知ってたんですね。改めて、サシャ・ブラウスです」

 

「俺はハーヴェン・シュタークスン。ベンでいいよ。それで何か用かな」

 

「はい。昨日は助けてくれてありがとうございます。おかげで今ピンピンしてます」

 

「そっか、そりゃよかった。サシャはこの訓練できてたね」

 

「特に難しくもなかったですからね。でも彼は…」

 

「うん…」

 

二人で彼を見る。エレンはいまだできてないままだ。結局そのまま地面に下ろされその日は終わった。どうやらチャンスはまだあるらしい、明日にでもやるそうだ。

 

「できていなかったですね…」

 

「うーん、あそこまでできないとなると相当体重操作が苦手なのかな」

 

「でも体重操作なんて意識してませんでしたよ?」

 

「俺もそうなんだよね…。彼ちゃんと立体起動の訓練に行けるかな」

 

「心配ですけど…でも簡単でしたし、できると思いますよ」

 

「そうだよね、そう願おう」

 

「はい」

 

 

 

俺たちはその後、兵舎へと戻った。兵舎では座学を受けたのだ。

 

「いいか、訓練兵たち。巨人は首の後ろにあるこの部分、うなじと言われる所を大きく損傷させることにより再生せず一瞬で倒すことができる」

 

すると教授は机の下からあるものを取り出し、訓練兵に示した。

 

「そして、そのうなじの部分にたどり着くために必要な機械。それがこの立体機動装置だ」

 

調査兵団がつけているのはもちろん知っているが、こんな近くでみたのは始めてだ。入り組んだ機械であり、重そうだがこれを腰につけるのだ。

 

「君たちには、この機械の基本的知識、応急処置、構造なども学んでもらう。機械のため、故障した際に必要な修復は必ず知っておかなければならない」

 

今日はしないが、今後こういうものも習っていくのだろう。

授業が終わるとあとは昼飯に自由時間でまた座学…。そんな感じのカリキュラムだ。

俺は皆が立つ間、持っている教科書を開いて眺めた。少し痛みが進んでいる本だ。先輩たちが使いそのまま俺達も使い続けているのだ。

 

「こりゃ…難しそうだ」

 

ぽつりと呟く。

席を立ってない俺に気づいたのか、一人の男が俺の横に来た。

 

「ねぇ、もう授業終わったよ?移動しないの?」

 

「ん?あぁ、そうだね」

 

本を閉じて、声をかけてくれた方へ向く。そこにいた男はクリスタより深い黄色の髪をしてた。

 

「えっと…名前は?」

 

「あ、僕はアルミン。ごめん、席を立たない君が気になっちゃって」

 

「ちょっと座学が大変そうかも…て思って。俺はハーヴェン。ベンでよろしく」

 

「ベン…か。よろしくね」

 

すると、ぞろぞろ帰っていた方向から二人こちらに戻ってきた。一人は知っている。

 

「なぁアルミン。いかないのか?」

 

「あ、エレン。ちょっとこの人…ベンが気になって」

 

「そうだったのか」

 

緑色の眼と誰にも負けない根性が特徴なエレンがいた。その隣には赤いマフラーを巻いている物静かな女性もいた。

 

「よろしくな。俺はエレン。こっちはミカサ」

 

「よろしく」

 

ミカサという人は必要最低限の会話で済ます感じだった。

 

「こちらこそ」

 

「それで…ベンはなんでここにいたんだ?」

 

エレンはこちらに質問を投げかけた。アルミンと変わらないが答える。

 

「座学が大変…て思って。ちょっと教科書を眺めてた。大丈夫、すぐ食堂にいくよ」

 

席を立つと、エレンはある提案を俺にしてきた。

 

「もし厳しそうだったらアルミンを頼れよ。座学得意だからな」

 

「うん、アルミンに任せるべきだと思う」

 

「え、エレンもミカサもそう思ってたの?」

 

「おう、アルミンは人一倍頭がきれるからな。もしわからないことがあればアルミンが解決してくれると思うぜ」

 

「そっか。じゃあ今後わからないとこがあったら聞こうかな、アルミン」

 

「え!?…まぁいいけど。座学なら確かに自信あるし、出来ると思う」

 

「ありがとう。それじゃあ食堂に行こうか」

 

俺は席を立ち、エレン、ミカサ、アルミンと共に部屋を出た。昼飯の食堂ではもう皆飯を食べ始めていた。俺もパンや汁物をもらわないとな。

昼飯時にはせっかくなのでエレン、ミカサ、アルミンと共に食べた。

 

「にしても、どうやってあの訓練をやりゃあいいんだ…」

 

食べながら頭を抱えるエレン。でもあの失敗の姿を見れば同情するしかない。

 

「大丈夫だよエレン。このあとの晩御飯前の自由時間で練習しようよ」

 

「そうか…ありがとなアルミン」

 

「エレンならできる」

 

「うん、俺もそう思うよ」

 

きっとできるはずだ。誰でもできるから、エレンにだって絶対できる。

 

「応援してるよエレン」

 

「ありがとな、ベン」

 

その後、俺達は飯を食い終わったあと休み時間をあの装置の準備にあてその後座学を受けた。

そして、座学後である。

 

「じゃあ、僕とミカサはエレンのぶら下がり訓練の練習を手伝ってくるね」

 

「晩飯前には戻るようにね。一応全員いなきゃいけない時間だから」

 

「必ず戻る」

 

ミカサが答え、俺は3人に手を振った。

その後晩飯まで休み時間がある。せっかくだし座学の復習でもしようかね。

 

「ん?何してんだお前?」

 

「え、座学の復習…」

 

俺の行動に疑問を持ったのか、ある人が声をかけてきた。

 

「どーせ役に立たないものばかりだと思わねぇか?」

 

「えー?どれも実践的な知識ばかりだと思うけどね」

 

「そうかよ。あ、俺ジャンって言うんだ」

 

「ジャンか。俺は「ハーヴェンだろ?」…そうだけど」

 

「やっぱりな。俺、あんたのことは数年前に見ていたから知っている。俺と同じトロスト区出身だったよな」

 

「え、俺入団式の時言ってないけど…よく知ってんね」

 

「ベンは俺のことしらなくても、トロスト区は広い場所じゃないから知っているさ。町の人の名前は結構憶えてたしな」

 

「そういうことだったのか。ジャンは何をしているの?」

 

「俺?別に何もしてないが。まぁ明日から立体起動装置訓練だろ?それを楽しみにしているくらいだぜ」

 

「楽しみなんだね」

 

「そりゃあな。ああやってビュンビュン飛ぶのは興奮するだろ?」

 

「言われてみれば、そんな経験したことないから楽しみかも」

 

「だろ?明日から楽しくなるぜ」

 

「そうだといいね」

 

 

兵舎 寝室

 

「えーっと…大丈夫?エレン…」

 

包帯をぐるぐる頭に巻いて心ここにあらず状態だった。序盤の訓練に絶望しているようだ。

 

「…なぁ、ベン。コニーやジャンにも教えてもらえなかったんだ…。頼む、コツを教えてくれ!」

 

必死な懇願は余計彼のみじめさを引き立てている。

 

「そうだなぁ…軸をしっかり保てばいけると思うけど…」

 

「軸か…意識はしているはずなんだ。何が足りないんだ…」

 

マルコがそこから介入しエレンに言った。

 

「うまそうな人なら…上にいるライナーとベルトルトもいいと思うよ」

 

「そうか、聞いてくる!」

 

エレンははしごを上って行った。ちなみにここは俺たちの寝室ではない。皆が一つの寝室に集まっている感じだ。

 

「エレンはできるかなぁ」

 

「きっとできるよマルコ。他人を気にすることもいいけど、俺達も色々と課題はあるよね」

 

「そうだねベン。これから馬術、技巧術、兵站行進と辛そうだ。頑張ろう」

 

「おう」

 

 

 

結果。エレンはぶら下がり試験を合格した。どうも、彼のベルトの金具が故障を起こしていたのだ。確かにそうでなきゃ、引き上げられた瞬間に姿勢を崩すことにも合致がいく。

これで晴れてエレンも立体起動に赴くことができるようになった。よし、今日の午後からは本格的な立体起動訓練。気を引き締めていこう。




評価、感想待っています(^^♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 立体起動訓練

午前前半は立体起動の基礎を座学で学び、後半はまだ立体起動の基礎訓練を合格してない人たちにあてられた。

さて、食堂で飯時である。俺は席に座り、運んだ飯を机に置いた。

 

「あ、隣いいか」

 

「うん、どうぞ」

 

「僕もいいかな」

 

「もちろん」

 

やたらと体格のでかい、金髪の大男が座る。その大男の向かいには黒髪の落ち着いた、長身の男が座った。この人たちは見たことがある。名前は知らないが.

 

「いきなり座って悪かったな。席が空いていないもんで」

 

「まぁ混むからね」

 

「おっと、自己紹介しないとな。俺はライナー。んで、向かいにいんのがベルトルトだ」

 

「よろしく」

 

「うん、俺はハーヴェン。ベンと呼んでほしい」

 

「そうか、お前がベンか。エレンやアルミンから少し聞いてる。詳しいことは知らんがな」

 

「そうだったのか。まぁ彼らとは全然話してないし、当然だけどね」

 

「ベンは、この後の立体起動…できそうか?」

 

「どうだろう…やったことないし、わからないけど」

 

「それもそうだよな。聞いて答えられることじゃないな」

 

俺はパンをつまみ、ベルトルトのほうへ向いた。

 

「そういえば、君たちは昨日エレンにあの訓練のコツを教えてあげてたよね?おかげでエレンは行けたのかな」

 

「いや、僕たちは何も言ってないよ。ただライナーが昨日の夜道、ベルトの調整をしてみろって。それだけでいけたんだ」

 

「あぁ、何もコツなんて教えちゃいない。それに奴は壊れていたベルトで数秒間維持した。大した根性と努力だ」

 

ライナーの言っていたことについて、さっきのエレンは確かにすごいことをしていた。

 

「そうだったね…。エレンが成功してよかったよ。午後からの立体起動も頑張ろう」

 

「うん、僕も出来るか不安だけど。でも噛り付いてみる」

 

「ベルトルト、そこまで不安視する必要はないんじゃねぇか?あれが基礎訓練なら余裕だろ」

 

「そうだよね」

 

彼らは不思議と固い絆を感じる。話し方からしてきっと長くともにいたのだろう。

 

「二人は幼馴染なの?」

 

俺はベルトルトに聞いた。

 

「うん、アニともね。3人で一緒に入ったんだ。訓練兵になろうって」

 

「だから俺たちは互いのことをよく知っている。だが訓練兵になった以上仲間全員とやっていく。いろんなやつと話さないとな」

 

「それは大切だよね。俺も努力はしてるんだけどなぁ…」

 

「無理に関係を作ることは必要なことじゃない。だろ?」

 

「そうだよ。僕だって全然みんなのこと知らないんだから」

 

「そうかもしれない…。まだ何もこれからのことは考えていないけど」

 

「それくらい気軽な気持ちでいこうぜ。押しつぶされちまうからな」

 

俺たちは食べ終わると席を立ち、食器を片付けて休み時間に入った。

 

「それじゃ、午後の立体起動訓練でまた会おう。俺たちは少し行くところがある」

 

「じゃあまた、ベン」

 

「うん、またねライナー、ベルトルト」

 

ライナー、ベルトルトと別れる。結果、俺一人になっちゃった。

 

「ねぇねぇ」

 

肩を叩かれて振り返る。

 

「どう?皆とうまくいってる?」

 

クリスタが後ろから来た。体を向けて返答をした。

 

「ある程度みんなのことは覚えてきたよ。もちろん、君のことも」

 

「そうなんだ、良かった!やっぱり接しやすそうだったから、上手く行くと思ってた」

 

「そこまでコミュニケーションに否定的じゃないよ。ちゃんと皆のことを知ろうと努力してる」

 

「大切だからね。にしても、私このあとの訓練不安かも」

 

「さっきライナーとベルトルトともその話をしていたよ。実際やろうとするとやっぱり怖いよね」

 

「うん、体が空を飛ぶって言われればわくわくしそうだけど…でも、危険だし」

 

「それでも巨人を倒すためだから頑張らないといけないよね。誰でも初心者なんだし、別に今日からすぐに完璧を目指す必要もない。ちょっとずつ、最終的にできるようになったらいいね」

 

「そうだね、頑張ってみるよ」

 

「おう、もちろん俺も少しずつ慣れていこうと思うから」

 

「ありがとうベン。じゃあ訓練で」

 

クリスタと手を振ってその場を別れる。あのような娘が訓練兵団に所属したのは、いわゆる世間体の目が怖いからという理由もあるだろう。でも、彼女は自分の意志を持っている。改めて彼女は立派だった。

 

「そろそろ俺も移動したほうがいいかな」

 

訓練場所は確か森だったはずだ。ここからそう遠くない、長い大木が並ぶ場所である。

俺は移動し、皆が森の入り口前に集まっている所が見えた。集合時間には間に合ったらしく、色々と知っている顔が並んでいる。

 

「お、ベン。ちゃんと間に合ったな」

 

エレンが手を振って大きな声で向かう俺に声をかけてきた。

 

「ちゃんとって…いつも時間は守るようにはしているんだけど」

 

「だってお前、ぶら下がりの訓練で遅れちまったろ?」

 

「よく覚えているね…。まぁもうしないって。大事な訓練だし」

 

「そうだよな。巨人に対抗するための必須訓練、これができなきゃ奴らを駆逐できないからな」

 

「うん、頑張ろう」

 

「あぁ、もう恥をかいたりしない」

 

随分と決意が固いようだ。彼のことはよく知らないが、人一倍巨人に対して特別な感情があるのだろう。もちろん俺もそれなりに感情は有してる。

だがそれを張り合うなんてことは意味がないので、俺は俺。彼は彼である。それぞれの目標に違いはあれど道はまだ一緒だから互いに支え合うようにしていきたい。

 

「いいか貴様ら!これから立体起動の訓練を開始する。一人一台の旧式立体起動装置をつけろ。ガスを装着した後、それぞれ操作して飛んでもらう。審査官はすでに森の中にいる。これができてようやく囮だ!だが最初は難しい、それぞれ仲間と共にコツや情報を共有し切磋琢磨していくのだ、いいな!」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

俺にも配られた立体起動装置を腰につける。最初だからここから躓かないよう、話を聞いて装着手順を覚える。

 

「あれっ?これってどうやって…」

 

すると、ミーナが早速立体起動装置を付ける手順を間違えていた。俺は問題なく装着したのでミーナの下へ向かった。

 

「ミーナ?」

 

「あ、ベン。ちょっと手順間違えちゃったのかな…」

 

「とりあえず本体をガスと接続し、腰につけていこうか」

 

一旦ミーナのつけ間違えたのをすべて外した。ガスを本体と接続しブレードをしまう箱の上に設置。

 

「本体をベルトに装着し、そのベルトを巻く」

 

「ベルトにつけて…こうかな」

 

「うん。あとはガスのついたこの箱も一緒にベルトにつけて、アンカー射出口の向きを整えれば…できたね」

 

「ほんとだ!ありがとう、ベン!」

 

その頃、後ろからは次々と立体起動に移る仲間たち。

 

「もう始まっている…。さ、ミーナ。行こう」

 

「うん、こっからは一人で頑張ってみる!」

 

俺は頷き、飛んでいくミーナを見送った。続いて俺も地面を蹴って少し跳躍し、アンカーを木々へと射出。俺の体は宙へと飛び立った。

 

 

 

 

「森だから指す場所はたくさんあるな。あとはガスの量とアンカーの向きに気を付けないといけないってことか」

 

手に持つコントローラーでガスとアンカーを交互に、または同時に操作して状態を整えつつ木々を抜けていく。

 

「上手いな、ベン」

 

「ありがとうジャン」

 

俺の右に来たジャンは最初とは思えない操作で素早く木々を抜けていった。

 

「俺も負けてられない!」

 

ガスに腰を押され、反る体制で空へと浮かび上がる。森が見渡せる。仲間が不器用ながら必死に訓練に食らいつく姿がよく見える。

そんな中、危ない人もいた。

 

「な、なんでっ…!」

 

「クリスタッ!」

 

体勢が横に向いて地面に落ちていってしまう姿を見た。

俺は命綱であるアンカーを無視した。一気に体勢を下に向け地面にむけてガスを吹かしたのだ、アンカーなしに。体は支えを得ず、クリスタのもとへ着く直前にアンカー二つを左右に展開しブランコのような飛び方でクリスタを抱いて空へとまた飛び立った。

 

「大丈夫か、クリスタ!」

 

「…う、うん!ありがとう」

 

俺たちはゆっくりと木の枝に乗って、クリスタを離す。

 

「きっとアンカーを同時に巻き取れてなかったんだ。ゆっくりと行こう」

 

「わかった、気を付けるね…」

 

俺は周りを見る。皆立体起動に戸惑いつつあるようだが、なんとか低い位置で出来ているようだ。

 

「よし、ガスはまだあるね?さ、続けよう」

 

「うん、もう一回!」

 

クリスタは同時にアンカーを射出しガスを吹かせて飛び立つ。俺も飛び立ち、森を駆け抜ける。ちらちら枝に乗っている人は審査官だ。

 

「どこでも見られている…気を抜けない」

 

 

 

立体起動の訓練は教官の号令があるまで続けた。

終わる少し前、俺は枝に乗っていた。

 

「…」

 

「おい、お前」

 

隣に立体起動でうまく到着した女性。

 

「…ユミルか」

 

「何黄昏てんだよ。一応訓練中だぞ?」

 

「いや…夕日がきれいだなって」

 

「夕日なんて毎日見れるだろーよ」

 

「でも、ここが一番高い木だ。遮蔽物がなく見れるのはまた違う」

 

輝く照らすオレンジかかった夕日は、ただただ美しいと感じた。お父さんを亡くした所は見ていないけど、でも残酷さは痛感した。怖かったに違いない、でも俺はそいつらに立ち向かう。

でもまだ地獄に身を投じる前なら、こんな美しい夕日を見てられる時間もある。

 

「…なぁ、ベン」

 

「ん?」

 

「誰かのために命をささげることって、お前にはできるか?」

 

ユミルは不敵な笑みはなく、夕日を見ながら言っていた。

 

「…どうだろう。まだ、出来ないかも」

 

「まだ?」

 

「誰かのための”誰”って、きっと大切な人なんだろうね、その人にとっては。まだ、俺にはないね」

 

「…へっ、やっぱ見知らぬ人に命まで投げられねぇよな。安心したぜ」

 

「安心?」

 

「お前、誰でも助けちまいそうだが…ちゃんと優先つけられるようだしな」

 

ユミルはコントローラーを握りなおす。

 

「まだ終わってない。私はさっさと行くぜ?バレない程度に休むんだな」

 

ユミルはすっと森に入っていった。まさか、あのユミルから声をかけられるとは。別に第一印象からすべてわかるような能力は俺にはないが、でもユミルは自ら声をかけてくるタイプではないと思っていた。

もちろん休む気はない。俺はすぐに立体起動に戻った。




ヤンデレは大分先になるかと思います。心情を徐々に組み立てていきたいのです、


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 対人格闘術訓練

無事入り口に立体起動で戻ることができた。もう何人かはすでに戻っているようで俺を見つけると手を振った。

 

「上手かったね、君!」

 

一人の男性が前から声をかけてきた。黄色い短髪が特徴な、ライナーほどがたいがでかくはない人だ。

 

「うん、ありがとう。君は?」

 

「僕はトーマス」

 

「俺はハーヴェン。ベンと呼んでくれ」

 

「ベンか。見てたけど君の立体起動はずば抜けてよかった気がするよ」

 

「そりゃうれしいよ。でも、他にももちろん上手い人はいる。まだまだ皆、俺も含め初心者なんだからきっとすぐに追い越されるだろうね」

 

トーマスとはそこで別れた。

そこにエレンとアルミンがやってきた。

 

「あぁ、負けてられないぜ。でもベンは確かにうまかったな。俺なんてまだまだ低空飛行だ」

 

「僕もだよ。これから少しずつ高度を上げて高いところでも操作できるようにならないとね」

 

エレンもアルミンも互いに頑張ろうと意思疎通している。ほかの皆もそれぞれの立体起動を経て難しかったという人が大半だ。ぶら下がりだけの基礎訓練でいきなり実践しているため、かなり回数を重ねないといけないだろう。

そこにミカサも遅れて来た。

 

「エレン。ケガしてない?」

 

「なんだよミカサ。俺はお前の弟でもなんでもないんだぞ!」

 

「いや、エレンは周りが見えなくなりやすい。気を付けないと危険」

 

ミカサはかなりエレンの心配をしている。よほど彼女はエレンのことを大切にしているのだろう。過去のことは知らないけれど雰囲気からやっぱりこの3人は特別なのだろう。

 

「3人とも、仲良しなんだね」

 

「まぁ僕たちは幼馴染だからね」

 

そっか、そうとしか言えなかった。咄嗟に俺と彼、エレンを照らし合わせる。友がいる、支え合う人たちがいる。生半可な絆ではない、固いものなんだ。俺にはなかった、彼にはあった。

憧れているのかもしれない。そのようなものに興味がなかった小さい頃より成長しているからこそ、俺は友と呼べる人がいないことに気付き始めた。

 

「さ、もう晩御飯が近いだろ?さっさと行こうぜ」

 

エレンを先頭に俺たちは動き始めた。もちろんほかの仲間も歩き始めて食堂へと向かった。

 

 

 

「…ねぇ、ベン」

 

「ん?」

 

俺は横から声をかけられた。そこにいたのはクリスタでパンをくわえながら応答した。

 

「座ってもいい?」

 

「ん?んん」

 

俺は「いいよ」という意味を込めて言葉を発さず頷きと声だけで答えた。

 

「私もいいよな?」

 

「んん」

 

また頷きながら、今度はユミルだった。向かいにユミルとクリスタが座った。どうやらこの二人は徐々に仲良くなっているようだ。

パンをかみちぎり、もぐもぐとしていると向こうからある感謝をされた。

 

「さっきはありがとう」

 

パンを飲み込み、応答する。

 

「立体起動訓練のこと?」

 

「他になにがあるっていうの。もちろん、そのこと。危ないところを助けてもらったから、しっかりとお礼が言いたかったの。訓練中は忙しかったから…」

 

「そっか、なら受け取っとくね」

 

クリスタは「よかった」と言ってごはんを食べ始める。

 

「ユミルは立体起動うまくいった?」

 

「あ?」

 

「あ、ごめん」

 

やっぱりユミルはあまり友好的ではないのかもしれない。でもさっきは木の上で少し話したんだが…。

 

「…別に、まだ全然だよ。最初だしな」

 

「もう、ユミル。もっと柔らかくならないの?」

 

「悪かったな、これが私なんだ」

 

それでもいいじゃない、と心で思っていた。人それぞれ違うんだから、クリスタの言うように柔らかくなってほしい、とも思ったりするけど別に必要はない。何かしら事情があるはず、だからそこまで踏み入るのは相手をより怒らせ心を閉ざすことに繋がる。

 

「とりあえず、明日は対人格闘術だったね。明日も明日で大変そう」

 

「そういえば…対人格闘術をやるのは知っているけど役に立つのかな?」

 

「んなもん役に立たないに決まってるだろクリスタ」

 

確かに、二人の言っていることは当然だ。俺たちは巨人に対し、力をつけているのだが対人は別だろう。なぜやるのか、意味はあるのだろうか。

だが考えても意味はないのでやるだけやって、役に立つかどうかはまた別の話だ。

 

「サボっちまおーぜクリスタ」

 

「だめだよユミル」

 

前も言ってたけどやたらユミルはサボろうとする。合理的なのかはたまた面倒くさがりやなのかわからないけど。

 

「…お、サシャがいるじゃねぇか。こっち来いよサシャ」

 

「ひゃいっ!」

 

ユミルはサシャを見かけるとこっちに来るように促した。少しぎこちない感じがするが、どうやらこの3人もまた不思議な関係にあるようだ。

サシャは俺の横にゆっくりと座った。少し緊張している感じがするが。

 

「ど、どうも…」

 

「うん…大丈夫?」

 

思わず聞いてしまう。

 

「ええ…はい」

 

作り笑顔感が半端ない。

 

「なぁサシャ。私たちの恩、まさか忘れたわけじゃねぇよなぁ?」

 

「そんなこと!もちろん!忘れてなんかいませんって!」

 

「もう、やめなよユミル」

 

ビクッ!ビクッ!と、落ち着きがない。

そもそも恩とは?

 

「恩?」

 

「あのぶっ倒れた時、運んであげたろ?しかも集合時間をとっくに過ぎてた夜。かなりリスクがあったんだから、それなりにこっちにも見返りがないとなぁ?」

 

「えぇ、ちゃんと恩は返し、ます」

 

サシャの作り笑顔とユミルの悪魔的笑顔。そうか、あの時ユミルが言っていた「恩もねぇやつに手を貸すとか」ってこういうことか。だいぶサシャが脅迫なみな対応されてまいっているようだ。

 

「とりあえず、この後サシャは水汲みな?」

 

「えぇもちろん…」

 

結構パシリにされてしまっているようだ。ユミルの欲求には「恩」によって逆らえないようである。

 

「…パン、食う?」

 

「いいんですかっ!?」

 

「二つあったからね。お腹いっぱいだし、あげるよ」

 

「ありがとうございますぅ!」

 

芋のイメージが強かったが、食べ物全般なんでも好んでお腹いっぱい食べるようである。

 

「なんだぁベン。餌付けでもしてんのか」

 

「そんなことしないって」

 

ユミルはなんでも自分の利益になるような思考がある。でもそれはそれで一つの強みだし、否定はしない。ただし肯定も。

もっきゅもっきゅとサシャはパンをほおばっている。飯食う時の彼女の顔は決して作り笑顔なんかではなく、幸せそうな笑顔である。

 

「とりあえず、ユミルもクリスタも食べなよ。時間は有限だしね」

 

「そうだね…あれ、そういえばサシャ、ご飯は?」

 

気になったクリスタは聞いた。

 

「ん?おおはへはひはひょ(もう食べましたよ)」

 

「あ、そうなんだ…」

 

流石の食い意地である。

 

 

 

「明日の対人格闘術って何に役に立つんだろうなー?」

 

うなだれたコニーは寝ながらしゃべっていた。

 

「でも、憲兵団には必要なのかもしれない」

 

マルコは思ったことを口に。

 

「…まぁ統制する憲兵にはいるのかもね」

 

勝手な思い込みを口にした。

 

「それよりも、僕は立体起動が大変で…できるか不安だよ」

 

フランツは今日の訓練がかなり難しかった、と言っている。まだ入団して間もないが、それぞれ困難に当たり始めていた。俺は座学である。

 

「まぁ、また遅刻しないようにもう寝よう」

 

俺はみんなに寝るよう言った。それぞれベッドに行き俺も眠る。このような日々が続けられるのはまだ幸せなんだろう。

 

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「おらぁっ!」

 

「うっ!」

 

エレンはあの巨体であるライナーを格闘術で打倒していた。

 

「すごいねエレン。いつからそんなに格闘術できていたの?」

 

「小さいころはいじめっ子たちとやりあっていたからな。その過程でついたんだろうな」

 

ライナーは起き上がり、土埃を払う。

 

「こんなのが上手くいったって運がよかっただけだ。あの巨人に素手で戦うなんて馬鹿のやることだろ」

 

「じゃあどうすればいい?」

 

ライナーは聞く。

 

「逃げりゃいい」

 

「んな無責任な」

 

「実際、うまくいかない方が多い」

 

「でも、それでも無責任だと思うぞ。俺たちは盾にならなきゃならない…」

 

その後もライナーの説教じみた話をエレンは聞いていた。俺もそのうちの一人だが。

エレンは途中で俺の方を向いた。

 

「…よし、ベン。今度はお前が相手になってくれ」

 

「ん」

 

木剣を受け取ろうとしたとき、ライナーはある人物を見つける。俺のまだ知らない人だった。

 

「あいつ、またサボって…」

 

「あぁアニか」

 

「アニ?」

 

アニ、そういえばベルトルトが一昨日だっけか。3人は一緒に入ったんだって。それがあの人だったんだ。

 

「よーしエレン。あの不真面目な奴に兵士のなんたるかを教えてやるんだ」

 

ライナーは笑みを浮かべているが、どうも不安が勝る俺である。

そしてライナーはアニという人物を連れてきた。

 

「…」

 

「教官の頭突きは嫌か?ならここに来た時を思い出して真面目にやるんだな」

 

「…」

 

怒ってる…あれは間違いなく起こってる。オーラがもう、私怒ってますオーラが。

そしてアニは、両拳を顔の横に。腰を落とし、構えた。あれは、格闘術を知っている構えだ。

 

「これは刃物の対処を覚える訓練だぞ…。いくぞっ!」

 

エレンは持っている木剣を構えて地を蹴った。

アニの眼孔は開き、右足をエレンの右足へ、大きく蹴りを入れたのだ。その速度はすさまじかった。音も鳴っちゃいけないような音だった。

 

「ぐぉ…」

 

エレンは態勢を崩し、足を抑え「いてて」と言っている。見ててわかる痛々しい。

 

「もう行ってもいいかい」

 

そこで俺は初めてアニの声を聴いた。低い声で冷静沈着だが、ミカサとは違う雰囲気でもある。

 

「…まだだ!短刀を取り上げるまでが訓練だ!」

 

エレンもさすがにもう一発くらいたくないと思い焦ってはいるもののアニはため息をつくとエレンに近づく。

 

「待てよアニ!これにはやり方があるんだって!」

 

そこからのアニの動きは洗礼されていた。右手でエレンの右手を、左手で顎を支え状態が反るようになったとき後ろからの蹴り。きれいに回ってエレンは足を上に背中を地面に、という態勢である。

取った短刀をライナーに渡すとアニは言う。

 

「次はあんたが私を襲う番だね」

 

「なっ…」

 

「やれよライナー。兵士としての責任を教えてやるんだろ?」

 

「…あぁ、兵士には引けない瞬間がある。今がそうだ…!」

 

ドォン!

 

ライナーはきれいに回ってエレンを全く同じ大勢になった。アニの動きはあの巨漢のライナーでさえ簡単に回せたのだ。

俺も幼少期はトレーニングはしてたけど、あそこまで極めてはなかった。

 

「…」

 

「ま、待て!まだベンがいるぞ!」

 

ライナーはあの態勢のままアニに言う。

 

「え、俺?」

 

「…ベン。アニに兵士としての責任。お前が教えて見せろ」

 

「いや…というかその態勢のままいうセリフじゃないね」

 

アニは持っている木剣を俺の下へ投げてきた。

 

「…やるの?」

 

「…まぁまだペアいなかったし。とりあえずやってみよう」

 

短刀を構え、アニも構える。

 

「行くよアニッ!」

 

地面を蹴ってアニに剣を刺そうとする動作。

しかし俺の右手は簡単に抑制され顎に左手。同じダウン技を繰り出したのだ。

 

「むがっ!」

 

短刀は取られ、俺は反らされた。その後アニからの後ろの蹴り。見ているのと経験では全く違う、流れるような動きだった。まるで彼女に動きを操られているようだった。

俺は宙をバク宙のように舞う。

 

「くっ…!」

 

俺はその状態から両手を地面につけて、バク転の原理で態勢を立て直した。

この動きに、アニは思わず口が開いていた。

 

「…受け身を取った?」

 

と、アニは俺に確認した。

 

「あれは…トレーニングをしてるうちに身に着けた受け身だよ」

 

エレンとライナーも受け身に対しては圧巻としていたらしい。

 

「おい、すげぇなベン。どうやってあんな受け身をとれるんだ?」

 

エレンは驚きを隠せない様子。ライナーも然り。

アニは思ったことを口にした。

 

「あんた、センスあるよ」

 

「経験者から言われるのはうれしい。努力したかいがあった」

 

「あんたも格闘技を習わされたの?…いや、あの動きからして習ってはいない。何のトレーニング?」

 

「いろいろなトレーニングだよ。というか、習わされた?」

 

アニは視線をいったんそらし、周りを見る。

 

「…私はお父さんから習わされた」

 

エレンはそこでアニに言った。

 

「すげえな!親父が体現者なのか?」

 

「…んなの、どうでもいい」

 

アニは短刀を握り直し、俺達が思う疑問をしゃべった。

 

「こんな対人格闘術、点数にはならない。だから内地志願者はああやって気休めの時間となってる」

 

そこでエレンは教官を見つけた。

 

「まずい、教官だ!」

 

アニは教官を確認すると、エレンではなく俺の方へと短刀を刺しにこようとする。

 

「ちょっ!」

 

アニの手を制止させるが、少しでも俺が気を抜けばすぐにでも刺さる、それくらいの力だ。

 

「この世界では、巨人に対する力を持つ人ほど巨人から離れられる。なぜだと思う?」

 

「…不平を言えなくさせるため?成績というものがあれば、それが優劣をつけられる」

 

「私が聞いてるのは…そんなことじゃない」

 

力が増した。しっかりと踏みとどまるが、休ませてはくれない。

 

「人の本質…。私の父は理想を見すぎた結果、こんな無意味なものを強いた。私は…逆らえなかった」

 

「…確かに」

 

「?」

 

俺はアニの力を後ろに受け流すようにするが、アニは俺の腕を逆に握り返し地面にたたきつける。

 

「グハッ!」

 

「何が確かに…だい?」

 

アニの手は休んでいない。

 

「言っていることは理解できる。君の父がどんな理想を抱いていたかはわからないけどッ…それでもちゃんと現実見てるんだよな。アニは」

 

「あぁ…もうこんな兵士ごっこに興じれない。馬鹿になれない」

 

「間違っていない。正しい。この世界で理想を抱くことは不可能なんだろうって」

 

短剣は俺の胸元を向いてる。

 

「でも、兵士ごっこというけれど…この時間はアニも大切にしようよ。ここは現実だけど、そんな心を閉ざす必要なんかないよ。馬鹿になれないって…仲間とかかわると馬鹿になるっていうなら、それは違う」

 

「…」

 

アニは短刀を向けるのをやめ、その場に立った。俺は寝かされた状態から上半身を上げる。

 

「俺から頼みがある。その格闘術を教えてほしい」

 

「なんで?言ったでしょ。無意味なんだよ」

 

「これ自体は無意味かもしれないけど、その時間は意味あるものになるって。お願いしますっ!」

 

俺は頭を下げた。エレンとライナーはなんか困っている感じだが。

 

「…勝手にしな」

 

アニはその場から消えてしまった。そしてライナーは俺に手を差し伸べた。

 

「大丈夫かベン」

 

「うん、ありがとう」

 

手を握り立った。土埃を掃く。

エレンは聞いてきた。

 

「なぁベン。アニから格闘術を学ぶのか?」

 

「そのつもり。なんなら一緒にやろう。エレンは格闘術得意なんだし、より伸びるよ」

 

「…そうか?まぁ、あの技は得てみたいものだな」

 

簡単にひっくり返されたことに多少悔しい思いを持つエレンは、しぶしぶ俺の提案に乗ってくれた。

 

「もちろんライナーも」

 

「俺もか!?…わかった。兵士…だからな」

 

自分は兵士、という無理やり自分自身を説得させる感じでライナーも了承してくれた。

 

「よし、今度から対人格闘術はアニに習うってことで。頑張ろう!」

 

エレンもライナーも頷き、俺たちはさっきの技を参考に格闘術訓練を再開していったのだ。

 




アニってすごいかわいいよね(^^♪


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 馬術訓練

3週間が過ぎた。

今、俺たちは座学を受けている。ただの言語学や数学、歴史も習う。

845年に起きた出来事はこの人類史に大きく刻まれた。超大型巨人と鎧の巨人という異例な歴史を体験した仲間たちもいるはずだ。もとい俺の父もその一人だ。

 

「鎧の巨人は体を鎧のように固い皮膚でおおわれている。だが大きさは普通の巨人とは変わらないとされている」

 

調査兵団でさえ、あのような巨人は壁外で見たことはない。今後俺たちが相手するのはそのような異例なものなのだ。だから今こうやって特殊な巨人の授業も受けている。

 

「超大型巨人は60mの高さを持ち、皮膚はなく筋肉が見えているという」

 

60mの敵に対してどうやって戦うんだろうか、まだ模索中である調査兵団。

ノートをとりながら教科書を眺める。やっぱり内容がうまく入ってこないようで苦手意識が抜けていない俺だった。

 

 

 

俺たちは今平原にいる。

 

「いいか貴様ら!今日は馬術の訓練だ!」

 

壁外で活動する際は必ず必要になる馬術の訓練だ。立体起動ができない平原での移動手段であり、他にも資源運搬にももちろん役に立つ。

だが馬とコミュニケーションや相性が必要にもなる。

 

「馬を数人の班で交代して乗るのだ!これができない奴は平原で走って巨人から逃げるしかないがな!」

 

教官からはじめの合図で班それぞれ使用する馬のもとへ歩み寄る。

 

「それじゃあコニーからで」

 

「おう、任せとけ!」

 

コニーは鞍に乗り、手綱を握る。撫でると、馬は顔を震わす。

 

「よし、じゃあ目標地点まで行ったら往復して帰ってきてくれ」

 

「わかってる。そんじゃ、行ってくるぜ!」

 

コニーは手綱を持って馬を走らせた。影がだんだんと小さくなる。ほかの班も次々と馬を走らせていく。中には途中で落馬してしまって頑張ってまた乗って走り出す者もいる。

 

「よおベン」

 

「ん?ジャン、どうしたの?」

 

「いや、訓練どうだ?って思ってな。できそうか?」

 

「まぁ乗ったことないしわからないね」

 

「俺は出来るようになりたいんだ。内地に行くためにも成績は維持しとかないとな」

 

「憲兵団を目指してるの?」

 

「そりゃそうさ。安全に暮らせるし」

 

「そっか」

 

しばらくジャンと喋ってるとコニーは安全にこっちに到着したようだ。

馬を止まらせ降りたコニーはこっちに声をかける。

 

「よし、次ベンな」

 

「うん、それじゃあ行ってくるよジャン」

 

「気をつけてな」

 

馬に近づき、頭を撫でる。

かまれた。

 

「いっ…!?」

 

「大丈夫かよベン!?」

 

ジャンは慌ててこっちに来た。

 

「…俺は馬とは仲良くなれないかもしれない」

 

かまれた腕を片方の腕で撫でつつ俺は鞍に飛び乗った。

 

「とりあえず慣れるためにもやらないとな…。よし、行くよ」

 

手綱を握って馬を走らせた。

揺れる体と馬を制御しつつ、目標地点へ到達を目指す。

しかし、そう上手くいかない。

 

「うぉあ!?」

 

俺は落馬した。おまけに地面に強く叩きつけられた。馬が俺を落としたと言うのが正しい。

 

「いつつ…。頼むよお馬さん…」

 

俺は頭を押さえつつゆっくりと態勢を立て直す。

 

「「大丈夫!?」」

 

「え?」

 

「「あ」」

 

すると二頭の馬と二人が俺のところに来たのだ。

ミーナとクリスタは互いに目を合わした。

 

「ミーナとクリスタ…。俺は大丈夫だよ、心配してくれてありがとう。でも訓練中だ、君たちも早くいかないといけないよね」

 

「そ、そうだけど…ケガしてるでしょ?」

 

「うん、クリスタの言う通りだよ!」

 

「大丈夫だって、そこまでやわじゃないから」

 

立ち上がって服をはたいて、馬に近づいた。

 

「もしかしてベン…馬の扱いが苦手?」

 

クリスタは乗りながら俺に聞いてきた。外見からしてそうとしか見えないのだろう。

 

「いや、雑に扱ってるつもりはないんだよね。ただ…」

 

俺は馬に乗り、手綱を再度握る。

 

「俺が馬に嫌われちゃってるだけだよ。でも、実践ならそんな言い訳は通じない」

 

「よほど馬に好かれないんだね…」

 

と、ミーナは少し驚いておもうことを言った。

 

「もしそうなら、今度一緒に馬の世話しようよ。私、馬の扱いには慣れてるんだ」

 

クリスタが出した提案は魅力的なものだった。

 

「世話すれば仲良くなれるかな?」

 

「絶対なれるよ!」

 

自信満々にいうクリスタ。でもクリスタは確かに馬の扱いに長けていた。少しの移動にも馬を巧妙に操作し、時折撫でている。

 

「わ、私だって慣れてるわ!」

 

ミーナは少し大きな声で俺に言った。

 

「そうなの?それじゃあ3人一緒にやろっか。きっと他にも馬に慣れてない人はいると思うし、そういう人たちとも合同で世話できるといいな」

 

馬を落ち着かせ、目標地点に向き直る。

 

「もう平気なの?休んだ方が…」

 

「大丈夫だよミーナ。教官に何言われるかわからないからね。さ、これ以上は流石にまずい。移動しよう」

 

馬は前足を浮かせ俺ものけぞるが、手綱を握って態勢を立て直し前を向く。

 

「ハッ!」

 

馬を走らせ、地を蹴る馬の脚の振動に耐えつつ移動する。

 

「うぉあッ!!」

 

「「ベンッ!」」

 

豪快に地面に叩きつけられた。

 

 

 

俺は無言で座っていた。

 

「…」

 

「大丈夫かよ…遠くから見てたけどベンは人一倍馬に好かれねぇみたいだな」

 

いつもは相手の失敗に自分の天才さを棚上げする彼だが、流石に可哀そうに見ていたらしい。

 

「よくコニーは乗れたね」

 

「ま、俺天才だから」

 

やっぱコニーは変わっていなかった。

 

「こりゃ苦戦しそう…座学も大変なのにこれも…」

 

今俺にできないものがまた一つ追加され頭をうなだれる。

 

「大丈夫かい?」

 

「ん?あぁ、ベルトルトか。…頑張って乗れるようにするよ」

 

「大変そうだね」

 

「そういうベルトルトは乗れたの?」

 

「僕?うん、できたよ」

 

「なら良かった。ていうか、人の心配より俺だね」

 

すっと立ち上がってまだやっている馬術訓練を見る。狩猟していた時はお父さんの後ろに乗っていたから実際に操作したことはなかった。

悔しいが、とりあえず頑張って慣れるしかない。まだ期間はあるんだ、一歩一歩前進していこう。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

晩御飯時

 

「いやぁご飯の時間は何よりも最高ですね~!」

 

「ほんとうによく食うな…」

 

トーマスはサシャの食い意地に驚いている。今、俺とサシャとマルコとトーマスが食べている。

 

「そういえば、サシャって何か得意なことでもあるの?」

 

「へ?どうしてそのような質問を?」

 

「単純に興味あって」

 

「そうですか…うーん、もともと狩猟を得意としてました。弓なら、自信ありますよ!」

 

「弓か…巨人に効く弓矢でもあればいいのにね」

 

「そうですよね!それなら安全に離れた場所や壁上から狙えるのに…。巨人はすぐに再生しますから…」

 

サシャの弓も、実践じゃ役に立たないかもしれない。

 

「そういうベンは何か特技ありますか?」

 

「特技…そうだね…」

 

いざ言われると困るものだが、ただ一つだけ暇なときにやっていて得意になったことがある。

 

「特技にしちゃあしょっぱいものなんだけど、ナイフ投げなら」

 

「な、ナイフ投げ?」

 

トーマスは聞きなおすように言った。

 

「うん、小さい頃はそういうので暇つぶしてたりもしてたかな」

 

そして俺は食事用のナイフを手に持つ。

 

「弓は見せれないだろうけど、ナイフ投げなら見せられるよ。見たい?」

 

「はい、ぜひ!」

 

「確かにみたいな!」

 

「で、でもどこでやるのさ?」

 

マルコは不安に聞いてきた。

 

「ちょっと外出ようか」

 

 

 

「よし、ここにマークを描いて…」

 

俺は兵舎の柱に円形のマークを付けた。

そしてその柱から数メートル離れる。約15メートルくらいか。

 

「ここから投げてみるよ」

 

「えぇ!?そんな遠くから投げるんですか?」

 

「この距離なら余裕だよ」

 

「じゃあ、やってみて!」

 

「僕も見てたいかな」

 

トーマス、サシャ、マルコが見てる中。俺はナイフの持ち手を人差し指と親指で握り左手で目標を捕らえる。

息を吐いて呼吸を止め、腰を落とし、左足を踏み出す。

 

「ふっ!」

 

一直線に投げたナイフは、回転し刃先が柱の方向に向く。一瞬スローに見えたナイフの刀身には3人が映され、そのまま的の中心へ深く突き刺さった。

 

「うぉお!刺さった!すごいなベン!」

 

「ありがとうトーマス」

 

俺は刺さったナイフを引き抜き、刀身を見る。俺が映される。

 

「その技術なら、狩猟にも役立ちそうですね!」

 

「どうかな…獣を狩るにこんな小さなナイフじゃ仕留められないよね?」

 

「た、確かに…」

 

「でも、いつかは役に立つかもしれないね」

 

マルコは励ましてくれたようだ。本当にこいつは優しい。

 

「そうだといいね。じゃ、食堂に戻ろう」

 

「そうですね。ずっと外にいると教官に何か言われるかもしれませんし」

 

俺たちはすぐに食堂に戻ったのだ。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

2週間後

 

「ハァッ!」

 

「…」

 

エレンとアニは格闘技をやってるが流れは完全にアニのままだ。あの日以来格闘訓練になればかなりの頻度でアニと練習を積んでいた。ライナーもエレンも、そして俺もまだ一回もアニに勝ったことはない。

 

「ぐあッ」

 

地面に叩きつけられたエレンはすぐに起き上がる。

 

「くそっ…どうやったらあんな格闘術できるっていうんだ…」

 

「ずっとやっていたって言ってたからこんな数週間で経験豊富なアニに勝てるわけないか…」

 

「あぁ、アニの格闘術はすさまじい。どうやっても勝てる気がしない」

 

ライナーも俺の意見に賛成のようで、アニは足を地面に擦らせる。

 

「次はベンだね」

 

「お?おう…」

 

あまり関係ない話だが、アニが自ら相手を呼ぶのは今が初めてだった。あまり乗り気でなかったアニだが少しずつこの訓練の時間を意味あるものにできているのだろうか。

たとえそうでなくても、俺達がそうすればいっか。

 

「手柔らかに…」

 

「そんなんじゃ勝てないよ、私にね」

 

木剣を持ってアニを見る。すでに準備満タンな大勢だ。エレンとライナーを相手しても息を切らせていない。無駄な動きなないのだろう。

 

「来な」

 

「…よし、行くよ」

 

右手に持つ木剣をアニの方へ振りかざす。

素早く躱されるとそのまま右手で俺の腕をつかみ、顎をつかもうとする。左手で制止したが、ここからの反撃の目途がたたない。

そしてアニは左足を俺の右足にかけそのまま倒された。うつ伏せのところを上から肩を押され木剣を奪われた。

 

「いい反応速度だけどまだまだだね」

 

「そりゃそっか…。ありがとな、アニ」

 

土埃を払いつつ立つ。アニはそんな俺を見ながら言った。

 

「前にも言ったけどこれは役に立たない。なぜそこまで本気になれるの?」

 

「…なんでだろう。わかんないや」

 

俺はエレンとライナーに視線を向ける。

 

「まぁでもこうやって皆と話せるし」

 

「それなら休み時間でいいと思うんだけど」

 

「…役に立つと思うし」

 

「だから役に立たないって言ったでしょ」

 

「…なんでだろうね」

 

「聞いてるのはこっちなんだけど」

 

アニはため息をついて、腰に手を当てる。

 

「まぁいいよ。そっちが教えてって言ったし、ちゃんと応えてあげる。本気でやってるしね」

 

「助かりますアニ様」

 

「何その言い方」

 

アニは木剣を持ちながら俺に言う。

 

「次は私がならず者だね」

 

俺と距離を取るため、向こうに振り返った。

心なしか、その振り返った瞬間の口元は笑みができているように見えた。

 

そして投げ飛ばされた。




様々なヒロインをできるだけ細かく描写しつつヤンデレに持っていきたい所存です!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話 馬と仲良く

翌日。

俺は前回クリスタとミーナと共に約束された馬の世話をするため馬小屋に足を運んでいた。すでに二人はもう居て、バケツやブラシを持ってこれから掃除を始めようとしていた。

俺が近づいたことを認識すると二人は笑顔で手を振っていた。俺も手を振ってこたえる。

 

「約束通り来たよ。これから馬の世話をするんだよね?」

 

クリスタに確認を取ると、彼女は頷いて今日の事を話してくれた。

 

「うん、だからその為にベンにもバケツに水を入れてもらいたいんだ。ブラシはもう用意しているから」

 

「わかった」

 

バケツを持ち井戸のところへ移動する。井戸の下にある水を汲み、それをバケツに移す。

 

「このくらいでいいか」

 

重さのあるバケツを持って二人のもとへ戻り、足元に置いた。そしてクリスタは馬用ブラシを渡してきた。

 

「これで優しく洗ってあげてね。ベンの班が使う馬はどれかな…」

 

「俺の班が使う馬は…」

 

見覚えのある毛並みの柄の馬と目が合う。その時その馬は必要以上に暴れだし爪を地面に叩いて俺をにらみ始めた。

 

「あれだ…」

 

「…本当に馬に好かれないんだね…」

 

柵があってよかったと思う。これが無ければ俺はおそらく轢き殺されてたかもしれない。ちなみに俺以外の班員は難なく乗れた。

ミーナはブラシを持って彼女の班の馬に近寄る。そしてデモンストレーションとしてブラシの扱い方を俺に教えてくれた。

 

「いいベン?毛並みを揃えるように上から下へこういう風に…」

 

ブラシをさっさっと馬に優しく使っている。少しついている土などをきれいに落とし、全体が終わるまでこれをやるようだ。まだ全て掃き終わってない時、ミーナは水入りバケツを持つ。ブラシを変えて馬の足元に移動すると次にやることを伝えてくれる。

 

「毛並みをある程度きれいにしてあげたら、爪についている泥も落とさないとね。流石にブラシだけじゃだめだから水をつけて落としてあげてね」

 

「なるほど…」

 

ミーナは馬の脚を持ってバケツの水をオタマのようなものですくいかけては泥を落としている。少し大変そうだが、馬の手入れはそれぞれの班員が変わり番でやることになる。

ひと段落付くとミーナは脚を下ろしてあげ、俺に振り向く。

 

「こんな感じかな。じゃあ、やってみてくれる?」

 

「うん、わかった…」

 

了承はしたものの、やはり馬を手入れするためにはあの小屋に、馬を収納している場所に入らないといけない。呼吸をし、落ち着いて恐怖を押し込む。

バケツを持って俺の班が扱う馬の前まで移動する。大きく鳴いた馬は俺に敵意を示しているが、俺は恐れずブラシを右手に持つ。ゆっくりと近づいてなだめる様な動きを試みる。後ろからクリスタが励ます声を送ってくれている。

 

「頑張ってベン!大丈夫、心を通わすようにやれば絶対仲良くなれるから!」

 

「そう…だよね!」

 

馬の収められている柵を超え、馬は敵意を示す。まだ噛まれていない、あの時俺が噛まれたのはきっと馬に躊躇なく触れたからだ。でも手入れのためには触らないなんて無理だ。だからゆっくりと、落ち着いて。

 

「大丈夫だよお馬さん…日頃の感謝を込めて手入れをするだけだからね…」

 

そっと馬の横に回り込み、左手でなだめる様に体をさする。大きく体を震わすが途切れさせずゆっくりと慣れていこうとあきらめない。

 

「よし…まずはブラシで毛並みを整え土などを落とす…」

 

持っているブラシを優しく上から下へ下ろす。ゆっくりと、優しく、毛並みを整えていく。

 

「行けてるよベン!」

 

俺が慎重すぎる行動に少し苦笑いしつつ雰囲気から何故か小声で励ますミーナ。俺は頷いて毛並みを整えていく。

反対側もある程度ブラシをかけ、ある程度終わったら撫でる。ブラシかけは無事できたようで、次は脚の泥落としである。ブラシを変えてバケツを近くに寄せる。

 

「…よし、次は泥落とし。大人しくしてくださいね…」

 

脚に近づいてしゃがむ。クリスタもミーナも固唾をのんで見守っていた。やはり仲が悪いのか馬は少々落ち着きが悪く、目線は俺を捕らえている。

そして、いざ脚を上げようとする。

 

「うぉあ”!?」

 

腹部を蹴られた。

 

「「ベン!」」

 

痛さにブラシを落としてしまう。

 

「…何が悪かったっていうんだぁ」

 

腹部を抑えつつゆっくりと立ち上がる。クリスタとミーナが焦って近寄って俺の背中に優しく手を置いた。ミーナは馬を見て口を開く。

 

「大丈夫!?…うーん、しっかり丁寧にやっていたのに」

 

「きっとまだ心が通じあえていないんだ…大丈夫、少し休んでまたやるよ」

 

すっと立ち上がり、ブラシを拾ってると後ろからある低い声の男性が声をかけてきた。

 

「シュタークスン訓練兵。馬の手入れをしているとはな」

 

「っ!キース教官!」

 

敬礼をし、二人も遅れて敬礼を取る。この行動に教官は頷いて話を続けた。

 

「どうやら馬を扱うのに手こずっているようだな。だが、諦めないで世話を続ければきっと乗れるようになるだろう。レンズ訓練兵とカロライナ訓練兵が馬の手入れの仕方を教えているように、シュタークスン訓練兵は他の者に立体起動を教えてやれ。貴様は、あの中ではアッカーマン訓練兵と張る物がある」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「うむ。より一層、訓練に励め。二人もな」

 

「「ハッ!」」

 

言いたいことを言い終え、教官はまた見回りを再開した。時折休み時間でも教官に時間があればああやって見回りをしているのでいつでも緊張感は持たないといけない。だが訓練時ほど叱るわけでもない。きっと厳しい訓練の間の時間にはあの教官でさえ少し優しさがあるのだろう。

敬礼を解き、二人と一緒にため息をついた。あの鬼の教官が急に来たことにより寿命が縮んだ感じがした。

 

「怖かったけど…でも、思いのほか優しかったね」

 

ミーナはほっと呟いた。反応してクリスタも言う。

 

「本当に教官は一人ひとり見てるんだね。そういう意味では本当に凄いよね」

 

「そうだね。あれだけ厳しいからこそ、褒められた時は凄い自信持てるよ」

 

ブラシを持ち直し、馬の足元へしゃがむ。急な俺の行動にミーナは心配をしてきてくれた。

 

「もう大丈夫なの?もうちょっと休んだ方が…」

 

「大丈夫。きっとできる」

 

確証はないけど、そう思うしかない。馬を撫で、馬は震える。俺は足元に手を持ってきて優しくつかむ。

 

「頼むからあばれないでくれよ…」

 

ゆっくり上げて爪を見る。泥が付着している所を見て、ブラシを水に濡らしてさっさと磨いていく。時折水をかけて土をふやかせ、爪を磨いていく。たまに足を下げてはまた上げて磨いていく。

 

「出来てるよ!」

 

クリスタは俺の順調な手入れに思わず微笑んで言った。ミーナも頷いて「できてるわ」と言ってくれる。そして一段落ついて一本の脚の爪の手入れが終わった。

 

「ふぅ…よし。とりあえず右前脚が終わった。あと3本、やっていくか」

 

俺はブラシについた土を落とし、次の手入れする脚の下へしゃがんだ。クリスタとミーナも不思議とできるかもしれない、と思い安心して自分たちの班の馬の手入れに当たっていった。

 

 

 

 

「よし、これで手入れは終わったか…」

 

「うん!無事にできてよかったよ!」

 

「これで少しは馬と仲良くできるようになったんじゃない?」

 

バケツとブラシを元あった場所に戻して俺達は兵舎に戻っていく途中だった。もうすぐ晩御飯であり、他の仲間たちも各々戻って行ってる。俺は少し腰を抑えつつ歩いていた。

 

「そろそろ飯だったね。そう考えるとかなり長い時間手入れしていたね…」

 

クリスタは頷いて今日のことを振り返っていた。

 

「あの一回の蹴り以降蹴られなくて良かったよ。丁寧に土も取れていたと思うし、次の馬術の訓練は前回よりもっと上手く行けると思うよ」

 

「そうよ、きっとできる!もしまだ仲良くできなかったら頻繁に世話していけばいいと思うわ」

 

「うん、そうしてみる」

 

食堂前についてクリスタとミーナは思い出したことがあったようで、立ち止まった。

 

「そういえば私、今日ユミルと一緒に食べるんだった」

 

「私もハンナたちと食べる約束をしていたわ…」

 

「じゃあ行っておいで。俺は俺で他の人たちと食べるから」

 

「…………うん。わかった。じゃあ、またね」

 

クリスタはユミルのもとへ向かった。俺はミーナの方へ振り返り、ミーナにも同じことを言った。

 

「ミーナも、ほら」

 

「…………そうだね。じゃあ、また明日になるかな?」

 

「うん、じゃあね」

 

ミーナは手を振ってハンナのもとへ向かった。不思議と間があったが、特に気にすることはないだろう。食堂に入るともう皆ご飯を食べていた。俺もトレーを持って配給している人たちのもとへいってご飯を持ってもらった。そういえば、人類の活動領域はウォールローゼまで後退したためか、食糧難はさけられなかった。でもなんとか耐えているのは、どうしてだろうか?それは新聞でも見たが、ウォールマリア奪還と言って多くの人を巨人のいるもとへ向かわせた結果だった。

人の数は結局意図的に減少し、食糧は俺達にもあるわけだ。この食べ物は、多くの屍の上に成ったものと言ってもいいはずだ。

 

「おーいベン!」

 

「ん?」

 

「一緒に食おうぜ!」

 

手を振っていたエレン。その傍にはアルミンとミカサ。いつもいるメンバーだった。俺は少し笑って、静かに彼らのもとへ歩み寄った。アルミンの隣に座り、持っていたトレーを机に置いた。

 

「今日はなにしてたんだい?」

 

「馬の手入れをちょっとね。ほら、前回の馬術の訓練で思いっきりこけたから、仲良くなるためにね」

 

「ベンは馬に好かれてないように見えた」

 

「その通りだったよミカサ。そういう君たちはできたの?」

 

「俺はすぐに出来たぜ。調査兵団っていうのは壁の外を調査するんだ。馬を扱えなきゃ調査兵になれないしな」

 

「私もすぐできた。問題はない」

 

「僕も、少し苦戦したけどこけはしなかったかな」

 

3人の成功エピソードに良かったと思う反面、少し悔しい気持ちもなくはない。他のみんなもかなりできていたし、あそこまで派手に振り落とされたのは俺くらいだろう。この話をつづけていたらだんだん自分が虚しくなってきたので明日の予定を話し始める。

 

「えっと…明日は技巧だったよね?そして後半が立体起動訓練か」

 

「おう。立体起動はいいとして、技巧は少し手こずるかもしれねぇ…」

 

「立体起動装置の構造を理解しないといけないからね…。今後は組み立てもさせられると思うし」

 

アルミンはそう言うと、汁物を飲んでパンをちぎっては食べている。ミカサは相変わらず無言で必要最低限の言葉のみだった。ただエレンのことになれば言葉も増えていく。本当にエレンを大切にしている、ということがよくわかる。

エレンは技巧のことは苦手ということで立体起動の訓練について話し始める。

 

「明日はようやくブレードを用いて脚やうなじを切る訓練だったな。そのためにも直接巨人にワイヤーを刺す必要がある。実践なら一気に危険度は上がるな」

 

「エレンは技巧から逃げちゃいけない」

 

「わ、わかってるミカサ!」

 

「あはは…」

 

ミカサの戒めとエレンの反抗、そして乾いたアルミンの笑い。やっぱりこの三人は仲良しだ。なんでだろうか、この3人ならいつまでもこの世界を生き残れそうな、そんな気がしてる。他のメンバーもそうだ、皆生き残れる気がしてる。いつまでも、ずっと。

 

「おい、ベン。なに笑ってんだよ?」

 

「え?笑ってた?」

 

「あぁ」

 

「…なんでもないよ」

 

俺はどうやら顔に出やすい性格のようだ。意識せずとも心で思えばそれがそのまま顔に出ているらしい。今度から気を付けるようにしよう、直りはしないかもしれないけど。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

女子寮

 

「…」

 

お風呂はすでに入ったためもう寝るだけだ。寝るまでのこの時間、明日の準備や最後の勉強時間だったり、人によって使い方は様々。もちろん、喋ったりする人もいる。

私はベッドに腰を下ろし、乾いた髪を手で流すように伸ばす。近くにあった櫛を使って髪を整える。今日も、色々あった。厳しいこともあって毎回心折れそうになるけど、何か続けられている。なんでだろうか。わからない。入団したてのころはそんなことなかったのに。半年くらいたったかな?まだ訓練期間はこの先もあるけど、お先真っ暗じゃない。

そう、最近は人に会うことに少し楽しみを覚えてたりしてる。一期一会を大切にしてるつもりだけど、ある人に会う時はより大切にする。卒業するまでは会えないなんてことはないだろうから、今の時間を大切にしないといけない。そして日頃のことで気づいたことがある。私の癖だった。どうも私は訓練時や座学の時に、視線が勝手にその人を見てる。視線が誰かに向いてしまうことなんて普通のことだし気にしていなかったけど、いつの間にかその人ばっか見てることを認識し始めた。

なんでだろう?この気持ち、色んな人と会ってきたけどその人と一緒にいたり、目が合ったりすると今まで感じたことのない気持ちになっている。これが、本でもみたああいう気持ちなのだろうか?

風呂から帰ってきた班員がそれぞれ寝る準備をしている。明日は技巧と立体起動だった。そう、そうだった。私はあの人に立体起動装置のつけ方がわからなかった時助けてもらったんだ。あの時はうれしかったなぁ。周りは自分の事で大変で、その人もそのはずだと思ってた。でも優しく教えてくれて、その日は不安だった立体起動も上手くできていたかもしれない。

あ、班長が帰ってきた。もう寝る時間だ。明日もまた、何かで一緒になれたら嬉しいかな。いつか、この気持ちの謎、解けるかも。

 

「ほら、もう寝るよ。()()()




訓練期間にいる間はみんなと強制的に接点が生まれるのでこの時間を生かしたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 技巧と立体起動と

翌日。技巧術。

俺たちは立体起動装置の構造説明を受けつつ、応急処置にはどこをどうすればいいのかを学んでいた。やはり大切な移動手段のためここをしっかり学ばなかったら巨人からいざという時逃げられないだろう。

立体起動装置を分解し、一つ一つのパーツの組み立て方を言われた通りに外していく。

 

「…いや、ムッズ」

 

コニーは旧型立体起動装置を開けて説明を受けていたものの頭が追い付かない感じだった。ちなみに俺もこの複雑さはまいってしまうが、何とかできている感じだ。

 

「確かにね…。でもいざ壊れた時には処置しないといけないし」

 

「そうは言うけどよベン。いざ巨人に狙われていたらまともじゃいられないだろ?そんな状況で治せんのか?」

 

「でも知らないより知っていた方がいいよね」

 

「そうだけどさー…」

 

一つひとつ分解し、これをまた組み立てる。まずはそれぞれどことどこが繋がっているのか。ガス、ワイヤー、コントローラーの接続箇所を緻密に知っていく。…でも、コニーの言っていることは一理ある。あのような大型の化け物なんかに狙われて、そして飛べないなんて状況なら治せるような冷静さはないかもしれない。地面を走っているほかないだろう。あの巨人と同じ地を踏んでいるなんて戦闘ではまずあってはいけないはずだ。壁外は別だが、街の中ならば必ず屋根や壁にしがみついてないと。

 

「なぁベン。ちょっと聞いていいか?」

 

「ん?どうしたライナー」

 

「この装置の中身のこの所なんだが…」

 

俺はライナーの疑問を解決すべくそいつの所に向かい、中身の構造をより砕いた説明でしていた。なんでも優秀に見えていたけれどたまにはこういう所がわからなくなるよな、ライナーも。

 

 

 

~???~

 

うーん…やっぱり難しい。これガスとワイヤーとで線が違うんだよね。でもどれがどの部分に差し込めばいいのかわからないや…。

…あ、そうだ。彼に聞こうかな。きっと答えてくれる。だって優しいし、また彼と近くにいれる…。なんだろうね、最近彼と近くにいるとちょっとこう…胸がドクドクするというか、暖かい気持ちになれるんだよね。うん、早速持っていこうかな。

 

そっと立体起動を持ち、それぞれのワイヤーも抱え彼のいるであろう席に向かう。でも、彼の席に彼がいない。あれ?どこ行ったんだろう。

…あ、いた。ライナーのところにいる。うーん、それじゃあ教えてもらえないね…。仕方ないか、じゃあ隣の人にでも聞いてくしかないかな。ちょっと残念だったかも…。ちょっとだけ…ね。

 

--------------

 

「すまないな、ベン。この装置に詳しくないもんで」

 

「いいって。他に問題ない?」

 

「あぁ。助かった」

 

「うん」

 

俺は組み立て途中の装置が置いてある自分の席へ戻った.さて、どこまでやったっけ?一度分解はできたからあとは一個ずつ当てはめていけばいいはずだ。

技巧の時間はある意味厳しい訓練を受けている我々にとって癒しの時間だ。体を動かせ―というわけじゃないので比較的堕落していけるのだろう。実際そうしている人もいる。

 

「…あぁもうわからねぇ!どうすりゃいいんだベン!」

 

「落ち着いてくれコニー。とりあえずどこまで行ったの?」

 

「分解が多分終わった…あとは組み立てだがそれが難しい!」

 

「だよね。よし、一つ一つ終わらしていこうよ」

 

隣のコニーの装置を見つつ組み立てを教えていく。少し触りつつ、大半は口頭でコニー自身ができるように…。

 

「これを覚えるのかぁ?」

 

「もう愚痴はそこまでで。さ、がんばろう」

 

一瞬コニーはうなだれるも、何か決心して小声で「よし」と言ってこっちに振り返った。

 

「悪かったよベン。やらないとな」

 

頷いて少しずつ教えていく。俺も俺でやらないといけないので組み立てつつ、パーツを刺してははめてを繰り返す。コニーも勢いが乗ってきたのか、出来てきていつの間にか教えることなく自分からどんどん組み立て作業が出来てきたほどだ。

自然と笑ってしまったが、彼にはバレてない。…よし、俺も終わったので一旦今日やる技巧の授業は終わったって感じだ。

 

「えーと…この線をこっちにさして…これは…」

 

「うーん…お、すごいですねコニー!ほぼ出来上がっているじゃないですか!」

 

悩んでいたサシャが思わず他の人の装置を見たらコニーのが出来上がっていることに以外で驚いていた。コニーもこれには自信を持つようである。

 

「だろ?そういうサシャはどういう感じだ?」

 

「私は全然…こんな機械みたいなものとは無縁でしたから」

 

「なら教えてやるよ。俺、天才だからな」

 

「ほんとですかぁ?まぁほぼ出来上がっているように見えますし、教えてください」

 

「おう、いいぜ」

 

コニーはサシャのまだ分解できていない装置を見つつ口頭で指さして教えている。サシャもうなずいては言われた通りに装置を少しずつ分解している。どっちもできているようで安心した。

 

「お疲れベン」

 

「ん、お疲れトーマス。どう?」

 

「難しかったよ。訓練兵はこんなのまで覚えるなんて」

 

「そうだよね、俺も驚いた。けど案外シンプルな構造で助かったよ」

 

「そしてこのあとは立体起動の斬撃訓練か。武器を扱うのはまた難しくなりそうだ」

 

そう、あの重いブレードを両手に持つことになる。コントローラーと結合して使うようになっているが、替え刃は腰に入れている。これだけで前回の立体起動訓練よりはるかに重さが加わっていくはずだ。さらに立体起動は難しくなるだろう。

しかもそこにうなじや足へ接近し切断させるという力もいる。勢いが足りなかったら浅くなって仕留めきれなかったり、掴まれたりしたら終わりだ。

 

「このあとも頑張ろうぜ、ベン」

 

「うん、がんばろう」

 

グーを合わせ、次の訓練へ気持ちを鼓舞した。

 

 

午後:森入り口

 

「いいか貴様ら!今回からブレードを持ち訓練用模型の足や腕、うなじを削ぐ訓練だ!時間は5分!」

 

教官が説明をしている中興奮しているエレンが自然に言葉が口から出ていた。

 

「これで…奴らを駆逐できる!」

 

とうとう討伐方法を得るようになって奴らに反撃ができるようになった、そう考えているのだろう。となりにいるミカサは少し心配しているようで、アルミンは教官の話を真面目に聞いている。

俺は俺でできるかどうかの心配だ。立体起動は難なくできたが斬撃はまた違うテクが要求されるはずだ。

 

「これから一人ずつブレードを配る。替え刃は一回分入れるようにしろ。すぐになまくらにしないようにな!」

 

そして仲間たちはすぐにブレードを補給し、コントローラーに装着していく。エレンもミカサもアルミンもそれぞれブレードを装着する。替え刃は箱に入れていっている。

 

「よし、俺は先に行くぜベン!」

 

エレンは立体起動装置を身に着けつつ、森の中へと入っていった。他の仲間もどんどん森の中へと入っていく。アンカーを木々に刺しブレードを構え模型へと直進だ。

 

「相変わらず血気盛んだね、エレンは」

 

「そうだね…いつも一人で突っ走っちゃう癖があってね。だから僕やミカサが止めたりしているんだけど」

 

「でも時にはあのくらいの行動力がいるかもね」

 

俺もブレードを装着し、補給して入口前に立つ。アルミンもミカサも準備満タンだ。

 

「それじゃ、がんばろう」

 

「うん、頑張ってみるよ」

 

「…私も、全力を尽くす」

 

俺達は一斉に森へと入ってそれぞれ行きたい方向へ飛んで行った。

俺も独りで森の中へと進み、木漏れ日に照らされた訓練用模型が目に入る。アンカーを次々に前の木々へ刺して加速していく。もちろん他の仲間の姿も確認できる。訓練用模型はただ設置しているわけではなく、それをロープで角度を変えたり動かしてたりする人がいる。だが言ってもそこまで早く動いているわけではない。

アンカーを片方だけ刺し一気にブーストして遠心力でターゲットへと飛んで行ってコントローラーを強く握る。見えたうなじ部分へめがけて斬撃を放つ。

 

「よし、次だ…」

 

すぐに左のアンカーで前へと進み、つぎの模型へと進んでいく。

時には脚へ攻撃しそのままの流れでうなじへつないでいく。コントローラーは休める暇なく、ガスを調節しつつ前へ前へと進んでいく。時には後ろを振り向いてそのままの態勢で前へ進んだりしていく。どこに模型があるのかを確認するためだ。

 

 

 

「おい、あの訓練兵後ろ向いたまま移動しているぞ。本当に訓練兵か?」

 

「いや、あっちの訓練兵も斬撃の深さ、立体起動の速さが凄まじいぞ。アッカーマンといったか」

 

木の枝の上にいる記録者は一人ひとり見ているが、その中でもあるふたりには目が向いてしまうようだった。

 

 

 

「…あとどこだ」

 

アンカーを休めずガスを吹かせ模型を探す。ほとんど切られている中、まだうなじの斬る部分が残る模型があった。ガスをさらに蒸かしてアンカーを最小限に巻き取り勢いをつけたまま木々を抜けていく。

そして、いざうなじへたどり着いて斬撃を与えようとしたときだ。

 

ギィンッッ!!!

 

俺の手には斬った感触ではなく何か硬いものに当たった。それも勢い強く。

 

「っ…!」

 

「あっ…」

 

どうやらブレードがある訓練兵のブレードとぶつかったらしい。ちょうど同時にうなじを切ろうとしてたんだろう。だが目の前に来てたのにどうして気づけてなかったのか。それもお互いに。

そして、そのぶつかった相手とは目の前にいる黒髪の人。

 

「ミカサ…」

 

「…ベンは…速い」

 

ミカサの斬撃とぶつかったのか。互いに気づけなかったのはそれほどこの訓練に熱中していたからか。視界が狭くなっていたようだ。あやうく事故になりかけたんだ。大事が無くてよかった。

 

「ごめん、ミカサ。傷つけるところだった…」

 

「それは…私も同じ」

 

互いに距離を取り、木へ背中を預け着地する。すると同時に入口から教官の声が轟いた。

 

「訓練終了!戻ってこい!」

 

一瞬キース教官の方を向いて、仲間たちは立体起動で入口へと戻っていく。疲れたもの、悔しいのかブレードを無意識に振り回すもの、ただ喋りながら帰ったりするものも。

ミカサの方を見ると、頷いて俺たちも入口方向へと体を向けて戻っていく。するとあのミカサの方から声がかかった。

 

「私は、ベンの動きを見ていたけどとても速く感じた。今日が初めての斬撃訓練とは思えない動きだった」

 

「それをいえばミカサもそうだったんじゃない?俺はミカサの動きを見ていなかったけど…」

 

「見てなくて当然だと思う。ベンの動きは模型だけを捕らえていたように見えたから」

 

「そっか…」

 

そして俺たちは入口のところまで戻ってきて地面に着地する。他の人たちもぞろぞろ帰ってきてその場に座ったり、どうだったか報告しあうものたちで溢れていた。

教官が俺たちの一歩前に出ると皆が反応して座っていたものは立ち、全員教官の方へ向いて手を腰の後ろで組む。

 

「これが斬撃訓練だ。中には深く切れなかった者いたはずだ。そいつらは訓練が足らん証拠だ!このあとそれぞれ何体切ったのか成果がでるはずだ。各々確認し、次の斬撃訓練ではその成果を超えるようにしとけッ!」

 

「「「「「ハッ!」」」」」

 

皆はその後立体起動装置を外してブレードなどを外しなまくらはそれ専用のところに置き、使ってない、まだ使えるものはそれ用へ。

俺もガスやブレードを置いて装置を外した。ようやく一息ついた。本当に5分もやっていたのか?感覚じゃ1分くらいだった。それくらい集中していたのだろう。

兵舎へ戻ろうとするとき、向こうからマルコが寄ってきた。

 

「お疲れ様、ベン」

 

「うん、マルコもお疲れ様」

 

「どうだった?今日の訓練」

 

「結構大変だったね…」

 

兵舎の方へ向いて歩いていくと、他のメンツも見えてきた。

 

「お疲れ様です!」

 

「そっちもね、サシャ」

 

他にも来て互いに今日の訓練を話し合っていた。俺もその話に乗っかって、技巧と立体起動の話をしていた。

その中、一緒に歩いていたうちの一人であるエレンはすこし悔しそうだった。

 

「どうしたのエレン?」

 

「あぁ…いやなんでもないベン。たださっきの訓練が思いのほかうまくいかなくてな」

 

彼曰く、切る前にミカサにかなりの数かすめられたらしい。アルミンは体力が途中でつきつつあって休んだりを繰り返したりしたらしい。

アルミンは一つ思い出したことがあって口にした。

 

「毎年最後の日って兵站行進じゃなかったっけ…」

 

そのことで頭を下げ先のことが心配になっている様子。兵站行進。重い荷物を背負って山や平原、森の中を長距離走る訓練だ。体力がない人にとってこの訓練は最大の脅威に他ならない。たとえ雨の日でも雪の日でも関係なく実行する。

 

皆先々あまりいい傾向はないと考えているようである。訓練が厳しすぎて途中で開拓地に行ってしまう人も少ないがいる。だが俺の知っている面々はやめようとはしない。必死に食らいつき、巨人を倒す力を得ようとしている。無論、俺もだ。

 

「まぁ頑張っていこうよアルミン」

 

あんまり気持ちの籠っていない激励を一つ。アルミンはさらに心配なってしまったのである。

 

 

 

数か月後。

 

「…っ、ハァッ!」

 

「…、ッ」

 

今、俺とアニの格闘技の攻防が起こっていた。木剣はもう使わなくなっていて、拳や蹴りを高速に繰り出しあっていた。ただ、攻撃を与えられているのはアニの方が上だった。

アニの蹴りはかなり上まで届きその速度も目にとらえるのは大変だ。腕で防御しつつ、俺も蹴りや膝で攻撃しても向こうは制止してその反撃が繰り出される。もう俺たちのやっているものは格闘技と言えるものじゃなかった。

その頃、木剣を持っているエレンとライナーは…。

 

「…もうあいつらのやっているのはキックボクシングだよな」

 

「あぁ…アニの方が上に見えるがベンも防御はできつつある」

 

二人も観戦していて、その他自分の訓練を置いといて見ている者としてミーナ、クリスタ、ユミルがいた。

 

「…凄いね、アニとベン。格闘技…なのかなアレ」

 

「んなわけないだろクリスタ。ありゃ…もう喧嘩みたいに見えるな」

 

「…心配だわ」

 

 

 

「はぁ…はぁ…全く攻撃できないよ、アニ」

 

「そっちもまぁまぁ良くなってきたよ。褒めてあげる。でもまだ及ばないね」

 

「そっか…そうだよね」

 

汗を拭い、アニと目を合わせる。アニもこっちを強く睨み、ポーズをとった。俺も、我流のトレーニングで得た格闘技ポーズで対抗する。

互いに急接近しアニの拳を掌で受け止め、肘で突こうとしても向こうの膝で制止される。どこまで膝上がるのか…。

一瞬の隙に向こうの腕を俺の首の後ろまで届くのを許し、俺はそのまま地面へねじ伏せられる。

 

「うぐっ…」

 

「勝負あったね」

 

俺はまったく動けなかった。もう体力も尽きてたし、この状態じゃ起き上がりようがない。

アニはゆっくりと立ち、俺はしばらく地面に大の字になっていた。

 

「飲み込みが早いねベンは。そのうち抜かされるかもしれない」

 

「全くそんな気がしないけど…」

 

俺も立ち上がり汚れを払う。エレンは終わったのをひょっこりと確認するとこっちへ歩み寄る。

 

「もうお前らのやっているのは格闘術じゃないぜ。ある一種の競技を見てるみたいだった」

 

持っていた木剣を俺に投げ俺はそれを受け取る。ライナーも続いて言った。

 

「もう本物のならず者が来ても大丈夫に見えるな。この二人なら」

 

アニと目を合わせ、俺は笑った。

 

 

そして、ついにアニも口元を緩め、自然と笑ったのだ。

 

「笑っ…た」

 

「え?」

 

「アニ…今笑った。笑ったよね!」

 

「…いや、笑ってない」

 

そこにエレンとライナーが聞き耳を立てていたのか、俺の言葉を理解して聞いてきた。

 

「何っ!?アニが笑った!?」

 

「それは本当かベン?」

 

「絶対に笑ったって!間違いなく!」

 

アニは必死に顔を背け、低い声で言い続ける。

 

「…あんたの見間違いじゃない?」

 

「いや、そんなことなって!よかった~笑ってくれて…」

 

こっそりと俺の持っていた目標が、達成された瞬間だった。アニがいつも無表情で、冷たい反応しかしていなかった。そんなアニが自然と笑っているところを見ることが俺の中のある一つの目標だった。

俺はその目標達成に達成感ありありで喜んだ。ここまで喜んだのは久しぶりかもしれない。こんな無邪気になったのも。

 

「…うるさい」

 

 

 

そして俺は投げ飛ばされた。




少しこう心を開く描写を丁寧に描きたいですね!主人公がなぜいるのか、それに意味を与えるのはほかのキャラとの接点ですので積極的に会話を交えていきたい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 休日の狩猟

一か月後。休日。

俺含め訓練兵はこの日を大切にしている。街に出たり、休んだり、食べに行ったり、色々だった。

その中、俺はサシャとウォールシーナとローゼの半ばにある平原の森へ来ていた。どうも彼女が狩りをしたいと、そして俺を誘ってきたのだ。ダウパー村という区の外で狩猟生活を営んでいた彼女からならより狩りの能力を高められるだろう。俺もお父さんと狩りに出かけたりしたこともあるけどサシャほど頻繁に出てはいなかった。

手持ちには互いに弓矢を持っている。獣を狩って肉を得たい、という欲望を聞いたため俺もできたらいいなっていう感じだ。

今、トロスト区内を出ようとしている。

 

「えっと…どの辺りで行うんだ?」

 

「トロスト区から北東に行ったあたりの森にいい狩場があります。そこに行ってみましょう!」

 

そう、流石にそこまで行くなら徒歩は無理だ。なら、訓練兵には使用が許可されたあの動物を使うほかない。

 

「つまり…馬で移動するってことね?」

 

「はい?そうですよ?」

 

馬かぁ…だが、一応仲は結構よくなってきた感じだ。流石に何月も経ているので乗れないなんてことはなくなった。まだ言うことを素直に聞いてくれないこともあるが仕方ないか。

 

「もしかして馬苦手でした?」

 

「正直に言うとね。俺の使う馬はやっぱり仲良くなれていないもんで…」

 

「なるほど…じゃあ一緒に乗ります?私が操作する馬に乗ってくれればいいじゃないですか」

 

「いや、今回も"馬と仲良く"の糧とするために俺の馬に乗るよ。ありがとうね」

 

「わかりました。じゃあ頑張っていきましょう!」

 

俺たちは馬を小屋から出して平原に連れてきた。シーナとローゼの間に広がる草原は壁の中だけど広い気持ちになれる場所だ。訓練から一時開放されて外の空気を吸っているようだ。

馬の手綱を握りながら引き連れて歩いている。ふと思ったことをサシャに聞いてみた。

 

「にしても、狩猟ってすごい危険だよね?訓練兵の俺たちだけで出て大丈夫なの?」

 

「全く~ベンは心配性ですね~。安心してください!基本を押さえ、しっかり観察すれば危険はありません!プロの私がそう言うのですから!」

 

「そうなの?まぁ頼らせてもらうけど…」

 

俺は馬にひょっと乗り、サシャも馬に乗った。

 

「頼ってください!日頃のお礼も兼ねて!」

 

馬を立たせ、俺はサシャと一緒に平原へ走り出した。

走っている途中は会話はせず、あっち方向か?と指をさして確認し合っていた。多くの人が生き通って自然に形成されたであろう道を行く。

目的地の森は見えていたが、いざ到着すればかなり中は暗い。全然昼時だが木々が太陽の光をわずかしか入れていない。蝶やカマキリ、バッタ、スズメ。生き物がのびのびと過ごしている。

俺たちは馬から降りて弓をしっかり握り、矢筒を抱えている縄を握ってしっかり締める。

 

「まずは小さなイノシシからにしましょう!そして慣れてきたら今後は大きなものもいいですよね」

 

「そうだね。よし、じゃあ色々と教えてもらおうかな」

 

馬を近くにつないで留まってもらい、俺たちは森へと入っていった。

サシャは前を歩いている。すでに経験してきた狩猟本能が出ているようで、周りを必要以上に警戒し時折音を確認しているようである。俺にはそこまでの狩猟の能力はない、だからプロの方に任せるしかない。

そして突然サシャは止まって手で俺にも止まってと合図を送った。彼女は前を向いたまま、俺に当てた合図の手を耳へと持ってきて音をより正確に確認している。

 

「…」

 

変な緊張感が漂い、俺はできるだけ動かないように、彼女が音に集中できるようにする。

 

「…すみませんベン。何か音が聞こえてたんです…。細かい足音の…イノシシのような音だったんですけど…」

 

「プロの君が言っているんだから、自信持って。きっと合ってるよ。もちろん俺はわからないけど…」

 

「そうですね、イノシシがいることを前提に動きましょう。この先も音には注意して動きますよ」

 

了解、と返事し森の更に先へ静かに歩く。彼女の聞き耳を邪魔しないようなるべく音を立てずに歩いていく。その中俺は周りの木々を見ていろんな生物がいるなーぐらいしか思っていない。イノシシを探そうともしているが俺の感じゃ当てにならないし、肉眼に頼ることにしている。

 

 

 

「…あ」

 

「ん?」

 

小さくサシャが声を出し、身をかがめた。俺も身をかがめ、彼女が振り返ると口前に指一本。(静かに)と言っている。頷いて彼女は歩き始めその後ろに続いていく。

周りに比べて大きな木に俺たちは身を潜め、顔を覗き込む。俺たちが見ていた先には中くらいのサイズのイノシシ一体。

 

「いました。やはり、音のした方向に…」

 

「流石だねサシャ。これからどうするの?」

 

サシャは顎に手を当てイノシシを見ながら考える。静かに石を拾ってある提案をしてくる。

 

「小石を投げて音を立ててそっちに意識が向くようにしましょう。イノシシが確認している最中に頭部に狙いを定めますよ」

 

「わかった。じゃあ俺は右から行けばいい?」

 

「そうですね。私は左から」

 

サシャは小石を握って移動する。俺も弓を持って矢筒の縄をしっかり握り静かに移動する。安定して狙えるであろう場所について手を振って合図を送った。

彼女は頷いて、イノシシの奥側に小石を投げる。地面に落ちた時の音に気を取られ、そっちを確認しようとイノシシが移動する。俺たちは矢筒から矢を引き抜きセットして狙いを定める。確認している途中ならば頭部が大きく動くことも、移動することもないだろう。

サシャは舌なめずりをして狙いをしっかり定める。俺は頷いて彼女も頷き返し、俺たちは同時に矢を放った。

空を切り裂く二本の矢はクロスしてイノシシの頭部へと突き刺さった。動きが止まったイノシシはそのまま左へ横転し生命活動が停止した。

動かないことを互いに確認して俺たちは木々から抜けてイノシシの下へ歩み寄った。

 

「ふぅ…できたねサシャ」

 

「はい!これで…うふふ!お肉!お肉ぅ!」

 

サシャはしゃがんで早速持ってきていた網を展開すると、俺も弓を背中にしまって見守る。

その数秒後、彼女は動作を突然停止した。

 

「ッ!一頭!イノシシが来はるッ!」

 

「何ッ!?」

 

網を手放しスッと立ち上がっている途中で俺は森の向こうから大きな音とともにイノシシの影を確認した。このままじゃ轢き殺されるに違いない。

 

「サシャッ!」

 

「へっ…?」

 

すぐに地面を蹴ってサシャの体を抱いて横に大きく飛んだ。俺たちのいた所はイノシシの起こした土埃が舞っている。殺意があったのだろう。

完全にくっついていることにサシャは気が動転したのか、あわあわと慌てながら喋る。

 

「ちょっ…何をしてんねや…!?」

 

「くっ…」

 

俺はサシャの言っていることを無視し、すぐに立ち上がり弓を握り矢を矢筒から抜いて振り返りながら狙いを定める。

イノシシは右前脚を地面に擦り、こっちを振り返る。

 

「…」

 

「あっ…か、構えます!」

 

サシャも弓を展開し矢をセットして巨大なイノシシを見る。少しの汗が彼女の顔を流れる。

構えながら小声でどうすればいいのか、サシャに聞いてみるしかない。

 

「どうすればいいの?ただ逃げちゃ追いかけられて殺されるよね」

 

「…そうですね。せめて、脚だけでも射貫ければ行動力は一気に下がると思います」

 

こういう時こそ冷静に。墓石にイノシシに轢かれ死亡なんて書かれたくない。俺も狩猟はしていたがここまで危険な場面に遭遇したことはほとんどない。

冷静に彼女は提案を下す。

 

「次の突進を避けられたら、ともに足を射貫きましょう。ベンは後ろ右足、私は左側で」

 

「いいね。わかった」

 

そして互いに離れつつ、矢を引き絞るのをやめて避ける準備をする。サシャもいつものお気楽な表情とは一変しイノシシをにらみ、腰を落としている。

イノシシは頭を震わし、こちらへ的を定めると一気に加速してものすごい速度で接近する。

無事に同時に避けることができ、そのまま前転をしつつ体を向けて弓矢を引き絞る。すぐに突進をするだろう、だから撃てる時は刹那。矢先は完全に足を定めている。呼吸を止めてブレを失くし、右手の矢をよどめる指を放した。

サシャも同様に弓矢を放ち、二本の矢はイノシシの足へと迫る。

 

 

 

矢は、足へと刺さった。

一本だけ。

 

「しまったッ…!」

 

「ベンッ!」

 

イノシシの足をすり抜け矢は地面へと刺さってしまった。サシャの矢は正確に射貫けたが、やはり足一本だけじゃ全然止まらない。俺の技術もなかったのだ。

その時、俺は気が狂ったのか、矢を矢筒から引き抜いては弓にセットはしない。

 

(このくらい間近なら…)

 

10mもない。弓を持っている左手でイノシシの足へ狙いを定める。汗が滴る。矢を持っている右手に力を込め左足を踏み出す。

力んだ右手は前へ前へと、俺は声を上げた。

 

「これでどうだッ!」

 

俺は矢を足へめがけて正確に投擲する。サシャもこの行動には驚いていたが、それを止めようとはしなかった。イノシシが振り返りそうだったその時まで。

投擲した矢はさらに速度を上げる。

そして、矢先はそのままイノシシの後ろ右足に突き刺さった。

 

「刺さった…よし、逃げるぞサシャ!」

 

「は…はい!」

 

俺たちは弓を持ってその森から逃げ出した。射止めた小さなイノシシを放置して。馬がいるはずの入口へ。走りながらサシャは思っていたことを口に出す。

 

「あれは…矢を直接投げるなんて、びっくりしました!」

 

「俺も気が狂ってた…かも…しれない」

 

走りつつ、地面から生えている根っこを飛び越えてノンストップで光の見える入口へ走り抜ける。

光が大きくなってその真っ白な先は大きく平原がまた広がっていた。

 

「はぁ…はぁ…危なかった…ね。サシャ…」

 

「そう…ですね…」

 

膝に手をつきつつ、俺たちは馬の手綱を結んでいるところから解き馬を解放する。弓を背中にしまい、そっと鞍に体重を預ける。

 

「さて、帰ろっか。あのイノシシはあきらめよう…」

 

「はい、これ以上は危険ですからね…」

 

馬を立たせ手綱を握って走らせる。森からは距離を取り、平原を走っていく。さっきの緊張感から解放された気分になった。

乗馬中はやっぱり舌を噛むといけないので会話は無しに。

トロスト区入口へ到着すると、馬から降りて馬小屋へ運ぶ。言うのを我慢できなかったのか、サシャは少し声を張り詰めて言った。

 

「あの!今日はその…すみません。危険な目に合わせてしまって…」

 

「ん?あぁ、大丈夫だよ。俺もあの時射止められなかったし。確かに危険な時はあったけど、楽しかったからね。サシャと居られて」

 

「えっ…」

 

俺はそのまま手綱を引っ張って馬を元居た小屋へ納める。撫でて震える顔をさらに撫でる。

 

「たまにはこういう緊張感も持たないとね。ずっと平穏な日々が続いていたせいか、こういう命の危機を感じたのはいい経験だった。結果オーライってことでね」

 

馬の柵を閉じ、サシャも無言で馬を小屋へしまう。彼女も馬を撫でつつ、柵を閉じた。

 

「…ありがとうございます。優しい…んですね。あの時と同じように…」

 

優しい笑みで彼女は喋っていた。

 

「あの時?」

 

「死ぬ寸前まで走って倒れた時です。その時はしっかり貴方の顔を見ていなかったんです。でも、確信して言えます。あの時もきっとこのくらい、優しかったんでしょうって…」

 

「そう…かな?」

 

「…すみません。私もなんだか言葉が上手くでなくて…突拍子のないこと言ってしまいました。戻りましょうか」

 

「お、おう。そうだね、戻ろっか」

 

俺は理解力がなかったせいか、彼女の言っていることがあまりわからなかった。でも悪口は言ってないと思っている。顔は、ずっと落ち着いている感じだったから。何かに安心しているような、そんな感じだった。

なんだか俺も思っていることが収集つかなくなってきたかもしれない。とりあえず今日は休もう。色々とあったからね。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

「…なぁ、ベン。最近のクリスタに何か変化を感じなかったか?」

 

「?」

 

立体起動訓練の終わる直前、夕日がよく見える木の枝に乗っているのが俺の習慣になっていた。また、ユミルも"最初はもっと目立たないところでサボれよ”と言っていたけれどいつの間にかユミルがこの時に横にいることが多くなった。

 

「何もわかんないか?」

 

「うん…何もわからないね」

 

「そうか…そうかよ」

 

ユミルは枝の生え際の木に背中を預け夕日を見る。俺も静かに夕日を見る。

 

「…私はさ、彼女のことを気に入ってるんだよ。なぜか…な」

 

「え?」

 

「不思議とな、昔の私と照らし合わせる様でさ…」

 

夕日を見ながら、口から言葉が流れるようにぽつりと喋っている。

 

「そう…なの?」

 

「あぁ。…はぁ、何か喋っちゃったな。なぜだろうな、ベンには不思議と自分の心の中を話してしまうんだよ」

 

「…」

 

俺は何とも言えずにいた。ただ、今喋っていたことはきっと彼女にとっては大切な言葉だったはずだ。わざわざ心の中って言っていたのだから。

彼女は夕日からこっちを向いた。顔半分が夕日を照らし、半分は暗い。だが、顔は柔らかい。

 

「こうやって訓練兵として時を過ごす中、ベンとはあまり話さなかったな」

 

「そうだね。この時くらいだよね」

 

「…まぁ、まだ1年も経ってないんだ。適度にサボりつついこうぜ」

 

そう言ってユミルはコントローラーを持って夕日に背を向ける。

 

「そうだね。適度にサボりつつ…か。いいかもね」

 

「なんだ、ベンもわかってきたか?そうだよ、ずっと真面目じゃ潰れちまうしな」

 

ユミルは不適な笑みをして枝から飛び降りてワイヤーで森の中へ入っていった。もう終わりだし適度に時間を稼いで入口に向かうのだろう。俺も夕日をあと少しだけ見て、その後立体起動に移って森の中へ戻っていった。

 

「あ、見つけたぜベン。何してたんだよ?ちゃんと訓練参加していたか?」

 

ジャンが俺を見つけて近くまで来て声をかけてきた。俺は焦りつつも自然に、怪しまれないように。

 

「もちろん、ちゃんと訓練していたよ」

 

だけど、少しサボってはいたかもしれないけどね。と、心で思いつつ、顔では不敵な笑みになっていただろう。




一旦できてる分だけ投稿しました!感想待ってます!
この先も色々と展開を書いていきます!すでにあるこれからのオリジナルストーリー予定書きを参照しつつね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 約束の特訓

最近寒暖差アレルギーが出てきたかもと思い始めています。気温の上下が激しいですね(^^♪


数週間後

太陽が丁度てっぺんにある昼頃。

 

「でね、もし夜間になったらこれで火起こしをするって…」

 

今俺は休み時間にアルミンから野外での過ごし方についての講義を受けてたが、試験に出るということで復習を見てもらっていた。訓練兵だがこのようなことばかり学ぶわけではない。数学だって化学だって学ぶ。

これもある一種の化学かもしれない。講義として受けているが実際役に立つ話だ。きっと価値のある知識になるはずだ。

 

「どう?わかったベン?」

 

「うん、流石アルミン。わかりやすかったよ」

 

「そうかな?ならよかった」

 

最後のメモを取りノートを閉じた。ボロボロの教科書を数冊揃え机を立つ。

 

「もうわからないところはない?」

 

「一応知りたいところは知れたね。でもまだわからないところが生れるかもしれない。その時はまた頼らせてもらうけどいい?」

 

「もちろん、僕にできるなら」

 

ノートと教科書を手に持ち、俺たちは教室を出る。

 

「俺は教科書を部屋に置いてくるから、ここで一旦別れるか」

 

「わかった。じゃあ次の授業で、また」

 

アルミンと別れて俺は自室に戻っていった。持っていた書物を自分の棚にしまい、次やることを考えながら部屋を出る。アルミンと別れた場所まで戻るとある一人が俺を見つけると声をかけて近寄ってきた。

 

「あ、ベン!ちょうど良かった!」

 

「ん?どうしたミーナ」

 

小走りで近寄ってくるとある頼みごとを依頼された。

 

「ちょっと頼みたいことがあったの」

 

「いいよ、どんなこと?」

 

「うん、実は立体起動の斬撃。あれすごい苦手でね。ベンって結構うまかったよね。教えてほしいんだ」

 

「あぁなるほど。いいけど…あれって休み時間にできるのかな?」

 

「うん、教官に聞いてみたらね、『休み時間に訓練か、そいつは素晴らしいな。だが、訓練用模型は自分たちで用意しろ。ガスとブレードと装置は貸し出してやる』だって」

 

あまり似ていないミーナのキース教官モノマネに苦笑いしつつ、次の休み時間にやることを提案する。

 

「じゃあ次の休み時間でいいかな」

 

「そうね、そうしましょ。よろしくね!」

 

その後ミーナと別れこのあとの休み時間のやることは埋まってしまった。斬撃訓練と言えばあの時ミカサの斬撃とぶつかったことがあった。外見からはわからないが、ミカサの筋力はきっとすごいものなんだろう。

だがミーナはそこまで筋肉があるわけでもないはずだ。だから浅かったり、そもそも斬撃まで行くのが大変になっていたりするのかもしれない。詳しいことは休み時間にわかるだろう。

 

「さて、昼飯食うかな」

 

することも一旦終えたので俺は食堂へ足を向けた。おなかの虫も鳴いている。

あ、そういえば最近気になることがある。気のせいならそれでいいのだが、不思議と目線を感じつつある。だが俺の感はサシャとの狩猟の時さほど機能していないので外れることがほとんどだ。今回も気のせい、なのかもしれない。

楽観視しながら食堂へ俺は入っていく。

 

…あ、アニだ。また一人で食べている。周りには視線を向けず飯をただ見ては食べている。自分の世界が構築されているようだった。

ここは勇気を出して一緒に食べてみようかな?いや、あのアニの見せた笑顔が消えてしまうだろうか?だが、もしそうなったらまたエレンとライナーと共に格闘を高め合えばいいか。そう、結局は時間が解決することがほとんどだ。

人生一度なんだ。ここも一期一会。さすがに何度も出会ってはいるけどそのたびその時間は大切にしようと俺は努力してる。よし、飯を取ったら真正面に座ってみよう。最初の時よりかはきっと言葉が通るはず。

 

 

 

飯をトレーにとって俺はゆっくりとアニのもとへ移動する。席の近くまで着いていったん止まる。アニの目にも留まったか、俺を認識してくれた。

 

「…なんだい?」

 

「えっと…一緒に飯食おうって思って…」

 

「…」

 

…やっぱりまだ他の人と飯を食うのは無理だったかもしれない。

アニはこっちを無言で見てる。訓練のような睨みではないが、少し威圧感を感じる。数秒後、アニはゆっくりと口を開けた。

 

「いいよ。別に」

 

「あ、本当に?」

 

「早く座って。私が立たせてるように見えるでしょ」

 

トレーを置いて真正面に座った。アニは特に気にせず飯を食べ続ける。向こうから何か話してくれる気配はなさそうだ。

俺も飯を食べつつせっかくの機会だし何か話でもした方がいいかな。

 

「アニは…最初の頃は結構訓練に消極的だったけど、どうして訓練兵になったの?」

 

「…気になるの?」

 

「まぁ…そうだね」

 

「…別に、周りの目が怖いから。この歳になれば訓練兵になるもの。なっていないやつは下目に見られるから」

 

「そう…特に巨人に対しての感情とかもないの?」

 

「感情?別に、誰でもエレンくらい巨人を憎んでるわけではないでしょ。それに流れのまま訓練兵になったんだし、目的もない」

 

「そっか…配属兵科は特に何も?」

 

「…憲兵になる。一応今はそれが目的」

 

「そうなんだね。いいと思うよ、実力ある証拠だしね」

 

「そういうあんたは?」

 

アニはスープを飲みながら質問する。俺もパンをかじりつつ、飲み込んでは答える。

 

「俺は調査兵団で行こうと決めている。亡き父のために…ね」

 

「そう。あんたの父、シガンシナ区で亡くなったの?」

 

「うん…。本当に運が悪かったんだ。本当にね…」

 

「…」

 

アニはそれ以降口を開くことがなかった。俺も飯を無言で食べつつ、時折アニの表情をみた。

特に変わらず食っていたが、何かを抱えているような、そんなオーラがあった。

 

「そういえばさ、俺の格闘術どういう感じかな?」

 

「え?何急に」

 

「よく格闘術一緒にやるから、師匠から色々どうなのか聞きたくてね」

 

「…別に。ただ、独特な技だね。あんたのは」

 

「まぁアニのを応用して我流に仕上げているようにしているんだよ。アニにはアニのやりやすい技があるし、それは俺も当然」

 

「いいと思うよ。相手を真似し、いずれ自分の技にする。まぁ私は誰かに何かを教えるなんて経験ないけどね」

 

「でも教えるのうまいよ?」

 

「最近はただ攻防しているだけでしょ。何も教えてない」

 

「でも前はすごく丁寧に教えていたよ?自覚してなくてもこっちはよくわかってる」

 

「そう…よかったね」

 

その後特に目立った会話はせず、アニとは食事をただ食べ続けて最後に別れた。

 

「じゃあまたね、アニ」

 

「…また」

 

この後の講義のあと、俺はミーナと斬撃訓練の約束があるんだ。忘れないようにしておこう。

次の訓練は…あ、馬術か。すぐに終わることを祈ってるが、俺が原因で終わらないという悲しさである。

 

 

そして馬術の訓練中。

 

「次は俺の番か…」

 

草むらに座っていた俺は立ちあがり戻ってきたコニーと交代する。手綱を握ってこれから乗ろうとしているとき、クリスタから声がかかる。

 

「あ、ベン!この後の休み時間にちょっと頼みたいことがあって…」

 

このあとの休み時間…。いつもならいいよと言えていたけれど、今回は流石に言えない。約束を破るのはよくない。それは当然だ。だから流石にこれは断らないといけない。

 

「ごめん、クリスタ。今日はこの後予定が入ってて。また次の日とかでもいいかな」

 

「あ…そ、そうなんだ。じゃあ仕方ないね!それじゃ…馬術頑張ってね!」

 

「うん、ありがとう」

 

クリスタは魅力的な笑顔で手を振って自分の班の下にもどっていった。俺は馬を撫でつつ鞍に乗る。まだ仲良くできないみたいだ。結構時間が経ったのに…。

俺は目的位置に向かって馬を進めた。

 

 

…なんなんだろう、予定って。

いつもはすぐに二つ返事で了承してくれる彼だが、最近は何かと間が悪い。少しこのことにイラついていたのか、口元を縮ませる。

技巧の時もそうだったように、私は最近何かと上手くいかないと感じている。実際は今回の含め2~3回しかないが、自分は上手くいってないと思い込んでいる。

だが、そう、よくよく考えればこの頼み事だってユミルにでも頼めるはずだ。まずはユミルに相談するのが自然な流れかもしれない。でも私は一直線に彼のもとへむかって頼んでしまった。

はぁ…少し冷静になろう。ちょっと事を急いだだけなはず。

 

「どうしたんだクリスタ?何か嫌なことでもあったか?」

 

「…ううん、なんでもないよユミル」

 

何でもない。気にしないで行こう。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「あ、ベン!待ってたわ」

 

「遅れてごめん。それで、斬撃の練習だったよね?立体起動装置は…俺のはこれか」

 

「うん、私はもうつけているから。大丈夫、つけ方はベンから学んでるから」

 

「じゃあ俺が早く装着しないとね」

 

ガス、立体起動装置、それぞれを腰に装着しブレードを装填する。ミーナと全く同じ武装状態になり、これからすることを聞いた。

 

「それで、どうすればいいの?」

 

「うん、とりあえず横たわってる訓練用模型をいくつか立てて、それを斬ろうかな。ベンには見ててもらいたいわ。あとたまにお手本としてやってほしい」

 

「わかった。じゃあ立てにいこうか」

 

俺たちは立体起動に移り森へと入っていく。寝かせられた模型をいくつか見つけそのそばに降り立っては模型を縄を使って立てていく。

 

「ベン!そっち引っ張って!」

 

「オッケー!よいしょっと!」

 

ざっと10体程度ほど立て続け、すこし訓練時と同じくらいの風景に見えてきた。あとはミーナがこれらに向かってうなじなどを斬る、それだけだ。

 

「どう?ミーナ。できそう?」

 

「多分…ね。まだ単純に筋力が足りてないかもしれないけど、それ以前にうなじに向かっていくのが難しくて」

 

「とりあえず下からうなじにめがけてワイヤーを刺していって…途中から空中からもやっていこう」

 

「わかった。とりあえず刺しては斬撃。繰り返してみるね」

 

俺は少し離れた位置の木の枝に乗ってミーナの練習を見ていることになった。そして彼女は地面からワイヤーを狙っては斬撃、斬撃。もちろん深く切れているわけではない、まだ力が足らないのもまた事実。

だがそれでも結構な月日が経っている。俺が思っていたより全然できているようで、この調子なら立体起動しながら巨人に接近し斬撃でもいけるだろう。

 

「できてるよミーナ。もう立体起動からでいいと思う」

 

「ほ、ほんと?わかった、じゃあそうしてみる」

 

そうしてからはミーナは空中を舞いながら一体ずつ巨人に丁寧に近づいてはいい距離になったとき斬撃を打つ。時折上手くいかなく弾かれることもあったり、力が上手く伝わっていなかったり。

しばらくしてミーナがこっちに戻ってくる。

 

「どうだったかな?」

 

「うん、よくできてると思うよ。あとは刺したらすぐに向かわず円を描くように回り込んでみたり…腕を振りかぶるタイミングと距離を合わせる練習くらいじゃないかな?」

 

「タイミング…難しいんだよねそれ…」

 

「すぐに出来る必要はない。一緒にやるからね」

 

「そっか…頼もしいね!」

 

「これなら頼ってくれていいよ。座学とかは…ごめん無理かも」

 

「あはは!そんななんでも出来たらそれはそれで凄いけど、完璧じゃないってとこは親近感持てるんだよ私」

 

「誰だって完璧じゃないけど…?」

 

「それに加えて、接しやすい。ベンは誰とでも仲良くなれるよね!」

 

「誰とでも…」

 

「うん、そうだよ」

 

「まぁそう努力はしてるけどね。よし、ここからは一緒にやってみるか」

 

「そうしよ!」

 

俺もずっと立ってはこんな重い立体起動装置を付けている意味がない。俺は木々をめがけてワイヤーを刺し、並び立つ模型の範囲を出ない程度にあたりを旋回する。ミーナもその対で飛び回る。

互いにそれぞれ模型を斬り続けていく。ミーナは俺のを参考に動いているみたいだ。下手に難しい飛び方をして真似されれば怪我されかねないので普通に飛び回る。

そして模型へ斬撃を入れていく。立て続けに2,3、4体と。

 

「すごい、やっぱり切れ込みが深い…」

 

その後足への攻撃ではワイヤーを固くさせ低い位置から低い位置にある足への斬撃。ミーナも真似るがまだできそうにはない。

 

そして、少ししてるとミーナは流石に息を切らしていた。腕もかなり振ったのか、力が入ってない。それでも表情には出さないようにと真剣な顔になっている。あれは優秀に見えはするが、一番危ない。

予想は的中する。

 

「うっ…」

 

体重操作に疲れたか、体を誤ってひねってしまいワイヤーが木から外れてしまう。空中でミーナの支えが何もなくなったのだ。

 

「ミーナ!大丈夫!?」

 

俺は落ちていくミーナを下からゆっくりとキャッチしてそのまま一旦浮いては地面に着地する。かなり無理な態勢でミーナを抱えていた。

そのままミーナは力が入らないのか、俺に体重を預ける。ゆっくりと俺はしゃがみつつミーナに声をかける。

 

「無理しすぎだよ…ミーナ」

 

「…」

 

「ミーナ?」

 

ミーナは何も答えない。もう一度言ってみた方がいいかな?顔を伏せているのも、疲れているからかな。

 

「大丈夫…?」

 

「…あの、あのさ。ベン」

 

「ん?」

 

声を震わしてミーナは答える。

 

「ベン…今さ、手でさ、どこ触っているか…わかってる?」

 

「んぇ?」

 

手?そういえば結構丸っこいものを…。

 

「あっ!ごめん、ミーナ!」

 

俺はバッと手を放し、触ってない方の手でミーナをその場に立たした。

ゆっくりと彼女は両手で自身の胸を護るように、そして俺を見ていた。

 

「…揉んでたでしょ?」

 

「いや…全く…」

 

「…エッチだね、ベン」

 

「いや、わざとじゃ…なくて…」

 

俺はなんと弁明すればいいのか?確信犯だった。これは女性に対する最低な行為だった。たとえ意図的でなくても起こってしまったら非はこっちにある。

 

「わかってる。助けてくれてたもん。偶然、触っちゃっただけだもんね?」

 

「…はい」

 

「私も、もう疲れて悲鳴なんてあげられないし。別にあげることでもなかったわ」

 

ミーナは胸から手を放し、すっと立つ。

 

「今日はもう十分練習したわ。もう帰りましょ?」

 

「う、うん。もう帰ろっか…」

 

「大丈夫、本当になにも怒ってないよ?」

 

「それなら良かったです…」

 

俺は罪悪感にのまれたまま訓練用模型を横に寝かせて、すべて終わっては兵舎に戻っていった。

 

部屋にもどれば俺はそのままベッドに横になる。何か…どっと疲れた。

流石にミーナには悪いことをした。これから会う際は少し困るかもしれない。普通のままでいたいが、あっちは本当に怒ってないかと言われればそれは本当にわからない。怒ってるかもしれない。

俺はうなだれて横になるしかない…

 




一部編集がかかっています。見ていただいてありがとうございます。感想、評価、待ってます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話 訓練期間

一気に話を進めていきたいと思います!


848年 年末

 

晴れた日。幸か不幸か、今日は兵站行進。

 

「…はぁ…はぁ…」

 

「どうしたアルレルト訓練兵!貴様はついていけないか!」

 

兵站行進。重い荷物を背負い長距離を移動する訓練。最も過酷で最も達成感のある訓練だ。その中で後ろの方で足をふらふらしながらも必死に食らいつくアルミン。

彼の後ろは誰もいない。少し遅れているのだ。教官は馬に乗って上から威圧的に言葉を放っている。

俺は後ろを向いてアルミンを見る。前を見れていない、下をずっと見ている。あれもつらい状態の原因になるものだ。

 

「アルミン!」

 

「くっ…僕は…」

 

重い荷物を背負いつつ前を向く。彼は負けない、負けたくない、役に立ちたい、それを全面的に示している。

もちろん彼だけではない。列の真ん中あたりでも息を切らして辛い表情をしているのはいっぱいいる。まだまだ先は長い。

 

「こんなの…無理じゃねぇか…」

 

コニーも息を切らしている。周りもそうだ。サシャ、クリスタ、ユミル、ライナー、ベルトルト、アニ、エレン、マルコ、ミーナ、全員きつそうだ。

 

「負けねぇ…絶対に…走り切ってやる…!」

 

エレンは荷物のショルダーを握り足を前へ前へと踏み出す。ミカサも辛そうだが、他の人と比べれば呼吸が上手なんだろう。

雪はもうない。道は涼しく照らす太陽。一応年末なため、気温は寒いが日光が温かい。もし雨だったら最悪だったかもしれない。

ドタドタと固い地面を踏み鳴らし、森を抜けていく。ゴールは見えてこない。だが途中で諦めるのは許されない。いや、諦めてもいいが兵士にはなれない。

辛いが卒業した先の地獄よりかはマシなんだろう。俺たちは地獄をこれで身をもって知ったつもりかもしれないが、これはまだまだ甘いんだ。だから、ここで落ちるような奴になりたくない。

俺たち訓練兵は列を成して、目的地へと歩み続ける。

 

 

 

「うぁッ」

 

アルミンは荷物を背負ったまま目的地にて重力に任せたまま草むらに座る。

他の者たちも全員立ってはいられず地面に座っていく。俺も流石に体力がほぼ0になっていて座っていた。

そして、誰もやめなかった。あきらめなかった。皆、立派にこの訓練を乗り越えたのだ。それがとても良かった。

エレンは俺の隣にストンと座り、息を整える。

 

「はぁ…はぁ…むっちゃ疲れたな…ベン」

 

「うん…もう動けないや…」

 

俺は足を押さえつつ疲れを整える。ミカサもエレンの隣に座っては呼吸を整えている。まるで疲れているようには見えない。

この兵站行進は1年の最後。つまりもうかなり長い時間みんなといる。

 

「もう…2年も経つんだね。長いようで、短いようだった」

 

「あぁ、そうだな。ここを卒業したら、絶対に巨人を駆逐してやる!」

 

エレンは相変わらず、たとえ疲れていても意思にゆるぎない。それが彼の良いところだ。

 

「貴様ら、良く耐え抜いた。これで次へと進めるぞ」

 

流石の教官もこの訓練後は少しだけは褒めてくれる。それくらいないと俺たちは本当にやっていけないからね。

 

「今日の訓練はこれで終了だ」

 

教官がそう言って俺たちはぞろぞろと立ち上がっては兵舎へと向かっていく。皆重い荷物は背負ったままだが、歩いていいということには歓喜を表してる。もちろん俺も。

次々に兵舎へと入っていっては夜ご飯の時間までは特になにもない、最高の時間だ。

 

「…すぐに卒業しちゃうな、この時間の流れでは」

 

独り言だった。忙しいし、訓練は厳しいし、でも仲間たちのとの交流は楽しい。辛さの間にすごい幸せを感じられていた。訓練をしつつ皆と親睦を交わしていこう。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

月日は経っていた。

849年

 

訓練と訓練の休み時間。俺はミカサを見つけた。彼女とはほとんど話したことがない。だが、エレンと一緒にいるときにたまに話す。たまには彼女の話を聞いてみたいかも。

そして彼女と少しの間俺は話をしていた。特に他愛の話だったが。

 

「そういえばミカサっていつもエレンのこと心配してるね。やっぱり家族だから?」

 

「うん…エレンは大切な家族。もう二度と失いたくない」

 

「家族を失う…か。その気持ちは…理解できるかも。でも、君との辛さに比べたら俺のは全然かな…」

 

「…辛さを比較するのは無意味。むしろ、不謹慎。だれにとっても大切な人を失うのは辛い、ベンにとっても、私にとっても。辛さが違うのは当然…と思う」

 

「そっか…。そうだよね。俺が馬鹿だった」

 

しばらく間があって、俺は話を続ける。

 

「…エレンは良いやつだよね。あの熱意は俺も尊敬するくらいだ」

 

「エレンは周りが見えなくなりやすい。だから、私とアルミンがついてる」

 

「そっか。俺が言うのもあれなんだけど、エレンのことよろしくね」

 

「無論。…エレンのこと、大切にしてくれてありがとう」

 

「当たり前だ。仲間だからね」

 

外を見れば皆それぞれの休み時間を自由に過ごしている。もう俺達がこのように居れる時間は少ない。今思えばここまで本当にあっという間だった。最初の頃とは皆顔つきが兵士っぽくなった気がする。俺が言うのも変だけどね。俺もこの訓練兵期間に成長できただろうか?

 

「…もう、いつまでもこうでは居れない…ね」

 

「うん。もう、卒業が近づいている」

 

「ミカサは…この中では本当に優秀だよね。きっと主席だよ。すべての分野において完璧だったね」

 

「でも、ベンだって凄く強かった」

 

「ミカサには負けるよ。あんな身のこなしは無理だ。座学も俺より全然いいし、頼もしいね」

 

「…ありがとう」

 

「でも、皆君の事は優秀だとは思っているけど…。それゆえに色々この先任されることがある気がする。もしそうなったら、遠慮なく周りの仲間を頼ってね。エレンもアルミンも、もちろん他の人も。俺でもいいし」

 

「そう考えてきたことは…なかったかもしれない」

 

「なら、いつも守っていたエレンに逆に頼るのもいいんじゃない?きっと、ミカサだけじゃできないことはこの先いっぱいあるはずだから」

 

「…私は、エレンに負担をさせたくない」

 

ミカサは、エレンを大切に、家族として、守っていきたいという。けど、それは支えではない。ミカサを支える人がいると思う。それができるのは、やっぱり彼だ。

 

「エレンに負担を全部させるわけじゃない。互いに分け合えばいいんだと思うよ。支えあうもんじゃない?家族って」

 

「…でも、私はもう支えられてきた。昔に、助けてもらえた。今度は私が助ける番」

 

昔、助けてもらった。このことは聞いたことがなかったが、それがエレンを大切に思う気持ちなんだろう。

 

「もう五分五分くらいになってきたと思うけど…。助ける番じゃなく、互いに支えあう。それくらいに考えていこう。あまり硬くならないでさ」

 

「…」

 

ミカサは、エレンのことをよく知っているはずだ。だが、それでも普段の様子からエレンが必要以上にミカサの助けをもらっていることも見てわかる。おせっかいだって言わせるほどに。

 

「あいつも立派な兵士。君も兵士。俺も、アルミンも、皆も兵士だ。兵士は助け合うもんだ」

 

「じゃあ皆家族なの?」

 

「そ、そういうことじゃ…。ま、まぁ俺から言いたいのは、助け合っていこうってこと。エレンも含めてね」

 

「そう…努力する」

 

「俺も助けるし、遠慮なく皆も助けるから。…よし、だいぶ話したしそろそろ次の訓練だね。移動しよっか」

 

「わかった」

 

結局俺は最後の方はまとまりがなく変に終わってしまったが、ミカサと話せたことはとても嬉しかった。

そして俺たちは次の訓練に進んでいく。時は止まってはくれない、いずれ終わるから、このような時間を大切に。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

「いいか。貴様らはあと少しで卒業を果たす。その最終試験では、立体起動を使った対模型撃退訓練での成績が大きく左右される。上位10名には憲兵団に志願する権利が与えられる。精々励め」

 

そう、上位10名には王を護り民を統制する憲兵団に志願できる。そのうえ内地での暮らしを約束され、最も外から遠い場所で自由に生きることができる。

俺も上位10名を目指しているが、それは単なる実力を確認するため。憲兵団への志願は最初から持っていない。

 

 

講義の後の晩飯を終え、外の夜風を感じる。少し冷たい風が肌を撫でている。

俺は飯の途中ですっと持ってきていたナイフを右手に握る。誰もいない兵舎の外、ある一本の木に円形のマークを描いていた。

 

「…」

 

15mほど離れた場所で俺はそのマークを視認する。息を止め、腰を落とし、左手を前に標準を合わせる。

眼をつぶり、また開ける。一気に左足を前に出し、右手を振りかぶる。

 

「…ふっ」

 

投げたナイフはそのまま的の中心に刺さる。投げ終えた姿勢からすっと立ち、ナイフをゆっくりと引き抜く。

 

「何してるの?」

 

「えっ」

 

後ろから声がかかる。自分の趣味に興じてた中、ここを誰かに見られるとは思わなかった。しかも結構夜で月光が照らしてくれる程度。

 

「…クリスタ。どうしてここに?」

 

「それはこっちのセリフ。何してたの?そのナイフで」

 

「いや、ただのナイフ投げ。自分の特技というか、趣味というか…ね。たまにやるとすっきりするんだよね。気持ちいいし」

 

「そっか…。でもそれ、食事用のナイフでしょ?まさかそのまま持ってきちゃったの?」

 

「あ、うん。このことは、どうか内密で…」

 

「ふふ、いいよ。二人だけの秘密ってことで」

 

「助かる…」

 

そして静寂が訪れる。上には満点の星空。二人を照らす光。

クリスタはゆっくりと、言葉を話す。

 

「ベンは…優秀だね。多分、上位10名には入ると思うの。そしたらさ…配属兵科は…どうするの?」

 

「調査兵団、だよ」

 

俺は間を置くことなく答えた。

 

「え、そうなの?…やっぱり、あの時話してたお父さんのこと?」

 

「あの時って…俺達が出会ったときのこと?」

 

「うん、今でも覚えてるよ。私はね」

 

「そっか…。よく覚えていたね。そう、俺はお父さんの死地を見に行く。そして、巨人を…倒したい」

 

俺の志望理由を聞いていたクリスタは、一度顔を下に向けると何かを決心したかのように言葉を放つ。

 

「…なら、私も調査兵団…入ろうかな」

 

「え…」

 

クリスタこっちを見つめ、話し続ける。

 

「私は、役に立ちたいの。もちろん、ベンほどの志望理由はないけど…でも、人類の役に立ちたい」

 

「…うん。いいと思う。ただ…」

 

クリスタの眼をしっかりと見て俺は言う。

 

「死ぬのは、だめだ。俺は、仲間の死を見たくはない。役に立とうとすることはいいけど、死は、仲間の役に立たない。だから…」

 

俺は、言葉が上手く見つからなかった。こんなこと言うのは、初めてだったかな。人に説教じみたことをするのは滅多になかったからか。

 

「…わかってるよ。死なない。生きて、生きて皆の役に立つよ。ハーヴェン」

 

どうやら俺の言いたいことは伝わっているようだ。なら、もう言うことはないだろう。

あとは皆で最後まで仲良く過ごそう。卒業するまで。

 

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

 

850年

 

「これより、上位10名を発表する。呼ばれたものは前へ」

 

皆、腰の後ろに手を組み静かに待つ。

 

「10番 クリスタ・レンズ

 9番 サシャ・ブラウス

 8番 コニー・スプリンガー

 7番 ジャン・キルシュタイン

 6番 エレン・イェーガー

 5番 アニ・レオンハート

 4番 ベルトルト・フーバー

 3番 ライナー・ブラウン

 2番 ハーヴェン・シュタークスン

 主席 ミカサ・アッカーマン」

 

俺は、上位2位という良好な成績で訓練兵を卒業することになる。やはり主席はミカサだった。

 

 

 

「これで訓練兵でいられるのは最後だな。お疲れ、ベン」

 

「そうだね、エレン」

 

俺たちは互いに握手し、他のメンバーも残り少ない日々を大切にしている。配属兵科を言い合ったり、これまでの日々を話し合ったり、泣きあってこれからもがんばろうと励ましあったり。

俺も、皆と話していた。

 

「あ、ベン!お疲れ様です!色々とありましたが、なんだかんだ楽しかったですねー」

 

「そうだねサシャ。狩りに行ったときのことは覚えているよ。またいつか狩りにつれて行ってほしいね」

 

「も、もちろん!今度こそ!肉を手に入れましょう!」

 

サシャはコニーのもとへ行ったり、エレンのもとへいったり、ユミルのもとへ足を重くしていったり。

 

「あ、ここにいたベン!もう卒業しちゃうからこういう時くらい話したいわ」

 

「ミーナ、俺もいろんな人と話したい。もちろん君とも」

 

「私は上位に入れなかったなぁ。でも、ベンは憲兵に行くんじゃなくて調査兵に行くんだよね」

 

「うん、これから大変なことになると思うけど頑張るよ。ミーナは?」

 

「私も調査兵になろうかなって。今期はたくさん志望しているんだし、私も壁の外に興味あって」

 

「なら、調査兵団にってことか。うん、いいじゃない」

 

ミーナと別れ、俺はアニを見つける。

 

「あ、アニ。お疲れ」

 

「…お疲れ様」

 

「俺は結局アニに格闘技で勝てなかったな。でも、それでも楽しかったよ。アニと格闘術ができて」

 

「そう、なら良かったね。ベンは調査兵でしょ。私とはここで別れってことだね」

 

「そう…なるのか。そうだね、もう会えなくなるってことはないと思うけど」

 

「会うのは難しくなるね」

 

アニは少し沈黙して、話し始める。

 

「私はさ、あんたに格闘術を教えてた。最初はくだらないと思っていたけど、いつの間にか私から参加するようになってた。そして次第に楽しいって、今では言えるよ。ありがとう、ハーヴェン」

 

アニは、最後は口元で笑みできていた。全く隠そうとはしない、私は笑っているって自覚しているのか、それともしてないのか。わからないけど自分を押し殺すようなことは少しだけでも改善できたのだろうか?

もしそうなら、良かった、と思っている。

 

「笑ってるね、アニ」

 

「…そうだね、私、笑ってるかもね」

 

アニはその後ライナーとベルトルトのもとへ向かい、俺は後ろを見る。振り返ればやけに顔が近い人がいた。

 

「うぉ!?」

 

「へ、何驚いてんだよベン」

 

悪い笑みで笑うユミル。結局話すことは少なかったかな。ユミルは入団初期より少し朗らかになった…か?気のせいかもしれないけどそう思うことにしよう。

 

「私は上位に入れなかったよ。まぁ、クリスタが入ってくれて良かったけどな」

 

「ユミルは…最後までクリスタを大切にしてたんだね」

 

「当然だろ?ていうか、最後なわけない。これから先もクリスタは大事なんだよ、私にとってはな」

 

「うん、ユミルも頑張って。俺も頑張るよ」

 

「なんだよソレ。別に私は頑張るなんてしないし、今までもこれからも適度にサボりつつやっていくからな」

 

「ユミルらしいね」

 

「私は私だよ。自分とクリスタが最優先だ」

 

ユミルはその後軽い足取りでクリスタのもとへ向かっては抱き着いた。

他にもいろいろと話していった。卒業試験が終えた今の俺たちは、あと数日もすれば配属兵科に置かれる。憲兵団、調査兵団、駐屯兵団。この三つのどれかに俺の仲間は行くんだ。

その時までは、まだ見習いの兵士として壁の補強、壁内の治安維持をするのである。

 

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

 

850年

 

壁上。

まだ皆の兵隊の服のマークは訓練兵。見習いとして少しの責務をやらされている。

大砲準備や、補強を任されている。皆気楽に会話していたり、配属兵科を後から知って驚いている人たちも。まだ知っている面々がいるのは嬉しかった。

 

「み、皆さん…上官の食糧庫から、お肉取ってきましたぁ…」

 

「「「えぇ!?」」」

 

どうやらサシャがまた飯に目がないまま奪ってきたらしい。皆反応はヤバいヤバいの感じだったが、サシャが土地を奪還すれば食えますよと言うと皆それに賛成して肉を食うことを決めている。俺も肉食いたいなぁ…。

エレンも笑っていて、壁内を見ている。人類の反撃を確信している顔だ。

 

俺も、もう負けはしない。これからは、俺達が巨人を食いつくす番だ。

 

 

その刹那。俺たちの目の前に現れたのは、誰もが息をのむ化け物。

皮膚はなく、筋肉が見えている。壁から顔をのぞかせ、その巨体は俺達を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

超大型巨人が、現れたのだ。




かなり話を進めました!一応、進展したかったので!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。