ダンまち外伝集・建築士のアイデア部屋兼発散場所 (37級建築士)
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思い付きラブコメ
幸せを満たす41度の魔法 ベル×レフィーヤ


Pixiv垢より転載、思い付きで書いたベルレフィ短編です。こういうシチュエーション好きだなぁて人に共感してもらえればうれしかりけり


 簡単な討伐と収集、それが片付いたらあとはのんびりと、そんな算段をして僕らはここに来た。オラリオより結構離れた北の山々の集落、そこの宿泊所である丸太のロッジに、今僕たちはいる

 

 二人だけ、雪降り積もる見知らぬ地で二人きり、彼氏彼女の関係であるからこそこんな大胆なこともできるのだろう

 

 僕とレフィーヤさん、いやレフィーとはもう付き合って三ヶ月だ。

 

 繰り返すデート、しかし周囲のことを思えばあまり大っぴらには言えない。まだ言えるタイミングではないと隠しながら続けた関係、それが三ヶ月

 

 だから、二人きりになれる場所、堂々と楽しくて幸せでいられる場所を欲した。その結果、僕たちは今行雪降る地にて、二人きりの時間を共有している

 

 

 

 時刻は夜、ふぶいてきたせいで窓の外は微かな灯だけ、見下ろすように並ぶ集落の淡い明りだけが窓にぽつぽつと浮かんでいる。

 

「……ほ」

 

 暖かくなった息がまろび出る。砂糖を入れていない紅茶が染みわたってたまらない

 

 数時間前、寒々とした雪の中を歩き回って、今はこうして楽にしている。外に出られない、外は恐ろしく寒い、だからこそこの安全な温もりが快適で仕方ない。暖炉の前のソファ、ここからはもう動けそうにない

 

 

「……ちょっと、まったりしすぎじゃないですか?」

 

「へ……あぁ」

 

「間抜けな返事、骨抜きですね」

 

 呆れの溜息、といっても本気で呆れてなんかいない。

 

 凛とした声で話しかけたのは当然レフィーだ。今の今まで台所にいたはずが、どうやら調理が済んだのだろうか。

 

 エプロンをほどき、部屋着である白のブラウスにロングのスカートの姿に戻った。ちなみに髪は後ろで結んでお団子である

 

「料理は終わったの?」

「料理はまだですよ。あと一時間は煮込まないと」

「こだわっているんだね」

「誰かさんが美味しいシチューが食べたいなんて言いましたからね……ま、それなりには頑張ってみました」

「そう、じゃあ楽しみにするね……あ、横どうぞ」

 

 右となり、クッションをどけて座れる場所を作る

 

「ええ、じゃあ遠慮なく」

 

 右となり、ベルのすぐ隣にレフィーヤは座る。右手、そこには絡めるようにおのれの左手を入れて、そっと指と指を絡ませた

 

 当然のように手を結ぶ、これも彼氏彼女の関係であるが故

 

「……あたたかい」

 

「そうだね、暖炉は暖かいよね」

 

「いいえ、私が言っているのはこの手の方です」

 

「……手?」

 

「台所で少し冷やしました……ですから、暖めてください。エイッ」

 

「!」

 

 いきなり、という程驚くことではない。けど、それでもドキッとする胸の奥はどうしようもない

 

 肩に乗る頭、寄り添う手、鼻の先に微かに綺麗な匂いを感じる。レフィーの髪の匂い

 

「……撫でた方が、いいですか?」

 

「おまかせします、触りたいならどうぞ」

 

 糸目で、揺さぶりをかけるように言葉を使う。レフィーヤの重みを体の半身で感じながら、そのいじらしい振る舞いに目が奪われてしまう。

 

「……じゃあ」

 

 許しは得た。左手で、そっと前髪を払って、するりと癖っ気のない真っ直ぐな髪を梳いていく。

 花の匂いを交えたグルーミング、レフィーヤの頭に触っているなんて三ヶ月と少し前の僕には到底考えられない未来だろう

 

……くしゅ……するっ

 

「……少し、冷えてるね」

 

「ええ、隙間風がありましたから」

 

 撫でる指先、微かに振れる頭皮の熱をも含めてそう判断した。触診をするように、僕は左手でレフィーの顔に触れる

 

 抵抗はしない。眼を閉じて、触られるままに触らしてくれる

 

 頬は冷たい、耳の先も冷えている。首の横、顎の裏、表面の肌は冷や水で撫でられたかのように冷たい

 

「……暖炉、強くします?」

 

 薪は既にくべている。これ以上すると少し部屋が焦げ臭くなるが、レフィーを温めるられるなら

 

 

「ベル」

 

「!」

 

 名前呼びに思考が停止、振り向いて顔が近いと感じてまたドキッとなった

 

「いい方法があります、暖めるならもっと効率的です」

 

 

 

   ×   ×   ×

 

 

 

ガララ、扉の開く音が扉の先から聞こえた

 

 脱衣所、浴室を挟む通り道の部屋。そこの前で僕は待っている。

 

 

「…………」

 

 

 温まるいい方法、そう言ってレフィーはかねてから沸かしていた浴室へ向かうことを提案した。そして、今はもう先に湯につかっている頃か

 

 

「……うぅ」

 

 寒い、暖炉のがあるおかげでロッジの中全体は暖かい方だ。けど、それでも寒いモノは寒い。暖かさを前にお預けを食らっているからこそこの時間がたまらない

 

 

……先に、入るっていって

 

 

「……レフィー」

 

 

 返事は、無い。何やら湯の流れる音は聞こえるけどそれ以上はない

 

 浴室に行く、その言葉を前に期待しない方がおかしいものだ。僕は期待した、一緒にという意味でお風呂を提案したのだろうが

 

「……ッ」

 

 入りたいか入らないか、そんなもの当然入りたいに決まっている。僕はレフィーヤの彼氏で、互いに了承したうえで僕たちは、いわゆるその手の行為をも経験しているのだ。

 だから、今回の旅行……いや、クエストでも

 

 

……期待、しすぎたのかな?

 

 

 別に、頻繁にしているわけでもなく、かといってドライという程でもない。いちゃつく時間はあるに越したことないし、すきあればしてしまうもの

 

 であれば、今はまさにその時、なのに

 

 

「……レフィー、その」

 

 

 さっきまで傍に寄り添っていたのに、こうも短い期間で飢えに近しい苦しみすら感じてしまう。傍にいて欲しい、温もりを共通していたい

 

 うん、難しい言葉で言い表す必要もない。シンプルに、いちゃつきたい。

 

 

……彼氏、だよね僕

 

 

 彼女、レフィーヤさんは僕の彼女

 

 

 

「……ベル」

 

 

「!」

 

 

 声がかかった。そして瞬時に背骨に力が入る

 

 落ち着け、急いては駄目だ。何度も呼吸を繰り返し、心臓すら落ち着かせて

 

 

「……入ってください、そのまま」

 

「うん……わかったよ」

 

 

 言われるままに、僕は戸を開けて脱衣所へ、そしてそこには当然問うべきかレフィーヤはいない。浴室の方は扉が開いている、けど妙に湯気が多い

 

「?」

 

 浴室の広さはだいたい4メートル四方、それなりに大きい浴槽があるお風呂だ

 

「レフィー……」

 

 さがす、湯気に隠れてあまり見えない先に一歩、二歩

 

 三歩、その瞬間

 

 

……ガシッ

 

 

「!」

 

 

 何かに掴まれる感触、戸惑い対応しきる前に僕の体は引っ張る力に制御を失う。

 

踏み込んだ四歩と五歩目、床を踏んでいるはずがどっぷりと湯の中へ片足を突っ込んだ

 

 

「!?」

 

 

 そこで、一気にざばーんと湯の音が浴室に響き渡る。

 

 立っていた態勢から視点も変わっている。今、僕は二の腕のあたりまで湯につかっていて、そして

 

 

 

……ふふ、クスス

 

 

 

 

「!?……れ、レフィー」

 

「はは、あははは……あぁ、楽しい♪」

 

 無邪気に笑う顔、天井の証明と逆光になって少し影がかかっている。つまり、僕は見上げているのだ。暖かい、41度の湯の中、服も脱がず、濡れた服が肌に張り付く感覚に包まれて

 

 そして、同じく服のままでずぶ濡れになって暖かくなってもいる、僕の大好きな恋人が口角を吊り上げているのだ。

 

 

「……暖かい、気持ち良い」

 

 

 そう、感嘆の息を込めて感想を述べた。濡れた姿、髪も解けていて、ほどけた一本が顔の形に添って少しくっついている。湯をかぶったのか、服を着たまま、理解が追い付かない

 

 けど、言えることは今の姿はとてもドキドキする。控えめに薄着ともいえる姿、肌の露出が無いだけで布の厚さは薄い

 

 だから、張り付く様には鼻の奥がぐっときてしまう。一瞬だけ、鉄の味を感じ取った

 

 

「……な、なにしてるの。服のまま、なんて」

 

「ぁ、くす……ふふ…………えぇ、そうですね。でも、びっくりさせたくて……あはは」

 

 ツボに入っているのだろう。レフィーは笑って僕の顔とほんの数センチの距離

 

 せっかくのブラウスも肌にぴったりと張り付いている。その、健康的に膨らんだ胸の形もはっきりと見えるように

 

「ぁ……あぁ、すみません。ちょっと、いたずらごころです……でも、温まりましたよね、お互いに」

 

「それは、まあ……でも、服のままなんて」

 

「替えはありますから、だからいいんです……二人だけなんですから、何したって、別に…………そう、別にいいんです。例えば」

 

「へ……あぁ」

 

「こんなことも、していいはずなんです……舌、噛まないでくらはいね」

 

……クチュッ……ツ

 

 

 

「!」

 

 

 

……チュ……パッ

 

 

「…………ァ」

 

 

 

 何をしてもいい、その言葉通りレフィーはしてみせた。

 口内をくすぐる舌の間隔。甘い心地になってしまう他者の唾液、混ざり合って一つになって、体に疼きが芽生えてしまう

 

 

「レ、レフィー……ん、ぁ」

 

 

 交わす、唇が触れて離れて、また合わさる。

 

 無言で続く時間、湯の揺れる音がチャプチャプと鳴る。

 

 湯を吸った服が体を包むから、冷えることは一切ない。暖かさの中で、僕らのキスは深く長く、心地よく続いていく

 

 時間にして、20秒は続けて、そしてようやく息を吸った。静かな中でも激しさを入れたキス故に、息継ぎは必要だ

 

 

「……のぼせちゃいますね、これ以上は」

 

「だね……そうだね、うん」

 

 向かい合って、また距離が少し開く。レフィーは僕の肩に手をついて伸ばして、そして目が合って沈黙

 

 見惚れ合うように視線を合わせて、先に口火を再度切ったのは

 

 

「……いい、ですね」

 

 

「?」

 

 

 

 浮かべる、顔の色はどこまでも朗らかに。喜色に満ちた柔らかい笑み、レフィーは僕の目を見て真っ直ぐに告げた

 

 

 

『きもちいいね…………ベル』

 

 

 

「————ッ」

 

 

 その言葉の意味、特に気持ちいのはお湯の温度か、それとも別か

 

 暖かい心地、思考を回すのには唯一向かない。

 

 だけど、それでも今はこれでいい。41度の湯は幸福を満たす条件、これさえあれば僕とレフィーヤはどこまでも満たされ続ける。

 

 暖かいのは気持ちがいい事、二人きりの時間はまだ始まったばかり。オラリオに戻るまでの時間、惜しむ僕はこの体にまとわりつく熱に身をゆだねる。思考も、心も、赴くままにまかせる。

 

 あとで後悔することになったら、きっと僕は熱に浮かされたからというのだろうか。けど、それでも僕はこれでいい。なんどでも、確信をもって言おう

 

 

「……レフィー、キスと……あと、アレも」

 

 

「ん、言ってすぐソレですか。もう、エッチですね……エッチ、エッチさんです。やっぱり、あなたは…………服、このままでもいいですか?」

 

 

「……コク」

 

 

 

 熱に浮かされたままでもいい。41度の幸福を味わうためなら、レフィーヤと共に温まり続けるのなら

 

 

 

 

 

fin

 




続きは無いです、これで終わり


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ティオナがベルに抱き着いて危うくワンナイト過ちが起こった、かもしれない話

タイトル通りです。ベル×ティオナは尊い


 

 

 

 早朝、窓のない一室にはダブルサイズのベッドが一台

 

 そこにて、褐色肌の愛らしい女性が眠り姫のごとくそこにいた。

 

 眠り姫、そう形容こそできるが、相違点はなんといってもその出で立ち。褐色の女性、ティオナ・ヒリュテは服を着ていない

 

 艶やかな柔肌を毛布一枚で隠して、なんとも無防備に眠っているのだ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

……どうして、こんなことに

 

 

 

 

 

 無防備に眠る彼女を前にして、ベルは一人思った。なぜ、いったいどうしてこんなことになったのか

 

 思い返せば、それは昨夜のこと

 

 

 

 

 

 

 

 その日、いつもはホームで夕食を済ますぼくだけど今日だけは皆が用事でホームを空けていたから、そんな日に僕は酒場で一人侘びしく食事をしていた。

 

 独りで食べる夕食何て久しぶりだなぁ、そんな風に思っていた時

 

 

……あ、アルゴノゥトくん!

 

 

 

……ティオナさん?

 

 

 

 僕は偶然ティオナさんと出会った

 

 偶然傍にいて、気が付いたら隣同士仲良く談笑が始まっていて、正直侘びしい食卓が一気に華やかになってすごくうれしかった。

 

 ティオナさんとは前々からも仲良くしていたけど、こうして二人きりで食事をする機会なんて無かったからそれも鮮烈で、とにかく僕は思いのほかいい夜を過ごした

 

 綺麗な女性を相手に緊張もしたけど、なによりその裏表のないさっぱりとした性格のおかげか何も負担を感じなくて、ただただ楽しく時間を過ごしていた。

 

 

……そこまでは良かった、でも

 

 

 時間は確かに楽しかった。でも、その後が問題になった

 

 進むお酒の量、その多さに僕は疑問を浮かべなかった。でも、ティオナさんはいささか許容量を超えて飲んでしまっていたみたいで、だから宴もたけなわな頃になるともうベロベロのしなしなにより潰れて、そして僕に抱き着いて離れなくなった

 

 あなたは僕の手を取って、次第にそれが腕を取るように絡みついて、最後はびったりと体を引っ付けていた。

 

 酔って気を良くしたのか、どぎまぎする僕はどうにか顔に出すまいと紳士に振舞おうとした。

 

 

……ティオナさん、もう少し距離を……その

 

 

……ゃ、いゃ……ヒック

 

 

 べろべろによって蕩けたティオナさん。たまたま出会って相席した縁から、僕はティオナさんをどうにかしないといけないのだ

 

 いつかに聞いた送り狼、その言葉が一瞬頭に浮かんで、とてもいけない気持ちに駆られて気がおかしくなっている。過ちを犯してはいけない、そうするはずがないと、僕は何度も心で繰り返し呟いていた。

 

 

 

   ×  ×  ×

 

 

 

 店の外、夜もまだにぎやかで明かりが瞬くドヤ街の通路。千鳥足の酔っ払いや集団で歩く道塞ぎな通行人をどうにか避けつつ、僕はティオナさんを曳航する

 曳航、まず一人では歩けそうにもないティオナさんを連れていくという意味では正しい意味だ。どうにか、その場に座り込むことは無いのはすくい。でも、その代わり今もなお

 

 

 

「……」

 

 

「あの、歩きにくいのですけど…………その、離れて」

 

 

「……ッ」(無言で首をブンブン)

 

 

……むぎゅぅ

 

 

 

「ぅ、わかりました……いいですから、どうかそれ以上は力を」

 

 

「……ン」

 

 

 

 意思表示はあるのかないのか、とにかく今のティオナさんは僕にくっついて全てを委ねている状態だ。酔って思考も喋りもままならない代わりに、そこだけは強く主張して、そして意に背けば腕がかなり痛い。大切断、その意味を痛感しそうなくらいだ

 それにしても、ティオナさんがここまで酔っぱらうなんて知らなかった。随分と大ジョッキで急ピッチにあおるからザルなのかと思ったりしたけど。うん、飲んだ分は素直に酔っぱらっている。しかもまだ根強い

 

 外気は少し肌寒い夜、歩いて夜風を浴びて、もう20分は立っているはずだけど未だにティオナさんは火照ったままだ。抱き着いた部分には汗がじっとりと湧いている感触がある

 

 熱は、感じる熱は少々背徳的だ。酒によるものなのか、それとも女性特有の高めな体温か。いずれにせよ、肌面積の多いティオナさんに抱き着かれている現状で、ぼくは今理性を保つ戦いを強いられている。

 

 本人は起伏の無い自分を魅力的じゃないだなんて言っているけど、こうして触れ合ってみてわかる。スレンダーで健康的な体つき、しなやかな肌とボディラインの整っている所はまさに垂涎だ。

 

 容姿も淡麗、あどけなく活発で、笑みを見せるだけで元気をもらえる、そんなティオナさんが今無防備にとろけた顔を見せている。それが、正直かなりまずい

 

 

……イケないもの、見てる気分

 

 

 褐色の肌に、薄ピンクの綺麗な唇。フェイスラインから耳の形から、顔の微細なパーツに至るまでこの距離だと目に留まるのだ。抱き着いて、肩に預けたその尊顔は息をのむほど可憐である。

 

 熱くなる。けどそれは伝播した熱だけじゃない。きっと、この良くない状況で自分も当てられているから

 

 

「……イケない、本当に駄目、理性が辛い……黄昏の館はまだ遠いよね」

 

 

 おかしな思考に引っ張られる前に、今は何としても送り届ける責務を果たさねば。だけど、ここから目的地までは距離もあるし。今の時間はタクシー(馬車)も拾えない

 

 どうすればいいか、そう悩みながら一歩を踏みしめていた。そんな折に

 

 

「どうすれ……ば、っていだだだッ!?」

 

「……」

 

 

 無言の圧迫、踏み出した足が一歩二歩と引いて、そしてティオナさんを見る。気づけば、なにやら伝えたいことが合って呼び止めたのか

 

 いや、にしてもその怪力はやめてほしい。本当に腕が大切断しかねない

 

「あ、あの……なにか?」

 

「……ン」

 

「ん?」 

 

 指さす、その先は妙に魔石等の発行が眩しくて、一見何かまったくわからない

 

 なにかなと、そう思い目をこらした。すると、そこには

 

 

「……あの、ティオナさん」

 

 

「うん……ここ、入る」

 

 

「いえ、その……それはッ」

 

 ぐいっと、また引き寄せられてそして目が合った。とろんとした瞳、けどその眼は確実に僕を見て、そして訴えかけている

 その上で、ティオナさんは

 

 

 

「帰り、たくないの……」

 

「!?」

 

「あたし、我慢できない……もう、耐えられない」

 

 ぎゅっと、ティオナさんの手が僕の服を掴む。ふるふると、目元は震えて端には涙をためている

 

 

「そ、それって……え、ええ!?」

 

「…………」

 

 

 戸惑う。けどそれは無理ない事。だって、今僕の目のまえにあるホテルなるもの、掲示板の発光と言い、名前といい、料金設定といい、この繁華街にある昼間はまったく目立たない癖によるだけ目立つしようといい。結論は、一つしか

 

 

「い、たたっ……いくらなんでも、あっつ……お、折れる、折れちゃいますッ!! あ、ダメダメ、ここはぁああッ」

 

 

 

 抱き着きによって有無を言わせないティオナさんによって、僕は半ば強引に宿の門戸を叩いてしまった。そう、僕だってここがどんな場所か知っている。ここは、男女の夜の社交場である。つまりは、ラブなホテルで

 

 

 

 

   ×  ×  ×

 

 

 

 部屋を借りた、顔を見せない受付の人に説明を受けたけどあまり頭には入っていない。言われたことを咀嚼して飲み込む余裕なんて無かった

 

 部屋は、思いのほか綺麗で、ベッドもふかふかでとても大きかった。それ故に、そこで内をするかが良く想像できてしまった

 

 

 あぁ、神さま。僕は悪い眷属です。未成年なのに、やってはいけないことを

 

 

「……ベル」

 

「!?」

 

 急に呼ばれた名前、しゃんと背筋が伸びて僕は変な声を出してしまった。けど、そんな僕に意を介さず、ティオナさんはゆるりと腕の拘束を解いて

 

 

「シャワー、浴びる」

 

 

「……どうぞ」

 

 

 身構えて、何をするのかと警戒している僕を他所にティオナさんはマイペースに事を始めた。少し酔いが覚めて来たのか、僕の手を借りずともしっかり足を踏み出して、そして手探りでクローゼットを見つけては適当に何かを掴んだ。バスローブだ

 

 ふらりふらりと、夢遊病患者のごとくティオナさんは歩き出す。おっかないようで危うい歩き、その背中を見守っていると

 

 

「……アルゴノゥトくんも、浴びなよ」

 

「な、なんで」

 

「……言わないと、わからないの?」

 

「いっ……いえ、なんでもないでシュ!」

 

 噛んじゃった。てんぱって変な声が出てしまう。

 

 あぁ、そして今僕は理解が追い付いてしまった。こういう状況で、シャワーを浴びるという事。その意味は、大昔誰かに、そうだお爺ちゃんにだ

 

 

 

「は、こういう時はまず身を清め合って、それで……戻ってきたら……ゴクリンコ」

 

 

 

 イケない未来が想像できる。でも、知識が無いからその先の光景はあまり想像できない。なんだかこう、すっごくピンク色でもやもやで、とにかく最後は爆発してドカーンで

 

 

 

……ガララッ

 

 

 

「ひゃふんッ!?」

 

 

 出た、また変な声が出てしまった。ピンっと伸びた背筋で、ぎりりと首を横に回してティオナさんを見る

 

 ちょっと着崩れたバスローブ姿、隙間から覗く褐色の肌は艶やかでとても生々しい。

 

 こっちを見る視線は、さっきよりも焦点が合っていて、でもまだとろけた様子も見せている。なんだか、やはり素面ではないのだと理解させられる

 

 

「……アルゴノゥトくんも浴びて、待ってるから」

 

「!」

 

 名前呼び。その一言でドキッと胸が高鳴った。

 

 ティオナさんは誘った、ここで引いてしまう選択肢はあるだろうか。ぼくはためされているのだろう、男として、色々なものを

 

 ああ見える、天国のお爺ちゃんがゴーサインを出している。いけ、ベル、やれベル、男の甲斐性を見せてやれと

 

「……ッ」

 

 高鳴る鼓動、溶けそうなほどに沸騰する頭、それでも僕は理性が残っていたのか、必死に頭を振って奥底のお爺ちゃんを否定した

 

 お爺ちゃん、あなたのロマンあふれる言葉は否定したくないけど。でも、僕もいい加減学んでいる。これは、この先間違えてしまえば僕は男として超えてはいけない一線を

 

 

 

「……熱い」

 

 

……バサリ(脱いだバスローブが床に落ちる音)

 

 

 

「!?」

 

 

……ツツー

 

 

「……ぁ、はわぁあッ!??」

 

 

 一瞬、すぐに目をそらして背も向けた。しかい、ベルの鼻下を伝う一筋のレッドライン。そして喉奥に感じるメタルなフレーバー

 

 一瞬、ほんの一瞬、腕の角度とか謎の光の線等々で、奇跡的に見えなかった一部はあれど、ベルの瞳には忘れられない一ページが焼き付けられてしまった。

 

 

 

 

「先に……ね……もう、限界だから」

 

「は、はい!!」

 

 思考と体がついて行かない。僕は脱兎のごとき早業でバスルームに飛び込んで、千切れんばかりに服を乱暴に脱ぎ捨てて行水を済まさんとする

 

 はやく、はやく、そう活き込んで

 

 シャワーを浴びながら、汚れ一つ残すまいとあかすりタオルで全身を磨いて磨いて、頭髪も顔も隅々まで綺麗に泡で清めていく。ひげは、人生でまだ一本も生えていないから問題なし

 爪は伸びていない。体調は万全、ではないかも。酒を飲んでいる体は興奮でさらに熱くなって、ちょっと気を抜けばそのままふらっと倒れそうだ

 

 

 でも、それでも歯を食いしばって、いざ行かんとバスローブに袖を通したのは何故か

 

 

 

「……お、お爺ちゃん、僕はついに、ロマンをッ」

 

 

 イケないこと、だけど

 

 

 お膳立てを済ませられて、そして待っていると。そんな状況で逃げ腰にいるなんて、男であろうか、いやむしろ

 

 

 

……英雄で、あるはずが

 

 

「ないッ……僕は、覚悟を決めましたよ。お爺ちゃん!!」

 

 

 パシンっと、体を拭いたバスタオルが気持ちい音を鳴らした。篭に叩き入れて、用意されたバスローブに僕も袖を通す。

 

 さあ、冒険をしよう。装備も完全、あとは進むだけ

 

 噛みしめるように一歩を踏み出して、そうしてたどり着いた先には

 

 

 

 

 

 

「………すぴー]

 

 

 

 

「すぴ?」

 

 

 

 

  

 急に、頭に上り切った熱が冷えていって、きっとこれが血の気の引く感覚というものなのだろうか

 

 戻ってみてみれば、そこにはお布団をまとい綺麗な寝相ですぴすぴ寝ているティオナさんがいる。鼻提灯をふくらまし、まさに熟睡といった具合に

 

 

 

「……くぅ、くぅ……すぴぴ~」

 

 

 

「え、本当に寝てる? あ、寝てる。寝てるんだ……ぁ、あぁ……そっか、そっかぁ~」

 

 

 気づく、頭に手を当ててベルは天を仰いだ。期待に胸を膨らまし、一人過剰に騒いでいた自分がなんとも恥ずかしい。もう、通り越して死にたいが口に出てしまう

 

 帰りたくなり、もう我慢できない、つまりホームに帰るまで眠気に耐えられないから

 

 先に、待つ……途切れた言葉の中にはきっと、寝るという言葉が合って、しかもそれは遠回しな比喩でも何でもない。ただただまっすぐ、眠たいから寝るよと伝えただけ

 

 

 

「あぁ……ぁ、死にたい。恥ずかしぃ」

 

 

 

 我に返ってふらつく体、気づけば僕はベッドの上に転がるように倒れて、そのまま目を閉じてしまった

 

 力が入らない。僕も随分と飲んでしまっていたことを忘れていた。眠い、眠くて仕方ない

 

 

 

「……ぉ、おやすみなさぃ」

 

 

 絞り出すように出した言葉。返事はない、そして僕も寝た。眠りに落ちていくから、溶けて良く自分の意識具合を感じながら

 

 ふわふわのベッドで、傍ですやすやと寝息を立てる声に耳を立てて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~翌朝~

 

 

 こうして、僕はティオナさんと共にラブなホテルで朝を迎えた。

 

 起きてすぐティオナさんは自分が裸であることに疑問を抱いて、そして僕は誤解を解かんとまず早々に土下座からの弁明、必死過ぎて自分の口でも何を言ったかあまり覚えてないぐらい、とにかく説明を連ねた。

 

 運が良かってか、そんな僕にティオナさんは疑いを抱かず、さらには怒りもみせず、少しだけ席を離してから

 

 

 

……確認したけど、別に大丈夫だったよ

 

 

……なにを、確認?

 

 

 

……さすがにそれは、アルゴノゥトくんのエッチ

 

 

 

 そんなやり取りを経てどうにか僕は服を着たティオナさんと開示している。一応、土下座はもういいとは言われたけど僕はベッドの上で正座だ

 

 思いだけとはいえ、そう言うことを期待してしまっていたことには変わりない。罪悪感は、まだある

 

 

 

 

 

「……ぁ、言い忘れてた」

 

「!」

 

 背筋が固まる、何を言うのか身構えて待った

 

 

「おはよう、窓がないけどいい朝かな? とにかく、おはようアルゴノゥトくん」

 

「……ぁ、おはよう、ございます」

 

「あれ、なんか元気ないね……もしかして二日酔い。あぁ、お酒いっぱい飲んじゃったもんね」

 

「……ですね、はい」

 

「ん、アルゴノゥトくん?」

 

「…………はい、元気です。なにも、問題はアリマセン」

 

「??」 

 

 首をかしげるティオナ、ベルはというとどこかいたたまれなさに気落ちしているせいか、ベルの居る場所に抱けダウナーな空気がどんよりとまとわりついている

 

 一人童貞の妄想で先走って勘違いした恥ずかしさ、ついでに前日の酒の悪い部分も少々残っているから、なおさら元気はでない

 

 

 すでに、ティオナは服も着替え、もう何もムードなんてない。

 

 初めてのラブホテルで、ベルはただただ青い青春の苦みやらを噛みしめているのだ

 

 

……青いなぁ、ぼく

 

 

 抱きしめられた熱、それがいまだに忘れられない。ティオナさんに対して好意はあったし、親しく接していたからこそその展開に戸惑い、そして期待も生まれてしまった

 

 イメージしやすかったのかもしれない。もしかしたら、僕は行為人と恋仲になるのかもと

 

 でも、それは一方的な思い込み。しかも熱に浮かされた思い込み、冷めればもう

 

 

 

 

……恥ずかしい、ほんともう、恥ずかしい

 

 

 

 

「……元気、ない?」

 

 

「…………はは」

 

 

 答える力もない、申し訳ないという気持ちが重すぎて潰れそうになっている。

 

 そんなベルをティオナは見て、不思議そうに

 

 

「ふぅん、何だかわからないけど……えいッ!」

 

 

 思って、そしてすぐ行動に移った。

 

 

「へ?」

 

 

 

 不意に、服をつまんで引っ張られたと思えば

 

 

 

 

……むぎゅぅ

 

 

 

 

 突然視界が暗く包まれて、ささやかながら柔らかい感触を鼻先に感じた。

 

「!!?!??」

 

 ベルに電撃が走る

 

 

「えへへ、捕まえた」

 

 

 

 あったかいねえと、ティオナは天然にベルの戸惑いにも気づかず、しかし抱擁は優しく頭を撫でる手は丁寧に

 

 

 

「……いいよ、抱き着いても」

 

 

 

「!?」

 

 

 

「昨日はごめんね、酔っぱらって振り回しちゃったから……だから、これはごめんねのギューだよ。アルゴノゥトくんも抱き着いちゃえってね」 

 

「……そ、それは」

 

「いいよ、あたしはいっぱい抱き着いたもん。うん、覚えてるんだよね結構……ホテルに連れて、なんだか送り狼しちゃったみたい。でも、何もしないなんて優しいんだね」

 

「うぅ、それは」

 

 かなり期待していた、なんて口が裂けても言えない

 

「だから、お礼はした方がいいかなって……いいよ、チェックアウトまで抱き着いても。こっちは、いっぱいいっぱい抱きしめてあげるね」

 

「……ッ」

 

「あ、いっぱいはしてあげられるけど……おっぱいはあまり期待しないでね。あたし、こんなんだし」

 

 

 そういい、少し照れくさそうに笑う。ベルを撫でる手、それは位置的にも胸に抱きしめて押し付けてくれている。硬い感触を申し訳ないとでも思っているのか

 

 

 

「……ぅ」

 

 

 

……そんなこと、まったく思えない

 

 

 

 寝起き故の、まだぬくぬくな体温。ティオナの胸に包み込む豊かさはないが、それ以上に他者を想う優しさは過剰なまでに溢れている

 

 酔って潰れた自分を無事宿に届けて、そして手を出さなかったことへの感謝。そうとはいえ、乞うまでも優しく無垢な反応を見せてくれるとは、ベルの想像を超えている

 

 ティオナ、彼女は自分に親しく接してくれる女性であると知ってはいたが、それでも

 

 

 

「……てぃおな、さん」

 

 

……知らなかった、こんなに優しいなんて、暖かいなんて

 

 

 

「ん、抱き着いてくれたね……いいよ、ギューてして。あ、でもくすぐったいから、鼻息は抑えてね」

 

「……ふぁ、ふぁい」

 

「えへへ、やっぱり恥ずかしいかな? まあ、でもいっか。アルゴノゥトくん、すごく暖かいし」

 

 

 抱きしめて、抱きしめられて、籠る体温が混ざり合って溶け合う

 

 

 

……これ、すごい

 

 

 

 イケない夜を過ごす、そんなロマンを期待したが空振り。残念に思うと良いよりは、いたたまれなくて恥ずかしくて、ただただ顔が熱くなる思いをした

 

 でも、結果的にはその恥ずかしさも今は飲み干せた。こうして優しくされて、気恥ずかしさはおだやかなリラックスに変わっていく

 

  

「抱き着くの、好き?」

 

「……すき、かもです」

 

 

 とろけた返事、骨抜きになるまで秒もかからない。優しい女性の温もりは大変良く効いてしまうのだ

 

 

 チェックアウトまで残り数分、噛みしめるようにベルはティオナとの抱擁を受け入れた。

 

 

 

「アルゴノゥトくんはあったかいね。ね、これからはさ、またしちゃおっか。アタシも抱き着くし、アルゴノゥトくんも抱き着いて、いっぱいぎゅうぎゅうしようね……えへへ、何だか言ってて恥ずかしいなぁ」

 

 

 

 

 その言葉通り、ティオナはこの日以降特に理由はなくともベルに抱き着くことが増えた。

 

 そうして繰り返す先、二人の関係性に訪れる変化、それはまた別の話

 

 

 

 

fin

 




以上、ティオナは天使。ティオナこそベルに一番やさしくて負担の無いヒロインでございます。ずっと仲良く笑っていて欲しい


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