Fateを布教したい一般転生者藤丸立香の話 (食卓の英雄)
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準備期間編
Fate、召喚ときたら普通は妄想するよネ!


 

 俺は転生者である。

 前世はなんてことない一般人で、強いて他者と違う所を挙げるならば、FateオタクでFGO微課金勢ということくらいか。

 とにかく、転生した当初俺は相当にパニクった。それはそうだ。誰だっていつの間にか死んでいたと理解してしまえば、やり残したことや後悔などが湧き上がってくるだろう。

 俺も例に漏れずに嘆き悲しんだ。育ててくれた両親への感謝もまだ伝えられていないし、やりたいことも沢山あった。

 元の世界ではやはり俺は死んでいることになっているのだろうか。そう考え、親不孝をしたなと最初の一週間は後悔していた。

 

……ホントだよ?ホントに落ち込んだからね?

 

 でも、それくらいが経ってから、なんというか…飽きたのだ。この世界は現代ほど文明が発達しておらず、俺がいるような田舎では本当に本か土いじりくらいしかやることがない。

 当然、Fateなんて以ての外。

 俺自身アウトドアも好きだったけど、この世界にはどうにもモンスターがいるらしく、戦う力を持たない一般人がそんなに動き回るのは命取りだ。

 

 現代日本は本当に恵まれていたのだなぁ…としみじみと郷愁の念を駆り立て鼻唄を歌っていると、白髪の兎を思わせる風体の少年がこちらを見つめていた。

 

「あの…だいじょうぶですか? 今までずっと泣いてたから、心配になって」

「うん、ありがとう。だいぶ楽になったよ」

 

 この少年は俺が引き取ってもらった村の住民で、田舎のこの村にしては若い子だ。今世での年が近いからと、何かと関わっているんだけど…。冷静になって聞くと、なんだかこの少年の声に聞き覚えがある気がする。そう、例えば某黒の剣士の様な…。

 

「って、あぁ――――っ!」

「えぇっ! な、なんですか!?」

 

 雪のように真っ白い髪、くりくりとした緋色の目。そしてこの声とくれば導き出せるのは一人しかいない。

 

―――ベル・クラネル。

 

 ってことは…。この世界、『ダンまち』だああぁぁぁ―――っ!??

 

 

 

―――…

 

 

 

 そしてやってきました迷宮都市オラリオ!

 あれから数日、退屈を持て余していた俺は冒険者になるためにベルとともに村を出た。

 特に何かあるというわけでは無かったが、冒険者になれば何かあるかもしれないという浅い考えからだった。

 

 因みに俺の見た目は回す方のノッブボイスである藤丸立香そのもの。こっちでの名前はフジマル・立香となる。黒い髪と青い目は丁度ベルと対になっている。

 

 ファミリア探しはベルに一任していたけど、やっぱりベル・クラネルがヘスティア・ファミリアに入るのは運命らしい。

 

 大歓迎された俺たちは早速恩恵を刻むことになった。俺は最初は原作主人公の方がいいだろうと譲り、その作業を隣で見つめている。

 何でたった一滴の血であそこまで書けるのかは分からないけど、そのへんも含めての神の力なのだろう。ベルの能力値はオール0でスキルも魔法もなし。そのことに少し落ち込んでいたがそれが普通だと言われると元気を取り戻した。

 

 ヘスティアの恩恵は杯に乗った燃え盛る炎。これに絆15に出来なかったサーヴァントを思い出して一人悶えたのは置いておこう。

 

「はい。これが君のステイタスだよ。すごいじゃないか!スキルと魔法が発現してるよ。もとから何か訓練をしてたのかい?」

 

 そう言って、手渡された羊皮紙を見て目をかっと大きく見開いた。

 

フジマル・立香

 

Lv:1

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

【召喚】

・召喚魔法

・Fateの召喚

・融通は効く。

・詠唱破棄可能。効果は減衰する。

・聖晶石を三つ代価として用いることで召喚対象を変更する。

 

【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ】

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する】

【セット】

【告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ】

【誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者】

【汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ】

 

《スキル》

 

待て、しかして課金せよ(アトンドリ・ファクチュレーション)

・ログインボーナスの授与

・聖晶石の保持

・資金と聖晶石の変換。上限は存在する

 

【令呪】

・霊的対象との契約権

・契約対象への命令実行権

・一日に一画の回復

 

「これは……!?」

「うわぁ!凄いよリツカ!魔法に、スキルも二つある!」

「超長文詠唱魔法にスキル二つ、これは…すごいね。召喚術と調教師(テイマー)の合せ技なのかな?霊的対象っていうのがすごい気になるけど……」

 

 二人はすごいすごいと持て囃すけど、俺はこれを見て平静を保っていられなかった。

 

「リツカ君?」

「あ、うん。ありがとうございました」

「いやあ、分かるよ?すぐに試したいんだろう?でもこれだけ長い詠唱の魔法となれば街中で試すわけにはいかないからね。ダンジョンに行ったときにしてくれよ?」

 

 ヘスティアの忠告も心臓の早鐘には敵わない。俺の心は歓喜に打ち震えていた。この見た目で、この魔法とスキル!これはもうあれしかないだろう!

 今すぐにでも試したい。体が疼いて生唾を飲み込むが、何とか理性で押し留める。もしここで使用してお叱りでも食らったらこの魔法を禁止されてしまうかもしれない。

 

 一刻も早くと逸る気持ちと共にベルと一緒にダンジョンに駆け込んで、ギルド職員に止められたのは迂闊と言わざるを得なかった。

 

 そして、ダンジョン。ギルドからの支給品を受け取ってすぐにこの迷宮にやってきた。早速詠唱をしようと右手を突き出して左手を軸に添える。

 

「あれ、まだモンスターはいないよ?」

「いやいや、目の前で詠唱する時間はないと思うよ。それに普通の魔法ならともかくこれは召喚なんだから、敵と会う前でいいんだよ。多分」

 

 そういうものかー。とベルが納得した辺りでいよいよ俺は魔力を巡らせる。初心者魔法使いにありがちだというゆっくりとした詠唱やメモ書きなんて必要ない。自慢じゃないけど詠唱は完璧に暗記しているのだ。

 もう一度、大きくつばを呑み込んで言霊を紡ぐ。

 

「【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ】

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。 繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する】」

 

 魔力を乗せて言葉を発し、やがて足元から青い見慣れた魔法陣が輝き始める。吹き荒れる魔力の奔流にベル同様に顔を輝かせる。

 

「【セット】

【告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ】

【誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者】」

 

 間違いなく、気分は最高潮に達している。そして、この溢れる万感の思いを込めて最後の一節を口走る。

 

「――【汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ】―――!」

 

 渾身の達成感。魔法陣から溢れる光は一層増し視界を覆うほどに眩くなる。そして――。

 

『――問おう。貴方が私のマスターか』

 

 ()()()B()G()M()()()()怜悧な声が耳朶を打つ。ん?と違和感を覚えたのも束の間、ようやく目を開いてみれば、月光の下に佇む少女騎士と茶色の制服を着た赤髪の青年が顔を見合わせている。

 目まぐるしく事態は急変し、青い槍使いの男と少女は激しい剣戟を繰り広げ…。

 

「えぇ…?」

 

 心底から、本当に心底から漏れ出たような吐息を残して、俺は両膝とともに崩れ落ちたのだった。

 

 だって!だって普通思うじゃん!この見た目で!あの魔法!しかもFateの召喚とか紛らわしい説明つきだったじゃん!

 

―――映像を召喚するなんて誰が思うかあぁぁぁ―――ッ!??

 

 

 

◆◆◆

 

 

 あれから消し方も分からずにUBWの鑑賞タイムに浸っていると、3話目が終了した辺りで俺の意識は千々に散らばり、ブラックアウトしたかと思えば、いつの間にか拠点のベッドで横になっていた。

 

 どうやらぶっ続けの魔法行使で精神疲弊(マインドダウン)を引き起こしてしまったらしい。昼過ぎに潜ったのに、起きたのは既に日が沈んでしまった後だ。

 現時点俺の魔力では精々が2時間が限界らしいけど、使っていけばアビリティも増えていくだろうから追々に期待する。

 

 召喚は思っていたものとは違ったけど、聖晶石召喚という希望がある。あのときはこの魔法のインパクトが強すぎてよく見ていなかったが、聖晶石を使うことでまた効果が変わるらしい。

 そこで、スキルである【待て、しかして課金せよ(アトンドリ・ファクチュレーション)】を使おうとしたんだけど…聖晶石一個で12000ヴァリス必要であることが発覚した。石の値段が100倍になっていたのだ。当然零細ファミリアの俺たちにはそう気軽に使える値段じゃない。

 

 結局、俺が期待していたものだとは言えなかったが、収穫がなかった訳じゃない。

 

「リツカ、あれの続きってあるの?」

「ああうん。まだまだあるけど見る?」

「見る!」

 

 この通り、ベルが嵌った。この世界の作品といえば総じて小説か絵本に限っており、ゲームやアニメはおろか、漫画も存在しない。その中でのUBW(アレ)は相当に刺激的なものだったらしい。元々英雄譚とかが好きなベルにはよく効いた。

 内容に関しては俺が考えた話だとごり押ししたけど、これならもう無理だと思っていたFate作品についての話も出来るし……いや、もういっそのこと、商売にしたらどうだろう。

 

 この世界の神々は常に娯楽に飢えているし、現代ほど競合相手がいないから……。十分に稼げるかもしれない。

 

「……ということでどうでしょうヘスティア様」

「うん、ボクはその…アニメ?というのを観ていないからわからないけど、聞いた限りじゃとても面白そうじゃないか。それに君がやりたいことならボクも協力するぜ!」

「はい! 僕も賛成です! 絶対人気になりますよ!」

 

 どうやら二人共に乗り気の様だ。そう、ここまではいい。だけどそこから先は現実的な問題がたちはばかる。

 

「映すのは君の魔法でいいとして、場所はどこにするつもりだい? 色んな人に見てもらいたいなら目につくところがいいと思うけど、人の往来があるところだと邪魔になるだろう?」

「そこなんですけど、バベルに映すのは大丈夫ですかね? 色んな場所からたくさんの人も見られるので注目度合いはすごいと思いますけど…」

 

 予め考えていた案を口に出すと、一瞬納得したように顔を輝かせるが、同時にうーんと頭を捻る。

 

「確かにあそこならみんなが見れるだろうけど、一応ギルドが管理してる場所だからね。勝手にやるのは勿論駄目だし、使用料とか以外にも他のファミリアが営業妨害だーって訴えてくるかも…」

 

 そう、あの摩天楼施設はギルドの所有物の一つであり、同時にその内部には複数の商業系ファミリアがテナントを持っている。大手鍛冶ファミリアの【ヘファイストス・ファミリア】なんかがそのいい例だろう。当然、店先で派手で目を引くようなことをしてしまえば客が流れていってしまうので溜まったものでは無いはずだ。

 

「はい、ですので流す映像にはそのファミリアの商品を宣伝するコマーシャルを挟みます。スポンサーってやつですね」

「ははあ、それなら大丈夫なのかな…? それで、見るだけだと商売にはならないけどそこも考えてあるのかな?」

「もういっそのこと誰でも見れるようにして、グッズや広告料をメインの収入にすればいいです。グッズが広まるなら、それに応じて増やしていけばいいし人が多いようなら優先権とか見逃したものを有料で売れば多分大丈夫でしょう。本当に見るだけならタダですので、不満は出ません」

「おお、それはいい! それじゃ、交渉とかも何か策があるのかい?」

「………頑張ります!」

「ああ、うん。ないんだ…」

 

 流石に、そればっかりは魔法のようにはいかない。いかなる時だって最終的には人が行わなければいけないのが商業なのだから。

 

「ということで、俺は明日から交渉に行ってくるのでそれまでの資金繰りを頼もうかなー…なんて」

 

 情けないことだが、資金に関しては本当にないのでベル頼りになってしまう。俺も足しになれるように頑張るけど、メインはベルだ。

 

「はい! 頑張ります!」

「ボクもバイトで少しは力になるよ」 

「本当にありがとうございます」

 

 何だ彼ら聖人か?そう思うほどにあっさりと引き受けてくれた。明日、何としても許可をもぎ取ってやろう。

 

「ふふふ、ここからだ…!この世界のFateを始めるぞ…!」

 

 そう、月夜に燃える誓いを立てて、今日の収入が0だったことに気づいてしょんぼりと寝床に収まるのだった。



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闇鍋と交渉って意味合い的には近い部類じゃない?違う?そっか…

続いた。
大雑把な説明と大雑把な内容です。あと凄い文字数稼ぎが途中に紛れてるよ。探してみてね


 

「ふあぁ…さて、今日は色々と走り回るから色々と宣伝文句を考えとこうかな」

 

 いつもの習慣から、朝早くに目が覚めた。どうやらベルやヘスティアはまだ寝ているらしく、起こさないようにと地下室を抜け出し、廃れた教会の壇上に立ち言峰ごっこを楽しんだ後に、今日のログインボーナスを確認する。

 

「おおっ…!?」

 

 スキルの影響か、脳裏に浮かんだ文字列は聖晶石×30。まさかログインボーナスでそんなにも貰えるなんて…。と慄いていたが、これが初回召喚分だと考えれば納得だ。俺のスキルもどうやらそこまで鬼じゃないらしい。

 そうと決まれば、早速召喚だ。…そういえば、10回召喚って出来るのだろうか。

 

「【抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ】!」

 

 先日見た青の魔法陣が輝きを帯びる。違うのは、昨日にはなかった光の輪が周囲を循環しているということ。詠唱の終了と共に収束した光はバチバチと魔力の荒波を立て、一枚のカードとして手元に出現する。

 

『ライオンのぬいぐるみ』

 

 そッッ……そうきたかァ〜〜ッッッ

 何というかこう、ネタだとしても麻婆とかワカメ辺りだと思ってたのに、これが来られると正直反応に困る。星3だけどセイバールートでの思い出のものだから、という理由で限界突破させたこれが保管庫に溜まっているのだ。

 そして、30個纏めて置いていた聖晶石(金平糖)が3つ消えていた。10回召喚はないらしい。

 

「【――来たれ、天秤の守り手よ】!」「―――守り手よ】!」「――――手よ】!」「―――――よ】!」「――――――!」

 

 都合10回。俺は何処かに存在しているだろう幸運の女神に祈りながら魔法を発動した(ガチャを回した)

 結果。『ライオンのぬいぐるみ』『繁栄』『飢餓』『破壊』『魔術鉱石』『頑強』『連鎖』『闘争』『同調』『アゾット剣』だった。

 

 ええ……?嘘ぉ…?星4礼装どころかサーヴァントもいない、星1概念礼装も出てる…?もはやストーリーガチャ(闇鍋)より闇鍋だ。あとなんか地味に今はもう見れないのも混ざってる。懐かしっ。

 しかし…。

 

「どうやって使うんだ…?」

 

 魔力を消費して現れたのがただの紙切れなんてのはちょっと酷すぎる気もするけど、ありえなくはない。

 英霊の召喚や礼装を使うシーンは知ってても、概念礼装をつけるのなんて裏話にすら載ってないぞ…?

 「Anfang(セット)!」「投影、開始(トレースオン)!」「理導/開通(シュトラセ/ゲーエン)!」「Fervor,mei Sanguis(沸き立て、我が血潮)

Go away the shadow.影は消えよ、It is impossible to touch the thing which are not visible.己が不視の手段をもって。Forget the darkness.闇ならば忘却せよ、It is impossible to see the thing which are not touched.己が不触の常識にたちかえれ。The question is prohibited. The answer is simple. 問うことはあたわじ。我が解答は明白なり!I have the flame in the left hand.この手には光。And I have everything in the right handこの手こそが全てと知れ。――――――」

I am the order.There fore.(我を存かすは万物の理。)you will be defeated securely―――――!(すべての前に汝、敗北は必定なり………!)

 

 なんにも起こらない。衛宮士郎や遠坂凛などのメジャーな起動式。果てには何かに使えるかもと暗記していた赤ザコの詠唱を唱えても、事象どころか魔力の流れる感覚も訪れない。

 悪い予感が当たってしまったかと、その束を放り投げてorzの態勢になっていると、舞い降りてきた一枚が背中に触れ、()()()()()()()()()()()

 

「…?」

 

 今の不可解な挙動に疑問を覚え、もう一度近づけると、カードだけが背中から跳ね飛ばされる。他の部位に近づけても、そんな挙動はしない。

 

「もしかして……」

 

 服をまくり、背中の恩恵(ファルナ)に押し当てると、じわっ…と背中のファルナが微かな熱を帯び、そっと手を離すと吸い込まれていく。

 ただ、それだけ。何か力が強くなったような、実感できるほどの感覚は無い。しかし、何かが違う。そう思わざるを得なかった。取り外すときは、背に触れその礼装を取り出そうと強く思えば背中から排出された。

 その時点で、俺の中の仮説は立ちあがっていた。

 

「おーい!ヘスティア様ー!ベルー!」

 

 その核心を得るために、二人を叩き起こす。

 

「ふああ…。何だい朝っぱらから…?」

「おふぁようリツカ…」

 

 寝ぼけ眼の二人に有無を言わせず、即座にベルの背中の恩恵に『連鎖』を叩き込む。予想通り、恩恵の神聖文字が輝きを帯び、その概念礼装を身体に飲み込んでいく。

 

「ええっ!? 何、何をするんだい立香くんっ!?」

「な、なんですか神様!? これ何が起こってるんですかあっ!?」

「ヘスティア様っ!ベルのステイタス、どうなってます!?」

 

 戸惑うヘスティアへ促し、ステイタスの確認に急がせると、それを目にした瞬間に目が点になってぷるぷると指先を震えさせ始めた。

 

「んなっ、んなっ…! なんだいこれはぁ――っ!?」

「だから何が起こってるんですか神様―――!?」

 

 ベル・クラネル

 Lv.1

 

 力:I2(+100)

 耐久:I0

 器用:I3

 敏捷:I7

 魔力:I0(+100)

 

《+概念礼装》

【連鎖】

・1/10限界突破1/4

・攻撃時総威力にアビリティ30の補正

 

《魔法》

【】

《スキル》

【】

 

「アビリティに+が…?それに見たことない欄も出来ている。……《概念礼装》?」

 

 これは何だと詰め寄るヘスティア様に、その詳細を伝える。概念礼装を背中の恩恵に装着させることで、その効果を得られるのだと。

 最初、ヘスティアはポカンと大口を開けて黙りこくってしまったが、正気を取り戻してからはその礼装の事は黙っておくようにと厳命された。ハイ、(出来るだけ)ガンバリマス。

 

 当事者のベルは背中の恩恵の異常に気づけないので蚊帳の外だ。伝えたらかなり喜んで感謝の声を告げてくれた。やっぱヘスティア様に足りないのはこういうところだよ。人間素直が一番。

 礼装の補助もあり、強化された力で沢山お金を稼いできてくれると非常に嬉しい。

 

 残念なことに、これは神の恩恵を授かった者にしか効果がないようで、ヘスティア様のバイトを助ける効果はなかった。

 出かけた二人を見送り、まず向かうのはギルド本部。いきなり本契約をするわけではない。いわゆるお話だけでも…という段階だ。

 話の概要だけを取り敢えず把握してもらい、この件は可能なのか、またそれにはどれだけの条件が必要なのかということを知る。

 お金の話は二の次だ。

 

「……ということをやりたくて、バベルの塔の使用許可とかって大丈夫ですか?」

「うーん、面白そうだけど…私の一存じゃちょっと決められないかなー?もう少し偉い人…あ、班長ー!少しお話があって…」

 

 俺の担当アドバイザーとなったミィシャ・フロットに相談すれば、頭ごなしに否定はされず好意的に取ってもらえた。「応援してるよー」と手を振られ、対応は班長と呼ばれた犬人(シアンスロープ)に変わる。

 

「それで、要件はバベルを借り受けたいという話だったが、店を開くのか?それとも一時的にスペースを借りるだけでいいのか?」

「いえ、俺が借りたいのはバベルの塔の外壁です」

「壁だと?変な細工なんかはやめろよ?」

 

 壁だと伝えると、一気に懐疑的な目でこちらを注意深く見つめてくる。ミィシャさんめ、触りしか伝えてないな…!

 

「えっと…、『ステイタス』の話になるので個室の方に…」

 

 促すと、流石はベテランというべきか飲み込みが早い。すぐに瞑目して個室まで案内してくれる。

 

「まず、何も言わずにこれを見てください。…あっ、危ないとかそう言うのではないので安心して下さい」

「?」

 

 

―――…

 

 

「…こういったものを流そうと思っていて「よしっ! ちょっと上に掛け合って見る! ギルドとしては不利益もないから十分に通ると思うが…。ああいや、大丈夫だ!何とか話を通して見せるぞ!」…は、はい。ありがとうございます…」

 

 予想通り、いや予想を遥かに超えて食いついた。その興奮度合いは彼の犬耳が如実に表しており、一線を引く常の態度からは想像もできないほど前のめりにこちらにまくしたてる。

 

 ここまで上手くいくとは思っていなかったが、思い返せばこの世界の人々は神々のちょっとアレな二つ名にも興奮していたなー…と。

 

 俺がそんな目で見ていたことに気がついたのか、オホンと頬を朱に染めて咳を一つ。

 

「えーと、バベルの使用料だったな? 塔の外側ならば内側と違ってそう料金もかからんだろう。居を構えるのでなく一時的な借受ならば時間の問題もあるが、予めこっち(ギルド)に報告してくれればいいしな。問題は営業妨害にならないかだが…そこは考えているんだろ?」

「ええ、ばっちり!この後回る予定です!」

 

 むん!気合を込めて元気よく返せば、班長さん(レーメルというらしい)は笑顔で見送ってくれた。いつ死ぬか分からない冒険者には情を移さないほうがいい。と言ってたような気もするけど、こういう産業的な活動ならば大歓迎なのかな。

 

「えーと…バベルにテナントを構えるファミリアの拠点は…」

 

 ミィシャさんから貰った派閥の拠点の場所が書かれた地図を持ち、この広いオラリオの街を一目散に駆け出した。

 

 

「どうでしょうか…!?」

「オッケー!そんな面白そうなの直談判しにくるなんていいぜ!気に入った!…その代わり何かサービス頂戴ね!」

 

 

「ああ、ウチの主神にも聞いたけどそのくらいならいいってさ。宣伝もしてくれるんなら願ったり叶ったりだ。言っちゃなんだけどウチはテナントをだしたはいいけどイマイチ目立たない場所にあってだな―――」

「あ、はい。ありがとうございます!」

 

 

「許可をお願いします…!」

「いいよいいよ!何よりそんな面白そうなのなら私が見てみたい!期待してるから頑張りな!」

 

 

 

「みんないい人だったなぁ…」

 

 俺の気苦労はなんだったのか、それぞれの派閥の団長達は快く受け入れてくれた。多少渋ってもそれは俺のやることが理解できなかったからで、神様も交えて魔法を使うと是非ともということで話が進んだ。

 デメテル様やヘファイストス様、ミアハ様しかり、客商売をする神様は善神が多いんだろうか。……というより、降りてきた神達は所謂娯楽としてやってきたのも多いから、外界でも堅実に商業を営もうとする時点で相当な趣味神か真面目なのか。

 

 諸手を挙げて、とまではいかなくとも賛同は得られた。後はこの世界用に分かりやすく纏めたり、英雄のことについて調べなければ…。取り敢えず、王道のstay nightを最初に流そうか。あれみたら大体の基礎は掴めるからね。……裏話とかそういう専門の本を作ってもいいかもしれない。

 

 まあとにかく、ベル達にいい報告が出来そうだ。

 …にしても、やっぱりオラリオは広い。建物が入り組んでいるのもあるけど、モンスターがいる世界のどこの国にも属していない都市としては異端というべき広大さだ。

 

 ファミリア同士が離れていたときなんかは本当に迷いかけた。気がつけばもう夕暮れ。最後に訪れた魔石製品を取り扱うファミリアは北東にあり、横道から主街道へ行けば【ヘスティア・ファミリア】ホームのある北東区域に着く。

 それを再び地図で確認し、疲れた体に活を入れ走り始める。

 いくら恩恵を貰っていても長時間の活動は疲れるし、緊張感もある。更に説明のために何度も魔法を使ったからか、ちょっとだけふらついている。

 

(もうホームに戻ってゆっくり休もう。話し合いとか計画はその後だ)

 

 うんそうしよう。脇道をふらふらと歩いていくと、不思議な場所が見えた。それは倒壊したような瓦礫のあと。うちの拠点みたいに寂れた工場か何からしい、色々と奥まったところにあり、それまでの道も細い割には瓦礫の量が多い。

 生い茂った蔦や頑丈そうな石レンガなどが砂埃を被り、放置された生活の営みの痕跡を覗かせる。そして、その入口らしき場所の前には、小さな瓶に入れられたまま何年も経過したような枯れた花。

 何かこの工場が潰れるような事故があって、ここで亡くなった方の供養かな。

 

(こういう場所もあるんだ……)

 

 何故だかしんみりした気持ちになり、不思議と顔をそちらに向けたまま歩く。すると、視界の端に人影が映り込みあと少しでぶつかるという瞬間だった。

 

「あ、すみません…」

 

 ぺこりと会釈し、通り過ぎようとした瞬間に、その人物はがばりとこちらに向き直る。外見は俺と同年代か少し年下くらいの少女で、青が目立つその人物は俺の肩を万力かと見紛うほどの力で握りしめる。

 そのあまりの必死さに何か悪いことをしたかと思案した時、眼前の人物は口を開いた。

 

「ねえっ…、君っ、私が見えるの……!?」

 

 ……へ?





ぐだ男の魔法の詠唱の有無は放っといても流れるか否かです。
詠唱ありなら魔力の続く限り意図的に消すまでは何時まででも流れ、詠唱無しだと込めた魔力に応じた時間流れます。


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きっとこれもFateになる

遅れた…だと…?まだアニメ要素ないとかいうタイトル詐欺具合が酷い


 

 

「…というわけで、こちら幽霊のアーディです」

「初めまして、幽霊のアーディでーす!」

「「何で???」」

 

 時は少し前まで遡る

 

 

―――…

 

 

「ねえっ…、君っ、私が見えるの……!?」

「……へ?」

 

 突如掴みかかってきた少女は、必死さを隠さない様相で問いかける。正直に言って痛いし怖かったけど、それ以上にはぐらかしてはいけないと思った。

 俺より透明度の高い青目を見つめ返し、しっかり見えてますと返す。

 

「うっ…ひぐっ…や、やっとっ…、やっと…!」

「う、うわわ!?」

 

 突然崩れ落ち、涙を流す彼女に、俺は気の利いた言葉を投げかけることは出来なかった。これが本物の「藤丸立香」なら、きっとそれも上手く答えてあげられるのだろうか。

 ぼろぼろと大粒の涙を零す彼女が落ち着くのを待ち、その話を聞き出す。何で泣いたのかとか、最初の質問の意味とかを。

 

「…ごめんね。久しぶりにまともに人と話せたから、嬉しくて」

「大丈夫。ちょっと驚いたけど、気にしてない。えーと、それで、あなたは…?」

 

 俺が問うと、涙を拭った少女は己の名を名乗る。

 

「私はアーディ・ヴァルマ。【ガネーシャ・ファミリア】所属の…ううん、元所属のLv.3冒険者。…聞いたこと、無い?」

「………ごめんなさい!」

 

 【ガネーシャ・ファミリア】は知ってるけど、アーディという名前には聞き覚えがない。ので素直に謝る。すると彼女は、アーディは目を丸くして否定する。

 

「ううん大丈夫。Lv.3だし、もうだいぶ経っちゃってるからね」

「だいぶ経っちゃってる…?」

 

 どういうことだろう。気になって返せば、ぽつりと言葉をこぼし始めた。

 

「私ね、死んでるの」

「ふんふん」

「………」

 

 睨まれた。

 

「冗談とかじゃないよ。本当に死んでるんだよ」

「ふんふん」

「……やっぱり信じられない?」

「いや、どっちかっていうと驚いてる」

 

 結構前の記憶だけど、この世界では死んだ魂は天界に昇って転生するって話だったけど……神ですら予測できない異常事態が起こることもあるんだから、これもその一つなのかもしれない。

 

 ふらっと、彼女は歩きだして瓦礫に手を添える。俺の目の前で、アーディの手が瓦礫を透過する。見えるのは、アーディの腕が瓦礫を貫通して動く様。手を引き抜いても、瓦礫には穴が空いているどころか欠片も動きはしない。

 

「…これで信じてくれた?」

「最初から信じてたけど…?」

 

 更に深まる沈黙。またも、ぽつりとアーディが喋る。

 

「大抗争って分かる?」

「…わからないです」

「……そのくらい時間が経ってるのかな。まあいいや、その時に私は闇派閥(イヴィルス)との戦いで死んじゃったんだ。小さな子供を唆して自爆を…ううん、こんなの聞かせるものじゃないね。ごめん」

 

 告げるアーディはたはは…と自嘲するような笑みを浮かべ、続ける。

 

「次に目が覚めた時には、ここはもう崩れてて、その時の仲間がいたから声をかけたんだ。きっと、治療を受けたから無事なんだって思ってたけど、違った。声をかけても、目の前で手を振っても、誰も、何も反応しない。あそこの花、見えるでしょ? 私の名前を呼びながら花を供えるから、冗談にしてもたちが悪いって、背中を叩こうとしたんだけど……!」

 

 辛そうに、胸のうちから溢れる弱音に言葉が詰まる。

 

「うん、その時にね。やっと死んじゃったんだって気づいたんだ。死後は神様が魂を管理してくれるって聞いてたけど、それなら何で私はここに居るんだろうとか考えながらさ」

「…それで」

「幽霊なんだって分かって、せめて街の様子だけでも見たかった。私が守りたかった平和は、正義は、みんなはどうなったのか気になって、ここから出ようとした」

 

 少し歩き、この工場の敷地を超えるか超えないかの所で立ち止まり、パントマイムのように空気に手を押し当てる。

 

「――私、ここから出れないみたいなんだ」

「っ…!」

 

 悲しげな瞳で無理くりに笑った彼女。何か言葉を絞り出そうと、脳を回転させる間も言葉は紡がれる。

 

「まだ私の死体がここの地下にあるからなのかはわからないけど、目が覚めてからはずっとここにいた。廃墟になったこんな場所には全然人は来ないし、たまに通りがかる人はいても、誰も私を見れないし、触れない。ずっと、ずっとそうしてる間に……」  

「…俺が来た?」

「そう。本当に嬉しかったんだよ? だって、もうどれくらいたったかわからないけど、勝手に期待して悲しんで。生きてもないから死ぬこともない。そうやって全部諦めた後に君が反応するんだから」

 

 それは、どれほど辛かったことだろう。かつての知己にも認識されず、この廃墟に一人孤独に、何もせず過ごすことは相当に心を蝕んだだろう。

 

「アーディさん…」

「アーディでいいよ。多分、君のほうが歳上でしょ。私は15歳で死んでるから」

 

 瞳が、揺れる。15歳。分かってはいたけど、若すぎる。俺のかつての故郷では、まだ親の庇護下で平和に暮らしているくらいの歳だ。

 

「…そういえば、名前聞いてなかったね」

「…俺は立香。フジマル・立香」

「そっか。リツカって言うんだ。じゃあ、そろそろお別れの時間かな。もう暗いし、あの感じだと急いでたんでしょ? 話を聞いてくれてありがとう。……良かったら、偶にでいいからこうして話をして欲しいな」

「嫌だ」

 

 即答。湿っぽい雰囲気になりかけていた空気をぶち壊す。流石に予想外だったのか、目を大きく見開くアーディ。

 

「えぇ…そこ断る?」

 

 隠しきれないショックを受け、全体で悲しみを表現する。

 

「うん。俺は来ないよ。君が、来るんだ」

 

 我ながら、寒いことを行っているのは分かる。多分前世ならなろう主人公とか、イキリ鯖太郎とか言われるだろう。というか、多分この世界の神も似たような価値観をしてるから冷やかしてくるかもしれない。

 でも、こんなセリフでも何とか意思を伝えたくて。

 

「だから、無理なんだって。私はここから出られないの!触れるのだってリツカが初めてだし…」

 

 そう言って憚らないアーディを無視し、俺は一か八かである呪文を唱える。

 

「―――告げる!汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に! 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――」

 

 酷い受け売りだ。俺が考えた言葉でもなければ、魔法でもない詠唱。はたまた、本当にそんなことが可能なのかと俺自身すら疑ってる。

 

「―――我に従え! ならばこの命運、汝が剣に預けよう……!」

 

 右手の令呪を前へ掲げる。突き出した掌の赤い紋様は、微かな光を内包する。何かが繋がった。不思議とスイッチが切り替わった様な感覚に支配される。

 あとは、相手の同意だけだ。この奔流に、アーディは小首を傾げる。それはそうだ。サーヴァントの契約なんて、知ってるはずもない。

 

「これは…?」

 

 青い魔力の粒子がまき散らされ、末端の感覚が鋭敏化する。神の恩恵を貰った背中から、指の一本一本にまで電流のように何かが満たされていく。

 未だ一歩を踏み出せない少女に、最後のひと押しを呼び掛ける。

 

「アーディ。―――――手を!」

 

 恐る恐る、手を差し出すアーディの手を待つ。幾度かの逡巡。その目の混濁は未だ覚めず。それでも、迷いを振り切るように、勢いよく手を握り返した。

 

「ッ……!」

 

 繋がった。体中を巡っていた魔力の束が、見えない経路を通じてアーディへと収束する。

 令呪は痛いほどに熱く輝く。鋭い痛みが全身を駆け巡っても、その手は離さない。どころか、より深く握り込み思いっきりこちらに手繰り寄せる。

 急に引かれた体はその力に抗えず、慣性に乗った()()の体は、見えない檻を容易くすり抜けた。

 

 

―――…

 

 

「…と、こんな感じです」

「そ、そんなことが…」

「嘘だろ…!? 下界の法則は何処行ったんだい!?」

 

 ベルはその話に感情移入したのかうるうると声を震わせ、これまた違う理由でヘスティア様も絶句する。

 身の上話とは違うが、そんな紹介を済ませる。

 

「その子、ガネーシャのとこの子なんだろう?いいのかい?ここにいて」

「死人が急に現れるのもおかしいですし、本人もあまりよく思っていないので」

 

 ヘスティアが()として当然のことを問うが、どうやら通常のサーヴァントの様に離れすぎると魔力の経路が細くなってしまうらしい。一度行けるところまで行ってもらったが、ある程度を超えると感覚的に駄目だと分かるらしい。

 

「まあ、死人が蘇ったなんて聞けば、誰もがその真相を知りたがっちゃうよね」

 

 まして、相手は有名な【ガネーシャ・ファミリア】。零細の何処とも知れぬ誰かであるならともかく、派閥の規模と活動内容から彼女の姿が不特定多数に知られている可能性は高いだろう。

 

「俺が契約したから、責任は俺が取ります。だから、どうかアーディをここに置いてやってください!」

 

 勢いよく頭を下げる立香にヘスティアはやれやれと頭を振り、顔を挙げさせる。

 

「やれやれ、立香君は僕がそんな薄情な神に見えているのかい?」

「じゃ、じゃあっ!?」

「当然、いいに決まってる。確かに前例は無いけど、悪いことをしてるわけでもないんだ。ドーンと構えていればいいんだよ。それに、そんな異常事態に陥ってる子を助けるのも神としての努めさ」

 

 だから、君も安心すればいい。

 

 そう告げるヘスティア様の慈愛に満ちた笑みは正しく救済の女神のようで―――

 

「ヘスティア様が初めて女神に見える…」

「そうだろうそうだ……ん? 今まで女神だと思ってなかったってことだよねそれ!?」

「いやぁ…はは」

「はぐらかすなぁー!!」

 

 ヘスティアが噴火し、平謝りを繰り返す。そんな光景を見て、アーディはいつかの光景を思い出し笑い、ベルはどちらにつけばいいのか分からずに慌てていた。

 

 

 

「さて、それじゃあ落ち着いてきたところで本題に入ろうか」

「私本題じゃなかったの!?」

 

 何故かアーディがショックを受けているけど、それは偶発的なものなので予定になんかカウントされていない。

 

「ギルド職員…班長からはいい返事を貰えたし、上にも掛け合ってくれるらしい。バベルの方も条件付きだったりはするけど承諾してくれた」

「こんなに認めてくれたんだ…。条件っていうのは?」

 

 俺がリストアップした契約書の束を見て、感嘆の息を漏らすベルが問う。

 

「それは見るのに適した場所の確保とか、サービスとかだけど、これも人気が出てきたら色々とあるだろうしその時にするのがいいかな」

「絶対人気出るからそこは気にしなくてもよさそうだけどね…」

 

 中々嬉しいことを言ってくれるな…。

 

「えーと、まだ詳しい使用料とかは明日聞くけど、二人共どうだった?」

「僕の方は…2200ヴァリスですね。一応、力が強くなってることとか、攻撃したときに威力が増してるのは何となく分かったよ。魔石の回収とかに慣れたらもう少し行けるかも」

「ボクは…はい。240ヴァリス」

 

 ベルの好調な滑り出しに対して、ヘスティアのバイト額は少なかった。これも全て時給30ヴァリスのじゃが丸くんの屋台が悪いのだ。

 そしてそれを理解しているから、二人は気を遣って何も言わずに話を進めていく。いっそのこといじられたほうが気が楽だったもしれない。

 

「流石に明日すぐに映すってわけじゃないけど、お金はあったほうがいいからね」

「はいはーい。質問いい? さっきから使用料とか映すって言ってるけど、それってどういうこと?」

 

 そうだった。アーディにはなんの説明もしてなかった。確かにそれじゃあ蚊帳の外だろう。

 一旦ベル達との話を遮り、今日だけで何度も説明してしまって慣れた口調で話す。案の定というか、目を輝かせて食いついた。

 曰く、「私そういうの好き!」とのこと。

 

「えーと、どこまで言ったかな…? お金はまた明日頑張るとして…。あった、これこれ」

 

 部屋の隅に置いていた荷物から、異国情緒溢れるカバーやかなり古そうな装丁の本の群れを引っ張り出す。

 

「それは…?」

 

 取り出した本の数々。タイトルは『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』や『アルゴノゥト』を始めとした、各地の太古の伝説や人物などを記した本達。アニメを作ると決めてから無理言って近くの古本屋で譲ってもらった品々だ。

 ベルやヘスティア達は首を揃って傾げる。唯一アーディは一冊の本を指して「アルゴノゥトだ。すごい懐かしいなぁ…死んでからは何も無かったし」とつぶやいた。

 

「ベルは一度見たことあると思うけど、あれってどういう話か分かった?」

「いや、うーん…。確かに面白かったけど、どういう話かは実はあんまり…。説明もあったけど興奮しすぎてて覚えてないかも…」

 

 自信なさげに頬を掻くベルは恥ずかしそうに口をすぼませるが、それはまあ当然だ。いきなり異世界のアニメを見せられて理解するのは困難だろう。

 

「あれは古代の英雄や、お伽噺の人物の話。つまりは英雄譚なんだよ」

「古代の…。あれ、でもそれにしてはすごい街とかがしっかりしてましたけど。ストーブとかもあったし…」

 

 流石、目の付け所がいい。

 

「だから、古代の英雄達の時代じゃないんだ。もっと先の、今よりも未来の話。7人の魔術師が古代の英雄の幽霊みたいなものを召喚して、勝ち残ったペアがどんな願いでも叶えられる『聖杯』を手にすることが出来る……。

 召喚した人はマスターとして、英雄は別々のクラスで呼び出されて、それぞれの思惑が渦巻く中、最後の一騎になるまで争うんだ。……ちょっと簡略化しすぎたけど大体はこんな感じで進めていくつもり。いわば、時と場所を超えた英雄同士の夢の戦いを見ることが出来るんだよ」

 

 我ながらあまり口は達者じゃないけど、真剣に聞いてくれる彼らに真摯に向き合う。

 

「おおおおぉぉぉぉ! 凄い! 僕も英雄の強さ比べとかを勝手にやってたことはあるけど、それをあんなすごいのでやるんだね!?」

「うん。この話に合う英雄を探すためにもこれを貰ってきたんだよ。どういう武器を持ってて、どういうことをしたか、とかの逸話を調べて再現するんだ!」

 

 俺が言えば、ベルは我先にとその一つに齧りついた。そしてぱらぱらと慣れた手付きで捲っていくとあるページを開いて語りだす。

 

「この英雄なんてどうかな!? ずっと前の小人族なんだけど、すごく強くて破天荒な逸話があって…」

 

 半ば捲し立てるように告げるベルに苦笑を浮かべ、早速それを頭に叩き込む。

 メモや構想、考察なんかも交えて全員で議論すれば、使えそうなネタの数々が溢れ出してくる。アーディも交え、あれそれはこうだの、ここはどうだのと白熱し、この世界での設定は着実に固まっていったのだった。

 

 

 

 

 翌日、オラリオに激震が走った――。

 

 

 

 




次話でやっと欠片だけ出せるかも


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言峰のセリフってこう……背中にゾワゾワって期待と興奮が湧いてくるよね

日刊ランキング1位!?本題にも入ってないタイトル詐欺のパク……二番煎じ作品が!?
それだけ元ネタ様の人気があったってことですね。私も本家読みたいな〜。せや

拙作が人気になる→この作品の元ネタはどんな話なんだろう?→元ネタ様面白い!→体は闘争を求める→元ネタ様の人気が増す→元ネタ様の新作が出る。

完璧じゃないか……!


 

 燃えに燃えた議論も終結したその翌日。ギルドから許可を貰った立香は皆が起き朝食を終えた程度。つまりは人の往来が盛んになった時間帯に狙って詠唱を唱える。

 

「【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公―――」

 

 次の瞬間、バベルの側壁に巨大なモニターが現れた。

 

 当然人通りの多い道であり、ましてや目立つバベルだ。人々はその光景に戸惑いの声を上げていく。それは暇を持て余して散歩している神々も同様であった。

 

「な、なんだアレ!?」

「バベルになんか映ってるぞ!」

「神の鏡…!? いや、似てるけど違うな…」 

 

「…あれは、一体?」

 

「んー? なんや、あれ」

 

 どよめく状況の中、ギルド職員に詰め寄る者も現れるが、彼らは毅然として落ち着いた態度を変えずに対応する。とうとうその混乱がピークに達しようとした瞬間、デフォルメされた赤目の白兎がとてとてとやってきて杵で鐘を打ち鳴らして大火が生じる映像が浮かび上がる。

 

 

 そして、まだあどけなさの残る男の声と共に、数字が現れた。0から始まった数字はとてつもない速さでそのカウントを進め、2004の値で完全に停止する。

 

 

 

 

『かつてモンスターに脅かされていた時代を古代だとするのであれば、神々が降臨した後の時代を神話時代だと称する。それは神々の戯れであり、人類にとっても著しい成長の基礎となった。

 

 

 

 

―――しかし、いつの日にか神々は地上から姿を消した。かつての脅威は鳴りを潜め、正に人類の最盛期とも呼べる時代が訪れた。モンスターの脅威は辺境に追いやられ、人々の生活はより豊かに、より広大に発展していった』

 

 

 

 

 遠巻きに映される、摩天楼や人の営みの数々。人々は未知のそれに息を呑み、神々はその完成度に舌を巻く。魔石灯が並びたち、石畳の敷かれた公園が寂しくも佇み、またも場面は切り替わり広大な橋をくぐる。

 

 

 

 

『されど、神秘は失われた訳ではない。ごく限られた一部の勢力が神の恩恵に頼らない技術体系を身に着けた』

『それは魔術。存在すら秘匿された、魔法に似て異なるそれは世界に散らばっていた。そして、神の降臨から時を経て2000年余り。極東にて、とある大儀式が行われようとしていた』

 

 

 

 

 瞬間、場面は暗転して金色の杯が浮かぶ。

 この騒ぎに何事かと建物の中からも人が現れその光景を目にする。誰もがバベルを仰ぎ見、次の変化を見逃さないようにと注視する。変わって、低くハリのある声が続き、次々と男の声が切り替わっていく。

 

 

 

 

『聖杯とは、あらゆる願いを叶える願望機だ』

 

 

 

 

『過去の英雄を、サーヴァントとして召喚し、最後の一騎になるまで争う』

 

 

 

 

 光をまとう魔法陣は輝きを広げ、その上に形の異なる七つの駒が現れては、都度その数を減らしていく。

 

 

 

 

『そしてその勝者は、すべての願望を叶える権利が与えられる』

 

 

 

 

『あらゆる時代、あらゆる地域の英雄が現代に蘇り、覇を競い合う殺し合い』

 

 

 

 

『――それが聖杯戦争だ』

 

 

 

 

 ゾクリと、心臓に直接響くような声に思わず背筋を震わせ、言い表せぬ興奮がそれを捉えて離さない。

 

 

 場面はまたも移り変わる。

 どこかの建物。誰かの視点。砂塵舞う広場を見つめる。赤と青の影が砂埃を立てながら壮絶な死闘を繰り広げる。二刀使いは子供にしても小さすぎる槍兵の神速の突きを交差した双刃により受け止め、弾き飛ばし、一気呵成と裂帛の一息で踏み込み首を狩るが、跳ね上げられた勢いをそのまま地面に槍を突き立てその上で体を支える。落下を見誤った赤の戦士は咄嗟に片刃で強烈な薙を受け、背後へ飛ばされる。

 超高度な戦闘を経て尚、互いに無傷。態勢を戻した槍兵は腰だめに低く朱槍を構え異様な空気を醸し出した。場は緊迫し、相対する赤の男が警戒に入った瞬間。

 この視点の持ち主が、パキリと音を立てて枝を踏み割る。その人物の息が荒くなり、駆け出すと同時に、片割れの影が駆け出す。

 

 

 走る。走る。はあはあと息をつき、喉を枯らしながら何かの施設の中を走り回る。躍動感溢れる全力の逃走。

 

 あまりに緊迫した状況から、知れず誰かが息を呑む。

 

 角を曲がり、道を変え、なんとか振り切ろうと次の一角を超えた先に、目の前に男が現れた。いつの間に追いついたのか、待っていた様な余裕を見せる青い髪の小人族は、手に握る朱槍を無造作に突き出した。

 

『運が無かったな坊主。ま、見られたからには死んでくれや』

 

 視線が下がり、己の胸に深々と突き刺さる槍。崩れ落ちる視界。閉じかけの瞳は、立ち去る男の姿を捉え、暗転していった。

 

 完全に閉じた瞳。暗転した画面。思わずどうなったのかと声を失う中、闇夜に赤く美しい不可思議な紋様が浮かび上がり、その上から不思議な書体の文字が綴られる。

 

 

 

 

――Fate/staynight

 

 

 

 

『問おう、あなたが私の―――マスターか』

 

 

 

 

――それは、信念を貫く物語。

 

 

 

 

『来週月曜17:00から毎日一挙3話放送――【※この物語はフィクションです】

 

 ―――沈黙。

 普段は煩いほどの喧騒に覆われている中央通りはいっそ不気味なほどの静寂に包み込まれていた。

 

「「「「うおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!???」」」」

 

 雷声。

 喉が張り裂けんばかりの大絶叫を張り上げる聴衆達。その筆頭には暇を持て余した神々が興奮した面持ちで参加していた。

 一番大きな声を上げるのは神々だが、下界の民も負けてはいない。年齢、性別、種族を問わず、この未知の物語に、その心の深くからこみ上げる思いを乗せた。

 

「何だ今のは!? 放送って、物語としてあれをやるのかよ!?」

「いや、動く絵もヤバいって! 上級冒険者だってあんな動きは出来ねぇぞ!?なんでそんなのを書けるんだよ!」

「英雄って聞いたか!」

小人族(パルゥム)だったよな、 そんなのいたか?」

「分からん! オリジナルかもしれんが…それでも絶対これ面白いって!」

「設定も斬新だぞ! 俺たちが退去した未来で、過去の英雄と戦うって…!? 今まで考えもしなかったぞオイ!」

「フェイトなんちゃら…いつやるって言ってた!? 興奮しすぎて見てなかったぁ! 誰か教えてくれぇー!」

「バッカお前、月曜の5時からだ!」

「サンキュー! その日絶対空けるわ。元々予定ないけど」

 

 手当り次第、近くの者と語り合う神々の喧騒は止まず、熱気は人々の目を輝かせる。未知が、英雄が、物語が好きなのは神に限った話ではない。

 

「おお…! あんな話聞いたこともない!」

「俺、絶対観るぞ!」

「クソオオォォォ――! 俺その時間仕事だあぁっ!?」

「マジで鳥肌が立ってきた…!」

「ゾクゾクするよな」

「あれを創ったのは一体どこの誰なんだ…!? 神が創ったんじゃないよな…!?」

「一挙3話って、何で3話なんだ…?」

 

「あれは…、すごいですね」

「やっぱりリューも気になる!? 私見に行っちゃおうかな…?」

「いえ、気にならないと言えば嘘にはなりますが…その時間は店の仕事があるので、ミア母さんに叱られてしまう」

「もう! リューは固いんだから〜! ちょっと見てサッと帰れば仕事も間に合うって!」

「で、ですが…」

 

「おぉ〜っ!? みんなおらんから暇しとったけど、アレは期待出来そうやな。おもろかったら他の子も誘うかぁ」

 

「小人族で…英雄…? そんなものが、一体何になると言うのですか。 物語の英雄を見て舞い上がるなんて、さぞや随分と幸せな人生を送って来たのでしょうね…」

 

 それぞれの感動、それぞれの思いが渦巻き、オラリオの興味は今一心に注がれたのだった。

 

 

 そして、バベルの中からその反応を見守る影が二つ。

 立香とアーディだ。アーディは人目があるから全身をローブで深く覆い隠し、湧き立つ聴衆の興奮もあって正体がバレることもないだろう。

 俺の魔法で文明レベルや街並み、世界設定などのフレーバーをこの世界に馴染ませることが出来た。例えば電化製品を魔石製品に変えたり、種族を増やしたり、果てにはそもそもの英雄の姿を差し替えたり、などと色々と融通が効いたことにより、未来の姿としての違和感を少なくすることが出来た。

 そして、俺が流す予定なのはセイバールートだ。あのストーリーをそのままこちらに落とし込み、UBWやHFクラスの作画で流すことが可能だ。やはり王道を最初に持ってきた方が分かりやすいだろうとの考えだ。

 

「あ〜…緊張した…っていうかまだしてる」

「そう? いつも通りに見えるんだけど…」

「いやいや心臓バクバクしてるよ。どんだけ面白いって思っても他の人の評価は分からないからさ…」

 

 実際、このpvの時点で酷評なら相当心に来ただろう。まだ本編ですらないのにこれでは心臓がいくつあっても足りない。足りないのは蛮神の心臓だけで十分だ。

 

「でも今のところ好評そうだね。…っていうかすごい活気。本当に暗黒期は終わったんだ…」

「………。えっと、好評なのはいいんだけど…」

 

 ちらりと、外を覗いて狂乱の域に差し掛かっている神々を視界に捉える。

 

「あれだけ盛り上がってると逆に不安になってくるよ…」

 

 これには同感なのか顔を見合わせて苦笑い。荷が重い…。

 

「あ、ところでさ、聞きたかったことがあるんたけど。なんで3話ずつなの? 初めてのアニメ?なんだから普通に1話ずつとかでいいんじゃないの?」

「ああ、うん。初めてのアニメだから3話にしたんだよ。これはいっちゃなんだけど結構時間がかかるんだよ。最初予定してた一週間に1話っていうのでも良かったんだけど、アニメはこれしかないのに待つのは難しいでしょ? それでもって人は少なからずいるだろうけど、あれだけ興奮してる中でちまちまやってたら熱が冷めちゃうかも……。っていうのは建前でー!」

「建前言っちゃうんだ」

「実際は、利益も大切だけどこの作品を知ってほしいってのが一番かな。当然、この話だけじゃなくてFateシリーズはまだまだあるから、その下地作りも兼ねてるけどね」

 

 そう、具体的にはzeroやUBWなどだ。セイバールートは王道とはいえ、今はネットで知れ渡ったアーチャーの真名や、第四次聖杯戦争のことなど。作中では言及されない謎も残る。

 だから、無料公開するセイバールート視聴後の彼らに有料でそれらの購入を進める。そうすれば、利益も十分に見込めるはずだ。……大丈夫だよね?

 

「さて、取り敢えず朝の分は終わったし、どうしようかな…。見逃した人のためのカセットは実際の放送後にまた様子を見てって話だったからね」

 

 先日魔石製品関係のファミリアに出向いたときに作中に映っていたテレビに主神が食いついたのだ。テレビとしては放送する局がなければ意味はないが、映像を流す媒体としては使える。

 よって、見逃した人やもう一度見たい人が買えるように投射機を作ってもらっている。

 その条件として、投影機の権利や利益全てを明け渡す代わりに、それに対応したカセットの製作をタダでやってもらうことを契約した。

 つまり後はカセットに映像を吹き込めば、何処でも…は無理だけど個人で見直すことや他作品を見ることだってできるのだ。(因みにカセットの方の売上取り分は7:3で俺たちが7だ)音圧や画面のサイズなんかは本物と比べると見劣りするが、それでもという人は後をたたないことだろう。

 

「でも一つ問題があってね……」

「問題…?」

 

 そう、致命的な問題が残っているのだ。これを解決できなければ、放送する以前の話だ。

 憂いを瞳にため、こちらを見つめるアーディに対して俺は喉から声を絞り出す。

 

お金(ヴァリス)がっ……ありませんっ!」

「あぁ……」

 

 今のままではお金が足りないのだ。

 昨日班長と話したレンタル料金なのだが、一時間あたり5万ヴァリス必要なのだ。これに俺はヒュッ…と声を失ったし、ベル達も恐れおののいていた。何せ、こちとら一日の収入か2000と少しだったのだ。そこから生活費を抜き、ベルの装備の借金の返済も含めれば、後に残るのは雀の涙ほど。今から全力で貯めたところで、あと5日では一万にも満たないだろう。

 放送さえしてしまえば後の商品なんかで元は取れるのだろうが、そもそも放送するためにも金が必要だ。

 さらに、初日だけ放送できればいいという問題ではない。初回を見たものはその印象は刻まれるであろうし、今すぐに投影機を買おうという発想にはならないだろう。これは見ていない人も同じことで、見ていないのだから面白さが分からない。そのために少なくない金を使うのは憚られる。ということだ。

 

 故に大きなリターンが来るのは時間が経つのが必至であり、そこに至るまでに金が必要なのだ。一応権利を買うこともできたが、それにはやはり大金が必要で、現時点では無名で零細ファミリアな俺たちでは手が届かないものだった。

 

「俺もバイトとかしようかな…。実入りのいいやつ」

「ダンジョン行けばいいんじゃない?」

 

 苦い顔で呟くと、アーディはなんの躊躇いもなく言ってくるが、それは難しい。

 

「いや、ベルと俺二人合わせても1日の稼ぎはあんまりいかないと思う。それに、進行確認とか製作とかあるからあんまり長い時間は潜れないし、危険を冒してもっと下に潜ったところで成り立てのLv.1二人なんてあっさり死ぬのが関の山じゃないかな…?」

 

 そう現実は上手くないのだよ。俺の1個下の少女に諭せば、アーディは自らを指した。

 

「だから、私私」

「ん?」

「私を見てってば」

 

 指を指せば、彼女が自らの装備をローブの隙間からちらちらと覗かせている。……なんか所作が誤解されかねないな。

 

「……可愛いね?」

「なんで疑問形? ってそうじゃなくて、私、これでもLv.3なんだよ?」

「あっ…!」

「そう、中層までなら君を庇いながらでも安全に戦えるだけの力は持ってるんだよ」

 

 ふふんとそれなりに豊満な胸を張り、危うくフードが脱げかける。しかし俺の目にはアーディが救世主のように見えた。多分後光とか差してるタイプのやつ。

 

「私は立香のお陰でここにいるんだから、このくらい返させてよ」

「本当にありがとう…!」

 

 固く手を握り、ぶんぶんと振る。俺の大げさな反応に恥ずかしそうにはにかみ、早速と装備を整え迷宮へ向かうのであった。

 




おまけ

(そういえば死んでるアーディは恩恵はどうなってるんだ…? 確か主神には授けた恩恵持ちの生死が分かるんだったよね…?)
「アーディ」
「ん、何? 必要なもの纏めようか?」
「(恩恵の有無とかどのくらい機能してるかはわからないしなぁ…。概念礼装も試してみたいし……)ちょっと脱いでくれる?」
「脱っ………!?」

「………あっ」

※使えました


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それは、信念を貫く物語
オラリオに運命がやってきた


遅れてすまぬ。色々とリアルで問題があったのだ…。
テストやらサンブレイクやらコロナやらでね…。
2つ目なんか違うって?いや、ちゃんとMR上げてましたよ?
とにかく、新章(というか本編)始まるよ〜


 

 時は過ぎ―――とうとう訪れた月曜日の夕方。

 この間に金稼ぎに奔走したり、グッズ展開やこれからのシリーズに向けての工作を行ったりと、様々な活動をしていた。

 俺は地上でやらなければいけないことや商談もあるからそう長い時間はダンジョンに潜れなかったが、やはりレベル3がいるのでは効率が違った。ヘルハウンド対策に火精霊の護符(サラマンダー・ウール)が必須だということを忘れていたこと以外は限りなく順調だった。

 ある時はベルと共に中層一歩手前でアーディの蹂躙に追い縋りながらサポーター活動をし、またある時はCMの打ち合わせを行い、そしてまたある時は書籍や設定集の執筆などを進めて、ようやくこの時が訪れた。

 

 今日が初の本番ということで、ベルもヘスティア様もこの後の予定は入れていない。昼すぎまでで冒険は切り上げ、後は万全の準備を整えながら時が来るのを待つだけだった。

 

「そういえば、何だか街の雰囲気もいつもと違う気がしますね」

 

 ベルの言うとおり、今日は都市全体が何やらそわそわとした空気に包まれ、如何とも言い難い一日を迎えている。もちろん普段通りに暮らす者も少なくないが、何より時間を気にするような素振りを見せる者が多くいることで異様な雰囲気は成り立っていた。

 

「やっぱりこれも、Fateの影響…?」

「それだけ皆が期待してるってことだよね!」

 

 それは嬉しい限りだが、ちょっと空気が変わりすぎじゃないかな…? 聞いた話では今の時間から場所を陣取っている神なんかもいるらしく、邪魔になっているらしい。

 

「…こう、いい場所は予約席とかにして迷惑を減らそうか」

「それがいいよ。あいつらはそうでもしなきゃ何処にでも湧いてくるからね…」

 

 疲れたというか、ほとほと呆れ果てたような顔で吐き出すヘスティア。もしこれでFateのせいで迷惑がかかったとか言われるのであれば神たちにプララヤ(投石)することも辞さない。

 

「よし、まだ時間はある…。俺は見直しとか今後の予定とかを立てとくけど、ベル達は何か見るときに食べるものとか買ってきてよ。ご飯前だけど特別ってことで」

「分かった。立香とアー……さんは何がいい?」

「じゃあジャが丸くん小豆クリーム味とプレーンを」

「私もおんなじの!」

 

 ベルの顔が引き攣ったような気がするけど、無視だ無視。俺も最初はかなり攻めた味だなと思ったけど、食べてみれば中々悪くなかった。他の味が美味しくないってわけじゃないけど、素朴な味に飽きてきたら一回は食べてみるのをオススメする。

 

 よし、ここまで来たら後はなるようになれだ。この世界のFateは、ここから始まるんだ。

 

「――喜べ市民よ、君たちの願いはようやく叶う」

「コトミネ神父の真似? あんまり似合ってないよ?」

「………そういうのは言わないでくれると助かりますぅ…」

 

 

 

 

 

 

 ガヤガヤと、人通りが緩やかになり、そわそわとした様子でしきりに時間を確認しては空を見上げる人々。

 バベル前の広場に集まった神々は他愛のない雑談を繰り返し、下界の民は種族問わずに思い思いの場所に溜まって今か今かと期待に胸を躍らせる。

 人が集まれば、時には一悶着が起こったりもするが、そこは都市の憲兵とも呼ばれる【ガネーシャ・ファミリア】の団員達が対処していく。これはフジマルの依頼ではない。話を聞いたギルドがそれだけ人が集まるのならと呼びかけ、彼らの主神ガネーシャが応じた形になる。因みに当の本人はちゃっかり最前列でも後列でもない丁度いい位置で放映を待っている。

 

「まだか…?」

「いや、まだなってない。でもいつ始まってもおかしくないぞ」

「俺が! ガネーシャだ!」

「ガネーシャうるさい! 流石に見るときくらいは静かにしてくれよ頼むから…」

 

 彼らの雑談も一止み、誰しもがバベルを見上げた瞬間、唐突に期待のものは現れた。

 パッと音もなくそれ(モニター)に鐘が映し出される。前回同様に赤目の白兎がやってきてその鐘を鳴らす。美しい大火が燃え広がり場は移り変わる。

 

「おお!映った!」

「キタ――――!!」

「あの白い兎はどういう意味があるんだ…?」

「分かったから黙れ! 聞こえない!」

 

 場面はあの未来都市へと。名は冬木というらしいが、それが夜闇の中に煌々と燃え盛っている。さながら大抗争のいつかの日を思い出し戦慄する者がわずかに顔を顰め、炎上する都市を一人の少年が歩き、倒れた後に何者かに抱き起こされる。

 

「何これ…」

「酷いな…」

「この子が主人公か…?」

 

 少年の目が閉じ、次に起きたのは治療院。そこであの大火に生き残ったのは少年だけだと告げられ、自分を救ってくれた人物に引き取られることとなった。

 またも場面は移り変わり、洋風な屋敷の内部に迫る。赤い服の少女がこれまた赤の魔法陣の前で詠唱を紡ぐ。詠唱は終わり、魔法陣が輝けば轟音が鳴り渡り、崩れた瓦礫の上に赤い外套の男がニヒルな笑みを浮かべて腰掛けていた。

 

「場面変わったぞ」

「これが召喚ってやつか」

「じゃあこの赤いやつは英雄なのか」

 

 そして流れる透き通るような神秘的な曲調。聞いたこともない音楽性だというのに、どこか懐かしさに駆られる歌と共に画面では激しい戦闘やそれぞれのシーンが映っていく。

 

「何だ何だ!?」

「こんな曲聞いたことない!」

「吟遊詩人とも違うが……何かこう、胸に来る感じがする!」

「おいそれよりあのキャラ達は誰なんだ!? 頭が追いつかねえよ!」

 

『〈第一話〉始まりの日』

 

 曲が終わってみれば、最初の少年をそのまま大きくしたような青年が顔を出し、モノローグが流れ始める。それは主人公の境遇であったり、魔術やこの未来の簡単な概要だった。

 そして歩き出した彼を俯瞰で追う視点では今のオラリオからは全く違う街並みでありながら、より豊かに規模も広く近代的な様相を醸し出しているそれは、確かに目指すべき未来の一つだろう。

 

「エミヤ・士郎…。極東の人間なのに髪は赤いのか…」

「魔法と魔術ってわざわざ別々に呼んでたがどこが違うんだ?」

「というかまだ何の話もないぞ? ひょっとして主人公なんも知らないんじゃないか?」

「ありえる。さっき独学でしかも才能ないとか言ってたからな」

 

 主人公がなんてことのない日常を送る中、その裏では怪しげな影が跋扈していた。最後に、赤の主従が夜の都心に舞い降りてその話は終了した。

 エンディングテーマが流れ、皆が呆気にとられたまま画面は暗転する。

 

「え、もう終わりかよ」

「結局その、何だっけか。聖杯…戦争の話は無かったな」

「っていうかこっちの曲もいいな…。一体誰が歌ってるんだ?」

「あのロリが気になるな俺は。お兄ちゃんって言ってたが、ひょっとしたら親父が家にいないとき実は愛人と会っていてその子供…とかいう展開かもしれんぞ」

 

 そうして各々が僅かな消化不良を感じながらも、思い思いの感想を告げて解散しようとしたところで再び画面は灯される。

 

「おい待て待て! まだ続きあるぞ!」

「そういえば3話とか言ってたような気が……」

「何で3話なんだ…?」

 

 再び画面は映り、裏の事情に絡まず、平穏な日常を謳歌するエミヤ・士郎と、前回とは異なるオープニング。

 

「前の歌より激しいが…」

「なんかこう、熱くなるな…!」

 

 話は進み、特徴的な髪型の嫌味な男に仕事を押し付けられる。そして凛と呼ばれたマスターが屋上に佇んでいると、青い小人族が現れる。

 ランサーのサーヴァントはマスターである凛を狙うが、既のところで逃げ出した勢いでそのまま地面に飛び降りる。

 

「おいおい、恩恵ないんだろ!?」

「いや待て!」

 

 落下途中、目に見えない何かに空中で支えられ無傷で着地。それも束の間襲いかかるランサーのサーヴァントに、アーチャーは黒い片手剣を以って応戦する。始まったのは、まさに古代の戦いの再現。第二級、ともすれば第一級冒険者をも超えかねない圧倒的な迫力の戦闘シーンは聴衆のボルテージを一気に高めていく。

 

「「「おおおおおおおおおおお!!!?」」」

「す、すげぇ…。こんなきれいにどうやって作ってるんだよ…」

「アーチャーなのに剣だけで片がつくんじゃないか?」

 

 驚嘆冷めやらぬ間にも、まだ戦いは続いている。防御態勢で受けきったランサーごと地面を陥没させる強撃が炸裂し、戦況はアーチャーの優勢かに思えた。

 

『――間抜け』

 

「あっ、剣が…!」

「やっぱアーチャーに近接戦は厳しかったか…」

 

『―――――』

 

「二刀流…だと…!?」

 

「「「カッッッケエェェェェェェ―――!」」」

「しかも今壊されたのとおんなじの使ってるぞ!? どういうことだよ!」

「サーヴァントってやつは武器無制限なのか?」

「いやそれはランサーの反応的に違うと思うが…」

「両手使うって弓持つ気ねぇじゃん」

 

 視点は移動し、その戦いの目撃者である衛宮士郎が校内を駆け回る。

 

「ぴーぶい?のシーンかここ」

「追いかけられてたのコイツ(士郎)だったのか。ってかこのあとの展開だと……」

 

 当時を思い出し、やはりというべきかエミヤ・士郎は心臓を貫かれて倒れ伏す。あの戦いのような勢いは無かったが、明らかに致命傷。高レベルの恩恵保持者ならばともかく一般人である彼の生存は絶望的だった。

 

「えっ…主人公死ぬんか」

「いや、ここはこう、秘められし力が覚醒して…」

 

『何だって、アンタが…!』

 

「どれでもないみたいだぞ」

「知り合いか?」

「詠唱なかったぞ…」

 

「…一時的に臓器を複製してその間に実物を修復する。何かに使えそうですね……」

 

 そうして、命を救われたエミヤ・士郎は家に逃げ延び、仕留め損なったランサーが追撃をかける。

 

「家の中に急に現れただと…!? どこも開いてないぞ…!?」

「霊体って言ってたが、まさか壁とかもすり抜けられるのかよ…!?」

 

『七人目のサーヴァントだと!?』

 

 あわや殺されかかるその瞬間、魔法陣が色濃く輝き暴風とともにランサーの驚愕した顔が映し出される。

 

『問おう、貴方が私の―――マスターか』

 

「金髪碧眼の女騎士キタ―――!」

「何持ってるのアレ」

「最後のセリフの人だよな…」

 

 再びエンディングが挟まり、余韻をしっかり楽しんだ彼らに新たな燃料が投下される。

 現れた女騎士は説明も行わないまま外に駆け出し、ランサーと戦闘を始める。目に見えない得物を高速で交わし合う二騎の戦いは苛烈を極める。

 

『お互い初見だしよ、ここらで分けって気はないか』

 

 ランサーが待ったをかける。しかしセイバーはにべもなく拒否。それを分かっていたのか、ランサーの槍に禍々しい魔力が満ちる。

 

『その心臓、貰い受ける―――!』

 

刺し穿つ(ゲイ・)―――死棘の槍(ボルク)!』

 

 

 それは下から突きこまれる一撃。しかしながらにその軌道は異様に折れ曲がり真っ直ぐに心臓へ。セイバーも全力で槍を受けるがその拮抗すら無意味のようにすり抜け左胸を貫いた。

 

「ああっ!?」

「何だあの槍の動き!?」

「ってかゲイ・ボルグ!? 今ゲイ・ボルグって言ったよな!?」

 

『躱したな、我が必中の魔槍を!』

 

「モロ胸貫通してるじゃん!」

「因果の逆転……だと!?」

「絶対心臓に当たる槍…ってこと!?」

「じゃあ何で外れたんだ?」

 

 時は移り、セイバーが接敵したアーチャーとそのマスターとの話し合いが始まる。その際にサーヴァントの大まかな概要や魔術についてなどが凛の口から語られ、エミヤ・士郎と共にその深く掘り下げられた設定に感嘆の声を漏らす。

 教会に着き、現れた神父のコトミネ・綺礼から発破をかけられ、士郎は聖杯戦争への参加を決意する。

 意味深な言葉を残したコトミネに背を向け教会を出ると、そこには不思議な銀髪の少女と筋骨隆々の巨漢が待っていた。……というところでエンディングが入る。

 

「もう終わりかっ…!」

「最後のは一体誰なんだ!?」

「っていうかサーヴァントの戦いもすごいが、ちゃんと伝承に近いぞ!」

「ゲイ・ボルグで小人族ってことは…あのクー・フーリンじゃないか!」

「ああ! でもそれってやったことが規格外すぎて信じられてないやつじゃないか?」

「いやでも恩恵なしでもアルバートっていう前例がいるわけだしな…」

「うーむ…。セイバーもアーチャーもそんな英雄相手に互角だったよな…。一体どんな名前が飛び出してくるんだ…」

「セイバーランサーアーチャー…。そして多分最後の奴もサーヴァントだよな? もう四人も揃っちまった」

「英雄だけじゃなくて凜や士郎とかも気になるぞ…!」

 

 みな思い思いに騒ぎ語らい、興奮冷めやらぬといった様子で感想、予想を口々に言い合うが、その根底にあるものは同じだ。

 

「「「「「あー! 続きが楽しみだ!!!」」」」」

 

 そして、そんな彼らにさらなる朗報が表示される。

 

『製作者からのメッセージ

 

 アニメ「Fate/staynight」はお楽しみいただけたでしょうか。初めての試みということもあり、その物珍しさに惹かれた人も多いでしょう。

 ですが、余りに長くお待たせしても、この作品の魅力を完全に伝えられないと思っています。よって、これから連日、本日と同じ時間から最終話まで毎日放送させて頂きます。

 これからのFateもよろしくお願いします』

 

「「「「FOOOOOOOOOOOOOOOOO〜〜↑↑↑」」」」

 

 それはさながら砂漠を放浪する旅人にとってのオアシス、あるいは素材を渇望するマスター(人類悪)にとっての素材(バルバトス、嵐ノブetc…)となって彼らの心を沸き立たせた。

 

 この日、オラリオの騒がしさは例年の祭事を抑えて一位の座に輝いた。数日後、これを更に超える熱狂が襲うことになるのは、未だ神ですら知らないことだった。




ちょっとアニメの地の文多い気がする。惜しいけど飛ばす部分もあるから、「このシーン入ってないやん糞が!」って言わないでねお兄さんたち。

 因みに、3話全てでOPは違います。

1.やっぱアニメ版セイバールートといえばコレ!静かな旋律に高揚を煽る神秘的な曲!
 disillusion / タイナカ彩智

2.嘘みたいだろ…?これ10年前の作画なんだぜ…!テンション高めの中盤でのモチベ上げ役!この世界では不可能なVITA版Realta Nuaセイバールート編より出張!
 ARCADIA / earthmind

3.原典
 THIS ILLUSION / ヘスティア様


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疾風と詩

真面目な話は地の文や感情表現多めでいこうと思います。そして続きです


 

 日も跨ぎ新たな朝が来た。どうやら昨日の反響は凄まじかったようで、連日続きが見れるとなると住民達も午後の楽しみのために仕事に精が出ていた。一方で、その当日だけ特別にと休んでいた者達は阿鼻叫喚の様相だったが…まあ、そこは気にすることではないだろう。後で発売するディスクを買ってくれ。

 

 ベルはあれくらい強くなりたいと昨日の興奮をそのままに意気揚々とダンジョンに潜っていった。

 ヘスティア様も気に入った様で、明日も観に行くからね!と言葉を頂いた。

 

 そして俺たち二人はというと、前回の騒動を踏まえて予約席の設置やこれからの方針などを各ファミリアとも話し合っていた。

 それもあちこち回ったおかげで既に昼を過ぎている。空いた時間をどうしようかとアーディに提案したら、彼女は街を見て回りたいらしい。

 確かにここ数日は金策に付き合わせていたからそこまで特定の場所を見ることは出来なかった。

 俺もアーディが気になるところに興味があったし、当然オーケーした。

 

(それで、霊体化したままでいいの?)

(うん…。じゃないと余計なトラブルまで持ってきちゃうかもよ)

 

 なんてことないように言うけれど、その端にはどことなく寂しさが垣間見える。

 

(それで、行きたい場所って…)

(【ガネーシャ・ファミリア】がしっかり活動してるのは分かってるし…。うん、ちょっと道案内するから付いてきてね)

 

 霊体化したままのアーディの指示に従い、往来盛んな街路を往く。時には見慣れない店が出来ていたり、住民による建物の改築や取り壊しなどで変わってしまった街並みに迷いかけたが、少しの時間をかけてそこに辿り着いた。

 

「………アーディ、本当に…ここ?」

 

 信じられないというように絞り出した声は、目の前の建物を見れば理解できるだろう。

 かつては心安らぐ憩いの場として機能していただろうそれは、今やその面影を残すのみ。ここ数年手がつけられていない様相で周囲の雑草は乱雑に生え、朽ちかけの木材がその伽藍堂の中身を示唆する。

 

「……やっぱり、かぁ。分かってはいたんだけどね…」

「やっぱりって…」

「ここは『星屑の庭』。私が生きてた頃は【アストレア・ファミリア】の拠点だった場所だよ」

「【アストレア・ファミリア】…」

 

 俺はアストレアと聞くとあのプロレスの方が思い浮かんでしまうが、当然それとは違う。

 

「噂を聞かないから、もしかしたらって思ってたけど、やっぱり、辛いね…」

「っ…」

 

 その見えない表情が何を意味しているのかは容易に想像することが可能だろう。しかし、その気持ちを真の意味で理解できない俺が声をかけていいのかは終ぞ分からなかった。

 

「…ごめんね! 私のお願いを聞いてくれてありがとう。確認できただけでもよかったから…。うん、そっか、7年もあれば変わることもあるよね」

 

 強がりだ。自分より幼くして死んだ少女が、7年も孤独に耐えてきた彼女が、再びの機会を完全に潰されている、それはなんて残酷なことだろう。

 

「………」

「………」

 

 彼女も俺の態度で分かったのか、互いに気まずい雰囲気になる。そこで、ある一つの情報…というより知識を思い出した。

 

「あ! アーディ、ちょっとこっち! 付いてきて!」

 

 

――――…

 

 

 

 行き先はオラリオ西地区。一般の住居や酒場、宿などが多く建っている場所だ。その店群の一つ、豊饒の女主人という名の酒場の前に立つ。

 

「ここって、豊饒の女主人?」

「知ってたんだ?」

「うん。私が生きてる頃からあるし…あの時はみんなの助けになってたしね。それで、ここが…?」

「まあ、見ててよ。多分今の時間なら…」

 

 物陰に隠れて観察すること数分。外のテラス席の食器類を片付けに来たウェイトレスの一人。薄緑の頭髪を持つエルフの女性だ。

 

「――――リオン…?」

 

 信じられないとわずかに漏らす。交友関係はよく分からなかったけど、やっぱり知り合いみたいだ。それもどうやら親しい部類の。

 

「髪も染めて短髪になってるけど、リオンだ…!」

 

 よかった。そう言いたげに頬を緩ませるアーディに、俺もついつい嬉しくなってしまう。

 

「会いたい?」

「それは、そうだけど…、でも…」

「大丈夫。ちょっと待ってて」

 

 ここは俺が一肌脱ごう。アーディを建物の隅っこに追いやり、今まさに新たな食器類を持ち上げていたところだった。

 

「そこの店員さん!」

「はい、なんでしょうか?」

 

 声をかけると、一旦作業を中断してこちらに顔を向ける。やっぱりエルフなだけあって眉目秀麗で顔にはシミ一つない。テラス席の柵を挟んで僅かの距離。出来る限りの悪い顔を作り、必ず追いかけてくるであろうことを一つ。

 

「【アストレア・ファミリア】所属、【疾風】リュー・リオンですよねぇ?」

「っ!」

 

 囁くような音量だったというのにその両耳はしっかりと捉えて過敏に反応する。その表情からは驚愕と疑念、そして色濃い警戒の目だ。

 ここにもう一押し。

 

「……アーディ・ヴァルマのことでお話が」

「貴様っ!!」

 

 怖っ!?

 当然だけど怒り心頭という様子でこちらへ殺気を叩きつけるリューから全力で逃げる。少し先の角までの短距離だが、レベル4の中でも上位に位置する彼女にロクにステイタスを上げてないレベル1が足で敵うはずもない。

 今も行き交う人の隙間を縫って、これまでにないくらい必死で逃げた。意気込み的にはオケアノスのヘラクレス並の迫力だ。

 

「アーニャッ、ここは頼みます!」

「ニャッ!? みんニャー! リューが逃げ出したニャー!?」

 

 そんな喧騒を背後に聞き、全力で人の波を利用して走る。後ろからものすごい勢いで駆けてくる音や市民の驚愕の声が届くけど気にしていられない。

 もうすぐそこにはアーディのいる路地裏だ。慌てて曲がろうとして、一瞬もつれてしまった。

 

「うわっ!」

 

 若干体勢が崩れた瞬間、頭上をものすごい勢いで通り過ぎていく小石。

 死ぬことはないだろうが、レベル差的に気絶はありえる。ただの偶然によって舞い降りた幸運に感謝しつつも、迷わずそこに飛び込んだ。

 その勢いのまま走り続け、すぐにごろごろと無様に転がる。瞬間、俺の喉元に手刀が突き出される。

 いつの間にか、完全に近づかれていた。

 

「答えろ。貴様は何故その名を騙った。返答によっては…」

「わ、ちょちょちょ、待って待って」

 

 両手を上げ、戦意や危害を加える気がないことをアピール。とりあえずは攻撃されない状況になったその時、こちらを強く睨みつけるリューさんの背後、空気から滲み出すようにローブの影が現れる。

 霊体化していたアーディはそのまま背中を取りリューさんに思いっきり抱きついた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 業務中、声をかけてきた少年がいた。見たところ人当たりの良さそうな優しげな瞳をした人物だったが、その第一印象が覆るのは一瞬だった。眦を釣り上げにたにたと笑みを浮かべたかと思えば次の瞬間にはねっとりとした口調を開く。

 

『【アストレア・ファミリア】所属の【疾風】リュー・リオンですよね?』

『……アーディ・ヴァルマのことでお話が』

 

 語られたのは、私自身の秘事。いや、前者だけならばまだ理解はできる。この話自体興味がない人物ならともかく本気で探ろうと思えば、ツテさえあればどうにかなるだろう。

 それに、アストレア様に関する話の線もある。警戒こそすれど、敵意はない。だが、後者は駄目だ。私だと、そこまで私だと確信しておきながら、アーディの名を出した。

 解っている。この相手は、私とアーディの接点を解った上で、このような話を切り出したのだと。

 【ガネーシャ・ファミリア】の使者である可能性?そんなものあるものか。あの団長と神ならば私の身の上を理解しており、見たこともない団員を遣わせるはずもない。

 

 カッと頭に血が上った。何故今更。何故あの子の名を騙ったのか。その真意を探ろうと堪らず店を飛び出した。

 少年の身体能力は低い。恩恵は貰っているようだが、てんで動きがなっていない。恩恵に振り回されている訳ではないようだが、レベル1の下位が精々だ。ステイタスには圧倒的な差があるが、少年は器用に人混みを盾にして逃げ回っている。

 嘗ての復讐心に囚われた私であったなら住民を跳ね除けてでも追っただろうが、今の私は豊饒の女主人の給仕という地位がある。服も制服のままだし、私のせいでミア母さんに迷惑がかかるのは避けたかった。

 道端の小石を投擲し、相手はまぐれで躱す。慌てた様子で駆け込んだが、人のいない場ならば私も本気が出せる。

 先を行く少年はかけて転がっていき、その喉元に手刀を添える。

 少年は両手を上げて降参の意を示すが同時に私の背後に目を向ける。瞬間、私の背に伝わる衝撃。

 

(―――っ、伏兵がいたか! いや、それより接近に気づけなかった!)

 

 今、私の手元に武器はない。けれど、相手も強く力を入れているわけではない。思い切り振り払えば――

 

「――リオン、私達が伝えた正義は、今どんな花になっているかな」

「……………え?」

 

 その声に、その暖かさに、覚えがある。7年前のことだが、はっきりと覚えている。だからこそ、ありえないと思った。だって、それは、あの状況だと……。

 信じられないという理性と、そうであってほしいという願望が、心のなかでせめぎ合う。拘束が解け、背後の人物はただそこに佇んでいた。

 期待が壊されてしまうかもしれない。これをもって、いよいよ私の心が幻覚を創り出してしまったのかもしれない。そう疑い続け、それでもゆっくりと、子鹿の様に震えながら振り返った。

 

「アー……ディ…?」

「そうだよ。品行方正で人懐こくてシャクティお姉ちゃんの妹でリオン達と同じ……じゃ、もうないのかな。いや、そもそも今の私って恩恵はあるけど具体的に何処所属……? …まあいっか。色々あったけどアーディ・ヴァルマだよ。……久しぶり、リオン」

 

 嘗てのいつかと同じように、そこには屈託のない笑みを浮かべる少女の姿があった。

 

「嘘だ。だって、あなたは………あの、時に……」

 

 目の前の事実に、焦燥と共にじりじりと下がるリュー。アーディはその手を両手で包み込む。

 

「大丈夫だよ。私はここにいるからね」

「あ……あ、あ…!」

 

 そのまま、彼女は泣き崩れた。両手の温もりを、決して離そうとしないまま。

 

 

 

――――…

 

 

 あれから、リューさんが落ち着いて疑問を呈するのは必然だった。こちらの事情は広めないということを条件にその疑問に応えた。

 それと投石のことや怒鳴ったことについて謝られたが、それは俺がわざとそういう態度をとったから、むしろ申し訳なかった。

 

「―――にわかには信じられませんが、貴方からはこちらを騙そうとする気配もない。そういうもの、と受け入れるのがいいのでしょう。では、やはりアーディはあの時……?」

「……うん。死んじゃってるよ」

「……申し訳ありません」

「ううん、あれはリオンのせいじゃない。私が敵の思惑に乗っちゃっただけだから」

「「………」」

 

 互いに空気を重くして黙りこくる。

 

「あ、その。アーディ。あなたは本当に幽霊なのでしょうか。こうして触れることも見ることも可能ですので、実感が…」

「本当だよ。…ほら、こうやって」

 

 言うが早いか、霊体になりリューの視界からその姿を消す。

 

「アーディ!? フジマルさん、アーディはどこに!?」

「あー、後ろで手を振ってます」

「後ろ…? ひゃんっ!?」

「うりうりー、あの時抱きつけなかった分を今ここで使いまーす」

 

 その後も何度か霊体化と実体化を繰り返し、それを事実だと認めさせられた。

 

「はぁ…はぁ…。このノリも久しぶりな……いえ、何故だか最近も味わったような…」

「新しい友達!? 私が死んでる間になんてズルい!」

「友達ではなく同僚です! それに、アーディのことを忘れた訳では……」

「分かってるってば。リオンはそういうところ変わらないなー。よいしょ」

「そう言いながら抱きつこうとしないで下さい」

 

 パチンと伸ばされた手を弾き、体を隠すように身を捩る彼女に、表通りからの喧騒が響く。

 

『うニャ〜! ホントのホントにどこ逃げたニャー!?』

『あのリューに限って急に逃げることなんてありえないと思うけどねえ』

『でもミャーに仕事押し付けて走っていったニャ! あれはガチの目だったニャ! ミア母ちゃんもカンカンで散々だニャー!?』

 

「……勤務中、でしたね」

「俺が声かけたから…。その、ごめんなさい」

「いえ、こうして会えたのですから恨んではいません。いませんが……その、これからは控えていただきたい」

 

 クールな表情を青褪めさせ、肩を震わせる。やっぱりあの女将さんには敵わないのだろう。

 

「それでは私もここまでにしておきます。積もる話はまた後程。……そういえばアーディ。シャクティには、会ったのですか?」

「……ううん。お姉ちゃんにはまだ会ってない」

「そう、ですか。家族ならではの気まずさ…というのもあるでしょうし、私が口を出すものではないでしょう。しかし、機会は早い方がいい。…あの時、最も辛かったのは彼女なのだから」

「………そっか。うん、出来るだけ…ね」

 

 微かに目を伏せ、言葉尻が窄む。リューはそれに気づいておきながら、それを是としていた。無理に引き合わせても両者の心の整理が出来ていなければ意味がない。「それでは」と残し、表通りに体を踊らせる。

 

「あ、リオーン! 今日も5時からFateをやるから観てねー!」

「貴方達が制作していたものだったのですか!? ………ええ!必ず!」

 

 最後は言葉少なに、7年ぶりの再会は幕を閉じる。かつて正義の使徒であった両者は、共に異なる道へ進んでいた。けれど、それは悲観すべきものではない。

 

『正義の味方には、倒すべき悪が必要だ』

 

 正義が必要とされる時代は終わった。喧騒と事件こそあれど、それこそが本来のオラリオ。暗黒の帳は晴れた。この都市を混乱に貶める悪意は砕け散った。他ならぬ彼ら彼女達の活躍は今一度の平穏を取り戻していた。

 

 ………今のところは。

 

「…ふふっ」

「どうかしたの?」

「いや、自分でも趣味が悪いなって思うんだけど、お姉ちゃんが心配してたのが何だか嬉しくって」

「ま、まあ、それだけ愛されてるってことだから」

「そうだよね。私、お姉ちゃんに愛されてるんだよね! これはもうオラリオ1相思相愛の姉妹と言っても過言じゃないんじゃないかな」

「多分それを言ったらすごい勢いで拒否されそうだけど……。まあ楽しそうだし、いっか」




【悲報】アニメ回進まず!

因みにこのアーディは霊体化したら霊的干渉が可能な存在からしか攻撃を受け付けません


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放送2日目・3日目 推しができると物語が楽しくなるぞ!

試験的に改行を多くしてみた。
字を詰めこみすぎると真面目な読み物ならいいけどこういう反応モノには臨場感が欠けるかなと思った。などと供述しており……

あと、アンケートはやっちゃえバーサーカーが最も多かったので原作ママです。


 

 

 

 

 

 

 

 魔石で動く時計の長針が頂点を指す。時刻は5時。昨日に引き続き広場には大勢の人々が集まっている。唯一昨日と違う点といえば、最も見やすい地点にいくつもの席が設けられ、そこでは多少の喧しさこそあれど秩序はとれていた。

 昨日の場所取り合戦による反省から完全予約制で有料の優先席を作り、無用な争いを減らした。観ること自体は無料だが、良い席、良い環境で観ることが出来るこの優先席は直ぐに埋まったのだった。

 

 

 

 最早恒例の白ウサギの寸劇を終え、場面は夜の冬木。二人と二騎の前に現れた雪の精の様な童女と武人然とした佇まいを見せる大男。

 

 

 

 

『やっちゃえ、バーサーカー!』

 

 

 

 

 彼女の指示によりバーサーカーがその猛威を振るう。セイバーも善戦するが、ランサーとの戦いの傷が癒えていない彼女は劣勢に立たされていた。その圧倒的な膂力の前に構えた剣ごと弾かれ、如何なるカラクリか全力で叩きつけた攻撃が効果を及ぼさない。そして優位に立つバーサーカーのマスター、イリヤからその真名が明かされる。

 

 

 

 

「ヘラクレス……だと…!?」

 

 

 

 

「あの、恩恵貰ってないくせに死後に神の座まで辿り着いたあいつか!?」

「確かあいつの前例があるから俺たちの恩恵って神に近づくとか言われてるんだっけ」

「オイオイ勝てるわけないだろそんなの。俺ですら無理だぞ」

「お前酪農の神だろ」

 

 

 

 

 今の下界の民たちに馴染みはないが、その名は神たちにとってよく知られている。そして、失伝した地域が多いとはいえこのオラリオにおいてもヘラクレスの記述自体は伝わっていた。

 

 

 

 

「神になった人間だって…!?」

「それ本当なのかよ」

「いやでもあの興奮の感じだしよ…」

 

 

 

 

 半信半疑ながらも一先ずは飲み込み、物語は新たな展開を迎える。

 辛うじて打ち合っていたセイバーがとうとう膝を突き、バーサーカーの強烈な一撃がその身体を捉える。

 

 

 

 

「脇腹が…」

「あれは痛い…!力で負けてる相手にこの傷は駄目だろ…」

 

「内臓が零れ落ちないのが不思議なほどの欠損…。立って戦闘することは自殺行為です」

 

 

 

 

 最早セイバーにこの状況を打開できる力はない。故に、士郎が走った。

 

 

 

 

『がっ…あぁ…!』

 

 

 

 

「士郎ーっ!?」

 

 

「マスターが死んだら終わりだって聞いてただろ!?」

「あの傷じゃあ高レベルの恩恵があっても厳しいだろ…」

 

 

 

 

 その愚かな行動にイリヤは興味を失い、バーサーカーを連れて道を引き返していった。士郎は赤くなる視界の中、ノイズ混じりの美麗な鞘を想起して場面は暗転した。

 

 

 

 

「え、死んだ?」

「短期間で致命傷負いすぎだろ…」

 

 

 

 

 時は戻り、幼い士郎と生前の切嗣が月の出る世に語らい合っている。切嗣はかつての夢を語る。諦観したように語る切嗣に士郎は応えた。

 

 

 

 

『任せろって、爺さんの夢は、俺がちゃんと形にしてやるから』

『ああ、安心した』

 

 

 

 

 そうやって、眠るように切嗣は息を引き取った。

 

 

 

 

 結局、エミヤ・士郎は次の朝に自宅の布団の上で目を覚ました。包帯まみれではあるが、深々と刻まれたはずの斬撃のあとは無い。

 

 

 

 

「士郎ー!」

「生きとったんかワレ!」

「勝手に治ってったのか?」

「何それ怖…」

 

 

 

 

 理由は不明だが無事生き残った士郎は凛からは共闘の申し出を受ける。未熟なマスターだが悪辣ではない士郎と深い傷を負うも優秀なセイバー。そして凛のアーチャーも傷を負っているこの状況では、あのバーサーカーが襲ってきた際に抵抗できない。よって、双方に利のある同盟を結んだのだ。

 

 

 

 凛によるサーヴァントや宝具に関しての詳しい説明を聞き、念には念を重ねて同じ拠点に滞在―――つまりはこの屋敷に住むことになった。次いで、道場に佇んでいたセイバーとも話をつけて最初の話は終了した。EDに耳を傾ける間にも、考察の声は止む様子を見せない。

 

 

 

 

「にしてもヘラクレスか…どうやって勝つんだ…?」

「バーサーカーは自滅するとか言った奴誰だよ」

「というかアーチャーとセイバーの名前はまだ出てこないんだな」

「あのときセイバーがアーチャーに深手さえ負わせなければ共闘して撃退も出来ただろうに…」

 

 

 

 

「宝具…か。無難だけどこう、舌に馴染むいい名称だな」

「あれか、英雄の持ってる代表的な武具ってことか」

「じゃあもしエピメテウス辺りが出てくれば炎鷲の嘴(エトン)が宝具になるのか」

 

 

 

 

 次の話が始まる頃にはその考察の声も小さくなっていった。

 前回から続き、セイバーは家で待機してもらうよう説得し、エミヤ・士郎の学校生活は平穏に終わった。

 

 

 その後、家に後輩と姉代わりの存在が訪れ、夕飯時に二人を引き合わせる。セイバーはアーチャーのように霊体になることは出来ないらしく、何とか誤魔化しながらもカバーストーリーを説明した。するとどういう訳かセイバーと姉代わりの人物の剣の勝負となった。

 

 

 

 

「剣道5段って何?」

「タケなら知ってるんじゃね?」

「アイツ今ジャガ丸くんのバイトだぞ」

「ぷっ、ド貧乏ファミリアの主神は違いますねぇ」

 

 

 

「……今、馬鹿にされた気がするぞ」

 

 

 

 当然勝負はセイバーの圧勝。捨て台詞を吐きながら退散する虎の様子に苦笑しながら、次の日を迎えた。

 

 セイバーに留守を任せ、士郎と凛と桜は学校へ出発した。

 正門を超えたあたりで凛はこの学校に結界が張られていることを告げる。

 

 なんでも厄介らしく、発動すればこの学校をまるごと覆いつくし、血肉を溶かすものだという。

 放課後、そのことに関して話し合おうとする二人の耳に女子生徒の悲鳴が届く。駆け寄る凛の顔、つまりは明確な殺意のこもった攻撃を士郎が突き飛ばして身代わりになる。

 

 

 

 

「何だ…!?杭…?」

「また重傷負ってるのに動く…。こいつ本当に今まで戦闘と無縁なのかよ」

 

 

 

 

 単身敵を引き付けた士郎は枯れた林に身を構え、挑発を投げかける。現れたのは、紫の長髪を靡かせる美しい女性のサーヴァント。

 

 

 

 

『あなたは、優しく殺してあげます』

 

 

 

 

「エッッ」

「ボディコンに目隠し…。製作者わかってるな」

 

 

 

 

 5人目のサーヴァントが消したかに見えた杭は士郎に突き刺さったまま。木々に絡め取られた鎖を引かれて士郎は宙に持ち上げられる。

 

 間一髪、凛の手助けにより窮地を脱するが、結局サーヴァントのクラスすら判明しないままに逃げられたのだった。

 楽しい時間は早く過ぎ、もう最後の話の終わりの歌が流れ始める。

 

 

 

 

「ああ!もう終わりなのか…。クソッ、時間が経つの早えな…」

「あのお姉さんなら生気を吸い取られてもいいかも…」

「士郎ケガしすぎ問題」

「着々とサーヴァントが揃い始めてきたな…」

 

 

 

 

「また新しい情報が来たな」

「あの姉ちゃんの真名を考えるか」

「メイン人物なのに誰にも名前知られてないセイバーw」

 

 

 

 

「エッチなお姉さんは好きかぁー!?」

「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

 

 

 

「ヘルメス様、一体何をやっているんですか…。……それにしても、消える武器の活用法は素晴らしかったですね」

 

 

 

 

 こうして、二日目の放送も好評に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、更に翌日。

 【ガネーシャ・ファミリア】はこの人員整理にも慣れ始め、集まる人をターゲットとした軽食の屋台が風に乗せて腹の空く匂いを流していた。

 

 

 

 やはり画面がつくと同時に清聴するかれらの姿は、それだけこの作品に向ける情熱を伝えている。

 

 

 

 襲撃の件で警戒する士郎たちだが、結界はあと2、3日で発動してしまうらしい。よって、いくつも存在するという結界の基点を探して破壊するために分担して作業をする士郎の前に桜の兄、マトウ・慎二が現れる。

 

 何と自らを昨日のサーヴァントであるライダーのマスターだと名乗った彼は、学校を抜け出して士郎を家へ招く。

 

 

 

 

「えっ、無用心だろ」

「なるほど…魔術師じゃないからセイバーがいないのがわからないのか」

「じゃあライダーは何で言わないんだ?」

 

 

 

 

 明かされたのは慎二の言い分。彼自身の境遇や間桐の家による知識。柳洞寺にサーヴァントがいるであろうことや、トオサカ・凛が察知したのは別のマスターであり、自分の結界も保険と牽制であることを説明した。

 

 

 

 

「じゃあ桜ちゃんは無関係か。よかったよかった」

「狭い学校にマスター集まりすぎじゃないか?」

「えーと、セイバーが士郎、アーチャーはトオサカ。ライダーが慎二でバーサーカーはイリヤたん。そして寺にいるのが魔女ならキャスターだろ…?じゃあ学校にいるのは……分かった。きっとランサーのマスターだ」

 

 

 

 

 もとからの友人ということもあり、巻き込まれた者同士同盟を結ばないかと申し出る。

 しかし士郎はそれを凛の名前を出して先送りにする。明らかに苛立っているのが分かる物言いの慎二は、けれど手を出すことはなく士郎を見送った。

 

 

 

 

「怒られてらぁ」

「正論ワロタ」

「やっぱり王道な感じだな士郎は」

 

 

 

 

 その情報から、セイバーは柳洞寺に討ってでようと言うが、士郎はそれを拒否。二人に険悪な空気が流れ始める。

 

 

 

 

「これは士郎が言ってる方が正しいか」

「相手がサーヴァントなら罠もやばいだろうしな」

「無謀な特攻はだめって、お前が言うか」

 

 

 

 

 夜。士郎が寝たあとにセイバーは単身屋敷を抜け出して柳洞寺へ向かっていた。柳洞寺に戦力の低下なく行ける唯一の道。そこを進もうとするセイバーの前に、新たなサーヴァントが立ち塞がる。

 

 

 

 

「こいつは極東っぽいぞ」

「サムライだな」

「あれ、でも極東のは召喚されないんじゃなかったのか?」

「どうなってるんだ」

 

 

 

 

「むむ、あの長大な刀…。もしや名はあのササキ・小次郎では?」

 

 

 

 

 次の話に移り、サーヴァントアサシンは自ら名乗りを上げる。

 

 

 

 

「名前バレすると不利になるからって誰も名乗らないのに名乗るとかカッコいいかよ…」

「アサシンなのにめっちゃ正々堂々くるじゃん」

 

 

 

「おお、やはりササキ・小次郎でしたか! ……何故アサシン?」

 

 

 

 

 名のりを返そうとするセイバーを制し、互いに得物をぶつけ合う。恐ろしいことに、アサシンはセイバーの攻撃を悉く受け止め、挙げ句にその長さを読み当てた。

 

 

 

 

「嘘だろ、ちょっと戦っただけで見破りやがった」

「暗殺者なのに剣士以上の剣技ってやばくね?」

「っていうか、柳洞寺には魔女って言ってたから、もしかして同じようにマスター同士が協力してるんじゃないのか?」

 

 

 

 

 考察が入るもその戦いは苛烈さを極め、階段の中腹にてアサシンは構えた。

 

 

 

 

『秘剣――燕返し!』

 

 

 

 

「「「うおおおおぉぉぉぉ!??」」」

 

 

 

「何だ今のは! 同時に出てたぞ!」

「催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」

「え、今ので不完全だって?」

 

 

 

 

「キシュア・ゼルレッチ?」

「何それ。説明はよ」

「今の宝具じゃないのか…」

 

 

 

 

 アサシンは今度こそ完全な『燕返し』を披露しようとし、セイバーは迎え撃つために己の宝具を開放しようと暴風を発生させる。

 

 

 

 

「とうとうセイバーの宝具が分かるぞ…!」

「女騎士で有名な剣使い…。うーん、誰だ?」

 

 

 

 

 変わって士郎の視点。セイバーが抜け出したことに気がついた士郎は凜を起こさずに無事柳洞寺の麓に辿り着く。が、林の奥から短剣が飛び込み間一髪で回避する。

 姿を表さない闖入者に士郎が歯噛みする中、アサシンがその構えを解いた。それは二騎の偵察に来たライダーの存在に気がついたからであり、また同様に背後に迫る士郎の姿を視界に収めたからでもあった。

 

 

 山門の門番として立ちはだかるという宣言をしたアサシンの言葉を最後に、戦いは終了した。

 士郎が声をかけると、ふらりとセイバーが倒れ伏す。身に纏う鎧も霧散し、声に反応する様子もない。力尽きてしまったらしく、士郎はひいこらと担いで帰るのであった。

 

 

 

 

「結局勝負はお預けか…」

「セイバーが勝ってた戦いってアーチャーに不意打ちした時だけじゃん」

 

 

 

「もしかしてそこまで強力な英霊じゃないとか?」

「いや、たぶん士郎が未熟だからじゃないか?」

 

 

 

 

 何とか家に帰りつくも、そこには凜がいっそ清々しいほどの笑顔で待ち構えていた…。

 

 

 

 

「ひえっ…」

「ああいう笑顔が一番怖いんだよな…」

 

 

 

 

 紆余曲折、セイバーと士郎の言い争いを凛が仲裁したりして…セイバーが士郎を鍛えることで話はついた。エンディングテーマが流れた瞬間に、皆が大きな息を吐く。よほど見入っていたらしい。

 

 

 

 

「今日もいい話だった……」

 

 

 

 

「クラス詐欺アサシンは強かったですね」

「結局キシュアなんとかって何なんだよ」

「ライダーのほうがアサシンしてたな」

 

 

 

 

「今日ので俺は小次郎推しになった。あれはカッコ良すぎるわ」

「俺は王道女騎士なセイバーかな」

「俺はツインテ好きだからトオサカ」

「巨乳後輩の桜ちゃんと同じく巨乳で色気のあるのライダーで。あれに囲まれてるワカメは死ねばいいと思う」

 

 

「ウチは…やっぱイリヤたんやな。ドSなところもええわ」

「(胸を見る)あっ…」

「おい今ウチの何処見て反応した? 喧嘩売っとんのかワレ」

 

 

 

 

 そして他ファミリアのCMが入り視線もバラバラになった辺りで、投射機とカセットのコマーシャルが流れ出す。

 

 

 

 

「な、なんだってー!」

「10000ヴァリス…高いがこれは買うしかねぇ!」

 

 

 

「いつ発売するんだ!」

「何回でも見れるなら買うぞ俺は!」

「眷属と相談する必要がある………か…!」

 

 

 

「おー、あんくらいなら買ってもええな。アイズたんと一緒におうちで鑑賞デートや!ぐふふふふ…」

 

 

 

「俺が!ガネーシャだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「燕返し…理屈は分かりませんが目指すべき剣技はあの域です!そのためにも鍛錬あるのみ!」

 

 

 

 

「命がんばってるなぁ」

「おーい、今帰ったぞー。あれのお陰でジャガ丸くんの売れ行きが良くてなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

「…流石にこれをあんな目につく場所で流すわけにはいかないな……ベルとヘスティア様がいないときで良かった…」

 

 

 

「あの、魔力供給とか、経路を強くするって。……ああいうのが必要なの…? 私なら、別に、大丈夫、だよ……?」

 

 

 

「いやいやいや違うから!あれは士郎が間違った学び方してたせいでややこしくなっちゃってただけだから!信じて!?」

 

 

 





書いてみた。読みたいならあげる。
評価?したいならすればいいわ。私は気にしないから。でも、そうね…お気に入り四千五百件越えは素直に嬉しい。ありがとう。


元ネタ様がツンデレだからクーデレ風にしてみた


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まるで気分は過労死王

地獄(受験)から戻ってきたぞ読者!

作者「勘違いしていた。この手の二次創作の醍醐味ってのただ物語を垂れ流して反応を見る事じゃないんだ。そもそも俺にはそんな無駄に長い話を書けるほど忍耐強くない。そうだ。俺に出来る事はただ一つ。盛り上がる山場や、これを見た人々の反応を書くことだけだった」


 

 誰もが寝静まった深夜。高い摩天楼の一つの上にて。二組のマスターとサーヴァントが対峙していた。空気は剣呑、今まさに戦闘真っ只中である。

 ライダーの軽やかな技にもセイバーが対応しはじめ、劣勢かと思われたその時。ライダーが動いた。

 

 シュルリと、眼帯が解かれ、その杭を己の首に突き刺す。誰もがその光景に驚愕していると、溢れる血は魔法陣に、紫電をまとって天翔ける幻想馬を生み出した。

 

「ライダーの宝具……!」

「ペガサスだと…!?」

「ってことは、あれメデューサ!? いや、でもメデューサとペガサスの直接的な関係は…」

「うるせえ! それは後で考察して今は見ろ!」

 

 決着の気配を漂わせるそれに観客たちのボルテージはうなぎ登りに上がっていく。

 

騎英の手綱(ベルレフォーン)――――!!』

 

 闇夜を駆け抜ける天馬の光の軌跡に、セイバーの刀身がついにその姿を現す。

 

約束された(エクス)―――勝利の剣(カリバー)―――!!』

 

「キタ―――――!!」

「エクスカリバーだとぅ!!?」

「マジモンの聖剣じゃねぇか!!」

「拮抗っ……、破ったっ!?」

 

 星の息吹を束ねた光の奔流が立ち昇り、ペガサスもろともライダーを飲み込んだ。

 決着。サーヴァント同士の本気の戦いは今幕を閉じたのだった―――。

 

 

 

 本日の公開も終了し、興奮冷めやらぬといった面持ちの人々や、先程の話を熱く真剣に語り合う神々達が帰路を為していると、そこに新たな火種が投下される。

 

「なっ、あっ、あれは!!」

「書籍展開…だと…」

「『10年前の第4次聖杯戦争を描いたzeroの物語』…ジャガ丸くん食ってる場合じゃねぇ!」

 

 Fate/zero 第1巻〇月✕日発売予定

 

 またも、街の一角が盛大に湧いた。

 

 

 

 

 

 

「い、今仕上がった原稿は規定数まで刷りました…。とりあえず後はページごとに別けて、綴る…。すいません、寝てもいいですか…」

「ベル君ー!!? そのまま寝ると危ないぞ!! ほら、ソファに行ってくれ!」

「すいません神様…。立香も、そろそろ寝たほうが…」

「大丈夫だって、俺は回復するから手の痛みもないし、頭痛もすぐ和らぐ。 まだだ、まだ俺は舞える…!!」

「舞うって何だい!? キミ昨日からずっと机にかかりっきりじゃないか! 体壊すような真似は控えておくれよ!?」

「終わらない…終わらないよ…」

 

 少し時は遡り、廃教会の地下室にて、このような喧騒が繰り広げられていた。

 血走った目のまま狂ったようにペンを走らせる黒髪の少年と、うつらうつらと舟を漕ぐ白髪の少年。それらに自身も深い隈を作りながらも世話を焼くツインテールの女神に、そしてこれまた死んだ顔で書き上げられた紙を手元の道具に入れ続ける少女の姿。

 

 端的に言って、地獄である。

 

 何故こうなったのか、それは2日目のFateが放送された日まで遡る。

 

―――…

 

 

 

「なっ、何ですかこれ!?」

 

 夕日が沈み、すっかり夜の帳が降りた街に、少年の悲鳴が響く。出所はベル。ダンジョン探索から帰ってきた彼は目の前のファミリアの少年が机に置いている札束に恐れ慄いていた。それはつい先程、バイトから帰ってきたばかりのヘスティアも同様だ。

 

「ここに200万ヴァリスあります」

「「にひゃっ…!?」」

 

 どこか遠い目をした立香の発言に、今まで貧乏暮らしだった二人は目を向いて驚く。

 これまでに目にすることもなかった大金に恐々とする中、ベルはその出所を尋ねる。

 

「あの、これは一体どこから…?」

「まさか借金なんてことは…」

 

 平然と告げるフジマルに、今度はヘスティアが声を荒げる。彼女自身、借金とは言えないまでも他人に借りがある身。その際は知人ということで大目に見てもらったが、彼の場合そうはいかないと不安げに問う。

 

「CMの広告料と、先行投資ってやつだよ。……ちょっと違うかな? まあいいや。とにかくここ最近、都市の話題はFateのアニメ一色だよね?」

「そうそう! 分ってたけどやっぱり凄いよね。ギルドでも職員の人や冒険者も話してたし…」

「あー、それはよく分かるよ。僕もバイトしてる時にその話を道行く子供たちが話してるんだからね。誇らしい気持ちでいっぱいさ」

 

 二人の肯定的な意見に、フジマルはうんうんと頷いて返す。

 

「それでさ、予め話をつけてたファミリアとかもいて、将来性とか評判次第では資金援助や技術提供をしてくれるってことだったんだ。それが今日決まったんだよ」

 

 その答えに二人は成程と納得した風の表情に変わり、それだけの資金で何に広げようかと持ちかけようとして、途端に扉が開かれる。

 

「はい! 頼まれてたものとか紙とか粘土とか色々受け取ってきたよ!」

「あ、ありがとう。取り敢えずすぐ使うものはこっちの机に置いといて…後は教会の中にでも」

「分かったー」

 

 現れたのはやたら元気な幽霊(死人)のアーディ。彼女は両手いっぱいに紙やら魔石製品の入った袋を掲げており、今の話から察するにそれはこの部屋に収まらないほどらしい。

 

「えっ…と、立香くん。これは?」

「次の展開のための色々です」

「え、でもそんなお金は…」

 

 ない。と言いかけて、ヘスティアは何かに気づいたように200万ヴァリスとフジマルの顔とを交互に見合わせる。

 

「まさか、それって……」

「お察しの通り、これらの機材を買ったあまりがこの200万ヴァリスです。元は700万ヴァリスほどあったかな…。うん。ちょっと予想外過ぎた」

 

 遠い目のまま告げるフジマルに今度こそ二人は絶句。人は己の想像のキャパシティを超えると思考を停止するものだ。

 

 再起動を果たした二人に対して、紙と機械を手に取った彼はこう告げたのだった。

 

――――これから、Fateの小説を書きます。

 

 

―――…

 

 

 

「……ページの落丁、乱丁は…?」

「…ありません」

「部数確認…」

「限界ギリギリまで刷って500部くらい…」

「だいぶ少ないけど、一都市ならそのくらいでいいかも…」

「zzz…」

 

 人の往来も落ち着き始めた昼頃、各々顔を突っ伏して半死人へと成り果てたフジマル達の姿があった。

 

 連日の徹夜作業。加えてフジマル以外はみな単純作業のみだったため異様なほどに精神をすり減らした時間だった。

 フジマルが書き、二人以上で確認し、問題無しとしたものを印刷機(試作品)に投入、大量に複製し、それらをきれいに綴ってやっと出来上がり。言葉にすれば単純なものだが、彼らの疲弊具合がその過酷さを如実に表している。

 

 むしろ、これだけの量を僅か四人で出来たこと自体が奇跡だ。

 

 そして作業が終わったとき、皆が口を揃えてこう思った。

 

((((二度としない…))))

 

 と。次回以降の製本は他ファミリアへ委嘱されることが決まった瞬間である。

 

「っと、安心してないで夕暮れまでにはこれを出版しないと間に合わなくなる…。よし、じゃあ俺行ってくるよ」

「今からかい!? もうちょっと休んでからでもいいんじゃ…」

「俺は礼装(これ)で他よりはマシだから大丈夫だよ」

 

 そう言って背中を叩くフジマル。それはフジマルの背中に埋め込まれた概念礼装のことを指している。

 着けているのは『聖者の行進』だ。元々は2015年のクリスマスイベント限定の星4礼装だったが、何故だか出てきた。ゲームでは毎ターンHP回復とNP獲得の効果だったが、それは現実世界となった今も遺憾なく発揮していた。

 ろくすっぽに冒険していない俺の体力に600の補正が加わり、肝心の効果は1ターンを1分、NPを魔力として換算された形になる。それも総魔力の割合なため、毎ターンNP獲得の効果は高レベルの魔道士であればあるほど実感できるに違いない。

 最初は星4ゆえの補正の高さや効果から、冒険者として活動するベルに渡そうと思ったのだが、「魔法もないですし、回復は今のところポーションを使うほどでもないので大丈夫です」と断られた。いい感じの礼装が出たら優先してあげるとしよう。

 

「あっ、じゃあ私も行く」

「アーディも? 俺は大丈夫だから、休んでても…」

「ううん、これでもLv.3だからね。回復魔法もあるし…。むしろずっと地下室で同じ作業をしてたのが精神的にキツかっただけだから、気分を変えたいなと思いまして。…それに、キミの近くにいたほうが気分が楽だからさ」

「…? ああ、そっか。確かに近くにいたほうがパイプも太く繋がるんだった!」

 

 疑問符を浮かべつつも、その理由を推測し納得した風のフジマル。言われた当人もそれに肯定し、何ら不思議な点もなく二人はバベルへ続く道へと急ぐのであった。……その言葉の端に、当人でも気づかないほどにほんの僅か、異なる感情が秘められていることに気づかぬまま。

 

 

 

 

 冬の城、そこから辛うじて逃げ延びた三人に、アーチャーの足止めを突破したバーサーカーの魔の手が伸びる。

 未だ魔力の戻りきらぬセイバーが何とか防戦し、その隙を縫ってトオサカが攻めに出る。それは数多の宝石に長年かけて蓄積された魔力を一気に放出する文字通りの虎の子。その威力は並の魔術師ではどれだけの時を経ても繰り出せぬ必殺の一撃。

 撃ち出された凶弾のうちいくつかは薙ぎ払いにより防がれるが、生き残った氷柱の魔弾は加速しながらバーサーカーに直撃する。

 

「おおっ!? バーサーカーの腕に当たって……」

「吹き飛んだぁ―――!!?」

「よしっ、腕を奪った……! やっぱりトオサカはうっかりなだけだったんだなって」

「いやだが、あれだけやって片腕だけとなると――」

 

 一柱の神がこぼした疑問は見事にあたり、片腕を潰された状態のまま、トオサカはその華奢な体を掴まれてしまう。

 しかし、それすら読んでいたのか、ニヤリと不敵な笑みを零してバーサーカーの頭部を完璧に吹き飛ばすことに成功するが………。

 

『ソイツは十二回殺されないと死ねない体なんだから』

 

「何だそのチート!?」

「体そのものが宝具、そういうのもあるのか…」

「クソッ、撃たなきゃみんな殺されて、撃ったらセイバーが消滅する…! どっちみち聖杯戦争に勝てねぇじゃねえかよ…!」

 

 トオサカを助けるため宝具を放とうとするセイバーに、それを止める士郎。最早一刻の猶予もなく、それが無為な時間となりそうな瞬間、士郎が動いた。

 

『――創造の理念を鑑定し、

 ――基本となる骨子を想定し、

 ――構成された材質を複製し、

 ――制作に及ぶ技術を模倣し、

 ―――成長に至る経験に共感し、

 ――蓄積された年月を再現し、

 ――あらゆる工程を凌駕し尽くし、

 

 ――ここに、幻想を結び剣と成す!』

 

「「「おあおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――!?」」」

 

 湧き上がる歓声。輝く金色の剣で以て斬りかかったその一撃はバーサーカーの腕もをたやすく両断し、見事に遠坂を助け出す。

 

「何だこの剣、すげぇ!」

「どっから剣が出てきたんだ…? あっ! 壊された!?」

「いや、まだ再現できてないだとか…」

「ってことはあの剣は士郎が造ったのかよ! 今、ここで!?」 

「アーチャーみたいなことしてるな」

 

 その剣、かつてセイバーが持っていた失われた宝具、『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』。数度に渡る剣戟を経て、完璧に近い構造となったそれを、二人並び構える。

 星の聖剣に近い性質のその奔流は、迫りくるバーサーカーの肉体を完璧に捉え――――。

 

『『―――――』』

 

「やったか!?」

「おい馬鹿やめろ」

 

 その一撃を受けて尚、巌の如き巨躰は未だ二足を地につけており――。

 

『それがお前の剣か』

 

 決着は着いた。霊基を失い粒子として消え去るバーサーカーと、言を交わす二人。こうして、名実ともに“最強”のサーヴァントであったヘラクレスに勝利したのだった。

 

〜中略〜

 

 

 最後の話のエンディングが流れ、いつものように今回の話を振り返る人々。しかし、その中には話に混ざらず、猛然と街路を駆け抜ける一部の神々の姿があった。

 人々は「何だ?」と不思議そうにその後ろ姿を見届けるが、次の瞬間、目の色を変えてその後を追うことになる。

 

 

 Fate/zero 第一巻本日発売!

 

 

「「「し、しまったぁぁぁあぁぁぁ!!」」」

 

 

「あったか!?」

「だめだ、こっちの書店には取り扱ってないぞ!」

 

 

「も、もう完売!?」

「は、はい。既に神様たちや冒険者の方々が…。申し訳ありませんが他店へとお越しになられてください…」

「チクショー、完全に出遅れてる…!」

 

 

「クソ! どこにもねぇ!?」

「どこか、どこかに売ってねえのかよー!?」

 

 

「フハハハ、買えなかった愚民どもが喚いているな」

「こうなったらお前の本を奪ってでも…!」

「や、やめろ! これは持って帰ってじっくり読むんだ!」

 

 

「ロキが持ってるぞー!」「寄越せー!」「絶壁の癖に生意気な!」「くっ、無乳に負けた…!」

「あ?」

「「「「すいませんでした」」」」

 

 

 この有様である。当然発売から1時間と経たずに刷られた500部完売。買えなかった者たちの怨嗟の声が響き渡ったのであった。

 

 

 

◆おまけ〜例のカッコいいポーズを見たオラリオの反応〜

 

「カッコいい! カッコいいが……www」

「クッソwwww酒返せwww」

「製作者の感性俺等と同じだろ絶対」

「かっけええええええええwwww」

 

「な、なんてかっこいいポーズなんだ…」

「これを作った人は只者じゃないぜ…!」

「俺は神々こそがこの作品の製作者だと考えるね。これだけ素晴らしいセンスはそうに違いない」

「確かに…」

「俺等には想像もつかねえな……」

 

 

「へっぶし!」

「大丈夫? 風邪?」

「ん、大丈夫。ただのくしゃみ」

「ならいいけど。体には気をつけてね? 立香はレベル1なんだし、色々とやってるからさ。立香がいないと…」

「いないと…?」

「…ううん、なんでもない!」

「なにそれ」




出来たんだけど……。
あっふーん…。そういう反応しちゃうんだ〜。ザ〜コザ〜コ♡液晶見てニヤニヤしてる♡待たせてごめんね♡申し訳程度のクリスマス成分♡次回以降未定♡また見てね♡


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Fateの布教王に!!! 俺はなる!!!

ドンッ!!!


 

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんについて教えて下さぁぁぁぁぁいっ!?」

 

 俺が諸々の商談をするため昼時にバベルへ向かっていると、そんなことを宣いながらギルドへ突入する血達磨兎を見つけてしまった。

 

「今のって…」

「うん、ベルだね」

 

 もうそんな時期か。という変な感慨深さと、そもそもそんな格好で往来を爆走するな。という注意が同時に湧き上がる。内部から聞こえる甲高い悲鳴をBGMに、俺達は見なかったことにしてそのまま道を進むことにした。

 

 

――…

 

 

 商談はFateの勢いもあってか即終了。正直生活できるだけの利益があればいいと思ってる俺は取引で揉めることもなく、向こうとしても好条件。こちらとしても一番手のかかる部分は実質タダだし、かなりの利益が出るため円満に終わった。

 Fate/staynightも明日で堂々の最終回を迎えるのだ。それに合わせてキャラ人気を狙ったタペストリーやフィギュアなどのグッズ、それに設定集なんかも出してもいいだろう。

 

 そこを踏まえて、私は今どこにいるでしょーか?

 

 正解は〜。

 

「こっこでーす。こっここっこー! 今回は【プタハ・ファミリア】にお邪魔させてもらってまーす!」

「急に何を? 頭でも打ったの?」

 

 アーディの攻撃。

 アーディの攻撃。

 

 世界が違えば当然というか、やはり某珍獣ハンターのアレは通用しないらしい。地味に悲しい。

 

「準備出来たぞ」

「はい、今回はこのような機会を提供してくださりありがとうございます」

「いいってよ。俺としても願ってもない機会だ。さらに依頼人の頼みだからな」

 

 という訳で。先程も言ったとおり、俺達が今訪れているのは【プタハ・ファミリア】だ。造形などを司る神様のファミリアらしく、彫像や彫刻、その他作品などを売っている商業ファミリアだ。

 今回はフィギュアの製造元として契約を結んだため、その依頼や確認などをするために訪れたのだ。

 

「よく来てくれたな」

「あ、こんにちはプタハ様」

 

 この如何にもエジプト風な装飾をし、ミイラのように固く包帯を巻いた姿の女神の名はプタハ、【プタハ・ファミリア】の主神である。

 なんでも、天界にいたころはヘファイストスにも劣らぬ名匠の名を欲しいままにしながらも、その他、芸術なども他を寄せ付けない、いわば創造系での大御所だ(と本神が言っていた)。

 けれど、それも遥か天界の話。今から四年前に下界に降りてきたばかりの派閥では、既にオラリオに根を下ろして長い派閥と比べて知名度がなく、新たな志望者等も他の大手に流れてしまう。ということをボヤいていた。

 

 今回アーディが一緒にいるのもプタハ様は7年前のことを直接見ておらず、また【ガネーシャ・ファミリア】にも縁がないからだ。

 とはいえ、流石にそのままという訳にもいかないため、仮面と外套で特徴は隠しているけど。因みに偽名としてU・アーディマリーと提案したらすごく呆然としたような、それでいて嫌そうな顔をされた。冗談だったのに…。

 

 話が逸れた。

 プタハ様は芸術にもまつわる神として、アニメには並々ならぬ興味を抱いていたらしく、そこに俺たちからの申し出だ。これを機に新たな風を吹き込もうということらしい。

 

「で、肝心の要望はどんな感じだ?」

「あ、はい。それに関してはこっちで造ってきたので、どうぞ」

 

 催促されたそれに、俺渾身の設計図を取り出す。四方八方からの図面と、こだわりポイントなんかも注釈として入れてある。どこまで実現できるかは分からないが、妥協はない方がいい。

 

「セイバーとアーチャーか。よく纏められていて見やすいな」

 

 今回造る予定のフィギュアはセイバーとアーチャーの2体。どちらもFGOのセイントグラフの姿だが、初回があまり動的すぎるのも難しいと思ってのことだ。

 サイズは8分の1スケールでそれぞれ19C(セルチ)と23Cにしている。

 

「うむ、依頼は受けた。お前達もよく見ておけよ」

「はい!」

「分かりやした!」

 

 俺が書いた設計図が団員たちの目に入る。少々気恥ずかしいけど、何の指摘もないことから、プロの彼らから見てもツッコミどころはないんだろう。安心した。

 

「後は待つだけだが…どうする? 見てくか?」

「! いいんですか!?」

「依頼通りの品になるか確かめたいという客もいるからな。普段はあまり歓迎しないが、今回は新しい試みということもあってな。出来れば見ていて欲しいんだが…」

「そういうことなら! 是非お願いします!」

 

 願ってもみない申し出だ。商売的な意味もあるけど、何よりフィギュア作製の現場を生で見たいというのは間違っているだろうか? いや間違っていない。

 

 

―――…

 

 

「出来たっ…! とうとう出来たぞ…!」

「凄い、完璧だ。本物の布にしか見えないぜ…」

「想像以上の完成度だ。これはやったな坊主!」

 

 数時間が経過し、とうとうセイバーとアーチャーのフィギュアの原型が完成した。髪の毛の一本に至るまで気を使い、服の上から強調される筋肉に、はためくドレスなどと、ここまで小さいサイズで精巧に造るのは至難の技だったと言えよう。

 工房のみなで苦心し、努力した結果だ。初めての試みに心が折れそうになったこともある。針の穴を通すより繊細な手付きが必要とされ、慣れないフィギュアを文句の一つもない精度に仕上げることができたのだ。

 

「よし、最大の立役者に胴上げだ!」

「わーっしょい!」

「わーっしょい!」

「わーっしょい!」

「わーっしょい!」

 

 そう、胴上げまでやる勢いで。

 

「いやー、にしても、ホント惜しいぜ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「はは、それはありがとうございます」

 

 胴上げされているのは誰かって? そう、俺です。

 そのまましばらくわっしょいわっしょいと胴上げは続けられ、それはアーディからのツッコミが入るまで終わらなかった。

 何故こんな珍妙なことになっているのか。それは少し時を遡る。

 

 

 

 

「畜生、他はまだなんとかなるんだが、髪と衣服のはためきが上手くいかねぇ…」

「ああクソ! またやっちまった! やっぱし石膏とは違うな……」

 

 ファミリアの皆さんはそれぞれ発注書通りに制作しているのだが、如何せん、上手くいかない箇所がある。それは髪と衣服だ。彼らは石膏などでそれらを事細かに表現したことはあるが、このように造形したことは少ない。その上、小さくかつ精巧なフィギュアでは1mmのズレが致命的なズレになる。

 

 初めて造った、というわりにはかなり手際のよく、流石神の恩恵を貰った本職だと実感させるが、しかして作業は難航しているという結果から抜け出すことが出来ない。

 

「…その、難しいなら少し見直してみましょうか?」

「いや、わざわざ俺達を頼ってくれた坊主の期待を裏切るわけにはいかねぇよ。何より、最初から断るんならまだしも一度引き受けた仕事だ。それは俺達の矜持に反するってもんだ」

 

 ここの団長さんはそのあたりしっかりとした職人魂を持っているらしい。とはいえ、実際に作業に進展はない。何かきっかけがあればそこを起爆剤にして一気に進めることができる気がするんだけどなぁ…。

 

「まだまだ難航してるようだな。坊主、今日中は無理だと思うぞ? 見ていくかと言った手前あれだが、また明日…いや明後日にでも出直してみたらどうだ?」

「お気遣いなく。今日はこのために予定を開けていますし、依頼主に確認を取れたほうが行き違いもないでしょうしね」

「フム…まあ、そっちがよいならいいが……。そうだ、お前さんもやってみるか? ああ別に必ずしも作品を造れ、とは言わんさ。創造意欲(イマジネーション)の赴くままに出来る作品を通じて見られるものもあるからなあ」

 

 あれは俺が創った訳じゃないんだけど…。いや、まあ前世であったサブカルチャーだと説明するわけにもいかないから対外的にはそうなるんだけど…。ご期待に添えられるかは分からない。

 そう言って、プタハ様が持ってきた粘土の山や参考書的な代物が目の前に置かれる。

 

「好きにやってくれ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 最初は恐る恐る粘土に触れた俺達だったけど、一度躊躇がなくなるとあの変形やらの感触が気持ちよくて遊んでしまう。

 この粘土も芸術系派閥が使っているだけあって上等な代物のようで、前世で言う紙粘土を、より造りやすくしたようなものだった。

 …と、そういえば前世でも俺はこういうのが得意だった。小学生のころに紙粘土で作った“ジュ○シック・パ○ク”は金賞を貰えたし。

 よし、ちょっと俺も挑戦してみるか…!

 

「まずは髪をこうやって…」

 

 頭に乗せる髪単体を練って、ちょちょいっと「待って!?」すれば…。

 俺が真剣に作業してると、アーディが急に大声を上げる。その声に驚いて作業を止める俺と、何かあったのかと怪訝そうに戻ってくるプタハ様の姿。

 

「…どうした? 何か不備でもあったか?」

「あ、いやプタハ様そうじゃなくて…。って違う! 立香今のどうやったの!?」

 

 アーディの言う今の、というとこのオルガマリー所長の頭髪部分のことだろうか? え、なんでオルガマリー所長かって? …推しなんだよ。言わせるな恥ずかしい。

 しかし、我ながら中々出来がいいと思っている。まさか俺に隠された能力がこんなところにあったとは…。

 

「ぬおっ、これは中々見事な…。いや少し手を加えれば直ぐにでも…」

「もう一回、今度は別のも作れる?」

「まあ、いいけど。しっかり見といてね」

 

 そうして新しい粘土を手に取る。…そうだな、今度はヘスティア様の髪型にしよう。まずはサッと前髪を作って…側面を摘んでツインテールを伸ばす。

 こんな感じ。

 

「人間の動きを逸脱してない???」

「ええ、キモ……」

 

「酷くない!?」

 

 神にまでドン引きした目を送られた俺は叫んでもよかったと思う。

 

 

 

――――…

 

 

 

 まあ、そんなわけで俺の手法で苦戦していたセイバーとアーチャーの原型自体は完成した。後は焼きとか塗装とか色々あるけど、そっちはまた後で、ということになった。

 俺みたいにスルンと創れる人はいなかったけど、しっかりコツは掴んだとのこと。因みにプタハ様は「誰もがお前みたいな腕手に入れたら多分私泣くぞ? 見たいか? 創造神のギャン泣き」と言われた。解せぬ。

 というかあの神創造神だったんだ…。てっきりヘファイストス様みたいな感じだと思ってた。

 

 これで多分最終話後の発売には間に合うだろう。いや、それにしても今回のはいい収穫があった。鼻唄でも歌いたい気分だ。

 

「上機嫌だね。やっぱりフィギュアができたのが嬉しいの?」

「ん? ああうん。それもあるけど…これはちょっと予想外のことだったから…」

 

 そう、本当に予想外のことだった。無い無いと思っていたこの俺に、まさか転生特典が備わっていたなんて!!*1

 

 こっちの世界に来た直後はテンプレ的に「ステータスオープン!」とか「トレース・オン!」とか小っ恥ずかしいことをして、結局何もないと思っていた。それは違ったのだ。何故ならそれは造形に関するチートだったから。

 というか魔法と言いこの特典*2といい、まるでおあつらえ向きだ。運命は俺がこの事業を始めることを知っていた…?

 

 あ、折角転生特典*3あったんだから「俺、何かやっちゃいました?」とか「別にツインテールを作っただけだが」とか言わなきゃいけないポイントだったかもしれない。

 くそう、初回を逃すと言いづらいんだよなアレ。惜しいことをした。

 

 というか前々から不思議だったんだ。いくらFateが好きだからってその設定や内容を一字一句違うことなく覚えてるなんて*4

 

 神は言っているんだ。この三つの特典である“魔法”*5、“造形力”*6、“記憶力”*7を使ってFateを布教しろと。

 元からそのつもりだったが、その意志は更に堅固に固まった。

 

 Fateの布教王に!!! 俺はなる!!!

 

 ドンッ!

 

「ねぇ、放送時間迫ってるよ?」

「ッス」

 

 そういえば、結構ギリギリの時間だった。遊んでる場合じゃないと、必死に足を回し続けた。

 

 結局遅刻した。

*1
違う

*2
本人の器用さ

*3
何度も言うが実力

*4
こっちは本物

*5
本人の気質から生えた本物

*6
繰り返し言うが実力

*7
これはチート




召喚、造形、記憶。三つのチート(内2つはそうではない)を手に入れた男、FG王フジマル・立香。彼の過労による死に際に放った一言は、人々を書店へ駆り立てた。

「俺の原本か? 欲しけりゃくれてやる。探せ! Fateの全てをそこに置いてきた!」

 男達は、全ての設定を目指し、夢を追い続ける。世はまさに、大海賊版時代!!

テーレッテー!


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終わりの前日。再確認と新発見の日

おまたせ(半年以上)
くっ、殺せ!(挨拶)


 

『……だから、もし聖杯の力で王の選定をやり直す事が出来るなら、その前に戻ればきっと―――』

 

「あー、なるほど。アーサー王の伝説だとほぼ内輪もめで終わってるから…」

「それでやり直してもっと有能な王がいればってことか…。でもそれは過去改変とかになってうまくいかんのだよなぁ」

「そうそう、時の神がそこらへん超厳重に管理してるからなぁ…。あ、でもFateだとどうなるんだ?」

 

 バーサーカー陣営を打倒した彼らは親交を深めたが、その最中で語られたセイバーの思いに、神と人とで共感し、それぞれ感想を述べていく。

 主従の気持ちが交差する中、キャスターの襲撃が始まる。いざ元凶であるキャスターを討伐せんと庭へ出る。一度は恐ろしい精度の大魔術で危機に陥ったかに見えたが、それすらセイバーは一蹴。

 

 キャスターは話をしに来たと言い、アサシンの脱落を語る。驚きながらも断ると、さっきの竜牙兵を召喚し―――

 

『失せるがいい、道化』

 

 塀に立つ黄金の男の雨あられのような攻撃がキャスターの体を貫き、金色の粒子へと還した。

 

『――な、貴様、アーチャー!?』

 

「は? え? アーチャー?」

「イメチェンしたのか?」

「っていうか、何だ今の。空中に金色の波紋が出て……武器が弓みたいに発射されたぞ」

 

 何とか難を逃れた士郎たちは、紆余曲折あり、ぶつかり合いながらも信頼を更に深いものとする。そこに現れた黄金のサーヴァント。

 士郎がバーサーカーを倒したあの剣で斬りかかるが、メロダックによって深手を負ってしまう。セイバーは怒り斬りかかるも、全て鎧だけで受け切られる。

 

「士郎――!?」

「また致命傷負ったぁぁあ!?」

「アーチャーはやられてるだけなのに、全然ダメージを負ってねぇ。あの鎧が宝具なのか…?」

 

 そして、キャスターを屠った攻撃が今度はセイバーに襲いかかる。なんと、空間に浮かぶ大量の武器、その全てが宝具なのだという。信じられない、とセイバーがその事実に瞠目するが、余裕綽々といった様子のアーチャーの言葉に、その答えを導き出す。

 

『ギルガメッシュ――――人類最古の英雄王――――』

 

「ブフゥッ――!?」

「イシュタル様!?」

「な、何か粗相を!?」

 

 そして、セイバーは宝具を切った。世界で最も有名な聖剣。あのバーサーカーを仕留めた一撃は、しかしてギルガメッシュに届くことはなかった。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)――――”

 

「は?」

「…何……だと…」

「エクスカリバーが完全に負けた…」

 

 セイバーは倒れ、無理矢理に斬りかかった士郎も、メロダックによって致命傷を負う。最早動くこともできないほどの傷を負いながらも立ち向かう士郎に、ギルガメッシュは止めを刺そうとして――セイバーが手をかざした何かに防がれる。

 それを見たギルガメッシュは無言で立ち去った。残ったのは、二人だけだ。そして、癒えていく士郎の傷を見て、セイバーは抱きしめた。

 

『シロウは、私の鞘だったのですね』

 

「おお…!」

「士郎の体の中に宝具があるってことか…?」

「なあ、あれあの状況だからいいけどさ、性別逆だったらものすごいセクハラに…」

「おい止めろ。感動シーンに水を差すな」

 

 

 そしてまた、最近聞き慣れてきた音楽と映像を楽しみ、彼らはホクホク顔で居住区へ戻っていくのだった。

 

「あー、にしても明日で最終回かぁ…。すごい楽しみなだけに終わったあとを考えると怖いな…。果たしてこれ並みの娯楽にどれほど出会えるか…」

「おいおい、終わる前から悲観してどうする。俺はどうやって決着がつくか気になるな…。英雄王ギルガメッシュ…。今の時代に知ってる子供(やつ)がいるなんてな…」

「やっぱり造ってるの神々(俺ら)とか? いや、話だけ聞いてるって説もあるな…」

 

「最終回が来ても円盤を買っている俺に死角はない。垂れ流しながら読書(Fate/zero)を楽しむとするぜ」

「っていうか、歌の方もだしてくれねえのかな。映像と音がいけるなら音だけもできるだろうに。俺二つ目のオープニングが好きなんだよな」

「俺は三つ目のエンディング〜」

「やっぱ一番最初のを聞いたときの衝撃が―――」

 

 

◆◆◆

 

 

 

 フジマル・立香。

 私を連れ出してくれた、不思議な青年。

 

 あの大抗争の日、私は死んでから幽霊になった。誰にも見つからず、何処へも行けず。声も届かず触れもしない。私はここにいるのに、いない。

 私の死に心を痛める友人の慟哭を目の前で見届けた。

 終わらない争いの音に敏感になった。そして、いつの間にか音は聞こえなくなっていた。

 

 まだしばらくは耐えられた。きっと、何かの間違いなんだって。この世界に残ったのは、神様がうっかりミスをしてて、少しの間だけの猶予期間なんだって思えた。

 

 …ううん、そう思いたかっただけ。そして日が沈んで、また昇って、それが100を越えた時にはもうそんな僅かな拠り所もなくなっていた。

 

 ここはずっと寂れたまま。外は見えないし、人は来ない。たまに来ても、私に気づかず通り抜けていく。

 

 ずっと、ずっと辛かった。気を紛らわせようにも、この体じゃ何もできない。

 

 もう長いこと何も食べていない(食べなくても死なない)

 どれだけ起きていられるのだろう(目を閉じても眠ることが出来ない)

 みんなを見守ることもできない(ここに閉じ込められている)

 誰も、私を認識できない(誰か、私を見つけて)

 

 ―――独りは寂しい(みんなに会いたい)

 

 そんな風に思って、数え切れないくらいの時間が経った。何をしなくても問題ない。それはまるで拷問のようだった。

 

 何もできない、何をする機会もない。ただそこにいるだけ。私の体には何の変化もない。死んだときの姿そのままで、時間だけが無為に過ぎていった。

 

 狂ってしまいそうなのに、狂えない。

 

 人が来ても、もう期待することなんてやめた。きっと、世界が終わるまで私はこの場所に()()のだと考えた。私はアーディ・ヴァルマではなく、そういう現象として地上にあるのだと考えて―――

 

『あ、すみません…』

 

 ――立香に出会った。

 

 あのときはとうとう幻聴が聞こえたと思った。それでも、妙に気になって顔を向ければ、明確に、私を避けたような姿。

 

 咄嗟に手を伸ばした私は悪くないはず。誰だって私と同じ環境に置かれればこうもなると思いたい。

 

 あの時間の喜びは何よりも激しかったと思う。もうどれくらいの時間を過ごしていたのかは分からなかったけど、久しぶりの人との会話。こっちを見据える目。その肌に触れて、反応して、それだけで多幸感に満ち溢れていた。

 

 私の話に相槌を返す姿。言葉が詰まる私を、忌避せず待ってくれる気遣い。

 

 どれもが、私は嬉しかった。そして、また会いたいと、嫌われたくないと思って、別れを告げたけど、なんと、立香は私を外に連れ出してくれた。

 

『アーディ。―――――手を!』

 

 悩む手を強引に掴んで、私は檻から連れ出された。

 まるで御伽噺に出てくる、幽閉された姫を救い出す勇者の様に。

 

 何も触れなかった体に、今まで感じてこなかった感覚が蘇る。

 自分の足で、大地を踏みしめることができる。匂いを嗅ぐことができる。血の通っている感覚が満ち、世界に色彩(いろ)が戻った。

 

(……本当に、絵本の中の王子様みたい。なんて、気取り過ぎかな?)

 

 アルゴノゥト、とは思わない。アルゴノゥトには役目があったし、何より彼は弱くても、情けなくても英雄の一人。

 立夏は違う。荒事をなす冒険者という立場でも、ベルよりも大人びていても、根本的に一般人なんだ。それが、何より私達が守りたかったものの様で―――。

 

「アーディアーディ! なんか、なんか出来そうな気がする!

ダンジョンに行った時から少しずつ溜まってたっぽいのが、なんか出来そう! ちょっと来て!なる早で!」

「―――うん! 今行く!」

 

 まあ、今は楽しくやってるよ。お姉ちゃん。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 アーディを呼び出して、教会裏の広場に佇む。

 

「それで、何が出来そうなの?」

「……多分、フレポガチャだと思う」

「ふれぽ?」

「うん、フレポ(フレンドポイント)

「???」

 

 アーディはよくわかってないみたいだけど、俺もよくわかってないからおあいこだ(???)。

 事の始まりは初めてダンジョンに潜った時。本当に最初は小さな違和感しか無くて、それも初めてのダンジョンという非日常に興奮していたせいだと思った。でも、何度も戦闘行為を行っていくたびに蓄積されていく感覚。それが、今になって何か出来るという感覚がある。

 

 うーん、ゲーム的に言うならフレンド…つまりは同じファミリアの人を連れてダンジョンで戦った…つまりはクエスト扱いなんだろうけど…。他の派閥の人と一緒だと非フレみたいになるのかな…。まあ、それは検証しないと分からないか。

 それと、多分溜まり方は戦闘に区切りがついたか。って感じだと思う。FGOでも3Wave3/3/1のクエストがあれば、1Wave15とかのクエストで一段落の時もある。多分、同時に戦う敵、及び逐次敵対する相手がいる場合を含めて1Wave。ちょっとの移動や待機を挟んで戦闘が始まる様なら次のWave扱い。それで、しばらくの間戦闘に余裕が出来一段落が出来るのが1クエスト(戦闘終了)。この戦闘終了毎にフレンドポイント?が溜まっていく。

 

 ……いや、これ普通に強くない?奇襲とかには対応できないけど、継戦するならその区切りが分かるし。連戦の間でもそのあたりの判別がつくってすごい便利だと思う。素人の俺でも考えつくんだから、きっと頭のいい人ならもっと活用法が思いつくかも。

 

 まあ、それは一旦置いといて。今はガチャだ。

 

 フレポガチャかー。フレポガチャねえ。何が出るんだろう? ゲームだったら星3までのサーヴァントとか概念礼装が出てたけど、今は石を割っても星1とか出るしなー。

 

 じゃあ、早速やってみる。

 

「【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ――以下略――汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ】!」

 

 そう告げると、魔法陣が現れn回と見たあのサークルが現れる。

 ……便利だけど、これ本当にダンジョンじゃ使えないな。何するにしても長い召喚が必要だし、光るし音も鳴る。それなのに戦闘に関わらないってのは本当に自殺行為だ。

 

 そして眩い光と共に円環が収束すると、そこには―――

 

 

 ―――手が生えていた。

 

 

「えっ」

「えっ」

 

 いや、確かに手ではある、手ではあるけど…。その手は俺の腰ほどまでの大きさで、黒い色にオレンジの筋がいくつも通っていて……そして、掌の上には同じくオレンジの球体。種火、通称イクラが浮遊していた。

 

 ……これ、星1種火のやつ(黎明の手)じゃん!

 

 俺たちが余りの光景に呆気にとられていると、種火は俺たちを捉えた?のか、うごうごと歩いて攻撃を仕掛けて―――!?

 

「危なっ!?」

 

 掌の種火が予備動作に入った段階で慌てて飛び退くと、さっきまでいた箇所にそれが叩きつけられ、石畳が粉砕する。地味に威力高いね!?

 

「やぁっ!」

 

 アーディも流石に攻撃を仕掛けてきたとなればぼうっとしてもいられない。素早く叡智の種火へ接近すると、右手に剣を出現させながら斬りかかる。一撃では倒れず、けれど再び種火が動き出したその隙に一閃。

 見事に入った一撃に腕は沈黙し、種火を残して消滅した。

 

「…何これ?ドロップアイテム?」

 

 残った種火を摘み、不思議そうに顔を近づけるアーディ。そして気づく。今しがた現れたサークルが消えていない。いや、消えていないどころか、再び回転を始めて新たに召喚を行おうとしていることに。

 

「これ止めれる!?」

「ごめん無理! お願いします!」

「もぉーっ!?」

 

 それから、種火は倒される毎に召喚され、最終的に10体の種火が召喚された。まあ、発生する場所が同じでタイミングも分かりやすいから後半は現れる瞬間から思いっきり剣を振る作業になってたけど。

 因みに最後の一体は星2種火(黎明の腕)まで出てきて、そいつは手よりもしぶとかった。

 

「で、これ何?」

 

 地下へ潜って一言。集めた種火のことだ。

 

「…………いくら、じゃないかな?」

「そんなわけないよね」

 

 

 ――――流石に無理があった。

 

 




おまけ

「意外と美味しいのが悔しい。こんなわけわかんないやつなのに…。あっ、今なんか力増した感じがする!」
「……そんなに美味しいなら、俺も一口だけ…」

 アーディは強化され、俺は腹を壊した。


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それは新たなる物語の礎

待たせたな!!最後が雑だけどこれ以上発展出来なかったのでそうなった!許せ!


 

 

 あー…。気が重い。

 

 セイバールートの最終回を目前として、俺がここまで億劫なのには理由がある。その理由とは、豊饒の女主人にて起こるトラブルのことである。昨日ベルがあんなこと(血まみれ白兎)になっていたので多分今日起こることだと思うけど……。

 

 うーん、でもこれはベルの成長に必要なことでもあるんだよね。こうでもしないとベルはこの先成長する機会が失われる。一人の人間として関わっている今としてはそういう口を叩かれるのは嫌だけど、それも酔っていて、かつ彼なりの優しさあってのこと。……多少の私情はあっても、しっかり折檻されると分かっている以上俺から言うことは何もない。

 それに、今回が最終回ということで、やらなければいけないことが多いんだよね……。

 

 まずプタハ様からフィギュアを受け取って販売スペースに展示&販売しなきゃいけないし、その後の展開への進め方やグッズとかの製造問題とかもやっておかなければいけない。そしてFateという土壌を蒔いた所で新たな要素や設定資料などを出せば飛ぶように売れるだろう。

 

 最近ようやく利益が上がっているとはいえ、それでも弱小派閥に変わりはない。稼げる内に稼がなくては。ので、多分普通に俺はどうこうすることが出来ないんだよな…。

 

 今日も種火くんを片付けて(俺のステータスアップと運動も兼ねている)、新たなFate系列の商品展開への話をつけ終わった後。書籍関連の下書きをさっさと終わらせて、ようやく夕方。

 

 ベルも最終回までは見ていないので、今日は少し早めにホームに帰ってきている。予め晩御飯の誘いを断って、少し早めに軽食。

 

 折角リューさんと会えるチャンスをふいにしてしまったのはアーディに申し訳なかったけど、すぐ許してくれた。

 

 さて、そろそろ時間になる。いよいよ最終回ということで、オラリオでも一際話題に上がっていて、バベルへ向かう道すがらでも色々と興奮したような声や無言ながらにそわそわと体を動かす者や嘆く神々などの声がざわめいていた。 

 

「よし、やるぞ…。【素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公―――】」

 

 

 

 

―――――…

 

 

 

 

 この日、オラリオの雰囲気は浮足立っていた。

 何も、祭りが催されていた訳では無い。ある日バベルに映し出された動く絵の劇場―――タイトルをFate/staynight―――の最終回が上映されると知っていたからだ。

 

 一エンタメに何を、と思うだろうが、これまでにない構図で、新しい文化の構築。デフォルメされていながらカッコよく、美麗で、美しい映像と惹き込まれる設定やストーリーから、一躍都市最大のホットなニュースとなっていた本作。

 誰もが楽しみにしていたこの時間帯を前にして、いよいよもってその最終回が流れるという緊張と興奮、期待がまぜこぜになり、異様な熱気を伴っていた。

 

 この時間になるとそれを見るために客も集中するので、店員なども客と一緒に見ている様な習慣まで出来てしまっている。

 

 さて、その中でも特に勢いのある、よりよい場所で邪魔されずに見たいというファン達のための有料席。陣取った神や人が分け隔てなく最終回への期待やこれまでの感想、予想などをわーわーと言い合っている。

 

 煩いくらいの声の数。しかしそれも、バベルに画面が映し出された瞬間にしんと静まりかえる。上映マナーは良いようだ。

 

 いつもの白兎が鐘を鳴らすシーンから始まり、いよいよ最後の物語の幕が上がった。

 

 前回の聖杯戦争から生き残っているという8人目のサーヴァント。アーチャー、ギルガメッシュに敗れた士郎は、このことについて話を聞くために監督役であるコトミネ綺礼のいる教会へと向かっていた。だが、肝心のコトミネの姿はなく、逸る動悸を抑えてある地下室へと立ち入ってしまう。

 

『生き―――てる?』

 

「は?」

「え…、は…?」

「ほぼミイラなのに、生きてる、だと? それも、養分を吸い取られて……?」

「おいおいおいコトミネ…!」

「兄弟って…まさか」

「え、てことはあの時引き取られた子達は孤児院になんて行ってなくて、ここで“資源”として扱われてたって、そういう…?」

「嘘でしょ…」

 

 明かされる衝撃の事実。動揺するシロウに、さらなる衝撃が襲いかかる。怒りをコトミネに向けたシロウの背後から、朱色の魔槍が生える。

 

『改めて紹介しよう。彼が、私のサーヴァントだ』

 

「は?」

「ランサー!!??」

「監督役がそんなことしていいのかよ!?」

「なんて奴だ…」

「またやられてる…」

 

 その場はセイバーが駆けつけたことで窮地を脱したが、直ぐに次の困難が訪れる。

 

『セイバー。己が目的の為、その手でマスターを殺せ。そのあかつきには聖杯を与えよう』

 

「は?」

「おいおい、それはもう士郎が断って…」

「いや、なんか迷ってね…?」

「待て待て待て待て待てっ!? やめろぉ!ここでやったら今までの絆とかどうなるんだよ!?」

「シロウの方が意思が強かったか…」

「まあ頑固だし」

「……ふう、セーフ。しっかり断ったぞ」

「よーし、よく言ってやった!!」

「そっか、やっと願いに向き合ったんだな…。その上で断った。今までのモヤモヤが晴れたぜ…」

 

 撤退しようとするセイバー陣営を食い止めるべく、ランサーが向き直る――が、コトミネが指を鳴らすと、新たな人物がそこに現れる。―――それは、件のサーヴァント。ギルガメッシュであった。

 

「は?」

「お前さっきから『は?』しか言えてないぞ」

「しゃーない。俺だってそーする」

「前回の聖杯戦争でもマスターやってたのかよコトミネ」

「ってなるとランサーとギルガメッシュで2対1か…厳しいどころじゃないぞこれ」

「いや、ランサーも知らなかったっぽいぞ」

 

 そして、語られる聖杯の真実。万能の願望器という名の破滅と悪意を齎す欠陥品の存在を。

 

「とんだ詐欺じゃねえか…」

「じゃあトオサカは、アーチャーやキャスター達は何のために戦ってたんだよ……」

「戦ってもやばいのが出てくる。戦わなくても襲ってくる。どうしろってんだ」

 

『悪いな。手元が狂った』

 

「っ!?」

「ランサー!?」

「流石ランサーの兄貴!?」

「ランサーの兄貴、略して槍ニキ流石!!」

 

 コトミネの不義理に反発したランサーの助力を得、なんとか教会を抜け出した二人。しかし、衛宮邸に待ち受けていたのは怪我を負ったトオサカと、イリヤが連れ去られてしまったという事実だけだった。

 

「何……だと……?」

「先手をうたれたか……」

 

 二人はイリヤを救うため、聖杯による被害者を出さないため。聖杯を破壊することを誓い、ギルガメッシュとコトミネとの最後の戦いの地。柳洞寺へ向かうのだった。

 

「「「…………」」」

 

 そして、最後の戦いの幕が上がった。セイバーはギルガメッシュと、士郎はコトミネと向かい合っていた。

 セイバーとギルガメッシュの戦いは一進一退の攻防を繰り広げ、雨あられのように向けられる宝具を自慢の剣技で防いでいく。そして、コトミネと対峙した士郎に襲いかかるのは、聖杯から漏れ出した呪いの泥。

 

 それは、かつて第三次聖杯戦争にて召喚されてしまったアヴェンジャーのサーヴァント。この世全ての悪(アンリマユ)が聖杯に収まってしまったが故に汚染されてしまったものだった。

 

「……アンリマユって言った?」

「え、ガチめにヤバイ奴じゃん」

「嘘やろ…。アンリマユゆうたら、悪神(うちら)の中でも段違いでヤバイ奴やぞ…」

「何でそんな奴が負けて…?」

「あ、そうか…。いくら聖杯で召喚されたとはいえ、神がそのまま来るには制限があって、今の全知零能(俺等)と変わらん状態ってことか」

「それがなまじ取り込まれたせいで一気にやばくなったってことかよ」

「アインツベルン大戦犯過ぎて草」

「イリヤたんを造ったことだけは感謝してやる」

 

 悪意の呪いに侵される士郎。そして約束された勝利の剣(エクスカリバー)を切ったものの、天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)によって押されていくセイバー。コトミネとギルガメッシュの勝利は確実かに見えた。事実、呪いの重みに膝を折った士郎と、出力で劣るセイバー。

 

 誰もが固唾を呑み、傷だらけの二人の抵抗をハラハラしながら観戦する。

 

 そして、奇跡は起きた。セイバーは紙一重の一歩先へと踏み込み、士郎は全ての呪いを受けて尚吠えた。

 

『『“全て遠き理想郷(アヴァロン)”―――』』

 

「あれが、アヴァロンの真の力……」

「すげぇ…ギルガメッシュの宝具すらも完全に防ぎきってる」

「この二人じゃないとこのタイミングでは出せないってことか」

 

『“約束された(エクス)――――”』

『セイバーァァアアアアアアア―――!!!!!』

『“勝利の剣(カリバー)”――――!!』

『“laβt”―――!!』

 

「「「「「うおおおおおおおおおぉぉぉぉ―――――っっ!!!?」」」」」

 

 

――――決着。

 

 二人の決死の一撃は見事にその存在の核を貫き、黄金の王と破綻した神父との勝敗がついた。

 

『――――手に入らぬからこそ、美しいものもある』

『――――なるほど。私も、衰える筈だ』

 

「ギルガメッシュ…コトミネ…」

「何だかんだ嫌な奴だったけど、いざいなくなると寂しくなるな…」

 

 ボロボロの二人は最後、呪いを産み出そうとしている聖杯の元へと辿り着く。そして思い返される今までの記憶。短くも濃かった非日常の一幕。

 

 二人の間に会話はない。話してしまえば、今にも消えてしまいそうだったから。そして、元凶を眼の前にして、最後の命令を告げた。

 

 星の聖剣によって、汚染された聖杯は破壊された。

 

 空が晴れる。終わったのだ。この儀式は聖杯を破壊したということで終了した。最早現世に繋ぎ止めるものもないセイバーは、光の粒子となって空に解けていく。

 そして、最後の最後。騎士王ではないアルトリアが振り返り告げた。

 

『シロウ―――――貴方を、愛している』

 

 返事をする前に、その姿は霧散した。仄かな寂しさを覚えるが、きっと、これでいいのだろう。

 

「ぁ………」

「…………」

「…………」

 

 街を一望する丘の上、一人残された士郎は、けれど暗い気持ちは感じさせていなかった。 

 

 その後は、なんてことのない日常が繰り広げられた。まるであの争いがなかったかのように、普通の生活。ただ、変わったことがあるとすれば、雪の妖精のような可愛らしい妹(姉)が出来、高嶺の花であった少女との接点が出来たくらいだろうか。

 

 けれど、あの戦いを、あの黄金の離別を、確かな決意を胸に秘め、彼らのその先は続いていくのだろうと、そう確信させるものであった。

 

 場面は代わる。時は古代。騎士甲冑を身に着けた優男に連れられ、傷だらけの王はかの湖へと辿り着いた。

 

 そこからは、みなも知ってのとおりだ。3度の忠告に渡って、星の聖剣は正しき場所に還された。

 

『見ているのですかアーサー王

 

 

――――夢の、続きを――――』

 

 静寂と共に、これまでの話と共に最後のエンディングが流される。

 

「……終わった」

「…………」

 

 それを、観衆は沈黙で見送っていた。つまらないのではなく、ただひとえにその感動と満足感から動けなくなっていた。

 

 晴れ晴れしい気持ちと、遅れて寂寥感が襲い来る。達成感を胸に、最後に目に焼き付けておこうと流れる場面の一つ一つを眺めていく。

 

 そして、エンディングも終わり、真っ黒な画面が広がって、ようやく重い腰を上げようとしたその時。

 

「ん? おい、まだ何かあるぞ」

 

 その暗闇の中に浮かび上がる、Fate/staynightのロゴ。そこから青い導火線の様なものが二筋に伸び、鍵のかかった鎖が解き放たれ、赤い輝きを放つ「Fate/staynight-Unlimited Blade Works-」と紫紺に輝く「Fate/staynight-Heavens Feel-」。そして、離れていく画面から多くの線が伸び、灰色のロゴに覆われた大量のアイコンがズラリと並んでいた。

 

 徐々にフェードアウトしていく画面を眺めて、さっきまでの染み染みとした沈黙から一転、住民たちのボルテージは最大限にまで達していた。

 

 

「「「「「「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」」」

 

 

「何だあれ、何だあれ!?」

「おんなじFate/staynightだけど何かついてたぞ!!」

「いや、他の奴もちらっと見えたけど、えっと、なんだったか、エク…なんとかとか、あぽなんとかも、これからあるってことか!!」

「まだまだ続きがあるんだな!」

「生きがいが終わったと思ったらもっと広大に広がってた…」

「おいおい、どんだけ俺達を楽しませりゃ気が済むんだよ…!」

「こうしちゃいられねぇ! 設定資料を見てFateの予習&復習だ!」

「待て、フィギュア販売? もこれから行われるから、金の使い道はしっかり考えなきゃな」

 

 住民たちは終始大盛りあがり。激動のフィナーレを迎えた瞬間を目にした興奮と、まだまだ未知の、けれど確実に自分たちの予想を超える作品群が待ち受けていることに抑えきれない衝動が議論という形で溢れかえっていた。

 

 結果として、このサプライズ演出は大成功。最終回ブーストもかかってか、今日のグッズ売り上げや関連商品は右肩上がりに爆増。これまでも早期になくなっていた商品が、上映終了から僅か1時間余りでオラリオの街から消えてしまったほど。

 職人や委嘱先のファミリアにとっては嬉しい悲鳴だろう。因みに、これらのことも相まって、今後もご贔屓にとお得意様としてフジマル立夏の顔は覚えられたのだった。

 

 

 

 

――――…

 

 

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインは一人、自室にて夜風を浴びていた。

 

 その原因とは夕食の時に放たれた会話。自分たちの不手際によるミノタウロスの逃走。ベートが嘲笑するように被害者を嗤った。それに、巻き込まれたあの兎のような子。

 

 あれを聞かれたのも、そのせいで店を飛び出してしまったのも、アイズに複雑な心境を抱かせていた。関わりがあるとは言えないが、何ともバツの悪く、苦々しい感じ。まして原因がこちらにあるのだ。年頃の少女であれば気にも病む。

 

 そうして、アイズは憂いを帯びたままぼうっと外を眺めていたが、ふと、その優れた聴覚が耳慣れない音を捉えた。

 

 それは、爆発の様な音や会話、そして鉄の重なり合うような音。普段であれば多少は違和感をもっても気にも留めない程度のものだったが、今が深夜帯であることを考えるとどうにも気にかかる。まさか本拠地でそのようなことをする団員がいるはずもない。

 仮に夜中に体を動かしたくなったからといって、アイズのように訓練場で得物を振るう程度に抑えることだろう。

 

(何だろう…。もしかして、侵入者?)

 

 その場合であれば、交戦状態にあってもおかしくはない。普通に考えればそのようなことがあれば夜中と言えど通達されるので、ありえないといえばありえないが、割と天然の入っているアイズは、愛剣――はメンテナンス中なので代剣のレイピアを腰に佩き、忍び足で廊下へと出た。

 

 慎重に耳をすませ、音のなる方へと近づいていく。

 

 角を曲がり、暗い廊下を進んでいくのは、何だかダンジョンに潜っているような気分だ。そして、音の発生源に辿り着いた。

 

(ロキの部屋から…?)

 

 そう、それは主神である神ロキの私室から聞こえてきていた。扉の隙間から漏れ出る光は何度も色を変え、点滅している。

 余計にワケが分からなくなったアイズは、こっそりとドアノブに手をかけ、隙間から様子を伺った。

 

 

――――そこには、衝撃があった。

 

 

 

 壁に映った戦士達の絵画が、目まぐるしく戦闘を繰り広げている。アイズから見ても武芸者だと感じさせる冴えを魅せるその動きと判断の早さは、一人の剣士として感嘆を覚えるほど。

 

 気が付けば、扉を開けて魅入っていた。勿論、初めて見る動く映像を目にしたという衝撃も相まってのことだったが、それでも気になっていた。

 

 気が逸れたのは、その戦いが終わって少女達の会話が挟まってから。そこでようやく何か魔道具のようなものからその光が伸びていることに気が付き、その後ろで椅子に座りながらそれを眺めるロキに気がついた。

 

「…ロキ?」

「ひょぅわっ!? ちゃっ、ちゃうねん!! 決して真夜中の背徳感ウマー!とかそういうんやなくて、昼間は色々やらなアカンこととかあるから今見てるだけで―――――って、なんや、アイズたんか。どしたん、こんな時間に?」

 

 声をかけられたことに相当驚いたのか、飛び上がるように映像を止めるロキと、堂々と部屋へと入り込むアイズ。

 アイズはここへ来た経緯を話した。

 

「あー、そらすまんなぁ。もうちょい音控えればよかったな」

「ううん、大丈夫。私も元々起きてたし……。それよりも、さっきのは、何?」

「よくぞ聞いてくれました!! アレはな、アイズたん達が遠征に行ってから流行った動く絵物語、アニメ言うてな―――」

 

 興味本位で聞いてみれば、続々と出てくるマシンガントーク。今日もあった筈だと言っていたが、遠征後のゴタゴタや整理などで見ている暇はなかったので、アイズ達は存在を知らなかったのだ。

 

 言っていることは半分も理解できていなかったが、それでもそういうジャンルのものが今都市で流行っている、ということは分かった。

 そして、今先程チラリと見た限りではあるが、既に興味をそそられていた。そのことを話すと、ロキは「お!興味ある!? せやな……。…じゃ、今はもう遅いし、朝体休めんのも合わせて一緒に上映会や!! 他にも興味ありそーな子達連れてきてもええよー」

 

 沈んでいた気持ちがなくなったとは言えない。けれど、新たなる未知への好奇心を刺激されたアイズは、多少明日への楽しみが増えたといった様子で床につくことが出来たのだった。

 

 

 ――――翌日、ダンジョンにも潜らずロキの私室に向かうアイズを見て、ファミリア内に妙な噂が立ったのは、また別のお話。





因みにベルは心配になった立夏が駆けつけて装備だけはちゃんとしてから7層に行ってます。

アイズがFateを知る回でもありました


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