無能in異能バトル (我らに幸あらんことを)
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幼なじみのお願い

 割と純粋な異能バトルになりそう


「いざ尋常に、はじめ!!」

 

 その言葉とともに、彼女はまっすぐに向かってきた。

 黒い髪を後ろに束ね、女性にしてはやや高い身長。

 十人見れば九人が振り返る美しい容姿。振り返らない奴はおそらく逆張り野郎だ。

 そして何より異質なのはその得物である。

 何も持っていなかったはずの両手には、いつのまにやら俺の身長と同じぐらいの槍があった。

 

「まずは小手調べだ」

 

 彼女は持ち手の部分を、俺の横っ腹に向け思いっきり振り払う。

 俺はその攻撃を――まんま食らった。

 

 

 

 俺が美少女と戦う羽目となる二時間前、学校から帰宅している途中だった。

 高校二年になって友達という友達も作れず、午前授業にもかかわらずまっすぐ家に向かう敗北者がここに一人。

 しかし、この帰宅途中、へんてこりんな人物が待ち構えていた。

 不審者、というには少々不適切である。

 逆に、この場合は俺が不審者扱いされかねないのだ。

 なぜなら、待ち構えていたのは女子中学生であったのだから。

 

「あなたが飯泉さんですか?」

「いかにも、私が飯泉である」

「いつもそんな口調なのですか?」

「そんなわけないだろ」

 

 初対面にも関わらず絡みにくいボケをかますのは俺の悪癖であった。

 しかし、と思う。

 この少女は何者だろうか。

 セリフ的には明らかに俺を待っていた風だが、そんなことされる心当たりはほとんどない。

 

「俺に何か用ですか?」

「急に敬語ですね。しかし、見ての通り私は年下ですのでもっと砕けた口調で構いませんよ」

「おいガキ」

「怒りますよ」

 

 話が進まん。どうにも俺は前置きが長いのは苦手なんだがな。

 そんなことを考えていると、彼女は一息ついて要件を伝えてきた。

 

「日野さんがおよびです。と言えば伝わりますよね」

 

 全然伝わらなかった。

 

 

 日野、という人物は一言でいえば幼なじみであった。

 小中までは仲が良かったものの、ある一件から連絡を取らないようになった。

 そもそも高校違うし。

 彼女が呼んでいるとして、ついてくるように言われているが、その要件についてはとんと検討がつかない。

 というかそもそも、向かう先が彼女の家ではなかった。

 

「そも、俺たちはどこに向かっているんだ」

「言ってませんでしたっけ?病院ですよ。ボスは今入院しているのです」

「手土産は……」

「必要ないとおっしゃっていました」

 

 なんともまあ、寛容なことで。

 いや、無理やり人を呼びつけているから、多少の非礼を無視するのは妥当か。

 

「ボスは寛容な方ですが、失礼な態度はとらないでくださいね。殺されてしまいますから」

「いや、俺とあいつが何年一緒にいたと思ってるんだ。あいつはそんなことしねーよ」

「ボスが殺すのではありません。私が殺すのです」

「怖っ」

「それに」

 

 彼女は俺に威嚇するような顔を向けた。

 

「あなたよりも、私の方がボスと長い間一緒にいます」

 

 とのことだった。

 しかし、なんだかその顔に既視感があったのは、なぜだろうか。

 

 こうして戦闘まで残り一時間。俺たちは病院にたどり着いた。

 

「ああ、久しぶりですね。飯泉」

「久しぶり、だな。日野。しかし、ずいぶんと……」

 

 彼女の様態がどのようなものであったかは詳しく語らないとして、一言でいえば「ひどい」であった。

 これでは当分、動くにも動けないだろう。

 

「それで、要件ってのは?」

「ええそれですが、あなたには私が運営しているチームの代理リーダーになってもらいたいのです」

「ふむん。しかし、そういうのは普通副リーダーがやるもんじゃないのか。少なくともぽっと出の俺が指揮を執るのは、反発とか生まれそうだが」

「そ、そうですよ、ボス!!どうして私たちが、こんなどこの馬の骨かもわからぬやつの命令なんて……」

 

 早速反発が出てるし。まさに寝耳に水って感じだな。おそらく他のメンバーたちにも伝えていないことだろう。

 俺は人間関係のごたごたが一番苦手なんだがな。だから、俺は友達が少ないのか。

 少女が何やらキャンキャンと続けていたが、どうやらそれもしまいのようだ。

 

「お願いします、飯泉。私は今あなたに頼るほかないのです。もちろんこのことが例の約束を反故していることは十分理解しています。しかし、今の状況のチームを託すことができるのは、あなた以外にいない」

「いるだろう、勅使河原の奴が。少なくともあいつと俺は同格だし、そもあいつとは同じ高校だろ?どうして彼女を頼らない?」

 

 俺と、日野と勅使河原。全員が幼なじみであり、勝手知ったる仲間であると確信していた。

 俺はまあ、あの一件からあまり彼女らとはかかわらないようにしていたし、彼女たちも同様に俺と関わらないようにしていた。それが約束であり、そのためにわざわざ高校を別にしたのだ。

 にもかかわず、彼女は俺に頼ろうとしている。勅使河原ではなく。

 

「彼女もまた私のチームの一員で、元副リーダーでした」

「では、なぜ」

「彼女は今脱退し、私たちの敵対チームのリーダーです」

 

 ……終わった。

 

「彼女と敵対しているチームのリーダーになれと?かなりの無茶を言ってる自覚はあるのか」

「あります。だから、あなたにしか頼めない。私は、あなた以外に頼る相手がいないのです」

「ちょっと待ってください!!」

 

 病院内とは思えない大声を出したのは、案の定道案内役の少女であった。

 彼女は顔を真っ赤にしたかと思うと、俺にピシッと指さし、早口でまくし立てた。

 

「こんな奴に頼らなくても、私たちで勅使河原倒せますっ。やっつけて見せます。だから私にもっと頼ってください!!お願いします、お姉さまっ!!」

 

 ……お姉さま!?




 ヤンデレって別に主人公に対してじゃなくてもいいよね?


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初物、異能バトル(弱)

 異能バトル(バトル描写なし)


 「お姉さまぁ!?」

 

 そういえば確かに、めっちゃ似てる。

 何が既視感があるだ、中学の日野そっくりじゃねーか。

 ボスなんてみょうちくりんな名前で呼んでるから、全然そんな雰囲気なかったし。

 いや、日野そっくりってか、妹だからこいつも日野か。

 

「わかってください。勅使河原を相手にできるの彼だけです。あなたたちを信用していないわけではないのです」

「こんのダメ男に何ができるというのです!?」

「口を慎みなさい。彼は私の……親友ですよ」

 

 それに、これは命令です。

 ここまで言われるとさすがに何も言い返せないのか、日野妹はぐっと押し黙ってしまった。

 妹かぁ。日野の奴妹がいるなんて一度も話してくれなかったな。ちょっと悲しいけど、俺のこと親友って言ってくれるしなぁ。

 なんで話してくれなかったんだろう。勅使河原の奴は知ってたのかな。いや、彼女に知らないなんてことはないか。

 なんたってあいつは――

 

「飯泉、聞いていますか」

「ん、ああ。ごめん。聞いてなかった」

「あなた、ボスを前に……」

「だからごめんて」

 

 呼び方がお姉さまからボスに変わってる。

 どうにも興奮すると呼び方が変わってしまうようだ。

 

「今話していたのは、この依頼をあなたが受けてくれるかどうかです。約束を反故している立場であることも、無茶を言っている自覚もありますが、お願いできますか」

「いいよ」

 

 即答であった。

 だいたい、俺が彼女のお願いを断ったことはほとんどない。

 勅使河原が言うには、俺は彼女にかなり甘々であるらしい。

 

「よかった……。私、あなたに断られたらどうしようかと……」

 

 日野が涙目で安堵していると、その様子があまりに珍しかったのか、日野妹は目を見開いたかと思うと、キッと俺をにらみつけてきた。

 いや、安堵の涙じゃないですか。それ、いい涙っすよ。

 

「ああ、一つだけ条件があるけどいいかな」

「条件ですか?いいですよ。どのようなものですか?」

「それは――」

 

 

 病院を出ると、春とは思えぬほどの日差しに立ち眩みを覚えながらも、日野妹と歩いていた。

 行き先は彼女らのアジトである。リーダーの代役が決まったのなら、早めに挨拶しておくに越したことはない。

 

「ところで、日野妹」

「やめてくださいよ、そんな呼び方。日野って呼んでください」

「それじゃ姉と被るじゃん。下の名前で呼んでいいか?」

「……ひさの」

「それじゃあ、ひさのちゃん」

 

 できるだけチームのことを詳しく教えてほしい。そんな質問を投げかける前に、二人して目の前の人物に気が付いた。

 

「あんたがボスの代打ってやつか」

 

 女性にしては高い身長、黒髪を後ろに束ねた、十人いれば九人が振り向くような美少女。

 しかし、まとう覇気は百戦錬磨。いくつもの修羅場をくぐりぬけて来たことは十二分にわかる。

 

「悪いが、弱い人間に従う気はないのでな」

「ちょうどいいですね、飯泉先輩。先輩の実力を示すチャンスです」

「え?」

「構えろ、殺しはせん」

「始めの合図は私がしますね」

「え?」

 

 こうして物語は冒頭に戻る。

 

「いざ尋常に、はじめ!!」

 

 

 

 その言葉とともに、彼女はまっすぐに向かってきた。

 

 黒い髪を後ろに束ね、女性にしてはやや高い身長。

 

 十人見れば九人が振り返る美しい容姿。振り返らない奴はおそらく逆張り野郎だ。

 

 そして何より異質なのはその得物である。

 

 何も持っていなかったはずの両手には、いつのまにやら俺の身長と同じぐらいの槍があった。

 

 

 

「まずは小手調べだ」

 

 

 

 彼女は持ち手の部分を、俺の横っ腹に向思いっきり振り払う。

 

 俺はその攻撃を――まんま食らった。

 

「ぐえぇ」

「弱!?」

 

 ひさのが俺のあまりもの弱さにびっくりしている。恐れるなかれ、俺の肉体は驚愕するほどのよわである。ついでにメンタルも弱い。

 

「どういうことだ。どうして手加減をする」

「そうですよ先輩っ。どうして()()を使わないのですか!?」

 

 異能?何を言ってるんだこいつ。

 

「あー、どうやら君は二つの勘違いをしている」

「なんだと?」

「一つ、俺は異能とやらを使えない」

「まじか、あんた()()なのか。そんなやつを私たちのボス――」

「二つ、リーダー代理は俺じゃない。ひさのだ」

 

 これが日野と交わしたたった一つの条件。日野ひさのをリーダー代理にすること。俺はあくまでその補佐だ。

 

「ひさのがボス代理?ふふっ、あーはっはっは!!そりゃあ、無能よりは可能性があるけどさ、それにしたって、その可能性が地を這うほど低いことに変わりはないよ。なんたってひさのは()()()()()なんだから」

 

 また聞きなれない単語が出てきた。今度はいったい何だってんだ?

 

「カンナ先輩。確かに私はあのチームの中で誰よりも弱いです。しかし!!これはボスの命令でもありますっ。これに従わないというのは、先輩の命令にも従わないということですよ」

「ああ、従わないね」

「!?」

 

 なんだ、思ったより内部がごたごたしているな。

 日野のことだから、チームメンバー全員忠誠心マックスにしててもおかしくないけどなぁ。天性の人たらしだし。

 

「ひさの、あんただってわかるだろ?わたしたちはボスの命令を聞きたいんじゃない、ボスの役に立ちたいんだ。あんときだってそうだった。違うか?」

「……」

 

 人たらしは健在だった。

 

「どうしてもってんなら、わたしを倒して見せな。それが私たちのルールだろ」

「……いいでしょう!!わかりましたっ。その勝負、受けて立つっ」

「始めの合図は俺がしよう」

 

 ちょうどいいや。日野の作ったチームが異能集団なら、ひさのの実力を早い段階で知っておくのは大切だ。それに、あのカンナ先輩とやらも気になる。

 

「いざ尋常に、はじめ!!」

 

「ふんっ」

「ぐへぇ」

「弱!?」

 

 瞬殺だった。ひさの、恐るべき弱さ。

 というか、ほとんどさっきのリプレイじゃねーか。

 

「あんたも見て分かっただろ。ひさのは異能を持ちながらほとんど使うことのできない無能もどきだ。チームは私に任せて、どことなく消えちまうんだな」

 

 カンナは失望を隠すこともなかった。

 しかし、なあ。

 

「うぅっ、ぅ……」

「……」

 

 あまりに強く殴打されたからなのか、はたまた別の理由か、ひさのは泣いていた。

 ああ、その泣き顔は、あまりにあいつそっくりで――。

 

「待てよ」

 

 俺は、呼び止めずにはいられなかった。




 初めてフルネームが分かったキャラが出てきましたね。日野ひさのちゃん、中学生です。


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ふぁーすとみっしょん:がいよう

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 作者の励みになることが予想されます
 なにとぞ


「待てよ」

 

「……なにか?」

 

 カンナの様子はまるっきり強者のそれであった。会話が続くことさえ彼女の気まぐれであるようだ。

 だがそれでいい。続きさえするのなら、俺お得意の口八丁で切り抜けられる。

 

「確かにひさのは弱い。今の実力じゃあ、あんたに勝てない。けど、あんたはまだ俺の実力を見たわけではないだろ。俺は敵を倒す強さを求められていない。他人を強くする能力を求められたんだ」

 

 もちろん、俺に他人を強くする技術は持ち合わせていない。こんなものはただの出まかせだ。

 しかし、今はそれで十分だ。少しでもカンナに期待を持たせる。今は何としても時間を稼がなくてはならない。

 カンナは少し考える素振りをしながらも、こちらの要求を受け入れた。

 

「いいだろう。明日、アジトでもう一度ひさのと戦う。そのときひさのが私に勝てれば、あんたらの要求をのもう。だから、ボス代理補佐としての初任務はそれだ。『ひさのを私より強くする』。失敗すれば」

 

 次の任務はない。そういう話だった。

 上等。

 

「それじゃあ、楽しみにしてる」

 

 悠然とこちらに背を向け、トレードマークのポニーテールを揺らしながらカンナは去っていった。

 ……何とか第一関門突破、といったところか。まあ、問題はまだまだ山積みである。

 

「それじゃあ、ひさの。作戦会議といこう。とりあえずうちにくるといい。あそこには資料が沢山あるのでな。……ひさの?」

 

 返事がない。ふと後ろを振り返ると、ひさのはうつぶせで寝っ転がっていた。四肢をぐでんと放り出している姿は、幼い子供特有の、体裁とか理性とかを振り切った、本能感情あるがままの雰囲気をかもし出していた。

 つまり、間違いなく拗ねてる。

 

「あー、ひさのさーん?」

「……どうするのですか」

 

 明らかに声が震えていた。

 俺はいい子なので、知らないふりをした。男子は泣いているときそっとしてほしいものである。女子は知らん。

 

「どーするんですかっ。私がカンナ先輩に勝てるわけないじゃないですか!!私が百人いたって勝てっこないっ」

「俺は千人いても勝てない」

「どうだっていいですよ先輩のことなんて。このまま明日負けたら恥さらしじゃないですか。どーすりゃいいんですか!?助けてぇ、お姉さまぁ」

「落ち着けって」

「なんですか。なんで先輩は落ち着いているのです!?作戦でもあるのですか?」

「ない」

「うわぁぁああああああああん!!びえぇえええええええぇえぇええええぇぇぇ――」

 

 ワァ泣いちゃった。

 そういえばこいつ中学生だったわ。大人びた口調に騙されてたけど、節々にこういうところあったな、そういえば。

 

「ほら、家までおぶってやるからさ、泣き止めって」

「ひん」

 

 割とおとなしく背負わされた。

 こうやってると幼いころの妹思い出すなぁ。こいつと妹同年代ぐらいだけど。

 というか、正直貧相な体つきをしている俺じゃあ、人一人支えるのは結構きついんだよな。これ家まで持つか?

 つうか、自分より一回り幼い泣きじゃくってる異性を背負いながらいそいそ自宅に帰ってる姿を近所に噂されたらどうしよう。俺のメンタル持つか?

 いっそのこと俺も泣いてやろうかしらん。

 というか、タイムリミットまであと一日しかないから、こんなばかやってないでさっさと情報収集がしたい。

 

「カンナ先輩の異能ってやつはどんなものなんだ?作戦を立てるも何も、相手の能力がわからないうちは考えようがないぞ」

「……カンナ先輩の異能は『槍』の『生成』です。どんな材質、形状であれそれが槍でさえあるのなら、一瞬で生成できてしまう能力です」

「ふうん。でも身のこなしは結構人間離れしていたぞ。『槍を扱っている際は身体能力向上』みたいな付加はついていないのか」

 

 ぱっと聞く限り、運動能力とは直結しない能力のようだ。というか、能力として槍だけを生成するってかなり弱くねーか。

 

「もちろん、異能持ちと無能力者の間に身体能力の大きな差があるのは事実ですが、カンナ先輩の強さは努力のたまものですよ。お互いに能力なしでも確実に負けます」

「能力としては、強い部類に入るのか?」

「……まあ、中の下くらいですかね。汎用性でいうなら私の『炎』の『生成』の方が高いし、相性としても悪くはないのですが……」

 

 意外と努力型なんだな、カンナ先輩とやらは。

 しかし、『炎』の『生成』とはなかなか強そうな異能だが、なんたって無能もどきなんて呼ばれているんだ。

 

「私、能力ほとんど使えないのです。出せたとしても火花程度で」

「それじゃあ、どうして自分の異能が『炎』の『生成』だと分かったんだ?」

 

 火花程度は出せるようだから『炎』って点は当たっているだろうけど。

 何も異能ってやつは何かしらを生成する以外のバリエーションがないのかしらん。

 

「お姉……ボスがその能力だからです。親兄弟は基本的に似た異能をもらうことになっているので……。それで、何かいい案思いつきましたか?」

「ついた」

「本当ですか!?」

「ああ、俺の家に」

 

 やめろ、頭をたたくな。これ以上奇行を重ねて近隣住民ににらまれたくない。

 それに、

 

「それに、いい案ってのも思いついてる」

 




 明らかになった異能
 日野姉『炎』の『生成』
 カンナ『槍』の『生成』


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彼女の異能はなんなのか?

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 作者の糧になることがままあるそうです
 なにとぞ


 俺の住んでいるマンションは、ややぼろっちい七階建てのコンクリート製である。趣はない。

 俺には二人の妹がいるから三人家族であるが、ファミリー用ということもあってか部屋の数、広さはともに申し分がない。

 ただちょっと、周りの住民が優しくないというのが欠点である。

 部屋のかぎがかかっているため、おそらく二人とも帰ってきていないのだろう。

 途中で帰ってきたらどうしようかな。高校生のお兄ちゃんが自分と同じくらいの女の子を家に連れてきたらどんな反応するんだろ。

 

「それで、案というのは?」

「いや、それはまだ教えられない。今はまだ仮説の段階だからな。資料とすり合わせてから説明したい。半端な仮説は混乱を招きかねない」

「それっぽいこと言いますね。名探偵のまねごとですか」

 

 コイツなんでこんなに当たり強いの?

 

「カリカリすんなよ。なんなら面白い話でもしてやろうか。人類は小麦の奴隷であるって説が――」

「本当にどうでもいいので早く調べ物を済ませてください」

「おーけーわかった。冷蔵庫勝手にあさっていいよ」

 

 これ以上無駄口をたたくと本当にひさのに怒られかねん。

 ぱっぱと居間から俺の部屋に移動して、お目当ての資料を探し出す。

 しかし俺の部屋きたねーな。相当時間かかりそうだ。

 

 

「あったあった。すまないな待たせて。ところでお前何やってんの?」

「チャーハン作ってました」

 

 マジかよコイツ、人の家でチャーハン作りやがった。常識のかけらも無ぇ。どうりで香ばしいにおいがすると思ったら。

 

「早く案とやらを説明してくださいよ。ちなみにチャーハンはもうありません」

「それはもういいよ。えっと、まず、お前の異能は『炎』を『生成』する能力じゃない」

 

 ひさのは驚いた顔をしているが、これは全く彼女が驚愕するような話ではない。むしろ、俺の方がびっくりするぐらいだ。

 つまり、こういうことだ。

 家族の異能は似たようなものになる、という情報から「それじゃあ私の異能はお姉さまと同じものなんだ」と幼少期のひさのは理解した。

 しかし、その異能はうまく発動できない。すると本来どう考えるか。

 

「努力が足りない、ですか?」

「違う。まず前提を疑うはずなんだ。『私の異能はほんとにこれなのか』って」

 

 でもひさのは違かった。公私を混同しないよう尊敬する姉をわざわざボスと呼ぶ生真面目な性格、それと姉に対しての盲信ともいえるほどの憧れ。これらが招いた本来あり得ない弊害は――。

 

「だってお前、『炎』を『生成』する目的以外のことで異能を使ったことないだろ」

「――あっ」

 

 あっ、じゃないんだよ。マジでこんないかれた人間は久しぶりに見た。

 日野(姉)のカリスマっぷりは十分に理解しているつもりだったが、姉妹ほど長い期間いるとこんな事態に発展するんだな。

 

「そ、それじゃあ私の異能はいったいどんなものなのですか」

「それは知らん。そのための資料だ」

 

 俺が部屋から持ってきたのは、ありとあらゆる『炎』にまつわる資料である。

 炎の仕組みから、用途、扱い方、他には象徴としての意味合いなど様々な情報が書いてあった。

 

「この中からそれっぽいのを片っ端から調べていくわけだけど」

「今日中に終わります?」

「あたりをつけていくしかないだろうなぁ」

 

 こればっかは運だな。あと異能自体がそれなりに強くないとカンナに勝てない。

 

「そうだな。とりあえずこれからいっておくか」

「どれです?」

 

 ひさのは俺の手元にある資料をひょいっ、と覗き込んだ。

 

「ひさのは『ヘラクレイトス』って知ってる?」

 

 

「ただいまー」

「お帰り、美青(みお)

 

 ひさのが帰ってから少しした後である。

 ふと時計を見るとすでに六時を回っていて、すっかり妹たちが返ってくる時間になっていた。

 今帰ってきたのは大きい方の妹である美青である。

 

「いいにおいがするねー。お兄ちゃん何か作った?」

「チャーハンを作ったんだ」

「おいしかった?」

「わからない」

 

 なにそれ、といって美青は笑った。

 美青は高校生なので俺と同様に午前授業であったが、友達と遊んできてすでに晩御飯は食べたという。

 そういえば、自身が昼から何も食べていないことに気が付いた。

 

月音(つきね)の奴が返ってくる前に、晩御飯でも作ってやるかな」

「確かに、こんなおいしそうなにおいさせておいて、何も作ってないのは罪だよね」

「そんなに匂うか?」

「うん。チャーハンのおいしそうなにおいと――女の子のにおい」

 

 美青はぐっと俺に身を寄せて、鼻を近づけた。

 

「……三人かな?全員クラスメイトじゃないね。それに懐かしいにおい……日野さんかな?」

 

 激やばであった。心なしか目に光がともってない。

 冷汗が背に浮かぶ。

 間違いなく、今日一番のピンチがここにあった。

 

「全部話してくれるよね?私たち兄妹なんだから」

「いや……」

 

 別に話さない理由もないけど、しかし、異能だとか何とか言って気持ち悪がられないかが心配である。

 そのうえ、この厄介ごとをわざわざ美青に知らせて、巻き込むようなことはしたくない。

 美青には悪いけど、しばらくの間は秘密にしておきたかった。

 

「美青には悪いけど……」

()()()だから話してくれないかな?」

「……んぁ、ああ、そうだなぁ。わかった」

 

 結局俺は包み隠さず話すことにした。異能という点はどうやら美青も知らない様子であったが、すんなりと受け入れてくれた。

 

「ふうん。大体のことはわかった。でも、どうしてお兄ちゃんは日野さんのお願いを聞き入れたの?」

「そりゃあ友達だから……」

「でも、友達だったら約束を優先するものじゃない?だって相手は約束を反故にしたんだよ」

 

 約束。ああそういえば、していたんだった。

 なんか、あたまが、えー、あー、なんだっけかな。

 

()()()だから思い出して。日野さんと勅使河原さんとお兄ちゃんがした約束を」

 

『飯泉はこれからの人生、日野および勅使河原と関わらないことを約束する』




 ヤンデレ?


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本格異能バトル、開始

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作者の励みになること間違いなしです
なにとぞ


 アジト、というにはいささか平凡で、高校の寮であるといった方がしっくりくる場所がどうやら、彼女たちの根城であるらしい。

 目を見張るものはないが、しいて言うならやや大きめの庭であろうか。運動をするには十分な広さがある。

 そんな場所に俺を含めて九つの人影があった。

 カンナ、ひさののほかに、チームメンバーは残り六人いるらしく、これが全勢力らしい。

 

「よく逃げずに来たなひさの。何か秘策でも思いついたか。いや、思いついてもらったか?」

「逃げずに来たな、というのはこちらのセリフですよカンナ先輩。無能もどきにコテンパンにされる準備はできていますか?」

 

 まずは、といった言葉の応酬。なかなかに強烈であるが、どちらもどこ吹く風と平常心を保っている。

 しかし、何といってもひさのの態度。昨日にはなかった自信というものを身にまとっていた。帰ってから相当練習したのだろう。

 能力の相性は悪くない、むしろいい方だ。情報のアドバンテージもある。素人目だが、戦況は五分といったところだ。

 

「始まりの合図は俺が出そう。……いざ尋常に、はじめ!!」

 

 こうして戦いは始まった。

 

「――しっ」

 

 最初に動いたのはカンナであった。手元に槍を生成したかと思うと、何の躊躇もなくひさのに向かって投げだした。

 異能の正体を見破るまでうかつに近づかないことの意思表示であるとともに、その殺しかねない威力は、すでにひさのが異能を習得していることを確信しているようであった。

 ぐんっ、とまっすぐ自身に向かってくる得物を前に、ひさのは冷静でいた。

 

「炎!!」

「なっ」

 

 叫ぶや否や、飛んできた槍はたちまち燃え出し、ひさのの手元に来る頃には原形をとどめていなかった。

 カンナの表情が驚愕に染まる。

 

「『炎』の『生成』!?いや違うっ」

 

 カンナは続けてもう一本、槍を投げる。

 当たれば必殺。しかし、それは当たることなく、再び炎に包まれ消えてしまった。

 

「何回やっても同じことですよ」

「かもな。けど、なんとなくあなたの異能は理解できた。槍は高温によってとかされたわけじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 さすがは百戦錬磨といったところか、未知の相手と戦いなれている。この一瞬で、もうひさのの本質に迫ってきやがった。

 

「さしずめ、『()』に『()()』する異能といったところか」

 

 そう、これがひさのの異能であった。

 現代人の我々は、少なくとも義務教育を受けているため、万物の源が小さな粒でできていることを知っているだろう。

 酸素には酸素の、炭素には炭素の粒でできており、それらの粒でさえ、中性子、陽子、電子の三つでできている。

 しかし、過去の人物にとって常識とは常識ではない。

 まだ何も証明されていなかったころ、賢い哲学者どもは万物の根源とは何か喧々諤々主張していた。

 そのうちの一人、『泣く哲学者』と呼ばれたヘラクレイトスの主張を聞いてみよう。

 曰く、万物の根源は『炎』である、と。

 

「なるほど、相性的にはこちらの方が不利そうだ。でも――」

 

 手元から一気に数十本の多種多様な槍を生成し、地面に突き刺す。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 相性がよかろうと情報のアドバンテージがあろうと、経験の差は埋めることができない。これがひさののどうしようもない弱点である。

 

「いくぜ?」

「……来なさいっ!!」

 

 カンナが投げ、ひさのが分解する。ただ、これの繰り返しであった。

 カンナははちきれんばかりの大振りで、一投一投生命を殺すつもりで投げていた。

 対するひさのも、槍一つの形状、大きさを瞬時に理解し、分解する。

 純粋な異能の比べあい、どちらが最初に限界が来るか、そういったものの戦いに移り変わっていった。

 付け加えるなら、カンナが失敗しても死ぬことはなく、ひさのが分解に失敗したら間違いなく死んでしまうという差がある。

 生死をかけているかいなかは、ひさのにとって大きなプレッシャーになっているはずだ。

 

「くっ……」

 

 ひさのが苦しそうな声を上げる。限界も近いのだろう。この状況を打破すべくどうすればいいのか必死に考えているに違いない。だが、ひさのは動くことができない。

 予想に反してこの均衡を破ったのはカンナの方だった。

 

「はぁッ」

 

 一本の槍を作って、大きく距離を詰めてきた。

 二人の距離が一気に近づく。

 五メートル、四、三、二、一。

 

「遠距離攻撃はっ、分解できても、近距離ならどうだぁっ!?」

「もんだいっ、ありませんっ」

 

 近くで振るったやりさえも、ひさのは炎に分解して見せた。

 そして、この距離間はひさのに分がある。

 しかし、手元の槍が炎に変わった瞬間、カンナは槍を放り出した。

 次に選んだ武器は、()()()である。

 

「武器を分解できても、人間を分解することはできないだろっ。その覚悟がお前にあるかぁっ!?」

「その必要はありません」

 

 ひさのはすでに、分解する以外の攻撃方法を得ている。

 その瞬間、ひさのの背後に隠れていた炎がうねりをうってカンナを襲った。

 たしかに、カンナの生みだした槍は、ひさのによって炎に分解され消えてしまった。

 しかし、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぐぅっ……」

 

 炎に焼かれたカンナは地面に倒れて動かなくなった。

 

「勝負あり」

 

 勝者は、日野ひさの。俺たちの勝ちだ。




明らかになった異能
日野ひさの『炎』に『分解』する異能

初めてこんながちがちの戦闘シーン書いた
分かりずらいかも?
だとしたらすまん


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必要のない処罰

評価・感想おねがいします
作者が飛んで喜びます
なにとぞ


 俺の初任務が終わったところで、一応報告にと日野が入院している病院へと向かった。勝手な行動をとったカンナだけは連れて行こうと思ったが、ひさのが「私も行きたいです!!」と主張し、三人がかりで押し掛けることになった。おそらく日野に褒められたいのだろう。

 炎をまともに食らったカンナだが、ちょっとのやけど程度ですんでいた。また、このぐらいのけが一日寝れば治るとも言っていた。

 どうやら異能持ちとそれ以外では自然治癒力も大きく違うらしい。こいつら何かと優遇されすぎじゃね?

 病院につくと、口を開くやいなや、ひさのが誇らしげに語った。

 

「うまくやりましたっ。ほめてくださいっ」

「うるせえ」

「静かにしろ」

「そうですか。さすがですね」

 

 病院内とは思えない音量であったが、日野は妹の蛮行をとがめることなくほめたたえた。

 

「これからのこともお任せくださいっ。頑張りますので!」

「うるせえ」

「病院内だぞ」

「ええ。信用してますよひさの」

「はいっ!!」

「だからうるせえって」

「いい加減学習しろよ」

 

 ひさのは得意げなまま、「異能の練習をしたいので」とぱっぱと帰ってしまった。

 

「それで、今日はどのような用件でいらっしたのですか?」

「報告と……一応こいつが指示に逆らったから、処罰の相談かな」

 

 ボス代理を日野ひさのに任命する。このことは俺たちが勝手に決めたわけでなく、ボスである日野の命令である。これに逆らうのは、彼女のためであろうと命令違反であることに違いはない。

 命令違反には相応の処罰が必要だ。

 

「命令違反……ですか。カンナ、どうしてそのような?」

「それは本人の口から言ってもらう方が早い」

「……すべてはボスのためにです。正直言って、ひさのにボス代理が務まるとは思えませんでした」

 

 そのため、ボスの意向に従わずひさのと戦い、負けました。

 カンナは能面のような表情で淡々と続ける。初めから覚悟は決まっていたのだろう。

 

「言い訳なんぞ一つもありません。いかなる処分も受け入れるつもりです」

 

 重い沈黙が室内を充満する。これ以上カンナは口を開く様子はない。

 また、日野もこの件について決めあぐねているようだ。

 

「……飯泉、あなたはこの一件を思いますか?意見を聞いてみたい」

 

 意見を聞いてみたい、日野がこの言葉を口にするのは、たいていしたいことが決まっているのだ。

 じゃあ、どうしていちいち俺に聞くのか?それは、自分の行動に理屈をつけることができないから。

 ボスとして命令に背いたものは罰さなくてはならない。しかし、したくない。

 だから、カンナ本人でさえしていない、助けを求めるような目で俺を見るんだ。

 俺はいつだってその眼に弱かった。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「カンナはそもそも勝つつもりなどありませんでしたよ」

 

 俺の言葉にいち早く反応したのはカンナの方だった。

 

「何を言っているんだ?でたらめを言うのはよせ」

「『ひさのにボス代理が務まるとは思えなかった』これは確かに本心でしょう。しかし、そう考えた人間は果たしてカンナだけでしょうか?」

 

 俺は日野の目を見てゆっくりと話す。

 はじめはゆっくり、大事な点は早口で。説得力と緩急は表裏一体である。

 俺の言っていることは事実でなくても構わない。ただ、日野の奴がそれを事実だと思ってしま場こちらの勝ちだ。

 

「チームは俺と日野を除いて八人。他に反発する奴が出てこないといえるだろうか」

「でたらめを言うなと――」

「カンナは少し黙っていてください。飯泉が話している途中です」

 

 よし、食いついた。日野が俺の話に希望を見出している。

 ここから一気に畳みかける。

 

「カンナの目的は、チーム内の不満を表立って代弁し、被る責任を一身に受けることだ。だから勝てる試合でもわざわざ負け筋を選んだ」

 

 一拍。

 

「カンナほどチームのことを考えている奴はいませんよ」

「……カンナ、今回に限ってはいかなる罰もくだしません。これからは飯泉のもとしっかり指示に従うのですよ」

「……かの戯言を信じるのですか」

 

 ここまできて、日野はにっと笑った。

 

「ええ、信じます。友である飯泉を、部下であるあなたを」

 

 カンナは下を向いて、ぎゅっと唇をかんでいた。

 

 

 病院を出た後、俺の送り迎えとしてカンナと帰路についていた。

 

「普通男女逆じゃね?」

「無能力者が異能力者より強いわけないだろう。あんたは一応私たちチームの一員だしな。敵対組織に狙われたらどうしようない」

 

 さっきまで敵対していたが、今のカンナは初対面の時とは比べられないほど態度が軟化していた。

 節々の言葉の荒というものが消えているのだ。

 

「そういや飯泉、あんたなんで私があの試合で本気を出していないってわかった」

「……『一度に分解できるキャパはあるだろう』。まさにその通り、カンナがえんえんと遠距離攻撃をしている限り、いつかは負けていただろう。ひさのにち目はなかった。でも、あんたは急に接近戦に持ち込んだ。勝ちたいのなら、あんな選択はしない」

「単なるミスって線は?」

「ない。お前は百戦錬磨のつわものだろうが」

 

 本当はその可能性もあった。でも、さっきも述べた通り、日野さえ信じてしまえば事実かどうかなんてどうでもいいのだ。

 ただ、日野にカンナを罰さない口実があればそれでいい。

 

「飯泉あんたは嫌な奴だな」

「ああ、俺は嫌な奴だ。だから、カンナはもう嫌な奴のふりをしなくてもいい」

 

 その役目は昨日から俺が担当することになった。

 だから、もう演じなくてもいいのだ。

 

「金鞍、金鞍カンナだ。私の名前」

「金鞍って呼べばいいのか?」

 

 相違や初対面の時からずっと下の名前で呼んでいたな。

 

「いや、今さらだ。今名乗ったのは、なんとなくだよ」

 

 後で聞いた話だが、カンナの奴は戦っている相手に気に入ったやつがいると、名乗りを上げる癖があるという。

 この時名乗りを上げたのは、まあ、俺を好敵手と認めてくれたからだろう。

 

「頼りにしてるぞ飯泉」

 

 カンナは笑った。俺も笑った。

 

 こうして俺の初任務は終わりを迎える。




明らかになった名前
金鞍カンナ

第一部、完。というか、一区切りって感じ


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幼なじみの招待

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なにとぞ


「にゃあ、お兄ちゃんに手紙が届いてるにゃあ」

 この頭の悪い語尾をつけているのは、残念なことに頭の悪い妹である飯泉月音だ。

 現役の中学生であり、毎日どうでもいいことで悩み、しょうもない解決法をもって問題を打破に、なんでもない日常を謳歌している。

 この前、目の前に猫が通り過ぎた際、「猫ってかわいくない?つまり、語尾ににゃーにゃ―つけてれば私もかわいくなるってことじゃん!」とのたまったきり、雑なキャラ付けみたいな語尾になってしまった。そのうち飽きるだろう。

 

「手紙?残念なことにそんな友達は持ち合わせていないな。何かの勘違いじゃないか」

 

「うわー、お兄ちゃんがコミュ障なのは知ってるけど、開き直られるといらっとするにゃあ。普通に引く」

 

 自分の能力を客観的に見た結果である。なじられる要素はない。

 月音は自分の体を抱き、いかにも気持ち悪いですという態度をとりつつも、俺宛の手紙らしきものを持ってきた。

 

「友達少ないと言いつつ、お兄ちゃんには幼なじみがいるじゃん。高校が別々になった程度で切れるような縁でもないでしょ」

「いや、その友達は……」

 

 絶縁する約束をしたんだ。出しかけた言葉を飲み込む。こんな話、月音に話してもしょうがない。

 

「その友達の一人とはすでに連絡を取ったんだ。今更手紙をよこすとは思えないな」

「あーだこーだいってないで、さっさと開けてみにゃよー。めんどくさいにゃー」

 

 まったくもってその通りだった。

 もらった手紙はやけに高そうな封筒に入っていて、格式ばった、相手になめられないように、といった風だ。

 

「ねー見せて―」

「ちょっと待て。ふーむ?」

 

 月音は俺の首に腕をまわし、体を密着させるような態勢を取り始めた。

 あつい、うざい。

 何とか手紙を見られないようにしながら、中身を確認する。

 手紙は以下のものである。

『二人っきりで会って話したい』

 とある喫茶店と日程だけが書いてあった。

 差出人は――勅使河原 明日樹(あすき)

 二人目の幼なじみであった。

 

「ふーむ」

「ねー見せてってば。誰から?だれからー」

 

 背後から兄のプライベートを覗き見ようとべたべたしてくる妹をよそに、今の状況を整理する。

 まず、勅使河原が俺と日野の関係を知っているかどうかだ。これによって事情が大きく変わってくる。

 

「おりゃあ」

「おい、痛いからひっかくな」

 

 知っていないならそれでいい。用件を聞いて、おしまいだ。しかし、知っていると面倒になる。そも、こちらは約束を破っている身である。三人でした約束を勝手に破って、二人は楽しくしているとなると、さすがに体裁が悪すぎる。

 どうしたものか。行こうか行くまいか、日野に伝えようか伝えまいか、非常に迷う。この一手を間違えると本当に詰みかねない。なんたって相手は――

 

「わかった、お相手は幼なじみであってたんでしょ。女性の立場から言わせてもらうと、二人ともお兄ちゃんのこと――」

「月音」

「?なに」

「『にゃあ』を忘れてるぞ」

「……にゃあっ!?」

 

 まずは、このうるせー奴がいないところに行かねーとな。

 

 

「どういうことですかっ」

 

 避難先にもうるせえ奴がいるとは思わなかったなぁ。

 

「だから、勅使河原にあってくるつってんの」

「っだからどうして会うのですか!必要ないでしょうそんなこと」

 

 なぜか怒っているうるせーやつ二号のひさのは、慌てた様子で詰め寄ってくる。

 どことなく寮っぽいチームのアジトとは、実際に寮の側面を持っていた。

 ひさのの部屋を訪れ、寮内の客室で会話をしていた。

 勅使河原に会っていたことが後々になってばれ、裏切り者の烙印を押されてはたまったものではない。だからとりあえず、ひさのだけに知らせようと思ったのだが。なぜか難色を示している。

 

「話をするってのは何も悪いことだけじゃない。停戦や休戦、あるいは和解って線もある。俺とあいつの仲だし急に襲われる線も少ない。いったい何が不満なんだ」

 

 ひさのは下を向いたまま、悪事を働いた児童が親に恐る恐る秘密を暴露するかのように、か細い声で説明をした。

 

「……じゃないですか」

「ん?」

「行っちゃうかもしれないじゃないですか」

 

 行っちゃう?ああ、そうか。

 俺が勅使河原の方につくと思ってんのか。

 

「行くわけねーだろうが。少なくとも日野が返ってくるまでお前のそばにいるよ」

「……ほんとうですか?」

 

 ひさのは俺の手を握って、上目遣いでこちらを見上げる。黒い目が涙によって美しく輝いていた。

 

「本当だ」

「ほんとうのほんとうに?」

「本当の本当に」

「……やったー!」

 

 俺の手をぶんぶん振って喜びをアピールする。よほどうれしいのか、いつもしている敬語も抜けてしまっていた。

 どことなくバカっぽいな、と思ってふと気づく。こいつ、月音に似ているんだ。

 

「じゃあ、全然あってきていいですよ。あっでも一応警護とかつけましょうか」

「必要ねーよ。それに、お前ら勅使河原嫌いだろ?変に揉めたらめんどくさい」

 

 実のところ、俺と日野を除いた八人は基本的に勅使河原が嫌いであるらしい。

 そりゃあ、チームの裏切り者だからある程度のヘイトを買ってはいるだろうが、それにしたって異常である。

 マジで尋常ではないぐらいはちゃめちゃに嫌われているのだ。

 

「それじゃあ、行ってくるかな」

 

 約束の時間も割と近くなってきた。

 さて、勅使河原のやつはどんな感じになっているのか。今から楽しみだ。




明らかになった名前
飯泉 月音
勅使河原 明日樹


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やつはどちらだ?

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作者が笑顔になることが生物学的に証明されています
なにとぞ


 さて、小中学校まで一緒だった幼なじみとはいえ丸一年会ってないとさすがに緊張するものである。日野の時も緊張した。

 男子三日会わずば刮目してみよ、なんて言葉がある通り、成長期真っただ中の俺たちにとって一年会わないとなると、いったいどのようになるか見当もつかない。

 指定された喫茶店に時間通り向かうと、そこにはすでに人影があった。

 

「やあ」

「……」

 

 ()()()()()()()()()()()()()。しかもめっちゃイケメンに。

 女性でいうなら短め、男性としたら長めの髪をして、男子とも女子とも取れそうな服装をした中世的な男性。

 人違いか、あるいは勅使河原が送ってきた刺客かと思ったが、その顔には幼なじみの面影が残っている。

 

「勅使河原のお兄さんですか?」

「いや、ボクは一人っ子だよ。君も知っての通りでしょ」

 

 日野の一件(妹がいたこと)があってから家族構成というものは信じなくなってはいるが、それでも声口調は勅使河原と同じものだった。

 とすると、

 

「すまん。俺お前のこと女だと思ってた」

「うん?ボクはちゃんと女の子だったよ」

「ほえ?」

 

 もはや何が何だかさっぱりわからん。

 俺が必死に頭を悩ませていると、勅使河原はいたずらが成功したようにくすくすと笑い、意地の悪い表情を浮かべた。

 

「気にしないで、こんなのはただの異能だよ。ボクの知り合いに『肉体』を『転換』させる異能持ちがいてね。すぐ元に戻せる」

「それは……よかった。安心したよ」

「安心したって、なにに?」

「……」

 

 本当にまずい。ペースを持ってかれている。落ち着いて、交渉ごとにおいて主導権を相手に握らせるのはイコールで死を意味する。

 

「今は、そんなことを話しに来たわけじゃないだろ」

「まあ、今回はこのぐらいで済ませてあげようかな、っと」

 

 そう言いながらも、向かいに座っていた勅使河原はわざわざこちら側に座り直し、きゅっと距離を詰めてきた。

 

「ちょっと」

「ふふふっ、いいじゃん今のボクは男の子なんだし、何も問題はないでしょ」

 

 大ありである。心臓がバクバク言い始めた。くそっ、こんな時は相手を妹だと思い込むんだ。相当げんなりするから。

 こいつは月音、こいつは月音、こいつは月音……

 

「ボクの前で別の女の子を思い浮かべるんだ」

 

 勅使河原が腕を絡めてくる。冷汗が止まらず、彼女、いや彼の冷たい腕が心地よかった。

 

「ねえ、ボクたちのチームにおいでよ。ここに来た理由の半分は君の勧誘さ。別に義理とか道理とかないだろう?そっち二人は()()()()()()()()んだからさ」

 

 俺はもう何を言っていいのかわからなかった。

 会話というのはいかにして相手の望み通りの言葉を吐けるのか、そういうゲームだと思っていた。

 幼少期のころ、同学年の子供から親や先生といった人間まで、相手が何を言いたがっているのか瞬時に理解することができたし、話すことができた。

 小学生中年にもなると、そこからいかにして相手が自身の思った通りに行動させるか、そういったことが得意になっていた。

 俺にとって会話とは、武器であり、嘘であり、上っ面であった。

 しかし今、俺は会話を、本心を伝えるためのツールとして使用する。

 

「俺はそっちには行けない。()()()()()()()()()()()

 

 頭にあるのは、俺の手を取って心配そうな目を向ける手のかかる妹分だ。

 

「妹?さっき思い浮かべてた月音ちゃんのことかい?でも、月音ちゃんは異能持ちじゃ――」

「とぼけんなよ。お前だって知ってるだろ」

 

 勅使河原明日樹に知らないことはない。正確に言うなら『()()()()()()()()()()()()()()()』。だから

 

「俺は、()()()()()()()()()()()()()()()()ぞ」

「……はあ、あともうちょっとだったのに。やっぱり女の子の体できた方がよかったかなぁ」

「性別に関係なく断ってた。第一、なんで男性になっているんだ。そういう願望があったとか?」

 

 思えば、勅使河原がちょくちょく男性視点で物事を語っていた場面があった。つまり、子供のころから男性になりたがっていたのだろうか?

 

「いろいろ理由はあるんだけどね。でも、男性になりたがっていたというのは正しくない。だってボクはもともと男性なんだから」

「え?でもさっき……」

「うん、だから君が思っているのと逆なんだよ。君は君がいなくなってから、ボクが性別を変えたと思ってる。でも順序が逆なんだ。ボクは()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

 俺と知り合ってすぐのころは男性であったと。たしかに幼児というのは一見して男子か女子かわからない場合も多々ある。

 ということは、つまり、俺の前では女性にならないといけない理由があったということで……

 

「話を変えようか、勅使河原が俺をここに呼んだ門半分の理由ってなんだ?」

「露骨だね、でもいいよ君を呼んだもう半分の理由はね――」

 

 これから先の話に、どう考えても地雷しか埋まってなかったので急遽話題を変えさせてもらった。

 ヘタレというなかれ、誰だって地雷原を走り抜けたくはないだろう。

 

「――宣戦布告をしに来たんだ」

 

 変えた先にも地雷が埋まってた。



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宣戦布告と小競り合い

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なにとぞ



「宣戦布告ぅ!?」

「そう、宣戦布告。君は聞いているだけでいいよ。んっごほん」

 

 とたん、今までの遊びといったものがなくなり、俺ではないどこか遠くをにらみつけて、続けた。

 

「ボクたち『雑音見聞会(ざつおんけんぶんかい)』は『(ほむら)高坏(たかつき)』に宣戦布告をする!日時は明日。場所は『八つ穴の祠』。勝った方が()のものを手中に収める」

「おい、マジで何言ってんのかわからねえ。雑音見聞会?八つ穴の祠?たのむからわかりやすく説明してくれ」

 

 しかし、俺の抵抗もどこ吹く風である。

 気が付けば、勅使河原の背後には四人たたずんでいた。

 

「ねー?この人どうするー?」

「そうだなァ、今のうちにさらっちまうかァ」

「それじゃああなたがやりなさいよ石風呂」

「えぇ、何で僕がしないといけないんですか」

 

 女子と男子が交互に二人ずつ。眠たげな少女と、髪を逆立てた目つきの鋭い青年。利発そうな少女と、石風呂と呼ばれた眼鏡をかけた青年。

 

「別に僕がやってもいいですけど、勅使河原さんどうします」

「……捕まえちゃって。殺しはなしで」

 

 勅使河原は刹那、逡巡をしたのちに答えた。

 相手は当然異能持ちであり、逃げたり抵抗するのは賢い方法ではないだろう。なら――

 

「石風呂君とやら、ここはいったん話をしないか」

「ああ、申し訳ありませんけど、勅使河原さんに忠告されていまして。あなたと会話しないように言われているんです」

「いしぶろー?今会話してない―?」

「……あっ。まあ、このくらいは許してくれるでしょう。じゃあ、さっさとやっちゃいますか」

 

 俺の唯一の武器すらも対策され、打つ手なし。

 石風呂がこちらに手を伸ばし――

 キンッ。金属がぶつかった音。視線を向けると、そこには跳ね返された槍が刺さっていた。

 

「おいあんたら、私たちのチームメイトに何してやがる」

 

 金倉カンナの登場である。

 

「私もいますよ」

「ひさの、何でここに……」

「言ったじゃないですか、『警護とかつけましょうか』って。不安だったのでついてきました」

 

 私の言った通り、つけていて正解だったでしょう。誇らしげに胸を張る姿が、今は本当にありがたかった。

 

「危ないですね。僕が異能を使っていなかったら死んでいましたよ。まじでやる気じゃないですか」

「石風呂、あたしが変わろうか。そいつ相手なら苦労しないだろうし」

「俺が変わってもいいぜェ。俺とそいつは相性がいいからなァ」

「ええ、それなら」

「よそ見してんじゃ、ねぇっ」

 

 相手側のすきを突き、一瞬で間合いを詰め生成した槍を石風呂に突き刺す。

 しかし、金属がこすれる嫌な音とともにカンナの槍は止まってしまった。まるで()()()()()()()()()()()

 

「野蛮ですねぇっ」

 

 石風呂は腰に下げていた鉈を引き抜いて振りおろす。カンナは槍の胸で受けた。

 ぎちち、ぎちち、と金属同士がすり合わされ、不協和音があたりに響く。

 そのほかの三人とひさのもまた、戦闘態勢をとっていた。

 逆に自然な態度をとっているのは俺と勅使河原の二人だけ。

 

「戦いは明日。そうだろ勅使河原。そういう宣戦布告であったはずだ。小競り合い程度ですませておかなければ宣戦布告の意味がない」

「そうだね。今日はここまでにしておこうか」

 

 勅使河原は身をひるがえし、喫茶店の出口へと向かっていった。四人も後に続く。

 

「ああ、そうそう。飯泉。日野にもよろしく言っておいてね」

 

 そう言ったきり誰もしゃべらず、あいつらの姿が見えなくなるまでその場に立っていた。

 

 

 俺たちはアジトの庭に集まって今後の方針について話し合っていた。

 誰よりも大きな声で、場を仕切っているのは、ボス代理である日野ひさのだ。

 

「皆様も知っての通り、私たち『焔の高坏』に裏切り者が率いる『雑音見聞会』が宣戦布告をしてきました」

 

 これらの名前はチーム名のようであった。

 焔というのはおそらく日野のことを指すのだろう。

 雑音見聞は勅使河原の『知ろうとしたことは何でも知れる』ことの煩雑さを表している。

 なるほど、どちらもよく考えればなんとなしにわかる。

 

「場所は『八つ穴の祠』」

「それだよな。その八つ穴のなんちゃらってのはどんな場所なんだ」

「ざっくり言うと、強制的にトーナメントをさせられるとこだな」

 

 一つの山の中に八つの穴が開いている。

 八つの道はやがて合流し四つへ。

 四つの道は合流し二つへ。

 二つの道は、山の最奥にある大きな部屋につながっていているらしい。

 

「八つ、というとちょうど俺と日野を除いた戦闘員と同じ数だな」

「そういうことになりますね」

 

 これは明らかな誘導である。罠の香りしかしない。

 しかし、勅使河原の策にのらない手はないのだ。チームメンバーがすでにやる気になってる。

 彼女らにとって、裏切り者を倒すまたとない機会なのである。ここで背を向ければ不信感を抱かせかねない。

 

「問題は誰がどの穴に入るのか、か」

 

 八つの穴の中にはそれぞれ勅使河原の刺客たちが待ち構えているだろう。

 異能同士で戦う場合、最も気を付けなくてはならないのは相性であるらしい。

 また、自分たちは相手の異能を知らないのに、勅使河原によってこっちの異能は駄々洩れである。

 極めつけは――

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()』。誰がどの穴に入ってくるのが知られてしまうのは痛いな」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 これだけは避けなくてはならない。

 

「飯泉先輩、何かいい案はありますか?」

「ああ、あるぜ。とっておきのものがな」

 

 そう言って俺が取り出したのは()()()()()()()()




この回やけに難産でした。
後半部分の八つ穴のくだり、ちょっとややこしいと思うので次回詳しく説明します。


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あみだくじを用いて攻略せよ

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作者のバイタリティーがバイバイします
なにとぞ


 八つの穴が開いた山、『八つ穴の祠』。

 東西南北、北東南東北西南西それぞれに穴が開いていて、一本の道になっている。

 進んでいくと各々二つの道が少し広い空間で合流する。ここを『決闘室』と呼ぶ。

 四つに減った道も、それぞれやがて『準決勝室』に合流。

 二つの道は最奥にある大空間でつながり、『決勝室』で長い洞窟は終わりを迎える。

 勅使河原は決勝室で待ち構え、おそらく八人の番人をそれぞれの穴に設置しているはずである。

 こちらの戦闘員も八人。問題は誰をどの穴に送るかである。

 

「みんな知っての通り、勅使河原は『()()()()()()()()()()()()()()()』異能を持ってる」

 

 異能力は個人の技量も大事ではあるが、相性もまた同様に大切である。

 もし、誰がどの穴に入るのか勅使河原に知られてしまうと、相性の悪い相手と戦わざるを得なくなる。

 

「そのための対策がこれだ」

 

 俺が取り出したのは何の変哲もない紙と鉛筆であった。

 

「紙と鉛筆がどうして対策になるのですか」

「正確に言うなら、紙と鉛筆自体では勅使河原の異能を防ぐことはできない」

 

 俺は鉛筆を動かし、あれを制作し皆に見せる。

 

「縦線と、横線?いえ、これは――()()()()()ですか」

 

 あみだくじ、言ってしまえば完全に運任せであった。

 明日、八つ穴前であみだくじを使って、だれがどの穴に向かうかを決める。

 直前までどこに行くのか知らなければ、勅使河原も知りようがないのだ。

 

「とはいえ、あみだくじはあくまで戦況を五分五分に戻すだけのしろものだ。そこらへんはまかせたぞ」

「任せてくださいっ。勅使河原の奴が卑怯な真似をできないなら、私たちに負ける通りはありませんからっ」

 

 本当に勅使河原のこと嫌いだなこいつ。

 周りの人たちもうんうんとうなずいてるのもいかれ具合を増進させてる。

 

「勅使河原に勝ったらボスに褒めてもらうこと間違いなしです!みんな頑張りましょう!」

 

 おおー!

 歓声が上がる。このチームには日野狂信者しか存在しないのだろうか。

 

「勝ったらお姉さん褒めてもらえる……」

 

 しかし、妹になつかれてのはうらやましいな。美青のやつは俺の心配ばっかして妹って感じしないし、月音はバカだから論外だし、俺も尊敬してくれる弟妹がほしいな。

 

「褒めてもらえる……ぐへへ」

 

 やっぱいらねーわ。

 

「……」

 

 チーム全体がお互いを鼓舞しあっている中、カンナ一人じっと考え事をしていた。

 

「どうしたカンナ。俺の運任せ作戦はちょっと不安か」

「……いや、そういうわけじゃない。ただ、さっき手を合わせたやつのことを考えていた」

 

 さっき、というとあの石風呂と呼ばれていた、カンナの槍を防いだ男性か。

 

「あいつは強い。間違いなくな。私以外のメンバーじゃすこし荷が重いかもしれない」

「そんなにか?」

「ああ、少しでも手を合わせたら相手側の技量などすぐわかる。おそらくだが、今回の戦いで一番強いのはその石風呂か――」

 

 

「――金鞍カンナ。あの中で一番強いのは彼女だろうね」

 

 八つ穴の祠、その一室に男子女子二人づつ座っていた。

 各々が何か資料のようなものを手に、岩肌に寄りかかりながら話をしていた。

 そのうち一人、先ほどの発言をしたのは石風呂。

 

「もしかしたら僕でも勝てないかも」

「そうかァ?すこし謙虚が過ぎると思うがなァ」

「そうだよー。いっしーはもっと自信をつけるべきだよー?いっしー強いもん」

 

 四人組は、喫茶店で飯泉を襲ったメンツである。明日決闘を控えているため互いに見解を言い合っている。

 石風呂と三人はもともと一緒のチームであり、今回勅使河原にお金でやとわれて決闘に参加した。

 すでに前金はもらっているものの、明日の活躍次第で給料が決まる歩合制であるため手を抜くことができない。

 

「確かに、戦績を見てもカンナだけは別格ね。でも、前言った通り私と尾鳥は相性がいいわ。いざとなったら私たちに押し付けて頂戴」

「任せなァ」

 

 紙を逆立てた男性である尾鳥は、自信ありげに答えた。

 

「逆にー、ほしちゃんはー、ひさのっちに弱いかもねー」

「……そうね、叶ちゃん。その時は私を助けてくれる?」

「もっちのろーん」

 

 利発そうな、まっすぐ髪を下ろし後ろでまとめている、ほしちゃんと呼ばれた少女。

 眠そうな少女は叶ちゃんというらしく、和気あいあいとしてる。

 女子同士が話をしていると話題は彼らのボス、勅使河原に移っていった。

 

「相性の話をしているけどよォ、ボスは相性のいい相手をよこしてくれるんだろォ?」

「どうもそうらしいね」

「でもさー、相手はボスの古巣なんでしょー?対策とかされちゃうんじゃないのー?」

「そこらへんは大丈夫だって言ってたわよ。何でも()()()()()()()()()()()()()()らしいわ」

「まず、ボスの異能に対策なんてできるんだね」

 

 石風呂はおもむろに資料をめくった。

 項目は『考えられる対策』。

「ふうん。()()()()()か。サイコロ、トランプって線もある、ね。なるほど」

「ええ、言われてみればそうね。何でも知られてしまうな最初っから知らなければいい。うまい作戦だわ」

 

 しかし、と四人は笑う。

 

「これも対策済みなんだろォ?じゃァ心配いらねーな」

「ええ。あとは、万全をこなすだけね」

「それじゃあ、ボーナスのために頑張っていきましょう」

「おー」



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それはキャットファイト?

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作者の生命線が伸びます
なにとぞ


 とある病院のとある病室。一人の女性がベットに横たわり目を閉じていた。

 日にちは飯泉が勅使河原に会う一日前の夜である。

 この時間帯には見舞客はもちろんナースさえもやってこない。

 突然、眠っているはずの日野が声を出した。

 

「いい加減出てきたらどうですか」

 

 むろん病室には彼女以外いない。独り言は誰にも聞かれることなく消えるはずだった。

 

「おっと、ばれてた?」

 

 返事があった。しかし、奇妙なのは声の出どころが病室の出入り口ではないことだ。

 

「窓から失礼するよ」

 

 日野は三階にいるはずだった。にもかかわらず、女性に見間違えてしまいそうな中世的な美男子、勅使河原は窓からやってきたのだ。

 異常事態、だが日野は動揺をしない。いつものように冷静さをふるまって、勅使河原と相対していた。

 

「普通に扉から入っていただければよろしいのに。私はいつだってあなたを歓迎しますよ」

「ボクもそうしたいんだけどね。ほら、君のチームメイトってボクに厳しいじゃない。こっちだっていろいろ気をまわしているんだよ」

 

 勅使河原もまた、妙な気軽さを持っていた。

 一見、穏やかに見える会話は続いていく。

 

「今日はね、約束の話をしに来たんだ」

「約束?」

 

 日野はとぼける。彼女がそのような様子を見せるのは非常に珍しいことであった。

 

「……しらじらしいね。ボクたち三人がした約束だよ。彼のためにも、もう彼をあきらめるって。そういう約束を、したよね?彼自身とも二度と会わないって約束したよね?」

 

 空気が一気に重くなる。二人はいぜん、お互いの顔を見たまま目をそらさない。

 

「ええしました。そして、破りました。申し訳ないと思っていますよ」

「っ、とぼけた後は開き直りかい?ねえ、ボクだって彼に会いたかったんだよ。一年間ずっと思ってた。でも、彼のためにもずっと、ずっっと我慢してたんだ。ボクだって()()()()()()()()()っ!?」

 

 勅使河原は続ける。声を荒げ、息を切らしながらも。

 

「それなのに、それなのに君はのうのうとっ、しかも、ボクを引き合いに出してっ、ボクと敵対させようとして!どういうつもりなんだいっ!?」

 

『彼女と敵対しているチームのリーダーになれと?かなりの無茶を言ってる自覚はあるのか』

『あります。()()()()()()()()()()()()()()。私は、あなた以外に頼る相手がいないのです』

 たしかに、日野はそういった。

 そして、勅使河原は『知ろうとしたことは何でも知れる』。

 ならば、彼が飯泉の情報を一片たりとも見逃すはずがない。

 彼の怒りは本物であった。

 しかし、日野は。

 

「ふふっ」

 

 ()()()

 

「……なにがおかしいの?」

「うふふっ、だって勅使河原。あなた、『私と同じ気持ち』とおっしゃっていたじゃありませんか。では、どうして私の行動が理解できないのですか?」

 

 勅使河原の怒りが、猛攻が、闘争心が、一気に飲み込まれていく。

 目の前に狂気が、自身かそれ以上の狂気が見える。

 

「どうしても会いたいなら、会えばいいのです。どうしても手に入れたいのなら、手に入れればいいのです。私はこの一年でようやく気が付きました。それだけの話なのです」

 

 目が、光を失っていた。

 それは愛する者に会えなかったが故なのか、あるいはようやく愛する者に会えたが故なのか、誰にもわからないだろう。

 狂気であった。ただ、狂気であった。

 その眼が、いぜんと勅使河原に訴えかける。

 

『あなたは、どうしますか?』

「……いいね、最高だ。そっちがその気ならボクもそのつもりで挑ませてもらう」

 

 息を吸う。戦闘は、争いは今ここで始まっていた。

 

「ボクは君に宣戦布告をする!ボクが用意した八人の刺客に、君たち部下の八人が打ち勝てれば君の勝ち。負ければ君の負け。勝った方が彼を連れてく。これでいいかい?」

「ふふっ、もちろん」

 

 こうして話はつながる。

 

 

 俺は八つ穴の祠に来て、ひさのたちを見送っていた。

 正直俺がここまで来る必要はなかったが、チームを鼓舞するためにもと日野に言われ、のこのこやってきた次第だ。

 

「それじゃあ、行ってきますね飯泉先輩。よい報告を待っていてください」

「ああ、気をつけろよ」

 

 妙にひさのが張り切っていた。

 思えば、彼女がまともに異能が使えるようになったのはつい最近で、こういう仕事も初体験であろう。

 そりゃあ、張り切るわけである。

 直前になってあみだくじを使い、誰がどの穴に向かうか決めた。

 勅使河原の対策はこれで十分なはずである。

 

「しかし、なんか胸騒ぎが……がっ!?」

 

 鈍痛。

 背後から殴られたのだろうか。俺は地面に倒れこんでいた。

 

「まったく、なんで明日樹さんはこんな人間を……」

 

 明日樹?勅使河原の部下か。だとしたら、何でこんなとこに――

 

「こんな奴がいるから……まったくもっていやっすね。いっそここで――」

 

 俺はその女の言葉を最後まで聞き取ることができなかった。

 ただ、足を引っ張り、どこかへ移動していることを感じながら。俺の意識ははっきりと闇の中へと落ちてしまった。こんなとここなきゃよかったな。

 つい、日野に乗せられてここまで来ちまった。

 まったく、来なければよかった。



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『炎』『分解』VS『夢』『誘導』

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なにとぞ


視点:日野ひさの

 

 

 私は洞窟の中を走っています。岩肌がむき出しで、薄暗く、あまりここにいたいと思いません。

 しかし、私に与えられた任務は勅使河原を倒すこと。そうすれば、ボスに褒めてもらうことができます。

 今までさんざんチームの足を引っ張ってきましたから、頑張らないと。

 道をまっすぐいくと決闘室と呼ばれる部屋が見えてくるそうですが、まだたどり着けていません。

 また、その道中に勅使河原が雇った刺客が待ち構えていると――

 

「っ!」

 

 視界が悪くて気づくのに時間がかかってしまいましたが、どうやらその刺客のようです。

 女性、でしょうか。低身長でショートカット、眠そうで、ゆらりゆらりと歩きながら迫ってきます。

 あまり見た目で判断するべきではありませんが、戦闘よりの異能持ちではなさそうです。

 

「止まりなさい。あなた、勅使河原の刺客ですね」

「んー?そうだよー。私はねー(いのり) (かなえ)。叶ちゃんって言われてるんだー。よろしくひさのっち」

 

 名前を知られているのは驚くに値しません。相手側には裏切り者勅使河原がいますから。

 しかし、叶という少女、ずいぶんと戦う気力がないような。

 割と近くにいるのに、構える素振りも見せません。敵とはいえ、無抵抗の相手をなぶる趣味はないのですが……

 

「そろそろ戦闘を始めますよ。よろしいですか?」

「んー。そっかー、ひさのっちはあまり戦いなれていないんだったねー。戦闘はねー、()()()()()()()()()()

 

 なにを、いっているのでしょう。彼女は何のそぶりも見せていないのに。

 

「私の異能はねー、『夢』に『誘導』する異能なんだー。だから、()()()()()()()()()

「夢?何を言っているのですか。ここは現実ですよ。私がいて、敵であるあなたがいて」

「ひのっちってー、ちょっとおつむがー、弱いかも―。()()()()()()()()()()()

「……は?」

 

 言いましたね。言いましたね!?私の前でいってはならないことを、よくも、よくもくもよくもよくも――

 ()()()()()!!

 するとどうでしょう、祈はひとりでに燃え始めたではありませんか。

 

「あっちー、あっちー。……なんちゃって。ここはー、夢の中なんだよー。痛みなんてーあるわけないでしょー?」

 

 燃えているにもかかわらず、彼女は何でもないように話していた。

 それに、そうです。私の異能はあくまで『炎』に『分解』すること。何もないところから、炎を生み出すことは不可能なはず。

 

「ここがやっとー夢の中って気づいたー」

「う、うるさい!お前なんか、()()()()()

 

 すると、祈跡形もなく消えてしまった」

 っ、そうか、ここは私の夢の中だから、そうなってほしいと考えたら、そうなってしまうんだ。

 

「とはいえー、私の異能は『誘導』だからさー。現実に戻るトリガーを教えておかなくちゃいけないんだー」

 

 祈の声がどこからともなく聞こえてくる。

 そうだ、私は勅使河原をやっつけなくてはならないんだ。早く現実に帰らなくては。

 

「それはねー、夢の中で自殺することだよー。痛みもないからー簡単だよねー」

 

 そんなの簡単です。この頭を石壁に叩き込めばいい。

 そうと決まればさっそく――。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 ……そうです。ここは本当に夢の中なのでしょうか?

 相手が幻術を見せる異能で、ただ私を殺そうとしているだけでは?

 そうでない保証は、どこにあるのでしょう。

 

「ふっふっふー。私の恐ろしさに気づいたようだねー。それじゃあ、また現実で―。君にその勇気があればだけど」

()()!」

 

 それっきり、祈の声が届くことはありませんでした。

 どうしましょうか、どうすればいいのです?こんなとき、こんなとき、頭のいい人、解決策を出せる人、()()()()

 

「俺を呼んだか?」

「飯泉先輩!?どうしてここに」

 

 目の前には、いつものだらしない先輩。

 最初はお姉さんに連れてこられた気に食わない奴でしたが、なかなか頼りになることがわかりました。

 しかし、先輩はここにいないはず。では――

 

「そう、俺はひさのの作った幻だ。それにお前の夢の中だから、お前が思いつかないことは俺も思いつかない」

「……役に立ちませんね」

「そのままブーメラン刺さってるぞ」

 

 な、ならば、でもまだ話し相手にはなるはずです。

 

「そ、それでは先輩っ。ここは本当に夢の中だと思いますか?」

「十中八九そうだろうな。もちろん、幻術を見せる異能の可能性もあるが、一番今の現象に理屈が通るのは、ここが夢の中で、彼女の言い分が本当であるって線だ」

「でもっ」

「そう、絶対じゃない。これは簡単な話なんだよ、ひさの。()()()()()()()()()()()()()

 

 わ、私は、死にたく、でも、このままじゃ、お姉さまの役に、もし、見捨てられたら、私は、お姉さまなしでは、いや、見捨てないで、おねえさま――

 

「おい、お前もわかっているだろうが、夢の中ってことはもちろん悪夢もある。あまり最悪を想像すると――」

 

 ああ!お姉さまがそこにいる!

 もう、飯泉先輩もいない。洞窟の中でもない、何もない。ただ、お姉さまがいて、私を見て――

 

「本当に、ひさのは役に立ちませんね」

 

 

「うーん。動きそうにないねー。それじゃあ、ぱぱっと縄で縛ってー」

 

 祈が近づいてくる。手に縄をもって、どうやら、彼女の異能は本物であるようです。

 私は、近づいてくる手を、とっ捕まえた。

 

「っ、起きたんだー。結構ガッツあるんだねー」

「いえ、私は夢の中である確信などしていませんでした」

 

 縄を自分の手に持ち替え、祈を縛り始めます。

 無抵抗であったのは、一度突破されると連続で異能が使えないからでしょう。

 強異能にありがちなパターンです。

 

「じゃあ、なんでー?」

「お姉さまに見捨てられたので。()()()()()()()()()()()()()

「……えぐ」

 

 第一回戦は、私の勝ちです。




明らかになった名前・異能
祈 叶 『夢』に『誘導』する異能
ひさのちゃん始点かきやすー
かなえちゃんすきー


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『槍』『生成』VS『磁場』『拡大』

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なにとぞ


視点:金鞍カンナ

 

 

 洞窟の中とは言え、槍をふるえないほど狭くないのは行幸だった。

 明かりもなくはない。少し視界は悪いが戦闘に支障は出ないだろう。気を抜かない限り、気が付けば目の前に敵がいる、ということにはならない。

 ならば、

 ぐんっと足に力を入れ、速度を増す。

 この戦闘は、八人中一人でも勅使河原のもとに行ければ勝利だ。だから、馬鹿正直にトーナメントなどやってやる必要はない。

 真っ先に敵を倒して、誰も決闘室、準決勝室に来ないまま、決勝室に言ってやればいい。

 猪突猛進、一番槍、どちらも自分の得意分野だ。

 視界が何かをとらえた。

 瞬時に戦闘態勢に入り、目を凝らす。あいつは……

 

「金鞍カンナさんね。この前ぶりかしら?」

 

 喫茶店にいた四人のうち一人、利発そうな少女。

 体は細いものの、目はいくつもの修羅場を迎えたことのある、ぎらつきにも似た特有の光を放っている。おそらく、十分戦闘ができる異能だ。

 

「あんたは石風呂の一派か」

「……そうだけど、私にもちゃんと名前があるのよ。星場(ほしば) 思彗(しえ)。できればそっちで覚えてほしいけれど」

「無理だな。覚える間もなく、倒しちまうからっ」

 

 槍を生成。

 投擲。

 一連の動作をほぼ反射神経で行う。

 生成した槍は、まっすぐ星場のもとへ向かう。

 避けるにしろ、防ぐにしろ、それで相手の戦い方がわかる。さしずめ、腕試しの一投ではあったものの、しかし

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

「ふふふっ、()()()()()。いい武器だわ。()()()()()

 

 星場は止めた槍を地面にそっとおろす。

 もちろんこの際に一度も手を使っていない。

 槍がひとりでに止まり、ひとりでに地面へと降り立った。

 

「自己紹介の続きをしましょう。私は星場 思彗。『磁場』を『拡大』する異能の持ち主よ。よろしく」

 

 星場はそう言って、不敵に笑った。

 しかし、種を明かしてしまえば、こちらのものだ。

 『磁場』の『拡大』?だが、磁石に反応するのは鉄だけだろう。

 

「親切にどうも。だから私も親切心で教えてやる。私の異能は『槍』を『生成』する異能だ。槍だったら、()()()()()()

 

 私は()の槍を生成し、思いっきり投げつける。

 これなら、相手にも効くはずだ。

 しかし、またしても、ピタリ、と止まってしまった。

 

「まだ自己紹介が足りなかったかしら。『磁場』の『拡大』といったわよね。なら当然、『磁場』の対象金属を『拡大』するに決まっているでしょう?」

 

 ……まれにたどり着く『異能の拡大解釈』か。

 これは少しばかりてこずりそうだ。

 

「それじゃあ、今までのぶん、返してあげるっ!」

 

 相手に送った二つの槍がふわふわと浮きはじめ、一斉に発射された。

 手元に槍を生成して薙ぎ払う。

 一本、二本……っ!?

 ()()()()()()()が、二つの間を縫うように浮かび上がってきた。

 何とか身をよじって回避するも、わき腹を少しかすめてしまった。

 

「馬鹿な!?私は三本目の槍など生成していない!」

 

 すると、先ほどの黒い槍はだんだんと溶けてしまう。

 いや、これは溶けているのではない。()()()()()!?

 

「そう、()()よ。私だっていつも相手の武器を奪ってばかりじゃないわ。こうやって、いろんなことができるのよ」

 

 空中に浮かぶのは、包丁、ナイフ、アイスピックなどの鋭利な刃物である。

 これらがどのように扱われるのか、想像に難くない。

 

「いけぇっ!」

 

 すべての刃物がこちらに飛んでくる。

 しかし、来ると分かっているのなら避けられないほどではないな。

 包丁をたたき落とし、ナイフを避け、アイスピックの軌道をゆがめる。

 そうやって一つ一つ対処していけば、いつかは終わる。

 

「……恐ろしい身体能力ね。それも異能?」

「努力だ。それに言ったはずだぞ」

 

 お前は覚える前にやっつける、と。

 一気に加速する。

 相手と自分の距離をできるだけ詰める。

 考える隙間を与えるな。

 遠距離じゃだめなら、近距離に持ち込めばいい。

 それに――

 

「槍じゃだめでも、()()()()()()()()()()()

 

 こぶしを握り締め、星場に近づく。

 彼女も驚いてはいるが、いかんせん距離がありすぎた。

 

「っ甘いわ!」

 

 彼女は黒い壁に包まれる。

 それは砂鉄でできた壁だ。私のこぶしなど容易に防いでしまうだろう。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 黒い壁は、星場の視界をも防いでしまっている。

 

「はあッ」

 

 槍が砂鉄をぶち抜いた。目を見開いている星場が現れる。

 

「なっ、あなたの槍はここでは使えないはずっ、なぜっぐっぁ」

 

 槍であごを打ち上げる。

 星場はそのまま地面に倒れて動かなくなった。

 

「なぜって、みりゃわかんだろ。()()()()()()()()

 

 竹は、金属じゃないよな。

 しかし、さっさと勝つつもりが、思わず時間をかけちまった。それに――

 

「星場 思彗。くそっ、覚えちまった」

 

 とにかく急ごう。悪態をつくのは走りながらでいい。

 私は決闘室へと足を速めた。

 次の対戦相手はどんな強者か。

 星場みたいに強ければ面白いんだが。




明らかになった名前・異能
星場 思彗 『磁場』を『拡大』する異能

異能バトルらしくなってきましたね


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