超昂大戦 二次創作SS  真の仲間になれないエスカ・チームのお嬢様は、ルビーにスパーリングを挑むことにしました。 (環 藍河)
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超昂大戦 二次創作SS  真の仲間になれないエスカ・チームのお嬢様は、ルビーにスパーリングを挑むことにしました。【前編】

※原作第1部終盤までのネタバレ内容が含まれます。
※苦痛や負傷、悲鳴に関する表現が含まれます。所謂ソフトリョナレベルですが、苦手な方は読むのをお控えください。(一応「残酷な描写」タグをつけておきます)
※本文中に出てくる特殊効果(バフ・デバフ等)の名前と効果が、原作通りに対応していない場合があります。
※原作のキャラクターに実装されていないスキルが描写されています。
※pixiv様へも投稿します。


Round 1 危うしルビー! 紫水晶の毒牙

 

「うあ…っ!」

どさっ。

ダイビート基地内・トレーニングルームの無機質な床に、息も絶え絶えの戦士が倒れ込む。

紅蓮の超昂戦士・エスカ・ルビー。新人ながら、サファイアとトパーズを加えたエスカ・チームの主軸を務める、荒削りながら成長著しい有望株だ。

 

そんな彼女を翻弄しリングに沈めたのは、紫光の超昂戦士・エスカ・アメイズ。つい数日前にADDD適性を認められ、ダイビート長官・戦部トキサダの判断で変身を許可されたばかりの、新人超昂戦士。

 

「ねえ長官くん? 私ー、入隊祝いに、アカリちゃんと…エスカ・ルビーと模擬戦がしたいなーって。…ダメ?」

昨日のこと。突然のオファーに、場がざわめく。

「実際問題、私もエスカ・アメイズのポテンシャルとか、どこまで実戦で踏ん張れるかとか、手応えを確かめたいの。ADDDの経験豊富なアカリちゃんに、引き出してもらえたら嬉しいなって。」

「スパーリングは許可する。相手が…アカリが了承すれば、だが…」

トキサダがアカリの目を覗く。

「はい! やります!」

アカリとエリーの間に何かがあったことは、理解していた。だから、躊躇いやわだかまりが少しでもあれば、不許可のつもりだったが。

「…よし、許可する。ユーノ、明日16時、トレーニングルームを押さえてくれ。」

 

「『フラックス・プロージョン、ビート・チェンジ!』」

変身キーワードを同時に唱え、紅と紫、2色の閃光がリングを包む。程なくブザーが響くと同時に、赤い弾丸が紫めがけて放たれる。

「やああああっ! えいっ! はあっ!」

「くっ! ふんっ! それっ!」

ルビーの突撃を食い止めようと、アメイズのウィップがしなり、左右に上下に、ルビーを牽制する。

手刀とローキックで捌き、じりじりと距離を詰めていくルビー。

だが。

「くはあっ!?」

背後から、ブーメランの軌道でウィップの尖端のチャームがルビーを突き飛ばす。死角からの一撃に不意を衝かれ、全身をくの字に曲げられるルビー。

「ぬなっ!? あんなムチの動き、アリい?!」

「…ガラガラヘビの動きか…!」

ボックスでスパーリングを見守る、うららとヒビキが、共にアメイズの鞭さばきに舌を巻く。

ガラガラヘビ、別名・サイドワインダー。

敵と対峙した際、横へ跳び敵を急襲する習性を、その名に持つ蛇。

上下左右に散らした攻撃の本命は、裏からの一撃。狡猾に冷静に、紫の鞭がルビーを仕留めた。

 

姿勢を立て直そうと踏ん張る。が。膝が笑う。

(足に力が…入らない…っ?)

ルビーに突き立てたのは、蛇の僅かひと咬み。だがそこから、ルビーを魅了するかのように魔力を麻痺毒として体内に巡らせ、確実に、ルビーの最大の武器である脚力を蝕んでいた。

「ルビー、蛇のフルコース、たっぷり堪能してねっ。スキュラ!」

ウィップが新体操のリボンのように螺旋を描き、ルビーの全身を絡め取る。

「あっ、ああっ、きゃあああああっ!!」

刹那、鞭は大蛇へと化身し、ルビーを締め上げる。抱えるほどの太さの蛇が、胸を二の腕ごと、腹周りを手首ごと、そして両足を太腿から捻り上げる。

 

ぎしっ。ぎりぎりぎりぎりっ。ぐぎぎっ。

「ぐうう~~っ!! あっ、あああ〜〜っ!!」

全身の骨という骨が、悲鳴を上げる。

肺が両腕ごと締め潰され、酸素を求める。

かろうじて動く足をばたつかせても、大地に届かない。

為す術なくルビーは、妖艶なる大蛇の捕虜となった。

 

「おいっ、スパーリングだぞ! やりすぎだっ!」

ボックスを飛び出し、割って入らんとするヒビキ。しかし、それを阻む厚い扉。

「くっ…ロックがっ…! 若頭領、解除を!」

『ダメだっ、別の力で内部から二重ロックされている!』

「内部?! …アメイズ!」

「ゴメンね、ヒビキ。乱入NGなんだ。」

完全密室と化したリングに、ルビーを助ける手は届かない。

「あんたねーっ! ルビーは一緒に戦う仲間でしょー! フレンドリーファイアなんて軍法会議で銃殺刑モンの狼藉、何してくれてんのよー!」

「…逆なんだー、うららちゃん。」

「…は?」

「私たちが一緒にこれから戦うために、避けられないのが、今日のこのスパーリング。…わかってとは言えないけど」

「わかるかー! こらっ、ロック開けなさいよー!」

セコンドの抗議の間にも、アメイズの蛇は拘束を緩めない。

「あ…かはっ…ぐっ…あああ…っ…」

(呼吸が…できないっ…か…体じゅうの骨が…潰されちゃう…っ!)

為すがままに蹂躙され、もはや失神寸前のルビー。

 

「う…っ!?」

突如消滅する大蛇。ルビーのブーツがようやく床を掴むも、足取りはおぼつかず、立つのがやっと。

「フィナーレよ。ヒュドラ!」

今度は鞭が九頭の蛇と化し、満身創痍の紅き戦士を急襲する。

まず両脚を這い登り、二頭がその峰に牙を打ち込む。

更に登る四頭が、スーツ越しの腹に、臍に、両胸に。

進路を左右に曲げた二頭が、両腕に。

がぶっ。ぐりぐりぐりっ。どくっ。ぶすっ。

「あぐっ! うあっ、あーっ!! あああ〜っ!!」

牙から全身に回る、ヒュドラの淫毒。指先も爪先も弛緩し、ルビーの残ったスタミナとガッツはごっそり奪われてしまった。

そして最後の一頭が、ルビーの眼前に迫る。

「ひ…っ!」

一瞬の恐怖と、予見される最悪の未来。

次の瞬間。

がぶっ、どくどくどくっ!

予見の通り、首筋の頚動脈に突き立てられる、最後の毒牙。インナー越しの注射が、ルビーの意識を消しにかかる。

「嫌ああっ! …う…あ…あっ…!」

抵抗するかのように、首を左右に振るルビー。そんな程度で、ヒュドラは獲物を逃さない。

どくん。どくん。どくん。

警報の如く、早鐘の鼓動がルビーの体内から響く。そのひと打ちごとに、意識は闇に引きずられていく。

(そんな…一撃も反撃できずに…やられる…!)

 

「これで、おしまいっ。」

ウィップをくるりと巻き取るアメイズ。

ヒュドラの牙から解放されるも、ルビーにはもはや、体躯を支える脚力は残されていなかった。

「うあ…っ!」

前のめりに、卒倒。

吹き出す汗が、冷たい床を濡らす。

 

「…ルビーが、こんなに容易く…!」

「こらっルビー、立ちなさいよ、私以外に負けるなー!」

アメイズの圧倒的な強さに戦慄する、ヒビキとうらら。

 

「…ルビー、ホントにこれで、おしまい? あなたの狩人の素質、やっぱりまだ、つぼみのままなのね。」

 

(つ…強い…! これがアメイズの全力…!)

薄れゆく意識を振り絞るルビー。だが、ヒュドラの毒は更に全身を蝕み、重力に抗う力をルビーから奪う。

(た…立たなきゃ…! ガッツ、全開…!)

両眼をつぶり、歯を食いしばるも、かなわない。

(ヒビキちゃん…うららちゃん…ゴメン)

強化ガラスの向こうの仲間たちに、チームメイトとして無様な不甲斐なさを詫びるルビー。

(ああ…!)

薄れる視界、その端…

 

誰もが、アメイズの完全勝利を確信した。

その時。

 

「…まだ、できるよね。ルビー」

「…うん、まだ、負けない…!」

ルビーの中で目覚めた闘志が、最後のスタミナをブーストさせる。震える両手足を振り絞り、ファイティングポーズを取る、紅蓮の超昂戦士。

「私だって、ダイビートの超昂戦士、エスカ・ルビーだから…何もしないまま、負けたくない!」

 

 

Interval in Blue corner. 悲しき決意・アメイズの捧げし贄

 

「足りんな。あれしきの力で、我らが手を取る意義を何処に見出だせるものか」

「だーかーらー、結成間もないダイビートで、あなたが酷評するルビーは戦士になって1ヶ月そこら。ニルと対等で戦える方がおかしいでしょー!」

 

スパーリングの数日前、魔女を束ねる上位組織「箱船」の会合の一角。

時に国家さえも動かし、紛争さえも鎮めてしまう、魔女にとっての脅威を排除する実行部隊・ジークフリート派を束ねる『皇帝』ファヴニルは、エリーの提言を一蹴する。

エリーが見込むほどの組織・ダイビートとは如何なるものか、ニルが赴き検分した戦いは、皮肉にもエリーに心乱されたルビーが空回りを繰り返し、普段の三分の一も実力が出せない戦いだった。

「見込みと希望的観測で組む相手を選ぶな、『恋人』よ。浅慮に釣り合うほど、我等の命運は軽くないぞ」

「…証明があれば、いいのね。ダイビートの、ルビーの実力の証明が…!」

 

「エキドナ、ちょっとだけ私の美味しいとこ、しゃぶらせてあげる。だから、あなたの娘たちを何体か、私に預けてちょうだい!」

エキドナ…エリーが纏う、母なる淫蛇。伝説では蛇のみならず、地獄の門番たる三つ頭の猟犬ケルベロスや、山羊の胴に獅子の頭と蛇の尾を持つ淫欲の怪獣キマイラなど、いくつもの獣を仔となす、美しくも業深き邪の蛇。

 

ぺちゃっ。じゅるじゅるっ。ちゅううっ。

「くう…っ…、あんまり、がっつかないの…!」

エキドナは決してエリーに無償の力を授ける守護神ではない。むしろ駆け引きをしくじれば、躊躇なくエリーの魔眼を吸い尽くし、抜け殻を無慈悲に捨て置くだろう。

じゅぶっ。こりっ。じゅううううっ。

「あ…あぐうううっ! あーっ!」

奪われる魔力に悶え、歯を食いしばるエリー。

この苦痛こそが、スキュラとヒュドラ、二頭の娘を貸し出す担保。

 

どさっ。

差し出された贄を堪能し、満足気に舌舐めずりを二度、三度。

エキドナにねぶり尽くされたエリーが、力なく大地に崩れ落ちる。

「…はあっ、かは…っ! これで、ルビーを…!」

 

かくしてアメイズは、奉納と引換の猛獣をルビーにけしかける。ダイビートの、エスカ・ルビーの真の実力を引き出し、ニルの評価を一転させるため。箱船の沈没を目論み今も暗躍しているであろう真の敵は、近くいよいよその牙を剥き出しにするだろう。その時、箱船が対抗するための異能の力…ダイビートと手を携えるため。

 

だが、祖母・雅から幼くして薫陶を受け、叩き上げの知性と帝王学でエリザベス派の魔女を導き、若くして複合企業体NAUの舵を執るエリーの、総てを見通す深謀遠慮は、そこには無い。

それは、仲違いする父母を取り持ちたいのに、何を言ってもわかってくれないパパとママに振り下ろす、少女の小さな握り拳のように。

寄る瀬なき自らの想いが大切な人を傷つけてしまう、二律背反に心を焼かれる痛み。

それこそが、エリーの捧げた真の代償だった。

 

 

Interval in Red corner. 立ち上がれルビー! 護りたい人のために

 

アメイズがこの日の為に用意した、エキドナの二体の愛娘・スキュラとヒュドラが繰り出す縛鎖と淫毒に、エスカ・ルビーは全身の力を奪われ、重力に支配された四肢を床になげうつ。

 

びくっ、びくん、どくん。

(あ…か…くはっ…!)

痺れる両手を微かな力で前に伸ばし、大地から体を引き剥がそうと拳を作る。

だが、姉たる大蛇・スキュラに両胸ごと潰されかけたルビーの両腕は痙攣を止めず、九姉妹の雌蛇・ヒュドラの牙が放った淫毒はルビーの体を隅々まで誑し込んでしまった。

真朱と純白に輝くルビーの戦闘服は、スキュラの拘束で千切られ、ヒュドラの毒牙で血に染められ、全身が冷汗でぐしょ濡れとなり、かろうじて原形をとどめているものの、これ以上は妖蛇の牙に耐える力を残してはいない。

もはや官能的ですらある、満身創痍の坩堝に呑まれ、ルビーは未だ闇の中にあった。

 

(アメイズ…エリーちゃん…どうして…?)

ほんの数日前、アカリはエリーといがみ合い、いざこざを経てエリーの背負う業の片鱗を知った。

(エリーちゃんには…護るべき人たちがいる…なら、この模擬戦も…エリーちゃんが…誰かを護るための…?)

頭を回すも、疲労とダメージと毒に支配された思考回路は、結論を返してくれない。

 

ぼんやり、霞む視界に覗く、二人の仲間。

(ヒビキちゃん…あんなに狼狽えて…)

エリーに中からロックされた扉の向こう、届かない助太刀の拳を悔しく握り締め、防弾ガラスを叩くことしかできない、ヒビキとうらら。

(うららちゃんは…ヒーローの心得を…私に叫んでくれてるんだろうな…)

 

…どぷっ、どぷっ、ごぷっ…

刻一刻と、光届かぬ海の深淵へと、体の全てが鉛のように沈む。遂に瞳もとろりと弛緩し、意識混濁となるルビー。

(このまま…負けても…いいのかな…)

私が負ければ、エリーが護りたい人たちが救われるのかもしれない…そんな考えに心を侵略される。

 

(護りたい…ひと…?!)

 

そうだ。

エリーだけじゃない。

私にも、護りたい人がいる。

 

僅か数日前。

エリーに心乱され、ついに大義のために戦えなくなった自分の弱い心を嘆き、立ち上がれなくなったルビー。

だがその止めどない落涙を拭ってくれた、憧れの戦士・エスカレイヤー。

彼女が気づかせてくれた、大切なこと。

 

ふるうべき正義が、わがままだっていい。

救いたい人を、依怙贔屓したっていい。

だって。

 

(私の…護りたい人は…!!)

みんなが持つ平凡な幸せを、未だ知らない人。

誰よりも伝えたいこと、何よりも見せたいもの。

してあげたいことが、たくさんできた。

してほしいことも、たくさんできた。

自分の全部を、この人には惜しみなく渡したい。

貴方の全部を、もっともっと知りたくて心が震える。

私の護りたい人。

アカリが心の底から、そう思える人。

 

エスカ・ルビーのADDDが、最後の、そして最大のD2エナジーを放つ。

腕から指先に、脚から爪先に。

輝きを失いかけた瞳は、今や眩しい翠を灯す。

心の翼を再び広げ、ルビーの五体がエナジーで満たされていく。

 

【後編へ続く】

 




初めまして。環 藍河(たまき あいか)と申します。2022年GWに超昂大戦にずっぽりハマり、勢いで二次創作SSまで手を出してしまいました。
同人誌でも公式アンソロジーでも、超昂大戦二次創作がもっと増えてほしい…わずかな呼び水になれば幸いです。
あまりエロいのは書けませんが、笑って泣いて熱くなるSSを届けられるよう頑張ります。とりあえず後編もすぐ出します。 よろしくお願いします!


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超昂大戦 二次創作SS  真の仲間になれないエスカ・チームのお嬢様は、ルビーにスパーリングを挑むことにしました。【後編】

※原作第1部終盤までのネタバレ内容が含まれます。
※原作のキャラクターに実装されていないスキルが描写されています。
※pixiv様にも投稿しております。

※今さらですが、クロスオーバー作品ではございません。「真の仲間じゃないと勇者のパーティを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました」内容は一切出てきません。タイトルで釣る意図はないのですが…そちらをご期待の方、申し訳ございませんでした。


Final Round. 紅蓮の本能! ルビー・魂の一撃

 

蛇の淫毒が消えたわけではない。今なお双肩は震え、膝は戦慄する。

それでも。

「…エスカ・ルビー、再出撃します!」

牙の毒なんかに、負けない。

自分に言い聞かせるように、咆哮するルビー。

「いく、ぞおおおっ! でやあああああっ!」

紫水晶を捉えようと、号砲に弾かれる紅き閃光。

 

「ヒュドラ! やあっ!」

アメイズがウィップを一閃すると、再び九体の蛇がルビーに正対し、次々に波状突撃を開始する。切り込み隊長が落とされても、影から心臓を、脇から喉笛を。我等がうち一体が必ずや、この蛮勇なる戦士にとどめの牙を突き立て、今度こそ自慢の淫毒で蕩かしてみせよう。

 

だが。

ルビーの繰り放つ迎撃弾は、最初の蛇たちが容易くかい潜った、様子伺いの手刀や受け身のローキックとは全く違った。

全てが鋭く、そして重い。

ある一頭は正拳で鼻ごと牙を潰され、次の一頭は拳の甲で進撃を断ち切られ、側壁に叩きつけられる。

ルビーの拳が、蹴りが、一撃、一撃ごとに、星の煌めきを纏い、破壊力を増していく。

蹴撃に天井を仰ぎ、廻し蹴りの踵で頭を飛ばされ、一頭、また一頭とヒュドラが地に墜とされる。

 

しゅっ。

最後の一頭に放ったルビーのストレートが、空を切った。

一触、わずかに頭の脇をかすめたものの、すんでのところで躱し、ラストチャンスとばかりに反転、ルビーの首筋目がけ、とどめのひと咬みをと大きな口を開け…

ぼとっ。びくんびくん。

牙は虚空を掴み、力なく堕ちた。

拳に乗った衝撃波が、空を切ったはずのヒュドラの平衡器を既に焼き尽くし、復活を許さなかった。

かつて神話の時代、伝説の勇者は落としたヒュドラの首を松明で焼き、再生を阻んだという。

ルビーの拳に、神話が再臨した。

 

「まだよ! スキュラ!!」

再び突撃しようと両足に力を入れ直すルビーを、身の丈を凌駕する螺旋が再び包んでしまった。

「きゃ…あっ!」

ぎゅるん。ぎゅううううっ、ぐりっごりっ。

妹の仇討ちとばかりに、ルビーの肢体全てを隙間なく巻き取り、無慈悲にねじり、絞り上げていく。

 

「ダメだっ…終わりだ…!」

「や…やめなさいよーっ!! ルビーが壊れちゃうーっ!!」

もはや、絶望の悲鳴を吐露する力さえ、ルビーには残っていないだろう。静寂と共に訪れる、激闘の終焉のはずだった。

 

微かな違和感。

絶対支配者のはずのスキュラが、苦悶に顔を歪め、色を失う。

「…ガッツ…全開…、全力…、フルパワー…!」

螺旋の中心軸から湧き上がる、希望の朱光。スキュラの胴体は逆に内側から広げられ、自慢の腹筋を引きちぎられる。

「ぐるおわえああおぎやあ〜! ぶぐるっ」

どすん。びくんっ! どくんっ!

力比べに敗れ、戦意を喪失しルビーを開放するも、倍返しのダメージに悶えるスキュラ。もはや反撃の意志は断ち切られ、地を這いつくばり、己の必殺技を破った少女に畏怖するよりなかった。

 

はあっ、はあっ、はあっ!

「はああああーーーっ!!」

呼吸を整え、自らを鼓舞するように咆哮し、蛇使いに正対。

「ストライクーッ!」

防壁を失ったアメイズを急襲する、ルビーの左右からの廻し蹴り。

とっさにウィップの柄で防ぐも、一撃目で痺れた右手は握力を失い、二発目でウィップが宙を舞う。

「ああっ!」

相棒を手放してしまったアメイズがきびすを返すと、ルビーはそこにいない。

「…!」

息を呑み、見上げる空。

跳躍競技のアスリートのようにルビーが空に描く、虹の軌跡。

「エスカレーション!!」

背面跳びから、右脚首のパルシオンが翠光を放ち、ルビーの脚に爆発的なエネルギーを蓄積している。

全てに決着の幕を下ろす、蹴撃一閃。

 

「きゃあああああっ!!」

本能で恐怖し、心の防壁も破られてしまったアメイズは、両目をつぶってしまう。

 

…?

衝撃が来ない。

アメイズが恐る恐る目を開けると、ルビーはずっと左にへたり込んでいた。

「…あっ、長官…」

アメイズの魔力で封緘された、トレーニングルームの扉であったが、戦闘でその魔力が衰弱し、解除に成功。すぐさまトキサダと、変身したサファイア・トパーズが二人にレフェリーストップを掛けに割り込んでいた。

ルビーの勢いを横からいなし、トキサダはルビーもろとも転がり込む。

トキサダが止めきれないときはストライク・エスカレーションを二人がかりで受け止めようと、サファイアとトパーズは、アメイズを庇う形で左右に並び立つ。

 

「スパーリングは終わりだ、ルビー、アメイズ。勝敗は…言うまでもないな。」

目線をアメイズにやり、異論が無いか確かめる。

やれやれ仕方ないなあ、と強がりのポーカーフェイスで返すアメイズ。

「あはは…もう、立てません」

かろうじて支えていた上半身すら維持できなくなり、トキサダの胸に崩れ落ちるルビー。思わずトキサダが取ったルビーの手が、判定勝ちを告げるように天へ伸びていた。

 

ヒュドラの淫毒の源は魔力。バトルが終われば浄化され、文字通り魔法が解けた状態となる。

それでも、精魂尽き果てたルビーは意識を失う。

「ユーノ、ルビーを救護室に運ぶ。回復ユニットの空きを確保してくれ。」

 

残される三人。

「どーよ、ルビーの闘争本能は?!」

「何でお前が威張るんだ、さっき『やめてー、ルビーが死んじゃうー』って情けなく叫んでたくせに」

「がっ…! いーでしょ別にー! サファイアだって『ダメだ…ルビーもこれで終わりだ…』って真っ青で、ぜーんぜんルビーの大逆転勝利を信じてなかったじゃん!」

「なっ…!」

軽口で互いをいなすトパーズとサファイアに、顔向けができないアメイズは俯く。

 

この勝利で、手を組む価値なしとされたエスカ・ルビーとダイビートの実力は、ジークフリート派だけでなく、箱船全体の認めるところとなるだろう。

だが、ガラス越しにうららが叫んだ通り、友軍攻撃を敢行した私に、もはやルビーはもちろん、サファイアもトパーズも…信義など置けようはずもない。

私は、ダイビートと箱船の結束の礎になろう。

その場に私は居られないけど、両者の未来を拓いて去るのだから、本望。

ADDDを返し、ダイビートを去ろう。それが、ケジメ。

…そんなエリーの悲しい決意を察し、二人は。

アメイズの片手ずつを取り、立たせて肩を貸す。

 

「…どうして? 私は…二人の大事な仲間を…ルビーを傷つけたのに…!」

「わだかまりはあるが、お前がルビーをいたぶり、嬲って虐げる意図は感じなかった。ルビーの全力を見ようとするお前は、さらに強い敵を知っているのだろう? だから全身全霊でルビーを鞭打った。ルビーもそれに応えた。…この戦い、私も心を打たれるものがあった。いつか私とも一戦、手合わせ願おう」

「あるときはヒーローを試練に突き落とす謎の敵、あるときは最大の危機に手を差し伸べる最強の味方。そんなダークヒーローを懐深ーく受け入れる度量を持ってこそ、真のヒーローは成長する! ベタだけど胸アツ展開じゃない? くううー、私ってばヒーローの鑑っ!」

 

(…ありがとう…!)

ぜんぶ赦したわけじゃない。

でも、まだここにいていい。

二人の肩越しの温もりが、エリーの心を熱く満たしていた。

 

 

Intermission.勇者アカリと魔性のトキサダ

 

「全く、深謀遠慮であるべき我らが恋人が、かくも不退転の直情径行とは、いやはや実に危うい」

「誰のせいよ、わからずやの皇帝様」

後日の箱船会合。

スパーリングの映像は施設の自動録画解析システムから編纂し、イレーナがニルへ送付していた。

「それにしても…ふっ、ふはっ、ふははははは!」

「ちょっ…何よ、私がボコボコのコテンパンなのが、そんなにおかしいの?! 悪趣味ー!」

「ほう? 我は加虐嗜好ではないぞ。いやな、さしもの我も、これは見通せぬなと」

「…何が?」

「検分した際は、尻に殻のついたひよっこの、児戯にも等しい戦だったが、なかなかどうしてあの紅き戦士殿、スキュラとヒュドラを屠るブレイブ・ソルジャーだったとはな! 実に愉快!」

「…あっ」

ニルとエリーが思い描くのは、神話で、この二体を始め数々の魔物を討伐してきた、伝説の勇者。

 

「クラリス、紹介するね。こちらが園崎アカリ、私の背中を預ける、とーっても大事なパートナー、エスカ・ルビーよ」

 

「ひっ! ヘラクレス…様…!!」

 

「…はい?」

 

後日、アルダーク壊滅によって暴かれた、真の敵。ダイビートが共闘に足る組織であることを証明するべく、箱船メンバーにはスパーリングの情報と映像が開示されたのだが…

 

『な…何なのよ何なのよ、あの狂戦士はあ!?』

『ヒュドラ九頭を悉く撃墜、スキュラを逆に引きちぎるとは…!』

『ダイビートの超昂戦士は、神話級なの…?!』

『あ…あああっ、敵でなくて良かった…!』

『ひいいいいっ、吼えてる、吼えてる!』

『ぎゃああああっ、眼が、眼が緑に光ったああっ!!』

「…あ…あれっ…?」

キュートで勇敢な仔鹿を紹介したつもりのエリーだったが、幹部一同にはチートで獰猛な蛇喰い虎にしか見えず。

その日、箱船会議は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

以降、アカリはしばらくの間、スキュラとヒュドラを退治した神話の英雄・ヘラクレスの二つ名で呼ばれ、魔女から畏怖される存在となった。

「ダイビートの紅き悪魔」だの「蛇殺しのルビー」だのよりはマシとしても、よりによってヘラクレス…少なくとも、女の子に付けて喜ばれるニックネームではない。

 

がくがくがく…ぶるっ。

「…も…もう逆らいません…私、美味しくないですから…っ、八つ裂きは…ゼリーウナギだけは…ヘラクレスさま、お慈悲を…!!」

「お…落ち着こっか、クラリス…? 大体、あなたのスキュラは蛇じゃなくて犬でしょ、ほら、ガラテイア…?」

「イヤっ…ガ…ガラテイアまで、はらわたを引きずり出されて、ハ…ハギスに詰められちゃう…ああっ、もうダメです…っ!!」

「だーかーらー、アカリはそんなバーサーカーじゃないからーっ!」

 

ことに、下半身に水蛇、腹に六頭の犬を従える魔女・スキュラの魔力因子を持つ、NAUの金庫番・節制のクラリスの怯えようは著しく、スパーリングで嗚咽し悲鳴を上げる大蛇スキュラの映像は、まるで我が身のことのように突き刺さってしまった。

生来の気弱さも相まって、クラリスは完全にアカリ恐怖症に陥ってしまい、アカリのワンコ系・人たらしパワーを以てしても、打ち解けるまでに少しの時間を要した。

(ねえ、エリーちゃん? 私って魔女さんたちに何かヒドいこと、しちゃったのかなあ? なんかみんなヨソヨソしいような…)

(…あー…アカリはぜんっぜん、悪くないよー。…ゴメンねっ、ホンっトに…!)

 

そのルビーだが、スパーリング直後、ちょっとした事件があった。

全てを出し尽くし、護りたかった人の腕の中でまどろみ、救護室へ運ばれるルビー。

両肩・両腕・両足に痛々しく残るスキュラの締め跡も、胸に腹に首筋に、ルビーの戦闘スーツ越しに全身くまなく残るヒュドラの噛み跡も、今や誇らしい勝利の勲章。回復ユニットなら跡も残さず、元通りの素肌まで治療できるだろう。

 

後に『接続者』『吊られた男』として、魔女の魔力供給を頼まれることになるトキサダは、アメイズの魔力の性質にも親和性を持っていた。

「…あれだけのヒュドラの淫毒を注ぎ込まれて、なお立ち上がるとはな…」

ベッドで小康を取り戻すルビーの傍で、トキサダが思わず零す。たとえ超昂戦士であろうと、九頭ものヒュドラから全身くまなく、魔力の込められた毒牙を突き立てられては、正気を保つことすら困難であったろうに。

 

「…とろとろ、でした…うっとりとして、意識がふわっとしてきて…もうダメかな、って…」

 

不意に、まだ眠りから醒めないと思われたルビーが、うわ言で返す。予想外の応答に戸惑うトキサダだった…が。

 

「でも、私…長官が、いいって…、長官…なら、もっと…。そう思ったら、力が湧いて、立ち上がれたんですよ…」

 

どくん。

どくん。どくん。

どくっどくっどくっどくっ!

うわ言がトキサダにクリティカルヒット。

 

意識が朦朧として、ニュアンスが飛躍し、【てにをは】も覚束なかった。

…ルビーとしては、

「長官がいい(=長官の願いを叶えるために、負けられない)」

「長官(のため)なら、もっと(私は戦える)」の意味だったのだが。

 

トキサダは、

「長官がいい(=ヒュドラより、長官のDチャージが欲しい)」

「長官(のアレ)なら、(ヒュドラの淫毒より)もっと(気持ちよくしてくれる)…!」

…と曲解。

 

結果、その夜のDチャージは。

ルビーの期待に応えるべく、持てる技をあらん限り駆使するトキサダと。

張り切るトキサダのピロートークの端々から、自らのうわ言のダブル・ミーニングに気づき、赤面し悶えるルビー。

「い…いや…っ、そんな…!

…も、もおーっ! 違うんですーっ! ちょ、長官に、へ、蛇よりも気持ちよくして、ほしいなんて…! せ、戦闘中に、そんな理由で立ち上がるパワーが湧くんですか、私…!?…そ、それじゃ私、ただの欲しがりの、淫乱ヘンタイさんじゃないですかーっ!!」

 

だが。

困ったことに、極限状態で口にするうわ言は、絶対に言っていない、そういう意味じゃない、とは、当の本人ですら、なかなか断言できないものである。なまじ人柄ができすぎたルビーは、トキサダの勘違いを激怒して切り捨てても良いところを、自責の念に囚われてしまった。

 

「(…で、でも私、心のどこかで、ホントにそんな期待を…してた…の?!)…あっ、ああっ…あああああっ、あ〜っ!!」

 

…ぐへへ、心に正直に、素直になれよ、的言葉責めの効果が偶然付与され、結果、この晩ルビーは過去最高のDチャージ効率を記録してしまったという。

 

 

Epilogue.真の仲間になれたエスカ・チームのお嬢様は、心のバリアフリー生活を始めました。

 

「アカリ…ヒビキ、うらら。もう私、隠し事、何もないからね。全部、ぜーんぶ、みんなにあげちゃうから、改めて、雪城エリーをよろしく、ねっ」

「あっ…エリーちゃん、私の呼び方…!」

「私、親しい人は呼び捨てって決めてるの。…いいよね?」

…言葉を忘れるほどの嬉しさで、二度、無言で頷くアカリ。ツインテールがわんこの尻尾のように喜びをたたえて揺れる。

続けざまに両腕を広げ、エリーの胸に飛び込み、左頬に自分の左頬を寄せる。

「やったあ! あははっ、エリーちゃんと、仲間だあ!」

「きゃあっ! …もおっ、喜びすぎぃ!」

「…その、今更だが、私もエリーを歓迎する。これまで通り…、いや、それ以上によろしく、だ」

「かったーいっ! ガッチガチじゃないの! …あーもう、『エリーが仲間で嬉しい』ってもっとストレートに言えばいいじゃない! エリー、これでヒビキにしちゃ、ずいぶん素直な方なんだから、割り増しで受け取りなさいよっ」

「なっ…私はこれで精一杯、最大限なんだ! いつでも365日オープンハート24時間のアカリと比べるなっ!」

「ぷっ、あははははっ! 確かに、アカリはコンビニレベルでいつでも人懐っこいもんねー」

 

…エリーが、自分が本当に三人に、全部を包み隠さず言えるかどうかは、まだ自信がなかった。

アカリたちを疑うわけじゃない。単純に、自分の心を晒す経験が不足しているのである。

 

代々エリザベス派の長を務める雪城家に生まれ、幼い頃から大人の建前と本音のギャップを嫌でも見ざるを得なかった。自分や父母や祖母に向けられる悪意や妬みの棘に傷つき続け、ときに暴漢のテロや誘拐未遂といった実力行使に晒されてきた分、やがて心の痛覚が麻痺してしまった。

 

同時に、誰に対しても最後の一線で、エリーは自分の真意をガードするようになった。

嫌いなものを嫌いと言い、好きなものを好きと言う。その当たり前でさえ、エリーは留保し忌避してきた。旗の色を見て、ある大人は忖度とおべっかでエリーを誑かそうと近づき、別の大人は好戦的に挑発を始めたから。

 

…占い師はね、自分を占っちゃいけないの。

それは事実でもあり、自分の敏感すぎる核心を守り抜くための、便利な口実でもあった。

 

それでも、エリーは小さな決心をした。

できるだけ…いや、何でも。

魔女の秘密や禁則事項だけじゃなく。

アカリたちには、私の気持ち、全部を言おう。

本心を見せない私を打算なく受け入れ、傷つけてしまった私を赦してくれた、アカリ、ヒビキ、うらら。

自分の好きなものを私が嫌いと言っても、その逆でも、きっと三人は、ありのまま受け入れてくれる。私の核心を、自分の心のように、きっと優しくいたわってくれる。

だから私は、もう何も隠さない。それが、信じてくれた最高の仲間たちへの、私の精一杯の答えだから。

 

(あっ、長官くんへの気持ちも、みんなには隠さず見せなきゃね。アカリは狼狽えるかな、うふふっ)

同じものを好きと言って、喧嘩になることもある。でもこの二人ならば、それも絆を強くするスパイスにできるだろう。

世界に一つしか無い宝箱の争奪戦が、幕を開けた。

 

【了】




改めまして、環藍河です。
初SS、お読みいただき、ありがとうございました。
前編を投稿後、「アレ説明不足かなぁ?」「ルビーの心情、前と後で矛盾してね?」「話自体、成立してないかも…?!」とか悶々としながら、後編でギリ補足できるよう練り直しました。
…至らぬところは、読者の皆様の暖かい目で補ってくだされば…、超昂大戦同好の士として、今しばらくはお目こぼしを。

さて。超昂大戦SS、連続モノを他に1本、短話完結モノを他に3~4本、現在推敲中です。
作れば作るほど、「コレ本当に読者様が得するの?」「環(作者)の独りよがりじゃね?」と自信がそぎ落とされていきます…(涙)。
エスカ・チーム4人に感じた、作者なりの魅力を原作リスペクトで書けたら幸せです。神様、私に構成力と表現力をくださいっ!
では、次回作もお読みいただけますれば至福の極みです。またのお目通りがありますことを!


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