英雄の仲間から神の眷族へと改帰する (時雨シグ)
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簡単に書いてます。


ほとんど天寿のコピペですね。

まぁこちらの方が色々と上位互換ですけど。

ネタバレ部分もあるので、数話読んでから見ることをオススメします。

魔法詠唱、少し変更しました。



 

 

この作品のベルは、天寿の方のベルとあまり変わりません。

 

 

数千年前、アルゴノゥト達と冒険していた。

 

約1000前、神降臨。

 

(天寿の方では、とある国に利用される。的なこと書いてますが、この創作ではそんな出来事はないです)

 

 

約600年前、フェルズとの出会い。

 

 

28年前、《ロキ・ファミリア》入団。

 

 

 

 

所持品

 

 

外套(フェルズ作)

認識を妨害する。また、透明になれる。

 

 

次元収納袋(フェルズ作)

ミノタウロスなら7体程入る。

 

 

武器

 

今後登場予定。

 

 

 

所持ヴァリス

 

数億は軽く超えている。

 

 

 

ステータス

 

一話時点

(直ぐに変える予定)

 

 

 

 

五話時点

 

Lv.5

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

俊敏:I 0

魔力:I 0

 

幸運: F

守護: G

魔導: H

 

 

《魔法》

 

【テア・オルディナヘイム】

 

詠唱式:

『我に与えられしは恒久の(めい)。護る者を想へ。悪なる魔から救え。』『一度失った(いのち)は戻ることはない。故にこそ、思い出し奮え。あの日大切な者(家族)を目前で失い、誓った心を。』『大切な者達への想いを胸に。世界に 民に示せ。我がいると。ーー』

 

 ・広範囲防護結界魔法

 

 ・防護結界内いる者を持続的に治癒する

 

 ・全ての攻撃を遮断、反射する。

 

 ・魔力が無くなり次第、寿命を魔力へと変換する。

 

 

 【レジナ・サン・ガウェスト】

 

詠唱式:

魑魅(すだま)の遠吠えに震え怯えん(たみ)を想いて、今宵、天上は憤怒(ふんど)する。それは、青天の霹靂が如し。』『恐ることはない。これは自由への(しるべ)となろう。』『轟け、雷霆(らいてい)。唸れ、稲妻(いなずま)ジャマ(邪魔)を撃ち払う、退魔の光となれ。』『降り注ぐは黄金の(いかずち)灰燼(かいじん)に帰せ。ーー』

 

 ・長文詠唱広範囲殲滅魔法。

 

 ・『護る』の対象者には効かない。また、属性付与する。

 

 ・魔力が無くなり次第、寿命を魔力へと変換する。

 

 

《スキル》

 

情想守護(ルナティア・ガディラ)

 

 ・仲間を想うほどステータス補正

 

 ・仲間を想うほど獲得経験値

 

 ・守護放棄すれば能力激減

 

 

【???】

 

 

.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚ .゚・*..☆.。.:*・

 

 

 

《アーツ》

 

〈隠密〉

気配を断つ。視界に入っていても、その者を意識して認識しないと分からない。

 

 

〈縮地〉

一瞬で相手の死角、懐にもぐりこむ移動法。70メートル程まで、使用可能。

 

 

〈反射〉

相手の攻撃に、タイミングを合わせ攻撃を当て、受け流したり弾き返したりする。重すぎる攻撃は弾けない。

 

 

 

《剣技》

 

時雨流 『深裂斬(しんれつざん)

斬閃を放ち前方の目標を斬る抜刀術。

 

時雨流 『漆刀波』::目標に剣波を放つ技。

 

時雨流 『雷燼斬(らいじんざん)

【レジナ・サン・ガウェスト】との合わせ技。参照、第六話。

 

時雨流大剣術 『断罪』

目標を一刀両断する大剣技。

 

 

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この創作にて、誰々をヒロインにしようかなと考えてます。確定してるキャラは何人かいますが、何人か迷ってます。

 

一人もう言っちゃいますが、アルフィアを迷ってます。

このダンまちssサイトに書かれている物語は大半が、''お義母さん''の位置付けです。(原作がそうなのだから当たり前)

 

作者自身、他の創作を読んでいないので分からないのですが、多分初のベルの''ヒロイン''としての位置付けになると思います。まだ決まってないですけど。

ですが、正直自分はヒロインにしようかなと決めてる部分もあり、その構成を練ってる自分がいます。

 

多分、初の試みなので不安を感じるところはありますが、どうでしょう?

アンケートとかは特にしません。ですが、何か意見があるなら送ってください。

 

 

 

 

 

 

 

 







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番外編
第零話 ベルの始まり



この先、この話の一部を触れる可能性があるので投稿しました。

天寿にてこれを読んだことがある人は読む必要は無いです。完全コピペなので。
この創作を初めて読んだという方向けです。

あと、この話を読むのは何話か読んでからの方がいいと思います。




 

 

古代

 

 

それは常に死が隣にいた地獄の時代であった。

まだ蓋がされていない『ダンジョン』から湧き出るモンスター達。その数はあまりに多く、力無きひ弱な民は抵抗するか逃げるか殺されるかしかなかった。

蹂躙された村など、数えるだけ憂鬱になる。

 

 

誰もが救いを求め、誰しもが''英雄''を求めた。

 

 

民の願い通り『英雄』は現れた。

ただこれは、英雄ではなく、のちに''守護者''と謳われるようになったとある男の物語である。

 

 

 

『さぁ―――護ろう。みんなが笑っていられるように!』

 

 

 

____________________________________________

 

 

side:???

 

 

その子はとある女性に抱えられながら大量の涙を流し顔をくしゃくしゃにして、手を伸ばし喉がはち切れんばかりに叫んでいた。

 

 

「パパァアアアアアッ!!ママァアアアアッ!!」

 

 

何度も何度も、自分のもとへと戻ってくることを願って。

 

 

当時7歳だったその子は、とある曇天の日にモンスターによって家族を失った。

 

過去から現在にかけてこの世界はモンスターに支配されつつある。先程も言ったが、滅びた国や壊滅した村など数えるのが憂鬱な程に。

 

いずれこの村もモンスター達に飲まれてしまうだろうという確信が村人達の共通認識であった。

 

 

そして、それはやってきた。

その村には子供から老人までいた村だ。子供を女性を老人を逃がすため、戦える者はモンスターを少しでも食い止めようと死地へと身を投じた。

 

その子の両親は多少の武術に精通しており、先陣をきって赴いた。

考えてみて欲しい。例えば戦時中、国の為に家族の為に戦場へと赴いた恋人、家族といった大切な人に自分は何を思うのかを。

 

辛いに決まっているじゃないか。戻ってくる可能性なんて小粒程度しかないのだから。

 

当時7歳の子供にはあまりにも辛すぎる出来事だ。しかし、このようなことが世界中で起きている。

たがらこそ、十数年後『王都』ラクリオスにて''英雄選定''が行われたのだろう。.......表向きにはだが。

 

_____________________________________________

 

_____________________________________________

 

 

side:???

 

 

「もう行ってしまうのね」

 

「うん。これはずっと前から決めてたことだから」

 

「...そうね、あなたはずっとそう言い続け、そうなる為に鍛錬していた」

 

 

昔を思い出すようにしみじみと語るとある女性。その目の前に立つ少年は熱い決意を胸に凛々しい顔つきをしていた。

 

 

「身体には気をつけてね。それと...死なないでね」

 

 

その少年が向かうは死地だ。送り出すとある女性は今にも泣き出しそうな表情だった。

 

 

「うん、お義母さんも。必ず戻ってくるから」

 

 

優しい笑みを浮かべたその少年は言った。

 

 

「行ってきます!」

 

 

今にも泣き出しそうな表情をぐっと堪え、慈愛のこもった笑みをもって

 

 

「行ってらっしゃい....ベル」

 

 

その言葉に送り出されるように少年――ベルは歩き出す。

ベルが見えなくなるまでずっと背中を見送り続けたその女性――ベルの母の姉は目尻に浮かぶ涙を拭い、そっと扉を閉めたのだった。

 

 

_____________________________________________

 

side:ベル

 

 

ベルはもう少しで15歳を迎えようとしていた。王都に着く頃にはとっくに過ぎているだろう。

 

 

そんな15歳を迎えた日だった。

どこからか異常な力を感じ取る。感じ取ったのもあるが、黒煙と砂埃が混ざった煙が近くの森から出ているのを見た、という方が大きい。

 

このとき何なのか知りたいという好奇心と、モンスターかもしれない襲われるかもという恐怖との狭間にたっていた。

当時15歳の少年、好奇心が勝ってしまった。

確かな足取りで森へと近づき森中へと入っていったベル。震える体を抑えつけるように深呼吸する。

 

 

地面が空気が振動していて、木々の葉がザザザザと擦れる音が鳴っている。

近づくにつれてだんだんとそれが強くなる。

時間にして一分ほど、目的の場所までやってきた。

ベルは木から覗き見るようにそこに視線を移す。

 

そこには、

 

全長四m弱の見たことの無いモンスターと、片腕を抑え血を流している紫髪の美しい女性が戦っていた。

ベルは見たことの無い巨大なモンスターよりもそのなんと表現したらよいのだろうか、例えるなら御伽噺に出てくるような神聖さを持つ女性に目が縫いつけられる。

 

 

そんなときだった。

突然その女性が頭を抑えた。

立ちくらみがしたときのようにフラッとなってしまった女性。

その瞬間をモンスターは見逃すわけがなかった。腕を振り上げ鋭い爪が太陽に照らされ輝く。そして、引き裂かんとばかりに振り下ろされた鋭い爪。

 

 

ザシュッ!!

 

 

「っ!」

 

 

結果を言えば、その神聖さを放つ女性は無事だった。

無事だったのは、モンスターからの攻撃が直撃する直前、何者かによって弾き飛ばされたからだ。

ゴロゴロと転がったその女性は勢いが止まるとすぐさま顔を上げ弾き飛ばしてきた者へと目を向けた。

 

 

「がぁああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!」

 

 

苦痛にもがく雄叫びが響き渡った。

雄叫びを上げていたのはベルだ。背中から腕にかけて幾数の引き裂かれた傷があった。そこからは夥しい量の血が溢れ出ており、腕なんて血で見えないが、もし血がなかったら四分の三くらいは断面図が見えていただろう。

ベルも例外なく力無きひ弱な人間だ。たった一回の攻撃、されど一回の攻撃で死に追いやられるのだ。

 

 

「―――――っ!!」

 

 

直後、辺りが真っ赤に染まった。どうしてこうなったか分からない。

発端としては、神聖さを帯びるとある女性が魔法を使ったのだが、魔法というものを見たことがないベルには理解できるものではなかった。また、痛みによって意識が朦朧としていたのもあるだろう。

 

大量の血を流しながらもベルの表情は穏やかであった。

自分は死んでしまうが、それでも最期に誰かを護れてよかったという思いからだろう。

だけど心残りはある。それは、目標を成し遂げられなかったこと、お義母さんとの約束を果たせなかったこと。死なないでね、また戻ってくるという約束を。

 

引き裂かれたところはとても痛い。だけど、もう麻痺してきているのか痛みを感じなくなってきた。ああ...、死ぬんだと悟る。

だから抵抗することもなく、ベルはそっと目を閉じた。まるで、ベットの上で明日を迎えるかのように。

 

_____________________________________________

 

 

鳥のさえずりが鼓膜を揺らす。

 

ベルは死んだ。それは変えようのない事実だ。四m弱の巨大モンスター、そいつが殺すために放ってきた攻撃だ。ベル自身少しは身を捻ったかもしれない。だけどそうまでしても、胴体は二分の一まで腕は四分の三まで引き裂かれている。それが幾つもある。普通に考えてみて死んでないとおかしいのだ。

 

だけど、その少年は目を醒ました。

 

 

「...ん...?」

 

 

朦朧とする意識とぼやける視界。それでもゆっくりと身を起こす。

辺りは小さな森。鳥のさえずりと木々の葉が擦れる音しかない。

そこら辺で見かける森だ。

 

辺り一面緑と戦闘後の焦げた茶色草で埋め尽くされている。一つ違和感を言うなら、赤が混じっていること。

 

 

「...え?」

 

 

ベルが倒れていた部分が赤、つまり血の色で塗り替えられていた。

その量はあまりに多く、死んでいないとおかしい量だった。

そんな理解が追いつかないなか、とあるものを見つけた。

 

『ありがとう』

 

そんな文字を。

何の変哲もないただの言葉。だけど最も人の心に響く言葉。

そこで理解した。あの人を助けられたんだ、と。

疑問に思うことは当然ある。ハッキリしてきた思考で記憶を思い返す。記憶間違いでないのなら、僕は必死の攻撃を食らったはずだ。だけど、裂かれた服はそのままなれど身体は何もなかったように綺麗であった事に。

 

分からない。

ただ、ベルはまだ生きられることを喜んだ。目標を達成できない約束を守れないまま死ぬなんて悲しいことにならずに済んだからだ。

その謎はまた時間ができた時にでも考えればいい。そう思い、ベルはまた目的地へと歩き出した。

 

 

.....あのひと、美人だったなぁ.....

 

_____________________________________________

 

 

『王都』ラクリオス

『楽園』と謳われるほど、モンスターからの侵攻を退けている国。何故退けれているのか、それはもとより軍事力はさることながら、一人の男が君臨しているからだ。

 

常勝将軍ミノス。

王都最強の男である。

巨大な鎖を振り回し、人もモンスターも引き千切るその光景はまさに迅雷の如く、そんな男に民は畏怖と敬意を評し、付いた渾名は雷公(いかずちこう)。その男がいる限り王都は安全、とまで言わしめている。

 

 

「はぁ〜.....やっと着いた...」

 

 

『王都』ラクリオス。

ここがベルの目的地。ベルが掲げている目標を叶えるための手段がここにある。だから数ヶ月かけて来た。

 

ベルの目標は、『民を護り、みんなが笑って過ごせるようにする』というもの。

幼きときに無くした両親。避難先ではずっと泣いていた。泣いて泣いて沢山泣いて、そしてベルは成長した。自分のような子供が現れないようにという想いを掲げるまでに。

その想いは今もある。

 

 

「....見ててね、お母さん、お父さん。待っててね、お義母さん」

 

 

ベルは心臓部分の服をギュッと握り王都の門をくぐったのだった。

 

 

_____________________________________________

 

いずれ書きます

_____________________________________________

 

五年後。

 

 

この五年様々なことがあった。

幸いなことに師匠と尊敬できる人に巡り会え、そして、その師匠の教えによって僕は力をつけていった。

何故だか分からないけど、僕は常人にはない運動神経反射神経があるらしい。それのおかげでどんどん師匠の教えを吸収していった僕は、今では師匠を超えるまでに成長した。師匠によると全力の''ではないが''将軍様といい勝負は出来るだろうとのこと。

 

で、その将軍様のことなのだが、僕が思っていたようなヒトではなかった。

『王都』ラクリオスは他の国と常に戦争していた。何故そんなことをしているのかと言うと、それは将軍様に結びつく。

言ってしまうと、将軍様の正体は''モンスター''だった。個体名はミノタウロス。では何故モンスターであるミノタウロスが国を守っているのか、それは数代前の王のときにもたらされた魔道具が原因であった。

 

そう、ミノタウロスを操るといっても生贄が必要だった。だから協力し合わないといけないのに人同士の戦争が繰り広げられているのだ。

 

『王都』ラクリオスは表向きはいい国だ。その証拠に全国民が笑っていた。

しかし裏側は闇が根深く浸透しており、笑顔を無くした人達がたくさんいた。

王女様に、とある占い少女、暗殺者。

 

僕の胸にはまだあの決意は残っていた。

だけど、どうしたらいいのか分からないのだ。根深い闇に切り込む勇気が怖くて湧けないし、切り込み方が。ずっと足踏みしていた。

 

そんなときだった。王の命により英雄選定が行われることとなる。

裏は当然あった。でも何も出来ないのだ。どうしたらいいのかが。

 

 

そして、

 

そして、

 

 

そんな英雄選定にて、僕の人生が大きく変わることになるのを、このとき知る由がなかった。

 

 

 

 





次の話はとある人との番外編です。

日曜か月曜あたりの深夜から午前中に投稿します。多分。



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才女は恋慕に気づきたくない


可愛い少女アルフィアを描きたかった...

第三話まで読んでからこの話を読むことを推奨します。




 

 

side:アルフィア

 

 

私が幼い頃、詳しく言えば五歳になり始めたころだったか、ヘラという女神に誘われて眷族になったのを、昨日のように覚えている。

身寄りのない私たちを見つけてくれたことをとても感謝している。

 

 

Lv.2になった頃、ゼウスにある男を紹介された。名は、ベルという。第一印象は気弱そうな男だと。あのゼウスから紹介される程の者には思えなかった。

 

そしてまた、長々とゼウスの私自慢を横で聞かされる。それはまぁいい。だが、問題はその後だった。ベルという男は『小さいのに凄いね』と優しく笑って言ってきたのだ。

まだまだ10代前半に見えるコイツに子供扱いされた。とこのとき私は気を害した。

何故歳が余り変わらない男にそんなことを言われないといけないのかと。

なんだか舐められているようで癪に障った。

 

 

その後も何度か交流があった。私はまた子供扱いを受けると癪に障るので離れていた。

すると、とある光景を目にする。周りの団員らがベルに尊敬の眼差しを向け、嬉々とした表情を浮かばせていたのだ。あの両団長や幹部までもがそんな様子で接している。

 

私は興味を持った。

話を聞くところ、ベルは古代から生きている有名な人(割愛)だと言う。ゼウスとヘラがもっとも認めている人物であり、今まで二神の眷族となったもの達は漏れなく世話になっているらしい。だから慕っているのかと私は納得した。

 

 

だから、今度は私から近づいてみた。

やはりと言うべきか、子供扱いを受けた。ただ見た目に反してベルの年齢が高いことを知った今、このような扱いを受けるのは仕方ないと思....えなかった。何故だろうな。イラッとくる。

 

他の団員らに聞くと、私ほどの子供扱いはされてないとのことだ。ベルさんのことだから、過去に何かあったのかもな。とも言われたが、私には関係の無いこと。

 

しかし、だ。ベルが頭を撫でているとき、慈愛がとても篭っている。だから、子供扱いするなと言いたくとも、ベルの顔を見ると抵抗出来ない。.....決して撫でられるのが心地よいとかではないからな。勘違いするなよ。

 

 

いつの日か、私は子供扱いしてくるベルに意趣返しをしてやろうと思い、''攻撃を放つ''ようになってから''それ''が恒例の遭遇となった。

最初の頃は簡単にあしらわれ、逆に意趣返しとして髪をクシャクシャと乱暴に撫でられた。時には顔をぐにゃぐにゃし、変な顔となった私を見て爆笑する。とても腹が立ったのをよく覚えている。

 

あの頃は、ギャフンと言わせてやると意気込み、外に出ればダンジョンに行けばベルを探した。

だからだろう。ゼウスや団員らが馬鹿なことを言い始めたのは。

私がベルを''意識''している?''想っている''?フッ、笑わせてくれる。ただ私はアイツに物を言わせたいだけだ。

 

 

私はベルに 恋慕など......抱いていない。

 

 

追記しておくと、出会い頭に魔法を放つというのはLv.4中頃まで続いた。

 

 

____________________________________________

 

 

いつものように私はダンジョンに向かった。病弱なこともあって基本的には誰かが付いているのだが、今日は気晴らしに行くだけなので一人だ。

 

 

ダンジョンへと向かっていると、とある者を見かける。白髪に宝石を嵌め込んだような深紅の瞳。中性的に見えるその童顔は綺麗で、前に女性団員が羨ましがっていた。

 

名は、ベル。まだ10代に見えるが、古代から生きる人物。

 

 

「げっ....」

 

「おい、今げって聞こえたんだが、どういう意味だ?」

 

「そ、空耳だと思うよ?」

 

 

私を見つけるなり、苦い顔をするベル。

私に会いたくないみたいではないか。と少し不満を垂らす。

 

最近、ベルはアルフィアに対し少し距離をとっている。理由としてはアルフィアのLvが上がり対処が大変になってきているのと、身体が成長しているのがある。頭を撫でるとかならギリギリ許されるが、容易に触って傭兵に両手首を差し出さないといけない、なんて事態になりかねないからだ。

 

 

「ダンジョンに行くのか?」

 

「うん。アルフィアもダンジョン?でも、付き人が居ないけど」

 

「ただ気晴らしに行くだけだからな。ついてこさせなかった」

 

 

気晴らしの原因は、目の前にいるベルとのアレコレなのだが、本人には言いたくないため理由は伏せておく。

 

 

「ベルこそ誰もいないようだが」

 

「今回はウラノス様の依頼でダンジョンの調査に行くんだ。だからだね」

 

「ほぉ....ならば、私も行こう」

 

「...ん?な、なんでそんな話に?」

 

 

アルフィアは以前からベルと二人でダンジョンに潜りたいと思っていた。ベルの戦闘場面を直に見たことがないからだ。もちろん、他の理由もあるがそれは言わないでおこう。もっとも、他の理由の方が大部分を占める。

 

 

「行くって言っても、付き人はいないしヘラ様にも許可貰ってないから無理なんじゃないの?何日も潜るよ」

 

「それはそうだが....ああ、いいことを思いついた」

 

 

私はギルドの出入り口から出てきた者を見て、あること思いつく。

その者は私と同じ団員であった。いいことと言っても、ただ伝言を届けてもらうだけだ。

 

 

「これでいいだろう」

 

「い、いや、どうだろう...?」

 

「ほら、行くぞ」

 

「...はぁ、今回だけだよ」

 

 

アルフィアがこんな強引なのは、先程の理由がある。基本的に付き人がおり、ベルもあの三人と居たり新人達と居たりと''二人''だけがなかなか実現出来なかった。今回は絶好の機会であったため強引なのである。

 

 

「これは、面白いことになってる...!」

 

 

先程の女性団員、嬉々として報告を急いだ。

 

 

____________________________________________

 

 

今回ベルが調査を行う階層は下層らしい。

急いでいる訳ではないため、無理のない程度で歩いていく。

そして、ベルにあまり戦闘をしないようにと言われた。私の虚弱体質を案じてだろうが、なかなかに暇だ。ただ、ベルの戦闘場面を見れたのでいいとしよう。

 

 

安全階層(セーフティポイント)である18階層に着くと、クリスタルの天井は光っておらず夜を示していた。

ならば、することは寝床の確保だ。私は宿に行くのかと思ったが、ベルは目の付きにくい場所へと歩を向けた。

 

 

「おい、宿に行かないのか?」

 

「ここの宿は設備が行き届いてないからね。なら、自分の持ってるベットで寝た方がいい」

 

「もしやあの''袋''にベットを入れているのか」

 

「うん、そうだよ」

 

 

ベルは歩を止めると、袋から折り畳まれているテントを取り出し組み立て始めた。

やがて、組み立てられたテントの中にベットを置く。

 

 

「これでよし。じゃあ、アルフィア。ゆっくり休むんだよ」

 

 

一仕事終えたみたいな顔をしたのち、私へとそう言ってテントを出ようとするベル。

ベル自身のはどうするつもりだ?

 

 

「ちょっと待て。ベルはどうするんだ?」

 

「僕は一日二日眠らない程度なら全く問題ないからね。見張りでもしとくよ」

 

 

優しく笑ってそう告げたベルはテントから出ていった。

 

 

「おやすみ。時間になったら起こしに行くから」

 

 

コイツはまた、自分を顧みず他人に優しくする...それがベルの美徳であるが、欠点でもあるんだがな。...はぁ、まぁいい。考えはある。

そして、アルフィアもテントからでた。

 

 

「あれ、どうしたの?」

 

「ここへ来るまでに汗をかいたからな、水浴びをしようかと」

 

「そっか、行ってらっしゃい」

 

「...お前、裸となった無防備な少女を一人で水浴びさせる気か?」

 

「...分かった。僕も行くよ。というか服あるの?」

 

「洗って乾かせばいいだろう」

 

「えぇ...」

 

 

スタスタと18階層唯一の水場がある所へと歩くアルフィア。ベルはその後ろを渋々ながらもついて行った。

 

 

____________________________________________

 

 

水場へとついた二人。

早速とばかり服に手をかけるアルフィア。

 

 

「ベルはそこで見張りをしていてくれ。決して見るなよ。まぁ見たければ見てもいいがな。だが、そのときは死が待っていると思え」

 

「絶対に見ないから安心して。あと...これ。タオルと僕のだけど予備の服」

 

 

被せるようにそう言い、袋から物を取り出しアルフィアに渡すと、水場から背を向けたベル。

アルフィアはちょっと拗ねた。

やはりまだまだ子供だから、そういう目で見てくることはないか。これでも同年の女共よりは発達してるんだがな。と。

 

このときアルフィアは10代前半だ。勘違いしないで欲しいが、ベルは幼女趣味ではない。大人な女性が好みなのだ。

そんなタイプ故に、将来 神アストレアに出会い、求婚しちゃったぐらい敬愛するのはまた別の話。それによって、ベルを好いている女性達が嫉妬するのも別の話である。

 

______________________

 

 

薄暗く静かな18階層。

水の跳ねる音と焚き火のパチパチという音だけが空間を支配する。

 

 

「終わったぞ。ベルも身を清めておけ。私の分まで動いたのだからな」

 

「うん、そうさせてもらうよ」

 

 

水浴びをし始めたベルをアルフィアは普通に見る。ベルも簡易のズボンを着ているので特に気にしていない。

 

かなり綺麗な肌をしている...冒険者ならば傷だらけの者もいるというのに。ましてや、ベルは古代から生きている者だ。やはり、精霊の血が関係しているのだろうか。と、傷一つない白い肌を見て内心そう呟いた。

 

 

「アルフィア...ちょっと見すぎ」

 

「...フン、男なんだからそんな事気にするな」

 

「理不尽じゃない?」

 

 

水浴びを終えたベルは身体を拭き、予備の戦闘用服を着る。

そして、焚き火に近づき身体を温め始めた。

 

 

「大丈夫?結構水冷たかったけど」

 

「焚き火があるとはいえ、少し冷えているな」

 

「ふむ...なら、僕が温めてあげようか?」

 

 

ニヤニヤと顔を歪め、イタズラにそう言ってきた。座っている状態であり、腕を広げてアルフィアが座れるように足の間隔を広げる。

からかってやろうと思ってしていることだが、言動は犯罪級である。

断られることを前提として、少しでも面白い反応を期待するベル。

 

 

「...フン」

 

 

と鼻を鳴らし、何故かアルフィアは近づいてくる。

すると、広げていた両足の間に収まった。

呆けてしまうベル。

 

 

「何をしている?温めてくれるのだろう。なら、その迷子の両腕を回せ」

 

「え...う、うん...」

 

 

言われるがままアルフィアのお腹に腕を回す。

現在の体勢を説明すると、体育座りの足を横に倒したver.の間にアルフィアがベルに背を向けるように座り、ベルへと身体をあずけてお腹にはベルの腕が回っている状態である。

クッション性のあるシートに座っているので尻が痛くなることは無い。

そして、なかなかどうしてフィットしている。

 

 

「どうした?そんな間抜けな面をして」

 

 

クスクスと小さく笑ったアルフィアは、してやったり顔を浮かばせていた。

 

それにしても...落ち着くものだな。私に伝わるベルの体温、鼓動、触れ合いっているという事実を際限なく教えられる。

私はこの男のことは...好きではない。...ただ、この時間がもっと続けばいいと願った。

アルフィアは、お腹に回っているベルの腕にそっと手を重ねたのだった。

 

 

____________________________________________

 

 

 

身体も十分に温まり、あのまったりとした空間からテントへと戻ってきた二人。

 

 

「ベルも一緒に寝るぞ」

 

「いや、僕はさっきも言ったけど見張りをするから」

 

「寝ないと言うのなら、襲われたってヘラに言うがいいのか」

 

「分かった!寝よう!だから、そんな恐ろしいことしちゃダメだよ!?」

 

 

一瞬で説得されてしまったベル。アルフィアは計画が上手くいき内心笑った。

 

 

ベルが持ってきたベットはアルフィアが一人で寝るには少し大きかった。なので、ベルが入ったところで狭いということは無い。

アルフィアはベットに横になり、ベルもアルフィアに背を向けるように横になった。

 

 

「何故背を向けている?こちらに向け」

 

「いやなんで?」

 

「早くしろ」

 

「...はい」

 

 

こちらへと向き直ったベル。アルフィアはベルの方へと顔を向けていたこともあって、顔が至近距離に来てドキっと胸を跳ねさせる。

 

コイツ...肌綺麗すぎないか?手入れしてないと聞いたが...私でさせ気を使っているというのに...やはり精霊の血か。

そして、目も綺麗だ。宝石のように魅入られる深紅の瞳。それに比べて私は....

ベルの顔をこれ程近くで見たことの無いアルフィアは、今の状態を忘れとマジマジてベルの顔を見つめる。

 

 

「アルフィアの瞳、すごく綺麗だね」

 

「!!」

 

 

私の瞳はオッドアイであり、片方が灰色だ。その灰色はまるで私の心情、人生を描いているようで嫌だった。

今までもこんなことを言われたことは何度かあった。だけど、これほどまでに心に来ることはなかった。だだ単純に、嬉しい、とそう思った。

 

頬に熱が帯びていくのを感じとる。

だから私は、悟られないようにベルの胸に顔を埋めた。

そして、ポツリと呟いた。

 

 

「ベルの瞳も...嫌いじゃない」

 

「ハハ。そっか、ありがとね」

 

 

ベルは腕を伸ばすとアルフィアの頭を乗せた。いわゆる『腕枕』というものだ。また、片方の手で頭を撫でる。

 

物心がつくまえに母親を亡くし、抱きしめられたことも一緒に寝たことさえも記憶にない。だから、私はこれを知らない。こんなにも心落ち着くものなのかと。初めて知った。

私以上に虚弱な妹の為に幼い自分を捨て、妹を安心させられる存在でいようと決意し、そして、今までそうしてきた。

 

ただ...ただいまだけは、''何処にでもいる相応な少女''でありたい。

 

アルフィアは更に強くしがみついた。

それに呼応するように、ベルはアルフィアを優しく包み込む。

 

 

...ああ、やはり私は...そういうことなのかもしれない....

 

 

____________________________________________

 

 

現在いる場所は下層。当初の目的通り下層へと調査に来たわけだが、一人気が沈んでいた。

 

 

(あ、あのときの私はどうかしていた....何が''ただの少女''でいたい、だ。我ながら反吐が出る)

 

 

一日前の出来事。アルフィアは自分が自分でなく、らしくない言動をしていたことに悶えていた。

コイツ...私が内心悶えているというのに平然としておって...腹が立つ。

 

実際、ベルは何ともなかった。ただ単に、歳不相応な子が相応な少女の姿を見せてくれたことを嬉しがっていた。

ベルはアルフィアをまるで孫のように見ているふしがあり、それが彼女にとって気に入らないのだ。

 

 

「よし、調査終わり。帰ろっか」

 

「...ああ」

 

「それで、一気に18階層まで上がろうと思っているからさ、僕の背中に乗ってくれないかな」

 

「分かった」

 

 

屈んだベルの背中に乗り、持ち上げられる。

次は背中か...と内心呟いた。この呟きにどんな意味があるかは察して欲しい。

そして、なるべくアルフィアが揺れないように丁寧に走り出すベル。

 

 

「アルフィア、ちょっと軽すぎない?ちゃんとご飯食べてる?」

 

「...お前の首に回されてる腕に力を込められたくなければ、余計なことは考えるな」

 

「はい!ごめんなさい!」

 

 

力を込めないと言いつつ、ギュッと力を込めたアルフィア。ただこれは、別の意味で込めたもの。

 

...勘違いするなよ。落ちないように強くしがみついただけだからな。

そんなことを言っているが、顔は綻んでいた。

 

 

「アルフィア」

 

「なんだ?」

 

「もしいつか、僕に助けて欲しかったり願う事があるのなら言ってね。僕は君のために全力で動くから」

 

 

何故こんなことを言ってきたのか今の私には分からなかった。けれどその言葉で、心の闇が幾許か晴れた気がした。

今、私は笑っているだろう。闇が広がる未来に小さな光が灯ったからだ。

 

 

「ああ、そのときが来ればな」

 

 

その光を掴めるかはわからない。もしかしたら掴めないかもしれない。だけど、不安はなかった。何故ならその光は、私が最も''嫌いじゃない''者だから。

 

 

____________________________________________

 

side:ベル

 

 

神話時代以降最も才能に愛され、悲しくも病にも愛されたその才女。

身体は病という呪いに侵され行動の制限がある。またスキルにまで侵食しており、もう治療の余地がない。

 

だけど一つ、救える手はある。でも、それの成功率は限りなく0に近い。失敗すれば死のみ。

 

 

どうか成功して欲しい。僕はもう、大切な人を失いたくないんだ。

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

あのですね、作者は思いました。
アストレアレコードから外伝開始までの七年間、決断力行動力のあるアルフィアならベルと結婚までは行かなくても恋人まで持って行けるのではないかと。
七年間も擦れなくね?と。

現在、色んな壁にぶち当たってます。 ほんとにどうしよう...

次回、アストレアレコード突入。

投稿予定日未定。

では、さようなら。









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人生初の告白 謎の女性


お久しぶりです。

この約一ヶ月ちょっと忙しかったのと、アストレアレコードの構成を考えていました。
正直言うと、考えすぎてまとまってません!どうしようかと悩んでいる次第です。

第七話読了後推奨



(原作七年前)

 

 

八年前、最強の二大派閥が壊滅してからというもの、

闇派閥(イヴィルス)の動きが活発化した。物取り襲撃。大量殺人。オラリオは何処も彼処も暗い雰囲気に包まれていた。

 

ただ、そんな秩序を乱す悪人たちを取り締まるもの達がいた。

《アストレア・ファミリア》。『正義』の名のもと、秩序を乱す者を取り締まる''女性だけ''の集団。全員が全員見た目がよく、凛々しい戦闘スタイルや、憲兵的な役割を《ガネーシャ・ファミリア》と共にしていることから人気が高いファミリアだ。

 

 

そして、もう一人。

二十一年前からその姿は変わっておらず、《ゼウス、ヘラ・ファミリア》から慕われていた奇怪な人物。謎に包まれていたが、数年前、二つ名をきっかけに正体が顕となった。

 

その二つ名は、【守護者(アレグサンダ)】。

 

神が降りてくるまでの千数百年間、世界を護り続けてきた偉人の二つ名であった。描かれてきた物語は数多く、人気度で言えばアルゴノゥトの次に位置する。

これは余談だが、''『守護者』アレグサンダ''は神話時代に突入してから突然として存在を消した。これによって世間の意見は二分する。もう亡くなったという意見。まだ生きているという意見。それで現在も盛りに盛りあがっている。

 

 

二十一年前から姿形が代わっていないベルという名の少年に偉人の二つ名が付けられた。このことに民は困惑する。

 

当時オラリオ最高Lvのオッタルよりも強く、性格が良く見た目も良し。ベルに助けてもったという者は数多く、冒険者人気ランキングでは連続一位になるほど慕われている。そんな人物が何故どういった経緯で''『守護者』アレグサンダ''という人物の二つ名を冠することになるのか、と。

民の疑問を答えるように神々は言った。曰く、『あの大神ゼウスとヘラがそう証言している』と。

たしかに、ゼウスとヘラは千年以上前から君臨し続ける神だ。千年前まで確認されていたアレグサンダを二神が知っていても何らおかしいことは無い。

たった一言、ゼウスとヘラの名が出ただけで納得するのは尊敬されているのがよく分かることだった。

 

そして、だ。

先程もいったが、''『守護者』アレグサンダ''はとても人気だ。

そんな人物が『闇派閥(イヴィルス)』が活発化している時に世に明らかとなった。

オラリオの住人は期待しないでいられなかった。あの『冒険譚』に描かれているような''勇姿''を''救い''を自分達にもたらしてくれることを。

 

 

ただし、忘れてはいけない。ベルはこの世にたった一人しか存在せず、他の人達と同じ''人間''であることを。

 

 

____________________________________________

 

side:ベル

(アストレアレコードの約三年前)

 

 

「ベル、ちょっとついて来てもらえんか?」

 

「?、はい、分かりました」

 

 

突然ロキ様にそう言われ、どうしたんだろうかと疑問を持つ。

 

 

「ウチがフレイヤと情報交換しとるのを知ってるやろ。今回、闇派閥(イヴィルス)の事を詳しく話そう思てて、ガネーシャ、アストレアの二神を呼んでん。その二神を呼ぶんやったら、ベルも呼ぼおなってな」

 

「アストレア様ですか...《アストレア・ファミリア》の彼女達とは面識はありますけど、アストレア様は見たことないですね。どんな方なんでしょう?」

 

「まあ一言で言うなら、''神々のママ''やな」

 

「ママ、ですか...」

 

「慈愛が満ちに満ち溢れてんねん。あのフレイヤが嫉妬を抱くほどにな」

 

 

そう言い終えるとロキは天を仰ぎ

 

 

(なんや、ベルをアストレアに合わせん方がええって勘が働いとる...)

 

 

と内心呟いた。神であるがゆえの絶対的な勘。ベルの出会いからファミリアの行先を導いてきたその力が、こんな何のことも無いときに働いた。

まぁ、ええか。とその勘を払い除けて言う。

 

 

「ほな早速行こか。そろそろ時間や」

 

「分かりました」

 

 

神アストレア様...どんな方なんだろうなぁ。

《アストレア・ファミリア》の彼女達から、よくアストレア様の事を楽しそうに嬉しそうに話される。そんな心から敬愛している姿を見てれば、どれほどの方なのか興味を持たずにはいられなかった。

 

______________________

 

 

二階にあるとある飲食店のテラス席。僕たちがそこに着くと、先にフレイヤ様がいた。

 

 

「おはよう、ベル。こうして会うのは久しぶりね」

 

「ええ、そうですね。と言っても、一方的に僕のことずっと見てるようですけど」

 

「それとこれとは全然違うわ。そんなことより、いつ私のところへ来てくれるのかしら?私、焦らされるのは好きじゃないのだけど」

 

「おい色ボケ野郎、何度言ったら分かるんや。渡さん言っとるやろ」

 

「ねぇ、ベル...私に素敵な夢を見させて」

 

「無視すんなや!あと恋する乙女のように頬を赤らめんな気色悪い」

 

「ふふっ、本当に愛らしいわぁ...」

 

「...アカン、もう手遅れや...」

 

 

ベルへと近寄り手を伸ばし、ロキが言ったように頬を染めそれはそれは愛しそうに顔を緩ませるフレイヤ。ロキに「ベルに触れようとすな!」と首根っこを掴まれ戻されようとするも、恋する乙女は強い。ロキもかなり強く引っ張っているのだが、そんなこと意にも介さず更にベルに近づく。

 

そして、フレイヤはベルに抱きついた。

フレイヤの方が身長が少し高いため少し屈んで、ベルの胸に顔を埋めている状態だ。その表情はとても幸せそうであり、初めてそんな表情を見たロキは呆然とした。フレイヤがベルに心酔していたのは知っていた。だけど、これほどまでに下界人のような恋をしているのは予想だにしていなかった。

 

ベルもベルで普通にフレイヤを受け入れていた。片方の腕を背中に回し、もう片方は頭へとやり髪を梳くように優しく撫でていた。

 

 

「....ふふっ」

 

「...なんやこの状況...誰か詳しく説明してくれっ!?」

 

 

「あのフレイヤがぁ...」や「ベルもベルで何普通に受け入れてんねん...」と頭を抱えるロキ。

と、ここで声がかかった。

 

 

「フレイヤ様、そろそろ『ベル溺愛モード』から戻ってきてください」

 

 

僕とロキ様は声の聞こえた方向へと視線を向けた。

紫色の髪に紫がかった桃色の瞳。そして、リヴェリアと同じ神に勝るとも劣らない美貌をもつ女性が呆れたような表情を浮かばせ立っていた。

 

 

「ごめんなさいね、アサナシア。一ヶ月ぶりだったからはしゃいじゃったわ」

 

「子供ではないのですからほどほどにしてください」

 

「...貴方は私の親なの?」

 

 

フレイヤ様は僕から離れると、女性と言葉を交わしながら先ほどまで座っていた椅子に再び腰掛けた。

 

フレイヤ様とかなり親しいようだけど、こんな人見たことないなぁ。新人?でも、新人の子を連れてくるような話し合いじゃないだろうし...

そんな事を考えていると、思考を読んだかのようにフレイヤ様は言った

 

 

「この娘は最近眷族になった、アサナシア。いろいろ“特別”な娘だから側に置いてるの。今日はただいるだけだから気にしなくてもいいわ」

 

 

僕はもう一度アサナシアさんに目を向けた。すると視線が交わり、ニコリと微笑まれる。

か、かわいい...

 

 

「...おーい、なに見惚れとんねや戻ってこい」

 

「.....はっ!」

 

「...なにベルを魅惑しているのかしら?」

 

「ふっ、私の勝ちですね」

 

「小娘のくせに生意気」

 

 

そんな時だった。

 

 

「ふふっ、なにやら楽しそうね」

 

「俺がガネーシャだ!」

 

 

テラス入口から男女の二神が入ってきた。

相変わらずガネーシャ様は元気だなぁと思いながら目を向ける。

 

 

「っっ!?!?」

 

ドクンッ!!

 

 

な、なななっ...!...なんて綺麗なんだ....っ!!

ガネーシャの隣にいるのは神アストレア。ベル同様話し合いに呼ばれた一神。ロキ曰く『神々のママ』、美の神が嫉妬するほどの慈愛に満ちた女神。ベルはそんな神アストレアを見て、ドクンッドクンッと痛いくらいに心臓が高鳴らせ、その美貌に目を剥いて固まってしまった。

 

 

「はぁ...おーい、何回固まんねや戻ってこい」

 

「...................................」

 

「...........し、死んどるっ!?」

 

「むぅ...私を見たときはこんな風にならなかったのに...」

 

「...流石は神アストレア様ですね.....チッ..!」

 

 

長い年月を生きてきて、たくさんの女性を見てきた。その中で一番美しいなと思ったのは、美の神であるフレイヤ様だった。だが、フレイヤ様と初めて会った時でさえこのようになることはなかった。

 

人には好みというものがあり、可愛い人美しい人男前イケメン地味な人ぽっちゃりな人と、様々な好みがある。ベルにとって、アストレアはどストライクだった。

 

どのくらい固まっていただろうか。突然として、ベルの意識が戻って来た。

 

 

「....はっ!?」

 

「お、やっと戻っ「ぼ、僕とっ、け、けけ結婚してくださいっ!!」て...って何言っとんやベルっ!?」

 

 

何故かプロポーズをしなくてはと使命感が駆け、そう口走ってしまう。

 

 

「とっても嬉しいわ、ベル。もちろん返事はイエスよ。一緒に幸せな時間を過ごしましょ」

 

「私もベルのこと好きです。こちらこそよろしくお願いします!」

 

「ぷっ、残念やったなフレイヤ!自分やないで!くくっ。あんなにアプローチしとったのに、ぽっと出のアストレアに取られてもうて。ホンマウケるわぁ。それと、アンタは絶対ない」

 

「黙りなさい、殺すわよ」

 

「...コイツ神じゃなかったらヤッてしまうところだったわ」

 

「自分ら揃いも揃って物騒やねん」

 

 

なんか外野で言い合っているが、ベルには聞こえていなかった。

破裂しそうなほどドキドキしている心臓。断られると分かっていても、何かしらいい応えが返ってくるのではないかという愚かな考えが脳内を駆け巡る。

 

 

「ごめんなさい」

 

 

ですよねぇえええええええええええええええっっっ!!!!!分かってたよ!分かってましたよ、ええ!!

馬鹿な考えを即座に捨て、それでも悲しい思いを捨てきれないベル。内心嘆きに嘆いていた。

 

 

「そりぁそうやろな」

 

「...今後チャンスはありますか?」

 

「ない、わね。私は神で貴方は特殊だけど人間なの。結婚は出来ないわ」

 

「.......」

 

 

僕はここでフレイヤ様を見た。

 

 

「フレイヤは頭の足りない神だから」

 

「喧嘩なら買うわ」

 

「売ってないわよ」

 

「ウチが売ったろか?」

 

「そろそろ話し合いを始めましょうか」

 

「また無視」

 

 

この間蚊帳の外だったガネーシャ様は「俺がガネーシャだ!」とずっと言っていたが、もう決まり事かのように皆触れていなかった。慣れというのはなんとも無情だ。

 

 

「俺がガネーシャだっ!!!(泣」

 

 

話し合いは恙無く終わった。

 

 

「あ、そうだ、アストレア様。眷属に空きってありま「コンバージョンなんかさせんからなっ!!!」...........」

 

 

悲報。

《アストレア・ファミリア》入りの夢、一瞬で潰える。

 

 

____________________________________________

 

side:???

 

 

道の真ん中を一人の女性が歩いていた。ただそれだけの光景。

だが、色々おかしなことがある。

世界が人が全ての輪郭がボヤけ、また、薄らと白くモヤがかかっている。もし、何時間も居れば平衡感覚が狂いそうな空間と化していた。

更に、歩いている人とぶつかりそうになっても通り抜ける。誰一人としてその女性を見ることがない。まるで幽霊かのようだ。

 

 

オラリオ中央広場の噴水付近へと着いたその女性。

すると、フワリと宙に浮いた。それはゆっくりと上がっていき、やがてオラリオの都市を眼下に収められるほどまで浮き上がった。

 

 

ふんわりした紫色の長髪に紫がかった桃色の瞳。神に勝るとも劣らない美貌を持つその女性は、『黄昏の館』へと目を向け言った。

 

 

「''妾''を助け、覚悟も出来ず''不老''を手にしてしまった''外された者''。其方は妾を恨んでおるか?もしそうならば、どうか愚かな過ちを許して欲しい。妾は忌むべき存在。其方を助けるにはこうするしか出来なかった...」

 

 

申し訳なさそうな表情を浮かばせそう口にした女性は.....

 

 

大精霊の一角にして、生命を司る背理精霊。

《祝福》の妹を持ち、忌むべき存在として同族から畏怖されている《呪詛》の精霊。

名を、アサナシア。

 

今は昔、''怪物''によって危機に瀕していたとき、突然現れた人間に助けてもらった過去を持つ精霊その者。

 

 

そして、先程の表情から一変して、アサナシアは優雅に微笑(わら)う。

 

 

「今度は何を魅せてくれる、()愛しき者(ベル)よ」

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

次の話も先になると思います。出来れば一ヶ月以内に出します。
期待はしないでください(してない

次回、アストレアレコード

では、さようなら。


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ベルとアサナシア


お久しぶりです。

作者は嘘をつきました。アストレアレコードを出すと言っているのになかなか書けず、気分転換で番外編を出すことにしました。

完全オリジナルなら書けるのにぃ...駄文ですけどね。

それと、作者は疲れているようです。
よって最後の方、ちょっと暴走気味です。ご了承ください。

前話読了後推奨



 

 

side:ベル

(アストレアレコードの三年弱前)

 

 

この日は調査を兼ねた息抜きをするためダンジョンへと赴いた。ここ近年はファミリアでの攻略以外でまともに潜れていなかったので、少し心馳せらしている。

 

 

「ベルさん」

 

「ん?あ、アサナシアさん。おはようございます」

 

 

ダンジョンへと向かう途中、声をかけてきたのは幾分か前に知り合ったアサナシアさんだった。あの『お茶会』で、オッタル以上に気にいられていることを知り興味を抱いた人物である。

 

 

「おはようございます。ダンジョンに向かわれているのですか?珍しいですね、ベルさんが巡回していないの」

 

「そうですね。フィン達に休暇を無理やり取らされまして。特にすることも無いのでダンジョンに行こうかと」

 

「ふむふむ...''私''もついて行ってもいいですか?ベルさんの戦う姿を見てみたいです!」

 

 

キラキラと目を輝かせ、グイッと顔を近づけてくるアサナシアさん。佇まいは美人であるが、こういう時は可愛くなるという『お茶会』での記憶は新しい。

 

 

「それは流石に厳しいです」

 

「何故ですか?」

 

「えっと、アサナシアさんてLv.1ですよね?今回『下層』もしくは『深層』まで潜るつもりなのでLvが全然足りてないんです」

 

「ああ、なるほど!」

 

 

納得したのか自身の手のひらをポンと叩く。

天然さんなのだろうか...

 

 

「それなら大丈夫です!''私''強いですから!」

 

「ええ...」

 

「むぅ、信じてませんね。いいでしょう。''私''が強いことを証明する勝負をしましょうか」

 

「勝負ですか?」

 

「はい。内容は『ジャンケン』です。あなた達上級冒険者と''私''達新人冒険者なら、新人冒険者が何を出すか瞬時に見極め合法な後出しを可能とさせます」

 

「それで貴方が勝てば強いことを証明出来ると」

 

「その通りです!」

 

 

確かにその方法は簡単でわかりやすい。実際、団員達とするとき僕やフィン達は負けたことがない。アサナシアさんが言った通り合法な後出しをしているからだ。

え、反則?大人げない?ちょっと何を言ってるか分かりかねますね。

 

 

「それでは早速やりましょう。最初はグー、ジャンケン――

 

 

『✋』

 

「...え?」

 

「...ふふ」

 

 

この状況にかなり驚いたベル。説明すると、この一瞬のうちにお互い数回変えたのだ。アサナシアがチョキを出したためベルはグーを出した。だが次の瞬間それを確認したアサナシアがパーに変え、一瞬驚くも直ぐ対応しチョキに変えたベル。あと何回か変え、あいこという結果になった。

 

 

「うーむ...やはり身体能力はベルさんの方が上ですね」

 

 

呑気に呟いている彼女に対して、ベルはまだ呆けていた。フィン達上級冒険者としたときでさえベルがほぼ勝つのだ。こんなの驚かずにはいられなかった。

 

 

「ふふ、驚いてますね。でもこれで証明になりました。なので、ついて行ってもいいですか?」

 

 

屈託の無い笑顔で言われ、見惚れてしまうベル。

フレイヤ様はアサナシアさんを特別だと言っていた。そして、先ほどのジャンケンであいこになった。もしかしたら何か事情があって新人だと言うことになっているのかもしれない。

そう整理し少し悩むも、やがて、まぁいいかとベルは折れた。

 

 

「思うこともありますけど、分かりました。ですが、危ないようだったらすぐ引き返しますからね」

 

「ありがとうございます!」

 

 

再び眩しいほどの笑みを見せられ、瞬時に顔を背ける。また見惚れてしまってはアストレア様に失礼にあたるからね、うんうん。アストレア様大好きです!

 

 

ここで余談だが、ベルは基本的に神にしか敬語を使わない。例外はあるが。

そして、お気づきのようにベルはアサナシアに対して敬語を使っている。これは無意識であり、無意識のうちに年上だと認識しているのだろう。

 

 

____________________________________________

 

 

現在、僕達は下層にいる。あれから何日か経っており、疲労が溜まってくる頃合いだ。まぁ、僕はそんなことないけど。

それで、だ。アサナシアさんの方は?となるけれど...

 

 

「いや〜、楽しいですねぇ」

 

 

普通に元気だった。疲労という二文字がカスリもしないほどに元気なのだ。

 

 

「それ!」

 

 

ゴオォッッッ!!

 

 

モンスターを確認したアサナシアさんは腕を軽く振る。すると、業火が猛り狂った。そしてもう一度振ると、今度は津波が押し寄せた。稲妻が降り注ぎ、風が吹き荒れ、土が押し潰す。

一発一発の威力はリヴェリアを越え、加えて繰り出される数が多いため威力が増幅していく。これが軽く腕を振るだけで起きているのだ。

 

少し前の話だが、天然の怪物進呈(パスパレード)が起きたときその層は傷つきに傷つきまくっていた。

これ崩壊しないかなぁ大丈夫かなぁと思うほどで、不安にもなったが案外心配無用だった。

ダンジョンが頑丈で良かったと胸を撫で下ろした。

 

それと、一瞬黒いモンスターが見えた気がしたけどなんだったんだろう?

首を傾げるベルは、全身鋭利なモンスターを確認もせず粉々に切り伏せていた。

 

と、また魔法が激化する。

 

 

「アサナシアさん。やりすぎてダンジョン崩壊させないでくださいね」

 

「手加減してるので大丈夫です!」

 

 

これでしてるのか...、と戦慄せずにいられなかった。

とまぁ、これを見せられると当然ながら疑問が浮かぶ。何故、これ程の魔法を連発できるのか。戦闘能力だってオッタルよりも全然強いし、不思議に思うことばかりだ。

 

 

「ベルさん、貴方は''私''のことがとても気になってますね」

 

「ええ。無詠唱かつ威力の高い魔法。見る限り四つ以上あるのは確かです。そして、戦闘能力。少ししか見てませんが、オッタルよりも洗練されています。...あなたは何ですか?」

 

「流石は数千年を生きる人です。洞察力が素晴らしい。確かに''私''はオッタルや『九魔姫(ナイン・ヘル)』よりも優れた身体能力と魔法を持っています。よって、''私''が何なのか知りたいと思う気持ちは当然でしょう。ですが、これを言うのはもう少し先を行ってからにしましょうか。''妾''はまだ満足してないのでな」

 

 

ダンジョンに入る前に見せた屈託のない笑みではなく、優雅に微笑(わら)ってみせた。可愛いから一転して妖艶さが醸し出される。

ベルは戸惑った。まるで人が変わったかのように雰囲気が違ったからだ。

妾...一人称は私だったはず...

 

 

「ボォーっとしてないで行きますよ。三十八階層まで勝負です!」

 

「...負けません!」

 

 

今どれだけ考えようと答えは出ない。モヤモヤが募るが、のちに教えてくれると言うのでそれを払う。

 

ただ一つ予想できる。

 

精霊

 

今はもう確認されていないが、神が降臨してくるまでの間、民が崇めていた存在である。

常軌を逸した奇跡を扱える存在など精霊しか思い当たらない。

 

 

______________________

 

 

やがて辿り着いた三十八階層。僕の方が先にゴールし、ふっとドヤ顔を決める。

 

 

「ベルさんの方が身体能力は上なんですから勝って当たり前ですええ!」

 

「そんなこと言ってる割には悔しそうですね。それと足をゲシゲシしないでください痛いです」

 

 

めちゃめちゃ悔しがってる姿をみて微笑う。

 

 

ゴゴゴゴゴッ!

 

 

「あれ?ここってもしかして『白宮殿(ホワイトパレス)』?」

 

「僕も今気づきましたがそのようですね」

 

 

あまりにも広大なこの部屋の中央で、階層主である『ウダイオス』が侵入者を排除するため誕生した。

 

 

「ふむ...ベルさん、ここで一休みしましょう。この部屋はモンスターが出現しませんから」

 

「いいですね。なら、とっととアイツを倒しましょうか」

 

 

その瞬間ベルの姿が消えた。【縮地】を使いウダイオスとの距離を詰めたのだ。

 

それに続くようにアサナシアは腕を振る。

 

 

ドッゴッッッ!!

 

 

太く大きな閃光が轟音をたててウダイオスを穿いた。四股が焼きちぎれ身動きが取れなくなった。

そしてベルはと言うと、ウダイオスの背後にいた。

ウダイオスはベルの存在にやっと気づき首を動かそうとしたその時、カチッと納刀される音が響く。

 

無音だった。魔石に一筋の線が入り、 ズレた。

 

 

魔石が壊れたことで、やがてシュゥウと灰に変わり消滅したウダイオス。登場時間数秒という悲しき状況にウダイオスちゃん涙目。

 

 

「なんかさっきもこんなことありませんでした?」

 

「さぁ、記憶にないです」

 

 

黒い鋭利なモンスターも泣いていたことを追記しておく。

 

 

______________________

 

 

 

「では、先ほどの続きを話しましょうか」

 

 

休憩に入ってから数時間、とうとう話をする機会が訪れた。

 

 

「多分ベルさんは''私''の正体に予想をつけていると思います。はい、それで合ってます。では改めて....''妾''は生命を司る背理精霊。《呪詛》のアサナシア。そして、其方に助けられ負傷した其方を助けるために不老という呪いをかけた張本人じゃ」

 

「.....え?僕って不老だったんですか!?」

 

「今更ぞ!?」

 

 

寿命が伸びただけだと思ってた!

いつかは普通に死ぬだろうと思っていたので声を上げて驚いたベル。

不老のことも気になるけど、助けられ助けた?その状況は一つしか思い当たらなかった。

 

 

「もしかして、''あのとき''怪物に襲われていた女性ですか?」

 

「うむ。あの時は助かった。其方に助けられておらなんだら、妾は今ここにいなかった。改めて、礼を言わせて欲しい。ありがとう」

 

 

アサナシアは深く腰を曲げる。また、その姿勢のまま彼女は続けた。

 

 

「そして、謝らせて欲しい。其方に呪いをかけたことを。妾は《呪詛》の精霊。回復の類いを持っておらぬ。故に、瀕死にあった其方を助けるためには''血''を与えるしかなかった...」

 

「.......」

 

「恨まれて当然のこと。恩を仇で返したのだから。死ねと言うなら自害する。それで其方に償えるなら喜んで行おう」

 

 

アサナシアは今もまだ頭を下げたままだった。

ベルの表情は見えない。もしかしたら怒りで赤くしているかもしれないし、悲しみで歪ませているかもしれない。この沈黙の時間がアサナシアにはとても怖かった。

 

 

「頭を上げてください」

 

 

それは柔らかな声音だった。

 

 

「僕はあなたを恨んでなんかいません。確かに最初の頃は、なんで死なないんだろと戸惑いました。こうして生きてきて辛いこともたくさんありました。だけど、悪いことばかりではなかった。楽しかったこと嬉しかったこと幸せだったこと、両手で数えられないくらい沢山あります。人生は一度きり。僕はこんな経験が出来てよかったと思っています。むしろ、感謝してます。なので、アサナシアさんが気に病む必要はありません。だから、そんな顔しないでください。あなたは笑った顔が一番似合ってる」

 

 

アサナシアはゆっくりと顔を上げる。視界に映ったベルの表情は、とても優しい笑みを浮かべていた。

その瞬間、紫がかった桃色の瞳から一粒の雫が流れる。それは次第に増えていき、地面を濡らしていった。

 

溢れる涙を拭い続けるアサナシアの頭をベルはそっと撫でる。

この数千年間、悩み嘆き苦しみ、自身が《呪詛》であることを恨み続けてきた。

ベルが本当に許してくれているかは分からない。だけど、その言葉で幾分か救われたのは事実。

 

 

(ああ....本当に其方はなんて素敵なのだろうか...)

 

 

言い訳じみた謝罪でも受け入れてくれた。寿命で死なないという恐怖を受け入れたその寛容さがアサナシアには眩しく見えた。

 

 

広い心を持つことは大切である。事柄に対しての寛容さも必要だ。

だってそうだろう。固定概念に縛られる人生なんて狭くて狭くて窮屈で退屈だ。

世界は広い。ならあとは自身の視界を広くするのみ。

 

''――、――――――――――''。

 

____________________________________________

 

 

 

十八階層。それはモンスターが発生しない階層で、『安全階層(セーフティポイント)』と呼ばれている。しかし、全くモンスターがいないというわけではないため、油断していると襲われることもある。

 

そして、だ。

この階層には幾つか綺麗な水たまり場がある。冒険者達はここで身体を綺麗にしており、それはベルも例外ではない。

 

 

「はぁ...なんか濃いダンジョン探索だったなぁ」

 

 

自分が不老であったこと。そのきっかけが''本当に''精霊であったこと。

クロッゾが精霊の血で魔剣を打てるようになったことから、もしかしたら自分も精霊が関わっているのでは、と思っていたけども...

人生って何が起こるか分からないもんだねぇ。

 

 

「お背中流しますね」

 

「あ、ありがとうございます.............ん?」

 

 

今更だが、ベルは水浴びをしていた。

その最中でいろいろ考え込んでしまっていたわけで、背後から近づく影に気づかなかった。その影が極限まで気配を消していることもあるだろうけど。

 

 

「エッチィ」

 

「貴方がね!?」

 

 

後ろを振り向くと、裸のアサナシアさんがいた。そして抱きついてくる。

あの件から僕達の距離は近くなった。物理的にも精神的にも。でもちょっと近過ぎるかなぁと思ったりしてる。ていうか今めちゃめちゃ思ってる!

 

 

「んっ...!」

 

「自分から押し付けておいて悶えないでください!」

 

 

吐息が耳にかかりぶるりと身を震わせてしまう。

 

 

「女の子の身体なんて沢山見てきたくせに何慌ててるんですかぁ?」

 

「.......」

 

 

まぁ、ね...僕も男ですからやる事やってますけども....だからって慣れるわけじゃない。

 

 

「今まで何人もの女性を堕としてきたのでしょう?」

 

 

私色々知ってますよ、と言わんばかりに語りかけてくるアサナシアさん。冷や汗が流れる。

 

 

「な、なにを...」

 

「『ベルを知った女性は他の者では満足出来ない』これはとある友人の言葉でしたね」

 

「!?」

 

「ベルさんの身体には''私''の血が流れています。色々省きますが、その人の精神世界というものに入ることが出来るんです。だから、その.......お楽しみの場面を見れるわけで......ベルさんって...テクニシャンですね...」

 

「やめてえぇぇえええええええええええええええええええっっっ!?!?!?」

 

 

広い広い夜の十八階層に悲鳴が響き渡る。

お互い顔を真っ赤に染め、いろいろ危ない。

この人今までずっと覗き見してたの!?変態じゃん!!

 

 

「アサナシアさんキャラ崩壊し過ぎです!」

 

「仕方ないでしょう!経験ないんですもん!」

 

「じゃあその話に触れないで下さいよ!」

 

「今から貴方とするのだから触れておかないと緊張するんです!」

 

「ちょっと待ってその話は初耳!?」

 

「初めてなので優しくしてくださいね...」

 

「感情の起伏が凄すぎてこっちが情緒不安定になるっ!やりませんからね!僕にはアストレア様という敬愛する――」

 

「アストレア様が個人を受け入れるわけないでしょ!現実を見てください!」

 

「グハッ!!」

 

 

クリティカルヒット!効果は抜群だ!

 

 

「大丈夫です。貴方のことは''私''が一番知ってますから。ほら、ドンと来てください!」

 

「や、やめっ...!くっ、力強すぎて抜け出せない!」

 

「恋する乙女は強いことをご存知でないのですか?」

 

「乙女...?」

 

「おいキョロキョロすんな目の前にいるだろうが」

 

「ごめんなさい!今の状況を抜け出すための冗談です!更に悪化したようですけどねぇえ!」

 

 

とうとう押し倒され、バシャンっ!と水飛沫が散る。

 

 

「ふぅ...やっと押さえ込めました。ふふ、悪く思わないでくださいね♪」

 

「数刻前まではあんなに申し訳なさそうだったのに、変わりすぎじゃないですか?」

 

「過去は過去。今は今です。では改めて...ベルさん、好きです。たくさん愛し合いましょうね」

 

 

地上の月に代わるクリスタルの光によって、地面に描かれた二人の薄い影が重なる。

 

 

この後滅茶苦茶

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げた。

 

アストレア様への気持ちは裏切れない!

 

 

____________________________________________

 

side:アサナシア

 

 

「残念だったわね。ベルは簡単に靡くような男じゃないわ」

 

「十年以上振られ続けている貴方様の言葉はそれはそれは重みがあります」

 

「アナタも私のようになるのでしょうね」

 

「そんなことありません。''私''はフレイヤ様ほど年増しでは無いですし、ベルのことを一番知っています」

 

「ベルが惚れているのはその年増しよ」

 

「...そうだった!」

 

「それよりもアナタ、神である私に失礼すぎじゃないかしら。精霊の小娘の分際で」

 

「すみません。敬老の心を忘れてました」

 

「はっ倒すわよ」

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

アサナシア
紫色のふんわりした腰まで伸びる長髪に紫がかった桃色の瞳。神にも劣らぬ美人であり、笑った顔は可愛く愛くるしい。
身長はベルと一緒。言い方は難しいが、ベルが一番好きなスタイルをしている。

特に何かのキャラを参考に、という訳では無いです。読書様方の想像にお任せです。


リヴェリアの番外編も書くつもりです。

次こそはアストレアレコードを...

次回、大抗争。

では、さようなら。


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0巻
第一話 始まり


お久しぶりです。時雨シグです。

新連載です。この話は天寿の方を書き始めた頃から考えていたものです。
設定は天寿の方と多少違いますが、諸々は一緒です。

天寿の方と一緒で、駄文を極めていますが、何卒宜しくお願いします。




 

 

誰しも寿命というものがあり、この概念からは逃れられることは決してできない。だからこそ不老、不死というものに夢を持つ者がいる。

 

 

そんな人たちに僕は問う。

 

不老、不死になったとして、どうしたいのか、と。

 

意見は人それぞれだ。

世界中を見て回りたい、趣味を楽しみたい、愛するものとずっと居たいという等々。

 

確かにその通りだと思う。やりたいことがどんどん見つかったとしても、たった数十年しか生きられないのだからそう思うのは自然の摂理だ。

だけど、だ。それが終われば?

もう自分がしたいことは終わった。なら、後は永遠にある時間をどうしたい?

 

最初はみな、嬉々として語る。だが、それが終われば沈黙する。

物事には限りがあり限りがあるからこそ、それには価値があるし価値を見いだせる。

故にこそ、永遠に対する価値など小さいのだ。

 

望むのはいい。この世にはしたいことが山ほどある人など多くいる。だけど、そこには覚悟が必要だ。孤独である覚悟と、生きることへの覚悟が。

 

 

そんななか、覚悟の準備も出来ず、不幸にも突然不老を手に入れてしまった者がいる。

 

 

これは別の世界線のある男の物語。

 

 

それでは綴ろう。僕たちの『眷属の物語(ファミリア・ミィス)』を。

 

 

 

____________________________________________

 

 

side:???

(数十年前)

 

 

とある町にその少年はいた。赤目白髪で中性的な見た目だ。どこか庇護欲を掻き立てられる雰囲気がある。

 

その少年は旅をしていた最中だった。しかし今はその旅を一度切り上げ、とある都市で用事があるため、道中にあるこの町で休憩をしているところだった。

 

この町はなかなか盛んなほうで出店などが多々ある。少年はのんびり飲み食いしながら歩いていた。そんな最中だった。

 

 

「なぁ、少年。ウチの眷族にならん?」

 

 

突然目の前に現れて、そんなことを言ってきた。

その人は、短髪の赤髪に糸目で...その...なんというか...とてもスレンダーな女性だった。いや、僅かに神威が漂っているので女神か。

 

 

「突然なんですか?」

 

「いやな、アンタを見た瞬間ビビビっときてん。これは運命やっ!てトリックスターとしての勘が強く働いてな。だから誘ってみたんや!」

 

 

何やら変なことを言っているが、要は眷族に誘われている。

 

 

「えっと、眷族どうこうの話は分かったんですけど、何方ですか?あ、僕はベルと言います」

 

「ウチはロキっちゅうねん。よろしくな、ベルたん!」

 

 

なんか勝手に眷族に入ることになっている件について。

ベルは戸惑った顔で口を開いた。

 

 

「僕、まだ入るとは言ってないんですけど...」

 

「ええやんええやん。...はっ!もしかしてもうどっかの眷族なん!?」

 

「い、いえ」

 

「よかった〜!ほな行こか!早速刻むでっ!」

 

 

満面の笑みで僕の手を引いて、ズンズン歩いていくロキ様。突然引っ張られたことで前のめりに倒れそうになる体を立て直す。

力強すぎじゃない?

 

 

「ちょっ!ちょっと待ってください!入るのは良いとして、まず話をしましょう!」

 

 

そう声を張り上げるとやっと止まってくれたロキ様。

 

 

「ん、話ってなんや?」

 

「先程言いましたが、ロキ様の眷族になるのはいいです。ですが、とある人の許可がないとダメなんです」

 

「なら、早速許可取りに行こうや。で、誰なんそいつ?」

 

「ちょっと落ち着いください。あと、誰かはまだ会うまで秘密です。ですが、これからその人にも会いに行くのでこの件も含めて行きましょうか」

 

 

勢いが凄いロキ様をなだめつつ、予定を追加していく。

僕がそう言うと、さらに息巻くロキ様。

 

 

「やったらはよ行こうや!な!」

 

「だから落ち着いくださいって!僕にも準備があるのでそんなすぐ行けませんよ!」

 

 

子供?目の前にあるおもちゃに興奮する子供なの?と内心ツッコミを入れるベル。

ベルの言葉に口を尖らせるロキ様。大変不満顔である。

 

 

「わかったわかった。ほな、ベルたんの準備中に交流会といこうやないか」

 

「いいですね。そうしましょう」

 

 

再びパァっと笑みを浮かべるロキ様。僕の宿はこっちです。と示し僕たちは並んで歩いていく。

さて、一段落したところで、僕には一つ聞いておきたいことがあった。

 

 

「質問なんですけど....ロキ様って女神様ですよね?」

 

「貴様どつき回したろか」

 

 

僕は腰を90度曲げた。

 

 

____________________________________________

 

side:ベル

 

 

 

「では行きましょうか」

 

「よっしゃあ!」

 

 

あれから二日後、目的地へといく準備が出来た。

これからその都市まで行く馬車へ乗り込み、穏やかな時間を過ごしていく。

 

この二日間である程度ロキ様との間柄は深まったと思う。

ロキ様は幾らか前に降りてきたらしく、ゆっくり少しながら眷族となる子を探していたらしい。そんなこんなで僕を見つけたという。

 

僕は旅をしている事を話した。ここではこんなのを見たやこんなのがあったなどなど、ロキ様は興味津々に聞いていた。

だが、僕が数千年生きていることは話していない。その件についてはあの方と説明しよう思っているからだ。

 

 

馬車に揺られながら、着いた目的地。

 

 

「なぁ、ベルたん。ここって...」

 

「ええ、ロキ様のご想像の通り『オラリオ』です」

 

 

オラリオへ指さしながら僕へと目を向けてきたロキ様に、僕は頷いた。

『世界の中心』とも称されるほどの都市である。そう呼ばれる理由は、世界三大秘境の一つがここにあるから。そして、とあるファミリアらの拠点でもあるからだ。

 

 

門を通り抜け馬車から降りた僕達は宿探しへと向かった。

もうそろそろいい時間なので明日にしようと決めたからである。

 

 

ちなみに余談になるが、ロキ様と僕は一緒の部屋で過ごし、一緒のベットで寝たのだが、ロキ様の寝相は悪く、抱きついて来ることが何度かあった。でも何故だろう?何とも思わなかったんだ。

...やっぱりロキ様って...男し(蹴

 

 

次の日の朝、ロキ様によると、気絶していたように寝ていたらしい。

 

 

____________________________________________

 

 

「で、どこに向かっとるんや?」

 

「もう少しで着きますので」

 

 

昼食を早めに終わらせ、用事と眷族の報告をするためにとある区画へと向かっていく僕に、隣に歩いているロキ様が辟易した様子で言ってきた。

早く僕に『神の恩恵(ファルナ)』を刻みたいのに何日もお預けをくらっているので、不満が溢れ出ている。

 

そんなこんなで着いた場所。大きな館だった。

 

 

「なぁ、ベルたん。このおっきい建物なんや?」

 

「ここは《ゼウス・ファミリア》の館です」

 

「....ぜうすって、あのゼウスのことか?」

 

「ええ、そうです」

 

 

疑問を浮かべた表情をするロキ様に、僕は苦笑する。何故ベルが《ゼウス・ファミリア》と交流にあるんだ?とでも思ってそうだ。

 

 

「...ほぉーん、まぁ訳はゼウスに聞くとして、行こか」

 

 

歩き出した僕達は門へと近づいていく。そして、門の側にいる門番に「ベルが来ました」とゼウス様に伝えてくださいと言うと、胸に手を当て「かしこまりました」といい軽く腰を曲げ、館へと足早に入っていった。

 

やがて戻ってきた門番により案内される。

昨日のうちに事前に手紙を届けていたので、かなりスムーズに事が進められている。

 

 

客間へと案内されると、大きいソファが二つ、向かい合わせに並べられており片方にゼウス様が座っていた。

 

 

「お久しぶりです、ゼウス様」

 

「おお、久方ぶりじゃなぁ、ベルよ」

 

 

朗らかな笑みを浮かべ優しい声音で出迎えてくれたゼウス様。一度僕の隣にいたロキ様へと視線をうつし、直ぐに僕へと向ける。

 

 

「ロキのことは後にして、まず報告してくれ」

 

「分かりました。ではまずーーー」

 

 

地上にいるモンスターの状況や世界情勢を報告していく。報告内容はゼウス様の後ろにいる団長が紙に記していく。

そして、報告が終わった。

 

 

「助かったぞ、ベル。礼を言う」

 

「いえいえ、僕にはこれくらいしか出来ませんから」

 

「儂の子供たちもお主に感謝しとるわい。済ました顔をしとるが、コヤツだって内心嬉しがっとるぞ」

 

 

ガハハと笑うゼウス様。団長さんは苦笑していた。

 

 

「で?何故ロキがおるのだ?」

 

「それはな、ウチがベルを誘ったらからや。そしたらベルが許可がいるって言いよってな。誰やと思うたが、まさかゼウスやとは思わんかったで」

 

「ほぉ....とうとう、いや、やっと誘われたのだな、ベル」

 

 

ベルは神が降臨してきてからというもの、一度も誘われたことがない。いや、『守護者』''アレグサンダ''として狙われていることはあったのだが、その神たちはベルを見つけることが出来なかったという。

 

また、ゼウス様の眷族にという話はあったのだが、ゼウス様曰く「ベルは『英雄』基質がない」との事で眷族になることはなかった。

そうして約1000年近く神の目に止まることが無かったのだが、先日とうとう誘われたということに、ゼウス様はしみじみとしているのだ。

 

 

「ええ、そうですね。それで、どうですか?僕としては誘って貰った事ですし、入ろうと思っているのですが」

 

「いいのでないか。それに、面白いじゃねぇか。道化から道化など、運命の巡り合われかもしれんな」

 

 

ゼウス様の言葉に頷く。

僕もロキ様が道化師というのを聞いたときから思っていたからだ。これもロキ様の眷族になると決めた理由の一つだったりする。

 

 

「ベルよ、あの話をしたのか」

 

「いえ、まだです。ゼウス様に許可を貰ってからゼウス様に言ってもらおうと思っていたので」

 

「そうか。では、ロキよ。ベルを眷属にするというのならば心して聞いておけ」

 

 

これは天寿の創作と一緒で、

まずは、僕が数千年前に生まれたこと。アルゴノゥト達と冒険していたこと。『守護者』''アレグサンダ''がベルであることなどなど要所を語っていく。

その最中(さなか)、ロキ様は「ホンマかいな!?」「おお!?」などと興奮していた。

そして、話が終わるとロキ様は立ち上がって

 

 

「流石ウチやで!こんな面白い子、後にも先にも見つからんで!ようやった!」

 

 

そんなロキ様をみてため息を一つこぼすゼウス様。

 

 

「ベルのことを頼むぞ、ロキ」

 

「任せときっ!ベルと一緒にいつかアンタらを超えるファミリアになったる!」

 

「....ああ、それは楽しみにしておこう」

 

 

優しい笑みを浮かべ、そう言葉を零す。

ベルを孫のように想っていたゼウスは、ベルに旅立ちに何か想ったのだろう。そんな穏やかな表情だった。

 

 

____________________________________________

 

 

報告会が終わったあと、次はギルドへと赴いた。ウラノス様への挨拶だ。

ここで冒険者として過ごすことなどを報告したあと、暗くなり始めた空の下、宿へと並んで歩く。

 

 

宿につき、ご飯を食べたあと、早速とばかりに神の恩恵(ファルナ)を刻むで!と息巻いたロキ様に苦笑し、服を脱がされベットにうつ伏せになる。

 

 

 

★:。・:*:・゚' ★,。・:*:♪・゚' ★:。・:*:・゚' ★,。・:*:♪・゚'

 

 

ベル

 

Lv.1

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

俊敏:I 0

魔力:I 0

 

 

 

《魔法》

 

【テア・オルディナヘイム】

 

詠唱式:

『我に与えられしは恒久の(めい)。護る者を想へ。悪なる魔から救え。』『一度失った(いのち)は戻ることなかれ。故にこそ、思い出し奮え。あの日大切な者(家族)を目前で失い、誓った心を。』『大切な者達への想いを胸に。世界に 民に示せ。我がいると。ーー』

 

 ・広範囲防護結界魔法

 

 ・防護結界内いる者を持続的に治癒する

 

 ・全ての攻撃を遮断、反射する。

 

 ・魔力が無くなり次第、寿命を魔力へと変換する。

 

 

《スキル》

 

情想守護(ルナティア・ガディラ)

 

 ・仲間を想うほどステータス中補正

 

 ・仲間を想うほど獲得経験値中

 

 ・守護放棄すれば能力激減

 

 

.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚ .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚ .゚・*..☆.

 

 

 

「流石はベルや!《スキル》《魔法》両方あるし、その内容もなかなかヤバイで!」

 

 

第一声はそんな言葉だった。興奮冷めやらぬその姿に僕も早く見てみたいという気持ちが溢れ出でくる。

 

紙に写されたステータス。他の人がどんなのかは知らないけど、ぼくに合った《スキル》と《魔法》だと思った。

 

 

「ベル、これからよろしゅうな!」

 

 

その言葉に羊皮紙から顔を上げれば、ロキ様は満面の笑みを浮かべ手を差し出していた。

僕もその笑みに応えるように笑い、

 

 

「はい、よろしくお願いします!ロキ様!」

 

 

と、しっかりと握った。

 

そして、これからの冒険者人生に心はやらせるのだった。

 

 

 

 

 




ありがとうこざいました。
ロキ・ファミリアの創設メンバーにベルがいるというものですね。

ロキ・ファミリアの創設期って25〜30年前ぐらいだと予想してるんですけど、どうですか?
この創作も変な所があると思います。そのとき、指摘してもらえると嬉しいです。

次回、三首領

では、さようなら


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第二話 異なる種族の四人と一神


最初とあって、ちょっと細かく書いてます。

次話からはサクサク進んでいくと思います。多分。




 

 

side:ベル

 

 

数週間後、宿で武器を手入れしていると勢いよく扉が開きロキ様が勢いよく入ってきた。

その表情はとても嬉しそうだった。

 

 

「ベル!朗報や!新たに三人入るかもしれへん!!」

 

 

興奮した声音でそう告げられ、僕はばっと立ち上がった。

 

 

「ホントですか!?どんな子達ですかっ?」

 

 

正直、まだまだ見つからないだろうと思っていたので、予想より早く見つかったことに僕も興奮する。

 

 

「ホンマやホンマや!でな、一人はパルゥム、一人はドワーフ、そんでもう一人はエルフや。それも''王族''のな」

 

「おおぉ!そりあわなそう!」

 

 

パルゥムはとにかく、エルフとドワーフは仲が悪い。大丈夫なのか?と不安が募る。

 

 

「あー、それはどうやろな。まだ三人とも顔合わせてないからなぁ」

 

「どうやって顔合わせするんですか?会った瞬間、喧嘩とか嫌ですよ?」

 

 

更に不安が募っていく。胃薬準備しとかなくてはいけないのでは?と憂鬱になる。

現に今まで、お互い口を聞かないという者達を見てきた。そんな雰囲気で一緒に冒険しても、此方がしんどくなるだけだ。

まぁほぼ確実に悪い方向に向かうはずなので覚悟しておこう。

 

 

「早速明日入団面接しようと思っとるから、ベルたん準備しといてや」

 

「なかなか急ですね。分かりました」

 

 

僕達は明日の面接の打ち合わせをしたあと、明日に向けて整えるのだった。

 

 

____________________________________________

 

 

ロキ様によると、この店で待っといてくれ、と場所を指定していたらしい。

その店に着く。その店は綺麗な夜の飲食店とでも言おうか、そんな大人が行くような感じのところだった。

 

中に入ると、客は三人しかいなかった。まだ昼と言うこともあって少ないのだろう。

いや、その三人が嫌悪感を溢れさせているためかもしれない。

 

 

「昼の間だけ貸切にしてもろてん」

 

 

いったいどこにそんな金が?と思ったが、「タダでな」と言われる。

店主を見ると、人が良さそうな余裕のある老紳士といった人だった。ありがとうこざいます。

 

 

「おう、待たせたな」

 

 

三人はバラバラにテーブルに座っている。その三人に声を上げたロキ様。僕も三人に視線を向けた。

一人は金髪で顔立ちの良いパルゥムで、一人は翡翠色の髪に王族であることを示す長い耳、そして神に勝るとも劣らない美貌を持つハイエルフ。

そして.....何故かガルムスがいた。見間違いだろうかと、僕は一度目を擦る。そしてまた見る。ガルムスが居る。また擦る。見る。ガルムス。擦る見るガルムス。擦見ガル。

 

 

「何やっとるんや、ベル」

 

「...いえ、なんでもないです」

 

 

ロキ様に変な目で見られた。

まぁこの時代にガルムスがいるわけが無いので、そっくりさんだろうと無理矢理納得する。

 

 

「スマンが三人とも、もうちと近くに寄ってきてくれへん?話しにくぅてしゃーないねん」

 

 

ロキ様がそう言うと、三人は「え...お前らも...?」といった表情を浮かべ、更に嫌悪感を溢れさせる。

 

 

「よっしゃ、改めて自己紹介しよか。ウチはロキ。そんで横におるのが、ちょっと前に眷族になったベルや。あ、せやせや。ウチはロキでええよ。タメでかまへん」

 

「...そういうのならそうさせてもらうよ。僕はフィン。フィン・ディムナだ」

 

「...私か?私はリヴェリア・リヨス・アールヴという」

 

「.....わしはガレス・ランドロックじゃ」

 

 

...うーん、幸先が悪いぃ!やっぱり特に、ハイエルフとドワーフ。心と物理の距離が遠い!覚悟してたけど、そんな覚悟今すぐ捨てて逃げたい!

一層悪くなる雰囲気に嘆くベル。

 

 

そこからというものロキ様の必死の采配により、三人の入団が決まった。よく入団させらたなぁとロキ様を尊敬する。

と、ここで一つ質問してみよう。

 

 

「フィンさん、リヴェリアさん、ガレスさんは何故冒険者になろうと?」

 

 

そう言うと三つの視線が僕を射る。この状況に不満なのかな?目が据わってるよ。

三人は一度目を瞑った。そして、開かれた瞳には強い意志が宿っていた。

 

 

「...僕らパルゥムは見下されている。それによって迫害されることは少なくない。だから、僕は決めたんだ。一族の光となって、パルゥムを復興しようとね」

 

「...私は、自分の知らない世界を自身の目で見たいからだ」

 

「...儂は熱き戦いを求めて、じゃな」

 

 

みんなそれぞれちゃんとした理由がある。僕にはちゃんした理由がないので三人が眩しく見えた。

 

 

「ほう...三人ともええ意志があるやん。俄然応援したなってきたな!なぁ、ベル!」

 

「ええ、是非とも叶えて欲しいですね」

 

 

そう、特にフィンさんには頑張って欲しい。僕はやれることが少なかった。だからこそ、僕はめいいっぱい協力しようと決めた。

すると、フィンさんが口を開いた。

 

 

「君は、どうして冒険者になったんだい?」

 

 

あれ?そういえばなんで冒険者になったんだっけ?いつの間にか眷族になってたから考えたこと無かったなぁと、ロキ様を見ながら考える。...目逸らさないでください、ロキ様。

 

 

「うーん、そうですね。いつの間にかなってたっていうのもありますけど、強いて言うなら、今まで一人だったから、ですかね」

 

 

似合わない悲しげな表情を浮かべるロキ様が視界の端に映った。

 

 

____________________________________________

 

 

「どやった、ベル?」

 

 

あの後一度解散した僕達は宿へと戻った。

今日のことを話すことになり、そう尋ねてきたロキ様は吐露する。

 

 

「ホンマはな、フィンは前々から見つけとったんや。簡潔にいうなら、利害の一致でな。せやけど、ベルのこともあるしちょっと保留にしてたんや。そない内に、立て続けに二人を見つけてな、ほんならベルと三人を同時に顔合わせしよう!と思って計画したわけやけど...種族間って結構根が深いんやなぁ」

 

「これは昔からですからねぇ。そんな簡単には解決しないでしょう。時間経過を待つしかないですね」

 

 

ロキ様がそんな計画を立ててたことは露ぞ知らなかったけど、色々考えているんだろうことは分かる。

初めての子供たちということや、ロキ様の目標が目標だからこそなんだろうけど。

 

 

____________________________________________

 

 

数日後、神の恩恵(ファルナ)を授かった三人と共に、ロキ様の命のもと同時に冒険者登録を済ませた四人。

その空気は最悪であり、街ゆく人たちはベル達を大きく避けていた。顔面偏差値はものすごく高いのに、眉間に皺を寄せているので台無しになっているし、高いが故に恐さが倍増している。リヴェリアさん、貴方が一番凄いですよあっいえなんでもありませんすみませんでしたはい。

 

創設メンバーということもあって、最初が肝心や、仲良くせぇよ!というロキ様による命の一つだが、いる時間が長ければ長いほど空気が重苦しくなっていく。

 

一度(ひとたび)ダンジョンに潜れば

 

『貴様らさっさと動かんか!』

 

『お主らこそしっかりサポートせんか!何のための後衛だ!』

 

『二人とも僕の指示ちゃんと聞いてくれないかな!?っわぁとっ!?危ないじゃないか!』

 

『おっとすまんすまん。見えなんだわ!ガハハっ!っと!?だからしっかりサポートせんかと言っとるだろう!』

 

『ふっ、貴様の図体がデカいからだろ』

 

 

これはほんの一部だが、ずっと言い合っている。

そしてお決まりが、

 

 

『ベル、君も参戦しろ!』

『おいヒューマン、何をサボっているんだ!』

『お主も働け!』

 

『は、はひっ!とぅっ、とぅびまでん!!』

 

 

誰だって入りたくないよ、こんなしっちゃかめっちゃかな戦闘に。

だけど不思議なことにどんどんモンスターを倒せていっている。

謎の連携が成立しているのだ。

 

一つ言うなら、フィンはともかくとして、ガレスとリヴェリア、僕はもういい大人だ。まるでガキみたいことばかり。ロキ様はこの事を報告する度に腹を抱えて爆笑している。

 

 

「ふぅ...、今回も笑わせてもろたで。この調子で頑張れベルたん!」

 

 

サムズアップしながら僕の苦労を考えず、能天気なことをぶちかますロキ様。その親指折って差し上げましょうか?

 

 

「なんかベルたんの顔が恐いわぁ〜」

 

 

すっと腕を引くロキ様。それと同時におチャラけた表情をやめる。

 

 

「あの三人のこと頼むでベル。ウチは地上でしか面倒見れへんからな。ウチの最初の子供や。できるだけ長くおりたい。もちろんベルもな」

 

 

普段とこういうときのギャップが激しいから困る。

僕は苦笑して

 

 

「ええ、大丈夫ですよ。僕が絶対死なせませんから」

 

 

____________________________________________

 

 

今日も今日とてダンジョンへと赴く一行。

最近はこの雰囲気にも慣れてきた。また最初の頃ほど、重苦しい空気は少し軽くなってきたと思う。まぁ、ダンジョンに入れば僕含め騒がしくなるけど。

 

 

「ベルに聞きたいことがあるんだけどさ」

 

「なに?」

 

「ベルって新人冒険者っぽくないよね。戦闘慣れしてる感じがある。それに、武器だ。僕ら三人は安物だったり借り物だけど、ベルのはいいモノを使ってるよね」

 

「あー、それはワシも思っとったわい。こんな子供が持つ能力と武器でないとな」

 

「どういうことか教えて貰っていいかな?」

 

 

あれ?なんか詰められてる?

フィンは爽やかな笑顔なのに『さっさと白状しろ』って書いてあるし、ほか二人も視線で射てくる。

 

 

「そんな凄まなくても言うから。えっと、前々からよくモンスターと戦ってたからだよ」

 

「前々からって、僕と歳はあまり変わらないよね?」

 

「いや。僕こんな成りだけど、リヴェリアより生きてるんだよ」

 

「...貴様私を老いぼれだとでも思っていないだろうな」

 

「い、いえ!めめめ滅相もございませんはい!なんかごめんなさいでした!!」

 

 

怖すぎいぃぃぃ!そういえば女性に年齢は禁句だってこと忘れてた!

 

 

「リヴェリア、抑えて。ベルはそんなこと言ってないから」

 

「...ふん。で、私より生きているとはどういうことだ」

 

「...この話はロキ様と一緒の方が説明しやすいから、探索が終わってからでもいい?」

 

「なんじゃお預けか?なかなか酷なことするのぉ。何やら面白そうな話じゃったのに」

 

「ふむ。じゃあ今日は早めに切り上げようか」

 

「ああ、そうするとしよう。ちなみだが、今何歳なんだ?」

 

「うーん、何歳なんだろう?わかりやすいので言えば、英雄(アルゴノゥト)がいた時代から生きてる」

 

「何だって!?」

「何だと!?」

「何じゃて!?」

 

 

こんなひとつの言葉でこんなにもレパートリーがあるんだなぁと呑気に考える今日この頃。

 

 

「やっぱり今すぐロキの元へ行こう!気になって仕方がない!」

 

「ああ、全くだ!おい、急げヒューマン!」

 

「というか、そういうことは最初に言っとくことじゃろうて!」

 

「え、いやだってそれほど大したことじゃないし」

 

『大したことだ!!』

 

「は、はひ!ちゅみまぜんでした!!」

 

 

僕は三人に引っ張られながらも、こんな騒がしい日々を楽しむのだった。

 

 

____________________________________________

 

 

「...なるほど。神ゼウスが証言してる以上、本当のことなんだろうね」

 

「『守護者』アレグサンダはまだ生きている、という話は聞いたことがあったな...そのときは眉唾ものだと思っていたが、まさか本当だったとは...」

 

「べ、ベルよ...英雄(アルゴノゥト)と冒険していたと言うなら、ガルムーザ様とも冒険していたということでよいのか!?」

 

 

三者三様な反応で面白いけれど、一人間接的に関わりのあるガレスは目を輝かせて僕に詰めてくる。

ドワーフはガルムスを『大英雄』''ガルムーザ''として崇拝していると聞いたことがあったけど、ガレスも例に漏れず崇拝しているのかもしれない。

 

 

「う、うん、まぁそういうことだね」

 

 

ガシッと捕まれ、痛い。

 

 

「聞かせてくれ!!」

 

 

ガレス・ランドロック、28歳。厳かな見た目と今の子供のように興奮する姿のギャップ差があり過ぎて困惑してしまう。

 

 

「ガレス、ベルが困ってる。その話は後からにして話を進めよう」

 

 

まだ14歳なのにしっかり者のフィンに、僕は感謝の視線を向ける。...ああ、なんて爽やかな笑顔なんだろうか。将来絶対ショタ好きに狙われるんだろうなぁと失礼なことを何故か今考える。

 

 

「...ベル。なんか変なこと考えてない?鳥肌がたったんだけど」

 

「き、気のせいでは?」

 

 

フィンには秘密だけど、そうなってくれることを期待しておこう。

 

 

「ま、そういうこっちゃ。最初に言わんですまんかったな。わざわざ自ら言うことやないし、疑問を抱いたときに、ってベルと決めとってん」

 

 

自分自身のことを語るのが恥ずかしいというのが大部分を占める。何がよくて嬉々として語らないといけないんだ?と。

 

 

「今は意識とかしてまうやろうけど、特にガレスはこんなんになってもうてるしな。せやけど、なるべくいつも通り過ごしたってくれ。まぁ、時間が経てば慣れてくるやろうけどな」

 

 

ロキ様の配慮にしみじみとする。

三人はゆっくりと頷く。まだ整理が出来ていないのか無意識的に首を動かしていた。

 

 

この日から幾日かは不自然な雰囲気だったけど、ロキ様の言ったように時間が経っていけば前のような喧騒に包まれた。

 

うん、やっぱりこれがいいね!

 

 

『サボるな!』

 

「は、はい!すみませんでした!!」

 

 

 

 




ありがとうこざいました。

フィン、リヴェリア、ガレスの順。

調べたら、リヴェリアの入団時期が28年前と分かり、フィンもガレスもその頃だろうということで、一気に入団させました。細かいことなんて分かりませんから。

では、さようなら。


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第三話 ランクアップした四人 とある才女との一幕


或程度話が進めば、番外編でいろいろな日常回を書きます。
その時にでも恋愛模様を書いていこうかな、と思ってたり思ってなかったり。




 

side:ベル

 

 

『かんぱぁ〜〜〜いっ!!』

 

 

五つのジョッキがコンっと音をたて、それぞれの飲み物の雫が舞い上がる。

 

《ロキ・ファミリア》結成から早数年。あの時のようなギクシャクとした雰囲気、連携は見る影なく、今ではなかなかいい間柄になっていた。

 

また、種族間の問題も少なくなっている。やはり死線をくぐり抜けてきたことが大きいのだろう。

僕もなかなか危なかったものだ。守護を放棄すれば能力激減というスキルを逆手に、自身に枷をかけた。やはりと言うべきか、思うように動けなくて『お前が護られてどうするんだ!?』と怒鳴られたことは今となっては懐かしい。

 

そして未だ五人(一人は神)なのは《ロキ・ファミリア》自体の団員が増えていないからだ。ロキ様が、上の立場に立つもんの仲が悪かったら他の奴らにも影響するからな。と色々配慮していたらしいのだが、大きな原因としては、僕達四人が悪目立ちしていたというのがある。多分ファミリアに入りたいと思っても、この四人の間には入りたくなかったのかもしれない。

おかしい...何故僕も含まれている?

こんなことを言っているが、ベルもその一人だということを忘れてはいけない。

 

 

「いや〜、やっとLv.2になったなぁ。それも四人同時に。正直ベルは『ランクアップ』するんか?って懸念しとったけど、安心したで」

 

「ベルはいろいろと特殊だからね。スキルの影響で能力が激減してるのに、インファントドラゴンを一撃撃破したときの威力といったらもう驚いたよ。元々の能力が計り知れないな」

 

「いや、あのときは激減してなかったよ」

 

 

先日11階層に降り立ち、上層の実質的ボスであるインファントドラゴンの討伐にかかった。基本的には三人だけで戦い、たまに僕がサポートに入るというスタイルだった。

 

そしてようやく討伐に成功しお互いを労っていると、新たなインファントドラゴンが出現した。三人は疲労困憊気味だったので僕が請け負うことになった。

そうしたら''護る''という行為になったためか、能力が戻り更に補正がかかり、激減中の癖で強く剣を振り抜いたらオーバーキルしてしまったのだ。あのときの僕ら四人の?顔と言ったら傑作だっただろう。

 

 

「どちらにしても規格外なのは変わらんわい」

 

「ああ。特にベルが《アーツ》と呼んでいる技能に関してだな。教えてもらっているが、全く理解出来ん」

 

「僕も何となくでしてるから説明が難しいんだよね。それにあれを身につけるのに数百年はかかったから、一朝一夕で身につくもんじゃないよ」

 

「はなから期待はしてないからね、問題ないよ。あんなもの、簡単に身につけられたら苦労しないさ」

 

 

小さく笑うベル達。酒に食がドンドンすすんでいく。

 

 

「それで、これからどうするんだい?そろそろ団員も増やしていかないとダメなんじゃないか?」

 

「入団したいっていう話は聞くんやけどな、アンタら四人の中に入りたないっていう話もあんねん。そこんとこどう思う?」

 

 

僕らは一斉に視線を逸らした。正直心当たりはあるのでなんとも言えないのだ。

 

 

「ま、気楽に行こうや。自分らはまだまだ未熟やしな。急がんでもこのままいけば入団希望も溢れに溢れてくるわ」

 

 

主神がそう言うならいっか、と一時保留し、宴に騒いだベル達。

ちなみに余談だが、誰が一番飲めるか勝負にて、ベルが優勝したことを追記しておこう。

 

 

「ふっ...僕は状態異常耐性が高いのだよ。....酔い潰れたい」

 

 

酔いつぶれている三人と一神を見下ろしながら、気を落とし切実にそう言葉を漏らす姿も追記しておこう。

 

 

____________________________________________

 

 

 

嬉しいことに少しずつ増えてきた団員。増えたことにより食住を補えきれなくなり、この期にある程度大きい男女別の連結した屋敷を購入した。

これは仮屋敷で、ちゃんとした館を現在考えている。

 

 

そして先日、僕達四首領(なんか新人に呼ばれてた)はまたまた同時にランクアップを成し遂げ、Lv.3になっていた。

まぁ、Lvが上がったからといっても、それぞれ新たな魔法を覚えたりスキルを獲得したりするぐらいで何もなかった。また宴を開いたくらいだ。

 

 

新人育成に精を出しつつ、たまに四人でダンジョンに潜るをくりかえす日々。ホントに楽しくて仕方がないのだが、厄介なこともあったりする。

その筆頭が...

 

 

「『福音(ゴスぺル)』」

 

「っ!?散開!!」

 

 

その詠唱が聞こえた瞬間、すぐ様身を投げる僕達。ゴロゴロと転がり、直ぐに起き上がって元凶を睨む。

 

 

「だから毎回毎回不意打ちで魔法を放たないでって言ってるよね!さっきのはホントに危なかったよ!?ねぇ聞いてる、アルフィア!?」

 

 

視線の先には、質の良い灰色の髪を持ち、その美貌はまだ幼いながらも完成している。また特殊なことに、目を開けるのも億劫と常に目を閉じている少女。

当時フィンの半分にも満たない年齢で、僕たちよりも後に冒険者になったというのに、既に僕達を超えるLv.4に到達している才女。世界最速ランクアップはまだ記憶に新しい。

 

 

アルフィアと初めて顔を合わせたのは、アルフィアがLv.2になった頃。

出会いのきっかけは、ゼウス様の自慢だった。所属は《ヘラ・ファミリア》なのに、自分の子供のように話している姿はあまりにもゼウス様らしく、苦笑した。

 

そのときからかな。こうやって目の敵にされたのは。

聞かされた自慢話に対して『まだ小さいのに凄いね』と褒めたら、気に触れたらしい。滅法機嫌が悪くなった。周り曰く、''子供扱いされた''から怒ってんじゃない?とのこと。どうしたらいいか分からなくなった。

 

それからも、実際、見た目も年齢もまだまだ子供なので、無意識のうちに''そういう''接し方をしてしまっていたらしく、とうとう機嫌を損ね、攻撃を仕掛けるようになってきた。

最初の頃は可愛げがあった。仕掛けられても簡単にあしらえるし、そのときに、からかって頭を撫でてやれば怒ったり拗ねたりするのが。

だけど、最近はただの厄災だ。厄介な魔法に飛び抜けた戦闘能力。もう触れることさえできない。

僕も超短文詠唱魔法欲しいぃ....

 

 

「ふん...ならば私を子供扱いするのはやめろ」

 

「子供扱いされてるって気にするあたり、まだまだ子供だね」

 

「『福音(ゴスペル)』」

 

「ガべしっ!!」

 

 

有無を言わさぬ殺人級の速攻魔法。直撃は避けたが、余波を受ける。

あぁ〜、頭がガンガンする。もし、激減状態だったらただじぁ済まなかったよ。まぁ、何度も受けてるから慣れてるけど。

ベルは避けようと思へば簡単に避けれる。もともとの能力もさることながら、《アーツ》もある。

余波を受けるのは言ってしまえば、普段モンスターの攻撃を食らうことがないので、耐久を上げるのに絶好のチャンスだからだ。

いつの日か「何故避けないの?」とフィン達に聞かれた際、このように説明したら引かれた。

今も三人は『ああ...また受けてる...』と呆れた目でみてくる。

 

 

「ねぇ、ベル知ってる?ベルって一部の人達に『受け』って呼ばれてるんだよ」

 

「どういうこと!?」

 

 

突然のあまりにも衝撃的な話に目を剥いた。フィンはニヤけた顔で続ける。

 

 

「その人たちは、攻撃の『攻め』の反対語は『受け』(守り)になっているらしい。今のベルみたいだね!」

 

「ぐはっ!!」

 

 

僕は膝から崩れ落ちた。耐久値を上げるため、良かれと思ってしていたことがまさかそんな風にフィン達に見えていたとはっ!?

 

 

「その人たちはまだ、今のベルを見てないからただ言ってるだけだけど、これを見られたら...動き出すよ?」

 

「.....」

 

 

のわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!もう絶対しない!!次からは絶対避ける!!見えない恐怖に(おのの)いたベルは強くそう決心した。

 

 

「ベル、貴様、自身の愉悦の為にわざと食らっていたのか?」

 

「ち、違っ!?誤解だよ!!」

 

 

僕を見下ろすアルフィアの瞳には、まるで屑ゴミや這い回る蟲を見る侮蔑が映っていた。

おぉ...やっぱりオッドアイかっこいい...

 

 

「この変態が....よかろう。そんなにお望みならば存分に食らわしてやる」

 

「まっ!待って「『福音(ゴスペル)』」ブヘガハア ッ!!」

 

 

殺人級速攻魔法が直撃する。そして、勢いよくぶっ飛んでいったベル。

 

三人が慌てて安否を確認した際、あまりにもズタズタだったので『コイツ死んだんじゃね?』と1周回って冷静に考えてしまったらしい。

 

 

「ちょっとタイミングが悪すぎたかな...」

 

「考えれば分かるじゃろう。ホントお主らは見た目通り子供やのう。じゃから、ショタランキング1、2位を二人して飾るんじゃよ」

 

「今それ関係ないよね!?」

 

「フィン、お前が話した先程の話に続きがあるのを知ってるか?」

 

「え?いや、知らないな」

 

「そ奴らは、そういう話なったときその相手も妄想するらしい。良かったな、フィン。ベルの相手はお前だぞ」

 

「なん...だって...?」

 

 

もう一人、衝撃的な話に崩れ落ちた者がいた。

 

 

「...あの...呑気に、話してないで...助けて...」

 

『...あ』

 

 

早急に措置に取り掛かった三人。ベルは危篤な状態なのに、忘れられていた事実に二つの意味で(血)涙を流した。

 

 

____________________________________________

 

 

.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚ .゚・*..☆.。.:*・°

 

ベル

 

Lv.3

 

力 :I 0

耐久:I 0

器用:I 0

俊敏:I 0

魔力:I 0

幸運:I 0

 

幸運:H

魔道:I

 

 

《魔法》

 

【テア・オルディナヘイム】

 

詠唱式:

『我に与えられしは恒久の(めい)。護る者を想へ。悪なる魔から救え。』『一度失った(いのち)は戻ることなかれ。故にこそ、思い出し奮え。あの日大切な者(家族)を目前で失い、誓った心を。』『大切な者達への想いを胸に。世界に 民に示せ。我がいると。ーー』

 

 ・超広範囲防護結界魔法

 

 ・防護結界内いる者を持続的に治癒する

 

 ・全ての攻撃を遮断、反射する。

 

 ・魔力が無くなり次第、寿命を魔力へと変換する。

 

 

【レジナ・サン・ガウェスト】

 

詠唱式:

魑魅(すだま)の遠吠えに震え怯えん(たみ)を想いて、今宵、天上は憤怒(ふんど)する。それは、青天の霹靂が如し。』『恐るる必要はなかれ。これは自由への(しるべ)となろう。』『轟け、雷霆(らいてい)。唸れ、稲妻(いなずま)邪魔(ジャマ)を撃ち払う、退魔の光となれ。』『降り注ぐは黄金の(いかづち)灰燼(かいじん)に帰せ。ーー』

 

 ・長文詠唱広範囲殲滅魔法。

 

 ・『護る』の対象者には効かない。また、属性付与する。

 

 ・魔力が無くなり次第、寿命を魔力へと変換する。

 

 

《スキル》

 

情想守護(ルナティア・ガディラ)

 

 ・仲間を想うほどステータス中補正

 

 ・仲間を想うほど獲得経験値中

 

 ・守護放棄すれば能力激減

 

 

 

.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚ .゚・*..☆.。.:*・°.*・゚

 

 

____________________________________________

 

 

これは、アルフィアがLv.3になった頃の話。

 

 

「首尾はどうじゃ?」

 

「ああ、上々だな。あれは、かなり意識してる」

 

 

とある夜、テーブルに一つの灯りを宿し、コソコソと話す二人がいた。

一人は、大神ゼウス。もう一人は、名をザルド。

 

 

「ダンジョンに行くたびに、さりげなく探しているところが見られる。一瞬のことで分かりにくいがな」

 

「ほほぉ...それは可愛いものじゃ」

 

「こんなにもアルフィアが他人に興味を持つのは珍しい」

 

「そうじゃな。ベルには感謝せんと」

 

 

アルフィアがベルを見つけては魔法を放ったり心を抉ったりと、他には見せない姿を見せるので、これは何やら面白いことに!と内々で騒いでいるのだ。

特に、仕掛けたはいいものの、簡単にあしらわれれ.からかわれて怒ったり拗ねたりする姿を見たときは、より一層話が弾むものだった。

 

 

「あ、そうそう。今日は頬っぺをムニムニされてたぞ。ときたま、ベルさんのからかいが過ぎるから、あとの対応に困ったぜ」

 

「いいぞ、ベル。もっとやるんじゃ!」

 

 

この秘密の語りは、アルフィアとベルと関わりが深くある《ゼウス、ヘラ・ファミリア》の男性で構成されている。

だが後に、アルフィアにバレてしまい、魔法の餌食になったことは言うまでもないことだろう。

そして、何故かベルにも八つ当たりが行われたことも追記しておく。

 

 

「因みに、ヘラはベルが相手なら歓迎と言っとったぞ」

 

「ヘラ様公認か...式はどうする?」

 

「ここなんて良いのではなかろうか」

 

 

尚、この話もバレてしまい、半殺しにされたのは言うまでもない。しかし、そこに慈悲があったらしい。もしされてなかったら...言わなくても分かるだろう。

 

 

 

 

 

 




ありがとうこざいました。

第五話からゆっくりストーリーが進んでいくと思います。多分。

次話は二つ目か三つ目の0時頃に出します。

次回、壊滅と神会


では、さようなら。


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第四話 二大派閥の壊滅 カオスな神会(デナトゥス)


作者はこの話を書いているとき、何かを失った気がします。





 

 

side:ベル

 

突然だが、《ゼウス・ファミリア》と《ヘラ•ファミリア》が壊滅した。

理由は、『隻眼の黒竜』討伐クエストにて失敗したからだ。

 

 

ヘビーモスにリヴァイアサンを倒したことで、盛りに盛り上がった世界各国。このまま黒竜も討伐できるのではっ!?といった矢先の出来事だった。

 

ヘビーモスではザルドが。リヴァイアサンさんではアルフィアが。それ以外も少なくない犠牲を払ってようやく討伐出来た二体。

もし、万全の状態なら黒竜倒せたのかもしれない。そんな話はチラホラと出ている。だけどそれはタラレバで、信じたくないと思う心情から来るものだったかもしれない。

 

 

民は改めて知ることになった。黒竜の恐怖を。

 

そして、民は求め始めた。『英雄』を。

 

 

____________________________________________

 

 

「ゼウス様...」

 

「おお、ベル。来てくれたのか」

 

「この度のことは、なんと言ったらいいのか...」

 

「無理する必要はない。笑って送り出し貰えれば、それでいい」

 

 

ゼウス様の方が無理に笑い、僕に心配をかけまいといつも通り接してくる。だけど、ほんの少し悲しみが見え隠れしている。

 

黒竜の討伐失敗とファミリア壊滅の訃報が届きまわって、数週間後、オラリオに戻ってきたゼウス様達は、追放させられた。

追放したのはロキ様とフレイヤ様だが、ロキ様は内心悲しかっただろう。

 

 

「ロキ様からの伝言です。『今までようやったんやから、ゆっくりしとけ。これからのことはウチらに任せとき』と」

 

「そうか...それは頼もしいのぉ」

 

 

穏やかな表情で空を見たゼウス様。一体何を思い何を考えているのだろうか。

 

 

「ところで、ヘラ様とアルフィアはどこ行ったんですか?」

 

「二人はもう出てったぞ。ベルに会ったら迷ってしまうってのぉ」

 

「そうですか...最後に挨拶はしておきたかったです」

 

「もし何か言うことがあるのなら、ワシから言っておこう」

 

「ありがとうございます」

 

 

別れの時間はもう間近。

沈みゆく夕陽は、僕の心情を表すかのように空を黒く染めていく。

 

 

「また会いましょう、ゼウス様」

 

「おお、またいつかじゃな。ベルたちの活躍を楽しみに過ごすとしよう」

 

 

天界に帰るわけじゃない。あの人達(団員)のように天に還るわけじゃない。ゼウス様には、いつかは会える。だけど、あの人達(団員)には会えない。

 

 

この日、改めて実感することとなった、他者への想い。

僕は自分の全力を持ってして、大切な者を『護る』ことを再び決意した。

そのとき、ベルの背中が熱を発したのは気の所為だろうか。

 

 

ああ...、もっとみんなと酒を酌み交わしたかったなぁ...

 

そう静かに心内で吐露した。

 

 

____________________________________________

 

 

 

ゼウス様達が追放されてから数年。現在、厄介な問題に直面していた。

 

 

「最近、闇派閥(イヴィルス)が活発化しているのを知っているかい?」

 

 

幾許か前に完成した黄昏の館(たそがれのやかた)の団長室にて、ロキ様、リヴェリア、ガレス、僕にそうといてきたフィン。僕たちは頷いた。

 

 

「ここの団員に直接的な被害はないが、零細ファミリアから一般市民まで多くの人が被害にあっている」

 

 

一般市民の住宅への不法侵入から、冒険者をダンジョンでの殺害。卑劣な犯罪はさることながら重罪をも染める行動は、何を目的としているのか分からない程にバラバラだ。

 

 

「これからは治安維持を視野に入れつつ、新人の教育に力を入れていこう」

 

 

闇派閥(イヴィルス)対策の行動が決まった。

 

 

闇派閥(イヴィルス)はまた考えるとして、ベル、最近何やら面白いことになってるそうだね」

 

 

真剣な表情から一変、意地の悪い笑みを浮かべ、その顔を僕へと向けてくる。

 

 

「なんや、なんかあったんかいな?」

 

「最近巷で噂になってるんだよ。《ロキ・ファミリア》のベルが、嫁探しをしているとね」

 

「...なんだそれは?」

 

「フィン、僕知ってる。それ、君が流したんだよね」

 

「さぁ、なんのことかな」

 

 

澄ました顔でしらばっくれるフィン。どうやら、僕が以前したことを相当根に持っているらしい。ふん、心の狭いやつめ。

 

 

「その言葉はそっくりそのまま返すよ」

 

 

何故か考えてることがバレた。「顔に出てるよ」 ポーカーフェイスは完璧なはずなのに...おかしい。

 

 

「こりゃあうかうかしてられへんなぁ、リヴェリア」

 

「黙れ駄女神」

 

「駄女神!?」

 

 

女性陣は何やら話していたが、フィンと言い合っていたベルは知る由もなかった。

 

 

「ワシだけ、蚊帳の外じゃのぉ...」

 

 

ガレスは寂しげにそう呟きながらも、その光景を楽しそうに見ていた。

 

 

____________________________________________

 

 

side:神々

 

 

「第??回、神会(デナトゥス)を開催しま〜すっ!!」

 

『イェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッゴホッゴホッ!!...イェ〜イッ!!』

 

 

三ヶ月に一度行われる別名『神々による定期情報交換会』。

大層な名前をしているが、ただ暇を極めた神々が駄弁るために開かれているものだと思ってもいい。

 

 

「さぁさぁやってきました!本日のメインイベンツッッ!」

 

『待ってました!!』

 

 

ワクワクっと騒ぎながら、昇格(ランクアップ)者の一覧表をパラパラと捲っていく。

 

 

「うわっ、またロキのとこの四人が同時にランクアップしてるぞ」

 

「ああ!ベルきゅんだ!...はぁはぁ、ああ...わたしを食べて欲しい...」

 

「ねぇ!誰かコイツを牢獄へぶち込んどいて!私のベルちゃんを奪おうとしてるわ!!」

 

「おいおい、お前ら気持ち悪いこと言ってる自覚あるか?それとだ、ベルたんは俺のだから」

 

「お前が一番きめぇよ」

 

「自分ら好き勝手言いよるけどな、ベルはうちのもんや!変なこと抜かしとったらシバくぞ!!」

 

 

ベルは神々にとって大人気なのだ。あの愛くるしい姿に仕草。ヒューマンなのに、変わらない姿形。興味の対象だった。

 

 

「ロキのとこは最後にして、他の子達から決めていこうぜ」

 

『さんせぇ〜い!』

 

 

この命名行事はある意味畏怖されていた。あまりにも恥ずかしい『二つ名』を付けられることがよくあるからだ。

高レベルに上がれば上がるほど、まともな名やいい感じの名を付けられるのだが、零細ファミリアやLv.2、3は恥ずかしい名をつけられる傾向にある。

 

悲鳴や嘆きが何度か響いたが、つつがなく命名行事は進められていき、ベル達の番になった。

 

 

「では、残り四人の命名を行おうとしよう。何か意見のあるものは?」

 

「それに関してウチからちょっとええか。希望があんねん」

 

「おいおい、ロキ、それはなしだろ。ずるいじゃねぇか」

 

「別にずるいことやない。自分らに任せとったらええ加減なもんになるからな。それに、これは本人の希望もあんねん」

 

 

ロキが行おうとしてるのは、フィンとベルについてだ。

フィンはLvが上がったら、パルゥムの希望となる二つ名をつけようと決めていた。

ベルについては、ロキが話し合った結果そうしようとなった。また、オラリオの大半に容姿が一つも変わらないことを疑問に思う者が多くなってきたからというのもある。

 

 

「フィンには【勇者(ブレイバー)】、ベルには...【守護者(アレグサンダ)】で頼むわ」

 

「フィン・ディムナに関しては良いが、ベルについてはどういうことだ?」

 

「もう勘づいとるやつもおるやろう。ベルは、子供らに人気の『冒険譚』に出てくる、『守護者』''アレグサンダ''や」

 

 

息を呑む音がなる。

違和感はあった。Lvが上がれば寿命が伸び老化しにくくなるというが、あまりにも変わらなすぎる。

そこで、もしかしたら?と思う神もいた。

 

 

「....お前が嘘をついている可能性は?」

 

「ゼウスが証人や」

 

 

ザワザワと喧騒が広がる。

 

 

「あの爺さん、俺らが忙しく働いてるってときに悠々と下界を見てたな...」

 

「ああ...」

 

 

たしかにゼウスだけは楽しそうに下界を鑑賞していた。一柱だけ、仕事もせずにゆっくりしていたゼウスを妬んでいた。

 

 

「ゼウスが証人か....それはそれは...それはなんとも...」

 

 

『欲しくなってきたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!!!』

 

 

今まで何度も神会(デナトゥス)は開かれてきたが、今回が今までで一番の絶叫だった。

 

 

「さすがはワタシのベルだわ!見込んだ通りね!!」

 

「ベルきゅんベルきゅん....ッ!ハァハァハァハァハァハァっ....ああ..食べたいぃ...」

 

「ベルちゃんの危機っ!?ねぇ、誰かコイツを封印してっ!!...クッ、誰も動いてくれないっ!...いっそのこと、わたしが仕留めるべき...っ?とうとう手を染めるときがっ...!」

 

「ええいっ!黙れお前ら!自分が気持ち悪いことを言っている自覚はないのか!神の矜恃をちゃんと持て!そしてもう一度言うが、ベルたんをなでなでハムハムクンカクンカするのは俺だ!誰にも渡さねぇ!!」

 

「だからお前が一番キモくて神の矜恃を捨ててんだよ!」

 

「俺が!ガネーシャだっ!!!」

 

「うるせぇよ!だからなんだよ!?」

 

「...フフっ、みんなしてベルばっかり。フフフン、もっとベルに夢中になりなさい。そして、わたくしはフィンを独り占めっ」

 

「残・念★オレもいる!」

 

 

カオスはカオスを呼ぶと言うが、これはあまりにも酷い惨状だ。その光景はまさにパニックを起こしたジャングルの動物である。

そして、とうとう堪忍袋の緒が切れた神がいた。

 

 

「うっさいねん貴様ら!!静かにせぇ!話が進まんやろ!ほんでさっきも言うたが、ウチの子らや!自分らなんかに絶対に渡さんからな!!」

 

『だが断るっ!!』

 

「断んなや!!」

 

 

そして、カオスはカオスを呼び、またカオスを呼ぶ。

 

 

「あら、ベルをくれるって言うなら私が欲しいわぁ」

 

「だから、渡さん言っとるやろ!てか、貴様には絶対あげん!!それとおい年中発情駄女神。ベルにちょっかいかけんな。困っとるやろが」

 

「別に困らせることはしてないわ。ただ、ファミリアの勧誘と夢のお供の誘いをしてるだけよ」

 

「それが困っとるって言ってんねん!ああーしんどっ。もうフィンらはウチが勝手に決める。フィンは【勇者(ブレイバー)】。ベルは【守護者(アレグサンダ)】。リヴェリアは【九魔姫(ナイン・ヘル)】。ガレスは【重傑(エルガルム)】や。ほら、もう終わったで。解散や解散」

 

『えぇぇええええええええ〜!』

 

「解散!!」

 

 

不満の声が上がるが、やっと終わった神会(デナトゥス)。今まで一番苛烈の極めたものだった。

そして、二つ名で一つ二つ三つと波乱が起きたが、もう疲れたので話もここで終わるとしよう。

ただ一つ簡単に言うなら、ベルの人気が爆上がりし、反対に恨む者妬む者が増えたことを追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 




ありがとうこざました。

今週は一話出します。

次回、アイズ

では、さようなら。


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第五話 とある少女


今回はほのぼの回と言うか日常回です。




 

 

side:ベル

 

 

とある日、団長室に“六人”(一人、神)いた。六人中四人は、神妙な顔つきで残り二人を見ていた。

 

 

「ロキ...とうとう犯罪に手を染めてしまったのか...」

 

「ロキ様...《ガネーシャ・ファミリア》へ今すぐ自首しましょう。今ならまだ刑は重くはならないはずです...多分」

 

「二人して何や!?ウチが犯罪犯したみたいに!てか、とうとうやと!?おい、リヴェリア、ガレって自分らもそんな目で見てくんな!?ウチはやってへん!!」

 

『そう言うやつに限ってしてるんだよ』

 

「被せてくんな!」

 

 

何故このようなやり取りをしているのかと言うと。

ふらっとホームを出ていったロキ様。帰ってきたと思ったら、幼子(おさなご)の手を引いていたのだ。

犯罪臭がした僕はすぐさまフィン達を招集。そして、現在に至るわけだ。

 

 

「で、どういう経緯でその子を連れてきたんだい?」

 

「ん〜、まぁ色々あってなぁ。もしかしたら、ベルにも関係があるかもしれん」

 

 

どういう事だろうか?疑問に思っ思いながら、ロキ様の話に耳を傾ける。

 

 

「この話は後で話す。...が、おるでな」

 

 

一瞬、アイズへと目をやるロキ様。その僅かな行為に意味を汲み取ったフィンはゆっくり頷いた

 

 

「...うん、分かった。よし、じゃあ自己紹介でもしようか。僕は、フィン・ディムナ。ここ《ロキ・ファミリア》の団長だ」

 

「私は、リヴェリア・リヨス・アールヴだ。...ん?この耳か?これは王族を表すものだが、気にする必要は無い」

 

「ワシはガレス・ランドロックじゃ。よろしくな」

 

「僕は、ベル。よろしくね」

 

 

僕達の自己紹介を終えたのち、その少女、アイズ・ヴァレンシュタインは僕へと目を向けてくる。その虚ろな瞳には何が映っているのだろうか。まだまだ関わりのない僕達には分からなかった。

 

 

「....ベルは、怪物に復讐したいって、思ってる?」

 

 

その瞬間、はっきりと瞳に憎悪が宿った。それはあまりにも強く危なっかしい。

 

 

「なんか急だね。ただ、その問いに答えるなら、別に思ってはないかな。でも、倒すべきだとは思ってる」

 

 

ダンジョンモンスターなら兎も角として、地上にいるモンスターは必ず倒さないといけない。ほっとけば、そこの住人に危害をあたえるからだ。

 

 

「私は、早く強くならないといけない。...そして、母さんと父さんを殺した''アイツ''を、私は殺す」

 

 

フィン達に聞いたときとは、別の意味での強い意志だ。それは危険であり、誰かが見ておかないと何をしでかすか分からない。

僕達五人は頭を抱えるのだった。

 

 

____________________________________________

 

 

アイズに神の恩恵(ファルナ)が刻まれ、ロキ様、フィン、ガレスに僕は、ステータスを写した羊皮紙を覗き考え込んでいた。

ちなみに、リヴェリアはアイズの連れ添いでギルドに行っている。

 

 

「魔法とスキル、両方初っ端から発現しとるのを見たのはベル以来やな。やっぱ、''精霊''が関係しとんか?」

 

「それはどうか分からないですけど、問題は...この【復讐姫(アヴェンジャー)】っていうスキルですね」

 

「スキルに影響するほどの憎悪、か。竜種というのは、やはりそういうことなんだろうね」

 

「...はぁ、なんでウチのとこにはこんな奇怪な子が集まってくるんやろなぁ。まぁ、面白いから歓迎やけど」

 

「...類は友を呼ぶ、という言葉がありましてですね」

 

「おい、言われてんで二人」

 

「うん、大丈夫だよ。それは君たちのことだから」

 

「心外じゃな」

 

 

四首領とロキ様が話し合いをしたとき、ときどき話が進まないことがある。不毛ないじり合いが始まるのだ。

と、ここでロキ様が疑問を抱く。

 

 

「それにしても、リヴェリア遅いなぁ。結構な時間経ってんで」

 

「アイズの相手に手を焼かせてるんじゃない?」

 

「あの様子なら、早速ダンジョンに行くって駄々をこねとるかもしれんのう」

 

 

苦笑する、僕たち。

そして、やっと帰ってきたリヴェリア。その姿は疲労が見え、僕達は今後の対策を考えるのだった。

 

 

__________________________________________

 

 

夜。

自室にて、僕はパチリと目を覚ました。何かを感じ取ったのだ。

 

ベットから降り、素早く着替える。念のため武器も携え、部屋から出る。

みんなが寝静まった静寂な時間。月明かりが窓から差し込み、暗い廊下を小さく灯す。

そんな廊下を【隠密】を使いながら歩いていく。

 

 

(やっぱりね...)

 

 

小さな気配を追いかけて確認してみれば、アイズがコソコソと館を出ようとしていた。

行く先はダンジョンだろう。バレないように出て行く姿は、何とも可愛らしい。

 

僕と同じように、それぞれ違う場所で動向を見ていたフィン達に、任せてと手を上げる。フィン達はやれやれと苦笑し、任せると返してくる。

 

 

当分の間アイズを泳がし、もう大丈夫だと油断していたとこで、声を掛けた。

 

 

「何処に行こうとしてるのかな、アイズ」

 

「っ!?」

 

 

ビクッ!と体を跳ねさせ硬直するアイズ。

ギギギとまるでサビついたロボットみたいに首を回す。

 

 

「...ベル」

 

「うん、こんばんは。こんな夜中に外なんて出てどうかしたの?」

 

 

僕は穏やかに詰めていく。

視線を逸らすアイズ。

 

 

「...さ、散歩」

 

「ダンジョンに行こうとしてるよね」

 

「.....」

 

 

まぁ、予想通りだなと小さく笑う。絶対抜け出してダンジョンに行くだろう、とフィン達と話していたのだ。

しかし、そんな悠長なことは思っていられない。本当に行動に出た以上、これから大変になることは確定したというわけである。

不満そうに俯いているアイズを見る。

 

 

「じゃあ、行こっか」

 

「...え?」

 

「行きたいんでしょ?」

 

 

少しの間呆然としていたのち、コクっと頷くアイズ。相変わらず無表情だが、内心は嬉しがっているのだろうか。先程よりも僅かに足取りが軽い。

 

 

____________________________________________

 

 

夜中ということもあって、冒険者はほとんど居なかった。たまに、帰還してきた冒険者とすれ違うくらいだ。...その際に、僕をガン見するのは辞めて頂きたいですね。なんか変な勘違いしてないといいけど。

 

アイズは初めてのダンジョンということもあって、視線をキョロキョロと彷徨わせている。

 

 

「アイズ、君は初めてモンスターと戦うだろうから、まず僕の戦いを見てね」

 

「...私が倒す」

 

「僕の後ならいいよ」

 

 

ちょうどタイミングよく三体のゴブリンが現れた。

今にも走り出そうとするアイズを抑え、前に立つ。

ゴブリンは僕たちを見つけると卑下た笑みを浮かべ駆け出す。

 

 

「最初の相手としては申し分ないね。ゴブリンはあまり戦闘能力はない。基本的に棒を振り回すくらいかな。だけど、それで侮ってはいけない。アイズがまともにやり合えば負ける可能性だってある」

 

「...じゃあ、どうするの?」

 

「戦闘に大事なことは、自分の間合いを知ること。仕掛けるにしても避けるにしてもこれを把握しておかないと、浅かったり避けきれなかったりする。まぁ、間合いのことはフィンが一番知ってるから聞いてみるといいよ」

 

 

ゴブリン三体を利用し、実演したり解説していく。

 

 

「そして次は、力の入れ方、抜き方、逃した方だね。と、その前に一つ。モンスター相手には少ないけど、剣を交差するとき、交差点を考えるんだ。剣先と刀で言ったら鍔に近いとこで交差するとき、どちらが力を扱いやすいか」

 

「...ねもと?」

 

「そう、鍔に近いとこだよね。例えるなら、長い棒を振るより短い棒の方が振りやすいように。で、さっきの話に戻るけど、こうやって振り下ろされた棒を鍔に近い方で受け止め、そして...流す」

 

 

小さく横に身を動かし、押し込んでくる力を横に流す。すると、ゴブリンは前のめりに倒れそうになり、その隙を利用して斬り伏せる。

シュゥと音を立て灰に変わる。

 

残り二匹のゴブリンは僕を警戒してか、アイズに狙いを変えた。

 

 

「ちょうどいいね。アイズ、倒してみて」

 

 

いきなり戦闘に持ち込ませて大丈夫だろうかと思うだろうけど、もともと一人で行こうとしていたのだ。このくらい出来てもらわないと、ダンジョンに行かせないように軟禁でもしないといけない。

 

ただいきなりこんなことさせて、リヴェリアにでも見られたら怒られるだろうな。

そう考えていると、アイズは最後の一体にトドメをさした。

 

 

「うん、よく頑張ったね」

 

 

褒めながら優しく頭を撫でる。

相変わらず無表情だ。一瞬アルフィアを思い浮かび体を強張らせてしまったけど、杞憂だったようだ。

 

 

「息が切れるてるけど、もう終わる?」

 

 

フルフルと横に振り、拒否される。

 

 

「ふむ...じゃ休憩しよっか」

 

 

そこからは、戦闘しては休憩を繰り返していった。戦闘していくにつれ、力の入れ方抜き方を学んでいっているのだろう。少しずつ息切れしなくなっていた。

戦闘能力も高く、僕が言ったことはすぐに吸収していく。

 

 

「アイズ、そろそろ体に限界がきてるでしょ?もう、終わるよ」

 

「...まだ、やれる」

 

「うーん...僕と勝負して勝てたらいいよ」

 

「...帰る」

 

「うん、素直で宜しい」

 

 

動けないアイズをおぶさり、ホームへと帰る。

 

 

「アイズ、疲れたでしょ?それが今の君の体力と身体疲労の限界だ。次からは、限界の7割程に抑えるんだよ。守れる?」

 

「.....」

 

 

うん、これは絶対に守らないやつだ。まぁ、あの三人ならちゃんとしてくれるだろう。うん。と全力で他人任せする。

 

 

「あ、そうそう。あの三人はいろいろ厳しいと思うから、今日みたいな自由さはないと思ったほうがいいよ。特にリヴェリアはね」

 

「...ベルが、来てくれないの?」

 

「僕も僕ですることがあるからね。それに、一人の指導者より複数の指導者がいた方がいろいろ身につくからさ」

 

 

正直、初日に甘やかしずきたかなと思った。けど、とう過ぎたことなので今更考えても仕方ない。

 

 

「だけど、次からはちょっと厳しくしていこうかな」

 

「.....」

 

「そんな雰囲気を出しても変えないよ」

 

 

おぶさっているのでアイズのことは見えないが、不満げな空気を出しているのを感じ取る。基本的に無表情だが、感情はちゃんとあるらしい。

 

 

アイズが館を飛び出してから、もう長い時間が過ぎている。ホームに帰ったら、なんか怒られそうだなぁと予感する。

 

 

『遅い』

 

 

ホームの扉を開けると、仁王立ちで三人が立っていた。

冷や汗を流しながら、掻い摘んで今回のことを説明する。当たり前だが、こってり怒られた。もし全部言っていたら、これだけじゃあ済まなかっただろう。

 

 

「今日のことは二人だけの秘密だよ」

 

 

口に人差し指をあて、アイズにコソッとそう言う。

アイズもアイズでこってり怒られており、特にリヴェリアの怖さを知ったこともあって、コクコクと頷いた。

 

僕はそんなアイズの頭を撫でる。

 

 

「かなり汚れてるから洗ってくるといいよ。リヴェリア、頼める?」

 

「...分かった」

 

「ありがとう」

 

 

リヴェリアと女浴場へと向かっていったアイズ。ビクッとなり、僕を縋るような目で見てきたけど、どうにも出来ないので手を振って送り出す。

そして、僕も自分の汚れを落とすため男浴場へと向かった。

 

 

三人が居なくなり、部屋には二人が残った。

 

 

「...アイズの面倒を見てるときのベルって、完全におじいちゃんだよね」

 

「全くじゃ。女からしてみれば、あの見た目で祖父のような包容力は反則じゃろうな」

 

「庇護欲を掻き立てられ近づくと、逆にあの包容力にやられる。狙ってやってないんだから余計にタチが悪い」

 

「ここの団員もやられとるやつがおるしのぉ」

 

「さっきの場面で、リヴェリアにも頭を撫でてたら、僕は最高の酒を奢ってただろうなぁ」

 

「あんまりにもやりすぎると搾られるぞ」

 

「そのときはそのときだよ」

 

「全く...まだまだ子供じゃな」

 

「もう30代だけどね」

 

 

そんな会話をしていたなど、ベル達三人は知る由もなかった。

 

 

____________________________________________

 

 

 

今日も今日とて、前回のように自由にさせていた。

もちろん、戦うモンスターや同時に相手する数など問題の起こる可能性が低いようには選別を行っている。

 

僕、フィン、リヴェリア、ガレスと一周し、また僕へと戻ってきたわけだが、三人によるとなかなか大変だったようだ。

話を聞かずに特攻したり、限界ギリギリあるいは越えるまでしようとしたりと制御がきかないと。

 

今回を含め、僕のときはそれほど頭を抱えるような事態には陥ってない。何でかは分からないけど、手間が省けるのでありがたいことだ。

 

 

現在、ダンジョンから帰宅途中、グゥグゥゥウッとお腹が鳴る音がする。

音源の方を向くと、お腹をおさえるアイズが映る。

 

 

「お腹が減ったの?」

 

 

コクッと頷いたアイズ。僕は周りを見渡す。

お、ちょうどいいのがあった。

 

 

「なら、あれを食べに行こうか」

 

 

繋いでいた手をゆっくりと引いてその場所へ赴く。

 

 

「すみません、じゃが丸くん二つください」

 

「あいよ!」

 

 

それから少しばかり待ち、じゃが丸くんが渡される。

 

 

「熱いから気をつけてね」

 

「.....」

 

 

初めて見たのだろう。じゃが丸くんをずっと見つめている。

やがて食べる気になったのか、口へと運び食すアイズ。

 

その瞬間、ピクッと少し肩が跳ねた。相変わらず表情が乏しいのいので何を思ったのか分からない。

それからはもくもくと食べていき、あっという間になくなった。もしかしたら気に入ったのかもしれない。

そして、なぜか僕を見つめてきた。

 

 

「どうかした?」

 

 

そう聞くと、アイズの視線が僕の持っているじゃが丸くんに注がれる。

 

 

「もう一つ欲しいの?」

 

 

コクコクコクと、いつもより多い頷きが返ってきた。

この後は夕食がある。なので、あまり腹を満たしたくはないんだけど、アイズがこんなにも何かに興味を示すのは後にも先にもないかもしれない。

そう思い、もう一つ購入した。

 

 

ベルはアルフィアもといアイズにあまい。まるで孫のように接してしまっているのだ。

 

 

そしてまた、食べ終わったアイズは僕を見つめる。

 

 

「もう買わないよ?」

 

 

そう言っても見つめてくる。

うーん、どうしようか...

 

 

「じゃあ、ダンジョンで危ない事しないって言うなら、今日はもう無理だけど、また買ってあげる。守れる?」

 

 

...コク

 

 

長めの思考に落ちたが、ゆっくりと頷いたアイズ。

 

 

「うん、よろしい。じゃ、帰ろっか。みんなが待ってる」

 

 

帰る道中、僕は黒い笑みを浮かべた。

僕含めフィン達は、アイズを制御できる何かを探していた。

そして、見つけたのだ。

 

ホームに帰ってからこのことを伝えると、四人は笑みを浮かべるのだった。

しかし、使い過ぎては効果が落ちてくるので、ここぞ、という場面で使おうとなった。

 

 

 

 

 

 




ありがとうこざました。

次回、??

では、さようなら。


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第六話 アイズのランクアップ 遠征


厨二病バッチ来い!





 

 

side:ベル

 

 

ランクアップ期間は人によって変わる。二年と少しでする者や、五年六年と長くかかる者もいる。

 

ただ、稀にものすごい早さでランクアップする者がいる。

今から15年ほど前、アルフィアという名の少女が最年少、最速記録をたたき出した。その後も極めて短い期間にランクアップし続け、17歳にしてLv.7に到達するという快挙。

 

正直、これほどの天才が現れることは無いだろうと思っていた。のだが....

 

何故この話をしているかと言うと、だ。

 

 

「たった一年でランクアップ....」

 

「【静寂】を越したか...」

 

 

いつものように団長室に五人集まり(一人は、神ロキ)報告会が行われていたのだが、その際ロキ様からそんなことを告げられた。

 

 

「どういった経緯でランクアップしたんですか?」

 

「中層のモンスターそれも強化種を倒したらしい」

 

「中層?強化種?なんでそんなモンスターと戦うことに?」

 

「とある闇派閥(イヴィルス)の神がアイズを勧誘したらしい。当然としてアイズたんは拒否ったけど、拒否られたことで嫌がらせをしようと思ったんやろな。ダンジョンで神威を発動させやがったんや。ベルも知っとるやろ。神がダンジョンで神威を解放させたらどうなるか」

 

「それは知ってますが....その前に何故ダンジョンに神がいるんですか?...ああ、闇派閥(イヴィルス)の神でしたね」

 

 

本来ダンジョンに神がいるのはおかしいことだ。神がダンジョンに入ることは禁止事項になっているからである。もし破れば莫大な違約金か罰をうける。

ただ、闇派閥(イヴィルス)が活発化している暗黒期と称す今の時期は、邪神と呼ばれる神達が普通に出入りしているのだ。だけど、どこからダンジョンに入っているかは定かでない。

 

 

「アイズがここに来てからもう一年か...早いもんだね」

 

 

フィンがしみじみとそう呟いた。

 

 

「ああ、大変だったものだ」

 

 

この一年間本当に苦労したものだ。僕はそれほどだったけど、三人の苦労は僕の比ではなかった。

言うことは聞かない、すぐに特攻する、ほっとけば何日でも潜ろうとする。本当に大変だった。

 

余談だが、淡々とモンスターを倒していく姿は不気味であり、人形のような佇まいから【人形姫】と前々から呼ばれている。また、他派閥から『早々に死ぬだろうな』と言われるほどにモンスターへの執念が凄まじかった。

 

 

「しみじみ思ってるとこ悪いけど、アイズに関しては現在進行形だからね」

 

『ベル....アイズのことを頼む』

 

「いやなにサボろうと!?」

 

 

三人は声を被せて丸投げしてくる。フィン、ガレスはともかくとして、リヴェリアは絶対にダメだ。誰が女性の作法を教えると言うのか。

 

 

「だってベルと一緒のときは、僕たちといるよりずっと大人しいそうじゃん」

 

「フィン達に比べれば、ね。別に全然大人しくないから」

 

 

アイズは最初期からベルといるときは他に比べて暴れるようなことは少なかった。フィン達が言っても聞かなかったことをベルが言うと聞いたりと、ベルに対して何か通ずるとこがあったのかそれなりに大人しい印象を持たせている。

ベルも精霊の血が少し混ざっているので、そこにシンパシーを感じたのかもしれないが、大部分としては、ベルとの探索のとき他の人よりも自由度が高いというのがあるかもしれない。なので、反発することが少ないと思われる。

 

 

「アイズたんがランクアップしたんはもう一つの理由があんねん。誰かが入れ知恵したらしい。禁忌とされるランクアップの方法をな。それもあってのランクアップやろな」

 

「....アイズ大人気だね」

 

「呑気なこと言ってる場合では無い」

 

「分かってるよ、ママ」

 

「誰がママだ!」

 

 

リヴェリアはアイズを教育してからというもの、母性が爆発している。やり方が完全にお母さんなのだ。そんな様子から、僕達は''ママ''と呼んだりしてからかっている。

 

 

「あんまり弄りすぎると怒られるよ、ジィジ」

 

「....ガレス?言われてるよ?」

 

「お主のことじゃからな。なんで何も言わないの?といった表情でこちらを見てくるでない。もう一度言うが、お主のことじゃ」

 

「ちょっと何言ってるかわかんない」

 

「なんでじゃよ」

 

 

ベルに関しても、ジィジと呼びからかわれることがある。アルフィアが幼少のときから祖父のような包容力は顕著であり、アイズを世話するようになってから更に増した。手のかかる子ほどやりがいを感じるものなのだ。

 

 

「話を戻すとして、そろそろアイズにスキルのことを教えようか」

 

 

アイズには【復讐姫(アヴェンジャー)】というスキルがある。

当時荒れに荒れていた彼女にそのスキルを教えるのは危険だと判断し、五人はスキルの存在を教えるのを今は辞めておこうと決めたのだ。

 

 

「まぁこのことはベルに任せて、次の問題を話そう」

 

「ちょっと待って」

 

「ん?」

 

「いや、ん?じゃないから。何さりげなく押し付けてるの?」

 

「だってベルの言うことは比較的聞いてるでしょ。だから、注意喚起も含めて言ってもらおうかと」

 

「...さっきもこんなやり取りがあった気が...」

 

「気のせいじゃない」

 

 

意地悪く微笑んだフィン。その顔を見て、次の嫌がらせを酷く面白可笑しいものにしようと決意した。

 

 

「言っとくけど、僕はもう何をするか決めてるから、覚悟して仕掛けてくるんだね」

 

 

...なんで僕はポーカーフェイスが出来ていないんだ?完璧だと我ながら思ってたんだけど。「何年も一緒にいるんだから分かるよ」...なんか告白を受けたみたいで気持ち悪いなぁ。

なので、シッシッとフィンに払い除けるようなジェスチャーを送る。

 

 

「こんなことをしとるから一部の人らにあんなことを言われるんじゃ」

 

「仲がいいに越したことは無いがな」

 

「...お主は別の意味で、仲良くなりたいやなんでもないぞ」

 

ベルとフィンが言い争っている脇で、ガレスがリヴェリアに処されようとしている、なんとも可笑しいな光景。相変わらず仲がいい意味でも悪い意味でも良い。

 

 

「毎回思うんやけど、ウチのセリフ少なない?」

 

『気のせい気のせい』

 

 

話を戻すとして、アイズがランクアップしたのは僕達が『遠征』に行っていた時だ。

そして、だ。今まで戦闘シーンなど書いてこなかったので、ここでこの『遠征』で起こったことを簡潔に書こうと思う。

 

あれ?誰に言ってるんだろう?

 

 

____________________________________________

 

 

現在、僕達は中層にいる。

もうLv.5にもなってる僕達は手こずることの無い階層なのだが、そんな中層で本気を出す者がいる。

それは誰かと言うと...

 

 

「またやっとるのぉ...」

 

「...フィンの気持ちを考えれば分からんでもないがな」

 

「...僕も早くフィンに似てるモンスターを探さねばっ...!」

 

 

状況説明すると、中層で現れるとあるモンスターをフィンが全力で討伐してる、というもの。

そのモンスターとは、アルミラージだ。白いフサフサの毛に深紅の瞳。また、種族はほぼ(うさぎ)という。つまり、ベルの容姿や兎という雰囲気に似ているのだ。

 

ベル自身、ずっと昔からアルミラージというモンスターを知っていたが、フィン達はLv.2になって中層進出し初めてアルミラージを見た。そのとき『...ベルだ』と発言している。そう思わせる程に似ているといっても過言ではない。

 

そして、だ。何故フィンが全力で討伐しているのかと言うと...、ベルとフィンは嫌がらせをしあう仲で、日々どうやってアイツを困らせようかと考えている二人なのだ。当然両者、してやられた!?という時があり、勝負している訳では無いが、負けたと思うこともある。

 

そんなとき、ベルに似ているモンスターがいるとなれば、ストレス解消に使わないなんてことは無いだろう。

そう、つまりそういうことなのだ。...どういうこと?

 

 

「ハハっ...スッキリしたよ」

 

「...どこか、何処かにフィンに似ているモンスターはいないのっ!?」

 

 

大量発生していたアルミラージを団員に任せず全て倒し、やり遂げた満面の笑みを浮かべる。

その少し離れた場所で、今まで遭遇したモンスターを必死に思い出そうとするベルがいた。

 

これはダンジョンに行けば、毎回起こる行事。もはや《ロキ・ファミリア》の名物となっている。

 

余談だが、ベルを想ってるリヴェリアはアルミラージを撫でてみたいと思ってる節がある。モンスターじゃなくて、本人を撫でればいいじゃんと言う話になるが、本人曰く『恥ずかしてくてできるか!』とのこと。

ガレスは思った。こんなんだから行き遅れるのだと。

 

 

____________________________________________

 

 

《ロキ・ファミリア》は到達階層を更新するのに力を入れているが、近年行っている『遠征』はあまり力を入れていない。理由としては、闇派閥(イヴィルス)が活発化しているのがある。いつ本格的に行動を起こすか分からないので、長い間ホームを開けていられない。

なので今回も、その階層に到達したと表す鉱石やモンスターのドロップ品を入手し帰還した。

 

まだまだ下層も下層にいたときだった。僅かに地響きがおこり、それが次第に大きくなっていく。

ここでフィンが察知する。

 

 

「不味い!怪物進呈(パス・パレード)だ!」

 

 

怪物進呈(パス・パレード)。冒険者が自分達に襲い掛かって来たモンスター達を他の冒険者達に押し付けていく行為をそう称する。

ただ稀に、天然の怪物進呈(パス・パレード)が起こることがある。

 

今いる場所はあまり広くない一本道だ。挟み撃ちされれば面倒くさい場所。救いなのは両方からでわなく、音からして後方からしかモンスター達が押し寄せてきてないこと。

これならば、無駄な戦闘をせずに逃げればいい話だ。

 

 

「みんな戦闘は回避するんだ!早急に撤た『魑魅(すだま)の遠吠えに怯え――ー』なっ!?」

 

「こんなとこでそれを放つつもりか!?」

 

「無茶が過ぎるわい!?」

 

 

フィンが撤退の指示をしようとするのを遮るように、魔法を詠唱し始めたベル。他の面々は驚愕の声を上げる。

 

 

「くっ...ベル以外の者は撤退するんだ!急げ、巻き込まれるぞ!」

 

 

ベル以外の《ロキ・ファミリア》は立ち止まったベルを追い越していく。

《ロキ・ファミリア》の面々に不安などなかった。むしろ、またベルさんの無茶が始まった、程度しか思っていない。

 

 

『恐れる必要はない。これは自由への導となろう』

 

 

魔力が迸り、髪が服が(なび)く。

そして、それほど高くもない天井に魔法陣が浮かび上がる。

 

 

『轟け、雷霆。唸れ、稲妻。邪魔を打ち払う、退魔の光となれ』

 

 

魔力が膨れ上がり、魔法陣がバチッバチッと光り鳴る。

ベルの周りには黄金色の魔力が陽炎の如く舞う。

 

 

「綺麗.....」

 

 

誰かがそう呟いた。

撤退しながらも、チラチラと後方をみる《ロキ・ファミリア》。ベルに対して尊敬してる者達、惚れている者達、それぞれの想いはあれど今はその光景は目に焼き付けていた。

 

 

『降り注ぐは黄金の(いかずち)!灰燼に帰せ!』

 

 

『【レジナ・サン・ガウェスト】』

 

 

ッドッッゴォッッッッ!!!

 

 

幾数もの黄金に輝く雷が落ちた。

眩い閃光が走り、空洞状もあって鼓膜を破きそうなほどの轟音が爆発する。空気が地面が壁が天井が全てを揺らし損壊し、まるでそれは終末を錯覚させた。

 

普段の威力ならばリヴェリアとさして変わりないが、『護る』となれば補正が掛かり、アルフィアの大魔法にとどく程の威力に跳ね上がる。

 

そして今、ベルはスキルの効果で雷を纏う。

 

 

ベルの魔法により、あれ程いたモンスターらが半分以上消滅した。だがしかし、依然として残りのモンスターらが押し寄せてくる。

ベルは残ったそれらを倒すため、押し寄せてくるそれらに向かって駆けた。手は刀に添える。

 

 

『時雨流』

 

 

ベルを起点に周りの空間がバチッバチッと鳴る。

''帯電摩擦''。ベルが光速で動いたことで魔力電子同士が擦り合わされ、帯電したのだ。

ベルはモンスターらの中心に向けて低空跳躍、そして、抜刀し振り上げる。

 

 

『雷燼斬』

 

 

シン...ッバチッン!!

 

 

振り下ろされた刀によってそのモンスターは真っ二つになる。

そして、振り下ろされた刀を起点に魔力電子の負荷が極限にまで高まり...、空間に残っている電子から電子へと、鋭い閃光が円状に駆け巡った。

 

やがて、その電閃に穿たれたモンスターらは灰となって消滅。全てのモンスターが魔石となった。

 

 

アルフィアは【福音(ゴスペル)】を放った後に、スペルキー【炸響(ルギオ)】を使用することでその場に残っている音の魔力を起爆させるとこを何度か見たことがある。

これはそれを剣技で模倣したものだ。

 

 

この''合わせ技''は、フィン達含めここにいる団員全員が初めて見る。

ベルもこの技は、以前個人で行った38階層にある『闘技場(コロシアム)でしか使っていない。

皆がみんなして、呆気にとられていた。魔法の相変わらずの威力はさることながら、初めて見た''何か''に処理が追いつかない。

 

 

このことで一悶着あったが、長くなりそうなので割愛させていただこう。

ただ一つ言うなら、リヴェリアに遠慮していた幾らかの女性団員が少しずつ動き出したことを追記しておく。

 

 

 

 

 




ありがとうこざいました。

Lv.5 (『護る』の発動中)

アルフィアの大魔法≧ベルの魔法>リヴェリアの魔法。

いずれ、番外編を書きます。

次回、??

では、さようなら。



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0巻 (アストレアレコード編)
第七話 序章



シリアスが続くので、ちょっとほのぼの会的な話です。

あ、アストレアレコード突入です。




 

 

無窮の夜天に鏤む無限の星々

それらは変わることなく見つめている。

大地の記憶を、人類の歴史を。

怪物の出現。

英雄たちの台頭。

神々の降臨。

そして.....

秩序の象徴たる最強の二柱が堕ち、

怪物を屠るため鍛えられた武器、練られた魔法が

同じ人類を排するために使われた

後に【暗黒期】と呼ばれる時代も。

星々は変わらず見つめていた。

無数の生命の煌めきを。

暗闇に宿る正義の輝きを

 

遠き森より出でし 妖精の少女(ともがら)の戦いを (公式抜粋)

 

 

____________________________________________

 

 

人智を超える力を手にしたとき何かしらの代償が課せられ、欲すれば欲するほど代償は重くなる。また、力度合いによっても大きく変わる。

 

例えば、当時十五歳にしてとある事(割愛)をきっかけに強力な身体能力を手に入れた少年は、不老という代償を受けた。人によっては良いと思えるかもしれないが、''別れ''というものを知ってしまったベルにとっては辛いものだった。

 

また、神話時代以降最も才能に愛されたアルフィアという女性は、治すことの出来ない大病を代償として生まれつき持ってしまった。

 

 

覚悟なんかする間もなく縛られる。このことを多くの者は知らないだろう。なぜなら、人智を超える力を手にできるのはほんの一人握りなのだから。

 

 

____________________________________________

 

side:ベル

 

 

「今月まだ中頃なのに、もう二十件近い闇派閥(イヴィルス)による無差別攻撃が起きている。ベルがいち早く駆けつけているとはいえ、同時に仕掛けられては対処が遅れ少なくない被害者がいるのは紛れもない事実だ。そして、無差別に思える攻撃には明らかに自分達の意図を隠そうとしている。はぁ...一体何を隠してる?」

 

 

団長室にて、報告書を読むフィンが顎に手を当て問題に悩まされていた。

八年前、二大派閥が壊滅してからというもの、闇派閥(イヴィルス)の存在が顕となり対処が行き届かず多くの被害がでた。そして今、その当時程ではないが活発化、付随して被害が出ている。

 

 

「ベル、大丈夫か?」

 

「うん。全く問題ないよ」

 

「だが...」

 

 

ベルの隣にいたリヴェリアがベルへと目を向け、心配しているといった表情を浮かべ様子を聞いた。

リヴェリアが心配するのには理由がある。

 

守護者(アレグサンダ)』という存在に勝手に過度な期待をよせ、勝手に裏切られたという思いをする人によって恨まれ苛まれている。ただ、それに関してはあまり気にしていなかった。古代のときからそれは日常茶飯事で、他人の思い込みからの非難だからだ。

 

ベルが暗い表情を浮かべるのは、護れなかった救えなかったという後悔と自責である。これは古代からずっと抱えている苦い想い。決意した想いをまるで否定されているかのように現実が打ち寄せてくるのだ。

 

 

「お主はいつ寝とるんじゃ?一日中警備にあたっておるが」

 

「ずっと巡回してるわけじゃないよ?時間があれば休んでる」

 

「それは休んでるとは言えないよ。それと、近年は共に食事をすることが少なくなってきてることを自覚してるかい?団員が、ベルさんとの食事が減ってきて悲しいですって言ってたよ」

 

「それは悪いことしてるなぁ、って自覚してる」

 

 

朝昼晩時間場所を問わず動く闇派閥(イヴィルス)。室内に居れば、その分時間をロスしてしまう。

よって、寝るときは外で座って寝たり、食事も週に一回共に出来ればいいというぐらいまで減っている。

 

 

「まぁ僕のことはおいておくとして、フィン、何がそんなに気になるの?」

 

「シャクティ達の連絡によると、襲撃された工場から魔石製品の『撃鉄装置』が奪われているらしい」

 

「そんなもの何の材料にもなりえんだろうに。意味がわからん」

 

「.......」

 

「ベル、どうかした?」

 

「...いや、なんでもないよ。ただ、爆弾かぁと思ってね」

 

 

僕は個人で『撃鉄装置』を何故盗んでいるのか情報を集めていた。しかし、核心に迫る手がかりを見つけることは出来なかった。

でも、一つの思惑に気づく。『撃鉄装置』、エルフの森の『大聖樹』、デダインでの暗躍。普通に考えれば点と点が繋がらないように思えるが、少し視点を変えれば分かることもある。

だけど、これを言うならもう少し情報を精査してからにしとこう。それはあまりにも絶望きわめているから。

 

 

「話は変わるけど、ベル、君は一体ライラに何をしたのかな?」

 

「え?なんの事?」

 

「へぇ、しらばっくれるんだ。なかなか勇敢なことするね」

 

 

しらばっくれているが、バリバリ心当たりがあるベル。これはいつもの嫌がらせなのだ。

僕は以前、ヘルメス様から強制的に渡された''男を活性化させる薬''を、ライラに『フィンと頑張れ』と言って渡したのだ。

彼女は黒い笑みを浮かべ喜んでいた。玉の神輿を狙う彼女にとってアレは都合のいいものだったからだ。

 

ヘルメス様もヘルメス様で何であんな物を渡して来るのか分からない。本当にやめて欲しい。何かの間違いでアストレア様の耳に入って、勘違いされたらどうするんだ!

 

ここで悲報だが、アストレアには普通にバレている。眷属であるライラに渡しているのだから耳に入らないわけがなかった。ただ、アストレアはベルの事情を把握しており、ヘルメスを(なみ)すんでいる。

 

 

「さて、これはなんでしょうか?」

 

 

すると、フィンはヒラヒラと束の羊皮紙を見せてきた。

そ、それは....!?

 

 

「えぇとなになに...愛しのアストレ「せぇえええええええええええええええぃいっっ!!!!」おっとっと。危ないじゃないか」

 

「なんでそれを持ってるの!?」

 

「部屋に入った」

 

「プライバシーっ!!」

 

 

フィンが持っているのは、時間があった時夜な夜な綴っていた、『愛しき者への愛の手紙(ラブレター)』だった。

ぐぁああぁ、見つからないよう引き出しの奥にしまってたはずなのにぃぃぃぃっ...!

 

 

「手紙って...案外子供みたいなことするんだね」

 

「仕方ないでしょ!?どうすればいいか分かんないんだから!」

 

「というか、これいつから書いてるの?何回も書き直してるようだけど。それに見た感じ、渡してないよね」

 

「...だって、アストレア様の素晴らしさを表そうとしても僕の稚拙な語彙力じゃ言い表せないんだもん!」

 

「キモイよ。言動が」

「醜いな。全てが」

「愚かじゃのぉ。思考が」

 

「皆して酷くない!?」

 

 

残念な子をみるような目で見下ろしてくるフィンとガレス。リヴェリアに至っては完全に軽蔑していた。

そんなとき、コンコンと扉のノック音がなった。

 

 

「会議中すまn...なんで崩れ落ちとるんや?」

 

「グスン...なんでもないです」

 

 

断りをいれながら入ってきたロキ様は僕をみて不思議そうに問いかける。一通り見渡してから、「ああ、いつもの(嫌がせ合い)か」と納得する。

 

 

「フィン、それを儂にも見せて貰えんか」

 

「私も見させてくれ」

 

 

あのベルがどんなことを書いてあるのか気になる二人はフィンから羊皮紙を受け取る。

少し読んでから呆れたようにガレスは呟いた。

 

 

「拗れとる。拗れに拗れまくっとるわ」

 

「...そうか?私はいいと思うが」

 

「...ここにも拗れとるやつがおったわい...」

 

「なぁ、さっきから行き遅れ四人で何しとんや?」

 

『あ?』

 

「すんませんっ!!」

 

 

ロキは腰を120度曲げた。

 

 

「で、ライラとはどうなったの?」

 

「親指の疼きに感謝だね」

 

「チッ...!」

 

「はっ倒すよ」

 

 

 

____________________________________________

 

 

 

「アストレア様!これはどうします?」

 

「それは細かく切っておいて」

 

___________

 

「アストレア様!これは?」

 

「それはもう鍋に入れておいて」

 

___________

 

 

「アストレア様!もうそろそろですか?」

 

「ええ、そうね。助かるわ」

 

___________

 

 

「アストレア様!好きです!」

 

「ありがとう。私も好きよ。''子供''として」

 

「ぐはぁっ!」

 

 

ですよねぇ...!と言いながら撃沈するベル。

現在、《アストレア・ファミリア》《デメテル・ファミリア》主催のもと、炊き出しの準備が行われている。

子供たちが頑張っているのに、神である私が何もしないでどうする、という意志のもと定期的に開かれているこの炊き出し。

 

それで、だ。

何故ベルがいるかと言うと、アストレア大好き人なベルにとって、逢える、アピールできる数少ない機会だからだ。

 

 

「『守護者(アレグサンダ)』様は相変わらずアストレア様のことが好きでございますなぁ」

 

「くっ...あの『守護者(アレグサンダ)』様とはいえ、私たちの主神である愛しきアストレア様の隣を独占するのは許せないわ!べェルゥ〜っ!!アストレア様にアピールし過ぎよ!するなら私にしなさい!」

 

「貴方は何を言ってるのですか、アリーゼ」

 

 

《アストレア・ファミリア》主催なのだから当然眷属達もいる。

 

極東出身で、着物を着ており黒の長髪をした少女。名を、ゴジョウノ・輝夜。お淑やかな見た目や言葉遣いだが、それは猫かぶりであり裏はかなりイカつい(現実主義)

 

緑の瞳を持ち、滑らかな赤髪をしたポニーテールの少女。名を、アリーゼ・ローヴェル。非常に活発で底向けに明るく、周りを呆れさせるも笑顔にする天賦の才を持っている。そして、残念美少女と呼ばれてたりする。

 

蒼の瞳に翠色の髪をしたエルフの少女。名を、リュー・リオン。排他的かつ他種族への蔑視や見下しに嫌悪を抱いるようだが、自分もその者達と変わらない という悩みを持っている。

 

 

「アリーゼはホームで幾らでも一緒にいられるじゃん。だから、今ぐらい僕に譲ってくれてもいいと思うんだけど。ていうか、最後のはちょっと何言ってるか分かんない」

 

「いつなんどきも居たいのよ!それと最後のは、あの『守護者(アレグサンダ)』様に好意を抱かれてるってなったら評価爆上がりするじゃない?それに憧れの人と共に人生を歩んでいけるなんて、なんて素敵なのかしら!」

 

「最低なネームバリューだよ」

 

「ほら二人とも、手を動かしなさい」

 

『イエスマム!』

 

 

この二人、アストレアのことになるととても相性がいい。

 

 

「ねぇ、ベル。本当にアストレア様って美しいわよね。もし私が男だったら絶対襲ってたわ。女である人生でも、たまに襲いかかろうとしてしまうもの」

 

「君が男じゃなくて良かったと心の底から思えたよ。まぁ、僕も我慢出来ないね。あれはヤバい」

 

「おい、誰かコイツらの手足縛るから手伝ってくれねぇか。ガネーシャんとこ突き出すからよ」

 

『やめてください、ライラさん!!』

 

 

こんなことを言われていても、軽く流しているアストレア様は流石と言うべきだろう。まぁ、神界に居たときの方がよりやばい男神がいただろうから慣れているというのもあると思うが。

 

 

それからもワイワイと言いながら炊き出しを進めていった。その間、住人は笑顔であり、今となっては数少ない笑顔が咲きあふれている光景だった。

 

 

ああ...やっぱりみんなの笑顔を見るのは好きだなぁ...

 

 

____________________________________________

 

 

炊き出しが終わり、いつものように巡回していると『ごあぁぁー!』という悲鳴が響いた。

僕は闇派閥(イヴィルス)か!と思い、音源へと全速で駆けつける。

やがてその場所に着くとそこに居たのは、拳を血で染めたアスフィさんと、血を流して壁に突っ込んでいるヘルメス様だった。

面倒を感じ取った僕は直ぐに反転して歩みを進める。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれベル君!オレを見捨てないでくれっ!!」

 

 

今日も相変わらず曇天だなぁ。

 

 

「ベルくぅうううううんんんん〜っ!!!」

 

 

___________________

 

 

「変な冗談を言うからそんなことになるんですよ」

 

「それがオレだからね」

 

「胸を張ることではないですよ」

 

 

何故ボコられていたのか経緯を聞いた僕は呆れ返る。まぁ、これがヘルメス様クオリティだから今更だけど。

 

 

「で、アスフィはなにが気にかかっているんだい?」

 

「...最近の闇派閥(イヴィルス)は妙に活発です。略奪に信者による強奪を抜きにしても限度があるはず...」

 

「簡単さ。豊富な資源を沢山持っている者たちの協力があればな」

 

「まさか...商人!?」

 

 

オラリオに数多の資源を届けてくれる商人達。そんな人達が今、悪を援助し絶望の欠片を都市へと運び込む密輸人となっている。

 

 

「で、ですが、何故商人達が...?」

 

「オラリオではダンジョンに関わる商売は制限されている。権利を独占するギルドが落ちれば、自分たちが牛耳れるイェイ!、とでも思っているのかもしれない。だが、ここで一つの疑問が生じる」

 

「何故、商人達は闇派閥(イヴィルス)に投資しているのか、ということですね」

 

「ああ、そうだ。今になってこぞって支援し始めた真意が分からない」

 

「確かに...」

 

 

この状況下、アスフィ一人だけが置いてけぼりを食らっているかのように話が進む。

 

 

「推測になるが...『冒険者に代わる勢力』が加わった、からじゃないだろうか」

 

超硬金属(アダマンタイト)の壁をぶち破った剛腕の人物。とある上級冒険を一瞬で戦闘不能にした高位の魔法使いの存在」

 

「そう、ベル君の言った通り闇派閥(イヴィルス)の背後には、確かな『強大な存在』がいる。これならば強引だが、商人達が投資する気になった理由に理屈が通る」

 

「僕は二つの話を聞いてから確信したことがあります」

 

「ああ、そうだなぁ。ベル君とオレ達(神々)とでは思考は同じだろうけど、思い当たっている人物が違うだろう」

 

「お二人共、何を言って...?」

 

 

どんどんと話が進み、自分勝手に納得 完結する二人にアスフィは戸惑う。何を考え何を口にしているのか全く理解出来ない。

 

 

「見え隠れしているんだよ、裏で全ての糸を引いている」

 

 

 

 

「厄介な『神』の影が」

「堕ちた最恐(二人)の亡霊が」

 

 

 

____________________________________________

 

 

とある建物の屋上。そこには一人の男が居た。

巡回を一度切り上げ、休憩している最中だった。

 

 

「はぁ...闇派閥(イヴィルス)は本当に''それ''をするつもりなのかな?もししたとして、世界が破滅に向かうのは必至だと分かっている筈なのに」

 

 

今までの経験や情報を精査し、導き出した解。

ただ、闇派閥(イヴィルス)の真意が分からず疑問が悶々と頭を埋め尽くす。

 

と、その時。

僕の背後でふわりと誰かが舞い降りた。

 

 

「こんにちは」

 

「こんにちは、アサナシアさん」

 

「また悩んでいるのね」

 

「解を導けても、相手の真意が掴めないので」

 

 

可愛らしく微笑まれ、顔を逸らしてしまう。

美人なんだけど、笑ったら可愛いというスペックは本当にずるい。と内心呟くベル。

 

三年前に知り合い正体を知った今、気兼ねなく話し相談したり助け合ったりと支え合う間柄となった二人。かなり良い関係が築けている。

 

 

「でも、それも分かる事じゃない。だって''もう少し''で起こるんでしょ?」

 

「ええ、''あと少し''で始まります」

 

 

 

 

『悪と正義の戦争が』

 

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

アストレアレコードという神作をなるべく穢さないよう励みますので、ご了承ください。

次回、大抗争

では、さようなら


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第八話 胎動


まだ序章です。
次から物語は始まります。
この話はこの創作の根幹を否定するような出来となってますが、ご了承ください。

また、大抗争には入っていません。



 

 

その男は家族を失い絶望した。泣きに泣き心を閉ざした。

だけど、彼は立ち上がった。自分のような悲劇が起きないよう厄災から護ろうという想いを掲げ。

ただ、彼はひ弱で非力だ。人である限り限界がある。これが幻想であることは分かっていた。

それでも彼は歩んだ。

 

数多の''英雄''と出会った。それが彼の刺激、転機になったのは言うまでもない。

 

 

 

そして現在、護るべき存在(あの二人)である人達と戦わないといけない。

こんな無情なことがあろうか?いや、ないだろう。

 

二人は僅かな命を持って世界の悪になると覚悟を決めた。なら、彼もその覚悟に敬意を表し正義を掲げる。

 

 

ああ...始まる。正義と悪が交差する戦争が。過去と未来を繋ぐ想いが交差する抗争が。

 

 

____________________________________________

 

 

side:ベル

 

 

ギルドや《デメテル・ファミリア》を主としてたまに行われる炊き出し。僕とガレスを筆頭に《ロキ・ファミリア》の戦闘員を何人か連れて炊き出し場へと赴いていた。

 

今日、《ロキ・ファミリア》らは闇派閥(イヴィルス)の拠点を叩く。ただ、全員向かわせるわけではない。叩く際に、他の場所で襲撃される事も鑑みて僕達が警戒にあたるのだ。

 

 

「ベル、お主はどこまで戦況が見えておるのだ?」

 

「何を思って問いかけてきてるか分からないけど、''全く把握してないよ''」

 

「嘘じゃな。お主の推測はフィンを超す程じゃ。個別でいろいろ嗅ぎ回っておるのだろ?」

 

闇派閥(イヴィルス)は手強いね。核心に迫る情報は得られなかったよ」

 

「.......」

 

 

訝しい目を向けてくるガレス。最近のベルの様子がおかしいことに疑問を抱いていた。

 

「でもそうだね...ガレス。何時でも動けるように意識しといてね」

 

「どういう事じゃ?」

 

「知ってる?夢や希望が溢れているところほど、絶望の接近に気づかない。そして、(彼ら)にとってそんなところをぶっ壊すのは、どんな快楽よりも気持ちいいものなんだよ」

 

 

ベルは空を見上げる。

今日は眩しいくらいに晴天だなぁ。まるで何かの前触れを表しているかのようだ。

 

ガレスは見ていた。ベルが無意識のうちに、刀に手を添えていたのを。

 

 

____________________________________________

 

side:???

 

 

「久々にいい天気じゃねえかぁ〜。まるで私達の門出を祝福してるみてぇだなぁ」

 

 

その女性は空を見上げて嗤う。

そのとき、ドンっと肩がぶつかった。

 

 

「おっと、すまない。肩がぶつかってしまった」

 

「おう、気にすんな」

 

 

ザシュ...!

 

 

「がぁっ...!」

 

「これでお互い様だ」

 

 

呻き声を上げ崩れ落ちた男性。地面が紅く染まる。

通り行く人達はそれを見て、察せられずにはいられなかった。

 

 

『きゃああああああああああああああああっっ!!!』

 

 

悲鳴が響き渡る。

今日は久々に晴れた日だった。ギルドや《デメテル・ファミリア》主催の炊き出しも行なわれるし最高の一日になるだろうとみな思い願っていた。

 

だけど、だ。

蓋を開けてみればどうだろうか。開けた瞬間、絶望がびっくり箱のように飛び出してきた。

 

 

「辛気くせぇなぁギルドの糞共。宴なら私達も手伝うぜ。そこら中に真っ赤な果実をぶちまけてな」

 

 

そこからは地獄だった。

次から次へと斬り伏せられていく住民。悲鳴を上げる間もなく命を刈り取られる。絶望すらさせない。立体機動の如く駆け回るその女性は狂喜で満ちていた。

 

 

「ヒァッハハハハハハハハハハハハハ―――あ?....っ!これ――ガハァッ!!」

 

 

そのとき、空に大きな魔法陣が描かれた。その女性にとってとても見覚えのあるもの。

彼女は空に写った魔法陣に気を取られ、それによりその存在の接近に気づくことが出来なかった。

完全な不意打ちに防御.受け身を取ることすら出来ず建物にドッガっ!!と音を立てて激突する。

 

そして、次の瞬間だった。

 

 

ッドッッゴォッッッッ!!!

 

 

と、耳をつんざくほどの音が爆発した。

オラリオに居れば誰もが何度も見聞きした轟音と閃光。護るべき存在には当たらず、排除すべき存在だけを穿つ雷属性の魔法。

今このとき、住民は何を思いどんな表情をしているだろうか。

 

 

道の真ん中にその存在が静かに降り立った。その男性は辺りを見渡す。血を流し倒れている住民。それはあまりにも残虐で見るに耐えれるもので無く、悔しさと不甲斐なさに唇を強く噛む。

また、闇派閥(イヴィルス)の信者らも焼け焦げ倒れていた。

 

 

「ヒャハっ.....!『守護者(アレグサンダ)』様のご登場じゃねぇかっ!相変わらず便利な魔法なこって...クソウゼェ!!」

 

 

ガラガラと瓦礫から出てきた女性。殴られ魔法に穿たれたことで血に染まっているが、そんな事意にも介さず歪に嗤う。この状況を楽しんでいるのだ。

 

 

「ヴァレッタ、僕には聞きたいことがあるんだ」

 

「あ?」

 

「どうやって脱獄したの?」

 

 

以前対峙したとき、ベルはヴァレッタを気絶させ牢獄にぶち込んだことがある。だが暫くしてから、''いつの間にか脱獄していた''という報告を受けた。

正直、警備が厳重だとしても無理をすれば全然脱獄できるような牢獄だ。だけど、一切の騒動なく逃げ出すには難しいはずであった。

 

 

「はっ、教えるわけねぇだろ。でもまぁそうだなぁ...てめぇの首をくれるってんなら教えてやらんこともねぇかもな」

 

「なら無理やりにでも聞かせてもらうよ」

 

 

音もなく姿を消したベルはヴァレッタとの距離を詰める。それはあまりに静かであり不意であったため反応が遅れる。

 

 

「チっ!」

 

 

ヴァレッタは舌打ちをし、闇派閥(イヴィルス) の信者を盾にした。だが分かっていたかのようにベルは信者を横に蹴り飛ばすと、その流れにのってカカト落としを決める。

あまりにも華麗で速すぎる動作に不完全な防御しか取れず踵が脳天へと叩き込まれた。

 

 

「ガッ!!?」

 

 

と呻き声を上げ、地面に叩きつけられるも威力のあまりバウンドしてしまう。

そんな空中に浮いた無防備な隙をベルが逃す訳もなく、流麗な動作で回し蹴りを溝内へとぶち込んだ。

ぐはっ!と吐血し大きくくの字に身体をひしゃ曲げながら、再び勢いよく建物へと衝突した。

 

闇派閥(イヴィルス)の幹部、ヴァレッタ。二つ名を『殺帝(アラクニア)』。

Lv.5という現在オラリオにいる最上位冒険者の一人。八年前からオラリオを恐怖に陥れている人物である。

そんな人を、まるで赤子を捻るようにダメージを負わせていく。

 

 

「ゲホッゲホッ...ガフッ...ガッ....!ハァ...ハァ...この、バケモンが!」

 

 

恨めしい顔で睨みつけるヴァレッタ。全然対応出来なかった威力速さに戦慄していた。

だが、彼女は意識があった。以前ならこれほどのダメージを与えた場合気絶していた。悔しさを糧に成長しているということなのだろう。

と、そのとき増援が駆けつけてきた。

 

 

「すまん、ベル!遅れてしもうた!」

 

「ガレスは闇派閥(イヴィルス)の信者達をお願い。でも気をつけて。魔法で無力化してあるとはいえ彼らは魔剣持ってる。だから魔剣を奪うか.......最悪の場合は天に還らせてあげて」

 

「あい分かった!信者どもはワシに任せてヴァレッタに集中せい」

 

「ありがとう。《アストレア・ファミリア》 は住民の避難指示及び誘導と怪我人の保護に当たって」

 

『了解!』

 

 

ベルはテキパキと各人に指示を送る。その際、ヴァレッタから視線を外すことは無い。

そんなベルをみてヴァレッタは薄く嗤う。

 

 

「流石はかの『守護者(アレグサンダ)』だ。信用されてるぜ。それを壊したくなるのは私の性だな」

 

「もし壊れたとして、君に何の得があるの?」

 

「テメェの歪む顔が見れるっ」

 

「...残念だけど、皆からの信用が無くなったくらいで何とも思わない」

 

「ヒァハ!いいねぇ...俄然歪ましたくなった」

 

「君の性癖は置いておくとして、時間稼ぎはもう終わりだよ」

 

 

再び動こうしたベル。だがその前に、ヴァレッタは無表情となり問いた。

 

 

「テメェはなんで私を殺さねぇ。いや、私だけじゃない。やろうと思えば闇派閥(イヴィルス)を根絶やしにすることもできるはずだ。テメェは何を企んでいる?」

 

 

それは至極真っ当な疑問だった。確かにベルほどの実力があればヴァレッタを殺すと仮定した場合、十秒もあれば十分。だけど、ベルはそれをしない。

 

 

「...君に殺された人達はどれほど苦しかっただろうか。どれほど痛くて痛くて辛かっただろうか。それを''する''側の君は知らない。死んでゆく人達の痛さも苦しみも、残された人達の悲しみを知らないまま楽にさせるわけないよ。とある人の言葉を借りて言う。『簡単に死ねると思うなよ』」

 

「...民を護る『守護者(アレグサンダ)』様の言葉とは思えねぇな」

 

「僕もただの人だということだね」

 

「...そうかよ...なら死ね」

 

 

その瞬間、ベルの視界が炎に水に風に土に雪に雷や光、闇と様々な輝きで染まった。

それは魔剣による魔法攻撃だった。何十本もの魔剣が振られ、並の冒険者の魔法を越す強力な魔法が全方位からベルを襲う。

 

 

ッドッッッガッッッッ!!!

 

 

ヴァレッタは言った。

闇派閥(イヴィルス)を根絶やしにすることが出来るはずなのに、何故しないのかと。

 

確かにベルが全力でやれば可能だ。

だけど、だ。

それでは人は成長しない。人とは成長する生き物であるが、成長するためには問題や試練を乗り越える必要がある。それを全て摘み取ってしまっては成長する機会が失ってしまう。しかし、それにはもちろん犠牲がつきもので、関係のある者は悲しみ泣き崩れるだろう。

 

人は憎しみ、恨み、悲しみ、苦しみ、恐怖、不安といった負の感情を、世界は甘く出来ていないのだと 平和ではないのだという認識を持たないといけない。そして何度も言うがそれらを乗り越え、いつか来たる本当の絶望に立ち向かわなければならない。

 

そして、だ。

''僕の役目は終わりつつある''。いつまでも守り続けれるわけではないのだ。

だからこそ、民にはこれからは護られる側ではなく護る側になってほしい。

ただ、この願いは自分の想いを反しているだろう。それでもしないといけない。停滞する世界を動かすためには。

 

 

煙がはれたころ、ベルの姿がようやっと見えてきた。

ガレスや《アストレア・ファミリア》の彼女達はベルなら大丈夫!と思っていても不安でハラハラしていた。

 

 

「逃げられちゃった...」

 

 

そんな呟きがあった。

先の魔剣による魔法攻撃は辺りを黒く焼き焦がせる程の威力だった。そう、''焼き焦がせる程''の威力しかなかった。

本来であれば、数十本もの魔剣が生んだあらゆる属性魔法が増幅を重ねここら一帯は吹き飛んでいたはずだった。

だが、そうはならなかった。ベルが剣技を用いて威力を激減させたからだ。

 

煙から出てきたベルは傷一つなく、何事も無かったかのように表情は変わっていない。

はぁ...闇派閥(イヴィルス)が魔剣をあんなに所持していたのは予想外だったなぁ...今回は僕一人への攻撃だったから良かったものの、もし無差別攻撃だったらどうなっていたことだろう....そう嘆くもタラレバの話をしても意味が無いので思考を切り替える。

 

 

「また対人用『レジナ・サン・ガウェスト』の威力も上げないと」

 

 

『レジナ・サン・ガウェスト』で穿いても完全に無力化出来ていなかった。魔剣を撃ってきたのがそれを表している。最後の一振り、と言うべきか...

やはり対人の威力調整は難しい。

 

と、そのとき住人の一人がベルへと近づいた。

 

 

「なんでもっと早く来てくれなかったのよっ!【守護者(アレグサンダ)】と謳われるお方なんでしょ!なら護ってよ!!貴方様がっ...貴方様が護ってくれなかったから...わたっ、私のっ...!私のっ!!...あああああああああああああっ!!!」

 

 

顔を真っ赤にし涙を流しベルの胸元を掴みながらそう叫ぶ女性。途中で耐えきれ無くなったのか崩れ落ち泣き叫ぶ。

 

ベルは予知者では無い。だから、事が起きてからではないと対処は出来ない。

ただ、このような悲劇が起きないよう根本的な問題を殲滅することは出来る。だけど、それをしては成長の妨げになる。

ベルは民を護る者であるが、世界の秩序を守る者でもあるのだ。よって、やり過ぎはいけない。

でも本音を言えば、誰も失わさせたくないんだ。

 

 

泣き崩れる女性のアフターケアをする。その際、『貴方を許さない』と言われた。

神が降りてくるまでの数千年間、何度も言われたその言葉。それが僕の心を蝕んでいく。

 

____________________________________________

 

 

数日後、定例の闇派閥(イヴィルス)対策会議が行われた。

今日も今日とて、相変わらずロイマンギルド長は自分勝手に僕達を責める。

また、《ロキ・ファミリア》《フレイヤ・ファミリア》は険悪に包まれ話が進まない。まぁこの険悪な状態はベルが原因だったりする。フレイヤがベルに心酔しているのでフレイヤの眷族達が妬んでいるのだ。

 

言い合いと皮肉、言葉遊びが飛び交いながら話が進む。

そんななか、ベルはずっと黙っていた。

そして、会議も終盤。フィンはベルへと目を向け尋ねる。

 

 

「ベル。君は何かないかな」

 

「....じゃあいくつか。絶対に闇派閥(イヴィルス)の信者達に近づいたらだめだよ」

 

「何故だ」

 

「仮定の話をしよっか。僕がLv.0だったとする。そんな状況下でも君達上級冒険者を殺す手段が一つあるんだ。それは僕が生きることを諦めていればいるほど容易だ。これを『撃鉄装置』と合わせて考えてみて」

 

「...まさか、道連れ自殺!?」

 

 

聡いフィンは一瞬で答えに辿り着く。フィンのその言葉により周囲は目を見開いて驚愕する。

 

 

「そう。そしてこれはとても残酷だ。特に《アストレア・ファミリア》や《ガネーシャ・ファミリア》にとってはね」

 

「どういうこと?」

 

「信者になるのに年齢制限なんてものは存在しない。よって身寄りのない子供が誘導洗脳されて兵器として使われることがあるということ」

 

『っ!?』

 

 

今までの襲撃において親を亡くした子供は多数存在する。そんな子供たちは施設に送られることになるが、そこに闇派閥(イヴィルス)が蔓延っていないとは限らない。そんなことがないようアストレア様達が度々孤児院に行っているのはよく聞く話だ。

 

 

「そんなっ、そんなことって...!あんまりじゃない!!未来ある子供たちが兵器として利用されるなんてっ!....助けるわ。私はそんな状況に置かれている子供達を見捨てられない!!」

 

 

バンッて机を叩き立ち上がったアリーゼ。闇派閥(イヴィルス)の行いに煮えくり返り鬼の形相となっている。怒りに我を忘れ正常な判断が出来ていない。

 

 

「アリーゼ。死を覚悟して受け入れているのに、助けられたときのその人の心情を考えたことがある?」

 

「...........」

 

「覚悟を決めるときだよ、アリーゼ」

 

「....くっ!」

 

 

下唇を強く噛む。そこから血が流れ、どれほど悔しがっているのかがよく分かる。

救えない命はない、なんてただの詭弁だ。僕だって救えるなら救いたい。でも、当人がそれを許さないし許せない。

悔しい想いを塞ぎ込み僕は続ける。

 

 

「そして、もう一つ。オッタルとシャクティが言ってる人物は僕達がよく知る冒険者だよ」

 

「よく知る....?」

 

「八年前まで最強と謳われていたファミリア。悲しくもとあるモンスターによって壊滅したけど、二人の生き残りがいる。Lv7にして格上すらも倒す可能性を秘めている怪物達。名を、アルフィア。ザルド」

 

「そんな馬鹿なっ!二人は毒にやられ病に侵されているはずだ!生きてるわけがっ...!」

 

「そんな事でくたばるような子達だと思う?」

 

「..............」

 

 

確かに、アルフィアとザルドは不治の病に侵され超猛毒に蝕まれている。だけど、だ。そんなことで天に還るような人達ではないことは僕が一番知っている。

 

 

衝撃的なことばかりで頭が追いつかない各ファミリア代表達。対策を練るにしても敵が強大すぎて不理解すぎて全く思いつかない。ただ、事前に敵の戦力を知れたのは僥倖だった。事前に絶望していた方がまだ気持ち的に楽だったからだ。

 

もう少しで始まる大抗争。彼らたちは悪を退けられるだろうか。そんな彼らをベルはじっと見つめていた。

 

 

____________________________________________

 

 

「フィン」

 

「なに?」

 

「『掃討作戦』のとき、僕は《アストレア・ファミリア》について行くよ」

 

「...そうだね。僕もそうした方がいいと思う。なんせ彼女達はまだまだ幼い。彼女達は必ず手を差し伸べようとするだろうからね」

 

「ありがとう」

 

 

お礼を言ったベルは団長室を出て、またいつものように街の警戒に当たった。物陰や箱の中などを重点的に見ながら。

この行動に意味があるかどうかは分からない。だけど、何かしらの牽制にはなっているのではないだろうか。

 

____________________________________________

 

 

side:???

 

 

───時は来た───

 

 

闇に埋もれるそのものは静かに笑った。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

戦闘シーンとかどうしようかなと迷っています。

途中色々書いてますが、字数稼ぎなのでお気にせず。

番外編のネタが無いので募集してたりしてなかったり...

次回、大抗争。

では、さようなら


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第八話 始動


お久しぶりです。時雨シグです。

なかなか文章がまとまらず全然書けませんでした。一応一番マシな状態になりましたが、まだまだ納得のいく構成になっていません。
自分の文才を悔やんでいます。




 

 

その男は長きに渡って最強と言われ続けたファミリアに属していた。

獣、人、モンスターなど万物を喰らうその男は、とある戦いにおいて猛毒に身体を蝕まれることとなった。

 

 

そんな男には憧れる人がいた。幼少の時から自分に戦いを教えてくれた人。朗らかで穏やかで優しいその人はとても強く格好良かった。

師匠のような存在で、その男の戦闘スタイルの根幹はその人の真似だったのは言うまでもなかった。

 

ある日、その人は言った。

『いつか、僕を倒せるような勇猛な漢になるんだよ』と。

それがその人の願いだと言うなら、とその男は強くなることを決心し励んだ。

 

そして、登りつめたLv.7。格上相手にも状況次第では勝てる程の者となった。

ただこれは八年前の話。いつか来たる決闘を望み、果てゆく身体に鞭を打ちつけその男は今も鍛錬を続けている。

 

 

『ベルさん。俺はアンタを喰らう』

 

 

その日、最強の男が君臨する。

 

 

____________________________________________

 

 

side:アストレア、ガネーシャ・ファミリア

 

 

彼女達がいたのはある工場だった。

幾つものドンッドカンッという音が響いている。蔓延る悪と退ける正義がぶつかり合っているのだ。

 

倒しても倒しても出てくる信者達。先程、施設を制圧しヴァレッタを追い詰めたかと思われたが伏兵が潜んでおり更に数が増えた。

約八年前からこの都市を脅かす闇派閥(イヴィルス)は一体どれほどの人を堕としてきたというのか。そう考えただけで顔が歪む。

 

増え続ける信者達を電光石火の如く斬り伏せていく彼女達は、先日ベルに言われた『容易に近づくな』という言葉を意識する。最期の悪足掻きとして自決する可能性があるからと聞いた時は、あまりの残酷さに苦虫を噛み潰したよう顔をするしか無かった。

 

住民を守ると言っても自分達が死んでは意味が無い。だから、ベルに言われたよう覚悟を持ち、他の眷族らにも覚悟を持つよういった。

それでも、心優しい者は手を差し伸べられずにはいられなかった。

 

 

「あああああああっ!」

 

 

そんな雄叫びがあった。

襲われたのは《ガネーシャ・ファミリア》団長の妹である、アーディ・ヴァルマ。強い正義感と快活な性格をした明るい少女で、誰よりも人のことを考える優しい娘だ。

 

 

「な...子供!?」

 

 

斬りつけてきたのが子供だと知り驚く。

 

 

「こんな幼い子まで巻き込むなんて...!」

 

 

まだまだ一桁台の小さな子供。何があって信者の一員になっているか分からないが、こんな幼い子を利用していることに憤る。

だからこそ、心優しい彼女は未来ある子を助けるため歩み寄る。

姉に言われた言葉を頭の隅に置いて。

 

 

「ナイフを捨てて!戦っちゃダメだ!人を傷つける武器を持たせるような大人の言うことなんか聞いちゃいけない!」

 

 

少しずつ少しずつ、刺激しないようゆっくり近づいていく。

そして、慈愛の籠った笑みを浮かべ優しく語りかける。

 

 

「私たちは君を傷つけたり悲しませたりしないよ?だから、こっちへ」

 

「っ!?だめだ、アーディ!その子に近づくなっ!!」

 

 

その言葉を放ったのは誰だったか。だけど、今はそんなこと関係ない。叫びにも近いその言葉をアーディは聞き取ることはなかった。辛い目にあっている幼い子を助けたいという想いが視野を思考を狭めている。

やがて、アーディは幼き子のそばに寄り添った。

 

 

「かみさま」

 

 

幼き子の瞳から雫が零れた。

今にも消えてしまいそうな声で縋るような声でその子は願う。

 

 

「おとうさんと、おかあさんに、会わせてください.......」

 

 

親を失い絶望したいつの日か。闇派閥(イヴィルス)に洗脳あるいは唆され、死ねば会えると希望を持ったその子は勇気を振り絞る。

少なからずこの行いが悪いとは思っているかもしれない。でも、親を失った悲しみ、会えるという希望がそれをを曇らせる。

 

その子は涙を溢れさせながら、親に会えることを願い爆弾のボタン押す───

 

 

______________________

 

 

「信者達には容易に近づいてはダメって言ったはずだよ、アーディ」

 

 

ことはできなかった。ベルに爆弾を取り上げられたからだ。

《アストレア、ガネーシャ・ファミリア》のうち、誰かはこのように信者に近づく可能性があったため同行していたベル。正義に満ち、優しい彼女達は幼き子に対して手を差し伸べるだろうと。

 

 

「っ...ベルさん!」

 

「この子は僕が保護するから、アーディは街に出てまだ避難できてない住民の誘導を頼める?」

 

「...了解!」

 

 

幼き子へと一瞬顔を向けるも、直ぐに切り替え走っていく。

 

 

「アーディ。君の行動は間違ってない。でもね、君にも家族がいることを忘れないで」

 

「っ...!うん、そうだね...ありがとう!」

 

 

本当に優しい心を持つ者は自分を省みない。だが、その行動がその者の家族を悲しませてしまう。家族にとって誰よりも大切な存在だからだ。だからこそ、姉であるシャクティの表情を見たアーディはハッとする。大好きな姉を悲しませるところだったことに。

 

人を助けることはとても素晴らしいことである。だが、その行動で自身が死に至るのならそれは本当に素晴らしいことなのだろうか?と疑問に思う。その者を大切に思う者の心を置き去りにしてしまうというのなら、それはひとりよがりなのではないかと。

 

アーディが走り去っていくのを見届けた僕は、幼き子へと目を向けた。

絶望したような表情をし、おぼつかない足取りで詰めてくる。

 

 

「...ぁ.....あ.....っ...か、かえしてっ...わ、わたしは、おとうさんと、おかあさんに、会いたいの!それが、ないと会えないっ!だから、かえして!」

 

 

そう言いながら、取り上げられた爆弾へと手を伸ばす幼き子。死ねなかったことに取り乱している。

 

 

「ごめんね。君を死なせるわけにいかないから、これは返せない」

 

「...かえしてぇええええええっ!!」

 

 

片手に持っていたナイフが煌めき、僕へと迫る。何の技術もないただの突進。簡単に避けれてしまえるその攻撃を、僕は敢えて受け止めた。

 

グサッ。とだった。

ナイフに刺された箇所が真っ赤に染まっていく。

幼き子は本当に刺さると思っていなかったのか、声にならない息を漏らす。

そんな幼き子にベルは優しく言った。

 

 

「僕は、ベル。突然なんだけど、僕達と家族にならない?」

 

 

ほんとうに唐突であった。

ベルは別れることの辛さをよく知っている。

世界が魔物によって侵略されつつあった地獄の時代。まだまだ幼少だったベルは、ベルを生き残すため死地へと身を投じていった両親をこの目で見た。もう何千年と経っているのに、それは昨日あった出来事かのように記憶に残っている。

家族との別れ、仲間との別れ、かけがえのない思い出が一つ一つ消えていくさまは本当に辛いことだった。

 

 

「帰って来ると、皆が『おかえり』って言ってくれるんだ。そのとき思うんだよね。帰る場所があるのってやっぱりいいなぁ、ってさ」

 

 

人とは自分の居場所を求めるものである。安心を癒しを自身を見てくれる人達の温かさを求めてしまう、いや、求められずにはいられない。

仕事帰り ダンジョン帰り、家に帰ると微笑って言ってくれる『おかえり』という言葉。家族や愛する者からそう言われると、帰る居場所があるのだという事実に心温まる。

 

 

「.......................」

 

 

幼き子は腹部を指したということを忘れ呆然としてしまっていた。

 

 

「どうかな?」

 

「なぁ、ロリコン変態野郎。ナンパは他でやってくんねぇか」

 

「よし、表出ようかヴァレッタ。僕はロリコンじゃない。アストレア様が好きだから」

 

「いや、知らねぇよそんなこと。たく、せっかく一人殺れると思ったのによ。ま、想定内だからかまわねぇけど」

 

 

ヴァレッタはそう嗤いながら、黒い物体を宙へと投げた。それは天井まで上がっていき、やがて爆発した。

ドォーンッ!!と爆音が響き渡り爆風が吹き荒れる。

それは合図だったのだろう。民を絶望へと陥れるための。

 

ずっとここにいては危険なのでバベル(防衛拠点)へと行くよう《ガネーシャ・ファミリア》の一人に幼き子を預ける。

ヴァレッタはそんな様子を意にも介さず、僕に憎たらしく目を向けていた。

 

 

「テメェが街中の隅々を見て回ってたおかげで爆弾を置くことが出来なかったんだ。なら、どうするかって話になってよぉ。それで私たちは考えたのさ。''地中に埋めときゃあ見つかることねぇし破壊力も高まる''ってな」

 

 

ドッゴッッッッッッッッ!!!

 

 

ヴァレッタがそう言い終えた瞬間、脳を直接揺らすほど轟音とともに世界が震撼した。

立っていられることが出来ない程大きく揺れ、まるで大地震がおきたのかと錯覚する。

破壊の咆哮が何度も何度も轟き、室内にいるはずなのに熱波が肌を焦がす。

 

 

「これは.....」

 

「どうした『守護者(アレグサンダ)』様よぉ。そんな焦ったような面して。ヒャハッ、やっとだ...ようやっとテメェの歪む面を拝めたぜ!」

 

 

未だ鳴り止まぬ爆発音と収まらない地鳴り。

想定していなかった事象が繰り広げられ呆けてしまう。

 

 

「地面に埋める、とはどういうこと?君達は何をしたの?」

 

「詳しいことは私も知らねぇ。ただ、''アイツ''の連れてきた奴が''神秘''持ちだってことくらいだ」

 

「神秘持ち...」

 

 

もしヴァレッタのいう通りだったとしたらかなりの腕だ。''完成された道に一切の違和感も無く''爆弾を埋めた。一体どういった奇跡を用いて可能としたのか全く想像がつかない。完全に僕の想定を越えた一手により、これからの襲撃で様々な可能性が考え浮かび警鐘が脳内をかけめぐる。

すると再び、ドォッッンッ!!という爆発音が幾つも響いた。それは次第に増えていき大気を大きく揺らす。

 

 

「アイツらの自爆も始まったか。これは予想してただろ?ほら、行かなくていいのか?ゴミ共が巻き込まれてるかもしんねぇぜ」

 

「それについては冒険者達へ勧告してるよ。遵守してくれてるかは彼ら次第だけどね。それと、住民の避難はもう完了しているはずだから大丈夫」

 

「そうかよ...なら、私の役目は終わったことだしズラかるとするかぁ...やれ」

 

 

やれ、という言葉により建物内いた信者達が一斉に自爆した。荒れ狂う破壊の衝動が工場を瓦解させていく。

幸い上級冒険者しか居なかったため、多少の損傷はあったものの全員避難することができた。

 

 

後から、あの幼き子の元に行かないとなぁ...

 

 

(ここら辺早く終わらせたくてめんどくなって適当になってます。ご了承ください。By作者)

あ、いつも変か(泣

 

 

____________________________________________

 

 

とある二角では、圧倒的な力によって冒険者達が返り討ちにあっていた。

撫でただけで亡骸にする者。一言紡ぐだけで戦闘不能にする者。その者らが通ったあとは宛ら地獄のようであった。

 

そんな二人は燃え盛る街を悠々と歩いていた。

そして、再びその者らに立ちはだかる冒険者がいた。

双頭のファミリアの最高戦力。《フレイヤ・ファミリア》の団長 オッタル。《ロキ・ファミリア》の四首領の二人 ガレス&リヴェリア。

 

だがしかし、悲しくも彼らも及ばなかった。その者らは格上すらも倒すことが出来る可能性を持つ怪物。格下の彼らが力及ばないのも仕方なかった。

 

最高戦力であった彼らを軽くひねり潰したその者らの名は──ザルド、アルフィア。

約八年前まで最強と謳われていたファミリアの眷族である。

 

 

そして、だ。

再び、その者らの前に一人の男と一人の女性が立ちはだかった。

今から始まるは、オラリオ史上最激の決闘。

それを待ちに待っていたザルドは身体を震わせた。

 

 

 

 

 




ありがとうございました。

次話は近々出す予定です。

次回、四人の戦い。



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第九話 激闘


タイトル: 激闘 (描写が激闘を記せているとは言ってない

後半になるにつれて適当になっていくのをどうにかしないと。
ですが、言い訳を。
今回、初めてこの創作で一万文字行きました。駄文が一万続くと思ったら笑えますね。

少し長いですが、御付き合い願います。



 

side:ベル

 

約八年ぶりに会ったその男は──とてもダンディーなおっさんになっていた。

なんかタイトルっぽく言ってしまっているが、ふざけている訳では無い。漢に磨きがかかっているのだ。

 

僕は勇ましく佇むザルド前に降り立つ。

 

 

「久しぶり。オッタルはどうだった?」

 

「準備運動にもならん」

 

「そう?結構強くなってると思うんだけどなぁ」

 

 

この創作では、原作よりも全体的に強くなっている。その要因はベルにあった。ベルに少しでも追いつこうと皆切磋琢磨しているのだ。

《フレイヤ・ファミリア》の眷族達は主神の寵愛を一身に受けていることへの嫉妬からだろうけども。

 

 

「ベルさん。俺はアンタを喰らう」

 

「...そっか。じゃあ、早速やり合おう。君とは一度本気で闘ってみたかったんだ。当然、この八年間サボってたわけじゃないよね?」

 

「当たり前だ」

 

 

刹那の静寂。

瞬間、二人は同時に姿を消した。

 

 

ギャッッンッッ!!

 

ドゴッッッ!!!

 

 

二人の持つ大剣と刀が交差し、けたたましい音が大気を揺らした。

威力が強過ぎるあまりか、衝撃の余波が地面へと伝わり蜘蛛の巣状にひび割れ、爆弾が爆発したのかという程に衝撃波が吹き荒れる。

まずは小手調べといったものだが、常人からしてみれば厄災とそう違いなかった。

 

 

「なんかさらに力強くなってない?」

 

 

ベルとザルドが最後に戦ったのが十数年も前のことなので、力が強くなっているのは当たり前なのだが、これとは話が違う。Lv.7にしては威圧感がおかしいのだ。

 

 

「オラリオを出てから八年。アンタを超えるため死に物狂いで鍛錬をしてきた。そして今、俺はLv.8となった」

 

「へぇ、凄いじゃん。外でランクアップってなかな................ゑマジでっ!?」

 

 

衝撃の事実に驚きの声を上げるベル。その瞬間、思い描いていたシナリオが一気に瓦解した。

ザルドとオッタルが再びぶつかり、そして、オッタルが勝利し、ランクアップの糧になってもらおうと思っていたのだ。だからこそベルは、

ま、まぁいっか。オッタルも強くなってるし勝てるでしょう!と思いっきり思考を投げ飛ばした。

 

 

再び、激しい剣戟が繰り広げられた。

刀と大剣が交差する毎に莫大な衝撃波が生まれ、燃え盛る炎を消さんとする勢いで大きく揺らす。

 

二人の剣技レベルは世界最高である。

特にベルは数千年という積み重ねてきた膨大な年月がある。歴代最強と謳われる''英雄アルバート''と比べてみても、ステータスなどを省いた単純な剣技なら追随を許さない程に高い。

 

ザルドもまた同じである。生まれ持った天賦の才。そして、血反吐を吐くほど努力した数十年。今までの『英雄』達の中でも最上位に位置する力を持っている。

 

 

「フッ!」

 

「ハッ!」

 

 

振り下ろされた大剣を【反射】をもってして弾く。仰け反るザルド。ベルはそのがら空きとなった胴体に翻した刀で斬りつけ、、ようとしたが、ザルドが身を捻り視界の端から隆々な右脚が迫った。

横から胴体への蹴りに加え、斬りつける体勢であったため容易に避けれなかった。よって、まともに食らう羽目になったベルは不気味な音をたてぶっ飛んでいった。

燃えさかる建物へと衝突し、吹き飛ばされた力が強かったためか幾つもの建物を貫通していく。さらに、ドゴゴッ!と炎上で脆くなっていた建物が崩壊し瓦礫に埋もれてしまった。

 

初めて攻撃をまともに食らったベル。対して、ザルドは鎧にだが多数の斬り傷があった。ベルも斬り傷はあるがザルドに比べれば全然少ない。ただ、鎧を着ている訳では無いため斬られたところからは血が滲んでいる。

ザルドが一つ傷を負わせれば、ベルは五つ負わせる。時間が経てば経つほどザルドは不利になっていく。それは絶対的な技術の壁があるからだろう。

だが、今回ベルの攻撃を逆手に小さくないダメージを負わせることに成功したのだ。

 

やがて、瓦礫から出てきたベルは楽しげな笑みを浮かべていた。だが、下に視線を移せば横腹に手を当てているのが分かる。表情や服で分かりにくいが、蹴られた肋骨下部は粉々になっているほどの怪我を負っている。

 

ベルは負傷していることを意にも介さず地を蹴った。ザルドも付随して距離を詰める。

武器同士が交差し拮抗したところで、ベルが口を開いた。

 

 

「さっきのはやられたよ。まさかザルドが蹴ってくるとは思わなかった」

 

「ベルさんがいつか使ってくることを見越して考えていた。上手くいって嬉しく思う」

 

 

ザルドと会合してから五分強。この数分で何百合と剣を交えた。地面は抉れ、復興に支障をきたす程にボロボロだ。

 

 

「あまり時間もかけられないし次からは本気でいくよ」

 

「...なら、俺もそうするとしよう」

 

 

再度、剣戟が繰り広げられた。だが、先程までとは違って明らかにザルドが押されている。

と ここで、ベルは魔法式を紡いだ。

 

 

『魑魅の遠吠えに震え怯えん民を想いて、今宵、天上は憤怒する。それは、青天の霹

 

 

ああ...''めんどくさい''。''なんで魔法を使うためにわざわざ唱えなければいけないんだろう''。''せっかくこんなにもこの闘いに熱き想いで楽しくなっているというのに。雰囲気崩しにも程がある''。

 

魔法とは『外なる事象』である。到底人の身に使えるようなものでは無い。では、何故詠唱するのか。それは、イメージの定着と''世界とのリンク''を確かにするためだ。

ならばその過程を精霊(アサナシアさん)達のようにすればいい。

 

ベルは想起し強く想う。すると、ベルの背中が熱くなり微かに発光する。まるで、『恩恵(ファルナ)』を更新した時のように。

 

 

「...何故途中で詠唱を辞めた?」

 

 

ベルが詠唱を止めてから約十秒程度。今もなお、激しい剣戟が行われている。魔法を使うのかと警戒したザルドだったが、突然として黙り込んだベルに疑問を持った。

 

 

「僕はアルフィアみたいな超短文詠唱に憧れてたんだ。紡げばすぐに発動される魔法にさ」

 

 

空に魔法陣が描かれる。

 

 

「まさか...っ!?」

 

「『レジナ・サン・ガウェスト』」

 

 

ッドッッゴォッッッッ!!!

 

 

太く鋭い一条の雷がベルへと落下した。

記憶喚起のために言うが、『レジナ・サン・ガウェスト』には雷属性付与の効果がある。だからこそ、自身に直撃する形で魔法を放った。

そうして、雷を纏ったことでバチッバチッと稲妻の弾ける音がベルから鳴る。

 

 

「いくよ?」

 

「っ!」

 

 

雷を纏ったベルは【縮地】に届く速さで移動出来る。その速さをもってして、建物や地面、大気を蹴り立体機動の如く縦横無尽に駆け巡る。あらゆる箇所から攻撃され、ギリギリで対応するザルドだが、手数が多く鎧に少しずつ斬り傷が増えていった。

 

ザルドは苦虫を噛んだ。ベルが本当に殺す気があったのなら、とうにこの鎧は切り刻まれているだろう。だが、されていないということはまだまだ''全力''を出していないということ。それがザルドにとって悔しかった。

 

 

「『レジナ・サン・ガウェスト』」

 

 

幾数もの(いかずち)が場を支配する。

だが直撃こそすれど、Lv.8に加えスキルを発動しているザルドには致命傷になり得ない。ベルもそれは分かっていることなので、牽制程度でしか放っていない。

 

ベルは『袋』から身の丈以上の槍を取り出す。上級冒険者なら普通に買える値段の槍。これは使い捨て用である。

ベルは腕を横に伸ばすと、槍を高速で回転させた。この場は『レジナ・サン・ガウェスト』の影響で数多の魔力電子が漂っているため、槍が高速で回転されていることによって帯電していく。それは次第にバチンッ!バチンッ!と極限まで高まり、稲妻が狂い散る。

 

 

『時雨流 槍術』

 

 

臀部を最大限使った投擲。

 

 

槍耀燦然(そうようせんぜん)

 

 

ッッッッッッッッゴォオオッッッ!!!!

 

 

 

槍を放った瞬間、圧縮したかのように大気が張り詰め、まるで真空状態に陥ったのかと錯覚する。ただそれは0に限りなく近い刹那の時間だった。

そして、それが過ぎると至近距離で落雷した時のような轟音が辺りを震わした。

対黒竜用に開発した槍術奥義の一つ。高すぎる威力のあまり大山に風穴を開けた技。もし使うなら考えないといけない代物だが、テンションが爆上がりしているベルはそんなことすっかり忘れ使用してしまう。

 

避けることが出来ないため、ザルドは大剣を盾のように構え、超高速で飛来する槍を受け止めた。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

雄叫びを上げ必死に止めようと試みるザルド。

だが、高威力すぎてその場で勢いを殺せず、足裏を削りながら吹っ飛んでいった。幾つか建物を背で破壊していき、やがてオラリオを囲む壁に激突した。

 

 

「ガハッ...!くっ... やはり俺はまだまだベルさんに届かないというのかっ...!」

 

 

ところどころ鎧が壊れており、正直鎧としての役割を保てているとは思えない。鎧を着ているために外傷は少ないのだが、体内が悲鳴を上げている。無理な動きに幾つもの強烈な攻撃で無理が祟っているのだ。

ただ表情を見れば獰猛な笑みを浮かべているので、悲観しているわけではなさそうだ。

 

 

「っ!」

 

 

ベルの気配を感じ取り、ばっ!と見上げるザルド。先程のものとは違う槍を構え、空から降りてきているところを視界におさめる。

 

 

『時雨流 槍術』

 

 

ベルは槍先を地面に叩きつけるように振り下ろす。

 

 

『雷墜』

 

 

ッッバリバリバリバリバリバリッッッッ!!!

 

 

槍を中心に半径五メートル内に雷電が荒れ狂った。

 

 

「ぐぅっ!」

 

 

横へと飛び退いたザルドだったが、避けきることが出来ず呻き声を上げる。

ベルは槍を仕舞い刀をとりだすと、再び立体機動の如く場を駆ける。

 

 

「おおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあっっ!!!」

 

 

蓄積されたダメージと何百何千と打ち合った剣戟による疲労でボロボロの身体。もうそろそろ膝を着いてしまいそうな身体に鞭を打ち、ザルドは雄叫びを上げ自身を鼓舞する。

 

やがて猛攻を終えると、幾許か距離を開け納刀する。そして、低く構えた。その姿を見たザルドは悟る。次の一撃でこの闘いに終止符を打つのだと。

よって、ザルドも構える。どんどん闘気が膨れ上がり、髪を揺らめかす。

 

 

『時雨流』

 

 

鞘から少し現れた刀身から膨大な光が輝いた。

ザルドの持つ大剣も光り輝き、爆発的なエネルギーが収束されているのが見て取れる。

 

 

『深裂斬』

 

「『ジェノ・ネクタル』ッ!」

 

 

ベルとの決闘のために組み合わせた魔法と剣技の奥義。斜め下から捻り振り上げられた大剣が地面を抉りながら破壊の咆哮を上げる。

対してベルは、刀術奥義の一つ『深裂斬』を放つ。あらゆる武器による技術の中で、最速と評される抜刀術。それにベルの全てを乗せ彼の者に牙を剥く。

 

 

ッ━━━━━━━━━━━━━━━━━━!!!!!!

 

 

瞬間、世界が白く染め上がり音が消えた。

 

 

____________________________________________

 

 

side:アサナシア

(ベルとザルドが会合した頃)

 

 

''私''はあまり人の争い事に関わってはいけません。なぜなら、精霊だからです。ふふっ、当たり前ですよね!

ですが、これからこの争いに加わろうと思います。理由は、ベルさんから頼まれたのと、''恋敵''と一戦を交えたいと思ったからです。

その者はベルさんにとても大事に思われています。なので、''妻''。そう、妻!....えへへー、つ・ま☆(少々お待ちください。

⋯⋯⋯

コホン...妻たる''私''がいながら他の女に現を抜かすとはなんたる屈辱だ、というわけでどんな人か見極めようと企んでいるのです!(妻は彼女の妄想です。可哀想な目で見てあげてください。

 

 

アストレア様?知らない神様ですね。

 

そんな馬鹿丸出しピンクなことを考えたがら、アサナシアはアルフィアの前に降り立った。

 

 

「初めまして、アルフィアさん。''私''はアサナシアと言います。ベルさんのつm『『福音(死ね)』」最後まで言わせてください!」

 

 

余波を受けるだけで、平衡感覚がズタズタになる破壊力を持つ魔法が放たれた。音のため''視ることが出来ない''チート魔法。それがアサナシアを襲う。

 

対して、アサナシアは腕を振るった。

すると、どこからともなく現れた水の盾が魔法を防いだ。

 

 

「...人の身にあらず者。お前は何者だ?」

 

「ふふっ、貴方には特別に教えてあげます。コホン....''妾''は大精霊の一角にして、生命を司る背理精霊。『呪詛』のアサナシア。ただまぁ、汝にはこう言った方が早かろう。ベルに不老の呪いをかけた張本人じゃと」

 

 

いつも閉じている眼をクワッと開く。その眼に宿る感情は困惑。なぜ精霊がいるのかという困惑と、ベルを不老にした原因が現れたことへの困惑だった。

 

 

「貴様、だったのか...あいつは既に知っているのか?」

 

「当たり前であろう。謝りもした。フフ...あんなことをしたというのに、ベルは許してくれた。誠にいい男じゃ。そう思わんか?」

 

「...ふん。そんなこと、言われなくてもずっと前から分かっていること」

 

「汝もベルのことが大好きじゃの。どれ、側室でなら受け入れてあらんこともないぞ?」

 

「『福音(死ね)』」

 

「ふむ...何が不満なのやら」

 

 

再び、音の魔法が襲う。

アサナシアは焦ることなく腕を振るう。すると、地面から土の壁が聳え立った。

 

 

「その雑音を発する口を塞げ。不愉快だ。あいつが貴様なんぞ妻に迎えるわけがない。それとなんだ?私を側室?寝言も寝て言え」

 

「いい案ではと思ったのじゃがな。なら、汝はどうしたいのじゃ?」

 

「.....何故お前に言う必要がある?」

 

「プライドの高い女は嫌われるぞ」

 

「いずれ朽ち果てる命。たとえ嫌われようと構わん」

 

「諦めるのか?」

 

「期待したところで未来は変わらない。ならば、最初からしないほうがいい」

 

「本当は期待しているだろうに。お主の後ろにくたばっている冒険者達を見れば分かる。汝なら殺めることなど造作もないというのに誰一人として殺めていない。絶望、だったか?はっ、片腹痛いわ。素直に助けてと言えば良いものを」

 

「『福音(黙れ)』」

 

「そのような者に、ベルの傍にいる資格はない」

 

「『福音(黙れ)』!」

 

 

空間にいくつもの楔形の氷が浮遊する。軽く腕を振るうと、鋭い氷が飛来し音の魔法とぶつかった。粉々となった氷がまるでダイヤモンドダストのようにキラキラと煌めく。

今現在をもって、世界最強の魔法使いと精霊の闘いが始まった。

 

アサナシアは腕を上へと振るう。すると、地獄を彷彿させる業火が猛き狂った。これだけではないぞ?と言わんばかりにすぐ様振り下ろすと、幾つもの雷が降り注いだ。

上下両方から高威力の魔法がアルフィアを襲う。

 

 

「『魂の平静(アタラクシア)』」

 

 

『福音』とはまた違う超短文詠唱。防護魔法が紡がれた。

リヴェリアの魔法すらも容易く無効化してしまうほどの高い強度を誇るそれは、アサナシアの魔法さえも抑えてしまう。

 

 

「ほぉ...なかなかどうしてやりおる」

 

 

アサナシアは武器を取り出すと、優雅に歩み寄った。

 

 

「汝のその魔法はなかなかに厄介だ。妾の全力をぶつければ易く貫けるであろうが、そんなことをしてしまえばオラリオが壊滅してしまうゆえ出来ぬ。ベルにも絶交を告げられるじゃろう。それが一番の問題じゃ」

 

 

コツコツと石畳が子気味の良い音を鳴らす。

アルフィアは警戒しながら、そばに落ちてあった剣を拾い剣撃に備えた。

 

 

「音の魔法もそうじゃ。精霊であるが故に魔法攻撃は効きにくいが、この妾ですら直撃すれば怯む。人の身にして何故それほどのものを得られたのか疑問に思う。が...なるほど。ベルが気にかけるわけじゃ」

 

「何を言っている?」

 

「いや、すまぬ。聞き流してくれ」

 

 

ギィッンッ

 

 

武器を振るえば当たるほどまで近づいたアサナシアが、突然とした斬りつけた。その所作も美しく優雅であった。

ギリギリで受け止めるアルフィア。

拮抗する武器にお互いグッと力を込めると、どちらからともなく離れ、すぐに距離を詰めた。

 

ベルやザルドのような激しさはない。だが、それでも劣らずな剣戟が繰り広げられた。

高い身体能力とセンスで猛攻するアサナシア。

対してアルフィアは、一目見ただけで相手の動きをほぼ完全に模倣することができる才能を持ってして、ベルの剣技を模倣し迎え入れる。アルフィアもザルドと同じくベルに魅せられた者だ。ベルが剣を振るう姿を眼に焼き付けてないわけがなかった。

 

ただ、彼女らの本領発揮とするのは魔法である。絶えず魔法も放たれている。それが十分ほど続いた。

やがて....

 

 

「息が上がっておるようじゃな?」

 

 

高ランクのため他の者よりも体力はあるが、本来は魔法使いだ。前衛のように駆け回らないので、短い時間で体力が落ちてくる。また、病の影響もあった。

 

 

「これ以上してしまえば、汝の身体がもたない。次で終わらせるとしよう」

 

 

武器同士が交差したタイミングで力を込め、宙へと押し弾く。弾き飛ばされたアルフィアは何とか姿勢を保つと、ソレを視界におさめた。

 

魔力の臨界。莫大なエネルギーが圧縮され、小さな球体に輻輳(ふくそう)されているモノを。

全てを穿ち、全てを無に還す一条の弩が解き放たれた。

 

 

「『エルミネイト・レイ』」

 

「っ!?『福音(ゴスペル)』!」

 

 

一直線に向かってくるソレに対して、少しでも威力を抑えるようと『福音』をぶつける。

だが、嘲笑うかのように効果はなく、防護魔法ごとアルフィアの脇腹を小さく貫いた。

 

 

______________________

 

 

ふっと力が抜けたアルフィアは、ドサッと音を立て落下した。

 

アサナシアは一息つくと、''いつものように''歩き側に座る。そして、懐からある液体を取り出すとアルフィアの口へと流した。これは、ベルから事前に貰っていたアルフィア用ポーションだ。

 

 

「よっこいしょ!」

 

 

ポーションを飲むと、やがて寝てしまったアルフィアを背負う。

 

 

ムニュゥ

 

 

で、デカっ...!''私''のよりもデカい!!くっ...負けた...!

 

 

崩れ落ちそうになる膝を何とか支えるアサナシア。

何故か最後に『試合に勝って勝負に負ける』を体現するという、なんとも締まらない終わりであった。

 

 

 

____________________________________________

 

 

side:ベル

 

 

ドサッ、とだった。砂埃が立ち込める静寂な空間でそんな音が一つあった。

 

やがて砂埃が晴れた頃、戦況が明らかとなる。

横一線に剣筋が入っており、そこから多量の血を流して倒れているザルド。胴体に斜めに斬り裂けられるも立っているベル。どちらも満身創痍であった。

 

ベルは納刀し、ゆっくりと息を吐いたところで、タイミングよく誰かが降り立った。

 

 

「お疲れ様です、ベルさん」

 

「そちらもお疲れ様です。アルフィアは...寝てますか」

 

「はい。ベルさんから貰ったポーションを飲ませたら眠ってしまいました」

 

「なら、効き目があったということですね。よかった」

 

「それにしても、大丈夫てすか?かなりボロボロですけど」

 

「正直言うと、今にも倒れてしまいそうです。最後の攻撃が結構ヤバくて」

 

 

そう言いながら、ベルは袋から『ハイ・ポーション』を三本取り出し、二本飲んで一本身体にかける。ベルは精霊の血の影響からか、回復力が高い。なので、すぐにでも完全回復するだろう。

 

そして、もう一本取り出すと、ザルドの上半身を抱え彼用のポーションを口に流した。

 

 

「これでよし。あとはこの二人をどうするか」

 

「多分ですが、拾いに来ると思いますよ?」

 

「言い方が...っっ!!!!アストレア様っ!!」

 

 

かってない鳥肌が全身を駆けた。

研ぎ澄まされた直感が、アストレア様の危機をはじき出す。

走り出そうとした瞬間───

 

 

 

ッゴゴゴ──

 

ッッゴゴォオオッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

 

工場にいた時の揺れが比にならないほどの大地震がオラリオを包む。

 

 

「あ...れは...」

 

「そんな...光の柱...『神の送還』...っ!?」

 

 

ッッゴゴォオオッッッッッ!!!!!!!!!

 

 

「なにが...起こって...」

 

「.................」

 

 

ッッゴゴォッオオッッッッ!!!!!!!!!

 

ッッゴゴォッオオッッッッ!!!!!!!!!

 

⋯⋯⋯⋯⋯

 

 

「まさ..か...い、や、そ..そんな...」

 

「くっ...」

 

 

''神殺し''は禁忌である。例えば、人を何万何十万も亡きものにした者とたった一神を殺めた者なら、後者の方が圧倒的に重罪だ。それほどに神殺しとは罪深い。

そんな起きてはならない現象が今、合計にして11本もの'光の柱'が天上へと昇った。

 

とある者は言った。

 

 

『生贄』は終わった

さぁ、行こう──

 

 

今宵、絶望の二文字がオラリオを支配する。

 

 

____________________________________________

 

 

「『闇派閥(イヴィルス)』の狙いは『神の強制送還』だった。これなら、無差別襲撃に理由がつく」

 

「目的のためなら神をも殺す...こんなことができるのは──?」

 

「アサナシアさん!僕は行きます!神を失った眷族が狙われているはずですので!」

 

「あ、はい。分かりました!この二人は任せてください!」

 

「お願いします」

 

 

幾つもの悲鳴が響き渡るところへ向かおうとしたそんなときだった、

 

 

「どこへ行こうとしている?''守護者 アレグサンダ''」

 

『っ!?』

 

 

圧倒的高密度な威圧が二人を縫い付ける。

鉛のように重くなった身体を無理やり動かし、声がした方へとゆっくり振り返った。

視線の先には高い建物があり、その屋上に、、神威を解放し まるで下界を見下ろしているかのように立っている男神が居た。いつの間に居たのか?という疑問を持つ前にベルは問うた。

 

 

「あな、たは...?」

 

「我が名はエレボス。原初の幽冥にして、地下世界の神なり」

 

「っ!?か...かみ、エレボスっ...!?」

 

「あ、アサナシアさん!大丈夫ですかっ!?」

 

 

心臓に手を当て過呼吸になりながら崩れ落ちるアサナシアさん。表情を見れば真っ青を通り越して真っ白になっていた。

 

 

「冒険者は蹂躙された!より強大な力によって!神々は多くが還った!耳障りな雑音となって!貴様らが『巨正』をもって混沌を退けようというのなら!我等もまた『巨悪』をもって秩序を壊す!あぁ...だからこそ、惜しい」

 

 

オラリオ全域に届けられたその声。まるで唄うかのように紡がれた言葉が、住民を恐怖のドン底に叩き落としていく。

 

 

「旧き二つのイレギュラー。この者らの行いが、絶望から下民共を遠ざけた。だが、安心して待っていて欲しい。今宵は、前菜。メインディッシュを早々に食べてしまうのはもったいないというもの。いずれ、我等『悪』は汝ら『正義』を喰らおう」

 

 

エレボスは優雅に腕を『バベル』へと伸ばすと、嗤った。その後ろで光り輝く『光の柱』が、より恐怖を助長させる。

 

 

「告げてやろう。今の貴様等に相応しき言葉を。

『正義』?いや違う。

 

───脆き者よ。汝の名は『撕戯(せいぎ)』なり

 

 

____________________________________________

 

 

 

冥府へと導く演説をしたのち、陰へと消え去ってしまった神エレボス。

その神が今、僕とアサナシアさんの前に現れた。

 

 

「旧き者、''守護者 アレグサンダ''。背理精霊 アサナシア。貴様等はいつまで現世を揺蕩う?これは、貴様等が介入して良いものではないと思うが」

 

「...ええ、基本僕は人の世迷事に介入しません。ですが、貴方たち神が介入してくるというのなら、それは違います」

 

「.....''妾''はベルと共に歩むゆえ、ベルがそうするなら''妾''もそうするだけのこと」

 

「エレボス様。『英雄』を生み出すためにこの行為を起こしたというのなら、それは必要なことだったのかもしれません。今はあまりに平和過ぎて『英雄』への想いが弱い。ただ漠然となりたいなぁという憧れがあるだけ」

 

「流石は数千年を生きる者。よく理解している。だからこそ、我等は爆弾を起爆した。では、貴様はどうする?''守護者 アレグサンダ''、我と同じ''志し''を持つ者よ」

 

「...僕のすることはずっと前から一つです。民を護る。だだそれだけ」

 

「そうか。なら、我から言うことはもうあるまい。アルフィアとザルドは返してもらおう」

 

 

再び、陰へと消え去ったエレボス様を見届けながら、アルフィアを運ぼうとしていた者を殴った。

 

殴った理由?男性だったから。

 

 

(クソッ!アルフィア様に触れるチャ(殴 蹴

 

 

____________________________________________

 

 

『バベル』へと戻って来てみれば、阿鼻叫喚していた。それはそうだ。都市のほとんどが壊滅し、『神の送還』が起きたことでたくさんの冒険者が亡き者となったのだ。

ただ、事前に避難していたこともあって住民の被害は僅かだった。

 

 

だけど、これはまだ序章に過ぎない。エレボス様は''前菜''と言った。なら、これから起きるのは防衛拠点である『バベル』の陥落。

みんなはこれを乗り越えられるだろうか。いや、愚問かな。あの子達を見れば分かる。

 

今この瞬間、英雄の卵達の想いが昇華した。

 

 

第一部 完

 

 

 




ありがとうございました。

次回からは、飛ばし飛ばしで描きます。

次回、???

では、さようなら。


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