マクロスF×ヅダ~~宇宙駆ける蒼き流星~~ (ジョージ)
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第1話 幕開け

マクロスフロンティアに、自分の大好きなMS、ヅダをぶち込んだ作品です。ほぼ、作者の自己満足の作品です。


かつて、大きな戦いがあった。それは、私達が生まれる数十年前の事だった。

 

ある日人類はこの広い宇宙に自分達以外の種族がいる事を知り、そしてその種族、『ゼントラーディ』と戦いを繰り広げ、文化を知らないゼントラーディに対し、『歌』の力で辛くも勝利を収めた。

 

しかし、後の世に第1次星間大戦と呼ばれたこの戦いによって、人類と地球は大打撃を受けた。これにともない人類は種の存続を図るために広大な宇宙の各地へと移民船団を送り込む事を計画、実行した。

 

『銀河の大航海時代』と呼ばれる時代の幕開けだった。

 

そんな中銀河の中心へと向かう一つの移民船団があった。

 

その名を、『マクロス・フロンティア船団』と呼ぶ。

 

これは、そんな船団に住まう我々が経験した、非情なる戦いと、大いなる愛情の物語である。

 

 

広大なる宇宙を進む移民船団。そんな移民の半数を乗せて進むのは、巨大都市型移民居住艦、通称『アイランド1』。そしてこのアイランド1に続く形で大小様々な艦が続いていく。

 

そんなアイランド1の一角にある、教育機関。『美星学園』。その屋上。

 

そこでは、カタパルトのような構造になっており、そのカタパルトの周囲には、『EX-ギア』と呼ばれる飛行も可能なパワードスーツを纏った少年少女達が集まっていた。3人の少年が、まるで太極拳のようにゆったりした動きで手を動かす。

 

これは、EX-ギアを使った近々開催されるライブで飛ぶアクロバット飛行のためのトレーニングだ。訓練を行うのが3人。コースをコンピューターで確認する少年が一人。それを見守る二人のギアを纏った少女。

 

そして、ギアで器用にポスターを折って紙飛行機を作る一人の少年。

 

「どうだ?ルカ」

やがて、トレーニングをしていた少年、このグループのリーダー的存在である『ミハイル・ブラン』はコンピューターを操っていた、この中でも最年少の『ルカ・アンジェローニ』に声を掛けた。

「トリプルループからの急反転上昇。良い感じですね」

彼等が飛ぶライブまでもうあまり時間は無く、彼等は最後の追い込みをしていた。

 

「……下らねぇ」

しかし、その時紙飛行機を折っていた少年、『早乙女アルト』の声が聞こえる。

「俺なら5回は回れるな」

そう言ってのけるアルトだが、肝心の彼は折紙に夢中だ。

 

「たかがコンサートの余興だぜ?リスク高すぎだって」

「俺なら出来る」

リーダーとして、リスクよりも安全性を考えるミハエルこと『ミシェル』に対し、アルトは自信たっぷりにそう呟く。

 

「へ~?相変わらず自信家だね。『アルト姫』は」

「あっ!?今なんて言った!?」

ミシェルの言葉に、アルトは声を荒らげる。

 

アルトは元々、歌舞伎の家の生まれであり女形として活躍していたが、訳あって歌舞伎からは離れており、加えて女性的な顔立ちから女扱いされると怒るのだ。

 

そこへ……。

「止さないか、ミシェル。アルトも」

短く切りそろえられた金髪の少年、『ジャン・L・デュバル』が二人の間に入って彼等を止める。

 

「ミシェル。お前もアルトを姫と呼んでからかうのはいい加減止めろ。アルト、お前も紙飛行機を折っている暇があるのならトレーニングに参加しろ。自分の腕に絶対の自信があるようだが、訓練不足で本番中に事故を起こしてみろ。それはお前の怠慢に他ならないぞ」

「ふんっ。俺が事故を起こすとでも?」

「自分の腕に自信を持つのは構わない。だが、お前の怠慢で事故が起きればそれは私達全体の責任になる。今回のステージはお前のワンマンステージではないんだぞ」

「そうかよ。なんだったら、俺一人でやったって良いんだぜ?」

「だからお前は……。ハァ、もう良い」

 

もう少し協調性を持て、と言おうとしたジャンだったが、彼は『これを言うのは何十回目だったか』と自問し、口を閉ざすのだった。

 

その時、ルカのコンピューターに彼等が飛ぶライブのメイン、『銀河の妖精』とまで謳われた歌姫、『シェリル・ノーム』がこのフロンティア船団に到着したとのニュースが入り、ミシェルや他の男子がそちらに駆け寄る。

 

「やれやれ」

それをため息交じりに見ているジャン。

「……お前は見なくて良いのかよ」

そこに声を掛けるアルト。その声色からして、何やら苛立ち気味の様子だ。

 

「私はあまりアイドルには興味が無いからな。それに、私達は彼女のライブを見に行くのではない。そこへ仕事をしに行くんだからな。あまり浮ついてはいられんさ」

「ハァ。相っ変わらず真面目だな、お前、はっ!」

アルトは、立ち上がると手にしていた紙飛行機をミシェル達の方へと投げる。

 

「うぉ!?伏せろ!?」

慌てて伏せるミシェルやルカ達。紙飛行機は彼等の頭上を通過し、飛んでいく。それにミシェル達が抗議しようとするが、肝心のアルトは興味なさげに『発進』の準備を進め、カタパルトからアイランド1の空へと飛び立ってしまった。

 

それを見送るジャンやミシェル達。

 

「全くアイツは。好き勝手が過ぎるぞ」

「アハハ、まぁしょうが無いですよ。それがアルト先輩ですから」

ため息をつくジャンに歩み寄る、小柄な銀髪の少女、『ミーシャ・イリューシュナ』。

「相変わらず先輩は喧嘩の仲裁とかで忙しいみたいですね」

彼女は苦笑を浮かべながらジャンの隣に並び立つ。

 

「まぁ、もう慣れてしまったな。あいつは腕は確かだが、少々な。あいつの問題児っぷりにはもう慣れてしまった」

「あ、アハハ。そうですか」

ため息をつくジャンに苦笑を浮かべるミーシャ。その時ふと、ジャンは思った。

 

「そう言えば、もう一人の問題児はどこへ行った?姿が見えないが」

先ほどまで、ミーシャと一緒に居た少女の事を探すジャン。

「あ~、えっと、レイコ先輩ならさっき帰っちゃいましたよ?『アホらしい』とか言って」

そして、答えはミーシャから与えられたが、肝心のジャンは再びため息をつく。

 

先ほどまでミーシャと一緒にいた、『佐々木レイコ』。彼女もまたこのパイロット養成コースの問題児なのだ。

「まぁ良い。あいつは今回のアクロバットの参加メンバーではないからな」

「そうですか」

小さく頷くミーシャ。その表情は、僅かながらもレイコに対する怒りが浮かんで居るようだった。しかし、肝心のジャンは気づいた様子は無い。

 

「それより先輩、頑張って下さいね。実は私、シェリルのライブのチケット当ったんです!」

「ほう?あの開始1秒で完売したと言うあれをか?よく手に入ったな」

「はい!ほんともう大変でしたよ!あっ!それでですね!当日は先輩たちの飛行、見に行きますから!」

「そうか。それではますます失敗出来ないな」

ミーシャの言葉に苦笑を浮かべるジャンは、ミシェルに声を掛けトレーニングを再開するのだった。

 

 

やがて、ライブ当日。アクロバット飛行を行うアルト、ミシェル、ルカ、ジャン達は装備であるEX-ギアを収めたボックスと共にライブの舞台裏に待機していた。

 

そんな舞台裏で携帯端末を弄っているジャン。端末には、ライブ会場に来ているミーシャからのメールが届いていた。

 

『ただいま会場に到着しました!でもすっごい人だかりです!先輩達、緊張してミスしないで下さいね!頑張って下さい!応援してますからね!貴方の後輩、ミーシャより!』

「はははっ、全くアイツは」

ミーシャからのメールに苦笑を浮かべているジャン。

 

その時、挨拶するスタッフ達の声が聞こえた。アルトやジャン達がそちらに目を向けると、そこには金髪の少女、このライブの主役、『シェリル・ノーム』がマネージャーや護衛を伴ってやってきた。

 

ルカや男子達がそちらに気を取られている一方、ジャンはと言うと……。

 

『あの女性、新統合軍の軍人か?』

彼の目はシェリルに同行する白い制服姿の女性に向けられていた。

『いくら銀河の妖精とは言え、護衛に軍人まで付けるとは。少々行き過ぎな気もするがな』

と、ジャンは内心ため息をつくのだった。

 

 

その後、彼等はクライアントの意向で会場の外の森林公園まで来ていた。

「こんなの酷いですよ。更衣室も無い上にプログラムに口まで出してきて」

重いギアの入ったボックスを運びながら不満を漏らすルカ。

「しょうがないだろルカ。私達は彼等に雇われた身だ。それが仕事という物だろう?まぁ、納得は出来んがな」

そう語りながらジャンはEX-ギアを着込んでいく。

「そうだぜ。それに、これはリーダーである俺の決定だ」

「でも……。見たかったな~。アルト先輩のコークスクリュー」

未だに不安ありげに頬を膨らませるルカ。

「まぁそうむくれるなルカ。今回は仕事だ。さっさと仕事を終わらせればシェリルのライブを特等席で見られるかもしれんぞ?」

「はぁ、そうですね」

ルカはジャンの言葉に未だ不満を抱えながらも頷く。

 

一方、今だ着替えずに居たアルトにミシェルは煽るような言葉を言うと先に会場へと言ってしまった。

 

やがて、着替え始めたアルト。

「……せめて、バルキリーの乗れればな。こんな玩具じゃなく」

ボックスに収められたギアを見ながらポツリと呟くアルト。

 

その呟きは、まだ残っていたルカとジャンの耳に届いた。

「バルキリー、か。アルト、お前は卒業した後はパイロット、それも軍人にでもなるつもりか?」

「それを言うなら、民間のパイロットでも飛べると思いますけど?」

ジャンの言葉に続くルカの言葉。

 

「決められたコースを飛ぶ、か。それもぞっとしないな」

「そうですか。あ、じゃあ僕、先に行きますね」

そう言うと、ルカはギアのローラーを駆使して先に言ってしまった。残されたジャンとアルト。

 

「アルト、軍人になるのなら、私から一つだけ言っておく事がある」

「あ?何だよ」

「軍人になると言う事は、『もしも』の事態が発生したとき、真っ先に戦いにかり出される。当然、死ぬ確率も高い。だからこそ、あまり簡単に軍人になる、なんて思わない事だ。……安易な決断は、大きな後悔を巻き起こすぞ」

 

それだけ言うと、ジャンは『先に行く』とだけ言ってその場を後にした。

 

「……俺は、ここに居たくないんだ。こんな、息が詰まりそうな場所には」

唯一残されたアルトは、誰にでも言うでも無く、一人呟くと完成していた紙飛行機を握りつぶすのだった。

 

しかしその後、アルトは彼曰く『変な女』である少女と出会うのだった。

 

彼は知らない。この出会いが、今後の運命を左右する出会いである事。

 

そして、大いなる脅威が、もうすぐそこまで迫っている事を。

 

 

「私の歌を聴けぇ!」

彼女のかけ声と共にライブが始まる。そして、アルト達によるアクロバットが始まった。

 

途中、アルトの独断行動によってステージ上のシェリルと衝突しかける事態が発生したが、彼女の機転によって何とか問題になる事は無かったのだった。

 

その後、彼等はギアのカメラを使って観客席を映す仕事をしていたのだが、突如として暗かったライブ会場のライトが点灯。更にシェリルのホログラムを使った衣装などが解除されてしまう。

 

彼女を始め、観客達。アルトやジャン達も会場の天井付近の梁に待機していたが、事態は分からなかった。

 

外では、既に避難警報が発令されており、シェリルはやってきた軍人の女性によって強引にステージから連れ出されてしまう。

 

事態に困惑するアルトだったが、その時ミシェル、ルカ、そしてジャンに、通信が来ていた。

 

「了解。直ちに戻ります。行くぞ、ルカ、ジャン」

「分かりました」

「お、おい!ミハエル!ルカ!」

通信を受けた二人は、アルトを残してギアで飛び立ってしまう。

「アルト、よく聞け」

唯一残っていたジャンはアルトの肩を掴み、言い聞かせる。

 

「現在、フロンティア全体に避難勧告が出されている」

「な、何?それって訓練じゃ……」

「違う……!これは訓練なんかじゃない」

アルトの言葉を、語気を強めて否定するジャン。

「何が、何が起こってるんだよジャン。お前、何か知ってるのか!?ミハエルは!?ルカは!?」

「悪いが詳しく話す事は出来ない。良いな!?今すぐシェルターに避難するんだ!忠告はしたぞ!?分かったな!?」

それだけ言うと、ジャンもミシェル達の後に続いて飛んでいってしまった。

 

「あっ!?おい!ジャン!」

彼に向かって叫ぶアルトだが、ジャンは止まらず行ってしまった。

「クソッ!?何だよ、何が起こってるって言うんだよ!?」

アルトは、何も分からない状況に、苛立たしげに呟くのだった。

 

とある場所に向かうジャン。その時、彼の元に通信が届いた。

「ッ?もしもし?」

『あっ!先輩!良かった、繋がった!』

「その声、ミーシャか?」

通信の相手は、ミーシャだった。

「ミーシャ、お前今どこに居る?」

『今はライブ会場近くのシェルターです。運良く入れました。……でも、先輩やアルト先輩、ミシェル先輩達の姿が無くて心配だったから……』

シェルターに居る、と言う話に安堵を覚えるジャン。

 

「そうか。とにかく、シェルターの中ならば安全だな」

『は、はい。それより、先輩どこに居るんですか?何だか風を切る音が聞こえますけど、飛んでるんですか?』

「ん、あ、あぁ」

ミーシャの耳の良さに、ジャンは少々戸惑う。

「心配するなミーシャ。私はギアで少し遠くのシェルターに向かっているだけだ。大丈夫、心配はいらない」

『そう、ですか。……先輩、どうかご無事で』

「あぁ、そちらもな」

 

それだけ言うと、ジャンは通信を切った。

「……シェルターに向かう、か」

彼は、『嘘』の目的を呟く。

「すまんミーシャ。だが、私は今、戦わなければいけないのだ」

そう、自分に言い聞かせるように呟いたジャンはギアを加速させ、目的地へと急ぐのだった。

 

ギアを纏い、飛行したままジャンが向かったのは、『SMS』と呼ばれる企業のドック、そこに駐留していた、『マクロス・クォーター』と呼ばれる空母だった。

 

マクロス・クォーターに到着したジャンは、急ぎパイロットスーツに着替え、格納庫へと向かう。そこには、『灰色の人型ロボット』が2機、起立していた。

 

それは、この世界で完全なる主力となりつつある可変戦闘機、バルキリーと異なる物だった。バルキリーは変形機構を持ち、人型にも戦闘機にも変形出来るが、これは完全な人型だ。加えてサイズもバルキリーの二回りほど大きい。更にピンク色のモノアイと、背中の物々しい巨大なスラスターパック。それが目を引く巨人がそこに居た。

 

ジャンはその内の、左肩のシールドに01と描かれた機体へと向かい、機体の胴体部にある開かれたコクピットへと体を滑り込ませた。

 

シートに着座したジャンは、手慣れた動きでシステムを立ち上げていく。すると……。

 

『遅いですよ?何してたんですか』

隣に並んでいる機体から通信が届く。起動したディスプレイの片隅に映る通信用のタブには、相手の顔が映っていた。

 

相手は、女、もっと言えばジャンと同世代の少女であった。

「こちらは先ほどまでライブ会場に居たのだ。それより、状況は?」

少女、『佐々木レイコ』の言葉にジャンはシートベルトで体をシートに固定しながら問い返す。

 

「現在スカル小隊のオズマ少佐とギリアム大尉が既に出撃。しかしビクターは既に防衛ラインの奥深くまで到達しており、アイランド1に向かって急速に接近中。統合軍が応戦中ですが、ビクターを止められません」

「ちっ」

レイコの報告に、ジャンは舌打ちをする。

「これだから最近の軍は!」

悪態をつくと、ジャンは艦橋に通信を繋ぐ。

 

「コントロール!こちらはスカル小隊所属、ゴースト1。ゴースト2と共に出撃可能。発艦許可を求む!」

『こちらコントロール了解。ゴースト1、2の二機は発艦位置へ移動して下さい』

「了解!行くぞレイコ!」

「えぇ」

 

ブリッジからの通信を受け、二人は出撃の用意を始める。二機の巨人の周囲で整備士達が足早に動き回る。

「機体の固定を解除しろ!『ヅダ』が出るぞ!」

「1番機、2番機ともにマシンガン装備だ!105ミリマシンガンだぞ!?間違えてバルキリーのガンポッドを用意するなよ!それと、近接戦用のヒートホークも出せ!」

青い巨人、ヅダが用意された105ミリマシンガンと巨大な斧、ヒートホークを手に格納庫の外へと出て行く。

 

彼等の眼前に広がる、漆黒の宇宙。視線を横に向ければ、迫り来る敵へ向かっていくつもの砲火が放たれているが、当らない。

 

「ちっ!急がなければ!」

ジャンは舌打ちをしつつも、ヅダをカタパルトに乗せる。

『ブリッジよりゴースト1へ。進路クリア。発進、いつでもどうぞ』

「了解。ゴースト1、『EMS-04ヅダ』1号機、発進する!」

 

彼のかけ声に合わせ、リニアカタパルトが稼働し、ヅダの機体を宇宙へと押し出す。

 

『続いてゴースト2。発進どうぞ』

「了解。ゴースト2、ヅダ2号機、発進……!」

 

宙に放たれたヅダは、背面のエンジンから青い炎を吹き出し、急ぎ戦場へと向かう。更に、その後ろに遅れて出撃したレイコの2番機が並ぶ。更に……。

 

「ジャン!レイコ!」

青と緑の戦闘機、バルキリーが彼等に並ぶ。そして、青いバルキリーから聞こえてきたのは、先ほどまで一緒だったミシェルの声だった。そして付け加えるのなら、緑の方に乗っているのはルカである。

 

「ミシェルとルカか。ルカ、詳細な状況は分かるか?」

「はい。現在最終防衛ライン付近でビクターの集団と統合軍が交戦中。なお、大型ビクター1体と小型ビクター複数が既にアイランド1内部に侵入しています」

「何っ!?アイランド1の中に入られたのか!?」

「はい。既にギリアム大尉とオズマ隊長がそちらに」

「そうか」

 

『しかし、何だこの胸騒ぎは。嫌な予感がする』

彼の胸の内でザワザワと何かがうごめき、心を乱す。

 

「ミシェル、ルカ。外の連中を頼めるか?私とゴースト2はアイランド1内部の敵の掃討に向かう」

『良いのかよ?お前達のヅダってのは宙域戦闘用の機体だろ?』

「確かに重力下での運用は推奨されていないが、今はそんな事を言っている時間も無いだろう。どうする?」

『……分かった。お前らはアイランド1内部を頼む。俺達は外の敵を何とかする』

「あぁ、頼むぞ」

 

ジャンのその言葉を最後に、ミシェルとルカの機体、『VF―25メサイア』が離れて行く。

「レイコ、聞いていたな?」

「えぇ。アイランド1内部の掃討、でしょ?」

「そうだ。急がなければ一般市民に被害が出る。急ぐぞ!」

そう言って、ジャンはヅダを加速させ急ぎアイランド1へと向かう。

 

そして、ヅダ2機は外壁付近に存在しているゼントラーディサイズのエアロックを確認し、スイッチを捻ってエアロックを開ける。

「行くぞ」

「了解」

ジャンの言葉に静かに頷くレイコ。

 

2機のヅダがエアロックの中を進んでいく。そして、エアロックを抜けた先には既に暗くなった世界を赤く染める、燃える街並みと、市街地に立つ、不気味な紅い怪物。

 

「あれかっ!急ぐぞレイコ!」

「言われなくたって!」

ジャンの言葉を聞き、レイコはヅダのスロットルを吹かして機体を跳躍させる。

 

ジャン達のヅダが跳躍を繰り返しながら接近していくと、二人は市街地で戦うガウォーク

形態の白いバルキリーを発見した。

「あれは!?ギリアム大尉の!急ぐぞレイコ!」

「分かってるわよ!」

それは味方のバルキリーだった。

 

しかし、それに乗っているのは、二人が想定した相手ではなかった。

「ん?」

ふと、レイコは違和感を覚えた。白いバルキリーの戦い方が、素人丸出しだからだ。パイロットを確認するため、レイコはカメラの倍率を高め、白いバルキリーを注視する。

 

「ッ。あれって、早乙女?」

レイコは白いバルキリー、メサイアF型のコクピットに座る相手の顔を確認するとポツリと呟くのだった。

「何ッ!?」

そして、彼女の取得した画像データはすぐさまジャンの元に送られる。

 

「確かにアルトだ!ちぃっ!何がどうなっている!」

悪態をつきながらも、ジャンはアルトの乗るメサイアF型の元へと急ぐ。そして更に……。

「ん?ちょっと待ちなさいっ。あれ、F型の傍の路肩っ」

「何?」

レイコの指示に従い、そちらを注視するジャン。そこに居たのは、彼等の隊長の妹

である少女だ。

「なっ!?ランカちゃんだと!?クソッ!」

更なる事態の悪化にジャンは本日何度目になるか分からない悪態をつきながら、『リミッター』が作動する限界までスラスターを吹かす。

 

「クソッ!?クソォッ!」

そして、そのメサイアF型に乗っていたアルトは混乱し、現状に悪態をつきながらもガンポッドを撃ちまくる。

 

突然の避難警報。天井を破って現れた謎の怪物、ビクター。それと戦い、目の前で握りつぶされたギリアム。そしてアルトは、悲鳴を上げる、ライブ会場で出会ったあの少女を守る為に、メサイアへと飛び乗った。

 

だが、今のアルトに残弾なんて物を気にする余裕は無かった。

 

『ガガガガガッ!カチッ!カチッ!』

突如として、ガンポッドが動きを止める。

「弾切れ!?あっ!やべぇ!」

戸惑うアルトを前に、怪物は待ってはくれない。怪物は近づき、その太い片腕を振り上げる。

 

と、その時。

 

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

エンジンを吹かして突進してきたヅダ1号機が、怪物に跳び蹴りをお見舞いする。アルトのメサイアに集中していた怪物は、戸惑い数歩後ろへと下がる。

『バババババババッ!!』

そこに、レイコの2号機からのマシンガンよる掃射が怪物を更に後ろに下げさせる。

 

「無事かアルト!」

「え?そ、その声。まさかジャンか!?」

アルトは青い一つ目の巨人、ヅダを見上げながら愕然とした表情で呟く。

「お前っ!?何してるんだよ!?それにその機体って!?」

戸惑い叫ぶアルト。しかし、その叫びをかき消すようにジャンのヅダも射撃を開始する。

「詳しい話は後だ!」

爆音と共に放たれる砲弾の雨。しかし、その時怪物は大きく跳躍した。

 

怪物が着地した場所は、レイコの射線上にアルト達が来る位置だ。つまり、アルト達を怪物自身とレイコの間に置くことでレイコの攻撃を強制的に中止させたのだ。

「ッ!?ちょっと邪魔よ!早く退きなさい!」

彼等がいることで撃てないレイコ。そして、その隙に邪魔者を排除しようと、怪物はその腕にあるガトリング砲をヅダとメサイアF型に向けた。

 

だが……。

『ドドドドドォォンッ!』

それを遮るように怪物に何発ものミサイルが着弾。怪物は攻撃こそ阻止されたが、その硬い外殻に守られ大したダメージも受けていなかった。怪物は視線を、ミサイルを放った主に向け、アルトとジャン達もミサイル攻撃の主へと視線を向ける。

 

『ジャン!レイコ!お前達はその素人と娘を連れて下がれ!』

その時、重装甲のバルキリーから通信が届く。

「隊長!」

その相手こそ、ジャン達の隊長に当る男、オズマ・リーだった。

 

「隊長!実はこのメサイアに!」

『分かってる!ギリアムじゃない奴が乗ってるのは俺も確認した!』

ジャンの報告に、怒鳴るように答えながらオズマは怪物に攻撃を加えて下がらせる。

 

「おいっ!そこの素人!お前はそこに娘を連れて、その一つ目巨人たちと下がれ!」

「は、はいっ!」

アルトは、オズマに命令されるがまま、少女、『ランカ・リー』を傷付けないようにF型の手でゆっくりと握る。

 

『ジャン、レイコ!お前達はその素人と娘を守れ!良いな!』

「了解!」

「ッ!了、解」

ジャンは勢いよく。一方のレイコはどこか不満げに頷く。

 

ランカを掴んだアルトは機体を反転させる。しかし直後、その進路を小型の怪物が塞ぐ。

「ッ!?まだいやがったか!?」

「こっちだアルト!」

戸惑うアルトにジャンの言葉が届き、アルトは反射的に横へと逃げる。

 

「喰らえっ!」

「くたばれウジ虫がぁ!」

アルト達を守る為に攻撃を仕掛けるジャンとレイコ。105ミリマシンガンの徹甲弾が放たれるが、怪物は跳躍して回避。何故かアルト達の方へと追いかけた。

 

「ッ!?こちらを無視だと!?」

「逃がすかっ!」

すぐさま2機のヅダもスラスターを吹かしアルト達と怪物を追う。

 

そして、二人がレーダーに目を走らせれば、いつの間にかアルト達を追う小型の怪物の数が3匹に増えていた。

 

アルトの操るF型を追う怪物。更にそれを追う二機のヅダ。

「レイコ!分かっていると思うが!」

「早乙女たちに当てるバカはしない!」

ジャンが言うより早く、レイコのヅダが手にしたマシンガンを放つが、それに反応し2体の怪物が反転。攻撃をしてきた。

 

「ッ!散開っ!」

ジャンの声に従い、左右に分かれる2機のヅダ。ヅダはビルを盾にする形で敵の攻撃を避ける。これで、状況は1対1が3つ。とは言え、アルトに戦う術は無く、ジャンは内心焦っていた。

 

『このままではアルトとランカちゃんが危険だ!』

 

市街地を駆け抜けるヅダ。完全な飛行性能を持たないヅダでは、飛行能力を持つ怪物に対して不利だ。

 

だが……。

 

「だからといって、逃げる訳には行かんのだっ!」

一つの曲がり角を曲がったジャンはヅダを180度反転させ、着地。マシンガンを構え、更に脚部のラックに装備していた斧型の武装、ヒートホークを左手に持たせる。

 

と、次の瞬間、路地を曲がってあの怪物が姿を現した。

「おぉぉぉぉぉぉぉっ!」

その瞬間、ヅダはマシンガンを撃ちまくりながら突進する。何発かが怪物の体に命中し、怪物は動きを止める。しかし直後、怪物も体制を立て直し攻撃を開始する。

 

放たれる砲弾の雨。しかし、怪物は攻撃を食らって体が揺れている事もあり狙いが定まらない。一発の砲弾がヅダのシールドを掠める。

「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

その時、ヅダがスラスターを吹かして跳躍。怪物もそれを追って攻撃を繰り出すが、当らない。そして……。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ヅダの左手に装備されたヒートホークが怪物の頭に振り下ろされた。

 

赤熱化した刃が、その体を溶かし、深々と突き刺さる。攻撃を受け、動きが鈍る怪物。その隙にヅダは怪物から離れ、攻撃で出来た部位にマシンガンの銃弾をたたき込んだ。

 

動かなくなる怪物。と、次の瞬間その体が光ったかと思うと怪物は爆発四散した。

「ハァ、ハァ。一機、撃破」

常日頃からトレーニングをしているとは言え、初の実戦のプレッシャーにジャンの息は上がっている。

 

だが、この程度で動きを止めている訳には行かない。

 

ジャンはすぐさまレーダーに目をやり、そして怪物から逃げるヅダ2号機を確認すると、まず彼女の救援に向かった。

 

その時、レイコは何とかヅダの推進力で怪物の攻撃を回避していたが、それだけで攻撃に転じる事が出来なかった。

「くっ!?この虫けらの分際でっ!?」

憎たらしげに吐き捨てるレイコ。しかし、怒りを吐露した所で現状は変わらない。

 

その時。

「レイコッ!」

『ガガガガガガガッ!』

怪物の背後に現れたヅダ1号機が、怪物の背中にマシンガンをたたき込む。突然の背後からの攻撃に怪物はバランスを崩し、近くのビルに激突した。

「あっ!」

それに気づいて反転し着地するレイコ。

「今だっ!トドメをさせ!」

「ッ!」

そこに飛んでくるジャンの声に、彼女は我に返った。

 

怪物は、瓦礫の山から起き上がろうとしている。

「このっ!させるかぁぁぁぁぁっ!」

彼女の叫びに合わせ、ヅダはヒートホークを抜き、跳躍。動きだそうとする怪物の頭に振り下ろした。

 

頭を割り、周囲に青い怪物の体液が飛び散る。

「このっ!死ねっ!このぉぉぉぉっ!」

ザブッ!ザクッ!

 

そんな音が聞こえてくる中で何度もヒートホークを振り下ろすレイコ。

 

「そこまでだレイコ」

しかし、その時2号機の後ろに回った1号機の手が、2号機の左手を掴んで止める。

「ッ!?まだこいつがっ!」

「冷静になれゴースト2!よく自分の前にあるそれを見てみろ!」

「ッ」

 

ジャンに咎められ、レイコが視線を向けた先では、怪物がグチャグチャになっていた。それはもう、原型を止めない程に。

「……ごめん、ジャン」

「謝るな。初めての実戦だ。無理も無い。それより、アルトとランカちゃんを助けに……」

 

行こう、そう言いかけた時。

『ドォォォォンッ!』

彼等の頭上で閃光と爆音が響いた。慌てて視線を上に向ける2人。

 

見ると、アイランド1の天井が怪物の攻撃を受けて破壊。穴が開いた状態になってしまった。しかもカメラをズームして確認すると、その穴からランカが宇宙に放り出されようとしていた。

 

しかし、問題はそれだけではない。アルトはランカを助けようとしているが、未だに怪物が向かって来ている事に対して気づいていないのだ。

 

「あのままでは例えランカちゃんを助けたとしても危険だ!行くぞレイコ!」

「分かってる!」

2人は急ぎ、スラスターを吹かして大きく跳躍する。

 

一方その時、アルトは何とか宇宙に放り出されそうになっていたランカをギリギリの所で回収。自動修復機能で閉じていく穴へ飛び込みアイランド1の中に戻った。

 

息をつくアルト。しかしそれも束の間。穴を開けた元凶である怪物がメサイアの真正面に陣取っていたのだ。しかも既に攻撃を放つ寸前だ。

「くっ!?」

アルトは咄嗟に腕の中のランカを更に強く抱きしめる。

 

その時。

「させるかぁっ!!!」

『『ガガガガガガガガッ!』』

下から上がってきた2機のヅダによる、マシンガンの掃射が怪物を襲った。意識外の攻撃にバランスを崩し、攻撃を中断せざるを得なくなる。

 

「くたばれ!虫けらがぁ!」

そこに更に、レイコのヅダがヒートホークを手に迫り、その脇腹に刃が突き刺さる。そのままスラスターを吹かし、怪物をアルト達の進路から強引に退かす。

「離れろレイコッ!」

そこに無線を通して響くジャンの声。

 

レイコは怪物の体を蹴って機体を離す。

『ドガガガガガガガッ!!』

そこにたたき込まれた105ミリ砲弾の雨。それを喰らって怪物は、青白い火花を散らしたかと思うと、爆発四散した。

 

それを確認すると、一旦市街地に着地する2機のヅダ。

「……周囲に敵性体の反応は、無し。残るはあの赤い大型だけか。行くぞレイコ」

「えぇ」

2人は大型の怪物と戦っているオズマの援護に向かおうとする。が、しかし……。

 

『スカル3よりゴースト1、ゴースト2へ』

「む?こちらゴースト1、ルカか。どうした?」

『理由は不明ですが、敵が撤退して行きました。そちらの様子はどうですか?』

「アイランド1内部に侵入した小型ビクター合計3体を撃破。大型ビクターの方は……」

『あ、それなら大丈夫です。大型ビクターはオズマ隊長が処理しました』

「そうか。ならば現状、敵性体の残存戦力は確認出来ず」

『スカル3了解。ご無事で何よりです』

「……あぁ、お互いにな。後でな」

『はい。スカル3、通信終了します』

 

そう言って、ジャンはルカとの通信を切る。

「……終わったな」

静かに呟くジャン。

「いいえ。始まりでしょ?」

そこに聞こえるレイコの声。ジャンは、彼女の言葉に『確かに』と頷く。

 

今日という日の戦闘は終わったかもしれない。だが、これは怪物、『バジュラとの戦い』の始まりの一戦に過ぎないのだった。

 

「始まる。奴らとの戦いが……!」

怒りを滲ませながらアイランド1の天井、その先に見える宇宙を仰ぎ見るレイコ。

「あぁ、そうだな」

ジャンは静かに、それに同意しつつも破壊された街並みへと目を向ける。

 

『……守ってみせる。私が。仲間も、人々も……!』

そして彼は、静かな決意をその胸に抱くのだった。

 

     第1話 END




主人公は、ヅダのパイロット、ジャン・L・デュバル少佐を若くした感じです。それと現在彼等が乗っているのはIGLOO本編で活躍したヅダではなく、ザクⅠとのコンペに敗れたEMS04の時のヅダです。ネットとかでEMS04って調べると画像が出てくるので、興味があれば調べて見て下さい。

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