AI: ソムニウム ファイル THE futurity Decker (ガンダムラザーニャ)
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光の巨人になった日

今回から新しく投稿したウルトラマンデッカーの話です。

毎週土曜日投稿予定ですので、読者の皆様、どうか温かい目で見守ってください。

また活動報告も作りましたので、皆様のリクエストをお待ちしております。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=282648&uid=99940


俺こと明日見 彼方はある場所で働いている。

 

この街にある洋菓子店・シャルモンで、俺は住み込みで働かせて貰っている。

 

「坊やぁ!

アップルパイが出来上がったわよぉ!!」

 

「はぁい!

今行きます鳳蓮さん!」

 

俺の仕事は、この店のパティシエである鳳蓮さんの手伝い全般だ。

 

そして、今日もお客さんから注文を受けたケーキを作っていく。

 

「……よし」

 

鳳蓮さんと作った、渾身の出来栄えだ。

 

「坊や、これを持っていってちょうだい」

 

「はい」 

 

完成したばかりのアップルパイを箱に詰めて、それを厨房の隅っこに置いておく。

 

すると数分後、それを見た鳳蓮さんが満足げな表情を浮かべるのだ。

 

「うん、いい出来ね。じゃあ次のケーキに取り掛かるわよ?」

 

「はい!」

 

それから仕事も一段落して、裏で休憩していた。

 

すると鳳蓮さんはコーヒーを持ってきてくれた。

 

「お疲れ坊や」

 

「ありがとうございます」

 

差し出されたコーヒーを受け取りながら、椅子に座って一息つく。

 

「それで、調子はどうなの?」

 

「えっ、特に体調が悪いってことはないですよ」

 

「違うわよ!

記憶よ記憶!

12年前以前のき・お・く!」

 

「…あー」

 

そう、俺には12年前からの記憶がない。

 

あるのは、突撃してきた車の前に立っていたこと、俺と瓜二つの顔をした少年、銀河のような星の光の巨人の3つの手がかりだけだ。

 

それに何故か時々頭が痛くなってしまう。

 

それに俺は名前もわからなくて、路頭に迷っていたところを鳳蓮さんが拾ってくれたんだ。

 

それから今の名前をもらって、こうして働かせてもらってるというわけだ。

 

「すみません、まだ何も思い出せなくて」

 

「あらそうなの? それは残念ねぇ」

 

本当に残念そうだ。

 

「でも、焦らない方がいいと思うわ。時間はたくさんあるもの」

 

「……はい」

 

確かにその通りかもしれない。

 

焦ってもしょうがないもんな。

 

「まぁでも、そのうち何かしら思い出せるかもね」

 

「そうですね」

 

「……」

 

ドゴーンッ!!!

 

その瞬間、どこか近くで何かが爆発する音がした。

 

「な、何だ!?」

 

「坊や、あれを!」

 

建物を出て、上空を見上げる。

 

「…っ、あれは!」

 

そこにいたのは、怪獣だ。

 

街を破壊していく巨大な怪獣がいた。

 

だがそれ以上に、あの怪獣を見た瞬間に強い頭痛を感じた。

 

「ぼ、坊や!?

しっかりなさい!

どうしたというの!?」

 

鳳蓮さんが必死に呼びかけてくれるが、俺は今それに答えれる余裕がない。

 

むしろ頭痛が強くなって、今にも頭が割れそうだ。

 

だが、少しずつ何かの映像が頭の中に入り込んでくる。

 

銀河の光、光の巨人、2つのアイテム。

 

何がなんだかわからない。

 

だが、これだけははっきりとわかる。

 

あの怪獣を、倒さなくてはならないということが。

 

そうとわかった時には、スッと頭痛が治まり、怪獣に向かって走り出していた。

 

「ぼ、坊や!?

どこに行く気なのよ!?」

 

「すみません鳳蓮さん!

俺があいつを食い止めますので、鳳蓮さんはお客さんを避難させてください!」

 

俺はそう言い残し、怪獣に向かって走り出した。

 

どうするべきかなんてわからない。

 

無茶だというのはわかってる。

 

でも、止めなくちゃいけないんだ!

 

俺の中の何かが、そう叫んでいるんだから!

 

逃げ惑う人々の中を掻き分けながら走る。

 

すると、一人の子供の頭上に瓦礫が落ちてくるのが見えてしまった。

 

「危ない!」

 

「ぐっ!」

 

間一髪で子供を突き飛ばして助けることができた。

 

それと引き換えに自分が瓦礫の下敷きになってしまった。

 

「くそっ、動けない……」

 

痛みはない。

 

しかし、体がまったく動かないのだ。

 

そして、そんな俺を見下ろすように怪獣が迫ってきた。

 

「まずいぞこれは……!」

 

「グォオオオッ!!」

 

そして、怪獣は腕を振り上げて……。

 

その時、俺は光に包まれた。

 

「…は?」

 

瓦礫の下敷きになっていた体が自由に動く。

 

けど、ここはどこだ?

 

あの怪獣は?

 

逃げてた人たちはどうした?

 

駄目だ、周りが光で何も見えない。

 

そう思ってると、目の前に宇宙の銀河の風景が映し出された。

 

そこでも俺は頭痛を覚えた。

 

だが見覚えがある。

 

これは頭痛が起きてる時には見えた映像の一つだ。

 

すると、目の前に2つの物が現れる。

 

一つはデッキケースのようなアイテムで、そこから光の巨人が描かれたカードが一枚出てきた。

 

もう一つは、その光の巨人を模したアイテムだ。

 

「これ、俺が使うのか?」

 

訳がわからないまま、俺はその2つを手に取った。

 

すると一気に何かが頭の中に流れ込む。

 

光の巨人の名前、使い方、そして怪獣と戦う使命。

 

その全てが理解できた。

 

気がつけば、その2つのアイテムが両腰に装置されていた。

 

「…よくわからないけど、やるしかない!」

 

俺はあの怪獣を倒すために、覚悟を決めた。

 

右腰のデッキケースからカードを一枚取り出し、左腰のアイテム・ウルトラDフラッシャーへと挿入する。

 

【ウルトラディメンション!】

 

フラッシャーを手に取り、下部のレバーを引くと、角のように伸びる。

 

俺はフラッシャーを高く上へと持ち上げ叫ぶ。

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

そしてフラッシャーを自分の顔の前へと持っていきトリガーを押すと、俺はより強い光に包まれた。

 

【ウルトマランデッカー!フラッシュタイプ!!】

 

気がつけば、俺は街へと降り立ち、目の前の怪獣を見る。

 

一瞬怪獣が縮んだのかと思ったが違う。

 

俺がデカくなったんだと言うことがはっきりとわかる。

 

それに手を見ると、手が銀色になっていた。

 

いや、もう体全体が変わってるようだ。

 

足元を見ると大勢の人たちが逃げてる。

 

まずい、目の前の怪獣が突っ込んできたら、大惨事だ!

 

「よし、行くぜ!」

 

俺は足に力を入れて飛び上がった。

 

ビルよりも高く舞い上がり、そのまま怪獣の顔面に飛び蹴りを食らわせた。

 

「ギャアァアッ!?」

 

キックは見事に決まり、怪獣はそのまま倒れ込んだ。

 

「まだまだぁ!」

 

俺は怪獣を持ち上げ、どこか人のいない場所を見て探す。

 

その先には広場があって、そこには人がいないようだ。

 

そこなら思う存分戦える!

 

俺は怪獣を投げ飛ばした。

 

そして、怪獣を追って自分もジャンプして空中で掴みかかると、地面に叩きつけた。

 

「グガガッ!?」

 

起き上がる隙を与えず、連続でパンチやチョップを繰り出す。

 

だが怪獣が踏ん張って、俺を吹き飛ばした。

 

「うわぁ!?」

 

吹き飛ばされながらも、何とか着地した。

 

すると、怪獣は口から火を吐いてきた。

 

「あぶねぇっ!」

 

慌てて横に転がるように避けると、さっきまでいた場所に炎が広がる。

 

あんなの食らったらひとたまりもないな……。

 

だが、だからって諦めてたまるか!

 

今度はこっちから攻める!

 

俺は怪獣に向かって走り出す。

 

怪獣も俺に向かって走って来て、お互いの距離が近づいた瞬間に、俺は拳を突き出した。

 

「はああっ!!」

 

「グォオオオッ!?」

 

俺の拳が怪獣の腹に命中し、怪獣は腹を抱えて悶絶していた。

 

このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

だが、こいつを倒す決定的な攻撃が今の俺にできるのかと考えると、頭の中で感じ取った。

 

「そうか、これなら!

…はぁあああああ!!」

 

一度両手を額の前に持っていきひし形を作り、そのまま手を大きく回した後でクロスさせる。

 

すると両手に強力な力が感じられるようになった。

 

そのまま、両手を十字にしてその力を放つイメージをした瞬間に強力な光線が怪獣に向かって放たれた。

 

「グゥオオォオオッ!!」

 

それは見事命中した。

 

怪獣は断末魔を上げて倒れた後、爆発した。

 

「……勝った、んだよな?」

 

俺は変身を解き、元の姿に戻った。

 

辺りを見渡すと、避難してた人たちは無事だったようでホッとした。

 

「よか…った…」

 

安堵したからか、俺の体にドッと疲れが押し寄せてきた。

 

体が重い。

 

俺はその場で倒れそうになる。

 

「…はっ!坊や!」

 

すると俺を探しに来てくれたのか、鳳蓮さんが走って俺を支えてくれた。

 

「ほ、鳳蓮、さん…」

 

「もうっ、どこに行ってたのよ!

心配したじゃない!」

 

「すみません、ちょっと色々あって、それで、えっと……」

 

「何?どうしたの?」

 

「俺、今、急に眠くなって……て……」

 

「ちょ、ちょっと大丈夫!?しっかりなさい!」

 

俺は何とか意識を保ちながらも、鳳蓮さんに運ばれる形でシャルモンに帰るのであった。

 




明日見 彼方(あすみ かなた)
本作の主人公でウルトラマンデッカーの変身者。洋菓子店シャルモンで住み込みで働く青年。明るく正義感のある性格で、どんな相手にも果敢に立ち向かっていく。ある事情で12年前からの記憶がなく、名前も鳳蓮に拾われた際に名付けられた。
容姿はAI: ソムニウム ファイル ニルヴァーナ イニシアチブの龍木だが義眼ではない。

鳳蓮
洋菓子店シャルモンで働くパティシエ兼店長。鍛えに鍛え抜かれた体格にスキンヘッドに黒いバンダナをしており、上品なオネェ口調で喋る。フルネームは鳳蓮ピエール。パティシエとしての腕もすごい。本物に拘ってとても厳しいが同時に面倒見の良い性格。
容姿は仮面ライダー鎧武の凰蓮・ピエール・アルフォンゾ。


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造られし巨人

活動報告のリクエスト募集を続けてますので、皆様のリクエストをお待ちしております。
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「…俺、こんな姿になってたのか」

 

怪獣を倒してから翌日。

 

昨日のことでどの番組も持ち切りだった。

 

それで、俺が変身した姿がはっきりと映っていたが、あぁいう姿に変身して戦ってたんだな。

 

何というか、胸元に銀河の星のような模様があって、それから左肩を中心にプロテクターみたいなのが装着された、一昔前の剣闘士にありそうな見た目で、左胸には何やらカードケースに似たランプみたいなのがあった。

 

顔も変わってて特に額がひし形に尖った形になっている。

 

…思えば、俺が見たあの映像の光の巨人もこんな感じだったよな。

 

確か、俺が変身したときに叫んだのは、デッカーだったよな。

 

それにフラッシャーからもはっきりとウルトラマンデッカーって言ってたし。

 

そう考えながらテレビを見ていると。

 

「…あら、調子はどう坊や?」

 

「あっ鳳蓮さん!

すみません今仕事手伝いますから!」

 

「別に無理しなくていいわよ。

昨日あなた、あれだけボロボロだったじゃない。

だから今日のところは休みなさい」

 

「でも……」

 

「いいわね? これはあたしからのお願いよ」

 

「……はい」

 

鳳蓮さんの言う通りだ。

 

昨日の今日で疲れがまだとれてないんだ。

 

それに、鳳蓮さんのことだから、疲れが溜まってる状態で手伝いに行くのは帰って足手まといになってしまう。

 

「んっ?

そういえばあなた、さっきから何を見てるのよ?」

 

「えっ、あぁ…、ニュースですよ。

ほら、昨日のことで持ち切りですから」

 

「ふぅ~ん……。

まぁ、確かにあれだけのことが起きたんだものねぇ。

…でもワテクシとしてはこっちも気になるのよねぇ…」

 

そう言って鳳蓮さんはニュースを見る。

 

どうやら昨日から、謎の飛行物体が各地で出現して人々を襲い掛かってるらしい。

 

んで、それが怪獣を刺激して暴れさせてる可能性もあるとか。

 

確か、名称も決まってて、スフィアと呼ばれてるらしい。

 

「本当に物騒になってきたわね。

これと6年前と関係してるのかわからないけど、そう連想してしまうわ」

 

「あれ?

6年前って何かありました?」

 

「何かって、決まってるじゃない!

世界を覆い尽くす闇とウルトラマントリガーが戦った話のことよ!」

 

「ウルトラマン、トリガー?」

 

「覚えてないの!? じゃあ、これを見なさい!」

 

そう言って、鳳蓮さんは新聞を持ってきた。

 

そこにはウルトラマントリガーが闇と戦って、世界を救ってくれたことが書かれている。

 

「当時もこの辺り危険だったから、坊やも連れて避難したものだわ。

……それにしても、昨日現れたあの怪獣……、もしかしたら……」

 

「えっと……、そのウルトラマントリガーと戦った闇と関係あるんですかね?」

 

「わからないわ。

ただ、もしそうだとしたら、まだ6年前の戦いは終わってないことになるわね」

 

「……」

 

それはよくわからないが、昨日怪獣が出てきたのは事実だ。

 

そもそも、6年前のその時期、頭痛がひどくてその時に起こったことほとんど覚えてないけど。

 

でも、例えその6年前と関係があってもなくても、怪獣が出てくるなら、どうにかするしかない。

 

「とにかく、今日はゆっくり休んで明日に備えなさい。

また明日になれば大丈夫でしょうしね」

 

「わかりました」

 

俺はしばらくしてから外の空気を吸うために外へ出た。

 

それで近くスーパーの電化製品のテレビ置き場で、変わった男がニヤリとした様子でテレビに映ってる、昨日の例のニュースを見ていた。

 

「ほぉ、これがこの世界のウルトラマンか…。

だが神の才能を持つ私が造り上げたウルトラマンが上であることには変わりはない」

 

「…?」

 

「ん?

そこの君、私に何かようかな?」

 

「あっ、いや…。

今さっき、ウルトラマンのことを知っていそうな話をしてたから、知りたくてつい」

 

「そうか。

確かに昨日のニュースで持ち切りにされるくらいのものだからね」

 

「失礼ですけど、お名前を聞いても?

俺は彼方 明日見 彼方って言います」

 

「ほう…、明日見 彼方か。

なるほどいい名前をしているじゃないか。

私の名はクロト、最強のウルトラマンを作ることを目指しているのさ」

 

「最強の、ウルトラマン?」

 

男、クロトさんは壮大な夢を語るかのように手を広げる。

 

「私はウルトラマンという存在が好きでね。

だからウルトラマンのことを研究し、自分だけの最強のウルトラマンを造るのが、私の最終目的と言ってもいい」

 

「研究を?

じゃあ6年前に現れたという、ウルトラマントリガーのことも!?」

 

「あぁ、もちろん知っているさ。

話せば長くなるが、ありとあらゆるウルトラマンという存在を、私は見てきたのだからね」

 

どういうことだと、聞き出そうとした時に、ニュースの速報でスフィアが大量に現れ街を攻撃しているという情報が入った。

 

それもこの街に。

 

「ふっ、スフィアか。

ならば、私の神の才能を示すときぃ!!」

 

「あっ、クロトさん!」

 

クロトさんが狂ったように走り出したので追いかける。

 

外の上空では、スフィアが大量に出現して、街を破壊していた。

 

しばらくすると、クロトさんが路地裏に走っていくので俺もついていくと、懐から装置を取り出した。

 

「さぁ君の番だぁ…。

私の神の才能の最高傑作、テラノイドォ!!!」

 

スイッチを押すと、その装置から巨人が現れた。

 

「あれって、デッカー?」

 

いや、よく見たら違う。

 

確かにデッカーに似ているが、所々違う。

 

顔立ちはよく似てるけど、デッカーみたいに左胸のプロテクターも無い。

 

胸元にランプがある。

 

赤と銀色の巨人だ。

 

確かクロトさんはこれをテラノイドと呼んだか。

 

テラノイドは空中飛行するスフィアに光線を撃って撃ち落としていく。

 

そしてそのまま地面に降り立つと、一気に走って行って、次々とスフィアを倒していった。

 

「すげぇ……」

 

圧倒的な強さだった。

 

それに俺が変身するよりも圧倒的に強いかもしれない。

 

だがしばらくしていると、テラノイドの動きが鈍くなってきた。

 

それにクロトさんが焦った様子で装置を操作する。

 

「おい、どうしたテラノイド!?

何故反応しない!?

…まさか、エネルギー切れか!?」

 

そうこうしてる内に、動きが止まってしまったテラノイドに、スフィアたちが纏わりつく。

 

纏わりついた所から異形化し、テラノイドが怪獣となって暴れ始めた。

 

「そんな…っ、私の、テラノイドが、ウルトラマンが…」

 

「く、クロトさん!

今はそんなことよりも早くここから離れますよ!」

 

「そんな、そんな…」

 

放心してクロトさんがその場から動こうとしない。

 

このままだと、クロトさんも危ない。

 

だけど今の俺が戦っても、勝てるかどうかわからない。

 

でも、だからといって放っておくこともできない。

 

俺は、悩んだ末に覚悟を決めた。

 

「……やるしか、ないよな」

 

俺はその場から離れて、誰もいないところを確認してからフラッシャーを取り出し、起動させる。

 

ケースからカードを取り出して、フラッシャーに挿入し、角を立てさせる。

 

『ウルトラディメンション!』

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

叫ぶと同時に、俺は強い光に包み込まれる。

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!』

 

デッカーに変身した俺は、怪獣と化したテラノイドがクロトさんを踏み潰さないように後ろから引き剥がし、広い場所に向けて背負い投げをする。

 

背中から落とされた衝撃によって、テラノイドは起き上がるもフラフラしていた。

 

テラノイドに殴りかかろうと俺は拳を構えて走り出すが、すぐに回復したのか、テラノイドが俺の拳を受け止め、そのまま取っ組み合いになる。

 

押したり押されたりを繰り返して、しばらくすると、蹴りを腹に喰らってしまい、よろめいた隙に強烈な頭突きもくらってしまう。

 

「ぐぁっ!?」

 

なんとか倒れずに踏ん張るも、テラノイドの突き出した手からの光線を受けてしまう。

 

「うわぁあああ!?」

 

直撃を受けて吹っ飛ばされ、地面を転がる。

 

すると、俺の左胸のランプが、最初は青かったのに赤くなって点滅し始めた。

 

「ま、まずいっ! これじゃあ……」

 

そう思ってると、テラノイドがこちらにゆっくりと歩いてくる。

 

そして目の前まで来ると、両手を十字にクロスして、光線を放とうとする。

 

「…っ!」

 

俺は咄嗟に転がるように回避して、すぐさま手裏剣を投げるように怪獣のランプに向けて光線を放った。

 

その瞬間、ランプを中心に小規模ながら爆発を起こし、動きが鈍くなり始める。

 

そうか、あれが弱点だったんだな!

 

俺はトドメとばかりに、両手をクロスして、十字を作って強力な光線を放った。

 

テラノイドは避けることができず、光線を喰らった直後に内側から爆発した。

 

「私のウルトラマンがーーーーっ!!」

 

と、クロトさんの悲鳴が聞こえた。

 

あの人からすれば、一生懸命作ったテラノイドが破壊されたことに嘆いているのだろう。

 

だが、理由はどうであれ、スフィアを倒そうとしてくれたこの人のテラノイドが暴走して、暴れまわるのを止めたかった。

 

もうこれで、クロトさんのテラノイドがスフィアのせいで暴れずに済む。

 

そう思って安堵し、俺は変身を解除した。

 

「…はぁっ!」

 

変身した後の脱力感に、俺は膝をつく。

 

早く店に戻ろうとした時に、真剣そうな表情の鳳蓮さんが俺を見下ろしていた。

 

「ほ、鳳蓮、さん?」

 

「何となく、さっきの巨人の近くにいるんじゃないかと探しに来てみれば。

坊や、あなたがあの巨人だったのね」

 

「えっいや鳳蓮さん?

一体何の話を…」

 

「惚けなくてもわかるわよワテクシには。

そもそも、巨人の姿から戻る所を、今さっき見させてもらったから」

 

えぇっ!?

 

まさか今さっき見られたってことか!?

 

どうしよう俺、このまま追い出されるのか?

 

と、思っていると鳳蓮さんに襟を引っ張られて引き摺られる。

 

「全く、何なのよあの戦い方は!

ついてきなさい、話を聞くからあなたをアマチュアから本物に鍛えてあげるわよ!」

 

「えぇっ、ちょっ!?

鳳蓮さん!?」

 

訳が分からず、俺は鳳蓮さんに連れて行かれようとしていた。

 

「待て」

 

「んっ、あなたは誰かしら?」

 

待ったをかけるように、クロトさんが現れた。

 

「ク、クロトさん?」

 

「君も先程、そこの彼がウルトラマンであったのを知ったように、私も今気付いたんだ。

私もついて行かせてもらおうか」

 

「へぇ、それはなぜ?」

 

「…そんなことは決まっている」

 

クロトさんが狂ったように笑いながら答える。

 

「私は最強のウルトラマンを造ることを目標としている。

そして、暴走してしまったとはいえ君は私のテラノイドを破壊したのだ。

そんな君を直接観察し、研究することで、私はこの神の才能を持って、テラノイドを超えるウルトラマンを造るのさぁ!

明日見 彼方ぁ…、光栄に思うがいい」

 

「ふん、どうやらあなたもこの坊やが気に入ったようね。

いいわついてきなさい、ワテクシの店に一人二人住んだって変わらないから」

 

「えっ、ちょっと鳳蓮さん!?

俺話が全く見えてないんですけど!?」

 

「良いから、ちょっとついてきなさい。

こうなったら色々と話を聞かなくちゃいけないから」

 

「えっ、えぇ…」

 

俺は混乱しながら、鳳蓮さんに引き摺られ、その後をクロトさんが追いかけるのであった。



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本物へのステップ

今回ははっぴーでぃすとぴあさんからの話で、ザザーンを出させていただきました。

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俺はシャルモンで鳳蓮さんとクロトさんに事情を説明した。

 

「なるほど、つまりあなたはあの後で人助けをしたときに瓦礫に埋もれちゃって、怪獣に踏み潰されそうになったところでこのアイテムが現れて、それであの巨人、ウルトラマンデッカーに変身した。

そういう訳ね」

 

「はい、俺にもそうとした言えなくて…」

 

「ふむ、中々興味深いデバイスじゃないか」

 

クロトさんがフラッシャーを手に取り、まじまじと見つめる。

 

「そ・れ・よ・り・も!

何よあの戦い方は!

あんな素人丸出しの戦い方をして、恥を知りなさい!」

 

「えぇっ!?

いやいや鳳蓮さん!

俺だっていきなり変身して怪獣と戦ったんですよ!?

それに、街に被害を出さないように広い場所まで誘導しましたし……!」

 

「そんなの当たり前でしょう? 街を守るなら、街の被害を最小限に抑えるのは当然のことよ?」

 

うぅ……そう言われると返す言葉がないな……。

 

確かに俺は街を守りたいと思って戦っていたけど、戦い方に関しては全く考えてなかった。

 

それじゃあダメだと言われても仕方ないのか……。

 

「でも、怪獣との戦いでの拳の振り方も、避け方も、全く持ってなってないわ。

アマチュア以前にド素人よ」

 

「ぐはぁっ!!」

 

ズバズバ言い過ぎじゃないですかねぇ!?

 

「鳳蓮、少し言い過ぎじゃないのか」

 

「あらごめんなさい。

ワテクシったら思ったことは何でも口にしちゃうタイプだから♪」

 

悪びれもなく言う鳳蓮さん。

 

「…まぁ、彼の言うとおり、君の動きは素人のそれだ。

私のテラノイドを倒したことは事実だが、次も勝てるという保証がない」

 

「…」

 

確かにそうだ。

 

今なんてスフィアが蔓延ってるような状態だし、それに刺激されていつまた怪獣が出てくるかもわからない。

 

だから、強くならなくちゃいけないんだ。

 

「まぁいいわ。

ワテクシが坊やを鍛えて差し上げるわ。

素人でもアマチュアでもない、本物に、ね」

 

ついてきなさいと、指をクイクイしながら歩き出す鳳蓮さん。

 

「あ、あの、どこに行くんですか?」

 

「決まってるでしょ? 修練場よ」

 

「しゅ、修練場って、修行するんですか!?」

 

「当たり前でしょう? これから戦う相手は怪獣だけとは限らない。

スフィアだって現れるかもしれないのよ?」

 

そう言って、鳳蓮さんは立ち入り禁止と書かれた扉の鍵を外して開ける。

 

そういえば今まで、鳳蓮さんにはここは何があっても開けるなって言われてたから、こうして開ける所を見るのは初めてだ。

 

薄暗ぐ長い階段を降りていく俺たち。

 

そしてその先に広がっていた光景を見て驚いた。

 

そこにはまるでどこかの地下にある闘技場のようになっていた。

 

天井は高く、広さもかなりある。

 

壁際には剣や槍などの武器が並べられており、中央部分には訓練用の人形らしきものが無数に置かれていた。

 

そして、一番奥の壁にはモニターが設置されており、そこに映っているのは、俺が戦ったあの巨人だった。

 

「ここってまさか……」

 

「そう、ここが修練場よ。

本来はワテクシの修練のために使っていたんだけれど、まさか坊やのために使うことになるなんてね」

 

「…えっ?

ここでどんな修練してたんですか?」

 

「んっ?

ワテクシのパティシエとしての腕を上げる修練よ?」

 

「ここでですか!?」

 

こんな所で一体何をしていたのか気になるけど、今はそんなこと気にしている場合じゃないな。

 

…でも、ここでどうやって修練すれば。

 

「けど、怪獣のようなでかい相手じゃないと、俺変身して戦えないと思うんですけど…」

 

「そういうことなら落ち着きたまえ。

君なら人間サイズのまま変身できるさ」

 

「えっ、どういうことですかクロトさん?」

 

「私はこれまで様々な世界でウルトラマンを見てきた。

そのほとんどが巨体で戦うことはあったが、人間サイズどころかミクロサイズまで小さくなることも可能だ」

 

「様々な世界って、クロトさんって何者ですか?」

 

「神だ」

 

ニチャアっと笑みを浮かべながら答えるクロトさん。

 

うーん、この人も謎が多い人だな……。

 

「ともかく、君の要望には応えるさ」

 

そう言うとクロトさんが懐からタブレットを取り出し、操作することで修練場の真ん中に何かが投影・実体化した。

 

それは、全身に海藻を被った姿の怪獣だ。

 

「か、怪獣!?」

 

「これはヘドロ怪獣 ザザーンだ。

人間サイズまで落とし込んではいるが、それでもかなりの強敵だぞ」

 

「マジかよ…」

 

「さっ、後は君がデッカーに変身して、ザザーンと戦うんだ」

 

「うぅ…、わかりましたよ」

 

まさか本当にやるのかと思いながら、俺はカードケースからカードを取り出して、フラッシャーに装填、角を立てる。

 

『ウルトラディメンション!』

 

「輝け、フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー!フラッシュタイプ!』

 

そうして、俺は人間サイズになるように念じながら変身すると、本当に巨大にならずにそのままのサイズでデッカーに変身できた。

 

「あらまぁ、改めて変身する所を見ると、やっぱり凄いわねぇ」

 

「ふむ、やはり彼は面白いな」

 

二人共、感心したように呟く。

 

「さぁ、始めなさい。

何かあれば指示を出すから」

 

鳳蓮さんの合図でクロトさんがタブレットを操作したと同時に、ザザーンは動き出し、襲いかかってきた。

 

「はぁっ!」

 

拳を突き出してくるザザーンの攻撃を横に避けると、飛びかかるように殴りかかってきた。

 

「うわぁっ!!」

 

間一髪のところで避けたが、地面が砕けるほどの威力に驚く。

 

「そこ、避けたら反撃しなさい!」

 

「ッ!? はぁっ!!」

 

鳳蓮さんの指示通り、すぐに蹴りを入れる。

 

ザザーンも負けじと腕でガードするが、衝撃に耐えられず後退する。

 

「いい感じよ坊や!

そのまま叩き込みなさい!」

 

言われたようにザザーンに攻撃しようとするも、ザザーンが殴りかかろうとするので受け止める。

 

「いいわ、いいわよ坊や!

相手の動きをよく見て、そしてカウンターを決めなさい!」

 

その後も鳳蓮さんの声を聞きつつ、戦いを続ける。

 

やがて、ザザーンの動きに慣れてきたのか、徐々にこちらの攻撃が入るようになり、ついにザザーンの腹部に直撃する。

 

それが効いて、ザザーンは大きく怯む。

 

このまま一気に畳み掛けようとしたところで左胸のランプが赤く点滅し始めた。

 

「えっ、まただ!」

 

「坊や!

余所見厳禁よ!!」

 

「えっ、うわっ!?」

 

ランプに気を取られて、その隙にザザーンの反撃を許してしまい、馬乗りにされる。

 

ザザーンが俺の顔を殴ろうとするので避けまくる。

 

「もうっ!! これじゃあジリ貧じゃないか!!」

 

「坊や落ち着いて!! ほら、相手の動きをよく見なさい!!」

 

鳳蓮さんに言われてザザーンの方を向く。

 

避けながらザザーンが殴ってくる方向を見る。

 

殴りかかったことにより重心が傾くのを見て、ザザーンを転がして距離を取る。

 

そして額の前で菱形を作り、両手をクロスさせてエネルギーを集中させてから、十字を作るように手を交差させる。

 

手から放たれた光弾は真っ直ぐ進み、ザザーンに命中して爆発した。

 

「な、何とか勝てた…」

 

そのまま俺は変身を解除するとその場に座り込む。

 

「お疲れ様、坊や」

 

「ほ、鳳蓮さん…、どうでしたか?」

 

「まぁまぁの出来よ。

アマチュアの域は超えてないけど、磨けば光るダイヤモンドってところかしら」

 

「そ、それなら良かったです……」

 

「…ふむ、中々良いデータが取れた。

今後も特訓をしていけば、君はウルトラマンとして更に強くなるだろう」

 

「そ、そうですか……」

 

「さっ、立てる坊や?

今日のところはこれでおしまいにしましょムッシュ・クロト?」

 

「あぁ、今日は満足の行くデータが取れたからね。

それでも構わないさ」

 

「そう。

じゃあ坊や、休憩が終わったら、店の方も手伝いなさい」

 

「わ、わかりました…」

 

鳳蓮さんは俺を立ち上がらせて、クロトさんは隣でタブレットを見る。

 

俺はしばらく休憩室で休憩を取ってから店の手伝いをすることにした。

 

すると誰かがやってきた。

 

長い水色の髪を2つの三編みにした少女だ。

 

彼女は常連の伊達みずきちゃんだ。

 

「こんにちは〜!」

 

「あら、こんにちはみずきちゃん。

今日はどうしたの?」

 

「いつものケーキを2つ、お願いしたいんだけど」

 

「いつものね。

坊や、ここに出しておくから、袋に入れて勘定して頂戴!」

 

「わかりました」

 

鳳蓮さんが用意したケーキ2つを袋に入れてみずきちゃんに渡し、お金をもらってお釣りを返す。

 

「じゃあ私はこれで!」

 

「うん、元気で」

 

そうしてみずきちゃんが帰っていくのを見送ってから、鳳蓮さんが声を掛けてきた。

 

「…それにしてもあの子、相変わらずケーキ2つ持って帰るわね。

余程ボーイフレンドのこと気にしてるのかしらね」

 

「えっ、ボーイフレンド?

でもみずきちゃん、女子高に通ってるんじゃ…」

 

「そうじゃないわよ!

6年前、彼女のボーイフレンドがいたじゃない。

白野って坊やのことよ」

 

「は、白野?

そう言えば6年前から全然見かけないですね…」

 

「えぇ、6年前の闇の巨人の事件があったでしょ?

それ以来、白野の坊やが来なくなっちゃってね。

みずきちゃんにも聞いても、答えなくなさそうにしてたし、あの子今頃どうしてるのかしら?

あんなかわいいガールフレンドを放っておいて」

 

「…」

 

言われてみれば確かにそうだ。

 

俺は6年前の事件の時、その時頭痛がひどくてほとんど覚えていなかったが、今でも覚えてる。

 

みずきちゃんがまだ小学生だった頃、よくここのケーキ食べに来てたことあったけど、一時期ある男の子を連れてきてた。

 

その子の名前は白野。

 

ぼんやりしてるけど、どこか掴み所がない子供だった。

 

けど、あの事件以降、白野くんの姿を見ていない。

 

代わりに、今みたいに時々みずきちゃんがやってきてケーキを2つ買いに来るんだ。

 

…本当に、白野くん今頃どうしてるのだろう?

 

そう思いながら、しばらくみずきちゃんが出ていった店の扉を見つめた。



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ストロングなヒーロー

今回はタイプチェンジとスフィアザウルスの話を書かせていただきました。

また活動報告のリクエスト募集を続けてますので、皆様のリクエストをお待ちしております。
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「はぁ〜…」

 

俺こと明日見 彼方は疲れて店の裏の路地裏で休憩していた。

 

店もそうだが、鳳蓮さんのスパルタやクロトさんの怪獣との戦いとかでかなり疲弊している。

 

それと、クロトさんが地下を使うようになって、基本的に引きこもってる。

 

 

一応相手の動きを見て戦えるようにはなってきたし、身体能力も上がってきたと思う。

 

あの二人の練習、明らかにその一つ一つが俺を殺しに掛かってるような感じだ。

 

まぁそれでもデッカーに変身してわかったこともある。

 

まず、デッカーに変身していられるのは3分間で、それを超えると変身が解除されること。

 

今はフラッシュタイプを使ってるが、どうやらまだ使えるカードが出てくるかもしれないということだ。

 

そのことを思い返しながら休憩をしていると。

 

「あ、彼方さんここにいたんだ」

 

「えっ、君は?」

 

そこには水色の髪にメガネを掛けた内気な少女がいた。

 

だが俺はこの子を知ってる。

 

というのも彼女はよくこのお店に来るからだ。

 

「簪ちゃん、いらっしゃい!

どうしたの?

お店なら表だけど」

 

「うん、でも彼方さんが裏にいるって鳳蓮さんから聞いたから。

はいこれ、差し入れ」

 

そう言って渡されたのはスポーツドリンクだった。

 

それを見た瞬間、さっきまでの疲労感が嘘のように消えていくような気がする。

 

そして同時に汗も引いて気分が良くなる。

 

「ありがとう、助かるよ!」

 

「ううん、どういたしまして。

私も彼方さんたちには良くしてもらってるから」

 

そう言って俺の隣に座る簪ちゃん。

 

フルネームは更識簪、このお店の常連客の女子高生だ。

 

大人しそうな見た目だけど、ヒーロー物の特撮が大好きな少女だ。

 

だいぶ年上の俺とも気が合うし、たまにこうして差し入れを持ってきては話をしてくれる。

 

「…ここ最近、スフィアが飛んでるよね」

 

「そうだな。

何かそれで怪獣が刺激されて暴れ始めたとか言う話だし」

 

「でも、それをやっつけてくれる巨人がいるでしょ?

えーと、6年前のウルトラマントリガーとよく似たあの巨人」

 

「ああ、確かにな」

 

その巨人は俺が変身してる、ウルトラマンデッカーのことだ。

 

でも、それを簪ちゃんに言うわけにはいかないしな。

 

「やっぱり、あの巨人はウルトラマントリガーと何か関係があるのかな…」

 

「さぁ、その辺りは何ともな…」

 

「でも、あの巨人、見てて本当にカッコよかった。

怪獣が街を壊さないために人の少ない広い場所に移動させて、それでいて身を挺して私達を守ってくれるんだから」

 

「…そうか」

 

あの時は無我夢中で戦ったけど、そう言われると嬉しいものだ。

 

まぁそんなことを言ったら調子に乗るだろうから言わないけど。

 

「ところで簪ちゃん、最近家の方はどう?」

 

「えっ、いやっ、その…」

 

「…そうなんだ」

 

簪ちゃんに家のことを聞くと、急に表情が暗くなってしまった。

 

実は簪ちゃんは家出をしている。

 

それで今、神社に居候させてもらいながら通学してるような状態だ。

 

その時のことを聞いても、答えたくないのか、こうして暗くなってしまうんだ。

 

「でもごめんね、変なこと聞いて」 

 

「ううん、いいの。

気にしないで」

 

そう言って笑顔を見せるが、どこか無理しているように見える。

 

あまり踏み込むべきじゃないと思った俺は話題を変えようと考えた所で。

 

「…?

ねぇ、あれって…」

 

「え?」

 

簪ちゃんが空を見て指を指すのでその先を見ると、スフィアがいた。

 

しかも、前に見かけた時よりも一回り大きい。

 

と、その時にスフィアから何か巨大な何かが降り立ち、地面が激しく揺れた。

 

「うわっ!」

 

「きゃあっ!!」

 

突然のことで驚きの声を上げる俺たち。

 

そしてスフィアは飛び去って行き、それと同時に現れた巨大な存在がゆっくりと起き上がった。

 

それはまるでトカゲとかイグアナみたいな爬虫類のような見た目をした怪獣だった。

 

何より、目を引いたのは、肥大化し、異常にクリスタルみたいに発達した巨大な前足。

 

怪獣が咆哮を上げると同時に背中の角からとてつもない衝撃波を放つ。

 

「ぐっ…!

何だこれ…!」

 

「あっ、そんな…!」

 

「どうしたんだ!?」

 

簪ちゃんは何か異変があったようでスマホを見せてくると、そこには圏外とだけ書かれた待ち受け画面だけだった。

 

「ここ電波が通ってるはずなのに、圏外になってる!」

 

「まさか、さっきの衝撃波で電波障害が…!?」

 

そう考えてると鳳蓮さんが裏口からやってきた。

 

「坊やっ!!」

 

「鳳蓮さん!」

 

「お客様は皆避難させたわ!」

 

「わかりました!

すみません、簪ちゃんをお願いします!」

 

「えっ、ちょっと待って!

彼方さんはどうするの!?」

 

「俺は他に逃げ遅れた人がいないか見てくる!

すぐ戻るから!!」

 

俺はそう言って飛び出し、暴れまわる怪獣を見上げる。

 

怪獣は巨大な前足を地面に叩きつけると、地面からエネルギーを吸い上げ始めた。

 

「あいつ、地球のエネルギーを吸い上げるつもりか…!

でも、こうなったらやるしかない!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

デッカーに変身した俺は怪獣に向かって走り出し、怪獣を突き飛ばした。

 

それにより、吸い上げられてたエネルギーの吸収は中断された。

 

「お前は、俺が相手だ!」

 

「グォオオオオッ!」

 

俺の言葉に反応するように怪獣も叫び声を上げてこちらを睨みつけた。

 

そしてそのまま巨大な前足をドカドカ言わせながら突進してきて、その巨大な前足で俺を踏みつけようとするが、俺はどうにか受け止めた。

 

「ぐっ…!」

 

だがその見た目に違わず、とてつもなく重い!

 

俺の足が踏ん張ってる地面がめり込んでいく。

 

このままじゃマズい……!

 

そう思って俺は怪獣の腹に蹴りを入れて距離を取り、牽制するように手から手裏剣のように光線を放つ。

 

しかしそれも硬い鱗によって弾かれてしまった。

 

「くそっ、なんて硬さだ……」

 

今まで戦った怪獣の中でも間違いなくトップクラスの装甲を持っているぞ……。

 

それにあの足の威力も相当なものだった。

 

もしまともにくらえばただでは済まないだろうな。

 

怪獣はまたしても突進を仕掛けてくる。

 

しかも今度は頭に生えてる長い角を構えて。

 

明らかに俺の胴体を刺し貫こうとしていた。

 

「うぉっ!?」

 

既のところで角を掴んで動きを止めた。

 

しかしあの巨大な前足で勢いよく俺を殴ってきた。

 

「ぐわっ!」

 

その衝撃で吹き飛ばされてしまう。

 

そのまま倒れ、起き上がろうとした所で怪獣が巨大な前足で俺を踏みつけようとしてくる。

 

「く…っ!」

 

俺は頭を避けて、転がるようにその場から離れる。

 

そして、今さっき俺の頭があった場所が、怪獣の前足で踏みつけられて、地面が抉れて陥没していた。

 

俺はその光景に血の気が引いた。

 

あんなのを食らったらひとたまりもない。

 

だが、だからと言ってここで諦めたら街が危ない!

 

ここには、鳳蓮さんも、クロトさんも、簪ちゃんもいるんだ!

 

だから、諦めるわけにはいかないんだ!!

 

そう思った時だった。

 

「え?」

 

カードケースから、一枚カードが出てきた。

 

デッカーに似てるけど、明らかに赤い。

 

それに両手のプロテクターがガントレットっぽいやつになってて力強さを感じる。

 

…もしかしてこれを使ってことか?

 

そう思ってカードを手に取ると。

 

「うぉっ!?」

 

あ、熱い!

 

全身が燃えるようだ…!

 

でも、同時に力が、全身に力が弾けだす感じがする!

 

「よし、行くぞ!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「弾けろ!ストロング!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー!ストロングタイプ!!』

 

デッカーである俺の体が赤く燃えると同時に赤と金の装飾とプロテクターが着けた状態で変身した。

 

「…っ、変身できた。

それに、力も漲る!

これなら!

うぉおおおおおおおお!!!!」

 

俺は怪獣に向かって走り出す。

 

怪獣は巨大な前足振り上げて俺を潰そうとするが、不思議と俺には何の脅威を感じなかった。

 

むしろこいつから街を守るんだという意思が、俺を突き動かしていた。

 

「うぉりゃああああああああ!!!!」

 

拳が燃える程の力を込めて、その巨大な前足へと叩きつけた。

 

すると怪獣の巨大な前足に大きなヒビが入り、大きく後ろに下がった。

 

「まだまだぁ!!」

 

俺は怯む怪獣の懐に潜り込み、持ち上げる。

 

そして、広い場所へと叩きつける。

 

怪獣はよろよろと起き上がり、背中の角からまたさっきの衝撃波を発しようとしているので、俺は飛び上がり怪獣の背中の角目がけて拳を握る。

 

同時に俺の額が強く光り輝き、拳を握った右腕に凄まじい力が溜まってきた。

 

「これで、終わりだぁああああああ!!!!」

 

落下速度も入れた俺の拳が、怪獣の背中の角を粉砕・貫通し、胴体を突き破った。

 

怪獣は断末魔を上げる暇もなく、その体を木っ端微塵に爆散させた。

 

「ふぅ……。

何とかなったな……」

 

俺は変身を解除して、シャルモンへと戻った。

 

すると、簪ちゃんが駆け寄ってきた。

 

「彼方さん!」

 

「んっ、簪ちゃん」

 

「どこに行ってたの?

心配したんだよ!?」

 

「いや、逃げ遅れた人がいないかを見て、それから安全なところに隠れてたんだよ」

 

「そう、良かった…。

…そうだ!

彼方さん、見た!?

さっきのウルトラマン、すっごくカッコよかったよ!」

 

「ウルトラ、マン?」

 

「うん!

トリガーじゃないけど、見た目も似てたし、私たちのことを守ってくれたんだもん!

これはもうウルトラマンとしか言いようがないよ!」

 

「ははは、それは良かったな…」

 

まぁ俺がさっきのウルトラマンだってことは言えないけど、こうして誰かの笑顔を守れるなら、それでいいかな。

 

「シャルモンは大丈夫だった?

中にいた鳳蓮さんも」

 

「あら、ワテクシがどうしたって?」

 

店の入口から鳳蓮さんが出てきた。

 

「ほ、鳳蓮さん、無事だったんですね!」

 

「えぇ、あと地下にいたムッシュ・クロトもね。

坊やも無事で良かったわ」

 

「はい、なんとか……」

 

「うふふ。

…さ!

今新作のお菓子作ってるけれど、簪ちゃん良かったら食べてみる?」

 

「えっ、いいんですか!?」

 

「もちろんよ、味見してくれる人を探してたの。

それに、こうしてあの怪獣の攻撃から生き延びたお祝いも兼ねてよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「もちろん坊やもよ?」

 

「えっ、俺もですか?

けど俺は店で働いてる側ですし…!?」

 

すると、鳳蓮さんが俺の首に腕を回して耳打ちしてくる。

 

「何言ってるのよ。

今日の坊や、すっごくカッコよく決まってたわよ?

本物にはまだ程遠いけど、あなたは立派に成長してるわよ。

ね、ウルトラマンデッカー?」

 

「…わかりました」

 

俺は苦笑いを浮かべ、鳳蓮さんに手を引かれる形で、簪ちゃんと一緒に店に戻るのであった。



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ディメンション怪獣

今回は巴殿さんとmja823.ver2さんからのリクエストで、ゴモラを戦う怪獣として出しました。

それと、セイバードラゴンさんからのリクエストで、サイバーゴモラをディメンション怪獣として出しました。

また活動報告のリクエスト募集を続けてますので、皆様のリクエストをお待ちしております。
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今日も俺は地下の修練場で、デッカーに変身して、クロトさんが投影した怪獣と戦った。

 

「ふぅ…」

 

「お疲れだな彼方。

でも大分ウルトラマンとしては様にはなってるんじゃないか?」

 

変身を解除したところで、クロトさんがスポーツドリンクを持ってきたのでそれを飲む。

 

「そうですけど、やっぱり長期戦は無理ですね。

デッカーとしての姿が3分間しか変身できないんですから」

 

「ふっ、ウルトラマンとはそういうものさ。

だが、その限られた時間の中で大分使いこなせてるじゃないか」

 

クロトさんは笑いながらそう言ってくれた。

 

「…そうだ。

データ収集をしながら、君のフラッシャーに通信機能もつけておいたよ」

 

「通信機能?」

 

「あぁ、君はまだ相手の怪獣がどういうやつかわからないこともあるだろう。

だが私は色んな世界のウルトラマンを見てきたから怪獣がどんな動きをするのか、弱点なども知ってる。

だから変身している間に私が君に情報を提示するためにも必要なものだ」

 

なるほど……確かにそれはありがたい。

 

俺も相手の動きを見てどう対処すればいいか考えることはできるけど、限界はあるしな……。

 

「ありがとうございます! 助かります!」

 

「気にすることはないさ。

私も君には期待しているんだ。

私が最高のウルトラマンを造るためにも、君のデータが必要だからねぇ…」

 

「いつか、造れたらいいですよね。

最高のウルトラマンを」

 

そう言ってると、地面が揺れた。

 

なんだ? 地震かな?

 

「いや、これは……」

 

「まさか……!?」

 

クロトさんは慌ててパソコンのキーボードを打ち込んだ。

 

「彼方!

この店の近くに怪獣が現れた!

すぐに向かってくれ!」

 

「了解です!」

 

俺は急いで飛び出した。

 

現場に着くとそこには見たことのない怪獣がいた。

 

「あれは……一体なんですか?」

 

『そいつは古代怪獣ゴモラだ。

どうやらスフィアの刺激で出現したらしいな』

 

「あの怪獣が……」

 

見た感じ、茶色くて、頭には三日月みたいな角を生やした、恐竜のような怪獣だ。

 

そう考えていると、ゴモラが勢いよく尻尾を振り回して、建物を破壊した。

 

しかもその建物の瓦礫の真下には、逃げ遅れた人たちがいた。

 

「まずい!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

フラッシュタイプのデッカーへと変身して、今まさに落ちようとしていた瓦礫を受け止めた。

 

それを見た人たちは、俺にお礼を言ってすぐさま避難した。

 

「よし、これで大丈夫だな」

 

受け止めた瓦礫を静かに下ろしてからゴモラへと向き直る。

 

咆哮を上げ、こちらへ向かってきた。

 

「くっ!」

 

腕を振るって攻撃してくるがそれをかわす。

 

しかし、ゴモラの攻撃はまだ終わっていなかった。

 

今度は尻尾を振り回して、俺を打ちのめした。

 

「ぐぁっ!?」

 

俺はたまらず、そのまま転がってしまう。

 

「くそっ、何て力だ!」

 

『落ち着け。

やつは強いが、決して無敵ではない。

まずはあの強力な尻尾を破壊するんだ』

 

「クロトさん!

…わかりました!

 

俺は身構え、突進してくるゴモラの鼻先の角を掴んだ。

 

「ぐ…っ!」

 

突進が強く、俺の足が地面にめり込む。

 

だが、俺は何とか踏ん張り、掴んでいた角を振り解いて、その隙にゴモラの両手にチョップをかます。

 

「ハァッ!」

 

すると、ゴモラが痛みのあまりに後ろに蹌踉めきながら怯んだ。

 

このチャンスを逃さず俺は滑り込みで後ろに回り込み、連続で手裏剣の光線を尻尾に当てた。

 

そうすることでゴモラの尻尾を根本から斬り飛ばすことに成功した。

 

「よし!」

 

『これでやつは尻尾という強力な武器を失った。

このまま一気に…!?

バカな、この反応は!』

 

「どうしたんですかクロトさん!」

 

『…このタイミングで奴らが現れた。

注意するんだ!』

 

「奴らって!」

 

俺は気配を察して上空を見上げると、大量のスフィアが飛び回っていた。

 

俺は思わず身構えるも、スフィアは一体ともこちらに来ることなく、ゴモラを囲んだ。

 

すると、スフィアが次々とゴモラに纏わりつき、ゴモラの姿が異形のものとなる。

 

斬り落とした尻尾の付け根にも纏わりつき、禍々しい形の尻尾として再生する。

 

そうしてより凶悪な姿となったゴモラは咆哮を上げる。

 

「こ、こいつは……!」

 

『あぁ……最悪だな……。

やつはスフィアと融合してしまった。

これは最早ゴモラじゃない、スフィアゴモラと言うべきか。

とにかく気をつけろ!

恐らくやつはさっきよりも格段に強くなっている!』

 

「っ、わかりました!

…ぐっ!?」

 

突進してきたスフィアゴモラの攻撃を受け止めきれず、俺はそのまま吹き飛ばされてしまう。

 

「がはっ!」

 

地面に倒れた俺の体目がけて、思い切り踏みつけようとするのが見えたので横に転がるように避けた。

 

スフィアゴモラの腹をぶん殴るが、硬くて全く効いていない。

 

むしろ、殴った俺の拳が痛くなるばかりだ。

 

「くっ、ならこれはどうだ!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「弾けろ!ストロング!デッカー!」

 

『ウルトラマンデッカー ストロングタイプ!!』

 

ストロングタイプへとチェンジし、全身に力を込める。

 

そして、タックルを仕掛ける。

 

「うぉおおおっ!!」

 

流石にこっちのほうが力があるからか、スフィアゴモラは大きく怯んだ。

 

そのまま続けて顔面をぶん殴ると、大きく仰反るスフィアゴモラ。

 

だが、スフィアゴモラはすぐに立ち直り、尻尾を振り回してくる。

 

難なく受け止めたが、俺はそのまま持ち上げられ、すぐに地面に叩きつけられた。

 

「がっ!?」

 

すぐに立ち上がろうとするが、続けざまに尻尾で叩きつけてくるので起き上がれない。

 

そうこうしてるうちに胸のランプが赤く点滅し始めた。

 

やばい、このままではやられる!

 

そう思った時だった。

 

いきなりカードケースから新しくカードが飛び出した。

 

カードには、あのゴモラとよく似た怪獣が描かれていた。

 

「まさか、これを使えってことか?

よくわからないけど、やるしかない!」

 

俺はすぐさまカードを取り、フラッシャーにセットした。

 

『モンスディメンション!』

 

そこからさらに角を立たせて、トリガーを押した。

 

『サイバーゴモラ!!』

 

その音声と共に、近くでカードに描かれた怪獣・サイバーゴモラが出現し、スフィアゴモラを突き飛ばした。

 

『なっ、これは…!

まさかウルトラDフラッシャーの新しい機能か!』

 

「何でか俺にもよくわかりませんが、どうやらあの召喚した怪獣は味方、みたいですね」

 

サイバーゴモラの隣に立ち、共に走り出した。

 

それを迎え撃つように、スフィアゴモラが頭の角からエネルギーを溜めて、鼻先の角が赤く染まり始める。

 

『…っ、彼方気をつけろ!

奴は超振動波を繰り出そうとしている!

だからやつの鼻先の角に気をつけろ!』

 

「わかりました!」

 

と、そこでサイバーゴモラが先に前に出で、そのまま前に転がるように尻尾を振り回し、スフィアゴモラの頭部を勢いよく叩きつけた。

 

その衝撃で、超振動波が中断させられ、大きく仰け反った。

 

「これで、終わりだぁぁ!!!」

 

俺は右手の拳にエネルギーを込めて、そのままスフィアゴモラの胴体をアッパーカットのように殴りつける。

 

その一撃によってスフィアゴモラは上空高くまで打ち上げられ、爆発四散した。

 

「よし!」

 

『見事だな』

 

「サイバーゴモラも、ありがとうな」

 

俺が礼を言うと、サイバーゴモラは嬉しそうに吠えてから光となってそのまま俺の中に戻った。

 

俺も変身を解除して、さっきのカードを見る。

 

「まさかこれ、怪獣を召喚できるなんて…」

 

『私のウルトラマンの中には、今みたいに怪獣を召喚するものはいたので、別に珍しくもないな。

しかし、これは新しい発見だ。

すまないが彼方、フラッシャーを調べておきたいから、戻ったら預からせてもらえないだろうか?』

 

「えぇ、それは構いませんよ」

 

そう言って俺は急いで店の地下へと戻った。

 

「…嘘。

彼方さんが、あのウルトラマン?」

 

変身を解除したところを、建物の隅から簪ちゃんに見られていたことを、このときの俺には知る由もなかった。



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厄災跳ね除ける奇跡

今回はミラクルタイプ登場回です。

また活動報告のリクエスト募集を続けてますので、皆様のリクエストをお待ちしております。
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「さっ、今日の仕事はこれでおしまい!

上がってもいいわよ坊や」

 

「わかりました、お疲れ様です」

 

シャルモンの仕事が終わり、裏で休憩しようと誰かが来店してきた。 

 

簪ちゃんだ。

 

「あら簪ちゃん?

今日はもう閉店なんだけど」

 

「ごめんなさい鳳蓮さん、今日はお客さんとして来たんじゃないの。

…彼方さんと話がしたくて」

 

「あらそう?

そういうことみたいだから坊や、しばらく彼女の話し相手になってくれないかしら?」

 

「あぁはい、わかりました」

 

俺は簪ちゃんを連れて店の裏に出た。

 

「どうしたの簪ちゃん?

もう夜も遅いし、わざわざ話だなんて」

 

「その前にどうしても聞きたいことがあるの?

…よく考えて、それで確認がしたかったから」

 

と、何やら真剣そうな眼差しで聞こうとする簪ちゃん。

 

一体どうしたんだろう?

 

「彼方さんって、あの最近出てきたウルトラマンなの?」

 

「えぇっ!?

い、いや、いきなり何を言ってるんだ簪ちゃん?」

 

「この間恐竜みたいな怪獣が現れて、怪獣を倒したあと、ウルトラマンが人間になるところ、私見たの。

そしたら、あのウルトラマンが彼方さんになって…」

 

「そ、それは…」

 

できたらバレたくなかったし、この際なんて言えば良いのかと考えていると、携帯から臨時ニュースが流れた。

 

「これって…!」

 

どうやら近くの山で怪獣が出現して、この街に向かってるらしい。

 

これは行かなきゃダメだろう。

 

「ゴメン簪ちゃん、俺行かなきゃ!」

 

「あっ待って彼方さん!!」

 

簪ちゃんの制止を振り切り、俺は怪獣の元へと走っていく。

 

『彼方、もうすぐしたらこの街に怪獣がやってくる。

相手は破壊暴竜デスドラゴだ!

強敵だが君なら対処可能なはずだ!』

 

「わかりました!

じゃあ…「彼方さんっ!」…簪ちゃん!?」

 

すると簪ちゃんがやってきた。

 

「何してるんだ!

ここはもうすぐ怪獣が来るんだぞ!?」

 

「でもやっぱり私、彼方さんのことが心配で…」

 

「くっ…!」

 

どこか安全なところに隠れさせないとと思った矢先で上空から電流が走る。

 

「危ない!」

 

「きゃっ!」

 

俺は簪ちゃんの上に覆いかぶさるようにして、簪ちゃんを守る。

 

そして上空を見上げるとそこには鹿を思わせる角を生やした怪獣がやってきた。

 

あれがデスドラゴか。

 

角がバチバチと光って電流が走ってる。

 

さっきの電流はこれからなのだろう。

 

だがどうする?

 

一刻も早く簪ちゃんを安全な場所に避難させないといけないし、かといってこの怪獣を倒すにはすぐにでもデッカーに変身しないといけない。

 

「…」

 

不安そうに見る簪ちゃん。

 

そして少しずつ、足を進めながら、デスドラゴが咆哮を上げる。

 

…こうなったら、やるしかない。

 

覚悟を決めて、やるしかないんだ!!

 

「…簪ちゃん、さっき俺がウルトラマンかって聞いたよな?」

 

「う、うん…。

でも今はそんなこと言ってる場合じゃあ!」

 

「いや、この際答えてやる!

俺は、ウルトラマンだ。

この街を守るために闘っている。

だから、俺は行くよ」

 

「ちょっ、ちょっと彼方さん!?」

 

『ウルトラディメンション!!』

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

俺は、簪ちゃんの目の前でデッカーに変身した。

 

振り向かない、簪ちゃんがどんな顔をしているのか、怖くて見られないけど、それでも俺は、戦うしかないんだ。

 

「グルルルルッ……!」

 

「デスドラゴ、お前は俺が倒す!」

 

俺は右手を前に突き出し、左手は腰に当てる。

 

そしてファイティングポーズをとる。

 

「はぁっ!!」

 

俺はまっすぐとデスドラゴに向かって走る。

 

デスドラゴが角から電流を発して俺に攻撃してくるが、俺は腕を盾にして防ぎながら走る。

 

そしてそのままデスドラゴの腹を捉えて、ラッシュを浴びせていく。

 

 

デスドラゴは苦しそうに怯み、このまま一気に決めようと、そう思った時だった。

 

 

デスドラゴは俺の両腕を掴むと、電流を流してきた。

 

「なっ!?

がぁあああああっ!!!」

 

あまりの痛さに悲鳴を上げてしまう。

 

しかしデスドラゴは離す気はなく、逆に俺の腕を握り潰そうとする勢いで掴んでくる。

 

「ぐぅうっ、ああああっ!!!」

 

痛みに耐えられず、思わず膝をつく。

 

デスドラゴが掴んでいた俺の腕を放すと俺を蹴り飛ばした。

 

全身に激痛が走り、思うように動けない。

 

「くそっ、仕方ない!

サイバーゴモラ、頼む!」

 

『モンスディメンション!

サイバーゴモラ!』

 

サイバーゴモラを召喚し、デスドラゴと戦わせる。

 

サイバーゴモラの強烈な尻尾の一撃を喰らい、吹き飛ぶデスドラゴだったが、すぐに起き上がり、角から電撃を放ち、ゴモラを攻撃する。

 

サイバーゴモラは耐えきれず、倒れてしまい、それを見たデスドラゴはサイバーゴモラに向かって突進していく。

 

「くっ、何て力だ!」

 

『彼方!

奴の電流は角が源だ。

だから角さえ破壊すれば電流は使えないはずだ!』

 

「…っ、わかりました!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「弾けろ!ストロング!デッカー!」

 

『ウルトラマンデッカー ストロングタイプ!』

 

ストロングタイプになった俺はデスドラゴに立ち向かう。

 

角を破壊するために拳でデスドラゴの顔面を殴る。

 

デスドラゴは反撃しようと、角から電流を放とうとするが、その前に俺が角を掴んだ。

 

そしてそのまま。

 

「うぉおおおおお!!!」

 

ボキィイイッ!!

 

片方の角を叩き折った。

 

するとデスドラゴは暴れ始め、放電を始める。

 

しかも今度は赤黒い電流だ。

 

「くっ!」

 

ストロングタイプでもさすがにあの電流を浴びるのはマズいと思い、一旦離れる。

 

その後でサイバーゴモラが突撃し、攻撃を叩き込む。

 

だがデスドラゴはびくりともせず、サイバーゴモラに角からの赤黒い電流を浴びせた。

 

「サイバーゴモラ!?」

 

サイバーゴモラはそのまま倒れ、俺の中に戻ってしまう。

 

…マズい。

 

確かに角を片方へし折ったが、余計に凶暴になってる!

 

このまま暴れながらあの赤黒い電流が街中で巻き散らかされたら、被害もとんでもないことになる!

 

と、そう考えていたらデスドラゴがまた赤黒い電流を飛ばしてきた。

 

しかも今度は俺の後ろの街に飛んでいこうとしてる!

 

しかもこの方向は!

 

「くっ!」

 

俺は走り出した。

 

何故ならその先にはちょうど簪ちゃんがいたからだ。

 

さっきまで俺の戦いを見ていたかもしれないが、さっきの赤黒い電流に怯えているのか、その場に座り込んでしまっていた。

 

俺は彼女の元に行き、彼女の盾になるように背中を向けた。

 

だから俺の背中に、赤黒い電流が直撃した。

 

「がはぁっ!!」

 

「か、彼方さん…!」

 

巨大になって、今は小さく見えてしまう彼女の声がはっきりと聞こえる。

 

その表情は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 

言葉をかけてあげたいけど、この姿だと話をすることもできない。

 

だから俺は態度で示すことにした。

 

今の攻撃なんて、何ともないと。

 

激痛が走る体を持ち上げ、デスドラゴを睨みつける。

 

だがどうする?

 

今は簪ちゃんのために、虚勢を張るのが精一杯だ。

 

それに胸元のランプ、確かクロトさん曰くカラータイマーだったな。

 

それが今赤く点滅してる。

 

ということはもうすぐ変身が解除されることを意味している。

 

だがこんなところでは終われない…!

 

もし解除してしまったら、こいつは間違いなく街に被害を出す!

 

そうなれば街もそうだけど、鳳蓮さんもクロトさんも、簪ちゃんも危ない。

 

どうする?

 

一体どうすれば良い!?

 

フラッシュでもストロングでも倒せない。

 

サイバーゴモラじゃ歯が立たない。

 

もう、この際奇跡でも何でも良い!

 

どうか、俺にあいつを倒せる力があれば…!

 

そう思った時だった。

 

カードケースから一枚のカードが飛び出した。

 

よく見ると、青くて身軽そうなデッカーの姿が描かれていた。

 

手に取ると、力が漲ってくる。

 

だがそれはストロングみたいに熱く燃えるような強い力ではなく、不思議な力を感じるものだった。

 

「これは…」

 

『今解析した。

ふむ、なるほどそういう力があるのか。

彼方、それを使ってデスドラゴを倒すんだ!』

 

「了解です!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「飛び出せ!ミラクル!デッカー!」

 

『ウルトラマンデッカー ミラクルタイプ!』

 

俺のデッカーとしての姿が、虹色のオーロラを纏うように姿が変わっていく。

 

全身が青くなり、プロテクターも最小限になったが身軽で動きやすい。

 

それに体から不思議な力を溢れさせている。

 

これなら行ける!

 

「よし!」

 

そう身構えると、デスドラゴが赤黒い電流を飛ばしてきた。

 

それに対して俺はバリアを張って防ぎ、続いて上に異空間を作り、それで赤黒い電流を吸い取らせる。

 

電流を吸い取られたことでデスドラゴはバテたのか、その場で膝を付くが、俺はその隙を逃さず、手刀を構え素早いスピードで通り過ぎ様に残ってる角を切断する。

 

角を切り落とされたデスドラゴは悲鳴を上げ、暴れ始める。

 

「これで終わりだ」

 

俺は右手の中に圧縮した空間を作り、ブラックホールを発生させるとそれをデスドラゴに向けて投げつけた。

 

その瞬間に、デスドラゴの体が内側から破裂するように爆発し、跡形もなく消滅した。

 

「……ふう、何とかなったな。

サイバーゴモラも、お疲れ様」

 

戦いが終わり、カードに戻ったサイバーゴモラを労う。

 

何も反応はないが、何となく嬉しそうに鳴いてるように聞こえた。

 

戦いが終わり、俺は変身を解除した。

 

「…さて、どうしたものかな」

 

正直言って気まずい。

 

正体を明かして、目の前で変身したんだ。

 

もう、いつものように接してはくれないのかな。

 

もしくは化け物とか罵ってくるのか。

 

とにかく、簪ちゃんとはもう、目を合わせられないよな。

 

早くシャルモンに帰ろうと足を運んだ時だった。

 

「彼方さんっ!」

 

声がしたので振り返ると、簪ちゃんがいた。

 

「簪ちゃん…」

 

どう言葉を投げかけようかと迷ったが、もう彼女と話す資格なんかないと諦めて再び歩みを進めようとしたが、簪ちゃんが俺の手を握り、ポツリと呟いた。

 

「…何で、そのまま帰ろうとするの?」

 

「もう君とは、話せないからだ」

 

「どうして…?」

 

「どうしてって、決まってるだろう?

俺はあの巨人、ウルトラマンに変身したんだ。

君はヒーローだって言ったけど、俺が変身したなんて知ったら、驚くだろ?

もしくは、怖がるかも……」

 

「私はっ!!」

 

大声で叫んだ彼女を見て驚いた。

 

目に涙を浮かべながら、彼女は必死に訴えてきた。

 

「私だって、最初は驚いたよ。

でも、それ以上に……嬉しいの……。

あんな大きな怪獣と戦っているのを見た時は、本当に心配したんだよ。

彼方さんが、死んじゃうんじゃないかって。

でも彼方さんは、私のことを守って、怪獣を倒してくれた。

そんな貴方のことを、私が怖がる訳がないっ!!

だから…」

 

ポロポロと、大粒の涙を流す簪ちゃん。

 

「だから、このまま立ち去ろうとしないで…。

彼方さんは、私たちのヒーローなんだもん」

 

「簪ちゃん…」

 

俺は簪ちゃんの頭を優しく撫でてあげる。

 

「ありがとう、簪ちゃん。

こんな俺のことを、ヒーローって言ってくれて、受け入れてくれて。

…もし良かったら、いつでも店に来てよ。

こういうのもあれだけど俺、簪ちゃんの好きなアニメの話をしたり、店のお菓子食べてる時の笑顔が好きだからさ」

 

「うん……!約束だよ!」

 

そうして俺たちは指切りをして、別れた。

 

俺は改めて、自分のことを恥じた。

 

心のどこかで、今までずっと逃げていた自分が情けなくなった。

 

これからはもっと強くなろう。

 

手の中にある、フラッシャーを強く握ってそう誓った。



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遊星からの破壊獣M

活動報告のリクエスト募集を続けてますので、皆様のリクエストをお待ちしております。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=282648&uid=99940


「クロトさん、俺をどこに連れて行くんですか?」

 

「あぁ、少し怪獣に関係するんじゃないかと気になってる場所があってね。

それで君を連れてくることにしたんだ」

 

俺がクロトさんに言われて連れてこられたのは、温泉施設だった。

 

だがここは。

 

「開店はしてるみたいですけど、廃れてますね…」

 

「あぁ……そうだな」

 

建物はボロボロで看板も外れており、お客さんらしき人もいない。

 

これは潰れてるんじゃないのか?

 

そう思いながら建物を見ていると、職員らしき人物がやってきた。

 

「おや、もしかしてお客さんですか?」

 

「あぁいえ、ここの温泉について調査をしに」

 

「…そうでしたか。

実は、去年まではすごく栄えてはいたんですが、どういうわけか源泉からお湯があまり出ないんですよ」

 

「ふむ、ということはこれのことですか?」

 

クロトさんがノートパソコンを開いて見せた。

 

それはここの温泉のブログで、近くに隕石が落ちたことが書かれていた。

 

「えぇ、そうです! あの時は驚きましたよ、いきなり大きな音が鳴ったと思ったら、地面が大きく揺れたんですから!」

 

「なるほど、そうでしたか。

ちなみに、それ以降から温泉があまり出なくなったのではないですか?」

 

「はい、そうなんですよ。

だから前に原因を探るために工事の人呼んで採掘を頼んだんです。

すると、あれが出てきまして…」

 

職員が指を指す方向を見ると、遠くに青くて巨大なカプセルみたいなものが地面に突き刺さっていた。

 

なんだアレ……。

 

「ちなみに、あれがどんなものかは?」

 

「さぁ…、調べたくても硬くて全然駄目でして。

だから仕方なくあのままに」

 

「…なるほど、わかりました。

情報の提供ありがとうございます」

 

「失礼します」

 

俺とクロトさんは話を終えて、カプセルの元へと歩いていく。

 

近くで見るとかなりデカいな。

 

「なんでしょうコレ……?」

 

「うーん……わからないな。

ただ、これが地球のものではないのは確かだ。

実際今調べているが、これの硬さはダイヤモンドの58倍もの鉱物級だ。つまりこの星にあるものでは破壊できないってことだよ」

 

「ってことはもしかして、これが去年にここに落ちた隕石だってことですか!?」

 

「その可能性が高いね。

実際地球のものではないもので構成されてるだろうから」

 

マジかよ……。

 

じゃあコイツのせいで温泉が出なくなったのか。

 

許せねぇ!!

 

「でもどうするんですか? こんなもんどうやって……」

 

「それを今から調べ…!

待て、何か点滅してるぞ」

 

「えっ?」

 

よく見ると、カプセルの上が青く点滅して、何かを発してるようだ。

 

「…波長を発してるな。

何か言語を話してるようだ。

翻訳する」

 

そう言ってクロトさんがノートパソコンを操作して、波長の言語を翻訳すると。

 

『全宇宙の皆さん、こんにちは こちらはメラニー遊星です。

皆さんは勝手に宇宙に進出してくる不愉快な惑星に悩まされていませんか?』

 

「えっ、な、何だ?」

 

「メラニー遊星だと?

ということはまさか…!」

 

俺には何が何だかわからなかったが、クロトさんが何かを察してカプセルを見上げる。

 

するとカプセルから赤い煙が噴き出し始めた。

 

そして、中から一体の怪獣が現れ、咆哮を上げ、炎を噴き出しながら暴れ始める。

 

『そんな時にはこの【破壊獣 モンスアーガー】シリーズ!

 綺麗さっぱり、邪魔な文明を根絶してくれます!

 これは、皆様に性能をご覧頂くためのデモプレイです。

数に限りがありますので、ご注文はお早めに!』

 

「モンスアーガーだと!?

…やはりそうか」

 

「知ってるんですかクロトさん!」

 

「あぁ、メラニー遊星という死の遊星に存在する怪獣だ。

元々は、来たものをやつが始末していたが、まさか遊星自体が販売目的でモンスアーガーを送り込んだとは!」

 

「ど、どういうことです!?」

 

「簡単に言えば、遊星は自分たちの作った兵器を売り込んでるんだよ! この地球にもいずれ売り込むつもりだったに違いない!」

 

なんてことだ……! こんなものが売られたら世界がめちゃくちゃになる! どうにかしないと!

 

「…クロトさん、ここは俺が何とかします。

クロトさんは逃げ遅れた人たちの避難を!」

 

「すまない!」

 

クロトさんが行ったと同時に俺はフラッシャーを取り出す。

 

『ウルトラディメンション!』

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

デッカーに変身した俺はモンスアーガーと対峙する。

 

「さぁ来い!」

 

モンスアーガーは俺に向かって突進してくる。

 

だが、俺もそれに合わせて走り出す。

 

「オラアッ!」

 

そのまま拳を振るうが、モンスアーガーはそれを受け止め、もう片方の手で攻撃してきた。

 

「くっ!」

 

咄嗟に腕で防いだが、こいつ中々の怪力だな!

 

「だったらこれでどうだ!」

 

俺はモンスアーガーの攻撃を避け、今度は蹴りを放つ。

 

「ハアァッ!!」

 

だがそれも受け止められてしまい、逆に腹を殴られた。

 

「ぐあっ……!」

 

なんとか耐えたが、今のはかなり効いたぜ。

 

だが、負けるわけにはいかねぇ!

 

「ハァッ!」

 

俺はモンスアーガーの顔面を殴ると、奴は怯んだのか後ろに下がる。

 

よし、このまま一気に畳み掛ける!

 

「ハッ!オラッ!」

 

さらに連続でパンチを浴びせるが、モンスアーガーは口から火炎を吐いてきた。

 

「クッソ……!」

 

避けようとしたが、足に力が入らず転んでしまった。

 

まずい……!

 

近づいてきたモンスアーガーに踏まれそうになるも、俺は何とか転がりながら避けて、体勢を立て直した。

 

「こいつ、強い!

一体どうすれば…」

 

『彼方、やつの頭の青い部分を狙え!

やつの神経はそこに集中している!』

 

「わかりました!」

 

アドバイス通り、俺はモンスアーガーの頭を狙ってキックを放った。

 

「がぁっ!?」

 

しかし当たる直前に、モンスアーガーが頭に網目模様のバリアを貼ってキックを防ぎ、同時に俺に強力な電撃を浴びせてきた。

 

「ぐああぁっ……!」

 

『彼方!』

 

あまりの衝撃に吹っ飛ばされてしまった。

 

「くそ、動けねぇ……! どうすりゃいい……!」

 

起き上がろうとしても、体が痺れて思うように動かない。

 

『彼方、大丈夫か!』

 

「すみません、痺れて、あまり動けません!」

 

『ならディメンション怪獣を使え!

その間に体勢を立て直すんだ!』

 

「わかり、ました…!」

 

『モンスディメンション!』

 

俺はサイバーゴモラを召喚し、動けない俺の代わりに戦わせる。

 

その間は何とか体勢を立て直そうと体を動かす。

 

「頼んだぞ、サイバーゴモラ!」

 

モンスアーガーが向かってくるが、サイバーゴモラはその前に立ち塞がった。

 

長く鋭い爪でモンスアーガーへと立ち向かうサイバーゴモラ。

 

2体の怪獣の激しい攻防の中は俺は体勢を立て直そうと立ち上がるが、中々上手く立ち上がらない。

 

そうこうしてると、カラータイマーが点滅し始めた。

 

「くっ…、まずい!」

 

『彼方、私にいい考えがある』

 

「えっ、なんですか?」

 

『ここには温泉の源泉があるんだ。

今はあれのせいでほとんど出なくなっているが、強力な力で源泉の水脈を刺激するんだ!

ちょうど、君の真下にその水脈がある。

動けなくても、今の君ならそれを利用して倒せるはずだ!』

 

「…っ、わかりました!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「弾けろ!ストロング!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー ストロングタイプ!!』

 

パワー重視のストロングタイプにチェンジした俺は、腕に強力な力を込めて地面を叩きつけた。

 

その瞬間に、足元から勢いよくお湯が噴き出し、巨大な俺の体を吹き飛ばした。

 

「うわぁっ!?」

 

吹き飛ばされた俺はそのままサイバーゴモラとモンスアーガーの元へと飛んでいく。

 

サイバーゴモラもそれを察したのか、攻防でダメージを負ったモンスアーガーに両手の爪と角に力を込めて突き刺し、内部で爆発するほどのエネルギーを流し込む。

 

爆散しなかったものの、大ダメージを負ったモンスアーガーをそのまま飛んでくる俺に向けてぶん投げた。

 

ダメージのせいで動けないモンスアーガーがそのまま俺に向かって飛んでくる。

 

俺もは空中で体勢を立て直し、先程よりもより強力なパワーを腕に込める。

 

「これで、終わりだぁあああああああ!!!」

 

吹き飛ばされた時の力を乗せた俺の拳が、モンスアーガーの頭にの青い部分に命中し、そのまま爆発四散した。

 

地面に着地すると、すぐに変身を解く。

 

「ふぅ、なんとか勝てたか……」

 

「彼方、大丈夫か?」

 

「はい、なんとか……、うっ……!」

 

クロトさんに介抱してもらいつつ、噴き出した源泉を見る。

 

「これで温泉も、復活しますね」

 

「あぁ、それにあのカプセルは私が回収しておいたから、もう出なくなる心配はないだろう」

 

「えっ、あんなでかいのどうやって回収したんですか!?」

 

「私は色んな世界を見てきたんだ。

あの手のものを回収するだけの代物を用意するなど容易い」

 

と、回収したカプセルがあるであろう手のひらサイズのケースを見せるクロトさん。

 

「とりあえず、一件落着だな」

 

「はい! 本当にありがとうございました! また何かあったら助けてください!」

 

「もちろんさ、君は私の観察対象だからね。

最高のウルトラマンを造るためにも、今は君に死なれては困る」

 

「はははっ……」

 

俺は苦笑いを浮かべながら、2人で帰路につくのであった。



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暴走のディメンション怪獣

今回はmja823.ver2さんからのリクエストで、ゼットンの話を書かせていただきました。

活動報告のリクエスト募集を続けてますので、皆様のリクエストをお待ちしております。
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シャルモンの地下の修練場の一室で、クロトさんがキーボードをカタカタと慣れた手付きで叩いていた。

 

「クロトさん、話があるとは聞いたんですけど、どうしたんですか?」

 

「あぁ、わざわざすまないね。

少し君に見せておきたいものがあってね」

 

そう言って窓の外を指差すと、既に倒された怪獣の山が出来上がっており、その上に黒い怪獣がいた。

 

時折聞こえるピポポポという鳴き声がして不気味な印象がある。

 

「…クロトさん、あの怪獣は?」

 

「宇宙恐竜ゼットンさ。

かつてウルトラマンを倒したことのある最強の怪獣。

そんな怪獣が君の味方になれば、実に頼もしいとは思わないか?」

 

「いや……確かに強いんだろうなと思いますけど…。

何かちょっと嫌な予感がするというか……」

 

「ふっ、君の不安もわかるさ。

かつてとある世界でゼットンのデータを使って、ウルトラマンの味方にしようとして暴走したことがあるからね」

 

「したことあるんですな!?」

 

「まぁ、それもその世界のウルトラマンが倒してくれたさ。

…しかし、私のはそんな暴走はしないようにしているつもりさ。

このゼットンは君のフラッシャーに対応するように研究を重ねているからね。

まだ試作段階だが、完成すれば優秀なディメンション怪獣として、君の助けになるだろう」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「あぁそうだ。

完成したときは、その時こそ神の恵みをありがたく受け取れぇ!」

 

そんな狂ったようなテンションで言うクロトさんだが。

 

ビーッ!ビーッ!

 

「んっ、何だ?」

 

突然パソコンから警告が鳴り響き、クロトさんがキーボードを叩く。

 

「どうしたんですか?」

 

「…ゼットンがこちらの命令を受け付けない。

まさか、暴走したのか? いや、そんなはずはない。

暴走する可能性があるなら、最初から暴走しないように調整していたはずだ」

 

クロトさんは焦りながらも冷静に対処しようとする。

 

そして、パソコン画面にはエラーメッセージが表示されていた。

 

『暴走中』

 

すると、ゼットンが俺たちに向かって火球を放ってきた。

 

「危ないっ!!」

 

クロトさんを庇って、その場を避ける。

 

背後の壁が爆発音とともに吹き飛び、土煙が立ち込める。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「あぁ、助かったよ」

 

そう言いながら、クロトさんの表情はどこか暗かった。

 

その視線の先では、ゼットンが扉へと向かっていた。

 

「…マズイ。

このままゼットンに外に出ていかれたらマズイことになる」

 

「どういうことですか?」

 

「あぁ、ここでは実体化させた怪獣を人間サイズの大きさにして、尚且つ制御できるようにしてあるんだ。

だが、この部屋から離れると、その怪獣は本来の大きさに戻って完全に制御できなくなるんだ」

 

「じゃあ、あのドアを開けると?」

 

「…完全に巨大化・暴走してしまう」

 

…マジかよ!

 

ここはシャルモンの地下だ、もし怪獣がここで巨大化すれば鳳蓮さんもお客さんも危ない!

 

「なら、俺がここで止めます!」

 

『ウルトラディメンション!』

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

デッカーに変身した俺はゼットンを羽交い締めにする。

 

だが、力が強く抑えきれない。

 

くそっ、こんなところで負けてたまるか!!

 

俺は更に力を込めようとしたときだった。

 

ドガァアアンッ!!!

 

振り返ったゼットンの口から放たれた光線により、俺の体が弾き飛ばされる。

 

「うわあああっ!?」

 

俺はそのまま吹き飛び、壁に激突する。

 

ゼットンはそのまま俺に向いて近付いてくる。

 

…よし、スマートにはいかないけどドアから引き離すことはできたか。

 

後はこいつが部屋に出る前に倒すだけだ!

 

「ハアッ!!」

 

ゼットンに飛びかかり、殴りつける。

 

一瞬怯む様子を見せるがすぐに体勢を立て直して口から火球を吐きかけて来る。

 

それを素早く避け、手裏剣のように光線を放つ。

 

その瞬間にゼットンが全身にリフレクターみたいなものを張り、防いでしまう。

 

「くっ、強い!

クロトさん、ゼットンには何か弱点ってありますか?」

 

「…確証はないが、ゼットンはこれまで様々な方法で倒されている。

だが、ゼットンは少なくとも背後からの攻撃や複数人からの攻撃に弱い傾向がある。

つまり……」

 

「背後に回り込むか何人かで攻撃するかってことですよね?」

 

「あぁ、そうだ」

 

確かに、こいつは強い。

 

流石は過去にウルトラマンを倒したという情報を持っているだけのことはある。

 

とてもじゃないけど3分間に正面から戦うのは分が悪過ぎる。

 

なら!

 

『ウルトラディメンション!』

 

「飛び出せ!ミラクル!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー ミラクルタイプ!!』

 

俺はミラクルタイプになって、3人に分裂し、高速移動しながら攻撃していく。

 

これには流石のゼットンも対応しきれないのか、怯んで後退する。

 

その隙に背後に回ってフラッシュタイプにチェンジし、両手をクロスさせてエネルギーを溜める。

 

ゼットンもそれに気付いて振り向こうとするも、既に遅かった。

 

「これで、終わりだぁ!!」

 

十字にクロスした腕から必殺の光線が放たれ、ゼットンの体に直撃する。

 

ゼットンは悲鳴を上げ、爆発した。

 

「ふぅ……。

何とか倒せた……」

 

「こっちでも、何とかゼットンのデータの回収が出来た。

まさか、あれだけ調整したのにまだ暴走するとは」

 

変身解除した俺はクロトさんに駆け寄り、操作していたパソコンを見る。

 

「…やはり、力が強過ぎるゼットンでは君のディメンション怪獣としては不十分ということかな」

 

「…それは、俺にもよくわかりませんが、今度は俺にも手伝わせてもらってもいいですか?」

 

「……そうだね。

君とゼットンとの適合率なども調べる必要があるからね。

次からはそうさせてもらうよ」

 

そう言ってから、俺たちはその場に座り込んで休憩することになった。

 

その際、騒ぎを聞きつけた鳳蓮さんがやってきて、修練場が荒れてることに驚きながらも俺たちに飲み物を持って来てくれた。

それから、しばらく談笑した後、クロトさんは用事があると言って帰っていった。

その際に、また明日も来ていいと言われた。

まぁ、今日は色々と疲れたし、ゆっくり休むか。

そんなことを考えながら、



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過去との邂逅・前編

「…にしても、ここはどこなんだろ?」

 

俺は、クロトさんに言われてとある森林に来ていた。

 

「クロトさん、ここにその電波があるんですか?」

 

『間違いない、この近くに奇妙な電磁波が感知されてるからね』

 

通信機越しにクロトさんからそう聞いた。

 

「でも、何も見当たらないですね」

 

『確かに……!

待て、君の近くに生体反応を確認した!』

 

「えっ!?」

 

周りに誰かいるのかと見回すと、少し遠目だが、そこには誰かがいた。

 

あれは確か…。

 

「…みずきちゃん?」

 

間違いない、シャルモンの常連客の伊達みずきちゃんだ。

 

どうして彼女がここに。

 

「みずきちゃん!」

 

「んっ?

あれ、彼方!?

どうしてあんたがここに!?」

 

「それはこっちのセリフだよ。

みずきちゃんこそどうしてこんな森の中に」

 

「…あーその、ちょっと、ジョギング?」

 

「こんな森の中でジョギングしたら、服がボロボロになっちゃうよ。

せめて体操服でして」

 

「えーいいじゃん一々着替えるの面倒くさいし、こっちのほうが色々と動きやすいの!

…というか、彼方こそどうしてここに?

シャルモンの仕事は休みなの?」

 

「まぁそんなところかな。

それでちょっとこの森の中で自然な空気を吸おうかと」

 

「でもここ、陰気臭いよ?

するなら伊久米神社に行ったら?」

 

「まぁ、それはそうだけど。

あそこはまた今度行ってくるよ。

それじゃ」

 

俺はみずきちゃんと別れて、森の奥へと向かう。

 

『それにしても、彼女が伊達みずきか。

更識簪とは同じ高校に通っているんだったな。

だが、彼女は6年前までは沖浦という苗字だったらしいな』

 

「…らしいですよ?

俺も詳しいことは知らないですけど、第2サイクロプス殺人事件で親が死んだからって、戸籍変えたっぽいみたいですけど」

 

『第2サイクロプス殺人事件か…、ふむ。

実に興味深いが、それはまたの機会にしようか…!

彼方、周囲を警戒しろ!

君はもうすでに、奇妙な電波の反応のある場所に入っている!

何か変わった所はないか!?』

 

「えっ、何か変わったところ、ですか!?」

 

クロトさんに言われて、周りを見渡す。

 

特に変わったところがなく、見渡す限り森の中にいるだけだ。

 

しかし、しばらく歩いたとはいえ、みずきちゃんの姿が見当たらない。

 

代わりに、十歳くらいの女の子が、おどおどした様子で木の影に隠れながらこっちを見ていたのが見えた。

 

…?

 

あの子のあの髪色にあの眼鏡、どこかで見覚えがあるな。

 

とりあえず、話しかけてみよう。

 

「…君、そんな所で何をやってるの?」

 

「…っ!」

 

すると女の子が怯えながら逃げ出した。

 

しかし、すぐに転けてしまって倒れてしまう。

 

「あっ、おい大丈夫か!」

 

俺はすぐに駆け寄り女の子を介抱する。

 

「うっ、うぅ…っ!」

 

足を擦りむいてしまって、今にも泣き出しそうだったので、持ち歩いていた絆創膏を貼る。

 

「…よし、これでもう大丈夫なはずだ」

 

「ありがとう……」

 

「ところで君はどうしてこんなところにいるんだい?」

 

「えっとね、わたしね、ちかくにおねぇちゃんたちと遊びに来たんだけど、はぐれちゃって…」

 

「そうなんだ…。

じゃあ早くそのお姉さんたちの所に連れて行ってあげないとな。

…君、名前は?

俺は明日見 彼方っていうんだ」

 

「か、かんざし。

さらしき かんざしだよ」

 

「…え?」

 

今この子、何て言った?

 

さらしき かんざし…?

 

確かに俺の知ってる子に更識 簪はいるけど…。

 

『…彼方、落ち着いて聞いてくれ。

彼女は、紛れもなく君が知ってる更識 簪だ、同一人物なんだ』

 

「ま、待ってください。

でも簪ちゃんは高校生ですよ!?

今目の前にいる女の子は、明らかに小学生で…」

 

俺はこの子に怪しまれないように、クロトさんと会話をする。

 

確かにこの子には、簪ちゃんと似通った所がある。

 

この内気な雰囲気に、内側に跳ねた水色の髪にメガネ。

 

まるで、簪ちゃんが幼くなったような…?

 

…まさか。

 

『…そうだ。

君も察している通りだ。

君は今、過去の世界に飛んでいるんだ』

 

「俺が、過去に…!?」

 

俺は、その衝撃の事実を聞かされ、ただただ呆然とするしかなかった。



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過去との邂逅・後編

前回の続きです。

新しく活動報告作りましたので、皆様のリクエストをお待ちしております。

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=285865&uid=99940


しばらくして落ち着いてから、俺はこの目の前にいる幼い簪ちゃんと目を合わせる。

 

「…えーと簪ちゃん?

確かお姉ちゃんたちと一緒に来たって言ったよね?」

 

「うん…。

でも、迷子になっちゃって」

 

「じゃあ俺も一緒にお姉ちゃんたち探してあげるよ。

…えと、お姉ちゃんの名前ってわかる?

あと、どんな見た目してるとか」

 

「うん、えーとね?

刀奈って言うの。

刃物の刀に、奈良の奈って書くけど。

わたしと違って、メガネかけてなくて、わたしと同じ髪色してるけど、外側にはねてるかんじなの」

 

そう言って彼女は自分の髪を指さした。

 

…そうか、簪ちゃんには姉がいるのか。

 

「…そうなんだ。わかった、とりあえずその刀奈ちゃんを一緒に探してあげるよ」

 

「ありがとう!」

 

そう言うと、彼女はニコッと微笑んでくれた。

 

それから森の中を歩きながら話を聞いた。

 

「にしてもそのお姉さんたちもそうだけど、簪ちゃんもここによく来るの?」

 

「ううん、初めて。

お父さんたちのおしごとの都合で来たの。

あまり一緒にいてあげられてないから、お父さんたちがお話してる間にお姉ちゃんと鬼ごっこしてたんだけど、はぐれちゃって…」

 

「なるほどねぇ……」

 

確かに彼女の親御さんの職業がなんなのかはわからないけれど、仕事柄なかなか子供に構ってやれないというのはよくあることだし、きっと寂しい思いをしているんだろうなぁ。

 

にしてもお姉さんの刀奈ちゃんと遊んでいた、か。

 

「変なこと聞くようだけど、お姉ちゃんとは仲良いんだね。

遊んでくれてるみたいだし」

 

「うんっ!

お姉ちゃんね、すごいの!

賢くて優しくて運動神経もよくて、わたしのこといつも守ってくれるの!」

 

「そっか〜、それは頼もしいなぁ」

 

「だからわたしも早く大きくなって、強くなって、お姉ちゃんを守るんだ!」

 

「おおぅ、それは凄い目標だなぁ」

 

妹思いの姉、か。

 

…けど、そうだとするなら未来に、俺たちの世界の簪ちゃんはどうして家出しちゃったんだろ?

 

この6年間の間に、一体何があったんだ?

 

…まぁ、これは未来の話、今の簪ちゃんに言うべきじゃないな。

 

言っても信じてもらえないかもしれないし、言って未来がどう変わるかもわかったものじゃない。

 

多分、簪ちゃんにも複雑な事情があるんだろうな。

 

とにかく、今はこの過去の簪ちゃんを刀奈ちゃんの所に連れて行ってあげないと…!

 

「あれ?

何だか霧がこくなってきてる?」

 

「簪ちゃん!

俺から離れないで!」

 

俺は簪ちゃんを抱き寄せ周りを見回す。

 

最初は薄く霧が出てたはずなのに気がついたら霧が濃くなってきてる!

 

おかげで周りがよく見えない状態だ!

 

『彼方、気をつけろ!

近くに怪獣の反応もある!しかもこっちに向かっているぞ!』

 

「なんだって!?」

 

「な、何が起こってるの!?」

 

徐々にズシンと振動の来る足音が聞こえてくる。

 

ようやく見える距離まで来て、その全貌が明らかになった。

 

銀色の体に赤いラインの入った、羊のように巻いた角を持つ怪獣だった。

 

「…マジかよ」

 

『彼方!

そいつは剛力怪獣 シルバゴンだ!

怪力だが動かないものには襲いかかってこない!

今は彼女に君の変身のことは知られてはいけないならその場でやり過ごすんだ!』

 

「…っ!」

 

俺はクロトさんに言われた通りに簪ちゃんを抱き寄せ、その場で動かないようにした。

 

すると銀色の怪獣・シルバゴンは一度俺たちを見てからそのまま森の奥へと去って行った。

 

「ふぇぇ……怖かったよぉ……」

 

「大丈夫だよ。もういなくなったから…!」

 

すると、シルバゴンが暴れだして、何かを襲い始めた。

 

よく聞くと、女の子の悲鳴が聞こえる。

 

「い、いまのお姉ちゃんの声だ!

お姉ちゃんっ!!」

 

「待てっ、落ち着け!」

 

「放してっ!!

このままだとお姉ちゃんが!」

 

俺の腕の中でジタバタと暴れる簪ちゃん。

 

…わかってる、大事な家族が怪獣に襲われてるんだ。

 

助けに行きたい気持ちはわかる。

 

でも簪ちゃんは幼いんだ、怪獣の所に連れて行くわけにはいかない。

 

「…簪ちゃん」

 

「ふぇっ?」

 

「大丈夫、お姉ちゃんたちは必ず俺が連れてくるから、ここで待ってて」

 

「えっでもそんなことしたら彼方さんがっ!」

 

「俺は大丈夫!

ウルトラマンが、助けてくれるから!」

 

「……ほんと?」

 

「ああ、本当さ」

 

「……うん、わかった。

お願いします、お姉ちゃんたちを……」

 

「任せてくれ。

君は絶対にここから離れないようにね?」

 

「うん……」

 

簪ちゃんを木の陰に隠れさせてから俺は走り出した。

 

そしてシルバゴンが見えてきたところでフラッシャーを取り出し。

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

光に包まれて、俺はウルトラマンデッカーフラッシュタイプに変身しシルバゴンを羽交い絞めする。

 

「今のうちに逃げるんだ! 早く!」

 

足元にいる女の子、簪ちゃんが言ってた特徴と一致してる。

 

恐らくこの子が刀奈ちゃんだな。

 

とにかく彼女は黒服の男たちに周りを囲んでもらう形で、その場から逃げた。

 

よし、これなら…!

 

「うぉっ!?」

 

シルバゴンが体を大きく震わせて俺を振り下ろした。

 

地面に叩きつけられて、さらに追い打ちをかけるように何度も踏みつけてきた。

 

「がはっ、くそっ!

こいつ強い!」

 

腕でガードし、そのまま足を持ち上げるようにして転ばせ立ち上がる。

 

俺は一旦距離を取ってから手から光線を放つが、多少怯む程度ですぐに立ち上がってきた。

 

やつが尻尾を振り回してきたのでそれをジャンプして避ける形でそのままドロップキックをかまして蹴り飛ばした。

 

するとシルバゴンはそのまま吹き飛ばされ、何かにぶつかる形で地面に倒れた。

 

そのぶつかった何かを見ると、霧でよく見えないが明らかに怪獣だ。

 

「えっ、もう1体いたのか!?」

 

『待て、近くにもう一つ反応がある!』

 

振り向くと、同じく霧でよく見えないが、今度は人型のそれだ。

 

…何か、俺が変身してるデッカーと似てるな。

 

胸元のカラータイマーもそうだし、色もどこか。

 

けど向こうは剣を持ってるみたいだ。

 

『…なるほど、どうやら彼もあの怪獣と戦ってたみたいだな』

 

「そうみたいですね」

 

相手は誰なのかわからない。

 

けど、一緒に戦ってくれる味方だと言うことは直感でわかっていた。

 

だからここは力を合わせるためにその巨人の隣に来て構えた。

 

怪獣たちも咆哮を上げて俺たちに襲いかかってくる。

 

シルバゴンは俺が、もう1体の怪獣は巨人が立ち向かっていく。

 

シルバゴンの拳を受け流し、カウンター気味に横腹に一撃入れる。

 

巨人の方は怪獣の攻撃を素早い動きで避けながら、怪獣の足を狙って斬りかかる。

 

「すごい……! 俺より戦い慣れてる感じだ……!」

 

『彼方、油断するなよ?』

 

「はい!」

 

俺の方はシルバゴンの突進を受け止めてから投げ飛ばし、そのまま空中に飛び上がりかかと落としを決めた。

 

するとシルバゴンは地面を叩き割るほどの威力で落下。

 

地面に激突するが、頭をふらつかせる程度だ。

 

「効いてない……!?

ぐぁっ!?」

 

シルバゴンの突進に避けきれず、吹き飛ばされてしまう。

 

そしてまた起き上がろうとしたところをシルバゴンの強烈なパンチが顔面に入り、倒れこんでしまう。

 

危機的なピンチは、巨人も同じようだ。

 

と、その時に不思議なことが起こった。

 

「…え?」

 

何と、ディメンションカードが光り輝きだしたのだ。

 

それは巨人も同じようだ。

 

カードがコピーされて巨人の元に飛んでいき、巨人の体から何かが飛び出し、カードと共に剣に吸収される。

 

すると剣が光り輝き、2本となってその内の1本が俺の手に収まる。

 

巨人のは鍔がないタイプで、俺のは鍔があるタイプだ。

 

しかも剣だけでなく、カートリッジを思わせるアイテムと巨人の姿が描かれた

 

3枚のカードが俺の手にあった。

 

「これは…うっ!」

 

頭の中で使い方が流れてくる。

 

そしてこの剣はウルトラデュアルソードと言い、アイテムはハイパーキーと呼ばれるものらしい。

 

俺はウルトラデュアルソードにハイパーキーを装填した。

 

【Boot up! Dual Sword!Dual Sword!】

 

その音と共に俺はソードを構える。

 

このソードからは強い力が感じられる。

 

俺はソードを横に一閃し、シルバゴンに向けて構えた。

 

「デヤァッ!!」

 

俺はシルバゴンに向かって駆け出す。

 

そしてすれ違いざまに体を斬り裂き、さらにもう一太刀浴びせる。

 

「オォリャアッ!!」

 

「グガアアァッ!!?」

 

斬撃を受けたシルバゴンは膝をつく。

 

だがそれでも立ち上がってくる。

 

だったらと俺はデッカーのフラッシュタイプのカードと、あの巨人のカードの1枚をソードにスライドさせる形で読み込ませる。

 

【デッカーフラッシュ!トリガーマルチ!デュアル!フラッシュマルチスクラム!】

 

その音声と共にソードの刃の輝きが増す。

 

咆哮を上げながら突進しようとするシルバゴンに対して、俺は足に力を込めて、ソードを構える。

 

そして。

 

「行くぞぉぉぉぉぉ!!!!」

 

強い踏み込みと共に俺は飛び上がる。

 

シルバゴンの横をすれ違う形で大きく斬り裂いた。

 

シルバゴンの体が縦に真っ二つに割れ、そのまま爆発する。

 

同時に、巨人によってもう1体の怪獣が撃破された。

 

「よし!」

 

霧の向こう側にいる巨人を見る。

 

結局、この巨人が一体どんな存在なのかは俺にはわからない。

 

でも、これだけはわかる。

 

このソードを通して、かつての過去との確かな絆を、俺は感じていた。

 

俺は変身を解除して、簪ちゃんは無事なのかを確認するために向かった。

 

するとそこには。

 

「簪ちゃん!」

 

「お姉ちゃん!」

 

どうやら二人は無事再会できたようで、お互いに涙を流しながら抱き合っていた。

 

……よかった、本当に良かった。

 

「あっ、彼方さん!」

 

と、簪ちゃんが駆け寄ってきた。

 

「今日は本当にありがと!

おかげでお姉ちゃんに会うことができたから!」

 

「…いや、お礼はウルトラマンに言ってくれよ。

ウルトラマンが刀奈ちゃんを守ってくれたからな」

 

「うん、それもそうだけど……彼方さんのこともだよ! ありがとうね、彼方さん!」

 

「……あぁ」

 

俺も嬉しくなってつい笑顔になる。

 

だが振り向くと霧が俺に向かってきてるようだった。

 

…そうか、俺はもう未来に帰らないといけないんだよな。

 

「……ん? どうしたの、彼方さん?」

 

「……いや、何でもないよ。

ただ、俺はもう帰らないと行けないんだ」

 

「……そう」

 

さっきまでいたはずのあの巨人は、いつの間にか姿を消していた。

 

となると、俺も帰るべきだと思った。

 

簪ちゃんは寂しそうな顔をしてるけど、それを必死で我慢するように微笑む。

 

「でも、また会えるよね?」

 

「…あぁ、必ず会えるさ。

だから、お姉ちゃんと仲良くな?」

 

「はい!……また一緒に遊んでくれるかな?」

 

「もちろんだ」

 

「やったー!! 約束だよ!」

 

「おう、またな」

 

俺は手を振って別れを告げる。

 

そして俺は、霧の先へと歩いていく。

 

霧を抜けると、そこは森の中だ。

 

振り向くと、もう簪ちゃんたちはもういない。

 

現代に帰ってきたと確信し、俺はシャルモンへと向かった。

 

そしてシャルモンのドアを開けると。

 

「あっ、彼方さん!

お邪魔してるね!」

 

そこには、簪ちゃんがテーブルに席をついて洋菓子を食べていた。

 

俺は簪ちゃんによっと手を振って通り過ぎようとすると。

 

「彼方さん」

 

「んっ?」

 

振り向くと簪ちゃんが持ち運び式のノートパソコンを取り出した。

 

「ちょっと一緒に見たいアニメがあるんだけど、良いかな?」

 

「…」

 

ふと、過去の簪ちゃんの言葉を思い出し、頬が緩む。

 

「うん、一緒に見ようか!」

 

俺は鳳蓮さんから許可を取って、簪ちゃんとアニメを見て楽しく笑いあった。



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姉への劣等感

俺と簪ちゃんは今ある家に向かっていた。

 

俺たちの知り合いの家だ。

 

「こんにちは」

 

「お邪魔します」

 

ドアを開けて入ると、一人の少年がこたつに入りながら機械を弄っていた。

 

最初は気付いていないようだったけど。

 

「…んっ、あぁこんにちは二人とも」

 

と、俺たちに気付いて挨拶してくれた。

 

彼は宴田祥磨くん。

 

機械を作るのが趣味で、実際にロボットを作ってることもあるんだ。

 

それで、最初はロボットが好きな簪ちゃんと意気投合して、俺も最近になって仲良くなってこうして遊びに来てるんだ。

 

見た目は小学生だけど、実は簪ちゃんよりも年上で18歳だ。

 

「祥磨くん、それ何作ってるの?」

 

「これ?

 

一輪ロボを改良するためのアップデート版だよ。

 

これが完成すればより安定して動かせるはずなんだ」

 

そう言って見せてくれたのはパソコンと繋いだ大きなモニターみたいなもの。

 

画面にはロボットの設計図のようなものが表示されていた。

 

「…………へぇ~、すごいね!」

 

俺は感心したように声を上げた。

 

確かに、こんな風に改良されればもっと安全になるかもしれない。

 

にしても、ここまでできるなんて本当にすごいと思った。

 

「まぁね! でもまだ未完成だからさ。

 

これからも研究を続けるつもりだよ」

 

祥磨くんは照れたように笑った。

 

それからもしばらく3人で楽しく話し合った。

 

それでふと気になったことを聞いた。

 

「そう言えば祥磨くん、いつもここには一人でいるみたいだけど、他に家族さんいないの?」

 

「んっ?

 

いるよ?

 

父さんがお笑い芸人をやってるんだ。

 

…まぁあまり売れてないけどね」

 

「確かアンデス米治さんだよね?

 

私はとても面白いと思うんだけどな」

 

「…っ、父さんのお笑いでそう言ってくれたの、初めてだよ……。

 

ありがとう……」

 

祥磨くんは少し嬉しそうな顔をしていた。

 

そして続けて言った。

 

「あと、姉ちゃんも時々に家に来てくれるんだ。

 

親が離婚して苗字変わっちゃったから、言わないと誰にもわからないんだけどね」

 

「そうなの?」

 

「うん、二人はサンフィッシュポケットって喫茶店行ったことあるかな?

 

姉ちゃんそこでアルバイトしてるんだ」

 

「あぁ……、そこなら前に一度友達と一緒に行ったことがあるよ」

 

俺はその時のことを思い出した。

 

あの時は本当に楽しかったな。

 

また行きたいくらいだし。

 

「そっか、よかったら行ってみてよ。

 

きっと気に入ってくれるはずだから」

 

「…ねぇ祥磨くん、お姉ちゃんってどんな人なの?」

 

と、簪ちゃんが少し暗い顔になりながら聞いてきた。

 

「どうって、優しくて面倒見が良くて賢い自慢の姉ちゃんだよ」

 

「……そ、そうなんだ」

 

「そう言えば、簪ちゃんにも兄弟か姉妹っているの?」

 

と、今度は俺が聞くことにした。

 

「…うん、いるよ。

 

けど、話しててもあまり気持ちの良い話じゃないよ?」

 

「俺は大丈夫だよ。

 

祥磨くんは?」

 

「うん、僕も大丈夫だよ。

 

友達の話だから、ちゃんと聞いてあげたいんだ」

 

「…わかった。

 

私にもね、お姉ちゃんがいるの。

 

頭が良くて、いつも私のことを助けてくれた、優しくて自慢のお姉ちゃんが。

 

でも、お姉ちゃんは私と違って何でもできるから、いつも周りから比較されて、それでもいつも庇ってくれたの。

 

でも、そんなお姉ちゃんに私はいつしか劣等感を抱くようになっちゃったんだ。

 

お姉ちゃんが賢くて何でもできるせいで、私はいつも周りから比較されるんだって。

 

…うん、わかってるよ、お姉ちゃんは何も悪くない。

 

ただ、私が勝手に思い込んでしまっただけなんだ。

 

なのに、それを理解できずにお姉ちゃんを恨んでしまったことが何度もあったの。

 

八つ当たりもして、酷いこともたくさん言ってしまった……。

 

その度にお姉ちゃんは悲しそうな顔でごめんねって、謝ってきたの。

 

謝らなきゃいけないのは、私の方だったのに……。

 

何度も謝りたいと思っても、話し掛けづらくて、そんな日々が続いたんだ。

 

それでね、ある時、お姉ちゃんが優しく微笑みながらこう言ってきたの」

 

「…何て?」

 

「あなたはこれからずっと、無能なままでいなさいな。

 

私が何があっても守ってあげるからって」

 

「えっ?」

 

「それを聞いた瞬間のことは、私もよく覚えてないの。

 

気が付けば、着替えと荷物を持って家を出ていた。

 

そしてそのまま、友達の家に居候させてもらってるんだ」

 

「そう、だったのか……」

 

俺には想像することしかできないけど、とても辛いことだったんだろうなと思った。

 

「あんなことを言われてから、どうして出ていったのかわからない。

 

でもいくつかわかることがあるの。

 

出ていったのは私の意思だってこと、その理由は私の中の優しいお姉ちゃんの幻想を壊されたくなかったからだと思う。

 

だから、もし今会ったとしても私はきっとお姉ちゃんの顔を見ることはできない。

 

それが、今の私が出した答えなんだよ」

 

「……」

 

俺は何と言えばいいかわからず黙ることしかできなかった。

 

俺は記憶喪失で、家族との思い出がない。だから家族の愛というものを知らない。

 

でも、それでも家族を大切に思う気持ちは知っているつもりだ。

 

だから、家族であるはずの妹に対して、そんなことを言う姉の気持ちはやっぱりよくわからなかった。

 

でも、この話をしてくれたのはきっと、彼女の本音なんだろうと思った。

 

と、祥磨くんが口を開いた。

 

「……あのさ、僕には君の姉ちゃんが、そんなことを本気で言ってるようには思えないんだ」

 

「…え?」

 

「だって、話を聞いてる限りだと簪ちゃんの姉ちゃんってずっと君のことを大切に思ってるみたいじゃないか。

 

だからそんな人がそんなこと言うってことは、何か訳があるんだと思うんだ」

 

「……祥磨くん」

 

「…そうだな。

 

祥磨くんの言うとおりだよ、君のお姉ちゃんは、何か訳があって敢えてそう言ったんだよきっと。

 

…けど、簪ちゃんもあまり一人で背負わないでくれ。

 

俺たちがいるんだからな」

 

「彼方さん…」

 

「……ありがとう二人とも。

 

そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

そう言って彼女は少し涙ぐんでいた。

 

それからしばらくして、祥磨くんは作業を再開した。

 

俺たちも家を出て、帰ることにした。

 

すると、簪ちゃんが話し掛けてきた。

 

「か、彼方さん、今日はその、ありがとう。

 

私の話を聞いてくれて」

 

「俺にはそれくらいしかできることがないからな。それに、大切な友達のことなんだから当然だろ?」

 

「友達……、そっか、私たち友達だよね!」

 

「あぁ、もちろんだ」

 

「……ふふっ、そっか、友達か」

 

嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女に、俺は改めて友達になってよかったと思った。

 

「ねぇ、明日シャルモンに言っても良いかな? もっと、いっぱいお喋りしたいな」

 

「おう! じゃあまた明日にな」

 

「うん、また明日!」

 

こうして、俺は簪ちゃんと別れ、帰路についた。

 

帰路につきながら、俺は考える。

 

なぜあんなにも仲良しな二人がそんな風になってしまったのか。

 

なぜ簪ちゃんのお姉ちゃんの刀奈ちゃんはそんなことを言ったのか。

 

そこには何か訳があるに違いない。

 

でもいったいどんな理由が……。

 

うーん、わかんないな。

 

結局何もわからず、その日はシャルモンに帰って寝ることにした。



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ファンクラブと化した暴力団

今回も会話だけになります。

次回からはなるべく戦闘シーンを入れれるようにします。


俺と鳳蓮さんはある場所に来ていた。

 

まるでどこかの古い事務所のような、それでいてあまり俺たちが関わって良いような所じゃないというか…。

 

「鳳蓮さん?

 

ここって…」

 

「熊倉組の事務所よ。

 

坊やは名前くらいは聞いたこと、あるわよね?」

 

「熊倉組…?

 

…って、えぇっ!?

 

熊倉組ってあの!?」

 

熊倉組って言うと、この街で有名な指定暴力団だ。

 

今は組長が変わってるらしいけど、その先代の組長がやばかったって話だ。

 

だけど、今の組長はもうやばいことはしてなくて、慈善事業に力を注いでいるんだとか。

 

噂じゃ今の熊倉組は暴力団というよりも、アイドルファンクラブみたいなものになってるとかいないとか。

 

「なんでそんなところに?」

 

「ここなら知ってるかもって、思ったのよね。

 

更識組のこと」

 

「…そうですね」

 

更識組、それは俺が過去に飛ばされた時に、クロトさんが調べてくれた組織だ。

 

何か民間企業をやってるみたいだけど、どういう訳が熊倉組みたいな指定暴力団に睨みをきかせてるという。

 

更識って名前は簪ちゃんの名字だ。

 

つまりこの組織が簪ちゃんと関連してるんじゃないかと言うことだ。

 

そこで、以前シャルモンに来たことがあるからってことでこうして鳳蓮さんに来てもらったわけだ。

 

「じゃ、開けるわね」

 

と、鳳蓮さんが開けると、そこにはいかにもヤバいガラの悪い人たちがいた。

 

「あ?何だてめぇら?

 

来るとこ間違ったならとっとと帰んな」

 

「あら?

 

これは随分なご挨拶ねぇ?」

 

「あん?誰だてめぇ?

 

…ってげぇ!?」

 

「お、お前は…!?」

 

鳳蓮さんを見るなり、ガラの悪い人たちがドン引きしている。

 

「お、おいどうしたおめぇらってげぇーっ!?」

 

ついでにその組長らしき人も鳳蓮さんを見るなりドン引きしていた。

 

「お久しぶりね、猛馬の坊や?」

 

「えーと、鳳蓮さん?

 

この人たち、鳳蓮さんにドン引きしてるらしいですけど、どうしたんですか?」

 

俺は恐る恐る鳳蓮さんに聞いた。

 

「んっ、あぁ坊やは6年前寝込んでたから知らないわね?」

 

「はい、ただ熊倉組が客で来たってことぐらいしか」

 

「彼らはワテクシの店で、ネットアイドルのことでどんちゃん騒ぎしてたから、お仕置きしておいたのよ。それから可愛くデコレートして、ね♡」

 

「や、やめろォ!!

 

俺たちはもうそのことを一変たりとも思い出したくねぇんだよ!

 

あんな悍ましいことはな!」

 

熊倉組の人たちはガタブル震えながら言った。

 

……うん、これ以上聞かない方がいいかもしれない。

 

でも鳳蓮さんはうっとりした様子で笑っている。

 

「そ、それより今日は何の用なんだ!? こんなところに来るなんて」

 

「んもう、照れちゃって♡

 

…アナタたち、更識組のことは知ってるわよね?

 

民間企業なのにアナタたち程の暴力団に睨みをきかせるほどですもの」

 

「…ちっ、まぁそうだがな」

 

「あの、更識組とは、どんな組織なんですか?」

 

「んっ、おめぇは?」

 

「俺ですか?

 

俺は明日見 彼方って言います」

 

「俺は熊倉 猛馬だ。

 

猛る馬と書いてな。

 

この熊倉組の組長を務めてる」

 

「猛馬さんですね。

 

じゃあ教えて下さい、更識組とはなんですか?」

 

「…そうだな」

 

猛馬さんは話をしてくれた。

 

更識組というのは、表向きは民間企業だが、その正体は政府に雇われた、対暴力団用暗部。

 

それ故熊倉組のような暴力団が何かしら悪事を働かないように監視しているんだとか。

 

それで、当主は代々『楯無』という名前を受け継いでいるらしい。

 

「…あの、更識簪って子は知ってますか?」

 

「あぁ知ってるよ。

 

今の更識組の当主の一つ下の妹なんだってな。

 

だがどういうわけか、今は家出しちまってるって話だ。

 

まぁ、そこらへんの詳しい話は知らんがな」

 

「そうですか……」

 

当主は代々『楯無』の名前を受け継いでて、簪ちゃんはその当主の妹。

 

ということは刀奈ちゃんが今その当主をしてる訳か。

 

…そうだ。

 

「あの、何か更識組に何かあったとかは、ないですか?

 

例えば、ヤバい暴力団と戦ってるとか」

 

「いやぁ…、ここんところは俺らも大人しくしてるから、そういう奴らはいねぇな。

 

…だが、噂で聞いたことがある」 

 

「噂?」

 

俺がそう聞くと、猛馬さんは頷き。

 

「あぁ、お前らも知ってるだろ?

 

あのスフィアっていう、飛行物体のこと」

 

「えぇ」

 

「軽く聞いた話だが、スフィアを動かしてる連中がいて、そいつと近いうちにドンパチするじゃねぇかって噂さ。

 

だから今は更識組も忙しいんじゃねぇかな。

 

まぁ、あくまで噂だけどな」

 

「そうですか…。

 

ちなみにその連中の名前は?」

 

「さぁな。

 

俺もそこまでは聞いてねぇ」

 

「ありがとうございます」

 

「気にすんな。

 

俺らはお前らみたいなカタギには手を出さねぇよ。

 

…というか、お前に手を出せばそこのオカマが何を仕出かすか分かんねぇけどな」

 

「んもぅっ、失礼しちゃう!ワテクシだってそんなことしないわよぉ」

 

鳳蓮さんがプンスカ怒る。

 

まぁ、確かにこの人ならやりかねない気がするのは何故だろう……?

 

「あら大変、パイ生地が焼き上がる時間だわ。

 

坊や、そろそろ帰るわよ」

 

「はい。

 

では、また来ますね」

 

「おう。

 

だが鳳蓮、おめぇに関してはおととい来やがれ」

 

「んもうっ、何言ってるのよ猛馬の坊や。

 

ワテクシはいつでもウェルカムよ♡」

 

「お、おい!? 汚ぇ投げキッスするなーっ!!」

 

こうして、俺達は事務所を出たのだった。

 

そして帰り道。

 

俺は頭の中で情報を整理していた。

 

更識組は表向きは民間企業だけど、その実態は政府に雇われた対暴力団用暗部。

 

当主は代々、『楯無』という名前を受け継いでること。

 

簪ちゃんはその当主の妹であること。

 

つまり、刀奈ちゃんは今の更識組の当主であること。

 

そして、その更識組は近いうちにスフィアを動かしてる組織と戦うのではという噂があること。

 

これらの情報から考えられることは……、やっぱり、刀奈ちゃんは更識組の当主として戦っているということなのか?

 

だとするなら、刀奈ちゃんは簪ちゃんを巻き込まないために無能のままでいてって言った可能性がある。

 

まぁ、俺は会ったことないから、全部考察になるがな。

 

…そう言えば一つ気になることがあるな。

 

「鳳蓮さん?

 

そう言えば熊倉組に嫌われてましたけど、何があったんですか?」

 

「んっ?

 

何もないわよ。

 

ただ前に店でA-SETっていうアイドルの生配信を見て、それで周りのお客人に迷惑掛けるくらいどんちゃん騒ぎするものだから締め上げて、暫くの間かわいい女装させて店のお手伝いをさせてたのよ」

 

「うわぁ…」

 

あのいかつい人たちの女装姿を想像してドン引きした。

 

そりゃああれだけ嫌がられて当然だなと思った。

 

「もし良かったら、坊やも可愛らしくデコレ「結構です」…もう、つれないんだからぁ!」

 

「はぁ……」

 

この人面倒見が良いけど、こういうことやりそうだから怖いよなぁ……。

 

そう思いながら、俺と鳳蓮さんは帰路に着いた。



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光の剣

今回は黒い幻想さんからオリジナルスフィア合成獣の、はっぴーでぃすとぴあさんから必殺技のリクエストを書かせていただきました。

また活動報告のリクエスト募集も続けてますので、皆様のリクエストをお待ちしております。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=285865&uid=99940


「ごめんね彼方さん。

 

私のわがままに付き合ってもらって」

 

「気にするなよ。

 

俺も休日で暇だったから」

 

俺は簪ちゃんと一緒に百貨店・三瀬丹に来ていた。

 

というのも今日は屋上遊園地の会場でヒーローショーするからそれを見に来たのだ。

 

んで、そのヒーローショーが、簪ちゃんのお気に入りということでこうして誘われたわけだ。

 

「でも、本当にいいのか? 俺と二人で来て?」

 

「うん!

 

だって、せっかくのお出かけだし。

 

そうだ、まだ時間があるし、ここは百貨店だから色んなもの置いてあるから見に行こうよ!」

 

「そうだな」

 

と、移動しようとした時に、足場が揺れた。

 

「きゃっ!」

 

「これは、地震か!」

 

簪ちゃんを支えながら周りを見てると、窓から怪獣が暴れてるのが見えた。

 

何か蛾を思わせる翅や模様のある怪獣だ。

 

「あれって……」

 

「まさか、怪獣!?」

 

「…簪ちゃん、急いで皆を避難させてくれ!

 

俺があの怪獣を倒すから!」

 

「うん、わかった!」

 

簪ちゃんが逃げ惑う人たちを避難させるために俺と離れたのを確認し、俺も人気のないところでフラッシャーを取り出す。

 

「輝け!フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

デッカーに変身した俺は、蛾の怪獣と対峙する。

 

『彼方、ヤツは蛾超獣・ドラゴリーだ。

 

ヤツの怪力は他の怪獣すら引き裂く程で、あの牙には猛毒がある。

 

気をつけてくれ』

 

「わかりました!」

 

クロトさんからの通信で、ドラゴリーに引き裂かれないように警戒する。

 

すると、ドラゴリーは口から炎を吐き出してきた。

 

咄嗟に俺はバリアを張って防ぐ。

 

後ろには簪ちゃんがいる三瀬丹があるからな。

 

するとドラゴリーが咆哮を上げて突進してきたので、ドロップキックを食らわせて距離を取る。

 

ドラゴリーの突進攻撃には注意しないとな。

 

今度はこっちの番だとばかりに俺はパンチを繰り出すが、ドラゴリーに手を掴まれてしまった。

 

振り払おうにも力が強い…!

 

しかも赤い牙で俺に噛みつこうとしてくる。

 

何とか避けるがこれじゃジリ貧だ!

 

「弾けろ!ストロング!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー ストロングタイプ!!』

 

ストロングタイプにチェンジして、何とか振り解き、ドラゴリーの顔面をぶん殴った。よろけたところにすかさず蹴りを入れて倒れ込ませる。

 

「よし!これならどうだ!」

 

ドラゴリーが立ち上がるよりも早く足を持ち上げ、ジャイアントスイングの要領で人のいない広場へと投げ込んだ。

 

ドラゴリーはそのまま地面に叩きつけられる。

 

「よし!」

 

このままとどめだと構えていると、大量のスフィアが飛んできた。

 

「スフィアっ、こんな時に!」

 

思わず身構えてると、スフィアたちがドラゴリーに纏わりついた。

 

そしてドラゴリーは禍々しい姿になる。

 

牙も禍々しくも毒々しいものになっている。

 

『くっ、ドラゴリーもスフィア合成獣になったか。

 

もはやそいつはドラゴリーではなく、スフィアドラゴリーだ!

 

彼方、気を引き締めろ!』

 

「はい!」

 

改めて拳を構え、殴り掛かる。

 

だが腹で受けても微動だにせず、何度も拳で殴るが効果がない。

 

するとスフィアドラゴリーの拳が俺を捉え、殴り飛ばされてしまった。

 

「ぐはぁっ!」

 

そのまま近くの建物に激突してしまう。

 

まずいな、今の一撃で頭がくらっと来た。

 

それにさっきから体のあちこちが痛む。

 

恐らく先ほどのダメージだろう。

 

すると、再びスフィアドラゴリーはこちらに向かってくる。

 

「くっ!」

 

俺はウルトラデュアルソードとハイパーキーを取り出し、ハイパーキーをソードに装填して起動させる。

 

【Boot up!Dual Sword!】

 

デッカーとしての俺の手にソードが出現して、切り裂く。

 

スフィアドラゴリーは大きく怯むが、それでも俺に向かって牙を剥いてきたので避ける。

 

すると後ろにあった建物がスフィアドラゴリーの牙で噛まれた瞬間にグズグズに溶け崩れた。

 

「何だよアレ!?」

 

俺は思わずゾッとした。

 

『彼方、これを受け取れ!』

 

「えっ!?」

 

するとカードケースから3枚のカードが飛び出した。

 

よく見ると、デッカーとは違うが、ウルトラマンの姿が描かれたカードだ。

 

「クロトさん、これは!」

 

『これまでの君のデータを元にして開発に成功したディメンションカードだ。

 

それをウルトラデュアルソードに使えば、奴に勝てるだろう。

 

…さぁ、神の恵みをありがたく受け取れぇ!!』

 

「はい!」

 

俺はカードを手に取り、ソードに読み込ませていく。

 

『タロウ!メビウス!タイガ!ビックバンダイナマイトスクラム!』

 

体が一瞬虹色に輝くと刀身が赤く燃え上がるように光り出した。

 

「行くぞ!」

 

スフィアドラゴリーが俺に突進してきたので、俺も刺し貫くために走る。

 

そしてスフィアドラゴリーの懐に入り、そのままソードを突き刺す。

 

「これで、終わりだぁああああ!!!!」

 

スフィアドラゴリーを貫いたまま持ち上げると、ソード諸共大爆発を起こした。

 

爆風が収まると、爆発したソードが復活した。

 

スフィアドラゴリーが倒されたのを確認し、俺はその場から立ち去るように飛び去った。

 

そして変身解除して、簪ちゃんと合流した。

 

「簪ちゃん、無事だったんだ」

 

「うん、彼方さんが助けてくれるって信じてたから」

 

「しかし…、あの怪獣が暴れたせいで、もうヒーローショーは中止になっちゃったな」

 

「いいよ別に、だって……」

 

そう言うと、彼女は手を差し伸べてくる。

 

「彼方さんが戻ってきてくれただけで、私は嬉しいもん。

 

ね?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

俺は彼女の手を握り、歩き出す。

 

「あっそうだ!

 

今日はヒーローショー見れなかったけど、代わりにお店でアニメ一緒に見る?」

 

「おっ良いねぇ!」

 

こうして俺たちは手を繋いで、シャルモンへと帰った。



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覆面の店主と欠けた記憶

今日は鳳蓮さんがクロトさんと店番するからということで、俺は一人昼食を取るためにある場所に向かっていた。

 

そこは無国籍料理店・ブラフマン。

 

変わった料理を出す料理店だけど、これが中々の絶品で俺も何回もここで食べさせてもらってる。

 

ドアを開けると、そこには覆面を被った大柄の男が厨房に立っていた。

 

「あぁ、いらっしゃい彼方さん。

 

空いてる席にどうぞ」

 

「こんにちは厳さん」

 

その不気味な風貌とは裏腹に優しい声で席を勧める大男。

 

俺も慣れた感じで席に付き、注文を取って料理を待つ。

 

この人の名前は石屋鐘厳、このブラフマンの店主だ。

 

鳳蓮さんとは料理仲間で、料理についてよく語り合うことがある。

 

見た目は確かに不気味だが、これは生まれつきの素顔とかを隠すためにしているらしいが、そこまで詳しいことは聞いていない。

 

だがそれでもこの人何かと気にかけてくれるから、常連さんからも親しまれてる。

 

「はい、ワニ肉のオムライスだよ」

 

「ありがとうございます」

 

そしていつも通り注文した料理を運んできてくれた。

 

ワニ肉を使ったオムライス、ここの看板メニューの一つだ。

 

「いただきます!」

 

早速一口食べると、ふわっとしてトロッとした卵に肉厚なチキンライスがよくマッチしてて美味しい!

 

しかもそれがまたあっさりめに味付けされてるからいくらでも食べられそうだ。

 

ワニ肉って意外と淡白であっさりと食べられる食材だから普通に鶏肉のような味だ。

 

うまい、うますぎる…!

 

犯罪的だ…!

 

そんなことを考えながらバクバク食べていると、いつの間にか完食していた。

 

「ごちそうさまでした」

 

「お粗末様でした。

 

彼方さん、食べるの速いですね」

 

「いやぁ、厳さんの料理があまりにも美味かったんですから」

 

「ふふっ、そう言ってもらえると、料理人として冥利につきますよ」

 

そう話し合ってると、誰かが項垂れてるのが見えた。

 

よく見ると、そこには大量の酒を飲んだ上で倒れ込んでる男がいた。

 

「…厳さん、あの人は?」

 

「んっ、あぁ…、彼もここの常連でね。

 

よくここで事件の情報の聞き込みや整理してたんですよ」

 

「とてもそうは見えませんけどね。

 

もしかして刑事さんですか?」

 

「そうですね。

 

龍木さんっていうんですけど、もう6年前からあんな感じで…。

 

まぁ、金は払ってくれるから良いんですけど」

 

「龍、木…?」

 

ふと、俺の頭に頭痛が走る。

 

何だこれ、俺の記憶か?

 

この人には初めて会ったのに、初めてじゃない。

 

もしかして、俺はこの人のことを、知ってるのか? 

 

「厳さん、多分これじゃあしばらくあのままかもしれないので、俺が龍木さん介抱しましょうか?」

 

「いえ、そんな悪いですよ、お客さんにそんなことさせるなんて」

 

「良いですから、ちょっと失礼します」

 

俺は龍木さんに近付き、伏せてる顔を持ち上げる。

 

すると。

 

「…っ!?」

 

龍木さんの顔は、俺と瓜二つだった。

 

いや、正確には俺が成長したような顔立ちだった。

 

酒で酔っててだらけてるが、目元など俺に似ている気がする。

 

それに、龍木という名前にも見覚えがある。

 

まさか……、本当に、この人が……!?

 

「ッ、がっ…!」

 

頭を強く殴られたように衝撃が始まる。

 

俺と瓜二つの顔をした双子の兄弟。

 

いつも行動を共にしていた双子の兄弟。

 

まさか、龍木さんが…?

 

「彼方さん、大丈夫ですか?」

 

「…っ、厳さん。

 

…すみません、あとは厳さんにお願いしてもいいですか?」

 

「えぇ、それは構いませんが……」

 

「それでは」

 

心配そうな表情を浮かべる厳さんを横目に、俺は店を出て行った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、くそ、なんなんだ今の……」

 

店を出た後、先程のことを考えた。

 

龍木さんの顔を見た瞬間に、頭痛が走った。

 

もし、あの人が俺の記憶に関係してるのなら…。

 

「龍木さん…、あの人は何者なんだ?」

 

そう考えながら俺はシャルモンへと帰った。



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スフィアの異変

今回はペガルタさんからのリクエストのスフィア合成獣の話を書かせていただきました。


「喰らえええええええ!!!!」

 

デッカーになった俺は、腕からのビームで怪獣を倒した。

 

「はぁ…はぁ…!

 

とぅ!」

 

そのまま空を飛ぶ形で変身を解除し、シャルモンに帰ってきた。

 

「はぁ、はぁ…!」

 

「坊や大丈夫!?」

 

「鳳蓮さん…、はい大丈夫ですよ…。

 

でもこの怪獣の頻度が」

 

「どうやら、スフィアの動きが活発化してるのが影響して、怪獣も活発化してるようだね」

 

鳳蓮さんが俺を介抱し、その隣でクロトさんがパソコンを弄りながら原因を調べていた。

 

そう、ここ数日、あのスフィアが頻繁に出現して、街に襲い掛かってきている。

 

それに、怪獣も出てくるし、戦えば高い確率でスフィアが怪獣を取り込んでスフィア合成獣となる。

 

「でも、何でスフィアの動きが」

 

「それについてはまだ調査中だ。

 

それよりも、今の状態では君の負担も大きいだろう」

 

「確かにそうですが」

 

クロトさんの言う通り、今はデッカーに変身できる俺しか、怪獣と戦えない。

 

いくらクロトさんからの情報があるからとはいえ、一人で何とかするしかないから負担が大きい。

 

「…そこで今、私はあるものを開発したんだ。

 

そうすれば君の負担も軽くなるだろう」

 

「ある、もの?」

 

「今はまだ見せる訳にはいかないさ。

 

こういうものは、タイミングが大事だからね」

 

「何よ勿体ぶっちゃって」

 

「ふっ……」

 

なんか不敵な笑みを浮かべているけど、まあ何か考えでもあるんだろうか?

 

「とにかく、まずは休んでおきたまえ。

 

今の君は、疲労困ぱいの状態だからね」

 

「はい……分かりました」

 

それから俺は、今日の店の手伝いも休むことにした。

 

その間でも俺は考え事をしていた。

 

「…」

 

この間、ブラフマンで会った龍木という男、あの人は一体何者なんだ?

 

何で俺は、あの人の顔を見た瞬間に頭が痛くなったんだろう。

 

やはり、あの人は俺の記憶の手がかりなのか?

 

駄目だ、はっきりとわからない。

 

それにあの人は今精神的に病んでるみたいだし、お酒に溺れてるような感じだ、とてもまともに話ができる状態じゃない。

 

「とりあえず、今日はもう寝るか」

 

考えるのをやめ、明日に備えて眠ることにしよう。

 

そして翌日になり、俺はいつも通りに店を手伝っていた。

 

「よし! これで終わりっと!」

 

今日の分の仕込みが終わり、後は客が来るまで待つだけだ。

 

「ふう……」

 

にしても、クロトさんが言ってたあるものって何だろうと、そう考えていると地面が激しく揺れた。

 

「うわっ!?」

 

「地震か!?」

 

まさかまたスフィアが出現したのかと思ったが、すぐにそれは否定された。

 

「いや違う! これは……」

 

もしかしてと店の外に出ると、空の方から爆発音が聞こえてきた。

 

「な、何事!?」

 

「空からだぞ!」

 

みんな動揺していると、何かが飛んできた。

 

それは頬に袋が垂れ下がった巨大な鳥だ。

 

しかも空を飛びながら嘴から炎を吐いてる。

 

「あれは、怪獣!?

 

…だったら!

 

輝け、フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

俺はデッカーに変身して、空を飛行しながら怪獣を追いかける。

 

怪獣も俺に気付き、炎を吐いてくるがそれを避け、光線で反撃し、誰もいない広い所に撃墜させた。

 

「よし、このまま決める!」

 

両腕をクロスして、十字を組んで発射した光線が、怪獣の火炎放射によって防がれてしまう。

 

「なっ!?」

 

『気をつけろ、やつは火炎怪鳥バードンだ。

 

火炎放射もさることながら、やつの嘴には猛毒がある!』

 

「くそ、厄介ですね」

 

『だがやつを倒す方法はある』

 

「本当ですか!?」

 

『ああ、やつの頬の毒袋を破壊するんだ。

 

そうすれば体内の毒が逆流して、急速に弱体化するはずだ』

 

「分かりました」

 

クロトさんが言うなら間違いない。

 

「となると、速攻で片付けるしかない!

 

飛び出せ、ミラクル!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー ミラクルタイプ!!』

 

ミラクルにタイプチェンジすると、凄まじい速度で突進してくるバードン。

 

このままでは嘴で攻撃されて毒をくらうことになるが、俺は瞬間移動して避ける。

 

そして分身を作って、左右から光線を発射して、やつの毒袋を破壊する。

 

その瞬間にやつは苦しみ悶え、動きが鈍くなってきた。

 

「よし、このまま…うっ!?」

 

トドメを刺そうとした時に、空中から攻撃が来た。

 

空を見ると、スフィアたちが飛んできていた。

 

「スフィア!?

 

こんな時に…!」

 

するとスフィアたちがバードンに纏わりつき始めたのだ。

 

徐々に禍々しい姿になるバードン。

 

破壊した毒袋は再生し、より禍々しい色になり、嘴もより鋭くなっていた。

 

それが終わると、バードンがけたたましい咆哮を上げるので、俺は思わず耳を塞いでしまう。

 

そして再び火炎攻撃をしてきたが、今度は避けずにバリアで防御をする。

 

「ぐ、ぐうぅ……」

 

バリア越しでも、かなり熱い。

 

「このぉ!」

 

そのまま腕からビームを放って、バードンを攻撃しようとするが、それを察知したのか、バードンはすぐに離れて距離を取った。

 

そしてそのまま空を旋回するがそのスピードがあまりにも恐ろしい。

 

やつが嘴を突きつけて突進してきたので、俺は間一髪の所で瞬間移動することで避ける。

 

激突して崩れた建物には禍々しい毒がこびりついて、グズグズに溶けていた。

 

「こいつはまずいな…」

 

俺は思わず呟いた。

 

もし、俺が生身の人間なら、最早冷や汗をかいていたと思う。

 

それくらいこいつにはぞっとしていた。

 

だがどうする?

 

こいつは凶暴で何より素早い。

 

こんな間合いじゃ、サイバーゴモラを出す余裕もない、どうする!

 

と、バードンが翼を広げて突進しようとしてきた、その時だった。

 

ズドンッ!

 

と、空中からの攻撃にやつが怯んだ。

 

「一体何なんだ!?」

 

『待たせたわねぇ、坊や!!』

 

上空から、赤い戦闘機が飛んできた。

 

けどこの声…、まさか!

 

「鳳蓮さん!?

 

それにその戦闘機は?」

 

『ようやく間に合ったようだな。

 

あれが私の傑作、ガッツホークだぁ!!』

 

『そしてワテクシがそのパイロットを務めさせてもらってるって訳よぉ!!ホーッホホホホホホホ!!』

 

「ガッツ、ホーク…?

 

よくわかりませんけど、助かります!」

 

思わない援護に驚きながらも、俺はウルトラデュアルソードを起動させ、ディメンションカードをスライドする。

 

【トリガースカイ!デュアル!デュアルランバルトカウンター!!】

 

「喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「トドメなら、ワテクシも行かせてもらうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

鳳蓮さんの乗るガッツホークから赤い極太ビームが発射され、それがやつの胴体を貫き、俺が目に見えない高速斬りをしたことで、やつは爆発四散した。

 

「ふう、なんとかなったか」

 

俺は変身を解除して、シャルモンに戻るとすでに鳳蓮さんも帰ってきていた。

 

「あら、おかえり坊や」

 

「ただいまです鳳蓮さん!

 

けど、何であの機体に?」

 

「彼が自ら希望したのだよ」

 

と、クロトさんが説明してくれた。

 

「君ばかり戦わせるのが酷だからと、ガッツホークのパイロットを希望したんだ。

 

まっあれ自体は他の宇宙のウルトラマンの世界でも見たから、作ってみたのだがね」

 

「そうだったんですか。

 

でも、じゃああの機体は今どこに?」

 

「それについては心配ない。

 

あれはデータを実体化させたからね。

 

戦闘が終わった瞬間にここにテレポートさせて、データに戻ったのさ」

 

「そ、そうでしたか。

 

というか鳳蓮さん、よくあんなの動かせましたね?」

 

「ホーッホホホホホホ!!

 

ワテクシは常に最高のパフォーマンス熟す本物のパティシエよ?

 

こんなの造作もないわ!」

 

「は、はぁ…」

 

改めて鳳蓮さんが何者なのかが気になってしまう出来事だった。



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神の記録

私はクロト、洋菓子店・シャルモンで居候している者だ。

 

普段はシャルモンの地下でクリエイティブな研究をしているが、たまにシャルモンのバイトの手伝いをしている。

 

…さて、私がやっているという、そのクリエイティブな研究はどんなものか?

 

それは、最高のウルトラマンを作ることだ。

 

シャルモンに来るまでに、私は様々なウルトラマンを見て、調べてきた。

 

その戦闘データを元に、私はテラノイドを作り上げ、この地球にいるというスフィアを練習台として試運転をすることにした。

 

だが、光線技を多用し過ぎたのが原因でエネルギーが無くなって機能が停止し、そのままスフィアに取り込まれて暴走した。

 

そんなテラノイドを止めてくれたのが、この地球のウルトラマン。

 

そう、ウルトラマンデッカーこと、明日見 彼方だ。

 

私は慢心していたのだ。

 

これまで調べたウルトラマンの戦闘データを元に作ったテラノイドが最高のものだと。

 

しかしエネルギー切れを起こした上でスフィアに取り込まれて暴走してしまった。

 

ならばどうすべきか。 

 

そんなことは決まっている。

 

彼方を観察し、その戦闘データを取ることだ!

 

彼の戦い方は、実に興味深いものだった。

 

彼自身はウルトラマンになってから日が浅く、戦い方も拙い。

 

だがそこが良い、それはまだ伸び代があるからな。

 

それに彼にはディメンションカードというものもあって、それとウルトラDフラッシャーにそれを読み込ませることでデッカーへの変身や一時的な怪獣の召喚も可能だ。

 

最近ではウルトラデュアルソードと呼ばれる武器を手にしたことで戦闘の幅も広がっている。

 

そこで私は彼のディメンションカードのデータを元に様々なウルトラマンのデータの入ったディメンションカードを複製することに成功した。

 

…ふっ、我ながら私の神の才能は恐るべきものだな。

 

それと、彼だけで戦わせるのには負担があるため、これまでの地球で見てきた地球防衛隊のマシンのデータを使ってガッツホークを開発し、遠隔操作ながらこのシャルモンの店主である鳳蓮がパイロットを努めている。

 

彼自身は民間人のはずがどういうわけかガッツホークを乗りこなせたのは正直驚きだ。

 

一体彼は何者なのだろうか?

 

まぁそれはどうでもいい。

 

それよりも、問題は彼方だ。

 

彼自身に何の問題もない。

 

だが気になることがある。

 

それは彼の記憶喪失についてだ。

 

12年前からの記憶が一切ないという彼だ。

 

時折頭が痛くなることもあるようだが、それと彼の記憶に関連するものだろう。

 

彼が頭痛を起こした最近の出来事と言えば、彼がブラフマンと呼ばれる無国籍料理店に行った時のことだ。

 

そこで立ち会った人物の顔を見て頭が痛くなったと言った。

 

情報によると、その人物の名は龍木来斗と呼ばれる警察官らしい。

 

彼の顔を見た途端に彼方が頭痛を起こした。

 

それに龍木の顔は彼とよく似通っている。

 

彼は一体何者なのだろうか?

 

もしかしたら、彼の記憶と関連があるのだろうか?

 

ならばこれは調べるしかない。

 

私の神の才能を持って、失われた記憶を探らなくてはぁ!!

 

以上が、私の記録だ。



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スフィアの結界

「ふむ」 

 

「どうしたんですかクロトさん」

 

「いや、ここの所スフィアの動きを観測していたのだが、やはり活発化している。

 

これは何かの予兆じゃないのかと、そう思っただけだ」

 

「…確かに、最近のスフィアは怪獣が出てくるなり、怪獣を取り込んでスフィア合成獣になりますからね」

 

パソコンにあるスフィアのデータを見ながら、俺とクロトさんが話をしていると。

 

「…っ、この反応は!?」

 

パソコンから警告音が鳴り響き、モニターが移される。

 

この地下の近くの外だ。

 

その上空が映し出されたかと思ったら、突然空が割れた。

 

その先から出てきたものは、巨大な影だった。

 

体中に突起物が生えた怪獣が、割れた空から降り立ち、咆哮をあげた。 

 

「な、何なんですか、あの怪獣は!?」

 

「あれは怪獣なんてレベルじゃない、超獣だ!

 

しかもミサイル超獣・ベロクロン!

 

やつの突起物からは無数のミサイルが放たれる!

 

…まずいな、スフィアが動き始めてる、取り込まれる前に倒すんだ!」 

 

「…っ、わかりました!

 

輝け、フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

デッカーに変身した俺はベロクロンと対峙する。

 

やつは咆哮を上げて突進してくるので、俺はそれを受け止め、胴体をぶん殴る。

 

よろめいたところで蹴りを入れ、更に拳を叩き込む。

 

後ろに下がった瞬間に、全身の突起物から無数のミサイルを出してきた。

 

『ウルトラマンデッカー ミラクルタイプ!!』

 

ミラクルタイプにチェンジした俺はミサイルから街を守るために広範囲にミサイルを張る。

 

ミサイルは全て相殺できたが、今度は口から火炎放射を放ってきた。

 

『ウルトラマンデッカー ストロングタイプ!!』

 

ストロングタイプの防御力で耐えきってから、腕にエネルギーを込めて胴体を殴りつける。

 

勢いよく吹き飛びはするものの、体が頑丈だからなのか、倒すには至らなかった。

 

「くっ、何て硬さなんだ、これが超獣なのな…!?

 

…っ、あれは!」

 

空から勢いよくスフィアの集団が飛来してきた。

 

「まずい!」

 

ベロクロンがスフィア合成獣にされる前に倒さないとと、フラッシュタイプにタイプチェンジしようとすると、その隙にベロクロンからのミサイル攻撃を浴びてしまう。

 

「がはぁ!?」

 

あまりの痛みにすぐに立ち上がれない。

 

だがその隙にもスフィアがベロクロンに纏わりつき始める。

 

ベロクロンは禍々しい姿に変わり果てた。

 

「うわああああああっ!!?」

 

ベロクロンから放たれた大量のミサイルによって、俺は地上へと叩きつけられる。

 

「ぐぅ……っ!」

 

何とか立ち上がり構えるが、今の一撃だけでカラータイマーが点滅してしまっている。

 

『彼方、デュアルソードを使え!』

 

「えっ」

 

『君には様々なディメンションカードがある、それを組み合わせれば勝てるはずだ!』

 

「了解です!」

 

ベロクロンからの大量のミサイルを前に再びミラクルタイプにチェンジし、手を翳し集中する。

 

今まさに俺に向けられるであろうミサイルは空中でピタリと止まると、そのままベロクロンの方に向きを変える。

 

「…っ、行けっ!!」

 

向きを変えたミサイルはそのままベロクロンに向かっていく。

 

ミサイルを受けたベロクロンは再び倒れ伏す。

 

「これで終わりだ!!」

 

デュアルソードを展開し、3枚のカードをスライドする。

 

『ジャック!ゼロ!デュアル!

 

ハリケーンスクラム!!』

 

ベロクロンの懐に入り、凄まじい速度で切り刻む。

 

そして全身に無数の切り傷が入り、そのまま後ろに倒れ、爆発した。

 

「よし、やったぞ……」

 

ベロクロンを倒したことで安心していたその時だった。

 

突如上空に無数のスフィアが出現・合体し、大型のスフィアへと変わった。

 

すると、はるか上空に向けて光線を放ったのかと思ったらそれが波打つように拡散した。

 

「こ、これは…!」

 

『彼方、大変だ!

 

大型のスフィアが放った光線により、地球がバリアで覆われてしまった!

 

これによって今地球の近くにある人工衛星が妨害されて、ロケットすら打ち上げられないようにされてるようだ!』

 

「そんな、まさか!

 

だったら!」

 

『よせっ、変身が解けるぞ!』

 

クロトさんの制止を振り切りフラッシュタイプに切り替えながら空を飛び、上空にいる大型スフィアに向けて光線を放った。

 

「なっ!?」

 

しかし、光線が大型スフィアには通用せず、気がつけば周りのスフィアに囲まれていた。

 

「しまっ、がはぁぁぁ!!」

 

無数のスフィアからの攻撃に成すすべもなく撃ち落とされ、そのまま地面に落下した。



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壊れたフラッシャー

「…!…さん!」

 

誰かの呼び声に、意識がわずかに覚醒する。

 

誰だ…?

 

「…して、…たさん!」

 

少しずつ、意識が覚醒してきた。

 

目も開き、ぼんやりと誰かが俺を起こそうとしているようだ。

 

ポタポタと、頬に何かが落ちるのを感じる。

 

これは…、涙…なのか?

 

その瞬間、俺は一気に覚醒した。

 

そして目の前には……。

 

「彼方さん!」

 

簪ちゃんだ、簪ちゃんが意識を失った俺を必死で呼び起こしていたんだ。

 

「簪、ちゃん…?」

 

「良かった、目を覚まして……」

 

安堵したのか、彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 

そして同時に、俺はある事を思い出していた。

 

そうだ…、俺は大型のスフィアを倒そうとして!

 

「そうだ、スフィアは!バリアは…うぐっ!」

 

「落ち着きたまえ、今の君は満足に体を動かせないんだ」

 

「けど、起き上がれるぐらいには、元気があるみたいよ?」

 

やれやれといった感じのクロトさんと、お菓子とお茶を持ってきてくれた鳳蓮さんがやってきた。

 

「クロトさん、鳳蓮さん…、俺…」

 

体が痛むし、よく見たら包帯が巻かれていた。

 

だから、何となくだが察しはつく。

 

俺は大型スフィアを止められなかったんだ。

 

「ふふっ、気にしなくてもいいわよ坊や?

 

生きていればチャンスは訪れるし、まだ全てが終わったわけじゃないわ」

 

「だが奴らが地球にバリアを張ったおかげで、地球は今絶望的な状況に置かれている」

 

「どういうことですか?」

 

と聞くと、クロトさんが映像を出して説明した。

 

「まず、バリアを張られたことにより、ロケットなどの打ち上げが出来なくなってる。

 

それに特殊な電波を発してるようで、バリアが張られた直後に大規模な電波障害が起こってしまった。

 

今は復旧してるが、ミサイルのような遠隔操作型の兵器は全て使えなくなってしまったな」

 

つまり、地球にはあのスフィアに対する防衛手段があまりにも絶望的なことになってしまったということだ。

 

それとは別に、と。

 

クロトさんはあるものを見せてくれた。

 

それは、ボロボロで所々黒焦げになったフラッシャーだ。

 

「フラッシャーが…!」

 

「さっきの戦闘で負担が掛かったんだろう。

 

私の神の才能を持ってすれば、直せない訳ではないが、かなり時間を有することとなる」

 

「…そうですか」

 

フラッシャーが壊れたということは、俺はデッカーに変身できないってことだ。

 

俺は正直、気分が最悪だ。

 

今聞いた2つで、自分たちにスフィアに対抗する手段がなくなってしまっているのだからなくなってしまっているのだから。

 

「だが、勘違いしないで頂きたいな。

 

別にそれで希望が潰えた訳じゃない」

 

「えっ」

 

「どういうこと、ですか?」

 

「これを見たまえ」

 

と、クロトさんが映像であるものを見せてきた。

 

それは黒いロボットだ。

 

「これは…?」

 

「電脳魔人 テラフェイザーだ。

 

これまでの君が戦った怪獣たちの戦闘データを元に開発したものさ。

 

これを、鳳蓮が操縦する。

 

流石に大型スフィアを破壊できるかどうかまではわからないが、それでもスフィア合成獣を倒すことは可能さ」

 

「こ、これを鳳蓮さんが…」

 

「心配しなくてもいいわよ坊や、すでに試運転も終わってるし、ワテクシも必ず戻ってくるわよ」

 

「あくまでも、テラフェイザーは時間稼ぎみたいなもので、君が主体なんだ。

 

私も、フラッシャーを一日でも早く直せるように、これから修復作業に戻る」

 

「じゃっ、ワテクシは店番に戻るわね」

 

「あぁ、はい、どうぞ…」

 

クロトさんと鳳蓮さんはそのまま部屋を後にした。

 

「…はぁ」

 

俺は、どこか安堵を覚えその場でため息をついた。

 

だが、同時にどこか虚無感を得た。

 

それはデッカーに変身できないからか、テラフェイザーがいるからか、それは分からなかった。

 

「彼方さん…」

 

簪ちゃんは、そんな俺のことを、優しく抱き締めてくれたのだった。



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虚無と予兆

俺は今、簪ちゃんと買い物をしていた。

 

アニメに関する雑誌とかを買いながら、簪ちゃんは俺に話しかけてくれるが、そんなことは俺の耳には入らなかった。

 

フラッシャーが壊れて数日が経った。

 

クロトさんが徹夜で修復作業を行ってるが、未だに治る予兆がない。

 

むしろあの手この手で尽くしても直せないので次第に発狂し、狂気に満ちた笑い声が地下から聞こえてくる。怖い。

 

「…彼方さん、ちゃんと話聞いてる?」

 

「…あぁごめん!えと、何だっけ?」

 

「もう……。…やっぱり、デッカー今はに変身できないことが余程のショックなんだよね」

 

そう言うと、彼女は悲しげな表情を浮かべた。

 

「…そうだな、俺はスフィアと怪獣から人を守るためにデッカーに変身して戦ってたのに、今はそれができないからな。

 

それに、万が一スフィアや怪獣が出現しても、クロトさんが作って、鳳蓮さんが動かすテラフェイザーがいるから安心だけど、やはりそれが虚しいなって」

 

俺は自分の無力さに嘆いた。

 

今の俺には戦う力がない。

 

それどころか、変身アイテムすら壊れてしまったのだ。

 

それに、クロトさんはあくまでも時間稼ぎだって言ってたけど、今までの自分の役割をテラフェイザーが担うって聞いたときの虚しさが半端じゃなかった。

 

だからか、俺の気分もどんどん落ち込んでいった。

 

「……ねぇ彼方さん。私ね、ずっと考えてることがあるんだ」

 

すると、隣にいた彼女は俺の前に来て、真剣な眼差しで俺の顔を見る。

 

「今までは、彼方さんが一生懸命頑張って地球を守ってきたから、今だけはゆっくりと休んだら良いと思うの」

 

「…………」

 

「でもね、いつかまた彼方さんが必要になったときが来たときは、私たちはどんなことがあっても協力するよ!」

 

「……ありがとう」

 

彼女の優しい言葉を聞いて、少しだけ元気が出た気がした。

 

そして同時に思った。

 

この子は本当に優しくて良い子だと。

 

「それにね、私は彼方さんたちみたいに何かできるってわけじゃないけど、今だけは私がそばにいてあげる、いや私が彼方さんのそばにいたいの、だから…」

 

彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしげにしながらも、はっきりとした声で言った。

 

「……今日一日だけでいいから、私とデートしてください」

 

その一言を聞いた瞬間、俺の中で何かが弾けたような感じがした。

 

彼女を見ると、顔だけでなく耳まで赤くなっていた。

 

「そうか…、そうだな!

 

じゃあ、今日は店番じゃないし、めいいっぱい楽しむぞ!」

 

「うん!」

 

俺は彼女の手を握りしめ、そのまま歩き出した。

 

「え!?ちょ、ちょっと待ってよぉ~!」

 

こうして俺たち二人は、楽しい1日を過ごした。

 

だがこの時知らなかった、まさかテラフェイザーがあんなことになることを。

 

そして、俺の中に新しい力が目覚める予兆があったことを。

 

絶望と希望は、今まさにそこまで来ていた。



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奪われたテラフェイザー

突如大型スフィアから、俺が以前倒した巨大な前足の怪獣のスフィアザウルス(クロトさんが命名)が投下された。

 

咆哮を上げ、その巨大な前足で街を破壊していく。

 

『ホーホッホッホッ!!ワテクシが相手をしてあげるわ!』

 

それに駆けつけるように、鳳蓮さんが乗るテラフェイザーがスフィアザウルスの前に姿を現す。

 

とはいえ、鳳蓮さん本人は今俺たちと一緒に地下にいて、操縦席から遠隔で操作をしているが。

 

スフィアザウルスはテラフェイザーに向けて巨大な前足を構え踏み潰そうとするが、テラフェイザーはそれを軽やかに避ける。

 

『どこに目を向けているの?

 

そんな攻撃、ワテクシには届かなくてよ?』

 

テラフェイザーのクローがスフィアザウルスの顔面を切り裂くと、大きく蹌踉めいた。

 

「すっげぇ……」

 

俺は思わず感嘆の声を上げる。

 

スフィアザウルスがすぐに体勢を立て直し、突進を繰り出してくるも、それに動じず。

 

『これでも喰らいなさい!そーれ!』

 

左腕のビーム砲からビームを浴びせまくる。

 

あまりのダメージに動きを止めてしまったところで。

 

『はい、ドーン!!』

 

右腕のクローが勢いよく伸び、そのままスフィアザウルスの顔面を、角をへし折る勢いで吹き飛ばす。

 

さらに、間髪入れずに頭部を踏みつけながら、腹部に何度もクローを突き刺し、最後に上空へと放り投げた。

 

『トドメよぉ!TRメガバスター、発射ぁあああっ!!』

 

そしてショルダーアーマーが変形して胸部の砲身となり、胸部から強力なエネルギー弾を発射して、見事命中させた。

 

スフィアザウルスを跡形もなく、消し飛ばしたのだ。

 

『プロを舐めるんじゃなくてよ、アマチュア!』

 

だが、その瞬間にテラフェイザーの動きが鈍くなった。

 

『ちょ、ちょっとぉ!何よこれ!?動きが鈍くなってきてるわよ!?』

 

「システムに何か異常は?」

 

『だめ、どこもエラーが出てるわ!

 

それに操縦も受け付けない!』

 

「仕方ない、実体化を解除するから、操縦室から出るんだ」

 

クロトさんの指示で、操縦室から出た鳳蓮さんだが、俺は立体映像で異変を確認した。

 

「鳳蓮さん、クロトさん!

 

テラフェイザーが実体化解けてません!」

 

「バカな、テラフェイザーが私の操作も受け付けないとは…!」

 

「一体何があったというのよ!?」

 

「スフィアザウルスからの電波障害はない、それをさせないための早期決戦だった。

 

…ということは、まさか!」

 

立体映像越しに上空を見る。

 

大型スフィアから衝撃波が発生していたのだ。

 

それを察してか、クロトさんはキーボードを殴った。

 

「くそっ、おのれ許さんぞ!

 

私の許可無くこんなことをするとは…!」

 

「ど、どういうこと、ですか?」

 

「…皆、落ち着いて聞いてくれ。

 

奴は、テラフェイザーを電波障害で使えなくさせただけでなく、テラフェイザーがやつの手中に落ちた」

 

「え…っ」

 

「な、何ですって…!?」

 

その瞬間に、動かなくなったテラフェイザーが動き始めた。

 

頭部のモニターが禍々しい模様になり、街を破壊し始めたのだった。



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守るための光

「皆早く!急いで!」

 

乗っ取られたテラフェイザーが街中で暴れる中、俺たちは逃げる人たちを避難させていた。

 

だが俺にはある疑問があった。

 

逃げる人たちの中に、簪ちゃんがいない。

 

もしかしてクロトさんと鳳蓮さんが避難させたのかと思ったが、いないようだ。

 

だから俺は必死で街の中を走った。

 

「はぁ…っはぁ…!」

 

どこだ?どこにいるんだ簪ちゃん!

 

そうして街の中を走ってると、微かながら声がした。

 

うめき声だ。

 

瓦礫の下から聞こえるのだ。

 

「まさか、簪ちゃんがそこに!?」

 

俺は近くにあった瓦礫をどけると、そこには瓦礫に埋もれて傷だらけの簪ちゃんがいた。

 

「うっ、うぅ!」

 

「簪ちゃん!待ってろ、すぐに引き上げてやるから!」

 

「か、彼方さん…、にげ、て…」

 

「そんなことできるかよ!?

 

君も絶対に助けるから、ここで諦めて溜まるか!!」

 

必死で瓦礫を持ち上げようとするも、重すぎて持ち上げられない。

 

しかも、もうすぐそこまでテラフェイザーが来ている。

 

「彼方さん…!もういい、もういいから!

 

彼方さんだけでも逃げてよ!」

 

「嫌だ!!俺は君を置いてなんて行かないぞ!」

 

そう言った瞬間だった。

 

テラフェイザーが俺たちの存在に気付き、左腕のビーム砲を構えてきた。

 

思わず俺は簪ちゃんの盾になるように前に出た。

 

そして、そのビーム砲は発射された。

 

俺はその時に、これまでのことを走馬灯で思い出していた。

 

鳳蓮さんに拾われて、シャルモンで住み込みで働かせてもらったことを、シャルモンの常連として来ていた簪ちゃんと意気投合して仲良くなったことを、クロトさんから最高のウルトラマンを造るためとして一緒に戦ってくれたことを。

 

そして、ウルトラマンデッカーに変身し、怪獣と戦ったことを。

 

「くそぉおおおお!!!」

 

俺は死を覚悟し目を瞑ったその時、光が俺の前に現れ、ビームを防いだ。

 

「…え?これは、まさか!」

 

恐る恐る目を開くと、そこには壊れたはずのフラッシャーがあった。

 

フラッシャーが光って、俺を守ってくれたんだ。

 

俺はそれを手に取ると、ボロボロで壊れていたフラッシャーがまるで時間が巻き戻るように修復された。

 

それと同時に、カードケースから一枚のカードが飛び出した。

 

「これは…」

 

それはデッカーのカードだが、これまでとは違う姿が描かれていた。

 

もう一度、俺に力を貸してくれるのか、デッカー?

 

そうと決めれば、俺はカードをフラッシャーに装填し、角を立てる。

 

『ウルトラディメンション!』

 

「迸れ!ダイナミック!デッカー!!!」

 

『ウルトラマンデッカー ダイナミックタイプ!!』

 

その瞬間、俺の体は希望に満ちた光に包まれた。



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ダイナミックな光

「迸れ!ダイナミック!デッカー!!!」

 

『ウルトラマンデッカー ダイナミックタイプ!!』

 

フラッシャーを掲げ、叫ぶ。

 

それと同時に、俺はデッカーへと変身する。

 

その瞬間に、俺の中に温かい光が入るのがわかった。

 

どんな絶望的な状況であろうと、この希望の光の輝きは、決して消えることはない。

 

そう思わせるほどの眩い光だ。

 

それに、デッカーに変身した俺の姿も変わっていた。

 

まず、いつもなら左胸にあったカラータイマーが胸の中央にあって、額の角は王冠みたいになってる。

 

それに、何となくだがストロングタイプよりも筋肉質になった気がする。

 

何より、負ける気がしない。

 

掌を見ると、ボロボロになって気を失ってる簪ちゃんが横たわっている。

 

簪ちゃんを、安全なところに運び、ゆっくりと下ろして寝かせてあげる。

 

そして、俺を見つめるテラフェイザーに視線を移す。

 

まるでいつでも俺を殺せるとばかりに、ビーム砲を構えていた。

 

俺は強く一歩を踏み出し、一瞬で距離を詰め、テラフェイザーの腹部を思い切りぶん殴った。

 

「はぁ!!」

 

その瞬間、テラフェイザーの機械の体が大きくて吹き飛ぶ。

 

すぐにスラスターを噴いて、体勢を立て直すが俺が殴った跡がくっきりとしていた。

 

すると、さっきまで余裕の表情だったテラフェイザーの顔つきが変わった。

 

そして、右腕のクローを凄まじい勢いで伸ばしてくるがこれを避ける。

 

見える、動きが見える…!

 

どこに攻撃しようとしてるのかも!

 

「ふっ、はぁ!!」

 

クローを掴み、引っ張ってテラフェイザーを引き寄せると、顔面を思い切りぶん殴った。

 

頭部の機械に、大きく亀裂が走り、そのまま街がない広い場所へと飛ばされる。

 

俺はそれを追いかける。

 

するとテラフェイザーがショルダーアーマーを胸部の砲身に変形させて、強力なビームを撃とうと構えてきた。

 

俺がとっさに腕を盾にしようとすると、目の前に光り輝く盾が現れた。

 

『デッカーシールドカリバー!!』

 

「これを使えってのか!

 

…!」

 

それを手に取った瞬間、頭の中に使い方が流れてこんできた。

 

『シールドモード!』

 

シールドカリバーをそのまま突き出したと同時に、テラフェイザーの強力なビームが俺に目掛けて飛んでくる。

 

それを防ぐと同時に、シールドカリバーに吸収される。

 

防ぎ切ると、シールドカリバーのトリガーを押して、ぶん回した。

 

するとシールドカリバーからギザギザの光輪が出てきて、テラフェイザーに向かって回転しながら飛んでいく。

 

テラフェイザーの胴体を切り裂く。

 

「まだまだァッ!!」

 

『カリバーモード!』

 

再びシールドカリバーを構えると、両端の縁が刃となり、トリガーを3回押した。

 

『ミラクル!ストロング!フラッシュ!』

 

そこからさらにトリガーをもう一度押すと煌めく刃が巨大化し、俺はテラフェイザーをそのまま素早く切り裂いた。

 

『D』の字を描くように切り裂かれたテラフェイザーはショートを起こしながら後ろに倒れ、爆散する。

 

さらに遥か上空で結界を張る大型スフィアに視線を向け、俺は両手を額の前に持っていく。

 

そこから両拳を胸の前で突き合わせ、右手を上斜め、左手を下斜めに伸ばし、そして十字にクロスすることで強力なビームを撃ち込んだ。

 

大型スフィアは小型スフィアで防ごうとするも、一瞬で消し飛び、大型スフィアもビームが貫通し、そのまま爆散した。

 

それによって、地球を覆っていたスフィアの結界が消えた。

 

俺は解除すると、すぐさま簪ちゃんを連れて、シャルモンへと向かった。

 

「ふむ、やはり邪魔な存在ですね。

 

ウルトラマンデッカー…」

 

と、物陰から覗いて呟いた何者かの存在に気付かず。



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簪の姉との邂逅

俺は今、伊久米神社に来ていた。

 

この間のテラフェイザーのことで怪我をした簪ちゃんのお見舞いのためだ。

 

「あっ、こんにちは~カナカナ〜♪」

 

と、神社の家からゆるふわな印象のある一人の少女がやってきた。

 

「あぁこんにちはのほほんちゃん。

 

簪ちゃんは元気にしてるかな?」

 

「うん、まだ傷は治ってないけど、元気にしてるよ〜。

 

ほら、かんちゃんもカナカナ来るの楽しみにしてたから入って入って〜」

 

そういって俺の手を引いて家の中へと招き入れてくれた。

 

彼女はのほほんちゃん、本名は布仏本音。

 

のほほんって言うのは本人がそう呼んでくれと言っていたからだ。

 

この神社の娘で、簪ちゃんの幼馴染なんだ。

 

それで、家出をしてる簪ちゃんをこの家に匿ってくれてるんだ。

 

のほほんちゃんに家に上げてもらい、部屋へ行くと、上体を起こした上でアニメ関係の資料を見てる簪ちゃんがいた。

 

頭に包帯を巻いていたり、頬に湿布を張ってあったりと、痛々しいことこの上ないが、本人は至って元気そうだ。

 

「…?

 

あっ、彼方さん!こんにちは!」

 

「おう簪ちゃん、調子はどうだ?」

 

「うん、まだ痛いけど、もうちょっとしたら完治するかな」

 

「そっか、それはよかった」

 

まぁあれだけの大怪我だったし、後遺症とかなくて良かったぜ。

 

「はい、これお見舞いね」

 

俺は手に持っていた紙袋を渡した。

 

「これは……?」

 

「前に食べたいって言ってただろ、ケーキだよ」

 

「えっ!?いいの!?」

 

「ああ、もちろんさ。

 

だから早く良くなってまた一緒に遊ぼうな」

 

「うん!!ありがとう!!」

 

嬉しそうな顔をしながら俺が渡したケーキを受け取った。

 

「えへへ〜良かったねかんちゃん♪

 

 

「う?!本当に嬉しい!」

 

その笑顔を見て俺も自然と笑みがこぼれた。

 

それからしばらく雑談をし、俺らは帰ることにした。

 

すると、チャイム音が鳴った。

 

「あれ、家にお客さんかな?

 

ちょっと見てくるね〜」

 

のほほんちゃんが玄関に向かうと、何やら急に騒がしくなり、部屋の前までお仕掛けてきたようだ。

 

「やめてっ、かんちゃんを連れてかないでっ!」

 

「そうは行きません。

 

これもお嬢様の命令ですので」

 

聞こえてきた会話を聞いて急いで駆けつけると、のほほんちゃんと黒服が揉めていた。

 

「おいあんたら何やってるんだ!」

 

「カナカナ助けて!

 

この人がかんちゃんを無理やり連れて行こうとするの!」

 

「私は楯無様より妹様を連れ戻すように言われた者です。

 

さぁ、そこをどいてください」

 

「待ってくれ、簪ちゃんは今怪我をしてるんだ!

 

まだ外に出れるような状態じゃないんだよ!」

 

「そんなことは関係ありません。

 

それに、あなたには関係ないことでしょう」

 

くそっ、なんて自分勝手な奴だ! 俺は腹を立てながら睨むと、向こうもこちらを見つめ返してきた。

 

「抵抗すると言うのなら、それ相応の覚悟を持って「待ちなさい、手荒な真似はやめるようにと、いつも言ってるのでしょう?」…っ、た、楯無様…!」

 

振り返ると、そこには一人の少女が立っていた。

 

簪ちゃんと同じく水色の髪をした少女だが、髪が外側にはねている。

 

手に持った扇子を開くと、【喧嘩厳禁!】と書かれていた。

 

そんな少女を見て、簪ちゃんがギョッとしていた。

 

「お姉、ちゃん…」

 

「久しぶりね簪ちゃん、元気にしてたかしら?」

 

「…お姉ちゃんには、関係ない」

 

「あらあら、反抗期かしら? でも残念だけど今日は引き下がるわけには行かないわ。

 

さあ、帰るわよ」

 

「嫌!私はまだここにいる!」

 

「わがまま言わないの。

 

せっかく迎えに来てあげたというのに、困ったものねぇ……」

 

「私が家を出ていったあと何もしなかった癖にっ、今更何の用なの!?」

 

「それは違うわよ。

 

あなたのことを心配してわざわざ迎えに来たのよ。

 

それがわからないのかしら?」

 

「嘘つき!! 私のことなんかほっとけばいいでしょ! 私のことを無能のままいればいいって言った癖にっ!もう放っておいてよ!!」

 

「……それは」

 

「君が、簪ちゃんのお姉ちゃんなのか?」

 

「…っ、えぇそうよ。

 

私が簪ちゃんのお姉ちゃんの更識楯無よ。

 

あなたが明日見彼方よね?」

 

「そ、そうだけど、どうして俺の名前を」

 

「更識組は対暴力団用暗部よ?

 

そのくらい調べはついてるわ。

 

…と、せっかくだし少し話をしないかしら?

 

簪ちゃんのことは、その時に決めればいいし」

 

と、楯無ちゃんは黒服を出て行かせ、のほほんちゃんも空気を読んだのか同じく部屋を出て行った。

 

部屋には俺と簪ちゃんと楯無ちゃんの三人だ。

 

「…それで彼方さん、あなたは私に、何か聞きたいことがあるんじゃないの?」

 

「そうだけど、のほほんちゃんも君のこと知ってるのか?」

 

「知ってるも何も、私たちは昔一緒に遊んでた仲ですもの。

 

当然、私の本当の名前も知ってるわ」

 

「…じゃあ、君が刀奈ちゃんってことか」

 

「そういうこと。

 

改めて自己紹介するわ、私は更識楯無、更識組の現当主よ。

 

簪ちゃんがお世話になってるわね」

 

「まぁ…どうも。

 

それで単刀直入に聞くけど、何で今になって簪ちゃんを連れ戻そうとしたんだ?

 

聞いた話だと、出ていったあとで一度も連れ戻そうとしなかったみたいだが?」

 

「それは…、簪ちゃんを巻き込みたくなかったのよ。

 

私のそばにいたら、簪ちゃんも狙われるかもしれないと思ったから」

 

「…それって、スフィアのことか?

 

更識組は、そのスフィアを動かしてるやつらと戦ってるって聞いたんだが」

 

「えぇ…、その通りよ。

 

だからそれに巻き込まないためにも、簪ちゃんがどこか行くように、わざとあんなことを「…意味わからない」…っ!」

 

すると、簪ちゃんがぷるぷると震え、そしてそのまま刀奈ちゃんの胸倉を掴んだ。

 

「そんな意味わからないことのために、私のことを無能って言ったの!?

 

巻き込まないために、出て行かせるためにあんなことを言った?

 

笑わせないでよ!

 

出て行っても、怪獣とスフィアに襲われてる時点でとっくに巻き込まれてるよ私なんて!

 

それとも何?本気で私のことが嫌いだから、怪獣たちに巻き込まれるのを知ってて出て行かせたって言うの!?」

 

「そ、そんなことない!私はあなたを嫌いになったことなんて一度だって無い! あの時は、ただあなたを守りたかっただけなの!」

 

「嘘だっ! 私のことを嫌ってたから、本気で私のこと無能って言って突き放したんだ! そんなの信じられない! お姉ちゃんはいつもそうだ! 自分の都合の良いことばかり押し付けて! もううんざりだよ! お姉ちゃんの顔なんて見たくもない!!」

 

「……っ!」

 

涙目になりながら叫ぶと、刀奈ちゃんはショックを受けたような顔をする。

 

それから悲しそうな顔をしながら、ゆっくりと手を離した。

 

「ごめんなさい……。

 

あなたを守る為とはいえ、傷つけるつもりはなかったの。

 

本当に、ごめんなさい……っ。

 

もう、あなたの前に顔も見せないからっ」

 

顔を俯かせ、そのまま立ち上がる刀奈ちゃん。

 

「…ここに来たのは、あなたが大怪我を負ったって聞いたから、あなたを連れて、怪獣やスフィアが来ないようなどこか遠い所に連れて行って、そこで幸せに暮らして欲しかったけど、ごめんねっ」

 

最後の辺りで声が震え、そのまま出て行ってしまった。

 

一方簪ちゃんは泣きじゃくりながら。

 

「ごめんなさい彼方さんっ、しばらく、一人にしてっ」

 

と言っていたので、俺は刀奈ちゃんを追い掛けた。

 

「待ってくれ!刀奈ちゃん!」

 

玄関で靴を履いている途中で追い付き、腕を掴む。

 

「……放して」

 

「嫌だ、放さない」

 

「……お願いだから、放してっ」

 

「俺はまだ、ちゃんと君から話を聞けてない」

 

「……何の話かしら?」

 

「君がどうしてここに来たのかってことだ。

 

さっきの言い方だと、まるで自分が犠牲になればいいと思ってるような感じだったが」

 

「……えぇ、そうよ。

 

私は更識組の当主として、更識組も簪ちゃんもこの街も、守らなきゃならないの。

 

それに、当主になってから、私は世界中の闇を見てきたわ。

 

だから、大好きなあの子には、そんなこと一切知らないで、幸せに暮らして欲しかったから」

 

「だから、無能のままでいてくれって、言ったのか」

 

「…そうよ。

 

元々、私たち姉妹はいつも周りから比べられて、頼んでもないのに私ばかりが持ち上げられてたわ。

 

そのせいで簪ちゃんが私よりも下だって、皆から後ろ指差されるようになって、見下されてきたの。

 

だから簪ちゃんも、暗い性格になって、私のことを避けるようになった。

 

けど、それでもあの子のことを守りたかったから、敢えて突き放すつもりで、あんなことを言ったのよ」

 

「……じゃあ、君は本当に、簪ちゃんのことが嫌いじゃないのか?」

 

「……そんなわけないじゃない。

 

大好きに決まってるわ。

 

けど、私のせいであの子が苦しんでるのは事実よ。

 

だから、これ以上迷惑をかけないためにも、私がいない方が、良いのよ。

 

今になって、あの子を連れ戻そうとしたのも、あの子が大怪我したって聞いたから、あの子を、怪獣もスフィアもいないどこか遠い場所に連れ出して、私が代わりに戦えば、それで済むと思ったからよ。

 

でも、やっぱりダメね。

 

結局は、あの子に嫌われちゃった」

 

「……刀奈ちゃん」

 

「……ごめんなさい、こんな話、あなたにしても仕方ないわよね?

 

……だから、お願い。

 

私の大切な妹を、お願い」

 

「おい待てよっ!

 

最後に、これだけは聞かせてくれ!

 

君はスフィアを動かしてる連中と戦ってるって聞いてるんだ。

 

そいつら一体、何者なんだ?」

 

すると刀奈ちゃんは、少し考えてから答えてくれた。

 

「……この世界を、スフィアで覆い尽くし、人類を解脱へと導こうとするカルト集団よ。

 

NAIXって言うのは聞いたことあるでしょ?」

 

「ああ……。

 

ネットでも都市伝説でやってるのはな。

 

この世はシミュレーションだって言ってる秘密結社だってな」

 

「えぇ、その通りよ。

 

でもその実態は、特殊な電波を使って、遥か彼方の宇宙から飛来する生命体・スフィアを呼び寄せ、地球そのものをスフィアで覆うことで、人類全てを解脱へと導こうとする組織なの。

 

そしてそれを阻止するために、私たち更識組はスフィアと戦えなくても、それを操るNAIXの動向を探り、阻止するために動いてるの。

 

それが私の役目。

 

だから私は、この命に掛けても、どんなに嫌われても、簪ちゃんを守るって決めたのよ」

 

「辛くは、ないのか?」

 

「ないわよ、後悔もしない。

 

あの子がスフィアとNAIXに狙われないためにも、私がどんなに傷ついても、それで死んだとしても、絶対にあの子を守るから」

 

即答だった、声は震え、背けた顔から涙を流すが、それでも刀奈ちゃんは一切迷わず、覚悟を決めた表情をしていた。

 

「……分かった。

 

なら俺からも一つだけ言わせてもらう。

 

俺は君に死んで欲しくない。

 

簪ちゃんとずっとこのまま仲違いしたままでいるのは嫌だ。

 

君の覚悟はよくわかったし、俺はそれを止めることはできないかもしれない。

 

でも、一人で背負い込まないでくれ。

 

この街には、ウルトラマンがいるのだから」

 

「…6年前とは別の姿をしたウルトラマンよね。

 

わかってるわよ。

 

私たちがNAIXの動向を探ってるときも、怪獣やスフィアと戦う彼の姿には、何度も心を打たれたし、励みにもなってる。

 

…けどそうね、あなたの言う通りかもしれない。

 

私はちょっと気負い過ぎてるのかもしれないわ。

 

気をつけないとね」

 

「…もう、行くのか?」

 

「えぇ、簪ちゃんにはあなたたちがいるもの。

 

もう私の付け入る隙もないし、それに、あの子を傷つけてしまった私なんかより、あなたたちといた方が幸せだもの。

 

さようなら、優しい簪ちゃんの友だち」

 

「……あぁ」

 

俺がそう答えると、彼女は振り返らずに、家を出て行った。

 

「……嘘つけよ。

 

守るために突き放して、そんでさっきみたいに罵られて、どっちも痛いだろ。

 

君も、簪ちゃんも」

 

俺は一人、拳を握りながらそう呟いた。



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スフィアの元凶

伊久米神社での出来事のあと、俺がシャルモンに向かって帰ってると黒服たちが俺を囲んだ。

 

「な、何だよあんたたちは!?」

 

「我々はNAIX、主宰がお前に話があるとこうしてやってきたのだ」

 

「俺に?」

 

NAIXだと?

 

刀奈ちゃんが言ってたスフィアを動かしてるって言う秘密結社の!

 

まさか…!?

 

そう思ってると、黒服たちの奥から、白い服を来た女性がやってきた。

 

「初めまして、明日見彼方さん。

 

私はNAIX主宰の時雨時子と申します。以後お見知りおきを」

 

「…そのNAIXが一体俺に何の用だ?」

 

俺は警戒しながら時雨に質問する。

 

「隠さなくてもいいですよウルトラマン。

 

いえ、ここはデッカーとでも読んであげましょうか?」

 

「…っ!どうしてそれを!?」

 

「簡単な話です。

 

スフィアは個体それぞれで情報を共有してるんです。

 

だからあなたが明日見彼方であることや、ウルトラマンデッカーであることは知ってるんですよ」

 

「スフィアはこの地球で様々な被害を生み出してるんだぞ。

 

そもそも仮にそんな能力があったとして、何で人間のあんたにっ!?」

 

…いや待てよ、まさか!

 

「そうそのまさかです。

 

我々が、スフィアを呼び寄せ、尚且つスフィアを自身の体に取り込ませているのです。

 

だからスフィアの情報を共有してるのです」

 

「スフィアを、自分の体に!?」

 

「えぇ、ですが身を委ねれば簡単なものですよ。

 

スフィアの力さえあれば、この地球を覆い尽くし、人類を解脱へと導くことができるのです。

 

…と、話が逸れましたね。

 

我々が一体何の用であなたに訪ねたのか。

 

単刀直入に言いますと、宣戦布告ですよ。

 

理由は、わかりますね?」

 

「…スフィアが地球を覆い尽くすのに、俺たちが邪魔をするから、ってことか?」

 

「その通りです。

 

スフィアザウルスやスフィア合成獣で街を襲撃すればあなたが現れ、悉く邪魔をしてきました。

 

ならばいっそ、まとめて始末した方が楽というわけです」

 

……こいつら、本気なのか?

 

自分たちが何をしてるのか、わかってるのか!?

 

「もちろん本気です。

 

それに、あなたたちはもうすぐ滅びゆく定めにあるのですから」

 

「どういうことだ?」

 

「先日、あなたが結界を張った大型スフィアを撃破したことにより、スフィアたちが怒りを覚え、本体である暗黒惑星グランスフィアを呼び寄せています。

 

…これであなたたちの終わりは確定し、この全人類は解脱へと導かれる」

 

「グラン…スフィア?」

 

「スフィアたちの本体ですよ。

 

かつてより多くの惑星を取り込み、解脱へと導く存在。

 

そして解脱へと導かれれば、新たな進化を辿り、どのようなこともできるのです。

 

例えば、亡くなった人たちを生き返らせるとか、争いも色欲も物欲も、全てが満ち満ちるとか」

 

無表情だった時雨の表情は狂気のものへと変わる。

 

グランスフィアが来ることで自分たち含む人類が解脱へと導かれることに喜びを抱くように。

 

だがそれは、スフィアに取り込まれれば混沌に満ちた世界になるということと同義だ。

 

「そんなこと…、そんなこと、絶対にさせない!

 

俺は、俺たちはどんなことがあっても必ず守ってみせる!」

 

「残念ながら、間もなくグランスフィアは飛来します。

 

いくらデッカーに変身できるあなたでも、グランスフィアに取り込まれるのが運命なのです。

 

…では失礼」

 

「くっ…!」

 

時雨は黒服たちを連れてシャルモンを出て行った。

 

「絶対に諦めてたまるか…!」

 

俺はフラッシャーを手に、絶対に勝ってみせると誓うのであった。



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勇敢な戦士

時雨及びNAIXが宣戦布告してから数日間、まるで嵐の前の静けさのように平穏な日々が続いていた。

 

その間でも、俺はクロトさんたちにグランスフィアが来ることを説明し、尚且つ対策を取ってもらった。

 

それと簪ちゃんとのほほんちゃんには、万が一のことも想定して、地下に避難してもらった。

 

そして現在、俺は外に出て、グランスフィアが来るのを待っている。

 

クロトさんの話だと、グランスフィアは過去に別の地球に現れた存在で、現れる時は全てを闇に包み込む、とのことだ。

 

通信機から、クロトさんが連絡してきた。

 

『彼方、気をつけろ。

 

奴の反応が来るぞ』

 

直後、空が闇に包み込まれ、その闇の渦とも言うべき中心部から大量のスフィアが飛来した。

 

「やっぱり来たか」

 

俺の言葉に反応したのか分からないけど、スフィアたちが襲い掛かってきた。

 

だが、俺は焦ることなく、フラッシャーにディメンションカードを挿入する。

 

「輝け、フラッシュ!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー フラッシュタイプ!!』

 

デッカーに変身した俺は、スフィアたちに立ち向かう。

 

手裏剣の光線で次々とスフィアたちを撃破し、その直後に両手をクロスして強力なビームで大量のスフィアたちを撃破していく。

 

すると今度はスフィアザウルスが飛来した。

 

「やはり出てくるか!

 

…弾けろ、ストロング!デッカー!!」

 

『ウルトラマンデッカー ストロングタイプ!!』

 

パワー重視のストロングタイプにフォームチェンジして空を飛ぶと、スフィアザウルスが振り回す巨大な前足を受け止め、そのまま強い蹴りを胴体に放つと、その巨体は後ろに吹き飛ぶ。

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

そのまま拳に力を込めて、スフィアザウルスを追跡し、その胴体を殴ると同時に貫通し、爆散させた。

 

『ウルトラマンデッカー ミラクルタイプ!!』

 

またスフィアたちが湧いてこない内に、ミラクルタイプにフォームチェンジし、闇の渦へとテレポートした。

 

思ったよりも遠く、そこは宇宙だった。

 

俺の目の前には、視界いっぱいの巨大な惑星の形をしたスフィアがいた。

 

「あれが、グランスフィア」

 

『気をつけるんだ彼方。

 

中に一人、誰かいる』

 

グランスフィアの表面が、蠢きながら変わる。

 

それは人の顔になり、目や鼻など細やかな部分へと変わっていく。

 

蠢きながら変わっていったそれは、時雨だ。

 

NAIX主宰の時雨の顔になった。

 

【流石はウルトラマンデッカー。

 

最早スフィアやスフィアザウルスでは太刀打ちできませんね】

 

「時雨…!

 

あんたまさか、グランスフィアと一体化したとでも言うのか!?」

 

【えぇ、まさにその通りです。

 

この数日間、我々はスフィアと通信を行い、こうしてグランスフィアの御下へと導かれたのです。

 

殆どがグランスフィアに導かれながらも、自我を失ってしまい、唯一私だけがこうして自我を保つことが出来ました】

 

『まさか、自ら融合したのか!

 

その上で自我を保ってるとは』

 

「…そうまでして、この地球をスフィアで覆い尽くしたいのか!」

 

【それが私たちの使命ですから。

 

スフィアによってこの星は覆い尽くされ、全人類は解脱へと導かれるのです】

 

「イカれてる」

 

【それは、あなたがスフィアの偉大さを理解していないからですよ。

 

ですがこれも慈悲です、宣戦布告した以上あなたを倒します、デッカー】

 

「悪いけど、負けられないんでな! 行くぞ!!」

 

俺は手から光線をグランスフィアに向けて発射する。

 

しかし、その光線は強力なバリアを張られて防がれてしまった。

 

「何!?」

 

【無駄ですよ。

 

そんな攻撃が届くことはありません】

 

「くっ!」

 

俺は続けざまに何度も光線を放つ。

 

だがどれもグランスフィアに当たることはなく、バリアによって防がれてしまった。

 

しかも今度は連続で光線を撃ってきて、俺はそれを避ける。

 

その避けた先で、目の前に怪獣が現れた。

 

「うわっ!?」

 

驚いて防ごうとするが怪獣の攻撃が擦り抜けた直後、グランスフィアの光線が俺に直撃した。

 

「がはっ!!」

 

そのまま地球へと落ちようとした時に、まるで持ち上げられるかのように、グランスフィアに近付いていた。

 

「なっぐあっ!!」

 

【あなたを逃がすなんてことはしませんよ?

 

あなたはこの宇宙で、その命を散らすのですから】

 

「ふざ、けんな…!」

 

必死に藻掻くが、どんどんグランスフィアに近付いてしまう。

 

これがクロトさんが言ってたグランスフィアの能力の一つの重力操作か!

 

このままじゃ本当に死ぬ!

 

何か策はないのか!

 

『彼方!』

 

その時、通信機越しにクロトさんの叫ぶ声が聞こえてきた。

 

『やつのバリアは一方向にしか張れない!

 

ミラクルタイプの分身で攻撃しながら撃ち込むんだ!』

 

「…っ!わかりました!」

 

ミラクルタイプの力で分身を作り、別々の方向から光線を撃ち込んだ。

 

するとクロトさんの言う通り、片方の光線はバリアを張って防いだが、もう片方の光線は防げず直撃してしまう。

 

【くっ、そんな、バカな】

 

「これでも、食らわせてやる!

 

…迸れ、ダイナミック!デッカー!!!」

 

『ウルトラマンデッカー ダイナミックタイプ!!』

 

ダイナミックタイプにフォームチェンジした俺は、デュアルソードとシールドモードのシールドモードカリバーを構える。

 

やつの破壊光線をシールドカリバーで受け止め吸収し、光輪に変えて跳ね返した。

 

当然やつもバリアを張って防いでるが光輪が強力なためすぐには消えない。

 

『デッカーフラッシュ!デッカーストロング!デッカーミラクル!

 

デュアル!デッカートリプルスクラム!!』

 

『カリバーモード!

 

ミラクル!ストロング!フラッシュ!』

 

デュアルソードとカリバーモードにしたシールドカリバーによる2つの攻撃が、そのままグランスフィアに直撃する。

 

強烈な攻撃を食らったことで、グランスフィアの巨体は次々と爆発し始める。

 

【まさか…、こんなことが…。

 

我々の、人類を解脱へと導く計画が】

 

時雨のその言葉を最後に、グランスフィアは跡形もなく爆散した。

 

しかしその直後に強力なブラックホールが発生しようとしていた。

 

『彼方!急いでその場から離れろ!

 

巻き込まれるぞ!!』

 

「…っ!了解です!」

 

すぐさまミラクルタイプへとフォームチェンジし、テレポートでその場から脱出し、地球へと帰還した。

 

変身を解除し、空を見上げると、闇が渦の中に飲み込まれていき、最終的に跡形もなく全てが消え去った。

 

周りを見渡すもスフィアもいない。

 

そう、勝ったんだ俺たちは。

 

「…ふぅ」

 

それによる安堵からか、俺はその場に倒れ込んだ。



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彼方とデッカー

グランスフィアとの戦いが終わった。

 

あれからスフィアが出現することもなくなり、怪獣も出現しなくなったので、世界が平和になった。

 

時雨を失ったNAIXの生き残りは烏合の衆となり、刀奈ちゃんたち更識組によって連行された。

 

あれからというもの、簪ちゃんは相変わらず伊久米神社に居候してるが、俺の仲裁もあったからか、最近では刀奈ちゃんと文通するくらいには関係が修復されていった。

 

クロトさんは俺のデッカーとしてのデータが満足に取れたからと、最高のウルトラマンを造るためにどこかに消えてしまった。

 

鳳蓮さんも引き続きシャルモンでパティシエをやって、俺はそこで居候兼バイトをしている。

 

ちなみに、クロトさんの書き置きで知ったが、俺がグランスフィアと戦っていた最中、地上でも何やら騒動があったらしいが、それはもうすぐに収まったそうだ。

 

その時の記録も見させてもらったが、何でも6年前に姿を消したウルトラマンがこれを収めてくれたらしい。

 

この地球と宇宙の同時に起こった事件を境に、みずきちゃんも明るくなった。

 

最近じゃどこか不思議な感覚を覚える青年に何かと世話を焼きながら仲良くしているみたいだ。

 

一方俺はというと、シャルモンで相変わらずバイトをしているが、グランスフィアを倒して以来、毎日夢を見るようになった。

 

それは夢というよりも、失われた俺の記憶の断片だった。

 

記憶を失う前、俺はある人と兄弟で、常に一緒だった。

 

双子の兄がいたんだ。

 

俺ほど正義感が強かったわけではなかったけど、よく俺の人助けに付き合ってくれた人だ。

 

俺たちは二人で一人、そう思うほどよく一緒にいた。

 

だが、そんな俺たちの間はいともたやすく引き裂かれた。

 

ある日、俺とその人が凶悪犯を見つけたので取り押さえようとしたが、凶悪犯が抵抗してトラックで逃げ出そうとしたので俺が走るトラックの前に立ち、止めようとした。

 

だが俺が生身なのに対して向こうは猛スピードで走るトラック。

 

当然俺では止められず、その鉄の塊によって俺の体は半分になるように潰れ、その瞬間に意識が途絶えた。

 

そう、俺は一度死んだんだ。

 

死んだはずなのに、生きていた。

 

気がつけば、棺の中に入っていた。

 

半分潰れていた体も、元通りになっていた。

 

俺はこの時、自分の名前を含む記憶がなくなっていたから、当時はパニックになり、棺から飛び出し、走り回った。

 

何日も何日も、行く宛もなく彷徨い続けた。

 

着せられていた白装束も泥とかで汚れ、至る所が破けていた。

 

そして気がつくと、ある店の路地裏で、残飯を漁っていると女性口調で話す筋肉質な男に出会った。

 

それが鳳蓮さんだった。

 

名前もなく行く宛もなかった俺を拾って、俺に明日見彼方という名前をつけてくれた。

 

記憶を失って、希望も絶望もへったくれもなかった俺が、彼方まで明日を見れるようにと願いを込めてつけてくれた。

 

それから俺は鳳蓮さんの元でバイトをしながら居候をしている。

 

こうして断片的にこの夢を見て俺は思った。

 

俺は死んで、生まれ変わったんだと。

 

だが、どうして俺は生き返ったのかはわからない。

 

もしかしたら、デッカーが俺を生き返らせてくれたからなのかもしれない。

 

それに、前にブラフマンで見掛けた龍木さんを見たときのあの頭痛。

 

確証もないし、まさかとは思うけど、あの人は俺の兄さんなのかもしれない。

 

だが、今はそのことを本人に聞こうとは思わない。

 

もし、あの人が本当に俺の兄さんなら、どう顔を合わせればわからないから。

 

何があって、あんなに飲んだくれていたのかは俺にはよくわからない。

 

それでも、このまま会わずにいたら、それこそ後悔するかもしれない。

 

…いつか、また会って、ちゃんと話がしたいよな。

 

それまでは、俺は鳳蓮さんや簪ちゃんと一緒に生きていこう。

 

そして今日もまた、シャルモンでお客さんにお菓子を売る日が始まる。




今作はこれにて最終回とさせていただきます。
今回は、ソムニウムファイルの原作キャラもほとんどがゲストみたいな感じで、中々介入することもできませんでしたし、本当なら回収したかった伏線などの話を書けませんでした。
今書いてる他の作品やこれから書くであろう作品を、どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。


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