ドラゴンクエストFUTURE~王室護衛係セイラン班~ (岬 実)
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セイラン班、初出動

ドラゴンクエストⅩの人種をメインに、これまでのシリーズの種族や魔物が多数現れます。ある程度の知識が不可欠なので悪しからず。ただし、主人公はオリジナル人種です。
また、呪文の描写や敵の姿が独特なので、イメージしづらいかも知れません、


 見渡す限りの森林地帯、その中にポツンと建つ、ユニット式建造物の簡素な発着場に、王室のマークを持つ一機の宇宙船がゆっくりと降り立った。

 船内の座席には、乗客が二人。揃って深紅のスーツを着ている。

 

「なあ『ガーデン』、ドラゴンなんて居ると思うか? ドラゴン系の魔物じゃなくて」

 

 黒髪が生えてはいるが、銀色の肌を持つ、宇宙人の様な姿の青年が問いかける。

 質問の相手は、大柄なピンク色の騎士の姿の魔物、ガーディアンである。但し、角の代わりにアンテナが付いている。

 

「『絶滅した筈』と言いたいのは分かる。しかし現に被害もあるから、何かしらの怪物が居るのは確かだ」

 

 ガーデンは席を立ち、背伸びをし、数回の屈伸をする。

 

「そんな事より『セイラン』、早いとこ装備を身に付けろ。もう任務は始まってるんだぞ」

「ああ、そうだな」

 

 セイランと呼ばれた青年は、クーラーボックス程度の大きさの箱を開け、中から大鎌と鎌、二振りの大剣、目の様な機械、二つずつのウェアラブル端末と腕輪を取り出した。

 二人は腕輪と端末を装着する。

 セイランは大鎌を背負い、鎌を腰に固定する。そのデザインは、大鎌は親指と人差し指を開いた右手型、鎌は直下を指差す左手型の刃を持ち、それぞれの柄尻に玉を付けている。眼球型メカは額に張り付けた。

 対してガーデンは大剣を腰に差す。鍔の装飾は隼を象ったものである。

 身支度を整え、宇宙船から降り、空港の建物の中へ入る。

 

「あっ、二人とも! こっちこっち! 待ってたよ!」

 

 待合室のベンチに腰掛けていた、同じ赤いスーツの、色白な、若いオーガの女性。その装備は、両刃の巨大な和バサミ型の刃物を背負い、『ぐるぐる眼鏡』を掛けている。

 最大の特徴は、両肩の突起の代わりに、台座付きの透明なケースが装着されている事。中は、水色のジェルで満たされている。

 

「お久し振りです、『グィネヴィア』さん。これからお世話になります」

 

 セイランは軽く頭を下げるが、グィネヴィアはパタパタ手を振って否定した。

 

「良いよ、リーダーなんだから畏まらなくても。それにしてもガーデン、外殻のあるヤツは相変わらず服が似合わないね」

「ほっとけ……」

 

 ガーデンは顔を背けた。

 

「早速だけどグィネヴィアさん。これ、俺の班のメンバーに支給される腕輪」

 

 セイランは、ガーデンに渡した物と同じ腕輪を手渡した。

 グィネヴィアはそれを受け取って、身に付ける。

 

「うん、ありがと。これが無くても、アテにしてるからね」

「初めての任務だから、至らない事もあると思うけど、何とか頑張るから」

「その意気、その意気」

 

 ガーデンは、ここで咳払いをした。

 

「ところで、グィネヴィア。被害に遭った集落には、ルーラで行けるのか?」

「うん、大丈夫。この近くだったから、ついでに寄って来ておいた。あっ、そうだ。長旅で疲れたでしょ? あたしの魔力要る? 丁度満タンだし。ソーダ味。二人して好きだったでしょ?」

 

 グィネヴィアは、両肩のタンクを空の物と付け替えつつ、満タンの方をセイランとガーデンに差し出す。

 

「じゃあ、後の備えとして頂きます」

「俺も。カクテルの材料にもなるしな」

 

 セイランは、受け取った魔力のタンクをボックスにしまい込む。

 

「じゃあ、そろそろ出発するけど、忘れ物とか無い?」

「これだけしかない」

 

 グィネヴィアの質問に、セイランはボックスを抱えて見せた。

 

「あはは。それ失くしたら大変だよね」

「まあ、上も資金不足って事だ。まして、俺達の様な下っ端には……」

「大丈夫。あたし達は元々低コストだから。じゃ、そろそろ行くよ? ルーラ!」

 

 グィネヴィアがルーラを唱えると、3人の体は一瞬浮遊し、光を纏い、高速で飛行して行った。

 

 ────―

 

 着いた集落は、簡素な木造建築が多数、ユニット式建築が少数の、開拓途中の地であった。

 だが、それ等の建物は、ある物は焼け焦げ、ある物は半壊する等しており、急拵えの墓地まであると言う有り様であった。

 

「うーん、ここまで酷いとは思わなかった」

 

 現場に着いてのセイランの第一声に、ガーデンはセイランの肩に手を置いた。

 

「そう思うのは、それはそれで良い。とは言え、口に出すのは控えておけ。特に現地人にはな……」

 

 そして、「なっ」と肩を叩く。

 

「それは、そうだな……」

「二人共、お巡りさん達はこっちこっち!」

 

 既に若干離れた所に居るグィネヴィアが、セイランとガーデンを手招きする。彼女の傍らには、大型のテントが幾つか設営されており、何人かの警官が立番をしていた。

 3人は手近に居た人間の警官に、王室護衛係の身分証を見せつつ、自己紹介をする。

 

「失礼。私は、王室護衛係の班長の、『セイラン=ブルーウェア』と言います。今回は応援に参りました」

「『ガーデン=バッシュ』です」

「『グィネヴィア=エーズィー』です」

 

 するとその警官は手を合わせて軽く会釈し、警察手帳を見せた。

 

「これはどうもお疲れ様です。本官は『ダン=タン』と申します」

 

 そして、どちらからともなく3人とは握手を交わす。

 

「当方の責任者はこちらです」

 

 タンは手で指して3人をテントの中へ招き入れ、奥へと案内した。

 テントの最奥には長机が並べられており、宙に画面を映し出すパソコンが幾つか設置されている。

 そのパソコンとにらめっこしつつ、パイプ椅子に座っている者が一人。魔物、リカントであった。

 

「警視、王室護衛係の方々が参られましたが」

 

 リカントは「ん?」と顔を上げると立ち上がり、3人に敬礼をした。

 

「お待ちしておりました。私、ここを任されている、『ライン』と申します」

 

 3人は先程と同様に自己紹介すると、応接用のソファーへ座る様に促され、ラインはパソコンを持って対面に腰掛けた。直後、職員の一人がお茶を汲む。

 

「さて、こんな所まで王室護衛係の方々が来て下さるとはありがたい限りです。早速ですが、先日現れた未知の怪物の映像を見て頂きたいのですが……、見るに堪えなくなりましたらすぐに止めますので」

「大丈夫です。始めて下さい」

 

 セイランが3人を代表して答えた。

 

「では……」

 

 ラインは、パソコンを起動させ、動画を再生させた。

 宙に投影された映像はピントが合っておらず、手ブレや走りで上下左右に揺さぶられている。四方八方からの悲鳴や断末魔、生物や建物の圧壊音。

 息を荒くして走っていた撮影者は振り向き、惨状を引き起こした物をカメラに捉えた。それは……。

 

「? ……。ゾウ……?」

 

 セイランは、顔をビデオに近付ける。

 

「いや違う。よく見ろ」

 

 ガーデンがそれを否定した。

 

「ゾウの姿をしたドラゴンだ!?」

 

 グィネヴィアが、その正体を語った。

 怪物は、シルエットはゾウにそっくりではあるが、細部が違う。全身が鱗に覆われ、頭には顔が無い。代わりに、ドラゴンの頭が鼻の先端に付いており、ゾウの耳にあたる部位はドラゴンの翼である。

 ゾウ型ドラゴンは息を吸い込むとカメラに向かって炎を吐き、映像はここで終わっている。

 

「と……、こう言った事が起こってしまった次第でして……。恥ずかしながら、あのドラゴンらしき物もデータには無く。お三方は何か御存知でしょうか?」

 

 ラインは拳で口許を隠しつつ尋ねる。

 

「いえ……。私もこの職に就いて長いですが、見た事も聞いた事も」

「あたしも」

 

 ガーデンが先に答えて、グィネヴィアが続いた。

 

「そうですか……。我々はこのドラゴンを、『擬竜1号』と名付けて呼んでいます。貴方方にはまたこれが現れた際は、住民を守る事を優先して動いて欲しいのです。ここまでで何か質問は……」

「ドラゴンが、実は絶滅していなかった可能性は?」

 

 セイランが口を開いた。

 

「確かに、1万年前の記録では、『世界を支配しようとして負けたドラゴン族は、多少の生き残り達が本星から逃げ出した』との記録がありますが……。いかにドラゴンでも、未だ生き延びて居るとは……」

「では、この星をテラフォーミングする前から今まで、この1号の存在に気付かなかったのは?」

「それは……、生存者が全員、まともに喋れない位の深手を負っていて証言もままならず……。あ、唯一の無傷の者も、まだ5歳で信憑性があるのかどうか……」

「構いません。何と言ってましたか?」

「『空間が歪んで、そこから出入りした』と言う風な事を」

 

 セイランは腕組をして、「うーん……」と唸って背もたれに寄り掛かった。

 

「記憶読取装置があれば、話が早いのに」

 

 グィネヴィアは言うが、ラインは首を横に振った。

 

「何しろ、こんな開拓して間もない星でしょう? 現地作成が奨励されていますが、作れる程工業が育っていないのです」

「それなら、あたしが怪我人を治しますよ。あたし、ベホマズンもできますから。一度に16人ずつ」

 

 グィネヴィアが手を挙げて提案した。

 

「あっ、それは助か──」

 

 ラインが手を叩いた瞬間、声が響いた。

 

 

『あの程度で死にかける奴等は、生きるだけ無駄だ』

 




何番煎じか分からないものの、現代より遥か未来が舞台のドラゴンクエストが見たかったから書きました


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ドラゴン出現

この陣営の敵デザインは、お気に入りな奴が多いです。


「大変です、警視!」

 

 タンが、慌てた様子でテントの中に飛び込んで来た。

 

「今の声だな!?」

「はい! 空が、空が歪んでいます!」

「証言は本当だったのか……!」

 

 ラインは、小走りでテントの外へ出て行った。

 

「セイラン、俺達も行くぞ!」

「ああ!」

 

 セイラン達は各々の武器を手に構え、ラインの後に続く。

 外に出て見ると、警察職員や医療従事者の何人かまでがおり、一様に空を見上げていた。

 

「あれは……?」

 

 セイランは、驚きの声を上げた。

 青空が、まるで水面の様に波打っている。

 波打った箇所の中心が、ドラゴンの両手の形に引き伸ばされた直後、手が空間を突き破って現れた。

 その手は空間を上下左右に大きく引き裂くと、続いて体全体が出現した。

 その姿は……。

 

「家?」

 

 ガーデンがやや抜けた声で呟く。

 まさしく、そのドラゴンは豪邸と呼ぶに相応しい姿であった。

 寸法は、人間用の家屋を4倍強に拡大した程度。

 3階建ての本館、左右に別館、の構造であり、蛇腹に似たシャッターが閉じたガレージも備えている。

 本館最上階の屋根がドラゴンの頭、別館の屋根が翼、土台に2対ずつの前足と後ろ足、アンテナ型の角、と言った威容である。

 加えて、羽ばたくでもなく空に浮かんでいる。

 

「バルコニーに誰か居る!」

 

 グィネヴィアが、本館最上階のバルコニーを指差した。

 そこには、椅子に腰掛けた人影。

 翼も尻尾も持たない、骨格が人間にかなり近いドラゴン。ジャケットスタイルのファッションをしている。

 椅子すらも四足歩行型のドラゴンであり、背中が座面と肘置き、尻尾が背もたれ、羽がサイドテーブル、と言う出で立ちである。

 人型ドラゴンは、サイドテーブル上のグラスに赤ワインを手酌すると、一気飲みして深く息を吐いた。

 

「俺もちょっと敵情視察に来てみれば……、確かに、昔と比べて弱くなってるじゃないか、お前等」

 

 人型ドラゴンは、その場に居る人物達を見渡すが、セイランを見付けると目を止めた。

 

「……? ……。お前みたいな奴は初めて見るな……。何だお前は」

 

 セイランを指差すが、そのセイランは周囲を見回す。

 

「お前だお前! そこの銀バエみたいな奴!」

「え? 俺?」

 

 セイランは自分の顔を指差した。

 

「そう、お前だ。昔はお前の様な人種は居なかった」

「俺は『宙人(そらびと)』だ。そう言うお前の方こそ何なんだ」

 

 人型ドラゴンは若干眉間にシワを寄せて目を細めた。

 

「俺達ドラゴンに名前を訊くとは、相も変わらず生意気な奴等だ。生物的にも底辺の分際で。宙人(そらびと)? ふーん、宙人(そらびと)、ね……」

 

 人型ドラゴンは、目線を逸らして首の回りを掻く。

 

「良いから答えろよ」

 

 セイランに急かされ、人型ドラゴンはセイランに目を向ける。一拍置いて、咳払い。

 

「俺は優しいから……、元々、大体の事を喋るつもりでいたんだ。俺の名前が『リッヂ=ゼーレー』、ボスの名前が『ドランノージェ』、目的は『世界の管理』だと。そして、『俺もお前達の力試しに来たんだ』と」

 

 そこで、リッヂは指を鳴らす。すると、背後の部屋からアタッシュケース型のドラゴンが飛来し、サイドテーブルに止まる。その形態は、腹側から翼が生え、下顎が取っ手型になっていると言う物。

 アタッシュケース型ドラゴンは、背中側を開いた。

 

「俺達の力試しをするだと……?」

「警視、危険です」

 

 タンがラインを下がらせ、ガーデンが剣を抜いて構えると、リッヂはアタッシュケース型ドラゴンの中から、リッヂに見合ったサイズの札束を一つ取り出した。

 

「そうだ。まずはコイツ等で小手調べだ」

 

 札束の帯封を破き、お札を紙吹雪の様に振り撒いた。

 舞い散る紙幣の内の一枚がセイランの手元に来て、セイランは何気無くそれを手にする。

 緑色掛かった紙幣のそれは、額面が「10000G」と書かれており、肖像画には普遍的な姿のドラゴンが描かれている。

 

「何だこれ……?」

 

 とセイランが呟くが早いか、肖像画が大口を開けた。

 

「んっ!?」

 

 セイランは反射的に紙幣を放し、ブリッジの姿勢になる。

 直後、吐き出された炎がセイランの居た位置を炙った。

 

「おいおい、油断するなよ? セイラン」

 

 ガーデンが紙幣達に切っ先を向けつつ、セイランを助け起こす。

 

「ああ、悪い!」

 

 セイランは大鎌を構え、刃先でリッヂを指し示す。

 

「ガーデン、グィネヴィア、戦闘開始だ! 平穏を乱す奴等を排除しろ!」

「応!」

「了解!」

 

 スピーカーからも、ラインの声が響く。

 

「非戦職員は下がれ! 残りの者は敵性生物の対応に当たれ! 深追いはするな!」

 

 リッヂは、軽く息を吸う。

 

「お前達の名は?」

 

 リッヂは紙幣達に問う。

 

『私達は、「(さつ)マンダー」でございます!』

「その体とチカラは?」

『俗人共を翻弄する為でございます!』

「その通り! 今こそ俺に能力を見せろ!」

 

 リッヂがセイラン達を指差すと、浮遊している(さつ)マンダー達は一直線にセイラン達に突進する。

 

「防御しろ!」

 

 セイランの指示に、ガーデンとグィネヴィアは従い、ガードする姿勢を取る。

 次の瞬間、(さつ)マンダーの大群はセイラン達とのすれ違い様に、鋭いフチ部分で斬り付けて行った。警官隊からも悲鳴があがる。

 

「イッテテテ、二人とも、首とか斬られてないか?」

 

 セイランは、ひとりでに治っていく切り傷をさすりながら、周囲を見回す。

 

「護衛係には自動回復があるから大丈夫! それ、ベホマラー!」

 

 グィネヴィアは返事をしながら、ガードがてら光を纏わせていた両手を天に向ける。

 すると、3人以外の16人に光が降り注ぎ、見る見る内に傷が塞がって行く。

 

「良いぞグィネヴィア! 回復を主軸に動いてくれ!」

「俺の外殻にはこんなモンは効かん。スクルト!」

 

 無傷のガーデンが放った八つの赤い光は、セイランとグィネヴィアの他、怪我の少ない者6人の表面を覆った。

 スクルトの連打で全員に効果が行き渡った所で、(さつ)マンダー達は再びセイラン達に襲い掛かるが、スクルトで守られた者達には刃が通らず、逆に捕まって破り捨てられる者も居る。

 破られた個体は形を失い、赤いスライム状になった。

 ここで、ラインの声がスピーカーから流れた。

 

「ズッシードを使える者は、札マンダーに掛けろ!」

 

 警官達は命令通り、数人がズッシードを唱えた。

 しかし、重さが増して地面に落下した(さつ)マンダーは少数派であり、大多数は風に舞う様に滞空し続けている。

 

「そう来ると思って、多少の耐魔性能は与えてある」

 

 リッヂはまたワインを注ぐと、一口飲む。

 警官達は(さつ)マンダーの集団に発砲するが、札マンダーは不規則に素早く動き回り、ことごとく当たらない。

 逆に、四方八方から炎を吐かれて、セイラン達は逃げの一手を強いられてしまった。

 

「並のスピードでも当たらないぜ?」

 

 リッヂは「ハハハ」と笑うが、ガーデンは鼻で笑った。

 

「だったら、尋常じゃない速さで動くだけだ」

 

 ガーデンはスタンディングスタート気味の姿勢を取り、「ピオラ……!」と唱えた。

 

「行くぞ!」

 

 光に包まれたガーデンは、瞬時に(さつ)マンダーの群れの中に飛び込み、分身して見える程のスピードで次々に両断して行く。群れを通り過ぎる頃には、数十匹が倒されていた。

 砂煙を上げてブレーキを掛け、光も消えたガーデン。

 

「爆裂斬……!」

 

 ガーデンの攻撃の隙を補う形でセイランが、(さつ)マンダーの達の背後にリッヂが来る位置に移動し、魔力を纏わせた大鎌を突き出す。

 

「バギマ!」

 

 例えるなら、二重フィラメントに似た竜巻。竜巻で出来た竜巻が三つ発生し、光線の様に伸びて行く。

 周囲の(さつ)マンダー達は抵抗の甲斐無く竜巻に吸い込まれ、順次切り刻まれていく。

 バギマがリッヂに迫るが、リッヂは足で椅子型ドラゴンを小突く。

 

「マジックバリア」

 

 椅子型ドラゴンが唱えると、椅子型ドラゴンとリッヂの体が淡い光で覆われ、触れた端からバギマが掻き消されてしまった。

 

「おいおい……、マジックバリアで完全に消滅させるなんて……」

 

 セイランが下顎を拭っている所で、リッヂが答える。

 

「マホカンタやマホステでも良かったんだが、ちょっと大人気無いと思ったんでな」

「人の事言える程、お前もトシ食ってる様に見えないぞ?」

 

 ガーデンの指摘を無視し、リッヂは続ける。

 

「まあ……、俺も少しナメ過ぎていたな。(さつ)マンダー共よ、下がれ!」

 

 リッヂの命令で、(さつ)マンダー達はアタッシュケース型ドラゴンの中に収まっていく。

 

「じゃあ次は、コイツに相手をさせようか」

 

 リッヂはまたしても指を鳴らす。すると、家型ドラゴンの玄関が開き、姿を現した何かが、セイラン達に向かって跳躍した。




設定集
味方陣営のコンセプトは、「居て欲しい」と思える能力の持ち主である事。


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世の中を洗濯する者

余裕綽々過ぎて人気が出ないであろう男、リッヂ。
名前と姿が冗談キツ過ぎて人気が出ないであろう面々の、リッヂの手下。


 地響きを立て、地面にめり込み気味に着地したのは、僅かに縦長の、グィネヴィアの背丈より倍は大きい直方体の物体。短い四つ足、長く伸びた一本のロープ状の物。

 その形状は……。

 

「ドラム式洗濯機?」

 

 グィネヴィアの連想は正しく、ドラム式洗濯機に酷似している。

 詳しい姿は、直方体のドラゴンの生首から四本足が生え、排水ホースの代わりの長い尻尾。先端に4本指。口は、フタが閉まった衣類投入口。

 

「俺も戦歴は長いが、カネや洗濯機と戦うのは初めてだ」

 

 頭を掻くガーデン。リッヂはヘラリと笑う。

 

「ウケてくれた様だな。だが、単なるイロモノじゃない。お前の名は?」

「『ドラグ式洗濯機』……!」

 

 衣類投入口のフタが開き、牙の生え揃った丸い口で答える。

 

「その体とチカラは?」

「この世から汚れを落とす為……!」

「その通り! 今こそ俺に能力を見せろ!」

「仰せのままに……」

 

 ドラグ式洗濯機は、空高くジャンプした。

 

「跳んだ! 高いぞ!」

 

 ドラグ式洗濯機の影が、叫んだセイランを覆う。

 

「まずはペチャンコになれ……!」

「危ない!」

 

 セイランは飛び退いて影の中から脱出した瞬間、ドラグ式洗濯機はヘヴィチャージを使い、一瞬の内に落下したドラグ式洗濯機。地面はその衝撃で、地震さながらに揺れ動く。

 

「くっ、動きにくい!」

 

 セイラン達は、振動に足を取られ、体勢を崩した。

 

「貰った……!」

 

 ドラグ式洗濯機はスピンして、尻尾で周囲を薙ぎ払った。

 

「ごっほぉ!」

 

 ガーデン達はしゃがんで回避したが、セイランは脇腹に直撃を受け、何メートルも殴り飛ばされて地面を滑る。

 セイランは立ち上がれず、咳き込みながら悶え苦しむ。

 

「ん? おやおや……。今の力加減はお前達の尺度で言うと、暖簾を払い除けた位なんだが……」

「『貰った』とか言っといてか……?」

 

 セイランはダメージを受けた箇所を撫でながら、ゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばして軽く跳ねる。

 

「セイラン、大丈夫!?」

「問題無い。自動回復で治った」

 

 グィネヴィアの心配に、セイランは手を振る。

 

「撃て撃て!」

 

 ラインの号令で、タン達は一斉射撃をする。

 しかしドラグ式洗濯機の体には拳銃弾は通らず、本人も嘲笑う声をあげる。

 が、その内の一発がドラグ式洗濯機の眼球を貫いた。目が潰れ、中の透明な液体が流れ出す。

 

「ん! んん~……!」

 

 ドラグ式洗濯機は、目をつぶり痛みに耐える。

 

「貴様等……!」

 

 ドラグ式洗濯機は口を開き、透明な液体を警官隊に吐き掛けた。

 すると、拳銃だけが形を失い、溶け崩れていく。

 

「な、何だこの液体は!?」

 

 タンは素早くティッシュで液体を拭き取る。

 

「『特定物分解液』だ……。次はお前達自身を溶かす……」

「体勢を立て直す! 魔法の使えない者は一旦退避しろ!」

 

 ラインの指示で、警官の大半はテントの中に戻る。

 

「ガーデン! グィネヴィア! ジャンプ攻撃の隙を狙え!」

「ドラグ式はスライド移動も出来るんだ」

 

 リッヂの教えに合わせて、ドラグ式洗濯機は地面を滑走してガーデンに体当たりする。

 ガーデンは剣の刃を立てて攻撃がてらガードしたものの、刃は通らず自分は撥ね飛ばされ、尻餅を突いた。

 

「しまった! 溶解液が来る!」

 

 ガーデンは立ち上がろうと姿勢を直すが、ドラグ式洗濯機が口を開けるのが先だった。

 

「ガーデン! それに捕まれ!」

 

 ガーデンがセイランの声に顔を向けると、ガーデンは飛んで来た何かを反射的に掴む。

 するとガーデンの体はそれに引っ張られ、その場から離脱させてくれた。直後、特定物分解液がガーデンが居た所に降り掛かる。

 ガーデンは、自分が掴んでいる物を見る。それは、セイランの大鎌に付いている球体であった。

 

「ナイスだ、セイラン!」

 

 セイランは、球体の無くなった大鎌を振って応えた。

 球体はガーデンをゆっくり着地させ、ガーデンが手を放すと、セイランの大鎌にひとりでに再装着された。

 

「『念じボール』か? 少しはやるな」

 

 リッヂは顎に手をやる。

 

「護衛係の皆さん! 下がって下さい!」

 

 不意に、タンの声がスピーカー越しに聞こえた。

 その場の全員がその方向を見ると、光線銃を手にした、タンを含めた数人の警官が『伐採マシン』を引き連れて現れ、ドラグ式洗濯機を取り囲んだ。

 伐採マシンは、左手がクロスボウから通常の手に換装された物で、両手で大斧を持っている。

 

「普通の重機じゃなくて、あんな物が配備されてるのか?」

「今の様に、治安維持にも使えるしな」

 

 セイランの疑問に、ガーデンが答える。そこへ、魔力を溜めているグィネヴィアが叱る。

 

「そんな事より! チャンスなんだから準備して!」

 

 伐採マシン達が斧を大上段に振りかぶり、セイランとグィネヴィアは魔力を帯びた手をドラグ式洗濯機に向ける。ガーデンは胸一杯に息を吸い込み、全身に黒いオーラを帯びる。

 その時、リッヂは二度手を叩いた。

 

「ドラグ式! もう良い! 戻れ!」

「はい……!」

 

 命令に従ってドラグ式洗濯機は高く跳ね、家型ドラゴンの玄関前に着地。自動で開いたドアから中へ入って行った。

 

「これ以上やったら殺られそうだ。今日はこの位で帰らせて貰う。また遊ぼうぜ。じゃあな」

 

 家型ドラゴンの背後の空間が歪み、家型ドラゴンが後退する事で、リッヂ達は異空間の中に消えて行った。

 

「逃げた……、のか?」

「油断するなよ?」

 

 警戒するセイランに、ガーデンは同調する。セイランは頷き、両目を閉じる。代わりに、額のカメラのレンズカバーが開いた。

 

「うーん……」

 

 セイランは顔を四方八方に向け、且つ、カメラも上下左右に動いて周囲を眺める。

 

「敵意の存在は……、ゼロだ」

 

 セイラン達は武器をしまう。

 

「戦闘終了! 警察の指示に従い、事後処理に取り掛かれ!」

 

 セイランは軽く溜め息をついて、ハンカチで顔の汗を拭った。




設定集
敵陣営のコンセプトは、「居て欲しくない」と思える能力の持ち主である事。


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勇者である事

善意で呼ばれれば、それだけで勇者の資格が有ると思います


「ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン! グビグビ、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン! ゴクゴク、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン、ベホマズン!」

 

 グィネヴィアが、希釈した魔力ジェルをガブ飲みしながら怪我人を相手にベホマズンの連打をしている中、セイランとガーデンはバイキルトとズッシードで強化した上で瓦礫撤去に勤しんでいた。

 作業と治療に一段落が着いたのは、夕暮れに差し掛かった頃であった。

 医療テントの前のベンチにセイランとガーデンは腰掛け、グィネヴィアはセイランに膝枕して貰っていた。

 

「あ~、治し疲れた」

「何生分も寿命を伸ばしたんじゃないですか?」

「ちげぇねぇ」

 

 セイラン達が雑談している時、人影が彼等の脇に立った。

 それは、人間の女性と紫色の肌の、魔族の小さな女の子。女の子が女性に促され、セイラン達に緑茶を載せたお盆を差し出した。

 

「はい、どーぞっ!」

「わぁ、ありがとー!」

 

 グィネヴィアは身を起こし、至って愛想良く受け取って、セイラン達にお茶を手渡した。

 

「本当にお世話になりました……。あんな大怪我が嘘みたいに治って……」

「いえいえ、深手を耐えた、貴女達の生命力有っての事ですよ」

 

 女性がペコペコと頭を下げながらお礼を言う。

 グィネヴィアが応対する中、女の子がセイランに訊く。

 

「ねえねえ、あなたたち、ゆうしゃ?」

「え、勇者……?」

 

 言い淀むセイランを、ガーデンは女の子からの死角になる位置を小突いた。

 

「うん、そうなんだ。ちょっと悪者退治にさ」

「一人だけ怪我しなかったって子は君? 凄いな」

 

 ガーデンが話を広げる。

 

「うん! かくれてなさいって! こわかったけど、なかなかった!」

「そうか、頑張ったな。そうだった、自己紹介がまだだったな。オジサンはガーデン=バッシュだ」

 

 ガーデンは女の子の頭を撫でながら名乗る。

 

「わたし、『ネツヤナヤ』!」

 

 女の子の名前について、セイランが「聞き慣れない名前だな」とガーデンに耳打ちすると、「魔界特有の名前だな。魔族もレアだし」と小声で解説した。

 

「俺はセイラン=ブルーウェア。この人達のリーダーだ。宜しく」

「あたしはグィネヴィア。グィネヴィア=エーズィーね」

 

「おにいさんたちがたたかってるの、カッコよかった!」

「そっかー」

「おねえさんも、なおしてるのがカッコよかった!」

「あら、ありがと! お医者さんにも言ってあげて?」

「うん! おねえさん、つかれちゃったの?」

「そーねー、少し」

「じゃあ、はいホイミ!」

 

 手から放たれた淡い光がグィネヴィアを包んで、程無く光は消えた。

 

「えっ」

「は」

「な?」

 

 セイラン、グィネヴィア、ガーデンの順に驚きの声をあげ、母親は「こら……!」とネツヤナヤをたしなめている。

 

「え? 今のは本当にホイミか?」

「疲れが消えた。本物だよ」

 

 確かめるガーデンに、肯定するグィネヴィア。

 

「凄い。天才ってホントに居るんだ……。まだ5歳だって?」

 

 セイランはの顔をまじまじと見つめ、ネツヤナヤは「5ちゃい。えっへん」と胸を張った。

 

「すいません、この子、昔話とかが好き過ぎて……」

「謝る事じゃないですよ、凄い才能ですよ。あたしなんか、訓練を受けるまではメラもホイミも出来なかったんですから」

「メラもできるよ?」

「ええ? す、凄過ぎる。ネツヤナヤちゃんこそ勇者になれるよ」

「ホントに!?」

 

 ネツヤナヤが目を輝かせるが、母親は「良い子にしてて、勉強も運動も出来たらね?」と付け加えた。

 

「では、そろそろ失礼します。お仕事、頑張って下さい……」

「バイバーイ!」

 

 母親が深くお辞儀をし、ネツヤナヤが手を振って、二人は帰って行った。

 母娘の姿が見えなくなったのを見届け、セイランはグィネヴィアに問う。

 

「ねえ、グィネヴィアさん。グィネヴィアさんは雑学に長けてますよね」

「うん。大得意」

「勇者ってのは何なんですかね?」

「勇者? デイン系の許可を貰ってる人だって聞いてるけど」

「ガーデンは?」

 

 セイランはガーデンに顔を向ける。

 

「俺に言わせりゃ勇者ってのは、『勇気を信じさせてやれる者』って所かな。または『英雄の候補生』とか。精神面の問題なら、誰が勇者と呼ばれてもおかしい事じゃない。別にあの子の素質を否定するんじゃないが……」

「そう言えば訓練生の時、『勇者賢者・粗製濫造時代』を引き合いに出して教えられたっけ」

「耳にタコが出来てると思うが、敢えて言う。『俺達も、人の不幸の上に生活してる』って。それだけは頭に入れておけ……」

 

 ガーデンはお茶を啜った。

 

「それとお前、追い追い子供の扱いにも慣れとくべきだな。俺達は一応、人々の憧れなんだから印象を良くしないと。特に子供には……」

「それも仕事の内だよな」

「仕事と言えば……」

 

 グィネヴィアが話に割り込んだ。

 

「支援物資の輸送と、被災者の疎開の為に、大型トラックが明日ここに着くって。沢山。『ルハル』さんもその護衛として一緒に」

 

 セイランは「分かった」と話を続ける。

 

「『ドロップ』さんは?」

「あいつはその時も、呑気にパチンコ打ってるだろ。雑踏警備の一環とかで。さっき連絡した時もそうだった。アテにはなるんだけどなぁ……」

「まあドロップさんは人生楽しんでるしな」

 

 セイランはそこまで喋って、手を一拍した。

 

「言い忘れてた。さっき本部に報告したら、『ダイチ』さんも俺の班に付けてくれるってさ。何日かでこっちに着く」

「ああ、あのサイクロプスの……。家みたいなドラゴンには、ドロップとダイチが居れば安心だな」

「明日の被災者の護衛については撃ち合いを想定して、遠距離でも戦える俺とグィネヴィアさんも付く。ガーデンはここに残って、奴等が現れた時に相手して欲しい。本国からも、防衛の為なら自称ドラゴン達の命を奪う事も許可を受けてる」

「了解」

「オッケー!」

 

 セイランはゆっくり立ち上がって、持参したアイテムボックスを手に取る。

 

「さて、明日の予定はこれで確認し終えた。メシ食って、今日はそろそろ休もう……」

「ああ」

 

 三人は集落の隅に行き、アイテムボックスを開く。

 まずセイランは何枚もの板を取り出し、地面に並べて床となす。続いて長い棒を取り出してはガーデンに手渡し、二人でテントの骨組みを組み立てる。そしてスイッチを入れると、骨組みの間が光の幕で覆われた。

 

「俺はちょっと茶碗を返して来る」

「見張りは4時間交代で良いか?」

「あたし、レーションの用意するね」

 

 セイランは湯飲みを返しに行き、ガーデンは寝床の準備をする。グィネヴィアはボックスから出したレトルト食品を温め始めたのであった。




設定集:王室護衛係
王族お抱えの私兵団。主な任務はボディーガードだが、治安維持や猛獣駆除等にも投入される。
支給品に銃火器は無いものの、特技や魔法で個々が高い戦力を誇っている。


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人を選ぶ者

今回はちょっと長いです。


 翌日の明け方。

 見張りに付いていたセイランが顔を洗っていると、走行音とエンジン音が、空気を震わす程の音量で聞こえて来た。

 セイランが目をやると、トラックの頭が遠くに見える。

 

「来た来た」

 

 盛大に土煙をあげながら大型トラックの隊列が集落に到着し、適度な広場に整列した。

 その騒々しさに、テントの光の幕をすり抜けてガーデン

 とグィネヴィアが顔を出した。

 

「何だ? 敵襲か?」

「違うよ、目覚まし時計だよ」

 

 ガーデンが目を擦りながら、グィネヴィアがあくびしながらテントから出て、二人揃ってストレッチをした。

 

「ああ、二人ともお早う」

「ルハルさんは?」

「最後尾に居る」

 

 セイランは、トラック隊のしんがりを務めている、4頭立ての馬車を指差した。

 御者であるドワーフの女性は馬車を停めると、馬達に労いの言葉とスキンシップを済ませ、セイラン達に歩いて来る。

 

「久し振りセイラン。幾ら宙人(そらびと)だからって、いきなり班長になって大丈夫なの?」

「あ、いや、それは、皆さん方に揉まれて来いって言われてて」

「良し分かった! 私も色んな事教えちゃるっ」

「お手柔らかに……。それと、俺の班員に渡す腕輪」

 

 セイランは、ガーデンやグィネヴィアに渡した物と同じ腕輪をルハルに手渡した。

 

「これが『宙人(そらびと)の腕輪』かぁ……」

 

 腕輪をしげしげと眺め、早速、腕輪を装備するルハル。

 

「どうです?」

「うん……、確かにちょっとは強くなった気もする」

「受信者にも個人差が有るので」

 

 ルハルは馬達に目を向けた。

 

「まあ、あの子達には直接は関係無い事だけど」

「それと、俺から500メートル離れると効果が無いから注意して」

「分かった。ではルハル=マモユザー、これよりセイラン班に加わります!」

「はいっ……。では早速ですが指示を。俺とグィネヴィアさんは避難民の移動の防御に回ります。ルハルさんは、ガーデンと一緒にここの防衛に当たる様に。細かい事は警察の言う事に従って下さい」

「了解っ!」

 

 ルハルはシャキっと敬礼をした。

 トラック隊では、荷下げと並行して子供と女性を優先的に乗せている。

 その中に居たネツヤナヤ親子が、セイランを見付けると駆け寄って来た。

 

「おにいちゃんたちも、いっしょにくるの?」

「うん、このトラックに乗ってる人達を守る為に。あー……、任しとけ!」

 

 セイランは大袈裟に胸を張ってみせた。それを見たガーデンは「まあまあかな……」と呟いた。

 

「何? あの子」

 

 トラックに乗り込んで行ったネツヤナヤ親子を指差し、ルハルはガーデンに問う。

 

「昨日出会ったばかりの知り合いだよ。ホイミも使える」

「へー、凄いじゃん。魔族だからかな」

「歳だけ見れば、ね」

 

 二人の会話にセイランは割り込んだ。

 

「それでは二人とも、俺達はちょっと離れます。ここの事はお願いします!」

「任せろ。そっちこそ気を付けてな?」

 

 セイランは頭を下げ、グィネヴィアは手を振り、コンテナも幌も無いトラックの荷台に乗り込んで行った。

 

 ────―

 

 トラック隊が走り出して暫く経った頃。

 二人を乗せたトラックは最後尾に陣取り、セイランとグィネヴィアは光の幕の中で待機していた。

 

「フバーハを覚えておいて良かった。風も防げるし」

「後は敵さえ出なければ──」

 

 グィネヴィアが言い掛けた時、セイランのウェアラブル端末が鳴った。

 

「言ってる側からか?」

 

 通信を受けるや否や、相手方のガーデンがまくし立てた。

 

『気を付けろセイラン! リッヂの奴がまた来た! 新手のドラゴンに乗ってそっちに向かってる! 凄いスピードだ、ピオラでも「ハグロ」でも追い付けん!』

「何っ!」

 

 セイランは額のカメラで車列の背後を警戒する。が、それより速く、緑色の閃光の様な物が道路脇の荒れ地を突き進み、スピードを抑え、セイランとグィネヴィアのトラックに並走し出した。

 

「ああ……、今から取り込み中になる。切るぞ……」

 

 ガサガサと地を這うそれは、クーペ型の車に似ているが、タイヤの代わりに長い手足が生えている。ヘッドライトが鼻、サイドミラーが耳、ドアが翼、マフラーが尻尾。

 内装はピンク一色で、助手席にリッヂが座り、運転席では、顔に両目しかないグラマーな女性型の器官がハンドルを握っている。

 ルーフを開いて身を乗り出し、セイラン達に向かってリッヂが手を挙げた。

 

「ぃよぉ! また会ったな、銀バエ!」

「何だ……、そのドラゴン? は?」

 

 ガーデンからの通信を切りながら、セイランは大鎌で指差した。

 

「訊かれてるぞ? お前の名は?」

「アタシ、『ク(りゅう)マ!』」

 

 牙が生えた口であったボンネットがバタバタ開閉し、若い女の声で車が喋った。

 

「その体とチカラは?」

「触れる資格を見定める為!」

「その通り! 今こそ俺に能力を見せろ!」

「良いよー!」

「と言う訳で、楽しいドライブの始まりだ!」

 

 リッヂが戦闘開始を宣言した事を受け、グィネヴィアはトラックのリアガラスを叩いた後、運転手に敵襲を知らせ、スピードを上げる様に進言した。

 

「グィネヴィア、攻撃は頼む。防御は俺がメインでやる! 輸送部隊には一撃も入れさせられない!」

「オッケー!」

 

 役割分担を指示していると、ク(りゅう)マは大口を開けながら接近して来た。

 

「そのトラック美味しそう!」

「やっべ」

 

 グィネヴィアは咄嗟に、背負っていた和バサミを投げ付ける。

 直角に開いて回転しながら飛ぶそれは、ク(りゅう)マのボンネットを殆ど抵抗無く切り裂き、Uターンしてグィネヴィアの手元に戻り、緩やかに回転数を落として空中で停止する。そこをグィネヴィアはキャッチした。

 

「あっ! あい──っ、たぁ~~っ……!」

 

 ク(りゅう)マは口を押さえて痛がり、足を止めた。

 

「何かと思ってたらブーメランかよ?」

「そーっ! 『大鋏』! オーガの賢者に隙は無いっ!」

 

 意外そうな顔のリッヂにグィネヴィアが手を振っている内に、どんどん距離は離れ、やがてミニカーよりも小さく見える程になった。

 

「グィネヴィア、何かフォースを掛けるか?」

「ううん、良い。それよりも爆風に注意して」

 

 グィネヴィアは、右手で拳を作り、開いた。中には爆竹型の光の塊が2個出来ている。

 

「イオか……」

「爆発ならあのスピードにも当たり易いし」

 

 そこへ、ク(りゅう)マが一瞬の内に追い付いて来た。ボンネットの傷が完治している。

 

「痛いなぁぁぁぁ!」

 

 追走する傍ら、ク(りゅう)マは両手両足で木々を引き抜いてはセイラン達に放り投げる。

 

「チッ! 真空波!」

 

 セイランは反射的に、開いた手を横に振るう。5本の指から三つずつ放たれた真空の刃が木を細かく切断し、木は勢いを無くして落下した。

 

「そして、イオ!」

 

 グィネヴィアは、光の塊の一つを投げ、もう一つは宙で手を放す。投げたイオは放物線を描いて飛び、手を放したイオはグィネヴィアの側に留まって浮かぶ。

 

「おっと!」

 

 ク(りゅう)マはブレて見える程の瞬発力でイオの落下点から避け、目標を失ったイオは無意味に手榴弾程度の爆発を起こした。

 

「うーん、速い……。けど、空は飛べない様だ。グィネヴィア、地面をヒャド系で凍らせるぞ」

「オッケー!」

 

 一瞬だが、セイランとグィネヴィアは顔を見合わせる。再びク(りゅう)マに視線を戻すと、敵の姿はそこには無かった。

 

「あれ!?」

「……消えた!?」

 

 グィネヴィアが辺りを見渡し、セイランが額のカメラを開くと、カメラが「ピーピーピー」と警告音を発した。

 

「後ろだ!」

 

 セイランが叫ぶのと、進行方向から回り込んで背後を取ったク(りゅう)マが、トラックの上をすれ違いざまに手で払うのは同時だった。

 

「ゲ……!」

 

 グィネヴィアは背中に平手打ちをモロに受け、白目を剥く。そのグィネヴィアにセイランは押し出され、二人はトラックの上から叩き飛ばされた。

 

「ぐああっ……、念じボール!」

 

 セイランの鎌の柄尻の玉が飛び、グィネヴィアの服の中に潜り込む。

 

「落とされて堪るか!」

 

 セイランがそう気合いを込めると、念じボールが発現。大鎌の玉でセイランが、服の中の玉でグィネヴィアが、それぞれ荷台の上に帰還した。二つの玉が、元通り柄尻に再装着される。

 しかし、グィネヴィアはぐったりとしたままで、息は浅く、目も口も半開きとなっている。

 

「グィネヴィア!?」

「せな、か。痛……い……」

 

 蚊の鳴くような声で答えた。

 

「分かった、動かすから我慢しろ」

 

 仰向けのグィネヴィアを力任せに横向きにさせる。「ひぃぎっ、ああああ!」と悲鳴があがった。

 彼女の背中はク(りゅう)マの指の形にへこんでおり、何ヵ所か骨が突き出ている。

 

「く、ベホマ……!」

 

 セイランは片手を光らせ、それでグィネヴィアの怪我に触れる。すると逆再生の様に傷口が塞がっていく。

 

「お前達にはバギだ!」

 

 同時進行で、リッヂ達へ指から一重巻きの竜巻を発射しての牽制射撃も怠らない。

 だがリッヂ達は、反撃するでもなくヒラリヒラリと避けるばかり。

 

「ゆっくり治してて良いぜ? 俺は優しいんだ」

「ま、メタルスライム属だってアタシにはノロマだけど」

「今の一撃も、車の先頭から迂回して来ての事だしな」

「ついうっかり、星を一周しちゃうとこだったよ」

「いつまでも遅い乗り物に頼りやがって、進歩がねぇーな」

 

 その会話を聞いて、グィネヴィアは般若の様な表情を浮かべた。

 ゆっくり立ち上がり、大鋏を手に取る。

 

「おいっ、まだ完治しては──」

「ふぅ~ざぁ~けぇ~……」

 

 セイランの忠告を無視して、後退して荷台の隅に寄り、両手で大鋏を構える。

 

「なぁ~いぃ~でぇ~……」

 

 小走りで助走を付け、手に魔力を集める。大鋏から電気がほとばしり始めた。

 

「よぉぉっ!」

 

 グィネヴィアは叫ぶのを掛け声とし、帯電した大鋏を投げ付けた。

 

「むっ! ギガスローか!」

「だから遅──」

 

 ク(りゅう)マが嘲笑った瞬間、右前足の裏で爆発が起こった。

 

(あつ)!? ……が、まだまだ!」

 

 ク(りゅう)マは手の平から黒煙を出しつつ一瞬体勢を崩したが、ギガスローを真上に跳んで避ける事は出来た。しかし、グィネヴィアは投げた姿勢のままで動かない。

 追撃として、ジャンプの最高点に達するタイミングを見計らい、セイランは大鎌を突き出す。

 

「さっきの攻撃の時にイオを付けてたか! バギマ!」

 

 前回同様、二重螺旋の竜巻が三つ、リッヂ達に向かって伸びる。

 

「食らうか、そんな物!」

 

 ク(りゅう)マは空中に居ながら羽ばたきもせずに横にステップし、バギマを回避した。

 が、セイランは笑みを浮かべた。

 バギマは突然直角に曲がり、ク(りゅう)マのドアに直撃したのだ。

 

「何ィ!?」

 

 バギマはク(りゅう)マのドアの鱗を瞬時に削り取り、肉をミンチに変え、赤い竜巻と化す。リッヂとク(りゅう)マが驚き、怯んだ所をグィネヴィアは見逃さなかった。

 

「はぃぃぃぃっ!」

 

 大鋏は手元に戻って来た所で、グィネヴィアの叫びと共に振った腕の動きに合わせて軌道変更し、上空からク(りゅう)マのボンネットを切断した。

 

「グオオオオッ!?」

 

 急に前傾姿勢になった事でリッヂは車から投げ出され、顔で逆立ちするテイで「ギャーッ」と悲鳴をあげながら地面に長く堀を削った。

 

「勝ちッ!」

 

 戻って来た大鋏を受け止め、グィネヴィアは敵に背を向けてピースサインをする。

 しかし、女性型器官がまだ残っている。車内から飛び出し、宙返りして姿勢を整えた後、火の玉を宿した右手を突き出す。

 

「!」

 

 油断無く気付いたグィネヴィアは、手の中に長い氷の針を出現させた。

 振り向きざまに投げ付けるや、氷の針は2本に別れて飛んで行き、方や飛ばされた火の玉を相殺、方や女性型器官の胴体に突き刺さり、その周辺を黒く凍り付かせる。

 女性型器官とボディーは地面に落下し、動かなくなった。

 遠くなって行くリッヂ達をカメラで確認し、セイランはハンカチで汗を拭く。

 

「ふ~、戦闘終了っ!」

「あの時振り落とされてたら死んでたよ。ありがとね?」

「さて、治療の続きをするか……」

 

 セイランは、グィネヴィアの背中を治す事を再開した。

 

 ────―

 

 勢い良く地面から頭を抜いたリッヂは、体中の土を払い退けながら立ち上がった。

 

「あ~、楽しかった」

 

 晴れ晴れとした笑顔で呟き、女性型器官も助け起こす。

 女性型器官の腹に刺さったままの氷の串を抜いてやりながら、リッヂは質問した。

 

「こいつはヒャドだな……。で、さっき撃とうとしたのはメラミだな?」

「うん、そう」

 

 ボンネットが喋り、女性型器官は頷いた。

 

「現代人が劣ったのは身体能力だけか? 魔法と科学は案外見所が有るか……?」

「あの人達の分析を待とうよ」

「そうだな……、考えるのは俺の仕事じゃねえ。おいドラグ式! 『ククル(かん)』! 出て来い!」

「ここに……」

「お呼びですか」

 

 リッヂが呼ぶと、歪めた空間を通り抜け、ドラグ式洗濯機と家型ドラゴンが姿を現した。

 

「ククル(かん)はク(りゅう)マを治してやれ。ドラグ式は俺の服を洗え」

「承知しました……」

 

 リッヂはドラグ式の口の中に全ての衣服を投げ入れ、続いて、開いたククル(かん)のガレージの中にク(りゅう)マのパーツを放り込む。女性型器官も自らの足でそれに続いた。ドラグ式は口をモゴモゴと動かす。

 

「ク(りゅう)マがここまでやられるとは」

 

 ククル(かん)が感嘆の声をあげた。

 

「ああ、ちょっと驚いた。だが……、俺の様な『第一世代』には問題じゃない」

「リッヂ様、服をどうぞ……」

「おお、早いな」

 

 ドラグ式洗濯機は、長く伸ばした舌でリッヂの服を渡す。その服は、汚れはおろか傷みも無くなり、折り目の着いた新品同様の状態に直っている。

 リッヂはその服を着込んだ所で、今度はククル(かん)の玄関から椅子型ドラゴンが現れた。

 

「リッヂ様、そろそろ時間ですが」

「おう、今行く」

 

 注意を受け、リッヂは椅子型ドラゴンに腰掛けると、全員を引き連れて異空間の中に去って行った。




設定集

セイラン=ブルーウェア
種族:宙人(そらびと)
職業:コマンダー
呪文:バギ系、ヒャド系、ホイミ系、各種補助系、各種妨害系
特技:剣技、格闘技、その他攻撃系、各種フォース、凍て付く波動
追記:3回行動可能

死示(しじ)のサイズ
セイランのメインウェポンの大鎌。魔法に追尾能力を与える効果が有る。

大鋏
グィネヴィアのメインウェポン。和鋏に似たブーメラン。攻撃魔法を付与出来る。重さとキャッチの関係で、オーガの賢者の様な魔法と体力に優れた者にしか使いこなせない。


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ドラゴン幹部集結

前回、上書き保存を押したつもりが出来ておらず、書きかけ状態で投稿してしまった。反省


 リッヂ達が進入した異空間は、空は雲一つ無い青空、地面は土が見えない程、地平線まで花が咲き乱れていると言う所であった。

 そこには既に一人の先客が居た。

 姿は巨大なサソリの様。但しサソリの頭は無く、代わりに尻尾の先が屈強なドラゴンの上半身になっている。筋肉は外骨格を押し広げる程に発達しており、頭頂高も、ククル(かん)の全高に匹敵する。

 

「『ボーアン』、一番乗りか?」

「ん……、リッヂ。お前も相変わらず早いな」

「周りの奴等が、時間の守り方を知らねーだけだよ」

「俺もそう思う」

 

 二人が話していると地面がドラゴンの頭と両腕の形に盛り上がって、それを突き破って現れた者は頬杖を突く姿勢を取った。

 体格はリッヂとボーアンの中間程度。岩の様な質感の緑の鱗に覆われている。

 

「俺ならボーアンが来る前からここに居たぞ」

「おお、『グラウナード』。いつも通りかくれんぼが上手いな」

 

 リッヂが声を掛けると、グラウナードは「あんまり遅いから昼寝してたんだ」と言いつつ、リッヂの部下を見て若干嫌な顔をした。

 

「お前も未だに、人類なんぞの真似をしてるのか? 家に住んで、服を着て、道具を使って、飯を食うなんざ、オッチャンは理解出来んぜ? トドメにメスか」

「そう言うな。奴等を支配するには、奴等の生態を頭に入れねーと。それと、コイツ等は俺の子供達だし」

 

 リッヂは手で合図して、椅子型ドラゴンを残して他の部下をこの異空間から下がらせた。

 入れ代わりにまた空間が歪み、リッヂより少し体格が大きい3体のドラゴンが現れた。

 一人めはシュプリンガーに似ているが、首と肘と腰から一対ずつの翼が生えており、さながら白衣を着込んだ様。頭の上半分は地球儀を横倒しにしたものに近い、二股の軸の間に球体が有る形。そこに、それぞれ色が違う単眼が縦一列に付いていると言う物。

 二人めは腕が地面に着く程長く、下半身は逆間接の一本脚の形態。

 3人めは美女の生首に4本脚が生えた様な者。鼻の位置にドラゴンの頭が在り、サイドの髪が翼、そこ以外の髪が触手の姿である。

 

「皆さんお揃いだな? 俺達以外は」

「時間を守れと言われてるだろ? 何故早く来ないといけない」

「時間を守る為だ」

 

 一人め、二人め、3人めの順に喋る。

 

「『ジヌバーン』が早めに来るとは珍しい」

「『ヴァイア』に無理矢理な。時間ピッタリに来て何が悪い?」

 

 ボーアンからジヌバーンと呼ばれた二人めは、ヴァイアと呼んだ3人めに目を向けて舌打ちをした。

 

「相変わらず融通の利かない奴だ」

 

 一人めが困り顔をした所で、グラウナードが一人めを指差す。

 

「アホの躾は賢い奴がやるんだ、『ゲングイト』さんよ」

「ん? おう、ジイさん一本取られたな」

 

 ゲングイトは軽く笑うが、ジヌバーンはグラウナードに食って掛かった。

 

「アホだと?」

「時間キッチリに着く様に動けば、トラブった時に遅刻確定となる。それが分からんお前の事だよ」

「上等だオヤッサン……!」

 

 ジヌバーンが軽く飛び跳ね、応じてグラウナードが拳を握って指の骨を鳴らし、お互いに威嚇し合う。

 その様子についてリッヂは、「また始まった」。ボーアンは「喧嘩しないと調子が悪いんだ」。ゲングイトは赤い瞳で見て「いつも通り、本気で殺す気だぞ」と口々に言いながら、止めるでもなく二人から遠ざかる。

 その時、声が響いた。

 

「やめなさい、お前達。同族で争うなぞ、人類や動物の様でみっともない」

 

 高空、リッヂの身長と同じ位の大きさに空が割れ、そこから周囲の景色に蜃気楼を起こし、草花が見る見る内に枯れていく程の熱気が漏れだした。その穴から、片目だけが覗いている。

 

「待たせましたね……」

「ドランノージェ様に礼!」

 

 その声で、ゲングイトの指示で幹部全員が姿勢を正して頭を下げる。

 

「楽にして良い」

 

 ドランノージェの許しを得て、一同は姿勢を崩した。

 

「では早速ですが予定通り、各々の近況報告を聴こう。まずは私だが、修行は順調だ。もう少しでそちらの環境を破壊せずに済むレベルにまで力を抑えられる様になりそうだ」

「それは良う御座いました。我々が如何に努力した所で、決定打はドランノージェ様の存在を置いて他にありません故……」

 

 ゲングイトが揉み手してドランノージェを持ち上げ、そして手を挙げる。

 

「ドランノージェ様、宜しいでしょうか?」

「そうですね、まずはお前から言ってみろ」

 

 ゲングイトは「あーあー」と声を整え、話し始めた。

 

「人類の管理をすると言う目的に当たって、ボーアンとリッヂが部下をけしかけて彼等の戦闘データを取ったところ、1万年前より貧弱になっているそうで」

「成る程……。尚更我々が面倒を見ないといかんな」

「引き続き調査は行いますが、詳しい生態については、見れば分かる私にお任せ下さい。その為の機材と食料は、ヴァイアとグラウナードに準備させております」

「宜しい。観察が得意なお前にやらせれば間違いは無い。ヴァイアとグラウナードは滞り無く仕事が出来ているのか?」

 

 ドランノージェは指名した二人に目を移した。まずはヴァイアが発言する。

 

「明日、リッヂが本格的に戦いを仕掛ける予定でして。その頃には予備も充分に用意出来ます」

 

 続いて、グラウナード。

 

「食料の生産だけでなく、薬物や料理の、現代のレシピも準備出来ています」

 

 ここで、ボーアンが挙手をした。

 

「ボーアン? 何だ?」

 

 ドランノージェが話を促すと、ボーアンはリッヂに目を向けた。

 

「いや、明日のリッヂの強襲作戦について、俺も一緒に行きたく。リッヂは優しいから、どこか手心を加えようとするでしょう。心境とは相手にも伝わりがちなもの。となれば、人類も本気で戦わない可能性が高いかと」

「ふむ、確かに。ならばボーアン、そしてジヌバーンも。リッヂを手伝ってやれ。そして万が一復讐者が現れれば、その場で消す事を許可する」

「お任せを。奴等の全力を引き出してみせましょう」

 

 意気込むボーアンだが、ジヌバーンは不服そうである。

 

「俺は戦闘は本分じゃないんですがね……」

「お前はサンプルの捕獲に専念してくれれば良い。戦いは俺達がやる」

 

 ボーアンになだめられ、ジヌバーンは「応」と軽く返事をした。

 そこで、リッヂが話に割り込んだ。

 

「なあ、お前等。銀バエ連中は俺が相手して良いよなあ?」

 

 その言葉にドランノージェが食い付いた。

 

「銀バエ……? 何の事だ?」

「肌が銀色の、新しい人種です。宙人(そらびと)だったか」

 

 リッヂが答え、ゲングイトが手を一拍してそれに続く。

 

「そうそう、この爺さんも気になってた。是非生け捕りにして欲しい」

「それと、もう一つ面白そうなのを見付けたぜ。魔族の小娘、いや、ちんちくりんだ。魔法に関して素質が高い様だ。ついでにそいつも捕まえといて。名前がネツヤナヤで、確かこんな顔だったかな……」

 

 リッヂは指先に魔力を宿し、それで虚空にネツヤナヤの似顔絵を描く。デフォルメされてはいるが、特徴を捉えた絵であった。

 

「分かった……。どっちも捕まえよう」

 

 ジヌバーンが了承し、ドランノージェが話を進める。

 

「これで全員報告は終わったな? 何か意見を言いたい者は?」

 

 ドランノージェはリッヂ達を見渡すが、発言する者は居なかった。

 

「よし、明日の作戦の確認をする。リッヂ、ボーアン、ジヌバーンは人類の街に強襲し人類のサンプルと実戦データを集める。ゲングイトはそれ等の分析。グラウナードとヴァイアは自由にやって良し。以上だ。各自取り掛かれ」

『了解!』

 

 リッヂ達が威勢良く返事をすると、ドランノージェは「解散……!」と自分のゲートを閉じ、去った。




ドラゴン達のデザインに悩んでしまい、投稿に時間が掛かってしまった。反省。

設定集
この作品でのドラゴンは、ドラゴン系の魔物とは全く別種の生物である。
①寿命の概念が無い
②人類とも魔物とも交配不可能
③単位生殖可能。自分の意思一つで、子の遺伝子を変えられる
④食料も水も酸素も不必要
⑤宇宙を生身で航行する
⑥異空間を作り、自由に行き来出来る
と言う特徴が有る


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ドロップ合流

体格や形態が様々な者が居る世界で、どうやったら共存出来るか昔から気になってました


 セイラン達が護衛するトラック隊は、リッヂの襲撃後は特にトラブルも無く進み、『北緯67度、東経139度の街(仮称)』と書かれた標識を通り過ぎて目的の街に到着した。

 建設ラッシュの街中を抜け、他のトラックが次第にバラけて行く中、セイラン達が守る車両は公民館にやって来た。

 一般人達は続々とトラックから降り、タンの姿も有る警官隊の指示に従って大部屋に移されていく。

 その中に、ネツヤナヤ家もあった。

 ネツヤナヤはセイランとグィネヴィアを見付けると、両親が止める間も無くセイラン達に駆け寄って来た。

 

「さっきもたたかって、おつかれさま! どっかいたくない? ホイミするから!」

「おいネツヤナヤ、仕事の邪魔になるから……!」

 

 魔族の父親が少々語気を強めて注意し、母親はペコペコ頭を下げるが、グィネヴィアは笑った。

 

「いえいえ、良いんですよ。お手伝いしたい年頃なんでしょう」

「うん!」

 

 ネツヤナヤは勢い良く頷いた。

 

「わたしも、わるいひとやっつけるのを、おてつだいしたい!」

「え? そうだな……、手伝いか……」

 

 セイランは少し考えて、指パッチンをした。

 

「じゃあ、この辺の地図を描いてくれるか? 俺はこの街に初めて来るし、工事ばっかりで持ってるマップが当てにならないから」

「はーい!」

 

 ネツヤナヤは手を挙げ、グィネヴィアも「あっ、それは良いかもね」と賛成した。

 

「じゃわたし、かいてくるね!」

「その前に、荷物を片付けないとな」

「ホントすいません……」

 

 父親はネツヤナヤを促し、母親は苦笑しながら謝る。そこへタンがやって来て、「避難民の方はこちらへどうぞ」と一家を案内し、セイラン達もそれに続いた。

 施設の廊下をスキップで進むネツヤナヤの後に付いて行きながら、グィネヴィアはセイランに耳打ちする。

 

「でもま、手伝わせちゃって良いのかな?」

「ん……? ただ、テイ良く断るよりは、子供の扱いとしてマシかと思ったんで……」

「ああ、ガーデンに言われた事か……」

 

 ネツヤナヤ達避難民が通されたのは、複数有る大部屋の内の一つだった。既に避難民達はシートで床を、段ボール等で壁を成し、各々のスペースを確保している。

 

「ここがネツヤナヤのおうちかぁ……。おねえちゃんたちも、おうちにかえるの?」

「うん。じゃ、またね?」

 

 グィネヴィアは手を振ると、おもむろに隣室のドアを開けて、「ただいま~」と中に挨拶し、セイランと二人で入室。

 その様子を見て、「きゃはははは!?」と爆笑するネツヤナヤ。両親も意表を突かれた様である。

 室内は広めの座敷になっており、二人は靴を脱いで上がる。着替え用の仕切り、部屋の片隅には簡素な調理スペースもあり、そこで料理中の者が二人に気付くと振り向いた。

 それは、ドロルであった。

 

「あ~、お帰り~。向こうでえらい目に遭ったって~?」

 

 ドロルは男とも女ともつかない声の、間延びした喋り方をした。

 

「ドロル……」

「ドロルじゃない。『トローリ』だ~」

 

 セイランの呟きにトローリは反論するが、セイランは顔を背けて「ドロルだろ……」と小声で突っ込んだ。

 

「初めて会うっけ? 王室の調理師のトローリさん。大丈夫。ご飯は上手だから」

「…………、はあ」

 

 セイランとトローリはどちらからともなく手を差し出し、握手した。グィネヴィアは質問する。

 

「それはそれとして……、ドロップさんは? またパチンコ?」

「多分ね~。ちょっと前に出てったから、まだその辺に居るかもね~」

「そっか。じゃあセイラン、会いに行こ? 一応、私服に着替えて」

 

 グィネヴィアは良いながらアイテムボックスから自分のとセイランの平服を取り出す。

 セイランは額のカメラを、グィネヴィアは肩のタンクを外す事を含めてお互い着替えも済ませ、公民館の外に出ると、ネツヤナヤが父親と、スケッチブックを片手にクレヨンで地図を描いていた。

 父親が会釈をし、セイラン達もそれに応える。

 ネツヤナヤがセイラン達に気付くと、元気良く手を振った。

 

「おにいちゃんたち、おでかけ?」

「うん、ちょっと仲間に会いに」

「そっか、いってらっしゃーい!」

「行って来まーす」

 

 舗装がされてないので砂埃が多少舞う大通り。二人は軽く咳き込みながらそこを抜け、商店が建ち並ぶ脇道を少し進むと、雑居ビルの一階にパチンコ屋は在った。

 その店先、護衛係の制服を着た黄色いプクリポが今まさに入店しようとしている。

 

「居た……!」

 

 その姿を見るやグィネヴィアは駆け出し、プクリポを抱え上げると足早に路地に駆け込んだ。セイランも後を追う。

 

「ちょっとグィネヴィアさん……」

 

 セイランが追い付くと、グィネヴィアがプクリポに説教している真っ最中であった。

 

「だから言われてるでしょ!? 『制服着たままギャンブルをするな』って!」

「おおそうだったな。体の一部同然だからつい、な」

「全くもう……! モシャスも出来るでしょドロップさんは……」

 

 グィネヴィアが踵で地面を一撃すると、ドロップはセイランの姿を認めた。

 

「ようセイラン、久し振りだな! 班長就任、おめでと! 噂になってるぜ? 『宙人(そらびと)で、第二王子のお気に入りだから班長になれた』って」

「ど、どうも……」

 

 セイランを揶揄した為、ドロップはグィネヴィアに頭を小突かれている。

 その患部を押さえながら、ドロップは続ける。

 

「一緒にパチンコ打つか? ん?」

「いや、博打の類いは俺は……」

「良いから良いから。立ち話もなんだからよ。就任祝いに勝ち金は全部やる」

 

 ドロップは往来の人々に目をやると、魔力を溜める。

 

「モシャス……!」

 

 ドロップがモシャスを唱えるや否や、三人の姿は当たり障りの無い人間に変身した。

 

「これでメンが割れない。さ、行こ!」

 

 セイランはドロップに手を引かれ、半ば強引に入店させられ、グィネヴィアも仕方無く後に付いて行った。

 店内はパチンコや特有の、電子音の楽曲、玉が流れる音が織り成す騒音に満ち溢れていた。

 

「ああうるさい……」

「ほら耳栓。俺の予備だ」

 

 すかさずドロップは未開封の耳栓をセイランとグィネヴィアに手渡し、自らも装着する。

 三人は入り口で靴を脱ぎ、それを下駄箱に入れると、ドロップは靴下も脱いで靴に突っ込んだ。

 店内は畳張りとなっており、椅子は全てが座椅子。種々雑多な人種や魔物が、ある者はつまらなそうに、ある者は缶の飲料を傾けながら遊技している。

 

「さて、と……。仕事と行くか」

「あんまりやり過ぎないでよ? 王様からも言われてるでしょ?」

「分かってる分かってる」

 

 意気込むドロップはセイランに向き直り、訊く。

 

「で、セイラン、いや班長。俺が打つ台を選べ」

「え……、じゃあコレで」

 

 セイランは傍らの、当たり確率が319分の1のデジパチを指差す。

 

「良し、良いだろ」

 

 ドロップは勢い良く腰掛けると、手元の高さの入金機に紙幣を入れ、上皿に満たされた玉から一玉取り出すと、他を全てパーソナル計数機に流す。

 

「玉は一発有れば良い」

 

 打ち出された玉は盤面を舞い、釘に弾かれ、風車に放られ、ステージと呼ばれる箇所を何往復かした後、中央の溝で止まり、始動口に入った。

 その瞬間、「ジャキーン!」とでも形容すべき音が鳴って保留が虹色に変化し、金色の文字でキャラクター達が会話しながら戦い始め、そして撃破。勝利ポーズを取るキャラクターと一緒に、画面にはスリーセブンが表示された。

 ドロップは席を立つ。

 

「はい当たり。班長、打ってて良いぜ」

「……。これ本当に偶然なのか……?」

 

 着席しつつも怪しむセイランに、ドロップは笑う。

 

「偶然だよ。たまに負けるから」

 

 ドロップは「ハハハ」とその場から離れ、改めて羽根物のパチンコを打ち始めた。その台も、座って間も無く当たりが掛かった。

 

「相変わらず、凄いと言うか不気味と言うか……。魔法も使ってないし。あ、あたし外でお茶飲んで待ってるから。任務中だし」

 

 グィネヴィアはその場から去り、外に出た所で(れい)の洗礼でモシャスを打ち消す。セイランは何となく打ち続ける。

 

 

 

 数十分後。セイランとドロップの両名は、それぞれ10数枚前後の最高額紙幣を手に店から現れた。

 向かいの、座敷の席しかない喫茶店でそれに気付いたグィネヴィアは、手招きして二人を呼ぶ。

 モシャスを解除し、セイランとドロップも入店。グィネヴィアの席にあぐらをかく。

 

「どうだった? 博打は?」

「何と言うか、嬉しい様な、訳分かんなかった様な……」

「そんなもんで良いの。ドロップさんだから勝ち続けられるんだし。ドロップさんも、あんまセイランを悪の道に引き込まないでよ?」

 

 ジト目でドロップを見るグィネヴィアだが、ドロップは気にせず注文を取り、水を飲んで弁明する。

 

「なあ、グィネヴィア。セイランにお前が魔法を、ガーデンが剣術を教えた様に、『世間を教えてやれ』と第二王子から言われてる。これもその一環ってワケ」

「ほどほどにね……」

「それと、今だから言うけどさ……、俺は護衛係に勧誘された時、『タダ働きする』と条件を出したんだ」

『え』

 

 セイランとグィネヴィアは、呆気に取られた。

 

「セイラン、班長ならじっくり考えてみな。無給で働くヤツが部下に居たら、一体どうなるのか」

「うーん……」

 

 腕組みをして考え込むが、セイランからは答えが出ない。

 

「ま、分かんねーのも無理はねえ。フツーそこまで教えないからね。その内分かれば良いさ」

「ええ……。すいません」

 

 一行は、暫しの休息を楽しんだ後、公民館へ戻った。




このドラクエ世界は、別に日本文化圏ではありません。椅子が要らなければ、まだバリアフリーに近いかと思っただけなんです……。しかし手足の無いヤツはどうしているのか……

設定集

ガーデン=バッシュ
種族:ガーディアン(デビルアーマー属)
職業:バトルマスター
呪文:各種バフ
特技:各種剣技、各種特効剣技、各種格闘技
追記:2回行動可能

グィネヴィア=エーズィー
種族:オーガ
職業:賢者
呪文:各種回復呪文、メラ系、ドルマ系、イオ系、ヒャド系
特技:各種ブーメラン技、各種格闘技、魔力覚醒、暴走魔法陣、凍て付く波動、(れい)の洗礼
追記:2回行動可能

隼の大剣
ガーデンのメインウェポン。隼の剣の大剣版。ガーデンは二刀流で使用出来る

魔力の源泉
触れている者の魔力を貯蔵する。味付け可能。グィネヴィアはサイボーグ手術をする事で機械の性能を上げている

与知のアンテナ
装着者の戦闘経験を逐次バックアップする。ガーデンはサイボーグ手術をする事で機械の性能を上げている


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小さな仲間達と大きな助け

魔族の氏名に意味や由来は有りません。異文化っぽさを聞いた事も無い名前で表現する為、目を瞑ってキーを打った結果です


 公民館にセイラン達が戻るや、父親を伴って門前で待っていたネツヤナヤが、「あ!」と気付いて声を掛けた。

 

「おにーちゃんたち、おかえり! はい、ちず! かいといたよ!」

「お、ありがと! 有効に使わせて貰うね!」

 

 セイランは差し出されたスケッチブックを受け取ると、早速内容に目を通した。

 それは建物の規模や軒数、道路の繋がりやカーブ等に若干の食い違いは有るものの、概ね実物に即した出来であった。屋号も下手な字ながら明記。それが、公民館周辺を数ページに渡って描かれている。

 

「いや、助かるなあ」

「えへへ……」

 

 ドロップは、セイランに頭を撫でられているネツヤナヤを指差し、グィネヴィアに訊いた。

 

「誰これ?」

「ネツヤナヤちゃん。昨日、例の集落で知り合ったの」

「ふーん……。何か悪い予感がするな……」

「ちょっとっ、不吉な事言わないでよ。アンタが言うと当たるんだから」

 

 そんな二人の遣り取りを聞いて、ネツヤナヤはドロップに興味を持った。

 

「あなただれ~? かわいい~」

 

 言うなり、ネツヤナヤはドロップに抱き付いた。彼女の腕が、ドロップの頭に食い込む。

 

「いでででで、俺は『ドロップ=プレーンジャズ』ってんだ」

 

 若干顔を苦痛に歪ませながらも、ドロップは律儀に自己紹介をした。

 

「ドロップくん、あそぼー」

「ドロップ君なんて歳じゃねーんだけどね、オジさんは」

「なんさいー?」

「36」

「おじさーんっ」

「だからそうなんだって……」

 

「キャッキャッ」と笑うネツヤナヤに反し、グィネヴィアは冷静に呟く。

 

「プクリポはトシが分かりにくいからね……」

「ドロップおじさん、おじさんなのにちっちゃーい」

 

「キャッキャッ」と笑うネツヤナヤに反し、グィネヴィアは冷静に呟く。

 

「ぁいや? そー言えばプクリポにしちゃデカイ方かも」

「他の人種がデカ過ぎるんだよ、ドワーフも含めてな」

 

 ネツヤナヤをたしなめつつ父親は彼女を引き離し、頭を下げた。

 

「すいません、ウチの子が何度も何度も……。あ、自己紹介がまだでした。私、『ツタァグ=フレォルカギミィ』です。妻は『アリア』と言います。これから宜しくお願いします」

 

 父親の真似をして、ネツヤナヤが「よろしくね!」と続いた。

 笑顔で父娘から去りつつ、セイランはガーデンに通信を入れる。

 

「ガーデンか? ドロップさんと合流した」

『そうか、分かった。それと、俺達も明日の朝にそっちに向かう事になった。油断するなよ?』

「ああ。何としても市民を守る」

 

 セイランは通信を切ると、グィネヴィアとドロップに向き直る。

 

「さてドロップさんも加わったし拠点に戻ったし、これからの基本方針を確認したいと思う」

「お、若い割に偉そうだな、班長」

 

 茶々を入れたドロップの頭を「班長なんだから当たり前でしょ!」とグィネヴィアがハタき、3人は拠点の部屋へと戻って行った。

 





設定集

超越の義眼
セイランが額に装備する多機能カメラ。暗視スコープやサーモグラフィー、透視、索敵、等々が可能

通信機器
セイラン達の時代の通信機器は、惑星間でのラグが無い事や、中継アンテナ無しでも星の真裏の相手にも電波が届く


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ドラゴン軍団、強襲

今回は、話が血腥くなります


 翌朝の昼過ぎ、ガーデンとルハル、ルハルの馬達や馬車をも乗せた避難民の輸送トラック第2便は、つつがなくセイラン達の元に到着した。

 ガーデンとルハルに頭を下げて出迎えるセイラン。

 

「皆さん、お疲れ様です。そして、『ミョウコウ』ちゃん、『ナチ』さん、『アシガラ』姐さん、ハグロ君も」

 

 労いは、ルハルの4頭の牝馬達にも欠かさない。それぞれの頭を撫でて回る。馬達も嬉しそうな素振りを見せた。

 ガーデン達も、各々に会話を始める。

 

「よう、ガーデン。相変わらず服が似合わないな」

「グィネヴィアにも言われたよ、それ」

「ギネ、こっちに来る途中で襲われたって? え? 『スポーツカーみたいなドラゴン?』 ダッサ!」

「またハッちゃんったら、敵を侮って……」

 

 それ等が一段落した所を見計らって、セイランは軽く「あーあー」と喉を整え、話し出した。

 

「さて、俺達の当面の活動目的を確認──」

「俺達と遊ぶ事だろ?」

 

 どこからともなくリッヂの声が響き、民衆はざわめき立ち、ガーデン達班員はセイランの背後の空を見上げた。

 ガーデンは歯を食い縛り、グィネヴィアは嘆きムーン的な顔、ドロップは(くち)を半開き、ルハルは目を細めた寄り目と、各々が表情を浮かべている。

 セイランは眉間に皺を寄せて目を強く瞑り、歯を剥き出しにした。顔を落ち着けて、振り返る。

 空が、以前と同様歪んでいる。そこからドラゴン達が現れた。

 浮遊する椅子型ドラゴンに座ったリッヂ、窮屈そうに無理矢理空間を押し拡げて、地響きを立てて着地したボーアン。最後にジヌバーンが勢い良くジャンプして着地。

 ジヌバーンはセイランを一目見ると、一人ごちる。

 

「コイツか……。宙人(そらびと)。本当に銀バエみたいだ……」

「とは言っても……、観察に長けてない俺でも分かる。ゲングイトが研究したがる訳だ」

 

 ボーアンがジヌバーンに続いた所で、セイランが質問した。

 

「誰だよそれは……」

「会いたきゃサンプルとして捕まりな。ゲングイトから借りたコイツに!」

 

 リッヂは歪んだ空間を見ながら手を叩く。すると、肋骨が檻の様に発達した、飛行するドラゴンが現れた。

 加えて、ボーアンが口笛を吹く。

 

「さて、予定通り露払いと行くか。『リリグ・ヴヴエ』達、仕事だ!」

 

 ボーアンは高らかに呼びつける。すると、小型肉食恐竜・ヴェロキラプトルに似た生物の大群が現れた。

 腕の代わりにドラゴンの翼が生えた姿の恐竜は、隊列を組んで行進し、ボーアンの前で止まる。

 

「命令。警官を殺せ。歯向かう者もだ。行け!」

 

 ボーアンの指令を受け、リリグ・ヴヴエ達は雄叫びを上げ、各自散開して警官を探し始めた。

 セイランも班員に指示を下す。

 

「皆、戦闘開始だ! ガーデンとドロップはサソリみたいなのと恐竜達を! グィネヴィアとルハルは一本脚を頼む! 俺はリッヂをやるっ!」

『了解!』

 

 ガーデン達は指示に従い、それぞれの相手の元に向かった。

 セイランと相対したリッヂは「ギャオッホッホッ……!」と笑った。

 

「俺を御指名たぁ嬉しいな。で、ネツヤナヤ、だかはどこだ?」

「知らない! 何故こんな事をする!」

「喋ったらお前達は本気にならないだろうし、他力本願なトコが有るのが人類ってもんだしなぁ」

「折角、会話が出来るのに……。何で戦わないといけないのか……!」

「青いなぁ。行くぞ!」

 

 三組ずつに別れた両陣営は、交戦状態に入った。

 

 ────―

 

 ガーデンとドロップ達が警察署に辿り着いた頃には、既にそこは戦場となっていた。

 ある者は手足や頭を噛み砕かれ、またある者はジャンプして踏み潰され、またある者は激しい炎で燃やされる。

 それでも、警官達は果敢に立ち向かって行く。タンの姿もその中に有った。

 

「くそ! 倒しても倒しても!」

 

 ショットガンを撃ちまくるタン達の周囲には、多数のリリグ・ヴヴエの死骸が横たわっているが、後から後から増援が現れている。

 

「ドロップ!」

 

 ガーデンはドロップに目配せする。ドロップも察し、「ああ、任しとけ!」と魔力を溜める。

 一拍置いて、ドロップはリリグ・ヴヴエの大群を指差し、指先から光を放った。

 

「パルプンテ! 雑魚敵は止まる!」

 

 その光はリリグ・ヴヴエ以外の者にも当たっているのだが、宣言通り、リリグ・ヴヴエだけが動きを止めた。

 

『おお!』

「何だと……?」

 

 タン達は喜び、ボーアンは身を乗り出した。敵が止まっている隙にガーデンがピオラを加えた爆裂斬で、リリグ・ヴヴエ達の首を全て落として回った。直後にパルプンテの時間停止が切れ、切り口から噴水の様に血が噴き出て、痙攣しながら首から下は倒れ伏す。

 ボーアンは眉間に人差し指を押し当てた。

 

「『雑魚敵は』と言ったな? ならば……」

 

 ボーアンは、自分の足元に空間の歪みを出現させた。

 

「『ゴヅガ』!」

「出番だな!」

 

 呼び出しに応じて何かが疾走して飛び出した。

 土煙を上げつつブレーキして出現したのは、ダチョウの様なドラゴン。

 詳しい姿は、ドラゴンの首から脚と翼が生え、口吻が伸びた先にダチョウの頭に似たクチバシが有る、と言う物。

 

「『ゲビガ』!」

「俺か? あーダル……」

 

「ゲビガ」と呼ばれてノソノソ現れたのは、例の象型ドラゴンである。

 

「この、階級『ボライズ』達ではどうかな?」

 

 ボーアンの問いにゲビガとゴヅガは吠え、ガーデンとドロップのコンビは身構えた。




設定集

リリグ・ヴヴエ
特技:激しい炎、高く跳び上がる
備考:ボーアンの子供達の一種。自我は然程無く、簡単な命令をこなす程度の知能しか無い

ヴヴエ
ボーアンが産んだ子供の中で、最弱ランクの階級である

ボライズ
ボーアン直属の階級の一つ。所属者はボーアンとの血縁は無く、幹部格ではないが1万年前から生き延びている者達である


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市民防衛戦

同時進行する複数グループの状況を書くのは大変です


 ガーデン、ドロップと対峙する、ゲビガとゴヅガ。ガーデンがドロップに小声で提案する。

 

「ゴヅガだかは見た通りスピード自慢だ。俺が相手するべきだが……、先に動きが鈍そうなゲビガだか擬竜1号だかを押さえよう。俺が1対2で時間を稼ぐから、パルプンテで魔人を呼ぶ準備をしろ」

「ああ。30秒我慢しろ」

 

 言い終わると、ガーデンはボクサーの様にステップを踏み始め、ドロップはやや離れて魔力を溜め始めた。

 

「ふーん、鈍そうなガーディアンが俺の相手なんだ」

 

 ゴヅガが喋ると同時に、ゴヅガはクチバシによる疾風突きで瞬時に距離を詰めて来た。しかしガーデンも柄打ちでそれを弾き、足払いでゴヅガを宙に舞わせると、立ち上がる勢いを乗せた跳び膝蹴りを食らわした。

 ゴヅガが飛んで行くのも待たず、一足飛びでゲビガの方に斬り掛かる。そこでようやく、蹴り飛ばされたゴヅガが地面に倒れた。

 

「首を挙げてやる!」

 

 だが、斬撃が当たる直前、ガーデンの剣の動作が止まった。一瞬で追い付いたゴヅガが剣の峰を咥えて妨害したのだ。

 

「誰も考える事は同じだな」

 

 軽口を叩きつつゴヅガが剣を離す事に合わせ、「皆俺を狙うんだ」とゲビガがガーデンの胴に噛み付き、外殻を噛み砕きつつ地面に投げ付ける。

 

「うぐおおっ……!」

 

 バウンドしながら地面を転がり、ガーデンが苦悶の声をあげた所に、ゴヅガとゲビガは口内に炎を宿らせる。

 その時、「おい、ケダモノ!」と声が掛かった。

 声の主はドロップである。つられて、ゲビガとゴヅガは炎を中断してドロップの方を見る。

 

「パルプンテ! 魔人が現れる!」

 

 魔力を宿らせた手を地面に突くドロップ。すると周囲の土地が輝き始め、一対の巨大な手が突き出て来た。

 地面に手を掛け、崖をよじ登る様な動作で頭、上半身、下半身の順に出現。全身像は、ボーアンに匹敵する筋骨隆々な男である。

 

「サソリみたいなヤツと象みたいなヤツを倒してくれ!」

 

 ドロップの訴えに魔人は頷き、ゲビガを鷲掴みにすると街の外までオーバスローで投げ、続いてボーアンを挑発しながらゲビガの元に向かう。

 

「ふん……。相手をしてやる」

 

 ボーアンも挑発に乗り、魔人の後に続いた。

 

「さあ形勢逆転だな、ゴヅガ」

 

 自動回復で傷を癒した事も相まって、ガーデンはゴヅガに切っ先を向ける。

 

「そうかな? さっきと言い今と言い、そのプクリポはパルプンテの効果が切れるまで、次のパルプンテを使えない様だ。なら1対1の様なもの」

「考えるスピードまで速いって訳か」

「それなりにな……!」

 

 ガーデンはドロップを下がらせ、ゴヅガと文字通り目にも止まらぬ応酬を始めた。

 

 ────―

 

「早くも盛り上がって来たか、あっちは」

 

 ジヌバーンは、グィネヴィア達を相手取ってはいるが彼女達には目もくれず、ガーデン達の戦いを眺めていた。

 

「ちょっと! こっちを見なさい、こっちを! 舐めてんの!?」

 

 ルハルが抗議の声をあげると、ジヌバーンはギロッと視線を投げ掛けた。そして、「あ~あ、見ちまった……!」と憎々しげな表情を浮かべた。

 ジヌバーンは続ける。

 

「サービスで見ない様にしていたがよォ……、俺は何の種類だろうがメスを見ると腹が立って腹が立ってェェ! 気に入らねえ奴は殺すに限るッ!」

 

 ジヌバーンは片手を振り上げると、掌に赤黒い光を纏わせた。

 

「! ヤバい! 散って!」

 

 ルハルが号令を出すと、グィネヴィアと馬達は透かさず従い、その場から離れる。

 と同時に、ジヌバーンはその手を突き出し、叫んだ。

 

「ザラキーマ!!」

 

 ジヌバーンが呪文を唱えるが早いか、赤黒い光線の様な物が6本発射され、ルハル達が居た地点に大きなクレーターを形作った。

 

「皆、無事!?」

 

 ルハルは馬達やグィネヴィア以外にも、被害を受けた者が居ないか周囲を見渡す。

 

「大丈夫! でも、ザキ系に物理的な威力を持たせるなんて……!」

 

 ルハルに返事をしながら、口元を押さえて驚くグィネヴィア。ジヌバーンは続ける。

 

「そう。ついでに付けた物理ダメージだが、当たれば即死効果が効くまいが深手は必至」

「だったら尚更、この子達の出番……!」

 

 ルハルは馬達に魔力を照射する。すると馬達の姿が見る見る内に人間の少女の姿に変わり、それぞれに異なった武装が装備されていく。

 ミョウコウはスティックを持った僧侶、ナチは杖を持つ魔法使い、アシガラは斧を手にした戦士、ハグロは吹き矢を得物とした盗賊と言う姿で、衣服や鎧や武器に馬の装飾が施されている。

 

「ほ~。面白い芸当だ。技名は?」

「今のは『魔化(まか)()』! そしてギネ! ナチ! お願い!」

 

 ルハルに指示され、二人は魔法を唱えた。

 

『マホカンタ!』

 

 二人が複数回マホカンタを唱え、グィネヴィア、ルハル、馬の面々にマホカンタが行き渡り、光の壁に包まれた。

 

「これでザキなんか使えないね!」

 

 グィネヴィアは意気込むが、ジヌバーンは鼻で笑った。

 

「なら。凍て付く波動ではイタチごっこだから……。この技でどうだ?」

 

 言うとジヌバーンはおもむろに両手で自分の首を押さえ、吐きそうな表情で体を左右にねじりながら徐々にしゃがむ。

 

『? …………』

 

 一同が疑問符を浮かべる中、ジヌバーンは宙返りして仰向けに倒れると体を波打たせる、と言った動作を始めた。

 ここでルハルが、ジヌバーンが何をしているか気が付いた。

 

「……!! あれは死の踊りだ! 見ちゃ駄目!」

 

 ルハルに言われて、誰もが顔を背けるか目を瞑る。そこを狙って、のたうち回る動作をしていたジヌバーンは踊りを中止し、息を吸い込み、大口を開けた。

 

「そこを攻撃するのさ! 猛毒の霧を食らえ!」

 

 ジヌバーンは牙から紫色の液体を勢い良く噴射した。それは地面に広がり、間も無く気化し、霧となる。

 ルハルはハグロとアシガラを指差す。

 

「ハグロ! アシガラ!」

『分かってる!』

 

 反射的にルハルの意図を理解し、アシガラは斧を横に構え、ハグロは吹き矢を咥えて斧の柄に飛び乗る。

 次の瞬間、バレーのレシーブの要領で、ハグロは本人の脚力も乗せて、ジヌバーンに向かって高く打ち上げられた。

 その飛行中、ハグロは吹き矢越しに大きく息を吸い込む。すると猛毒の霧はハグロの肺に全て収まり、ハグロはほっぺを膨らませてジヌバーンの顔に着地。

 

「! 何で効かない!?」

 

 ジヌバーンはハグロを払い落とそうとするが、ハグロがジヌバーンの口に吹き矢を突っ込む方が早かった。

 

「返すぜ!」

 

 ハグロは、ジヌバーンの口内に猛毒の霧を一気に流し込んだ。

 

「ん! うっぐ! ゲホ……! ゴホッゴホッ! ゲーッホ! ゲホ!」

 

 涙目になってへたり込み、激しく咳き込むジヌバーン。それを横目で見るガーデン。

 

「ミョウコウ! ナチ! ここは良いからガーデンとドロップに加勢して! 呪文が来たら自分達が受けるの! ギネは遠距離攻撃を重点的に! こっちの回復はあたしがやる!」

「任せて!」

「はいっ!」

「オッケー!」

 

 ルハルが3人に指示を下し、二人はその場から去る。グィネヴィアは両手にバスケットボール大の火球を出現させる。

 

「メラガイアー!」

 

 銃弾並みの速度で放たれたメラガイアー。だがジヌバーンは苦しみつつも「おせーよ!」と即座に反応し、その二つの火球をグィネヴィアに指で弾き返した。

 

「嘘!?」

 

 グィネヴィアは咄嗟に頭を抱えてしゃがみ、メラガイアーの2連発を回避。野に放たれた火の玉は暫く飛んで、消えた。

 

「くそっ……」

 

 ルハル達はジヌバーンの強さにたじろぎ、改めて身構えた。

 

 ────―

 

 公民館の敷地内ではセイランが、滞空する椅子型ドラゴンが首を伸ばしての噛み付きを、ガーデン達の戦況を気にしながら回避に徹していた。

 

「よう銀バエ! 逃げ回ってばかりで良いのか? あっちのドワーフのオバちゃんが副官らしいが、大方お前はコネか何かでリーダーやってるって所か!? 若いし!」

「その空飛ぶマッサージチェアーみたいなドラゴンには、マホカンタもマホステも有るらしい。俺達は飛び道具が主に魔法だから、俺に懐いてるお前は俺が引き付ける」

「あーそうかい。じゃ、俺が直々に相手をしてやろう」

 

 リッヂは椅子型ドラゴンの座面に立つと、軽くジャンプして地面に降り立った。

 

「加えて。俺の武器はこれだ」

 

 続けてリッヂは小さな空間の歪みに手を入れ、赤い宝箱を取り出した。

 

「さてと、もう少しだけ遊ぶか」

 

 リッヂは宝箱を開けてヘラヘラ笑った。

 




設定集

ルハル=マモユザー
種族:ドワーフ
職業:魔物使い
呪文:ホイミ系、バイキルト、スカラ
特技:各種鞭技、魔化し技
追記:2回行動

魔化し技
ルハルのオリジナル技。動物に魔力を撃ち込み、身体能力と自我はそのまま、一時的に姿と知性を人間の物に変える。加勢するか否かは本人の好意による。変身中にしか魔法も特技も使えないが、覚えた事の全ては元の姿でも引き継がれる

ミョウコウ、ナチ、アシガラ、ハグロ
ルハルの輸送、護衛任務をサポートする4姉妹の馬。
名前の元ネタは日本海軍の重巡洋艦。ネーミングの元ネタは『6』のズイカクとショウカク


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掌の上の善戦

リッヂとガーデンの見せ場です


「使い所も無いかと思っていたが、集めた甲斐が有った」

 

 リッヂが手にしている宝箱の中には、メタルキングのマークが刻まれた、銀色に輝く様々な武器が収められていた。

 それを鷲掴みにすると、大きく振りかぶる。

 

「ほーれ、人類が好きな貴重品だぞー」

 

 投げ付けられたメタルキング武器は、散弾の役割を果たしてセイランに降り注ぐ。

 

「うおお!?」

 

 セイランは頭をガードしつつ、咄嗟にリッヂの方に向かって駆ける。それが上手く行ってメタルキング武器はセイランの頭上を素通りした。

 そしてそれ等の武器は、刃物は建物や地面にほぼ抵抗無く深々と突き刺さり、鈍器は命中箇所を文字通り粉にする程の威力を発現した。

 それを見てボーアンは魔人の攻撃をいなしつつ、「また必要もねーのに武器使ってるぜ。グラウナードの奴に怒られんだ」と呟いた。

 

「あぶねーな、全く!」

「武器なんだからあたりめーだ。あ、そうだ」

 

 セイランの抗議を受け流しつつ、リッヂは手を叩いて、待機中の椅子型ドラゴンに目を向けた。

 

「お前の名は?」

「俺は、『ヴィーヴライニング・チェアー』です。リッヂ様」

「その体とチカラは?」

「座った者に安らぎを与える為」

「その通り! 言っとくけど手ぇ出すなよ?」

「承知しました」

「待たせたな銀バエ! どんどん行くぞ!」

 

 再びリッヂはメタルキング武器を手にする。

 

「一発だって食らって堪るか!」

 

 武器が投げられるのと、セイランの腰の小鎌の玉が光り、念じボールで上空に回避するのは同時だった。

 

「お前は空を飛べないだろ!」

「飛ぶ必要無いからな」

 

 セイランの挑発をかわし、リッヂは宝箱に魔力を込める。すると投げられたメタルキング武器達がひとりでに宝箱の中に収まって行く。

 

「じゃ、代わりにこれ使うか」

 

 リッヂは宝箱を異空間に放ると、代わりに黒い宝箱を取り出した。

 中には、道具使用で魔法の効果を発揮する武器が多数、乱雑に入っていた。

 

「『全属性・範囲攻撃』と名付けよう」

 

 リッヂは無作為にそれ等を握ると、セイランに向けて、武器に魔力を込めた。

 その瞬間、炎、竜巻、稲妻、吹雪、砂嵐に濃霧等が発射され、セイランを襲う。

 

「な!?」

 

 慌ててセイランはそれを回避。死示(しじ)のサイズをリッヂに構える。

 リッヂは手で制する仕草をした。

 

「おっと、良いのか? 俺が避ければ街に被害が──」

「フェイクだ!」

 

 セイランはサイズを横に構え直して鉄棒の様に座り、小鎌とスケッチブックを持つ。

 ネツヤナヤ作の地図上、リッヂが居る地点を、輝き出した小鎌で指した。

 

「バギムーチョ!! 足を止めるのを待ってたんだよ!」

 

 セイランが呪文を唱えると、リッヂの足元から竜巻で出来た竜巻で出来た竜巻で出来た竜巻が二つ発生。

 天をも突く大木の様に太く長く伸びたそれは、周囲の瓦礫やリリグ・ヴヴエの死骸をも吸い込み、リッヂを切り刻みつつ打撃を与える。

 

「ブベベベベ! いだだだだ! や、やめろぉ!」

 

 リッヂは堪らず、その場に両膝を突く。

 バギムーチョが止んだ後のリッヂは、皮膚や服がズタズタのみならず、指や耳と言った細い部分を削り取られていた。

 

「ギャオオオオオオオ……。あー、いってぇ……!」

「あんなダメージにしかならないのか……?」

 

 苦虫を噛み潰した表情のセイラン。その隙をリッヂは見逃さなかった。

 

「マヌーサ!」

 

 ピンク色掛かったスプレーの様な物がリッヂの掌から放たれ、セイランを包み込む。

 

「しま……! って何だ? 誰も彼もが増えて見える?」

 

 キョロキョロするセイランに、リッヂはホイミの一発で怪我を全快させつつ続ける。

 

「寧ろ、今まで誰もそうしなかったのが不思議に思う位だ」

「しかぁし!」

 

 セイランは目を閉じ、超越の義眼を起動。

 

「このカメラに幻惑やモシャスは通用しない!」

「機械のお陰なのに威張るな。ならマホトーンだ! 俺の奴は特技も封じるぜ!」

「……!」

 

 リッヂは掌から、今度は3点リーダの様な魔力を放った。これはセイランは避け続けるしか無く、空で逃げの一手となってしまった。

 

 ────―

 

「セイラン、押され出したか……」

 

 ゴヅガとラッシュの応酬を演じていたガーデンが、一旦間合いを離してセイランの方を気にする。

 

「どこを見ている!」

 

 ゴヅガが突進しながら、クチバシでの五月雨突きを繰り出す。

 

「お前だ!」

 

 ガーデンはゴヅガを跳び越えて、攻撃を回避する。だが振り返った時にはゴヅガの姿が消えていた。

 

「消えた? ドロップ! 見てたか!?」

「ああ! 急に透明になった! きっとレムオルを使ったんだ! 」

「戦法を変えたな……!」

 

 物陰からドロップが顔を出して答える。そこへ、ミョウコウとナチが到着した。

 

「ガーデンさん……!」

「お前達、来たのか! ミョウコウは回復を! ナチは俺のサポートをしろ!」

『はいっ!』

 

 元気良く返事をした所で、どこからかゴヅガの嘲笑が響いた。

 

「何人来ようが的が増えるだけだ。何しろ俺のレムオルは煙やレーダーでも見えないし、灼熱の炎さえ透明になるのだからなあ。こんな風に!」

 

 言い終わるが早いか、横の建物が不意に燃え上がった。

 

「よけろ!」

 

 ガーデンの合図で、壁を何枚も貫通して来た見えない炎をガーデン達は無事にかわしたが、建物の中から炎に巻かれた市民達が苦しみながら現れた。

 

「ああ! 何て事!」

 

 ミョウコウは急いで市民達に駆け寄り、回復魔法の準備をする。

 

「隙有り!」

 

 不意に、ミョウコウの体が宙に舞って地面に転がる。ミョウコウは腹部を押さえて悶え苦しみ出した。

 

「うぐぐぐぐ、おえ……! 蹴られたみたい……!」

「え、今。気配が無かった?」

 

 介抱するナチが周囲を見渡す。ゴヅガが解説した。

 

「言い忘れたが、俺は忍び走りも使える。どんなにスピードを出しても、空気の流れや土埃とかも発生しない、な」

「…………」

 

 ガーデンは静かに考え、ミョウコウとナチ、ドロップに指示をする。

 

「ミョウコウ、ナチ、ドロップ! 俺の近くに居ろ! 怪我人もだ! 急げ!」

 

 3人がそれに従い、いそいそと被害者達を抱えてガーデンに寄る。加えて、ガーデンはセイランに通信を入れた。

 

「セイラン! フバーハをくれっ!」

『ん! ああ分かった!』

 

 回避に腐心しているセイランは先程同様、地図を小鎌で指し示してフバーハを唱えた。すると、ガーデン達が個別に淡い光で包まれた。

 ガーデンがナチに耳打ちしナチが頷くのと同時進行で、ミョウコウは涙目で「こんなの酷いよ……!」と黒焦げになった人達に回復呪文を与える。

 

「フバーハでブレスを軽減して、接近戦をさせようってんだろ! だが見えていてもスピードに着いて来れまい!」

 

 ゴヅガが喋った一拍後、ガーデンの腹部に見えない何かが貫通する。

 

「ぐ……!」

 

 負けじと、刺さった何かを掴もうとするガーデンだが、その手は空を切るばかり。慌ててミョウコウは彼にベホイムを掛け、ナチはガーデンを小突いた。

 ガーデンは頷き、大きく息を吸い込んで隼の大剣の片方を納め、一刀を両手で構えた。

 

「カウンターで当てようってんだろ? そんな手は食らうか!」

 

 突然、周囲の上階の窓が割れ、ガラスや家具が降り注いだ。

 

「ん! スクルト!」

 

 ガーデンは咄嗟に自分以外の者にスクルトを掛けて防御する。その瓦礫の雨の中、ナチは叫んだ。

 

「ガーデンさん、右上!」

「良し!」

 

 ガーデンは合図に合わせて瞬間的に刀身に竜のオーラを纏わせ、指示された方向を十文字に斬り付けた。

 一呼吸置いて血のシャワーが降り、四分割されたゴヅガが姿を現して地面に落下。若干の痙攣の後、動かなくなった。

 

「な!? ……」

「ゴヅガの奴が殺られたのか!」

 

 リッヂとボーアンは驚き、気を取られる。その隙にリッヂは念じボールの一撃を目に、ボーアンは魔人が投げ付けたゲビガを頭に受け、それぞれ怯む。

 ルハル達と格闘戦をしていたジヌバーンは上空に飛び、問う。

 

「何で分かった?」

「声が聞こえるから、延いては息遣いまでは消せてなかったんだよ。ナチ達は人間に変身しても身体能力は馬のままだからな。聴覚もが」

 

 ガーデンの解説に、ナチが付け加える。

 

「気合い溜めをして、一刀モードにもなったガーデンさんと合わせれば、まず命中するし倒せるって事」

「ふーん……」

 

 ジヌバーンは目を細め、鼻息を吹き出した。

 リッヂとボーアンに目配せし、提案する。

 

「おいお前等! 一人殺られたし、そろそろ仕事しようぜ! もう充分遊んだだろ!」

「おう!」

「力加減を間違えるなよ!」

 

 リッヂは高く跳んでヴィーヴライニングに座り、ゲビガとボーアンは飛翔する。

 それを見計らって、ジヌバーンは胸一杯に息を吸い込んだ。

 

「焼け付く息を食らいやがれ!」

 

 技名を叫んで吐き出されたオレンジ色のミストは、瞬く間に町を覆う。

 ガーデン達や警官達は元より、市民までもが反射的に(くち)を手やハンカチで塞ぐが、ジヌバーンの焼け付く息は、息を受けた者の皮膚や衣服を焼き潰して行く。方々で、痛みを訴える悲鳴が上がった。

 

「皆!」

 

 飛行中のセイランは難を逃れていて、仲間の元へ向かおうとする。

 

「おっと、行かすか!」

 

 そんなセイランを、ヴィーヴライニングが目にも留まらぬ速さで首を伸ばして咥えた。

 

「食うなよ?」

「ええ。貴重な種族ですから」

 

 もがくセイランが叫んだ。

 

「放せよ!」

「良いだろう」

 

 ヴィーヴライニングはリクエストに応え、セイランを公民館の地面に向かって投げる。

 

「うう! 念じボールでもブレーキが……!」

 

 地面に到達する前に念じボールで投げのスピードは相殺したが、それはつまり停止を意味した。

 

「そしてマホトーン! 落ちろ!」

「しまった!」

 

 リッヂのマホトーンの直撃を受け、魔力の使用を封じられたセイランは中空から地面に落下。その衝撃で「う……」と気絶した。

 その時、公民館の窓に小さな人影が現れ、ホイミをセイランに与える。ネツヤナヤであった。

 

「居た……!」

 

 リッヂは笑いの混じった声を上げた。




設定集

ゴヅガ・ボライズ
種族:ドラゴン
呪文:レムオル(レーダーでも探知されない)
特技:灼熱の炎、疾風突き、五月雨突き、忍び走り(動いた痕跡が発生しない)
追記:ダチョウ的形態

一刀モードと二刀モード
ガーデンは、一刀流時は攻撃力が上がり、二刀流時は手数が上がる

刺図(さしず)のシックル
セイランのサブウェポン。安全の為に手書きの地図限定だが、マップを指した地点に魔法を発生させる。地図の製作者が何を描いたか把握していれば、どんなに下手な地図でも正確に発動する


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戦場からの離脱

「おい、リリグ・ヴヴエ共よ! そして『AC(エーシー)ドラゴンtype-C(タイプシー)』! 採集に回れ! 特にターゲットは公民館だ、急げよ!」

 

 リリグ・ヴヴエ達に指示を下したのはリッヂであるが、ケージ的ドラゴンことタイプC達は粛々と従い、公民館の人々を重点的に(さら)い始める。

 

「待て!」

「ん?」

 

 そこへタンを含む、光線銃を装備した警官隊が到着した。

 リリグ・ヴヴエ達の方が数は多いが、レーザーの前には一射で数匹が焼かれて行く。しかしタイプCはおろかリッヂには、熱がりはするが目立った効果が無い。

 

「あっち。達人のベギラマ位の威力かな」

 

 そんな中、タンはセイランに駆け寄ると、セイランの頬を叩きつつ拳銃をリリグ・ヴヴエ達に乱射する。

 

「大丈夫ですか、班長さん!」

「は……」

 

 タンの声掛けとネツヤナヤのホイミの効果で失神から我に返ったセイランが見た物は、人々がリリグ・ヴヴエ達に噛み付かれ、その端からタイプCに運び込まれ、または投げ込まれて行く様子だった。その中にネツヤナヤとツタァグの姿も有った。

 

「おにいちゃん、たすけて!」

「騒ぐな、ラリホーマで寝てろ。邪魔するな、メダパニーマ……、は使うまでもないな」

 

 抗議の声や悲鳴を上げる市民達と警官達を、リッヂは錠剤に似た魔力の弾を浴びせて昏睡状態にさせた。

 難を逃れていたタンが言う。そこにトローリも加わる。

 

「おい、一般人より俺を連れてけ!」

「そーだ、あたしも連れてけー」

「ああ。顔見知りのお前も連れていこう。ドロルはキモいから要らん。やれ」

 

 タンの背後から現れたリリグ・ヴヴエの一体が、拳銃を持った腕を噛み千切り、「うわああ!」と叫ぶタンをタイプCに運び入れた。リッヂがすかさずラリホーマでタンを沈静化させる。

 

「う、頭が……」

 

 セイランは助けを求める声に応えるべく立ち上がろうとするが、頭を押さえて四つん這いになるのが精一杯で、直立出来ない。

 

「ベホイミ……、いや、マホトーンが効いてたっけ……! 魔力使用さえ出来ない強さの……」

 

 ボックスをまさぐって取り出した薬草を食して気付けを行い、頭を振って正気を取り戻した事を確認するセイランに、リッヂが声を掛けた。

 

「何だ、もう起きたのか。良いんだよ起きなくて。お前にもラリホーマ!」

「おっと!」

 

 リッヂのラリホーマの連打をかわし続けながら、セイランは通信を入れる。

 

「皆! 無事か!?」

『こちらドロップ! 俺は無事で、こっちのグループはまだ動けるが、グィネヴィア達は分からん。満月草(まんげつそう)のエキスで治して、ミョウコウを回復に当たらせる!』

「それで頼む! それと俺はマホトーンを食らった! 済まないが援護をくれ!」

『分かった!』

 

 ドロップがフバーハで麻痺の効果が薄かったガーデン達に『満月草(まんげつそう)エキス』と書かれたドリンク剤を一人に一本ずつ分け与え、麻痺を治していく。

 その様子を見ていたジヌバーンだが、魔人にも目を向ける。

 

「無駄な事程、頑張る奴らだ。……ついでに。倒しておくか」

 

 ジヌバーンは瓦礫の一つを手に取ると、魔人に向かって投擲した。まばたきさえ出来ない程の速度で投げられたそれは、魔人やドラゴン達からすれば釘の様な大きさだが、魔人の胸元に突き刺さるや、魔人は少々ふらついた後に倒れ、消滅した。

 

「急所突きを使わなくても勝てたが、久し振りだからな」

 

 述懐するジヌバーン。

 ミョウコウと一緒にグィネヴィア達の治療をしていたドロップは、セイランにお伺いを立てた。

 

「班長、『バルブンテ』使って良いか?」

『待て! 何か都合の良い事しか起こらないとは言っても、街中じゃ危険過ぎる!』

「だったら、また雑魚の停止を──」

 

 言い掛けたドロップを、影が覆った。

 

「させるかよ!」

 

 ジヌバーンがドロップに飛び掛かり、文字通りに踏み潰したのだ。

 胴体を平らにされたドロップは、悲鳴の代わりに(くち)から血と内臓が飛び出した。

 

「雑魚はお前だったな……」

 

 ゆっくりと飛び立つジヌバーン。数秒後、呆気に取られていたグィネヴィア達が事態を理解した。

 

「そんな! ドロップが!?」

「死ん……! ベホマ!」

「ベホイム! 元気になってよ!」

 

 ルハルは崩れ落ち、ミョウコウはベホイム、グィネヴィアはベホマを掛けるがドロップに変化が無い。

 セイランのウェアラブル端末に、『ドロップ死亡』との表示がされた。

 

「ドロップさんが……、死んだ!?」

 

 セイランは呆然とした。




設定集

ドロップ=プレーンジャズ
種族:プクリポ
職業:遊び人
呪文:モシャス、パルプンテ、バルブンテ
特技:各種ナイフ技、各種格闘技
追記:非常に運が良い
好きなパルプンテの効果を発現出来る。但し効果中は次のパルプンテを使えない

バルブンテ
ドロップのオリジナル呪文。何らかの都合の良い事が起こる


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悪意有る利他的行為

リッヂの性根を垣間見る回です


 

「何ボケッとしてんだ、戦いはまだ終わってないぞ!」

 

 放心するセイランの元に駆け付けたガーデンとナチ。そのガーデンがセイランの頭をはたいて気を入れ直してやる。ナチは、マホリーでマホトーンを解除してやる。

 

「あいっ……、そうっ、そうだった!」

「終わらせてやるよ、お前も連れてけばな」

 

 リッヂの宣告に、タイプCが言う。

 

「すいませんリッヂ様、もう重量の限界でして」

「そうか。じゃバシルーラに変更。お前はもう帰って良い」

「はい、失礼します」

 

 リッヂがタイプCを手で払って異空間に下がらせると、セイランは啖呵を切った。

 

「バシルーラでも何でもやれ! 行き先で暴れ回ってやる! でも特に、ドロップさんの仇とゲビガって奴を警察に突き出すまでは、終わらせてたまるか!」

「だったら蘇らせてやるよ」

 

 リッヂは両手の指先に光を纏わせた。

 

「ザオリク! そしてザオリーマだっ!」

 

 リッヂが集落のある方向に光を飛ばし、そしてグィネヴィア達が泣いて縋るドロップの亡骸も指差すと、一瞬ドロップの体が光に包まれ、それが晴れると中から無傷のドロップが現れた。

 

「っだぁ! な、生き返ったのか!? 俺!?」

 

 動揺しながら飛び起き、体の様子を確かめるドロップ。

 ややあって──。

 

「治っ、た。ああああ! 良かったよぉ~!」

 

 ドロップに全力で抱き付くグィネヴィア。

 

「おげげええ! ヒビ入ってる! 骨に!」

 

 ドロップの体内から骨が軋む音を聞いて、慌てて放すグィネヴィア。ルハル達も気が抜けた様に溜め息をついて、ミョウコウに至ってはより号泣する。

 

「あっ、ごめんね?」

「ああ、良い。でも奴等は許さねえ!」

 

 ドロップが魔法の準備をし始めたのを見るや、ルハルは「あ、馬鹿っ!」と制止した。が、時既に遅し。

 

「バルブンテ!」

 

 ドロップが叫んで、魔力を周囲に解き放った。

 

『ん?』

『!?』

 

 ドラゴン達は一斉にドロップを注視するが、何かが起こる様子は無い。

 しかしセイラン達は口々に愚痴りながら、そそくさと物陰に身を隠す。

 

「不発か……? それともハッタリ……?」

 

 ゲビガが呟くが、ボーアンは空の彼方を見て、目付きを鋭くした。

 

「おいお前達、一応俺の後ろに居ろ。その代わり攻撃は任せる」

 

 事態を察知し、ジヌバーン達は「任せろ」等と素直に従う。

 

「来るぞ!」

 

 ボーアンの警告を合図としてか、突如遠くの空に巨大な宇宙船が出現した。現れるや否や全砲門をボーアンに向ける。

 

「仁王立ち! そしてアストロン!」

 

 ボーアンの体が金属の彫像になるのと、宇宙船の光線が一点に集中発射されるのは、若干ボーアンの方が早かった。

 真夏の太陽より強く輝く光線は、ボーアンの胸元をドロドロに溶かして行く。

 

「わりぃなボーアン! すぐ終わらせる!」

「俺は一発でな!」

 

 ジヌバーンとリッヂが、(くち)に青白い光を纏わせ、ボーアンの背後から飛び出す。宇宙船は彼等も狙おうと砲身を向けるが、光線の軌道が曲がって、結局はボーアンに命中する。

 

『絶滅しやがれ!』

 

 ジヌバーンは隙間無い光の散弾、リッヂは極細の光をそれぞれ吐き出し、宇宙船を攻撃。

 宇宙船は光が命中した箇所が蒸発し、その直後に機体は爆裂四散した。

 残骸が燃え上がって降り注ぐ様子を見届けると、アストロン状態のボーアンは「ふ~っ」と溜め息をついて額を拭った。

 セイランはリッヂに問い掛ける。

 

「おい、今のは何だ?」

「うん? 今の技は幹部になる為に必要な『プラズマブレス』と言う技を、髪の毛位に細くして発射する『集束プラズマブレス』で、俺独自の工夫だ。因みにジヌバーンのは『絨毯プラズマブレス』な」

「……。訊いてない事を教えてくれて有り難う」

「あ、あっちか? あれは単なるリベンジ野郎共だ。武者修行がてら、お前等の本星を思って露払いした時のな。これからも色んな奴が現れるかもな」

「それだけ宇宙を荒らし回ったと言う訳か」

「……そうだ、大事な事を思い出した。さっきのザオリーマは先の集落に向けての物だが、火葬されてなければ生き返ってるぜ? 墓の下、棺桶の中で」

 

 間を置いてセイランは顔を青くし、連絡しようとする。

 

「すぐ向こうの人達に!」

「隙有り! バシルーラ!」

 

 ウェアラブル端末にすっかり気を向けていた為、セイランは反応も出来ずにリッヂのバネ状の魔力を受ける。彼の体が即座に宙に浮き始めた。

 だがセイランは、驚きこそすれ焦ってはいなかった。

 

「ガーデン、俺に掴まれ!」

「ん、おう!」

 

 言われるがまま、反射的にセイランの腕を掴むガーデン。そして二人揃って飛ばされて行った。

 それについて、頭を掻くリッヂ。

 

「あ~、要らねーヤツまで行ったか。ま……、良いか」

「構わん。これにて任務終了! 全員離脱せよ!」

 

 ボーアンが全員に撤収命令を出し、自身の背後に空間の歪みを作り出す。

 リッヂを乗せたヴィーヴライニングと、ゲビガ、ジヌバーンは勿論の事、生存しているリリグ・ヴヴエ達も、ゴヅガの体を回収してボーアンの元に向かう。

 

「じゃあな。まあまあ楽しかったぜ」

 

 リッヂが手を振り、空間の歪みは消滅した。




設定集

リッヂ=ゼーレー
種族:ドラゴン
呪文:ホイミ系、ザオリク、ザオリーマ、マヌーサ、マホトーン、ラリホーマ、メダパニーマ、バシルーラ
特技:仲間を呼ぶ、プラズマブレス、集束プラズマブレス
追記:人間型ドラゴン
通常攻撃が範囲攻撃
道具使用で全属性・範囲攻撃
マヌーサは敵味方全員への、あらゆるアプローチの成功率を下げる
マホトーンはMPの使用を封じる

ジヌバーン=ジャッジャ
種族:ドラゴン
呪文:ザキ、ザラキ(ザキの範囲攻撃)、ザラキーマ(ザキのマルチロック)
特技:痛恨の一撃、急所突き、死の踊り、猛毒の霧、焼け付く息、凍て付く波動、プラズマブレス、絨毯プラズマブレス
追記:ヤジロベエに似た姿
急所突きは飛び道具でも効果を発揮
ザキ系と焼け付く息はダメージ付き
猛毒の霧は即死も有り得る

プラズマブレス
ドラゴンの、幹部選定基準の技。

集束プラズマブレス
リッヂの派生技。プラズマブレスを髪の毛の細さにして放つ

絨毯プラズマブレス
ジヌバーンの派生技。プラズマブレスの弾幕を放つ


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社会人のキャッチボール

子供向けでは、何故か大抵謝り合わない(様な気がします)


 静けさが戻り、戦の爪痕がそこかしこに残された街の中で、ルハル達はまだ警戒しながら一塊になる。

 

「戦いは終わったのか……?」

 

 ドロップが警戒しながらルハルに訊く。

 

「あたしもそう思うけど……、一応油断しないで。セイランが戻るまで、あたしが指揮を取る。各員、まずは怪我人の回収に当たる様に!」

『了解!』

 

 と、その時、空気を切り裂く鈍い轟音が辺りに響き渡った。

 誰もが身構えて音がする方向、上空を見る。そこには、王室のマークが記された巨大な輸送機があった。

 

「あれって……」

 

 グィネヴィアが安堵しながら大鋏をしまうと、滞空する輸送機の格納庫が開き、護衛係の制服を着込んだサイクロプスが飛び出した。

 サイクロプスは地面を揺るがせて着地すると、近くにパラシュート付きのケースが投下されたのを確認して、輸送機が去る中、敬礼をする。

 

「『ダイチ=ノーゲッシ』、只今到着しましたッ!! ドラゴン共とセイラン班長はどこでありますかッ!!」

 

 ダイチの大声での着任報告で、周囲の建物は振動する。ミョウコウ達は耳を塞いだ。

 

「あの馬鹿が……」

 

 ドロップが苦々しく顔を背けるが、グィネヴィアは「元気で良いじゃない」と言いつつダイチに手を振った。

 ルハルが手でメガホンを作って叫ぶ。

 

「ダイチー!? わざわざ、ここまで御苦労様ー! そんなデカい声じゃなくても聞こえるからー! 後、セイランとガーデンはバシルーラで飛んでったから、今から探すとこー! 取り敢えずアンタは救助活動に回ってー!」

「おお、そうでしたか! では早速作業に移りますッ!!」

「お願いー! あたし達はちょっと報告と作戦会議をしてるからー!」

「了解でありますッ!!」

 

 ダイチがケースを拾っていそいそと消防屯所に向かうのを見送って、ルハルはミョウコウ達への魔化(まか)()を解除し、皆に指示する。

 

「騒がしい奴だけど、良い所に来てくれて凄く助かる……。予定変更。救助はあいつに任せて、あたし達は詰所でこれからの事を話し合おう?」

『異議無し!』

 

 ドロップとグィネヴィアが快諾し、公民館へ向かう。ルハルは「セイラン!? ガーデン!? 応答して!」と呼び掛け続けるが連絡が付かない。「位置情報もダメか……」と溢す。

 その道すがらドロップが、リッヂが武器を投げて空いた地面の穴を通り過ぎた直後、バックでその穴の地点に戻る。

 

「あーん……?」

 

 ドロップは、地面に空いた筒状の穴をのぞきこむ。グィネヴィアも、「どしたの?」と一緒に穴を見る。

 

「この中に何かがあるみたいだ。一瞬光ってさ」

「そう? ちょっと掘ってみよ」

 

 グィネヴィアは大鋏を180度開いて、それをスコップ代わりに使って地面を掘る。ルハルと馬達もその様子を見守る。

 

「おお、これは!」

 

 グィネヴィアが掘り出した物は、一振のメタルキングの槍であった。

 

「こりゃ良いモン拾ったな。身近に槍使いは居ねーけど」

「アイツの忘れ物かぁ……。お巡りさんに見せて、許可が降りたら王室に献上、かな」

 

 グィネヴィアがアシガラにメタルキングの槍をくくりつけ、一行は改めて詰所に向かった。

 

「王室か……。あーあ、また上から怒鳴られるよ、こっちの苦労も知らないで……」

 

 ルハルはぼやいた。

 

 ────―

 

『大馬鹿野郎ーッ! お前達が居ながら何たる失態だ!』

「すいません、すいません! 勘弁して下さい『メギラ』主事!」

 

 詰所に戻って戦況報告をしたルハルは、画面の中で怒鳴るメイジキメラに平謝りに謝っていた。

 ルハルの後ろでは「『キモい』って言われた~」と嘆くトローリを、「こんなに可愛いのにねぇ?」とグィネヴィアが頭を撫でて慰めている。

 その様子を見てメギラは一瞬哀れんだ表情をし、叱責を続ける。

 

『セイランとガーデンが行方不明のみならず、大切な国民までさらわれやがって! せめて行き先は見当が付いてるんだろうな!?』

「はい、大丈夫です! 敵はセイランを連れて行くつもりで、それもバシルーラで飛ばしましたし、通信が繋がらないのは今時有り得ないので、その二つの手掛かりですぐに見付かる筈です!」

『ふん、良いだろう……。次の報告は良い結果しか聞きたくないから、そのつもりで居ろ。分かったら早く任務に戻れ。切るぞ……』

「はい! 一刻も早く彼等、彼女等を連れ戻しま……、いや、させて頂きます!」

 

 ルハルが深々頭を下げ、メギラの側から通信が切れた。

 テレビ電話が切れて数秒後、ルハルは晴れ晴れとした表情の顔を上げた。

 

「ふー、やっと終わった……」

「お疲れ」

 

 ドロップが軽く労うと、部屋のドアがノックされ、「失礼します……」とラインが姿を現した。

 

「この度はこちらの力が足りず、何度も何度も助けられてばかりで、その上そちらに被害まで……、本当に申し訳有りません……!」

 

 ラインは地べたに頭を擦り付けて土下座した。

 

「いやいやいや! 大丈夫ですよ、任務の内ですから!」

 

 ルハルが慌ててフォローすると、ラインは頭を上げて、持参した菓子折りを手渡した。

 

「後で王室に正式な謝罪とお礼をしますが、今日の所はこれをお納め下さい……」

「あ、これは有り難う御座います」

 

 それを手渡しても頭を上げないラインに、ルハルは話題を変えた。

 

「……そうだ、あたし達はさっき、敵のメタルキングの槍を拾いまして。そちらで保管して欲しいのですが」

 

 ラインは顔を上げた。

 

「おお……、自動で回収する宝箱に入っていた物ですね。メカニズムの手掛かりになるか調べさせます……!」

「槍は表の馬に持たせてますので。王室に献上したいので、出来れば後で返して下さいね。それと……、ウチのセイランとガーデンに電話が繋がらないので、電波障害か何かが起こっている所に、誘拐された人達も居ると思います」

「はい。御協力、感謝します。それでは今日は失礼させて頂きます……!」

 

 ラインは立ち上がると再び深く頭を下げると、その場を後にした。

 入れ替わる形で、ネツヤナヤの母でありツタァグの妻であるアリアがやって来た。

 静かに涙を流しながら、ルハル達に頭を下げた。

 

「あの娘ったら、皆さんにまた手間を取らせて……、本当に申し訳有りません……」

「いえいえ、大丈夫ですよ。寧ろ謝るのは力が足りない私達の方です。どうか御容赦を……。貴女は旦那さんと娘さんの心配だけしていて下さい」

「ただ、あの娘の自業自得とは言え、どうか娘と夫を助けて下さい……! お願いします……!」

「何としても無事にお帰しします。期待していて下さい……!」

 

 ルハルはアリアの肩を掴んだ後、自らの胸を拳で叩き、元気付けた。アリアは涙を拭って頷くと、「お願い、します……」とその場から去った。

 それを見送ると、ルハルは足を崩して座った。

 

「やれやれ。謝っても謝られても疲れる……」

「形式上の事だろ」

 

 突っ込んだドロップは、グィネヴィアに頭を小突かれている。

 いがみ合いを始めた二人を、ルハルは手を叩いて制止させた。

 

「はいはい、ケンカは敵とやって。取り敢えず今後の目的は、セイラン達との合流と人質の奪還。とは言え、持ち場を離れられないし捜査権も無いから、警察の情報を待って、それに伴って上の指示を受けての行動とする。異議は?」

『異議無し』

 

 掴み合うドロップとグィネヴィアは同時に返事し、ルハルは彼等を順次指差し、指示する。

 

「良し……。トローリさん、皆にお茶。少し休んだらギネは怪我人の治療。ドロップはあたしと、怪我人の救助に当たる様に。トローリさんは炊き出しとかの求人が有ったら手助けして」

『了解っ……』

「了解~」

 

 覇気有る二人の返事に、トローリの伸びた声が続いた。




設定集

ドラグ式洗濯機
種族:ドラゴン
呪文:無し
特技:ヘヴィチャージ、薙ぎ払い、特定物分解液(1撃目で守備力を0にする。2撃目以降は大ダメージ)
追記:リッヂの実子
ドラム式洗濯機によく似ている
ヘヴィチャージは重力と質量を2倍にする
特定物分解液は、発射前に「溶かす」と意識した物しか溶かせない

(りゅう)
種族:ドラゴン
呪文:メラ系
特技:体当たり(自身はノーダメ)、眩しい光、ソニックブレス(バギ系の範囲攻撃)
追記:リッヂの実子
クーペ車に酷似
光速に近いスピードで走り、ソニックブーム等も発生しない。重力を振り切る事も無い

AC(エーシー)ドラゴンType-C(タイプシー)
種族:ドラゴン
呪文:無し
特技:甘い息、凍える吹雪、輝く息
追記:肋骨がカゴの様に変化している
捕まった者は、力とMPが0になる
小柄でも、骨の隙間から出る事は不可能

AC(エーシー)ドラゴン
ゲングイトの実子の、サポート役のシリーズ。ACは、『アシスタント・クリーチャー』の略

王室の職員の階級
特に護衛係の役職名は、係員、班長、主事、主任、主査、主幹、主務、参事、係長の順にランクアップする


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雪中の思考・行軍訓練

国名は今になって考えました


 リッヂのバシルーラにより街から飛ばされた数秒後、フバーハで守られたセイランとガーデンは吹雪く夕闇の雪山で、長い轍を作った先に横たわっていた。

 ガーデンが身を起こし、辺りを見回す。

 

「どこなんだ、ここは……?」

「さあなぁ……」

 

 ガーデンの質問に答えるべく通信機を確かめ、「圏外」と表示された画面に舌打ちしながら、セイランは立ち上がる。

 

「景色も見えない位のスピードでブッ飛ばされて来たもんな……」

 

 ガーデンも自分の通信機で繋がらない事を確認して、悪天候でぼんやりとしか見えない山脈を見る。

 

「俺の端末も駄目だ。しかし……、二人同時に故障も無いだろうから、奴等が電波障害を引き起こしてる様だな……」

「その通り……。研究成果が他所に漏れては困るからね……」

 

 いきなり二人を影が覆って、声が聞こえた。

 反射的に二人は武器を構えて見上げる。上空に居たのはゲングイト。赤い目で二人を見下ろしている。

 ガーデンは、ゲングイトのその目を特に凝視する。

 

「アイツは……?」

「話に聞いてた、ゲングイトだな……?」

 

 セイランの質問に、ゲングイトは「第二王子も、竹馬の友の躾が甘いな……」と嘲笑った。

 ガーデンの瞼が反応した。

 

「セイラン殿、初対面ならフルネームで訊いて当然。『幹部の一人、ゲングイト=ゼブガガ様ですか? 』と。ま、そんな事はともかく、この爺さんの研究所へようこそ」

「ちょっと待て。この星は『レンク王国』の物だ。何を勝手な事を──」

「だったら今から私の物だ。君達の身柄もな……」

「! そうだ、連れ去った人達はどこだ!? 帰せ、今すぐ! さもないと……!」

 

 魔力を溜めるセイランに、ゲングイトは手をヒラヒラさせた。

 

「まあ待て。この爺さんは、若いのや中年を相手に暴力を振るう程若くは無い。やるなら我慢大会で勝負だ。魔法の類いは使うなよ? ルール違反すれば、観察対象達を処分する」

「く……」

 

 セイランは渋々、溜めた魔力を引っ込めた。

 

「ひ弱な生物なりに良い判断だ。ドラゴンならこの程度、涼しいにも入らんが」

 

 腕組みするゲングイトにガーデンは顔を曇らせ、セイランの肩に手を置いた。

 

「セイラン……、ここは一旦退こう。敵地に二人だけ、まして、用意も無しに雪山に居ては危険過ぎる」

「ガーデン……?」

 

 不審がるセイランだが、ゲングイトは拍手した。

 

「ああ、益々良い判断だ。この爺さんはこの山の頂上の、更に上の研究所に居る。いつでも掛かって来い。待ってるぞ……。ゴフフ……」

 

 それを捨て台詞として、ゲングイトは羽ばたきながら飛び去って行った。

 

「何しに来たんだ、一体……?」

「その前に、どこかに山小屋とかは無いか? フバーハが掛かってても寒過ぎる」

「そうだな……」

 

 セイランは超越の義眼を起動させ、やや下方に目を止めた。

 

「あそこの岩影から熱が出ている。何かが有るんだ、あの辺に……」

「分かった。雪中訓練がてら歩いて行こう。武器をストック代わりに使え。滑るなよ?」

「念じボールで飛ばなくて良いのか? ファイアフォースとか?」

「ここは敵地と言ったろ。リッヂが近くに居て、またマホトーンで撃墜されても不思議じゃない」

「そうだった……」

「良し、行くぞ。そして、あのゲングイトのヤツに付いて説明する……!」

 

 ガーデンが勾配が緩やかな所を先行し、足元を踏み固めて、武器を滑り止めの杖として使う事で安全を確かめながら少しずつ進み、言葉を続ける。

 

「最初に確認したいが、お前、トローリが何歳か分かるか?」

「いや、見当も付かない。魔物だしな……」

「だよな。俺も魔物だ。魔物は生まれてから死ぬまでほぼ同じ姿だ。なのにアイツ、俺が中年だと見抜いていたのだ」

「言われてみれば確かに……。偶然か……?」

「いや違う。お前と第二王子が深い付き合いだと言う事も、何故かアイツは知っていた。俺達は分かり切ってるから話題に出さないし、部外者には言う必要の無い事だ」

「つまり何か? ゲングイトは他人の頭を覗けるって言うのか?」

「……そうだとしか思えない。俺はゲングイトの姿に疑問を持ってたんだ。目ん玉は沢山付いてる様だが、赤い目でしか見てなかった。大方、一つ一つに特殊能力が有る」

「すると……、俺達の情報が向こうに全部バレたのか? その事を暗に俺達に言った?」

「対してコッチは、アイツのデータは無い。だからここは戦いを避けなくてはならなかった」

 

 セイランが足を滑らせ、ガーデンがそれを支えて、再び進む。

 

「で、セイラン。俺達がこれから取るべき行動は?」

「早めに帰還し、戦力を整え、民間人奪還に移る事」

「そうだ……。だがあのサソリみたいな奴は、アストロン状態でも動いた……。幹部と言うからには、ゲングイトもジャンルは違えど同格の能力を持つ筈だ。戦闘になった時に凌ぎ切れるか……?」

「かなりキツいな。リッヂはバギムーチョ2発でも指を落とすのがやっとだったし、しかもホイミで完治しやがった。それ以上の威力では巻き添えを気にしないといけないが、アイツ等、人っ気の在る所にしか出て来てないし……」

 

 突風が吹き、二人は一旦足を止め、岩場に隠れた。ガーデンが案を出す。

 

「一応、ジヌバーンは猛毒の霧で咳込んでいた。だから目潰しとかは効くかも知れんが、それでは足止めにしかならない……」

「常識的な範疇では奴等を倒せないのか?」

 

 風が弱まったのを見計らい、進行再開する。

 

「政府も、何とか穏便に解決しようとするだろうが、或いはそれも無理だろうな」

「ん。それは何故?」

「取り引きを持ち掛けた場合、リッヂみたいなスカした奴なら『メシ奢ってくれたらな』とか言うんだろうが、ドラゴン達は食事さえ不要な可能性が高い。ケツの穴が無い様だ」

「じゃあ、どうすれば……」

「金品ではなく能力や結果を要求する筈だ。だから威力偵察をして来てるんだ」

「例の宇宙人とかが攻めて来た時、ドラゴンに頼るなって?」

「そんな所だろうな……」

 

 そこまで喋って、丁度山小屋に到着した。




設定集

魔物の年齢
魔物は外見上、成長も老化もほぼ無い

セイラン班の身長
セイラン(約175cm)
ガーデン、グィネヴィア(約2m)
ルハル(約150cm)
ドロップ(約130cm)
ダイチ(約5m)

ドラゴン達の身長
リッヂ、ジヌバーン、ゲングイト、ヴァイア(約10m)
ボーアン(頭頂高、約60m)
グラウナード(体長、約40m)
ドランノージェ(約1km)

セイラン班の年齢
セイラン(20)
ガーデン(47)
グィネヴィア(22)
ルハル(41)
ドロップ(36)
ダイチ(29)
トローリ(32)

ドラゴン達の年齢(実年齢/精神年齢のイメージ)
ジヌバーン(23457歳/30歳前後)
リッヂ(23460歳/30代)
ボーアン(24474歳/40代)
グラウナード(24523歳/50代)
ヴァイア(24597歳/50代)
ゲングイト(24665歳/70代)
ドランノージェ(27563歳/50代)


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教えるゲングイト先生

ヴァイアの姿は、当初ドランノージェに使う予定でした。そして、以前出した姿はボツだったのを修正し忘れたと言う失態。
後、段落字下げの方法がやっと分かりました。


 自分の研究所兼アジトに、異空間から進入したゲングイト。

 薄暗い部屋の内装は大きなデスクセットが一つ。壁一面、机の高さから天井までが、刑務所の様に独房で埋め尽くされている。但し通常の牢屋と違って、エアコンや調理器具、テレビに冷蔵庫も揃っている。

 リッヂとジヌバーンが、捕まえた熟睡中の人々をタイプCから取り出し、一部屋につき一人、その部屋に収容して行く。

 ヴァイアは、触手で部屋の設備の動作チェックをしている。

 

「おーう皆。やっとるかね?」

 

 ゲングイトが挨拶をし、女だけを運ぶリッヂが苦笑し、男だけを運ぶジヌバーンは不平を漏らした。

 

「入口から入って来いよ、別に『ドラゴン専用世界』からじゃなくて」

「あー……、女を殺したい……」

 

 それ等の意見をほぼ無視し、ゲングイトは言う。

 

「汚ならしいこの世界の、それも下等生物達と同じ空気を吸ったんだ。少し肺を掃除しないと。この世界を見たから目の保養も兼ねてな」

「潔癖なのが欠点なんだよな、ギャオホホ……」

「ゴッフッフ……。汚ないとは言ったが、『ドラゴン専用世界と違って、統一感が無い』って意味でもあるのさ……。まあ確かに潔癖症の気は有るな」

 

 ゲングイトが、机の上に個別に用意された独房の、水洗トイレや冷暖房の動作チェックをしている生首ドラゴンに話し掛ける。

 

「ヴァイア、手間掛けさせたな。彼等、彼女等は文明の利器が無ければ生きられないのでな。しまいにゃこの建物や本まで」

「良いって事よ」

「あっと、ネツヤナヤ親子は机の上の部屋に入れておけ」

 

 ゲングイトは、収容されている人々を青い目で一通り眺め、折り返して赤い目で観る。そこへ話し掛けるジヌバーン。

 

「で? どんな事が分かった?」

「結論から言えばこんな平民でも、誰もが鍛えれば1万年前の戦闘員半分位の戦力は身に付けられる」

「半分……? やっぱり弱くなってんな。あのオーガの女も現代ではかなりの達人っぽいが、メラガイアーをあの大きさに縮めるのが精一杯の様だったし」

 

 ジヌバーンが苦言を呈した。それにゲングイトがフォローする。

 

「居ないよりマシさ。それにイザとなれば多少改造すれば良い」

 

 リッヂが話に割り込んだ。

 

「改造するならロボット作った方が早いじゃん。それより歴史だよ。あの銀バエは一体何なんだ? 何で1万年も前の言葉が通じる?」

「まあ待て。順を追って説明するから」

 

 ゲングイトが円椅子を用意し、リッヂ、ジヌバーン、ヴァイアがそれに座る。ゲングイトも机の椅子に腰掛けた。

 

「で、俺達が敗戦したのは、今から1万と186年前の12月25日。宙人(そらびと)の起源は9986年前の12月25日だ」

「ふーん、丁度200周年なんだ。何か作為的な物を感じるが」

 

 リッヂが関心を示した。

 

宙人(そらびと)は初め、隕石に付着していた細菌だったが、急速に進化したらしく、細菌の一つ一つが七日後に現在の姿になり、当時の人類と戦争を始めた……」

「最初は虫ケラ以下だったのかよ。それに正月から付いてねーな」

 

 ジヌバーンの突っ込みにゲングイトは「ゴフフ」と笑って、続ける。

 

「開戦時の人口は概数で113億人。対して宙人(そらびと)は4500人。この戦争は『明けの大戦』と呼ばれ、宙人(そらびと)によって、人類も文明も壊滅寸前にまで追い込まれたんだそうだ。因みに隕石が落ちて来たのは『流れ災厄事件』だと」

「名前はいい。それだけ圧倒しといて何故負けそうになる? ホント弱々しい奴等だな」

 

 ジヌバーンが先を急がせた。

 

「それはだな。かつてオーガが火に、ウエディが冷気にそれぞれ強かった様に、宙人(そらびと)もとある能力を持っていた。それは、『仲間の地力を何倍にも増し、技や知識は共有出来る』と言うものだ。100倍単位で強化する個体も居たと言う」

「銀バエと愉快な仲間達が着けてる腕輪が、それ絡みか」

 

 リッヂが冗談めかして見解を述べた。

 

「うん、そうだ。現在では交雑が進んだせいでか、強化能力は腕輪が無くては発現出来ない程弱まり、強くなれても3割増し前後だ。それと、強化能力は一人一人が宙人(そらびと)全員からの強化を受ける。しかし強化能力を強化する事は、当時でも出来なかったらしいな」

「肝心な所で使えない……」

 

 ヴァイアの苦言に、ゲングイトも頷いた。

 

「……で、年末にその大戦が終わりはしたが、文明は中世レベルに後退して、混乱に乗じて世界各国が覇権を巡って、9744年前まで争った。勇者賢者・粗製濫造時代と言うらしい」

 

 ゲングイトは咳払いをして喉を整え、軽く息を吸った。

 

「それ以降は8216年前、ロボットの反乱で絶滅寸前。7532年前、核戦争で絶滅寸前。6972年前、強力なウイルスで絶滅寸前。6666年前、男女間の戦争で絶滅寸前。5249年前、食糧難で絶滅寸前……」

「しぶてえ奴等だ」

「実は間引きだったんだろ」

「ドラゴンに生まれなかった罪悪だな」

 

 ゲングイトの講義に、リッヂ、ジヌバーン、ヴァイアの順にそれぞれ感想を言った。

 

「それからは目立った争いは無い。大昔の言葉が今でも通じるのは、文化保持を繰り返したからでもある。……と言うのが、この老若男女が習った事を総じての歴史だ。何か質問は?」

 

 ゲングイトが質問を求めるが、挙手をする者は居なかった。

 

「良し。後は今の事をドランノージェ様に報告し、ついでに詳しい歴史をレポートに纏めるばかり……、と。ヴァイアは怪我人の手当てと食事の準備をしてやれ。死んだら死んだで構わん。リッヂとジヌバーンは好きにしろ」

「おう」

 

 ゲングイトは、仕事に取り掛かるヴァイアを尻目に机に向かい、紙にペンを走らせる。ペンを握った手を一振りする毎に、達筆な文字の羅列が一行ずつ紙に記入された。

 

「俺はドラゴンの世界に戻る」

「俺は暫くここに居るぜ。銀バエの奴等が来るだろうしな」

 

 ジヌバーンは異空間に帰り、リッヂは椅子から動かなかった。




設定集

宙人(そらびと)
9986年前に飛来した隕石に付いていた、細菌が進化した新人類。現在の人口は全種族の中で最も少ない。
大抵は宙人(そらびと)の姿で生まれた者が、強化能力を持ってい易い。

宙人(そらびと)の腕輪
宙人(そらびと)の強化能力を宿す者が送信側を着けると、受信側のステータスがアップする。何割増しになるかはお互いの素質に左右される。
但し送信者が才能豊かでも、昔の様に技や知識は与えられない。
強化能力を持つ者が複数人居る場合、重ね掛けも可能。


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寒々しい室内

ゲングイトの拠点が雪山なのは、衛生と防衛と監禁にそれぞれ向いているだろうと考えての次第です


 セイラン達の前に建っていたのは、ログハウスのそこそこ大きな建物だった。しかし、全ての窓はカーテンが閉まっており、玄関も鍵が掛かっている。

 

「変だな……」

 

 セイランは小首を傾げながらインターホンを押す。するとすぐに、訛った女性の声で応答が有った。

 

「どぢら様スか……? 救助のかだスか……?」

「何だこの喋り方……。あの、我々は王室護衛係の者ですが? 生憎、救助ではなく敵にバシルーラされて来たのですが。無論、吹雪が止んだら助けを呼びに行くので、ちょっと入れて欲しいのですが」

 

 インターホンの向こうから「はあああああ……」と深い溜め息が幾つも聞こえた。

 

「何か凄く残念がってるぞ?」

「ま、気持ちは分かるよ。大方、ゲングイトの手下に身の危険に晒されてるんだろ」

 

 インターホンを指差し嫌な顔をするセイランに、ガーデンは肩をポンポンしながら宥めた。

 そんな会話をしていると、「ドーゾ……」の声と共に玄関から鍵が開く音が聞こえた。

 

「メッチャ嫌そうな言い方だな……」

「この場は下手(したて)に出ろ……」

 

 二人は風除室に入るとすかさず鍵を掛け直し、服や靴の雪を落とすと、靴を脱いで室内に入る。しかし、山小屋の中は明かりが一つも点いていなかった。

 

「何だ? 真っ暗じゃないか?」

 

 セイランは辺りを見回すと、突如下からの光に照らされた、吊り上がった目と口が闇に浮かび上がった。

 

「どぉぅぁっ!」

 

 驚いたセイランは顔芸をしながら背後に飛び退いて、ガーデンが彼をキャッチした。

 

「思いっ切り驚くな、吹雪の魔女の人じゃないか」

「急に出て来るもんだから、つい……」

 

 下顎を手の甲で拭きながら弁解するセイラン。

 顔を照らしていた懐中電灯をセイラン達に向け、吹雪の魔女は尋ねる。

 

「アンダ()、よぐモンスタに襲われねがったね?」

「え……? いや、居ませんでしたが……」

 

 セイランが答えると、奥から数人のスタッフが現れ、口々に喋り始める。

 

「周りは氷属性の、物質系、エレメント系のモンスターだらけだ。ブリザードにアイスチャイムまで居る」

「電話も電気も止まってるよ」

「食料も燃料も限られてるし、吹雪も止みそうにない。何とかしてくれよ……!」

 

 オーガの男に、イエティ、ホークブリザードの順に訴え、詰め寄られ、セイランは後退りする。

 

「ちょ、ちょっと」

 

 たじろぐセイランの前に、ガーデンが立って話し始めた。

 

「皆さん、落ち着いて。必ず助けます。その前に……、私等、ここがどこだか分からないんですが。ここは山小屋?」

「いんえ、正確にゃ『タッチトゥースカイ(ざん)』頂上に在る測候所への、9合目中継地でごぜーやす」

 

 吹雪の魔女の答えに、ガーデンは目を丸くした。

 

「タッチトゥースカイ(ざん)? この星で一番高い山の!?」

「は。仰るとーり……。ああそうそう、ワーは責任者の『フブキ』ス」

 

 フブキの自己紹介に、他のスタッフが倣う。

 

「厨房担当、『ハンブルグ』」

「私は案内人の『エータ』よ」

「捜索・救助係『リザード』だ」

 

 オーガの男、イエティ、ホークブリザードの順で名乗った。

 セイラン達も応えて、身分証を見せる。

 

「セイラン=ブルーウェア。一応、班長です」

「ガーデン=バッシュです。ところで……、いつからこの状況に?」

「まあ、立ぢ話もなんスから、こっつぁ座って。おぢゃぐらい出しますから」

 

 フブキは照明として蝋燭に火を点け、セイランとガーデンを広間のテーブルに案内し、一旦厨房に向かうと、ティーセットを持って戻って来た。

 

「えっと? いづがらこうなった、だって? 大体……、今日の明け方ら辺かな。モンスタが出るだけじゃねくて、今は春で晴れでだのに天気も悪ぐなってぇ」

 

 フブキが紅茶を淹れ、二人に勧める。

 セイランがお茶を一啜りして、訊いた。それに返事したのはリザード。

 

「停電って、発電機を壊されたんですか?」

「いやメインなのは、近くの風力兼、ソーラー兼、『降雨雪』発電所だ。そこの様子は、吹雪いてて見に行けないし。今は薪ストーブと自家発電で何とかしてるが、節約しても限りが有る。人の気配が有れば、モンスターも寄って来るだろうしね……」

「何でわざわざ離して作ってあるんです?」

「そこは崖っ縁の広い平地で、測候所のコンピューターに大電力が必要だからって……。ここには電気の一部を回して貰っててね」

 

 次は、エータが質問した。それにはガーデンが答える。

 

「アンタ達さっき、ゲン何とかって言ってたけど、何か知ってんの?」

「1万年前の『竜族侵略戦』の生き残りが現れた事は聞いてると思いますが、その幹部の一人で。頂上の上空に陣取ってるらしいが……」

「ううん、天気が悪過ぎて頂上が見えない」

「そうですか……」

 

 ガーデンは少し考えてから、続けた。

 

「こうした所に住み込みで働くなら、定時連絡はしてるんでしょう? 最後にしたのはいつ?」

「連絡は0時。3合目の事務所宛てに」

「0時か……。モンスターが山のどこまで居るのか分からないが、ここの異変に気付いてないのか?」

「恐らくは」

「朝になったら、すぐに発電所の安否を確かめに行こう。もしかしたら電波障害の原因もそこに有るかも」

 

 セイランが出した案に、ガーデンが付け加える。

 

「そうしたいが、多分もう一人、保護しないといけない人が居る」

「ん? 誰の事だ?」

「今から夜だからどこかで休んでるだろうが、人の出入りが有る高山となると、歩荷(ぼっか)と呼ばれる荷物運び屋が居る筈だ」

「そうだ忘れてた、キースドラゴンの『ゴンドラ』さん! 昨日から仕事を再開してる筈!」

 

 リザードが慌てた声を上げた。しかし、ハンブルグは落ち着いている。

 

「いや、あの人なら大丈夫かも知れねぇ……。昔は陸軍で戦ってたって聞いた事が有る」

「退役軍人か……。場合によっては少し協力して貰う事になるかもな……」

 

 セイランが呟いたが、ガーデンがそれを制した。

 

「今はあくまで民間人だ。戦わせる事は出来ない。協力と言っても、危険が無い事に関してだけだ」

「分かってる……」

「なら良い。既に方針も少し考え付いた。セイラン……、班長のお前を差し置いて悪いが、ここは俺の意見を採用して欲しい」

「お前の作戦だ。間違い無いだろう」

「助かる。で、詳しい作戦内容だが……」

 

 ガーデンは、他のスタッフも手招きして呼び寄せ、明日の予定を話し始めた。




降雨雪発電は実在のシステムではありません。折角の未来の世界なので、有り得そうな範囲で無い知恵を絞った次第。但し、雨の摩擦での発電、『雨滴発電』が研究されてるのは本当です

設定集

降雨雪発電機
豪雪地帯の崖等に設置し、水力発電の要領で発電機を回すと共に、摩擦で発生した電気を回収する方式


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