ソードアート・オンライン~死変剣の双舞~ (珈琲飲料)
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SAO編
1話 レアアイテムは自慢したくなる


「カエデ!スイッチ行くよ!」

 

「了解!」

 

俺の名前を呼んだ声の主は合図とともにソードスキルを放った。

剣先は相手が装備している盾によって阻まれ、ダメージを与えることはできなかったがこれは計算のうちだ。ガードしたことによって敵は大きくのけぞり、硬直する。作り出したブレイクポイントを利用して俺はすかさず相手とパートナーの間に飛び込んだ。〈スイッチ〉と呼ばれる仲間との連携技だ。

 

「はぁ!」

 

水色のライトエフェクトをまとった刃が宙を舞い、眼前にいる骸骨剣士の体に炸裂する。

剣戟は1回だけにとどまらず2回、3回と連続していき5回を過ぎたところで剣は輝きを失った。高命中重攻撃技〈インフィニット〉。剣をまとうライトエフェクトが薄れていくのと同時に骸骨剣士を構成していたポリゴンが音とともに爆散した。

 

「やっと終わったかー」

 

左手に持った短剣を腰の鞘に収めて安堵の息とともに言葉をはく。戦闘なんて何度もこなしているので今更こんなことを言うのもどうかと思うが、それでも戦いに勝利し、今日も生き残れたという喜びは大きい。

 

「お疲れ。ユウキ」

 

戦闘が終了して俺は近くで一息ついていたパートナーに近づきながら労いの言葉をかける。

 

「うん!カエデもお疲れ!」

 

ついさっきまで命のやり取りをしていたにも関わらずそんなことなど一切感じさせない笑顔でユウキは俺の言葉にこたえた。

 

「今日はどうする?もうちょっと先に進む?」

 

笑顔のまま聞いてくるあたりもうちょっと先に進んでおきたったのだろう。それも悪くないが現在の時刻を見る限りこれ以上先へ行くと迷宮区を出て街へ向かうころにはおそらく夜になるだろう。そうなってくると面倒なので

 

「いや、遅くなるから今日はやめて明日また来よう。」

 

「あっ、ほんとうだ。もういい時間だね。」

 

夜になると好戦的なモンスターが多数出現する。そいつらに邪魔をされてしまうと遅い帰りがさらに遅くなってしまう。そんな俺の考えにたどり着いたのか以外にあっさり賛成してくれた。

 

「よし、じゃあ帰るか。俺はドロップした素材を売りに行くけどくるか?」

 

「エギルさんの店だよね。カエデが行くならボクもいこうかな」

 

そんな会話をしながら俺たちは74層の迷宮区をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

転移門のある街まで行き、そこから50層の主街区まで転移をする。

この転移と呼ばれる移動方法は転移門を使うほかに転移結晶というクリスタルを使う方法がある。どちらも使い方は簡単でクリスタルのほうは手に持った状態で、門のほうは近づいて転移したい町の名前を言えばいい。

 

「転移!アルゲード!」

 

こんな感じに場所を指定すると全身が青い光に包まれて光が消え去ったころにはもう転移が完了している。

 

「ね?簡単でしょ?」

 

「カエデ、なにが簡単なの?」

 

いかんいかん、つい言葉に出していたみたいだ。気を付けないと。

 

「なんでもない。独り言だよ。」

 

「ふーん。まあいっか」

 

うん。あまり気にしてない様子でよかった。

 

アルゲードと呼ばれる50層の主街区は一言でいえば乱雑な街だ。

鍛冶屋が金属を打つ金槌の音や客を寄せようと大きな声で売り込みをするNPCの店主。

どこに続いているのかも分からない細い路地がいたるところにあり、怪しげなショップが連ねている。もちろん住んでいるプレイヤーたちも癖のある連中ばかりでスラムという言葉がよく似合いそうな場所だ。

 

「いつ来てもここはにぎやかだよな」

 

「うん!お祭り気分で楽しいよね!」

 

ユウキがニコニコしながら周りを見渡している。そんな様子を見ていると攻略で溜まった疲れが吹き飛んでいくような気がするから不思議だ。

 

「カエデ、どうかした?」

 

俺の視線を感じとってか、さっきまであたりを見渡していたその眼は俺のほうに向いていた。首をかしげて聞いてくるそのしぐさもあってじつに絵になる状態だ。

 

「いや、可愛らしいなって」

 

「!?」

 

思ったことをそのまま言っただけなのだがなんだかユウキの様子がおかしい。顔がみるみる赤くなっていき表情を見せまいと下を向いてモジモジしている。

 

「どうしたんだユウキ?」

 

「な、なんでもないよ!そ、それよりも早く行こ!」

 

ほんとうに大丈夫なのか分からないけど本人もああ言ってるし大丈夫か。そう自分の中で締めくくると顔がまだ少し赤いユウキに手を引っ張られてエギルの店に向かう。

 

「カエデはボクのことどう思ってるのかな……」

 

つぶやきは誰にも聞かれることなくアルゲードのにぎやかな喧噪にかき消されていった。

 

 

 

 

 

 

広場から西に進み、多くの人とすれ違いながら数分歩くとエギルの店はあった。

店内には武器から道具などが所狭しに並べられていて、決して広くないその部屋をさらに圧迫していた。ドアを開けて店の中に入ろうとすると俺のよく知る人物と店主であるエギルが何やら話をしていた。

 

「キリト、おめぇ金には困ってねぇんだろ?自分で食おうとは思わんのか?」

 

「思ったさ。ただ料理スキルがなぁ……」

 

話を聞く限り、何かのレアアイテムを手に入れたのだろう。詳細が気になったのできいてみることにした。

 

「おっすキリト、エギル。なんかあったのか?」

 

「よぉ、カエデか。実はキリトがな―――」

 

「カエデ、見ろよこのアイテムを!」

 

エギルが言い切る前にキリトが自信満々の表情で俺にアイテムウインドウを見せてくる。

〈ラグーラビットの肉〉か。S級アイテムで味覚レベルが美味に設定されている食材だ。

大方、今日の攻略の帰りに偶然入手したのだろう。普通なら俺も羨ましがるところだが今日は違う。理由は簡単で

 

「あーそれか。確かにけっこう美味かったぞ。」

 

以前に食べたことがあるからだ。実際にドロップして入手したわけではなく隠しクエストの追加報酬として手に入れたもので最初にストレージを見たときは驚いたものだ。

 

「なんだ……と」

 

自慢するはずがすでに実食済みであることを告げられてキリトは言葉を失くす。

別にそんなに落ち込むことじゃないだろ。

 

「でも誰が調理したんだ?確かお前、料理スキル上げてないだろ?」

 

当然の質問だ。確かに俺にはあれを調理するだけのスキルは持ち合わせていない。でも今の俺にはそれを解決する相棒がいるわけだから

 

「ああそれは「ボクがしたんだよ!」……。」

 

俺が言うのより先にユウキがキリトの疑問に答える。こう見えてユウキは料理スキルを完全習得している。よってS級の食材でも扱うことができたわけだ。人は見かけによらないとはまさにこのこと。

 

「今、カエデ失礼なこと考えてなかった?」

 

……こいつは人の心を読むスキルでも持っているのだろうか。ジト目で俺を睨みつけながら聞いてくる。しかしそんな表情も可愛いもので見ていてほっこりする

「ユウキが料理スキル高いなんて知らなかったな。じゃあお願いできるか?」

 

ずれかけていた会話をキリトが戻してユウキに食材の調理を依頼する。

 

「うーん。してもいいけど別の人に頼んだほうがいいんじゃないかな?」

 

別の人?料理スキルをマスターしているやつなんてそうそういない。ましてや攻略組のソロプレイヤーであるキリトにそんな知り合いなどいるのだろうか?

 

「キリト君」

 

そんなことを考えたのも束の間。答えはキリトを呼ぶその声でわかった。

なるほど。ユウキも気が利くな。

 

「じゃあ邪魔するのも悪いしそろそろ帰るか。素材の売却にはまた今度来よう」

 

「うん!」

 

せっかくのいい雰囲気を壊さないように俺とユウキはエギルの店を出る。

 

「よかったじゃんアスナ。がんばってね?」

 

「ありがとユウキ。そういえばそっちはどう?」

 

「うーん。いろいろやってるんだけどまだまだ難しいかな……」

 

「そう…お互い大変ね…」

 

「うん…まあ頑張っていこうよ…」

 

店を出る際に小声でユウキとアスナがなにかを話していたような気がする。あいにく聞き耳スキルは取得していないので話の内容は聞き取れなかった。

 

「アスナと何を話してたんだ?」

 

「い、いや大したことない話だよ」

 

濁された。気になるな。

 

「そんなことよりも今日はなにか食べたいものある?」

 

明らかに話を変えられてしまったが笑顔で夕食のリクエストを聞かれて話に乗ってしまう俺はまだまだ甘いのだろう。

 

「うーん。今日はあっさりしたものがいいな」

 

「オッケー!楽しみにしててね!」

 

夕焼けが暗さを増していくアルゲードの街の中、楽しそうに話をしている男女の声が響く。その声は、どこまでも明るくどこまでも遠く、夕闇に溶けていった。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます
初投稿で至らぬところもあると思いますが生暖かい目で見守っていただけると幸いです。
投稿ペースに関しては1~2週間に1話投稿できたらなと考えています。
勢いで書いてしまった感じが否めませんが次回も見ていただけるとうれしいです。
ご意見・ご感想お待ちしております。


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2話 おまわりさん、こいつです

なぜおれの書く小説は文章が重くなるんだ?
SSだからもっとゆるく書きたいのに・・・
お気に入りへの追加や感想ありがとうございました!



「なかなか来ないね……」

 

「だな……」

 

「遅い……」

 

広場を移動するプレイヤーたちの動きを眺めながらユウキ、俺、キリトの順につぶやく。なぜこんなことになっているのかといえば時間は数分前に遡る。いつもどおり迷宮区の攻略をしようとユウキと一緒に74層主街区まで転移をしたとき門の近くで座っていたキリトを見つけたのだ。

 

話を聞くとなんやかんやあってアスナとパーティーを組むことになったらしく、それなら今日は一緒に行動しようとユウキが提案し、現在に至るというわけだ。

 

しかし時間になっても来ないアスナを待ってから数十分経過した。時間に正確なアスナが遅れてくるなんて珍しいのでメッセージを飛ばしてみるかと2人に相談しようとしたその時、転移門内部に青いテレポート光が発生した。

 

「きゃああああ!避けて!」

 

「うわあああ!?」

 

空中に実体化された人影がそのまま門の近くにいたキリトに吹っ飛んでいく。

いきなりのことだったのでもちろん避けることはできず、キリトは思い切り転移してきたアスナと衝突し、地面に転がる。難を逃れた俺とユウキは倒れこんだ2人に手を貸すべく近づこうとするが、そのとき――――

 

「ん……なんだ?この感触……」

 

目の前で下敷きになっていた黒の剣士様はアスナの胸部に手をあてて開閉しだすという紳士的な行動(もちろんわざとやっているわけではない)を始めだした。

 

「や、や―――っ!!」

 

大音量の悲鳴が上がり、当然キリトは殴られてまた吹き飛ぶ。

耳まで真っ赤にさせてアスナはキリトを睨み付けるがこわばった笑顔のままキリトは

 

「や、やあ おはようアスナ」

 

と紳士的な態度を崩さないまま口を開く。

 

アスナを纏っている殺気が一瞬強まった気がしたが、再び青く発光した転移門をみてアスナはキリトの後ろに回り込んだ。

 

「なん・・・?」

 

最初は何のことか分からなかったがゲートから出てくる人影を見てすぐに理解できた。

昨日アスナに付き従っていた長髪の男。確かクラディールという名前だったはずだ。

 

「アスナ様!勝手なことをされては困ります!」

 

ゲートから出てくるや否やキリトの後ろに隠れているアスナを見つけると甲高い声を響かせてクラディールは更に言い寄った。

 

「さあ、ギルド本部まで戻りましょう」

 

「嫌よ、だいたい、アンタなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!?」

 

相当キレ気味な様子でアスナが言い返す。が

 

「ふふ、こんなこともあろうと思いまして、一か月前から監視の任務についておりました」

 

などと得意げな返事をして俺を含めた4人を凍りつかせる。

いくらか間をおいてアスナが聞き返すが、自宅の監視も護衛に含まれると言ってしまう始末だ。こいつ完全にアウトだろ・・・

 

「ふ・・・含まれないわよバカ!!」

 

アスナがそう言った途端にクラディールは怒りと苛立ちを強めてつかつかと歩み寄ると、キリトを押しのけてアスナの腕を掴んだ。

 

その瞬間、傍らにいた俺たちにアスナがすがるような視線を向けてくる。

いい加減、介入したほうがよさそうだと思っていたのだが俺が動き出すよりも先にキリトが動いた。

 

「悪いな、お前さんのとこの副団長は、今日は俺たちの貸切なんだ。」

 

アスナを掴んだクラディールの右手首を握りキリトがクラディールの歩みを止めさせる。

 

「そういうこと。アスナの安全は俺たちが責任持つから本部にはあんた一人で帰ってくれ。」

 

「カエデの言うとおりだよ!今日はボクたちがアスナとパーティーを組むんだ!」

 

少し遅れて俺、ユウキの順でクラディールにアスナを解放するようにいう。

今まで敢えて俺たちの存在を無視していたクラディールはキリトの手を振りほどくと、

 

「貴様らァ・・・!」

 

耳を塞ぎたくなるよう軋む声で唸った。

 

「ふざけるな!!貴様らのような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるかぁ!私は栄光ある血盟騎士団の・・・」

 

「ふざけているのはお前のほうだ。俺たちのほうがまともに務まる。」

 

この一言が余計だと気づいた時にはもう遅かった。

 

「ガキィ・・そこまででかい口を叩くからにはそれを証明する覚悟があるんだろうな」

 

クラディールは怒りで震える右手を動かしウインドウを呼び出すと素早く操作した。

即座に、俺の視界に半透明のシステムメッセージが出現する。クラディールからのデュエル申請だ。俺にしか見えていないウインドウだがアスナたちも状況は察しているのだろう。

止めるのかと思っていたのだがアスナは硬い表情のまま小さく頷いた。

 

「カエデ!そんなやつ懲らしめちゃえ!」

 

ユウキにいたっては俺に応援なんてくれてる。・・・・いいのかそれで。

 

「はぁ・・めんどくさ」

 

正直戦いたくなかったがそれだとあの護衛さんが収まりそうもないので俺はメッセージを受諾した。〈初撃決着モード〉が選択されてその下で60秒のカウントダウンが開始される。

 

ちなみに〈初撃決着モード〉では最初に強攻撃をヒットさせるか相手のHPバーを半減させたほうの勝利となる。他にも種類があるのだがデュエルと言われれば大抵がこのモードだ。

 

クラディールはアスナの首肯を都合のいいように解釈したのだろう。

 

「ご覧くださいアスナ様!私以外に護衛が務まる者などいないことを証明しますぞ!」

 

と叫び、仰々しい仕草で鞘から剣を抜いて構えた。ユウキたちが数歩下がるのを視界の隅で確認して、俺も腰から短剣を抜いて逆手に持つ。カウントが一桁になると周りの雑音は聞こえなくなった。感覚が研ぎ澄まされていくのがわかる。

 

〈DUEL!!〉という開始の文字が表示されるのと同時に俺は地面を蹴った。

それに一瞬だけ遅れてクラディールが動き出すがその表情は驚愕に染まっていた。

おそらく俺の姿が確認できていないのだろう。発動させようとしていたソードスキルをキャンセルさせてまわりを見渡している。

 

「どこだ!?」

 

甲高い声で叫びながら俺を探しているがもう遅い。

 

「はぁっ!」

 

俺はクラディールの背中に近づき短剣ソードスキル〈アクセルレイド〉を発動させる。

攻撃は外れることなく3連撃ともクラディールにヒットし、HPバーを半分減らすことに成功した。普通ならば短剣にここまでの威力はないのだが今回は相手の油断も相まって隙だらけ。そこにクリティカルで攻撃をヒットさせるのはなんら難しくない。

 

ソードスキルが終了するのと同時にデュエルの終了と勝者を告げる文字列がフラッシュした。

しばらくの間、沈黙が広場を覆ったが俺が剣を腰にしまうと、わっと歓声が巻き起こった。

すげぇ、いまの何したんだ?とギャラリーたちが口々に言ってるのを聞きながらまだうなだれているクラディールに近づく。

 

「まだ戦いたいなら付き合うけどどうする?」

 

言葉を聞いてクラディールは剣を握りしめたまま俺を見据えた。犯罪防止コードに阻まれるの承知の上で斬りかかろうと考えているのだろう。そんな緊迫した空気の中、アスナがスッと歩み出る。

 

「クラディール、本日を以て護衛役を解任。別名があるまで本部で待機。以上」

 

その声は表情以上に凍りついた響きだった。

 

「なん・・・なんだと・・・」

 

かろうじてその言葉だけが聞き取れたがそれ以上は聞きとれなかった。

口のなかで何かをぶつぶつと呟きながらマントから転移結晶を取り出すと、クラディールは本部があるグランザムを指定して転移していった。最後の瞬間まで俺たちに憎悪の視線を向けながら・・・

 

「お疲れさま!カエデ!」

 

さきほどのクラディールの憎悪を感じてないわけではないだろうが後味の悪い空気のなか、明るい声でユウキが労いの言葉をかけてくれた。

 

「ありがとなユウキ」

 

その声におれはユウキの頭を撫でながら答える。

 

「わぁ!?カ、カエデ!?//////」

 

少し驚いていたが嫌がってなさそうだし大丈夫だろう。これで嫌がられたらショックで寝込んでたかも。

 

「お疲れさんカエデ、それよりさっきの面白い戦い方だったな」

 

「お、もしかして分かった?」

 

「隠蔽スキルだろ。お前と何回デュエルしたと思っているんだ?」

 

「ご名答。でもまだ俺の勝ち越しだからな」

 

「ぐっ・・・」

 

痛いところを突かれたと言わんばかりにキリトが顔をしかめる。

 

さっきの戦いはキリトの言った通りに隠蔽スキルを使った戦い方だ。このスキルは本来、敵を待ち伏せたり、やり過ごすのに使うスキルなのだが高速で動き回ってこれをつかえば一瞬だけだが相手から自分を見えなくすることができる。さらに今装備している防具のスキルのおかげでこれを連続で行なえる。結果クラディールが俺を見失ってしまったわけだ。

 

まあ戦闘中に索敵スキルを使われたりすると看破されるし、最初の移動で敵の視界から外れることが大前提なのでなかなか難しいけど。

 

「ごめんね、みんな。巻き込んじゃって」

 

アスナが申しわけなさそうに謝ってくる。

 

「いや、大丈夫だって。それにたまには俺たちみたいなのとパーティー組んで息抜きしたって誰も文句は言えないだろ」

 

キリトが気の利いた言葉をアスナにかける。たまには良いこと言うじゃん。コミュ障のくせに。

 

「おい、カエデ今変なこと思っただろ」

 

・・・みんなやっぱり読心スキルでも持ってんの?それとも表情に出てんのかな?

 

「な、何も思ってないって!それよりみんな!今日はキリトが前衛してくれるらしいぞ!」

 

「わあ!さすがキリト!」

 

「ありがとね。キリト君」

 

「いや、前衛は普通交代だろ!?」

 

重苦しい空気はもうそこにはなく、広場にキリトのツッコミが響いた。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回は話をうまく区切るために1話の文字数が少し減ります。
ご感想・ご意見お待ちしてます


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3話 そりゃ逃げるわ

秋風 楓 (あきかぜ かえで)
プレイヤーネーム:カエデ  
性別 男

使用武器 短剣

本作の主人公でSAO最強プレイヤーの一人。急所を的確に狙い、必要最低限の攻撃で相手を殺すさまからプレイヤーの間では〈死神〉の名で呼ばれている。また高い隠蔽スキルを持ち、それを戦闘に織り交ぜて戦うので〈死神〉の名をさらに助長することになっている。
相手へのクリティカル率が異常に高いこともあってユニークスキルのひとつである
〈死変剣〉を得ることになる。

〈死変剣〉
取得条件:敵へのクリティカル率が最も高い者。
短剣のみ2本同時装備可能
背後からの攻撃にダメージアップ補正がかかるほか、攻撃した相手を麻痺や毒などの状態異常にさせる効果も持つ。(それらは蓄積制で一定値が溜まると状態異常になる)かなりのチート性能だがスキルを使用中はプレイヤーの体力が徐々に減っていくようになる。



「もう、あいつらだけでいいんじゃないかな・・・」

 

「うんっ、あの二人すごいよね!」

 

現在地は74層迷宮区の最上部中間地点。モンスターとの遭遇も多くなってきて、現在も絶賛戦闘中・・・なのだが戦闘とは名ばかりで俺とユウキはまともに戦っていない。

 

「キリト君、スイッチ!」

 

「おう!」

 

理由は簡単でさっきからあのバーサク夫婦が敵を見つけては速攻で倒しているからだ。

キリトとアスナのコンビネーションから繰り出される剣技は流麗な舞いを見ているようで戦闘への参加を躊躇わせてしまう。それほどに二人の息はぴったり合っているのだ。

 

「やった!」

 

そんなことを思っている間に戦闘が終わったらしい。キリトとアスナがハイタッチをしている。

 

「お疲れさん」

 

「お疲れ!キリト、アスナ」

 

戦闘が終わった二人に俺とユウキは近づきながら声をかけた。

 

 

それからは大したエンカウントもなく、俺を含めた四人は円柱が立ち並ぶ回廊を進んでいった。奥にいくにつれてオブジェクトが凝ったものに変わっていき、マップデータの空白部分も残りわずかになる。おそらく近くに・・・

 

俺は自分の直感を頼りに索敵スキルを発動させた。スキルの恩恵を受けて先に広がる暗闇の明度がどんどん上がっていく。索敵スキルには敵や隠れているものを見つける以外に遠すぎて見えない範囲を見ることができる能力がある。もちろん範囲にも限度があるしこのレベルまでいくにはかなりスキルの熟練度を上げないといけないわけだが・・・。

 

目的のものは回廊の突き当りに見えた。怪物のレリーフがびっしりと施された灰青色の巨大な二枚扉。

 

「なあ、あの扉ってやっぱり・・・」

 

キリトも扉の存在に気付いたのだろう。全員に聞かせるように声に出す。

 

「ええ、おそらく」

 

「間違いないだろうな」

 

「ボス部屋だね・・・」

 

部屋の扉から流れ出る形容しがたい空気を感じ取ってか、キリトの返事に短い言葉でしか返せなかった。フロアボスと戦うわけではないのに空気がピリピリとしている。おそらく全員が緊張しているのだろう。

 

「カエデ、どうする?」

 

声に不安をにじませながらユウキが俺に意見をもとめる。いつもあんなに明るいユウキでもこういうシチュエーションは苦手なのだろう。キリトとアスナも俺の言葉を待っているみたいで視線をこちらに向けている。

 

「ボスは部屋からは出ないはずだから見るだけならたぶん・・・大丈夫」

 

「・・・一応、転移結晶用意しとくか」

 

「うん」

 

「だね」

 

キリトの言葉にならい全員がポーチから転移結晶を取り出す。

 

「じゃあ・・・開けるぞ・・・」

 

結晶を握りしめたまま空いたほうの手で扉に手をかける。ゆっくりと力を込めると、それに反応したのか巨大な扉は見た目に反して滑らかに動き出す。張りつめた空気の中、完全に開ききった扉はずしんという衝撃と共に停止し、部屋の内部をあらわにした。

 

内部は完全な暗闇でいくら索敵スキルを使い、目を凝らしても部屋の奥を見ることはできない。

 

「・・・・・・」

 

部屋の奥へ進むかみんなに聞こうとしたその時、突然入口付近にあった燭台二つに青白い炎が燃え上がった。すぐに、少し離れた燭台にも炎が灯る。それを繰り返し、入口から部屋の中央にむかって炎の道ができる。光源を得た部屋は、青白い光に包まれその全容を明らかにさせていった。

 

ユウキが俺の左腕にぎゅっとしがみついてきた。一瞬やわらかさを感じたが眼前に現れつつある巨大な姿を見て、もうその感触を楽しむ余裕など俺にはなかった。

 

引き締まった筋肉に包まれた深い青色の身体。山羊を彷彿とさせるその頭は、両側から太いねじれた角がそそり立ち。体にも負けないくらい青い眼は俺たち4人に据えられていた。

 

つまるところボスの姿は悪魔そのものだった。

 

おそるおそるボスの頭上に出現したカーソルに視線をあわせる。

<THE Gleameyes>、名前に定冠詞がついているのでフロアボスとみて間違いないだろう。

そこまで確認した時、青眼の悪魔は轟くような雄叫びを上げた。あ、これやばくね?と口に出す間もなく、ボスはまっすぐこちらに向かって、猛烈なスピードで走ってきた。

 

「「「「うわあああああ!」」」」

 

同時に悲鳴を上げ、くるりと方向転換すると全力でダッシュした。ボスは部屋から出ないという原則は分かっているが悪魔と対峙するという原始的な恐怖が逃走を選択させた。

俺とユウキもその例に漏れず高い敏捷度を最大限に発揮させて、来た道を全力で逃げた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!
今回は文字数が少なくて申し訳ありません
代わりと言ってはなんですが埋め合わせに主人公の設定とイラストを載せました
次回もよろしくお願いします


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4話 なにこの可愛い生物

紺野 木綿季 (こんの ゆうき)
プレイヤーネーム ユウキ
性別 女

使用武器 片手剣

本作のヒロインでカエデと同じくSAO最強プレイヤーの一人。SAOでは珍しい女性プレイヤーの上、五指に入る美少女なので知らぬ者はいないほどの有名人。圧倒的な強さから〈絶剣〉のふたつ名を持っている。カエデのことが好きでコンビになるまでは漕ぎ着けているがまだ踏み出せていない様子。原作では病気によって命をおとしてしまうが、作者の熱い要望により(どう見てもただの我儘です。本当にありがとうございました。)もし健康体でSAOをプレイしていたら?という設定で参加。病気なんて最初からなかったんだ・・・。

追記

フルダイブ時間は原作と違い、キリトたちと同じなので絶剣の強さには多少の下方修正がかかっています。それでも十分強いですが・・・



「にしても思いっきり逃げたな」

 

「うん!久しぶりに本気で逃げた気がする!」

 

「私もすっごい久しぶりだよ。まあキリト君が一番凄かったけどね!」

 

「・・・・」

 

安全エリアに指定されている部屋に飛び込んで一息つくと、さっきの逃走劇について話をしていた。キリトがアスナから指摘を受けてバツの悪そうな顔をしているが、冗談抜きでキリトの逃走速度は尋常ではなかった。敏捷寄りにステータスを振っている俺やユウキ、アスナにしっかりついてきてなおかつ追い抜こうとしていたくらいだ。

 

そんなキリトの表情を見てアスナがくすくすと笑い続けていたが笑いを収めると

 

「あれは苦労しそうだね・・・」

 

と引き締まった表情に切り替える。

 

「だな。見た感じ特殊攻撃・・・ブレスとかありそうだな」

 

「確かに・・・ボク、ブレス苦手なんだよなぁ・・」

 

「盾装備が10人は欲しいな・・・。まあ当面はちょっかいを出すことになるだろうけど」

 

俺、ユウキ、キリトの順でアスナの言葉に反応する。たしかに一筋縄じゃいきそうにない相手だし盾装備のやつがたくさん欲しいのも事実だ。でもキリトよ。いいのか?墓穴を掘って。

 

「盾装備、ねぇ」

 

声をかけようとしたが、アスナのほうが早かった。意味ありげな視線でキリトを見ている。

 

「君、なにか隠してるでしょ」

 

「いきなり何を・・・」

 

「だっておかしいもの。片手剣のメリットって盾を持てることでしょ。でもキリト君はそうしない。速度とかスタイル優先で装備しないって人もいるけど、君の場合はどちらでもないよね・・・あやしい」

 

正直なところ、アスナの予想は当たっていた。キリトにはひとつ、隠している技がある。それも秘密兵器と呼べるほどのやつを。

 

「そういえばカエデもだよね?」

 

「え?」

 

「だってそうじゃん。リズに作ってもらった短剣だってほとんど使ってないし。性能も今、使っているやつとそんなに変わってなかった。なにかあったの?」

 

「・・・・」

 

ほら、キリト。俺まで被害にあったじゃん。まあ俺の場合はそろそろ話そうとしてたからいいけど・・・

 

「まあ、いいわ。スキル詮索はマナー違反だもんね」

 

「うーん・・まあいつか教えてね?」

 

どこから話せばいいかと考えていたがアスナの言葉によって、いったんこの話は終わりを迎えた。

 

・・・・いつ話そうか。 今でしょ!とか思ったやつは自分のID×100ほど腹筋な

 

「じゃあ、遅いけどお昼にしましょうか」

 

視線を時計に合わせて時刻を確認するとアスナはそう宣言した。

そういえばいろいろありすぎて確認してなかったもんな。

 

「なにっ」

 

急に色めき立つキリト。相変わらずの食い意地だ。

 

「愛妻弁当・・・青春だねぇ・・・」

 

「あ、愛妻!?私はまだキリト君とは・・・」

 

俺のいじりに面白いくらい反応をして自滅するアスナ。

 

「ほう。つまり予定はあると?」

 

「いや、だからその・・・」

 

顔を真っ赤にさせ、途端に口を閉じる。キリトも脳の演算が間に合わないのか黙ったままだ。もちろん顔は赤い。

 

「いいなぁ・・・」

 

そしてユウキがなにかをつぶやいた気がするが気のせいだろう。うん、そう思いたい。

 

「・・・早く食おうぜ、アスナ」

 

俺がそう判断しているとキリトは持ち直したのかアスナに催促している。まだ少し顔が赤いが。

 

「んじゃ、俺達も食べようぜ、ユウキ」

 

「うん!」

 

このままいじり続けるのもいいが、少しかわいそうなのでやめておこう。

まあ、食事のあとにすぐ再開するつもりだけどな。

 

そんなことを考えているあいだにユウキは手早くメニューを操作してバスケットを出現させていた。そして中から大きな紙包みを二つ取り出すとひとつを俺に渡してくる。

 

「はいっ!どうぞあなた!」

 

「 」

 

このタイミングで最も言ってはならない言葉を放ちながら。

さっきのつぶやきはこういうことか・・・。

 

「あ、あれ?カエデ?」

 

俺がフリーズしていることに気付いてかユウキが慌てて声をかけてくる。

少しは恥ずかしさを感じているのだろう。その頬はほんのり赤みを帯びていた。

そして視界の端でキリトがさっきのお返しと言わんばかりにニヤニヤしているのが見える。

・・・許さん。

 

 

 

 

 

 

和やか?な昼食を終えると安全エリアには穏やかな空気が流れていた。

アスナが自分の肩をキリトの肩に触れさせ寄り添っている。こいつらほんとに仲良いな。

そしてそれを見たユウキもゆっくりと体を俺に預けてくる。

 

「平和だね・・・」

 

「ああ・・」

 

何気ないやり取りだったが俺はそれをひどく幸せに感じていた。

最近攻略に根を詰めていたのが原因かもしれない。この層を攻略したらしばらく休養でもとるか?そうユウキに提案しようとした時。

 

不意に下層側の入口からプレイヤーの集団がやってきた。

 

「おお、キリト、カエデ!しばらくだな」

 

現れた六人パーティーのリーダー、クラインは俺たちに気付いて笑顔で近寄ってくる。

 

「まだ生きてたか、クライン」

 

「まだ独り身か、クライン」

 

「相変わらず愛想のねえ野郎共だ。てかカエデ!それは関係ないだろ!」

 

俺たちのぶっきらぼうな反応にクラインはツッコミながら返してくる。

 

「それにしてもお前らが一緒にいるなんて珍しいな。連れもいるの・・か」

 

荷物をストレージにしまい、立ち上がったアスナとユウキを見て、クラインは目を丸くした。

 

「あー。一応紹介するよ。こいつはギルド<風林火山>のクライン。でこっちは<血盟騎士団>のアスナ」

 

「そんでもって、俺とパーティーを組んでるこの女の子は<絶剣>ことユウキだ」

 

俺たちの紹介にアスナはちょこんと頭を下げ、ユウキは「よろしくね!」と笑顔で挨拶をしたが、クラインは依然として完全停止したままだ。

 

「おい、何とか言え。ラグってんのか?」

 

キリトが肘でクラインの脇腹をつついてやるとようやく動き出し、凄い勢いで頭を下げる。

 

「こっ、こんにちは!クラインというものです。24歳独身」

 

なんだか意味の分からないことを口走ってる。てか24歳だったのか。

キリトも俺と同じようなことを思ったのだろう。クラインの脇腹に先ほどより強い力で拳をいれる。

そんなコントのようなコミュニケーションをとっていると

 

「キリト君、軍よ!」

 

とアスナがささやいた。

 

軍のプレイヤーは俺たちとは反対側に停止し、どさりと座り込むと唯一座らなかったリーダーらしき人物が近づいてくる。

 

「私はアインクラッド解放軍、コーバッツ中佐だ。」

 

なんだその中二病的な階級は。

 

「キリト、ソロだ」

 

若干、引き気味にキリトがみんなを代表して答える。

引いてやるなよ。向こうはマジなんだから。しかし中佐(笑)はそれを気に留めることなく偉そうな口調で聞いてくる。

 

「君らはもうこの先も攻略しているのか?」

 

「・・ああ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある」

 

「うむ、ではそのデータを提供してもらいたい」

 

この中佐は口調だけでなく態度も横暴らしい。さも当然と言わんばかりにマッピングデータを要求してきた。

 

「な!?てめぇ、マッピングする苦労が分かって言ってんのか!?」

 

クラインがここにいるみんなの気持ちを代弁するかのごとく喚く。

 

「我々は君ら一般プレイヤーの解放のために戦っている!」

 

クラインの言葉を聞いて中佐は大声を張り上げた。

 

「反吐がでる。お前らに解放を頼んだ覚えはない」

 

俺は腰から剣を抜き、戦闘態勢に入ろうとしたが寸でのところでキリトに止められてしまった。

 

「どうせ街に戻ったら公開しようと思っていたデータだ。構わないさ」

 

「おいおい、そりゃあ人が好すぎるぜキリト」

 

「クラインの言うとおりだ。渡す必要はない」

 

俺たちの言葉にコーバッツは少しの反応も示さなかった。そしてキリトからデータを受信すると、部下を引き連れて安全エリアを出て行った。

 

「大丈夫かな・・・」

 

「いくらなんでもぶっつけ本番でボスに挑んだりはしないと思うけど・・」

 

ユウキとアスナが心配そうにつぶやく。

 

「一応様子だけでも見に行くか?」

 

全員が嫌な予感を感じていたのだろう。キリトの提案に俺たちは間を入れずに頷いていた。

 

 

 

安全エリアを出て30分が経過。こういう時に限ってたくさんのモンスターと遭遇してしまい、俺たちが軍の連中に追いつくことはなかった。

 

「ひょっとしてもうアイテムで帰っちまったんじゃねえか?」

 

「いや、あれはプライドの高い男だ。ボスを目の前にすぐ帰るとは思えない。」

 

クラインがおどけて言った言葉を俺はすぐに否定していた。キリトたちも不安が拭えないかさっきからまともに口を開いていない。

 

そしてその悪い予感は的中する。

 

「あぁぁぁ・・・」

 

かすかに聞こえたそれを悲鳴だと判断するのに時間はかからなかった。

瞬間、俺たちは声のした方向へ全力で駆けた。

 




チッ、死ねよリア充・・・
というわけで4話完成です(笑)
今回は前書きにユウキの設定を入れたのですが年齢ってあれで合っているんですかね?
詳しい方がいましたらコメントください。←おい
それと、この話から文章の行間を考えてみました。読みやすかったですか?
今までの話って文が固まり過ぎて読みにくかったような気がするんですよね・・・(汗
それでは次回またお会いしましょう!
ご意見・ご感想お待ちしております


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5話 スキルの代償

あまりにも真面目な内容になってしまったんでサブタイトルもそうなった・・・
では5話です!どうぞ!


クラインたち風林火山を置いて行く形になってしまったが仕方ない。

 

敏捷パラメーターにものを言わせて全力疾走すると、すでに左右に大きく開いた大扉が見えた。部屋内部に響く金属音と悲鳴が状況の理解を早める。

 

「おい!大丈夫か!」

 

キリトが部屋に半身を入れつつ、叫ぶ。

俺はとっさに内部にいる軍の人数を数えるが、二人足りない。

 

「キリト!二人いない!」

 

「っ!」

 

俺の言葉にキリトは顔をしかめる。転移結晶を使って脱出したのならいいがHPを全損させて消滅したとなると状況は最悪だ。

 

そう考える間にも軍の一人がグリームアイズの振り回す斬馬刀に直撃し、吹き飛びながら床に激しく転がった。HPバーは赤色に染まり、危険な状態であることを示している。

 

おまけに俺たちのいる入口と軍の部隊との間で悪魔が暴れており、このままでは離脱することは難しい。

 

「何をしている!早く転移アイテムを使え!」

 

床に倒れている男に向かってキリトが叫ぶが、男は絶望したような顔で、

 

「ダメだ・・・!クリスタルが使えない・・・!」

 

と叫び返してきた。

 

「結晶無効化空間だと!?」

 

予想外のトラップに俺は驚きを隠せなかった。<結晶無効化空間>。迷宮区で稀にあるトラップだがボス部屋がそうであることは一度もなかった。ならさっき確認できなかった二人は・・・俺が最悪の事態を想像したその時、

 

「何を言うか・・・ッ!我々解放軍に撤退の二文字はあり得ない!戦え!戦うんだ!」

 

一人のプレイヤーが剣を掲げて怒号を上げているのが見えた。間違えなくコーバッツだ。

 

「「馬鹿野郎・・・!!」

 

俺もキリトも思わず叫んでいた。部下二人が死んでいるというのにあの野郎は今更何を考えているのか。全身に怒りが込み上げてくる。

 

「おい!どうなってるんだ!」

 

その時、先ほどおいて行ってしまったクラインたちが追いついてきた。

キリトが状況を説明する。

 

「なんとかできないのかよ・・・」

 

「・・・・」

 

言葉が出ない。俺たちが切り込めば退路を開けるかもしれないが結晶無効化空間である以上それはあまりにリスクが大きすぎる。

 

「全員・・・突撃・・!」

 

俺が躊躇っているうちに態勢を立て直したコーバッツが突撃の命令を出した。

 

「やめろ・・・っ!!」

 

必死に叫ぶが届かない。あまりにも無謀な突撃にグリームアイズが一瞬だけ笑みを浮かべる。

 

そしてそのまま仁王立ちになると、雄叫びとともに青白い息を吐く。やはりブレス攻撃があったか・・・!悪魔のまき散らす息に包まれた軍の突撃が目に見えて遅くなる。

 

そこにすかさず巨剣による一撃がたたきこまれ、一人がすくいあげられるように斬り飛ばされた。コーバッツだった。

 

――――有り得ない。

ゆっくりと動いた口はおそらくそう発音していたのだろう。

 

それだけ言った直後、HPを全損させたコーバッツのアバタ―は不快な効果音と共に無数のポリゴンとなって飛散した。あまりにもあっけなくそれでいて確実に死を感じさせる光景に隣にいたアスナとユウキが短い悲鳴をあげる。

 

「だめ・・だめだよ・・・」

 

かろうじて聞こえたユウキの声。俺は咄嗟にユウキの腕を掴んでいた。

 

「カエデ・・・っ!でも・・・!」

 

早くしないと間に合わない。そう言わんばかりにユウキは俺を見つめる。

 

「わかってる。だから・・・」

 

転移結晶を使って脱出ができない以上、選択肢は一つ。誰かがボスを引き付けて戦わないといけない。それも生半可な攻撃ではダメだ。重く鋭い攻撃を与え続ける。ダメージディーラーたる俺のすべてを賭けて・・・

 

「ユウキ、アスナ、クライン!10秒だけ時間を稼いでくれ!」

 

三人に向き直ると俺は叫んだ。一瞬だけ何のことか分からないという顔をしたが三人ともすぐに

 

「うん!わかった!」

 

「まかせとけ!」

 

「わかったわ!」

 

と返事をしてくれた。そして武器を構えるとボスへ向かっていく。

 

ユウキ達が駆けていくのと同時に俺は左手を素早く振って、メニューウインドウを呼び出した。ここからは時間との勝負。鼓動が速くなっていくのを感じながら、俺は指を動かす。選択している武器スキルを変更し、装備フィギュアの右手部分に触れる。すぐさまアイテムリストが表示され、その中にある一本の短剣を選択。すべての操作を終え、OKボタンをクリックしてウインドウを消すと、腰に新たな重みが加わった。

 

キリトのほうを見やる。俺と同じ結論に至ったのだろう。すでに二本の片手剣を背に装備していた。

 

それだけ確認して、俺とキリトは3人に向かって叫ぶ。

 

「「いいぞ!」」

 

俺たちの声を聞いて、背を向けたまま頷くと、ユウキとアスナは鋭い声とともに、ソードスキルを放った。

 

「「イアヤァァァ!!」」

 

美しい残光を引いた二つのソードスキルは、グリームアイズの振り下ろした剣と衝突して強烈な火花を散らした。

耳をつんざくような音とともに三人がノックバックし、ブレイクポイントができる。

 

「「スイッチ!!」」

 

そのタイミングを逃さずに叫ぶと俺たちは敵の正面に飛び込んだ。硬直から解放された悪魔が剣を振り下ろすがキリトが剣をクロスさせて攻撃を弾く。

 

弾かれたことによってバランスを崩した悪魔の懐に素早く潜り込むと、俺は腰から剣を抜き、攻撃を始めた。

 

「はあぁぁぁ!!」

 

これが俺の隠し技、エクストラスキル<死変剣>だ。その上位剣技<レイル・ソルジェント>を発動させる。連続十二回攻撃。まばゆい光を放ちながら剣戟は左、右、上段、下段へと続いていき、悪魔の体全体に直撃していく。そして俺と同時にキリトも<二刀流>の剣技を放つ。飛び散る星屑のような攻撃は悪魔に確かなダメージを与える。たしかスキル名は<スターバースト・ストリーム>。全十六連撃。

 

ここまでの攻防で俺、キリト、悪魔ともに、HPが危険域まで落ちていた。

そしてソードスキルが終了する。俺もキリトもシステムに硬直時間を課せられてしまった。

 

悪魔はそれを見て勝利を確信したのだろう。勝利宣言ともいえるような雄叫びを上げて剣を俺たちに下ろしてくる。 しかし。

 

「グォォォォ!?」

 

斬馬刀は俺たちに当たることなく空中で停止した。悪魔は自分の身に何が起きたのか理解できないという表情のまま痙攣している。ギリギリ間に合った・・・!

 

「カエデ、何を?」

 

キリトが聞いてくるが今は時間が惜しい。麻痺の時間はあと三十秒といったところか。

 

「いいから決めるぞ」

 

「・・分かった」

 

あとで教えろよ、と付け足すと動けなくなった悪魔に向かってキリトはとどめのソードスキルを発動させた。二刀流上位剣技<ナイトメア・レイン>。先ほどと同じく十六回の連撃。

そしてキリトの最後の一撃に合わせて俺もソードスキルを放った。死変剣の水平五連撃ソードスキル<デュアル・ペンタグラム>。攻撃は麻痺によって体の自由を奪われたグリームアイズの腹にヒットし、光る五芒星を描いた。

 

「ゴァァァアアアア!!」

 

最後の一撃を受けたグリームアイズはけたたましい咆哮とともに膨大なポリゴンとなって爆散した。部屋中にきらきら輝く光の粒が降り注ぐ。

 

「終わったな・・・・」

 

悪魔の消滅を確認しながらつぶやいた。この言葉は今の俺にも当てはまるのだが・・・まあいいか。キリトたちが、何よりユウキが無事だったんだから・・・

 

「お疲れ様!カエデ!」

 

ユウキが笑顔でこちらにやってくる。この笑顔を見るのもこれで最後か。

そう思うと俺は無意識のうちにユウキを自分のほうへ抱き寄せていた。

 

「カ、カエデ?」

 

急に抱きしめられたことにユウキは状況を掴めず、困惑している。視界には間違いなくハラスメント防止コードによる警告が表示されているだろう。ユウキがボタンさえクリックしてしまえば俺は監獄エリアに飛ばされてしまう。

 

でも構ってはいられない。

 

「ユウキ・・・」

 

相棒の名前を呼ぶ。未練を残さないために、最後に伝えるために。

 

「カエデ・・・?」

 

何かを感じ取ったか、困惑の表情がより強くなる。

 

俺は背中に回した腕の力を緩めてユウキと向き合うと最後の言葉を口にした。

 

「・・・さようなら、ユウキ。短い間だったけど、君と一緒にいれて本当に良かった」

 

「いきなりどうしたの・・・?・・カエデ?」

 

「――――――――」

 

「え?・・・・・カエデ!?」

 

まだ言葉の意味を理解しきれていないユウキの目の前で俺は、カエデと呼ばれていたアバタ―は光り輝くポリゴンとなって溶けるように消えて行った・・・

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!
<死変剣>の副作用によって死んでしまうカエデ、まさかの展開になってしまった・・・自分でもそう思っています。
次回、どうなるのか見ものですねー(笑)
ご意見、ご感想お持ちしております!
それではまた6話でお会いしましょう!




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6話 約束と決意

SAOの二期が2クールだったとする。そうするとマザーズロザリオまでやるかもしれない。
結果、ユウキが登場する。俺得。以上。

今回はいつもより文字が多いです。最初はユウキ視点から入ります。初の他人視点、加えて女の子なのでうまくいってないと思います。
ごめんなさい。

それでは6話です!どうぞ!


ユウキside

 

 

「うそ・・だよね・・・カエデ・・・こんなの・・・」

 

カエデのアバタ―が鮮やかなポリゴンとなって散っていく。その光景を見て、ボクはただつぶやくことしかできなかった。

突如、時間が止まるような感覚に襲われる。

 

 

 

 

 

 

 

「パーティーを組みたい?」

 

いきなりどうしたんだ、という疑問の表情でカエデはボクに聞き返してくる。

 

「うん!今日だけじゃなくてこれからしばらく!」

 

少し恥ずかしかったけど、なんとか表情を変えることなく言えた。

 

「うーん・・・まあいいよ」

 

「ほら、最近モンスターの行動が読みにくくなってきてるし、ソロだと想定外のことに対応・・・・・え?いいの?」

 

まさか即答してくれると思っていなかった。思わず聞き返す。

 

「俺もソロプレイには限界を感じていたからな。それにユウキほどの実力なら安心して背中を任せられる」

 

「・・・ほんとにいいの?」

 

了承をいまだに信じられず、ボクは再び聞き返してしまった。

 

「変なやつだな。お前から提案してきたんだろ?」

 

笑いながらカエデはボクに声をかける。たしかに提案してきたほうが聞き返すなんて傍からみれば可笑しなものなのかもしれない。

 

「でも条件がある」

 

了承を得て、少し浮かれていたボクにカエデはさっきの笑っている状態から一変して真面目な顔になると、パーティーを組む条件を出してきた。

 

「パーティーを組む以上、俺は仲間を絶対に死なせない。命に代えてでもお前を守る。守らせてくれ。それが俺から出す条件だ」

 

「でも、それだとカエデが・・・」

 

「いいな?」

 

カエデの瞳が、まっすぐ、鋭くボクの目を射た。有無を言わせないその言葉に何も言い返せず、こくりと頷く。

 

カエデはにっと笑うとボクの頭の上にぽんと手を置き

 

「これからよろしくな、ユウキ」

 

と言った。

 

その手の暖かさと笑顔を感じてほんのり頬が熱を帯びていったのは記憶に新しい。

数か月前のことだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやだ・・・いやだよ・・・」

 

泣きながら声を絞り出し、カエデを構成していた光の粒を必死にかき集めようとした。

しかしその行為をあざ笑うかのように欠片は指の間をすり抜け、消えていく。

 

カエデが死んじゃったらボクは・・・もう・・・

その先を考えるだけで体が暗く、深い絶望の底へ突き落される感覚に包まれる。

 

 

すべてを諦めかけたその時、ふいに誰かに声をかけられ、右手に何かを握らされた。

 

「これは・・・?」

 

「いいから早くそれを掲げてあいつの名前を呼べ!」

 

どうやらクラインみたいだ。

 

言われるままに右手を掲げる。視界に入ったそのアイテムは綺麗な石だった。

七色に光り輝いていて、闇へ落ちつつあるボクの心を照らしてくれるような・・・

 

「蘇生!カエデ!!」

 

そこまで思うとボクは数か月間、生死を共にしたパートナーの、最愛の人の名前を呼んでいた。

あたりがやさしい光に包まれる。

 

 

ユウキside out

 

 

 

 

 

 

 

「・・・デ!カエデ!!」

 

声が聞こえる。この声は・・・ユウキ?悲鳴にも似た叫びに、失われつつあった俺の意識は無理やり呼び戻された。全身に軋むような痛みを感じながら体を起こす。

 

「あれ・・・?なんで・・」

 

視界の先に広がるのはボス部屋。俺がHPを全損させて消滅した場所だった。

まだ空中に青い光のかけらが漂っている。俺がアバターを飛散させてからそんなに時間は経っていないらしい。

 

目の前にユウキの顔があった。涙で顔をグチャグチャにさせ、口元をきつく結んでいる。

 

「バカッ・・・!無茶しないでよ・・・!」

 

叫ぶと同時にすごい勢いで飛びついてくるので慌てて受け止める。そのときの感触で俺は死んでいないんだと改めて自覚する。

 

「ごめん・・・でもなんで・・・」

 

謝罪の言葉とともに俺は胸の中に残った疑問を口に出した。確かに俺は<死変剣>の副作用で死んだはずだ。本来ならそこでナーヴギアの出す高出力マイクロウエーブによって脳を焼かれている。

 

「預かりもんはキッチリ返したぜ、カエデ」

 

「・・・預かりもの?」

 

「聖晶石」

 

「あっ」

 

クラインとのやり取りで俺はすべてを理解することができた。<還魂の聖晶石>。

 

対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させることができるアイテムでSAOにおけるただ一つの蘇生手段だ。

 

「すまない、俺なんかのために・・・」

 

「寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ。あれはお前のものだし、お前だから使ったんだ」

 

俺が謝るとクラインは野武士面でニカッと笑いながら優しく言ってくれた。

野武士面じゃなかったらほんとにかっこよかったのに・・・」

 

「失礼だな!オイ!」

 

どうやら途中から声に出ていたらしい。ボス戦の疲れをまったく感じさせないキレのあるツッコミだった。

 

「そりゃあそうと、キリト、カエデ。オメェら何だよさっきのは!?」

 

「「・・・・・・言わなきゃダメか?」」

 

話を変えてくるクラインに対して俺とキリトが同時に返す。

なんか最近ハモるの多くない?

 

「ったりめえだ!見たことねえぞあんなの!」

 

即答・・・当然か。

 

「・・・・・・エクストラスキルだよ。<二刀流>」

 

「俺も同じくエクストラスキル。<死変剣>」

 

ユウキを除いたほかのメンバーは俺たちの言葉を待っているようだったのでしぶしぶ答えた。おお・・・という声が部屋に広がる。

 

「なるほどな。でもカエデはなんでHPが0になったんだ?」

 

「それがこのスキルの効果の一つだからだ。スキルを使用中は使用者の体力が減っていく」

 

「まじかよ・・・」

副作用を聞いたクラインが驚愕する。

 

SAOにおいてHPはプレイヤーの存在を許す絶対の決まりだ。それが減っていくスキルなんてあるのか、俺も初めてこいつを見たときは驚いた。

 

普段はハイポーションなどの回復アイテムをスキル使用前に飲んでHPの減少を相殺していたのだがこの戦いではそんな余裕がなかったし本当にすべてを賭けていいと思っていた。いや、実際死んだからほんとにすべて賭けたなることになるな。生き返ったけど。

 

それからは取得条件やらなんやら質問攻めにあい、そのあとキリトとアスナを含めたクラインたちのパーティ-は75層のアクティベートに。生き残った軍の連中はホームに戻っていった。

 

去り際にアスナとキリトから「ユウキにしっかり謝っておけ」と一言もらった。

言われなくてもわかっているよ。

 

 

 

だだっ広いボス部屋に、俺とユウキだけが残された。もう部屋には先ほどまで繰り広げられた戦いの痕跡は残っておらず、部屋の外と同じ柔らかな光に包まれている。

 

まだ俺に抱き着いたままのユウキに声をかける

 

「ごめんな、ユウキ」

 

「・・・・・・いなくなっちゃうかと思った。」

 

顔を俺の胸に埋めたまま小さな声を出す。普段元気なユウキからは考えられない弱々しい声だった。

 

「・・・何言ってんだ、先に突っ込もうとしたのはそっちだろう」

 

どうにか冗談めかしていうとユウキは真剣に怒った顔をした。

 

「本気で心配したんだよ!?飛び散るカエデのアバタ―を見たら息が詰まりだして・・・いなくなっちゃうって考えたらボク・・・ボクは・・・!」

 

嗚咽の混じった声を上げてユウキは俺をまっすぐ見つめた。目からは宝石のよう美しく光る涙が溢れ、流れ落ちる。

 

「聞いてるの!?カエ――――!?」

 

開いたユウキの唇を俺は自分の唇で強引に塞いでいた。そしてそのまま力いっぱいユウキを抱きしめる。唇を離すと、今度はユウキと向き合い低く呟く。

 

「ユウキを、みんなを守るためにスキルを使ったはずなのに、怖かった。もうユウキの笑顔が見れない。そう考えると覚悟していたはずの死を受け入れるのが嫌になった」

 

「・・・カエデ・・・」

 

「いつまでもユウキと一緒にいたい。近くで笑顔を見たい・・・・・・ダメかな?」

 

そう言っていっそう強く抱きしめるとユウキは震える声で囁き返した。

 

「・・・ボクも。ずっとカエデといっしょにいたい。この世界が終わる最後の瞬間まで・・・」

 

それだけいうと俺たちは固く抱き合った。死を味わい、凍った心が少しずつ溶けていくのがわかる。ユウキから伝わる暖かな熱を感じて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユウキが落ち着つくのを見計らって俺たちはホームに戻ることにした。

いつもは歩いて最寄りの主街区まで行き、そこで転移するのだが今日に限っては歩いて帰る元気がなかった。転移結晶を使い、ホームのある二十二層まで転移する。

主街区の<コラル>へ戻るとあたりは夕焼けに染まっていた。俺たちは手をつないで歩き出した。

 

「・・・なあ、ユウキ」

 

「どうしたの?」

 

「しばらく攻略を休まないか?」

 

俺は迷宮区の安全エリアで考えていたことを声に出す。

 

「え・・・?」

 

「なんか疲れちゃってさ。また良くないことに巻き込まれる気がするんだ。それに」

 

「それに・・・?」

 

「ユウキことをもっと知りたくなった。それこそすべてを」

 

あの戦いを経て、俺の中でユウキの存在は大きくなっていた。戦闘という方向以外からも彼女のことを見たい。無意識のうちに思っていたことを口にしていた。

 

俺の言葉に込められた意味を感じ取ったらしく、ユウキは俺を見つめると両頬を染めてこくんと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

ホームに帰って食事をとる。食後はお茶を飲みながら雑談。それが寝るまでの主な時間の過ごし方だ。それは変わらなかったのだが今日のユウキはいつも以上に饒舌だった。主街区に新しい店ができたとか、どこそこの層が綺麗だから行ってみたいという話を矢継ぎ早に喋り続ける。

その話を聞いていると休息をとるように提案したのは正解だったなと思う。

 

しかしユウキが急に黙り込んだ。手に持ったコップの中に何かを見つけたように、じっと視線を落としたまま動かない。そのうえ表情がやけに真剣だ。

 

「ユウキ、どうしたん・・・」

 

心配になって声をかけたが俺の言葉が終わる前にユウキは右手のコップをテーブルに置くと、

 

「・・・・・・よし!」

 

謎の気合を入れながら立ち上がった。そのまま窓際まで歩いていき、壁に触れて操作メニューを出すと照明を全部消した。俺が状況を理解出来ないなか、ユウキは左手を振ってメニューウインドウを出現させると指を動かした。

 

どうやら装備フィギュアを操作しているらしい――――

 

と思った瞬間、ユウキの身を包んでいたTシャツやショートパンツが消滅した。

俺は目の前で起きた出来事に目を丸くし、思考停止に陥った。

 

ユウキは今や下着のみを身に着けている状態だった。それらが申し訳ない程度に身体を隠している。

 

「あ、あんまりこっち見ないでよ・・・」

 

蚊の鳴くような声で呟く。それでも視線を動かすことなどできない。

俺はかつてないほどの衝撃を味わいながら、その姿を見つめた。

 

綺麗などというものではない。

透き通ったようになめらかな白い肌、控えめな二つのふくらみ、腰まで伸びたパープルブラックの髪の毛は月に照らされ、キラキラと幻想的に輝く。

 

まるで妖精だ。そう思った。

 

俺はいつまでもその半裸身に見入っていた。もしユウキが恥ずかしさのあまりに身体を隠し、口を開かなければ数時間でもそのままだっただろう。

 

ユウキは薄暗い闇のなかでも分かるくらいに顔を赤く染めて、もじもじしたまま言った。

 

「カ、カエデもはやくしてよ・・・。ボクだけ、は、恥ずかしいよ」

 

その声で、俺はようやくユウキの行動の意味するところが分かった。

つまりユウキは――――俺の、すべてを知りたい、という言葉を、数段踏み込んで解釈したのだ。

 

どうやって誤解を解くべきか・・・混乱した頭で必死に考える。しかしこんな状況でいい言葉なんか思いつくはずもなく、俺はこれまでの人生で上位に食い込むほどのミスを犯してしまった。

 

「あ・・・いや、すべて知りたいってのはこれからユウキとたくさん思い出を作りたいっていう意思表示でして・・・その・・・」

 

「へ・・・・・・?」

 

捻りの欠片もないストレートな俺の発言に、今度はユウキがぽかんとした顔で停止した。が、やがて、メニューウインドウを操作していつも装備している片手剣を取り出すと羞恥と怒りを混ぜた表情で俺を睨みつけてきた。これ以上ないほどの殺気を剣に込めて。

 

「ま、待った!そんなので殴られたら――――――!」

 

「カエデのバカ―――――――ッ!!」

 

必死の説得も虚しく、敏捷パラメーター全開で突っ込んできたユウキのソードスキルをまともにくらい、俺は激しいノックバックを受けることになった。

 

犯罪防止コードがなかったらまた死んでいた気がする・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

テーブルの上に設置されたひとつの照明が、俺のすぐ隣でまどろむユウキの顔を薄く照らしていた。その頬に手を触れさせ、そっと撫でる。そうしているだけで心は愛おしい気持ちでいっぱいになる。

 

俺が頬を撫でたことに気付いたのか、ユウキは薄く目を開けてこちらを見ると二度、三度瞬きをしてにっこり笑った。

 

「悪い、起こしたな」

 

「ううん・・・大丈夫。どうしたの?」

 

笑顔のまま、聞いてくる。

 

「いや、俺の中でユウキの存在は大きいって改めて実感したんだ」

 

「それはボクも同じだよ。カエデのいない生活なんて考えられない」

 

「お互い様ってことだな・・・」

 

俺は笑っていた。

 

「なあユウキ・・・」

 

「?」

 

自分でも不思議に思うくらい自然と、俺は心の底にあったユウキに対する思いを口にしていた。

 

「約束する。もう君の前から急に消えたりしない。君の目にいつまでも映り続ける・・・・・・だからその目で、俺を映し続けてくれないか?」

 

「それって・・・・・・」

 

俺はメニューウインドウを操作し、一つの申請をユウキに送るとその続きを言った。

 

「結婚しよう。ユウキ」

 

そのときユウキが見せた輝くような笑顔を、俺はこの先ずっと忘れないだろう。

 

「・・・うん!」

 

そっと、それでいて力強く頷いた頬を、一粒の大きな涙が流れた。

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます!

食後の勘違い、ユウキverを見てみたい!という感想を以前頂いたのでリクエストに沿って物語を書いてみました。いかがだったでしょうか?

たぶんうまく書けてない気がする・・・(笑)

食後の勘違いはユウキとカエデが結ばれていることが大前提だったので、どうやってくっつけようか・・・とずいぶん頭を悩ませました。その結果がボス戦での死です。生き返るシステムは皆さんお気づきだったと思います。感想で指摘されて超焦った(汗)

アイテムで救済なんてベタですもんね・・・そりゃみんな考え付くわ(笑)

そういえばカエデとユウキはすでに同じホームで生活してたんですよね。なんと羨ましい←おい

と、まあ長くなったところで今回のあとがきとさせていただきます。
ご意見・ご感想お待ちしてます!
それでは次回またお会いしましょう!


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7話 休日という名のお手伝い

人生ってテストという名の試練の連続だと思うんですよ
だからテストが理由でこうして更新が一か月止まったって仕方ないと思うんですよ・・・・・・
はい、以上言い訳でした! ほんとに更新遅れてすいません!
それでは7話です!どうぞ!


SAOにおける結婚は現実世界のものと比べるとかなり単純である。

プロポーズ申請を相手に送り、その相手がメッセージを受理する。たったこれだけだ。

 

しかしこの夫婦と呼ばれるプレイヤー同士の関係はパーティーメンバーやギルドメンバーよりもはるかに重いものとなる。

 

ストレージの共有からお互いの持つ全情報の閲覧。文字通りすべての共有。

生命線を差し出すといっても過言ではない行為が理由で、どんなに仲のいいカップルでも結婚に踏み切ったものはごく稀だ。

 

均衡の取れていない男女比も大きな理由のひとつになっているのだが・・・

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

朝食を済ませてテーブルの上を片付ける。ストレージのなかのアイテムを整理して身支度を整えると俺たちはホームの玄関を出て歩きはじめた。

 

「楽しみだね!」

 

俺の横を歩きながら笑顔を向けて話しかける少女の名前はユウキ。紆余曲折あって俺の妻になった女の子だ。

 

「だな。びっくりするといいな」

 

小さく笑いながらユウキの言葉を肯定する。

 

ちなみに今はキリトとアスナの家に向かってます。

もちろんアポはとってない。ドッキリってワクワクするよね。

 

 

 

 

街道から少し外れた小路に入り、しばらく歩いていると目的の家が見えた。

キリト夫妻がご在宅かどうか確認するため索敵スキルを使い、家の様子をうかがう。

 

索敵スキルは熟練度が980を超えると建物の中にいるモンスターや人の数を見ることができる。これによってあらかじめ人数を知ることができるので戦闘ではけっこう重宝したりする。まあ熟練度を上げる作業が結構地味なのでここまで上げてるやつはなかなかいないけど・・・。

 

「いるな・・・」

 

「ほんと?よかったー!」

 

「ただし3人」

 

「・・・リズとかシリカじゃないの?」

 

少し考えてからユウキが口にだす。確かにその線で考えるのが一般的だが、新婚ホヤホヤでゆっくり過ごしたいタイミングで友人を呼ぶだろか?

 

少なくとも俺ならユウキと二人っきりで過ごしたい。・・・・・・別に惚気てないぞ?

 

「まあ、入ってみれば分かるか」

 

そう考えながらドアの前に立ち、軽くノックする。

 

「はぁーい。どちら様で・・カエデ!?」

 

ドアを開けながらキリトが目を丸くする。相当驚いているみたいだけどなんか違う。俺たち二人が来たことに対してじゃなくてもっと別の理由で驚いているような・・・

 

「やっほー!キリト!アスナは?」

 

俺の後ろにいたユウキがひょっこり顔を出しながらキリトに話しかける。

 

「ア、 アスナか?ちゃんといるぜ。・・・まあ、あがってくれ」

 

ぎこちない返事をしながらキリトは俺とユウキをリビングに案内してくれた。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

あ、ありのままに起こったことを話すぜ。

リビングにつくとアスナとキリトのほかに8歳くらいの小さな女の子がいたんだ。

なにを言っているのか分からねえと思うが俺もわからないんだ。

 

「SAO恐るべし・・・まさか子供までできるとは・・・」

 

思考の処理が追いつかないまま思ったことを声に出した。にゃんにゃんすると子供ができるとか無駄にリアルだなおい。茅場さん流石っす。

 

「子供・・・カエデと・・・」

 

となりでブツブツ言っているユウキはとりあえず置いといていいかな?まだ混乱から回復していないだけだ・・・・・・きっと。

 

「おめでとうキリト、アスナ。いや、この場合はおめでたというべきか」

 

「んなわけねーだろ!」

 

「ち、違うってば!」

 

二人ともすぐさま否定するが顔が真っ赤なのでまったく説得力がない。

 

じゃあ何だというのだ。とりあえず女の子のほうへ視線を向けてみるがカーソルが出ない。

プレイヤーじゃないのか?

 

「カエデ!」

 

「どうした?ユウキ?」

 

混乱から回復したのかユウキが話しかけてくる。こちらも少し顔が赤いが。

 

「えっと、あ、あのね!カエデが望むならボクはすぐにでも子供を――」

 

「待った!それ以上はダメだから!てかこれ以上事態を深刻化させないで!」

 

キリトとアスナの子供らしき女の子を見てどうやら変なスイッチが入ってしまったらしい。

顔を赤くさせたまま俯くキリト夫妻と少々混乱気味のユウキ。収拾をつけるのに数十分を要したのはいうまでもない。

 

 

 

 

 

――――――――

 

「なるほど、森で倒れていたと」

 

どうやらこの女の子は拾ってこられたらしい。プレイヤー名はユイ。名前があるからNPCじゃないはずだけど、ステータス画面が見れないやらここに来る前のことを覚えていないやら不可解な点がいくつかある。

 

「ママ、この人たちだれ?」

 

「ママとパパのお友達よ。ユイちゃん」

 

「おともだち?」

 

そう聞いてくるユイの頭の上に俺はぽんと手を置いた。

 

「ああ、そうだよ。なんでも言いやすい呼び方で呼んでくれ」

 

「よろしくね。ユイちゃん!」

 

いろいろ思うところがあるが俺もユウキもにこりと笑いながら明るい声でユイに話しかけた。

俺とユウキの言葉を聞いてユイは少しだけ考え込んでいたがやがてゆっくり顔を上げると

俺の顔を見て口を開いた。

 

「・・・にぃに」

 

次いでユウキを見て、言う。

 

「ゆーきは・・・ねーね」

 

それを聞いた瞬間、ユウキの目がキラキラ輝く。

そんなに嬉しいもんか?

でもまあ呼び方は無難だな。・・・・・・じぃじとかじゃなくてよかった。

 

 

 

「んで、これからどうするの?」

 

話を戻すべく、キリトに今後の方針を聞いてみる。

 

「情報が無さすぎるからな。ユイを連れて<はじまりの街>に行こうと思う」

 

もうすでに決めていたのか、間をあけることなく俺の質問にキリトが答える。

たしかにあそこは人が多いから情報は集まりそうだな。だだ・・・

 

「いつでも武装できるように準備はしたほうがいいか・・・」

 

今回の探索でフィールドに出ることはないだろうが、あそこは軍の支配下にある街だ。

最近では徴税と称してカツアゲをしたりするやつもいるらしいので用心するにこしたことはない。

 

ちなみにアスナとユウキはユイに着せる服を選ぶため席を外している。

俺とキリトもついて行こうとしたのだが案の定追い出されてしまった。

おそらくドアの向こうでは着せ替えという名のファッションショーが繰り広げられているのだろう。

 

「パパ!にぃに!」

 

二十分程度だろうか。予想していたよりも早い時間で着替えが終わった。

ユイの声で振り返る

 

「ほう・・・」

 

「おぉ・・・」

 

俺もキリトも感嘆の吐息を漏らしていた。先ほどまで白いワンピ―スを着ていたユイはどこか浮世離れした雰囲気を醸し出していたが、淡いピンクのセーターに身を包み、同系色のスカートをはいている今現在の格好は年相応のやわらかく暖かいなにかを感じさせた。

 

「かわいいぞー。ユイ」

 

硬直から回復したキリトが褒めながらユイの頭をなでる。

 

「えへへ・・・」

 

ユイも嬉しそうに目を細めている。こうして親馬鹿は出来上がっていくのか。

 

「さすがユウキだな」

 

俺もいい仕事をしたユウキを労うために言葉をかけながら頭をなでる。

 

「でしょ!もっと褒めていいんだよ!」

 

「おう、さすが俺の自慢の嫁だ!」

 

ユウキの頭に手を置き、くしゃくしゃになで回す。そしてユイと同じく猫のように目を細めるユウキ。

 

――――その甘すぎる空間を呆然と眺めるアスナ。ユイを撫でる手をやめたキリトが呟く。

 

「「あのーそろそろ出発したいんですけど・・・」」

 

「あ、わりぃわりぃ。ついうっかり」

 

「・・・・・・」

 

人前でなでられていると気づいてか、急に顔を赤くさせていくユウキ。

 

「じゃあいきますか」

 

気を取り直して全員に声をかける。頷くのを確認してから俺たちは転移門のある主街区まで歩き出した。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます!
久しぶりに書いたので心配ですが第7話、いかがだったでしょうか?
作者が書いていてまず思ったことはユウキがこの小説ではけっこう暴走していることです・・・まあいっか←おい
でも個人的にはこのくらいハジけさせていたほうが楽しいと思うんですよね(笑)
カエデには突っ込み要員になってほしい・・・
更新が停止していたのにもかかわらず閲覧してくださった、お気に入り登録してくださった読者の皆様!ありがとうございました!ほんとに力になるのでうれしいです。
これからも応援よろしくお願いします
最後に、ご意見ご感想いつでもお待ちしております それでは次回またお会いしましょう!



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8話 うわっ・・・わたしのステータス、低すぎ・・・?

一か月のサボりを挽回するかのごとく投稿
読者様によっては一部ゲロ甘につき珈琲を推奨。壁ドンの危険性もあり
それでは8話です!どうぞ!


第一層<はじまりの街>を転移先に指定したのは久しぶりだった。

普段は声に出すことのない単語を転移門の前で発音、転移が完了すると俺は転移先である広場から街並みをぐるりと見渡した。

 

上層にいくにつれてフロアの面積が狭くなるアインクラッドでは<はじまりの街>が面積、機能ともに最大の街ということになる。しかしハイレベルなプレイヤーになればなるほどここをベースタウンにするものはいない。この街を独占している軍の横行を理由のひとつだが、それ以上にこの街に立ち、空を見上げると、どうしてもあの日のことを思い出してしまうのだ。

 

―――――すべてが終わり、すべてが始まったあの日を―――――

 

「カエデ?」

 

俺の手を握りながら心配そうに見つめるユウキ。

 

「なんでもないよ」

 

感傷を振り払うように深呼吸しながらユウキの手を握り返す。

もう一度上空に広がる石の蓋――第二層の底を見たときに感じた痛みは、横にいる少女のおかげかほんのわずかなものになっていた。

 

「なあユイ、見覚えのある建物とかあるか?」

 

キリトに抱かれるユイの顔を覗き込み、聞いてみる。もし該当するものがあったらなにか思い出すためのきっかけになるかもしれない。

 

「うー・・・・・・」

 

ユイは難しい顔で広場から見える建物を眺めていたが、やがて首を振った。

 

「わかんない・・・」

 

「まあ、はじまりの街はおそろしく広いからな」

 

キリトがユイの頭をなでながら言った。・・・・・・ああ、親子や。

 

「あちこち歩いてればそのうちなにか思い出すかもしれないさ。とりあえず、中央市場に行ってみようぜ」

 

「そうだね」

 

頷き合い、ユイを連れて俺たちは南に見える大通りへ歩き始めた。

 

 

 

ユイを抱きながらキリトとアスナが先行している。傍から見たら親子で遊びに来ているようにしか見えない光景を見ていると

 

「ねえ、カエデ!」

 

俺と同じくキリトたちのピンクな空間を眺めながら唐突にユウキが話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

いつになく真剣な面持ちなので何かあったのかと思い、心配になる。

 

「結局SAOって子供はつくれるのかな?」

 

心配した俺が馬鹿だった・・・

 

「落ち着けってユウキ。ユイはキリトたちの子供じゃないから」

 

どうにかしていつものユウキに戻ってもらおうと言葉をかける。

 

「それはそうだけど・・・でもまだできるかどうかは分かってないじゃん!そうだ!カエデ、確かめてみようよ!カエデがいいんなら今ここでも―――」

 

「だから落ち着けって!ユイちゃんがいるから!子供に悪影響だから!」

 

結婚してから急に元気を増したというか暴走したというか・・・

ユウキを落ち着かせるのに数分のロスとキリトとアスナからの冷ややかな視線をいただいたのは仕方ないよね・・・

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

場所は変わって現在、はじまりの街、東五区。

あのあとマーケットのほうにいって男のプレイヤーに聞き込みをしたら教会で大勢の子供が保護されているという情報を得ることができた。

そこでキリトたちとはいったん別行動。キリトたちはそのまま教会へ向かい、俺とユウキは周辺に聞き込みを行っているわけだ。

 

「うぅ・・・なんであんなことを・・・」

 

俺の隣でユウキが顔を赤くしながら先ほどの発言を悔やんでいる。まあユイを連れてるキリトとアスナを見て、思うところがあったのだろう。

 

「気にするなって」

 

そんなユウキをなだめるために頭をなでながら声をかける。

 

「カエデ・・・ボクのこと嫌いになったりしてない?」

 

目に涙を溜めて心配そうに聞いてくる。

 

「そんなこと万に一つ、天地がひっくりかえってもないよ」

 

だから言ってやる。

 

「暴走気味のユウキもいつものユウキも全部大好きだ。もしまだ違う面があったとしてもそこだって好きになってやる」

 

ユウキを抱き寄せながら落ち着かせるようにゆっくり声にだす。

 

「カエデ・・・」

 

そしてどちらからともなく顔が近づく。徐々に顔を傾け、唇が相手のそれへと触れようとした瞬間。

 

「誰か助けて!」

 

近づいてくる声に思わず体を離した。せっかくいいところだったのに・・・

声からして子供か?

 

「どうした?」

 

走ってくる子供になにがあったのか聞く。パッと見、小学生高学年か・・・

俺の言葉を聞いてその少年が息をきらせながら叫ぶ。

 

「ギン兄ィたちが、軍のやつらに捕まったんだ!!」

 

「―――場所は!?」

 

さっきまでの態度はどこへやら。戦闘中もかくやという表情でユウキが少年に場所を訊く。

 

「すぐ近くの道具屋裏の空き地。軍が十人くらいで通路をブロックしてる。」

 

「わかった。お前はすぐにほかの助けを呼んで来い」

 

「わかった!」

 

それだけ聞くと、俺もユウキも武装をして風のように通路を駆けた。

 

 

最短距離をショートカットするためにNPCショップの店先や民家の庭を走り抜ける。

そのまま進んでいくと。前方の細い通路を塞いでいるプレイヤーの集まりが見えた。

装備の配色からみて軍で間違いないだろう。

 

「ユウキ」

 

「うん!」

 

敏捷力と筋力補正全開で地面を蹴る。軍の連中の頭上を軽く飛び越え、そのまま四方を壁に囲まれた空き地に着地した。

 

「ユウキ、子どもたちはまかせた」

 

着地と同時にユウキに小さく囁くと俺はまだ呆然としている軍の連中に話しかける。

 

「子どもにカツアゲして恥ずかしくないの?」

 

「人聞きの悪いことを言うなよ。社会常識ってもんを教えてるだけさ」

 

「そうそう。市民には納税の義務があるからな」

 

悪びれる様子もなくゲラゲラ笑う軍。まあこんなんじゃ怒らないか。

 

「いや俺が悪かった。お頭の弱い連中には難しすぎたな。馬の耳に念仏だったわ」

 

「はぁ!?なに言ってんだてめぇ!」

 

・・・・・・かかった。やっぱこういう連中はやりやすい。

 

「なんだ図星か?本当のことを言われ怒る。バカのやることだ。まったく話にならん」

 

こうなってしまえばこっちのものだ。あとは相手の怒りを誘う言葉を選んでしかけさせる。

もうひと押しってとこか。

 

「単純、沸点が低い、感情制御をろくにできず。年端もいかないガキに図星を突かれ怒る。

これが軍(笑)という組織なら弱体化も納得だな」

 

「黙って聞いていればっ・・・!!」

 

怒りが臨界に達したのかリーダー格の男が剣を抜いて斬りかかってくる。

訓練しかしていないのかその動きは遅く、お粗末なものだった。

 

「・・・そっちからだから正当防衛な」

 

攻撃を避けて通り過ぎざまにつぶやく。

 

「お・・・お・・・?」

 

あっさり避けられたのが信じられないのか口を半開きにしたままの男に向かって、全力の剣撃をたたき込む。

 

爆発のような衝撃音。それを阻む紫色のウインドウ表示。いかつい装備をした男は大きく仰け反り、数メートル先に吹っ飛んでいった。

 

今相手に放ったソードスキルは<アーマー・ピアス>。短剣スキルにおいて最もはやく習得可能な技でなおかつ威力が低い技でもある。普通あそこまで飛ばないはずなんだが、相手のステータスが俺の予想していたものより低かったのだろう。

なにが起こったのか分からず、男は呆然と目を見開いたままその場に尻餅をついた。

 

「理解する必要はない。どうせダメージもないし・・・ノックバックはあるか」

 

男の前まで近づくともう一度、剣を閃かせた。再度の衝撃。轟音。男の体はさっきよりも遠くに飛んだ。

 

街の中、つまるところ圏内では犯罪防止コードが働いて武器によるダメージが通らない。

しかし、攻撃者のステータスやスキルが高いとそれに伴って警告ウインドウの発光とノックバックが大きくなる。慣れない者にとっては耐え難い恐怖と苦痛になるだろう。

 

「ひあっ・・・や、やめ・・・」

 

地面に打ち倒されるたびにリーダーは情けない悲鳴を上げた。

 

「お前らっ・・・見てないで・・・なんとかしろっ・・・!!」

 

リーダーの声に、ようやく我に返った軍のメンバーが、次々と武器を抜いた。

通路を塞いでいたブロック隊も緊急事態を察して走り込んでくる。

ちょうど十人だろうか。周りを囲むようにして武器を構える男たちに、俺は眼を向けた。

地面を蹴り、集団に斬りかかる。

たちまち空き地には轟音と軍メンバーの悲鳴が響いた。

 

およそ数分後

我に返ってあたりを見ると空き地には数人の軍のメンバーが放心して転がるのみだった。

謝罪の言葉をブツブツ呟いているやつもいる。

 

「おい」

 

「ひっ・・・!」

 

「次に子どもたちに手を出したら容赦しない」

 

すでに容赦してないような気がするが釘はさしておくべきだろう。

一番近くに転がっていた男を無理やり起こして睨みながら警告しておく。言葉が終わるのと同時に軍の連中は全力で走りながら逃げていった。

 

「ふう・・・」

 

大きく息をついて、剣を鞘に収めると―――――そこには絶句して立ち尽くすキリトとアスナ、子どもたちとその保護者らしきプレイヤーの姿があった。

 

「・・・・・・」

 

先ほどの光景はさぞかし子どもたちを怯えさせただろうと思い、どうしたものかと頭をかく。

 

だが子どもたちの先頭に立つ少年が目を輝かせながら叫んだ。

 

「すげぇ・・・すっげぇよ!あんなの初めて見た!!」

 

「カエデはすごく強い、って言ったでしょ」

子どもに笑いかけながらユウキが進み出てきた。右手には剣を持っているので何人かはユウキが相手をしたらしい。

 

「お疲れカエデ」

 

「おう、ユウキもお疲れ」

 

俺の言葉を皮切りに、子どもたちが歓声を上げて一斉に飛び込んできた。その時

 

「みんなの・・・みんなの、こころが・・・」

 

か細い声が空き地に響いた。ユイの声だ。宙に視線を向け、右手を伸ばしている。明らかに様子が変だ。

 

「ユイ!どうしたんだ、ユイ!!」

 

キリトが叫ぶがユイはきょとんとし

 

「ユイちゃん・・・何か、思い出したの!?」

 

アスナも慌ててユイに駆け寄る。

 

「・・・あたし・・・あたし・・・あたし、ここには・・・いなかった・・・。ずっと、ひとりで、くらいとこにいた・・・」

 

何かを思い出そうとユイが顔をしかめる。突然

 

「うあ・・・あ・・・あああ!!」

 

ユイの体が激しく揺れ、悲鳴が迸った。

 

「にぃに・・・ねぇね・・・ママ・・・!!」

 

こちらに伸ばしてくる手を握り必死に声をかける。

アスナはキリトからユイを抱き上げ、ぎゅっと抱きしめる。

 

「しっかりしろ!ユイ!」

 

「しっかりしてユイちゃん!」

 

数秒後、怪現象は収まり、ユイが力なくアスナに倒れ掛かる。

 

「なんだよ・・・今の・・・」

 

キリトの呟きが静寂に満ちた空間に響いた。

 




カエデの煽っていくスタイル(笑)
どうしてこうなった・・・
ユウキの暴走もあれだしカエデの言葉もくさい・・・書いていて体中がかゆくなったり口から砂糖が出たりしてました。

ども作者の珈琲飲料です。
最後まで閲覧ありがとうございます!第8話、いかがだったでしょうか?
わたしが感じたのは上述のとおりです。はい(笑)
なんかあの二人結婚してからイチャつき過ぎだと思うんです←おい、書いてる本人
展開としては若干原作とは変えたつもりですがまあ・・・お察しください(汗
ご意見・ご感想お待ちしております!それではまた次回お会いしましょう!


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9話 控えめに・・・

更新と進行が遅いと思いますが許してください!なんでもしますから!
タイトル通り、今回は甘さ控えめです。
それでは9話です!どうぞ!


「なあ、カエデ兄ちゃんもほかに武器持ってるだろ?」

 

「まあ、いくつかはあるぞ」

 

そう答えると、俺の周りにいた子供たちの顔がぱっと輝いた。見せて、見せてと口々に言ってくる。

 

「うーん・・・」

 

「大丈夫だよ。圏内だからダメージが入ることもないし、要求値の関係もあるから」

 

「そうだな・・・」

 

ユウキの考えに頷き、ウインドウを開くと、指を動かした。

 

ストレージの中は整理したばかりなのであまり残っていなかったが予備を含める5個ほどの武器をオブジェクト化すると机の上に置いた。

 

「すみません、ほんとに・・・」

 

「いや、問題ないですよ。この子たちもこういったものに興味を持つ年頃ですし」

 

将来は立派な剣士ですね と笑いながらサーシャに言う。子どもたちだって剣を使いたいからSAOにログインしたはず。剣を持ってみたいという欲求は当然湧いてくるはずだ。

 

「サーシャさん」

 

子どもたちが武器を見て歓声を上げている中、キリトがサーシャに声をかけて話し始める。

 

「はい?」

 

「・・・軍のことなんですが。俺が知ってる限りじゃ、あの連中は専横が過ぎることはあっても治安維持には熱心だった。でも昨日見た奴等はまるで犯罪者だった・・・。いつから、ああなんです?」

 

「方針が変更された感じがしだしたのは、半年くらい前ですね・・・。徴税と称して恐喝まがいの行為を始めた人と、それを逆に取り締まる人たちもいて。軍のメンバー同士で対立してる場面も何度も見ました。噂じゃ、上のほうで権利争いか何かあったみたいで・・・」

 

「まあ、規模が大きくなると統制が取れなくなるよな・・・」

 

「でも、あんなことが日常的に行われているのなら、放置はできないな」

 

なにか対策でも・・・と言いかけたその時、不意に、索敵スキルのサーチに反応が出た。

 

「一人か・・・」

 

教会の入口に目を向けて呟く。昨日の今日だからおそらく・・・

 

「え・・・またお客様かしら・・・」

 

サーシャの言葉と同時に、教会内にノックの音が響いた。

 

 

――――――――

 

腰に短剣を吊したサーシャと念のために同伴したキリトが連れてきたのは、軍のユニフォームに身を包んだ長身の女性プレイヤーだった。

 

「やっぱり軍か・・・」

 

一瞬、剣に手をかけるが、二人が連れてきたということはこちらに敵意がないのだろう。そう判断して俺は剣から手を離した。

 

突然の女性プレイヤーの登場でユウキや子どもたちが一斉に黙るが「みんな、この方は大丈夫よ」というサーシャの一声でまた騒がしくなった

 

「ええと、この人はユリエールさん。どうやら俺たちに話があるらしいよ」

 

ユリエールは俺とユウキ、アスナに視線を向けるとぺこりと頭を下げて挨拶をした

 

「はじめまして、ユリエールです。ギルドALFに所属してます」

 

「カエデ、ALFって?」

 

聞き覚えのない名前に隣にいたユウキが聞いてくる。

 

「アインクラッド解放軍の略だよ。まあ知らないのも無理ないか」

 

ユウキの頭をなでながらそう答える。正式名称なんかダサいもんな。略したくなる気持ちはわかる。

 

「はじめまして。カエデと言います。となりにいるのがパートナーのユウキ」

 

「よろしく、ユリエールさん!」

 

自己紹介をして一礼。ユリエールは俺たち二人の名前を聞いた途端、空色の眼を見張った。

 

「死神に絶剣・・・。なるほど、道理で連中が軽くあしらわれるわけだ」

 

「やだなぁ昔の話ですよ・・・んで昨日のことで抗議ですか?」

 

ふたたび警戒心を強めてユリエールに聞いてみる。

 

「いやいや、とんでもない。その逆です、よくやってくれたとお礼を言いたいくらい」

 

「・・・」

 

事情が読めないキリトとアスナ、ユウキは沈黙するが、おそらくユリエールは恐喝連中とは違う派閥に属しているのだろう。そして恐喝が日常的に行われるくらいに自分の所属していた派閥が弱くなってきた。ようするに

 

「今日は頼みがあってここに来たってことか」

 

「・・・ご明察の通りです。実はそのことであなた方にお願いがあって来たのです」

 

「お、お願い・・・?」

 

キリトたちが聞き返すとユリエールは頷きながら続けた。

 

 

――――――――

 

「・・・話をまとめると隠しダンジョンで身動きの取れないシンカーさんの救出。その手伝いをしてくれってことですか?」

 

ユリエールは俺の確認に頷き、深々と頭を下げ、言った。

 

「・・・その通りです。お会いしたばかりで厚顔きわまるとお思いでしょうが、どうか私と一緒にシンカーを救出に行ってくださいませんか」

 

長い話を終え、頭を下げたままのユリエールをキリトたちもユウキもじっと見つめていた。

 

協力したい・・・そう思っているのだろう。だがSAOでは他人の言うことをそう簡単に信じることができない。この手のお願いは<MPK>に酷似していた。俺も含めてユウキもキリトもアスナも感情的に動けばどれだけ痛い目に遭うのか身に染みて理解している。

残念だが・・・そう思い、重い口を開こうとしたその時

 

「大丈夫だよ、ママ。その人、うそついてないよ」

 

「ユ・・・ユイちゃん、そんなこと、判るの・・・?」

 

「うん。うまく・・・言えないけど、わかる・・・」

 

キリトはユイの頭を撫でながらニヤリと笑い、俺たちに言う

 

「疑って後悔するよりは信じて後悔しようぜ。行こう、きっと何とかなるさ」

 

アスナとユイの会話。キリトの前向きな発言で場の重苦しい空気が変わった気がする。隣にいるユウキもそわそわしているし・・・

 

「・・・分かったよ、今回は信じる。ユウキもいいか?」

 

「もちろん!絶対に救出しようね!」

 

満面の笑みで即答するユウキ。かわいい・・・守りたいこの笑顔。いや絶対に守る。

 

「かわいい・・・守りたいこの笑顔。いや絶対に守る」

 

「!?」

 

目の前にいたユウキの顔がボッと赤くなった。

・・・なんか既視感があるな、このシチュエーション・・・

 

「もしかして、声に出してた?」

 

「・・・うん、思いっきり」

 

身体をモジモジさせて恥ずかしそうに言うユウキ。

 

「・・・守らせてくれよ?」

 

かろうじて平静を装い、恥ずかしさを紛らわせるために頭をなでながらユウキにささやく。

 

「うん、任せたよ・・・あなた」

 

顔がさらに赤くなっているのは気のせいではないだろう。

 

「うわ~今のセリフ誰かに聞かせておもっくそ惚気てぇぇええ!!」

 

「しっかり聞いてるし、もうすでに惚気てるから・・・」

 

「・・・」

 

俺とユウキのやり取りを見ながらキリトとアスナが苦笑混じりにつぶやく。サーシャが無言でみんなのカップにコーヒーを追加したのはファインプレーと言わざるを得ない。

 

ちなみにこのあとキリトたちが飲んだコーヒーはなぜか砂糖水のようになっていたらしい。

なぜだ?・・・・・・だから惚気てないって。

 




最後まで閲覧ありがとうございます!
第9話、甘さ控えめでお送りしましたがいかがだったでしょうか?(甘くないとは言ってない)
読者様はご存じかと思いますが知らない方のために一応<MPK>について説明させていただきます。
MPKとはモンスター・プレイヤー・キルの略で対象プレーヤーをおびきだしてモンスターを使い、間接的に殺人をする方法のことです。某レッドギルドの人が考えたとか・・・情報求む←おいww
それと更新が遅れて申し訳ないです。
お詫びに明日もう1話投稿する予定なので許してください(汗
ご意見ご感想お待ちしています!それではまた次回お会いしましょう!


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10話 一級フラグ建築士乙種

もう・・・ゴールしてもいいよね?
なんとか投稿できた!みんな、約束守ったよ!今週中にもう1話投稿したい・・・
今回はシリアスな感じに仕上げておりますので甘さ要素ゼロです!だから読者様!コーヒーも壁も用意しなくていいですよ!
それとあとがきを少し変えてみました。よければご覧になってください!
それでは第10話です!どうぞ!


シンカーのいる問題のダンジョンはなんとここ第1層にあるという。どうやら上層の攻略具合によって解放される隠しダンジョンみたいで黒鉄宮――軍の本拠地の地下にあるらしい。ダンジョンの難易度は60層相当。キバオウが率いた先遣隊はボコボコにされて命からがら転移脱出したとか・・・哀れなり(笑)

 

だがその難易度の高さが今回の救出作戦の妨げになっている。俺たち四人は特に問題ないがユリエールのレベルがいかんせん心配だ。なにか問題でも起きなければいいが・・・。

 

 

 

「はぁっ!」

 

左手の剣でモンスターを切り裂きながら

 

「ふんっ!」

 

空いた右手で体術スキルをたたき込む。

 

久々のモンスターとの戦闘で休暇中に溜まったエネルギーを放出する。死変剣を使っていないのはユウキにとめられているからである。本人曰くもう二度と使ってほしくないそうだがそこは必死の説得でなんとか折れてもらった。まあ使用頻度が限りなくゼロになったことに変わりはないが。

 

「キリトー、それで何匹目?」

 

少し離れた位置で剣を二本装備して敵を蹂躙中の黒の剣士に尋ねる。

 

「19匹目だ。そっちは?」

 

「りゃああ!・・・これで19匹目」

 

どちらが言い出しっぺか忘れてしまったがただいま競争中である。負けたほうがこんど昼飯を奢るという最近の男子中学生もしないであろう子供染みた賭け。

てか俺はユウキと。キリトはアスナと結婚しているのだからストレージは共有化されている。

 

「・・・これ賭けとして成立しなくね?」

 

「・・・俺もそう思った。勝手に使うとアスナに怒られそうだ・・・」

 

つまりはそういうことである。俺の所持品は俺のもので、ユウキのものでもある。もちろんコルとて例外ではない。共有化とはそういうことだ。

 

「「はぁ~・・・・・・」」

 

ここで強気に出れないのがなんとも情けない。俺もキリトも自分の嫁には逆らえないのだ。

食事が全部黒パンになることだけは避けたい。そんな考えが一致したのか競争は自然消滅していった・・・

 

「な・・・なんだか、すみません、任せっぱなしで・・・」

 

申し訳なさそうに言うユリエールに、アスナが苦笑交じりに答える。

 

「いや、あれはもう病気ですから・・・。やらせときゃいいんですよ」

 

「そうそう。好きであいつもやってるし」

 

競争がなくなって戦う必要もないので近くでユリエールと話していたアスナの言葉に同意する。

ちなみにキリトはまだまだ戦闘中です。どんだけ戦闘好きなんだよ・・・

 

「なんだよ、ひどいなぁ。まあ、好きでやってるのは否定しないけど・・・アイテムも出るし」

 

「へえ」

 

戻ってきたキリトの言葉にアスナが聞き返す。

 

「なにかいいものでも出るの?」

 

「おう」

 

アスナの言葉に手早くウインドウを操作するとキリトは戦利品をオブジェクト化させた。

 

――――――どちゃっ

 

「な・・・ナニソレ?」

 

グロテスクな音を立ててアスナの前に出されたのはこれまた見た目もグロテスクな赤黒い肉だった。さっき倒した敵からドロップ可能な<スカベンジトードの肉>である。

 

「カエルの肉!ゲテモノなほどうまいっていうからな、あとで料理してくれよ」

 

「絶、対、嫌!!」

 

アスナは叫ぶと、共有化されたストレージを開き、ドロップ品をすべてゴミ箱に移動させた。

 

「あっ!あああぁぁぁ・・・・・」

 

情けない顔をしてキリトが悲痛な声を上げる。哀れなりキリトよ。申告するからいけないんだ。こういうのは黙っておくのが一番。

安心しろ、あとでお裾分けしてやるから――――

 

「カエデ、ボクたちのほうはちゃんと消去しといたから安心してね!」

 

「なん・・・だと・・・」

 

ユウキよ・・・そんないい笑顔で言われたら何も言えないじゃん。

 

俺もキリトもorz状態から回復するまでに数分を要した。

うん、気を取り直して先に進もう!・・・・・・・・・・・あとでこっそり取りに戻るか・・

 

 

――――――――

 

ダンジョンに入ってから二時間が経過した。出現するモンスターも水中生物型からアストラル系のものに変化し、ダンジョン内のおぞましさをさらに引き立てている。

しかしキリトがゲームバランスを崩壊する勢いで二刀流を振るうから怖さを楽しむ間もないが。

 

「カエデっ、あれ!」

 

ユウキの指差す方向を見ると暖かな光の漏れる通路が目に入った。間違いない、安全エリアだ。

 

ユウキが言うのと同時に索敵スキルで確認したのかキリトも頷く。

 

「奥にプレイヤーが一人。グリーンだ」

 

「シンカー!」

 

ユリエールが我慢できないというふうに叫ぶ。そして鎧を鳴らして走り始めた。

慌てて俺たちもその後を追う。

 

「ユリエ―――ル!!」

 

こちらの姿を確認した途端、小部屋の中にいた男が大声で名前を呼んだ。

そして速度を速め、近づいてくるユリエールに向かってさらに叫ぶ

 

「来ちゃだめだ――っ!その通路は・・・っ!」

 

それを聞いて走る速度を緩めると、俺は索敵スキルを使い、あたりを見回した。

その瞬間、部屋の数歩手前で黄色いカーソルが出現した。

 

<The Fatal‐scythe>――――運命の鎌という意味であろう固有名を飾る定冠詞。ボスモンスターだ。

 

「まずい!戻れ!」

 

必死に叫ぶが聞こえていない・・・このままだとやられる!

 

「くそっ!」

 

俺は悪態をつくとスキルのクイックチェンジをした。短剣から死変剣への変更。あとでユウキに怒られるかもしれないが仕方ない。変更が完了するのと同時に先に飛び出したキリトにつづく。

 

ユリエールを抱えながら地面に剣を突き刺し急制動をかけるキリト。

 

タゲが向くか分からないがこのままだと二人ともやられる・・・俺は死角になってるであろうボスの背後に飛び込み、全力でソードスキルを放った。

 

「・・・!?」

 

鎌を二人に振り降ろさんとしていたボスの動きが寸でのところで止まる。どうやら間に合ったようだ。背後からの突然の衝撃にボスは眼をぐるりと動かし振り返る。

 

身長は二メートル半ほどだろうか。ぼろぼろの黒いローブを纏い、宙に浮いている人型のシルエットは――――死神。

 

本能が絶叫していた。こいつはやばいと。以前戦った74層フロアボスであるグリーム・アイズを見たときの恐怖など、比較するにも値しない。

 

「今のうちに安全地帯に退避しろ!」

 

キリトが叫ぶ。ユリエールは蒼白な顔で頷き、ユイを抱いて安全エリアに走っていった。遅れてきたユウキが俺の横に立ち、剣を抜く。

 

「カエデ、大丈夫!?」

 

「ああ、問題ない・・・と言いたいとこだけど」

 

何とか声を絞り出し、ユウキに声をかける。

 

「ユウキ、アスナとみんなを連れて転移脱出しろ」

 

「え・・・?」

 

「こいつめちゃくちゃ強い。識別スキルでもデータが見えないし、なにより・・・」

 

死変剣のソードスキルをぶち込んだのにダメージがまったくといっていいほど入ってない。

完全に予想外だった。

 

死変剣には死角からの攻撃にハイドアタックボーナスが入る。さらにさっき使ったソードスキルは<バルバイザー・スティング>単発だが一発の威力が死変剣のなかでもトップクラスのものだ。

 

「おそらくこいつは倒せるように設定されていない・・・」

 

「・・・・・・!?」

 

倒せない上に強さがボスクラス。俺の言葉を聞きユウキも息を呑んで体を強張らせた。

その間にも、どうすることもできない絶対的な死が近づいてくる。

 

「俺が時間を稼ぐから、早く逃げろ!」

 

キリトが震える身体を無理やり動かして叫ぶ。

 

「ユウキ・・・アスナを連れてさっさと逃げろ」

 

同じく震えながらユウキに言葉をかける。

 

「カエデ・・・お前」

 

「・・・時間を稼ぐのはいいが――別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「いや、それ死亡フラグだから」

 

「分かってるって。たまには嫁の前でかっこつけさせてくれよ」

 

「ははっ・・・絶対に死ぬなよ」

 

「お前こそそれ死亡フラグだぞ」

 

緊張感のない応酬。口を閉じた瞬間、話は済んだか?と言わんばかりに死神は猛スピードで突進してきた。俺もキリトもその突進を受け止めるために剣を十字に構え、迎え撃つ。すると逃げるように言ったはずのユウキとアスナも剣を合わせてきた。

 

しかし死神は重ねられた六本の剣を意に介さず大鎌を四人にめがけて振り降ろしてきた。

 

瘴気と火花。衝撃。それを感じた時には全員地面にたたきつけられていた。

四人の武器防御でもダメかよ・・・視界の端に表示されているHPバーを見ながら呟く。

HPは半分を割り込んで危険域にまで達していた。おそらくユウキ達もこれと同じ状態。

 

目の前で死神が鎌を振り上げている。立ち上がらないと。そう思うが、身体が動かない。

 

振り降ろされる鎌の速度が異様に遅く感じられた。そしてそれが頭上に来た瞬間――――

 

大音響とともに停止した。

 

同時に目の前に、ウインドウ表示がされる<Immortal Object>――――不死存在。

すぐ隣にはユイがいた。悲しそうに眉をひそめながら俺を見ている。

 

「ユイ・・・お前・・・」

 

俺の言葉には答えず、ユイはふわりと浮かんだ。そしてその直後、ユイの手を中心に炎が巻き起こり、灼熱の大剣に姿を変えた。熱で服が焼け落ちて、初めて会ったときに着ていた白いワンピース姿になると、その大剣を何の躊躇いも見せずに死神に振り降ろした。

 

死神は少女を恐れるかのように鎌を掲げ、防御の姿勢をとるが熱により鎌が徐々に溶け、最後には叩き斬られた。振り降ろされた一撃により死神は爆散。あたりには静寂と沈黙が残った。

 

「ユイ・・・ちゃん・・・」

 

沈黙を破ったのはアスナ。掠れた声で名前を呼ぶと、ユイは振り向いた。

 

「パパ・・・ママ・・・にぃに・・・ねーね。ぜんぶ、思い出したよ・・・」

 

俺たちに数歩歩み寄ってくるその瞳は涙が溢れ、微笑む顔はとても痛々しかった。

 




珈琲「最後まで閲覧ありがとうございます!第10話いかがだったでしょうか?」

カエデ「なんていうか・・・お前いつも変なところで話を切るよな」

珈琲「仕方ないじゃん!文字多すぎるとぐだぐだするし、このくらいがちょうどいいんだよ!・・・・・・書くのもめんどいし」

カエデ「おい、本音漏れてるぞ作者」

珈琲「それにしても君、いい意味でも悪い意味でも結構フラグ立てるよね。ほかの女の子にも立ててるんじゃないの?」

カエデ「んなわけないだろ。俺はユウキ一筋だ」

珈琲「ふーん・・・そうらしいですよユウキさん」

ユウキ「ありがと////////」

カエデ「んな!?ユウキいたのか!?」

ユウキ「ボクもカエデのこと愛してるから////」

カエデ「ユウキ・・・」頭なでなで

ユウキ「/////」

珈琲「あーもしもし?今すぐいつものお願いします。はい、とびっきり苦いやつを・・・」

カエデ「とまあ、こんなだらしない作者だけどこれからもよろしくな」

ユウキ「みんなよろしくね!」

珈琲「なんで俺なじられてんの!?君らイチャイチャしてただけじゃん!」

カエデ「ご意見、ご感想お待ちしています!」

ユウキ「次回も見てね!」

珈琲「セリフとられた・・・」

甘くないと言ったな?あれは嘘だ。でも本文は甘くないんだし嘘じゃないか(ゲス顔)
今回はあとがきを少し変えてみましたがいかがだったでしょうか?そのことも感想をいただけるとうれしいです。


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11話 心と願い

お待たせしました!
今回も真面目な感じです。
読者様によっては・・・いや、なんでもない(笑)
それでは第11話です!どうぞ!


部屋の中央に設置された黒い石机に座るユイを、俺たち四人はじっと見つめていた。

ユリエールとシンカーには先に転移脱出してもらったので今、部屋には四人しかいない。

 

全部思い出した、とひとこと言ってからユイは沈黙を続けていたがアスナが訊ねるとゆっくりと重い口を開いた。

 

「全部・・・説明します―――キリトさん、アスナさん、カエデさん、ユウキさん」

 

その丁寧な言葉を聞き、俺は形容し難い何かを感じた。胸が締め付けられるような、何かがなくなってしまったような感じ。キリトもアスナもユウキも動揺しているようだった。

 

「<ソードアート・オンライン>という名のこの世界は、ひとつの巨大なシステムによって制御されています。システムの名前は<カーディナル>、それが、この世界のバランスを自らの判断に基づいて制御しているのです。カーディナルはもともと、人間のメンテナンスを必要としない存在として設計されました。二つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、更に無数の下位プログラム群によって世界の全てを調整する・・・。モンスターやNPCのAI、アイテムや通貨の出現バランス、何もかもがカーディナル指揮下のプログラム群に操作されています。――しかし、ひとつだけ人間の手に委ねなければならないものがありました。プレイヤーの精神性に由来するトラブル、それだけは同じ人間でないと解決できない・・・そのために、数十人規模のスタッフが用意される、はずでした」

 

「GM・・・」

 

ぽつりと呟いたキリトがさらに続ける。

 

「ユイ、つまり君はゲームマスターなのか・・・?アーガスのスタッフ・・・?」

 

「いやキリト、その可能性は低い。そもそも子供をスタッフとしては配備しないだろう。・・・・・・プログラム。違うか?」

 

ユイはゆっくり頷くとまた口を開いた。

 

「カエデさんのお察しのとおりです。カーディナルの開発者たちは、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したのです。ナーヴギアの特性を利用してプレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーのもとを訪れて話を聞く・・・。<メンタルヘルス・カウンセリングプログラム>、MHCP試作一号、コードネーム<Yui>。それがわたしです」

 

「プログラム・・・?AIだっていうの・・・?」

 

アスナの問いかけに、ユイはあの悲しそうな笑顔を向けてこくりと頷いた。

 

「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられています。・・・偽物なんです、全部・・・この涙も――――」

 

「それは違うぞ、ユイ」

 

ユイの言葉に割り込み、続ける。

 

「あのときユイは俺たち四人を助けた。ただのプログラムならそんなことしない。それは紛れもなくお前の意思だ。ちゃんと持ってるんだよ。<心>を。だから――」

 

ユイの頭の上に手を置き、柔らかい口調で話しかける。

 

「これからどうしたいんだ?お前の心を聞かせてくれ」

 

「わたし・・・わたしは・・・」

 

ユイは細い腕をいっぱいに伸ばして四人に向けた。

 

「ずっと、一緒にいたいです・・・パパ・・・ママ・・・にぃに・・・ねーね・・・!」

 

アスナもユウキも溢れる涙を拭わず、ユイに駆けるとギュッと抱きしめた。

 

「よく言った。それでこそ俺の妹だ。さてキリトよ」

 

ユイをなでる手をとめて、キリトに話しかける。

 

「おそらくユイはカーディナルの中でエラー認定された。これから行われるプログラム走査のあとに・・・消去されるだろう」

 

「!?・・・どうしたらいい?」

 

アスナもユウキも俺の言葉を聞いて驚愕していた。自然と俺のほうに視線が集まる。

 

「消去される前にユイのコアプログラムを取り出す。パソコンに詳しいだろ?」

 

「お、おう!」

 

それだけ言うとコンソールに駆け寄りキリトはシステムにアクセスした。操作している横で俺もコンソールを起動させてキリトのアシストをする。

 

「カーディナルにエラーをぶち込んでユイのプログラム走査を遅らせる。その間に取り出せ!時間がない!」

 

「分かってるって!」

 

キーボードをたたく音に満たされた部屋のなかで、よく通る澄んだ声が響いた。

 

「ありがとう・・・パパ・・・にぃに」

 

ユイは目に涙を浮かべて、笑った――

 

 

――――――――

 

第一層<はじまりの街>は、冬の肌寒さをまったく感じさせない暖かな陽気に包まれていた。はしゃぐ子供たちの声。まあ、はしゃいでいる理由はもっと別のところにあるのだが・・・

 

現在、教会前ではガーデンパーティーが開催されていた。ユウキとアスナがその料理スキルをいかんなく発揮し、料理をみんなに振る舞っている。

 

「できたよー!」

 

新しい料理が次々に運び出されるたび、子供たちが盛大な声を上げる。うん、そういうことだ。別にぽかぽか陽気に対して喜んでいるのではなく料理に対してテンションMAXなだけである。食べ盛りだしね。仕方ないね。

 

「こんな旨いものが・・・この世界にあったんですね・・・」

 

シンカーが運ばれてきた料理を食べながら感激の表情で言った。隣ではユリエールがその様子をにこにこしながら眺めている。おー 甘い甘い。

 

「あ、カエデ!ここにいたんだ!」

 

先ほどまでキッチンで料理をしていたユウキが俺の隣に座りながら話しかける。

 

「はい、カエデ。あ~ん」

 

「ん・・・」

 

「・・・どうかな?」

 

口の中の料理を咀嚼している俺を見ながら心配そうに聞いてくる。

 

「おいしいよ。さすがユウキ」

 

「えへへ、よかった」

 

頭をなでながら料理の感想をユウキに伝える。いつも食べてるし、毎日美味しいんだから聞かなくてもいいだろ・・・・・・まあ、かわいいからいいや。

 

「ほら、ユウキも。あ~ん」

 

「え!?いや・・・恥ずかしいよ・・・あむ」

俺が作ったわけじゃないが、まあ仕返しというやつだ。だから惚気―――以下略。

 

そういえばパーティー参加者全員(子供たちも)にブラックコーヒーと抹茶が出されていたらしい。

そのどれもが飲めなくなるレベルで甘くなっていたとか・・・解せぬ。

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

その広い部屋は塔の一フロアを丸ごと使っており、壁は全面透明のガラス張りだった。中央には半円形の巨大な机が置かれ、その向こうには五脚の椅子が並んでいる。

部屋の中には俺を含めて二人しかおらず、もうひとりは並んだ椅子の中央に座っている。

 

「っていうのが今回の事件のあらましです」

 

「なるほど・・・それでユイ君はこれからどうするのだね?」

 

椅子に座る人物――――ヒースクリフは眉をひそめたまま俺に問いかけてきた。削いだように尖った顔立ちからは何を考えているのか読み取ることができない。

 

「容量的にはぎりぎりですけど、キリトのナーヴギアにあるローカルメモリに保存されるようになっています。そこで今回のことは誰にも口外しないようにしていただけると助かるんですけど」

 

「ふむ、承知した。しかしなぜ私にそれを言う?君さえ言わなければ私は知らなかっただろうに・・・」

 

表情を変えないままさらにヒースクリフが問う。

 

「やだなぁ、団長さんのこと信用しているからですよ。それに―――」

 

「なぜプログラムが規定外の動きをするのか気になっていた・・・ですよね?」

 

そこまでいって俺は部屋から出た。俺の考えが正しいかどうかは近いうちに分かる。その時までゆっくり待つことにしよう。

 

 

「まさか、カエデ君・・・いや、それもRPGの醍醐味というやつか・・・」

 

部屋に残ったヒースクリフはぽつりと呟く。その口角がわずかにつり上がっていたのは誰にも見られることはない。

 

「・・・それにしてもこのアイテムはどう消費しようか」

 

机の上に置かれた大量の<スカベンジトードの肉>を見てなんとも言えない表情になったのも誰にも見られることはなかった。

 

 

――――――――

 

「はぁ~冬だね~」

 

転移門広場を目指して歩きながら呟く。空は夕焼けに染まり、街を吹き抜ける冷たい風が容赦なく体全身におよぶ。

 

身を縮ませ寒さを和らげながら歩いていると通知音が鳴り、メッセージが届いた。

差出人はもちろんユウキ。

 

「カエデ、もうすぐ晩御飯ができるからはやく帰ってきてね。今日は寒いからシチューだよ!」

 

最愛の人の声を聞いて思わず顔が綻ぶ。この幸せな生活がいつまでも続けばいいのに・・・心の底からそう思う。しかし、あと数日経てば俺たちは前線に戻らないといけない。七十五層のボスと戦う日も近いだろう。その時俺は――――

 

そこまで考えて、俺はふっと笑った。ごちゃごちゃ考えるのは、やめよう。

簡単なことだ。守るべきことは二つ。

 

この世界を終わらせる――――みんなの願いであり、ユイとの約束だ。

どんなことがあってもユウキを守る――――俺の決意だ。

 

約束と決意・・・胸に掲げた思いを果たすために今を精一杯生き続ける。そうすることで答えはきっと見つかるはずだ。

 

「達成するさ・・・両方な」

 

口から出た小さなつぶやきが頭の中に強く響き渡るのを感じながら俺は第五十五層をあとにした。

 




珈琲「朝露の少女、これにて終了です!第11話、いかがだったでしょうか?」

ユウキ「カエデ、あ~ん。」

カエデ「ん・・・やっぱりおいしいな。ユウキの料理は」

珈琲「・・・・・・」壁ドン

カエデ「ほらユウキも、あ~ん」

ユウキ「あむ・・・ありがと/////」

珈琲「あ、すいませーん!壁のおかわりお願いします。はい、鉄のやつを」

――――――数時間後

珈琲「長かった・・・もう壁も手も限界や・・・」

カエデ「なんでそんなにボロボロなんだ?俺たち普通に飯食ってただけなのに」

ユウキ「なんでだろうね?」

珈琲「(あれで普通だと・・・?)・・・もういいや。とりあえず75層のボス戦が近づいてきたわけだけど、どうなの?」

ユウキ「クォーターポイントのボスは強いからね!どんな敵なのか楽しみだよ!」

珈琲「おー元気やねー。カエデのほうは?」

カエデ「いつもどおり全力で戦うだけだな。もちろんユウキのことが最優先だけど」

ユウキ「カエデ・・・/////」

カエデ「ボス戦がんばろうな。ユウキ」

ユウキ「うん////」

珈琲「あー、はいはいワロスワロス」

カエデ「ご意見ご感想いつでもお待ちしています!」

ユウキ「また次回会おうね!」

「「「これからもよろしくお願いします!」」」

あとがきのほうはこのままでいいとお声をいただいたのでこれでいきたいと思います。
最後まで閲覧ありがとうございました!


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12話 あんまり進んでなくね?

遅れて申し訳ないです!またまたお話を調整するために変なとこで区切って短くなってます。
ご理解頂きますようよろしくお願いします。例によって甘さなしです。
それでは第12話です!どうぞ!


―――偵察隊が全滅した―――

その衝撃的な知らせは俺たち四人を攻略に戻すのに十分な理由だった。

 

となりにいるキリトの驚愕をヒースクリフはゆっくり頷き、肯定した。

 

「昨日のことだ。七十五層迷宮区のマッピング自体は、時間は掛かったがなんとか犠牲者を出さずに終了した。だがボス戦はかなりの苦戦が予想された」

 

それは攻略組の人間なら誰もが考えていることだった。これまでの攻略してきたフロアのなかで二十五層と五十層のボス。つまりクォーターポイントのボスだけは強さが他よりもずば抜けていたからである。

二十五層のボス攻略では軍の精鋭が壊滅させられそれが軍の弱体化に繋がったし、五十層ではボスの猛攻に怯み、脱出する奴らが続出。戦線が一時的に崩壊した。クォーターポイントごとにそういったボスが配置されているならこの七十五層もその可能性が高かった。

 

「・・・そこで、我々は五ギルド合同のパーティー二十人を偵察隊として送り込んだ」

 

二十人・・・フルレイドの半分にも満たない数だが、偵察にこれほどの人数が送りこまれるのは異例だ。

 

「偵察は慎重を期して行われた。十人が後衛としてボス部屋入り口で待機し・・・最初の十人が部屋の中央に到達して、ボスが出現した瞬間、入り口の扉が閉じてしまったのだ。ここからさきは後衛の十人の報告になる。扉は五分以上開かなかった。鍵開けスキルや直接の打撃等何をしても無駄だったらしい。ようやく扉が開いた時・・・」

 

ヒースクリフは一瞬目を閉じ、言葉を続ける。

 

「部屋の中には、何も無かったそうだ。十人の姿も、ボスも消えていた。転移脱出した形跡も無かった。彼らは帰ってこなかった……。念の為、基部フロアの黒鉄宮までモニュメントの名簿を確認しに行かせたが……」

 

「・・・全員が強制退場か」

 

俺の言葉に無言で首を振るヒースクリフ。

 

「十・・・人も・・・。なんでそんなことに・・・」

 

キリトのとなりでヒースクリフの話を聞いていたアスナが絞り出すように呟いた。

 

「結晶無効化空間・・・?」

 

「たぶんそれで正解だ。そんでもってこれからも・・・」

 

「・・・君たち二人が考えている通りだ。アスナ君の報告では七十四層もそうだったということだから、おそらく今後全てのボス部屋が無効化空間と思っていいだろう」

 

やっぱりか・・・。俺は心の中で嘆息した。

RPGとは死にゲーだ。何度も死んで何度も失敗を繰り返しながらダンジョンの攻略法を学ぶ。そういうジャンルのゲームだ。デスゲームであるSAOでは死に戻りなんてできないが偵察によってボスの事前情報は得られた。しかし今回はそれすらも行えない・・・いつかそうなると予想していたがあまりにも早すぎる

 

「いよいよプレイヤーを本気で殺しにきたわけだ・・・」

 

「だからと言って攻略を諦めることはできない」

 

ヒースクリフは目を閉じながら囁くように、それでいてきっぱりとした声で言った。

 

「結晶による脱出が不可な上に、今回はボス出現と同時に背後の退路も絶たれてしまう構造らしい。ならば統制の取れる範囲で可能な限り大部隊をもって当たるしかない。新婚の君たちを召喚するのは本意ではなかったが、了解してくれ給え」

 

その言葉にキリトが肩をすくめて言う。

 

「協力はさせて貰いますよ。だが、俺にとってはアスナの安全が最優先です。もし危険な状況になったら、パーティー全体よりも彼女を守ります」

 

「俺もそうさせて貰います。まあ、俺はピンチじゃなくてもユウキ中心で動くつもりですけど・・・」

 

俺とキリトの言葉にヒースクリフは微笑を浮かべた。

 

「何かを守ろうとする人間は強いものだ。君たちの勇戦を期待するよ。攻略開始は三時間後。予定人数は君たちを入れて三十ニ人。七十五層コリニア市ゲートに午後一時集合だ。では解散」

 

それだけ言うと、聖騎士とその部下の男たちは立ち上がって、部屋を出て行った。

 

 

――――――――

 

「三時間後か・・・それにしても最後まで一言も話さなかったな、ユウキ」

 

いつも通りの対応に会話のきっかけを見出そうと、俺は隣に座っている少女に声をかける。別に珍しいことではない。ヒースクリフがいるとユウキは決まって口数が減るのだ。

 

「やっぱ嫌いなのか?あの人のこと」

 

「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・なんていうのかなー。変な感じがするっていうか・・・」

 

そう言ってしばらく考えていたが、やがて舌を覗かせると「えへへ、よく分かんないや」と締めくくった。

 

「女の勘ってやつか」

 

「うん!そういうことだよ!」

 

よく言ってくれた、と言わんばかりの笑顔を向けてくるユウキにそれでいいのかよ・・・と脳内でつっこみを入れる。・・・

 

「まあ、それは置いといてだ。なぁユウキ」

 

俺はユウキと向かい合うと躊躇いながら口を開いた。

 

「俺が何をしようとついて来てくれるか」

 

「うん!」

 

「即答ですか・・・」

 

俺の苦笑混じりの呟きにユウキが言う。

 

「カエデのこと信じてるから!どんなことがあってもボクはカエデのそばにいる。カエデがレッドプレイヤーになるのなら、ボクもなる」

 

「物騒なこというなよ・・・」

 

視線を逸らさずにまっすぐと俺を見つめて話すユウキを抱きしめて、俺は耳元で囁いた。

 

「君のことは絶対に守るから・・・この世界・・・終わらそうな」

 

「・・・うん」

 

静寂に包まれたまま部屋の中でゆっくりと時間だけが過ぎる。

フロア攻略なんかやめてずっとこうしていたいがそれは叶わない。あと二時間ちょっとでボスとの戦いが始まる。それからさらに数時間後には戦いの決着がついているだろう。

そして俺の予想が正しければ、この世界は大きな分岐点を迎える。解放か・・・それとも・・・

 

胸の中に広がる緊張と不安を振り払うように、俺はユウキを抱く腕に力をこめた。

 

 

 

 

「えっと、ユウキさん?そろそろ・・・」

 

「も、もう少しだけ・・・」

 

そんなやり取りを繰り返して集合時間に遅れた俺たちを誰が責めれるだろうか。

・・・・・・うん、普通に誰でも責めれますね。遅れてごめんなさい。

 




珈琲「最後まで閲覧ありがとうございます!第12話、いかがだったでしょうか?」

カエデ「また変なところで区切ったし・・・」

ユウキ「話が短いし・・・」

カエデ・ユウキ「「なんかねぇ・・・」」

珈琲「だ、だって最近忙しいし、書く暇ないんだもん!」

カエデ「あ、そういえばユウキ、なんかこいつの部屋で見つけたって言ってたな」

ユウキ「うん!これとか!」(*。・ω・)っ買ったゲーム

珈琲「」

カエデ「ほう・・つまり遊んでいたと・・・?」

珈琲「あははは・・・・・・・・・・・・てへぺろ☆」

カエデ「・・・・・お前今週中にもう1話な」

珈琲「え!?そんな殺生な!」

カエデ「いいからやれよ・・・な?」

珈琲「わ、わかったから!だからカエデもユウキもその武器しまって!」

ユウキ「・・・えいっ!」

珈琲「ぎゃぁぁあああ!!」

カエデ「・・・これで少しは懲りたか」

ユウキ「ご意見ご感想いつでもお待ちしています!」

カエデ「急いで書いていたみたいだからな。誤字脱字なんかあったら報告よろしくな」

カエデ・ユウキ「「それではまた次回よろしくね!」」

珈琲「・・・・・・また言えなかった・・・」

ほんと更新遅れて申し訳ないです。今週までにもう1話投稿しますので許してください!




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13話 RPGで即死攻撃ってどうなのよ・・・

お待たせしました!今回もボス戦なのでまじめな感じです。
次回で完結させるつもりなので最後までお付き合いください!
それでは第13話です! どうぞ!


七十五層コリニア市のゲート広場には、一目でハイレベルと判るプレイヤーたちがすでに集まっていた。俺とユウキがゲートから出てその集まりに加わろうとすると、皆ぴたりと話すのをやめて緊張した表情で目礼を送ってくる。中には「なに遅れてきてんだよ・・・」とでも言いたげな視線で俺たちを見ている連中までいる。

 

「よう!」

 

強めに肩を叩かれて振り返ると、野武士・・・ではなくカタナ使いのクラインがにやにや笑っていた。後ろにはキリト、アスナがおり、珍しいことにエギルの姿もある。

 

「二人揃って遅れてくるたぁ何かしてたのかい」

 

「残念ながらお前が想像しているようなことじゃないよ」

 

にやにや笑ったまま遅れてきた理由を聞いてくるクラインに呆れ半分で言い返す。

・・・遅れてきた理由が抱き合っていたからとか口が裂けても言えるわけない。

 

「それにしてもエギルまで参加なんて珍しいな。店でもつぶれたのか?」

 

「んなわけないだろう!」

 

憤慨したように斧戦士は野太い声を出した。

 

「今回はえらい苦戦しそうだって言うから、商売を投げ出して加勢にきたんじゃねえか。この無私無欲の精神を理解できないたぁ……」

 

「なるほど、それはすまなかった。ユウキよ、エギルが今日の戦利品を譲ってくれるらしい」

 

「いや、そ、それはだなぁ……」

 

情けなく口籠るエギルを見て笑いが起きる。朗らかな空気は周りにも伝染し、みんなの緊張がいくらか和らいだようだったが、ヒースクリフが血盟騎士団の精鋭を引き連れてこちらにくると再びあたりに緊張が走った。

 

立ち止まったヒースクリフは俺たちを見て軽く頷くと、口を開いた。

 

「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。―――解放の日のために!」

 

最強プレイヤーの力強い叫びに集まった攻略組の士気が上昇する。

 

「キリト君、それにカエデ君、今日は頼りにしているよ。<二刀流>と<死変剣>、存分に揮ってくれたまえ」

 

低く、穏やかなその声には一片の恐怖も感じられない。余裕の表情は俺のなかにある疑惑をさらに大きくする。

 

俺とキリトが無言で頷くと、ヒースクリフは集団に振り返り、片手を上げた。

 

「では、出発しよう。目標のボスモンスタールーム直前の場所までコリドーを開く」

 

そう言って腰のパックから濃紺色のクリスタルを取り出すと、周囲のプレイヤーたちから驚きの声が漏れる。

 

ヒースクリフが手に持っているアイテムは任意の地点を記録し、そこに向かって瞬間転移ができる<回廊結晶>というものだ。普通の転移結晶と違いこのアイテムは転移ゲートを一時的につくる便利な代物で希少度の高さからNPCショップでは売られていない。そんな貴重なものをあっさり使用するあたり、このヒースクリフという人物がどれだけ攻略に力を注いでいるのかわかる。

 

「では皆、ついてきてくれたまえ」

 

ゲートを出現させるとヒースクリフは俺たちをぐるりと見渡して、青い光の中へ足を踏み入れた。俺とユウキもそのあとに続き転移をした。

 

 

――――――――

 

まばゆい光から解放され、目を開くとすでにボス部屋前だった。黒曜石が敷き詰められた回廊には冷たく湿った空気が流れ、扉のまわりには薄い靄がかかっている。

 

「・・・なんか・・・やな感じだね・・・」

 

「そうだな・・・」

 

装備を確認しながら首肯する。後ろにいるプレイヤーたちもボス部屋から漂う何かを感じているのかメニューウインドウを覗く顔が険しい。

 

「皆、準備はいいかな。今回、ボスの攻撃パターンに関しては情報がない。基本的にはKoBが前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限りパターンを見切り、柔軟に対応してほしい」

 

剣士たちが頷くのを見るとヒースクリフは大扉に歩み寄り、手をかけた。

 

「死ぬなよ」

 

「お前こそ・・・ってまたフラグかよ」

 

肩をすくめて返事をした直後、扉が重々しい音を響かせながら動き出した。

 

「――戦闘、開始!」

 

ヒースクリフが剣を掲げ、叫ぶと全員が一斉に扉の中へと走り出した。

 

 

 

 

ボス部屋はドームの形をした造りだった。全員が部屋の中央に到着すると、轟音を立てて背後の大扉が閉まる。ボスを倒すか、俺たちが全滅するまであの扉を開けることは不可能だろう。

 

扉が閉まってから数秒の沈黙が続いた。感覚を研ぎ澄ませ、部屋を見渡すがボスが姿を現す気配はない。プレイヤーの一人が耐え切れないというふうに「おい―――」と声を上げた、その瞬間。

 

「上よ!!」

 

少し離れたところでアスナが鋭く叫んだ。その声を聞いて頭上を素早く見上げるとドームの天頂部に張り付いていたそれを見つけた。

 

百足か・・・?全長は十メートルほどでいくつもの関節と鋭い脚が伸びていた。横に長いその体を視線で追っていくと、徐々に太くなる先端に凶悪な頭蓋骨があり、頭蓋骨の両脇からは鎌の形をした巨大な骨の腕が突き出している。

 

<The Skullreaper>――――骸骨の刈り手という名前がイエローのカーソルと共に表示され、それと同時に巨大な百足はレイド目掛けて落下してきた。

 

「固まるな!距離を取れ!」

ヒースクリフの叫び声を聞いてプレイヤーたちが我に返ったように動き出す。俺とユウキも落下地点から飛び退くが、落下地点の真下にいた三人の反応が遅れた。

 

「こっちだ!」

 

キリトが叫び、三人に避難を促すが骸骨の落下で発生した地響きによって三人ともたたらを踏む。そこに向かって、骸骨の右腕――巨大な骨の鎌が横薙ぎに振り降ろされた。

 

三人は切り飛ばされてHPが猛烈な勢いで減っていく。

緑色から黄色、黄色から赤色――――そしてあっけなく0になった。三人のアバタ―が立て続けに無数の結晶に変わり、発散していく。

 

「・・・おいおい・・」

 

一撃で死亡かよ・・・目の前で起こった出来事に驚きを隠せなかった。SAOのようにスキルやレベル制のゲームではそれらが上昇するほど死ににくくなる。理由は簡単でステータスがそれに比例して高くなるからだ。ましてや今回のメンバーは攻略組。レベルもスキルの高さも折り紙つきの連中だ。にも拘わらず三人は即死した。考えられるのは・・・

 

「鎌の攻撃にはおそらく即死効果が付いてる!絶対に当たるな!!」

 

推測の域を出ないが俺は考えられる可能性を全員に聞こえるように叫んだ。

 

百足は上体を起こして轟く雄叫びを上げると、新たに見つけた獲物に向かって突進を開始した。

 

「わあああ―――!!」

 

ターゲットにされたプレイヤーたちが悲鳴を上げる。骨鎌が振り上げられた瞬間、俺は両者の間に割り込んでいた。左右に持った剣をクロスさせて鎌を受け止める。

 

「っ・・・!」

 

爆発にも似た衝撃に思わず声を漏らしそうになる。だが鎌は止まらない。徐々に俺を押しながら眼前に迫ってくる。

 

だめだ、重すぎる・・・!

 

その時、後ろから黒い閃光が駆け抜け、鎌を押しのけるように命中した。百足の勢いが緩んだ隙に筋力値全開で押し返す。

 

俺の隣に立ったユウキは一瞬だけこちらを見ると言った。

 

「カエデ、ボクたちならできるよ!」

 

「・・・だよなっ 頼む!」

 

俺は頷いた。さきほど感じた不安も恐怖もどこかへ消えていた。ユウキが傍にいるかぎり・・・誰にも負ける気がしない。

 

「団長さん!あんたは側面からの攻撃を指揮してください!キリトとアスナはもう片方の鎌を!」

 

その声に、プレイヤーたちは雄叫びを上げ、武器を構えて突撃する。側面からの攻撃を受けたボスは初めて怯みをみせた。わずかだがHPも減少している。

 

直後に複数の悲鳴が上がったが俺とユウキにも、離れた位置で左鎌を迎撃しているキリトとアスナにも手助けをする余裕はない。プレイヤーたちの絶叫を無理やり頭から追い出し、即死の鎌を捌くことだけに神経を集中させる。ボスが振り降ろす鎌の衝撃でHPが減少していくがそんなことさえも意識から外れて行った。

 

 

――――――――

 

それから先はよく覚えていない。何度も振り降ろされる鎌を受け止め、怯んだ隙にソードスキルを放ってダメージを与える。もう何日も戦ったのではないかと思える激戦の果てに、ようやくボスがその巨体を爆散させた。

 

しかし誰一人として歓声を上げる奴はいなかった。俺とユウキも倒れ込むようにその場に腰をおろす。

 

「・・・なんとか・・フラグ折れたな・・・」

 

「・・・生き残れたね」

 

背中合わせに座り込みユウキと無事を確認していると、不意にクラインが訊いてきた。

 

「何人――やられた・・・?」

 

「・・・十四回・・・俺が聴いたアバタ―の・・爆散回数・・・」

間違いないだろう・・・だが信じられなかった。皆、百戦錬磨の剣士だったはずだ。RPGでいうなら命令は<いのちをだいじに>・・・それなのに十四人も。

 

アインクラッドはまだ四分の一も残っている。今日ほど強いボスはあまりいないだろうが楽な敵ではない。死者の数は増えていき、百層に到達するころには果たして何人のプレイヤーが残っているだろうか。

 

俺は部屋の奥へと目を向ける。今この場で平然と立っているのはヒースクリフだけだ。カーソルを合わせるとHPはギリギリだがグリーン――安全域に留まっている。

 

最強プレイヤーの表情は穏やかだった。視線は疲労困憊で床に突っ伏している仲間たちに向けられている。暖かいその視線は言わば――――

 

 

実験動物を観察する学者のような視線だった。その瞬間、俺の中で大きくなり続けていた疑惑が確信へと変わる。

 

―――失敗すれば取り返しのつかないことになる。だが油断している今しかチャンスはない

 

「カエデ・・・?」

 

「ユウキ・・・俺のこと信じてくれ」

 

隠蔽スキルを発動させてユウキの視界から消えると俺は返事も聞かずに地面を蹴っていた。

 

俺が地面を蹴るのと同時にキリトも飛び出していた。加速する景色の中で一瞬だけキリトと目があう。

 

――――ちゃんとタイミング合わせろよ?

 

ヒースクリフとの距離は十メートル、その地点でキリトは片手剣の突進技<レイジスパイク>を発動させた。剣先はペールブルーの尾を引きながらヒースクリフに迫る。それを見たヒースクリフはさすがの反応速度で気づき、驚愕の表情を浮かべながら盾を掲げる。

 

盾に阻まれ、剣はヒースクリフに届くことはなかったが―――

 

「本命はこっちだっ!」

 

隠蔽スキルを使ってヒースクリフの背後に回った俺はそのまま背中に短剣の単発技<アーマーピアス>を放った―――

 

しかし攻撃は寸前で目に見えない障壁に激突した。突如、腕に激しい衝撃が伝わる。そして俺とヒースクリフの中間地点に紫色のシステムメッセージが表示された。

 

<Immortal Object>。不死存在。

 




珈琲「最後まで閲覧ありがとうございます!第13話いかがだったでしょうか?」

カエデ「・・・」

ユウキ「・・・」

珈琲「悪かったって!だからそんな目でこっちを見ないでよ!」

カエデ「ユウキ、次回でSAO編は終わるみたいだけどなんかここまでくると感慨深いものがあるよな」

ユウキ「うん!カエデと出会ってから毎日が楽しくて・・・」

カエデ「向こうに帰ったら真っ先に会いに行くからな」ナデナデ

ユウキ「うん・・・待ってる////」

珈琲「無視からの惚気ですか!?君らほんとに何なの!?」

カエデ「・・・あ、まだいたんだ」

ユウキ「帰ったかと・・・」

珈琲「すでに存在すら危うい!?」

カエデ「そういえば閲覧数が10000を超えたみたいだな」

ユウキ「こんな駄文なのにすごいね!」

珈琲「褒めてるの?貶してるの?・・・まあいいや。飽きっぽい作者がここまでやれているのは読者様のおかげです!ありがとうございます!」

カエデ「期待を裏切らないためにも頑張って完走させろよ?」

珈琲「分かってるよ。でもちょっとくらいは遊んでも――」

ユウキ「えいっ!」

珈琲「ぐぁぁあああ!」

カエデ「ご意見ご感想いつでもお待ちしております!」

ユウキ「なるべく早く書かせるから待っててね!」

珈琲「次回もよろしくお願いします!」

カエデ・ユウキ「「復活早い・・・」」


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14話 ショウタイ×ト×ケッセン

やっぱルビふったらダメですね・・・手直ししました。
サブタイトルがあれですが・・・ハンター×ハンター要素はありません。ちょっとやってみたかっただけです(笑)
そういえばタグにユウキ生存追加しました。別にいいよね・・・?
それでは第14話です!どうぞ!


「システム的不死・・?・・・って・・どういうことですか・・団長・・?」

 

半信半疑といったアスナの声にヒースクリフは答えず、厳しい表情のまま俺たちをじっと見据えた。

 

「見たまんまだ。不死属性が付けられているのは基本的にNPC。でもこいつはプレイヤーだ。GMを含むスタッフなら自分自身に設定することは可能だが、そんな奴はいない。ただ一人を覗いて」

 

俺が言葉を切るとキリトが続ける。

 

「・・・この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった・・・。あいつは今、どこから俺たちを観察し、世界を調整してるんだろう、ってな。でも俺は単純なことを忘れていたよ。どんな子供でも知っていることさ」

 

キリトは聖騎士をまっすぐ見据え、言い放った。

 

「<他人のやってるRPGを傍から眺めるほど詰まらないことはない>。……そうだろう、茅場晶彦」

 

「団長・・・本当・・・なんですか・・・?」

 

虚無を映しているような光のない瞳でアスナがヒースクリフに再び問いかける。

その様子は感情が欠落しているようにも見えた。

 

ヒースクリフはアスナの言葉に答えようとはせず、俺たちに向かって聞いてきた。

 

「・・なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな・・?」

 

「・・最初におかしいと思ったのは例のデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも早過ぎたよ」

 

「やはりそうか。あれは私にとっても痛恨事だった。君の動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった・・・しかし」

 

ヒースクリフは一呼吸おいて俺のほうを向くと同じことを聞いてくる。

 

「カエデ君はキリト君よりも早くわたしの正体に気付いていたようだが?」

 

「・・・怪しいと思っていたのは前からです。団長さん、この世界について知り過ぎなんですよ」

 

そう、この男は本当に何でも知っていた。誰も確かめようとしないことからシステムの仕組みまで・・・

 

「初めて会ったときはβテスターかと思ったんですけど、そのときはもうβテスターとビギナーの差なんてなかったですからね。なにより攻略本を片手にプレイしているかのような博識ぶり・・・その上、ギルドを作って纏め役までやりだすとさすがに変です」

 

「まさかそんなところまで見抜かれていたとは。私を信用しているという言葉は油断させるためのブラフかね・・・?」

 

「いえ、それについては本当です。ただ―――」

 

「信用しても信頼をしているとは言ってませんよ?」

 

揚げ足を取る俺の言葉にヒースクリフは苦笑するとゆっくりとプレイヤーたちを見回し、堂々と宣言した。

 

「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

 

よろめくアスナをキリトが支え、俺は隣にいるユウキに声をかける。

 

「ユウキが団長さんを嫌ってた理由、勘とか言ってたけど間違いじゃないぜ?」

 

「こんなことって・・・」

 

「残念だが事実だ。そしてお前が俺を信じてくれたおかげで正体を暴くことができた」

 

ありがとな、とユウキの肩にぽんと手を置きながら言う。

 

「・・・最終的に私の前に立つのはキリト君だと予想していた。全十種存在するユニークスキルのうち、<二刀流>スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に、<死変剣>はプレイヤー中最高のクリティカル率を誇る者に与えられ、それぞれが魔王に対する勇者、そして勇者に対する宿敵の役割を担うはずだった。まさかカエデ君がそのスキルを取得するとは思っていなかったが・・・まあ、不測の事態もRPGの醍醐味というべきかな・・・」

 

「ライバルはラスボス戦に協力するものです。どのみちあなたが期待していた熱い展開でしょう」

 

その時、呆然と動きを止めていたプレイヤーがゆっくりと立ち上がった

 

「貴様・・貴様が・・。俺たちの忠誠・・希望を・・よくも・・よくも・・よくもーーーッ!!」

 

血盟騎士団の幹部を務めていたその男は手に持った巨大な斧槍を握りしめ、猛然と茅場に襲いかかる――――

 

だが茅場のほうが一瞬早かった。ウインドウを呼び出し、素早く操作すると男は空中で停止し、その場に倒れた。HPバーにグリーンの枠が点滅している。麻痺状態。茅場はそのまま手を止めずウインドウに指を走らせ続けた。

 

「う・・・カエデ・・・っ」

 

横を向くと、ユウキも倒れていた。周りを見れば、俺とキリトと茅場以外の全員が不自然な格好で倒れている。

 

剣を腰に収めてユウキを抱え起こし、茅場を睨み付ける。

 

「全員殺して隠蔽か?まあ、魔王らしいといえばらしいがな・・・」

 

「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ」

 

聖騎士と呼ばれていた男は微笑を浮かべ、首を振ると続けた。

 

「こうなってしまっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の<紅玉宮>にて君たちの訪れを待つことにするよ。九十層以上の強力なモンスター群に対抗しえる力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちならきっと辿り着けるさ。だが・・その前に・・」

 

茅場はその射るような眼差しで俺たちを見据えると言った。

 

 

「キリト君とカエデ君、君たちには私の正体を看破した報奨を与えよう。今この場で私と戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。」

 

「ずいぶん余裕そうだな・・・俺たち二人に勝てるのか?」

 

「キリトの言うとおりだ。前の対決の時にほぼ互角・・・オーバーアシストでも使わないと勝てないぞ?」

 

俺たちの挑発に笑みを浮かべると茅場はウインドウを操作して答えた。

 

「さすがに君たち二人の相手をする力は今の私にはない。だからカエデ君にはとっておきの相手を用意させてもらおう」

 

茅場が言い終わると同時に俺の目の前にボロボロの甲冑を着た騎士モンスターが現れた。

 

騎士モンスターは俺を見据えるとその姿を変える。そして変化が終わると眼前の敵は俺・・・カエデの姿になっていた。

 

「このモンスターの名前は<ミラージュ・ナイト>。第100層に出現するモンスターでプレイヤーの姿、ステータスをコピーして戦う。私の側近という設定で配置する予定だった。まずはカエデ君がそのモンスターと戦い、そのあとにキリト君が私と戦う。二人が勝てばゲームはクリア・・・どうかな?」

 

茅場の提案を聞いた途端、腕の中にいたユウキが必死に身体を動かして首を振った。

 

「だめだよカエデ・・・!カエデを消すつもりだよ・・・今は・・今は引こうよ・・・!」

 

たしかにそれが最良の選択だ。そのくらい俺にだってわかる・・・だがそれが最善の手とは限らない。

 

「ふざけるな・・・」

 

「あんまり調子乗んなよ・・・」

 

言い表すことのできない怒りがこみ上げ、それがかすかな声となって漏れた。

 

1万人のプレイヤーを己の世界に閉じ込め、傍観。そのくせ育てた?きっと辿り着ける?命がけでここまで来た俺たちをなんだと思っている・・・この男を・・・俺は許せない。

 

「いいだろう。決着をつけよう」

 

「ラスボスの前座には丁度いい。提案を呑もう」

 

「キリト君っ・・・!」

 

「カエデっ・・・!」

 

腕のなかで悲痛な叫びを上げるユウキに俺は顔を近づけ、キスをした。

 

「っ!?」

 

・・・たっぷり数秒、ねぶるような口付けを経て、顔を離すとユウキに微笑みを浮かべる。

 

「ごめんなユウキ、ここで逃げるわけにはいかない。だからもう一度、俺のことを信じてくれないか?そして――」

 

と付け加えて俺はストレージから剣を取り出した。すべてを飲み込むように、そして透き通るように美しい短剣を。

 

「それって・・・」

 

「そうだよ、お前が俺にくれた剣・・・俺と一緒に戦ってくれ」

 

「もう・・・どこにも行かないよね・・・?」

 

「ああ・・・。ずっと一緒だよ」

 

「解った。ボクも一緒に戦う」

 

必死に笑顔をつくり、笑いかけてくるユウキを俺は強く抱きしめた。

そして身体を離し、ユウキを床に横たえて立ち上がる。無言のままこちらを見ていた騎士にゆっくり歩み寄りながら、両手で腰から二本の剣を抜き放つ。

 

「キリト!やめろ・・・っ!」

 

「カエデーッ!」

 

声の主はエギルとクラインだった。

 

「エギル。今まで剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたぜ、お前が儲けのほとんど全部、中層ゾーンのプレイヤーの育成につぎ込んでたこと」

 

キリトの言葉を聞いて目を見開くエギルを一瞥すると俺はクラインに声をかけた。

 

「クライン、あのとき蘇生アイテムをユウキに渡してくれてありがとう。おかげで俺は大切な人と幸せな時間を過ごすことができた。ほんとに感謝してる・・・」

 

たちまちのうちに大量の涙をあふれさせながらカタナ使いが叫ぶ。

 

「て・・・てめえ!カエデ!言うんじゃねえ!今言うんじゃねえよ!!受け取らねえぞ!ちゃんと向こうで、メシのひとつもおごってからじゃねえと、絶対受け取らねえからな!!」

 

ああ、必ず・・・と短く返すと俺は最後に愛する少女をもう一度見つめた。

 

なおも泣き笑いの顔を浮かべる少女を見て、決意を固めると、くるりと身を翻し、離れた位置にいる茅場に向き直る。

 

「・・・俺とキリトからひとつだけ要求がある」

 

「何かな?」

 

「死ぬつもりも負けるつもりもないが・・・もし俺らに何かあったら―――しばらくでいい、アスナとユウキが自殺できないように計らってほしい」

 

「良かろう。彼女らをセルムンブルグとコラルから出られないようにする」

 

背後で二人の涙混じりの絶叫が響いたが俺はもう振り返らなかった。茅場がウインドウを操作すると俺、キリト、茅場、モンスターのHPが半分まで調整される。

同時に俺が構えると<ミラージュ・ナイト>も俺と同じ構えを見せた。

 

「まるで自分自身と戦うみたいだな・・・」

 

自嘲気味に苦笑しても<ミラージュ・ナイト>は表情を変えずに俺の出方を窺っている。

 

こいつを俺が倒す。そしてキリトに―――勇者に繋げる。そのためには

 

「ッ!」

 

力を溜めて構えた状態から腰を落とすと俺は地面を強く蹴った。

 




珈琲「最後まで閲覧ありがとうございます!第14話いかがだったでしょうか?そして・・・」

珈琲「どうして私は縛られているのでしょうか・・・カエデさん?ユウキさん?」

カエデ「理由くらい想像つくだろ・・・」

ユウキ「自覚なし?」

珈琲「・・・やめて!私に乱暴する気でしょう? エロ同人みたいに! 」

カエデ「しねーよ!」

ユウキ「カエデ・・・この人怖い・・・」

珈琲「ですよねー」

ユウキ「次回で終わるって言ってたよね?」

珈琲「いやー・・・言ってたっけ?そんなこと・・・あははは・・・」

ユウキ・カエデ「「・・・」」

珈琲「すいません!言ってました!ごめんなさい!だから武器をしまってください!!」

カエデ「はぁ・・・」

珈琲(このままだとまずい・・・話を変えなければ・・・)

珈琲「そういえばカエデ君、決戦前にユウキにキスしてたけど・・・」ニヤニヤ

カエデ「な――っ!?」

珈琲「――『だからもう一度、俺のことを信じてくれないか?』・・・お熱いですね~(笑)」

カエデ「るっせぇよ!」

ユウキ「カエデ、落ち着いてっ!」

カエデ「HA☆NA☆SE」

ユウキ「・・・それにボクは嬉しかったよ////」

カエデ「ユウキ・・・」

珈琲「また始まった・・・コーヒー旨っ!・・・・・・・・甘いけど」

珈琲「ご意見ご感想いつでもお待ちしています!それでは次回またお会いしましょう!」

カエデ「次回で終わるんだろうな?」

珈琲「・・・・・・終わらせます!」

ユウキ「そこは即答しようよ・・・」

長くなりすぎて分けることにしました(汗
次回で終わるぜ!いえーい!と思っていた読者様、申し訳ございませんでした。
よろしければもう少しだけアインクラッド編にお付き合いください!


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15話 SEKAI NO OWARI

スランプと脱力感が半端なくて更新が滞ってしまいました・・・・
サブタイトルですがセカオワとは一切関連がございません。
それでは第15話です!どうぞ!


飛び出しから一気に距離を詰めて右手の剣を横薙ぎに繰り出す。

<ミラージュ・ナイト>が左手の剣でそれを受け止める。剣がぶつかり合う瞬間、俺はもう片方の剣で<アーマーピアス>を放つが、同じタイミングで敵も<アーマーピアス>を発動させる。

 

ソードスキルの硬直が解けると同時に体術スキル<閃打>を打ち込む――――ふりをする。

そして<閃打>を防ごうと剣を動かした騎士に不意を突く形で死変剣の五連撃技である<デュアル・ペンタグラム>をたたき込んだ。一瞬だけ反応が遅れた騎士はその攻撃を防ぐことができず、HPバーを減らす。

 

茅場の言うとおり、敵と俺のステータスはまったく同じ。不意をつく攻撃はおそらくさっきので学習されただろう。おまけにこっちはボス戦の疲労もあって全開じゃない。そしてプログラムである目の前の自分はそんな精神的なダメージなどお構いなしに常にフルパワーで攻撃してくる。長引けば長引くほどこっちが不利・・・

 

 

 

「とか思っているのなら心外だな」

 

失笑混じりの呟きを聞いてか、<ミラージュ・ナイト>は短剣突進技<ラピットバイト>を使い、突っ込んでくる。その攻撃には冷静さが無くなっておりカウンターをする要領で俺は短剣三連撃技<シャドウ・ステッチ>を放った。

 

ソードスキルは三撃ともヒット。敵のHPをさらに減らす。だが威力は高くないのでノックバックすることなく騎士は俺に剣を振り降ろしてきた。先ほどよりも力のこもっていない斬撃を左手の剣で弾く。俺の言葉から何かを感じとって短期決着をつけようとしたらしいが時間切れだ。

 

「・・・っ!?」

 

騎士の身体が大きくぐらつく。その隙を逃さず、体術スキル<旋風>を打ち込み、相手との距離をつくる。騎士は跪き、困惑の表情を浮かべながら俺のことを見ていた。その様子を確認し、動けないでいる騎士に近づく。

 

死変剣の状態異常には大きく分けて二つある。まず一つは麻痺や毒のように敵の行動に直接干渉するもの。二つ目は筋力や敏捷などのステータスを一時的に下げて間接的に戦闘を妨害するもの。

 

<ミラージュ・ナイト>にカウンターを決め、斬撃を弾けたのもすべてはステータス弱体化のおかげである。まったく同じ能力値ならそれを下げてしまえばいい。

 

そして<ミラージュ・ナイト>が動けないでいるのは死変剣のなかでも唯一、発動にリスクがある状態異常。

 

 

――――――平衡感覚の一時的な喪失。

 

しかしこの能力は一度使った相手には二度と効かないし、これを見ていたやつにも効果が薄くなる。

 

「お前の敗因はカエデというプレイヤーになりきろうとしたことだ。そんな付け焼刃で勝てるほど――」

 

死神は甘くない。

 

跪いた<ミラージュ・ナイト>の首を刎ねて剣を腰に収めると、戦いを見ていたキリトに声をかけた。

 

「たしかに繋げたぞ、キリト」

 

「ああ、あとは任せてくれ」

 

拳をこつんと合わせる。やれることはやった。あとはキリトが茅場を倒せばゲームはクリアだ。

 

「キリト」

 

「どうした?」

 

「・・・いや、なんでもない」

 

それだけ言って俺はキリトから離れた。おそらくキリトなら分かっているはずだ。

 

「では、こちらも始めようか」

 

「・・・ああ」

 

俺が離れた瞬間、キリトと茅場の間の緊張感が高まっていく。これが勇者と魔王の戦い・・・突き刺さるような剣気を俺は肌で感じた。

 

「殺す・・・っ!!」

 

鋭い呼気と共にキリトが床を蹴った。遠い間合いからキリトが斬撃を繰り出し、茅場がそれを左手の盾で受け止める。剣と盾がぶつかりあう音が戦闘開始の合図となり、二人の動きが一気に加速する。純粋な殺し合い。それは俺が今まで見てきた戦いの中でもっとも人間味のあるものだった。

 

キリトはシステム上に設定されている技は一切使わずに左右の剣を振り続けていた。

その両腕はかつてのデュエルを上回る速度で動く。俺の目にすら、残像によって剣が数本に見えた。

 

だが茅場はそれを機械のような正確さで叩き落としていた。そして隙が出来るとすかさず鋭い一撃をキリトに浴びせてくる。

 

茅場の視線はあくまで冷ややかだった。かつてヒースクリフと呼ばれ慕われていたころの人間らしさはまるでない。

 

キリトはさらに両手の速度を速めて茅場に肉薄するがそれでも茅場の表情は変わらない。

その表情を見てキリトの顔にも焦りが生まれていた。そして使ってしまう。

 

二刀流最上位剣技<ジ・イクリプス>。システムに設定されている技だ。

 

「あのバカ・・・!」

 

キリトがスキルを放った直後、俺は駆け出していた。

 

<二刀流>を含め、ユニークスキルをデザインしたのは茅場だ。よってソードスキルよる攻撃はすべて読まれる。読まれるということはそこから防がれることにつながる。

 

全方位から噴出した剣尖が超高速で茅場に襲い掛かるが、最後の一撃に至るまで茅場はそれを盾で弾いた。そして微笑を浮かべると一言だけ口にした。

 

「さらばだ―――キリト君」

 

システムによる硬直を課せられたキリトにクリムゾンの刀身が振り降ろされる。

その瞬間、真紅に輝く長剣とキリトの間に凄まじいスピードで割り込む。しかし割り込んだのは俺だけではなかった。

 

――――アスナ・・・?・・・まったく世話の焼ける勇者だ。

 

攻撃を食らう寸前に茅場の着こんでいる鎧の継ぎ目に剣を突き刺す。それでもスキルを止めることは叶わず、長剣は茅場とキリトの間に入った俺、アスナを切り裂いた。

 

「カエデ、アスナ・・・!?」

 

キリトの呟きを聞きながら茅場を見る。すると茅場の表情にも驚きの色が見えていた。

そしてそれはさらに濃いものとなる。

 

「っ!?麻痺か!」

 

突き刺した剣の副次結果に一瞬だけ笑みを浮かべる。

 

「あとは・・・任せたぜ・・勇者さん」

 

麻痺によって体の自由を奪われた茅場にキリトが止めをさす。その姿を見届けて、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が覚醒していき、目を開くと俺は不思議な場所いた。視界に広がる景色はすべて夕焼けに染まっている。足元は分厚い水晶の板だ。透明な床の下には雲が流れており、ここが遥か上空ということを証明している。

 

・・・ここはどこだ?俺は死んだはず・・・

 

右手を伸ばし、指を振ってみる。すると、耳慣れた鈴の音と共にウインドウが表示された。

まだここはSAOの中なのだ。しかしウインドウには装備フィギュアなどの項目はなく、小さな文字で<最終フェイズ実行中 現在54%完了>と表示されているだけだ。

 

理解できないままにウインドウを消した直後、背後から声がした。

 

「・・・カエデ?」

 

思わず振り返る。するとそこには少女が立っていた。長い髪をそっと揺らして佇む姿を確認した瞬間、俺は走り出してその身体を固く抱きしめる。囁くような声で俺はユウキに言った。

 

「ごめん。・・・約束守れなかった・・・」

 

「・・・・・・反省してるなら行動で示し――!?」

 

顔をほんのり赤くさせて要求を声に出そうとしていたユウキの唇に自分の唇をあてる。

長い、長いキスの後、顔を離してユウキに笑いかける。

 

「これで許してくれる?」

 

「・・・ずるいよ、カエデ」

 

そう言って俺の胸に顔をうずめるユウキをなでながら、俺は視線を周りに移した。

 

「アインクラッド・・・」

 

視線の先には鋼鉄の城があった。一万人のプレイヤーを閉じ込めていた牢獄は徐々に下から崩れ始め、そのパーツを眼下の赤い雲海に落下させていく。

 

「なかなかに絶景だな」

 

傍らから声がした。視線を右に向けるといつの間にかそこには白衣を着た茅場が立っていた。つい数分前にこいつに斬り殺されたはずなのに不思議と憎しみや殺意は湧いてこない。

ユウキも俺と同じだったようでじっと茅場を見ている。

 

「勇者さまのところに行かなくてもいいのか?」

 

「それについては問題ない。彼らとは先ほど話してきた」

 

茅場は視線を移すことなく答える。

 

「あれは、どうなってるんだ?」

 

「比喩的表現・・・と言うべきかな。現在、アーガス本社地下五階に設置されたSAOメインフレームの全記憶装置でデータの完全消去作業を行っている。あと十分ほどでこの世界の何もかもが消滅するだろう」

 

「あそこにいた人たちは・・・?」

 

「心配には及ばない。先ほど――」

 

 

「生き残った全プレイヤー、6147人のログアウトが完了した」

 

ユウキの問いにも右手を動かしながら静かな声で返す。視線はアインクラッドに向けられたままだ。

 

「・・・茅場さん」

 

「何かね?」

 

茅場は視線を俺に向けると聞いてきた。

 

「・・・俺はあんたを許さない・・・でも――」

 

おそらく俺はこのとき笑っていたのだろう。まるでゲームをプレイする子供のように。

 

「楽しかったよ、このゲーム。俺は二年間でいろんなものを見つけることができた。信頼できる仲間、愛する人・・・確かにこの世界は俺にとってもう一つの現実だったよ」

 

「・・・開発者冥利に尽きる言葉をありがとう。素直に受け取っておこう」

 

バツが悪そうに頭をかく茅場を、ユウキが笑って見ていた。茅場は苦笑すると口を開く

 

「・・・言い忘れていたな。ゲームクリアおめでとう、カエデ君、ユウキ君」

 

ぽつりと言葉を発し、茅場は俺たちを穏やかな表情で見下ろす。

 

「・・・さて、私はそろそろ行くよ」

 

風が吹き、それにかき消されるように茅場は消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、自己紹介しようよ!」

 

なんで今更?と思ったがユウキは俺の現実での名前を聞きたいのだろう。剣士カエデとしてではなく、二年前に身体と一緒に置いてきた名前を。

 

浮かび上がってくるその単語に不思議な感慨を抱きつつも、俺は声に出した。

 

「秋風・・・秋風 楓。たぶん十六歳」

 

「あきかぜ・・・かえで・・・」

 

噛み締めるように、一音一音ゆっくり口にしてユウキは複雑そうに笑った

 

「三つも離れてたのかー。・・・ボクはね、紺野 木綿季。十三歳だよ」

 

こんの・・・ゆうき・・・その六文字を俺は心の中で何度も繰り返した。ユウキが途端に抱き着いてくる。

 

「いきなりどうした?」

 

「カエデ、ずっと一緒だよ」

 

その甘い声はいつまでも頭に響き、かがやくような笑顔は俺の網膜に焼き付いた。

 

 

固く抱き合ったまま、俺とユウキは光の粒となって消えていく――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・知らない天井だ。

しかし鼻を通る、つんとした消毒薬のにおいでここが病院であることを理解する。

 

「ゆ・・う・・き・・」

 

自分が生きているということよりも先に最愛の人の顔が浮かんだ。早く彼女のもとへ行かないと。そう思うが身体に力が入らない。

 

俺は状態を無理やり起こし、ゆっくりと頭を覆うナーヴギアを外した。点滴の針も引き抜き、体中についているコードもはずす。

 

床に足をつけて立ち上がろうと試みる。しかし膝が笑い、折れそうになる。

あのときの筋力パラメータはどこにいったんだよ・・・

 

そう自分に言い聞かせてどうにか立ち上がった。早くしろ、早くしろと身体がせかす声が聞こえてくる。

 

「ゆう・・・き」

 

もう少しだけ待ってて。すぐに会いに行くから。

 

点滴の支柱を杖代わりに握り、俺はドアに向かって歩み始めた。

 




珈琲「<ソードアート・オンライン~死変剣の双舞~>をお読み下さってありがとうございます!第15話、いかがだったでしょうか?」

珈琲「オリ主をいれてSAOを再構築してみよう!と軽い気持ちで書き始めたこのSSも気が付けば15話。振り返ってみるとなんだか感慨深いものがあります。」

カエデ「そんないい加減な理由で書いてたのかよ・・・」

珈琲「いやいや、ここに至るまでにちゃんとしたわけがありまして、聞くも涙 語るも涙の――」

カエデ「あ、別に言わなくてもいいよ。てか黙ってて」

珈琲「言い出しっぺがそのセリフ言っちゃう!?」

カエデ「でもまあ・・・ユウキと出会わせてくれたことには・・・感謝してる」

ユウキ「ありがとね!」

珈琲「ははは!もっと褒めてもよいのですよ?」

カエデ「・・・うぜ」

ユウキ「カエデ、声に出てるよ」

珈琲「あれ?なんで目から汗が・・・」

カエデ「次回からはおまけを挿んで予定どおりALOに入るらしいな」

珈琲「そうだよ。アルヴヘイム産の砂糖を期待されているから気合入れないと・・・」

ユウキ「砂糖・・・?」

カエデ「なんの話だ?」

珈琲「(ああ、そっか。こいつら自覚なしだったわ・・・)」

カエデ「これからも一緒にがんばろうな。ユウキ」ナデナデ

ユウキ「うん////」ギュー

珈琲「・・・この状況に慣れて来てる自分が嫌だ・・・」

カエデ「これからも応援よろしくお願いします!」

ユウキ「次回も見てね!」

珈琲・カエデ・ユウキ「「「バイバ~イ!」」」


数か月に亘って書き綴ってきたカエデとユウキの戦いはこれにて一旦お終いです!
ここまで読んでくださってありがとうございました!それでは次回またお会いしましょう!


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16話 Recollection

ALOに入る前にひと休み・・・
甘さが足りない!!というお声をいただいたので今回は糖分補給回にしました。
といっても読者様から見るとそんなに甘くはないと思いますので、暇つぶし感覚でお楽しみになってください!

時系列はカエデとユウキがコンビを組む前の話です!

それでは番外編です!どうぞ!!


「夏祭り・・・?」

 

目の前にいる少女にそう宣言?されて俺は思わず聞き返した。

 

「う、うん!二十二層の主街区で、三日後にお祭りがあって。花火大会もやるから、もしよければ一緒に・・・」

 

なるほど、たしかに今の季節は現実でいう夏にあたる。なぜこんなイベントが生成されたのか不思議でならないがそれを考えるのは野暮というものだ。せっかくの遊びのお誘いですし・・・

 

「俺は別にいいけど・・・俺と一緒でいいの?アスナたちと一緒のほうが楽しめるんじゃない?」

 

ふと頭に浮かんだ疑問を口にする。ユウキが俺を祭りに誘うのはなぜだろうか。アスナやリズなど誘う人はいるはずだ。普通はそういった親友たちと一緒に楽しむものだろう。まさか夏祭りそのものが限定クエストというわけでもないだろうし・・・

 

「そんなことないよ!・・・・・・むしろカエデと一緒に行きたいっていうか・・・」

 

ユウキは声のトーンを一段上げて強く引き留めてくれる。最後のほうがよく聞き取れなかったが迷惑でないのならご一緒させてもらおう。

 

「OK、俺も祭りは好きだし。邪魔じゃないのなら是非行かせて欲しい」

 

「ほ、ほんとっ?・・・よかった」

 

断られなかったことにほっとしたようでユウキの表情にも明るさが戻る。

どこかで休みを取ろうと思っていたので俺としてもこの誘いは有り難い。

 

「じゃあ三日後、二十二層主街区でいいかな?」

 

「うん!楽しみにしてるねっ!」

 

小さくガッツポーズをして帰っていくユウキを見送りながら、俺もホームに戻るため転移門広場へ歩く。

 

「ユウキ・・・そんなに祭りが楽しみなんだな」

 

ガッツポーズの理由はもちろんほかにあるのだが、このときのカエデがその理由を知ることはない・・・

 

 

 

 

 

――――――――

 

三日というのは早いもので楽しみを糧にダンジョン攻略をしているうちにあっという間に過ぎてしまった。現在の場所は二十二層主街区。約束の時間より少しだけ早い。

 

主街区はいつもと違い、多くの人で賑わっていた。普段は聞くことのない祭囃子の音を聞きながら人ごみを分けて待ち合わせ場所へ向かう。すると遠くのほうに見慣れた少女を見つけた。

 

「カエデ、こっちだよっ!」

 

元気よく手を振ってくるユウキにこちらも手を振り返す。

 

「ごめん、待たせた?」

 

「ううん、ボクも今来たところだから」

 

この辺のやり取りはデートの形式である。・・・ん?これってもしかしてデートなのか?

いや、ユウキに限ってそんなことはないだろう。相手も俺だし・・・

 

「そういえばユウキ、その浴衣かわいいな。似合ってるよ」

 

変な思考に入りそうだったのでユウキの浴衣姿を見て感想を漏らす。桜色の浴衣はパールブラックの髪と調和がとれており、思わず釘づけになる。

 

「あ、ありがと・・・///」

 

頬を赤くさせてユウキがはにかむ。そのかわいらしさに、言葉に詰まってしまい頭をなでてしまう。

 

「え、えへへ・・・」

 

ふにゃんと頬を緩めるユウキ。これ以上続けると俺の中にある庇護欲が高まってしまうので名残惜しいがやめる。

 

「それじゃあ、行きますか」

 

「うん!」

 

そう言って俺たちは人ごみの中へ入っていった。

 

 

 

 

 

――――――――

 

広場にはたくさんの出店が並んでいた。祭りでは定番のかき氷、焼きそばみたいなものが売られている屋台。なかには金魚すくいなどの遊べるものまである。金魚すくいの水槽に入っていたのはピラニアのような水棲モンスターだったが・・・だれがやるんだよ・・・。

 

「カエデ、これやろうよ!」

 

あやしげな金魚すくいを見ていると不意にユウキから声をかけられた。手にはコルク銃が握られている。

 

「射的か・・・いいよ」

 

SAOには飛び道具――銃や弓なんかは存在しないはずなんだが、今日のイベントでは製作者が気を利かせたのだろう。ありがたく使わせてもらう。

 

「もしかしてこういうの得意だったりする?」

 

「ううん、初めてだよ。なんだか面白そうだったから」

 

そう言いながらコルク銃を構えるユウキ。銃口の向きからして、狙っているのは下段にある一対の指輪だろう。

 

パンッ!と発砲音を立てて飛び出した弾は見事命中。しかしわずかにぐらついただけで落ちるには至らなかった。

 

「・・・むぅ」

 

「惜しかったな。ああいうのはもう少し下を狙うんだよ。こうやって・・・あれ?どうかした?」

 

「~~~~~っ」

 

急に静かになったので顔を横に向けると、ユウキは頬を赤く染め、肩をすくめて縮こまっていた。

 

「ごめん、よく分からなかった?」

 

「い、いや。そんなことは・・・」

 

あまりの説明下手に残念がられたかと思い、気まずくなって視線を逸らす――

 

「――!?ご、ごめんっ!」

 

そして視線を動かすことによってようやく俺はその原因を知ることになる。

 

無意識のうちにユウキを後ろから抱くようにして身体を密着させていたのだ。

 

「だ、大丈夫だよっ!」

 

そう言っているものの居心地を悪くしてしまったのは明らかだ。

 

「ほんとにごめん、俺なんかが・・・」

 

「べ、別に嫌じゃないよ!・・・ボクとしてももう少しだけあのままのほうが・・・」

 

ぼそぼそと何か言っているが俺のことを励ましてくれているのだろう。なんていい子なんだろう・・・ユウキは。

 

「そっか、それなら良かった。・・・じゃあ二人で景品とろうか」

 

これ以上続けてもいたちごっこになりそうなのでここはユウキの優しさに甘えておく。

 

「うん!頑張ろう!」

 

そう言って身体を密着させたまま銃を指輪に向けて俺たちは引き金を引いた。

 

そして狙い通りの場所にコルク弾は当たり、景品である指輪を落とすことに成功した。

 

 

 

 

 

ユウキは屋台のNPCから景品を受け取るとひとつを俺に渡してきた。

 

「はいっ、カエデに一つあげる!」

 

「・・・いいのか?」

 

景品として並んでいたときにはよく見ていなかったが改めて見てみるとレアそうなアイテムだった。おそらく何らかの支援効果が付いているだろう。

 

「うん!カエデのおかげで手に入ったし、記念に受け取ってほしい」

 

どこまでいい子なんだろうかこの子は・・・そこまで言われたなら是非貰っておこう。

 

「ありがとな。大事にするよ」

 

そう言いつつ受け取った指輪をさっそく装備する。右手の中指にはめようとしたところをユウキに止められて左手の薬指にはめられたが何か意味があったのだろうか・・・?

 

「あっ、そろそろ花火が始まる・・・」

 

指輪について思い出そうとしていたらユウキがぽつりと呟いた。

時計を確認すると花火が上がる時間まであと少しだった。

 

「ユウキ、いい場所見つけたんだ。一緒にきて。」

 

「え?・・・うん、わかった」

 

逡巡のあと、ユウキはすぐに頷いてくれた。

 

「じゃあ出発!」

 

どこに行くのかまだ分かっていないユウキの手を握り、俺たちはまた人ごみのなかを歩き出した。

 

 

 

 

 

――――――――

 

数分間歩き続けるとだいぶ人が少なくなってきた。

不安そうに俺を見ているユウキの手を引いて、階段を上る。建物の屋上には丁度二人掛けできるベンチがあり、視界の先ではちょうど花火が上がり始めていた。

 

「きれい・・・」

 

隣にいるユウキから言葉が漏れる。その言葉を聞けただけで探した甲斐があったというものだ。

 

「それはよかった」

 

「もしかしてこの日のために?」

 

「ああ、せっかくユウキが誘ってくれたから綺麗な場所で見たいと思ってな」

 

気恥ずかしかったが本当のことをユウキに言う。

 

「今日は誘ってくれてありがとう。おかげでいい気分転換になった」

 

「ううん、ボクのほうこそありがと!・・・今日のこと、ボクは忘れないよ」

 

ユウキはまっすぐ俺の目を見て言った。その顔は花火の光のせいなのか少し赤く染まっている。

 

「俺も今日を忘れないよ・・・また一緒に来ようぜ?」

 

そのとき見せた花火よりも美しく儚い笑顔を俺は心に刻み込む。

 

「うんっ!」

 

夜空を彩る星花火の閃光が二人の繋がった手を優しく照らし出した――

 

死神と絶剣が互いの思いを知り、生涯を共にすると誓い合うのはまだ数か月先の話である。

 

 




珈琲「番外編 <Recollection>をお読みいただきありがとうございます!」

珈琲「<Recollection>には記憶、回想、思い出などの意味があります。カエデとユウキが過ごした夏の思い出、いかがだったでしょうか?」

カエデ「懐かしいな・・・」

ユウキ「楽しかったよね!」

珈琲「それにしてもユウキさんは随分と前からカエデ君にご執心だったようで」

ユウキ「だ、だって・・・好きだったんだもん////」

珈琲「いや~可愛らしいね~。それに引き替えカエデ君は・・・」

カエデ「な、なんだよ・・・」

珈琲「気が付かなかったの?」

カエデ「いや、なんだか俺のことを気に掛けてくれてるな、とは思っていたけど」

珈琲「この鈍感お寿司野郎が・・・!」

カエデ「うるせーよ!てかお寿司野郎ってなんだよ!」

カエデ「・・・気付いてやれなくてごめんな、ユウキ」

ユウキ「ボクは気にしてないよ。それにこれからはずっと一緒だし////」

カエデ「お前のこと今以上に好きになってみせるよ」

ユウキ「ボクももっとカエデのこと好きになるよ////」

珈琲「あ~。あとがきでも糖分補給できるって素晴らしいなあ(錯乱)」


珈琲「次回はお待ちかね!ALOに入ります!」

カエデ「誤字脱字なんかがあったら報告よろしく」

ユウキ「ALO編もよろしくね!」

珈琲・カエデ・ユウキ「閲覧ありがとうございました!!」

ご意見ご感想いつでもお待ちしております!
それでは次回またお会いしましょう!


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ALO編
17話 公共施設ではお静かに!


ついにALO編突入!!今回は病院回なのでシリアスな感じかもしれないです。
甘さなんてないよ!

ユウキって私服のときはカチューシャつけてない気がする。でもそれだと作者の力ではユウキ感が出せないから描いてしまった(笑)

それでは第17話です!どうぞ!!


デスゲームと呼ばれたSAOがクリアされてからすでに二か月が過ぎようとしていた。しかし、二か月経った今もすべてが終わったわけではない。

 

三百人・・・SAOがクリアされてから今もなお解放されていないプレイヤーの人数だ。

世間では行方不明の茅場晶彦の陰謀だと囁かれているが、俺はこれが茅場の起こしたものとは思えなかった。夕焼けに染まる世界で語った彼の言葉、透徹した視線を覚えていたからだ。

 

あの男は生き残った全プレイヤーを解放すると言った。こんなくだらない結末を望むはずがない。彼は間違いなく自らの手であの世界に幕を下ろしたのだ。少なくとも俺や木綿季はそう信じている。

 

間違いなく誰か黒幕がいる。

初期化されたSAOサーバーを操り、三百人の魂を縛り続けている人物が―――

 

 

 

 

 

 

 

丘陵地帯を巻くように続く道の先に目的地が見えた。高級ホテルのような巨大な建造物はかつて鋼鉄の城で共に戦った仲間の一人が収容されている病院。一階の受付で通行パスを発行してもらい、俺と木綿季はエレベーターに乗り込んだ。

 

最上階である十八階でエレベーターを降り、無人の廊下を突き当りまで歩く。

 

「・・・ここだな」

 

部屋の前で確認するように呟きながら壁に設置されたネームプレートを見る。

<結城 明日奈 様>―――間違いない。

 

ポケットから先ほど発行してもらった通行パスを取り出し、扉の横についている細いスリットに滑らす。すると小さな電子音とともに扉が開いた。

 

「アスナ・・・」

 

部屋の中へ一歩踏み込むと同時に木綿季が不安げに声を出した。その声音はカーテンの向こうで眠り続けているアスナが目覚めていますように――と祈っているようにも聞こえる。

 

しかしカーテンを引いた先では今もなお少女が眠り続けていた。健康状態が悪そうに見えないのがせめてもの救いか。体重も俺や木綿季ほど落ちてはいないようだ。

 

「アスナ、今日も来たよ」

 

「健康そうでなによりだ」

 

聞こえないと分かっていても俺と木綿季はアスナに声をかけた。こうして声をかけ続けていればアスナが戻ってくるような気がして・・・。

 

しばらくアスナを見つめていると背後から扉が開く音がした。振り返ると、一人の少年が病室に入ってくる。

 

「・・・和人か」

 

「おはよう、和人」

 

「おはよう、二人とも。来てくれたのか」

 

俺と木綿季が来ていたことにキリト――桐ケ谷 和人は少し驚きを見せたがすぐにいつもの表情に戻り、ベッドのほうへ近づいてくる。

 

「アスナ・・・」

 

傍まで来ると和人はアスナの手を握り、呼びかけた。

 

 

 

 

 

ベッドサイドで控えめなアラーム音が鳴る。いつの間にか正午になっていたらしい。

 

「そろそろ帰るよ、アスナ。またすぐ来るから・・・」

 

「またね、アスナ」

 

「また来るぞ、アスナ」

 

小さく話しかけ、立ち上がろうとした時、またドアの開く音がした。今度は二人の男が病室に入ってくる。

 

「おお、来ていたのか。たびたび済まんね」

 

二人の男のうち前に立つ、初老の男性は俺たちを見ると、顔をほころばせて言った。男性の名前は結城 彰三。アスナの父親だ。昔、アスナから父親は実業家だと聞いたことがあったが、実際には総合電子企業メーカー<レクト>のCEOだった。大企業である。たしか事件後のSAOサーバーの管理も任されていたはずだ。

 

三人ともひょいと頭を下げ、口を開く。

 

「こんにちは、結城さん」

 

「こんにちは!」

 

「お邪魔してます」

 

「いやいや、いつでも来てもらっても構わんよ。この子も喜ぶ」

 

結城はアスナに近寄り、彼女の髪をそっとなでた。少しの間、物思いにふけていたが、やがて顔を上げると一緒に病室に入ってきたもう一人の男を俺たちに示してきた。

 

「彼とは初めてだな。うちの研究所で主任をしている須郷君だ」

 

そう言われて須郷は前に出ると俺たちのほうへ右手を差し出しながら言った。

 

「よろしく、須郷伸之です。そうか、君たちがあのゲームをクリアした・・・」

 

人のよさそうな男。というのがおそらくほとんどの人が感じる第一印象だろう。だが俺にはそれが仮面のように見えた。相手によって表情を変える、都合の良い使い捨ての顔。

木綿季も須郷の振りまく笑顔に違和感を覚えたのか、挨拶もほどほどに俺の後ろに下がる。

 

「須郷君は私の腹心の息子でね、家族同然の付き合いがあるんだ」

 

「ああ、社長、そのことなんですが―――」

 

挨拶を済ました須郷は、彰三氏に向き直る。

 

「来月にでも、正式にお話を決めさせて頂きたいと思っています」

 

「――そうか。しかし、君はいいのかね?まだ若いんだ、新しい人生だって・・・」

 

「僕の心は昔から決まっています。明日奈さんが、今の美しい姿でいる間に・・・ドレスを着させてあげたいのです」

 

「・・・そうだな。そろそろ覚悟を決める時期なのかもしれないな・・・」

 

何のことかさっぱり分からず沈黙していると彰三氏は俺たちを見て小さく頷き

 

「では、私は失礼させてもらうよ。桐ケ谷君、紺野君、秋風君、また会おう」

 

といって身を翻して病室を出て行った。後には俺と和人と木綿季と須郷だけが残される。

 

「君たちは、あの世界でアスナと知り合いだったのかな?」

 

 

須郷が先ほどとは全く違う表情で、俺たちを覗いてきた。

 

「まあ……」

 

和人が三人を代表して答える。すると須郷はゆっくりとベッドの下端に回り込むと反対側に立ち、アスナの髪を玩びはじめた。その仕草に表しがたい嫌悪感を覚え、顔をしかめる。木綿季も耐え切れないみたいで俺の腕をぎゅっと強く掴む。

 

「さっきの話はねぇ・・・」

 

ニヤニヤと笑う須郷を見て、俺は自分の予想が当たったのだと確信した。これがこいつの本性なのだろう。

 

「僕とアスナが結婚するという話だよ」

 

この言葉を聞いて俺たちは絶句した。放たれた言霊は冷たく纏わりつくように俺たちの身体を這う。そして数秒間の沈黙の後、和人が言葉を絞り出した。

 

「そんなこと・・・できるわけが・・・」

 

「確かに、この状態では意思確認ができないゆえに法的な入籍はできないがね。書類上は僕が結城家の養子に入ることになる。・・・実のところ、この娘は昔から僕のことを嫌っていてね」

 

そう言いながら須郷は自身の人差し指をアスナの頬に這わせる

 

「親たちはそれを知らないが、いざとなれば拒絶される可能性が高い。だからこの状況は僕にとっては非常に都合がいい。当分眠っていてほしいね」

 

頬に当てた指がアスナの唇に近づく。

 

「やめろ!」

 

和人は咄嗟に須郷の手を掴み、アスナの顔から引き離した。ニヤニヤ笑い続ける須郷に今度は俺のほうから声をかける。

 

「火事場泥棒・・お偉いさんは考えが穢れてるな」

 

「泥棒?いいや正当な権利だよ。明日奈や残った三百人の命は僕が維持させている。僅かばかりの対価を要求したっていいじゃないか?」

 

明日奈から離れて俺の前までくると笑みを抑えず須郷が話す。三百人の命は自分のものだとでも言いたいのだろうか。

 

「上辺だけ取り繕っても本質は変わらねえって言いたいんだよ。それほど天才(かやば)が残した蜜は甘かったのか?主任さん」

 

俺の言葉を聞いて須郷の顔から笑みが消えた。不機嫌さを隠さずに俺を睨みつける

 

「・・・ふん、まあいい。どうせ君たちには何もできやしないさ。ゲームしかできないガキが・・・」

 

そう言って須郷は忌々しそうに俺をもう一度睨むとドアのほうへ歩き出した。

 

「ゲームしかできないガキがこれから何をするか・・・後悔すんなよ」

 

後ろ姿に向けて放った言葉はおそらく耳に届いただろうが須郷は振り返ることなく病室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ぼさっとしてんだ。さっさと行くぞ」

 

黙り込んだままの和人の頭にチョップを入れる。気合が足りんぞ!

 

「いてっ!・・・なにすんだよ!」

 

若干キレ気味に和人が俺に抗議する。

 

「こんなことで諦めるほどアスナに対する思いはいい加減なものだったのか?あの世界での約束は遊びだったのか・・・?」

 

俺の問いかけに即座に和人が答える。

 

「違うっ!俺は・・・」

 

「だったら落ち込むのは無しだ。仲間の命が助かる確率が一パーセントでもあるなら全力でその可能性を追え。茅場だってそう言ってただろ?」

 

かつての聖騎士の言葉を聞き、和人が目を閉じる。そしてゆっくり目を開けると口を開いた。

 

「・・・ゼロじゃないならそれに向かって最大限の努力をする、か」

 

「その通りだ。目が覚めたか?」

 

「ああ、ありがとな」

 

苦笑しながら和人が言う。

和人が立ち直ったのを見て、隣にいる木綿季に声をかけた。

 

「というわけで、木綿季も協力してくれないか?一人でも多いほうがいい」

 

「もちろん!アスナのこと絶対に助け出そうねっ」

 

「ありがとな」

 

微笑みながら即答してくれる木綿季の頭をなでてお礼をいう。

 

「ちょっと、か、楓!?」

 

いきなりなでられたことで木綿季が顔を赤くさせる。

 

「なに今更恥ずかしがってんだよ。向こうじゃこんなの日課みたいなもんだろ」

 

「そ、そうだけど・・・えへへ」

 

だらしなく頬を緩める木綿季を見て一気に庇護欲が高まる。猫のように甘えてくる姿は見ていて飽きない

 

「ほんとに木綿季は可愛いな。ずっとなでていたい・・・」

 

独り言のように小さく呟いたはずだがしっかり聞こえてたらしく

 

「っ!?・・・でも楓が望むのなら・・・・・・いいよっ」

 

耳まで真っ赤にさせて木綿季は俺の耳元でぼそぼそと小さく囁いた。

それならお言葉に甘えて―――

 

「・・・・・なんなんだこのバカップルは・・・」

 

和人の呟きは病室内を虚しく漂った・・・・・・ちなみに楓たちのあとに病室に入った看護婦は空気が甘かったと話していたらしい。 

 

ついに空気汚染まで・・・

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




珈琲「お待たせしました!17話、お読みくださってありがとうございます!」

カエデ「・・・」ナデナデ

ユウキ「えへへ・・・/////」

珈琲「・・・・・・」

珈琲「今回はイラストも描かせていただきましたがそちらのほうも感想を下さると嬉しいです!」

ユウキ「カエデ~」スリスリ

カエデ「ほんと可愛いな」ナデナデ

珈琲「・・・・・・よろしい、ならば持久戦だ!」




――――――――そして月日は流れ

珈琲「もう無理です・・・壁もコーヒーもないっす・・・」

カエデ「あいつどうしたんだ?」

ユウキ「さあ・・・疲れてるんじゃないかな?」

珈琲「たしかに疲れてるよ・・・主に君たちのせいで・・・」

カエデ・ユウキ「??」

珈琲「うん、知ってた。理解されないなんて」


カエデ「それにしてもようやく投稿か・・・」

ユウキ「イラスト描いてたから遅れたの?」

珈琲「ううん、イラストのほうはSAO編が完結する前に描き終わってたんだけど・・・」

ユウキ「だけど?」

珈琲「ほかの人の作品を読むのに徹してました!反省はしている。後悔はしていない」

カエデ「つまりさぼっていたと?」

珈琲「そんなことない!ほかの作品を読んで勉強してたっていうかなんというか・・・」

ユウキ「カエデ、これは・・・」

カエデ「うん、お仕置き部屋確定だな」

珈琲「なに、その新システム!?聞いてないよ!?」

ユウキ「大丈夫だよっ」ニッコリ

珈琲「ユウキさん・・・」

カエデ「絶対に痛くないから」ニッコリ

珈琲「嘘だ!やだ!死にたくない!!誰か助けて!」

カエデ・ユウキ「一名様ご案内しま~す!」

珈琲「いやだぁぁぁああああ!!」


ほんと更新が遅れて申し訳ありません!次回はもうちょっと速度を上げれるようにします。
それでは次回またお会いしましょう!


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18話 何回通えば「マスター、いつもの」と言えるのか

更新が遅れて申し訳ないです!
また2、3日後に投稿するので堪忍してつかぁさい・・・

それでは第18話です!どうぞ!


<Look at this>というタイトルで送信されたメールには一枚の写真が添付されていた。

画像は限界まで引き伸ばされているらしく粗い。それでも画像に写った景色は不思議な構図でその場所が現実世界ではないことを表している。そしてなにより――――

 

「・・・アスナ?」

 

鳥かごのような鉄格子の向こう側に白いドレス姿のアスナがいるのだ。わずかに覗く横顔は憂いに沈んでいるようにも見える。

 

続けて画面をスクロールさせると画像の下に簡素な一文が表示されていた。

 

――詳しく話したい。店に来られるか?――

 

メールを打つのももどかしく感じた俺は携帯端末を開き、電話帳からエギルの番号を選択して発信ボタンを押した。プツ、という接続音のあとに野太い声が聞こえる。

 

「もしも――」

 

「OK!」

 

返事も聞かずに一言だけ発して電話を切ると、速攻で着替えを済ませ、俺は部屋を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

エギルが経営している喫茶店兼バーは、台東区御徒町にある。名前は<Dicey Cafe>。

こみごみとした路地裏を小走りで抜けて、店先のドアを押し開けると、カウンターの向こうでスキンヘッドの巨漢が顔を上げた。もちろん客は一人もいない。

 

「カエデが一番乗りみたいだな」

 

「まあ、ここから俺がいちばん近いし当然だろ。・・・それにしても相変わらず不景気だな」

 

「うるせぇ、これでも夜は繁盛しているんだ」

 

店内を見渡しながら呟く俺にエギルは納得のいかないような顔で答える。

こんな気安いやり取りをしたのはあの世界ぶりだな、と思っていると乾いたベルの音と共に店のドアが勢いよく開けられた。入ってきたのはもちろんキリトとユウキ。同じメールが送られていたのだろう。カウンター席に腰を下ろすと、急かすようにキリトはエギルに問いただした。

 

「で、あれはどういうことなんだ」

 

エギルはすぐに答えず、カウンターの下からゲームソフトを取り出すと俺たちに手渡してきた。パッケージのタイトルは<ALfheim Online>

 

「アルヴヘイム オンライン・・・?」

 

「ほう、初見で発音を正解か。<妖精の国>という意味らしい」

 

ぽつりと呟いた俺の横でエギルが補足をする。妖精の国、アルヴヘイム。たしか北欧神話でそんな言葉を聞いたことがある。舞台は神話の世界か。

 

「内容はほのぼのファンタジーなのか?」

 

「それが、そうでもなさそうだぜ。ある意味えらいハードだ」

 

キリトの言葉にエギルはニヤリ笑いながら答える。

 

「難しいの?」

 

「どスキル制。プレイヤースキル重視。PK推奨」

 

「「ど・・・」」

 

言葉を詰まらせるキリトとユウキを尻目にエギルは続ける。

 

「いわゆる<レベル>は存在しないらしいな。各種スキルが反復使用で上昇するだけで、育ってもヒットポイントは大して上がらないそうだ。戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、剣技なし、魔法ありのSAOってとこだな。グラフィックや動きの精度もSAOに迫るスペックらしいぜ」

 

ここまで聞いて俺はこのゲームに対して少しだけ好感を持っていた。理由はスキル制の部分。

 

MMOというものは大きく分けて3種類ある。まず一つ目はSAOのようなレベルとスキルを併用したもの。次にこのゲームのようにスキルだけを採用したもの。最後は逆にレベルだけのもの。面白さで言えばレベルだけのものや両方使ったMMOがいちばんなのだが、スキル制のメリットはそこにはない。単純に言ってしまえば初見プレイヤーに対する始めやすさにある。

 

レベル制にしてしまうとどうしても古参プレイヤーとビギナーに圧倒的な差が生まれてしまうがスキル制だとそうはいかない。それにプレイヤーの運動能力依存ならば戦闘面に関してはビギナーはベテランに十分追いつくことができるのである。これには賛否両論あるのだが、これからこのゲームについて調べる俺たちにとってはこのシステムはありがたい。

 

「PK推奨ってのは?」

 

「プレイヤーはキャラメイクでいろんな妖精の種族を選ぶわけだが、違う種族間ならキル有りなんだとさ」

 

「それって人気でるのかな?PK推奨だと難しい気がするけど」

 

ユウキの疑問にエギルは再び笑みを浮かべる。

 

「そう思ったんだけどな、今大人気なんだと。理由は<飛べる>からだそうだ」

 

「飛べる・・・?」

 

「妖精だから羽根がある。フライト・エンジンとやらを搭載してて、慣れるとコントローラなしで自由に飛び回れる」

 

すごーい!と隣にいるユウキが声を上げる。飛行ができるVRゲームはナーヴギア発売当初から存在していたのだが、そのすべては乗り物を伴っての飛行で、生身で空を飛びまわれるものはなかった。いったいどうやってそんなエンジンを開発したのだろうか。

 

「飛べるってのは凄いな。羽根はどう制御するんだ?」

 

「さあな。だが相当難しいらしい。初心者は、スティック型のコントローラを片手で操るんだとさ」

 

「なるほど。ところでこのゲームを見せてきたってことはあの画像に関係してるんだろ?場所はどこだ?」

 

そういうとエギルはパッケージを取って、裏返すとある場所を指差した。ゲーム舞台が描かれたイラストの中央には一本の巨大な樹がそびえたっている。

 

「世界樹と言うんだとさ」

 

大樹のイラストを指で軽く叩きながら続ける。

 

「プレイヤーの当面の目標は、この樹の上の方にある城に他の種族に先駆けて到着することなんだそうだ」

 

「到着って、飛んでいったらダメなの?」

 

「いや、おそらく飛行にも制限があるんだろう。指定された場所では飛べないとか」

 

「そのとおり。滞空時間ってのがあって、無限には飛べないらしい。この樹の一番下の枝にもたどり着けない。でもどこにも馬鹿なことを考えるやつがいるもんで、体格順に五人が肩車して、多弾ロケット方式で樹の枝を目指した」

 

「面白そうだねっ!」

 

「だな」

 

「うむ。目論見は成功して、枝にかなり肉薄した。ギリギリで到着はできなかったそうだが、五人目が到達高度の証拠にしようと写真を何枚も撮った。その一枚に、奇妙なものが写り込んでたらしい。枝からぶら下がる、巨大な鳥かごがな」

 

「鳥かご・・・」

 

その言葉にあの写真の光景がフラッシュバックする。囚われの姫君といったところか。

 

「・・・行く価値は十分にあるな。キリト」

 

「ああ・・・。エギル――このソフト、貰って行っていいか」

 

「構わんが・・・行く気なのか」

 

「ああ、この眼で確かめる」

 

「死んでもいいゲームなんてぬる過ぎるだろ。そうと決まればハードを揃えなくちゃな」

 

「ナーヴギアで動くぞ。アミュスフィアは、単なるアレのセキュリティ強化版でしかないからな」

 

「そりゃあ助かる」

 

キリトとユウキにアイコンタクトで合図をすると俺は頷いた。

 

「じゃあ、俺たちは帰るよ。ご馳走様、また情報があったら頼む」

 

「情報代はつけといてやる。――アスナを助けだせよ。そうしなきゃ俺たちのあの事件は終わらねえ」

 

「ああ。いつかここでオフ会をやろう」

 

ごつんと拳を打ち合わせると俺たちはエギルの店を後にした。

 

 

 




カエデ「お前自分が何をしたのか分かってるのか?」

珈琲「ほんとにごめんなさい・・・」

カエデ「反省しているのか?」

珈琲「しています・・・」

カエデ「じゃあ次週は2話分投稿だな」

珈琲「えっ」

カエデ「は?」

珈琲「ひいっ!わかりました!絶対に書き上げます!」

ユウキ「カエデ・・・もうそのくらいに」

カエデ「・・・まあユウキに免じてこのくらいにしておいてやるか」

珈琲「ユウキさん・・・!」

ユウキ「でもあとでお仕置き部屋だよっ(微笑)」

珈琲「なん・・・だと・・・」

カエデ「更新が遅れてほんとにすまないな。目を離すとすぐにサボろうとするから」

ユウキ「やさしく罵ってあげてね!」

珈琲「罵らないで!あっ、でもユウキになら罵られてもいいかも・・・」

ユウキ「えっ」

珈琲「えっ」

カエデ「なにそれこわい」


更新が止まっていたなか、お気に入り登録とコメントをくださった読者様、ほんとにありがとうございました!

励みになるのでとてもうれしいです!それでは次回またお会いしょう!



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19話 どうしてそうなった・・・?

アニメのキャリバー編のOP、かっこいいですよね!戸松さんの声がすごいきれい・・・作画も細かく作られていて私、気になりますっ!

まあ、アニメのほうはためて見る派なんでまだ見ていないんですが・・・

それでは第19話です!どうぞ!


「まさかもう一度こいつをかぶる日が来るとはな」

 

塗装が剥げ落ちた機械を両手で持ち上げながら感慨深げに呟く。二年という長い年月の間、俺を縛り続けていた枷は今もなお濃紺の鈍い輝きを放っている。

 

――――もう一度だけいい、力を貸してくれ。

 

胸の奥で念じると、俺はナーヴギアを装着した。心臓の鼓動が早くなるのを感じながらナーヴギアを起動するためのワードを口にする。

 

「リンク・スタート!」

 

直後、辺りを暗闇が支配したかと思うと虹色の光がはじける。徐々に明るくなる視界にウェルカムメッセージが表示されると、すぐに各種の設定が始まった。

 

プレイヤーネームは一瞬躊躇ったが<カエデ>と入力し、性別は男性を選ぶ。最後は種族を選ぶのだが、なにせ九種類もあるのでいろいろと目移りしてしまう。各種族には一長一短があり、特定の種族が強いということはないのだが・・・

 

視界の端に表示された時刻を確認すると数分が経過していた。キリトとユウキも同時刻にログインしているはずなのであまり時間をかけると二人に迷惑をかけてしまう。ふと視線が向いた闇妖精<インプ>を選択し、OKボタンにタッチする。

 

すべての初期設定が終了すると人口音声の――幸運を祈ります――という言葉に送られて、俺は再び淡い光に包まれた。

 

人口音声の説明によれば各種族のホームタウンがスポーン地点らしい。確かインプのホームタウンは地図の南東に位置していたから隣はサラマンダーとウンディーネ領だったはず。

キリトとユウキがケットシーやプーカを選択していたらほぼ真反対からのスタートなので合流が少々面倒だ。そもそも猫耳のキリトとか全く想像が出来ない。ユウキは・・・・・・ありだな。ぜひ見たい。・・・・・・ケットシーにしてないかな?

 

と考えていたら突如としてあたりにノイズが走った。映像は所々で途切れ、視界がぐちゃぐちゃになる。この状態を一言で表す言葉は―――

 

「ログイン直後からバグかよっ!?」

喚いた直後に急に視界が開け、強烈な浮遊感を感じる。―地球は青かった―などというほど高所ではないが眼下に広がる景色からここが相当な高さだと判断する。そして何よりこの浮遊感の正体が落下によるものだと気づくのにはさほど時間はかからなかった。

 

「ど――どうなってんだよぉぉ!?」

 

そんなことを叫んでもただの人間が万有引力の法則に逆らえるはずがない。あらゆるものがデジタルコードに置換され、そのあたりが忠実に再現された仮想世界ならなおさらだ。

 

「なんで落下してるの――!?」

 

これ、あかんやつや・・・という確信が生まれようとしているなか、すぐ近くでよく知る人物の絶叫が聞こえた。“ブルータス、お前もか”もとい“ユウキ、お前もか”という洒落はこんなところでは通用しないので胸の奥に留めておくことにする。

 

「ユウキっ!」

 

「カエデっ――!!」

 

スカイダイブ終了まであと数十秒というタイミングで俺はユウキを抱き寄せて、自分を下にする。あの高度からの落下でこの行為に意味があるのかわからないが、地面とフレンチキスをするよりは遥かにマシだろう。

 

ズド――ン!!という爆音とエフェクトをまき散らしながら地面と派手に衝突し、俺達の自由落下は止まった。アバター飛散の様子もないのでどうやら落下によるダメージはなかったようだ。

 

「いてて・・・」

 

「ぅ・・・うーん・・・」

 

「・・・ユウキ、大丈夫か?」

 

ダメージ0と引き換えに強烈な不快感を得た俺はしばらくぼんやりとしていた。

混濁した意識の中でユウキが無事か確認する。

 

 

「う、うん。大丈夫なんだけど・・・その・・・」

 

「・・・? どうしたんだ?」

 

無事らしいが歯切れが悪い。なにかあったのだろうか?顔を赤くさせて言いにくそうに口をもごもごしている。

 

「その・・・手が・・・」

 

「手・・・?」

 

手がどうかしたのかと思い、試しに開閉させてみる。

 

「――ぁ・・んっ」

 

「っ!?」

 

直後に聞こえた微かな嬌声により、自分の手がどこにあったのか理解する。

 

「ごめん!その・・・」

 

つまり落下が終わってからの数分間、俺の手はユウキの胸に当っていたわけでそれをさっき開閉させたから・・・先ほどの柔らかい感触は・・・

 

そこまで考えて俺の脳内はフリーズした。これがロボットなら廃棄待ったなしのレベルである。

 

「ほんとにごめん・・・最悪だな、俺・・・」

 

「いや、カエデはボクを助けてくれようとしたわけだし!それにカエデになら何をされてもボクは・・・」

 

そこまで言った途端、先ほどのことを思い出したらしい。音を立てそうなくらい顔を赤くさせると、俯いて黙りこんでしまった。

 

お互いが動ける状態になるまではまだまだ時間がかかりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、ここはどこだ?」

 

「ホームタウン・・・じゃなさそうだしね」

 

先ほどの事故から回復した俺たちは今の状況を確認し合っていた。色々と変な現象が起きて頭がこんがらがりそうだったが分かったことがいくつかある。

 

一、何らかのバグによってホームタウンへ転送されず、よくわからない森からスタートした。

 

二、なぜかSAOプレイ時のデータが引き継がれていて各スキルがほぼコンプしている。

 

三、所持品はほとんどが引き継げておらず名前が文字化けしている

 

まあ、こんなところだろう。さすがにユニークスキルであった<死変剣>はなかったがそれを差し引いても十分チートと呼べるステータスである。アイテムに関してはサーバーのエラーチェックに引っかかるかもしれないので文字化けしているものは全部消去しておいた。

 

「でも、なんであのころのスキルが引き継がれているんだろ?」

 

「さあな、でもこれでだいぶ動きやすくなったはずだ」

 

詳しいことはキリトと合流してから考えよう、と締めくくると俺たちはあたりを見回した。近くに町があれば一番いいのだが、なければ通りかかるプレイヤーに聞けばいい。いくらPK推奨といえども、攻撃的な態度を取らなければ大丈夫なはず。

 

「カエデっ!あれ――」

 

ユウキが指を指すほうへ視線を向けると、ちょうどプレイヤーが上空を飛んでいた。

数は四人で正確には三人のプレイヤーが一人を追いかけているように見える。

 

「こりゃ戦闘が始まるかもな。見に行ってみるか?」

 

ついでに道なんかも聞けるとなお良しなのだが・・・

 

「うんっ!こっちでの戦いがどんな感じなのか知りたいし!」

 

「じゃあ決まりだな」

 

この世界での戦闘見学という名目で、俺とユウキはプレイヤーが飛んでいった方角へ移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

木が生えていない開けた場所で先ほど上空を飛んでいたプレイヤー四人が臨戦態勢に入っていた。三人は赤い鎧に身を包み、一人は緑を基調とした軽装で武器を構えている。

 

プレイヤー狩りの類だろうな・・・と近くの木陰で観察していると、上空から物凄いスピードで黒い影が落下してきた。

 

「うう、いてて・・・。着陸がミソだなこれは・・・」

 

聞き覚えのある声。姿は少し変わっているが間違いなくキリトだ。なぜこんなところに飛んで来たのかまったくもって不明だが、合流する手間が省けたのでこの際考えないことにする。

 

観察するだけだったのだがキリトが見つかったので予定を変更。木陰から出て、キリトに声をかける。

 

「ダイナミック合流お疲れさん、キリト」

 

「キリトはスプリガンにしたんだね」

 

「二人ともそんなところにいたのか・・・まあ、結果オーライだな」

 

「危ないですよ!パパっ!」

 

俺とユウキを見て、キリトは少し驚いた素振りを見せたがすぐに楽観的な言葉を口にする。それを注意する小さな妖精は・・・ユイ?

 

「なるほどな・・・まあ、いろいろと聞きたいことはあるが・・・」

 

「うん、まずはこの状況をどうにかしないと」

 

PK推奨なら別に大丈夫だよな?まあ一応確認を。

 

「そこの金髪の人ー」

 

「へっ?わたし?」

 

戸惑いながら言葉を返してくる金髪のプレイヤーにさらに問う。

 

「これってあの赤色三人組を斬ってもいいよな?」

 

「・・・そりゃいいんじゃないかしら・・・。少なくとも先方はそのつもりだと思うけど・・・」

 

「だよな。ならいっか」

 

確認が取れたところで俺はキリトのほうを見る。キリトも俺がこれからすることを理解したようで、頷きあうと剣を鞘から抜く。三人組の一人は待ちきれないといった様子で俺たちにランスの切っ先を向ける。

 

「ビギナーがノコノコ出てきて馬鹿じゃねえの?望みどおり狩ってや――」

 

言い終わるよりも先に俺とキリトは駆けだした。空中に飛び立とうとした男の腕をキリトが、首を俺が切り落とすと、男のアバターは赤い炎に包まれて飛散した。

唖然としていたもう一人のほうはユウキがきっちり仕留めたよう飛散直後の小さな残り火が漂っていた。

 

「・・・なんかあんまり手ごたえがないな」

 

「ああ、軽すぎるって感じだな」

 

初戦闘の感想をお互いに言うと、残ったもう一人のほうに聞いてみる。

 

 

 

「どうする?あんたも戦うか?」

 

 

 




珈琲「第19話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?まあ、それは置いといて・・・」

珈琲「やってくれましたね、カエデ君・・・」

カエデ「な、なにがだよ」

珈琲「とぼけるんじゃない!!揉んだだろ!ユウキの胸を!」

ユウキ「/////」

カエデ「あれは事故だろ!不可抗力だ!」

珈琲「何が不可抗力だ!このとらぶる系主人公がっ!!」

カエデ「なんの話だよ!?てか俺を一緒にするな!」

珈琲「ほら、ユウキからもなにか言ってしまいなよ!この際キツめのを!」

ユウキ「あ、あのねっ!カエデっ」

カエデ「お、おう」

珈琲「いけー!」

ユウキ「ボクは全然気にしてないから!それにカエデが触りたいのなら・・・その・・・いつでも・・・/////」

珈琲「」

カエデ「」

珈琲「・・・・・・お前らのこと甘く見過ぎてたわ。いや、文字的にはまったく間違ってはないんだけど・・・うん、なんかごめん」 トボトボ

カエデ「お、おい!どこに行くんだよ!?」

珈琲「いい店見つけたんだ・・・ブラック専門のコーヒーショップ。末永く爆発を・・・」

ユウキ「あ、あれ?作者は?」

カエデ「・・・なんか用事があるってさ」

ユウキ「へぇ、そうなんだ」

カエデ「ご意見ご感想いつでもお待ちしております!」

ユウキ「次回もよろしくねっ!」

ユウキ「あっ、カエデ」

カエデ「どうした?」

ユウキ「そ、その・・・どうだった?/////」

カエデ「へっ?いや、それは・・・」

ここから先はあかん気がする・・・ということで割愛!!
なんとか投稿できました!急いで書いたのに18話で感想をくださった読者様、ほんとうにありがとうございました!それから高評価をつけてくださった暇神様、ありがとうございます!

それではまた次回お会いしましょう!




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20話 主人公補正ってたまにいらないときがある

マザロザ、ついに始まりましたね!ユウキが可愛いすぎてつらい。
お店でみた一番くじもやりたかったけどユウキグッズ当たらないだろうな・・・
みなさんは引いてみたりしましたか?

それでは第20話です!どうぞ!


緊張感のない言葉を聞いて、サラマンダーは苦笑した。

 

「いや、勝てないな、やめておくよ。アイテムを置いていけというなら従う。もうちょっとで魔法スキルが九百なんだ、死亡罰則が惜しい」

 

「正直な人だな。まあアイテムも取らないから安心して」

 

いいよな?というキリトの目配せに俺もユウキも小さく頷く。そして今度はシルフの方に視線を向け、

 

「そちらのお姉さん的にはどう?彼と戦いたいなら邪魔はしないけど」

 

散々引っ掻き回しておいてこのセリフはないだろと思う。シルフの方も同じようなことを思ったらしく、短く笑うと

 

「あたしもいいわ。今度はきっちり勝つわよ、サラマンダーさん」

 

「正直君ともタイマンで勝てる気はしないけどな」

 

そう言うとサラマンダーは翅を広げて、飛び立った。空中で静止した際に一瞬だけこちらを見たような気がしたがそれを確認する術はない。飛行速度を加速していき、暗い夜空に消えていった。

 

「・・・で、あたしはどうすればいいのかしら。お礼を言えばいいの?逃げればいいの?それとも戦う?」

 

沈黙を破るようにシルフの少女が口を開く。その緊張した声音を聞きながらキリトは剣を鞘に収めると

 

「うーん、俺的には正義の騎士が悪漢からお姫様を助けた、っていう場面なんだけどな」

 

ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ついでに感激したお姫様が涙ながらに抱きついてくる的な・・・」

 

「ば、バッカじゃないの!!」

キリトの言葉にシルフの少女が顔を真っ赤にさせて叫ぶ。

 

「なら戦ったほうがマシだわ!!」

 

「ははは、冗談冗談」

 

楽しそうに笑うキリトを見ながらぎりぎりと歯軋りをするシルフの少女。なんか話が脱線している気が。

 

「そ、そうですよ、そんなのダメです!!」

 

話を戻すためにシルフの少女に声をかけようとしたが、それよりも早くキリトの胸ポケットからユイが出てきて抗議する。不意に聞こえた声に少女は一瞬戸惑ったがキリトの周りを飛び回るユイを見つけると、思わず感嘆を漏らした。

 

「ねぇ、それってプライベート・ピクシーってやつ?」

 

「へ?」

 

初めて聞く単語に固まる俺たち。しかしそれをよそに少女はさらに続ける。

 

「あれでしょ、プレオープンの販促キャンペーンで抽選配布されたっていう・・・。へえー、初めて見るなぁ」

 

「あ、わたしは・・・むぐ!」

 

SAOのことをしゃべろうとしていたユイの口をキリトが覆う。その隙に俺は慌てて少女に取り繕う。

 

「そ、そう、それだ。こいつクジ運いいんだ」

 

まあ、間違いではないよな?βテストにも選ばれてるし。

 

「ふうーん・・・」

 

納得していない様子でまじまじと俺たちを見る少女。

 

「あ、あれだよ!昔アカウントだけは作ったんだけど始めたのはつい最近で。それまではボクたち他のVRMMOをやってたんだ!」

 

後半は嘘ではないけどそれは無理やりすぎだと思うぞ、ユウキよ。

 

「へえー」

 

どう見ても信用していません。本当にありがとうございました。

 

「それはいいけど、なんでスプリガンがこんなところをうろうろしてるのよ。領地はずうっと東じゃない。インプも似たようなものだけど・・・」

 

「「「み、道に迷って・・・」」」

 

あっ、これあかんやつだ。しかもなんで三人揃って同じこと言ってんだよ・・・。

 

「迷ったぁ!?」

 

案の定驚愕する少女。そして直後に吹き出す。

 

「ほ、方向音痴にも程があるよー。きみたち変すぎ!!」

 

情けなく項垂れる俺たちを見て、ひとしきりけらけらと笑うと少女は右手に持ったままの剣を収めて言った。

 

「まあ、とにかくお礼を言うわ。助けてくれてありがとう。あたしはリーファっていうの」

 

「・・・キリトだ。この子はユイ」

 

「俺はカエデ」

 

「ユウキです。よろしくねっ」

 

続いてユイがリーファに軽く会釈をしてキリトの肩の上にとまる。

 

「ねえ、君たちこのあとどうするの?」

 

「や、特に予定はないんだけど・・・」

 

少し詰まりながら答えるキリト。用事がないと言えば嘘になってしまうが別段急いでいるわけでもない。まあ、早く進むに越したことはないのだが・・・

 

「そう。じゃあ、その・・・お礼に一杯おごるわ。どう?」

 

「じゃあ、お言葉に甘えることにしようか」

 

「だな。この世界について色々聞きたいし」

 

「色々・・?」

 

色々、というワードに首を傾げるリーファ。

 

「うん!特にあの樹について」

 

視線の先にある巨大な樹を見ながらユウキが疑問に答える。

 

「世界樹?いいよ。わたしこう見えても結構古参なのよ。・・・じゃあ、ちょっと遠いけど北のほうに中立の村があるから、そこまで飛びましょう」

 

「あれ?スイルベーンって街のほうが近いんじゃあ?」

 

キリトの問いかけにリーファは呆れたように言う。

 

「そりゃそうだけど・・・ほんとに何も知らないのねぇ。あそこはシルフ領だよ」

 

「え、入ったらダメなの?」

 

どうして?と首をちょこんと傾げるユウキを見て、絶句するリーファ。

 

「ダメってわけじゃないんだけど・・・街の圏内だと別の種族はシルフを攻撃できないけど逆はアリなんだよ」

 

「へえ、なるほど・・・」

 

面白いシステムだと思う。ということは領内で敵対する種族を袋叩きにすることもできるはずだ。もっともこの手の設定は領土を他種族に乗っ取られないようにするための防衛機能だろうが・・・

 

「でもみんながみんな即座に襲ってくるってことはないだろ。リーファさんもいるし・・・それにシルフの国って綺麗そうだしな。見てみたい」

 

「・・・リーファでいいわよ、本当に変な人たち。まあそう言うならあたしは構わないけど・・・命の保証まではできないわよ」

 

呆れたように肩をすくめながらリーファは答えた。

 

「じゃあ、スイルベーンまで飛ぶよ。そろそろ賑やかになってくる時間だわ」

 

翅を震わせながらスイルベーンの方角をみる。失っていた飛翔力はさっきの出来事の間にかなり回復したようで翅には輝きが戻っていた。その様子を見ながらユウキが首を傾げる。

 

「あれ、リーファは補助コントローラなしで飛べるの?」

 

「あ、まあね。君たちは?」

 

「ちょっと前にこいつの使い方を知ったところだからなぁ」

 

三人とも左手にコントローラを出現させて動かす仕草をする。

 

 

「そっか。随意飛行はコツがあるからね、できる人はすぐできるんだけど・・・試してみよう。コントローラ出さずに、後ろ向いてみて」

 

「あ、ああ」

 

「わかった」

 

「うんっ」

 

身体をくるりと半回転させ背中にある翅をリーファに見せるような体勢をとる。

 

「あのね、随意飛行って呼ばれてはいるけど、ほんとにイメージ力だけで飛ぶわけじゃないの。ここんとこから、仮想の骨と筋肉が伸びてると想定して、それを動かすの」

 

三人の肩甲骨あたりを触れながらリーファが説明する。仮想の骨と筋肉・・・。

リーファの言葉通り、背中から伸びる骨とそれを動かす筋肉をイメージする。

ゆっくりと大振りに筋肉を動かしながらその感覚を掴む。慣れてきたらそのスピードを速めて――――

 

「っ!」

 

真上に飛翔したことによって視界が一気に開ける。まだ若干クセが残るが翅を動かすという感覚は掴めた。もう少し練習すれば大丈夫そうだ。

 

「カエデ――!!」

 

眼前に広がる景色を見ていると、声と共に風切音が聞こえてくる。地上から飛翔してきた妖精を俺は両手で受け止めた。

 

「えへへ、どうだった?カエデ」

 

「ああ、上手だったよ。さすがユウキだ」

 

そう言いながら頭をなでてやるとユウキはさらに頬を緩ませる。さらにもう一言二言かけようと口を開く―――が。

 

「うわあああぁぁ――!」

 

突如、真下からキリトがロケットもかくやといった速度で飛び出してきた。真横に飛び込むように俺もユウキもその突進を回避する。そして俺たちの傍を通過したキリトはそのまま変な運動を続けて情けない悲鳴を響かせていた。その様子を見ていたリーファとユイは声を出して笑い合う。

 

「なんていうか・・・」

 

俺の小さなつぶやきにユウキが続ける。

 

「うん!やっぱりキリトって面白いよね!」

 

それからしばらく、キリトは変な飛行を続けた。

 

 

 




珈琲「第20話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?」

カエデ「もうテスト週間入ったのにいいのか?」

珈琲「ぐぬぬ・・・。い、息抜きだから・・・」

ユウキ「今日の勉強時間は?」

珈琲「ゼロです!(キリッ」

カエデ・ユウキ「おいっ」

珈琲「まあ、それは置いといて」

カエデ(置いとくのかよ・・・・)

ユウキ(ファミチキください)

珈琲「こいつ直接脳内に・・・!」

カエデ「いいから続けろ」

珈琲「アッハイ」

珈琲「えっとですね、今回読者様に相談したいことはユウキの年齢についてです!」

カエデ「なんでまたそんなことを急に?」

珈琲「読者様に指摘をいただきましてね。年齢の設定ミスではないかと。で、いろいろ調べてみた結果、ミスがあるかもしれないことが分かって・・・まあ訂正してもしなくてもカエデ君のロリコン疑惑不可避なんだけどね(笑)」

カエデ「俺はロリコンじゃねぇよ!」

珈琲「はいはい(棒)」

カエデ「ぐぬぬ・・・」

ユウキ「具体的にはどんなふうに改善するの?」

珈琲「それなんだけどね。カエデ君のロリコン疑惑解消のいい機会だし、この小説限定でユウキの年齢を上げてしまおうかと。カエデ君の一つ下とか」

カエデ「まあ、年齢が変わっても俺はユウキを愛し続けるけどな」

ユウキ「カエデ・・・」

カエデ「当たり前だろ。これからもずっと傍にいてくれよ?」ナデナデ

ユウキ「うん/////」ギュー

珈琲「あーそういうの別にいいから。コーヒーもったいないから」

ユウキ「カエデ♪」ギュー

カエデ「よしよし」ナデナデ

珈琲「また余計な出費が増える・・・」(壁ドン



感想でアンケートの回答をもらっちゃダメなんだ・・・知らなかった。活動報告でアンケートを取り直すのでご協力よろしくお願いします! ほんとごめんなさい!!

こんな趣味丸出しの駄文に評価をつけてくださった素敵な読者様

外道学生 様         五月雨亭草餅 様
ポンポコたぬき 様      暇神 様
N.博也 様          こあか 様
四色団子 様

個人的な返信でお礼をお伝えした方もおられますがこの場をお借りして改めてお礼を述べさせていただきます。
評価ありがとうございました!


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21話 TPOはわきまえろ、OK? OK!(ズドン

今日は雪がひどくて学校が休みでした。なので時間がつくれたから投稿
皆様のお住まいの地域は大丈夫でしたか?

季節はすっかり冬ですので体調にはお気をつけて。

それでは第21話です!どうぞ!


無軌道に飛び回るキリトを停止させ、改めてリーファから随意飛行のコツを教わる。散々な空中運動をしたキリトも元々の筋はよかったので十分ほど手解きを受けるとどうにか自由に飛べるようになった。飛行に慣れたところでようやくスイルベーンに向かって移動を始める。

 

「慣れてきたら、背筋と肩甲骨の動きを極力小さくできるようにするといいよ。あんまり大きく動かしていると、空中戦闘のときちゃんと剣が振れないから。……それじゃあ、ついてきて!」

 

最後に戦闘でのアドバイスを口にするとリーファはくるりと反転して巡航に入った。

最初のほうは初心者である俺たちに合わせてゆっくりと加速してくれたが、リーファに張り合うように並走していたキリトの一言によって飛行速度が大きく変わる。

 

「もっとスピード出してもいいぜ」

 

「ほほう」

 

にやりと笑うキリトを見てリーファは悪戯っぽく笑い返す。そして翅を鋭角気味に畳むと、更なる加速に入った。

 

「あいつら……」

 

「リーファとキリト速すぎ……」

 

急にスピード勝負に入ったキリトたちに俺とユウキは思わず苦笑する。

時速になおすとどのくらいの速度になるのだろうか。ついていくことに問題はないのだがさすがにこの速さになると止まるときにかなり大変なことになるだろう。

 

「ユウキ、置いて行かれない程度にスピードを落とそう」

 

「うん、ボクもこの速さで止まる自信ないし……」

 

ユウキが頷くのを確認して少し飛行速度を緩める。それと反対にキリトとリーファはさらにスピードを上げ始めた。

 

「はうー、わたしもうだめです~」

キリトについていくのがきつくなったのかユイも速度を落として俺とユウキの間に入る。

 

「ユイちゃん大丈夫?」

 

「はいっ、でもパパもリーファさんも速すぎです」

 

ぷくっと頬を膨らませるユイ。まあ、あの速度についていくのは至難の技だろうし今回は仕方ない。

 

抗議をするユイを宥めて飛行を続けていると森が切れ、色とりどりに光る建造物が見えてきた。おそらくあれがシルフ領の首都<スイルベーン>だろう。遠くからでもわかる街の輝きはシルフという種族がいかに繁栄しているのかを物語っている。

 

「お、見えてきたな!」

 

風切り音に負けない大声でキリトが言った。

 

「真中の塔の根元に着地するわよ!……って……」

 

ここへきてリーファが急に黙り込む。

 

「どうかしたの?」

 

不思議に思ったユウキがリーファに尋ねる。すると固まった笑顔をこちらに向けてリーファは口を開いた。

 

「三人とも、ランディングのやりかた解る?」

 

「ああ、なんとなくだけど」

 

「うん!問題ないよ」

 

なんだそんなことか。曲がりなりにも現実世界では飛ぶものをたくさん見てきているのだ。着地のやりかたくらい大したことないだろう。

 

「……」

 

「おい、キリト。お前まさか……」

 

一人だけ返事をしない。

顔を強張らせるキリトを見て三人は確信した。

 

こいつ、着地の方法知らないな、と。

 

「……どうしよ……」

 

徐々に青ざめていく親友。

激突待ったなしのキリトに対して俺たちは最大級の笑顔と立てた親指を向けて言い放った。

 

「逝って来い、キリト」

 

「頑張ってね!キリト」

 

「あとで回復してあげるから」

 

吹き出しそうになるのを必死に堪え急減速に入る。翅を限界まで広げて空気抵抗を受けながら急制動の力を得る。

 

「お……お前らああぁぁ――――!」

 

翡翠色の塔に黒衣の妖精が突っ込んでいくのを見送りながら、一言。

 

「おかしい人をなくした……」

 

おそらく三人の合掌はキリトに届いていることだろう。激突の大音響を聞き流しながらそう勝手に結論付けて俺たちは広場に着地した。

 

 

 

 

 

 

「うっうっ、ひどいよ三人とも……飛行恐怖症になるよ……」

 

塔の根元に設置された花壇に座り込み、恨めしい表情でキリトがこちらを見ながら言った。

頭上に表示されたHPバーが半分を割っていないあたり、激突の瞬間に受け身でも取ったのだろう。相変わらずの反応速度である。

 

「悪い。減速と着地くらい知ってるかと思ったんだ」

 

笑いを堪えながら弁解する俺にキリトは不思議そうな顔をする。

 

「そういえばなんでカエデもユウキも着地の仕方を知ってたんだ?」

 

「……お前、鷲とか梟が木に止まる映像とか見たことないのか?」

 

「あっ……」

 

さすがに気が付いたのか、目を伏せるキリト。

 

「まあ、あの速度で飛んでたから。咄嗟に思いつくほうが難しいよ」

 

そうフォローしながらリーファはキリトに近づくと右手をかざす。

そして聞きなれないワードをいくつか発音すると青白く光る雫がキリトに降りかかった。

 

「わぁ……」

 

光る雫を見ながらユウキが横で声を漏らす。視線をキリトのほうへ向けると先ほどの衝突で減っていたHPがもとの状態に戻っていた。

 

「へぇ、それが魔法か」

 

「うん、いくつか種類があるんだけど……今のは回復魔法だよ」

 

俺の呟きを聞いてリーファが得意げに答える。実際魔法は得意なのだろう。スペルの詠唱が手馴れていたような気がする。

 

「種族によって得手不得手があったりするの?」

 

「それはもちろん。シルフは風系譜の魔法が得意でスプリガンは幻惑魔法やトレジャーハント系。インプは特別得意な魔法はないんだけど、暗視や暗中飛行に優れているわね」

 

「なるほどな」

 

得意な魔法がないのは残念だが暗所を気にせずに行動できるのはありがたい。

スプリガンは……まあ使いどころによっては他種族を圧倒できるのではないのだろうか。

不人気な理由が何となく解ったような気がする。

 

「カエデ今スプリガンのこと可哀想って思っただろ」

 

「ソ、ソンナコトナイヨー」

 

「……俺もインプにしとけばよかった……」

 

肩をすくめながらキリトは立ち上がると周囲にぐるりと視線を向ける。

 

「おお、ここがシルフの街かぁ。綺麗な所だなぁ」

 

翡翠色に輝く街並みを眺めて感想を漏らす。それにつられるように俺もユウキも翡翠の都に見入っていると不意に横から声をかけられた。

 

「リーファちゃん!無事だったの!」

 

声のするほうへ顔を向けると手をぶんぶん振りながらこちらへ近づいてくるプレイヤーが見えた。黄緑色の髪をした気の弱そうな、ではなく優しそうなシルフの少年だ。

 

「あ、レコン。うん、どうにかねー」

 

レコンと呼ばれたシルフの少年はリーファに尊敬の眼差しを向けて言った。

 

「すごいや、アレだけの人数から逃げ延びるなんてさすがリーファちゃん……って……」

 

今更のようにリーファの傍に立つ俺たちに気が付くと、レコンは口をぽかんとさせて立ち尽くす。

 

「な……スプリガンにインプ!?なんで……!?」

 

バックステップで距離をとりながらレコンは腰のダガーに手をかけようとする、が。

 

「い、いったい他種族が何の用……ってあれ?」

 

腰のダガーに手をかけたはずがホルスターごと腰から消えているのに気づき、困惑する。

 

「へぇ~この世界のダガーってのは面白い形状をしてるんだな」

 

武器ごとになにか特殊効果が付与されていたりするのだろうか。俺も早いとこ装備を整えておきたいな。抜いたダガーを鞘にしまうと俺のほうを見て唖然としているレコンに返却する。

 

「いつの間に腰から……」

 

「いや、バックステップで距離をとったときだけど?」

 

「そんな……」

 

なおも驚愕を隠せないレコンに対してさらに続ける。

 

「まだまだ短剣を使いこなせてないみたいだな。良ければ戦い方をレクチャーしようか?」

 

「……どうしようか」

 

他種族であるにも関わらず俺の提案を聞いてうーんと唸るレコン。その様子を見てさっきまでのやりとりから話を戻そうとリーファが割り込んでくる。

 

「こらっ危ないでしょレコン!カエデ君もその辺にしといて。あんまり騒ぎすぎると人が集まってくるから」

 

「すまん、同じダガー使いとしてつい……」

 

もう……と呆れるリーファにとりあえず謝っておく。そういえば他種族の圏内だとこちらが圧倒的に不利になるんだっけ。うん、忘れてた。

 

「じゃあ改めて紹介するわ、こいつはレコン。あたしの仲間なんだけど、君たちと出会うちょっと前にサラマンダーにやられちゃったんだ」

 

「そりゃ災難だったな。よろしく、俺はキリトだ」

 

「さっきはすまなかったな。カエデだ、よろしく」

 

「ユウキです、よろしくねっ」

 

「あっ、どもども」

 

レコンはキリト、俺、ユウキの順に握手を交わし、ぺこりと頭をさげる。そして

 

「いやそうじゃなくて!」

 

またステップバック。

 

「……ショートコント?」

 

首を傾げるユウキ。そしてそれをすぐ否定するようにレコンが口を開く。

 

「お笑いじゃないから!それよりもだいしょうぶなのリーファちゃん!?スパイとかじゃないの!?」

 

「あたしも最初は疑ったんだけどね。カエデ君やユウキちゃんはともかくキリト君はスパイにしてはちょっと天然ボケ入りすぎてるしね」

 

「あっ、ひでぇ!」

 

キリトの言葉を聞いて笑いあう俺たちを、レコンはしばらく怪訝そうに見ていたが、ゴホンと咳払いをするとリーファのほうを向いた。

 

「リーファちゃん、シグルドたちは先に<水仙館>で席取ってるから、分配はそこでやろうって」

 

サラマンダーに襲われる前に何かクエストでもしていたのだろう。それにしてもパーティーを組んでいるとは思わなかった。襲われていたときにはすでにリーファだけだったし先にやられているとは考えにくい。何かあったのだろうか。

 

「あ、そっか。う~ん……」

 

今まですっかり忘れていたようで思い出したように声を出すリーファ。そしてしばらく考える素振りを見せた後、口を開いた。

 

「あたし、今日の分配はいいわ。スキルに合ったアイテムもなかったしね。あんたに預けるから四人で分けて」

 

「へ……リーファちゃんは来ないの?」

 

明らかに表情が暗くなるレコン。

 

「うん、これから三人に一杯おごる約束してるんだ」

 

「……」

 

暗くなったと思ったら急に警戒心を滲ませる。忙しいやつだな。

 

「今日はごめんね、レコン君」

 

納得のいかない顔をするレコンにユウキが謝る。自己紹介のときはよく見ていなかったのかユウキが顔を近づけるとレコンは顔を赤くさせて急に黙り込んだ。

 

「……おい」

 

「ひぃ!?」

 

「ユウキに色目使ったら……殺すからな?」

 

「わ、わかりました!」

 

あまりにもドスのきいた声が出て自分でも驚いたが効果は覿面だった。緩んだ表情から一転して真っ青になるとレコンはすぐにその場から離れるように走り出した。

 

「まったく……」

 

悪い虫を始末した達成感と呆れ半分でため息をつく。

 

「もう、カエデやり過ぎだよ」

 

先ほどのやり取りを見て少しは呆れているのかユウキが諌めるように言う。そして続けて

 

「ボクはカエデのものだから……」

 

えへへ、と赤くなりながら俺のほうを向くユウキ。その表情を見て今すぐにでも抱きしめたいという衝動に駆られてしまうが頑張って抑えることにする。

 

「ち、ちょっと、カエデ!?」

 

「あっ……」

 

衝動には勝てなかったよ……と某二コマ堕ちのマンガのように速攻でユウキを抱きしめてしまった。あの表情をみて抑えることができるだろうか、いやできるはずがない。

 

「もう……でもありがと。嬉しかったよ」

 

小さく、掻き消えそうな声でつぶやくユウキ。それに答えるように俺もユウキの耳元で囁く。

 

「当たり前だろ。ユウキのことは守るからな」

 

「うんっ!」

 

まるで見せつけるように抱く力を強めるカエデとユウキをみて一体どれほどのプレイヤーが殺意と死線を向けただろうか。まあ、そんな視線など関係ないかもしれないが……

 

「キリト君あれはどうしたらいいの……?」

 

「……いつものことだから」

 

こめかみを抑えながら答えるキリトはそういえば……とリーファに尋ねる。

 

「今からいく店ってブラックコーヒーみたいなのあったりする?」

 

問いかけに、もう一度カエデとユウキを見て、リーファが一言。

 

「とびっきりのがね……」

 

スイルベーンで初めてコーヒーに需要が出た瞬間だった。

 

 

 




珈琲「第21話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?」

カエデ「テスト散々だったな……」

珈琲「その話はやめてよ……」

ユウキ「前日にまさかの肺炎だもんね」

珈琲「おかげで明日も休んだ分の再試だよ。ちくしょーめ…」

カエデ「勉強は?」

珈琲「してない!(ドヤァ」

カエデ・ユウキ「しろよ!」



カエデ「そういえば結構前に俺の絵を描いてほしいみたいなコメントがきてたよな」

珈琲「あーきてたね」

カエデ「いや、描かないのかよ」

珈琲「読者様とのずれがあったら困るからね。そのへんは読んでくださった方にお任せしてます」

ユウキ「なにかイメージとかはないの?」

珈琲「うーん……。容疑者は身長190センチ、筋肉もりもりマッチョマンの変態だ」

カエデ「どこのコマンドーだよ!」

珈琲「はまったんだよ!」

カエデ「知らねーよそんなこと!」

ユウキ「でもボクのイラストはまた描こうとしてるんだよね?」

珈琲「当たり前じゃん!クリスマス仕様だから楽しみにしてねっ」

カエデ・ユウキ「はいはい……」

珈琲「そういえばお二人さんクリスマスはどうするの?」

カエデ「ユウキと出かけるつもりだけど」

ユウキ「えへへ、すっごく楽しみなんだ!」

珈琲「あーはいはい分かった分かった」

ユウキ「まあ、強く生きてればいいことあるよ……きっと」

珈琲「ひ、独り身違うわ!……一人じゃないもん……」

カエデ「はいはい」

珈琲「ぐぬぬ」

ユウキ「次回はクリスマス投稿だよね?」

珈琲「うん、寂しかったらこっちに来てもいいのよ?」

カエデ・ユウキ「遠慮します」

珈琲「……」

アンケートはこの話ををもって締切とします!
たくさんの方にご協力いただいて感謝感謝です!
結果のほうはまた活動報告にて報告させていただきます
ご協力ありがとうございました!


前回、この小説を評価してくださった素敵な読者様

A4用紙       様   モッシュ  様
ルーカス      様   ブリザード 様
闇夜に浮かぶ半月  様   samaL  様  
支援騎士      様   銀条2   様
kurosil      様   夜空 太陽  様
バルサ       様

本当にありがとうございました!励みになるので嬉しいです!


ご意見ご感想いつでもお待ちしております
それでは次回お会いしましょう!




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22話 平常運転

クリスマスだから特別編だと思った?残念、本編でした!
……はい、すいません今家に帰ってきたばかりです
予約投稿とかしとけばよかった・・・
今回はイラストも掲載しましたのでよければご覧になってください

それでは22話です!どうぞ!


「へぇ……クラスメイトとVRMMOをやってるのか」

 

レコンとリーファはリアルのほうでも知り合いで、同じ中学に通う同級生らしい。

どこか羨ましそうな、しみじみとした口調で言うキリトに、リーファは少し顔をしかめて答える。

 

「うーん、いろいろと弊害もあるよー。宿題のこと思い出しちゃったりね」

 

「ははは、なるほどね」

 

会話を交わしながらリーファの案内のもと、裏通りを歩いていく。すれ違うプレイヤーたちは他種族である俺たちを見て一瞬驚いた表情になるが、すぐ近くを一緒に歩くリーファを見ると警戒しながらも何も言わずに去っていく。

 

「リーファって実はすごい人だったりする?」

 

一触即発の事態をリーファのおかげで回避していることに気付いたのかユウキが前を歩くリーファに訊ねる。

 

「あんまりアクティブに活動してるつもりはないんだけどね。スイルベーンで開かれる武闘大会に何度か参加してるんだ」

 

「へぇ……」

 

それが理由で顔が通っているのなら大会では上位にランクインしているのだろう。さっきの魔法詠唱といい、剣術といい、案外シルフの中ではトッププレイヤーなのかもしれない。

 

「今度お手合わせを願いたいな」

 

「あっ、ボクもリーファと戦ってみたい!」

 

口をそろえて試合を希望する俺とユウキにリーファは頷く。

 

「もちろん!わたしも三人とは戦ってみたいしね」

 

約束を取り付けたところで前方に小ぢんまりとした酒場が見えてくる。

道中の会話曰く、デザート系のメニューが豊富な酒場でリーファが贔屓にしている店らしい。名前は<すずらん亭>。

 

スイングドアを押し開けて店内を見渡すと、幸いプレイヤーの数は少なかった。

酒場というより喫茶店という雰囲気が強い店内を少し進み、奥まった席に腰を下ろす。

 

「さ、ここはあたしが持つから何でも自由に頼んでね」

 

「じゃあお言葉に甘えて……」

 

「あ、でも今あんまり食べるとログアウトしてから辛いわよ」

 

一言だけ注意するとリーファもメニューのほうに視線を落とす。味覚エンジンやらを搭載した仮想世界では不思議なことに食事を摂ると満腹感が発生する。それはログアウト後もしばらく残るのでこのシステムを利用してダイエットを試みたプレイヤーもいるとか。結果は栄養失調に陥ったり、あまり芳しくないのだが……

 

結局リーファはフルーツババロア、キリトは木の実のタルト、俺は干しブドウのクレープ、ユウキはシフォンケーキ、最後にユイがチーズクッキーをオーダーし、飲み物は香草ワインを一本取ることにした。注文を聞いたNPCウェイトレスが即座にスイーツをテーブルに並べる。

 

「それじゃあ、改めて、助けてくれてありがと」

 

あやしげな緑色の液体が注がれたグラスをかちんと合わせるとリーファは改めてお礼を言う。

 

「いや、まあ成り行きだったし……」

 

「そういうこと。ほんとにたまたまだったから」

 

小さくかぶりを振って大した問題でないことを告げると切り取ったクレープを口に運ぶ。

 

「おっ、美味いな。ユウキ、このクレープ美味しいぞ」

 

切り取ったクレープをフォークにのせてユウキの口元まで持っていくと一口食べるように促す。

 

「あむっ……ほんとだ、すっごく美味しい!」

 

もぐもぐと咀嚼しながらクレープの感想を述べるユウキ。ごくんと飲み込むと今度はケーキを乗せたフォークをこちらに向けてくる。

 

「こっちのケーキも美味しいよ!はい、あ~ん」

 

「どれどれ……」

 

口の中に入ると同時にふんわりと優しい甘さが口のなかに広がる。それは少しの間だけ口内を漂うと、すうっと消えていく。しつこ過ぎずというのを体現している味だった。

 

「……どう?」

 

「たしかに美味しいな。それにユウキが食べさせてくれたおかげで本来の味より数段上の満足感を得られた気がするよ」

 

ありがとうな、と言いつつ頭をなでるとユウキは少しだけ顔を赤くさせる。

 

「そんなことないよ……もう少しだけ食べる?」

 

「じゃあ俺のほうも」

 

そうしてお互いにお互いの皿に盛りつけられたデザートをたべさせあう。始めた直後、店内を包む空気にピキッと亀裂が入る音が聞こえた気がするが気のせいだろう。別に変なことはしていないし。

 

「えへへ、美味しいねっ」

 

「ああ、おいしいな」

 

美味い物は人を幸せにすると言うがまさにその通りだと今なら感じれる。

きっと店内は幸せムード全開だろう。

 

「……これもいつも通りなの?」

 

「……ああ、残念ながら平常運転だ。あっ、コーヒー頼んでいい?」

 

「キリト君も大変なのね。わたしも一杯貰おうかな」

 

直後に現れるウェイトレスに二杯のブラックをオーダーするキリトとリーファ。それをよそに食べさせあうカエデとユウキ。果たして幸せムード全開なのが自分たちだけだと気付く日はくるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、あのサラマンダ―たちはえらい好戦的な連中だったよな。ああいう集団PKってよくあるの?」

 

テーブルのものがあらかた片付き、ひとまず落ち着いたところでキリトが話題を振る。

ALOがPK推奨とは聞いてたが予想とはずいぶん異なったものだったと感じているのだろう。

 

「うーん、もともとサラマンダーとシルフは仲悪いのは確かなんだけどね。領地が隣り合ってるから中立域の狩場じゃよく出くわすし、勢力も長い間拮抗してたし。でもああいう組織的なPKが出るようになったのは最近だよ。きっと……近いうちに世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな……」

 

「それだ、その世界樹について教えて欲しいんだ」

 

「そういや、そんなこと言ってたね、でも、なんで?」

 

「世界樹の上に用があってな」

 

そこまで言うとリーファは少々呆れながら俺たちのほうを見た。笑ったりしないのは表情に表れている真剣さが理由だろう。

 

「……それは、多分全プレイヤーがそう思ってるよきっと。っていうか、それがこのALOっていうゲームのグランド・クエストなのよ」

 

「と言うと?」

 

「滞空制限があるのは知ってるでしょ?どんな種族でも、連続して飛べるのはせいぜい十分が限界なの。でも、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、<妖精王オベイロン>に謁見した種族は全員、<アルフ>っていう高位種族に生まれ変われる。そうなれば、滞空制限はなくなって、いつまでも自由に空を飛ぶことができるようになる……」

 

「なるほど、俺たちみたいなのじゃなくても世界樹を目指す理由を全プレイヤーが持っているのか」

 

「ちなみに上に行くにはどうしたらいいの?」

 

「世界樹の内側、根元のところは大きなドームになってるの。その頂上に入り口があって、そこから内部を登るんだけど、そのドームを守ってるNPCのガーディアン軍団が凄い強さなのよ。今まで色んな種族が何度も挑んでるんだけどみんなあっけなく全滅。サラマンダーは今最大勢力だからね、なりふり構わずお金貯めて、装備とアイテム整えて、次こそはって思ってるんじゃないかな」

 

「……」

 

少々面倒な状況だ。全員がグランドクエスト攻略を目指しているのなら協力してくれる種族は皆無と言っていい。中には俺たち三人を積極的に妨害してくるプレイヤーも出てくるだろう。

 

「魅力的な話だからこそ、他種族と協力できないようにしている。結果、クエストの難易度を跳ね上げているわけだ」

 

人間というものをよく理解したゲーム設定だと改めて感心する。

 

「カエデ君、なかなか鋭いじゃない。確かに単一種族で攻略不可だとすれば……絶対に無理ね」

 

「無理?」

 

「当たり前だろ。アルフとやらになれる種族はオベイロンに謁見した一種族のみだ」

 

さまざまなリソースを奪い合って自分を強化していくMMOにおいて他種族のために協力しようとするお人好しなんているはずない。

 

「ガーディアン単体の強さはどのくらいなんだ?」

 

「三体までならなんとかなるらしいわ」

 

「三体ねぇ……」

 

軍団と呼ばれるほどなのだから少なく見積もっても千体はいると考えていいだろう。三体までならとかそういう次元の話じゃない。圧倒的な戦力不足だ。

 

「今では無理っていう意見が一般的ね。まあ、クエストは他にもいっぱいあるし、生産スキルを上げるとかの楽しみ方も色々あるけど……でも、諦めきれないよね、いったん飛ぶことの楽しさを知っちゃうとね……。たとえ何年かかっても、きっと……」

 

「それじゃ遅すぎるんだ!」

 

不意にキリトは押し殺した声で叫ぶ。血が出るのではないかというほど拳を強く握り、口元は震えるほど歯を食い縛っている。

 

「キリト、少し静かに――」

 

「どうしてカエデはそんなに落ち着いていられるんだ!」

 

「……お前の気持ちはよく判る。だがお前が冷静さを欠いてどうするんだ。喚いてどうにかなるなら俺だってとっくにそうしてる」

 

キリトの肩に手をおいて諭すようにゆっくりと言葉をかける。俺の言葉を聞いて少し落ち着いたのか体に入っていた力をふっと抜くキリト。

 

「……ごめん」

 

低い声色で謝るキリトにさらに続ける。

 

「お前は一人じゃないんだ。俺やユウキだっているしもっと周りを頼ってくれ」

 

「そうそう、もっとボクたちに頼っていいんだよ?」

 

キリトの背中をぽんぽんと軽く叩きながらユウキが笑いかける。完全に落ち着きを取り戻したらしくキリトは短くありがとう、と口にするとリーファに向き直った。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 




今回は急ぎなのであとがきはなしです!

22話お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?
ご意見ご感想いつでもお待ちしております!

それでは次回またお会いしましょう!


前回評価をしてくださった素敵な読者様のご紹介

城霊    様    ディサスン   様        
黒龍神帝  様    大花火      様       
ヒビキ★  様    カラド・レライエ 様  
幻刻の断罪者 様   新世界のおっさん  様  
黒木 白牙 様     ノーバディ     様 
月の夜  様     猫蔵        様
王の財宝  様    勇輝        様

評価ありがとうございました!


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23話 やはりお前の武器選びは間違っている

死んでんじゃない? ←生きてるよ

失踪してません!かろうじて生きてます!
そして投稿が遅れてごめんなさい・・・

それでは第23話です!どうぞ!




すずらん亭での祝勝会は一時シリアスな展開を迎えたがその後は和やかに時間が過ぎていき、リアルでの時刻が日を跨ぐ頃にお開きとなった。

 

「――古参プレイヤーの協力を得られたのは嬉しい誤算だったな」

 

彼女なりにキリトの言葉に何か感じるものがあったのだろう。

先ほどまでリーファが座っていた椅子に目を向けながら独り言のように呟く。

 

「ああ、でもどうしたんだろう彼女」

 

いきなり世界樹までの案内を買って出たリーファの心中を考えるようにキリトも口から疑問を漏らす。キリトの肩の上に乗っているユイも首を傾げると

 

「さあ……。今の私にはメンタルモニターの機能はありませんから……」

 

分かりません、と締めくくり俺とユウキの言葉も代弁した。

 

「でもさ!明日からもリーファと一緒に冒険できるってことだよね!」

 

ユウキは楽しそうに笑うと、これから始まる新たな旅に思いを馳せているのか窓から広がる夜景を見つめた。

 

「……ユウキの言うとおりだな。余り深く考えないようにしよう」

 

「だな。今は新たな仲間の誕生を喜ぶとしますか」

 

グラスに残っているハーブワインを呷り、口の中に広がる甘みを楽しむ。

リーファとの出会い、明日から始まる旅、今日起こったすべての出来事が隠し味になったのか、傾けたグラスから零れる翡翠の水は先ほどよりも美味しく感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

「リンク・スタート!」

 

翌日の昼過ぎ、楓からカエデへと意識を移すべくログインを開始。待ち合わせ時刻より少し早いが接続ステージを含めてぴったりになると考えてのログインだ。

 

接続を経て、闇妖精カエデに身体が切り替わる。瞼を開けると奥のテーブル席に3人のプレイヤーが腰を掛けていた。言うまでもなくユウキ、キリト、リーファである。

 

「おっす、早いな」

 

「俺は今来たとこだから問題ないぞ」

 

「……なんかそのセリフ、男に言われても嬉しくないな」

 

「いやそこは素直に受け取れよ!」

 

ログイン直後だという割にキレのいいツッコミを繰り出すキリト。さすが仮想空間に適応してるだけのことはある。

 

「まあまあ、みんなついさっき集まったのは本当だから」

 

キリトをどうどう、と落ち着かせて苦笑を浮かべながらリーファ。

 

「ほらキリト。こういうのはかわいい女の子が言うと効果があるんだぞ」

 

うんうんと頷きながらキリトに語っていると横から服の袖をくいっと引っ張られる。

 

「どうした?ユウキ?」

 

引っ張られた袖のほうを見るとなぜか少しふくれっ面のユウキ。明らかに怒っているように感じられるがこんな可愛い怒り顔をする子なんてそうそういないだろう。

 

「カエデ、……浮気はダメだよ?」

 

「へ?」

 

思わず素っ頓狂な声を上げる。どこをどう見て浮気だと捉えたのかじっくり話し合いたいところだが確実に誤解だ。そう誤解である。ならば解かないといけない。

 

「い、いやいや!しないから!それは誤解だぞユウキ」

 

おいカエデよ。なぜ慌てているんだ。まだ慌てるような時間じゃないだろう。

首をぶんぶん振って否定する俺をユウキは少し胡散臭そうに見ると

 

「もし浮気なんてしたら……あっそっか。このゲーム、ソードスキルないんだった」

 

「やめてください死んでしまいます!」

 

ソードスキルで何をするのか想像に難くない。この状況を打破するための援護を要請すべく頼もしい仲間二人に目を―――

 

「いやー旦那思いの嫁さん持つと大変だなーかえでー」

 

「か、かわいい……」

 

明らかに棒読みのキリトと頬を染めてなにかをぶつぶつ言ってるリーファ。

……これ詰んだわ。

 

「カエデ、少しOHANASHIしようか?」

 

「い、いや!だから誤解だk「しようか?」はいわかりました!」

 

妖精は時に鬼にもなる。そんなことを学んだ俺に待っていたのはお説教という名の高い授業料の支払いだった。……解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これからどうするんだ?買い出しとかしないといけないだろ」

 

「道具類は一通り買っておいたから大丈夫だよー。あ、でも……」

 

俺たちを見る視線を顔から体に落としながら言い淀むリーファ。

 

「あー、もしかして俺たちの装備のことか?」

 

頷くリーファを見てキリトもユウキも自分の装備に視線を向ける。

俺もそうだがキリトもユウキも依然初期装備のままである。初ログインから1日しか経っていないのだから当然と言えば当然なのだが、これから目指すのは世界樹。グランドクエスト発生ポイントでこのゲームのラストステージとも言える場所だ。そんな場所に生まれたままの姿で向かうのは自殺行為と言える。確実に道中でリスポーンだろう。

 

「確かにこの装備じゃ心もとないな……」

 

「ボクもできるなら装備変えたいかも……」

 

苦笑する二人を見てリーファに聞いてみる

 

「というわけでお勧めの武具店とかあったりするかな?」

 

「まあ、あるにはあるんだけど……お金、持ってる?」

 

無ければ貸すけど、というリーファの声を聞きながら左手を振ってメニューウインドウを呼び出す。表示された金額は……。

 

「……この<ユルド>って単位がこの世界の通貨なんだよな?」

 

少々引きつった顔でキリトが訊ねる。

 

「そうだよー。……ない?」

 

「い、いや、ある。結構ある」

 

「なら、早速武器屋行こっか」

 

「う、うん」

 

慌てた様子で立ち上がったキリトは胸ポケットで寝ているユイを起こすとリーファを連れて足早に酒場を出て行った。

 

「ねぇカエデ。これって……」

 

「ああ、たぶんSAOのデータが使われてるんだろうな」

 

ユイがこのゲームはSAOのコピーサーバーだって言ってたしな。共通する部分が同じになるのも納得がいく。

 

「そっか!そうだよね!よかった~」

 

「?なにが良かった……ああ、そういうことか」

 

ステータス画面に表示されているあるアイコン見つけると、俺はユウキの頭を撫でた。

 

「えへへっ」

 

「これからもよろしくな。ユウキ」

 

「うん!」

 

剣の世界で生まれた絆の証――結婚システム。

それをしっかりと目に焼き付けた俺たちは深い喜びを噛み締めながらキリトとリーファを追いかけた。

 

 

 

リーファ行きつけの武具店で装備一式を整えたころには、街はすっかり朝の光に包まれていた。

 

「お前、剣一本選ぶのにどれだけ時間かけるんだよ」

 

「仕方ないだろ。なかなか重い剣がないんだから」

 

身の丈に迫る大剣(一応片手剣)を背中に吊ったスプリガンを見ながら不満を漏らす。

 

「次は大剣から見ていったほうがいいかもねー」

 

ユウキに激しく同意。そんな得物、スプリガンじゃ普通振ろうとしないだろ。本当に名実ともに規格外である。

 

「そんな剣、振れるのぉー?」

 

心配そうにリーファが訊ねると、キリトは涼しそうな顔で頷いた。

 

「問題ない」

 

後から聞いた話だがALOでは、与ダメージ量を決定するのは<武器自体の攻撃力>と<それが振られるスピード>、<各部位に設定されたクリティカルポイント>の3つらしい。

しかしそれだけだと選んだ種族によって戦闘の優位が決まってしまう。そこで、筋肉タイプのプレイヤーは比較的攻撃力の高い巨大武器を扱いやすくして種族間における戦闘でのバランスを取っているみたいだ。

 

「大丈夫、キリトはそこらの脳筋プレイヤーよりパワフルだから」

 

「なんか素手でもボスMob倒しそうだもんね!」

 

「うーん、まあ君たちが言うなら大丈夫かー」

 

半信半疑みたいだがひとまず納得してくれたようだ。……でもユウキ、それはないと思うぞ。

 

「じゃあ行こうか」

 

号令をかけるキリト。しかし背中に吊った大剣が身長とのミスマッチを生み出してさらにそれが笑いを生む。まるで剣士の真似事をする子供のようだ。

 

「準備完了だね!キリト君、カエデ君、ユウキ、これからしばらく、ヨロシク!」

 

「こちらこそ」

 

「おう、よろしく」

 

「よろしくね!」

 

少し遅れてキリトのポケットから飛び出たユイが、四人の手をぺちぺち叩きながら言った。

 

「がんばりましょう!目指せ世界樹!」

 

 

 




第23話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?
だいぶ時間が空いてしまったのでリハビリっぽい出来になっております。
……投稿が遅れて申し訳ありませんでした!
今年から大学生になりまして、そのための勉強やら準備やらで纏まった時間がとれなくて……。
次回はなんとかして早めに投稿できるようにします。
長らくお待たせしてすいませんでした。



それと少し補足をさせていただきます。今回の話に出てきたALOにおける与ダメージについてですが、原作での決定要素は<武器自体の攻撃力>、<それが振られるスピード>のふたつでした。しかしこの二次作では上記のふたつに加えて<各部位に設定されたクリティカルポイント>を設定することにします。
理由についてはカエデ君がSAOで培ってきた急所を狙う戦闘スタイルが活かせるからです。
ご都合主義が否めませんがご理解のほどよろしくお願いします。






前回評価をしてくださった素敵な読者様のご紹介

磯辺    様          氷咲    様
Aimkut   様          ヴァンクリーフ 様
Fault    様         夜明けの月   様
あるいは  様          大和誠士郎   様
(-_-)zzz   様         Trumical    様
佐竹    様         リーデ     様
TOKIBA  様         一輝      様
Nemeshis  様         よ〜すけ    様
空想劇   様         グレイブブレイド 様
人類種   様         Xerxes     様

評価ありがとうございました!



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24話 脇役はインパクトがないと忘れ去られる

今回は早い投稿になりました(大嘘)
そして相変わらずの展開の遅さ……
でも5月中にはALO編を終わらせたいという目論見がありまぁす!

それでは第24話です!どうぞ!



大空を自由に飛び回れる。これを売り文句にしたALOにおいて飛行時間が設定されているということは致命的である。

しかし、それでも飛行という要素は移動、戦闘において重要な手段であった。

特に移動に関しては歩くよりも数十倍の効率の良さを発揮する。ならその効率の良い方法をどれだけ長く持続させるかがミソと言えるだろう。

 

「風の塔はかなり高いからな。高度もそれなりに稼げそうだ」

 

高いところから飛行を始めれば距離を稼げるというシンプルかつ真理な意見により、装備を整え終えた俺たちはシルフ領で最も高い建造物、風の塔まで来ていた。

 

「うん!それに何度見ても綺麗だよねー」

 

そびえ立つ翡翠の塔を見上げながら感嘆の声を漏らすユウキ。シルフであるリーファも何度も見る塔に改めて美しさを感じているのだろうか、黙ったまま眺めていた。

 

「……うへぇ」

 

そして情けない呟きを漏らすのはキリト。一人だけ嫌そうな顔をしながら塔を眺めていた。視線の先は塔の中腹あたり、昨夜激突したポイントだ。

 

「出発する前に少しブレーキングの練習しとく?」

 

「……いいよ。今後は安全運転することにしたから」

 

リーファの提案を憮然とした表情で断るキリト。本当にー?と聞き返しながら、くるりと身体を塔に向けたリーファはキリトの背中を押して歩き出した。

 

「じゃあ行こ!夜までに森は抜けておきたいね」

 

「俺たちはまったく地理がわからないからなあ。案内よろしく」

 

「任せなさい!」

 

トンと胸を一回叩いてからリーファはもう一度翡翠の塔を見上げた。

 

 

塔に入ってからは何事もなく……という風には進まなかった。一悶着あったのだが言ってしまうと未練たらしい男の戯言だ。特に表記することなし。哀れなりシグルド。

強いていうならシグルドが最後に放った捨て台詞と出発前にレコンから告げられた警告が気になったってところか。

 

「まあ、今考えることでもないか」

 

頭の中に残る懸念を振り払うべく、目の前にいるモンスターに意識を集中させる。

羽の生えた単眼大トカゲの名前は<イビルグランサー>。<古森>と呼ばれる現在地でエンカウントした初mobでリーファ曰く厄介な相手らしい。単純な戦闘力もさることながら特筆すべき点はカース系の魔法を攻撃に組み込んでくることだ。要するにこちらのステータスを一時的にダウンさせてしまう攻撃方法。ゲームを始めたばかりのプレイヤーなら苦戦することは必至なのだが――

 

「うん……不遇だな」

 

魔法が放たれる直前に大トカゲの目玉を斬りつけて魔法をキャンセル。それに伴って大きく怯みをみせたトカゲに下段から剣を滑らせる。

 

「ユウキ!」

 

「うん!スイッチ!」

 

剣を振りぬいた勢いで後ろに跳び、ユウキとその攻撃ポイントをチェンジ。

俺とユウキ、放たれる剣撃を間髪入れず浴びた爬虫類の巨体は戦闘開始から数分と立たずにポリゴンの欠片となって消えることとなった。

 

馴れ親しんだ金属音と共に剣を鞘にしまい、ユウキに向かって右手を上げる。

 

「お疲れ。ナイスタイミングだったぞ」

 

「カエデもお疲れ様!」

 

ぱしんとハイタッチをして、笑みをかわす。

 

「相変わらずの剣技だな」

 

思わず見とれてたよ。と付け加えながらユウキの頭をなでる。

 

「えへへ、ありがとうカエデ」

 

目を細めながらふにゃ~と表情を緩めるユウキ。そのまま猫のようにすりすりと身体を寄せてくるまでは習慣となっている。かわいい。

 

「おーい、そっちは終わったかー?」

 

同じく戦闘を終えたキリトが身の丈に迫る巨剣を背にしまいながら近づいてくる。

そのすぐ横にはリーファもいるのだが表情はどこか呆けたままだ。

 

「ばっちりだ。もう少し戦いたいくらいだな」

 

「ねえリーファ、もっと強い敵はいないのー?」

 

「無茶言わないで。今のでもかなり強敵のほうよ」

 

ほんとに何者なの……と頭を抱えるリーファの肩をぽん、とキリトが叩く。

 

「あの二人にいちいち驚いていたらきりがないぞ」

 

『お前が言うな』

 

三人のフルシンクロしたツッコミにキリトは一人「解せぬ」と呟いていた。

……いや、解せよ。

 

 

 

大トカゲとの戦闘後はモンスターと出会うこともなく、四人は<古森>を抜けて山岳地帯に入った。そこでちょうど飛行限界を迎えたらしく、山の裾野を形成する草原の端に降下する。

 

数秒早く着地したリーファは凝った筋肉をほぐすように大きく伸びをしながら俺たちのほうを向いた。

 

「さてと……しばらく空の旅はお預けよ」

 

「ありゃ、何で?」

 

リーファと同じように腰に手をあてて背筋を伸ばしていたキリトは首を傾げる。

 

「見えるでしょう、あの山」

 

指を指すほうへ視線を移動させると雲に届きそうな位置に頂を構える山脈が見えた。先刻飛び出した風の塔もなかなかの高さだったがこの山には及ばない高度だと一目で判断できる。

 

「あれが飛行限界高度よりも高いせいで、山越えには洞窟を抜けないといけないの。シルフ領からアルンへ向かう一番の難所、らしいわ。あたしもここからは初めてなのよ」

 

「へえ……長い洞窟?」

 

「かなり。中間地点に鉱山都市があって、そこで休めるらしいけど……三人とも、今日はまだ時間だいじょうぶ?」

 

画面端に表示されている時計を確認し、ユウキもキリトも頷く。

 

「俺はまだまだ平気だよ」

 

「ボクも全然オッケーだよ」

 

「カエデ君は?」

 

「俺も大丈夫。それにしてももう夜の7時か……」

 

ゲームに限らず楽しいことをしていると時間経過が早くなるのはお約束である。もちろんそれは体感的で実際は変わったりしないのだが。

 

「とりあえずここでローテアウトしよっか。そのあとにまた再開しましょう」

 

「ローテアウト……?」

 

「ああ、交代でログアウト休憩することだよ。中立地帯だから、即落ちできないの。だからかわりばんこに落ちて、残った人が空っぽのアバターを守るのよ」

 

「なるほど、了解」

 

「お先にリーファとユウキからどうぞ」

 

女性を置いて先に休むわけにはいかないから、という俺たちの言葉にそれならと頷いたリーファとユウキはそれぞれ左手を振った

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。二十分ほどよろしく!」

 

「カエデ、ボクのこと守ってね」

 

「任せろ、指一本触れさせん」

 

親指を立てて宣言する俺。それを見て満足そうに笑みを浮かべると、ユウキはログアウトボタンが表示されている空を押した。

 

「なるほど、フィールドでログアウトしたら自動的に待機状態になるのか」

 

「みたいだな。それにしても20分暇だな……」

 

デュエルでもするか?と提案するキリトに首を横に振る。

 

「それは今度にしよう。それよりも大事なことがある」

 

「大事なこと?」

 

久しぶりの真面目な空気に眉を上げるキリト。神妙な面持ちになった影妖精に俺は口を開いた。

 

「……俺たち魔法覚えないとやばくない?」

 

 

 

 

 

 

Side リーファ

 

 

待機姿勢をとった二人のアバタ―の近くに腰を下ろすと同じく隣に座る闇妖精の女の子に声をかけた。

 

「ねえ、ユウキ」

 

「どうしたのリーファ?」

 

「えっと……その……カエデ君とはどういう関係なの?」

 

気になった話題を振ってみる。スイルベーンから醸し出す甘い雰囲気に耐えかねて、というのが主な理由であるがなんとなく二人を繋げているものが普通のものではないと感じていたからだ。友達という枠を完全に超えて恋人――いや、それ以上にも見える何か。

 

「カエデはボクの旦那様だよ」

 

「……はい?」

 

聞き間違いだろうか?いや聞き間違えだ。そうに決まっている。

 

「えっと……もう一回言ってくれるかな?」

 

「うん!カエデは旦那様でボクはカエデのお嫁さんだよ!」

 

蕩けるような笑顔をこちらに向けてはっきりと答えるユウキ。聞き間違えてないようである。

そしてさらにカエデ―――旦那様の話が始まった。そのほとんどが惚気もいいところの内容で胃がきりきりしていたのは正常な反応であると信じたい。

 

姿からみてもまだまだ結婚できる年齢ではないというのがわかる。大目に見ても同年代くらい。そして女性の最低結婚年齢は16歳、現実では不可能だ。しかしそれがリアルではないとしたら……

 

「あー、もしかしてゲームでの話?」

 

そう現実ではダメでもこの世界、ゲームの中でなら可能なことである。実際ALOにも結婚システムは導入されていて結婚しているプレイヤーを数人だが見たことがある。

大方、前にやっていたオンラインゲームでそういう関係になっていたのだろうとあたりをつけて質問してみる。

 

ところが質問を聞いた途端、さっきまでだらしなく緩んでいたユウキの顔は驚くほど真面目なものになっていた。そして口を開く。

 

「たしかにゲーム世界で、っていうのは否定できないけど、あれはボク……いやボクたちにとってもう一つの現実だったから」

 

そしてさらに続ける。

 

「ボクのことを一番に考えてくれて、愛してくれているカエデをボクも愛している。だからあの世界での結婚は現実世界のそれと何一つ変わらないもの。そう考えているんだ」

 

たとえゲームのなかでもね!と笑顔を見せるユウキにおもわず呆気をとられる。

 

嘘はついていないしはぐらかされてもいない。それだけははっきりわかった。二人の闇妖精を結ぶもの、その強固な思いに。

 

これ以上は聞いてはいけない。頭では分かっているのに。それとは反対に言霊は口から出てこようとして

 

「君たちって……それにあの世界って――」

 

そこまで発した途端――

 

「二人して何を話してるんだ?」

 

「わっ!!」

 

いきなりカエデが顔を上げて、文字通り飛び上がってしまった。

 

「お帰りカエデ!」

 

「おう、ただいま……何かあったのか?」

 

きょとんとした顔のまま待機姿勢から立ち上がるカエデ。それに答えるようにユウキが言った。

 

「あのね、今リーファと――」

 

「わあ、なんでもないなんでもない!!」

 

慌ててユウキの言葉を遮りながら自分も立つ。

 

「さあ、出発よ!さっさと洞窟を抜けちゃいましょう」

 

思考を振り切ろうと大きな声を出して歩を進める。今は分からなくてもいい、知らなくてもいいんだと自分に言い聞かせながら。

 

「あっ、おーい!キリト忘れてるって!」

 

「……」

 

遠くから聞こえる声にもう一人の妖精の存在を思い出したのは秘密である。

 

 

 

 

 

 




第24話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?
前回よりは早く投稿することが出来ましたがそれでも遅い(確信)。
GW中にもう1話は投稿したいところ……まあ期待しないで待ってくだちい(汗)
今回はリーファ視点を挿んでの進行でしたがなかなか挿入が難しい……原作だとさらっと切り替わったりするんですがそれを横並びする文字でやったら
ん?急に視点変わったな
ってことになるから読みにくくなると思うんですよね。皆さんはどう思います?

ユウキはいい子、そしてカエデにゾッコンである。カエデまじ爆発しろし
哀れ!カエデ=サンはしめやかに爆発四散!サヨナラ!みたいな感じに




カエデ「ドーモ=コーヒーサン。カエデです」

珈琲「アイエエエエ! カエデ!? カエデナンデ!?」

カエデ「とりあえずいっぺん死んで来い」

珈琲「ぐああああ!サヨナラ!」

ユウキ「作者のほうが爆発四散したね」

カエデ「これで少しは懲りるだろ」


前回までに評価をしてくださった素敵な読者様のご紹介
夜見    様       倉木遊佐 様
榛野 春音 様       成瀬草餅(草庵) 様
こまー2  様

評価ありがとうございました!

ご意見ご感想お待ちしております!それでは次回またお会いしましょう!
サヨナラ!


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25話 若者の人間離れが心配である

まだGWです!セーフです!
今年は5連休でしたが皆さんどう過ごしたでしょうか?わたしは両腕が日焼けして結構つらかったです(笑)お出かけの際はクリームの用意を!

そういえばちょくちょくレコンのことを書いてますが原作を読み返すと、あの子出発前にあんまり重要なこと言ってないんですよね……

まあいっか! ※よくないです

うちのところのレコンはいいこと言ったってことにしよう(笑)


それでは第25話です!どうぞ!


 

「……誰かにつけられてる」

 

<ルグルー回廊>と呼ばれる洞窟に入って2時間、出現するモンスターとの戦闘を終えた俺は他の3人にギリギリ聞こえるボリュームで追跡者の反応を告げた。

 

「やっぱりか」

 

まるで予想していたと言うように頷くキリト。そしてそれとは対照的にリーファは首を傾げる。

 

「つけられてるって……。どうしてそんなことが分かるの?」

 

「勘だ」

 

即答する俺にリーファがズッコケて

 

「いやいや不確定要素すぎるでしょ!」

 

すかさずつっこみを入れる。

 

「いやーこれがなかなか馬鹿に出来ないんだよな……」

 

しみじみと呟く俺にユウキとキリトもうんうんと頷く。勘と言われれば頼りないものに思いがちだが実際は違う。培ってきた経験、踏んできた場数から生み出されるのが勘であって、いい加減な思いつきを勘とは言わない。その辺はSAOで鍛えられたといってもいい。

 

「それに追跡されてるって仮定すれば出発前の警告にも説明がつく」

 

「出発前ってレコンの?」

 

「ああ。ついでに確認をとってみようか」

 

リーファの問いに頷き、キリトの肩に乗るユイに視線を向ける。自然とリーファもユイのほうを向いて――

 

「――はい。にぃの予想通り敵と思われる反応があります」

 

目があったところでそう言った。驚いたままのリーファにさらにユイは続ける。

 

「人数は……12人」

 

「じゅうに……!?」

 

「……小隊くらいの人数だね」

 

絶句するリーファ、そして少し驚いているが楽しそうに笑うユウキ。敵じゃない可能性もなくもないがそんな希望的観測は早めに捨てたほうがいいだろう。

 

「今から全力で走れば逃げ切れそうだけどなー。それだと――」

 

「負けたようで嫌なんでしょ?」

 

分かってるよ、と言わんばかりにユウキが言葉を紡ぐ。

 

「その通り。相手さんに聞きたいこともあるしな」

 

逃げるという選択肢が無くなりつつある雰囲気に、半分呆れながらリーファは口を開く。

 

「はあ……でも戦うなら場所を変えましょ。洞窟を抜けた先が開けた場所になってるはずだから」

 

どこか投げやりなセリフに苦笑しながら答える。

 

「すまんな。でも一応作戦も考えてるから大丈夫。まずは――」

 

申し訳程度の謝罪を混ぜつつ、俺は3人の妖精に打倒レイドの作戦を話し始めた。

 

 

 

 

 

ひんやりとした冷たい空気と水が支配する空間、緊迫した状況を崩すように一人の男が口を開いた。

 

「へえ、逃げずに待ってくれてるとはね」

 

多少の疑問が顔に出ているものの、自分たちが有利な状況にあると判断した赤甲冑のプレイヤーは、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「……セリフと表情が完全に悪役ですよ?」

 

どこのB級映画だよ……と心のなかで悪態をつく俺にサラマンダーの隊長らしき男は笑みを崩さず答える。

 

「いやぁ、あながち間違ってないよ。なにせ4人の君たちを12人がかりで襲おうとしてるわけだから」

 

「罪悪感を感じてるのならここで引いてもらえ――」

 

「それはできないな、上からの命令なんで。さて……」

 

杖を俺に向けて急に黙り込むサラマンダー。それに合わせて周りのプレイヤーも各々の役割を果たそうと構え始めた。

 

「内訳は……タンクが3人とメイジが9人」

 

「予定通りだな」

 

「だな……それじゃあ手筈通りに始めようか」

 

陣形はリーファを後衛、残りを前衛に置いた超攻撃型。持久戦になれば不利になるこの型は短期決戦で戦闘を終わらせること意味している。

 

軽重さまざまな金属音を響かせ剣を抜き、それぞれがこれまで洗練させてきた構えをとる。そして腰を落とし―――

 

『――ッ!』

 

地面を蹴った。加速していく3人の剣士は音を置き去りにするかの如く運動エネルギーを増大させていき、敵との距離を縮めていく。

 

「――セイッ!」

 

剣の間合いに入った瞬間、津波、あるいは閃光のような勢いで刃が炎妖精に襲い掛かる。しかし先手必勝を体現した攻撃は相手の体力ゲージを2割ほど減らすだけで勝敗を分ける決定打になりえなかった。

 

「やっぱり盾が邪魔だ――っ!?」

 

厄介だなと呟くよりも先に、相手タンクの背後からオレンジ色の火球が弾幕となって飛んでくる。攻撃を終えたばかりの完全な硬直時間を狙って放たれた魔法は俺を含むキリトとユウキの身体を包み込み、いくつもの爆発を巻き起こした。薄暗かった洞窟を真っ赤に染め上げる爆炎はHPバーを一瞬で緑色から黄色まで消し飛ばす。

 

「うぅ……なんか変な気分だよ」

 

魔法の直撃という味わったこととのない不快感に感想を漏らすユウキ。表示されているHPバーは俺と同じく危険域に達していた。

 

「たしかにこれはそうそう食らいたくないな……っと回復か」

 

顔をしかめるユウキに苦笑しながら同意していると身体が柔らかい光に包まれる。現れた光は数秒ほど身体を覆い、危険域に落ち込んだHPを安全域まで押し戻す。後衛でリーファが回復魔法を唱えてくれたのだろう。

 

「あれを凌ぐなんてやっぱりやるねぇ……」

 

声の主は敵タンクの背後から、戦闘前にB級の悪役を演じたサラマンダーの隊長だ。

 

「でももう一杯一杯でしょ。シルフの後衛ももうマナが尽きかけてるみたいだし」

 

「……否定はできませんね」

 

危険域からあそこまでHPを回復させるにはよほどの高位回復魔法じゃないと不可能だ。

そしてそれを連続で3人に使用……相手の言う通りリーファのマナはおそらく空っぽに近いはず。

 

「というわけでそろそろ大人しくやられてくれないかな?」

 

勝利を完全に確信したのか、優しく諭すような声で俺たちに話しかけるサラマンダー。傍に控えるメイジたちもにやにやと笑いながら俺たちが降参するのを待っている。

 

「素直に従ってくれるならアイテムまでは――」

 

「おじさんたち、右」

 

突然、左方向を指さしながらサラマンダーたちに話しかけるユウキ。それに従って小隊の視線も動き――

 

 

 

「……なにもないじゃねーかお嬢ちゃん」

 

右に広がる、特に変化もない湖面を見つめて再び視線を戻そうとするサラマンダー。

 

「へへっ、嘘はよくな―――」

 

言いきろうとした直後に反対方向――ユウキから見て右の方角からまばゆい閃光が迸る。事前に話していた通りのタイミングで放たれた強烈な光は、瞳を手で覆い隠す時間を与えずサラマンダーの小隊に視覚的負荷ととなって襲い掛かった。

 

「くそっ、これ、は……目くらまし……か!?」

 

「目が、目がぁ~!」

 

突然視覚という情報源を失った12人は突如現れた暗闇を振り払うように、持っている武器を振り回しながら暴れる。十人十色の反応をするサラマンダーたちに短くごめんねー、と棒読みもいいところのトーンで謝るユウキ。

 

「あーボクたちから見て右だったよー」

 

「ナイスだユウキ。でもなかなかに鬼畜だな……」

 

「えへへ、カエデみたいだったかな?」

 

悪戯が成功したように笑うユウキを見て成長が嬉しいような、悲しいような、複雑な気分に包まれる。……てか俺の戦い方ってそんなに鬼畜だっけ?

 

「とりあえず話はあとだ!カエデ、ユウキ!」

 

これまでの戦い方を軽く振り返っていると、次の一手を打とうとキリトが駆け寄ってくる。

 

「考えるのは後回しだな。ユウキ、キリトの魔法に合わせるぞ!」

 

「うん!」

 

スペルワードを詠唱しながら剣を掲げるキリト。その剣に重ねるように俺とユウキも剣を掲げ、呪文の詠唱に入る。

 

『―――――――』

 

ぎこちなく発声されていくスペルは徐々に重なっていき、詠唱が終盤に差し掛かるにつれて三人の妖精を黒い煙が覆う。少し遅れて視力を回復したサラマンダーが魔法のキャンセルを試みようと火球を放ってくるが、リーファが最後のマナを振り絞ってそれらを防ぐ。黒煙に火炎が混ざり合い、地獄を思わせるような煉獄の渦が巻き起こる。そしてそれがゆっくりと静まっていき―――

 

 

「キシャァァァァァァ!!」

 

雄叫びと共に死の鎌を携えた骸骨百足が火炎の中からあらわれた。

 

 

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

「12人のうち、おそらく大半はメイジだろうな。割合は3:1ってところか」

 

「それって……」

 

黙り込むリーファにキリトが声をかける。

 

「たぶんリーファが考えてるのであってるぞ。対人用じゃなくてボス用のパーティ構成。それも物理特化タイプのボスを相手取るときの人選をしてくる」

 

「どうしてそこまでわかるの?」

 

信じられないといったふうに聞いてくるリーファにひとさし指を立ててキリトが説明する。

 

「敵は俺たちが接近戦に強いことを知っているからだ。狩りをする以上、敵の情報を知るのは基本的なことだからな」

 

そしてそのままキリトの言葉を引き継ぐ

 

「だからこそ白兵戦はおそらくしてこない。勝てない接近戦より、遠距離から魔法を撃ってるほうが効率がいいから」

 

前衛はガッチガチのタンクで固めてくるだろうな、と締めくくると今度はユウキが心配そうに声を上げた。

 

「でもカエデ、どうやってそんな人たちに勝つの?」

 

不安そうな声色。そんなユウキに大丈夫だよ、と安心させるように言い聞かせて3人に作戦を告げる。

 

「作戦は不確定要素、精神面に揺さぶりをかける」

 

『精神面……?』

 

これはSAO時代に俺がよく使っていた戦法だ。挑発による感情の高ぶりで相手の攻撃を単調化させ、自分に有利な戦局に持ち込む。使っていたのは喜怒哀楽の怒にあたる部分だが、今回は違う。そもそも怒り狂われて魔法を連射されたら本末転倒である。

 

「相手は自分が絶対的な勝利にあると思い込んでるからな。ボス用のパーティー編成をしてるのも狙いどころだ。相手は人間だけ、戦うのはモンスターじゃないって固定観念が根付いてるはずだ。今回はこの2つを揺さぶる。使うのは――」

 

後から聞いた話だがこの時の俺の顔はかなり怖いものになっていたらしい。

……なぜだ?

 

 

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

「キシャァァァァァァ!!」

 

「うわああ――――!!」

 

轟くような雄叫び、空間が震える大音量に凍りついたように動きを止めていたサラマンダーたちが悲鳴を上げる。武器を投げ出して逃げ惑う者や、湖に安息を求めて飛び込もうとするもの。獄炎から突如として現れた死神にサラマンダーの小隊は完全に瓦解していた。

 

「ひっ!ひいっ!!」

 

恐ろしいスピードで動き回っては両手の鎌を振るい、一振りで命を刈り取っていく。

一人、また一人とエンドフレイムを散らしていく仲間を見て冷静な判断を下せるものはもういない。

 

「た、退却!たいきゃ――」

 

言い終わらないうちに死神は大きく跳躍。地響きを立てて着地したのは集団の真っ只中、退却命令を出そうとしていた隊長の目の前だった。

 

「あ……あ……」

 

そこから先は戦闘とよべるものではなかった。

 

 

 

 




第25話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?

カエデ「今回はスッキリしたな」

ユウキ「楽しかったよね!」

珈琲「いやいや、自重しなよ君ら。さすがにやり過ぎでしょ……」

カエデ・ユウキ「自重したら負けかなって思ってる」

珈琲「原作だと回廊のところでグリームアイズに変身する伏線が書かれてたのに」

カエデ「俺たちが変身したのも十分悪魔だろ」

ユウキ「反省も後悔もしてないよ!」

珈琲「反省くらいはしなさいよ……(困惑)」



前回までに評価をしてくださった素敵な読者様のご紹介

コーラメントス 様         龍雄 様

ユーキリス 様           こみる 様

山ちゅう 様            西宮鶫 様

評価ありがとうございました!
不備がないようにこちらで確認しておりますが、もしかしたら抜けがあるかもしれません。評価したのに名前がないよ!という方がおられましたらお手数ですがご報告よろしくお願いします。

ご意見ご感想お待ちしています!それでは次回、またお会いしましょう!



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26話 単純だからできたこと


お久しぶりです。
今回、話そのものはほとんど進んでいません。だらしねえな……

それと甘さ成分がまったくないです。ちょー健全回になっておりますのでこれなら誰が見ても大丈夫ですね!

それでは第26話です!どうぞ!



 

視界に映るサラマンダーが発するかすかな悲鳴をききながら左手の鎌を薙ぎ払う。撫でるように振られた鎌はなめらかな軌跡を描いて妖精の命をまた一つ刈り取っていく。

 

幻惑魔法が発動してから戦況は大きく変わっていた。突如として現れた絶対的な死を前にサラマンダーたちは瓦解。一人、また一人と刈られていく仲間を見ながら戦えるものなどもういなかった。そして、とうとう最後の一人となったメイジの首筋に鎌があてられる。

 

「さあ、誰の命令とかあれこれ吐いてもらうわよ!!」

 

つかつかと歩み寄りながら、放心したままのサラマンダーに叫ぶリーファ。それとは対照的にリーファの肩に乗るユイはすごかったですね~、と暢気な感想を口にし、あたりを見回す。

 

爆炎による焦げ跡が先ほどまでの激戦を伝えるのみで、橋の上には洞窟本来の静けさと湿っぽさが戻っていた。つい先ほどまではサラマンダーたちの残したエンドフレイムがあたりを無念とばかりに漂っていたのだが今はそれもない。

 

「こ、殺すなら殺しやがれ!」

 

「この……」

 

顔面蒼白になりながらも情報を話そうとしないサラマンダーにしびれをきらしそうになるリーファだが、俺たちが黒い霧を撒き散らしながら幻惑魔法を解くと、男から視線を離した。

 

「どうしよう。思ったより口が堅いみたい」

 

お手上げというように首を軽く振ってリーファは俺たちを見る。ALOに限らず、ネットゲームではこのような状況になったときに敵から情報を聞き出す手段が基本的にないのだ。拷問と呼ばれる痛みを介してのやりとりは普通の倫理観を持ったプレイヤーならまずとらない方法だし、なによりペインアブソーバによって痛覚は基本抑制されている。その他の尋問もアバターというVRゲームの盾によって意味を成さなくなっているのだ。

 

だからといって方法がないわけでもないが。

 

「キリト、こういうの得意だろ」

 

「まあな。MMOでのいざこざを解決するにはコツがある」

 

任せろと自信満々な笑みを浮かべたキリトはぽかんと口を開けるサラマンダーの隣に座り込み、口を開いた。

 

「よ、ナイスファイト」

 

『は……?』

 

俺を覗いた全員が唖然とする中でキリトは爽やかな口調で話し続ける。

 

「いやあ、いい作戦だったよ。俺一人だったら速攻やられてたなあー」

 

「ちょ、ちょっとキリト君……」

 

「まあまあ」

 

心配そうに声を上げるリーファにぱちりとウインクを送るキリト。

 

「カエデ、もしかしてキリト……」

 

少し離れたところで耳打ちするユウキに俺は頷いた。

 

「ああ。キリトがやろうとしてるのは――」

 

俺の言葉とキリトの提案、女性陣が放つ蔑視光線をものともせずにスプリガンとサラマンダーの異種族はグッと頷き合った。

 

 

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

条件を提示してからのサラマンダーは想像以上に饒舌だった。

 

「――なんでもでかいことを狙ってるみたいでその作戦上、君たちのパーティーが邪魔だって話になって。マンダーの上のほうでなんか動いてるっぽいんだよね。俺みたいな下っぱには教えてくれないんだけど……」

 

「世界樹を攻略しようとしてるのかな?」

 

首を傾げるユウキにサラマンダーの男はぶんぶんと首を振った。

 

「そいつはないよ嬢ちゃん。前の攻略戦で全滅しちゃったからな、当分攻略には挑戦しないと思うぜ」

 

胸を張って答えるサラマンダーを見て苦笑するキリト。そこでふと思いついたように口を開いた。

 

「ってことはほかの部隊がどこかに向かってるってことだよな?俺たちを襲撃したのとは別の」

 

「ああ。すげえ人数の軍隊が北に飛んでいくのが見えたよ」

 

「北……」

 

何かの重要なクエストがあるのか……?しかしそれなら古参プレイヤーであるリーファが知っているはずだ。そもそも軍隊を引き連れて発生するクエストなんて考えにくい。かといって世界樹の攻略ではないとサラマンダーは断言してるし……。

 

「カエデ……?」

 

「……いや、なんでもないよ」

 

大丈夫だとユウキに伝えて、浮かんでくる疑問を胸の奥に無理やり押し込める。

優先すべきはアスナの救出だ。そのためには目先のことに集中しないと。

 

「ま、俺の知ってるのはこんなトコだ。――じゃあ約束通り……」

 

「分かってるとも」

 

取引では嘘はつかないさ、とうそぶくキリトに嬉々とした表情でトレードウインドウを操作するサラマンダー。その様子をみてリーファは半分呆れながら言った。

 

「しかしアンタ、気が咎めたりしないの?仲間の装備でしょ?」

 

「分かってねえなあ。こういうのだからこそ快感が増すってもんじゃねえか。ま、さすがにそのまま使うわけにはいかないから全部換金するんだけどな。それにばれないように慎重に帰らないと……」

 

満足した表情でトレードを終えたサラマンダーは俺たち四人に軽く手をあげ、じゃあと言い残して元来た方向へ歩いて行く。

 

「あっ、そういえば」

 

数歩歩いたところで急に立ち止まるサラマンダー。

 

「見ない顔が混じって北に飛んでいったのを思い出したよ」

 

「見ない顔?」

 

俺がそう聞き返すとサラマンダーは俺の方を見ながら答えた。

 

「ああ、うちらのボスのそばを飛んでたんだけど得物が二振りの短剣。ちょうどあんたみたいな感じだったよ」

 

「へえ、二振りの短剣か」

 

短剣を使うプレイヤーの数はそこまで少なくないが2本を扱うとなるとかなり限定されてくる。理由は単純で2本を同時に扱うのが難しいからだ。その状態だと短剣の最大の長所である小回りの良さと扱いやすさを殺してしまう。故にほとんどの人間が二刀を使いたがらないのだ。そんななか、めげずに二刀を使うプレイヤーに俺は思わず親近感を感じた。

 

「ボスは強いプレイヤーをそばに置きたがるからな。実際に見たわけじゃないがかなりやると思うぜ?」

 

それだけ言うとサラマンダーは立ち止まることなく洞窟の暗闇へと消えて行った。

 

 

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

「えーっと、さっき大暴れした骸骨、キリト君たちなんだよねえ?」

 

静けさが支配する橋の上でリーファは俺たちの顔をまじまじと見ながら言った。

 

「もちろん。そういう作戦だったし」

 

「んー、多分ね」

 

「多分、って……サラマンダーを騙して混乱を誘おうって作戦だったでしょ?」

 

「いやー、なんというか……戦闘に集中し過ぎてよく覚えてないっていうか……」

 

「ついかっとなってやった。反省はしているってやつだな」

 

「それだけ聞くと危ない人だからそれ」

 

俺の言葉にすかさずツッコミを入れるリーファ。

 

「でもモンスター気分が味わえて楽しかったよね!」

 

「ばっさり真っ二つにしてましたよ~」

 

楽しそうに笑うユウキを見てリーファの肩に乗っているユイも注釈を加える。

そんな二人を見ながらリーファは恐る恐る口を開いた。

 

「その……やっぱり感触とか違うんだよね?斬ったときの……」

 

「うん!普段の剣と違って抵抗なく……」

 

「わっ、やっぱいい、言わないで!」

 

ユウキに向かってぶんぶんと手を振るリーファ。その手をキリトが不意にぎゅっと掴んで――。

 

「がおう!!」

 

一声唸るとリーファの指先をぱくりと咥えはじめた。

 

「ギャ――――――ッ!!」

 

「なにやってんだあいつら……」

 

繰り出されるビンタと響く悲鳴に苦笑する俺とユウキ。ぎゃーぎゃーと言い合う二人を見ながら

 

「カエデカエデ!」

 

「どうしたユウ――」

 

―――ぱくり。

 

不意に手を掴まれたかと思うと人差し指から温かい感触が伝わってきた。

さすがはナーブギア、ここまで感触や温度を再現できるとは。やはりあの天才が作り上げた……

……って、そうじゃなくて!

 

「あ、あの……ユウキさん?」

 

「んっ、はむっ……ちゅ……ちゅる……。ふふっ、びっくりした?」

 

指先を咥えたままこちらを見るユウキ。見上げるように俺のほうへ視線を移しているから当然上目使いという形になる。

 

ちゅる、ちゅぱっ、ちゅぅっ、ちゅぷっ

 

口内特有の生温かさ、次いで周りに響く艶めかしい水音。ほんのりと頬を上気させたまま指をくわえ続けるユウキを見て、思考が鈍りつつある俺は一つの結論に至った。

 

―――これはヤバい。おもに絵面が。

 

そしてこのようなシチュエーションに陥った際のお約束を俺は何度も体験してきた。

だからこそ、この状況を早くどうにかし―――

 

 

「ちょっとカエデ君!?ユウキに何やらせてるの!?」

 

……無理でした。

 

「違うからリーファ!これはユウキが……」

 

顔を真っ赤にさせたまま叫ぶリーファに誤解を解こうと必死に声をかけるが――

 

「ふぇっ!?パパっ!これが大人の……」

 

「ユイっ、見ちゃだめだ!」

 

さらなる追い討ちがかかるのは言うまでもない。

 

しばらくの間、俺はパーティーメンバーから冷たい視線を浴び続けることになったとここに記しておく。

 

「どうしてこうなった……」

 

力ない声が広い洞窟内に頼りなく響いた。

 

 

 




……セーフです(小声)
反省はしてる。後悔はしていない。

第26話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?

読み返してみるとあら不思議、まったく進んでいないというトリックが!!
当初の予定ではこの話でユージーン将軍と対面するところまで書くつもりだったんですけど……まあ次を早く出すということで(目逸らし)

それでは次回、またお会いしましょう!


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27話 外でやる必要とかあるの?


お久しぶりです!
いろいろありましたが何とか投稿することができました。
最後にサービス的なイラストもご用意しましたのでよければ見てやってください。健全ですから!

それでは第27話です!どうぞ!




 

「へぇ、ここがルグルーかぁー」

 

リーファの歓声を皮切りに、俺たちは初めて目にする地底都市の賑わいを感じていた。

街の規模自体はそれほどでもないと思う。だが、中央の大通りを挟むようにそびえる岩壁に、店などが積層構造を形成して密集している様は圧巻だ。街を歩く人も想像よりずっと多く、がやがやした雰囲気はSAOで何度も訪れた街<アルゲード>を彷彿とさせる。

 

「そう言えばさー」

 

手近な武具店にすぐさま飛びついたリーファにキリトがノンビリとした口調で背後から声をかけた。

 

「ん?」

 

「サラマンダーたちに襲われる前にメッセージ届いてなかった?」

 

「……あ」

 

ぽかんとした表情のままこちらへ振り返るリーファ。どうやら完全に忘れていたらしい。

すぐさまウインドウ開くと届いていたメッセージを確認した。

 

「……」

 

「その様子だといいことが書かれてたわけじゃないみたいだな」

 

「そういうわけじゃないんだけど……意味が取れないっていうか」

 

難しい表情のまま、リーファはメッセージが書かれたウインドウをこちらに向ける。それに促されるように俺たちはウインドウを覗き込んだ。

 

途中で途切れた文章はところどころに誤字や脱字が見受けられ、そのまま読むことも意味を汲み取ろうとすることも困難とさせる。

 

「たしかに意味が分からないな」

 

「なんだが急いで書いたって感じがするね」

 

ウインドウから顔を上げ、俺とユウキは率直な感想を漏らした。それに続けてキリトも顔を上げる。

 

「一応連絡取ってみたら?」

 

「連絡かぁ……」

 

キリトの言葉にリーファは少し考える素振りを見せたが、やっぱり謎のメッセージが気になるのか視線をユウキとユイのほうへ向けた。

 

「じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認してくるから待ってて。あたしの体、よろしく。―――ユウキ、ユイちゃん」

 

なぜか二人を指名して。

 

「あれ、俺たちは?」

 

「君たち二人に任せると心配だからね」

 

そう言って近くにあったベンチへ歩き出すリーファ。

 

「待て待て。キリトはともかくどうして俺まで?」

 

思い当たる節がないんだが、と抗議する俺を見てリーファは少し顔を赤くさせて俯いた。

 

「……だってユウキにあんなこと」

 

「っ!? いや、だからあれは誤解だって!」

 

リーファの言葉で、数分前に体感した人差し指の感触がフラッシュバックする。艶めかしい表情や包まれるような……っていかんいかん。

 

鋼の自制心でなんとか平静を取り戻した俺は、思い出した光景を振り払うように反論を―――

 

「あれはユウキがいきなり……」

 

言葉を続けようとすると急に裾をぎゅっと掴まれる。

 

「カエデ……」

 

視線を移すと、うるうるした目でこちらを見つめるユウキ。

 

「もしかして嫌だった―――」

 

「そんなことないよ!?超嬉しかったです、はい!」

 

反論できませんでした。

ユウキよ、そんな捨てられた子犬のような目で見られると何も言えなくなるじゃん。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「はぁー、なんかここ最近で一番疲れた気がする……」

 

ログアウトしたリーファのアバターが座るベンチに腰を下ろした俺は、ため息とともに肩の力を抜いた。

 

「リーファにしてやられたな」

 

「うるせーよ」

 

にししと笑うキリトの顔に、リーファがログアウト直前に見せた悪戯顔が重なる。なんかこいつらどことなく相性いいな。そんなことを考えながらキリトから手に持った謎の串焼きを受け取る。

 

「へっほくなんらったんらろうね」

 

「おう、しゃべるか食うかどっちかにしような」

 

もぐもぐと咀嚼するユウキの頭をなでながら注意する。まあ、言いたいことはなんとなくわかるんだけど。

 

「確実に言えるのは緊急を要する内容だってことだ」

 

「どうしてわかるんだ?」

 

首を傾げるキリトの前に二本の指を立てる。

 

「まず一つは文章の内容。文面からは急いで書いたと思われる誤字脱字が多い。そして肝心な核心に迫る直前で途切れている。ここから回線切れという可能性が考えられるけど、これだけ時間が経っても続きが送られてこないとなると回線切れの線はない」

 

「回線切れ以外の理由で続きが送信できない状況にあるってことか?」

 

「その可能性が高い」

 

あくまで推測だけどね、と付け加えて中指を曲げる。

 

「そして文章が送られてきたタイミングだ。レコンはシグルドのパーティーの一員でもあり、リーファとも……親しい?」

 

「いや、そこは言い切れよ」

 

「……まあそれは置いとくとして。他種族の俺たちと行動を共にすると言ってシグルドとは喧嘩別れしたんだ。両者の中間に位置するレコンは当然、板挟み状態にある。そんな大変なタイミングで向こうから連絡してくるなんて、普通はしない」

 

「単純にリーファのことを思って連絡してきたとか?」

 

「それもあるだろうな」

 

ユウキの考えに頷きながら続ける。

 

「会ってまだ数分しか関わってないからいい加減な判断だけど、彼は慎重な性格だ。悪くいえば臆病で、良く言えば変化に敏感なタイプ。そんな彼がぐちゃぐちゃな文章でもリーファにメッセージを送信したってことは……」

 

「……大きな変化がレコンの周りで起こったってこと?」

 

ユウキの言葉に俺は再び頷いた。

 

「まあ、これ以上は分からないし、ほんとに憶測だからな」

 

一通り話し終えた俺は手に持った串焼きにかぶりついた。爬虫類のような謎の生物の串焼きはリアルの味で例えるなら鶏肉に近いもので、見た目さえ気にしなければ普通にうまいと思う。

 

「……先入観ってのはよくないしな」

 

「そうだな。……あとは本人に聞こう」

 

そう言ってキリトは目の前で眠る少女を見つめた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

帰ってくるなり突然謝り出すリーファを見て、キリトとユウキは訝しげな表情を見せる。どうやら推測通り、悪い知らせだったようだ。

 

「急いで行かなきゃいけない用事ができて……たぶんここにも帰ってこれない」

 

「なら走りながらでも話を聞こうか」

 

「え……?」

 

「どっちみちここを抜けないといけないんだろ?」

 

間髪入れずに答える俺にリーファは少し驚いたようだが、よほど時間がないのかすぐに頷いた。

 

「……わかった。じゃあ、走りながら話すね」

 

地底都市の大通りを、入った方とは反対側の門を目指してリーファは駆けだした。

 

 

地底湖を分断するように伸びる大橋を全力で疾走しながら、リーファは俺たちに事情を説明してくれた。

 

要約すると

シルフとケットシーの極秘会談をサラマンダーの大部隊が襲撃しようと進軍中。

こんなところだろう。

 

「おっさんが言ってた北へ飛んでいく軍隊はこのための部隊だったか。あのとき気付いていれば……」

 

「カエデ君のせいじゃないよ。それにこれはシルフの問題だし……だからね」

 

ちらりと俺たちのほうを見たリーファは言葉を続ける。

 

「世界樹の上へ行きたい、っていう君たちの目的のためにはサラマンダーに協力するのが最善だと思う。君たちなら傭兵として雇ってくれるかもしれないし。もっと言えば―――」

 

「待った。それは違う」

 

リーファの言葉を遮るキリトの顔は戦闘で見せる引き締まったものだった。そして表情を変えないままぽつりと言う。

 

「リアルじゃないから何でもあり。たしかにそれはゲームが持つ一面で真実だ。だけどそうじゃない。仮想世界でも守るべきことはあって、逆に仮想世界だからこそ守らなきゃいけないものだってある。俺はそれを―――大切な人たちに教わった」

 

瞬間、キリトの表情、声が優しく暖かいものになる。

 

「リーファはどうしたいの?」

 

ユウキの問いかけに俺も続ける

 

「俺たちはどうすればいい?」

 

俺とユウキの問いに、リーファは立ち止まって目をつぶると深く息を吸った。

 

「私は……助けたい。だから―――」

 

力を貸して!

 

リーファの言葉を合図に四つの風が洞窟を吹き抜けた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

世界樹麓の央都<アルン>は周りを高い山脈によって囲まれている。しかしすべてが山脈に閉ざされているわけではなく、そのうち三箇所には大きな切れ目が存在していた。

サラマンダー領へ亀裂を走らせる<竜の谷>、ウンディーネ領へ繋がる<虹の谷>、最後はケットシー領へ向かう<蝶の谷>……。シルフとケットシーが会談を行おうとしている場所はその中の一つ、<蝶の谷>だ。

 

「にしてもモンスターがいないな」

 

翅を鳴らし、全速で会談場所へ向かいながらぽそりとキリトが言葉を漏らした。

 

「このアルン高原にはフィールド型モンスターはいないの。<蝶の谷>が会談場所に選ばれたのもそういう理由があったんじゃないかな」

 

「なるほどな。じゃあ<トレイン>なんかもできないってことか」

 

「トレイン……?」

 

内心舌打ちする俺に、聞いたことない用語だったのかリーファが首を傾げる。

 

「<トレイン>っていうのはモンスターの大軍を引き連れて移動するMMO用語の一つだよ。大半はプレイングミスが原因でモンスターに追いかけられたりするんだけど……」

 

一旦言葉を区切ると、今度は隣を飛ぶユウキが悪戯っぽく笑って口を開いた。

 

「場合によってはMPK目的で故意に発生させることもあるんだ」

 

物騒なことを語るユウキを見て、一瞬青ざめたリーファがおそるおそる俺のほうを向く。

 

「……もしかして経験があったりとか?」

 

「やったことはないけどやられたことはあるぞ?」

 

「あーたしかに。あのときはほんと大変だったよね!」

 

口々に昔のことを懐かしむ俺たちを見ながらリーファは閉口しているようだった。

 

「まあ少し脱線したけど、要するにモンスターの力が借りれそうにないってことだよ」

 

「……ほんと君たちすごいこと考えるよね」

 

それほどでも、と肩をすくめておどけようとした、その時―――。

 

「あっ、プレイヤー反応です!」

 

キリトの周りを飛んでいたユイが不意に叫んだ。

 

「前方に大集団――六十九人、おそらくこれがサラマンダーの部隊です。さらにその向こうに十四人、これがシルフ及びケットシーの会談出席者と予想します」

 

言葉が終わると同時に、視界を遮っていた厚い雲が切れ、視界が開ける。

 

「―――間に合わなかったね」

 

編隊を組み、飛行する大部隊を眼下に置いて、リーファは呟いた。サラマンダーの強襲部隊と会談出席者の距離は徐々に縮まっていき、目算でもあと数十秒ほどで接触してしまうだろう。

 

「ありがとう、キリト君、カエデ君、ユウキ。ここまででいいよ、短い間だったけど楽しかった」

 

何かを覚悟したように笑顔を俺たちに向けるリーファ。そんなリーファに、俺たちは不敵に笑った。

 

「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」

 

「頼まれた以上は全力で応える」

 

「諦めたらそこで試合終了だよ!リーファ!」

 

なんか最後は微妙に違った気がするけど……まあいいや。

 

困惑するリーファをよそに、俺たちは翅を思い切り震わせて急降下に入った。

 

「ちょ……ちょっとぉ!!なによそれ!!」

 

後方から聞こえるリーファの抗議を無視して、羽根の角度をさらに鋭くさせる。高速で流れていく景色と近づく大地。着地と同時に巻き上がる巨大な土煙と衝撃はサラマンダーと会談出席者の動きを止めるのには十分だった。

 

薄れていく土煙のなか、仁王立ちになって両者を睥睨するキリトと、その隣に立つ俺とユウキ。張りつめたような空気を破るように影妖精が大きく息を吸い込んで―――

 

 

「双方、剣を引け!!」

 

――放出した。

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 




第27話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?

カエデ君とユウキのセリフにあった
<急いで書いたって感じがする>という場面、なぜか自分の心に深く突き刺さりました(笑)
まさか私に精神攻撃をしてくるようになるとは……

ご意見ご感想いつでもお待ちしております!それでは次回、またお会いしましょう!





そういえば、イラストの許可が下りるか心配でしたがあのくらいならセーフなんですかね……?じゃあ次はもっと―――(ここから先は血で汚れてよめない)




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28話 実際そこまで考える必要はない

今回はいつもより早いですね!なんて言わないで!!

いつも投稿遅いなって自覚しているんです。
でも無性に書きたくなるときがあるから怖いですよね……(笑)

それでは第28話です!どうぞ!


 

「双方、剣を引け!!」

 

一触即発の雰囲気はキリトの放った馬鹿でかい声によってがらりと変化した。空気がビリビリと震えるような錯覚は俺だけでなく、会談の場に居合わせたすべてのプレイヤーに伝わったのだろう。すべての視線を集めたキリトはそのインパクトが薄れないうちにさらに続ける。

 

「指揮官に話がある!」

 

そう言ってキリトはサラマンダーの軍勢を睨んだ。そしてその態度と声量に圧倒されたかのように敵のランス隊の輪が割れていく。

 

「……予定通りだね」

 

周りに気を配りながらユウキが俺に耳打ちしてくる。最悪、そのまま乱戦ということも考えたが予想よりも部隊が統率されている。レイド戦なら厄介極まりない状況だったが今回はその事実が俺たちに有利に働いたというわけだ。

 

「第一段階はクリア……問題はこの後だけど」

 

ユウキの言葉に俺は視線を変えず答えた。視線の先にはランス隊が空けた道を進み出てくる大柄な男が一人。

 

「―――スプリガンとインプがこんなところで何をしている」

 

良く通る野太い声は進み出てきた男から発せられたもの。真紅に燃える瞳と剣のように鋭い雰囲気はそれだけで他のサラマンダーと一線を画していることを容易に理解させた。

 

「盟友を助けるのは当然のことだろ?」

 

突き刺さるような視線を受け流して俺は短く答えた。

 

「ほう……?」

 

俺の態度を意外だと思ったのか、言葉のほうに疑問を持ったのか分からないがサラマンダーの男は面白そうな目でこちらを見る。

 

「今回の会談がケットシー、シルフの同盟だけだと思っているのならそれは間違いだ。スプリガン、インプ、ウンディーネもこの同盟に加わる」

 

……ハッタリもいいところだ。しかしサラマンダーたちにとってこの作戦はグランドクエスト攻略の大事な布石。どんな憶測であろうともそれが確実に動きを止める楔となるはず。

 

「五種族の同盟だと……?」

 

「今日は貿易交渉のためにこの場へやってきたんだ。だが会談が襲われたとなればそれだけじゃすまないぞ。俺たちを含めた五種族であんたたちと戦うことになる」

 

俺とキリトの言葉を受けてサラマンダーの指揮官もさすがに驚いたようだった。しばしの間、あたりに沈黙が漂う。―――そして

 

「それが事実なら脅威になるだろう。……しかしたった三人で、しかも大した装備も護衛も持たない貴様らの言葉をにわかに信じるわけにはいかないな」

 

「見た目で人を判断するのは二流のすることだ。指揮官であるあんたがそんなこと言っちゃダメだろ」

 

「無論承知している。だから俺自身が見極めてやる」

 

そう言うとサラマンダーは突然背後に手を回して巨大な両刃直剣を抜き放つ。暗く紅い刀身は光を浴びて輝き、その切っ先が俺たちに向けられる。

 

「威勢のいいスプリガン、前に出ろ。俺の攻撃を三十秒耐え切ったら、お前を大使として認めてやる」

 

その言葉と共にもう一人の男性プレイヤーが俺たちの前に着地する。

 

「お二人さんのどちらかは俺と戦ってもらう。もし勝てたら認めてあげるよ」

 

指揮官と違ってこちらは人がよさそうな雰囲気の男。得物は俺と同じく短剣に分類されるだろう短めの刀だ。

 

「雰囲気と同じく気前もいいな。それなら――」

 

「待って、カエデ」

 

俺が戦う。そう言って前に出ようとした寸でのところをユウキに止められてしまう。

 

「たまにはカエデも休まないと。ここはボクにまかせてよ!」

 

聞く人が聞けば思いやりにあふれた言葉なのだろうが、付き合いの長い俺はこの言葉が建前であることを知っている。

 

「……本音は?」

 

「ボクだってたまには思いっきり戦いたい!」

 

即答である。剣まで抜いてやる気満々なユウキの様子を見て、俺は思わず苦笑した。

 

「ははっ、なら今回は任せるよ。楽しんで来い」

 

肩をぽんと叩いて激励すると一層やる気を増してユウキはサラマンダーと向き合った。

人のよさそうなこのお兄さんには申し訳ないがこうなったユウキは普段より三割増しで剣速があがる。……ほんとご愁傷様です。

 

「じゃあ行ってくるね」

 

意気揚々とホバリングしていくユウキに小さく手を振ると、離れた場所でキリトも浮上していく。キリトなら三十秒攻撃を耐えるなんて朝飯前だろう。あの指揮官がその条件だけで納得するなんて考えられないが。

 

「それに……なんだこの感じ」

 

空中で相手の実力を推し量るように静止したままの四人。そのうちの一人である短刀を装備したサラマンダーを見て、内心で疑問が浮かび上がってくる。

 

最初から指揮官と三対一で戦えるとは予想していなかった。普通は勝負を公平にするため、適当に人を見繕って三対三の形をつくるはず。それにユウキと戦うあの男はたしかに短剣を使っているが二刀ではない。

 

聞いていた話と実物がまったく噛み合わず、さらに疑問に靄がかかっていく。

 

『お二人さんのどちらかは俺と戦ってもらう。もし勝てたら認めてあげるよ』

 

確かあの優男は俺たちにそう言った。自分に勝てたら俺たち二人を同盟の大使であると認めると。

 

空中では静寂を破ってどちらのほうも戦いが始まった。滑るような高速エアレイドと金属を打ち付けあう甲高い音。空中で繰り広げられる激しい戦闘をぼんやり眺めながら、俺は口の中で何度もあの男の言葉を繰り返した。

 

どちらかは俺と戦ってもらう。もし勝てたら認める。勝てたら認める……

 

あの言葉は本当だったのか……いや論点がずれているな。言葉の真偽なんて今更確かめようがない。知りたいのはあの発言の真意。

 

勝てたら認める。それは誰を? もちろん俺とユウキを―――

 

「あっ…………」

 

浮かび上がる疑問の正体が、徐々に氷解していくのを俺は感じた。そしてそれが次第に姿を見せてくる。

 

――あの言葉が俺たち二人ではなくどちらかに向けられていたとしたら?

――自分と戦って勝った奴だけを認めてやるという意味だとしたら?

 

 

 

 

 

実際には最初から三対三の状況が組まれていたとすれば?

 

「――――――っ!?」

 

キィン!と鋭い金属音があたりに響く。不意を突くように首筋へ飛んできた剣撃を、俺はとっさに剣で受け止めた。

 

「……気付かれた?」

 

残念そうにつぶやく声の主にお返しするため、俺は腰からもう一振りの剣を抜いて斬り払う。

 

「……なかなか、やるっ」

 

危なげなく俺の攻撃を躱して後ろに下がった襲撃者。そして剣を構えた状態でそのプレイヤーは俺の前に姿を現した。

 

「女の子……?」

 

反撃した時に小柄なプレイヤーだと思ったがそれもそのはず。目の前に立っていたのは女性プレイヤーもとい少女だったのだから。鼻筋の通った綺麗な顔立ちと澄み切った青色の瞳。そして眼を見張るのが風に流れる銀色の髪だ。年齢はユウキと同じくらい見える。

 

「回廊でおっさんが言っていたのは君のことだったのか。凄腕のプレイヤーが指揮官の傍にいるって」

 

「……買い被り」

 

剣を構えたまま俺の言葉にぶっきらぼうに答える少女。武器はユウキが戦っている優男と同じく短剣。唯一違うところを挙げるのならそれは俺と同じく両手に一振りずつ装備しているところだろう。

 

「ようやく謎が解けたって俺の中ではスッキリしていたんだけど。不意打ちとは感心しないな」

 

「あなたが一番、強そうだったから……」

 

「それこそ買い被りだと思うけど」

 

肩をすくめてそう返すと、サラマンダーの少女はさらに続ける。

 

「……そろそろ、私たちも始めよ?……気持ちいいこと」

 

「女の子がそういうこと言っちゃダメです!主に俺が誤解されるから」

 

いきなり現れた少女とそのキャラを目の当たりにして、どっと疲れがこみ上げてくる。

なんだか今日は長い一日になりそうだ。改めてそう感じた俺は剣を構えて少女に向き直った。

 

「そういえば名前を聞いてなかった。良ければ教えてくれるかな?」

 

俺の言葉に考え込むように俯く少女。そしてたっぷり数秒思考した末に俺のほうを向くと膝を曲げて腰を落とした。

 

「……ハープ」

 

プレイヤーネームだと思われるその単語が言い放たれたと同時に、少女は地面を蹴ってこちらに飛び込んでくる。流れるような動作で繰り出される斬撃を俺は再び左の剣で受けた。

 

「っ!」

 

名前と二度目の鋭い金属音。その二つの音が戦いの合図となった。

 

 

 




第28話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?

散々引き伸ばしておいてまともな戦闘が始まっていないですね……
というわけで明日も同じくらいの時間に投稿します。
次で会談襲撃の話は終わらせておきたいです。

ご意見ご感想いつでもお待ちしております!それでは次回、またお会いしましょう!



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29話 リアルじゃ絶対できないから

こんなに早く次話を投稿したのはいつぶりだろうか。

それでは第29話です!どうぞ!


「っ!」

 

「はぁっ!」

 

ガン、ガァン!と剣のぶつかる音が立て続けに響く。下段から上段、薙ぎ払いと隙間なく全方位から襲ってくる剣戟を、俺はパリィで確実に回避し続ける。一般的に見れば押されているのは俺だろう。実際に反撃に出ていないのがいい証拠だ。

 

「……いつまで、そうしているつもり?」

 

何度目になったか分からない鍔迫り合いが始まり、ぎりぎりと音を立てる。相手の剣に飲み込まれないように力を込める俺を見ながら、ハープはどこか不満そうに言葉を漏らした。

 

「いやぁ、けっこう全力で戦ってるんだけど」

 

うそぶく俺を見てさらに不満を募らせたのか、徐々に力が増していく。

 

「冗談は……いいっ!」

 

「うぉっ!?」

 

またこれだ。プレイヤースキルは互角のはずなのに鍔迫り合いになると確実に押し負けてしまう。それも一定の力で押し負けるのではなく、剣を打ち付けあうたびにその力が大きくなっているように感じる。

 

SAO時代から引き継いだ俺のデータは筋力寄りでなかったにしろ、それなりの力があったはず。それがこうも短時間に突破されるなんて……

 

「もしかしてその武器が怪力の正体だったりするのかな?」

 

地面を蹴って大きく距離を取りながら、俺はハープへ冗談交じりに話しかける。

 

「……どうして、わかったの?」

 

「え、まじで?」

 

驚愕に染まるハープの表情を見て思わず素の言葉が口から出てくる。ほとんど冗談のブラフだったのに当たっていたとは。しかし良いことが聞けた。

 

「<ユニークアイテム>って言うんだっけ?そういうエクストラ効果が付いているやつは」

 

武器などに限らず、基本的にサーバーに一つしか存在しないアイテムの総称をユニークアイテムと呼ぶ。そのなかでも武器には唯一無二の強力な効果が設定されており、それ一本で他のプレイヤーを圧倒できるほどの強さを備えている。

 

「さっきから俺が押し負けているところを考えると……エクストラ効果は筋力上昇ってところかな?」

 

それでも少々足りない気がするが当たらずとも遠からず、というところだったのか。観念したようにハープは口を開いた。

 

「<神刀アメノタヂカラ>……それがこの武器の、名前」

 

「名前からして凄そうな武器だな」

 

お互いに剣を構えたまま会話を続ける。神刀というからにはおそらく神仏関係のものが由来しているはず。それにアメノタヂカラ……

 

「……<天手力男神>。天岩戸を動かして<天照大御神>を洞窟から連れ出した力の神様だっけ?」

 

おぼろげな記憶を頼りに武器についての考察を話すとわずかにハープは頷いた。

 

「……手に持つ時間が長いほど、所持者の筋力値を……上げ続ける」

 

「それ、結構なチート武器だ―――なっ!?」

 

俺が言葉を返すよりも先にハープが突風のように踏み込んでくる。剣で受けることを一瞬考えたが、今の段階で目の前の少女の筋力は計り知れないものになっているはず。再び鍔迫り合いに持ち込まれることを嫌った俺は飛んでくる刺突を左に避けることで回避する。

 

「もちろん、上限は……ある、けど」

 

「そういうのは会話の中で全部話そうぜ……」

 

「……でも、初めて」

 

スルーですか……まあいいけど。小さくため息をつく俺を綺麗に受け流して、ハープは熱っぽい視線を向けたまま続けた。

 

「武器の効果……初見で見破られるの。他の人は、気付く前に、みんな消える……」

 

「物騒だなおい」

 

とんでもないことをのたまう目の前の少女を見て、一瞬寒気がする。無表情から儚げな笑みを浮かべるとハープは先ほどまでとは違う構えをとった。

 

「これで、終わらせる……。楽し、かった……?」

 

よほど自信があるのか俺に対して一方的に終わりを告げるハープ。そんな彼女に、俺は不敵に笑い返した。

 

「そうだな、結構楽しかったよ。機会があればまた一緒に戦いたい……」

 

だけど悪いな。

 

「この勝負、勝つのは俺だ。そのユニークウエポンの攻略法もたった今見つけた」

 

右手の剣を鞘に戻してハープと向かい合うと俺はさらに笑みを強める。それも勝ち誇ったように、嫌味たっぷりに。

 

「……また、冗談?」

 

眉をひそめる少女。しかしすぐにもとの表情に戻ると静かに反論してくる。

 

「この武器の、力は絶対……。破られるはず、ない」

 

「冗談かどうかはこの一撃で決まる。もし絶対なら、俺を倒せるんだよな?」

 

「むっ……」

 

ぷくっと頬を膨らませてこちらを睨んでくるハープ。不覚にも可愛いと思ってしまったのは内緒だ。

 

俺は左手の剣を前に突きだして、技が飛んでくるタイミングを見極める。ハープもまた技を繰り出す最高の機会を狙っているのか腰を落としたまま静止した。

 

その沈黙はしばらく続く。高原の上をゆったり流れていく雲がちょうど俺たちの真上を通過し、あたりが少しだけ暗くなる。そして徐々に差し込んでくる無数の光の柱。

 

その一つがちょうど俺たちの剣にぶつかり、まばゆく反射した、その瞬間。

 

「っ!」

 

ハープが何の予備動作もなく動いた。びぃん!と翅の加速を受けて風切音が鳴る。まるで音と一体になって移動しているのではないか。そう思うほどに高速で向かってくる。そして突っ込んでくるタイミングに一刹那も遅れることなく俺も動き出した。

 

両者の丁度、中間地点に差し掛かった辺りで最後の攻防は始まった。

 

「んっ!」

 

「ぐっ!」

 

宙に弧を描き襲い掛かってくる剣戟を、最小限の動きですべて受け流す。まともに力勝負をしてもこちらが不利になるだけ。今は攻撃を耐え凌ぐんだ。そう自分に言い聞かせて襲ってくる剣を必死に捌く。

 

高速の打ち合いはすべてハープの右手の剣から行われ、俺が左手の剣で受け切るという形だった。左に装備された神刀に構っている余裕は今はない。

 

「くっそぉ!」

 

右の攻防に意識を注いでいる俺を見ながら、ハープが勝利を確信して笑みを浮かべたのが分かった。

 

「……これで、終わりっ!」

 

動き出す左腕、意識から逸らすように使っていなかった神刀が俺のほうを向き。

 

「っ!」

 

神速の突きが深々と俺に突き刺さった――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――俺の右手に。

 

 

「なに、をっ!?」

 

手のひらに深く刺さった神刀を見て、ハープが驚愕する。俺が左の攻撃を読んでいたこと、空いた右手を使って刺突を受けたこと、おそらく両方に驚いているのだろう。

 

「<なんちゃって白刃取り>ってやつだ。とにかく捕まえたっ!」

 

ハープの驚愕が冷めぬうちに、俺は左手の剣で彼女の握るもう一つの短剣を大きく弾く。そして勢いのまま俺の手に刺さった神刀――――それを持つ左手に向けて俺は斬撃を放った。

 

「っ!?」

 

ハープの表情がさらに変わったのがはっきり分かる。当然だ。今繰り出したのはただの斬撃ではない。俺があの世界でずっと撃ち続けた―――ソードスキルなのだから。

 

短剣ソードスキルにカテゴライズされる高命中二連撃技<クロス・エッジ>。

 

もちろんこの世界にソードスキルは存在しない。今やっているのもただの真似事だ。しかしシステムアシストを使わずとも何百何千と撃ってきた剣技たち。身体に染みついた剣技を素で放つなんて造作もないことだ。

 

「くっ!?」

 

そしてそれをバックステップでギリギリ躱したハープはおそらく自分の行動を後悔しただろう。そもそもこのソードスキルで倒そうなんて考えていない。俺の本命は別のところにあった。

 

本能が感じる危機的状況。そういう状態に陥ったとき、人がとる行動は限られている。

一つは積み上げてきた経験を活かして冷静に対処する者。しかしこの行動をとれる人間は殊の外少ない。なぜなら本当の意味での危機的状況を体験した人間が極わずかだから。ならば多くの人間はもう一つの行動をとることになる。

 

――――本能が感じたのだから判断を本能に任せる。反射的行動に頼る。

 

冷静に考えれば神刀の効果で上昇した筋力値に物をいわせて、俺から剣を引き抜くのが最良の選択だっただろう。しかしハープは本能に頼ってしまった。

 

手が切り落とされることを予想して、反射的に手を離して回避するという本能に。

 

「しまっ、た!?」

 

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるハープ。その左手には当然何も握られてない。

 

「手に持つ時間が長いほど所持者(・・・)に筋力を与え続ける……。となると、今の俺は神様の助力を受けているわけだ」

 

右手に刺さった神刀を引き抜いて身体の違和感を取り除くと、空いた右手でそれを持ち直す。そしてハープが見せた最大の隙を逃さぬため、俺は地面を蹴った。

 

「っ!?」

 

僅かに遅れてハープが反応するがもう遅い。ハープの懐深くまで踏み込んだ俺は、今度は二刀で一番慣れ親しんだあの技を放つ。

 

「はあぁぁっ!!」

 

「ぐぅ……!」

 

右薙ぎ、逆袈裟、右斬り上げ……。バラバラに放ったように見える剣筋ははっきりと五芒星を描き、ハープの身体に斬撃を刻んでいく。

 

<死変剣>水平五連撃ソードスキル<デュアル・ペンタグラム>。俺がシステムアシストなしで放てるソードスキルの中で最も得意とする剣技だ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

<デュアル・ペンタグラム>もまともに受けて、大きく怯むハープ。HPバーは全損していないがその量は大きく後退しており、あと一振り剣を払えば、というところにまで落ちこんでいた。

 

そんな彼女の首筋に神刀を突きつけて、俺は静かに告げる。

 

「俺の勝ちでいいかな?」

 

「はぁ……はぁ。……どうして……止め、刺さないの?」

 

息切れをしながら、なぜと心底不思議そうに首を傾げるハープ。その様子を見て、バツが悪くなった俺は苦笑した。

 

「もう決着はついたし。……それに女の子に止めを刺せるほど精神強くないから」

 

おどけるように肩をすくめてそう答える。そんな俺を見てハープは口を尖らせた。

 

「それは、少し甘過ぎる。………………ほんの少し、だけ」

 

最後の一言を小声で付け足すとハープは静かに微笑んだ。その笑顔につられて俺も笑い返す。

 

「ははっ、だろうな。俺もそう思うよ」

 

「私の、完敗。……参りました」

 

降参を宣言したハープを確認して剣を下ろすと、俺は続けざまに拳を前に突きだした。

 

「また戦おう。次は友達としてさ」

 

俺の突き出した拳にハープの小さな拳が近づいてくる。そしてこつんと拳を打ち付ける小さな音が鳴ると、それが戦いの終わりを告げた。

 

 




29話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?

こんなに長い戦闘描写書くなんて今までなかったので……まあ内容はお察しです。
しかも会談が終わっていないという(笑)

ハープのことですが独特な口調だな、そう思った方もおられるかと。
作成時のイメージは<ノーゲーム・ノーライフ>に出てくる白ちゃんです。髪は銀髪なので知っている方はイメージしやすいかと思います。

ただし今後の話にハープを絡ませるか分からないです。すごく悩んでいるんですよね……。

ご意見ご感想いつでもお待ちしております!それでは次回、またお会いしましょう!


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30話 予測可能回避不可能

おそろしく遅い投稿、俺でなきゃ失踪しちゃうね。
はい、毎度のこと更新が遅くて申し訳ないです。今回で会談の話はお終いです。
コード・レジスタの画像を見て思ったんですがユウキって結構いいもの持ってるんですね(セクハラではない)。着痩せするタイプなのかなと思ったり思わなかったり……。
今回はイラストを用意しているので下手くそでよければそちらもご覧ください
それでは第30話です!どうぞ!



 

ハープとの決闘が終わり剣を鞘に戻す。するとすでに戦闘を終了させたキリトとユウキが足早に近づいてきた。

 

「お疲れさん、カエデ」

 

「すっごくカッコよかったよ!」

 

労うような表情を見せるキリトとキラキラした目を向けてくるユウキ。随分と温度差のある反応をする二人に俺は苦笑すると、手を挙げてそれに応えた。

 

「キリトとユウキもお疲れ様。思いのほかあの子……ハープが強くて時間がかかった」

 

「まさかもう一人手練れがいるとはな」

 

「それに女の子だったから、驚いちゃった」

 

ハープの存在には二人とも気付かなかったらしい。それほどに高い隠密性を彼女は持っていたのだ。一瞬だけ向けられた剣気に反応できなければ俺もとっくにやられていたと思う。

改めてハープが脅威だったことを実感する。

 

「見事、見事!」

 

「すごーい!ナイスファイトだヨ!」

 

ハープについて口々に話していると、不意に張りのある声が俺たちへかけられる。声の主は手を打ち鳴らしながらこちらに歩み寄ってくると俺たちの前で立ち止まった。そしてこの二人に俺は見覚えがある。

 

「シルフとケットシーの領主、サクヤさんとアリシャさんですね?」

 

「正解だヨ!」

 

「いかにも。これほどの強者に知られていて光栄だ」

 

ALOをプレイする前に各勢力とその領主を軽く調べていた俺は二人の首肯を見て安堵する。どうやら事前情報は間違っていないみたいだ。そして俺は領主二人に続けて頼みを伝えた。

 

「状況が状況ですので混乱しているかと思いますが、先ほどの戦闘で倒されたプレイヤーを蘇生して貰えないですか?」

 

事情はあとで必ず説明しますと付け足すと、領主二人はすぐに頷いてくれた。そして蘇生魔法が発動される。

 

構築された魔法陣はふわふわ漂う二つのエンドフレイムを包み込むと眩い閃光を放つ。直後に魔法陣が消滅し、代わりに二人のプレイヤーが姿を現した。

 

「―――見事な腕だな。俺が今までに見たプレイヤーの中で最強だ、貴様は」

 

「そりゃどうも」

 

静かな声を発したユージーンにキリトが短く応じる。

 

「貴様らも相当な使い手だ。まさかハープとレイまでやられるとは思わなかった」

 

次いで俺とユウキを見ながらユージーンが言った。なるほどあの優男の名前はレイって言うのか。それに反応からしてもユージーンにレイとハープの三人がサラマンダーの三強みたいである。

 

「ボス、申し訳ないです」

 

「負け、ちゃった。……ユージーン、ごめん、ね?」

 

「構わん。ハープとレイを倒すプレイヤーとなると俺でも勝てるかどうか分からんからな」

 

謝罪の言葉を口にするハープとレイにユージーンはさして気にした様子もなく返す。そしてそのまま反省会みたい雰囲気が漂い始めたので、空気をリセットすべく俺は口を開いた。

 

「それでユージーンさん、俺たちが勝ったわけなんですけど……信じてもらえますか?」

 

「無論だ。これほどの戦力を有する種族たちと事を構えるつもりは俺も領主にもない。ここは引くことにしよう」

 

「……そんなにあっさり信じていいんですか?」

 

予想以上にきっぱり断言したユージーンに面食らった俺は思わず聞き返してしまう。それを見てユージーンは不敵に笑った。

 

「約束はしっかり守る。サラマンダーとして……いや、剣士として当然だ」

 

……こういう思い切りの良さが上に立つ者には必要なのかもしれない。そういえばサラマンダーの領主と将軍は領内での支持率もかなり高かった気がする。

 

「だが貴様らとはいずれもう一度戦うぞ」

 

ユージーンが突き出した右拳に俺とユウキ、キリトがごつんと己の拳を打ち付ける。その様子に満足そうな笑みを浮かべると、ユージーンは身を翻した。翅を広げ、地面を蹴る。

 

「今回は負けちゃったけど次は勝ってみせるよ」

 

「カエデ、私も……もう一度あなたと、戦いたい」

 

ユージーンに続いて地面を蹴ったレイとハープがこちらに振り返って言う。

 

「もちろん。君のことをいつでも歓迎するよ」

 

「次も負けないから!」

 

地面との距離を離していくレイとハープに俺もユウキも手を振って再戦を誓う。きっと次に会う頃にはハープはさらに強くなっているだろう。俺もうかうかしてられない。

 

翅を鳴らして三人が飛び去ると、後ろに控えていた大軍勢も動き出す。一糸乱れぬ隊列を組みながら、たちまち遠ざかっていく赤い塊はすぐに雲に飲まれ、薄れて消えて行った。

 

「なんというか、その……」

 

「俺もたぶん同じことを思ってる」

 

「ふふっ、やっぱり二人も?」

 

再び訪れた静けさの中、俺とユウキとキリトは一致する感情に思わず笑い出した。

 

「やっぱ戦闘っていいな!」

 

「ああ、ここへ来て初めてまともに剣を振るった気がする」

 

「ほんと楽しかった!あのレイってお兄さん、なぜか戦闘中は終始涙目だった気がするけど」

 

お互いに自分の戦いについて議論を始める俺たち。ユージーンの剣はチート過ぎとか筋力上げ続ける剣とかやばいだろとか……なんか武器についてしか話してない気がするが気のせいだろう。

 

「やっぱ君たち、ほんとむちゃくちゃだわ……」

 

「……すまんが、状況説明を……」

 

心の底から出たリーファの言葉とサクヤの頼みが聞き入れられるのは数分後となった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

静寂を取り戻した会談場で、俺たちは事の成り行きをサクヤとアリシャに説明した。一部は憶測であると断っての説明になったが、領主を含めた幹部たちは音一つ立てずに聞き入れてくれる。そして一通りの説明を終えて口を閉じると、両種族とも揃って深いため息をついた。

 

「……なるほどな」

 

腕を組み、サクヤがどうするべきかと唸る。

 

「サクヤちゃんは人気者だからねー」

 

隣で長考に入りつつあるサクヤにアリシャも同情するように深々と頷く。あとで知ったことなのだが、サクヤとアリシャはALOでは珍しい単独長期政権を維持しているようである。周囲から向けられるやっかみもお互いに知り尽くしているからこそ、この反応なのだろう。

 

「領主ってのも大変なんだな……」

 

アリシャとサクヤのやり取り見ているキリトがぼそりと言葉を漏らす。

 

「ふふっ、少なくともキリト君には務まらないかもね」

 

「あっ、ひっでぇな!……いいんだよ、俺はソロプレイヤーのほうが性に合ってるし」

 

「そうだな。キリトはぼっちだからそっちのほうが似合ってるぞ」

 

「キリト、ファイトだよっ」

 

「いやお前らそこはフォローしろよ!」

 

キリトの流れるようなつっこみに俺とユウキとリーファは冗談だと笑い返す。そして笑い合う俺たちに、話を終わらせたサクヤが咳払いを一つしてから声をかけてきた。

 

「君たち3人、そしてリーファには迷惑をかけてしまった。そして救援に駆けつけてくれたことに心から感謝する」

 

そう言ってサクヤは頭をさげた。そしてすぐに顔をあげるとこちらを覗き込むように見ながら聞いてくる

 

「そういえば遅くなってしまった。君たちは一体……」

 

「ユージーン将軍に言ってた同盟の話……ってほんとなの?」

 

いつの間にかサクヤの隣に並んだアリシャも改めて疑問を口にする。ケットシー特有の長いしっぽが好奇心を表現しているのか、ゆらゆら動くなかキリトが胸を張って答えた。

 

「もちろん大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」

 

「な―――……」

 

絶句する二人に今度は俺が口を開く。

 

「だいたいそんな重要な話を書簡もなしに持ってくるわけないじゃないですか」

 

あははと笑う俺に二人は呆れたように笑い返してくる。

 

「ほんとうに君たちは無茶ばかりするな。あの状況でそんな大法螺を吹くとは……」

 

「見せかけは得意なほうですから」

 

「掛け金はレイズする主義なんで」

 

一切悪びれることなく嘯く俺とキリト。それを聞いたアリシャは突然ニィと、悪戯っぽい笑みを浮かべるとキリトに近づいた。

 

「それにしてもキリト君―――だっけ?キミ、随分と強いネ?ユージーン将軍と正面からの勝負で勝っちゃうなんて……スプリガンの秘密兵器だったりするのかな?」

 

「まさか、しがない流しの用心棒だよ」

 

「ぷっ、にゃはははは」

 

人を食ったような返答をするキリトをますます気に入ったのか、いきなりアリシャはひょいっとキリトの腕に抱き着いた。おまけに上目使いを加えて。

 

「フリーなら、キミ――ケットシー領で傭兵やらない?三食おやつに昼寝つきだヨ」

 

「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ」

 

そして今度はサクヤもキリトの争奪に加わる。美人領主二人に挟まれたキリトは先ほどまでの余裕が嘘のように消えて困惑していた。ついでに顔も赤い。

 

「……がんばれキリト」

 

被害がこちらへ広がらないことに安心した俺はキリトに向けて心の中で念仏を唱える。あの流れが俺に来ると絶対にユウキが拗ねるからな。……最近は拗ねるよりもワンランク上になってきているが。

 

「……なんにせよひとまず安泰だ」

 

さらばキリト。もう一度キリトへ向けて念じると、俺はその場から離れようと足早に――――

 

 

―――――ぎゅっ。

 

「えっ」

 

足早にその場から離れようとした俺に不可解な力が抵抗してくる。その感触は主に右腕から。そしてふにふにとした柔らかいもので……。

 

「ぎゅ~」

 

なぜかハープが俺の右腕にへばりついていた。いやほんと……なんで?さっきユージーン将軍と帰っていったよね?再戦を誓ってそれっぽい雰囲気を作り出していい感じに別れたよね?

 

「えっと……ハープさん?なんでここにいるのかな?」

 

思考が停止する直前、なんとか言葉を絞り出すことに成功した俺はそのままハープに疑問をぶつける。

 

「……フェイン、ト?」

 

きょとんと小首を傾げるハープ。いやそこは俺が聞いてるんですけど。

 

「それに……全然気づかなかった」

 

まったく気配を感じない隠密に再び唸ってしまう。というかあの戦いもこれくらいの隠密だったらさっくりやられていた気がするのだが。

 

「んっ、これの……おかげ」

 

そう言って装備しているフードケープをひらひらさせるハープ。

 

「これも、ユニーク……アイテム。隠蔽、隠密を……格段に、上げる。でも、戦闘中は……効果、ない」

 

そういうことか。だから俺やキリトやユウキにまったく悟られずに近づけたのか。戦闘中には効果がないというのも俺がかろうじて初撃を防げたことと辻褄が合う。しかしそれを抜きにしてもハープの隠密性が高いことに変わりはないだろう。

 

だが結局一番聞きたいことは聞き出せていない。なぜ俺の腕にくっついているのか。その理由を聞き出そうと俺は再び口を―――

 

――――ぎゅっ!

 

「えっ」

 

ふたたび柔らかい感触。しかし今度は左腕からだ。右腕はハープがくっついているとして……

 

「カエデっ!」

 

口を開こうとした俺に若干強めな声がかけられる。もちろんユウキだ。ぷぅと頬を膨らませてハープよりも強い力が俺の腕に込められる。というかユウキさん、腕がミシミシいってるんですけど。

 

「なんでハープがここにいるの!?どういうことか説明して、カエデっ!」

 

「え、いやそれが俺にも分からなくて……いま聞こうと……」

 

これはまずい。そしてすでに解放されたのかキリトとリーファ、サクヤにアリシャまでもが俺を見てニヤニヤと笑っていた。

 

「それ、は……」

 

どうすべきか、混乱する俺を見ていたハープが口を開いた。

 

「カエデ、いつでも……来ていいって、言った、から。私を、迎えてくれる……って」

 

頬を赤く染めてさらに腕をからめる力を強くするハープ。

 

「むぅ~!そんなこと言ったのカエデっ!?」

 

「いやそれは戦いたくなったらいつでも歓迎するよって意味で!てかユウキも俺がそう言ったの隣で聞いたよね!?」

 

なおも弁明する俺にユウキも食い下がる。

 

「そ、それはそうだけどっ……まさかそんな意味が込められてるって知らなかったんだもん!!」

 

浮気者っ!そう言ってぽかぽかと駄々をこねるように叩いてくるユウキ。これは絶対落ち着くまで話を聞いてくれない流れだ。そしてその怒りがハープにも向けられる。

 

「ボクとカエデは結婚してるんだよっ!!ぽっと出のハープになんか絶対届かない領域なんだから!」

 

「ほう……」

 

結婚というワードに反応した領主二人がさらに面白そうな視線を強めてくる。サクヤとアリシャの後ろに控えている幹部たちに至っては煽ってくる始末だ。それとちょくちょく後ろから「殺す……」って呟いている幹部さん、物騒だからやめて!

 

「それは……ゲーム、での話。そんなこと、大した……証明に、ならない」

 

そう言ってハープは俺の頬へ顔を近づけて―――

 

「んっ」

 

「っ……!?」

 

―――そのまま頬へキスをした。あまりにも軽やかな振る舞いに唖然とする俺。それを余所にハープは自信満々にユウキのほうを見た。

 

「こう、いうのが……証明。最も……シン、プル」

 

「むぅ~~~~~~~!!」

 

「待った、張り合うなユウキ!たくさん人が見てるから!ここは冷静に……」

 

「カエデは黙ってて!!」

 

「ひっ!? 承知しました!」

 

それから何が始まったのか、言うまでもないだろう。

ただ俺は……この公開処刑じみた時間が早く過ぎ去ってくれることを切に願い、あとはすべてを成り行きに任せて目を閉じた。

 

 

 

 

 




30話、お読みくださってありがとうございます!いかがだったでしょうか?
最近甘々していなかったので多少は補給ポイントとして機能していればいいなと。
読者様の表情筋が僅かでも緩んだのなら幸いです。
まだまだ暑い日が続きますが読者様もお体に気をつけてください。それではまた次回お会いしましょう!


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31話 そしてアルンへ

まだクリスマスなので初投稿です。



 

「……いま……いま、何て……言ったの……?」

 

これまでの付き合いからまったく想像ができないほど弱々しく、リーファは声を絞り出した。その表情は己の聞いた言葉が聞き間違いであってほしい。そう願っているようにも見える。そしてその感情を読み取ることができなかったキリトは僅かに首を傾げ、答えてしまう。

 

「ああ……アスナ。俺たちが探している人の名前だよ」

「でも……だって、その人は……」

 

キリトの言葉を聞いたリーファは、よろめくように半歩後ずさる。そしてキリトに聞き返した。

 

「……お兄ちゃん……なの……?」

「え…………?」

 

刹那、周囲の時が止まったような感覚に見舞われる。それは俺だけではない。その発言を聞いたユウキやユイ、ハープまでも絶句している。

 

「―――スグ……直葉……?」

 

シルフをとらえていたスプリガン、その漆黒の瞳が大きく揺らいだ。

 

 

事態は数時間前に遡る。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

<ヨツンヘイム>。北欧神話に登場する「ヨトゥン」と呼ばれる霜の巨人族と丘の巨人族が住む国で、妖精の国アルヴヘイムの地下に広がるもう一つのフィールド。

恐るべき邪神級モンスターが支配、徘徊するこの闇と氷の世界はALO最高難易度を誇るという。

 

「うぅ……」

「ほら元気だせって。そう簡単に伝説の剣は取られないから」

「また今度来ようよ。次はたくさん仲間を連れて」

 

項垂れるキリトに俺とユウキは声をかける。

数分間に渡る励ましの言葉は葛藤するキリトを落ち着かせることに貢献し、なんとか立ち直らせることに成功した。しかし、それでも伝説の剣―――エクスキャリバーのほうへ視線を固定したままのスプリガンに俺たちは苦笑する。

 

「そうだな。多分このダンジョン、ALOのなかでも最高難易度なのは間違いないしな。おれたち五人じゃ突破できないよな……」

 

おう、そう思ってるならそろそろキャリバーから視線外せよ。

 

「……でも、キリトが……唸る、のも……しょうがない」

「ダメだよハープ。ここでキリトのほうについたら……ほんとにあのダンジョンに行くことになるから」

 

助け舟を出そうとするハープにユウキが待ったをかける。

ここでやられたらシルフ領の首都<スイルベーン>からやり直しになる。それだとここまで来た苦労がすべて消えてしまう。

 

「目標と目的はすり替えたらダメだ。そうすると一向に進まなくなる。俺たちの目標は剣を手に入れることじゃないだろ?」

「……ああ、もちろん分かってるさ」

 

そう言ってキリトは今度こそキャリバーの方角から視線を外した。

 

「それでこそキリトだ。……それにしても」

「うん、改めて見るとすごい景色だよね……」

 

俺の言葉にユウキが相槌を打つように頷く。

ヨツンヘイム上空を飛行中の俺たちは全員がその景色に目を奪われていた。

 

「私は……ここに来たの、初めて」

「あたしもだよ。本当にきれい……」

 

ヨツンヘイムは飛行不可能に指定されているフィールドらしい。おそらく高所からこの氷の世界を見下ろしたプレイヤーは俺たちが初めてだろう。

 

「この景色を見せてくれたこいつに感謝しないとな」

「ありがとう! トンキー」

 

ぽんと軽く手で触れたことにより、俺たちを乗せたまま浮遊する生物―――トンキーはわっさわっさと耳を動かした。

 

「邪神とは思えないくらい大人しいよな。テイムもできていないのに」

 

改めて自分たちを乗せて動く毛むくじゃらに感謝する。

 

 

 

サラマンダー達の襲撃を退けて再び移動を始めた俺たちだったが、目的地である央都<アルン>はまだ遥か先。今日はここで切り上げてどこか最寄りの宿でログアウトしようという運びになり、俺たちはラッキーと言わんばかりに地面に降り立った。

というのが一、二時間前。

 

しかしそこはモンスターが擬態した村で、見事に騙された俺たちはここ、地下世界<ヨツンヘイム>に落とされて――――

 

「……思い出しただけで寒気が」

 

俺は首を振って思い出した内容をリセットした。

 

要するにそんな数多の偶然でこの邪神モンスターと出会うことになったのだ。

変なイベントに巻き込まれて邪神Mobと戦ったり、遭遇したウンディーネの部隊と一戦交えることになったりと、とんでもなく濃い時間を味わうことになったが、それでも俺たちは元気です。

 

「カエデ君、どうかした?」

「いや何でもないよ。ただ次からは情報を鵜呑みにせず、自分の目で確認しようと心に決めただけ」

「もう! だから村でのことは謝ったじゃん!」

 

にやりと笑う俺にリーファがキッと睨んでくる。

そんなやり取りにユウキが、まあまあと言いながら入ってきて。

 

「次はあの擬態したモンスターも邪神もボクたちで倒そうよ!」

「「なに物騒なこと言ってんの!?」」

 

気合十分と言わんばかりにニコリと笑った。

そして微妙に冷たく、毛皮が縮こまるトンキーの背中。

 

「……ごめん、トンキー」

 

俺は目の前で無邪気に笑う少女に変わって、謝罪を込めながら優しく白い毛をなぞった。

 

まさか自分もぼっこぼこにされるのでは?

そんな思考に到達したのか、喉を震わせるように鳴いた邪神様―――トンキーの背中は、心なしか小さく見えたような気がした。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

トンキーと別れた後に俺たちを待っていたのは、世界樹の根っこを這うように続く長い螺旋階段だった。

<ヨツンヘイム>の天蓋、世界樹の根。この上は間違いなく<アルン>だろう。

 

氷の世界へは落下ということもあり数分足らずだったが、改めて自分の足で進むと途方もなく長く感じる。

それでも周りを照らす不思議な鉱石や植物を頼りに、俺たちはひたすら階段を辿った。

そして歩くこと数十分。

 

「あっ、カエデ見て!」

 

ユウキの声をきっかけに全員の視線が数メートル先の光へ向く。

 

「出口だな」

「ああ」

 

俺たちはアイコンタクトで確認を交わし、最後のスパートと言わんばかりに駆けだした。

そして目の前の光へ飛び込み――――

 

 

 

「わぁ―――!!」

「これが世界樹か……」

 

真っ先に視界に飛び込んできたのは荘厳という言葉が見事に当てはまる巨大な樹木だった。

世界樹。今までは遠目からしか見ていなかったが、改めて見るとやはり大きい。

 

それに遅れて麓を囲むように広がる街が目に入る。

 

「…………間違いない。ここが<アルン>だよ。アルヴヘイムの中心」

「世界、最大の……都市。私も、一回しか来たことない」

 

頷くリーファとハープ。

 

<アルン>を一言で表すなら古代都市という言葉がぴったりだろう。

石造りの建築物は舗装された道に連なって広がり、美しさを引き出している。

それに時刻。今はゲーム内で夜ということもあって、この積層都市に大小様々な光が浮かんでいた。

 

先ほど見た<ヨツンヘイム>の景色とは真逆のベクトルを持つ完成された場所。

それが俺の感じた<アルン>だ。

 

「プレイヤーにもバラつきがある。ぱっと見た感じ全種族がいるみたいだな」

「はい! どうやらここはPKの禁止エリアに指定されているようです」

「アルンでは、グランドクエストを除いて……戦闘禁止」

「へぇ、なるほど」

 

ユイとハープの説明を聞いて納得する。つまりここでは種族間でのいざこざを心配する必要がないわけだ。

 

「もちろん合意の上での勝負は大丈夫だよ? デュエルとか」

 

リーファはユイとハープの言葉に付け加えると再び視線を街に移す。

そうしてしばらくの間、俺たちは立ち止まったまま、もう一度巨大都市の喧騒に身を任せ続けた。

 

 

しかしやがて街のBGMが重音なサウンドに切り替わり、柔らかい女性の声が天から降り注ぐ。

 

「お、なんだこれ?」

「あー。メンテナンスのこと忘れちゃってた」

 

俺の疑問にリーファがすぐ答える。

 

「今日はここまで、だね。宿屋でログアウトしよ」

「リーファ、メンテナンスって何時までなの?」

「今日の午後三時までだよ」

「そっか……長いなぁ」

 

その間は今から半日ほどログインできないことを知って、軽く目を伏せるユウキ。

それを隣で聞いたキリトも同じような反応を示すと、不意に上空を見上げた。

 

その先には天を貫かんと世界樹の枝が四方に広がっている。

 

「キリト、焦りは余計な緊張を生んで実力を半減させる。今は可能な限り精神を休めたほうがいい」

「ああ、分かっているさ」

 

スプリガン特有の黒い瞳を細めると、キリトは拳を軽く握る。そして力を抜くように息を吐いた。

 

「さ、宿屋を探そうぜ。俺もう素寒貧だから、できるだけお値打ちなところがいいな」

「……イイカッコして、サクヤ達に全財産渡したりするからよ。宿代くらい取っときなさいよね!」

「もういっそキリトだけ馬小屋にぶち込むか」

「ひっどいなぁカエデ。俺たち仲間だろ?」

 

大振りなリアクションと共におどけて見せるキリト。

そんな俺とキリトのやり取りを見て、女性陣から笑いが起こる。

 

「ふふっ、なら誰が一番安い宿を見つけるか勝負だね」

「それならボクだって負けないよ!」

「検索したところいくつか候補が挙がりました! 激安の!」

「一番近い、ところ……は?」

「こっちみたいです!」

 

賑やかに談笑しながら歩くユウキ達を先頭に、俺とキリトも足を動かし始める。

 

「ありがとな、カエデ」

「まあ一応礼として受け取っておくよ」

 

 

宿を求めて積層都市に溶け込んでいく妖精たちを、天高くそびえる世界樹が見下ろす。

世界を覆うように伸びる枝の先に果たしてアスナはいるのだろうか。

 

不意に見上げた世界樹。

しかし闇夜に消えつつある葉や枝には、インプの暗視を以てしても、何も見つけることはできなかった。

 

 




なんとか間に合いました。
会話文のところ一行空けずに会話はひとまとまりにしてみました。
いかがだったでしょうか?

今まで書いてきた話もできるタイミングで改稿していきます。

ご意見ご感想お待ちしております。
それでは来年またお会いしましょう。読者様、良いお年を!


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32話 静と動

ヒロインはユウキです。これだけははっきりと真実を伝えたかった。


 

 枕元に置いた携帯端末が軽やかな音を立てる。

聴きなれた心地よいサウンドに意識の覚醒を促されること数分、ようやく布団から出ることを決意した俺はもぞもぞと動き始めた。

 

ぼんやりとした意識のまま自室から洗面所へ向かい、顔を洗い、そのまま身支度を整える。

向こうの世界ではまず必要のないこのルーチンワークも、今となっては懐かしさをあまり感じなくなっていた。

 

「それだけ馴染めてるってことだよな……」

 

“馴染む”というより“感覚が戻ってきている”という表現が正しいか。

 

玄関で靴を履きながらそんなことを脳内で考える。

するとポケットにしまった携帯端末から軽快な通知音が流れ、それを後押しするように端末が振動した。

 

チャットアプリが日進月歩で変貌しつつある現代社会。通話という連絡手段を使う機会はぐっと減ってきた。それでもこの機能が廃れない一番の理由は、“声の調子で相手の様子を知ることができる”というひどくシンプルなものだと俺は思っている。

 

そして俺には、そのことを実感する機会が最低一回は存在する。

 

「はいはいすぐに出ますよっと」

 

早く取れ、そう主張する左ポケットに手を突っ込んで端末を取り出した俺はそのまま画面をスライドさせた。

 

発信元は言うまでもなく――――

 

「はいもしも―――」

『おはよう楓! ちゃんと起きてる?』

 

端末先から聞こえる元気度100%の声にかき消された俺の声。

朝から元気な子だなぁ、と苦笑してそのまま返事をする。

 

「おう、おはよう木綿季。ちゃんと起きてるよ。今から駅に向かう所だけど」

『そっか。それならよかった!』

「むしろ木綿季のほうこそ大丈夫か? まさか今起きたとか……」

『…………………………そ、そんなことないよ?』

「うん、今起きたんだな」

 

こういった待ち合わせがあるとき、木綿季は起きてからすぐに俺へ連絡を入れるらしい。

以前にそんな話を聞いたことを思い出した俺は木綿季に聞こえないように小さく笑う。

 

「まあログアウトした時間が遅かったから仕方ないよ」

『うぅ……。ごめんね?』

「気にしなくていいよ。忘れ物がないように焦らずにな」

『うん! それじゃあまた』

「はいよ」

 

通話が切れたことを確認してから端末を再びポケットにしまう。

焦らずとは言ったが、今頃大急ぎで支度しているのだろう。怪我でもしなければいいが。

 

「…………心配だしやっぱり迎えに行くか」

 

家中を慌ただしく走り回る木綿季が容易に想像できる。

 

頭に描いていた行き先に経由地点を加えながら、俺は玄関のドアに手をかけた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

エギルが経営している喫茶店兼バー<Dicey Cafe>は決して閑古鳥が鳴いているわけではない。夜になると店の雰囲気を気に入ったリピーターがこぞって来店し、それはそれは大繁盛しているそうな。

 

ただ俺たちが店に訪れる時間帯が悪いだけ、その一言に尽きる。

だから偏った一面しか見ることができない俺が“不景気”とか“店主の顔が怖すぎる”とかそんなことを言う資格はないのだ。

 

「……何か言いたそうな顔だな、カエデ」

「そ、そんなことないっすよー。いやだなーエギルさん」

「というか途中から声に出てたぞ?」

「え、まじで? いや冗談だから。エギルの奥さんすげーとか改めて称賛してただけだから。店主がラスボスとかそんなこと考えてないから」

 

首をぶんぶん振って弁明する俺を見てエギルはニヤリと口元をつり上げた。

 

「……なるほどな。よかったなユウキ、カエデが好きなもの頼んでいいってよ」

「ほんとっ? ありがと楓!」

「エギルのうそつき! 最初から声に出てなかっただろ!」

「ブラフにかかるお前が悪い」

 

とまあ冗談だ。そう言いながら再びニヤリと笑みを浮かべるエギル。

 

「でも何か注文してくれると店として嬉しいがな」

 

結局うまく乗せられた俺は二人分の飲み物と甘味を注文することになった。

そして数分後、並べられる皿を挟んで店主と会話を再開させる。

 

「それで進捗状況はどうだ?」

「それなら問題ないよ。世界樹がある麓の街に昨日到達した」

「今日のメンテナンスが明けたらすぐに潜るつもりだよ」

「ほう、予想より随分と早いな」

「向こうに詳しいプレイヤーが協力してくれたんだ」

 

リーファのこと、アルンに到着するまでの出来事をかいつまんで話す。

それから自分たちが思っていた以上に妖精の世界が殺伐としていたことを言うと、エギルは豪快に笑った。

 

「そりゃそうだろうよ。優劣や勝敗が決まるゲームなんてそれが常識だ。まあそれだけゲームを楽しんでるってことだな」

「にしては結構生々しいと思うけどな」

「あはは……でもいい人もたくさんいたよね」

「確かにな」

 

木綿季の言葉に首肯する。

 

「それにボクは……。世界樹に近づくにつれてアスナにも近づいている。そんな気がするんだ」

「また勘ってやつか?」

「うんっ!」

 

ちろりと舌を出してはにかむ木綿季。

 

「まあ木綿季の勘はよく当たるからな。それに俺も、今の行動は間違いじゃないって少なからず思ってるし」

「へぇ……。根拠があるんだな?」

「まあな」

 

そう言って俺は鞄からタブレットPCを取り出してあらかじめスクリーンショットをしていた画像を二人に見せた。

 

「これって……」

「ALOの運営HPだな?」

 

訝しげな表情をする木綿季とエギル。

 

「見せたいのはここだ」

 

画像をズームインしてからここだと示すようにタップする。

 

「開発に携わった技術者たちの名前か。運営の最高責任者は―――」

「あ――――! この人って」

 

エギルが読み上げるよりも先に木綿季の声が店内に響く。

 

「須郷伸之……。前にカエデが話していたやつか」

「知ったのは昨日ログアウトしてからだけどな。ユイからALOはSAOのサーバーデータをコピーしたものだって聞いたから気になって軽く調べてみたんだ」

「そしたらこいつにぶち当たったってわけか」

 

頷いて肯定する。

 

「ALOの運営は<レクト>でその運営の最高責任者が須郷ってことは……」

「偶然にしては出来過ぎてるな」

「ああ。もちろん取り越し苦労って可能性のほうがまだ大きいけどな」

 

興奮を抑えるように俺は小さく息を吐いた。

 

客観的に考えればこじつけもいいところだ。

だがユイから得た情報とエギルから送られてきた画像。そして何よりもあの日、須郷が俺たちに言い放った言葉が並べられた事実をあまりにも綺麗に繋げているように感じる。

 

「だからキリト抜きで今日は集まったんだな?」

「まだ断定するには材料が弱すぎる。ここでこの憶測を和人に話すとかえって逆効果になるだろうからな」

「和人、焦ってるもんね……」

 

昨日のキリトの様子を思い出したのか俯き加減になる木綿季。

そんな彼女の頭を撫でて大丈夫だと言ってやる。

 

「そのために俺たちがいるんだ。和人が焦っているならその分周りが冷静になってやればいい」

「うんっ」

「相変わらずだなお二人さん」

 

そう言って自分用に注いだコーヒーを口に含ませるエギル。

 

「まあ現状、世界樹の上へ行くには正規ルートを通るしかないわけだ」

「そのためにはグランドクエストをクリアする必要がある」

 

そして俺たちが最も懸念している問題について木綿季が開口する。

 

「でもボクたちだけでクリアできるかな?」

「そこなんだよな……」

 

沈黙が漂う。

数時間前に足を踏み入れることになった<ヨツンヘイム>がALO最高難度のフィールドであるとすれば、グランドクエストは未だ誰一人達成できていない最難関のクエスト。

現状クリア不可能とまで言わしめるその試練は、全種族中最も戦闘に長けたサラマンダーの精鋭部隊を以てしても超えることができないと聞く。

 

「シルフやケットシーが言葉通り協力してくれれば、可能性としては五分五分だと思う」

 

準備に間に合えばだけど、と付け加えて俺は頬杖をつく。

 

「協力してくれなかったら?」

「その時は俺たちだけでやるしかないな」

 

まあどちらにしても様子見を兼ねて一回目は俺たちだけで挑むことになるだろうけど。

 

「だけどそれだとクリアできる可能性は限りなく低い」

 

それに現実での制限時間も存在する。須郷が強引に進めている明日奈との結婚。その日を迎える前に勝負をつけなければ、仮にシルフとケットシーが快く支援してくれても俺たちの負けだ。

 

「シルフとケットシーを抜きに攻略かぁ……」

「ふむ……」

 

うーんと唸る木綿季と腕を組んで思案顔のエギル。

 

「まあ可能性を広げる方法がないこともないんだけど」

 

俺の言葉に反応して木綿季とエギルの視線が俺へ集中する。

 

「本当か?」

「むしろそれができるか確認するために今日は集まってもらったんだ」

「……分かった。話してくれ」

 

ハイリスクハイリターンの大博打。

グランドクエスト攻略のカギとなるその詳細を、俺はエギルと木綿季に伝えた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

ALOにログインした俺は宿屋で借りた部屋から出て、その足で一階の広間へ向かった。

部屋の隅に設けられた談話スペースにはすでに一人、見知った顔が座り込んでいる。

 

「よお、随分と早いな」

「んっ……。カエデ」

 

メニューウインドウに落としていた碧眼をこちらに向けたハープが微笑む。

 

「やっほぉ。……三人、は?」

「もう少しすれば来ると思うよ」

 

向かいの椅子に座りながらハープの質問に答える。そして今度は俺のほうから気になっていたことをハープに聞いてみた。

 

「そういえばハープはこの街に一回来たことがあるって言ってたな?」

「うん。少し……前」

「何をしに?」

「攻略」

 

即答するハープ。やはりサラマンダーのグランドクエスト攻略部隊に参加していたか。

予想していた答えが返ってきたことに内心で満足した俺はそのまま追加で質問する。

 

「そのときのクエスト内容とか覚えてたりする?」

「うん」

 

こくりと頷いたあとに一呼吸置いたハープはぼそりと言った。

 

「つまらなかった」

 

苦虫を噛み潰したような顔でばっさりと言い切る。

グランドクエストが? 難しいとか厳しいとかなら分かるが、つまらないとはどういうことだ? 瞬間的に生まれる疑問。そしてそれを即座に氷解させるようにさらにハープは続ける。

 

「出てくる敵、一種。強さも、大したことない」

「なら楽勝じゃないのか?」

「そう。私たちも……そう、思った。でも、数だけは……多い。あれは異常」

 

はふぅとため息をつくハープ。

曰く、出現する敵は人型のガーディアンのみで、強さはサラマンダーの精鋭なら難なく撃破できるとのこと。

 

ただし問題はそこではなかった。

出現する数が異常に多いのである。最初はプレイヤー一人に対してガーディアンが一体けしかけられ、倒されると次は二体、その次は四体と出現数を二の冪で増やしていくらしい。

さらに世界樹内部で行われるこのクエストは、上へ昇れば昇るほどにガーディアンの出現がこれまでの戦闘とは別で開始され、数の暴力でプレイヤーたちを撃滅する。

 

ハープから聞いたクエスト内容をまとめるとこんな感じであった。

 

「それは確かにふざけてるな」

「ほんと……つまら、ない」

 

ハープが言うにはサラマンダーの部隊は数十分持ちこたえたが、戦線を維持できずに撤退したようだ。種族としての損失も大きくなり、運営にも掛け合ったが返ってくる返事は“仕様”の一点張り。

 

そこでプレイヤーの間では何か難易度を下げるギミッククエストが存在するのではないか。ある一定以上の装備で挑まないと攻略不能の設定になっているのではないかと様々な噂が独り歩きしているらしい。

 

「まるでクリアさせるつもりがないと言ってるようなものだな」

「うん。あと、もう一つ……。何か、の秘匿」

「秘匿? どういうことだ?」

 

意味深長な単語がハープの口から発せられ、俺は目を細めた。

 

「世界樹の、上……何か研究が行われて、プレイヤーに到達されると……問題、みたい」

 

ALO攻略サイトの掲示板に書き込まれていたその情報は、書き込みの数分後にすぐに削除されたらしい。そのあまりにも突拍子のない考察に多くのプレイヤーは気にも留めなかったみたいだが、一部の物好きなプレイヤーの中では有力な説として浸透しているとハープは話す。

 

「こりゃいよいよきな臭くなってきたな……」

「なに、が?」

「あ、いや。……こっちの話だよ」

 

悟られないように努めて柔らかい表情をハープに向ける。

 

今の話が事実ならグランドクエスト攻略はもはや絶望的だ。

シルフとケットシーの協力だけでは五分五分にさえ持っていけないかもしれない。だがそれだとキリトも俺もユウキもあの男に負けたことになる。そして俺たちのSAO事件は永遠に終わりを迎えられなくなってしまう。

 

「…………」

「カエデ?」

 

どうするべきだ? もう一度エギルと連絡をとって計画を練り直す? いやそれだとキリトに気付かれる。サクヤとアリシャに改めて会って協力してくれることを頼むか?

……会える可能性が低い上に何より根回しをする時間が圧倒的に足りない。

 

「カエ、デっ!」

「っ!?」

 

八方塞がりとなり、深い思考に囚われかけていた俺に強い声がかけられる。もちろんハープだ。

 

「……ハープがそんな大きな声を出せるとは思わなかった」

 

作った笑みを顔に張り付けた俺をハープはまっすぐその碧眼で射抜く。

これまでの付き合いからおっとりした子だと思っていたが、こんな強い表情もするのか。

そんなことを考えているとハープが口を開く。

 

「カエデたちのこと……まだ、よく……わからない」

「……そうだな」

 

出会ってまだ数時間なのだ。そんな短時間で分かり合えるほど単純なものではない

 

「でも……。ヨツンヘイムでの……カエデたちの、言葉……嬉しかった」

「あのときはちょっと熱くなっただけだよ」

 

ごまかす俺にハープは、んっと首を振って否定する。

 

「お互い、心から……信頼、してる。私のこと……受け入れて、くれた。そんな、カエデのこと……みんなのこと、私は……好き、だよ?」

「…………」

 

これはゲームだ。

ハープがどんなプレイヤーでどんなことを考えているのか、まだはっきりと分からない。

口では何とでも言える。

しかし俺はこのとき、なぜか確信していた。この言葉に嘘偽りはないと。

 

「そうだよな。たしかに簡単なことだった」

 

こみ上げてくる笑いを抑えきれず、思わず吹き出してしまう。

 

気がつけば先ほどの焦燥感はなくなっていた。

にっと温和な笑みを浮かべるハープを見て、彼女の言葉が、仲間を案じる熱い想いが、じんわりと優しく胸に染み込んでくる。

 

「ハープ」

 

作り笑いから転じて自身の頬が緩んでいるのを感じながら、俺はハープの目を見た。

 

「なに?」

「君に頼みたいことがある」

「んっ、おっけい」

 

内容も聞かずに快諾してくれたサラマンダーの少女に俺はある計画を持ちかけた。

 

運営に――――この世界に一泡吹かせるための一手を。

 

 

 




ご意見ご感想いつでもお待ちしております

次回もよろしくお願いします。



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33話 決戦に向けて

 

ハープとの話し合いが終わってから数分も経たないうちに、涼やかな効果音が近くで鳴った。それとともに浮かび上がってくる数人の人影。

ゆっくり目を開けるキリトたちは俺とハープが先に来て待っていたことを悟ると申し訳なさそうに口を開いた。

 

「すまん、もしかして遅れたか?」

「いや時間通りだ。俺とハープは少し早くログインしていただけだから」

「ほんとはボクだってもう少し早く入れたんだよ? でも姉ちゃんが……」

「……なにかあったのか?」

 

言いづらそうに視線を逸らすユウキに俺は眉をひそめる。

もし家庭内の事情なら踏み込むべきではないと思うが。俺は言葉の続きを促した。

 

「お菓子作ったから味見してって言ってきて」

「うん、そんなことだろうと思ったよ」

 

予想していたような内容が返ってきて俺は苦笑した。片目をつむりながらはにかむユウキの隣では、似たような心境なのかリーファもキリトもなんとも言えない表情をしている。

 

「お菓子…………じゅるり」

「お前そんなキャラだったっけ?」

「甘い、もの……好き」

「さいですか」

 

目がしいたけ、と言う表現がぴったりなくらいハープは目を輝かせていた。それを見たユウキは得意気な顔で胸を張る。

 

「姉ちゃんはお菓子作りがとっても得意なんだ。今度ハープにも食べさせてあげるね」

「やった」

「リーファもよかったらどうかな?」

「ええ是非とも」

 

よしっとガッツポーズをするハープと嬉しそうなリーファ。ログインして数分で成立した妖精のお茶会に思わず呟く。

 

「これがガールズトークというやつか……」

「ふっ、コミュ力の違いを見せつけられたな」

「いや、キリトといっしょにされても……」

「そこは同意してくれよっ!?」

 

そんなこともあって今日も世界樹攻略が始まる。

 

 

 

現実時間では平日の午後三時過ぎ。それなのに通りを通行するプレイヤーの数は思いのほか多かった。

 

「メンテ明けはいつもこうなのか?」

「そうだよ。モンスターとかアイテムの出現なんかもリセットされるから週に一度入るメンテナンスが終わると大体こうなるんだ」

「となると夜になったらもっとプレイヤーは増えるんだろうな」

 

そんな他愛もない話をしながら街の中央へ歩いていく。

巨大な積層構造を成すアルン。その中心に世界樹がそびえ立つのだが、それは近づくにつれて視線を上へ向けてしまうくらいの迫力があった。

 

「うわぁ……」

「樹木とは思えないな」

 

何本も伸びる巨大なうねりは現実世界じゃまずお目にかかることがないだろう。そう感じたのは俺だけではなかったようだ。反応は様々だがみんな一様にこの光景に圧倒されていた。

 

「この上にも街があるんだよな?」

「うん、伝説の空中都市があってそれから光の妖精アルフと妖精王オベイロンが住んでいる……って言われてるわ」

「王様と最初に……謁見した、種族……アルフに転生、できる」

「そして到達した種族は未だいないんだよね?」

 

俺とユウキの問いかけに古参プレイヤーであるリーファとハープが答える。

 

「…………」

「どうした? キリト」

 

会話に参加せず終始黙ったまま世界樹を見上げるキリト。すると真剣な表情でこちらに振り返ると口を開いた。

 

「あの樹は外側からは登れないんだよな?」

「幹の周りは進入禁止エリアになってるからね。飛んでいこうとしても制限時間のほうが先に来ちゃうらしいよ」

「でも肩車で枝まで迫ったプレイヤーがいるって聞いたけど……」

「ああ、あの話ね」

 

リーファはくすりと笑った。

 

「今は障壁が雲の少し上に設定されてるんだって。だから正攻法じゃなきゃあれ以上の高さまで昇ることはできないかな」

 

そう言ってリーファは視線を移した。視線の先にはアルン中央市街の入口である大きなゲートが見える。

 

「とにかく根元まで行くしかないってことだな」

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

事態が加速するきっかけとなったのはユイの言葉だった。

 

「ママ……ママがいます」

 

掠れた声がユイから洩れたのはアルン中央へ向かうゲートの前。その言葉にキリトは顔を強張らせる。

 

「本当か!?」

「間違いありません! このプレイヤーIDは、ママのものです……座標はまっすぐこの上空です!」

 

それを聞いたキリトは、直後に上空へ飛び出していた。乾いた破裂音が聴こえたかと思うと、既にその姿は黒い点となりつつある。

 

「ちょ……ちょっと! キリト君!?」

 

慌てて叫ぶリーファ。

 

「カエデっ!」

「分かってる!」

 

硬直から回復した俺はユウキの声と同時に翅を広げて地面を蹴った。そして地面が急激に遠ざかっていく。

 

「キリトのやつ、先走り過ぎだ!」

 

悪態をつきながら翅を鋭角に畳み、更なる加速へ入っていく。最初の飛び出しで距離を離されてしまったが、こういった飛行の細かい技術はキリトよりも俺のほうに分がある。よって飛行高度の限界にたどり着くよりも先にキリトへ肉薄することに成功する。

 

そしてキリトの肩を掴んだ俺は、力の限り翅による制動をかけてその無謀な突撃を強制終了させた。

 

「カエデっ、放せ!」

「このまま進んでも障壁があることくらい知ってるだろうが」

「それでも、行かなきゃ……行かなきゃいけないんだ!!」

「だからそれが無謀だって言ってるだろ」

 

肩を掴んだままの腕に力を込め、キリトに顔を近づける。

 

「いいか、今の状態だと間違いなくシステムの壁を抜けることはできない。そしてこの行為はアスナを救い出す上で徒労に終わる」

「けど俺は…………」

「アスナに一秒でも早く会いたいんだろ?」

 

俺の問いかけにキリトはすぐに頷く。

 

「ならこんな分かりきってることなんてするな。どうせ会うなら大手を振って迎えに行こうぜ?」

 

ニヤリと笑いかける俺を見て、キリトは意図していることを察したようだ。そして顔を

俯かせた

 

「…………すまなかった」

「いいって。これで頭は冷えただろ?」

「もちろん。……ありがとな、カエデ」

「どういたしまして。けどアスナがこの真上にいるってのは驚愕だな」

 

俺とキリトは改めてはるか上空に見える世界樹の枝を睨む。

 

「ユイ、なんとかしてアスナに連絡を取れたりできないか?」

「一言でいい、俺たちがここにきていることを伝えられれば……」

「警告モード音声なら届くかもしれません……! ママ!! わたしです!! ママー!!」

 

わずかな希望を頼りに、ユイは虚空に叫び続けた。

 

 

 

ユイの必死の呼びかけとそれに答えるように空から落ちてきた一枚のカード。

システム管理用のアクセス・コードだと判明したそのオブジェクトを凝視したまま、キリトはユイに尋ねる。

 

「じゃあ、これがあればGM権限を使えるってことか?」

「いえ……ゲーム内からシステムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です。けどここには……」

 

キリトの言葉にユイは悔しそうに首を振る。

 

「でも理由もなくこんな大事なものが空から落ちてくるなんてこと……」

「ああ、意図的に誰かが落としたはずだ」

 

ユウキの言葉を俺は強く肯定した。

 

「カエデ」

「……わかったよ。どうせ一回は挑むつもりだったし、クエスト挑戦が少し早くなっただけだ」

 

決意を込めた表情を見せるキリト。その姿を見て俺も覚悟を決めて苦笑した。

 

アスナがこの世界にいる確固たる証拠。それを見つけてじっとしているなんてできない。

それは俺もユウキも強く感じていた。そして今もなお、彼女はこの世界で懸命に抗っている。だとすればやることは一つだ。

 

「行くか」

「もちろん! 絶対に助け出そうね」

「ああ、堂々と正面突破してやる。そして今度こそ……アスナを救う」

 

手に収まるカードをぎゅっと握りしめて、キリトが力強く宣言した。そしてリーファとハープへ向き直ると、口を開く。

 

「リーファ、教えてくれ。世界樹の―――」

 

だが、そこでキリトの言葉が途切れてしまう。視線の先には口に手を当て、絶句したまま固まるリーファ。

 

「……いま……いま、何て……言ったの……?」

 

聞く人が聞けばそれは些細なことだったのかもしれない。だがそれは一人の少女が受け止めるにはあまりにも大きく、非情なものだった。

 

「ああ……アスナ。俺たちが探している人の名前だよ」

 

―――グランドクエスト挑戦におけるイレギュラー。

それが発生した瞬間だった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「なあ、カエデ」

「なんだ?」

 

力なく崩れ落ちたまま、キリトがぽつりと俺に問いかけてくる。

 

「俺は……どうすればいいんだ?」

 

この世界で出会ったキリトというスプリガンの少年は自分の兄だった。そんな事実を受け止めることができなかったリーファは、目に大粒の涙を溜めて耐え切れないと言わんばかりにゲームをログアウトしてしまった。

 

「それはこのままグランドクエストに挑むべきか、それとも妹を追いかけるべきか、そういうことを聞いているのか?」

 

黙り込んだままのキリトを見て、俺は小さく嘆息した。

 

「はぁ……。まあ気持ちは分からなくもない」

 

今までのキリトはアスナを救い出すことに全力を注いでいた。その確かな手がかりも先ほど手に入れたのだ。一刻も早くグランドクエストをクリアして世界樹へたどり着きたいと思っているはず。

 

「まさかキリトとリーファが現実のほうで兄妹だったなんて……」

「別にユウキが落ち込むことじゃないよ。遅かれ早かれ分かることだった」

「そうだとしても…………」

 

ハープは事前に話した通り、一度サラマンダー領に戻って計画の一端を領主に持ちかけている。この場にいるのは俺とキリトとユウキだけだ。

 

「……キリト、お前がしたいことをやれ」

「俺がしたいこと?」

「少なくとも今こうして打ちひしがれている時間は無駄だ。そしてそんな情けない姿を、俺は見ていられない」

「…………」

 

二年間、共に死と戦ってきた戦友だから分かる。

ちょっとコミュ障なのにお人好し、そのくせ一人で全部背負い込もうとする。アスナをすぐにでも助けたいという気持ちはキリトの中でさらに大きくなっているだろう。けどそれと同じくらい妹と分かり合いたいと今は思っているはずだ。

 

だから、俺にはキリトがこれからどうするのか分かっていた。しかし改めて問う。

 

「で、どうする?」

「……行ってくるよ。少しだけ時間をくれ」

 

立ち上がってウインドウを開くキリトを見て、俺とユウキは頷いた。

 

「キリト、頑張ってね」

「一発ぶつかってこい。どんな結果になっても俺とユウキはお前の仲間だ」

「……ありがとう二人とも」

 

感謝の言葉と共に小さく笑うとキリトはリーファと同様にログアウトしていった。

それにしてもリーファがキリトの妹か……。キリトを見るときのリーファの表情と接する態度。その二つからあの少女がキリトに抱いていた感情も今ではなんとなく予想できる。

 

「大丈夫かな……」

「こればっかりは家族の問題だからな。けどそう悪い結果にはならないと思う」

 

少し感情の整理をつけるだけだ。

そしてすぐにキリトとリーファはこの世界に戻ってくるだろう。

 

「ユウキ」

「なに、カエデ?」

 

だから残された俺たちが今やるべきこと。それは―――――

 

「今からデートしようか」

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

時刻は午後四時を過ぎていた。

現実世界で日が暮れていくにつれてプレイヤーの数は徐々に増えていき、大通りは先ほどよりも妖精たちでごった返している。

 

「スイルベーンとはまた違った新鮮さがあるよな」

 

再び大通りに視線を移す。

最初に訪れることになったスイルベーンはシルフ領最大の都市であるため、道行くプレイヤーは当然ほとんどがシルフだった。だがここは違う。

すれ違うのは重厚な金属鎧に身を包んだノームであったり、楽器を携えて吟遊詩人のような出で立ちのプーカ。その雑多さはこれまでに訪れたどの町とも似つかない異様な光景だ。

 

「プレイヤーメイドの品物を売ってる店なんかもあるな」

 

様々な種族が開く露店を冷やかしたり、街を這うように伸びる世界樹の根がどこまで続いているのか追ってみたり、改めて歩いてみると新しい情報がどんどん入ってくる。

 

そうやってちょうど大通りを回りきったところで、俺とユウキは近くに設置されていたベンチに腰を掛けた。

 

「ねえ、カエデ」

「ん? どうした」

 

通りを見ていた視線を右にスライドさせると、隣に座るユウキがぶすっとした表情でこちらを見ていた。

 

「どうしたもなにも……。キリトとリーファを待たなくてよかったの? それにハープだって……」

「ハープは俺たちのために今も動いてくれてるよ。世界樹攻略にはハープの存在は欠かせない」

「だったらなおさら――――」

「俺たちも動くべきだ。そう言いたいんだろ?」

 

言葉を遮ると、図星だったのかユウキはそのまま口をつむぐ。そんな彼女に苦笑して俺は口を開いた。

 

「きっとキリトとリーファはすぐに折り合いをつけるよ。そうなったとき、俺たちはその場に居合わせない方がいい」

 

そのほうが円滑に進むはずだ。そうユウキに伝えると、思うところはあったのかもしれないがひとまず頷いて納得してくれた。

 

「それに果報は寝て待てって言うだろ?」

「……どういうこと?」

「もちろん怠けて結果を待つほど俺もふてぶてしくないよ。ただ向こうのほうでもこっちの世界でも、もう可能な限り手を尽くしたから。あとは全力を出すために英気を養おうと思って……」

 

そう言って俺はユウキの左手に自身の右手を重ねた。

 

「ユウキ、これで絶対に終わらせような」

「うんっ!」

 

陽だまりのような笑顔を浮かべると、ユウキはそのまま頭をぽふっと俺の肩に預けてきた。

 

そして時を同じくして俺のメニューウインドウに三件の通知が届く。それら三通のメッセージに目を通した俺は

 

「……ようやくだ」

 

ここからは一気に動き出す。送られてきたメッセージに返信しながら、俺はそんなことを予感していた。

 

一つはキリト、もう一つはハープ。そして最後の一つは――――――。

 

妖精の国。

世界樹を攻略するグランドクエスト。

決戦の時は確かに近づいていた。

 



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34話 決戦 1

このくらいの速度で投稿できたらなぁ、っていつも思います。



SAO時代、フロアボスを攻略するときの記憶が甦る。迷宮区の最奥に存在するボスフロア、その境界を仕切る大扉もちょうどこのような荘厳なレリーフが刻まれていたからだ。負ければ死ぬ、そんな制約がないこの世界においても心臓が警告するかのように心拍数を上げ、背筋に冷たい戦慄が走る。

 

「よしっ! それじゃあ世界樹攻略、みんな頑張っていこう!」

 

己にのしかかる緊張をごまかすために、握った右拳を振り上げながら、俺は努めて明るく号令した。

そんな俺の気持ちを汲んでくれたのかSAO経験者であるキリトとユウキは同じく声を上げて、わずかに遅れながらリーファも合わせてくれる。

 

「あ、あの……」

「どうしたレコン? トイレとか?」

「んなわけないじゃないですか! ここゲーム内ですよ!? というか世界樹攻略って…………ええ!?」

 

唯一ノリについていけなかったレコンが目を白黒させて後ずさる。そんな彼の肩をリーファがポンと叩くと

 

「がんばってね」

「リーファちゃん説明になってないよ!?」

「作戦を確認しよっか」

 

一言だけ労って話を進めた。

なかなかどうして彼は苦労体質みたいである。この前もサラマンダーたちの尾行に失敗した挙句に地下水路に放置されたりと俺が見ている限りでは苦難が一切報われていない。

 

「レコン」

「なんです?」

「……今度中華でも食いに行くか」

「そのチョイスに悪意を感じるんですけども!? 言っておきますけど僕は不幸体質じゃないですからね!」

「俺も今度お返しするよ」

「ボクも!」

「誰か僕の話を聞いてくれぇぇえええ!!」

 

頭をぶんぶん振って懇願するレコンを尻目に、俺は改めて眼前の巨大な石扉を見上げた。二組の守護像が両脇に立つそれは、境界を線引くというよりも挑戦者を拒むようにも見える。

 

「最終確認をすると……」

 

振り返ってキリトたちを見ると全員が厳しい表情をしていた。レコンは未だにぶつぶつ呟いて現実逃避しているが面倒なのでそれは放っておく。

 

「基本的には俺とキリト、ユウキの三人で戦闘を行う。回復魔法が得意なリーファとレコンは後方で俺たちの支援。敵の数はさっき話した通り膨大だ。撃破する敵の数は最小限にとどめて、瞬間的な突破力が高い俺たち三人で一点突破を狙う……という感じだ」

 

確認するように全員と顔を見合わせた後、最後にキリトの肩に立つユイへ視線を移した。

 

「にぃの言う通りです。事前に集めた情報によると攻略に挑んだサラマンダーの部隊は増える敵に戦線を維持できなくなったみたいです。敵のポップ条件はプレイヤーの塔内部における高度と出現時の撃破。つまり最初の一体目を倒さなければリポップのほうは気にしなくても大丈夫です」

「飛行高度のポップはどのくらい変化するんだ?」

「サラマンダー部隊が攻略した際は最高出現数は秒間九体だったみたいです」

「うわぁ……」

「多いね」

 

その言葉を聞いてリーファとユウキが顔をしかめる。キリトも口をきゅっと引き結びながら頷いた。

 

「総体では絶対無敵の巨大ボスってところだな。俺だけだとどうなっていたやら」

「俺とユウキだけじゃない。今は四人も仲間がいるんだ。タイタニックにでも乗ったつもりでいてくれ」

「豪華客船だねっ!」

「それ沈没するだろ!」

 

そこまで言ってどっと笑いがおきる。顔を見合わせると、全員から先ほどまでの緊張感は消え去っていた。

そしてキリトが口を開いた。

 

「みんなにはこれまで迷惑をかけた。……でももう一度だけ、俺の我儘に付き合ってくれないか。本当はもっと別の手段を捜すべきなのはわかる。でも……ここで諦めたらもう届かない、そんな予感がするんだ」

 

その言葉に俺たちの表情が再び引き締まる。それは悪い意味ではなく、覚悟を決め、戦いを待つ戦士のような雰囲気をつくりだした。

 

短い沈黙を経て俺たちはキリトの言葉に一様に頷いた。

 

「もちろんだ。必ず攻略しよう」

「絶対に迎えに行こうね!」

「解った。がんばってみよ。わたしにできることなら何でもする……それと、コイツもね」

 

そう言って隣に立つレコンを小突くリーファ。レコンも情けない声を出しているがキリトの熱意が伝わっているようだった。嫌がっているふうには見えない。

 

「じゃあ行こう」

 

キリトは背に吊るされた剣の柄を握った。そして手を離すと歩き出す。

そんなキリトに続いて俺たちも目の前にある石扉に向かって進みだした。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

『未だ天の高みを知らぬ者たちよ、王の城へ至らんと欲するか』

 

キリトが大扉の前に立った途端、両脇にひかえる守護像が声を発する。青白い光を瞳に灯した騎士はこちらを見下ろしたまま問いに対する答えを待つ。

 

同時に俺たちの前に、グランドクエストへの挑戦を決定するためのウインドウが表示された。迷うことなく、全員がイエスのボタンに手を触れさせる。

すると今度は黙ったままの左側の像が重々しい声を発した。

 

『さればそなたらが背の双翼の、天翔けるに足ることを示すがよい』

 

地の底から響くような重低音を湧き散らせつつ開いた石扉の先。真っ白な大広間は天へ続くために天井が伸びており、部屋の外からもその圧倒的な高さが感じることができた。

無鉄砲に挑むわけではない。そう理解しているにも関わらず、いざ部屋へ踏み込むとなると漏れ出す強烈な圧迫感が肌を這いまわってくる。

 

しかしそれとは対照的に冷静な自分がいた。

 

ここから先は未知。この世界がこれまでプレイヤーを拒んできた絶対不可侵の領域、そこへ自分たちは挑むのだ。次第に大きくなっていく昂揚感に応えるように俺は剣を抜いた。そして全員が武器を構えてお互いに視線を交わすと、翅を光らせた。

 

「……行くぞ!!」

 

キリトの叫び声とともに地面を蹴り、一足飛びで広間の中央へ突入する。直前で確認した作戦通り、俺とキリトとユウキは最初に一人一体ぶつけられる守護騎士を無視して急上昇を開始した。この時点で敵の出現数は十にも満たない。リーファとレコンは入口付近に陣取って打ち合わせ通りにスペル詠唱の準備をしている。

 

「次が来るぞ! 気を抜くな!!」

 

二人に聞こえるように俺は大声を出した。

こちらの急上昇に呆気にとられながらも、遅れて追ってくる守護騎士三体。加えて天井部分から滴るように新たな敵が生み出されるのが見えた。さらに壁面からも這い出てくるガーディアンたちは目測で十や二十ではきかないくらいくらいである。侵入者を捕捉した守護騎士は全員が無機質な雄叫びを上げつつ俺たちへ殺到してきた。

 

そして敵との距離が急速に縮まっていき――――

 

「……はぁっ!!」

 

交差した瞬間に二か所から轟音と眩い閃光が走った。たった一瞬の出来事。それでも今の攻防で複数の騎士たちが、一刀のもとに斬り伏せられる。当然、発生源はキリトとユウキだ。

 

「あんまりペースを上げ過ぎると持たなくなるぞ!」

「分かってる! そっちこそ大丈夫か?」

「ボクのほうは全然平気っ! 二人も気を付けて!」

 

そう言ってユウキはさらなる加速へ入った。消えたと錯覚するくらいの速度で相手の間を縫っていき、進行を妨げるように配置された騎士を切り伏せていく。それと同時にリーファとレコンに迫ろうとしていた騎士たちのヘイトまで一手に引き受けようとする姿は、さながら戦乙女であった。

 

「あんなユウキ久しぶりに見たな」

 

それに対して俺は最小限の動きで騎士たちの急所へカウンターを叩き込んでいく。薙ぎ払われる大剣を紙一重で躱して通り過ぎざまに一閃。次いで迫ってくる刺突よりも速く相手の懐に飛び込み、兜の奥に光る瞳に剣を突き刺した。呻く騎士を蹴飛ばしてさらに上へ。

 

「ユウキ強すぎだろ!」

「俺も同じことを思ってたところだ! てか惚れ直してるっ!」

「まだ軽口叩くほど余裕があるんだな!」

 

そんな掛け合いをしながら迫りくる騎士を捌いていく。最近はユウキの戦闘を間近で見ることが少なかったから忘れていたが、彼女はSAO、こと対人戦においては最強だった。ユニークスキルを所持していた俺やキリト、ヒースクリフの陰に埋もれがちだったがスキルなしで俺たちと互角以上の戦いを繰り広げることができた唯一の猛者だ。

というか何回かデュエルで負けたこともある。そしてヒースクリフはユウキとの戦闘を露骨に避けていたような……。

 

そんなことを思い出しながら、囲む騎士を屠ってキリトと背中合わせに構える。

 

「にしても多いな」

「ああ、もう何体倒したか」

「正直あとどのくらいいける?」

「三十、いや四十体増えるとキツイかもな」

「じゃあその四十体は俺が倒すさ」

 

俺は背を向けたキリトにもはっきり伝わるくらい挑戦的に笑った。

 

「なんだ、キリトも戦うのか」

「お互いまだ余裕ってことだなっ!」

 

再び敵の騎士たちに突撃する。突進の力を最大限に活かして相手の喉元に一突き。そのまま斬り払って回転し、遠心力をのせた一振りを背後に迫っていた騎士に撃つ。息つく暇もなくその場から離れると、俺は敵を一番引きつけているユウキの援護に向かおうとした。

 

「……!?」

 

すると後方で視界を焼き尽くすほどの大爆発が起きた。壁面から湧きつつある騎士たちは爆発の直撃を受けて数十という単位で消し飛んでいく。それが闇属性魔法だったということを後で知るのだが、問題はそこではない。いったい誰がこんな魔法を。

 

「って、あいつ……!」

 

答えはすぐに示されることとなった。なぜならパーティー登録をしていた五人のうち、一人のHPバーが全損していたから。その輝きが魔法の中でも極めて高位なものであることも、それがノーリスクで放つことができないということも瞬間的に頭の中で結論づけられる。

 

――――自爆魔法。

 

それはこの世界において己の全存在を賭けた攻撃。死ぬと同時に通常の数倍のデスペナルティを課せられる禁じ手だった。

 

たかが経験値、たかがアイテム、たかがゲームだ。ここまでした彼のことを笑うやつは必ずいるだろう。はっきり言って後方で自爆なんてされても血路は開けない。

だが違う。彼は俺たちに示したのだ。仲間のためならどんなことでもやってみせるという信念を。そして己の費やした熱意と努力を俺たちに託した。

 

――――必ずこのクエストを攻略してください!

 

彼の存在を僅かに主張するエンドフレイムがそう言っているようだった。

もう、ここからの撤退は許されない。

そう決意して俺は天蓋へと突き進むキリトを一瞥して―――

 

「うそ、だろ……」

 

これ以上ない絶望に突き落されることになった。

 

「うおおおおお!!」

 

天蓋に限りなく肉薄し雄叫びをあげて飛ぶキリト。そんな彼を待ち受けるのは天蓋一帯に隙間なく張り付いた守護騎士の肉壁だった。その異様な光景は樹木にびっしりと張り付いた小蟲の群れを彷彿とさせ、蠢く様子はどうしようもないほどの嫌悪感を俺に与えてくる。

 

「っ!」

 

それでも関係ないと言わんばかりに襲い掛ってくる周囲の騎士たちを蹴散らして、俺はこのとき強く思った。

やっぱこのゲーム作ったやつ性格悪いな、と。

よほど悪意のあるアルゴリズムを組まれているのだろう。先ほどとはうって変わって騎士たちは戦略を変更してきた。

 

「っ、魔法か!」

 

舌打ちしながら飛んで来た無数の光の矢をぎりぎり躱して俺は反撃を狙う。しかし魔法のリキャストタイムより先にさらに後方から次の攻撃が飛んできて敵に近づけない。

 

「はあああああ!!」

 

離れたところから聞こえる叫び声に反応して俺は声の主を見た。先ほどから獅子奮迅の活躍をしているユウキ。しかし彼女を取り囲む騎士の数は数えることを放棄したくなるほどであった。

 

「ユウキ!」

 

声を発するのももどかしい。俺は何も考えずに飛び出していた。本来であればクエスト攻略のためにキリトの元へ駆けつけるべきだ。だが目の前で奮闘する最愛の少女の身体に、あの無慈悲な光の矢が、悪意に満ちた刃が突き刺さることを考えると居ても立っても居られなかった。

 

否、そんなことは絶対にさせない!!

 

「ユウキィィィィ!!」

 

頭を空っぽにして柄にもなく叫ぶ、飛び込む。孤軍奮闘する少女の元へ。

そしてこの行為が完全な悪手であることを俺は思い知った。

 

「カエデっ!!」

 

数メートル先で剣を振るい続ける少女の顔に、安堵の色が宿ったのがわかった。ユウキもこちらに近づこうとわき目も振らずに手を伸ばす――――

 

 

 

―――――その身体を射ぬかんと背後から射出された光の矢に、まったく気づくことなく。

 

 

 

「やめ――――――」

 

それを伝える時間など存在しなかった。声よりも魔法の伝わる速度のほうが、この世界では圧倒的に速いのだから。だから目の前のこの光景は起こるべくして起こった当然の事実。

 

長い髪が、ふわりと宙を舞った。どれだけ伸ばしてもその手が届かないことなど明らか。

それでも俺は手を伸ばし続けた。流れていく時間が極限まで圧縮され、一挙手一投足が瞳に焼き付くなか。

 

そうして俺の目の前で―――――

 

「ろおおおおお―――――――!!!!」

 

 

 

―――――赤い閃光が走った。

 




あと1話か2話でALO編は終わる予定です。

最後までお付き合いよろしくお願いします!


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35話 決戦 2

これあと1話で終わらないぞ……(ボソッ




「ごめん。……遅くなっ、た?」

 

その手には以前の戦いで苦しめられた二振りの短刀が握られていた。この世界で神刀と呼ばれるユニークウエポンの所有者は一人だけ。それは今、刀身が炎を纏っている。

目の前を走った赤い閃光もとい緋色のフードケープをなびかせたサラマンダーの少女は不安そうな目でこちらを見ていた。

 

「……ハープ?」

 

極めつけはその姿だ。身体は目に見えない何かを纏っているらしく、その影響を受けているのか、少女の周囲は僅かに歪んで見える。

 

「いや、最高のタイミングだ。……ありがとう」

「ぶいっ」

 

ピースをして若干ドヤ顔で胸を張るハープ。

同時に存在を主張するようにぐりぐりと頭を押し付けてくるユウキに思わず安堵する。

 

「本当に無事でよかった……」

 

自分の胸にはすっぽりとユウキが収まっていた。伸ばした手は届かない、そう思っていたはずなのに受け止めた体から確かな感触が伝わってくる。そして彼女に放たれた光の矢も、それを撃った騎士も、存在を証明していたポリゴンが淡い光となって散っていた。

 

「うん……。でもどうしてハープが?」

「あー。説明してなかったからなぁ」

 

一連の流れに理解が追いつかず、疑問を浮かべるユウキ。

さてどこから話せばいいのか……。これは悩める。

 

「―――っ! ユウキ、それよりまたお客さんだ」

 

唸りながらどこから話すべきか思案していると、そんな暇など与えないと言わんばかりに騎士たちの攻撃が再開される。

 

「わ、わぁっ! もうしつこいなぁ!」

「まあそう言うなって、こいつらはしつこく阻むのが役割だし」

 

ぱっと身体を離すとお互いに武器を構えなおす。迎撃態勢に入った俺たちに早々に突っ込んでくるのは先ほどユウキに魔法を放った集団とは別の騎士たちだ。仕掛けてくる斬撃を躱してすれ違いざまに剣を横に払う。続けて用意していたスローイングダガーを腰のポーチから数本引っ張り出すと大まかに狙って敵の集団に投合した。殺傷としての意味は皆無だがそれでも一応刃物に分類されるアイテム。狙い通り牽制として役割を果たすナイフを見届ける前に、俺は距離を取ってユウキに声をかけた。

 

「悪いなユウキ、落ち着いたらちゃんと説明するから」

「……絶対だからね」

 

けど、と言葉を加えつつユウキはハープのほうへ視線を移した。

 

「……どうし、たの?」

「さっきのやつ、どうやったらあんなに速く? それにその姿も」

「――――んっ! ……これのこと?」

 

そう言いながらハープは敵を斬りつけると同時にその場で一回転してみせる。すると突然、脳が身体に警告を送るほどの熱を感じ、それが周囲に満たされた。巻き上がる熱の波、それに共鳴するように神刀が一層燃え上がる。そして蒸しかえるような熱風を従えたハープはそのまま剣を構えると――――――ゆらぁと消えた。

 

「っ、嘘!?」

 

比喩なんかではない。文字通りその場から消え失せたのだ。そうして次の瞬間には離れたところで攻撃の機会をうかがっていた騎士の両腕が斬り落とされる。咄嗟のことでアルゴリズムの処理が追いついていないのだろう。無くなった部位を虚しく振り回し、金切り声をあげる騎士はこの戦いにおいて既に置物と化していた。再び消える影、無力化されていく騎士たち。

 

「熱、魔法」

 

気付くとこちらへ戻ってきたハープが何でもないように軽くその種を明かした。しかし初めて耳にする属性に俺とユウキは互いに首を傾げる。

 

「熱……?」

「魔法の基本属性のなかに炎があるのは知ってるけど……」

「……ああ。熱ってのは聞いたことないな」

 

ルグルー回廊で戦ったサラマンダーの部隊やヨツンヘイムで遭遇したウンディーネのパーティーから散々撃たれた魔法を思い出す。だが炎魔法の扱いに長けているはずのサラマンダーのメイジ隊でも熱なんて属性を使っていた覚えはない。

 

「知らなくて……無理ない。特殊、だから」

 

あとになって分かったことだが、魔法が実装されているALOにおいて使用できる魔法には適正と条件が存在するらしい。前者はその言葉通り魔法の得手不得手に関する要素であり、その使用に制限はなく誰でも発動させることができる。大半の魔法はこれに該当し詠唱者の種族によって魔法に補正がかかることが特徴だ。例えばシルフであるリーファが風属性の魔法を発動すればその魔法には威力上昇や効果継続などの上方補正がかかる。逆に炎や水などの属性を使おうとするとサラマンダーやウンディーネの術者には数歩劣ってしまう。それらを加味して基本的にメイジと呼ばれるジョブは自分の得意属性を強化していくのが定石とのこと。

 

「この魔法、使えるの……領主。サラマンダーの、<モーティマー>だけ」

 

その言葉を聞いて俺は思わず息を呑んだ。つまりこの熱という属性に分類される魔法は完全な固有スキルというわけだ。それも領主しか使用することが許されない切り札。あれほど不可思議な効果を及ぼす魔法なのだから、おそらくずっと秘匿され続けていたのだろう。来たるべき時に備えて。

 

「でもハープは領主でもないしモーティマーって人でも……」

「…………魔法の一時的な譲渡。ゲーム風に言うなら<付与>ってとこか?」

 

魔法の付与なんて聞いたこともないし普通は考えられないがそれくらいしか思いつかない。ユウキの疑問に答えるように俺はハープに問いかけた。

 

「正、解」

 

俺の言葉に得意気な笑みを浮かべるハープ。

 

「少しだけ……私も、使える」

「……それってつまり」

「サラマンダーの領主がハープのことを信じて託したってわけだ。そしてそれは――――」

 

刹那。

俺の説明を遮って塔内部に新たな音が響いた。

赤く燃える金属鎧はがしゃりと重い音を立て、その存在を天に舞う騎士たちに示す。そして重厚な朱の塊は塔内底辺部に号令と共になだれ込むと一斉に背中の翅を震わせる。雄叫びを上げて飛び立つその様はこの世界で最も戦闘に長けた炎の妖精たち。

 

「―――種族全体としての決定ってことだ」

 

サラマンダー。その大部隊がグランドクエストに雪辱を果たす瞬間だった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「ダメだ、許可できない」

「……っ」

 

否定の言葉と共に向けられる赤い瞳がまっすぐ自分を射抜き、ハープは苦悶の表情を浮かべた。ぎゅっと握られた拳は望みが絶たれたという事実を飲み込めずさらに力がこもる。

それでもここで引きさがるわけにはいかない。再び自分に言い聞かせたハープは口を開いた。

 

「どう、して?」

「今言った通りだ。グランドクエスト攻略には時間をかける必要がある。装備を整えることはもちろん、攻略の糸口となる情報収集。それに部隊内での連携とプレイヤー個人の練度の上昇……やるべきことは山ほどある。それは前の攻略に参加したお前も良く理解しているだろう?」

「それは……」

「加えて今回のシルフとケットシーの会談襲撃の中止。これはサラマンダーとしても痛手となった。他種族からの印象も含めてな」

 

畳みかけるように説明をするモーティマーは一呼吸置くと組んだ手を机に投げ出した。

 

「お前が他人に対して、特に他種族のプレイヤーにそこまで興味を持つのは珍しいが、それだけの理由で攻略部隊を出せるほど今のサラマンダーに余裕はない。それが領主としての俺の判断だ」

 

分かってくれ。最後にそう締めくくって、モーティマーはハープから視線を外した。

 

「でも――――」

「話は終わりだ。下がれ」

 

なおも食い下がるハープに言葉を被せ、モーティマーは続きを遮った。

鋭く尖った雰囲気は言葉で表さずともハープに訴えかけている。二度目はない、と。

 

たまらず腰に差した短刀にハープは手を伸ばす。短絡的だと理解はしている。それでも何の成果も得ることができないまま引きさがる自分を想像して、ハープは焦りと憤りを感じていた。かくなる上は領主としての権限をかけて――――

 

「まあ落ち着け」

 

その時、よく通る低い声が部屋に響いた。そして声の主は刀を抜こうとしたハープをそっと制すると静かに前に出る。

 

「……ユージーン?」

「何の用だ? 次の指示を出すまで待機を命じていたはずだが」

 

唐突に現れたユージーンを怪訝そうな目で見るモーティマー。

 

「別に大した用ではない。次のレイドクエストについて編成を相談しようと思っただけのことだ。まあ不本意ながら中でのやり取りを聞いてしまったわけだが」

 

にやっと獰猛な笑みを浮かべたユージーンにモーティマーはぴくりと頬を動かす、がすぐに表情を戻すと口を開いた。

 

「お前が意見しても決定は変わらないぞ?」

「それはどうだろうな」

「……何?」

「聞けば頼みを断った大きな理由は無条件の協力。要は全体として動くためのメリットとそれ相応の理由があればいいわけだろう? これを見てくれ、兄者」

 

そう言って自分のウインドウを操作するとそれを可視化させてモーティマーとハープの前に表示させる。そして映し出されたものを確認した瞬間、モーティマーの表情が驚愕に染まった。

 

「馬鹿な……。エンシェントクラスの装備が部隊に行き渡るまで目標金額の半分ほどしかなかったはずだ」

「それが……これ、全部?」

「そしてハープが話していた男から言伝を預かっている。……『もし今回の一戦に協力してくだされば、資金の提供とALO最強の三人を一か月無料でお貸しします』だそうだ」

 

ユージーンはさらに続ける。

 

「その三人というのは俺から見てもかなりの強者、現にそのうちの一人に俺は負けた」

「お前を倒すほどのプレイヤーが三人……」

 

もしその三人が一か月でもレイドに加われば他種族を抜いてサラマンダーの優位は揺るがなくなる。そして先ほどのエンシェントクラス装備の購入資金。一回の出撃としては破格の条件にモーティマーは逡巡した。

 

「……分からんな。現状攻略不可能とまで言われているエンドコンテンツになぜそこまで賭けることができる? その男の目的はなんだ?」

 

<甘い話には裏がある>のがALOに限らず世界の常識だ。警戒心を強めたまま、モーティマーはユージーンに問う。

 

「それがだな……」

 

するとユージーンはバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「俺も言いにくいんだが……」

「勿体ぶるな」

「『親友とその恋人を早く会わせてやりたい』と言っていた」

 

百に迫る部隊を動かすにはあまりに弱い答え。しかしその答えに、警戒心を隠さずにいたモーティマーは思わず吹き出していた。込み上げてくる笑いを抑えようともせず、楽しそうに、吐き出すように笑った。

 

「あ、兄者?」

「くくっ、すまんすまん。こんなに面白かったのは久しぶりだ。お前を負かし、ハープをここまで変えたそのプレイヤーたち……。俺も少し興味が沸いてきた。」

 

目じりに浮かんだ涙を拭うような仕草を経て、モーティマーは数秒目を閉じた後にハープを見る。

 

「ハープ、お前に聞きたいことがある」

「……何?」

「お前にとってそのプレイヤーたち……いや、カエデというプレイヤーはなんだ?」

「仲、間」

「それだけか? 弱いな」

 

突き放された返答にハープはさらに続けた。

 

「モーティマーと、ユージーンが……この世界で、私に居場所をくれた。カエデは……カエデは私に、生き方を……この世界は生きているって、教えてくれた」

 

そしてハープは静かに耳を傾ける兄弟に告げる。

 

「わたし、は…………カエデが―――」

「――十分だ。その続きはカエデとやらに直接伝えてやれ」

 

最後まで言わせることはせずモーティマーは満足げな笑みをハープに見せた。

 

「お前の覚悟と想い、委細承知した。……ユージーン将軍」

「はっ!」

 

先ほどまでのやり取りが嘘のように執務モードに入った二人。装備の調整や出撃ルートなど、急な話の変化に追い付けずハープは珍しくぽかんとしていた。

 

「今からすぐに動けるか?」

「問題なく」

「戦場での指揮はいつも通りお前に一任する。編成は前に伝えたグランドクエスト攻略用の陣形を使え。お題目はそうだな……種族の壁を越えた<義>によってグランドクエスト攻略を援護、としよう」

 

燃える瞳を輝かせてモーティマーは椅子から立ち上がると

 

「さて、他種族からの信頼回復に一役買ってもらおうか」

「俺もグランドクエストへのリベンジを果たさせてもらう」

 

兄弟でこつんと拳を打ちあった。

そこでようやく我に返ったハープの前にモーティマーは立つ。

 

「ハープ、お前に領主としての力を貸し出してやる」

「……力?」

 

手早くウインドウに指を走らせるモーティマーに聞き返すと、その返答は通知となってハープに返ってきた。

 

「熱―――俺だけが使える最強の魔法だ」

 

 




モーティマーの描写って原作でもなかった気がするので
兄弟のやり取りは少し自信ないです。

それと熱魔法はオリジナル要素です。
ケットシーの切り札が竜騎士隊なので各種族にオンリーワンの何かを持たせたいな
と考えた結果こうなりました。


次回もよろしくお願いします!


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36話 決戦 3

今話でグランドクエスト攻略完了です。


あとわずか、天蓋まで数十メートルにも満たない位置まで肉薄した黒衣の妖精が見える。

彼の剣が空を走るたびに、両断された騎士のポリゴンが散っていく。しかしその行為はもはや無駄なのだと、リーファは悟りはじめていた。

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

ユージーンを倒した時のような気迫、絶叫がドーム底辺で敵を捌いていたリーファの耳にも届く。そんな剣士を少しでも回復せねばと回復魔法の詠唱を開始するのだが

 

「……無理だよ、お兄ちゃん……こんな、こんなの……」

 

天を埋め尽くさんとびっしり蠢く白い騎士たちに気圧されて、リーファはだらりと手をおろし詠唱を中断させた。

 

無謀だ。

キリトやカエデ、ユウキが話してくれたことを否定するつもりなんてない。この世界に大切な人が囚われているかもしれないという話も信じることができる。しかしどこまでいってもリーファにとってここは楽しい<ゲームの世界>なのだ。デスゲームに二年の時を奪われた彼らとはこの世界に対する思いも熱量も違い過ぎる。

 

だがこのとき、リーファは初めてシステムに対して不条理と理不尽を感じた。

<ゲームの世界>が、目に見えない大きな存在がプレイヤーに悪意の牙を向けている―――そんな気がしてならないのだ。

 

「っ!?」

 

記憶に新しい音が負の思考からリーファを引っ張り上げる。反射的に音の発生源を向くと、キリトを狙っていた騎士の一部がスペルの詠唱を始めていた。あのスペルからしておそらく拘束系の呪文だ。今あれを食らうとその後の騎士たちの追撃を処理しきれない。

 

「お、お兄ちゃんっ!」

 

このままではキリトが魔法の餌食になることは容易に想像がつく。それが無駄だと分かっていてもリーファは叫び―――

 

その時だった。

瞬間、背後から一陣の風が吹き荒れる。新緑に輝くうねりが絶望に縛られたリーファの身体を軽くした。

 

「っ……!?」

 

慌てて振り向いたリーファの目に映ったのは自分が属する風の妖精たち。そのなかでも知らぬ者はいないと評される熟練プレイヤーばかりだ。一線を画す装備に身を包んだ彼らが雄叫びを上げると天蓋に溜まった白い塊が移動を開始する。

 

「すまない、遅くなった」

 

隣に立っていたのは高下駄に着流し姿の麗人、シルフ領領主のサクヤ。

 

「サクヤ……」

「わたしもいるヨ!」

 

その声と共に再びドームに轟音が響き渡る。それに加わってプレイヤーではない力強い獣の雄叫びも。

 

「アリシャさん……!」

 

シルフ部隊の突入を途切れさせることなく、十数体の巨獣は堂々とドームの大扉をくぐっていく。

 

「ごめんネー。竜騎士隊の装備を整えるのに時間かかっちゃったんだヨ~。あれからすぐに準備したんだけどネ」

「じゃああれが飛竜……!」

 

ケットシー最強の切り札の登場に、驚愕するリーファ。これまで存在は噂されていたが画像すら流失したことのなかった伝説の生物たち。それが今、突風を起こして飛翔していく。

 

「ここで全滅すれば両種族とも破産だな」

「金庫もすっからかんだもんネ!」

 

涼しい顔で笑い合う領主二人。

 

「……ありがとう……ありがとう、二人とも」

「礼は無事にクエストが終了してからだ」

「それに攻略に駆けつけたのは……私たちだけじゃないみたいだしネ」

 

そして数秒後に再び聞こえる大音量。赤く燃える妖精たちがなだれ込む姿を見たリーファは、今日で何回目か分からない驚愕を顔に張り付けることとなった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

ナーヴギアでも後継機のアミュスフィアでも基本的な構造は同一である。

脳神経に出力されたデータを脳が受け取り、そのデータに対して脳がアバターを介して干渉していく。

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

だがその許容量を超える勢いで、キリトは脳をフル回転させていた。

安全面を考慮して脳に必要以上の情報が入り込まないように、ある一定のデータ量を超えると送受信を遮断する。その仕組みを理解していても、さらにアバターを加速させるために脳から指示をとばす。

 

後を追ってくる守護騎士を振り切りながら眼前に待ち構える敵を斬り捨てる。

それでも一向に敵は減らず、それどころか数を増やして再びキリトの前に立ちはだかろうとする。

 

そして背後からの魔法攻撃がキリトを襲おうとした直前―――

 

「ぬ……おおおォ!!」

 

太い雄叫びが轟いたかと思うと、守護騎士たちが両断された。

予想していなかった戦士の乱入にアルゴリズムを乱された騎士たちは、キリトを狙っていた魔法の詠唱を中断させて、そのプレイヤーと距離を取ろうとする。

 

「おっと、俺のことも忘れてもらっちゃあ困るぜ!」

 

直後に飛翔してきた赤い影。

それは戦士との距離を取ろうとしていた騎士に風のように駆けていき。

 

「―――せいやぁっ!!」

 

一閃。

ものの数秒ほどでキリトを囲んでいた騎士たちを切り刻んでいった。

 

「…………」

 

思わぬ助太刀によって窮地を救われたキリトは思わず目を白黒させる。何はともあれ状況は打開された。自らを援護してくれたプレイヤーの参入に驚き半分感謝半分といった様子で一言礼を言おうと口を開いた瞬間。

 

「遅くなったか? キリト」

「向こうの世界以来だな、キリの字!」

「……っ!?」

 

自身の目に映るありえない光景にキリトは固まった。

赤いバンダナがトレードマークの無精ひげを生やした刀使い。筋肉隆々の体躯を重厚な鎧で包んだ斧戦士。そのどちらも自身が頼り、頼られてきた存在だったから。

 

それはかつてデスゲームを終わらせるために共に戦った仲間たち。

 

「これで役者は揃ったって感じだな」

「よーし! ささっとクリアしちゃうよ!」

「むぅ、私だけ……仲間、外れ?」

 

近づいてきた短剣使いと紫髪の剣士。その二人についてきたサラマンダーの少女。

そしてドーム底辺部から飛び立つ三色の妖精たちが見えたときには、キリトの闘志はこれ以上にないくらい燃え上がった。

 

「みんな……力を貸してくれ!」

 

力強く頷き合う仲間たちに、キリトは改めて深い感謝を抱いた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

アインクラッド迷宮区を守るフロアボスの攻略。目の前で繰り広げられる戦闘はまさしくそう表現すべき光景だった。散開して各方面から放たれる飛竜のブレス、撃ち漏らしを正確に魔法で遠距離から狙い撃つシルフのメイジ隊。そしてユージーンを含めたサラマンダー部隊による白兵戦。どれもがこの世界で行われた最大の戦闘だろう。

 

「キリトのやつ随分と張り切ってるな!」

「これが千載一遇のチャンスなんだ。当然そうなってもらわないとなっ!」

 

クラインの軽口にエギルが言葉を返す。その視線の先には疾風のように空中を翔けるキリト。そして眼下を見下ろしたエギルが聞いてきた。

 

「それにしてもよくこんなに集まったもんだな」

「全部カエデが計画したのか?」

「そんなまさかっ!」

 

目の前に駆けてくる騎士を切り倒してクラインとエギルのほうを見ると俺は嘯いた。

 

「サラマンダーとエギル達に頼んだのは俺だけど、正直シルフとケットシーの援軍は予想してなかった」

 

一瞬の残心を経てサクヤとアリシャを一瞥しながら、にやりと笑う。

 

「あいつがこの世界でやってきたこと、キリトの意志がこの世界のプレイヤーを動かしたってことだ」

「へへっ、キリトの野郎は相変わらずってことか」

「なら俺たちも負けてはいられないな」

「おうよ!」

 

クラインの力のこもった同意が合図となり、俺たちは一斉にその場から駆け出す。

直後、元いた場所に飛んでくる無数の矢。その発生源を断つべく動き出したエギルとクラインを見送った俺は急いでユウキとハープの援護に向かう。

 

「間近で見ると熱魔法ってのはすごいな……」

 

二人に近づくころにはユウキとハープの周りから敵はいなくなっていた。身体を発火させて霧散していく騎士に顔をしかめて俺は二人に声をかける。

 

「カエデ、もうこの辺の敵はやっつけちゃったよ!」

「ん……よゆー、です」

 

もうこの二人だけでいいんじゃないかな。

ハイタッチをしてお互いをたたえ合うユウキとハープに苦笑する。

 

「ひとまずお疲れさん二人とも。でも次も湧き始めるし、遠距離からの攻撃も警戒しとくように」

「まかせてよ」

 

頷くユウキ。すると隣で何かを思案するようにハープが俯いた。

 

「遠距離、なら……私も、できるよ?」

 

そう言って離れたところにいる敵―――魔法の詠唱に入った騎士に手をかざして数単語程度のスペルを唱えるハープ。そして数秒もたたないうちに騎士の身体に変化が起き始めた。

 

「おち、ろっ!」

 

その声と共に飛行手段である翅を凍結させられた騎士が落下を開始。遥か真下で新たにリポップした騎士に直撃すると両者とも瞬時にポリゴンとなって砕け散った。

 

「今のって氷……だよね?」

「……俺の見間違いでなければ」

 

新たに発覚した熱魔法の奥深さに驚愕していると、ハープが自慢げに説明してくる。

 

「炎も氷も、本質は……熱。だから、こんなの……朝飯前」

「何でサラマンダーがグランドクエストを攻略できなかったのか俺の中で最大の疑問なんだが……」

「あ、あはは……」

 

まあ領主だけしか使えない魔法だから他にも制約とかがあるのだろう。ハープが攻撃に使用した魔法もほとんどが単体用だったし。あとは消費MPが多いとか。

 

「と、それよりキリトは?」

「っ、あそこッ!」

 

指の示すほうを見ると、尖った矢尻のように密な陣形を組んだプレイヤーが数人。

その先頭を飛ぶのはキリトだ。進行を妨げる守護騎士をクラインやエギルが斬り倒し、自身の目の前に構える敵は神速の剣閃で消していく。

 

「おっと、これ以上通すつもりはないぞ」

 

天にかつてないほど近づかれていることを危惧した巨人の騎士が、俺を無視して脇を通り抜けようとする。その進行方向とは逆に剣を走らせて、俺は巨人の首を落とした。

 

今からキリトたちのところへ向かっても、却ってすり寄ってくる敵を増やすだけだろう。

だから俺とユウキ、ハープができることは一つだけだ。

 

「追撃を阻止するぞ!」

 

残って乱戦を繰り広げるプレイヤーたちに檄をとばして、自分も敵を倒すべくさらに飛ぶ。

 

「いけっ! キリトッ――――!!」

 

吹き荒れる敵のエンドフレイム。

その先に世界樹の枝が絡み合ったドームの天蓋、十字に刻まれた門が一瞬だけ見えた。それは長いこと侵入者を拒み下界と天界を仕切っていたシステムの境界線。

 

「―――うおおおおおッ!!」

 

黒衣の妖精はゲートを守る最後の壁となった騎士たちに向かって飛翔していく。

剣を突き立て、光の尾を引いた弾丸は触れるものを消していき―――

 

「全員反転、後退!」

 

白の壁を突き破る黒点を見て取ったサクヤが叫んだ。

その声に合わせて俺とユウキ、ハープを含めた全プレイヤーがドーム底辺部へ退避を始める。

 

ケットシーが操る飛竜の援護を受けて急降下に入るなか、俺はちらりと振り返った。

視線の先には天蓋に剣を突き刺したキリト。そして転送が始まったのか徐々にアバターを透過させていく姿が見える。

 

「……行かなくて、いい……の?」

 

唐突にかけられた言葉に正面を向くきっかけをつくられる。

声の主はハープだ。おそらくキリトを手助けしなくていいのかと聞いているのだろう。

 

「俺もユウキも勇者様じゃないからな」

 

な? とユウキに話を振るとにっこりした笑顔が返ってくる。

 

「お姫様を助け出すのは一人で十分だ、でしょ?」

「さっすがユウキ。分かってるな」

「むぅ……。また、仲間……はずれ?」

 

ふくれっ面を向けるハープに俺とユウキは顔を見合わせると、お互いに小さく噴き出した。

 

「ふふっ、そんなのじゃないよ」

「要するに家族水入らずの時間が大事ってことだ」

「……?」

 

なおも首を傾げるハープに苦笑して、俺は口を開いた。

 

「何はともあれ、この世界での俺たちの役割はこれで終わりだ」

「うんっ!」

「わたしたちの……勝ち」

「お疲れさん、二人とも」

 

満足げに頷くハープとユウキ。その二人と拳をこつんと合わせて、俺はほっと一息つく。

 

「この世界での役割は、な……」

 

そう、この世界での役割はこれで終わりだ。

小さく声に出した言葉は隣を飛ぶ少女たちの耳には届くことなくドーム内部を漂う。

そしてそのまま後ろを飛ぶ妖精たちの翅の音にかき消えていった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「――――――ということです」

「ふむ……」

 

男二人の話し声が照明に照らされた広い室内に響く。

来客用に設えられたその部屋には一目で高級だと判る調度品が配置され、それを彩る装飾品の数々もまた、この部屋の質をさらに高めていた。

 

そして話し会いが終わったのか、男の一人が窓の外を見て呟く。

 

「早く家に帰りたいものだな」

「今夜は降るそうですよ」

 

窓の外では今にも雪が降り出しそうな空模様が広がっている。男の呟きに律儀に反応したのは三十代半ばに見える若い男性。

 

「そういえばご子息―――楓君はどうですか?」

「それが……」

 

他愛もない世間話を始めようと話を振った若い男は、その話題の選出が間違いであったことに遅れながら気付く。しかし話題を変えようにも男、秋風樹のほうは顔を曇らせてすでに口を開いていた。

 

「今日は朝早くから家を出たせいで会ってないのだよ。まあ昼に電話で話したからよかったものの、いかんせん顔を見ないと元気が出ないというか……」

「あ、あの……」

「それに最近は女の子を連れてきていきなり紹介を始めてな。親としては息子の成長が嬉しいのだが同時に―――――む?」

「いえ、そうではなくてですね……」

 

ようやく会話の連射が止まったことに安堵した若い男は苦笑いを浮かべながら自分が聞きたかった内容を問う。

 

「事件後、ご自宅での生活に支障を感じている様子はなかったですか?」

「ああそういうことか」

 

それならそう早く言ってくれとにこやかに笑う樹。

 

「日常生活に支障を感じているふうには見えなかったよ。ただ筋力が落ちたせいか今までみたいに動くにはもう少し時間がかかるってぼやいていたくらいだよ」

「そうですか。それは安心しました」

 

SAO事件後、被害者のその後について把握しておく必要があるため特に後遺症が発生していないことを知った若い男性―――菊岡誠二郎は安堵の息をもらした。

 

そしてこれ以上この場に残ることは良くないと会話から判断した菊岡は撤退を決め込むべくソファから立ち上がった。

 

「では僕はこれで……」

「まあ待ちたまえよ」

 

いつの間に近づかれたのか、がしっと肩を掴まれた菊岡は内心ひやりと汗をかく。

 

「じつはこの間、楓が連れてきた女の子のご家族とお会いしてね。いやいやあれは楽しいひとときだった」

 

ああだったこうだったと、その時のことからそうではない家族旅行のことまで話始めた樹に菊岡は確信してしまう。

 

このままではあと数時間、家族の仲睦まじい話を聞かされることになると。

 

「それでだな菊岡君」

 

そして関係ない人からすれば苦痛の時間が始まろうとしたその時。

 

「――――ん?」

 

樹の身に着けたスーツのポケットから携帯端末と思われる呼び出し音が鳴り始めた。

せっかくいいところで、と会話を中断されたことにむっとした樹だったが、表示される通話相手を見た途端に柔らかい表情になる。

 

「楓、どうかしたか?」

『もしもし父さん、今話す時間ってある?』

「ああいくらでもあるぞ! 今菊岡君とも楓のことを話していてな……」

 

いやないだろ。あんた警備会社の社長だろ!仕事しろよ! などという菊岡の心の声は決して届かない。いや届いたら一体どうなってしまうか。

若干身震いした菊岡はひとまず地獄の時間から逃げられそうだ、と樹の通話先にいる楓に内心感謝した。

 

『レクトの警備を担当していたのって父さんの会社だよね?』

「レクト? ああもちろんそうだが」

『ちょっと調べてもらいたいことがあって―――』

 

しかし感謝もつかの間、聞き捨てならない言葉を聞きとった菊岡の身体が固まる。

 

「ん? 今レクトって聞こえたような……」

 

菊岡誠二郎。この部屋にもうしばらく滞在することが決まった瞬間であった。

だが頭を抱える菊岡を置いて親子の会話は端末を通して進んでいく。

 

『須郷伸之って人がレクトに勤めているはずなんだけど、その人の出退勤のデータとかあるかな?』

 




須郷終了のお知らせ


次回でALO編完結です。
3年にもわたる長丁場でしたがついに……。

最後までよろしくお願いします!


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37話 終わりは始まりをつくるために

今までで一番文字数が多くなりました。

長くて眠くなるかもしれないのでコーヒー片手にお願いします。

それではALO編最終話です! どうぞ!




日が落ち、点々と規則正しく伸びる街灯が真冬の闇夜を僅かに照らしていた。

突き刺さるような冷たい空気があたりを包むのは、季節に従って降り始めた雪のせいだけではない。

 

暗く厚い雲に隠れた月が少しずつ顔を覗かせることにより、その冷気の正体が露わになっていく。

 

「何でだよ……」

 

キーの高い、粘り気のある声が震えて口にする言葉は疑問。

だがそれは俺に向けられたものではなかった。カチカチと歯を鳴らしながら男は虚空にぶつぶつ呪詛を吐き続ける。

 

「いい加減あきらめろ須郷。盗み出した世界でさえ、お前は王になれなかった」

 

俺の言葉がトリガーとなったのか、現実逃避に走り始めていた呪詛がピタリと止む。

焦点が外れた瞳がかろうじてこちらに向いたことを確認した俺はさらに言葉を重ねた。

 

「それにあの男、茅場はどんなときでも逃げなかったぞ?」

「……その眼だよ」

 

月明かりに照らされた須郷の姿が小刻みに震える。

 

「その眼が気に食わねぇんだよ! 何でも悟ったようなその眼がッ!!」

 

脱色した髪の毛を掻き毟りながら、須郷は右手に握ったナイフを振り回す。

そしてその切っ先をこちらに向けて咆哮を飛ばしてきた。

 

「茅場も、あの小僧もだッ! あいつらさえいなければ俺は……神にだってなれていたんだ!!」

「盗んだ世界でふんぞり返ることに意味なんてねえよ。お前は痩せこけた安い自尊心で自滅した―――偽りの王だ」

「殺すッ!!」

 

細い目を限界まで見開き、狂ったように奇声を上げて須郷は俺を睨み付けてくる。

 

「お前を殺したら次はあの小僧だッ! その次はお前と一緒にいたあの女を殺してやる!お前の死体の前でたっぷり痛めつけてから――――」

 

狂人の言葉が終わる前に、俺は駆けだしていた。

あの世界で繰り出す目にもとまらぬ速さ、とまでいかなくとも長年培った重心移動と足運びで瞬時に須郷の懐に入り込み、そのままの勢いで掌底を叩きこむ。

 

「ぐゥ!!」

 

ひしゃげた声が上がるのを聞き流して、今度はサバイバルナイフを持つ須郷の右腕伸ばして肘の部分に膝蹴り。

 

「ギャアアアアァァァ!?」

 

ゴキッ!と鈍い音とともに反対に曲がった狂人の右腕を一瞥して回し蹴りを腹部にぶつける。遠心力を得た回転運動は移動を妨げる男を巻き込むと、その身体をふき飛ばした。

 

「あぁぁ……腕がァァ!! い、痛いィィ!?」

 

全身を襲う痛みに耐えきれず須郷は体をよじらせていた。回し蹴りの勢いで駐車されたバンに叩きつけられてなお意識を保っているのは、強靭な精神力ではなく臨界点を超えた痛みに脳が気絶さえ指示できないせいだろう。

 

そんなもがく姿は今の俺に不快感しか生まない。

SAO未帰還者はこんな屑に時間を奪われたのだ。その事実が俺の内面にどうしようもないほどの怒りを湧きあがらせる。

 

俺は須郷が落としたナイフを拾い上げて柄を握った。

 

「お前だけは絶対に許さない」

 

不意に数秒前の須郷の言葉が甦る。

俺を殺した後はキリト、ユウキを殺す―――。

 

こんな脆弱な刃を振り回してこの男は、俺の大切な人たちを殺すと吐き捨てたのだ。

 

 

あの世界で握った剣は重かった。そして命を預けるに値する強さで俺を生かしてくれた。

だがこのナイフは軽すぎる。持ち主の穢れた欲望と醜い殺意しか乗せない凶刃に、世界を生きる重さなど宿るものか。

 

「ァァァ……うぅあァァ……」

 

メガネの奥で血走った瞳が俺を見つめていた。

恐怖を顔面に浮かばせた罪人は関節の外れた右腕をかばいながら這いずる。ナイフを持った死神の断罪から逃れようと必死に身体を揺らす。

 

「逃げるな」

「ィィィ! うヒィ!? ヒィィィ!!」

 

甲高い悲鳴を上げる須郷との距離を徐々に縮めていき、俺は呟く。

 

「これで終わりだ」

 

そして月の光を受けて鈍く輝いたナイフを振り上げて―――

 

「ヒィィィィィ……」

 

須郷の眼球が裏返ったことを確認してから俺はナイフを握る手を開いた。

 

「お前なんか百回殺しても足りないくらいだ」

 

意識を失ってだらりと伸びた須郷に怒りを込めた言葉をぶつける。

この男のやったことはあの世界に生きた全ての人を冒涜する許されざる行いだ。

この場で殺してすべてを終わらせた方が後腐れもない。

 

「だけどお前を殺してそれで決着なんて絶対に彼らが許さない」

 

あらかじめ用意していた拘束具で両腕を縛るとその体を駐車場に転がす。

 

「一生、あの世界の重さに魘されてろ」

 

俺は須郷に背を向けて駐車場から離れるために歩き始めた。

 

 

 

「終わったか?」

「少し時間がかかったけどなんとかね」

 

ゆっくりと深呼吸をして精神を落ち着かせる。肺に取り込まれる冬の空気が熱を持った身体を冷ましていくことに心地よさを感じながら、俺は待機していた車に乗り込んだ。

事態の決着を確認した樹は安堵の表情を見せるとすぐに無線を繋いだ。

 

「私だ。駐車場内で倒れている男の確保を頼む」

 

そして無線を切って改めて俺のほうを見ると途端に顔を青くした。

 

「ケガをしてるじゃないか! 早く応急処置を」

「大丈夫だよ父さん。見た目ほどひどくないし」

 

ぱっくりと切れた袖からのぞく腕が、赤く染まっているのを見て俺は苦笑した。

過剰防衛を考慮してわざと一撃もらったが軽く皮膚が裂けた程度だ。内臓損傷と肘の脱臼まで負った須郷と比べるまでもない。

 

「それにこれだけは誰にも任せたくなかった。俺の手でけじめをつけるべきだって……そう思ったから」

 

ぼんやりと照らされる駐車場と降り続ける雪。その景色の中に、自転車に跨った黒ずくめの少年が加わるのを見て、俺は小さく笑みを浮かべた。

 

「安心してお姫様に会って来い」

「楓、何か言ったか?!」

「ううん、何でもないよ」

 

とにかく治療を! と慌てる樹に大丈夫だと言い聞かせながら、やってくる疲労感を紛らわせるために、窓の外へ視線を向けた。

 

「……もう少しだけ、俺は力を借りるぞ?」

 

窓の向こうに見えた短剣使い。それはきっと疲労と願望が混ざった幻なのだろう。

だが剣士は苦笑しながらも頷いてくれた。

 

細見の黒剣を腰に差した少女の元へ歩き出す赤髪の少年。

その姿が遠ざかり、見えなくなるまで、俺はずっと背中を見送り続けた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

午前の講義から解放された生徒たちによって賑わうカフェテリア。

その奥まった丸テーブルに陣取った少女が紙パックに入ったジュースをストローで男らしく吸い上げる。

 

同じくテーブルに据えられた椅子に腰を掛ける俺はその様子に呆れて口を開いた。

 

「……もう少し静かに飲めよ」

「だってさぁ……キリトのやつ、あんなにくっついて……」

「そうですよリズ……里香さん、一応女の子なんですし」

「一応ってなによ。普通に女の子してるっての」

 

シリカこと綾野圭子の言葉に仏頂面で反応を返したリズ――篠崎 里香は深いため息を吐いた。

 

「けしからんなあもう、学校であんな……」

「まああれくらい目をつぶってやれって」

 

視線の先には階下に広がる中庭。

そして備え付けられたベンチに肩を触れ合わせて座る男子生徒と女子生徒がいる。

 

「あとシリカ、お前も人のこと言えないくらいにはキリトを見てたよな」

「ちょ、ちょっとカエデさん!」

 

突如会話の矛先が自分に向いたことに動揺するシリカ。それを今度は面白がった顔をしたリズが攻めはじめる。

 

「ほほう……? それはそれは」

「うぐぐ……。だって仕方ないじゃないですか。<一か月休戦協定>で二人には不干渉ってことになってるんですし」

「そのことについては私も心底後悔してるんだけどね」

「言い出したのリズさんですよね!?」

 

がたんと音がたつ勢いでシリカは椅子から立ち上がる。だが一斉にこちらのほうを向いた生徒たちの視線に気が付くと、顔を真っ赤にしていそいそと椅子に座りなおした。

 

「まったくリズさんは甘いんですよ」

 

ぼそりと呟いて恥ずかしさから俯いて缶ジュースを口に運ぶ。

 

「あはは、悪かったってば。でもキリトはともかく、アスナはようやくこっちの世界で落ち着いてきたんだしこのくらいはいいかなって」

「それはそうですけど……」

 

同じことを思っていたのかしぶしぶとシリカもリズの言葉に同意する。そんな女同士の友情に感心したままでいると、今度はにやりと意地の悪い笑みを浮かべたリズと目が合った。

 

「で、あんたはどうなのよ」

「ん?」

「あんたがこの時間あの子といないなんて珍しいじゃない」

 

喧嘩でもしたの?と言いながらリズがこちらを見てくる。あとシリカも若干興味ありげに耳を立てているみたいだが別にそんなことないからな。

 

「すぐに来るって連絡があった。……と噂をすれば―――」

 

入口の方に視線をやると、キョロキョロあたりを見回す黒髪の少女がいた。頭に巻いたリボンを揺らして必死にこちらを捜す少女に愛らしさを感じながら、俺は手を振って場所を伝える。

 

「おーい、こっちだユウキ」

 

途端に顔をぱっと明るくさせて、ユウキがぱたぱたと近寄ってくる。

 

「ごめんカエデ、待たせちゃったかな……?」

「俺も今来たところだから平気だよ」

 

嘘つけ!という二つの視線が飛んでくるが華麗にスルーして、俺は隣にちょこんと座ったユウキの頭をわしゃわしゃとなでる。

 

「もう、くすぐったいよカエデ」

「でもこれやらないと午後の講義で調子出ないから」

「なら仕方ないね……えへへ」

 

じゃあボクも、とユウキはそのまま頭をぽふっと俺の肩に預けてくる。右腕にぎゅっと抱きついて気持ちよさそうに目を細めるユウキ。そんな彼女に得も言われぬ幸福を感じていると、顔をしかめるリズとシリカが視界に入った。

 

「どうした二人とも」

「はぁ……あんたたち毎回それやって飽きないの?」

「あ、あはは……」

 

なんだそんなことか。

 

「ユウキが俺に愛想をつかさない限りは」

「カエデがボクに愛想をつかさない限りは」

 

同時に発せられた言葉にリズとシリカはなぜか頭を抱えていた。そしてシリカに軽く耳打ちするとリズは立ち上がる。

 

「まあいいわ。なら私たちはこれで」

「え、なんで?」

「せっかくなんだからリズとシリカもお昼いっしょに食べようよ」

「えっとそうしたいのは山々なんですけど……」

 

言いづらそうにシリカが口をもごもごさせる。その様子に首を傾げていると深いため息とともにリズがシリカに助け舟を出した。

 

「あんたらここのカフェテリアで一番売れてる飲み物知ってる?」

「いきなりなんだよ。……オレンジとかりんごのジュースか?」

「カエデ、炭酸系のジュースかもしれないよ?」

「……それを素で言ってるあんたら二人が恐ろしいんだけど」

 

まあ周りを見てみなさい、とだけ言い残してリズはそのまま去って行った。シリカもこちらにぺこりと一礼するとその後を追いかける。

 

「一体どうしたんだろうあの二人」

「まあ後で聞いてみればいいんじゃないか?」

「それもそうだね。とりあえずご飯にしよっか」

 

俺の言葉に頷くとユウキはテーブルに置いた鞄から大小二つの容器を取り出す。

そして大きいほうを俺の前に置くと蓋を開けた。

 

「おお、これってあのときの……」

 

色とりどりのおかずが並ぶ弁当箱、そのどれもが一目見ただけで丁寧に作られているのがわかる。視覚と嗅覚に食欲を刺激されて、待ちきれずにそのうちの一つをつまむと口に運んだ。

 

「間違いない。向こうで作ってくれた弁当だ」

「もう、お行儀悪いってば」

 

言いつつ、ユウキは笑顔だった。

続いて卵焼きを自分の箸で挟んで、それをこちらに伸ばしてくる。

 

「はい、あーん」

 

誘われるがままに口を開いて、卵焼きを受け取るとそのまま咀嚼。ほんのりとした甘さが口の中に広がっていく。

 

「甘いのとしょっぱいので悩んだけど今日は甘めにしてみたんだ。……どうかな?」

「すごく美味しい。ずっと食べていたいくらいだ」

 

確実な上達を見せる料理の腕に素直な言葉を伝えると、ユウキははにかんだ。

 

「俺もお返しで……はい、どうぞ」

 

同じく卵焼きをつまむとユウキの口に近づけていく。

俺の行動に一瞬だけきょとんとした表情を見せたユウキだが、すぐに察したのか照れ顔で小さく口をあける。

 

「んっ、はむっ……。えへへ、なんだかいつもよりずっと美味しいよ」

「俺もそう感じてる。ユウキのおかげだな」

「もう、カエデったら……。それじゃあもう一度確かめてみる?」

 

片目をつむってにっこり笑うユウキ。

春の柔らかい光に輝くその魅力的な提案に即答した俺は、昼休みがもっと長ければなあという今年何度目かわからない願望をこのときも抱くのだった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

現実と仮想世界の両方で完全に決着がついた雪夜。

あの日を境に俺たちSAOサバイバーとそれを取り巻く環境は急激に変わり始めた。まずは須郷のことだが、親父の指示により駆けつけた警備員が病院の駐車場で身柄を確保。現状証拠も立証され、殺人未遂、傷害罪の疑いで逮捕された。その後も取り調べで足掻きに足掻いたらしいが、次々に明らかになる仮想世界での非人道的実験が決め手となり、今では判決から逃れるための精神鑑定を申請しているらしい。

 

そして事件が終わってから聞かされたフルダイブ技術による洗脳。妖精の世界で須郷が行った研究は初代ナーヴギア以外で実現不可能な技術と言う結論が出され、すぐに対策も講じられた。さらに不幸中の幸いというべきか、未帰還者に人体実験中の記憶が残っていなかったみたいで全員が快方に向かっているとのこと。

 

しかしすべてが丸く収まったわけではない。

ALOをはじめとしたVR技術は世間に大きく批判され衰退、その廃絶も検討されることとなったのだ。VR分野に手を出していた企業の多くは倒産や縮小を余儀なくされ、ALOの総元締めでありアスナの父親がCEOを務めるレクトも壊滅的な被害を被った。

 

だがそんな風前の灯のVR分野に再び息吹を与えるきっかけを作ったのが、あの茅場晶彦ということに世界は気付いていない。糾弾も劣勢も力技で跳ね返す天才の切り札―――

 

「―――カエデ。到着だって……」

 

肩を揺すられて、深い思考から浮かび上がった俺は、呆けたままの顔をユウキに向けた。

 

「悪い悪い。ぼーっとしてた」

「もしかして疲れてる?」

「いや授業中に適度に寝てたから身体の方はばっちり」

「……授業中に寝るのはよくないよ?」

 

向けられるジト目を躱して小さく言い返す。

 

「だって今日は放課後からが本番っていうか……」

「まあボクもすごく楽しみにしてるから気持ちは分かるけどね」

 

めっ!と人差し指で額を軽く突いてくるユウキに俺は苦笑を浮かべた。

それと送迎してくれた親父の秘書さんから早く降りろというオーラを感じ取ったので慌てて車から降りる。

 

「相変わらず無骨というか無愛想というか」

「男らしい字だよね」

 

目の前のドアに掛けられたプレート。

ひと筆で力強く書かれた文字は〈本日貸切〉という簡素なもの。その豪快さは現実でも健在といったところか。

 

「キリトにアスナ、あとリーファは遅れて到着させるように調整したみたいだから存分に驚かせてやろうぜ」

「ボク、クラッカー持ってきたんだ」

「じゃあ開幕先制攻撃だな」

 

にやっと笑い合って、俺は木組みの黒いドアを押し開けた。

 

 

 

<アインクラッド攻略記念パーティー>と題されたオフ会を企画したのはリズとエギルとキリトだったのだが、気が付けば俺とユウキが主催者の仲間入りを果たしていた。

会場準備と参加者への招待状の送付など仕事は多く、数日前から悟られないように動き出すのは骨が折れたがキリトたちの驚いた顔を見ることができたので良しとする。

 

そして主役であるキリトのスピーチや全員の簡単な自己紹介が終わって料理が運び込まれると、最初のしみじみとした雰囲気から一転して底ぬけた明るさが弾ける宴となった。

 

「なかなかいいスピーチだったぞキリト」

「大きなお世話だ。マスター、バーボンをロックで」

 

手荒い祝福と親密すぎる祝福の両方を浴びてへろへろになったキリトに軽口を叩く。

アルコールのオーダーを店主に告げるとキリトは俺の隣に座った。

 

「それとくどいかもしれないけど、改めてありがとう」

「仲間のピンチだ、助けるのは当たり前……と、このやり取りも何回目か分からんな」

 

拳の代わりに飲み物が入ったグラスを互いにカチンとぶつける。すると直後に琥珀色の液体を満たしたグラスがテーブルを滑り出てきてキリトは目を丸くした。恐る恐るグラスに顔を近づけて……

 

「……烏龍茶だな」

「当たり前だろ」

 

してやったりと笑うエギルにキリトが悔しそうに唇を曲げていると、スーツ姿の男が座ってくる。

 

「よお、お前らも楽しんでるか? エギル、俺には本物を」

「おいおい、いいのかよ。この後会社に戻るんだろう」

「残業なんて飲まずにやってられるかっての。それにしても……いいねぇ……」

 

女性陣を目で追って、だらしなく鼻の下を伸ばす男――クラインに俺たちはかぶりを振ってため息をついた。どうやら悪趣味なバンダナと女好きという欠点は変わらずのようだ。

 

「まあ女好きのおっさんは放っておくとして……。エギル、キリト。茅場から受け取ったと言ってた<世界の種子>とやらはどうなった?」

「ああそれなんだけど――」

「すげえもんさ。今じゃ世界中で種が芽吹いている」

 

キリトの言葉を遮ってエギルは愉快そうに笑った。この巨漢が笑みを浮かべるとやはり下手なボスモンスターよりも迫力がある気が……。そんな言葉を何とか飲み込んで、俺はその<世界の種子>の盛況ぶりに改めて驚嘆した。

 

ちなみにVR分野を騒がせた茅場晶彦についてだが……。

アインクラッド七十五層での決戦後、自らその命を絶っていたということが明らかになった。だがその死因が異常で自らの脳に大規模のスキャニングをかけて死んだらしい。あいつは今も電脳世界を旅しているはずだ―――と苦笑しながら話すキリトは、妖精の世界で茅場の意識と会話したことを俺に教えてくれた。

 

そんな天才ゲームデザイナーがキリトに託したものが<世界の種子>だった。

<ザ・シード>と名付けられた完全フリーを謳うこのソフトは言ってしまえば仮想世界を自由に創造することができるプログラムパッケージだ。莫大なライセンス料とVR技術への批判を許容できる企業だけが進出する分野を、あの男は誰でも手軽に使うことができるように整えたのである。

 

こうして世界に放たれた種子は衰退と廃絶の危機にさらされたVR技術をいとも簡単に生き返らせてしまったのだ。

 

「今じゃ仮想世界を一つのデータだけで歩くことができるシステムも開発されているらしいな」

「ああ、新生ALOもそのシステムの対象に入ったそうだ」

「これでプレイヤーも資金もがっぽり手に入るって、運営の連中興奮してたぞ」

「上手くいけばいいけどな」

 

そんな二人との会話を経て、俺は周りに聞こえぬように声を潜めた。

 

「そういえば二次会に<あの城>は間に合うのか?」

「ギリギリだけど何とかな」

 

エギルの言葉に、俺とキリトは顔を見合わせて頷いた。

新生ALOを運営する企業に引き渡された旧SAOサーバー。初期化されたカーディナル・システムの奥底にはあるものが眠って―――

 

「こらぁ~、カエデ~」

 

不意に暗くなる視界。

その柔らかい感触が手だと気付くのに時間はかからなかった。

 

「えへへぇ~。だぁれだ?」

「……ユウキ、まさか酔ってるのか?」

「酔ってないよぉ、これはジュースですから~。それと正解したのでぇ……」

 

えいっ、と言いながらこちらに飛びついて頬ずりをしてくる。いつもと違う間延びした声とほんのり火照った顔。そしてわずかに漂わせるアルコールの香りがユウキを酔わせていることを証明していた。

 

「……おい、エギル」

「1パーセント未満だから大丈夫だと思ったが……。こりゃ相当弱いな」

 

これほどアルコールに弱いことを想定していなかったのか、エギルはバツが悪そうに顔をそむけた。突然発覚した驚愕―――俺にとって―――の事実に、俺は顔を引き攣らせてしまう。

 

「むぅ~カエデぇ、もっと構ってよぉ」

「はいはい、とりあえず水を飲もうな」

 

頬ずりからの上目づかいにかなり意志がぐらつきかけたが辛うじて自制。

水を用意するようにエギルに目配せすると、ほどなくしてグラスに注がれたミネラルウォーターが運ばれてきた。

 

「ほらこれでも飲んで酔いを醒ませ」

「え~。カエデが入れてくれなきゃやだ~」

 

うん、この子酒癖相当悪いな。ノンアルコールを謳った飲み物でも今後は要注意せねばと脳内会議で満場一致させて、苦笑したエギルから水差しを受け取る。

 

「ほら、ちゃんと俺が入れたぞ」

 

改めて水を注いだグラスをユウキの前に置く。しかし何に納得がいかなかったのか、あからさまにため息を吐くとユウキは首を振った。

 

「ちがうよカエデぇ~」

 

そうして急に立ち上がり、困惑する俺を見てにんまり笑うと。

 

「お酌はこうやってぇ~」

 

グラスに入った水を口に含ませて―――

 

「ちょ、ちょっとユウ――――んむっ……!?」

 

俺の唇に押し当ててきた。

とっさのことで反応することができなかった俺は抵抗する間もなく、水を蓄えたその柔らかさを無防備に受け止めることになる。

 

「んちゅ……っ、んっ……ちゅっ、ちゅぷ……っ」

「ユウ――ん……くっ、は……ちゅぷっ」

 

情けない声が漏れながらも目の前の唇から口内に冷たい液体が送られてくる。ただの水がこれほどに甘美な味に変化しているのはなぜだろう。そんなどうでもいい疑問が浮かんでくるくらいに、目の前の光景は俺の思考力を低下させていた。

 

「んっ、ちゅう……ぴちゃ…ちゅっ」

 

水のことなんてすっかり忘れ、口内に含ませた水分が無くなってもユウキはキスをやめようとしない。それどころか身体を密着させて後ろに腕を回そうとして―――

 

「ふぁあ……」

 

突然俺のほうに倒れこんだ。

 

「ユ、ユウキ!?」

 

慌ててその身体を受け止めると俺は声をかけた。

 

「すぅ……」

 

顔を赤くさせて目を回すユウキ。

そしてその反応が寝息となって返ってくることで、俺はこの酔っ払いを何とか落ち着かせることができたのだと遅くなって気付いた。だがこれで事態が解決したとは言えない。

 

「……とりあえず心当たりのあるやつ。俺とお話しようか」

 

俺の渾身の笑顔とぶつかった女性陣が急に静まり返る。ユウキが俺のところに来た時もこっそり様子を窺っていたし、やはり犯人はあなたたちだったか。

 

「大丈夫、まだ二次会まで時間があるから……平気ですよね?」

 

ユウキを近くのソファまで運ぶと音もなく振り返る。身をすくませる女性陣に再び微笑みかけると俺はゆっくり歩を進めた。

 

それと口笛を吹いて煽ってたそこのバンダナサラリーマンと巨漢、てめえらもだ。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

白く長い髪をなびかせて、赤の妖精が漆黒に染まる夜空を翔ける。

現実世界で行われているであろうオフ会を天海舞琴――ハープは適当な理由をつけて辞退していた。

 

空を切って伝わってくる冷たい風が心地いい。

ALOを運営していた企業が変わり、名実ともに生まれ変わった新しい世界はハープに一抹の不安を与えていたのだが、それもすぐに消え去り、昂揚感と期待を次々に与えてくる。

 

「……っ!」

 

だがそれと同じくらい後悔が押し寄せてきたことを感じて、ハープはさらに高度をあげた。

 

モーティマーやユージーンの前で言いかけたように自分はカエデに特別な感情を抱いている。オフ会の誘いが来たときは飛び上がるくらい嬉しかった。だけどカエデの隣に立つ少女が眩しく映り、彼らは自分の想像がつかないほど深い絆で結ばれているのだと理解した瞬間、笑顔を顔に張り付けて断ってしまった。

 

自分には剣の世界で生きていたという記憶がない。

そんな超えることができない壁がそびえ立ち、あの大決戦以来、無意識のうちに一歩引いてしまうようになった。

 

我ながら損な性格だ、そんな風に自らを嘲笑する。

すると聞きたかったあの声が耳に入ってきて、驚いたハープは声のほうに身体を向けた。

 

「オフ会に来ないと思えば……こんなところで何してたんだ?」

「……一人で、空を漫喫……してた」

「…………そうか」

 

何かを察したように、カエデはそれ以上聞いてこない。その優しさが胸にじんわりと染み込むと同時に毒のように浸透していく。

 

このままではこの気持ちが溢れ出てしまう。そしてそれは心優しい彼を困らせることになるだろう。だから…………

 

「じゃあ、私……帰る、ね」

 

表情から心の内を悟られぬよう、ハープは背を向けると呟いた。

夜の世界に光る翅に指示を出しこの場から逃げるように加速に入って―――

 

「―――!?」

 

突然、自分の加速を上回る運動に身体を引っ張られた。

その正体がカエデだと気付くのと同時に、彼が自分をどこかへ連れて行きたいのだと悟る。

 

有無を言わせない強烈なスピードで、横切る雲の中を突き進んでいくと大きなシルエットがハープの目に映った。

 

「え……?」

 

しかしその形は、ハープがこの世界で見てきたどんなものとも一致しない。月のように大きく、確かな重量を感じさせる雲の向こうにあるなにか。雲中からでもぼんやり分かる形状は円ではない。それどころか三角形などの尖った部分をもっているではないか。影はどんどんその面積を増やしていくと―――。

 

「っ!」

 

雲を抜けたハープの前に現れたのは巨大な円錐。

アルンとは比べ物にならない積層構造をもったそれが目に入った途端、ハープの脳裏に電撃的な啓示が降りてきた。

 

「…………城」

「ご名答」

 

カエデの顔を見ると彼は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「浮遊城アインクラッド。かつて俺たちが命をかけて戦い抜いた伝説の城だ」

 

ゆっくりこちらへ向かってくる天空の城は、ハープが辿り着けないと決めつけていた場所。あの世界で生きた人たちの隣に立つには絶対に避けて通れない場所。それが今、ハープの目の前に現れたのだ。

 

「―――なあハープ」

 

ハープの隣を飛んでいた赤髪の短剣使いは一歩前に出ると声をかけてくる。

 

「以前言ってくれたよな? 俺たちのことが好きだって」

 

そして手を差し出してくるとカエデはハープに笑いかけた。

 

「俺たちも君のことが好きだ。だからこれからも一緒にいてくれ。一緒にクエストに挑んで、一緒に―――あの城も冒険しよう」

「……あ……」

 

その言葉はハープの抑えていた気持ちを決壊させるのに十分だった。

思わず声をつまらせて、泣きそうになりながらもカエデの顔を見つめる。胸の中に存在していたモヤモヤが消え去った今、ハープを押さえつけるものは何もない。

 

離れたところで様々な輝きを放つ翅が一斉に城へ飛翔していくのが目に入る。サラマンダーにシルフ、ケットシーはもちろん、すべての種族が我先にと翅を震わせる光景はハープの心を躍らせた。

 

「もう、カエデもハープも遅いってば!」

 

視線を向けるとチュニックとロングスカートに黒剣を吊るした少女が、こちらに飛んできていた。

 

「ほら二人とも、早く早く!」

「よーし、それじゃあ少し飛ばしますか」

 

この二人の隣に立つにはまだまだ時間がかかる。そしてその道なりは遠く険しい。だが彼らと共に冒険を続ければ必ずたどり着けるはずだ。赤髪の剣士と紫髪の剣士、その両方から差し出された手を握るとハープは力強く頷いた。

 

「うん……!」

 

天空を漂う巨大な城に飛び立つ小さな妖精たち。

雲に薄く覆われた月よりも美しい光の群れは、生まれ変わった世界を祝福する輝きとなって夜空を彩った。

 

 

 

 

おしり

おわり

 




ALO編 これにて完結です。
3年に渡る連載でしたが、最後までついて来てくださった読者様に感謝を申し上げます。
本当にありがとうございました!

最後にスポットを当てたハープは今後もちょくちょく出てくる予定です。
元々ユージーン戦の際に手持無沙汰になるカエデの相手役としてその場限りの登場のつもりだったんですが、気が付くとALO編でそこそこ重要なキャラになっていたという(笑)

今後はこれまで投稿してきた話を修正しながら新章を考えていきます。


相変わらずの遅筆ですが今後もお付き合いいただければと思います。
改めてありがとうございました!


※ハープの現実での名前は天海琴音(あまみ ことね)でしたが、これだとゲーム作品のほうに出てくるプレイヤー<フィリア>とリアルネームが重複するとのご指摘をいただきました。(読みは たけみや ことね)

これでは読者様を困惑させる可能性があるので名前を天海舞琴(あまみ まこと)
へ勝手ながら変更させていただきます。

お騒がせして申し訳ありませんでした。




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GGO編
38話 失考者の選択


8か月もお待たせしてしまいましたがGGO編開始です。
よろしくお願いします。


岩と砂で構成された景色と点在する荒れ果てたビル群。

砂混じりの乾いた風が走り抜ける荒野には、それら旧時代の遺物を除いて生命の営みは残っていない。そして地平線へ向かって動いていく太陽と黄昏が、効率的とは言えない待ち伏せの長さを物語っていた。

 

「ったく、いつまで待たせんだよ……。おいダインよぉ、やっぱガセネタなんじゃねえのかよ?」

「いいや、ターゲットたちは必ずこのルートを通っていく。事前のチェックもしたんだぞ。大方Mobの湧きが良かったんだろ、心配するなって」

 

ダインと呼ばれた大柄な男は肩から下げたアサルトライフルを撫でながら、声をあげた男を宥める。

 

「でもよぉ」

「……彼らはこの荒野を抜けて街まで戻るよ」

 

なおも不満そうに口を尖らせる男を遮って、俺は口を開いた。

 

「へぇ、随分自信があるみたいだな」

 

俺の断言がそんなに珍しかったのか一人を除いてパーティー全員の視線が俺に集中する。

期待と疑問が入り混じったそれをこの世界で浴びることは今日で最後になるのだろう。そう考えれば少し感慨深くもある。

 

「ダインの予想通り、何もしなくてもMob狩りを終えて連中がここを通る可能性は高い。加えてそれ以外で街に入るルートには別のスコードロンに情報を流しておいたからな。狩りを終えてホクホク顔のパーティーがのんびり街に向かって歩いてくるかもって」

 

眼下に広がる荒野に視線は向けたまま、パーティーメンバーに構うことなくさらに続ける。

 

「そして待ち伏せの情報を本日のターゲットの皆さんにそれとなく流したってわけ。今日はプレイヤー狩りが多いからこの荒野以外から街に入るのはお勧めしないって」

「……お前ほんとエグイことするよな」

「プレイヤーの努力を掠め取るこの活動スタイルのほうがエグイと思うけど?」

「くくっ、違いねぇな」

 

にこりと笑って皮肉で締めくくる俺に、ダインは悪びれる様子もなく緩んだ笑みを返す。

そのやりとりを見て不満そうな顔をしていた男も納得したのかそれ以上は追及してこなくなった。

 

「決まった時間に決まった狩り。Mobみたいなルーチンに明け暮れるあいつらは俺たち対人スコードロンには絶好の得物ってわけだ。それでも止めねえあいつらにはプライドってのがないのかねぇ」

 

緩みきった表情のまま賢しらに語るダインに前衛の男も下劣な笑いで応える。

俺から言わせてみればこういうハイエナ的プレイでしか対人スコードロンという肩書きを満たせないあんたらのほうがよっぽどプライドを持ち合わせていないと見える。

 

しかし募っていく苛立ちを今更口に出しても詮無きこと。これからの戦闘を円滑に進めるためにパーティー内の不和は生み出さない方がいい。そんな結論に至った俺は作り笑いでダインたちのやり取りを流した。

 

「いつものことだから気にしない方がいいぞ。ああいうのは受け流すってのが定石だ」

「……分かってる」

 

かろうじて隣に聞こえる程度の声量。

それを受け取った隣人の狙撃者は、不愉快を覆い隠すように巻いたマフラーへ顔を沈めた。

 

「それよりも予定通りに進んでいるの? 話を聞く限りだと今日の戦闘も平凡なものになりそうだけど」

「ご心配には及ばないさ。ダインたちには言ってないけど今日のターゲットにはもう一つ情報を伝えておいた」

 

狙撃者は黙ったまま。しかし続きを促す表情を巻いたマフラーの向こうに感じ取った俺は肩をすくめた。

 

「今日のMob狩りには護衛を雇った方がいいと教えた。例えば―――」

「二人して何話してんだぁ? おじさんも仲間に入れてくれよぉ」

 

掩蔽物の陰から出ないために四つんばいで、粘着質な声と共ににやけ顔の男がすり寄ってくる。それだけ見れば変質者として彼を断定し、正義の名のもとに銃弾をお見舞いしてやるところだが、不本意ながら彼はパーティーメンバーだ。本当に遺憾であるが、俺も狙撃者も引きつった表情のまま彼の接近を許した。

 

「大したことは話してないよ。単なる世間話みたいなもの」

「そっか。まあこんなむさ苦しい集団だし、女の子同士談笑し合ってたほうがリラックスできるってか」

「……だから俺は男だって」

「へへっ、分かってるって。しかしいつ見ても女にしか思えないけどなぁ」

 

舌なめずりまでして茶化す男に嘆息して、俺はメニューウインドウを操作した。

そしてウインドウの向こうに表示されるアバターを改めて確認すると――再びため息が出てしまった。

 

「ほんと、なんでこうなったのか……」

 

システムの鏡に映るその姿は剣と魔法の世界で生きる剣士の少年とはかけ離れた――と言っても周りから見れば中性的だと評される――姿だった。

 

思わず守らなくては、と感じさせる華奢な体躯。風に流れる艶やかな臙脂色の長髪。

柔らかい瞳、長い睫、整った鼻筋と淡雪のような肌……などなど、女性らしさをこれでもかと詰め込んだ、というよりもはや可憐な少女という言葉以外で表現不可能なアバターがそこには映し出されていた。

 

「M九〇〇〇番系だったか? おじさんもそのくらいかわいいアバターだったらなぁ」

「…………銃の世界に一体何を求めてるんだよ」

 

呆れた声を絞り出した俺にひゃひゃひゃと男は笑う。

 

「シノっちも俺らよりカエデと話すほうが気が楽だろ」

 

シノっちと呼ばれた狙撃者は、唐突に振られた話に顔を僅かに動かして頷く。面倒くさいのかどうやら会話に混ざる気はないようだ。しかし反応が返ってきたことに気をよくしたのか、男はさらにニッと笑いかけ、会話を続ける。

 

「まあ、そりゃそうか。……それに今回の狩りは<冥界の女神>様と<緋色の魔女>様がついているんだ。ほんと気楽なもんだよ」

「そのあだ名ほんと不本意なんだけど。そもそも俺は男だって何度言えば……」

「まあいいじゃねえか。その容姿が有利に働いた場面だって少なからずあっただろ」

「……そりゃまあ…………」

 

言いよどむくらいには心当たりがある。何より隣に腰掛けるシノっち、もといシノンと知り合えたのはこのアバターによるところが大きいだろう。

 

「ほらやっぱり心当たりがあるんじゃねえか。ほんと羨ましいなぁ。―――そういやシノっちさぁ、今日このあと時間ある? 俺も狙撃スキルを上げたいから相談に乗ってほしいなーなんて」

 

また始まったか。

この手の、所謂ナンパされる場面はシノンと知り合った頃からたびたび見てきた。そのほとんどはすげなく断られるのだが、ごく稀に相手の提案に乗っかることもある。その理由が―――

 

「……ごめんなさい、ギンロウさん。今日はこのあとリアルのほうで用事があるから……」

 

発せられる高く澄んだ可愛らしい声。

シノンは男の腰に下がる装備品に素早く視線を送ると、逡巡の末に小さく頭を下げた。

要するにある種の品定めである。情報を記憶しておく必要がある相手に限り、提案を呑んで建前上のお茶会に応じる。そこで相手から引き出せるだけ情報を収集するのだ。

 

いつか敵として向き合ったその相手に必殺の一弾を食らわせるために。

 

「そっかぁー、シノっちはリアルじゃ学生さんだっけ? 課題とかレポートかな?」

「……えぇ、まあ……」

 

情報収集の価値なしと判断された男は、断られたのにもかかわらずうっとりとした笑みを消そうとしない。

 

「ならカエデちゃんは? このあとおじさんと一緒にお茶でも……」

「ギンロウさんにはそっちの趣味があるって街で言いふらしちゃおっかな~?」

 

シノンと比べると低音の、それでも十分女性だと認識される声でわざとらしく言葉を返す。

 

「まさかの精神攻撃かよ!? 武器のロストよりダメージ大きいからやめろって!」

「はいはい、分かったから持ち場に戻って装備点検でもしといて下さいって」

 

片目を瞑ってひらひらと手を振る俺に、おっかねえとぼやきながらギンロウがその場を後にする。

 

そして再び訪れた静寂を数秒間たっぷり味わってから、俺はシノンに声をかけた。

 

「ギンロウも悪気はないと思うから…………下心は持ってそうだけど」

「ほんとこのスコードロンに入ったのは失敗だったわ」

「まあまあ、今日で終わりって考えると多少は溜飲も下がるんじゃないかな。それに今日の戦闘はこれが対人スコードロンだ、っていうのをダインたちに叩き込んでやれるし」

「……あんた本当にいい性格してるわね」

「それはお互い様だろ」

 

にやりと笑いかけるとシノンもつられたように口角を上げた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「―――来たぞ」

 

双眼鏡で索敵を続けていたパーティーメンバーの一人が不意にそう囁いた時には、さらに太陽が傾いていた。小さいながらも続いていた談笑がぴたりと止まり、静けさが緊張を加速させる。

 

「ようやくお出ましかい」

 

獲物の登場に満足そうな声を上げるダイン。そのまま偵察役から双眼鏡を受け取ると同じ方角にレンズを覗き込んだ。

 

「メンバーは前と変わらず装備も……いや、一人が実弾系の銃に持ち替えてるな。軽機関銃、<FN・MINIMI>ってところか。急ごしらえにしてはいい装備じゃねえか。それに見ない顔が一人……マントで隠れて武装が見えないな」

 

ダインの言葉を聞いて不審に思ったのか、シノンも自らの狙撃銃を展開する。伏射姿勢をとると、スコープに反射する光を警戒しながら俺に囁きかけてきた。

 

「あれがカエデの言ってた護衛?」

「そうそう。最後の対人戦だからうんと派手なほうがいいかと思って」

「相手は?」

「それは始まってみてからのお楽しみ。どのみち教えても彼を最初に狙撃することはできないだろうし」

 

視線を移してダインたちのほうを見やる。当然彼らはターゲットのスコードロンに護衛が加わっていると想定もしていないだろう。今繰り広げている会話も軽機関銃持ちの男を狙撃するという考えで纏まろうとしている。

 

「装備は見えねえがマントの男はバックパック持ちの運び屋ってところだろ。戦闘では無視していい。シノン、カエデ、用意はできているか?」

 

突然向けられた確認に、俺とシノンは一瞬だけ顔を見合すと同時に頷いた。

 

「よし。俺たちは作戦通り、正面にあるビル群に潜伏してターゲットを奇襲する。――シノン、動き始めたら俺たちは奴らが見えなくなるから随時報告を。狙撃タイミングは指示する」

「了解」

「カエデ、シノンの狙撃成功を確認次第、トラップの発動を。タイミングはお前に任せる」

「了解、任せとけ」

 

短く答え、俺はメニューウインドウを開いて設置した罠の状態を改めて確認する。

―――破損や作動不可になったトラップは今のところなし。

最後に、罠の設置箇所をマッピングしたデータをメンバーに送信すると、全員が一様に頷いた。

 

「―――よし、行くぞ」

 

引き締まった声とともにブーツが砂利を踏む音を残して、潜伏している高台の後方からパーティーメンバーが滑り降りていく。問題が起きなければ数分後には持ち場に付いた強襲メンバーから無線が入ってくるはずだ。

 

「……今日で本当に最後なのよね?」

 

夕暮れの風鳴りがダインたちの足音を消し、自然と訪れた沈黙。いつもであればシノンが精神統一に入るこの時間は必然的に会話が生じない。しかし無線がくるまで続くはずの静寂は意外にもシノンのほうから破られた。

 

「どうした藪から棒に」

「いや……。短かったけどカエデにはその……お世話になったから」

「シノン、お前……」

 

はにかみながら感謝の言葉をかけてくるシノンに、俺は向き合うと真顔で、感じたものを素直な言葉で返そうと――――

 

「……いきなりしおらしくなって気持ち悪い―――って危なっ!?」

 

素直な言葉で返したら投げナイフのカウンターをもらいかけた。こっちは紙装甲だからわりと洒落にならないお返しである。

 

「人が感謝してるってのにあんたときたら……!」

「ちょっ、待て待て! 冗談だから! 戦場特有の緊張をほぐすウィットなジョークだから! というかヘカートまでこっちに向けるな!?」

 

手のひらと首をぶんぶん振って、俺は向けられた銃口に非暴力を訴える。そんな無抵抗な紙装甲にシノンは一睨みきかせて舌打ちをすると、狙撃銃を元の位置に戻した。

 

「…………わかってるわよ」

「あの、シノンさん。なら心底残念そうな顔しないでもらえます?」

「今撃てば敵に位置がばれちゃうじゃない。そんな三流以下のことなんてしないわよ」

「それ交戦前じゃなかったら撃ってるってことじゃ……」

「…………」

 

ありがとうまだ見ぬ敵さん。そしてこれからPKしてごめんなさい。

沈黙が肯定という貴重な場面を、身をもって味わった俺はターゲットの皆様がおられるであろう方向に手を合わせた。

 

 

「とまぁそれは置いといて……。何か話したいことでもあるのか?」

 

無線がくるまでの僅かな時間。それも日課となっている精神統一を中断するということはそういうことなのだろう。俺の問いにシノンは苦笑いを浮かべた。

 

「……ほんと変なところで察しがいいわね」

「まあそれなりに人生経験豊富だと自負しているからな」

「人生経験……」

 

経験というワードを小さく復唱したシノンが、一瞬だけ苦しそうな表情を浮かべたのを俺は見逃さなかった。

 

「なにかあったのか?」

「え……」

「つらそうに見えるから。悩みの種を抱えてそうな顔だ。まあそれは出会ったときから変わってないけど」

 

特定の言葉から生じる隠しきれない苦悶。この少女は過去に経験した何かにひどくおびえている、あるいは逃れようとしているように思えた。

以前にシノンは自らを氷と評したことがある。鋭く冷たいそれは荒廃した銃の世界で生きるシノンを表す言葉として確かに言いえて妙だ。けれどその言葉に俺はどこか生き急いでいるシノンの在り方を感じた。熱で溶け、消えていく前に砕け散る薄氷。無意識に助けを求める心理がその頼りない存在と自分自身を重ねてしまったのではないのか。

 

「…………」

 

不意を突いた俺の言葉に黙り込むシノン。そしてこの話がこれ以上先に進まないことを、短い付き合いから俺は半ば理解していた。俺はシノンの抱えるものに踏み込む資格を持っていないのだ。それ故に彼女は絶対に弱さを見せようとしないだろう。

 

「シノン、勝負をしようか」

 

だから今の俺には彼女の苦しみを僅かな間だけごまかすことしかできない。

 

「今日のターゲットに同行している護衛、ベヒモスをどちらが倒すか競争しよう」

「っ! いきなりなに言って、というか護衛がベヒモスって―――」

 

この世界の強者を倒してその強さを己の中に満たす。そのために戦うシノンの手伝いしかできないけど。

 

「負けたほうが勝ったほうに今日の飲み代おごるってことで」

「ちょっと、待ちなさいカエデ!」

 

せめてこの世界にいる間は君の望みに協力させてほしい。

 

無線から連絡が入ると同時に、俺はシノンの静止を振り切って走り出した。高台から滑り降りていくなかで聴こえる少女の声。それに応えることはなく、ただ一言少女に向けて呟く。

 

「……こんなことしかできなくてごめん」

 

吐き出せないまま溜まっていく己の無力さ。これまでに感じたことのない歯痒さに俺はただ唇を噛むことしかできなかった。

 

 




38話改めGGO編1話をお読みくださってありがとうございます。いかがだったでしょうか?

GGO編は原作と少し違った進み方をしていく予定ですが、作品の雰囲気自体はこれまで通りです。これからもお付き合いしていただけたらと思います。

次回もよろしくお願いします!


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39話 氷解は遠く

お待たせして申し訳ないです。


 

 現実の時間と完全同期しているGGO世界は、ログインした時間がそのままゲーム内の昼夜に影響する。特定の時間帯でしかプレイ出来ない層を考慮したALO世界と正反対なこの時間推移に、ログイン初日は困惑したものだが、今となってはその違和感も消え去りつつあった。

 

「夜以外が毎日こんな黄昏じゃ時間なんてほとんど気にならないよな……」

 

 GGO世界の中央都市、<SBCグロッケン>のメインストリートから外れた路地裏を歩きながら、俺は空を見上げた。つまるところ、この世界では視覚による時間変化が極端に感じづらいのだ。もちろん夜を迎えれば荒廃したこの世界でも人工的な光が不可欠になるわけだが、それ以外は太陽が昇っても赤みを帯びた黄昏が空を覆っている。

この特異な気象状態が、プレイヤーにログインした時間に対する損得勘定をさせないようで、時間推移に関しての苦情を俺は耳にしたことがない。

 

「カエデがプレイしている……<ALO>だったかしら。あれは違うのよね?」

 

夜へ移行する空模様を捉えようと目を細める俺の隣で、シノンが相槌を打ってくる。

 

「そうだな。あっちだとゲーム内時間は十六時間で一日だったよ。そのおかげで夜にしかログインできないプレイヤーでもゲーム内で朝日を拝むことができるし、時間帯で発生するクエストなんかも問題なく受注できたりしてたな」

「朝日かぁ……。そういえば仮想空間だと見たことないかも」

「なら一度こっちに来てみるか? あの世界の景色はなかなか見応えがあるぞ」

 

 硝煙と鋼鉄が支配するこの世界以外をシノンは知らない。ならば趣の異なった世界を見ることはシノンの抱える何かを解決するきっかけとなるのではないか。そんな淡い期待と可能性も込めて妖精の世界への訪問を提案してみる。

 

「それは……考えてみるわ」

 

 数秒たっぷりと思考してからシノンは曖昧な返事をした。毎月の接続料など現実世界での環境が大きく影響する提案なので、それを考慮すれば想定していた返事よりもいい気色である。

 

「ま、気が向いたらでいいさ。もし来てくれたら今度は俺が案内するよ」

 

 それ以上は食い下がらずに話題を終了させたところで、路地の最奥にひっそりと構える酒場が現れた。西部劇に出てくるようなスイングドアを押し開けて入店すると、高速で近づいてきたNPC従業員の案内で奥まったテーブル席に通される。

 

「それじゃあ遠慮なく注文させてもらうわよ」

「……お手柔らかにお願いします」

 

 不敵に笑う少女に慈悲を嘆願しながらワンテンポ遅れて向かいの椅子に座る。過不足なく注文されるメニューを受領したNPCが、カウンターに引っ込んだのを確認して俺もシノンも一息いれた。

 

「なんだか今日は一日が長かった気がするわ」

「思いのほか激戦だったからな」

「それもあるけど……あんたほんと無茶しすぎよ」

 

これまた高速で給仕されたジョッキに唇をつけてから、シノンは呆れ顔で俺を見る。

 

「それに関しては……面目ない」

 

 他のプレイヤーが一人もいない隠れ家風の酒場。

そんな場末のせいか、シノンの呆れた声も俺の情けない謝罪も閑古鳥が鳴く店内によく響いた。

 

「ビルの上階で構えていても土煙で一向に見えないし、かと思えば急に見晴らしがよくなってベヒモスは空中に打ち上げられてるし……相変わらずやることが理解できないわ」

「いやぁ、そこまで言われると照れるな」

「褒めてないわよ!」

「勿論そんなこと分かってるぞ?」

「あんたねぇ……!」

 

 ギロリとこちらを睨みつけてくるシノンに、クールダウンを兼ねて運ばれてきた皿を勧める。

 

「まあまあ落ち着けって。俺のアシストだってなかなか悪くなかっただろ?」

「それは……まぁ」

 

皿を受け取ったシノンが不承不承といった様子で肯定する。

 

「というかあんな曲芸じみたことする余裕があったんだから、あんた実はベヒモスのこと一人でやれたでしょ?」

「そんなことないって」

 

じとーっとしたシノンの視線に俺は肩をすくめて応える。

 

「ダインの特攻やシノンの精密な射撃、パーティーメンバーの献身的な支援。これらが一つでも欠けていたら勝てない戦いだったよ。いわばチームの勝利ってやつだな」

「そのダインたちは今回の件でかなり参ったみたいだけどね」

「それはもう因果応報ってやつじゃないかな」

 

 ルールに抵触する行為ではないがそれでも同じ相手を待ち伏せと奇襲で狩り続ける行為は見ていて気分のいいものではない。プレイヤー狩りを行うからにはこちらも狩られる覚悟を持つ。それが対人戦闘における暗黙の了解だと俺は思っている。

 

「こちらから仕掛けておいて状況が悪くなれば自決。さすがにあの方針はいただけないよな」

 

 一時撤退してからのダインたちの態度を思い出して苦笑する。これに懲りて少しは活動スタイルも変化すればいいのだが。

 

「それに比べてシノンのあの叱咤には驚かされたよ。おかげで瓦解寸前だったスコードロンの士気も建て直せたし」

 

 目の前に座る少女はあの時、戦意喪失していたダインたちを怒鳴りつけたのだ。

せめてゲームの中でくらい銃口に向かって死んでみせろと。

あの言葉と表情にシノンが抱えている何かの一端を感じざるを得なかったが、少なくとも今日の劣勢を打破する一手になりえたことは間違いない。

 

「そんなことは……」

「シノンの言葉に全員が動かされたんだ。間違いなく今日のMVPだよ」

 

 俺はそう締めくくってジョッキに残ったエールを一気にあおった。しかし視線を戻してみれば、最大の功労者の表情は硬いままだ。

 

「どうした浮かない顔して」

「……カエデは<GGO>の環境調査としてここに来たのよね?」

「ああ、そうだな。ゲームの雰囲気や環境を実際に体験してそれを報告する、要はアルバイトってとこだ」

 

 <ALO>で起きたSAO未帰還者監禁事件の後、全世界へ公開されたVR開発支援パッケージ<ザ・シード>。それを用いて開発されたVRMMOの数は飛躍的に増大した。だがそれは裏を返せば違法あるいは悪質な事業の温床を作ることになりかねる。またプレイヤー同士のやりとりが原因となり、現実世界で犯罪が起こってしまうこともあった。そういう様々な観点からフルダイブシステムの黎明期である昨今では、企業が請け負う本格的な調査から学生が気軽に参加できるアルバイトなどの形で仮想世界をリサーチすることが珍しくない。

 

 俺もその例にもれず――とは言っても総務省のお役人からの依頼であるが――アルバイトの形をとって<GGO>へやってきたわけである。

 

「一か月って聞いたときは少し長いなって感じたけど、シノンが協力してくれて本当に助かったよ。ありがとう」

「…………」

「それと今日はログインしてないみたいだけど、シュピーゲルにもシノンのほうからお礼を伝えておいてほしい」

 

 ここにはいない迷彩装備で身を固めた少年の姿を思い浮かべながら、伝言を頼む。

するとシノンは神妙に頷いた後、数秒の間を経て意を決したように口を開いた。

 

「その、えっと……。調査が終わっても<GGO>を続けてみない?」

 

遠慮しがちに発せられた言葉は文字通り頼りない振動となって俺の耳に届く。

 

「ほ、ほら……あなたシュピーゲルとも仲良かったし。カエデだってこの世界のこと気に入ってたじゃない」

「それは確かにそうだけど……」

 

歯切れの悪い反応を返してしまったせいか、なおもシノンはまくし立てる。

 

「アバターは新規で作り直さないといけないかもしれないし、そうなるとこれまでみたいにプレイはできないけど私たちでサポートすれば……」

 

 縋るような目で残留を提案してくるシノンを見て、ちくりと胸が痛む。

自分は少なからずこの少女に影響を与えてしまったのだろう。それなのに彼女の言葉に頷けない。

 

「シノン……」

「それにカエデと一緒に戦い続ければ……いつかきっと私は―――」

 

 わずかな期待に満ちた表情は、向かい合った俺の顔を見て一瞬で崩れる。その上で俺は自分に言い聞かせるように口を開いた。

 

「それはできない。……ごめん」

 

 このままじゃいけない。そんなこと分かっているのに、肺腑から湧く熱が吐き出される直前に冷えていく。それ以上先が言葉となって出てこない。

 

「…………そっか。そうよね」

 

 ゆっくりと拒絶の言葉を飲み込んだシノンは、吹っ切れたように力なく笑った。

そしてこの瞬間、かろうじて形を保っている氷にまた一つ、亀裂の入る音が聞こえた。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

 水面から発生する霧が空気と水の境界から離れることなくじんわり漂う広い空間。

有り体に言ってしまえば、そこは神秘的な場所だった。

足元は鏡面のような透明度を持つ水に満たされているはずなのに、体が沈む様子はない。

昼か夜もわからない曖昧な薄明かりに照らされて導かれた先には、一本の枯れ木がぽつりと立つのみ。どうやら枯れ木を中心にこの空間が形成されているようだが、辺りを見渡してもそれ以上何も見つけることはできない。

 

「……進行条件未達成ってとこか?」

 

 枯れ木の根本まで近づき、水分の抜けた幹に触れながらそんなことを考える。このクエストの受諾には人数制限がなかったから試しに一人で来てみたのだが、パーティの編成、クエスト参加者の装備……考えつくだけでイベント進行に必要そうなギミックがいくつか浮かんでくる。

 

 他ゲームの環境調査が終了し、発生してから今まで放置していたこのクエストを、リハビリがてらに挑戦しようと意気込んでいたが完全な空振りである。

なんか面倒なクエストを押し付けられたなぁ。などと一か月前の出来事を思い返しながら、クエストを一端破棄するためにメニューウインドウを呼び出した。受領確認と同時にこの珍妙な空間に転移させられたわけだから、クエストの中断を選択すれば元居た場所、すなわち仲間たちとのたまり場になってるあの酒場に戻れるはずだ。

一度戻って、頼れる仲間と作戦会議という名目で飲んで騒ぐというのも悪くない。復帰して間もないのだから今日はたまたま日が悪かっただけだ。

そうやって強引に気持ちを切り替えて視線をウインドウに移す。枯れ木に背を向け、転移時に立っていた場所へ歩きながら画面をスクロールしていき―――――

 

「―――――――――――えっ」

 

 突如、視界の変化を知覚すると同時に脳が強烈な寒気を感じ取る。そして間もなく、その異変の正体に気付かされた。

僅か離れた場所に立ち尽くすカエデだったもの。司令部をなくした闇妖精の身体が散り際に炎を噴き上げて消滅していく光景は、かろうじて保たれた意識に淡々と死を宣告していた。

 

せめて敵の姿だけでも―――。

 

 しかしその願いすら叶わず、何もできないまま身体の後を追うように目の前が赤い熱に染まっていく。そうして体の感覚が強制的に断ち切られた途方もない喪失感を、薄められた痛みとともに味わいながら、あまりにもあっさりと

 

カエデは命を落とした。

 

 




39話をお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか?
次回もよろしくお願いします。

……ヒロインが出ないと甘さも出ないってはっきりわかんだね。


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40話 停滞する陰り

健全と純粋が売りなんでたぶん大丈夫だと思います。




 

 得体の知れない存在。

自分にとって電話先で楽し気に声を弾ませる男はそういう認識である。<デスゲーム>に二年間囚われていた俺たちの支援に尽力し、アフターケアも万全に整えたこの人物は間違いなく恩人の一人に数えられる。しかしそれを手放しで喜べないほどに、菊岡誠二郎という役人の人物像は欺瞞に満ちていた。

 

「それでそこの店は生クリームが絶品なんだよ。今度ご一緒にどうかな? あぁ、そのときは是非ともキリトくんも一緒に。二人からはまた<SAO>での活躍を聞きたいからね」

「それは楽しみですね。……和人のほうにも伝えておくんでついでに依頼したい内容に関しても教えていただけますか?」

「依頼だなんてやだなぁ。僕は単純に君たちとお茶がしたいだけだよ」

「本当にそれだけなら唐突にキリトのことを引き合いに出す必要もないと思いますけど?」

 

一瞬の沈黙。すると電話の向こうで観念したような声音が聞こえてきた。

 

「……カエデ君にはいつも一本取られるね」

「というか昼間からこんな雑談めいた電話を許してくれるほど、菊岡さんの部署は暇じゃないでしょうに」

「ははっ、それもそうだ。いやはやカエデくんの洞察力には驚かされるよ」

 

こんなやり取りでさえ、実はこの人に誘導されているのではないかと感じる。それだけ今まで見てきた大人たちの中でも、この男は異質なのだ。

 

「率直に言うと、カエデ君にこの間頼んだGGOの環境調査をキリト君に引き継いでもらおうと思っていてね。君にはキリト君との仲介をお願いしたいんだよ」

「……? 菊岡さんが直接キリトに頼めば俺を挟む必要なんてないと思いますけど?」

「いやぁ、バイトの先輩である君からの一押しがあればより円滑に進むんじゃないかな。それにほら、僕が言ってもまた信じてもらえそうにないというか……」

「えぇ……それは完全に自業自得じゃないですか」

 

要するにキリトを含めた関係者全員が、この人を全面的に信用していないのだ。このことは本人も自覚しているようで職場でも人望が薄いと嘆いているのを聞いたことがある。

 

「キリトに依頼を持っていくってことは俺の手に余る内容ってことですか?」

「それはとんでもない。カエデ君の調査報告はとても高い評価を受けていたよ。そうじゃなくて君の場合はその……樹さんのことが関係していてね」

「あぁそういうこと……。なんか菊岡さんが持ってくるバイトに対して、最近父さんドライなんですよね」

「普段は気さくな方なんだけどね。もしかして僕、なにかしたのかな……?」

「それはご自身の胸に手を当てて考えれば分かるんじゃないですかね」

「………………あ、あはは……」

 

心当たりがありすぎるんだろうな。これ以上は不毛なので詮索しないでおこう。

 

「とりあえず和人には俺のほうから連絡するんで、また詳細が決まり次第教えてください」

 

そう締めくくり、適当なところで会話を終了させて電話を切る。そして蓄積した謎の疲労感を抜くために軽く息を吐いてから椅子を離れ、その足で倒れるようにベッドへ体を沈めた。

 

「GGO……か」

 

その言葉が頭の中に反響し、残り続ける。思い出すのは数日前のあの場面だ。

硝煙と鋼鉄の世界でシノンは今日も一人戦っているのだろうか。そうすることで苦悩と迷いから脱却できると信じて引き金に指を添わせているのだろうか。

仮想世界で得られるものすべてが偽物だとは思わない。現に自分は、実に多くの出会いと経験をあの世界から与えられてきた。けれどその中に、一人で成し得たことは何一つとして残っていない。ましてや単なる戦闘力や肩書が幻想にすぎないことを自分は痛いほどわかっていた。

 

それなのに言えなかった。たった一か月という短い付き合いだからこそ感じた歪な執着。

友人だと声に出しておきながら彼女が正しいと思い行動していることに、それは間違っているのではないかと伝えられないまま逃げてしまった。

 

本当に格好悪い。情けないほどの醜態だ。

 

再度息を吐き出す。心の中にある真っ黒な靄を体から追い出せないまま何度も。

そうして寝返りを打った勢いでベッド脇のキャビネットからアミュスフィアを持ち上げると静かに被る。

 

「……リンク・スタート」

 

思えば逃げるためにこの言葉を口に出したのは、これが初めてかもしれない。感傷に浸る暇を与えられないまま、俺の意識は異世界のゲートを通っていった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

巨大な世界樹の上に広がる空中都市<イグドラシル・シティ>。

妖精王と高位種族<アルフ>が住まう天上の楽園とされ、全プレイヤーの羨望と夢の到達地点であった伝説の街。しかしその実態は、偽りの王と存在しない種族が作りだした名前のみが独り歩きする幻想だった。新たに生まれ変わった妖精の世界で、かつての憧れを蘇らせることに、運営を引き継いだゲームマスターたちは随分奔走したらしい。

 

その結果、形成された天空の街はプレイヤーの期待に大いに応えるエリアとなり、飛行制限から解き放たれた妖精たちが訪れる<ALO>随一の活気を誇る場所となった。

近頃では街の一画にプレイヤーホームやショップ営業のための店舗が購入可能なエリアが実装されるなど、よりプレイヤーに寄り添ったシステムが導入され、ますます活気が溢れているようである。

 

そんなプレイヤーホームがあちこちに立ち並ぶ区画。とある一室で交わされる行為は、システムの保護を受けてその声が部屋に響くのみとなっていた。

 

「ひぅっ……んっ……」

 

触れた手が動くたびに、目の前の少女から甘い声が漏れる。押し寄せてくる感覚に耐えようとしているのか、両手はソファの生地を強く握ったまま開かれない。

 

「そろそろ気持ちよくなってきたんじゃないか?」

 

先ほどよりも僅かに力を入れた指がその柔肌に食い込むと、長いパールブラックの髪が揺れ、快楽を表に出さまいとこらえる少女―――ユウキから再び声があがった。

 

「……んぁっ……。そんなことっ……ない、もん」

「嘘だな。身体のほうはそう思ってないみたいだぞ?」

 

嬌声に混じって否定の言葉を発する最愛の少女に笑いかけ、手のひらから伝わってくる熱にさらに応える。ユウキのこんな姿を他の誰にも見せる気はないが、今の状態は誰がどう見ても快感を求める女の顔になっていた。

この子をもう少しだけ困らせたい。そんな邪念が沸き上がった俺は、ふと頭に思い浮かんだ一つの行動に出ることにした。

 

「カエデっ……もう……ぁっ……これ以上はっ……」

「分かった。これ以上やるのはやめとくよ」

「えっ……」

 

指の動きを止めて、その双丘から両手を離す。

 

「……あっ……」

 

すると案の定、取り払われた心地よさに後ろ髪を引かれたのか、ユウキは寂しそうな声をあげた。

 

「や、やめちゃうの……?」

 

上気した顔をこちらに向けて戸惑ったように聞いてくる。無論これで終わるつもりはない。だが俺は努めて申し訳なさそうな顔を作りながらユウキに声をかけた。

 

「だってユウキが嫌がってるみたいだし……ごめんな」

 

そうしてその場から一歩身を引き、踵を返そうと―――

 

「………………ないで」

 

直後に袖をぎゅっと握られ移動を阻止される。運動とは逆の力が働いたほうを向くと、瞳を潤ませたユウキが何か言いたげな表情でこちらを見ていた。

 

「どうした?」

「だから…………ないで」

「ごめん聞こえない」

「だから……やめないで。もっと……してほしい」

 

羞恥に満ちた表情で続きを強請るユウキの言葉に今すぐ応えたい。

けどまだだ。もっとその言葉を聞きたい。そんな欲望が僅かに勝り、意地悪く返してしまう。

 

「何をどうして欲しいんだ? 言ってくれないとわからないよ」

「……っ!」

 

ここで俺の意図することに気付いたのだろう。唇をきつく結ぶとユウキはこちらを睨みつける。しかしそれも一瞬だった。欲望に耐え切れなくなった少女はさらに赤面しながら、今度ははっきりとその願いを口にした。

 

「カエデの手でしてほしい……! ボクのことっ……。気持ちよくして……!!」

「っ!」

 

その言葉はかろうじて抑えていた理性を決壊させるには十分すぎる威力を持っていた。

早く目の前の少女を悦ばせたい。今はそれしか考えられない。

 

「んっ……ふぁっ……ぁ……!?」

 

もう先ほどのように加減することはできない。本能の赴くままにユウキに触れ、望んでいた快楽を与え続ける。緩急、強弱……あらゆる攻め手を尽くし、数秒間のお預けを忘れさせるつもりで極楽の境地へ―――――

 

 

 

「はぁ……。やっぱりカエデの肩もみはすっごく気持ちいいや」

「だから言っただろ? 腕には自信があるって」

 

ユウキが気持ちよさそうに目を細めているのを見て、こちらも自然と笑みがこぼれる。

正直なところ、仮想世界でマッサージのような繊細な動作が再現できるのか疑問であったが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 

「でも現実だともっとうまくできる自信があるぞ?」

「ほんとっ? ならまたお願いしたいなぁ……」

「もちろん。このくらいならお安い御用だ」

 

それにしてもこんなにゆったりと時間が流れるのは久しぶりだな。今日こそはのんびりできそうだ。そう考えていると横から突然言葉を投げかけられた。

 

「……盛り上がってるとこ悪いけど、そういうのは時間と……特に場所を考えてくれよ」

 

呆れた風で俺とユウキを注意するキリトの声。若干あきらめたように聞こえるのは気のせいだろう。

 

「時間も場所も問題ないだろ。借りてる部屋なんだからシステム的にプライバシーは保護されてるし」

「借りてるのは俺とアスナなんだけど!? ログインするなり友人の茶番を見せられる俺のプライバシーが保護されてないんですけど!」

「ははっ、悪い悪い。本当はキリトが来た時点でやめようと思ってたんだけどな」

 

ちらりとユウキに目配せする。

 

「食い入るようにアスナがボクたちを見てたから、つい熱が入っちゃった」

「……え、ええ!?」

 

そして突然話の土俵に引っ張り出されたアスナが驚きの声を上げた。

 

「そんなことないよっ! それに私はお茶の用意を……」

「あはは、アスナってばお茶を出すってキッチンに移動してからずっとこっちの様子を窺ってたもんね」

「ちょっとユウキ!? た、たしかに少し羨ましいって思ったけど……。けど私、そんなにいやらしくないもん!!」

「いや誰もそこまで言ってないけど……」

 

顔を真っ赤にしてなんだか別の方向へ弁明し始めるアスナ。

 

「ほらキリト、アスナはご所望してるぞ? 押さえられない欲求をキリトの手で満たしてほしいって」

「キリトの<スターバースト・ストリーム>が炸裂するんだね!」

「お前ら絶対わざと言ってるよな!? あとアスナも落ち着けって。こいつらは俺たちのことからかってるだけなんだから」

「え……。キリトくんは……してくれない、の?」

「へ……?」

 

あたふたしながらキリトはアスナを落ち着けようとするが、その本人から思わぬ追い打ちをかけられ一瞬固まる。

 

「私は……キリトくんが嫌じゃないならその……してほしいなって」

「アスナ……」

 

なぜか手を取り、見つめ合う二人。自分が原因を引き起こしておいて言うのもなんだが、まさか肩もみがこんなドラマを生むとは思っていなかった。

 

「あーその、えっと……お二人さん?」

 

ごほん、とわざとらしく咳払いした俺に、はっと我に返ったキリトとアスナの視線が集まる。

そして俺はにやりと口角を上げ、親指をぐっと立てながらこの場を収めるための一言を口にした。

 

「盛り上がろうとしてるとこ悪いけど、そういうのは時間と場所を考えてくれ」

「お前が言うんじゃねえよ!!」

「~~~~~っ!!」

 

怒号を上げるキリトと顔を羞恥に染めたアスナ。

この後、ユウキと一緒に滅茶苦茶謝罪した。

 

 




40話をお読みいただきありがとうございます。いかがだったでしょうか。
実際のところ、書いておきたかった半分も進んでいないですが文字だけは増え続けるので分けることにしました。

そして次にお前はこう言う
次の投稿は年末ですか? と
……そうならないように頑張ります。次回もよろしくお願いします!


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