魔法科高校の劣等生-嘘吐きの百合- (ぼいら~ちん)
しおりを挟む

入学編
第一射 魔法科高校の絶叫生


作者のぼいらーちんです。
拙い文章ですが読んでいただければ嬉しいです。


「やっべぇ……寝坊しちまった……」

 

少年はスケートボードに駆りながら呟く。

今日は国立魔法大学付属第一高校、通称魔法科高校の入学式。

今日から魔法科高校の一年生である少年は第一高校のシンボルマークである八枚花弁の校章付きの緑と白の制服のに長い裾をなびかせて颯爽とボードを乗り回す。

しかし入学式の開始時刻まであと三十五分…最寄りの駅から八分程の場所だが、それを さらに短縮させるために彼はボードを駆る。

その理由は、

 

「達也絶対怒ってるよな。

と言うか深雪に抹殺される」

 

友人を待たせているようだ。

 待ち合わせ場所は入学式の行われる講堂前。

 どうせクラスが違うのはわかりきっているが性格柄と本人の雰囲気で人付き合いが苦手な(というよりも相手に警戒される)彼としては旧知の友と言うものはいないと困る。

 少々青ざめた表情で新入生の父兄と思しき大人達の間を疾走しているとだんだんと目的地の門が見えてきた。

 そして門の前でボードのテールを立てて止まる。

 

「おぉー

パンフで見たけどやっぱでけぇなぁー」

 

 学内ではボードなどの乗り物の搭乗は禁止されていることを知っているため後ろに背負っているリュックサックにボードを差し込み目的の講堂へと走り出す。

 周りを見ながらキョロキョロ見ながらほぉ~とかはぁ~とか良いながら走る少年。

 

「そこの君、止まりなさい!!」

 

 そんな風に余所見をしていたためか少年は前から近づく黒髪の少女の存在に声をかけられるまで気付かなかった。

 

「ん?

ってうわぁあああ!!

車は急に止まれませんよぉおおお!!」

 

 全速力で走っていた彼は目の前まで迫っていた少女にぶつからない為に斜め上へと飛び上がり魔法を発動、それと同時に魔法によって少女の頭上へと空高く飛んでいく。

 その少年の着地点には今時ホームセンターで見かけるかどうかわからなくなってきた水色の大きなポリバケツ。

 

「あれ?

これってお約束のあれ的な?」

 

ゴミの清掃は大体がロボットが行ってくれるこのご時世でなぜそこにポリバケツが置いてあるのかはわからないが百八十cm近い巨体は講堂へと向かっていく人混みを飛び越えて青い大きなポリバケツに吸い込まれていった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「お、おい!!

大丈夫か?」

 

 先ほど俺に声をかけてくれた少女の声がポリバケツの外から聞こえてくる。

足をじたばたさせてポリバケツを倒す。

 若干の衝撃が体に走る。

 あぁ……なんで横に避けなかったのだろうか……後悔先に立たずってやつだな。

 

「あのぉ……これ引っ張って貰っても良いですか?」

 

「あ、ああ」

 

 少女の声は若干の動揺が隠しきれないまま俺の頭がはまったまんまのバケツを強引に引っ張ってくれた。

 少女が少し引っ張ってくれるとキュポンと言う効果音がしそうな勢いでバケツは外れた。

 そしてバケツからの脱出を手伝ってくれた少女の顔をやっとこさ認識する。

 真っ黒なショートヘアー、鳶色の瞳、凛々しい顔立ち。

 それは自分の幼なじみであり、この学校の風紀委員長である少女であった。

 

「姉上じゃあないですか。

元気だった?」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 姉上。

 確かに目の前の黒髪の少年はあたし-渡辺摩利のことをそう呼んだ。

 あたしには兄弟姉妹の類いは存在しない。

 そんなあたしのことを姉上と呼んでくれる人間は世界でひとりだけ、目の前の黒い髪の男のみだ。

 

「お前、百合……十六夜百合(いざよいゆり)なのか?」

 

「おおーやっぱり覚えててくれた。

さっすが姉上、魔法科高校の風紀委員長様はここ()の出来が違いますなぁ」

 

 百合は頭を指でコンコンとノックしながらにっこりと笑う。

 常にへらへらしている彼だが、そんな彼がにっこり笑うと不思議と安心感に包まれる。

 この感覚は中学の時以来か……

 

「どしたの姉上?

顔真っ赤だけど体調悪いの?」

 

「だ、大丈夫だ!!

……おっほん!!

 百合、人混みの中で全力疾走するのは危ないぞ。

 この高校は敷地面積の割に生徒数は少ないがこのような行事の時にはご父兄の方々で一気に人数が膨れ上がる。

 それにあたしの事を気遣ってくれたといえ魔法使用には細かな制限がある、気をつけるように」

 

「申し訳ありません、委員長殿」

 

 本当に申し訳ないと思っているのかわからないがお辞儀をしてくる百合。

 

「所でさ、あのポリバケツ何であんな所にあったんだ?」

 

「……さあ?

 私とてそれは知らん。

 ところでお前は今までどこに居たんだ?

 葬式が終わった途端に姿を暗まして……」

 

 その後に紡ごうとしていた「心配していたんだぞ」の言葉が続かない。

 心配だったというのは事実である。

 でも、彼の境遇を察すれば彼のとった行動もある意味わかる気がする。

 私も家族が皆殺し(・・・)にされてしまえば住んでいた家を捨ててどこかへ行きたくなる気持ちもわからなくともない。

 

「うーん……何て言えばいいかなぁ?

 ま、その話も追々しましょう。

 なんせ俺はこの学校の生徒になったんだ、聞く機会は幾らでもあるでしょう」

 

「それはそうだが……」

 

 適当にはぐらかした百合は何かを思い出したようにはっとして踵を返す。

 

「あ!!

ごめん姉上、今友達待たせてるんだ。

 話はまた後でにしましょうぜ!!」

 

「あっ……待て!!

 まだ話は……」

 

 百合は先程よりもスピードを落として講堂へと向かっていった。

 まあ、あいつも新入生だから忙しいのも仕方がないか。

 そう思ったあたしは再び宛もなく歩き始めた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「うーん……やっぱり先に行っちゃってたか……」

 

 入学式の開始まであと二十分強、俺-十六夜百合は講堂の階段を登りながら一人ごちる。

 階段を上がると同級生と思しき人達が座っていた。

 席は全部で八列あり、四列目と五列目には四人くらいが並んである居ても大丈夫そうなくらいの広さの通路がある。

 基本的に座席は指定されているわけでもなく、誰がどこに座っても良い。

 良いはずなのだ。

 

「……見事に一科と二科で綺麗に分かれてんなぁ」

 

 前半分の人間の着ている制服の左胸と両肩には第一高校のシンボルである八枚花弁がついているが後ろ半分の生徒にはそれがない。

 八枚花弁のある方は一科生、ない方は二科生と呼ばれている。

カリキュラム的に殆ど違いを持たないが魔法実技の指導を二科生は受けられない。

 ちなみに俺は一科生、にしてもなんかなぁ……

 

「どうしても差別とかそう言うのって嫌いなんだよなぁ」

 

 アパルトヘイト然り、性別での差別然り、人間は自分とは違う人種を見つけるとどうしても差別をしたがる。

 同じ学校の仲間なのにギスギスすんのってやだよなぁ。

 

「お、達也みっけ」

 

 一番後ろの比較的に人がまばらな席に座る黒髪の少年を見つけ俺はそちらへと歩き出す。

 俺は差別とか気にしないし、腕を捲くればエンブレムは見えなくなるが、それをやっちゃうと正直マズい。

 ま、いっか。

 

「よう達也、ごめんな遅れちまって。

ちょっとしたトラブルに巻き込まれちまってさ」

 

「構わないさ。

お前がこうして遅れるのは折り込み済みだ。

どうせ急ぎ過ぎて先輩の注意でも喰らっていたんだろ?」

 

「おぉう……見事な観察力。

図星ですよっと」

 

「厄介事に巻き込まれた割には随分機嫌が良いな。

何か良いことでもあったのか?」

 

「それがさ、達也達と暮らし始める前の友達に会ってさ」

 

「そう言うことか。

良かったな」

 

 その少年-達也こと司波達也の隣の席に座る。

 達也は中一の頃に身寄りの無い俺を家に居候させてくれた命の恩人的な奴だ。

 本人は「親が居ない家が少し賑やかになった、深雪の友達も増えたからありがたい」と述べているが感謝するのはこちらの方だ。

 無愛想で意地悪でシスコンな上に人が悪いけどそれも彼の愛すべき欠点。

 その程度のことで避ける必要もないしいくら何でも出来る完璧超人でもそれくらいの欠点がある方が人間味があって俺は好きだ。

 そんなことを思っている時だ。

 

「あの、隣空いてますか?」

 

 達也の隣にどっかと座った時、後ろから声をかけられた。

 振り向くと今時珍しい眼鏡美少女、年不相応の幼い顔立ちを持つものの体つき(主に縦幅)は完全に高校生のものだ。

 ふむふむ……これが「ろりきょにゅー」というものですか。

 

「ああ。

どうぞ」

 

「見ろよ達也!!

俺史上最高峰の眼鏡美少女登場だぞ!!」

 

 俺史上最高峰というのは俺自身あまり眼鏡を掛けた人を見たことがないからで……

 最近は視力矯正治療が一般的に普及してきて近視や遠視という病気は過去のものになってしまった。

 余程重い先天的に視力異常がない限りは視力を矯正する必要はないし、それでも矯正が必要な場合は人体に無害な年単位での連続使用が可能なコンタクトレンズを使う人の方が多くの割合を占める。

 それでも眼鏡を掛けている人ってのはファッションかもしくは別の理由か……

 

「ん?

ああ、そうだな」

 

「え……美少女なんて……」

 

「淡白な反応だなぁ~

ごめんな、こいつ昔っからこんなんでさ。

俺は十六夜百合、こっちは友達の司波達也」

 

「柴田美月です。

よろしくお願いします」

 

 俺は美月の顔をまじまじと見ているとそのきれいな金色をした瞳に目が向かっていった。

 

「……きれいな瞳」

 

「うっ……それは……その……」

 

 彼女の持つ雰囲気と眼鏡をかけている時点で大体の察しはついていた。

 俺と一緒…というのは彼女も俺と一緒の病気、「見え過ぎ病」ともいう「霊子放射光過敏症」というものだ。

 この病気は所謂「感覚が鋭敏過ぎる」体質のことを指し、超常現象(この内に魔法も含まれる)において観測される想子(サイオン)霊子(プシオン)と呼ばれる粒子の光の活動によって発生する非物理的な光に過敏な反応を見せると言う物だ。

 霊子放射光という物は見た者の情動に影響を及ぼすが故に霊子は情動を形成する粒子だと言われている。

 つまり霊子放射光過敏症の人は精神の均衡を崩しやすい傾向にあるのだ。

 それを予防するためには霊子感受性をコントロールできるようにすること、しかしそれができない人の為に代替手段も存在し、その内の一つが美月が身につけているもの-「オーラ・カット・コーティング・レンズ」と呼ばれる霊子放射光を遮断するように加工されているレンズを用いた眼鏡をかけることだ。

 しかし美月のように常に霊子放射光を遮断し続けていけないほどの感受性の強さを有する人ってのはなかなか珍しい。

 

「あ、ダイジョブ、俺も一緒だから」

 

「え……そうなんですか?」

 

「そう。

同じ苦労を共有できる人ってことでよろしく頼むよ美月ちゃん」

 

 空前絶後の眼鏡美少女、美月の肩を軽く叩くと俺は自分の席に着く。

 俺の場合は霊子感受性のコントロールが(自分で言うのもなんだが)上手いため医師に処方されたレンズは無用の長物と化している。

 そんな話をしているうちに美月の友人は達也の隣を二つ開けて席についていた。

 その友人たちの中にどこか馴染みのある横顔が見えた。

 髪は赤に近い明るい栗色のショートヘアー、4年前から会っていない幼なじみは成長し大人らしさを感じるものの雰囲気は昔と変わらず社交的な所も変わらない。

 彼女の姿を見て一目で誰だかわかったのは言うまでもない。

 

「ようエリカ。

4年ぶりか?久し振り」

 

「ん?

あ!!」

 

 馴染みのある少女に声をかける。

 少女は友達との会話を遮られて若干嫌そうな顔をしたもののすぐに顔色が驚きの色へと変貌する。

 

「出たな百合・ゲラー!!」

 

「誰が奇術師だボケェ!!」




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
更新は遅いと思いますが最終話までお付き合いいただければ幸いです。
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二射 魔法科高校には美人が多い

「いや~まさかこんなとこでアンタに会えるなんて思ってもみなかったわ」

 

「そりゃあこっちの台詞だよ」

 

入学式が終わってからクラスを確認するためにIDカードを発行するための端末の列に並んだ。

講堂で会った5人の内で最後尾に並んだ俺の番はやっとこさ終わり、今は来賓と生徒の波の中だ。

俺が来たときにはすでに美月とエリカ以外の女子はどこかへ消えてしまっていた。

 

「ま、久々に会えたんでいいか。

紹介するぜ達也、こいつは俺の幼なじみの千葉エリカ。

ガサツだけど根は良い奴だ、剣道も強いんだぜ」

 

「誰がガサツよバカ!!

……っと、千葉エリカよ。

よろしくね」

 

「で、エリカ、こっちの頭良さそうなのが司波達也。

良さそうじゃなくて実際に超頭良いんだけどな」

 

「司波達也だ。

よろしく」

 

お互いに挨拶を交わしたあと話題は移る。

 

「そう言えば百合って何組なの?」

 

「ん?

俺はAだ」

 

「え?

十六夜くんって一科生なんですか?」

 

「うそ?!

あたし百合なんかに負けたの?!

いーや嘘だね!!百合はすぐ嘘吐つもん!!」

 

「なあお前らさ、マーク見てないからってその反応は酷くない?

良く見ろここのマーク」

 

俺は右肩のマークを指差しエリカと美月に見せ付ける。

二人は若干驚いたような素振りを見せるがすぐに平常心を取り戻したようだ。

 

「ほんとだ。

ちゃんとマークある」

 

「嘘じゃなかったんですね」

 

「そうだぞ美月くん。

俺は産まれてこの方一度たりとも嘘なんてものは吐いたことは無いぞ」

 

「「それこそ嘘だ」」

 

「くそぅ…バレてやがる」

 

と言うよりも俺……そこはかとなく美月に馬鹿にされてる?

 

「ところでどうする?

あたしらもホームルーム行ってみる?」

 

「おい、ナチュラルに俺をハブろうとするな」

 

「あら~バレちゃったかしら?」

 

「くそぅ……嘗めやがって……!!」

 

「なに、やる気?」

 

「お、落ち着いてください二人とも!!」

 

「「あ、ごめん」」

 

俺とエリカのプチ喧嘩は空前絶後の眼鏡美少女、柴田美月に止められた。

自然に謝ってしまうところからして俺はこの子には何時になっても敵わないんだろうなぁ……

 

「どちらにせよ俺と百合は俺の妹を待たなくてはならないんだ」

 

「司波くんの妹?

さぞかし可愛いんだろうね」

 

「少なくとも否定はしない」

 

達也の妹は兄同様に顔の形が整った所謂美少女と言う奴である。

エリカが陽性の美少女、美月が癒し系美少女というならば、達也の妹は神秘的な美少女と言えよう。

 

「妹さんって新入生総代の司波深雪さんですか?」

 

「ああ」

 

「それじゃあ二人って双子?」

 

「よく訊かれるけど違うんだ。

俺は4月で妹は3月、どっちかが1月ずれたら学年が変わってる」

 

「要は11ヶ月違いの年子って奴だな」

 

「ふーん。

結構複雑なんだね。

所でなんで百合はそんなに---」

 

「お兄様、百合兄様!!」

 

「おお、噂をすれば影、だな」

 

人混みの中から容姿端麗な黒髪美少女が現れる。

彼女が司波深雪、名字から察する通り達也の妹である。

まあ、深雪の性格からしてそろそろ俺達に会いに来るかなぁとは思っていた。

お世辞とか愛想笑いってのが嫌いな彼女だ、そういうのに関係なく腹を割って話せる相手探しってのが彼女が学園生活を楽しむポイントになってくるのだろう。

幸い、俺も深雪と同じ一科生なので今後そう言うところのフォローはしていこうと思ってはいる。

 

「遅くなってすみません」

 

「ま、こっちも大して待ってないしな」

 

「こんにちは司波くん、また会いましたね」

 

深雪の後ろから深雪よりも少し小さい少女が現れた。

左の胸には8枚花弁、一科生の生徒である。

達也の名前を呼んでいたことからきっと知り合いなのだろうが、一科生の人が二科生の達也に話しかけてくるのってこの学校の風潮からして珍しいよな。

にしてもどっかで見たことある気がすんだよな…

 

「自己紹介がまだでしたね。

私はこの学校の生徒会長を務めている七草真由美(さえぐさまゆみ)と申します。

七草と書いてさえぐさと読みます」

 

その少女をまじまじと見ていると視線に気がついたのか俺の方へと体の向きを変えた。

 

「どっかで見たことあると思ったらパンフに載ってた生徒会長さんか!!

姉上も含めてこの学校の偉い役職の人ってみんな美人だよな~」

 

「まあ、美人なんて……」

 

「あ、俺は1年A組の十六夜百合といいます。

よろしくお願いします、生徒会長殿」

 

入学式前に姉上にしたときと同じようにお辞儀をする。

 

「百合兄様もA組なのですね!!」

 

「ってことは深雪も一緒か。

良かったぜ、知り合いが居ると心強い」

 

「あら、十六夜くんって言ったら司波くんと一緒に職員室で噂になってたわよ。

「魔法実技は学年トップ、国語も満点、魔法理論と魔法工学は1問ミスで98点、でも他の英数理社の平均が40点台」って先生方がっかりしてたわよ」

 

「悪い方の噂かよ!!」

 

「百合らしいと言えば百合らしいな」

 

「あんたってほんっとに一長一短な良バランス野郎よね」

 

「なんでそこまでバランスが良くなるんでしょうか……」

 

「俺にとっても一生の謎だよ……」

 

これでも試験勉強は滅茶苦茶頑張ったんだぞ!!

達也にも深雪にも苦手なところは日が変わるまで教えてもらったりしたのにぃ…無念なり。

 

「そ、そんなに落ち込まないでください百合兄様」

 

あぁ……この妹は……良いものだ……

 

「所でお兄様、その方達は?」

 

「クラスメートの柴田美月さんと千葉エリカさんだ」

 

「そうですか……」

 

深雪が達也の答えににっこりと微笑む。

あれ……目が笑ってないよ?

 

「早速クラスメートとデートですか?」

 

可愛らしく小首を傾げ再び達也に問いかける。

どうやら四方八方からのお世辞のゲリラ豪雨に晒されて相当量のストレスが溜まっているようだ。

しかし、だ。

いくらストレスが溜まっていようが、相手がエリカだろうがそういう言い方は良くない。

 

「えいっ」

 

「いたっ!!」

 

俺は深雪の頭に軽くチョップする。

 

「深雪、初対面の相手への第一声がそれは失礼だぞ。

それに百歩譲ってそうだったとしても何も言わないのが大人の対応だ」

 

「おい、百合。

その言い方は語弊を生むから止めろ」

 

俺の言葉に達也が非難めいた言葉を口にすると自分の無礼を詫びる表情をするとお姫様らしいお淑やかな笑みを浮かべた。

 

「はじめまして。

柴田さん、千葉さん、司波深雪です。

私も新入生ですのでお兄様と百合兄様同様によろしくお願いします」

 

「柴田美月です、こちらこそよろしくお願いします」

 

「よろしくね。

あたしのことはエリカでいいよ。

ねえねえ、あなたのこと、深雪って呼んでもいい?」

 

「もちろん。

よろしくお願いします、エリカ」

 

「あはっ、深雪って見かけによらず結構気さくな人?」

 

「そういうエリカも見た目通りの開放的な性格の方なのね」

 

いい意味でも悪い意味でもフレンドリーなエリカはどうやら深雪の気質と合ったらしい。

彼女の大雑把な性格が世辞と愛想の十字砲火にうんざりしていた深雪にどストライクだったのだろう。

にしても初対面の奴と二言程度で下の名前で呼び合う仲って……ほんとコミュ力高いよなぁ。

 

「それよりも深雪、生徒会の方々の用事はもういいのか?」

 

「そうだぞ、こんな美男美女をほっといて俺達なんかと話してちゃいけないぞ?」

 

「大丈夫ですよ。

今日はちょっとしたご挨拶をしに来ただけですから。

あと……深雪さん、そう呼ばせて貰ってもいいかしら」

 

「あっ、はい」

 

折角気の合う友達を見つけてご満悦だった深雪の表情は再び神妙な面持ちへと戻って行った。

そんな深雪の頭に俺はぽんと手を乗せる。

 

「百合兄様?」

 

「そう警戒すんなって。

この人はいい人だ。

俺の第六感がそう言ってる」

 

「それでは深雪さん、また日を改めて。

あ、そうそう十六夜くん」

 

「なんでしょう?」

 

「摩利があなたのことを探していたわよ。

見つけたら風紀委員会本部に来てくれだって」

 

「わかりました。

ありがとうございます」

 

姉上ェ……会長さんにそんなこと頼むもんじゃないだろ…

七草先輩は俺に伝えたいことを告げると講堂を後にする。

会長のお付きのイケメンが若干達也のことを睨んでいるような気がしたがきっと気のせいではないだろう。

 

「というわけだ。

みんなは先に帰っててくれ」

 

「わかった」

 

「失礼します、百合兄様」

 

「積もる話もあったんだけどね…ま、明日でもできるか。

じゃーねー百合ー」

 

「また明日会いましょうね百合くん」

 

そう言って他のみんなも講堂の外へと歩き出していった。

 

「さて……俺も行こうかな」

 

俺も講堂を出て校舎へと向かう。

にしてもここってホントに広いよなぁ……大学って言われても正直驚かない自信がある。

 

「あだっ」

 

「あ!!

わりぃ!!」

 

ガシャン

 

その道中で俺はまた誰かにぶつかってしまった。

そして俺の制服の袖口からなにかが落ちた。

その俺にぶつかった男はその袖口からこぼれおちた拳銃型の機械を拾い上げる。

 

「これって……CADか?」

 

「ああ、しかも武装一体型のな」

 

Casting Assistant Device---法機(ホウキ)とも呼ばれるそれは現代魔法士の必須ツールともいえる。

元々は起動式を記憶するためのデバイスだったのだが時代が進むにつれ魔法を高速発動するデバイスとして開発はシフトしていった。

そして俺の持っている武装一体型CADというのは単純に言えば「武器とCAD一つにしちゃったZE☆」だ。

俺の場合は拳銃にCADをくっつけたもので銃による遠距離攻撃と魔法による各種サポートが売りだ。

 

「一体型……ってことはこれモノホンの拳銃?!

ご、ごめん、すぐ返すから!!」

 

「いいっていいって。

どうせ突っ込んであるのはゴム弾だから。

あ、俺は十六夜百合ってもんだ。

百合って呼んでくれ」

 

「よろしく百合。

俺は西城レオンハルト、レオでいいぜ」

 

「OKだレオ、よろしく頼むぜ。

ところでクラスは?

俺はAだ」

 

「あ、俺E組……」

 

俺が一科生であることを知って少々気が引けているのか声が小さくなるレオ。

 

「おお、E組か!!

俺の友達もE組なんだよ、司波達也ってのと千葉エリカってんだ。

仲良くしてやってくれ」

 

「あれ?

やじったり退け者扱いしたりしないの?」

 

「んなことねえだろ。

それは一部の調子乗ってるやつら、俺みたいに身の丈がわかってる奴はそういうことしないんだよ」

 

「そういうもんか?」

 

「ああ、もちろん。

それでレオ---」

 

ピーンポーンパーンポーン

 

『1年A組十六夜百合、直ちに風紀委員会本部に来てください』

 

俺がレオに風紀委員会本部の場所を聞こうと思った途端に姉上の声がスピーカーから響き渡った。

 

「呼ばれてるぞ百合」

 

「一緒に来てくれレオ!!」

 

「ん?

なんでだ?」

 

「姉上がこういう強硬手段に出るときは大抵怒ってるときなんだ!!

あの人他人が居る時は身内を怒ろうにも本気で怒らない性質だから、あとでなんか奢ってやるからさ、たのむ!!」

 

「……ハンバーガー三個」

 

「うっし交渉成立だ!!」




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三射 力試しと買い物と…

「失礼しまーす」

 

「遅かったじゃないか百合」

 

やっとこさ委員会本部の場所を見つけ出し中へ入る。

そこにはご機嫌そうな表情をした姉上が座っていた。

散らかった長机の向こう側に。

 

「なんで放送で呼び出したりしたんですか姉上!!」

 

「だってお前の端末の番号なんて知らなかったから」

 

「あ、そうですか……」

 

「まあ、散らかっているが適当にかけてくれ。

えっと……君は?」

 

「はい!!

1年E組、西城レオンハルトであります!!」

 

「真っ先にあたしに紹介する友達が二科生とは…昔から差別の二文字が嫌いだったおまえらしいな。

ああ、知っていると思うが私は風紀委員長の渡辺摩利だ。

よろしく頼む、西城」

 

「は、はい!!」

 

一科生の美人さんに握手を求められて動揺するレオ。

それを慌てふためきながらこなすとレオは姉上の方へと向き直る。

 

「つかぬことお伺いしますが、お二人はどんなご関係なのでしょうか?

姉上って呼んでいますし義理の姉弟とか?」

 

「そんな畏まんないで良いぞ。

どうせこの人、暇なときはベッドでゴロゴロしながら漫画読んでるような人だから」

 

「な?!

人のプライベートをさらっと暴露するな!!」

 

姉上が恥ずかしいプライベートを暴露され顔を真っ赤にして怒鳴る。

完璧超人な姉上を弄るのって結構面白いんだよね~

 

「すんません。

えっとだな、俺たちの関係って一言でいえば幼なじみってやつなんですかね?」

 

「そうなるな。

私の通っていた道場の師範と百合の父上が知り合いでな。

それで道場を訪れる回数を重ねるうちに今のような関係になったんだ」

 

「俺の生家、「十六夜家」と姉上の通っていた道場、「千葉家」は扱う分野が似ているから家族絡みで仲が良かったんだよ。

家からも近かったし」

 

「ふーん……所で、百合の使う魔法ってなんなんだ?」

 

「うーん……説明するのも面倒だし実際に見てみれば?」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「こんな広いところ俺一人の為に使ってもいいんですか?」

 

「入学式ってだけあって使うやつも居なかったしな」

 

姉上に案内されてやってきたのは遠隔魔法用実習室、通称「射撃場」と呼ばれる部屋だ。

俺達が立っている場所から数メートル先にホログラムでできた的が等間隔で複数置かれており、かなりの大勢での演習も可能のようだ。

明日行われる専門課程見学でここを訪れることも可能だったのだが一足先に来れたので少々お得感を感じている。

 

「ところで百合」

 

「なんです姉上?」

 

「なんで的と逆向きに立っているんだ?」

 

「…説明するのも面倒だし実際に見てみれば?」

 

俺が右腕を上に向かって振り上げると同時に袖口から真っ白な拳銃型のCADが飛び出してくるのをキャッチする。

 

「ほう……特化型CADか」

 

「いいえ、武装一体型ですよ」

 

俺は姉上達の居る方向に向かって引き金を引く。

パァンという大きな炸裂音とともに放たれた弾丸は数秒もかからぬうちに俺の真後ろの的の中心を捉え、青かった的の中心には弾丸が貫通した跡が残っていた。

 

「……どうなってんだ?」

 

「弾丸自体はただの訓練用のゴム弾ようだが…」

 

「これが俺の魔法『ベツレヘムの星』です」

 

ベツレヘムの星。

東方の三賢者にイエス・キリストの誕生を教え、その3人をキリストが誕生するベツレヘムへと導いた星の呼び名だ。

他にもクリスマスの星なんて呼ばれていたるするらしい。

 

「今の起動式は移動と収束の二種類の系統魔法から成り立ってる。

移動系魔法は単純に弾丸の軌道を変えるため、そして収束系魔法は---」

 

「移動系魔法による軌道変更時に生まれる急激なGに弾丸自体の強度を変えて変形することを防ぐため、だろ?」

 

「おお、やるじゃんレオ」

 

「ま、収束系硬化魔法は俺の得意分野だからな」

 

得意げな表情で胸を張るレオ。

見かけによらず結構頭いいな…実際第一印象的に脳筋だと思っていたのはここだけの話ってやつだ。

 

「それにしてもすごいな……

弾丸などの高速で飛行中の物体を魔法で遠隔操作するというのは難度が高い。

移動系統魔法は物体の強度や特定のプロセスを組み込まないと操作している物体自体が破損する恐れがある。

それを硬化魔法のマルチキャストで自壊を防いでいる上であの精密射撃は流石としか言いようがないな」

 

「ま、これで姉上の俺の力を試すっていう目的も達成できたし良かったでしょ?」

 

「ふっ……やはりバレていたか。

お前に隠し事は通じないな」

 

「ん?

どゆこと?」

 

状況理解がいまいち遅いレオは再び首を傾げた。

 

「風紀委員へのスカウト、でしょ?」

 

「ああ!!

そういうことか!!」

 

「確かにお前の言うとおりだ。

在学中の風紀委員会のメンバーの一人が事故で学校をやめてしまってな。

その空いた一枠の決定があたしに委ねられてな、お前を推薦しようと思う。

あれだけの精密制御が出来るんだからこちらとしては寧ろ大歓迎だ」

 

「じゃあ……俺が風紀委員に入るに当たって二つ条件を提示しても良いですか?」

 

「物によってはな」

 

「そんな大それた物じゃないですよ。

一つは俺の過去をあまり詮索しないこと」

 

「何故だ?」

 

「男の子には言いたくない過去の一つや二つあるもんなんですよ」

 

俺は自らの提案に対する質問を適当にはぐらかす。

しかしそうは問屋が卸さないようだ。

 

「……っ!!

誤魔化すな!!

この四年間、私もシュウもエリカも、どれだけ心配したことか…説明して貰えないと納得するものも納得出来ん!!」

 

「じゃあこうしましょう、来る時まで詮索しない。

期限付きでどうでしょう?」

 

姉上は少し考え込むような素振りをすると渋々といった表情の貼りついた顔をあげる。

 

「……わかった。

その来るべき時というものまで待ってやる。

あともう一つとはなんだ?」

 

ムスッとした表情の姉上は言葉を続ける。

 

「まあまあ、落ち着いてください。

もう一つの条件……と言うよりもお願いなんですけど」

 

「お願いか。

なんだ、言ってみろ?」

 

「これから友達へのプレゼント探しを手伝って貰ってもいいでしょうか?」

 

「プレゼント?

誕生日のか?」

 

「高校の入学祝いです。

なんせそいつらの両親が忙しいらしくってまともなもの貰ったことないらしくて。

せめて俺からでもあげれればなって思って」

 

「昔からお前は贈り物のセンス無いからな。

誰かに頼るのは間違っていないと思うが……そうだ!!

私も一人友達を呼ぼう。

そいつならその手のことを頼んでも大丈夫なはずだ」

 

「決まりっすね。

レオも行くだろ?」

 

「ああ、ついでにハンバーガー奢ってもらうからな」

 

「シェイクも付けてやる」

 

「よっし決まりぃ!!

っと思ったが……事務室からCAD取って来なきゃいけないから先行っててください」

 

「あたしもその友達と連絡を取らなきゃならないから先に行っててくれ」

 

「はぁい」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

耳に付けたヘッドホンから流れ込んでくる軽快なリズムと共に紡がれていくフレーズを口ずさみながら校門の端の方でボーっとしている。

 

「ごめん百合。

遅くなった」

 

「いいっていいって。

頼んだのこっちだし」

 

レオの声がヘッドホン越しに聞こえてくるとそれを外し辺りを見回す。

どうやらまだレオだけのようだ。

 

「何聞いてたんだ?」

 

「21世紀初頭に発売した曲。

俺、流行りの曲とかよりも昔の曲とかの方が好きなんだよな。

クラシックと言えばショパン、ロックと言えばビートルズとRADWIMPS、みたいな?」

 

「そんなこと俺に言われてもな……

あ、でもショパンは知ってるぜ。

別れの曲とかノクターンだろ?」

 

「そうそう---」

 

「おーい百合ー!!」

 

レオと音楽の話で盛り上がっているさなか、後ろから姉上の声が聞こえてきた。

振り向くと姉上は黒髪の女性と共に歩いていた。

あれ……あの人は確か……

 

「あなたは昼間の……七草会長!!

さっきはありがとうございました」

 

「真由美でいいわよ」

 

「あ、だったら俺も百合で良いです。

こっちは同じ学年の西城レオンハルト」

 

「西城です!!

よろしくお願いします!!」

 

「よろしくね百合くん、れおくん」

 

「なんだ。

お前達既に知り合っていたのか?」

 

「入学式の後にちょっと。

ね、百合くん?」

 

「深雪が達也に会いに来た時にちょうど会ったんですよ。

姉上が呼んでるってのは真由美さんから聞いたんですよ」

 

「深雪と達也って新入生総代の司波深雪とその兄の司波達也か?」

 

「はい。

今はあいつらの家に同居させて頂いてます。

司波家が十六夜家の遠縁の親戚だったもので、事情を説明したら両親が家を空けていて部屋も余っているから暮らしたらどうだって」

 

この話は半分本当で半分は嘘のようなものだ。

こうするのも姉上やエリカには悪いと思うが今はまだ本当の過去を話すには時期尚早だと思うからだ。

 

「今更だけどあの時は何も言わずに出て行ってごめん」

 

「あたしはその言葉が聞けて満足だ」

 

俺の謝罪に対して姉上は太陽のような微笑みを浮かべる。

昔から嘘を吐くのには慣れて(正直慣れるのはマズいと思うが…)いるがこんな表情で返答されると心が痛い。

本当にごめんなさい……

 

「所で百合、その入学祝いのプレゼントってのは司波兄妹宛てのものなのか?」

 

「はい。

でもそう言うのには疎くて……」

 

「ダメよ百合くん!!

女の子の相手するときはそう言うの覚えとかなきゃ。

女の子はアクセサリーとかお花、男の子には時計って大体相場は決まってるのよ?

男の子だったらご飯食べに行くとかもありね」

 

「確かに俺も高校の入学祝いは高い時計と家族みんなで高級ホテルのバイキングだったな」

 

真由美さんすげぇ……

 

「そうとわかったら行くわよ三人とも!!」

 

「行くっていってもどこに?」

 

「第一高校の最寄り駅の近くにはその手のお店が結構多いの。

その辺りを物色すればきっと気に入ったものが見つかるはずよ?」

 

「そうとわかれば善は急げだな」

 

「そうですね」

 

俺達は真由美さんに連れられ駅の方へ向かって歩き出す。

どんなのが良いかなぁ……?

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「今日はありがとうございました。

お陰で気に入ったものが見つかりました」

 

「いいのいいの。

こちらこそアイス奢らしちゃってごめんね」

 

「いいですよ。

お礼の気持ちという事で」

 

買い物を終えた俺達は学校からの最寄り駅のホームに居た。

真由美さんや姉上、そしてレオのアドバイスで達也達への入学祝いをちゃんと見つけることができた。

本当に持つべきものはいい友達とハイスペックな先輩だよなぁ…

 

「じゃあね百合くん」

 

「またな百合」

 

「また明日な」

 

「じゃーねー」

 

手を振って3人を見送る。

さてと……俺も帰りますかな……

 

「百合兄様ー!!」

 

「あれ、深雪?

先帰ったんじゃないの?」

 

名前を呼ばれて振り向くとそこにはなんと深雪が居た。

 

「少し買いたいものがありまして。

この辺りのお店をエリカ達と回っていたのです。

彼女達は先に帰ってしまわれましたが」

 

「そっか。

俺達も帰ろう。

何か飲む?」

 

「先程みんなでお茶してきたので大丈夫です」

 

「なら行くか」

 

俺達はいつも通り二人乗り用のキャビネットに乗り込む。

キャビネットとは二人または四人乗り用のリニア式小型車両の事で現代風電車である。

昔の電車とは違って待ち合わせが出来ない代わりに痴漢被害もなくなった上に目的地までの快速急行だ。

楽なことこの上ない。

 

「百合兄様」

 

「ん?」

 

「学校は楽しめそうですか?」

 

「ああ。

エリカに美月、姉上も居るし、それにお前たちが居るからな。

きっと楽しくなるだろうさ。

あ、今日さ、新しい友達が出来たんだぜ!!

あとさ、会長が結構良い人でさ---」

 

俺は今日起こった出来事を嬉々として深雪に話しまくった。

それを楽しそうに聞いてくれている深雪はやっぱりかわいかった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ただいま~」

 

「ただいま帰りましたお兄様」

 

「お帰り二人とも」

 

家に帰ってきた俺達を出迎えてくれたのは私服姿の達也だった。

靴を脱ぎ、荷物をリビングのテーブルに置く。

 

「?

百合、その袋はなんだ?」

 

「あ、バレた。

ま、今日中に渡すつもりだったからいいか。

ほれ二人とも、プレゼントだ」

 

テーブルの上の袋から水色の箱と青い箱を取り出し、水色を深雪に、青を達也に渡す。

 

「入学祝いのプレゼントってやつだ。

高校入学ってのはやっぱり凄いことだし全国有数の名門校に入ったんだ、それこそお祝いしなくちゃな」

 

「中身は……時計か?

ありがとう。

ちょうど欲しかったんだ」

 

「わあ!!綺麗なネックレス!!」

 

達也には●万円のアナログ式腕時計、深雪にはこれも●万円のネックレスだ。

達也のは彼のイメージにあわせて特に飾り気のないシンプルなものを、深雪には清楚なイメージにあわせて純潔の花言葉をもつ百合を象ったネックレスを。

二人とも気に入ってくれて良かった。

 

「ありがとう百合。

それでだな……」

 

「私達からも……どうぞ」

 

深雪から白いラッピングされた箱を渡される。

深雪に渡したのと同じような形の箱だからアクセサリーか何かだろうか?

 

「おおっ!!

開けてみても良いか?」

 

「ああ」

 

包装紙を丁寧に箱から取り外し箱を開ける。

中には昔とスマートフォンと呼ばれていたそれのような形の携帯端末が入っていた。

しかし今の通信手段と言えば仮想型ディスプレイ端末もしくはとスクリーン型ディスプレイ端末と呼ばれるものが主流で既に俺はスクリーン型を持っている。

 

「これCADか!!

汎用型一台は欲しかったんだよ!!」

 

「お兄様のお手製です。

裏を見てください」

 

その携帯端末型CADをひっくり返すとそこには黒のボディに白い線で花の絵が描かれていた。

 

「こっちも百合か」

 

「はい。

百合兄様にもっと威厳が欲しいなと思って」

 

「俺ってそんな安い男だったのか……」

 

「よく言えばフレンドリー、悪く言えば人たらしだな」

 

「達也まで?!

……もう良いよ……どうせ俺は人たらしですよ」

 

俺が膨れっ面なのに対してその表情を見ている二人はにこにこと笑っている。

 

「お夕飯の準備を致しますので少し待っていて下さい」

 

「いいよいいよ。

今日くらい俺がやるから」

 

「いや、百合も深雪も待っていてくれ。

今日は俺がやろう」

 

「じゃ、三人でやるか」

 

「それも良いかもな」

 

「そうしましょう」

 

俺の提案に二人も笑顔で頷き台所へと向かう。

確かに俺は大切な家族を失ったが、今はこいつらが家族みたいなもんで……姉上達もめちゃくちゃ心配かけたけど会えてものすっごい嬉しい。

こんな素晴らしい日常が長く続けば良いなと思ってる。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四射 風紀委員ですの(CV:十六夜百合)

「いや~着いた着いた。

朝は二重の意味でヒヤヒヤさせられたぜ」

 

「申し訳ありません」

 

「ま、気にすんな。

妹ってのはちょっと手が掛かる位がちょうどいいんだよ」

 

入学式の次の日。

俺と深雪は自分達の教室に初めて入った。

昨日入学式があったためが既に教室内には幾つかの小さなグループが出来ており、俺達は若干浮いていた。

 

「うーん……ま、席に座って本でも読んでるのがベターかな?」

 

「私は百合にい---」

 

「司波さん!!」

 

俺と深雪が教室の光景を見て他愛もない話しをしているとグループの一つの少年が深雪に声をかけてきた。

 

「行ってこい深雪、ご指名だぞ」

 

「でも百合兄様は?」

 

「俺の事は気にしないでいいよ。

それでこその高校生活ってやつだろ」

 

「そうですね。

行って参ります」

 

軽くお辞儀をして深雪は声をかけられた少年の方へと歩いていく。

 

「さてさて……トイレの場所でも確認しとくかな」

 

「きゃっ」

 

そう言って俺は廊下へと歩き出すと何かが体にぶつかった。

下を見ると俺と同じ一科生の制服を着た少女が尻餅をついていた。

 

「ご、ごめん!!

ダイジョブか?」

 

「だ、大丈夫です。

こちらこそぶつかってごめんなさい」

 

俺はその子に手を差しのべて彼女は手を取り立ちあがった。

そしてぺこりとお辞儀をするツインテールの女の子。

その隣で転んだ子に寄り添って少しおろおろしている黒髪の女の子。

にしても深雪といい美月といいエリカといい姉上に真由美さんといい女の子みんなが可愛いとか……ここは楽園(エデン)か?

中学の時は深雪がダントツで学校一の美少女だったけどこの学校だと深雪くらい可愛い子が結構ざらにいる。

魔法科高校……恐ろしい所……!!

 

「そういや自己紹介がまだだったな。

俺は1-Aの十六夜百合だ。

百合って呼んでくれ」

 

「光井ほのかです。

光る井戸って書いて光井です。

あ、クラスは百合くんと同じの1-Aです」

 

「……北山雫、同じくA組。

よろしく」

 

「よろしくなほのか、雫。

北山……って言うともしかして振動系魔法で有名な北山紅音さんの近親者?」

 

「近親者と言うよりも娘」

 

「おおっすげえな!!

振動系苦手でさ、今度教えてよ」

 

「……秘密」

 

「ちくせう」

 

そう言う雫の表情はほんの少しだがほころんでいた。

どうやら彼女は感情表現が少し苦手なようだ。

 

「でも十六夜くんも凄いじゃないですか!!

入試の実技試験の成績トップですよ?」

 

「確か真由美さんもそんなこと言ってたな……

そーゆー情報ってどっから仕入れてんの?」

 

「風の噂。

入試の得点に関する資料が生徒の間に出回っているって話もある」

 

「案外その手の管理って甘いのな。

ところでほのかはどんな魔法使うの?

光井だけに光の魔法?」

 

「はい。

私の家系は代々光波振動系魔法を得意としているんです」

 

「羨ましいよなぁ……俺の得意な魔法なんて飛んでる物体の軌道を変えるだけだぜ?」

 

「例えばなにを?」

 

「弾丸」

 

「「え?」」

 

キーンコーンカーンコーン

 

二人の真の抜けた声とともに予鈴がなった。

それと同時に廊下に居た生徒達は各々の教室へと戻って行く。

 

「もうこんな時間か?

そろそろ席に着こうぜ」

 

「え?!

だ、弾丸ってどういうことですか?!」

 

「ぶ、物騒……」

 

「その話はまた後でってことで。

ほれ二人とも、早くしないと先生来ちゃうぞ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「いや~終わった終わった。

あんまりにも退屈で死にそうだったぜ」

 

「そういうことを言わずに。

お兄様も待っていることですし早く行きましょう」

 

午前中の専門課程見学を終えて昼飯を食べようと食堂へ。

朝のうちに達也と昼飯を食べようと約束していたためここへとやってきた。

春休み中は毎日達也と会っていた深雪は半日ぶりに会えるということで今にもスキップしそうな程に機嫌がいい。

 

「ゆ、百合くん!!

朝の弾丸ってどういう意味ですか?!」

 

「だからそのままの意味で拳銃から放たれる弾のことだって」

 

「ま、まさか百合くん拳銃持ってるの?!

物騒……」

 

「だから入ってんのは訓練用のゴム弾だし鉛弾は持ってないっての!!」

 

朝の一軒の所為かほのかと雫も一緒である。

まあ確かにただの高校生が突然魔法で弾丸をどうとか言えば驚くのも仕方ないと思うけど……

 

「お兄様!!」

 

「よう達也。

お、レオに美月にエリカも一緒か」

 

「おっす」

 

「こんにちは十六夜くん」

 

「出たな百合・ゲラー!!」

 

「だからその呼び方やめろっての!!」

 

小学校の頃に呼ばれていた謎のあだ名で俺のことを呼ぶエリカに抗議の声をあげる。

 

「しっかしそのあだ名付けたの誰だよ……恥ずかしいったらありゃしねえ」

 

「ん?

これ考えたのあたし」

 

「お前かよ!!」

 

「あ、深雪、ここ空いてるよ」

 

「俺のこと無視かよ!!」

 

「あ、ごっめーん百合~

アンタの席無いから」

 

「ひでぇ!!」

 

再び抗議の声をあげる俺。

そしてレオと達也が何か話している。

どうやら深雪のことを紹介しているようだ。

それに気付いた深雪はレオの方へと体を向け軽くお辞儀をする。

 

「はじめまして。

司波---」

 

「司波さん」

 

深雪の自己紹介を遮って横から誰かが声をかけてくる。

そちらを見ると俺や深雪と同じ左胸に8枚花弁のマークを付けた集団がいた。

その先頭の今朝深雪を呼んでいた茶髪の男(確か森崎とかいう名前だったような気がする)が声を掛けてきたようだ。

 

「もっと広いとこ行こうよ」

 

「邪魔しちゃ悪いって」

 

「でも、私はこちらで食べますので……」

 

「え……?

司波さん、二科生(ウィード)と相席なんて……やめるべきだ」

 

「はあ?」

 

ウィード-雑草を意味するその単語は一科生をブルームと呼称することによって対比する一種の差別用語として扱われている。

学校側としてはこう呼ぶことを禁止しているが二科生ことをそう呼んでいる一科生は結構ざらにいるようだ。

俺の横ではほのかと雫が俯いている。

どうやら自分の友達の友達に対してどういう対応を取ればいいのかがわからないようだ。

 

「ほのか、雫。

あーいうやつらと一緒になってあんなこと言うのはダメだからな。

たとえどんなに力を持っているとしてもその力をひけらかして自分よりも能力の低い人間を蔑んではいけない」

 

「そう……だよね」

 

「うん……」

 

二人とも俺の思いが届いたのか一科生の集団に敵意のこもった視線を向ける。

そんな中集団の一人がとんでもないことを口にした。

 

「一科と二科のけじめは付けた方がいいよ」

 

「なんだと?」

 

「あ……あの……」

 

その言葉にレオが怒気の籠った声を発し席を立つ。

……このままじゃマズいな。

 

「ノンノンノンノンノンノン。

一回落ち着けってレオンハルトくん?」

 

「おい百合!!

こいつらの肩持つってのかよ!!」

 

「ちがうちがぁう。

こんなところで喧嘩なんてしたら他のやつらの飯が不味くなっちまう。

な、お前らもこれくらいにして今回は深雪の好きにさせてやってくれ」

 

「お前、一科生(ブルーム)の癖して二科生の肩を持つのか?」

 

「俺はただ単に風紀委員としての任務を遂行しようってだけだ」

 

「任務?」

 

「おう。

俺は十六夜百合。

森崎、お前のクラスメイトであり実技試験トップの成績を修めた張本人だ」

 

「ジャッジメントですの」って言いたいけど言ったら達也達に軽蔑の眼で見られるのも仕方がないような気もするので言わなかった。

でも一回くらいは言ってみたいなぁあれ…

 

「チッ……

行こうみんな、こんなやつらに構っていると馬鹿がうつりそうだ」

 

「なんだと?!」

 

「落ち着けってレオ。

じゃあな一科生共、アホ同士仲良くやってくれ」

 

小さく舌打ちをした森崎達は踵を返しどこかへ行ってしまった。

俺はレオを宥めながら軽い悪口を言い放ちヘラヘラと笑いながら手を振る。

今回はどうやら俺達の勝ち(?)のようである。

 

「ありがとうございます百合兄様」

 

「気にするな。

さ、みんなで飯食おうぜ!!」

 

「で、百合。

そこの女の子二人は?」

 

「ああ、今朝友達になったほのかと雫だ」

 

「光井ほのかです」

 

「北山雫」

 

「二人ともこっちへどうぞ。

私は柴田美月です」

 

「あたしは千葉エリカ。

よろしくね二人とも」

 

「俺は西城レオンハルト。

レオって呼んでくれ」

 

「俺は司波達也。

名字の通り深雪の兄だ」

 

「よろしくお願いします!!」

 

「よろしく」

 

軽いお辞儀をして二人とも席に着く。

 

「ところで俺の席は?」

 

「すまない。

空いてない」

 

「あれホントだったの?!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「お兄様……」

 

「謝ったりするなよ深雪」

 

その日の放課後、校門で待ち合わせていた深雪が俺達と合流したことによって揉め事が起こった。

深雪についてきていた女の子の一人が難癖をつけてきて口喧嘩に発展。

最初はA組の男子は周囲の目が気になっていたのかあまり口を出さないでいたが今の状況はそんなものはどうでもよくなってしまうほどにエスカレートしていた。

二手に別れた生徒達の奥側がA組の、しかも昼間食堂で絡んできた奴ら。

そして手前側にはレオ、エリカ、ほのか、雫、そして美月だ。

 

「こちら側にほのか達が混ざってるのは驚きました」

 

「百合の友達って百合に似た様な人間が多いな」

 

「それに、美月があそこまではっきりと意見を述べるような子だったとは思いませんでした」

 

「それについては同感だな」

 

俺と深雪はそこから一歩引いた所で見守っている。

 

「僕達は司波さんに用があるんだ!!」

 

「そうよ!!

司波さんには悪いけど少し時間を借りるだけなんだから!!!」

 

「だからって深雪さんがお兄さんと一緒に帰ると言っているのですから二人の仲を引き裂く権利は無いはずです!!」

 

何か決定的なものがずれているような気がする……

この歯がゆさはなんだろうか?

 

「み、美月?!

何を勘違いしているんでしょうね?」

 

「なぜ深雪が焦るんだ?」

 

「焦ってなんていませんよ?」

 

「そして何故に疑問系?」

 

深雪が何故焦るのかはさておき、そんな間にも状況は悪化していく。

 

「これはA組の問題だ!!

ウィードがブルームに口出しするな!!」

 

「ふざけないで下さい……!!

ウィードとかブルームって入学したての私達の実力に大きな差はないはずです!!」

 

怒気を露わにして大きな声を出したのはほのかだった。

 

「何で自分が少し強い力を持っているからって人を見下すんですか?!」

 

「ほのかの言うとおり。

例えあなた達が美月達よりも魔法力が勝っていようとも人間性では完敗だよ」

 

「……今の一言はマズいな」

 

場に張り詰めた空気が流れ始める。

その中で最初に口を開いたのは先頭に立っていた茶髪の男だった。

 

「だったら見せてやるよ……

その勝っている部分って奴をな!!」

 

そう言った茶髪の男は腰から拳銃型の特化型CADを引き抜く。

そして銃身を囲むように二つの輪が現れる。

魔法を放とうと照準を合わせ、引き金に指をかける。

それを止めようとレオは雄叫びをあげながら突進するも相手の方が早い。

 

「お兄様!!」

 

俺は万が一に備えて魔法を発動させようと右の手を伸ばす。

しかし銃身に構築された魔法式は何の意味も成さなかった。

 

「うぐう?!」

 

なぜならその手に持っていた拳銃型のCADは横合いから現れた一科生によって蹴り飛ばされたからであった。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの」




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五射 十六夜百合の思うこと

風紀委員(ジャッジメント)ですの」

 

「「「は?」」」

 

百合の謎発言が爆発。

でも帰ってきた答えはその場にいる全員からの辛辣なキレ気味ボイス。

十六夜百合の生きる現実は非情である。

 

「珍しくカッコつけてんのにアンタなに言ってるの?

バカなの?死ぬの?」

 

流石に空気を読めなさすぎな百合にあたし---千葉エリカは怒りを通り越してただただ呆れた。

昔っから空気読めないのは相変わらずと言うかなんというか…

 

「何度も言うがお前本っ当ひでぇな?!」

 

「百合兄様……流石に今のはちょっと…」

 

「空気読めよ」

 

「深雪に達也まで?!」

 

「ふざけやがってぇっ……」

 

百合には悪気はなかったのだろう。

きっと本人は少しでも雰囲気を和ませてこの場を自然な流れでやり過ごそうとしたのだろうがどうやらそうはいかないようだ。

寧ろ一科生陣営のボルテージをあげるような結果になってしまった。

 

「お前はなんでウィードの肩を持つんだよ!!

何で自分よりも弱い……屑ども(・・・)を庇うんだよ?!

ヒーロー気取りかお前は?!

実技の結果が少し良いからって調子に乗ってんじゃねえよ!!

お前は一体何様なんだよ、十六夜百合!!」

 

ボルテージ最高潮の茶髪の男が百合を指差して怒気の籠った声を放つ。

 

「おいてめえ今なんつっ---」

 

「待てレオ」

 

その言葉に反応したレオを百合は窘める。

 

「百合……お前良いのかよ?!

こんなに好き放題言われてさ!!」

 

「俺のことなんてどうでもいい。

でも森崎、レオ達に謝れ」

 

「は?

なんで格下のウィード共に---」

 

「こいつらに屑って言ったことを謝れって言ってんだよ」

 

百合の口から紡がれる言葉はひどく冷めきっているがその中に明確な怒りという感情が感じ取れる。

 

「この世界には強者なんていない。

この世界にはお互いに助け合わなければ生きていけない弱い人間しかいない。

それなのにお前らはなんなんだ?

自分が少し有能だからって才能のない人間を見下して、蔑んで、挙句の果てには屑呼ばわり……最低な野郎だな」

 

「お前……もう一度言ってみろ!!」

 

「ああ、何度でも言ってやるさ、お前らは最低な野郎だってな。

さっきも言ったが別に俺はお前が俺に対して言った言葉に怒ってるわけじゃない。

確かにヒーロー気取ってるってのはあながち間違いじゃないかもな。

だからこそお前がこいつらを屑なんて呼んだことに怒ってるんだよ。

友達の尊厳を、心を守るために怒ってるんだよ」

 

「百合……」

 

十六夜百合ってやつは昔っからこうだ。

自分がなにをされてもへらへら笑って受け流して…でも友達が何かされると鬼のように怒って…

本当にアイツは自分の周りに居る人間が大事で、すっごく優しいやつなんだろうなって今の言葉を聞いてても思う。

 

「そんなお前らレベルが何人束になってこようが俺は負けない。

寧ろ俺が負けたらお前らになんでもしてやるよ」

 

「お前……言わせておけば!!」

 

百合の挑発に乗せられてCADを蹴り飛ばされた男以外の一科生が一斉にCADを操作し始める。

腕輪型、携帯端末型…各々の形を持つそれに光の輪が形成される。

そして複数の光の弾が百合に向かって放たれる。

 

「百合!!」

 

「遅い」

 

百合がそう言った直後に鳴り響く複数の銃声。

百合に向かって飛んでいった光は全て消え去り、それらを放った奴らの視線はある男に向かって殺到する。

その目線の先の男、十六夜百合のその手に握られていたのは二艇の真っ白な拳銃。

 

「あのCAD……『気高き百合(ノーブル・リリー)』…」

 

その銃口からは一筋の煙が天に向かって昇っていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「本当にただの見学だったのだな?」

 

「いまさらシラ切っても無駄だと思うんでぶっちゃけるとあれはただの喧嘩です」

 

「そんな気がしていたからあまり気にしてはいないけど」

 

橙色に染まる空を眺めながら俺は缶コーヒーをすする。

俺が四人相手に圧勝した後、騒ぎを聞きつけた姉上と生徒会長もとい真由美さんが現れた。

先に手を出してきた相手も悪いんだが相手を挑発した俺も悪い。

大人しくお縄に掛ろうと思っていたところ達也の巧みなお言葉の数々によって言いくるめられた上に真由美さんによる追い打ちによって今回の件は不問となった。

そして今俺は夕日の差し込む生徒会室で姉上と真由美さんから事情聴取もとい尋問を受けていた。

 

「にっがぁ?!」

 

「お前、コーヒー嫌いなのになんで飲んでるんだ?

しかもブラックで」

 

「ごほっごほっ……

いや、深雪が淹れてくれる甘いやつは飲めるから大丈夫かなって……

でもさ、今更俺が本当のこと言ったところで一回不問にしちゃったらそのまんまでしょう?」

 

「そうね。

後々掘り返してまた喧嘩になったら堪らないもの」

 

クスリと笑いながら真由美さんは答える。

……今更だけどみんなで帰れなかったのが物凄い残念で仕方ないんだけど。

エリカのドヤ顔が頭に浮かぶ。

今頃みんなで美味しいもの食べてるんだろうなぁ…

 

「そう言えば姉上」

 

「なんだ?」

 

「風紀委員ってどんな仕事すればいいんですか?」

 

「摩利……あなた弟分に仕事の説明くらいしてあげなさいよ」

 

「すまん……時間がなかったもので」

 

真由美さんも呆れ顔。

こればっかりは仕方がない。

だって人間だもの(適当)

 

「風紀委員の主な役割は簡単に言えば学内で起こった喧嘩を止める事だな。

特に先程のような魔法使用による非公式な戦闘行為についてはお前がやったとおり実力行使でも構わない」

 

「そのために風紀委員は常にCADの携行が許されているんですね」

 

「そう言うことだ。

少々危険を伴う仕事だと思うが改めてよろしく頼む」

 

「何だかんだ言って姉上との付き合いは長いんだ。

断る理由はないですよ」

 

「ありがとう百合」

 

感謝の言葉を述べると姉上は俺と同じ銘柄のコーヒーを一口すする。

 

「ところで姉上」

 

「なんだ?」

 

「彼氏できた?」

 

「ぶほぉ?!」

 

姉上が柄にもなく盛大にコーヒーを噴き出した。

その先にあったのは俺の顔面。

当然のことながらそれは俺の顔を茶色に染めた。

 

「す、すまない百合今拭くってうわぁ?!」

 

慌てふためく姉上は地面に落ちていた紙を踏んで滑り盛大に尻餅をついた。

 

「大丈夫ですか姉上?」

 

「ああ……なんとかな」

 

そんな姉上に俺はポケットのハンカチで顔をふきふきしながら手を差し伸べる。

俺の手を取り立ちあがったのは良いが姉上の顔は恥ずかしさと怒りで真っ赤になっていた。

 

「なんでそんなことを唐突に聞くんだ?!」

 

「え?

だって姉上中学の頃よりも女の子らしくなってるからさ。

そんなあからさまに動揺してるってことは図星?」

 

「百合くん!!

男の子が女の子にそのようなことを聞くんじゃありません!!

例え気になったとしても本人にばれないようにこそこそ調べる、それが大人の対応よ!!」

 

「ただの変態じゃにゃいか!!」

 

真由美さんの本心なのかボケなのかわからない発言に顔を耳まで真っ赤にしながら姉上は叫ぶがその声にはいつもの覇気と余裕はなく、噛んでしまっている上に声もうわずっている。

傍目から見ても明らかに動揺しているのが目に見えて分かる。

 

「ほ、ほら!!

事情聴取も終わったことだしお前たちも家に帰れ!!

百合もあんまり遅くまでいると司波さん達が心配するだろう!!」

 

取り繕ったようなその態度にはまだ動揺の色が見え隠れしている。

これ以上弄るのは流石に可哀そうになってきた…そっとしておこう。

 

「それじゃ、お先失礼しまーす」

 

そう言って俺は生徒会室を出る。

そしてふと時間を確認しようとポケットから携帯端末を取り出す。

時計を確認しようと取り出したのだが、その画面には新着メッセージ1件の文字が表示されている。

そこをタッチしてウィンドウを開く。

差出人はエリカだった。

そこには一言、「待ってる」の文字。

何を待っているのだろうか……取り敢えず家に帰ろう。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「お疲れ様」

 

「おお、待ってるってそういう意味だったのか」

 

重い足を引きずりやっとこさ辿り着いた校門にはエリカが立っていた。

どうやら待ってると言うのはこういう事だったらしい。

 

「じゃ、行こうか」

 

「ね~あたし疲れた~

おんぶしてよおんぶ~」

 

「はあ?!」

 

両の手をぶらぶらさせながらエリカはただをこね始める。

……昔からそういうの多いよなお前……

 

「仕方ねえな~

ほれ、してやるよ」

 

「うそぉ?!」

 

「何驚いてんだ?

してくれって言ったのはおまえだろ?」

 

「いや……でも……本当にOK貰えるとは思ってなくて…」

 

俺の了承の言葉に驚いたと思えば今度はもじもじし始めるエリカ。

俺はエリカの気持ちなんてさっぱりわかんないので見てるこっちからしたらころころ変わる表情がただ単に面白いだけだ。

 

「で、どうすんの?」

 

「お、お言葉に甘えさせてもらうわよ!!」

 

「結局乗るのかよ……」

 

しゃがんでいた俺の背中に重さがかかり、エリカの細い腕が俺の首に巻きついた。

……これ、今更だけどものっすっごい恥ずかしいんだけど。

 

「そういやさ、アンナさん元気?」

 

「ああ……母さんなら2年くらい前に死んじゃったんだ……」

 

「そうか……」

 

エリカの返答によって俺は返す言葉もなくただ頷く。

やっちゃったよ!!

久々に会った幼馴染みとの会話で一発目から地雷踏んじまったよ!!

どうすんだよ……どうすんだよ?!

 

---ライフカード---

 

んなもんねえよ?!

 

「ねえ百合」

 

「ふぇ?!」

 

胸中のシャウトを察されまいと必死にポーカーフェイスを取り繕っていた俺にエリカの方から声を掛けてくれた。

まさかこんな事にはなるまいと思っていたので思わず変な声が口から洩れる。

 

「あんたの使ってるCAD、美奈さんと浩二さんが使ってた『気高き百合(ノーブル・リリー)』だよね?」

 

「ああ、今は『嘘吐きの百合(ライアー・リリー)』って呼んでるけどな」

 

美奈さんと浩二さん、俺の母上と父上の名前だ。

俺の両親は二人とも警察官であり、二人が出会ったのは職場が初めて。

所謂職場内結婚というやつだ。

母上は左利き、父上は右利きでこの二艇で一セットであるCADを結婚祝いに貰ったという。

そして俺の十二歳の誕生日、エリカ達との誕生日会を終え家に帰った俺を迎えたのは真っ赤に染まって冷たくなった二人の遺体と俺の妹-十六夜千鳥のものと思われる腕だった。

三人を殺した犯人は四年経った今でも見つかっておらず、千鳥の腕から先の部分は見つかっていない。

俺の家「十六夜家」は百家の本流に名を連ねる名家で、俺の両親そして祖父はみんな職業は警察官、主に国際犯罪組織や非合法な活動を行っている反魔法団体の無傷(・・)での検挙が仕事であり、この事件もそれらの団体による報復行動であると見られている。

そして横たわっていた二人の腰のホルスターには二艇の血のついた真っ白な拳銃、それがこれである。

ようするにこれは俺の両親の形見なのだ。

 

「なんで名前変えちゃったの?」

 

「まあ、俺が嘘吐きだったってことだよ」

 

「?」

 

エリカは首をかしげる。

俺が父上と母上が死んでからの一年で何をしたかを知らなければ当然の反応か。

 

「まあいいわ。

それとね、あんたさっき自分のことをヒーロー気取りって言ってたよね」

 

「ああ」

 

「あんたは自分のことをヒーロー気取りって思ってるだろうけどあたしにとってはずっとあんたはヒーローで、そんなかっこいい百合のことがずっと大好きだったんだよ?」

 

「え?」

 

「っと……今日はありがとね。

じゃ、また明日!!」

 

いつの間にか駅に着いていた。

何か深い意味が籠ってそうな一言を言い放ちエリカは俺の背中から降りて駅の構内へと走っていった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六射 FIGHT IT OUT!!

「達也くーん!!」

 

第一高校から最寄りの駅までは一本道である。

俺はいつも通り同居させてもらっている二人と同じ電車に乗り、駅に着くと待ち合わせていたかのように美月達が登場する。

昨日と違うのはほのかと雫も混ざって結構な大所帯な訳だが更に面子が増えるようである。

達也の名前を呼んでいるからきっとE組の子なんだろうなって振り向くと…

 

「待ってよ百合く―ん!!」

 

意外!それは会長!!

なんと達也の名前を呼んでいた人はこの学校の生徒会長「七草真由美」だった!!

 

「あるえ~達也く~ん?

生徒会長とは一昨日が初対面なのでは?」

 

「入学式のときが初対面…だったはず」

 

「なんかそうは見えねえよな」

 

「付き合いたての彼氏彼女みたいに見える」

 

「つ、付き合い…たて?!」

 

雫がぼそりと言った言葉に顔を真っ赤にして過剰な反応を見せるエリカ。

 

「何焦ってんだエリカ?」

 

「な、なんでもないわよバカ百合!!」

 

「いきなり馬鹿って言うことはねえだろ…

俺だって傷付くんだぜ?」

 

「ご、ごめん」

 

…なんだこの可愛い生き物?

昨日の意味深な台詞の所為で無駄にエリカのことを意識してしまう!!

しかもこのタイミングで上目づかいとか反則だろてめえ!!

 

「オハヨ~達也くん、百合くん。

深雪さんもおはようございます」

 

なんだか俺と達也の扱いが雑な気もする…

 

「おはようございます」

 

「お一人ですか?」

 

「うん。

朝は特に待ち合わせとかしないんだよ」

 

達也が若干嫌そうなオーラを出すがそんなことお構いなしの会長はスマイルだ。

 

「こんな朝っぱらに追っかけて来たってことは何か大事な用事でもあるんですか?」

 

「うーん…大事って程の事ではないんだけど…

深雪さんに一度生徒会のことについてお話ししておこうと思ってね」

 

姉上から聞いた話によるとこの学校では毎年新入生総代を務めた人-所謂入試主席を修めた一年生に生徒会役員になってもらうらしい。

主な目的は後継者の育成で別に強制と言うわけではないのだが今までに例外はほとんどいないそうだ。

ちなみに真由美さんも入試は首席で入学してきたとか。

凄いよね。

 

「そこで、生徒会室でお昼を一緒に食べようと思うの。

何だったら皆さんも一緒にどうかしら?

生徒会の活動を生徒に知って貰うのも役員の務めですし。

それに百合くんも風紀委員会に入ったのはいいけど生徒会の面々とは顔を合わしてはいないでしょう?

何かと風紀委員会と生徒会って絡みが多いから、どうかな?」

 

これも姉上から聞いた話なのだが部活の新入部員勧誘の時やそれこそ学園がアブないやつらに占拠された時なんかは主に生徒会と風紀委員が連携して対応に当たるそうだ。

なぜ姉上が新入部員勧誘を例に挙げたのかは知らないがきっと魔法科高校ってだけあって危険(主に魔法弾のドッジボールを止めるとか)が伴うのであろう。

 

「それはちょっと遠慮しますが…行くとしたら弁当持ってくんですか?」

 

「生徒会室にダイニングサーバーがあるから大丈夫よ」

 

「そんなものまであるんですか?!

流石名門校、他の学校がしないようなことを平然とやってのける!!」

 

「そこに痺れる憧れるぅ!!」

 

「「いえーい!!」」

 

「あんたら仲良いわね」

 

俺の発言にノッてくれたレオとハイタッチ。

いやぁ…いいねえ…こういうの。

高校生らしい馬鹿さ加減が最高だね。

 

「あたし達も遠慮しておきます」

 

「深雪さんは?」

 

「私は…」

 

深雪は達也の方をちらちら見ながら戸惑っているような表情を見せる。

きっと達也も行くなら行く的な考えが頭の中にあるのだろう。

 

「行って来た方がいいと思うぜ?

達也もな」

 

「でも俺は副会長と揉め事なんて御免ですよ」

 

俺の提案に反論を仄めかす台詞を口にしたのは達也だ。

そう言えば入学式の日に真由美さんの連れっぽい人が達也を睨んでたような気がする。

あれ副会長だったのか。

 

「あ、大丈夫。

はんぞーくんはお昼はいつも部室だから。

せめて深雪さんだけでも来てくれたら嬉しいんだけど…」

 

落ち込んだような表情をする真由美さんに狼狽し始める深雪。

俺はこちらを向いた深雪に向かって行ってやれと眼で合図を送る。

達也にも同じように視線を送ると仕方がないなとため息をつくが了承してくれたようだ。

 

「わかりました。

深雪と二人でお邪魔させていただくことにします」

 

「ホント?!

…じゃなかった…じゃあ、詳しい話はお昼に。

お待ちしていますね」

 

年相応といった反応を見せるのは無意識かはたまたこれも計算の内なのか…

スキップでもしそうなテンションの真由美さんはぺこりとお辞儀をすると軽快な足取りで立ち去った。

 

「怨むぞ百合」

 

「あはは…俺が死んでからで頼む」

 

その日からしばらくの間、達也にCADの調整を断られ自分でやらなければいけなくなったのは言うまでもない。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「しっつれいしま~す」

 

「失礼します」

 

放課後、俺は姉上に生徒会室に呼び出されたと思ったら達也と深雪に会った。

本人曰く「風紀委員になれだと」だそうだ。

俺は姉上に振り回されるのにはもう慣れっこだが変なところで真面目なこいつはかなり苦労しそうな気がする。

入室するや否や達也に向かって敵意のある視線が飛んでくる。

その視線の主は入学式の日に達也を睨みつけたはんぞーくんことこの学校の生徒会の副会長である服部刑部少丞範蔵(はっとりぎょうぶしょうじょうはんぞう)先輩だった。

名前が長いので俺もはんぞー先輩と呼ぶことにしよう、うん。

 

「副会長の服部刑部です。

よろしくお願いします司波深雪さん」

 

礼儀正しくお辞儀した深雪は壁際の端末へと小柄な女の子に誘導された。

彼から放たれる想子の光は同じクラスの人間とは比べ物にならないくらい綺麗だ。

相当な手練れと見て間違いはないだろう。

 

「来たな百合・ゲラー!!」

 

「だから姉上!!

その呼び方はやめてくれと何度も言ったじゃないですか!!」

 

「いや~エリカのネーミングセンスもなかなか悪くないと思ってな」

 

「本当に恥ずかしいんですからやめてください!!」

 

けらけらと笑いながら姉上は立ち上がる。

 

「冗談だ。

早速行こうか、本部」

 

「また外出るんですか?」

 

「いや、中で繋がっているんだ」

 

「言われてみれば…生徒会室の真下でしたね」

 

「不思議な構造ですね」

 

「あたしもそう思うよ」

 

「待って下さい」

 

姉上が歩き始めたところで誰かの声によって姉上は動きを止めた。

その声の主ははんぞー先輩。

その瞳には何かに対する抗議の色が見える。

 

「なんですか?

まさか達也の風紀委員の任命に反対とか言うんですか」

 

「その通りです」

 

「司波達也くんを指名したのは七草会長だ。

お前が何を言おうが指名の効力に変わりはない」

 

「…会長、私はこの司波達也の風紀委員任命に反対します。

魔法力の乏しい二科生に校則違反者の取り締まりなど勤まるわけがありません」

 

「待って下さい!!」

 

壁際から深雪の怒声が飛んでくる。

 

「僭越ですが副会長、兄の実技の成績は確かに芳しくはありませんがそれを補うことのできる力を兄は持ち合わせています!!

実践で兄が負けるはずがありません!!」

 

「それについては俺も同感です。

こいつの体術、展開中の魔法を読み取りことのできる目、それらがあれば例え手練れの一科生でも引けを取ることはないと思います。

要するに魔法力の強い奴=強いって考え方はおかしいと思います」

 

事実俺は純粋な体術だけの勝負、それに魔法を織り交ぜても一度しか勝ったことがない。

それはとある術式のお陰なのだが危険度が高いためその時以来使ってはいない。

 

「確か君は…十六夜くんだったかな?

魔法士は事象をあるがままに、冷静に、理論的に認識できなければならない。

君は司波さん達と同居していると聞いたが、魔法士を目指すならば身贔屓なんてものに目を曇らせてはいけない。

司波さん、君も同じだ」

 

俺を諭すような優しい口調。

その言葉に俺は苛立ちを覚えると同時に一科生からしたら普通に良い先輩なんだなと思った。

しかしそんな一科生贔屓を深雪が許すことはなく深雪の怒りの炎は更に燃え上がる。

まさに火に油を注ぐといった具合に。

 

「お言葉ですが、私の目は曇ってなどいません!!

お兄様の本当の力を以てすれば---」

 

「深雪」

 

しかしそんな深雪の怒声は悪口を言われた達也本人によって遮られた。

 

「服部副会長、俺と模擬戦をしませんか?」

 

「なに?」

 

確かに達也の提案は正しいと言っても良い。

相手の実力がわからないなら手合わせするのが手っ取り早い。

 

「思い上がるなよ、補欠の分際で!!」

 

「そんな事はありません。

俺はただ妹と友達の目が曇っていないことを証明したいだけです」

 

「まさかはんぞー先輩断っちゃうんですか?

相手は一年生、しかもあなたが言うには実力の劣る二科生の生徒との模擬戦を?

まさか…まさかとは思いますが、負けるのが怖いんですか?」

 

この手の傲慢な奴をステージに引きずり出すにはおだてるか煽るかのどっちかが効果的何だよね~

 

「いいだろう、やってやる!!」

 

ほーら乗ってきた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「うん。

何つーかやっぱお前は凄い」

 

学校の中でも指折りの実力者であるはんぞー先輩をものの数秒で倒した達也。

正直凄いとしか言いようがない。

 

「褒めたところで朝の一件を許すわけないからな」

 

「ですよね」

 

達也は俺に背を向けて作業をしながら俺の声に応える。

そんな達の後ろには「手伝いたいです」と目で語る深雪と「もっと見たかったです」という視線を送り続けるあーちゃんこと中条あずさ先輩だ。

彼女は自他共に認めるCADマニアらしく、達也のCAD「シルバー・ホーン」に興味津津のようだ。

達也のCADはフォア・リーブス・テクノロジー(FLT)という会社の謎多き専属エンジニア「トーラス・シルバー」がフルカスタマイズした特化型CADで、市販品であるにも拘らずプレミア付きで取引されているくらい評価の高いモデルである。

その特徴は「ループ・キャスト」と呼ばれる同一の魔法を可能な限り発動し続けるというシステムで、このシステムの発表により魔法界の技術を目覚ましく発展させた。

 

「にしてもさあ…達也だけ目立って俺の実力がまだ知って貰ってないってのもなんかなぁ…そうだ!!

姉上、俺と模擬戦しませんか?

武器ありで」

 

「うむ。

あたしもお前がこの四年間でどれだけ成長したか確かめてみたくなった」

 

「百合くん?!

摩利も…もう借りてる時間が終わっちゃうからまた後日ね」

 

まあまあと俺達を宥めるように間に立った真由美さん。

しかし俺も姉上も一回火がついたら燃え尽きるまで止まらないタイプである。

 

「だったら時間を延ばせばいいじゃないか」

 

「で、でも百合くん?

摩利ってこの学校でも三本の指に入る実力者よ?」

 

「じゃあ、俺が姉上に勝てれば俺もそのトップスリーに入れるわけだ。

さあ姉上、やりましょう」

 

俺は袖口から飛び出たCADの銃口を姉上に向ける。

 

「望むところだ」

 

姉上もどこからか取り出した剣道の竹刀の先端を俺に向ける。

 

「はあ…もう好きにやって頂戴」

 

私はもう知りませんよといった表情で真由美さんはため息をついた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七射 銃は剣より強し?

「さあ、始めましょう姉上」

 

「まあそう焦るな。

真由美、ルールの説明を頼む」

 

はやる気持ちを抑えられずトントンと跳ねる百合。

そんな落ち着きのない百合を渡辺先輩は制止する。

久々と思われる渡部先輩との戦いに感情が抑えられずにやけている百合に対して渡辺先輩はいつも以上に凛々しい面持ちでそれを見据える。

全く真逆の面持ちの二人の間で七草会長はルールの説明を開始する。

 

「ルールは大体同じ。

先程との相違点は武器による攻撃を許可します。

それでも、相手を骨折させるなどの大怪我をさせた場合には力ずくでも試合を止めますが。

もう一つは先に相手に武器による攻撃を三回当てる、もしくは相手の頭部に攻撃を一度当てた方が勝者となります」

 

この特別ルールは百合にとってはありがたいものだろう。

百合の術式「ベツレヘムの星」は言ってしまえば一撃必殺と言うべき攻撃性は持ち合わせていない。

しかし相手に三回当てると言うものなら学内でも最高ランクの実力を持つ先輩にも勝機はある。

 

「お互い準備は良いですね?」

 

「勿論だ」

 

「当然です!!」

 

「司波くんはどちらが勝つと思いますか?」

 

二人が気合い十分なのに対してただの一観覧者でしかない俺-司波達也-は特にこれといった感情は持ち合わせていない。

そんな中、隣にいる市原先輩がおもむろに問いを投げかけてくる。

 

「どちらとも言えませんね。

渡部先輩は対人戦闘のスペシャリストと聞きますが俺はまだどんな戦い方をするのかは見ていませんし、百合も相手の得意とする間合いによって戦い方は変わってくると思いますし…」

 

「へ?

十六夜くんって中距離射撃型の戦法が得意じゃないんですか?

使用しているCADも拳銃の武装一体型みたいですし」

 

俺の返答に素っ頓狂な声をあげたのは中条先輩だった。

確かに百合の魔法とCADを見ればそう思うのは当然だとは思うが…

 

「いえ。

あいつの第一印象としては中条先輩の言う通りの戦い方を好むように見えますが…」

 

「始め!!」

 

俺の言葉の間にちょうど七草会長の開始の合図が重なる。

それと同時に百合は渡辺先輩へと走り出す。

 

「あいつの能力は近距離でこそ真価を発揮します」

 

走り出した百合に向けて想子の弾丸を飛ばす渡部先輩。

 

「甘いですよ姉上!!」

 

それを地面との隙間へのスライディングにより回避し想子の弾丸を自らの弾丸で打ち消した。

 

「凄い…あれを避けるなんて…」

 

「百合兄様の凄いところはここからですよ、中条先輩」

 

得意気に深雪が発言する。

その百合が放った弾丸は渡辺先輩のいる方向へと進行方向を変え、百合本人は体勢を直し渡部先輩への攻撃のためにその手に持つCADを振りかぶる。

 

「甘いのはそちらだ!!」

 

弾丸を後ろへと飛び退くことによって避け、その手に持った竹刀によって百合の攻撃を防いだ。

 

「流石は姉上…一筋縄ではいかないか」

 

「お前も腕を上げたな。

せやぁっ!!」

 

「おわあっ?!」

 

言わば鍔迫り合いのような状態から渡辺先輩は百合の体を押し飛ばす。

突然飛ばされたことに一瞬動揺したものの百合はちゃんと体勢を立て直した。

 

「やっぱり姉上は強いや…

本気でやんなきゃ失礼ってもんだよな!!」

 

百合はブレザーを脱ぎ捨てる。

そのブレザーを脱いだ姿のシャツは何の変哲もないのだがズボンのベルトには特殊な器具によって拳銃のマガジンが左右二つずつ計4つが固定されていた。

しかもその器具はズボンの一部と繋がっており、移動時に揺れたりして行動を阻害しないようにしっかりと計算されている。

…入学式の前日に部屋に籠もってたのはこれの所為か。

 

「本来のスピードをお見せしよう!!」

 

拳銃を逆手に持ち替えた百合は瞬間的にその場から消える。

 

「な?!」

 

市原先輩が驚いたのも束の間、百合は渡辺先輩の背後の虚空から出現し、体を回転させながら遠心力で増幅されたパワーを余すことなく振り下ろす。

しかしそれは渡辺先輩の竹刀によって阻まれる。

あわよくば竹刀ごとと思っていただろうが収束系の術式をかけていたのかその竹刀には傷一つつかなかった。

 

「流石は摩利の弟分ね。

自己加速術式のスピードも制度も申し分ないわ」

 

「十六夜くんの出身ってあの剣術の名門として有名なあの十六夜家ですよね?

なのになぜ拳銃を?」

 

「あいつはとある漫画の大ファンでしてね。

それの影響か拳銃というものに並々ならぬ憧れを抱いていたらしいです。

それでもあいつの近接戦闘の基本は十六夜流のものです」

 

百合の拳銃での攻撃はガードされているもののその都度銃本来の用途である射撃を用いて防御自体をなかったものにしている。

しかし渡辺先輩もあらゆる手段で射線をずらすことにより回避している。

二人の攻防は流石としか言いようがない。

 

「十六夜流は自己加速術式と独特の型から生み出される変幻自在な攻撃が特徴の流派です。

故に真っ向勝負よりも暗殺や急襲に長けているとも言えましょう」

 

「でも百合くんは不意打ちじみたことはしてないし急襲なんて上着脱いでからの一回だけじゃない」

 

「まあ見ていてください。

本領発揮はこれからでしょう」

 

防戦一方の状況から攻勢に転じるために渡辺先輩も自己加速術式を用いて百合の背後へと回り込む。

百合はそれを待っていたかの様にニヤリと笑う。

 

「あっしばっらいっ!!」

 

「くっ!!」

 

百合は渡辺先輩の攻撃を受け流すと同時にしゃがみ込み足を払う。

体勢を崩した渡辺先輩の眼前には無数の弾丸が迫っていた。

 

「あの弾…まさか…摩利がいなしていたもの?!」

 

「はい。

百合と渡辺先輩の攻防に見入っていて気付かなかったと思いますがあいつの本命は最初からこれだったのでしょう。

あいつに射撃能力で勝る人はなかなかいないと思います」

 

体を捻って弾を避けようとするも左肩に一発、脇腹に一発弾を受ける。

しかしその動作と同時に振り下ろしていた竹刀は百合の肩をしっかりと捉えていた。

肉斬骨断の思いだった百合はその一撃をもろに受けた。

体勢を立て直すために左手をついた渡辺先輩はその手を支店に回転し怯んだ百合にもう一度攻撃を食らわせる。

 

「今まで避けていた弾丸の方が本命だったとはな。

些か驚いたぞ?」

 

立ち上がった渡辺先輩は竹刀を中段に構え言葉を紡ぐ。

 

「俺はブラフやはったりが得意でしてねぇ。

術式自体の威力が低いもんでこういう戦い方しか出来ないんですよぉ」

 

対する百合はいつも通りヘラヘラと笑いながらいつもよりもテンション二割増くらいの勢いで応える。

 

「さて…

そろそろ終わりにしましょうか?」

 

「ああ、そうだな」

 

百合は再び走り出す。

渡辺先輩はそれに動じることはなく百合を待ち構える。

百合の右手が渡辺先輩の顔へと近づき渡辺先輩の振り下ろした竹刀が百合の肩目掛けて飛んでいく。

 

「おぉおおおおおお!!」

 

「やぁああああああ!!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「うっしゃぁああ!!

これで俺の三十六勝二十八敗ですね、姉上!!」

 

「流石のあたしもそこまでは覚えてなかったよ…

それにしても悔しいな…腕を上げたな、百合」

 

床にあぐらをかいている姉上が俺を見上げながら答える。

最後は俺と姉上の相打ちのように見えたのだが俺に竹刀が当たる前に姉上の後頭部に俺の放った銃弾が当たっていたのだ。

そして本校の三巨頭とも唄われる姉上に言わば大金星を上げた俺は拳銃を顔の前に構える。

 

「「銃は剣より強し」

ンッン~名言だなこれは」

 

「それがやりたかっただけだったのか…」

 

呆れ半分の達也の声が聞こえてくる。

いいじゃん、カッコいいじゃんホル・ホース。

 

「い、十六夜くん!!

そ、そのCADって…!!」

 

「へ?」

 

「拳銃型武装CADの最高傑作と唄われるあの「ノーブル・リリー」ですよね?!」

 

「え、ええ」

 

「うわぁ~!!

本物を見れるなんて感激です!!」

 

中条先輩が俺の手に持っているCADに目を輝かせている。

…そんなに有名なモデルなのかこれ?

 

「ねえあーちゃん、百合くんのCADってそんなに凄いの?」

 

「よくぞ聞いてくれました!!

十六夜くんが使うノーブル・リリーはCAD開発の神と唄われる「水無月啓吾(みなづきけいご)」の遺作にして最高傑作、さらに世界初の自動式拳銃とCADの一体型に成功した作品でとある夫婦の結婚祝いに二つで一対たなるように開発された二挺での運用を前提としたCADなのです!!

一流のCADエンジニアが一目見ただけでわかるその技術の高さと洗練されたフォルム、そしてこれまた世界初のイメージインターフェースによる起動式選択機構は魔法界の技術を大きく進歩させたと言われています!!

なんでそれを十六夜くんが?!」

 

「水無月啓吾は俺の叔父なんです。

それで結婚祝いに貰ったのが家の父上と母上。

二人が四年前に亡くなってからは俺が使っていますし、調整も俺がやっています」

 

「あ…ご両親の遺品だったのですか…申し訳ありません」

 

「いえいえ。

先輩みたいなこのCADの価値がわかる人に触って貰えるのもきっと叔父上も喜んで下さるでしょう」

 

「触ってもいいんですか?!」

 

「ええ、勿論」

 

そう言って右手に持った拳銃型CADを中条先輩に手渡す。

その形、色合い、全ての要素をその目に焼き付けるように中条先輩は俺のCAD「ノーブル・リリー」を見やる。

そんなこんなで賑やかな雰囲気で今日という一日も終わろうとしていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「お疲れ様、百合」

 

「おうエリカ。

待たせて悪かったな、ちょっと色々あってな」

 

「ま、今日はあたしもちょっと用事あったからちょうど良かったんだけどね」

 

今日は非番だったので模擬戦の後にすぐに待ち合わせ場所である昇降口へと急いで向かうとエリカが待っていてくれた。

昨日の夜、「しばらく一緒に帰らない?」とメールが来たのである。

俺としては断る理由はなく、寧ろ願ったり叶ったりと言うものでもあるのでありがたいお誘いだった。

 

「何時間もごめんな。

お礼になんか奢ってやるよ」

 

「マジ?!

あたしね、学校の近くに美味しいケーキ屋見つけてさ!!

百合も一緒に行こうって思っててさ」

 

「おーし行こう行こう。

俺もちょうど甘い物が食べたいところだったんだ」

 

そう言って俺とエリカは並んで校門へと歩き始める。

なんだかカップルみたいだよなこれ…本当にそうなったら俺は嬉しいんだけど…流石に高望みし過ぎかなぁ…




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八射 激動の予感

「なんかヤバい予感がする」

 

放課後、委員会本部へ続く廊下を達也と歩きながらげんなりとした表情で俺は呟く。

それを訝しげな表情で俺のことを見ている達也。

 

「何がだ?」

 

「そりゃあ勿論、今日から始まる新入生勧誘だよ。

だってあの姉上が忙しいだのなんだの言ってたんだろ?」

 

「それでも高校の部活動への勧誘だぞ?

流石にそこまで凄いことは起きないと思うが…」

 

「そうかなぁ…?」

 

達也にそう言われると何かそんな気がしなくもない…

でもここは魔法科高校。

そんな常識は覆されることを前提に行動しておいた方が良いかもしれない。

そうこう言っているうちに目的の委員会本部に辿り着く。

 

「失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

俺と達也が入った時には既に九つある席のうち五つが埋まっており、ちょうど良いタイミングだったなと少し肩の力が抜ける。

 

「なぜお前達がここにいる?!」

 

そう思ったのも束の間、椅子に座っていたうちの一人が仰々しい声を上げる。

よく見たら数日前に達也に喧嘩売った森崎だった。

 

「開口一番酷い言われ様だな。

いくら何でも非常識だろう」

 

「なにぃ?!」

 

「やかましいぞ新入り」

 

大声を上げた森崎の口を姉上のドスのきいた一喝が閉じさせた。

 

「この集まりは風紀委員会の業務会議だ。

ここに集まる者は風紀委員に属するものであることは道理。

その程度のことは弁えたまえ」

 

「は、はい!!」

 

「まあいい。

座れ」

 

姉上に促されるままに森崎は席に着いた。

その顔は恐怖や緊張という少なくともプラスの感情ではないものがベタベタと張り付いており、なんかぱっと見「お化け屋敷行ってきました」とでも言うような表情をしている。

そうこうしているうちに残りの二つの席も埋まりそれを確認した姉上は立ち上がった。

 

「全員集まったな?

そのままで聞いてくれ。

今年もあの馬鹿騒ぎの一週間がやってきた」

 

前口上としては上出来な言葉を淡々と並べる姉上は完全に四年前とは全く別人だった。

ここまでのカリスマ性とあの強さは三巨頭と呼ばれるに相応しいものだなぁと改めて思う。

 

「さて、今年は幸い人員の補充が間に合った。

三人とも、立ってくれ」

 

「はい」

 

「はい!!」

 

「うっす」

 

三種三様の返事をし姉上に促されるがままに立ち上がる。

達也は相変わらずのポーカーフェイス、森崎は緊張しまくりでかっちこち…見ていて面白い物がある。

 

「今年入った一―Aの十六夜百合と同じA組の森崎駿、そして一―Eの司波達也だ。

十六夜の場合は入学式の日に決まったからもうパトロールはやってもらっているが、二人には今日から任務に就いてもらう」

 

「役に立つんですかこいつら?」

 

そう発言したのは教職員採用枠で委員会に入った二年生だった。

その言葉は俺達三人に向けられているものだと思ったがそいつの目は完全に達也の左胸の何も描かれていない胸ポケットに向けられていた。

 

「心配するな。

司波は昨日、正式な模擬戦で生徒会の服部を、十六夜に至ってはあたしを倒したんだ。

森崎のCADの操作技術はなかなかのものだし三人とも腕は確かだ」

 

姉上の発言に他のメンバーがざわめく。

言われてしまった後に思ってもしょうがないけど…こういうのって普通言わないもんなんじゃないの?

 

「とりあえず、だ。

今日から一週間、みんなにはオフなしで働いて貰うことになる。

毎年のことですまないが、今年も一人でも検挙数が減らせるように頑張ってくれ。

司波と森崎以外は見回りに行ってくれ」

 

「「「はい!!」」」

 

姉上がそう言うと達也達以外の風紀委員は本部を出て行った。

途中達也に声をかけた先輩もいた。

羨ましいぜ…俺まだ姉上しか風紀委員の知り合い居ないんだぜ?

 

「十六夜」

 

「はい。

えっと…確か二年の沢木先輩でしたっけ?」

 

「自己紹介もしてないのに名前覚えられてるなんて感心だね。

二―Dの沢木碧だ」

 

「よろしくお願いします」

 

握手を求めてくる沢木先輩の手を握る。

これから巡回があるからすぐに手を話してくれるかと思ったがなかなか放してくれないむしろその手を握る力は段々と強くなってくる。

握るというよりも握り締めるという感覚に近いだろう。

 

「自分のことは沢木と苗字で呼んでくれ。

呉々も下の名前で呼んでくれ給えよ?」

 

「ま、先輩の事を下の名前で呼ぶ習慣もありませんし。

沢木先輩と呼ばせていただきます」

 

俺は偽りの笑顔を貼り付けた顔でそう言うと左の手で深雪と達也から貰った黒い汎用型CADを弄って魔法を発動。

その途端握り締められていた手がするりと抜けた。

 

「おお?

俺の握力は百キロ近くあるのに…何をしたんだ?」

 

「魔法を使って俺の手から摩擦を奪ったんです。

俺には達也みたいにビックリドッキリ体術を持ち合わせていないんで」

 

驚きと共に発せられたその言葉は純粋な疑問から出てきた言葉のようだ。

この魔法に特に名前は付けていないが俺が勝手に作った魔法だ。

分類は…知らん。

 

「流石は入試で実技一位を取っただけはあるな。

その力、存分に学校の風紀を正すために振るってくれたまえ」

 

「もとよりそのつもりですよ」

 

立ち去って行く沢木先輩に手を振りながら俺は逆方向へと歩いていく。

 

「あ、百合くん」

 

「ん?

おお、美月か」

 

取り敢えず外に出るために歩いていると美月から声をかけられた。

見た所エリカもレオも居らず今は一人のようだ。

 

「その腕章…風紀委員のお仕事中でしたか。

ごめんなさい、邪魔しちゃいましたね」

 

「そんなことねえよ。

別に俺の仕事つってもその辺ぶらぶらしてるだけだから。

それよりさ、エリカとレオは一緒じゃないのか?」

 

「エリカちゃんなら達也くんと一緒に回るから教室で待ち合わせているそうですよ。

西城くんはもう入る部活は決まってるって言って先に帰ってしまったの。

私も部活はもう決めているんだけど折角だから見ていこうと思って」

 

「そっか…エリカは達也とか…」

 

やっぱりあいつもイケメンだからなぁ…

やっぱりエリカもそういう男に惹かれるのも当然か…

 

「妬いてるですか?」

 

「ん?!

そ、そんな訳ないだろ!!

大体、あんな適当暴力女誰が好きになるってんだ!!」

 

「ふふっ。

そういうことにしておきますよ」

 

俺が大声を上げて必死に抗議するのとは対照的に美月は面白そうに笑っている。

 

「そういやさ」

 

「どうかしましたか?」

 

生徒用玄関への道を歩きながら俺は呟く。

 

「お前ってほんとに優しい子だよな」

 

「な、何ですか急に?!」

 

今度は美月が顔を真っ赤にして抗議する。

そんなに恥ずかしいこと言ったかなぁ?

 

「いやさ、俺ってこういう性格じゃん?

大抵初対面の奴からは気味悪がられて近寄って来ねえんだよ。

考えてみろよ、常にヘラヘラしてる180近い大男が美月やエリカみたいな美少女に話しかけてみろ?

確実に警察のお世話になるぜ?」

 

「それは…そうかもしれませんね…あはは…」

 

俺の突拍子のない未来予想図に流石の美月も苦笑い。

俺そんな変なこと言ったかなぁ?

 

「それが美月にはなかったんだよ。

だから偏見とかしないいい性格してんなぁって思ってさ」

 

「わ、私そんなこと思ってませんよ?!

ただ…百合くんは大丈夫そうな気がするんです」

 

美月は大声での否定とは対照的に二言目は少し弱々しかった。

どちらかというと何かを隠したいとでも言うような…そんな声色だった。

 

「最初は百合くんのこと怖そうな人だなって思いましたよ?

でも、百合くんから発せられる霊子の光を見ているうちにそう言う気持ちがすっと消えていくんですよ」

 

本当に不思議な話ですよねと付け足してあははと笑う美月。

 

「そう言ってくれて光栄だよ。

俺も昔からこの目には色々悩まされてさ、霊子感受性のコントロールが出来るようになったのもここ二、三年の話だし」

 

「凄いじゃないですか!!

私なんて未だにこれがないと気持ち悪くなっちゃうんですよ?」

 

「オーラがどうとか言える時点でその目の制御には結構時間いると思うぞ?」

 

そうですかとしゅんとする美月。

実を言うと元々何かのコントロールと言う作業が得意だった俺は達也に出会ってからこの目の制御の練習を初めて二月程でそれを終えた。

美月程感覚が鋭敏ではなかったと言うのもあると思うがこれを今美月に言うと泣いちゃいそうなのでやめておこう。

 

「それでさ、俺さ行きたいとこあんだよね。

折角だし一緒に行かない?」

 

「どこに行くんですか?」

 

「闘技場。

やっぱり剣術の名家の人間としては剣術部の演目を見ときたいと思ってな。

下手すりゃ物凄い移動系魔法の撃ち合いが見れるし、あれカッコいいんだよなぁ」

 

「いいですよ。

少し運動部も見たいとは思っていましたし」

 

「よし、しゅつぱーつ!!」

 

美月の了承も取れたので俺は生徒用玄関へと向かった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「おーっ、いいねぇ」

 

「凄い熱気ですね…」

 

俺と美月は第二小体育館、通称「闘技場」へと足を運んだ。

そこでは既に剣道部の模擬試合が行われている。

俺と美月は壁にそって作られたいわば二階席みたいなところからその試合を見ていた。

 

「へ~魔法科高校にも剣道部ってあるもんなんだな」

 

「剣道部ってどの学校にもあるものではないんですか?」

 

美月が不思議そうに首を傾げる。

まあ、文化部に入るって言う美月が知らなくても仕方はないと思うけど。

 

「姉上…じゃなかった。

風紀委員長の渡辺先輩とかエリカがやる魔法を織り交ぜた剣を使った戦い方を剣術っていって魔法を使わない剣道とは明確に違う競技として扱われているんだ」

 

「そうなんですか。

私そういうことにあまり関わらなかったので知りませんでした」

 

「あっ!!

おーい、百合ー!!」

 

美月が納得したような顔をするとどこかから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

そちらを見ると達也とエリカがいた。

どうやら俺達と同じく剣術部の演目を見に来たようだ。

エリカも俺と同じく剣術家の血が通った人間だ、やはり血は争えないってことなんだろう。

 

「やっぱり千葉家のお嬢様にはこんな殺陣みたいな模擬試合はお気に召さなかったか」

 

「へ?」

 

「顔見りゃわかるさ。

お前今心底つまんないって思ってんだろ?」

 

エリカは俺の発言に頬をぷくーっと膨らませて怒ってますよと言っているかのような顔をする。

 

「…なんでわかんのよ?」

 

「俺も見てて若干そう思ってるからな。

ま、俺らの見てて面白いレベルってのはそれこそ真剣勝負ってやつだからな」

 

「剣の扱いの下手くそなアンタがそれを言うか?」

 

「う、うっせえ!!

だから拳銃で剣術の真似事してるんだよ!!

文句あっか?!」

 

「百合って剣術の名門と名高い十六夜家の息子なのに剣の扱いが下手なのか?」

 

「うるせえ!!

悪かったな!!」

 

エリカの言うとおり俺は剣術の家に生まれながらそこまで剣の腕は上手くない。

剣道の段位ならギリギリ初段が取れるかどうかくらいだろう。

 

「剣術部の番までまだ一時間以上もあるじゃない、桐原君!!

どうしてそれを待てないのっ?!」

 

下の板の間から女の子の声が聞こえてくる。

なんか当たりそうだなぁ…俺の嫌な予感…




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九射 十六夜の剣は…

「剣術部の番までまだ一時間以上もあるじゃない、桐原君!!

どうしてそれを待てないのっ?!」

 

下の板の間から大きな女の子の声が聞こえてくる。

声のした方を見るとなかなかに筋肉質な剣道着姿の男とさっきまで試合をしていた女子生徒が竹刀の切っ先を互いに向けあい対峙していた。

黒髪にすらりと細い体とその凛々しくも可愛らしい顔はその腕も相まって勧誘向けの部員だなぁと思う。

 

「心外だなぁ壬生。

こんな未熟者よりも俺が相手してやろうって思ったんだ。

ありがたいと思えよ」

 

「無理やり勝負をふっかけておいて!!

暴力を振るってきたのはあなたの癖に!!」

 

「暴力ぅ?

おいおい壬生、人聞きの悪いこと言うなよ。

俺は防具の上から、竹刀で、面を打っただけだぜ?

剣道部のレギュラーの癖に面打たれたくらいで泡吹くなよ。

それに先に手を出してきたのはそっちだろう?」

 

「桐原君が挑発してきたからでしょう!!」

 

…何にせよ状況はわかった。

でもこれくらいの対立じゃあ俺達が止めに入ったところで寧ろ騒ぎが大きくなるだけだ。

 

「なんか面白そうなことになってきたね」

 

子供のような無邪気な瞳で二人の試合を見るエリカ。

それを少し見ていたと思ったら俺の方へとその視線を向けてくる。

本当に手出ししないで欲しいときとかってコイツはこういう目で俺を見てくるんだよなぁ…

 

「異議なし。

よし、見に行こう」

 

この何かに夢中なエリカの瞳には昔から勝てないのが十六夜百合という男である。

それは何時になっても変わらない。

 

「ゆ、百合くん?!

止めなくて良いんですか?!」

 

「俺達の仕事は飽くまでも魔法の不正使用者の取締りだ。

これはただの喧嘩、要するに管轄外ってやつだ。

それ以上にこの戦いの続きを俺は見たい」

 

「そんな無責任な…」

 

美月はそう言いながらも渋々という表情で下に降りて行く俺達について来る。

人混みを掻き分けやっとこさ最前列へと出られたその頃には既に二人は竹刀の切っ先を互いに向けていた。

 

「おぉお!!

よく見たら壬生紗耶香に桐原武明じゃないの!!

これは夢にも思わなかった好カードですなぁ」

 

「ん?

アンタが知ってるなんて珍しいわね」

 

「直接のコネクションはないし試合見た程度だけどな。

どうせお前も見たことあるんだろ?」

 

「まあね」

 

ふふんと自信ありげに胸を張るエリカ。

そんなエリカとは裏腹に人集りの中央にいる二人の間には緊張感による沈黙が漂っていた。

 

「心配するなよ壬部。

剣道部のデモだ、魔法は使わないでやるよ」

 

「剣技だけであたしに敵うと思っているの?

魔法に頼りきりの剣術部の桐原くんが、ただ剣技にのみ磨きをかけたこのあたしに?」

 

「大きく出たな壬部?

だったら見せてやるよ…身体能力の限界を越えて競い合う剣術の剣技をよ!!」

 

桐原先輩の言葉を皮切りに彼は壬部先輩の剥き出しになった頭部目掛けて竹刀を振り下ろす。

そして鳴り響く竹刀同士の接触音。

 

「女の子の方は壬生紗耶香。

一昨年の全国で二位取った子でその見た目から剣道美少女とか剣道小町なんて呼ばれてたりしたんだ」

 

数秒遅れて悲鳴が聞こえてくるが俺は二人への説明を始める。

 

「それでも二位ですよね?」

 

「まあ…一位はルックスが…ね?」

 

俺の言いたいことをを察してくれた美月はそれ以上その人のことについて聞いてくることはなかった。

 

「で、男の方が桐原武明。

こっちは一昨年の関東剣術大会のチャンピオン。

要するに正真正銘の一位ってわけ」

 

「全国大会には出ないのか?」

 

「中学の剣術部って部員自体が少なかったからなぁ。

全国開けるくらい中学生で魔法使える奴がいないから」

 

「そう言うことか」

 

達也が納得したとおり中学生と高校生だと魔法を使える人の割合が物凄い増える。

それでも国内全体で見た魔法を使える人間の割合はそこまで多いとは言えず、今この学校で雑草(ウィード)と蔑まれている二科生も傍目から見ればエリートなのだ。

 

「それにしてもあの実力で全国二位って一位はどれだけ強いんだ?」

 

二人の試合を見ている達也は呟く。

確かに今の壬生先輩の剣道は男子の全国大会に混ざってもなら遜色のないレベルの動きになっている。

 

「いや…あたしの知ってる壬生紗耶香とは別人って思えるくらい上達してる…

二年でどれだけ力をつけたって言うのよ…」

 

「確かに壬生先輩はめちゃくちゃ強くなってる。

でも何て言えば良いのかなぁ…

「強くなりたい」って思いに不純物が混ざってるような感じがする」

 

「なに?

いつもの第六感ってやつ?」

 

「まあそうなるな」

 

剣道などの武術というものは「鍛練を積むことによって己の肉体と同時に己の精神も鍛える」ということを基本理念となっている。

壬生先輩からは確かにそう言うものを感じるのだがそれ以外にモヤモヤした何かを感じる。

つまり俺の言う不純物というものはそのモヤモヤのことだ。

 

「そろそろ終わるな」

 

「おぁあああああ!!」

 

俺がそう言うと同時に桐原先輩の雄叫びが闘技場に響き渡る。

二人とも真っ向勝負での剣の打ち下ろし。

相討ち…かのように見えたが壬生先輩の方の剣は桐原先輩の肩に食い込み、方や桐原先輩の剣は壬生先輩の左上腕を捕らえるのみに終わった。

 

「くっ…」

 

若干悔しそうな表情をした桐原先輩は左手の力のみで壬生先輩の剣を払い上げると同時に後方へと飛び退いた。

 

「途中で狙いを変えようとした分打ち負けたな」

 

「そうか。

だから剣勢が鈍ったのね。

完全に相討ちのタイミングだったのに…結局非情になれなかったか」

 

「それだけ桐原先輩が優しいってことだろ」

 

「あら。

アンタにしては随分と優しいじゃないの?」

 

「何て言えば良いのかなぁ?

桐原先輩がこんなことするのって壬生先輩の為だと思うんだよね」

 

「根拠は?」

 

「勘」

 

闘技場内の全員が決着を確信し安堵の表情が浮かぶ。

 

「真剣なら致命傷よ。

あたしの方は骨に届いてない。

大人しく負けを認めなさい」

 

厳然とした態度で勝利を告げる壬生先輩。

しかしそれに対して桐原先輩の表情は…歪んだ笑みを浮かべていた。

 

「ふ…ふははは…

何が「真剣なら」だぁ?

壬生、お前真剣勝負がお望みかぁ?

だったら真剣(・・)で勝負してやるよぉ!!」

 

その三日月型に歪んだ口から紡がれた言葉に俺の頭の中にエマージェンシーが鳴り響いたような気がした。

次の瞬間、闘技場に黒板を引っ掻いたような身の毛のよだつような音が体を震わせた。

そして桐原先輩は一足飛びで間合いを詰め左手に持つ竹刀を壬部先輩に振り下ろした。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

ガァンッ

 

「おっとぉ…桐原先輩?

それ以上はお痛が過ぎますよ」

 

しかしその振り下ろされた竹刀は壬部先輩と桐原先輩の間に割って入った百合によって止められた。

いつの間にか壬部先輩は百合の後ろで尻餅をついており当の本人も何が起こったかわかっていない様子だ。

 

「なんだてめぇ…!!」

 

「一年A組十六夜百合。

風紀委員として先輩の魔法の不正使用の取り締まりに伺いに来た次第です」

 

「…だったら止めてみやがれ!!」

 

「おっとっと」

 

百合の180cm近い体が軽々と飛ばされる。

しかし百合に慌てた様子はなく地面に手をつきバック転がよろしく回転しながら勢いを殺す。

そして決めポーズを取った百合には賞賛の拍手。

おい、ふざけてるんじゃないよ。

 

「じゃあ力ずくで止めますが一つ俺と勝負をしませんか?」

 

「勝負?」

 

「俺と桐原先輩で試合をしましょう。

俺が勝ったら大人しく部活連本部までついて来ること。

俺が負けたら俺はこの事を見て見ぬ振りをしましょう」

 

百合の提案に闘技場全体がざわめきだす。

あたし-千葉エリカとしてはただただ呆れることしか出来ないわけだが。

 

「…なんでそんなことするんだ?」

 

「そりゃあ良い試合を見せて下さったお礼ですよ。

もう一つは…」

 

百合はニヤリと口を綻ばせながら言葉の続きを紡いだ。

 

「俺が負ける理由なんてありませんから」

 

「てめぇ…言ってくれんじゃねえか…」

 

ビキビキという効果音が相応しい表情をする桐原先輩。

しかし攻撃しないのはまだ百合が竹刀を持っていないからだろう。

 

「あ、すみませーん!!

剣道部の皆さーん!!

小刀持ってる方居ませんか~?」

 

「あ、私持ってるよ!!」

 

「じゃあ貸して下さい、二本」

 

「え?

一本じゃなくて?」

 

「はい、二本」

 

ニッコリと微笑む百合の表情に頬を赤らめる剣道部の女子生徒。

 

「剣道の二刀流って大刀と小刀の二種類を使うんじゃないのか?」

 

「百合のはあれであってんの。

あれが十六夜流のやり方」

 

百合は受け取った竹刀を普通とは逆に持ち体を低くかがめて構えた。

 

「百合の剣見るのは久しぶりだなぁ…

それこそ小学生以来か~」

 

「でも百合くんってそんなに剣の扱いは上手くないんですよね?」

 

「うん。

確かに純粋な剣技だけで言っちゃえば剣道やってる小学生にも勝てないだろうね。

でも剣術の分野になればあいつは…」

 

「始め!!」

 

目の前の試合が剣道部員の少女の声によって火蓋が切られた。

 

バァン!!

 

「すっごい強いよ」

 

その瞬間、桐原先輩の握られていた竹刀は百合の一発によって地面に叩き落とされた。

 

「な…?!」

 

「竹刀落としましたね。

反則一回ですよ」

 

「…この野郎…!!」

 

ニヤニヤしながら百合は桐原先輩に事実を叩きつける。

竹刀を広い上げた桐原先輩は再び位置につき百合と対峙する。

開始の合図と同時に百合は桐原先輩の目の前に移動して両の手に持った竹刀でのラッシュを見舞う。

桐原先輩はそれをガードするもののそれがやっとといった様子でなかなか攻勢に転じることが出来ない。

それどころか剣術の特徴である魔法の発動も出来ないほどに同様していた。

 

「武器が二つなら手数も二倍ってねぇ!!」

 

「ぐっ!!」

 

「ところで達也くん、百合の剣がどんな事を得意にしてるか知ってる?」

 

二人の激闘に完成や悲鳴が上がる中、あたしは達也くんに会ってから思っていた疑問を投げかける。

 

「ああ。

加速術式と変幻自在の構えによる奇襲や不意打ちが得意なんだろ。

…そう言われてみると剣術の戦術としては少しおかしいかもな」

 

「そう。

剣術ってのは後ろからの打突は一本に数えられない。

なのに何故不意打ちを得意とする流派が存在するのか?

それは十六夜流の大元が忍者である事に由来するのよ」

 

「…百合とは三年程の付き合いだがそんな話しは一度も聞いたことはないぞ?」

 

「十六夜家とそこと縁のある家の人しか知らないことだから。

で、十六夜家は四国のとある武将に使えていた忍者が元祖だと言われているの。

正当後継者の百合曰く「忍者の機敏な動きと日本刀の威力を合わせたら最強じゃね?」っていう考えの下でこの流派は出来たらしいよ」

 

「…随分適当な理由ですね」

 

「百合のお父さんもあんな感じだからきっとあいつの先祖はみんなあんな感じなのよ」

 

昔からアイツの適当な考えに振り回されていた光景がフラッシュバックする。

言われてみると誰とでも仲良くなれるが人間関係への頓着が薄いあたしにしてはアイツとはよく一緒にいたと思う。

アイツがあたしについてきてただけかもしれないけど。

 

「そろそろ疲れてきたんじゃないですか?」

 

「うるせえ!!」

 

桐原先輩の大上段から振り下ろされた竹刀は百合の下段からの待っていましたとでも言うかのような狙い澄まされた一撃によって弾き返され、百合の連撃によって疲弊していた手から竹刀は飛んでいった。

しゃがんでいた百合は立ち上がり袖口から取り出したCADを顔の前で構えた。

 

「我が十六夜の剣はァァァァァァァアアア世ェ界一ィィィイイイ!!」

 

「うっさいわよバカ!!」




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十射 一難去ってなんとやら

いつの間にかお気に入り数が物凄い増えててビックリした。
これからも頑張って書いてくんで応援よろしくお願いします!!


「長かった…この一週間がとても長く感じた…

まさしくあれだ…本当に本当に…何て遠いm」

 

「はいはいお疲れお疲れ~

よし、このあたしが労ってあげたんだから代金としてケーキ奢って貰うわよ」

 

「うわ容赦ねぇ…」

 

勧誘期間が終わった次の日の放課後。

俺は疲労感に打ち拉がれぶらぶらと両腕を揺らしながら俯いていた。

しかも俺が大好きなジョニィの名言を途中で掻き消しエリカのケーキ奢れアタック…

もう止めて!!

俺のライフはもう0よ!!

 

「ま、流石にそれは嘘として。

アンタも凄いよね~

一週間前の桐原先輩との試合の所為で学校中でアンタと達也くんの名前知らない奴なんて居ないんじゃないの?」

 

「やっぱり俺がイケメンだかr」

 

「それはない。

ぜったいない。

かくじつにない。

ひゃくぱーせんとない」

 

「本当に心折れるから止めて…」

 

一週間前、「どこの馬の骨だか知らない一年が剣術部二年のレギュラーである桐原武明を倒した」という事実は色んな方向にねじ曲がり「謎の最強剣士現る」なんて変な噂が広まってしまった。

その上あの試合の後襲いかかってきた14人の剣術部部員相手に無傷であしらった達也の事も一気に噂として広まり、上級生に気に入られなかった俺と達也は事故に見せかけボコされかけた。

どの手口も大体一緒で俺達のどちらかが近寄ると喧嘩を始め仲裁に入ると誤射に見せかけた魔法の十字砲火(クロスファイア)

達也は三回、俺は十回近くそんな目にあってリアルにヒットポイントが尽きかけていた。

 

「百合は「謎の最強剣士」、達也は「並み居る魔法競技者(レギュラー)をなぎ倒した二科生(イレギュラー)」ってんで有名人だぜ?」

 

「他には達也さんだと「魔法否定派から送り込まれた刺客」、百合くんは「死んだ宮本武蔵の亡霊に取り憑かれた男」なんて言われてる」

 

「何が宮本武蔵だよ……

しかも取り憑かれたとか縁起でもねぇ」

 

俺についてきた雫がレオの言葉に付け足す。

取り憑かれた、か…俺幽霊とかダメな性質なんだって…

 

「宮本武蔵だぞぉおおおお!!」

 

「うぎゃあああああ?!」

 

恐怖にブルブルと体を震わせていた俺の背後から両肩にゆっくり手が添えられ謎のI am宮本武蔵宣言。

それに驚いた俺は叫び声をあげ物陰へと猛ダッシュで逃げていった。

 

「ゆ、百合くん?

どうしたの?」

 

「い、今、み、宮本武蔵の亡霊が……って今のてめぇかエリカァア!!」

 

「あっはっはっはっはっは!!

昔っからアンタ怖いのダメだもんね!!

四年経っても変わんないとかアンタどこの小学生よ!!」

 

「ふざけやがってぇえええ!!」

 

突然大声で叫んだ俺におっかなびっくりなほのかは恐る恐る声をかけてきた。

青ざめた顔で返答すると俺の立っていた位置にはエリカがげらげらと大笑いしながら床をバンバンと叩いていた。

そんなエリカを猛ダッシュで追いかけ始める俺。

当然エリカも猛ダッシュで逃げる。

 

「きゃ~犯される~」

 

「んなことするかこのダボが!!」

 

「その辺にしておけ。

変な誤解が生まれるぞ。

ところでその根も葉もない噂の情報源は誰なんだ?」

 

「あたしー」

 

「「おい!!」」

 

追いかける俺と追いかけられエリカをいつも通りのポーカーフェイスで宥める達也。

そしてこの奇々怪々とした噂の話へと会話の内容を戻す。

誰がこんな事をしたのかという俺も気になっていた疑問を問いかけるとエリカが反応した。

 

「勿論冗談だけど」

 

「お前は本当にそういうことしそうだから冗談でもやめてくれ」

 

百合・ゲラーなんて変な渾名が広まったのもお前の所為、つまり前科持ちなんだよお前は!!

なんて言う元気は俺にはない。

寧ろ言い返したらエリカの思う壺だと思う。

 

「でも噂の内容は本当。

こんな噂に尾ひれがついたのはそれだけ二人の強さが衝撃的だったってこと」

 

「そういうもんかなぁ?」

 

「アンタももっと自信持ちなさいよ。

それこそ風紀委員なんだからいつ誰にナニされるかわかったもんじゃないわよ?」

 

「変に含みのある言い方をしないでくれ」

 

そのナニをされるかについては聞かないでおく。

想像しただけで鳥肌が立ってきた…

 

「って俺今日見回りの当番じゃん…

ごめんなエリカ、ケーキ奢んのは明日で良いか?」

 

「仕方ないわね…待っててあげるわよ。

万年便所飯ぼっち野郎のアンタをこの可愛いあたしが一緒に帰ってあげるんだからありがたいと思いなさい」

 

「毎日ありがとな」

 

エリカの頭をぽんぽんと撫でる。

恥ずかしそうに顔を耳まで真っ赤に染めて俯くエリカ。

憎まれ口にイラッと来たがこれもコイツなりのコミュニケーションなのだということを知ってる俺は特に怒ったりはしない。

 

「じゃ、みんなまた後でな」

 

「百合!!」

 

「ん?」

 

「け、怪我とかしないでよ」

 

「わかってる、心配すんな」

 

そう言うと俺はみんなに背を向け風紀委員本部のある校舎へと歩き出した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「今時ガラス瓶に入ったコーラが売ってる自販機なんて珍しいわね」

 

「やっぱりコーラはガラス瓶に口付けて飲むのが一番美味いからな。

とうとう見つけたぜって感じだよ」

 

日も沈みかけてきたころ。

見回りを終えた俺はエリカと共に駅前のお店が密集しているエリアに来ていた。

曰わく「時間も遅いからケーキじゃなくて晩御飯奢りなさい」だそうだ。

 

「晩飯奢れっつってもさ、何が食べたいとかそういうリクエストとかある?」

 

「うーん…なんでもいい?」

 

「物による」

 

「じゃあ満漢全せk」

 

「わかった、ラーメンな」

 

「ちょ?!

せめてフランス料理のフルコースとか奢って頂戴よ!!」

 

「それも却下だ。

第一に満漢全席とかフランス料理のフルコースとか出してくれる店なんてこの辺りにあるのかよ?」

 

「あるじゃない。

ほら、あそこ」

 

エリカが指差した方向に視線を向けると如何にもな中華料理店の看板が見え、入口の前に置いてある立て看板には「満漢全席あります」の文字。

その下には要予約と書いてあるが。

 

「……じゃあお前の誕生日にな」

 

「わ~いやった~!!

約束だからね!!

それまでに死んだりしないでよ!!」

 

「死ぬとか言うなよ縁起でもねぇ」

 

「や、やめてください!!

はなして!!」

 

時間帯が時間帯なだけに路地から女の子の声が聞こえてくる。

女の子は二人でその内の一人が男に腕を捕まれておりもう一人がそれを必死に引き剥がそうと奮闘しているという構図だ。

 

「ほのかをはなして!!」

 

「ほら建ったじゃない。

アンタの死亡フラグ」

 

「今のワンシーンのどの辺で?!」

 

俺のツッコミを完全スルーしエリカはどんどん路地の方へと進んでいく。

 

「ってよく見たら雫とほのかじゃねえか!!」

 

「あぁあん?

なにお前、この子たちの友達ぃ?」

 

俺がひたすらツッコミまくるとそれに気付いたのかほのかの腕を掴んでいた男がこちらに体の向きを変えた。

そして雫がこちらへと駆けてきて俺の後ろへと隠れる。

 

「雫、一体どういう状況だこれは?」

 

「達也さん達とご飯食べに来たら私達二人だけはぐれちゃって…」

 

「それで達也達を探す最中、ここの路地を通ろうとしたらあの男の人に絡まれた、と」

 

「絡まれたとは心外だなぁ兄ちゃん。

俺はこの子達を教育してたんだよ。

大人の教育ってやつをなぁ」

 

よく見ると男の左手はほのかの制服のボタンに触れておりそれをゆっくりと片手で外していく。

怖くて声を出すことが出来ないほのかは俺に助けてを求めるように涙の溜まった瞳をこちらに向ける。

 

「はあ…そんな目で見つめられちゃあ俺が助けざるを得ないじゃあないか。

エリカに任せようとしたけどこればかりは仕方がないな」

 

「あ?

なにを言っ―-」

 

次の瞬間、男の体が何かに撃ち抜かれたように後方へと吹き飛ばされた。

その反動でほのかを握っていた手は離れほのかはこちらへと駆けてくる。

 

「遅くなって悪いな」

 

「い、いえ!!

怖かったけど百合くんなら助けてくれるって信じてましたから」

 

「でも百合くん、今何を…」

 

「いってぇな糞がぁ…」

 

「あり?

まだ気ぃ失ってないんだ?」

 

俺は手に持っていたコーラの空き瓶を投げ捨て鞄からもう一本瓶のコーラを取り出す。

 

「じゃあわからなかった雫ちゃんの為にもう一回お見せしましょう!!」

 

「ふざけてんじゃねぇよクソガキがぁああああ!!」

 

男は拳を握りしめこちらへと走り出す。

そして俺の顔面に向かって拳を振り抜く。

 

「そんなよろよろで俺の相手が務まるかっての」

 

しかしその拳は空を切り、前屈みになった男の額にコーラの飲み口をあてる。

 

「栓を吹っ飛ばす!!」

 

「あがぁ?!」

 

突然俺の手にあったコーラの王冠が吹き飛び男はボクサーの渾身のアッパーカット食らったかの様に体が仰け反る。

少し宙に浮いたその体は重力に従って地面へと落ちていった。

 

「コーラの栓が…まさか今のは振動系魔法?」

 

「流石は雫だな」

 

俺は中身が半分くらい残った瓶を雫に手渡す。

 

「何これ…暖かい?」

 

「そう。

コーラに振動系魔法をかけて温度を一気に上げることによって栓を飛ばしたんだ。

突沸と二酸化炭素で圧力が変わることによって栓が飛んでくんだが…沸騰したコーラってのはドロドロになるんで飲めなくなるんだわ」

 

雫はその手に持ったコーラの瓶を逆さにする。

すると下に溜まっていた黒い物体がゆっくりと重力に従って飲み口へと流れていく。

 

「でも、百合くんって振動系の魔法って苦手じゃありませんでしたか?」

 

「この間雫が教えてくれたんだよ」

 

「うん。

あの時の百合くん本当に面白くて…ふふふ…」

 

肩をプルプルさせながら笑う雫。

いやね…折角入試で一位になったんだから系統魔法は全部使えるようにした方が良いって思わない?

 

「ま、二人とも無事だった事だし、達也達探してみんなで飯食うか」

 

「はい!!」

 

「当然全員分奢ってくれるのよね?」

 

「んなことするわけねえだろ!!」

 

「百合くんありがとう」

 

「確定事項?!

…仕方ない、奢ってやるよ全員分!!」

 

「よっ、太っ腹!!」

 

「ありがとうございます!!」

 

みんなの笑顔が見れればそれで良い。

例え俺の周りから人がいなくなったとしてもみんなが笑顔なら良い。

こいつらの楽しそうな顔を見ていると本気でそう思えてくる。

だから俺はこいつらを守りたい、二度と悲しい思いをしないために。

そう思った。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十一射 偽りの思い出作り

「なあ達也、昼間言ってた用ってなんだ?」

 

ほのかがHE☆N☆TA☆Iに襲われ、俺の財布から五千円が飛んで逝ってしまった日の翌日の夜。

晩御飯を食べ終え、達也が買ってくれたチョコレートケーキを食べながら俺は達也に問いかけた。

今日の昼休み、いつも通りエリカ達と昼飯を食べていると達也からメールが届き、「大事な話があるので今日は風紀委員の仕事を終えてからは寄り道をしないで帰ってくるように」とのこと。

その所為で昨日エリカと約束していたケーキ屋に一緒に行く約束がお流れになってしまったのだ。

別に怒っているという訳ではないが残念であるのは否めない。

 

「赤と青のラインで縁取られた白いリストバンドを付けた男に魔法による攻撃を受けた」

 

「……それって本当か?」

 

「ああ。

部活動の勧誘期間中にな」

 

「アイツら…こんな所まで来てやがったのか…」

 

俺は空いている左の拳を強く握る。

その間に達也はリビングの大型ディスプレイを閲覧モードへと変更した。

 

「あ、ちょっと待ってくれ達也。

十六夜のデータベースに詳しい情報が載ってるはずだ。

俺の部屋の端末にあるからそっちに繋いでくれ」

 

「でも良いのですか?

私なんかが見てしまっても」

 

「今回ばっかしは仕方がない。

団欒の場に相応しくない話題だと思うけどそれだけ重要な話題だと思って聞いてくれ」

 

そうこう言っているうちに達也が準備を終え、画面に「十六夜家ノ秘匿文書・目次」と映し出された。

 

「キャビネット「ブランシュ」及び「エガリテ」、オープン」

 

音声コマンドによって画面に二つのページが現れる。

 

「「ブランシュ」ってのはだな、簡単に言っちまえば反魔法組織の肩書きを名乗ってるテロリストだ。

リーダーはジード・ヘイグ、またの名を顧傑(グー・ジー)

表では魔法師が政治的に優遇されている行政システムに反対し、魔法能力による社会差別を根絶することを目的に市民活動と称して色んな反魔法活動を行ってるんだが、裏ではしっかり人殺しもやってる。

本当の目的は魔法士自体の排除だろうな。

だから警察からはしっかりマークはかかっているんだが、なかなか捕まらなくてな」

 

「このテロリスト共が学内で暗躍しているのは間違いないようだ。

先程言った赤と青のラインで縁取られた白い帯というのはブランシュの下部組織「エガリテ」のトレードマークだ。

そのエガリテの構成員と思しき生徒を風紀委員の活動中に見た」

 

「魔法科高校で、魔法科高校の生徒がですか?」

 

「疑問に思うのも当然だな。

ま、その辺は達也が全部説明してくれんだろ」

 

俺は机の上に置いてあった白い二挺の拳銃型のCADと交換用のマガジン四つを持って立ち上がる。

 

「百合兄様、どちらへ行かれるのですか?」

 

「ちょっとCADの調整にな。

達也、機械借りるぞ」

 

「ああ、好きに使ってくれ。

いつも言っているがここはお前の家なんだ。

ここにあるものは好きに使ってもらって構わない」

 

「じゃあ、お前のエロ本今度から勝手に借りてくわ」

 

「何を言っているんだ?!

俺がそんなものを持っているはずがない--」

 

「お兄様……それはどういう事ですか?」

 

「み、深雪。

これは違うんだ…百合が何時も言う嘘なんだ。

本当だ、信じてくれ」

 

「官能的な鼻の下をお伸ばしになるお兄様には……お仕置きです!!」

 

深雪からの質問へぶっきらぼうに答え俺は部屋を出る。

部屋の扉を閉めると同時に中から達也の呻き声が聞こえてくるがいつものことなので気にしない。

そして向かった先は地下の作業室。

普段は達也がCADの調整などをしているのだが週二回のペースで俺もライアー・リリーと達也達から貰った汎用型CADの調整の為に貸して貰っている。

ライアー・リリーで使用するCADは弾倉に組み込まれたCAD、本体のCADの計六個、二種類の魔法がインストールされたCADを使うためため結構時間を要する。

とはいえ、今回は弾倉のCAD四つの調整を行う為三十分もあれば終わるだろう。

 

「叔父上の最後のCAD……そんなに有名だったのか……」

 

四つの弾倉の内一つを調整機器に接続しながら俺は呟く。

言われてみると弾丸を十五発も装填しながらCADとしての機能をそれに組み込むのはある程度知識のある人間である俺からしたら凄い技術だと思う。

サイズは小型化されてインストールできる起動式は最新式の特化型CADより少ないものの、十年以上経った今でも最新式と何ら遜色のない性能を誇っているのは叔父上様々というものだろう。

余談だが中条先輩のようにこのCADを水無月啓吾の遺作と呼称する人は多いらしい(あの後ネットで調べた)が叔父上は死んではいない。

あのCADを最後にぱったりと開発をやめたことから死んだと思われているらしいが普通にピンピンしている。

収入と言えば知り合いの魔法士のCAD調整と開発者時代に稼いだお金で元気にウハウハライフを送っている。

あと俺のCADの調整技能も四年前に叔父上に教えて貰ったものである。

 

「計測とかこみこみで全部終わったら今日は眠いしさっさと寝るか」

 

人間の想子(サイオン)特性というものは当人の体調や精神状態で刻一刻と変化するもので毎回測定しなくてはいけない。

俺は服を脱いでパンツ一丁になり、計測用の寝台に寝転がりリモコンを操作して計測を開始する。

その後の作業は滞りなく終わり俺は十一時頃には寝間着に着替えて布団に潜った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「兄上ー!!」

 

どこかから俺を呼ぶ声がする。

地面に寝転がっていた体を起こし、声のした方に顔を向ける。

すると深雪と同い年くらいの少女が俺の方へと突進してきた。

 

「げほぉっ?!」

 

真横からの突然の攻撃に俺はその少女に押し倒される様な形で再び体を地面に伏した。

 

「こんな所で寝てると風邪ひいちゃいますよ?」

 

目を開けると視界いっぱいに女の子の顔が映し出される。

その少女の特徴と言えば日本人らしい短くまとめられた真っ黒な髪と翡翠のように美しい緑色の瞳だろう。

その毛先は外側にはねており、少女の活発そうな印象がより際だって見える。

 

「千鳥、今俺の首の骨が危うく折れるところだったぞ?」

 

「兄上は最強ですから心配しておりません!!」

 

「最強って……お前の方が剣術の腕は上だろうに」

 

「でも兄上には射撃術の才がおありじゃありませんか!!

私と兄上は素敵に無敵で最強です!!」

 

この少女は十六夜千鳥。

俺と生まれた日にちは十日近く離れているが双子の妹である。

 

「じゃ、お前の所為で首を痛めたんで俺はまた寝るわ」

 

「あ、兄上ぇ!!

私と遊んで下さい!!

その為に起こしに来たのですから!!」

 

「よぉしわかった」

 

俺は千鳥をどかして立ち上がる。

 

「俺を五分以内に捕まえることが出来たら遊んでやる。

スタートォ!!」

 

「え?!

ずるいですよ兄上!!」

 

俺は地平線まで真緑の芝生で覆い尽くされた草原を全速力で走り出す。

多分今の顔は物凄い笑顔で、きっとすぐにこんな顔は出来なくなるだろう。

何故ならこの光景、やっていること、追いかけてきている千鳥、これら全ての物が夢の産物、幻想であると言うことを俺は既に理解しているから。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「……さま……いさま」

 

まどろみの向こうから微かに声が聞こえてくる。

瞼を閉じているため真っ暗な視界がそれを開ける事によってだんだんと光が差し込んでくる。

 

「おはようございます百合兄様」

 

「おはよう深雪」

 

完全に意識が覚醒し、目を開けると視界いっぱいに深雪の顔が写り込んだ。

 

「……デジャヴだな」

 

「?

突然どうされました?」

 

「いや、夢の中でも同じ様なシチュエーションがあってな。

その時は深雪ではなかったんだが」

 

「また千鳥さんの夢を見られたのですか?

そう言われてみると何時もより百合兄様のご機嫌が良いように伺えますね」

 

「あ、わかる?

死んだ家族との新しい思い出作りってのはそれこそ夢の中でしか出来ないからな」

 

俺は机の上の木製のフォトフレームを手にとって眺める。

そこに写っていたのは黒髪の少年と黒髪の少女で二人ともとても楽しそうな笑顔を浮かべて写っている。

そう、俺と千鳥の小学生の頃の写真である。

 

「早く行きましょう、お兄様もお待ちです」

 

「わかった。

三分待ってて」

 

俺がそう言うと深雪は軽い会釈と共に部屋を出て行く。

制服を着込みながら時計に目をやると時刻は午前七時十五分…朝飯を悠長に食べている時間はないようだ。

今日の深雪の飯はなしかと肩を落としながらも制服に着替えた俺は荷物を抱え階段を下り玄関の外へと出る。

しっかり戸締まりを確認し、敷地の外の兄妹へと向かって走っていった。

 

「おはよう達也、遅くなって悪い。

さ、そろそろ行こうか」

 

「おはよう。

まあ、たまにあることだからあまり気にしてはいないから心配するな。

ところで、今日はやけに機嫌が良さそうに見えるが……何かあったのか?」

 

「昨日千鳥さんの夢を見られたそうですよ」

 

「ああ、百合の妹か。

お前はいつも俺のことをシスコンと言うがお前も大概だな」

 

「ほっとけ」

 

家から駅へと向かう道を歩きながら達也は俺をからかってくる。

それを見て深雪が楽しそうに、でもお淑やかに笑う。

ふと頭の中を過ぎった……「千鳥も高校生になったらこんな子になっていたのかなぁ」と。

 

「?

百合兄様、私の顔に何かついているのですか?」

 

「ああ、違うんだ。

いやな、千鳥も四年前に死んでなかったら今頃深雪みたいな綺麗な子に育っていたのかなってさ」

 

「き、綺麗なんて……そんな……」

 

「ところで百合、お前の妹さんってどんな性格の人だったんだ?

写真をよく見せて貰っているからどんな性格か気になってな」

 

深雪が俺の言葉に少し頬を赤らめるのと共に達也が唐突に質問を投げかけてくる。

 

「どんな性格か……そうだな……深雪の礼儀正しさ二割に対してエリカの活発さ五割、最後に美月の癒し系要素を三割を全部足した感じだな」

 

「……ますますわからなくなってきたぞ」

 

俺の質問を聞いた達也と深雪は頭を抱えたり首を傾げたりと表情の変化が忙しい。

駅に着く頃には達也は考えるのをやめたらしく、いつも通りのイケメン顔に戻っていた。

 

「家に父上達が撮った動画データなんかもあるから今日の夜にでも見せてやるよ」

 

「ああ、ありがとう」

 

「いいってことよ」

 

何時も通り俺達は最寄りの駅から学校に向かうキャビネットに乗り込む。

でも……何で達也が既に死んだ千鳥の事なんか聞いてきたんだろうか……しかも突然に。

まあ、考えるのも無駄だろうと思った俺は五分もしないうちに考えるのをやめ、今日の昼飯の献立についての考察へと移った。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十二射 Fight For……

『全校生徒の皆さん!!』

 

「な、何これ?!」

 

「う、うるさい……」

 

「うぅ……」

 

「ったく…傍迷惑な野郎も居るもんだなぁ……」

 

放課後、全ての授業が終わり帰りはどこに寄ろうかとか他愛もない話をしていると突如スピーカーから放たれたハウリング寸前の大音量の男子生徒の声が帰り支度をしていた俺達四人に襲いかかった。

 

『……すみません。

全校生徒の皆さん!!』

 

「ふむふむ……

ボリュームミスったみたいですよこいつぁ!!

これは放送機材に触ったことのないトーシロウの犯行とみたぜ!!」

 

「そ、そんなくだらない事にツッコんでいる場合ではないですよ!!」

 

「放送室のジャックって言うと結構な事態…と言うよりもマスターキーを盗んだとしたら犯罪行為だよ。

それこそ風紀委員とか生徒会が出る幕だと思う」

 

「そ、そうですよ百合兄様!!

悠長な事を言っている場合ではありません!!」

 

少しでも場を和ませようと言った俺の言葉に深雪達女子トリオによるツッコミが入った。

「お前らこそツッコミ入れてる暇じゃないだろ」と心の中で思うがこれを口に出したら何かと理由を付けられてケーキ奢らされるハメになりそうな気がしてならないのでお口をミッ●ィーさんにしておく。

 

『僕達は学内の差別撤廃を目指す有志同盟です!!

僕達は生徒会と部活連に対し、対等な立場に置ける交渉を要求します!!』

 

「学内差別ねぇ……確かに俺も無くなれば良いなとは思うけど強硬手段に出る程切羽詰まってないぜ?」

 

「百合兄様、私達は行きましょう!!」

 

「そうだな。

雫、ほのか、お前らは先に行っててくれ。

俺も達也も今日は非番だし、深雪もこんな騒ぎが起これば家に帰れるだろうしな。

場合によっちゃあ戦闘行為が起こる可能性も無きにしもあらずだ。

絶対に放送室には近づくなよ」

 

「わかりました。

行こう雫」

 

「うん。

二人とも怪我とかしないでね」

 

「りょーかい」

 

「はい」

 

俺達は荷物を教室に置いたまま廊下へと飛び出す。

放送室へと向かう道には野次馬と思しき生徒の群れが何個かあったがそれは魔法による跳躍で飛び越えたりしてスピードを落とさず走り続ける。

その最中、俺は胸ポケットから携帯端末を取り出してそこから姉上の番号を探し出し通話ボタンを押す。

 

とうおるるるるるるるるん

とうおるるるるるるるるん

とうおるるガチャッ

 

特徴的な呼び出し音の三回目がなり終える前に電話は繋がった。

 

『もしもし百合か?

何かあったのか?』

 

「さっきの放送の事について聞きたいことがあるのですが……いまどちらに?」

 

『放送室の前だ。

あたしの他に部活連会頭の十文字、あと市原、おまけに風紀委員と部活連の実行部隊付きで完全包囲だ』

 

「そうですか。

俺と深雪もいまそちらに向かっているのですが、中の様子はわかりますか?」

 

『残念なことに職員室からマスターキーごと盗まれてしまってな。

完全にお手上げ状態だ』

 

「わかりました。

中の人の数とか諸々の情報がわかるまで絶対に突入などは行わないでください。

敵さんの神経を逆撫でするような行為は以ての外ですからね」

 

『そんなことは重々承知だ。

お前も早く来い。

お前の力があると今は便利な状況だ』

 

「了解です」

 

プツリと電話回線が切れたのを確認すると俺はポケットに端末を入れる。

 

「どうだった百合?」

 

「おお、達也。

いつの間にいたんだな」

 

「今追い付いたところだ。

それより現在の状況だ」

 

端末をポケットに入れたところで横合いから突然現れた達也に声をかけられる。

 

「マスターキー盗まれて現場で立ち往生。

その上遠隔視系の能力持ちもなし。

完全に打つ手なしのお手上げ侍だな」

 

腕を肩口くらいまで上げて降参のジェスチャーを取って状況の説明を終える。

 

「これもブランシュの仕業でしょうか?」

 

「流石にそれはないだろうが用心するのに越したことはないと思う。

ま、その手の連中の仕業だと思うがな」

 

深雪達とそんな会話をしながら数分走ると放送室に辿り着く。

そこには学園の三巨頭と称される人物の内二人と生徒会会計の市原先輩が神妙な面持ちで立ち尽くしていた。

どうやらまだ状況に進展はないらしい。

 

「すみませーん。

今日非番で帰る気満々だったんで来るの遅れちゃいましたー」

 

「遅いぞ。

…まあいい、百合早速始めてくれ」

 

「ラジャー」

 

俺は姉上に促されるがままに放送室の扉の前に手を添え目を閉じる。

ここからが正念場ってやつだが…何時も通りにやれば問題ないよな。

 

「十六夜君、何をしているんですか?」

 

「そういえば見たことがなかったか…

こいつの一族は剣術の大家であることは前に話したな?」

 

「ええ、確か大元は忍者の家計だと伺いましたが…」

 

「今アイツがやっているのはその忍者の技術だ。

人間が知覚できない程微弱な想子(サイオン)の波を壁越しに流すことによってその中にある物体の配置を確認している。

単純に言ってしまえば想子の波で超音波検査をしているようなものだ」

 

俺のやっている事に疑問を覚えた市原先輩が投げかけた質問はこの術の性質を知っている姉上が答えてくれた。

十六夜家の人間は代々このような想子のコントロールに長けており、俺以上の能力を持つ者だと想子で作った針金でピッキングしたりとか色んな事が出来るらしい。

分類上この技術は古式魔法に分類され一般的には仙術と呼ばれるらしいが十六夜流では特に呼び方は決まっていない。

 

「解析終わりました。

中には男四人と女一人、全員がCADを携行してますが拳銃や刃物、爆弾などの危険物は持っていないと思います」

 

「すまないな十六夜。

しかしそれがわかったところでどうこうなるという訳でもないんだが……」

 

「会頭はどのような考えをお持ちなのですか?」

 

十文字会頭が俺に感謝の言葉を述べるのと同時に達也が質問を投げかける。

 

「俺としては交渉に応じようと思っている。

まあ、そう言ったところで相手が外に出て来るかはまた別の問題だが」

 

「やはり扉を壊してでも早急な解決を試みた方が……」

 

「それは駄目ですよ姉上」

 

姉上が強攻策に出ようとする意見を俺は至って冷静に遮った。

 

「相手が武器を持っていない以上そこまで早急かつ強引なな解決を試みる必要もありませんし、寧ろその様な強攻策に出ればアイツらの同士が黙っちゃあいませんよ。

ところで警備会社の対応は?」

 

「放送室の扉のロックを解除するように要請はしたが拒否された」

 

「仕方がないですね……目には目を、歯には歯をと言うことでこちらも犯罪行為に手を染めてみましょう」

 

そう言って俺がポケットから取り出したのは小型の液晶画面。

床にそれを置き電源を入れると液晶の下部から光のキーボードが投射された。

 

「……警備システムにハッキングをかけると言うことですか?」

 

「はい。

そっちの方がドア叩き壊すよりも安上がりですので」

 

ケーブルを放送室の鍵の認証パネルに繋ぐ。

それに伴い俺は警備システムへのハッキングを開始する。

数分もしない内に放送室の扉からガチャリと音が響く。

それと同時に中がざわめき出す。

 

30km/h(時速三十キロ)でアンタらの体は背後に吹っ飛ぶ」

 

俺の呟きと共に中から聞こえてくる鈍い音と苦痛に悶える声、それらを確認すると俺は放送室へと入っていった。

 

「あなたは……十六夜くん?」

 

「やっぱし壬生先輩でしたか。

どこかで見たことのある霊子の光が見えるなぁと思ってたところだったんですよ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

あれから数日。

放送室をジャックした上にマスターキーを盗んだ有志同盟の五人は結局お咎めなし。

何故ならあの後に真由美さんが登場して拘束していた奴らを漏れなく開放、その上有志同盟と生徒会の公開討論会を行うこととなった。

それが認められて以降有志同盟の活動は活発化し、学内に赤と青のラインで縁取られた白いリストバンドを付けた人間が結構増えた。

で、その公開討論会ってのが今日な訳だが俺はそんなものに出席する暇もなくあることに付き合わされていた。

 

「ねえ百合ぃ~なんかもっと早くするコツってないの~?」

 

「コツって言われてもなぁ……エリカの場合は気合いの問題だと思うんだけど」

 

「おーい百合ー!!

俺にも教えてくれー!!」

 

「あいあいちょっと待ってくれ~」

 

エリカとレオの実技の練習だ。

最初は放課後にエリカに誘われてコイツの面倒だけを見る予定だったのだがいざ来てみたら既にレオが練習していたのだ。

壮絶を極めた勝負(もといじゃんけん)の結果俺が一対二形式で教えることになった。

今日のお題は基礎単一系魔法の高速コンパイル及び発動、目標時間は一〇〇〇ms(ミリ秒)以内。

達也に先日コツを教えて貰ったらしくそれの定着とスピードの向上が今回の目的らしい。

 

「そろそろ休憩取るかぁ。

流石に三十分もぶっ通しじゃあそろそろヤバいだろ?」

 

「ん?

別にそんな事はないぞ。

寧ろまだまだ余裕だな」

 

「んなっ?!

お前マジかよ……俺はそんなにやってたら普通にぶっ倒れるぜ?」

 

ケロッとしているレオを尻目に俺は腰を折り、げんなりした表情で俺を見やる。

そしてそのまま後ろに体重を預け地面に腰を下ろした。

 

「仕方ないじゃない。

アンタのそれは血筋の問題なんだから」

 

「血筋、というと遺伝的な問題か?」

 

「そ。

俺の母上の生まれた「水無月家」ってのは想子保有量の少ない遺伝子を持ってる一族らしくてな、その形質が俺に遺伝した。

それで水無月家は想子消費を極力抑える術式を独自に開発して対応してるってわけ。

俺のライアー・リリーに使っている起動式にもちゃんと応用してる」

 

最近は技術の進歩で想子保有量の大小は気にならないが同じ魔法を何百、何千と使う俺としては一般的な魔法士の三分の一程の量しかないのは実戦では大きなハンディキャップと言える。

 

「そんなハンデ背負いながらも色々出来るって凄いな。

やっぱり十六夜流の名は伊達じゃないってわけか」

 

「俺は世界で一人しか居ない十六夜流の免許皆伝者だぜ?

あんま嘗めて貰っちゃあ困るな」

 

売り言葉に買い言葉とレオの世辞の意味など全く含まれていない純粋な賞賛の言葉についつい嬉しくなって胸を張る。

 

「でも…前々から気になってたんだけど、あたし達が今使ってる授業用のCADみたいな普通の起動式で魔法を発動する場合はどうすんの?」

 

「うーんと……

確か、「想子粒子変換法」っていう空気中に浮いてるエイドスをイデアから体内に取り込んで、想子粒子に分解して自らの保有してる想子に上乗せする呼吸法があるんだと」

 

「なんかアンタが好きなジョジョ……だっけ?

あれの最初の方に出てくる「波紋なんちゃら」ってのに似てるわね」

 

「「波紋呼吸法」な。

呼吸の動作自体が魔法的な意味を持っていて……簡単に言っちゃえば呼吸そのものが起動式の役割をしてるんだ。

色々ゴチャゴチャ言って訳わかんないと思うけど、要するに特殊な呼吸法で使える想子量が増えるって思っててくれればそれで良いよ。

俺もやり方とか詳しいメカニズムはわかんねぇしな」

 

俺はケラケラと笑いながら説明を付け足す。

しかし話を聞いていた二人は頭に疑問符を沢山浮かべながら(実際には見えないけど)首を傾げている。

その表情は「わかりません」と無言で訴えかけてくるのがビシバシ伝わってくる。

こんな何かを必死に考え込んでるエリカの表情も悪くないかなと不謹慎な事を考えていると……

 

ドカーン

 

「えっ?!

ちょっ?!」

 

「うわぁ?!」

 

「え?!

ちょっとエリカさん?!」

 

轟音と共に実習棟が大きく揺れた。

その揺れに耐えきれなかったエリカは俺の胸に飛び込んでくる。

揺れとエリカの体、両方の影響で倒れそうになるがここで倒れてはカッコ悪いと言うことで必死に踏みとどまった。

 

「大丈夫かエリカ、レオ?」

 

「うん、なんとか……」

 

「俺は特に問題なしだ」

 

エリカの体を起こしながら二人の安全を確認する。

取り敢えず二人に怪我は無いようだ。

しかしこの揺れ方は尋常じゃない。

それこそ何か爆弾でも外壁にぶつかったんじゃないかってくらいの衝撃が……

 

「外出るぞ。

と言うよりエリカは事務室行ってレオと自分のCAD取ってこい」

 

「え?

それってどういうこと?」

 

エリカが疑問と期待に溢れた視線を俺に向けてくる。

はぁ……コイツの好戦的な性格は矯正しないとそのうち大変なことになるぞ……

 

「結論から言えばば敵対勢力の攻撃だろうな。

無論、見かけたら奴を片っ端から叩きのめして構わない。

多分さっきの衝撃もどうせ焼夷弾でもぶちまけたんだろうな」

 

「へぇ~結構危ないねそれ」

 

「無論生徒以外ならボコボコにして構わない。

その代わり絶対に怪我とかすんなよ。

死ぬとか以ての外だからな」

 

「わかってるって」

 

「了解しました、十六夜師範殿」

 

二人とも俺の心配をよそに笑顔で言葉を返してくる。

それにつられて俺の顔も綻ぶ。

どうやら心配も杞憂で終わりそうだ。

 

「じゃあ……」

 

俺はあぐらの状態から地面に向かって力をかけそれを加速魔法で力を増幅、飛び上がったのと同時に足をほどき着地する。

 

「行こうか」




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十三射 ばとるいんいちこー

「それより外出るって言ったってどうすんだよ?

お前はどうであれ俺達はCAD持ってないんだぞ?」

 

「お前なら魔法なしでも余裕だろ?」

 

「そんなこと言われてもなぁ……」

 

実習棟の廊下を走りながら俺とレオは言葉を交わす。

出口に辿り着くとそこから見えたのは五人のブランシュの工作員と思しき男達。

ドアの影から更に詳細な情報を得るために様子を観察する……その最中、横にいるレオから肩を指でツンツンとつつかれた。

 

「お前、やっぱりエリカと一緒に事務室に行ってくれ」

 

「……大丈夫かよ?

一人であの量は流石にキツいだろ」

 

「なんとかなるって。

それに、エリカだっていくら剣術の大家の娘と言えどCADがなければただの女の子だぜ?

それを守ってやるのがナイトの勤めだと思うけど?」

 

「な、ナイトォ?!」

 

俺の合図を待っているのエリカの方に視線を向けると「どうかした?」とでも言うように小首を傾げてこちらを見ている。

 

「……まあそれも一理あるな。

ここは任せるぞ」

 

「了解だ!!」

 

その言葉を待っていたかのようにレオはドアの影から飛び出し、その人集りへと向かっていった。

 

「俺達も行くぞ。

エリカ、ついて来い」

 

「うん!!」

 

事務室のある方向に向かって走って行く。

選んだ道は俺が密かに見つけていた木陰を通る事務室への近道。

しかしその道の先には数人の工作員。

きっと事務室にある貴重品類を盗みに来たのだろう。

 

「突っ切ってぶちのめす!!」

 

自己加速術式で自らの速度をあげ、一番手前に居た男の顔面に膝蹴りを見舞う。

そして奥襟を掴みそこを支点に背後に回り込みその背中を踏み台に高く飛び上がる。

 

「大人しく……寝てろぉおおおお!!」

 

俺の体が宙を舞う。

そして数回に及ぶ炸裂音と共に弾丸の雨が男達に降り注ぐ。

たかがゴム弾と言えど至近距離で当たれば相当なダメージになるはずだ。

聞くところによるとプロボクサーのストレート並の威力だと言うが実際に食らったことがないのでわからないのだが。

姉上とやった時になぜ怪我がなかったのかって?

しっかり当たる直前に弾丸自体を柔らかくしたんだよあんときは。

吸い込まれるように頭に当たった弾丸の影響で男達は糸の切れた操り人形のように地に伏した。

それを飛び越えた俺は空になったマガジンを抜き、太股の外側に固定していた変えのマガジンをした。

マガジンと言ってもこれはCADなので敵に投げつけたりしちゃあいけない。

 

「エリカ、怪我とかしてないか?」

 

「アンタが全部やっちゃうから怪我なんてしようがないっての。

寧ろアンタの方こそ大丈夫なの?」

 

「この程度の奴らにやられるかってんだ」

 

事務室へ向かう扉を開け再び廊下を走る俺達。

しかし事務室への一本道には敵は誰一人居らず聞こえてくるのは外からの覇気の籠った声のみである。

 

「大丈夫ですか?!

……ってあれ?」

 

事務室の窓口に大急ぎで辿り着くとその奥には縛りあげられた侵入者と何事もなく仕事をしている事務員の姿が見える。

どうやら心配は杞憂で終わったようだがそれ以前に俺はただただ唖然とすることしかできなかった。

 

「魔法科高校って事務員の人たちまで凄いんだね…」

 

「これはもうあっぱれの一言しか言いようがないな」

 

魔法科高校のレベルの高さを改めて痛感した瞬間だった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「レオー、ホウキ取ってきた……

って援軍がもう着いてたか」

 

実習棟に戻るとそこには援軍として駆けつけてくれたのだろう達也と深雪がそこに居た。

その周りには無数の男、どうやらレオが綺麗に片づけてくれたようだ。

しかし焼夷剤が残っているのかまだ実習棟壁面の火は消えておらず、レオの背後で教員が消火活動にあたっていた。

 

「気にすんな。

十分間に合ったって。

百合もちゃんと俺が言ったとおりにしてくれたみたいだな」

 

「まったく心配はしてなかったんだけど…

お前ら殺しても死ななそうだし」

 

「おい!!

殺しても死なないってどういうことだ!!」

 

「そうよ!!

こんなやつと一緒にしないでよ!!」

 

「百合、悪ふざけもそれくらいにしておけ」

 

「悪い悪い」

 

悪ふざけが過ぎたらしく達也に注意されてしまった。

こんな状況では不謹慎としか言えない俺の行動だが真面目腐った雰囲気というかそういうのが嫌いな性分だということは達也もわかっているのでその一言で終わりにしてくれた。

きっと他の先生とかだったら緊張感がないだの色々言われてさぞかし面倒なことになるだろう。

 

「おいエリカ、さっさと俺のCAD寄越せ」

 

「わかってるって。

ほーれ」

 

「うわ?!

投げんなよ!!」

 

レオの口調が気に食わなかったのかレオがエリカに抗議の声をあげる。

しかしCADと言うものは案外丈夫なのでちょっとやそっとの衝撃では壊れない。

確かにCADは精密機械だが結構タフな状況下(それこそ戦場など)での使用も想定されているためである。

そんなことは魔法師の卵と言えど常識の範疇なのでエリカはあえてそれを無視する。

 

「ところで達也、こいつはいったい何だ?

やっぱしブランシュの野郎どもが攻めて来たってことだよな?」

 

「ああ。

生徒でなければ(・・・・・・・)手加減は無用だ」

 

俺の聞きたい言葉に付けたして戦いたくてうずうずしているエリカ向けの言葉を発する達也。

その表情に揺らぎはない。

 

「アハッ、高校ってもっと退屈なとこだと思ってたけど案外楽しいことあんじゃない」

 

「エリカ、何事にも限度ってものがあるぞ」

 

「そ、そんなことはわかってるっての!!

いいじゃない!!

ここまでの道中に遭った敵はみんなアンタがやっちゃったんだからあたしがはりきっても!!」

 

「おー怖え~

好戦的な女だなぁ」

 

「黙らっしゃい」

 

レオの先ほどの無視されたことに対しての報復とでも言わんばかりに放った言葉にエリカはカチンと来たらしく特殊警棒を持った右手を振り上げる。

しかし流石にそんなものでぶっ叩けば危ないことに気付いたらしくその中ほどまで上げた手をぴたりと止めゆっくりとおろした。

 

「ほらお前らぼさっとしてないでさっさと行くぞ。

どうせ狙いは実験棟か図書館だ」

 

「待ってください百合兄様。

何故そう思っていらっしゃるのですか?」

 

俺が武器を携えたままみんなを呼んだところで深雪からの質問が飛んでくる。

 

「まあ、実技棟と事務室の状況を見たからかな?

実技棟には旧式のCADが保管されているが所詮はその程度、破壊工作が目的と言えど壁を壊したくらいじゃあ一月そこらで意味がなくなる。

そんな安っぽいことするためのテロなんて意味ないぜ?」

 

「その点なら百合と同感だ。

なんせ一対多数の状況でろくに魔法も練れないやつしかいなかったからな。

こんな奴らが主力部隊なんてちゃんちゃらおかしいぜ」

 

「レオがこう言うんだしこっちは陽動と考えていい。

事務室も先生方に既に全員取り押さえられていた。

そっちに主力が行くとしたら物取りが狙いだが、本来の目的から反れてしまう。

あと考えられるのは……?」

 

「すぐには再調達できない文献や試料、または重要な装置の保管してある実験棟や図書館が本命というわけか。

流石は警察一家の息子、その手の推理は得意分野と言うことか」

 

「ま、飽くまでも推測の域だがな」

 

「敵の狙いは図書館よ」

 

突如背後から声をかけられる。

こんな会話をしながらも警戒を解いてなかった俺は背後に拳銃を向けた。

その銃口の先には突然のことに驚いた表情をする先生と思しき女性だった。

踵の低い靴に細身のパンツスーツ、その下には光沢のあるセーター。

見た目よりもどちらかと言うと行動性を重視したその服装は防弾防刃性に優れている金属繊維を用いていると思われるセーターを着ることで戦闘向けに近い服装となっていた。

 

「あ、小野先生」

 

「す、すみません!!

いきなり後ろから声を掛けられたもんでびっくりしちゃいまして」

 

「いいのよ、誰にだって間違いはあるもの。

私は小野遥。

E組のカウンセラーを務めています」

 

「A組の十六夜百合です。

よろしくお願いします」

 

その小野先生と呼ばれた女性に自らの無礼を詫びる。

そんな俺を笑顔で返してくれた。

自己紹介を終えると再び真面目な表情に戻ると言葉を紡ぎ始める。

 

「敵の主力は既に館内に侵入しています。

壬生さんもそちらに居るわ」

 

なんでそんなことを知っているのかと疑問に思ったのだが今はそんなことを聞いている暇ではないと思った俺は図書館の方へと足を向けるが他の四人は動かない。

達也に至っては真正面から先生を見つめて動かない。

 

「後ほど、説明をしていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「却下します。

……と言いたいところだけどそうも言ってはいられないわね。

その代わりに一つお願いを聞いてもらってもいいかしら?」

 

「何でしょう?」

 

若干嫌そうな顔をしていた小野先生だったが考え込むような様子はなくすぐに口を開いた。

 

「カウンセラー小野遥としてお願いします。

どうか壬生さんに機会を与えてほしいの。

彼女は剣道選手としての評価と二科生としての評価のギャップに悩んでいたわ。

今回もきっと彼らにその隙間に付け込まれてしまった。

だから…」

 

「甘いですね」

 

小野先生のお願いは達也にばっさりと切り捨てられてしまった。

 

「行くぞ」

 

「おい達也!!」

 

達也がこんな性格なのはそこそこ長い付き合いの俺にはこうなるだろうということはわかりきっていたので何も言わない。

しかし付き合いの浅いレオから抗議の声が上がる。

 

「良いかレオ。

余計な情けで怪我をするのは自分だけじゃない」

 

そう言って達也は走り出してしまった。

他の三人も図書館に向かう中で俺は小野先生の方へと体の向きを直した。

 

「すみません。

昔っからアイツあんな性格でして。

でも根は良いやつなんで嫌いにならないで欲しいんですけど…」

 

「わかっているわ。

彼と面談はした感じからどうせこんな事を言われると思っていたわ」

 

「ならよかった。

それじゃあ俺はこれで。

あ、壬生先輩の事は任せといてください」

 

「よろしくお願いします」

 

ぺこりと頭を下げる小野先生に背を向け俺は自己加速術式を起動して急いで図書館へと向かう。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「遅いぞ百合」

 

「悪い悪い……ってひっでぇことになってんなぁこりゃあ」

 

達也達と合流した頃には目的の図書館は間近に迫っていた。

近くの広場では侵入者と生徒の連合軍と裏切っていない生徒達の小競り合いが起こっていた。

状況を簡単に言えば数的不利で応戦側の生徒の方が分が悪かった。

それを見た途端にレオは列から外れ、小競り合いの現場へと向かっていった。

 

パンツァァアアア(Panzer)!!」

 

雄叫びを上げると同時に左腕に装着されているプロテクター型のCADに魔法式が投射される。

 

「今時音声認証とはまたレアなものを…」

 

「しっかし逐次展開なんてまたふっるいものを使ってなぁ……

よし、俺はレオの援護に回るぜ。

達也、あと任せた」

 

「わかった」

 

俺はその場に立ち止まり自分のこめかみに銃口をあてがう。

 

「クェーサー!!」

 

図書館の建物に向かって金色の尾をたなびかせながら弾丸が飛んでいき着弾と同時にこめかみにあてた拳銃の引き金を引く。

それと同時に足元に真っ黒な渦が現れ俺の体は吸い込まれた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「え?!

百合が居なくなっちゃったよ!!」

 

「心配しなくていい。

図書館の壁を見てみろ」

 

百合が真っ黒ななにかに吸い込まれたのを見て思わず声をあげてしまう。

それに達也くんが反応する。

達也くんに促されるがままに目的地である図書館に目をやる。

 

「え?!

百合が飛んでる!!

っていうか落ちてる?!」

 

壁の上から下に向かって百合が動いているのが目に入る。

その手に握られている二艇の拳銃型CADの両脇には金色の線の形作られた長方形が浮かんでいた。

 

「あれが百合の切り札とも言える魔法「黎明のクェーサー」だ」

 

「うおぉおおおお!!」

 

百合が雄叫びをあげることによってやっと下に居た侵入者数名が百合の存在に気がついた。

着地と同時に百合は黄金の尾をたなびかせた弾丸を放つ。

それにあたった人間はおはじきのように弾き飛ばされた。

 

「すっごぉ…」

 

「メカニズムは俺もよく知らないんだが、なんでも特殊な回転を弾丸に加えることによって威力を爆発的に向上させたらしい。

不思議なことにその回転を加えられた弾丸は莫大なエネルギーを有し、空間をも歪めるそうだ」

 

よく見ると百合が落ちて来たところの上の方の壁には最初に百合が吸い込まれた半径三十cmほどの黒い渦があった。

あたしの視界に入った直後に消えてしまったが、きっと百合はあそこから出て来たのだろう。

 

「四年で成長したのは体だけじゃなかったってことか」

 

彼が図書館の入口のあたりの敵をばったばったと薙ぎ倒す姿をみて思わず笑みがこぼれる。

昔から…いや、今でもガキっぽい百合の成長を見れてあたしは少し嬉しかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十四射 守るための戦い

投稿遅くなってすみません!!
以後気をつけます!!


「……記憶の改竄か。

何度見ても胸糞悪いな…ったく」

 

俺は保健室のベッドに座りながら空になったマガジンに弾を込めながら呟く。

その横の机にはバラバラになった武装一体型CAD「ライアーリリー」が置いてある。

今俺は保健室で壬生先輩の聴取を行っていた。

彼女は侵入者と共に学園の図書館から魔法研究に関する論文を盗み出そうとしていたのだ。

それをエリカに止められ、腕に怪我を負いあまり聴取などをしていい状態ではないのだが本人の意向で生徒会の三巨頭と俺、達也、深雪、エリカ、レオの八人に対してことの経緯を話してくれた。

先輩がこのような行為に及んだ動機で、「渡辺先輩に剣の稽古を頼んだのだがすげなくあしらわれた」とのことだった。

本当はすげなくあしらったのではなく「壬生の方が強いから稽古の相手を辞退する」という内容で、完全に事実とは食い違っていた。

この手のことは反魔法組織が一般人を利用するためによく使う手口だが、毎度毎度よくもこんな非人道的なことをするよなと思う。

 

「なあ達也、この場合の問題ってただ一つだよな」

 

「ああ。

奴らが今どこに居るのか、だな」

 

「……まさか、彼らと一戦交えるつもりなの?」

 

「まっさかぁ」

 

恐る恐る質問を投げかける真由美さん。

俺のあっけらかんな返答に一瞬ほっとするも俺の返答はまだ続いている。

 

「そんな生ぬるいことで終わりにするわけないじゃあないですか」

 

「百合の言う通りです。

一戦交えるのではなく叩き潰すんですよ」

 

「馬鹿を言うな!!

学生の領分を越えている!!」

 

ドスの利いた声で答える俺達。

それに対して真っ先に反対したのは姉上だった。

 

「私も同じ考えよ。

このことは警察に任せるべきだわ」

 

「じゃあ姉上達は良いんですか?

壬生先輩をこのまま強盗未遂で家裁送りにしても」

 

バラバラだった拳銃を組み立て終え遊艇を引く。

遊艇が元の位置に戻ったときに放たれる独特な音が静かになった保健室内に響き渡った。

 

「なるほど、警察の介入は好ましくない、か。

しかしな司波、十六夜。

このまま放置はできないからと言っても相手はテロリストだ。

下手をすれば命にかかわる。

俺も七草も渡辺も生徒に命を懸けろとは言わん」

 

俺と達也に厳然たる態度で語りかけて来たのは部活連会頭の十文字先輩だった。

 

「そんなこと言われるのは百も承知ですよ」

 

「最初から委員会や部活連の力を借りるつもりはありません」

 

「……お前達だけで行くつもりか」

 

「まあ、そうしたいのも山々なんですけど……

コイツらが何を言っても付いてくる気満々っぽいんでそうもいかないでしょうね」

 

「お兄様、私もお供させていただきます」

 

「あたしも行くわ」

 

「俺もだ」

 

俺の言葉に密かにその瞳に闘志の炎を灯していた三人も参戦の意思を示した。

 

「司波くんに十六夜くんもしもあたしの為ならこんなことはやめて。

私は罰を受けるに値する罪を犯した。

それにその罰を受ける覚悟もできてる。

そんなことよりも司波くん達があたしの所為で傷付く方が耐えがたいわ」

 

ことの発端とも言える壬生先輩が止めに入る。

しかし達也はその誠意に応える気が微塵もないような表情で振り返った。

 

「壬生先輩の為ではありません」

 

その言葉にショックを受けた先輩は反論する気もなくなったのか黙り込んでしまった。

 

「自分の生活空間がテロの標的になったんです。

俺は深雪との日常(・・)を損なおうとするものを全て駆除します。

それが俺にとっての最優先事項です」

 

きっぱり言い切った達也は俺の方へと視線を向ける。

俺の顔を見た達也は少しだけ口を緩めると更に言葉を紡いだ。

 

「…百合の理由は少し違うようですが」

 

「まあそうですね。

俺は本来ならこう言う事件に遭遇したら警察にチクらなきゃいけない立場なんだけど……」

 

「……そう言えばそうだ。

確かお前の家は代々、頭首の子供のなかで最も能力の高い人間を十二歳になったら警察官にさせているはずだ」

 

「しかも「魔法に関する事案は遭遇した場合すぐに連絡する」という条件付きでね。

俺の代は両親が亡くなってしまったのですがその伝統だけは残っていまして現在も俺はその警察省テロ組織対策本部の捜査官としての任に付いています」

 

その証拠に懐から手帳を取り出しみんなに見せる。

全員が確認を終えたのを確認すると懐にそれをしまいながら言の葉を紡いだ。

 

「……どの道あたしが捕まるのはすぐだったってことね」

 

「だから俺はそんなこと考えていませんって。

俺は警察の人間である以前に一人の人間ですし、十二の誕生日の時に決めたんです。

自分の手の届く範囲の人を幸せにするためなら自分の全てを投げ捨てたっていい。

それが例え偽善とか自己満足だとか言われてもそれを善だと信じて戦い続けるって」

 

「なんで…そこまでするの?

悪いことをしたのはあたしなんだよ?」

 

壬生先輩が疑問を口にする。

恐る恐るといった表情の彼女に俺は笑顔で語りかける。

 

「俺は他人に対しては嘘吐きなんですよ。

でもね、自分の心だけには嘘を吐きたくない。

それだけの話です。

それに、あなたにもう一度チャンスをあげて下さいって頼まれちゃったんですよねぇ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「いだっ?!」

 

工場の門扉を突き破り地面に着地すると同時に大きく揺れる。

それと同時に大きく跳ねた車内のみんなの中で俺だけ天井に頭をぶつけてしまった。

 

「アンタ…本当に大丈夫?

これから戦うってのに緊張感ないわね…

ってアンタ鼻血出てんじゃないの!!」

 

「あ、ほんとだ」

 

ぶつけた後頭部をさすりながら悶える俺にエリカは声を掛けてくれた。

そして俺の顔を指差して声を上げる。

道理で鼻があっついと思ったら…

 

「これあげる。

使いなさい」

 

「おお、悪いな。

今日ティッシュ忘れちゃってどうしようって思ってたんだよ」

 

「はあ…」

 

エリカからポケットティッシュを受け取り一枚取り出し鼻に突っ込む。

その横ではあきれ顔の達也がわざとらしいため息をついていた。

そのついでに俺達は乗ってきた大型のオフロード車から降りた。

 

「司波、お前が考えた作戦だ。

お前が指示を出せ」

 

「はい。

百合、お前は退路の確保と無いとは思うが援軍の殲滅だ。

レオとエリカは百合のサポートと百合の撃ち漏らしの始末だ」

 

「わっかりました隊長殿ぉ!!

漏れなく全員縛りあげときますよ」

 

流石に緊張感のなさすぎた今の発言に少し達也のペースが崩れかけた。

 

「……会頭と桐原先輩は左手から迂回して裏から中へ侵入してください。

深雪は俺とこのまま正面から踏みこむぞ」

 

「わかりました」

 

「百合、くれぐれも車が吹き飛ばされるなんてことはしないでくれよ」

 

「この俺にまっかせなさーい!!

じゃあ四人とも気をつけて」

 

俺が中へと向かう四人を気遣う言葉を掛けて送り出す。

そして俺は鼻血の所為で少々くらくらするため近くの木陰へと向かいそこで地べたに腰を下ろした。

 

「じゃあお前ら、今から俺が三つ命令を出す。

これだけはこの作戦内では絶対に守ってくれ」

 

俺は胡坐の体制で顔の前で指を三本立てる。

 

「なんだ?

妙に真面目じゃねえか」

 

「アンタがそう言うってことは相当な重要事項ってことよね?」

 

「重要って言うか最優先事項だな。

命令は三つ。

死ぬな、死にそうになったら隠れろ、そんで逃げろ、運が良ければ隙を突いてぶっ倒せ。

あ……これじゃあ四つか?

ま、取り敢えず死ぬな。

それさえ守れば後は万事どうにでもなる」

 

「……ほんっとにアンタには緊張感ってものが欠落してるわね。

まあ、そんな約束なら守ってあげるわよ」

 

「同じくだ。

戦略的撤退も戦術の内ってな」

 

「わかってんじゃないの……っと、敵さんのお出ましの様じゃないの」

 

オフロード車の向こう側がだんだんと騒がしくなってくる。

その向こうから立ち上るのは夥しい数の想子の光。

 

「……数はざっと二十前後、いけるな?」

 

「一人七人くらい?

そんなの余裕に決まってんじゃない」

 

「俺も舐められたもんだな。

楽勝だっての」

 

二人は敵の数に怖気づくこともなく、寧ろその数に士気が上がっているようだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「な、何故だ?!

何故キャスト・ジャミングの中で魔法が使える?!」

 

目の前の男-司一が何度目かわからないが驚愕の色に顔が染まった。

その周りには体の一部から血を流しながらうめき声を上げる男達。

そしていつの間にか屋外の戦闘の音もなくなっていた。

 

「ひぃいい!?」

 

後ずさりする司一、その背にあった壁から突如として煌めく物体が突き破りそのまま壁が切り裂かれた。

その煌めく銀光を放つ物体は桐原先輩の高周波ブレードの刀身だった。

 

「やるじゃあねえか司波兄。

で、そこで腰抜かしてる奴は誰だ?」

 

壁に張り付き怯えている男に桐原先輩は蔑みの目を向けた。

 

「それがブランシュのリーダー、司一です」

 

「こいつが……?」

 

突如桐原先輩の全身から驚くほどの覇気が放たれる。

そしてゆっくりと煌めく刀身を頭の上へと振り上げる。

 

「壬生を誑かしたのはテメェかぁぁあああ!!」

 

「ひぃいいい!!」

 

最後の力を振り絞り、とでも言ったものか司一は今までの数倍の出力の想子のノイズを桐原先輩に浴びさせる。

その影響で手に持っていた刀は光を失うものの、刃引きされたその刀が奴の体を引き裂くのは既に決まっているはずだった。

 

ドゴォオン

 

しかしそれは叶うことなく屋外側の壁が吹き飛ぶのと同時に桐原先輩が持っていた刀も何かに弾かれたように宙を舞った。

 

「……何しやがる?

十六夜!!」

 

砂埃の中から現れたのは黒髪の少年。

その両手には金色の四角形が両脇に描かれた拳銃を携えており、へらへらと不敵な笑みを浮かべながら司一の目の前に立ちはだかった。

 

「……ブランシュ日本支部のリーダー、司一。

答えようが答えまいが、俺は今からお前にごく簡単な質問をする」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

あたしが百合が壁にあけた穴から中を覗き込むとそこには普段の百合からは想像すらできない程の殺気を放ちながらも普段通りの緩い声で目の前の男の眉間に拳銃を突きつけながら目の前の男に話しかけていた。

 

「俺が質問して二秒以内に答えなかった場合は俺はテメェの眉間に弾丸をぶち込む。

中に込めてあるのは軍事訓練用の拳銃用のゴム弾だが、今は特殊な術式を用いて威力を上昇させてる。

さっきの爆発を見てりゃ、この意味がわかるよな?」

 

百合は男の眉間にごりごりと銃口を押し当てると男は壊れたおもちゃのように何度も何度も首を縦に振った。

 

ウーノ()ドゥーエ()、それ以上は待たねえ。

例えアンタが答えなくても自分で探しに行くつもりだが……ま、情報は少しでも多い方がいいだろうと思ってな。

じゃあ質問タイムだ。

『四年前、十六夜家の人間を皆殺しにした奴は誰だ?』

……ウーノ()

 

ゆっくりと百合はカウントダウンを開始する。

 

「し、知らない!!

本当にそんなことは知らないんだ!!」

 

「……ドゥーエ()

じゃあ死ね。

それくらいの覚悟はしてここに来ているんだろう?」

 

引き金に指を掛ける百合。

その拳銃にはまだ『黎明のクェーサー』が発動中である証の黄金の長方形の光は灯っている。

 

「の、無頭龍(ノー・ヘッド・ドラゴン)だ!!」

 

「あ?」

 

「無頭龍の人間だ!!

名前まではわからないが四年前のあの事件の実行犯は無頭龍に所属する工作員の一人だと聞いた!!

信じてくれ、これは本当のことだ!!」

 

突然思い出したかのように口からぺらぺらと口から言葉が紡ぎだされる。

その言葉を聞いて百合は口を更に吊りあげた。

 

「そうか、ありがとな。

じゃあおねんねの時間だ」

 

「ど、どういうことだ?!

話が違うじゃないか!!」

 

「お前こそ何言ってんだ?

俺は話さなかったらお前の眉間に弾丸をぶち込むとは言ったが話したらそれを止めるなんて一言も言ってはいないぜ?」

 

「な……?!」

 

確かに百合は質問に答えた場合のことは一言も口にはしてない。

その事実に部屋の中の全員が口をあんぐりと開けて絶句した。

 

「お休み」

 

バァン

 

火薬が爆ぜる炸裂音、そしてチャンバーから出てくる薬きょうが地面に辿り着くのと同時に撃たれた男も地面に倒れこむ。

 

「百合……アンタ?!」

 

「ああ、大丈夫だ。

流石に殺しちゃあいねえよ。

ほら見てみ?」

 

百合が倒れこんだ男の前髪を掴み、上に持ち上げると涙でぐしゃぐしゃになった表情の顔が現れる。

よく見ると血液の類は一切見受けられず、眉間に少し紫色の痣ができているだけだった。

 

「ミッション完了、ってな」

 

満面の笑顔と共にピースサインを作る百合。

その表情を見た途端に一気に体の力が抜ける。

 

「……そう言うことは最初に言えってのバカーっ!!」

 

「敵を欺くにはまずは味方から。

常識だろ?」

 

好きな人が人殺しになるなんて嫌なんだから!!

心配させんなこのバカ百合!!




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十五射 The fight didn't end.

「終わったな」

 

「終わったね」

 

 俺とエリカはトタン製の壁に寄りかかりながらお互いに言葉を交わす。

 ふとエリカの方を向くとエリカの方も同じことを思ったのかこちらに顔を向けた。

 目が合うと急に気恥かしさを感じてしまい、お互いすぐにそっぽを向いてしまったが。

 付き合い始めて数週間くらいのカップルが気まずそうな表情で公園なんかに居るみたいな感じだ。

 そんな雰囲気の中で先に口を開いたのはエリカだった。

 

「あ、あのさ……

百合って好きな女の子のタイプとかってあるの?」

 

「好きな女の子か……

そうだな例えばおま---」

 

 えみたいな活発な女の子、と応えようとした矢先。

 視界の端に莫大な量の想子の光が目に入る。

 そちらに目を向けると複数の人間のものと思しき想子(サイオン)の光が森から空へ向かって立ち上っていた。

 その色は夜色に紛れてしまいそうに黒い……まるで深い色の絵具が混ざり合って結果的に真っ黒になってしまった、そんな印象を覚えるような黒である。

 その中に垣間見えるのは何故誰も気が付かないのかと思うくらいに発せられた狂気と殺気。

 

「どうしたの?

急に怖い顔して?」

 

「悪い。

森の中に忘れ物(・・・)したっぽくてさ。

ちょっと見てくるわ」

 

「あっ、ちょっと……」

 

「ダイジョブダイジョブ。

少し見てくるだけだから」

 

 エリカに手を振り森の中へと向かう。

 学校とは真反対の方向、倒木や切り株を乗り越えて奥へ奥へと向かえば向かう程に殺気は濃密なものになっていく。

 次第に木々が疎らになってきて、木が全くない開けた空間に辿り着く。

 そしてそこには真っ黒な薄手のパーカーのフードを深く被った人影が何もない虚空を見上げていた。

 その姿を見る限り、どうやらコイツがあの真っ黒な想子の光を放っていた張本人のようだ。

 俺はポケットを探り、目当てのものを掴むとボタンを手さぐりで探し、見つけるとすぐに押した。

 

「そこに居るのは知っているんですよ。

出てきたらどーですかぁ?」

 

 木の陰から様子を伺っていると変声機でもやがかかった声がこちらに向かって飛んでくる。

 視線をそちらに向けるとさっきまで上を向いていた奴はしっかりと俺のいる方を向いていた。

 フードを深く被っているのと月明かりが作った影とが相まって表情は見えないが、きっと視線もばっちり合っているんだろう。

 

「……俺は警察省テロ対策本部の十六夜百合だ。

お前ほどの想子を放つ魔法師がこんな場所に何の用だ?」

 

 俺が複数の人間のものだと勘違いしてしまうくらいの想子の量だ。

 相当な能力を持った魔法師に違いない。

 

「……ぷっ」

 

 噴き出したと思ったらアハハハハと大爆笑するフードマン(かなりサイズに余裕があるものを着ており、体のラインが出にくいためウーマンの可能性も捨てきれないが)。

 地面を転がりバンバンと地面を叩きと賑やかなやつだなぁ……

 ひとしきり笑い終えたところで起き上がり体についた土ぼこりを掃った。

 

「何がおかしい?」

 

「いや~めんごめんご。

ここまであの人(・・・)の予想通りだと少し可笑しくてですねぇ。

それと純粋に嬉しいんですよ~」

 

 フードマンは腰の後ろに最初からあったようにそこに存在ていた二つの柄に手を掛け得物であろうものを鞘から抜き放つ。

 ナックルガードの付きのその片刃の刀は刀身が月明かりに照らされて怪しげな光を辺りに放っていた。

 

「私の両親の敵(・・・・)であるあなた、十六夜百合さんのお腹を搔っ捌いて内臓を拝めるってチャンスにね」

 

 さぞ嬉しそうな声色で言葉を放つと嬉々としてこちらへと走ってくる。

 低姿勢で加速と回避を重視していると思われるその走り方は父上から一番最初に教わった走り方にそっくりだった。

 俺は急速接近するそれに銃口を向け弾丸を放つもなにせ移動速度が速いもんで当たらない。

 このスピードだとベツレヘムの弾丸の軌道変化だけじゃあ無理そうである。

 

「クェーサー!!」

 

 横目で拳銃に金色の長方形が現れるのを確認し、こちらも接近する。

 己が得物とフードマンの獲物が交差する。

 

「え?」

 

 その直前、相手の像がぶれるのと共に姿を消した。

 

「回っ転っ!!」

 

 体制が崩れた体を右足を軸に強引に百八十度回転させる。

 体の回転によって威力の高まった金属の塊が予想通り現れたフードマンの右の肩にヒットした。

 

「おおおぉぉおおおお!!」

 

 浮いていた左足で地面を踏みこみ、思いっきり真横へと振りぬくと同時に拳銃の引き金を引く。

 森に響き渡る渇いた炸裂音と一瞬だけ迸るマズルからの光。

 しかしフードマンは俺が吹き飛ばそうと思っていた方向とは真逆に立っていた。

 

「チッ……辛うじて逃げやがったか」

 

「いや~流石は十六夜流の最後(・・)の免許皆伝。

今の奇襲が見破られるとは思っていませんでした」

 

「俺だってソロでやんちゃしてた時期があったんでね。

テメェなんざに引けは取らねえよ。

なあ、無頭龍(ノー・ヘッド・ドラゴン)の『血塗れ双牙(ブラッディタスク)』さんよぉ?」

 

「おや?

私のことをご存知でしたかぁ。

私もゆーめーになったものですねぇ」

 

 「無頭龍の血塗れ双牙」とはここ一年くらいの内に有名になった魔法テロリストの売れっ子的存在だ。

 無頭龍という国際犯罪シンジケートに所属しているものの、無頭龍と中の良い組織から依頼を受けたりしているらしいいわば万屋的な奴らしい。

 そいつが一度現れると一瞬にして辺りの人間は軍人、民間人を問わず皆殺しにされるという。

 辛うじて生きて帰ってきた奴が「二振りの刀で瞬間移動まがいなことをしながら刀身が真っ赤に染まるまで人を斬り続けていた」と言っていたことから付いた名前が「血塗れ双牙」というわけである。

 

「で、かの有名なあなたがこんな辺境の地に何の御用で?

てか場合によっては殺すぞ」

 

「いやいや私がここを訪れたのはただの偵察ですよ」

 

 相手が返答の言葉を言い終えたときには既に俺の真正面に現れて剣を振りかぶっていた。

 体を屈めて避けると俺はベツレヘムの星に組み込まれている移動系術式を用いて敵の背後へと回り込み体に回転を加えて拳銃を銃口が相手の体に密着するようにアッパーカット気味に振り上げる。

 背後からの一撃。

 相手も反応はできていない……行けるっ!!

 

「当たると思っていましたか?

残念でしたねぇ」

 

 そう思った時、変声機によって曇っている声が響くと同時に脇腹に激痛が迸る。

 次の瞬間、俺の体は空き地の外周部の大きな木に叩きつけられた。

 

「かはっ?!」

 

 背中に衝撃が走るのと同時に肺に溜まっていた空気が一気に搾り取られる。

 ぼんやりと霞んでいる視界の中でこちらに向かって飛んできたのは怪しげな光を放つ二振りの刀だった。

 ずぶりと俺の両肩を抉る金属の刃。

 身動きを取ろうにも背後の木にしっかり刺さっているため全く動けない。

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!

てめぇの命は貰ったぜぇ!!」

 

 パーカーマンが得物に触れてすらいないのに木に深く刺さった二振りの刀が一気に引き抜かれる。

 傷口から血が噴き出す。

 痛みで体が前に折れる。

 このまま終わっちまうのか俺の人生……まだあの事件の犯人を見つけてないのに……

 

「くそっ……万事休すかよ」

 

「諦めてんじゃないわよアホ百合!!」

 

 ガキィンと甲高い金属と金属がぶつかる音が頭上で響く。

 ゆっくりと頭をあげると、そこにはフードマンの二振りの刀を受け止める幼馴染みの姿があった。

 

「やあぁああ!!」

 

 力一杯にフードマンを押しのけ俺の方へと駆けよってくるエリカ。

 エリカの手を取り何とか立ち上がる俺、神経まで肩の骨をがっつり抉られた俺の腕はそれでも動きは止まってない。

 

「エリカ、お前なんでここに?」

 

「アンタが居なくなってからなかなか帰ってこないし森の方から銃声が聞こえてくるわであたしとレオと十文字先輩と桐原先輩の四人で森の中探し回ってたのよ。

でもアンタその肩……」

 

「ああ、今は魔法で肩の骨とか筋肉全部繋いでるから動いてるってだけ。

でもあくまで応急処置だから、もって三分弱ってところかな」

 

 手の内にあるグリップが血に塗れた拳銃をくるくると回しながら軽い口調で返答する。

 しかし幾ら骨とかを全部繋いだからと言っても痛いものは痛い。

 

「うわぁ~増援まで来ちゃいましたか~

しかもあの剣の魔法師で有名な千葉家のお嬢さん!!

あ、でもあなたは愛人の子(・・・・)でしたよねぇ~?」

 

「でもあたしは千刃流の印家。

そこいらの剣士と一緒にしてもらっちゃ困るわよ」

 

 売り言葉に買い言葉とでも言うかの様に挑発の言葉を返すエリカ。

 

「俺もこの怪我で長期戦は避けたい。

前衛頼めるか?」

 

「アンタの援護があるだけで百人力よ。

一応アンタ見つけた時にレオ達に連絡したから応援来るまで持ちこたえて」

 

「了解した」

 

「あと……もう一回言うけど、アンタのこと頼りにしてるからね」

 

「この俺にまっかせなさーい!!」

 

 俺の返答と同時にエリカは自己加速術式でフードマンに突っ込む。

 俺もそれに続いてベツレヘムでの援護を開始する。

 弾丸を放つと同時に移動魔法を駆使して相手の後ろに回り込む。

 

「おおおぉおおおお!!」

 

「これはいけません!!」

 

 エリカの頑張りによって二刀流のうち右側の剣を弾き飛ばし、俺も左の刀を右手で弾き左手の金色の四角形が現れている拳銃で打ち抜いた。

 

「ぬぐぅっ!!」

 

「ここぞとばかりに仕返しターイム!!」

 

 俺が腕を振り上げると同時に袖口から現れたのは二振りのサバイバルナイフ。

 それは吸い込まれるかのように木に叩きつけられたパーカーマンの肩に突き刺さる。

 

「今度の一撃はどうだぁぁあああああ!!」

 

 空中に飛び上がり回転によって威力を上げた拳銃を加速術式でこれでもかと威力を上げパーカーマンの肩へと振り下ろす。

 

「落第点です」

 

 しかしその渾身の一撃も甲高い金属音が鳴り響くとともに左腕の上腕で受け止められる。

 そして次に俺を待っていたのは

 

「私を早く殺して下さい……兄上(・・)

 

 余っていた右腕によって見舞われる渾身の右フック。

 意識を刈り取られる寸前に俺の瞳に映ったのは右手から放たれる鮮やかな緑色の想子の光と下瞼いっぱいに涙を溜めた翡翠のように鮮やかな緑色の瞳だった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十六射 始まりの警鐘

---え……

 

 頭の中に響いてきた微かな声。

 体を包み込むのは水の中に居るような浮遊感。

 しかし息苦しさは不思議とない。

 

---うえ……

 

 徐々に声は大きくなってくる。

 閉じていた瞼を開くとそこには無限に広がる真っ黒な世界。

 宇宙のように上下の概念はなく、出口の様なものは存在しない。

 

---兄上……

 

 聞き覚えのある人の---死んだはずの人間の声が頭の中で一つの単語として組みあがった。

 それを聞くのと同時に再び辺りを見回すと視界の端に黒い髪の少女が蹲っているのが見えた。

 

---けて……兄上……

 

「待っていろ!!

今行くからな!!」

 

 夢中になって足をばたつかせ空間を腕で掻く。

 しかし幾ら腕を動かしても足を動かそうとも一向に距離は縮まらない。

 寧ろ遠ざかっているかのようにも見える。

 

「助けて……兄上……」

 

 震えている声が完全な文として成立したのと同時に俺の体は上に向かって引っ張られているような感覚を覚えた。

 黒い髪の少女との距離が大きくなっていくにつれて体の力が抜けていく。

 

「ち……どり……」

 

最後に少女の名前を弱弱しく呟くのと同時に俺の意識は途切れた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

シャリシャリシャリシャリ

 

まどろみの中で何かを削るような音がなっているのを確認する。

重たい瞼をゆっくりと開くとそこに広がっていたのは見覚えのある天井だった。

 

「……なんで俺は自分の部屋に居るんだ?」

 

「百合!!」

 

体を起こしながら疑問を口にすると横合いから俺の名を呼ぶ声が聞こえてくる。

そちらに目をやるのと同時に声の主が俺に飛びついて来た。

押し倒されるような形になり、声の主を見やると見えたのは明るい栗色の頭。

 

「エリカ?

なぁんでお前が俺の部屋なんかに」

 

「はっ?!

ご、ごめん!!」

 

ようやく落ち着きを取り戻したのか自分がやっていたことを無礼と思いすぐさま飛び退くように俺から離れるエリカ。

彼女の身なりをよく見ると制服の至る所に泥が付いており、髪の毛も若干ごわついていた。

 

「あのフードに殴られた後アンタ全然起きないから警察の車でここまで運んでもらったのよ。

あ、達也くん達は下にいるよ」

 

「そういう時って普通病院に連れて行くものなんじゃあないのか?」

 

「アンタに駆け寄ったら怪我が治ってるし見た感じヤバそうな雰囲気なかったから家に連れて来たの。

そっちの方が百合も過ごしやすいだろうって達也くんも言ってたし、アンタ病院嫌いでしょ?」

 

「まあそうなんだが……」

 

よく見ると勉強机の椅子に両肩にべっとりと血が付いている制服が掛けてあった。

自分の着ているワイシャツの両肩にも血はあるが不思議と痛みはない。

確かに怪我が治っているようだ。

どうせ達也が治してくれたのだろうと体のあちこちを見ていると微かだが自分の体が緑色の想子(サイオン)の光を帯びているのが見えた。

 

「……なあエリカ。

あのフードマン、あの後どうした?」

 

「え?

いや、アンタのこと殴り飛ばしたら自分の傷なんてお構いなしに一目散に逃げてったわよ。

すぐに先輩達来たからきっとそれに気付いたんでしょうね」

 

「そっか……そいつは吉報じゃねぇか。

 

「な、何アンタ泣いてんのよ?!

ま、まさかまだどっか痛いの?」

 

俺の瞳から涙がこぼれる。

それを見たエリカはぎょっとした表情で俺に質問を投げかける。

 

「嬉しいんだよ……千鳥が生きてたんだからな」

 

「それって……」

 

「ああ。

あのフードマンが千鳥だってことだよ」

 

「な……何を根拠にそんなこと言ってるのよ!!

確かにアイツが使う剣は十六夜流の剣技に似ていたけどそれとこれとは話が違うじゃないの!!」

 

「いや、これは百パー本当のことだ。

あの剣の型は確実に十六夜流のものだ。

使う獲物が違えど動き方とか剣の振り方で丸分かりってやつよ」

 

ふふんと誇らしげに胸を張って見せる俺。

しかしそれでもエリカは腑に落ちない、と言うよりも認めたくないと言った様子で口を開く。

 

「でも、十六夜流の剣を精密に真似した偽物ってこともあり得るじゃない!!」

 

「まだ理由はあるぞ。

アイツの左腕、義手だった。

多分あれがアイツのCADなんだと思う。

決め手はアイツの放つ想子の光、千鳥のものと全てにおいて一致していた」

 

「でも……でも、千鳥がアンタを傷つけるような真似するわけないじゃないの……

兄弟で殺しあうなんて……あんまりじゃない……」

 

俺が追い打ちをかけように事実を突き付けていくと感情論に逃げ、終いには泣いてしまうエリカ。

千鳥の同年代の女友達だとコイツが一番仲良くしてたからなぁ……

 

「落ち着けよエリカ。

何も千鳥が進んであんな事をしているとまでは言ってないだろ」

 

「……え?」

 

俺の一言に声を震わせていたエリカが涙が溜まったままの瞳のまま顔を上げた。

 

「よし、後は外歩きながらにしようか。

家まで送ってやるよ」

 

「い、いいって別に!!

ここからなら駅近いしあたしんち遠いしアンタだって……」

 

「……今の俺は一人が嫌なんだよ。

誰かと一緒に居るならお前と一緒に居たい。

それだけだ」

 

ボッという効果音が相応しい勢いでエリカの顔が真っ赤に染まる。

そんなエリカは俺を指差しその右腕をぶんぶんと上下にフリフリ。

 

「し、しししし仕方ないわね!!

アンタの我儘なんて珍しいから聞いてやるわよ!!」

 

「じゃ、了解も取れたんなら行くか」

 

俺は机の上に置いてあったライアー・リリーを手に取り普段はマガジンが収まっているレッグホルスターにそれを収納する。

余談だが俺が学校に行くときに制服の袖に仕込んでいるのがこれを改良したもので、腕を振った遠心力で銃を固定している紐が外れ、その遠心力で袖口から出てくるという仕組みのものだ。

レオとぶつかった時みたいにたまに落としてしまうのが欠点ではあるが。

……閑話休題。

ホルスターに銃を修めると制服と同じくらい丈の長いコートをクローゼットから取り出しエリカと共に部屋を出る。

階段を降りたところでリビングにはまだ明かりが灯って居ることに気が付く。

エリカに先に外へ行くように促すとリビングへのドアを開けた。

 

「お~い達也。

今からエリカのこと送ってくるから留守番頼むわ」

 

「わかった。

それと百合」

 

「なんだ?」

 

去り際に達也から声を掛けられる。

 

「この間言っていた妹のこと、後で教えてくれないか?」

 

「ああ。

肉声付きでお送りいたしますぜ」

 

行ってきますと一言付けたし、玄関の戸をあける。

そこには空を見上げるエリカが待っており、それに気付くと彼女はこちらへと近づいてきて手を差し出した。

 

「ん」

 

「なんだよ?」

 

「手つないでよ。

アンタの我儘聞いたげたんだからあたしのも聞きなさい」

 

ぷっくりと頬を膨らますエリカ。

その表情を見て心の底が暖かくなる。

 

「仰せのままに」

 

アニメやドラマなんかに出てくる執事のように鳩尾の辺りに上腕を据えお辞儀をするとエリカの手を取り家の敷地の外へと歩き出す。

ふとエリカの顔を見る。

彼女の顔は安心感と幸せに満ちた朗らかな笑顔になっていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

五月三日、午前四時五十六分。

ブランシュを潰してから数週間経った。

腕を怪我した壬生先輩もそろそろ退院するとのことだし、俺達が魔法の無免許使用とかで逮捕されることはなかったし工作員に壊された備品も元通りなので事件の話はあまりされなくなった。

こんな大型連休の真っただ中の夜中に俺はとある墓地を訪れていた。

家からは大体キャビネットを使って一時間、そこから徒歩で三十分くらいの森の中にあり、俺が立っている周囲には無数の墓石が立ち並んでいる。

昔は御影石にその家の名前を彫っているものが主流だったが今は文化の多様化に伴い御影石に個人の名前を彫る十字架を用いる場合が多い。

しかし俺の家の様な歴史の長い家はまだ御影石の三段墓を用いることが多く、そこに死んだ者の遺骨が納められる。

俺は目的の場所で立ち止まると持ってきた花を供え、お線香に火をつける。

 

「お久ぶりです、父上、母上」

 

お線香を供え、手を合わせながら小さく言葉を紡ぐ。

毎年俺は自分の誕生日、つまり父上達の命日になるとここを訪れる。

時間は決まって夜中。

この為に学校を休むと父上達に怒られそうなので学校に支障をきたさないくらいの時間に来るようにしている。

一通り掃除を終えてから家には戻らず学校に直行するつもりなので通学用のリュックサックと制服着用は欠かせない。

 

「今年はアンタに会えたみたいね」

 

「……エリカ?」

 

俺が雑巾で墓石の掃除をしていると横合いから声を掛けられた。

見ると制服を着用した花束を携えたエリカの姿がそこにはあった。

服装を見る限り彼女も俺と同じくこの後は学校に直行するつもりなのだろう。

 

「毎年百合の花とお菓子が供えられてると思えばやっぱりアンタか。

しっかしこんな夜中にねぼすけなアンタがよく来れたわね」

 

「まあ今日は大事な日だからな。

それに千鳥が生きたまんま見つかりましたって報告もできたしな」

 

空元気としか言いようがないぶっきらぼうな笑顔でエリカに微笑みかける。

しかしエリカはむすっとしたまんまだんまりである。

 

「ねえ、千鳥がアンタの怪我治したって言ったわよね?」

 

「ああ、それがなにか?」

 

「どうして治せたのよ?

千鳥がアンタに直に触ったのはアンタを殴り飛ばしたあの一瞬だけ。

そんな一瞬であれだけの大怪我を治せる筈はない」

 

「……なあエリカ、BS魔法師って知ってるか?」

 

「ええ。

先天的に現代魔法では再現し辛い超能力が使える奴のことでしょ?

でもそれって特殊な魔法は使えるけど演算領域を全部その魔法の処理に使っちゃうから普通の魔法は使えないんでしょ?

千鳥がアンタを治したのと何の関係もないじゃない」

 

「まあ、何事にも例外とか特異ケースってもんがあるもんよ。

アイツは普通の魔法師として高い能力を持ちながらもBS魔法師としての能力も備えた所謂『バケモノ』ってやつよ」

 

「……でもその能力が暴発して殺したいと思ってたアンタのことを逆に回復させちゃったんじゃ世話ないじゃない」

 

「あの能力は対象に想子を流し込むことによって損傷する前の状態へと復元させる能力だ。

自分の想子を流し込むから自分の体を直すことはできないが、逆に言えば自分の体以外は何でも直せる。

要するに発動には本人の意思が不可欠ってわけだ」

 

俺の言葉の意味を理解したのかエリカの顔は驚愕の色に染まっていく。

 

「ってことは千鳥は誰かに操られてる可能性が高いってこと?!」

 

「まだ確証はないがな。

しかも洗脳してる奴はかなり遠くから操作している上にバカみてぇに強いと思う」

 

あの時、千鳥の体から溢れていた真っ黒な想子の光は明らかに別の人間のものだ。

量からして相当な実力を持っていると思って良いと思う。

 

「でも、仮に千鳥を助けてもそれからはどうすんのよ?!

千鳥は操られているからと言っても沢山の人を手にかけてるのよ!!」

 

「そんなの簡単さ。

例え世界の全てを敵に回しても俺はアイツを守りきる」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

百合の眼には確かな覚悟があることを物語るような真剣なまなざしがあった。

そして黒髪の少年は首にかけたドッグタグを見つめ、己に語りかけるように言葉を紡いでいく。

 

「二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めた。

一人は泥を見た、もう一人は星を見た……

この詩には同じ場所から見た光景でも人それぞれ違うものが見えているというものだ。

俺はどんな絶望的な状況であっても星を見るね。

千鳥を取り戻すまでは……どれだけ短い期間でもいいから希望()の光を見ていたい。

自分の罪()に目を向けるのはそれからってことで良いと思う。

今は自分のやったことを後悔なんてしたくないから」

 

ゴーンゴーンゴーン

 

遠くの方から鐘の音が聞こえてくる。

あたしはコイツが居なくなってた四年の間に何をしていたかなんて知らない。

既に人を殺しているのかもしれない。

でも、こんなにまっすぐなコイツのことを支えながら、コイツの隣を歩んで行きたい。

脆くて今にも壊れそうな気がするから、そう思った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「今の鐘は六時ってことか。

そろそろ行こう。

学校に遅れたら洒落にこんな朝早くに来た意味がなくなっちま……う」

 

俺が体の向きをエリカの方に直すと同時にエリカが俺に抱きついてきた。

 

「……から」

 

「ん?」

 

「アンタ、もう一回あたしの前からいなくなったりしたら許さないから!!

あたしと結婚して、あたしと子供育てて、幸せな老後を送るまで居なくなるなんて許さないから!!

誰かに殺されるなんて以ての外なんだからね!!」

 

エリカが涙を流しながら上目づかいで俺を見つめ言葉の弾丸を放つ。

……これって……愛の告白的な?

 

「……ったく。

十六夜さんはそんなに簡単に居なくなったりしませんよ。

それに……」

 

どんな物語でも最終的には悪は滅び、ヒーローとヒロインは結ばれてハッピーエンドになるはずだ。

俺はそれ以外の結末を迎える物語なんて認めない。

だから俺の物語はバッドエンドなんかで終わらせない。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

泡沫サマーデイズ編
第十七射 夏になったが今のところ特に予定がないのが虚しい


投稿が遅れないように気をつけると言ったな。
あれは嘘だ。
ということで遅れてすみません!!
リアルが段々多忙になってきて小説を書くことがなかなかできませんでした。
しばらくこんな風な投稿形態になってしまいますが末長く見守っていただければ幸いです。


「百合、少し良いか?」

 

「はい、なんでしょうか姉上?」

 

期末テストを終えて数日後、姉上が俺と達也に頼んだ引き継ぎ用の書類をまとめている最中、姉上から声を掛けられた。

なんだかんだ言って七月の中旬。

四月の一件以来特に学校では犯罪に絡むような行為は起こっておらず、反魔法組織絡みの事件も起こらなかった。

しかし取り締まり件数はいつも通りなのでけっこうみんなお疲れなのだが。

だからどうしたとか言うのはナシだ。

平穏なのが一番だからな。

 

「お前、明日の放課後は空いているか?」

 

「ありますが連絡して待ってもらいますよ。

しかし……この時期だと九校戦関連ですか?」

 

「ああ。

察しが良くて助かるよ」

 

九校戦……正式名称は全国魔法科高校親善魔法競技大会。

その名の通り全国に九つある魔法大学付属高校の生徒が己の知恵と技能の限りを尽くしプライドを掛けて戦う競技大会だ。

これの選手に選ばれるということは学内で能力的が認められたのと同義でありとても名誉なことなのである。

 

「じゃあ、俺に応援団長でもやってくれとかって話ですか?」

 

「いや。

お前をスピードシューティング本戦の選手に推薦したことの報告をな」

 

「選手の方に推薦?!

そう言うのって本人との相談をしてからするもんじゃないんですか?!」

 

本戦の(・・・)という点には何も言わないのだな。

それに一科生のお前が応援団長なんかに選ばれるはずがないだろう」

 

俺が叫ぶとすかさず達也からのツッコミが入る。

そりゃあ……なあ……

 

「でも一年の俺が推薦されたところでそれを二、三年生が容認するかどうかはまたハナシでしょ?

どうやって俺は俺の技能をプレゼンすればいいんでしょうか?」

 

「その件なら心配はない。

明日の放課後、お前と三年生の模擬競技をやってもらう。

相手は真由美だ」

 

俺はそんな唐突かつあり得ないマッチアップにただただ唖然とするしかなかった。

 

「なんで真由美さんが相手なんですか?!」

 

「それくらい強い相手の方がお前も燃えるだろう?

逆に考えるんだ、第一高校の三巨頭と戦うことのできるまたとないチャンスじゃないのか?」

 

「……はあ。

わかりました。

俺は明日の準備をしたいので」

 

「わかった。

明日また会おう。

あ、これを渡しておこう」

 

そういって部屋の隅から持ってきたのは一m程の大きさのアタッシュケース。

鍵などは特に付いておらず、開けてみるとそこには小銃型のCADが丁寧に収納されていた。

 

「これが九校戦で使う競技用のCADですか?」

 

「ああ。

お前の力量を図るにあたって道具も本番で使用するものを使わなければ意味がないだろう」

 

「……じゃあ、既定の範囲内ならどんだけ弄っても文句は言われませんよね?」

 

「ああ。

その通りだ」

 

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる姉上。

俺も同じく時代劇に出てくる悪代官のようにニヤリと笑う。

おぬしも悪よのうとか言いたくなるけどそこは姉上の台詞なので言わないでおく。

 

「じゃ、失礼します。

なあ達也、ケーキ屋なんか一緒にどうだ?」

 

「お前にしてはいい考えじゃないか。

ちょうど甘いものが欲しくなってきたところだし深雪も連れて行こう」

 

「と言うわけなのでお先に失礼します」

 

「失礼します」

 

「え?!

あっ……ちょっ……」

 

姉上は何かを言いたげだったが悪いが無視させていただく。

上の階への階段に差し掛かったところで達也から脱力感に満ち溢れたため息がこぼれた。

 

「ありがとう百合。

あれだけの量の書類と格闘するのに些か疲れて来たところだったんだ」

 

「いいっていいって。

あれが一番ナチュラルに帰る理由だったわけだしな」

 

そう言って俺は下り階段へと歩みを進める。

 

「今日も帰りは遅くなるのか?」

 

「ああ。

先に飯食って寝ててくれ。

飯は外で適当に食ってくるから」

 

「わかった。

深雪にも伝えておく。

あまり無理はするなよ」

 

「ご心配ドーモ」

 

振り向かずに俺は手を振って階段を下る。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「遅かったじゃないの!!」

 

「わりぃわりぃ。

ちょっと姉上の引き継ぎ用資料の整理に手間取ってさ」

 

校門まで小走りで向かっているとエリカからの悪態が飛んできた。

 

「また姉上姉上って……

あの女のことが好きなら浮気するなり好きにすればいいじゃないの!!」

 

「そう言われてもなぁ……」

 

五月のお墓参りの一件以来、俺達二人は世間一般的に彼氏彼女の関係になった。

そう言っても毎日一緒に帰ったり、週一くらいのペースで俺の家で飯を食べたりと依然とあまり変化はないのだが。

あと付き合いはじめて分かったのだが……この千葉エリカ、結構独占欲が強い。

そしてこんな風にいじけるとなかなか手はつけれないわ最終的には飯奢らされるわで俺の財布がコンクリートもびっくりなくらいに枯れ果ててしまう。

 

「俺が好きなのはお前だけだよ。

あの事件からずっと言ってるじゃないか」

 

「……じゃあ……キスしてよ」

 

「ふぇっ?!」

 

唐突な発言に驚き、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう俺。

 

「で、でもここは校門ですよエリカ殿?

そろそろみなさん部活を終えて下校時間の筈なのですが……」

 

「いいのよ!!

あたしとアンタが付き合ってることが周りに認知されればアンタが他の女に色目利かされることもないしアンタだってそう簡単には手出しできなくなんでしょ!!」

 

そう言い捨てるとエリカは目を瞑り少しだけ唇を尖らせた。

俺は頭をがしがしと掻くと大きなため息を一つ零しエリカを抱き寄せた。

 

「ひゃっ?!」

 

「ん?

どした?」

 

「なんでいきなり抱き締めんのよバカ!!」

 

「だってお前と近づかないとキスできないだろ?」

 

「そ、それもそうだけど……いきなりはダメでしょいきなりは!!」

 

「すまんすまん。

じゃ、いくぞ」

 

「う、うん」

 

俺の今にも燃え上がりそうなほどに熱い顔は頭一つ小さい赤い髪の少女へと近づいていく。

少女も心なしかいつもよりも顔が赤い気がする。

少しずつエリカと俺の顔が近づいていく。

そして二人の影が重なる……

 

「こんな大衆の眼を引くところで不純異性行為に走られるのも風紀的には注意せねばならないのだが」

 

「「ぎゃぁぁあああ?!」」

 

横合いから聞こえて来たため息混じりの声に俺とエリカは異口同音の叫び声を上げる。

声の主の方へと体を向けると呆れ顔の達也と深雪、顔を赤らめて俯いている美月、少し頬を赤らめながら目を逸らすレオ、そして何とも言えない引きつった笑みを浮かべるほのかと無表情な雫、要するにいつも帰るフルメンバーがそこに勢揃いして俺達の行動を見ていたのだ。

 

「な、何だよ達也かよ……脅かすなって。

よし、エリカ。

そろそろ行こうぜ」

 

「何を誤魔化そうとしているんだ?

続きをしたらどうだ?」

 

意地の悪い笑みを浮かべながら達也は答える。

 

「……どこから見てたの?」

 

「最初からだ」

 

「ってかお前らって……あの……そのぉ……」

 

「付き合ってたの?」

 

レオが気恥ずかしそうに口を濁すと雫によるど真ん中のストレートが俺に向かって投げつけられた。

言葉が耳に入ってきてその意味を理解した瞬間に一気に顔が熱くなる。

エリカの方を見ると耳まで真っ赤にして俯いている。

 

「ああ、そうだ。

俺達は四月の事件の後から付き合い始めたんだよ。

達也と深雪はこのこと知ってたんだがなんかみんなに言うのはちょっと恥ずかしくてな」

 

あははと俺の口から出た渇いた笑い声。

それが今の心情を全て物語っているのは言うまでもない。

 

「やっぱりそうだったんですね!!

最近エリカさんと百合くんだけ別に帰っていたのにも納得がいきます」

 

頬を赤らめながら「付き合っているのならそういうこともしますよね」と頷く。

……あれ?

なんか反応がおかしい気がするぞ?

 

「ちょっとほのか?!

アンタなんか勘違いしてない?!」

 

「隠さなくても大丈夫ですよエリカちゃん。

年頃の女の子と男の子だもん仕方ないわ」

 

「ちょっと待て!!

お前ら何かとてつもなく大きな勘違いをしていないか、いやしているだろ!!

俺達が最近二人きりで帰るのはエリカの家の近くに用があるからであってだな!!

おい、達也からも何か言ってくれよ!!」

 

俺の普段の言動などから完全に嘘しか言っていないと思われていると俺は思い達也に助けを求める。

 

「フッ」

 

……今、コイツ微かに笑ったよな?

 

「昨晩家に帰る途中にホテルに入っていく二人を見たぞ」

 

「野郎ぶっ殺してやぁぁああある!!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「やあやあ百合くんエリカちゃん!!

今日も来てくれてうれしいよ。

ん?

今日は学校の友達もいるのかい?

うれしいねぇ!!」

 

エリカの家の近くにあるとある一件家。

目的地であるそこのインターホンを鳴らして数分後、テンション高めの眼鏡の男性がマシンガンのような言霊の雨を俺達に向けて降らした。

 

「はい。

右から司波達也、妹の深雪、西城レオンハルト、柴田美月、光井ほのかに北山雫です。

みんな、この人が俺の叔父上の水無月圭吾だ」

 

ぺこりとお辞儀をする一同。

達也はいつもよりも幾分か楽しそうな目つきをしているが他のみんなは妙に高いテンションに付いていけていないのか若干引いている。

 

「どうも、僕が百合くんの叔父の水無月圭吾(みなづきけいご)だ。

昔はCADのエンジニアをやっていたが今は家電とCAD専門の修理工を営んでいるよ。

……確か司波くんと司波さん百合くんを家に泊めてあげてるんだったよね。

いつもありがとう、百合くんが迷惑をかけてはいないかい?」

 

「大丈夫ですよ。

寧ろこちらの方が世話になっているくらいです」

 

「ならよかった。

おっと、立ち話もなんだから上がっていくと良い。

時間もあれだから夕食もどうだい?」

 

「で、でもいいんですか?

こんな時間に上がらせていただいても」

 

「大丈夫大丈夫。

妻も子供は大好きだしちょうどご飯を大量に作り過ぎてどうしようか困っていたところだったから」

 

……きっとこの人(叔父上)のことだからこうなることを予想してご飯を多めに作っていたのだろう。

そんなこんなで少し引け目を感じながらも俺達一同は水無月邸にて夕食をいただくことになった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「今日もご飯美味しいです!!

この肉じゃがのレシピ教えてもらってもいいですか?」

 

「美味しいなんてありがとう。

でも幾ら百合くんでも私のレシピを教えるわけにはいかないわ」

 

「ですよね」

 

程良く膨れた腹をぽんぽんと叩きながら無意識に出た俺の言葉に叔父上の妻、水無月幾夜(みなづきいくよ)さんが小悪魔的な笑みを浮かべながら答えた。

彼女は料理研究家として活動しており、叔父上を美味しい料理で支える傍らレシピ本を出版している。

しかもそのレシピ本が出すたび出すたびベストセラーになるのだから驚きだ。

 

「今日はありがとうございました」

 

「いやいや。

僕達もとても楽しかったよ。

あ、そうだ百合くん、頼まれていたものを持ってくるから少し待っていてね」

 

「了解です」

 

「頼まれていたものか……新しいCADか何かか?」

 

そう言ってリビングから出ていく叔父上。

それを目で追いながらレオは俺に対して質問をした。

 

「いいや。

ハードじゃなくてソフトの方だな」

 

「持って来たよ百合くん。

頼まれていた新しい起動式の『ヴァーユの神風』だよ」

 

そう言って手渡されたのはアタッシュケース。

あけてみると中には二つの自動式拳銃用のマガジンが入っていた。

 

「ちょうどいいや。

前々から思ってた疑問も解決するしコイツのテストもできる、一石二鳥だな」

 

「何がだよ?」

 

「俺と一対一で模擬戦をやってくれレオ」

 

俺の発言に首を傾げるレオ。

そして俺の言葉を聞いた直後は少し驚いていたもののすぐに笑みへと変わった。

 

「いいねえ。

ちょうど俺も食後の運動に体動かしたいと思ってたとこだったんだ」




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八射 一発の弾丸

あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
また投稿期間が開いてしまってすみません。
今後の活動とアンケートを活動報告に掲載致しましたので下記のURLをコピペ及び私のマイページからアクセスお願いします。
http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=60953&uid=27163#


「用意はいいか?」

 

「もちろん、CADの調子も良好、起動式もばっちりだぜ」

 

小銃型のCADの上にちょこんと乗っかったスナイパーライフル用の八倍スコープを覗き込みながらレオの質問に答える。

俺とレオが対峙する真っ白な空間。

別に相手に集中しているからという比喩的な表現ではなく実際に俺達の周りは白いのだ。

ここは水無月家の地下にある魔法のテスト施設である。

周りは対象の色素を改変する魔法などのテストも行うことがあるらしいので真っ白、向かって左側には強化ガラス製の窓がついた計測室が存在する。

そして現在はレオと魔法ありの手合わせをするついでに明日の放課後の(未だに事実であることを信じきれていないが)真由美さんとのスピードシューティングで使用する術式「ヴァーユの神風」のテストをしようという訳である。

 

「叔父上、カウントダウンお願いします」

 

CADについたスコープを覗き込みながら俺は答える。

ルールは既に互いに確認済みで、勝利条件は『相手の背中を地面または壁に付けること』だ。

部屋の中に機械音声によるウントダウンが響き渡る。

 

『3---2---1---』

 

CADのストックにあたる部分を右の肩に密着させ狙撃大勢に入る。

レオも同様に拳を握り臨戦態勢に入る。

しかしまだ互いに魔法は発動させておらず、俺に至ってはトリガーに指すらかけていない。

 

『スタート』

 

パンツァァアアア(Panzer)!!」

 

「そら!!」

 

開始の合図と同時に俺はスコープを覗き込みレオは魔法の発動に必要な言葉を大声で叫ぶ。

レオの頭に照準を合わせ引き金を引く。

引き金を引くのと同時に標的に向かって通常の小銃で言う銃口の部分から何かが飛んでいく。

それはレオの顔に真っ直ぐ向かっていった。

 

「ふん!!」

 

「マジでか?!」

 

顔に直撃する寸前、魔法によって服を硬化された腕により見えない何かはかき消された。

その直後、俺へと真っ直ぐに突っ込んできたレオの拳が俺の顔に向かって飛んできた。

すんでのところで両の腕を十字に構え、その腕の部分の布を硬化させガードする。

しかしそのパワーを受け止めきれず俺の体は後ろへと少し吹き飛ぶ。

 

「うおぉおおおお!!」

 

地に足をつけ前へと目線を戻すとそこには此方へと近づいてくるレオの姿。

突進しながら振りかぶった右の拳が俺の顔に迫る。

それが当たる直前にCADの先端部、実銃で言う銃口にあたる部分をレオの腕の真下に滑り込ませ、引き金を引いた。

 

「血気盛んなのは良いことだが、あんまししつこいと嫌われるぜ?」

 

「うおっ?!」

 

引き金を引いた瞬間、レオの右腕が見えない何かによって弾かれた。

 

「今度はこっちの番だ!!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「がっ?!」

 

百合がそう高らかに宣言するとレオの腕が跳ね上がることによって露わになった体側面にCADの先端を向け続けざまに引き金を引く。

その一撃によって怯んだレオの体に向けて容赦のない掌底を見舞う。

 

「え……?

今百合くんは何をしたんですか?」

 

「CADの先端部から見えない弾丸……正確には圧縮された空気の弾丸を発射したんだよ。

僕が組み立てた『ヴァーユの神風』はそういうものだからね」

 

美月の質問に圭吾さんは優しい声色で、優しい微笑みを浮かべながら答えた。

 

「この魔法はCADの指定された一部分に圧縮された空気の砲台を形成してそこから直径五.七×二十ミリ、射程五十メートルの弾丸を発射すると言うものだ」

 

「でもそれだけではあんな事は出来ません。

銃口から発射される風の球の射角は銃口に対して垂直方向以外にも飛ばすことができるのではないでしょうか?」

 

「おぉ。

鋭いねぇ達也くん。

百合くんから凄いと聞いているだけあるよ」

 

達也くんの質問ににやりと口角を上げながら圭吾さんは笑う。

 

「今の百合くんは確実に西城くんの肋骨に向けて銃口を向けていた。

しかし西城くんの腕は弾かれた。

それはなぜか……その理由は百合くんが起動式の射角の設定を自分でしたからだ。

これが百合くんの考えたアイデアでありこの魔法の最大の特徴だよ」

 

そういった後、圭吾さんによる説明が始まった。

要約するとこの魔法は指定された一部分に縦軸、横軸の角度を調整可能な圧縮空気の砲台を作るものだという。

縦軸の角度をX、横軸の角度をYと置くと普段の状態はX=0、Y=0の状態で起動式のその部分の数を変えることで角度を変更でき、今の場合だと弾を真上に撃ったのでX=9°、Y=0ということになる。

角度は-120~120まで変更が可能で今のような通常では撃てない角度までカバー出来るのが強みである。

 

「凄いですね百合くん……」

 

「ま、昔から新しいことを考えるのが好きな子だったからね。

……っと、そろそろ終わるかな?」

 

「ぐぁっ!!」

 

圭吾さんが呟くと同時にレオの体が宙を舞っており、数秒もしないうちに地面にどさりと落ちた。

 

「うん、安定して魔法を発動できていたしCADも特に問題はなさそうだ。

二人とも戻っておいで」

 

圭吾さんがマイクに向かってそう言うと百合はレオに対して手を伸ばしレオはその手を握る。

二人のその面持ちはとてもすがすがしいもので、長い間抱えていた疑問が解決されたのを物語っていた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ほれエリカ、麦茶だ」

 

「ん、ありがと」

 

しばらく経って再び水無月邸のリビング。

俺とエリカは二人並んで、エリカは浴衣姿、そして俺は制服姿で庭に面した窓に座っていた。

なぜコイツがここに居るのかと言うと親の許可を貰い、今日はここに泊るという。

家に帰るのが面倒なんだそうだ。

すぐ近くに家があるのにそれはどうかと思うんだが……

 

「やっぱ真夏は外の風に当たりながらの麦茶に限るなぁ」

 

「そう?

あたしはやっアイスが良いな~

だってあっちの方が冷たいし」

 

「俺は頭がキーンとなるから苦手なんだよなぁ……

特にあっつい日に食べんのが……」

 

足をぶらぶらと揺らしながらちびちびと麦茶を飲むエリカ。

俺は自分の横に置いておいた木製のお盆の上にコップを置いて腕を組む。

 

「あれが良いんじゃないのあれが!!

あの感覚……「夏が来た!!」って感じにならない?」

 

「う~ん……俺はやっぱ香ばしい麦茶が喉を潤した瞬間が一番夏を感じるね」

 

「あんたやっぱ感性が前時代的ね~」

 

「あんだと?」

 

「別に悪いって言ってないじゃない!!」

 

「まあまあ。

エリカちゃんも百合くんも落ち着いて。

唯でさえ暑いのにそんなにヒートアップしてしまったらもっと暑くなってしまいますよ」

 

「「あっ、はい」」

 

ちょうどお風呂からあがってきた様子の美月が俺達を宥め、異口同音に頷く。

そしてお盆に乗っていた四つある麦茶入りのコップの内の一つを手に取りちびちびと飲み始める。

何故彼女がここにいるのかというとエリカと同じくここに泊まるためである。

別に家に帰るのが面倒という訳ではなく家が遠いため親に許可を貰い泊まることにしたという。

因みに達也と深雪も泊まるそうだ。

珍しく賑やかなのに叔父上は喜んでいたが申し訳ないという気持ちも無いわけではない。

 

「そういえばさ、少し昔の話らしいんだけどうちの学校の生徒が行方不明になったらしいよ。

なんでも幽霊に浚われたとか!!」

 

「……なんだよその唐突過ぎる話題転換……」

 

てか人が居なくなってるってのに随分とノリが軽いなお前はよぉ……

 

「まあ聞いてって。

同じクラスの子から聞いたんだけどさ、当時一つ上の学年のAさんって女の子がある日横浜に行ったそうです」

 

「なんで横浜なんかにわざわざ……」

 

「あれですよ、雰囲気作りみたいな感じのあれじゃないですか?」

 

「そうそう!!

雰囲気作り的なあれよ!!」

 

随分とふんわりとした返答が返ってきたなぁおい。

 

「で、話の続きなんだけどさ。

そのAさんが家に帰る直前に一つ年下の妹のMさんに今から帰るって連絡を入れたんだって。

それ以来Aさんを見た人はいないらしい」

 

「なんだ、それだけか?」

 

「ううん。

その話には続きがあってね、それから数週間後、Mさんの所に一通のメールが来たらしいのよ」

 

「あ、そこだけなら聞いたことがあります!!

『キャビネット降りた先で友達の手伝いをしなければならないので暫くは会えません。

またね』ですよね?」

 

「ふーん。

だから幽霊に浚われたって話になったのか」

 

「なによ?

あんまりビビらないのね」

 

「まあな。

なにせ最近お前から聞かされ続けてる夏の怪談シリーズで慣れたからな」

 

「つまんないの」

 

ぶーぶーと文句を言うエリカを尻目に俺は空を仰ぎ見ながらお盆の上の麦茶を手に取り飲み始める。

 

「っ!!

エリカ!!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ちょっと危ないじゃ……な……」

 

百合が突如あたしの名を叫び横に突き飛ばす。

庭の芝生の上に百合はあたしに覆い被さる形で着地する。

そして百合の腹が当たっているあたしの太股部分になにかぬるぬるとした感覚を覚える。

それを触り月明かりをそこに当てるとそれは赤黒く光っていた。

それを確認した後に聞こえたドーンという音……銃声だ。

 

「あんた!!

これ……」

 

「おう……大丈夫そうで何よりだ。

怪我、してないか?」

 

「大丈夫も何もあんた……撃たれてんじゃないの!!」

 

「ああ、みたいだな……

しかも銃声が聞こえてきたのはマズルフラッシュ見えてから大体3秒弱……千メートル級の長距離射撃ってところだな……

不幸中の幸いは骨に当たんないで肉をぶち抜いてくれた所か……」

 

「ゆ、百合くん!!

大丈夫ですか?!」

 

「百合!!

大丈夫か!!」

 

異常を感知した美月と達也くんが百合の下に走ってくる。

そして達也くんが肩を貸そうとするのを断り百合は自らの足で立ち上がった。

 

「……っと、傷は塞がったな。

達也、エリカ達を頼む。

俺は今撃って来やがった奴を追う」

 

「ダメよその怪我じゃ!!」

 

「そうですよ!!

撃たれたんですよ!?

今は安静にして警察が来るのを待つのが……」

 

「二人とも、手を貸してくれ」

 

百合に突然そう言われあたしと美月は差し出された手を取る。

 

そこから何かを奪う(The thief )

 

「え?」

 

「は?」

 

百合の手とあたし達の手が触れると同時にぐらりと視界が揺らぐ。

そのまま重力に従ってあたし達の体は地面に崩れ落ちる。

 

「悪いな。

今俺はお前達の平衡感覚を奪った。

暫くは立てないだろうから大人しく待っててくれ」

 

「あんた……その体で……何が……!!」

 

「達也、コイツらと深雪、叔父上達も頼むぞ」

 

「了解だ」

 

あたしの声なんて聞こえないような振りをして百合は庭の壁を飛び越えて闇の中へと消えていった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十九射 雷神の舞

星の扉よりも先にこっちが出来たので先にあげます。
多分星の扉は二月下旬かなぁ……


「流石にちょっと無理しすぎかな」

 

加減速の魔法を駆使して走る俺-十六夜百合は一人ごちる。

愚痴をこぼしながらも現在進行形で自分の腹部に開いた穴から少しずつ血が漏れているし、敵も同じ様な魔法を使っているのかなかなか距離も詰まらない。

そして追跡対象が左に向かって走っていく。

直線距離が短くなるのでここで一気に建物の上を跳びショートカット。

そして大きな通りに出る。

 

「おいおい……マジかよ……」

 

その駅にも近いその通り……いや、交差点はラッシュアワーにお似合いの百人近い人々によって埋め尽くされていた。

 

「お兄さんその玩具カッコいいね!!」

 

不意に子供の声が耳に入る。

道行く人によって生み出される喧騒の中、酷く鮮明に聞こえたそれの聞こえた方向を向くと子供が地面に転がっていた黒い物を見ていた。

 

「見てんじゃねえよクソガキ!!」

 

「浩人!!」

 

次の瞬間、その浩人と呼ばれた子供の前に立っていた男がそれを拾い上げ彼を銃底部で殴り飛ばし、その近くにいた母親と思しき女性に銃口を向ける。

 

「関係ねえ奴らに手ぇ出すんじゃねえよこの野郎!!」

 

俺はすぐさま腕を振り上げる。

すると制服の袖の内側から拳銃が、そして外側からはサバイバルナイフが遠心力で前方へと飛び出す。

そのまま白い拳銃-ライアーリリーを手でキャッチしトリガーを引く。

ナイフは男の右手の甲へと突き刺さり、銃は地面に落ちた。

 

「逃がすかよ!!

四点結界『(はばみ)』!!」

 

「ちっ!!」

 

俺が叫ぶと男の周りに2メートル四方の桃色の箱が形成される。

俺は何も四月の事件からずっとだらだらと自堕落な生活を送っていたわけではない。

今使った魔法「弾丸結界」はこの二ヶ月の努力の賜物である。

弾丸に彫り込まれた術式が俺の声によって発動し、弾と弾を壁で繋いで攻撃を防いだり色々なことに応用できる。

 

「大丈夫ですか?!」

 

「浩人が……浩人が!!」

 

俺は殴り飛ばされた子供のそばに駆け寄る。

そして頭の一部から血が流れているのを確認し、想子波で怪我の状態を確認する。

 

「……大丈夫。

少し頭蓋骨にひびが入っていますが命に別状はないでしょう。

でもここは危ない、早く病院に連れて行って下さい」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

お辞儀をした女性は子供を抱きかかえ病院のある方向へと走り出した。

そして俺はCADを操作して声の大きさのベクトルを操り叫ぶ。

 

「俺は警察省テロ対策本部実働部隊第三課所属、十六夜百合だ!!

先程、この近辺で魔法テロ組織の人間と思しき人間による殺人事件が起こり、現在も犯人は逃走中だ!!

速やかにここから離れろ!!」

 

民衆の混乱を誘うことがわかっていても敢えて事実を嘘で装飾し、速やかに逃げるよう促す。

数分で百人近くいた人々は一気に居なくなり、交差点には俺と俺を撃った犯人だけが立っていた。

 

「……てめぇ……覚悟は出来てるんだろうな?」

 

「覚悟ぉ?

君を殺す覚悟ならとうに出来てるよ~」

 

間の抜けた声で挑発的な言葉を紡ぐ男。

俺は人が居なくなったのを確認すると結界を解き、男に銃口を向ける。

 

「わかってねえなら今教えてやるよ。

俺の彼女に手ぇ出して、果てには関係のねぇ一般人まで怪我させて……その報いを受ける覚悟が出来てんのかって質問だったんだが?」

 

「あ~そっちね。

悪いけどそんなのないね。

まあ、わかるとは思うけど……」

 

男はゆっくりと背負っていた竹刀袋のような長い袋に手をかけ、右肩に尻の部分を当てる。

 

「てめぇを今すぐぶっ殺してとんずらこくからだよバーカ!!」

 

引き金を引いたのを確認すると俺はすぐに横に移動して弾を回避する。

その際制服の一部に風穴が開くがそんな事気にしていられない。

 

「ちょこまか動いてんじゃねえよ死に損ないがぁ!!」

 

「ごちゃごちゃうっせぇ!!」

 

背中に背負っていたと思われるアサルトライフルに持ち替え辺りに乱射する男。

俺もそれに応戦し、引き金を引く。

そして側面にあった建物の壁を蹴り男の頭上から回し蹴りを加える。

しかし、それは何に当たることもなく空中で止まった。

 

「チッ……魔法障壁!!」

 

「隙だらけだよアホが!!」

 

「そっちも同じだろ!!」

 

二つの銃声が同時に響く。

 

「ぐっ……」

 

男の撃った弾は左の肩を抉る。

そして俺の弾は……

 

「な……なんで障壁越しに当たるんだよ……」

 

男の右の肩を捕らえていた。

その弾は金色の光を帯びており、肩の中で今この瞬間も回転し続けている。

 

「まだ……終わりじゃねえ!!」

 

「ぐっ……ぐあぁああ!?」

 

男は肩の弾丸がめり込んでいる部分に手をあててうずくまる。

 

「なんで……衝撃が……こんなに続いて!!」

 

「……わりぃな。

クェーサーは俺の想子が尽きない限り無限に回転し続ける」

 

クェーサーによって特殊な回転を加えられた弾丸の威力は通常の10倍、その上俺が魔法を解除するか想子が尽きるまでその威力は尽きることはない。。

 

「弾の貫通性能は弾丸自体の性能で決まる。

簡単に言うと今てめぇの肩にめり込んで回転してるそれは……」

 

俺は一通り話し終えると少し間を置いた後に男の肩を指差す。

 

「死ぬほど痛いぞ」

 

ボキンと生々しい音が辺りに鳴り響くと男の呻き声も同時に止まった。

 

「やっべ……少しやりすぎたか……」

 

まあ後は救急車呼んで俺も達也に見て貰って……

そのような事後処理の事ばかり頭に浮かんでいた俺はその男の想子の状態をあまり確認せず(・・・・・・・)に近寄ってしまった。

 

「スペルカード……」

 

パリンというガラスの割れるのに似た音が耳に入る。

 

幻朧月睨(ルナティック・レッドアイズ)

 

「がぁぁぁあああああ?!」

 

その言葉と共に面を上げた真っ赤に光る男の瞳を目にした直後、頭の中を掻き回される様な感覚に襲われる。

しかもそれは一瞬の物ではなく、永続的に続き、俺が発動していた起動式はそれによって全て乱された。

俺は完全に無防備な状態で俺は敵に跪いていた。

 

「いや~流石に驚いたよ~

まさかあそこまで凄いの使われるとは思わなかったよっ!!」

 

「ぐっ……」

 

謎の感覚を覚えながら俺の左肩は訳のわからないまま拳銃で撃ち抜かれた。

痛さと変な感覚によって殆ど残っていない思考能力、その最後の一滴を振り絞り拳銃を構える。

 

「おおっと!!

そんな事はさせねえよ~

今から借りを返してやるんだから」

 

俺の右の手を踏みつけると男はニヤリと不敵な笑みを零す。

そして手に持っていたハンドガンの銃口を俺の右手の甲に向けた。

 

「簡単な、仕事だって、言われて、来たのに!!

肩の、骨は、粉砕、骨折!!

おまけに、カードも、全部、使っちまった!!」

 

怒りに任せて俺の手を銃で撃ち付け、足で踏みつける。

誤って自分の足を弾丸が掠めようがお構いなしに撃ち続ける。

狙いは正確ではなく、俺の腕に当たったり、手の甲に当たったり、はたまた俺の拳銃のバレルなどに当たり、破片が顔に向かって飛んでくる。

 

「ん?

あ~もう弾切れた。

これだから安もんはつっかえねぇなっ!!」

 

「くっ……」

 

引き金を引いても弾が出てこなくなるのに気づいた男は俺の背中に向けて拳銃を投げつけた。

 

「あーもー飽きた」

 

心底気怠げに男は口を開くと後ろに背負っていたスナイパーライフルを手に持ち俺の頭に銃口をあてがう。

 

「いい加減死ねよ」

 

カチンと引き金が引かれ、大きな銃声が鳴り響く。

しかし不思議と痛みはなく、顔を上げるとライフルのバレルが中を通過していた弾丸ごと真っ二つに斬られており、それが宙を舞っていた。

 

「ぬお?!」

 

その直後に俺は奥襟を掴まれ後ろに引っ張られる。

 

「……もう。

久々にあなたを見たと思ったらまた無茶をして……

世話をするこちらの身にもなってくださいよ」

 

目を開けると俺の知り合いの中は達也くらいしか該当しない冷静タイプの少女が俺の体を抱えていた。

真っ直ぐ敵を見据える鋭い眼光と艶のある銀色のポニーテールはさながら武士のような印象を覚える。

 

「お前……(まとい)か?

確か仕事で遠くに……」

 

「一身上の理由でお休みを頂きました。

それと、あなたに頼みがあって戻って来たのです」

 

「あぁ……そういうこと。

でもさ……」

 

その少女-纏が俺に遠出から唐突に戻ってきた理由を語る。

それにしかめっ面の俺は一つ文句を言おうかどうか迷いながらもそれを口に出す。

 

「頼むから人を抱えるときは魔法解除してくんないかな?!

さっきから俺の体に地味にダメージを与えてくるんてすけど!!」

 

「あ、すみません。

うっかり忘れてました」

 

「ギャーギャーうっせぇんだよゴミが!!」

 

男が一足飛びで俺達を肉薄する。

それに気付いた纏は俺を後方に投げ、自らは刀で男の剣を防ぐ。

そして俺の体は再び誰かに受け止められた。

 

「酷い怪我だな……無茶し過ぎだ」

 

「ああ……悪いな達也」

 

俺を受け止めたのは今度は達也だった。

俺の体をゆっくりと地面に置くと男と纏の戦いを見つめている。

その手には彼が使用するCAD「トライデント」が握られており、臨戦態勢であるのがわかる。

 

「心配すんな。

あいつはしっかり強いよ。

なにせあいつは……十六夜流(うち)の門下生だからな」

 

纏の腕が不安だったであろう達也に俺はニヤリと笑いながら答える。

それを聞いた達也はCADを懐へとしまった。

それを確認した俺は安堵から急に瞼が重くなり、静かに目を閉じた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「あら……挨拶もなしに斬りかかって来るとは随分手荒い歓迎ですね」

 

「黙れよ!!

お前もさっきの死に損ないと同じ雑魚なら雑魚らしく死ね!!」

 

二振りのサバイバルナイフのような剣を私は鞘から素早く刀を引き抜き防いだ。

その刀を操り男に隙を作ると殴り飛ばした。

 

「おっと、自己紹介を忘れてましたね。

私は天乃纏(あまのまとい)

私立探偵をやっております。

以後お見知り置きを」

 

私はぺこりとお辞儀をし自己紹介をする。

幾ら敵とは言えどやはり礼節というのは重要だと思うんですよね。

私の個人的な考えですが。

 

「あっはっはっはっは!!

死に損ないの癖に面白いなお前!!

僕の名前は神無隼(かみなしはやと)、この事件の黒幕です」

 

最初はけらけらと笑っていたが自己紹介になると急に顔から表情が消えた男-神無。

 

「なかなか素直な返答ですね。

まさか投降して頂ける気になりましたか?」

 

「んなわけあるかバーカ!!

これから殺す奴に対して自己紹介したところで証拠は残らないっての!!」

 

神無は再び高速で距離を詰める。

その二刀による連撃を防ぎ、避け、いなす。

そして今度は私から距離を開ける。

 

「ふむ……しかしその型、十六夜流にそっくりですね。

ですが……」

 

百合さんを抱えていた時に一度切った魔法を再び発動させる。

すると私の体の至る所から紫電が放たれる。

 

「紛い物では勝てませんよ」

 

そう言い放つと私は地面を、壁を蹴り男の背後へと移動する。

 

「くっ?!

どこから?!」

 

「おお、この速さについてきますか。

ですが……まだまだこれからですよ」

 

更に魔法の出力を上げ攻撃の速度を上げる。

次第に分が悪くなってきたのを悟ったのか神無は斬りつけられる勢いに乗り後方へと飛び退いた。

 

「懸命な判断です……が、その程度の距離を開けたところで戦況に変化はありません」

 

「ぐぁあ!!」

 

すぐさま男の背後回り込み背中から斬りつける。

数メートル飛ぶ男からは血の類は見受けられない。

そう、峰打ちだ。

 

「……何だよそれ……俺に勝ち目ねえじゃん。

CADも使ってねえし、訳わかんねぇよ」

 

「この魔法ですか?

これの名前は「雷神演舞」、文字通り電気を-正確には私の発する生体電気を増幅させ操る魔法です」

 

身体能力の向上もこれのお陰である。

他にも理由はあるが、生体電流の伝達速度を操り反射速度を上げたり、筋肉に電流で負荷をかけることでより激しい動きを可能にする。

 

「はは……化け物相手には勝てるわけねぇよ」

 

「世間一般から見ればそうかもしれませんね。

ですが、私は今更ながら化け物で良かったと思っています。

こうして大切な人々を守ることが出来たのだから。

さあ、あなたも怪我をしているでしょう。

大人しく病院に行きますよ」

 

「何だよ?

殺さねえのか?」

 

「もちろんですよ。

無殺多生、それが十六夜の剣の基本理念ですから」

 

「くそっ……敵わねえな……やっぱり」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「う……あぁ……?」

 

鼻に突き刺さるような薬品の匂いに囲まれながら俺はゆっくりと目を開ける。

喉が渇いて上手く声が出せない……

視界に広がったのは真っ白な天井。

先程から感じる薬品の匂いと視界に入ったものから判断するにここが自室ではなく病院であることがわかった。

それにしても……

 

「は……ら……減っ……た……」

 

「何日も何も食べずに寝ていたのですから仕方がありませんよ」

 

「ま……とい?

いづっ?!」

 

声のした方向へと体の向きを変える。

その声の主の姿を確認すると反射的に体を起こしてしまうが襲って来た痛みに耐えきれず半分も起き上がれずに再びベッドへと体は沈んだ。

 

「まだ寝ていなきゃ駄目ですよ。

肋骨を二本骨折、両肩と右手は複雑骨折。

……私達からしたらそこまでやられてよく五日で起きたなって感じです。

はい、甘いのどうぞ」

 

こくりと頷き纏が差し出してきた缶ジュースを手に取る。

纏が気を使ってくれたのかプルタブが開いていたので直ぐに飲むことが出来た。

炭酸のシュワシュワした感覚が口に、喉に染み渡る。

段々と声も出せそうな気がしてきた。

 

「……お前はどうなんだ?

それにあいつも」

 

「私は特に問題はないです。

しかしあの男……神無は、意識が戻らないそうです。

原因は演算領域の酷使による過労だそうです」

 

「演算領域……あのスペルカードとか言うのが原因なのかな……」

 

「スペルカード?!

その言葉を神無から聞いたのですか?!」

 

普段は大人しい纏が身を乗り出して反応する。

……これは何かあるな。




会話シーンでわかった方もいるかもしれませんが神無隼はP4U2の皆月翔をモチーフに、そして天乃纏は同作品の鳴神悠をモチーフにして書いています。
てか纏は魔法の名前が覚醒SPスキルの技名まんまですしわかる人にはわかるネタだと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!
感想や批判コメ等待ってます!!(投降頻度が上がるかも)
あと、活動報告にてアンケート実施中ですのでそちらも是非。
↓URLはこちらから↓
http://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=60953&uid=27163#


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十射 にゅーいんらいふとにゅーにんむ

「スペルカード?!

その言葉を神無から聞いたのですか?!」

 

ベッドの上に体を乗り出し目と鼻の先まで俺に顔を寄せる纏。

しかし普段から親しき仲にも礼儀あれという言葉を忠実に守り実行するタイプの彼女は直ぐに自らの行動に気付き後ろへと退いた。

 

「ご、ごめんなさい!!

つい興奮してしまったもので……」

 

「……何かあった?」

 

「なんでもな……

いえ、どちらにしろ百合さんにはこれについて頼み事があるので話さなければなりませんね」

 

「頼み事?」

 

纏の言葉に妙に含みのある表現が混じっていたことから首を傾げて質問する。

 

「はい。

先日私が話した帰って来た理由、覚えていますか?」

 

「ああ、確か一身上の理由がどうとか言ってたよな」

 

「はい。

姉さんが……行方不明になってしまったのです」

 

「いざなが?」

 

俺は纏の口から語られた言葉に絶句する。

いざなとは纏の一つ年上の姉であり、彼女も纏と同じく十六夜流の門下生だった。

纏は普通科の高校に通う傍らで自らの能力を生かして私立探偵を営んでいるが、いざなは俺と同じく国立魔法大学付属第一高校に通っている。

纏のスキル的には一校の人間に劣ることは全くないのだが彼女は一高の入試を受けていない。

落ちることが目に見えてた(・・・・・・・・・・・・)から。

 

「これを見てください」

 

そう言って渡されたのは纏の携帯端末。

画面にはメールの文面が表示されている。

そこには「キャビネット降りた先で友達の手伝いをしなければならないので暫くは会えません。

またね」と書かれていた。

そして送られてきたのは半月ほど前。

 

「これって……あの怪談の?」

 

「知っていたんですか?」

 

「ああ。

横浜に行った女の子が妹にこれと同じ文面のメールを残して消えたって内容の話だ。

まさか本当にあったんだな……」

 

何故俺に頼まなかったのかという事を聞きたかったのだが多分俺の周囲の環境の変化や事件の後という状況を省みての判断だろう。

だから怒ろうにも怒れない。

 

「でもその話には続きがあるんです。

これを見てください」

 

端末を操作して画面が下にスクロールされ、その文面の続きが表示された。

そこには「追伸。

そこに住んでる人みんな優しいから心配しないでいいよ!!

ゆうちゃんも居るし!!」と書かれている。

 

「随分友達多いな……

それにしてもこのゆうちゃんって……」

 

「ええ。

多分百合さんの従兄妹の十六夜優輝(いざよいゆうき)さんの事でしょうね。

姉さんがその様な渾名で呼ぶのはは彼女だけですし」

 

十六夜優輝……その名前をもう聞くことはないと思っていた。

俺の父上の弟であるもう一人の伯父上、十六夜啓治(いざよいけいじ)の娘が彼女だ。

五年前、何者かによって彼女の家族は皆殺しにされた。

しかもその犯人と思しき集団も別の何者かに殺されており真相は闇の中。

しかも優輝の遺体だけは現在も見つからない。

千鳥の場合とは違い血液などの痕跡は残されておらず、生死不明のまま現在に至る。

 

「で、場所は?」

 

「ええと……数日前に姉さんのGPSを辿って調べたのですが……

富士の樹海のど真ん中です」

 

「また物凄い所にあるなぁ……」

 

「あと百合さんに伝えておきたい事が……」

 

「百合!!

目が覚めたって!!」

 

「ようエリカ。

元気そうでなによりげぼぉ?!」

 

俺と纏が話をしているとエリカが病室に飛び込んでくる。

そして俺の姿を確認するや否や俺に飛びついてきた。

 

「心配ないじだんだがらぁぁ~

もう、もう怪我なんてしながら戦ったりじないでよね!!

確かにあだし、あんたより弱いけひっく、あんたの力に少しでもいいからなりたいんだから!!

もう少しあたし達の事も頼ってよ!!」

 

そして俺の胸でエリカは泣いていた。

その光景を笑みを浮かべながら見ている纏をよく見ると目元にはうっすらとクマが出来ていた。

ああ……そうなのか、と俺は思った。

昔の俺にも守りたいものはあった。

コイツらとか……他の民間人とか……色々あった。

でも、今は俺を守ろうとしてくれる人が居て、俺のために泣いてくれる人が居るんだよな。

いや、きっとあの時からそうで、ただ俺は気付いていなかっただけだったのかもしれない。

 

「……悪い。

ごめんな、心配かけて」

 

「ううん……大丈夫。

あんたが無事に目を覚ましてくれたから……

良かったぁ……」

 

コイツらを全力で守ろう。

そしてコイツらの笑顔を守るためにも全力で生きよう。

絶対に帰ってこよう、そう思った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「んうぅ……ゆりぃ……よかったよぉ……」

 

 

「寝ちまったか」

 

俺の膝を枕に寝てしまったエリカの頭を撫でながら呟く。

こんな無防備な姿を晒しているエリカと言うものはなかなか見ないものだ。

なんというか……可愛い。

 

「仕方がないですよ。

あなたが寝ていた間、面会時間ギリギリまで看病してくれてたんですから」

 

「そっか……今度何か奢ってやらなきゃな」

 

「起きたのか百合」

 

「百合兄様!!

ご無事で何よりです!!」

 

エリカの時と同様に左側から声がしてそこには達也と深雪が立っていた。

 

「本日もお疲れ様です達也さん、深雪さん。

他の皆様はどうなされたのですか?」

 

「少し野暮用があるとかでどこかに行ったよ。

なんでも、百合の---」

 

「入るぞ百合……ってあれ?

先客がいる感じ?」

 

「ち、千葉警部?!

なんでここに?!」

 

達也が何かを言い掛けるとタイミング悪くドアが開く。

そこから現れたのは銀色のアタッシュケースを持った男性---千葉寿和(ちばとしかず)さん。

俺の上司であり苗字の通りエリカの兄貴である。

 

「ちょっと仕事(・・)の話をな。

君らは百合の友達?

悪いんだけど少し外して貰っても良いかな?」

 

「あ、それなら俺達にジュース買ってきてよ。

金は後で払うから」

 

「えっと私は……」

 

「ああ、纏ちゃんは大丈夫。

多分君にも関係あるし」

 

「……わかった。

行くぞ深雪」

 

「はい」

 

寿和さんがそう言うと達也は深雪を伴って病室を出て行く。

なんか悪いことしたなぁ……後でなんか奢ろう(二回目)

 

「悪いな百合。

せっかく目ぇ覚めたってのにすぐ仕事の話なんて」

 

「いいですよ。

公私混同しない主義ですから。

ところでなんですか仕事って」

 

「それがな……山梨の辺りまで出て貰いたいんだが……

正確に言うと富士山のふもとだ」

 

「と言うと?」

 

寿和さんから出てきた言葉と纏が言っていた幻想郷の場所……やけに被るな。

 

「お前が寝てた五日間に一校の生徒数名が姿を消した。

ダメ元で彼らが所持していた端末の位置情報を辿ってみたところ富士の樹海のとある場所に集まっていることがわかった」

 

「私にも見せて下さい百合さん!!」

 

寿和さんが俺に手渡してた資料を首を突っ込んできた纏と共に見る。

そして纏の端末の座標と資料に載っている座標を見比べる。

 

「同じだ……」

 

「いざなちゃんの端末のGPS座標とだろ?

だから妹である纏ちゃんには残って貰ったんだ」

 

「私がエリカさんが来る前に話そうとしていたのはこれのことです。

だから警察のコネを使って何か手掛かりを探して貰おうと思って……」

 

「それなら一つだけある。

富士山関連の資料を漁ってたら出てきたんだ。

富士山って六十年位前に一回噴火したらしいんだよ。

それ以前の地図に神社があってな。

噴火による環境の変化に伴いその神社は無くなった。

ただ、その神社には少し不思議な噂があってな」

 

「不思議な噂?」

 

「その神社はまだ残っててその鳥居は別の世界に繋がってるって噂がな。

しかも普通の人間は辿り着けず、異世界に行った者も帰っては来ない」

 

「変な噂ですね。

帰ってきた奴が居ないってのにあるってわかってるなんて……」

 

「衛星写真があるんだよ。

ほれ」

 

渡された資料を見ると富士の樹海の真ん中にぼんやりとだが緑色の屋根の建物が見える。

多分苔蒸している所為でそう見えるのだろう。

 

「兎に角、急を要する仕事だ。

お前の怪我もあと二、三日で大丈夫だって医者から聞いたから……」

 

「そうは言われても……武器持ってないですし……」

 

「それならコイツを見てくれ」

 

そう言って俺のベッドの横の机に手に持っていたケースを置いた。

開けて見ろと促されるがままに俺は折れていない左手を使いロックを外しそれを開けた。

 

「これは……ライアー・リリー?

直してくれたんですか?!」

 

銀色の金属で出来たケースの中には真っ白な金属の銃身に黒いゴム製のグリップ。

そしてスライドのグリップの真上に位置する部分には両脇に百合の紋が彫られている。

これはまさしく俺の両親の形見であり叔父上の最後のCAD……ライアー・リリーだ。

 

「お前の叔父さんがな。

俺はただ偶然会って渡すように言われただけ」

 

その拳銃を手に取り、マガジンを挿入する。

カチャリと金属と金属が接触する音が部屋に木霊する。

そして銃自体を改めてじっくりと眺める。

 

「……少しバレルが長くなってる?」

 

「そこに気が付くとは流石だな。

お前の叔父さん曰わくバレルにコンペンセイターとしての機能を追加して反動を軽減したそうだ。

最後に、この銃はただのライアー・リリーじゃあない。

それこそライアーリリーの究極系『ライアー・リリー-ex(イクス)』だそうだ」

 

「-ex……」

 

Extremeの頭二文字を取ってexなんだろうなぁ……

叔父上の考えそうな事だ。

 

「ただし、この-exは実験機、experimentの意味も含んでいて不調を感じたらすぐ叔父さんの所に持って行くこととも言われた」

 

「実験機……新たなシステムでも搭載されてるんですか?」

 

術式共鳴(グラム・レゾネート)を最適化するシステムが組み込まれてるそうだ」

 

「……それは感謝しなくちゃな。

これで全力で戦える」

 

「ん……んぅう……百合?

それに……和兄貴?!」

 

「おおエリカ。

久し振り、元気だったか?」

 

俺らが結構大きな声で話していた所為で寝ていたエリカを起こしてしまったようだ。

そのエリカは寝始めた時に居なかった寿和さんの存在に驚きが隠せない様子だった。

本来ならまだ横浜に居るはずなんだよなぁこの人……

 

「元気だったかじゃないわよ!!

なんで和兄貴がここに……」

 

「ああ。

俺の仕事の話だ。

なんでも学校の奴らがさらわれたらしくていざなと優輝の奴も同じところに居るらしいんだ。

どうだ、一緒に言ってくれないか?」

 

「……いいの?

足手纏いになるかもしれないよアタシ」

 

「お前だって十分戦える。

いざとなったら守ってやるよ」

 

エリカの質問に俺はおふざけを一切混ぜずに真面目に答える。

その言葉にエリカの顔はは熟したりんごのように真っ赤になる。

 

「まあ、行くって言ってもまだ二日先ですがね。

ところで、その神社の名前、なんて言うんですか?」

 

「ああ、言ってなかったな。

確か……ここに……」

 

寿和さんは今一歩記憶に名前が留まって居なかったのか手に持っていた資料をペラペラと捲る。

 

「おお、あったあった。

えっと……その神社の名前は……『博麗神社』だ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

とある洋館。

そのテラスには桃色を基調とした服を着た少女が一人椅子に座って館の敷地内の庭園を眺めていた。

酷く暇そうな少女は足をぶらぶらと揺らしながら頬杖をついている。

 

「お嬢様、お茶のご用意が出来ました」

 

「ありがとう。

あら?

今日は一段と豪華なのね。

何か良いことでもあったのかしら?」

 

館の中から現れた青を基調としたメイド服を来た少女が一瞬にして台車の上にあったお菓子やティーポットを桃色の服の少女の前に並べてみせる。

その様子を普段から見ているのか彼女は驚くような素振りを少したりとも見せず、むしろ普段よりも豪勢なお茶菓子に驚いていた。

 

「流石はお嬢様。

やはり隠し事は出来ませんでしたか」

 

「いえ。

これくらいのことなら美鈴(めいりん)でもわかるはずだわ。

なにせあなたの表情が昨晩から緩みっぱなしなのですもの」

 

「はっ……?!

申し訳ありません、お見苦しい所を……」

 

一瞬驚いたような表情をしたメイドの少女は表情を引き締め一礼する。

しかし、その行動に対して桃色の服の少女はクスリと笑った。

 

「いいのよ。

誰だって嬉しいことがあれば笑うわ。

それは人間だろうが、妖怪だろうが、吸血鬼だろうが一緒のことだもの。

ところで、何があったの?」

 

「……近いうちに久方振りに私の家族や友人にと会えるのです。

その事を考えていると自然と表情が……」

 

フフフと笑うメイドを見ながら桃色の少女も笑い出す。

 

「なら、あなたの家族が来たときには丁重におもてなしして差し上げましょう。

この紅魔館に招いて……ね?」

 

「お嬢様の仰せのままに」

 

深々と、そしてお淑やかに礼をするメイド。

二人は主従関係という壁を感じさせない素振りでその後も話を続けた。

来るべきもてなしの日の為の話を……




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!
それにしても東方のBGMはいいよなぁ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十一射 旅のお供に天狗はいかが?

また投稿が遅れてしまった。
でも無事大学にも合格したのでこれからはもう少し頻度が上がると思います。
あと4月からアニメが始まる作品の2次創作作品を新連載として近日公開致しますのでお楽しみに~


「……さ~ん。

お兄さ~ん、大丈夫ですか~?」

 

「う……ううん?」

 

「お?

目が覚めましたか?」

 

「な、なぁぁああああ?!」

 

「おぉ~元気の良いこと」

 

目を開けるとそこには黒髪の少女の顔が視界一面に広がっていた。

俺はその少女との距離が一センチメートルも無いことに気が付くとすぐに体を起こして後退り。

その姿を興味深そうに少女は見ていた。

 

「だ、誰アンタ?!

てかここどこ?!」

 

辺りに広がるのは黄緑色の草で埋められた草原。

そして地平線の当たりには自生してからかなり時間が経っていそうな木々によって形成された森がある。

現代にそうそうない景色の中で一際異彩を放っていたのは目の前の少女格好だ。

服装はフォーマルな半袖シャツに黒のフリル付きのスカート、最後に真っ赤な下駄。

この時点でかなり現代の常識的にかなり反している(基本的に外出の際はなるだけ肌を露出しないのが今の常識である)のだが一番おかしいのは彼女の体の後ろに見え隠れしている真っ黒な翼だ。

飾りにしてはやけにリアルで今にも動き出しそうなクオリティ。

これ作るのに幾らかかってんだろ?

 

「あやや?

初対面の相手にアンタとは酷い口のききかたをしますこと。

ま、これから取材する相手に自己紹介をしないのもあれっちゃああれですよね」

 

なあ、具体的にあれってなんだよ?

困ったときにすぐあれって言葉使うよなみんなして。

 

「私は清く正しい射命丸文(しゃめいまるあや)と申します。

そしてここは幻想郷。

外の世界のあなた達から言う『異世界』です」

 

「異世界……あ!!」

 

黒い羽の少女-射命丸文の一言で全てを思い出した。

なぜ俺はこんなところにいるのか、そしてなぜこんな事になってるのかを……

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「……本当に辿り着けるとは思っても見なかったなぁ」

 

俺は物凄い長い階段を目にしながら呟く。

寿和さんから仕事の内容を聞いてから二日後。

準備万端な俺達はバイクに乗ること数時間、目的地である青木ヶ原、通称富士の樹海の中にいた。

そして数分彷徨った後に物凄い長い階段を見つけ、その階段の横にかすれて読みにくいものの『博麗神社』とかかれているのを見つけた。

 

「まさか百合さん……バイクのままこの階段を上っていくのですか?」

 

「もちろん。

だって弾もこの中だしもし長距離の移動とかになったらこれ使った方が楽だろ」

 

「バイクで境内に入るなんてここの神様に失礼だと思うんだけど」

 

「こっちにも事情があんだから寛大なお心をお持ちの神様なら許してくれるでしょお」

 

そんな軽口を叩きながらバイク押しつつ階段を上がる。

そして階段を上りきり、鳥居の前に三人で並んで立つ。

 

「まあ……あれだ。

ここからは敵の本拠地だ。

いつか言ったと思うが百合君のお約束三箇条を忘れるなよ。

死ぬな。

死にそうになったら逃げろ。

そんで隠れろ。

運が良ければ隙を突いて相手をぶっ倒せ。

あっ……これじゃ四つだな」

 

「前も同じ間違いをしていませんでしたか?」

 

「あ、纏の時もそうだった?

アタシが言われた時もそう。

ほんっとに緊張感ないわねあんたは」

 

「う、うっせえな。

まあ死ななけりゃ万事どうにかなる。

どうにもならねえときには大きな声で……腹式呼吸で助けを呼べ。

何時でも駆けつけてやる」

 

「それ、アタシからもそっくりそのままあんたに返してやるわよ」

 

「いえエリカさん。

私達(・・)です。

百合さんも何事も一人で抱え込まないで何時でも助けを呼んでくださいね」

 

「……ありがとな」

 

「私達」という部分を必要以上に強調して言う纏。

それに少し照れくささを感じた俺は頬をポリポリと掻きながら二人に礼を言う。

そして互いに頷きあった後鳥居の中へと足を踏み入れた。

 

「うぉお……うぉぁああああ?!」

 

何か膜のようなものを通り抜けた感覚を覚えるとそこに広がっていたのは苔なんか一切生えていない綺麗な神社。

その上には綺麗な青空……さっきまでの極相林とは大違いである。

が、そう思ったのも束の間。

最初からあったのか、はたまた突如現れたのか……理由はさておき、俺達は足下にあった紫色の穴に落ちた。

落ちている最中、育ちの良さそうな女性が足を組んで日傘を差しながら座っている姿が見えた。

そして俺の姿に気付いた女性は俺の方を見て微笑むと声を発さず唇だけを動かした。

 

「ゆっくりしていってね」

 

と。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「どうか致しましたか?」

 

「あ……ううん。

何でもない」

 

ぼーっとしていると目の前の黒い翼の少女-文から声をかけられる。

奇妙奇天烈、奇々怪々な目に遭いながらも平常心を保てているのは流石は俺だなとつくづく思う。

 

「ところで……あ~」

 

「ん?

ああ、この翼の事ですか?

あって当然ですよ。

だって天狗だものbyあやや」

 

「みつをみたいに言ってんじゃあないよ。

にしても天狗か……」

 

翼の事とか頭の上にちょこんと乗っかってる頭襟もそれなら納得がいくが……

なんというか……イメージと違うんだよね。

 

「……あなた今凄く失礼なこと考えましたよね?

なんか自分の中の天狗のイメージと違ってひ弱そうだなと」

 

「そんな事は微塵も思ってない!!

絶対に、神様に誓ってもいいですt」

 

そう言おうと口に出した矢先、目の前の天狗少女の視線が痛いほどに突き刺さる。

じーっと、それこそ自分の嘘を見抜いているようなその瞳は十六夜百合という存在全てを疑ってしているような気がした。

 

「ひ弱そうだとは思っていませんが自分の中の天狗のイメージとは違うと思ったのは本当です申し訳ありませんでした射命丸様」

 

「よろしい。

あ、あと私のことは文で結構です。

では……そろそろ取材の方に入らせて頂きますが、何か質問は?」

 

「さっきから取材取材って言うけど文はマスコミかなんかなの?」

 

「はい。

文々。(ぶんぶんまる)新聞』という新聞を書いてます。

幻想郷の鴉天狗は大体何かしらの記事は書いてますよ。

はい、これ最新号」

 

そう言って渡されたのは新聞だった。

彼女の言うとおりそこには「文々。新聞~異変解決特別号~」と名前が書いており、一面の見出しは「博麗霊夢今日も大活躍!!」と写真付きで書いてあった。

ペラペラとページを捲ると「紅魔館に泥棒入る。犯人はいつもの魔女」という見出しで記事が書かれていた。

被害者の少女P・Nさんの証言は結構頻繁に起こることなのかもう完全に諦めており写真に写っている目は少々虚ろだった。

すぐ隣にはその紅魔館でメイドを勤めている少女I・Sさんの写真とコメント。

 

「おい文!!」

 

「な、なんですか?!

いきなり大声だして!!」

 

「この紅魔館のメイド、名前はなんて言う?」

 

「紅魔館のメイド……ああ!!

彼女は十六夜咲夜(いざよいさくや)さんです。

普通の人間な上にお若いのに紅魔館のメイド長を勤めています。

通称「完全で瀟洒な従者」。

垢抜けてるどころか少し抜けてるところもあるんですがね」

 

目の所には黒い先が引いてあるがその顔は優輝にそっくりだった。

他人の空似……なのかもしれない。

でも俺は確かめたい。

何か少しでも知ることが出来るかもしれないから。

 

「そのメイドは今どこにいる?」

 

「……先程紅魔館の主に聞いてきたところ、この先の「香霖堂」というお店に買い物に行ったそうです。

丁度私も彼女を探していたところなのですよ」

 

「そうと分かれば善は急げだな」

 

「そうですね!!」

 

「ふぇ?!」

 

突然俺の腕をがっしりと掴む文。

 

「な?!

あ、文!!

アンタ何を?!」

 

「何って香霖堂に向かうんですよ。

空を飛んでで」

 

「いやいやいや!!

なら俺のバイクで良いじゃん!!

文が飛ぶよりもこっちの方が絶対に早いって!!」

 

「そんな鉄屑よりも私の方が早いですよ。

断言します」

 

えぇ~

父上の形見のバイクを鉄屑呼ばわりかよ……

 

「大丈夫ですよ!!

私結構速さには自信あるんで!!

しっかり捕まっててくださいよ!!

スペルカード!!

疾風『風神少女』ぉ!!」

 

「ま、待て!!

早まるなよ文ぁぁあああああ?!」

 

そのバイクに弾薬とか結構沢山積んであるのにぃぃいいい!!

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「いらっしゃいませ。

ん?

珍しい客が来たものだ」

 

カウンターに座っている男は暖簾をくぐった私に物珍しそうな顔で私に目を向ける。

 

「偶には私だってここに来ますよ。

それに客である私にそれは失礼なのでは?」

 

意図的にむすりとした表情を作りこの店の店主、森近霖之助(もりちかりんのすけ)を見つめる。

 

「そうだね。

ところで何をお探しで?」

 

「はあ……まあいいわ。

外の世界のものなのだけど……『クラッカー』という物をご存知かしら?」

 

あからさまに話を逸らしてきた霖之助さんに溜め息混じりに問い掛ける。

 

「クラッカー……

ああ、それならこの間無縁塚で拾ったよ」

 

そう言って店の奥へと行ってしまった霖之助。

しばらく待つと小さな紙袋を持ってきてカウンターの上にそれを置いた。

そこから円錐の形をした厚紙に紐が付いたものを取り出すと私にそれを手渡した。

 

「これでいいんだよね?」

 

「はい。

買おうとは思うのですが……少し試したいことがあるのでいいですか?」

 

「うん」

 

霖之助さんの許可を得た私はその円錐から伸びる紐を引っ張る。

これから鳴り響くであろう大きな音に目を瞑るがそれは起こらずただ紐と紙が擦れた時の微かな音が部屋の中に響いただけだった。

 

「駄目。

中の火薬が湿気ってしまってる」

 

「ん?

その中には火薬なんて危険なものが入っていたのかい?

でも宴会なんかで使われるんだろう?」

 

「火薬と言ってもごく少量しか入ってないですよ。

人畜無害と言っても良いくらいにね。

火薬が破裂することによって中に入っている紙吹雪なんかが飛び出すって仕組みなの。

本来は宴会なんかよりも友人同士のお祝い事の時に使われたりすることが多いわね。

誕生日会とか」

 

「へえ……咲夜(さくや)さんは物知りだねぇ」

 

霖之助さんは私-十六夜咲夜に感心の眼差しを向ける。

このような事はお嬢様に言われたりする事は偶にあるがそれ以外には余り言われ慣れてないので実は少し恥ずかしかったりする。

 

「まあ、昔の話ですが私は外の世界に住んで居たので---」

 

「ぁぁぁぁあああああ!!」

 

男性の声と共にドスッと言う鈍い音が外から聞こえてくる。

その音に私達は肩を震わせた。

 

「……そのクラッカーからはそんな音がするんだね。

確かに人を驚かせるのにはぴったりだ」

 

「笑えない冗談はよしてください。

最近は色々と危険な事もあるんですから。

霖之助さんはここでお待ちを。

私がやります」

 

レッグホルスターからナイフを数本取り出し店の入り口に背中を付ける。

 

「本当にここで良いんだよな?」

 

「ええ。

彼女の主人であるレミリアさんから聞いたのだから間違いはないはずです」

 

外から聞こえてきたのは男と女の声が一つずつ。

二人の声には聞き覚えがあった。

でも、その周りの気配が気になる……なら!!

 

ベキィッ!!

 

思い切りドアを蹴り飛ばし注意をこちらに向けさせる。

そして……

 

「スペルカード……『咲夜()の世界』」

 

手の中で光っていたカードが光の粒子となって消えると、宙を舞っていたドアとそれを蹴破ったのに反応した二人の動きさえも遅くなり次第にそれは止まった。

手に持ったナイフを一本だけ手元に残るように男に投げつける。

そのナイフも男の目の前まで進んだ所で動きを止めた。

そんな事にはお構いなしに私は目の前の男の背後に回り込む。

 

「ふっ!!」

 

止まっていたものがゆっくりと動き出すと目の前の男も動き出す。

そんな男に向かって私はその手に持った一振りのナイフを振り下ろす。

 

「まだまだ甘いな」

 

男はそう言うと私の腕を掴み、そのまま体を捻って私の体を自分の近くへと引き付ける。

そして腕を私の首に回し自らの服の袖からサバイバルナイフを取り出し、首にあてがった。

その時には既に私が投げたナイフと蹴破ったドアは動きを止めており静かに地面に落下した。

 

「攻撃が大振り過ぎる。

敵を一撃仕留めるなら確実に頸動脈を断ちにいった方が早いし隙がない。

そして能力解除のタイミングもまだあめぇ。

俺の首に刃が触れてから解除してもむしろ遅くはなかった」

 

人の首にナイフをあてがい実戦なら(・・・・)死ぬというのにその寸前にアドバイスとはなんとも酔狂なことをする人だと思う。

 

「ただ、最初に扉を蹴破る事により相手の視界を奪う事と注意を引くのを同時に行ったのは良かったな。

俺の目がなかったら多分やりきれてた。

成長したな優輝(ゆうき)

 

男はナイフを袖の中に仕舞い、今度は私の体に手を回す。

さながら映画のワンシーンで恋人が後ろから抱きついてきたかのようなシチュエーション。

そして右の手で私の頭を撫でる男。

それは数年振りの感覚で非常に心地良く、幸せな気分になれるものだった。

 

「ありがとう、そしてお久しぶりです。

百合兄さん」

 

その男、十六夜百合に少々震えた声で応える。

その瞬間、私は紅魔館のメイド「十六夜咲夜」から十六夜百合の従兄弟「十六夜優輝」に五年振りに戻ったのだった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!
感想やご意見待ってます!!
感想文欄になにか書かれると投稿ペースが上がるかも?!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十二射 幻想系世界剣客幼女

今回ばかり……みょんがみょんして脇が巫女巫女します(狂乱)


「な、な、な!!」

 

神社の鳥居をくぐり抜けた先にて現れた穴に私-天乃纏は落ちた。

足元から光が差し込みようやく出口が見えてきたと安心したのも束の間。

気が付いたら声にならない叫び声を上げていた。

 

「なんですかこれぇぇぇえええ!!」

 

気付いたら私は都内に建ってそうな高層ビル並の高さから落下していた。

あの穴がきっと私のちょうど真上-見上げると紫の穴が塞がって消えた-と繋がっていたのだろう。

まるで百合の『黎明のクェーサー』の様に……

 

「ふむ……

この世界は常識が通用しないのは確かな様ですね」

 

色々と物思いにふけていると段々と思考が纏まってきて落ち着きを取り戻しているのが手に取るように分かった。

そして私は『雷神演舞』を発動し、放電を始める。

空気中の水分子をブースターの様に展開し私の落下速度は徐々に落ちていく。

地面に着く頃には鳥が木の枝にとまる時のようにふわりと着地した。

 

「初めての試みでしたがなんとかなりましたね。

しかし……ここはどこでしょう?」

 

ふぅと一つ息を吐き出し、改めて辺りを見回してみる。

私の身の丈よりも背の高い緑色の茎の様なものが視界に入る。

その茎の先へと目を向けると黄色い太陽の様な形をした花びらが見えた。

そのまま辺りを見回しながら花の茎の隙間に出来ていた獣道のような小道を歩き出す。

 

「またみょんなものが迷い込みましたね」

 

綺麗な物だと道を歩いているとどこかから女性の物と思しき声が聞こえてくる。

反射的に声のした方を向き、腰に刺していた刀の鞘を左手で、束を右手で掴み臨戦態勢を取る。

その声のした方向から現れたのは私よりも少し身長が小さい少女だった。

緑色のベストとスカートを着ており、頭に付いている黒いリボンと背中に背負っている長さの違う二振りの刀が特徴的だった。

しかも長い方の刀は彼女の身の丈程あり、非常にアンバランス……というよりも不釣り合いな様な気がした。

 

「……随分と物騒な物をお持ちで。

何者です?」

 

「それはこっちの台詞です。

……まあいい。

あなた、外の世界の人間ですよね?」

 

「はい。

それがなにか?」

 

外の世界とはあの鳥居を通るときに通った幕---と言うよりも結界の内外の事を表しているのだろう。

質問に脈絡がないような気がするが取り敢えず私は肯定した。

 

「やはりそうでしたか」

 

緑色の服を着たその少女は私に朗らかな笑みを浮かべてこちらへと歩み寄る。

 

「これで貴女のことを遠慮なく斬れます」

 

懐まで近付くと彼女はそう言い短い方の刀を引き抜き一閃。

咄嗟に私は空中へと飛び出す。

私の居た位置より後ろの花の茎が剣で斬られたかのように綺麗に飛んでいった。

 

「突然なにを?!」

 

「外の世界の人間である貴女を排除する為ですよ。

幻想郷(この世界)の住民にとって貴女達の様な存在は害悪でしかない!!」

 

空高く飛び上がった私を追撃するべく少女はその見た目とは想像できないほどの跳躍を見せつけ、手に持った二振りの刀を振りかぶる。

 

「ぬん!!」

 

私の体から紫電が迸るのと同時に体を捻り鞘に収められていた刀を引き抜く。

振り抜きの動作と同時に腕を伝って電撃の波が放たれた。

 

「なっ?!」

 

私のことをただの剣士だと思っていたらしい彼女は驚きの表情を露にし、二振りの刀を交差し防ごうとするもその抵抗も虚しく波に呑まれた。

電撃の波の生んだ力により少女は吹き飛び、近くの開けた土地へと土煙を上げて墜落した。

わざわざ遠くへ飛ばした理由は二つある。

一つは戦闘場所を変えたかったため。

あれだけ視界を制限されるとどこから不意を突かれるか分からず、相手もかなりの機動力を持つタイプの相手だと思ったので開けたところに出れば不意を突かれることもない。

もう一つはあの向日葵の花だ。

あれだけ綺麗に咲いているのは少なくとも手がかかっているだろうし、吹き飛ばしてしまうのは申し訳がないと思ったからだ。

そして私は着地するとすぐさま刀を鞘に収め、少女の落下地点へと体を走らせる。

現場へと駆けつけると彼女の気配はとても弱くなっていた。

煙は晴れ、ゆっくりとその爆心地が露わになる。

 

「……少し油断していました」

 

「こんなに気配が弱くなっているのに……なんで?!」

 

そこには先程の少女が立っていた。

よく見ると隣にふよふよと白玉だんごの様なものが浮いている。

……こんなに気配は弱々しくなっているのにもかかわらず、だ。

ある程度熟練した戦士は自らの気配を消すことが可能だと言うが、それは飽くまでも薄くなっただけであり、弱くなったのとは違う。

でも……もし、彼女の気配が消えていたのではなくて「元々弱かったのなら(・・・・・・・・・)」話は別である。

 

「自己紹介を忘れていましたね。

私の名前は魂魄妖夢(こんはくようむ)

白玉楼にて庭師をしております」

 

「……その横に飛んでいるふよふよは?」

 

「これは私の半霊です。

私は半人半霊ですから」

 

少女-妖夢は横を飛ぶふよふよを抱き寄せる。

そしてそのふよふよはばらばらに崩れ、青白い光の弾が妖夢の周囲にゆらゆらと浮かんでいた。

それはまるで昔読んだホラー小説に出てくる「人魂」のようだった。

 

「スペル---」

 

ドスン

 

彼女がその光を私に放とうと叫んだ直後に人の様な形をした何か(・・・・・・・・・・)が空から落ちてきた。

落下地点からは土煙が上がり、妖夢の姿は見えなくなった。

すぐさま剣を振るい剣圧で煙を吹き飛ばす。

妖夢も同じ結果に至った様で私と同じく水平に剣を振るっていた。

煙が飛ばされ露わになった中心地には妖夢と同じくくらいの背丈の白髪の少女が横たわっていた。

 

「「大丈夫で---」」

 

それに続く言葉を紡ぐ前に私の口は動きを止めた。

いや、止めさせられた(・・・)というのが正確か。

物理的に、ではない。

近寄ってくる妖夢の更に向こう側。

鈍く輝く銃口(形状的には拳銃のような小さな物ではなく自動小銃のようなものだった)が見えた。

このままでは私どころか横たわっている少女、そしてこの魂魄妖夢までの命も危うい。

私は一度は使用を封じた「雷神演舞」を再び起動し、腰に差してある刀に手をかけた。

 

「『雷神演舞』ver,『雷刃閃』!!」

 

「スペルカード……

断迷剣『迷津慈航斬』!!」

 

私と妖夢が叫んだのは同時だった。

剣圧と共に電撃が放たれ敵を薙払い、真一文字に振り下ろされた刀からは蒼いの光が敵を吹き飛ばした。

 

「……なぜ私を守るようなことを?」

 

どさどさと背後で何かが落ちる音と共に妖夢は私に声をかける。

 

「今の状況を無視して私があなたに斬り掛かったとしたら二人ともやられていましたよ。

それに、彼女も危ない状態ですからこんな所で斬り合うのは御免です」

 

右の手に持った刀を鞘に収め、白髪の少女の首に手を当て脈を計る。

一般的な人よりも少し弱いが生命活動に影響のあるほどではない、しかし肉体へのダメージはそうとは言い切れない。

体の数カ所から血が流れ出ており、その元を辿ると彼女のきれいな肌には五mm程の穴が開いている。

銃弾によって開いたものだろう。

こんな状態でまだ息をしていること自体が奇跡のようなものである。

しかし、彼女には普通の人には付いていないような犬っぽい耳ともふもふの尻尾がついている。

きっと彼女も半人半霊の妖夢のような所謂「人ならざるもの」というものだろう(妖夢の場合は半分だが)。

 

「……なら、私に手を貸していただけませんか?」

 

半人半霊の少女は刀を鞘に収め手を伸ばす。

 

「この先の竹林に腕の良い医者が診療所を構えています。

私は椛を運ぶので貴女に私の援護を頼みたいのです」

 

「なぜ私が?」

 

「私はあのケンジュウという武器とはどうにも相性が悪いのです。

電気を操ることの出来るあなたなら飛んでくる弾を撃ち落としながら移動することが可能かと」

 

確かに彼女の言い分は理に適っていた。

私の魔法を使えば金属の弾丸なら無力化する事が可能だ。

 

「了解です。

彼女の事は頼みますよ妖夢さん」

 

「ええ。

ですが、一つだけお聞きしたいことがあります」

 

「なんですか?」

 

「あなたの名前はなんて言うのですか?」

 

……確かにまだ名乗っていなかった。

先日どっかの誰かさんに「誰に対しての自己紹介でも重要だ」とか言っていたのに……

恥ずかしいと思う気持ちを心の中にそっとしまい、とっさに考えついた言葉を口に出す。

 

「に、任務の性質上あまり他人に情報を与えるのは良くないと思ったんです!!

ま、まあ!!

協力関係を結んでくれるのであればその限りではないですがね!!」

 

「は、はあ」

 

若干引き気味の妖夢は引きつった笑みを浮かべながら返事をした。

 

「……こほん。

私は天乃纏と申します」

 

軽く咳払いをしてから名乗り、次の句を口に出そうと口を開く。

 

ボコン

 

まだ残党---と言うよりも傷の浅い者が残っていたのだろう。

突如妖夢の背後から人が現れた。

体の至る所に泥が付いていることから魔法を使って地中を移動してきたのだろう。

 

ズドンズドン

 

次の瞬間には地中から現れた刺客は腹部から血を流しながら背後に力無く倒れていった。

私の右の手には稲妻のマークが刻印された拳銃。

その銃口からは一筋、煙が空へと伸びていた。

 

「職業は高校生、そして探偵です」

 

妖夢の言っていた竹林の方角には敵の増援が立ちはだかる。

数はざっと二十人弱、しかも分が悪いことに全員銃で武装していた。

 

「気を引き締めて下さい」

 

私はそう言うと刀を鞘から引き抜き居合い斬りの容量で横一文字に振るった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「お前にこんなにも早く会えるとは思ってなかったよ」

 

「お元気そうでなによりです。

百合兄さん」

 

互いの顔を見合って笑う。

五年振りに会う俺の家族だ。

元気そうな顔を見れただけで表情筋が自然と緩む。

 

「え?え?

お二人ともお知り合いなんですか?」

 

「まあな。

こいつは俺の従兄弟なんだよ」

 

「へ~

そ~なんですか~」

 

手帳に何かを書き留めながら文は俺の回答に棒読みとでも言うべき感情の籠もっていない返事を返した。

 

「それ、記事にするの?」

 

「もちろんです!!

人里の男共に咲夜(さくや)さんって結構人気なんですよ?」

 

「ふーん」

 

俺も文に負けず劣らないくらいに感情の籠もっていない返事を返した。

その中で一つの疑問が生まれた。

 

「にしても、なんでお前咲夜なんて名前を?」

 

「今仕えているお嬢様に名前を変えさせられまして」

 

「そっか。

「咲」く「夜」って書いて咲夜か。

良い名前だな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

自分の名前を褒められては素直に嬉しいのか優輝は頬を赤らめる。

 

「後でそのおぜうに挨拶に行くのは良いとして……」

 

ズダダダダダダダ

 

俺が言葉を句切った直後俺達に向かって弾丸が飛んでくる。

しかしそれらは俺が視線を向けただけでピタリと空中で動きを止めた。

 

「奴らの始末が先かなつって」

 

「ええ。

そうですね」

 

俺は太股から二挺の拳銃を、優輝もどこからともなく取り出したナイフを構える。

 

「……無理ですよ」

 

弱々しい声でそう言ったのは俺達の後ろに居た文だった。

彼女の顔は酷く青ざめており、脚も力無く震えていた。

 

「私達全員でも敵わなかった相手にあなた達二人だけじゃ敵うわけありませんよ」

 

「……何があった?」

 

「……私達天狗は「妖怪の山」という場所に住んでいます。

そこには警備の為の哨戒天狗も含めかなりの数が居るのですが三十人ほどの人間によって殆どが戦闘不能にされました。

私は大天狗様の命を受けて山の外の人達に助けを求める為に山を降りたのです。

しかし敵の襲撃で一緒に山を降りた椛《もみじ》とも魔法の森を抜ける際にはぐれてしまって……」

 

確かにそんな事があったのならこんな風に思っても仕方がないだろう。

 

「でも、まだそれが俺達の負ける理由にはなってないだろ」

 

ズダダダダダダダ

 

俺がそう答えると再び銃声が鳴り響く。

しかし俺は文を見つめたまま動かない。

 

「スペルカード!!

炎符「パーティカルフレア」!!」

 

ボンッという大きな爆発音と共に俺達の方へと飛んできた弾丸は炎に呑まれる。

それと共に俺達の横に槍を持った女の子と大きなリボンが特徴的な巫女服の少女が立っていた。

 

「……遅いですよいざなさん。

霊夢もここまで来るのにそこまで時間はかからなかったでしょう?」

 

「いや~ごめんねゆうちゃん。

霊夢のこと起こそうにもなかなか起きなくてさ~

蹴り入れて起こしてきたんだ~」

 

「う~!!

この程度アンタら二人だけで十分じゃない!!

なんで私まで起こすのよ!!」

 

「良いじゃん良いじゃん。

あとでご飯作ってあげるから」

 

「じゃあやる!!」

 

なんか巫女服の方はかなり癖の強い子のようだ。

まあ、槍の方は知り合いだから良かったが。

 

「お~いざな。

久し振り」

 

「おっ百合くんひっさしぶり~

元気だった?」

 

彼女は天乃いざな。

文字通り纏の姉で今回の任務のターゲットの一人だ。

 

「まあな。

……助けに来てくれてサンキュな。

俺は「妖怪の山」ってとこに行かにゃならんのだが、どこがそうだ?」

 

「じゃあゆうちゃん連れてっていいよ。

どうせ道案内いるでしょ?」

 

「……まあ、そうなんだけど。

頼むわ優輝」

 

「はい!!」

 

優輝も声を大にして返事を返す。

 

「いざな、後でそのスペルカードの事については聞かせてもらうぞ。

それと……だ」

 

「な、なによ?」

 

俺は巫女服の少女をじっと見つめる。

男に見られるという事に慣れていないのか少女は少し恥ずかそうな表情を浮かべた。

 

「後で色々話を聞かせていただきたい。

優輝だけの話だと足りない部分もあるだろうしな」

 

「……アンタが何をしたいのかは私にはわかんないけど、それ相応の報酬は貰うからね」

 

「その辺は織り込み済みだぜ。

因みにアンタ、名前は?」

 

博麗霊夢(はくれいれいむ)

 

「俺は十六夜百合。

よろしくな」

 

握手まではしなかったが一応敵ではないことを理解してくれたようだ。

その手に持っていたお祓い棒を下ろしてくれた。

 

「あ、そうだ文ちゃん!!

さっき太陽の丘の辺りで妖夢ちゃんが椛ちゃん背負って永遠亭に向かってたから行ってあげて」

 

「……はい!!」

 

いざなが突然思い出したかの様に声を大にして文にそう言った。

文は暗かった顔に少し灯りが灯った様で、少し声に元気が戻っていた。

 

「じゃあやることは決まったな。

いざな、俺と優輝の援護を頼む。

優輝、バイクの後部座席乗っとけ」

 

「はい」

 

「おっけー!!」

 

文に引かれながらも頑張って持ってきたバイク。

まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。

まあ、弾とかこれに入ってるから常に近くに置いときたいんだけどね。

 

「じゃあ、行くぞ!!

目ぇ瞑っとけ!!」

 

俺はそう言うと腰から引き抜いた小さな円筒形の物を敵の居る方向へ投げ、それに向かって引き抜いた拳銃を向け引き金を引く。

するとその円筒形が破裂するのと共に眩い光が辺りを照らした。

相手が怯んでいる隙を見計らって俺はバイクのスロットルを全開にし、敵陣に飛び込む。

咄嗟に反応してダメージのなかった数名が俺達の方へと銃口を向けた。

 

「君らの相手はアタシらだよ!!」

 

その銃弾は俺達に届くことはなく、いざなの放った炎の壁によって阻まれた。

 

「しっかり掴まっとけよぉ!!」




「It's show time!!」
(BGM:フラワリングナイト/東方花映束より)

百合(以下百)「今回より始まりました!!
「嘘吐きリリーのホントのプロフ」!!
次回進行は十六夜百合と!!」

エリカ(以下エ)「千葉エリカで!!」

「お贈りします!!」

百「突然ですがエリカさん!!
本コーナーの紹介を!!」

エ「はーい!!
本コーナーは、この小説「嘘吐きの百合」にのみ出てくる、所謂「オリキャラ」の基本プロフィールをネタバレにならない程度に紹介して次回予告をするコーナーです」

百「説明サンキュー!!
と言うわけで栄えある第一回に紹介させていただきますは、この物語の主人公たるこの俺「十六夜百合」の紹介をさせていただきます!!
カンペどん!!」

十六夜百合(いざよいゆり)
性別:男
誕生日:2079年5月3日
誕生花:あやめ(気まぐれ)
星座:おうし座
年齢:15歳
血液型:B型
身長:176cm
体重:60kg
髪の色:黒色
瞳の色:金色
イメージ声優:平田広明
好きな物:美味い料理
嫌いな物:権力にものを言わせて威張り散らす奴
趣味・特技:音楽鑑賞、射撃
使用CAD:武装一体型CAD『ライアー・リリー -ex』、汎用型CAD(携帯端末型)
得意分野:収束系統魔法、移動系統魔法、加速系統魔法

百「まあ、こんな感じだね。
あと、皆さん気になっているであろう、ライアー・リリーのこと。
今回はその解説もしていこうかと思う。
ライアー・リリーは作中では明記していないが、コルトファイアーアームズ社の「M1911」という拳銃のカスタマイズモデルという設定だ。
M1911という名前を知らなくても「ガバメント」と言えば分かる人も多いかもね。
その拳銃は元々「.45ACP」という一撃に秀でた弾薬を使っていたんだが、ライアー・リリーは反動とマズルフラッシュが小さい「5.7×28mm弾」という弾薬に変えてある。
その弾薬を使ってる銃で有名なのがFN社の「Five seveN」や同社の「P90」だな。
カスタム内容ではそれが一番大きな変更点で、他には銃身長を一インチ伸ばしたり、装弾数が増えてたりと色々あるんだが長くなるから割愛させていただこう。
つまりこのライアー・リリーは「反動が小さい上に魔法使用の速度を上げることの出来る拳銃」という解釈をしてもらって結構だ」

エ「ふぁあ~
もう終わった~?」

百「エリカてめぇ?!
寝てやがったのかよ!!」

エ「だってあんたのホウキの事なんて全然興味ないし、拳銃の話なんてされても分かんないし」

百「なんだt」

優輝(以下優)「そこまでですよ百合兄さん。
次回のこのコーナーで紹介するのはこの私、十六夜優輝です。
一応東方projectの十六夜咲夜の二次創作キャラクターとお思いでしょう。
なので、まだ私がお嬢様に雇われるまえの話についてさせていただこうと思っております」

百「俺の台詞なのにぃ……
ああ、優輝、次回予告、頼むわ」

優「はい。
次回、「魔法科高校の劣等生-嘘吐きの百合-」第二十三射「剣士の誇り~vs地雷原~」」

「次回もお楽しみに!!」

今回の作業中のBGM
Alexandrite-II-/石渡太輔(BLAZBLUE CHRONO PHANTASMA)

ハイパーベンチレイション/RADWIMPS

広有射怪鳥事~Till When?/ZUN(東方妖々夢)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十三射 人形遣いの覚悟~vs地雷原~

今回は次回予告と内容を変更してお送りしております。


ゴポゴポゴポゴポ

 

目を瞑りながら覚醒した意識の中であたし-千葉エリカの耳は変な音を捉えた。

 

「---りさ!!

これどうすんのよ!!」

 

「いや、これであってる」

 

何かを煮ているような音と共に二つの声が聞こえてきた。

声色の感じから女の子だろうか?

 

「こ、これゴポゴポ止まらないんだけど!!」

 

「だからこれであってるんだって。

この実験は「水を沸騰させる魔法」の実験だからな。

沸騰した状態が保たれているから成功だぜ」

 

「で、でも」

 

「ああ。

魔法を止めてもゴポゴポが止まらない。

つまり「危ない」ってことなのぜ」

 

やけに肝の据わった女の子に対してもう一人はかなり慌てていた。

え……今危ないって言ったあの子?

 

「じゃあどうするのよ!!」

 

「どうもこうもないのぜ。

早く隣の部屋に逃げるぞ」

 

そんな声が聞こえてくると次にあたしの居る部屋に二人の少女が入ってきた。

一人は黒と白のワンピース。

綺麗な金髪は大きな黒いとんがり帽子に覆われている。

もう一人は青いワンピース。

こちらも綺麗な金髪で、まるで人形のように綺麗な立ち姿だ。

 

「お、起きてたのか。

早速で悪いんだけどベッドの中に入れさせて欲しいのぜ」

 

断りを入れるとすぐさま掛布団を引き剥がしその中に入ってくる二人。

私達三人は布団の中で頭を手で覆い隠す。

ふと疑問が浮かんだ私は隣の黒い服の少女(流石に布団の中はかさばるのか大きなとんがり帽子は被っていない)に問い掛けた。

 

「ねえ、この中って安全なの?」

 

「絶対に安全とは言い切れないぜ。

爆発したときの為に先ずは飛んでくる破片から身を守らなきゃな」

 

ドカーン

 

彼女が言い終えた瞬間、轟音と共にドアが吹き飛んだ。

パラパラと埃が舞う中布団から顔を出す。

幸い、そこまで大きな爆発ではなく他の二人にも怪我は無いようだ。

ただ、ドアのなくなった部屋の入り口からは衝撃で滅茶苦茶になった部屋が見えていた。

 

「片付けが大変そうね」

 

「あはははは……」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

コポコポコポコポ

 

再び私の耳に水が沸騰する音が入ってくる。

しかし今度のは魔法による物ではなく、アルコールランプを使った火によるものだ。

この時代になってアルコールランプを使ってお湯を沸かすという光景はあまり見なくはなった。

しかしあたしにとって特に珍しい事ではなかった。

纏は事務所でお湯を沸かすときはアルコールランプを使っているし、百合がコーヒーを入れるときに使うサイフォン、あれでお湯を沸かすときもアルコールランプを使う。

 

「いやぁ。

手伝って貰って申し訳ない。

本当に助かったぜ」

 

「別にいいわよお礼なんて。

あたしの事を家で寝かせてくれたんだからこれくらいの恩は返さなきゃね」

 

とんがり帽子の少女は抱えていた本を本棚に入れながらそう言った。

辺りに散らばっていたガラスの破片を箒で外へと掃き出しながらあたしは他愛もない答えを返した。

外の景色にふと目を向けるとそこに広がっていたのは木、木、木。

所謂森の中だった。

 

「もう動いて大丈夫?

まだどこか痛むなら休んでいても良いのよ?」

 

「ダイジョブタイジョブ!!

元気なのがあたしの取り得だからね」

 

もう一人の人形のような少女も帽子の少女に続いてあたしを心配して声をかけてくれた。

本当に特に痛むところはないことを証明するかのようにあたしは鼻歌混じりに集めたゴミをどんどん掃き出す。

 

「あ、自己紹介がまだだったな。

私は霧雨魔理沙(きりさめまりさ)だぜ!!

魔理沙って呼んでくれ」

 

「私はこの辺りに住んでいるアリス・マーガトロイドよ。

私もアリスでいいわ。

あなたは?」

 

「あたしは千葉エリカ。

よろしくね魔理沙、アリス」

 

「よろしくな!!」

 

「よろしく」

 

二人に応える形であたしも簡単な自己紹介をする。

握手を求めると二人とも笑顔で返してくれた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「所でエリカはどこから来たんだ?」

 

「へ?」

 

ある程度片付けを終えてアリスが淹れてくれた紅茶を飲んでいた最中、魔理沙がそう問い掛けた。

 

「どこってそりゃあ……東京よ」

 

「「東京……」」

 

二人ともあたしの返答に少し唖然としていた。

文字通り目が点になっていた二人は数秒してから目を輝かせた。

 

「東京だってーっ?!」

 

魔理沙はとても大きな声を上げた。

彼女を見ると零した紅茶などお構いなしにテーブルに身を乗り出していた。

当然その瞳はキラキラと輝いている。

もう一人の金髪少女はそんな事に興味はないんだろうなと思って彼女の方を向く。

そこには無邪気な子供のような目をしつつもそっぽを向いているアリスがいた。

結構まんざらでもないようだ。

 

「う、うん……そうよ東京よ」

 

確かにここは言っては悪いが「田舎」だと思う。

しかしこんなに過剰に反応する必要はあるのだろうか?

この反応はまるで遠くにありすぎてなかなか行けないテーマパークの話を聞こうとしているような表情だ。

しかし東京から山梨までは今の御時世お金さえあれば一時間で着くため高嶺の花という訳でもない。

ならなぜこんな反応を……

 

「外の世界から来たんだってよアリス!!

すげえよな!!」

 

「え、ええそうね。

ま、都会派の私にはそれくらい普通のことよ」

 

こんな森の奥に住んでて都会派ってなんだよと思いつつも敢えて口に出さないでおく。

 

「なあ、外の世界ってどんなんだ?!

噂だと光がチカチカして真夜中でも明るい道を歩けるって---」

 

「ちょっと待って。

外の世界ってどうゆうこと?

結界の中と外って別の世界なの?」

 

「ああ……ごめん。

説明するの忘れてた」

 

魔理沙の言っていた「外の世界」という言葉が妙に引っ掛かったあたしは質問される前に逆に問い掛けた。

質問をされた本人は少し面倒くさそうな表情でアリスを見る。

しかし当の本人は虚空を見つめながら目を輝かせていた。

所謂「トリップ状態」ってやつなのだろう。

 

「アリスがこんなんだから私から説明するのぜ。

この世界の名前は幻想郷。

ここに来る前に『博霊神社』って神社があったのを覚えてるか?」

 

「ええ」

 

「そこにいる博霊の巫女ってのと一人の妖怪がこの世界と外の世界を『博霊大結界』ってので隔てているんだ」

 

「へぇ。

そういう事ね」

 

「わかったか?」

 

「全っ然わかんない」

 

ガタッと魔理沙が椅子から落ちそうになる。

 

「一つ聞いてもいい?」

 

「何だ?」

 

「その神社の見た目がその博霊なんちゃらってのを通り抜けた途端に綺麗になったんだけどどういう事?」

 

「博霊神社は外の世界と幻想郷の境界にあるんだ。

外の世界では長い間放置されてるだろうがこちら側の神社は今の代の博霊の巫女が手入れをしてるから」

 

ぼーんぼーんぼーんぼーん

 

部屋の中に鐘の音が鳴り響いた。

 

「---りさー!!

霧雨魔理沙ー!!」

 

バン

 

勢いよくドアが開かれ女性が家の中に入ってきた。

少女は頭に橙色の髪飾りを付けており、虎柄の腰巻きを巻いていた。

女性は鼠色の服を着た少女を抱えていた。

その少女はぐったりとしており、右腕の辺りからは血が流れていた。

 

「星とナズーリン?

……ってなんだよその怪我?!

早く治療---」

 

ぐらぐらぐらぐら

 

「うわっ?!」

 

「うぐっ!!」

 

「キャッ?!」

 

突如発生した大きな揺れにより魔理沙の言葉は遮られた。

あたしと魔理沙は辛うじて机にしがみつくことで転倒を免れたがアリスと虎柄の女性は尻餅を付いてしまった。

その揺れと同時に大きな想子の動きを知覚した。

つまりこれは自然災害ではなく、魔法による人為的なものである。

 

「大丈夫か?」

 

「何とか……ね」

 

「何なのよこれ!!

明らかに魔法を発動した感じがしたじゃないの!!」

 

「人間が攻めてきたんです!!

外の世界の人間が!!」

 

「……詳しく聞かせて」

 

「話をする前に、あなたは?」

 

「あたしは千葉エリカ。

外の世界から来た魔法師よ。

大丈夫、あなた達に危害を加えるつもりはないわ」

 

「そうですか……なら続けましょう」

 

虎柄の女性-寅丸星(とらまるしょう)が抱えていた少女-ナズーリンはこの森の奥の無縁塚と呼ばれる場所に住んでおり、星は偶には私の家に来てくださいとナズーリンに招かれたそうだ。

しかし家の周りに見覚えの無い人間が複数居り、周囲に居た妖怪を必要以上に痛めつけていたと言う。

 

「その集団に私達は見つかってしまいを外の世界の武器による攻撃を受けたのです。

私は何とか防ぐことが出来たのですがナズーリンは……」

 

「ちょっと見せて」

 

そう言ってあたしはそのナズーリンと呼ばれた少女の体を観察する。

傷と言うべき物は右腕の銃に撃たれたであろう傷のみで他にはなく、その傷自体骨に当たって弾が暴れた訳でも無いため傷は大したものではない。

銃弾に体を穿たれたショックと痛みで昏倒しているのだろうと思ったがここまで気配が弱々しいのもおかしい。

 

「命に別状は無いはずよ。

でも、彼女に撃ち込まれた弾を摘出してもいいかしら?」

 

「え、ええ。

大丈夫です」

 

「でもどうやってやるんだ?」

 

「まあ見てなさいって」

 

あたしは確かに二科生だがそれは飽くまでも処理速度の遅さや魔法のレパートリーが少ないからであり、一応弾の摘出などの応急処置に関する魔法は父や百合から教えてもらった事はある。

あたしは意識を彼女の体内の弾丸に集中させる。

そして百合の紋の刻印されたCADを操作して弾を引き抜く。

ゆっくりと傷口から出てきた球を手で掴みテーブルへ。

そしてすぐに別の魔法を発動。

傷口を塞いだ。

 

「誰か傷口を塞いだことのある人居る?」

 

「私がやるわ。

上海!!」

 

名乗りを上げたのはアリスだった。

そしてどこからともなくアリスに似たような服装の小さな人形が数体、針を持って飛んできた。

そしてナズーリンの傷口をその針で縫い始めた。

数分も経たないうちにその傷は塞がってしまう。

 

「凄いわね……

てかアリスも魔法使えるんだ」

 

「まあね。

これでも一応魔法使いだし」

 

「私だってそうだぜ!!」

 

「え~そうは見えないな~」

 

「なっ?!

エリカだって最初はただの女の子にしか見えなかったんだぜ!!」

 

「良いですよ~

あたしは魔法が使えなくても剣があれば戦えるもーん」

 

「ぐぬぬ……」

 

あたしは魔理沙の事を一通り弄ってからテーブルの上に置いた弾丸を台所へと持って行き、それに付いていた血を洗い流した。

その下から現れたのは幾何学的な模様が描かれた真鍮色の金属塊が現れた。

 

「これは……」

 

「差し詰め魔法陣の描かれた弾丸ってところね」

 

「あ、アリス?!」

 

集中していたため気配に気付けなかったため背後からアリスに声をかけられ大きな声を出してしまった。

 

「ど、どうしたの?」

 

「ナズーリンが目を覚ましたみたいでね。

お水を取りに来たの。

多分ナズーリンが著しく衰弱していたのはそれの所為ね」

 

「でもどうするんだぜ?

アイツの話だと相手は複数みたいだけど」

 

「まさか、一人で行く訳じゃあないわよね?」

 

「ま、まさかそんなわけ無いじゃない」

 

実の所は一人で行こうとしていた。

自分の力を過信してるわけじゃない。

しかし、この事件とは関係ない二人を巻き込むわけにはいかない。

 

「まさか関係のない「私達を巻き込みたくない」なんて事思ってる訳じゃないのぜ?」

 

「ギクッ」

 

「はぁ~

あのなぁ、ナズーリンが傷付けられた……いや。

お前をこの家に運び込んだ時点で私達はもう事件の当事者だ。

私達だけを除け者にする何てそうは問屋が卸さないってやつだぜ?」

 

「そうよ。

別にあなた一人で解決しなきゃならないって訳でもないでしょう?」

 

「……二人とも意外と好戦的なのね」

 

「「よく言われる」」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「本当に三人だけで大丈夫なんですか?」

 

「まあ、何とかなるでしょ」

 

あたし達は一通りの準備を済ませると霧雨邸の前の開けた土地に私達四人は居た。

腰のベルトにはCADのホルスターと三つの円筒形の筒が付いている。

警棒は右手に既に握っている。

 

「星はナズーリンと留守番を頼む」

 

「わかりました」

 

しゅんとした表情で星は俯いた。

そりゃあナズーリンを傷付けられて許されない気持ちもわかるが怪我をしている彼女を霧雨邸に置いていく訳にもいかない。

それに魔理沙やアリス曰わく「四人だと少し多い」だそうだ。

敵十数人に対して四人は少し多いと言うことは彼女達はかなり広範囲までカバー出来る攻撃を行えるという事なのだろう。

 

「ところでどうやって敵の所に行くの?」

 

「空を飛んで行く」

 

「え?!

飛ぶの?!」

 

「ええ。

何か問題でも?」

 

「いや……あたし飛行魔法使えないんだけど」

 

「「あははははははは!!」」

 

「えーエリカちゃんマジで空飛べないの?!」

 

「キモーイ」

 

「空飛べないのが許されるのは小学生までだよねー」

 

「「キャハハハハ」」

 

あたしがそう言うと二人は打ち合わせでもしていたかの様に息のあった演技で嘲笑った(ただふざけてるだけだと思うが)。

 

「いや、結構真面目に」

 

「「え……?」」

 

「そ、外の世界の魔法使いは飛べないのか?」

 

「正確に言うと専用の道具がないとその魔法が使えないの。

でもまだそれを持ってないから空を飛べない」

 

「そうなんだ。

ごめんなさいふざけてしまって」

 

「私の箒の後ろに乗ると良いぜ。

ま、乗り心地は保証できんがな」

 

箒に跨がった魔理沙は柄の後ろの方をポンポンと叩く。

あたしは言われた通りに魔理沙の箒に跨がった。

 

「じゃあ、行くぜ!!」

 

一瞬浮遊感を感じた直後には箒と共にあたし達は空を飛んでいた。

アリスはと言うと彼女に似た格好をした人形-上海人形達を従えて優雅に宙を舞っていた。

 

「星の話だと敵は十人程度。

その中で刀を持った黒いツンツン髪の男と赤い髪の女がリーダー格で一際強い力を放っていたらしい」

 

魔法による地震が起こった時点で一人は察していたがまさかあの人まで敵に回るとは思わなかった。

あたしは心の中で苦虫を噛んだ様な気分になった。

 

「私が雑魚を蹴散らすわ。

魔理沙とエリカは私の攻撃の後にそのリーダー格を倒して」

 

「おっけー」

 

「わかった」

 

ちょっとした作戦会議をしている内に敵と思しき集団が視認できた。

星の言うとおり大体十人程の武装した人間を確認出来た。

 

「作戦開始よ。

アリス、お願いね」

 

「了解」

 

アリスはそう言うとそこで止まり、目を閉じた。

その回りを上海人形達がくるくると回る。

 

「スペルカード……

咒詛(じゅそ)「魔彩光の上海人形」!!」

 

体から発せられた覇気と共に目を見開くと、いつの間にか手に持っていたカードが手の中で硝子の様な音を立てて割れた。

その直後、アリスの回りを回っていた上海人形達が彼女の正面に集まりそれによって出来た三角形から光が放たれた。

 

「凄い……」

 

「だろ?

まあ、私の方がもっと凄いんだけどな」

 

そう言って爆心地の向こうへと魔理沙は進んでいく。

 

「魔理沙、横!!

ぐっ!!」

 

「エリカ!!」

 

突如横合いから浴びせられた斬撃を魔理沙の代わりに防いだあたしは地面へと飛ばされた。

魔理沙も同様で魔法が解けてしまったのか地面へと落ちていった。

魔法で勢いを殺し着地は出来た。

怪我は特にない。

しかし

 

「待ってよ、敵は十人って言ってなかった?」

 

着地地点には十人程の武装した人間が居た。

アリスが取り逃した……いや、確実に攻撃は当たっていた。

なら、増援なんだろうか?

絶体絶命の状況下たが非常に頭の回転が早い。

しかし、そんなあたしに取れた行動はただ武器を地面に置き、両手を上げ降参の意を伝えるだけだった。

 

「まあ、頼んだわよアリス」

 

すぐそこまで迫った仲間を待ちながら。

 

「わかったわ。

スペルカード、戦操「ドールズ・ウォー」!!」

 

武装した上海人形達が瞬く間にあたしを囲んでいた奴らを蹴散らしてくれた。

 

「にしてもほんとに凄いわね」

 

「まだまだよ。

それに、幻想郷にはまだ強い子は沢山居るわよ」

 

その言葉を聞いて少しあたしの心が躍った。

一度手合わせを願いたいと思ったがそれはまた後で考えよう。

 

「雑魚の掃除は私に任せてこの先に強い魔力を感じるわ。

気をつけてね」

 

「あなたもね」

 

「大丈夫よ。

都会派魔法使いの私からしたらこんなの朝飯前よ」

 

そう答えるとアリスは再び飛んでいった。

地面に置いた警棒を拾い上げ、あたしは走り始める。

 

「っ?!

殺気!!」

 

横合いから突如現れた殺気とも思える強い気を感じ取りあたしは前方に向かって加速魔法を発動。

初撃を回避する。

 

「おぉ、流石は千葉の娘。

なかなかやるじゃねえか」

 

「刀持ったツンツン頭で何となく予想付いてたけど……」

 

あたしは警棒を構え、斬りかかってきた男に視線を向けた。

 

「そんなことしてんの知ったらさーや泣いちゃうよ?

ね、桐原先輩」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ああ言ったは良いものの……敵が見つからないわね」

 

エリカが桐原と対峙している中、彼女と別れたばかりのアリスは森の中をぶらぶらと歩いていた。

敵がなかなか見つからないため飽きてしまったのだ。

 

「っ?!」

 

特にあてもなく歩いていると突如魔力を感じ取った。

そして地面が揺れた。

その場から離れようと地面を蹴るが、彼女の足が地を離れることはなかった。

 

「足が……埋まってぇ!!」

 

彼女の足が地面に埋まってしまっていたのだ。

今の地震の一瞬で液状化し、何故かはわからないが足の周りだけが固まっていた。

そして液状化によって地盤が緩んだ所為で真横にある大木が彼女に向けて倒れていった。

それの光景を見たアリスの顔は恐怖に歪んだ。

 

「なんてね♪

戦符「リトルレギオン」!!」

 

そんなのも束の間、アリスの声は喜びによって跳ね、それと同時に彼女が操る人形達も踊った。

上海人形達がアリスの周囲に戻ると倒れてきた大木は木っ端微塵に弾け飛んだ。

 

「そこに居るのはわかってるのよ」

 

「……」

 

アリスが上海の助けを借り埋まっていた両脚を地面から抜きながら辺りの茂みへと話し掛ける。

その中から白い服を着た赤髪の少女が現れた。

 

「あなたが千代田花音さんね?」

 

「っ……!!

なんでそれを?」

 

赤い髪の少女-千代田花音の瞳には明らかに動揺の色が見えた。

当然の事ながら「七色の人形遣い」の二つ名を持つアリスは見逃すはずがなかった。

 

「エリカから聞いたの」

 

「そうなの。

で、何あなたは?

あたしの事を殺しに来たわけ?」

 

「いや、あなたを保護しに来た」

 

「そう。

ならあたしはあなたを殺しにかかるけど構わないわね?」

 

「いいえ。

あなたには私は殺せない。

そして私もあなたを殺さない」

 

アリスの澄んだ青い瞳が花音を貫く。

 

「あなたにだって事情(・・)があるんでしょう?

協力するわよ?」

 

「…………っ!!

あなたに何がわかるって言うのよ!!」

 

花音は手に持っていた端末-CADに指を走らせる。

再び地面が大きく揺れる。

液状化する寸前の所でアリスは後方へと飛び退き、倒れ来る大木へと飛び乗った。

 

「あなた舐めてるの?

こちら側の人間は空を飛ぶ魔法が使えるのでしょう?

あたしの魔法はそれで無効化出来るじゃない」

 

「それだと面白く無いじゃない。

敢えて(・・・)あなたの土俵で戦わせて貰うわ」

 

掛かってきなさいとアリスは嘯く。

 

「戦いの前に自己紹介をさせて貰うわ。

私の名前はアリス・マーガトロイド。

もう一度言わせてもらうわ。

掛かってきなさい一校の地雷原」

 

その言葉によって火蓋が斬られた。

花音は更に大きな地震を巻き起こし、アリスは十数体までに増えていた人形を操り、光の弾を放つ。

地雷原と七色の人形遣いの戦いが始まったのだ。




「It's show time!!」BGM:星の器 feat.らっぷびと/魂音泉

百合(以下百)「今回も始まりました「嘘吐きりりーのホントのプロフ」!!
司会進行役は俺十六夜百合と!!」

エリカ(以下エ)「千葉エリカでお送りしまーす」

百「今回のゲストはこの方!!
完全で瀟洒な従者こと十六夜優輝さん!!」

優輝(以下優)「どうもーどうもー。
初めまして、十六夜優輝です。
紅魔館という館にてメイドをやらせていただいております」

レミリア(以下レ)「咲夜~お茶淹れて~!!」

優「お嬢様、十分前に飲んだばかりでしょう?
少し我慢なさってください」

レ「う~☆」(´・ω・`)ショボーン

エ「い、今の小さい子は?」

優「私の仕えている紅魔館の主、「レミリア・スカーレット」様よ。
あのような幼いお姿をしているけど、実年齢は五百歳よ」

百「五百?!」

優「あの方は吸血鬼ですよ?
五百歳の吸血鬼なんてまだまだ子供らしいわ」

百、エ「ソーナノカー」

百「まあ、そんな事は置いといて。
優輝がレミリアに雇われてからの話ってのはみんな知ってるだろうから今回はその前の話をしようと思う。
まず優輝の生まれだが、俺の父上の弟の十六夜啓治の娘として生まれた。
因みに啓治叔父上の方は十六夜の本家ではなく分家だ。
理由としては啓治叔父上が魔法師一般女性と結婚したから、それと十六夜の教えを破ったからだ。
それでも破門にしなかったのは父上よりも剣士として、魔法師として高い能力を持っていたからだ。
まあ、そんな家に生まれた優輝も俺たちと同じく十六夜流の剣と共に育った」

エ「でも、優輝が十一歳の時に悲劇は起こった」

百「そう。
こいつが小学五年のある夜、何者かに闇討ちをかけられたんだ。
叔父上達の抵抗も虚しく優輝の家族は残らず殺された」

優「でも私は自らの能力と十六夜の剣術を使って襲撃者を皆殺しにした。
その時私はお嬢様にであったの」

百「よし、今回はこんなもんだ。
優輝の能力については追々解説していくぜ」

エ「まあ、大体の人が知ってると思うけどね。
次回予告!!」

優「激化する幻想郷での戦い。
敵の魔の手が今度は百合と優輝に迫る!!
次回、魔法科高校の劣等生~嘘吐きの百合~第二十四射。
「邪魔する奴はとりま無視」」

「お楽しみに~!!」

今回の作業用BGM

華胥の夢/豚乙女

星の器 feat.らっぷびと/魂音泉

ジョジョその血の記憶~end of the world~


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十四射 邪魔する奴はとりま無視

「この感じ……エリカも戦い始めたか」

 

バイクのハンドルを握る力を強め俺は呟いた。

それに伴って俺の腹に巻き付いていた優輝の腕も少し力が入っていた。

俺がエリカの想子を知覚する五分程前にいざなの想子が活性化するのを知覚した。

つまり二人とも既に戦闘状態にあると言うことである。

 

ズダダダダダ

 

思考の海に沈んで行く意識が側面から響いた銃声により一瞬にして覚醒した。

音のした方へと視線を向けるとバイクの斜め後ろにサブマシンガンを持った二人の男が追ってきていた。

加速系の魔法を使えばこの程度の事は可能だろう。

その点に於いても特に気にしていなかった。

問題は……

 

「おいおい……魔法を使ってる気配なんて全くなかったぞ」

 

「特殊な力を持っているのかもしれません。

気を付けてください」

 

「迎撃を開始する。

優輝、これでやれ」

 

俺は優輝にもしもの為に持ってきた拳銃を渡し、想子による糸を二人の男に向けて伸ばした。

体に特に変なところはない。

ただ、一つ気になったのは額にある規則的に配置された瘤のような突起だ。

 

「これは角か?

鬼みてぇだな」

 

「鬼……茨木の百薬枡……?」

 

「知ってるのか?」

 

「注がれたお酒をあらゆる怪我や病気を治療する薬酒にする酒器です。

健康体に服用すれば一時的ではありますが驚異的な身体能力を発揮することができます。

ただ、服用後一定時間が経過すると性格が鬼のように凶暴化し、肉体が鬼のそれに変質してしまうという副作用も備わっています。

その酒器は数週間前に持ち主である茨木華扇(いばらきかせん)が紛失しております」

 

「確かに魔法を使ってる気配もないしその枡の所為ってのが濃厚だな」

 

そう言い放った俺は男の片方に右手に持った拳銃を向け引き金を引く。

連続で弾が放たれたそれによって男の両膝から血飛沫が飛んだ。

足を撃ち抜かれ転倒する男に目もくれずバイクのギアを上げる。

優輝の方も片付いたようで左側の男も居なくなっていた。

 

「そう言えばお前、枡をあたかも自分が実際に使ったように話していたがまさか……」

 

「飲んでません!!

お酒なんて飲んでませんから!!」

 

何故か優輝の霊子の光が暴れまわった。

不規則に動くそれは確実に動揺している人間から見られるものだった。

 

「別に怒ったりしねぇよ。

俺だって偶に酒くらい飲むし。

ただな……」

 

「ただ?」

 

「あんま飲み過ぎると発育に影響出るらしいから気ぃ付けろよ」

 

「……は、はい」

 

暴れまわっていた光が一瞬にして力をなくした。

まるで殺虫剤を浴びせられた羽虫のようにころりと元気がなくなった。

……これは少しまずったかな?

 

「そ、そうだ!!

今度一緒に飲もう!!

エリカとか纏とかみんな誘って---」

 

「要石「天地開闢プレス」!!」

 

突如空から降ってきた声と同時に上空で想子が膨れ上がった。

魔法を使用してバイクの勢いを殺し後輪を滑らせ一気に止まる。

俺達の目の前に大岩が落ちてきた。

数センチずれていたら潰されていたかもしれない。

 

比那名居天子(ひななゐてんし)……!!

また面倒な者が……」

 

「面倒とは失礼ね。

紅魔館のメイドの癖に。

まあ、あなたのことはどうでもいいの」

 

岩の上から帽子を被った青い髪の少女が現れた

どうやらこの少女と優輝は知り合いのようだ。

 

「そこのあなた!!」

 

「俺?」

 

「そう、あなたよ!!

私と勝負なさい!!」

 

「はあ?!」

 

威圧感が一ミリたりともないと言っても差し支えのない程可愛らしい宣戦布告をされた俺は大いに困った。

それを表情には出していないものの内心大いに困っていた。

 

「悪いんだが……ひなないさん……だっけ?

俺は山の上に居る奴らを助けに行かにゃならんのよ。

悪いが君の御要望には答えられないな」

 

「ははーん?

私に負けるのが怖いの?」

 

「へ?」

 

「外の世界の人間は女は男よりも弱いと決めつけているって聞いたことがあるわ。

そんな風にあなたを育てた親の顔が見てみたいわね」

 

「あなたいい加減に……!!」

 

今にも怒り出しそうな優輝の前に腕を出し強引に宥める。

 

「百合兄さ---」

 

「優輝。

悪いが先に行ってくれ」

 

「……はい。

百合兄さん、御武運を」

 

「あ、そうだ。

優輝、これを」

 

走り出そうとした優輝にジャケットのポケットある物を取り出し放り投げた。

 

「懐中時計?」

 

「ただの時計じゃあないぞ。

それ自体がお前の魔法をサポートしてくれる。

叔父上謹製の逸品だ」

 

「ありがとうございます」

 

優輝は小さく頷きそう呟くと山の方向へと走っていった。

優輝の姿が見えなくなると俺は手に持った拳銃の銃口を目の前の帽子を被った少女-比那名居天子に向ける。

 

「俺の悪口を言うのは一向に構わねぇ。

だがな、この場に居ない人間、ましてや死人の悪口を言うのは流石に駄目だよなぁ?」

 

明らかに喧嘩腰の口調。

しかし俺の頭の中は酷く冷め切っていた。

寧ろ醒めきったと言った方が良いのかもしれない。

 

「まあ、俺もそこまで暇人じゃあない。

だから速攻決めさせてもらう」

 

続けざまに二回引き金を引く。

二発とも帽子の少女の顔目掛けて飛んでいく。

しかしそれは彼女の顔に穴を穿つ事はなく、どこからともなく取り出した緋色の刀身を持つ刀に切り裂かれた。

 

「この弾丸はどうだぁぁぁぁああああ!!」

 

移動系統魔法を用いた擬似瞬間移動で相手の後方へと回り込み銃口を肩に密着させ引き金を引く。

 

ドムッ

 

弾丸は確実に当たった。

しかし彼女から血が吹き出す事はなく、何故かよく分からない鈍い音がなった。

 

「痛いじゃないのぉ~!!」

 

涙目の少女は振り向き様にその手に持った剣を振り抜いた。

空中に作った想子の足場を蹴ることで難なく回避したがそれ以上に驚くことがあった。

先程撃った弾丸は彼女の肩に少しめり込んだ状態で回転を保っていたのだ。

 

「おいおい……レベルⅢのボディアーマー撃ち抜く弾を魔法も無しに防ぐかよ……」

 

今この銃に込められている弾はSS190+P。

SS190はそれこそ百年前に作られた弾だが、その貫通性能は最新式の弾薬に劣らない。

しかもこの弾の火薬は通常よりも高い圧力を発揮する強装弾で、七.六二ミリ弾をも防ぐレベルⅢのボディアーマーを軽々と撃ち抜く貫通力を持つ。

ただ、弾自体の威力は小口径弾であるがために低く、ストッピングパワーに欠けるという弱点もあるが、装弾数が、そこそこあるこれには大した問題ではない。

その弾を魔法の行使も無しに防ぐとかこの人が人間かどうかを疑うレベルである。

 

「何その鉄の塊!!

スッゴく痛かったじゃないの!!」

 

「普通痛いで済む代物じゃあないんだけどなぁ」

 

単純な挑発で受けてしまった事で始まったこの戦い。

非常に面倒な物になること未来が今垣間見えた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

しばらく走り続けると妖怪の山の中腹に着いた。

多分この辺りは五合目だろう。

 

「酷い有り様ね……」

 

そこに広がっていた光景は血を流して倒れている天狗と人間達を見て私は呟いた。

天狗達は気を失ってはいるもののの命に別状はない。

しかし倒れている人間は大半が絶命しており、息のある者も想子の減少が著しく助かる見込みは無かった。

 

とぅおるるるるるるるるんとぅおるるるるるるるるん

 

そんな中、明らかに場違いな着信音がメイド服のポケットから鳴り響く。

 

「はい、こちら十六夜咲夜」

 

「出た!!

……良かったぁ咲夜が無事で」

 

「出たって何よ?

お化けでも見たような口振りで。

それに本物のお化けはあなたの方でしょう妖夢」

 

「あはは、仰る通りで」

 

電話の相手-魂魄妖夢は可愛らしくも乾いた笑い声を上げる。

電話口からBGM代わりに三人の女性の声が聞こえてきた。 一人は「野郎ぶっ殺してやぁぁぁぁああある!!」と叫び、一人はその声の主を「お、落ち着いてください!!椛さん起きちゃいますから!!」と宥め、もう一人は「これはいい記事が書けそうです!!もっとやれー!!」と最初の少女を煽っていた。

 

「あなた今どこに居るの?

随分と賑やかだけど」

 

「永遠亭です。

怪我をしていた椛を運んで来たんです。

一緒に居るのは文に妹紅、あと外の世界から来た天之纏さん」

 

「纏がそこに居るの?

すぐに代わって」

 

犬走椛-この山の警備を担当する白狼天狗の一人だ。

彼女が傷を負った理由はこの惨状を見れば余程の馬鹿でもない限り理解できる。

生憎、私はその馬鹿にカテゴライズされる人種では無いためそこには触れなかった。

ただ、そんな事以上に私の知っている名前が出たことに驚き、彼女と代わるように妖夢に頼んだ。

 

「知り合いなの?」

 

「外に居た頃のね」

 

何か聞きたそうな妖夢に一言で返答する。

電話口からゴソゴソと音が鳴る。

どうやら電話の主が変わったようだ。

 

「お電話代わりました。

天之纏です」

 

「久し振りね纏。

優輝よ」

 

「優輝さん?!

良かったぁ……やはりこちらにいたんですね」

 

「まあね。

やはりっていざなから聞いたの?」

 

「はい。

姉さんから優輝さんと一緒だから心配無用だと」

 

「そう。

ところでそちらはどう?」

 

「はい。

此方では大亜連合製と思しきアサルトライフルで武装した人間に襲われました。

使用弾薬は七.六二×五十一ミリNATO弾。

銃の形状や構造を考慮するとFN社のFN FALの改造モデルと思われます」

 

「もうそこまでわかっているの?

流石ね」

 

「勿論です。

プロですから」

 

端末を頭と肩に挟み横たわっている男が抱えていた小銃とその男の懐にあったマガジンを手に取りそう言った。

私はあまり銃に詳しい人間ではないがこれを見ただけでそう答えられるのは持ち前の洞察力と記憶力があってこその物だろう。

 

「ただ、一つ気になる点がありまして」

 

「気になる点?」

 

「マガジンに残っていた弾丸に刻印型術式のような物が刻印されているんです」

 

纏が実物をその場で見ているような口振りでそう言った。

私もマガジンから弾を一つ取り出し、それを見る。

確かに弾頭の部分に幾何学的な模様が彫られていた。

この術式が体内で発動する事により妖怪達の力が著しく弱っているのかもしれない。

そして多分この術式は対象が死ぬまで解除される事はなく、使用者の想子を食らうのだろう。

それの所為でこの辺りの人間は息絶えた、私はそう解釈した。

 

「所で優輝さんは今どちらに?」

 

「妖怪の山よ」

 

「妖怪の山……ってそこは敵---」

 

「心配無用よ。

今日の私は押せ押せモードだから。

じゃあ、切るわね」

 

「え……ってあっ!!

ちょっ---」

 

通話終了のボタンを押して端末をポケットに放り込んだ。

そして私は走り出す。

比那名居天子が起こした異変の時は殆ど観光程度に登ったこの山だが今回の話は別。

この先から魔法の気配する事から多分防衛線を抜けた敵は守矢(もりや)神社へと侵攻しているのだろう。

山頂に近付けば近付くほどに銃声が近くなってくる。

そして神社の前に辿り着くと銃弾を撃つ男達の姿と神社の前に立ちはだかる緑色の髪の少女が居た。

 

「スペルカード……

幻葬「夜霧の幻影殺人鬼」」

 

手元に現れた花札のようなカードを握り潰す。

すると自分の周りの世界がピタリと動きを止めた。

舞い上がる砂埃も、少女に向かって飛んでいく弾丸も、発射の際に排夾口から飛び出す薬莢も、全てが動きを止めた。

私の使用する魔法の名前は「法を外れし者(Outer of low)」(百合兄さん命名)。

BS魔法に分類されるそれは「時間を操る程度の能力」を有する。

ここに住む人間は皆何らかのBS魔法を使用でき、この世界で生活している人間が作り出す「スペルカード」はその能力の具体的な作用を記憶する能力を持つ。

と、私は考えている。

実際のところスペルカードは今の博霊の巫女である霊夢が殺し合いを遊びに変えるために作ったシステムらしいがシステムを作った本人にもスペルカードの原理は謎でありそれを体系化した八雲紫(やくもゆかり)もなかなか口を割らない。

紅魔館に住むパチュリー様や魔法の森に住むアリスは外の調査に行った際に「幻想郷と外の世界では漂う情報体の性質が違う為にスペルカードを生成出来るのではなかろうか」との事だがその証明にまで至っていない。

私も外から此方に来て直ぐには使えなかったが数週間後に起きた(正確には起こした)紅霧異変の際には気付いたら使えていた。

……閑話休題。

スペルカード(これ)で止めれる時間は数秒。

私は体の至る所に隠し持っていたナイフを空中で有りっ丈を投げつける。

そしてそのナイフ達は数メートル進まない内に動きを止めた。

 

「遊んでる暇は無いの」

 

ナイフを投げ終え指を鳴らすと止まっていた世界が動き始めた。

砂埃は舞い上がり、小銃から放たれた弾は少女へと飛んでいき、薬莢は地面に落ち、宙に浮いていたナイフは男達に降り注いだ(・・・・・・・・)

訳がわからないまま体を次々とナイフに穿たれる男達。

そして刺し傷や切り傷から血が吹き出し力無く倒れた。

 

「あなた達の時間も私の物」

 

私は紅魔館のメイド長「十六夜咲夜」。

私の役目は「お嬢様方の日常を損なう可能性のある者の排除」。

それだけである。




今回はホントのプロフコーナーはお休みです。
ゆっくり実況始めました。
投稿者ページのURLからどうぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二十五射 すり抜けた刃の先に

しばらくはこのペースでの投稿となりますが、なにとぞよろしくお願いします。


「大丈夫?」

 

「はい、何とか」

 

敵が地に伏すや否や神社の前に立ちはだかっていた少女-東風谷早苗(こちやさなえ)は糸の切れた操り人形の様に崩れ落ちた。

 

「立てる?」

 

「……肩を貸して貰っても良いですか?」

 

「ええ、勿論よ」

 

足を広げてぺたんと地面に腰を下ろしている-所謂女の子座りをしている早苗の手を取り肩に掛ける。

彼女はこの守矢神社の風祝(かぜはふり)(巫女のようなもの)でありこの神社に居る二人の神「八坂神奈子」と「洩矢諏訪子」に仕えている。

多分早苗は二人が逃げる時間を稼ぐためにここで敵を足止めしていたのだろう。

 

「「早苗!!」」

 

しかしその頑張りも虚しく二柱の神は本堂から走って来る。

 

「神奈子様、諏訪子様?!

お逃げになってくださいと申し上げたじゃないですか!!」

 

「お前を置いて私達だけ逃げるなんて事は出来ないよ」

 

「そうだよ!!

逃げるのならみんな一緒だよ!!」

 

二柱の神は早苗に寄り添って怒るようにも語りかけるようにも捉えられるような口調でそう言った。

 

「ありがとう十六夜咲夜。

お前が来なかったら早苗はダメだったかもしれない」

 

「偶然この辺りを通りすがっただけよ。

まだ残党が残っているかもしれないから三人とも中へ」

 

「本当にご迷惑をお掛けしてすみません咲夜さん」

 

「いいのよ」

 

そう言うと三人は守矢神社の本堂へと入っていった。

それを見送ると私は血に塗れた死体へと歩みを進める。

 

「やはり、あれ(・・)の影響を受けていたのね」

 

遺体の額を見つめながら私は小さく呟いた。

辺りにばらまかれたナイフを一本ずつ集めながら私は他の男達の額を見やる。

最初の男と一様に額に角のような尖ったこぶを見つけた。

全員「茨木の百薬枡」の影響を受けていたのだ。

これなら天狗達があの様な惨状に見舞われたのも納得がいく。

 

「さて……天狗達を永遠亭(あそこ)に運びましょうか」

 

私はそう言って来た道へと引き返す。

私が守矢神社の境内を去ると遺体達は一瞬にして朽ち果て消え去った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「やぁあっ!!」

 

大上段から振り下ろされた緋色の刃を俺は最小限の体の捻りのみで避ける。

 

「ふっ!!」

 

続く切り上げも避け、

 

「たぁっ!!」

 

横薙ぎの一閃も後方に向けて移動術式を使うことにより難なく避けれた。

 

「どうした、その程度か?」

 

筋は悪くは無いんだが無駄があるなと俺は思った。

思わず声に出てしまった期待の籠もったそれはどうやら天子には挑発に聞こえたようだ。

 

「むきぃーっ!!

まだ本気出してないだけよ!!

スペルカード、気性「勇気凛々の剣」!!」

 

俺の挑発(意図していない)に意図も容易く乗っかった天子はガラスが割れた様な音と共に剣を振り下ろした。

するとその剣の軌跡から大小様々な緋色の弾が飛んでくる。

 

「うおっ?!」

 

咄嗟に「黎明のクェーサー」を起動し数発弾を放ち撃ち消したものの撃ち漏らしが此方に飛んでくる。

 

「とうっ!!」

 

「わっぷっ?!」

 

それを横っ飛びに避けるが弾幕の中から現れた天子に斬撃を見舞われる。

ゴロゴロと転がされる俺の体。

幸い咄嗟に発動した加速術式のお陰様で腹部の服が斬り裂かれ腹の一部がその剣の切っ先に触れて皮膚が裂かれていたが致命傷ではなかった。

しかし、体が非常に重い。

まるで体から精気を奪われたような、そんな感覚だ。

 

「やっと当たった。

どう?

「非想の剣」の味は?」

 

「……なんか元気なくすような味だな」

 

冗談を抜かしながらおぼつかない足取りで俺は立ち上がる。

そして、

 

「コォォォォォオオオオ」

 

息を吸い込んだ(・・・・・・・)

かつて俺の母、十六夜美奈が俺にやって見せたのを見様見真似で真似たのだ。

 

「なんで……なんで今し方奪ったばかりの気質がそんな高速で(・・・・・・)回復しているのよ?!」

 

「息を吸い込む」、ただそれだけの事なのに体の奥底から力が湧き出るような感覚を覚えた。

 

「今度は俺のターンだ!!」

 

右の人差し指と中指だけを立てる。

その二本の指の隙間には硝子のように透き通ったカードの様なものが現れる。

 

「スペルカード……魔筒(まどう)---」

 

無意識のうちに紡がれる言葉と同時にそのカードの様なものに百合の花が現れた。

それを真上に投げあげ、

 

「---「Star grows」」

 

拳銃で撃ち抜いた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「おぉぉお!!」

 

「くっ!!」

 

ガキンと甲高い金属音が森に響き渡った。

桐原先輩と遭遇してから数分、私達はお互いに攻めきれずにいた。

あたしとしては桐原先輩を昏倒させるのが目的で今すぐにでも距離を取って大技を使いたい所だが、高周波ブレードの使い手である彼としては間合いを開けさせたくないらしく、思うような展開に持ち込めなかった。

 

「どうしたぁ?!

剣の魔法師つってもその程度かよ!!」

 

「くぅっ……!!

るっさい!!」

 

あたしは鍔迫り合いの状態になった刀から一瞬だけ力を抜いた。

そして刀を操り桐原先輩の刀を流した。

数瞬ではあるが隙を作ることが出来た。

 

「ぐっ!!」

 

その数瞬で桐原先輩の背中に蹴りを入れその反動を使って移動魔法を行使、五メートル程度間合いを開ける。

そして続けざまに別の魔法を発動。

今度は一気に間合いを詰める。

 

「やぁぁぁぁあああああああっ!!」

 

バキィン

 

「ぐあぁっ?!」

 

そして大上段で構えた警棒を桐原先輩に向かって叩きつける。

桐原先輩はその手に持った刀を水平に構えるが魔法で硬化されていてもそれはいとも簡単に砕け散りそれを砕いた警棒は先輩の右肩へと吸い込まれていった。

 

「くっそぉ……何だよ今のは……」

 

「いくら桐原先輩と言えども教えるわけにはいきません」

 

今の技は千刃流の秘剣にあたる「山津波」という魔法だ。

術者と剣にかかる慣性をごく小さいものに改変し、剣がインパクトする瞬間にその改変した慣性力を上乗せし、それを加速度と共に対象に叩きつける魔法だ。

本来はこれの発動に適した得物を使うのだが……よく警棒(これ)が壊れなくて済んだなぁと思った。

 

「千葉、一つだけ頼みがある」

 

「何ですか?」

 

「壬生の事を……頼む」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

何度目かわからない地震が私-アリス・マーガトロイドの体を震わせる。

それと同時に辺りに生えている木々が私目掛けて倒れてくる。

地震で地盤を緩め、木の根を切り落とし、木が倒れる軌道を操作する。

あの一瞬でかなり複雑な処理を行っている辺り流石と言わない訳にはいかないが……

 

「都会派魔法使いとしては自分の力量に見合った魔力運用をお勧めするわ」

 

倒れてくる木々を上海達に木っ端微塵に吹き飛ばさせる。

 

「くっ……これなら、どうよ!!」

 

先程よりも更に大きな地震が私の体を揺らす。

そして私の足は三度、液状化した地面に飲み込まれる。

そして次に倒れてくる木の本数は……

 

「十本……?!」

 

大体戦いが始まってから三十分程経ち、先程からオーバーペース気味の彼女がまさかここまでしてくるとは思わなかった。

つまり文字通り彼女の命を懸けた全力というわけだ。

それなら……

 

「スペルカード……

試験中「レベルティターニア」!!」

 

硝子の割れた音と共に私が従えていた上海達が巨大化し、私と同じくらいの大きさに変化する。

その手に持っていた剣を、槍を用いて降りかかる大木を切り捨て、突き飛ばした。

 

「もうやめなさい!!」

 

何が彼女にここまでさせるのかはわからなかった。

でも、彼女を止めなければきっと悲しむ人が居るだろう。

彼女の家族、友達、そして恋人。

そんな事を考えながら私は人形達を操り彼女の首筋に槍の切っ先と剣の刃をあてがった。

 

「あなたの負けよ。

大人しく降伏なさい」

 

「私の……負け……」

 

少女は小さくそう呟くと力無く正面に向かって倒れ込む。

 

「ごめんね……(けい)……」

 

「危な---」

 

震えた声で、自らの弱さを悔やみながら……

 

「何やってんだよ、千代田ぁ!!」

 

しかしその行動は横合いから走ってきた男によって阻まれた。

男は千代田花音を突き飛ばし、上海達の刃から彼女を守ったのだ。

 

「いやぁ危なかったぁ……

アリスも桐原先輩もありがとね」

 

そう言って森の奥から現れたのは茶髪の少女-千葉エリカだった。

 

「くそっ……何で怪我人の俺がこんな事……」

 

「そっちの方が格好いいじゃん」

 

「ねぇエリカ、彼は?」

 

「ああ、この人はあたしの先輩の桐原先輩。

訳あってあいつらに協力してたんだって」

 

「ああ、俺の……その、友達がな……奴らの人質に取られちまってな……

本当にすまねぇ!!

アンタ達に刃を向けたことは謝る!!」

 

「良いわよ別に。

守りたいものの為に仲間にまで刃を向けられるということは相当な意思の持ち主ね。

凄いことよ」

 

「蛍ぃ……蛍ぃぃ……」

 

視界の端では今度は花音が誰かの名前を呼びながら泣いていた。

 

「どうしたの?」

 

「コイツは恋人を人質に取られたんだ。

解放条件はあの白黒の魔法師とアンタ、そして千葉の殺害だ」

 

「だからあたし達を狙ってきたのね。

納得納得。

まあ、一応桐原先輩の話だとさーやと蛍先輩は星達が最初に先輩達を見た無縁塚……だっけ?

そこに居るらしい」

 

「助けて!!

あなたくらい強ければアイツを倒せるはずよ!!

だから……蛍を……」

 

どうやら蛍と言うのが彼女の恋人の名前らしい。

藁に縋るような思いで声を張り上げながら花音は私のスカートを掴んで懇願する。

 

「このことは誰かに言ったの?」

 

「一応あたしの連れ二人と魔理沙には連絡したよ。

連れは片っぽしか出てくん無かったけど」

 

つまらなそうな表情で私の問い掛けに答えたエリカ。

それを聞いて思わず表情が綻んだ。

 

「そう。

なら魔理沙の家に戻りましょうか」

 

「大丈夫なの?

魔理沙一人に任せて」

 

「大丈夫よ。

あなたの友達も呼んであるのでしょう?」

 

「まあそうだけどさ……」

 

「魔理沙一人で大丈夫よ。

寧ろ頭突っ込んだらこっちまで怪我を負いかねないわ」

 

渋々と言った表情で頷くエリカ。

桐原と花音も友人を救いに行く手助けができないのを悔やんでいた。

 

「魔理沙なら必ずやってくれるわ。

だって、幾度となく幻想郷の異変を解決してきたのだもの。

今回も大丈夫よ」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ぶえっくし!!」

 

突如として出てしまったくしゃみ。

むず痒い鼻の下を少し擦りながら私-霧雨魔理沙は自分の体調に異常が無いことを確認した。

 

「誰かが私の噂でもしてんのかな?」

 

誰が答えるわけでもない質問を呟きエリカに示された敵の本拠地へと進んでいく。

 

「っ?!」

 

その時、空気が震え、それに伴い莫大な量の魔力が放出されるのを知覚した。

それの発生源である妖怪の山の方向に目を向けると光の柱が天に向かって伸びていた。

数秒もしないうちにその柱は消えた。

 

「今のは誰がやったんだ?」

 

幽香……いや、今日は確か家でハーブティー作りの準備をすると言っていたからそれはないだろう。

それなら誰があんな強力なものを……?

 

「ターゲットの白黒だ!!

撃て!!」

 

「うぉっ?!」

 

突如聞こえてきた声と銃声に思わず声を発してしまう。

飛んでくる弾丸をバレルロール(パチュリーの図書館にあった本の飛行技術)を駆使して回避する。

 

「お前らのちゃちな弾幕に構ってる予定はないぜ!!

星符「メテオニックシャワー」!!」

 

こういう時も慌てず焦らずと誰かに言われた気がしたのを思い出し、冷静に手元に現れた花札のようなカードを投げ上げ横凪に叩き壊す。

すると私の背後から黄色い星のような形の光が男達に降り注ぐ。

降り注ぐ星々は次々と男達の意識を刈り取っていく。

そして視線の先---無縁塚の近くの小屋の扉の前には男が一人立っていた。

第一印象は少し気持ちの悪い感じの奴だと思った。

別に顔が際立って悪いという訳でもなく、滅茶苦茶太っていたり痩せていたりする訳でもない。

寧ろそういう意味では結構整っていると言えよう。

ただ、その顔に張り付いたどことなく狂気を宿したその表情、それに対しては悪い印象しか覚えなかった。

 

「おや?

あなたがここに来たという事はお二人は任務を失敗なされた様ですね」

 

「そう、お前らの企みは私の仲間が潰したぜ!!

そしてお前のやってる悪事については調べさせて貰った!!

さあ、その小屋に捕らわれてる二人を返して貰おうか!!

おっと、抵抗してくれてもいいんだぜ?」

 

腰の辺りにぶら下げたホルスターから掌サイズの八角形の厚い板を取り出す。

 

「力付くは大好きだからな」

 

「そうですか……

霧雨魔理沙、あなたも惜しいことをする」

 

「どういう事だ?」

 

「決まっているじゃあないですか。

あなたの様な優秀な魔法師を殺してしまうことはとても惜しいことだと言ったのです」

 

「……お前、名前は?」

 

「狭間……狭間巳弦(はざまみつる)

 

男は三日月のように口を歪ませ言葉を紡ぐ。

それと同時に目の前の男-狭間の纏う狂気はより濃密なものへと変化した。




「ホントのプロフ」コーナーは不定期のコーナーにしました(独断)
ゆっくり実況始めました。
投稿者ページのURLからどうぞ。
次回もお楽しみに!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。