英雄はやり直す (女騎士)
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1話

オラリオに着いたベルは現在、門番に服を捲られ背中を確認されていた。

 

「・・よし、ありがとう。少年」

 

何処かのファミリアに入っていないか確認した門番はベルに礼を言い、都市内部に入れる手形を発行した。

礼を述べながら手形を受け取ったベルは辺りを見渡しながら、アイズと会う為に何度も行ったロキ・ファミリアの拠点がある方向へと向かった。

10分ほど歩くとロキ・ファミリアの拠点である「黄昏の館」が見えてきた。

自然と足早になるベル。

「アイズに会える!アイズに会える!」と叫びたくなる気持ちをグッと抑えて、更に足早になるベル。

そうして、黄昏の館の前まで走ったベルは来訪者に応対する為に立っている冒険者に話しかけた。

 

「すみません」

「ん?どうしたの?」

「ロキ・ファミリアに入れさせて頂きたいんですけど」

「入団希望者ね、分かったわ。ねぇ!ちょっと、私離れるからお願いね」

「はい!」

 

ベルの話を聞き、黒に近い瑠璃の色をした髪を持つ猫人は同じく門番をしていた冒険者に仕事を預け、館の中へと入っていった。

沈黙が流れる事数分。

館から出てきた猫人に館内に入る事を許可されたベルは猫人の後ろをついて歩き一つの部屋へと通された。

すると、そこには朱髪に糸目という特徴的な容姿を持った人がいた。

 

(ロキ様...)

「・・どうしたの?」

 

アイズと結婚した時に泣きながら祝ってくれた思い出深い神を見て懐かしさを覚えて立ち止まってしまっていたベルに問いかける猫人。

「しまった」と思いつつ、「何でもないです。すみません」と謝ったベルはロキが座るソファの対面にあるソファに腰掛けた。

 

「失礼します」

「ん。少年がウチのとこに入りたいって来た子か」

「はい、ベル...ベル・クラネルです」

「ベル...ベルたんやな」

「たん...?」

 

そういえば、よくアイズに「アイズたん」って言ってたなとベルが思い返していると、溜息を吐いた猫人の女性が話を進める様に促す。

 

「ほら、ロキ。ベル君が困ってるから早く進めて」

「分かっとるて。そうせかすなや、アキ」

 

話を進める様促す「アキ」という名前の猫人に適当に返したロキはベルにいくつか質問して、現在不在である団長が帰ってくるまで待つ様に求めた。

 

「すまんな、ベルたん。ウチはいいと思うんやけど、ファミリアの入団はウチだけの判断で決めたらあかんねん。多分一週間くらいしたら帰ってくると思うし、この館内で待ってて貰えへんか?」

「え、良いんですか?まだファミリアにも入ってない僕なんかが寝泊まりさせて貰っても」

「構へん構へん。ウチに入りたいって子が来てくれてるのに団長がおらへんって理由でどこかの宿に泊めさせるのも気がひけるし」

「分かりました、ありがとうございます」

 

ロキの厚意に甘える事にしたベルはアキに空いていた部屋に案内された。

 

「ありがとうございました」

「うん。じゃあ、私、仕事に戻るから分からない事あったらロキに聞いてね。あ、それと、ウチは出来るだけ、3食は皆で摂るようにしてるから、後で呼びに来るわね」

「はい、分かりました」

 

「じゃ」と述べて手を振った後、仕事に戻って行ったアキに頭を下げて見送ったベルは「夕ご飯まで何をしようか」と考えた結果、寝る事にした。

靴を脱ぎ、寝台に上がったベルは「ふわぁ」と欠伸をした後、目を瞑った。すると、数分も経たない内にベルの寝息が静かな部屋で反響し始めた。

 

 



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2話

ベルが黄昏の館に泊めてもらった翌日、ベルはロキの部屋の前へと来ていた。

コンコンと扉をノックし、自身の名前を名乗ると入室の許可が降りたのでベルは扉を開けた。ロキにソファに座る様促されたベルは言葉に従い、ソファへ腰掛けた。

 

「んで、どうしたんやベルたん?」

 

「よっこいせ」とベルの対面にあるソファに腰掛けたロキに問われたベルは、自身がこの部屋に来た目的を述べる。

 

「ロキ様、ファミリアに入れていない僕にも炊事や洗濯、掃除等の雑用をやらせては頂けないでしょうか?」

「え、やって貰えんの?」

「はい、させて下さい!」

 

ベルの話を聞いたロキが逆に聞き返すと、ベルはニコッと笑みを浮かべて頷いた。

 

「自分、滅茶ええ子やな!・・ほな、調理から頼んで良い?」

「はい!」

 

ベルの笑みを見て、「萌えー!!」と叫びそうになるロキだったが、アキ等、子ども達に怒られる為、グッと堪えた。

そして、ベルの厚意に甘えたロキはベルを厨房へ連れて行き、そこにいた本日の調理担当にベルを此処に連れてきた経緯を伝えて、自室へと戻って行った。

 

「ありがとうね、ベル君」

「いえいえ!皆さんが出来る事をして黄昏の館を守っているのに、自分だけ何もしない訳にはいきませんので。こちらこそお礼を言わせて下さい」

 

昨日の夕飯の際にロキが間に入り、ファミリアに所属する冒険者達と交流し、ロキに手助けして貰いながら、全員とある程度仲良くなったベルは本日の調理担当の女性2人と男性1人に礼を述べられる。

すると、ベルはその礼に照れつつ、自身の考えを話した。

ベルの考えを聞いた調理担当の3人は一同に「この子、凄く良い子なんだな」と思った。

ベルの考えを聞き、感心した3人はひとまず、野菜についている泥を流して貰う事と泥を流した野菜の皮むきを頼んだ。

野菜を綺麗にすることと皮むきを頼まれたベルは支給されたエプロンを着用した後、3人が目を見張る速度で仕事をこなし始めた。

 

「す、凄い...」

「凄く慣れてるじゃん...」

「・・・」

 

ベルの姿を見て三者三様の反応を見せる調理担当の者達。

すると、3人が驚いてる間にどんどん仕事が終わっていき、3人が其々、仕事を再開し始めた時には、ベルは頼まれた仕事を終わらせていた。

 

「終わりました!」

 

元気よく3人に声を掛けるベルに「もっと仕事をして貰っても良いのでは?」と考えた3人は其々、やって貰いたい事を頼んだ。

 

「いやー、本当にありがとう。ベル君」

 

作った料理を皿に盛り付け、長テーブルの上に運び終えた調理担当とベル。

食材の切れ端や塩、胡椒といった調味料がこぼれている調理台を綺麗にしていた調理担当の1人が声を掛けると、他の2人も片付けをしつつ其々、ベルに礼を述べた。

3人に「先に休憩してて」と頼まれ、長テーブル横の椅子に座って水を飲んでいたベルは「いえいえ」と応えた。

 

「・・それにしても、凄い量ですね?」

 

目の前にある料理達を見て、感想を述べていると「アハハ」と苦笑いした調理担当の1人が応えた。

 

「ウチは団員多いからねー。まぁ、交代制だからしょうがないんだけどね」

 

苦笑いする調理担当の応えを聞いて、「そういえば、同盟組んでた時に何度か黄昏の館でご馳走になったけどあの時も凄い量だった様な...。調理してくれた方々、あの時はありがとうございました!」と礼を念じるベルだった。

調理を終え、少し休憩をしたベルは調理担当の1人に着いてきてほしい場所があると言われ、着いて行った。

廊下を歩き、階段を登る。そして、また廊下を歩き、階段を登る。自分の前を歩く調理担当の後ろをついて行く形で歩く事数分。

一つの扉の前に着いたベルと調理担当の1人。

 

「ここではご飯が出来次第、この部屋にある鐘を鳴らす決まりになっているんだ」

 

扉を開けて、部屋の中に入った調理担当は「こんな風にね」と呟きつつ、鐘のそばに置いてある撞木を手に取って鳴らした。

雨や雪以外は常に窓を開けている状態の部屋である為、鐘の音が反響して館中に広がっていく。

 

「よしっと。・・もし、ベルが入団する形になったら鳴らしてきて欲しいと頼む事があるかもしれないから覚えておいてくれたら嬉しい」

 

ニコッと微笑む調理担当に「はい!」と元気よく返答したベルは鐘の音に耳を傾けながら、先程料理を並べた食堂へと向かった。

食堂に向かう道中で他の団員達と会ったベルが共に食堂へ入ると、既に多数の団員とロキが席に座っていた。

 

「お、ベル。鐘鳴らす事と場所教えて貰ったんか?」

「はい。って、ロキ様、お早いですね⁉︎」

「勿の論やで!ベルたんがご飯作るの手伝っとるって皆んなに喋ったら皆、食べたい!って言うて鐘が鳴った瞬間、すぐ来たんや」

「そ、それはありがとうございます。精一杯頑張って作らせて頂いた料理が幾つかあるのでご賞味ください」

 

ロキの話に照れつつ、頑張って料理を作った事をベルが伝えると、ロキは笑みを浮かべて、ベルの話を聞いていた団員達に声をかけた。

 

「よっしゃ。皆、食べるで!」

 

ロキの音頭で目の前にある料理に手をつけたロキと複数の団員達は驚く。

 

「うっま...」

「え、何これ...」

「美味しすぎる」

 

偶々、ベルが作った料理を最初に口に運んだ団員達が驚く中、ベルの隣に座っていたロキがベルに口早に捲し立てる。

 

「美味っ!美味すぎるで、ベルたん!何で、こんな美味いの⁉︎なぁ何で⁉︎って痛っ!何すんねん、アキ!」

「ベルが固まってるから離れなさい」

「えー、いいやん...すみません」

 

アキにジロリと睨まれて謝るロキ。

そんなロキを視界の端にやりながらベルが作った料理に舌鼓を打つ、団員達だった。



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3話

2話少し、話を思いついたので書き足しました。
3人の方から高評価頂けて心ぴょんぴょんしてる作者です。



ロキに頼みこみ、黄昏の館での炊事、洗濯、掃除をさせて貰える様になって4日が経った頃だった。

黄昏の館にいる団員の皆と共に朝食を摂っていたベルにロキは近寄り、話しかけた。

 

「ベルたん」

「・・はい」

 

食事している真っ最中だった為、口の中にある食べ物を飲み込んでから返事したベルに「礼儀がちゃんとなっとるな」と思ったロキは笑みを浮かべた。

 

「今日の昼くらいに多分、遠征に出かけてる子らが帰ってくると思うから...」

「本当ですか⁉︎」

 

ガタッ!と座っていた椅子を倒す勢いで立ち上がり、ロキの方へ顔を近づけるベル。

そんなベルに驚くロキ。

 

「お、おう。やから、今日の昼は自分の部屋でゆっくりしとってな。あ、ウチが呼びに行くさかいにな」

「分かりました!ありがとうございます」

 

ベルのテンションの変わり様に驚いたロキだったが、ベルの返事に「ん」と返したロキはヒラヒラと手を振りつつ「ほなな〜」と去っていった。

食堂から出てくるロキを見送った後、椅子に座り直したベルは「フフッ!」と近くに座っていた団員が天使かと錯覚する程の可愛らしい笑みを浮かべながらロキが来るまで食べていたカレーを再度、右手に持ったスプーンで掬って口に持っていった。

因みに、団員達がベルの笑顔を見て「天使かな?」と錯覚している時、ベル本人は心の中で「やっと、アイズに会える!アイズに会える!」と叫んでいた。

食事を終え、食器を片付けたベルは足早に自室へと戻り、ベッドに腰掛けた。そうして、アイズの可愛らしい笑顔や寝顔、ふとした時に見る事が出来るカッコいい顔などなどデートしていた時や夫婦となり一緒の家に住んでいた時に見る事が出来た顔を思い出して笑みを浮かべているベルだったが、一つ、重要や事を思い出して一瞬にして顔つきが変わった。

そして、洗面台の上にある鏡の前に駆け寄った。

 

「ど、どうしよ...」

 

自分の顔を見て焦りだすベル。

 

(ヤバいヤバいヤバい...!初対面なのにこんな笑み浮かべてたらどう考えても不審者だ!どうにかして、普段の顔に戻さないと)

 

自分と同じ様な状態ではなく初対面の相手として自分と接してくる筈のアイズに今浮かべていた笑みを浮かべたら怖がられて、嫌われてしまうかもしれない。それは嫌だ。絶対嫌だ。そんな感情を抱いたベルは慌てて、アイズを見ても普段通りの顔でいれる様に努力をし始めた。

顔に手をやりこねくり回す事1時間と少し。

どうにかアイズと会っても普段通りの顔でいられる様になったベルは、ベッドに寝転がり、ロキが呼びに来るのを待った。



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4話

ベルがベッドに寝転がり1時間ほどが経過した頃、扉がノックされた。

 

「ベルたん、皆帰ってきたで」

「ッ!はい、今行きます!」

 

慌てて扉の方へと向かい、部屋から出たベルがロキの後をついて行くと、一つの扉の前で立ち止まる。

 

「フィン、連れてきたで〜!」

 

扉を開けて部屋の中へ入るロキに続き、ベルも部屋に入ると、服の上からでも分かる程、鍛え抜かれた筋骨隆々の体躯を持つドワーフ。何かの効果を齎してくれる事が予想される宝玉の様な物が埋め込まれた錫杖を持つ美人なエルフ。そして、そんな2人と話をしている少年の様な体躯を持つ金髪の人間。

 

(ガレスさん、リヴェリアさん、・・フィンさん...)

 

以前、「英雄」というあだ名を神々からつけられていた際に、すごくお世話になったロキ・ファミリアの最古参の3人。

ロキとベルが部屋に入ってきた事により、談笑を止めた3人と3人の姿を見て固まってしまうベル。

そんなベルを見て、自分達3人を見て緊張していると考えたフィンは笑みを浮かべて、優しくベルに語りかけた。

 

「君が、先程ロキが話していたウチに入りたいって言っていた子かい?」

「は、はい。ベル・クラネルです。遠征の帰りでお疲れのところ面接の時間を作って頂き、本当にありがとうございます」

 

決死の覚悟でゴライアスから逃げて辿り着いた18階層にて他派閥にも関わらず、快くもてなしてくれた時の思い出や異端児と関わりを持っていた際に敵対した思い出、様々な思い出が脳裏を駆け巡って、固まってしまっていたベルだったが、フィンに声をかけられて「ハッ」と我に帰った。

そして、慌てて礼を述べた後、ペコリとお辞儀をした。

そんなベルの行動に驚いた3人は一同に同じ事を考えた。

 

(成程。ロキが言う通り凄く良い子だ)

 

ロキがベルを連れてくる前に言っていた「凄く良い子やから」という言葉を思い出し、「たしかに」と心の中で呟いた3人。

 

「じゃあ、そろそろ面接を始めさせて貰うよ」

 

ベルにソファに座るよう促したフィンは緊張した面持ちでソファに座るベルの対面にあるソファに座り、一言問いかけた。

 

「君は何故、冒険者になろうと思ったんだい?」

 

フィンからの質問を受け、数秒悩んだベルは答えた。

 

「・・ロキ様、先日、貴女に同じ質問をされた際、僕は『困っている人を助ける。そんな英雄になりたいからです』って答えましたよね?」

「え?あ、ああ。そやな」

「・・実はもう一つ冒険者になろうと思った理由があるんです...それは、アイズ...アイズ・ヴァレンシュタインを今度こそ守る為です」

 

先程まで優しそうな目をしていた筈なのに、現在は決意が篭った強い目をしているベル。

そんな、ベルの変わりように驚いた3人とロキ。

室内が静寂に包まれる中、フィンは口を開き、問いた。

 

「君の目的は分かった。・・君は一体、『何者』なんだい?」

 

フィンの問いかけ...室内にいるベル以外の4人全員が知りたい問いかけを受けたベルは口を開いた。

 

「・・皆さんは、未来の人物、又は精神だけが過去に戻ったという話を聞いた事はありますか?」

「・・僕はない。3人は?」

「・・ウチもや」

「・・ワシもない」

「私もだ」

 

ベルの問いかけを受け、驚いた4人は其々、「聞いた事がない」と応える。

そんな4人を見て、「分かりました」と答えたベルは自身が体験した事柄について語り出した。

レベル1の時、単騎でミノタウロスを撃破し最速でレベル2になった事。アポロン・ファミリアとの戦争遊戯でヒュアキントスと戦い、レベル3に至った事等、レベル10になるまでに起こった数えきれないほどの出来事を語り終えたベルが時計を見ると、1時間が経とうとしていた。

ベルの話を終始無言で聞いていた4人は、唖然としている。

 

「いや、ホンマに、よー生きとったな、自分。普通、死んでるで?」

 

ロキがベル以外の全員が言おうとしていた事を口にすると、フィンの右後ろに立っていた錫杖を持ったリヴェリアが呟いた。

 

「・・レアスキルか...レア魔法か...それとも両方...?」

 

ブツブツとベルの強さについて自身の考えを呟くリヴェリア。すると、フィンの左後ろに立って、「ガハハッ!」と豪快に笑っていた筋骨隆々のドワーフ、ガレスがベルの入団許可を願う。

 

「フィン、ワシはこの坊主を入団させて良いと思っている」

「私もだ。・・正直、未来の話をされてもピンと来てないが、彼の話の序盤、アイズと会った時の話。ミノタウロスに追いかけられ、殺されそうになったところをアイズに助けて貰ったという話。本日、私たちの前から逃亡する複数のミノタウロスの最後の一匹を仕留めたのがアイズで5階層だ。彼が冒険者になっていて5階層まで来ていたら十分あり得た話だと思う。だから、私はこれからの行動を彼が言った事を頭の隅に置きながら決めなければならないと思う。・・アイズは私の娘のような存在だ。そんな娘を死なせたくない」

「・・嘘を吐いてたら、ロキが分かる。が、何も言わないって事は本当の事か。・・分かった。ベル、君の入団を認めよう」

 

ガレスの願いとリヴェリアの考えを聞き、ロキが何も言ってこない事を考慮したフィンはベルの入団を認めた。

団長であるフィンからも認められた為、ロキは早速、ベルに恩恵を刻む為に場所を移そうと提案する。

そんなロキの提案を聞いていた3人は一同に「自分もベルのステイタスが見てみたい」とベルに「立ち会っても良いだろうか?」と問う。

特に問題はないと考えたベルは3人からの問いかけに「はい、良いですよ」と返答した。

場所を移し、長いソファがある部屋へと来たベル達。

服を捲り、背中が見える様にしたベルがソファに俯く形に寝転がると、ロキはその上に座る。

そして、自分の人差し指の腹に腹を刺し、自身の血をベルの背中の上に落とした。

すると、ベルの背中に環の様な形をした光が形成されたと思ったら神聖文字と呼ばれる文字が浮かび上がっていく。

その事を確認したロキは文机の上に置いておいた羊皮紙を手に取り、ベルの背中にあてて羊皮紙をなぞった。

羊皮紙に文字が浮かび上がっていく。

 

「・・マジで...?」

 

ロキの驚き様に「何事か」と3人がロキの持つ羊皮紙を覗き込むと絶句した。

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力.0

耐久.0

器用.0

敏捷.0

魔力.0

 

魔法:ファイア・ボルト

速攻魔法

 

スキル:愛情一途

・早熟する

・愛する人を想い続ける限り効果持続

・愛する人への想いの丈で効果向上

 

 

 

羊皮紙に記載されている事柄を読み上げた3人は三者三様の反応を見せる。フィンは「ふむ...」と顎に手を当て何かを考え込み、リヴェリアは顔を真っ赤にし、ガレスは豪快に笑う。

そんな3人の反応を見ながら、羊皮紙をベルに手渡したロキは問う。

 

「ベルたん」

「はい」

「アイズたんの事大好きやねんな?」

「はい!心の底から愛してます」

 

恥ずかしげもなく語るベルにロキと3人は満面の笑みを浮かべた。




今回は少し長くなりました。
評価して頂きありがとうございます。
スキルで英雄一途がないのは逆行する前の世界で既に英雄になっている為、英雄への願望はそこまで強くないという設定にした為です。
又、憧憬一途はベルにとってアイズは憧憬の対象ではなく、愛する人という設定にした為無くなってます。


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5話

フィン達に自身の正体と思いを打ち明けたベル。

緊張しながらゆっくりと自身が経験した事とアイズに対する想い両方の話を聞き終えファミリアに入る事を許可したフィン達。

共通語に翻訳された羊皮紙に目を通しながらリヴェリアと話すフィンの隣でロキに自分達が帰還するまでベルが館内でどんな事をしていたのか聞かされるガレス。

そんな四人を見ながらこれからどの様に行動すれば良いか考え込むベル。

 

(・・うん。まずは、冒険者登録しないと...)

「そういえば、ベル」

 

いち早くアイズを守れるぐらいの力をつける道筋を考えていると、自身に向けて声が掛けられる。

その事に気づいたベルは即座に考える事を辞め、声が掛けられた方向、ガレスとロキがいる方向に顔を向けた。

 

「はい」

「お前さん、さっきの話の中で自分がレベル10に至ったって話しておったな?」

「はい」

「ふむ...」

「どしたん?」

 

ベルが先程言った話の確認をし、豊かな顎髭をなぞったガレスは頭にクエスチョンマークを浮かべるロキを尻目に、問いかけをベルに投げかける。

 

「ベルが良ければなんだが、ダンジョンに潜る事になったら着いて行っても構わないか?」

「わ、分かりました...けど、良いんですか?最高幹部の方が僕みたいな新人団員に着いてきても...」

 

ガレスの問いかけに驚きつつも了承しようとしたその瞬間...。

 

「おい」

 

声が聞こえた。

声が聞こえた方向に視線を向けると、先程までフィンと話していたリヴェリアがいつの間にかガレスの背後に立っていた。

ガレスに声をかけたリヴェリアは額に青筋を浮かべながら問う。

 

「お前が新人団員に質問等珍しいと思い、聞いていたら...どういうつもりだ?」

「いやなに、精神が過去に来てるなら身体能力は兎も角、技術等はそのまま反映されてるのではないかと思って、ベルの動きを見てみたいと思っただけだ」

「・・・」

 

ガレスの考えを聞き、口を噤んでしまうリヴェリア。

すると、彼女と同じ様に口を噤んでいたフィンが口を開く。

 

「・・ベルはこの館に来て身体を動かしたかい?」

「いえ、まだ家事などはやらせて貰いましたけど、それ以外の戦闘面に関しては動けていないです」

「・・成る程...。ベル」

「はい」

「過去に戻ってくる前の動きは出来そうかい?」

「・・恐らくですけど現在は難しそうです。身体が鈍って相手の攻撃を受け流す事くらいしか出来ないと思いますが、頑張ります」

 

グー、パーと両手を数回動かした後、自身の身体をペタペタと触り感覚的に述べたベル。

ベルの意見を聞き、少し考えたフィンは述べた。

 

「ガレスが行く日とは違う日にするから、僕も君の戦う姿を見せてもらって良いかな?」

 

遠征以外で最古参が二人もファミリアを空けるわけにはいかないと考え、ガレスとリヴェリアがファミリアにいる時に僕も見たいと意見を述べるフィン。

すると、フィンの意見を聞いていたリヴェリアも慌ててベルに問う。

 

「私も見てみたいのだが、構わないだろうか?勿論、フィンと同じく二人とは別の日にする」

 

副団長という立場にいる為、先程までガレスを諌める様に振る舞っていたリヴェリアだったが、実のところはベルの戦う姿を見たかった。

フィン達の「自分よりも高レベルの技術を持つかもしれない冒険者の戦いの様子を見たい」という欲求は冒険者として当然かもしれない。

フィン達から其々頼まれたベルは、「お望みに応えられるか分かりませんが...」と前置きを述べ、了承した。

 

「ありがとう。・・よし、それじゃあ、そろそろ居間に行こう。皆、ベルに会いたがっているだろうから...」

「あ、フィンさん」

「ん?」

「さっきの話なんですけど、皆さんには明かさないで頂けますか?」

「・・たしかに、そうだね。話してしまうと注目されて、もし、アイズの耳に入ってしまったら、アイズが君に接しづらくなってしまうかもしれない...アイズに頑張ってる姿を見せて振り向かせたいんだよね?ベルは」

「はい!好きって感情を一方的にアイズに示しても困らせてしまうだけだと思うので、頑張ってる姿をアイズに見てもらう事によって、興味を持って貰って、そこから交友を深めていけたら良いなって思ってます」

 

ベルの話を聞き、フィン達は満面の笑みを浮かべた。そして、同時にこう思った。

 

「どうか、二人が幸せ家庭を築けますように」と。




何度か書いては消してを繰り返したので、一応、確認はしたつもりなのですが、話がチグハグになってるところがあるかもしれません。
次の話では、新しく団員となったベルをアイズ達、遠征組に紹介する場面と冒険者登録を行うシーンを書けたら良いかなって思ってます。
話が進むスピードが少しずつですみません。


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6話

フィン、リヴェリア、ガレスの三人と其々違う日に一緒にダンジョンへ潜る約束をしたベルは、ロキに「ほんじゃ、行こか」と促されて居間へと向かった。

ベルが居間へと向かうと、褐色肌を持つ美人な二人組、頬に刺青が入った狼人、山吹色の長髪をポニーテールにしてリヴェリアが持つ錫杖に似ている錫杖を持ったエルフ等、多種多様な人達がいた。

 

(ティオナさんにティオネさん、ベートさん、レフィーヤさん...)

 

以前、『英雄』と呼ばれていた際にお世話になった冒険者達が揃っていて、ベルが懐かしさを覚えながら周りを見回すと、「彼女」はいた。

 

(あ...ああ...!)

 

金糸を連想する事が出来る綺麗な金髪に一瞬、女神かと思う程の綺麗な容姿。男女問わず誰もが一度は見惚れるであろう容姿を持った彼女。「アイズ・ヴァレンシュタイン」がそこにいた。

眠たそうな目で自分の方をチラリと見るアイズの姿に涙を流しそうになったベルだったが、グッと自身の感情を押さえつけて、涙が流れ出る事を阻止した。

ベル達が居間に入室してきて、室内にいた冒険者達が一斉にベル達の方へ視線を送ると、先頭にいたフィンが口を開いた。

 

「皆、遠征の後で疲れてるところ悪いが少し聞いてくれ。先程、面接をパスしてこの子がウチのファミリアに入ることになった。ベル、自己紹介を」

「はい。・・皆さん、はじめまして。僕はベル・クラネルといいます。14歳です。色々、至らない点などあると思いますが、頑張ります!よろしくお願いします!」

 

過去に戻る前までは何度も会った人達だが、今は初対面。

初めて会う様に振る舞いつつ、元気良く挨拶したベルに快くした団員達は其々、声をかけていく。

数多くいる団員達の中でも特に交流が深かったティオナ、ティオネ姉妹、ベート、レフィーヤ、ラウルとも挨拶したベルは最後に声をかけてきたアイズと挨拶をする。

 

「・・アイズ・ヴァレンシュタイン...宜しく」

「はい!宜しくお願いします。ヴァレンシュタインさん!」

「・・アイズ、で良いよ。皆、そう呼ぶし...」

「はい、分かりました。宜しくお願いします。アイズさん...って、どうしたんですか?」

 

名前で呼ぶ様に促され、内心泣きそうになりながら改めて挨拶したベルはアイズの視線に気づく。

すると、アイズはベルの頭に視線を向けつつ呟いた。

 

「・・もふもふ」

「へっ?」

 

聴覚が強化された過去に戻る前だったら聞こえたかもしれない程の小さな声に思わず、ベルが呆けているとアイズが手を伸ばす。

 

「え、あ、あの、ちょっ」

 

どんどん自分の顔の方へ伸びてくるアイズの手を見て、ベルが慌てる。

そして、ベルの頭にアイズの手が触れそうになった時、横から色白で綺麗な手が伸びてきて、アイズの手を取った。

 

「何してるんだ、お前は...」

「リヴェリア...。ベルの頭気持ち良さそうだった」

「・・だからと言って、勝手に彼の頭を触ってて言い訳がないだろう。・・ハァ...。すまんな、ベル」

「あ、いえ、びっくりはしましたけど、ちゃんと言ってもらえれば大丈夫ですよ」

 

娘の様な存在であるアイズがしでかそうとした事を止め、謝辞を述べたリヴェリアに「ハハ...」と苦笑を浮かべたベルは「大丈夫だ」と述べる。

すると、アイズとベルの挨拶を見ていたティオナがすっ飛んでくる。

 

「ハイハイ!ベル、触らせて!」

 

突然、手を挙げて「触らせてほしい」とねだってくるティオナにびっくりしたベルだったが、快く了承した。

すると、次々と団員達がベルに駆け寄ってくる。

団員達...主にエルフ以外の女性団員に揉みくちゃにされたベルは少し疲弊していた。

 

(歓迎されてるのは嬉しいけど、可愛いって...。僕、一応、男なんだけどな)

 

久しぶりに聞いた「可愛い」という言葉に懐かしさを覚えてると服の袖をチョイチョイと引っ張られる。

 

「・・私が最初に触りたかった...」

「あ...す、すみません!」

「・・触って良い?」

「はい!」

 

拗ねてるのか少し頬を膨らませたアイズに問われ、即刻了承するベル。

ベルの頭部に手を伸ばし、頭を撫でたアイズは満足そうに微笑む。

 

「・・もふもふ...フフッ」

「ッ⁉︎」

 

自分の頭を撫でて微笑むアイズの顔を見て、可愛さの余り顔を真っ赤にするベル。

そんな、ベルを見て不思議そうな顔を浮かべたアイズは再度、問う。

 

「どうかした...?」

「い、いえ!何でもないです⁉︎」

「そう...?・・ありがとう」

 

ベルに問いかけた後、再度、頭を撫でたアイズは満面の笑みを浮かべて去っていった。

アイズに撫でられて顔を真っ赤にするベルに、ベルの秘密を知るファミリアの最高幹部の3人とロキは苦笑した。

アイズがティオナ達のいる方向へ戻って行くのを確認したフィンはベルを冒険者登録に行く様促す。

 

「よし。じゃあ、ベル。ロキとバベルに行き、冒険者登録をしてきてくれ」

「あ、はい。分かりました」

 

ロキと共にバベルへ行く様に指示されたベルは一緒に行きたがるティオナ達に謝りつつ、館を出た。

ロキ・ファミリアの拠点である『黄昏の館』からバベルへ向かう事に新鮮さを覚えつつ、ロキと他愛もない話で盛り上がっていると空に届きそうなほど高い石造りの建造物が見えてきた。

 

「バベル...」

 

バベルの前までやってきたベルは立ち止まった。

「どしたん?」と聞いてくるロキに返答せず少しの間、目を閉じたベルは目を開き、ロキに謝った。

ベルが何故、立ち止まっていたのか何となく察しがついたロキは首を横に振り、バベルの中へと入っていった。

ロキに続き、ベルがバベルに入ると、受付の前に並ぶ何人かの冒険者の列や依頼書が貼られたボードの前で複数貼られている依頼書を吟味する複数の冒険者達。ダンジョンに入ってモンスターを倒して得た魔石を換金する冒険者達など様々な人達が目に入った。

ベルが周囲を見渡し、感動しているとロキに受付の前に並んでいた人が捌けた事を教えてもらった。

ロキに礼を述べ、受付の前までやってきたベルは気づく。

 

(・・エイナさん)

 

ベルが視認した受付嬢はエイナ・チュール。ベルのアドバイザーになった人物で、普段は優しいが怒ると凄く怖い。「英雄」と呼ばれる様になった後もダンジョンに潜る際には、心配してくれた数少ない人達の一人である。そんな、受付嬢を視認したベルは自然と足早になりながら、近づく。

 

「あの、冒険者登録をさせて頂きたいんですけど」

「分かりました」

 

ベルが冒険者登録をする旨を伝えると、エイナは奥にある戸棚から書類を出して、ベルが見やすい様に書面をベルの方へ向けて差し出した後、「必要事項を記入して欲しい」と述べる。

エイナに言われた様に必要事項に記入したベルが書類を返すと、エイナは書面に記入漏れが無いか確認した。

10分もしない内に冒険者登録が済んだベルは、エイナに礼を述べた後、ロキと共にバベルを出た。



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7話

バベルを出て帰路に着くベルとロキ。

二人が帰り始めて数分が経った頃、ベルは立ち止まり、振り返った。

 

(この視線...フレイヤ様だよね...)

 

無遠慮にこちらへ視線を送ってくる女神フレイヤにベルが「前にもあったなぁ」と苦笑いしていると、立ち止まったベルを怪訝に思ったロキが問う。

 

「いきなり振り返ってどしたん?」

「あ、少し視られていたので、つい、振り返ってしまいました」

「視られていた?誰に?」

「・・フレイヤ様です」

「な、なんやて⁉︎それ、ホンマか⁉︎」

「はい。前にもあったので気付けました」

 

ベルの返答に慌てたロキはすぐさま、バベルの上部を睨んだ。

 

(ベルはウチの子やぞ。色ボケ)

 

ベルを隠す様に自分の背中の方へ押したロキが睨むと、数秒もしない内に、フレイヤからの視線は無くなった。

 

「・・あ、視線無くなりました」

「・・じゃあ帰ろうか」

「はい」

 

ベルからの報告により視線が無くなった事を知ったロキは、ベルの肩に自分の手を置き、『黄昏の館』がある方向へ歩き出した。

 

(あんの、色ボケ。ベルにちょっかいかけたら許さんで)

 

帰路に着きつつ、ロキは「万が一」の時に備えてフィン達と会議をする事を決めた。

『黄昏の館』に到着したロキはベルを連れて執務室に入った。

 

「フィン、リヴェリア...ん?ガレスは?」

「ついさっき自分の得物を持ってゴブニュ・ファミリアに行ったよ...って、ロキ。どうしたんだい?僕達を呼ぶなんて」

 

書面に目を落としながらガレスがいない事を説明したフィンはロキの問いかけに疑問を持ち、問い返す。その時、フィンが座る座席の前にある豪奢なソファに腰掛けて紅茶を飲んでいたリヴェリアもカップを机に置き、フィンと同じようにロキの方へ顔を向けた。

 

「冒険者登録しにバベル行って、その帰り道の事なんやけどな...」

 

二人に話す様に促され、先程あった事を話しだすロキ。

 

「・・っていう事があったんや。やから、三人呼んで会議せなって思ってん」

「・・ふむ。ベル」

「はい」

「君の護衛に僕達やアイズ達、第一級冒険者をつける事は出来ない。・・それは分かるね?」

「はい。新人である僕にフィンさん達がつくと、ファミリアの皆さんに煙たがられる可能性が出てくるからですよね?」

「うん。だから、君にはラウルとアキをつけさせようと思う。理由は、そろそろあの子達にも「後輩を育てる」っていう経験を積ませたかったから。それと、ロキがいう『万が一』の時。つまり、フレイヤ・ファミリアの団員に襲われた時、ある程度の敵なら撃退出来ると思ったからだよ」

 

フィンの考えを聞いたベルは先程、握手をしたラウルと先日、オラリオに来て初めて『黄昏の館』に赴いた時に応対してくれたアキの事を思い出す。

レベル4で神々から『超凡夫』というあだ名をつけられていて、自分の方が歳上の筈なのに、腰を低くしながら挨拶してくる彼。

ラウルと同じレベル4で『貴猫』というあだ名に相応しい容姿端麗な彼女。

そんなラウル達の姿を思い出しつつ、ベルはフィンの提案に同意した。

 

「よし。あ、それと、基本的にラウルに着いてもらって、ラウルが何かの事情で面倒が見れない時、アキに着いてもらう形になるけど良いかい?...って、君なら大丈夫か。僕達よりも凄い経験積んでるみたいだから」

「いえ、ダンジョンでは何が起こるか分からないので、お二方に着いて頂けたら心強いです。宜しくお願いします」

「分かった。二人には僕から上手く伝えておくよ」

 

フィンに頭を下げたベルは自室へと戻っていった。



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