三人の方法 (しおつ)
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3人の方法

〜3人の方法〜

1.3人の人を用意する

2.指を組んで手を繋ぎ3人で背中合わせになる

3.目を瞑る

4.精神統一のために3人で息を合わせて深呼吸をする

5.目を瞑ったまま空を見上げる

6.行きたい場所をイメージし、心の中で願う

7.空気が重くなっていくのを感じたら、顔を戻しイメージを一旦中止する

8.手を離し自分の胸に手を当てる

9.深呼吸とイメージをする

10.頭痛やめまいなどが襲ってきて、その後に光に包まれる

11.激しい眠気が襲ってくるのでそれに身を委ねる

 

 

……………………………………………………………………………………………………

 

異世界に行きたかった。

こんな日々じゃ退屈すぎた。

たとえ死んだっていい。退屈が無くなるのならそれでよかった。

だから3人で試してみることにした。

俺、シュンと友達のソラとリョウで。

正直半信半疑だった。

でも少しでも可能性があるなら、やってみたかった。

俺たちは自由が欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……ん……」

 

ここはどこだ…?

俺は…確か公園で…

 

「えっと…」

 

そうだ、3人の方法を試してたんだ。

…2人はどこだ?

 

「…ソラ?リョウ?」

 

周りを見渡す。

見える範囲では2人はいないようだった。

 

そしてここで周りを見渡しようやく気づいた。

 

シュン「ここ…森?」

 

────

 

 

「おーいソラー!リョウー!」

 

返事はない。

ここが森だと気付いてから少し経って、ソラとリョウを探し始めた。

 

暫く探索してみて分かったが、ここは日本のような背の高い森ではないようだ。そして雑草も相当短い。虫などもほとんど見かけはしないし、見かけるとしても木に張り付いている虫ばかりだ。

ただ動物は普通に生息している。ちょくちょくイノシシやタヌキのような生物を見かける。もちろん装備なんてないので、イノシシを見かけたら見つからないように静かに行動しないといけない。

 

「…やっぱりなんか、あんまり現実味ないよなぁ」

 

俺たちは、おそらく本当に異世界に来たのだろう。

興奮と同時に不安が込み上げてくる。

 

「それでも先にアイツらと合流するのが先かな」

 

この先のことも、2人がいないと始まらない。

 

その直後、森の奥の方に何かがちらりと見えた。

 

「またイノシシか…?」

 

完全には確認できていないため、少しずつ、静かに移動を始める。

そっと木の影から何かを凝視してみる。

 

「あれは…!」

 

見覚えのある顔だった。

 

すぐさま何かに向かって走り出す。

 

近くに来て確信に変わった。

 

「ソラ!」

 

木にもたれかかった友人の名前を叫んだ。



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友人と

「う…」

「ソラ!大丈夫か!?」

 

ソラと会えた感動で思わず泣いてしまいそうになる。が、今はダメだ。

 

「シュン…?…ここどこ…?」

「ソラ…それが、俺もよく分からないんだ」

「俺たち…3人の方法してたよな…?なんでこんな所にいんだよ…」

「多分成功したんだと思う…」

 

いきなりソラの目がカッと開かれる。

 

「マジかよ…!マジかよマジかよ!」

 

そうだった、ソラはこういった異世界系のものが大好物だった。

俺も好きは好きだがソラほどではない。

 

「そりゃあそうだよな!今まで見たこともない景色だし公園からいきなり森に移動するなんてそれしか考えられねえ!本当に異世界はあったんだ!」

「一旦落ち着いてくれソラ…」

 

ソラの興奮もわかりはする。俺も初めは少しそんな気分だったし。

けど今はその喜びの共感よりも優先すべきことがある。

 

「それよりもリョウがまだ見つかってないんだ。ここら辺にはイノシシとかも普通にいる。早く見つけ出さないとリョウも俺達も危険だ。」

「そうだな…さっさとリョウ見つけ出してこの世界を探索するぞ!」

「そうだな、俺もそうしたい。」

 

早いところこの世界について知らないといけないし、これはソラと同意見だ。

 

「…しかし、どこから探そうか…」

「俺を見つけた時はどうやって見つけたんだ?」

「ただ探し回っただけだな」

「だったらリョウもそれで見つけようぜ!」

「まあそうだな。他に取れる手段もないし」

「とりあえず、早いとこ探しに行くか」

 

 

────

 

「…ん?あれもしかして…」

 

探し始めて30分くらい経っただろうか。ソラが何かを見つけた。

 

「ほらシュン、あれ見てみろよ」

「なんだ?」

 

ソラの指差す先には湖があり、そのすぐ側に人が1人座っていた。

後ろ姿しか見えず、遠くにいるので体型でも判別がつかず誰かは分からないが、おそらくリョウだろう。

 

「多分リョウだ」

「よし、行こう!」

 

湖に向かって走り出した。

 

 

「リョーウ!」

「…?あっ、ソラ。それにシュンも。やっと見つけた」

「とりあえず全員揃ったな…誰も怪我がなくてよかった」

 

ソラがリョウに飛びついていく。

俺もリョウが見つかった安堵感で満たされた。

だかそれも束の間、

 

「…!リョウ、危ない!」

 

俺は全力で走り出す。

リョウの背後の木の影から出てきたのは、既にリョウに向かって突進を始めていたイノシシだった。

リョウも突然の事で反応が遅れ、もう避けられないところまでイノシシが来ていた。

 

リョウの体を押し出そうと手を伸ばしたその瞬間、

 

 

 

 

ビュンッ!

 

 

 

突然イノシシが地を離れ、勢いよくすぐ近くにあった木にぶつかった。

ちょうど当たった場所が頭だったようで、イノシシは気絶している。

 

 

「な…」

 

突如吹いた暴風に、意識までも吹き飛ばされたようだった。



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能力の顕現

「お、おぉ…?」

「今の暴風、もしかしてシュンが?」

「た、多分?」

 

感覚的には、確実に感触があった。

手を突き出した時、肩から手にかけて痛みのない電流が走ったような感覚がした。そして何より自分の手から風が出ている感触が、確実にあったのだ。

 

「どうなってんだ…いったい…?」

「すげぇ…」

「やはり、この世界に来た影響?」

「まあ、そう考えるのが妥当だろうな…」

 

というかリョウ、落ち着きすぎだろ。今さっきまで命落とすかもしれない寸前まで来てたんだぞ。

リョウのメンタルのタフさにはいつも驚かされる。

 

「だとしたら、俺たち3人全員影響を受けているだろうから俺たちにも使えるのかもしれないな」

「やっぱそうだよな!楽しみだぜ!」

「はは…」

 

未だに頭の整理がついていない。

たとえこの世界に来た影響だとしても驚きがすごい。自分の身体から風が出るなんて誰が思うだろうか。いやソラなら多分思ってたな。

ソラとリョウが先程の俺のような手を突き出す動きをしていた

 

「うーん…出ないな…」

「なにかコツや条件がいるんだろう。シュン、さっきの風を出した時の感覚、思い出せるか?」

「さっきの感覚…こう、肩から腕にかけて電流がずっと流れていくような、そんな感覚がしたんだ。」

「電流〜?」

 

そんな事言われても今の一瞬の感覚を、それも驚きで頭が回っていない状態で言語化しろと言われると厳しい。

 

「電流のイメージ…こうか」

 

そういうとリョウは手を突き出した。

その手の先には手のひらサイズの水の塊が浮かんでいた。

 

「おぉ!」

「すげぇぇぇ!」

「なんとなく感覚は掴めたようだ。俺は血液が一気に流れ出す感覚がしっくりきたな。」

「電流…電流…」

 

ソラも手を突き出す。

その手の先にはリョウの水の塊よりほんの少し小さい火の塊が出来ていた。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!すげえぇぇぇぇぇぇ!」

「やっぱり…これが異世界の影響か…?」

「だろうな。それと、この身体の中に電流が流れるような感覚、というのは元の世界の方でも聞いたことがある。『氣』と呼ばれる人の身体の中にあるオーラを操り、攻撃に転用する。武術なんかでよく耳にする語だ。」

「元の世界の方でもそんなのがあったのか…」

 

リョウの話に返事を返したその直後、糸が切れたように身体がぐたりと倒れ込んだ。

どっと疲れが全身にのしかかる。

 

「うぁ…なん…で…」

「シュン!大丈夫か!?」

「本当にこの能力が『氣』を使っているのなら、『氣』というのは本来その生命体を動かすためのエネルギーだ。当然『氣』を使い過ぎれば体を動かすエネルギーはなくなる。エネルギーがない状態で体は動かせない。今のお前はイノシシを吹き飛ばした爆風で『氣』を使い果たしたんだろう。今日は休もう。ちょうどイノシシ肉も取れた。」

 

 

────

 

「にしてもリョウ、お前なんでも出来るな…」

「何でもは出来ないさ。たまたま知識があっただけの事だ」

「いやそれでもすげえよ…」

 

すっかり日は沈み、星空が綺麗に見えるようになった。

リョウの適切な行動と判断と調理によって、焚き火、焼き猪肉、簡易的な寝床が手に入った。

いやマジでなんでも出来すぎだろ。イノシシの血抜きの作業とか普通知らないし、知ってても出来ないからな。

リョウの素性の謎と、長年一緒にいながらも未だに素性を把握出来ていない悔しさを胸に抱きながら猪肉を頬張った。

 

「明日はこの森から抜け出して、集落かなにかでも探しに行こうか」

「そうだな。ここで暮らしていくのにも限界がある。」

「そういや、ここに来る途中に丘みたいなとこ見つけたんだ。明日はそこ行ってみようぜ」

 

方針は概ね決まった。

あとは明日に備えて今十分休養を取るだけだ。

だんだんとワクワクしてきた。こんなにも異世界が興奮が溢れているとは。ソラの異世界好きも分かるようになってきたかもしれない。

 

この森に潜む脅威を知らないまま、俺たちは眠りについた。



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脅威との対面

基本気分で書くので投稿期間開きまくったりします(現にそう)


 

『グオオォォォォォォ!!!!!』

 

「「!?」」

 

森の木々が音を立てて揺れる程の叫び声を聞いて、俺とリョウは飛び起きた。

 

「な、なんの声だ…?」

「分からない…地面が揺れるぐらいの轟音を出せる生物なんて聞いたこともない、流石は異世界だな…」

あの冷静沈着なリョウでさえ冷や汗をかいている。

焦りと緊張と恐怖が入れ混じる中、また別の声が聞こえた。

 

「グガァァァァ…」

「…なんでこいつはあの声を聞いて寝ていられるんだ…?」

「こいつもう置いてくか」

「ダメだろ…」

 

ソラを叩き起こす。叩いても起きないから蹴り飛ばして起こした。

 

「ぐぇっ!?なんだよぉ……」

 

ソラを起こしてすぐにまたあの叫び声が聞こえた。

 

『グオオォォォォォォォォォォォ!!!!!』

 

「うわぁぁぁ!!耳いてぇぇ!!」

「なんでお前寝てる間に聞いてるのにこれで起きなかったんだよ…」

「またか…一体なんなんだ…」

「…!?」

 

2度目の声が聞こえた時、少し遅れて身体中に嫌な気配な纏わりつく。

ゾワゾワとして鳥肌が止まらない、悪寒に似た気配。

一瞬の気持ち悪さに吐き気を催すが、まだ全然耐えれる程度だ。

 

「(なんなんだ…これ…)…確認しに行くか…?」

「いや、やめておいた方がいいだろう。俺たちだとあの叫び声だけで死ねる」

「まあそりゃあそうだよな…」

「ちょ、ま、何が起こってんだよ!?」

「さっきの声聞きゃわかるだろ!何かがいるんだ!」

「早いところ逃げた方がいいだろう。こっちだ」

「ああ!」

「ちょっと、置いてくなよー!」

 

俺たちは咆哮聞こえた逆の方角へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうそろそろ大丈夫か…?」

「声は聞こえなくなったが…どうだろうな」

「寝起きでやらせるもんじゃねぇぜ………」

「お前に関しては起きないのが悪いだろ」

 

しばらく森の中を走って、少し開けた場所に来た。

あの声がした方向とは逆に走ってきた。気付かれてもいなかっただろうし恐らく逃げきれたのだろう…

 

「…ッ!」

 

俺が一瞬安心した、安心してしまった瞬間だった。

また、あの嫌な気配が立ち込めた。

 

『グルルルルル………』

 

ソラ「なんだよ…あれ……」

リョウ「……あれは…」

シュン「クマ…だろうな…」

 

この森の木と同じ程度の高さ、あの巨体を支える2つの足、こちらにあからさまな敵意と殺意を向けてくる目、どんな生物をも咬み切らんとする牙。月の光が逆光になり、その牙は更に不気味さを増している。

クマが大きく息を吸い込む。

俺達はこの声を知っている。

 

『グオオオオォォォォォォ!!!!!!』

 

逃げ切れたと思い込んでいた声の主が。

今目の前にまで迫っている。



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眼前に迫る死

投稿空いてすいません
2ヶ月投稿しなかったら死んだか寝てると思ってください


『死』

 

生きるもの全てにそれがあり、そこが終着点。

 

それが今、俺たちの目の前に居た。

 

「逃げるぞ!」

 

リョウの声に、一瞬反応が遅れる。と同時にあまりの恐怖に動いていなかった頭が働き始めた。

我に返ったのはいいものの、そのせいで今のこの緊張が堰を切ったように溢れる。心臓が暴れる。鼓動が聞こえる。

 

『グオオオオォォォォォォ!!!!!』

 

それでも、動くしか無かった。

俺たちは熊と逆の方向に逃げる。

熊は、余裕そうに、嘲笑うように、ゆっくりと追いかけていた。

 

 

 

 

 

「やばいやばいやばいやばい!」

「…っ!どうする!?3人同時に別れるか?!」

「それはしない方がいいだろう!それは最低でも1人を犠牲にするのと変わらない!奴の足止めをするにも人数が多い方がいいだろう!」

 

ただひたすらに走る。

背後の熊は依然としてゆっくりと、それでも確実に距離を詰めていた。

 

 

 

「…っはぁ!はぁ!まだ追いかけてくる…!」

「あいつ速さおかしいって!歩いてるはずなのに走ってる俺らよりと同じくらいのスピードだぞ!?」

「異世界の動物なんだ!俺たちの常識なんて通用するはずがない!それより現状をどうするかだ!」

「つったってどうするんだ!?」

 

肩で息をしながら会話をしている内に、少し開けた場所に着いた。

少しだけ立ち止まる。

ここに少しの違和感と見覚えがあったから。

 

…?

 

「シュン!なにしてんだよ!早く走るぞ!」

「あ、あぁ!」

 

危ない、何してるんだ。命が懸かってるんだ。今は逃げないと。

それでも頭に残るしこりが取れないまま、走りを再開した。

 

 

 

また少し開けた場所に来た。

正確には分からないがおそらく10分程立っただろうか。月の位置は変わっていない。

…やはりこの開けた場所を見ていると違和感を感じる。

デジャブのような…

 

そこでようやく気づいた。

 

「…なぁソラ!俺たちがリョウを探してる時ってこんなに森広かったか!?」

「わ、わかんねぇ!でもこんなに広かった記憶はないぞ!」

「…ちょっと試したいことがある!」

「あ…おいシュン!」

 

そこら辺に転がっている小石を持って開けた場所の木のひとつに傷をつける。

 

「OK、行こう!」

 

こうなのではないかと考えてはみたが、これが本当なら俺たちにどうにかできるのかと不安になる。だがやってみないことにはわからない。

 

また、走りを再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは……やっぱり……」

 

また着いた開けた場所のひとつの木を見て確信した。

 

「俺たち……ここをループしてる」

 

月の位置は、変わっていなかった。



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繰り返す

死んでは無いです
先の展開がすごく浮かんできてるんですが文章力が追いついてません


「…は?ループってどういうことだよ?」

「そのままの意味だよ…俺たちはこの森の一定区間をループしてるんだ!」

「信じ…難いな…」

「俺たちは真っ直ぐにしか進んでなかったはずだ。それなのにずっとこの開けた場所にばかり行き着くんだ。そして木に付けた傷も同じ…俺が考えれる限りじゃループしか思いつかない。」

 

俺だってまだこれが確定だとは思えないし、あまり思えなかった。

だが状況も状況だ。第一この木の傷こそが証拠。この考えに行き着くのも容易じゃないのか?

 

「…よし、そのループの説が本当だとして、このループから抜け出す方法を考えよう。……ただし、走りながら、だ。」

そう言いながらリョウは後ろを指さす。

指の先には、荘厳とした雰囲気でこちらを追いかけてくる熊がいた。

 

それを見たソラと俺は走り出し、リョウもそれに続く。

 

「てかリョウ!お前もおかしくなっちまったのかよ!ループってなんだよ!ループって!信じられるか!」

「俺だって信じ難い!だがここは異世界!何が起こっても不思議じゃない!俺たちが火や水を出せるのが一番の証明だろうが!とにかく何かの仮定が無いと動こうにも動けないだろう!」

 

ソラが愚痴をこぼす。

俺だってこんな今にだけ働く頭じゃなかったら信じれていないだろう。

 

「クソっ………あーもう!わかったよ!とりあえずそれが原因なんだよな!じゃあどうするんだよ!このループを!」

「思いつく限りじゃ、安直なのしか出てこないが…このループしている空間の中に出口があるのかもしれないな」

「だったらここまでの時間走ってきてそれらしきものはあったか!?おそらくだがそれは無さそうだ!」

「だったらアイツぶっ倒すのはどうなんだ!?多分アイツが元凶だろ!?何か変わるかもしんねぇ!」

「仮にあの熊が元凶だとして、確実にループは終わるだろうがその倒す過程はどうするんだ?俺たちが風とかを出せるにしても威力が弱すぎる。」

「んもー!だったらどうすんだよ!」

 

ループという非現実的なものに真正面から向き合って、1周まわって頭が冷静になってきたのにも関わらず安直なものしか出てこない自分を恨む。

だがこれ以上何かあるか…!?

 

考えろ、考え抜け!

 

「ループの条件から外れる…とか?」

「なんだよそれ!」

「ループが起こるってことはそのループに入る条件が必要なはずだ。だったらそこの条件から抜け出せてしまえば…って」

「だとしたら条件は何になるんだ?ループに入る条件ってのがあまり考えつかないが…」

 

条件…

あの熊が関わってることは間違いなさそうだ。

あの熊に関する情報…はわからない。俺たちに今起こっていること、起こったことが条件なはずだ。

だとしたらなんだ?アイツが俺たちにしてきていること…追跡?

追跡だとするとその追跡の条件となる指定はなんだ?

アイツの……

 

「アイツの…視界に入っていること。

 

思い返してみれば、アイツは俺たちを間近で追いかけることはなくとも、絶対に()()()()()()()()にいた。

ということはアイツからも常時見られていた…

そしてもうひとつ、一番最初にアイツの鳴き声が聞こえたところ、つまり俺たちが寝ていたところには逃げている最中1回も行けなかった 。俺たちはアイツから逃げる時にそこの方面に逃げていたはずだ。

もしかしたら、このループする区域の範囲というのは俺たちが見つかった瞬間、ループに入った瞬間に()()()()()()()()()()()がこのループする範囲になっているのかもしれない。

俺に考えられるのはこれしかないな」

リョウ「なるほど、それならある程度合点がいく。」

ソラ「よくわからんけど、今はそれ信じるしかないってんだろ!わかった!信じるよ!」

シュン「ありがとう、ソラ!」

 

あとは逃げるだけだ…!



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覚醒と脱出

ギリギリ2ヶ月経ってないので生きてます(?)


「と言ったはいいものの、まだどうやってアイツの視界から逃れるか何も思いついてないんだよな…」

「視界から外れる…うーん…何か使って見えなくするとか?」

「だとしたら木を使わなければいけないな。木を倒すか…」

「木を倒したとして積み重ねなきゃアイツの背には届かないはずだ、積み重ねるのは無理があるんじゃないか?」

「けどそれ以外にどうしろっていうんだよー!」

 

そうこう話して逃げているうちに、また開けた場所に来た。

ここにあるものも木と俺たちよりも一回り小さい岩があるだけだ。どうにかするには足りない…

どうすれば…クソっ、何も思い浮かばない!

 

「くっ、ここで止まってても意味ねえ!いっそ全力で走ってみるぞ!」

「アイツ割と遠いとこいるぞ!ワンチャンある!」

 

振り返ってみると、あのクマは変わらず今までと同じ速度で距離を詰めてきていた。遠いとも近いとも言えない絶妙な距離を保ってこちらに視線を向けている。初めてまともに見るアイツの目。一切の光がない。これ以上目を合わせていれば飲み込まれてしまいそうな、畏怖すら覚える目。

限界が来て正面を向き返す。振り返っていた時間は僅か1秒程度だったものの、俺を焦らせるには十分な時間だった。

 

「…っ!行くぞ!」

 

俺たちは今までよりも速く、力強く走り始めた。

 

──と、ほぼ同時に、後ろから鼓膜が張り裂けそうな勢いの叫び声が響く。

 

『グオオオオォォォォォォォォォォ!!!!!!』

 

「耳が…っ!」

「ぐうぁ……」

「うっ……怯むな…!」

 

走らなければと思いはするが、脳にまで響くこの声に強制的に足が、いや、足だけではなく全身が動きを止めている。そのせいで後ろのアイツが着々と近づいている事に気づくのにも時間を要してしまった。

やばい…殺される…!

 

「…っうおおおぉぉぉ!」

 

隣で耳を押さえてうずくまっていたソラが、俺たちの背中を押す。

外から動かされたおかげで、硬直していた筋肉は動き方を思い出し、少しはぎこちないものの身体の束縛が解かれた。

リョウも同じようで、俺たち2人は動けるようになった。

 

「ソラ!」

 

だがソラは身体を無理やり動かした反動か、俺たちの背中を押してからそのまま前のめりに倒れてしまった。

リョウと一緒に倒れたソラに肩を貸し、何とか歩こうとするが、反動は思っている以上に大きいようで、ソラは脚を引きずる形でしか移動が出来ない。

 

「もう無理だろ!俺を置いてお前らだけでも逃げろよ!」

「それこそ無理に決まってるだろう!見捨てられるわけない!」

 

ソラとリョウが揉めている間、俺の心の中にはクマに対する怒りが湧き上がっていた。

 

クマがのそりのそりと近づいてくるのが気配でわかった。

ソラがこんな風になってしまった原因。

 

周りからしたら八つ当たりもいいところだろう。だがもうそんなものどうでもよかった。

とにかく許せなかった。

 

「シュン!お前も俺の事なんて気にしてないで…」

 

全身が熱い、血が煮え滾る。

 

 

また、叫ぶ。

 

 

『グオオォォォォォォォォ!!!!』

 

 

「うるせええぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

 

全身から風が溢れ出る。風が自分を取り巻き暴れ出す。

木の葉が飛び散る。土が抉られる。

地面を抉られた木は空に持ち上げられた。

手を突き出す。突き出す先にはクマ。

風向きをクマの方向に変えられた木は、一直線にクマの顔面へと突き刺さる。

 

まともに衝撃を食らったクマは怯み、顔に気を突き刺したまま2歩後退る。

…その次の瞬間、夜空の闇がクマに吸い取られるように集まってくる。

集まった闇はクマを覆い尽くし…

 

「消え…た…」

「なんだ…今のは…」

 

俺は、月が消え、ほんの少し太陽の光が差し込んでいる空を見上げて、そのまま意識を失った。

 



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目覚め

結構無理やりな展開だったなと反省しております


次俺が目を覚ましたのはリョウの背中の上だった。

周りの景色を見るに、もう森は抜けたようだ。

 

「リョウ…ソラ…」

「「シュン!」」

 

まだ意識は若干ぼんやりとしたままで、身体に力も入らない。

でも、2人の声を聞くと少し体の感覚が戻ってきた。

 

「シュン…!死んじまったのかと…うわあぁ!」

「良かった…!本当に良かった…!」

 

俺はゆっくりと背中から降ろされた。足がふらつくがまだ大丈夫だ。

2人の顔を見てみると、2人とも頬に涙がつたっていた。

 

「大袈裟だよ…」

「そんな事あるもんか!倒れたあと呼吸も浅くてホントに死ぬんじゃないかと思ったんだぞ!」

「なんとか回復もしていったがほぼ丸一日寝てたんだからな…」

「え…丸一日…?」

 

空を見てみると、気絶する時と変わらない位の明るさ。

え、マジでそんな時間寝てたの?

 

「どんだけ寝てんだよ俺…」

「イノシシ1匹吹き飛ばすのに動けなくなるぐらいだったのに、地面を剥がす程の威力を出しておいてこれだけで済んでるんだ、まだ良い方だろう。」

「それもそうだな…」

「てかシュンはどうやってあそこまでの威力出せたんだ?」

 

何も思っていなかった。あの能力が使えることがわかっていたとはいえ、あれほどまでの威力を何故出せたのか。というかそもそも能力を使えること自体ちょっと忘れかけていたというのになぜ咄嗟に出せたんだ?

 

「俺にも分からないけど…なんだか感情に飲み込まれてたような感覚があるな…」

「まあ、何も知らない俺たちがここで考察していても分からないだろう。」

「そうだなぁ…あ!そういえばシュン!街らしきものを見つけたんだよ俺ら!」

「本当か!」

「あぁ、あっちの方向だ。」

 

リョウはそう言って、東の方向を指さした。

少し遠いが、本当に街…というより王国のような建造物があった。

ようやくこの世界でのスタートラインに立てた…!

 

「昨日のは怖かったけど…ワクワクが止まらねえよな!異世界!」

 

ソラが希望に、生気に満ちた顔で言う。

 

「ここがどんな世界か、どんなことが出来るのか。楽しみだな。」

 

リョウが仕方ないな、という風に、それでも楽しそうに言う。

 

「俺たちなら全部大丈夫さ!行こう!」

 

俺たちはこの世界で生きる覚悟を決め、この世界への期待を胸に、勢いよく第一歩を踏み出した。

 

 

 

「うおぁ足が!」

 

 

 

こけた。

そういえば足ふらついてるんだった。

 

「あっはは!何やってんだよシュン!」

「お前まだ回復していないんだろ。無理はよせ。」

 

リョウに肩を貸されながら起き上がる。

 

「あはは…すまん…」

 

走るのはちょっとまずかったが、歩く分には問題なさそうだ。

 

「ゆっくりでいいさ、歩いていこう。」

「そうだよ!時間はあるんだからさ!」

「お前ら…うん、ありがとう。よし、行こう!」

 

朝日に向かって、俺たちは歩き出した。



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スタート

「ここが…」

「でっけー…」

「ようやく着いたな…」

 

森を抜けてこの街に向かって歩き出して、もう日が真上に登るくらいには時間が経った。やっと着いたこの街の入口らしき門には、槍を持った門番?が2人、その隣にある木製の看板には謎の言語が書かれていた。

 

「なんなんだ?あの文字」

「この世界での言語と考えるのが普通だろうな」

「歴史の参考書で見た事あるような…」

 

そんなこんなで俺たちが門の前で停滞していると、門番2人が近づいて声をかけて来た。

 

「なんだ?お前たちは」

「アルデス王国の入場許可証は持っているのか?」

「あ!それはないんですが…」

「なにぃ?」

「この王国に何しに来た?」

「えぇと…」

 

俺たちが門番に問い詰められていると、突然門が開き、長く美しい銀髪を後ろで結んでいる白衣を着た女性が出てきた。スタイルもよく長い髪も印象的だが、何より目を引いたのはその整った顔だった。『美』の一文字はこの人の為に作られたのではないかと思う程だ。

 

「あら、貴方達やっと来たの?」

 

…出てきて早々、謎な発言をする。

周りを見渡すが、門番や俺たち以外には誰もいない。

門番に言っている訳では無いし、かと言って俺達も顔も知らない。

 

一瞬リョウが肩を震わせたかと思うと、喋りだした。

 

「申し訳ございません、先生。これまで文通のみでの会話でしたので直ぐに分かりませんでした。申し訳ございません。」

 

ソラが「は…?」と声を上げる。

 

「はぁ…ジュン・コール博士。貴方の客人ならば先に兵に連絡を下さいといつも言っているでしょう。」

「こういったことをするのならば許可証を渡してくださいと何度言われてるんですか…」

「ふふ、何回でしょうね。ってことで、その子たちは私が預かるわ。お手数お掛けして申し訳ございませんでしたっと。ほら行くわよ。来なさい」

 

棒読みすぎて謝罪の念が伝わってこない…

門番の表情を見るに相当手を焼いているのだろう。少し同情する。

しかしそんな人に助けられたのも事実。俺たちは博士について行く。

ギギギ、と声を上げて閉まる門の隙間から、門番達が持ち場に戻っていくのが見えた。

 

「さて、突然アドリブ振っちゃってごめんなさいね。ナイスだったわ、そこの身長高い子。」

 

ジュンと呼ばれていた博士はリョウを指差す。

リョウは少し戸惑う素振りを見せながらぺこりと頭を下げる。

結んでいた髪を解き、片手を腰にかけて話し出した。

 

「私はジュン・コール。この王国で主にモンスターについて研究を進めている者よ」

 

そこそこにある胸を張りながら、彼女は言った。



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博士 ジュン

「…なんで何も反応がないのよ」

 

ジュンが不機嫌そうな顔でつっこむ。

 

「いやぁ…反応しずらいというか…」

「これは俺らも自己紹介する流れ…か?」

「そういえば分かんないわね、貴方達の名前」

 

気付かなかった、という風に反応するジュン。この人本当に博士なんだろうか。

 

「シュン、16歳です」

「えぇ…ソラ、同じく16歳…です?」

「リョウ、同じく16歳です」

 

改めてこう自己紹介をしてみると小恥ずかしいというか…

てかソラはなんでそんな疑問形なんだよ。自分のことだろ。

ソラは昔から少しコミュ障気味なところがある。初対面の人に対しては声が上ずったり、言葉に詰まったり。この先知らない人しかいないのに大丈夫だろうか。

 

「ふぅん…全員同い年か…旬の時期ね♪」

 

一瞬ゾクリ、と背中を不快感が這いずった。

旬の時期って…

 

「ま、いいわ。シュンにソラにリョウ、覚えたわ。よろしくね。

で、早速なんだけど私のラボに来てもらうわ。着いて来てちょうだい」

 

 

 

 

 

あれから5分程度歩いただろうか、門に入って真っ先に広がっていた商店街の横道をしばらく道なりに進んでいくと…

 

「…民家?」

「失礼ね、立派な私のラボよ」

 

レンガ造りの一般的な家に着いた。

いやこれをラボと言われても信じられない、どっからどう見てもここまでの道で見てきた民家だ。カモフラージュ的な効果があるのだろうか?だとしたら絶対に分からないだろう。少なくとも俺は自信無い。

 

「ま、取り敢えず入りましょう」

「お邪魔します…」

 

家の中に入ってみると、やっぱりマジで普通の家だった。

床は木造、壁はレンガ。入って右側には台所や竈、左側にはベッドや机や椅子などの生活スペースが広がっている。

ジュンは家に入るなりそのまま直進し、何も無い床をひたひたと触り始めた。

 

「やっぱ民家だろ。これの何処がラボなんだ?」

「外見までそれらしくしちゃ不味いからね。私のラボは隠されてるのよ」

「…それは外部に漏れては襲われる可能性がある、他国や平民にとって反感を買うようなモノと判断していいのか?」

「いいえ?寧ろ国や人には尊敬して欲しい位のものだわ。私が襲われる危険のあるものはそれじゃない。……お、あったあった。」

 

ジュンがそう言い、触っていた床の一部を強く押す。ガコンッという音が聞こえた後、どういう仕組みか押した部分を中心に床が正方形に沈み、恐らく鉄製の梯子がかかった穴が出てきた。

 

「ほら、この下が私のラボ。最近はあんまり出入りしてなかったから鍵探すのにちょっと時間かかっちゃったわ。…こういう秘密の地下みたいなのってちょっと興奮しない?」

「すっげえわかります…初めて見た…」

 

すっごいわかる。これを嫌いな男子はいないレベル。ましてや厨二病真っ盛りの高校生男子には刺激が強すぎる。

…そんなことを思っているとジュンが梯子を降り始めた。それに釣られてリョウ、ソラが降り始める。

俺も降りようと梯子に足をかけた時、ふと家のドアが閉まっていないことを思い出しドアへ戻る。

 

「…知られちゃいけないのになんで閉め忘れるかねあの博士」

 

ドアを閉め、鍵をかけると背後の穴の中からジュンの急かす声が聞こえた。

あんたのせいで遅れてんだよ。

俺はそこそこ急ぎつつ地下へと進んだ。

 

 

 

 

 

 

地下に入ってみると、橙色の明かりは点いてはいるが少し暗い。

少し先の薄い明かりで照らされている机には資料の山。その右側に設置されているのは四肢に付ける枷が鎖で繋がれている台。その脇には鋏やナイフの置いてある台がある。

 

「これは…」

 

少し先にジュンが見える。その後ろにリョウとソラ。2人もこの部屋を興味深そうに見回している。…暗いのはちょっと苦手だから2人に近づこう。

 

「…さて、みんな来たわね。ここが私のラボ…『モンスターラボ』よ!」

 

……

 

「な、なによ!なんでそんな固まって黙り込むわけ!?もうちょっと反応くれてもいいじゃない!?」

「なんていうか…名前がなんの捻りもないのが逆に…」

「…もう少し何かあるものだと」

「く、くぅ……まあ、まあまあまあ、まあいいわ!この素晴らしさが分からないのは許すとして…本題はここから!」

 

ジュンが改まって話し始める。

 

「見て分かる…というか名前を聞いて分かるように、ここはモンスターについて研究をしている所。貴方達にはこのモンスターの研究の手伝いをして欲しいの」

「モンスターの研究…?具体的には何をすればいいんだ?」

「貴方達にやってもらうのは研究材料の収集、つまりモンスター本体、及びモンスターの素材の収集をしてもらうわ」

 

そう言うとジュンは少し奥へ行き、人一人が入れそうな程の大きな、ホコリを被った箱を持ってきた。中からはガラガラと金属がぶつかり合う音がする。

 

「この中に色んな武器が入ってるわ。自分の使いたい、慣れている武器を好きに持って行って。壊したらとかは別に考えないでいいわ。どうせ私使わないし。」

 

箱の中身を見てみると、片手剣、槍、弓、盾…どれも厨二心を擽られるような西洋の武器ばかり。

 

「すげぇ、本で見た様な武器がいっぱい…!」

「どれにするか少し迷ってしまうな…」

「…やっぱ俺はこれだな!」

 

俺は目に付いた両刃の片手剣を取る。想像していたよりも金属のずっしりとした重みがあり少しよろけるが、少し力を入れれば全然耐えれる範囲のものだった。

少し剣を振ってみると、ここでこんなことを思うのも少し変だが自分が本当に異世界にいる、自分が何かと戦うという実感が湧いてなぜだか感動してきて、同時に興奮もしてきた。

 

「うーん…これもいいしなぁ…でもこれも捨て難いっ!」

「…なぁジュンさん、盾だけでもいいんだよな?」

「? 盾だけ?まあ別にいいけどそれだけで大丈夫なの?」

「あぁ、これがいい。」

「そう?なら好きにするといいわ。」

 

リョウは少し大きめの盾を取ったようだ。縦に長い、菱形の一角だけを延ばしたような広めの盾。元々身長の高いリョウが持つとその盾はなんというかイメージ的にピッタリだった。

 

「本当に盾だけで良かったのか?」

「あぁ。何故だか分からないが、一番これが自分に合うと思ってな。」

「あ、盾で思い出したけどシュン。片手剣を使うのなら小さい盾も持っておいた方がいいわ。」

 

そう言うとジュンは、箱から探り出した小さい丸型の盾を投げ渡してきた。受け取る瞬間、やっぱり案外重くてよろけてしまった。フィジカルが弱すぎる。鍛えよう。

 

「…で、ソラはまだ迷ってるのか?」

「これも良い…これも良い…!」

「…これは決まるまで少しかかりそうだ。」

 

 

 

 

「…うーんよし、これだ!」

 

ソラは高々と木製の弓を掲げる。迷うの長すぎだろ10分くらい待ったぞ。ちょっと剣に慣れてきたレベルだわ。

 

「弓ね。矢はどれくらいあったかしら…」

「決めるのに時間かかりすぎちゃったなぁ…でもすげぇ今楽しい!」

「まあ無事に会う武器が見つかって良かったな」

「にしても決めるのが遅いような気もするがな」

「それは…ごめーん…」

 

ソラが苦笑いをしたところで、ジュンがコホンッ、とわざとらしい咳払いをした。

 

「それじゃ、武器も決まったところだし早速モンスターを倒しに…と行きたいところだけど、ちょっとその前にやらなきゃいけないことがあるのよねぇ…」

「なんだ?それは」

「正直私はあんまり行きたくないんだけど…『探索者集会所(シーカーズギルド)』って所。」



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探索者集会所

探索者(シーカー)

 

……この世界においてモンスターの討伐や捕獲、未開地の探索などを専攻している者達の総称。

各国ごとに『探索者集会所(シーカーズギルド)』という探索者を纏める組織が設置されている。探索者達はこのギルドから依頼(クエスト)を受諾し、その依頼に向かう。依頼を達成した証を提出すれば報酬を貰える(ただし、自分の受諾した依頼の報酬のみ)。依頼は一部の人達から受け付けられる。

といってもその範囲は幅広く、基本的に民間人からや王国の重要関係者、騎士団などからも依頼を受け付ける。なんなら署名と遭遇したモンスターについての発見報告書を出せば、大抵の人は依頼を出せる。

 

 

 

…というのが『探索者』についての大まかな説明らしい。

結構依頼の部分とかガバガバな感じもするが…本当にその職業やっていけるのか?主に運営の方の詰めの甘さ加減的に。大きな事件でも起きて即信頼失いそうなんだけども。

と思ったが、広い年齢層から高い支持を得ているらしく、国を崩壊させるレベルの事が起きない限りは信用を失う恐れはほぼ無いそうだ。

まあ支持する気持ちも分かりはする。だってみんな冒険したいもん。

 

「ってな感じで…はぁ、ここが『探索者集会所』よ。」

 

ジュンに連れて来られて長めの石段を登った先にあったのは、日本の市役所くらいの大きさの、城に似たような外観の建物だった。入口の前にある石畳で造られた広場は、中央に噴水がある以外は所々にベンチがある程度だ。ちょっとデカめの公園サイズ。

 

「結構でかいなー…」

「人がいっぱいいるからね。この国の半分近くの人は探索者なんじゃないかしら。」

「そんなにいるのか!?」

「私にはあんま魅力わかんないけどね〜…ま、いいわ。急ぎましょ。あんまり行きたくないけど」

 

ジュンは探索者集会所の方を向き歩き始める。確実に階段を上る時より足取りが重い。ここになんか恨みでもあるのか。

 

 

 

地味に長い広場から中に入り、一番最初に思ったことは…

 

「で…でか…」

 

天井の高さは学校の体育館程、少し奥にはカウンターが用意してあり、入口とカウンターの間には見渡す限りの人、人、人。カウンター横に設置してある掲示板の周りには特に多い。右奥には二階に続く階段がある。

 

「ま、とりあえず探索者としての登録を済ませなきゃね。左端のカウンターの所よ。着いてきて」

 

ジュンに促されるまま俺たちはカウンターの席に着く。

 

受付「はい!こちらは探索者登録の窓口になります!…あら!ジュンさんじゃないですか!お久しぶりです!」

 

めっちゃこの人元気だな。声すごい大きい。

 

「えぇ、久しぶり。それでこの子達の登録を済ませたいのだけど」

「了解しました!では人数分の申請書を…はい!どうぞ!お名前とご出身、得意属性やご希望の依頼傾向をご記入ください!」

 

受付さんに神がかったスピードで紙とペンを渡される。渡された書類には、一切何もわからない言語が使われている。アルファベットと…ギリシャ文字を掛け合わせたような…

それに今なんて?得意属性とか依頼傾向とかわからないって。

しかも出身地なんてどう書けばいいんだ?俺達転移してきたんだけど?

 

?で俺の頭がいっぱいになったのを見兼ねてかジュンから助け舟を出される。

 

「はぁ…ちょっとメモ用紙貸してくれるかしら。…ありがとう。ほら貴方達、上から『シュン』『ソラ』『リョウ』。これがここの言語。自分の名前くらい覚えなさい。」

 

そう言って俺たちの名前を書いたメモ用紙をこちらに投げ渡してくる。

 

「あ、一番下に書いてあるのは出身地だから。…ごめんね、受付ちゃん。この子達田舎から出てきたばっかりで言葉もろくに覚えてないのよ。」

受付「いえ!書いて下さるのであれば全部OKです!」

「そんなもんなのね…」

 

ジュンの素晴らしいアドリブなんてそっちのけで、俺たちは自分の名前を表す文字を全力集中で書き写していた。未知の言語って文字を写書きするだけでこんな集中力いるのか…?小学生で初めて習った漢字はもっとスラッと書けた様に思えるんだが……

 

 

その後もジュンに教えられながら、ようやく申請書が出せた。

…早い所、ここの文字を読み書きできるようにならなければ。

 

「…はい、確認できました!シュンさん、ソラさん、リョウさんですね!カウンター横の掲示板から依頼を確認できますので、お好きな依頼を受注して下さい!」

 

受付はそう言って階段近くの掲示板を指差す。

よし、これでようやく

 

「あ!そういえば忘れてました!…はい!こちらが探索者ということを証明するバッジです!」

 

…受付さんが茶色のバッジを渡してくる。

 

「探索者にはそれぞれ階級があり、『銅級』、『銀級』、『金級』、『白金級』、『金剛級』の5階級があります!依頼にはランクが設定されていて、それぞれの階級ごとに受けれる限度が決まっています!上に行けば行くほど依頼の危険度は上がりますが、その分報酬が弾み、探索者集会所(シーカーズギルド)からの援助が多くなります!ぜひ金剛級を目指して頑張って下さい!では!良き探索者ライフを!」

「ありがとうね受付ちゃん。さあ、行くわよ。」

 

そういうとジュンは掲示板まで迷わず歩き始める。

一つ、紙を剥ぎ取り俺たちに突き出した。

 

「最初の依頼はこれよ!」

 

でかでかと『ピグリンの討伐』と書かれていた紙は、間もなくしてカウンターまで運ばれて行った。



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初依頼と初仲間と初戦闘

『ピグリンの討伐
 ───最近またピグリンが畑を荒らしに来るんだ。野菜は食われるわ畑は荒れるわ柵は壊されるわでいい加減限界だ!誰か近くのピグリンを一掃してくれ!アイツらは群れを成してしか食料調達には来ねえ。大抵10匹程度の群れを作ってやってくる。10匹に到達しそうな群れ、10匹以上いる群れを一通り掃除してきてくれ!
           ───ディアフ・リーア』


ジュンが依頼書を受付に持っていこうとした時だった。突然背後から声がした。

 

「あっ…あの!」

 

振り返ると、同い年くらいの中性的な顔をした金髪の子がいた。…パッと見性別がどちらかわからない。一回り小さい博士帽を被り、首には銀製のロザリオのネックレスがかけられている。

 

「どうかしたのか?」

「君たち、新規の探索者だよね?」

「そうだな。今登録が終わったところなんだ。」

「良かった…僕もつい最近探索者になったんだ。けどパーティを組む人が居なくて…よかったら…僕とパーティを組んでくれないかな!」

 

凄くキラキラとした目でこちらを見てくる。

断るつもりは無いがこんな目をされてしまっては断れないだろう。

 

「俺はいいが…リョウ、ソラ、どうする?」

「俺は別に構わない。」

「俺も!」

「ジュン、この子どうする?」

「あんたさん付けもないわけ…?まあいいんじゃないかしら、特に害もないでしょうし。」

「うん、なら大丈夫か。それじゃあ俺たち4人でパーティを組もう!」

「わぁ…!」

 

嬉しいのか子犬のような嘆声を漏らす。

なんというか、可愛らしいなこの子。ほんとに小動物みたいだ。真っ直ぐというか感情を表に出しやすいというか。

 

「ありがとう!本当にありがとう!あっ名乗り忘れてたね…僕は『リア』。リア・ジーニアス。これからよろしくね!」

「あぁ。俺はシュン、よろしくな!」

「俺はリョウだ。」

「俺はソラ!よろしくだ!足を引っ張らないよう頑張るぜ!」

「シュン…リョウ…ソラ…うん!覚えたよ!よろしくね!」

 

一通り挨拶を済ませたところでジュンが思い出したように振り向いてきた。

 

「そういえば、リアとか言ったかしら。君の得意属性ってなんなのかしら?」

「あっ、僕の得意属性は雷です!ただ魔術の範囲制御がまだ苦手で…ですがその分威力に自信はあります!」

「なるほどね。結構バランスのとれたパーティなんじゃないかしら?良いと思うわ。これから頑張ってちょうだいね。」

「はい!ありがとうございます!」

「それじゃ、私は依頼書を提出してくるわ。雑談でもしててちょうだい。」

「あぁ。ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

ジュンが戻るまでの雑談でリアについて色々知れた。

どうやら同い年で間違っていなかったらしい。

リアはここから少し離れた国の貴族の生まれらしい。ただリアとしては貴族の礼儀作法や雰囲気が苦手で、家からの反対を押し切って冒険者になったらしい。なかなか決意が硬い子だ。

他にも、ここアルデス大国にある魔術学院での話や、家を出たあとに訪れた村の話をしてくれた。歳は俺たちと同じなのになかなか濃ゆい人生を送ってきているようだ。

 

「なかなか面白い人生送ってきてるなあ」

「僕としては波乱万丈すぎたけどね…」

「俺もそんな人生送ってみたかったぜ…」

「人生においての刺激が多すぎるのも悩み物だがな」

 

そんな雑談をしていると、ジュンが戻ってきた。

 

「初依頼だからちょっと時間食っちゃったわ。待たせたわね」

「お、お疲れ様。それで依頼の内容ってなんなんだ?」

「初めてに最適な依頼にしてきたわ。『ピグリンの討伐』ね!」

 

聞いたこともない生物?の名前を出される。

名前から姿の想像もできない。これが異世界か…

 

「……ピグリンってなんだ?」

 

ソラが当然の疑問を返す。

それに対してリアが反応を返す。

 

「えぇっ!?ピグリンを知らないの!?」

「しょうがないわ。この子達、少し遠くの田舎から出てきたんだもの。」

「それでもピグリンくらいは知識あるものなんじゃないのかな…?まあ知らないこともあるよね。ピグリンっていうのは町の外の至る所にいる多分一番名が知れてる二足歩行の魔物だよ。」

「人間ほどでは無いけど奴らには知能があるわ。体の構造も人間とよく似ている。だから少し厄介な害獣として農作物を作る人からは嫌われているわね。だからこうしてギルドに依頼としてよく出てくるの。難易度の高い依頼じゃないから探索者になりたての人にうってつけってわけ。ちょうどピグリンのサンプルも不足してたから丁度良いわ。」

 

こちらで言うサルみたいなものか…?

少しの緊張と不安があるが、とりあえず初心者向けなら大丈夫そうだろう。

 

「なるほどな。それでその依頼は今から行くのか?」

「えぇもちろん。結構近めだし討伐にそこまで時間もかからないでしょうしね」

「よっしゃ!ワクワクするぜ!初依頼無事に成し遂げるぞ!」

「おう!」

「頑張ろうね!」

 

ようやくの初依頼、大きな期待と小さな緊張を持って依頼の場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ…森?」

 

俺たちが向かったのはこの王国の近くにある森だった。俺たちが目覚めたところではない森だ。そこの森よりも木や草の量が体感多く感じる。どうやら生えている植物の種類も違うようだ。

位置が近いのに変化があるのも異世界の影響かとも思ったが、日本でも度々そういうことはあるし全てが俺たちの世界とまるっきり違うという訳では無いのを改めて知った。

 

「ピグリンは森を拠点にすることが多いんだ。国を跨ぐ商人とかはピグリンに襲われないよう極力森を避けようとするんだ。だから比較的森の多いアルデス王国は大陸の中央に位置してるけど限られた国からの商人ばっかりなんだって。」

「やっぱり商人とか農民にはダメージが大きいんだな。ほんとにさっきまで一般人だった俺が倒せるのか?」

「ピグリンは攻撃性はあるけど威力自体はあまり高くないわ。ピグリンから襲われての死亡例なんて子供くらいのものよ。」

 

一応死亡例はあるのか…

それを聞いて少し不安が強くなるが、俺達も十分に育ったし話を聞く限りはピグリンの攻撃も耐えれはしそうだ。俺には肉体面よりも先に精神面の成長が必要かもしれない。

 

「…そろそろね。みんな戦闘準備に入って。」

 

ジュンが警告する。少し先には目測1m程の褐色の生物が複数いた。

これがピグリン…体型自体は人間に似ているが顔つきは人間からかけはなれている。豚のような鼻に鋭く尖った爪、そして肉食動物のような歯。

いよいよ初戦闘だ。緊張が込み上げてくる。

腰に下げた片手剣を鞘から抜き構える。

リョウを先頭にしてその次に俺とリア、その後ろにジュンとソラの順。

できるだけ足音を殺しながらピグリンの群れにじりじりと近づく。

ピグリン達が少し別のものに気を取られていた瞬間、ジュンの声が鳴り響く。

 

「…今よ!」

 

その声と同時に順を崩さずに突撃する。

ピグリン達は少し遅れて反応し、『ギィァァ!』という鳴き声を発してこちらに向かってくる。

1…2…3…数は9体。それぞれの位置はバラバラだ。俺はピグリンの数の少ない方向へ向かう。

大抵の敵は一番目立つ盾を持ったリョウに目線を取られているが、俺が向かった先のピグリンは俺が1m程度にまで近づいたところで俺に気づいた。

ナイフのような爪を振り下ろしてくるのを盾で防ぎ、無防備になった腕に片手剣を振り下ろし、切り落とした。間もなくして断面から緑の体液が吹き出す。

 

「…!うわっ…」

 

魔物とはいえ生物の腕を切り落とすなんて初めての事だった。それ故に俺の体はこの感触に酷い嫌悪感を示す。牛の生肉を切るなんてものとは比べ物にならない程生々しい感触。これから自分が生命を絶つという実感。

これから乗り越えなければならない試練だと強く気を持つ。

 

腕を切り落としたピグリンは、傷口を抑える様子は無かったものの少し仰け反った。

チャンスだ。

そう思い振り下ろした片手剣を切り上げた。が、ピグリンはそれをもう片方の爪で跳ね除け、噛み付こうと俺に飛び込んでくる。不意をつかれたが、意外にも脳は冷静に働き、ジャンプしてきた瞬間を狙い、左手の盾で思いっきりピグリンの頭を殴った。

ピグリンは殴った方向に飛ばされ、受け身も取れず地面に倒れ込む。その隙を逃さない。俺は即座に倒れたピグリンの腕を足で押さえつけ、片手剣を首目掛けて振り降ろす。

 

俺がこの世界で殺す初めての敵。ありがとう、俺に試練をくれて。

こんな感謝をするのも変だが、これが俺のすべきことだと何となく思った。

僅か5秒程度だっただろう戦闘だが、初の犠牲への感謝と敬意を片手剣へと込める。

 

思っていた以上に首は簡単に裂かれ、ピグリンは『ギャ…ァ…』とだけ鳴き、動かなくなった。

自分が生物を殺した恐怖は確かにあるが、感傷に浸ってもいられない。第一相手は魔物なのだ。非情にならなければいけない。

 

…よし、次のピグリンだ。

リョウの盾に目を奪われているピグリン達へと突っ込む。

 

 

 

 

 

「ふいー、疲れたぁ。弓ってのも案外体力使うもんだなぁ。リョウ達大丈夫か?」

「あぁ。俺は大丈夫だ。確かに初めて使うのもあって少し疲れたな。シュンとリアは大丈夫か?」

「初めて生物を殺したせいで気分は少し悪いが…慣れはした。」

「僕は前にちょっとだけピグリン討伐したことがあるから慣れてはいるよ。大丈夫!」

 

先程の戦闘での成果は、ほとんどがリアによるものだった。

広範囲の攻撃は集団のピグリンに対して刺さりまくり、5匹ほどを一掃していた。怖いなあこの子。その他は俺が2匹、リョウとソラが1匹ずつという内訳。リョウのやり方が中々に残酷で、ピグリンを盾で潰して殺していた。どんな奇天烈発想してんだ?

 

そんなこんなで初戦闘は終わった。だが依頼はまだ終わっていない。少なくとも残り2つ程群れを潰さないといけないらしい。

また同じ感覚を味わなければいけないと思うと気が重くなるが、非情になる練習としよう。

 

ジュンの指示のもと次の群れへと向かった。

 

 

 

 

 

「…よし、このあたりでもう大丈夫そうね。そろそろ引き上げるわよ」

「ようやく終わりかぁ!疲れた…」

「少し身体に来るな…運動をしていなかった訳では無いが、慣れというのは確かにありそうだ。」

「僕もちょっと疲れたよ…みんなもお疲れ様…」

「一先ず、これで初依頼は完了だな。」

 

それぞれが頷く。

そして王国へ帰ろうと支度をしていた時だった。

 

「…?」

 

どこからか子供の泣き声がしたような気がした。

いや、泣き声というより怯えた声か…?どちらにせよ子供がピンチになっているのかもしれない。ジュンたちに待ってもらい、少し辺りを探してみることにした。

 

 

 

今居たところからはよく聞こえなかったが、少し奥へ行くと段々と声がはっきり聞こえてきた。声の方角へ行くと、確かに子供がいた。

小さい紫髪の少女だ。肌は褐色と言うよりかは俺たちの世界の黒人に似た色をしている。

 

何故少女が立ち尽くし泣いているか一瞬で理解出来たのは、少女の目の前に先程倒したピグリンよりも一回りも二回りも大きいピグリンがいたからだ。

考えるよりも先に反射的に身体が動いていた。

ピグリンが振り降ろした爪を盾で受け止める。

 

…ッ!

やはり身体が大きいのは伊達じゃない。普通のピグリンよりも何倍も強い!

なんとかギリギリ押し返せる程の力しか俺には無い。このまま押し合いが拮抗すれば俺が負けるのは明白だ。その前に何か手を打たないといけない。

一か八か、ピグリンの横腹へ片手剣を突き切る。が、思っていた以上に肉体が硬く、刃は少ししか通らない。切り裂こうにも表面を撫でるようにまでにしか至らない。だが小さくてもダメージはあるようで、少しだけ盾を押す力が弱まった。

 

…それなら!

 

ここまでのピグリン討伐中に少し気になっていた事があった。それはピグリン達は胸の中心に刃を突き刺すと、ほんの少ししか切っていないにも関わらず、最初に腕を切ったピグリンよりも大きく後退していたことだ。

もしかしたらこのピグリンも例外では無いと踏み、俺は胸の中心目掛けて片手剣を突き刺した。

予想通り、デカいピグリンは仰け反り、縦を押す力もほとんど無くなった。そのタイミングで爪を払い除け、再び胸へ片手剣を突き刺す。

ピグリンはまた仰け反りはしたが、先程よりも仰け反りは少ない。対応してきたのだ。更には爪を薙ぎ払い、反撃までしてきた。

 

「ッ!やっちまった…!」

 

思わず声が零れる。

薙ぎ払われた瞬間にバックステップをしはしたが、それでも爪の先は俺の脛を掠った。抉れるとまでは行かないもののほんの少し深い傷を負った。

だが怯んでもいられない。後ろには守るべき少女がいる。こんなところで負けられない!

しかし体格、力ともに不利なのは俺というのはひっくり返らない。ソラ達を呼ぼうにも俺一人でここまで来てしまった。どうにか一人で状況を打破しないといけない。

大人しく考える時間を与えてくれる程ピグリンも優しくは無い。更に攻撃を繰り返して、一旦は避けることに専念させられる。

左上からの爪振り下ろし、右足からの蹴り。体格が大きいせいか動きが鈍いため、何とか紙一重で避け続けれはいたが、そろそろ反撃しないとどんどん追い詰められるだろう。

 

考えろ…考えるんだ…!

現状を打破する切っ掛けを!

 

俺が何故こいつに苦戦しているか?

体格の差?力の差?肉体の硬さ?爪のリーチの長さ?

 

…こいつらピグリンは体の構造は人間と似ているはず。なら筋肉においてもそうじゃないのか?

ならば肉体の硬さの面をそれで打ち破れるかもしれない…!

人間の身体で比較的柔らかい部分…横腹?違う、首?違う、…膕?

膕…確かマダニ等は人間の柔らかい部分から吸血して寄生するんだったか。そしてその時に寄生のため密着する部分が膕…

それならそこを狙えばある程度隙は出来る…?

 

とにかく発見が出来たなら行動だ。

ピグリンの攻撃を紙一重で避け続け、抜け出すタイミングを思考する。

一番後隙が大きい行動は何だ…?爪の振り下ろしか?いや、それだと爪を薙ぎ払われて実行まで行くかが危うい。片方の爪だけを使う攻撃は駄目そうだ。ならば足だ。足なら残っている片足を狙えるし反撃の可能性も薄い。だとしたら恐らく一番後隙が多いのは前蹴りだ!

 

このピグリンが前蹴りを使ってくる状況は『俺を爪で斬ろうとすると自分にまで被害が及ぶ程度の距離』のはず。先程までギリギリで避けてきた時にそれだけは気づけた。故に蹴りの危険性を消すために俺は少し離れて避けていたのだ。それを今利用する。

大振りな右爪を避け、ギリギリ前蹴りをされても避けれる位置取りをする。予想通り左足で前蹴りをしてきた。避けた瞬間、俺は左へと転がり、即座に裏に回り込む。そして一直線に膕へ剣を突き刺す!

 

よし、思った通りだ!

 

確かに少しは硬かったが、それでも十分にダメージを与えられるほどにまで剣はピグリンの足へ突き刺さった。

『ギィィアァァァ!!』という馬鹿みたいにデカい声を発してピグリンは蹣跚け、大きな音を出して倒れる。

だがただで倒れるピグリンではなかった。蹣跚けたその瞬間、振り返り出鱈目に爪を振った。不意をつかれたせいで咄嗟に対応することも出来ず、なんとか形を保ってはいたが、右腕を裂かれてしまった。

せっかくのチャンスだと言うのに、右腕にはまともに力が入らない。かと言って利き手では無い左手で扱うには力不足がすぎる。とは言えここでダメージを与えなければ、次はいつになるかもわからない。今しか無いのだ。

クソッ!こんな時に限って右腕を…

 

ふと思い出す。今までほとんど使っていないから忘れていたのだ。俺には新しい『力』があるじゃないか。

その力さえ使えば弱点への攻撃もできるのでは?少なくともやらないよりかはマシなはずだ。あの時の感触は…

 

片手剣を左手に持ち変える。倒れたピグリンの身体に乗り、胸の中央へ剣を突き下ろす。

その瞬間。自分の腕へ電流のような感触が流れる。剣へと風を巻き起こし突く速度にブーストをかける!

想定外の速度に思わず左腕が持っていかれそうになったが、突き刺した剣は、しっかりとピグリンの胸を貫通した。

反撃を恐れたが、ぐったりと倒れたままピグリンは動かない。

 

…なるほど?俺はここまで普通のピグリンを含め、ピグリンの胸へ少しだけしか剣を突き刺していなかった。もしかしたらそこにピグリンの命の核があり、それを本能で分かっていたから仰け反っていたのか?

 

答え合わせは出来ないが予想を立てるだけ立ててみる。

 

…いけない、少女のことを忘れていた。

 

「ふぅ…大丈夫かい?君…」

 

そう言って振り向く。少女は驚きと安堵が混じったような表情で見つめてくる。

…少し気まずいのだが。

少女に近づく。

 

「あー…怪我とかは無い?森を出るまで一緒に行かないかい?」

 

…返事は無い。少しまごつくような動作を見せているものの、一向に言葉がない。

見た目からしてもう話してもおかしくないくらいの歳はしてるはずなのだが。ここまで来ると少し不安になってきた。精神崩壊とかしてないと良いのだが。

 

「君、本当に大丈夫?歩けるかい?」

 

そう言い、少し目を逸らした瞬間だった。

腰あたりにぎゅっと柔らかい何かが触れた。

 

「へっ…?」

 

少女に抱きつかれていたのだ。

かなり弱々しい声をあげてしまったが、それも仕方ない程突然で驚きの行動だった。

 

…不安だったのかな。

 

そりゃそうもなるだろう。この歳の子が一人で魔物に襲われていたんだ。人に縋りたくなるほど不安になるのもしょうがない。

さらりと頭を撫でる。少女は嬉しそうな声を零した。

 

「おーい!シュン!大丈夫かー!」

 

少し遠くからソラの声が聞こえた。ピグリンの鳴き声を聞いてやって来たのか。

 

「あぁ!大丈夫だ!こっちに来てくれ!」

 

そう言い、少女の方を再び向くと少女はどこかへ消えていた。

 

「…!?えっ!?どこにいった!?」

 

少しの間驚愕しているとソラたちが到着してきた。

依然として少女は姿を現さない。

 

「シュン何してんだ…って何だ!?このデカイピグリン!?」

「突然変異種かしら…それにしてもどうしてシュンは飛び出して行ったのよ?」

「あぁ、微かに子供の泣き声が聞こえたんだ。それで探してたらこのデカイピグリンに襲われてる子供を見つけた。で、その子はさっきまでここに居たんだけど…」

「…居ないな。」

「子供の足でそんなに早く走れるものなのかな…?」

「わからない……」

「ま、とりあえず帰りましょう。その子もそんな足をしてるなら特に危険もなく帰れるはずよ。思わぬ収穫もあったし、私としては大満足ね!」

「人がギリギリでこのピグリンに勝ってるのに良く言えるなそれ…」

 

少女のことが心残りではあるが、初依頼は一件落着した。

帰って腕を治さないと…



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疑念

創作意欲が溢れている時に限って、何かしなければならない事があるこのジレンマ。


「っっ痛ぇ……」

 

太陽は空を赤く染め上げて、今にも山に姿を隠そうとしている。

そんな王国への帰路の途中、ピグリンに付けられた傷が痛む。

それほど傷は深くなく、少し安静にしていればすぐ治るようだ。

しかし、やけに力が抜けるのを感じる。森で気絶した時の脱力感とはまた別の感覚だった。

 

「浅いとは言えど、この腕は帰ったら早いところ治療しなきゃいけないわね…」

「ひえぇ…でもそのくらいの傷で済んで良かったね。あの大きさのピグリンなら死んでてもおかしくなかったよ?」

「サラッと怖いこと言うなよリア!?」

「まあそれも事実だろう。とはいえ、何故シュンは俺たちを呼ばず一人で飛び出して行ったんだ」

「そうだぞ!もっと俺らを頼ってくれてもいいんだぜ?」

 

ソラに言われて改めて反省する。

子どもを探すだけ、と舐めてかかっていた部分はあったが、ピグリンに遭遇した際にソラ達を呼べばよかったのかもしれない。信頼していないという訳では無いが、必要以上に俺はこいつらを心配しすぎているのかもしれない。

 

「…そうだな、すまん。一人で突っ走りすぎるのは良くないな。反省するよ」

「もっとどんと来ていいんだぜ!」

「あぁ。俺たちの仲だ。どんなことでも折れたりしないさ」

 

そんなこんなで話していると、いつの間にか城門の目の前まで戻ってきていた。

ようやく依頼が終わったという安堵感と達成感で今夜は良く眠れそうだ。

ジュンが城門を開き、続けてソラとリョウが中へと入っていった。

 

「……」

 

城門をくぐろうとした時、後ろからボソリと声が聞こえ、リアが立ち止まっている事に気付く。夕陽による影で顔は良く見えない。

 

「リア?早く来いよ」

「…うん、今行くよ」

 

リアの様子に不安を覚えたが、俺も早く休みたいので、あまり気にせずに先に門をくぐった。

と、同時に門が大きな音を出し閉まり始める。

少し驚いて、反射的に後ろを見る。リアの影の輪郭は門の隙間に閉ざされていった。

 

「…え?まだリアが…」

「シュン、どうしたの?」

 

リアの声で前方を見返す。

ジュン、ソラ、リョウ、そしてリアが不思議そうな顔でこちらを見ている。

 

「は?リア、お前俺の後ろに居たんじゃ…」

「え?いたはいたけど…シュンが後ろを振り向いた時に追い抜かしたよ?」

 

リアは平然とした顔で答える。

 

「じゃああれは一体…」

「おいおいシュン、初めての依頼で疲れすぎて見間違えたか?」

「今夜はしっかりと睡眠を取った方が良さそうだな」

「あはは!でもあんなに大きいピグリンと戦ったんじゃしょうがないね」

 

皆に笑い飛ばされる。

確かにリアとは今日からの知り合いだし、顔はよく見えなかったが、それでも他の人と間違えるなんて事は無いはず…

…いや、本当に俺が疲れすぎてるだけかもしれない。今日はいきなりこんなにも動いたんだ、疲労が溜まっていても可笑しな話では無い。

自分の勘違いだと思い込み、一旦は考える事を止めた。

 

「じゃあ、報酬を受け取りに行きましょうか。その後あなた達の泊まる宿屋も探さないとね」

「よっしゃあ初報酬だぜ!やり遂げた実感が湧くな!早く取りに行こうぜ!」

「そう急かすなソラ。焦っても報酬は逃げていかないんだ」

「でもわくわくはするよね!」

「とりあえず集会所に行くか。早く休みたいしな」

「幻覚見るくらいだもんね?」

「う、うるせえ!」

 

…少しの間はいじられ続けるかもしれないな、これ。

 

 

 

 

 

報酬を取りに行くと、予期せぬ新種個体の素材提供として追加報酬が支払われた。お金(この異世界ではJ(ジェム)と呼ぶらしい)も十分に溜まり、3日間程度なら不自由なく暮らせるレベルには資源が潤った。俺の文字通り必死の戦闘は、無駄にならずに済んだのだ。

その後、なんとか日が沈み切る前に宿屋を取る事が出来、ようやく一息つけるようになった。

 

「ふぃ〜、いい湯だった〜」

「俺は少しのぼせてしまったな…どうも湯加減が合わなかったようだ…」

「まあさっぱりできて良かったじゃん。風呂なんてこっちにないと思ってたしな」

 

驚いたことに、この異世界でも浴場とトイレは、現代社会程では無いが快適に使える位の品質だった。こういった生活基盤が充実した国に転移できた事は、非常に運が良かったのだろう。

 

「じゃあ僕もお風呂入ってくるね」

「おう、いってらー」

 

ドアから出ていくリアに対して、ソラがひらひらと手を振る。

 

「なあ、リアって男じゃないのか?」

 

ふと頭にでてきた疑問を何気なく声に出してみた。

 

「そうじゃねえの?」

「ならなんで俺たちと一緒に入らなかったんだろうな」

「友人に裸を見せたくない人だっていてもおかしくはないだろう。あまり詮索するものでもないしな」

 

そんなもんか。

特に深く考えがあった訳では無いが、とりあえずその考えでこの疑問は抑えておく。

 

「そういやソラ、お前コミュ障気味なのに初めて会ったリアとかジュンと普通に話せてたじゃん、克服できた?」

「言われてみれば確かに何も思わないでリアとかと話してたなぁ。克服したってよりかは、異世界に来て舞い上がったテンションに乗せて喋ってたのかもしれねえや」

「だとしたら突破口が見つけられて良かったじゃないか。これからそれも治っていくだろう」

「そんな簡単なもんじゃねえよ」

 

ソラが冗談半分といった声で笑いながら答える。

そういや、と今度はソラが問い掛けてきた。

 

「明日特になんもないらしいけど、リョウとシュンは何かすんのか?俺はまた別の依頼受けてみよっかなーって思ってるんだけど」

「あー、何も考えてなかったな」

 

実は、報酬を受け取ったあとジュンに明日の予定を聞いたところ、

 

「久しぶりに興味のある研究対象が手に入ったから明日は休みよ!」

 

とのことで、明日はほとんど何も知らない地で放置されることが確定していた。

ちなみにジュンは徹夜で研究するらしい。

 

「俺はこの王国を散策するつもりだ。金銭面でも情報面でもここには長めに滞在することになるだろうからな。」

「そうか、じゃあここの地理に関してはお前に任せたぜ!シュンはどうする?」

「うーん、そうだな…」

 

俺もソラと一緒に依頼を受けて報酬を稼いでもいいが、それでも情報が少なすぎる。何せ俺たちは、この世界の文字すらもまともに読めないレベルの知識量だ。現代社会の学校で習っていたことなんか到底使えるとは思えない。

てかそんな状態でソラは新しい依頼受けようとしてんのかよ。

物資を取るか、知識を取るかの二択になったな。

 

…よし、決めた。

 

「じゃあ俺は───」

 

 

 

 

 

「ジュンー!いるかー?」

 

俺は、一見閑散としているジュンの自宅兼モンスターラボへと声を響かせる。

入って来なさい、と床の下から小さな声が聞こえた。

昨日ジュンが弄っていた所から、記憶を辿りながらボタンの位置を探ってみる。すると、近くの壁から十数cm離れた床の木目に、違和感のある感触があることに気づいた。そのまま押してみると少し派手な音を出して床が動き、地下へと続く梯子がかかった穴が出てきた。

カツン、カツンと金属を軽く反響させながら下っていき、梯子の切れ目を目印に暗い地面に着く。

 

「うわぁ暗え。こんなところで研究なんてして目が悪くならないのか?」

「生憎視力は何も変わっちゃいないわ。」

 

暗闇の先からふわりとした明かりが顔を出し、同時にジュンの認識を可能にさせる。彼女の更に奥には、ぼんやりとした紅い光が台の周りを囲っている。

 

「それで?わざわざこんな薄暗いところに何の用?」

「あぁ。ちょっとここの国の文字の読み方とかを教わりたくて」

 

そう、ジュンを尋ねたのはこの世界での読み書きを会得するためだ。依頼の受諾や、内容確認で文字が読めない書けないとなると、それが大きな足枷となってしまう。それに情報を集めるにも、文字が読めないと話にもならない。

相当当たり前の話と思われるだろうが、この世界を知らない俺たちにとっては死活問題と言っても過言ではなかった。

 

「本当に文字を知らないのね…けれど、それならリアに頼めばよかったじゃない。こんなに暗いところになんてわざわざ来る必要も無くなるでしょ?」

「暗いとこって言ったの相当根に持ってる?悪かったって…リアはソラに着いて行って新しい依頼を受けに行ったんだよ。」

 

まあソラが土下座で頼み込んで、半ば無理やり連れて行ったんだけどな。いやリアのしたい事も言わせずに頼んでたから半ばとかじゃなく無理やりか。

ソラ1人だと色々心配だったが、リアもいるとなればそこまで心配する必要もなさそうだ。

 

「なるほどね。仕事熱心なようで感心感心。それで文字の指導だっけ?いいわよ、この天才が完璧に教えてあげる。」

「ジュン、あんたそんなキャラだったか?」

 

 

 

 

 

「これで大抵の範囲は網羅できたと思うわ」

「なるほどな。助かったよ」

「こっちも理解が早くて助かったわ」

 

ジュンのおかげで、これまでさっぱりだった文字も、文字を覚えてさえいればスラスラと読めるようになってきた。文法の語順だったりは日本語とだいたい同じ感覚で読めばいいし、固有名詞も聞いた文字をそのまま書けばいい。

文法がもっとめちゃくちゃで覚えるのに苦労すると何となく思っていたから、覚えやすくてとても有難い。

 

一先ず文字の読み方も理解した事だし、早速調べ物をしてみよう。

 

「ジュン、この国とか世界について知れる資料とかってどこかにあるか?」

「そうね…私の資料室はほぼモンスターに関するものばかりだし、『国家図書館』とかに行ってみたらどうかしら?」

「『国家図書館』?」

「ええ。国が運営してる国公認の大きい図書館よ。この国って縦向きの楕円形に城壁で囲まれてて、その城壁の中央部に大きい銅像が祀られてるでしょ?そしてその像の正面に建てられてる王城の、右側に位置してるのが国家図書館よ。」

 

ジュンに言われ、この国の風景を思い出す。

特に周りを気にして見ていなかっため、そんな銅像があることも城壁がそんな形をしていることにも気付いていなかった。もっと周りを見るべきかもしれない。自分の弱点に気づく予想外の瞬間だった。

 

「元々外来人向けの図書館として作られたんだけど、ほとんど利用者は国内の人ね。」

「なるほど、そんなものが…ありがとう、行ってみるよ。」

「はいはい、ちゃんと入口は閉めてってよね。」

 

俺は『国家図書館』を目指して進み始めた。



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異世界ってこんなに楽しいもんなのか!

シュン以外の視点も書いていきます。
今回はソラです。


「うし!じゃあ別行動開始だな!みんな気をつけてくれよ!」

 

宿屋の扉の前、朝日が俺らの顔を照らす。

異世界に来て初めて…じゃないか。初日からが濃すぎるからなぁ…今日が三日目って事を完全に忘れてたぜ…

まあとりあえず、無事に朝を迎えられたってのはいつでも祝福すべきことだもんな!

 

「一番危なっかしいお前が言うか?」

「僕もついて行くから、なるべく見張ってはおくよ…」

「すまないリア、迷惑をかける。」

「いやいや!そんなこと思ってないって!」

 

なんだよ!シュンもリョウも!

俺っていつも何かやらかしてんのか!?

 

「みんな俺の事をなんだと思ってんだ?!」

「歩く核爆弾」

「人間の形をした災害。」

「あはは…」

「おーまーえーらー!」

 

全く、人のことを散々言いやがって…

今に見てろ!今日の依頼でデカイ成果を上げてギャフンと言わせてやるからな!首を洗って待っとけ!

 

「はぁ…とりあえず、ここからは別々だ!みんな頑張れよ!」

「言われなくともそうするさ」

「もちろん。」

「頑張るよ!」

 

みんなの威勢のいい声が響く。

うん、いいなこういうの!冒険感が強まるってもんだ!

 

「よし、それじゃ行こうぜリア!」

「う、うん!」

「後でどんな魔物倒したか教えろよー!」

「あったりめえよ!」

 

リアと一緒に探索者集会所へダッシュする。

今日は何のモンスターと会えるのか楽しみだぜ!

 

 

 

 

 

「うひゃー、結構登るのキツイな…」

「ある程度整備されてるとはいえ、普通に山だからね…」

 

俺たちは今、アルデス王国の北部にある山岳地帯に来ていた。

今回受けた依頼は、この山岳に棲みつく『ルイユイ』って生物を倒すものらしい。

その『ルイユイ』ってのが、リア曰くちょっと面倒な鳥らしい。

鳥って弓で狙うの結構難しそうだけど…けどリアがいるから何とかなるかなとは思っている。

 

けどダメだなあ。すぐこんな誰かがいるからって考えになるのは。

もっと成長しなきゃ、この世界じゃやっていけないんだろう。

どうにかこの弓の感覚だけでも掴みたい!

 

気合いを入れ直し、山登りを続けた。

 

 

 

 

「あぁー!疲れた!」

「結構斜面がきつかったね…」

 

入れ直した気合が全部山登りに使われた気がする…

とはいえ!目的の『ルイユイ』がいるところに着いた!

善は急げだ!早いところ終わらせよう!

 

「よぉしリア!早速そのルイユイを倒すぞ!」

「あっソラ、ルイユイは知能が高くて、商人の荷物が見えてから襲いかかってくるんだ。この山岳の道はアルデス王国とリクシディア共和国を繋ぐ唯一の道で商人にとっては命も同然。ルイユイはそこを狙ってくる。だから何も無い僕たちが来ても反応はしないよ。商人が来るのを待たないと…」

「な…なるほど…?」

 

とりあえず商人が来るまでは待たなきゃ行けないってことか…

と思った矢先、ガラゴロ…とおそらく木製の車輪の音が向かい側から聞こえた。

 

「い…急がないと…!」

 

息を荒げながら荷台を引く、丸々とした人が登ってきた。台の上に何かを詰めた袋がごろごろと転がっている。

こりゃ十中八九商人だろ!ってことは…

 

「ソラ!ルイユイが来た!」

「しゃ!やっぱりな!」

 

気持ちいいほどの真っ青の空の下、なんか鳥をめっちゃ筋肉質にしたみたいな生物が山の影から十匹くらいすっ飛んできた。

すかさず弓と矢を構えて弦を弾く。

狙え狙え〜…?

 

「ここでどうだ!」

 

パチッという音と共に勢い良く矢が空へ飛んでいく。

このまま行けば当たるけど…

 

「「あっ」」

 

リアと声が重なる。

普通に避けられた。そりゃそうか。

しっかしこんなんこの距離からは無理ゲーじゃねえか?

 

「僕も行くよ!『────』」

「お、おう?リア?」

 

リアがよく分からない言語を喋り始めた。

手に持った杖に祈るみたいに目を瞑って…

 

「『スタースパーク』!」

 

そう言って杖を突き出すと、杖の先から眩い閃光が飛び出してきた。

瞬く間に閃光はルイユイへと届き、命中した三匹は飛び続けるのが困難になるほど怯んだ。

 

「今だよソラ!」

「えっ、あ、おう!」

 

リアの行動に呆気にとられすぎていた。急いで矢を構え弦を弾く。

さっきとは違い動きの鈍いルイユイは、そのまま胴を貫かれ重力に従い落下する。

 

「しゃあ!ナイスだリア!」

「この調子で行こう!」

 

リアと互いを励まし合う。後ろから商人の驚いた声が聞こえた。まだいたのかよ。

にしてもほんとにこの世界は魔法があるんだな…さっきのリアの謎の言語は『詠唱』だったんだろうな…

 

…あれ?俺たち詠唱なんかしてないのに使えてたけど…なんでだ?

試しに手に火を出してみる。ふわりと小さい炎が出てきた。

ちょっと集中しないといけないけどちゃんと出せるようにはなった。昨日の夜練習した甲斐があったな!布団をちょっと焦がしたのは内緒だ。

けどやっぱり詠唱なんていらないし…

 

「『スタースパーク』!」

 

リアの声が耳に入る。と同時に閃光が辺りを包む。

やっべ!矢の準備!急ぎすぎて矢筒から二本取っちまった!戻さないと…いやちょっとやってみるか!

好奇心で二本矢を弾いてみる。弦引っ張るのきついな…けど!

 

「ほら行けっ!」

 

バチッと二本同時に矢が空に飛んでいく。勢いは一本の時よりかなり弱いけどどうだ?

 

矢は二手に分かれ、なんとかどちらとも矢はルイユイに命中しそのまま落下する。貫通はしなかったな…

けど二羽同時にやれたのはデカイ!今度二本練習してみるか?

今はまだ一本ずつでいい!とりあえず全員撃ち落とす!

 

 

そのままリアとのコンビネーションで次々とルイユイを討伐して行く。

ルイユイが飛びかかってきてちょっと頬をかすったけど、そのまま首根っこ掴んで地面にたたきつけて矢を突き刺した。人間舐めんな!

 

「ようやく最後の一匹だな!」

「ちょっと疲れたよ…でも最後だからね!『スタースパーク』!」

 

例の如く、リアの雷はルイユイへと命中し、そのまま怯む。

そこを俺の弓で…射抜く!

 

俺が弾いた軽快な音はそのままルイユイへと直行し、胴へ突き刺さ──

 

ビュン!

 

──ることは無く、黒い影が持ってきた突風によって矢は山岳の奥へ吹き飛ばされていった。

その突風で俺達も少し目を瞑らされる。目を開けると、ルイユイの姿はもう無かった。

 

「な、何!?」

「今なんか影が!」

 

視界の端、太陽の逆光で俺たちの足元へ影を落とす何かが佇んでいた。

 

「おい、あれって…」

「ものすごく大きいルイユイ…」

 

さっきのヤツらとは比にならないくらいにデカいルイユイが俺たちを見下ろしていた。

 

「ひ、ひえああああえええええぇぇ!!」

 

後方から悲鳴が聞こえ振り返ると、さっきの商人がまだそこにいた。

荷台を急いで引き、猛ダッシュで山岳の坂を下っていく。

再び、視界に黒い影が走る。

 

グシャリ!と荷台に向かって速度を付け着地したルイユイは、そのまま荷台をクチバシで物色する。荷台はボロボロに崩れ、荷物の袋はめちゃくちゃになっている。

幸い、商人は無事なようだが腰を抜かしている。

 

「逃げるぞ!リア!こんなん勝てっこねえ!」

「う、うん!はやく行こう!」

 

急いで撃ち落としたルイユイ数匹を回収し、坂を下る。

商人は腰を抜かしたままだ。さすがに見殺しにはできない。

 

「あんたなにしてんだ!早くしないとやばいぞ!」

「あ、あぁ…!」

 

うわ言の様に返事をするが、まだ腰を抜かしたままだ。

このままじゃ…

 

「っくそ!待ってろ!」

 

リアに回収したルイユイを任せて商人の元へ向かう。

まだデカいルイユイは荷物に夢中なようで、こちらに見向きもしない。

今しかない!

 

素早くルイユイの足元へ滑り込み、商人を抱えあげる。

 

「こいつ、重ッ…!」

 

ここまできてもまだ商人は上の空の状態で、ずっと荷台を見つめている。

それでも引きずって無理やりこの場から離さないとどうなるか分からない。あんまり力は無い方だが、火事場の馬鹿力ってやつかなんとか人一人は引きずれる。今火事じゃねえけどな!

 

「行くぞリア!全力で走れ!」

 

とにかくここから逃げろ!

全力で山を駆け下りた。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

「なんとか…無事に降りれたね…」

 

特にルイユイの攻撃はなかったが、山岳の入口まで死に物狂いで降りてきた。商人も無事なようだ。

コイツ重すぎる、ガチで死ぬかと思った。なんでこんな山乗り越えるくせにこんな太ってんだ。

にしてもあのデケえルイユイはなんなんだ…?

 

「リア、ルイユイってのはあんなでかくなるもんなのか?」

「僕も初めて見たよ…そもそも小さい種しか見つけられてないし、あんなに大きい個体がいるなんて聞いたこともないよ…集会場に報告しなくちゃ」

「とりあえず王国に戻るか…」

 

疲弊した重い足をなんとか動かして、王国へと向かい始めた。



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曖昧模糊

宿屋の前でシュン、ソラ、リアと分かれた後、俺はそのまま街の探索へ出向いた。

何故元よりこの王国にいたリアが居るにも関わらず、俺が街の探索に行くのか、それはリアが重度の方向音痴だったからだ。

魔術学院に通っていたとは言っていたが、学院は寮制らしく、外に出る機会が少なく街の地形をあまり覚えていないのだとか。とはいえ、学院内で迷う事も何度かあったらしく、地理のレベルは推して知るべしだろう。

 

探索を始め、体感一時間程経過した。

普段の生活に必要な物資を整えれる商店街や、探索者集会所への経路、国を囲う楕円の城壁、楕円の角度の着いた弧にそびえ立つ神を象った像と王城、リアの通っていた魔術学院など、様々な建物の位置を頭の中へ叩き込んだ。

思っていたよりも未知の地での地形の把握は難しいものだったが、音を上げるほどのものでは無かった。

 

そして、相当の距離を歩いた弊害か、地形を覚える集中力が途切れ始め、次第にあることを考えてるようになってきた。

それは初日のシュンの暴走について。

勿論俺たちは、あの日初めてこの能力に気付き、初めて使用したものだ。頑張っても猪を吹き飛ばす程度しか出なかったものが、いきなり地面を抉る程の威力を、一日気絶する程度の代償で出せるのか?

普通に、少なくとも俺とソラの常識であれば有り得ないものだ。

 

あの時、シュンの中で何かが起こり、そして代償として何かを失ったはずだ。でないとただの一般人があんな威力を叩き出せるはずがない。それはリアを見れば分かるものだ。

魔術学院を卒業した者でさえ、範囲と威力は暴走したシュンには遠く及ばなかった。おかしいと思わない方が不自然だ。

 

そして先日のピグリン掃討で理解したが、シュンは根本的に何処か狂っている。あまりにも切り替えが早すぎるのだ。

シュンは、敵を殺す事への容赦が無さすぎる。動物を殺す葛藤が一瞬しか見受けられなかった。ソラも最初の戦闘の最中は集中していたせいかその様子は見せなかったが、終わってから気分を悪くしていた。俺もそうだった。

が、シュンだけは違った。これは適応能力なんてもので片付けられる問題では無い。倫理的な部分でどこかシュンは狂っている。

 

思い返してみれば、あの時も

 

「キャァァァアアア!!」

 

突如響いた女性の悲鳴が、俺の思考を止めた。

悲鳴が聞こえたのは左の路地、急いで声の居場所へ向かった。

 

 

 

 

「ブラストォォォ!目を覚ましてぇぇ!」

 

距離は離れていなかったようで、走って三十秒もせずに悲鳴の場所まで辿り着いた。

 

目の前の悲惨な光景に、度肝を抜かれた。

そこには二人の人が居た。一人は胸から大量の血を流して横たわっている男性、もう一人は男性の肩を揺さぶりながら泣き喚いている女性。

男性の胸には無数の刺し傷があり、もう動く気配がない。

辺りには血が飛び散り、明るかった路地の道も赤黒く染められている。

あまりに凄惨な光景に一歩後退りをしてしまう。

が、ここで逃げ出すことも出来ない。

歩くのを拒む足を無理矢理動かし、女性へ近付く。

 

「そこの方!一体何があったんです!?」

「ブラストがぁ!ブラストが刺されたの!」

 

ブラスト、恐らくこの倒れている男性のことだろう。

男性にも女性にも、左手の薬指には太陽の光を反射する細い銀のリングが嵌められていた。

 

「一体、誰に刺されたのですか?」

「誰?誰に…いや、あの顔は何回も見たことがあるわ!」

 

俺と目の前の男女しかいなかった路地は、徐々に野次馬が集まり始めいつの間にか人で溢れ返るほどになっていた。

その人ごみの中を、女性は指差した。

 

「あんたよ!リオラ!」

 

指を差した先には、目測百七十センチ程度の男性がいた。

 

「は?は!?何言ってんだよ!」

 

リオラと呼ばれた男性の周りから人が離れていく。

すかさず男性へとダッシュし、後ろに周り手を縛って組み伏せた。

 

「痛い痛い!ちょっと待て俺じゃない!信じてくれ!」

「すまない、確証を持ってこうしている訳では無いが、容疑者として拘束だけはさせてもらう。」

「そもそも俺は今日初めてここに来たんだ!そりゃああの子とは知り合いだが、俺があの子を殺す理由はねえ!それにアリバイだってあるんだぜ!?」

「嘘言わないで!あの顔は完全にあなた以外居ないのよ!」

「俺は今日、ずっとガールフレンドとデートしてたんだ!その最中君らには会ってないし、ガールフレンドの傍から離れてもいねえ!」

 

色々と話が噛み合わない。

女性の見間違いか?でもここまでの勢いで問い詰めることが出来るというのは確信から来るものだろう。

リオラと呼ばれた男性も、ガールフレンドとそのデートを見ていた人からの聴取で確認が取れるだろう。

今の所、個人的には女性の見間違いだと思うが、細かく調べない限りは分からない。

 

そうこうしていると、野次馬が更にざわつき始めた。

見てみると、奥の方から騎士の様な人達が駆け付けてきていた。人数は六人、教科書で見た事があるような西洋の白銀の甲冑装備だ。全員が同じような装備だが、うち五人はヘルメットを付け、残り一人は付けていない。整った顔がハッキリと見え、揺れる金髪の細部の動きまで視認できる。

 

「我々はアルデス王国騎士団、治安維持担当代表のレウン・アルデスです。ここで何があったか教えて貰えませんか?」

 

レウン・アルデス?姓がアルデスってことはこの人は王族か?

 

「こいつが!こいつが私のブラストをぉぉ!」

「まだあの女性の心の整理がついていないようで、俺の方から状況を説明します。」

 

 

 

 

 

「うん…大体は把握出来たよ。ありがとう。」

「拙い説明で申し訳ありません、役に立てたのなら幸いです。」

「大丈夫、この状況下でも君は冷静さと語彙を失ってはいなかったよ。自信を持ってくれ。…よし、これから我々は事件現場の調査と容疑者、被害者の配偶者、アリバイ立証者の事情聴取を行うことにする。協力感謝するよ。またどこかで機会があれば、その時は礼をするよ。風神の加護があらんことを!」

 

そう言って女性とリオラと呼ばれた男性、そして被害者の男性を引き取って去っていった。

 

凛々しい顔立ちにしては柔らかな優しい声をしていた。手際も女性の宥め方も上手かった。ああいう人が人から慕われていくんだろう。

 

証言の齟齬で分からないもあったが、きっと騎士団の方々がどうにかしてくれるだろう。結果を待つだけだ。

もう日も暮れてきた、宿屋に戻ろう。

 

しかし、容疑者の男性に少しも返り血が着いていなかったのは不思議だ。周りを染めあげる程の血の量だ、もはや全身に浴びるように血がかかっているはず。それなのに服どころか髪にも一滴も血は着いていなかった。拭き取るにしても、事件発生から現場に野次馬として到着するまでそんなに早くできるものなのか?

 

少しの不可解を現場に残して、路地を後にした。

 



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