人でなしとチェンソーマン (チチメカ)
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悪夢

一発ネタです


 

"自己"の存在意義を見出せない人間は多い。

なぜ生きているのか?死んでしまいたい。

意味も分からず生きている自分を極度に恐れている。

そして、それが自分だけではないかと。

他人の目をひたすら気にする者も少なくは無い。

自己の定義を求めて他人を恐れる。

なんで本末転倒なのだろう。

その結果が、私が私を殺す事になるのだ。

人は人を恐れる

人が二人いる限り争いは起きる

人は他人を嫌悪し、恐怖し、慄き、憎悪する

 

「ゴミ拾いボランティア…ですか?」

 

「そうだ。人為、お前にピッタリだろ」

 

「そうですね」

 

「"人助けなら吉"なんて言われる程だ。どうせ今回も行くだろ?」

 

窓から降り注ぐ夕焼けは少年と教師のシルエットを大きく見せる。

 

キーン コーン カーン コーン

 

「どうするんだ?やらんか?」

 

「いえ、やります!」

 

返事は校舎内を駆け巡った。

 

ーーー

 

駅前のとある公園。少年は40代ほどの手ぬぐいを首に巻きつけた男に会っていた。

 

「人為吉くんだね。ボランティア参加ありがとうね!じゃぁ、これ」

 

手渡しされたポリ袋には軍手やトング、それとお茶が一つ。

 

「じゃあ、私は西口をやるから」

 

「はい!では失礼します。」

 

ーーー

 

あれから3時間ほどだろうか

燦々と輝く太陽

溢れる様に流れる人の群れ

 

「おい、お前サン。何やってんの」

 

「ゴミ拾いです!」

 

7月の猛暑、汗をかきながら、駅前でゴミ拾う

梅雨の明けた快晴の太陽は頂点を指し、夕飯どきであろうかそこら中にサラリーマンが駅前を歩いている

 

「へーそりゃ、なんで」

 

フードを被った男が少年に問いかける。

ここらの気温は39℃はいっているのではないだろうか。

フードからは表情が見えず、しかし目だけは異様にしっかりと認識できる。

 

「"みんな"のためです!」

 

笑顔の少年は元気いっぱいに答える。

駅前は人通りが多く、ゴミも多い。ポイ捨て禁止のエリアではあるもののそこらじゅうにタバコの吸い殻や空缶が散らばっている。

 

ポトッ…ポトッ…ポトッ…

 

ゴミは減らない。

減ることは無い。

少年は言い終えるとまたトングを片手にゴミを拾い始める。片手にあるゴミ袋はもう三袋に達そうとしている。

人でごった返す街並み、少年の目の前にはゴミしか写っていないのだろう。

 

ドン

 

「痛…あ!」

 

錯乱するゴミ達

踏み潰す人々

それを拾い集める少年

 

ー暗転ー

 

目が覚める。

昼の日差しが目に入り、慌てて顔を上げる。

ここは駅前のベンチであろうか、自分の右足あたりには三袋のゴミ袋が詰まっている。

駅前の時計は3時を指しており、30分ほど自分が倒れていた事に気がつく。

 

「おい。お前サン」

 

振り返るとフードを深く被った男がこちらを見ている。

素性も顔も分からないが助けてくれた事は確かだろう。

 

「ありがとうございます!」

 

「お前サン、水飲んでたのか」

 

「いえ、実は30分くらい前に飲み切ったばかりで。」

 

蝉の声はひたすらうるさく街に響いている。

目を合わせた会話は一体どれほどだっただろうか。

ふと、フードの男は少年に問いかけた。

 

「お前サン、名前を教えて欲しい」

 

「僕ですか?僕は吉です!きち!」

 

「そうか、そうなのか。俺の名前はー」

 

「君!こんなとこにいたの!?」

 

公園の入り口から、先程の手ぬぐいを巻いた男がやってきた

顔には汗を垂らして、眉間に皺を寄せている

 

「困るよ〜君!集合時間はとっくに過ぎてるよ」

 

「あ!すいません!」

 

「なんで遅れたの?」

 

「実は、熱中症で倒れてしまって。でも、この人がー」

 

振り返ればそこには、緑を生やした木が生えていた。

 

「?誰が助けてくれたの?」

 

「いえ…もう行ってしまった様で…」

 

「ふぅーん…まぁいいよ。取り敢えずこっち来て」

 

「あ、はい!」

 

ーーー

 

人混みがいないとある路地裏

所々にゴミが散らばっている

 

「君さぁ、なんでボランティアに参加したの?」

 

背中を見せ、男は少年に問いかける

後ろについて歩く少年には少し冷や汗をかいていた

 

「それは、"みんな"のためです!」

 

笑顔で答える

声はビルを反響して一体に広がる

 

「"みんな"って誰さ?」

 

「それはー」

 

「駅前を歩くゴミ共かい?」

 

男は足を止める

 

「まぁ…はい。」

 

「…私はねぇ、このボランティアを10年間続けてるんだ。それでねぇ?気づいたことがあるんだよ。」

 

「は…はぁ」

 

様子がおかしいー

それだけは確かであった。

少年はたじろぐ

 

「私たちは救われない…"人のために"なんて言ってこのボランティアを続けた。でもね、誰も辞めようとしなかった」

 

ーおかしいー

 

男には顔に先程は無かった大きなできものができていた

 

「ゴミ共は自分勝手だ。私たちが幾ら奉仕しても理解しないし、ルールにも従わない。」

 

できものが増えている

膨らんでいる

 

「だから私は決めたんだ。私はあいつらを今から殺す。"秩序"のために。」

 

ーえ?ー

まるで細胞分裂をする単細胞生物の様に増えていくできもの

あっという間に顔はそれでいっぱいになり原型は失せてしまっている

 

「なぁぁぁぁ!俺は正しいぃぃよなぁぁ?!」

 

「ひ…ひぃ!」

 

原型のなくなった顔には無数の目が現れ少年を凝視する

 

ーなんで!なんで!

 

少年は考える。

が、答えは出ない。

 

「秩序の悪魔が問うんだよぉぉ!アレは"ダメ"な事だろうってよぉ?!」

 

男の膨らんだ後頭部から、毒々しい触手が現れる

酷く尖った、酷く残酷な、救いのない攻撃

 

少年の腹に穴があく

 

「その通りだ!その通りだ!その通りだ!」

 

ーなんで!なんで!僕は正しい事をしていたのに!

ー人間であろうとしたのに!

 

無慈悲に穴は増えていく

路地裏に広がるのは肉を抉る音のみである

 

グチャ グチャ

 

朦朧とする意識の中、影が見える

ー影が来る

 

「おい、お前サン」

 

「んあぁぁぁ??」

 

「何してんの」

 

路地裏の入り口に男が一人

 

「おまぇー誰ダァぁぁ?!」

 

「俺の名前か。」

 

もうすぐ死んでしまうのだろう、呼吸がおかしい

少年は未だに生にしがみ付いているのだ

 

「そうだった。お前サンにも伝えてなかったな」

 

死にかけの少年を見て言う

その目は無神経でまるで氷の様だ

 

「お前サン、俺の名前を教えてやる。ついでに助けてやるからさ。契約しろよ。」

 

「代償なんて生きてればいいだろ。」

 

ー何を言っているんだ

契約ってなんだよ

もう死にかけの僕に

もういいよ

好きにすればいい

 

「成立だ。」

 

ー暗転ー

 

「おいぃぃ!どこに行ったぁぁぁぁ」

 

悪魔になった男は叫び狂う

眼前にいたはずのフードの男がボソボソと呟いた後、突然姿を消したからだ

 

「おい」

 

「ん?ぁ?ぁぁぁぁ?」

 

少年が起き上がる

無数にあった穴

そこにあるはずの無い無数の目

 

「こんばんは、俺の名前はー」

 

昼の日差しが消える

 

路地裏には無数の目

 

苦しみがやって来る

 

「俺の名前は"人の悪魔"」

 

「契約の随順の為、この場にてお前サンを殺す」

 

悪魔が顕現する

 




チェンソーマン二期楽しみ


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人でなし

一発ネタだと言ったな…あれは嘘だ!


 

 

気づいた頃には路地裏の外だった

血だらけのボロボロのワイシャツ、大量の汗、そしてそれに似合わない無傷の体

燦々と輝く太陽が目に入り、さっきの出来事が白昼夢か何かだったのかと思うほどに

 

「何が…」

 

「おい、お前サン」

 

振り返ると自分と同じ顔、でもその様子は少しおかしい

喋る言葉は全てが棒読み、フードを被り、顔には無数の目、本来の目の位置には布があり目を見ることはできない

 

「なんだよ!君は!」

 

『うるさいぞ、お前サン』

 

「でも、なんで僕は生きてるんだ!」

 

『うるさいと二度も言わせるな、人間が見てるぞ』

 

見渡せば、歩行者が皆チラリとこちらを向いては目線を逸らしている

少なくてもまともな人だとは思われていないらしい

 

『お前サン、ついて来い』

 

「…分かったよ。あと待て、僕の名前は吉だ!」

 

『…吉、ついて来い』

 

ーなんなんだろう

 

少なくてもいい気分では無い

自分が死んだ様な白昼夢を見せられたかと思いきや、それは現実で、何も状況が飲み込めない

 

「これは…!」

 

『さっきの人間…いや、悪魔だ』

 

向かった先はあの路地裏だった

血飛沫と僕が持っていた菓子パンと飲み物、そして自分の爪で引っ掻いたのか、引っ掻き傷だらけの悪魔の死体が散らばっている

 

『これで、理解できたか』

 

「分かるか!?そもそも、なんでも僕は生きている?!お前が僕を助けたなら…一体何の契約をしたー」

 

『うるさい』

 

口を手で押さえられる

ひたすらに冷えた声だった

なんの情緒も感じられないまるでロボットの様な声

 

『一つずつ説明する』

 

そう言ってフードの男は壁に寄りかかる

そうかと思うと、すぐに腰を屈めこちらに目を向ける

 

『まず、"何故生きてるのか"についてだ。』

 

「う、うん。そうだ。なんで僕は殺されたのに今は無傷で生きているんだ?」

 

あの時確実に殺された筈なのだ

体に無数の穴を開けられて、脳から心臓、腸に至るまで…

 

ーうッ…気持ち悪くなってきた

 

『それは、俺とお前が同一化したからだ。』

 

「は?それは一体どう言う…」

 

『分からないか。噛み砕いて言うならお前サンの体の足りなくなった部分を俺が埋めた…これでいいか。』

 

「嘘だろ…」

 

ーあり得ない

ー僕とこの悪魔が同じ体になったと言うわけなのか

 

『その通りだ』

 

「…考えがわかるのか?」

 

「それはそうだ、俺はお前サンで、お前サンは俺なんだから」

 

「悪夢だ…悪夢だと言っておくれ…」

 

ー路地裏、僕は一人虚しく絶句していた

 

ーーーーーーーー

 

外は夏の太陽と、ごった返す都会の人間によって地獄が作り出されているが、僕たちのいる店内はクーラーにより涼しく感じられる

僕たちはあれから数分、とある衣服店にいた

 

「取り敢えず、服を着替えないと…!」

 

無数の穴が空いている服なんて、着ていられない

他人の視線がひたすらに痛い

 

『そんなもの適当でいいだろう』

 

「うるさい、僕の好きにさせろ」

 

適当なTシャツを一枚買って着替える

フードの男…いや"人の悪魔"は、腕を組んで外で待っている

 

ー一体どうしろって言うんだ

 

ーーーーーーーーー

 

『次は契約内容だが、』

 

ーそうだ

 

"悪魔との契約"それは、悪魔と人間の対価の交換により行われる儀式

人間は悪魔に"自己を構成する何か"を差し出し、対価として悪魔は人間に力を一部貸し出す

僕も彼と契約したと言うことは何かを差し出さなければならないのだ

 

「何を出せばいい…!家族か!友人か!言っておくが、"やらないぞ"それなら僕の命をー」

 

『うるさい、何を言っているんだお前サン』

 

「は?」

 

静まり返る

その声は静かながらまるで、相手を呆れているかの様な、"何を言っているんだ、お前は"と言っている様だった

 

「だって、僕は対価をー」

 

『そうだ。だけど、俺はそんなものいらん』

 

驚きだ…まさに驚愕だ

悪魔が人を求めないなんて

悪魔が血を求めないなんて

 

「じゃぁ…君は何を…?」

 

『俺の要求は一つだけ』

 

「一つだけ?なんだい?」

 

『俺に正しい人間を教えてくれ』

 

その顔は無表情ながら、どこか虚しく悲しさを感じた

 

ーーーーーーーー

 

『早くしろ、Tシャツに着替えるだけでそんなにかからんだろ』

 

カーテンを開けると、フードの男

 

「…取り敢えず、帰ろうか服も着替えたことだし」

 

財布の中には1000円札が2枚だけ

少なくてもここにいる理由もない

 

『わかった』

 

僕の隣にいる悪魔は誰にも見えないらしい

人とぶつかっても、まるで幽霊の様に透過してしまう

 

ー僕はどうすれば良いのだろう

 

『どうした、お前サン』

 

「…もう良いよ、あと、僕の名前は吉だ。人間についてだっけ?まず人間はあまり遠くまで歩きたがらない」

 

『ほう…じゃぁ、どうするんだ』

 

「それはー」

 

駅に向かう足止まりは、街の喧騒に消えていく

 




やる気はどこまで続くでしょう★


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