転生したけど祖父が怪奇現象起こしてる (ちゃっぱ)
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第0章 それはまだ始まってない
プロローグ これが町の日常になったあと(掲示板回)



久しぶりに漫画や二次創作を読み返したせいで書きたくなったので書きます。満足するまでお付き合いいただけると幸いです。


 

 

 

 

 

某怪異が多い町で遭遇した怖い話

 

 

 

 

 

16: 怪異遭遇名無しさん ID:4VRTSejEzF

怖い事なんて起きるわけねーだろって思ってた俺を誰か笑ってくれ。

 

残業が長引いて終電逃してな。まあ幸い仕事場から三駅ほど歩けば家につくから頑張ったんだよ。

腹が減ったなぁとか。そういえば夜ごはん食べてねえとか考えながら歩いてたら一つだけ明るい場所があったんだ。

飲食店だった。何処にでもありそうな古風な居酒屋って感じの。明日は休みだったからそこで食べてから帰ろうかなーって思ったんだよ。残業のストレスもあったし酒で発散しとこうってな。

 

「お客さん良いところに来ましたね」

 

店に入った瞬間急にそう言われてビビった。普通「いらっしゃいませ」とか言うだろ?

まあ言わなかったとしても「何にしますか?」とか言うじゃんか。常連でもないのに急に「良いところに来ましたね」って馴れ馴れしいなぁって思っちまった。一瞬嫌な感じがしたんだ。だから帰ろうかなって思ったけど店に入ったしこのまま出るのもなぁって感じで愛想笑い浮かべつつ入ったんだよ。

 

入らなきゃよかった。そいつが俺の手を掴んでこっちを見たんだよ。

その顔が何も書かれてなかった。いや、書かれてないってなんかおかしいな。つまりパーツがなかったんだよ。目とか鼻とか唇とかそういう当たり前のやつがない。のっぺらぼうだった。

 

「その顔、ちょうど欲しかったんですよ」

 

いやお前怪異だろ妖怪だろのっぺらぼうは普通に驚かせて終わりにしろや何でここで店っぽいとこ出してんだよ注文の多い某料理店か!? あと怪異が包丁を手に物理で殺戮しようとしてんじゃねえ!!

 

そう思った俺は悪くないと思う。

 

 

続き書くから待って

 

 

 

17: 怪異遭遇名無しさん ID:0zM8lyxSqe

い つ も の 

 

 

 

18: 怪異遭遇名無しさん ID:yIPXee1M5h

お客さん()良いところに来ましたね()

 

 

 

19: 怪異遭遇名無しさん ID:o2yN33TOsP

それ半年ぐらい前から噂になってきた『顔のない店』じゃん。そこに凸った奴いて行方不明者出たらしいよ

 

 

 

20: 怪異遭遇名無しさん ID:LVjC4Zmpel

呑気にツッコミ入れてんの草

 

 

 

21: 怪異遭遇名無しさん ID:0AcdAufE8N

怪異も店を開く時代になったのか。やべえな

 

 

 

22: 怪異遭遇名無しさん ID:sOrRLmBeFa

店を開く(ただし素材は人間)

 

 

 

23: 怪異遭遇名無しさん ID:HJiS6nKHYN

素材からこだわってるんじゃねえ閉店しろ

 

 

 

24: 怪異遭遇名無しさん ID:is2vy0xCTV

怪異「人間はトモダチ。うまいから食う」

 

 

 

25: 怪異遭遇名無しさん ID:flB3KyQ3GE

続き

 

包丁で顔を切られそうになったんだ。

抵抗してるけど力が強くてな。腕もぎゅって折られそうになるぐらい握りしめられた。後で確認したら真っ黒に染まってたぐらいだぞ。全治数週間の怪我だった。

その時は何も考えられなかった。のっぺらぼうに対する怒りと殺意はあったけど、恐怖の方が強かった。死にたくないって思ったんだ。

 

そんな時に、花のような香りがした。

 

 

「夜遅くまで働いておる人様に迷惑かけるような真似をしてはならんぞ」

 

 

のっぺらぼうの悲鳴が店中に響いた。呆然とそれを聞いていた。未だに耳に残るぐらい気味の悪いものだった。

 

 

「なんじゃ、抵抗するのか?」

 

 

その店にのっぺらぼうと俺以外の第三者がいた。いや、来店してきたのかな。老人っぽいような男口調だった。でもその声は少女……いや、幼女だったんだ。

まだ三歳か四歳ぐらいでちっちゃい子だったよ。真っ赤な目で真っ赤な髪に似合う紅色のワンピースを着た可愛らしい子だった。将来美女になるのが確定してる有望な子だと思った。でもそう思えたのは一瞬だけだった。

 

幼い女の子がのっぺらぼうの首を捩じったんだ。ぐぎぎっ……って、そのちっちゃい両手を使って、まるで粘土でも弄ってるかのように力強く回した。人間が回っちゃいけない方まで捩じって、そうして無理やり引き抜いたんだ。

 

グロ映画でも見てるような気分だったし、吐いた。

うずくまる俺に幼女が近づく。それに恐怖したけど彼女は苦笑しているだけだった。

 

 

「おお、済まぬな。こうでもせんとお前さんは死んでたじゃろうから……さて、ゆっくり息を吐くんじゃぞ」

 

 

背中を撫でてきた手にビビった。俺も首を捩じられるんじゃないかなって思ったけど幼女は何もしなかった。ただゆっくりゆっくり俺の気分が落ち着くまで介抱してくれた。

息をついた俺に幼女は笑ったんだ。

 

 

「もう大丈夫じゃぞ」

 

 

その声を聞いてると安心できた。

幼女が俺の首に手を回せばきっとさっきののっぺらぼうみたいにあっけなく殺すことだってできるだろうに。そんな恐怖がどっかに行くぐらい気分が落ち着いた。

 

そのおかげで周囲の様子が一変してたことに気づけた。

俺がいたのは店じゃない、窓ガラスが割れて数年は人の手が行き届いてないような建物だったんだ。

 

のっぺらぼうはもういなかった。

 

 

「君はいったい……」

 

「ぬらりひょんのファン、と言っておこうかのぉ」

 

「ぬらりひょん?」

 

 

 

その会話のあと、瞬きの最中に幼女の姿は消えていた。

あの現実味を帯びていない数分間が夢のように感じた出来事だった────けどクソのっぺらぼうにやられた腕に真っ黒全治数週間の怪我のおかげで夢じゃないって気づきましたので報告しますね!!!

せっかくの祝日が治療のために走る羽目になりましたよクソが!!!

 

 

 

 

26: 怪異遭遇名無しさん ID:dJHXl7I94u

 

 

 

27: 怪異遭遇名無しさん ID:FaaSCWj50g

テンションの上げ下げがおかしい

 

 

 

まあ幼女ちゃんのアフターケアがしっかりしてないのが悪いんですけど

 

 

 

28: 怪異遭遇名無しさん ID:5tyky7MrKL

それ『赤色幼女』ちゃんだよね。

のっぺらぼうが出る前からいる自称ぬらりひょんのファンって妖怪……いや、怪異?

 

 

昼間に遭遇した怪異でも何処からともなく現れては「ハァ!」って物理的にぶっ飛ばしてくれるから寺生まれの幼女ちゃんじゃないかとか言われてるけどド深夜に幼女ちゃんが廃墟に現れることは現実的にあり得ませんね幼女ちゃんも怪異確定ですねハイ

 

 

 

 

29: 怪異遭遇名無しさん ID:7ES549XOLR

赤色幼女ちゃん怪異の中では人間側に立ってくれる守護神みたいな感じだから凄い好き

 

 

 

 

30: 怪異遭遇名無しさん ID:6PA4zt7oAt

赤色幼女たん推します

 

 

 

 

31: 怪異遭遇名無しさん ID:Bb03wPT4jm

某町の某マスコットになりかけてるんだよなぁ

 

 

 

 

32: 怪異遭遇名無しさん ID:DdqLHQ13ot

その某町ってぬらりひょんいるの?

 

 

 

見たことないんだけど

 

 

 

33: 怪異遭遇名無しさん ID:aZk8mjCLLU

いるって噂は聞く。

 

 

 

どっからともなく現れてケーキとかお茶して帰っていく話は聞く

 

 

 

34: 怪異遭遇名無しさん ID:e6zWRkc4ZP

いやお茶して帰ってくだけかい!

 

 

 

まあ人間を素材に何かを生み出すみたいなやべえのよりマシだけどさ!!

 

 

 

 

35: 怪異遭遇名無しさん ID:sjxNjgTIHY

俺らのアイドル赤色幼女ちゃんがぬらりひょんのファンっていってるんだから良い妖怪に決まってんだろ!

 

 

 

 

36: 怪異遭遇名無しさん ID:dD5LTu1hGa

赤色幼女ちゃんって微妙に成長してるみたいだからいつか赤色美女さんになる日が来るのかと思うとちょっとワクワクするよな。

 

 

俺達が育てたんだぜって後方彼氏面がたくさん誕生しそうだ

 

 

 

 

37: 怪異遭遇名無しさん ID:w521dKmHwq

幼女ちゃんのおかげで今も生きてることを祝おうじゃないか

 

 

 

 

 

 

 



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第一話 ソレと目が合ったせい

 

 

 

 気がついたら死んでいたけれど、見たことのある幼女に生まれ変わった俺はこれまた見たことのある『家長カナ』という名前だった。

 

 でもその漫画うろ覚えなんだよなぁ。どうしようかなぁと思ったのはつい最近だった。

 ヒロインの一人だけど傍観してればいいかと思っていたんだ。だって俺は前世では男だったけどTS転生しただけのヒロインもどき。

 

 両親から怪しまれないためにも男口調とか改めたんだ。まあそれでも男の子っぽい部分は治らなかったが。この世界は漫画じゃないし、現実なんだ。

 本来生まれるはずだった家長カナちゃんには本当に申し訳ないけれど、いろいろ考えていくうちに本来のカナちゃんの意識を奪ったというよりは、前世の記憶を思い出したからこうなったと感じるようになった。いや、実感するようになったかな。

 

 俺がいる時点でこの世界は漫画ルートから破綻しているようなもの。

 

 幼稚園に入ってから出会ったリクオのことを弟みたいに可愛がっていくうちにそう思うようになった。リクオの家に遊びに行くことになって見たのが明らかに人じゃない生き物ばかりだったけれど、それをリクオはとっても楽しそうに紹介してくれたし、それが自分の家なんだって自信満々に言っていた。

 遊びに来た時に挨拶してくれたリクオの両親は息子のことをとても優しい目で見つめていたのが印象的だった。可愛いよな。分かるよ。

 

 だから余計に実感したのだ。

 漫画のリクオは俺の知る『リクオ』じゃない。

 家族のことが大好きで、妖怪の事も大好き。それが俺の知る奴良リクオなんだ。

 

 小学校になったらどうなるかは分からない。朧気ながらも覚えている漫画の一話部分。リクオが人間だと意地っ張りになりながら妖怪部分を拒否するような場面ぐらいは覚えている。

 

 いつかはそうなるかもしれない。

 でも今のリクオは妖怪を家族のように思い、楽しそうに自慢するとっても可愛い幼児である。俺よりちっちゃいし。弟みたいに扱うのもしょうがないだろう。

 

 

「かなちゃん、きょうはどこいくの?」

 

「ようちえんのうら! あそこにいっぱいかぶとむしいるんだ!」

 

「かぶとむし!」

 

 

 夏真っ盛りの時期だった。

 目をキラキラとしたリクオの手を引っ張り歩き始めた。中身はリクオより年上だとしても肉体が精神に影響を受けるのか今の気分は探検しに行く冒険隊みたいな感じだった。

 リクオもそうなんだろう。小さな口で一生懸命「あのね! かぶとむしみつけたらね!」と皆に見せびらかしていっぱいお世話するんだーと話していた。可愛いだろう俺の弟分なんだぞ。

 

 もしかしたらどっかにリクオのお世話役が隠れているかもしれないけれど、そこはまあ仕方ないということであまり周りを見るのは止めようと思う。前世一般人かつ今もただの幼女な俺に分かることなんて何もないのだから。

 

 そう思っていた時だった。

 

 

「かなちゃん!?」

 

「ふぇ────」

 

 

 土だった場所が、急に穴が開いたみたいに落ちて行った。

 幼稚園児の誰かが作った落とし穴にはまったのかと思ったけれど、異様に深いそれは人間が作れるようなものじゃないと思えたのは、きっとはるか上空から響くリクオの泣き叫ぶ声のせいだろうか。

 

 

「かなちゃん!!」

 

 

 上空に光が差し込んでいるというのに、何故か周りは真っ暗。

 触った感触から俺の周囲は土に覆われているというのは分かった。ただ酷く腐った臭いがしたのだ。雨に濡れた土のような感じではない。まるで何か、肉が腐り落ちたような嫌なものだった。

 

 足を捻ったのか痛くて立てない。

 でも必死に空へ向かって手を伸ばしていた。リクオにも届かないソレに、必死に。

 早くここから出なくてはならないと思ってしまったから。

 

 奴良組の誰かがリクオの異変に気付いて対処しているのか、リクオの声が遠ざかる。

 泣き叫ぶそれが遠くなったせいで、自分が一人きりになったように感じた。どうしたらいいのかと空を見上げるのを止めて周りを見た時だった。

 

 

『────』

 

 

 ソレと、目が合った。

 土だと思ったそれは、土じゃなかった。

 

 これが何なのかは分からない。ただそれが俺の目を通して見ているというのが分かる。

 冷や汗が流れているけれど、それを拭う暇がない。

 

 死の恐怖が鮮明に思い出せてしまった。

 前世で思い出すつもりもなかったそれは、一人っきりで寂しい孤独と恐怖と、誰にも助けてもらえないんだという感覚に────。

 

 

『────』

 

 

 ふと、何かに頷けと言われたような気がした。

 無意識にそれに肯定した自分がいた。

 

 すぐにそれはやってはならない行為だと自覚し────。

 

 

 

 

「大丈夫かい、カナちゃん」

 

「あっ……」

 

 

 

 不意に恐怖が消える。温かい手が俺の背中に回って抱きしめられたのが分かった。

 手を伸ばしてくれたのは、リクオのお父さん。鯉伴さんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話 じわりじわりと這い寄る何か

 

 

 

 鯉伴さんに助けてもらった後のゴタゴタはあまり思い出したくはない。

 リクオが泣いて、先生たちが大慌て。穴があった場所は大人さえすっぽり入るほど深く、自然に形成されたのではないかと推測されたらしい。

 おそらくだが────通りすがりに幼稚園まで顔を出しに来た鯉伴さんが世話役の烏天狗か誰かの騒いでる声とリクオの泣いている声を聞いて来たのかもしれない。なんにせよ命の恩人であることは確かだ。

 

 何か嫌なものに襲われたような気がしたけれど、今はすっかり元気になったから大丈夫。

 鯉伴さんにさりげなく穴に何か変なものがいたと言ったけれど、「何もいねえぜ?」と安心するような顔で笑ったため首を傾けつつも受け入れることにした。

 

 奴良組二代目が来たことで『畏れ』た妖怪が逃げたのかな。

 あの時鯉伴さんにじっと目を見つめられ、探るように頭を撫でられたような気がしたけれど、多分気のせいだろう。

 

 そう思うことが出来たけれど、間違いだったかもしれない。

 

 

「……またかわってる」

 

 

 玩具部屋と呼ばれている場所。

 もっと大きくなったら自室として使うことになる部屋にあるぬいぐるみや本の位置が変わっていた。ぬいぐるみがある場所は本来棚の下に入れられていたはずだ。なのに床の真ん中に放り投げたように置かれている。本も何冊か読まれ積まれたような状態。俺がやったわけじゃない。両親もやった覚えはないという。

 

 それだけじゃない。

 俺は自覚していなかったけれど、お父さんやお母さんが言うには深夜に何度か目を覚まし寝室から出たらしい。

 

 今は両親と寝ているのでトイレにでも行っているのだろうと思われたようだけど、俺は行った記憶がない。

 ついでに長くかかり過ぎて心配になり何度か迎えに行ったけれどトイレにはおらず玩具部屋で寝ていたという話もされた。

 

 そんな記憶あるわけないのに。

 

 

(操られてる? 意識を乗っ取られてるのか?)

 

 

 ゾッとするような感覚に襲われ気分が悪くなった。畏れたともいえる。畏れは妖怪にとって一番重要なものだ。だから俺のこの感覚は敗北に等しいモノ。やってはいけないことだと分かっているけれど、恐怖を止めることはできない。

 

 自覚した翌日、リクオに会った時に思わず俺に違和感ないかどうか聞いてみたが、首を傾けられ「ないよ!」といわれた。まだぬらりひょんとして覚醒してないせいだろうか。ふくふくとした柔らかいほっぺを赤くしてにっこり笑ったその顔は可愛いけれど、今はとにかく安心したかった。

 

 リクオの家に遊びに行ってもそれは変わらず。

 ……いや、違うな。リクオのお父さんやお爺ちゃんにじっと見つめられるような気がしたけれど、嫌な感じはしなかったので放置されてる?

 

 でも妖怪に害を与える人間を見た奴良組が放置するか?

 じっと様子を見られているような気がするのは何故だ。俺の気のせいか?

 

 分からない。分からないことが怖い。怖いけど……ちょっとだけ腹が立った。

 なんでそんな意味不明な現象に悩まされなきゃいけないのか。漫画に似た未来を辿るのであればきっとこれからが大変だというのに。

 

 じわじわと何かが侵略していくような感覚。自分が自分じゃなくなっていくような感じにどうしたらいいんだろうと何度も何度も考えて────熱が出た。

 

 それにすら負けたような気になって、ムカついたのだ。

 

 

 

『随分と負けん気の強い孫じゃのう』

 

 

 

 朦朧とする意識の中聞こえてきた声は、自分の身体から出たものだった。ちょっとだけしょうがないなというような、我儘を受け入れるジジイのような声。

 

 髪の毛が揺らめいて、赤色がちらついたような気がした。俺の髪色は赤じゃないのに。

 そうして何かに沈んだような感覚に襲われる。

 

 それはまるで、全ての元凶たる落とし穴に落ちた時のそれに近い感じだった。

 

 

 

 

 



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第三話 理解したので暗躍に移りたいと思う

 

 

 

 まるでそれは幻のような世界。

 綺麗な花々が咲き乱れた花畑。それら全てが真っ赤に染まったような場所。

 

 花の強烈な香りとその光景。そして月夜のコントラストは見栄え満点であった。

 その中央に────俺と全く同じ顔をしているけれど、その髪色と雰囲気が異なる人物がいた。

 

 髪は血のように鮮明な赤になっていて、何故か母が気に入って何度も着せてくるワンピースを身に着けている。対する俺はパジャマ姿のまま。熱で朦朧としていた時の姿なせいか額には熱さまシートが張り付いた状態だった。

 

 現実とは思えない場所にいるせいだろうか。熱は引いており、体調も良くなっていた。

 

 目の前にいる幼女に目を向ける。

 俺と同じ姿をしているそいつは悪い存在か否か。なんとなく鯉伴さんに似た感じがするけれど……妖怪なのか?

 

 

「……だれ」

 

『うむ。まずは初めましてからじゃな』

 

 

 

 リクオのお爺ちゃんみたいな口調で話すそいつは、妖怪とはまた異なる存在らしい。こいつが言うには、事故でこうなってしまったとのこと。もう私の中に入り込んで同化してしまったということ。

 憑りついたのであれば奴良組が気づく。でも魂の底まで一つになってしまったから

 

 

『ワシも驚いたぞ。同化したせいで記憶を覗き見てしもうたが前世の記憶……それも憎きあのクソ陰陽師もどきが倒された話が物語として載っておったからなぁ!』

 

「いやまって。クソおんみょうじもどきってなに?」

 

『安倍なんちゃらじゃよ』

 

「あべのせいめいじゃん! おまえへいあんのようかいかよ!」

 

『そうじゃなぁ。平安時代に生きていたのは確かじゃが、妖怪とはまたちょっとだけ違うような気もするなぁ』

 

「はぁ?」

 

『ちいとばかし複雑なんでな。まあ妖怪から少し理が外れた怪異と思ってくれて構わぬ。平安時代はそれはもう様々な生き物がおったからのう。人と妖との境界線がないせいじゃろうな。半妖も同じく、ワシらのように人と同化した妖もどきもいたものじゃ』

 

 

 いや平安時代殺伐とし過ぎか?

 こいつお茶目なジジイを装ってるけど、この一週間味わった恐怖からして何をしでかすのか分からない。目を細めた俺に対し、真っ赤なそいつは苦笑するのみ。

 

 

「なにがもくてきなんだ」

 

『言ったじゃろうて。ワシは元々封じられた身。あの場所から動けなんだ。そこに通りがかったのがお前さんじゃよ……じゃからワシは動けるようになった。お前さんの魂と同化したことによってな』

 

「おれは……おとしあなからおちただけだよ」

 

『そうじゃな。お前さんにとっては不運な事故じゃった』

 

 

 封じられた身。あの場所から動けられなかったこと。いろいろ聞きたいことは山ほどある。それをまるでぬらりひょんのようにぬらりくらりと話題を逸らす。聞かなくてもいつかは分かると奴は言う。それがちょっとだけ気に食わない。隠し事をされているこちらとしては不安ばかりが募るだけだ。

 

 

『そんな不貞腐れてもなぁ……世の中には知らない方が良い事があるものじゃぞ? それにな、ワシの事を知ってももうお前さんから離れることは出来なんだ。ワシは孫……家長カナの半身となってしまったからなぁ』

 

「そんなこときゅうにいわれても……」

 

『大丈夫じゃよ。ワシは表立って出るつもりはない。意識はあるがまあそこは勘弁してほしいのう。ワシの力は譲り渡そう。お前さんが主導権を握ればいいんじゃよ』

 

「はぁ?」

 

『あのクソ陰陽師もどきが倒された場面を覗き見てな。ワシは気分が高揚したんじゃよ。もうスタンディングオベーション……ってやつかのう? とにかくぬらりひょん一族に拍手を送りたくなったんじゃ。よもやあやつを倒せる妖怪が現れるとは! ……とな。ぬらりひょんのファンになってしもうたんじゃよ!』

 

「あのさ。ずっとおもってたんだけど……おれ、まんがのちしきなんてないはずだぞ」

 

『忘れているわけではない。思い出せないだけじゃよ。記憶というのは消えぬからな。ほれ、忘れていたはずの幼少期の記憶をふと鮮明に思い出すことはないか? まあお前さん今が幼少期じゃから分からぬかもしれぬがな』

 

「つまりおまえはおれのちしきをちゃんとおもいだせると」

 

『そうじゃよ。お前さん……つまりワシの孫が大切な弟分のリクオ君が紡ぐ物語の結末も、まだ見ぬ未知の未来についても理解しておるよ。ワシはお前さんじゃからな』

 

 

 俺と魂を同化してしまったから、俺の前世の記憶もちゃんと理解しているというそいつに何とも言えない気分になった。もちろん目の前にいる妖怪みたいな存在に安心したわけじゃない。ただ俺を食おうとする悪意ではないことは伝わったんだ。

 

 力を譲り渡すと言ったのもきっと嘘じゃない。

 主導権を握るのは俺といっても、このジジイが隠し事をしていてそれが俺には分からないから何とも言えないが……。

 

 それと今後、俺は人間として生きられるのか不安にはなった。奴が言うには『人として生きたいなら自由に生きろ』というけれど。元に戻すことはできないと言われた。くっついて混ざり合い一つになったようなもの。二つに分かれるとなると難しく、死ぬ確率の方が高くどうしようもないという。

 

 

「そういえば、ぬらぐみにおれたちのことは……」

 

『ああ、そうじゃな。同化したあの時から奴良組が居ったら流石にバレたじゃろうが……鯉伴に手を引っ張られたあの瞬間、もうワシらの魂は一つになっていた。手遅れだったんじゃよ』

 

「ばれてない?」

 

『ぬらりひょん、および奴良鯉伴にはワシらの異変に気付いてはおるが様子見しておるようじゃ。平安時代の修羅とは違い今の時代は人と人でないモノの同化なんぞあり得ぬからな。いわゆる妖怪の先祖返りに目覚めたと思っておるようじゃな』

 

「へいあんじだいどんだけだよ」

 

『クソ陰陽師もどきが当たり前に生きれた時代じゃぞ。ワシ含め周りも似たようなもんがいるのは当然じゃろ』

 

「こっわ」

 

 

 マジでツッコミたいこといっぱいで来たけど面倒くさくなってきた。

 

 とにかくだ。もう事故が起きてしまったなら仕方ないと諦めよう。

 それに力を得たというのならやりたいこともある。リクオをサポートし、裏から支えていきたいという目標。今の俺はただのヒロインもどきであり足を引っ張るだけの存在。でもそれを変える可能性があるのなら……。

 

 あの可愛い弟分を立派な総大将に影ながら支えてやりたいと思うのは姉心というやつだろうか。

 一度きりの人生だと思ったけれど、転生して二度目の人生だ。なら好き勝手に生きようじゃないか。

 

 目の前にいる真っ赤な幼女なジジイもどきも、あの安倍晴明さえぶっ飛ばせる場面が見れるのならと笑っていたぐらいだし。

 

 

「……そういえば、まごってなに?」

 

『同化しているがワシはお前さんよりずーっと年上じゃ。ワシにとっては可愛い孫みたいなもんとして扱おうと思ってな。どうせ一蓮托生なんじゃし、孫って呼ぶのもいいじゃろ?』

 

「じゃあおれはじじいってよぶ」

 

『構わぬぞ、ワシの孫!』

 

 

 うーん本当にこのままで良いのかちょっと悩むけど、お前とか呼ぶよりはまあいいか。

 受け入れられない部分もあるし精神汚染されてるんじゃねえかって思うぐらい感情は穏やかなのが妙に気になるけれど────。

 

 

 まあ、なるようになるか。

 

 

 

 




ここまででようやくプロローグは終わりみたいなもんです。
次から奴良組とのお話がメインになります。よろしくお願いいたします。


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第1章 人間か、妖か
第四話 現状確認


 

 

 

 ジジイ……俺の中にいる自称祖父を名乗る妖怪もどきが何故俺の意識のない間に動き回ったのかについて問い詰めると、身体がある状態が本当に久しぶり過ぎて確認する必要があったからとのこと。

 意図して怪奇現象みたいなことを起こしたわけじゃなかったと言っていた。怖がらせてしまったことは謝ってくれたが多分あれは俺の事を見定めていたんだと思う。

 

 俺がちゃんとジジイの力を使えるのか否か。

 ジジイの意と反する行動をとる場合、今こうして好意的に交流し力を譲渡という形で俺が主導権を握れるわけがないだろうから。

 多分あのジジイは一見するとリクオのお爺ちゃんみたいに一緒に居ると楽しそうとかそういう思いを抱かせてくれるけれど、裏はきっと違う。リクオのお爺ちゃんのように、仁義に背くモノに容赦しないみたいな一定の境界線があるんだと思ってる。

 

 俺がその線を超えてしまったらきっと、ジジイにこの身体を乗っ取られるかもしれない。

 まあ怪しんでいても仕方ないけれど、いろいろと思うことはあるんだ。

 

 だってジジイが言った『身体を持ったのは久しぶりじゃからな!』という言葉はつまり、俺の魂と同化したことで受肉したようなものなんじゃないかと。

 その場所から動けなかったというのは、ジジイが封印されていたという可能性があるからかもしれないし。なんとなく別作品の呪術的な漫画を思い出すんだよなぁ。

 

 封印されていたという考えが合っていた場合、ジジイが何をやらかしたのか。悪い妖怪なんじゃないのかと思ってしまう。

 

 

『カナ。あまりふかーいことは考えん方が良いぞ。ワシが嘘をつくことはない。お前さんを罠にかけてじわじわと喰らおうなんぞ考えておらんからのう!』

 

「しこうよまないで」

 

 

 お気楽な声が頭の中に響く。それに独り言を呟くが周りには誰もいないため俺をいぶかしむ人はいない。まだ熱が下がっていないから幼稚園は休みでいいと言われたので部屋の中でのんびりしているだけ。お母さんはご飯を作りに行っているので隠れて会話しなくてもいい。

 

 

「……ここらへんも、ぬらぐみのなわばりだよなぁ」

 

『ふむ、そうじゃな。深く調べればわかるじゃろ。奴良リクオが住んでおるのが本家。それ以外は傘下、もしくは貸元などじゃな。あとは土地神も含まれておるなぁ』

 

「かしもと?」

 

『賭場を担う輩のことじゃよ。奴良組という名前だけで食っていけるわけがなかろう』

 

「うーん?」

 

『しょうがない孫じゃなぁ。カナに分かりやすく言うとな。奴良組本家だけで成り立つわけではないということじゃ。つまりな────』

 

 

 前提として、これはジジイが俺の目を通し町を歩いて感じたことを話すのだという。

 

 ジジイが言うには、土地神のお布施、貸元の賭場経営における金銭など含めて本家に集められていくということ。平安時代にも商売をしている妖怪もいたから、そういうのも現代にいると。

 もちろん収入全てが本家に入るわけじゃないだろうというのもジジイは説明する。そういう裏稼業あっての縄張り意識が強く、土地神など守るべきものを守って暮らしてきただろうと。

 数百年と長く続いているのだから繋がりも広く深いだろうとジジイは話す。

 

 浮世絵町だけでも神社やお寺の数は多いからな。あとこの世界が妖怪と近しいからか浮世絵町から離れた場所だと陰陽師が目立つぐらい怪奇現象に悩まされる人が多い。

 だから奴良組がいて成り立つ平穏というのもあるのだと知った。安泰あってこそ今があるのだと。

 

 ってか何でそういうこと知ってんだよ。平安時代に生きたジジイのくせに。

 

 

『リクオの家は任侠一家なんじゃろ? なんじゃ、お前さんそこらへんは詳しくないのか?』

 

「いやこっちこそ、なんでそんなにくわしいんだよ」

 

『カナが寝ている間に調べただけじゃよ!』

 

「なにやってんだくそじじい!」

 

『安心せい。奴良組にバレるような真似はしておらぬわ。カナが寝ている合間にちょいちょいっと調べたまでの事よ』

 

「なにをしたのかふあんすぎる」

 

『爺ちゃんを信用せい!』

 

「むりにきまってんだろばーか」

 

 

 とりあえず縄張りの中にいる俺は奴良組にとって異物というのは分かった。傘下に入ってない余所者みたいな感じだろう。

 先祖返りで妖怪に近くなっているという勘違いをされているみたいだけれど、そこらへんは真実を話すつもりはない。なんとかうまく誤解したまま奴良組に近づくことは出来ないだろうか。

 

 主に、鯉伴さんを助けるために。

 

 ジジイが言うにはそろそろ時期が来るらしい。

 俺を落とし穴から救い上げてくれた恩人。リクオのお父さん。

 

 そんな鯉伴さんが殺害されるという悲惨な事件が────。

 

 

「……おれまじでおぼえてねえんだけど、ほんとうにりはんさんがさされるのか?」

 

『マジじゃよ。爺ちゃんは嘘つかんもん』

 

「かわいこぶるなよ」

 

『ぬぅ、孫が冷たい!』

 

 

 戦えるのか否かといったら無理といいたい。でもやらなきゃリクオを悲しませる。それだけはちょっと避けたい。あとジジイの秘密について知りたいし、そこらへん関わるためには奴良組に近づくのが一番良いんだよなぁ。主に安倍晴明とどういう関係だったのかについて知りたいだけだけど、ジジイは頑なに教えてくれねえし。

 

 うーん、やっぱり戦えるかどうか調べる必要があるよな。今の身体幼女だし。でも奴良組の縄張りたる浮世絵町で妖怪に喧嘩売って良いモノだろうか。いや、余所者とか居そうだからそっち狙えばいいのか?

 

 そう考えるとジジイが最初の頃に言っていた『ぬらりひょんのファン』という言葉は魅力的だと思う。思いたい。言葉の受け取り方によっては喧嘩売ってると思われるかもしれないのでちょっと危険だけれど。

 でも家長カナが「ぬらりひょんのファン」というのだ。妖怪の姿、もしくは妖怪の力を使ったままそれを言いながら奴良組と敵対する妖怪を潰す。

 俺が奴良組と敵対していないということも十分伝えられるし、俺の行動次第によってはリクオの傍にいることが出来る。まあそこは運次第だな。三代目跡取りを大事にしている様子は奴良家に行った時に感じた。鯉伴さん達だけじゃない。お手伝いさんもリクオの事を大事にしている。だから俺みたいな理解不能の人間か妖かわからない存在を傍に置こうとしないだろう。

 

 とりあえず戦力として数えられるように鍛えたい。そのためにはジジイの力がどれぐらい使えるのか確認しないといけないな。

 とりあえずリクオからさりげなく奴良組じゃない妖怪の存在を探って、そいつら倒せるか試してみようかな。本当はジジイの力なんて使いたくもないし、自分の力だけで動きたかったけれどそうも言ってられない。

 

 

 そう考えていた思考をまた勝手に読んだのか、訝し気なジジイの声が聞こえる。

 

 

『なんじゃ、奴良組の傘下に入るつもりか?』

 

「いや、おれはべつにようかいになりたいわけじゃないよ」

 

 

 第三者として関わりたいだけだ。

 あとリクオを可愛がりながら三代目総大将として立派に育ててみたい。後方彼氏面ってやつやってみたいんだよなぁ。リクオは俺が育てましたみたいな。まあ俺なんかより鯉伴さんの方がもの凄いからそんなこと出来るわけないけれど。

 

 

「あんやくするかぁ」

 

『おっ? ワシの出番じゃな?』

 

「うきうきすんじゃねえくそじじい」

 

『ワシの孫冷たすぎじゃろ。ワシと同化して妖怪もどきになって生きておるんじゃし、もう少し気楽に楽しんでみたらどうじゃ。……ああ、それにしてもカナ。お前さん自分がまだちゃんとした人間だと勘違いしておるようじゃが。そろそろ自覚しないと手遅れになるぞ?』

 

 

 

 お茶目に笑いかけたであろうジジイの声は、すり林檎をもってやってきた母の声にかき消された。

 

 

 

 

 

 



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第五話 つまりゴリラになれということか

 

 

 

 

 妖怪になれと言われてなれるわけがない。

 そう思っていたけれど、ジジイがスイッチを押すような感じでその気になれば人とは全く異なる感じになる。

 

 周囲の気配が鋭くなるし、何をやればいいのか無意識に動くことができる。

 そういう細かい制御はジジイがやってくれていると話してくれた。俺は俺の思うがままに動けばいいのだと。

 

 髪の毛が血のように真っ赤に染まり、力が漲る。そこはまだいい。ただ口調もジジイみたいになってしまうのはなぜなのか。デフォか? 主導権を握っているのは俺だから、妖怪としての姿はジジイのままであり、変えられない部分もあるということか?

 まあそこらへんは後で考えようと思う。

 

 妖怪ってこう、非現実的な力が出てくると思っていたんだ。雪女が出す吹雪みたいな感じのやつ。でも出てきたのは拳。物理的に強くなった感じがする。

 試しにと夜中にこっそり外へ出てジジイのようなコンクリートも一撃で粉砕できたぐらいだしな。これ以外に何かやれそうな気はする。たぶんあれだ、制御されてるから俺には取り扱えないような妖怪としての力は隠されているようなものなのだろう。今はただ人外としか思えない物理的な力を手に入れただけ。それだけでも嬉しいもんだが……。

 

 

「うむ、なるほど。このワシがゴリラになれということか」

 

『うはは! 孫がワシの口調してて面白過ぎるんじゃが』

 

「ぐぬ……じじいめ、あとでおぼえておれ」

 

 

 妖怪姿で喋るだけだというのに、頭の中でジジイの笑い声が響く。

 例え夜中にこっそり外へ出て人間の幼女としてではなく赤髪の妖怪ロリとして食われそうになる人を救っている間にもひっきりなしだ。そろそろあの真っ赤に染まった花々が咲いている世界に赴いてジジイをぶっ飛ばしに行った方がいいかもしれない。まあでも、あそこは多分俺かジジイの精神世界だと思うけど行き方が分からねえから、いつか絶対にやるって程度に覚悟決めただけ。

 

 それと妖怪を倒してはいるが、奴良組かどうか事前に調べたり直接聞いたりしてるから大丈夫だと思う。たぶん。

 

 あと思ったんだけど怪奇現象が多い! 多すぎるんだよ!

 なんか普通に夜中に待ち歩くだけで人外共がいるのなんなんだよ。年中無休でハッピーハロウィーンってか!?

 

 とりあえず今のところ妖怪相手に怪我無く対応は出来ている。まあ不良相手に粋がるような行為だ。そこらにいる不良に勝てたからといって本物の極道相手に勝てるとは言えない。自分の力を過信してはならない。その一線だけはちゃんと見定めているつもりだ。

 

 とにかく俺がやらなきゃいけないことはある程度やった。

 あとはどう動くか。要所要所で介入という形を取れたらいいんだが、その場合リクオ達に俺の正体がバレるのは避けたい。

 

 でも無理だよな。いろいろ動いてみたけど鯉伴さんを助けるには奴良組に近づく以外ない。殺害が行われるという細かな日程すら俺には分からない。

 込み上げてくる不安だけしかない。鯉伴さんはとっても凄い人だ。この一週間で二度ほど夜中に出歩いて、妖怪たちを見ていただけ。それでもちゃんと実感するのだ。あの関東最大の任侠一家奴良組を束ねている鯉伴さんがどういう妖怪なのかも。

 

 ジジイが反対しないなら、早く動こうかと思う。

 

 

『うむ、勝手にせい』

 

 

 

 頭に響いた声に俺は頷いた。

 

 

 

 

 

「かなちゃん! おねつはもうだいじょうぶなの?」

 

「おう。なおったよ!」

 

「よかったー!」

 

 

 ぎゅっと腕に抱き着いたリクオの頭をいっぱい撫でる。本当に可愛いなぁこいつめ。

 

 

「あのね。くびなしからあやとりおしえてもらったんだ! いっしょにやろ!」

 

「うん、いいよ」

 

「かなちゃんみててね。これをねー。こうやってねー」

 

 

 よいしょよいしょと小さな声を出しながらも精一杯俺に教えようとしてくれるリクオ。

 首無といった名前に聞き覚えがある。奴良組の妖怪かな。

 ……やっぱり一人で動くのは難しいかな。でもどうしよう。

 

 

『悩む必要なんてなかろう。お前さんが信じるままに動けばいいんじゃよ』

 

 

 うるせえ。

 ……別にジジイが言ったから動くわけじゃねえからな。これはある意味ちょっとした賭けだ。奴良組に近づくための手段の一つ。リクオには悪いけど、ちょっとだけ『リクオのお友達』という大義名分を使わせてもらおう。

 

 

 

「りくおくん」

 

「なぁに、かなちゃん」

 

「りくおくんのおとうさんに、はなしたいことがあるの」

 

 

 リクオは俺の声を聞いてきょとんとした。

 でもすぐに笑って「いいよ!」といった。とても嬉しそうに言った顔に少しだけ罪悪感が込み上げてくるけれど、必要なことだとその感情を忘れることにした。

 

 

 

 

 



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第六話 じゃあねおやすみはじめまして

 

 

 気が付いたら白と黒のモノクロな世界の中にいた。

 

 

「遊びましょう」

 

 

 リクオに向かって微笑んだ女の子。

 将来美人になること確定しているような彼女がリクオに向かって手を伸ばす。

 今いる場所がどこなのかわからない。神社だろうか。そもそも俺は家に帰って寝たはずだ。リクオと一緒に居た記憶がない。

 

 俺が悩んでいる合間にも時間は進む。

 手を伸ばした少女にリクオも笑って「いいよ!」と頷く。

 白と黒の世界に溶け込んだ違和感。まるで映画でも見ているかのような感覚。

 

 俺がいることに気づかずにリクオは少女と遊んでいるように見えた。

 

 

「リクオ? その娘は……」

 

「おとうさん! おねえちゃんがね、あそんでくれたの!」

 

 

 鯉伴さんの戸惑うような声に、ようやく理解した。

 

 

 彼女は。

 

 

 いやちがう。彼女こそが────。

 

 

 鯉伴さんの声が聞こえる。あの山吹の。

 

 

 

「────り、はんさ」

 

 

 

 白黒の世界に色がつく。

 

 花々が散っていく。

 赤く染まったそれは、本来の花の色ではない。

 

 その赤は地面に零れ落ち、強烈な香りとなって周囲にまき散らされた。

 

 

 

「あ、あああ……ああああああああああっっ!!!!!」

 

 

 

 悲痛の声が周りに響き渡る。

 少女が鯉伴さんを刺したのだ。いつの間にか握りしめられた剣によって。

 胸を刺された鯉伴さんは即死だった。

 

 少女の意に反する行為。

 その行いによって、少女────山吹乙女は羽衣狐へ生まれ変わる。

 

 それをまったく知らないリクオが二人に近づいた。

 

 

「おねえちゃん、だれ?」

 

 

 

 冷たくなり倒れてしまった鯉伴さんと、うつむいた姿の少女。

 

 

 

「おとうさんをさしたのは、だれ?」

 

 

 

 

『悪夢を見るのはそこまでじゃ。そろそろ起きよ』

 

 

 

 響いてきたのは自分の声。……いや違う、ジジイの声だ。

 まるで無理やり誰かに引っ張り上げられるような感覚に襲われる。

 

 そうして思わずベッドから飛び起きた。

 

 

「っ────はぁ、はっ!」

 

 

 汗だくになった身体が気持ち悪い。

 ただの悪夢だったというのに、あの山吹に濡れた血の香りが鼻にこびりついているかのようだ。

 

 

「へんなゆめみせやがって……」

 

『思い出せぬのなら無理やり思い出させるまでじゃからな。鯉伴を救うというのなら、全く知らぬよりはマシじゃろ?』

 

 

 お茶目に笑うジジイの声が頭に響く。

 それが酷く煩わしい。

 

 本当に嫌な夢だった。誰も幸せになることができない夢だ。

 それが現実になるかもしれないのかと、ようやく理解した。

 

 

 

・・・

 

 

 

 リクオは快く彼の父に会うことを承諾した。

 俺がリクオの家にお泊りに来るようなものだと思っているのだろう。とっても楽しそうな顔で「うちにいるみんなといっしょにあそぼ!」といってくれたから。

 

 まだ三歳ぐらいのリクオは無邪気に皆を驚かせるための悪戯でもしようと計画も立てている。ちっちゃい身体で一生懸命かくれんぼをしたり、皆と協力して落とし穴を作ったりだ。

 リクオは妖怪を家族として見ている。だからいろいろと隠すことなく俺に話してくれる。まあ、冒頭に「今のところは」と入れなきゃいけないかもしれないが。

 

 リクオが人間に隠さず自慢するように言うことを、妖怪たちはどう思っているのか。

 奴良家に遊びに行った時に感じたのは、リクオを傷つけるような行為がなければ別にどうでもいいということかな。

 

 以前俺がリクオの家に遊びに行った時だが、驚かせようとしたのか、納豆小僧を含めた付喪神たちに影から隙間からと怪奇現象を起こしまくっていた。その後すぐリクオが指さしながら「みーつけた!」といっていたので、あの時は突発的なかくれんぼの鬼として動いていたかもしれない。

 つまりリクオにとってはそれぐらいは日常に潜んでいるということ。人間を驚かすのも必要な行為だと許容している。図太いという部分もあるのか、妖怪への畏れはあまり抱いてないのかな。

 

 とにかくだ、奴良組にとってリクオは大切にすべき跡継ぎということ。

 その周りにいる俺が異物であると知った場合どう出るのか。想像だが「とりあえず危険性があるから見張っておこう」が七割。残り三割が「危ないから排除しておこう」である。

 まあ数百年と続く奴良組だからな。過激派がいるとすればこれぐらいはやるかもしれないという程度だ。まあ一番心配するのは人間の血を濃く受け継ぐリクオをよく思わない反対勢力だろうか。

 

 俺はこれから先起きるだろう未来を変えたい。

 ジジイが見せてくれたあの鯉伴さんが死ぬ未来。

 

 

 それを阻止するために向かうのだ。

 

 

 

「よぉカナちゃん。俺に用ってのはなんだい?」

 

 

 色男が楽し気に言う。

 様子見していたあの色はもうとっくにない。俺がどういう存在か決断を下そうという圧力を感じる。

 まあそれは俺が肩を揺らした瞬間すぐかき消える程度には優しいものだったけれど。

 

 

「こんにちは、ある意味初めましてになるのかな。奴良鯉伴さん。家長カナです」

 

「かなちゃん?」

 

 

 いつもとは違い流暢に喋る俺に、リクオが首を傾ける。何故初めましてと言うのかもわかってないんだろう。

 舌っ足らずな部分もあるから、長文はうまく喋れないところもあるけれど、今は大事な場面だから格好良く決めたい。

 

 隣にいるリクオをチラッと見て、安心するように笑いかけた。

 今はまだ夕方。太陽の日が沈む間際の危うい時間帯。

 今日は奴良家に泊まることを俺のお母さんに伝えてはいる。だから大丈夫。何があっても耐えられる。

 

 

「今の私は、どちらに見えますか?」

 

 

 鯉伴さんの傍には様々な部下たちの姿が見える。こっそり護衛している人もいるのか。

 

 

「ふーむ。さてはて。妖怪か、人間か……まあ、俺はどっちでもいいと思うがね。カナちゃんみたいな可愛い子なら白は白に、黒は黒く染めてえもんだ」

 

「……つまり?」

 

「今のカナちゃんは俺らに近い存在だ。人間に戻りてえってんならそう言いな。俺がなんとかしてやろう」

 

 

 ウインクしながらも言った鯉伴さん。それが今の俺の正体。その答えだった。つまりジジイと同化した俺は妖怪になったようなもの。人間ではない存在になっているのだろう。きっと。

 

 いつの間にか変化し真っ赤に染まった髪の毛にリクオが目を輝かせて笑う。

 

 

「かなちゃんすごい! かみのけきれい!」

 

「ありがとうリクオ。じゃがツッコミ所はそこなのか?」

 

「なんかじいちゃんみたいだね!」

 

「うっ、しょうがないじゃろう! 気が付いたらこうだったんじゃからにゃ!」

 

「にゃ?」

 

 

 あー舌噛んだ!

 もう台無しじゃないか!

 

 

「あははははっ!!」

 

 

 楽し気に笑う鯉伴。それに慌てたような周り。

 リクオも楽しそうに笑う。

 

 この親子の行く末をずっと見ていたいものだ。

 

 

「奴良鯉伴さん。ワシと似た妖怪の人。力の使い方を教えてくれにゃいか?」

 

「またにゃっていった!」

 

「いってないぞ!」

 

「いったよー!」

 

 

 うーん雰囲気台無しだな。

 楽しそうに笑った鯉伴さんが部下たちにも命じてちょっとだけ手助けをしてくれると言った。ある意味今の俺はか弱い妖怪だから、これからどう生きていけばいいのかを学ばせてくれるということ。

 

 グダグダした空気のまま、話は進む。

 まあ変に殺気立つよりはマシ。敵対するよりはマシと考えよう。問題はこの先だ。

 

 

 あの夢で見た場所に遭遇できるようにしないと────。

 

 

 

 

 



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第七話 異物混入

 

 

 

 

 

 奴良組に新参者がきたぞー! と、カナに対する情報を歪曲し酒を飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎとなった奴良組本家。

 幹部勢はそれにいい気はしていない様子だが、大人げなく間違いを訂正する気はなかった。奴良組に入るか否かは別問題。今は鯉伴の保護下に置かれた子供として扱うだけなのだからと。

 

 その奥にある一室にて静かに酒を飲む鯉伴がいた。

 宴会騒ぎになっている場所の中央でリクオやカナが一緒に遊んでいることだろう。もしくは疲れて眠っているか。それ以外にも幹部勢が話し合う一室。相談役とぬらりひょんが酒でも飲みながら何かしら話しているかもしれないと、鯉伴は小さく思考を回す。

 

 そんな時だった。

 音もなく静かに部屋へ降り立ったぬいぐるみのような小さな姿。烏天狗が部屋に入り複雑そうな顔で鯉伴に話しかけてきたのだ。

 

 

「鯉伴様。あの娘を放っておいて良いのですか?」

 

「おいおい何言ってんだ烏。まだ生まれたばかりの赤子も同然のカナちゃんを危険視しなくてもいいじゃねえか」

 

「しかし……」

 

 

 烏天狗が呻くのも仕方がなかった。

 カナのそれは畏れの妖気とはまた異なるもの。付喪神や土地神のそれに似た気配を感じたが、あの人間が先祖返りでもって神に近い存在になったのかというとそれもまた違う。

 

 妖怪でもない、神でも何でもない。ただ人間じゃないのは確か。

 それをどう扱えばいいのか。

 

 

「なに、おもしれーじゃねえか」

 

 

 カナが鯉伴達に向ける目は温かく優しいモノ。特にリクオに対しては兄弟かと思えるぐらい慈しみを向けているように感じていた。

 だからカナが何者に変異しても鯉伴は切り捨てるような真似はしなかった。そもそも警戒をしてどうするのかという。妖怪でも神でも何でもない人じゃない生き物となったカナを受け入れないで奴良組総大将になれるのかと。

 

 

「鯉伴様、もしもあの娘が敵意を向けて来たらどうするつもりですか!? あの娘はリクオ様と近しい存在。攻撃してきた場合真っ先に怪我を負う可能性が高いのはリクオ様なのですぞ!」

 

「じゃあなんだ。烏天狗はカナちゃんと敵対した場合勝てねえと言いたいのか? リクオが近くに居ても守れねえと?」

 

 

 鯉伴の声に、烏天狗は息を詰まらせた。

 

 

「そ、んなことはございませんとも! しかしですね────」

 

「ハハッ。そう警戒してやるな。カナちゃんはリクオの友達なんだからよぉ」

 

 

 そう言った鯉伴は、カナちゃんがどんな存在なのかを見極めようとした。

 それは、山吹の花が咲き始めた季節。カナちゃんが力をコントロールし普通の人間として生きるためにという名目で奴良組へ泊まり始めた矢先の事。

 

 

 とある月夜にて出会った少女がいた。

 鯉伴にとっては予想外の少女。心の底から彼を動揺させるような容姿をしていた。

 

 少女が姉のようにリクオに接する。

 泊まりがけで一緒に居たカナにも遊ぼうという。

 

 そうして、鯉伴の手を取った。

 山吹の花が咲き乱れた夜。

 風に舞った花々に思いを寄せた声を出した直後だった。

 

 

 

「まってよかなちゃん! おとうさーん!」

 

 

 聞こえてきた声に振り返った鯉伴の目に移ったのは、焦った表情をしたカナが赤く輝いた姿。

 不意にカナの姿が消える。否、カナが鯉伴の中にもぐりこんだような気配を感じた。

 

 それは、心から信頼する妖怪との鬼纏時のそれに似たもの。

 

 

 あの少女に背を向けていたせいだろうか。

 

 ズプリ……と、深く激痛が走り、何かが身体に突き刺さる。

 それは背中から腕にかけて貫いた刀。

 

 火の粉が舞って消えていく。痛みを堪え顔を上げればそこにあったのは絶望したように顔を青ざめた少女の姿。そしてカナが倒れ落ちた様子。

 山吹の花々がカナの髪色のように赤く染まった姿をしていた。

 

 

「あ、ああ……鯉伴さ、ま……? あっ、あああっ……あああああああああああああああっっ!!!!」

 

「ひぇっひっひっひ、そうじゃ悔やめ女!! 自ら愛した男を刺したことを悔め! 嘆き悲しめ! 出来なかった偽りの子のふりをしてな!! あっひゃひゃひゃひゃああ!!!」

 

 

 

 何が起きているのかは分からないが、鯉伴にとっての敵がそこにいるのだというのは理解できた。

 様々な考えが思い浮かんでは消える。

 

 この場所は奴良組本家から近い。それなのに何故、奴らは潜り込めたのか。

 考えられることは最悪なものばかり。

 

 

 

「てめえら……これはどういうことか、教えちゃくれないかい?」

 

 

 

 鯉伴はゆっくりと剣を向けていたはずなのに嘆き悲しむ少女と────その後ろで嘲笑う妖怪たちを見た。身体はまだ動く。しかし戦うには厳しい。致命傷を負わなかったのが奇跡だった。

 

 カナを抱き上げたが、彼女は動かない。

 否、彼女の身体にも鯉伴と同じ傷が出来て血が零れ落ちているのが見えた。

 

 不意に少女の慟哭が消える。

 その雰囲気が豹変するのが見えた。

 

 

「そうじゃ。……ああ、妾は待ちかねたのじゃ」

 

 

 響いた声は、畏れを纏ったもの。

 

 

「ようやった。これで宿願は復活だ」

 

「いえ、羽衣狐様。あの男……あの奴良鯉伴めを殺さねば我らの邪魔になりましょう。一刻も早く討ち取らねば」

 

「……ふむ」

 

 

 その声を聞いた刹那。

 鯉伴は態勢を変え、血まみれのカナを抱き上げ奴らを睨みつけた。

 

 

「そこにいるのはだれ?」

 

 

「っ────来んじゃねえリクオ!」

 

「おとーさん?」

 

 

 鯉伴の焦ったような珍しい声にリクオは首を傾ける。

 赤く紅く、血が落ちて赤い絨毯のようになった悲惨な光景。鉄臭いものが辺りに込み上げる。

 

 

 

「ぬらりひょんの孫か……しかし決して狐の呪いは消えぬ。血は必ず絶えてもらうぞ。憎きぬらりひょんの血……」

 

 

「えっ?」

 

「リクオっ!!」

 

 

 少女がべっとりとリクオの頬に誰かの血がつけられた。それに戸惑いながらも怖くなったのか、リクオは父たる鯉伴の元へ走っていく。リクオがカナの顔を覗き見たが反応のない様子にも戸惑いを感じていた。

 幼いからこそ何が起きているのか分かっていない。だから鯉伴がこの二人を守らなくてはならない。

 

 少女────いや、羽衣狐と呼ばれた彼女は笑う。

 

 

「羽衣狐様! 今のうちに鯉伴めに止めを刺しましょうぞ! こやつが生きていては邪魔になるだけ。今ならば楽に倒せるはずです!!」

 

「まあ待て、鏖地蔵。妾はこの瞬間、復活したところで機嫌が良いのじゃ。それにあの怪我……腕をやられた奴なんぞ今殺さずとも始末する機会はある。……それにじゃ。あやつをあのまま放っておいたところで、他の妖怪にやられて終いじゃろうて。なぁ?」

 

「しかしそれでは……!!」

 

「ぬらりひょんの血筋には何度絶望を与えても足りぬ。死んでしまうとそれで終わりじゃろう? ならば生き足掻いてもらわねば困るのじゃよ。あっけなく死んでしまっては恨みも報えぬからのう」

 

「ぐう……承知いたしましたぞ、羽衣狐様……」

 

 

 敵対はしているが、今殺そうとはしない。しかしいつ襲い掛かってくるのか分からない。背を向けて何処かへ去ろうとする奴等に対し、反射的に鯉伴は奴らとは違う方向へ。

 リクオを引っ張りカナを抱き上げて本家の方へ駆けた。

 

 激痛が走る怪我を耐えてなお、滑り落ちそうになるカナを抱えて。あのままでは置いていきそうなリクオを引っ張り上げて。

 

 

 居なくなったその場所で────山吹と血の香りが、周りに残っただけだった。

 

 

 

 

 

 



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第八話 ジジイと孫は話し合う

まだ原作前で話の展開がちょっと駆け足になってるのは申し訳ないです。やる気がある今のうちに書ききってやろうと思って書いてます。
さて、このスピードについてこれるか……?



 

 

 

 

 

「あれ、おれは……」

 

 

 綺麗な花々が咲き乱れた花畑。それら全てが真っ赤に染まったような場所。

 花の強烈な香りとその光景。そして月夜のコントラストが特徴的なその場所に連れてこられたらしい。

 

 先ほどまで何をしていたのかを思い出そうとしたが、何故か自分の身体から血が噴き出した場面が頭から離れてくれない。思わず身体をチェックしたが怪我はしていない。

 

 

『なんじゃ、忘れたのか?』

 

「ジジイ……そうか、おれは……」

 

 

 そういえばと思い出した部分があった。

 自分の力はゴリラみたいに人外並みの握力があるだけじゃない。たぶんそれ以外にも何かあるはずだと探っている最中だった。

 

 鯉伴さんには、人に戻るために力の使い方を教えてほしいと言ったつもりだった。

 泊まりについてはお母さんたちにうまく伝えたのか変に思われてはいない。リクオも楽しそうに「かなちゃんあそぼー!」と言ってくれるしな。

 

 そんな時に遭遇したんだ。

 あの悪夢で見た光景と同じく、黒髪の少女が微笑みながら「遊びましょう」といったあの光景。

 

 正直言えばあのまま鯉伴さん達を引き離したかった。

 でもそうしたら最悪の事が起きてしまうかもしれない。原作とは違う方法で羽衣狐を目覚めさせるというやり方。

 長い時間をかけて奴良組本家にもぐりこんできたような執念深い奴らだ。この一日を耐えただけで終わるはずはない。

 

 

「りはんさんのからだにだきつこうとして……それで……?」

 

『無意識のうちに力に目覚めたんじゃろうな。鯉伴の怪我を半分肩代わりしたんじゃよ』

 

「かたがわり?」

 

『そうじゃ。ワシらのような異物を奴良鯉伴の身体に混入させたんじゃよ。それによってたった一人が受けた致命傷の傷を二人分に分けることが出来た』

 

「はっ?」

 

 

 異物混入とはどういうことか。

 いや確かに俺らってある意味異物そのものだ。俺は前世の記憶があるし、ジジイは原作に出てない妖怪もどき。平安時代に生まれたよくわからない存在。

 

 

「ジジイ……おまえっていったいなんなんだ?」

 

『さてな。カナと同化した今。たった一人じゃったあの頃とは違い人間のカナと混ざり合った身。それが何を意味するのかはワシにも分からぬ。ワシが言うのは簡単じゃが、これは自分で探った方が身のためじゃぞ』

 

「ど、ういうことだ?」

 

『ほーれ、最初に言ったじゃろう。知らない方が良かったこともあるとな』

 

 

 にっこりと歪んだように笑ったジジイは真っ赤な髪を風になびかせさせている。

 幻想的な光景のはずなのにどこか違和感があった。

 

 

『そうじゃな。カナが使えた力については教えてやろう』

 

「ちから?」

 

『同化じゃよ。ワシがカナに入ったのと同じ……それよりはちと《浅い方》じゃがな。鬼纏にも似たそれは誰にでも発動させることのできる必殺技じゃ』

 

「ひっさつわざ……だれかにこうげきできるのか?」

 

『まあそうじゃな。《誰にでも》じゃからな。力の使い方次第では攻撃にも転じるであろうよ』

 

 

 怪我の肩代わりだけではない。きっとうまくやれば幅広い技として使えるだろうとジジイは話す。

 急に目覚めたそれは、なんとも都合のいいモノだった。だって鯉伴さんが死ぬかもしれない間際での覚醒だぞ。ジジイの意志でもってやったことだと疑うのは仕方ないだろう。

 

 

『ワシはカナの半身みたいなもんじゃ。ジジイじゃがカナの中に常にいる力の塊みたいなもんじゃよ。おぬしがそう疑うのは仕方あるまい。しかしな、カナはもう少し自分の才能を理解した方が良いぞ?』

 

「さいのう?」

 

『ここぞというときに力に目覚めるご都合展開というのもな、ある意味幸運の一つじゃからな。あああそういうのをあのクソ陰陽師はよう持っとったわ! はぁー今思い出しても腹立つあのクソ外道め!!』

 

「おいジジイ。きゅうにどうした」

 

『おう、昔を思い出してちと血が滾っただけじゃ。気にするな』

 

 

 それよりも、と。

 ジジイは上を見上げた。

 

 空は満天の星と月が浮かぶ幻想的なものが広がっていた。

 

 

『そろそろ目覚めた方が良いぞ。怪我は治療してもらったようじゃが、あのままでは面倒なことになる』

 

「はい?」

 

『鯉伴の怪我を背負った身じゃ。命を助けたという意味では救済成功じゃが、このまま奴良鯉伴を悲しませて良いのか? リクオを泣かせて良いのか?』

 

「それはいやだ」

 

『なら早く目覚めよ。気を付けて行ってくるんじゃぞ』

 

 

 そう言ったジジイは手を振りながら俺を見送ろうとする。

 赤い花々が舞っていて、とても綺麗だった。

 

 

 

 

 



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第九話 お前これから奴良組な

 

 

 

 ゆっくりと意識が戻ったそこにあったのは見知らぬ天井だった。

 よく泊まりに行く奴良家でも、自分の家でもない。アルコールのような薬草のようなとても渋い匂いがしていて、少しだけ心が落ち着くように感じた。

 

 

「いでで……」

 

 

 起き上がろうとしたが身体中に激痛が走った。主に首から右腕にかけて。よく見れば包帯が何重にも巻かれており、また薬を塗っているのか薬草の香りがツンと鼻にきた。

 どこだろうかここ。奴良組の……どこか。ええと、薬草とかに優れている妖怪って誰だっけ。いや、初期からいて、男前な容姿をしていることは分かっているんだ。ただ名前が出てこない……。

 

 再び起き上がろうとするが激痛のせいで呻くだけしかできない。

 左手は自由に動かせるので天井に向かって無意味に伸ばしてみた。倦怠感が強い身体はその動きすら簡単には出来なかったが。

 

 不意にバシャンという大きな音が聞こえてきた。

 何かが落ちたような音だ。無理やり音のした方へ顔を向けると、そこにいたのは涙目のリクオだった。後ろには見知らぬ妖怪たちもいる。護衛かな。

 あとリクオが持っているのはタライだろうか。床が水浸しになっているが気にせずリクオは特攻してくる。

 

 

「かなちゃ……がなぢゃっっ!!」

 

「りくおっ────いでででで!! ちょっ、のるなのるな!!」

 

「がなぢゃん!! よがったよぉー!!」

 

「り、リクオ様!? 流石に娘の布団の上に身体ごと乗られては怪我に障ります!」

 

「うっ ごめんなさい」

 

「ううん。だいじょうぶだよ」

 

 

 泣き喚くリクオを嗜めたのは烏天狗だった。その後ろからやってきたのは気難しそうな顔をしている男。……そうだ、思い出した。鴆だったな。

 

 あれ、そういえば俺何で怪我して────。

 

 

「っ! そうだ、りはんさんっう。いでで……」

 

「アホか! 無理やり立つ馬鹿が何処にいるってんだ! おい無理すんじゃねえ。水飲めるか?」

 

「うっ……」

 

「だいじょうぶだよ。ぼくがいれたからね! はねははいってないよ!」

 

「あぁ? おいこらリクオてめえ俺が怪我人相手にドジするわけねえだろうがゴファ―!!!」

 

 

 感情が爆発したのだろう。

 派手に吐血した鴆によって、俺は全身のほとんどが血に濡れてしまう。それにギョッとしたのはリクオ達だった。

 

 

「うわぁー!!」

 

「何してるんですかぁー!!?」

 

 

 阿鼻叫喚とはこのことか。

 普通だったら俺もパニックの一員になってるはずだけど周りが落ち着いてないと逆に冷静になるというか。烏天狗って間近で見ると本当にぬいぐるみみたいなんだよなぁ。モフモフしてそう。触ってみたい。

 

 

「おう、無事に目が覚めたか……ああいや、無事とは言えねえ状況だな。派手にやったなぁ鴆」

 

 

 襖を開けてやってきたのは無傷に見える鯉伴さんだった。

 生きていたのだ。あの時死ぬはずだった人が、無事に生きていた……!

 

 

「おとうさん!」

 

「りはんさっ────!」

 

 

 待って。なんか鯉伴さん怒ってない?

 笑顔を浮かべているのは確か。でも何だろうか。美人が怒ると怖いというか。とても寒くなるというか。背筋が凍るような感覚に襲われる。

 

 

 

「カナ────この馬鹿野郎が!」

 

「あぅ」

 

「自分の力にも目覚めちゃいねえ筈のお前が何故あそこまで無茶をした。カナが死んでいたらリクオが悲しむんだぞ!」

 

「そ、れは……でも、りはん……さんもあぶなかった。りはんさんがしんだらリクオがかなしむんだから!」

 

「そうだ。情けねえことにどっちも死んでたかもしれねえんだ。あの時の俺は何も出来やしなかった。腕の中で冷たくなっていくカナに俺はみっともなく取り乱しちまった。あの時どうすりゃあよかったのか今でもわからねえ。……俺が言うのもあれだがな。カナ、お前はまだ弱い。戦う術も知らねえお前が衝動的とはいえ守ろうと動かなくても良かったんだ」

 

 

 大人として子供に説教するように。

 命の大切さを説く。自分も危ない目に遭ったけれど、それはそれ、これはこれだと怒られている。

 

 一言二言言い切った鯉伴さんがこちらを見下ろした。

 

 腕に巻かれた包帯と、首に巻かれたモノ。

 よく見れば鯉伴さんも俺と似たように巻かれている。もしかして鯉伴さんもまだ完治してないのか?

 

 いやでも死んではいないんだ。怪我をしていても生きているなら何とかなるはずだ。だから俺はこれでよかったんだと胸を張れるはず。鯉伴さんをもっと上手に救えたらよかったという後悔は残るけれど、それは贅沢な悩みだ。

 

 彼を救えてよかった。それだけで満足しよう。

 

 ふと、鯉伴さんが俺の頬を軽く触ってくる。

 鴆がタオルでもってふき取ったがまだ残っているかもしれない血に濡れた顔だが、鯉伴さんは少しだけ痛々しいように俺を見た。

 

 

「……痛いか?」

 

「ううん。りはんさんをまもれたあかしだよ。いたくても、いたくない」

 

「ハハッ、カナは強いな。……ありがとなカナ。お前のおかげで俺は生きてる。カナ、お前が生きててよかった。カナは俺の命の恩人だ」

 

 

 でももう危ない真似は済んじゃねえぞ。危険だと分かっていてもむやみに飛び込むな、と釘を刺される。

 それに何とか頷いてリクオを見た。

 

 

「かなちゃん。……ぐすっ……いきててくれて、ありがとう!」

 

「う、ん……」

 

「こんどはぼくが、かなちゃんを……おとーさんもみんなもぜんぶ、まもるよ!」

 

「うん」

 

 

 覚悟を決めたようなリクオの顔は、漫画で見たものに似ていた気がした。

 

 

 

 

 

 

「ああそうだ。カナ」

 

「はい」

 

「お前さんこれから奴良組の傘下に入れ。これは確定事項だから拒否権はねえぜ」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 



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第十話 怪奇現象の修行中(掲示板回)



記念すべき十話に達したので掲示板スレ回です。
次から原作入りするかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

そして突然ですがこの作品を読んでる人っているんでしょうか?(白目)




 

 

 

 

 

【赤色幼女さんの遭遇スレ】

 

 

 

158:幼女を応援する名無し ID:SknAj3cTu1

なんか最近幼女さんが分裂してないか?

 

 

 

159:幼女を応援する名無し ID:KUFiIfnk5A

は? お前何言ってんの?

 

 

 

160:幼女を応援する名無し ID:aNYxRC9yU5

ああ、確かに赤色幼女が二人に増えた時があったよな一瞬だけど。

 

この前某町で深夜に歩いていた時に遭遇した話なんだけどな。

その日は蒸し暑くて夜中でも関係なく汗だらっだらだった。そんな中早く自宅に帰りてえなって思いながら歩いてたら不意に後ろから犬の鳴き声が聞こえたんだ。

振り返ってみると、そこにあったのは鏡だった。犬はいなかった。

 

「鏡? なんでこんなところに……」

 

ここは某町で怪奇現象が多発するほどやべえとこだっていうのは知ってたし過去に俺は何度か怪奇現象を経験してるからやべえなって思ったんだよ。だからすぐ鏡から背を向けて帰ろうとした。

 

「っ!」

 

でも無理だった。

俺が振り返った先にも鏡があったんだ。しかも合わせ鏡になっていたせいで後ろにある鏡から俺の後姿が良く見えた。

 

早く逃げなきゃいけないのに、何故か身体が動かない。

汗が噴き出ていたぐらい暑かったのに、今は寒いぐらいだった。

 

何重にも映し出される景色の一つに黒い影が映し出されたんだ。

そいつがゆらゆら揺れながら俺の元へ近づいていく。ゆっくりと鏡から俺に向かって手を伸ばしてきたんだ。

影がゆらりと現実世界へ出てきた。その影には一つ目があった。大きな口もあった。でもどんな妖怪なのか分からない。ただの怪物にも見えた。

 

ああ、ここで死ぬんだって思ったよ。

 

 

「……っ!」

 

 

そんな時に不意に影が真横にぶっ飛んだ。いや、あの赤色幼女ちゃんが影に向かって飛び蹴りを入れたんだ。

 

 

『あーそーぼー!』

 

「ぎゃあああああっっ!!!」

 

『むっ、なんじゃい。軽く蹴っただけじゃろう。そんな喚くな』

 

 

いや無理あるだろって思った。続きはちょっとまって

 

 

 

161:幼女を応援する名無し ID:tW9mv1rJF9

 

 

 

162:幼女を応援する名無し ID:X3IrpWXVXI

めっちゃ可愛いロリ声で「あーそーぼー(はーと)」って言ったんだろ。俺には分かるぜ!!

 

 

 

 

163:幼女を応援する名無し ID:RtHraC142J

可愛い声だけどやることはえげつねえんだよ赤色幼女ちゃんは。まあ俺ら人間に向けられたことはねえけど

 

 

 

 

164:幼女を応援する名無し ID:PBq6vcqa6J

妖怪「遺憾の意ですね……」

 

 

 

 

165:幼女を応援する名無し ID:AERZUl9mh9

妖怪「幼女に『めっ』されるとかご褒美以外の何物でもないのでは?」

 

 

 

 

 

166:幼女を応援する名無し ID:mISpko4QP8

 

 

 

 

167:幼女を応援する名無し ID:TewSAGc0xg

妖怪がロリコンとか終わってんな……いや、我らが日本に生まれた妖怪なんだし、ロリコンいそうだなぁ……

 

 

 

 

168:幼女を応援する名無し ID:PNiThkTL8o

続き

 

赤色幼女はいつもだったらすぐに妖怪を滅するはずだった。いつものように「ハァ!」って感じじゃなくて、物理的に「ハァ!(殴る)」って感じでやると思ったんだけど違った。

 

 

『うーむ。こうか? ……いや、こうじゃったかな?』

 

 

首を傾けながら何かをやろうとしてたんだよ。

強烈な蹴り食らって地面に倒れてる妖怪に向かってさ。

もちろん赤色幼女ちゃんが考えている隙があるからと影は逃げようとした。

 

でも幼女ちゃんはな『逃げるでないわ、たわけ!』って人間だったら顔面がある方に向かってぶん殴ったんだよ。マジで容赦ねえの。それにも影は悲鳴を上げた。

そんで倒れている間にまた『うーむ?』とか言って何かをやろうとしてる。まるで実験に無理やり影を付き合わせようとしてる感じだった。影が逃げようとしたらぶっ殺されるのは確実だったし、逃げられないからもう詰んでたんだけどさ。

 

影の一つ目が俺の方を見て必死に「タスケテ!!」って言ってるんだよ。でも無理じゃん。助けられねえじゃんっていうか助けたとしても俺の事ご飯にするつもりだろって思っちまったわ。あの時は幼女ちゃんのご飯()にされてたけど。

 

助けてくれないって分かったのか、影の一つ目から涙が溢れてるのを見て「はわわ……幼女ちゃんやりすぎなんじゃ……」って同情したくなった。

 

そんで急に幼女ちゃんがピンと来たように叫んだんだ。

 

 

『なるほど、こうじゃな!』

 

そう言った瞬間幼女ちゃんの赤い髪が燃えた。いやマジで髪が赤い炎になってた。そんで身体中からも火が噴き出してる。まるで火の塊だった。寒かった空気が一気に熱くなって汗が出たよ。

幼女ちゃんが燃えたその一部を影に向かって喰らわせた。

 

『異物混入の時間じゃよ!!』

 

「ぎゃあああああああああああ!!!!!!」

 

 

阿鼻叫喚ってこういうことを言うんだなって思った。

ちょっと待ってまだ続きあるから

 

 

 

169:幼女を応援する名無し ID:IoR2h0ZaDC

ひでえ……

 

 

 

170:幼女を応援する名無し ID:ZanQ6X8CIX

「異物(赤い炎)混入(喰らわせる)の時間じゃよ!」ってか?

 

 

 

171:幼女を応援する名無し ID:w9B4Gzf6t1

妖怪も火を口ン中に突っ込まれて拷問される時代になったんだな(白目)

 

 

 

 

172:幼女を応援する名無し ID:hZP1EgDYOu

妖怪「俺ら人間食う。火は食わない。遺憾の意」

 

 

 

 

173:幼女を応援する名無し ID:8k4HuHoOuy

妖怪「ようじょこわい……」

 

 

 

174:幼女を応援する名無し ID:fhlBvsG4C7

妖怪たちには人間をまず食うなといいたいしこっちが遺憾の意なんだが……

 

 

 

 

175:幼女を応援する名無し ID:WkHvh6EChz

続き

 

火あぶりになった影が苦しみだしたかと思ったらそいつも炎になった。突然変異かもしくは赤色幼女ちゃんの能力かもしれないな。

そんで急にその火が消えたかと思ったら幼女ちゃんが二人になったんだよ!

いや、幼女ちゃんよりもっと小さかったな。幼女ちゃんが幼稚園児だとすると、もう一人の幼女ちゃん(元影)まだヨチヨチ立つ程度に成長した一歳ぐらい?

 

そいつの顔はいつもの幼女ちゃんとは違って真顔だった。

 

『よし、そのまま住処に戻っておれ。何か異変があれば知らせよ』

 

「りょうかいちまちた。ごちゅじんちゃま」

 

『ふむ、舌っ足らずはどうにかせんとならんか……?』

 

「むりでちゅ」

 

『むぅー』

 

 

何してるのか分からなかったけど、可愛かったよ。

 

 

 

176:幼女を応援する名無し ID:muGoco7lYY

何かよくわかんねえけど幼女が分裂したということ、鏡に出た影の報告主がロリコンって言うことは分かった

 

 

 

177:幼女を応援する名無し ID:rWfk2omAa2

これ分裂っていうか影が根元から変異して赤色幼女ちゃんの下僕になってね?

 

 

178:幼女を応援する名無し ID:MqgJkhgwBN

妖怪を根元から変質させるとかやべえな幼女ちゃん……これ人間だったら即殺じゃんか……

 

 

 

179:幼女を応援する名無し ID:LNMyOdvzzX

幼女になれるとかご褒美じゃねえか!!!!!!!!!!!

 

 

 

180:幼女を応援する名無し ID:D2hGv1fesi

え、なに?

いまある人類にはおっさんになった後幼女になりたい変態がいるの?

 

 

 

うわ失望しました人間やめます(赤色幼女ちゃんの炎浴びる)

 

 

 

181:幼女を応援する名無し ID:cf2IBHv6VZ

浴びるな浴びるな炎上するわ

 

 

 

182:幼女を応援する名無し ID:uKlhTaw7sJ

別の意味で炎上しそうだな……

 

 

 

183:幼女を応援する名無し ID:3E344909kr

 

 

 

184:幼女を応援する名無し ID:2dFCttXmdH

赤色幼女ちゃんがちっちゃくなった幼女ちゃんと戯れてるとか天使かよ。俺ちょっと妖怪に会って赤色幼女ちゃんの出待ちするわ!!!

 

 

 

 

185:幼女を応援する名無し ID:SbnLMNDmUb

別の意味で妖怪に迷惑かけるのは止めなさい。幼女ちゃんも困るだろ!!!

 

 

 

 

186:幼女を応援する名無し ID:uUNpqULZ4T

変態がいるやべえ……

 

 

 

187:幼女を応援する名無し ID:jvcwNiLmBO

そういえば最近幼女ちゃんの後ろになんかいるよな。

 

 

 

 

幼女ちゃんを見守ってるあの人って親なのかなぁ……

 

 

 

 

 

 



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第十一話 暗躍(表)

 

 

 

 あれから半年が経過した。

 怪我は不運の事故として処理されたらしく、両親が「この度はうちの娘が迷惑を」とかいろいろ言ってリクオの両親に頭を下げており、彼らもまた「いえ、うちで預かってたというのに怪我を負わせてしまったこちらが悪い」とはっきり言い、治療費含めて面倒を見ますと告げてきた。

 

 正直に言えば奴良組にいた方がいいかもしれないと思うけど、両親はこれ以上迷惑はかけられないと一度家に帰ることになった。怪我は治療した鴆さんの腕が良かったおかげか傷跡は残らないそう。

 

 ────でも、私の怪我はともかく鯉伴さんの状態は悪いらしい。出入りとか組同士での喧嘩とかまあいろいろやっていたらしいが、そのたびに怪我を負い、体調が悪いことを隠しているようだがこの俺が気づいてしまうぐらいには酷い状況ということ。腕を動かせないのだろうか。俺と同じ怪我を負ったはず。ジジイに鯉伴さんの怪我の状態が悪いことを告げると首を傾けながら『おかしいのう? ワシらと鯉伴の二人分の身体でうまく傷を分け合っておいたはずなんじゃが』と訝し気に言い、しばらく考え事をしていた。

 

 ……何か理由があるのかもしれない。

 上手くやったとジジイは言っていたけれど、やっぱり失敗していたかもしれないし。

 

 鯉伴さんの状態を見て奴良組内部はどう思うのか。本家住まいではない外部の傘下達は鯉伴さんに対し失望して離れていくかもしれない。

 

 これから先でリクオが覚醒するかもしれない。

 でもその間に鯉伴さんの怪我を放置していいのか。右腕が全く動かさず使えない状態で大丈夫なのだろうか。

 

 もしもこの先原作通りにいかなかったとして────鯉伴さんの身に、何かあったとしたら。リクオが悲しむようなことがあったなら。

 いつものように奴良家に泊まりにいって、リクオと遊んだあと烏天狗に力の使い方を学ぶ。まあ学ぶと言っても俺が人間として生きたいならそのための制御方法を会得しろという程度でお遊びみたいなもんかな。

 

 俺の身体は今どうなっているのか分かってないし。異物混入? つまり鯉伴さんの中に入ることが出来てその怪我の負担を二つに分けることができるとジジイが言ってくれたんだけど、まだまだその力の会得は難しい。

 とりあえず妖怪の中に自分の魂を入れる感じを作り出すために壊してもいいような人形を使って入ろうとする修行を行っている。何とか感覚はつかめたので後は生きている妖怪に使ってみようと思う。

 

 でもなぁ。この身体がまだ幼女なせいだろうか、夜中は疲れて寝ちゃうからなぁ。

 あと抜け出すにしても今は難しいというか、一時期は夜に抜け出して町を探索とかやってたけど、今は昼間に部屋の中で修業をしていた方が両親が怪しまないというか。

 だから奴良組にお邪魔しているときは堂々と修行できるのが良いと思う。リクオが乱入してくることもあるけど、「えっ、カナちゃん妖怪の力に目覚めたの!? いいなぁー!!」と羨ましがられていつかは自分も出来るようになるんだと叫んでいたことだけは微笑ましかったな。そのまま遊んじゃうけどリクオが可愛いからしょうがない。

 

 とにかく俺はこの『異物混入』という名の、妖怪の中に入って怪我の負担を軽くさせるための方法を身に着ける必要があった。

 そうすればいつかきっとリクオのために使えると思ったから。もしかしたら鯉伴さんの役にも立てるかもしれない。あの動かせない右腕の怪我の負担を、もっと軽くできるかも。

 

 そう思って必死に頑張った修行は失敗してばかり。

 それでも頑張ってきたおかげだろうか。いや、師匠がよかったせいかもしれない。

 

 奴良組で忙しいだろうに。俺はある意味異物であるというのに鯉伴さんが「お前はもう奴良組傘下な」といった影響か、烏天狗は面倒見がよく俺の事をちゃんと見てくれる。修行でもアドバイスをいくつか入れてくれて、何とか自分の力になりそうな段階だった。

 

 

「あっ……」

 

 

 うすら寒いが、そろそろ温かくなるような季節。

 リクオと一緒に幼稚園に通うのも今日が最後だ。

 卒園して次から小学校へ入学する。

 

 

(あのお爺ちゃんと鯉伴さんの怒鳴り声が聞こえたのは、多分嘘じゃない……)

 

 

 聞いてしまったんだ。きっと今日総会があって、そこで鯉伴さんが何かを言ってぬらりひょんを怒らせた。

 怒鳴り声から察するに最悪なもの。いや原作修正されたために起きた出来事といえるのか。

 

 なんだか眠れなくなって目が覚めたので少しだけ奴良組の庭先を歩いていた時だった。

 まだ宴会でもやっているのか奴良家中心では騒ぎ声が聞こえる。でもここは部屋の隅っこ。リクオも寝ている場所はとても静かだった。

 

 星が綺麗な夜だった。

 桜が咲いている季節の夜。とても綺麗な桜の花びらが風に舞っている幻想的な風景が広がっていた。

 俺がいる場所は奴良組本家の縁側の曲がり角。その先にて鯉伴さんがお酒を飲んで桜を眺めている様子が見えた。

 

 

「鯉伴さん」

 

「ん? こんな夜更けにどうしたんだ。カナちゃん」

 

 

 小さく笑った鯉伴さんが俺を見た。

 まだ俺の身体が小さいせいで、鯉伴さんが座っていてもすっぽり覆い隠されそうなぐらい差があった。そんな彼の身体には怪我の痕。治療はされているけれど、その数がいつもより多いように見えた。

 

 

「鯉伴さん……ぬらりひょんのお爺ちゃんと喧嘩したって聞きました。総会で二代目を降りるって……」

 

「ああ、参ったな。聞いてたのか?」

 

「あの、私が今鯉伴さんの身体に入って怪我の負担を二人分にすればその腕の怪我も────」

 

「駄目だ」

 

「っ────!」

 

 

 俺の言葉に食い気味に否定した鯉伴さんは真剣な目で諭そうとする。

 肩を震わせた俺に彼はちょっとだけ怖かったかと聞いて、謝ってくれたけど。

 

 

「カナちゃんは人間として生きれるよう力の制御をすりゃあいい。お前さんは奴良組に入らせたがな、そいつはカナちゃんが力を学ぶまでの間ってだけの話だ。カナちゃんは俺らのことまで背負わなくてもいいんだぜ」

 

「……でも」

 

「カナちゃん。こうして俺が生きてられるのもカナちゃんのおかげなんだぜ? だから腕のことまで考えなくてもいい。こいつは必要なことだ」

 

「……必要なこと?」

 

「知りてえか?」

 

 

 ウィンクして意味深に言う鯉伴さん。

 でもその瞳の奥は俺を見定めたもの。踏み越えるかどうかは俺の発言次第。そんな風に見られていると感じた。俺が幼女だと知っているくせに子ども扱いせず、他の妖怪たちと同じように真っ直ぐ言ってくれるのは嬉しいけれど……。

 

 本能で理解してしまったのだ。

 これはきっと、知らない方がいいことだと。鯉伴さんが何を企んでいるのかは分からないけれど……。

 

 

「リクオが知った時に、俺にも教えてください」

 

「ハハッ、カナちゃんは本当にリクオのことが好きなんだなぁ」

 

「当たり前ですよ。弟分なんだから」

 

「そうかい」

 

 

 笑った鯉伴さんが俺から顔を逸らし、月夜を眺める。

 なんとなく彼の隣に座り、俺もまた月夜を見上げた。

 

 俺の知る心象風景とは違って満点の月夜とは言えないけれど、桜吹雪が綺麗な夜だなとは思えた。

 風が吹いて、桜が舞い。どこかで猫の鳴き声が聞こえる。

 遠くの方で妖怪たちのどんちゃん騒ぎも聞こえてきて────あんなに目覚めていたはずの意識が微睡んできた。

 

 俺の頭を鯉伴さんが手で添えて、彼の太ももに乗せるように移動させてきた。膝枕というべきだろうか。抱っこされた状態になったので膝枕じゃないか。

 

 

「……んっ」

 

「眠いんなら寝ちまえ。部屋まで送ってやるよ」

 

「いえ、そんな……ごめいわくは……」

 

 

 頑張って起きようとした意識は、ゆっくりと落ちて行った。

 

 

 

 

 




表ということは裏もあります。
それが終わったら原作入れそうです。

あとなんかいろいろ増えててびっくりしました!読んでくれてるって実感できたよ!皆さんありがとうございます!!


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第十二話 暗躍(裏)

 

 

 

 

「なんじゃ。寝ちまったか」

 

「親父」

 

 

 縁側にて鯉伴が眠ってしまったカナを抱きしめ座り込んだ先。起きていればカナでも気づいたであろう存在感を放ちながら来たのは気難しい顔をしたぬらりひょんだった。

 

 

「鯉伴。あんな面倒くせえ茶番なんぞせんでもよかったじゃろうに」

 

「まだやるかい?」

 

「カナが目覚めちまうじゃろ。無意識にでもリクオが庇護下におこうと決めた娘じゃ。何かあれば孫がうるさいのが目に見えとる」

 

「だろうな」

 

 

 ぬらりひょんが不機嫌なのには訳があった。

 以前から話は通されていたことだが、その時もぬらりひょんは良い顔はしなかった。当然ながら総会でも同じように言い、演技も含まれるとはいえ半分本気の言い合いになってしまったのだ。

 

 それが、総会にて起きた騒動についてだった。

 

 あの事件の後、出入りで怪我をしていたからという理由で、このままじゃ奴良組を背負い続けるのも皆が不安になるときもあるだろうという理由と、怪我を治しきれなかったこと。それらを全員に明かした。

 

 そうして────鯉伴は奴良組二代目を降りると表明を出した。

 

 三代目はもちろんリクオが継ぐが、まだ幼く総大将としての器は育ちきっていない。だから代理でぬらりひょんが継ぐことになった。

 それが表立った理由。裏はもちろん違う。それを知るのはぬらりひょんを含めた数名のみ。

 

 

「怪我なんざカナちゃんと同じで完治してるがな……嫌なもんが奴良組に入り込んじまってる可能性がある限り俺は表立って出る気はねえぜ。親父」

 

「ふん。そんな奴ら全員潰しちまえば良いじゃろうに」

 

「親父の時はそうかもしれねえがな……今はどうにも嫌な感じだ。奴らは奴良組本家の近くにまでやってきたというのに俺たちの異変に誰も気づきはしなかった。何処まで潜り込んでいるのか知るには表で動くのは惜しい」

 

「じゃからとジジイを巻き込むでないわ。全く」

 

「ははっ、悪い悪い。まあ親不孝なことになる前に助かってよかったじゃねえか。これから親孝行してやるぜ、親父殿?」

 

「ふん」

 

 

 羽衣狐があの場所にいた理由を知らなくてはならない。

 あの姿になった理由も、奴良組本家の近くで事を起こした意味も。

 

 幼い息子を巻き込むには少しばかり荷が重い。リクオを総大将として継ぐことになっても、奴らは鯉伴自身の手でどうにか始末を付けようと決めていた。それが腕に怪我を負わせた対価を支払わせる意味に繋がると。

 

 そのため表立って行動はしないということを鯉伴は決めた。だから二代目を降りることにしたのだ。

 

 怪我は治っているし腕も不自由なく使えるが、それは使えないと誤魔化した。

 首無……部下たちやカナには迷惑をかけたがいつか表舞台に立つ頃には教えるつもりだった。

 

 

 

「あれは俺の獲物だ」

 

 

 

 目を輝かせた鯉伴にぬらりひょんは小さく溜息を吐いた。しかし反対するつもりはないらしく、「好きにせい」といっていたが……。

 

 

「そういやぁカナちゃんが先祖返りしたきっかけの落とし穴の先────そこに祠があったぜ」

 

「祠だぁ?」

 

「ああ。親父はカナちゃんが先祖返りしたように思えねえって言ってただろ」

 

「当たり前じゃ。妖怪の先祖返りなんぞありえない話じゃからな。妖怪の血に覚醒するためには再び人外の血を取り込むか何かせにゃあならん。人間が何もせず妖怪の先祖返りするというのはな、人間が何も知らずにどこぞの妖怪が意図して人の魂を変異させ、起こすものなんじゃよ」

 

 

 ぬらりひょんは渋い顔をして鯉伴に抱きしめられたカナを見た。彼女はスピスピと穏やかな顔で眠っており、その中に潜む悪意は今のところないように見える。

 先祖がえりをしたとしても、カナの親、もしくはその曽祖父の代ぐらいだろうか。それぐらいの時に妖怪の血を取り入れなければ覚醒することはない。だからぬらりひょんはまだカナの事を少しだけ様子見していた。

 彼女自身はリクオを大切に思う可愛らしい娘。しかしそれが鯉伴の話していた羽衣狐の器となった少女のように、中身が何処か歪になっているのならと。

 

 

「祠があるといったな。アレに何か中身はあったか?」

 

「いんや、ちょいと調べてみた結果見つけたんだよ。まあ壊れてたし土に埋もれちまってて中身はなんもなかったぜ」

 

「ふむ……そうじゃな。祠か……」

 

「親父?」

 

 

 眉をひそめた鯉伴を見たぬらりひょんは、小さく口を開く。

 

 

「わしが奴良組を作るはるか昔。平安時代じゃったな。そのぐらいの頃に出来た祠かもしれん。いや、祠というよりは封印具じゃな。ここを本家と決めた少し後に話を聞いたことがある」

 

「へぇ。封印具ってのは物騒だな。……それがカナちゃんに悪さしてるかもしれねえと親父は言いてえんだな?」

 

「あくまで可能性の話じゃ。それにな、封印といっても変な物ではない。京の町を闇夜に叩き落した悪辣な陰陽師が、とある陰陽師によって退治され、悪辣な陰陽師が利用していたものをどこぞへ封印した。それがあの祠近く……という話じゃな。真実かどうかは今となっては分からぬが……」

 

「悪辣な陰陽師だァ?」

 

「鯉伴も知る大昔にて安倍晴明と同じ時代を生きた陰陽師────蘆屋道満じゃ」

 

 

 

 

 

 

 





次から原作入りますが怒涛の低評価にやる気失ったのでゆっくり書きますね。


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第2章 原作は少しずつズレる
第十三話 常識とは?



心配かけて申し訳ないの気持ちを込めて今日は多めに書きました。掲示板もあります。
皆さんたくさんの反応をありがとうございます! やる気が出てきたので頑張ります!







 

 

 

 

 

 あれから小学校に入学して気ままに楽しんでいる真っ最中。

 修業はちゃんとやっているが、数年経ってもなお鯉伴さんの時のように生きている妖怪や人間の中に入り込んで怪我を二つに分けるという行為は成功できていない。

 

 あれだ、悪霊が憑依して人間に悪さするような感じ。力のある妖怪だったら数秒も経たずに体内から俺を追い出すだろうなと思う程度の弱い力しか使えない。

 

 

 多分この力は本来のそれではないような気がする。

 俺が使う力────通称名として《異物混入》と呼んでいるが、それはある意味ちょっとした身代わり人形というべき存在へ成り果てるようなものなんだろうと思っている。

 

 鯉伴さんを救うことが出来たのはジジイが俺の中で手助けしてくれたから。でもって俺はあの時幼い身体だったから致命傷に耐えきることができず鯉伴さんに怪我を半分背負わせてしまっただけのこと。

 

 ならば。

 成長し強くなったら俺は全ての怪我を受け入れ背負うことができるのではないだろうか。

 例えばだが、リクオが死ぬほどの怪我を負ったとしても俺の力でもってそれを自分の身体へ移し、身代わりのような感じで力を行使する。そうすればリクオは死なないし、生きることができる。

 原作知識についてはジジイが知っているし、夢で唐突に見せてくることがあるからそれを頼りに動かざるを得ない。つまりジジイの気まぐれ次第によっては突然大変な事件に巻き込まれる可能性だってあるのだ。

 

 だから俺は、リクオに鯉伴さんの時のような腕を使いきれないような怪我を負わせず、裏でサポートすることを決めた。いわば縁の下の力持ち。烏天狗のように、雪女のように後ろから支えて生きて行けばいい。

 

 そんな怪我無く無理なく総大将への道に進むための最強プランを考えた俺は、ジジイの力を借りずに自分だけの力でリクオをサポートできたらいいと思っている。可愛い弟分のためならこの身体が身代わり人形として何度だって致命傷を負うことも構わないと思ってるんだぜ。

 

 

『身代わり人形か。ふむ、それは……まあワシが言うべきではないと思うがな。あの小僧にいつか説教されそうじゃなぁとジジイは孫を心配してしまうなぁ。これは怒られること間違いなしじゃぞ?』

 

 

 頭の中でジジイの声が聞こえてきたが聞き流す。俺の思考を読んでツッコミを入れたり楽しそうに笑うのもいつもの事だ。それに反応してばかりだと周りから「あれ、カナちゃんって独り言が多い変な子なんだね」とか誤解されてしまうからだ。

 

 まあそれはどうでもいい。

 今やるべきことは俺がどれだけ《異物混入》を会得できるのか。それが一番の問題点なのだから。

 

 

 意思も何もない付喪神でもないただの人形に入り込み動かすことは出来た。とはいっても体力をかなり使う。腕を動かすだけで長距離マラソンを走り続けているような感覚になってしまうようなもの。ぬいぐるみか何かを持ち歩いていざという時にそれの中に入って戦闘し自分の身体は無傷というのが理想なんだがまだまだ無理そうだ。

 

 あと生き物の中に《異物混入》出来るかどうかも試してみた。

 納豆小僧に頼み込んでその身体へ向かって一時的に《異物混入》させてみたがやっぱりすぐ追い出される。納豆小僧が悪意を持って追い出したわけじゃない。自分の身体に異物が混じるのだからそりゃあ反射的にでも追い出したくなる気持ちは分かる。だからこれは体力がない俺が悪い。

 

 もっと体力を付けた方がいいのか。筋トレでもするか。

 うぅ……やはり筋肉。筋肉がすべてを解決するんだ……!!

 

 

『妖怪相手に筋肉で太刀打ちできるわけがなかろう。落ち着かんかいカナ。ほれ、リクオが何か喚いておるぞ?』

 

(へっ?)

 

 

 聞こえてきた声に顔をあげると至近距離でリクオがこちらを見ているのが見えてギョッとした。

 

 

「カナちゃん! カナちゃんは妖怪がいるって分かるよね!? ちゃんと分かってるよね?」

 

「ふぇ? 妖怪ならいると思うけど……」

 

「だよね!」

 

 

 俺の声に「えっ、カナちゃんって妖怪とか信じるタイプなんだ!?」と驚いたような女子の声が聞こえてきた。ちょっと思考停止してたし幼馴染の強い問いかけに反射的に肯定してしまったけれど、これってどういう授業だったっけ?

 

 これからの未来について考え込んでいたせいだろうか。何が起きているのか理解できない状況に首を傾けた。

 

 よく見ればリクオは焦ったような顔で清継に向かって「妖怪はちゃんといるし、良い奴等ばかりだよ!!」と叫んでいるのが見えた。

 黒板には「郷土の妖怪伝説を調べる」という文字が書かれた紙が貼られている。そういえば発表会やってたな。つまり清継達が発表しているのが妖怪がいないと否定派で、リクオがそれに違うと叫んだ肯定派に分かれた討論みたいなことが行われていると。まあ子供同士の喧嘩ともいえるが。

 

 

「妖怪とかいるわけないじゃん!」

 

「そうだよ奴良君。妖怪はこの世にいるわけがないんだ!」

 

「そ、そんなことないよ!!」

 

 

 

 ピリピリとした空気に俺は眉をひそめた。

 なんというか、否定派の意見が強い。清継がリーダーとなって妖怪はいないと断言しているせいだろうか。

 

 リクオがそれにショックを受けたような顔で周りを見ている。

 まあ、それは当然だろう。なんせ幼い頃からずっと妖怪と共に生きてきたようなもの。それをクラスメイトは真っ向から否定した。自分の常識を壊してくるようなものだ。しかも清継が悪い方に言ってしまうせいも含まれているかもしれない。

 

 

『放置してよいのか? あのままじゃとリクオが悲しむぞ』

 

 

 ああ、流石にこれは放置できない。

 

 

「ちょっといいかな?」

 

 

 手を上げて立ち上がった俺にクラスメイトがこちらを見つめてくる。

 微笑みながらも安心させるようにリクオの方を見て、清継を真っ向から見た。

 

 

「私はね。妖怪はいると思ってるよ。でもそれは私が《いる》と思っているだけで、皆はちゃんと実物を見てないから《いない》って否定してるだけでしょう? 断言はしなくても、妖怪はいるかもしれないし、いないかもしれないって気楽に考えようよ。過去の人だって《地球は丸かった》って真実を信じてなかったぐらいだし、そういう意見は人の考え方次第。他人に押し付けるのはちょっと違う気がするよ?」

 

「うっ、そう言われると何も言えなくなってしまうね。……ああ、すまなかったね奴良君! 君の意見は受け入れられないし、僕は妖怪がいないと思っているけれど、君は君なりの考え方でもって動けばいいと思うよ!」

 

「う、うん……」

 

 

 リクオは納得してないような顔で清継を見つめていた。

 とりあえず妖怪を否定することをリクオに押し付けるようなことはもうしないだろう。もうちょっとやり方はあったかもしれないが、穏便に進ませるにはこうするしかない。

 

 

「気にしないでよ、リクオ。人間にだって良い奴と悪い奴がいるし、考え方も十人十色といろいろあるんだから……それにリクオの家にいる妖怪たちは皆良い奴らだろ?」

 

「……うん」

 

 

 元気がなかったリクオだが、返事だけは返してくれた。

 だから多分、これで大丈夫なはず。

 

 発表会は次のグループに移ったらしく、子供たちのざわめきが教室内に響いてくる。

 机に突っ伏したままのリクオ。やっぱり清継ショックに耐え切れなかったのか。それとも俺のフォローが足りなかったのが原因か。一応俺とリクオの席は隣同士。グループ発表をしているがちょっとだけリクオと話をしてもみんなは発表に耳を傾けてるし誤魔化すことは出来るだろう。

 

 落ち込んだ様子のリクオにどう言えばいいのか迷っていると、彼が顔をちょっとだけ上げて視線をこちらに向け、眉を顰めながら口を開く。

 

 

「カナちゃんが人間のままだったら……妖怪は怖いって思う?」

 

 

 リクオは俺が妖怪に変異できると分かっている。幼稚園児だった頃はちゃんとした人間だったことも理解しているからこその質問だろうか。

 それに俺は首を横に振った。リクオはショックを受けるかもしれないが、嘘をつきたくはなかったから。

 

 

「人間のままだったら……その頃の私だったら多分、妖怪は怖いって思うかな」

 

「えっ」

 

 

 まさか怖いというとは思わなかったというようにギョッとした顔のリクオに慌てて弁明した。

 

 

「違うんだリクオ! 俺……いや、私はさ。今は妖怪の事をちゃんと分かってるから怖いだなんて思わない。……でもね、妖怪を知らない人間は違う。人間にとっては未知の存在で、怖いと思っちゃうものなんだよ」

 

「未知の存在が怖い……?」

 

「リクオにとっては家族でも、清継達にとっては何も知らない未知の存在。恐怖の対象だ」

 

「……そっか」

 

 

 まるで酸っぱい梅干を食べたかのようにシワシワの顔になりますます落ち込む様子のリクオ。そんな彼に苦笑しながら俺は言う。

 

 

「だからさ。そういう認識をリクオが変えていったらどうかな?」

 

「……僕が?」

 

「妖怪をちゃんと知ってるリクオが伝えるんだよ。妖怪は人間によって《良き隣人》になれるってこと。理解すれば共存できると思うよ。私やリクオみたいに」

 

 

 まあ、人間を襲う悪い妖怪たちを見たら意見を変えるかもしれないけれど。

 そこはまだリクオが知らなくてもいいような気がする。だって奴良組にいる妖怪は良い奴らばかりだからな。人間と妖怪が本当の意味で共存できる可能性を秘めているのは次期総大将たる三代目のリクオぐらいだろう。

 

 そんな俺の考えが予想できなかったのか。机から顔を上げ、目を輝かせたリクオが笑う。

 

 

「う、ん。うんっ! そうだよね。今はまだ知らないだけで、ちゃんと理解すればきっと……カナちゃんありがとう!!」

 

「ふはっ、何で礼なんか言うんだよ。そういうのは行動を示してこそだろ? 私はただ言っただけ。後はお前が決めることだぜ。奴良組三代目?」

 

「……分かってる」

 

 

 リクオがしっかりとこちらを見て頷いた。……うん、よし。元気は取り戻したらしい。それに満足した俺はリクオの頭をぐしゃぐしゃになるまで撫でてやった。

 素直でいい子の弟分にはちゃんと褒めてやらなきゃな。あと迷ったら助けるのが姉貴分たる俺の役目だもんな。

 

 

 

『あーあー。やらかしおったわ』

 

 

 何が?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【成長した赤色幼女ちゃんを観察するスレ】

 

 

 

 

 

340:怪異遭遇の名無し ID:wgwWKxewl6

最近妖怪に気づかない人が怪異に遭遇しないで、そういう怪異に遭遇したか幽霊が確実に『いる』って知ってる俺らが怪異に遭遇しやすいことに気づいたんだが……

 

 

 

 

341:怪異遭遇の名無し ID:UoJ37kZvcN

そりゃあ当然だろ。

幽霊共の存在に気づいた時点で「いる」って分かってるんだから。

無意識にでも妖怪とかそういう人外共が何処にいるのか見ちまうし、目線が合いやすくなるから奴らも「おっ? 今こいつと目が合ったな? つまり見えるんだな?」って感じで付きまとうようになる。

 

 

 

 

それに怪異に遭遇しているって気づいた時点で縁が結ばれちまったらしい。だから縁切りか存在そのものを妖怪にするかまあ後は生き残るぐらいしか手はないっていう話を幼女ちゃんから聞いたぞ。

 

 

 

 

342:怪異遭遇の名無し ID:LlZrUE4dR7

手遅れじゃないですかやだー!!!!!

 

 

 

つまり縁切りしてくれる神社に頼んで神頼みか死ぬか人外になるかしないと一生この体質から逃れられないと……(白目)

 

 

 

 

343:怪異遭遇の名無し ID:LERb9WJMEo

赤色幼女ちゃんそういうのに詳しいし専門家かよってぐらい対処法を教えてくれるから俺としても助かる。生き残り方を知りたかったら赤色幼女ちゃんに相談してみろ。ちゃんと答えてくれるぞ。

俺の聞いた対処法を教えてもいいけど、人によっては体質が様々だから相談した方が早いと思う。赤色幼女ちゃんがその人に合ったベストな対処法を教えてくれる。

 

 

 

あーでもほんと、そういう話を聞くとやっぱり生前は寺生まれの幼女ちゃんだった可能性が高いよな。

 

 

 

 

344:怪異遭遇の名無し ID:TEF9wOotng

物理的に『ハァ!』してくるタイプの幼女だけどな。ぶん殴るのなんて当たり前だからこの前メリケンサックプレゼントしたわ

 

 

 

 

 

345:怪異遭遇の名無し ID:4u8qNeiLnO

なんて????

 

 

 

 

346:怪異遭遇の名無し ID:ip3ljzn6xX

幼女ちゃんに武器渡すとかお前何考えてんの?????

 

 

 

 

347:怪異遭遇の名無し ID:vVJhYB26Wn

そういえば幼女ちゃんまた異物混入したの???

 

 

 

 

348:怪異遭遇の名無し ID:cNcjcC0tke

一応スレにいる怪異遭遇者かつ赤色幼女に助けられた人は全員異物混入的なあの物理的に火を食われる方法をしてるのは見てるぜ。

 

 

 

それで怪異がちっこい幼女ちゃん(赤色幼女ちゃんとは別人枠)になってる

 

 

 

 

349:怪異遭遇の名無し ID:S5yOgPaBBr

えっ、これで何人目? もう数えきれないほどだよね??

 

 

 

 

何で増やすの可愛いけど……。

 

 

 

350:怪異遭遇の名無し ID:WvtzzoURHY

シスターズ計画(赤色幼女ちゃん)かな?

 

 

 

351:怪異遭遇の名無し ID:hNfVl9cwY0

『お前さんはここらを拠点に管理していろ。分かったな?』

「あい、わかりまちた!」

『……舌っ足らずを治すことは出来ぬのじゃな?』

「むりでしゅ!」

『そうじゃよなぁ~!!』

 

 

 

 

352:怪異遭遇の名無し ID:GQAWhkwx2a

 

 

 

 

353:怪異遭遇の名無し ID:xpesEq0fIX

幼女ちゃんまだチビ幼女ちゃんの舌っ足らずを治すことを諦めてないみたいで微笑ましいですね(にっこり)

 

 

 

354:怪異遭遇の名無し ID:SaDsKLaHE8

管理って何を?

 

 

 

 

355:怪異遭遇の名無し ID:qJNdcEoOfO

悪さする妖怪を叩きのめすって意味での管理じゃね?

 

 

 

 

前にやべえ妖怪に出会った時にチビ幼女ちゃんに「こっちでちゅ!」って舌っ足らずで言われつつ誘導されたからな。あの赤色幼女ちゃん(ご本家)がいる場所まで。

やべえ怪異? いつもの『異物混入の時間じゃよ!』ってことでチビ幼女ちゃんになりましたよ

 

 

 

356:怪異遭遇の名無し ID:EtbboUY8Oi

そういえばチビ幼女ちゃんってあの某町からちょっと離れたとこにいない?

 

 

 

某町の外れとかそういうとこでしか見たことない気がするんだけど……。

 

 

 

 

357:怪異遭遇の名無し ID:1iUZPHp0OH

町の外れにチビ幼女ちゃんなら確かにいたなぁ……空見上げながらどっからか入手してきた折り紙で鶴折ってたよ。可愛かったから折り紙あげて来たら「ありあとぉございまちゅ!」って頭下げてお礼言われたし、可愛かったぜ!

 

 

あそこらへん折り鶴に関する神社があったようなないような……いやでもチビ幼女ちゃん神社にいたわけじゃないし、誰もいないような裏路地でのんびりしてたみたいだからなぁ。

 

 

 

 

358:怪異遭遇の名無し ID:kphZfrlm8m

ぬわあああああああああああチビ幼女ちゃんと密会とかうらやましいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!

 

 

 

 

359:怪異遭遇の名無し ID:LdNS9jp9E2

マスコット(赤色幼女ちゃん)がマスコット(チビ幼女ちゃん)を連れてきたようなもんだもんな。現状。

 

 

 

 

360:怪異遭遇の名無し ID:GKsOrNNj7T

可愛いは増えるってことか。これが現実とか生きる意味がある。生きててよかった……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話 だれ?

 

 

 

 

 

 朝からリクオの様子がおかしい。

 昨日の妖怪を否定していたあの騒動でも元気なかったけれど、慰めた時には調子を取り戻しいつものリクオに戻ったと思ったんだけどなぁ。

 

 授業の時も心ここにあらずって感じだし、いつもなら元気いっぱいに楽しんでいた体育でさえボーっとしたまま。

 

 

「リクオ、ゆっくり歩いてるけどどうしたんだ。このままじゃバスに遅れるぞ?」

 

「……うん。大丈夫。カナちゃん先に行ってて」

 

「リクオ?」

 

 

 帰り道でもトボトボとリクオにさりげなく話しかける。

 そうすると彼は俺からそっぽを向いてこちらを拒絶した。

 

 どうしたのかと足を止めて彼の顔を覗き込んだ。体調が悪いわけじゃないよな。熱とかあったとしても奴良組の妖怪たちが気づくだろうし絶対に休ませるはず。

 思わずリクオの額に手を当ててみるが平熱だ。でもリクオは俺にされるがままで抵抗しない。何かを悩んでいる様子なのは分かるけれど……。

 

 

「……もしかして、昨日の事?」

 

 

 肩を揺らしたリクオに、何かあったのかと問いかけた。

 話を聞くにどうにも妖怪の悪い部分を知ってしまったらしい。ぬらりひょんの無銭飲食とか、人を怖がらせることとか。流石に妖怪が人を殺戮するとかそういうやばい話は聞かなかったみたいだけど、それでも失望したらしい。

 

 

「妖怪と人間が共存してもいいことなんてあるのかなって思っちゃったんだ……」

 

「んー。そっかぁ……」

 

 

 妖怪の悪さってある意味生存本能というか、人間が食事をするような行為に近いからなぁ。人の畏れを糧にするような妖怪もいるみたいだし。それを真っ向から否定するわけにはいかない。

 

 

「……リクオはそれが嫌なの?」

 

「嫌というか、情けないんだ」

 

「情けないか……本当にそう思う?」

 

「えっ?」

 

「私は妖怪だよ。人間だったけど、今は妖怪だ。人間みたいに暮らしてるけどね。……それでも情けないって思う?」

 

「そんなっ! カナちゃんは全然違うよ!」

 

「一緒だよ、リクオ。私も同じように妖怪なんだ。……つまりね、リクオの言ってる意味は妖怪が全て情けないって言ってるのと同じ。人間で例えるなら、良い人も悪い人もいるけど『人間は全員悪い奴!』って言ってるようなものだよ」

 

「うっ」

 

 

 まだ小学生だし、視野を広げて全てを見通すだなんてこと出来るわけがないと思うけれど、リクオを立派な総大将にするにはちゃんと知ってほしいと思った。いつか人間を殺すやばい妖怪についても理解してほしい。人間にも人を殺すやばい奴もいるんだ。

 

 妖怪だって同じく、人にとっては良い妖怪も悪い妖怪もいる。

 それら全てを受け入れて、そういう生き様を理解してこそ寄り添えるのかもしれない。まあある意味無差別殺人犯みたいな妖怪がいたとして、そんな奴と一緒の家に住みたいとかいう人はいないだろうから、そこらへんは考えなきゃいけないけれど……。

 

 

「妖怪ってね。人間以上にいろいろいるんだよ。そういう妖怪たちを受け入れ、理解し……従えてこそなんじゃないかな。情けないって思うのは分かるけど、弱い妖怪だっているんだし、人によっては怖いのもいるんだから……全部が全部、そうじゃないと思うよ」

 

 

 俺がそう微笑みながら言うと、リクオは眩しそうな目でこちらを見る。

 夕焼けが眩しいわけじゃないのに、とても遠くを見るようにこちらへ顔を向けていた。

 

 

「……カナちゃんは凄いや」

 

「えっ?」

 

「僕よりもずっと妖怪の事を考えてる。なんだかお父さんみたいだ」

 

「う、うーん。鯉伴さんみたいだって言われても……私はそういう器じゃないよ。ただリクオより勉強する必要があったから詳しく知ってる方なんだ。だからリクオもこれからだと思うよ」

 

「これから?」

 

「そう。リクオも私もまだまだ子供で……成長期なんだから。今の自分が駄目だから駄目だーって諦めないで、総大将になるんでしょう?」

 

「…………」

 

「リクオ?」

 

「ごめんカナちゃん。カナちゃんが言っていることは分かるよ。でも……清継君たちが言ってる話も本当だった。家で見てきたものもそうだった。それに僕がカナちゃんみたいに立派に考えて出来るのかも不安で……ちょっと考えさせて……カナちゃん、バスに乗ってよ。僕は歩いて帰るから……」

 

 

 俺から離れ、バスに乗ることなく立ち止まるリクオ。

 それに何も言えず苦笑してしまった。

 

 戸惑っているリクオに俺が声をかけても仕方がない。こういうのは自分が納得してこそだろう。

 それに意地というのもある。総大将になるのを辞めるとは言ってないし、リクオの心は折れていないから大丈夫だとは思うけど……。

 

 

「……分かった。ちゃんとまっすぐ帰るんだよ。リクオ」

 

「うん」

 

 

 リクオの頭を撫でると、彼が今日初めて笑ったような気がした。

 バスの扉が閉まり、動き出す。それを遠くから見守るリクオに俺は深く溜息を吐いた。

 

 席に座り込むと誰かが隣にきた。女子で……ええと、巻ちゃんだっけ? 前の席からこちらへ顔を覗き込む鳥居ちゃんの姿も見えた。

 

 

 

「ねえねえそういえば聞いた? あの伝説って続いてるらしいよ!」

 

「はい?」

 

「カナ知らないの? 伝説だよ。妖怪伝説!」

 

「妖怪伝説?」

 

『ああ、もうそこまで進んどったか』

 

 

 不意にジジイの声が頭のなかで響く。

 何かを悟ったような声色だった。

 

 ジジイが知っているということは、つまりこれは────原作の場面か?

 

 心臓がバクバクと動きながらも鳥居ちゃん達を見た。

 その顔は引き攣っていたかもしれない。巻ちゃんが「カナ、大丈夫? なんか顔青いよ?」といって背中をさすってくれたから。

 

 

「あ、のさ……妖怪伝説って何なのか聞いてもいい?」

 

「いいけど。大丈夫? もしかして酔った?」

 

「大丈夫だって! それで妖怪伝説って何?」

 

「う、うん。ええとね……確か子供が何人も行方不明になったんだって!」

 

「まだ警察とかも原因が分かってないって話だよ」

 

 

「それって……」

 

 

 もしかして妖怪のせいじゃないのか? 

 おいジジイ、お前何か知ってるな?

 

 

『まあ気にするな。どうせすぐわかることじゃろうて』

 

 

 とぼけた様子のジジイに後で心象風景のあの場所に行ったら絶対に殴ろうと心に決める。

 そんな俺とは違い、皆がひそひそと楽しそうに妖怪伝説について話していると清継がドヤ顔で口を開いた。

 

 

「おい君たち!!! 待ちたまえ!!」

 

 

 髪の毛を整えつつも叫ぶそれに、皆が彼を見た。

 

 

「妖怪など実際にはいない!! ボクが研究で────」

 

 

 不意に見えたのは、何かの影。

 

 

『そら、来たぞ』

 

「えっ」

 

 

「キャアアアアアア!!!!」

 

 

 

 誰かの叫び声が聞こえる。

 バスが揺れて座ったままでいるのが難しくなった。周りが暗くなっていくことに怖がる子供達の泣き声が聞こえる。

 

 身体が宙に投げ出されるような感覚に襲われ、思わず妖怪化しようとしたが、何故か人間の状態のままでいることにギョッとした。

 

 

『大丈夫じゃぞカナ。力は使わずともこのまま様子見しとくのが吉じゃ!』

 

 

 どういうことだよと叫ぼうとして、尻から思いっきり地面に叩きつけられたせいで痛みにもだえ苦しむ。

 周りを見ると阿鼻叫喚の地獄みたいだった。洞窟の崩落事故だろうか。怪我をしている子供達。大人は気絶し倒れている。

 

 そうして感じたのは、周囲に漂う嫌な妖気。

 

 

「巻ちゃん、鳥居ちゃん。私の傍から離れないで」

 

「えっ?」

 

「ちょっと何よ。どういうこと?」

 

「いいから。崩落事故があったんだと思う……周りが瓦礫で押し潰されてるから、ふとした衝撃でまた天井から瓦礫が落ちてくるかも」

 

「ひっ!」

 

 

 脅しながら言うと彼女たちは安易に動き回ることを止めた。

 とりあえず俺の後ろに居てもらう。自分の力は発展途上。戦うことすらまだできやしない。俺のランドセルの中に入ったクマ太郎ことテディベアのつぎはぎ人形を入れ物にして自分が入って動かすことはまだ出来ない。でも、妖怪だから人間よりは頑丈だ。

 

 クラスメイト達の身代わりとなっていけばきっと……もしかしたらいつか奴良組の誰かが来るかも……?

 

 

「三代目はいないのか……いや、全員殺せばいい……」

 

 

 聞こえてきた声に眉を顰める。

 懐中電灯を持った島君が明かりをつけて奴らの姿を見てしまった。

 

 見たことのない妖怪たちに困惑し、人間じゃない化け物だと知ると一斉に怯えてしまった。泣き叫び助けを求める子供たちの声に気を良くした妖怪たちが襲い掛かろうとする。

 

 それを見て、逃げることなんで出来るわけがない。

 

 

「殺すならまずは俺からだ!」

 

「カナちゃん!?」

 

「なになになに!? 何が起きてるの!? あいつら誰!?」

 

 

 そんな彼らの前に立つ俺に妖怪たちは嘲笑うだけ。

 嬲り殺しにでもする気か。それとも見せしめに殺して恐怖を味わい、全員を楽しみながら殺すというのか。こいつらって奴良組に居たか? ちょっとわかんないや。

 

 皆の目があるから妖怪にはなれないけれど、身体は皆に比べて頑丈な方だから少しは耐えきれるはず。

 

 大丈夫。

 リクオがちゃんと来るはずだから。あいつならきっと……。

 

 

『来ると思うか? カナが意識をほんの少し変えてしもうたというのに?』

 

 

 ジジイの声が聞こえた瞬間だった。

 瓦礫の隙間からぴょんっと何かが入り込むのが見えた。それに気を取られた刹那、妖怪に攻撃される瞬間を狙い俺の前に出て庇う小さい姿。

 

 俺に似た、火を纏った幼女。小さな火の玉が一つ。

 目をパッチリさせ、俺に向かってビシっと敬礼する女の子。

 

 そんな見たことのない幼女の姿にギョッとした。

 

 

「おまたちぇちまちた。ごちゅじんちゃま!」

 

「だれ!?」

 

 

 あれ、リクオは?

 

 

 

 

 






次回、リクオ視点から入ると思います。よろしくお願いいたします。




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第十五話 同じ道筋だけどちょっと違う

 

 

 

 歩いて帰るはずだった。

 自分の足でしっかり考えながらでもいいから、時間をかけて自分の気持ちと向き合いたかっただけなんだ。

 烏天狗に見つかったせいでその願いはかなえられなくなってしまったけれど。

 

 僕の前に降り立った烏天狗が「ようやっと見つけましたぞリクオ様。やはり……」と案じている様子で声をかけてきて、僕が背負ったままのランドセルをしっかりと持って自分ごと空中散歩のごとく飛んで帰る最中。

 多分、パラグライダーをしている人はこんな気分なんじゃないかな。烏天狗が僕を振り落とすことはないって信頼はあるから、己の足で立つことのできない不安定さでも怖いとは思わない。

 

 それよりも、考えたかった。

 

 

「まったく、リクオ様。帰りが遅くなって心配して来てみたから良いようなものの……」

 

「…………」

 

「あの距離を歩いて帰ろうなどと……」

 

「ち、違うよ!次のバスで帰るつもりだったの!」

 

「それでもです!これからは嫌がられても絶対、お供を付けますからね!」

 

「…………」

 

 

 何も言わなくなった僕に対し、烏天狗は小さく溜息を吐く。

 心地良い風が吹く。頬を撫でるような暑さはそこまで酷くない。しばらくしたら夏が来るんだろう。

 

 ────雲一つないせいだろうか。夕焼けが眩しい。でもそれはきっと、カナちゃんの炎を思い出すせいだろう。

 

 妖怪でも知らないから怖い。だから知ればいいと彼女は言う。

 共存することだっていつかきっと出来るはずだと、人間から妖怪へ変異してしまった少女は気負うことなく楽しそうに言っていた。

 人間として生きるために妖怪の力を制御する修行を行っているカナちゃん。僕よりも彼女の方が妖怪と人間が共存するという道を歩みたい夢を持っているように見えた。

 

 それがとても、眩しかったから。

 

 

(僕に出来るのかな……)

 

 

 たった一つの不安が己の胸に沈む。

 今の僕は明らかに人間だ。カナちゃんのような人間から妖怪の姿になることはない。あの眩い炎になる力も、今の僕には備わっていないように感じた。

 

 妖怪は悪い奴らが多い。でもそれは、仕方のないことだと言っていた。

 人間に良い奴等や悪い奴らがいるように。妖怪にだっていろいろあるのだと。

 ならばそれを率いてこそ、導いてこそ奴良組なんじゃないのかと。

 

 ……きっと、そう言いたかったんだろうな。カナちゃんは。

 そんな期待に応えられない自分がいた。だって妖怪は悪いことをしてるじゃんか。僕はああなりたくない。でもカナちゃんが妖怪だから……だから、と。

 

 

 

「なぁ烏天狗。僕って……人間なのかなぁ……?」

 

「え?」

 

 

 きょとんとした様子で烏天狗は僕を見下ろす。

 そこにはちょっとだけ呆れたような感情の色も見えた。

 

 

「そりゃまぁ、そうですよ。お母様もおバア様も人間ですから……」

 

「だよね……」

 

「ですが総大将の血も、そりゃ四分の一は入っております」

 

「四分の一も……?」

 

「ですからほら、不安そうな顔なんてしないで────もっと堂々としていれば良いのです」

 

「…………」

 

 

 ああ、そうか。

 なんとなくわかった気がした。

 

 多分僕は、カナちゃんみたいな妖怪になりたいのかもしれない。

 人間と妖怪が共存しているような身体をしたカナちゃんみたいに。

 

 

「僕にもなれるかな……」

 

「なれますよ。必ず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ……! か、帰ってこられたっ!!」

 

「若!! よかったです。御無事で!!」

 

「はい?」

 

 

 庭に降り立った瞬間ざわめきと安堵の声が聞こえてきた。

 烏天狗を見たが、何が起きているのか分からない様子。つまり僕らがいない間に何かが起きたってことだよね?

 

 何があったんだろうと首を傾けると雪女が泣きながら僕にしがみついてきた。

 

 

「いったいどうしたのじゃ、皆の衆……」

 

「だって…だって…!! 生きててよかったですー!」

 

 

 

 生きててよかったって一体どういうことなんだろうか。

 なんでこんな騒ぎになってるんだと、周りを見渡してると茶の間のテレビから声が聞こえてくる。

 

 

 

【中継です!! 浮世絵町にあるトンネル付近で起きた崩落事故で、路線バスが"生き埋め"に…!

中には浮世絵小の児童が多数乗っていたと見られ…】

 

 

 それは、いつも見慣れた風景。

 その出入り口が瓦礫に埋もれている悲惨な状況。

 

 

「えっ……? な、なんで!? だって、さっきまで……バスが動いてて……」

 

「おおリクオ、帰ったか……お前悪運強いのー」

 

 

 お爺ちゃんの声が聞こえてきたけれど、それをちゃんと聞く気はなかった。

 カナちゃんが笑って、頭を撫でてくれたことを思い出す。

 

 ついさっきまで話していたあの景色を忘れることはできない。

 ざわめく周囲と同じぐらい、心臓が痛くなった。

 

 

「リクオ様が帰っておられるぞ」

 

「本当じゃ!」

 

「死んだとは嘘か。よかったよかった」

 

 

 また明日学校でといっていた。

 明日は僕の家で修業をするんだって言っていた。いつものように遊んでから妖怪としての力の使い方を学ぶって話してくれたんだ。

 

 奴良組を恐れることのない幼馴染。気を付けて帰ってねと言ってくれたのに。

 いつの間にか肩に掛けられていた羽織をギュッと握りしめた。

 

 

「助けに……行かなきゃ……」

 

「リクオっ!? 何処へ行くんじゃ!」

 

「カナちゃん達の所だよ!!」

 

 

 庭先に飛び出すとお爺ちゃんが止める声が聞こえてくる。でもそれで止まってはいけない。

 ここで止まったらきっと一生後悔する。

 

 僕が助けなかったら、カナちゃんが死んじゃったら。ううん。クラスメイトの皆がもしもこれで手遅れになってしまったらと思うと……。

 

 

「カナちゃんを……クラスメイトの皆を全員助けに行く!! ついてきてくれ!! 青田坊!! 黒田坊!! みんなもっ!」

 

「ヘ、ヘイッ!!」

 

 

「まて! 待ちなされ!!」

 

 

 ああもう今度は誰だよ! なんで助けに行くのを止めるんだ!!

 苛立ち交じりに後ろへ振り返れば、険しい表情をした木魚達磨が一歩廊下を踏み出した。

 

 

「なりませんぞ。人間を助けに行くなぞ、言語道断!!」

 

「何言って……カナちゃんは奴良組の傘下に入ってるはずだろ!!! 助けるのは当然だ!!」

 

「さて、あの娘……確かに傘下には入りましたがこれで死ぬようであっては奴良組の威厳というものが」

 

「はぁぁ!?」

 

 

 威厳なんてどうでもいいだろう。人の命がかかっているんだぞ。そんなもののためにカナちゃんを殺させるわけにはいかない。

 だってそんなの馬鹿げてる。傘下に入った意味がないじゃないか! お父さんだって言っていた。奴良組傘下に入ったってことは、守るために入れたようなもの。救わず傘下に入れてそれで終わりじゃ意味がない。

 

 周りがガヤガヤ喧しい。

 人間を救う救わないでもめている。そんな時間すら惜しい。

 

 人間を助けることを嫌う妖怪。その無駄なプライドでカナちゃん達が死ぬかもしれない。それに焦りが生まれる。周りの喧騒に失望と苛立ち、そしてそれら全てを塗り替えるような怒りが込み上げてきた。

 

 

 ────ドクンと、脈打つような音が体内で響く。

 

 

 

「やめねぇか!!!」

 

 

 煩く聞こえるのは周りのせいか、それとも己の中か。

 驚いた顔でこちらを見た周りに対し睨みつけた。

 

 

「時間がねぇんだよ……。おめーのわかんねー理屈なんか聞きたく無いんだよ!! 木魚達磨!!」

 

 

 人だから皆を率いてはいけないというのなら。

 傘下に入っても弱いからと捨て置くというのなら、それを覆してやろう。

 

 

「オレが『人間だから』だめだというなら────妖怪ならば、オマエらを率いていいんだな?」

 

 

 

 身体が熱い。

 吐き出される吐息に熱がこもっているかのようだ。

 

 カナちゃんは、これを何度も経験していたのだろうか。

 

 

 

「だったら…人間なんてやめてやる!」

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 とある人物に会いに行くという用事で浮世絵町から遠くの方へ出かけていた帰り。

 少しばかり遅くなったが鯉伴は気楽に奴良家の門を潜り抜けた。

 

 そこにあったのはいつもとは違う騒ぎ。それに鯉伴は眉を顰める。

 

 

 

「随分と騒がしいが、こりゃなんの騒ぎだい?」

 

「おおっ、鯉伴さま! ようやくおかえりですか!!?」

 

「ああ、ちょいと野暮用でね……んで、おもしれえことになってんじゃねえか」

 

 

 鼻歌でも歌えそうなほど上機嫌な鯉伴が見た先にあったのは、妖怪を率いる幼い姿。

 己の息子たるリクオが妖の姿となってどこかへ行くということ。

 

 近くにいた納豆小僧から話を聞くに、何でも洞窟で崩落が起きていること。そこに妖怪が絡んでいること。奴良組のガコゼが絡んでいるんじゃないかという話があった。

 それら全てを、鯉伴は事前に聞いていた。崩落事故などどいう事が起きる前に、まるで全てを知っているかのような口ぶりで話す奴がいたことを。

 

 

(あいつの報告は嘘じゃねえのか……)

 

 

 それを知っていてなお、カナちゃんがあの場に残ったのかと鯉伴は眉をひそめた。

 アレは裏切りはしないだろう。しかし少しばかり急すぎやしないかと不満げになっただけのこと。

 

 ────奴良組の総大将という役目を降りてからこの数年でだが、鯉伴にもいくつか変化したことがある。

 信用できるもの。出来ないもの。

 秘密を共有出来るもの。そうじゃないものといくつか見定めてきた結果、見つけてしまった一つ。

 

 

 それについては後で考えるべきかと鯉伴は思考を切り替える。

 

 

 まあそんなことよりも、と。

 鯉伴はリクオの方へ近づいた。妖になってもなお見間違えることのない息子を見て上機嫌になりながらもだが。

 

 

 

「リクオ」

 

「……止めるんじゃねえよ、親父」

 

「そんな無粋な事するわけねぇだろ? そら、覚醒記念の選別だ」

 

 

 渡したのは鯉伴が初代たるぬらりひょんから受け取った祢々切丸。大事に使われていたその刀は、もう自分の代で使うことのないだろう。

 あの祢々切丸も含めて、鯉伴からリクオへ引き継がれていくものの一つ。

 

 これから先の奴良組は、リクオが背負っていくのだから。

 

 

「好きに使え。そいつはもうお前のもんだ」

 

「……ふん」

 

 

 リクオが向かう先に周りの妖怪たちもついていく。

 行かないのは反対派といくつかの信用できない者。それから────。

 

 

「親父、俺は行くぜ」

 

「いちいち言わんでも分かっとるわい」

 

 

 

 茶を飲んでいたぬらりひょんへ向けてひらりと手を揺らし、リクオの晴れ舞台を見るために歩き出した。

 

 

 

 

 



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第十六話 それは式神であり器であるモノ

 

 

 

 妖怪たちは人間を殺そうと躍起になる。しかしそれを押しとどめるのが小さな火の少女。身体中から火を発生させ、頭の髪の毛がそのまま真っ赤な炎になったような幼女が人間を守る盾としてそこに存在する。

 

 その容姿は明らかに俺にそっくりで────。

 

 

 

「待って誰!?」

 

「家長さんの妹?」

 

「ちょっと待ってなんか頭燃えてる!!? 水何処!!?」

 

「あああああ違う違う! 私の妹じゃないから!! み、見知らぬ他人。人……見知らぬ妖怪みたいな!」

 

「妖怪みたいな!?」

 

 

 混乱しすぎて頭が回らない。

 何とか否定するがそれでもうまく誤魔化せたような気がしない。悪い夢だと思いたいが絶対にこれは現実だ。

 

 というか何が起きた?

 舌っ足らずだけどさっきこいつ俺のことを「ご主人様」って言ったよな?

 

 

『お前さんが以前言っていたじゃろう。身代わり人形とな』

 

 

 不意に聞こえてきたのは、ジジイが得意げに言う声。

 それに耳を傾けているとまたも妖怪の斬撃がぶち当たりそうになり、死にかける。

 

 しかしそれら全てを幼女が自身の身体でもって受け止め、火として燃やしていったのだ。

 意味が分からない。幼女が頬に怪我を負った瞬間それが燃えて傷すらなくなるんだぞ。最強かよ。なんだこいつ不死鳥か?

 

 

『不死鳥ではないわ。先ほども言った通り身代わり人形じゃよ』

 

「だから一体何だよそれ……」

 

『陰陽師なら式神、電話であれば端末。料理を入れるための器。ノートであるところの一枚の紙切れといったところじゃな』

 

「紙切れ? ……ってか、おい待てクソジジイ。あの子はお前が作ったのか。俺が知らない間に?」

 

『……お前さんが寝ている間にちょちょいっとな?』

 

 

 このクソジジイ後で絶対にぶっ飛ばす!!

 ってか、じゃああれっていわゆる式神ってことかよ!!

 

 

『うーむ。合ってはいるが少し違う。幅広い範囲で言うならそうじゃが……あれはワシらの身代わり人形じゃよ。ワシらの残機ともいうが、あれがワシらの怪我や死の危機から身代わりとなってくれるもの。代わりに消滅するがまあそこは気にせんでもよいじゃろうて!』

 

「いや気にするわ!!」

 

『何を言うか。むしろあれは最強の器じゃぞ? 今回は軽いお披露目といったところじゃがな。アレを使った修行もしてもらう。ちゃんとカナに習得してもらうためにな』

 

「はぁ?」

 

『鯉伴と同じく、ワシも子を甘やかしてはならぬと気が付いてなぁ……。お前さんが持っているクマ太郎のぬいぐるみより適正率の高い器なんじゃよ、アレは。まあ一度器として中に入り込んだら最後、外に出た瞬間すぐさま消える儚いモノじゃが……あのチビらの材料は人を食らう妖であったからな。死んでも構わぬじゃろ?』

 

 

 今回は見せただけ。何かあれば自分が表に出るからというような身勝手さを感じ取った俺は怒りに震えた。

 

 いやマジで、あんな可愛らしい幼女をわざわざ殺すような真似出来るわけねーだろうが!!

 意味が分からなくてブツブツ呟きながら震えていると、気がふれたとでも思ったのか巻ちゃんや鳥居ちゃんが背中を撫でてくれた。

 

 というか、寝ている間ってなに? あれってどういう状況で作られたの?

 ああもう、俺が知らない間に何してたんだあのクソジジイ。後で問い詰めなきゃ……。

 

 

「どうしたのカナちゃん? やっぱりあの子のこと知り合い?」

 

「アッ! ち、違うよ!」

 

「あの子……人間じゃないよね。やっぱりこれって夢なのかな。私達より小さい子なのに守ろうとしてくれてる」

 

「そ、そうだねー」

 

 

 巻ちゃんたちの声に引き攣りながらも頷いておく。

 周りは多分夢だとか思っているのかもしれないが、その方が都合がいいだろうか。

 

 今ならあの幼女がどうにかしてくれるはず。今の俺が妖怪になっても周りにバレる可能性が高いからちょっと無理だし。

 

 

『ああ。やはりまだ耐久度は低いか……』

 

 

「あっ?」

 

 

 

 聞こえてきた声に何があったのかと頭を上げると、幼女が勢いよく燃えていた。

 先ほどよりも身体中を包み込むほどの熱量。その余波で周りにいた小さな妖怪が悲鳴を上げながら消滅するが……。

 

 

 

「ごめんちゃい。ごちゅじんちゃま……」

 

 

 

 聞こえてきた声がかすれて消える。

 そこに会ったのは火の粉の残骸。儚い夢のように終わっていったそれに、俺は唖然とした。

 

 燃えた跡しか残らないそれを見た妖怪たちがうすら笑う。

 

 

 

「ようやっと消えおったわ……」

 

「三代目は何処じゃ……」

 

「どうせ逃げられぬ。全員殺せ」

 

 

 

「っ────!」

 

 

 

 

 聞こえてきた声に背筋を震わせる。

 奴らは本気で俺達を殺そうとしている。殺意はこちらを射貫いた。こうなればもうバレてでも良いから妖怪になって抵抗した方がいいんじゃないだろうか。

 

 そう思って警戒し構えると────不意に、何処からか月の光が空から降り注いできた。

 トンネルの外側から崩れていくような気配がする。これはきっと……。

 

 

『まあ、意識を変えたというてもあのリクオはカナを慕っておったからな。総大将の跡目が好いた女を救うために動かぬわけないじゃろうてなぁ』

 

 

 えっ、じゃあ何でさっき脅すようなこと言ったんだよ。

 

 

『今はまだ、というだけの話じゃからな。このワシがカナと同化しておるんじゃから……いつかリクオに見捨てられる可能性だってあるんじゃぞ。覚悟はせよと爺ちゃんは言いたかったんじゃよ』

 

「どういうことだ……?」

 

『知らぬ方が身のためじゃが。……まあ、後で話してやろう』

 

 

 なんだか意味深なことを言うジジイに眉をひそめた。

 そうしている間にも月明かりが大きくなっていくのを感じる。

 

 

「おほ……見つけましたぜ若ァ!! 生きてるみたいですぜぇ――!!」

 

 

 聞こえてきたのは青田坊の声だろうか。

 上を見上げればそこにあったのは百鬼夜行の姿。妖怪たちに囲まれる小さな総大将。

 

 

 

「……ガゴゼ。貴様……なぜそこにいる?」

 

 

 人間じゃないリクオだ。

 初めて見た妖怪姿のリクオ君。雰囲気とか姿とかたくさん変わっているけれど、根っこの部分が変わらないような感じがする。

 

 でもって、今はガゴゼに対して怒りに満ちているみたいだった。

 

 

 

「よかった……無事で。後ろに居てくれ、カナちゃん」

 

「う、うん」

 

 

 微笑んだリクオの姿はとても頼もしい。

 ガゴゼに立ち向かうのだって、他の妖怪たちにやらせようとはしない。妖怪としての力の使い方を分かっているのだろう。

 

 まだまだ未熟な俺とは違い、本能で理解しているのか。

 

 

『未熟とは違うぞ。ワシが制御しているだけじゃよ』

 

 

 ……マジでこのジジイと話し合う必要が出てきたな。

 いろいろ好き勝手されるのも嫌なんだよ。制御してるって言っても、俺がやりたい時にやれないようじゃ意味がないだろ。

 

 お披露目とか言いやがった、あの幼女についてもな。

 

 

『うむ。そこらはもちろんいうつもりじゃったよ。リクオが覚醒した日にな』

 

 

 ああ、もしかしてジジイのそれって全部知ってるからこその余裕なのか?

 俺は漫画の知識を持ってないから、ジジイだけが知っている知識だからこそ好き勝手出来るのだろうかと、少しだけ不安に思ってしまった。

 

 

 そう思っている間にも状況はいろいろ変化していたらしい。

 

 

 

「フ、フハハハハ! ザマぁ見ろ!! こいつらを殺すぞ!? 若の友人だろ!?」

 

「えっ」

 

 

 考え事をしていた俺に近づいてきたのはガゴゼそのもの。

 人質どころか本気で殺そうとしてきたらしいそれに、一瞬でもいいから奴の身体の中へ入り込んで隙を作ろうと思った。

 

 けれどその刹那、前へ躍り出てきたのは小さな影。

 勢いのあるがままにそいつはリクオに斬られていく。

 

 

「情けねぇ……こんなんばっかか。オレの下僕の妖怪どもは! だったら────」

 

 

 畏れを抱いたのは誰か。

 覚悟を決めたのは、誰か。

 

 これが始まりなんだと理解した。

 物語の本当の意味での始まりだと────。

 

 

 

「オレが三代目を継いでやらあ!! 人にあだなすような奴ぁオレが絶対にゆるさねぇ!」

 

 

 

 切り捨てられたガゴゼに恐怖を抱いたのはその一派たち。

 周りにいる子供たちすら、リクオの言動に尊敬の目を向ける。

 

 

 

 

「世の妖怪どもに告げろ!! ────オレが、魑魅魍魎の主となるっ!!」

 

 

 

 

 きっとこれが、リクオの覚悟だ。宣誓でもあったのだと思う。

 あんなにも不安そうだったというのに、堂々とした立ち振る舞いは総大将の器足り得るもの。これで反対する奴らの気が知れない。

 

 

 

「全ての妖怪はオレの後ろで百鬼夜行の群れとなれ!!」

 

 

 

 ガゴゼがリクオの手によって倒れる。

 ボスがやられてしまったからか、その手下たちたる妖怪の何人かが逃げようとしていくため、そんな奴らをとっ捕まえようと────。

 

 

「あれ……」

 

 

 待ってあれ鯉伴さんじゃね?

 逃げようとした妖怪の一匹を蹴り飛ばしてるけど……。あっ、こっち見たことに気づいて片目をウィンクしてきた。

 

 

『ああ、牽制してきたか……』

 

 

 

 なにが?

 

 

 

 

 





明日やる気あったら書きます。
やる気なかったら明日は書きません。すいませんまたかって感じで気にしないでください。
何時間もかけて書いたというのに、続き投稿した途端に低評価(しかも一話で)きて心がグサッとなっただけなので。こんな軽いことで書かなくなるメンタルで申し訳ありません。

次話書くとしたらジジイと孫のお話です。フラグ回収をある程度しちゃいます。
それからまた鯉伴やリクオのお話かな。
明日書かないとしても火曜日はメンタル回復してると思うので、頑張ります。


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第十七話 何かが出てこようとしている

 

 

 

 

 

 あつい。

 身体が燃えるように熱い。

 

 

 

「あぁ……がっ……」

 

 

 

 息を吸うごとに喉が焼けるように熱く、燃えているのを感じる。

 

 痛い。いたい。

 助けてって声が出ない。苦しいのに、動けない。

 

 

 

「っ……」

 

 

 

 気づいてしまった。

 自らの手が、動かせないことに。

 

 違和感が身体中に襲い掛かる。

 何かが出てこようとしている。

 

 皮膚が一枚一枚剥がされていくように、身体を動かすだけで激痛が走る。

 拷問でも受けているのかと思えるような感覚。

 

 まるで、爪の間に針を入れられるように。

 身体の内側で何かが蠢いているかのように。

 

 そんな感覚に襲われている。

 なのにそれら全ての痛みを、違和感を────覆すように。

 

 炎というよりは太陽のような灼熱。

 身体を燃やし、溶かし尽くすマグマのような熱。

 

 冷めているようで温かい。

 息が出来ないほどに、熱い。暑い。あつい。

 

 

 

《────》

 

 

 

 何かが出てこようとしている。

 内側も外側も酷く傷ついているというのに、自分はなぜ生きているのだろう。

 

 

 

《────》

 

 

 

 俺は────いや違う。わたし?

 

 自分がぐちゃぐちゃになっていくような感覚。

 今の自分には、身体がちゃんと機能しているのか分からない。

 

 地獄の炎を全身で浴びて、炭になってもなお生きてしまった化け物かのよう。

 いたい。痛い痛い痛いいたいいたいいだい。

 

 

 

「っ────!」

 

 

 

 声のない絶叫。それを上げたところで痛むのは自分の責任。

 口を大きく開けたことで己の内側に入り込む炎のせい。

 

 

 

《────》

 

 

 

 不意に火の勢いが弱まったせいか、己の内側に感じていた激痛を知覚する。

 自分が何処にいるのか分からない。ぐちゃぐちゃに溶けた方がいい。この世界から消えてしまいたい。

 

 身体から何かが這いずり回っている。

 何かが出てこようとしている。

 

 痛い痛いいたいいたいいだい。爪で肌をかきむしってもなお痛みは消えない。腹の中身を全てひっくり返せば消えるのか。消えて。きえろ。

 

 

 嫌だ。爪を立てても無理だった。

 

 

 

《────》

 

 

 

 激痛が身体中を蝕む。

 

 

 

「────っ」

 

 

 

 熱くはなかった。冷たい。冷たいのに寒い、寒い寒い寒いさむい。

 

 息が出来ない。

 

 

 何かが出てこようとしている。

 身体が痛い。

 

 

 這いずり回る何かが自分の身体を食い尽くそうとする。痛いいたいいたい。

 苦しい。いたい。いやだ。

 

 

 何かが出てこようとしている。

 それを止めたいのに。

 

 

 何かが出てこようとして────。

 

 

 それを出しては駄目だって、気づいた。

 ああ、自分は死ぬひつようがある。

 

 

 

 しななきゃ。

 

 

 

 

 はやくころしてほしい

 

 

 

 

 ころして

 

 

 

 

 

《ころせ》

 

 

 

 

 

「───ア゛がっ!!」

 

 

 

 

 

 何かが出てこようとしてきた。

 

 

 血が噴き出てきたような。

 腹を食い破るような何かが出てきた感覚に、おそわれて。

 

 

 

 

 

 

 

『ほーれ言わんこっちゃない。カナには耐え切れず零れ落してしまうものじゃったろ。儂……いや、ワシじゃな。いかんいかん。ちいとばかし吞まれたわ。……ほれ、ワシがいてよかったな。知らぬ方が身のためとはこのことじゃぞ?』

 

 

 

 

 響いてきた声が、誰のものなのか思い出せなくなった。

 不意に頭を叩かれる。とても軽快な音が鳴ったが、痛みはない。

 

 

 

『お前さんはカナじゃよ。ワシではない。儂でもない。陰陽師でもない。人間でも妖怪でもない。呪いでも悪霊でも道具でも誰でもない。ただの家長カナじゃ。思い出せ。お前さんが感じていた痛みは全てワシのものじゃ。カナが背負うべきものではない』

 

「……はっ」

 

 

『そうじゃ。ゆっくり戻ってこい。ここまで帰ってくるんじゃよ』

 

 

 

 背中を撫でられる。

 寒くもない。熱くもない。ほのかに温かい、優しい感触。小さな手が自分の────いや、俺の身体をいたわるように撫でてくれる。

 

 そうだ、そうだよ。思い出した。

 俺は家長カナで、生まれ変わっていて……。

 

 

 ようやく視界が晴れた気がした。

 今いる場所は心象風景。夜空がとても綺麗な、赤い花々に囲まれた場所。

 

 身体が震える。手が思うように動かない。でもそれは、ジジイが撫でてくれるごとにゆっくりと治っていくように感じた。

 

 自分の腹を撫でたが何もいない。

 心臓を押さえたが、何もいない。

 

 自分の内側に何かがいるような気配もない。

 

 いるとすればジジイだが────。

 

 

 

「い、まのは……」

 

『あれはワシの一部分じゃ。いわば《おもいの固まり》じゃな』

 

「おもい?」

 

『うむ。感情とは奇妙なものでな。人が中途半端に殺されでもすればその無念の感情が生まれる。他人に向けられたもの、自分自身へ込み上げてくるもの。何だって良い。それら全てが想いとなるのじゃからな』

 

「かんじょう……」

 

『後悔、悲しみ、怒り、憎しみ、殺意。死ねという強い思いもまた、ワシの一部分じゃ』

 

「えっ」

 

『……まだ分からぬか? 呪いじゃよ。鯉伴がちょいとだけ牽制する程度のものじゃがな』

 

 

 目を半月のように歪ませ笑うジジイ。

 楽しそうに見えるが、同化しているせいだろうか。心の底から笑っているように感じない。ただいつものようにお気楽に答えているだけ。それがとても歪で、道化のように言っているだけに感じた。

 

 

 

『ああ、ちと一つになり過ぎたな……ワシが怖いか?』

 

「……別に怖くねえよ。それよりさ、リクオの件でいろいろ腹立ってたんだ。ジジイお前のこと殴っていいか?」

 

『はははははははっ!! 潔いな! 流石はワシの孫じゃ! じゃがワシも痛い思いはしたくないのでな、却下じゃ!!』

 

「チィ!!」

 

 

 ぶん殴ろうとしたがジジイは軽やかに俺の拳を避ける。それに苛立ったがこれ以上殴ろうと挑んでもどうせ体力と時間の無駄。ならばと俺はジジイに向き合う。

 

 

「……ええと、つまりお前は呪いってこと? 呪いの一部?」

 

『ワシの一部分が呪いに近い。まあ本質は人であった頃と変わらぬが』

 

「えっ、お前人間だったの!?」

 

『まあな。あのクソ陰陽師と何度かやり合ったことのある多才かつ凄腕の陰陽師……の友人だったかもしれぬし、そうじゃないかもしれぬし……ただの式神やもしれぬ』

 

「はい?」

 

 

 首を傾けると、ジジイはわざとらしく笑う。

 どこぞの漫画で言うなら可愛らしい顔で描かれているだろうそれ。俺から見れば色違いの自分なので気持ち悪いだけだが────。

 

 

 

『知らない方が身のためじゃぞ?』

 

「ああああもう! それは身を持って知ったわクソジジイ! ってかあの身体に何かがいる気配ってなんだよ!?」

 

『知らぬ方が身のためじゃぞ』

 

「結局何も知らねーだけじゃん!!」

 

『一部は教えたじゃろ。《おもい》も《呪い》もな。あれもまた何かがいる気配じゃよ』

 

「……あと、お前がもともと人間だったってことと。安倍晴明とやり合った陰陽師かもしれないし、友人かもしれないし、式神かもっていうのは分かった。いや全然わからねーななんだこれ。おい喋る気あるのか?」

 

 

 ジジイを睨みつけると奴は両肩をすくめる。

 

 

『そんなにワシの事が知りたいのか?』

 

「違うって。まず何で俺が知らない間に好き勝手してきたのかについて知りたいんだよ!!」

 

『ああ、それか』

 

 

 目を閉じて空を見上げたジジイが小さく息を吐いた。

 

 

『ワシらは異物じゃ。分かるじゃろ?』

 

「……まあ」

 

『ある意味カナも不運ではあるが……お前さんが異物であるがゆえに、原作での怖がりな家長カナであればあのような薄暗い場所に通ることはなかった。穴に落ちることもなくいつか自然と消えていたじゃろう』

 

 

 バタフライエフェクトという感じだろうか。 

 リクオを可愛がる俺はある意味妖怪に近い関係でもあった。怖がりでもなく、むしろリクオの関係者だからと自ら近づくこともあったな。

 

 それが不運とは────?

 

 

 

『眠っていたはずのワシが目覚めてしまった』

 

 

 

 小さく呟いたそれは、聞き逃すほどの儚いもの。

 

 

 

『おなごじゃが肉を得た。羽衣狐とはまた違うように、妖怪になってしまった』

 

 

 

 いつもなら燃えるように赤いはずの瞳が、その瞬間だけは真っ黒に見えた。

 

 

『ワシはな。もともと晴明────あのクソ陰陽師に封印された身なんじゃ』

 

「それって最初に言ってたこと……だよな? 封印されて、あの祠にいたって」

 

『そうじゃよ。……しかしな、あのクソ陰陽師がわざわざ封印なんぞという手を使ってワシを閉じ込めると思うか? あれはな、ワシを使いたいだけなんじゃよ。利用価値があるがゆえに封印されてしもうた。クソムカつくがな……』

 

 

 だから、危険なんだとジジイは言う。

 自分という異物が出来てしまったことで、原作通りの勝利が得られるのか分からなくなったと。

 

 

「……だから俺が眠っている間に戦力拡大……みたいなことしてたってわけ? あと俺に修行付けるとかなんとか」

 

『おお。察しが良いな。そうじゃよ』

 

「んで、知らない方が身のためってのは?」

 

『ワシの身体はカナでもあるからな。ワシが背負っておけばいいモノをカナが背負うといっているようなもの。そのような真似させられるわけないじゃろうて』

 

「……あー。つまり?」

 

『全部あのクソ陰陽師をぶっ殺すためじゃな!!』

 

 

 

 サムズアップし、とってもいい笑顔で叫んだ内容に顔をひきつらせた。

 ジジイが好き勝手にし過ぎかと思ったらとんでもないものを背負ってやがるしな。

 

 ……まあつまり、俺の身体に地雷が入ってるようなもんだろ。それに対して思うことはあるが、まだ実感できていない。

 あの痛みや苦しみは本物だったから、早くどうにかしないとアレが現実になるのは間違いないと思えたけどな。

 

 何で俺がこんな目に遭わなきゃならないんだって怒りもある。だからジジイの言いたいことは理解できる。たぶん安倍晴明がスイッチのようなもの。俺らに目を付けた時点で俺らが終わるような気がしてきた。

 

 原作よりハードモードすぎないか? 

 あーやばい、考えるといろいろ無理だって諦めそうになる。止めよう考えるのは……。

 

 

『まずは強くなることからじゃな。なに、ワシがやるべきことはやった。後はカナ自身がどこまでやれるかじゃよ』

 

「勝手に決めて勝手にやろうとしやがるこのクソジジイ……あー。なあ、ジジイの名前って聞いちゃ駄目なのか?」

 

『ん? そうじゃな。知らぬ方が身のためともいうが……ふむ……いつも通りジジイと呼んでくれたほうが良いが……』

 

 

 考え事をするかのように顎に手を当て悩み始めたジジイが、小さく言った。

 

 

『道満。もしくは顕光。もしくはただの式神。ただの人間。人であったもの。道具。……無名ともいうな。さてどれがワシの名じゃろうな?』

 

「はぁ」

 

『好奇心は身を滅ぼすもの。知らぬ方が身のためじゃぞ?』

 

 

 紡いだ名前は知っているものがある。しかし────いつものように釘を刺したジジイに、俺は深い溜息を吐いた。

 

 もうわかっているのだ。あの地獄を経験したから。

 知らない方が身のため。己の身が呪いか何かで食い破られることのないように、と。

 

 

 夢のような経験が、現実にならないために強くなる必要があるのだと。

 

 

 身体の震えは止まることがない。

 青白い顔を咎めるジジイはいない。

 

 恐怖を意地でも表に出さないようにしていてもなお、焦燥感は心の内側に入り込む。

 

 しかし俺の感情を知り、諫めるような色を持った赤い目がこちらを睨んだ。

 

 

 

『畏れては駄目じゃぞ、カナ』

 

「……わ、かってる」

 

『ならよいのじゃ!』

 

 

 

 ジジイは笑い、俺の背中を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回予告
今回は特殊ですが次からいつも通りかも。そしてリクオ達のターンかな。

カナ、まさかのポンコツ幼女を会得────?


追記
明日(8月3日)に続き書きます!



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第十八話 修業しつつリクオ観察(掲示板あり)

 

 

 

 ジジイが言っている内容については分かった。

 俺の身体がある意味敵にとって都合のいい状態であること。それを回避するためにジジイが俺に知らせず行動していたこと。

 

 俺の中に安倍晴明の呪いにも似た何かが入り込んでいて、それが外へ出ようとしていることも分かった。

 それら全てをジジイが背負っているから今の俺は無事であるというだけ。俺が弱いから本当の意味で全部の力を譲渡されると呪いのようなアレも一緒に来てしまうため耐え切れず《地獄絵図》が出来るらしい。

 

 だから俺は修行を始めることにしたんだけど……。

 

 

「なあ、これであっておるのか?」

 

『やはり孫がワシに似た口調になるのはウケる』

 

「笑うでないわ! たわけ!!」

 

『ぶふ……んん! とりあえずはうまくいったと言っていいじゃろう。あとは器に入れるようになること。手駒を増やしつつじゃな……もちろん奴良組には知られないようにするんじゃぞ。あ奴らの中には敵も潜んでおるゆえ、敵を騙すにはまず味方からとも言うからのう』

 

「わかっておるが……はぁ……」

 

 

 目の前にいるその幼い炎たちに目を移す。

 これらをリクオに知られないようにしなきゃならない。だから使うとすれば最終局面。もしくは万が一の場合に備えて。

 

 ジジイが言うには一番最高なのが安倍晴明と戦うことになる時。羽衣狐から生まれた直後であり、まだ完全体ではない京都でならばぶっ飛ばすことぐらいは可能だと言っていた。

 

 しかしそれが達成しきれない場合、俺達の身体は安倍晴明にとってのただの餌になる可能性が高いといっていたから、本当に注意しなきゃいけない。まあそこらへんはまた後で考えよう……。

 

 

 

 

「……さて」

 

 

 こっそり靴を手に持ったまま窓から自室の中に入り込む。

 両親は寝ているし、近所の人も気づかないだろう。俺も妖怪から人の姿へ戻りながらも先ほどまでの修行内容を頭に叩き込む。

 

 そうして考えている間に自然と欠伸が出てしまった。

 目尻に涙が浮かんでしまい、視界がぼやける。

 

 

『そろそろ寝たらどうじゃ?』

 

「……いやそろそろ朝だし起きてるよ。どうせ今日の学校は午前中だけだろうし……帰ったら寝る」

 

『なんじゃ、不健康じゃのう』

 

「誰がそうさせたんだよ! 誰が!」

 

『そう怒鳴っていては母たちにバレるぞ?』

 

「うるっせえこのクソジジイ……」

 

『そうやって小さき声で言っても可愛いだけじゃぞ?』

 

 

 こいつ後でマジでぶん殴ってやるからな。俺が強くなったら覚えてろ!

 

 そう、決意を新たにしつつ俺は明日────というか、今日学校に行くための準備を進めることにした。その間も眠いし欠伸も多くしてしまうぐらいにはとても眠いけれど、さすがにここで寝てしまったら遅刻するだろうから寝るのは止めておく。

 

 まずやるべきことは、今回起きた事件でのフォロー。あと懸念すべき内容は、休校となってしまったあとずっと会えていないリクオがどうなったのかの心配事。そしてクラスメイトたちが何を言い出すのかという不安ぐらいだろうか。

 

 あの崩落事故のあと、さすがにそのまま授業を行うわけにはいかないと臨時で記者会見が開かれ、またバスやトンネル内の安全確認などいろいろ不備があったんじゃないかと社会的に責められていた。妖怪がやったことなんだけどな。可哀そうだけど俺たちがどうこう出来るわけじゃないから見て見ぬふりだ。

 流石に配慮はされていたのか、テレビなどには妖怪たちの姿が映っていなかったらしいが、トンネルに直接来た人たちは奇妙な生き物。特に妖怪を見たのだと言っている人もいた。

 

 ────でも、妖怪とは夢幻のようなもの。それを信じるのは実際に妖怪を見た奴等だけだろう。清継達のように妖怪を見てなかったからそんなものいないという否定派になっていたわけだしな。

 そういう連中から「頭がおかしくなったんじゃないの?」といわれて口を閉ざす人が出て来たとかトラブルに発展しているみたいだ。ある意味炎上しているともいえるか。可哀そうだけど、そういうのは証拠を持っていかないとな。

 

 

 不意に、母の声が聞こえてきたのでいつも通り起きた風を装いながら部屋を出た。

 そうしていつもの準備をしてランドセルを背負い外へ出る。

 

 向かう先は学校だけど……それより前にまず会いたい人がいた。

 

 

「……あっ」

 

 

 前方にいたのはいろいろ悩みながらも歩いているリクオの姿。怪我はしていないみたいで安心した。ちょっと遠くに雪女たちらしき妖怪が人間に変化した姿も見える。

 それは見なかったふりをして、俺はリクオに近づいた。

 

 

「リクオ、おはよ────えっ」

 

「あっ、おはようカナちゃん!」

 

「り、くお? その眼鏡どうしたんだ!?」

 

「あっコレ? ちょっとしたイメチェンだよ!」

 

 

 楽しそうに笑ったリクオがそう呟く。

 それに俺は首を傾け混乱した。

 

 イメチェンってことは伊達メガネか?

 でもなんでそんなの付ける可能性がある?

 

 

『原作と同じ姿になったようじゃな……』

 

 

 リクオと同じように、とても楽しそうな声を俺の頭の中で響かせたジジイ。それにも首を傾けた。

 ……原作ってことは、これは予定調和的な何かか?

 

 

『さてな、それはどうかは分からぬ。ただまああれじゃな。昼の人間姿のリクオは眼鏡を付けておるんじゃが、妖怪ではなく立派な人間になるという意思でつけていたような、そうでないような……』

 

 わざとらしくとぼけたように不穏なことを言いやがったジジイ。

 それに苛立ちながらも俺はリクオを見た。

 

 

「な、なあリクオ? イメチェンって言ったけど、お前にいったい何が……」

 

「カナちゃんには言いたくない」

 

「えっ」

 

「……僕ね、カナちゃんには負けたくないんだ。だからね、これはちょっとした覚悟を決めたっていう意思表示の一つ」

 

「ちょっとまって。負けたくないって何? 私は別にリクオに何か勝負なんて仕掛けてないのに……」

 

「うん。カナちゃんは何も悪くない。ただ僕が……とにかく! カナちゃんに言うつもりないから!」

 

「ど、どういうことだよ!? おいリクオ!?」

 

 

 

 にっこりと笑って何故か宣戦布告をしてきたリクオに、意味が分からず目を瞬いた。

 俺らのやり取りのなにがおかしいのか、頭の中でジジイの爆笑音だけが響き渡って頭痛がするぐらいだった。

 

 ……あと地味に後ろから感じる殺意と寒気どうにかしてくれないか!?

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

最近赤色幼女ちゃんのキャラ変更した?

 

 

 

 

 

523:不意の怪異遭遇名無し ID:2blrcmvycn

本日の幼女ちゃん

 通りすがりに足を切っていくかまいたちをとっ捕まえた赤色幼女ちゃん。いつも通りとは違い、思いっきり炎をぶちかましながらも「い、異物混入じゃ!」とちょっと恥ずかしそうに叫びながらやってた。

 そしたらいつものミニミニ幼女ちゃん出来たんだけど、なんか変にキャラ変更したか?

 

 

 

「ほ、ほれ! 何か喋ってみよ!」

 

「あい!」

 

「あい、ではないわ! もっとこう、ワシに対して何か言うことがあるじゃろ!?」

 

「あい!」

 

「だからあい、ではなくてな?」

 

「あい! あいー!」

 

「なんじゃこれ!? ただの鳴き声と化しているんじゃが!? ちょっ、ジジイ! これどうにかせよ!!」

 

「あい!」

 

「お前さんに言ってないわ、たわけ!!」

 

「あっ、いっっ!!?」

 

「いや表情は豊かじゃなおぬし!?」

 

 

 

 

524:不意の怪異遭遇名無し ID:LHEA59cNln

 

 

 

 

525:不意の怪異遭遇名無し ID:ZuGg1uc127

幼女ちゃんついにポンコツ幼女ちゃん作っちゃったの?

 

 

 

まあたくさん幼女ちゃん量産してるからいつかバグった亜種が出来るとは思ってたけどさ

 

 

 

 

526:不意の怪異遭遇名無し ID:yJyIdtkMKM

なんかこうあれだよな。ドラえ○んのミニ○ラみたいな感じだよなポンコツ幼女ちゃん。しかも最近なんか癖になってるのかポンコツ幼女ちゃんが量産されまくってる。

 

 

 

 

527:不意の怪異遭遇名無し ID:mNjKNY7XD2

あー俺も見たわ。ポンコツ幼女ちゃんが三人ぐらいいて、いつもの「ごちゅじんちゃま!」って言うちょっと舌っ足らずだけどちゃんと喋る幼女ちゃんに向かって威嚇してたよ。左右一列に三人並んで、そこに向かい合う通常種の幼女ちゃんに向かってレッサーパンダみたいに両手あげて威嚇してた

 

 

 

まあ、威嚇してるポンコツ幼女ちゃん三人に対して通常種の幼女ちゃんは鼻で笑ってたけどな。それ見たポンコツ幼女ちゃん達が「あうっ!?」っていつもとはちょっと違う鳴き声あげてガーンってショック受けてた

 

 

 

 

 

528:不意の怪異遭遇名無し ID:kTkhzOS94x

可愛いすぎないか? 一匹くれ!!!!

 

 

 

 

 

529:不意の怪異遭遇名無し ID:UKw6gpZuqV

通報した

 

 

 

 

 

530:不意の怪異遭遇名無し ID:UG2FNk8H8H

マジでシスターズ計画まっしぐらだな。

 

 

 

 

亜種幼女ちゃん出たってことはそろそろ色違い幼女ちゃん出てくるか?

それとも貴重種幼女ちゃんみたいなの出てくるか?

 

 

 

 

 

531:不意の怪異遭遇名無し ID:VqXKghtYMR

赤色幼女ちゃん集めみたいなゲームかな?(おめめぐるぐる)

 

 

 

 

 

532:不意の怪異遭遇名無し ID:5xL8X1pp70

そんなゲームあったらまずポンコツ幼女ちゃんと通常種の幼女ちゃんを喧嘩させてそれを見て癒されますわ

 

 

 

 

 

533:不意の怪異遭遇名無し ID:2D3nmBYTi2

それって癒されてると言えんのか?

 

 

 

 

ってか、殺伐とし過ぎか?

 

 

 

 

534:不意の怪異遭遇名無し ID:6TM2ErFQ94

そういえば最近本家本元の赤色幼女ちゃんが成長してもう赤色少女ちゃんになってたよね。そろそろ表記変えるか?

 

 

 

 

 

535:不意の怪異遭遇名無し ID:IhvW35mYNe

あー確かに。

 

 

 

じゃあこうしないか?

 

 

 

 

赤色少女ちゃん=本家本元の口調がジジイのやつ

通常種の幼女ちゃん=「ごちゅじんちゃま!」とか「こっちでしゅ!」とか舌っ足らずの口調

ポンコツ幼女ちゃん=鳴き声が「あい!」という感じのバグ、亜種個体

 

 

 

 

 

 

536:不意の怪異遭遇名無し ID:5RBDsnQH6T

おーし周知させようぜ!

 

 

 

 

 

537:不意の怪異遭遇名無し ID:8JLqxKJ881

あの折り鶴作ってる方の路地裏の通常種幼女ちゃんが最近ポンコツ幼女ちゃんと仲良くなったのか一緒に折り鶴作ってるんだよね。

 

ポンコツ幼女ちゃん「あい!(どや)」

通常種の幼女ちゃん「あ、あちがとうごちゃいましゅ……にゃんであちはやちたんでしゅか?」

ポンコツ幼女ちゃん「あい!(どや)」

通常種の幼女ちゃん「あしはやちたほうがかっこういいって? ばかでちゅねー」

ポンコツ幼女ちゃん「っ!?(ガーンという効果音が付きそうなほどショックを受けた顔)」

通常種の幼女ちゃん「……はぁ」

 

 

ただポンコツ幼女ちゃんの作る鶴が足生えてて変になってるのばっかり。ポンコツ幼女ちゃんそこらへん器用だけど無駄にポンコツで通常種の幼女ちゃんが苦笑してたよ

 

 

 

 

538:不意の怪異遭遇名無し ID:l5kbl1CLBC

 

 

 

 

 

539:不意の怪異遭遇名無し ID:6WRSCei2vL

通常種の幼女ちゃんがお姉ちゃんになった瞬間である

 

 

 

 

 

540:不意の怪異遭遇名無し ID:rHcAxWNZYH

なんかこう、通常種の幼女ちゃんはちょっとドジなとこあるけどやるときはやるしっかり者のお姉ちゃんみがあって、ポンコツ幼女ちゃんはやることなすこと斜め上にぶっ飛ぶタイプのポンコツな妹って感じだよね。可愛いけど!!

 

 

 

 

541:不意の怪異遭遇名無し ID:gNCbcE26qJ

赤色少女ちゃん大丈夫かな。ポンコツ幼女ちゃんを意図的に増やしてんのかな……?

 

 

 

 

 

 

542:不意の怪異遭遇名無し ID:lUCCpDEs2L

そういえば最近少女ちゃんの後ろにいた人いなくなったか?

 

 

 

 

 

543:不意の怪異遭遇名無し ID:lAL1UciUAv

いや、まだいるよ。たまにだけどね

 

 

 

 

 

 






次回から中学生編────かな?
もしかしたらもうちょっとだけ小学校編が続くかもしれない。ですが多分原作には入ります。たぶん。


追記
誤字報告ありがとうございます!

追記の追記
遅くなって申し訳ありません!
ちょっといろいろ書く時間がなくて、月曜日に書けたらやります!!


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第3章 共犯者は牛鬼
第十九話 協力者か、敵なのか


 

 

 

 奴良リクオが総大将として跡を継ぐという件についてはいったんの保留となった。

 

 それは身体的な幼さ。精神的に未熟な部分があること。

 否定的な意見も多数見られること。

 そして────家長カナという異物の存在だった。

 

 家長カナは妖怪ではない。

 一部の妖怪たちは彼女を同じ存在と認め受け入れているが、奴良組幹部ともなればその存在の異様さに気づく奴も増える。

 

 その中に真っ当に評価する者はどれだけいることやら。

 牛鬼は静かに周りを見つめ、心の奥底でその激情を隠した。

 

 家長カナの存在は奴良リクオにとって害悪となり、将来的に総大将が確定しているため洗脳し操られている可能性。

 そんな馬鹿馬鹿しい意見が総会の最中に飛び出してきたこともあったが、それは否定しよう。

 

 あの家長カナは奴良鯉伴を救い出した命の恩人。

 そんなまどろっこしい真似をするぐらいなら、鯉伴すら見殺しにしていることだろう。

 

 ならば、家長カナは危険人物か?

 それについても牛鬼は否定した。畏れすらまともに使いこなせないアレに負ける要素などない。我らが大人であれば奴は幼子である。

 

 家長カナは脅威となり得るか?

 それを牛鬼は────。

 

 

『お前さん、牛鬼……じゃったな?』

 

「…………」

 

 

 一人でいるところを狙っていたのか、縁側に佇む小さな炎たる家長カナがそこにいた。

 彼女が牛鬼に向かって笑いかける。それを警戒して────しかし彼女は『身構えるでない。ワシは敵ではないんじゃぞ?』と軽やかに言った。

 

 通常であれば警戒すべき相手が軽やかに言った内容なのだからと、冗談でとらえる者。挑発だと思う者がいることだろう。

 しかし牛鬼がそれを本気で言っているように聞こえたのは、きっと牛鬼自身が奴良リクオと共に遊ぶ家長カナの成長を密かに見たことがあったせいだろうと彼自身は考えた。

 

 

「……何用だ」

 

『なに、お前さんにちょっとしたお誘いをしに来ただけじゃよ』

 

「誘いだと?」

 

『悪だくみじゃな。ワシとわるーいことせんか?』

 

 

 

 楽しそうに笑うそいつを信じていいのか悪いのか。

 

 なんでも彼女は牛鬼の企みを知っていると。

 知っているからこそ、リクオを強くさせたい。そのために家長カナ自身が悪として見られても構わないのだという。

 

 ────たとえ、牛鬼に切り捨てられても構わないのだと、彼女は言った。

 

 

『牛鬼組は奴良組に属していない妖怪どもを抑え込んでいるのじゃろ? 防波堤みたいなものじゃな。それを突破されては叶わぬとリクオのことを見定める気なのは分かっておるよ』

 

「…………貴様」

 

『そんな怖い顔はするな。ワシはだーいすきなリクオのために動きたいだけじゃよ。例え悪の敵として君臨する可能性があろうとも、リクオにならば倒されても文句は言わぬ。じゃから強くなってほしいためにワシも動きたいんじゃ』

 

 

 何を言いたいのかが分からない。

 理解するためには知る必要がある。

 そのため、牛鬼は彼女を排除することを止めたのだ。

 

 

 家長カナが言った言葉は信じ切れない。 

 しかし利用はできると牛鬼は判断した。

 

 だから数年の間だけでいいと心に決める。

 牛鬼は家長カナを見定めることにしたのだ。

 

 

 

 

 家長カナは脅威となり得るか?

 

 それを牛鬼は────肯定する。

 

 

 

 彼女は奴良組の内部を知っている。何が起きているのかも理解し動いている。

 異物。違和感。それら全てが理解できないがゆえに、牛鬼は彼女を脅威と見ていた。排除するべきか否かはこれからの行動次第。

 

 

 家長カナが奴良組のために動くというのなら、その覚悟を示してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 



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