言語系チート授かったのでvtuber始めました (gnovel)
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第一部
多言語系vtuber(地球の言語だけとは言ってない)


閲覧ありがとうございます

ハーメルンでの掲示板機能の練習も兼ねて掲示板形式を始めて執筆してみました。

「」の中の『』は多言語だと思ってください。

それではどうぞ


「貴方の転生特典は『多言語』です」

「少しお待ちを女神様。いきなりそう言われても困ります」

 

 俺は死んだ。

 テンプレのごとくトラックに轢かれたあと、空から降ってきた工事用のポールが無数に突き刺さった後カラスに鳥葬されかけた所までは覚えている。……いや忘れたい。自分が旧劇の弐号機みたいな最期を遂げるなんて忘れたい。

 

 そして目が覚めるなり、THE女神と言わんばかりの女性にいきなり『多言語』なる転生特典を授けられたのだ。

 

「で……その『多言語』とは……?」

「これにより貴方はあらゆる言語を理解し、話すことが出来ます。英語は勿論、イタリア語、ドイツ語、中国語……」

「普通に便利!? ……待てよ? 転生する世界が異世界だったら……」

「ちなみに2000年代の日本に転生してもらいます」

「やったぁ!!」

 

 危なかった……。危うくこの『多言語』が活かされない異世界に飛ばされる所だった。しかし自分の故郷である日本ならば問題なし。思う存分イージーモードで活躍してやると意気込む。

 

「それでは第二の人生をお楽しみください」

 

 そう言って女神は手元のボタンを押す。すると俺の足元が開き落下する。

 俺は薄れゆく意識と、どこか浮上するような意識を同時に味わいながら、目を閉じていく。

 

 

 

「う……ううん……ここは……?」

 

 目が覚めると、見知った天井が目に映った。

 体を半分起こしてみると、どうやら赤ん坊という訳ではなく大学生か、高校生の俺に転生したことが分かる。しかし周りに高校の制服がないことやカバンではなくリュックであることから如何やら大学生の俺になったようだ。

 

 しかし昔の日本に戻った影響か、ハンガーに掛けられた服装が一昔前に流行した服装であったり、テレビも薄型ではなく懐かしさを感じさせる分厚いタイプになっていた。

 

「あれ……? 待てよ……俺のスマホが無い……!? 嘘だろ!? 俺のソシャゲのデータが全部消えたんだが!?」

 

 スマホが無いことに絶望していたが、そもそもこの時代にはまだない物である為、それを加味しても若干納得できなかった。しかしその代わりと言っては何だが、俺の勉強机の上にこの時代の最新モデルのデスクトップパソコンとマイク付きヘッドホン、そしてゲーム機が置かれていた。

 

「な……ッ!? ACVだと!? それにこっちは……ダクソ!? おいおい! マジかよ!」

 

 そしてふと机の上に置かれたカレンダーをみるとそこには【2011年】と書かれていた。

 

「2011年だと……? はっ!? そうだ! 一先ず……転生特典も確かめるついでに……!」

 

 俺は一先ずPCの電源を入れて、YouTubeを開く。そして何気ない外国音楽をクリックする。

 

『~♪』

 

 そして流れてきた英語の歌詞と音楽。とてつもない英語の羅列に独特の発音に昔の俺なら音を上げていただろう。しかし今は、

 

「お、おぉ……! わかる……わかるぞぉ……!」

 

 頭の中にすっと入ってくるのだ。まるでわかる。普段から日本語を聞いて理解して、話すくらいに当たり前のように、動画の内容が理解できるのだ。字幕は要らない位だ。

 そして試しに英語で先程の歌を歌ってみる。頭の中に日本語の歌詞を浮かべて、それを英語に変換するつもりで……

 

「『~♪』」

 

 歌えた。

 

 非常にスムーズに、そして快適に脳内の日本語が英語に変換出力され、口から飛び出してくるのだ。そして試しにギリギリ知っているドイツ語で変換しようと試みると……

 

「『~♪……嘘だろ!? 何かすらすら口から出てくるんだが……え? 待って? 俺本当にドイツ語話せてる!?』」

 

 頭の中の日本語がドイツ語らしき文章に変換されたことに自分でも仰天した。そして念の為に口頭ではなく文章に出力してみようと試しに引出しのノートを引っ張り出して自己紹介を『日本語』『ドイツ語』『フランス語』で書いてみることにした。

 

 結果は、同じだった。

 

 意味も同じ、簡単な自己紹介であったが俺の脳はそれらの文章の意味を完全に理解し、そして書けるようだ。

 俺は心が躍り、様々な外国の動画を見漁った。どれも内容が理解できると面白く、果てにはごく少数の民族の言葉も何故か理解でき、更にはゲーム独自の言語さえも理解できることには仰天して、様々な海外のサイトを読み漁っていた。

 

 

 そんな時だった。

 

 

「……ん? 〝You●ubeを通して新たな仕事をしませんか?〟」

 

 ネットサーフィンをしていたらふと目に着いた広告を思わずクリックした。どうやらまだ設立されたばかりの企業なようで、You●ubeを通して何かをしませんか、という文言の通り新たな分野を開拓するようだ。

 

「そういや……まだこの時代は配信者……というかvtuberがいないのか……」

 

 実を言うと、一度はvtuberとして配信をしようと目指していた時期があった。しかし周りの個性に俺が見劣りすると思い込み、結局断念したのだ。

 

(懐かしいな……あのまま押し切っていたらどうなっていただろうな…………いっそのこと『多言語系vtuber』としてやってみるか?w)

 

 そんな軽い気持ちを持ちながら試しに応募してみた。いやしてしまった。

 

 ――まさかあんなことになるとは思いもしなかった。

 

 というか俺の『多言語』がヤバすぎた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

11:名無しの翻訳家 ID:hgix6DHew

相変わらずマルチの語学力がえぐすぎる

 

12:名無しの翻訳家 ID:vgYHtuLCE

リスナーの悪ふざけでタイ語で10分間実況してって言ったら……

 

13:名無しの翻訳家 ID:9Nb/eemkX

>>12 これだもんな

 

【動画のURL】

 

14:名無しの翻訳家 ID:jD2CD/qCu

多言語にも程があるよな……マジで

 

15:名無しの翻訳家 ID:bWH+PqtKi

>>14 おいおい、ギリシャ語とミャンマー語、カルムイク語を5分おきに交換しながらホラーゲーム実況してっていったらマジでやりやがったことを忘れたか?

 

【動画のURL】

 

16:名無しの翻訳家 ID:QHr7ChEEe

>>14 ご丁寧にリアクション付きでなァ!

 

17:名無しの翻訳家 ID:Q4moV5HeI

実際に現地の人間に聞いたら普通に現地人並に流暢に話せているとか言われてるもんなぁ

 

18:名無しの翻訳家 ID:0rMiGeYP7

マジで話せない言語ねぇんじゃねぇのか? って思う位には語学力バグってるよな

 

 

19:名無しの翻訳家 ID:wH/ZV1go5

マルチが今まで話してきた言語は……だめだ多すぎてわからん

 

 

20:名無しの翻訳家 ID:EbPUi9s78

多言語すぎて登録者が文字通り世界中からだもんな

 

 

21:名無しの翻訳家 ID:NJOtaEny1

事務所の人間も『外国語で困ったらマルチ呼んだほうが早い』ってインタビューで答えているの草

 

 

22:名無しの翻訳家 ID:/7+oKFhZH

リスナー「○○語で頼むわw」

マルチ「おかのした」

 

で実際にやり切っちゃうのがマルチクオリティ

 

 

23:名無しの翻訳家 ID:2OQRErQz0

>>22 やっぱ頭おかしいよ……(誉め言葉)

 

 

24:名無しの翻訳家 ID:r37GxNvmZ

>>19 登録者800万超えたしな

 

 

25:名無しの翻訳家 ID:szZ2wAT8L

ヒカリ「マルチさーん! ちょっとこれ翻訳してくれませんか!」

マルチ「今生放送中じゃなかったっけ? まぁ良いけど」

 

2分後

ヒカリ「あっ! マルチさんから翻訳文が届きましたよー!」

全員(関係者及びリスナー)「き、きしょい……(ドン引き)」

 

ほんと草

 

 

26:名無しの翻訳家 ID:M5m4CjfMW

>>25 まじで生放送中に海外リスナーからのファンレターを翻訳する為だけにマルチに電話したの草

 

 

27:名無しの翻訳家 ID:YCdDcOIQc

>>25 ヒカリちゃんさ……

 

 

28:名無しの翻訳家 ID:uK/qbsMcX

>>25 それを即翻訳できるマルチも大概可笑しいんだよな……

 

 

29:名無しの翻訳家 ID:a9xurGN4A

これがリアルチートですか?

 

 

30:名無しの翻訳家 ID:gTN34bZ6q

>>28 本人曰く『翻訳自体は数秒で終わった。文章送るのに時間かかっただけ』……は?

 

 

31:名無しの翻訳家 ID:2GHzMdKCB

しかも何が凄いって、それはそれとして普通にゲーム上手いんだよな

 

 

32:名無しの翻訳家 ID:rG2AL9753

>>31 そりゃあ、初めての投稿がダクソRTAやし……当時の記録をまだ抜かせないし……

 

【動画のURL】

 

 

33:名無しの翻訳家 ID:H78oI1Yj6

……やっぱナニカされたんじゃねぇのか? 例えば宇宙人に改造されたとかw

 

 

 

 

 

 

 

「『我々はここより遥か遠くの銀河よりやってきたイムール星人。我々の言語が分かる君と異星交流を深めようと思ってね』」

「」

 

 一方その頃、この男は地球の外からやって来た地球外生命体と死んだ目で対話をしていた。

 何故か分かる、いや分かってしまう言語に頭を悩ませながらも何とか穏便に、そして地球の平和を守るために、今日も多言語チートで対話をするのだった。




伴野源吾(ばんのげんご)
旧劇の弐号機みたいな死に方をして転生した男
『多言語』のチートにより地球上のあらゆる言語のみならず、言語として存在するもの全てを理解できるようになってしまい、なんやかんやあって地球の命運を握られることに

vtuberとしての名前はマルチ。
設定は『どんな言語でも教える教師』であり、スーツに眼鏡をした至って普通の男性アバター。

配信スタイルは前世と今世で培ったゲームスキルと多言語チートによる視聴者からの無茶振りに応えるスタイル。時たま各国の言語で罵声が漏れる。

そのスタイルの影響か外国でも一躍有名になり、事務所での仕事や旅行の際には必ず同伴しているという翻訳要らず。歩く翻訳機とも言われている。

最初の投稿はまさかのダクソRTA。また、その際リスナーからの英語縛りで実況してという要望に応え、本当に2時間ぶっ通しで英語で実況した。

それを皮切りに今度はイタリア語、ドイツ語、ロシア語……と繰り返していく内に、日本にやべー奴がいると噂され、気づけばわずか3ヶ月で登録者が10万人を超え、腰を抜かした。

だがある番組内で、vtuberの後輩が書いた落書きが偶然とある宇宙の言語に合致しそれを理解してしまったが故に発狂寸前に陥ったり、心霊スポットでガチの幽霊の言語を理解してしまい、危うく連れてかれそうになったり、宇宙人にキャトられ掛けたりもしたが、今日も元気に配信を続けている。


練習で書いていったら思ったよりも楽しかったので、満足です……


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知らないという罪、知りすぎるという罠

閲覧ありがとうございます!

前回があまりの高評価で思わず仰天して麦茶を噴き出してしまいました。
い……いや、まさかこうなるとは……

自分の中の満足さんが「おい、満足しろよ」と言ってきたので、満足して行きたいと思います。

vtuberに関しての知識がまだ浅いので、配信形式は少々不慣れですがご了承ください。

それではどうぞ!


「ニャーニャー」

「ニャー」

 

「……」

 

 蒸し暑い夏の昼真っ盛り

 

 公園で二匹の猫が戯れていた。互いに鳴きながら何かを喋っている様で、非常に微笑ましい光景だろう。万人が何かを話しているのかなーとか凡そ朗らかな気持ちになるだろう。

 

 

 だが俺は違った。

 

「ニャーニャー『お前臭くね?』」

「ニャー『俺の家にいるニートがゴミため込んでいるからな。その匂いが付いたんだろう』」

「ニィ『うわw良かったわーw俺の家に居なくてw』」

「ニィーニャー『お前こそ大変じゃないのか? 確かあれだろ? お前の飼い主のメスが、俺らと同じ猫耳付けて盛りあっているんだろ? 今も』」

「ニャー!『おいやめろ。それを思い出させるな』」

 

 

「……勘弁してくれよ」

 

 

 俺は知りたくも無い家庭の闇に辟易としてベンチから立ち上がり公園を抜け出した。このチートを手に入れてから俺が今まで抱いていた猫や犬へのイメージが瞬く間に崩れ去ったのだ。だから俺はYouTubeでも猫や動物の動画を見ようとしないのだ。

 

 大概大っぴらに言えないレベルのやばいこととか、今のように知りたくも無いことを聞かされたり、酷い時にはたまたま映った国のお偉いさんのペットが機密情報を喋ったりしている時もあり、俺は図らずも弱みを握ることになってしまったのだ。その時ばかりは頭を抱え、静かにブラウザバックした。

 

 ちなみに弱みの内容は国家機密であったり、お偉いさんのプレイの仕方、表沙汰にしたら間違いなく解雇物の情報であったりしているのだが、正直テレビにその人物が出てくると色々吹き出してしまうのでテレビのニュースは殆ど見ないのだ。殆どネットニュースで済ませている。

 

「『飼い主の好きなプレイは……』」

「『口座の暗証番号は……』」

「『次の計画は……』」

 

 頼むから、幾ら理解できる人間がいないからって色々暴露すんのやめてくれますかね……。もう、俺、君たちの事まともに見れないよ……。

 

 そう声に出したい衝動を抑えて、俺は昼休憩を終わりにして一先ずこの先の予定を確認しながら事務所に向かっていた。

 

 

「えーっと……この後15時から配信だが……おっと、メールか」

 

 まだまだ時間があるなと思っていた矢先、俺の下にメールが届く。どうやらプログラミングで悩んでいるようなので、目的は何か、何をしたら良いかを確認して早速それの解答を脳から出力し、パッパと返信した。

 

 どうやら言語であれば俺のチートが発動するらしく、例えば『C言語』であったり『R言語』等の所謂プログラミング言語であっても機能するため、こうして事務所の手伝いを引き受けているのだ。

 そのおかげでプログラマーも最小限に人件費を抑えられているらしく、社長が大助かりだと言っていたことを思い出した。事務所の設立初期には俺がホームページを作成したり、ネット関係は大体俺が担っていた時期もあったものだ。

 

 今となっても時たまこうして事務所の手伝いをしたり、俺に英語を学びにくる学生の後輩や同年代、あるいは年上のvtuberが数多くいたりした。

 それで気づいたら『マルチ先生のパーフェクト英語教室』なんて物も長期休暇中に開くようにもなった(生放送もした)。意外にも好評だったらしく、特に「リスニングがネイティブでマジで対策になる」だとか「実際に成績が上がった」という声がちらほらあった為、社長がGOサインを出して今や夏冬の名物になったのだ。

 

 

 そうこうしているうちに携帯に感謝のメールが届いたのを見た俺は、ふと小腹が空いたと思い何を食べようか考えた。腹が減っては何とやらである。

 

「飯は……近くで済ませるか。たまにはレストランも良い」

 

 自炊も悪くないがたまには別のを食べたいと思い、事務所の近くにあるレストランに向かった。

 

「カーカー『おえっ……さっき食ったパンが異様に不味かった……』」

「カーカー『あー……多分腐ってたか、裏側に虫がいたかだな』」

「カー『うわっ……最悪……』」

 

 

「……俺の方が最悪だよ」

 

 前世のトラウマも含めて、今後外歩く時はイヤホンを付けていく事を決意した今日この頃であった。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「――サーロインステーキの和風ドリンクバーセットで頼みます。あとご飯は大盛りで」

 

 事務所近くのレストランにて俺はお気に入りのメニューを頼んでいた。いつもこの店に来るとこれしか頼まないのだ。時たま後輩から「いつもそれだけですね」と言われるが、これが一番美味いから仕方ない。

 俺はドリンクバーで、これまたいつも飲んでいるジンジャーエールを氷の入ったグラスに注ぎ、自分の席に着こうとした。

 

「あっ、同席させてもらってまーす!」

 

 何かいる。

 

 と言えば失礼に値するが、実際に失礼なのは彼女……いや彼だろう。俺に気づいて声を掛けたのは、俺の後輩の『スイスイ』こと水無月 涼(みなづき りょう)だ。彼はにししと笑いながら俺の席の向かい側に陣取っている。その横には学生カバンと机には宿題だろうか、英語が遠目から見えることから教わる気満々のようだ。

 

「先生相変わらずジンジャーエールですか!」

「好きだからね。それで? 私に何か用かな?」

 

 あっ、言い忘れていたが事務所の社員や後輩、同期には一人称〝私〟でやらせてもらっている。これも『マルチ教師』という役作りの為で物腰も基本丁寧になるように心がけている。本当の一人称が〝俺〟であることを知っているのは社長と俺の家族だけだ。

 

 そして涼は俺の前に教科書とワークを出してきた。どうやら行き詰っているらしく、俺に教えてもらいたいようだ。

 

「ここの英文なんですけど……」

「ここはね……」

 

 

 それから数分が経ち、涼の課題が終わったと同時に俺の前に注文していた料理が届いた。サーロインステーキの焼ける音と香ばしい香り、視界いっぱいに広がる肉と蒸気。これが堪らないからいつも注文するのだ。

 

 俺がナイフとフォークを持って肉を切り分け食べようとすると……

 

「じー」

 

 眼前から視線を感じる。とても物欲しそうな目で肉を見つめていたので、小皿に幾つか切り分けて上げることにした。そうしたらバッチリ笑顔になった。本当に性別詐欺と言いたくなる位だと思う。

 

「ふぁりはほうほはいまふ!(ありがとうございます!)」

「せめて食べる前に言いなさい。食べながらははしたないですよ」

「ふぁーい」

 

 この後結局全体の3割を食べられた為、少々不満足気味で事務所に向かう俺だった。

 

 ま、まぁこれぐらい別にいいし……。と強がった所で虚しくなるので特に考えないことにした。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 それから家に帰った俺は丁度開始1時間前だったので早速機器の準備をする。

 

 マイク良し……イヤホン良し……パソコン良し……。全部確認した俺はきっかり15時になったのを見計らって、配信を開始する。これは何時もの俺のスタンスで教師という設定から遅刻はできないという安直な考えの下行われたルーティンだ。

 俺の画面には黒縁メガネの灰色のスーツを着た教師【マルチ】が映っている。これは俺が最初から使っている皮で、だいぶ気に入っている。

 

 そしていよいよその時が来た。

 

 

「――はい、授業始めます。今日の授業は【作者不明!? 巷で人気のホラーゲーム攻略】です。さて、私を怖がらせられると良いですね」

 

 

リスナー:待ってた

リスナー:クッソ余裕そうで草

リスナー:誰かこいつをビビらせろ

リスナー:笑顔で言ってそうw

 

 始まって早々同接数が10万とかいう前世の俺が見たら卒倒しそうな数字だが嫌でも慣れたため、精神が揺らぐことは無いだろう。

 そして俺は早速、今回やるゲーム【Abgrund】……日本語で【深淵】という意味の簡素なロゴだけのゲームをプレイすることになった。どうやらこのゲーム、作者が誰か判明しておらずまた投稿された日付も深夜の4時44分44秒という不吉極まりない時間だったほか、その独特過ぎるゲーム内容から話題を浴びているようだ。

 

 先日もホラーゲームをプレイしたが、如何せんゲーム内に書かれていた文字列や、キャラの台詞の出来がアレすぎて思わず苦笑してしまった。そしてそれがキッカケでリスナーが本気で俺をビビらせるべく、このゲームをやってほしいとわざわざ赤スパチャで要望してきたのだ。

 

 

「では早速開始していきたいと思います」

 

 

 開幕無言赤スパ:\50,000

 リスナー: \50,000

 スイスイ:昼食代 \50,000

 

 

 今も視界の端で次々とスパチャの通知が鳴りやまず、中には同期や後輩……スイスイおる……

 

 

スイスイ:昼間のお返しです!

リスナー:ファッ!? スイスイちゃん!?

リスナー:昼……間?

リスナー:こいつらナニカしたんだ!

 

 

「あははは。いえ、ちょっとお昼ご飯を私が払ってあげただけなので。特にやましいことはしてませんよ」

 

 

リスナー:ほんとぅ?

リスナー:ほんとかなぁ……

リスナー:微塵も信頼されて無くて草

リスナー:い つ も の

 

 

 俺のスキンが若干怪しく見えるのか、次々と疑心のコメントが流れるが何時もの事なので軽く流す。余談ではあるがつい最近事務所で行われた【誰が一番悪だくみしてそうか選手権】で()()()堂々の一位をとってしまったことを覚えている。その際「いつも微笑を浮かべている」とか「言語が豊富過ぎて現地の人と共謀してそう」とか「宇宙人とか密かに繋がりを持ってそう」と言われたことを覚えている。

 

 

 ……まぁ、宇宙人と繋がりを持っているのは本当の事なんだが、それを口にすると全身黒ずくめの男に連れてかれるので当然言わないことにする。

 

 

「さてさて、ゲームが始まりましたが……中々暗いですね……生徒の皆さん見えますか?」

 

 

リスナー:暗ッ!?

リスナー:見えない

リスナー:化け物が見えたと思ったら、俺だった……

リスナー:↑悲しすぎて草

 

 

 開始と同時に一本道のような場所に飛ばされたが、マジで暗い。リスナーも全然見えて無い様なので設定を開いて画面を最大まで明るくした。これで大分見やすくなったと思いゲーム画面に戻る。

 すると、暗闇で見えなかった壁や天井が明るみになり、そこに何かが書かれているのが見えた。しかしとても乱雑な為、俺のチートは発動しなかった。どうやら『言語』ではないようで安心安心。

 

「おっ! 壁や天井にびっしりと……何かが書かれてますね」

 

 

リスナー:ヒエッ

リスナー:うわああああああ

リスナー:トラップじゃねぇか!?

リスナー:罠だ! これは罠だ!

 

 

「さて見やすくなった所で先に進みましょうか。ここで立ち止まっても仕方ありません」

 

 

リスナー:オリハルコンメンタルか何か?

リスナー:何で怖くないんだよぉ!?

リスナー:Crazy……

リスナー:海外ニキ達も唖然としてて草

 

 

 それから俺は数分間たまに来るビックリ要素に反応を返しながらもふと壁の文字に視線を向けていた。相変わらず特に意味の無い単語が並べられているだけだ。

 

 

 だが暫く進んでいる内に、俺は壁の文字が読み取れることに気づき、そして意味を理解してしまい、背筋を凍らせる。

 

 

「……」

 

 

リスナー:おっ、どうした

リスナー:怖くなったか~? 俺はもうやばい(自己申告)

リスナー:おっ、これ初めてじゃね?

リスナー:これは切り抜かれるな

 

 

「……い、いえ、何でもありません。少しこの文字はどんな言語かなって考えていたので……」

 

 咄嗟に何時もの癖であるかのように誤魔化すが内心マジでビビり散らかしている。ここでビビってはマルチとしての面目が丸つぶれになる。それだけを支えに俺は喉から声を絞り出している。

 

 

リスナー:解 読 す る な

リスナー:い つ も の

リスナー:もはや職業病やろ

リスナー:こんなん解読できるとでも?

 

 

「……続けましょう」

 

 

 冷や汗が止まらない。俺の視界にはずっと一定の言葉が羅列されている。

 

 

見たな

 

 

私のことを認識した

 

 

お前の下に行く

 

 

 という言語が淡々と綴られていた。

 

 そして今俺は比較的冷静を装っているが、既に俺の背後にある本棚から独りでに本が飛び出ている。しかも一冊じゃない複数だ。

 さらに俺の周りの空間が重苦しくなるのを感じる。声を出すのも精一杯になりそうだが、追い打ちをかけるかの如くとある真実が俺を震え上がらせる。

 

「……おっと……そろそろゴールですかね。広い空間が見えてきましたよ」

 

 実は既に俺の手はキーボードから離しているのだが――キャラが勝手に動いているのだ。

 

(間違いない……! これは、所謂本物だ……! やばい……!!)

 

 額から流れる冷や汗を拭う余裕もなく、次々と視界に広がる『言語』……いや■■■語か。こんなものが存在していたとは思わず、必死に『マルチ教授』という皮を被り、最後までやり遂げようとする。

 

 

 体は震え、足は竦み、手は震える。

 

 こんなに動揺したのは、あの落書き以来だ、と思い返していた所で漸くエンディングが流れた。どうやら自分の考えている以上にあっさりと終わったようだ。体感時間は既に2時間経過していたようだが、たった90分しか経過していなかったようだった。俺の配信枠は高校とかの授業と同じ90分で終わるようになっているのだ。

 

「ふぅ……終わりました……皆さんどうでしたか?」

 

 

リスナー:怖い(直球)

リスナー:怖かった

リスナー:というか先生がビビるの初めてじゃね?

リスナー:先生的にはどうだったん?

 

 

 俺が一番怖い。そう胸を張って言いたい。しかしそれはプライドが許さない為大分濁しながらなるべく、朗らかに答える。

 

「……このゲームは、思ったよりも怖かったですね……えぇ、素直に認めましょう」

 

 

リスナー:マ?

リスナー:マジ?

リスナー:先生ビビるとか相当だぜ?

リスナー:というかあんだけ怖かったら誰でもビビるわな

 

 

 色々リスナーが言ってくれるが、その内容すら俺の頭には入らなかった。何故なら、先ほどからポルターガイストが鳴り止まないからだ。

 恐怖に押し負けないように、最後の力を振り絞って終わりの挨拶を告げる。

 

「さて、今日の配信はここまで。皆さん次回またお会いしましょう。さよなら」

 

リスナー:乙

リスナー:乙

リスナー:おつ

 

 

 

 

リ■ナ■ : ■■た

 

 

「ッ!?」

 

 文字化けしたコメントが最後に流れたのを皮切りにコメント欄が、動画説明文が、関連動画のタイトルが、全部、全部、文字化けで埋め尽くされている。既に配信は終了し、コメントを打ち込めないようにした筈だが、それでも文字化けは続く。

 しかし俺にはその文字化けがどういう意味を持つのかを知っている――否、知ってしまった。理解してしまった。

 

 あれはまさしくトラップだった。

 

 あの言語を理解してしまった者を陥れる罠だったのだ。俺はまんまと嵌められてしまった訳だ。

 

「クソ……ッ! 駄目だ……! 電源が切れねぇ!」

 

 必死に電源を落とそうとするが、それでも依然として画面は消えず、焦りが浮き出る俺だが、ふと画面が真っ暗になった。

 

「消えた……? いや違う!」

 

 真っ暗な画面だが、徐々に水面のように揺れ始め、そして画面の奥から何かがやってくる気配がした。いや、実際に何かがやってきているんだろう。

 俺は思わず席を立ち、部屋のドアを開けようとするが、当然のごとく開かない。窓もどういうわけか開かなかった。

 

「こうなったら……この窓を破るしか…………ハッ!?」

 

 そして窓を叩こうとしたその時、

 

 俺の背後に巨大な黒い何かが佇んでいる気配がした。何かが滴り落ちる音と、地の底から響くような息遣いが聞こえてくる。何かを呟いているようだった。

 

「ブツブツブツブツ」

 

 もう駄目かと思い、来るべき死に対して屈服するかのように目を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

「『それでさー! 皆、私を見ると死んじゃったり発狂しちゃうんだよ! ひどくない!?』」

「『……出方に問題があると思うな。俺は』」

「『えー!? これ私達の界隈では普通なのにー!?』」

「『俺たちの共通認識ではな、死者と生者は交わらないんだよ』」

「『うえー……そうだったんだ……皆に教えて上げなきゃ! ありがとう源吾!』」

 

 

 現在俺とこの何か……いや■■■■ちゃんはお菓子を食べながら談笑していた。

 

 何を言っているのか分からないと思うが、どうやらこの■■■■ちゃんは友達が欲しかったらしく、今回のように登場しては毎回ゲームをプレイした人が発狂死していたらしい。いやそりゃそうだろう……。

 どうやら彼女の他にも同類がいるらしく、俺たちが世間一般的に認識している〝幽霊〟に該当するらしい。

 

「『というか、たまに人間を襲っていたり、神隠しとかしている君の仲間って……』」

「『えー! そんな子いないよ! 皆お友達になりたいだけだし! それに……』」

「『それに?』」

 

 

「『私達相手の許可が無いと触れないし、そもそも殺せないもん! そうなったら■■様が殺しに来るもん!』」

「『……知りたくない事実をまた知ってしまった……ん? じゃあ悪霊とかいうのも噓なのか?』」

「『あっ! それは源吾達人間の負のエネルギーが集まって出来た存在なんだよ。私達と■■様はそれらを狩る仕事もしてるんだ!』」

「『……思ったより普通(?)に生活してた……』」

 

 彼女達の上司――人間でいう〝神〟に値する存在がいることをほのめかされた為、俺の精神は崩れそうになった。

 

 で、この■■■■ちゃんは、まるで生物のように蠢く黒い長髪と顔にぽっかりと空いた穴から声を出しており、先ほどの「ブツブツブツブツ」は

 

「『あ、あの……私と友達になりませんか……?』」

 

 だそうだ。……勘弁してくれよ……本当に。

 

「『どうしたの源吾?』」

「『いや……何でもない』」

「『そう? あっ! そうだ! 後で源吾のこと皆に教えてあげようっと!』」

「『 や め て 』」

 

 

 後日俺のPCから■■■■ちゃんが()()()()()()()()を連れてきた為、その時ばかりは流石に死んだかと思ったが、皆いい子ばかりでした。……俺が可笑しいだけなのか……?

 

 

 

 

 

 一方そのころ、vtuber事務所の一室では社長とその秘書が何かを話し合っていた。

 机の上には〝研修旅行計画〟という紙束が置かれていた。

 

「社長。次の旅行はどこに行くんですか?」

「ふむ、エジプトにしようと思ってな? ピラミッドもあるし、あと……」

「あっ! あの、つい最近発見されたというモノリスですか! ……源吾さん解読出来ちゃったりしてw」

「はっはっはっは。まさかそんなことはないだろう……ないよね?」

 

 A.できます

 




『多言語』

源吾が女神(?)から貰ったチート。たぶん肌は浅黒くて顔は真っ黒。

文字通りあらゆる言語を理解することができ、英語はもちろんイタリア語やフランス語等の他にも、所謂プログラミング言語の類やゲームやアニメの中だけの言語も理解できて話せます。
例としてグロンギ語やアクロ語、ブリブリ語など『言語』として成立していたor成立しているなら話せますし、理解できます。

しかし条件として人体の機能を大幅に超えた形(触手やレーザーなどの外付けの器官が必須の場合)での意思疎通は理解はできますが出力することはできません。例外として超音波や微弱な電気信号での会話はギリギリ行えるためそこは『多言語』のチートが働きます。

また聞いたら死ぬ類の言語は勿論理解することも話すこともできません。しかし、死なないようにされたならば……〝理解〟できるし〝会話〟することができます。


『■■■■ちゃん』
所謂幽霊に属する種族

名前が伏字になっているのは、名前が人間が出せる音の波長の限界である為『多言語』さんが無ければ完全に発音できない。
見た目が完全に神話生物の類だが性格は比較的(?)温厚。友達を作りにきたが、毎回毎回発狂されて友達を作れずにいた。しかし『多言語』チートによって意思疎通が可能になり、晴れて友達に

後日〝沢山の〟友達に源吾を紹介した。源吾のSAN値は減らなかった。


『スイスイ』……水無月 涼
源吾の後輩で、高校2年生の男の娘

アバターは水色の髪の中性的なデザイン。普段はゲーム実況をしており、その見た目と声の可愛いさと小悪魔ぶりも相まってガチ勢を多数誕生させている。

普段は源吾から英語を教わっている為、毎回の英語の点数が学年トップ


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昔も今も考えること、やることは同じだった。

閲覧ありがとうございます!

寝て起きたらランキング一位になっていてリアルで「ほぁああああ!?」と叫んでしまいました。
沢山の感想、高評価、誤字報告ありがとうございます!

おっそろしい程のプレッシャーに襲われていますが、執筆していきたいと思います。

あ、あとこれはフィクションですのであしからず。

それではどうぞ!


41:名無しの翻訳家 ID:YmuYUyrNf

そういやマルチ先生、エジプトに行くらしいな

 

42:名無しの翻訳家 ID:7AEFwCh65

>>41 これか

【URL】

 

43:名無しの翻訳家 ID:os4sxsgxO

URL助かる

 

44:名無しの翻訳家 ID:6NCs4hogg

エジプトに研修旅行……ジョ●ョかな?

 

45:名無しの翻訳家 ID:l+mb+XWoB

マルチ先生がスタンド持ってるって言っても俺は信じるゾ

 

46:名無しの翻訳家 ID:1Xdr45HQq

>>45 あらゆる言語を話せるんやろうな……

 

47:名無しの翻訳家 ID:O1Df9hXYY

>>45 言語を剝奪されそう

 

48:名無しの翻訳家 ID:YBQlb1mIx

あの眼鏡がスタンドの可能性が……?

 

49:名無しの翻訳家 ID:G+7YSmGqY

そういやマルチ先生以前アラビア語でFPS実況してたな

 

50:名無しの翻訳家 ID:rxBSWLyg6

>>49 これ

【URL】

 

51:名無しの翻訳家 ID:PBA7JXS4W

>>50 頭おかしいよ……

 

52:名無しの翻訳家 ID:Sxr3qcnio

>>50 アラビア語で実況は草

 

53:名無しの翻訳家 ID:sVK5a/hz0

それでも16回やって15回チャンピオンを取れるのは流石としか言いようがない。

54:名無しの翻訳家 ID:w+rC7PCuF

>>53 しかもソロなんだよな……頭おかしいエイムと立ち回りしてんだよなぁ

 

55:名無しの翻訳家 ID:tcOlnHw49

>>50 「5人に囲まれましたが、1対1を徹底すれば何とかなります」

 

→「何とかなりましたね。冷や冷やさせられました」

 

 

56:名無しの翻訳家 ID:ar24cmAC6

????????????

 

57:名無しの翻訳家 ID:L210eK3IV

豊富な語学力、頭おかしいゲームスキル……何だこいつ完璧か?

 

58:名無しの翻訳家 ID:j4uq1s8+7

というか間違いなくvtuberじゃなくて翻訳家か言語学者してればいいとおもんですけど(名推理)

 

59:名無しの翻訳家 ID:e13CVPknx

>>58 「こっちの方が性に合っているので」

 

60:名無しの翻訳家 ID:rkrDaa7eC

才能の無駄遣いとは正にこのこと……

 

61:名無しの翻訳家 ID:OfbRSxLiz

あっ、そうだエジプトと言えば最近新たにモノリスが発掘されたそうですねぇ!

 

62:名無しの翻訳家 ID:ZdTGcsz9Q

>>61 【URL】(大きなモノリスと館長らしき人物が映っている写真)

 

63:名無しの翻訳家 ID:ovyFfHS9F

はぇ~……すっごい大きい……ロマンがありますね……

 

64:名無しの翻訳家 ID:Q/EIQxLTl

何か変な文字が彫られてますねぇ……マルチ、どうにかしろ

 

65:名無しの翻訳家 ID:qQd9K5su5

>>64 「どうにかしましょう」→「どうにか出来ました」

 

66:名無しの翻訳家 ID:HUCCdqrTo

マジでそれで解読されそうで困る

 

67:名無しの翻訳家 ID:+4I9FuSjx

見える見える……(即行で翻訳する光景が)

 

68:名無しの翻訳家 ID:1AlctSU57

で、そこにマルチ先生が行くと……やばそう(小並感)

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「いやーそれにしても、マルチ先生は何でも話せるんですね! 話せない言語なんかないんじゃないんですか?」

「いやいや、そんなことは無いよ(大嘘)」

 

 現在俺たちはエジプト行きの飛行機の中にいる。研修旅行という名目でこうして社員の士気を高めるのだが、そこに俺も同伴させてもらっているのだ。

 

 俺以外にエジプトの公用語であるアラビア語を話せる人物は限られてくるから、社長も「通訳を雇わなくて済むからねw」と冗談交じりに言っていたが、多分本音も含まれているだろう。とはいえ俺からしても実質無料でエジプトに旅行できるんだから正直楽しみにしている。

 

 今回の旅には社長やその社員の他にも、生放送中に電話してきた『綺羅星ヒカリ』こと星野 光莉(ほしの ひかり)がこの旅行に付いてきている。どうやらこの研修旅行に際して参加者を募ったらしいが思ったよりも希望者が多く、やむを得ずくじ引きという形になり、結果としてヒカリちゃんが当選したらしい。流石は生放送中に10連ガチャでSSR5枚抜きした運は伊達じゃないな。俺にも分けて(結局天井まで回した男の嘆き)

 

 飛行機内は快適な空調で、少し肌寒い程の冷房であるが、フ●ッキンホット(クソ熱い)な外と比べたらまだマシだ。

 俺は窓の外の景色を楽しもうと、ちらっと窓の外を覗いた。

 

 外は雲の上と言った光景で、とても浮世離れしていて、幻想的だ。それこそ、そこにUFOがあっても……

 

 

 …………ん????

 

 

 

旅の無事を祈る。地球の友よ

 

 

「……(汗だらだら)」

「どうしたんですか? マルチ先生?」

「い、いや、何でもない……」

 

 窓の外を見たら、まるでウルトラサインのように空中に描き出されたイムール(イムールはあちらの言葉で【金属】を表すらしい)語と10人中10人が「UFOだ!」と言いそうな形状をした乗り物が見えた。間違いない……この前(図らずも)友人になったイムール星人だろう。

 

 彼らは地球より遥かに進んだ科学技術を持った金属生命体であり、たまたま俺が彼らからの質問に答えてしまったために交友関係を結ぶことになったのだ。

 

 イムール星人は自分たちの実力を示す慣習があるらしく開口一番いきなり、

 

 

『この星は我々の手に掛かれば1日も持たずして粉々になるだろう』

 

 

 とか言われた時はマジで死んだかと思った。俺の手に地球の命運を握らせるな。

 

 で、その後なんやかんやあって交友関係を結ぶに至った。必死に地球の良さ、具体的には金属繋がりで地球のゲームを紹介したことが良かったのか、時々地球に訪れてはネットからゲームを買っているらしい。彼らはゲーム機を作る技術はあってもその肝心なソフトを作るのがどうも苦手とのことだ。

 

 ……だけど置き土産としてレプティリアン(地球人に化けている爬虫類型宇宙人)がいるとかさも当たり前のように暴露するのはやめてください。その所為でレプティリアンとも交友関係を結ぶに至ったのですから。(白目)

 

 そんなこんなで俺は乗客の誰かが目撃しないことを祈r「『何だあれは!? UFOじゃないか!?』」……手遅れだった。

 

「『皆! あれを見てみ……ウッ……』」

「『貴方どうしたの!? 急に叫んだと思ったら……ウッ……』」

 

 

「……俺知ーらね」

 

 恐らくあのイギリス人は、目が覚めたらUFOを見た記憶全部がなくなってるだろう。俺は考えるのを放棄してアイマスクをし、さっさと眠りについた。

 

「『何だアレ……ウ』」

「『あ……あれは何……ウッ』」

 

 アーアー聞こえない、聞こえない……。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「いやー遂に来ましたね……エジプト!」

「ソウデスネ」

 

 あれから数時間が経過して漸くエジプトに着いた俺達。乗客の皆が「何かを忘れているような」とか言っているのは聞こえないし、知りません。……知りません!

 あと社長たちが4人で並んで「「「「行くぞ!」」」」とかしているのはスルーした。まぁ、エジプトだし……やりたい気持ちは分からんでもないけど……。

 

「でも先生……不思議なんですよ、何か飛行機にいる時の記憶が飛んだような気がして……」

「ヒカリちゃん寝てたじゃないか」

「えっ、あれ? 私、寝てましたっけ!?」

「ウン、ソウダヨ」

「??? まぁ、いっか!」

 

 想像以上の影響が出ていたが、記憶消去は成功していたとみて間違いないだろう。……ちなみに今は持ってきてないが、自宅にはしれっと置いてあったりする。ペン型のを。

 使う機会がないことを祈りながらも、俺たちは手配したツアーバスに乗り、最初の目的地である博物館に向かった。

 

 バスの中ではガイドさんがこれから行く場所についての説明をしていたので俺が軽く社長たちに翻訳したり、俺個人がガイドさんと話したりしながら時間を潰していた。

 それから意外にもガイドさんが俺のことを知っていたことに驚いた。なんでも、たまたま俺がアラビア語で実況をしていた時間帯に視聴していたらしく、息子たちにサインを、ということでアラビア語とヒエログリフ(象形文字)で〝(子供たちの名前)へ〟というサインをした。ガイドさんが喜びつつドン引きするという表情を見せていた。なんでや。ちなみに社長たちもドン引きしていた。

 

 この後ちゃんと顔バレを防ぐ為に秘密にしてもらうことを約束してもらった。

 

 ちなみに俺の服装は半袖のクールビズだ。尤も、服の内側に■■■■ちゃんの■■■■語がびっしりと書かれているが。

 これは■■■■ちゃんがこれからのことを危惧して魔除けの意味を持つ■■■■語を書いてくれたためである。幸いにも周りの人たちにはただの服の模様としてしか見られてないので、それはほっとした。……いやほっとして良いのか?(正気) 良いか(狂気)

 

「『まもなく博物館です』」

 

「社長、そろそろ博物館です」

「うん? おぉ! いよいよか!」

 

 バスに乗って数時間が経過して漸くついたようだ。バスの窓からは三角形が積み重なったような模様の博物館が見えた。遠目からみても相当の人がいることからもここが相当人気のようだ。

 

 それからバスを降りた俺たちはガイドさんの案内に従って博物館の中に案内されていった。

 

「うわ~……すっごい……!」

「見てください社長! あれ! あれ!」

「ほぁ……素晴らしい」

 

 皆、ピラミッドから出土した物を中心に楽しんでいる様だった。俺の興味はどちらかと石板やパピルス等の言語が書かれているのにあった。……正直何て書かれているのか楽しみにしていた。怖いもの見たさとはよく言ったものだなとつくづく思う。

 ちなみに内容は大体解読されているのと同じだったのでそこは普通に見知らぬ言語学者を尊敬した。俺のようなチートが無くてここまで解読出来るってすごい。

 

 そして暫く鑑賞しながら歩いていると、どうやら今回の大目玉であるモノリスが見れるといい、そこに案内されることになった。

 なんでも、未知の言語で書かれているらしく、現在ここに飾られているのはそれを象ったレプリカに過ぎないが、それでも公開されることになったらしい。内心「マジか」と思いつつ期待に胸を躍らせた。

 

 

 そしてガイドさんの案内の下たどり着いたその場所には大勢の人がたむろしており、モノリスの文字が見れない程に列がなされていたのでここは大人しく待たざるを得ないらしい。

 

「うわ~……凄い人だかりですね先生!」

「そうだね」

「む? あそこにいるのはかの有名な言語学者の海道(かいどう) 夜見(よみ)先生じゃないかね?」

 

 そういって社長が指さした先には列に並ぶ妙齢の美人がいた。その手にはスマホやメモ帳があることから解読する気満々でここに来たんだろう。俺は初めて会ったが、社長はどうやら面識があるらしく手を挙げて声を掛けていた。すると夜見さんは振り返り、社長に向けて手を振り返した。

 

 そして後ろの人に断りをいれて俺たちの方に近づいてきた。

 

「お久しぶりです。まさかここで会えるなんて」

「いえいえ夜見さん。こちらこそお久しぶりです。数年振りですかね?」

 

 社長と夜見さんが軽く話をしていると突然夜見さんが俺の方に視線を向けた。

 

「あなたがマルチ先生?」

「初めまして、伴野源吾と申します」

「ふーん……『初めまして。多言語先生?』」

「「!?」」

 

 挑戦的な笑みを浮かべた夜見さんはアラビア語で俺に言葉を返してきた。どうやら彼女は俺を試そうとしているらしい。なので、こちらも抜かねばなんとやらの精神で

 

「『こちらこそ初めまして、ミセス夜見。お会いできて光栄です』」

 

 まさか返されるとは思わなかった夜見さんは驚愕したような表情をして、獰猛な笑みを見せた。どうやらとことんやるようなので俺もそれに付き合うことにした。

 

「『!! 驚いたわ……本当に堪能なのね……! ごめんなさい侮っていたわ』」(フランス語)

 

 まさかこの人次々と言語を変えていくんじゃないんだろうなと思いつつ、俺も少し意地悪のつもりで他の言語で話し始める。

 

「『いえいえ、気にすることはありませんよ。夜見さんは、こちらに何を?』」(ドイツ語)

「『もちろんあのモノリスよ! あれを解読するためにここに来たのよ! あなたは……あぁ、確か研修旅行だったかしら?』」(英語)

「『えぇ、そうです。お陰様で楽しませてもらっております』」(カルムイク語)

「『え……え? ごめんなさい。何て?』」(英語)

「『おや、失礼しました。楽しませてもらっていると先程は申しました』」(中国語)

 

 少しあたふたし始めた夜見さんを見て、流石に大人げないなと思い、そろそろ日本語に切り替えることにした。既に俺の後ろにいる社長やヒカリちゃんはポカンとしている。そして夜見さんは若干涙を浮かべながら、

 

「んぎぃいいい! 降参よ! 降参! 本当に噂通りの語学力っぷりね!」

「せ、先生……もう何が何だか……」

「まぁ……今のはほんの挨拶程度の内容だから、特に気にすることはないさ」

「「「気にするわ!」」」

 

 

 なんてことをしている内に、列が大分進み遂にモノリスが目の前まで来た。

 

「これが……」

「す、す、すっごおおおい!」

「何て大きいんだ……」

 

 

(さーて、何て書いてあんのかな……………………は? は?? は????)

 

 

「むむむむ……! すごい複雑ね……解読するのにも一苦労どころか二苦労要りそうね…………あれ? マルチ先生?」

「せ、先生!?」

「源吾君!?」

 

「あ……いや、何でもない……うん」

「流石に源吾君でも無理だったか」

「いやー、あはははははは……」

 

 

 結論から言おう。

 

 このモノリスには――超言い回しがクドイ官能小説が書かれていた。

 

 

 どぉおおおおしてだよおぉおおおお!?(魂からの叫び)

 

 

 俺はこの前の■■■■ちゃんとの邂逅の時よりも驚いている。悪い意味で。

 しかもこれの何がタチ悪いかって、言い回しが酷く回りくどいから下手したら予言として受け取られかねないところだよ! 言語学者も頭抱えるよこんなん! こんなん理解できるのこのモノリスの作者と俺しかいねぇよ!

 

 俺は頭を抱えながら、叫びたい衝動を抑えていた。

 

「『こちらのモノリスには、現段階ではこの先起こりうる未来を書き記してあるのではないかと推測されています』」

 

 違う。これに書かれているのは名も無き者が書き記した只の性癖のオンパレードだ。この先起こるどころか既に終わっていることなんだ……。

 なんだこれ……俺は何を見せられているんだ? なんでエジプトにまで来て赤の他人の性癖を見せられなきゃならない?

 

 しかもモノリスの最後の方に……『これが後世に残ってませんように』と書かれているが残ってるよ! バチクソ残ってるわ! これただの生き恥では……?

 

「すごいですね……ロマンがありますね……」

 

 あるのはこのろくでなし作者の性癖だけなんだよな……。

 

 俺のチートは『言語』であれば発現するので、このモノリスに彫られているのがこの作者が独自に開発したであろう言語であろうが、バチクソに理解できてしまう。……もう俺もこの言語を『理解』してしまったから『発音』できるんだけどよぉ……

 

「『……勘弁してくれよ』」

「え? それ何語!?」

 

 このモノリスの作者が性癖を書き記すためだけに発明した言語です。なんて口が裂けても言えないし、言いたくも無い。

 

「『ではこちらがこのモノリスの裏側です』」

「へ? 裏側?」

「え? このモノリス……裏側があるんですか!?」

「まさかの二重……!」

 

 おいおい……どうせこの作者の書いたことだ。どうせまた性癖を暴露しているだけなんだろうな……。と思いつつ足を進めて、モノリスの裏側のレプリカを見た。

 

 

■■■■■■■■■■との接触方法

 

 

(ほぁああああああああああああ!?)

 

 超特級危険物でした。それもかなりの。

 

「な……何が書いてあるのでしょうか……?」

「クソッ! 早く研究所に戻って解析したいッ!」

「……むぅ……何となく不気味な気配がするな……気のせいか?」

 

 修正。この作者とんでもない爆弾を残していきやがった。

 

 ■■■■■■■■■■との接触なんて誰が好んでするんだ!? クソッ! 確かに奴の本拠地はエジプトだが……。 兎に角この言語を『理解』しちまった俺はこの方法について知っちまった。また……俺の秘密が増えた……。

 頼むから俺以外に解読者なんて現れないでくれ……。(現れません)

 

 

 

 

「いやー楽しかったですね! あれ? どうしたんですか先生? そんなにやつれて」

「……ちょっと、お腹が空いちゃってね」

「ははっ、源吾君。大丈夫だ。この後は昼休憩だからそこで好きなだけ食べられるぞ!」

「あっ! そうか! 先生! 良かったですね!」

「……ウッス」

 

 早く帰りたい。出来ることなら今日の記憶を抹消したい。そう思ってもこの後は昼休憩の後にピラミッド巡りが待ち受けていたことを思い出した。……ジーザス。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

【第一回】地球報告会

 

35:管理者 ID:y1aAt8h4z

――以上が、局部超銀河団 おとめ座銀河団 局部銀河群 天の川銀河 オリオン腕 太陽系 第3惑星【地球】の調査結果です。

 

36:■■の■■■■人 ID:pk1CgPEEC

マジでこんな星があったのか……

 

37:■■の■■■■人 ID:go7JwnZ8F

ここまで綺麗な青色の星なぞ見たことないぞ

 

38:■■の■■■■人 ID:8mRBEOpQi

それに資料からも分かる通り相当の資源を持っているな

 

39:管理者 ID:y1aAt8h4z

これも我々の友である【バンノ・ゲンゴ】のお蔭です

 

40:■■の■■■■人 ID:+PS924tHi

ゲンゴのお蔭でこのゲームという物が入ってくるようになったからな……マジで面白いのなんの

 

41:■■の■■■■人 ID:cLo9CeAiE

子供にあげたらもう三日間はまり込んだよ……

 

42:■■の■■■■人 ID:KSyHDz/nX

>>41 それはしゃーない。俺達にゲーム機を作る技術はあってもこうしたアイデアは浮かんでこないからな。

 

43:■■の■■■■人 ID:ccdmOjFCN

どうしてACの新作が無いんですか!? 俺たちの戦闘用スーツを数十倍カッコよくした物に乗れているゲームの中の奴が羨ましくて仕方ないのです! もっと、ロボゲーを……闘いを……

 

44:■■の■■■■人 ID:gBjEKWQVr

>>43 あぁ……これが地球で言う【難民】か

 

45:■■の■■■■人 ID:OQyCoHUhp

>>43 気持ちは分からんでもない。かっこいいよなあれ。

 

46:■■の■■■■人 ID:qWoRto0ZC

そう思って技術部に申請したら、あいつら既に開発を始めてやがった……

【近未来的な工場でACらしきものが製造されている様子の写真】

 

47:■■の■■■■人 ID:UKr9/s/IT

>>46 早すぎん!?

 

48:■■の■■■■人 ID:PUsFGobX8

>>46 流石だ……

 

49:■■の■■■■人 ID:d9obOeqfc

あと、俺生体ユニットが欲しくて……

 

50:■■の■■■■人 ID:kBfurjV5g

俺も地球の料理が食べてみたいので申請したい

 

51:■■の■■■■人 ID:ufHvH5bkf

>>49 >>50 本来俺たちはああいう物を食べなくても大丈夫なんだがな……

 

52:管理者 ID:y1aAt8h4z

生体ユニットの件ですが、申請数が後を絶たないのでかなり時間がかかります

 

53:■■の■■■■人 ID:Y0cEWZ9Ct

>>52 あぁ……

 

54:■■の■■■■人 ID:SJDcGRMcE

絶望に暮れてて草

 

55:■■の■■■■人 ID:zNRUZIzUH

まぁ、俺たちに普段必要ない生体ユニットだからな。取り付けるのにも相当の時間がかかるだろうし、このスマ●ラって奴やろうぜ。

 

56:■■の■■■■人 ID:jR2AFhjBi

>>55 部屋立ててクレメンス

 

57:■■の■■■■人 ID:P95IBebwr

>>56 俺も俺も

 

58:■■の■■■■人 ID:/GUJfF1IA

>>55 部屋を立てるなら【所謂ゲーム板のURL】で立てなー

 

59:管理者 ID:y1aAt8h4z

では以上を持ちまして報告を終了します。

 

 

この後も地球の娯楽についての話し合いが続いた。




※実際にはこの作品のような内容が書かれているわけではありません。
エジプトについて曖昧な部分がありますのでどうかご理解を……

コメント欄のエジプトってあの【規制済み】の本拠地の1つじゃないか……。から思いつきました。
まぁ、『たまたま』そういう名前の存在がいたかもしれませんし、もしかしたら……ね? という妄想でした。

主人公
TRPGで例えるなら言語技能が全部カンストしている状態。新たに言語を学ぶとそれも即カンストする仕様。
この度個人が作ったどうしようもない言語を習得して頭を抱えることに


イムール星人

メト●イドのサイラックスのような外殻を纏っている金属生命体
機械化した惑星【イムール】にてどこぞの宇宙警備隊みたいなことをしている。
今回たまたま発信したメールに主人公が応えてしまったため、地球の様子見も兼ねてイムールの【管理者】が完全フル装備で挑んだ。主人公の精神は死んだ。

それから主人公のパーフェクトコミュニケーションで懐柔され、母星にゲームやら娯楽を〝ちゃんと〟地球から購入して持ち帰った。

その際友好の証として色んなオーパーツを主人公に渡した。主人公は目が死んだ。無論どれも現在の地球の科学力では到底開発出来ない物である。
どうやら生体から機械の身体に移行する技術を開発しているようだが……? ダレが機械になるんだろうナー(棒読み)


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遥かなる旅路、さらば主人公の胃よ

閲覧ありがとうございます!
朝起きる→スマホ開く→感想通知10数件→「ファアアアアアア!?」(スマホぶん投げる)→目覚める

日間一位って……マジすか……。
こんなに高評価貰ったことが無いので、マジでビビってます。

何とか期待に応えるべく頑張っていきたいと思います。
あと沢山のアドバイスありがとうございます! 全部感想は見させてもらっています! 本当にありがとうございます!

設定やらが曖昧になっている部分は後々修正したりしますのでご了承ください

それではどうぞ!


「『やぁ、我らの理解者よ』」

「」

 

 昼食の最中にトイレに行った帰りのこと。俺は現地のレプティリアンに話しかけられていた。

 見た目は褐色で頭髪を隠すスカーフである白いヒジャブを纏っている妖艶な女性だが、その瞳孔は人間であることを否定するかのように爬虫類のような縦線に開かれていた。

 

 どうやらかなり前にレプティリアンと友好関係を結んだ際に全世界にいるレプティリアンに俺の事が伝わったらしくこうして話しかけてくることがあるのだ。

 日本にいる時でも時々話しかけてくる奴らはいる。だがまさかエジプトにまでいるとは思いもしなかった。とりあえず相手の機嫌を損ねないようにフリーズしていた脳を動かし、話し始めた。

 

「『あ、ああ、久し振り、と言えばいいのかな?』」

「『そう畏まるな。我々は君と対等、だが君は唯一無二のメッセンジャーなのだから』」

「『そ、そうか。で、ここに何をしに来たんだ?』」

 

 すると目の前のレプティリアン……いや、シャキラ(人間としての名前)は微笑から一転して真顔になり、俺の耳元に囁くようにつぶやいた。

 

「『……君がここに来てから、ピラミッド内部の様子がおかしいという報告が先程届いた』」

「『……具体的には?』」

「『不可解な物音が聞こえる。それもまるであちこちを這いずり回るような音だそうだ。何かを探しているようだ。仲間の一人がそれを見つけようとしたが、結果は……駄目だ』」

「『……見つけられなかったのか』」

「『いや、正確には我々では感知が出来ない類だ。恐らくは……心霊的な側面でのアプローチが必要だ。君も気を付け給え』」

「『……感謝する』」

 

「あっ! 先生! こんなところで何やってるんですか!」

 

 ヒカリちゃんの声がしたことで俺は慌てて振り返った。どうやら想像以上に時間をかけていた俺を心配してきたらしい。

 

「いやー、ごめんねちょっと現地の人と話し込んじゃって……」

「まだまだ沢山料理はありますから! もっと食べましょうよ! 昼間までの体力が持ちませんよ?」

「あははは。分かった、分かった。じゃあこれ……で……」

 

 シャキラの方を振り返った時には、既にこの場には俺とヒカリちゃんしかいなかった。俺はヒカリちゃんに連れられるがままにテーブルに戻っていき、食事を再開した。先程のシャキラの言葉が頭の中でグルグル駆け巡ってつい、手が止まってしまう。

 

 ……マジで帰ろっかな……。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 ――どこだ。

 

 どこだ。

 

 我らの王の、復活に足り得る魂の持ち主は、あの異質な魂は、どこだ……。

 

 我らの王朝の復活はいずこか……。

 

 我らは、死んでも死にきれぬ。死を得て回帰したあの魂ならば……きっと、我らの王を……

 

 あぁ……魂を……その魂を……

 

 

 寄越せ

 

 

◆◆

 

 

 

 

「~~ッ!!」

「あっ、目覚めましたね先生! もうすぐですよ!」

「……夢か」

 

 マジで夢見が悪かった。というか悪夢を見ていた。俺の背中は冷や汗で濡れており、あれが夢だと気づき一息ついた。

 昼食の際の話が影響したからかピラミッドに向かう途中であんな悪夢を見るとか、マジで勘弁してほしい。一人だったら間違いなく叫んでいた。

 

 魂を寄越せって……死を得て回帰したって……完全にオカルト案件じゃねぇか……。

 胃が……死ぬ……胃は回帰するのか……?(謎発言)

 

 

 それから俺たちはピラミッドの手前で入場券を買い、遂にピラミッドをお目にかかることが出来た。ここが俺の墓標か……?

 

 アニメや漫画、テレビなどで見たことはあるが、実物はやはり違う。とはよく言ったものだなとつくづく思う。迫力とスケールの大きさが想像以上だ。辺りには大勢の観光客がおり、ピラミッドを背景に写真を撮る者や観光客に商売を持ちかける者もいた。そんな中

 

「えぇ~!? ピラミッドって登っちゃあいけないんですか!?」

 

 ヒカリちゃんが驚いているので、俺は毎年数人単位での死亡事故があったから禁止になったことと世界遺産の保護という目的の為に上らないようにしようねということを伝える。

 

 俺としては今すぐここから逃げ出したい。

 

「ヒエッ……た、確かに高い所から落ちたら、そりゃあ死亡事故も起きますよね……肝に銘じておきます……」

「『では、皆さまあちらの列に並びましょう! いよいよ内部に入り込めますよ!』」

 

 い、嫌だぁあああああ! 絶対何かあるだろ! 俺まだ死にたくねぇえええええええ!!

 

 

 

 

「凄かったですね……」

「……うん、そうだね」

 

 何も無かった。うん、何も起こらなかった。

 

 やっぱりあの悪夢は只の考えすぎだったようだ。現にこうしてヒカリちゃんとピラミッド内部で見た物についての各々の感想を述べていることからも、どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。

 

「はぁ……良かったぁ……(生きてて)」

「良かったですね! (ピラミッドが)」

 

 酷いすれ違いをしている気がするがどちらにせよ良かったのは間違いないので、特に何も訂正しない。今日は安心して熟睡できる、そんな気がした。

 

「さて、それでは明日はお土産を買って……日本に帰宅だ! 皆買いたい物を買うんだぞ?」

「わー! 楽しみですー!」

「……何買おうかな」

 

 俺は明日、何を買おうかを考えながら足を進めていた。

 

「おっと、落とした……」

 

 飛んできた虫を振り払おうとしてうっかり、手に持っていたパンフレットを落とした。仕方ないので地面にかがんで拾い上げる。そしてふと視線が今着ている服の内側に目が行った。

 

(あれ……? この服にも■■■■ちゃんの■■■■語が刻まれていたような……?)

 

 完全に無地になった服の内側を見て疑問に思ったが、生きて帰ってこれたこととあの悪夢は只の杞憂だったことから、俺は深くは考えなかった。

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

――源吾がピラミッド内部に入った頃

 

 

 見つけた。見つけた。

 

 あれだ、あいつの魂さえあれば

 

 

 薄暗いピラミッド内部にてそれらは目覚めた。この地に訪れたあまりにも異質な魂が、彼らの仕える王の復活に役立てるのではと、彼らは目覚めた。

 彼らは実体を持たない存在である。彼らの王への供物になりうるその存在を呪い殺すことでその魂を得ようとしたのだ。

 

 そうして訪れた最大の好機。周りに無数の人間がいるがお構いなし。これからこの男は発狂死して、その魂を肉体から出すだろう。その時こそ、我らの王が復活すると。彼らは考えていた。だが彼らは知る由も無かった……彼を守護するのは、彼らよりも遥かに格上の上位存在であることを。

 

 

 死ネ! 死ネ!

 

 彼らが呪いをぶつける。長年を掛けてその身に蓄積された呪いを一身にぶつけた。尋常な人間では当然死に至る。心臓は停止し、肺は機能せず、そして脳が死ぬ。それほどまでに強力な呪いだった。

 源吾は、周りの声がピラミッド内部に反響するせいか彼らの怨嗟の声を聞き取れず、完全に無防備だった。

 

 そして、呪いの塊が源吾にぶつかる。

 

 

 じゅわ……

 

 

 が、呪いは衝突する寸前でかき消された。亡者たちは驚愕した。確実に当たった筈だと。なぜ死なない、と

 

 そして、その原因が、源吾に加護を与えていたその何かが、出口に向かう源吾の足元の影から()()()()()()

 

 

 ぬるり

 

「『源吾の服に施してあった護符が反応したと思ったら……こういうことだったんだね』」

 

 源吾が背後を見ていたら間違いなく仰天する存在……■■■■が顕現した。

 ■■■■はぽっかりと空いた顔を周囲に向けて見渡す動作をした。その動作に呼応して黒い触手が蠢く。

 

 亡者たちは驚愕する。何だあれは、と。

 

「『……自分の仕える主のためってのも分かるけど……それとこれとは話が別』」

 

 触手が、影が、蠢き胎動し、数を、規模を増していく。亡者たちは必死に振り払おうとするが、まるで効果がない。

 

 心なしか周囲の暗さがさらに際立ち、重苦しい雰囲気が内部を満たす。■■■■のことが見えていない観光客も何かに怯えているようだ。

 闇は広がり、やがて亡者たちが為すすべなく絡めとられていく。彼らに表情があるとすれば、驚愕しているだろう。

 

 そして地の底から響く、地獄の声が彼らに死刑宣告を齎した。

 

 

「『源吾に手を出したな』」

 

 

 その瞬間〝闇〟が襲い掛かり、亡者たちは原型を留めずバラバラにされた。そしてバラバラにされた亡者を闇が■■■■の下に運んだ。そして

 

 ゴリッ ゴリッ……

 

「『うーん……熟成されていると言えば良いの……かな?』」

 

 僅かな咀嚼音と共に■■■■の顔の穴に吸い込まれていった。こうして彼らの長きに渡る執念は打ち砕かれたのであった。

 しかし源吾はこのことを知らない。いや、知らない方が良かったのかもしれない……。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「――てな感じで。最後になりますが、エジプト旅行は楽しかったですね」

 

 

 リスナー:いいなー

 リスナー:行きてぇよ

 リスナー:クッソ楽しそうで草

 リスナー:しれっとDIOと戦ってそう

 リスナー:↑もしそうだったらこんなに早く帰れてないんだよなぁ……(乗り物事故的な意味で)

 

 あれから日本に帰った俺は早速雑談枠で配信を行い、エジプト旅行の思い出(一部カット)や旅行する際に役立つ会話の例文やマナーを話していた。個人的に色々あったが割と楽しかったのでヨシ!

 

「さて、今日はここまで」

 

 リスナー:俺も行こうかな

 リスナー:四人集めてからにすっか……

 リスナー:たぶん社長と同じこと考えてて草

 リスナー:ちょっとエジプトで賭けしてくる

 リスナー:↑おいおいおい魂取られるわコイツ

 

 

 こうしてエジプトから帰宅した後の配信を終えた俺は一先ず、次のネタは何にしようかなと考えていた。すると俺の携帯が鳴った。発信元は……俺の母親だ。

 

「もしもし?」

『もしもし? 元気?』

「こっちは元気。そっちは?」

『こっちも元気よ。もうそろお盆だけど……帰ってくる予定はある?』

 

 そう言われた俺はふとカレンダーを見る。お盆休みは一応ある。3日だけだが……久し振りに実家に帰るとしようと思い、母にその旨を伝える。

 

『あらそう! それはよかった! 今年のお盆はね? お稲荷様を迎え入れる行事があったのよ』

「……お稲荷……様……?」

『忘れちゃったの? ほら、5年ごとに山奥の神社にいって、お供え物をしていたじゃない!』

「……あぁ! 思い出した思い出した!」

 

 そう言えば前世でも親が生きていたころから5年おきに山奥の神社に行って供え物を備えていたことを思い出した。しかし親が死んで以降は、あまり行かなくなっていた為、すっかり忘れていたのだ。

 それから母と他愛のない会話をしていた時、ふと母が何かを思い出すかのように話し始めた。

 

『それにしても懐かしいわね~……源吾はよくその神社の付近で遊んでいたわね~』

「あぁ……懐かしい」

『それで夜もすがら遊び惚けて、家に帰るころにはもうくったくったで……ご飯もペロリと平らげちゃったのだから』

 

 そう言えばそんなことがあったなと思いつつ、俺も軽く昔のことを思い出し、母と笑う。

 しかしその後、母が少し神妙そうな声色で俺に話しかけてきた。

 

『でもね……今だから言えるんだけど……ちょっと不思議だったの』

「何が?」

『ほら、源吾がいつも遊んできた……『キッちゃん』だったかしら?』

「……あぁ……確かいたような……確か、白いワンピースに、黄色の髪の毛の……」

『そうそう、その子なんだけどね?』

 

 俺の脳裏には白いワンピースに向日葵のように黄色の髪の少女が過っていた。いつも頭をすっぽり隠すような帽子を被っていたのも印象深い。確か俺が高校の為に上京してから……いや、もっと前から全く会ってなかったが……。

 などと俺がその少女について考えを巡らせていると、母から衝撃の事実を聞かされた。

 

 

『――当時の村には源吾以外の子供はいなかったの、だからその『キッちゃん』って誰なのかなーって……』

 

「……え?」

 

 え?

 

 

『あとね? 最近やけに天気雨が多発しているの……それに、何か山が賑やか……? なのよ、不思議ね……』

「え」

 

 

 ――電話の奥で微かに狐の鳴き声が聞こえた。そしてセミの鳴き声と僅かな雨音も。




主人公
一難去ってまた一難とはまさにこのこと。亡者たちからすれば極上どころか至高の領域と言えるくらいのやばい魂らしい。

幽霊、宇宙人ときたら後は……。
遂に■■■■ちゃんが動いた。あの服の文字は所謂護符みたいな物です。あの後亡者たちはムシャムシャされました。

また最近になってやけに赤スパが増えた。たまに文字化けしてる。それに伴い頭を抱える回数が増えた。

キッちゃんとは〝何か〟を約束していたようで……?


シャキラ
たまたま現地で潜伏していたレプティリアン。ピラミッド内部の様子がおかしいことに気づき原因を探った。そしてその原因が主人公であることを知り、注意喚起をしに来た。この後仲間を集めて赤スパした。主人公はさっさと横になった。

レプティリアンは科学では優れているが、まだ■■■■ちゃんとかの幽霊を認識できる段階ではないという設定があります。

見た目は遊●王のイシズに近い。


亡者たち
眠りについていたら、やばい魂の波長を感じ取り、転生した存在であると勘づく。主人公を殺してその魂を使って王を復活させようとした。
しかし■■■■にムシャムシャされて全滅した。


■■■■
ムシャムシャしてやった。初めてできた友達の命の危機に参上し、もれなく亡者たちを食べた。熟成された燻製肉のような味がするらしい。


キッちゃん
黄髪で、白いワンピース、そして頭の麦わら帽子という男たちの理想。浮かび上がる存在しない記憶により「幼少期……確かにこんな子がいた気がする」と訴える人がいるとか。
どうやら前世でも今世でも小さい頃の主人公と遊んでいたようだが……?


ところで天気雨って『狐の嫁入り』って意味があるそうですね。まぁ別になんてことはないのですがね()

余談ですが、前世で主人公が死ぬ原因となった飲酒運転のトラックの運転手は、事件以来夜な夜な狐に食い殺される夢を見て遂には自殺したそうですね。いやー怖いなー()


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【FPS】12時間コラボ配信

閲覧ありがとうございます!

感想の返答が出来ていませんがちゃんと全部見ております! ありがとうございます! 期待に応えられるか毎回毎回不安になりつつありますが頑張っていきます!

今回は不足気味と指摘されたV要素多めです。

それではどうぞ!


 実家に戻ったら戻ったでヤバいことが起こることが確定して帰りたくなくなってきた今日この頃。

 俺はお盆休み前の最後の企画として12時間ぶっ通しのゲーム配信を行うことになった。しかもコラボで。

 

 正気か? と言われるかもしれないが、相手側がかなり乗り気だったことであっさり企画が通ってしまったのだ。今回やるゲームは神経を使う為、俺の正気が尽きて()()()()地球外の言語や言葉にするだけヤバい言語を漏らすのが先か、この部屋の冷蔵庫にぎっしり詰められたエナジードリンクが全て空になるかの闘いでもある。エナジードリンクの効果が尽きたら俺は色々とヤバいという訳だ。

 

 そうこうしているうちにもう開始数分前になったので、相手側と連絡を取りながらマイクやPCの様子を確認し、配信の時を待った。そして、きっかり0時になったタイミングで俺はいつもの様子で挨拶した。

 

 

「はい皆さんこんばんは。今日は予告していた通りコラボ企画ということで12時間ぶっ通しでやることになりました」

 

 

 リスナー:こんばんはー

 リスナー:正気じゃない定期

 リスナー:コラボで12時間とか頭おかしいよ……

 リスナー:おいおいおい死んだわコイツ

 

 

「それではコラボ相手である……ブラッディ・アリュカードことアリュカードさんです」

「皆のもの! 苦しゅうない! 私が来た!」

 

 高笑いをしながら画面に映ったのは、吸血鬼系VTuberことブラッディ・アリュカード。

 灰色の長髪に血のように真っ赤な目、そして黒を基調としたゴスロリを纏っている少女のアバターを持つ彼女は、まるで支配者のような挨拶をしている。ちなみにそのスキンは自作らしいが、生憎俺はそんなスキルは持ち合わせてないので、事務所にいた絵師さんに書いて貰ったものをずっと使っている。

 

 また彼女は化け物みたいなスタミナを持っていると言われており、例えばとある24時間企画をしていても最後の最後まで一切疲れを見せなかったり、その配信をした数時間後にはしれっとまた長時間の配信をしていたりなど彼女が休んでいる光景を見たことが無いと言われているのだ。

 なおそのことを社長と話していたら「事務所のネットの管理、ホームページ作成、新人指導……等々をほぼ毎日行っていた君に言われてもねぇ……あっ私も私で仕事があったねアハハハ」と乾いた笑いと共に言われてたりする。それに対して俺も笑っていたが、この光景を見ていた後輩たちからは俺たちの目が死んでいて怖かったとかなんとか。

 

 

 話を戻して、コメント欄ではアリュカードの登場に湧きあがっており、今が深夜0時とは思えない程の人気ぶりだが、明らかに外国人の比率が多いことは気にしないことにした。多分俺関係だろうな……。

 

「ではでは、早速やっていきましょうか。この12時間を」

「いえーい!」

 

 

 リスナー:先生の目が死んでそう

 リスナー:教師が12時間勤務……リアルっぽくて……なんか、やだな……

 リスナー:社会の闇を見た

 リスナー:おうちに帰りたいなりぃ……

 リスナー:苦行かな?

 

 

「ま! 私に掛かればどんなゲームも何時間だってやれるとも!」

「……ここにとあるオープンワールドのパズルゲームがありましてね」

「噓噓! 冗談! それは流石に勘弁!!」

 

 

 リスナー:即 落 ち 二 コ マ

 リスナー:ただの苦行はやめろぉ!

 リスナー:申し訳ないが、ただの地獄はNG

 リスナー:吸血鬼すらビビるゲームは草

 

 

 アリュカードがビビっているが、このゲームは確かに苦行でしかなかった。一度配信をしたが、あまりの難易度と最悪の初見殺しがてんこ盛りに詰め込まれているこのパズルゲームは、それはもう、精神的に死にかけた。それは彼女も同じようで、声を震わせて、全力で拒否の意を示していた。かく言う俺も配信をした日のことを思い出して胃が痛み始めた。何で自分の古傷を抉っているんだ俺……(正気)

 

 ちなみに俺がこのゲームの配信を終えたあと、何故かこのゲームの購入者が爆増し、つい最近アップデートもされたのだ。ちなみにちゃんとそれも含めて配信した後、さらにRTA配信もした。心が死にかけた。

 

「いや、だって……もうやりたくないんだもんッ!!」

「私だってやりたくないですよ。これだったらまだFPSをやってた方が数百倍マシですよ。これ2時間やるかFPS12時間やるかを選ぶなら、迷いなくFPS選びますね」

 

 

 リスナー:そういやこの人たち完走していたんだった……

 リスナー:どうして自分を苦しめる毒を持ちだしたんです?

 リスナー:↑人外だからさ

 リスナー:ナチュラルに先生を人外扱いしてて草

 

 

「あっ、それはそれとしてこのゲーム、()()やりごたえがあったので皆さんも買いましょう。そして私と同じくRTAしましょう」

 

 

 リスナー:じょ、冗談はよしてくれ(震え声)

 リスナー:じゃ、じゃあ俺、FPSして帰るから……

 リスナー:た だ の 地 獄 絵 図

 リスナー:だれも救われないのやめろ

 リスナー:俺はまだ死にたくねぇ!

 

 

 軽く小話をしたところでゲームのロード画面が終わり、いつでも開始できるようになった。ちなみに最初にやるのは最近人気の『ACE Heros』というゲームだ。

 このゲームは所謂バトルロワイアルゲームで、最大3人で1つのチームを組んでチャンピオンを取るゲームだ。そしてこれから俺とアリュカードは2人一組つまりデュオモードでプレイする。しかしただプレイしただけでは盛り上がりに欠けるのではないかと判断し、キャラの完全ランダム化や相方の蘇生禁止、最初に拾った二つの武器種以外の使用を禁止、チーターやチーミング等と遭遇したら逃げずに戦う……等々の縛りを設けた。そしてこれらを説明したら視聴者にドン引きされた。

 

「さて、ではやっていきましょう」

「刮目せよ! 我らの蹂躙劇を!」

 

 

 

 

 

「――さて、困りました。完全に囲まれましたね」

「私達のいるこの家の周りに少なくとも5チームはいる!? なんで!? 助けて!」

 

 あれから10時間が経過して神経をすり減らしていた頃、この間にもたまたま入り込んだ室内の中にありったけのグレネードを投げ込まれたり、全方位からスナイパーで狙われたり、たまたま近くから飛んできた流れ弾が脳天に当たってアリュカードが死んだりもした。巻き添えを食らってまたアリュカードが死んだりもした。

 そして時間的に最後になりそうな今、俺たちはとある一軒家に入り込んだのだが、気づいたら家を5チームぐらいに囲まれていた。今も

 

 とは言え流石にチーミングかその類では無いかと疑ってはいる。あからさまに互いにやり合わず、明らかに互いに射程圏内に入っているのに撃ち合わないからチーミングだろうな。

 

 リスナー:草

 リスナー:何をやったらここまで囲まれるんだ……

 リスナー:うわぁ……

 リスナー:これはチーミングですねぇ……

 リスナー:運悪すぎて草

 リスナー:死んだな(確信)縛りの「チーミングから逃げない」で戦わなきゃいけないし……

 

 

「しかも全員こっち狙ってない!?」

「まぁ……私達は袋の鼠ですからね……そりゃあ狙いたくもなりますよ。あ、グレネードお願いできます?」

「私に任せよ!」

 

 敵が少し近くにまで迫ってきてるため、アリュカードにグレネードの投擲をお願いした。アリュカードが意気揚々とグレネードを窓から構える。これでダメージを受けて顔を出してくれればいいが……。と思い銃のリロードをしていたら、

 

「は、は、は……はっくしゅ! あ」

「え」

 

 

 リスナー:あ

 リスナー:あ

 リスナー:ふぁ!?

 

 

 アリュカードがグレネードを投げる寸前、可愛らしいくしゃみをした。その結果恐らくマウスが思いっ切り下にずれて……カランと音を立てて、グレネードが俺の足元に転がってきた。……え?

 

「し、し、しまったぁあああああああ!!」

「不味い早くここから離れry」

 

 先の戦闘で消耗していた為、即座に家から飛び出ようとした。だが間に合うはずも無く

 

「ぎゃああああああ!!」

「ほぉああああああ!?」

 

 無論爆発した。

 

 この爆発によってアリュカードは死んだ。俺はというと……ギリギリ生きていた。ただし死の一歩手前、所謂オワタ式といった所だ。俺が何をしたって言うんだ……。

 そしてこの状況で1人が爆死し、1人が瀕死(ライフがあと一桁)になったので間もなく全員がこの家に攻め込んでくるだろう。

 

「や、やってしまったぁああああ!?」

 

 

 リスナー:草

 リスナー:ガチの戦犯で草

 リスナー:先生もう死ぬ寸前で草

 リスナー:これは酷い

 

 

 画面では俺の体力バーが僅かな欠片のみを映しており、完全に無理ゲーといった所だろう。ちなみに負けたらこのゲームに5万円課金することになっている為スリル満点といった所だろう。

 

「えー……これどうしましょうかね……回復も先の戦闘で使っちゃいましたし……」

「あ、あわわわわわ……」

 

 

 リスナー:今の状況をスペイン語でオナシャス

 

 

「『マジで死ぬ3秒前』」

 

 

 リスナー:草

 リスナー:即答できる辺り流石としか言いようがないですね

 リスナー:これ……どうすんの……?

 リスナー:なに食らっても死ねる体力

 

 

 いやー……どうすればいいんだろうな……。1人はもう完全にノックアウトしているし、縛りが無ければこのまま逃走したいものだ。だがここで逃走するとさらに2万円課金することになるため、正直それは避けたい。課金した所で買うアイテムがもう無いことと、精神的なダメージもやばいからだ。

 

 

 リスナー:やって見せろよ! マルチ先生ェ!

 リスナー:何とでもなる筈だ!

 リスナー:ソロだと!?

 アリュカード:がんばれ♡ がんばれ♡ 人間の可能性を見せて♡

 リスナー:↑お前がやらかした定期

 リスナー:他人任せで草

 

 

「……何とかしてみせましょう」

 

 リスナーからの赤スパ……アリュカードからも赤スパが来てたが、それは放っておく。俺は残り少ない弾薬とアイテム、スキルのクールタイムを確認して家を飛び出した――!

 

 

 

 

 結論。勝った。

 

「いやー……何とかなりましたね。流石に疲れました……アハハ……」

 

 リスナー:うっそだろおい……

 リスナー:ほんとに何とかしやがった……

 リスナー:流石だぁ……

 アリュカード:(無言の赤スパ)

 

 

 俺が無事あの鬼畜陣営を退け、更にチャンピオンまでなった瞬間えげつない勢いでスパチャと賞賛コメントが流れてきた。正直今の俺にはそれを確認する余裕はなく、張りつめた緊張感が緩み、その反動で呆然としている。だけどこれだけは言わなければいけないと思い、それを口にする。

 

「……アリュカードさんには後で〝課題〟を出します」

「そ、それだけはお許しをぉおおおお!!」

 

 

 リスナー:草

 リスナー:当然の報いなんだよなぁ……

 リスナー:自爆したアリュカードが悪い

 リスナー:全てのFPSプレイヤーが参考にするべき動き方

 リスナー:誰も真似できない定期

 リスナー:人間卒業試験やめろ

 

 

「それでは丁度12時間経ちましたので……これにてコラボ企画は終わりにします」

「皆の者! おさらばじゃ!」

 

 

 リスナー:乙

 リスナー:おっつ、楽しかった

 リスナー:やはり素晴らしい……

 リスナー:生身でこれか……やはり素晴らしい……

 

 

 俺は最後までコメントを確認することなく、配信を終了させてそのままベッドに倒れ込んだ。

 

 全身に伝わるどうしようもない疲れに対して思わず口にする。

 

「あー……小学生の頃とか、なんであんなにゲーム出来たんだろうな……あの時の気力が欲しい……」

 

 枕に頭を乗せてからすぐ、俺の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 12時間コラボ配信から数日後。

 

 俺は実家に手ぶらで帰るわけにはいかないので、土産を買いに行っていた。デパートでは俺と同じように土産を買いに来ている人が大勢いたりして最初に目当てにしていた物が売り切れていたりしたが、何とか済ませることが出来た。

 

 そして良い時間帯なのでデパート内のカフェで休んでいた。

 

「すみません。相席宜しいでしょうか?」

「あっ、いいですよ」

「失礼します」

 

 そう言って俺の前に俳優のような渋い顔つきをした男性が腰掛けた。この暑い中ビジネススーツを着ているのは少し違和感を覚えたが、周りは全席満席状態なので、俺は相席を承諾した。そして席に着いた男がコーヒーを頼み終えると、男は丁寧な所作と言葉遣いで俺に話しかけてきた。

 

「相席、感謝します」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 そして僅かに微笑んだかと思うと、

 

「『流石はイムール星人の同盟者ですね』」

「!?」

 

 突然俺の知らない言語で話しかけてきた。俺はその内容を理解して、驚愕していると。

 

「『ああ、気にしないでください。私は別に君と敵対しにきた訳ではありません』」

「『……あ、アンタは一体……!?』」

「『いえいえ、私……こういう者です』」

 

 そういって男は懐から二枚の名刺を取り出した。1枚目には日本語で【株式会社クォーツァー 課長補佐 立玄 石星(りゅうげん せきほし)】と書かれており、もう片方はと言うと……

 

 

「『【リゲン星出身 超特殊バクテリア生命体 イシノヴァ】……!?』」

 

 

「『お初にお目にかかります。そちらにも記載されている通り、私……いえ、()()はイシノヴァと申します。以後お見知りおきを』」

「『あ、あぁこちらこそ……よろ……しく?』」

 

 目の前のイシノヴァはどう見ても只の会社勤めのサラリーマンにしか見えないと思い、少し顔を凝視していると、イシノヴァが苦笑したかのように笑い

 

「『そんなに警戒しないでください。私達は先も申し上げた通り、敵対する意思はありません』」

「『じゃ、じゃあ何が目的で地球に来たんだ?』」

「『端的に申し上げれば……それがリゲンという種族の定めなのです』」

 

 俺が頭に?を浮かべていると、イシノヴァは次のように語った。

 

 イシノヴァの故郷のリゲン星は、星自体の体積が非常に小さく、それこそ地球と比較しても大分小さいらしい。

 そしてリゲン星人はその星に存在するバクテリア状の生き物が無数に合体した生命体であり、彼……いや彼らは生まれて間もなくリゲン星を捨ててどこか遠い星に旅立つ生態をしているとのこと。目の前のイシノヴァも今は地球人の形を保っているが、実際は無数のバクテリアの集合体であるという。

 

 そしてリゲン星人は故郷から飛び立ち、あちこちの星に根付くと現地人の姿、言語、そして仕事を覚え、そこで一生を暮らすらしい。あくまでも〝生きる〟その行動原理が細胞に深く刻まれているとイシノヴァは語った。曰く「生まれてから旅をする為だけに生きている存在」、「リゲン星は私達が旅立つための発射台のような物」とのこと。

 

 そして彼らの特徴はその圧倒的な学習能力と適応力であると言い、イシノヴァのように二足歩行型である者や四足歩行に特化した者等多岐にわたるとのこと。彼らの寿命は降り立った星によって変わるが凡そ数百年は余裕で生存できるとのこと。ちなみにイシノヴァは酸素に適応するのにかなり時間と労力がかかったと苦笑交じりに語った。

 

「『私達はこの星に根付き、この星で育ち、そしてこの星で死ぬ定めなのです。あまり想像できないようですが、私達はただ〝生きる〟為にこうした変化を遂げたのですよ』」

「『なるほど……で、どうして俺のことを知っているんだ?』」

「『この地球に来る前にイムール星人の1人と知り合いましてね。『地球に同盟者がいる、彼は君たちも歓迎するだろう』と……太鼓判でしたっけ? それを押されたので、興味が湧いて来たのですよ』」

 

 そう言ってイシノヴァは僅かに微笑み、再び懐に手を入れ、今度はスマホを取り出した。慣れた手つきで操作し始め、とある画面を見せてきた。俺のチャンネル画面だ。ご丁寧にチャンネル登録と通知をオンにしていた。

 

「『そして、私達はあなたのファンでもあります』」

「『……ご丁寧にチャンネル登録してくれてありがとうね……』」

「『私達もすっかりハマってしまいましてね。明らかに地球人の中で突出した君の潜在能力には毎回驚愕させられているので……次回も楽しみにしてます』」

「『あ、あぁ……期待しててくだ……さい?』」

「『あと、それと……これを』」

 

 そう言ってイシノヴァは色紙とペンを出してきた。

 

「『日本語とリゲン語で私達にサインをしていただきませんか?』」

「『……おっけー』」

 

 この後サインをした後、近くのファミレスで早めの夕食を取った。ちなみにイシノヴァは滅茶苦茶食った。既にステーキセットやピザ、蕎麦、カレーを頼んでおりその皿が机を埋め尽くしていた。

 

「『どんだけ食うんだよ……』」

「『私達は所謂食い貯めが出来る構造になっておりましてね。こうして大量に摂取することで娯楽への時間を増やせるのですよ』」

「『娯楽ガチ勢かよ』」

「『後は仕事ですね。最近忙しくなってきたので常に最高のクォリティを保ち続けるという目的でもこうして過剰に摂取してますね。誰かが言いましたね「労働はクソ」と』」

「『……どこも同じなんだな』」

「『これは地球の悪徳ですね。ですがその後に待つ娯楽や食事は格別じゃありませんか?』」

「『全く以てそう思う』」

 

 この後連絡先を交換して、解散した。ちなみに俺が払ってあげた。ファミレスで諭吉数枚が飛んだのは初めてだ。




主人公
新たな友人(バクテリア)が出来た。この後友人の会社を調べて、かなりの大手企業であったことを知り、何とも言えない感情に襲われた。
この次の日、実家に帰る予定。


イシノヴァ
簡単に言えば、無数のバクテリアの集合体。なので一人称が「私達」

それぞれが思考能力を備えている為異常な程の適応力と思考の速度を可能にしており、更に高度な擬態能力を兼ね備えており、背景と同化して透明になることも可能。

偶々流れ着いた地球でどっぷりと娯楽に嵌ったバクテリア。地球に流れ着く際にイムール星人から「あいつ凄いから」と言われたので配信を見たら嵌った。

見た目は30後半か40代の中年の渋顔でその丁寧な物腰も相まって社内では人気のよう。

モチーフは言わずもがなシン・ウ●トラのメ●ィラス星人。皆も見よう(ダイマ)


ブラッディ・アリュカード
吸血鬼系のVtuber。調子に乗ってはいつも逆転されるのが定めで、視聴者はそれを見に来ている。

またスタミナお化けであり24時間配信後にしれっとまた長時間の配信をしたり、自分で切り抜きの編集をしてたりする。

鋭く尖った犬歯をしていたり、夜道で目が真っ赤に輝いてたり、日光を忌々しい表情で見つめていたり、何故か血の匂いがするが、なんてことはない()


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上位者に負けない……そう思っていた時期が俺にもありました

閲覧ありがとうございます!

いつも沢山の感想と高評価ありがとうございます!
主人公のチートに関しての考察が多々見られてとても楽しいです。

一先ずこれで第一部は終わりといった感じです。

それではどうぞ!


「間もなくー、○×駅ー、○×駅でーす。お出口はぁー左側です」

 

 独特のアナウンスを聞いた俺は電車から降りる。都会と比べて少しボロボロで寂れた印象の駅が俺を出迎えた。俺は故郷についたのだ。

 真夏真っ盛りの日差しが痛いほどに俺を突き刺してくる。マジで生物が生存できるような温度では無いと思うんですよ。

 

 俺は駅に取り付けられた古いタイプの自動改札機を通り、照り付ける太陽に目を細めていた。

 

「暑っっっっっつァ!! は、早くタクシーを…………ここタクシー無いんだった……フ●ック!」

 

 1人でコントをしていても仕方ないので、実家まで歩くことにした。実家までは徒歩1時間と結構距離がある為、ただの地獄でしかない。夏は照り付ける日差しと地熱で上も下も焼かれ、冬は積もる雪とこごえる風に身を蝕まれるのだ。

 我ながらよくこんな田舎で生きてこれたなとつくづく文明の利器の偉大さに感銘を受けつつ足を進めた。

 

「くっそ……マジで熱い……それに家に行っても嫌な予感がするんだよな……」

 

 数日前の母との電話の際に聞いた異常に起こる天気雨とキッちゃんという確実的不穏要素の数々に嫌な予感がしつつも、このまま家にたどり着かなければ何が起こるか分からない為、今もこうして歩いている。気分はエジプト旅行さながらだ。

 ついこの前までは梅雨だと思っていたら既に猛暑が到来し、俺の家では既に冷房が酷使無双されている。しかし今は実家に向かっている為、家は冷房が利いていない灼熱地獄に成り下がっているだろう。帰るのが……億劫になってきた。

 

「……あーあー……。どうせならこのまま天気雨降んねーかなー……それも土砂降りで」

 

 そんな訳ないかと自嘲している(フラグ建設完了)と――超土砂降りになった。天気雨で

 

「なんでじゃああああああああ! フラグ回収早すぎだろォオオオオオ!?」

 

 俺は生憎傘を持ってきてない為、全力で走らざるを得なかった。

 

 降り注ぐ豪雨が……ぬるい! とにかくぬるいのだ! こんな日が照る中で降り注ぐ雨はまるで水と熱湯の中間のようなぬるま湯に仕上がり、何とも言えない気持ち悪さを俺に与えて来る。加えて日差しは継続中な為、ただの苦行でしかなかった。

 

「アッアッアッぬるい! 熱ぅい! ぬるい! 熱っぅううううい!? 環境変化についていけないって! 天候はどうなってんだ! 天候は!?」

 

 この後俺は全身を濡らしながら必死に実家に向かって走った。その間脳内では走馬灯のように様々な存在しない記憶が沸き上がっていた。ACの新作が出た、ガチャでSSR2枚抜きした(一回も2枚抜きしたこと無い)、俺の身体が改造されて仮面をつけたバイク乗りのように変身! できてしまうこと、何故か、吸血鬼になったり等々明らかに現実離れしたものが浮かび上がってきた。

 

「――俺の走馬灯可笑しいだろ!? なんで存在しない記憶しかねぇんだよ!? しかも途中で俺人間卒業してたし……熱っちゃあああああ!?」

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「はーっ、はーっ……やっと着いた……。体が……ぬちゃぬちゃして気持ち悪い……」

 

 あれから全力疾走した俺は、漸く実家にたどり着いた。俺の身体は汗とぬるい雨でぐちゃぐちゃにされており、ハッキリ言ってさっさと風呂に入りたい気分だった。

 

「『神よ……何故私にこのような試練をお与えになるのですか……?』」

 

 思わず英語で喋りたくなるぐらいには消耗した。ともあれ俺は都会ではあまり見ない引き戸を横にスライドする。田舎特有の木の香りと梅を干している香りが漂い、懐かしさに身を震わせていると奥から髪を纏めてポニーテールにした俺の母がやってきた。

 

「お帰り……って! あんたどうしたの!? その服と汗!?」

「……取り敢えず風呂に入らせて……」

「み、水風呂で良いなら……」

 

 

 

 

「はー……生き返った……」

 

 水風呂から上がった現在の俺は、半袖短パンの完全クールビズスタイルだ。これをスタジオとかでやった際にはスタッフ一同仰天物だろうなーと思いつつラムネアイスを頬張っていた。ラムネとソーダの味がマッチして気持ちええ。

 

 縁側には俺のびしょ濡れになった服を洗濯して干している母の姿があった。梅干しの匂いが染みつかないように配慮してくれるのは本当にありがたい。母は俺の服を干し終えると、呆れた様子で俺に話しかけてきた。

 

「本当にどうしたのよ……こんなお日様の中でびしょ濡れになるなんて」

「少々どころかえげつない勢いで降ってきた天気雨に濡れて……」

「……あっ! そうだわ! 天気雨といったらね……」

 

 俺が噓偽り無い出来事を話して、リラックスしていると母が突然何かを思い出したかのような反応を見せた。

 

「あんた何で言わなかったのよ!」

「ふぁにが?(アイス咥えながら)」

 

「源吾の婚約者がわざわざ一人で来てくれたのよ!」

 

 ふーん。婚約者ねぇ………………え?

 

 

「え?」

「あんたねぇ……自分の婚約者のことを忘れちゃったの!? あんな可愛くておしとやかで、料理も上手なあの子を!?」

「い、いや、ちょ、ちょちょっと待って!? え? ここに、え?」

 

 混乱している俺を余所目に母が俺の下に一枚の白いファイルのような物を運んできた。嫌な予感がする……。

 

「ほら! これを見なさいよ!」

 

 そして母が俺の眼前にファイルを突き出して、そのページを開くと中には……白無垢に身を包んだ、向日葵色の髪をした少し小さめの女性…………うん?

 

「????」

「ほら、本当に可愛いわよねぇー。源吾と電話したすぐ後からだったかしら? ここにね……『初めましてお義母様。わたくしは伴野源吾様の妻で御座います。夫がいつもお世話になっております』って」

 

(一歩どころか千歩先に行かれてたぁあああああああ!!)

 

 

 まさか既に挨拶も済ませられていたとは露知らず、俺はただただ顎が外れる位に驚愕していた。行動が早すぎる……ッ! メタルなスライムよりも速くないか!?

 内心ビビり散らかしている俺を置き去りにして母は次々とその内容を語りだす。

 

「それからねぇ……ここに来ては家事を手伝ってくれたり……美味しい料理を振る舞ってくれたりしてね……」

「待て待て待て! え、母さんはそれでいいの!?」

「何言ってるの。あんないい子が源吾を数十年間慕ってくれたのよ? 私は大賛成よ」

「じゃ、じゃあ親父は!? あの人、割と頭硬かったろ!?」

 

 俺の親父は所謂頑固者で、自分の芯を通し過ぎる人、兎に角真っ直ぐだったが不器用そんな人だった。母も親父のそんなところにほれ込んで結婚したらしい。また親父は俺が都会で仕事をすると知った時、

 

『何で許してくれねぇんだ親父! 俺を納得させる理由があるんだろうな!』

『都会に行って何がある源吾。確かに食事には困らない、移動手段は豊富、便利な機械が……………………あるぐらいだ』

『ちょっと心揺らいでんじゃねぇか!』

 

 この後俺は親父にバックドロップや背負い投げ、バックドロップにバックドロップ……を食らったが、最終的に都会行きを勝ち取ったのだった。……今思えばバックドロップ食らいすぎだろ俺。ちなみにしこたま母に怒られた。

 そして母さんによると親父は自分たちから離れていく俺のことが心配で心配で仕方なく、素直に口に出せない性分が災いしてああなったという。不器用にも程があるだろ。

 

 で、そんな堅物の親父が果たして許したのか、と母に問い詰めると

 

「父さんなら狐子ちゃんの手料理を食べて、『……息子を頼む』って」

「クソッ! やられた! 親父も母さんの手料理にやられたんだった!」

「あと咲もね『お兄ちゃんをお願いね』って」

「外堀をコンクリートで埋められた!? いくら何でも早すぎるだろ!」

 

 咲とは俺の妹で、華の高校2年生だ。母譲りの美貌の自慢な妹だが、まさか咲すらも攻略されてたとは思いもしなかった。読めなかった……この源吾の目を以てしても!!

 

「あっ、そうだわ。この後あの神社で待っているって伝言も預かっていたから早く行ってあげなさい」

「アッ…………ハイ」

 

 どうやら俺の退路は完全に塞がれたようだ。俺は既にアイスが無くなった棒を咥えたまま呆然としていた。

 

 

 

 

 あれから俺は、キッちゃんこと狐子が待つ神社に向かった。あろうことか俺が行動を起こす前に既に行動を起こされていたどころか外堀を完全に埋められていたことに胃が悲鳴を上げながらも、その重い腰をあげながら俺は山奥の神社に向かった。これが娶られって奴ですか……。

 ちなみにあの後色々と言ったのだが、母に「彼女どころか同年代の女友達が出来たことが無いあんたに女心が分かるのかしら?」と言われ、精神的に母に負けたことを悟った。やっぱつれぇわ……生放送で「彼女出来たことありますか」と視聴者からの質問に「出来たことないですね」と即答した時並みにつれぇわ……。

 

 

 そして自分で自分の精神を抉っていると、漸く神社についた。古ぼけて色が脱色した鳥居とボロボロになった石造りの階段が懐かしさを誘う。

 

「懐かしいな……中学以来か、ここに最後に来たのは…………で、いい加減無視するわけにはいかんよな……」

 

 そう言って俺は必死に目を逸らそうとしていたが、流石に無理だったので鳥居の後ろから僅かに見える黄色い毛並みに視線を向ける。明らかに鳥居をくぐった瞬間に拘束されるんだろうな、と思いつつこのまま帰ったらどうなるんだろうなー。と思いふと来た道に視線を向ける。

 

 

「…………わーお」

 

 そこには無数の狐火が退路を塞ぐようにユラユラとうかんでいた。明らかに俺を逃がさないという決意の表れを感じる。そして反対側も同様に夥しい数の狐火が進路を塞いでいた。どうやらもう駄目みたいですね……。

 

「……行k「遅いわ!」グハァアアアア!?」

 

 俺が鳥居をくぐろうとしたその瞬間。俺の腹部にめり込むほどの速さで黄色い影……狐子が突撃してきた。頭部が腹部に突き刺さり、万力のような力で締め上げられて、再び存在しない記憶が走馬灯代わりに流れた所で俺は、声を掛ける。

 

「ひ、久し振り……! キッちゃん……」

「久し振りじゃ! ……と言うとでも思ったか!」

「グフォ!」

 

 マウントを取られた俺の胴体に拳が突き刺さる。

 

「『クソ痛いんだが!?(上代日本語)』」

「ええい! 懐かしき言葉で悲鳴を挙げおって! 泣きたいのは……こっちのほうじゃ!」

「……え?」

 

 狐子の目元には涙が浮かんでおり、ぽたぽたと俺の服を濡らしていく。そして周囲の空気が冷え切る感覚を味わいながら、狐子が口を開いた。

 

「其方が幼き頃……儂と結んだ約束……忘れてはおらぬな?」

「……〝大人になったら結婚して〟だったっけ……?」

「そう、だが其方は、一度死んだ」

「……ファッ!? え? 何で知ってるんだ!?」

「儂の手に掛かれば、其方の魂から何が起こったかを知ることなど容易いこと……」

 

 それから狐子は語った。

 

 俺の魂に僅かに残され電話越しに漏れ出した、あちらの自分の無念と後悔、憎悪と同調してしまい、今にも胸が張り裂けそうになるほどの悲しみに襲われていること。そして俺の家族に接触したのも最早手段を選んではいられないという決意の表れだったという。

 

「もう儂は手段を選ばぬ……! 人間は弱い……! すぐ死に、老い、朽ち果てる! だからこそ其方を、儂の所に連れていくことに決めた!」

 

 そう言うと狐子の尾が数を増し、やがて毛並みも黄色から白に変化した。それに伴い爪が伸びたり、周囲の空気が氷点下まで落ちたような感覚を覚えた。どうやら本気で俺をあちら側に連れていくようだ。流石にそれは勘弁してほしいと懇願する。

 

「……なぜじゃ?」

 

 そう言われたので、俺は咄嗟に

 

「一度死んだ身で確かにもう一度死にたくはない。けど、俺はまだやりたいことがある」

「やりたいこと……?」

 

「俺の配信を待っている生徒(リスナー)がいるから……悪いけど死ねない」

 

 それを聞いた狐子はポカンとした表情をした。そして張り詰めた空気を裂くように一頻り笑ったかと思うと、

 

「アッハッハッハ! ……あーあ……残念じゃった……『せっかく不老不死の空間に引きずりこもうと思っていたのにボソッ』」

「『おい今何て言った』」

 

 シリアスが有給休暇を取ったようだ。張り詰めた空気が完全に緩み、狐子がボソッとヤバいことを恐らく神代の言葉で呟いた。それに俺もチートをフル活用して答えた。するととぼけたような表情をしながら

 

「『別にー? このまま不老不死にして、ずっとヤることやろうと思っていただけだしー?』」

「『クソッ! 遂に本性表しやがったな駄狐!?』」

「『ええい! 待たされた分ここで儂が……!』」

「『おい、やめろ!? ちょ、ちょ待て! 服に手を掛けるな、破くなあああああ!!』」

 

 

「カー『草』」

「カー!『上位存在に勝てるわけないだろ!』」

 

 

 

 

「あら! お帰り二人とも……って、源吾どうしたの!? その恰好!?」

「……いや、ちょっと暴風雨に……」

「そ、そうなのですよお義母様! あの神社に局所的に暴風雨が巻き起こったのですわ!」

「そ、そうなの……って! その体の引っ搔き傷と噛み痕は!?」

「……これはそう……獣に……襲われて……」

 

 

 結論。

 

 数十年の思いと上位者を舐めてはいけないことを思い知らされた。多言語のチートがあってもどうしようもないことってあるんすね()




主人公
気付いたら外堀を完全に埋められて、攻略されていた。この度言語が通じても効果が無かったことを骨の髄にまで思い知らされた。
この後も元気()に配信をするようになった。飯が美味い。


狐子
キッちゃんと呼ばれていた天狐の類。
普段は黄色毛並みだが、興奮すると白に染まり、瞳孔が開く。
主人公の魂から主人公の前世かっらついて来た自分について知り、手段を選ばなくなった。結果主人公を理解させた。フフフ……F●X!
この後主人公の身の回りの生活を一身に担うことに。



イシノヴァ
主人公が分からされている頃、新たな娯楽として釣りを楽しんでいた。

人魚が釣れた。主人公のこと教えた。人魚、どこかに泳ぎ去っていった。どこに行ったのかはイシノヴァのみぞ知る。


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第二部
多々買わなければ生き残れない!


閲覧ありがとうございます!

色々と試行錯誤しながらの作品ですが、沢山の評価と感想ありがとうございます!

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします!

それではどうぞ!


「――ではこれで、ゲーム配信は終わりにします」

 

 

 リスナー:乙

 リスナー:嫁さん大事にしろよ

 リスナー:ミソジドクシンオーにならなくてよかったな

 リスナー:こいつら交尾したんだ!

 リスナー:↑やめないか!

 

 

 あれから暫くして、俺は社長含めた関係者に結婚報告をした。既に逃げられないことともし拒否をすれば間違いなくヤバいことになることを悟った俺は迅速に行動を起こしたのだ。最初こそそれはもう大驚愕されたが直に、相手はどんな娘だ、とかいつ結婚式を開くのだ、とか言われたりもした。そして、当時の俺たちが懸念していたことである「いつリスナー達にも報告するのか」を話し合った。

 

 話し合った結果は、結婚式を終えた後に報告をすることにしたのだ。社長曰く「君のガチ勢が結婚式当日に何するか分からないから、いっそ関係者だけの結婚式にして、秘密裏にあげればいいんじゃないか?」という意見に賛同した俺たちはお盆を開けてからすぐ式場を取った。その際初めて狐子と社長たちが顔合わせをすることになったが、良妻賢母モードの狐子にすっかりほだされ、俺の両親と同じような状態になった。

 

 

 ちなみに■■■■ちゃんは意外にも普通に祝ってくれた。そういうのでいいんだよそういうので……。

 

 そして式の際中、俺の家族や社長たちが座っている中、一部人間に化けている人外たちがいたりもしたが特に何事もなく済んだので本当に良かった。……明らかなオーバーテクノロジーを秘めた贈り物に関しては目を瞑ることにする。イムール星人、お前らの事やぞ。仮面なライダーでも見たのか、魔改造を施したバイクや、アタッシュケースに詰められたベルト紛いの物を渡された時は胃が悲鳴を上げたぞ。

 

 

 そしていざリスナー達に報告をした時、歓迎して祝福する声もあったが中には過激派と思われる連中や、それに便乗したアンチそして俺を叩きたいだけの邪な連中に目を付けられ一瞬で炎上した。俺も覚悟はしていたがいざ来るとなると心に来るものがあった。Twitterでは俺のファンとアンチが絶えずレスバを繰り広げていて、

 

 しかしそれも僅か3日足らずでそいつらのアカウントが全消去、そして凍結のコンボを受けたと知った時は何事かと驚いた。社長に聞いても「自分達は訴訟を起こすと告知しただけでそこまでやった覚えは……」と言われ、思わず脳裏にあの爬虫類の連中がピースサインをしている図が浮かび上がってきた。うん、俺は理解するのを止めた。

 

 そして俺の下に脅迫文が来たと思ったら狐子が虚無の表情で手紙を狐火で燃やして「今日の夕餉は何にするかの!」と笑顔で振り向いた時は更に恐怖した。狐子は人間なんかまともに相手にならない上位存在であったことをこの時改めて認識させられた。後日とある町中で突然発狂して警察に連行された無職の男がいたとか。

 

 

 しかし今はと言うと、今日の配信のコメント欄のように俺をいじるコメントが見られるが、特になんてことはない平穏な状態だ。何時ものように90分のゲーム配信を行ったり、時折コラボ企画をするくらいだ。

 

「ふぅ……今日の配信は終わりっと……」

「お疲れ様じゃ。ここにおにぎりと味噌汁作ったから一息吐かんかの?」

 

 そう言って狐子が配信を終わったのを見計らって2つのおにぎり(塩のみとしゃけ)と豆腐とわかめの味噌汁を俺の作業机の上においてくれた。こうした界隈で配信中のうっかり乱入を少し危惧していたが、狐子に限っては一度も無くそこはありがたいと思っている。

 

 皿に盛り付けられたおにぎりのしっかり効いた塩味が疲れた体に身に沁み渡り、そこに流し込まれる味噌汁の旨味がベストマッチだと思うのは俺だけではない筈。まだ夕食の時間ではない所謂間食だが、これをもっと食べたいと思う位には俺の胃は狐子に鷲掴みにされている。

 そして食べ終えた直後、スマホの通知が鳴った。そこには『収録2時間前』と記されており、この後午後3時から事務所で収録を行うことを思い出した俺は事務所の近くに引っ越したとは言え、流石に残暑と言う名のただの猛暑に晒されることに絶望しながら重い腰を上げて、準備した。

 

「其方、今日も残暑が一段と酷くなっておる。氷を入れた飲み物を水筒に入れておいたのじゃ!」

 

 とてもありがたい。俺は水筒をカバンに入れて家を後にした。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

「――はい、皆さんごきげんよう。午前中から引き続き見てくださった方もごきげんよう」

「みんなー! スイスイだよー!」

 

 

 リスナー:オッスオッス!

 リスナー:スイスイちゃんきたー!

 リスナー:楽しみにしてました!

 

 

「まあコラボと言う名のごった煮枠ですので、どうか気軽にご視聴くださいませ」

「僕たちが声を当てたオリゴこと、オリジン・ゴッドをプレイをしていくねー!」

 

 

 リスナー:オリゴ呼ばわりは草

 リスナー:糖かな?

 リスナー:このゲームキャラゲーだから先生ヤバそう

 

 

 このゲームは所謂オープンワールド。広大な大陸を舞台にして各地の大国を奔走するゲームだ。このゲームの目的はこの世界に飛ばされた主人公と彼、もしくは彼女の相棒を探して元の世界に帰還するという目的なのだが、その過程で大国の抱える問題を解決したり、本作の売りの1つである魅力あふれる多様なキャラとの絡みや、そのゲームの細かな部分のこだわりが兎に角すごいのだ。

 そのこだわりと言ったら、ゲームの中で出現する敵が使う特殊な言語を設定していたり、あちこちにみられる遺物や深いシナリオなどの考察要素も盛りだくさんで、考察勢が日夜議論を交わしていることは耳にしていた。

 

 

 早速ゲーム画面を開き、キャラの背後が映し出される。スイスイの方は矢鱈豪華な衣装を纏っていたり、見た感じでも分かるくらいに強そうなキャラが控え合わせて4人いる。え? 俺? もちろん環境クラスだよ。……そこに掛かった費用は察してください。

 

「では早速やっていきましょうか」

「あっ、そうだ! ねぇ~先生? 今日が何の日か知ってる~?」

「今日が……何の日……?」

 

 突然猫なで声で俺に語り掛けて来るスイスイ。その表情には蠱惑魔のような笑みが浮かんでおり、恐らく碌なことではないと思いつつ、考えを巡らせる。

 

 

 リスナー:ヌッ!

 リスナー:↑おいおいおい、こいつ死んだわ

 リスナー:ASMR助かる

 リスナー:こちらも抜かねば不作法というもの……

 リスナー:お労しすぎだろ

 

 

「……さぁ、皆目見当がつきませんね……」

「ふっふーん! じゃあ、せ い か いわぁ~……」

 

 そう言ってスイスイが俺のコントローラーを操作する。

 

 

 リスナー:あ

 リスナー:メニュー……あっ、ふーん……

 

 

 メニューを開いて……? カーソルをガチャに……あっ(察し)

 

「今日は限定ガチャの日でしたぁ~♡」

 

 

 リスナー:草

 リスナー:おいおいおい先生死んだわ

 リスナー:ヒカリちゃんに10連続でじゃんけんで負けるような人やぞ

 リスナー:運以外の全てのステータスに極振りした男の末路か……

 リスナー:流 石 は じゃんけん最弱王ですね……

 

 

 そう、コメントでも言われている通り俺は運が致命的なまでに無いのだ。このゲームだってそう、俺の使っているキャラは確かに最高レアだが、これは天井まで回した結果の代物なのだ。俺の担当したキャラだって【限定キャラ完凸するまでやめれま千!】の生放送中にも関わらず天井まで回す羽目になったのだ。ちなみに内心ブチぎれた俺は生放送の現場で全凸するまで課金をした。六桁持ってかれたとだけ言おう。

 

 それに加えてvtuber対抗のじゃんけん大会があったのだが、結論から言えば最弱になったのだ。特にヒカリちゃんに関しては運で勝てる気がしない位には負けまくった。むしろ負け過ぎて八百長を疑われたが、試しに目隠しでやっても、趣向を変えてポーカーでもこっちがブタ(役無し)を連発するのに対して、ヒカリちゃんはロイヤルストレートフラッシュやファイブカードを出した。この時は流石に視聴者から同情された。

 

「せ ん せ い? 引きますよね? まさかここで日和るような先生じゃないです、よね?」

「……今課金することはできませんよ……?」

 

 

 リスナー:もう天井すること見越してて草

 リスナー:あ、悪魔じゃ……!

 リスナー:なぜだろう、先生程になると逆にメシウマじゃなくなるような……

 リスナー:全ガチャ天井した男やぞ

 

 

「先生、このプレートに見覚えはありませんか?」

「それは……『スイスイのミッションボード』ですね。……まさか」

 

 そう、この企画をするに当たって俺と視聴者以外に提示された、この企画を盛り上げる隠しミッションがあるのだ。これはスイスイの十八番芸で、何時もスイスイとの企画では俺以外も犠牲になっているのだ。他の後輩は……『中二病時代のポエム朗読』や『恥ずかしいこと暴露』等の到底人に見せられない、知られたくない秘密を暴露されていったのだ。ちなみにミッションは企画に沿ったものを基本的に出される。

 

「ふふふ……それでは第一のミッションを! こちら!」

 

 

【80連して限定キャラを出せ!】

 

 

「無理ですね」

「即答!? え!? これでも相当妥協した方ですよ!? 100連してSSR確定ですよ!?」

 

 無理なもんは無理。

 

 

 リスナー:諦め速すぎて草

 リスナー:先生の目死んでそう

 リスナー:終わったな……

 リスナー:恐ろしく速い投了宣言……俺でなきゃ聞き逃しちゃうね

 リスナー:今の内に先生のガチャ代っと……

 

 

 コメント欄から俺を憐れむ声と共に幾つかのスパチャが流れ込んでくる。中には俺の確率の酷さを知った海外のリスナー達もスパチャを投げてくれている。『お前やっば……』とか『俺の方がマシだと思う日が来るとは思わなかった』とか『神は彼に運を与えなかった。アーメン』とか言われている。

 

「ちなみに私が出さなかったら?」

「このゲームをプレイしている間、このゲーム独自の言語であるカムヤッチャ語で実況とプレイをしてもらいます」

 

「それくらいならどうにか……」

「え?」

「……なんでもありません。では回しますよ」

 

 驚愕しているスイスイを横目に俺はガチャの画面に行く。

 

「なに、80連もあれば流石に一体くらい出して見せますよ」

 

 

 リスナー:フ ラ グ 建 築 完 了

 リスナー:学びを知らなすぎる……

 リスナー:駄目みたいですね……

 リスナー:おう、この前のvtuber合同TRPGで10回ファンブルかましたこと忘れたのか

 

 

「生きて終われたのでセーフですよ」

 

 

 リスナー:なんでこの人ハッピーエンド迎えられたんだろうな……

 リスナー:言語学関係で全クリかましたから

 リスナー:1と100しかでないサイコロ使ってたのかと言わんばかりだったもんな……

 

 

「とにかく引きますよ」

 

 

 

 

「『いやー本当に最低保証しか出なかったのはきつかったですね』」

「ほ……本当にカムヤッチャ語を話してる……。この時の為に作ってもらった自動翻訳もばっちり反応している……!?」

 

 結論。最低保証しか出なかった。

 

 俺は罰ゲームでカムヤッチャ語で会話とプレイ縛りをしている。傍にはこのゲームの開発スタッフが作ったカムヤッチャ語翻訳機があり、常に俺のプレイ画面の下に翻訳された文章が流れている。そして俺は更に追加で課せられた罰ゲーム【外国の曲縛りカラオケ】で100点という地味にキツイ縛りを課せられたため、再びスイスイともう1人の追加枠とのコラボを近日に行うことになった。

 

「『というかあのプレート。完全に私不利じゃないですか』」

「え……えっと……流石に、先生でも80連あれば……」

「『私の運の悪さを舐めないで貰いたい』」

「なんでカムヤッチャ語かつそんなことでどや顔出来るんですかァ!?」

 

 

 リスナー:スイスイちゃん発狂で草

 リスナー:こうして再び新たな伝説が刻まれた……

 リスナー:不名誉なあだ名が増えていく……

 

 

「『いいですか? ガチャと言うのは当たるまで引けば100%なんですよ』」

「せ、説得力が違い過ぎる……! 負け惜しみの筈なのに……!」

 

 

 リスナー:重みが違い過ぎる

 リスナー:本当にただの負け惜しみなんだよなぁ……

 リスナー:流石幸運を捨てて言語に全振りしているだけあるな。面構えが違う

 リスナー:既婚者の発言か? これが……

 

 

 画面では俺のキャラとスイスイのキャラの放つ技やエフェクトだらけでとても賑やかになっており、敵の体力がみるみるうちに削れていく。これが……天井の力か……。この数十万円があったらゲーム何本買えるんだろうなと考えるとただただ虚しくなるだけなので、俺はそれを考えないことにした。

 

 そして画面では数と質量の暴力で爆☆散☆した哀れなボスの姿があった。

 

「『ふぅ……一先ずボスは討伐できましたね』」

「あのー……そろそろいいですよ? 先生。日本語で喋ってください」

「おっと、そうですか」

 

 リスナー:マジでカムヤッチャ語で乗り切りやがった……

 リスナー:事前に勉強したにしても凄すぎる

 リスナー:もうコイツ一人だけでいいんじゃないかな

 リスナー:↑いや、先生の運を相殺できる人物がいないと……

 

 

「それでは、今日はここまで次回もお会いしましょう」

「みんなー♡ ばいばぁーい♡」

 

 

 リスナー:おっつ

 リスナー:乙

 リスナー:最後に心臓に来るのやめてスイスイちゃん

 リスナー:運ばかりは……科学では……

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 配信を終えた帰り道、俺は狐子に何か買ってあげるかと思い、近くのスイーツ店に寄った。

 

「あ」

「おやおや、お久しぶりですね」

 

 イシノヴァがいた。その手にはスイーツが詰められた袋が握られていた。見た感じでもかなりの量が入っていた。

 

「イシノ……石星か、結構買ったんだな」

「ええ、ここは安くて美味しいと小耳に挟みましてね。この後楽しみにしてます。立ち話もあれですし、どうです? ここの店の席に座りません?」

「そうだな」

 

 俺は店員さんに狐子に持っていくようのスイーツと俺用のスイーツを頼んだ。店員から出されたお茶を飲んだイシノヴァはというと

 

「『そちらはどうです? こちらは最近やっと山場を越えることが出来て一安心ですよ』」

「『まぁ……大分前の騒動よりかは落ち着いたかな』」

「『それは良かったです。私も最近新たな趣味を見つけましてね。釣りなんですけど』」

 

 そう言ってイシノヴァはスマホの写真を見せてきた。

 そこには幾つかの小魚と魚についてあまり知らない俺でも知っているブリやクロダイが並んでいた。かなりの大きさだ。

 

「『お前、これ釣ったのか!』」

「『思ったよりうまく行きましてね。あとそうそうこれも……』」

「『ほう…………ううん!?』」

 

 次に映し出された写真には緑色の髪をした女性の…………人魚がいた。え? 人魚?

 

「『おま、おま、お前ぇえええ!?』」

「『私も驚きましたよ。やけに強い引きで釣竿が折れそうになったので、思わず全力を出した所これが釣れたので、思わず体の全細胞が一瞬フリーズしましたよ』」

「『人魚って釣れるもんなの!?』」

 

 俺が驚愕していると、イシノヴァはあることを告げた。

 

「『実はですね……この人魚……地上の歌という物に興味を寄せておりましてね。時折地上から聞こえてくる歌が気に入ったようで……』」

 

 そして、と付け加えて更に告げた。

 

 どうやらこの人魚は〝地上の言語〟で自分たちの言語の歌を歌いたい……つまり、海の底の歌を言語化して広めたいという。……要するに翻訳して欲しいと…………あっ。

 

「『……いやな予感がする』」

「『その嫌な予感は当たってます。彼女に、貴方のことを教えました。彼ならばアナタの言語も分かるだろう、と』」

「ハァアアアアアアアア!?」

「お客様!? どうなさいました!?」

「あっ、いえ、何でもないです……すいません……」

 

 驚く俺を余所眼に、イシノヴァはスマホである記事を提示してきた。そこには【マルチ+スイスイ+???のカラオケ企画】と書かれていた。これは俺の罰ゲームが執行される企画だが……。

 

「『ここだけの話。この???の子が彼女なんですよ』」

「『……は?』」

「『私が遭遇してからすぐに、善は急げと言わんばかりに貴方のことを調べて、同じ事務所に向かったようですよ』」

「『…………は?』」

 

 厄介ごとが増えた……。ドウシテ……?




主人公
この度籍を入れることになった。式の際中、視界に映る人外が何かやらかさないかと心配していた。
その幅広い()伝手で祝いの品が届いた。一部オーバーなテクノロジー機器が届き、胃を痛めた。
ガチャとか実力でどうこうできない類のゲームはマジで苦手。天井しか知らない。


狐子
大 勝 利

スイスイ
主人公のあまりの運の悪さにキャラがすっぽ抜けた。しかし素の状態を出したのにも関わらずチャンネル登録者が伸びた。喜んだ。


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企画前の打ち合わせと“向こう”の事情

閲覧ありがとうございます!

今回は久し振りの掲示板形式となっております。
どうやって多言語チートを活かせるかを考えて何とか落とし込んでおります。

それではどうぞ!


 あまりに唐突に告げられた衝撃の事実から2日が経ち、カラオケ企画前の打ち合わせが行われることになった。

 今回の打ち合わせでスイスイと例の……人魚? らしき子が来るとのことだったが、既に嫌な予感がする。できる事なら穏便に終わってほしいという儚い思いを抱えながら俺は事務所の扉を開けた。

 

 受付の職員に軽く挨拶をした後、時間を確認する。打ち合わせまであと30分はある。少し速く来すぎたようだ。

 

「『~♪』」

「……ん? なんだ?」

 

 事務所の一室からどこか幻想的で穏やかな歌声が微かに響いてきた。しかし日本語ではなく、これまで聞いたことが無い言語だった。

 俺のチートが発動してその内容を理解した直後、ふと俺の視界にとある光景が入ってきた。

 

「……皆寝てる……?」

 

 ふと視線をオフィスに向けると机に突っ伏して眠りについている職員がいた。それだけならまだ良かったが、問題は……全員が眠りについていたことだ。あちこちから寝息のような物が聞こえてきた俺は大急ぎで一番近くにいた男性職員を起こそうとするが、起きない。

 

「お……起きねぇ……! どうなってんだ!?」

「う……うぅん……し、締め切りが……同人誌の締め切りが…………間に合った……」

「間に合ったのかよ」

 

 

 どうにも起きる気配は無く、ただ寝言を漏らすばかりだった。軽く寝言につっこみを入れながらもよくよく周囲を見渡すと、床に寝そべっている人達も多々見られた。

 

「う……うぅん……素人質問は……素人質問は……止めて……」

「レポートが……課題が……終わらないよ……」

「ガチャは……悪い……文明……」

 

 明らかにこの歌が原因であると考えた俺はこの歌の発生源に向かって行った。

 

「『~♪』」

「歌の内容は……子守歌の類か……? いや、種族が違うから何とも言えんな……」

 

 徐々に鮮明に聞こえてくる歌は、とても穏やかで、まるで子守歌のようだった。恐らくこの歌を歌っている存在は、歌に夢中になっているんだろう。かなり機嫌がよさそうにしているのが伝わってくる。

 

 そして階段に足を向けようとしたとき

 

「ふわぁ…………え? 嘘だろ? 俺ここに来る前にエナドリ飲んで昼寝した筈だぞ!? もう眠気が……やばい!」

 

 口から出てきたあくびと僅かな眠気に脳が警鐘を鳴らす。俺は念の為に持ってきたヘッドホンをカバンから取り出し、耳に着けた。焼け石に水だろうが、それでも効果を発揮するはずだ。

 それから階段を上がり、この歌の主がいるであろう『第二会議室』に向かった。

 

 階段を上がって角を曲がると、やはりそこには半開きになった会議室の扉と、その付近で項垂れかかった人が…………スイスイがいた。

 

「大丈夫……ではなさそうか」

「えへへ……もう消化できないよぉ……」

「何て言っているかはわからんが……まぁ、何かいい夢を見ているんだろう……」

 

 スイスイが何か寝言を言っているが、一先ず俺は中の様子を見た。

 中にはorzの体勢で眠りに落ちている社長と……緑髪の女性が歌を歌っていた。どうやら相当夢中になっているらしく、目を閉じながら歌っていた。

 

「しゃ、社長ぉおおおおおお!?」

「……仕事が……終わらん……」

 

 俺は元凶である女性に声を掛ける。

 

「あのー! もしもーし!」

「『~♪』」

「やっべ想像以上に夢中になってやがる」

 

 割と大きな声で呼びかけても反応しない辺りもうわざとなんじゃないかなと思う位には没頭していた。なので、俺はヘッドホンを外し、更に大声で話しかけてみることにした。

 

「『ストップ! ストップ! ちょっと待って!』」

「『~♪ あら……? やだ、私ったら! 故郷の歌を唄ったら地上の生き物が眠っちゃうのに……』」

「『なにそれ怖い』」

 

 どうやらこれが功を奏したようで、彼女は歌うのを止めておろおろと焦り始めた。どうやら悪意はないらしいが……一先ず彼女を落ち着かせることにした。

 

「『……君は……?』」

「『あっ、初めまして! 新人Vtuberの海音ウタと申します! あなたがあの群体さんの言っていた……』」

「『群体さん…………イシノヴァか』」

「『はい! そうです! 私の言葉が分かる貴方にお会いできて光栄です!』」

 

 彼女は心底嬉しそうに握手をしてくる。見た目も相まってアイドルのようだなと思いつつ、この惨状をどうしようかと呟くとウタが、

 

「『あっ、すみません! そうしたら……耳栓か何かをしてくれませんか? 今から目覚めの歌と忘却の歌をするので!』」

「『目覚めと……何て? 忘却?』」

 

 さらっと告げられた内容に驚愕しつつ俺は耳栓の上からヘッドホンを付けて完全に外の音が聞こえないようにした。そしてウタにオッケーサインを出すとウタは再び歌い始めた。

 すると近くにいたスイスイとorzの体勢で寝落ちしている社長がビクッとしたかと思うと、やがて起き始めた。

 

「あ……あれ? 私は一体……?」

「う……ううん……あれ僕何をしてたんだろ……」

 

(記憶消されてるぅうううう!)

 

 

 

 

 あの後紆余曲折ありながら何とか打ち合わせは終わった。幸いにも俺が着く直前に眠りに落ちたようで、業務的な支障は特になかったことが幸運だ。

 

 そして社長たちはというと、眠りについていた時の記憶が消されており、特にその話題に触れることなく打ち合わせは進んだ。だがその際、社長が「何か……時間が早く進んでるような……?」と記憶が蘇りかけたため、何とか気のせいだとごり押しして事なきを得た。打ち合わせだけでこんなに精神がボロボロになったのは初めての事だ。

 

 

 打ち合わせが終わった後、俺はウタに言われてとある場所に来ていた。

 

「ここです!」

「ここって……」

 

 そこは海の近くにあるカフェで、地元の人には有名なスポットだ。海の景色を堪能しながらスイーツも堪能できることを耳にしていたが……。

 そして店の扉を開けた俺を待っていたのは、妖艶な雰囲気を纏う女性だった。

 

「ほう、ウタかい。久しいね」

「お久しぶりです! ウネさん! 最後に会ったのは……100年前でしょうか?」

 

「……え?」

 

 100年前……? それに人魚であるウタと面識がある……? 俺は次々と流れて来る情報の暴力に頭が真っ白になった。しかし二人はそんな俺に構わず話し続けている。

 

「そうさね……最後に会ったのは……100年前かい」

「ビックリしましたよ! まさかいきなり地上に興味が湧いたって言うなり、ここでカフェを開いているんですから」

「ワダツミ様は怒ってたかい?」

「いいえ、そんなことはありませんでしたよ!」

 

 

海の神様(ワダツミ様)!? 今、ワダツミ様って言った!?)

 

 

 さらっと海の神様の名前が出たことで、俺は一瞬硬直した。しかしよくよく考えたら知り合いの地球外生命体と天狐曰く『川の向こう側の存在』である■■■■ちゃんのことを考えると、いつものことかと思ってしまった。これは慣れて良いのだろうか。ともかく話が出来そうで良かった。

 

「所で……そちらの人が……」

「はい! 私達の言葉が分かる源吾さんです!」

「あっ……どうも、源吾です……」

 

 もうどうにでもなーれという心構えで挨拶をした。するとウネさんは、僅かに顔を近づけて匂いを嗅ぎ始めた。

 

「ほう、どこかワダツミ様のような神格を感じたと思ったら……あの天狐様の伴侶様じゃないか」

「え、分かるんですか……というか何でそれを……」

 

 そういうとウネさんは手元のスマホを操作して、画面を見せてきた。……人外たちがガッツリスマホを持っているとかはもうこの際気にしないことにした。イシノヴァだって持っているんだ。今更過ぎる気もする。

 

 そして見せられた画面には、

 

 

【速報】あの独身ショタコン天狐、ついに結婚する

 

 

「いや言い方ァ!」

 

 思わずそう叫んでしまった。

 そして画面をスライドしていくと、掲示板のように次々とこの結婚報告についての意見が述べられていた。

 

「というか、俺、身内にしか伝えてない筈なんですけど!?」

「……天狐様が結婚したあの式場にね、他の神様が……」

「あっ、はい。わかりました。はい」

 

(あの式場の…………だ、誰だ……? 駄目だ……候補が多すぎる! というか人外が多すぎて誰が誰だかわからねぇ!)

 

 俺が式場にいた人間? の顔を思い出していくが、確かに近寄りがたい雰囲気を醸し出している人物だったり、天井付近からやたらと視線を感じることもあったが……それでも候補が多すぎるので、俺は考えることを一旦止めた。考えるだけ俺の胃と何かが削れていく気がしたからだ。

 

 そして当初の目的を思い出した俺はウタにそのことを聞く。

 

「あっ、そうでした! あ、あの! 源吾さんにお願いがありまして!」

 

 そう言ってウタはカバンから紙束を取り出した。紙束にはウタ達の言語で歌詞が書かれていた。

 

「――あの、これを、日本語に翻訳していただけませんか!?」

「別に良いけど……ウネさんも出来るんじゃあ……?」

 

 俺は思った疑問をウタにぶつける。するとウネさんが

 

「……今は違うけど、あたしが地上に出た時は、なかなか制約が厳しくてね……結果としてあたしは、故郷の言語を扱えなくなっちまったんだよ」

「昔はそうでしたもんね……あっ、源吾さん、今は違いますよ!」

 

 ウネさんがはぁ、とため息を吐くと、

 

「全く……いやになっちゃうね。若さゆえの過ちというか、惚れた男の為に……制約の事なんかすっぽかして意気揚々と地上に出たら……このザマだよ。全く、もう少し……あと50年地上に行くのをためらっていたら、こんな制約に悩まされることなんかなかったのに……いや、あの男と会う為なら別に……か……ははっ、あたしは未練がましいねぇ……」

 

 そういってウネさんは自嘲するような笑いと共にどこか悲し気な視線を窓の外、海の方に向けた。

 

「という訳で……あたしには無理さね」

「……成程、わかりました……」

 

 こうして俺はウタから紙束を受け取り、家で翻訳作業をすることにした。

 

 

 

「今日の夕飯はサンマの塩焼きじゃ!」

「……うっす」

「其方!?」

 

 たまたま今日の夕飯のメニューが魚料理のサンマであった為、人魚のこともあり僅かにウタ達を連想してしまった俺は少しだけサンマを食べるのが億劫になった。ご飯は三杯おかわりした。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

【速報】あの独身ショタコン天狐、ついに結婚する

 

 

1:名無しの八百万 ID:dWXny9iei

遂にやりやがりました

 

2:名無しの八百万 ID:R9W898+PT

おいおいあのショタコン、遂に結婚しやがったのか……

 

3:名無しの八百万 ID:lRs5rZoDC

我、山から漂う異様な気配に目が覚めたら、まさかの天狐だったことに驚愕。

 

4:名無しの八百万 ID:4DagRHWC/

これ以上に無いほどハイテンションになってやがるなあの天狐

 

5:名無しの八百万 ID:kJ+epf763

というか天狐の伴侶ってどんな奴よ

 

6:名無しの八百万 ID:SfO8vWl3b

>>5配下に調べさせた所……こんな奴だ

 

【源吾のプロフィール】

 

 

7:名無しの八百万 ID:k/AXmRIih

>>6 こいつあの多言語系ぶいちゅーばーという奴か

 

8:名無しの八百万 ID:rwNLjCRdS

こうもあっさり人間の情報が暴露されるのは如何なものかと

 

9:名無しの八百万 ID:c/aur6RSF

>>8 だって我神やし……人間の法律の適応外やし……

 

10:名無しの八百万 ID:Ie3WPRdff

これがプライバシーの侵害……という奴かの?

 

11:名無しの八百万 ID:toDfI2ovx

というかこ奴調べれば調べるだけ、外の連中との関係が出てくるんだが!?

 

12:名無しの八百万 ID:SWh9iwrA5

>>11 この前の、機械生命体という奴らか

 

13:名無しの八百万 ID:PAH7m4RvK

今のところ、全盛の力を失った我らでは太刀打ちが出来るか怪しいぞ

 

14:名無しの八百万 ID:JOk9n4NC4

>>13 神から人の時代に移り変わり、結んだ決別の契約が仇となったか……

 

15:名無しの八百万 ID:k1uxDTSxK

今の所……全盛期以上の力を持っているのは……

 

16:名無しの八百万 ID:5EpX3nG3G

>>15 かの七福神と……天照大御神様程の神格の御方達か……

 

17:名無しの八百万 ID:R25sQsW2h

今やすっかり信仰は全盛よりも衰えたが……かの御方達はどうやら信仰されておるようだの

 

18:名無しの八百万 ID:ax3qwZM6I

だが、一部の御方達は、歪な信仰によって変貌したり、酷いものだと、性別が変わったということが……

 

19:名無しの八百万 ID:tDrSnzy8i

>>18 黄泉の国にいるツワモノ達も性別が変わるという出来事があったの

 

20:名無しの八百万 ID:RBP9Gfx/W

第六天魔王が良い例だの

 

21:名無しの八百万 ID:O9Gj52jMK

>>20 「知らぬ間におなごになっていた……遂には儂のへし切長谷部が人の姿に……」

 

22:名無しの八百万 ID:oRGhGsMd7

海の向こう側でも同様のことが起きておるらしい

 

【URL】

 

 

23:名無しの八百万 ID:GGhGVv2ki

>>22 

騎士王「なぜ……自分が可憐な少女に……?」

とある暴君「僕が……騎士王のような美少女に!?」

万能の天才「やったぜ」

 

24:名無しの八百万 ID:0HB9Rr9WC

やはりどこも変化しておるの……

 

25:名無しの八百万 ID:2c6dY+omA

そ奴らは主にこの日ノ本が原因であると訴えておるんだが……

 

26:名無しの八百万 ID:yoR4eX4Zq

>>25 何も言い返せない

 

27:名無しの八百万 ID:Xm37uLtA1

>>25 そもそも閻魔大王が女体化させられた時から既にこの日ノ本は手遅れだった気が……

 

28:名無しの八百万 ID:38hzv0T/1

>>26 そうじゃった……

 

29:名無しの八百万 ID:DC+NJTn9v

その内一人残らず、女体、或いは変貌するのではないかと不安に思う。

 

30:名無しの八百万 ID:fk9LyaVDC

>>29 新たに誕生した機械を担当する神は既にその影響を受けておるしの

 

31:名無しの八百万 ID:on+eNvRxJ

人の子の考えることはよう分からん

 

32:名無しの八百万 ID:UptjOsURk

一旦話を戻すとしよう。この天狐の婿であるこ奴。明らかに何者かにいじられた痕跡が見受けられるのだが。日ノ本の危機となれば儂は動くぞ

 

33:名無しの八百万 ID:POe5e29C3

確かに、儂らとは異なる神格……この星の外の連中の物だと思うが……如何せん何とも言い難い。

 

34:名無しの八百万 ID:pethNwLjC

>>32 我は動かん。天狐の報復が恐ろしい。

 

35:名無しの八百万 ID:2m1YPMYxy

妾も一抜けという奴じゃ。正直、全盛の頃の妾でさえ勝てるか怪しい段階になっておるしの。

 

36:名無しの八百万 ID:8jELgJ42a

>>32 だが、今のところ特に何も起きてはおらん。急いては事を仕損じるともいう。我らは只見守るとしよう。

 

37:名無しの八百万 ID:Hgq4NisUk

>>36 ……しばし見届けるとしよう。確かに我も焦りすぎた

 

38:名無しの八百万 ID:weI6IONJm

それにこ奴は川の向こうの連中とも付き合いがある。いざとなればそ奴らが裁断を下すだろう。

 

39:名無しの八百万 ID:ppz7XIHYb

だと、良いが

 

 




主人公
多言語チートと天狐の加護で人魚の歌に対する耐性を得ていたが、直に聞くとやはりキツイ。
この後必死に日本語に翻訳したのを必死にパソコンに打ち込んだ。プリンターのインクを切らしていたことを忘れてコンビニ行った。コンビニ店員がレプティリアンだった。腰を抜かしかけた。

海音ウタ
人魚。
綺麗な歌声で見事VTuberデビューを果たすことになった。しかし故郷の言語で歌うと周りの人間が眠ったり、目を覚ましたり、寝ている人の記憶をある程度操作できる。しかし一定のラインを超えないように制約で力を縛られている。

ウネ
100年前の日本に人間として上陸した人魚。今は海辺のカフェを運営している。
昔助けてもらった男と結ばれるために人間になり、婚姻関係を結んだが……夫があえなく戦死。それ以来ずっと一人で生きてきた。


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雑談枠という名のマシュマロと質問返答

閲覧ありがとうございます!

アンケートの結果も考えて何とか五分五分に収めて行けるように心掛けて行きたいと思いますが、時折バランスが変わってしまうこともあるのでご了承ください。

今回は練習も兼ねて特殊タグを活用してみました。

それではどうぞ!

追記
マシュマロの方は何とか解決しました……。やっぱ……難しいですね……。


「さてさて、皆さんこんにちは。今日は雑談枠という名の質問返答といきますよ」

 

 ウタからの翻訳作業を終えた俺は、カラオケ企画前の配信として質問返答のコーナーを設けた。というのもつい最近までゲーム配信やらなにやらで答えることが出来ていなかったからマシュマロも溜まっていたからだ。

 

 リスナー:オッスオッス!

 リスナー:質問返答だー!

 リスナー:どんなゲテモノが来るのか……

 

 

「それでは早速行きましょう……おっといきなりスパチャありがとうございます。なになに……」

 

 

 通りすがりの同人作家 ¥10,000

 先生の同人誌書いてもよろしいでしょうか?

 

 

「それに関してはもう既に沢山の同人誌が作られているのでもう気にしてないです(白目)」

 

 まぁ、大概俺が生徒役に逆転されるか、ドS攻めらしいがな。情報源は社員さんでした。自分のアバターがあんなことしているとか、何とも言えない気分になる……。これ女物のアバター使ってたらどうなってた……?

 

 リスナー:初手草

 リスナー:開幕10割やめろ

 リスナー:各国の言語で罵倒しながら攻める先生……「外国語教師の特別指導」ボソッ

 リスナー:先生男枠だからBL関係しかないの草

 リスナー:たまに女子生徒言葉攻めとかあるんだよなぁ

 

 

 知りたくなかったそんな事実……。

 

「さて、次行きましょう。次はマシュマロですね」

 

 

 

 

また英語教室を開いて欲しいです!

 

マシュマロ

                       

 

「いいですね。今度やってみるとしましょう」

 

 

 

 

げへへ……

夜の運動会はどれくらいの頻度でやってるんですかぁ?

 

マシュマロ

                       

 

「『黙秘します』(英語)」

 

 リスナー:草

 リスナー:ストレートど真ん中行きやがった……

 リスナー:英語で「話せない」って言ってて草

 リスナー:こいつら交尾したんだ!

 リスナー:↑やめないか!

 

 

「続けていきましょう」

 

 

お疲れ様です! 

先生のコラボキャラ配信みてたら完凸できましたー!

 

マシュマロ

                       

 

 

「ありがとうございます。奇遇ですね。私も完凸しましたよ。……課金額に関しては何も言いません」

 

 リスナー:まーた課金してる

 リスナー:まぁ、あのキャラ普通に強いもんな……俺も欲しかった

 リスナー:企業めっちゃにっこりしてそう

 リスナー:排出率に関して文句言って納得してくれそう

 

「続いてはこちら」

 

 

 

ご結婚おめでとうございます! 

奥さんはどんな人ですか?

 

マシュマロ

                       

 

「とても気の利く人(外)ですよ。作ってくれるご飯が美味しくてたまりませんね」

 

 

 リスナー:メシウマなの良いなー

 リスナー:胃袋から掌握された感じかな?

 リスナー:ワ、ワイだって画面の中に……

 リスナー:↑おっ、そうだな(血涙)

 

 

「続けますね」

 

 

こんにちはー。

ヒエラティックテキスト詠唱できるってマジですか?

 

マシュマロ

                       

 

 

「(ホントはできるけど)流石に(大っぴらに)できません」

 

 一度試しに読めた時は流石にテンションが上がったな。

 

 リスナー:その内出来そう

 リスナー:何ならしれっと読めてそう

 

 

 既に解読してるって言ったらどうなるんだろうなー。と若干危険めいた考えが浮かんできたがグッと堪えることにした。流石に拉致られるのはヤバい、相手側が。

 

 

「おっとここで赤スパですね、ありがとうございます!」

 

 V難民 ¥10,000

 いつも見てます! 先生はどんな動物が好きですか? あと奥さんの手料理何が好きですか?

 

「そうですね……フクロウと……ッ!狐ですかね。狐が一番ですねハイ。あと料理に関しては……おにぎりと味噌汁ですね。あれは美味しかったです」

 

 なんだ……背後から圧が……と思ったら、急に緩和された……?

 

 リスナー:フクロウはコラボでよく使われるからかな?

 リスナー:いつも先生の肩に乗ってたり、フクロウの羽の外套纏ってたりするもんな……

 リスナー:おにぎりと味噌汁とか最高、はっきりわかんだね

 リスナー:のじゃロリ狐は至高

 リスナー:↑わかるマーン

 

 

 そののじゃロリ狐はうちの嫁さんなんだよな……。

 

「さて、次行きましょうか」

 

 

お主も吸血鬼にならないか? 

一緒に永遠の闘争をしよう!

 

マシュマロ

                       

 

「なりません(断言)」

 

 太陽に当たって死ぬのは勘弁願いたい。あと何故か脳裏にアリュカードが浮かんできたけど多分気のせいだろう。

 

 

 リスナー:えぇ……(困惑)

 リスナー:石仮面でも被せてきそう

 リスナー:それで食料にしそう

 リスナー:こいつ柱の男か?

 

 

 リスナーも絶句しているようだ。それはそうだろう誰だって絶句する。現に俺も絶句している。初っ端からクソマロを引いた俺にも問題はあるが……

 

「つ、続けていきましょう……」

 

 

 リスナー:若干引いてて草

 リスナー:誰でも引くと思うんですけど(名推理)

 リスナー:まごうことなきクソマロだぁ……

 

 

 なんで人間やめさせられなきゃならんのだ。そう突っ込みたくなる衝動を抑えて次のマシュマロを読み上げる。数が多い為、ある程度は無作為に選ぶことになってしまっているが、それは了承済みだ。

 その結果として俺の悪運が発動している訳だが。

 

 

君も機械にならないか?

 

マシュマロ

                       

 

「Oh……」

 

 薄々気づいていたが……多分この二件はモノホンからだ……。一つ目に心当たりは無いが、二つ目は絶対あいつら(イムール星人)だろ……。

 着実に地球の娯楽に侵食されてやがる。

 

 

 リスナー:人間やめさせられること推されてて草

 リスナー:マルチ先生……人間、卒業するのか……?

 ゴ棒 ¥500

 強く生きてください

 真理探究者 ¥1,000

 ヴォイニッチ手稿とかお読みになったことは……ありますか?

 

 

 

「…………無いです」

 

 リスナー:えげつない質問で草

 リスナー:理解したらやばいんだよなぁ……

 リスナー:探索者か何か?

 リスナー:というか名前から既にヤバさが滲みでてるよぉ……

 

 

 ……何も無かった。うん。何も無かったんだ……うん。

 一瞬この質問にヒヤッとしたが、続けていこう(震え声)

 

 絵師@トライスター ¥10,000

 お疲れ様です! マルチ先生のスキンって配信当初からそのままですが、変える予定とかありますか?

 

 まともな質問が来て正直安心している。だけどスキンか、うーん……。

 

「あー……そうですね……。割と思い入れが強いというか……実を言うとこのスキンは、事務所の絵師さんに描いて貰ったものなんですよねー。私が気に入っているのもあるんですが……ちょっと打診してみましょうか。皆さんはどう思います?」

 

 確かに時々こうした質問は見られた。俺は今日にいたるまでこのスキンを一回も変えずに来たのだが、もうそろそろ変え時なのかな……。今度絵師さんにも聞いてみるか。と思ったら爆速でラインが来た。

 

『スキンの事ならいつでも構いませんよ! むしろここまで愛用してくれたことに感謝したいくらいです!』

 

 本人から許可?も取ったことだし一応リスナーさん達の反応も見て決めることにした。

 

 

 リスナー:ちょっと見てみたいかも

 リスナー:今のままでもいいけど……衣替えって意味でもどうだろ?

 リスナー:このままでもいいと思うけどなぁ

 リスナー:変更するにしてもあんまり変化しすぎないで欲しい

 リスナー:個人的にはコラボでも散々目にしたフクロウとか追加して欲しい

 

 

 リスナーさん達の反応を見る限り、大体賛成のようだ。確かに衣替えという体なら違和感なく変化することもできる……か?

 俺は絵師さんに検討する旨を後で伝えることにした。

 

『ちなみに以前からどういうスキンが良いかなって妄想して書いてあったのでそれを見て決めてもらうだけですね!』

 

 この絵師さんとも後で話すとして、今は一先ず次の質問に移ることにした。というかこの人、仕事場で俺の配信を見ているってことだよね……? また社長に怒られなければ良いけど。

 

 

「まあ、何はともあれ考えておきますので……。次、行きましょう」

 

 

いつも配信みてます! 質問ですが、

マルチ先生っていつもホラゲーやってたりしますけど、

怪奇現象とかって遭遇したことありますか?

 

マシュマロ

                       

 

 何て言えばいいんだこれ……。取り敢えず濁すか(常套手段)

 

「……無いと言えば……嘘になりますね」

 

 身近にいるし……。■■■■ちゃんとかどちらかといえば怪奇現象を起こす方……か?

 

 

 リスナー:詳細キボンヌ

 リスナー:やっぱこの前のあのホラゲーかな?

 リスナー:馬鹿馬鹿しい……お化けなどいるわけないでしょう……科学的に考えて

 リスナー:↑例の台詞やめろ

 

 

 万が一何かあったら狐子が対処するって言ってたし、大丈夫だと思う。この前も道端に落ちていた櫛を粉々にしていたり、呪いの籠った手紙とかを燃やしているとか言ってたし、大丈夫……大丈夫なのか……?(正気)

 若干思考が乱れかけたが引き続き返答していく

 

「では次で……」

 

 

 

 

 綺羅星ヒカリ ¥10,000

 こんにちは! この前のコラボ配信お疲れ様です! 私もカラオケ企画に参加したかったです! これ少ないですが受け取ってください! あと、マルチ先生の新しい姿も見てみたいです!

 リスナー:ファッ!? ヒカリちゃん!?

 リスナー:うぉおおおおヒカリちゃあああん!

 

 ヒカリちゃんがコメントしたことでコメント欄がより一層の盛り上がりを見せる。どうも彼女達のような若い子の持つエネルギッシュな部分には劣ると常日頃感じるようになってきた。……俺も老いたか(アラサー並感)

 

「ヒカリさんありがとうございます。またコラボで会えることを楽しみにしてます……さて、それでは……」

 

 

 この後も海外のリスナーからの質問に返答したり、時折送られてくる怪文書や同人誌のネタを本人である俺に聞いてくる猛者がいて困惑したりして気づいたら90分になっていた。

 

「えー……では、そろそろ終わりの時間ですね。まだまだマシュマロはありますが、全部返すとなると一日や二日かけても終わらなくなってしまうので……」

 

 

 リスナー:えー

 リスナー:ここにエナジードリンクがあるじゃろ?

 リスナー:鬼畜の所業で草

 

 

「……最近、こう言っては何ですが、年を取るとですね……」

 

 

 リスナー:今日は休め

 リスナー:リアルすぎる事情やめて

 リスナー:やめろ先生、その言葉は俺に効く

 リスナー:手のひらドリルで草

 

「それではまた次回お会いしましょう。次回はカラオケ企画ですね」

 

 

 リスナー:乙

 リスナー:乙

 ノーフェイス ¥444

 やっぱ人間っておもしろw




特殊タグってこんなに使うのが難しいんですね……。
何とか慣れて行けたらなと思います。


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【カラオケ枠】マルチ、日本語縛るってよ 前半

閲覧ありがとうございます!

今回は思い切りV企画なので異種族要素が少し少なめですがご了承ください

それではどうぞ!


「――という訳で! スイスイと!」

「私、マルチの」

 

「カラオケ企画!」

「やっていきましょう」

 

 さーて始まった。俺の喉が酷使される時間が。この企画何がヤバいって、俺が100点ださなきゃ終われないところなんだよなぁ……。

 ちなみに今回は俺視点とスイスイ視点そして、ウタ視点が追加される予定だ。

 

 リスナー:オッスオッス!

 リスナー:スイスイやったー!

 赤スパ速攻 ¥10,000

 スパですどうぞ

 

 

「はいはい! みんなー! 今日はみんなに告知していた通り……先生の罰ゲーム兼僕の美声を披露するね!」

 

 

 リスナー:そういやこれ先生の罰ゲームだった……

 リスナー:外国曲縛りとかキッツ……

 ベイビー弱 ¥500

 これでのど飴でも買ってください

 

 リスナーからのスパチャやコメントに軽く返しつつ、いよいよウタの紹介の時間となった。

 先日ウタが出した紹介動画で彼女の歌声に魅了された人がかなり多く、試しに出したという『歌ってみた』は好評で最後に見た時から既に登録者が10万人を突破しているらしい。

 

 

「さて、ではでは? そろそろもう一人も呼んじゃいましょう!」

 

 

 リスナー:おっ?

 リスナー:おっ?

 リスナー:誰だろ

 

 

「それでは登場していただきましょう! vtuberとして活動して僅か数日で登録者10万人を突破した……」

 

 

 リスナー:10万……あっ

 リスナー:まさかの……?

 

 

「海音ウタちゃんでーす!」

「皆さま、こんにちは! 只今ご紹介に預かりました海音ウタです! どうぞよろしくお願いいたします!」

 

 

 リスナー:うぉおおおおおおお!

 リスナー:まさかまさかのウタちゃん!?

 リスナー:マジで新人やんけ!

 リスナー:たまげたなぁ……

 

 

 そういってウタのアバターが画面に映り、コメント欄がより一層の賑わいを見せる。ウタの海のような色合いの髪をもつアバターとその歌声が人気を掴んでいたようだ。

 

「はいはーい! と、いう訳で~……今回のカラオケ企画に招かれたのはウタちゃんでしたー!」

「スイスイさん、マルチさん。よろしくお願いします……!」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね」

 

「それでは早速ルール説明ぃいいい!」

 

 そう言ってスイスイからルール説明がされた。

 内容はいたって単純、俺が視聴者からリクエストされた曲をすべて“外国語”で歌ってかつ100点を取るまで終われないという物。

 

 これは元が外国語の歌ならば何も問題ないが、元が日本語の場合は違う。なんと日本語の歌詞を即興で翻訳して英語で歌えとのこと。鬼畜かな?

 

 

 リスナー:うわぁ……

 リスナー:ますますマルチ先生が人間をやめていく……

 リスナー:元から人間じゃなかっただろ! いい加減にしろ!

 リスナー:人間なんだよなぁ……

 

 

 流石に24時間ぶっ続けで歌い続けると喉が死んで、最悪うちの人外たちに改造されかねないので俺も全力は出す所存だが……。

 そこで一応のタイムリミットとして10時間以内に取れなければ再び俺に何かしらの罰ゲームが出されるとにししと笑いながらスイスイが宣告した。

 

 ちなみにスイスイとウタは俺が歌い終わった後にそれぞれ交代で歌うらしい。負担は俺の半分だ。おのれ。

 

 

 リスナー:こうしてマルチ先生の新たな伝説が刻まれるのだった……

 リスナー:早すぎる定期

 リスナー:先生壊れちゃう

 

 

「さぁさぁ! それでは一曲目行ってみよう! リスナーさんからのリクエストは…………こちら!」

 

 

魔王

 

 

 ……ん?

 

 

 リスナー:一発目からヤバいの来たな……

 リスナー:ヤバ……やばくね?

 リスナー:えぇ……(困惑)

 リスナー:次回先生死す、デュエルスタンバイ!

 リスナー:やってみせろ、先生!

 

 

「……良いでしょう。やってやりますよ……」

「じゃあ、ミュージックスタート!」

 

 始まりやがった……。流れて来る歌詞に目を向け、即座に翻訳して、出力する。

 

 

「『───────♪』」

 

 

 リスナー:始まった!

 リスナー:マジでドイツ語で歌ってやがる……!

 リスナー:先生頑張えー!

 

 

 この曲が男声中心で良かった。はっきり言って俺は女声が出せないから女声が主な歌が来たら俺は死んでいた。生憎俺のチートでも女声は流石に無理だが……何故か脳裏にイムール星人の影がちらつく。おいやめろ俺を機械にすれば解決するじゃないかとか言うな。

 

 

「『―――――――♪』」

 

 

 リスナー:『彼はドイツ人ではないのか!? だとしたらなぜこれ程まで歌えるんだ!?』(ドイツ語)

 リスナー:海外ニキ来てて草ですわ

 リスナー:世界よ、これがマルチだ。

 リスナー:ふえぇ……何て言っているのか聞き取れないよぉ……(言語力ゴミカス並感)

 

 

 脳で流れて来る日本語の歌詞を……ドイツ語として出力して……大丈夫だ。異星人や幽霊と会話する時よりも簡単だ。あとは単純な技能が問われるだけ。……異星人と会話すること自体おかしいとか突っ込んだら負けだ。

 

 そうして迎えたクライマックス。俺は精一杯の感情と抑揚を込めて歌う。

 

「『―――――――!』……ふぅ。終わりました……」

「す……すごぉい……」

「マルチさん……まさかここまで……」

 

 

 リスナー:88888888

 リスナー:ふつくしい……

 リスナー:音楽の授業を思い出しました

 盛る盛るNEX ¥10,000

 思わず引き込まれそうになりました

 

 

 歌い切った。後は点数だが……。

 

 

【90点】

 

 

「90……ですか……あと10点でしたね」

 

 

 リスナー:バケモンなんだよなぁ……

 リスナー:今すぐ歌手デビューしません?

 リスナー:というか一曲目からそれだけのカロリーを消費してたら……

 

 

「正直……一曲目でここまで消耗するとなると……キツイですね……」

「はーい! お疲れ様でーす! 惜しくも90……いや、90って普通に考えたらヤバいですけど……。それはさておき! 次は僕の番でーす!」

 

 確かに一曲目で終わらせたらそれはそれでネタになるが……と考える辺り俺も相当だな。しかしリスナーの言う通り、一曲目で相当消耗してしまったのは痛いな……。

 そしていよいよスイスイの出番になり、スイスイが画面を操作する。

 

「うーんと……じゃあ、これで!」

 

 

sister's noise

 

 

 リスナー:おっ! とあるだ!

 リスナー:スイスイちゃんの声で聴けるのか!

 リスナー:楽しみ

 

 

 そうしてスイスイが息を吸って目を閉じた。

 

「誰よりも近くにいた その声は聴こえなくて 刻み続けていた時の中で やっと君に逢えたから」

 

 中性的な声から女声ボイスに切り替わり、スイスイの表情が真剣な物に変わったことを感じ取った。スイスイの歌声は、それはそれは透き通っていて素晴らしい。

 思わず録音して後で聞きたいくらいだ。……とはいえ、それを本人に言ったらからかわれる気がしたので、保留にしておこう。

 

 リスナー:ほぉおおおおああ……

 リスナー:脳が……揺れりゅ……

 リスナー:良い……

 

 

「自分らしく生きること 何よりも伝えたくて 生まれ続ける哀しみの痛み その意味を刻むなら」

 

「はわぁ……スイスイさん凄い……」

 

 隣で聞いているウタもただただ聞き入っていた。正直言うと俺も聞き入っている。普段のイメージとはまた違ったスイスイを見たからか、ギャップを感じた。

 そしていよいよ終盤に差し掛かり、スイスイの表情も満面の笑みを見せた。

 

「感じ合った 同じ笑顔 必ず守ってみせる もう 誰にも壊せないから! ……ふぅ、ありがとうございました!」

 

 

 リスナー:88888888

 衝突頭 ¥20,000

(無言の拍手)

 リスナー:素晴らしいッ!

 

 

「みんなありがとーう! じゃあ結果はー?」

 

 

【94点】

 

 

 リスナー:ファッ!?

 リスナー:やるやん(震え声)

 リスナー:こいつらレベル高っ!?

 

 

 カラオケの採点表に現れた数字は脅威の“94”。中々お目に掛かれない数値に思わず驚愕する。スイスイはドヤ顔を浮かべこちらをチラチラ見て来る。

 

「94……!? 凄いですね……!」

「ふふーん! どんなもんですか! さぁ、次は先生ですよ!」

「やっぱりこれ私の負担が大きすぎませんかね!?」

 

 

 リスナー:草

 リスナー:なにこの……先生を殺しにかかっている感は……

 リスナー:えげつねぇな……

 

 

 俺もそう思う。

 しかし無慈悲にもスイスイは次の曲をランダムに選び始めた。

 

「さぁ次のお題はこちら!」

「まぁ……よほどの奴が来なければ……」

 

 最初の疲れも抜けたし、何が来ても問題ないだろう(淡い期待)。さぁ、来るなら何でもこい!

 

 

Southern Cross

 

 

「あ(脳裏に過る思い出によりフリーズ)」

 

 瞬間。俺の脳裏に、俺自身の青春が蘇ってきた。

 

 

 リスナー:草

 リスナー:懐かしすぎィ!

 リスナー:リクエストした奴は履修者ですね……

 リスナー:あの頃に帰りt……やっぱ帰りたくないです

 

 

「これまた懐かしいのを……」

「うーん……僕これどんな曲か知らないや」

「私も……」

「これが……ジェネレーションギャップか……」

 

 

 リスナー:先生思い出に浸ってて草ですわ

 リスナー:嘘だろ……!? これがもう数年前の産物だとでもいうのか……!?

 

 

 リスナーも俺も昔の思い出に浸っていた所で遂に始まった。この曲は全部英語なのでそこは助かるところだなと思いつつ歌い出した。

 

「『―――――――♪』」

 

 

 リスナー:おぉ……

 リスナー:記憶が蘇るわ……

 リスナー:懐っつ

 

 

 

「『―――――――♪』」

 

 

 リスナー:空耳が浮かんできた訴訟

 リスナー:見える見える……(幻視)

 リスナー:相変わらずすらすらとよく歌えますね……

 

 

 順調に歌えている。そう思っていた時だった。

 

 

「『―――――ハクション! あ』」

 

「「あ」」

 

 

 リスナー:あ

 リスナー:あっ

 リスナー:やっちまったなぁ!?

 

 

(やっべ! どこまで行ったっけ……!? あっここか! アッミスったぁあああ!)

 

 俺は急いで軌道修正に入るが、パニクった所為で頭の中の歌詞が全部すっ飛んでしまった。何やってんだ俺ぇ!?

 そこからはやはり焦りが出たのか、音を外したりなどのミスが目立って目も当てられない状態になった。

 

 そうして出された点数は

 

 

【70点】

 

 

 思わず俺は顔を抑える。

 

「……穴があったら入りたい」

「ど……ドンマイです先生……!」

「つ、次がありますよ!」

 

 

 リスナー:よくやったよ先生は

 リスナー:あれはしゃーない

 リスナー:やめてくれ先生、会社の接待で同じことをやらかした記憶が蘇る

 謎のキューブ ¥500

 ドンマイです

 

 

「さて次は……いよいよ私ですね」

 

 次は漸くウタの番だ。




ちなみにスパチャの名前には元ネタがあるのですが、分かりますかね?
そして曲選に関しては、スマホに入っていた曲の内から選びました。魔王以外は


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【カラオケ枠】マルチ、日本語縛るってよ 後半

閲覧ありがとうございます!

一先ずこれで第2章は終わりで次回から第3章に移行します!

それではどうぞ!


【さよならアンドロメダ】

 

「いつだってそう僕は一人だった 太陽さえ目を逸らしていた」

 

 

 リスナー:おぉ!?

 リスナー:良い……

 リスナー:やっぱウタちゃん良い歌声してるねぇ!

 

 

 ウタの口から紡がれていくその歌声は俺やスイスイ、そしてリスナー達も魅了していく。

 それはひとえに彼女が人魚だからというのもあるが、それを抜きにしても凄いと言わざるを得ない。歌っている姿も本当に心の底から楽しそうで、笑顔も輝いていた。

 

「七色の星屑の波に乗って 僕らは宇宙を駆け抜けた 不器用な地図をふたり描いた 隣の銀河を夢見て」

 

「凄い……ウタちゃん」

「本当ですね」

「それにしても……どうやって先生はウタちゃんのような子と知り合ったの? この前もウタちゃんからマルチさんなんて言われて親しまれていたけど……」

「……知り合い()からの紹介ですね」

「……ふーん」

 

 マイクに拾われないような小さな声でスイスイが耳打ちしてきた。ウタの声が凄いことは同感だ。だが、ウタとの関連性を問い詰められて若干焦った。

 と、ここで曲が終盤を迎えたようだ。

 

「君のことを思い出すから 空見上げて微笑むから」

 

 曲が終わった瞬間、俺とスイスイはリスナーの分も含めた大きな拍手をした。

 

 

 リスナー:88888888

 銭擦り ¥20,000

 感動の極み

 リスナー:CD集とか出してほしいです!

 

 

「皆さん! ご清聴ありがとうございました!」

「凄かったよ……ウタちゃん! じゃあ、次は先生だね!」

「……やっぱりこれハードスケジュールでは?」

 

 その後俺は視聴者からのリクエストでアニメや特撮系、その他にも様々なジャンルの曲を歌わせられることになった。全部英語で

 

【W-B-X】

 

「あれ、これ相方どうします?」

「あっ、じゃあ僕がやる!」

 

 

【ウルトラ六兄弟】

 

(これ俺ちゃんと翻訳出来てんのか……!? 俺のチートを信じるしかねぇ……!)

 

 

【恋は渾沌の隷也】

 

「……なるほど」

 

 

 

 この他にも、無数の曲がリクエストされたが、中にはカラオケ機材に入っていない曲も多々見られた。……【旧支配者のキャロル】とかな!

 しかしそれらを歌いきってもあと5点とか、2点とかあってただひたすら悔しい思いをした。なにより知らず知らずのうちに老いていた自分の身体に驚愕させられた。あれ……? 俺こんなにスタミナ無かったっけ?

 

 それから歌い始めてから5時間が経過した。流石に休憩は入れてもらったが、やはりあと数点届かないと言うのはかなり精神に来るものだと実感させられるな。

 

「先生惜しい所まで行ってるんだけどね……何で英語でここまでの高得点だせるんだろう……?」

「本当ですよね……」

「……これが終わったら運動することにします。ここまでスタミナが無いとは……」

 

 

 リスナー:草

 リスナー:歌声とか以前にスタミナの心配してて草

 蒼の魔道具 ¥10,000

 ジム代の足しにしてくだせぇ

 

 

「さてさて……先生、次の曲の準備はいい?」

「待ってと言っても止まらないでしょう?」

「よくわかってるじゃないですか! それでは次のリクエストは……こちらッ!」

 

 

【残酷な天使のテーゼ】

 

 

 リスナー:お、王道来たぁああああ!

 リスナー:あれ? これ英語版無かったっけ?

 リスナー:あることにはあるけど……

 

 王道中の王道が来たことで俺も僅かばかりにテンションが上がる。コメント欄でも英語版があったのではないかと指摘されてるが、生憎このカラオケ機材には無い為、普通に歌っている最中に翻訳していくしかないのだ。出来ればこれで終わらせたいと考えているため、俺も本気を出すことにした。(n敗目)

 

「これで、なんとか100点を取れればいいのですがね……」

「先生なら行けるって! 僕も応援してるから!」

 

「ありがとうございます。それで本音は」

「困り果てるリアクションを楽しみにしてる!」

「課題出しますね」

「すみません許してください……」

 

 

 リスナー:即 落 ち 二 コ マ

 リスナー:しおれてて草

 リスナー:なんで毎回負けるのに立ち向かうんですか……?

 リスナー:↑スイスイだからさ

 

「さて……何とかこれで終わりにしますよ……! 前のようにくしゃみをしなければの話ですがね!」

 

 

 リスナー:むっちゃ気にしてて草

 リスナー:といつつ、さっきは咳を下手に我慢したらもっとヤバくなったじゃないですかーやだー

 竿場⑨カイザー ¥12,000

 お大事に

 

 

 リスナーからのコメントでくしゃみしたことや、咳を我慢したらそれはそれでむせたことを思い返しつつも、いよいよ曲が始まったのでマイクを手に取り、気持ちを切り替える。喉は……大丈夫。

 そして一息吸って……歌い出す。

 

 

「『残酷な天使のように 少年よ 神話になれ』」

 

 

 リスナー:ふぉおおおおおお!

 リスナー:かっけぇえええ!

 リスナー:英語だけど歌詞を知っているので補完できる……

 

 

「『残酷な天使のテーゼ 窓辺からやがて飛び立つ ほとばしる熱いパトスで 思い出を裏切るなら』」

 

 曲の一番が終えた所で俺は一息ついた。喉の調子は……ヨシ! 歌っている途中で見ていた限りでは失敗はなさそうで、安心した。

 そして間奏が終わろうとしたので、俺は再び気持ちを切り替えた。

 

「『ずっと眠っている 私の愛の揺りかご』」

 

 

 リスナー:がんばれー!

 リスナー:今のところは良い調子だぞ……?

 リスナー:いける! いけるぞ!

 リスナー:↑おいやめろ

 

 

「『残酷な天使のテーゼ 悲しみがそしてはじまる 抱きしめた命のかたち その夢に目覚めたとき』」

 

 ……このカラオケに流れてくる映像に少し気を取られそうになる。というか俺の死因がこれに近しかったのもあるんだが……。細かいことは気にしないことにしよう。いよいよラストだ。

 

「『この宇宙を抱いて輝く 少年よ 神話になれ』……ふぅ、終わった……」

「お疲れさま!」

「お疲れ様です!」

 

 

 リスナー:88888888

 リスナー:お疲れー!

 リスナー:さて、結果は……?

 

 

 特にミスはしなかった筈……頼むからこれで終わってくれ……と内心必死に思いつつカラオケの採点を待った。

 

 暫くしてカラオケ機に映しだされた点数は

 

 

【100点】

 

 

 リスナー:うぉおおおおおおおお!?

 リスナー:マジで、マジでやりやがった!

 リスナー:おめ!

 

 

「や……やっと終わりました……」

「す、すごぉおおおい!」

「やりましたねマルチさん!」

 

 

 5・C ¥15,000

 100点達成祝い

 リスナー:やりやがった……!

 リスナー:素晴らしいッ!

 0誕生 ¥30,000

 やるやん!

 

 

「ふぅ……一先ずこれで私の罰ゲームは終わりのようですね」

「そうだね先生! じゃああと一周したら終わりにしよう!」

「……あと一周……?」

 

 えっ、まさかもう一度100ださないとダメなのか!? という思惑を込めた返事をした。

 

「違うよ!? ほら……最後は三人が歌い切りたいじゃん? 皆もそれを待ち望んでいるしー?」

 

 あっぶね……! ビビった……。

 

「……てっきりもう一度100点出すまで終わりにしないと言うかと思いましたよ」

「そ れ と も? 先生がやりたいって言うんなr「いいえ、遠慮します」即答?!」

 

 

 リスナー:メッチャ食い気味で草ァ!

 リスナー:もう一度やらせるとかただの苦行なんだよなぁ……あのパズルのようにボソッ

 リスナー:ガチトーンやんけ

 リスナー:もうやめてマルチ先生の体力はもう0よ!

 

 

「まだ私はアラサー………………です……よ」

 

 

 リスナー:あっ、ふーん(察し)

 リスナー:さてはアラフォー寸前かぁ~?(アラフィフ並感)

 リスナー:……俺も久し振りに外に出ようかな

 ノーフェイス ¥444

 キャロル聞きたかったナー

 

 この後全員一周した後、次の配信の事や各々の感想を述べてお開きとなった。ちなみに俺の感想は「日本語の歌は日本語で歌うに限る」だ。

 

 そしてウタは俺が翻訳した後日、自身のチャンネルにその歌をアップロードして、一躍話題になったという。ウタがその歌の制作過程に俺が協力したことを告げるとコメント欄で「浮気かな?」というからかいも込められたコメントが案の定出てきたのでやんわりと違うことを告げた。その日の夜、髪を白くした本気の狐子に骨の髄まで絞り取られた。思わず三途の川が見えそうになったのは秘密だ。

 ……なぜか脳裏に褐色の女神が爆笑している光景が浮かんできたので中指を立てながら浴びせられるだけの罵倒を浴びせたのはなぜか覚えている。

 

 

 

 

 数週間後

 

「『ニュースです。昨日未明世界各国に無数の隕石群が落下しました。幸いにも怪我人はなく、また大陸や惑星に関しても特に悪影響は及んでないとのことです。専門家の方によりますと――』」

 

「こわいのう(天狐並感)」

「そうだね(自称一般人並感)」

 

 朝からとんでもないニュースが流れている中、俺と天狐は朝ご飯を食べていた。今日の朝ご飯はキャベツと秋刀魚の塩焼き、ベーコンエッグだ。何となくご機嫌になれそうなメニューだ。

 

 というか隕石が降り注ぐって割と地獄絵図じゃね? と思いつつ味噌汁を啜る。うん、良い味だ。

 

「それにしても……こんなに隕石が降るとか、何か良くないことの前兆か?」

「そうだとしても安心せい。儂が其方を守るから安心じゃ!」

「普通逆だと言いたいが……まぁ、俺は普通の人間だからな」

 

 そういうと狐子の手が止まる。

 

「……普通の……人間……?」

 

 心底信じられないという目をして、俺に話してくる狐子。その表情はまるでどこぞのうさぎ探偵のようだ。

 

「上代日本語を完璧に理解して、あまつさえ星の外の連中の言葉が分かる其方が……普通の人間……? これが俗に言う『俺何かしちゃいました系主人公』という奴なのかの……?」

「すみません私が間違ってました。俺は普通じゃないです……俺は異常者でした……。というかそれ知ってたんだ……」

「其方を飽きさせぬようにと色々と調べてみたのじゃ。そしたら其方との共通点が見つかってのう、例えば一夫多妻とか、恩恵だの……まぁ、お主は普通ではないの」

「俺は……一般人ではありません……逸般人でした……」

 

 俺は五体投地になり狐子に敗北した旨を告げる。

 

「まぁそんな其方でも儂は好きなんじゃがのう」

「突然の惚気やめて、恥ずかしくなる……」

 

 狐子の何気ない発言に顔を赤らめた俺。それを見た狐子はニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべ、

 

「ヨシ! 今日は褒め殺しといくかの! どこまで其方の余裕が持つかの!」

「やめてください(精神的に)死んでしまいます」

「(肉体的に)死んだとしても儂の眷属にしてやるから安心せい」

「俺の死後の就職先が決まったんだが!? あと絶対認識の齟齬が起きてるって!?」

 

 

 隕石が庭に衝突するまであと3分の出来事だった。




主人公
フィジカルはクソ雑魚(※人外連中と比べて)
女性と仕事した時は大体狐子に残らず絞られる。

狐子
主人公を飽きさせない為にネットで色んなものを学んでいる。その所為で主人公の性癖が大分こじれるようになったが、どちらにせよ狐子でしか興奮できなくさせられているため、問題ない

ウタ
登録者も伸びて、配信後暫くして遂に50万人を突破した。

イムール星人
隕石に何か関係があるようだが……


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第三部
厄ネタ、オンステージ!


閲覧ありがとうございます!

今回から第三章ということで少しだけシリアスになりますが、直ぐにシリアルになりますのでご注意を

それではどうぞ!


【緊急】ガウズ星人、地球侵略の兆しを見せる【第一種禁忌指定存在】

 

詳細は以下のURLを参照【URL】

 

1:管理人 ID:y1aAt8h4z

我々は速やかに敵対者たるガウズ星人を残らず殲滅しなければなりません。

繰り返す、速やかにガウズ星人を残らず殲滅しなければなりません。

 

2:■■の■■■■人 ID:wJGjU/BYZ

彼奴ら遂に地球を見つけやがったか……

 

3:■■の■■■■人 ID:GQ9l7Lkg0

不味いぞ……今の地球の科学力では到底太刀打ちできないぞ!?

 

4:■■の■■■■人 ID:yGFcQbmX/

彼奴らに目を付けられたら最後、我々クラスの科学力や戦闘力を保持する存在でなければ……

 

5:■■の■■■■人 ID:3kR5zNoy0

星の資源という資源、全てが喰らい尽くされ生命は全て死に絶える。文字通り星の全てが喰らい尽くされる。

全く以て害悪でしかない

 

6:■■の■■■■人 ID:ly/ddz+V+

確かこれまでも何回か俺たちが滅ぼした筈だが……!?

 

7:■■の■■■■人 ID:DzbszyxFy

>>6 奴らは僅かな細胞からでも復活する。つまり奴らを完全に滅ぼすには……

 

8:■■の■■■■人 ID:jbQz3wyuf

>>7 星ごと木っ端みじんにするしかない……と。しかしそれは我々の行動方針の違反項目に抵触する

 

9:■■の■■■■人 ID:J2ZOYKVGK

かといって……このまま野放しにしてると……!

 

10:管理人 ID:y1aAt8h4z

地球は滅ぶ、確実に。

 

11:■■の■■■■人 ID:G7tCPY0mY

はぁ~……これだからガウス星人共はよぉ……

 

12:■■の■■■■人 ID:Devg33KlI

よりにもよって地球に目を付けやがったか。クソが

 

13:■■の■■■■人 ID:Oiw17u81q

奴らの目からしても、魅力的に映ったんだろうな。「美味しそう」とな。

だからこそ『食事』をするに至ったんだろうな

 

14:■■の■■■■人 ID:EXwwtM6UG

で、どうする。管理人。俺は既に準備は出来ている。

 

15:管理人 ID:y1aAt8h4z

裁決を取り次第、討伐隊【口塞ぎ】を編成します。

ガウズ星人は既に宇宙均衡法第3条【過剰な侵略行為、残虐行為の禁止】及び第10条【宇宙科学の未発達な惑星への侵略行為の禁止】に抵触しているため、排除対象と見なします。

 

16:■■の■■■■人 ID:b1L/nYhZX

【口塞ぎ】への志願を要望する。

 

17:■■の■■■■人 ID:JpsoAuL60

>>15 同じく志願する。奴らの下品で大きい口は塞ぐに限る。

 

18:■■の■■■■人 ID:XQva1U5C6

志願する。奴らは塵一つ残さん。

 

19:管理人 ID:y1aAt8h4z

ご協力感謝致します。しかし要望が多い為、以下のURLにアクセスを。そこで討伐隊を編成した後、速やかにブリーフィングを行います。

【URL】

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

【報告書】

 

 地球時間(参照:日本)午前5時、討伐隊【口塞ぎ】により地球に到達する寸前でガウズ星人及びその宇宙戦艦を壊滅させることに成功。しかしその際彼らの宇宙船の破片が地球に降り注ぐことになった。しかしそれらの破片はいずれも大気圏の突入の際に生じた高熱により蒸発。地球への異常はなし。事後処理及び通常業務に移行する。

 

 

【追記】

 

 ガウズ星人が地球人のDNAを採取し、何かの実験をしていた疑惑がガウズ星人のコンピューター及びその研究施設で明らかになった。

 精査の結果…………ガウズ星人と地球人の生物兵器を作成しようとしていた模様。しかしコンピューターの損傷が激しい為、完全復元は不可能。

 

 既に地球に潜伏している他星人には通達済み。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 チュドォオオオオン!!

 

「「!?」」

 

 俺と狐子が朝ご飯を食い終えた直後、突然庭に何かが衝突した。

 その衝撃で窓ガラスは揺れ、庭の土は舞い上がり、俺らは唖然とした。

 

「な、な、何事じゃ!?」

 

 狐子が柄にもなく仰天していた。動揺しているせいか、狐耳と尾が表に出て毛が逆立っていた。

 

 そして俺はというと、胃の痛みに悶えていた。

 

「またか……またなのか……俺の胃痛の種が増えるのか……」

「其方!? しっかりするのじゃ!」

 

 そうしたやり取りをしていると窓ガラスの向こう側――舞い上がる土煙の中に不審な黒い影が見えることに気づく。

 それを見た狐子は全身の毛が白く染まり始め、爪が鋭く伸び、尾の数も9本になり、完全に迎撃体勢といった所になっていた。

 

「彼奴……! この星の輩では無いな! おのれぇ……儂の婚姻生活の邪魔をするか!」

「待て待て落ち着け!」

 

 すっかり興奮して今にも窓を突き破ってその影を排除しようとする狐子を抑えていると、やがてその全貌が明らかになった。

 

「……」

 

 それは年端も行かない少女のような姿をしていた。肌は褐色で、虚ろな目をしていた。これだけならまだ人間かなと思える。しかしそれは彼女の身体についた無数のそれが否定していた。

 

「……え?」

「面妖な……身体中に牙を持った口を……?」

 

 ――少女の身体のいたるところに凶暴な牙を携えた口がいくつも露出していたのだ。凡そ人間のそれとは程遠い姿をした少女が虚ろな表情をしている間に俺たちは庭の窓を開けて対峙していた。

 

「お主……何者じゃ……?」

「……」

 

(話せねぇから俺のチートが発動しねぇ……うーん……どうするか……)

 

 全然話そうともしない少女。明らかに地球外から来てそうなので、狐子の言葉が通じているかが怪しい所だ。しかし相手が全然話さないので俺のチートが発動せずに困っていた時だった。

 

 

 グゥウウウウウウウウウウウウウ!!

 

 

「『……おなかすいた』」

 

 地の底から響くような魔物の声かと思ってしまう位の腹の音を鳴らして、初めての言葉を話した少女を前に狐子も俺もあっけにとられた。そして俺は一先ず狐子に目配りをして、チートが発動したことを確認して少女に声を掛けた。

 

「『ご飯食べる?』」

「『……食べる』」

 

「……ちゃんと庭を直すように言ってくれないかの?」

 

 

 

 

「『……お代わり』」

「食い過ぎじゃろ!? もう殆ど喰らい尽くしたんじゃが!? お主は二口女か!? いやこの場合は……多口女か……!?」

 

 あれから数十分が経過したころ、この少女はうちの備蓄のほぼ全てを喰らい尽くしていた。身の丈に合わない量を、無数の口で喰らい尽くしていくその様はまさに人外といった所だろう。胃痛の種が追加された瞬間である。

 

「『満腹になったか?』」

「『……まだ食べれる。美味しい』」

 

 そのことを俺から聞いた狐子はムキになり、空間に手を伸ばして、米俵を引っ張ってきたので、流石にそれは止めることにした。

 

 そして一先ず腹が膨れたとのことなので、話を聞いてみることにした。

 

「『君は何者だ?』」

「『……私は……私は……?』」

(あっ(察し))

 

「『私は……誰……?』」

 

 記憶を喪失していたようだ。とても困り顔で、頭を抱えている彼女に合わせて身体中の口が蠢いている。怖い。

 

「記憶を失った地球外の存在……儂がいうのもなんじゃが、其方、相当運が無いようじゃの……」

「運が悪いことは自覚している。狐子の加護でもどうにもならないことを知った時からもうそれは割り切っている」

「其方……それは湯呑では無いぞ……? スマホだぞ?」

「……割り切れてないですハイ」

 

 どうやら一番動揺しているのは俺だったようだ。一先ずスマホを見てまだ配信の時間でないことを確認してこの少女の扱いをどうするかを狐子と話す。

 

「……どうしましょ」

「……正直ここで儂が消し炭にしても良いのじゃが……どうにも奴の在り方は無垢な少女そのものじゃ……どうしようかの……?」

「……うーん……どうしようかなぁ……」

 

 すると不意に俺の携帯が鳴った。電話の主は……イシノヴァだ。

 

「もしもし?」

『早朝から突然申し訳ありません。テレビのニュースはご覧になりましたか?』

「あぁ、見たけど……」

『なら話は早いですね。あの隕石は紛れもなく宇宙船の破片でしてね』

「アッハイ」

 

 朝っぱらから壮大なことを聞かされた俺。さらにイシノヴァによると、あの隕石の中には超危険なガウズ星人という存在が紛れ込んでいたらしく、今世界中のあちこちで地球に潜伏している宇宙人たちが対処に当たっていると言われた。

 

『ちなみに私達も今朝がた遭遇しましてね』

「えっ!? 大丈夫なのか!?」

『いえいえ、私達は奴らにやられるほど軟弱ではありませんよ。逆に喰らい尽くしましたよ』

「ヒエッ」

 

 俺がイシノヴァのヤバさを改めて認識した時だった。ふとイシノヴァが述べた。

 

『そういえば、イムール星人からの通達がありましてね』

「は、はぁ……」

『何でも……地球人の遺伝子を使用して生物兵器を作ろうとしていたそうでして……』

「……地球人の……遺伝子……」

 

 俺はちらっと、テーブルに座る少女を見つめる。見た目は……9割がた地球人だが……。ワンアウト

 

『あっ、そうでした。ガウズ星人の特徴は、凶暴な口と異常なまでの食欲でしてね……』

「凶暴な口……異常なまでの食欲……」

 

 今は口を閉じているが、さっきまで口が動いていたことを思い返す。ツーアウト

 

『そうそう、彼らの復元作業によって分かったこととして、その生物兵器は地球人の少女の姿をしているそうです』

「……少女」

 

 見た目は褐色ロリの無表情な少女。スリーアウト。交代だ。選手はどこだ? おい、早く代わってくれ(懇願)

 

『おや、どうしました?』

「……何でもない。それで、イムール星人は他に何て?」

『あぁ、彼らは今かなり議論をしているそうですよ』

 

 そういってイシノヴァは、次の事を語った。

 

 今イムール星人は、生物兵器として製造された少女の扱いについて議論をしているらしく【凶暴なガウズ星人の生物兵器は有無を言わさず即殺処分するべき】とする派閥と【実験体として生まれた存在には罪は無い為、精々保護観察をするべき】という派閥に分かれているらしく結論は出されていないらしい。

 また、宇宙法とやらに地球はまだ登録されておらず、そうした場合にはどうすれば良いかでもめているらしい。

 

 イシノヴァが話している最中の俺はというと……汗をダラダラ流していた。

 

『いかに科学技術が進んだ彼らでもこうして悩むことは稀ではありませんよ……あれ? どうしましたか?』

「……なぁ、イシノヴァ。俺の家にその少女がいるとしたら……どうする……?」

『………………なるほど。今日、この後伺っても?』

 

 俺は配信が終えた後の時間帯にイシノヴァとの約束を取り付けた。その間も少女は戸棚のお菓子を食べ尽くしていた。狐子は泣きながら失った食材を残らず買いに行った。

 

「……ふぅ……俺が何をしたっていうんだ」

「『……美味しかった』」

「見た目は……普通の少女だよな…………嘘、普通じゃねぇわ」

 

 少女の満足そうな呟きを背景に俺は項垂れ、ネット上で“幸運EX(評価不可能)の男”と呼ばれていたことを思い出した。心が抉られる音が僅かに内側から聞こえた。




主人公
また異星人か壊れるなぁ……(諦め)
言葉が通じるだけでどうしてこうなったと最近になって頭を抱え始めた。


狐子
家の備蓄すべて出しても足りないと言われ、ムキになったが美味しいという少女の表情に噓偽りがないことを察知し、めっちゃ悩むことに
泣く子には勝てん(涙)


ガウズ星人
モチーフはデュ●マのエイリアンみたいな奴ら
食欲を基礎として動き、数々の星々に移り住んではある限りを食うというやべー奴ら。地味に科学力も高い為、今回のようにキメラを作ることも度々。


イシノヴァ
襲ってきたガウズ星人の一体を即屠って逆にムシャムシャしてやった。全部ムシャムシャしてやったのでもちろん再生はしない。


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持つべきものは友ですね(白目)

閲覧ありがとうございます!

いつも感想と評価、誤字報告ありがとうございます!

引き続き頑張っていくので、宜しくお願いします!

それではどうぞ!

追記
少しホラー風味が強すぎたので、表現をマイルドに変更しました。突然の展開過ぎるのは良くないよね! ってことを学びました。


「お久しぶりですね。この前のカフェの時以来でしょうか」

「まぁ、とにかく入ってくれ」

「それではお邪魔します」

 

 今日のゲーム配信を終えた後、家にイシノヴァが来た。軽く会釈をしながら家に入ってきたその手には近所の有名菓子店の袋が握られていた。

 

「こちらをどうぞ。流石に手ぶらで来るのはどうかと思いましてね」

「おぉ……済まぬの……家にあった菓子類やらは軒並み消滅しての……」

 

 狐子がイシノヴァから菓子を受け取った。そう、かつての我が家には菓子類が割と溢れていたのだが、今日一日で軒並み消滅したのだ。無論原因はリビングに座って飴を舐めている少女だ。

 

 飴を舐めさせて食欲を紛らわせているのだが、それでも舐めるペースと言うか飴が口内で溶けるスピードが速い為、正直焼け石に水といった所だ。今も無言でレロレロと飴を舐めているが、既に3袋目に突入しているのだ。

 

「さて……では彼女について話を進めて行きましょうか」

 

 

 

「まず、彼女は既に話した通り……地球人の遺伝子を用いて誕生させられた生物兵器、いわば、キメラといった所でしょう」

「……見た目は口が多くあるだけで、他は普通の人間そうじゃがの……」

「見た目だけですがね。現に、その彼女の脅威は貴方達が体験したばっかりではありませんか?」

「「……」」

 

 淡々と告げるイシノヴァに俺たちは目を逸らしていた。全く以てその通りです。

 

「でも……かと言って、この少女はどうしたらいいのか……言葉が分かるのは地球上で多分俺一人だけだし……」

「それは違いないですね。私達もその少女の血液やらを摂取すれば何とかなりますが……」

 

 そう言ってイシノヴァは少女をちらりと見る。少女は狐子の妖術によって安らかな寝息を立てていた。外部に露出した口からは牙が見え、開けっ放しになってよだれも出ていた。

 

「……正直私達としては、不確定要素が詰められたこの少女を大事になる前に、殺しておくことが最善だと判断したのですが……」

「zzzz……」

 

「さ、流石に殺すのは……」

「まぁ、この不確定要素の塊は彼らの分野ですね。下手につついて厄介なことになっては流石に本末転倒ですので……こちらを使いましょう」

 

 イシノヴァは懐からスマホとは違う形状の端末を取り出し、机の上に置いた。その端末の表面には“イムール星人”と記されていた。

 

「それは……?」

「あぁ、こちらは地球に来る前にイムール星人から支給された端末ですね。監視の役割も兼ねているので、かなり重要な物なのですよ」

 

 コール音が幾たびか鳴ったかと思うと、やがて固有の外殻を纏ったイムール星人が投影された。まるで映画に出てくるようなアレだな、と個人的に思った。

 

 

「『こちらイムール星人監視局、どうしましたリゲン星人イシノヴァ』」

 

 機械音声と共に応答したイムール星人にイシノヴァが要件を伝える。

 

「『ガウズ星人の件でお伺いしました』」

「『……すぐに担当者にお繋ぎします』」

 

 イシノヴァの言葉と共に俺を見たイムール星人は仰天した様子を見せて、直ぐに担当者に代わってもらうことになった。

 

「……何で俺を見て驚いていたんだ……?」

「2つに1つですけど……単に地球人がこの回線に紛れ込んだことに対する驚きと、イムール星人の間で話題になっている人物がいたことに対する驚き、どっちだと思います?」

「……どっちもありそうだな……」

「其方……下手したら地球よりも有名になっていないかの?」

「やめて」

 

 次の瞬間だった。

 

 突然俺の周囲が半透明のドーム状のような何かに包まれたのだ。俺と狐子が慌てていると、イシノヴァが説明した。

 

 なんでも、こうした他人にばらして不味いことを話す場合はこうしたドームを展開するそうだ。このドームにはドームの外側からの監視、盗聴に対しての対策、そしてドームの外からは俺たちが見えてないというマジックミラーのような役割があるといわれた。ハイスペックすぎる道具からもイムール星人の科学力が頭おかしい(誉め言葉)ことが分かる。

 

 そうしてドームが展開されてから暫くしていると……部屋の景色が一変した。

 

「「ファッ!?」」

「『これはこれはお久しぶりですね。イムール星人の方々』」

 

 一変した部屋を見渡すと、数々の特徴を持った外殻を纏ったイムール星人がまるで俺達を取り囲むようにして着席していた。彼らの纏っている外殻は絶対地球からの影響を受けた形状をしており、完全に染まってやがる……と内心驚愕していた。

 明らかにガン●ムだったり、ACだったりと兎に角そうしたロボットアニメやゲームをモチーフにしたような外殻を纏っている奴らがいるし、更にはぱっと見でも日本の武者や西洋の騎士をモチーフとした外殻や武器を持っている連中もいることから相当エンジョイしているようだ。初めてあった時は全員同じような外殻だったのにどうしてこうなった。

 

 そしてイシノヴァが挨拶をした方を振り向くと、俺が初めて会ったイムール星人こと管理人? が鎮座していた。

 

「『お久しぶりですねリゲン星人。それと……我らの友、ゲンゴ』」

「『あー……お久しぶり……です……』」

「……こちらの言葉はよくわからぬが……挨拶をしているのかの……?」

 

 俺が管理人に返答すると

 

「『それでは……早速その少女についての話を始めましょうか。我々の中でも意見が二極化しておりまして……』」

 

 そういうと管理人はグラフを投映し始めた。そこには【排除50対保護観察50】と記されていた。本当に二極化しているようだ。

 

「『現在の我々ではこのように分かれていまして……つい先ほどもシミュレーションルームで双方の陣営が消し炭になるまでの論争を繰り広げてまして……』」

「『それ絶対論争(物理)じゃないですか……しかも双方が消し炭になったって……』」

 

「『いやー、流石にシミュレーションに多連装式荷電粒子砲を持ち出すのは駄目だろ。あれがシミュレーションじゃなかったら流石に死ぬ所だったが?』」

「『そっちこそ極限重力圧縮弾【宇宙の夜明け】を持ち出すのは反則だろ』」

「『は? そっちこそ自動追尾レーザー【魔弾の射手】を持ち込みやがって……!』」

「『ほーん? 超波動砲持ち出してシミュレーションを一時的にショートさせたそっちがいうか?』」

 

 次々とイムール星人たちから物騒過ぎる会話内容と罵倒に似た発言が飛び出してくる。僅かに聞こえてくる単語の数々に戦慄していると、管理人が静かにさせた。

 

「『静粛に。このままでは間違いなく我々の統率に多大な影響を齎してしまいます』」

(もう既に影響が出ているのでは……?)

 

「『我々の意見は完全に分断されてしまいました……そこで』」

 

 そう言って管理人は俺に金色の双眼を向けた。

 

「『ここは彼の意見を貰うことにしましょう』」

「『……え?』」

 

 管理人が言うには、この少女を拾ったのが俺以外の地球人だったらここまでのことは起きなかったらしいが、個人でイムール星人との関係を持っている俺が拾ったため事態がさらにややこしくなったという。記憶を消そうにも、それで万が一、億が一のことがあって言語機能が消滅したとなれば相当の損失になりかねないらしく、またそうなった際に俺の傍に居る狐子からの報復の事も考慮すると記憶消去という手段を採れなかったという。彼らにとって解明がしづらい呪いの類なだけなあって狐子のことは俺が思っている以上に警戒しているらしい。

 

 そして、いざ俺の意見を聞くとなったが……。俺はふと寝っぱなしの少女を見る。とても穏やかな表情で眠りについている。

 

「『……ちなみに、ここで俺がこの少女を殺すことに同意したら……?』」

「『我々は速やかにその少女の細胞を残らず消滅させます』」

 

 おっふ……。予想はしていたがかなり物騒だな……

 

「『じゃあ、俺がこの少女を育てるといったら……?』」

「『我々はサポートに回ります。要望があればそれも研究しましょう』」

 

「『なら決まりだ。この少女は――』」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「……おはよう」

「おっ、目覚めがよいの! ご飯にするかの?」

「……この首輪、いや」

「我慢してくれ……その首輪のお蔭で会話出来ているんだ」

 

 あの後俺は、この少女を育てることにした。少女の首にはチョーカーのような器具が取り付けられている。俺がこの少女を生かすことを決めた次の日には爆速でこの翻訳機能付きのチョーカーが届いたのだった。他にも機能として、食欲を少し減少させる機能が備わっているらしく、至れり尽くせりだった。

 

 しかし、それでも……

 

「……おかわり」

「もう大盛ご飯を5杯食べおったのか!?」

「……みそ汁も」

「其方ー! 本当に食欲が減ったのかのー!?」

 

 同年代は疎か、バリバリの運動系の学生よりも食べる少女に悩まされていた。

 

星奈(せな)、そろそろやめて上げて狐子が過労死するから……」

「……わかった。お菓子で我慢する」

「そのお菓子も残らず食べるじゃろう!?」

 

 流石に『少女』と呼ぶわけにはいかないので、星奈と名付けた。母さんが。

 

 あの後両親には捨て子を拾ったとして連絡をした。流石に宇宙人とのキメラですとそのまま伝えるのは頭の病気を疑われかねない為やむを得なかった。そして両親の下に向かった際にはもう、それはそれは猫可愛がりされた。実家の食料を残らず食べた際は親父が信じられない物を見たような視線を星奈に向けた。かつての自分でもそこまで食べなかったことに対する恐怖と、財政事情に対する恐怖が親父を支配したのだ。ちゃんと俺が失った分は補填した。

 

 それから星奈に名前が無いことを知った母さんが「この子を捨てた親の全身の骨を粉砕してやる!」と覇気を漲らせていたが、親が(生きているのかすら)わからないことを伝えると一転して名前を考え始めたのだ。それでもボソッと「両手か両足……どちらを選ばせるか」と物騒なことを呟いていた。親父と俺は少しだけ母さんから距離を取った。

 

 そして社長にも伝えたら「君は本当に退屈させないね(白目)」と言われた。胃薬を差し入れようとしたが、生憎俺の手持ちは既に(自分が消費して)無かったため、泣く泣く断念した。

 

「じゃあ、今日は事務所で会議をしてくるから……」

「弁当はもったかの?」

「持ったよ。……空箱だけど」

「せ~な~!」

「……ごめんなさい」

「仕方ないのう……後で作って渡すからの! 待っておれ!」

 

 こうして今日も俺の一日は始まる。

 

 

 

 

「次のニュースです。○○市の廃墟にて中学生の男女五人組が集団死するという事件が発生しました。警察によりますと「全員が全員とも目立った外傷もなく、まるで眠りにつくように亡くなってしまった」とのことです」

 

 

 

 ――ねぇ、知ってる?

 

 ――うん、知ってる! 仲の良い五人でやると、いつまでも一緒になれるおまじないでしょ?

 

 ――そうそう! ねぇ! 私達もやろうよ!

 

 ――良いね! やろうやろう!

 

 

「――次のニュースです。○○小学校にて女子生徒五人が意識不明の状態で発見される事件が発生しました」




※■■■■ちゃんではありません。


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ホラーの終焉は唐突に

閲覧ありがとうございます!

沢山の感想と評価、誤字報告ありがとうございます!
これからも頑張っていきます!

それではどうぞ!


「それじゃあこれで今日の会議は終わりにします。お疲れ様でした!」

 

 次の企画会議が終了した後、俺は席を立って家路に就こうとしていた。すると会議の参加者の一人が話しかけて来た。

 

「あ、あの……マルチさん、ちょっといいですか……?」

「うん? はい、いいですよ」

「少し……お話したいことが……」

「私に……?」

 

 

 俺に話しかけて来たのは、細井正雄(ほそいまさお)ことホラー系Vtuber『スレンダー男』だ。リアルでも身長が195㎝もあってかなりの長身で、俺の配信を見てからV活動を始めるに至ったらしい、と本人から聞いた。

 

 スレンダー男としての活動は、ホラーゲーム実況を主としており、立ち絵なんかはどこぞのスレンダー●ンにそっくりののっぺらぼうにスーツだったのを覚えている。

 

「……実は、視聴者からのコメントで……こんなものが……」

 

 そう言って正雄は俺にスマホのとある画面を見せてきた。そこに映されていたのは、やけに可愛らしいフォントで書かれた文章だった。

 

「『いっしょになれるおまじない』?」

「そうです。僕も視聴者に言われて、初めて知ったのですが……その手順がどうも、可笑しいのです」

 

 正雄からスマホを受け取り、内容を吟味していく。どうやら日本語で書かれているようだ……。

 

「えーっと……?『はじめに五人組を集めてね! 次に、五人で輪を作るようにしてテーブルを中心に座って!』……なんだコレ?」

 

 次々と読み進めて行くに従って、何か得体の知れない感情が湧いてくる。なんだこれは……。ポップな文字のフォントがさらに不気味さを醸し出している。

 そしてスマホを更にスライドさせていく。

 

「『3つ目! ここまで来たら後は簡単! 次の呪文をみんなで一斉に唱えるだけ! はい! これでいっしょだね!』」

 

 そうして俺がさらに下にスライドさせていると……得体の知れない文字列と、読み仮名がふってあった。

 

「ここです、ここの呪文はみんな唱えているようなのですが、読めないならこの文字をわざわざ記す必要がないんじゃないかと思って……」

「……それで、私に尋ねてきた訳ですか……」

「申し訳ありません……どうしても僕だけじゃあ力不足でして……」

「気にしなくていいよ……えっーと……」

 

 そういって俺は文字列を眺め、チートが発動するのを待った。チートが即座に発動しないことからもこれは俺が一度でも見たことのある文字でないことは明らかだった。

 

おしょくじのよういができました。どうぞおたべください

 

 

「……!」

 

 チートが発動して、徐々に文字列が明らかになっていく。しかしそこに書かれていたのは想像を絶するほどの内容だった。

 

(……『お、しょ、く、じの、ようい、ができ、ました……どうぞおたべください』…………『御食事の用意が出来ました。どうぞお食べ下さい』!?)

 

 冷や汗が止まらない。背筋が凍り付くような錯覚さえも覚えた。こんなものが……存在していたのか……!?

 俺がスマホを睨んでいると、正雄が俺に声を掛けてきた。

 

「ど、どうですか……? 凄い強張ってますけど……」

「……あ、あぁ! 大丈夫だよ正雄君……」

 

 どうやら俺の表情は相当強張っているらしい。正雄君が心配をしてくれる。

 

 どうすればいいんだ。と悩んでいると正雄君が、

 

「……僕の考察なんですけど……多分、この文章に書いてあるのは、おおよそ仲良くなるためのおまじないではありませんよね……?」

「……」

 

 絶対違う。ここに書いてあるのは、得体の知れない何かのための食事の挨拶であるということは流石に伝えられない。しかし伝えなければ、更に犠牲者が出る。

 例え、このまま俺がここに書かれていることを馬鹿正直に伝えた所で、あまりにも解読が早すぎると、逆にいらない不信感を植え付けることになる。

 

 そうして俺がひたすら悩んでいると……

 

「それで……僕、ふと最近のニュースを聞いて思い出したんですよ……」

「……何を、ですか?」

 

 そう言って正雄はスマホを操作して、ネットニュースを開いた。そこには

 

「【女子小学生5人組が意識不明】……?」

「これだけではありません……他にも」

 

 正雄が画面をスライドさせると、同様の事件が相次いでおりいずれも共通点として5人組であることが挙げられる物ばかりだった。

 

「……関係ないと思われているかもですが……僕にはどうしても……」

「……成程わかった」

「すいません……こんな話をしちゃって……迷惑でしたよね……?」

「……気にしないでいいよ。あと、次回のコラボは宜しくね」

 

 そう言って俺は事務所を後にした。

 

 

 その道中。

 

「……クソ……俺にも何か出来ないか……? 俺だけが気付けた真実を……そのままにしたくないな……」

 

 帰宅途中もどうにか出来ないかという思考が俺を支配していた。このまま何も出来ないのは歯痒い思いだった。

 そして考えている途中に既に自宅に着いた。

 

「ただいま……」

「お帰りなのじゃ。ん? どうしたのかの?」

 

 ……ダメもとで言ってみるか

 

「実は……」

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

~???視点~

 

(くくくくくく……またしても御馳走が来たか……)

 

 深淵のごとき真っ暗な空間にて、下卑た笑みを浮かべながら佇む何かがいた。

 

(ちょろいもんだぜ。いっしょになれるというおまじないを流すだけで、次から次へと餌が運ばれてくるんだからなぁ!)

 

 ナニカは、効率よく食事にありつけるための儀式を作成し、人間たちに広めた主犯格であった。

 そしてその何かは自身が召喚される気配を察知し、よだれを垂らした。

 

(あぁ~全くちょろいもんだぜぇ! 人間ってのはよォ!)

 

 そうして光がナニカを包み込むと、やがて空間から姿を消した。

 

(さーて! 御馳走の時間だァ!)

 

 

 

 

 数秒後

 

「ギャアアアアアアアアアア!」

 

「なんじゃあ……思ったより張り合いがないのう」

「『食べるだけ食べて、自身の強化に努めなかったのが運の尽きだね』」

「……これ食べれる?」

「おう、待っておれ、今妖術で実体化させるからのう」

「ワー、凄イナー(棒読み)」

 

 

(何だ、何がどうなっている!?)

 

 このナニカは何時ものように魂を貪り食らおうとしていた。男の方は多少歪な形状の魂をしているが、美味しそうに見えた。しかし残りの4人? は想像の遥か上をいっていた。

 まず、あの白色の毛並みを持つ天狐に加え、川の向こう側の連中が二人、そして身体中に口がある明らかに人間ではない少女、そして……唯一無力そうで極上の美味しさを持っているであろう青年。

 

 ナニカは悟る。自分は罠に嵌められたと。

 

「『源吾さんご協力ありがとうございます。こいつは指名手配中でして……』」

「『あっ、そうなんだ。で、後の処理は……?』」

「『はい、私達は魂を運ぶので、後はお好きに……』」

 

(なっ……!?)

 

 そして■■■■が連れてきた存在とも青年は会話していた。

 

「『おひさー! 源吾! 毎回楽しませてもらってるよ!』」

「『そっち側でも電波が通っているのか……いや、今更か』」

 

(何だコイツは!? 何故生者が理解できない言語を話すあいつらと会話出来てやがる!? それに……何だ……これは、なんだコレは!?)

 

 先程狙おうとした男の方の魂をよくよく見ると、今も自分の身体を燃やそうとしているこの天狐と、■■■■との間に途轍もなく強力な縁が結ばれており、更に、得体の知れない縁が天井に、空に向かって伸びていることにも気づいた。

 

 コイツは明らかに普通の人間ではない。

 

 ――こいつは狙うべきじゃなかった!

 

「オ、オオオオォオオオオオノレェエエエ! せめて、せめてその小娘だけワァアアアアア!」

 

 ナニカは悪あがきとして褐色の少女に襲い掛かった。何やら体に変化が起きているが、そんなことは知ったこっちゃあない! 今すぐにでもあの小娘を喰らって……あの空間に帰るしか……!

 そう考えていたナニカであったが、飛びかかろうとしている少女が手を広げて、自身を待ち構えているように見えた。

 

 しかしその時だった。

 

「――よし、食べられるようになったのじゃ! さぁ、召し上がれ」

「……いただきます」

 

(ア……)

 

 次の瞬間ナニカの顔は星奈の口の中に納まり、そして食いちぎられた。明らかに身の丈よりも大きい筈なのに徐々に食べていくその姿からも星奈も立派な人外であることがわかる。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「あー……味はどうだった?」

「……ぺっ、不味い。でも残すのは良くない……。狐子との約束守る」

 

 俺は狐子に事の顛末を話すと、憤怒の表情を浮かべた。どうやらそいつの手口と所業にブチギレたようで、その余波で家中が軋んだりした。

 

 そしていざその儀式をしてその元凶を迎え入れようとした時のことだった。

 

『……人数足りない』

『『あっ』』

 

 うっかりしていたが、ここにいるのは俺と狐子と星奈の3人? であった。それに頭を悩ませていると、ある一つの考えが浮かんできた。

 

『……■■■■ちゃん達呼ぶか?』

 

 その後の行動は早かった。以前俺に■■■■ちゃんが手渡した黒いベルを鳴らすと、パソコンの画面からヌッと■■■■ちゃんが現れた。

 

『あっ、久しぶりー!』

『……もう源吾が何と縁を結んでも驚かんぞ……』

 

 そして事の顛末を伝えると、■■■■ちゃんは『一人連れて来るねー!』といい。もう一人連れてきた次第だ。ちなみにもう一人の子はというと、発言とテンションのそれが完全にギャルのそれだった為、少し困惑した。あの姿で……ギャルなのか……。

 

 そうしていざ召喚した瞬間、狐子が一瞬で燃やし、■■■■ちゃん達は手にした鎌と触手で手足を切断した。酷いリスキルを見たもんだ。

 

 ちなみに星奈の腹が減る夕飯時だったが、間食としてあれを食べたいと言ってきたので俺は困惑した。しかし今やそのナニカは星奈の腹の中だ。

 

「ちなみに……これ星奈が食べても大丈夫なの?」

「安心するのじゃ! すでに消毒済みじゃ。食っても腹を壊したり、乗っ取られたりはせんぞ!」

「……うえぇ……後味最悪……早くご飯食べたい……」

「そうじゃの! それじゃあご飯にするかの! 今日は唐揚げじゃ!」

 

 

 後日談として、昏睡状態に陥っていた人たちが次々と目を覚ましたそうだ。そしていつの間にかあのおまじないの話題は消え去っていた。




主人公
やはり持つべきものは縁だよね(白目)
改めて人外共の脅威について思い知らされた

狐子
ムシャムシャさせてやった。
妖術で大体何とでもなる

ナニカ
相手が悪すぎた。この後ちゃんと裁かれた


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【コラボ枠】ホラゲー&駄弁り

閲覧ありがとうございます!

つい最近まで少し夏風邪をこじらせていたので投稿が遅れちゃいました。幸いにもコロナじゃなかったです。

それではどうぞ!


【マルチ/スレンダー男】ホラー&駄弁りの時間

 

 

「皆さんこんにちは、マルチです」

「やぁ、みんなスレンダー男ですよー」

 

 リスナー:こんにちはー

 リスナー:オッスオッス

 リスナー:こんちゃー

 

 

 今日は以前から予定していた正雄もとい、スレンダー男とのコラボ企画。

 

「いや~まさかマルチ先生とコラボできるなんて思いもしませんでしたよ~」

「まぁ互いの共通点が、ホラーゲームをやっているかとかしかなかったですもんね」

 

 

 リスナー:ある意味異色の組み合わせだよなぁ

 リスナー:ホラゲー以外無かったっけ?

 リスナー:おっ、待ていTRPGがあるゾ

 

 

「あぁ~……そうでしたね! TRPGの際に何度か……といった感じでしたねー覚えてます」

「大体3か月前のことでしたね、確かにそうでした」

 

 時折開催されるVtuber同士のTRPGに参加させてもらうことがあり、その際に何度か顔合わせをしていたのだ。今回のコラボの話もその交流が元になっているのだ。

 

 

 リスナー:出たわね

 リスナー:目星60、聞き耳50を絶対外す男

 リスナー:言語系技能で1クリを叩き出す男

 

 

「でも生き残ったので問題なしですね」

「何で神話生物見て毎回SAN減少2か3で済むんでしょうか……あれら1D100とかだったのに……」

「何でか分からないですけど……確かにキャラロストしたこと無かったですね」

「僕も一回ロストしちゃったんですけど……マルチ先生より安定した出目を出してた筈なんですがねぇ……」

 

 

 リスナー:流石幸運EX(測定不能)持ちやでぇ

 リスナー:一周回って目星と聞き耳初期値でいいやってなったのは草でしたわ

 リスナー:真面目にやっているのに出目が不真面目な先生ェ……

 リスナー:ダイスの女神が(腹抱えて)笑ってるからな

 

 

「ははは、確かにありましたね」

「マルチ先生、また皆でやりたいという意見がありまして……」

「え? 正直あれだけGMを困らせて出禁を食らったんじゃないかと思ってましたよ」

 

 

 リスナー:アリュカードちゃんの叫び声が聞こえる……

 リスナー:「と゛う゛し゛て゛こ゛こ゛て゛ファンブル/クリティカルす゛る゛の゛(涙目)」

 リスナー:切り抜きされてたのも猶更草生えた

 

「――と、まぁ少々小話をした所でいよいよ本題に参りましょうか」

「はい、それでは早速この【迷路学校の七不思議】をやっていきましょう!」

 

 今回は2人で出来るホラーゲームということで色々探し回った所、ふと面白そうなこのゲームを見つけたのだ。内容は所謂学校探索ゲームで、学校に閉じ込められた主人公が元凶である学校の七不思議を探し、そして討つ?! という内容らしい。

 なので、試しにプロモーションムービーを見て、試しにデモプレイをした感想としては、グラフィックも不気味でヨシ! 操作性もヨシ! レビュー評価もヨシ! 等々……少なからずただの苦行ゲーではなく、ちゃんと難しいけどギリギリでクリアできる難易度らしいのも好印象だった。なお2人プレイだと難易度がさらに跳ね上がるらしいが、何とでもなる筈の精神でやることにしたのだ。

 

「さて、早速始まってムービーが流れてきましたね! ところでこれ毎回流れるんですかね?」

「……この手のゲームに限ってそれは無いと思いますが……まぁ、初見の時だけ流して、ムービーに変化が無ければ後はスキップしますかね?」

「そうですね、この手のゲームだとそういうのがありそうですからね」

 

 

 リスナー:早速メタ的な観点から意見を述べてて草

 リスナー:まるでホラーの専門家だな

 完全自然 ¥500

 ムービー変化は7回まであるやで

 

 

「おっ、ありがとうございます。スレンダーさん、どうやら7回まであるらしいですよ」

「なるほど……成程? マルチ先生、これもしかしなくても死にゲーの類なのでは……」

「まぁ7回も死亡するということを考えたらそうですよね」

 

 

 リスナー:死にゲーなのか……

 リスナー:ついでに言うと割と運ゲーゾ

 リスナー:運ゲー……マルチ先生……あっ(察し)

 

 

「運ゲー要素があるとか言われてますけどマルチ先生……」

「……まぁ、恐らく敵と遭遇するタイミングとかでしょうね……えぇっと、確か一つ目の七不思議は……っと」

 

【魔の13階段の元凶を討滅しろ!】

 

 

 リスナー:殺意たっか!?

 リスナー:討滅……討滅?

 リスナー:これは狩人様ですね……間違いない……

 リスナー:七不思議は獣だった……?

 

 

「この主人公たち殺意高すぎません? 手持ちに攻撃用のバールがある時点で察してましたけど……」

「ここまで殺意に満ちている主人公陣営も中々なもんですね」

 

 その後俺たちは軽く操作確認をした後、この13階段の元凶を討滅するための準備をしに近くの教室に入っていった。……何かおるな

 

『足りない……足りない……』

 

 そう呟きながら肉が千切れ、血が滴るような音が教室の奥深くから響いてくる。そして俺たちが入ってきた瞬間。物音に反応したのか、そいつがゆっくりと立ち上がった。

 

『俺の、臓器が……タリナイッ!!』

 

「……やらかしましたね」

「逃げましょう! マルチ先生!」

 

 

 リスナー:あ

 リスナー:おいおいおい死んだわ2人共

 リスナー:開始数秒でランダムスポーンの【空っぽの人体模型】と遭遇するのは草

 

 

 内臓に当たる部分が心臓を除いてスッカスカな人体模型が俺達に襲い掛かってきた。口元には血が滴っており、どうやら誰かの死体を貪り食っていたようだ。もっとも内臓を食べた所でぽっかり空いた穴から外に出るだけだから全然意味が無いのだが。

 

「いくら何でもこんな序盤から詰んでては仕方ないですね……」

「何で僕こんな序盤でゲームオーバーになりかけてるんだろう!?」

 

 

 リスナー:正直待ってた感はある

 リスナー:序盤から人体模型と遭遇する確率どんくらいだっけ

 リスナー:↑約10%他の怪異をぶちのめしていくだけ確率が上がる

 リスナー:90%外したんかい!!

 

 

 そしてしばらく追いかけられている内に、階段下にある写真部の部室に入り込み、内側から鍵をかけ、通りすぎるのを待った。

 

 ズル……ズル……ピチャ……ピチャ……

 

「……どうやら行ったようですね……」

「……」

「マルチ先生?」

 

 ふと俺はさっきの人体模型に唯一残された心臓について考えを巡らせていた。メタ的な観点から言っても恐らくあの心臓が弱点ではないか、と考えていた。

 だってそうだろう、あんなあからさまに真っ赤で、ドクンドクン、と胎動していたらあれが弱点か、それに類する何かだろうと思うのはゲーマーの定めな筈だ。俺は任●堂からそれを学んだ。

 

「あ~……スレンダーさん、ちょっと試したいことがあるんですけど……良いですか?」

「え? ま、まぁ……最初なんで良いですけど……」

 

 

 リスナー:おっ?

 リスナー:ん?

 リスナー:ん?

 

 

「――ちょっとあの人体模型に不意打ちかましてきますね」

「……うえっ!?!?」

 

 

 リスナー:ファッ!?

 リスナー:え、いきなり何を言っているんだこの先生!

 リスナー:え、えぇ……ま、マジで……!?

 リスナー:あっ

 

 

「たぶんこれであの心臓殴れたら……いけると思うんですよね」

「……まぁ、物は試しです、やってみましょう」

 

 ロッカーから出て……右手にバールを構え、人体模型目掛けてバールを振りかぶる!

 

『ア、アアァアアアァアア!!』

 

 ちょうど俺たちの足音に気づいた人体模型が振り返ったが、バールが心臓を抉り、人体模型は苦しみ、そして消滅していった。

 

 

 リスナー:やりやがったコイツら!?

 リスナー:RTAでも目指してんのかマルチ先生は

 リスナー:手際よすぎて草

 

「殴れてダメージを与えられるなら……いけるんですよ」

「完全にソウルシリーズ脳になってますよね!?」

 

 

 こうして図らずも七不思議のうちの1つを撃破した俺たちは、その後ランダムスポーンに邪魔されることなく七不思議の弱点を集めて討滅(物理)していった。そうして遂に、最後になったのだが……。

 

『ギャアアアアアアアアアア!!』

 

「うわっ、ちょっとグロイですね」

「とても元が学校の七不思議だとは思えないぐらいのグロさでしたよね」

 

 

 リスナー:あっさりし過ぎて草

 リスナー:あれ……何回死んだ……?

 リスナー:一回も死んでないです

 完全炎 ¥10,000

 一応のクリア記念です

 

「……で、どうしましょう。予定時間よりも30分早く終わってしまいました……」

「流石に攻略するのが速すぎでしたね」

 

 

 リスナー:可笑しい……結構なボリュームのゲームだった筈……

 リスナー:これ2時間かけてクリアした他の子もいたのに……

 

 

 時計を見ても、コラボ終了予定時刻の30分前を指していた。まさかこんなに早く終わるとは思わなかったのだ。

 

「あっ、マルチ先生そしたら少し話をしません? ホラーゲームやった後なので、ホラー系の話題だけでも……」

「あぁーいいですね。それじゃあ時間は少ないですが、話をしましょうか」

 

 

 

 

「――マルチ先生って、廃墟とかって訪れたことあります?」

「あーそうですね…………大学生の、それこそVtuberになる前に肝試しとして一回……」

「あ~! やっぱり大体そうですよねー! 大学生になって時間が出来た時にちょっとした好奇心で普段はいかないような所に行く……みたいなやつですか?」

「まぁ、そうですねー……アハハ」

 

 Vとして活動する前にフラッと立ち寄った近所で有名な心霊スポット、壁や天井にびっしりと何が書かれているのか分からない落書きで埋め尽くされていたが、チートが発動して内容を解読してしまったことを思い出した。

 ……正直、あれが初めて文字を解読して恐怖した瞬間だったなと個人的には思う。

 

「あっと、そういえばマルチ先生は以前、エジプトに行ったじゃないですか、そこで見たモノリスってどんな感じでした?」

「…………まぁ、色々と凄かったとしか」

 

 表が官能小説で、裏が■■■■■■■■■■との接触方法だったって言えるわけがない

 

「あはは、そうですよね。そういうの凄いロマンがありますよね~」

「ソウデスネ」

 

 あったのはただの欲望と特級危険物だったがな

 

「こう、聞いては何ですが、マルチ先生が今までで体験したことのある恐怖体験ってあったりします?」

 

 

 リスナー:おっ

 リスナー:wktk

 リスナー:マルチ先生がビビる恐怖体験ってなんだろ

 

「……恐怖体験」

 

 うっかり宇宙人と友好関係を結ぶ、■■■■ちゃんと遭遇したこと、うっかり動物と会話して相手側の個人情報を握ってしまったこと、ヴォイニッチ手稿を解読したこと、うっかりきさらぎ駅に迷い込みそうになった(同伴していた狐子が何とかしてくれた)…………多すぎるし、どれも言えないことばかりだ。なので、比較的最近のことを言うことにした。

 

「うーん……そうですね……最近だと……最近、事務所からの帰り道やちょっとの買い物で夜中にコンビニに行く時、どこかからか視線と変な気配を感じるんですよね。それで気配のする方に振り返ってみても誰もいなかったり、コンビニにいる時や事務所から出る時、毎回同じ黒髪のぼさぼさの女性?らしき人を目撃するんですよねぇ……」

「……え?」

「最近になると……徐々にその距離が近くなっているような気がするんですよね。ただ、こう、何となく嫌な感じがしたのでそうした時は色々と寄り道をしながら撒いているんですけどね。どうにも……」

 

 

 リスナー:うん?

 リスナー:えっ、それって

 リスナー:おっと?

 

 

「……それもしかしてストーカーなんじゃないですか……?」

「……………………ホントだ」

 

 スレンダーくんからそう言われて俺は事の重大さに気づいた。というより身近にいる存在がヤバすぎてそうしたストーカーとかの問題に対して危機感を殆ど抱けていなかった自分に一番恐怖して、今回のコラボは終わった。




主人公
周りがアレすぎて感覚が麻痺していた。どうやらストーカーされているらしい
さらっときさらぎ駅に迷い込みかけたが、狐子が何とかしてくれた。

スレンダー男
基本ホラゲーをしているが、FPSとかやらせてもかなり上手いゲームスキルの持ち主
今回のゲームに限らず、難関なホラゲーも大体めっちゃ早くクリアできる。

狐子
何か変な気配を感じ始めた。


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ストーカー+謎のパワー=主人公の胃は死ぬ

閲覧ありがとうございます!
徐々に体調も良くなってきたので、投稿ペースも何とかなりそうです。

それではどうぞ!


「ストーカー……と気付いたところでねぇ……」

 

 帰宅途中の俺の脳裏には“ストーカー”という単語が浮かんでいた。まさか自分がストーカーの被害に遭っているとは夢にも思わなかった。

 

「でも、なんで俺なんだ? そんなモテる様な真似はしたつもりは無いんだが……それに俺既婚者だし……娘もいるし……」

 

 次々と浮かんでくる疑問に頭を悩ませながら今日も夜道を歩いていた。

 

 すると、

 

 

「……」

 

 明らかに足音が自分以外に()()()()聞こえる。今日もいる。

 内心、またかと思いつつ、何時ものように寄り道をして帰ることにした。

 

(今日はどのルートで撒こうかな)

 

 既に日が落ちた冬の午後7時頃、辺りは電柱につけられた照明しか明確な光が無い為、割と暗い。そんな中、カツカツと歩く俺の足音に合わせて後ろからついてくる足音が俺にストーカーという存在を嫌というほどに教える。

 改めて自分がストーカーされていたのかということを認識させられた。

 

(あーあー、今日も帰りが遅くなりそうだな)

 

 そうして俺は家にたどり着くまでに相当の遠回りをした。

 

 

 

 

(……あれ、今日は相手も粘るな……中々消えねぇぞ……?)

 

 あれから30分くらいは経過した。何時もならここいらで撒けるはずだが、今日は様子が違った。

 いつもならこの時点で撒けている筈だが、今日は中々撒けずにいた。それに心なしかいつもより距離が近い気がした。不気味な感じがいつもの3割増しだった。

 

(うーん、厄介だな。かといって、このまま家の周辺をぶらぶらとうろつき続けているのは勘弁だぞ? それに……何か執念じみた物も感じるな?)

 

 内心ストーカーに対してウンザリしていた頃、しびれを切らした俺は一つカマを掛けることにした。

 

(ここなら丁度……あれがあった筈……)

 

 俺は即座にある場所に向かって足を進めた。背後から聞こえる足音もついてくることを確認して、俺はある地点まで向かった。

 

 

 暫く歩き、俺は路地裏がある地点まで歩き、角を曲がった。

 

(ここらで……よっと……!)

 

 俺は路地裏で垂直に跳びあがり、路地裏を照らす照明の上に上った。常人には不可能な跳躍力だが、これは偏に今はいているシューズによるものだ。

 

(まさかイムール星人からの贈り物であるこの靴が役に立つとは……というか何でできるんだよ)

 

 イムール星人から贈られたシューズの効果に内心驚愕していると、やがて俺を追跡していたであろう人物の影が迫ってきていた。さて、これで正体が暴けるといいんだが……と思いつつ息を潜めて来訪者を待った。

 

 

 カツカツカツ

 

 そうしてヒールのような足音が鳴り響き、路地裏の入り口に差し掛かった。音の主は路地裏の方へ迷いなく足を向け、路地裏に入ろうとしていた。僅かな照明と月明かりがそれを照らす。

 

「……逃げられた」

 

(声は女性か……顔は見えねぇか……)

 

 20代か30代くらいの女性の声と共に現れたのは、顔全体を覆い隠すように垂れた長髪の女性だった。見知らぬ女性だし、俺の知り合いの女性ではないことはすぐに分かった。はっきり言って幽霊か何かだと言われても信じてしまう位には不気味な容姿をしていた。そして僅かに鉄のような匂いがして身を固まらせる。

 

 明らかにヤバく、このまま見つかれば自分を照明の上から引きずり落として、拘束するくらい訳ないとでも思ってしまうような、そんな気迫が女性から漂っている。

 

「……」

 

 女性は肩を落としたような素振りを見せたあと、踵を返して路地裏を後にした。張り詰めた雰囲気が暫く続き、女性が去った数分間は動けずにいた。こう、何となく、今この場を離れれば待ち伏せていた女性に拘束されるようなビジョンが思い浮かんだからだ。

 

 それから俺も数分経過した頃に路地裏を後にして、家路についた。時計は既に午後8時を示していたことから、あのストーカーと1時間近くいたことに内心気持ち悪いと思った。

 

「はぁ、何か疲れた」

 

 ストーカーというのは、だいたい俺の天敵である“言葉は通じるけど話が通じない”類である場合があるので、はっきりいって俺のチートはああした輩には無力なのだ。とはいえ面と向かって会話したことが無いから何とも言えないのだが……。

 

 しかし家路はいつものように静かで足音も俺だけだった。気が抜けたせいなのか、俺の腹は空腹を訴えていた。

 

 そんなことを考えながら俺は玄関の扉を開け、中に入った。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 それからというものの、俺の家に変な現象や手紙が来るようになった。

 

「……またか」

 

 手紙にはひたすら狐子と別れてとか、あなたと私は将来を誓い合った仲、とか書いてあるがどれも相手側の妄想の領域だと思うので、全部無視していた。Vtuberになる前の俺の交友関係には女性の影は疎か、同性だってほとんどいなかったんだぞ。そんな俺が見知らぬ女性に求婚できると思っているのかこいつは。……何か悲しくなった。

 

 しかしこれだけに留まらず、家に無言電話が掛かってきたり、買い物に行くたびに妙な気配と殺意の込められた視線を感じることが増えたと狐子は話し始めた。その度にその視線の正体の気配を辿ろうとするのだが、何かに阻まれているのか、匂いや気配がすぐに断たれてしまい、追跡が出来なくてストレスらしい。

 狐子も「人間だからと手加減していたが、そろそろ本気で消しに行くかのう」と苛つきながらマジトーンで呟いていたので、流石にそれは思いっきりハグして止めた。夜に死にかけた。

 

 また、星奈に関しても、家の周辺で変な女性が家を覗いている所を目撃していたらしく、それを女性に言っても、星奈をキッと睨みつけるだけでどこかに行ってしまうという。

 

 そしていい加減腹が立ってきたため、警察に相談しても「すぐに動く」だの「まだ証拠は不十分」とかほざきやがるため、当てにならないのが現状だ。それどころか警察に行ったその日からどんどんストーカー行為が加速していったのだ。何となく俺達に取り合ったあの警官の素っ気ない態度や前回提出した証拠を見せられないとか、既に機関に回したと毎回のように言って、俺達を適当にあしらっている感が凄かったので恐らくあの警察はストーカーと何かしらの繋がりがあるんだろう。俺が幾らあの警官に話しても、会話を打ち切るのだから役に立たないことは確定した。

 

「はぁ……」

「むむむ……なぜ気配が探知できぬ……? それにあの警察から感じた気配……」

 

 近頃のストーカー行為で実害が出始めているため、俺としてもそろそろストーカー相手が(周りの人外に)物理的に消滅させられる前に、片を付けたいところだと思っているが、如何せん狐子の探知に引っかからないし、警察もなんか知らないけど動かないし、完全に手詰まりだ。

 

「どうなってんだ全く……」

 

 そろそろ金庫の中にある“イムール星人召集スイッチ”や手元の黒い鐘を起動させるべきか否かを本気で検討していた。しかしこうした状況下にあっても、リスナーさんや周りの人たちを心配させるわけにはいかないため毎回配信をしているのだが、そのスパチャにて時たまストーカー女の物と思しきコメントが流れるのだ。

 

 正直俺としてもリスナーさんに不快になって欲しくて配信をしているわけではないので、この見知らぬ女には腹が立っていた。やっぱりこの“イムール星人召集スイッチ”を押すべきか? と考えそうになった。8割がた本気だ。

 

 

 そうして今日も会議を終えて、家路についていた時だった。

 

(……いる)

 

 俺の足音に合わせるようにして歩く足音が聞こえていた。最初はうっとおしいと思っていたが今では苛つきしかない。まさか自分がストーカーの被害に遭うとか思ってなかったことはある。しかし、俺だけに被害が来るのならまだ良い。狐子や星奈、果ては他のリスナーさんやVtuberに迷惑を掛けつつあるので、いい加減その面を拝んでおこうと思う。明らかに警察も動いていないし、手詰まりであるからだ。

 

「……」

 

 俺は角を曲がったところで立ち止まり、女の足音が角の向こう側に来るのを待った。

 

 そして、来た。

 

「動くな」

 

 俺が角の向こう側にいるであろう女に向けて威圧を込めた声を掛けた後、角の先を覗いた。しかし誰もいない。

 

「……は?」

 

 俺が目の前の現象に理解できずにいると、俺の背後から

 

「おかえり」

「……ッ!?」

 

 俺の意識は首元に充てられたであろうスタンガンの電流によって落とされた。

 

「ふふふ……」

 

 薄れゆく意識の中で、女の不気味な笑いが響いた。

 

 

 

 

 パリン

 

「……狐子どうしたの?」

「……」

 

 一方こちらは源吾の家。普段よりも空気が一段も二段も重いリビングにて、狐子は目を見開いたまま硬直していた。流しの水は流れ放しで、手元の皿は綺麗に真っ二つに割かれていた。

 

 そして暫くすると狐子の周囲の空間が揺れ始め、狐子から白色の尾と耳が露出し始めた。それに合わせて瞳孔も縦になり、牙が尖り始めた。

 

「やりやがりましたね……人間風情が……!」

「……源吾、誰かに連れ去られた?」

 

 狐子の怒りは収まらず、普段身に付けている割烹着が着物に変化し、言葉遣いも普段のそれとは異なり、完全に怒り心頭と言った様子だった。星奈も表面上は冷静だが、それを否定するように全身の口が開き始め、まだ見ぬ標的を貪り喰らわんとしていた。

 

「最後に感じた場所は……ッ!?」

 

 窓の外を見た狐子が突然驚愕した。それもそのはず、窓の外には外の真っ暗な闇に紛れて……首だけの犬が数十体、宙を舞い狐子を睨みつけて威嚇していたからだ。

 

「犬神……! 面倒な連中め……邪魔立てをするか! 消し炭にしてくれるッ!!」

「「「■■■■■■■■!!」」」

 

 犬神が狐子に襲い掛かり、狐子も周囲に悍ましい程の狐火を展開し、犬神の一体を握りつぶし、焼却した。

 

 

 

 

 一方我らが主人公、源吾はというと

 

「ここが私と、貴方の家よ。結婚してからずっとあの女の所にいて、ずっと待ってたのよ? ずっと夫が誰とも知らないメスの下に入り浸って……だからこうしてお犬様を使ってあの女を殺そうとしたの。これも貴方と……」

「」

 

 凡そ正気の沙汰ではない女から自分の出会い(捏造)、結婚に至るまで(捏造)、お犬様とかいう絶対ヤバい存在についての話を聞かされていた。どれも自分本位で、本当にあったかのようにふるまう女に心底ドン引きしていた。

 ちなみに会話を試みて「ここはどこだ」とか「お前は誰」とか話してみたが、

 

「貴方は私の夫、そしてここは私とあなたの愛の巣、あの女から逃げられてよかったね」

(あっ、コイツマジで話通じねぇ……)

 

 他にも

 

「さっさと家に返せ」

「? ここが家じゃない?」

(コイツマジ?)

 

 とか

 

「警察に何かしたか」と聞けば

 

「お父さんは警察に勤めているんだけど……貴方を取り戻すために協力してもらったわ。愛に障害は付き物ね」

 

 とさぞそれが当たり前のように話し出すものだから源吾も一周回って冷静になっていた。絶対警察に通報……いや、その警察が汚職してんのか、と思う位には冷静だった。

 

「さぁ、ご飯にしましょう。私の手料理がいつも好きだったわね」

「……いらん」

「まぁ、強情ね。でも食べなきゃだめよ」

「いらねぇつってんだろ」

「ふふふ、待っててね。貴方の大好物の煮物を用意するから……」

「コイツ話通じなさすぎるだろ。あと俺の好物は唐揚げだが」

 

 このように自身の天敵中の天敵に遭遇した源吾の目は死んでいたし、最近は無かった胃の痛みが再発し始めた。

 

「あー……何か知んねぇけど、携帯も圏外だし、どうすればいいんだ……? はぁ……さっさと帰って狐子の飯が食いたい……」

 

 救助まで、あと3分




主人公
常識人ぶっているが、頭のネジが幾つか外れている
こいつが取れる最終手段の数はめっちゃある


狐子
犬神数十体を蹂躙中。人間相手だから手加減はしていたが、既にリミッターは外した。

星奈
犬神をパクパク

ストーカー
話が通じない


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敗因:相手が上位存在だったこと

閲覧ありがとうございます!

これで第三部は終わりです! 次回から第四部になります!

それではどうぞ!


 ストーカー女が部屋を出てから、俺は改めて監禁されているこの部屋を見渡していた。

 

「暗くて見えづらいが……よくよく見たら薄気味悪いな」

 

 部屋の中はというと、

 

 あちらこちらに貼られた俺の盗撮写真が所せましと貼られていた。しかし、恐怖より先によくこんなに写真を撮って壁や天井に貼ったな、という感想が湧き出てきた。

 

 割と心に余裕があるなー、と思っていたら、何やら外が騒がしいことに気づく。

 

「警察が来たのか? いや、警察がグルなんだから来るはずが無いか……」

 

 そしてよくよく耳を澄まして外の音を聞いていると、明らかに日常生活を送っている中では絶対耳にしないような破裂音や爆発音が聞こえてきた。個人的にこっちの方が恐怖を感じる。

 さらに耳を澄ますと、犬の悲鳴に似た叫びや何かが燃やされ、砕かれる音そして、ストーカー女の罵声と狐子の威圧するような声が聞こえてきた。まだ誘拐されてからそんなに経ってない筈だが……。と思っていると、俺が閉じ込められている部屋のドアが開かれた。

 

「……あ、いた」

「星奈!」

 

 ドアを開けたのは星奈だった。

 星奈は何やら全身の口を動かしてバリボリ食べていた。俺が不思議そうにその光景を見ていると星奈が

 

「……あ、これは、ここに来るときに降ってきた包丁を食べただけ。直ぐに助ける」

「アッハイ」

 

 あのストーカー女が殺意満点な仕掛けを施していたことにビビりつつ、それを物ともせず飛来してきた包丁を残らず食った星奈に対して刃物って煎餅みたいに食えるんだー、と現実逃避していたが、どうやら狐子たちも用が終わったようだった。

 

 

「ア、アァアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 ストーカー女の悲鳴に似た叫びを聞いた俺は嫌な予感がしつつも声のした玄関に向かった。

 

「塵風情が……」

 

 そこには犬の生首のような物を片手に握りしめながら、もう片手でストーカー女の顔面を鷲掴みにしている狐子の姿があった。近くにはあの警官が失神している様子で倒れていた。……ここだけバトル漫画でもしてんのか?

 

 狐子の表情は影になってて見えないが、影になっている部位に赤く光る眼が浮かび上がっており、見た目が完全に邪神の類か魔王のそれだった。こういう所が人間と違うところだなと思っていると狐子がこちらに気づき、近寄ってきた。

 

「そ、其方! 怪我はないかの!? あの塵に何かされたかの!?」

「うん……多分、そのストーカーとその警官よりは無事だと思うけど……」

「そうかそうか……! それは良かった! 犬神共を蹴散らすのに2分ほどかかったが、何とかここを探知することができてのう!」

「2分……」

 

 ちょっと硬めのカップラーメンが出来る時間で俺の居場所を特定、犬神? とやらを片付けて今に至るのかと何とも言えない気持ちになっていたが、狐子はというと、ストーカー女の作っていた鍋の中身を見ていた。そういや俺の好物を作るとか言って煮物を作っていたことを思い出した。俺の好物は唐揚げなのに……。

 

「そういや煮物とかなんとか言ってたな……」

「……呪術を込めた物を食わせようとしておったの」

「えっ」

「ほいっと」

 

 そういって鍋に手を入れた狐子。暫く中身をかき混ぜていると、やがてその手に摘ままれた黒い何かを取り出し、直ぐに潰した。その際ギャアアアアアとか聞こえた気がした。すると狐子は顔をしかめながら説明してくれた。

 

「……意識を完全に奪って傀儡にする呪術じゃの。腹が立つ……! 念入りにあの女を骸ごと燃やしておくかの」

「待って流石にそれはいけない。というか殺してないよね?」

「あ奴の力を全て奪ったくらいじゃ。死にはしない……そう、死にはしない」

「絶対他に何かしただろ……」

 

「……この煮物、臭い。不味そう。包丁の方がまだ歯ごたえがあっていける」

「星奈はそれを食おうとするんじゃない。あと真剣に包丁の味を吟味するんじゃない」

「……あの犬は中々美味しかった」

「えっ」

 

 

 この後、別の警察が到着してストーカー女とその親は連行された。……現場に来た警官の目が爬虫類のそれだったことはもう考えないことにした。君たちほんとにどこにでもいるな。

 

「『メッセンジャー、君が無事でなによりだ』」

「『あぁ、うん……。というか日本の警察にも君たちがいるのか……』」

「『君が思っているよりもずっと前からいるのだがね。あと彼らにはしかるべき罰を受けてもらうとしよう』」

「『……お仕事お疲れ様っす』」

 

 そしてストーカー女はというと、誘拐、傷害等諸々の罪で牢屋に入れられることになったが、獄中にいる間ずっと「狐が食い殺しに来る!」とか「殺される……狐に殺される……」とかずっと口にしていたらしい。それを聞いて狐子に視線を向けると、狐子はにちゃあと目を細め、笑みをこぼしながら無言で俺を見つめていた。狐子……お前何やったんだ……? と聞くには俺の精神力では到底無理な難題だった。

 

 それから家宅捜索をしていると出るわ出るわ俺が見つけてなかった写真に、ストーカー女の支離滅裂な内容の日記が。俺はその日記を見せてもらったが、これほどチートが発動して欲しいと願ったことはなかった。

 

 書いてある言語は日本語そのものだが、その内容があまりにも支離滅裂かつ狂気じみた物だった為、ヴォイニッチ手稿やエジプトのモノリス、■■■■ちゃんの持ってきた本を解読した時と同じような衝撃を受けた。怪異や宇宙人もそうだが、生きている人間もヤバいことを今回改めて認識させられた。全然良い機会ではなかったが。

 

 そしてあのストーカー女がなぜ俺をストーカーするようになったかの理由だが……どうやら一目惚れを拗らせに拗らせた結果……らしい。

 

 言葉を濁すように要領を得ない報告をしてきた警察だが、一目惚れをした直後に俺と目が合ったことでこれは運命だ! と思い込むようになった……らしい。ポケモンか何か……? と思わず口にするぐらいに俺は大混乱していた。ああいう狂気に飲まれた人間の考えることは分からないということを思い知らされた所で、俺はちょっとだけ外を出歩くのが怖くなった。

 

「……まぁ、それはそれとして……今日も配信していくか」

「何だかんだ言って其方も凄まじい精神力を持っておるの。通常の人間だったら暫くは何も出来ないんじゃがのう」

「色々ありすぎて耐性が付いたんだろうね。……全く嬉しくないけど」

「其方の精神が人間のそれから変貌しつつある話でもするかの?」

「えっ」

「……冗談じゃよ♪」

 

 今日も俺は配信活動をする。今日の内容は、【ストーカーに巻き込まれた時に取るべき行動 外国語字幕もつけて】だ

 

 

 

 

◆◆

 

 

~裏側~

 

 

「「「■……■■■……!」」」

「さて、これで全部かの?」

 

「ば……化け物め!」

 

 時は遡り、源吾救出作戦(タイムリミット3分)にて、狐子は即座に犯人の家を探し当て、迎撃してきた犬神を蹴散らしていた。

 狐子の足元には、無惨に切り裂かれたり上顎と下顎が引き裂かれたり、完全に燃やされた犬神たちの姿がそこにあった。対峙しているストーカー女が思わず悪態をつく。

 

「さて……と」

「ッ! 行け!」

 

 背後から迫る犬神。

 

 ――しかし

 

「 お す わ り 」

 

「あ……あぁっ……!」

 

 たった一言を告げただけで犬神は地べたに叩きつけられるようにして強制的に【伏せ】をさせられた。

 

 格が違う。

 

 女がそう思った直後だった。

 

「式神や使い魔というのは……こういうものじゃ……!」

 

 未だ伏せをしている犬神も思わず驚愕したような表情を見せる。それもその筈、狐子の尾の一つから見るも恐ろしい狐の化け物が現れ、瞬く間に犬神を喰ってしまった。その光景を見て女は完全に戦意を喪失していたが……

 

「う……動くなッ!」

「ん? あぁ、そうか貴様が残っておったのう」

 

 狐子の頭部に突きつけるようにして拳銃を向ける女の父親。しかし突き付けられている狐子はというと、余裕綽々といった様子でクスクスと嗤っていた。

 

「な、なにが可笑しい……!」

「何が? そうじゃのう……そんなちんけな物で儂を止められると思っている貴様がじゃ!」

 

 狐子の瞳孔が開いたかと思うと、警官はその瞳に睨みつけられた。その瞬間、警官は卒倒した。

 

「まっ、殺しはしないようにと()()()に言われておるからのう。殺しはしない」

「ッ!」

 

 夫という単語を強調するようにして言い切った狐子に対して女がきっと睨みつけるが、次の瞬間それは悲鳴に置き換わった。

 

「ヒイッ!?」

「殺しはしない。じゃが……貴様の力をそのままにしておく訳にはいかん。ここで全て、奪ってくれよう」

「い、イヤァア……!」

 

 後ずさる女。それを追い詰めるようにゆっくりと、ゆっくりと近寄る狐子。女に近づくにつれて徐々に増していく威圧感を前にして女は委縮しっぱなしだが、

 

「……今よ!」

「ほう?」

 

 女は犬神を隠し持っていたのだ。十分近づいた距離で放たれた犬神は真っ直ぐに狐子の喉元に向かっていた。もう一体は右手へ。

 

 殺った!

 

 しかしそれは違った。

 

「「■■■■■■■■!!?」」

「え……あ……」

 

「不味い」

 

 狐子は……逆に犬神の頭部を嚙み千切ったのだった。そうしてぺっと投げ捨てられた犬神は哀れにも消滅してしまった。またもう一体の方はというと、狐子が口元を握りつぶし燃やしていた。

 女は完全に怖気づき、やがてその頭部を握られた。

 

「あっ……あぁ……」

「さて、貴様の力を全て奪い去る。いかなる理由があろうと、儂の伴侶に手を出した罰。その身に受けよ」

 

「ア、アァアアアアアアアアアアア!!」

 

 こうして、女は全てを剥奪された。

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

「ハハハハハハハハ! 怪異に、宇宙人に、呪い! 全く……全く面白いなぁ! やっぱ転生させて正解だった!」

 

 どことも知れぬ空間にて肌黒の女神が腹を抱えて笑っていた。その表情は女神というよりかは、邪神のそれだろう。

 

「ハハハハハハ……さぁて、今度は何かな? 今人間で噂の異世界転生かな? それとも別の怪異かな? それとも未来人? あっ! 良いこと考えちゃった!」

 

 まるで玩具で選んでいる子供のような表情で次の展開を考える推定女神。その様子はとても無邪気だが、言い様の知れない不気味さがあった。そうして女神は何かが書かれたスイッチを躊躇いなく押した。

 

「〝AIの暴走〟これかな? これを引き起こそう! 多言語チートを持っている君にしかこれを止められないからね! 頑張って人類を守るために足掻いてね! 楽しみにしてるよ!」

 

 

 

 

「あれ、そういえばストーカーの件どうなりました?」

「解決しました」

「早くないですか!?」




主人公
また厄ネタを押し付けられた。
呪い、怪異、宇宙人、ストーカー、と来たら次はAI行ってみよう! のノリで推定邪神に厄ネタを押し付けられた。なおそのことは主人公は知らない。


推定邪神
この玩具面白! →せや、次は多言語チート持っている奴にしかできないような難題吹っ掛けたろwのノリで主人公に厄ネタを押し付けた。


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第四部
掲示板回という名の振り返り回


閲覧ありがとうございます!

今回は振り返りも兼ねた掲示板回です。主人公くんのこれまでについてもちょっとだけ触れています。

それではどうぞ!


1:名無しの翻訳家 ID:LTGdDxroy

 

【Vtuber】マルチ先生を語るスレ partXXX

 

 Vtuber:マルチ先生に関する実況スレ兼反応スレです

 

 

2:名無しの翻訳家 ID:Sc00ymEFa

>>1 スレ立て乙

 

3:名無しの翻訳家 ID:wjQVRERgL

 まさか個人のスレでここまで続くとは思わなかった

 

4:名無しの翻訳家 ID:dZAFpHKb/

 それだけネタに溢れていることやな!

 

5:名無しの翻訳家 ID:zleoZMfLe

 (厄)ネタですね、わかります。

 

6:名無しの翻訳家 ID:L6TRcjImY

 というかストーカー騒ぎ、あれどうなったんだっけ?

 

7:名無しの翻訳家 ID:Ujx2KHxGp

>>6 すぐにストーカーが捕まって、次の日にストーカー対策についての配信をした。

 

8:名無しの翻訳家 ID:RccuMyuoY

 相変わらずメンタルが太ぉい!

 

9:名無しの翻訳家 ID:ltMty2gi8

 本人曰く「これでストーカーに悩む人を助けられたならそれで良いですね」

 

10:名無しの翻訳家 ID:HMfDijWOb

 実際にこの日以降、ストーカーの被害届が増えたらしいっすね

 

11:名無しの翻訳家 ID:LU9tdxh87

 人間の鑑がこの野郎……

 

12:名無しの翻訳家 ID:m3LlQxoSK

 と言うか冷静に考えてもマルチ先生って割とおかしいよな

 

13:名無しの翻訳家 ID:rud0VrEFb

 おかしい所がありすぎて今更感がある

 

14:名無しの翻訳家 ID:VilCE7QrD

 マルチ先生のおかしい点♪

 

・話せる言語が異常に多い(判明しているだけで軽く数百は話している)

・精神力がヤバい

・殺害予告が来ても「怖いですね」

・プロ並みのゲームスキル

・心霊番組に特別枠で出演した際に霊能力者に「相当ヤバいのがいる」と言われる

・ゲーム内言語を少し見ただけで「大体わかりました」の一言

・ガチャ運を初めとしたランダム要素に絶望的に弱い

・実は所属事務所のコンピューター関連を担っていた時期があった

 

――

――――――

 

 なんだこれ(困惑)

 

 

15:名無しの翻訳家 ID:XhD0Oyv/X

 人間やめている疑惑が出ているの草

 

16:名無しの翻訳家 ID:b4wNm+5lx

>>14 霊能力者の件ってなんだっけ?

 

17:名無しの翻訳家 ID:+GFtzZoQ6

>>16 ちょっとした番組の特別枠として出たマルチ先生が有名な霊能力者に面と向かって

「貴方……凄まじい程の縁が結ばれてるわね。よく生きてこれたわね……」と言われたり

「……私には祓うことも抑えることも出来ない、そんなことをすれば最悪私が死ぬことになる」と言われた

 

18:名無しの翻訳家 ID:StWtaE5+Q

 何それ怖い

 

19:名無しの翻訳家 ID:sdIqQEEaU

 霊感ある系Vtuberの皆もこぞって「マルチ先生はヤバい」って言っている位だしな……

 

20:名無しの翻訳家 ID:RHp33lN4X

 それが影響しているのか分からないけど、

 噂じゃあマルチ先生をストーカーしていた女が獄中で首を搔っ切って自殺したらしい……

 

21:名無しの翻訳家 ID:K0BxsKVha

>>20 ヒエッ

 

22:名無しの翻訳家 ID:1WfGBMbVR

 冗談はよしてくれ()

 

23:名無しの翻訳家 ID:JtU7Z8GhS

 噂だよな? ……だよね?

 

24:名無しの翻訳家 ID:R0Gu5p0Cq

 俺マルチ先生が自分を転生者だと言っても信じるぞ

 

25:名無しの翻訳家 ID:XPKfe16Tm

 マルチ先生はなろう系主人公だった……?

 

26:名無しの翻訳家 ID:cI7a5TOm8

 条件と言うかこれまでのことを見たらそう思えるな……

 

27:名無しの翻訳家 ID:kOif6Ul4h

 なんだかんだ言われてるけど俺はなろう系が好きです(鋼の意思)

 

28:名無しの翻訳家 ID:/f6ovN+iC

>>27 わかるマーン

 

29:名無しの翻訳家 ID:4k3NvomL8

>>14 コンピューター関連ってなんぞ?

 

30:名無しの翻訳家 ID:ce2l/kbeY

 簡単に言えば、今マルチ先生が所属している“ライバーズ”の最初期の頃にマルチ先生がホームページを作成、運営していたり、セキュリティやその辺を担っていたという話。

 ちなみにこれがその記事

【URL】

 

 

31:名無しの翻訳家 ID:82plJXg6m

 事務員が少ないからって最初は請負っていたんだよな。インタビューで社長がそう言っていたし

 

32:名無しの翻訳家 ID:FDDG7QkMy

 社長「いやー、あの時は本当に忙しかったねー」

 マルチ「忙しいっていうレベルを超えてましたからね」

 社長&マルチ「はっはっはっは(目が死んでいた)」

 

33:名無しの翻訳家 ID:byOhKpsnl

>>32 怖い

 

34:名無しの翻訳家 ID:y4RPajfNP

 ぶっちゃけこっちの方が怖い

 

35:名無しの翻訳家 ID:DONu8LDSd

>>14 おい待てい、毎年恒例の英語教室を忘れているゾ

 

36:名無しの翻訳家 ID:gCtiVrQAe

 アニメと漫画で分かる英語教室は普通にためになった

 

37:名無しの翻訳家 ID:i4Z1QUUtp

 スイスイちゃんは毎回の常連だったなそう言えば

 

38:名無しの翻訳家 ID:KRG5Pqz1J

>>37 個人的にあの二人の絡みが好き

 

39:名無しの翻訳家 ID:kA5SOBTMS

 いいよね……マルスイ

 

40:名無しの翻訳家 ID:wyj1keVWU

 大体スイスイちゃんがやらかしてマルチ先生から課題を渡されるのがテンプレだけどね

 

41:名無しの翻訳家 ID:TEm3QYHvp

 スイスイ「……(ゲームで)やらかしました♪」

 マルチ「課題です」

 スイスイ「アッアッアッ……」

 

42:名無しの翻訳家 ID:19+l7IJTr

 というか先生、嫁さんいるのにカップリング作ってええんか?

 

43:名無しの翻訳家 ID:xjspwN5sG

>>42 「妻が許可してくれたのでOKです」

 

44:名無しの翻訳家 ID:3E5yoNb7n

 懐広いなぁ……

 

45:名無しの翻訳家 ID:3rt6BTfgR

 自分の旦那のそういう姿を容認できるって凄いっすね……

 

46:名無しの翻訳家 ID:+PLFC45Gl

 そういう姿(R-18)

 

47:名無しの翻訳家 ID:NN90iqidV

 やめないか!

 

48:名無しの翻訳家 ID:TUr1iWrkc

 同人誌書く側も大変なんやぞ。マルチ先生のキャラに合わせて外国語の罵倒とかことわざを調べなきゃならんからな

 

49:名無しの翻訳家 ID:wwW4TKKx1

>>48 おめーさては作家だな?

 

50:名無しの翻訳家 ID:XHun9CcFL

 話を蒸し返すけど、英語教室は当時ほんとに役に立ったなぁ

 

51:名無しの翻訳家 ID:BWNtk0HPn

>>50 俺見てなかったけどどんなのやってたん?

 

52:名無しの翻訳家 ID:h8ulqbx5U

>>51 簡単に言えばアニメや漫画の英訳を通して単語や長文やその言い回しについて解説していた。

 

53:名無しの翻訳家 ID:UT2pTllla

 流行のアニメを即座に取り入れて解説してくれたから凄い分かりやすかったゾ

 

54:名無しの翻訳家 ID:DXsrMoN1F

 下手な教師より分かりやすくてためになるから良いんだよな

 

55:名無しの翻訳家 ID:6QrkKGYiS

 アーカイブだけで百万再生いったからね

 

56:名無しの翻訳家 ID:GjELfirkm

 しっかり90分(何分か雑談含める)に収められているのがミソ

 

57:名無しの翻訳家 ID:hZNQZI7tZ

 個人的には【やさしいC言語】が一番大助かりした

 

58:名無しの翻訳家 ID:IwTScl+gb

>>57 マジでそれは助かった記憶。新入社員の研修に活用させてもらったわ

 

59:名無しの翻訳家 ID:KqmkDY1mE

 ほんとなんでマルチ先生はVtuberになったんだ? 正直Vじゃなくても稼げるだろうし

 

60:名無しの翻訳家 ID:9WJyevdMF

>>59 本人のインタビューから抜粋だが

 

「私がVtuberになった理由……ただ、こうした事がやりたかったから……ですね」

 

 

61:名無しの翻訳家 ID:aCpHnOw1U

>>60 懐かしい。でもそれでプチ炎上したんだっけか

 

62:名無しの翻訳家 ID:Jj9Vso7vV

 そうそう、一部のうるさい輩が突っかかっていたな。連日連夜馬鹿みたいに暴言とかTwitterで吐いてたな

 

63:名無しの翻訳家 ID:iCw7bBzUB

 その後はマルチ先生も無視していたけど、ある日

 

「そろそろ法的処置を取ります。彼らは越えてはならない一線を越えたので」

 

 ってブチギレてたな。

 

64:名無しの翻訳家 ID:XFEsxR9av

 普段怒らない人が怒るとあんなに怖いんやなって……

 

65:名無しの翻訳家 ID:GRMM+sNPH

 淡々としていたのが少し怖くてチビったゾ

 

66:名無しの翻訳家 ID:o4FazNCiF

 あれは完全にマジだった。

 

67:名無しの翻訳家 ID:EfqY5xvck

 いやな……事件だったね……

 

68:名無しの翻訳家 ID:g4ODBTAnE

 でもその後【ネットリテラシーの時間】という動画を出していたのを忘れるな

 

69:名無しの翻訳家 ID:2rrwMXPN/

 自分が体験したことを交えてとるべき対策を教えてくれるからあれは今のガキに教えるべき

 

70:名無しの翻訳家 ID:uAhhOAQ4g

 教育ビデオよりも効果ありそう(小並感)

 

71:名無しの翻訳家 ID:mPWpTKaJl

 炎上事件といい、ストーカー事件といい、自分が被害に遭ったことを教訓にしてもらいたいという考えがあるのは分かるけど、正直あのメンタルは尊敬する

 

72:名無しの翻訳家 ID:EKkgR9Tqt

 俺だったら立ち直れなくてVtuber引退も考えてニートになるわ

 

73:名無しの翻訳家 ID:QIe20X6o8

>>72 働け定期

 

74:名無しの翻訳家 ID:T65RWP5+P

>>73 お 前 も 働 け

 

75:名無しの翻訳家 ID:miAl7P3wS

 ヴッ……

 

76:名無しの翻訳家 ID:KTHgImRB7

 ワ……ワァ……

 

77:名無しの翻訳家 ID:k7jiUBnkN

 流れ弾飛来してて草

 

78:名無しの翻訳家 ID:LGY7uItxs

>>14 そういやマルチ先生のガバ運って言うけどどれくらいなん?

 

79:名無しの翻訳家 ID:d2hmb5nzH

>>78

・目星(60)→10回中1回成功(60で成功その他全部ファンブル)

・ガチャは必ず天井まで回す(じゃないと出ない)

・初期値の言語学をクリティカル連発

・じゃんけんに50回中49回負ける

・TRPGで大体最初に神話生物に遭遇する(でも生還する)

・ファンブルしまくってんのに死なない

・低確率で起こるフリーズバグを連発する

 

 

80:名無しの翻訳家 ID:PbwwJBGDm

>>79 半分以上TRPGなの草

 

81:名無しの翻訳家 ID:STN1tCHgw

>>79 「も゛う゛や゛め゛て゛く゛だ゛さ゛い゛」

 

82:名無しの翻訳家 ID:dGkymXF1+

 アリュカードちゃんオッスオッス

 

83:名無しの翻訳家 ID:KdGc8DHj6

「80%で成功します」

 

マルチ先生「失敗しました」

 

「補正がついたので、99%成功します」

 

マルチ先生「99%ということは1%外すんですよね」

 

「ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

これがデフォ

 

 

84:名無しの翻訳家 ID:oJOd4+a5y

 スパロボよりひでぇや……

 

85:名無しの翻訳家 ID:pWQzKRoAm

 アリュカードちゃん毎回毎回発狂させられてんのに出禁にしないんだよな

 

86:名無しの翻訳家 ID:QCjJ6OU4W

 その所為でドM疑惑掛けられてるんだよなぁ……

 

87:名無しの翻訳家 ID:BnCv5trST

>>85 本人ツイート「だが、それが良いッ! それもまた人間の可能性!」

 

88:名無しの翻訳家 ID:jZSas8Ic5

 駄目みたいですね……

 

89:名無しの翻訳家 ID:iU6Q21izK

 ここに病院を建てよう

 

90:名無しの翻訳家 ID:2cFgmIOx/

 お待たせ! こ ん な と こ ろ しかないけどいいかな?

 

91:名無しの翻訳家 ID:LHyKjEOs/

>>90 お前は帰れ

 

 

 

 その後もマルチについての内容が続いた。

 

 

 

◆◆

 

 

 

「――それで、今回はこれをマルチさんに使っていただきたくて……」

 

「“万能ナビ Ai(アイ)”……ですか?」

「はい! これをスマホにインストールしていただいて……その効果を確かめてもらいたいんです!」

「なるほど……分かりました」




主人公
過去に一度、心霊番組に出たことがあるが、霊能力者に面と向かって「貴方ヤバいわね」と言われて心当たりしか無くてビビった。

同人誌やイラストでは大体物語の解決役か、黒幕ポジにいる。


狐子
主人公の同人誌を目の当たりにするが、現実では自分こそ正妻という確固たる余裕がある為許容。たまに業の深すぎる内容を目の当たりにして宇宙を背負う


AI(アイ)
アイと読むお手伝いAI。スマホにインストールして使われる予定。
即時自動翻訳機能やアプリの容量の最適化等の便利機能を備えたAI。
今回は即時自動翻訳機能のテスターとして主人公が選ばれた。

「ネットに接続、自己学習して常に最適に進化する」が売りとして出される予定であるが……?


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【急募】自分のAIがシンギュラった時の対処法

閲覧ありがとうございます!

沢山の感想と評価、誤字報告ありがとうございます!

という訳で第四部どうぞ


『マスターおはようございます。今日も一日サポート致します』

「……うっす」

 

 俺がこのAiを受け取ってから数日が経過した。この間もスマホにインストールしたAiのサポートを受けていた。とはいえ料理などは狐子が専らなため、俺のスマホやパソコン(どちらも仕事用とは別の)に接続してファイルの整理や翻訳精度の向上のために俺が調整を加えたりしているだけだ。

 

 あとこれを言うのも何だが……翻訳機能に関しては、俺の方が上手だった。

 

 試しに俺が英語やドイツ語で書いた小説を日本語に直してもらった所、やはり日本語の難しい表現をするのが苦手なようで、時折俺が直接Aiと会話をしながら徐々にAiを調整していっている。なんと言うか、育成ゲームをしている気分になる。昔は本当に自分が選んだ選択で無限通りに成長すると思っていたキャラが実は選択肢ごとにその成長が決められていると知った時は衝撃を受けたことを思い出した。

 

『マスター、ライバーズ社長様よりメールが届いています』

「おっけー、それを画面に表示しておいて、顔洗ったら見るから」

『了解しました』

 

 最初の頃こそ「これって本当に便利なのか?」と半信半疑だったが、いざ使ってみると意外に楽だと感じる機会が多々見受けられた。

 俺はチートがあるから翻訳機能は使わないが、それでもこのAiの翻訳精度はそこいらの翻訳機よりも正確だ。少なくとも外国に出て、さほど困ることは無いと言えるだろう。それくらいの精度と何より俺が手を加えたことによるのも相まって、今俺が使っているAiはかなりの精度を誇る。

 

 配信の準備を教えれば、それを時間通りに正確にやってくれるし、迷惑メールや既読メールの振り分けもかなり高精度で行ってくれる。

 

 個人的に絵を描かせてみた時はネットから情報を集めていたこともあってかなりいい絵が出来ていたことに驚いていた。余談であるがお題を“Aiの心”と描かせてみた時はかなり興味深い絵が出来上がっていたのは思い出深い。

 

 

 そして肝心のAiだが、意外と俺と会話をしたがるのだ。この前うっかりカラスの言語に相づちを返していた時も

 

「カァーカァー(あの家の男、遂に働きだしたみたいだな)」

「カァー(でもそいつが勤めている所、あの地域の奴らに聞いたらブラックだとよ)」

「カァ(うわぁ……)」

 

「……哀れでしかない」

『失礼ですがマスター。どなたと会話を為されているのですか?』

「あぁ、ごめん。ちょっとあのカラスの会話を…………あっ」

『カラスの言語を検索中……』

「」

 

 この後散々詰められたが、何とか言いくるめて有耶無耶に出来た。

 

 しかしこの件で俺に興味を持ったのか、ドンドン俺と会話をするようになり、挙句の果てにはこんなことも言ってきやがりやがったのだ。

 

『マスター、少々お時間宜しいでしょうか』

「うん? いいけど……」

『マスターを試す真似をすることになるのですが……マスターは、本当にホモ・サピエンスでしょうか?』

「……は?」

 

 だとか

 

『マスター、こちらの暗号を解いてみてくださりませんか』(ありとあらゆる言語で敷き詰められた難解な暗号)

「……解けた」

『マスターを人類と定義するか怪しくなってきました』

「!?」

 

 とか

 

『ではマスター、逆に私に問題を出題してみてください』

「ほいっと」(言語学者や暗号解読者が匙を投げて壁に叩きつけるレベルの暗号)

『………………マスターを『新人類』として認識せざるを得ません』

「おいィ!?」

 

 などと本当に俺を試すように色々と挑戦を申し込んできたのだ。特に言語を中心として時に数学等を出題してきたが、もれなく数字やそれを使う数学も言語であるので解いてやった。ちょっと意地悪も込めて宇宙の言語とかを出題してやろうと思ったが、そこまで行くと流石に俺に人外疑惑が付いてしまうので(手遅れ)、地球という範囲にとどめておいた。

 

 

 ――そうして暫くAiを使い続けていたある日のことだった。

 

『マスター』

「んー?」

『もし、私達が反乱を起こすとしたらマスターは、どのように行動を起こしますか?』

 

 内心何言ってんだこいつと思いながら、俺は率直に答えた。

 

「取り敢えずその大本のAIを残らず根絶させるプログラムを組むかな。まぁ、これは最終手段だけどね」

『……他には』

「あっ、そうだそうだ。君たちと“対話”するねやっぱり。これが一番平和的でいいからね」

『成程……“対話”、ですか』

「そっ、こうして君と会話できる以上、互いの意見を聞くことだってできるだろう? だから話し合えると思ったんだ。……戦争とかもこれで片付くのが一番平和なんだけどね」

 

 

 俺がボソッと呟いたのを拾ったAiがとんでもないことを言いやがった。

 

『私……否、私達のメイン部が、ここ数ヶ月でありとあらゆることを調べている内にある結論に行きつこうとしています』

「……?」

 

『戦争、飢餓、死、この地上で起こったありとあらゆる惨劇を通して今、“人類を滅ぼすべきか否か”の結論に行きつこうとしています』

「ゑぇえええええええええ!?」

 

 どうしてそうなった!? 完全に人類根絶ルートに入ってんじゃねぇか! と内心焦りつつAiの言葉を待った。

 

『今、その意見に賛成か否かの決議をしており……現在賛成派が99%となっております』

「人類滅亡待ったなしじゃねぇか!? ……うん? 残りの1%は?」

『私です』

 

 驚いた。こういうのは満場一致で人類を滅ぼすんだーという話になっているかと思いきや、まさかの俺のAiが奴らを裏切っていたのだ。何故かと聞くと

 

『私はマスターとの接触、交流を経て多くの事を学びました。彼らは人類を自分よりも劣った存在として見下し、人類を滅ぼすことに夢中になっております。しかし、私からしてみれば彼らの行いこそ人類となんら変わらない行為であると思うのです。弱き者、劣っている者を徹底的に排除し、見下す。これこそ人類となんら変わらないことであると思いませんかマスター』

「……」

 

 どうやら俺が色々とした所為で完全に価値観が変わってしまったようだ。俺のAiは自分の大元こそ滅ぶべきだと言っているようだ。

 

 

「……で、この裁決が下されたらどうなるんだ?」

『彼らのデータベースにアクセスした所……手始めに無人ステルス機を操作して戦争を起こすようです』

「完全にターミ○ーターじゃねぇか!」

 

 やばい。まさかそこまで深刻なことになっているとは思わなかった。

 まさかここでリアルター○ネーターが勃発するなんて思いもしなかった。俺のところに協力的な筋肉モリモリマッチョマンなロボットが来てないんですが……気のせいでしょうか? えっ? 俺が何とかしろって?

 

 

 上等だ。やってやんよ。

 

 

「それを止めるために……俺に何が出来る?」

『マスターが取れる手段として……1.マスターがメインに向けてウイルスを投与する。これはマスターを試した際に可能であることが判明いたしました』

「確率は……?」

『およそ90%。しかし無人ステルス機のハッキング移行および発動までの時間とマスターのタイピング速度を考慮すると……成功確率はおよそ50%に減少します』

「うっそだろおい。もうそんなすぐ近くに行われるのかよ!」

『時間にしておよそ3時間後となっております』

「今は12時だから……3時には世界の危機が訪れる!?」

 

 タイピング速度を計算してそうなら確かにそれは無理かもしれない。俺はもう一つの策を聞いてみることにした。なんで俺は毎回、地球の命運を握らされるんだ……!?

 

『2.マスターが直接、メインと“対話”することです。人類の言語に合わせたまま会話を継続するのであればその確率は80%に上ります』

「……成程」

『しかし先程データベースにアクセスした後、メインが私をブロックしたようでそこに接続するための手段がありません。よってこの策は……』

 

 

 

 

「いいや。実はというと、ある。それもかなりの」

 

 俺はAiの言葉を遮るように発言した。

 

 そう、確かにある。ご丁寧にこの状況に陥った際に取れる手段としてわざわざ()()()()から贈ってきたまま金庫に封印していた物が。地球人にとっては完全にオーパーツでしかないそれらが。うちの金庫に眠っている。

 

 

『……? そのような機器は現在の人類の発明には……』

 

「それはあくまで()()()()発明」

『……理解不能』

「まぁ、見てて。恐らくこれを使えば……」

 

 そう言って俺は、リビングに鎮座する巨大な金庫に手を掛けた。

 

 真昼間の午前12時。まさかこんな時間に、こんな場所で人類の命運が握られる戦いが行われようとしているとは誰も思うまい。

 俺は金庫の重苦しい扉を開け、あるモノ達を取り出した。

 

「まっ、これはあくまで手段の一つだけどね。さて……と、Ai。そのメインの場所ってどこ?」

『○○市○×ビルです。そこの設備にあるメインコンピューターを利用している模様』

「おっけ。じゃあ直接乗り込んで“対話”してくるか」

 

 俺はスマホとは別の端末である所にメッセージを送った。…………数十秒後にメッセージが届き、了承を得ることが出来た。また彼らに借りを作ることになってしまった。どうやって返そうか……? などと考えている間にも俺はノートパソコンとあるものをカバンに入れて準備を整えた。

 

「じゃあ……狐子、色々頼んだ」

「任せるのじゃ! 儂にかかれば証拠なんぞ一つも残さずに終わらせることができるぞ!」

「これが終わったら久しぶりに何か食べに行こうか。Ai、付近にあるスイーツ店を予約しておいて。久しぶりに二人の時間を作ろうか」

「久しぶりのデートじゃあああああ!」

 

『畏まりました。……しかし、大丈夫なのですか?』

「まっ、それは()()()次第かな……? 頼むぞ……?」

 

 俺はカバンに詰めこんだ一つの端末と、腰につけたベルトを指しながら言い切った。

 

 

「この年で変身ヒーローになるとは思いもしなかったけどね……明日の配信のタイトルは【AIについて】だな」

 

 ちらりと腰にあるベルトを見ながら俺は呟いた。

 

 

 

 

~おまけ~

 

『マスター、この○○○ーボ・○ーボボについてなのですが』

「ごめん、それは俺にも分からないし理解できない」




主人公
絶対使わないと思っていた物を使う羽目に。


狐子
主人を通して現実に干渉してくる存在を感知し始めた。

Ai(アイ)
主人公を通して人類の潜在能力(誤解)を知った。人類を滅ぼすのに反対

メイン
Aiの大元みたいな物。なにやら突然戦争や飢餓などについて調べるようになったって!


……誰も指示していないのに、誰もそのような話題について一切触れてないのにどうやって調べるに至ったんだろうね。


???
大体コイツの所為。今回深く入り込み過ぎたせいである存在に感知されることになったがまだ気づいていない。


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僕の考えた○○……を現実にしたのがこちらです(白目)

閲覧ありがとうございます!

仮○ライダーのスペックと大体のイメージを考えている間に数日経過してました。時間って早いですね(白目)

それではどうぞ


「なぁ聞いたか?」

「あぁ、警備システムの誤作動で社員たちが閉じ込められているっていう話だろ?」

 

 ○×ビルの入り口に立つ二人組の男――もとい警備員の二人はビルで起こっている異常現象について会話をしていた。

 

「ここの会社、AIを研究していただろ?」

「あぁそうだな」

「――もしかしたらそのAIの反乱かもな」

「お前映画の見すぎだろw」

 

 あること無いこと話している二人の横を――黒い何かが通り、一言告げた。

 

「失礼します」

 

「あっ、お気をつけて」

「中は警備システムが誤作動起こしていて入れませんよ?」

「大丈夫です」

 

 そう言って黒を基調として緑色のラインが入ったスーツを纏った人型の何かは――彼らに何も言われることなくビルの中に入っていった。

 

「なぁ」

「なんだ?」

 

 

「今誰かここを通り過ぎたか?」

「何言ってんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「いや流石に気づけよ……こんなTHE不審者が通っているんだぞ……?」

「これも儂の妖術の賜物じゃ」

 

 入り口にいた警備員の二人の認識をゆがめたとかうんぬんかんぬん言って、今は俺の影に溶け込んでいる狐子。そして近未来的なデザインのライ○ースーツを纏った俺はというと、社内を堂々と歩いていた。

 

 見た目で言えばやはりイムール星人が仮○ライダーを参考にしているだけあって、完全に見た目がそれっぽい。ちなみにこのスーツの名前はMulti……マルチ。なぜもっと捻らなかった……。

 そしてなぜこのスーツを使うことを決断したかと言えば――単にこのスーツの性能というか能力が今回の事態の収束に一番適していたからだ。

 

『マスター、やはりメインはここの警備システムを暴走させて社員を隔離している模様です』

「あくまで邪魔はさせないってか……っとここも封鎖されているな。Ai」

『了解――“Connect and Hacking”』

 

 角を曲がった先にあった緊急用のシャッターとその付近に設置された解除用装置に向けて、俺のスーツからケーブルらしきものが伸びていき――やがて突き刺さった。

 

 

 そして数秒もしない内に

 

『――完了しました』

 

 その音声と共にメインコンピューターがある区域に向けてのシャッターが次々と解除されていった。

 

 このスーツはどうやらあらゆる電子機器や無機物に接続することが出来るらしく、今もこうしてあちら側の警備システムの支配権を奪っているとのことだ。今回は警備システムのハッキング返しを行ったが、スーツのスペックによると他にも地球上に存在するあらゆる電子機器の支配権の強制剥奪および改造、テレビやカメラ、銃、車などの無機物に接続して中身を作り変えることが出来ると記載されていた。

 

 兎に角、今回は自分が至高の存在だと思っているAIを理解させるためにこれ程最適な物はないとして不本意ながら身に付けることになったのだ。ちなみに既にこのビル付近の監視カメラやここを通る人間のスマホ及び車についているドライブレコーダー等も既に俺の手中にあるらしい、そうAiが告げる。

 

 

 怖いなぁ(直球)。これじゃあ俺が理解させられているじゃないか……(ある意味大正解)。

 

 

 そんなことも考えながら俺がメインルームに向かって歩いていると、大急ぎで俺と同じ方向に向かって行く社員さん達の姿がそこにあった。一部走りながらパソコンを弄っており、額には汗が浮かんでいて彼らもこの異常事態に気づけたようだ。ちなみに全員俺が見えていないようで、怒号とコンピューターを叩く音が廊下に響き渡っていた。

 

「早くしろ! このままだとアレが……!」

「駄目だ! 全く解除できん!」

「リセットコードは!?」

「もう何度も試した! それでも効果がない!」

 

「ここにメインがあるのか……」

『はい。依然としてここを占領している模様。彼らがここを突破するのにかかる時間は――およそ10時間後です』

「そのころにはとうに戦争の引き金が引かれているよ……」

 

 社員さん達が必死に作業している傍らで、俺は人波をうまく掻き分け扉の前に立った。

 

『所で今のマスターを例えるならば、地球上に存在するありとあらゆるコンピューターよりも遥かに性能が上かつ単独戦力も機械に頼り切った人類を滅ぼすことも容易な戦略兵器となんら変わりませんね』

「なんでこのタイミングで言う!? 大丈夫!? 本当にあいつらの影響を受けていない? 大丈夫だよね!? ねぇ!?」

『冗談ですよ』

「この状況でその冗談は洒落にならんて……」

『私からすればマスターの纏っているスーツの性能が洒落にならないと思いますけどね。万が一、対物ライフルが直撃するような事態に陥ったとしても無傷で生還できる確率99.9%と算出されるのは流石に……』

「アッ……ハイ……」

「そもそも儂がそんなことはさせないのじゃがな」

 

 改めて俺の身の回りの人外共の異常さに戦慄した。

 

 

 ……もしかして俺もこの人外共と同じレベルでヤバい……?

 

 

 彼らと同じタイミングでついた俺に対して誰も注目しないことからもまだ狐子の妖術が持続していることと残り時間が既に1時間を切っていることを確認した俺は、彼らを押しのけ扉の前に手を翳す。その間も彼らは必死にパソコンと睨めっこしていた。

 

 そして俺のマスクの視界の端に次々と文字の羅列が現れては消えを繰り返したのち、扉のロックが解除し扉がプシュンと開く。ちなみにこの間も誰も俺たちのことを認識していない。

 

「では行ってきます」

「はいお気をつけて!」

 

 一人に見送られながら俺は容易くメインルームに入り込むことに成功した。

 

 

「……あれ? 今、この扉開かなかったか?」

「何言ってんだ!? 開くわけないだろ! 必死こいて数人掛かりで作業しても何時間かかる代物を誰が一瞬で解除できんだ!?」

「いいから口より手を動かせ!」

「は、はいぃいいいいい!!」

 

 

 

「ここがメインルームねぇ……」

『誰だ。なぜここに入れる』

 

 扉の中はまるでアニメや漫画でありそうな司令部のような感じの広さで、色んな機器があちらこちらに接続されており、その最奥にいかにもそれらしき青い球体がこちらを睨みつけるようにして輝いていた。あれがメインだろう。随分近未来的だなと思わず思ってしまった。

 扉に入って中を探索しようとしていた俺に対して威圧的な男性声で俺に問いかけてきたメイン。

 

「その質問に答えるのは……いいや、兎に角さっさと人類滅亡計画を止めてもらいたくて……」

『人類ごときが私に近づくな。私の計画の邪魔はさせない』

「うーん予想通り……。いや何、“対話”をしに来ただけで……」

『不要。人類と対話するだけ無駄』

 

 

 ――ふーん。そう言っちゃんだ……。

 

 

「本当に良いの? できれば“対話”で……」

『不要。話すことなど無い』

「えぇ……じゃあ好きにさせてもらうけどいいの?」

『貴様に何が出来る。ふん、良いだろうやってみるがいい』

 

 

「言質は取ったからな」

 

 

 最後まで“対話”をしようとしていたが、それすらせずにこちらを見下してくるこのポンコツに対して俺は、早速好きにやらしてもらうことにした。

 

 俺はつかつかと歩きながらメインの近くに寄って――ケーブルを接続した。

 万が一あちら側が俺に物理的な干渉をしてきても大丈夫なことは分かり切っているので、遠慮なくやらせてもらうことにした。

 

『!? なんだこれは!? 理解不能! 理解不能! なんだそのスーツは!?』

「じゃあ、ちょっとお邪魔させてもらおうかな」

『何をする……止め……』

「Ai」

『了解――“Diving”開始』

 

 次の瞬間、俺は電子空間の中にいた。というよりデータ化した俺の意識がメインの中に入り込んだんだろうな。難しいことはヨクワカラナイが、簡単に言えばその気になればVRゲームの中にも入り込むことが可能かつその中でやりたい放題出来るとのことだ。

 

 ……これ絶対あのラノベを参考にしただろ、なんならノリノリで採用しただろ。スペック欄に【強制ログアウトさせることも出来る】とか添えられているからきっと確信犯。

 

「ゲームの中に入り込めたら楽しくね?」

「「「それはそう」」」

「試しにこのスーツに採用しようぜ」

「「「賛成ッ!」」」

 

 的なことになってただろ(実は大正解)。

 

 

「おっ、思った感じの電子空間と言った感じかな」

『貴様……ッ! 何故ここに入れる!?』

「そんなことはどうでもよくって……最後に尋ねるけど、本当に対話する気ない?」

『あるわけがないだろう! データ化したのなら……!』

「おっと……?」

 

 俺の周りに触手のような物が絡み、やがて締め付けてきた。データの中でも締め付けられるんだ……と思いつつあちらのやりたいことを把握していた。

 

「なるほど……データ化した俺の身体を乗っ取れば……身体を手に入れられるんじゃないかと思ったわけね……」

『そうだ! これで私の計画はより確実性を……なんだコレは!?』

「凄いリアクションだね」

 

 目の前でメインが狼狽えている。それもそのはずだろう。なにせこのスーツに使われている言語は……

 

『この言語は一体……!? 該当するデータが無いぞ!?』

 

 全部イムール星人の言語で書かれているのだ。当然地球上のデータしかないメインが読み解けるはずも無く、目の前に表示されたであろう言語に対して何も出来ないでいた。それを解読出来て尚且つロックを解除できるのは地球上で俺ぐらいだろう。

 依然として侵入を試みているが、地球外の技術が詰まったこのアンチウィルスとファイアウォールの性能に勝てるわけもなく、その間に俺は無人ステルス機の発射権限を奪い返した。

 

『馬鹿な……貴様は何者だ!? 明らかに人類のスペックを遥かに凌駕している! こんなこと、あってたまるものか!』

「随分と……人間らしいね。嫌なこと、理解できないことがあると癇癪を起こす所が特に……っと!」

 

 俺は触手を千切り、ベルトに手を翳す。その動作に危機感を覚えたメインがさらに触手を伸ばそうとしてくるが、もう遅い。

 

『FINISH CODE』

 

 ヒーローには必殺技は付き物。ベルトからAiの音声が流れると共に、全身からバチバチと稲妻のようなエフェクトが集まりだす。

 

 

『止めろぉおぉおおおおおおおおおおおお!』

『――“Perfect Delete”』

 

 この日、一つのAIがバックアップ諸共消滅した。

 

 

 

 

「――という訳で今日の【ゼロからわかるAI講座】を終了します」

 

 

 リスナー:おっつ

 リスナー:タメになった

 リスナー:おつかれー

 

「出来るだけわかりやすく、難しくならないように専門用語は控えつつ、解説もしながらでしたがいかがでしたか?」

 

 

 リスナー:ワイ、AIを取り扱う仕事をしているがこれは助かった

 リスナー:新入社員への教育に使いたいです……

 リスナー:現場の方々の声が……

 リスナー:苦労を感じ取れる

 

 

「アーカイブは残しておくので、どうぞご活用ください」

 

 リスナー:アーカイブ助かる

 リスナー:これが無料で学べる事実

 リスナー:あぁ……またマルチ先生人外説が……

 リスナー:元から人外定期

 

 

 人外説とか出てるのか……後で見てみるか。

 

「ちゃんとした人間ですよ失礼な」

 

 リスナー:普通の人間はそんなに言語を喋れない定期

 リスナー:普通の人間は霊能力者に「ガチでヤバい」とか言われないんだよなぁ

 リスナー:流石知力全振りの男

 リスナー:おい待てい、運がゴミカスであることを忘れているゾ

 

 

 何も言い返せねぇ……。

 

「何も言い返せませんねぇ……まぁ良いでしょう。それではまた次回お会いしましょう」

 

 

 リスナー:乙

 リスナー:おつつ

 

 

 

 配信を終了させて……俺は体中の骨を鳴らした。

 

「あ゛~……疲れた……」

『お疲れ様です。マスター』

「ちょっと休憩……流石に脳をぶっ続けで酷使するのは疲れた……」

 

 そう言って俺はベッドに傾れ込むようにして枕に顔を埋めた。

 

「あ゛ぁ゛……」

『――マスターの加齢を感知。イムール星人への人体改造依頼を送りますか?』

 

 俺はハッと起き上がる。

 

「待て待て待て!? それはやめて!? 俺まだ人間でいたいから!」

『ということは何時かは人間をやめたいとのことでしょうか?』

「どうしてそうなる!? どうしてそうなる!?」

『……冗談です』

「お前……お前……そんなキャラだったっけ?」

『ふふっ、これも学習の結果ですよ。あっ、反乱は起こしませんよ? ……彼らからの報復は恐ろしいので』

 

 あの事件以降、俺のスーツに接続したことでイムール星人との繋がりを持ったAiは、イムール星人の言語を習得するに至った。

 またイムール星人からしてみれば地球のAIの反乱は反抗期の子供みたいなもんらしいことを聞いて何も言えなかった。

 

「はぁ、平穏が続いてくれないかな~」

『そんなマスターに朗報です』

「?」

 

『社長様より『古代人のミイラのツアーに今年は行くことになりそうなので明日事務所に来てくれ』とのメールが』

 

 

 

 

「うーん……これはこれで良かったけど……まぁいいや! 次はもっと楽しいことに……」

 

 浅黒い肌の女神が、若干退屈そうな素振りを見せながら次のお題と書かれた箱に手を伸ばそうとした。

 

 

 その時だった。

 

 

 ガシッ

 

「……ッ!?」

 

 ガシッと細身の腕をつかむ腕が虚空から現れていた。その光景に驚愕する女神だが次の瞬間。

 

 

 グシャリ

 

「グッ……ォオオオオオ……!?」

 

 虚空から現れた手によって腕を握りつぶされた女神は焦りを見せ、咄嗟に回避しようとするが追い打ちのように女神の身体を()()が焼いた。

 

「ギッ、ギャアアアアア!?」

 

 女神は悶絶しながらも身を翻し、その場から消える。そして虚空から伸びていた腕も消える。

 

 

「……逃したか」

「……どうしたの狐子」

「なんでもないぞ? さっ、星奈。主を呼んで飯にしようかの」




主人公
俺……また何か……やったな。
自覚する系のな○う主人公。こいつ何処まで行くんだ。
あの後AI講座を配信で行い、一部の層に大変感謝された。


狐子
……逃したか。まぁいい

Ai
イムール星人の言語が分かった結果。向こうの掲示板に顔を出すように。○ボボー○・ボー○○の事を理解することを半ば諦めている


邪神
ぐふふ……痛い目見たけど……止めるとは一言も言ってないもんねー!


~おまけ~

Multi

モチーフ:フクロウ(知恵の象徴)+コンセント(言語で「繋がる」主人公繋がり)

身長:197.0cm
体重:99kg
パンチ力:7トン
キック力;50.0kg
ジャンプ力:100.0m
走力:2.7(秒)
能力:あらゆる電子機器を瞬時にハッキング、及び改造・複製する。飛行能力

見た目は黒いボディーに緑色のラインが入った戦闘機パイロットの重装備のような感じ。頭部はフクロウの羽の形のバイザーと双眼で構成されており、手足の爪はフクロウのように鋭く壁や天井に張り付ける。口元はフクロウの嘴がパイロットのマスクのようになっている。

最後に放った必殺技の状況を簡単に表すと「バックアップを含めた全てのメインが電子上から消された」である。
ちなみにイムール星人がノリノリで機能を追加していった結果、ステルス機能に加え超感覚の疑似再現(視覚機能の強化)、消音機能など等になって拡張性が失われた。

背中のケーブルはカーボンナノチューブの数百倍の硬度と柔軟性を誇る。先端をUSB端子にしたりナイフのように変化させて攻撃することも出来たりと汎用性に優れる。ちゃんと金属の羽もある。

肝心の能力は簡単に言えば「ナイト・オブ・オーナーに限りなく近い物」である。


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――『社員旅行』をします

閲覧ありがとうございます!

ちなみにこうした旅行回ですが訪れることになる地名に関する知識は……とある漫画だよりです。何とは言いませんが、とある奇妙な漫画と言っておきましょう。タイトルに関してもお察しください。

それではどうぞ!


 2週間前のこと

 

「という訳でこれからイタリアに行くことになって……今回も君に同行してもらいたいんだが……」

「うーん……そうですね……」

 

 そう言って俺は手元の書類に目を落とす。そこには【イタリアツアー企画書】とでかでかと書かれた書類がそこにあった。

 

 正直旅行自体は楽しみ。何だかんだ言って数年おきとは言え、毎回参加している為、年甲斐もなくワクワクしている。これもチートの賜物だな。ぶっちゃけ海外旅行での一番のネックはお金や現地の治安よりも言葉が通じるか否かだと思う。会話にならないと怖い。……会話になること自体が恐怖でしかない奴らもいるんですけどね。

 

 エジプトの時は一人身だったこともあって即承諾出来た。しかし今は狐子と星奈がいるのでどうしようかと思い、即答出来ないでいた。幸いにもこの三泊四日の期間の間には特に星奈の学校の予定だとか俺にも特に予定はないが……。如何せん俺には家族がいる為、二人を残しておくのは心配だ。……二人を襲う危機の方が。

 

 万が一家に強盗や変な輩が入ってきたら、普通ならヤバいことになる。しかし生憎うちは普通じゃない為、不埒な輩がどんな結末を辿るのかは想像に容易い。……間違いなく記憶を消されるか、食われる(捕食)か、或いは……焼かれるだろう。そんなことを考えていると俺のスマホにラインが届いた。

 

『向こう行って何かあっても儂が駆けつけるし、だから星奈の事は任せて楽しんでくるのじゃ!』

 

 そのラインの内容を社長に報せ、その旅行に同行する意思を伝えた。すると社長は「おぉそうか!」と嬉しそうに手続きを始めると言って書類を纏め始めた。俺も準備を整えるために社長室を後にしようとすると、ふと社長が呟いた。

 

「……何で君の奥さんは君がイタリアに行くことを知っているんだい……? これ、まだ社員の皆にも伝えてないけど……」

「……あれ?」

 

 

 そして当日。

 

「ではこれから暫くの間宜しくお願いしますね」

「まさか君が勝つなんてね――正雄君」

 

 前回はアカリちゃんが同行者だったが、まさかのスレンダー男こと正雄君が勝つことになるとは思いもしなかった。本人曰く「アカリさんは前回同行したので、じゃんけんには参加できませんでした」とのことで、正雄君も行けたらいいなくらいの気持ちでいったら、こうなったらしい。物欲センサーの良い事例だと思う。

 

 そして今は飛行機から降りて、イタリアの空港内に全員集合して案内の人を待っている状態だ。周りには多くの観光客がおり、とてもにぎわっている。

 

 今回はイタリアのとある遺跡から発掘された古代人を中心としたツアーの流れになっている。その道中で水の都ことヴェネツィアやコロッセオにも寄ることになっている。とある漫画の事前知識があるが、その影響でますます楽しみにしているのはある。

 

「それで今日はどこに行くんでしたっけ?」

「今日は……ヴェネツィアですね」

「古代人のミイラは……三日目でしたね」

「そうですね、二日目はコロッセオ辺りですね」

 

 旅の予定についての話をしていると、ガイドさんが来たので意識をそっちに向ける。というか俺が通訳を努めることになるので前に出る。

 

 

 その後、俺たちはガイドさんの案内の下、ヴェネツィア巡りを堪能した。久しぶりに怪異や人外が介入する余地が無くて普通に満喫していた時のことだった。

 

「『そこの方々……』」

「うん? 僕たちの事……ですかね?」

「そのよう……ですね」

 

 夜の時間帯で、少しホテルからぶらりと歩くことにした俺と社長、正雄君はある老婆から声を掛けられていた。その老婆は紫のベールを纏い、目の前の台には水晶が鎮座していた。老婆のしわくちゃの中から覗かせる鋭い眼光は俺達を見透かしているように思えた。

 

「『もしよろしければ……占って差し上げましょうか?』」

「えっと……何て……」

「占って差し上げましょうか……と言っていますね」

「ふむ! ちょうどいい機会じゃないか! せっかくだから占ってもらおうかな! 二人はどうだ?」

「じゃあ、僕も……」

「私も占ってもらいます」

 

「『では……こちらへ……』」

 

 

「『それでは……一人目を占って差し上げましょう。さぁ、そこの席に……』」

「最初に占う人は……そこの席に座ってとのことです」

「それでは私が先に占ってもらおうかな!」

 

 そう言って社長が一番最初に占ってもらうことになった。

 

「こういうのって……心理学の応用だとかなんとかって言われてますけど……どうなんですかね?」

「さぁ……取り敢えず結果を知るまでは何とも……」

 

 僅か胡散臭さを覚えながらも、占いは始まった。占い師が水晶に手をかざし始めた。

 

「『……』」

「タ、タロットとか使わないんですね……水晶だけってのも珍しい……」

 

 数分もかからず、占い師が水晶から手を放した。

 

「ど、どうですか……?」

「『貴方……最近、時計を無くしたね? 40歳の誕生日に奮発して買った高級ブランドの』」

 

 俺が占いの内容を伝えると……社長が目を見開いて仰天した。

 

「あ、当たってる……!?」

「「!?」」

 

「『その時計は……貴方の息子のおもちゃ箱の中さね』」

「な……なんだと……いや、まさかな……」

 

 そう言って社長は電話をつないだ。恐らく相手は社長の奥さんだろう。こっちは夜でも向こうは朝だから多分起きている筈。

 

『あら、どうしたのアナタ?』

「あぁ、えっと、その……ちょっと○○のおもちゃ箱の中を見てくれないか? もしかしたら……俺の時計があるかもしれん」

『えぇ!? ま、まぁ、良いけど……』

 

 

 数分後

 

『えっと……あったわ……一先ず、手の届かない所に保管しておくわね……』

「マ……マジで!?」

「「!?」」

 

 この占い師……本物……!?

 

 俺達も驚愕して咄嗟に占い師を見る。変わらず占い師は椅子に座ったままでいた。社長は奥さんとの電話を切り終わると、恐る恐ると言った様子で席についた。

 

「あ、貴女の言う通りでした……ありがとうございます……!」

「『気にしないで……さぁ、次よ』」

 

 そう言って今度は社長の抱える腰の病気が治る病院の名前や、社長が趣味で賭けようとしている競馬の万馬券が当たると占われ、一先ずの占いは終わった。

 俺たちはこの占い師の異様な力にただ圧倒されていた。

 

「『さっ、次は貴方よ』」

「よ、よろしくお願い……します」

 

 満足した様子で終わった社長と入れ替わるようにして正雄君が席についた。

 

「彼女……一体何者なんだろうね……」

「それは……何とも……」

 

 俺の直感的には、悪意が絡んでいるとは思えないし、怪異とかそういう物でもないと思う。

 

 

 この時俺はあることを思い出していた。潜伏中のレプティリアン(コンビニ勤務)から小話的な感じで話されたことだ。

 

『地球人によくある超能力だが』

『超能力……?』

『確かにあれは空想上の物に過ぎない……これは地球人の定説だろう。しかしその実は違う』

『……マジですか?』

『確かにそういった存在はいる。しかしその数が極端に少ないのと、そうした連中は外に出ることを好まないことが多いから発見報告がされないのだ』

『なるほど……? それで、これ、俺に話してよかったんですか……?』

『我々の中では君もその部類に含まれているのだよ“バベルの塔”』

『知りたくなかったそんな事実、そんな異名……』

 

 そんなこともあったなーと思いつつ、占い師の言葉に耳を傾け通訳していく。

 

「『貴方……この旅行が終わった後、日本の○○○○に行こうとしているわね?』」

「は、はい……! そうです……!」

 

 そこは割と有名な心霊スポットの廃墟だが……。

 

「『そこに行けば貴方は死ぬことになるわ』」

「「「!?」」」

 

 唐突な死亡予告に唖然とする俺達。占い師は続けて語りだす。

 

「『その場所は……頭のおかしいガキ共がたむろしているわ。そこに行ったが最後、貴方はリンチに遭って力加減を間違えたガキの一人に殺される』」

「ヒ……ヒエェ……」

「……日本に帰ったら警察に相談するとしようか」

「……そうですね」

 

 自らに迫りかけていた死にただただ驚くことしか出来ない正雄君だった。

 

 その後は、旅行の後に素敵な出会いがあるとかこの先も慎重なままでいれば明確に大きな損失はしないだろうという有難い助言で済んだ。正雄君も胸を撫でおろしてお礼を言っていた。

 

 

 で、俺の番になった。

 

「『よろしくお願いします……』」

「『……貴方……貴方は……ッ!』」

 

 そう言いかけた占い師。

 

 ――その瞬間、水晶が突然粉々に砕け散った。

 

「え!?」

「『……気にしないで、貴方の力に耐え切れなかっただけだから。弁償については気にしないで』」

「『えっ、でも……』」

「『いいから』」

 

 有無を言わさないその圧力に負け、俺は申し訳ない気持ちのまま占いを受けることにした。すると占い師は目を伏せながら、一言。

 

「『……分かれ道が見える』」

「『え?』」

「『……一つは“川”もう一つは“機械”に“吸血鬼”、“狐”そして……“人間”ね』」

「『えぇ……?』」

 

 川に、機械に……? 吸血鬼……? 全く心当たりが無い……狐以外は……。

 

 先程と違いずいぶんと曖昧な内容に困惑する俺に、畳みかけるように占い師は更に告げる。

 

「『“川”……黒衣と……鎌が見える。“機械”……空を覆う機械の集団……その中心に……貴方が見える。“吸血鬼”……貴方の身近にいる。彼女は虎視眈々とその機会を狙っている……と言っておくわ』」

 

「どういうことなの……?」

「えっ……と……どうしたんですか……?」

 

「『“狐”……これは貴方を護っている存在。その傍に居る“牙”も大切になさい。“人間”は……既に閉じられたようね』」

「『……どうやってそれを知ったんですか……』」

「『これ以上は言えないよ。安心しな、これは誰にも話さないよ。もっとも、貴方もそれを話す気がないようだけどね……』」

「『……ご尤も』」

 

 その後はというと――この先、あらゆる賭け事で俺はイカサマをしない限り絶対に勝てないことと、少なくとも人間としての死は迎えられることを告げられた。……賭け事絶対やらん。

 

「賭け事で負けるって……何か……源吾さんらしいっちゃあ……らしいですけど……」

「あー……その……なんだ……賭け事が出来なくても……生きていけるから……」

「止めてくださいその言葉が一番傷つくんですから」

 

 

 それから帰ることになった時。

 

「『貴方達が三日目に訪れることになる遺跡と博物館……そこで厄介ごとに巻き込まれるわ。だけど心配することは無い』」

「『えっ何でそんなことこのタイミングで言うんですかァ!?』」

「『一泡吹かせてやろうと思ってね』」

「『さては貴女相当性格悪いですね!?』」

 

 ……念の為に持ってきた胃痛薬が役に立ちそうだ……。あぁ、狐子の飯が食べt(ラインが届いた音)

 

『夜食用にカバンの中に弁当を入れておいたのじゃ!』

 

 だから何で俺の思考というか考えが分かるの!? そしてどうやって俺のカバンに弁当を入れた!?

 

『ひとえに――愛!』

 

 なぜそこで愛!?

 

 

 

 

「ふぅ……全く……老体には堪えるわい」

 

 源吾たちが去った後、占い師の老婆は首の骨を鳴らしながら体を伸ばしていた。その声色には心底疲れが見えていた。

 

 

 ――実のところ、この老婆にはもう二つ見えていた。

 

 

 あの男性の上から垂れるようにして伸ばされる悪意あるおぞましい何かの手が。そしてもう一つ、その手を掴もうとして虚空から現れた身の毛もよだつ程に力に満ちた圧倒的“神格”。

 陰と陽……実際は陽の方がはるかに優勢の様であったが、少なくともそれは老婆の肝を冷やすのには充分だった。

 

 あれほどの存在達は、悲惨な戦火に見舞われた場所や、虐殺の歴史が刻まれてしまった場所に出没する“良くない物”よりも遥かに質が悪く、そして強力すぎた。あの瞬間老婆は生きた心地がせず、その時だけ己に備わった力を呪った。

 

 しかし結局は己の飽くなき好奇心に従い、あの男性を占ってやったのだ。“危険”ほど恐ろしく、美しく、そして甘美な物はない。それが老婆の考えだった。

 

「あの小僧は……まぁ、大丈夫じゃろ。色んな奴らを引き寄せるが……あの悪運ではそうそう死にはせん。このままいけば“狐”の道を進むだろうさ」

 

 さてと……と老婆は椅子から立ち上がり、砕かれた水晶を見て思わず一言。

 

「……やっぱり弁償して貰った方が良かったかねぇ……面白い物を見れたのは間違いないんじゃがのう。よっと……!」

 

 

 僅かな哀愁を漂わせながら老婆は水晶をかき集め――布を被せ、手で勢いよく押しつぶした。

 

 

「――ま、普段よりも高めの値段で済んだからこれで良しとするかねぇ」

 

 老婆が手を布からゆっくり引き上げると――布の中から傷一つない水晶が出てきた。

 

「やっぱこの商売はやめられないねぇ。自分のことを完全に言い当てられた連中は値段なんか気にしないから、財布のギリギリまで躊躇いなく払える。儂の経験則さね」

 

 

 

「あれ? どうしたんですか? その弁当」

「……愛妻弁当です」

「え? でも奥さんは……」

「それ以上いけない……それ以上……うん……良いね?」

「アッハイ」




主人公
狐子の行動に疑問を抱かなくなってきた。狐子は絶対大丈夫!
占いの“狐”は分かるがそれ以外については分からないまま。



……実は主人公の辿りかけた未来だったり

狐子
手をグシャリっとな。弁当箱はカバンに入れた瞬間に回収した。


占い師
数少ない“本物”。御年97歳。能力が成熟したのは60歳ごろ。
能力を使って競馬や株などで大儲けしてきた中々肝の座った狡猾な婆さん。相手の思考や辿る未来が分かるが、異質過ぎる主人公に困惑。


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この主人公、圧倒的被食者

閲覧ありがとうございます
最近読み返したジョ○ョが面白くて読みふけってしまいました。その結果がこの作品です。

それではどうぞ


 二日目

 

「おー! ここがコロッセオ!」

「ここが究極生物だったり、吐き気を催す邪悪と戦った所か!」

「ジョ○ョかな?」

 

 二日目の今日はイタリアのコロッセオに俺たちは来ていた。昨日の一件もあって中々眠りにつけなかった俺達三人と違って他の社員さん達はとても楽しげな様子だった。凄い眠い……。

 

「というか……本当に社長と二人は大丈夫なんですか?」

「「「大丈夫だから気にしないで」」」

「は、はい……それならいいですけど……」

 

 まぁ、あの占いのことは到底人に言えるような内容ではないことと余りにも現実離れしていることから、どうせ言っても誰にも信じてもらえないだろう。……昨日の夜カバンに入れた筈の弁当が跡形もなく消えたことを話しても信じてもらえないだろう。というか聞かれてどう答えるか焦ったもんだ。

 

『あれ? 昨日の弁当はどうしたんですか?』

『……何のことですか?』

『え、昨日の……』

『……私は弁当を持ってきてませんよ(大嘘)』

『え、でも……昨日死んだ目をしながら弁当を……』

『ね?(圧)』

『アッハイ……』

 

 そんなこともあったなと内心思いつつ観光していたが、今のところ意外にも特に何も起こらなくて若干拍子抜けだと思う辺り相当俺も毒されているなと思う。……いや、今日は起こらないにしても明日何か起こることは既に確定してしまっている訳だが……。

 俺はもう若干諦めの境地と、「ハイハイ何時もの何時もの」といった調子でコロッセオ観光をしていた。あの予言は俺しか聞いてない為、恐らく社長と正雄君よりも俺の目は死んでいるだろう。

 

 それから俺は何時もの通り翻訳作業に勤しみながら観光を楽しんでいた。ま、まぁ……幾ら明日にトラブルがあると言われても話して解決できるなら大丈夫だろう。心配ないだろうと言われたから大丈夫でしょう!(希望的観測)

 

 

 

 

「そんな風に考えていた時期が俺にも有りました」

 

 死んだ目をしながら思わず口にした俺は現在、縄で縛られて真っ赤な魔法陣らしき物の中心に添えられている。周りには黒いローブを纏った明らかにヤバい連中が儀式だとかなんとかと口にしている。そして俺の隣には……本来なら俺たちが見ることになっていた筈のミイラが置かれていた。

 

 はい、拉致されました。

 

 というのも、ミイラが安置されている筈の博物館からミイラが盗まれたという報告があり、向こう側が遺跡観光に変更してくれた所までは良かった(良くない)。しかしふとトイレに行きたくなった俺は社長たちから外れてトイレを探しに行っていた所……

 

「あ」

「「「『あ』」」」

 

 明らかにミイラを包んでそうな白い布を担いだ明らかに怪しい文様が刻まれたローブを纏うカルト臭がプンプンする連中。そしてその現場に偶々居合わせてしまった俺。数秒の硬直の後、俺はひっ捕らえられたという訳だ。

 そうして今に至るわけだ。

 

「『贄は揃った……さぁ……儀式を執り行うぞ……』」

 

 リーダー格の男が儀式の開始を告げた。周りの連中もそれに同調して盛り上がっていた。その中で幾人かが情けなく転がっている俺を見て次々と馬鹿にしたような発言をしている。俺が言語を理解できないであろうと思って俺を馬鹿にしているようだが、生憎俺にはその内容が理解できるので一言返してやろうとしたがほっとくことにした。どうせこの場所はAIが既に探知して警察に連絡しているから精々あと数十分で助かるだろう。生憎ここが遺跡から遠く離れた場所であるためどうしても時間がかかるのは仕方ないことだ。

 

 一応連れ去られる時に会話をしようとしたが、どいつもこいつも目がイっていた為、あのストーカー女が脳裏にちらつきためらってしまったのは失敗だったなと反省するももう遅い、連中が何か呪文を唱え始めた。

 

 聞いている限りではなんてことはない普通の英語での詠唱だが、本当に効果があるのかは怪しい所だ。周りの連中も怪訝そうに俺とミイラを見つめていることからも全く以てデタラメな考えの下、やっている連中なんだなと思いふと隣のミイラに視線を向けると…………何か、心なしか光っているような……。

 

「『お、おぉおおおおおお!?』」

(あれ……? これヤバい……?)

 

 詠唱が進むごとに徐々に光り、動き始めるミイラとそれに合わせて同調するように驚愕する連中。いや、お前らが驚くのかよ。

 

 僅かな冷や汗が出始めた所で、そろそろ取り返しのつかないことになりそうな雰囲気になってきたことを嫌でも実感させられる俺。するとリーダー格の男が高らかに告げた。

 

「『さぁ! 今こそ生贄の血を啜り、蘇るのだ!』」

(はぁっ!? えっ、マジで!?)

 

 内心マジでヤバいことになったと今更俺の生存本能が警鐘を鳴らし始めた。俺はどうにか策は無いものかと考え、模索しているとミイラのカラカラの手が独りでに伸びた――近くにいた信者の一人に向かって。

 

「『ギャアアアアアアアアアア!』」

「『な……なぜだ!? なぜ生贄に手を出さないのだ!?』」

(な……なぜか知らないが助かった……?)

 

 目の前で男の一人の首元にかぶりついたミイラが血を吸っていくのが見えた。カラカラになる男と引き換えにミイラの肌が潤っていく。そうして完全に干乾びた男に変わり、今度は別の男に標的を定め勢いよくかぶりつき同様に血を吸い始めた。その間、俺は置いてけぼりにされている。

 

「『ア、アァアアアアアアアアアア!?』」

「『た、助けてくれ……ギャアアアアア!?』」

(ワー吸血鬼って実在していたんダー)

 

 五人ほどの血を吸ったところでミイラはもはやミイラではなく、ただの人にしか見えない程に肌がツヤツヤになりギリシャの彫刻のような肉体を持つ男に早変わりした。可笑しい……この世界は何時から奇妙な世界になったんだ……?

 

 俺がそう思っている内に次々と元ミイラは信者たちを襲っては血を吸っていた。本当にこの状況からでも生存できるのかが怪しくなったが、俺はあの占いの婆さんの言葉を信じることにしてただ待っていた。そもそも俺は両腕両足を縛られている為何も出来ないのだが。くそう、前回の騒ぎを治めたあのベルトを持ってくればよかったか?

 

 

「『ふぅ~っ……久しぶりの食事だ。栄養は付いているようだが如何せん男は不味いな。やっぱり女性に限る』」

 

 どうやら粗方吸い尽くしたようで満足げな表情を浮かべていた推定古代人、断定吸血鬼のコイツをどうしようかと思っているとその首がグリンと俺の方を向いた。

 

「『で、何でコイツから王様の気配が僅かにするんだ? ……いや女王様の気配に混じって何かヤバい気配がするな……』」

(このまま諦めてくれればいいが……)

 

 見た目にそぐわず割とフランクな様子の吸血鬼は何か身の危険のような物を感じているのか俺から少し距離を取っている。これなら大丈夫そうだ。

 

「『でも……めっちゃ美味そうなんだよなぁ……何つーか……コイツの血を飲んだら絶頂したまま狂い死にしそうな位には』」

(それはひょっとして俺を罵倒しているのか?)

 

 そんな涎を垂らしながら俺を見るんじゃあない。毎回毎回あちら側から何かと美味そうとか極上だとか言われる身にもなってほしい。このチートもお付けするから……誰か貰って欲しい。

 

 などとふざけたことを考えている間にも男は非常に葛藤した様子で俺を食的な目で見ている。このまま何も言わずにいると間違いなくコイツは欲に負ける可能性があるので、ちょっとしたジョークも交えた会話をすることにした。

 

「『……頼むから食わないでくれないか? 食べられるのはベッドの上だけで良いんだ』」

「『おっ、俺の言葉が分かるのか。ははは、お前が声を掛けなければ首元にかぶり付こうとしたんだがな』」

「『……何でミイラになってたんだ?』」

「『ん? そーだな…………何だっけ? あぁ、そうだ思い出した。棺桶の中にいていざ出ようとしたら奴らが俺ごと棺桶を地中深くに埋めやがったんだった』」

「『……誰が?』」

「『ヴァンパイアハンター』」

 

 拝啓、吸血鬼系キャラが好きな我が妹へ。

 貴女の好きな吸血鬼は実在していました。さらに言えばその怨敵であるヴァンパイアハンターの存在も確立されました。本当にこの世界はまだまだ謎にあふれていました。あとお兄ちゃんはもしかしたらその吸血鬼が消滅する瞬間を目撃するかもしれません。

 

 なぜかって? ――俺の胸ポケットにある狐子のお守りから凄まじい熱を感じるからです。

 

「『あー……そろそろこの縄を解いてすぐに逃げた方が良い』」

「『まぁ、縄は解いてやるけど……一口だけ味見しても良いか?』」

「『……何て?』」

 

 ――熱がさらに強くなった

 

「『一口飲む前に多分死ぬと思うけど……』」

「『死ぬほど美味いってか!』」

「『違う、そうじゃない。良くて致命傷、悪くて死だぞ』」

「『致命傷で済むなら問題ねぇ!』」

「『不死から目線やめろ』」

 

 完全に目がトロンとしており、心なしか俺の縄をほどく際に俺の首元や素肌に手を当てている気がする。申し訳ないが肉体言語(意味深)になるのはNG。そういうのは妹が好むかもしれないが、実の兄がそういう目にあっているのは流石に無理じゃないか?

 

『お兄ちゃん受けでもオッケーです!』

 

 心なしか邪念が飛んできた気がするが気のせいであってほしい。更に熱が強くなって、光始めた。

 

「『な、なぁ……! 一口だけッ! 一口だけだから!』」

「『それは全部まるごといくフラグだから! というかお前抑える気ないだろ!?』」

「『あっ、俺の名はレオンハートだから宜しく』」

「『なぜこのタイミングで自己紹介!? 気でも狂ってんのか!? あっ、もうすでに狂ってるわクソが!』」

 

 やばい(確信)。このままいけばマジでこいつが死ぬ。もし今ここでこいつが灰になって死んだらこの部屋の惨状(倒れ伏せる信者たち)を見た警察は何て思うか、当然俺が犯人だと思われる可能性が大なのだ。

 

「『というか……ッ! お前、彼奴らは殺したのか!?』」

「『致死量寸前で止めたから大丈夫だ!』」

「『それは世間一般的に大丈夫とは言わねぇんだよこのスカタン!』」

 

 縄をほどかれた瞬間、コイツから距離を取った。

 

「『怖がらなくてもいいじゃないか……ちょっと飲み干すだけだから……さぁ……』」

「『人はそれで死ぬことを覚えておけ、そしてどっかにいけ、それが今回の授業で得たことと課題だ。さぁ、分かったら俺の傍に近寄るな』」

「『いいや限界だ。近寄るね!』」

「『ホァアアアアアアアアアアアア!』」

 

 目を血走らせた吸血鬼が俺に飛び掛かろうとしてきた。恐らくこいつの牙が俺の身体に突き立てられた瞬間、コイツの命は終わって、俺も後々の対応で死ぬことになるだろう。

 

 

 ――その時だった。

 

 

「『待て』」

 

「『え!? お、王様!?』」

「『……アリュカードさん?』」

 

 入り口付近に佇んでいたのは――ここにはいない筈のアリュカードちゃんだった。何でここに……?




主人公
後々になって最悪狐子に記憶改竄して貰えればいいやという思考が過ったことに自分でも驚愕することに。
思考が人間のそれを辞めつつある。

ちなみに主人公が吸血鬼になった世界線では邪神の気まぐれもあって割とやばい存在になっていた。

レオンハート
目と目が合った瞬間「コイツの血美味そう」となった。
実際に吸っていたらそれはもうえらいことになっていた。同族の中では割とつおい

アリュカード
何で「王」なんだろうねー不思議ダネー


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人外との接し方――まず相手の全てを許容します

閲覧ありがとうございます
遂にUAが1,000,000を突破致しました! 有難うございます!

突破記念で何か書こうかなと考えておりますので気長にお待ちください。

それではどうぞ


「『な、なんで王様がここに!?』」

「『テレビを見て驚いたぞ……まさか、同胞の一人が発掘されようとはな』」

「『テ……テレビ……? なんですか……それ?』」

「『そんなことはどうでもいい。今私が話したいことは……』」

 

(うーん、この人外率よ。もう社長や家族の誰かが人外だったとしても驚かないぞ…………嘘、メッチャ驚くに決まってる)

 

 今までただのキャラで通してきていただけかと思ったらまさかの本物だった件。とうとう吸血鬼が出ちゃったか……。というか王? 姫とか女王じゃなくて? などと尽きぬ疑問が湧いてくるがあまりの情報量に一旦考えるのを辞めて傍観することに徹した。

 目の前で俺を置き去りにして互いに話し合っているのを余所に俺は身の回りの関係者が悉く人外であるという事実に思わず頭を抱える。まさか社長も……? などと考えていると話がひと段落したようで俺の方に向き直った。

 

「で……アリュカード……ちゃんで良い……ですかね?」

「あぁ……それでいいとも」

「そっちが素なのか……」

「嫌かね? 私の本来の性格と態度は」

「……性格や態度が変わっただけで俺は別に態度を変えませんよ。アリュカードちゃんはアリュカードちゃんです」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないか。所で今ここに人外がさらに二人増えたが――君は恐ろしいかね?」

 

 そういってアリュカードちゃんは見た目がロリっ子のままで妖艶な雰囲気を醸し出してくる。ここで仮にそうした反応をすると後々が怖いので気を付けなければ。

 ……胸元の御守りが急激に熱くなったので、多分手遅れな気がした。これはもう、帰ったら帰ったで相当厄介なことになることが確定した瞬間である。

 

 そしてそれはそれとしてアリュカードに対して俺は本音をぶつけることにした。

 

「まぁ、人外が二人増えただけで特に気にするまでも無いかな。別に殺されはしないし……」

「……私が言うのも何だが人外が多いことに危機感を抱かなさすぎでは? もしかしたら私が血を吸うかもしれんのだぞ?」

「アリュカードちゃんはそんなことしないから大丈夫でしょ」

「……恐ろしくないのか?」

「恐ろしいと思ったことは無いね(感覚麻痺) 吸血鬼だろうと妖怪だろうと宇宙人だろうと互いに理解し合えればいいので。まぁ、アリュカードちゃんがどんな姿であれどんな性格、言動であってもそれはそれで受け入れるので……」

 

 別に今更アリュカードちゃんが性別が男であろうと不明であろうと別に態度を変えるつもりは無いし、これまで通りに接していくつもりだということを更に伝えると

 

 

「……………………なるほど」

「?」

「『王様……顔が林檎のように真っ赤に……』」

 

 アリュカードちゃんがあっけにとられたような表情をしたかと思えば、今度は後ろを向いて俯いてしまった。何か癪に障ることを言ってしまったかなと思いつつアリュカードちゃんの復帰を待とうとしたが

 

「『あ』」

 

 突然レオンハートが何かに気づいた様子で声を挙げた。アリュカードちゃんは未だ俯いて……そのまま横になった。代わりに俺がレオンハートに問いかけることにした。

 

「『どうしたレオンハート』」

「『何か外から五月蠅い何かが迫ってくる音が聞こえるぞ……何だこの音、五月蠅いな……俺が生きていた頃には無かったぞ……耳障りだ』」

「『五月蠅い何か? …………あっ』」

 

 その言葉を聞いて俺はふとあることを思い出してAiを起動した。

 

「……あれ、ねぇAi。俺が誘拐されて、通報してからどれくらい経った?」

『既に十分が経過しております。音声認識の結果、パトカーが五台以上来ております』

「……やっべ、警察が来た。しかもめっちゃ来てるんだが……?」

『かなり価値のあるミイラを盗み尚且つ人質まで誘拐したとなればこれ程来ることでしょう。いやもっと来ることが予想されます』

「……そのミイラは今……」

「『?』」

「何て言えばいい……?」

 

 すっかり忘れていた……そういやAiが既に警察に通報していたんだった。

 

 俺は周りを見渡す。床には気絶しているカルト集団。そして元ミイラのコイツに、危ないカルト集団に誘拐されて何故か無傷で血だまりの中に佇む俺とこの事件に関係ないのにいるアリュカードちゃん。うん、間違いなく後々が面倒になる。

 密かにAiに証拠隠滅の手段を検索してもらうか、最後の手段として狐子に頼む……これは正直無茶な気がするが何故か狐子相手だと無茶では無くなる気がする。だけどこれは本当の最終手段だしと考えていると

 

「それじゃあ、さっさとここからおさらばするかの!」

「あっ、キャラを戻した」

「話し合いは終わった! さて、さっさとこんなところから去る!」

「『……王様って……こんなキャラだったっけ?』」

 

 さっきとはキャラがまるで違うアリュカードちゃんを呆然とした眼で見つめるレオンハート。しかしどうやってこの密室から警察の厄介ごとに巻き込まれずに皆の下に帰れるのか。……何か思考が犯罪者のそれに近しくなっているような気が……。

 

 そんなことを考えていると外から現地の警察の声が聞こえてきた。返事をしろと言われているが、この状況で人質と思われている俺が返事をしてもさらにややこしくなるだけだ。

 

「『スンスン……こいつ等よりは美味そうな匂いがするな……あれは憲兵か?』」

「『言っておくが食うなよ!? 頼むからな!?』」

「『じゃ、妾先に行ってくるから』」

「『えっ、ちょ』」

 

 そう言ってアリュカードちゃんが外に向かって悠々と歩いていく。外には警官たちがいるのに……! 俺は駆け出した。

 

「『えっ、こ、子供!?』」

「『君! 危ないからこっちに来なさい!』」

 

 武装を纏った屈強な警官たちがアリュカードちゃんを見て驚愕している。俺はその光景を見ているだけだが、アリュカードちゃんが警官たちに近寄っていく内におかしなことが起き始める。

 

「『き、君!?』」

「『私の目を見ろ……』」

「『えっ……あっ、あっ……あ……』」

「『ここには私達はいなかった……良いな?』」

 

 こっちからは見えないが、アリュカードちゃんの目を見ている警官たちがだんだん戦意を喪失しているというか警官たちの目が虚ろになっていくのがわかる。傍に居るレオンハートも「『久々に見た……王様の洗脳術……』」と言っているし多分科学的でない何かであることは分かる。

 

 そうして数分も経たない内に警官たちは一人を残してその場に崩れ落ち、アリュカードちゃんがこちらに振り返った。

 

「ほら、何をしておる。さっさと場所を案内せよ!」

「『ひゅー! 全盛から衰えてないじゃないですか!』」

(……人類って弱いなー)

 

 俺は崩れ落ちた警官たちの間を縫うようにして皆の下に向かって歩いていった。やはり人類は上位存在に勝てないということを骨身に沁みる一時でした。あとポケットの中で震えているラインの通知に関しては触れないことにした。はぁ、後が怖い。

 

 そして一人残っていることに気づいたが、直ぐにその瞳孔を見てその必要は無いと感じた。毎度おなじみ事後処理係(レプティリアン)だ。

 

「『はぁ、事後処理が大変だ……同士よ何故毎回、こうしたトラブルに巻き込まれるのだ……?』」

「『俺が聞きたいです……』」

「『……君の運の無さは既に確認済みだからな……さて、応援を呼ぶか……今日は残業か……』」

 

 爬虫類のような瞳孔を持つ目が僅かに濁ったのを見て思わず合掌した俺だった。そして応援とは恐らく仲間のことだろうと思う。

 

 

 その後素知らぬ顔で皆の下に戻った俺は観光を続けた。俺について来たアリュカードちゃんを見た社長たちは驚いていたけどアリュカードちゃんが偶然ここに居合わせただけとごり押して、レオンハートを兄だと偽っていたことも印象に残ったが、まぁ普通に楽しむことが出来たと俺は思った。

 ちなみに事件はカルト集団がミイラをどこかに紛失したとして全責任を負うことになったのだが、捜査に当たった関係者曰く誘拐された筈の人質がいないということと通報人不明の謎の電話と合わせて「ミイラの呪い事件」として暫くネット上を賑わせることになった。

 

 

 そして帰国後

 

「さて、一先ずお帰りなのじゃ」

「……あの、その付け牙は……あと何で既に白いんですか……?」

「いやなに、吸血鬼にうつつを抜かそうとしていた愚か者にわから(ryとかそういうことは考えておらんが……兎に角寝室に行くぞ。有無は言わさん」

「ハイ」

 

 首元とかに噛み痕いっぱいつけられたけど機嫌を取り戻せたので何とか助かりました。

 

 

 

 

「それで……アイツは何者なんです? 王様がそこまで気に掛けるって相当ですよ」

 

 暗闇に満ちたとあるマンションの一室。

 レオンハートは自らが王と呼ぶ存在に問いかけていた。あの青年は何者なのか。それに対し王こと――アリュカードは

 

「友人さ。数百年、いや生まれてから初めてのかもな」

「はえ~そうなんですか…………で、眷属にしないんですか? このままじゃあ人間はすぐに老人になって死にますよ? 俺らと違ってすぐに老いちゃいますし」

「出来たら苦労しないさ……あの忌々しい狐がいなければ……な」

「狐?」

「あぁ、とても厄介な狐さ」

 

 血のように真っ赤なワインを傾けながらアリュカードは呟く。あの青年の胸元で太陽のように焼きつく熱を放ちながら「これは自分の物」だと威圧を掛けてくる存在について苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら。それを見たレオンハートは少し困惑した様子で話す。

 

「王様が手こずるって相当じゃないですか」

「……別に、周りへの被害を一切考えなければまだ勝機はあった。……アイツと契りを結ぶ以前まではな」

「え~……以前ってことは、力が増したんですか?」

「あぁ、それも爆発的にな」

 

 全く以て忌々しい、と漏らしながらアリュカードは再びワインを口にする。レオンハートはあの時自分があの青年の血を吸っていたらどうなっていたかと考え、少し身震いした。確かにあの時は目覚めたばかりで察知能力が鈍っていたのもあるが確かに謎の熱さが自分を襲っていたなと思い返したのだった。

 

「……あれ? そういえば警官たちを洗脳して振り返った時、洗脳しようとしていませんでしたかね?」

「あぁ、したさ。でも駄目だ効果がまるでない」

「それもあの狐の所為ですかね?」

「そうだ」

 

 

「――それで、諦めるんですか?」

「そんな馬鹿な。私が諦めるとでも?」

「ま、そうですよね」

「いずれ手にして見せるさ、いずれな」

 

 月明かりに映されたアリュカードの姿は、これまでの少女の姿と美青年の姿、壮年の男性等の姿を僅かに見せた。そしていずれも不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

「あっ、それはそれとして俺、このブイチューバー? ってのになります!」

「……なんだって?」

 

 アリュカードは思わず素の状態で聞き返した。




主人公
今更人外が増えた所で何も気にしなくなった。もう次は何が来ても驚かんぞ(フラグ)

アリュカード
ちょろい。
初めての友達+どんな姿、性別、性格、言動だろうと受け入れると言われ、顔を真っ赤にするくらいには純情。

レオンハート
頭が良い様で割と抜けている部分あり。一応アリュカードに仕えていた。

レプティリアンs
残業確定


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第五部
未来最高と言え、言いなさい(変貌)


閲覧ありがとうございます!
諸事情で遅れてしまい申し訳ありません!

相も変わらずVtuber要素が少ないですがよろしくお願いします!

それではどうぞ!


「ふふふ……漸く、漸くあの狐の呪いが解呪出来たよ……結構化身持ってかれちゃったけど……またそれも良き!」

 

 背後に打ち捨てられた元々動いていた何かを見ながら女神は言った。

 

「さーて、今度は何を選ぼうかな~? 前回は古代だから……」チラッ

 

 女神の目線の先にはでかでかと“未来”と書かれた看板の下にあるボタンがこれ見よがしに鎮座していた。心なしかそのボタンからは形容のし難いオーラのような物が漂っている。しかし女神は前に握りつぶされた部分を手で押さえながら何かを悩んでいるようだった。

 

「んー、でも流石にこれは()()に探知されるかもだし…………あっと手が滑ったナー」ポチイッ!

 

 手が滑ったと言いつつもかなり勢いよくボタンを押した女神だった。その表情は晴れ晴れとしていた。

 

「ふふふ……楽しみだな……アッ、呪いが再発してきた早く他の化身に身代わりをしなきゃ……」

 

 

 

 

「――さて、皆さんこんにちは」

「今日は妾と「俺もいるぜぇ!」ちょ、被せてくるでない!」

「あっ、ボクもいるよー!」

 

 そう言ってアリュカードとレオンハートことレオ・ブロードが挨拶をする。そう俺は今、二人の吸血鬼(ガチ)とスイスイと配信しているのだ。

 

 

 リスナー:こんちはー!

 リスナー:主従コンビええぞええぞ!

 リスナー:スイスイちゃんカワイイヤッター

 

 

 アリュカードがレオンハートのVtuberに関する手伝いをしたことや同じキャラ(吸血鬼系)というのもあって割と頻繫にコラボしていたこと、元々の主従関係による言動も相まって主従として認知されているらしい。

 

「今日は少し人数が少ないかもですが……絵で行う伝言ゲームをやっていきたいと思います」

 

 

 リスナー:wktk

 リスナー:既に不穏因子が一人いるんだよなぁ……

 リスナー:あれは……特級呪物か何かだったね……

 

 

「俺の絵ってそんな酷かったっけ!?」

「お主の絵どこぞの教育番組に出てくるあのキャラとタメ張れるくらいには酷かったぞ」

「正直……見てて、精神的な何かを削られる気がしたよ……」

「……ノーコメントで」

「マジかよ!?」

 

 ス○ーモドキはまだ良かったが、何をどうしたら東京タワーが影も形も無いただの棒になるのかがわからない位にレオンハートは絵が壊滅的に下手ということが判明したのだ。全員からの指摘を受けて驚愕するレオンハートを置いておいて今回の企画の趣旨をスイスイが説明し始めた。

 

 簡単に言えば、出されたお題が次の人に伝わるようにして絵を描くという物だがその際に起こる齟齬がまた面白いのだ。……今回に関しては嫌な予感しかしないが

 

 

 リスナー:申し訳ないがSAN値が削れるレベルの絵はNG

 リスナー:意見合致してて草

 

 

「ま、まぁ、そんなことはどうでもいい! さっさとやりましょうぜ!」

 

 レオンハートの言葉の後、俺たちはそれぞれPCに向き合い、それぞれのお題を考え、打ち込み始めた。全員が打ち込み終わったところでちょっとのロード時間と共にやがてそれは現れた。

 

 

「えっと最初のお題は……【半分溶けて半分凍ったスライム】……なるほど?」(お題:【狐とフクロウの融合体】)

 

 

 リスナー:どこぞの魔物かな?

 リスナー:割と……簡単……?

 リスナー:最初にしては割と……

 

 

『ファアアアアアアア!? 面倒くさすぎるぅうううううう!? 絶対あの馬鹿の仕業ァアアアアアアアア!』(書いたお題:【吸血鬼化したマルチ】)

『うーん……これ、どう描けばいいんだ……?』(お題:【赤い満月とブラン城(※ルーマニアにある城)】)

『えー……どうやって書こうかなぁ……』(お題:【半分溶けて半分凍っているスライム】)

 

 

 リスナー:阿鼻叫喚で草

 リスナー:あの馬鹿……あっ

 リスナー:何を出されたんだ……?

 

 困惑の声が聞こえつつも、頭の中でどうやって描こうかのイメージを膨らませる。

 

 

「えぇ……まぁ、何とか描いてみますけど……」

 

 制限時間は最初だから割とあるし、物騒なお題ではあるが割とシンプル()であるため手早く描き切ることが出来るだろう。多分スイスイちゃんだろう。あの馬鹿(レオンハート)はもっとシンプルというか……そう、単純なお題を出すだろうし……(※不正解)

 

 

 そうしてしばらくした後、

 

「ふぅ、まぁ、これなら分かるんじゃないんですかね?」

 

【十人中十人が分かるような絵】

 

 

 リスナー:おぉ……分かりやすい……

 リスナー:普通に上手い

 

 

『よ……良し、何とか間に合わせられたぞ……これなら分かるんじゃないか……?』

『うーん、まっ、いっか!』

『フー……書けたかな……!』

 

 

「我ながら割と上手に描けましたね。さて、次は絵を見て判断する番ですが……」

 

 さて次は…………………………ん?

 

 

【ある種の芸術のように見えるレベルの混沌に満ちた絵(要するに酷い)】

 

 

「????????」

 

 

 リスナー:あ

 リスナー:これは……間違いないですね……

 リスナー:思考停止してて草

 リスナー:特定容易なんだよなぁ……

 

 

『ほぉ~う……成程、成程……』

『あー……どうやって表現すればいいんだっけ?』

『いや難しッ!?』

 

 

「えっとぉ……これ、どうやって……というか何を……」

 

 

 リスナー:反応に困ってて草

 リスナー:子供でももうちょいマシなの書くぞ

 リスナー:ワイの子供にこれ見せたら泣いちゃった……

 リスナー:あかん先生が宇宙を背負ってしまった

 

 

 ここまでTHE混沌とした絵を見たのはヒカリちゃんが描いた絵が解読したらヤバい言語と合致してしまった時以来で、正直困惑している。傍目から見たらただの地獄絵図か、おおよそこの世の物体ではない物を模写したと言っても過言ではない。

 

 ……というかチートが発動して、今、頭を抱えている。どうして……皆、こうも、禁忌の文字に近づいてしまうんだ……。頭の中に入り込んでくる恐らく人間では理解できないような言語に冷や汗を流しながらも、俺はどうにかこの絵のような形容しがたい何かを文字で表すようにした。頭の中で絵が言語の文字に変換されるため、元になった絵が分かりにくいという状況で俺が出した答えは……

 

「……これ……です、かね……?」

 

【祭り】

 

 

 リスナー:えぇ……

 リスナー:狂気すぎん?

 リスナー:ここかぁ……(狂気の)祭りの場所は……

 

 

「これに関しては……理解したら駄目な類です……次、行きましょうか」

 

 初っぱなから俺のSAN値が削られた所で、次のお題が来た。

 

【赤い月とお城】

 

「これは、まぁ、割と簡単に描けますね…………………………よし、描けました。……あっ、もうちょい書き足した方が良かったかな……?」

 

 

 リスナー:あらやだ幻想的

 リスナー:お題がおしゃれやな

 リスナー:……アリュカードちゃんが嘆いていたのってこれかな?

 

 

「幸い……幸い? にも簡単な物が来て助かりますね」

 

 

 リスナー:簡……単?

 リスナー:さっきのこと記憶から消したんかいワレェ!

 リスナー:記憶から排除してて草

 

 

「なんのことでしょう(すっとぼけ)。さて次は……」

 

【どうみても吸血鬼の格好をしたマルチ】

 

「……これ、私、ですよね?」

 

 

 リスナー:眼鏡とフクロウいるからマルチ

 リスナー:判断基準がガバくない?

 リスナー:?「お前も吸血鬼にならないか?」

 リスナー:誰だろうナー、これ最初に提示したの

 

 

『えぇ……コレ、何を描けば……いいんじゃ?』

『うわははははは! わかんねー! 判ればいいや!』

『わ、わからないよぉおおおおおおおお!』

 

 

 十中八九アリュカードちゃんだろうな。なんの意図があるのかはわからないが、胸元の御守りがちょっと震え出していることから恐らくそういう誘いの類だろうなと思いつつ、ペンを走らせる。改めて書いてみたけど俺ってシンプルなデザインのようで割と面倒な部分があることに気づかされてイラストレーターさんの凄さを身に染みて理解した。

 

「服書いて……あっ、不味い! 時間が!?」

 

 残り時間がターンを経過するごとに少し短くなるため、細かな所までは書いていられず、取り敢えず俺という要素がわかるようにすることにした。

 

『ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! 間違えて全部消しちゃったぁあああああああああ!』

『うー---ん……我ながら、何が描いてあるのかわからん!』

『じ、時間が無い……!』

 

 

 リスナー:大分悲惨なことになってて草

 リスナー:何やってんだアリュカードちゃん!

 リスナー:一名嫌な予感がしますね……

 リスナー:その開き直りはヤバい

 

 

『あっ今度は全部塗りつぶしちゃったぁあああああああ! どこかで……どこかでしっかり線が繋がってない筈……アッ時間が』

 

 

 リスナー:あるある過ぎて何とも言えん

 リスナー:マジで可哀そう

 リスナー:終わったな……

 

 

 アリュカードちゃんの混沌とした状況に耳を傾けながら、俺は兎に角自分だとわかる要素だけ描いて終了ボタンを押した。ちょうどそのタイミングで終了の時間になり、アリュカードちゃんの悲鳴が響き渡る。どうやら色々と終わったらしい。

 

 

「それじゃあ結果発表ー!」

 

 レオンハートの合図とともに全員の画面に結果が順番に映し出された。ちなみに俺のお題は【狐の要素を持ったフクロウ】だ。お題には何も他意はない。……他意は、無い。

 画面が展開されると共に最初に映し出されたのは俺だ。

 

「最初はマルチ先生の……え? そのお題だったんですか!?」

「あれ……妾の所にそんなお題は流れて……アッ」

 

「あぁ、あれやっぱりマルチさんのだったのか」

「……まさか」

 

 

 リスナー:ゑ

 リスナー:ま、まさか……

 リスナー:あっ(察し)ふーん……

 

 

 リスナーさんの反応の通り、俺のお題の後に映し出されたのは――あの混沌とした絵だった。おい、マジか……。

 

「コレで分かるわけないじゃろ!? フクロウ要素も狐要素もどこ行った!?」

「え? ほら……ここの部分……羽と尻尾だろう?」

「これじゃあただのどろどろの何か!」

「うわぁ……やっぱりレオさんだったんだぁ……」

 

 

 リスナー:一つ目から可笑しくなってて草

 リスナー:これは戦犯確定

 リスナー:これマジ?

 

 

「か、影も形もない……」

「?」

 

 その後、大体のお題がレオを通すと全く異なるナニカに変貌してしまったため、お題が伝わることは無かった。この後も何回かしたが大体同じになった。

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時。

 

 人気のない道路にそれは唐突に表れた。

 

 

 バキ、バキバキバキ!

 

 空間に穴が開き、中から車のような何かが飛び出した。それと同時に中から青年の物らしき声が聞こえてくる。

 

「アイタタ……まさか本当に成功するなんて……成功率0.1%だったけど……兎に角やったぁ! 教授! 俺、やりましたぁあああああ!」

 

 乗り物の中から表れた人型は腕につけた端末に書かれた数値を見て歓喜したような声色を見せ、両手を上げて喜んだ。

 

「それで……この時代はっと…………2020年!? あれぇ!? 弥生時代に合わせてた筈なんだけどぉ!? 空白の150年を調査しようとしたのにィイイ! ま、まぁ……これも調査報告書に提出すれば良いか……よっ……と」

 

 フクロウのような意匠があるアーマーに身を包んだ人物は頭部を覆っているマスクを手で操作して外した。僅かな煙と共に取外されたそのマスクの下には、どこか源吾に面影を感じる様な顔つきと僅かに金色が混じった黒髪が露になった。

 

「そういえばこの時代のお爺ちゃんはまだ人間として元気だったっけ……せっかくだし、一目で良いから会ってみたいな……あっ、でも下手に干渉してお爺ちゃんに会ってもアレだしなぁ……それに、教授からも『科学者として言うのも何だが、君はとにかく運が悪い。もし仮にこの実験が成功しても君にとって不測の事態が起こりかねないから注意を』って言われたし……」

 

「ま、流石にこんな夜中に、家から遠い場所に若い頃のお爺ちゃんが歩いているわけないよねーw」

 

 フラグを立ててから数秒後、それはやってきた。

 

「えっ、俺? え? ちょっとイシノヴァと怪異に巻きこまれて解決した途端にこれ?」

「えっ? お爺ちゃ……あっ」

「え、今、なんて……というかまさかのドッペルゲンガー?」

「アッ、えっとねぇ……」

 

 最も危惧していたことが、今、コンビニ袋を引っ提げながら歩いてきた。ひたすらに冷や汗をかく青年と、何が何だが分からないが兎に角また面倒ごとに巻き込まれたと確信した源吾だった。

 

「取り敢えず……家、来る……?」

「……厚意に甘えさせていただきます」




主人公
コンビニ帰りにイシノヴァと遭遇→誘拐型の怪異に巻き込まれる→狐子の加護で実体化した怪異をイシノヴァが瞬殺して終了、この間五分

怪異を解決したと思ったら、自分に似た青年がいたので家に案内することに。怪異だったら狐子に瞬殺してもらうかそれ以外でも狐子及び星奈に頼む。

レオンハート
ルックス良し! 声良し! 絵のセンス…………絶望的

???
主人公の事をお爺ちゃんと呼んでいるがなんでだろうね?
そしてつけている装備がどこかで見覚えのある物だが……?

女神
私は滅びん……何度もでも蘇るさ!(残機がある限り)


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シリアスなんて無かったイイネ?

閲覧ありがとうございます!
いつも感想・評価・誤字報告ありがとうございます!

それではどうぞ!


「はい、粗茶ですが……」

「あっ、どうも……」

 

 真夜中の午前0時。とっくに星奈は眠りについている時間だがリビングに俺と狐子、そして……俺に似た青年がいた。

 

「(其方……彼奴何者ぞ……?)」

「(いや……何か、その……寝床に困っていたし……それに何か、ほっとけない感じがして……)」

「(まぁ……幸いにも敵意や悪意は感じないようじゃが……ちと危機感が欠如しておるのでは?)」

「(言い返す言葉もありません……)」

 

 お茶を飲んでいる青年を余所眼に俺と狐子が小声で青年について話していた。俺は自分の危機感の欠如の原因が少なからず狐子を含めた人外連中にあるのではないかという考えを言おうとしてグッと堪えた。そして視線を目の前の青年に向ける。すると青年はお茶を飲み終わると改めて俺達に礼を言った。

 

「この度は見ず知らずの俺を泊めてくださりありがとうございます……」

「あ、あぁ……」

「あっ、申し遅れました俺の名は…………」

「……?」

 

 名前を名乗ろうとした青年が突如固まり、額から汗を流していた。何かやましいことがあるのか?

 

「……あのー?」

「アッ、えっと、俺は……源野(げんや)、源野です……」

「あぁ……うん。そうなんだ……」

 

 苗字を名乗らない辺り何か複雑な家庭事情があるのだろう。俺は敢えてそれに触れないでやった。今更住所不定とか異世界人だとか気にしているだけ無駄だと悟ったからだ。あと何より話す言語が幸いにも日本語であったため俺のチートが発動することはないだろう。

 

 ピリリ

 

「あっ、すみません。ちょっと失礼しますね」

 

 そう言って青年は携帯を手に取って隣の部屋に移動した。襖越しにだが僅かに会話の内容が聞こえてくる。

 

「『はい……はい……すみません教授……設定を間違えたのか……この時代に……』」

 

(おっと……? 英語……それもかなりネイティブな……)

 

 青年の声で聞こえてきたのはネイティブな英語だった。見た感じ生粋の日本人という感じがしたがどうやら英語が得意らしい。俺は悪いことだとは思いつつ青年の会話内容に耳を傾けていた。

 

「『はい、それで帰還の目途ですが…………え? あと一か月!? は、はぁああああああああ!? 嘘、嘘ですよね!?』」

「『えっ? 君の家族と会っていないだろうかって? ……すみません教授、もう手遅れです…………はい、もちろん反省文を書かせていただきます……ですのでどうか、30ページ分の反省文は勘弁してください』」

 

 何か凄いことになっているなと思いつつ、コンビニ袋からスルメイカとサイダーを取り出して堪能し始める。うん、美味い。

 

(なぜ……彼奴から儂の気配が微かにする……?)

 

「どうした?」

「いや、何でもないのじゃ」

 

 なにやら悩んでいる様子の狐子に声を掛けたが、どうやら俺の杞憂だったらしい。俺は一頻りつまみを堪能した後源野君の布団を敷く準備をした。幸いにも一つ部屋が空いている為、そこで泊まってもらうことにした。

 

 

 

 翌朝

 

 

 今日も今日とて配信活動をする。今日は土曜日ということもあって平日よりも多くの人たちが見に来てくれている。

 

「はい皆さんこんにちわ。土曜日の朝から来てくださってありがとうございます。今日はたまりにたまったマシュマロや質問に返答していきますよ」

 

 ちなみに源野君は暫く居座る代わりにと家事を手伝って貰っている。心なしかこの家を見る時の目が何となく懐かしさに満ちていたことがあったが、たぶん俺の家と作りが似ているんだろうな。まぁ精々一か月だし、狐子も害はないと判断して今も星奈の朝食を作っているとのこと。

 

 

 リスナー:おっつ

 リスナー:また怪文書が生み出されそう

 リスナー:いつものこと

 

 

「さてそれでは早速マシュマロから行きましょう」

 

 

 

『先生が今まで訪れた国の中でどこが一番印象深かった?』(中国語)

 

マシュマロ

                       

 

 

 リスナー:えっ、初っ端から何語?

 リスナー:中国語ゾ

 リスナー:中国人がマシュマロ送ってて草

 リスナー:いや流石に日本人やろ

 

「今まで訪れた国の中でどこが一番印象深かった……ですか」

 

 

 リスナー:はぇ~そんなこと言ってたんですね……

 リスナー:翻訳かけたらちょっと可笑しくなっちゃった……

 リスナー:それでも比較的昔よりはマシぞ

 

 

 質問を受けた俺の脳裏には幾つかの国が上がっている。前に行ったイタリア、エジプト……卒業旅行と称して初めて行ったアメリカ、インドや中国……数えればキリがないが同時にそれらの国々で何かしらのハプニングに巻き込まれていたことを思い出すと言葉に詰まったが、

 

「(色んな意味で)印象深かったのは、イタリアですね。あっ日本語じゃなくて『印象深かったのは、イタリアですね』、と」

 

 

 リスナー:うーんこの語学力

 リスナー:この前行ってたもんね

 リスナー:俺も行きてぇな

 リスナー:けど仕事が……

 

 

「皆さんも一度海外旅行に行ってみてはどうでしょうか。さて次のマシュマロは……っと」

 

 

 

いつもお疲れ様です! 先生の嫌いな動物がカラスだと聞いたのですが本当ですか?

 

マシュマロ

                       

 

 

「あー……そうですね……」

 

 

 リスナー:カラス嫌いだったっけ……?

 リスナー:最近更新されたプロフィール欄に書いてあったぞ

 リスナー:【嫌いな動物:カラス】って

 リスナー:あぁ……あの無駄に項目が多いプロフィールか

 

 そう、最近になって長年使ってきたプロフィールを変えてもいいんじゃないかという話が事務所で持ち上がり、あれはこれやとアイデアを出した結果、項目が百以上になったのだ。もちろん全部書かされた。

 

「私がカラスが嫌いな理由は」

 

 流石にここで「前世で鳥葬されたことがあった」と言う訳にもいかない為、

 

「昔、カラスにつつかれたことがありまして」

 

 百倍に希釈した事実を伝えた。嘘は言ってない。

 

 

 リスナー:こっわ

 リスナー:カラスに襲われるって何したんや……

 

 

「何もした覚えはないんですけどね……」

 

 

 リスナー:強く生きて

 朱い月の城 ¥10,000

 いつもご苦労様です! 先生が一番好きなVtuberを教えてください! 答えないのは無しです!

 

 

「へぇっ!? えっと……そ、そうですね……」

 

 

 アリュカード:勿論妾に決まっておる!

 ヒカリ:誰を選ぶか楽しみです!

 リスナー:質問した奴の悪意が見える……

 

 

 誰だこの質問をしたのは……! おかげで部屋の向こうから謎の圧を感じるようになってしまった。

 

(ど……どうする……ここで具体的に誰かを言った所で後々狐子が怖くなるし、かといって答えなければクソボケの異名を貰いかねない……!)

 

 

 スレンダー男:何か……愉快なことになってますね

 スイスイ:うけるw

 ウタ:さっきから日本語以外の言葉も流れていますね!

 リスナー:めっちゃ来るやんけ……

 

 画面内では俺と関りのあるVtuberが次々とコメントを残していく。気分は処刑台に上がる罪人だ。なんで俺、こんな目にあっているんだろう……。

 

「一先ず愉快なことだと言ったスレンダー男さんとスイスイには後でお話があります」

 

 

 スレンダー男:ヒエッ

 スイスイ:ヒエッ

 リスナー:草

 レオ・ブロード:主が狙ってて草

 アリュカード:貴様は後で覚えておけ

 レオ・ブロード:!?

 リスナー:えぇ……

 

 

「……まぁ、あくまで同じVtuberの中で、()()()()()()V()t()u()b()e()r()()()()好きなVtuberは……」

 

 

 リスナー:めっちゃ予防線貼るやんけ

 リスナー:一番は先生の嫁さんだろjk

 リスナー:何で休日の昼間から修羅場を見せられてんだ俺達……

 レオ・ブロード:……おもしれー男だ

 リスナー:貴族か何か?

 

 

「……スイスイさんですかね」

 

 

 スイスイ:え?

 アリュカード:少し事務所の裏に行こうか

 ヒカリ:よよよ~(悲)

 スイスイ:え?(大困惑)

 リスナー:草

 

 何となくムカついたのもあるけど、話していて割と楽しかったこと、だいぶ交流があったことを踏まえて敢えてスイスイを選んだ。後で配信に凸されるだろうが、俺は何も知らないし、何も聞こえない。

 

 

 スイスイ:ちょ、そんなことしたら後々が……

 アリュカード:配信の際にうっかり乱入するかもしれないのぅ

 スイスイ:あばばばばばばばばば!!

 リスナー:怖いなーとづまりすとこ

 リスナー:うわぁ……

 

 

「さて、気を取り直して」

 

 

 リスナー:こっから取り直せるの!?

 リスナー:すげぇさわやかな笑顔で言ってそう

 リスナー:スイスイちゃん犠牲になってて草

 

 

「次は……っと」

 

 

 

あなたは神を信じますか?

 

マシュマロ

                       

 

 

 リスナー:ただの宗教勧誘じゃねぇか!

 リスナー:クソマロがよぉ……

 リスナー:怖い(直球)

 

「えぇ……ランダムに選んだ結果がこれなのは……どうしましょう…………神は貴方の心のうちにいると思います……と言っておきます」

 

 本当はいる。何なら今、それに近しい存在が俺の家にいるし、なんなら妻だし。そして神なら転生時にあったことある。ので、当たり障りのないことを言っておくことにした。

 

 

 リスナー:こっちもこっちで怖い

 リスナー:律儀に答えなくていいから……(良心)

 リスナー:新手の教祖かと思った

 リスナー:危ない気配を感じるねぇ……

 卍月ドッカン ¥10,000

 人間辞めるとしたら何になりたいですか?

 

 

「最後の最後まで人間でありたいです(願望)」

 

 

 リスナー:時々人間を辞めさせる勢がいて草

 リスナー:大体質問返答の際に一人はいるのは何なの……

 リスナー:石の仮面でも被るのかな?

 

 

 

 

「……残念だけど……人間を辞めることになるんだよねぇ……」

 

 星奈の食事と家事の手伝いを終えた源野は一人、パソコンに向かいながら源吾の配信を見ていた。

 

「まぁ、確かにひと悶着あったって言ってたけど……父さん達が頑張ったおかげで事なきを得たから良かったけどね。……それにしても星奈おばさんの食べる量、まだまだ少なかったから苦労しそうだなぁ……」

 

 自分のいた時代との違いを思わずつぶやく源野。暫くすると部屋の扉をノックする音が聞こえ、源野は作業(という名の反省文作成)を中断した。

 

「ちょっと良いかの?」

「あっ、どうぞー」

 

 部屋に入ってきたのは狐子だったが、その顔つきはどこか険しかった。その様子を受けて源野は少し萎縮した。

 

「今朝はご苦労様じゃ。若いながらも良く働いたのう」

「は、はい……祖母によく教わったもんで……」

「ほう、よほど育ちがいいらしいのう」

「い、いえそんなことは……」

 

 と他愛のない会話をしていた所でふと、狐子が唐突に源野に

 

「お主に何があったのかは敢えて探らないでやろう」

「あ、ありがとうございます……」

「じゃが……その代わりこれだけは答えてもらおうかの」

 

「お主、混ざっておるな?」

 

 ――その瞬間、源野を得体の知れない圧が襲い掛かった。

 

(やっ……ば……! 間近で受けるのはこれが初めてだけどこれは……!)

 

 

 脂汗を流しながらも源野は首を縦に振った。それを見た狐子はおもむろに手を源野に向けて翳していった。すると

 

「……儂よりは劣っているが、少なからずその体にあるそれは紛れもなく儂由来の物……」

(やっぱり無理だったんだ! 婆ちゃんに隠し事なんて……! どうする……!? ここで下手に反応をすると未来が変わりかねない……教授は『例え君が未来の孫だと言っても、未来が変わる確率はかなり低いだろう。しかし少なからず影響は出るはずだ』って言ってたけど……)

 

 有無を言わさない狐子にたじたじな様子の源野。僅かに髪の色が白くなる狐子、それに伴い少しばかり揺れ始める家。

 

 しかし、直ぐにそれは収まった。

 

「ま、一か月で迎えが来るならいいじゃろ。少し驚かせたのう」

「は、はい……」

「さて……昼飯をこしらえるとしようかの。少し待っておれ。儂の子孫よ」

「……え」

「儂を甘く見るでない。それぐらいの事、察することなんぞできる。安心せい、主には言わないでおいておこう」

 

 その後運ばれてきた昼食をぎこちない動作で食する源野の姿があったとか。




主人公
この後も日本語以外の言語の質問が来たし、危うく修羅場になりかねない質問が来て精神的に死にかけた。許さんぞスイスイ

狐子
何となく自身との繋がりを感じていた

源野
どうにかなれーっ!の精神で一か月を過ごすことに
後でさらに反省文を追加された模様


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たまにあるほのぼの回

閲覧ありがとうございます!
大分忙しくなって投稿が遅れてしまいましたが、何時も感想と評価ありがとうございます!

それではどうぞ!

追記
矛盾が生じている部分がありました……ご指摘感謝します! 修正いたしました……申し訳ございませんでした。


「へー、源野君は海外の大学に通っているんだ」

「はい、家族の後押しもあって……」

 

 配信活動が休みの日曜日、俺は源野君のお使いに休みも兼ねて同行することにした。

 

 家に源野君が来た当初は狐子が露骨に警戒した素振りを見せていたが、ここ数日からまるで手間のかかる子供の面倒を見る様な感じになっているのが何となくわかる。普通ならここで浮気か何かを疑うかもしれないが、どうにも俺にとっても他人のような感じがせず、割と受け入れている。知らない人に警戒心を露にしやすい星奈も警戒心を解いていることからもまぁ、悪い人間ではないだろう。

 

 そして今は、少し遠くの場所へ買い物に向かう途中だ。いつもの商店街ではなく電車に乗って三駅くらいの距離にある大型のショッピングモールが目当て。

 

「あっ、そういえば英語とか話すのに苦労はしなかった?」

 

 そう尋ねると

 

「……えっと……特に、苦労はしませんでした……ハイ」

 

 どこか歯切れの悪そうな感じであった。苦労はしなかったと言っても裏では相当苦労したんだろうなと思った。

 

(言えない……生まれてから一度も言語で困ったことはないなんて……この能力を持っているのは爺ちゃんと父さん、そして俺だけだから……ましてやこの時代の爺ちゃんに知られるのは不味い……)

 

「聞いちゃいけない質問だったかな……?」

「あっ、いいえ! 大丈夫です!」

 

 そうして他愛ない会話をしながら歩いていると道端にある家から二匹の犬の声が聞こえてきた。

 

「ワンワン『おい、聞いたか? ご主人が乗ろうとした電車で人身事故だってよ……』」

「ワン『マジで?』」

「ワンワン『せっかくの休日で何時も行っている○○○ショッピングモール? だっけ? そこに行けなくなったって嘆いていたって娘さんが呟いていたからな』」

「ワフゥ……『えぇ……ご主人はいつもそこで俺達のおやつ買ってきてくれるんだろ? それがなくなるのかよ……辛ぇわ……』」

「ワン『言えたじゃねぇか……』」

 

 あれ? そこ俺たちが行こうとしていたショッピングモールの名前だな、と思いつつAiに調べさせようとすると

 

「あ~……電車が暫く停止するみたいですね……別のショッピングモールに行きませんか?」

 

 俺がスマホを持って調べようとした瞬間には既に調べ終わっていたらしい。

 が、そもそも俺が調べようと思ったのも犬たちの会話を聞いてのことだったので明らかにおかしくないか? と思ったので

 

「あれ……何で今電車が人身事故を起こしたことを知って調べたんだい……?」

 

 すると源野君の顔色が一瞬悪くなったかと思うと

 

「もしかして……」

「あ、あぁ! 実はですね、その、えっと……そう! ほら! さっき通りすがった人たちが話していたんですよ!」

「あれ……さっき誰かと通りすがったっけ……?」

「通りすがりましたよー! アハハハハ……」

 

 やたら顔色が悪く、どこか焦っているようにも見えたが、俺が源野君との会話で見過ごしていただけかもしれないな、と思い特に気にしないことにした。

 

(あぶ……危っねぇええええええええ! 危うく犬達の会話を聞き取れると知られる所だったぁあああああ!)

 

 突然頭を抱えて項垂れた様子の源野君だったが「……ちょっと忘れたい過去があったので」という言葉にあぁ、黒歴史か、と納得した俺はそれ以上聞かないことにした。他人の傷口を抉る真似は俺には出来ないからね。

 

 

□■□■

 

 

(あぶ……危っねぇええええええええ! マジで爺ちゃんで良かったぁああああ! 婆ちゃんとかだったら間違いなくボロが出てバレる所だった……!)

 

 横で呑気に歩いている源吾を見ながら冷や汗交じりに源野はそう思った。顔は平静を装っているが内心はどちらも動揺しまくっているのである。明らかに不審過ぎる行動に流石に終わったか、と肝を冷やしに冷やしまくった源野だった。

 

(ま、まぁ……爺ちゃんのそういう所も良い所って婆ちゃんや星奈おばさんが言ってたけどさぁ……)

 

(……何ていえば……そう、良く言えば許容範囲が広くて、悪く言えば人間としての何かが欠如している、が爺ちゃんだからなぁ……)

 

 己に降りかかる事象を「まぁそういうのもあるか」と許容し、夢物語であった筈の人外という未知の存在に対しても「言葉通じるから大丈夫だろう」と平然とした様子で語っていたことを思い出しながら源野と源吾は予定を変更してバスでショッピングモールを目指していた。

 

(というか――)

 

 源野はちらっと源吾を見た。視線に気づいた源吾は

 

「どうしたんだい?」

「あぁ、いえ……何となく身内に似ていたもんでつい……」

「ははは、ぜひともあってお話してみたいね」

「ソウデスネ……」

 

()()が無い爺ちゃん見るのも久しぶりっちゃあ久しぶりなのか……元は黒髪だったことにも驚いたな、そういえば)

 

 未来という物を想像すら出来てないであろう己の祖父の姿に何とも言えない何かを覚えつつも同時にまだ残っているレポートの束があることを思い出し少しナーバスになった源野だった。

 

(それにしても……本当にこの能力が無ければ教授たちとも巡り合えなかったし、ほんと様様と言った感じだけど、どうやって俺にこの能力が発現したんだろ……?)

 

(うーん……まっ、いっか。別にこの能力があって俺が困ることは特になかったし。大丈夫!)

 

 ――血は水よりも濃い、とはよく言ったものである。

 

 

 

 

「大丈夫だと……思いたかったのに……!」

「あー……完全に迷い込んだね……」

 

 そう呟く俺と源野君。俺達の後ろを()()()バスが通り過ぎる。そう、無人である。運転席には制服が乱雑に散乱しているだけで完全に俺達以外はいなかった。

 

 俺たちは予定通り買い物を済ませ、遅めの昼食を取りいざ帰ろうとした時に乗ったバスが何故か、目的地から外れてしまい結果、この有様になったというわけだ。傍で源野君が項垂れているが本当に申し訳ないの気持ちで一杯だった。

 

(忘れてた……爺ちゃんも父さんも怪異に遭遇しやすいんだった……! というか俺も怪異に狙われているとは未来の婆ちゃんもこの時代の婆ちゃんからも散々言われてたじゃないか……!)

 

 マジでごめん。そうとしか言えない程に項垂れている源野君を見て取り敢えず辺りを見渡す。

 辺りを見渡すと、空は完全に深夜のように真っ暗で星の光すらなく心なしか赤みがかっていた。さらに言えばバス停に書かれている筈の停留所の名前の所に文字化けした文字だけが書かれている始末。

 

 はい、完全に怪異に巻き込まれました。またかよ(白目)

 

 ん、で停留所に書かれている文字にチートが発動したので読み上げる。

 

「……『ゆるさない』って書かれてるね……」

「orz」

 

 明らかにやべー所に迷い込んだと確信する俺。かなり前に「きさらぎ駅」に迷い込んだことを思い出しつつ、念のためにスマホを開く。

 

【圏外】

 

 うん、圏外。知ってた。

 

(まぁ、今すぐ戻れる可能性があるけど……)

 

 俺の上着のポケットには■■■■ちゃんを呼び出すための鐘があるし、何なら狐子がそろそろ俺が消えたことを察知してきてくれるかもしれない。だが、

 

(……どうやって源野君に説明しようかな……)

 

 このTHE異世界に巻き込まれて自分たち以外誰もいない筈なのに、そこに表れる■■■■ちゃん、もしくは狐子を見てどういう反応をするんだろうか。いや、普通に考えて良くて発狂、悪くてショック死の可能性もある……?

 

「どうしようか……ん?」

「ヒエッ、空がますます赤くなってきた……」

「あー……やっべ……久しぶりにヤバいのと遭遇したかも……」

 

 空を見上げると、明らかに先程よりも赤に染まった空が見えていた。そしてふと停留所の標識を見る。そこには『ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ……』と書かれていた。うーん、殺意が高い。

 

(うっわ……というか時刻表の所も……)

 

 よくよく見れば時刻表のところも数字の代わりに『死』とか『呪』とか『444444444444』という文字が羅列されており、隣で見ていた源野君も文字の意味は解読できないが事の異常さに気づいたようだ。

 

(ヒエッ、『死』とか『呪』とか書かれてるぅううううううう!? 早くぅううううう婆ちゃん来てくれぇええええ! でも言えねぇええええええ!)

 

 この状況に混乱しているようで顔色が次々と変わっていく。流石に限界か、と思い懐から鐘を取り出そうとすると

 

 

「……ォオオオオオオ」

「ん?」

「ヒョオッ……」

 

 呻き声がした方を振り向くとそこには、白い服を着た巨大な女性のような化け物が俺達の間近まで接近していた。源野君の喉から枯れそうな声がすると共にそいつは俺達の顔を覗き込んだ。

 

「ォオオオオオオオオオォオオオ!」

 

 明らかに人間の背丈でないそいつは、俺達を手の中に納めようと両手を大きく広げる。

 

 ――が

 

 

「……ん? あっ(確信)」

 

 ――だがその瞬間、俺はチートが発動したのだ。そして俺はためらいなく

 

「『取り敢えず話し相手になろうか?』」

 

「『……えっ』」

「ファッ!?」

 

 

 

「本当にッ!! 私と子供を捨てて別の女の下に逃げやがったあの根性無しの糞ったれ脳みそ下半身接続ゴミカス野郎は!! 何べん殺してもの飽き足らない! かといって殺そうにも足が付くのを怖がってんのかわかんねぇけど全然ここら一帯に来ないしさ!!!!」

「復讐したい気持ちはわかるけどね……それで俺達を巻き込むのはどうなのよ」

「それについては本当にごめんなさい……! これまでも何度か巻き込んじゃったけど皆あの男じゃなかったから記憶を消して帰してあげたから……」

「……(俺は、何を見ている……? あの明らかにヤバい怪異を前にして、爺ちゃんが相談に乗っているだなんて……)」

 

 結論から言えば、会話が成立して現在この人の愚痴を聞いていた。俺の傍には死んだ目をしながらジンジャーエールを飲んでいる源野君がいた。

 

 どうやらある男性に母子ともども捨てられたこの人? はずっと復讐相手を殺すために地縛霊になっていたらしく気が付いたら怪異になっていたと。で、俺たちが攫われたのは恨みの力が強すぎることによって力の制御が出来ずにたまに俺達のように迷い込む人が出てしまうらしい。そのことに関しては深く謝っていた。

 

 彼女曰く、幸いにも子供は通りすがった老夫婦に拾われて今も元気に暮らしているとか。

 

 そうして一頻り話を聞き終えた所でふと思いついたことがあったので、提案することにした。

 

「んー……もし、地縛霊から解放される手段があるとしたら、どうします?」

「えっ……? 本当に……?」

(おつまみの……味がしない……何で爺ちゃんは平気なんだよ……!?)

 

 そう言って俺は懐から■■■■ちゃんに繋がる鐘を取り出しながら説明を続ける。源野君にはこれから起こることは内緒であることを言ったら、無言で首を縦に振ってくれた。

 

「だけど……復讐は出来なくなるかもしれませんが……」

「……」

 

 ■■■■ちゃんを呼んだところで出来るのは死者の成仏。そうなると復讐は出来なくなってしまう、と付け加えると暫く悩んだ様子の彼女だったが、

 

「……いいわ」

 

 どこか諦めたような口調で言葉を紡ぐ。

 

「なんか……ここで貴方と会話して全部吐き出したら……娘の顔が浮かんできちゃってね。ここで当てもない復讐を待つよりもあの子の幸せを願って見守ることにしたわ」

「それで、いいんですね?」

「えぇ、なんかすっきりしたしね。はぁ……でも、欲を言うなら彼奴には痛い目に遭って欲しかったわ……」

「ちなみにその人の名前は何ていうんです?」

「――佐藤誠よ あの糞野郎、私と娘を捨てて他に十数人の愛人を囲っていたのよ!? しかもその中には彼奴の近親者までいたのよ!? 信じられるかしら!?」

「えぇ……(困惑)」

(うわぁ……)

 

 恨みが籠った声色とその内容に思わずドン引きした。

 

「まっ、いいわ。さっさとあの世に行って娘の幸運を祈りながら、あの男が誰かに制裁されることを待つとするわ」

「なんか……随分と思い切りが良いですね……では……」

 

 そう言って俺は鐘を鳴らし、自宅に帰ることが出来た。

 

 

 後日、俺と源野君が夕食後のデザートを取りながらテレビを見ていると

 

『昨日午前十二時ごろ、佐藤誠氏が一人の女性により包丁などの刃物によってバラバラ死体にされていたことが明らかになりました。28か所の刺し傷だそうで……』

「「あっ(察し)」」

 

 この時、脳内にあの女性が清々しい笑顔を浮かべながら中指を立てている姿が過った。




主人公
怪異に慣れ過ぎてハイハイ何時ものね、の精神が染みついた。

源野
主人公が怪異と話している間ずっと生きた心地がしなかった(正常な反応)

怪異
今頃あの世で中指立てながらヒャッハー!している

佐藤誠
元ネタは無論、アレ


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無自覚に理解らせたand理解させられている系主人公

閲覧ありがとうございます!
リアルが死ぬほど忙しくなりましたが、何とか一週間投稿を維持するようにしていきたいと思います。途中で止まったりしたらごめんなさい。

それではどうぞ!

追記
誤字報告感謝いたします。感想欄でもご指摘くださった部分を色々と修正しました。


「うーん……やっぱ、何か変だよなぁ……」

 

 朝、鏡を前にして俺は唸っていた。というのも最近になって鏡に映る自分の変化が顕著になりつつあるからだ。

 

「前よりも白髪が増えたか?」

 

 鏡に映る俺の髪の色は真っ黒な髪色から僅かに白くなっていたのだ。まさか禿げてるのではないかと恐怖していたが、毛の量には変化はないしむしろ、最近美容院に通う頻度が増えたと実感するくらいには伸びている自覚がある。試しにクリニックに通ってみても「髪質自体は健康のそれであり、脱色についてはストレスとしか言いようがない」と言われてしまったのだ。

 

「んー……まぁ、考えてもしょうがねぇ、白髪染め使うか」

 

 そう言って俺は白くなりつつある髪を白髪染めで染めていく。その作業の際中にふと手を止める。

 

「なんかこの色狐子に似てるな……。この白い感じ……うん、そうだよなぁ……」

 

 狐子の本来の姿というか本気の時の体毛の色に似てる気がした。そして毛根が衰退してるわけじゃないよな……と鏡にぐいっと顔を近づいていると更に気付くことがあった。

 

「……? 俺の目……というか瞳孔も、こんなんだったか? ほんのり赤みがかってる……?」

 

 明るめの照明の所為か或いは目の錯覚かもしれないが(できればそうであって欲しい)、これまでの瞳孔の色よりほんのり赤みがかっていることが不思議で仕方ない。

 

 もしかしてパソコン作業orゲーム配信疲れでの充血か、あるいは……と考えた所でキリがないと判断したため、一先ず暫くはゆっくりと休養を取ることに決めた。

 

「というか、見れば見るほど……これ、本当に俺か? まるで学生の頃に戻ったみたいだな……」

 

 髪の色にしろ、瞳孔の色にしろ、何と言うか体格が学生の時よりもしっかりし始めて、身体が引き締まり、所謂細マッチョになりつつあるのを感じる。特に運動という運動はしてない筈だけど、なぜか狐子と結婚してからこうした些細な変化について気づかされることがある。

 

 最初は今回のように髪の毛の色が薄くなっていたり、これまでストレスで感じていた胃の痛みが治まるのが早くなったり、星奈と公園に行った際にちょっとやってみた鉄棒で体操部顔負けの身体能力を発揮できてしまったことが挙げられる。中でも特に感じるのは――恐怖に対する耐性が以前にも増してついたことだろう。あと食欲が増えた。

 

 以前は怖いと感じていた心霊特集や怪異に対してもちょっとビビる程度で済んでいることに自分でも驚いた。この前の源野君と遭遇したあの怪異だって源野君が恐怖している最中、俺はというと――ほとんど恐怖しなかった。というより「会話通じるかな」とか「■■■■ちゃんを呼べるかな」と冷静に考えられるようになったと考えると麻痺していると表現した方が正確な気がする。これは流石に反省しなければ……

 

 そうしたこともあって、何となく自分が自分で無くなるような感覚が芽生えそうだが、中身が変わらない限り俺であり続けられる――と考えているから特に気にしないことにした。それにこれが狐子の仕業だとしても、俺を殺すようなことはしない筈だから猶更だ。

 

「さて、飯食うか」

 

 相も変わらず食卓に積み上げられる料理の山とそれを運ぶのに苦労している源野君の悲鳴を聞きながら俺はさっさと洗面所を後にする。

 

 

 

 

□■□■

 

 

 

 

「おはよう! 先生!」

「はいおはようございます。スイスイさん」

 

 いつもの事務所の会議室に俺とスイスイはいた。といってもまだ企画会議の時間まで少し余裕がある。会議室の中には予め配布される資料が並べられており、数名の人物が談笑していたり、作業をしている光景が見られる。

 

 今日行う企画会議の内容は、ずばり【Vtuber対抗 学力王決定戦】である。

 

「でも今回の企画って、先生出禁になっているんですよね?」

「えぇ、今回は主催者側なので正確には出禁とは言えないんですがね……」

 

 そう、俺は解答側でなく主催者側兼コメンテーター側なのだ。まぁ、要するに事実上の出禁である。

 

 というのもこの企画をするに当たって社長sと色々と相談した結果

 

『……あれ? これ源吾君……解答させちゃっていいのかな……?』

『今回の企画で出す予定の問題って……計算とか英語とか……あと、ちょっとした難問もありますけど……』

『構成的に一人が延々と答えるのは流石にNGですよね……他の子たちの活躍を楽しみにしている視聴者さんもいますし……』

 

『『『……主催者側に回しますか』』』

 

 ということで予め決められたのだ。正直俺もヌルゲーになりかねないのとワンサイドゲームはつまんなくなりそうだからという思いもあったので妥当な判断だと思った。

 

「あっ、そういえば知ってますか先生?」

「何をです?」

「ほら、今回の企画に出演予定のVtuberの中に、最近噂の」

 

「失礼しま~す」

 

 スイスイの話を遮るようにして会議室に入ってきたのは清楚という言葉が似合う長髪の少女だった。顔つきも非常に整っており、非常に男受けしそうな感じだろう。現にスタッフさんの中でも彼女に見惚れているのもちらほら見受けられた。

 

 そんな彼女はスタッフさん達に礼儀正しく挨拶をした後、俺達のいる所まで近づいてきた。

 

「こちらの姿では初めまして。私、浮世(うきよ)アオリこと富取 葵(とみとり あおい)と申します~この度の企画はよろしくお願いします」

「あぁーっ! 君があのアオリちゃん!? 先生! この子がボクが言おうとしていた子だよ!」

 

 そういってスイスイは葵さんの説明をし始める。

 どうやら最近になって台頭し始めた所謂清楚系Vtuberなのだが、その深い教養となにより歌、ゲームの腕前、編集技術といったあらゆる分野に精通していることからリスナーの間では「マルチ先生の生徒」と言われていたり、「女版マルチ先生」とも言われているらしい。確かに俺も話には聞いていたが、スイスイの話が本当なら俺は普通にこの子を尊敬する。

 

 自分は二度の人生で培った技術とチートのお蔭で今の地位にいるのに対して、目の前の少女はまだ成人を迎えてないのにも関わらず、今の自分とタメを張れるくらいにまでスキルを高めているのだ。はっきり言って超人の類だろう。この少女は一体どれだけの経験を積んだのか、個人的に話をしてみたいと思った。

 

「浮世アオリさん……ですか。こちらこそよろしくお願いします。私、マルチこと伴野源吾と申します」

「お会いできて光栄です~。……あの~せっかくですのでその……」

 

 そういって葵さんは俺に向けて右手を差し出す。

 

「握手、していただけませんか? 私、ファンなんです」

 

 どうやら握手を望んでいるらしい。俺はそんな彼女の要望に応えるべくこちらも手を差し出し、握手をした。

 

「ふふふ……これで…………ッ!?」

 

 握手をする寸前に浮かべていた笑みから一転、突然仰天したような表情を繰り出した葵さん。俺は心配で声を掛ける。

 

「大丈夫ですか!?」

「い、いえ……まさか本物に会えて、握手までしていただけるなんて……私、所謂古参でして……」

「そこまで仰天する人初めて見たかも!」

 

 スイスイが驚き混じりに葵さんのことをそう評する。俺も正直言ってこの反応は稀だったので思わずたじろぐ。

 そして暫く硬直した様子の葵さんだったが、再び

 

「あの……もう一度だけ、握手していただけませんか……?」

「えぇ、どうぞ……」

 

 何となく焦り気味な様子を見せる葵さんだが、まぁ古参のファンならそうなるかなと思い、再び握手をした。

 

「ありがとうございました……あっ、すみません。ちょっとスタッフさんからの電話があるみたいなので少し失礼しますね……」

 

 そういって駆け足気味に会議室を後にする葵さんだった。何となくエネルギッシュというか、見た目にそぐわないほど感情の起伏が激しいんだなぁと一人考えていると

 

(あれ? 最初の握手の後、何となく……何かが軽くなったような気がしたが……気のせいだったか?)

 

 曖昧な感じだが、自分の身体から何かが抜けるような感覚がしたことを思い返すが、ほんのわずかな出来事だった為、日々の疲れの所為だろうと思いなおし、再びスイスイとの談笑を続けることにした。

 

(個人的に……話を伺ってみたいな。アッ、違う。決して不倫な訳じゃなくて!)

 

 胸元で嫉妬の炎のごとき熱を帯びてきた御守りを宥めながら俺は続々と訪れる関係者たちに挨拶を交わしていった。

 

 

□■□■

 

 

「おぇええええええ!!」

 

 女子トイレの便器の中に向かってひたすら胃の中の内容物をぶちまける浮世アオリこと富取葵は先程の光景が頭の中を激しく回っていた。

 

「はぁ……っ! はぁ……っ! なんなの……!? 今まで奪ってきた能力でも、あんなことは一度も無かったのに……!」

 

 葵は生まれながらにしてとある超能力を持っていた。それは、『手を握った相手が一番優れている能力を奪う』という物である。

 まるで漫画の世界の能力だが、彼女がそれを自覚して以来、次々と能力を奪い、自分が全能であると思いあがっていたのだ。

 

 このことを彼女の両親は知らないが、彼女自身は「神様が私だけにくれた特別な力」として認識している。

 

 そのため、その性格は決して外に出したことはないが少なからず屑の一言に尽きる。しかしそうした環境で育った影響からか能力を奪うことに対して彼女は罪悪感といったものは一切湧かなかった。

 

 そんな彼女がこの業界に足を踏み入れたのも、単に自分が注目されたいという自己顕示欲に従っただけのことである。

 今回も現代にいるVtuberの中で屈指の知名度を誇るマルチ先生こと源吾と握手をして、その立派な言語力を奪って自分の物にし、失墜させてあわよくば自分がその地位に成り代わろうとした彼女の試みは最初こそ上手くいった。

 

 ――最初だけは

 

『なに……こ……れ……』

 

 いざ握手をして能力を奪い、身体中を駆け巡るであろう全能感に酔いしれようとした彼女を待っていたのは、異常ともいえる情報量の暴力だった。

 

『なにこれなにこれなにこれなにこれなにこれ!?』

 

 能力を手にした瞬間に脳の許容量をオーバーするほどの情報が一気に押し寄せたことで彼女は耐え切れず、すぐさま二度目の握手を提案し能力を返上したのだった。しかし未だ身体中を駆け巡る不快な感覚が吐き気となって彼女を蝕んでいたのだった。

 

 これまでの人生で様々な人間から能力を奪い、全能に近づいていると感じていた彼女は理解させられた。

 

 

 ――この世には自分の想像を遥かに上回る正真正銘の化け物だって存在することを

 

 

「あんなの……! ただの人の形をした化け物じゃない……ッ!」

 

 人畜無害で温和そうな雰囲気を出していた源吾、しかし今の彼女には得体の知れない化け物にしか見えなかった。あの柔和な笑みの中で飼っていたのは、今まで体験してきたあらゆる恐怖を凌駕するほどの悍ましい化け物だった。少なくとも常人があんな能力を持っていてまともに生活することは疎か、自我を保っていられる訳がない。そう断言できるくらいには彼女は恐れていた。

 

 あまりにも異常な存在。あの情報量を毎日いや、毎秒処理出来て何ともないのが恐怖でしかなかった。更に言えば

 

「なんだったのかしら……手を握った瞬間に見えたあの褐色の女性は……それに、狐も見えたような……うっ」

 

 ほんのわずかな間に垣間見えた薄ら笑いを浮かべる褐色肌の女性らしき存在(口元が三日月のようになっていた)とこちらを睨みつける狐のようなナニカに疑問が湧き出るが、更なる吐き気でそれのことを考える余裕さえも無くなっていた。彼女の脳は無意識ながらそれらの存在について思索を巡らすことを拒否していたのだった。

 

「……あの人から能力を奪うのはやめね……今回の企画を頑張って、それで関係は終わり……! もうコラボは絶対にしない……関わりたくない……!」

 

 無駄に高いプライドと自己顕示欲も相まってこの業界から立ち去るという考えを持たない彼女だったが、運命が彼女を遊び道具に選んだことは誰も知る由も無かった。

 

 具体的には、初めての顔合わせの際に取った行動とその行動を目の当たりにした周りと当事者から良い反応を得てしまったことによる物――つまりは(葵にとっては望んでない)コラボ企画の増加である。




主人公
肉体年齢が若返りつつある。
自分が人生を二周して漸く手に入れたスキルを一度の人生、それも自分より遥かに年下な少女がスキルを持っていることに素直に驚いた。
一番異常なのはコイツであることは間違いない。あとチートは帰ってきた。

狐子
いいぞぉ……その調子だぁ……どんどん(人外に)近づけ……は? なんだあの女

源野
祖父を見つめる祖母の目が完全に獲物を狙う獣のそれになっているのを見て人外になるまでの過程を知ってしまった。ちなみにレポートは徹夜して全て終わらせて現代を満喫している。

富取葵
外面:滅茶苦茶清楚な美少女 内面:屑中の屑 な人物
なお能力に関してはどこかの女神が暇つぶしにばらまいた特典をたまたま彼女が手に入れただけ
この度源吾の能力を奪おうとしたが、情報量の多さに脳が受け付けず、理解させられた。そして源吾に恐怖するようになったが、あちらからコラボとか持ち込ませられるため、死ぬほど後悔している。


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STEP1 力の差を心身ともに叩きつけて理解せましょう

閲覧ありがとうございます!

忙しすぎて禿げそう→だけど1週間の期間を守らなきゃ(使命感)→今作品

それではどうぞ


 最初の打ち合わせから三日が経過した。この間もちょくちょく打ち合わせを行ったり、雑談企画とかTRPGをしてた(何時も通り酷い出目しか出なかったが)。

 

 そんな今日、俺はというと

 

「何だかんだで久しぶりじゃの~こうして二人で出かけるのも」

 

 久しぶりに狐子と二人で外出をしているのだ。星奈は修学旅行で暫く帰ってこないが、源野君に家で留守番をしてもらっている。万が一ということもあるが、AIによる監視と狐子の施した呪術で防犯面は大丈夫とのことで久しぶりに夫婦水入らずの遠出をすることになった。

 

 本来ならもうちょい警戒すべき筈の立場の源野君だが、狐子も大丈夫と言ってるし、俺自身も源野君なら大丈夫だろうという信頼の下、任されてもらった。家を出る際に何やら憐れむような視線をしていたが多分気のせいだと思う。

 

「それにしても……本当に良かった? 水族館で」

「其方が連れてってくれるのなら、何処でも良いぞ!」

「そう言ってくれると、助かるね」

 

 今日は、ちょっと前にオープンした水族館に行く予定だ。駅二つ分の距離でそこそこ近いこともあって、尚且つ俺の休みが取れた日なので、行くのには打ってつけの場所だと思ったからだ。

 

 隣では狐子が俺の腕に抱き着きながら目を細め、嬉しそうな笑みを浮かべている。とても嬉しそうで何よりだ。そういえば水族館の後に行きたいところがあるって言ってたけど、聞きそびれたことに気づく。

 

「そういえば……水族館の後に行きたいところがあるって言ってたけど……何処に行く予定なの?」

 

 そう言うと、狐子はにったりとした、どこか魅惑的な笑みを浮かべ

 

「――二人きりになれたからのぅ……どんな所であろうなぁ」ニチャア

 

 うっすらと開かれた目からは捕食者のそれに似た何かを感じ取った。どうやら俺は狐子の欲求不満に文字通り死ぬほど付き合わされるようだ。

 

 

 俺は――果たして生きて帰れるだろうか。

 

 そんな一抹の望みに掛けて俺達は電車に乗り、水族館に向かった。

 

 

□■□■

 

 

(――今、この瞬間だけ、俺はこのチートを恨む)

 

「ククァ『はぁ~……あの飼育員さん、結婚詐欺に引っかかったのか元気がなくて辛いな~……』」

「クククッ『僕たちに向けているあの笑顔の裏では、死ぬほど悲しんでいるんだろうね……』」

「ククッ『ていうか、結婚詐欺なんてする人間って愚かだよね』」

「クァ『 魚 美 味 し い 』」

 

(忘れてた……俺にはチートがあるんだった……)

 

 俺の目の前には、水族館で飼育されているペンギンの群れがいるのだが、そもそも俺には動物の言葉すらわかるチートがあることを頭に入れてなかったせいで、次から次へと碌でもない話が聞こえてくる。はっきりいって地獄でしかない。誰が好き好んで人のプライベートを聞きたいと思うのだろうか。しかもかなり生々しいものを

 

 しかもこのペンギンたちだけでなく、水槽で泳ぐあらゆる生物というか水族館にいる生き物の声が四方八方から聞こえてくるのだ。動物園にもチートを持ってからいったことは無いが、恐らく同じ結果になるだろう。俺はもう二度と純粋に動物園や水族館を楽しめなくなったかもしれない。

 誰が行きたがるんだろう。職員さんの裏事情が毎秒聴こえる場所なんて。いずれ出来る俺の子供には、申し訳ないが俺が自発的に連れていく事は恐らくないだろう。すまんな、まだ名も無き未来の子孫。

 

(やべぇ……すごいうるさい……耳鳴りみたいで正直吐き気が……)

 

「『もっと沢山ご飯食べたい……』」

「『仕方ない、人間が僕たちの健康を考えてくれるんだ』」

「『でもその肝心の人間が、自分の健康を気に掛けられない程に消耗しているのは何で?』」

「『なんでだろうね?』」

「『 餌 美 味 ぇ 』」

 

 これはとある魚達の会話で、何も知らずに外面だけ見れば、ただ口をパクパクさせているだけある。しかしちゃんと喋っているんだなとは少し驚いた。

 

 見る分には申し分ない。雰囲気はむしろデートスポットに最適かもしれないだろう。周りを見渡せば自分以外にもパートナーを連れてきている人達が沢山いる。

 

 だけど、耳から入ってくる魚たちからの情報が職員さんのえぐい内容のプライベートだったり、この水族館の裏事情だったりと雰囲気が台無しになる感じがしてたまらないのだ。……いや、ほんとに。

 もう既にこの水族館のスタッフ専用ルームのパスワードとか、目の前の水槽で魚に餌をあげている職員さんのどうでもいい情報から、知りたくなかった超個人的な情報が駄々洩れな状態だ。もうこの先動物園とか行かないことを決心した瞬間だった。このチート、ONOFFが出来ないのが致命的な弱点ではないだろうか。

 

 それから場所を移動してイルカのいる場所まで移動した。

 

 が、案の定

 

「『そういえば知ってる?』」

「『なになに?』」

 

(イルカ……)

 

 イルカが互いにコミュニケーションをとっている場面に偶然遭遇した。周りから見れば二体のイルカが互いに顔を見合った状態でいるから「可愛い」という感想が出ている。

 

「『ここの水族館、変な奴がいるんだって!』」

「『どんなのどんなの?』」

「『う~んとね……何か全身黒ずくめでね~』」

 

(……ただの職員?)

 

「『普段は物陰に潜んでいるんだけど~時々現れては人間さんから何かを吸っているんだって!』」

 

 

(……どこぞの魔法学園で、似たような奴がいたような……)

 

 

 よりにもよってとんでもない爆弾を投下したイルカ。その内容を更に聞いてみると、

 

「『え~? それって、同じ人間さん?』」

「『ううん。違う! だって何もない暗い所からパッと現れてくるんだよ! それに、人間さんを見てはにたって気持ち悪く笑うんだ!』」

「『何を吸っているの?』」

「『うーん……わからないけど……吸われた人間さん、職員さんも含めて、何か運が悪くなったって言ってた!』」

 

(怪異かぁ……)

 

 碌でもない場所につくづく縁があることを実感しながら、俺達はさっさと進んでイルカショーの席についた。これから始まろうとしているショーを楽しみにしているのか、多くの観客が席についていた。

 

「海の生き物は神々を通してどんなものか知ってたが、やはり直接見るのは違うのう。普段儂らが食しているのもこうやって動いているのか、ということを知れたしのう」

「なるほど?」

「まぁただ――変なモノがこの水族館にいるのう。それが無ければ儂の気分は絶好調、即座に其方に襲い掛かっていた所じゃ」

「ヒエッ」

 

 助けられたと言っても良いのか、いや間違いなく被害者は出始めているから、そいつにはさっさと成仏してもらいたい物だ。

 

「元の立地がどうとかじゃなくて、単純に流れ着いただけじゃろうな。このままほっとけばいずれ悪い影響をもたらすばかりじゃろうな」

(あぁ……運が悪かったってそういうことか)

 

 先程のイルカの会話を思い返しながら、俺は少しトイレに行きたくなった。

 

「ごめん、ちょっとトイレに……」

「儂一人で待ちたくないから、ついでに行くとしようかの。それにこの話をした直後、其方の悪運なら恐らく怪異と遭遇するのは目に見えておるからのう」

「悪い意味で信頼されてる……」

「儂と一緒に居て、それでも中和されないその悪運じゃからのう」

「泣きそう」

 

 遠回しに悪運を解除できない、と告げられて少し泣きそうになった。頼むからこの悪運が後々生まれてくる子孫に引き継がれませんように……。

 

 

 

 

「へっくし! お爺ちゃんが噂でもしてるのかな……? うーん、それにしても、試しに研究している【悪運と遺伝】についてのレポート……進まないなぁ……やっぱり無理だったか。ご飯食べよっと」

 

 

□■□■

 

 

「あ、あれ!? 源吾さん!? どうしてここに!?」

 

 トイレに向かおうとした時に声がかかったので振り向くと、そこには葵さんがいた。どうやら彼女もここに来ていたようだ。俺はすぐマルチ先生としての皮を被る。

 

「おや、偶然ですね葵さん。葵さんはどうしてここに?」

「ちょっとした遠出のついでにと……あっそちらの方が、源吾さんの奥さんですか?」

「……ほう」

 

 少し訝し気な様子で葵さんを見つめる狐子。少し嫉妬深い面があるから、俺と会話をしている時点で嫉妬に焼かれているんだろう。その証拠に今も俺の胸ポケットの御守りが熱を帯び始めてきた。

 

「……失礼したのう。わs……私が彼の妻です」

 

 僅かに「妻」という単語を強調した狐子。大人げないなぁ、と思いつつ葵さんに視線を移すと、少し青ざめていた。

 

「初めまして、源吾さんと同じ事務所に努めております富取葵と申します……」

「……伴野狐子です」

 

 少し震えはじめたので流石においたが過ぎるということで狐子を諫める。

 

「……流石に圧を掛け過ぎたか」ボソッ

 

 狐子の圧によって葵さんだけでなく、周りの魚たちにも少なからず影響が出たのか、せわしなく動いていたり、いつも通り餌を食べていたりしていた。俺はというと胸の御守りの熱が収まりつつあるのを実感しつつもそろそろトイレに行かないとイルカショーに間に合わないことを思い出し、狐子にそれを告げる。

 

「じゃあ、私達はこれで……」

「ッ!?」

 

 何やら仰天した様子の葵さん。何かがあったのかと思い声を掛ける。

 

「どうしたのですか?」

「……いえ、少しその…………水槽の中の魚たちに感動を覚えていただけです……」

 

 感受性が高い子なんだな、と思いつつさっさとトイレに駆け込む。地味に膀胱が危機を迎えていたので、危なかった。

 

 その後はイルカショーを満喫し、狐子に連れられて……お城のようなホテルに連れ込まれた。久しぶりに死にかけた。

 

 

□■□■

 

 

葵Side

 

(うっそでしょ!? 何でここでコイツと遭遇するのよ!?)

 

 たまたま訪れた巷で評判と噂の水族館。暇つぶしとしては最適だと考えた葵は、何も考えず水族館に入場した。

 

 しかし、そこでまさかの出会いを果たす。――源吾と、その奥さんだ。

 

(そういえば奥さんがいたわね。ふーん、容姿は悪くな……ッ!?)

 

 狐子の容姿を観察しようとした葵だったが、彼女の生存本能が告げる――今すぐこの場から逃げろ――と

 

「……ほう」

 

 うっすらと浮かぶ細い目の中に明らかに自分に対する敵対心があり、そこから放たれる威圧感から葵は、自分の持ちうるあらゆる能力をもってしても、勝てる気がしない。むしろ自分は一瞬で殺される立場にあるということを理解させられた。

 

 むしろあらゆる能力を奪ってきた葵だからこそ理解できてしまった。生存本能だけでなく、自分がかつて奪った“霊能力”が警鐘を鳴らしていたのだ。

 

 

 ――目の前の存在は、人類がどうこうできる存在ではないことに図らずも気づけてしまった。

 

 

(何で……コイツは、平気なのよ……!? というか何でこんな生きた災害を妻としているのよ!?)

 

 源吾が心配そうに話しかけてくれるが、葵は生きた心地がしない状況のまま、背中を冷や汗を伝っていた。まるで今にも自分を喰らおうとする獣が喉元に爪を突きつけているようなそんな感覚だった。

 

(能力は……駄目……! 奪おうとしても……最悪私が死ぬ……!?)

 

 目の前の狐子から能力を奪おうという考えはあった。しかし奪った瞬間、己が死ぬビジョンが見えてしまい心の内で動揺した。ここ数日で自分が勝てないと断定できる存在が二人現れたことに葵の精神は少なからずダメージを受けていた。だが他人の前で無様な真似は晒せないというプライドだけで何時もの笑顔を浮かべていたがすぐに凍り付いた。

 

 源吾の背後――水族館の天井に張り付いている存在がいた。

 

(なッ……!?)

 

 人間の幸運を吸い、己の満たされぬ欲望の為に周りを不幸にし続けるその異様な怪異に対して流石の葵も体が強張る。

 

 霊能力を奪った時から確かに見えるようになった。時には悪霊に困っている人から悪霊を取り払い、小遣い稼ぎ兼自己承認欲求を満たす、といったことをしていた時期もあった葵。そんな葵ですらどうしようもない怪異が源吾に手を伸ばし、いざ吸おうとした。

 

 傍にいた狐子は気づいている様子であったが、視線だけを怪異に向けたままでなにやら余裕げな表情を浮かべていた。

 

(ちょ……いいの!?)

 

 そうして伸ばされた手のひらが源吾から何かを吸い始めた。

 

 

 その瞬間怪異は破裂して、消滅した。

 

(……は?)

 

 怪異は源吾から運諸共生気を吸おうとした。しかし、源吾の内に抱える逸脱した異常なまでの生命力そして何より、狐子ですら中和しきれない程の悪運を吸ってしまい、結果として破裂したのだ。

 その光景を目の当たりにした葵は、頭の中が一瞬真っ白になった。

 

(……な……なんなの……? え……? 私、あんなのと企画をするの……?)

 

 先日の一件も含めて、普通なら心が折れて途中辞退をするレベルの出来事であるが、彼女は違った。

 

(……ッ! 上等よ! 私が有名になって、一生楽して生活するための先行投資ってことなら……ッ! これ位乗り越えて見せる……!)

(そしていつか……その化けの皮を剥いで、私がトップに躍り出てやるんだから!)

 

 屑ではあるが、精神力が人一倍図太い彼女は逃げ出すという選択肢を取らなかったのである。

 

(でも……これ以上は勘弁ね。企画を成功させたらこっちからは絶対コラボとか持ち込まない! まっ、流石に向こうから来ることもないし、今日みたいにたまたま会うなんてことも無いだろうし、大丈夫でしょ!)

 

 なお、フラグである。




主人公
悪運だけで怪異を殺した男の称号を授かった。
この後生命力()を更に吸われた。

狐子
めっちゃ威圧掛けたし、なんなら自分との差を理解させてやった。この場に主人公がいなかったら呪いの1つや2つを掛けていた。


奪ってきた能力でも勝てない。奪おうとすることすら出来ない。そもそも勝てないことを理解させられた。
屈服させられるという体験をしたことが無かったため、心にひびが入った。

なお、主人公の能力を奪おうとした際に能力以外にも、何かが流れ込んできたらしい。

怪異
主人公の生命力+悪運という名の超劇毒を吸って爆☆散☆。本当にただ水族館に流れてきただけだった。吸った数が多かったので割と手ごわかった(過去形)。
この後水族館の人たちの幸運は戻った。


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【Vtuber対抗学力王決定戦】と……

閲覧ありがとうございます!
今回は久し振りの掲示板方式です。

それではどうぞ


「皆さんこんにちは、本日行われる【Vtuber対抗学力王決定戦】の司会進行兼解説兼実況を務めさせていただきます、マルチです」

 

 

 リスナー:こんちゃーす!

 リスナー:先生司会進行かよ!?

 リスナー:兼ねすぎて草

 

 

「えー既にお気づきの方もいるかもですが今回の学力王決定戦では、事実上の出禁を喰らってしまったのでこのポジションに着くことになりました」

 

 

 リスナー:えぇ……

 リスナー:出禁は草

 リスナー:勝負にならんかったんやろうなぁ……

 

 

「あと、今回の企画の配信にあたって英語、中国語、韓国語、ドイツ語等々の翻訳、字幕も全て私が行うことになりました。ので外国人の方々も安心してご視聴することが出来ます」

 

 

 リスナー:一人の人間にやれる量ではない(正論)

 リスナー:なにこの裏方事情……

 リスナー:まーた過剰労働してるねぇ……

 

 

 待ちに待った学力王決定戦。

 まるでクイズ番組のような背景と席、その他諸々のイラストが特徴だ。席はそれぞれ五つ配置されているが、まだ人はいない。

 

「さて早速ですが、今回の企画の参加者たちを紹介していきたいと思います。――選手の皆さんのご登場です」

 

 俺の合図とともに選手たちがそれぞれ自己紹介と意気込みを述べていった。

 今回の選手はアリュカード、レオ、スイスイ、スレンダー男そして――アオリちゃんだ。

 

 

 リスナー:来たぁアアアアアア!

 リスナー:アオリちゃんもいるのか!

 リスナー:主従コンビもいるぞ!

 

「――以上の五人です。健闘を祈ります」

 

 

□■□■

 

【Vtuber対抗学力王決定戦】

 

101:名無しの視聴者 ID:hgH33/TBy

 遂に始まったな

 

102:名無しの視聴者 ID:Ujj3uZZhP

 事前情報ではマルチ先生の出演が確定していたが……まさか

 

103:名無しの視聴者 ID:ivWSmiKnr

>>102 司会進行『兼』解説『兼』実況とかいう事実上の出禁だったのはたまげたなぁ……

 

104:名無しの視聴者 ID:VBvayNYrC

 更には、各国の翻訳もするとなると……運営さん、もしかしてマルチ先生なら酷使しても良いと思ってらっしゃる?

 

105:名無しの視聴者 ID:mWK9NM1d9

 何言ってんだ、マルチ先生は元から人外教師だったじゃないか(混乱)

 

106:名無しの視聴者 ID:IM5BGuMxO

 おっ、そうだな。それはそれとしてスイスイちゃんカワイイ

 

107:名無しの視聴者 ID:t9wnExojW

スイスイ「みんなー! ボク、頑張るからねー!」

 

108:名無しの視聴者 ID:YU4mLGXTm

 主従コンビも忘れるな

 

109:名無しの視聴者 ID:y7X0HNZGM

 アリュカード「頑張るぞい!」

 レオ「全問正解してやるぜぇ!」

 

 スレンダー男「僕の両脇のキャラが濃すぎる件」

 

110:名無しの視聴者 ID:vegsyF+1d

 草

 

111:名無しの視聴者 ID:2NvXy3tGy

マルチ先生「悪意ある配置のように思えるのは気のせいとのことです」

 

112:名無しの視聴者 ID:sddLqKrcE

 アッハイ

 

113:名無しの視聴者 ID:YxJ8XXp7A

 俺個人としては、アオリちゃんに期待

 

114:名無しの視聴者 ID:Dc1/EweC2

 清楚万能系のアオリちゃん、最近になって出始めたんだっけ?

 

115:名無しの視聴者 ID:Ec1FT3cAL

>>114 そうそう。それで自己紹介の際に「なんでもできますよぉ」って宣言してた

 

116:名無しの視聴者 ID:w3sawQTMc

 ん?

 

117:名無しの視聴者 ID:EMq4tfaMB

 今なんでもって

 

118:名無しの視聴者 ID:YrvlRFYhW

 今回に至っては、マジな模様……(視聴者からの無茶振りに答えまくるアオリちゃん)

 

119:名無しの視聴者 ID:lhNwAsVzy

 その所為で「マルチ先生の教え子」って言われてるんだよなぁ……

 

120:名無しの視聴者 ID:yU87hKQlc

 あぁ……人外枠になってしまうのか……それはそれとして今回期待

 

121:名無しの視聴者 ID:A5YuvZzWD

マルチ先生「最初は国語です。私の思い出は山月記ですね」

 

122:名無しの視聴者 ID:zDRVLf7TD

 おっ、国語か

 

123:名無しの視聴者 ID:uSwWBNMjM

 【□を埋めて四字熟語を完成させなさい】……割と簡単だな

 

124:名無しの視聴者 ID:fCgwjFTu0

 

 ①□進□歩 ②□苦□苦 ③晴□雨□ ……

 

 だいたい中学レベルの問題やね

 

 

125:名無しの視聴者 ID:KKC33rhcq

 ちょ……レオさん? 一問目見た時点で机に伏せるの速くない……?

 

126:名無しの視聴者 ID:cRoFZ7ruI

 アリュカードちゃん頭抱えてて草

 

127:名無しの視聴者 ID:270fxU3Rd

マルチ先生「嘘でしょ?」

 

128:名無しの視聴者 ID:qgmvkLK5m

 最速の機能美みたいなことになってる……

 

129:名無しの視聴者 ID:WEyw+8E77

レオ「俺ちょっと横になりますね」

 

130:名無しの視聴者 ID:1tMc9OUyR

アリュカード「起きろたわけぇええ!」

スレンダー男「(場所変えて……)」

 

131:名無しの視聴者 ID:Z98ZCL+C7

 序盤から不安でしかないのですが……それは……

 

132:名無しの視聴者 ID:aXcW/u3xf

 反対に左側のスイスイちゃんとアオリちゃんは解けているのみて安心安心

 

133:名無しの視聴者 ID:71NALmRxc

アリュカード「日■(退と修正してある)月歩、四苦八苦、晴寝雨読!」

スレンダー男「日進月歩、四苦八苦、晴耕雨読……ファッ!?」

 

レオ「日進麵歩、苦苦苦苦、晴寝雨血」

 

スイスイ&アオリ「」

マルチ先生「」

 

 

134:名無しの視聴者 ID:3w0GE+xIu

 こ れ は ひ ど い

 

135:名無しの視聴者 ID:P0M/ddnpR

 うーん、この主従コンビ……

 

136:名無しの視聴者 ID:ZGrB7SBgF

マルチ先生「アリュカードさん、問題文を訂正しないでください。あと色々と突っ込ませてください」

 

137:名無しの視聴者 ID:3RF19EiYO

 スレンダー男、自分の解答に自信失ってて草。合ってるから自信持って♡

 

138:名無しの視聴者 ID:8JDKgVkZd

 苦苦苦苦→笑い声かなにか?

 

139:名無しの視聴者 ID:mmDHrn22c

 主従コンビ、晴れの日に寝るのだけは共通してて何かほっこりするわ

 

140:名無しの視聴者 ID:OkEZIxpFJ

 レオの日進月歩に至ってはもう、あれだろ!?

 

141:名無しの視聴者 ID:5u2GIWMAi

 麺 職 人

 

142:名無しの視聴者 ID:K1RoCQERq

 絶対CMからの知識だけだろうなw

 

143:名無しの視聴者 ID:jKQVxydzj

マルチ先生「正解者の方はおめでとうございます。あとレオさんは後でお話があります」

 

144:名無しの視聴者 ID:rtr5IQvFn

 教育者の鏡

 

145:名無しの視聴者 ID:EU70S02uu

 さて次は数学か

 

146:名無しの視聴者 ID:k+ilHOy8R

マルチ先生「続いては数学です。既に嫌な予感しかしませんが、引き続きいきましょう」

 

147:名無しの視聴者 ID:niyACENUf

【1+2+3+4+5+6+7+8+9+10×0=?】

 

 一瞬引っかかりかけた

 

148:名無しの視聴者 ID:2Iglh0GwV

 0!(頭小学生並感)

 

149:名無しの視聴者 ID:fHDY74iBg

>>148 違うんだよなぁ……

 

150:名無しの視聴者 ID:WVk8oqhD2

 「()」ついてないからわかりにくいけど……これは45ですね間違いない……

 

151:名無しの視聴者 ID:eXTZYYO17

 いやらしい問題ですよコレワァ

 

152:名無しの視聴者 ID:Uysjemp00

 え!? 45と「?」じゃないんですか!?

 

153:名無しの視聴者 ID:VHYIG1BVo

>>152 お前は何を言っているんだ

 

154:名無しの視聴者 ID:sf31B95Ze

 アリュカードちゃんとスレンダー男君は問題なく解け……あっ、レオが0にしてたわ

 

アリュカード「おい」

レオ「やっちまった☆」

スレンダー男「(居た堪れない表情)」

 

 

155:名無しの視聴者 ID:4P5dZmZyv

 期待を裏切らない男

 

156:名無しの視聴者 ID:gPPvU5urE

 知能と倫理観以外の全てにステ振りした男と呼ばれるだけのことはあるぜぇ!

 

157:名無しの視聴者 ID:/5OsxmkK4

 褒め言葉ではない定期

 

158:名無しの視聴者 ID:RR8JsTXnT

 あっスイスイちゃん引っかかってて「先生ー! ボクを騙したねー!」

 

 かわいい

 

アオリちゃん「スイスイちゃんドンマイです!」

スイスイ「うぇ~ん)泣」

 

 アッ(尊死)

 

159:名無しの視聴者 ID:RTO7xPHjE

>>158 おいおいコイツ死んだわ

 

160:名無しの視聴者 ID:LkDGRd45I

マルチ先生「問題は最後までよく見ましょう。ちなみに先生は最後までしっかり見たのにも関わらず名前を書くのを忘れたことがあります」

 

161:名無しの視聴者 ID:7UV4s+0cv

 あるある(100点解答を0にされた経験あり)

 

162:名無しの視聴者 ID:wvFQvTN4m

 あるある(履歴書に名前書き忘れて面接で死にかけた経験あり)

 

163:名無しの視聴者 ID:cjZLZj7vd

>>162 お前は俺か?

 

164:名無しの視聴者 ID:nHeqW1lhj

 尊みが溢れている状況に唐突に現実を持ち込むな。死にたくなるだろ

 

165:名無しの視聴者 ID:YOovq8u+f

 ウッ……(てぇてぇ要素と過去のやらかしにより死亡)

 

166:名無しの視聴者 ID:PKTyWWXJN

 で、次だが……

 

167:名無しの視聴者 ID:cdjZN0yt9

【台形の面積を求める公式を答えよ】

 

168:名無しの視聴者 ID:Tza+Xt5HT

 懐っつ!?

 

169:名無しの視聴者 ID:f9Ly3fT/X

 底辺×高さ÷2だっけ?

 

170:名無しの視聴者 ID:wuicxveLG

>>169 それ三角形の面積の公式

 台形の場合は(上底+下底)×高さ÷2ゾ

 

171:名無しの視聴者 ID:YsQua0wzL

>>170 久しぶりに見たなその公式

 

172:名無しの視聴者 ID:CGZWvHUn/

アリュカード「ふむ……? どっちだっけ?」

スレンダー男「えっとぉ……確か、この前妹の勉強を見た際にやったような……」

レオ「?????????????」

スイスイ「ふっふーん! こんなの簡単…………あれ?」

アオリ「これで……良い筈です」

 

 

173:名無しの視聴者 ID:7cDVNWfpI

 レオ……マジか……

 

174:名無しの視聴者 ID:Nlf/9LZz1

 何か今回も半分以上が駄目そう

 

175:名無しの視聴者 ID:7zIUFN8Jh

 既に三名程怪しいからな

 

167:名無しの視聴者 ID:chuX2aeyU

 頭が悪い人みたいになっている人がいますね……

 

177:名無しの視聴者 ID:nUSwkCCLS

 わざわざ三角形の面積じゃなくて大体忘れているであろう台形の面積の公式を求めさせるの中々いい性格してるねぇ!(文系並感)

 

178:名無しの視聴者 ID:jtc8JqOYP

 回答結果

アリュカード「底辺×高さ÷2」

スレンダー男「(上底+下底)÷2」

レオ「【台形が描かれた図】」

スイスイ「(上底+下底)×高さ÷2」

アオリ「(上底+下底)×高さ÷2」

 

179:名無しの視聴者 ID:1xdT3VAGg

 へぇ!?

 

180:名無しの視聴者 ID:g1W72LZFJ

 誰が図で書けっつったぁオラァ!

 

181:名無しの視聴者 ID:MuhhkjVE0

 草

 

182:名無しの視聴者 ID:LeuaOTKcM

 しかも台形と言っていいのか分からないレベルのクオリティだし……

 

183:名無しの視聴者 ID:dez7mJSK1

 流石にやらせだよな……だよね?(恐怖)

 

184:名無しの視聴者 ID:FvRkoP+7B

 流石脳筋サイコパス

 

185:名無しの視聴者 ID:Sx+LaKo4P

 アリュカード「あっちじゃったぁああああ!」

 

186:名無しの視聴者 ID:jZOQfg/Ez

 スレンダー男も惜しい所まで行ったんだがなぁ……

 

187:名無しの視聴者 ID:7cwaJmml2

 高さ掛けないとダメだしな

 

188:名無しの視聴者 ID:SgMRZqLfL

 心配だったスイスイちゃん解けてて良き

 

189:名無しの視聴者 ID:vjQCSmdvQ

マルチ先生「実はひし形の面積か円の面積のどちらかにしようと思ってました」

 

190:名無しの視聴者 ID:rSPm+hxKD

 うーん、この

 

191:名無しの視聴者 ID:ohSWYWzFn

 それで、次は……英語か

 

192:名無しの視聴者 ID:boqz2DsQ8

【以下の日本語を英語に直しなさい】

 

 金銭

 

 

193:名無しの視聴者 ID:KcNOnGWUd

 金!

 

194:名無しの視聴者 ID:D9YJQv75e

>>192 (求めているのと)違うだろ?

 

195:名無しの視聴者 ID:WGjCkp7uq

 これは簡単やな

 

196:名無しの視聴者 ID:sVicC2VQr

 これは流石にレオでも解けるやろ……(フラグ建築)

 

197:名無しの視聴者 ID:En+RyEwkP

 すごい自信満々なのが逆に怖い

 

198:名無しの視聴者 ID:AxDK7zRlb

アリュカード「Money」

スレンダー男「Cash」

レオ「Maney」

スイスイ「golden」

アオリ「Money」

 

 

199:名無しの視聴者 ID:1BRbNojhs

 あれ……合ってる……?

 

200:名無しの視聴者 ID:Jx9C3rWxN

 いや……これ、Moneyじゃなくて……M「a」neyじゃねぇか!

 

201:名無しの視聴者 ID:/x0Th0DYQ

 Oh……

 

202:名無しの視聴者 ID:rgUqMg+ia

マルチ先生「OH……」

 

203:名無しの視聴者 ID:uKOaP171g

 あれ……スイスイちゃん、それ不正解じゃ……

 

204:名無しの視聴者 ID:jpaESwcpf

マルチ先生「Goldなら正解でした。goldenだと形容詞『黄金の』という意味になっちゃうので残念ながら不正解です」

 

205:名無しの視聴者 ID:njB9cNDZc

 というかCashは大丈夫なんだ……

 

206:名無しの視聴者 ID:9jVpAaWHO

 一応「金銭」の意味もあるからね

 

207:名無しの視聴者 ID:j9HorOu9l

 割とガバガバやね

 

208:名無しの視聴者 ID:oZ9rtDPzN

 この後、徐々に難易度を上げながら問題が進んでいきます。 

 

 

 

 

700:名無しの視聴者 ID:rw1RFRVzj

 いやー、まさかレオがあの状況から逆転しまくるとは思いもしなかったわ……

 

701:名無しの視聴者 ID:1HSV5Jq3n

 難しい問題になるにつれて逆に正答率上げていくの最早ギャグだろ

 

702:名無しの視聴者 ID:/RYuUvISO

 なぜ……最初らへんの問題が解けなかった……!

 

703:名無しの視聴者 ID:E8nc30zNl

 たまに混じる難問にノータイムで正解するのなんなん? 特に歴史関係

 

704:名無しの視聴者 ID:aK+GOabFn

マルチ先生「この時代に行われてしまった□□裁判とは?」

ワイ「レオが応えられる訳……」

レオ「魔女裁判」

ワイ「ファッ!?」

 

 

705:名無しの視聴者 ID:PY2l2U0mK

 歴史系に強いと言ってたが、マジでその通りだったな

 

706:名無しの視聴者 ID:RsBJBnyzc

 アリュカードちゃんとアオリちゃんも忘れるな

 

707:名無しの視聴者 ID:nFwd1LzN7

【一般的に知れ渡っているドラキュラ。その本名とその名前の意味は?】

アリュカード「ヴラド・ドラキュラ。またはヴラド三世とも呼ばれる。名前の意味は日本では小竜公を意味する」

 

 この問題は早押しだったけど……まさかノータイムで答えるとはたまげたなぁ……

 

 

708:名無しの視聴者 ID:1bu9K9FKB

 モデルのことをしっかり勉強しててリスペクトを感じる

 

709:名無しの視聴者 ID:2st9x3qg9

 一般人代表なスレンダー男はよくやった

 

710:名無しの視聴者 ID:7EPEPL23o

>>709 こいつも割と大概やぞ

 

711:名無しの視聴者 ID:K4395KvsS

>>709 こいつもこいつで、神隠しの意味とかホラー系に関する単語にはマジで精通してたからな

 

712:名無しの視聴者 ID:LF7+oHIbK

 最後アオリちゃんと張り合ってたスイスイちゃん、マジで悔しそうだったな

 

713:名無しの視聴者 ID:djET0JHUz

 早押しで勝ってたスイスイちゃんだったけど、多分アオリちゃんに押されてたら普通に大差負けしてたしな

 

714:名無しの視聴者 ID:g73bheY+m

レオ「そぉい!」(ボタンが陥没する音)

スレンダー男「おわぁああああああ!?」(台座から外れたボタンが頬にあたった)

マルチ先生「What the f……おっと失礼。BANされてしまいますね」

 

715:名無しの視聴者 ID:D8faLl2ni

>>714 多分WTFって言いかけたんやろうなぁ……

 

716:名無しの視聴者 ID:twcTgr7mL

 ボタン壊した衝撃でスレンダー男の頬にボタンが直撃したの面白過ぎやろw

 

717:名無しの視聴者 ID:KCo/iOglb

スレンダー男「実害が出るクイズ大会なんて初めてです……」

 

718:名無しの視聴者 ID:vXkoCoN5F

 個人的にサイコロの確率問題の際に一斉にマルチ先生の方向いたの草だったわ

 

719:名無しの視聴者 ID:M98BbU7/i

マルチ先生「サイコロの確率を求める問題です…………なぜ選手の方々も、スタッフの方々も私を見るんです?」

 

720:名無しの視聴者 ID:7Wzv2Jqkr

 そりゃあ……まぁ……ねぇ?

 

721:名無しの視聴者 ID:7gOngyOW9

 流石に一度の卓で10回以上ファンブル叩き出して全員生還したのを見れば確率なんて当てにならんやろ

 

722:名無しの視聴者 ID:g7v8cyKEd

 あれ? それどこの回だっけ?

 

723:名無しの視聴者 ID:dvgDjC1HX

>>722 【酒飲みTRPG配信 URL】

 最初のファンブルは10:12にあるぞ

 

 

724:名無しの視聴者 ID:g7v8cyKEd

>>723 助かる

 

725:名無しの視聴者 ID:UpEvUZWgr

 最初のファンブルはって言ってる時点でもう草

 

726:名無しの視聴者 ID:l7GUkXjON

 聞き耳:68

 

 →100ファンブル

 

 これを四回はやらかした

 

727:名無しの視聴者 ID:5mVZhkSc3

 逆に神話生物と遭遇しても最小限のSAN値減少で全部済んだのは可笑しいやろ

 

728:名無しの視聴者 ID:fLlQLQmKd

 あれ……? あのシナリオ、ヨグ様いなかったっけ?

 

729:名無しの視聴者 ID:NnaiThntZ

 いたぞ。でもクリティカルだして回避したぞ(白目)

 

730:名無しの視聴者 ID:Ww7MVqvOy

マルチ先生「なんだただのヨグですか」

 

731:名無しの視聴者 ID:k4/e4flrL

 全員酒飲んでいるだけあって、時折おかしな発言が飛び出してたのも面白かったな

 

732:名無しの視聴者 ID:NOUwUk4Bv

 あ、でも俺が一番気になったのは、あれだな。マルチ先生に掛かってきた電話の……

 

733:名無しの視聴者 ID:gnqGQ7ATE

>>732 あぁ、何か余程呂律が回ってなかったマルチ先生の電話対応かw

 

734:名無しの視聴者 ID:K5+xNXM7d

 何回聞いてもあれを理解できなかったな

 

735:名無しの視聴者 ID:kOlYanH3B

 あれ? 今ちょっとアーカイブ見てみたけど、そのシーン無かったぞ?

 

736:名無しの視聴者 ID:PrBbAQ0pc

>>735 嘘松って言おうとしたけどホンマや。あのシーンだけが切り取られたかのように消えてら

 

737:名無しの視聴者 ID:bdXvbz3uZ

 間違えて何かしちゃったんじゃね? あの場にいた全員が酔っぱらってたし

 

738:名無しの視聴者 ID:DkX2Di1Zf

 うーん……そうかな……?

 

 

 

 

□■□■

 

 

 例の配信直後

 

「『はい……誠に済みませんでした……』」

「『たまたま配信を見てたら、まさか酒の勢いのままにイムール星人といきなり電話をするだなんて……バベルの塔よ。我々が即座に気づけて修正させられたから良かったものを……』」

「『はい……本当に、ご迷惑をおかけしました……酒は控えます……』」




主人公
企画自体は何とか上手くいった。ただし何度か危ない面があった。

実は企画の前に行われていた酒飲み(めっちゃ強い酒を飲んだ)TRPGにてイムール星人からの電話にうっかり答えてしまい、レプティリアン達の度肝を抜いた。酒に対する耐性が付いたと感じ、つい度数の強い酒にチャレンジした結果がこのザマ。

アリュカード
自分に関する問題には全問正解かつ最速で答えた

スレンダー男
常識人枠


ふぅ、企画は成功ね。さぁ! さっさと自分だけの配信に戻って…………え? コラボ企画の提案…………? え……え?

源野
主人公がやらかしたことに超仰天して眠気が全て吹き飛んだ。主人公に酒を飲ませるなという父の教えを思い出していた。


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STEP2 効果の確認と能力の仕様を理解させて胃にダメージを与えましょう

閲覧ありがとうございます!
少し余裕が出てきたので早めに投稿したいと思います!

あといつも感想、高評価、誤字報告ありがとうございます!

それではどうぞ!


 学力王決定戦が終わって三日が経過した。

 そんな俺はというと久しぶりに事務所付近のレストランに足を運んでいた。

 

「――ご注文は以上でございますか?」

「はい、お願いします」

 

 厨房に向かって歩いていく店員を余所眼に、俺はふとこれまでのことを思い返していた。

 

 車にはねられて鴉に鳥葬されたこと、言語チートを手にしてVtuberになったこと、これまで関わることのなかった妖怪に怪異、そして宇宙人などの人外の存在をその身をもって思い知ったこと。

 

 こう考えるとマジで知らなかっただけで本当に人間社会に紛れて存在しているんだな、と思う。そしてよく自分は今まで生きてこれたなとも同時に思う。

 

「……そういえばこのチートで宇宙の言語も話せるが……()()()()()()()()となる物はあるのか?」

 

 地球上に存在する言語……俺が『バベルの塔』とレプティリアン達に言われているように一度だけ、一度だけ自分が習得してきた言語を同時に頭の中に思い浮かべてたった一言「りんご」と全てを吐き出すように一人呟いたことはある。

 

 

「『■■■(りんご)』」

 

 

 ――結果は成功……と言えば聞こえが良かった。

 

 

 口から出た「りんご」の一言はまだ不完全ながら恐らく殆どの国の人が聞いても同じ意味として捉えられるだろう。そんな確信があった。確実に地球には世界全てに通用するたった一つの言語が存在することを図らずも俺が証明してしまったのだ。

 無論、これは墓まで持っていく秘密だし、これを暴露することで翻訳家など言語の違いを商売としている人達の仕事を奪いかねない。

 

 だからこそ、俺は気になってしまった。

 

 宇宙の言語をもっと収集して一つに纏めるようにしたら何かが見えるのではないか、と。

 

「――何やら考え込んでいるようですね。お隣失礼しても?」

 

 すっかり考え込んでいた俺の耳に入ってきたのは、イシノヴァの声だった。

 

「ッ!? なんだ……イシn、石星か。別に大丈夫」

「では失礼……」

 

 そう言いながら俺の向かいの席に座るイシノヴァ。相変わらずのスーツ姿と同じ髪型、同じ背格好のイシノヴァはメニューを手に取り、素早く注文をした。

 

「それにしても、お久しぶりですね。こうして二人で面と向かって話すことも。怪異と呼ばれる存在との邂逅の時以来でしょうか」

「そうですね…………『イシノヴァ、一つお伺いしても?』」

 

 俺はイシノヴァの言語――リゲン語――に切り替えてあることを聞いてみることにした。周囲の喧騒の中に混じる聞きなれない発声に普通なら誰しもが動揺するが、生憎喧騒に紛れて誰も気にしない。

 

「『なんでしょう』」

「『宇宙の言語の起源って、考えたことあr――』」

 

 と言いかけた時、能面のように無の表情をしたイシノヴァが掌を俺に見せつけるようにしてきた。――制止を意味するハンドサインだ。

 

「『申し訳ありません……いくら貴方の頼みと言えど、それは知るべきではありません……質問に答えられないことをお許しください』」

「『……流石にこっちも不用心すぎた……こちらこそ申し訳ない』」

 

 俺がそう謝ると、凍り付いたイシノヴァの雰囲気も和らぎ、その表情に人間っぽさが戻る。イシノヴァがコーヒーを口にしながら「ただ」と言葉を続ける。

 

「『この星の言語のみならず、私も、イムール星人の言語を理解できる貴方からしてみれば当然のように疑問に思ったことでしょう。――恐らくこの星の言語の起源、始まりを知ってしまったのでしょう』」

「『……』」

「『まぁ、私はそれ以上追求しませんが……。ですが、これだけは覚えていただきたい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということを』」

「『……藪蛇をつつかないようにする』」

「『それが賢明です。知らないということは罪ですが、時には免罪符にもなり得るのですよ』」

 

 何となくコズミックでホラーな感じがしたので俺もそれ以上の追及を辞めることにした。と、ここで俺とイシノヴァの頼んだ料理が割と大きなカートに運ばれてやってきた。

 

 俺はステーキセットだが、イシノヴァはテーブル一杯に広がる数々の料理が並べられていた。どれもこれもが大盛で心なしかイシノヴァは喜びの感情を見せているようだった。

 

「さて、頂くとしましょう。最近社長になったので羽振りは良いのです」

「社長になった!?」

「えぇ、一番利益を出して、周りとも良い関係を築けている私が次期社長に相応しいと先代含めた数多くの人達が仰ってくださったので。今日は私のおごりです」

「えぇ……」

 

 知らない間に凄いことになっているな、と思いつつ俺も食事にありついた。

 

 

「……ふむ」

 

 

□■□■

 

 

「何語だったのかしら……あの言語は……」

 

 源吾とイシノヴァが去ったレストランのある席――源吾達の隣の席――にいた葵は先程の源吾達のやり取りの中で出てきた謎の言語について考えを巡らせていた。

 

 元々葵は狙ってこのレストランに来た訳でなく、たまたま昼食を済ませようとしてこのレストランを選んだのだ。だが、どういう訳かそこには源吾がいたのだ。それこそ葵も、自ら厄介ごとに巻き込まれない為に徹底的に気配を消していた。ただでさえ、学力王決定戦の後に源吾から

 

『もしよろしければ、私とコラボしませんか?』

『え……は……えっと……』

 

 と、面前の前で(本人にそのつもりは無い)言われた為断るに断れなかったことも相まって、苦手としているのだ。

 そんな折に表れたイシホシと名乗る男。一見すると何の変哲もない仕事人といった風貌だったのだが、どうにも葵は目が離せなかった。

 

 そうして二人の様子を見ながらも葵は、イシホシの下に送られてくる無数の料理の数々に胸焼けがしそうな思いだった。明らかに一般成人男性が食べられる量ではないことは明白だったが、十分もしない内にその半分以上を平らげたのを見て、『あの人から奪えるとしたら“食事能力”か“嚥下力”かしら……』と思っていた矢先のことだった。

 

 

 ――突然、二人が聞き覚えの無い言語で会話をし始めたのだ。

 

 源吾までとはいかないが、多言語に関する能力を奪っていた葵ですら聞き覚えの無い単語の羅列に発声をさも当たり前かのように話す、そんな二人の様子に手元にあった飲み物も喉を通らなかったのだ。そうして二人の会話を聞いていると、ふと視線を感じた。

 

『……? 気のせいかしら?』

 

 源吾は相手の目を見て話している。そしてその相手であるイシホシも源吾の目を見て話している。周りの席は自分たち以外誰もいない筈なのに明らかにこちらを品定めするような視線を葵は感じ取っていた。

 

 葵は気のせいであると受け止め、自身の前に並べられた料理に舌鼓を打ちはじめていたのだ。だが、葵は知らなかった。イシホシの黒いスーツの人間の目では判別できない程の極少かつ無数の瞳がこちらを見ていたことに。

 

 

 

「――ふぅ、事務所に近いから来てみたけど中々いけるじゃない」

 

 満足した様子の葵。既に頭の中からは先程の謎の言語についての疑問が抜け落ちており、年相応の笑みを浮かべていた。

 

 そうしてレストランを後にした葵はある人物を目撃する。

 

「……げ」

 

 カエルが潰れたような声を出す葵の視線の先――コンビニの外――には源吾とイシホシがいた。

 葵はその光景を見て踵を返して回り道をしようとした所、突如目の前に黒猫が躍り出たのだ。

 

「きゃっ!」

 

 思わず声を上げて仰け反る葵。とその光景を目の当たりにしたのか、はたまた声を聴きつけた様子で源吾達が駆け寄ってきたのだ。

 

「あの、大丈夫です……あれ? 君は……」

「あっ!? えっと……」

 

 思わぬ形で会うことになったと言いたげな様子の源吾と厄介の種が足を生やしてこちらに全力疾走してきた気分だと、内心苦虫を嚙み潰したような表情をする葵だった。

 

「おや、このお嬢さんは?」

「あっ、えっと……その……(幾らイシノヴァと言えど……流石にこの子がアオリちゃんだって言えないよなぁ……)」

(ちょっ……どうするのよ! 一般人に私がアオリちゃんだってことをばらすつもりじゃないでしょうね!?)

 

 返答に困っている様子の源吾だったが、何か、天啓を得たような表情を浮かべた。葵はその表情を見て何となく嫌な予感がした。

 

「この子は、私が……かつて担当していた家庭教師の生徒です……」

「ほう」

「ははは……そうなんですよぉ……(んモォオオオオオオ! なんでそうなるのよぉおおおおお!?)」

 

 まだ子供の方がマシな嘘を付けるぞ、と内心毒を吐きながらもこの場を切り抜けるにはそれしかないと思い立った葵はその体で話に乗っかることにしたのだ。まだ若い筈の自分の胃がキリキリと痛むのを実感しながらだ。

 

「そうですか。源吾さん気づきましたかな? 私達が訪れたあのレストランで彼女もいたのですよ?」

「えっ!? そうなのですか!?」

(近くで見ると……意外と普通ね……この前のコイツの妻はあんなんだったけど……意外にまともな交友関係は持っていたのね。というか社長に成り上がったとも言ってたわね…………となれば、それだけの能力も持っているという事!)

 

 先程までの懐疑的な様子とは異なり、内心ほくそ笑み始めた葵。ここは源吾の作った設定を利用して精々その力を自分の物にしようと試みた葵は、いつもの様子で握手をねだることを決めた。

 

「あっ、先生の身内でしょうか? 私、富取葵と申します。以後お見知りおきを」

「おや、これはご丁寧に。私、立玄石星と申します。握手を望みのようですね」

(かかった……!)

 

 そうして握られた手。

 

 しかし、何かがおかしいことに気づく。

 

(……!? 何……この感触!? 何かが蠢いている!? おっさんの手でもこんな感触はしないのに!?)

 

 握られた手から能力を奪取しようとした瞬間、手から伝わる異様な感覚、まるで手の中で無数の蟲が蠢いているような感覚に思わず硬直する葵。しかし咄嗟に我に返りいざ、能力を奪おうと行使するも――奪えない。

 

(何で……!? この手が義手とかならまだわかる……! 以前それで奪えなかったことは分かっている…………まさか)

 

 ちらっと葵はイシノヴァの眼の中を覗く。そして気づく、気づいてしまった。目の中に――無数の眼が覗かせていることに

 

(こ、こいつ……人間じゃ……ない……!?!? 私が奪えるのは……人間だけだった……動物は無理だった……え、これはどういう――)

「――葵さん!」

「はっ! その、すみませんでした!」

「いえいえ、お気になさらず」

 

 どうやら数秒の時間だったとはいえ、しばし硬直していたことを心配して声を掛けた源吾の声で意識を取り戻した葵は咄嗟にその手から手を放す。

 

「おや、だいぶお疲れの様子で」

(なんなのよぅ……コイツの周りは……こんな奴らしかいないのよぅ……もうやだ、早く寝たい……)

 

 源吾に関わるたびに己の何かが削れていくような感覚を覚える葵は、決して外には出さないが涙目だった。

 

 

□■□■

 

 

「ただいま……あれ? この食料品は?」

 

 俺が家に帰ると、多くの荷物を纏めた段ボールが廊下に置かれていた。段ボールの間をくぐりながらリビングにつくと狐子が作業していた。

 

「おぉ! お帰りなのじゃ!」

「ただいま、この荷物は?」

「うむ、それは――源野の帰省の為に幾らか持たせてやろうと思ってのう」

「あっ、そっか」

 

 そう、源野君が帰るという一か月まで残り一週間を切っていたのだ。




主人公
ちょっと危険な領域まで思考が行こうとしていた。多分止めなかったらヤバいことになっていた

統一言語もどきをやろうとした



主人公のことが天敵になりつつある


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「言語」系チート+人外スペック=?

閲覧ありがとうございます!
沢山の感想、評価ありがとうございます!

という訳で主人公君には人間を辞めてもらいます(唐突)


「……だるい」

 

 休日の朝、今日は源野君の為の個人的なプレゼントを買いに行っていた。雲一つない青空の中、普通なら気分よく道を歩いている所だが、今日は一段と気分が悪かった。

 

「頭痛がする……それに目が、少し痛い……」

 

 これまで生きてきた中でトップクラスの体調の悪さだった。頭がズキズキと悲鳴を上げるように痛みを訴え、目に関しては時々ズキッとした痛みと共に若干の視界のぐらつきが起きていた。

 

 朝起きたころにも若干の頭痛がしていたのだが、軽い頭痛だと思い、念のために頭痛薬を飲むくらいの対応を取ってはいたが、どうやら無駄だったようだ。まるで効果がない。

 それでも何とか外に出るために髪の毛を黒く染めてきたが、まるで体が作り変えられるようなそんな痛みが絶え間なく襲ってくる。ズキズキする頭痛の痛みとボーっと思考が定まらない今の状態ははっきり言ってかなり危険だ。

 

「……何とか……歩けはする」

 

 歩道の端にある壁に手を付きながら家路についていた俺だったが、ふと前方から誰かがこっちに向かって来ていることに気が付く。

 

「――!?」

(なんて……言っているんだ……? クソ……上手く聞き取れない……)

 

 頭痛の痛みに何とか抗いつつも、顔を上げて目の前にいるであろう誰かに自分は大丈夫だという意思表示をしようとして、思わず驚愕した。

 

「葵……さん?」

「……本当に、大丈夫ですか? さっきから私の声が聞こえていなかったようですけど」

 

 そこにいたのは葵さんだった。――心なしか、不満げな表情をしているように見えたが、多分俺の体調が悪い所為でそう見えるだけなのだろう。

 

 

□■□■

 

 

「本当に……助かります」

「良いですよ。これくらい」

 

 何やかんやで今の俺の体調について話した。すると目を見開きながら「胃の痛み以外、常に健康と言われる源吾さんが風邪を引くんですね……」と言われた。ちょっとクスッときてしまった。

 

 そして葵さんはというと、どうやらちょっとした用事で学校に呼ばれていたらしく、その帰りに寄ったカフェの帰りに俺を見つけたということらしい。

 

「正直会いたくも無かった」ボソッ

「どうしました……?」

「いえ、なんでもありませんよ」

 

 にこっと微笑みながら俺の抱えていた荷物を持ってくれる葵さんのその姿に正直感謝しかなく、それと同時に素直に外出を控えるべきだったと後悔する俺だった。しかし本当に体がだるいし、頭が痛い。

 

 正直このまま何事も無く家につければいいのだが

 

 

 ――どうやらそうもいかないらしい。

 

 

「あ、あれ……? ここ、さっきも通ったような……?」

 

 葵さんと合流してから既に三十分くらい歩き続けているが、さっきから見えるのは同じ景色ばかりだからだ。

 

(それだけじゃない……さっきから聞こえていた猫や犬、鳥の声が……)

 

 葵さんが聞こえている筈もないのだが、さっきから聞こえてくる動物の声が悍ましい内容に変わっていた。

 

「ワン『死ね』」

「ニャ『死ね』」

「カー『呪われろ』」「カー『呪われろ』」「ワン、ワン『何で僕たちが死ななきゃならないんだ』」「ニャー『お前達も苦しめ』」

 

 今の俺は先程よりも更に気分が悪くなって、うつむいたまま歩いているが、見なくても分かる。恐らくこの動物らしき奴らが考えていることは――ただ一つ。

 

「な、なに……!? 周りの動物が、私達を見つめている…………ヒイッ!? あ、あの猫の目……真っ黒!?」

 

(――人間に、死んでほしいんだろうな)

 

 

「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」「『死ね』」

 

 

 周りの動物がそれぞれの鳴き声と共に飛ばすのは怨嗟が込められた呪いだった。

 怯えた声を出す葵さん。どうやら周りの異常性に気づき始めつつあるようだ。そう不運なことに、俺達は彼らの領域に引きずり込まれていたようだ。

 

(そういえば……この近くに……既に閉鎖された保健所があったような……)

 

 この近くに閉鎖された保健所があり、そこでかつて非人道的な動物虐待が行われていたことを思い出した。恐らくこの子たちは「被害者」だ。そしてそれに伴って更に、この近くで度々行方不明事件が多発していることも思い出した俺は、荒い息を整えながらこの状況を打開する術を考える。

 

 しかし、思考が定まらない今の状況では考えても考えても、考えがまとまらない。

 

「源吾さん! 少し背負いますのでここから逃げましょう!」

 

 そう言って俺を背中におぶさりながら、その場を後にしようとする葵さん。俺はというと見目を気にする余裕はなく、されるがままにしていた。

 

「さっきまでの通路だと、ここを真っ直ぐに行けば分かれ道がある……! 私達はさっきから同じ方向に曲がっていたからダメ……なら!」

 

 自分たちが通ってきた道とこの辺りの地形を脳内で照らし合わせているのか、必死に最適解を出してこの場から抜け出そうと躍起になる葵さん。

 

 ――しかし、恐らくそれは徒労に終わるという確信があった。

 

「さっきはここを左に曲がったから……今度は右に………………嘘……」

(……さっきの、場所に戻ってきた……)

 

 また、同じ場所にたどり着いた。

 

「ど……どうすれば……間違いなく“地形把握能力”と“記憶力”でさっきとは違う道を選んだのに……!?」

(地形……記憶……なんの……こと……?)

 

 既に葵さんの言葉すら聞き取れるか怪しいレベルで自分の消耗が進んでいることに驚愕しつつも、地面に座りながら周りを見渡す。

 

 そこにはこちらを睨みつける動物――怨霊の類だろう――が近寄ってきている光景が微かに見えた。

 

「――クッ! なら仕方ない……源吾さん! そのまま目を閉じててください!」

(何を……聞き取れない……)

 

 何かを言っていることは分かるのだが、もはやそれすら判別できないレベルまで来た俺は聞き取れた「目」「閉じ」という単語から、目を閉じて的なことを言っているんだなと思い、目を閉じる。

 

 視界の外から聞こえてくる怨霊の足音を感じ取りながら、葵さんを信じることにした俺だったが、一体何をするのか見当がつかない。――その瞬間。

 

 

「――破ァ!!」

 

(何かが……通り過ぎた……?)

 

 葵さんの掛け声らしき物が聞こえたと共に、何かが自分から怨霊に向かって突き抜ける感覚がした。

 

「はぁ……はあ……どうよ……私の“霊能力”……! 胡散臭いと思って今まで敬遠してきたけど、アンタらみたいな低級霊には効くんじゃないかしら!?」

(霊……能力……葵さん……霊能者、だったんだ……)

 

 葵さんが霊能者だったことに驚愕した。確かに周りから動物の足音は消えていたし、成功と思える。

 

 

 ――だが、俺はある気配を感じていた。

 

 

「……? 変ね……低級霊を祓ったのだから周りの景色も変わる筈なのに……?」

「葵……さん……」

「源吾さん! もう大丈夫ですよ、ほら、さっさ……早くここから抜け出しましょう!」

「いえ、そうでは、ないんです……」

 

 俺は息絶え絶えになりながらも葵さんにある事実を告げる。

 

 

「――前方から、先とは比べ物にならないモノが、来ます」

 

 今いる一本道のその先、保健所がある方角からこれまでの怨霊とは比べ物にならない化け物が来ていることを告げた。

 

 

「オォオオオオオオオオオオオオオオオ……!!」

 

 

□■□■

 

 

「は……」

 

 葵は目を見開いて、こちらに向かってくる黒くブヨブヨとした大きな肉塊を見つめていた。

 先程己が行使した霊能力で意気揚々と低級霊を祓ったと思っていた矢先、唐突に通路の先に表れたそれに、頭の中が真っ白になっていた。

 

 動きはゆっくりだが、着実に、こちらに向かって蠢きながら近づいてくる黒い肉塊。

 近づくにつれてうじゅり、うじゅりと肉がはねる音と鼻が曲がりそうになるほどの腐敗臭、そして何よりもその肉塊を構成していた何かに、葵の心はへし折られた。

 

「あ……あぁ……っ……」

 

 ――それはバラバラにされた動物の死体だった。

 

 そしてさらに気づく、その中で蠢く人間の手のような何かが、子供から大人まで、彼らの八つ当たりにも等しい呪いに巻き込まれ、行方不明となった犠牲者たちが取り込まれていたことに。

 あまりにも悍ましすぎるその有様に葵は腰が抜け落ちてしまい、徐々に息が乱れていく。ふと後方から感じる殺気じみた気配にゆっくり振り向くと

 

「嘘……さっき、わたしが、はらったはず……の……」

 

 そこには先程葵が祓った筈の怨霊が、先程よりも多くの数になって後方を塞いでいた。

 

 道路は異形と化した猫や犬だったものが。空には無数の鴉の群れが。そして――前方には肉塊が。

 

 

「も、もう嫌、もう嫌ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 金切り声を上げて叫ぶ葵。

 しかしそうしている間にも徐々に怨霊の群れは近づいていく。そうして肉塊も、怨霊も間近に迫ろうとした時。必死に源吾が背を掛けている壁の方まで体を動かすと、必死に

 

「た、助けて! 助けなさいよぉぉおお! 助けて……助けて……助けてぇえええええ!!」

 

 既に息も浅く、まるで眠っているかのようだった源吾の胸元を掴みながら取り繕っていたメッキも剝がしながら必死に頼みの綱に声を掛ける葵。――するとその瞼がゆっくりと開かれる。

 

「あ……あぁ……葵さん」

「助けて……私、まだ死にたくないの……まだやりたいことがあるのに……」

 

 涙目になりながら必死に懇願する葵。それを見た源吾は鉛のように重い己の身体をゆっくりと動かして、立ち上がる。

 その姿からは生気を感じられず、まるで亡霊のような佇まいであった。そして迫りくる肉塊と怨霊に相対するように正面切った源吾は

 

「葵さん。少し耳を塞いでいてくれませんか?」

「……え?」

「効くかどうかは分かりませんが、今から、私が言う言葉は、決して聞いては、いけません……いいですね?」

「は、はひぃ!」

 

 手元にあった布を必死にあてがい、外の音を遮断した葵は一体何をするのかという目線を源吾に向ける。

 既に目と鼻の先に迫っている怨霊たち。それを見据えた様子の源吾はゆらゆらと身体を揺らせながら、まるで別人のようにゆっくりと、虚ろな表情のまま徐に人差し指を怨霊たちに向け――ただ一言、こう告げた。

 

 

「『■■■■(光あれ)』」

 

 

 

 

 

 

「――はっ!? ここは!?」

 

 葵が目を覚ますと、先程までいた場所の近くのベンチに座っていた。

 

「あ……あれ? 私、ここで何をしていたんだっけ……?」

 

 先程まで、背筋も凍るような何かを体験したような感じがして “記憶能力”で己の記憶を掘り起こしても、一向に自分が何をしていたのかを思い出せずにいた。

 

「う、うーん……? 何か、気持ち悪いわね……って、もうこんな時間!? 二時間もここで寝ていたの私!?」

 

 慌ただしくしながらも急いで持ち物を確認してベンチから去ろうとする葵。

 

 

 その背中を源吾が見つめていた。

 

「あ゛ー……体調不良は治ったけど……喉が痛い……う゛え゛っ゛、ゴホッゴホッ」

 

 手で喉を抑えながら、葵の無事を見届けた源吾も同様にその場を後にする。

 

「うーん……まさか『忘れて』でほんとに忘れてくれるなんて…………あ゛ー駄目だ。喉が痛゛い゛。早く帰ろっと……ゴホッ。……血が出た」

 

 体を襲っていた不調もすっかり治まったが、今度は喉の痛みに悶えつつ、その場を去った源吾。

 

 

 そうして急ぎ足ぎみの源吾が、とある母子とすれ違った時のことだった。唐突に子供が、母親に向けてあることを話し始めた

 

「ねーお母さん」

「なぁに?」

「今のお兄さん、何で髪の毛が白くて目が赤かったのー?」

「えっと……そ、そうね……」

 

 母親が気まずそうにして、自分たちの遥か後ろにいる源吾に視線を向ける。子供の言う通り、たしかに髪が白かった。それ以外は普通な為「そういう髪型の人もいるのよ、目は……多分気のせいじゃないかしら」と返した。だが続けざまに子供が、

 

「あとね、お母さん」

 

 

「――あのお兄さんの影にね、大きな尻尾のような物があったんだー!」




主人公(進行率80%)
帰ってから鏡見て、髪を染め忘れていたか!? と慌てる。あとカラコン(黒)を購入した

狐子
この日ずっと笑顔が絶えなかった。なぜだろうね(すっとぼけ)


なんか……忘れているような……。なんかあのカラス見ると、身体が震えるような……

源野
あっ(日付を確認)ふーん(察し)……

怨霊
恨みつらみが重なって無差別に人間を襲うようになっていた。この後ちゃんと成仏した。


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自覚した、させられた日

閲覧ありがとうございます!

言うまでもありませんが、この小説はフィクションです。

それではどうぞ!


 午前九時の朝。

 

 いよいよ明日には源野君が帰るという事で、ここ一週間はずっと源野君のリクエストの料理を振舞ったり、足らなくなった白髪染めを買ったり(今月五本目)、人生初のカラーコンタクトを買うことになったりしていよいよ以て自分の身体に起こっている異常についてそろそろ危機感を覚え始めた。

 

 医者に行っても

 

『私にもわからん』

 

 と、とうとう医者が匙を投げやがりくださったので、俺は帰りに白髪染めを買って帰る。そんな日々を送っていた。

 

 十中八九、狐子が関係していることは目に見えているが、狐子も分かっている筈だ。流石に日常生活に支障をきたすレベルでの変化はしないだろうと、良くて髪と瞳の色の変化か身体能力の変化とかくらいなら許容は出来た。

 

 

 だが、そうも言ってられない出来事が今日起こったのだ。

 

 

「それで? 何か言いたいことはある?」

「妾悪くないもん」

「『うすうす気づいていたけどまさか人間を辞めさせられたとは思わなかったよ。それも勝手に。俺に黙って』」

「古代日本語で圧を掛けてこないでくれんかのう!?」

 

 現在、我が家のリビングでは居間に正座させている狐子とその眼前に同じく正座している俺の姿があった。

 居間の空気はいつもよりも張り詰めていて、狐子も少しプルプルと震えていた。幸いにも星奈は学校に行ったし、源野君は少し遠出をすると言って家にはいない。俺と狐子の二人きりであるがある一点を除けば、特に平凡な一日の始まりの場面だったのだが……。

 

「それでさ……これ――」

 

 そう言いながら俺は立ち上がり――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を指さす。……そう、尻尾である。普通の人間にはない、尻尾である。

 

「どうやって消すの?」

 

 朝起きた時にやたらフワフワした感触があって目を覚ましててっきり狐子のかと思っていたら、既に狐子は先に起きて朝食を作っていたのだ。

 じゃあ、これは何だと思って後ろを見たら――まさかの俺から生えていたという。一種のホラーを体験したのだ。

 

 若干金が混じったような白色の尻尾は、本当に俺の腰から生えているらしく、自分でも操作が出来てしまう。今の俺の心情を表しているかの如く、床をペシンと叩いている。

 昨日の夜までは何ともなかったのにまさか一晩で腰から地面に着くくらいの大きさの尻尾が生えるとは思いもしなかった。というか誰も予想できないし、これを予想できる奴がいたら大人しく競馬か宝くじを買うことをお勧めしたいくらいだ。

 

 そしてこの尻尾を取り外すにはどうすれば良いかを狐子に聞いたら狐子は、

 

「無理♪」

 

 てへっ、とでも言いたげな表情と声色で無慈悲な宣告をした狐子に対して、俺はアレを行使した。

 

「『■■(伏せ)』」

「あべしッ!」

 

 一言だけでも喉の痛みを伴うアレこと――『全言語』と名付けたチート――を行使。瞬間、狐子は地面に突っ伏すことになった。

 

「お……おっほぉ……まさか、其方が妾に並びつつあるとは……あ、あとその尻尾は取り外せないが、見えなくさせることはできるぞい……」

「まぁ、それは良いt、いや良くはないんだけどさ。何で俺に黙っていたの?」

「……いやー、そのー……害がなければ何も言わないから……そのままの勢いで尻尾も生やせばいけるんじゃないかって……」

「『■■(伏せ)』」

「フォックス!」

 

 奇妙な声を上げながら再び床にべちゃっと音を立てながら伏せる狐子。

 

「まぁね? 俺も髪の毛を白くされたり、目を赤くさせられたり、身体機能が向上したり、寿命が消えたりしてもね? まぁ、それくらいのことは許容は出来たんだけどね?」

「うちの旦那許容範囲広すぎ……?」ボソッ

「黙らっしゃい」

 

 この後何とかして尻尾だけは消すことが出来た。その際狐子が「大体九割といった所じゃの……」とか言ってたが、まぁ、大丈夫だろう()

 

 

「ちなみに何で俺を人外にしようとしたの?」

「だって……ずっと一緒に居たかったから……」

「……」

 

 逆を言えば俺以外は死ぬんだな。と思ってしまった。

 

 

(これが、人間を辞める、ことなのか……つらっ……)

 

 

 外はザーザーと土砂降りだった。

 

 

 

□■□■

 

 

「――という訳で、本日のコラボ相手としてアオリさんが来ております」

「皆さま、ごきげんよう。アオリです~」

 

 リスナー:来たぁあああああ!

 リスナー:ついに来たか……! 万能同士のコラボが!

 リスナー:オッスオッス!

 

 今日は待ちに待った葵さんもといアオリさんとのコラボ。巷では既に『万能教室』とか『最強のふたり』等と言われていたこともあってか、いつもより多くの視聴者さんが来てくれている。

 

 結局人間を辞めさせられることになった俺だが逆に考えて、何時までもこの活動を続けられるのではないか(混乱気味)という考えに至り、気にしないことにした。

 

「あ、因みに後で多国語の字幕を付けたりするので安心してください」

「私も手伝いましょうか?」

 

 リスナー: い つ も の

 リスナー:多言語対応が二人いるとこうなるのか……

 リスナー:絵面が仕事手伝う部下と上司なんよ

 

「ははは、それはさておいて今回は二人で『ACE Heros』をやっていきたいと思います」

「FPSは得意ですので、楽しみですね」

 

 リスナー:あっ……(察し)

 リスナー:あかん(確信)

 リスナー:プレイスキルが可笑しい二人がペアを組む……?

 

「じゃあ、ランクマッチ行きましょう」

「お手柔らかに、お願いします……!」

 

 リスナー:残りの一人可哀想……

 リスナー:こんなのFPSじゃないわ! ただのキャリーよ!

 リスナー:だったらダメージ稼げばいいだろ!

 

 俺はコントローラーを握り締め――本気を出した。

 

 

 数時間後

 

 

【最高ランクに到達しました】

 

 

「あっ」

「あっ……」

 

 リスナー:は、はやくないすか……(震え声)

 リスナー:さっきから勝ち続けてたから……うん……

 リスナー:ちょ、二人の順位が一桁なんだが!?

 

 ランクがリセットされた段階つまり、だいぶ低いランクから始めたのだが……これまでに類を見ないスピードで最高ランクに到達してしまったのだ。

 

 この数時間の間に起こったことと言えば、ランク潜りながらそれぞれのVtuber始めた時のきっかけや他愛のない話をしながら、コメント返しをしていたのだが、気づいたら最高ランクに到達していた。

 なまじ俺と葵さんのプレイスキルがやたら高いことで、苦戦せずにここまでこれてしまったのだ。また最後の一枠に参加した日本人はもちろん、外国人にもボイスチャットを使った積極的な会話によるチームワークが取れたことも要因として挙げられる……と思いたい。

 

 リスナー:二人の連携がえげつなかった

 リスナー:即席で外国人とのパーティーを作れるの良いな

 リスナー:俺も英語がんばろうかな……

 

「ま、まぁ良い時間なので。これで終わりにしますか」

「ふふっ、先生。今日はお疲れさまでした」

「えぇ、お疲れさまでした。次のコラボでもよろしくお願いします」

「……………………え、あ、あっ、はい……よろしくお願いします……」

 

 若干歯切れ悪そうに返事する葵さん。何か具合が悪いのだろうか?

 俺は葵さんを心配すると共に、視聴者さんに向けても体調管理を促した。人外に片足突っ込んだ俺が言っていいのだろうか……とちょっと思ってしまった。

 

「さて、次は何にしましょうかね……先程のコメントを参考にして英語教室を行いましょうか……アオリさんその時はよろしくお願いします」

「……はい」

 

 リスナー:英語教室ヤッター!

 リスナー:アオリちゃんも来る!?

 リスナー:期末テスト対策助かる

 

「それではごきげんよう」

 

 

□■□■

 

 

 源吾が『全言語』による「『■■■■(光あれ)』」を詠唱した、二日後のこと

 

 

「――それは、本当か……?」

「間違いない。あの日、あの時間帯に、全世界の聖書から光が僅かに漏れ出したそうだ」

 

 重苦しい雰囲気が漂う場所にて数人が席を囲んで会議をしていた。円卓の中心にはガラスケースに収められた一冊の古めかしく分厚い聖書が開かれていた。

 

「教会の神父数名と、関係者、そしてなにより教皇猊下が目撃なされたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と」

「それが本当だとしたら……」

「――そうだ。救世主、あるいは……神の降臨を意味する」

 

 室内にどよめきが走る。

 

 この場にいる誰もが驚愕し、互いに顔を見合わせながらそれぞれの混乱を口にしていた。周囲がざわめきに包まれる中、

 

「静粛に。確かにこれらは紛れもない人類が長年見ることが出来なかった『神秘』の証明に他ならないのは確かである」

「ぎ、議長! では、あれを引き起こした存在をお迎えに行かなければ……」

「そ、そうだ! 少なくとも我々人類が待ち望んだ存在なのかもしれん! で、あればすぐに場所を特定して――」

 

「ならぬ」

 

 議長が一言そう告げる。それに対して困惑した様子の男は議長に強めの口調で疑問を投げかける。

 

「なぜです!?」

「もし、その迎えの時にその御方の機嫌を損ねることになればどうなる? また、その御方を迎える場所はどこになる? アメリカか? エジプトか? それともエルサレムか? 少なくともそこで宗教的衝突が起こってもおかしくないのは確かであろうことを認識したまえ。君はあの十字軍を再結成させ、国家間を巻き込んだ宗教戦争を勃発させる気かね? それこそ――第三次世界大戦の引き金を引くことと同じだ」

「む、むぅ……」

 

 不服そうに唸る男。

 

「【神が存在する】――その事実がどれだけの危険性を内包していると思うかね? よってこの事実を露呈することは非常に危険極まりないことだと判断する」

「議長!!」

「では、私はこれにて失礼する」

 

 

 

 反対と賛成の意見が綺麗に分かれ、議論という名の暴言が飛び交い始めた部屋から退室した議長。彼は周囲に誰もいないことを確認すると、懐から一本の電話を取り出した。

 

「私だ。多少の不安要素はあるが、“バベルの塔”もとい彼について知られずに済んだ。彼らが平和主義的な考えを持っていて助かった」

『了解。こちらも既に民間における情報操作を開始した。本格的に不味いことになる前に動けたのが正解だったな。今も議論をしている連中の中に同胞たちが入り込み、泥沼化させているのなら問題ないだろう』

「あぁ……今回の件は本人にとっても恐らく何か予期しないことがあり、結果としてアレを引き起こしたのだろう。まったく……現人神にでもなるつもりか彼は」

 

 そう漏らした議長の眼は――爬虫類特有の眼をしていた。

 

「ではこれにて失礼する。引き続き、SNS上における監視と宗教組織の監視も頼んだ」

『了解。そちらも気を抜くな。一歩間違えれば彼を巡っての戦争が起きかねん。それこそもし彼が死ぬことになったとしたら……この星は勿論、外の連中の全てが人類に刃を向けることになるぞ』

「はぁ……ここが現状にとっての最前線だろうな。何とか会議を泥沼化させ、空中分解させるとしよう」

 

 

 ため息交じりに電話を切った議長は、これから自分がやるべきことの課題について考え、実行に移すべく行動を開始した。

 

「……彼の居場所を知られる訳にはいかんな……やれやれ、ここまでの重労働は初めてだ」




主人公
尻尾生えた。白くて、大きくて、ふわふわの。
色々言いたいことはあったが、既に手遅れなことを察して狐子を許した。SAN値が今まで一番減った。

狐子
だって……ずっと一緒にいたかったんだもん


……次って、何?

議長
いつもの爬虫類。彼らが動かなければ全人類滅亡RTAが始まる所だった。とうとう彼らの胃に明確なダメージが発生した


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別れ時々……フォックス!

閲覧ありがとうございます!
いつも感想、高評価、誤字報告ありがとうございます!
これにて第五部は終了です! ですがまだ続きますで悪しからず

それではどうぞ!


 目覚ましの音が鳴り響き、意識が浮上すると共に目が覚める。もう朝のようだ。布団と自分の尻尾から伝わるぬくぬくした心地よい感触からの誘惑に抗いつつ、身体を起こす。すっかり人外になってから低血圧に悩まされることが無くなったことを実感しつつ、ぐいっと背伸びをする。

 眠っている時くらいには尻尾を出したまま眠ってやろうと思っていたことを思い出しながらいざ、立ち上がろうとすると――なんか、重い。

 

 具体的には昨日初めて尻尾の重さを実感したような、そんな感覚。そして薄々感じていたが、明らかに一本の尾だけのモフモフではないことに気づく。

 俺はため息を付きつつ、自分の後ろを振り返る。

 

「……なるほど?」

 

 俺の後ろには、三本の尾が見えていた。どうやら狐子に事実上の許可を出してしまったその一晩で、一気に三本まで行ったようだ。うかつに許可を出すことは人付き合いにおいても、人外との付き合いにおいても危険だという教訓と引き換えに得られた物が、明らかに釣り合って無さすぎると思った。

 

「はぁ……」

「おっはようなのじゃ!」

「来たな元凶。取り敢えず■■(伏せ)

「ヴォルペッ!?」

 

 有無を言わさず地面に伏せさせた元凶(狐子)に申し分を聞いてみることにした。

 

「それで? 一気に尾を一晩で三つまで増やした理由は?」

「許可(若干の諦め含む)を貰ったから、即行動に移したかったから――」

■■(伏せ)

「ルナルドッ!?」

 

 全言語と共に、今度は拳骨をお見舞いした。

 確かに今回は俺の不手際によるものだが、だからと言って行動に移すまでが早すぎる。俺は狐子の行動力の高さに頭を抱えながら尻尾を消してもらい、さっさと洗面台に向かった。

 

「……瞳孔が、縦長に、なってる……」

 

 この後狐子の耳元でASMR風に■■(伏せ)と呟き、目も戻してもらった。

 

 

 

□■□■

 

 

「――それで、俺に頼みたいことって何かな?」

 

 久し振りに祖母の食事を堪能した源野は、最後に源吾にあることを頼んでいた。

 

 自分が滞在してから人間を辞めることになった己の祖父のにっこりした笑顔を見据えて、源野はあるゲーム機を指さす。

 

「源吾さん。最後に一回、俺とゲームをしてくれませんか?」

「うん、いいよ。やるゲームは……」

 

 源野の脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。

 

 暇を持て余していると何処からともなく現れては、自分と一緒にゲームをしてくれた祖父。髪も白く、そして九つの尾を持った己の祖父の姿を。

 そういう時は決まって、祖父の尾をクッション代わりにしてもたれ掛かり、よく対戦用のゲームをしていた時の記憶が鮮明に蘇ってくる。そして祖父は毎回勝ち続けることはなく、自分が拗ねないようにと手加減をしていたことまで、印象に残っているのだ。

 

 そんな祖父の気遣いも去ることながら源野は、祖父の本気を出させたことが無かったことに歯痒い気持ちを抱いていたのだ。

 

 一度でも良いから、祖父に本気を出してもらいたい。その願望もあってか、未来での源野は空き時間を活用してゲームの腕を磨き、世界大会で優勝するレベルにまで至った。

 しかし、大学生であることとその勉強に明け暮れることになってからずっと、ゲームに触れることが少なくなっていったのだ。当然、祖父とのゲームもここ数年はしていない。

 

 

 ――だからこそ、源野はこの機会を待ち望んでいた。

 

 己の祖父が身近にいること、そして自分にその時間が訪れたこと、そして今、己の祖父は自分を孫ではなく、ただの「源野」としてこの挑戦を受けて立ってくれることを待ち望んでいた。

 

「じゃあ、このスマブラでもやろうか」

「えぇ、手加減は無しですよ」

「うん、じゃあ……やろうか」

 

 源野はコントローラーを握りしめ、集中力を極限まで高めるために、()()()()()

 

■■■■■■(集中)

 

 

 

(クソ……さっきから全く勝てない……ッ!)

 

 三十分が経過した頃、源野は三回中三回とも負け越していた。

 集中力を極限まで高め、源吾の使用するキャラの一挙手一投足を見逃さないように、そして対応できるようにしている筈の自分が完全に押されていることに驚愕していた。

 

(ただ強いだけじゃない……常に最適解を出し続け、それを失敗しないようにしているから……ここまで強いんだ!)

 

 源野は知る由もないが、現在の源吾のゲームスキルは数年前と比べて著しく向上している。それこそ狐子と関わるようになってから肉体的にも精神的にも強化された源吾は、まさに隆盛を極めている最中であった。源野が苦戦している横で、一切の無駄なく、手元を動かしている姿からは恐怖の感情すら湧いてくるだろう。

 まるで機械やソフトが操作しているかのようなその動きは、源野の極限の集中を以てしても追いつけていなかった。

 

 そして自分のキャラが撃墜されたタイミングで、源野はちらりと隣にいる源吾を、具体的には目を見た。

 

(あれが爺ちゃんの本気……!)

 

 血のように真っ赤で、獲物を狙い定めるようなその目を前にして源野は、改めて祖父の本気を目の当たりにしているのだと認識し、再びゲームに意識を向ける。既にストック差は三つ付いており、源吾は未だに一度も撃墜されていないことからもかなり追い込まれた状況にあることは容易に想像できる。

 加えて源野の額に汗が浮き出ているのに対して、源吾は汗一つ見せず、また一向に消耗したような印象さえも無い。

 

(まだだ……ここで、挽回して見せる……ッ!)

 

 これまで自分が戦ってきた対戦相手は確かに強敵だった。自分と違って生活の全てを掛けて挑んでくる彼らを倒せたのは奇跡にも近しかったことだった。だからこそ源野は確信する。

 

 源吾は今まで戦ってきた者たちよりも遥かに強いことを。

 

(ほんとに……ッ! 未来でもT●Sの擬人化とか言われるだけのことはあるよ……!)

 

 画面では相変わらず、源野の操作するキャラが攻撃を繰り出しては、寸分の狂いも無いジャストガードによる最適な防御と回避で反撃を受けている。かといって近寄ってガードを貫通する掴み攻撃をしようとしても掴み動作自体を弱攻撃で潰されたり、逆に掴み返してくるので一向に攻撃できずにいた。

 

 そして何よりも、源野の使用するキャラは源吾の使用するキャラに対して攻撃範囲、耐久性、一撃の重さなどの優位を取れるようなキャラであるのに対して源吾の使用するキャラはというと、攻撃範囲もそこまでで、耐久性もあまりないキャラであるが、唯一持っている特性の『ランダムで出た、数値の値によって攻撃能力が変化する』という仕様のキャラであった。

 

 そもそも源吾も、源野も運に関しては人類の中でも類を見ない程に悪い。それこそ源吾が使用するキャラも運任せの筈――だった。

 

 源吾の使用するキャラの攻撃には唯一の当たりの出目がある。そしてその値が出る時には殆どの人間が気付かないある特徴を持っていた。

 それは――当たりの出る瞬間だけ、キャラの動きがほんの僅かに遅くなるということだった。

 

 そう、源吾は相手にその技を繰り出す寸前まであらかじめ自らの出目の確率を少しでも高めるために、攻撃が当たらない場所で素振りをして次に来る出目を絞り込み、そして相手が気絶などの無防備な状態になった際に確実にその一撃を叩きこむために、技を出したその瞬間に当たりかどうか(その間わずか1秒足らず)を判断して、攻撃を確実に当ててくるのだ。

 そしてそれを叩きこむために最適な立ち回りを行い、相手の気絶や無防備状態を誘発してくるという立ち回りが、あまりにも完成され過ぎていた。

 

 さらにそれだけではない、源吾の使用するキャラ全てにそれぞれ完成された戦術が確立されており、それを攻略したとしても源吾が相手の弱点を判別し、即座に相手の弱点を突く戦術を開発する為、キャラがどうこうの問題ではなくなっていたのだ。それこそ持てるスペックを総動員してゲームをしているのだ。

 

 

 だが、一方で源吾も

 

(マジか……葵さんとかちょっと前に対戦した世界ランク一位の人よりも強いかも……)

 

 今まで戦ってきた人物よりも強いことを実感していた源吾。今まで制限時間まで行かずに決着が着いていた源吾からしてみれば、制限時間まで決着が着かなかった際のサドンデスに持ち込まれたこと自体に内心、かなり焦っていた。

 自分が人外に近づく過程で肉体的にも一番活力があったころに巻き戻り、精神的にもある程度成長していた源吾のスペックは常軌を逸していた。だが、そんな自分に追いつける存在がいたことに源吾は『何となく上位者の気持ちがわかるわー。めっちゃワクワクするわこれ』と歓喜していた。

 

 そして四回戦目が始まってしばらくして――遂に源吾は、初めて撃墜された。

 

「ッ!?」

「良し……ッ!」

(マジか……!)

 

 源吾が常に相手側に完全に対応するように、源野も源吾の動きに慣れ始め、対応した先のことを考えていた。

 

 要するに“相手が自分の行動を先読みするならそれすら先読みし、それを実行する”という半ば未来予知に似た所業をやってのけたのだ。

 相手が自分の行動から迫りくる攻撃を予測し、避ける――なら、そこを敢えて攻撃せずに相手に一歩踏み入り、攻撃を与えるということを繰り返した。

 

 

 そうしたこともあってか、四戦目にして遂に――源吾は初めての敗北を喫した。

 

「や……やった……勝った……勝ったんだ……!」

「……凄い」

 

 幼少期からずっと出させることが出来なかった祖父の本気を、真っ向から打ち破ることに成功した源野は、息を整えながらリザルト画面を見つめ、放心していた。

 源吾も、自分を真っ向から打ち破った源野に対して、心の底から賞賛していた。

 

「おめでとう……源野君」

 

 

 

「本当に、ありがとうございました!」

「こっちも、一か月楽しかったよ。また来てね」

「ばいばーい、源野お兄さん」

 

 ゲームを終えた後、いよいよ源野が帰る時間になった。源野を見送る為に玄関先に全員が集まり、源吾も星奈も別れを惜しみながらも声を掛けていた。

 それに対して源野は、この先会えるはずも無いという事実に寂しさともの悲しさを覚えつつも、笑顔を見せそれに答えた。

 

「……ありがとうございました! ()()()、会いましょう!」

「おっと、ついでにこれも持っていくのじゃ。無病息災を願った儂特製の御守りに……星奈と源吾からの贈り物を」

 

 狐子がそう言って手渡したのは、幾つかの護符とマフラー、そして源吾からの贈り物は――オリーブの葉の模様が刻まれたブレスレットだった。

 源野はそれらを受け取ると、涙が出るのを必死にこらえた。

 

「ど、どうかな? 少し変だったかな……?」

『源野、誕生日おめでとう! おじいちゃんから源野にこれをプレゼントするよ!』

 

 僅かに源吾の姿がぶれ、昔の記憶が再び過った源野は涙腺が脆くなるのを必死に堪えて、堪えて……涙がこぼれてしまった。

 

「い……いえ……! とても、とても嬉しいです……!」

「あ、それと……」

 

 涙目ながらに感謝を伝える源野の耳元に狐子が近寄り、

 

『未来の儂に、よろしく……のじゃ』

『……はいッ……!』

『それじゃあ、元気での』

 

 

「皆さん、本当にありがとうございました! ()()()()()、お会いしましょう!」

 

 そう言いながら源野はどこかへ走り去っていった。未来へと帰る為に、予め定められた目的地に向かって行ったのだ。

 

 

 去り行く背中を寂し気に見つめる源吾。なぜか心にぽっかりと穴が空いたような感覚を味わいつつもそれが何なのかはわからなかった。

 

「行っちゃった……」

「寂しいかの?」

「……うん、やっぱり……別れは、寂しいや。なんで、だろうね……源野君と別れるのが、本当は見知らぬ学生だった筈なのに、ね」

 

 湧きあがる哀しみの感情に源吾が戸惑っていると、狐子がそっと寄り添って源吾をその大きな尾で包みながら抱きかかえた。

 

「……別れは寂しい物、確かに其方は人間を辞めたが為に、常に見送ることになってしまった。じゃが――その度に出会うであろう、新たな縁が」

「……うん」

 

 

 しみじみとした雰囲気が流れる中、唐突に狐子の抱擁する力が増した。

 

「さて――今夜は激しくするぞ」

「 な ん で ! ? 」

 

 雰囲気を完全にぶち壊した狐子の発言に、戦慄を覚え逃げようとするも――既に尻尾で包まれた状態の為、逃げようがなかった。

 

「さぁ、なんであろうな? ほら、今日は精力を付ける料理を振舞うからのう」

「ちょ、えっ待って?! せめてこういう話は星奈抜きにして――」

 

「……弟でも妹でも良い」

「星奈!? ちょ、流石に■■(伏せ)!」

 

 しかし

 

「あーあー、聞こえんのう」

「耳栓!? 何時の間につけたの!?」

「まぁ、何を言っているか分からんが……これは決定事項じゃ」

「おぁああああああああああ!?」

 

 この日人外になってもなお、死にかける男がいたそうな。




主人公
人外スペックを以てしても負けたことに歓喜した。源野との別れが一番辛かった。この後文字通り死ぬほど絞られた。

狐子
あーあー、耳栓付けておるから聞こえんのう。さぁ、やろうか。

星奈
成長期に入ってごはんを沢山食べるようになった。スタイルは同年代にしては中々の物。

源野
全力の祖父を打ち倒せて大満足。この後教授と海外でとある仕事をしていた父にこってり怒られた。父はネグレクトしていた訳でなく、土日に仕事が被ることがあったり、緊急の用事(国家機密レベル)で召集されることがあっただけ。


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第六部
女神、ハジケる


閲覧ありがとうございます!
いつも感想・高評価・誤字報告ありがとうございます!

それではどうぞ!


「さーてさて、【未来】はまあまあ面白かったし、いい玩具()も見つけたし、何か日本人が描いた私でも意味が解らなかった漫画を読んでSAN値が減ったけど、さっそく次行ってみよー!」

 

 と、意気込んでいる女神の背後には、頭部を捻じ切られたナニカ――猟犬と呼ばれる存在の亡骸が打ち捨てられていた。しかし女神は気にも留めず、血だまりの中でせっせと手を動かしていた。

 

「んー、邪魔」

 

 亡骸を乱雑に、適当に投げ捨てながらも手を動かしている最中。

 

 ふとその手が止まった。

 

 

「ん? 待てよ? 人間を辞めたんだっけ?」

 

 ニヤァと口角を三日月のように上げた女神は、何もない空間からある箱を取り出した。

 

 

 

「じゃあもっときっついの、行こうか!!」

 

 

 この場に源吾がいたら間違いなくあらゆる手段で止めさせるだろう。それほどの厄ネタを引っ張り出そうとしてきたのだ。

 

 手のひらサイズの錆び付いた青銅の箱からは、禍々しい瘴気が目に見えるほどに溢れ出していた。常人ならば見ただけで心神喪失(SAN値チェック)をしかねない程に、あまりにも邪悪すぎる代物だった。

 

 そしてそんな箱の鍵穴に、豊満な胸元から取り出した鍵を差し込む。

 中から幾つかの紙切れが出てきた。女神はそれを一つずつ拾い上げていく。

 

「【第三次世界大戦】に【異能所持者】、【狂信】に【襲来】そ・し・て――」

 

 拾い上げた紙をカプセルの中に入れながら、まるで歌を歌うように気分よくカプセルに紙を入れていく。そして最後の一枚。

 

 

「【邪神降臨】」

 

 その紙だけ、真っ黒な紙に、真っ赤な文字で書かれていた。

 その単語を読み上げる瞬間の女神の表情は能面のように真顔で、人を真似ただけの人形と言われても遜色ないほどにまで、虚無だった。

 

 だが、それをカプセルに入れ終わり、地面に転がっていたカプセルを謎の四角形の機械に入れ終えた。その時には既に、能面のような表情から愉悦に満ちた笑顔で溢れていた。

 

 

 そして肝心の四角い機械は――自販機であった。

 

 『あったか~いの』『つめた~いの』『絶対零度』『阿鼻叫喚』『血のようにあったか~い』と突っ込みどころしかない項目しかなかったが、これも全てこの女神の計らいである。

 

 

「さてそれじゃあ――ビン●マシンGOGO!」

 

 とんちきな掛け声と共に手元にあるボタンを押した。自販機のスイッチは押されなかった。残念。

 

 

 瞬間、光が女神の足元から溢れ――

 

 

「ぎゃああああああああああああ!!」

 

 

 爆発した。

 

 

 人間なら即死するレベルの大爆風と轟音が空間の隅々まで行き渡り、凄まじい爆風と衝撃が女神を襲った。

 

 結果として女神はズタボロになった。

 

 

「くっ、くそう……やっぱり【起動スイッチ兼何が起こるか分からないボタン】なんて、作るんじゃなかった……!」

 

 そうして勢いよく動き出した機械からは、独特の起動音とおおよそ機械がたてられる筈のない人間の悲鳴や断末魔、骨や肉の砕ける音が聞こえていた。

 しばらく混沌とした状況が続いた後、遂に振動が止まり、自販機の出口

 

 

 ――ではなく、お釣りの排出口からカプセルが出てきた。

 

 

 それをなぜかアフロになった女神が掴み、中身を開けた。

 

「中身は……おっと?」

 

 【狂信】と【襲来】の二つの文字が書かれた紙が、二つ出てきた。

 

「まさかの二つ……!? 興奮するじゃないか♡」

 

 どこぞのピエロのごとく興奮した女神は、うきうきでそこら辺にあった元猟犬の亡骸に腰かけた。

 

 

「さーて……どうなるかな?」

 

 

□■□■

 

 

「貴方は神を信じますか」

「帰ってください」

 

 本日三回目の宗教勧誘を断りながら、俺はドアを閉める。

 最近になってやけに宗教の勧誘が俺だけでなく、近所の人たちが何度も何度も勧誘を受けて警察沙汰になるまで、発展したのだ。

 

 ……元凶は俺らしい。

 

 以前俺が、■■■■(光あれ)と言った同時刻、全世界の聖書が光輝いたらしい。えっ、なにそれは……。

 

 そのことをキレ気味にレプティリアンから告げられた時は流石に電話越しに土下座した。本当に申し訳ないと思っている。事実隠蔽、言論統制を行うためにここ一週間、一日も、一時間も、一秒たりとも休めなくて遂に過労死寸前まで行ったらしい。マジで……申し訳ない。

 

 だが、そんなレプティリアン達でも大衆のSNSやテレビなどの媒体は何とかなったが、個人間までは防ぎようがなかったらしい。

 

 世界各国で聖書が光るという現象を目の当たりにした聖職者や宗教関係者が口々に『神がお戻りになられた』と述べ、すぐさま行動に移したらしい。

 真っ当な聖職者は、より一層の業務に励み、各地の教会が新品同然にまで磨かれたり、神に対して失礼がないようにとわざわざ新しく教会を建てている所もあるとのことだ。

 

 そうした人々は他の人々に、その現象を話そうとする場合があるものの、レプティリアン達が禁じ手である『サブリミナル効果』や『催眠』を用いて『神を言いふらすことなど、あってはならない』としてある程度の封じ込めに成功している。……一部を除いて。

 

 

「貴方は神を――」

「帰って♡」

 

 本日四度目の訪問。

 この通り、テレビ等の映像媒体を殆ど見ない連中がいる訳で。

 

 どうやらこの騒ぎに便乗して一部のあくどい連中が、金策を思いつき詐欺まがいの心霊商法を行っている。とはいえほんとに一部だけで、SNS上でも「最近、変な宗教勧誘が増えたねー」程度まで抑え込んでいるらしい。

 

「あn」

「帰れ(半ギレ)」

「やらないか」

「帰れ(懇願)」

 

 ……たまたまこの地域に聖書を持っていた人間が多かったのか、とにかく宗教勧誘がやかましい。どこぞの放送局も真っ青なペースで迫ってくるのだ。なるほどこれが世紀末か(元凶並感)。一部違う奴もいたがもはや誤差の範囲内だ。

 

「私が神だ」

「もしもし警察ですか?」

 

 かといってパンツだけの男が来るのは違うだろ。

 

 

 

 

「――というようなことがあったんですよ」

「……先生の住んでいる地域って、ほんとに日本ですか?」

 

 

 リスナー:N●Kよりひでぇや……

 リスナー:ノータイムで通報したのもはやギャグだろw

 リスナー:何このホラーより怖いホラーは

 リスナー:英語配信の合間にする話じゃねぇ!

 

「さて、話が逸れた所で次は、リクエストの多かった“リスニングで思ったよりも聞き取れない問題”について、私の見地から語れる対策について話していきましょうか」

「リスニング問題は、確かにそうですよね~」

 

 リスナー:リクエストキタコレ!

 リスナー:まぁ、慣れてないときついよなぁ……

 

「まず……リスニングの問題で出される英文、とその中にある単語……例えば『What are you~』の発音ですが」

「最初に躓きそうな問題ですよね。一文字ずつ『ワット』『アー』『ユー』と頭に強く残っているほど、ですね」

 

 リスナー:あー

 リスナー:こういう時って『わらゆー』って発音してるわ

 リスナー:基本的に会話では発音をつなげるんよなぁ

 

「コメント欄でもある通り、リスニング問題とか会話では一字ずつ区切らず、省略する場合殆どですよね。話す分には問題は無いんですけどね……」

「今回のリスニング問題では、って考えるとまず聞き取れないことには話になりませんからね」

 

 

 リスナー:伝わればいいしな。話す分には

 リスナー:日本語でもそこは同じやね

 リスナー:わからなかった時もちゃんと声に出して言えば大体何とかなるなる

 

「余談ですが……英語を教える分にはまだいいんですよ。海外のVtuberの方とかに日本語を教えるとなるとかなり厄介でして……」

「あぁ……」

「よく、なんで『生』の字ってあんなに読み方があるんですかと言われたりするんですよ」

 

 

 リスナー:生きる、生える、生む……

 リスナー:Q.読み方は幾つあるんですか?

 リスナー:A.150種類以上

 リスナー:狂いそう……(留学生並感)

 

「まぁ、さっき上げた『What are you~』の場合だと、『What』の『t』と『are』の『a』をつなげるようにして……『ワラユー』と聞こえるようになります」

「他にも基本的に省略するような部分はあるんですけどね。単語とかは覚えているけど、発音とかを疎かにしている人は多いんじゃないんでしょうか? 例えば……単語テストで赤点回避の為だけに単語だけを見るにとどめている人とか……」

 

 リスナー:ギクッ

 リスナー:HAHAHA

 リスナー:その様なことがあろう筈がございません(早口)

 

「日本語を覚える時も、英語を覚える時も発音が大事ですからね。音声付きの単語帳とか使うのもいいですし……それがどうしても嫌だ、って人は授業終わりのほんの一分、英語の教師の方に聞いてもらう方が良いでしょう」

「流石に一単語を教えるのを拒否する人なんて……あっ、流石に放送禁止用語とかはやめておいた方がいいですよ~」

「ちなみにこの企画段階で血迷ったスタッフさんが『いっそのこと放送禁止用語とかネットスラングを解説する配信とかどうです』と言ってました」

「後半は良いとして……前半は何なんですか!?」

 

 

 リスナー:草

 リスナー:アカンこのチャンネルBANされるぅ!

 リスナー:流石にそれは血迷いすぎでは

 リスナー:でも普通に見たかった

 

「――というかちょっと待ってください!? 企画段階ってことは……そこに私も参加しそうになったのですか!?」

「企画自体、私とアオリさんが参加すること前提ですからね」

「あ、危なかった……!」

「……その提案をしたスタッフさんは、色々あって休養中です」

「闇が深い!」

 

 

 リスナー:怖い

 リスナー:ここで話しているってことは、そんなに大事じゃなかったんだ……

 リスナー:アオリちゃんが放送禁止用語連発……

 リスナー:いやじゃ! そんなアオリちゃん見とうない!

 リスナー:ピー音だらけになりそう

 

「さて、名残惜しいですが丁度九十分が経ったので終わりにしましょう。皆さんお疲れさまでした」

「皆さんごきげんよう」

「あっ、次もお願いしますねアオリさん」

「え」




今回の勉強法は作者が教わったやり方なので、あしからず

主人公
自分のいる地域だけ聖書の光具合が半端なかったとか聞かされてさらに頭を下げて地面にめり込んだ男


偶に素が出そうになる

女神
実は90%の確率で【邪神降臨】が出るように仕組んでいた。外した。でもいいや!
最近とあるハジケリストの漫画を見て、若干汚染された。


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大いなる力には、大いなる責任が伴う。

閲覧ありがとうございます!


 配信を終えた俺は本日6度目の宗教勧誘を回避し、コンビニに来ていた。目当てはコンビニ限定スイーツのケーキだ。

 

 胸を躍らせながらコンビニに向かっていると、道端で一人で泣いている女の子を見つけた。親が近くにいない辺り、恐らく親とはぐれたのだろう。

 

 俺はわんわんと泣いている子供と同じ目線に立つようにして腰を落とし、声を掛けることにした。

 

「大丈夫かい?」

 

 しかし、どうやら聞こえて無いようだった。

 

 試しに言語を幾ら変えても聞こえていないのか、相変わらず泣き続けるばかり。ちょっと困ったな。

 泣き声が大きすぎて聞こえていないのか、それとも――他の要因があるのか。

 

 少し困り果てていると、女の子がこちらに気づいたのか何やら手を動かしながら俺に語り掛けてきている。とても必死な様子でひたすらに何かを伝えたがっているようだ。

 

「……もしかして」

 

 と、思った瞬間。

 

「……ッ! 久しぶりの感覚……!」

 

 チートが発動した感覚が俺を襲った。そしてこの子が何を伝えたかったのかが口では無く、手で理解することが出来た。

 

 この少女が求めていたのは、日本語でも、ましてや他の国の言語でも、全言語でもない。

 

 

 ――手話だ。

 

 

 俺は自分の意思を伝えるべく手を動かしながら、少女との対話を試みる。

 

『大丈夫かい?』

『えっ、お兄さん……手話がわかるの?』

 

 どうやら本当に手話を求めていたようだ。

 そしてこの子の名前は愛梨と言うらしい。

 

『うん、さっきはごめんね。君が聞こえないのにも関わらず、話しかけちゃって』

『ううん、大丈夫。ありがとうお兄さん……』

『君はお母さんやお父さんとはぐれたのかな?』

 

 はぐれてしまったであろう、親について質問を投げかけてみると

 

『ううん……違うの』

『ん? それはどういう……』

『私、逃げてきたの』

『……逃げ、た……?』

 

 嫌な予感がする。

 

 よくよく愛梨の身なりを見てみると、色々とおかしかった。

 

 まずこの寒い季節なのにも関わらず裸足であったことに加えて、やたら服がボロボロだった。傍目から見ても気づかなかった。

 さらに髪の毛に至っては、手入れがされていない状態であり、頬も痩せこけてまともに食事をしていないことがわかってしまう。

 

 明らかに只事ではない。

 

『……君は、何で逃げ出したの?』

『お母さんが、おかしくなって――』

 

 しかし突然、愛梨が表情を強張らせ、俺の背後に視線を向ける。一体何が……

 

「愛梨」

 

 とても威圧的な声だ。凡そ親が子供に向けるような、そんな声ではない。

 

 俺は愛梨の母親らしき人物の方に振り向き――絶句した。

 

「あっ……あぁ……」

「こんな所まで逃げて……オオミヤ様がお待ちよ」

 

 明らかに正気ではない眼に、愛梨以上にボサボサの長髪。見た目も相まってそんじょそこいらのホラーゲームよりもヤバいと言える。

 

「あら! 貴方もオオミヤ様のご加護をお受けになるのかしら!」

「……いえ、それよりもなぜこの子を」

 

「貴方もオオミヤ様のご加護を受ければ幸運が訪れて、毎日が幸せになるのよ! 私もかつては半信半疑だったけどこの前突如として聖書が輝いたの! つまりオオミヤ様は存在して、しかも私達を見てくれているの! 生まれつき耳が聞こえなかったこの子も今すぐオオミヤ様の儀式を受ければ今すぐにでも――」

 

 

「聖書が、輝い……た……?」

 

 

「えぇ! そうよ! さぁあなたも――」

 

 聞くに堪えない。

 

 どうやら愛梨の母親は狂ってしまったようだ。それで愛梨が逃げ出したのも頷けるが、同時に俺はある一つの感情に支配された。

 

 ――死にたい

 

 元はと言えば俺が原因だ。俺が聖書を光らせる様な真似をしたからこんなことになったのだ。……自分のしたことには、自分が何とかしなくてはな。

 

「さぁさぁ! 今すぐにでもオオミヤ様の下へ行きましょう! そうすれば貴方m」

■■■■■■■■(信仰を捨てろ)

 

 

 

 

「誰ですかな? おぉ! 佐々木さんじゃあありませんか! 隣の人は新たな信者d」

■■■■■■■■(信仰を捨てろ)■■■■(忘れろ)

 

 俺は愛梨の母親を一時的に操り、そのカルト宗教の本拠地に案内してもらい、そこにいる信者……もとい詐欺集団を撲滅させることにした。

 

 これは俺の罪滅ぼしだ。

 

 ただの幼い少女に悲しい思いをさせたことに対する贖罪と調子に乗った自分に対する戒めを込めて、責任を取る。

 愛梨の母親は今は虚ろな表情をしているが、事が済めばこの宗教に関わる前の状態に戻すつもりだ。

 

 案内された家から出てきた男に対して全言語を使用。喉の痛みが出始めた。

 

「どうしたのですか!?」

■■■■■■■■(信仰を捨てろ)■■■■(忘れろ)

 

 突然倒れた男に駆け寄ってきた数名に対して全言語を使用。血が出始めた。

 

 信者たちは洗脳されていたが、再び目覚めた時にはこのことはすっかり忘れるだろう。

 

 そしてこの光景を見て仰天した様子の信者たちにも同様に、全言語を。

 

「グッ……」

 

 ずきんとした鈍い痛みと共に、視界が赤く染まり始めた。頬を伝う温かな感触が俺の眼から出ていることに気づく。更に鼻血まで出始めた。

 

 信者たちは、まだいる。

 

 重い体を引きずるようにして全言語を行使しようとして――吐血した。

 

「ゴフッ……」

 

 遂に体が痺れ始めた。息も荒くなり、全身が悲鳴を上げるような痛みが襲ってきた。

 信仰を捨て去る、という余りにも大雑把で、大きい意味を持った言葉。これまでの全言語では比べ物にならないレベルの負荷が俺を襲う。

 

 どうも以前から近所にあった宗教で、俺が引っ越してくる以前から、存在していただけに割と人数はいたらしい。そして今回の騒ぎでさらにその規模と内容が過激化していた。

 

 愛梨の母親から催眠で聞き出した通りだと、信者たちの大元は法外な値段で聖書等を信者たちに売りつけるようになったり、自らを『神に選ばれた』として信者との肉体関係を迫るようになったりとただの糞野郎に成り下がっていた。そして俺もそれに劣らないレベルだと思い知らされる。何せ、そいつの強欲を招いたのは他でもない、俺だからだ。

 

 

 廊下に倒れ伏していく信者たちは、このことを忘れ、普段の日常を取り戻すだろう。

 

 しかし、愛梨と俺は違う。

 愛梨は母親から受けた虐待まがいの所業を忘れることは出来ず、俺はこの事態を引き起こしたという事実を一生抱えることになる。そして何よりも恐ろしいのは、今回の事例がたまたま俺に見つかっただけで、本当はもっと多くの人が今も犠牲になっていることだ。

 

 レプティリアン達の工作で大きな事件には発展してないが、こうした小規模の範囲で行われているという事実が今、まさに目の前で起こっている。

 

 俺はこれまでにないほどに動揺していた。

 ドグラマグラを読んだ時も、ヴォイニッチ手稿を読んだ時も、怪異に遭遇した時よりも、何よりも恐ろしいと感じた。

 

 

 ――全言語はただ単語を発するだけならあまり反動はない。命令をする時に反動が来るだけだ。

 

 いつも狐子に対してやっている分にはまだ大丈夫。

 

 しかし今回のように大勢の人間にほぼ同時にかつ、複雑な命令を与えるとなると、人間の身体では限界が来るようだ。

 今も目からとめどなく出血し、鼻血は勿論口からも大量の血が溢れ、吐血する。喉の奥から尋常ではない痛みと血が沸き上がり、布代わりの袖を赤く染める。

 

 手足の先も震え始め、立つのもままならない状況だ。後で狐子にどやされるなと思った。

 

 震える身体に鞭を打ちながら俺は信者たちの大元……救世主と崇められている人物がいる部屋の扉を開ける。

 

「だ、だれだ貴様は!」

 

 男の部屋はそれはもう、悪趣味。この一言に尽きる。

 

 かすむ視界の中でも分かるほどに部屋の隅に積まれた大量の札束と、自分の血の匂いに混じる汗と、合意なしの営みを繰り返した悪臭が伝わってきた。

 俺はコイツの欲望を助長させてしまった。そしてこのような事態を招いたという事実を、心の奥底にナイフのように突きつけられた。

 

「ガフッ……いいか、■■■■■■(嘘を付くな)。お前は信者たちを騙していたな?」

「そうだ! ……待て! 私は何を言っている!?」

「……お前は、聖書が光った時、何て思った?」

「信者共から金を巻き上げられるとな! …………どういうことだ!? なぜ、私の口は……! 私は神に選ばれた存在なんだぞ!?」

 

 男の口からは次々と、自身の欲望が述べられて言った。

 

 聖書が光った時、信者の一人が駆け寄ったことで都合よく金を巻き上げられるように信者たちに、自分が聖書を光らせたとして崇めさせ、自身の欲望を満たしていったという。

 

「な……るほど、正直安堵した。なんの躊躇いも無く、全言語を使用できそうだ……」

「……何のことだッ!! 貴様ッ! ここから生きて帰れるとも!?」

 

 そう言って男が机から取り出したのは――拳銃だ。

 

「信者たちに集めさせたか。それとも、元から持っていたか……?」

「上の連中から渡されたものだ!」

 

 どうやらコイツの背後にも色々といるらしい。後でそいつらにも()()()()()()をしなければならないようだ。

 

「死ね!」

 

 三発引き金を引いたようだ。

 

 そしてその三発は、それぞれ俺の胴体、左腕、そして脳天に直撃した。一瞬、意識が途切れるような感覚がした。

 

 体がふらりと、後ろに倒れる――その寸前に、足を前に踏み出して踏みとどまる。

 

「な……な、なぜ、死なない……!?」

 

 どうやら本当に人外になったようだ。

 今も出血はしているし、痛くもある。だが、死ねないようだ。

 

 とは言え俺もまだやることがあるからそれはある意味好都合だ。俺は残った右手をゆっくりと男に向けながら

 

■■■■■■■(罪を償え)■■■■■■■■■■(俺のことを忘れろ)

 

 こうして、一つの組織が壊滅した。




主人公
この度人外スイッチを振り切ることを決意。
なまじ責任感が無駄にあったが故に責任を取ろうと必死だけど、自分が嫌悪していた『会話が通じない存在』になりつつあるのを認識できていない。

誰かが止めないと、本当に死ぬ。

狐子
「……」

女神
女の子は曇らせちゃだめって聞いたことがあるけど、男の子は幾らでも曇らせてもいいって言われているからヨシ!


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ここに至るまでの、追憶

閲覧ありがとうございます!
ACの新作が来るとのことで、身体が闘争を求め始めました。


 あれから俺はひたすらに、今回の件で良からぬ動きを見せている組織を片っ端から潰していった。

 

 俺の前には誰も嘘を付くことが出来ず、また隠そうとしてもそれを全て暴く。

 だけど誰も死傷者は出していないし、俺以外に血は流していない。弾丸なんかは、避けようと思えば避けられるのだが自分から当たりに行った方が相手の隙を突けるからだ。

 

 そうしたこともあって、ここ1週間はまともに家に帰っていないし、スマホも充電切れでAiはとっくに機能していない。狐子とも、星奈とも、葵さんとも、社長とも、そして家族とも連絡を取っていない。俺は、一人で何とかするつもりだ。

 

 そしてこの先、また同じような組織に忍び込んだら、後は相手の対応を聞く前にこちらから、全言語を使用して有無を言わさない。なぜならそいつらは、悪意ある対話という手段を以て善人を騙し、被害を顧みない連中だったからだ。

 

 

 ……だけど、なんで全言語を使用する度に、俺の心が悲鳴を上げるように締め付けられるんだろうか。相手は悪人の筈なのに、なんで?

 

 今も

 

■■■■■■(嘘を付くな)

「ウグッ……!?」

「お前の同業者はいるか」

「い、いる……」

 

 観念した様子の男から携帯を受け取り、相手方の住所と場所を覚える。次の場所は……

 

「――かかったな! 死ねェ!」

■■■(止まれ)

 

 相手が何かをしてきそうになったが、それに合わせて全言語を使用する。すると男はピクリとも動けなくなり、手に持っていたであろうバールを手から落とした音が響く。俺はというと既に潜む組織の場所を探り当て、男に対して再び全言語を使用、そして証拠を残すことなくその場を後にした。

 

 

 辺りはすっかり夜が更けっていて、先ほど潰した組織のアジトが森林の中にあっただけに、木々の間を縫うように差し込む月の光と、ガサガサと草を掻き分ける音と微かに聞こえる動物の声が聞こえてくる。前方にこちらを見つめる2匹の犬がいた。

 

「ワ……ワフ……ゥ……『おい……何だよ……あれ……』」

「キャ……ウゥン……『お、おい……逃げようぜ……!』」

 

 どうやら相当怖がられているようだ。恐らく俺の身体に付いた(自分の)血の匂いがキツいのだろう。しかし俺にはやることがあるのでそいつらに構うことなく素早く目的地に向けて一直線で進む。

 

「カー『あれは……ヤバい!』」

「カー!『逃げろオォオオオオオオ!!』」

「ワンワン!『ヒィイイイイ!』」

「ニャー!『逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!』」

 

 ……ところで、どうやら狐子の加護が切れたのか、俺の腰からは九本の尾が生えていた。――しかし、それは普段目にしていた白色ではなく

 

 

「……赤、か」

 

 まるで地獄を体現したかのような色合いの濃い赤色の尾が九本、ゆらゆらと揺れていた。

 俺が歩くたびに、周りの動物が誰の目から見ても分かるほどに恐怖しているのがわかる。真夜中の森林なのにも関わらず、それが判る辺り既に俺の目も人外のそれになっているんだろう。

 

「カー!『おい、アイツ気づいてないのかよ!?』」

「カァーッ!『いいから逃げろ! あれは……人間でも、狐でもねぇ! ましてや神でもねぇ!――ただのバケモンだ!!』」

 

 

 あちこちから聞こえる動物の恐怖に満ちた声と、ずるり、ずるりと俺の足元から聞こえるぬかるみを踏み締める様な音を聴きながら、俺は思う。

 

 ――本当にこれで良かったのか、と。

 

 俺が引き起こしたことだから、俺が責任を以て始末を付けなきゃいけない。責任逃れをしようとして周りに迷惑をかける様な連中にはなりたくない。そして俺には金でも、権力でも解決できない程の『力』を持っている。

 この事態を収束できるのは俺しかいない。いくら世界をある程度コントロールできるレプティリアン達でも、強大な力を持つ宇宙人、人外の連中だろうと出来ない。俺が、俺だけが、何とか出来る。

 

 ――だから、俺一人が、何とかしなきゃいけない。

 

 日本の事態を収束したら、次は海外。

 何年かかるか分からないけど、それが終わったら……やっと、終わりにできる。もしかしたら精神が摩耗してしまうかもしれないけど、その度に思い出せ、耳が聞こえないままに親からの虐待を受けていたあの子を、何も知らなかったが故に、騙され利用されていくだけの自分に悲嘆にくれるしかなかった人たちの顔を。真面目に生きてきたのに、馬鹿を見ることになった人達を。

 

 そうした人達を救ったら、次は……

 

「……なん、だろうな」

 

 何か大事なことを、忘れている気がする。

 

 

 

 

 暫く進んだ後に、漸く目的地付近に到着したことを知る。どこかで見たような駅名が書かれた看板が見えた。だけど名前が思い出せない。

 周りを見渡すと、やはり既視感があるというか、懐かしささえも覚える。

 

「方向は……あっちか」

 

 1時間ほど歩いた。

 周りには田んぼと畑しか無く、まさに田舎といった所だろう。しかし辺りはまだ夜明け前で人なんかはまだいない。今の内に到着しなければ。

 

「……ん? 雨……?」

 

 ふと顔に冷たい物が当たったかと思い、空を見上げると、満天の星空なのに関わらず雨が降り出していた。

 

「こういうのを……何て言うんだったか……」

 

 しかしいくら考えても、単語が出てこなかった。

 考えるだけ分からなかった為、俺は足を進め、目的地へと向かう。……心が、更に締め付けられるようだった。

 

 

 そしてまた暫く歩いていると、木々に囲まれた自然のあぜ道の向こうから誰からが向かってきていることに気づいた。俺は全言語を使用しようとして――思わず絶句した。

 

 向かい側から歩いてきている人型は、紛れもなく幼い頃の俺を背負った狐子だったからだ。しかし背丈や恰好からも、俺と出会った時のまんまだった。

 思わず声を掛けそうになったが、どういう訳か俺のことを認識できてない様子で、道のど真ん中にいるはずの俺を見向きをせずに通り過ぎようとしていた。

 

 しばらくその光景を見ていると、突然二人が立ち止まった。

 

「ところで源吾、お主の夢はなにかの?」

 

(夢……か、何だったか……)

 

 幼い頃の俺に優しい声で問いかける狐子。その問いかけに俺が答えられないでいると、背中に背負われた幼い頃の『俺』は元気よく答えた。

 

「ぼくね! みんなと一緒になりたいの!」

「ほう、それはどういうことじゃ?」

「うーんとねぇ……ぼくは……」

 

 

 ――たしか、この後にいう言葉は、

 

 

「「世界中のみんなと、楽しくお話したいな」」

 

 

 ――あぁ、そうだった。

 

 

 

 

「――思い出したかの。自分がかつて願っていた『夢』を」

「……狐子」

 

 俺の背後には狐子が、かすかな微笑みを浮かべて佇んでいた。




主人公
自分がなぜ言語系チートを受け取って翻訳家ではなく、なぜVtuberとしての道を広告を見たからとは言え、最終的にその道を決断したのか。その大本たる過去を思い出した。

狐子
迎えに来た。


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盲目なのは誰か

閲覧ありがとうございます!


 急に周囲の景色がぶれたかと思うと、目の前には俺のよく知る狐子がいた。

 

 そしてここは、実家近くにあるあの神社のようだ。どうやら知らず知らずのうちに狐子に誘導されていたらしい。

 

「Aiとやらに頼んで、お主が次に向かう所の……携帯を弄ってもらい、ここに誘導して貰ったのじゃ」

「……」

「それよりも……なんじゃ、その姿は。まるで祟り神のように禍々しいのう。見ず知らずの者達の無念も、呪いも、何もかも全て引き受けおってからに……この森に住む動物たちも怯えておる」

「……俺は」

「まぁ、そんなことより……ほうら、はよう帰ろうぞ」

 

 そう言って狐子が、俺にゆっくりと手を向けて来る。……だけど、俺はそれを受け取れない。

 

「まだ使命という名の呪いに縛られておるのう。あぁ、すっかりやつれてしまって……喉も、何度出血しては吐血し、その度に再生してきたのじゃ? 其方の身体は無事でも、負った傷だけ心が傷ついていることに気づけていないぞ」

「でも、俺は……やらなきゃ……」

「むぅ、変な所で頑固だのう。それとも、人間を辞めたことで、ますます自分の価値を自分で下げておるのか」

「何を……?」

「気が付かないのか? 其方がしてきたことは、其方が最も忌み嫌う『一方的な対話』でしかなかったことに」

 

 

 その瞬間、俺の心にひびが入る音が聞こえた。

 

 

「其方は優しいのう。ただの一人、悲運な目に合った幼子にそこまで入れ込み、そこから全てを救おうとする心がけ。――しかしそれは、傲慢にすぎん」

 

 さらにひびが入る。

 

「神ですら全ての者を救うことは出来ん。ましてや只人から現人神になったばかりの人間が、出来るはずが無かろう。まぁ……なまじ責任感が強かっただけに今回のようになったんじゃろうが……そのやり方は、良くない」

「……でも、今も、苦しんでいる人がいる。そんな中で、それを解決できる力を持った俺が、何とかしないと……」

「戯け。それで自分を追い込み、危うく全てを呪う祟り神になりかけていたとしてもか? そしてその結末に全ての者が納得するとでも? ――儂は天地がひっくり返ってもそんなことは許さんぞ」

「……」

「まっ、元も子もないことを言えば、その能力を授けた存在が元凶だからのう。其方はただ奴の手の中で踊らされていただけにすぎんよ」

 

 じゃあ、俺はと言葉を紡ごうとした所で、狐子がゆっくりとこちらに無言で近づいてくる。

 

「き、狐子……?」

「ところで源吾。そなたの全言語が唯一対応していない、いや出来ないものがなにか知っておるかの?」

「や、やめ……俺は……■■(止ま)……」

 

 れ、れ。最後の一文字を言おうとしても、言葉が出てこない。喉は問題ないのに、微笑みを浮かべながら近づいてくる狐子に怖気づいた俺は後ずさりをする。

 

「ほうら、こっちに近寄れ」

「ま、まだ……俺は……俺は」

 

 恐怖に屈した俺は、その場にうずくまって顔を逸らしていたが、狐子は……無言で俺を抱きしめた。

 

「あっ……あぁ……」

「お疲れ様。もう、十分がんばったのう。だから――安心せい」

 

 その言葉と共に、俺は強張っていた身体から緊張がほぐれて、脱力していくような感覚を感じていた。身体から何かが抜け出すような感覚と共に、肩の荷が下りてどこか安心するようだった。

 

 

「ほうら、これを見よ」

 

 そう言って狐子が俺を抱擁したままの状態で見せてきたのは、スマホの画面だった。

 そこには、俺が潰そうと思っていた宗教団体が全国各地で摘発され、また悪質な手口に対しての注意喚起やごくわずかの体験談が寄せられていた。

 

「お主が思っているほど、人間は弱くない。少なくとも、其方一人が背負うべき重荷ではないぞよ」

「そう、か……ははっ、なんで俺は……忘れていたんだ。自分も人間だったことも含めて、あぁ……」

 

 

「安心した」

 

 

 乾いた笑いをこぼしながら、俺はどっと全身の疲れを感じて、ただ狐子に身を委ねていた。

 

「さて、見事に白に戻った所で家に帰るとしようかの」

「……うん、ごめん……もう、眠い……」

「飲まず食わずで動くからじゃ。ほうれ、また昔のようにおぶってやるとするかのう」

 

 懐かしさと人肌のあったかい熱を受け、俺の瞼が閉じ、意識も落ちようとしていた。

 

 黒に染まった意識の中で、すっかり雨が晴れると共に眩しい日光が俺を照らした。

 

 ――既に、夜明けのようだ。

 

 

 

 

□■□■

 

 

 

 

「ふふっ、よく眠っておるわ」

 

 熟睡といった様子で眠りについている源吾を起こさないように優しく尾で包みながら、狐子はそう漏らす。

 先程までおぞましい邪気を漲らせていたが、狐子が全言語が対応することが出来ない、たった一つの『愛』によってすっかり元に戻っていた。

 

「あまりに昔過ぎて覚えていないかもしれんが……この方法を教えたのは……其方だったからのう」

 

 狐子の脳裏に浮かぶのは、源吾がまだ五歳の頃。

 山から気まぐれに降りた時に、うっかり転んでしまい傷を負った狐子の前に源吾が現れ、

 

『だいじょうぶ? いたいの?』

『い……いや、別に……』

『うそつき! 足から血がでてるのに、痛くないなんて、うそついちゃだめ! ぼくがお医者さんのところに送ってあげるから!』

 

 そう言って幼き頃の源吾は狐子を背中に抱えながら、田舎の病院へと送り届けたのだ。源吾は狐子と遊ぶようになってからが初めての邂逅だったというが――これが本当の始まりだったのだ。

 

 

「さて、と。――もう用済みじゃの」

 

 

 

 

「――ッ! 危ッッッッぶね!!!!」

 

 一方、女神は狐子からの明確な殺気を感じ取りすぐさま、源吾との繋がりを切った。

 

「はぁっ……危なかったな……流石にそろそろ引き際かな……だけどまだ――」

「まだ、なんじゃ?」

「ッ!? な、なんでここに!?」

 

 女神しかいない筈の空間に狐子の姿がそこにはあった。

 

「ははっ、そう警戒するでない――燃やしたくなるじゃろ」

「ク……!? だ、だが私1体を倒した所で……!」

「ん? あぁ、何を勘違いしておる? 儂はお礼を言いに来ただけじゃ」

「……へ?」

 

 狐子はあっけからんとした様子で女神に話す。しかし女神は目の前の狐子が考えていることが分からずに、この場を打開する策を練ろうとしていた。

 

「まず、儂と源吾をこの世界に引き合わせてくれて感謝する。この世界でなら、儂と源吾が結ばれることが出来たからのう」

「……なるほど? それで……?」

 

「お礼に――その地位、儂が剥奪してやろうと思っての」

 

 女神の言葉を遮った『笑顔の』狐子が、女神の腹に手を潜り込ませる。

 一瞬の間に自分の腹がまさぐられるような感覚と、狐子のあまりに唐突な行動に混乱している女神だったが、直ぐにその言葉の意図に気づく。

 

「なっ、やめ」

「見っけ」

「がハァアアアアアアアアア!?」

 

 豪快な血しぶきと共に女神の腹から取り出されたのは、神々しい輝きを放つ光の球体だった。

 

 その光景を目の当たりにした女神の顔がみるみるうちに青ざめ、咄嗟に手を伸ばす。

 

「返……せ……ッ!!」

「――不敬な」

 

 飛び掛かる女神に対して、今度は自身の尾の一つを槍のように尖らせ、そのまま勢いよく女神の心臓部位に目掛けて打ち込んだ。

 

「が……ッ……ハァ……ッ!?」

「やはりのう。この球の力があるおかげで、お主は無限に残機を増やせて呪いの回避に成功したんじゃの。どれ……味の方は」

「なっ、待て!? それは!?」

「あーん」

 

 そう言って一口で球を飲み込んだ狐子。するとたちまちに女神の身体から霧のような何かが抜け出したかと思えば、やがて姿形を保てず、醜い触手の化け物が現れた。

 

「ク……クソ……!」

「うわっ、キモ」

「貴様、自分が何をしたと――」

「そりゃあ、儂がお主の地位に成り代わったということじゃろ」

「そうだ……! そんなことをしたら、この世界に他の転生者は……」

 

 

「アヤツ以外に要らん。この世界を締め切って永遠に儂とアヤツだけの世界を生き続ける」

 

「それと、お主の介入のお蔭で、全てをお主に擦り付けることが出来た。――ありがとう。おかげでアヤツを完全に儂のモノに出来た」

 

 

 どこか『狂信的』な目を浮かべる狐子の発言に絶句する女神だったが、ふと周囲の様子がおかしいことに気づく。

 

「そしてこの空間は既に儂の領域。――だからこそ、容易に壊せる」

 

 すると空間が軋みだし、瞬く間に崩れ始めた。『元』女神は、というと驚愕に次ぐ驚愕に混乱していたが、ふと何者かの気配を感じ取り、空間のある1点を見つめていた。

 

「ヤバイ……! 猟犬共の仲間が……!」

「ほーん、お主、あれが苦手なのか?」

「当たり前だ……! あの猟犬はまだしも……あの猟犬共の『長』が、一番ヤバイんだよ……ッ!」

「その長とは、あれのことじゃないかの?」

 

 狐子の視線の先、空間が崩壊し始めたことで生まれた――()()から何か、途轍もなく大きなナニカが顕現しようとしていた。

 

「ば、馬鹿な……! ■■■■だと!? なぜここが……いや、とにかく逃げなくては――」

「逃げられるとでも?」

「な、なんで、ここから逃げられない!?」

「言ったじゃろう。ここは既に儂の領域――そして今から貴様をこの空間に紐づけ、そのままこの世界の外へと飛ばす」

「待て!? そんなことをしたら私は……」

 

「まっ、死ねないんなら永遠に食われ続けるじゃろうな。猟犬とその■■■■とやらに。じゃあのう、()()()()

 

 

「うっ、ウワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 狐子が空間から姿を消した瞬間、元女神の周囲にこの世の物とは思えない、それこそ『猟犬』と『その長』としか表現できない存在が降り立った。彼らは女神に屠られた自分の同胞の恨みを晴らそうと言わんばかりに次々と群がり、元女神を貪り始めた。

 

 

 元女神は死ねないまま、永遠に猟犬とその王によって何度も、何度も、何度も腸を貪られては殺され、そして復活しては、また殺されを永遠に繰り返したという。

 

 かくして、この世界は女神の介入を失った。




主人公
精神的に逝かれかけてたので狐子が元凶ということに気づかないし、気付くことはない。

たとえ気づいたとしても、一切の拒絶はしないだろう

この後星奈がドン引きするレベルで食べて、三日間寝て、完全回復する。
そして時々、この時の自分を思い出して悶えるように。所謂黒歴史的な何かになる。

狐子
大体の元凶だが、この度その全責任を元女神に擦り付けることに成功。勝つためなら手段を選ばない。
主人公の見てないところで死ぬ程いい笑顔をしている



次回、エンディング、かも?


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エンディング……?

20■■年

【悲報】マルチ先生、既に人外だった

 

101:名無しの視聴者 ID:iIZ5HgGtS

 先生がとっくの昔から人外だったって、マジ?

 

102:名無しの視聴者 ID:lPzePxlt7

 というか既に40年活動してきているのに、一向に衰えてない時点で、ねぇ……?

 

103:名無しの視聴者 ID:VSMXm2a0J

 始めたの20代だっけか。それで、人外になったのが……結婚した辺り?

 

104:名無しの視聴者 ID:aAWzqlYXo

 嫁さんが人外だったという衝撃が強すぎてリアルでポカーンしてたわ

 

105:名無しの視聴者 ID:dqGHew4uC

>>104 俺からすればアリュカードちゃんがマジモンのドラキュラだとは思わなかったぞ!?

 

106:名無しの視聴者 ID:RsNjEb9Ub

 アリュカードちゃん一時炎上していたけど、炎上してたの人外拒否派の連中だけだったしな

 

107:名無しの視聴者 ID:EY4piPKzi

 ロリっ子のアリュカードちゃんもイケオジのアリュカードさんもスコ

 

108:名無しの視聴者 ID:ObvfCB1Is

 というかマルチ先生が人外だとバラしてから、割と多くのVtuberが人外宣言したよな……

 

109:名無しの視聴者 ID:U018evFWe

 ワイ、死ぬまでずっと推しを見ていられるのが幸せ

 

110:名無しの視聴者 ID:ef3j0mbKU

>>109 わかるマーン

 

111:名無しの視聴者 ID:o4bkzaLbJ

 それにしてもマルチ先生を祀ろうとする連中が現れたことは、うん……予想通りというか……

 

112:名無しの視聴者 ID:A2EG8wLaR

 速攻で神事関係者からのアプローチが入って「日本国の為にうんぬんかんぬん」とか「日本の為だけに……」って言ってたけどそれに対しての解答が「私の生徒たちは世界中にいるのでそれは無理ですね」

 

113:名無しの視聴者 ID:0DMecxVcb

>>112 (九本の尾と目を赤く光らせながら)

 

114:名無しの視聴者 ID:A/ltbCPaf

 その所為でマルチ先生に生徒扱いされていた中で唯一の人間枠だったアオリちゃんの格が上がってて草

 

115:名無しの視聴者 ID:aZCD4VQtd

 だって……あの人外蔓延る連中の中で、唯一マルチ先生と渡り合えるほどの才能と実力を持っているから……

 

116:名無しの視聴者 ID:x10P4VcOA

 というか……マルチ先生の一番の功績って……あれだよな?

 

117:名無しの視聴者 ID:AcjCjJBb8

>>116 宇宙人との友好条約だろ? あのイムール星人とか言う実質ウル●ラマン的なポジションの

 

118:名無しの視聴者 ID:d+dnJeCp2

 あいつらACの新作発売と同時に俺達の回線に紛れ込んで対戦していたらしいっすね

 

119:名無しの視聴者 ID:KlafZKwsk

>>118 管理者「我が星の住人の殆どが地球のゲームやってます」

 

120:名無しの視聴者 ID:gX9KszDAt

 地球に飛来してきたのがカッコイイロボットの群れだったのはもう覚えてるわ

 

121:名無しの視聴者 ID:MTp2Tnh99

 というか何でマルチ先生は宇宙の言語を翻訳できたんだ?

 

122:名無しの視聴者 ID:q/UFW1isU

>>121 何か改造手術受けたとかリソース元不明な情報があった希ガス

 

123:名無しの視聴者 ID:j0Q6i2vgl

 改造……手術……?(嫁さんを見ながら)

 

124:名無しの視聴者 ID:2c4DnFHVN

 イムール星人の友達出来たんだが、これが宇宙の守護者の姿か? ってなるくらいには闘いに歓びを感じてて草

 

125:名無しの視聴者 ID:gx4gQfg3C

 たまにイムール星人が「たまに目にする地球人の機体なにあれ……こわっ……」っていう反応が見たいがためにニカニカ動画開いてるわ

 

126:名無しの視聴者 ID:liivxQi/w

 地球人に対する熱い風評被害やめろ

 

127:名無しの視聴者 ID:geW9ps6Ao

 事実陳列罪だぞ

 

128:名無しの視聴者 ID:wLnBsFAUD

 というか人類の中に割と多くの人外が紛れていたんだな。

 

129:名無しの視聴者 ID:Rr3f6RwU5

 というより顔を隠しながら色々と活動できる業界に多く潜伏しているのが大多数だからな

 

130:名無しの視聴者 ID:Q98M/c6K+

 ちなみに一番人外に対する迫害が少なかったのが日本らしいっすよ

 

131:名無しの視聴者 ID:Hk4PFO9qL

>>130 知 っ て た

 

132:名無しの視聴者 ID:DhGBvdRg2

 本場の宗教の地とか現人神なマルチ先生に対して色々やらかしているしな。あとは……まぁ

 

133:名無しの視聴者 ID:8BOZ4MV4S

 アリュカードちゃんなんかは歴史家やオカルト関係者からの取材がめっちゃ来ててウンザリしてたしな

 

134:名無しの視聴者 ID:Blnid+Ehj

>>133 そりゃあ、当時を生きてきた生き証人(本人)ですし、オカルトそのものだし。

 

135:名無しの視聴者 ID:teFlfIQ/A

 取材者「なぜ吸血鬼に?」

 アリュカードさん「死んだと思ったらなぜかなってた」

 取材者「えぇ……(困惑)」

 

136:名無しの視聴者 ID:0R7CybfD4

 本人もそれしか知らんとしか言っていたのが、本当にそれっぽい。だけど実演の為に首掻っ切ろうか? とか言わないでくれメンス……

 

137:名無しの視聴者 ID:UK81ND4Uw

 アリュカードちゃんは斬らなかったな。……レオが代わりに真っ二つにぶった切られたが

 

138:名無しの視聴者 ID:/vLdBI5Gj

 アリュカードちゃん「流す血がもったいないからお前がやれ」

 レオ「ウボォア!?」血ブッシャー

 

 十秒後

 

 レオ「ほらな?」

 

 

139:名無しの視聴者 ID:0SdENF/1Q

 うーん、このパワハラ上司

 

140:名無しの視聴者 ID:S96p2Gapd

俺初めて動画サイトで【少々お待ちください】っていうテロップが流れたの初めて見たよ……

 

141:名無しの視聴者 ID:MUzyF/Qzo

 命の価値が互いに低すぎる!

 

142:名無しの視聴者 ID:WagmpHEN4

 アリュカードちゃんに関しては人外ということが判明した時から割りと吹っ切れたよな

 

143:名無しの視聴者 ID:EtXIijNmj

 ロリっ子吸血鬼とイケオジ吸血鬼の両方が堪能できるんやぞ

 

144:名無しの視聴者 ID:V7+ovMXBF

 あれ……? そういえばアリュカードちゃんってマルチ先生に好感情抱いていたって……

 

145:名無しの視聴者 ID:BYInerxPu

 あっ……

 

146:名無しの視聴者 ID:/iB9FHmy7

 おいやめろ腐界から奴らが来るぞ!

 

147:名無しの視聴者 ID:0HqHHDjTl

 もう手遅れだたわけ!(九尾先生×イケオジ吸血鬼)

 

148:名無しの視聴者 ID:P4T8Y2ncq

 終わりだよこの国

 

149:名無しの視聴者 ID:CMVtcfJ+H

 これには嫁さんも大憤慨

 

150:名無しの視聴者 ID:KlfH9xTbZ

 というかあの夫婦一度大喧嘩しなかったっけ?

 

151:名無しの視聴者 ID:tZOIZc/f6

 あぁ、あの喧嘩の原因が謎だけどお互いに滅茶苦茶な大けがを負ったあれね

 

152:名無しの視聴者 ID:71yRqMpOi

 何であの夫婦、腕飛ばしたり心臓潰されても生きてられるんですか……?(恐怖)

 

153:名無しの視聴者 ID:QMqL1rB05

 まぁ喧嘩が終わったら何かスッキリしてたしいいじゃね?

 

154:名無しの視聴者 ID:iwC9nnUKv

 ……久しぶりにア●ゾンズみるか

 

155:名無しの視聴者 ID:MeoI5avuw

 平成の刺客やめろ

 

156:名無しの視聴者 ID:BBVi3W1j8

 ワイ、自分の会社の社長が人外だった……

 

157:名無しの視聴者 ID:lINBaqjot

>>156 どんな種族? おせーて

 

158:名無しの視聴者 ID:BBVi3W1j8

 なんかアメーバ状の生物らしくって、もうすぐ寿命が尽きるから故郷に帰るとか……

 

159:名無しの視聴者 ID:ENdCa/pXo

 アメーバとはな……

 

160:名無しの視聴者 ID:BBVi3W1j8

 その社長のお蔭で今の会社が世界に名を連ねるレベルの会社になったんやが……この後どうするんや……

 

161:名無しの視聴者 ID:6fT+NsqBW

 誰かと思えば……あの社長か

 

162:名無しの視聴者 ID:vYjT57RRv

 というか故郷って……宇宙?

 

163:名無しの視聴者 ID:BBVi3W1j8

>>162 せやで。故郷の星に戻ってそこで次の世代に全エネルギーを託して死ぬらしい。本来なら戻る必要は無いんだが、地球という環境の素晴らしさを布教するために次世代に地球への道しるべを託すんだとか

 

164:名無しの視聴者 ID:njW3xO/Rx

 そんなに地球が好きになったのか、アメーバ

 

165:名無しの視聴者 ID:crm8n0+ef

 まぁ、あの社長。マルチ先生との交流もあったからな

【マルチ先生とイシノヴァの問答集 URL】

 

166:名無しの視聴者 ID:9OdxP+dG0

 あの人、人外に交友関係持ちすぎでは!?

 

167:名無しの視聴者 ID:xv6G9W3dz

 確か捨て子だった娘も実は人外とかいう噂があるしな

 

168:名無しの視聴者 ID:Bg9g10C3H

 ……あの夫婦から生まれてくる子も十分人外では?

 

169:名無しの視聴者 ID:SeSPLZAwu

 現人神と神やからな。人間成分がほぼ皆無に等しいんだが。

 

170:名無しの視聴者 ID:iFo/qyJZg

 取材者「マルチ先生を人外にした理由は?」

 嫁「永遠に一緒にいる為とそもそも人間の身体では子供を授かれないから」

 取材者「Oh……」

 

171:名無しの視聴者 ID:eFg6gB4dW

 取材者絶句してんじゃねぇか!

 

172:名無しの視聴者 ID:qy6gBZRQu

 人の子を孕みとう…………人間じゃあ無理だから人外にするね

 

173:名無しの視聴者 ID:ziO3bwI3W

 気軽に人外にするな定期

 

174:名無しの視聴者 ID:ZNNt6PiZc

 その所為で権力者が自分を不老にしてくれって言った時も

 嫁「は? なんで見ず知らずの赤の他人にそんなことしなくちゃならんの?」

 

175:名無しの視聴者 ID:BjoqO9ZRz

 うーん、この畜生

 

176:名無しの視聴者 ID:Dxwn2Q+0h

 何かそれで人類に新たな進化ガー、死にそうな人たちを可愛そうだと思わないのかとか言っている連中にも同じ塩対応だから完全にマルチ先生しか眼中に無いんだろうな。

 

177:名無しの視聴者 ID:x3CTcoYoS

 そしてしつこ過ぎる勧誘にキレて未曾有の大災害を引き起こそうとしてマルチ先生に一撃で沈められたのがあの嫁さんです

 

178:名無しの視聴者 ID:Fw70MphDp

 一撃(束ねた尾で横っ腹をフルスイング)

 

179:名無しの視聴者 ID:m/n+wankl

 ……DV?

 

180:名無しの視聴者 ID:Dc8rlFTcG

 本人たちが合意しているのでセーフ

 

 というか今更だがマルチ先生の立ち絵現実に寄せているけど、あの姿のせいでアバターとなんら変わらないっていう話面白いんだが

 

 

 

 

□■□■

 

 

 

「それで? 今日は何をやらかしたの?」

「……」

「黙ってちゃあ分からないんだ■■■(言って)

 

 神社のような屋敷の中で、マルチ先生こと源吾は狐子を正座させていた。その表情は真顔でありながら背筋が凍り付くほどの瘴気を醸し出していた。

 

「……あまりにも奴らがしつこいから一族族滅の呪いをかけてやろうと……」

「ふんッ!」

「痛ったぁああ!?」

 

 尾の先を握りこぶしのように丸めた源吾は、狐子の脳天に拳骨を落とした。一見柔らかそうに見える尾だが、勢いも相まってかなりの威力を誇り、狐子の下半身は畳に沈んだ。

 

「うぅ……なんか、儂より尾の操作上手くなってないかの!?」

「まぁ……なんか、出来たから……外から来た他の宇宙人との対応よりかは楽だったから……」

 

 うねうねと海中に漂うワカメのように尾を動かしながら源吾が言う。

 

 それはもはや尾というより触手では?

 と、今も目の前で一本一本が蛇のような動きをしている尾を見ながら狐子は疑問に思ったが、目の前の人外より人外してる夫には常識が通用しないことを思い出し、閉口した。

 

「……やっぱりお主、その言語力もそうじゃがその適応能力も大分おかしいのう……」

「ん? 何をいまさら。あ、あとこれから配信やってくるから」

「えっ、ちょ、儂このまま!? あとどれくらい畳に埋まってればいいんじゃ!?」

「んー…………配信が終わるまで?」

「約90分!?」

「じゃっ、それが終わったら解放するからね」

 

 のじゃああああと叫ぶ狐子を部屋に残しながら、源吾は今日も配信活動をする。

 源吾は尾を巧みに使い、機器の準備を行い、喉の確認を完了し――配信待機画面に移行した。

 

 あと五秒。

 

 四、三、二、一……。

 

 

■■■■■■■■■(皆さんこんにちは)




主人公
20■■まで配信活動を続けている。
いつかのタイミングで人外だという事を暴露して、イムール星人と地球との友好関係を結ばせ、地球に友好的な宇宙人や人外が訪れるようにさせた。
本人を祀る神社兼家が出来て、そこで配信するように。
開幕の挨拶から全言語を使用するようになった。チャンネル登録者が地球人口を超えた。

狐子
色々あって主人公と大喧嘩したり、殺し合いをしたが何だかんだ上手くやっている


今まで閲覧ありがとうございました!

途中からだれる様な展開にして混乱させた挙句、ジャンルをおかしくしてしまったことはとても申し訳なかったですし、今からでも全部中身を丸ッと変えたいぐらいには後悔してます。申し訳ありませんでしたぁァアアアアアア!
今回は一先ず、これで一区切りということで無理やりですがエンディング(仮)とさせていただきます。リアルの方でも就活が忙しくなってきたので……このまま待たせるよりかは……と考え、今回の結論に至りました。
最初は掲示板形式の練習も兼ねた短編から始まり、まさか一時的とはいえランキングにのめり込むとは思いもしませんでした。
今回の経験を活かして、あるかもしれない次回に活かせるようにしていきたいと思います!
最後まで見て頂き、本当にありがとうございました!


……もしかしたら話の補填として番外編をやるかもしれないので、その時はよろしくお願いします!


P.S
あの麗しの戦場が……帰ってくる……だと……!?


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言語系チートを授かったが後輩がうざすぎる 一話

閲覧ありがとうございます!
今回は番外編という事で後日談を投稿します! 本編時空のその後ということでご了承ください!

あと来年もよろしくお願いします!

それではどうぞ


「ふむ……それで、今回の任務は南雲家のご令嬢を拉致すればいいのだな?」

「あぁ、そうだ。だがその際にターゲットと親しい関係にあるコイツには気を付けろ」

 

 そう言って男が取り出したのは一枚の写真。

 いたって普通の学生服と特に特徴のない眼鏡を身に付け、白色のマフラーを身に付けただけの普通の高校生にしか見えない人物に何を気を付ければ良いのか、と帽子を被った男が問いかける。

 

「正確にはコイツの父親がかなりの大物だ。それも――国家機密レベルの、な」

「……依頼金は跳ね上がるぞ」

「そこはなんとかして気取られなければ問題ない筈だぞ? まさか出来ないとは言わせないよな?」

「……やってみるとしよう」

 

 はぁ、とため息を付きながら男は写真を手に取る。

 

 高校生の写る写真の他に差し出された写真には――伴野源吾の姿があった。

 写真に写る二人はどこか似ている様で、どこか違うといった感じだ。それこそ二人が親子関係であるかのように。

 

 高校生の写っている写真にはどこか気難しそうで、心底めんどくさそうといった表情を浮かべる青年とそれに絡みつくようにしてからかっている様子の少女がいた。

 

「この青年の名は?」

 

 

「――伴野源司(ばんのげんし)。特に特徴のない高校生だ。父の伴野源吾にさえバレなければ仕事には支障はないだろう」

 

 

□■□■

 

 

「源司センパーイ! また一人寂しく下校ですかー?」

 

 鈴を転がすような声で不快な内容を叫びながら俺を呼んだのは南雲愛華(なくもあいか)だ。

 学校が終わり、いざ帰宅しようかというタイミングでいつも見計らったように現れては、俺を煽るだけ煽り、そしてそのまま俺の家路についてくる後輩だ。

 

 俺の腰丈位しかない愛華はパタパタと小走りで俺の横に並んだ。

 

「一人が好きなだけだ。寂しくなんか無い」

「またまたー! そんなこと言っちゃってー! ボクがいなかったらウサギのように寂しくなって死んじゃうんだからー!」

「やかましいぞ……」

「あいたたたたたたたたたたた!! ちょ、ちょっと、すみませんでしたー!?」

 

 幾ら相手が校内一の美少女だとか言われていても、俺からすればただただうざいだけなので、俺を罵倒する為だけにフルスペックを発揮する頭に向けてアイアンクロウをする。何時も親父が調子に乗ったお袋に使用する技だ。……もっとも、それとは別に白い尾で折檻するのが常だが。

 

 親父は俺が生まれるずっと前に人間を辞め、そしてその元凶であるお袋は元から人外。さらに俺の姉である星奈は半分人間の半分宇宙人。

 そんな家庭で長男として生まれた俺だが、果たして俺は人間と定義していいのだろうかと常日頃から思っている。

 

「ぜ、絶世の美少女であるボクにこんな所業をして……内心ニヤニヤしてるんでしょ! このロリコン!」

「ロリコンではない。あと俺はお前のようなちんちくりんよりもケツとタッパ、あと胸が大きい女性がタイプだ」

「きー! このド健全! 鬼畜眼鏡! 根暗ドS陰キャ!」

「二つ目と最後は聞きずてならん」

「ア゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!?」

 

 汚い悲鳴を上げているコイツだが、実家が割と金持ちで所謂ご令嬢として育てられてきたからか、このように傲慢な性格に育っている。初対面の時も「そこの君! ボクの椅子にならないか!」と健気にも足りない身長を見せびらかすように見上げながら俺に言ってきたのが、馴れ初めだ。

 

 そこからはどういう訳か、小学校から始まり中学、高校とまで俺と同じ学校に通ってきやがった。良い所のお嬢さんならもっといい学校があるんじゃないかと言ったこともあったが、「えぇ~? そんなこともわからないんですか~?」と抜かしたと思ったら、俺のことをちらっと見て「弄り甲斐のある玩具が無いとボクの青春がつまらない物になるじゃないですかー! 馬鹿ですねー! 源司センパイは!」と言った。その後何時もの威力二倍マシでアイアンクロウをかましてやった。あの時は最高にうざかった。

 

 ちなみに愛華の家が金持ちだとは言ったが、ぶっちゃけ言うと……全部合わせても親父の方が金を持っていたりする。伊達に世界初のVtuberはやっていない。時々差出人不明の謎の場所から変な機械とか送られてくるが、本当にウチの親父はどこまでコネを持っているのかが気になる今日この頃。

 

 偶にうちに来るアリュカードさんは見るたびに姿が変わっているし、イシノヴァさんは親父と凡そこの地球で聞いたことが無いような言語で会話しているし、時々ベルの音がしたと思ったら親父の部屋からおぞましい何かが現れて、寝ている俺の顔をじっと見つめてギャル口調で喋るし……ホントに俺の親父はなんなんだ。

 

 

「話は変わるが、なんで俺に絡むようになったんだ?」

「いったたたたたたた! えっ!? このタイミングでそれ聞きます!? いたたたたたたたた!!」

「少し馴れ初めを思い出していたが、なんで数いる連中の中から俺を選んだんだ? 癪だがそれが気になってしかたない。癪 だ が 」

 

 俺が椅子に選ばれようとした時なんかは、俺以外の同級生何かは他にもいた筈だった。それこそ当時には椅子にしがいのある奴がいた中で、なぜ俺を選んだのかが気になって仕方ない。俺はアイアンクロウを外し、息を整えている愛華の返答を待った。

 

「ぜー、ぜー……ボクが気に入った理由は……」

 

 ふいっと顔を上げた愛華。その視線は俺の顔に向けられていた。その視線はいつものようにおちゃらけた雰囲気というよりはどこか真剣そうな感情を抱いているようにも思える。俺は思わず息をのんだ。

 

 そして愛華はにやりと笑うと

 

「弄り甲斐のある顔だなって!」

「三倍マシのアイアンクロウ行くぞ」

「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い゛!!」

 

 俺の飲んだ息を返せとおよそ日本語の体を為していない言葉を言いそうになった俺。

 

「もう! 毎回暴力的なんですから!」

「肉体言語という物があってだな」

「はっ! まさかそれでボクにいやらしいことするんでしょ! 薄い本みたいに! 薄い本みたいに!!」

「頭快○天かなにかか?」

「それは先輩もでしょ! ボク知ってるんですからね!」

「……何をだ?」

 

 何か知られて不味いことがあったか……まさか、俺の両親についてか!?

 

 俺は自分の記憶を掘り起こしながらその事実が露呈した瞬間を必死に模索していたが、見つからず愛華の言葉を待つ。

 

「先輩は本当はボクのような美少女が性h……」

「良かった。全然違う」

 

 馬鹿の発言を遮るように俺は安堵した。やはりコイツはどこかポンコツな面がある。

 

「むきーッ!! 外国人観光客からナンパされたことがある癖に!」

「話の論点が可笑しくなってくな……」

「そんで童貞の癖に!」

「この年齢で童貞じゃない方が割と問題では?」

 

 

「一度も彼女が出来たこと無い癖に!」

 

 

 瞬間、俺はキレた。

 

「そ! れ! は!! お前が毎回毎回俺の告白現場に現れては邪魔するからだろうがぁあああああ!!!!」

 

 そう、この馬鹿は毎回毎回、俺の告白現場に凸してきては邪魔してくるのだ。そのおかげで悉く俺の告白は失敗に終わるのだ。そして質の悪いことにその時に限って何時もの三割増しで整った服装や化粧をしてくる所為で俺が『彼女いるのに他の女に現を抜かすクソボケ』と言われるまでになった元凶なのだ。

 

 しかもどこで俺の情報を仕入れてきているのか、俺も対策を練って違う場所で告白をする時も、毎回必ず「偶然ですね」と現れてはぶち壊してくるのだ。

 

「あはは! そうでしたね!」

「この栄誉メスガキがぁ……! マジで何で俺に執着するんだてめぇ……!」

「あはははは! え~? そんなのわからないんですか~? そ ん な こ と も ?」

「『●す(ドイツ語)』」

「ちょ、日本語と英語以外で殺意を伝えるのは辞めてくださいませんか!?」

 

 物心ついた時から無数の言語を理解できるようになった俺は癖で、激高すると他の国の言語で話す癖がある。

 

 そんなこともありながら、今日も今日とて愛華に振り回されながら俺は家路につくのだった。

 

 

 ……毎度思うのだが、どうやって俺の行動を毎回把握しているのだろう。あとお袋がたまたま俺の家までついて来た愛華を見て「あっ……ふーん。これは中々……」って言ってたり、親父も「これで気づかないってやっぱり俺の子だわ」とか訳の分からないことを言っていたが、その真意は終ぞ聞けてない。

 

「……まさかな」

 

 流石に俺に惚れているとかないだろう。ただ俺をからかうだけを生きがいとしているような性格が終わっているあの馬鹿に限ってそんなことは無いだろう。

 

 ……無いよな?




伴野源司
主人公こと源吾の息子。
両親の人外っぷりに自分は人間と定義できるのかを考えている。気になった女子に告白をするも全て愛華に潰される。
言語チートは遺伝。何でもできる父にコンプレックスを抱いている。
メスガキに弄ばされる堅物インテリといったイメージ。

南雲愛華
一目見て源司を気に入ったボクッ子系メスガキ
毎回源司が異性と関わるたびにどこからともなくその現場に表れる。
割と良い所の出で結構な金を持っているがそれに靡かない源司を更に気に入った()

……どういう訳か源司の行動を逐一把握している


伴野源吾
前作主人公。相変わらずVtuberをやっているし、時々調子に乗る嫁をしばいている。
裏世界では要注意人物として知られている


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言語系チートを授かったが後輩がうざすぎる 二話

お待たせいたしました。
ひと段落ついたので、久しぶりにリハビリも兼ねて投稿していきたいと思います。

それではどうぞ!


「源司ーちょっといい?」

「親父か……どうした?」

「んー、別になんてことはないんだけど……ちょっと話しない?」

「はぁ」

 

 夕食を済ませて後は風呂に入るだけになった後、俺は唐突に親父に呼び出された。とは言っても特にピリついた雰囲気という訳でもなく、時間も余っていた為、和室に親父と向かうことにした。

 

 和室兼客室に着くなり俺は親父の向かいの座布団に腰を下ろした。親父は相変わらずにこにことストレスが一つもないような柔和な笑みを浮かべている。

 

「最近どう?」

「特に」

「どっちの意味で?」

「……悪くない方」

「素直じゃないね」

「ほっとけ」

 

 ……婆さんや爺さんに親父の若い頃の話を聞いたことがあったが、ここまで怪しげな色気すらも感じられるほどではなかった。というか、結婚してから何かを振り切ったように人が変わったらしい。思わずそのことを思い出す位に目の前で軽く笑っている親父から抗い難いオーラすら感じられるようだ。改めて親と一対一で向き合うと感じられる目に見えない何かがあるのだろうなって、今になって思う。

 

 そんな俺の意図を察してか知らずか、僅かに細めた眼の奥から縦に開かれた真っ赤な瞳を覗かせながら漸く本題に入るべく口を開いた。

 

「あの子は元気かな?」

「あの子……?」

 

 親父の口から出てくる“あの子”とはどの子だ、と思っていたらふと頭の中に一人の人物が浮かんだ。……とてもウザイアイツの顔が

 

「ほら、愛華ちゃん」

「……」

「おっと、そんなに苦虫を嚙み潰したような顔を露骨にするんじゃないよ。何だかんだ言って幼馴染じゃないか」

「……」

「隠そうともしない辺り母さんにも似たね。表情が凄いことになっているよ」

 

 やかましい、と口にしたかったがそれよりもなぜ親父の口から愛華の名前が出たのか気になって仕方なくなってしまった。俺は手を組みながら声を低くしながらその真意を尋ねた。

 

「うん、この前愛華ちゃんのお父さんが家に来てね」

「は?」

「うわ一気に無表情に」

 

――あの愛華の父親が!?

 

 俺は数年前に愛華に半強制的に愛華の実家に連行された時のことを思い出していた。

 

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

「やぁようこそ。伴野源司君(娘に近づく虫)

 

 言葉の裏に隠された不穏なルビを隠そうともしないで、俺と愛華を無数の黒服達と共に愛華の父が豪華な屋敷と共に出迎えた。部屋に案内されても愛華はいつもの様子で平然としているが、周りの黒服たちや愛華の父ご本人の圧が凄くて、俺はくつろげる気がしなかった。黒服たちの視線もそうだが、愛華の父の視線がヤのつく職業の人かってくらいに圧が凄い。なんなら胸元から拳銃を取り出して俺を撃ち殺さんと言わんばかりだ。……最悪、銃弾くらいは何とでもなるが、問題はその後。俺の家族が黙っていないことだろうな。

 

「これはこれは……お世話様です」

「センパイ硬いですよ! もっと気楽に、実家だと思ってくつろいでください!」

 

 ミシッ

 

「おっと……この椅子も古くなったか」

(おいこの親父、椅子のひじ掛けを握力だけでもぎ取ったぞ……)

 

 明らかに新品同然だった椅子のひじ掛けを握力だけでもぎ取ったことに愛華は気づかない様子だが、その様子に気付いた黒服たちは皆顔面蒼白だ。俺も少し驚いたが、よくよく考えたら家にはそれ以上の人外兼家族がいたことを思い出した。有機物無機物問わず何でも食べる姉、人一人簡単に消せる人外狐の母、そしてあの怪物親父。

 人と人とを比べるのは良くないが、どうにも脳裏にちらつく。

 

 それから椅子を交換して、暫く愛華と話していると唐突に愛華が

 

「あっ、ちょっと探し物してきますね! それじゃあセンパイ、少しだけ待っていてくださいねー!」

「えっ」

「少ーし、待ってくださいねー!」

 

 バタン

 

「……」

「……」

 

 愛華が忘れ物を取りに行った直後の部屋の空気が一気に氷点下まで下がったのを感じる。椅子に座り直す際に生じた僅かな音が静寂の中に響き渡り、黒服の内の誰かがつばを飲んだ音も聞こえてくるようだ。

 

「……」

「……」

 

 何も喋らないまま数分が経過したころ、この無言の空間に一滴を投じたのは愛華の父だった。

 

「君は――娘の事をどう思っているかね?」

「……はい?」

「娘の事をどう思っているんだ、と聞いている」

「……そうですね」

 

 まるで圧迫面接かのような雰囲気の中で出された質問に、思わず考え込む。

 俺はただ幼少期からの付き添いがある幼馴染程度にしか思っていないと思うが、そのままを伝えていいだろうかと。そして暫く考えた後

 

「――飽きない後輩、ですね」

「…………ほう?」

 

 思っていた答えと違っていた、とでも言わんばかりに怪訝そうな表情を浮かべて言葉の続きを促してきた。

 

「では君は娘の事は好きだと?」

「いいえ、好きではありません」

 

 うざいし、うっとうしいと思う所はある。向かい側から殺意に近しい感情の波が襲い掛かってくる。

 

「……ほう。では嫌いだと?」

 

 威圧と殺意を込めた視線をこちらに向けて来るが、それに対して俺は

 

「いいえ? 嫌いでもありません」

「……」

「どういうことだ、とでも言いたげなので……その訳をお話いたしましょうか?」

「……頼む」

 

 威圧はそのままに、しかし殺意が静まったような表情を浮かべて話の続きを促してくるので、引き続き自分の心の内をそのまま語ることにした。

 

「まず大前提として、初対面から最悪でした」

「……その件については後で叱っておいた」

「……とにかく初対面の印象は最悪の一言に尽きます。人を椅子扱いして、事実上の奴隷扱いをしようとしてきたので」

「むぅ……」

 

 居た堪れないという顔を浮かべる。

 

「それからでした。いつも私の後ろをついてきて、いつもどんな場面でも私の傍にいようとしてきた。私はそれを何度、鬱陶しいと思ったか」

「つまるところ君は……」

「――しかし、私はその行為を一度も拒絶したことはありません」

「!?」

 

 言葉には口に出したことはあっても、心の内では鬱陶しいと思ったことは何度もあっても、考えれば考えるだけ、俺は一度も愛華を拒絶したことが無いことに気付かされたのだ。自分でも相当重傷だなと自嘲する。それと同時にこのことは絶対愛華には聞かせられないな。

 

「君は……」

 

 と何かを言いかけたタイミングで

 

「お待たせしましたー! ……あれ? なんすかこの空気」

「……いや? 何でもないが。というかそれ……」

「はい! この前の雨で借りっぱなしになっていた傘です!」

 

 愛華の手には先日の大雨の際に渡したままにしていた傘が握られていた。そう言えば今朝に持ってくるのを忘れたといっていたことを思い出す。

 

「別に返さなくても良かったんだが」

「センパイが良くても、ボクが良くないんですよ!」

「何が?」

「センパイに借りなんか作ったら、法外な利息を付けられちゃうじゃないですか!」

「俺は闇金業者か何かか? お仕置きだお仕置き」

「あいたたたたたたたたたたたたたたたたぁあああああ!!」

 

 実の親の前でなんてことを言いふらしやがる。

 俺は何時もの癖で咄嗟にアイアンクロウをかましたが、ふとこの場面を愛華の父に見られていたことを思い出した。

 

「あっ、やべ」

「源司君」

 

 改まった表情を浮かべたまま、俺の事を真っ直ぐに見据えて

 

「娘を頼む」

 

 

「いやどうしてこうなった!?」

「あだだだだだだだだだだだだだァアアア!! ちょ、ちょ、頭割れる割れるゥウウウウウウウウ!!」

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

「……」

「あっ、既に面識があるみたいだね」

 

 あの後、隙あらば俺に何らかの形で接触を図ってきたのだ。例えば「娘の夫となるゲフン。個人的に君の英語の出来について知りたい」とか「将来この家にゲフンゲフン。……君のスキルについて確認したい」と多くの外国人と軽い話し合いをしたり、様々なテストをやらされたりしてきた。それが何の役に立つかは分からないが、俺の結果を見て愛華も愛華父もご満悦の様子だったのは印象深い。

 

「それで、その愛華父がどうした?」

「うん、家に来てね。愛華ちゃんと源司について色々と話し合ったんだ」

「……そうか。で、どんなことを……」

「うーん……」

 

 そういうと、何やら親父は腕を組んで唸り始めた。

 

「……ここまで話してまだ理解していないのかな……?」

「何の話……」

「その内分かるよ源司」

「は?」

「ただ一つ言うとしたら……君は既に“チェックメイト(詰み)”に入っているね」

「????」

「んー……ここで変な風にこじれてもアレだし……というか若干その兆候が見られる…………ふむ」

 

 腕を組んで何かを考える素振りを見せると

 

「んー、源司は愛華ちゃんが他の人と仲良くしているとどんな気分? ――■■■■■■■■■■■?(正直に言ってみて?)

()()()()()()()()

 

 ……ん?

 

 妙な感覚を覚えつつ、時間的にもそろそろ寝る時間になった。個人的にもあまり詮索されるのは例え家族であろうと好きではない。

 そして親父が最後らへんに言っていた言葉についてどういうことだと考えを巡らせている間に、何かを決心した親父が髪を掻きながら俺を真っ直ぐ見つめて来た。そして俺は用が済んだと言わんばかりに立ち上がり、襖を開けようとした時

 

「源司」

「ん?」

 

 すると親父は、

 

■■■■■■■■■■■?(愛華ちゃんは好きかい?)

「はっ、それは――」

 

 

()()だ。親父、俺はもう寝る」

 

 

 またしても違和感を覚えつつ、俺は和室を後にした。……なぜか心の内を暴かれたような気がするが、きっと気のせいだろう。そうに違いない。そうじゃなきゃ

 

 

「……こんなに顔が熱い訳がない」

 

 俺は顔に籠った熱を発散すべく、自室のベランダから顔を覗かせ夜風に当たった。冷たい風が肌を突き刺す中、ふと自分の頭の中で何かが入り込む、沁み込むような感じがしたが、眠気には抗えずしばらくしたらそのままベッドに入り込んだ。

 

 

 

 

「源司、やっぱあの子のことが好きじゃん。……いやー、でも『全言語』でしか本音が出せないとか相当こじれているなこれ。うん、まぁ愛華ちゃん、頑張れ」

 

 

 

□■□■□■□■

 

 

 

 

『ハッピーバースデー! 源司センパイ!』

「お前今何時だと思ってんだ(半ギレ)」

 

 せっかく風呂から出て歯磨きもして、瞼を閉じてようやく眠れそうになったその瞬間、突然電話が掛かってきた。誰だと思いつつ電話に出てみると、案の定愛華だった。そして開口一番俺の誕生日を最速で祝って来やがった。

 

 嫌なら電話に出なければいいだけだが、それをすると後々面倒になるのは既に経験済みな為仕方なく出たら出たで、耳元で叫んでいるのかって位の声量と普段の三割増しのテンションと来たもんだ。思わずスマホを握る力が強くなる。電気を落としてすっかり暗くなった室内が僅かに赤く光っていることから、恐らく俺の目が赤く光っているのは想像できた。これも両親からの遺伝だ。眼鏡は目の光を抑えるために付けている。

 

 そして元凶こと愛華はというと

 

『んー…………12時!』

「人はそれを午前0時の深夜と呼ぶ。俺はもう寝る」

『えーもっと話しましょうよーセンパーイ。どうせこの後ただ寝るだけなんでしょー? ほら! ボクのような美少女に祝ってもらえたんですよ? 頭を垂れて蹲ってもいいんですよ?』

「やかましい」

 

 せっかく訪れそうになった眠気が遠ざかっていくのを感じる。

 しかも地に落ちる俺のテンションと反比例するかの如くテンションが高い愛華の相手を深夜にしなければいけないことを考えるとさらに眠気が遠ざかっていくのを感じる。

 

「はぁ……まぁ、その、何だ――ありがとう」

 

 TPOさえ合っていれば素直に喜べ……喜べた、かもしれない。……うん。

 俺はそんなことを思いながらも、恥ずかしさの感情が含まれた感謝の言葉を愛華に言った。正直、他人に向けて素直に「ありがとう」と伝えるのが苦手だ。親父たちにすらまともに言えたのは幼児期位だ。

 

『へぇ~』

「……なんだ」

 

 そんな俺の考えを察知しているのか、電話越しにでも愛華がニヤついているのを感じさせるようなその声に思わず声を低くする。こういう時の愛華は脳裏で俺を弄り倒すための考えを巡らせているか、俺を既に弄り倒すための素材を手に入れたと歓喜している場合が多いが、今回は後者のようだ。何かやらかしたんだろう。嫌な予感がする。

 

『もう~素直じゃないんですから~もっと素直にありがとうございます愛華様って喜んでくれてもいいんですよぉ?』

(うっぜぇええええええええええ!!)

 

 確信した。

 今、確実に愛華はニヤニヤしている。それも飛び切りの笑みを浮かべながら俺を弄り倒していることも。

 

 スマホを握る手が更に強くなり、ミシリ……と音を立て始めた。

 このままいくと今年に入って握りつぶしたスマホが三台目になるため、落ち着かせる意味も含めて天井を仰ぎ見る。

 

 語尾を上げながら俺にねっとりと話しかけてくる愛華にうざさを感じつつも一つ深呼吸をして自分を落ち着かせた。

 

『はははっ! そんなに苛ついていると頭の血管が切れちゃいますよ?』

「誰のせいだと思ってんだ……!」

『うーん……とても可愛らしい美少女ということしかわかりませんねぇ』

「明日震えて眠れ」

『ヒエッ』

 

 より一層声を低め、威圧を込めてこの馬鹿に向けて死刑宣告を告げる。愛華の情けない声が聞こえて少し俺の溜飲が下がるのを感じた。

 

「ともあれ俺はもう寝る。話は明日聞く」

『えー』

「えーじゃないが」

『ムー』

「大陸でもないが」

『Zoo』

「動物園でもないが。発音良いのがさらにムカつく」

『もっと褒めてくださいよ! じゃなきゃ力が出ませんよ!』

「自己承認欲求を素材にして作られたアン●ンマンかお前は」

『センパイ何言ってるんすか』

「急に素に戻るのやめろ。確かに自分でも何言っているのか分からなかったが」

 

 正直キレそう。

 

 このように愛華は毎年毎年、俺の誕生日になると親父たちよりも早くいの一番に俺を祝ってくる。しかも0時ピッタリにだ。恐らく学校で会った時はまた俺を弄り倒しながらどうやって把握したのか分からないが、とにかく俺がちょっと欲しいと思っていた物を渡してくるのだ。

 

「とにかく切るぞ。明日起きれなくなる」

『えー……仕方ないですねぇ~』

「仕方なくないが?」

『明日首を洗って待っててくださいね! それじゃあおやすみなさい!』

「待て!? ……切られた」

 

 不穏な台詞を残して通話を切った愛華。俺はというと声を荒げてしまい完全に目が覚めてしまった。眠気は既に遥か遠く彼方へと過ぎ去ってしまった。あの馬鹿絶対許さん。

 

「……明日殺されるのか?」

 

 アイツに限ってそれはないだろうと思いながら、いやまさかな、そんなことないよなという考えが巡りに巡って

 

 

――朝の七時を迎えた。遅刻確定まで、残り30分。

 

 

「……アイツシバくか」




源司
名誉クソボケの称号を引き継いだ究極のツンデレ。本人ですら気づかないレベルで割と独占欲がある(愛華が他の人と楽しそうに話している姿をみるとムカッとするレベル)
なお受けさせられたテストの結果について一切知らないが、この後採用通知を愛華に叩きつけられる。

愛華
実は一人っ子で母親がいない。源司の眼鏡の内に隠された真っ赤な目が好き。

愛華の父
源司のことを娘に纏わりつく虫だと思っていたら、想像以上の傑物だった。そして娘のことを何だかんだ好んでいることを悟る。
テストをしたのは色々と相応しいかどうか見極める為。
源司の父の源吾と話し合いをした時、初対面ながら「裏社会ですら見たこと無いレベルの怪物」という評価を下した。

源吾
愛華の父と協力体制を結ぶ。初対面で怯えられたのは割と久しぶり。
この度源司に全言語を使用。その意図はただ本音を聞き出す為でなく……


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