セブルスに成り代わって平穏に生きてみる (dahlia_y2001)
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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-1

 

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-1

 

 

 

自分が某有名児童文学の登場人物と悟った時、俺が真っ先に思ったのはただ一つ。俺にそんな大役は無理だ。陰の主人公にして英雄、セブルス・スネイプだなんて!!

 

 

そういう訳で物心つくかつかないかの幼子である俺―――幸か不幸か未だ魔力は発動していない―――は、今後の方針をどうするかなーと考え込む。本編でセブルスは魔法使いの子供の為、父親から暴力、母親から育児放棄されていた。この二人も大概だが、その心境は分からなくもない。異質なものに恐怖してしまう父親は大概の人間の反応であり、受け入れがたいのは理解できる。人の許容範囲はそう大きくない。歴史的に自分の子供でないチェンジリングの子(妖精の子)だとして虐待してしまう話はあるのだ。しかも判断方法が既に暴行というか、人間なら死んでしまうだろ?という手段。これは判断方法なのか?とツッコミ入れたくなる。

母親の方が世間知らずのお嬢様育ち。事態の解決を行える実務能力に欠けている。家出した為、実家を頼れず孤立したため思考停止状態に陥ったのではなかろうか。俺としては、母親が実家に泣きついて俺だけ実家に預け、夫の記憶操作をしてしまえば良くない?わりと腕の良い魔女だったでしょ?と思うのだが、思いつかなかったのか夫に不誠実などと真面で甘っちょろいことを思ったのか。こういうところが、お嬢様育ちなのだろうな。

 

 

俺は深い深いため息を吐いた。その時、声がかけられた。

 

『おやおや、随分、深いため息よのぉ。幼子とは思えぬため息よ。どうしたのだ?妾に話してみよ』

 

どこか面白がる風に彼女は尋ねた。

そう、彼女との出会いが、俺とセブルス・スネイプの人生が変わった瞬間。ここから、某児童文学と陰の英雄は、とんだ横滑りを始めるのだった。

 

 

セブルス・スネイプの人生は、俺からすると救いがなさすぎる。死んだ後に陰の英雄と称えられても・・・。それに、俺にダブルスパイを成功させ、教授のハードスケジュールをこなし、ハリー・ポッターを陰から守りつつ憎まれる、そんな過酷な人生は御免こうむる。そもそも、俺は正当に出来れば評価以上に褒められたい性質なのだ。お調子者と言いたいならば言え。こちとら褒められて伸びるタイプだ、きっと。

そこで話を戻す。セブルス・スネイプは優秀な教授、魔法界なんぞに拘るから人生ハードモードに突っ込むのだ。俺の見るところ魔法界は魔境だ。後ろ盾のない優秀な魔法使いは駒として使い潰されるものだ。セブルスしかり、リリーしかり、ハリーしかり。魔法とは、きっぱり縁を切った方が良い。そんな自論を彼女にぶつけた。彼女以外にそんなぶっちゃけた話出来るものではなかったので。また、本編部外者の彼女ならば話しても問題はあるまいという打算もあった。

彼女は俺の話を大人しく聞いていた。

どこまで理解しているか分からないが、俺としては構いはしない。単に話したかっただけだからだ。

 

『なるほど。そなたは魔力を不要と断じるのだな。ならば、妾と契約をせぬか?妾ほどの存在ならば、そなたの魔力全てを提供することになろうぞ』

 

魔力がない=スクイブ。なるほど、これで魔法界とは縁が切れるというものだ。しかし、契約というのは少し気になりはする。というか、そもそも、彼女は何者なのだ?

 

『妾か?妾は水の精霊だ。契約することで、そなたは精霊使いとなり、妾はそなたの魔力をその代償として受け取るということだ』

 

魔力を持っていると、絶対にホグワーツ入学のお知らせは届くだろうし、その前に虐待されるだろう。セブルスはホグワーツ行きは嬉しかったのだろうが、俺は知っている。それは不幸特急の乗車券だ。

 

 

また、某児童文学に精霊使いは存在しなかったので、俺は深く考えもせず了承した。人生の大きな分岐点ではあったのだが―――特に後悔はしていない。人生の相棒を得たと言い切れるのだから。

 

 

 

 

 

結果はおいおいとして、だらだら俺の半生を述べても仕方ない。今日はホグワーツの入学式、しかもハリー・ポッターが入学年、つまり本編が始まったのだ。

ところで、俺が影の英雄から降りても某児童文学の修正能力は凄まじいものがある。ハリー・ポッターの両親は亡くなっており、シリウスはアズカバン。魔力のない精霊使いの俺は本年度からホグワーツ教員として存在しているのだから。反対に違うこともある。まず、俺は魔力がないので魔法薬学教授ではない。精霊学を教授することになる。また、以前と違って精霊使いが増えている。例えば、アーガス・フィルチは風の精霊使いだ。スクイブは魔力がないのではなく上手く使えないだけ。故に、俺の紹介?で名門のスクイブは軒並み精霊使いになっている。結果、魔法界は光派・闇派を大きく上回る精霊派が名門を主として広まっている。今、光と闇の対立は一部地域の縄張り争いレベルに下がってしまった。結果として、魔法界かなり平和になったんじゃね?という感じだ。うんうん、平和なことは良いことだ。一部の戦いたい連中もいることはいるが大多数の名門が存在する精霊派にガチで盾突く程の力はない。また、精霊派は今や弱小派閥である光派・闇派にあえて関わらないという方針なのである。

故に、ハリー・ポッターもそれほどは英雄視されていない。今回は、楽しく穏やかなホグワーツ生活を送ると良い。児童文学を読む限り、セブルスに負けず劣らずハリーも人生ハードモードだものな。学生のうちは教授の義務範囲内で守ってあげよう。もっとも、本編のセブルス並みに守らないので悪しからず。自ら危険に突っ込まないように、と一方的な忠告を心の中でだけ言っておいた。

 

そのハリーは組み分け儀式中だ。帽子と相談中といったところか。そろそろ決めないと組み分け困難者になってしまいそうだ。ところで、ネビルはハップルパフへ行き、原作と異なっているが、ハーマイオニーとロンはグリフィンドール。あ、今、ハリーの組み分けがグリフィンドールに決まった。それ程、大騒ぎしていない風に見えるのは、こっちの主観によるものか?

原作修正力といえば、クィレルはやっぱりターバン巻いてニンニク臭いし、セブルスの代わりの薬学教授は陰気っぽい。あんまり原作を拒絶するのも逆に拘っているみたいなので俺も服は映画に従って黒一択、しかし、このボタンばっかりなの正直、着替えが面倒くさいんだが。セブルスは何でこんな服を愛用していたのだろうか。趣味?意味が分からん。但し、髪ベトベトなのは元日本人として風呂好きな血が騒いでそこは変えさせてもらった。あと、度々、床屋へ行けず長髪にしている。結んでしまえば邪魔にならない。故に外観は育ち過ぎたコウモリ(改め)といったところか。そして、今後一人称を吾輩で統一しよう。

 

さて、校長が相変わらずコメントに困る挨拶をしていたが、やっぱり賢者の石をホグワーツに持ち込んだか・・・。グリンゴッツに置いておけば何かあってもグリンゴッツの責任なのに何で厄介ごとを生徒のいるホグワーツに持ってくるかな?と校長の思考に疑問を抱かずにいられない。本当、何を考えているのだろうか?ハリーを見ていたら、額を押さえてクィレルと薬学教授の方を気にしている。同じハイテーブルでも位置の違う吾輩は、ハリーが見当違いの疑惑を抱いているのを(この時点では疑惑までいかないか)―――によによと面白く眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-2

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-2

 

 

 

魔法薬学は一学年から毎週授業があり、ハリー・ポッターとの接点もあっただろうが精霊学教授の吾輩とは全く接点がない。別にトラブルメーカーのハリー・ポッターに会いたい訳じゃないけれど。故に吾輩は今日も今日とて本年度入学唯一の精霊使いネビル・ロングボトムとのマンツーマン指導中だ。

ネビルがゆっくりと手のひらを大地に向ける。

 

「大地よ、壁となれ」

 

ボコッ

 

一気に土が隆起し、30センチほどの高さの壁?一面一メートル四方が成形された。

吾輩はぱちぱちと手を叩く。

 

「上手、上手」

 

ネビルは吾輩と同じで褒めて伸びるタイプなのだ。

ネビルはてへっと照れて―――ぐしゃと土壁は崩れた。

 

「気を抜くな。固定が足りんから崩れるんだ」

「はい、セブルスおじさん」

 

慌ててネビルは再び両手を向ける。土壁が再構成された。

 

「いや、教授と呼びたまえ」

 

吾輩はぽつりと呟いたが、もはやネビルは聞いておらず集中している。案外、集中力はあるのだよな、こいつ。

ネビルが吾輩を”セブルスおじさん”と呼んでしまうのは仕方のない話だ。吾輩は、ネビルが幼児のころから知っているからだ。例の予言の対象者はハリーとネビルだった。その為、両方に護衛の打診をしたのだ。

ハリーの方はシリウスがきっぱりはっきり秒で断りやがった。今思い出してもムカつく物言いで、愚連隊もとい親友たちがハリーをまもるからてめぇらなんぞいらねぇよ、という感じであった。結果は、原作通りでペティグリュー(身内)の裏切りでジェームズ・リリー夫婦は死亡、シリウスはアズカバン行きだ。これが原作修正力なのか、シリウスの傲慢さ故なのか。吾輩はシリウスの阿呆のせいだと思う。なぜなら、ロングボトム夫婦の方は守り切ったのだからだ。但し、その結果?ネビルが土の精霊に目を付けられてしまい精霊使いになってしまったのはどうしたものか。

しかし、これでネビルは英雄ルートから完全に外れたことだろう。変に校長に目を付けられなくなったのは―――吾輩の見解としては幸いなことであると思われる。

 

校長が精霊使いをどう思っているのか、はっきり明言はしていないが心中、面白くないのではなかろうか。しかし、表立って批判は出来まい。精霊使いは名門のスクイブが元光・闇派関係なく多く存在し、敵に回すには今の光陣営は弱小になり過ぎた。

賢者の石防衛に吾輩を組み込ませないあたり、シリウスと一緒で、けっ、てめぇの力は借りないぜ、なのだろう。本当にもう好きにしろよ、である。但し、生徒は巻き込まない方向で、だ。

そもそも吾輩がホグワーツ教授になったのはホグワーツ理事会からの打診である。故に校長はしぶしぶだったようだ。理事会の思惑は、ホグワーツの防衛であり、精霊の力で守ってくれとのことだろう。今後、ホグワーツは毎年厄介ごとが起こるので、順当な配置と思われる。原作を読んでいて、毎年綱渡りっぽい感じだった。そういう思いもあって、ホグワーツ教職員を引き受けたのだ。吾輩も大概、お人よしである。

 

確か、本年度は賢者の石攻防戦でクィレル黒幕編なのだ。とりあえず、クィレルがやらかさない様に見張りつつ、賢者の石を守れば良い。賢者の石が狙われるのは学期末、校長不在時である。今にして思うと校長不在って罠だったのでは?やっぱり食えない爺さんである。

 

 

吾輩関係なく、ハリーはクィディッチメンバーになり活躍したらしい。クィディッチを観戦に行かなかったのでよく知らん。寒そうだし、マクゴナガル教授のように熱狂できないので部屋でゴロゴロしていたのだ。部屋にはこたつを設置している。

 

 

そして、原作通りハロウィーンパーティーである。お菓子は大量に用意した。いたずらOKなこんなイベント、生徒が見逃すはずがない。特にウィーズリーの双子とか、ウィーズリーの双子とか、ウィーズリーの双子とか。いたずら仕掛け人を自称しているウィーズリーの双子、吾輩は特に嫌ってはいない。そもそも、初代の愚連隊とは根本的なところが違うからである。一度、校務のフィルチに迷惑かけないように片付けだけはしっかりしろ!!と言い渡したら、変に懐かれた。減点しなかったからだろうか?

 

そのウィーズリーの双子は城の廊下にオレンジと黒の飾りつけを施していた。ハロウィーン仕様のいたずらだそうだ。自主的に飾りつけするとはボランティア精神に富んでいる双子である。

 

「「あ、プリンス教授。トリックオアトリート!」」

 

パタパタ駆け寄る双子は、背は高い方であろうとも子供だ。

ちなみに吾輩は色々あってプリンス家を継いでいたりする。原作セブルスが何を考えていたのか分からんが使えるもの(母の実家)は使った方が良い。

 

「ふむ、お菓子をやろう」

 

用意していたお菓子を渡す。双子は目を丸くした。

 

「え?用意していた」

「意外だ、プリンス教授がお菓子持参とは」

「貴公らがいるのにお菓子を持たぬなど、無策で敵陣に突っ込むようなものだろう」

「教授にそこまで評価いただけたとは」

「いたみいります」

 

双子は楽しそうに笑い、次のターゲットへ向かう。

できたら、校長に派手ないたずらを仕掛けて欲しいものである。

 

 

 

大広間でのハロウィーンパーティー。

吾輩はハイテーブルでにぎにぎしいパーティーを眺め、ハローウィン用の料理を口にする。やっぱり、クィレルは不在だ。今頃、賢者の石に探りを入れるための工作中か。クィレルは城内にトロールを入れて、混乱に乗じて例の部屋に侵入しようとするのだ。それが分かっていながら、吾輩は手を出しかねていた。実はハロウィーンの前にクィレルを素巻きにしてしまおうかとも考えたのだが、何もしていない時点でクィレルに危害を加えては、吾輩が校長に攻撃される隙を作ってしまう。校長は理事会推薦の、そして精霊使いの吾輩を煙ったく思っている。きっかけがあれば、嬉々として吾輩を首にするだろう。故に、クィレルがやらかした後しか、吾輩は動けないのだ。

 

バターン!!

 

「ホ、ホグワーツの地下にト、トロールが・・・お知らせ・・・」

 

派手に扉が開け放たれ、クィレルがよろよろと入り、ぐしゃりと倒れる。

一気に静まり返った一同が、クィレルが倒れたことで大騒ぎとなる。吾輩は床に倒れ込んだクィレルを見据える。混乱に紛れて動くつもりだろうが、そうはさせん。

 

「クィレル、無事か?」

「え・・・ええ、大丈夫です」

 

吾輩はスッとクィレルの傍へ寄った。別に欠片も心配はしていない。大体、これはクィレルの自作自演だ。そういう目で見るとクィレルの演技は大根役者レベル。しかも、ここで吾輩に気遣われて、もとい監視されるのはさぞや困ることだろう。

校長が生徒たちを落ち着かせ各寮へ移動させる―――いや、これは拙い。

 

「待ってください。地下にあるスリザリンとハッフルパフ寮生が危険です。生徒が皆ここに居るならば、生徒は大広間で保護。トロール退治の精鋭部隊と大広間防衛隊に分けることを提案します」

 

自身の指示に反論され、校長はぎろりと吾輩を見る。しかし、吾輩の意見はかなり真面である。故に教授陣はそれで動き出した。こうなっては仕方ないと校長は好々爺へ戻った。トロール退治には行かないらしい、行けよ。

 

「私は精鋭部隊に」とマクゴナガル教授。

 

フリットウィック教授も精鋭部隊へ。このあたり、武闘派の教授たちが決まり大広間を出た後、即、吾輩は右手を振った。途端、大広間の扉が分厚い氷で閉ざされる。水の精霊使いとしてはこの程度、容易なのだ。但し、精霊使いの力は魔法使いの力とは全く理屈が異なる。吾輩が思うに、精霊使いの力は物理寄りの力なのだ。故に汎用性に欠けるのだよな。

ちなみにこの分厚い氷を通り抜けてこっそり動くことは当然、クィレルも出来ず呆然としている。足止めは完全に出来たが、止めとばかりに吾輩はマダム・ポンフリーにクィレルを預けた。

クィレルの足止め、武闘派教授陣ならばトロールも瞬殺できるだろう。自画自賛したくなるほどの立ち回り―――と思っていたのは一瞬。

 

「ハーマイオニーが三階女子トイレに」

 

ハリーとロンの申し出に、吾輩は、忘れていた、それ!?と心中で絶叫したのだった。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-3

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-3

 

 

 

ハーマイオニーが三階女子トイレにいる。

原作でロンの暴言に耐えられず、ハーマイオニーは三階女子トイレで一人泣いている折、トロールと遭遇してしまうのである。ハロウィーンパーティーの最中だよ、誰か慰めてやれよ、と吾輩は思う。特に同室の女子。今更、何を言っても仕方ないが。

 

「フィルチ、頼みがある」

「はい」

 

ホグワーツ城の校務員にして風精霊の使い手であるフィルチは吾輩が風精霊との仲介をしたせいか、大分、こちらに好意的である。そんなに恩を感じなくても良いのだが、せいぜい同じくホグワーツを守る同志と思ってもらいたいところだ。

 

「聞いての通り、精鋭部隊に今の情報を伝達。吾輩は三階女子トイレに向かう」

「はい」

 

フィルチは軽く左手を振った。白い風精霊―――子猫の見た目の白い虎がフィルチの左後方に現れて、甘えるようにフィルチの左足にすり寄った。

 

「頼むぞ、わしの風精霊」

 

風精霊は小さく頷き、一瞬でその姿はかき消えた。

吾輩は近場の長テーブルから水差しをひっつかみ、派手に床へとぶちまけた。床に大きな水たまりが出来る。

 

「水の精霊、応えろ」

 

吾輩の呼びかけに反応して水たまりは淡く光り輝く。この術はあまり使いたくない―――しかし、これが最も早く移動できる。一瞬、立ち止り、吾輩は勢いよく水たまりへと身を投じた。水たまりは三階女子トイレに繋がっている筈。

 

 

三階女子トイレ前か。吾輩はクラクラする頭を軽く振った。どうも空間移動は好きになれない。この術は、精霊の通り道と呼ばれるものだ。精霊の、と付くだけあって本来は人が通ることを前提としていない。そこを無理して通る訳で、この術を使うと体にどうしても負担がかかるのだ。今回のように緊急時は仕方なく使っている。

さて、まだ精鋭部隊はここに到着していない。先回りはできたようだ。

 

「ミス・グレンジャー。そこに居るか?」

 

吾輩は声を張り上げた。流石に中に入るのは憚られる。

 

「!?」

 

返答はないが人の気配はする。まず事情を説明しておこう。トロールを退治するまで、そこでじっとしてもらった方が助かるからだ。

「ミス・グレンジャー。今、ホグワーツ城内にトロールが入り込んでいる。生徒は大広間で待機。教授の一部がトロール退治に動いている」

「は・・・はい」

 

蚊の鳴くような声で返事が返ってきた。

 

「ミスタ・ポッターとミスタ・ウィーズリーの申し出により、ミス・グレンジャーが大広間にいないことが判明した。それにより、吾輩が救助に来た、ここまで良いか?」

「はい」

「救助部隊が来るまでミス・グレンジャーはここで待機のこと。吾輩はここで教授陣と合流する」

 

上手くいけば、トロールと遭遇前にマクゴナガル教授と合流できる筈だが、そうはいかないか。これも原作補正だろうか?

ムワッとした異臭が鼻についた。トロールがこちらに向かっているようである。しかし、なぜこちらに向かって来るのだろう?トロールが人の気配を感じてだろうか?

反射的に吾輩は袖を鼻で覆った。トロールの姿を認識して、さて、どうしたものか、と考える。クィレルに利用されているだけのトロールを殺すのはあんまりにも酷い気がする。そうなると、殺さないように行動不能にする必要があるのだが、適当な術が思いつかない。魔法使いならば相手を気絶させる呪文があるが、精霊使いにそんな便利な術はない。氷槍で頭を強打させ気絶させることは可能だが、やり過ぎて相手を殺してしまう可能性もあり、この辺りが精霊使いの使い勝手の悪さだろう。そうなれば、足止めに務めるか。

直にマクゴナガル教授が来るはずだ。吾輩が仕留める必要はない。サッと右手を振る。

 

キインッ!!

 

吾輩とトロールの間に分厚い氷壁を形成した。周囲の空気が冷えた。呼吸に気を付けないと肺が凍ってしまいそうだ。空気がキラキラと輝いている。おそらく大気中の水分が吾輩の力に引きずられて氷化しているのだ。見ている分には綺麗である。

トロールは氷壁に阻まれて、一瞬、考えて棍棒を振るった。

 

ギイィィィィンーーーバキッ

 

派手な音を立てて棍棒が折れた。吾輩がやったのに、その威力に我ながらドン引く。トロールって頭脳はアレだけれど力は凄いというか力に

極振りしている種族なのに、その全力でも歯が立たない氷壁を容易に作れるって。精霊使いは本当に物理ごり押し系で魔法使いとは一線を引いている。

そして、トロールの頭脳がアレなのは本当らしい。なぜか氷壁に再チャレンジしている。負けん気が強いのか、阿呆なのか、多分、阿呆なのだろう。何と戦っているのか吾輩には分からん。

そうこうしている内に、ようやくマクゴナガル教授たちが駆け付けた。

 

「セブルス!!」

「マクゴナガル教授、ミス・グレンジャーは保護済みです。トロールをお願いします」

「片づけます」

 

フリットウィック教授がスッと杖を振るった。即、トロールが失神呪文で倒れた。流石、ホグワーツの教授、見事である。こういうのを見ると、魔法使いが羨ましくなる。決して、精霊使いである今が嫌なのではなく、便利だなという意味で。

これで一件落着だ。とりあえず、氷壁を消した。

マクゴナガル教授にミス・グレンジャーの事情を説明し、迎えに行ってもらう。そのまま、マクゴナガル教授が付き添ってミス・グレンジャーは保健室へ行った。

 

 

 

後日、保健室にハリーとロンが入院していたミス・グレンジャーを見舞いに行き仲良くなったらしい。詳しくは知らんが、友情は良いことだろう。吾輩の立ち位置からハリーとは接触しない方が良いので情報は入手しがたい。そっとしておこう。

 

これにて、ハロウィーン事件は解決。なかなか穏便に済ませられたのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-4

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-4

 

 

 

賢者の石を狙うクィレルは、しかし、今のところ全く進展がないと思われる。おそらく、クィレルが焦っているのは予想がつくので、この辺りでこちらから一手を打たせて貰おう。わざわざ待ちの姿勢で対応することもあるまい。

自室に戻って、ハウスエルフのメリーアンを呼んだ。

メリーアンは吾輩個人所有のハウスエルフだ。何と言っても精霊使いは魔法使いと異なって日常魔法と分類されるものが一切使えないので個人所有のハウスエルフを持つ者は少なくないのだ。

一応、吾輩はプリンス家当主でもあるし。

 

「セブルス様はメリーアンをお呼びになりました」

「うむ、実はメリーアンに手紙を届けてほしくて呼んだ。内密の手紙だ。必ず本人に渡し、返事を貰ってくるように。返事は口頭でも手紙でも構わん」

「メリーアンは手紙をお預かりいたします」

 

メリーアンは丁重に手紙を受取、バチンと姿くらましを行った。一般的なフクロウ便は機密性に不安があるので、内密の手紙はメリーアンに頼むことが多い。

直にメリーアンが戻ってきて、口頭での返事―――了解した―――を伝えた。絶対ではなくても、あてには出来る。彼の能力には信頼がおけるので。

 

 

 

ホグワーツの図書館、その素晴らしい蔵書に吾輩は満足していた。しかも教職員なので禁書棚もフリーパスである。その為、ちょいちょい図書館を利用している。吾輩としてはそう頻繁に図書館へ通っていたつもりはなかったのだが、気付いたら司書マダム・ピンスは吾輩を馴染み客と思い込んでいる節がある。年一度の蔵書購入日には是非、ダイアゴン横丁の書店に付き合って欲しいと言われている。別に吾輩は本の目利きという訳でもないが渡りに船なので、こちらこそ参加させて頂きたいと返答した。話がズレた。吾輩がいつもの習慣で図書館へ行ったら、貸出カウンターに森番ハグリッドが貸出手続きをしているのを見かけた。その本のタイトルが『ドラゴンの飼育法』というのだからーーーハグリッドはドラゴンの卵を手に入れたか、と察した。ハグリッドは大変ご機嫌である。吾輩としては、予防策を張ったつもりだったが上手くいかなかったか。もともと、ドラゴンの卵を正規ルートで入手することは、個人的にはまず不可能なのだから非正規ルートなのは間違いない。蛇の道は蛇とも言うしな。吾輩はまたメリーアンに手紙を届けさせることにした。

 

今度は、メリーアンへの返事は手紙であった。吾輩は自室でそれを読み、眉をひそめた。前世知識はあっても、それを裏付けるものがないというのは他人を説得させ難い。返事をテーブルに置き、コツコツと指でテーブルを叩く。あまり、吾輩としては目立つ行動は取りたくないし、吾輩の力は隠密行動に向いていない。風の精霊ならば、情報収集に特化しているが、吾輩の水の精霊は常に力押しだ。苛々している吾輩を気遣ってか、メリーアンが言う。

 

「セブルス様、メリーアンがおいしいお茶を淹れてさしあげます」

 

お茶の気分ではないが、断るのも悪い気がしたので「好きにしたまえ」と返した。

メリーアンが嬉々としてお茶の支度をする、その時だった。せわしないノックの音に一瞬、吾輩たちは目を合わせる。

 

「どうぞ入りなさい」

 

吾輩の許可に、慌てた様子でドラコ・マルフォイが入ってきた。

 

「セブルスおじさん、大変です!!」

 

ネビルもそうだが、ドラコも幼少のころから交流があるし、マルフォイとは遠い親戚関係でもある。故に『セブルスおじさん』呼びもホグワーツ入学前はそれが常だったので仕方ない。まして、ドラコはネビルとは異なって、精霊学を受講していないので教授としての吾輩とは全く接点がない。自室であれば、『セブルスおじさん』呼びでも構わないか。

 

「ドラコ、そちらに座りなさい。メリーアン、お茶とお菓子の用意を頼む」

「メリーアンはドラコお坊ちゃまにおいしいお茶とお菓子を差し上げます」

 

メリーアンは親戚筋のドラコがお気に入りなのか、唯一のお坊ちゃま呼びなのだが、ドラコがそれを喜んでいるかは不明だ。どこかで修正してやるべきだろうか。

 

「ひとまず、お茶を飲んで落ち着いてから話すように。それくらいの時間はある筈だ」

 

吾輩の言葉に従って、ドラコは一口、紅茶を味わった。深呼吸してから口を開いた。

 

「あの森番が小屋でドラゴンを育てています!!」

「やはりな」

 

ドラコは目を丸くした。

隣でメリーアンがお菓子をサーブしている。メリーアンも大概マイペースだ。

 

「ご存知でしたか」

「事前に手を打っていたのだが、上手くいかなかった。しかし、ここまでは予想の範疇。後手にはなるが正規に片を付けよう」

「セブルスおじさんが始末するのですね」

 

安堵したような嬉しそうなドラコに吾輩は首を振った。なぜ?と不思議がるドラコに吾輩は薄く笑った。

 

「ホグワーツ教授が違法ブリーダーを逮捕する義務も権利もない。義務と権利を持ち合わせた者に正規の手段で正規の罪に問うて貰おう。既に手配済みだ。ドラコ、この件から手を引くように。面倒に巻き込まれる可能性がある」

「はい、分かりました」

 

正規の手段、正規の罪―――に予想がついたのかドラコは納得してくれたようだ。

 

 

 

それから三日後。魔法省の抜き打ち調査でハグリッドの小屋―――その外からもドラゴン飼育状況が分かった為、ハグリッドは現行犯逮捕。ドラゴンは保護されたらしい。

らしいというのは―――吾輩が実際に現場を見た訳ではないからである。吾輩がやったのは、魔法省の風の精霊使いに情報を流しただけだ。元から、ハグリッドは危険な魔法生物を飼育することに興味津々で闇ブローカーとも関わりがあったし、いつかやらかして検挙されるのではと噂されていたようだ。そういう意味では、とっくに魔法省から危険人物もしくは犯罪予備軍としてマークされていたらしい。道理で逮捕までがスムーズだった訳だ。

なお、本件はハグリッドが違法にドラゴンを飼育していたことも罪状としてカウントされているが、それ以上に違法にドラゴンの卵を入手した件にウエイトが置かれている。そこを足がかりに闇ルートの解明を目的としているのだ。魔法省側としてもハグリッドが知っているとは全く思っていないが、一種の見せしめもあるのだろう。日刊予言者新聞に大きく取り上げられている。結果、ホグワーツの安全管理はどうなっているのか、と保護者から校長あてに非難が殺到していた。普通に考えて当然である。学校の隣にドラゴン飼育とか恐怖でしかない。また、ハグリッドがドラゴンを飼育していた事を知っていた生徒がいないか調査され―――というか、ハグリッドが取り調べてうっかり話してしまいーーーハリーたちはマクゴナガル教授同伴で魔法省の役人から話を聞かれることになった。他人事ながら酷いとばっちりである。役人は人当たりの良い子供受けしそうな者が対応し、あくまでハグリッドの証言の裏付けという流れであった。きちんとハグリッドの裏付けが取れて役人はハリーたちを巻き込まれた被害者と認識し、報告した。その点ではマクゴナガル教授は安心もしたが、ハリーたちを叱り飛ばすことも忘れず、役人が宥める一幕もあったとか。

 

 

 

吾輩としては、ハグリッド逮捕はおまけで本命はクィレルだがそう上手くいかなかった。ハグリッドにドラゴンの卵を渡したのはクィレルと思ったがーーー何も直接、クィレルが動く必要もない―――とはいえ、今、闇の帝王の手先はそう多くはないからクィレルを釣れるかと思っていた。

それ程、期待はしていなかった。そう強がって吾輩は次の一手に思いをはせたのだった。

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-5

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-5

 

 

 

クリスマス休暇、吾輩は家に帰った。クリスマスは日本ではともかくイギリスでは家族と過ごすものである。一応、吾輩はプリンス家の当主なので、名門のパーティーに参加する必要もあるのだ。これは、あまり得意な分野ではないが仕方ない。

そういう訳で、吾輩は原作と異なり、クリスマス休暇にはホグワーツを不在にしていた。とはいえ、今の吾輩はどこの寮の寮監という訳でもないのでホグワーツに居る必要もない。

 

 

 

クリスマス休暇が終わり、イベントが多くて休暇が短く感じられた、吾輩はホグワーツに戻った。休暇前のホグワーツの日常は変わらなかった。強いて言えば、森番ハグリッドがドラゴン飼育の件で短期アズカバン送りになっていたが、吾輩としては些細なことである。あの件で本命のクィレルをしょっ引けなかったことは残念であったが。

しんしんと雪が降り、冷えるホグワーツ城―――しかも就寝時間に吾輩は見回り当番で城内を歩いていた。生徒というのはルールを破るというだけでスリルを感じる、何ともお手軽な思考をしている。吾輩ならば、こんな寒い中、暗い城内をうろつくことに面白味など全く感じないけれど。それでも、夜の見回りは教職員の当番制なので仕方ない。一年に一度くらい迷子の新入生を回収したりするが、それとて入学三か月前後といったところだ。この時期に迷子になる者はあまりいない。全く否定はしないが。

だが、今夜、その人影を見かけた折に、その子供が迷子とは思えなかった。頭からマントを被った小柄な姿は―――そのマントが妙に闇に沈んでいるように見えた―――目的地がはっきりしたような足取りで進んでいる。今、捕まえて詰問するよりは目的地まで案内してもらった方が良いと判断して、吾輩はそっと後を付けた。

するり、と子供はある部屋に入った。空き教室、一応はそれを確認し吾輩も入った。大きな姿見の前に子供は座り込んで食い入るように鏡を見つめている。子供はハリー・ポッターだった。

 

 

カツン

 

 

ワザと足音を立てて、ハリーへ近づいた。音に驚いてハリーが振り返り、吾輩を見て目を丸くしている。減点を告げるべきか、罰則を言い渡すべきか。そもそも、この大きな姿見は本当に吾輩の知る『みぞの鏡』だろうか?

 

「その鏡に何が見えるかね?」

「・・・・・・僕の両親が見えます、プリンス先生」

 

聞くんじゃなかった。反省しつつ、姿見を観察する。『みぞの鏡』とあった。間違いなさそうだ。ほんの少しの好奇心から吾輩は鏡を覗き込んだ。一体、何が映るのだろうか?

 

ビキッ

 

鏡の表面が凍った。『みぞの鏡』は鏡を見る者の願望を映し出す。つまり、相手の心の底を覗くようなものである。それは一種の精神攻撃、精神干渉ともいえるのではないだろうか?故に反射的に吾輩の精霊は鏡を凍り付かせたのだろう。この『みぞの鏡』思っている以上に危険な代物かもしれない。

驚くハリーを促し、『みぞの鏡』から引き離す。

 

「ミスター・ポッター。これは『みぞの鏡』だ。あまり良い代物ではない」

 

吾輩はハリーを振り返った。今更だが、ハリーの顔色は悪く、やつれている様に見える。

 

「マダム・ポンフリーのところまで送ろう」

 

教師に深夜徘徊を見つかった以上、意気消沈しているのかハリーは大人しく吾輩に従った。ホグワーツ城の暗い廊下をただ黙って歩く。吾輩も気まずいが、ハリーも気まずかろう。保健室へハリーを送り届けると、マダム・ポンフリーは当然びっくりしていた。しかし、ハリーの様子に何も言わず、吾輩の一晩頼むという依頼に頼もしく請け合ってくれた。

さて、次はマクゴナガル教授へ報告か。

 

 

夜回り後の時間に訪れたためか、マクゴナガル教授は巡回報告に来たと察していた。かつ、何か問題があった、と。そうでなくば翌朝の報告でも充分だからだ。

マクゴナガル教授に椅子を勧められ、立ったまま報告もどうかと思われたので座ったが、長居するつもりはない。

 

「巡回中にポッターを見つけたので、マダム・ポンフリーに一晩預けてきました」

 

ぴくり、とマクゴナガル教授は眉をひそめた。夜の見回りで生徒を回収することはあるが、即、保健室送りというのは少々珍しいかもしれない。通常であれば、寮監引き渡しで終わり、だ。

 

「何があったのですか?」

 

マクゴナガル教授のこういう察しの良さは好感が持てる。

 

「ポッターは『みぞの鏡』に魅入られておりました。気付かれませんでしたか?」

 

マクゴナガル教授は小さく息をのんだ。ハリーの顔色の悪さは、おそらく寝不足から。やつれた様子は『みぞの鏡』に魅了されたからだろう。いくら寮監とはいえ、一生徒の不調に気付けというのは酷か。

 

「・・・・・・気付けませんでした」

 

苦渋ににじんだ声でマクゴナガル教授は返した。

 

「『みぞの鏡』をあのように放置しておくのは危険と思われます。即急に片付け、再発防止に務めて頂きたい」

「ポッターはあの鏡に・・・・・・」

「両親を見たそうです」

「何てこと!?」

 

本当にな。物心つく前に両親を失った子供が『みぞの鏡』に魅了されるのは当然である。

 

「『みぞの鏡』はすぐに移動させます。ポッターに『みぞの鏡』の意味を伝えましたか?」

「いえ、早く休ませた方が良いと思いましたので」

 

ついでに、そういう言いにくいことを吾輩に言わせようとするのは止めて欲しい。

 

「分かりました。私が朝、保健室へポッターの様子見がてら説明して引き離しましょう。アレに魅入られて人生狂わせる者は多いですから」

「なぜ、そのような危険な代物がホグワーツ城に?まして、容易に生徒が触れられる場所にあるのですか?」

 

これは前世知識の頃から思っていた。加えて、精霊が問答無用で攻撃仕掛ける程に危険というのは、今、はじめて知ったけれど。

黙り込んだマクゴナガル教授に、返事を得られぬことが分かった。どうにも話にならない。吾輩は席を立った。

 

「では、マクゴナガル教授、後は頼みます。夜分遅くにすみません」

「いえ、セブルス。ありがとうございます」

 

 

 

翌日。校長は元気がなさそうだった。

ハグリッド逮捕で保護者から非難の手紙が殺到し、理事会からハグリッドの免職請求の勢いが凄まじいとか。加えて『みぞの鏡』のザル管理にマクゴナガル教授から鋭い叱責を受けたそうだ。流石に少しくらい、しおれないと神経を疑う。

さて、ハリーの方は徐々に元気を取り戻したとか、これはマダム・ポンフリーからの報告である。若いから回復も早いのかもしれない。クィレルの方はよく分からん。ハグリッド逮捕でバタついている今がチャンスのような気もするし、逆に魔法省に睨まれている状態なので身動きが取れないのかもしれない。

一応、監視の必要はあるのだが、吾輩も初の教員職。学年末テストの為、そこそこ忙しいのである。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-6

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる1-6

 

 

 

吾輩は借りていた本を図書館へ返却した帰り、くっついて本を読んでいるハリー達三人組を見かけた。学年末テストが終わったのにまだ勉強をしているのか?ハーマイオニーはともかく残り二人はそんなに勉強家のイメージがない。悪いが勉強嫌いなタイプと思っていたのだが、ぼけーっと彼らを眺めていたら、向こうが吾輩に気付いた。そして、肩を震わせた。何だろう、これ。

悪戯しかけようとして先生に察せられたような、全力でやましいこと考えていますと言わんばかりの態度。さて、どうしようか?原作だと理不尽な罰則を言い渡すところだが、吾輩は原作セブルスのように頭も口も回らん。地頭悪くて、悪かったな。

しかし、ばっちり目が合ってしまったのでスルーも出来ない。

 

「勉強もほどほどにしたまえ」

 

言ってしまった後、教師の言うセリフじゃないなと心底ツッコミを入れたくなった。当然ながら三人組も目を丸くしている。フォローの入れようがない。吾輩は速攻逃げた。

吾輩に原作セブルスをトレースするのは無理だ。

 

 

 

ところで、校長は今、所用でホグワーツ城を不在にしている。何気に校長は肩書が多いのでそれなりに忙しいのかもしれない。よくは知らんが。そして、その隙をついてクィレルが暗躍する―――筈だ。やっぱり、校長不在は罠だったのではなかろうか。しかし、ここで吾輩も暗躍する。生徒に賢者の石を守らせるなど、教師の名折れだ。さて、どうしたものか。

 

提案その1

クィレルに喧嘩を売って物理的に動けなくする。魔法使いVS精霊使い。クィレルはどもっているのと妙にオドオドしているせいで弱そうに見えるが、どうしてどうしてホグワーツの教授しかも闇の魔法に対する防衛術担当である。正直なところ、勝てる自信はあまりない。なにせ、こちとら魔法使えないので盾の呪文系の防衛手段がないのだ。丸腰なのだ。こっちの攻撃はひたすら水でぶん殴るとか氷でぶん殴るとか―――可哀想なくらいに水か氷の物理しか手段がない。止めておこう。ホグワーツと生徒に被害がでないイメージも湧かないし、下手をすればクレーターが出来そうだ。

 

提案その2

マクゴナガル教授そのほか教師陣に告発してクィレルの身柄を拘束する。ホグワーツ教師陣武闘派数人がかりならばVSクィレル(ついでにあの人付)も余裕で倒せるだろう。ホグワーツ教授は優秀な魔法使いなので一対多数とか過剰戦力気味ですらある。しかも、吾輩は戦わないでも良い。

但し、これはクィレル黒幕説を教授陣に納得させることが出来ればである。そして、これが大変難しいのだ。教授陣としては心情的に同僚を疑うのは抵抗が強いだろうし、告発されるのが見た目は気弱そうなクィレルでは尚更だ。加えて、証拠がない。クィレルの立ち回りが上手いのか、吾輩の捜査能力皆無なせいか、これという説得力のある材料がない。原作ハリーもマクゴナガル教授にセブルス犯人説を一蹴されていた・・・・・・この案は無理だな。

 

提案その3

魔法省への告発。これは考えるまでもなく無理だ。教授陣を納得させるより難易度が高い。あの事なかれ主義無能魔法大臣では。あんなのでも魔法大臣が勤まるのは魔法界が平和な証左か。

しかし、トラブルに対応できる人物ではない。下手すれば、こっちが詐欺師呼ばわりされかねない。お断りだ。

 

提案その4

つまり賢者の石を奪われなければ良いのだ。トラップの入り口を氷で封鎖する。これが現実的か。精霊使いの使う魔法と魔法使いの魔法は全く異なる。故に、精霊使いが作った氷は魔法使いの魔法でどうにかすることは難しいのだ。

 

 

そういう訳で吾輩は例の部屋の扉へスッと両手をかざし―――一瞬で扉を氷で封鎖し固めた。以前にトロール相手へ使った氷壁とは本質的に異なる、より凍度の高い氷を形成させた。周囲の空気が震わされ這う様に氷が扉を中心として廊下、壁をも凍らせていく。この階の廊下が氷で覆われた。

吾輩が小さく吐息を零せば、吐息は真っ白に変わった。

 

「風邪ひきそうだな」

 

 

 

翌朝、大食堂で吾輩はイギリス的な朝食に手を付けている。スクランブルエッグ、マーマレードを付けたトーストとおいしい紅茶。食べ盛りの子供たちはベーコンやソーセージ、マッシュドポテトを詰め込んでおり、その食欲に自分もそんな時期があったかね?と呆れてみた。スッと隣にマクゴナガル教授が座った。機嫌は悪そうだ。無理もない。

 

「おはようございます。セブルス」

 

口中のトーストを飲み込んでから、一拍遅れて吾輩は返す。

 

「おはようございます。マクゴナガル教授」

 

マクゴナガル教授は吾輩をファーストネーム呼びする。というか、教授陣は同僚意識からファーストネーム呼びが慣習らしい。吾輩はそこまで仲間意識はないのでファミリーネーム呼びを貫いている。頑なな、と思われているだろうが直すつもりも譲歩するつもりもない。特に、校長とか、校長とか、校長とか。

校長は光派代表で、精霊使いの吾輩のことを目の上のたん瘤のように思っているのでは?と思う。校長は頭が良いので、精霊派が大多数な現状はっきりと吾輩が気に入らないとは言わないが、その辺りの立ち回りは上手い。

ちなみにマクゴナガル教授の機嫌が悪いのは昨夜の騒動のせいだ。主人公ハリー一行がやっぱり賢者の石防衛に動き、扉の氷漬けに立ち往生。加えて、そこを校務のフィルチに見つかってマクゴナガル教授に深夜徘徊で連行されたらしい。当然ながら、寮監から雷を落とされ大量減点されたのだ。マクゴナガル教授は公正なので自寮生徒でも容赦なく減点するだろう。まして、フィルチ立ち合いの下では生半可な処分は許されまい。

なお、校長も深夜慌てて帰ってきたとか。賢者の石は守れたのだ、扉を凍らせたことは不問にして貰いたい。あの氷漬け扉を見れば、あれが誰の仕業かは明白である。

吾輩はぐるりとハイテーブルを見回す。

クィレルを捜したがいない。失踪したのだろうか。今のところ、そこまでの噂は流れていないのではっきりは分からないが。朝食の後に急ぎ、職員会議が開かれた。ハリー達のやらかしで緊急職員会議が開かれるとは思えない―――とおもったらクィレル失踪の件だった。校長はポーカーフェイス。教授陣は驚きと動揺を隠せていないといったところか。無論、吾輩も一応は驚いておいた。クィレル(プラスあの人憑依)は賢者の石をひとまず諦めたのかもしれない。

ここで気になったのは、クィレルがテストの採点を終わらせていたか否かである。皆があーでもないこーでもないと意見を述べている中、生徒のテスト採点のことを心配しているのは吾輩位だろうな、と思う。他の教授方のように純粋に心配するには、クィレルの中身というかあの人憑依とか、賢者の石目当てとか知ってしまっているのがな~。

 

結局、ホグワーツサイトの事件としてクィレル教授失踪事件が加わった。

ところで、クィレルが生徒の採点を終わらせていたこと、この点においてクィレルの評価を大幅に上げておいた。なぜなら、絶対に手の空いている吾輩に押し付けられる気がしていたからだ。

賢者の石は守れたし、ハリーポッターは賢者の石防衛できずに減点されたがクィレルと対決せずに済んだし、精霊使いのネビルに指導はできたし、無難に教授職も務め切ったし、ホグワーツ教授一年目としては上出来ではなかっただろうか。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-1

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-1

 

 

 

前年度・賢者の石騒動は終わり、吾輩二年目の教授生活である。今年は秘密の部屋事件だ。そして、学期始まり前の職員会議に派手派手しい新任教授ギルデロイ・ロックハートが延々と自己紹介している。今更だが、マントは黒以外も可能なのか。校長はニコニコと他の教職員は呆気に取られ、吾輩は事前情報がもとい前世知識があるので一種の見世物感覚で眺めていた。逆にここまで自己顕示欲が強い人間、そうそう見たことがない。何でこいつは俳優にならなかったのだろう、多分、そっちの方が才能あると思うのだが。ロックハートの自己紹介の後、順に右から自己紹介をするが、ロックハートを反面教師にしたのか、担当教科と名前のみというシンプルさ。だらだら長い自己アピールの反感だろうが強心臓のロックハートには多分、伝わっていない。

 

その時「大変です!!」と校務のフィルチが飛び込んできた。ロックハートに大概、うんざりしていた一同がフィルチを見つめる。

ロックハートが「どうしました、一体?」となぜか場を仕切ろうとする。

今年一年近く、この鬱陶しいロックハートに振り回されそうだ、と吾輩はつくづく嫌な予感がしていた。この予感は幸か不幸か外れることになる。

 

「生徒が空飛ぶ車でこちらに向かっています。しかも、大量のマグルに見られて!!」

 

フィルチの報告は悲鳴じみていた。そして、教職員たちも驚きで声を上げた。もちろん、ロックハートは飾りまくった言葉で感想を述べている。とうとうと立て板に水の如く。そう言えばそういうこともあった、と吾輩は思い出した。確か暴れ柳に突っ込んだが怪我はなかった筈だ。秘密の部屋とは直結しない案件なので放っておいても良いだろう。

原作では、セブルスに叱られたハリーとロンだが、今回は寮監マクゴナガル教授に絞られたらしい。今にして思うと、なんでスリザリン寮監に叱られたのだろう。よく分からん。そもそも、今の吾輩はスリザリン寮監でもないし。

 

 

翌朝のトップニュースは空飛ぶ車の件が一面に載った新聞とロン・ウィーズリーに届いた吠えメールだ。日刊預言者新聞を読んでいない生徒もこの吠えメールで事情のほとんどを知ったであろう。母モリーからの吠えメールは懇切丁寧に事情を説明してくれたのだから。とはいえ、モリーには同情する。息子があんな事件を引き起こしたら、吠えメールのひとつも送りたくなるだろう。同罪のハリーが何もないのは単に身内不在故なだけだ。もともと、空飛ぶ車はアーサー・ウィーズリー所有のものであり、ハリーが巻き込まれただけなのは想像がつくのだが。

吾輩は吠えメール自体が初なので面白がって見ていた。そして、注目を浴びたロンになぜかロックハートが張り合っている。あんな悪目立ちでも羨ましいのだろうか?ロックハートの目立ちたがりは病気の域に達しているような気がする。

 

 

吾輩は授業がないので部屋でのんびり本を読んでいたら、ネビル・ロングボトムが突撃してきた。突撃してきた様に思える位に慌てて駆け込んできたのだ。

 

「セブルスおじさん、助けて!!」

「教授と呼びたまえ」

 

ネビルとはちょいちょい同じやり取りをしている為、反射的に吾輩は返した。そして、何があった?と促したが、碌な説明もなくロックハートが授業でやらかした、とか。ロックハートの授業?あまり吾輩の記憶にないのだが。確か碌な授業ではなかったような?思わず、ため息が零れる。闇の防衛術の授業フォローが必要だ。筆記のみならずマクゴナガル教授に実技補修がいると言う必要がある。イモリ・テストやオウル・テストを受ける生徒が気の毒すぎるからな。

吾輩がネビルにつられて教室に駆け込んだ時には、即にミス・グレンジャーがピクシー共を魔法で停止させていた。見事である。

 

「ミス・グレンジャーの魔法に対してグリフィンドール10点。さて、諸君、何があったか説明して頂けるかね?」

 

教室はぐちゃぐちゃ、ロックハートは不在、生徒は逃げまどっている―――ロックハートが何かやらかしたのだろうが、分かるのはそれだけだ。生徒たちは騒動の反動なのか口々に説明し始めた。しかし、その半分が単なるロックハートの悪口に成り下がっているのは、ロックハートの人望のなさを示しているようだ。もっとも、悪口の大半は男子生徒なので女子生徒には未だ慕われて?いるようだ。この様でも評価が下落しないのだから女性心理はよく分からん。吾輩がロックハートに良い感情を抱かぬのは男のやっかみだろうか?

ロックハートは逃げているので、残りの時間は自習するように指示しておいて、吾輩はマクゴナガル教授へ報告に行った。校長?言っても動くとも思えないし、そもそも役立たずのロックハートを雇用した張本人である。加えて理事会に報告書を提出しようと思う。あの調子では遅かれ早かれ生徒から親へ報告が行き、アンチ・ダンブルドア派が勢いづくことだろう。教授側が動いていないと、こっちまで非難される。しかも、今年度入学者の親は―――あの人達だからな。

 

 

 

 

今年も去年に引き続いて一人、精霊使いが入学している。個人面談の為に吾輩の部屋に呼んだ新入生トム・レストレンジはにこにこ笑って紅茶を飲んでいる。そう、彼こそは、例のあの人の日記―――から復活したトムなのである。ベースは例の日記でハッフルパフのカップ他、ハリー以外の分霊箱を回収し、欠けた分は精霊と同化することで補って精霊使いとなったトム・レストレンジなのだ。義両親はもちろん、あの狂信者のベラ・ロドルファス夫婦である。今年入学した一番のモンスターペアレンツになる可能性大夫婦だ。アンチ・ダンブルドア筆頭である。今年、ダンブルドアが問題起こしたら、嬉々としてトムにかこつけて攻撃しまくるだろう。そして、トムに何かしたら激怒して攻撃しまくるだろう。はてさて、ダンブルドアは危機感を持っているのか?部外者の吾輩ですら心配しているのに、今年も今年で役立たずのロックハートを雇うとは―――ロックハートをスケープゴートにするつもりだろうか?任命責任取らされると思うが。

 

「そうそう、プリンス教授。秘密の部屋を開けようと思うんです」

「・・・・・・何のためにかね?」

「バジリスクを定期的に動かしてホグワーツ城に魔力を満たす為ですが・・・・・・もしかして、ご存じなかったのですか?バジリスクはホグワーツ城の魔術システムの一部です」

「そうなのか!?」

「定期的にパーセルタングがホグワーツに入学するので、バジリスク本人が都度、説明していたようです。今の魔法界はパーセルタング自体が減っているみたいですからね」

 

吾輩が知る限り、パーセルタングはトムとハリーだけだ。調べれば他にも居るかもしれん。あの人がパーセルタングの為、公表しない人間が多いのだろう。案外、名門の家には居るのではないだろうか。吾輩の精霊使いとしての伝手を使えば調べられそうだ。名門の家のスクイブに精霊契約を仲介したのでそこそこ恩を売れているのだ。

 

「パーセルタングは吾輩の方で調査しよう。バジリスクを起こすのは少々不安がある」

「バジリスクは温厚ですよ」

「温厚かね」

 

バジリスクが温厚とは思えないし、それに嘆きのマートル、彼女の死因はバジリスクの眼光じゃなかったか。そう、バジリスクの眼光が問題だ。殺せなくはないが、殺さずにすませるのは難しそうである。しかも、ホグワーツ城の魔術システムの一部では殺処分は不可であるし、そもそも吾輩はパーセルタングではない。

 

「僕はバジリスクに会いたいんです。大分、久しぶりですし、きっと寂しがっていると思います」

 

バジリスクが寂しがっているかはさておき、トムが勝手に秘密の部屋経由でバジリスクに会いに行くのは不安だ。トムが普通の生徒だ、とは言い難いが今はホグワーツ生であり、吾輩の生徒。

仕方ないので吾輩同伴ならば、としぶしぶ許可した。但し、トムが学校に慣れた一か月後とした。その期間にバジリスクについて調べることにする。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-2

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-2

 

 

新任ロックハート以外、教授陣はベテランぞろいなので(吾輩除く)授業やホグワーツに何の変りもなかった。新入生で吾輩が心ひそかに注目していたのはトムとロンの妹・ジニーであった。しかし、日記に心奪われる筈のジニーは日記自体がもはや無く、日記はトムとして新入生となっているので、ジニーが酷い目に遭うこともあるまい。ウィーズリーの双子が悪戯やらかしているのでせいぜいがジニーはウィーズリーの双子の末妹という目立ち方である。

 

 

吾輩はネビルとトムを招いてお茶をご馳走した。実はロックハートの評価を生徒側から聞きたかったのだ。教師側の意見は、教員会議などで集めているが、想像通りの無能判定である。あの人の手先であった前任のクィレルの方がはるかにマシという―――比較対象がそもそも間違っている気はするが―――クィレルは教師として真面だったことを思い出す。

 

「それで、ロックハートの授業はどうだ?」

 

ネビルは困ったように苦笑を返し、トムは持参した焼き菓子(実家のレストレンジから送られた高級焼き菓子を手土産にしてくれた)を一口味わってから、その甘味にほろりと笑みを零す。

 

「毎回、寸劇を見せてくれます。グリフィンドールと合同だとハリーが共演しているとか」

 

トムが促せば、ネビルの苦笑にはますます苦みが深まった。

 

「ハリーも気の毒に。まあ、その、演技力はつくのじゃないかな」

「ホグワーツは魔法学校であって演劇学校ではないのだがね」

 

本当にロックハートは何がしたいのだろうか。いっそ、ビンズ教授のように教科書読み上げの方がマシだろうに。いや、初回授業の再来よりは寸劇の方がマシか。どちらがよりマシって・・・。比較対象が酷すぎる。考えるのを止めよう。

 

「実技のみならず筆記の補講も必要だな」

「プリンス教授も苦労しますね」

 

全くの他人事のようにトムが言うので、睨み付けたらトムは黙って吾輩の皿に焼き菓子を乗せた。

 

「それはそれとして、なんでロックハート教授が任命されたのですか?」

「・・・・・・ロックハートの冒険譚から実績ありと判断したのだろう」

 

任命は校長の独断だが、あの本が実録と思っているホグワーツ生が今現在、どこまで残っているのやら。ある意味であの本はフィクションと思われるが。ロックハートは全くの無能ではないのだよ、文才はあるのだよな、文才は。魔法使いとしての才能については多大に疑問が残るのだが。

 

「ピクシー暴走より今の方がマシです」とネビル。

「授業としてではなく寸劇としては面白いです」とトム。

 

いや、それは授業の感想としては酷いし、何より二人ともロックハートに欠片も期待をかけていないのが同じ教師として辛い。

いっそ、前任者のように失踪してくれないかな、ロックハート。

 

 

 

 

トムがせがむので仕方なく、また事の重大さからしぶしぶ、吾輩とトムは秘密の部屋を開けるべく三階女子トイレに行った。嘆きのマートルが根城にしているので人が近づかないのは有難い。吾輩たちがはいると嘆きのマートルはヒステリックに叫び出したが、トムを見て黙った。トムはトムで吾輩の後ろに隠れようとする。知り合いなのだろうか?

 

「・・・・・・何の用?ここは女子トイレよ」

 

少し落ち着いたようで、大人しくマートルが問う。

 

「すまぬ。ここに秘密の部屋の入り口があるのでな。少々、邪魔させていただく」

 

吾輩がトムを促すと、トムはマートルを無視するというより妙に気遣って自分を隠すように立ち回り、例の蛇口へ「シューシュー」と言葉をかけた。がこがこっとギミックじみた音を立てて入口というか落とし穴がぽっかりと開いた。先は当然ながら真っ暗だ。

 

「ここを行くのかね?」

 

否定して欲しい声音たっぷりに一応、聞いてみる。

 

「はい、ここが入り口です」

 

きっぱりはっきりトムが肯定し、早速入ろうとする。

 

「待ちたまえ、吾輩が先に行く」

「・・・・・・僕、以前に行ったことあるのですが」

 

吾輩の心配は無用と言いたいのだろうが、教師としてここは譲れない。ぐずぐずしているとトムが先行しかねないので、吾輩は先に行った。落ちるというか、巨大な滑り台か。しかし、数十年は閉ざされていた場である。滑り台の底、いわゆる目的地に着いた時、吾輩のローブはドロドロであった。魔法使いであれば洗浄魔法が使えるのに、精霊使いにそのような便利な魔法はない。直ぐにトムも滑り降りてきた。もう少し時間をおいてから来ないと、吾輩が先行した意味がないと思う。もっとも、トム自身がここを危険と思っていないから仕方ないのかもしれないが。吾輩は直ぐに持参した懐中電灯を点けた。『灯(ルーモス)』呪文も使えないからな、こっちは。トムも自身が持ってきた懐中電灯を点ける。

懐中電灯の光で照らされる石畳の広場に巨大な蛇の抜け殻が転がっている。無価値に転がっているが、魔法薬学や魔法生物の研究家ならば興味深い品である。吾輩も行き掛けの駄賃に持って帰りたいが、今はバジリスク本体の方であろう。

 

「バジリスク!!どこー!?」トムが周囲に呼びかける。

「蛇語で話さなくて良いのかね?」

「バジリスクは頭が良いので人語を解しますよ」

「本当に頭が良いのだな」

 

小さな物音に気を引かれて吾輩は周囲を警戒する。何か大きなものを引きずっているような音である。

 

『久方ぶりだ、トム』

 

特徴的な無理して人の言葉にしてるような感じのする声が響いた。声だろうか、音として伝わっている様子はない。かといって頭に直接叩き込まれた感じもしない。全く表現しがたい感じである。

 

「バジリスク、久しぶり。会いたかったよ」

 

トムは純粋に喜色を表している。バジリスクがホグワーツ城の魔術システムの一部というのは単なる言い訳で、トムは単にバジリスクに会いたいだけだったのではないだろうか。

 

「すまぬが、バジリスク。吾輩らは貴公の眼光に対抗できぬ故、こちらを見ぬようにして頂きたい」

『トムの声を聴いてから、瞳を閉じている。そなたは何者だ?』

 

のそり、とバジリスクはこちらに頭を寄せたが、吾輩たちに背を向けているのは配慮の為だろう。しかし、何とも巨大な蛇だ。牛どころかドラゴン並みの大きさ。寒冷地のイギリスでここまで巨大な蛇がいようとは想像だにしなかった。そもそも、スリザリンと共に居た蛇としたら千年単位で生きている筈である。

 

「吾輩はホグワーツの精霊学教授セブルス・プリンスだ」

『精霊学、そなたは精霊使いか。なんとも珍しい』

「僕も今は精霊使いだよ」

『おお、そうか。トムは精霊使いになったか。喜ばしいことだ』

 

バジリスクは優しくトムへ語り掛ける。トムの懐きっぷりからも二人の仲は良好らしい。トムがバジリスクを温厚と言ったのも分かる。そのまま世間話を始めたトムとバジリスクを吾輩はぼーっと眺めていた。積もる話もあるだろうから野暮なことを言わない。しかし、バジリスクの忠告には耳を疑った。

 

『トム、今のホグワーツは危険だ。家に帰るが良い』

「バジリスク、それはどういうことだ?」と吾輩。

『うむ。トムが秘密の部屋を開けたことで我は目覚めた。そして気付いた。森に危険生物が居る』

「森?ハグリッドの管轄だよな」

 

森といえば森番ハグリッド。奴は去年、違法な手段でドラゴンの卵を手に入れ飼育を試みたのだ。ドラゴンの卵の個人所有も違法ならば、飼育も違法。その件でアズカバンへ放り込まれたが新年度にはしれっと戻ってきていた。校長の意向が大きいのは間違いない。また、あの森番は厄介な危険生物を飼育しやがったか。あれ、バジリスクに森番、何か忘れていたような?

バジリスクは冷ややかに告げる。

 

『森でアクロマンチュラが繁殖しておる』

 

一瞬、思考が停まった。アクロマンチュラといったら、あの危険度マックスの魔法生物アクロマンチュラか。そうだ!!ハグリッドの阿呆はドラゴン飼育を上回るやらかしをやっていたのだった!!そして、すっかりそれを忘れていた。

 

「ハグリッド?ルビウス・ハグリッドですか!?あいつの退学理由はホグワーツでアクロマンチュラを飼育していたからですよ」

「ペットに蜘蛛は許可されておらん」

『いや、それ以前の問題だ』

「ごもっとも」

 

ハグリッドはアクロマンチュラを繁殖させたのか。一体、何のためにとその目的に思考を走らせて―――いや、ハグリッドならば目的も考えもなく繁殖させかねないと思い至った。いや、何で増やすかなー、バレるリスクが高まるだろう。しかも危険度マックスの魔法生物だぞ。馬鹿なのか、あいつは。

 

『サラザールの願いはホグワーツを守ること。我はホグワーツを守る者。だが、我が動くとまた犠牲者が出るやもしれぬ』

「犠牲者とは?」

「・・・・・・マートルのことです」

 

言い辛そうにトムが言う。

そうか、そういうことか。秘密の部屋をトムが開き、バジリスクを目覚めさせ交流を持った。それだけならば問題はなかったが、折り悪く、森番・当時はホグワーツ生であったハグリッドが危険生物アクロマンチュラをペットにし、バジリスクはサラザールとの約束からアクロマンチュラを排除しようとしたのだろう。そして、マートルはもらい事故な形でバジリスクの犠牲となったのか。

トムのマートルに対する引け目やバジリスクがこちらに対して過剰ともいえる配慮はこの過去の事故によるものと思われる。しかし、要因もしくは原因はハグリッドである。その件で退学処分になったのも当然か。そんな奴を森番に据えるとは校長は正気か?

ともかく、森にアクロマンチュラを大量繁殖させていた件で必ずや森番を首にし、ホグワーツと縁を切らせてやると、吾輩は心に誓った。ホグワーツはイギリス唯一の魔法学校、その学校の森で危険生物を大量飼育など、子供を人質にしようとするテロリストと思われても仕方ない。ハグリッドにそんな知恵はないと言われるかもしれないが、傍から見たらそう見える。

さて、この件をきちんと公的に解決するためには。

 

「バジリスク、アクロマンチュラの件は吾輩に任せてもらおう。極力、穏便に退治する。まず、アクロマンチュラの存在を公にして一度、ホグワーツ生を帰宅させる。その後、魔法省と協力して駆逐しよう」

「魔法省に協力要請するのですか?ホグワーツは独立組織とおもいますけれど」とトム。

「独立と隠蔽を一緒にしているのではないかね?そもそも、危険な魔法生物が森に大量生息している時点で一学校機関の手に負える事態ではない。何より生徒の安全が第一であり、ホグワーツの伝統などその前において何の意味もない」

『過激だが、言っていることは真面だ。よかろう、そなたに全て任せよう。せめてアクロマンチュラの位置情報は与える』

「感謝します」

 

吾輩は丁重に頭を下げた。

その後、吾輩はトムを急き立てて精霊の通り道で一気に自室まで戻ったのだった。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-3

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-3

 

 

吾輩の個人所有ハウスエルフ・メリーアンが吾輩とトムのドロドロに汚れ切った姿に悲鳴を上げていたが、そんな些細なことには気が回らない程に考え込んでいた。

 

「メリーアンはセブルス様に洗浄魔法をかけて差し上げます」

 

パタパタとメリーアンが洗浄魔法をかけたが、それも上の空で吾輩は部屋を歩き回る。トムは吾輩の後にメリーアンから洗浄魔法をかけてもらい、こまごまと世話を焼かれ、今はソファーに腰かけてホットミルクを飲んでいた。

落ち着かず部屋を歩き回る吾輩をトムはぼーっと眺めている―――そこで、吾輩は自分の椅子に座った。

 

「吾輩はあまりアクロマンチュラに詳しくはない。貴公は?」

「いえ、僕もあまり興味のある分野ではないので、巨大な蜘蛛ですよね。毒性も強かったような?」

「基本的に昆虫は基礎能力が高い。それが人より大きいとなれば相当に厄介であろう」

 

吾輩の前世知識では大きな牛くらいのサイズだったような。もしかしたら、もっと大きいのかもしれない。それが大量・・・蜘蛛嫌いのロンでなくとも生理的嫌悪を覚えそうだ。

 

「やはり魔法省経由で魔法生物に詳しい人物に協力を願った方が安全だな。効果的な殺し方を知っているかもしれん」

「プリンス教授なら、物理でごり押しも可能な気がしますけれど」

「やってやれなくもないだろうが、森を更地にしたくはない」

 

トムはうーんと考え込む。

 

「僕の力で充分で焼き尽くせそうだけれど。プリンス教授の水で森の延焼は防げるでしょう」

「何を言っている?」

 

我ながら低い声が吾輩の口から出た。

トムが戸惑う瞳を揺らす。

 

「まさか、吾輩が本件に生徒である貴公を関わらせると?」

「え?でも・・・」

「帰りたまえ!!今すぐに!!」

 

吾輩の怒声にトムは文字通りソファーから飛び上がって、逃げるような素早さで退室した。ハウスエルフのメリーアンは部屋の隅で震えている。

やってしまった、感情を押さえられなかった自身の情けなさに大きな溜息を吐いた。

 

 

 

「わざわざ時間を取ってもらってすまない、フィルチ」

「いえ、プリンス教授。どうぞお気遣いなく」

 

吾輩は頼み事をする為、部屋にフィルチを招いていた。フィルチの膝に風の妖精・白の小虎が猫のように丸くなる。ハウスエルフのメリーアンに視線を送れば、万事にそつがないメリーアンが紅茶とお菓子をサーブする。紅茶とお菓子を勧めた後、吾輩は口を開いた。

 

「どう話して良いものか」

 

吾輩は口ごもり、考えを巡らす。フィルチにバジリスクの件を明かすわけにはいかない。森にアクロマンチュラコロニーの件だけ話せば良いが、情報ベースがどこかというのを説明できない。出来ないことを明かすか。

 

「禁断の森にアクロマンチュラの巨大コロニーがあるらしい」

「は!?」

 

目を丸くするフィルチ。

 

「アクロマンチュラは危険度マックスの魔法生物で巨大コロニーが出来ている」

「いやいや、森にそんな危険生物がいて今まで問題が起こらない訳が・・・」

「森には飼育だけは得意な危険生物好きがいるだろ?」

 

フィルチは指定した人物に思い至って言葉を失う。

 

「ところで、ハグリッドが退学になった理由を知っているかね?」

「いや、詳しいことは秘密にされて―――まさか、あの森番はアクロマンチュラ飼育で退学に!?」

「他にも事件もあったらしいが、アクロマンチュラ飼育が発覚すれば、一発退学でも当然であろうな。去年はドラゴン飼育でアズカバン行きだったし。もっとも、なぜか今学期戻ってきているが」

「何で首にならないんですか、あの森番」

 

忌々し気にフィルチが吐き捨てる。いや、本当に。同意だ。多分、校長が庇っているのだろうが、ハグリッドが手駒として盲目的だからかな?それ以上に、あのうっかりで足を引っ張りそうだけれど。

 

「そこでホグワーツ教授として学び舎の傍にそのような危険生物を放置する訳にはいかない。今まで問題なかったから今後も安全とは言えまい。しかし、アクロマンチュラを教授陣で退治するのは不可能に近い。一匹、二匹でなく巨大コロニーなので打ち漏らしでもあれば生徒が危険だ。加えて―――」

 

吾輩はタメを作る。

 

「ハグリッドが妨害してくる。危険魔法生物でも奴にとっては可愛いペットだ。故にしっかりした証拠を提出して、奴をきっちり犯罪者として隔離した上で魔法省と協力のもと、アクロマンチュラを退治したい。そこで、フィルチ。森にアクロマンチュラのコロニーがあることをマクゴナガル教授に報告して欲しい」

「マクゴナガル教授に、ですか?」

 

フィルチは考え込んだ。

フィルチも校長には恩を感じているだろうが、去年のドラゴン騒ぎで校長のハグリッドに対する扱いには理不尽さを感じているだろう。それに間違っても偽りを口にしろ、と言っている訳ではない。真実を公明正大なマクゴナガル教授に報告し、きちんとアクロマンチュラを退治する―――何の問題もない筈だ。フィルチは深く頷いた。

 

「分かりました、プリンス教授」

「大体の位置はこちらの地図でこの辺りだ。この情報は水の精霊からだ。フィルチの風の精霊だけで確認して欲しい。但し、危険だから決して無理はせぬように。アクロマンチュラのコロニーがあるらしいという情報だけで充分だ。証拠はマクゴナガル教授と吾輩とで入手するから」

 

さて、これで吾輩とマクゴナガル教授の森においてアクロマンチュラのコロニー発見という道筋ができた訳だ。

 

 

 

マクゴナガル教授はアクロマンチュラのコロニー発見から即、緊急職員会議を開いた。折り悪く(吾輩に取っては折よく)校長は不在であったが、マクゴナガル教授はそんなことに頓着しなかったし、状況はそんな悠長なことをしていられるものではなかった。

マクゴナガル教授は会議開始、すぐに言った。

 

「森にアクロマンチュラのコロニーがあります。その数、50匹以上を認めました。犯人はハグリッドでしょう」

 

教職員一同は言葉を失った。そして、ハグリッドならばやりかねないという雰囲気だ。去年、ドラゴンの違法飼育に手を染めているのだ。どこからも擁護の言葉はなかった。そして、ロックハートが口を開く前にマクゴナガル教授は続ける。

 

「私とセブルス二人で目視確認済みです」

 

じろりとマクゴナガル教授は一同を見回した。というか睨みを利かせた。特にロックハートを睨みつけている。くだらない事を言い出したら実力行使もいとわないという気迫に流石のロックハートも開いた口をしずしずと閉ざした。ロックハートを黙らせたのを確認してからマクゴナガル教授は言う。

 

「ホグワーツを閉鎖。生徒は即、帰宅させます。列車の手配、そして魔法省への報告と協力要請。そして急ぎアクロマンチュラの退治です」

「おおっ」

 

歓喜の声を上げたのはケトルバーン魔法生物学教授。状況を理解しているのだろうか、この教授は。絶対にアクロマンチュラ捕獲に意識がいっている。

 

「ひえっ、退治ですって!?」とロックハート。

 

ロックハートの声には狼狽えと怯えがあった。彼の実力でアクロマンチュラ退治には無理がある。とはいえ、ロックハートの大言壮語には吾輩も大概辟易していたので原作通り当てこすってやった。

 

「貴公の素晴らしい冒険にアクロマンチュラ退治を加えては如何かね?」

「そうですね。防衛術教授として是非、協力をお願いします。戦力として」

 

冷たい声音でマクゴナガル教授は言う。

 

「さぞやご活躍頂けるのでしょうな。楽しみです」

 

温厚なフリットウィック教授まで続けた。他教授陣も冷えた瞳を向けるのみ。ロックハートは吾輩が思う以上に教職員から不興を買っていたようだ。助けを求めるように忙しなく視線を泳がせ―――後に諦めた。

一部の女子生徒と異なり接点の多い教授陣にロックハートへの信頼と好意は欠片も残っていなかったようだ。

逆にロックハートがあれだけやらかしておいて、未だ一部女子生徒から慕われているのが不思議な話だ。結局のところ、顔か、顔なのか。それはさておき、ロックハートは引きつった顔でそれでも虚勢を張る。他に術もあるまい。

 

「そ、それでは私は準備の為に失礼させて頂きます」

 

そそくさと立ち去るロックハート。

きっちりロックハートがいなくなった後にマクゴナガル教授が呟く。

 

「厄介払いが出来たところで」

 

とうとうロックハートは厄介者扱いだ。納得しかない。

 

「各寮監は生徒たちへ休校の説明ならびに荷造りの指示。マダム・フーチは私の代わりにグリフィンドールを頼みます。セブルスは魔法省へ連絡願います」

 

校長不在の為、副校長マクゴナガル教授が指揮権を行使しているが、校長が居るよりスムーズに動けているだろう。下手にハグリッドを庇ったり、魔法省への協力に拘らない辺り。また、名門プリンスの当主である吾輩がこの場で最も魔法省へ口が利くと踏んでの指示だろう。流石、マクゴナガル教授は仕事が出来る人だ。一度、ここで皆は解散した。

マクゴナガル教授は各所へ連絡するため走り出し、一同はその場に残される。

 

「本当にハグリッドは碌な事しないんだから」

 

ホグワーツ特急の手配担当を任されたマグル学バーベッジ教授がぼやいていた。

反対に魔法生物学ケトルバーン教授は感嘆の声を上げる。

 

「いや、英国寒冷地でアクロマンチュラのコロニーとはハグリッドのブリーダー能力は天才と言っても良い」

 

もっとも、言った後に周囲の冷たい視線に気づいてケトルバーン教授は「いや、ホグワーツでやることじゃないが」と続けた。

もし、ここにマクゴナガル教授がいたならば、間違いなく怒鳴りつけられたであろう。

生徒は朝一のホグワーツ特急で帰宅させ、学校は一時休校処置。速やかにアクロマンチュラの退治となれば、今夜のうちに手配をすませねばなるない。

理事会役員であるルシウス・マルフォイとモンスターペアレンツ化が考えられるレストレンジ夫婦への説明は上手くやらないと大惨事になりかねないだけに吾輩は溜息をついたのだった。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-4

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-4

 

 

 

フクロウ便を使うより早く確実なのでハウスエルフのメリーアンにあちこち使いを頼んだ、その返信を抱えて吾輩がマクゴナガル教授に報告へ向かった。マクゴナガル教授はグリフィンドール寮前にてハリーに捕まっていた。ハリーが一生懸命に家へ戻りたくない旨を言っているが、今のマクゴナガル教授にそれに対応できる余裕はないだろう。

 

「失礼」

 

吾輩が声をかけるとハリーとマクゴナガル教授はパッとこちらを向いた。

 

「セブルス、どうしました?」疑問形でマクゴナガル教授はくちにしつつ、こちらの両手いっぱいの書簡に大体を察したようだ。

 

「魔法省が即、闇祓いを派遣してくれるそうです。それと、理事会が―――」

「理事会・・・・・・」

 

小さくマクゴナガル教授が呻いた。

吾輩もその一報を聞いた時は同じ反応がした。ちらりとハリーへ目を向け、聞かれても良いのかと判断する。

 

「安全の為、理事会の一部が生徒の帰宅に付き添いを申し出ています。その為、理事会メンバーが今からホグワーツに入りたい、と。吾輩は許可を出し、生徒の安全確保に協力願うべきと思います」

「分かりました。即、許可します。ちなみにメンバーは?」

「筆頭はレストレンジ夫婦です。名門ですが、あの夫婦は武闘派なので心配ないでしょう」

「ベラトリックスとロドルファス・・・・・・確かに武闘派夫婦ですね」

 

ゆるりと吾輩はハリーへ視線を向ける。そろそろハリーには退場して貰いたい。

 

「ところで、ミスターポッターはなぜここにいるのかね?」

「あの、僕は学校に残りたいと」

「危険なので閉校処置にするのです。学校は生徒の安全の為、保護者へ送り届け、それを確認する義務があります」

 

取り付く島もなくマクゴナガル教授が言い切る。正論だ。こちらが脱帽する程の義務感である。

 

「マクゴナガル教授。その件で提案です。急なことで保護者側の都合がつかない者もいるでしょう。そこで、そのような生徒は漏れ鍋で非戦闘職員と共に待機ということにしては?どちらにせよ、教職員皆、ホグワーツから退避する必要があります故」

「そうですね」とマクゴナガル教授。

 

例えば、校務のフィルチや占い学トレローニーなど戦闘力皆無の職員はいるのだ。フィルチの場合、契約精霊が暴れるとフィルチ以外が危険なのだけれど。なぜなら、契約精霊は契約者を守ることにしか注力しないので周囲の被害などきにもしないのだ。故に戦闘慣れしていない精霊使いに戦闘を割り振らないことは常識なのである。

 

「ミスターポッターは教職員と共に漏れ鍋で待機で良いかね?さあ、寮へ戻りたまえ」

 

ハリーが寮へ戻るのを確認してから、吾輩とマクゴナガル教授は教授室へ場所を移した。他人に、特にハリーやグリフィンドール生に知られると厄介なことになることを報告したいのだ。

 

「たった今、闇祓いがハグリッドを逮捕、魔法省へ移送しました。明日にはハグリッドの逮捕ならびにアクロマンチュラのコロニーの件が日刊預言者新聞に載るでしょう。ホグワーツの隠蔽体質を疑われない為にも必要です。また、周辺への注意喚起の為にも」

「ハグリッドのアズカバン行は確実ですね」

 

苦々しくマクゴナガル教授は言った。

 

「ホグワーツを閉校に追い込んだのですからその責任は大きいでしょう。また、あのコロニーは違法生物の飼育にしても規模が大きすぎます。生徒を人質にしたテロリストと疑われても致し方ありますまい」

「そんな、ハグリッドがそんなことを考える筈ありません!!」

 

あの単純思考のハグリッドがそこまで考えているとは吾輩も思っていない。考え無しだから、ここまでやらかすことが出来るのだろう。ゆるりと吾輩は首を振った。

 

「その考えがなくても、そうできることが問題なのです。どちらにせよ、理事会がハグリッドをホグワーツ敷地内から永久追放しても吾輩は驚きませんな」

 

ハグリッドの方は闇祓いと魔法省へ任せるとして直近の問題は。

 

「まもなく、理事会の有志が来るので打ち合わせをお願いします」

「それは、そのセブルスに一任したい、と」

「いや、吾輩もちょっと」

 

互いにルシウスやレストレンジ夫婦に会いたくなくて、互いに譲りあう、もとい押し付けあう。

 

「マクゴナガル教授は彼らの恩師でしょう」

「セブルスは名門当主として、付き合いがあるじゃないですか」

 

ホグワーツ教職員同士とは思えない低レベルな言い合いである。結局、吾輩とマクゴナガル教授二人で対応することになったのだが、ルシウスもレストレンジ夫婦もこの未曾有の事態への対処を優先してくれたので面倒がなくて良かった。校長不在が良い方に回ったのだと思う。なにせ、この三人は校長とは相性がとかく悪いのだ。スリザリンOBだからだけではないと思われる。問題の根は深そうだ。

 

 

 

翌朝。生徒たちと教職員(主に非戦闘職員)と理事会有志がホグワーツ特急で帰宅する。朝食はホグワーツ城内のハウスエルフにランチボックス(朝食だけど)を用意してもらい、起き抜け早々に出発という―――何とも慌ただしい感じである。

日刊預言者新聞は良い仕事をしており、ハグリッド逮捕とアクロマンチュラのコロニー、そしてホグワーツ閉校を報じていた。流石に校長も飛んで帰ってくるかと思ったら、魔法省に呼び出されてホグワーツに来れない、と。校長は裁判所の役職も持っていたので、ハグリッドの裁判に圧力をかけられると困るーーーと吾輩が零していたら、ルシウスが校長とハグリッドは関わりが強いので裁判には加われないと法律上、言い立てるそうだ。どちらにせよ、理事会はハグリッドをホグワーツ、禁断の森、近く行き来可能なホグズミードへの立ち入り禁止させると言い切っていた。アクロマンチュラのコロニーはその処分を受けて余りある所業であろうとも。

なお、吾輩はアクロマンチュラ退治に回されるかと思っていたが、魔法省から闇祓いを派遣したこと、吾輩が名門当主かつ精霊使いであることを考慮され、生徒たち、すなわちホグワーツ特急護衛を任された。これは少々意外なことではあった。てっきり、アクロマンチュラ退治に駆り出されると思っていたのだ。

アクロマンチュラ退治といえば、ロックハートは予想通り夜逃げしていた。教職員一同、そうだろうと思っていたので皆の反応も薄い薄い。一年どころか三ヶ月ももたず、教職期間最短記録を樹立させてしまった。後任の予定は今のところない。もっとも、アクロマンチュラ退治が完了しない限り学校の再開も危ぶまれる。ホグワーツ特急内では、あまりに急な休校処置ならびに寮監の説明も足りなかったのか、日刊預言者新聞と生徒各自の考察で盛り上がっている。流石にハグリッドを擁護する声はないようだ。あれだけやらかしていれば下手な擁護も出来ないだろう。擁護派と思われるグリフィンドール生も沈黙を保つのがせいぜいか。

吾輩の知ったことではないが。

 

 

 

アクロマンチュラ退治は思っていたより苦戦を強いられているようだ。三日を過ぎても日刊預言者新聞上での進捗がない。また、教職員の話からも、そのようである。長期戦になりそうだ。漏れ鍋待機組の吾輩たちは、居残り組の生徒たちに規則正しい生活と一応は彼らの安全を見回っている。間違ってノクターン横丁へ行かない限り、この辺りの治安はそう悪くない。

遅れ気味の、というより全く進んでいない闇に対する防衛術の座学をハリー他居残り組に行う。彼らにとって有難迷惑だろうが近い将来に感謝することだろう。遅くとも、期末試験の前とか。

そして、すっかり漏れ鍋居残り組の生活パターンが出来上がった。朝食の後、午前中に吾輩が担当して座学を。主に遅れまくっている闇に対する防衛術の科目だ。昼食後は各自、夕食まで自由。夕食後は基本、外出禁止である。三食皆で食事することで出欠と安全の管理を行うことにしている。

朝食後、教材(テキスト)を取りに行ってから漏れ鍋のテーブルへ行ったら―――居残り組ハリーの両隣にロンとハーマイオニーが当然の様に座っていた。

 

「増えている」

 

思わず吾輩は言葉を零した。あまり適当な表現ではない。慌てて吾輩は尋ねた。

 

「なぜここに、ミスターウィーズリーとミスグレンジャーがいるのかね?」

 

理由は大体、分かっているのでハリーに向けて。ハリーは心当たりがある様子で居心地悪そうだ。代わりにハーマイオニーが答えた。

 

「ハリーからの手紙で、プリンス教授から直接授業を受けていると。とても羨ましくて、是非、私も参加させて下さい」

 

勉強好きのハーマイオニーは嬉しそうに言う。多分、ハリーは愚痴のつもりで手紙を書いたと思われる。そして、ロンは無理に付き合わされたとみた。とはいえ、ロンもハリーも自習で好成績を出せるタイプではないし、そもそも学生の本分は勉学である。

 

「まあ、よい。一人二人増えたところで変わるまい。では、今日の授業を始めよう」

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-5

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる2-5

 

 

翌日の朝食。授業前ではなく朝食である。

 

「また増えた」

 

朝の挨拶前に吾輩は零した。デ・ジャ・ヴだ。元気に挨拶するハリー達居残り組にロンとハーマイオニー、そして双子がいた。ウィズリーの双子が増えている。

 

「「おはようございます。プリンス教授」」

 

いや、ロンとハーマイオニーが朝食からいるのも不思議じゃないか?理由は授業参加で、ついでに朝ごはんを食べよう位の話だろう。おざなりに吾輩は挨拶を返した。テーブルの椅子が足りないのか、騒々しさにうんざりしたのか、校務のフィルチと占い学トレローニーはカウンターへ移動していた。吾輩も一瞬、カウンターへと考えたが、監督が必要かと諦める。漏れ鍋のマスターが挨拶と共にパタパタと朝食をサーブした。賑やかに朝食が始まる。

ウィズリーの双子(フレッドとジョージ)の目的は授業ではなかった。奴らがハーマイオニーなみに勉強好きとは思えないので他の目的がある方が納得だ。

ウィズリーの双子の目的は―――吾輩に魔法薬学の質問をすることだった。悪戯に使う魔法薬に躓いていたようだ。

いつもの座学が終わってからウィズリーの双子の質問に答える。その間、ハリーとロン他はぽかんとその様を見つめ、ハーマイオニーはキラキラした目でメモを取っていた。

 

「何でプリンス教授がそんなに魔法薬学に詳しいんだ?」

 

ぽつりとロンが呟いた。ウィズリーの双子は笑って左右からロンの肩を抱いた。

 

「いやいやロン坊や」

「プリンス教授は魔法薬学のスペシャリストだ」

「「そもそもプリンス家は薬学で有名な家だし、プリンス教授はオックスフォードでマグルの薬学を修めている」」

 

吾輩は思わず顔をしかめた。

オックスフォード卒はホグズミード教授紹介の折、たった一度だけ校長から皆へ紹介された。そもそも、吾輩はホグワーツ卒ではない。当時のホグワーツは精霊使いを受け入れていなかったからだ。生徒に納得させられる経歴としてマグルのオックスフォード卒という肩書を言ったのだろう。

とはいえ、名門の子女は特にだが、精霊使いであることで充分、ホグワーツの教職員として納得できただろう。つまり、オックスフォード卒は付け加えた肩書のひとつに過ぎない。まして、プリンス家が薬学に特出していることは、知る人ぞ知るといったところである。

よくまあ、名門ならばともかく没落しかけたプリンス家のことをほぼ一般に近いウィズリーの双子が知っているものだ。逆に感心する。

 

 

 

そして翌日。

 

「また増えた」

 

しれっとパーシー・ウィズリーが加わっていた。日々、生徒が増えていないか?

 

「プリンス教授が特別補講をして下さる、と。今年の防衛術の授業がアレだったので、是非、参加させて下さい」

「別に特別補講している訳ではない。しかし、防衛術がアレだったのは認めよう」

 

ロックハートの件は、吾輩も被害者の一人だけれど、生徒の方がよっぽど被害者である。しかも、ホグワーツは一時閉校状態だ。今年、オウル試験・イモリ試験を受ける生徒には本当に補講してやった方が良いかもしれん。

マクゴナガル教授に相談しよう。校長?校長は頼りにならない。今現在、問題となっているアクロマンチュラに対しても魔法省の介入はどうの、ホグワーツの自治がどうのと世迷い事を言っている。しかも、アクロマンチュラ退治に出馬するでもなく、だ。そこで、マクゴナガル教授がホグワーツ側窓口となり、さくさく事態に対処している。校長不在時にマクゴナガル教授が指揮を取っていたのが、そのままアクロマンチュラ対策指揮へシフトしたようだ。今更、校長がホグワーツは不可侵領域と言っても誰も相手にしていなかった。それより危険度マックスのアクロマンチュラの方が問題である。

建前を言っている場合か、現場を見ろ!!というのが現場の総意のようだ。

 

 

 

そして、また翌日。

ネビルとその祖母オーガスタ夫人が来た。午前の授業に参加する生徒は増える一方なのだが、教職員は増えない。戦える職員はアクロマンチュラ討伐にかかりっきりだし、他の職員も魔法省との連絡係や戦闘チームのサポートに付きっきりなのだ。一応、こちらの状況を報告してはいるが、ゴーストのビンズ教授でも居てくれれば・・・あの人はホグワーツ城に固定されているようなものだから無理か。校務のフィルチはともかく―――吾輩の視線はカウンターで酔いつぶれているトレローニーを冷めた瞳で見据える。あいつも首にすべきじゃないのか?

オーガスタも吾輩同様の冷たい目をトレローニーへ向けてから、吾輩に苦笑を見せた。

 

「久方ぶり。苦労しているようだね」

「お久しぶりです。ミセス・オーガスタ。申し訳ありませんが、午前中は授業がありまして」

「ああ、構わないよ」

 

オーガスタは軽く手を振った。生徒たちを見やってから申し出る。

 

「そうだね。私も少し手伝おうかね」

「・・・・・・是非、お願いします」

 

昼食後、子供たちは自由時間ということでダイアゴン横丁へ遊びに行った。最近は午後、個別に質問に来る生徒もいるがオーガスタ夫人が来ていることに皆、気遣ったのかこちらに来ることはなかった。漏れ鍋マスターに頼んで個室を用意して貰い、吾輩はオーガスタを案内した。なお、ネビルはハリー達とお店を冷やかしに行ったようだ。

マスターが紅茶をサーブした後、オーガスタは杖を一振り、声が聞かれぬよう魔法を使った。

 

「アクロマンチュラの退治は完了したよ。一応、打ち漏らしがないかの確認と―――」

 

オーガスタは眉をひそめた。

 

「キメラの痕跡があって、その調査も始まった。故に学校再開は三週間後だろうね。正式発表は魔法省からなされるよ」

「・・・・・・ミセス・オーガスタから連絡ということはホグワーツは未だ混乱していますか」

 

キメラの痕跡とは犯人はハグリットか。というか、他に犯人はいないだろうが。

 

「森番ハグリットが犯人ではホグワーツが叩かれるのは仕方ないね。下手な処分をすれば非難にさらされるから、ここはきっちり片を付けておいた方が良いよ」

「それは校長に言って下さい」

 

未だハグリットを擁護するホグワーツ職員がいるとしたら、校長ぐらいだろう。吾輩は何もするつもりはない。ハグリットは自分のやらかしたことを過不足なく償えばそれで良い。過ぎた制裁も甘い処分も何か違うと思うから。

 

「キメラの件、あまり驚いていないね。知っていたのかい?」

「いいえ。ただ、あいつならやりかねないとは思っていました。ノクターンの常連なのは知っていましたし」

 

オーガスタははっきり眉をしかめた。

 

「ノクターン?あんたは危ないところに近づくんじゃないよ」

「子供扱いですか?」

 

吾輩は笑ったが、オーガスタは笑わなかった。

 

「精霊が暴走したらノクターン横丁が吹き飛ぶよ」

 

ノクターン横丁どころか町一つ吹き飛びますね、という軽口は止めておいた。軽口でなく、実際のところ、吾輩の精霊ならば町一つどころか街一つ消し飛ぶことだろう。洒落にならない。

 

「話を戻すよ。ミネルバとも話したけれどね、セブルスが漏れ鍋で補講しているのは知っているし認めてもいる。好評価だよ」

 

オーガスタは嬉し気に言う。まるで、ネビルが他の人から褒められた時のようだ。

 

「それで」心なし素っ気なく吾輩は促した。

この年でストレートな褒め言葉は少しばかり気恥ずかしい。

 

「学校再開までもう少しかかるし、日々、生徒が増えているんだろ?漏れ鍋では難しいと心配している。そこでロングボトム家が場所、別荘の一つだがね、そこを提供することになったよ」

「ホグワーツ再開までの間、ロングボトムの別荘を間借りすると?」

 

それは、マグル生まれには今までのようにちょくちょく来る訳にはいかないのでは?吾輩の懸念が伝わったのかオーガスタは首を振る。

 

「漏れ鍋も今まで通りに行う。マグル生まれはこっちの方が来やすいし、あくまで休校中の補講というスタンスで行うらしい。セブルスにはロングボトム別荘の方を担当して貰いたいそうだよ、ミネルバは。私もそうして欲しいね」

 

ネビルの指導を考えれば、オーガスタがそう希望するのも納得である。それに問題はない。逆に、日々、授業に参加する生徒が増えており、漏れ鍋では近く対応できなくなるのは目に見えていた。オーガスタの申し出もといミネルバの提案は、吾輩の報告によるものだろう。

それから、いくつかの連絡事項と世間話をしてオーガスタ夫人は帰った。

 

 

 

数日後。吾輩と居残り組はロングボトムの別荘へ移った。校務のフィルチは漏れ鍋オーナーの要望でこのまま店の手伝いとして残留することになった。トレローニーも残留組に入ったが、多分に漏れ鍋のカウンターで酔いつぶれる姿が目に浮かぶようだ。

ロングボトムの別荘に移ってから、生徒は居残り組と生粋の魔法族の割合が増えている。居残り組とはハリーの他、ウィズリーの兄弟とジニー、ハーマイオニーそしてネビルだ。居残り組は別荘で合宿している。気心の知れているメンツと少人数の為か、皆はキャンプのような非日常感を楽しんでいるようだ。

教師としては、ここがロングボトムの管理地の為、保安の方は漏れ鍋よりも気を抜くことが出来る。周囲は牧草地でのんびりした感じだ。ダイアゴン横丁のような面白味はなくとも騒がしくなくて、吾輩はこちらの方が心が休まる。呑気に過ごしていたが、衝撃的なニュースが流れた。

あのゴシップ記者リータ・スキーターの記事~ロックハートの凋落~である。吾輩はリータ・スキーターのことを直接知らないが、ゴシップ記事を書く才能はある。ゴシップ記事は失礼か。リータは読者に伝えたい方向へ結論を導くのが上手いのだ。今までリータのことをあえて事実を言及しなかったり、捻じ曲げたりする記者と思い込んでいたが、今回の記事はほぼ事実しか載っていない。わざわざ捏造する必要がない程にロックハートはやらかしてくれたからな。そして、この時期にこの記事。有名人ロックハートへ直接攻撃する記事に出版社がGOサインを出したのは、魔法省とホグワーツ側が少しでもアクロマンチュラ・ショックを和らげるためではなかろうか。どちらにせよ、ロックハートがホグワーツ城から夜逃げしたことはホグワーツ中に知れ渡ってしまっていた。今更、ロックハートの著作は売れないだろうと思っているのかもしれない。加えて、学期始まりに指定図書として大量の本を売りさばけたので在庫を抱えていないのも大きいか。ロックハートを利用している感じはするが、ホグワーツもロックハートには大概迷惑をかけられたので同情はしない。そもそもホグワーツ生の大半にロックハートの実力は知れている。午後、紅茶片手にガゼボ(西洋風あずまや)で日刊預言者新聞のゴシップ欄を読む吾輩にウィズリーの双子が声をかけた。

 

「「プリンス教授」」

「ああ、ロックハートの記事ですか」とフレッドかジョージか。

「はっきり詐欺師と明記されていますね」

 

少し双子の顔は困った風だ。この双子が記事を気に病むほどロックハートと親しかったとは思えない。この記事は憤慨する程、でっち上げではないと思うが。

 

「どうかしたのかね?」

「うちのママが信じてなくって」

「リータの捏造記事だって。この記事はでっち上げじゃないんだけれど」

「ホグワーツに通っていたら、ね」

 

この記事の信ぴょう性、ホグワーツ生ならば身をもって分かることだろう。

 

「ママはゴシップ記事が好きなわりに、この記事は全否定なんだから」

 

吾輩は新聞を畳んでテーブルに置き、足を組みなおした。

 

「君たちの妹・ジニーは未だロックハートのファンなのか?」

「「いやいや、我が妹はそんなに間抜けじゃありません」」

 

そうか。ジニーはロックハートのファンは止めたのか。学年一の秀才ハーマイオニーはまだ目が覚めておらず、つい朝方もロンと口喧嘩していた。詐欺に引っかかるのと頭の良さに関連はないと思い知らされた。自分が正しいと思っている人程、逆に騙されていたことを認めづらいのだろう。どちらにしろ、ロックハートはほとぼりが冷めるまで表には出てくることはない。そして、ファンとは熱しやすく冷めやすいものだ。

 

「貴公の母親も直に興味を失うであろうよ。気にすることはない」

「「それって精霊使いとしての占いですか?」」

「さあな」

 

精霊使いに占い能力はないので、吾輩はただ笑った。

 

 

 

ここがロングボトムの敷地内だからか、オーガスタ夫人を筆頭にロングボトムの専業主婦方やご老人たちが様子をちょいちょい見に来てくれて、またロングボトムのハウスエルフのおかげで漏れ鍋の時より吾輩の負担はずっと減っていた。例えば、今みたいにガゼボ(西洋風あずまや)でお茶を楽しむ時間がある位には。

他の教職員は忙しそうだが、吾輩は姿現しが出来ないので(精霊の通り道という移動手段はあるがアレは緊急時にしか使わない)、ロングボトム別荘での監督と課外授業を受け持っているんだ。なお、吾輩の移動はハウスエルフ・メリーアンによる付き添い姿現しである。子供か。

ところで、ホグワーツのことだ。昨日の日刊預言者新聞で魔法省ならびにホグワーツ共同で森の安全宣言が出された。怪しいな、とは思うけれどアクロマンチュラ・コロニーは壊滅させたのだろう。この前、わざわざ闇祓いのロングボトム夫婦(ネビルの両親)が教えに来てくれた。ホグワーツの教員からは手紙のみなので正直、助かった。

どうやら学校再開に集中してこちらへの連絡がおろそかにしているのか、闇祓いのロングボトム夫婦の別荘だからか、この二人に連絡を頼んだようだ。おかげでアクロマンチュラ戦の詳細を知れたが、吾輩は特に知りたいとは思わなかった。ケトルバーン教授が無茶して一体、丸々の標本にしたとか。マクゴナガル教授とフリットウィック教授が無双モードで、ホグワーツ教員の実力を知らしめたとか。それは少し見て見たかったかも。

 

 

 

それから一週間後。ホグワーツは再開した。

あれ程の大騒動があったわりに全て元通りに。但し、今年の闇に対する防衛術のロックハート教授が夜逃げした以外は。その代わりとして、吾輩が座学担当、実技は他職員の持ち回りでこの一年を乗り切ることになったのだった。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-1

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-1

 

 

 

教授職に就いて吾輩も既に三年目、新人とは言えずベテランとも言えない。この年は確か―――シリウス脱獄とピーター・ペティグリューが真犯人と発覚するのだ。ついでにリーマス・ルーピンが闇に対する防衛術の教師になるが、そこは大した問題ではない・・・・・・多分。生徒に危害が加わらなければルーピンが人狼であろうが吾輩は気にしない。但し、シリウスか。あ奴と吾輩は浅からぬ縁があるので何とも、今年のホグワーツは吾輩にとって少々厄介なことになりそうである。

 

 

 

日刊預言者新聞の一面にシリウス脱獄が載っていて、やっぱり脱獄しやがったか、馬鹿犬と思った。脱獄のきっかけとなるウィズリー一家のガリオンくじの記事があったことを思い出す。吾輩としては前世知識からペットのネズミに注目したがよくまあシリウスはあの写真から気付いたものである。いや、あいつはペティグリューがネズミの動物もどきと知っていた訳で、でもルーピンは気付かなかったのだから、シリウスの執念深さはけた違いなのだろう。シリウスに付け狙われるペティグリューには同情・・・・・・しなくもない。

 

 

 

入学の後、有難いことに今年は注目の新入生はいないし、精霊使いもいない。一昨年はネビル・ロングボトムが。去年はトム・レストレンジが入学して吾輩としては気の休まる暇がなかったのだ。せいぜい、お騒がせのシリウスだけに注意を払えば良さそうである。とはいえ、シリウスが遠因の事件が入学前にあった。詳細については入学直後の職員会議にてルーピンから報告がなされた。全教職員が驚くに十分な事件だった。

 

「シリウスを探して、ディメンターがホグワーツ特急に乗り込んできました」とルーピン。

 

ディメンターがシリウス捕縛のため、ホグワーツに配置されることが決まっていたので保険でルーピンが特急に同乗していたのだ。

 

「生徒の心理的ケアが必要ですね」

 

マダム・ポンフリーが苦々しく言う。マクゴナガル教授が「だからディメンターをホグワーツに入れるのは反対だったんです!!」とヒステリックに喚いた。校長はもごもごと魔法省を非難していたが、いやいや校長が一昨年はホグワーツ近くでドラゴン飼育を見逃し、去年は森番のアクロマンチュラ繁殖騒ぎとロックハートの夜逃げによる任命責任で信頼度がた落ちし、魔法省の要請を突っぱねられなかったからである。つまり、半分は校長のせいじゃないか?

ところで、ディメンターだが対抗できる魔法は守護霊の呪文だけだったと思う。吾輩たち精霊使いには対抗術がないのか?出来ないとは思わない。遭遇したいとは思わないが、存在の格としてディメンターと精霊には大きな差がある。上位存在の精霊がディメンターに劣るとは吾輩には思えないのだ。また、ルーピンの報告からディメンターがハリーを狙っていたことが告げられた。ディメンターがハリーとシリウスの関係を知っているとは考えられないので、ディメンターがハリーを狙う理由がよく分からない。校長はルーピンに、もしハリーがディメンター対策を相談されたら、守護霊の呪文を教えるように指示していた。そもそも守護霊の呪文を教えることの出来る教師は少ないし、ルーピンの担当教科からすれば適任であろう。

ディメンターはあくまでシリウス狙いではあるが、ハリーの一件から生徒を襲わない保証はなく、教師陣はシリウスのみならずディメンターから生徒を守らなければならない。あれ、魔法省のせいで余計に状況が悪くなっていないか?

いや、そもそもシリウスが脱獄したせいで―――やっぱり、全てシリウスが悪いという結論に至った。

 

 

 

ディメンターのホグワーツ特急乱入事件でピリピリした空気も、魔法省に正式抗議したのが効いたのか、ディメンターはホグワーツの敷地内からかなり退いている。また、どんな緊迫した状況であってもそれが日常になれば人はそれなりに慣れるものである。

そして、シリウスは未だ見つからない。あの駄犬は動物もどきで潜伏しているのだろう。ねずみはともかく黒犬ならば見つかりそうな気もするのだが。なお、ディメンターは動物もどきをあっさり脱獄させてしまうーー―そういう訳でディメンターがシリウスを捕縛出来るとはとても思えない。本当にディメンターのホグワーツ派遣は意味がない処置である。

ところで、ハリーはルーピンの初授業でまね妖怪をディメンターに変化させ、もう一歩で教室を狂乱のるつぼに叩き落しかけたらしい。ルーピンが吾輩を捕まえて仔細漏らさず説明してくれる。

 

「それでハリー自身、危機を感じたらしく僕に対抗魔法を教わりたいと言い出したんだ」

 

そうか。じゃあ、教えてやればよいだろう。なぜ吾輩にその話をするのだ?前世知識では、吾輩と貴公は同級生だが、今はホグワーツに通っていない吾輩とは全く欠片も関係がないのだぞ。冷めた瞳で吾輩は言った。

 

「ならば、教えてやればよかろう。貴公は教師であることだし」

「そうだね。僕があの子に教えてあげられるなんて、もう胸がいっぱいだよ」

 

ルーピンはハリーに対する思い入れが強すぎやしないか?いや、正しくは親友の息子か。あまり一人の生徒に入れ込むのも如何なものかと思うが、吾輩が丁寧に教えてやる義理もない。あまりにも目に余るようであれば、口を出すべきだろうが。

とはいえ、ハリーの特別扱いは校長が筆頭になっているので新人ルーピンに釘を刺してもさして意味はない。それにしても、闇の魔法に対する防衛術の教師にまともな教師はいないのだろうか?一応、ホグワーツはイギリス唯一の魔法学校の筈なのに。もっとも、ルーピンの授業は生徒のウケが良いし、授業レベルも例年に比較してかなり良好な方である。前年はロックハートだったので、あれと比べればまともな授業をやるだけで高評価だろうとも。今年は座学と実技の補講は不要のようだ。座学は吾輩が受け持たされたものだ。他の教授陣に比べれば時間はある方だが、絶対に新人だから押し付けられたのだと思う。そもそも、精霊使いが魔法使いの座学を受け持つなんて訳が分からん。ともかく、今年は解放されそうだ。頼むから、きっちり一年は勤めて欲しいものである。それ以上、ルーピンに期待はせん。なにせシリウス達、愚連隊の一員なので吾輩はルーピンに欠片も信頼がない。

それにしても、ルーピンは吾輩に馴れ馴れしい。ホグワーツ教授という一応、今は同僚で同年代だから?それとも単にこいつが人見知りしない性格だから?

ともかく吾輩がホグワーツ教授になって以降、闇の魔法に対する防衛術の教授は問題ありの人物ばかりだった。一年目はクィレル、あの人を憑依させて暗躍させていた。二年目はロックハート、自己顕示欲の高い詐欺師。生徒と教師陣に授業の面で多大な迷惑をかけた。三年目はルーピン、人狼で教授職はきっちりこなしているが、あのシリウスの親友にして愚連隊の一員である分、身の内に爆弾抱えている気分である。

やっぱり、今年の防衛術教授ははずれだな、と吾輩は断じた。シリウス脱獄のタイミングでのルーピン起用は最悪である。決めたのは、校長だけれど。校長はどこまで把握しているのか、単に運が悪いだけか。はてさて、どちらだろう。

 

 

 

 

平穏は容易に破壊されるものである。

吾輩たち教師陣は呆然とグリフィンドール寮入口の絵画を見ていた。その絵画はふとったレディがいた筈の絵画で、今は空白。何よりも派手に切り裂かれていたのだ。マクゴナガル教授が青い顔でふとったレディの安否確認を他の絵画メンバーへ依頼し、それにより犯人は判明した。そう、アズカバンから脱獄した駄犬シリウスである。いや、吾輩、知っていたけれど、シリウスに問いたい。絵画を引き裂いて何がしたかったんだ?ふとったレディが脅されたからといってグリフィンドール寮に危険人物を入れる訳がない。パニックと恐怖とヒスでまともな事情聴取も出来ていないが、ふとったレディは生徒を守るために凶悪犯に立ち向かう程の気概を持っているのだ。今は絵画の中を逃げ回っているが、その心意気や良しである。

対して、シリウス。単に癇癪おこして絵画を引き裂いたに違いない。馬鹿だ、馬鹿だと思っていたが、本気で馬鹿だった。シリウスがアズカバン脱獄をやらかしたのはてっきりペティグリューを確保し冤罪を晴らす為かと思っていたが。もしかしたら、単にペティグリューに復讐するためだったりして・・・・・・。本気で笑えない。どれだけ周囲に迷惑をかけたら気が済むんだ、あの駄犬は。

 

シリウスがホグワーツに潜伏しているのがはっきりした以上、教授陣は生徒を守るために校内巡回が増やされた。しかも、相手は凶悪犯であり魔法使いとしてのレベルが異様に高いシリウスである。いくら教師でも単独行動は危険だ。ペアを組んで巡回ということになったのだが、このペア組み合わせ、とある思惑が透けて見える。

なぜなら、吾輩とルーピンが全くペアを組まされていないからだ。共通項は同年故という訳ではなく、単にシリウスと個人的繋がりがあり、下手をするとシリウスの助力をしかねないと危惧されている為である。

ルーピンはシリウスも加わっている愚連隊の一員であり友人だからだ。教師の立場より友情を取りかねない。そして、吾輩はシリウスの妹レギュラスと結婚している(なぜか、この世界ではレギュラス・ブラックは女性だ。本当に)、つまり、吾輩とシリウスは義兄弟の間柄なのである。正直、泣きたい。

なぜ、吾輩がレギュラス・ブラックと結婚しているかといえば、純粋にこれは政略結婚だ。後ろ盾の欲しかったプリンス家はブラックの力を得る為、ブラック家は精霊使いを保護するという表向きはウィン・ウィンの関係な政略結婚になっている。もっとも、本当は精霊使いを守るのに母の実家・プリンス家だけでは無理だったのだ。そして、ブラック家は光派闇派と距離を置きたいがためだ。結果として、ブラック家は精霊派筆頭になった。やったね、これで吾輩は安泰である。なにせ、ブラック家はイギリス魔法界の王族だから。

但し、もれなくシリウスという駄犬が付いてきたけれど。

 

 

 

2022/5/7:誤字修正

 

セブルスはプリンス家を継いだので、当然ながら結婚は必須事項です。原作と異なって初恋こじらせていないので、あっさり政略結婚しています。

お相手がレギュラス・ブラックなのは筆者の好み以外のなにものでもありません。レギュラス・ブラックは助けてあげたいキャラでしたので。そう、マルフォイと遠い親戚というのは、レギュラスを嫁にしたので、その関係で(ナルシッサはブラック家系のお嬢さんでレギュラスとは血縁関係があった筈)セブルスにとっても親戚になるということです。

マルフォイ家からしたら、自分のところと比較すれば家格の低い?プリンス家との親戚関係は一応繋がっているなーくらいの認識かもしれません。もっとも、セブルスが精霊使いなので利にさといマルフォイ家は親戚関係!!と言い張るのかもしれません。

 

2022/5/21

ディメンダーをディメンターに変更。ご指摘ありがとうございます。

黒当主は生きているパパさんです。セブルスの子供が継ぐまで頑張ってもらう予定です。

オリオン様もヴァルブルガ様も孫をただただ甘やかすポジショニングを楽しんでいただきたい、と。ブラック家当主、当主婦人ではそうも出来ないかもしれないけれど。

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-2

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-2

 

 

 

吾輩が廊下を歩いていた時、ぞろぞろと移動教室中の生徒たちと行き合った。精霊学教授である吾輩と生徒とは本来ならば接点がない筈だが、去年、夜逃げしたロックハートの代わりに闇の魔術に対する防衛術の座学を受け持たされたので大概の生徒に教授として認識されてしまっているのだ。元気よく吾輩に挨拶する生徒たちに鷹揚に返した。こんな返しで良いのか三年目の今でも戸惑う。流石に、生徒からの挨拶に対する適切な返しなんて他の教授陣に聞くわけにもいかないし、原作セブルスがどんな返しをしていたのかも分からん。

ふと、ハリー達三人組が揉めているのが目に入った。正確にはロンとハーマイオニーが喧嘩していて、ハリーがオロオロしているといったところか。

 

「廊下で騒ぐな!!それで、何があったのかね?」

 

原因を解明せねば、また同じことを喧嘩を繰り返すことだろう。

先に口を開いたのはロンだった。

 

「ハーマイオニーの馬鹿猫が―――」

 

感情的なロンを吾輩は視線ひとつで黙らせた。喧嘩再開など、御免こうむる。次にハーマイオニーが口を開こうとしたが、それも黙らせる。喧嘩の当事者が冷静に状況を説明出来るとは思えない。

 

「ミスターポッター、説明したまえ」

 

唐突な指名に面食らったハリーがそれでも説明を始める。

 

「えっと、実はその―――」

 

ハーマイオニーの飼い猫クルックシャンクス(何でそんな長い名前をつけたんだ?呼びにくいのではないか?)が執拗にロンのネズミ・スキャバーズ(本当の名前はピーター・ペティグリュー、逃亡者なんだから、よく考えるとカオスだ)を狙っているとか。ネズミの正体を知っていて狙っているのならば、この猫は相当に賢い。シリウス並みに?

 

「ミスグレンジャー。その猫に充分、エサは与えているのかね?」

「もちろんです」

 

猫は遊びでそういうこともやるらしいから・・・。

しかし、シリウスと猫に狙われるネズミ(ピーター・ペティグリュー)、ストレスで胃に穴が開くのじゃなかろうか。

 

「そのせいで、すっかりスキャバーズの調子が悪くなって」

 

さもありなん。映画でもペティグリューはくたびれたおっさんだった。このまま放置すると、シリウスが暴走して厄介なことになるのだよな。気は進まないが、とても気は進まないが仕方ない。

 

「このまま放っておくのは問題があるようだ。今から皆でケトルバーン魔法生物学教授のところへ向かう、ついて来たまえ」

 

一瞬、目を合わせたハリー達三人組は、素直に吾輩の後をついてきた。ケトルバーン教授は部屋にいた。二度手間にならず、良かった。ケトルバーン教授は吾輩とハリー達三人組を不思議そうに見て、吾輩に視線で問う。『何の用だ?』ごもっとも。

ケトルバーン教授に吾輩は手早く事情を話す。その折、猫でなくロンのネズミの特異性を強調しておいたが、それだけだ。しかし、ケトルバーン教授は魔法生物狂い、こちらの思惑通りにネズミに興味を抱いてくれたようだ。ネズミは居心地悪そうに机上でじっとしていた。ケトルバーン教授はロンのネズミを研究材料として見つめ、矢継ぎ早にロンに質問している。

 

「ほお、そんなに長生きを」

「ふむ、指が一本かけておるのはなぜだ?」

 

流石、ケトルバーン教授はいいところを突いてくる、吾輩はますます困惑するネズミを見る。すっかり、ネズミにしては異様に長生きなスキャバーズに夢中なケトルバーン教授は吾輩の誘導なしに、ロンにネズミをしばらく預かりたいと口説き落としている。こっちは放っておいて良いだろう。ロンとネズミを引き離しておけば、ロン(そしてハリー達)は駄犬シリウスと接触する恐れはあるまい。

逆にケトルバーン教授はシリウスに突撃される可能性大となったが、ケトルバーン教授もホグワーツ教授なのだ、撃退出来るだろう。少なくとも、生徒が危機に陥るより遥にマシだ。我ながら身勝手過ぎるかと思いなおし、吾輩はマクゴナガル教授にもこの情報を流しておくことにする。

 

 

 

 

「マクゴナガル教授、お願いしたいことがあります」

 

マクゴナガル教授の私室の扉を開けると共に、吾輩が口にした。その途端、マクゴナガル教授は一瞬顔を歪ませたが、即、表情を取り繕った。

 

「どうしましたか、セブルス?まさか、また森で何か?」

 

アクロマンチュラ調査の一件はマクゴナガル教授の中で半ばトラウマになっていたらしく恐恐として聞いてきた。

 

「大丈夫です。森ではありません」

 

シリウス脱獄のせいでホグワーツの防衛に頭を悩ませているマクゴナガル副校長にこれ以上の心労を与えるのは吾輩の本意ではない。校長の方はどうでもよい。校長が生徒想いのマクゴナガル教授程にこの事態を憂いているとは思えないからだ。

それはともかく、吾輩は手早くロンのネズミをケトルバーン教授に預けたこと、そしてネズミがいかに異常であるかということ。マクゴナガル教授本人は変身術の使い手である。それとなく誘導すれば、マクゴナガル教授はハッと気付いて顔色を変えた。

 

「そんな・・・でも、まさか。動物もどき!?」

「ひとつお聞きしたいのですが、動物もどきは必ずしも登録は必要ありませんよね。例えば某新聞記者とか。ところで、リータ・スキーターに教授した訳ではないでしょう?」

「もちろんです!!そもそも、リータ・スキーターが動物もどきですって!?」

「知っている者は知っていますよ」

 

貴族にとって情報は力となる。吾輩がリータ・スキーターのことを知ったのも出版会社を持つ貴族経由だ。とりあえず、話を戻そう。

 

「つまり、動物もどきは独学で習得できる、と。そして、問題のネズミがウィーズリーのペットに成りすましているとなれば、まっとうな人間とは言えませんな。ミスターウィーズリーからケトルバーン教授に引き渡したのは正解だったのでしょう」

「すぐにシルバヌス(シルバヌス・ケトルバーン教授)へ連絡します。いや、今すぐ行きます」

「ご同伴いたします」

 

ネズミに逃げられては面倒だ。そして、ネズミがピーター・ペティグリューと明かされたら、また一波乱だろう。

 

 

 

その後のことは、吾輩の思惑通りに進んだと言えるだろう。マクゴナガル教授と共にケトルバーン教授のところへ行ったところ、ケトルバーン教授はネズミにべったりで研究していた。ネズミを逃がしていないのは僥倖。あんな研究熱心な教授に観察されていては流石のネズミも逃げる隙はあるまい。そこにマクゴナガル教授と吾輩が入室し、ますますネズミの包囲網は強固なものとなった。

 

あれよあれよと言う間、というよりはマクゴナガル教授のアンチ動物もどき呪文でネズミはピーター・ペティグリューの正体を晒したのだ。その後は、ピーター・ペティグリューを腕利き闇祓いのロングボトム夫婦じきじきに引き渡した。横やり入れられると面倒なので、事情聴取は魔法省でやってくれ、と即、実行させたのだ。ロングボトム夫婦も我が子在学のホグワーツにこんな怪しさしかない人間を置くわけにはいかないと嬉々として連行していった。その後のペティグリューは魔法省預りなので、逃亡されようが、殺されようが魔法省の責任である。

 

 

 

翌日の日刊預言者新聞にはペティグリュー確保、シリウス冤罪か?の記事が一面に載っていた。冤罪か?のところにシリウスへの疑いが未だ晴れていないことが伺える。どれだけ人望がないのだ、あの駄犬。あの裁判も相当にいい加減だったらしいし。

ホグワーツでの愚行とブラック家からの絶縁が効いているのだろう。シリウスはホグワーツでのやらかし、主にスリザリンだが他寮に対して行っていた暴力行為に対して、卒業と共にブラック家から絶縁され、シリウス・グレイとなっている。ブラックを名乗ることも禁じられている訳だ。

これを厳しすぎる処分とは言えない。スリザリンは貴族や有力者の子供が多く、彼ら彼女らに危害を加えたことをブラック家が正当化することは許されないのだ。また、ポッターやシリウスは就職する気がなかっただろうがーーールーピンやペティグリューが卒業後、就職出来なかったのは不死鳥の騎士団に入団したからだけではない。就職できなかったから騎士団に入ったと思われる。雇用者側からすれば愚連隊の一員を自社に入れる筈もあるまい。

 

 

 

それはともかく、今朝の食堂はこの件でもちきりである。吾輩は食事を済ませ、あえて紅茶片手に日刊預言者新聞を眺めている。既に一度は読み切っているのだ。食堂に入ってから、生徒の噂から何か不穏さに気付いたのかルーピンが青い顔でハイテーブルに座った。

 

「おはよう、ルーピン」

「あ、ああ。おはよう、セブルス」

 

ルーピンは吾輩の持つ日刊預言者新聞にじっと目を向けている。吾輩は新聞を手渡した。

 

「気になるであろうよ。貴公の親友のことであるからな」

 

ルーピンは吾輩から新聞を奪う様に取り、じっと一面に目を通す。小さく悲鳴のような呻き声を上げた。

どうやら今の今まで全くルーピンは知らされていなかったらしい。吾輩はちらりとマクゴナガル教授を見たが、全く知らない顔をしている。これは、わざとルーピンに情報規制をかけていたのだろう。親友の為として、なにか事を起こされては困る、ましてホグワーツの教員が、であろうか。やっぱり愚連隊の一員ということで、ルーピンは信用されていなかったのか、と吾輩は納得した。

 

 

2022/5/18

リータ・スターキーをリータ・スキーターに変更。ご指摘ありがとうございます。

 

2022/5/19

ケルトバーンをケトルバーンに修正。ご指摘ありがとうございます。

ケルトって北欧神話か。

この世界のセブルスははたして生徒からの人気があるのか否か。生徒からの挨拶の返しに悩むぐらいだから、本人は未だ生徒との距離感を掴みかねているのじゃないですかねー。

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-3

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-3

 

 

 

ピーター・ペティグリューは魔法省へ引渡し、シリウスが一応は冤罪ということでホグワーツからディメンターは撤退された。

今頃、シリウスはペティグリューを追って魔法省へ向かったことだろう。それ故に、ホグワーツから見れば事態は四方八方丸く収まったように思えたのだが、問題がひとつ残っていた。

ケトルバーン教授の私室で、教授とマクゴナガル教授そして吾輩、三人が頭を抱えている。つまり、ロンのネズミ・スキャバーズが実はピーター・ペティグリューだったと明かすか否かである。

 

「いつまでも儂がネズミを預かっているとは言い張れぬし」

「とはいえ、可愛がっていたネズミが犯罪者とは、とてもミスターウィーズリーには言えませんし」

「ペットの正体が薄汚いおっさんとか、とんでもない心の傷になりますな」

「セブルス・・・薄汚いおっさんって・・・」

 

マクゴナガル教授は呆れ切っているが否定は出来ないようだ。また、ケトルバーン教授は必死で笑いをこらえているがこらえきれていない。

 

「しかし、本当のことを全く言わないわけにもいきませんし」

 

マクゴナガル教授が困ったように呟く。

全て本当のことを言わないにせよ、少しは本当のことを明かさねば歪みがうまれ、結局は真相が明かされてしまう。それは、どこからも望まれない結果を生み出すかもしれない。

 

「そうですな。ペットのネズミがピーター・ペティグリューとすり替わっていた。故にミスグレンジャーの猫が執拗に狙っていた―――ということでは如何でしょうか?」

「そうですね。シリウスも多分、ピーター・ペティグリューを狙っていたでしょうから、猫とシリウスに同時に狙われていた、今年度頭が怪しいということでミスターウィーズリーを納得させましょう」とマクゴナガル教授。

「確か、あの一家はガリオンくじでエジプトへ行っていたな。そこで、すり替わっていたことにすればよかろう。エジプトの気候が合わずネズミが亡くなったと儂が説明する」

「どちらにせよ、ウィーズリー一家にも協力を願うべきでしょうな」

「魔法省経由でパーシー・ウィーズリーを呼んで説明します。今は魔法省との協力が必要です」

 

校長と違ってマクゴナガル教授はホグワーツの独立方針に拘っていない。いや、拘るには近年のホグワーツは事件続きなのだ。いい加減、手に余っているのだろう。

 

「それでは、パーシー・ウィーズリーに事情説明し、ロン・ウィーズリーへの説得に協力願いましょう。説明時には仲の良いミスターポッターとミスグレンジャーも一緒に。ロン・ウィーズリー自身から二人に話させるのは酷ですし、あの二人は知っていた方がロン・ウィーズリーを支えてくれるでしょう」

 

後日、ケトルバーン教授が魔法生物の専門家として、マクゴナガル教授は寮監として、そしてパーシー・ウィーズリーは色々と魔法省で知った上で、ロン、ハリー、ハーマイオニー三人組に説得し納得させたらしい。

ロンはやはり落ち込んでいるそうだ。

落ち込んでいると言えば、リーマス・ルーピンもだ。親友シリウスがアズカバン脱獄からの冤罪か?疑いである。もう一人の親友ピーター・ペティグリューは死亡からの魔法省の逮捕だ。

その心中は吾輩にはうかがい知れない。吾輩が気にする義理はない。義理はないがモチベーションが低下し教授職に差し障りがあっては吾輩にも迷惑がかかる。

少しは優しくしてやろう、そんな風に思っていた。

 

連日、日刊預言者新聞はピーター・ペティグリューとシリウス・グレイの件を一面に載せている。死んだと思われていたペティグリューが実は生きていたと発覚しても、シリウスが冤罪と思われていないらしい。ペティグリュー殺人罪が殺人未遂に変わっただけである。巻き込まれたマグルは気の毒でならない。二人の諍いは単なる仲間割れと考えられているようだ。

それより大きな問題はペティグリューが動物もどき、しかも未登録ということである。そこから、シリウスも未登録動物もどきでは?という疑いはペティグリューの自供で確定された。ペティグリューにしてみれば、魔法省に拘束されている以上、黒犬版シリウスを警戒されないと自身の安全に関わるからだ。保身の為にシリウスの秘密を売った訳だが無理もない。自身を殺しに来るシリウスの秘密を守る義理等、ペティグリューにはなかろう。

しかし、この件は吾輩にとって少なからず影響があった。

 

 

まず、マクゴナガル教授がペティグリューならびにシリウスへ動物もどきを習得させたのか、また、未登録であったのを知っていたのか―――の事情聴取を取られた。これに関してマクゴナガル教授は全く関与していなかったので何の罪にも問われることはなかった。

問題はルーピンの方だ。シリウス脱獄の際に動物もどきで黒犬に変身出来ることを秘匿していたことは犯罪ほう助に該当したのだ。親友の為にしても当時は凶悪犯と思われていたシリウスを庇う行動は少なくともホグワーツ教員としてはあり得ないと理事会が即日、解雇したのだ。校長は擁護したらしいが中立のマクゴナガル教授が非難したことは大きく(ディメンターの件で怒り心頭だった)、またもや学期中に闇に対する防衛術の教授が不在となった。

結局、吾輩は今年も闇に対する防衛術の座学を受け持つことを指示された。去年のロックハートに引き続いて、今年もかよ!?

しかし、そのような事はたいした愚痴にもならない。それ以上に面倒なことになったのだ。

 

 

つまり、ルーピンが人狼であることがバレた。

 

 

原作ではセブルスがそれとなく?ホグワーツ生にばらした筈だが、もちろん吾輩は何もしていない。ルーピンがいなくなったら確実に防衛術の座学を押し付けられると分かっているのでバラす訳がない。一体、誰が?と思っていたらペティグリューの取り調べの結果だった。なぜ動物もどきを習得したのかを聴取されたらしい、真実薬と共に。魔法界の取り調べに倫理観はないようだ。マグル界ならば自白剤と共に取り調べしているのと同じである。原作でもちょいちょい倫理観が迷子になっていたことを思い出す。

これにより、再度、マクゴナガル教授と校長が魔法省へ呼び出された。人狼と知っていて雇用したのか、から芋づる的に人狼と知っていてホグワーツにルーピンを入学させていたのかへと・・・・・・。原作より魔法省の役人がきちんと取り調べている。わざわざ役人がホグワーツへ来て、吾輩たちまで一人一人聴取を取りに来たのだから。このところのやらかし(一年目はドラゴン騒ぎ、二年目はアクロマンチュラ討伐、三年目の今年はシリウス襲来)が酷すぎて、魔法省の介入を突っぱねられなかったようだ。

 

これにより、ルーピンが人狼と知っていたのは校長、マクゴナガル教授、校医マダム・ポンフリーそして魔法薬学教授であった。なお、吾輩は知ってはいても教えられていた訳ではないので聴取には否定しておいた。さて、魔法薬学教授は校長から脱狼薬作成の為にこのルーピンが人狼という秘密を知らされていた。しかし、彼はそのことを決して快くは思っていなかったらしい。故に聴取では雇用主故に校長の依頼を断れなかったとぶっちゃけた。そもそも、ルーピンも自身の秘密を守りたければ、脱狼薬を自作すべきだったのだ。ルーピンはグリフィンドールの監督生だったので能力的に不可能とは思えないので、吾輩には不可解でならない。結局、これらもろもろが魔法省経由で日刊預言者新聞にすっぱ抜かれた。

 

 

結果、生徒と生徒の親に激震が走った。無理もない。問い合わせのフクロウ、校長への吠えメール、抗議などで英国中のフクロウがホグワーツへ殺到し、上へ下への大騒ぎになった。吾輩も一度にこれだけのフクロウを見るのは初めてである。少し怖い位だ。そこで、ふと思い出す。原作においてルーピンの人狼はバレているのだから、これも原作補正のひとつなのかもしれない。

しかし、この後のことは原作にもなかった気がする。

まず、またもやゴシップ記者リータ・スキーターがやらかした。リータは『堕ちた友情』というタイトルで悪意でコーティングされた記事を発表した。読み物としての出来は良かった。学生の頃に愚連隊から被害を受けた者ならば十分に楽しめただろう。ルーナの父が編集している『ザ・クィブラー』はわりに公正で公平な評論と考察であったが、だからこそ関係者に刺さる内容であった。愚連隊四人組の友情が相当にいびつで歪んでいたのは確かなのだから。

在学中はホグワーツに守られていたが、今、その守りはないため世論は彼らに牙をむいた。魔法界にはろくなメディアがないと思っていたが、そのメディア全てがこの件を扱っていた。確かに一般大衆が興味を持ちそうな話題である。

シリウスがブラックから勘当されていなければ、ブラックの意向と忖度で記事など出来なかったが、今やシリウスはブラックを名乗れない。このあたり、原作と乖離している。

これは吾輩も多少なりと関係していなくもない。吾輩のところにレギュラスが降嫁し(家格から嫁入りと言うよりは降嫁が近い)まあ、その吾輩の子供をブラックの後継にするという手段を取ってしまったのだ。ヴァルブルガ様が結婚の折、レギュラスに「子供は二人産みなさい」とプレッシャーをかけていた。

ブラック分家からレギュラスの婿を取ってブラック家を継がせようとしなかっただけ、オリオン様もヴァルブルガ様も娘の意向を無下にはしない優しい方である。結果として、シリウスは後継者になれなかったが、当時、無茶苦茶嫌がっていたのだから本人の希望が叶ったわけだ。今更、文句は言わせん。

 

 

 

2022/6/4

ケルトバーンをケトルバーンへ変更

 

2022/6/6

マダムピンズをマダムポンフリーへ変更

ご指摘ありがとうございます。

映画の時も思ったのですが、リーマスは脱狼薬を飲み忘れたり、わざわざ作ってもらった薬に文句言ったり何様なのだ、と。そして危機感薄いな、とは思っていました。なお、映画の折は狼化リーマスに体張ってハリー達を守るセブルスに感心しました。あんだけ嫌われているのに、それとこれとは関係ないと体張って守るセブルスはリーマスより遥に教師やってますよね。

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-4

 

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる3-4

 

 

 

なぜかハリー達三人組が吾輩の部屋に来た。ハリーは新品の箒を、ロンは小さな豆フクロウの入った鳥かごをハーマイオニーは猫クルックシャンクス(やっぱり、名前長すぎないか?)を抱っこしている。三人組はともかく、持ち込んでいるものが奇妙だ。相談事があるとのこと。

何で吾輩のところに相談に来たのだ?原作乖離も甚だしい。

とはいえ、教員である以上、突っぱねるのも何か違う気がして部屋へ通し、ハウスエルフのメリーアンが茶の用意をした。相談がある割に口が重くなかなか話をし始めない。茶とお菓子で少しは心が落ち着いたのかハリーはぽつりぽつりと口を開いた。

 

「今、新聞(日刊預言者新聞やザ・クィブラー他のことを指しているのだろう)で色々と書いてあって。あれは、その、本当のことでしょうか?」

 

吾輩は言葉に詰まった。原作知識はあるがホグワーツに通っていない吾輩は、直に愚連隊のことを知らない。故にハリー達にもフラットに対応出来ているのだと思う。しかし、原作知識が原因で愚連隊を色眼鏡で見ていなかったとは言えない。特にシリウスに対して。精霊使いということで吾輩はよくブラック家を訪問していたが、意識的にか無意識的にかシリウスを避けていたところはあった。そもそも気が合わなかったのだが、それ以上に将来ホグワーツでこちらを虐めまくる相手と親しくなろうという意欲がわかなかったのだ。これで吾輩がホグワーツに通うのならば布石を打とうとも思ったかもしれないが、当時のホグワーツは精霊使いを受け入れていなかった。結局、婚約者レギュラスと仲良くなるという言い訳からシリウスとは当たり障りのない関係を築くにとどめていたのは―――多少なりと原作知識に振り回されていたようだ。

シリウスから見て吾輩はどう思われていたのだろう。はっきりとは分からないが、当初、幼いレギュの相手をする吾輩に悪感情はなかったようだ。活動的なシリウスは妹の相手をマメにする性質ではなかった。決して妹レギュを可愛がっていない訳ではないが、わんぱく過ぎたのだ。

妹レギュラスが吾輩を兄のように慕うのをあまり面白く思っていなかったのかもしれないが、だからといって態度を改めることはしなかった。やっぱり自分勝手な性格である。

そのうち反抗期からシリウスはヴァルブルガ様と対立するようになった。ヴァルブルガ様は魔法使いとしてハイスペックなシリウスに期待しすぎたのだと思う。淑女代表のヴァルブルガ様と名家出身なのにチンピラのようなシリウスはまさに水と油。相容れない者同士だった。そして、ヴァルブルガ様は次期プリンス家当主の吾輩とシリウスを比較してしまう。しかしながら、元々の精神年齢が高い吾輩と年のわりに子供思考のシリウスでは比較対象にならない。この点、シリウスは気の毒だった。とはいえ、ブラック家とプリンス家の家格差は大きい。吾輩がオリオン様やヴァルブルガ様に気を遣うのは当然だが、シリウスはそれを良い子ぶりやがって!!と非難する。

いや、吾輩にどうしろと?

そういう訳でシリウスがホグワーツに入学する前にはすっかり吾輩はシリウスに嫌われてしまった。シリウスは自由気ままに過ごしていながら、ブラック家の居場所を吾輩に取られたように思っているのは感じた。妹レギュラスに兄と慕われるのも、母ヴァルブルガ様に自慢に思われるのも、父オリオン様に頼りにされるのも―――そこは自分の居場所の筈だ、と。

だから、吾輩にどうしろと?

そして、シリウスがホグワーツに入ってブラック家に帰らなくなった。物理的距離は心理的距離となる。止めは愚連隊のやらかした数々の暴行・愚行だ。決してグリフィンドールに入ったことではない。

つらつらとそのことを思い出し、吾輩はどこまで話すべきかと悩む。シリウス本人とて全てをハリーに知られたくはあるまい。

 

「吾輩はホグワーツに通っておらぬ。当時、ホグワーツは精霊使いを受け入れていなかった。故にミスターポッターの父親には直接会ったこともない」

 

ついでにピーター・ペティグリューは奴が教授室で正体を現した時に初めて会った。くたびれたおっさんだった。長年の逃亡生活はペティグリューを年より10歳は老けさせていた。

 

「ルーピンやシリウス、ハグリットならば―――」

 

ルーピンは人狼発覚で行方知れず、シリウスはアズカバン脱獄かつ逃亡中、ハグリットはアズカバンだ。関係者が軒並み犯罪者か逃亡者ってどうなんだ?

 

「そう、マクゴナガル教授は?恩師だろう」

「忙しそうで捕まらなくて」とハーマイオニー。

 

逃げているのでは?と思うのは意地悪な見解だろうか。愚連隊のトップ2が名門ブラックとポッターだ。ホグワーツが例え独立裁量権を持っていたとしても忖度がなかったとは思えない。結果、下手な忖度がシリウスを勘当に追い込んだ気がする。きちんと職員が指導していれば、というのは今の吾輩が教員だからだろう。全ては今更だ。また、ポッターも卒業後にそれなりの制裁を受けている。

ポッター本家はジェームズ・ポッターに本家を継がせず分家にしたのだ。ホグワーツ時代、スリザリンを中心に各名門へ喧嘩売りまくっていたのだ。ポッター家がまともに名門と付き合う為にはジェームズを本家当主には出来なかったのだ。

さて、公明正大な当時を語れる者など思い至らない。新聞ではアンチ愚連隊の意見ばかりだろうし、バランスを取るためには愚連隊側の意見が。

 

「やはり、ルーピンか。フクロウで手紙を送れば届くだろう」

 

死んでいなければ、と心中で呟く。人狼だし、そこそこ優秀な魔法使いなので大丈夫な気がする。

 

「ところで、持参している箒と豆フクロウは?」

 

なんでそんなものを持って吾輩の部屋に来たのだ?箒ならばグラウンドだし、フクロウならばフクロウ小屋だろうに。ちらりとハリーとロンが目を合わせた。

 

「僕たちにシリウスがプレゼントしてくれたんです」

「シリウスはハリーの名付け親だから分からなくもないのですが、僕にまで豆フクロウを」

 

ああ、ハリーはシリウスが名付け親と知ってしまったか。ホグワーツを混乱させたアズカバン逃亡者が名付け親。実の父親グループ(名付け親含む)は新聞で叩かれまくり。心中察して余りある。

 

「ミスターポッターに対して何もしてこなかった故の罪滅ぼしだろう。気にせず受け取っておきたまえ」

 

本当にあの男(シリウス)は何もしてこなかったからな・・・。ハリーの養育費は全てポッター家が手配していた。この辺りも原作乖離している。あの猪突猛進なシリウスはペティグリューの始末が出来なくなって、ようやくハリーに思い至ったのじゃなかろうか。あいつはそういうところがある。

 

「僕の豆フクロウは?」とロン。

「間違いなく迷惑料と慰謝料だろう。シリウスからというのは気になるのかもしれないが、多分、おそらく、きっと悪意はあるまい」

 

シリウスの考えなんぞ吾輩はよく分からん。分かりたくもない。

吾輩は視線をハーマイオニーの膝で丸くなっている猫クルックシャンクスへ向けた。大人しく、ロンの豆フクロウには欠片も注意を払っていない。この豆フクロウは怪しくないようだ。

 

「その豆フクロウはよいペットになるであろう。大切にしたまえ」

「はい」

 

ロンは良い返事をした。

これで、ペットロスから是非に回復して欲しいものである。ロンやハリー達には、スキャバーズがペティグリューであったことは伏せられているので、ハリー達も純粋にロンのペットロスに対応しているようだ。真相を知ったらペットを飼うことに拒否感を抱きかねない。皆の心の平穏の為、自身の心の平穏の為、吾輩はこの秘密を墓場まで持っていこうと思う。

 

「吾輩もルーピンに手紙を送ろう。周囲は騒がしいかもしれぬが、あまり気に病まぬように。また、いつでも相談に来ると良い」

 

ほんの少し優しくしてしまうのはシリウスの矯正をしなかった罪悪感だろうか。

 

「「「ありがとうございます。プリンス先生」」」

 

 

 

2022/6/6

感想ありがとうございます。

 

『ザ・クィブラー』がもっとも公平でしょうが、『日刊預言者新聞』で叩かれまくっているので、セブルスは全体のバランスを取るためにリーマスに聞いたらと提案していますが―――真実を知らせるというよりはハリーの心情を配慮しただけですよね。

 

セブルスと比較されてしまったシリウスは正直、気の毒だなーとは思います。でも、比較していたのは本作品上ではヴァルブルガ様くらい。オリオン様はセブルスの微妙な立ち位置を考慮して、あれと比較してはいけないと思っていただろうし、レギュは実兄と婚約者を比較はしないでしょう。実兄の出来の悪さには頭が痛かったかもしれませんが。

シリウスはそのままの自分を受け入れてもらいたかったのかもしれませんが、周囲に少しも寄せようとはしなかったところが子供思考っぽいなーとは思います。また、名家には一人二人、魅力的だけれど碌に仕事をしないごく潰しみたいなタイプがいて、シリウスがそれに該当するのでは。次男三男ならば良かったでしょうが、長男が故の悲劇。しかも、なまじ能力値が高い魔法使いなので・・・。原作を読んでいても、貴族っぽい思考に難ありな気がするのですよね、この人。

 

セブルスがロックハートと比較して、人望を得たとしたら。人望を得たことには喜んでも(このセブルスは褒められるのが好きなタイプなので)、ロックハートとの比較には微妙な顔をしそうです。アレと比較されてマシとか言われても・・・なんて。

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-1

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-1

 

 

 

毎年毎年、少なくとも吾輩が精霊学教授になって以降、何かしらの問題が起こるホグワーツだが、今年は三大魔法学校対抗試合が行われる。はっきり言って、本当にやるのか!?と問い詰めたいところだが、このイベントは魔法省が旗振りしている。つまりお役所仕事なので中止決定など出来ないのだろう。例え、クィディッチ・ワールドカップの決勝において、ヴォルデモート卿を連想させる闇の印が空に打ち上げられたとしても、だ。

 

 

今年は常より早めにホグワーツへ戻ることになった。三大魔法学校対抗試合の準備の為だ。今年、吾輩がやろうとしているのは一つだけ―――ハリーを参加させないことだ。もともと、年齢というハードルがあるのでそんなに難しい話ではない。

しかし、ヴォルデモート陣営はまだ残っていたのか、と半ばあきれる。分霊箱は黒の日記をベースとして全て統合され、トム・レストレンジとして第二の人生を歩んでいる。しかも、狂信者レストレンジ夫婦の養子として、だ。だから、名家の元闇派は皆、トム・レストレンジ(今は精霊使い)に付き従っている。つまり、残党がまだ居たの?という感じなのだ。

それに、ペティグリューは魔法省に拘束されている。ネズミの動物もどきとバレているのでアズカバンに入れても脱獄されると思われているのだ。また、ペティグリュー本人が安全なのはここだけと思い切って魔法省に居座っている。ちなみにシリウスは未だ逃亡中である。故に現在のシリウスは犯罪者?(裁判で冤罪を証明出来ていないので暫定犯罪者)かつ逃亡者なのだ。流石の駄犬も魔法省突撃はやらかさないので事態は膠着状態だ。また、ルーピンはホグワーツを首になってからの消息が知れていない。しれっとシリウスの助力をしていたところで吾輩は驚かん。シリウスは冤罪を証明できない限り、表を歩けまい。ホグワーツに迷惑をかけなければ、駄犬が何をしようが構いはしない。迷惑さえかけなければ。

 

 

ホグワーツが開校され、今年は何の問題もなく生徒がホグワーツに到着した、しみじみ安心した。そして安心していることに驚いた。そうそう、問題が発生してはたまったものではない。

今年の闇に対する防衛術の教授はマッドアイ・ムーディ、外見も内面も凄まじく個性的な元・闇祓いであり校長と懇意にしている。去年のルーピンにしろ、今年のムーディにしろ、校長は防衛術の教授に自分のシンパを採用していないか?一昨年のロックハートはどうか分からないが、校長の指名だったな、確か。とはいえ、マッドアイ・ムーディの中身はクラウチ・ジュニアだったんだよな。どうしよう、校長の採用枠はことごとく外しているのだが。故に来年はどーしよーもないアンブリッジが教授になる訳で。毎回、校長指名教授がやらかしていれば、魔法省も重い腰を上げるよな。それで選ばれたのがアンブリッジというのがアレだけれど。闇祓い派遣しておけよ、魔法省もそんなポンコツ人事やるからホグワーツ人事にまた口出しできなくなるんだ。

でも、今年の防衛術の授業は真面だった筈だ。中身クラウチ・ジュニアには学期末まで仕事をしてもらった方が良さそうだ。いい加減、この科目の座学を受け持たされることに辟易していた吾輩はクラウチ・ジュニアについては口をつぐんでおくことにした。

 

 

 

マッドアイ・ムーディの登場は劇的だった。食堂に雷鳴をバックにしての登場である。ロックハートとは別ベクトルの目立ちたがり屋なのだろうか?と思った。その後、会話した限りでは真面なので少しホッとしたのだが。これだけ個性の塊だと逆に演じやすいのかもしれない。

 

 

儀式めいた中で炎のゴブレットが挑戦者の名前を吐き出す。ビクトール・クラム、フラー・デラクール、セドリック・ディゴリーまでは原作通りだ。そして、番狂わせの最後の一枚は―――バーテミウス・クラウチだった。

一同がしんと静まり返った。

 

 

ガタン!!

 

 

ハイテーブルに座っていたクラウチ氏が真っ青な顔で立ち上がった為、椅子を引っくり返した音だった。クラウチ氏は魔法省の代表として立ち会っていたのだ。随伴のパーシー・ウィーズリーが心配げにクラウチ氏を見上げている。

 

「わ、私ではない!!私がそんなことをする筈がないだろう」

 

皆も『それはそーだろーなー』と思う。例えるならば、オリンピック委員会役員がオリンピックの参加を表明したようなものだ。年齢的にも無理だろう。

 

「なにかの間違いですかね」

「そうでしょうな」

「本人、あんなにパニックに陥っているし」

 

ハイテーブルのホグワーツ教師陣が口々に言う。吾輩も何でこんなことに、と首を傾げるばかりだ。吾輩が精霊に頼んだのは参加用紙には入れた本人の名前が明記されるようにしただけだ。そこで思い出した。クラウチ・ジュニアは父親と同じ名前だったことに。ジュニアまで明記されていれば、こんな間違いもなかったろうが世間様ではクラウチ・ジュニアは死んでいる筈で、どちらにせよクラウチ氏は詰んでいるのだよな、と思い至った。

結局、緊急会議を開くことになり、場は解散となる。生徒たちにしてみれば、盛り上がりに水を差された気分だろうが、実行委員会側のこちらとしてはトラブル対策で大騒ぎだ。

原作ではダームストラング専門学校カルカロフ校長がうちの学校からもう一人選出させろとか、ボーバトン魔法アカデミーのマクシーム校長が不正は如何なものかと非難するところだが―――流石に口をつぐんでいる。それどころか、いや、これどうするよ、という雰囲気だ。

 

「魔法契約は契約だし」

 

とダンブルドア校長が言い出したが、一同の『正気かよ!?』の視線に口を閉ざした。

 

「棄権して頂くのが一番ではないでしょうか?棄権ならば一応、参加している形にはなります。そもそも、本人も参加希望という訳ではないですし」

 

吾輩が意見を述べ、クラウチ氏を見やれば勢いよく首を縦に振る。ちなみにクラウチ氏もこの会議に参加して貰っている。当事者なので当然か。

こっそりとクラウチ氏は胃の辺りをさすっている。クィディッチ・ワールドカップでの闇の印打ち上げ騒ぎ(しかも容疑者は彼所有のハウスエルフ)、息子の失踪(発覚したら政治生命が死ぬ)、止めに炎のゴブレットから自分の(と思われているが実は息子の)名前が出てきたのだ。心臓にガタが来てしまうのではないだろうか。

 

「それにしても、なぜクラウチ氏の名前が?」

「私は知らん!!」

 

クラウチ氏が強く否定する。強く否定しすぎて、いっそ怪しいくらいと思うのは吾輩だけではなかったようだ。クラウチ氏は自分に向けられる視線の冷ややかさに口を閉ざした。会議はすっかりしらけ切った空気となる。結局、そのまま会議は終了した。

 

 

 

数日後、クラウチ氏は聖マンゴ病院に入院した。仕事中毒のクラウチ氏でなければ、政治家が非難躱しの為の入院かと疑うところだけれど、会議中の様子から本当に身体を壊したのだと吾輩は思う。クラウチ氏にとってはその方が幸せだろう。なお、急なことで碌な引き継ぎも出来なかったらしくパーシー・ウィーズリーが走り回っている。気の毒だが、こちらに出来ることは何もない。三大魔法学校対抗試合は既に始まっており、今更、執行委員の一人が入院してもさしたる変化はなかったのである。逆にその程度のトラブルでここまで大規模なイベントが中止になる方が恐ろしい。

 

 

 

ホグワーツ城では、この三大魔法学校対抗試合に生徒たちは浮足立って、また、盛り上がっている。授業に対する集中力が欠けていると教員会議において教授陣が零していた。今年の吾輩は精霊学のみ担当している。今のところ、マッドアイ・ムーディはまっとうに授業をしているので座学に駆り出されることはないが、何をしでかすか分からない不安は残っていた。なにせ、炎のゴブレットへの仕込みは吾輩が妨害したが、それで全く諦めるとは思えないからだ。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-2

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-2

 

 

 

マッドアイ・ムーディ(中身クラウチ・ジュニア)以下、面倒なのでマッドアイ偽と明記する、がやってくれた。グリフィンドールの初回授業で禁じられた術を使って見せたことだ。幸運なことに、今のネビルはグリフィンドールではないのでこの授業を未だ受けていないが、それも時間の問題。吾輩は即、マッドアイ偽に話し合い(物理有り)を行った。なぜか、マクゴナガル教授とフリントウイック教授が付き添ってくれたが、吾輩の助力にしては立ち位置が変だったけれど。話し合い(物理有り)の結果、下級生ならびに精霊使い、そして希望者の防衛術教授の座を勝ち取った。今年ばかりは自ら望むとは、我ながら変な気分である。なお、話し合いの折にマッドアイ偽の部屋が凍り付いて使用不可となったが、たいした問題ではない。ホグワーツ城は、掃いて捨てる程に部屋が存在するのだから。凍り付いた部屋は夏が来る頃には解けるだろう。

そういう訳で強引に生徒を奪ってしまったのでマッドアイ偽から吾輩は嫌悪されている、故に親戚筋のドラコも何をされるか分からないので吾輩の授業の方を選択するように説得していた。ドラコは少々、顔を引きつらせている。

 

「セブルスおじさん、いや、プリンス教授は何をしたのですか?」

「精霊使いの暴走を止める手段はないということを、実地で示しただけだ」

 

思い知らせたとも言う。

 

「ああ、あの氷漬け部屋事件はそういう経緯で」

 

氷漬け部屋事件とは何だ?吾輩は知らん。

それはともかく、マッドアイ偽はマルフォイ家への恨みからドラコに辛く当たるのだ。ドラコは吾輩の大切な親戚筋の子、分かっていて理不尽なことに巻き込めるはずがない。本当のことは隠し、吾輩経由でドラコに危害が加えられる懸念を伝えた。あまりに心配しているのが伝わったのか、スリザリンの生徒ほとんどが吾輩の授業を選択してしまった。少々、やり過ぎてしまったのかもしれない。授業妨害と非難されかねないか?

 

 

防衛術の生徒をぶんどってしまったが、後は大人しくしておこうと本当に本当に思っていた。大体、三大魔法学校対抗試合のある今年は、マッドアイ偽事件とあの人復活事件くらいしか大きな事件に記憶がない。マッドアイ偽はさておいて、あの人復活はなさそうなので、適当なところでマッドアイ偽を退場させれば良いだろう。さて、どのように退場させようか。

 

 

三大魔法学校対抗試合が始まった。

今回はハリーが選手にならなかったので、ホグワーツは一致団結してセドリック応援団と化していた。マグル生まれの子たちによるアイドルグッズ情報から、ホグワーツ側応援団はなかなかに目立っている。ハリーもその他大勢の一人として楽しそうだ。よきかな、よきかな。

キラキラうちわ、ペンライト、サイリウム(ペンライトとサイリウムの違いって何だ?)、ハチマキとか。絶対、日本人情報だろ、それ。

第一の課題はドラゴンから卵を奪うことである。クラムとフラー、そしてセドリックは課題をクリアして、皆々大いに盛り上がった。まさにお祭り気分である。

原作通りではないが、吾輩もこのお祭り騒ぎにはいささか疲れたので自室へ戻ろうとしたところ、廊下でハリー達三人組を見かけた。一瞬、目が合ったので口を開く。

 

「貴公らは宴会に加わらぬのか?」

「えっと、その。厨房へお菓子の調達に」

 

わざわざ厨房へ直に、か。まるで子供だ。いや、子供か。

 

「ふむ、吾輩も一緒で構わぬかね?」

「ええ、まあ」

「はい、どうぞ」

「プリンス教授もお菓子が欲しいのですか?」

「いや、厨房に興味があるのだ」

 

ホグワーツの厨房は、想像以上に広く、多くのハウスエルフが働いていた。その中の一人がぴょんと飛び跳ねるようにハリー達三人組へ近寄った。

 

「ポッター様とそのご友人方。お会いできて嬉しいです」

「こんにちは、ドビー。今はホグワーツで働いているんだ」とハリー。

 

このハウスエルフはドビーというらしい。

 

「はい、ドビーめはダンブルドア校長に雇われてホグワーツで働いております」

「労働条件は?」とハーマイオニー。

「労働条件?何だ、それは?」と吾輩。

「はい、ダンブルドア校長は週給1ガリオン、一ヶ月に一日の休暇を貰っております」

 

ドビーが胸を張って言う。これはまた変わったハウスエルフだ。周囲の働いているハウスエルフ達が冷ややかな視線を向けているがドビー自身は気付いていないようだ。なんというか、ドビーは空気が読めない性質かもしれない。ハウスエルフとしては、いささか問題のある欠点と思われる。

 

「あら、随分と低い条件だわ」

「いえいえ、ドビーめはこれで充分であります」

「ミスグレンジャー、根本的に行き違いがあるように思うのだが。ハウスエルフはそもそも報酬を望まないのだよ」

「え、でも、そんなの可笑しいです。労働に対して正当な報酬を得るのは当然の権利です」

「望まないのに押し付けられる権利とは如何なものかね」

 

哲学っぽいな、これ。

 

「で、でも、ドビーは」

 

ちらりとハーマイオニーはドビーを見やる。

 

「率直に言って、そちらのハウスエルフは相当の変わり者であるな。彼の主張がすべてのハウスエルフの主張と言われるのは誤解もいいところだ」

「なるほど納得です」

 

しみじみとハリーが言った。この変わり者ハウスエルフ・ドビーとの付き合いが長いのかもしれない。

 

「無報酬ってあんまりじゃないですか」

 

ハーマイオニーは未だ納得できないらしい。

 

「無報酬というより、我々が考える報酬を下手に渡すべきでないということだ。例えば、ハウスエルフに服を与えると雇用契約が切れてしまうだろう?彼らハウスエルフの価値観と我々のそれとは異なるのだよ」

「プリンス教授、ハウスエルフがいるのは旧家とかですよね。うちにもいてくれたら良いのに」とロン。

「ハウスエルフについてはよく分かっておらん。彼らの魔法は我々のそれとは全く異なっている。とはいえ、研究もさほど進んでおらぬ。吾輩が思うにハウスエルフは旧家にとって隣人なのだろう。隣人という身近なものを調べようとは心理的にブレーキがかかるのではないか?旧家ではハウスエルフがベビーシッターでもあるのでな」

 

もっとも、これは勝手な考察に過ぎない。正解かどうかは知らん。

 

「ああ、それと旧家に勤めるのは魔力的な問題だと思う。旧家はやはり魔力に満ちているからな。魔法生物は基本的に魔力に満ちた場所に住み着く。多分、そういうことだろう。故にその家と魔力が合わなくて、というのはあると思われる」

 

原作知識からドビーはマルフォイ家のハウスエルフだった筈。魔力でなく性格が合わなかったのだろうな。これだけ変わり者ならば、マルフォイ家も持て余していたのかもしれん。ドビーの方を見る。彼の傍に仕事もせずオイオイと泣いているハウスエルフがいる。ドビーもだが、そのハウスエルフに対しても、他のハウスエルフは疎まし気な目を向けていた。

 

「あのハウスエルフはどうしたのかね?」

 

身も世もなく泣いているハウスエルフはちょいちょい「クラウチさま」と言っているようだ。

クラウチとはあのクラウチ氏のことだろうか?

 

「もしかして、ウィンキー?」とハリー。

 

ウィンキー本人はしくしく泣いていて、とても返事が出来る状態ではなさそうだが、代わりにドビーが返した。

 

「元クラウチ家のハウスエルフであるウィンキーです」

「クィディッチ・ワールドカップの時にあの闇の印騒ぎでハウスエルフが逮捕されたじゃないですか」とロンが追加説明した。

「馬鹿げているわ。ハウスエルフは杖を使えないでしょ」とハーマイオニー。

「そう言われているな」

 

あの件は日刊預言者新聞で読んだ。色々と不可解な事件だった。いくらハウスエルフの生態が分からないとはいえ、杖を使って闇の印を打ち上げたとは無理があるだろう。適当な犯人を魔法省は捕まえられず、クラウチ氏のハウスエルフがスケープゴートにされたのだろうと大半の読者は思ったことだろう。あまりに都合の悪い場所に居た哀れなハウスエルフ。しかし、はたしてそうだろうか。あのハウスエルフが犯人とは思わないが、あのハウスエルフが全く関係ないとは言い難いのかもしれない。なにせ、元クラウチ家のハウスエルフなのだから。

 

それにしても、首になって生き生きとしているドビーとまるで対象的に嘆き悲しんでいるウィンキー。色々と考えさせられる。ぼんやりと吾輩はウィンキーを見つめていた。

ところで、吾輩たちはホグワーツで働いているハウスエルフ達にとっては邪魔だったようで、ハウスエルフ達に大量のお菓子をもたされて追い出された。部外者が職場に居座ったら迷惑だったのだろう。

 

 

 

元クラウチ氏のハウスエルフはホグワーツの厨房に居る。この事実を吾輩は覚えておくことにした。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-3

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-3

 

 

 

精霊使いの生徒ネビルとトム、そして精霊学教授である吾輩でお茶会をしている。これも面談のような授業のようなものである。この二人はホグワーツ入学前から知っているので気安い間柄なのだ。今日のネビルは鬱々としていた。珍しいことだ。ネビルは良いところの坊ちゃんらしく呑気なところがあるので、こんな風に鬱々しているのは少し不思議でもある。何か困ったことでもあるのか。吾輩のハウスエルフ・メリーアンの用意したお茶と茶菓子で落ち着いてくれると助かるのだが。

 

「ネビル、どうしたのかね?」

「あの、その、セブルスおじさん」

 

自室なのでセブルスおじさん呼びでも大目に見ることにする。身内しかいないようなものでもあるし。

 

「クリスマスパーティーがあるじゃないですか」

「ああ、あるな。クリスマスは毎年あるではないかね」

「でも、今年はダンスパーティーもありますよ!!」

「四年以上はダンスパーティーに参加できるんですよね」

 

三年生のトムは全く他人事のように言った。実際に、トムにとっては他人事なのだけれど。

 

「ダンスとか無理です」

 

名門ロングボトムの直系が何を言っているのだろうか。それはともかく、ダンスパーティーの心配だったか。いやはや、いかにも若者らしい悩みではないか。初々しい話である。本人にとっては大問題であろうとも、すっかり世慣れた大人からすれば可愛らしい問題である。

 

「実家で少しは練習しているであろう?それに各寮内で練習があるだろうからそれに参加したまえ。こう言ってはなんだが、貴公より一般家庭の子の方が困惑していよう。手伝ってあげなさい」

 

初めてそれに気づいてネビルが「はい」と頷いた。

 

「ダンスも心配でしょうけれど、パートナーは?」

 

トムの指摘にぴたりとネビルは止まった。全く思い至らなかったらしい。どうしよう、と吾輩を見る。吾輩を見られても、正直、困るのだが。

 

「男性から誘うのが王道だろう。貴公から誘いたまえ」

「早く誘った方が良いと思いますよ、ネビル先輩」

「そんな・・・・・・」

 

ネビルが本当に困った声を上げた。

ネビルは内気だから、ちゃんと誘えるのか心配である。そんな心配をしている自分に内心笑ってしまった。なんとも平和な心配じゃないか。

 

 

マッドアイ偽から防衛術の生徒を一部奪ってしまったので、クリスマスパーティー前の浮ついた空気はよく分かる。それ以上に、ダンスパーティーで恥をかかないように各寮でダンスの練習が始まっている。そして、吾輩もそれに駆り出された。原作ならばスリザリン寮一択だろうに今回、吾輩は寮監ではないこと、プリンス家当主で貴族であること(貴族としてダンスは必須項目)、防衛術の実技で他教授陣(特にフリットウィック教授とマクゴナガル教授)に借りを作っていることから全ての寮のダンス練習に付き合わされている。ネビルのいるハッフルパフやドラコのいるスリザリンは元から手伝うつもりだったが、フリットウィック教授のレイブンクローとマクゴナガル教授のグリフィンドールは正直なところしぶしぶである。借りは作るものじゃない。

 

そこでダンス練習だ。

スリザリンは貴族が多いので出来る生徒が多いことと、身内びいきで面倒見が良い寮なので、慣れない生徒のフォローは上級生がきっちり行っていた。全寮の練習を見ている吾輩から見て最もレベルが高いし、指導もあまり必要ない。スリザリンは心配なさそうだ。

レイブンクローはダンスを理論で考えているところがある。なお、三大魔法学校対抗試合の代表者セドリックのパートナーであるチョウ・チャンはファーストダンスを踊らねばならない旨は連絡済みらしい。セドリックとチョウは寮が異なるが一緒に練習しているとか。

はいはい、青春だ、ケッ。ネビルのようにまごまごしているのは微笑ましいのに、リア充には腹立つな、本当。

ところで、レイブンクローの寮内に入ったのは初めてだが、何かこうぞわぞわするというか何というか。いや、どこの寮も初めて入るのだった。落ち着かないのだよな、レイブンクロー寮。なぜだろうか。

次はネビルのいるハッフルパフ寮だ。この寮は一般家庭の生徒が多いようだが、逆に劣等感を抱かせない雰囲気の寮だけあって最もアットホームな感じだ。スリザリンとはまた違って。ダンスの下地はないが素直で正直、教えがいがある。愛敬があり楽しく踊るのも好印象だ。しかし、基礎ステップから教えるので時間は取られそうである。

最後はグリフィンドール。マクゴナガル教授の指導からか、いきなりダンスというスパルタ方式である。習うより慣れよ、なのだろうか。

各寮で全く雰囲気が異なっていて、面白いといえば面白い。

 

 

 

吾輩は個人的な手紙用の印璽で封をした後、ハウスエルフのメリーアンに手渡した。

 

「レギュに手渡して、返事をもらってきてくれたまえ」

「はい、かしこまりました。セブルス様」

「それと」吾輩は少し口ごもってから続ける。

「ホグワーツの厨房にいる元クラウチ氏のハウスエルフを呼んで欲しい」

 

メリーアンは眉をひそめる。

 

「御用でしたらメリーアンが承りますが?」

 

その声音には、自身こそが吾輩専属のハウスエルフであるという自負があった。

吾輩は軽く手を振る。

 

「誤解だ。用事を頼みたい訳ではない。あの者、ウィンキーに聞きたいことがあるのだ」

「お言葉でございますが、セブルス様。元クラウチ氏のハウスエルフであっても、クラウチ氏の情報は得られません。そういう契約でございます」

 

クラウチ氏もそれくらいの処置はしているだろう。ウィンキーが喋るとも期待はしていない。ただ、ウィンキーがこれからどうしたいのか聞きたいのだ。少なくともホグワーツで上手くやれる未来が全く見えてこないから。吾輩は同朋からウィンキーがどう見えるか聞いてみたくなった。

 

「メリーアンから見て、ウィンキーはどのように見えるかね?」

「ハウスエルフの面汚しでございます」

 

メリーアンのきつい言いざまに少し驚かされた。主家を首にされたことがハウスエルフとして許せないのか。なかなかに厳しいものだ。

 

「なるほど、首になったことが不名誉と?」

「いいえ、いいえ。そうではありません。確かに主家から解雇されることはとても残念なことではありますが」

 

メリーアンは顔をしかめた。

 

「そういうことが全くないわけではございません。そうではなく、泣いてばかりで、あげく酔っぱらって仕事もしないなどハウスエルフとして存在意義に反します」

「ほぉ」

 

存在意義ときたか。悲しみで打ちのめされダメ人間になることに対して、ハウスエルフは人間より手厳しいらしい。つくづく吾輩は人間で良かった。そして、厨房でウィンキーが他のハウスエルフから白い目で見られていた理由がようやく分かった気がした。

 

「それはそれとしてウィンキーを呼んできてくれ」

 

すっごく嫌そうにメリーアンが尋ねる。

 

「どうしてもですか?」

「どうしても、だ」

 

バチン、とメリーアンは姿くらましで消えた。

クラウチ・ジュニアとウィンキーの関係がレギュとクリーチャーのように良好であれば、クラウチ・ジュニアの説得に使えるだろうが、この辺りがさっぱり分からん。それにウィンキーが慕っているのがクラウチ氏かクラウチ・ジュニアなのかも分からん。個人的にクラウチ氏がそんなにウィンキーに慕われているとは思えないので、ここはクラウチ・ジュニアを慕っていると思いたい。

ウィンキーはホグワーツに再就職するよりはクラウチ・ジュニアの傍に仕えさせた方が良いだろうと思ったのだが。

メリーアンに呼び出されたウィンキーは吾輩の前でおいおい泣くばかりでどうにも話にならない。そして、メリーアンがウィンキーを見る目の冷たいことといったら。とても同朋に向ける眼ではないだろう。

これは先にクラウチ・ジュニアをどうにかするべきか。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-4

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-4

 

 

 

ホグワーツでクリスマスダンスパーティーが開催されるため、外部の人間が通常よりホグワーツに入りやすくなっている。妻レギュラスも吾輩のパートナーとして正式にホグワーツ城へ招待した。実は早めに城へ招いたのはレギュラスに頼みたいことがあるからだ。

吾輩がホグワーツの自室にレギュラスを招くと、レギュラスは興味深げに吾輩の自室を見回した。

 

「別に面白くもなんともないと思うがね」

「あら、興味深くはありますよ、セブ」

 

楽し気にレギュラスは返した。小さい頃から知っているレギュラスは美少女から掛け値なしの美女へとたおやかに麗しく成長している。絶世の美女で性格も良く、心根が優しいとか、レギュラスと結婚出来ただけで吾輩は人生の勝ち組である。しかも、この結婚が政略結婚とは。世間様の政略結婚に喧嘩を売っているのかもしえれない。だから、吾輩がホグワーツ教授になって以降の厄介ごとの連続は人生の幸不幸は差引ゼロという真理に従っているのだろう。

 

「さて、レギュ。実は頼みたいことがある」

「ダンスパーティーのパートナーの件ではないのですよね?」

「パートナーの件は当然お願いするとして、別件だ。レギュはクラウチ・ジュニアと同学年で同寮で親しかったよな?」

「ええ、それなりには」

 

レギュラスは少し警戒しつつ答えた。学校時代とはいえ、夫に異性と親しかったと確認される意図に困惑しているのかもしれない。

 

「・・・・・・マッドアイはクラウチ・ジュニアの可能性がある。吾輩では確信が持てないし、クラウチ・ジュニアを説得することも出来ぬ。だが、レギュならばこれ以上、クラウチ・ジュニアに犯罪を侵させないことも可能ではないだろうか?」

「マッドアイがバーティですって?どうして、そんな・・・・・・」

 

レギュラスは絶句したが、すぐにクラウチ・ジュニアがマッドアイであることを前提に考え込んだようだ。しかし、よく吾輩の言うことを信じてくれるものだ。教授職を受ける際に、今後ホグワーツでトラブルが続くという予言が正しかったからだろうか。

 

「なぜ、バーティがマッドアイに変装した、というよりホグワーツに潜入したのかしら?」

「理由は分からんが、あまり良い目的ではなかろうな」

 

この辺り、原作狂いまくっているのでクラウチ・ジュニアの目的はさっぱり分からない。もっとも、トムに確認済みなのであの人暗躍でないことは確かだ。

 

「吾輩としてはクラウチ・ジュニアにはアメリカに逃亡してもらい、ホグワーツから大人しく消えて欲しいのだ。そのための尽力は惜しまぬつもりである」

「尽力って、アメリカに逃がすことかしら?」

「元クラウチ氏のハウスエルフのウィンキーをお供につける。ところでクラウチ・ジュニアとウィンキーは仲良いのか?」

「さあ?」

 

レギュラスとクリーチャーの関係が珍しいのか。でも、アメリカ逃亡にはハウスエルフの力が必要なのだよな。これはウィンキーの方を説得した方が早いか。というか、この前はクラウチ・ジュニアとの方が、とか言っていたので、卵が先か鶏が先かみたいになってきた。

 

「ともかく、レギュにはマッドアイがクラウチ・ジュニアか、否かを見極めてもらう。そして、彼を説得して欲しい」

「どうやってですか?」

「どうにかこうにか?正体さえはっきりすれば、後は吾輩が物理で解決しよう」

 

結局、最後は物理で解決だ。原作セブルスに比較して常に力押しばかりしている気がしないでもない。原作セブルスが優秀過ぎるのだ。そして吾輩はそんなに優秀じゃない。

 

「というか、今更ですけれど、バーティはアズカバンで獄死していませんでした?」

「動物もどきだとアズカバン脱獄可能らしいし、何気にザル管理じゃないのか、アズカバン」

 

シリウス脱獄前までは、アズカバン脱獄は絶対不可能と魔法省は言い切っていたのだけれど、今となっては・・・・・・である。

 

 

 

 

今日はホグワーツのクリスマスダンスパーティーの夜。三大魔法学校対抗試合中であり、他2校への見栄からか常より気合が入っているらしい。吾輩は毎年、クリスマス休暇は帰省するので(寮監じゃないし)ホグワーツのクリスマスは初めてだ。その為、比較のしようがないが、ホグワーツのプライドから常より飾りつけは上だろう。そして、生徒たちの恋のさや当ても子供らしく可愛げがあって、によによしてしまう。貴族間のギスギス・ドロドロと比較すればスカッと爽やかな感じである。ともかく、ホグワーツ城はいつになく華やかで賑々しく、陰で何かをやるには適当な時である。

 

 

 

目の前には簀巻きにして転がされた男が一人。ここは防衛術教授室である。男は憎々し気に吾輩を見上げている。

 

「プリンス、貴様!!とうとう俺に手をかける気か!?」

「とうとうって何ですか、セブ?」とレギュラス。

「とうとうって何だ、マッドアイ偽」

 

吾輩の呼びかけにピクリとマッドアイ偽は身体を震わせた。マッドアイ偽呼びに反応したのだろう。

部屋には吾輩とレギュラス、そして部屋の住人(簀巻き状態)の三人だ。吾輩とレギュラスはダンスパーティーから直行、ドレスアップしているので何とも変な感じである。皆々、パーティーに気を取られているので、マッドアイ偽を拘束しても誰も気付くまい。また、吾輩とレギュラスが会場にいないことについては、誰も気にしまい。パートナーと共に会場から消えたとしても、ツッコミを入れるような空気読めない者はそうそういないだろう。

 

「さて、時間が惜しいのでさくさく話し合いを始めよう」

「話し合いだと、この暴力教師が!!拷問始める気だろうが!!」

「誰が暴力教師だ、失敬な!!吾輩、生徒に手を上げたことはない!!と思う、多分」

「何でそう自信なさげなの、セブ?」

 

困った風にレギュラスが小首を傾げる。絶対と言い切れる程、吾輩は傲慢ではない。

 

「生徒限定かよ!?」

「教師ならば生徒限定でもんだいあるまい」

「問題しかねーよ!!」

「まあまあ、えっと、バーティ?落ち着いて」

 

ぎろりとマッドアイ偽がレギュラスを睨みつけた。

 

「やっぱり、これはクラウチ・ジュニアなのか?判断ついたのかね?」

「いえ、正直、分からないのですが。バーティがポリジュースで変身しているならば一時間で効果は切れます。ただ、さっきのやり取りはバーティらしいのですよね」

 

会話のテンポがレギュラスの知っているクラウチ・ジュニアらしいそうだ。つまり、ツッコミ側の人間だったか。しかし、ただただポリジュースの効果が切れるのを待つのも暇だ。

 

「メリーアン」

 

バチン

姿くらましと共に現れる吾輩専属ハウスエルフのメリーアン。

 

「セブルス様。メリーアンただいま、参りました。何なりとご用命を」

「元クラウチ氏のハウスエルフを連れてきたまえ」

 

一瞬、凄く嫌そうな表情を浮かべ―――直ぐに真顔に戻ると「ただちに、セブルス様」とかき消えた。

 

メリーアンが素直過ぎる。そして、即、ウィンキーを連れてメリーアンは戻った。酒のコップ片手のウィンキーがぐずぐず泣きつつ呑んでいる。

泣き上戸か、一番厄介な酔い方していないか、こいつは。

ウィンキーは簀巻き男に気付いて、酒の入ったコップを放り投げ(嫌々、メリーアンが素早くキャッチした。酒も零さなかった。流石だ)簀巻き男に縋りついた。縋りついて「坊ちゃん、坊ちゃん」とワンワン泣き始める。

 

「もう、クラウチ・ジュニア確定で良くないか?」

「状況的に間違いなさそうですよね」

 

吾輩の問いにレギュラスが頷いたのだった。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-5

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる4-5

 

 

 

ポリジュースの効果が切れて簀巻き男はマッドアイ偽から吾輩の見知らぬ男へと変化した。本当に魔法薬は凄い。

 

「バーティ、生きていたのね。嬉しい」

 

レギュラスが瞳を潤ませてそう言ったが、片方が簀巻き男なので感動も半減、ひたすら残念な感じである。とはいえ、相手は何をしでかすか分からないので簀巻き続行だ。こちらの安全には変えられない。

 

「この状況でそう言えるレギュラスがこっちは驚きだよ。プリンスに毒されたか?」

「この状況で毒舌を叩ける根性だけは吾輩も感心しておる。とはいえ、真実薬を飲ませるような非道なことはしたくないし、どうしたものか」

「簀巻きにして転がすのと、真実薬を盛るのとどちらがよりマシなのかしら?バーティ、親友として忠告しておくけれど痛い目をみたくなかったら素直に話した方がよろしいですわよ」

 

レギュラスがしれっと怖いことを言いだした。クラウチ・ジュニアが顔をこわばらせる。これはつまり、怖い刑事と優しい刑事という役柄で容疑者から自供を引き出そうということか。吾輩が怖い刑事役?

 

「ここで吾輩がクラウチ・ジュニアを脅せば良いのかね?」

「これ以上、何もしなくて結構です。ね、バーティ。加減の出来ない不器用な人なのよ、セブは。本当のことを打ち明けてくれない?私が良いように手を回してあげるから」

 

吾輩、目の前で自分の嫁に酷いこと言われていないか?

 

「言っておくが、俺はプリンスでなくレギュラスを信用するのだからな」

 

どこのツンデレか、という言い訳でクラウチ・ジュニアの事情が明かされた。アズカバン脱獄はクラウチ氏の魔法省勤務コネで面会を強行、身代わりにクラウチ夫人がアズカバンに残り、息子クラウチ・ジュニアを脱獄させたとか。ポリジュースが大活躍だ。ここまでなら、肉親の情とはいえ無茶するものだ、くらいの感想だった。それ以降が酷い。クラウチ氏は息子のクラウチ・ジュニアに服従の呪文で館に監禁(軟禁)し、ハウスエルフのウィンキーに世話をさせていたとか。そして、クラウチ・ジュニアは徐々に服従の呪文に抗いワールドカップ時に逃走した、と。待って、待って、館に監禁していた期間10年は軽く超えていないか?しかも、服従の呪文は禁じられた呪文の筈だ。クラウチ氏の方がアズカバンにぶち込まれるべき犯罪者だろう。やっていることが親とは思えぬ所業だ。

 

「それでは、貴公の目的は・・・・・・」

「無論、あの腐れ親父への復讐だ。ただ、殺すだけで終わらせるものか。魔法省の信頼と評判を徹底的に落とし、三大魔法学校対抗試合を失敗させる。あの仕事人間が閑職に追われれば、さぞやショックだろうよ。そして、俺の手で殺してやる」

 

ワールドカップ時の闇の印はクラウチ氏の復讐のメッセージだったらしい。そして、炎のゴブレットにはガチでクラウチ氏の名前を入れたとか。深読みし過ぎた。最初から最後までクラウチ氏の復讐と殺害の為にワールドカップと三大魔法学校対抗試合に妨害工作していた、と。ついでにクラウチ氏への殺害メッセージだった、と。

単に殺すだけでは気が済まなかったらしい。当然か。

『巌窟王』を連想してしまう。長期間、監禁され復讐鬼と化すところなんて。クラウチ氏は復讐されても仕方ない位にやらかしているし、とても擁護する気にはなれない。しかし、若い時に監禁され、自由を得て復讐を果たした後、父親殺しとしてアズカバンに収容とは、あまりに気の毒過ぎる。

 

「バーティ、復讐を否定はしないけれど。あんな屑を殺してあなたがアズカバン行なんて。あの屑にあなたが手を汚す価値などないでしょう?」

 

レギュラスの中でクラウチ氏は屑表記になった。同意しかない。

 

「そうだな。実質殺すよりも仕事人間のクラウチ氏は社会的に殺す方が効果的だ。殺しなど、一瞬の苦しみだ。ああいうタイプは心折られる方が効果的だろう。貴公が苦しんだ期間、苦しめてやればよかろう」

「復讐を止めないところがあんたららしいよ。ついでにえげつないところも似た者夫婦だ」

 

呆れたようにクラウチ・ジュニアが呟く。

 

「あら、そんな」

 

レギュラスが頬を染めて照れている。いや、褒められている訳じゃないし、照れるところでもない。照れるレギュラスは可愛いけれど。

 

「クラウチ氏を社会的に抹殺すること、吾輩に任されてはくれないか?奴の所業を大々的に公表してくれよう」

「それで、殺すな、と?」

「高みの見物を決め込めば良い。貴公を案ずるものは―――」

 

ちらりと吾輩は簀巻き姿のクラウチ・ジュニアの服の裾にしがみついているウィンキーを見る。ウィンキーは泣き止んではいたが、しっかとクラウチ・ジュニアの服の裾を握っている。余程心配なのだろう。

 

「貴公が思うよりいるのだ。この提案に乗ってくれるならば、逃亡に手を貸そう」

「俺はデスイーターだ。なぜ俺に協力する?レギュラスと親しいからか?」

「デスイーターだった、だ。闇陣営は死んだも同然。今更、闇陣営に優秀な魔法使いである貴公が加わるのは避けたい。そして何より闇陣営が動くと、それを名目に光陣営が大手を振ってくる。正直、光陣営の方が吾輩にとって迷惑だ。ついでにレギュと親しいのはマイナス要素にしかならん。吾輩、異性の友情は成立しない派なのでな」

 

ぐるり、とクラウチ・ジュニアはレギュラスを見据える。

 

「面倒くさいな、お前の旦那。本当に面倒くさいな」

 

面倒くさいを2回も言いやがった。失礼な奴だ。

 

「可愛い人でしょ」

「レギュラスも面倒くさくなってる!!」

 

話し合いの結果、クラウチ・ジュニアとハウスエルフのウィンキーはアメリカへ逃亡した。今年のミッションはこれにて完了。やれやれ、だ。

 

 

 

 

翌朝。クリスマスダンスパーティー明けということで、皆々、朝寝坊っぽい雰囲気の中、その衝撃的ニュースが走った。朝食の大食堂に姿を見せないマッドアイを心配した教師の一人が私室へ行ったところ、部屋の真ん中に転がっているマッドアイ。

しかも、なぜかやたら衰弱している。マダム・ポンフリーが駆け付け、聖マンゴに即入院となったらしい。

この一件で学校は一日休校となり、上へ下への大騒ぎとなった。なお、部屋が氷漬け水浸しにされなかったことで、吾輩の関与は疑われなかった。というか、何で吾輩が疑われねばならないのだ?本当に疑問しかない。

それよりも、今期、最大の問題がフィルチによって知らされた。

 

「大変です!!プリンス教授!!レイブンクロー寮のルーナ・ラブグッドに風の精霊が契約したいと!!」

「嘘だろ!?」

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-1

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-1

 

 

 

吾輩がホグワーツ教職員になって5年目だ。この辺りから原作知識が怪しくなってくる。実は、前世で原作全巻読破していないのだ。この年は―――前年度末あの人が復活して魔法省とホグワーツが復活の是非で対立。アンブリッジが防衛術の教授になって学内がてんやわんやに、だったか。今までの年よりはトラブルが少ない気がするので、少しは気を抜くことが出来そうだ。

そもそも前年度末にあの人は復活していない。魔法界は真実、平和だ。それはそれとして、吾輩は溜息を零した。去年、散々説得したのだが、結局、ルーナ・ラブグッドは風の精霊使いになってしまった。なぜ一度契約すると決めた精霊はああ頑固なのだろうか。ネビルの精霊しかり、ルーナの精霊しかり。吾輩やトムのように訳アリならともかく、好き好んですべての魔力を差し出して精霊と契約することを吾輩としてはとてもお勧め出来ないのである。もっとも、ネビルにしろルーナにしろ、本人が望んでいるのだから仕方ない。

ところで、アンブリッジ防衛術担当はホグワーツ職員紹介で己の野心を隠そうともしなかった。魔法省をバックにホグワーツで権力振るうぞ!!といっそ清々しい程である。慎重さが足りなさ過ぎて頭が痛いな、と吾輩は内心頭を抱えているのだった。

 

 

 

プンプンと怒ったハーマイオニー含めハリー達三人組が、精霊使い三人組(ネビル、トム、ルーナ)と茶を飲んでいた吾輩の部屋に突撃してきた。吾輩はハウスエルフのメリーアンに視線で彼らにお茶をサーブさせる。茶と菓子で心を落ち着けて欲しいものだ。

 

「闇の魔術に対する防衛術の授業が教科書の読み上げである、と」

 

ハーマイオニーの防衛術の授業に対する文句は結局のところ、それであった。教科書はロックハートと違って真面だし、教科書読み上げは魔法史のビンズ教授と同じで、ロックハートの演劇児教室よりマシだし、どうしよう、ロックハートよりマシで特に文句のつけようがないのだが。教科書読み上げがアウトならば、ビンズ教授はどうなるのだ?但し、今までの生徒のウケから考えるに防衛術は実技優先の方が望ましいようだ。吾輩としては過激すぎて下級生と精霊使いの指導を強引に奪った去年のマッドアイ偽(中身はクラウチ・ジュニア)ですら、生徒からは実践的であると好意的だった。一歩間違えると大惨事なのに、だ。魔法界は過激すぎるし、安全管理がザルだ。とはいえ、ハーマイオニーの言いたいことは分かる。分かるがーーーそれを防衛術の座学担当(防衛術の教師不在時)の吾輩に言うのは間違っていないだろうか。皮肉か、皮肉なのか?

 

「つまり実技の補講をしたい、という訳かね?吾輩に言っても仕方あるまい」

「いえ、そういうのではなくて、その」

 

ハーマイオニーは吾輩の言葉に含まれる棘に口ごもる。

 

「グレンジャー先輩は実技補講を企画して欲しいのですね。プリンス教授に」

 

トムが続けて解説する。

 

「生徒が言い出してもアンブリッジ教授に潰されてしまう。魔法省にバックを持つアンブリッジ教授に対抗出来るのは、名門当主のプリンス教授しかいない、と。加えて、ずっと防衛術の座学を担当しているプリンス教授の発言であれば説得力もありますから」

「いや、説得力はないだろう。とはいえ、オウル試験やイモリ試験は不安であろうな」

 

かといって、現時点でアンブリッジとガチでやりあう気にはなれん。面倒くさいから。それにアンブリッジのメンツを潰すのも気の毒だ。相手は大人だし、今のところロックハート程に厄介でもない。

 

「では、防衛術の実技補講ではなくイモリ試験オウル試験対策という名目で補講を実施しよう。これは以前からそもそも実施していたことだからアンブリッジの面目も立つだろう」

「そんなにアンブリッジに気を使わなくても」とロン。

 

文句を言う生徒たちに吾輩は肩をすくめた。

 

「覚えておきたまえ。大人のメンツを潰すものではない」

「センセ、意外に優しい」とルーナ。

「普通に優しいよ」ネビルが続けて言う。

 

そういうフォローはいらないから。余計なことは言わないで欲しい。吾輩が面倒くさい人間みたいではないか。

提出されたレポートについて指導があるという名目で、トムを残した。単なる口実というのはトムも分かっていたようだ。

 

「それで、プリンス教授。僕に何かご用があったのですよね?」

「率直に聞くが、あの方は復活しているのか?動向は分かるかね?」

「分霊箱である僕と本体は連動していませんし、互いに連絡も取れません。もし僕の動きが分かったら、本体が阻止に動く筈でしょう」

 

それもそうか、と吾輩も思い至った。手帳ベースに他の分霊箱を回収し、統合してトム・レストレンジになったのだ。仮にあの方が分霊箱の動きを把握出来ていたら、勝手な動きをするトムを野放しにする筈がない。

こちらがあの方の動きが分からないデメリットはあるが、こちらの動きがあの方に知られぬメリットはある。あれ、でも原作ではハリーとあの方が繋がっているような描写があったような?

 

「ハリーとあの方が繋がっていたような?」

「それはハリーが正規な手順による分霊箱ではないからです。本体はかなり弱体化していますし、協力者も少ない。元・闇側名門はこちら側です。人材・財力・コネのない現状で復活は難しいでしょう」

 

流石、あの方の分身、情報も分析力も本体と遜色がない。原作ではクラウチ・ジュニアの工作とピーター・ペティグリューの助力により復活を果たしたが。クラウチ・ジュニアはアメリカへ逃がしたし、ペティグリューは本人の希望で魔法省に軟禁中。ペティグリューはシリウスから逃れるには魔法省に頼るしかないと思い込んでいる。間違ってはいないが、色々と残念な事態である。

 

「そうなれば、あの方のことは放置で良いか。藪をつついて蛇を出すのは避けたい。話を変えよう。今年度の防衛術の教授。毎年、何かしらの問題を抱えているが、今年のアンブリッジはどうだろうか?」

「権威主義の俗物ですね。少なくとも校長の子飼いではありません。あの教科書読み上げ授業と学生時代の成績から―――実技に自信がないのでしょう。たいした魔女じゃありませんから」

 

原作でもアンブリッジはそんな感じであった。

 

「それにしても、闇に対する防衛術の教授のレベルの低さときたら。毎年毎年、碌な教授が―――」

 

そこでピタリとトムは言葉を止めた。言っていることがイチイチもっともで現役教授の吾輩は何もフォローが入れられない。防衛術のみならず占い学トレローニーもいまいちだし、ビンズ教授の読み上げ魔法史もどうかなーと思う。どうしてか、トムの表情が冴えない。

 

「どうかしたのかね?」

「あの、その、毎年、闇に対する防衛術の教授が変わるのは、多分、僕というか本体のせいではないか、と」

「は?」

 

そして明かされる呪いの話。防衛術の教授が一年もたない理由はトムというか本体が名簿に呪いをかけたらしい。教師になれなかった腹いせにしてもなぜ、こんな呪いを?

 

「なんでまた、そんな呪いをかけたのだ?」

「いや~、毎年教授が変わるのなら僕にもワンチャンあるかと」

 

どういう発想だよ。単にやけになっていただけじゃないのか。

てへっとトムは笑う。

 

「実は解くの忘れていただけなんですけどね」

「そうであろうな。ともかく、その呪いは解除した方が良いだろう。今のトムには解除出来なくても、解き方を明記して闇祓いに提出して解いてもらうか」

「呪い解呪はそっち専門の魔法使いに依頼した方が良いと思いますよ」

「吾輩にそっちの伝手はない。ロングボトム夫妻かルシウスに頼むか。その前にマクゴナガル教授に相談しないと」

 

穏やかな一年の筈なのに、今年もマクゴナガル教授には面倒をかけることになりそうだ。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-2

 

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-2

 

 

 

今年に入ってからウィーズリーの双子は学内で悪戯グッズの販売をしている。小遣い稼ぎなのか、アンブリッジに対する嫌がらせなのか。廊下で双子を見かけたので声をかける。

 

「ウィーズリーの双子」

「「これはこれはプリンス教授」」

「話がある。ついて来たまえ」

 

双子は顔を見合わせた。どっちがどっちか未だに分からん。この双子は強いて互いに見分けがつかないようにしているようだ。

 

「呼びつけられる理由は色々あり過ぎてな、ジョージ」

「全く、アレなのかコレなのかさっぱりだ、フレッド」

「「どの件で呼ばれているのか、それによって対応が変わってきます、プリンス教授」」

 

ややっこしいことを言いだす双子である。というか、呼び出しをいらう際、思い至る事案が色々あるというのは流石だ。褒めてはいない。

 

「貴公らの進路指導だ。ごちゃごちゃ言わずに来い」

 

自室に双子を招いて、ハウスエルフ・メリーアンに茶と菓子をサーブさせた。子供にはお菓子を与えてリラックスさせるという手段はホグワーツ職員になって覚えた技だ。

 

「それで、将来のことを考えているのかね?」

 

兄パーシー・ウィーズリーのように魔法省勤務は向いていなさそうだ。確か長兄ビルはグリンゴッツ勤務、次兄チャーリーはドラゴン飼育だったか。各自、自分の特性に合わせた職業に就いているように思う。

 

「プリンス教授、よくぞ聞いてくれました」とフレッドだかジョージだか。

「俺たち、悪戯グッズの店を開こうと思っているんです」

「悪戯グッズ?」

 

吾輩は思わず聞き返した。最近、双子は自身が悪戯するというよりは悪戯グッズをばらまいている印象が強かった。アンブリッジ他教師に対する嫌がらせではなく、商品サンプルと現地モニターだったのか。

 

「なるほど、あれは市場テストも含めたサービスと宣伝でもあったわけか。評価はどうだ?」

「ばっちりです」

「これなら直にガッチリ稼げるな、相棒」

「もちろんさ、ジョージ」

「店の名前ももう決まっているんです」

「「ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ」」

「教授も先行投資しませんか?」

「吾輩以外にも既に投資先は決まっているのか?」

「「いや~それがなかなか」」

 

親兄弟は出店資金を出せるほど裕福ではない。それはともかく、双子の商売は上手くいくだろう。原作でも上手くいっていたような・・・気がする。記憶は怪しいが。ところで、確か原作ではハリーが三大魔法学校対抗試合の賞金で出資するのだった。ここはゆがめてしまった原作の代わりに吾輩が手助けしてやるか。プリンス家当主として、それ位はポケットマネーでどうにでもなる。

 

「よかろう。吾輩が出店資金を出そう」

「「本当ですか!?」」

 

先行投資を持ちかけはしたものの双子は出資してもらえるとは思っていなかったらしい。目を丸くして吾輩を見る。

 

「ああ、貴公らならばきっと成功するだろう」

 

多分、出資者集めに苦労しそうだし。成功するのは分かっている?から一種の有望株だ。また、双子を就職させる方が出資するより手間かかりそうだものな。こいつらのようなある点で特出した優秀な魔法使いを無職でぶらぶらさせておくと―――訳わからん思想グループ(あの人主催の闇の魔法使いとか校長のボランティア団体とか)に入って反社会的活動とかしかねない。社会人として仕事に励んで納税の義務を果たすことでイギリス魔法界を支えてくれ。

 

「それはそれとしてイモリ試験は努力しろ」

「「えー」」

「学生の本分は勉学だろうが」

「でもプリンス教授、今年の防衛術教授はハズレです」とジョージかフレッド。

「そうです。筆記だけでイモリ試験は厳しいです」とフレッドかジョージ。

「補講しているだろうが。そして、成績を教師のせいにするな」

「「・・・・・・ハズレなのは否定しないのですね」」

 

勘の良い双子だ。

 

「ノーコメント」

 

他に返す言葉がなく、吾輩は突っぱねた。

 

 

 

 

イギリス魔法界が安定して平和な為か、シリウスの冤罪が確定した。個人財産(ブラックから勘当された折の手切れ金)とペティグリューの自供により裁判にてグレー寄りの白を勝ち取ったそうだ。それでも、グレー寄りの白。人望の無さがよく現れている。よっぽど優秀な弁護士を雇ったのかな?但し、ホグワーツでのやらかしの為、三年間ホグワーツと禁断の森ならびに近く行き来可能なホグズミードに立ち入り禁止となった。冷却期間と言っていたが、絶対にハリー目的でホグワーツ周辺に突撃することを警戒している。三年後、ハリーはホグワーツを卒業しているのでシリウスが来ることはないだろう、という判断である。弁護士にきつく言い渡されているのか、いや、魔法契約を結んでいるのだろう。あの駄犬はホグワーツへ突撃してはいない。突撃はしていないのだが。

 

「あの、プリンス教授。シリウスから度々手紙や高価なプレゼントが届いてしまって。どうして良いのか分からないのです」

 

とハリーが相談に来た。ちなみにシリウスが吾輩の義理の兄というのも手紙やら新聞やら噂やらで気付いたらしい。名家では知られている事実ではあるが、その為、ハリーは吾輩を相談相手に選んだようだ。迷惑だ、心の底から迷惑だ。

ハリーの相談に乗ることではなく、その内容がシリウスがらみということが。そして、シリウスはハリーにプレゼント攻撃か。財力にものを言わせたダメ男みたいなやり方である。まさに駄目な甘やかし方だ。しみじみ、心の底からシリウスがハリーを育てなくて良かった、と思った。ポッター2世かシリウス2世の爆誕である。何て恐ろしい未来であろうか。

 

「返事でやんわりとプレゼントを断ってはどうかね?」

 

シリウスに大人の対応は無理だ。ここはハリーに大人の対応をしてもらうしかない。

 

「手紙も・・・・・・」

 

ハリーが差し出した手紙に吾輩の顔は引きつった。封筒、きちきちの厚さ、呪いの手紙か?これは読むだけでも大変そうだ。

 

「これが週一ペースで届きます」

 

嫌がらせかよ。

これは学業の邪魔になる、確実に。シリウスに自重は無理か。そうだ、ルーピン。今、あやつはシリウスと一緒だろうか。一緒の可能性は高い。シリウスのストッパーになってもらおう。

 

「ミスターポッター、ルーピンはどうしている?シリウスと一緒か?」

「え!?ええ。シリウスの裁判に尽力していたみたいです」

「ルーピンに手紙を書いてシリウスを制御させろ。他人の意見を聞かない暴走機関車だが親友の言うことは聞くだろう」

「暴走機関車・・・そうですね」

 

この時は名付け親シリウスの過剰な愛情に振り回され困りながらもハリーは喜んでいた。両親を早くに失い、愛情に飢えているハリーにはシリウスの愛情がかけがえのないものなのだろう。しかし、数日後にハリーは酷く落ち込んでいる様子だった。何かあったのだろうか。またシリウスがやらかしたのだろうか。ハリー本人には聞きづらかったのでロンとハーマイオニーを捕まえて聞いてみた。聞いてみたのだが。

ハーマイオニーから聞いた話に吾輩は頭を抱えた。シリウスの阿呆は学生の頃の暴行と愚行を―――手紙で武勇伝として書き連ねたらしい。新聞で父親四人組マローダーズの件を知って大概、いたたまれない思いをさせられたのに。よりにもよってその本人が愚行を愚行と思わず、暴行を暴行と思わず、あまつさえ誇るという反省の色なしの勘違い野郎とは。これは酷い。慰めの言葉も出ない。

仕方ないので吾輩の方からルーピンへ手紙を出した。本当のところ、ルーピンとは距離を取りたいのだがそうも言っていられない。シリウスに出しても吾輩の手紙なぞ握りつぶされるだろうから羊皮紙の無駄にしかならないのだ。

ルーピンからの返事は早かった。シリウス宛のハリーの手紙が届かなくなったらしい。というか、ハリーが手紙を出していないようだ。それでシリウスが落ち込んでいるとか。自業自得だ、同情の余地もない。しかし、変な曲解されても困るので正確なところをルーピンに手紙で知らせてやった。

反省しろ、というかシリウスに反省させろ。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-3

 

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-3

 

 

 

マクゴナガル教授に名簿に呪いがかかっているせいで闇に対する防衛術の教授が一年しかもたないのか?と尋ねたら肯定された。嘘だろ、なんで解呪しないんだ!

 

「理由があって解呪していない訳ではありますまいな」と吾輩

「もちろんです。・・・・・・ただ、問題人物が一年で辞職するというメリットも」

 

それはロックハートとか、アンブリッジとか指していたりするのか?とはいえ、毎年教師が変わって指定教科書は変わるし、担当教師だとて常に新人ばかりではノウハウの蓄積もない。

 

「生徒にとって全体的にメリットよりデメリットの方が上回りますな。そもそも魔法学校で呪い付き教員名簿放置とかありえぬ事態。即急に対処すべき案件です!!」

 

きっちりはっきり吾輩が言い切ったら、マクゴナガル教授はいたたまれなさそうに顔をそむけた。校長は迂遠に何かを言っていたが―――いやいや放置の理由って本当に何なのだ?

校長は無視して吾輩主体で名簿解呪に動く。吾輩以外が主体だと横やり入って潰されそうなので仕方なく、本当に仕方なく吾輩が。別に目立ちたくも功績上げたいわけでもない。解呪が成功したら、成功した奴に功績を押し付けてくれよう。

とりあえず、闇祓いに連絡取ったら、わざわざネビルの父親フランク・ロングボトムがホグワーツに来てくれた。忙しいのに申し訳ない。

 

「久しぶりだな、セブルス」

「わざわざすまない。フランク」

 

ネビルが精霊使いの関係でロングボトム家とはファーストネームで呼び合う仲だ。ホグワーツの同僚より仲良かったりする。信頼度の違いか。

 

「いや、ついでにネビルに会うつもりだから構わないよ。それで手紙にあった通り、名簿の解呪だね。よくよく考えてみたら私が在学中も毎年、闇に対する防衛術の教授が変わっていた。呪いだったのか。思い至らなかったよ」

「それで早速、名簿を見てくれ」

 

フランクは名簿を確認し、眉をひそめた。杖を出し、口早に呪文をかけると名簿がパチリと静電気を走らせた。再度、フランクは杖を振るうが、抵抗するように名簿が震えた。

 

「これは手強いな。セブルス、すまないが私の手には余りそうだ」

「こういうのを専門に解呪できる者の伝手はないか?」

「ああ、何人か思いつく者はいる」

「出来たら、能力もだが場所が場所だけに信頼できる人間が望ましい。例えばホグワーツのOBとか」

「なるほど、そっちで捜してみよう」

 

凄腕の闇祓いフランク・ロングボトムでも手に負えないか。流石、あの方の呪いだ。こうなると、トムに解呪法をレポートにさせて解呪者に渡すべきだろうか。しかし、この解呪法はどこから持ってきたと突っ込まれると困る。説明のしようがないのだよな。どうしたものか。

 

「じゃあ、ネビルに会ってくる」

 

楽しそうにフランク・ロングボトムはネビルに会いに行った。ロングボトム家の親子仲は良いのだな。

 

 

 

そして、フランク・ロングボトムの紹介で来たのがビル・ウィーズリーだった。ロンや双子の長兄だ。闇の解呪が得意だったか。

 

「はじめまして。プリンス教授」

「はじめまして。今回は厄介ごとを頼んですまんな、ミスターウィーズリー」

「ビルでよいです。ウィーズリーは多いですし、今も弟たちがホグワーツに通っていますし。大分、お世話になっているのも聞いています。フレッドとジョージのことも。僕じゃ手助け出来なかったから、ありがとうございます」

 

ロングボトム別荘での課外授業とか、双子の出資とか知っていたのか。弟たちの礼を言うとは、ちゃんとお兄ちゃんしているのが吾輩から見ても偉いな、と思う。

 

「気にするな。課外授業や補講は生徒の為だし、双子の事業は儲けが出ると判断したからだ」

 

素っ気なく言ったが、ビルは微笑を返すだけであった。何か腹立つな。腹が立ったので仕事を押し付けることにする。ビルに例の名簿を見せる。

ビルも杖を出して軽く?調べて、ロングボトム同様に想像以上にこれは大変と判断したようだ。ビルは色々と試して、額に薄っすらかいた汗を手の甲でぬぐった。

 

「これは、ちょっとかかりそうです」

「そうか。では、ホグワーツに滞在できるよう、手配しよう」

 

長期戦になろうとも、今まで放置しておいたことと比較すれば大分マシである。

そういう訳で吾輩が教授陣にビル・ウィーズリーを紹介して回った。大概の教授は教え子としてのビルを知っているので特に問題はなかった。またビル自身も如才なく振る舞っているのも大きいだろう。だからこそ、新人のアンブリッジはビルを胡散臭げに疑う様子で見つめた。

 

「名簿の呪いですって?」

 

そんな話は聞いていないという風だった。

そこで吾輩が闇に対する防衛術の教授が一年もたない呪いの旨を教えた。アンブリッジは信じず鼻で笑う。

 

「アンブリッジ教授が在学中も防衛術の教授は毎年変わっていたのでは?」

 

ぴたり、とアンブリッジが固まった。思い至ったらしい。フランク・ロングボトムも指摘するまでこの点に気付かなかったのだから、この呪いはそういう効果も付加されているのやもしれない。

 

「吾輩の知る限りでは――クィレルは年度末試験後に失踪、未だ行方知れず。ロックハートはアクロマンチュラ騒ぎの直前に夜逃げし、新聞報道で社会的に死んだも同然ですな。ルーピンはシリウスの脱獄騒ぎで学生時代の愚行が露見して辞職。マッドアイ・ムーディは教職を受けた直後に身代わりにされ幽閉。呪われているのは確かかと」

 

ざあっとアンブリッジは顔色を青くした。

 

「しかし、闇に対する防衛術の教授ならば、自身への呪い位は自力でどうにか出来るでしょうとも。それに吾輩の知る限りでは死人は出ていませんからな。社会的に死んだのはいますが」

 

アンブリッジはもごもごと口の中で呟いた後、挨拶もそこそこに踵を返して去っていった。

ビルはくすくす笑う。

 

「近いうちにアンブリッジは辞職するのではないですかね」

「なぜだ?」

「あれだけプリンス教授に脅されてしまっては」

「脅す?吾輩は脅してなどおらぬし、本当のことしか言っていない。大体、生徒に防衛術を教える位だ、魔法にさぞかし自信があるのだろうて」

 

アンブリッジの能力は十分、知っているのでこれは単なる当てこすりに過ぎない。とはいえ、名簿に名前を載せた以上、アンブリッジが呪いに巻き込まれているのは確かだ。今更、何をしても同じなのか、辞職することで呪いの回避が出来るのだろうか。あの方の思考からすれば、教授を辞めたら興味を失いそうである。故に、早々に辞職するのは有効かもしれない。

色々と呪いについて考えることがあって、吾輩はビルを自室に招いた。ハウスエルフのメリーアンに茶とお菓子を頼む。お茶を飲みながら、先ほど考えたことをビルに話して意見を聞いてみたくなった。

 

「そうですね。気付かなければ呪いを認識できないというのはあり得ます。僕も指摘されるまで全く気に留めていませんでした。毎年、闇に対する防衛術の教授が変わっていたのに」

「認識阻害系統の呪いが含まれているのかもな。気付かなければ解呪に着手される可能性も低くなる。思うのだが、名簿に名前を記載した時点で呪いが発動されるのでは」

「そうなんですよね。適当な名前でも有効ならば、名簿上のみ欺くという方法もあります」

「存在しない名前では無理な気がする。とはいえ、今年はアンブリッジに呪いがかかっている。結果、今年いっぱいという時間的猶予が与えられた訳だ」

「アンブリッジの尊い犠牲で貴重な時間が稼げましたね」

 

にやりとビルは人の悪い笑みを浮かべた。さすが兄弟、ウィズリーの双子によく似ていた。

 

 

 

 

翌日、アンブリッジは魔法省に呼び出されたという名目でホグワーツ城からいなくなった。引き継ぎも何もせず夜逃げのように、である。名簿の呪いにかけられた事実は、アンブリッジが逃げ出すに充分な理由となったらしい。

アンブリッジの逃亡は朝食の大テーブルで発表された。そして、ホグワーツの教師、生徒皆から大歓迎で喝采が挙げられた。教師陣はアンブリッジによる魔法省からの視察という名の授業参観にピリピリしていたのだ。魔法省を笠に着た態度に苛ついていたらしい。ちなみにアンブリッジは吾輩の授業には関わらなかった。プリンス当主に対するアンブリッジなりの忖度だったのだろう。生徒はクィディッチ開催を邪魔されたり厳しい校則乱立にアンブリッジ・ヘイトが溜まっていたようだ。

但し、辞職宣言を出したところで名簿に名前が載っていることに変わりはない。本気で呪いを避けるならば、闇に対する防衛術の教授を引き受けるべきではないのだ。今頃、真相に気付いたとしたら?アンブリッジは心底後悔していることだろう。いくらアンブリッジの権力欲が強かろうとも、自分の命には替えられまい。

 

 

 

とりあえず、ホグワーツに平穏が訪れたと言っても良いだろう。

 

 

 

 

2022/7/12

ご指摘ありがとうございます。以下の項目を修正・変更しました。

バジリスク騒ぎ→アクロマンチュラ騒ぎに変更

自身→自信に修正

 

名簿の呪いは指摘されるまでは気付ない効果あり、ということにしています。

セブルスもトムの暴露話で気付いていますし、フランク・ロングボトムやビル・ウィズリーもそうです。認識阻害系統の力は大きかったと思っていただけると。だから、マクゴナガル教授もあえて放置していたのではないですよー、と。

但し、校長はどうかな?考えれば考えるほど、この人が黒幕でもおかしくないのではと思ってしまいます。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-4

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる5-4

 

 

 

アンブリッジがホグワーツを依願退職したが、あきらかに夜逃げなので理事会とホグワーツ側が魔法省へ抗議、これによりアンブリッジの任命責任を魔法省は取る羽目に陥った。魔法省も当然、一枚岩ではなく、ここぞとばかりにアンブリッジ落としの派閥が動いているらしい。魔法省においてアンブリッジの失脚は確定しているようだ。そもそも、アンブリッジは魔法省内でも敵は多かったと思われる。さもありなん。

去年はクラウチ氏、今年はアンブリッジ。ことごとく魔法省から派遣された者が失脚していくのだから―――防衛術の教授以外の呪いはない筈なのだが。

そして、例年通り防衛術の座学を吾輩が、実技を他教師の持ち回りとなった。その実技メンバーにビルも組み込まれたので、本件も悪いことばかりではなかったと思う。ビルはかなり優秀な魔法使いなので。また、今年からルーナが風の精霊使いとなって初心者ゆえに吾輩もかなり時間が取られると思っていた。しかし、ルーナ自身のポテンシャルが高かったのか、はたまた契約した風の精霊使いの気質のためか全く手がかからない感じで、これも予想外の幸運であった。そういう訳で、この一年は気楽に過ごせるかな、と思っていたらビルから驚くべき知らせをもたらされた。

吾輩の部屋で茶を飲みながら話をしていた時である。

 

「不死鳥の騎士団が再結成された・・・だと」

 

不死鳥の騎士団といったら、例のあの人団体の対抗組織だよな、確か。原作だと光派閥の武力団体だったか。この辺り、本当に原作知識がスカスカなのでよく分からん。大体、この世界では闇派閥も光派閥も弱小派閥なので何ともかんとも。そもそも、原作と違ってあの人復活していないのに、騎士団だけ再結成して何がしたいのだろうか?闇派閥の団体がいないのでは?

 

「あの人、復活したのか?」

 

吾輩が知らないだけで実はヴォルデモート卿、復活していたとか?原作修正力がはたらいていたりとか。

ビルが首を振った。

 

「いえ、そういう訳ではないのです」

「じゃあ、どういうことだ?」

 

まさか最大派閥・精霊派を仮想敵にする気か?流石に自殺行為だろうよ。

 

「そもそも、どこから情報を得たのだ?」

「いや~、僕も入団を誘われたんですけどねー。もちろん、断りましたけど」

「もちろん、断ったのか・・・」

 

あまりに軽い口調のビルに吾輩はいささか呆れを隠せない。原作だったら、もっとこう使命感とかあっただろうに何だろう、大学のサークルを断るようなこのノリは。

 

「目的がはっきりしないし、僕はやりがいのある仕事で忙しいですしね。チャーリーもパーシーも断っています。双子にも話がいっているのかな?断るようにアドバイスしているけれど。もっとも自分たちの店で忙しいから、ああいう集団に関わっている暇はないんじゃないかな」

 

目的がはっきりしない、か。ヴォルデモート復活が明らかでないのに再結成しても、な。何をするつもりなのだろう。

 

「面倒なのが、父がすっかりはまって入団しちゃっているところなのですよね。結局、魔法省で自身の承認欲求が満たされないからじゃないですか?自分はもっと評価されるべきだ、と」

「評価ね・・・」

 

吾輩はアーサー・ウィーズリーを直接は知らないが、二年度の空飛ぶ車事件はよく覚えている。あの空飛ぶ車はアーサーが改造して作った車とか。ああいうのを取り締まる側の魔法省勤務者が作った挙句に管理がザル、加えて多数のマグルに見られるという失態。よく首にならなかったものである。倫理観がガバガバの魔法界だからな。マグル界の公務員なら即刻、懲戒免職だと思うのだが。とはいえ、アーサーはおそらく似たようなことを何度もやらかしている気がするので、魔法省で出世できないのも無理はない。加えて、アーサーとモリーはウィーズリーとプルフェットから勘当されている筈だ。確か駆け落ち夫婦なのだよな。元から、名門2家から睨まれている為、魔法省の出世にケチがついているのだ、余程の実力を見せないと居場所を作るのも難しかろう。なるほど、なまじアーサーはグリフィンドールの元監督生故に現状に不満を持っていたから―――いまいち訳の分からん団体でも『君が必要だ』と言われると乗っかってしまうのか。胡散臭い宗教団体みたいだな、不死鳥の騎士団。前途ある若者(吾輩の教え子たち)がそんなふんわりした団体に入団しないように注意せねばなるまい。必要ならば説得して脱団させねば。

 

「他のメンバーを知っているかね?」

「えっと、シリウスとルーピンだったかと」

 

はい、説得不可の愚連隊きました。あの二人はなー、仕事紹介して脱団させる道筋が作れなさそうなのだよね。あの二人を就職させるのは吾輩の手に余る。なまじ、能力高い魔法使いというのが、また、頭が痛い。

 

「他には?」

「勧誘は一生懸命みたいですけれど、なかなか苦戦しているみたいです。ボランティアですしね」

「ボランティアか・・・」

 

それは厳しいだろうとも。社会人はまず生活ありき、だ。資産家でないと時間を取られるボランティアは難しい。そうなると、ホグワーツ生が危険かもしれん。学生の大半は親の扶養に入っているだろうし、なまじ一度入団すると抜けにくいだろうし。問題なのは不死鳥の騎士団のトップが校長ということだ。スリザリン生は親もアンチ・ダンブルドアが多いから放っておいても大丈夫か。ハッフルパフは穏やかな気質が多いから冒険は望まないだろう。レイブンクローは個人主義だから団体行動自体が苦手。一番問題はグリフィンドールか。さてはて、どうしたものか。

 

「グリフィンドールのOBとして、注意します」

「是非よろしく頼む」

 

吾輩は全力でビルに頼んだ。

 

 

 

 

朝、吾輩がハイテーブルに向かったら、校長とマクゴナガル教授がいない。何かと多忙な校長はさておいて、マクゴナガル教授がいないのは珍しいと思う。席に着いたら、即、新聞片手にビルが駆け寄ってきた。大慌てである。新聞をブンブン振っている。

 

「大変です、プリンス教授!!」

「落ち着きたまえ、ミスター・ビル・ウィーズリー」

 

とは言いつつも新聞を広げられるように吾輩はテーブルから料理をのけた。ビルによって広げられた日刊預言者新聞一面記事に吾輩は呻いた。一面記事はシリウスが予言を保管している魔法省神秘部で大立ち回りをやらかした、とのことだ。顔が引きつるのが自分でも分かる。

 

「何をやっとるんだ、馬鹿犬」

「まだ何も分かっていないようです。つまり目的が何かとか不明らしいです。しかし、これが不死鳥の騎士団の活動となると・・・」

 

ビルは声を潜める。不死鳥の騎士団のトップは校長、これがシリウスの単独暴走でなくば校長の指示ということになる。シリウスの勝手な暴走の気もするが、よしんば真実がそうでも魔法省のアンチ・ダンブルドア派閥が校長指示として責任を追及するだろう。不死鳥の騎士団としてシリウスを制御しろ!!なのだろうが、シリウスを制御できる者がいるのか甚だ疑問だ。

吾輩思うに、校長も手を焼いているとみた。

 

「セブルス、ちょっと良いですか?」とフリットウィック教授。

 

ビルと吾輩は一瞬、目を合わせてからフリットウィック教授の傍へ寄る。ビルが一緒でも構わないらしい。ちなみに生徒たちもこのビックニュースで朝食どころではなく、大騒ぎでこちらに注意を向けていない。マイペースに朝食に夢中なのもいるが育ち盛りなのだ、仕方あるまい。

 

「ミネルバは魔法省へ向かっています」

「はぁ」

 

シリウスがグリフィンドールOBだからか。気の毒に、と思っていたが、マクゴナガル教授は現役グリフィンドール生を迎えに行っているらしい。

 

「ハリーとロンとハーマイオニーを迎えに」

「ロン・・・」

 

思わずといった風にビルが呻いた。

 

「何でまた彼らが学校を抜け出して魔法省へ?」

「それは分かりませんが」

 

ちらりとフリットウィック教授は日刊預言者新聞に視線を向けた。憎々し気に。それは新聞に対してか、シリウスに対してか。

 

「この件と関係はあるでしょう」

 

そうでしょうとも、と心中のみで同意する。

結局、この事件の真相は明かされることなく、ホグワーツ内ではハリー達が怒りまくったマクゴナガル教授に減点と罰則を喰らっていた。無理もない。

この件で少しでも良かったのは、不死鳥の騎士団のイメージが下落しまくっておそらくは入団者が減ったことだろう。シリウスが入団していることも周知されて、やばい団体という認識が広まったのだ。もっとも、シリウスや騎士団の連中は妙にポジティブに考え、逆境の中でもとか、周囲は理解がないとか言い出しそうだけれど。

魔法省が不死鳥の騎士団をテロ団体と認定するのもそう遠くはないのではなかろうか。

 

 

 

そんなこんなで5年目が終わった。わりに大人しい年だったかもしれない。

 

 

 

2022/7/22

一部打ち間違いを修正。(シリウスや騎士団んお連中→シリウスや騎士団の連中)

フリントウイック教授をフリットウイック教授に変更。

ご指摘ありがとうございます。名前は間違って覚えていると、間違っている認識が薄くてなかなか気づきませんようで。

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-1

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-1

 

 

 

とうとう吾輩がホグワーツ教職員になって6年目。

時が経つのは本当に早いものである。そして、とうとう、原作知識のない年に突入してしまった・・・が、原作破壊しまくったので原作知識あっても役に立つかどうか分からない感じになっていると思う。

 

 

去年のシリウス神秘部乱入の件、連日のように日刊預言者新聞が続報を出していて何となく背景というか目的が見えてきた。神秘部の予言(しかもハリーとあの人がらみの予言)を奪うだか破壊だかするつもりだったらしい。それ、意味のある行為なのだろうか?ともかくシリウスは魔法省に捕まって、これから延々と裁判が続くらしい。いい加減にシリウスの暴走に手を焼いていた連中が、裁判を引き延ばしてシリウスの行動に制限をかけようとしている、とか。裏で動いているのはポッター分家という噂である。シリウスを野放しにするとハリーにちょっかいをかけられる、ハリーはポッター本家の血筋なのでせめてポッター本家もしくは分家の当主を継ぐまでは、と思っているようだ。

あそこもジェームズ・ポッターの教育に失敗しているので表立ってハリーの保護に回れないが、裏ではダーズリー家に養育費を支払ったり(その代理人を吾輩に押し付けてきたが)、名前だけの名付け親シリウスより余程、保護者をやっているのだ。ポッター分家の皆さんの複雑な心境は分からないでもないが、そろそろハリー本人に会ってやれば、と思う。今更だけど、シリウスが冤罪でアズカバンにぶち込まれたのを最も喜んでいたのはポッター分家だったりして。色々と思い至ると名門のやり方がえげつないと思ったり思わなかったり。

 

ところで、今年度からホラス・スラグホーンがホグワーツ教職員に復帰した。高学年の魔法薬学を教えるとか。教授職の負担を減らしてでもホグワーツに必要とされているらしい。らしいのだが、推薦者が理事会と魔法省、スラグホーンはコネと人脈が他の追随を許さないので、ダンブルドア校長の近年のやらかしまくりからして、次期校長候補なのだな、と吾輩でも悟る。

副校長マクゴナガル教授はダンブルドアの影響力が大きすぎるので理事会は懸念を示している。また、グリフィンドール出身が続けて校長になることも問題視されているらしい。吾輩もバランスという意味でマクゴナガル教授はない、と思う。

それ以上に、問題の件。闇に対する防衛術の教授が決まらないのだ。名簿の呪いはビル・ウィーズリーがきっちり解いた。呪いをかけた本人の分身であるトムの手助けなしにビルは解呪に成功したのだから、大したものである。ビル本人も手ごたえのある解呪でこの仕事を成功させたと自信が付きました、と言っていた。そういう意味でとても良い結果に落ち着いたと思う。しかし、名簿の呪いが周知されてしまって教授を公募しても応募者ゼロなのだ。

 

「解呪済みなのに、どいつもこいつも根性なしが!!」

 

とはいえ、理事会は理事会で校長推薦者は絶対拒絶の姿勢である。毎年のトラブルの原因遠因が防衛術の教授なので無理もあるまい。去年の魔法省推薦アンブリッジは問題を起こす前に夜逃げしたので、迷惑はそんなにかけられていない為、校長推薦より遥にマシと思われている。結局、理事会は闇祓いを派遣して欲しいと魔法省に掛け合って―――闇祓い見習いニンファドーラが派遣された。

 

 

 

吾輩の私室で、吾輩とニンファドーラは年間計画書を作成する。実技はニンファドーラ、座学は吾輩。ここ毎年のことで嫌なのに慣れてしまっている。吾輩は年間計画書を指し示す。

 

「という形で今年は進めていこうと思う。名簿の呪いもないし、頼むから今年度いっぱい、勤め上げてくれ」

「余程苦労しているのですね。私も頑張らせて頂きます。また、ここまできっちり年間計画書を作ってもらって有難いです。セブルスおじ様」

「・・・・・・いつから吾輩は貴女のおじになったのかね?」

「私の母アンドロメダはブラックの分家で、ナルシッサおば様の実姉ですよ。ドラコがおじ上呼びならば、私もおじ様呼びで当然でしょう」

「つまり一応は親戚ということか」

「一応って、随分素っ気ないじゃないですか。ドラコは可愛がっているのに~」

「言っておくが、世間をお騒がせしている馬鹿犬も親戚だぞ。血筋で言ったら、より近いおじだ」

「血って厄介ですね」

「全くだ。メリーアン、茶と菓子を頼む」

「承りました、セブルス様」

 

傍に控えていたハウスエルフのメリーアンがてきぱきとお茶の用意をすませる。吾輩は広げていた年間計画書を片づけた。それから、茶を淹れる。ニンファドーラが紅茶を一口。

 

「あら、良い香り」

「気に入ってもらえて何よりだ。ところで、あの馬鹿犬の件、魔法省はどう見ているのだ?」

「日刊預言者新聞は読まれていますよね?」

「吾輩に言わせると日刊預言者新聞はゴシップ紙だ。全てを信じるのは難しい」

「なるほど、納得です。とはいえ、今回は日刊預言者新聞は真実を報道しています。シリウスが目的はともかく、神秘部に侵入し予言を盗もうとしたことは間違いありません。そのわりに罪科が低いのはシリウスが元ブラックだからではなく、冤罪でアズカバンに放り込んだという弱みからです」

「強硬姿勢を魔法省が取れないのは、高度な政治的判断という訳か」

「凄い言い訳っぽいですけれどね。裁判の方が遅々として進まないのは皆の関心が薄れるのを狙っているのかと、それと―――」

 

ちらりとニンファドーラはこちらを見る。なんだか言いにくそうだ。視線で促せば、ニンファドーラは言い辛そうに続ける。

 

「あの事件の前にシリウスがブラック本家に出向いたこと、知っていますか?」

「は!?あ奴はブラック家から絶縁されているだろ!?」

 

ホグワーツ卒業と共にシリウスはブラックから絶縁されてシリウス・グレイとなった筈だ。ホグワーツ在学中からブラック本宅に寄り付かなかったのに、今になって何でまた。

 

「ええ、ですからブラックの結界に阻まれたのですよ。それで、私の母に接触したのです。私は母経由でその話を聞いたのですけれど」

 

ニンファドーラの母アンドロメダはトンクスと結婚する際に少し揉めた。ブラック分家の娘が政略結婚をせず、血統に拘らぬ結婚をするのは本来ならば難しかっただろう。とはいえ、ブラック本家のレギュラスが精霊使いとはいえ半純血の吾輩の許嫁という前例があったので、アンドロメダとトンクスも駆け落ちまではいかなかった。ブラック家系にしては珍しい、新しい風を吹き込むと言った評価に落ち着いている。また、名家の出生率の低さから優秀な新しい血を積極的に取り入れるべきという風潮も一部にはある。どちらかというと、こちらの理由の方が受け入れやすかったようだ。どの名家も血を繋ぐことは最優先事項なのだから。

それはともかく、ブラック家に反発しがちなシリウスが相談相手に選んだのがアンドロメダという訳だ。勝手に一方的なシンパシーを感じたのかもしれない。アンドロメダにしてみれば、シリウスにいっしょくたにされるのは全力拒否ではないだろうか?それはともかく、シリウスがわざわざブラック家を訪ねるとは。

 

「つまりブラック家に復帰したいと?手切れ金を貰ったのに?」

「呆れますよねー。シリウス本人にしたら、アズカバンの件は冤罪で大手を振って表を歩ける。ブラック家に次期当主はいないし、自分は直系だ、と」

「身勝手すぎやしないか?ホグワーツ卒業同時の絶縁だぞ。冤罪の件とは全く関係ないだろうが。大体、ブラック分家が黙っていないだろう」

「ええ、母様も呆れかえって、正論でぶん殴ったそうです。でも、ほら、あの人、基本、人の話を聞かないでしょ?」

 

確かに。人の話を聞くスキルがあったら、あそこまで暴走しない。しかし、学生の頃はあれほどブラック家を毛嫌いしていた癖に今更、家を継ぎたいとは?

 

「どうもシリウスの行動に一貫性がない。あいつの考えじゃない気がするな」

「というと、不死鳥の騎士団ですか?」

「あそこの評価は地に落ちているから、ここでイギリス魔法界の王ブラックが後ろ盾につけば話も変わるだろう。そこまでいかなくても、資金源は得られる」

「流石にオリオン様が撥ねつけますよね?」

「結界に拒まれた時点でオリオン様の意志は示されている。フン、アンドロメダ様にとりなしをしてもらおうとして失敗したというところか」

「本当に碌でもないですね」

 

やれやれとニンファドーラが頭を振った。吾輩は紅茶に口を付ける。

 

「駄犬は無視でよかろう。関わるとこちらが馬鹿を見る。そうではないかね?」

「そうですね」

「それに奴は向こう3年いや2年か。ホグワーツに立ち入り禁止だ。つくづく有難いことにな」

「ホグワーツに?」

「ハリー・ポッターに近づけぬように、だろう」

「ああ、なるほど」

 

心の底からニンファドーラは納得した。

 

「あ奴はジェームズ・ポッターを魂の兄弟とほざいていたそうだから。その感情が横滑りしてハリー・ポッターに執着しているのだ。全くハリー・ポッターにとっては気の毒にな」

「それはそれは同情を禁じ得ませんね」

 

せめてホグワーツに在学中くらいはハリーがシリウスに振り回されないように願うしかない。去年、神秘部の件でハリー達が学校を抜け出したことを思い出し―――願うだけ無駄かもしれない、と吾輩は溜息を零したのだった。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-2

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-2

 

 

 

空き教室に吾輩はルーナとフィルチを呼んだ。これからルーナの精霊学個人授業だ。座学ではなく実技なので同じ風の精霊使いであるフィルチに実演してもらう為、時間をとってもらったのだ。属性の同じ精霊使いが身近にいることはとても有難い話である。

まず、吾輩はフィルチに礼を言う。

 

「すまない、フィルチ。時間を取らせて」

 

ぴょこんとルーナは頭を下げる。

 

「フィルチさん、よろしくお願いいたします」

 

「フン、プリンス教授の頼みとあればワシが断れる筈もない。それで、プリンス教授。ワシは何をしましょうか?」

 

前半、フィルチはルーナにツンとした物言いをした後、後半、吾輩に伺いを立てた。これでもフィルチにしては当たりが柔らかい。相手がルーナだからというよりは同じ風の精霊使いだからだろう。

 

「座学で講義した通り、精霊は精霊使いを自動で守る。精霊にとって精霊使いはあくまで庇護対象だ。そこで、ここで行うのは精霊使いが自ら力を使う技術を習得する。つまり、ミス・ラブグッドの場合、風を行使して物を動かすということだ。フィルチ、頼む」

 

目の前に置かれた片手で持ち上げられる煉瓦(これは練習でネビルが作ったもの)を吾輩は指示した。

 

「では、いきます」

 

スッとフィルチが右手を煉瓦にかかげた。

ひゅっと風が舞い、煉瓦を中心に竜巻が発生して煉瓦が持ち上がる。ゆっくりと煉瓦は宙に浮き、目線まで持ち上げてから再びゆっくりと下降し、地面に置かれた。

 

「ありがとう、フィルチ。ミス・ラブグッド、やってみたまえ」

「はい」

 

ルーナは煉瓦に手をかざす。小さなつむじ風が発生したが、小さすぎたのかきゅるきゅると煉瓦の周囲を舞うばかりだ。煉瓦を持ち上げるには風が弱すぎるのである。

 

「風の力を徐々に上げられるかね?」

 

ルーナは集中するように眉をひそめる。かざした手にも力が入っている。しかし、別に手に力を入れる必要はないのだけれど。見ている限りでは、風の力が上がっている様子はない。吾輩は片手を上げて、一度、ルーナを止めた。ルーナは今のところ徐々に力を上げていくのは難しいらしい。とはいえ、力をただぶつけることに比較すると、こういう精密制御の方が難易度は高いのだ。出来なくても仕方あるまい。そもそも、いきなり何でもこなされては教師として立つ瀬がないではないか。

 

「そうだな。アプローチを変えてみよう。ミス・ラブグッド、手でその煉瓦を持ち上げてみたまえ」

「はい?」

 

意図は分からなかった様子だが、素直にルーナは煉瓦を両手で持つ。片手で持てる大きさと重さではあるが、ルーナは安全を期したのか両手だ。別にどちらでも構わない。

 

「対象の固さ、重さを認識できたか?」

「はい」

 

意図は伝わったようだ。ルーナは煉瓦を地面に置き、再び手をかざす。ギュルギュルと風が舞う。今度はぐらりと煉瓦が揺れた。

それから、何度もルーナは挑戦を続ける。吾輩はルーナも前に立って見守り、フィルチは吾輩の斜め後ろで椅子に座り、膝に風の精霊である白虎を乗せている。白虎は猫のように丸くフィルチの膝で眠っているようだ。眠っているように見えるが、もともと、精霊に睡眠は必要がないので単なるポーズに過ぎないのだろう。精霊は基本的に気まぐれで遊び好きなのだ。人と契約する等、まさに精霊にとっての道楽だと吾輩は思う。

ルーナは一時間ほど試した挙句、煉瓦を一瞬だけ浮かせることに成功した。初回としてはこんなものだろう。根を詰めても上達するわけでもなし、集中力も切れるので今日はここまでにしておこう。

 

「ミス・ラブグッド、今日の授業はここまでとする。この手の精密制御は訓練によって上達するので直に出来なくても問題はない。但し、制御できない力は己の力とは言えない。このことを覚えておきたまえ」

 

ルーナは神妙に頷いた。

精霊使いは契約精霊により大きな力を得る。それ故にこそ、心も身体も力に振り回されない様己を律する必要があるのだ。

 

 

 

 

空き教室に鍵をかけ、再度、吾輩とルーナはフィルチに礼を言って、彼と別れた。これから場所を吾輩の部屋に移して軽い講義と少々聞きたいことがある。

ルーナへの軽い講義が終わった頃、ちょうど他の講義も終わった頃合いだったのか、ドラコとハーマイオニーが遊びに来た。原作と異なって、スリザリンとグリフィンドールの対立もさほどなく吾輩の部屋でお茶を一緒にしている内に、優等生気質の二人は仲良くなったのだ。

 

「セブルスおじ上、これ、母上からです」

 

ドラコはナルシッサから渡されたお菓子の箱を吾輩に渡した。

 

「わざわざありがとう。ナルシッサにも礼を伝えてくれ」

「はい。とても美味しいお菓子なので、お茶会に是非と」

「では、せっかくなので皆で頂こう。さ、座りなさい。メリーアン、茶を頼む」

「はい、セブルス様」

 

メリーアンは恭しく頭を下げ、茶の用意を始めた。ドラコからのお土産を皆で楽しみつつ、吾輩は尋ねてみる。

 

「諸君らは、スラグ・クラブのメンバーであったな。そのスラグ・クラブはどのような感じかね?」

「スラグホーン先生とのお茶会だよ。あの先生、ユニークだよね」とルーナ。

 

ルーナにユニークと言わしめるスラグホーン。今までホグワーツにいなかった教授のタイプというのは分かる。分かるが、何かこうふわっとした感覚のみな意見だ。間違ってはいないが、そういうことが聞きたい訳じゃない。察したドラコが口を開いた。

 

「寮関係なく優秀な生徒を集めてお茶会するのが好きな方です。スラグホーン先生の人脈の広さは自身の基準で人を見るところでしょう。欠点と言えば俗物なところですね」

「俗物かね」

「悪い人じゃありませんよ」

 

ハーマイオニーが急ぎフォローを入れる。吾輩は肩をすくめた。

 

「別に俗物が悪いとは言っておらん。それに欠点のない人間はおるまい?俗物で優秀な生徒を贔屓するくらい、可愛らしいものだ。同じ教師として優秀な生徒に目をかけたくなる気持ちは分かる」

 

グリフィンドール贔屓の校長に比較すれば、寮の垣根がない分だけスラグホーンの方がずっと公平である。理事会がスラグホーンを推すのも納得だ。

スラグ・クラブメンバーの一同は皆、スラグホーンに好意を持っているようだ。こうなるとメンバー外の意見も聞いてみたいものである。近いうちにハリーやロンに聞いてみよう。(ハリーとロンはスラグ・クラブに入れるほど優秀ではないと思っているので)

一同はお茶会を楽しんだ後に解散となった。

 

 

 

ところで、ハリーはスラグ・クラブに入っていたそうだ。よく考えたら英雄ハリーにスラグホーンが注目しない筈もなかったのだ。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-3

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-3

 

 

 

第一報を聞いて吾輩とニンファドーラはスラグホーンの部屋に駆け付けたら、既にマダム・ポンフリーとマクゴナガル教授がいた。とはいえ、被害者がロン・ウィーズリーなので寮監であるマクゴナガル教授が呼ばれるのは当然か。マダム・ポンフリーはソファーに寝かされているロンにせっせと手当をしていた。

ところで、第一報とはロン毒殺未遂事件である。スラグホーンはセイウチひげを震わせて事情を説明した。ハリー、ロン、そしてスラグホーンで景気づけに蜂蜜酒で乾杯をしようとした。(なぜ景気づけが必要だったのか気にはなったけれど事件に直接関係なさそうなので聞くことは控えた)そこで、なぜかロン一人が一気飲みして、結果、ロンのみが被害に遭ってしまったとか。(乾杯なのに何でロンだけが被害者となった理由は判明したが、なぜ一人早く一気飲みしたのかは疑問だ)毒に中てられたロンにハリーが応急処置としてベゾアール石を飲ませた。(素晴らしい対応だ。ところでスラグホーンは何をしていた?)それから、校医マダム・ポンフリーの手当をロンが受けている。←今、ここ。

 

「つまり、この蜂蜜酒に毒が仕込まれていた、と。ニンファドーラ、この証拠物件を魔法省へ提出。毒の種類判別と捜査依頼しろ」

「はい」

 

てきぱきとニンファドーラは蜂蜜酒のボトル、グラスらに保存魔法をかける。

 

「魔法省の捜査ですって!?」

 

マクゴナガル教授が非難めいた声を上げた。

 

「生徒の毒殺未遂事件が起きたのです。我々ホグワーツ教職員に再発防止し、犯人を捕まえる能力があるとでも?何より生徒の安全を守ることこそ教師の勤めでしょう」

 

きっぱりと吾輩は言い切った。

理事会が防衛術の教授に闇祓いを入れたのは、何かホグワーツで事件発生した場合の連絡係とする為だろう。保険のつもりでの防衛術人事がいきなり活用されるとは。また、時期も良かった。絶対に反対しそうな校長がシリウス主体神秘部侵入の件で魔法省や裁判所に呼び出されて、あの一件以降ずっと不在なのだ。魔法省も裁判所も結託して延々と校長を引き留めてホグワーツからの引き離しを図っているのではなかろうか。吾輩はスラグホーンへ心持ち優しく尋ねる。彼はすっかりこの事態に困惑していたからだ。

 

「ところで、その蜂蜜酒の入手方法と保管状況についてお聞きしたいのですが」

「そ、それはダイアゴン横丁の酒屋で買ったものだ。保管はずっとそこの棚に、もともとダンブルドア校長へプレゼントしようとしていた品でーーー」

「アルバスに!?ということは本来のターゲットはアルバス!?」

 

絶句するマクゴナガル教授。

たかだか一生徒であるロン・ウィーズリーを狙ったというより、大戦の英雄でおそらくあっちこっちから恨まれている校長がターゲットだったという方が余程、理解出来る。

 

「悪運強すぎないか、校長」

「セブルスおじ様、悪運って褒め言葉じゃないですから」

「もとより悪口のつもりだ」

「セブルス!!」

 

流石にマクゴナガル教授がたしなめた。

 

「私が思うよりギスギスしているのですね、ホグワーツ教授陣」

「そんなことはありませんよ、ニンファドーラ。セブルスも誤解を招かないようになさい」

 

やんわりとマダム・ポンフリーが吾輩に言葉をかけるので、吾輩も軽く肩をすくめた。

 

「そうだ。ワシの供述には真実薬を飲んでも構わん!!」

 

スラグホーンが校長毒殺犯人にされてはかなわないと、とんでもないことを言い出した。関係者自身が自白剤片手に供述すると言い出すとは。魔法界ってどうなっているのだ!?捨て身すぎやしないか?

 

「いやいや、魔法省も闇祓いもそんなことを強いたりはしません。事情聴取はあくまで関係者としてで、別に容疑者ではないのですから」

 

慌ててニンファドーラがスラグホーンを宥めた。

 

「吾輩は貴公が犯人とは思っていません。逆にこの事件をはっきりさせることで、貴公の疑いを晴らし、何より共に生徒を守りたいだけです」

「セブルス。ありがとう、セブルス」

 

庇ってもらった形のスラグホーンが吾輩の手を取って感謝を述べた。妙に感動しているスラグホーンに苦笑するしかない。

仮にスラグホーンが犯人ならば、いくらでもこの事件を回避できたのだ。まず、ハリー達との景気づけに例の蜂蜜酒を避けることは出来たし、そもそも乾杯したら自分が飲む羽目に陥ってしまう。スラグホーン犯人説は無理筋なのだ。

そうして魔法省から役人がホグワーツに入り調査が始まった。防犯の為、闇祓いも派遣され防衛術授業の助っ人にも入ることになり、例年にない実践的授業となったのでホグワーツ生には好評だった。(闇祓い側からは青田買いの意味合いもあったのだろう)

但し、ようやくホグワーツに戻れた校長にとっては、気に入らない事態だったのだろう、あからさまに不機嫌でそれを隠しもしなかった。しかし、校長が戻ってくる間に魔法省が介入を既成事実にしてしまっており、今更校長権限でどうにもできない事態となっている。

多分、これも見込んで魔法省と裁判所が校長を引き留めていたのかと、遅まきながら吾輩は気付かされたのだった。

 

 

 

蜂蜜酒に毒を入れた者は結局、分からなかった。動機からの調査では、校長に恨みを持つ者、危害を加える者の対象が多すぎて絞り込めない。手段からの調査ではホグワーツのみならず店、酒造所から調査が必要で手の付けようがない。また、ホグワーツ内では、生徒が犯人の可能性があり、毒殺が未遂だったこともあって、魔法省の役人も犯人逮捕というより自身たちがホグワーツにいることで犯行抑止力を狙っている。結果、毒殺未遂事件は迷宮入りとされた訳だ。

―――ということをニンファドーラから教えられた。

 

 

しかし、流石にスラグ・クラブ開催は許されなかった。スラグホーン自身もクラブメンバーも毒殺未遂事件があっては開催する気にも参加する気にもなれなかったのだ。スラグ・クラブは魔法省の役人、闇祓い派遣によってホグワーツが安定してから再度、開催されることになる。まさか、それに吾輩が招かれることになるとは思いもしなかったのだが。

 

 

魔法省でシリウスのやらかしやら、不死鳥の騎士団やらについて問いただされた校長がようやくホグワーツに戻った。しかし、校長が長期不在でも特に問題がないのだ、と吾輩は変な点で感心していたりする。

戻ってきた校長は早速、職員会議を開いた。そして、こっちの予想斜め上の提案をしてきたのだ。校長シンパのマクゴナガル教授も思わず聞き返した位である。

 

「ミスターポッターに個人授業を受けさせる為、ホグワーツから連れ出す、と?」

「そうじゃ、ミネルバ。これはハリーにとって大切なこと。来るべき日に備えるために」

 

個人授業は校外で実施するのか?来るべき日とは何?そもそも校長が一生徒を特別扱いすることに疑問しか感じないのだが。

 

「校長、吾輩が思うにポッターの出席日数はどうなりますかな?足りなければ単位取得が出来ず、留年ということになりますよね、当然」

 

そもそもホグワーツに留年制度があったのだろうか?全く記憶にないのだけれど。

 

「ホグワーツに留年制度はありませんから、この場合、休学という形でしょう」

 

ゴーストのビンズ教授が言った。彼がそう断言するのならば間違いない。ホグワーツには休学と退学しかないということか。なかなかに厳しいものがある。

 

「それはいくら何でも・・・・・・というか、特別に個人授業を行う必要性って何ですか?」

 

マグル学のバーベッジが聞く。それ、確かに気になる。校長は元変身学教授だったか?うろ覚えだけれど、わざわざ校外でやる必要あるのか分からん。

 

「それは言えぬ。だが必要なことじゃ」

 

あまりに説得力のない言葉に、一同に白けた空気が漂う。

スプラウト教授はきっぱり言う。

 

「生徒はホグワーツで学び、学友と競い協力し、友情を育む権利があります。勉強さえ出来れば良いというものではありません」

 

フリットウイック教授が顔をしかめた。

 

「学ぶ楽しさを教えるのは我々の喜びではありませんか?ポッターをそれから弾くのはいかがなものでしょうか?」

「夏季休暇に行うのはどうかな、アルバス?学業を犠牲にするのは問題じゃないか?」とスラグホーン。

 

マクゴナガル教授以外の寮監からの反対に校長はうろうろと視線を泳がせた。援護を頼むようにマクゴナガル教授を見るが、流石の校長シンパも出せる助け船はなさそうだ。

 

「あの子にはなさねばならぬことがある」

「ホグワーツでの学業ですな」

 

絶対に校長の意向とは違うと分かっていつつ吾輩は言い切っておく。

苦虫潰した顔の校長に―――いや、本当にこの人は何がしたいのだろう、と内心で首を傾げたのだった。

 

 

 

 

三日後。

校長はハリーを連れて失踪もとい個人授業を強行しやがった。教職員の同意なんぞ必要ない、と言わんばかりに。流石、スタンドプレー上等のグリフィンドールOBである。結果、マクゴナガル教授は各教授から非難を受け、針の筵状態だ。なぜなら、会議中に反対意見を述べなかったからではなく、校長の強行を止めず、あまつさえ事態発覚を隠そうとしたからだ。

 

「アルバスがどうしてもハリーには必要だと」

 

マクゴナガル教授の言い訳に理解を示す者は教授陣には一人もいなかった。それよりも、吾輩提案でハリーポッター休学回避の為の補講計画を皆で立て、一刻も早くハリーが戻ることを待ち望むことになる。

校長?知ったことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-4

 

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる6-4

 

 

 

ハリーとそして校長がホグワーツに戻った、という知らせを聞いて吾輩はニンファドーラと共に保健室へ向かった。行き先が校長室でなく保健室ということに驚かされたが、その理由は直ぐに分かった。校長の片腕は黒く変色し、見るからに普通ではなかったし、その顔色は血の気が全く引いていた。体調がおかしいのは素人の吾輩ですら察することが出来る。傍に立っているハリーも青い顔で校長を見守っている。

マダム・ポンフリーがせっせと治療を行っているが、どう見ても校医の手に負える患者ではない。校長は何らかの呪いにかけられているのだろう。吾輩の視線に気付いたマダム・ポンフリーが頷いてみせた。

 

「聖マンゴに連絡をお願いしています。直ぐに入院できるように」

 

パタパタと部屋に入ったスラグホーンが汗をかきかき片手に魔法薬を持参していた。

 

「ポピー、薬だ」

「ありがとう、ホラス」

 

即、校長に魔法薬を飲ませたが、変化は見受けられなかった。同じく駆け付けたマクゴナガル教授が報告した。

 

「ポピー、聖マンゴに連絡終わりました」

 

今一度、吾輩は倒れそうなほどに青ざめているハリーを見やった。

 

「マダム・ポンフリー、ミスターポッターはこちらで預かろうか?」

 

ちらりとマダム・ポンフリーはハリーへ視線をやってから「お願いします、セブルス」と言質を貰う。

 

「ミスターポッター、来たまえ」

「えっと、でも」

 

ハリーは校長を見て戸惑った。ニンファドーラはハリーの肩を抱いて優しく促す。強面の吾輩より、年上お姉さんのニンファドーラの方がこの件には向いているだろう。

 

「ニンファドーラ、ミスターポッターを頼む」

「分かりました」

 

きりっと表情を引き締めるニンファドーラは教師なのか闇祓い見習いなのか吾輩には判別がつかなかった。ショックを受けているハリーには申し訳ないが、校長が何の呪いにかけられたか即急に判別し解呪せねば命に関わるだろう。

故にニンファドーラはハリーから例の課外授業で何があったのかを問いたださねばならない。校長が職員会議でハリーへの課外授業の内容についてずっと伏せていたことから―――碌なことしないのでは?と我々教師陣は思っていたのだ。それを校長でなくハリーの口から話させるのは、いささか心が痛む。

 

 

 

それから1時間も経たぬうちに、校長は聖マンゴへ緊急入院した。関係者はひとまず手遅れになる前に校長を聖マンゴへ搬送出来て一安心したのだった。ホグワーツで急死されたら、後味が悪すぎるというものだ。とはいえ、聖マンゴに入院してはいるが容体はかなり悪く、面会謝絶が続いているとか。

 

 

ハリーの供述は吾輩が思うより重要だったらしく、ニンファドーラは即、魔法省の闇祓いトップに話をつけてホグワーツまで来てもらうことになった。ハリーを魔法省へ行かせないだけ、あちらも生徒に気を使ってくれているようだ。なお、吾輩は事情聴取に付き合わなかったので(事情聴取に付き合える立場でもないし)、何があったのか正確なところは知らない。というか、知ってしまうと面倒ごとに巻き込まれるのが分かり切っていたので、あえて聞かないことにしている。―――それでも、校長がハリーと共にヴォルデモート卿の分霊箱集めに行っていたことは聞いた。今更、何をやっているのだか。分霊箱は全て統合してトム・レストレンジになっているのだ、お生憎さま。

 

 

なお、この話を聞いたトムは腹を抱えて笑っていた。吾輩もその時は一緒になって笑っていたが、後でハリーがあんなにショックを受けた上に無駄足踏んでいたことに気付いて申し訳ない気もしてきた。とはいえ、吾輩の口から分霊箱はもう存在しない、とは言えないというジレンマを抱えてしまうのだった。

 

 

吾輩のジレンマはさておき、ハリーポッター補講計画を職員会議で詰めている。課外授業の内容が通常授業にかすりもしないので、丸々補講する必要があるのだ。本当に何のための課外授業だったのか。

 

「あの子はマグル育ちでマグル世界の適正も高いようだからマグル学の補講は必要ないと思います」とマグル学のバーベッジが言った。

「魔法史はレポート提出だけで良しとします」とビンズ教授。

 

とにかく補講を減らしてハリーへの負担を減らそうという皆の意向なのだ。通常授業もあるので当然だ。呪文学と変身学は削れる箇所はない、魔法薬学は時間が取られてしまうので、ハリーと教授陣は土日を費やすことになった。口には出さないけれど、皆、校長に文句の一つも言いたい気持ちではある。病人相手だから何も言えないけれど。モヤモヤする。吾輩でもそうなのだから、他の教授陣は尚更だろうとも。

 

「プリンス先生、防衛術のレポートです」とハリー。

「ああ、確かに」

 

ハリーのレポートはやっつけ仕事なのだよな・・・。そして、得手不得手がはっきりしている。実技は上手いが細かい作業は苦手としている。スラグ・クラブメンバーの癖にあの魔法薬学の成績はどうなのだろう。

ついつい先人として苦言を言いたくなる。

 

「勉学に集中できるのは学生の時だけだ。社会人になってからあの時勉強しておけばとつくづく後悔するものだ。今のうちに勉学に励んでおきたまえ」

 

ハリーは何を言われているのか分からないという風に小首を傾げた。社会人の時の反省なんて学生には分かる筈もない。先人の忠告なんぞ若人には伝わるもんじゃない、全くもって無駄なことをしたものだ。

 

 

 

 

この時の吾輩はもっとハリーにとって親身に相談できる相手になっていなければならなかった。校長がハリーに与えていた影響力と、聖マンゴに搬送されたあの様子にハリーが思い詰めてしまうことを予想してしかるべきだった。

 

 

 

6学年が終わり、夏休みにはいってから―――ハリーは失踪した。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-1

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-1

 

 

 

6年度が終わってすぐ、ハリー・ポッターが失踪というニュースがマグル側顧問弁護士からもたらされ、ポッター失踪の翌日には吾輩とマグル側顧問弁護士ブラウン氏とダーズリー宅の前に佇んでいた。吾輩はひとつ、溜息を零す。

 

「ミスター・ブラウン。今更だが、吾輩の格好はこちらで浮いていないかね?正直、取るものとりあえず来たので、こちらの流行まで気を使えなかったのだよ」

 

ブラウン氏はサッと視線を吾輩の頭から足先まで流して小さく頷いた。

 

「問題ありません。女性に比較して男性の流行はそう変わるものではありませんし、逆に流行に左右されない服装の方が無難かと」

「そうか。ならば行くとするか」

 

とはいえ、吾輩の足は進まない。全くもって気が重いといったらない。ダーズリー家を訪れる折はいつもそうなのだ。しかも原因はいつも他人のせいで。

何で吾輩がいつもいつも貧乏くじを引く羽目に。とはいえ、吾輩が出張らないと名付け親シリウスが出てくるのだろうし、奴が魔法使い嫌いのダーズリー夫婦と上手くやれるビジョンは描けないし、つまり吾輩が動くのが最善手なのだ。

玄関先で立ち止まる吾輩に気を使ったのかブラウン氏が口を開いた。

 

「二人でこの家の玄関に立っていると昔を思い出しますね」

「ああ、あの時はポッター分家の皆さんに頼まれたのだよな」

 

魔法界で例のあの人が消えて英雄ハリー・ポッターが誕生した時―――校長がダーズリー家にハリーを一方的に押し付けた件ーーーの後始末にポッター分家の皆とその代理人の吾輩は奔走したのだ。養育費も碌な説明もなしで甥を養育しろ、とはあんまりである。魔法使いは近づけないというので精霊使いの吾輩、実は家族に魔法使いのいるマグルの弁護士ブラウン氏、同じく親戚に魔法族のナニーを連れて事情説明と養育費の取り決めをしたのだった。

ここに突っ立っていても仕方ないと、しぶしぶ吾輩はドアベルを鳴らしたのだった。

 

 

 

 

夏休みとはいえ平日の為、ダーズリー家にはハリーのおばペチュニアだけであった。酷くショックを受けている様子で、ハリー失踪が堪えているのは明らかである。

 

「久方ぶりだ。ミセス・ダーズリー、ハリーが家出したとか?」

 

と吾輩が尋ねると、ペチュニアは手紙を差し出した。ハリーの手であるのは、その筆跡で分かる。

 

『ダーズリー家の皆さんへ』という文章から始まる手紙は今まで育ててくれた礼と、しなければならないことがあるので出かける、ということがシンプルに綴られていた。とはいえ、はっきりしたことは何も書かれていない。十分にその点に気を使っていた。

 

「何だか、もう会えないと決めつけているようで・・・」

 

ペチュニアはこの文面に不安を感じて、顧問弁護士ブラウン氏へ連絡したそうだ。流石、勘が良い。ペチュニアは勘と察しが良いからこそ、空気読めないタイプの多いグリフィンドールと相性が悪いのだよな。

ハリーの手紙を一読して、うっすらともう戻ってこれないことを覚悟しているのは伝わる。何でこんな覚悟を決めてしまったのか・・・吾輩は思わず顔をしかめてしまう。校長の課外授業のせいだと思うと、未だ聖マンゴで治療中の校長に恨みの一つもぶつけたくなった。

 

「ミセス・ダーズリー。即急な連絡をありがとう。ミスター・ポッターがなぜこのような覚悟というか決心をしたのか吾輩には分からぬが―――魔法界は決して未成年の学生にそのような使命を強いたりはしない。魔法界のミスター・ポッターの知人や友人に連絡をして、彼を保護しよう」

 

ほっとペチュニアは安堵の溜息を零した。ペチュニアには魔法界への伝手が少なく、ただただ心配するしかなかったのだ。

 

「ええ、よろしくお願いいたします。ミスター・プリンス」

「心配しないで待っていて欲しい。何かわかり次第に逐次報告を入れよう。ブラウン氏、お願いできるかね?」

「承りました。では、ミセス・ダーズリー、私から連絡を入れます」

 

ダーズリー宅を辞した吾輩たちは一度、ブラウン氏の弁護士事務所へ場所を移動して相談することになった。実のところ、どのように動くべきであるか、である。ブラウン氏は元々が吾輩の顧問弁護士ではなく、ポッター家の弁護士でありポッター家の利益方向に動くことになるのは当然である。事務所の応接室のソファーに腰かけた途端にブラウン氏は口を開いた。

 

「ハリーの行き先に検討はつきますか?」

「全く分からん。まず友人関係を押さえよう。ミスター・ポッター単独で動くとは思えんな。マグル育ちで魔法界に疎いところがあると思われる。まず、ブレインになり得るハーマイオニー・グレンジャー嬢。彼女はマグル生まれのマグル育ち。ある意味でハリー同様に、いやそれ以上に魔法界に伝手がない」

 

マグル育ちの交流関係はホグワーツしかない。ある意味でホグワーツ生は隔離されているとも言える。

 

「ミス・グレンジャーは夏休みで実家にいるだろう。ホグワーツ教師として吾輩が直接、彼女にあって事情を話す。場合によっては、ミス・グレンジャーにミスター・ポッターを説得してもらおう。吾輩よりも友人の言葉の方が心に響くだろう。もう一人、ロン・ウィーズリーだが、そちらはマクゴナガル教授にお願いした。あそこは、な」

 

ブラウン氏はうんざり顔で頷いた。ロン・ウィーズリーの両親アーサーとモリーが熱心なダンブルドア賛同者なのは有名である。ブラウン氏は吾輩から、ハリー失踪の原因はダンブルドアの意向ではという疑いを既に話していたので、アーサー・モリー夫婦と息子ロンがどのような暴走をするのか、グリフィンドール気質を知るブラウン氏は心配していた。

ところで、吾輩はダーズリー家訪問前にホグワーツ教授陣へハリー失踪と捜索依頼を出している。マクゴナガル教授の慌てっぷりからとうにウィーズリー宅へ向かっていることだろう。下手に精霊使いの吾輩が行くよりは、同じダンブルドアシンパのマクゴナガル教授の方がアーサー・モリー夫婦も大人しく話を聞いてくれるだろう。気がかりなのは、マクゴナガル教授が言いくるめられないか、であるが。

 

「懸念事項はシリウス・グレイが名付け親として口出ししてくることです。義務を果たさず権利ばかり主張する者が名付け親とはなんと嘆かわしい」

「未だに養育費をダーズリー家に支払っていないのか?」

「ええ、いいところの坊ちゃんはマグルが魔法使いを育てる苦労なんぞ想像も出来んのでしょう」

 

家族に魔法使いの産まれた、いわばペチュニアと同じ立場のブラウン氏はどうしてもペチュニア側の心情の方に理解が深いのである。結果、シリウスには点が辛い。名門出身の吾輩でもフォローの言葉が見つからない。ポッター家の意向もあるだろうが、ハリーとシリウスの接触を嫌っているのは確かだ。特にこの状況でハリーがシリウスを頼ったら相当に面倒なことになるだろう。シリウスならば率先してハリーの暴走に助力しそうだ。そういう訳で、一刻も早くハリーを保護せねばならない。吾輩はブラウン氏と手配を詰めてから別れた。

 

吾輩はこれからハーマイオニーの自宅へ向かうことにした。吾輩はハーマイオニー宅へ行ったが、これは空振りであった。ハーマイオニーはハリーから手紙すら貰っておらず、吾輩のハリー失踪の知らせに相当、驚いていた。その表情に嘘も隠し事もないようだ。

その時、吾輩のハウスエルフ・メリーアンが現れた。

 

「セブルス様、お知らせいたします。至急のことであります」

 

吾輩とハーマイオニーは一瞬、顔を見合わせた。

 

「何があったのかね?」

「ハリー・ポッターが見つかりました。ロン・ウィーズリー宅にいます」

「良かった」

 

思わずという風にハーマイオニーは安堵の声を上げた。

安堵したのは吾輩もである。大事になる前にハリーを保護できたようだ。大事にならない、よな?ダンブルドアシンパのウィーズリー宅である。ハリーの使命?を支えかねないところが不安だ。

 

「プリンス先生、私をかくれ穴(ロンの家)へ連れて行って下さい」

 

ハーマイオニーの申し出に吾輩は渋面を返した。

ダンブルドアシンパの本拠地にグリフィンドール気質が強いハリーのブレインを突入とか冗談ではない。そもそもハーマイオニーは勘違いをしている。吾輩は現場に行くつもりはない。拒否の意が伝わったのだろう、非難を載せた声をハーマイオニーは上げる。

 

「なぜ!?」

「既に寮監マクゴナガル教授が行っているからだ。それに吾輩は精霊使いなので姿現しは使えぬ」

「・・・・・・そうでした。すみません」

 

 

 

 

 

その後のことは―――吾輩は報告を受けるのみで問題は解決したそうだ。

そもそも、ハリーが失踪したのはダンブルドアの意志を継いであの人の分霊箱を回収する為だったらしい。しかし、この分霊箱だが、校長が呪いによって聖マンゴへ緊急搬送された際のハリーの説明により、既に闇祓いが特別チームを組んで回収していたそうだ。しかもハリー失踪前に。その旨をニンファドーラから伝えられて、ついでに分霊箱は無効化されていることも合わせて伝えられて―――ハリーが失踪してまで動く必要はなくなったのである。

そして、ブラウン氏がハリーにいかにペチュニアが心配しているのか、今年が最後の夏休みであるとブラウン氏に説得され、ハリーは大人しくダーズリー家に戻ったそうだ。原作と違って養育費は支払われているので虐待までは受けていないハリーは、それでも叔母からの愛情を素直に表現はされていなかったらしい。今回の件で、少しわだかまりが解けたとか、解けなかったとか。

ブラウン氏がここまでペチュニア寄りなのは、ハリーとシリウスの接触を減らす為だけかもしれないが―――部外者の吾輩は特に何もする気はない。シリウスには悪いが、未成年に対してシリウスが良い影響を与えるとは逆立ちしても思えぬからだ。一教師としての意見に過ぎないが。

 

 

 

ともかく、新学期に皆が元気な顔を見せてくれることを願っておこう。

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-2

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-2

 

 

 

深い深い眠りに落ちている為か、ひどく遠方から吾輩を呼ぶ声が聞こえる。それが徐々に大きくなっている。起きたくないなー、無視したいな―と思いつつ、しぶしぶ吾輩はのそりと身体を起こした。自室のベットで眠っていた吾輩を叩き起こしたのは。

 

「セブルス様」

 

いかにもホッとした様子でハウスエルフのメリーアンがベッドの傍にいた。先ほどから声をかけ続けていたのはメリーアンだったのだろう。半ば習慣で目覚まし時計を見る。その時刻は夜中の一時。何でこんな時間に起こす?わざわざ聞くのも馬鹿馬鹿しくて視線だけで吾輩はメリーアンに問う。

恭しくメリーアンは頭を下げた。

 

「セブルス様にホグワーツ生のお客様です。どうしても今すぐにお会いしたいとのことです」

 

こんな時刻に訪ねてくる非常識人に着替えをする程の気遣いは持ち合わせず、吾輩はガウンを引っ掛ける。髪の方はメリーアンが魔法で手早くとかして漆黒の組紐で一つに結んだ。

寝起きのせいかいまいち頭が回らないと思いつつ、続きの間である客間に入ったらパッとソファーに座っていた生徒が立ち上がった。出合い頭に皮肉の一つでも言ってやろうと思っていたが、吾輩は口を閉ざした。

直立不動で立つその生徒―――ハリー・ポッターがは半泣きで吾輩を見上げる。2,3度口を開き、ようようにハリーは言葉を紡いだ。

 

「スネイプ先生・・・死んでいませんよね?生きていますよね?」

 

これは面倒な事態になったのかもしれない。

 

 

 

 

 

再度、ハリーをソファーに座らせ、メリーアンに用意させたホットミルクを勧めておく。ひとまず、身体が温まるからと説得してハリーにホットミルクを飲ませて―――時間を稼いでいるところだ。なぜなら、今、メリーアンを使い走らせて急ぎ校医マダム・ポンフリーを呼んでいるからだ。吾輩はこっそりとハリーを観察してみた。

ハリーは憔悴しきっている。

吾輩が死んだと思い込んだから?それだけではないだろう。つい先日、聖マンゴに入院していた校長が亡くなったのも多少なりと影響しているかもしれない。但し、校長死亡と吾輩の不幸がなぜ連動するのかは不明だが。連動、連動か。校長死亡が原作に沿っているならば、吾輩が殺されるのも原作に従っている。だから、ハリーは今のホグワーツで知る者がいないと思われる吾輩の旧姓・スネイプで吾輩を呼んだというのか?

部屋をノックする音に、吾輩は物思いから意識を現実に戻した。

 

「どうぞ」

 

マダム・ポンフリーが入室し、ハリーを見て目を丸くした。ハリーがどういう経緯でここに居るのかはメリーアンからマダム・ポンフリーに説明済ではあったのだけれど、ハリーの打ちひしがれた様子までは伝えきれなかったらしい。

吾輩は手でマダム・ポンフリーにソファーを勧めた。マダム・ポンフリーはハリーの隣に座った。

さて、どうしたものか。吾輩、子供の心により添ったり、心を癒したり労わったりとか出来る性質ではないのだ。マダム・ポンフリーに『頼む』という視線を向けると、マダム・ポンフリーは心強く頷いた。適材適所というものだ。

 

「ミスター・ポッター、どうしましたか?」

 

マダム・ポンフリーが優しく尋ねた。少しばかり、医者が患者に聞いている風でもあった。吾輩は半ば部外者といった感じでメリーアンに用意させたホットレモネードを飲む。アルコールの入ったものが呑みたいな、と頭の隅で思った。

ちらちらとハリーは吾輩を見ている。その視線は気にしないでおく。この場はマダム・ポンフリーに任せるつもりだから。

 

「実は、その。夢を見まして」

「夢ですか?」

 

マダム・ポンフリーが穏やかに促す。決して、ハリーの発言を否定したりはしなかった。しかし、ハリー自身は自信がないらしい。

 

「つまらないことを言いだしてすみません。僕、僕は」

 

マダム・ポンフリーはスッと杖を動かした。何か心を穏やかにさせる魔法でも使ったのだろう。

ハリーは深呼吸し、少し落ち着いたようだ。

 

「ミスター・ポッター、心配せずに話して下さい。私たちがあなたを助けてあげられると思います」

 

ハリーは不安げに吾輩を見る。仕方ないので吾輩は、ハリーの背を押すことにした。

 

「吾輩の安否を確かめずにいられなかったのであろう?不吉な夢であるのは想像がつく。ミスター・ポッターの情報で吾輩が警告を得られれば、夢を否定することが出来るのではないかね?」

 

夢を否定しなかったことがハリーを納得させたのだろう、ぽつりぽつりとハリーは口を開いた。その内容は、吾輩が大蛇に口を噛まれて殺されるというものであった。これだけの内容を説明するのにハリーはたっぷり30分も費やしたが、結局のところ、それ以上の情報は得られなかった。

その後、マダム・ポンフリーに付き添われてハリーは保健室へ行き、ようやく吾輩は真夜中の訪問者を追い返せた。

安堵の溜息を吐き、吾輩は乱雑にガウンを脱いだ。ハウスエルフのメリーアンが丁寧にガウンを手に取り、綺麗に畳んだ。そして不安そうにメリーアンは吾輩を見上げる。

 

「セブルス様」

「何かね?」

「魔法使いの夢は全く根拠がないわけではございません」

 

メリーアンの心配は分からないでもない。悪夢を見たからといって、わざわざ夜中に相手を叩き起こし、生死を確認する等―――普通ではない。つまり、その夢がただの夢ではないと、ハリー本人が確信を持っているということだ。

吾輩も原作知識から、ハリーが見た夢がただの夢とは考えていない。なぜなら、その夢は原作セブルスの死にざまそのものだからだ。とはいえ。

 

「夢の内容はメリーアンも聞いていただろう。寒冷地のイギリスに大蛇は生息できん」

 

原作では、あの人の分霊箱のひとつナギニに殺されたのだったか。ただ、原作が壊れまくったこの世界において、ナギニが存在しているのか、分霊箱であるのかも分からない。ちなみにトムが統合した分霊箱にナギニは含まれていないそうだ。(分霊箱の回収は吾輩の管轄外なのでよく知らない。分霊箱は回収するより、元の場所に戻す方が大変だったとか)

大蛇がナギニでないとしたら、あとはバジリスクくらいしか思い至らない。しかし、バジリスクは秘密の部屋事件未遂で知り合いになったが、大変温厚な性格なので、吾輩がバジリスクに殺されるイメージは湧かなかった。やはり、吾輩を殺す大蛇は存在しないように思う。

吾輩はメリーアンを安心させるように言った。

 

「吾輩を殺せる存在など、そうそうに居ない。安心したまえ」

 

 

 

あれから三日ほど、ハリーはマダム・ポンフリーの下で入院していたとか。不眠を訴えていたそうだ。原作セブルスの最後を夢で見たのならば、ハリーが不眠に陥るのも当然のように思う。どちらにせよ、ハリーのことはマダム・ポンフリーに任せるしかない。

世間では、校長の葬儀が国葬で行われるか、校葬で行われるかで揉めている。大戦の英雄なので国葬にすべきではという意見がある。ホグワーツ理事会もその意見を支持していたが、実はアンチダンブルドア派閥が校葬にしたくなくて国葬にし、魔法省へ押しつけたがっているのだ。魔法省のアンチダンブルドア派閥は国葬にしたくないばっかりに、国葬より影響力の低い校葬とし、理事会に押し付けたがっている。

校長は大戦の英雄ではあるが、ホグワーツで何の実績を上げたのか?と聞かれると、これが目立った実績がない。それどころか、近年はホグワーツにて問題が多発し、その解決に校長が尽力したとはとても言えない状況である。

そういう訳で日刊預言者新聞は、そして魔法界は喧喧囂囂と校長の葬儀をどうするかで揉めている。今のところ決着がつきそうにない。もちろん、ホグワーツ内でも教職員内でも互いに意見を出し合っていた。吾輩は校長に対する思い入れがないので、国葬でも校葬でもどちらでも構わない。ただ、葬式にすら政治色が入るとは有名人も大変なものだ、と思うだけである。

ちなみにグリフィンドール中心の校長シンパも校葬と国葬に分かれている。英雄なので箔のつく国葬を推す人間も多いようだ。そういう訳で意見はまとまりそうもないのだった。

 

 

 

 

そして、結局。

校長は校葬となった。これも原作通りなのである。

 

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-3

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-3

 

 

 

月日が流れるのは早いものだな、なんて話を闇祓いのフランク・ロングボトムとしている。フランクがホグワーツに遊びに来たので吾輩は自室へ招いてお茶をご馳走しつつ語り合っている。遊びに来たとは言ったが、フランク・ロングボトムは多忙を極める闇祓いの上にロングボトム家当主なので、本当に遊びに来たわけではない。今回は、闇祓いとして卒業予定の生徒をスカウトに来たのだ。優秀な人材は常に取り合いで、特に闇祓いは戦闘センスを問われえるのでスカウトにも力が入るというものだ。もっとも、闇祓いは人気職業のひとつなので、優秀な生徒を選ぶ側ではあるが。

 

「セブルスから見て、闇祓いに向いている生徒は?」

「実技担当のニンファドーラに聞いてくれ」

 

精霊使いの吾輩に聞かれても、正直、分からない。それでも、優秀な生徒といえば。

 

「ミス・グレンジャーは優秀な生徒だが、逆に闇祓いにはもったいない。但し、視野が狭く思い込みが激しそうだから、上司が上手く指導してやらないと」

「エリート候補として育成しろと?」

「そこまでは言わんが、上司には気を遣ってくれ。ドラコはミス・グレンジャーとは別ベクトルの優秀さだ。秀才タイプだが薬学も得手で研究者向き。ドラコの場合、マルフォイ家を継ぐだろうが、独自で研究とかやりそうだ」

 

ルシウスは政治家寄りで魔法省の役職持ちかつホグワーツの理事でもあったが、ドラコは研究家寄りだから、そちら方面には手を出さない気がするのだよな。

 

「ハリー・ポッターはポッター家を継ぐのだよな」

 

フランク・ロングボトムが確定のように言うので吾輩は頷いた。そして、ロングボトム家当主、有力名門当主がそう思っていること―――つまり、ポッター家がハリーの将来について周知の事実として広めているということだ。ハリーがポッター家を継ぐことをドラコがマルフォイ家を継ぐのと同じように既定路線である、と。

 

つい先日、ポッター家の方々、顧問弁護士ブラウン氏がハリーの面談の為にわざわざホグワーツへ訪ねてきた。ハリーが最終学年で将来や就職について考える時期なので今までの沈黙をポッター分家の方々は破った訳だ。吾輩はポッター家の意向は察していたので(大概の名門は予想していたと思う)遅かれ早かれ―――遅かったくらいと思った。

 

 

彼らの面談に付き添うべきはグリフィンドール寮監マクゴナガル教授だと吾輩は考えたのだが、なぜか吾輩が立ち会う羽目に陥った。部外者なので遠慮しようとしたのだ。ところが、ハリーが吾輩のローブを掴んで離さない。仮にハリーが言い募って吾輩に同席を願ったとしても、理路整然と論破することができただろう。だが、ハリーはそんな説得などしなかった。ハリーはただ黙って吾輩のローブを掴んだままで、致し方なくこっちが根負けしてしまったのだ。とはいえ、吾輩は部外者。口を出す権利も義務もないので、ただただ立ち会っただけである。

ポッター家の方々と顧問弁護士ブラウン氏は吾輩のことをよく知っているので碌に説明もなく吾輩が同席しても気にしないようだ。逆にハリーが吾輩のローブをしっかと握っているのを見て(面談中も人のローブを掴んで離さないのだ。別に逃げないのに)微笑まし気にしているのは、正直、イラっとした。結局、面談中は吾輩やることないので、ひたすら隣でお茶を飲んでいた。お茶でお腹いっぱいになるかと思った。

 

ふと、フランク・ロングボトムと話している最中にハリーの面談をまざまざと思い出してしまった。印象深かったのだと思う。名門子息子女でもホグワーツでわざわざ面談をする人はいない。ハリーの場合はやはり特殊事例なのだろう。

 

「ハリーに対してはポッター家分家の方々がサポートに入るので心配無用だろう」

 

面談中、吾輩は口を出しはしなかったが話はきちんと聞いていたのだ。

うんうん、とフランクは頷いた。

 

 

次にネビルの話。ネビルは卒業後、吾輩と入れ違いで精霊使いの教授になる。なぜなら、吾輩の子供(兄と弟)が来年、ホグワーツに入学するのだ。実父と子供でホグワーツ教授と生徒というのは拙いので、どうしたって誰か精霊使いの教授を新規採用せねばならない。しかも、吾輩の子の兄の方が精霊使い、実力ある教授は必須だ。

この件は、幼い頃から吾輩直々に仕込んだネビルに、と前々から打診していたし、ネビルはもちろんフランクにも話を通している。

 

「ネビルは穏やかで根気強い。精霊の力も強く制御も得手だ。教師としての資質も高い」

「高評価だな」

「気が長い性質だから生徒の教育に向いている」

「セブルスは沸点低いから」

 

吾輩、そんなに短気か?気が長い方ではないだろうけれど。フランク・ロングボトムに直接聞くのは止めておく。肯定されそうだし、それで腹が立ったら短気なのを認めることになる。

 

「ただ一つ、問題がある」

「問題?」とフランク・ロングボトム。

「スプラウト教授がネビルを薬草学教授にしたいとか言い出した。吾輩が先に目を付けていたのにずるくないか?」

「うちの子、そんなに教師向きなのか。驚きだ」

 

ホグワーツ教授はエリート中のエリートだから、二人の教授から後任にと願われることなど確かに珍しいことだろう。しかし、薬草学は知らんが精霊学を教えられる人間は希少なのだ。ここは、こちらに譲ってもらわねばと吾輩は思っている。

 

「そういえば、もう一人精霊使いの子がいただろう?」

「風の精霊使いルーナ・ラブグッドのことか?ルーナは精霊使いになって2年から3年。力自体は強いが制御が甘い。もっとも、この短期間での成長具合は著しいものがある」

「性格は?教師としての才能は?」

 

吾輩は考えを巡らす。今までルーナを教師として考えたことはなかった。

それは、ルーナが精霊使いになってあまりにも期間が短かったからだ。吾輩は軽く目を閉じる。

 

「周囲に流されず、自分の価値観に従う性質だ。理論を無視するわけではないが、感覚を重視する―――言いたいことが伝わっているか?」

 

吾輩はフランクを見やった。

フランク・ロングボトムが黙って促す。

 

「成績は良い。そうだな、頭が良いと言うべきか。レイブンクロー生だが、がり勉タイプではない。物事の本質を掴むのが得意。とはいえ、天才、秀才、優等生というカテゴリーには入れ辛い。難しいな」

「就職相談は?」とフランク・ロングボトム。

「魔法省勤務、どこかの店で勤めている姿を想像できない。事務職は向いていない―――能力的不可なのではなく、吾輩がイメージ出来ないだけだ。うーん、父親の後を継ぐ姿もピンと来ない。ホグワーツ卒業したら修行の旅に出そうな感じ?」

「今時珍しく古風なタイプの魔女みたいだな。精霊の制御が甘いならば精霊学教授見習いとしてホグワーツに残したらどうだ?」

「そう・・・だな。ネビルもいるし。同じ風精霊のフィルチもいる。良い考えだ、フランク。ミス・ラブグッドにはそのように話してみよう。最悪、ネビルをスプラウト教授にとられても、ミス・ラブグッドが精霊学教授になってくれる」

「ネビルをスプラウト教授に取られそうなのか・・・」

 

呆れたようにフランクが呟く。ネビルが優秀過ぎるのが悪いのだ。仕方ないだろうが。それに来年入学予定の精霊使いは一人だけなので余計に。

 

「来年だが、トム・レストレンジの進路はやはりレストレンジ家を継ぐのか?」

「ホグワーツを卒業したらマグルの大学に進学予定だ。本人の希望でな。オックスフォードならば吾輩の母校でもあるしアドバイスも出来る」

 

今のトムが教師希望かどうか。どちらにせよマグルの大学を卒業してからだろう。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-4

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-4

 

 

 

長いようで短い7年であった、と吾輩は感慨深げにホグワーツ城を見上げる。原作ではデスイーター達からの襲撃を受けてボロボロにされるらしいのだが、無論、ホグワーツ城は何の変りもなく壮麗な佇まいであった。

敷地内をそぞろ歩いていた吾輩は眩しいものを見るように城を見上げ妙に感傷に浸っている。もうじき、吾輩はホグワーツ職員を辞する。そうなれば、こうしてホグワーツをうろつくことは出来なくなる。なぜなら、ホグワーツはイギリス魔法界の唯一未成年者学校、そのセキュリティは強固な為、基本的に部外者はホグワーツ敷地内に入れないからである。残念ではあるが、仕方ないとも思う。

だから、今、こうして学校内を歩いて回っているのだ。

賑やかなグラウンドの方へ吾輩は足を進める。最後のクィディッチ試合の為、練習しているようだ。練習しているのはグリフィンドールでハリーが箒を駆っている。吾輩自身、クィディッチには欠片も興味はないが、皆々、楽しそうで何よりだ。

ぼんやりと眺めてから今度は薬草園の方へ足を向けた。

ここはスプラウト教授の管理下である。時間さえあれば、スプラウト教授はここの手入れをしている為、とても整備されている。クィディッチに比較すれば、此方の方が興味深い。スプラウト教授とネビルが薬草の手入れをしている。入学したての幼いネビルが今はフランクに似てがたい良く成長している。小柄なスプラウト教授と比較すると尚更のこと。フッと吾輩と二人の目が合った。ネビルがにこっと笑って小さく手を振り、スプラウト教授もこちらに笑いかける。反応が似ていて仲が良い。吾輩は軽く片手を上げて応じた。二人は再び薬草の手入れに戻った。息の合っている二人のやり取りを見ていると、ネビルはスプラウト教授に取られてしまう、と思い知った。いや、正しくは精霊学より薬草学の方がネビルには向いていると思い知らされた。

やはりルーナを保険として教授枠に入れたのは正解だった、と吾輩は薬草園をそぞろ歩く。

 

「センセ」

 

かけられた声に驚いて、吾輩は振り返った。とはいえ、内心の驚きを表に出すことなく、外見だけは余裕を見せているのは貴族のプライドか、原作セブルスのイメージを壊すまいとする意地か。

驚いたのは声をかけたのが、今、考えていたルーナだったからだ。

 

「どうかしたのかね、ミス・ラブグッド?」

「センセはお散歩ですか?」

 

質問に答えろよ、とは思ったが、つまりルーナの方に特に用事はないということだろう。

 

「直に退職するのでな、今のうちにホグワーツを見納めしておこうとそぞろ歩いていた」

「ご一緒しても良いですか、センセ?」

「好きにしたまえ」

 

ホグワーツに在学する精霊使いはわずか3名、そのうち2名は幼い頃から知っていて精霊使いとしての手ほどきをしてきた。色々と事情があってネビルは物心つく前から。トムも訳有りでホグワーツ入学前から家族ぐるみで親しくしている。親しくというよりは秘密を共有している、に近いか。しかし、ルーナは違う。精霊使いとしては契約が遅くて、後発精霊使いとでも分類すべきだろうか。そのせいで、ルーナには教える時間が少なかったのは否定できない。とはいえ、ルーナに教えるべきことは全て教えてはいる。ルーナ本人が納得しているかはともかく。

薬草園から図書館へ向かう小道を歩いていく。ルーナは吾輩の後ろを軽やかについてくる。一緒に散歩というより、ルーナが勝手に吾輩の後ろをついて歩いている。そして、分かっていながら吾輩が好きにさせているように余所目には見えるかもしれない。

吾輩はルーナを引き連れたまま、図書館へ入った。学年末テストは終わっているので、図書館は少し前に比較すると閑散としていた。司書が吾輩とルーナを不思議そうに眺め、だが、声はかけられなかった。単なる散策なので禁書棚以外の棚をのんびりと見て回る。ホグワーツの図書館は流石の蔵書量だと、今更ながらに思う。何人かの生徒が閲覧室で本を読んでいる。皆、本の世界に没頭してこちらに全く関心を払わないのが、お互い様で心地よい。

ハーマイオニーが分厚い本をめくっているのを認めて、勉強家だなと妙に感心してしまう。卒業が近いので急ぎ読みためているのかもしれない。

さて、次はホグワーツ城内へ行こう。ルーナは飽きもせず吾輩の後ろをついてくる。人気のない城内でようやくルーナは口を開いた。今まで黙っていたのは他人に聞かれたくなかったらしい。

 

「センセは夢をどう思いますか?」

「夢?」

 

不意にこの前のハリーの一件を思い出した。ハリーは原作セブルスの死にざまを夢に見たと、それがあの一件の原因だった。魔法使いの見る夢は一般人のそれとは異なる。まして、ルーナは―――。

 

「場所を変える」

 

ルーナの返事を待たず、吾輩は心がせいて自室へと急ぎ戻る。ルーナが駆け足で吾輩について来るのを気遣う余裕はなかった。

自室の応接室で吾輩はソファーに座り、対面の席をルーナに片手で勧める。

 

「メリーアン、人払いを」

 

一瞬で現れたメリーアンが恭しく頭を下げ、バチンと派手な音を立てて姿を消した。加えて、吾輩は慎重を重ねて「水の精霊、人払いを」と命じた。

命じはしたものの、水の精霊が人払いをどのようにするのか吾輩はさっぱり分からない。精霊の力は基本的に物理だ。立ち聞きする人間を水で殴るか氷で貫くか、だ。いや、考えるのは止めよう。

 

「さて、ミス・ラブグッド、話したまえ。貴女の夢を」

「はい、センセ。私の見た夢を―――」

 

そして、ルーナが話したのは吾輩の知る原作知識。その原作知識はハリー同様に先を見るわけではなさそうだ。つまり、ルーナが5年生の時に原作5年生の夢を見るという形で現実と原作が乖離している為、パラレルワールドの世界を夢に見ている風だとか。

予知夢ではないが、あったかもしれない可能性の世界を夢で垣間見ている訳だ。吾輩にはそれが原作知識と理解出来ているが、分からなければ混乱もするだろう。そうとなれば、もしかして。

 

「ミス・ラブグッド、貴女が精霊使いになったのはその夢が原因か?」

「影響を受けなかったとは言いません」

 

精霊使いの力は純粋な暴力、身を守るのにこれ以上の力はない。原作知識を得ていたら、尚更である。

いや、ちょっと待て。夢を見るのがハリーやルーナだけとは限らないのでは?

ちょいちょい原作の修正力とか思っていた事柄や人の動きが―――夢で原作知識を得たうえでの行動となれば―――それなりに納得するトコロもあるのでは?

 

「センセ?」

 

気遣わし気なルーナの声に、気にするなと吾輩は片手を振った。今、気づいたところで仕方がないし、原作も終わっていると思う。続編はハリーの子供世代らしいし、原作セブルスは退場しているので問題はない筈だ。今更だが、不死鳥の騎士団があの時期に活動し始めたのは―――ルーナやハリーのように夢を見た誰かが?それが基本スペックの高いシリウスだったら、それとも校長?―――怖すぎる。

いや、それでも原作終わっているからセーフ。セーフに違いない。

 

「少々、嫌な思いつきが頭をよぎっただけだ、大事ない。さて、ミス・ラブグッドの夢だが現実とはかなり乖離しているように思う。予知夢とも言えまい」

 

吾輩はルーナを丸め込み宥めようとした―――のだが、じっとルーナは吾輩を見据える。その瞳は此方の心の奥底まで見つめているように感じた。

咄嗟に吾輩の方が目を逸らしてしまう。バツが悪い。

 

「センセ、それは本当ですか?」

 

吾輩は溜息を吐いて、まっすぐにルーナを見つめる。これは本当のことを言わねばルーナは引き下がりはしないだろう、それ位にルーナの性格を知っていた。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-5

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-5

 

 

 

ルーナを前に、吾輩はどこまで話すかを頭の中で素早く考える。嘘を吐く気はなかった。そんなことをする必要はない。それに何となしルーナには気付かれそうだ。但し、全てを明かす必要もない。

そして、ルーナに真実を話そうと決意したのは―――吾輩の中で原作全てが終わってしまったということが大きい。

 

「さて、どこから話したものか」

 

そんな風に吾輩は話し始めた。前世の記憶から、この世界を児童文学もとい本という形として知識があるということを。もっとも、吾輩が思うに児童文学という括りに入れるにはこの世界、ばんばん人は死ぬし、理不尽なことも多い。故に『本』という表現に留めておいた。

 

「結局、センセは夢を見たわけではないのですね?」

 

知識が本であるとしても、吾輩が夢を見ていないことを確認するルーナ。

 

「吾輩は、な。夢を見たのはミス・ラブグッドだけではない。吾輩が知る限りでは、ハリー・ポッターも見ている」

 

ルーナが自分だけ妙な夢を見るという不安を除こうと、あえてハリーの件を伝えた。ルーナならば口止めせずとも他へ吹聴するとは思えない。そもそも、おしゃべりする相手、つまり友達いるのかな、この子。いや、ネビルやトムは友達枠だろう、きっと。そういうのを教師が心配して手を出すのは、ルーナ自身のプライドを傷つけやしないかとも思う。

 

「ハリーが?」

「どのくらいの頻度でミスター・ポッターが夢を見るのか判別しかねるが、吾輩が死んでいないか確認しに来た。しかも真夜中に」

 

ルーナはさっと顔をこわばらせる。

先ほどの説明で吾輩は5年度アンブリッジが闇に対する防衛術の教授だった年までしか本を読んでいないことを伝えている。つまり、ルーナは吾輩が自身の死を知らないと思っているのだ。

ルーナが震える声音で呟く。

 

「センセ・・・・・・」

 

気にするな、という風に吾輩は片手を振った。

 

「本は読んでいなくとも、吾輩や校長が死んだことは知っている。かなり売れた本なのでな。知人がネタバレしてくれたというか気付いたら誰からという訳でもなくバラされていた。逆にこの状況ならばネタバレされて良かったのだろう」

 

ダブルスパイで殺されるという情報があったからこそ、吾輩はそれらの死亡フラグを回避出来たのだ。情報というのは良くも悪くも力にはなる。

吾輩が自身の死を知っていたことは、逆にルーナから肩の荷を下ろすことになったようだ。これはルーナの立場になってみれば当然だろう。目前の知人の死を知るというのは、何とバツの悪いことであるか。

 

「私の知っているセンセは魔法薬学を教えて、防衛術の先生になって、それから校長になりました」

「校長!?いやいや若すぎるだろう。どういう人事なんだ!?」

「あーまー、そのイロイロありまして」

「色々?」

「イロイロです」

 

原作セブルスはダブルスパイの上に校長もやっていたのか。凄い出世じゃないか。でも、ルーナの何とも言えない表情とホグワーツでは相当な若輩者ということから考えると、かなり無茶な人事のように思う。今の吾輩はプリンス家当主かつブラック家後見があるが、原作セブルスはそういうバックボーンはない筈だから余計に分からん。

 

「それで、ハリーがダブルスパイのセンセの記憶公開して名誉回復させて、ホグワーツに校長の肖像画を飾らせました」

「記憶公開?」

 

吾輩と違って露悪的というか自罰的な気のある原作セブルスにとって、それは公開処刑なのでは?それに褒められるの好きな質の吾輩ですら校長室に肖像画は辞退したい。

肖像画とか自己顕示欲の塊でないと辛くないか?

ところで、魔法界の肖像画は会話ができるらしい。どういう仕組みなのだろうか。画家の魔法なのか、それとも描かれた方の魔法なのか?

 

「センセの肖像画とお話しましたよ」

「そうか。だが、肖像画と吾輩の話はもうよい。というか、今の吾輩とは全く違うし知りたいとも思わない」

「そうですね。今のセンセとあっちのセンセはだいぶん違っているみたいで、でも、同じ?」

 

流石、ルーナ。鋭い指摘だ。もしや、吾輩と原作セブルスが異なっていると気付かれたか?環境が異なるが故の差異と思って欲しいところである。

 

「さあな。今の吾輩は精霊使いだ。それ以外の自分を考えたこともない。ミス・ラブグッドも契約した以上は、精霊使いであることを後悔はしないだろう?」

「ええ、それはもう。センセには厳しく忠告されましたから」

 

一度、精霊と契約をすると解除は出来ない。魔法使いと精霊の契約は、魔法使いの全ての魔力を精霊に与え続けることである。故に魔力の強い者程強い精霊と契約出来るし、契約精霊も大きな力を振るうことが出来るのだ。その為、ネビルやルーナの契約を吾輩は反対した。契約仲介者として、いざと言う時は対象の精霊使いを力で抑え込む義務があると考えているからだ。そして、ネビルとルーナはそこそこ魔力が強いのだ。ネビルはロングボトム家直系だし、ルーナは元々魔力ポテンシャルが高い。とはいえ、二人とも気質が穏やかなのでそこは安心している。ちなみにトムは元が分霊箱で魂が欠けている分、吾輩の方が強いので問題ない。そして元スクイブが契約出来るのは下位精霊のみなので心配ない。

 

「ところで話は戻るが、ミス・ラブグッド。ハリー以外に夢を見た者がいるのでは?と吾輩は思う」

「どうして、そう思うのですか?」

「不死鳥の騎士団の動きが妙に思われる。例のあの人の動きもないのに再結成したり、神秘部へ侵入したり。本の通りならば納得の行動も現実には暴走にしかみえん」

「つまり、センセは不死鳥の騎士団の誰かが夢を見て、動いたからあんなことになったと」

「少なくとも行動に説明はつく。仮にそうだとすれば、誰が夢を見たのだろうか、ということだ」

 

そもそも夢を本気にするものだろうか。百歩譲って本気にしたとして、それを騎士団の行動とするにはそれなりの説得力が必要だ。もしくは発言力が。

あの時点で発言力のある騎士団メンバーは誰だろう。そもそも吾輩は騎士団メンバーをあまり知らないが、それでも考察するならば、校長、シリウス、ルーピン、そしてアーサー夫婦か。吾輩の勝手な想像では校長もしくはシリウスが怪しい。ルーピンは夢を見ても現実との差異から口をつぐみそうだ。そして、アーサー夫婦は悪いが発言力低そうなイメージだ。シリウスは視野が狭いというか思い込み激しそうで、自分の見たいものしか見ないところがあるし、元ブラックなだけあってリーダーシップもある。校長はカリスマ性が高い。そもそも騎士団自体が校長シンパ集団だ。

 

「思うにシリウスか校長ではないだろうか」

 

根拠も何もないから、酷い言いがかりではあるが。

 

「確かめますか?」とルーナ。

「吾輩、シリウスとは相性が悪いから話をしたくない」

「夢でもそうでしたよ」

 

こっちの方がまだ仲は良い方とは思うが、話をしたくないのは原作と同じかもしれない。

 

「そうだ」

 

ルーナはパンと手を叩いた。

 

「校長の肖像画に聞いたら良いですよ」

 

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-6

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-6

 

 

 

吾輩はルーナと共に校長室を訪れた。本当はルーナを伴いたくはないが、校長の肖像画に尋ねてみるというアイデアを出したルーナが留守番に納得する訳がない。説得するのも面倒だし、ルーナの身になってみれば気持ちは分かるので同行を許可した。

ある意味で吾輩よりルーナの方が原作知識を持っているのだから、この件の好奇心は吾輩以上だろうとも。

校長室の前で合言葉を告げる。

 

「フェリックス・フェリシス(幸運の液体)」

 

ハウスエルフのメリーアンを先触れに出して現校長スラグホーンに面会の約束を取り付けている。その際に合言葉を教えてもらった。原作ダンブルドア校長の合言葉はお菓子の名前だったように思うので、今の合言葉を思うと校長の好みが出ていて面白い。フェリックス・フェリシス(幸運の液体)か。吾輩も調合しておくべきだったかもしれない。毎年、何かしら起こるのでついつい忘れてしまったけれどフェリックス・フェリシス(幸運の液体)が必要な人間は多かったのだ。

ハリーとかハリーとかハリーとか。

でも、あの薬は調合するのに半年くらい必要じゃなかったか、調合自体も複雑だし。

校長室に入って、吾輩はそれとなく、ルーナは興味津々で部屋を見渡す。原作と違って、吾輩はダンブルドア校長と親しくはなかったので校長室に入るのは初だ。

ダンブルドア校長にしてみれば、吾輩は理事会推薦の貴族代表(時々、忘れそうになるがプリンス家当主でブラック家の後見を受けている)なので、敵対勢力と思われていたのかもしれない。例えるなら、魔法省がごり押ししてきたアンブリッジ教授みたいに。あれと一緒扱いされていたと思うと腹立つけれど、役に立つと思われて駒扱いされるよりはマシか。

部屋は模様替えされているようでスラグホーンの私室を連想させるが、歴代校長の肖像画群が異彩を放っている。ところで、校長室にいた不死鳥はダンブルドア校長死亡後、いつの間にかいなくなってしまった。まるで主を失ったペットみたいだと思ったのは吾輩だけではなかったようだ。

日刊預言者新聞でそのような記事がセンチメンタルに記載されていたのだから。とはいえ、あの新聞はゴシップ紙と大差ないから信ぴょう性については疑わしい限りだが。

 

「セブルス、ルーナ、ようこそ。校長室は面白いかね?」

 

スラグホーンが楽しそうに声をかけた。観察していたのがバレたか。

 

「これは失礼したスラグホーン校長。メリーアンに言づけた件、引き受けてくださって感謝する」

「いやいや、構わんさ。あちらがダンブルドア校長の肖像画だ」

 

スラグホーンが歴代校長の一番はじっこの肖像画を指し示した。肖像画内の校長たちはこちらに関心を向ける者はあまりいない。半分くらいは不在だし、ちらりと視線をこちらに向けた者もいたがそれだけだ、あと居眠りしている者もいる。勝手気ままなものだ。どういう仕組みかは分からないが、肖像画になってまで校長らしさを強いられるとは気の毒な気がする。

吾輩は肖像画作成は断ろうと強く思う。ホグワーツの方は肖像画の可能性がないと言えるが、プリンス家の方は分かったものじゃない。

さて、ダンブルドア校長の肖像画はこちらに気付いているのかいないのか、ぐうぐうい眠りしている。スラグホーンは肩をすくめた。

 

「魔法省が何度も来て話を聞いたのだが、まあ、その上手くいかなかったようでね。だから、セブルスもあまり期待しない方が良いのでは、と一応は伝えておくよ」

 

ダンブルドア校長が素直に喋る性質でないことは確かだ。政治家というか弁護士というか上げ足取られないように慎重なのだろう。つくづく厄介だ。それでは、シリウスの方がマシかというと、アレはアレで感情的過ぎて話にならない気がする。

 

「随分と立派な肖像画ですね」

 

ルーナが感嘆の声を上げた。

亡くなって三か月も経っていないのだから、ルーナの意見ももっともだ。

 

「この肖像画はダンブルドア校長が生前、自身で用意したものだ」とスラグホーン。

 

死ぬ前に自分の墓を建てるみたいだ、と吾輩は思ってしまう。例えるならば死ぬ前に自分で遺影を用意する感覚だろうか。

 

「普通、自分で用意するものですか?」

「いや、そんなことはない・・・・・・が、ダンブルドア校長は色々と覚悟をしていたのだろう」

 

ルーナの疑問にスラグホーンが答えた。やはり、肖像画(校長室用)を生前に用意しておくのは珍しいことのようだ。

 

「ピラミッドも生前に建造していましたしね」

 

そうでもしないと死んだときに間に合わないだろう。若くして急死したツタンカーメンはピラミッドが間に合わず、配下のピラミッドを回したとか。あれは単なる創作だったかな。ツタンカーメンの急死自体は史実の筈だが、ピラミッドが墓というのは現在の研究においては疑問視されているし。

思考が横滑りしている。

 

「どっちにしろ縁起が悪そうだな。縁起を担いで遺言書を書かない人もいる位なのに」

「そりゃ、残された者が困りはしないかね、セブルス」

「困るでしょうな。でも縁起を担ぐ気持ちも分からなくもありませんし」

 

仮に吾輩が今、死んだところで遺言書はないが、配偶者に全て遺贈されるから問題ないけどな。

 

「もっとも遺言書があったとしても、揉める時は揉めるがね」

 

やれやれとスラグホーンが溜息を吐いた。

 

「何か揉めたのですか?スラグホーン校長」とルーナ。

 

一瞬、躊躇したが、スラグホーンが続ける。

 

「ダンブルドア校長がハリー達に遺品を残してね。そのこと自体は問題ないが、残そうとしたものが・・・・・・」

「差し支えなければ、何を指定されたのですかな?」と吾輩。

「グリフィンドールの剣だ」

 

吾輩は眉をひそめた。グリフィンドールの剣はホグワーツの至宝だ。校長とはいえ、ホグワーツの至宝を自由にする権利はない。しかし、校長職が長くなり、自分のモノと学校のモノの区別が付かなくなってしまったのかもしれない。政治家にはよくある話であり、ダンブルドア校長だけが特別という訳ではない。問題大ありだけどな。

 

「それで魔法省が肖像画に事情聴取をした、と」

 

結果、ダンブルドア校長がのらりくらりと躱していたわけか。そりゃ、ダンブルドア校長が認めるわけがない。

 

「ついでに校長室からごろごろ行方不明品が出てきてね。引っ越し前に魔法省の調査が入ったよ。いや、逆にお願いした。後で見つかったら、より面倒なことになっただろうよ」

 

スラグホーンが苦笑を浮かべる。

魔法省のガサ入れ、もとい調査の後に校長室へ引っ越ししたそうだ。スラグホーンは人脈豊富なので、ダンブルドア校長のやらかしを知っている(予想している)何者かから忠告されたのだろう。

なお、それらの品々は魔法省経由で持ち主に返却されたそうだ。めでたし、めでたし。

こうなると、ダンブルドア校長の肖像画と話をしても上手くいくとは思えないな。

 

「帰るか」

「見切りが早い」とスラグホーン。

「待って、待って、センセ。諦めないで」

 

ルーナが焦ってぐいぐいと吾輩のローブを引っ張る。うんざりと吾輩はルーナを見下ろした。ルーナは何かと人のローブを引っ張る癖があるのではなかろうか。

 

「無駄足だろう」

「試してみましょう。やってみなきゃわかりません」

「やらなくても分かる気がする」

「挑戦してみないと結果は出ません」

 

ルーナはしっかと吾輩のローブを握りしめる。これ、校長の肖像画に話しかけるまで離さない感じだ。

どうして吾輩の周りはこう強引な人間が多いのだろうか。吾輩が謙虚だから相対的に周囲が強引に思えるのか。なんて、流石にそこまで烏滸がましいことは言わないが、誰か強引な者がいないと話が進まないからだろう。仕方ない。

 

「聞きたいことが聞けなくても仕方ないとしよう」

 

吾輩はしぶしぶダンブルドア校長の肖像画の前に立つ。

ゆっくりと肖像画のダンブルドア校長が瞳を開いた。狸寝入りしていたのだろう、タイミングが良すぎる。

 

「おや、セブルス。珍しいお客さんだ」

 

ファーストネーム呼びされる程、ダンブルドア校長と親しい記憶はこちらにはないのだが。向こうの認識はどうなっているのだろう。勝手に解釈している可能性も大だ。

しかし、この狸じじいと会話を駆使して知りたい情報を得るとか―――原作セブルスならともかく、吾輩にはちょっと、いやだいぶ無理だ。もう素直に聞く。

 

「ダンブルドア校長、なぜあの時期に不死鳥の騎士団を再結成し活動を始めたのですかな?」

「―――どういう意味かね、セブルス?」

「言葉通りの意味の質問です。何か理由があったのでは?例えば予知とか」

 

 

ギュッ

 

 

心臓を鷲掴みにされたような痛みに吾輩は胸を押さえダンブルドア校長から視線を逸らしてしまう。

それは、一瞬。

敵から視線を逸らしてどうする!?己を叱咤し、胸を押さえたまま、校長を睨みつける。

 

 

肖像画のダンブルドア校長は見たことのない激昂の表情でこちらを睨みつけていた。それは今までダンブルドア校長が一度も見せなかった感情をあらわにした表情だった。

 

 

 

 



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セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-7(完)

 

 

 

セブルスに成り代わって平穏に生きてみる7-7(完)

 

 

 

「貴様か!!貴様だったのか!!」

 

肖像画のダンブルドア校長、その感情のまま吾輩を罵る様はとても大戦の英雄とは思えない。

 

 

ドガガガガガガ!!

 

 

無数の氷槍が一気に肖像画を貫いた。肖像画のダンブルドア校長に悲鳴を上げる暇も与えず、二度、三度と氷の攻撃が続く。これは吾輩の意志ではない。吾輩の精霊が自ら攻撃を放ったのだ。契約精霊は契約者を全力で守る存在なのだから当然である。

珍しく実体化している水の精霊は憎々し気に元・肖像画の辺りを睨みつけている。

 

これは吾輩の失態だ。

 

己の契約精霊に守ってもらうなど、子供でもあるまいし情けない話だ。執拗に攻撃を続ける水の精霊を宥める。

 

「もう良い。吾輩は大丈夫だ」

 

水の精霊は不安そうに不服そうに吾輩を見つめ、ゆるりと姿を消した。

そして、吾輩は自身の背にへばりついているルーナを見下ろす。かすかに吾輩とルーナの周囲に風が舞っているのは―――ルーナがどうにか結界を張っているからだ。ごくごく弱い結界で、役に立っているかというと微妙だけれど。その気持ちは嬉しい。

 

「ミス・ラブグッド。結界を解除したまえ。敵は殲滅した」

 

吾輩越しに元・肖像画の辺りをルーナは確認して一つ溜息を零した。風の結界は解け、かき消える。ようやっと、ルーナは吾輩から離れた。

 

「助かった。感謝する、ミス・ラブグッド」

「いいえ、センセ」

 

ルーナは照れて笑う。役に立てたことが嬉しいらしい。

 

「いやはや、無事かね?」

 

スラグホーンがわたわたと言った。インドア派のスラグホーンは戦闘センスが低いようだ。とはいえ、優れた魔法使いが皆々、優れた戦闘センスを持ちあわせている訳ではない。

スラグホーンは吾輩たちにソファーを勧め、安らぎの水薬を渡した。有難く、それを頂く。水の精霊が即攻撃したので、心臓の痛みは一瞬だった。水薬を飲むまでもないだろうが、スラグホーンとルーナが心配するので大人しく飲むことにしたのだ。

スラグホーンは気を遣ってお茶をご馳走してくれる。スラグホーン自身も気を休めるお茶が必要だったのだろう。

 

「スラグホーン校長、不可抗力とはいえ校長室での攻撃、申し訳ありません」

 

悪いことをしたとは思っているので吾輩は謝る。肖像画はともかく部屋の破壊は謝罪に値する。ちらりと一同は元・肖像画のあたりを見やる。そこはむき出しの壁になっていた。肖像画自体は木っ端みじんだ。焚き付けにも使えない程に壊されている。ついでに水浸しだ。なお、他の肖像画の校長たちは流石、歴代校長だけあってきっちり逃げていた。今は興味深げに、野次馬根性丸出しで元・肖像画のあたりを見物している。呑気なものだ。

 

「仕方あるまいよ。気にすることはない、セブルス。私もあのようなアルバスを見ることになるとは思いもしなかった」

「センセ、ダンブルドア校長のアレはどういうことだったのでしょうか?」

「さあ、吾輩は肖像画の仕組みはよく分からんから何とも言えないが―――」

 

原作ではヴァルブルガ様の肖像画がヒステリックに怒鳴っていたとあった気がするし、一時の感情が乗ってしまうのではなかろうか。だとすると、ダンブルドア校長の肖像画が直前の感情、不死鳥の騎士団再結成頃の感情が一番強かったのでは?不死鳥の騎士団はあの頃、やることなすこと上手くいっていなかったから、その原因が―――吾輩の質問から―――吾輩と思い込んで攻撃してきたのではないか?誤解だけど。吾輩、特に何もしていないのだし。

 

「肖像画は描かれた時の感情をより残していると思われる。あの頃、不死鳥の騎士団は評判が良くなかったから、校長は吾輩の言葉に激高したのだろう」

「そう考えると色々と納得できる。肖像画は描かれた時の感情が乗る―――セブルス、レポートを書いて提出したらどうかね?」

「ただの思いつきですからな。それはそれとして、ここの修繕費はプリンス家から出します。出させて下さい。また、ダンブルドア校長の肖像画は・・・」

 

こちらで用意するのは簡単だが、また襲われてはかなわない。精霊使い憎しで、在校のネビル達精霊使いに危害が加えられる可能性もゼロではない。とはいえ、ダンブルドア校長にはホグワーツに肖像画を残す権利がある。どうしたものか。肖像画、肖像画ね。

 

「ダンブルドア校長の肖像画はこちらで用意させて下さい」

「セブルス、大丈夫かね?」

「ええ、よい方法を思いつきましたので」

 

にっこり笑って吾輩は請け負ったのだが、なぜかスラグホーンとルーナは微妙な顔をしていた。失礼じゃないか?

 

 

 

 

吾輩が教職を辞した後、教え子たちのこと。

 

 

まず、原作主人公ハリー。

ホグワーツ卒業後、ハリーはポッター分家の助力を得て、ポッター本家を継いだ。ただ、養い親シリウスが健在なため、シリウスとポッター分家が対立してしまい間に挟まれたハリーは苦労しているようだ。ここでシリウスが当主教育を受けていれば、ハリーの助けにもなっただろうが、昔、シリウス自身が拒絶していたのだからどうしようもない。シリウスに養い親面されるとか、ポッター分家の皆には同情を禁じ得ない。大体、シリウスは働いているのだろうか?

ハリーが学生の頃ならば、吾輩も助力の一つもせねばならないが、成人したので手を引かせて貰う。厄介ごとは御免だ。ハリーには頑張ってもらおう。

 

同じくマルフォイ家を継ぐドラコ。

ドラコがマルフォイ家を継ぐのは既定路線。とはいえ、ルシウスが現役なのでドラコの負担は少なかろう。ドラコは自身の研究を進めているとか、癒者の素質があったようなのでそちら方面で才能を開花させることだろう。

 

土の精霊使いネビル。

ネビルは薬草学教授になった。やっぱり、スプラウト教授に取られてしまったが、ネビルの素養からみればこれが最善か。しかし、取られた気はするのだよな。

 

精霊学教授ルーナ。

ネビルの件もあって、ルーナに精霊学教授をお願いしていて本当に良かった。素養はともかく制御が甘いことが心配ではあったが、フィルチやネビルがいるから大丈夫だろう。大丈夫だよな?

 

トム・レストレンジ。

原作では大暴れのヴォルデモートもといトム・レストレンジは今、大人しく優等生をやっている。来年卒業したら、マグルの大学に進学するとか。最終的にレストレンジ家を継ぐのかな。ベラ・ロドルフォ夫婦はトムを可愛がっているので、トムが教職に就きたいと言えばそれを喜んで支えると思われる。

トムの人生は希望に満ち、自由だ。とても幸せなことに。

 

 

 

そして、蛇足だが、ダンブルドア校長の肖像画は吾輩がマグル界の画家に頼んで作成。スラグホーンへ渡した。

スラグホーンはマグルの肖像画に目を丸くし、それから大笑いした。

 

「流石だ、セブルス」

 

 

 

こうして、吾輩の平穏なホグワーツ生活は終わった。

今更だが、吾輩も原作知識には振り回されていたのかもしれない。良くも悪くも知識はこちらの行動を左右させる。そういう意味で、これから先の知識がないことは吾輩にとっても自由を意味するのだ。

 

 

 

 



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