影分身チートでハーレムを (ぽぽりんご)
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ハーレム一人目

 

 

■前回までのあらすじ

 

「影分身封印の術!」

「ぐああああああ!」

 

 こうしてチート転生者Mは、影分身の術を失ったのだった! 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「と、いうわけで。困ったことになったんだよ親友」

「ふーん」

「話きいてた?」

「いや。急展開すぎて、よくわかんなかったから……」

 

 自室を訪れた親友に、Mは相談を持ち掛けた。

 親友は心底興味なさそうに漫画を読みながら相槌を打っているばかりだが、そんなことはお構いなしだ。Mは、人の話を聞いたり、人の様子をうかがったりするのが苦手であった。彼のコミュニケーション能力は、うんちレベルと言っても過言では無い。

 

 

「Mの話を大まかにまとめると……突如として現れた変態に、影分身の術を封印された、と?」

「そうだ、親友」

「そうか。ご愁傷様だな」

「俺の心の傷を気遣ってくれてありがとう。影分身を封印された事は今後考えるとして、ひとまず対処せねばならん事がある」

 

 そう。

 影分身が封印されたことは一大事ではあるが、それより目の前の問題を片付けなければならないのである。

 

「俺が影分身を使って、複数の女性と付き合っていたのは知っているな親友?」

「ああ。ボクも、噂には聞いている」

「影分身を失うと、それが続けられなくなる」

「いいことじゃないか」

「いきなり別れるなんて、不誠実ではないか?」

「そもそも付き合っている行為自体が不誠実だよ」

「そうなのか? 衝撃の事実だな」

 

 マジかこいつ、という目を向けられつつも、Mは動じなかった。

 鈍感系主人公というやつなのかもしれない。

 それとも、自己防衛力を高めた結果であろうか? 

 影分身チートを使って暴れ回っていたMは陰口や苦言を言われる事が多かったので、そういう類の情報をスルーする術を身につけていたのだ。

 

 親友は興味がなさそうな顔を隠しもしなかったが、一応は話を掘り下げてみることにした。

 Mが話したそうにしていたので。

 親友は、Mのような倫理観ゼロチート転生者の友人にしておくには、もったいないほどの人格者であった。

 

 

「んで、何人と付き合ってたの?」

「ざっと5000人ぐらいだ」

「馬鹿じゃないの?」

「里に存在する女性、およそ三人に一人は俺と付き合っていた計算になる」

「里を滅ぼす気か? いや、みんな本気でお前と付き合っていたわけじゃないと思うけどさ……」

 

 頭を掻きつつ立ち上がる親友。

 ゴロゴロしながらお菓子をついばみつつ漫画を読みふける、そんな至高の時間を手放すのは惜しかったが、友人……友人? なんだかよくわからない存在であるMの一大事という事なので、力を貸さねばならない。親友は、そう思った。

 ちなみに、一大事が起きる頻度は三日に一回ぐらいである。

 

 

「人数には驚いたけれど……とりあえず、別れるしかないんじゃないか? 影分身を使えなくなったんだろう? それだけの人と話をするのは大変だけど」

「大丈夫だ、問題ない。5000人(推定)のうち4998人とは、既に別れた」

「待って待って待って。さっきから話のスピード感おかしくない?」

「いや、別に急いで話している気はないんだが……不思議だ。俺はただ、影分身が使えなくなったと忍者LINEグループで伝えただけなのに、その時点で皆から別れを告げられた。もう連絡も取れない」

「捨てる判断が速い」

「なにがなんだか、わからねぇ。俺は、こんなエクストリームな超展開など望んでいなかった」

 

 話は変わるが、現在エクストリーム・ハーツというアニメが好評放送中である。

 聞き覚えがない、という人も多数いるかと思うが、ハーメルンでも数多くの二次創作が投稿されている『魔法少女リリカルなのは』の後継とも言うべき作品だ。

 詳しく語ると一万字を超えかねないためこれは詳細を省くが、ざっくり言うと、この小説をも超えるスピード感で話が進むアニメであった。まさに規格外(エクストリーム)といえよう。

 

 余談ではあるがこのアニメ、キャラの掘り下げを、各種動画サイトにて配信中の番外編で行っている。しかし、その宣伝をあまりしていないのだ。

 本当に不思議である。

 せっかく作った物の存在が知られていないとは、もったいないではないか。

 みんな見て。

 

 

「ともかく、残りは二人だけなんだな? じゃあ、片方と別れられれば大丈夫か」

「二股ぐらいだったら、影分身無しでも何とかならんか?」

「その考えを改めろクソ野郎」

「でも、別れ話するの怖いんだよな。あの二人、ちょっと頭がやばいし」

「その二人も、お前にヤバいとか言われたくないと思うが……そんなに怖い奴らなのか?」

「ああ。まずはこいつをみてくれ。ステータス・オープン!」

 

 Mの言葉と共に浮かび上がったのは、異世界転生モノにお決まりのアレ。

 ステータスウィンドウである。

 

 

 

■A子

年齢 : 21歳

性別 : 女性

職業 : 研究員

特性 : 研究バカ

外見 : おっぱいが大きい

性格 : 押しは強いが、押されると意外と弱い

体術 : E(素人に毛が生えたレベル)

忍術 : C(普通の忍者です)

攻略難度 : B(難しい)

怒らせたときの怖さ : SSS(逆らうべきではない)

 

 

■B子

年齢 : 17歳

性別 : 女性

職業 : 里長の娘

特性 : ツンデレ

外見 : ツンツンした所が可愛い

性格 : デレデレ墜ちする瞬間がたまらなく可愛い(なおまだ見たことは無い)

体術 : B(ちょっとすごい)

忍術 : A(とてもすごい)

攻略難度 : E(チョロい)

怒らせたときの怖さ : SSS(逆らうべきではない)

 

 

 

 空中に投影されたウィンドウを呆然と見つつ、親友は呟いた。

 

「なにこれ」

「この二人、怒らせるとめっちゃ怖いんだよ。特にB子。俺が別れ話を切り出したら『私から振るのはいいけど、アンタなんかに振られるのは許せない!』みたいな変な怒り方をしてくるぜきっと」

「それより、空中に投影されたコレについて説明してくれよ。ツンデレとか、攻略難度とか」

「ツンデレとは、普段は素直になれずツンツンしているが、ふとした拍子にデレが漏れ出てしまい、そのギャップに可愛さを内包する属性のことだ」

「違うそうじゃない。ツンデレの意味について聞きたかったわけじゃない」

「そうか。すまない、俺はいま動揺しているようだ。こいつらに別れ話を切り出したくない。ぶっちゃけ怖い」

 

 普段と少し違うMの様子を見て、親友は思った。

 さすがのMも、影分身という拠り所を失い、心が弱っているのだろう、と。

 Mも不安なのだ。いつもクソみたいな話しか持ってこないウンチ野郎ではあるが、Mは幼なじみの友人である。守ってやらなければならない。空中に投影された謎のステータスウィンドウとやらの事は気に掛かるものの、まずは彼の相談に乗ってやろう。

 そう思ってしまった。

 

 一方のMは、影分身の有無に関係なく、ただ単にA子とB子に恐れをなしているだけである。

 

 

「別れ話を切り出したくない、と言われてもな……君は、人付き合いを軽く考えすぎている。相手の女性のことをもっと真剣に考え、向き合うべきだとボクは思う。付き合うなら、一人だけにすべきだ」

「やはり、お前の考えはそうか」

 

 親友の言葉に、Mは神妙な顔で頷いた。

 いっそのこと逃げてしまおうかとも思ったMだが、全てを捨てて逃げ隠れするなど、許されない。いや、忍者の里の人間的には逃げ隠れするのもアリかもしれないが、逃げたら逃げたで後で殺されるのは間違いない。

 Mが取れる行動は、一つしか無かった。

 土下座である。

 

 

「そういう結論になるだろうと思って、二人を呼び出しておいた。もうすぐここに来る」

「スピード感ヤバない?」

「俺の見事な土下座を披露してやんよ」

「土下座が確定しているのか……あれ、ちょっと待って。二人とも? もうすぐ? 呼び出したの? この部屋に?」

「そうだ」

「おい! せめて一人ずつ呼び出せよ! なんで二体同時特殊召喚してるんだよ!」

「いや、いつもの癖で……影分身できないのを忘れていた」

 

 Mはうっかりさんであった。

 いつも影分身をしているため、ダブルブッキングという概念がない。

 すべては影分身が悪いのである。

 けっして、Mの頭が悪いわけでは無い。

 

「くそっ! ボクが片方を足止めしておいてやるから、君は残った方と話を付けろ!」

「ああ、わかった! まかせたぜ親友!」

「威勢だけはいいなクソ野郎」

 

 ここで、親友は思案する。

 里長の娘であるB子のことは知っているが、もう片方のA子については知らない。

 足止めするなら、後から来た方である。だがこの状況。5000人のうちの誰かが部屋を訪れる可能性も非常に高い。A子以外の者に話しかけてしまい、肝心のA子を足止めできないケースも考えられた。

 

「M。ボクはA子さんのことを知らない。どんな娘なんだ?」

「彼女の特徴は……飽くなき探究心。この世の真理を追い求める姿勢。いわば、黄金の精神とも呼ぶべき魂を持つ女性だ」

「目で見て分かる特徴を言えよ」

「なるほど。よし、絵を描いてみた! これでわかるか?」

「へ、ヘタクソ!! 髪型すら分からん。もういい、ボクはB子を足止めする。お前は、まずA子さんと話をつけてくれ」

「わかったぜ!」

「本当に、威勢だけはいいな……大丈夫か? 落ち着いて対応できるか?」

「トラストミー」

「不安だ……」

 

 

 こうしてMは、頭のおかしい二人に、別れ話を切り出すことになったのだった! 

 

 

 

 



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ハーレム二人目

 

 

 里の研究所に勤務するA子。

 彼女は、非常に優秀な研究者だった。

 新薬を多数開発し、数万の命を救ったとも言われている。

 華やかさとは程遠い研究職員であるため一般の知名度は低かったが、医療関係者であれば、彼女の名を知らぬ者などいないであろう。

 それほどまでに、彼女は優秀だった。

 

 

 それはそれとして、彼女にはもう一つの特徴があった。

 彼女のおっぱいは、大きかった。

 非常に大きく、たわわであった。

 具体的に言うと、毎週月曜日になるとTwitterのTLに現れそうなぐらい、たわわであった。

 思わずいいねを押してしまう。

 

 月曜日のたわわについて。

「意地があるんだよ、男の子には!」とばかりに、いいねを止めたこともあった。

 こ、こんな卑猥な球体に負けたりはしないんだから! と見るのを止めたこともあった。

 

 だが、無駄なのである。

 いいねを押してしまうのである。

 さながら、おっぱいが重力に引かれるがごとく、抗えない。

 かのガンダムシリーズでも、地球の重力に魂を囚われた人々が数多の争いを引き起こしていた。

 技術が進み、ニュータイプと呼ばれるような新人類が現れ始めた時代ですら、自然の摂理には逆らえない。ラピュタのヒロインだって「人は、土から離れては生きられないのよ!」と言っていた。真理である。

 人は、パンのみにて生きるにあらず。

 男には、おっぱいが必要だった。

 

 

 Mは、目の前に立ったA子に視線を向ける。

 

 彼女は、おっぱいがでかかった。

 お、おっぱいが。

 で、でかかっ

 でかっ

 

「どひゃぁ~~~! で、でかいのぉ~~~! ゴロゴロゴロ! (地面を転がり回る音)」

「M君、どうしたんだい急に」

「はっ!? すまん。影分身ができないので、感情が爆発してしまった」

「えっ、影分身って沈静作用とかあったのかい……?」

「ああ。俺の影分身は、心を分散させているのと同じだからな。増えるたびに、感情が希薄になるんだ。クールな俺も格好よかったと思うが、今の熱い俺も"良い"だろう?」

「クール……? あ、うん……いや普段通りな気もするが」

 

 引っかかりを覚えたA子だったが、ひとまず置いておくことにした。

 どうでもよかったので。

 

「なるほど確かに。君の術は分身というより、どちらかと言えば分裂に近い。そういう作用があっても、おかしくはないね」

「えっ」

 

 俺って分裂してたの? 

 驚いたMだったが、それはひとまず置いておき、話を進めることにした。

 どうでもよかったので。

 

 

「さて、A子を呼び出した理由についてだが。お気づきの通り、大事な話があるんだ」

「なんだい、あらたまって。三日に一回ぐらい大事な話をされている気がするのだけれど」

「今日は本当に大事な話なんだ」

「そうか。今日は君に施した実験の成果が出たのでその話をしたかったんだが、まずは君の話を聞こうじゃないか」

「ん?」

 

 自分が分裂していた事については完膚なきまでにスルーを決めたMだったが、実験といわれると、少し気になってしまった。

 なにしろ、心当たりが全くない。

 実は事前に詳細な説明をされていたのだが、Mはまったくもって覚えていなかった。

 それも仕方の無いことだろう。分裂により意識をわけていた彼は、どうしても注意力が散漫になってしまうのだ。

 決して、Mの記憶力がうんこたれだったわけではない。

 

 別れ話をした後だと聞きづらくなるかもしれないため、Mは先に問いかけることにした。

 

「実験って、何だっけ?」

「そっちの話を先にするかい? 君の分身体に施していた治験のことだよ。説明しただろう?」

「すまない、忘れた」

「そうか。忘れたなら仕方ないな。説明しよう」

 

 ふぅーやれやれとジェスチャーをしたA子は、Mに説明を始めた。

 治験とは、新薬が人体にどのような影響を与えるのかを確認する工程のことである。病気や毒に効果があっても、副作用で死んでしまっては元も子もない。薬の開発には必須の作業であった。

 

 

「よく寝台に寝かせられていたのは、それで……?」

「なんだと思っていたんだい」

「特殊なプレイかと。すぐ寝てしまうので、なにがなんだか分からなかったんだが」

「眠ってしまうのは、麻酔の効果によるものだね。さすがに、苦しいのは嫌だろう?」

「実験されること自体が嫌なんだが」

「では、ここで今回の実験結果を見てみよう。お手元に用意した資料Aを見てくれ」

「聞け」

 

 ウキウキしながら、資料Aについての話を始めるA子。

 この娘は、Mに負けず劣らず人の話を聞かない。互いに細かいことはスルーしあっていたので、普通に会話ができているように見えていただけである。

 二人はコミュ障であった。

 

「さてさて。表紙に書かれているのは、君もご存じナマラン蛇だ! 麦畑によく現れるアイツだね。あの蛇は、強力な毒を持っている。麦の収穫時期になると被害者が多数出るので、どうにかしたかったんだ」

「ふむ」

 

ここで、非常に興味深いデータが見つかった。妙齢の女性は、他の者たちと比べて重篤な症状にならないことが多かったんだ! どういう理由かと調べてみた所、軽傷の者には、ある共通点があった。それは、麦から抽出した化粧品を肌に塗布していたということだよ。さてここに50人のM君とナマラン蛇の毒、麦から抽出した薬品の3つがある。まず蛇毒をM君に投与する。大変だ、このままでは死んでしまう。治療せねば! 安心したまえ、私の手に掛かれば7割ぐらいのM君は治療できる。私はM君を4つのグループに分けた。薬品を経口投与した者、肌に塗布した者、皮下注入した者、静脈注入した者だ。静脈に注入した理由は、この蛇の毒が血を凝固させるタイプの毒だからだね。血に問題が生じるのだから、薬も血に混ぜた方がいい。私はそう考えた。結果的にこの推測は正しいとまでは言えなかったのだが、まぁそういう事もある。色々試すことが大事なのさ。さて、グループを分けた後はさらなる細分化だ。投与する位置や量を少しずつ変えて実験を行う。私は薬を投与した後、M君がどうなるのかを経過観察した。経口摂取したM君は、量に関わらず生死の淵を彷徨った。経口摂取は、効果が薄いと言える。これについては、予想通りだった。次に肌に塗布した場合だが、特定の条件下で症状が軽減されはした。しかし、薬を体内に注入した場合と比べると効果が低い。また、条件を吟味するに、薬の効果は蛇に噛まれた際、毒と薬品が直接触れ合ったことにより生まれていたと判断した。これも、予想通りだね。さて、あとは本命の二つだ。皮下注入、および静脈注入したM君は、軽傷なんてものじゃない。毒を受けた直後に薬を投与すれば、数時間程度で完治してしまった! 直後でなくとも、30分以内に投与したのならば、重篤な状態にはならない。なんたる効果! こんな劇的な効果は、そうそう得られるものじゃない。まさに特効薬! 注入量については5ml程度が最適であり、過剰な投与は逆効果であることも窺える。なお本命の静脈投与についてだが、皮下注入と有意差が見られなかった上、過剰投与時の副作用が増大するためおすすめできないという結果になった。理由はわからないが、私の推測は外れたわけだ。これだから実験はやめられない

 

 

「お、おう……」

 

 Mはドン引きした。

 ドン引きはしたが、途中からA子の魅力的な胸部を見て楽しんでいたため、何も問題は無かった。

 きっと、今日聞いた話も明日には忘れてしまうのであろう。

 これは、Mが悪いのではない。A子のおっぱいが悪いのである。

 興味の無い話と、おっぱい。どちらが記憶に残るかと問われれば、後者であるのは間違いが無かった。

 

「なお、比較検討のため、何も投与しなかったM君は消滅した。必要な犠牲だった」

「消滅したんだ……」

「大丈夫、安心してくれ。理屈は全く分からないのだが、失われた君の欠片は、何だかよく分からないうちに君と同化し、いつのまにか元の状態に戻っているよ」

「全然安心できない説明ありがとう」

「どういたしまして」

 

 

 

 話が一段落ついて。

 ひとときの静寂を挟んでから、A子が話を続ける。

 

「さてM君。これでわかっただろう」

「何が?」

 

 本当にわからなかった。

 いや、マジで。

 

「君は、私と共にある事で、より輝くということだよ」

「たしかに、命は輝いているかもわからんが」

 

 輝いた後に、消えてしまっている。

 あまりにも儚い。

 

「君が影分身……影分裂? の能力を失ったことは知っている。君が今日、何をするために私を呼び出したのかもね。だが、かまうものか。君の体のことは、私が一番知っている。君が死なない範囲も熟知しているのさ。これほど使い勝手の良い体は、そうは無い。これからも、私は君に毒を盛り続けていきたい。ふふ、なんだか恥ずかしいな。これではまるで、プロポーズだ」

「俺と君とでは、プロポーズの概念が違うようだ」

「ふむ。このプロポーズは、お気に召さないか」

 

 腕を組み、考え込むA子。

 腕を組むのは、おっぱいが重いからである。腕を組んで支えた方が楽だからである。

 とくに他意は無いのだが、Mはこう思った。こ、こいつ。体を使って誘惑してきやがるぜぇぇ~~! と。

 

「そうだね。私が君のどこに好意を抱いているか。その話をしないと、ピンと来ないのかもしれないね」

 

 腕を組んだまま、近づいてくるA子。

 一方のMは、ちょっとだけドキドキしていた。

 A子は、思考回路こそアレだが、美人である。美人のA子にプロポーズ……プロポーズ? よくわからないが、お誘いをうけると、ドキドキしてしまうのである。Mは、男の子なので。

 

「では、続いてお手元の資料Bを見てみよう……ああ、大丈夫。私がページをめくろう。こうして二人で寄り添っているなら、その方が説明しやすい」

 

 Mの鼻孔に、A子のいい匂いが漂ってくる。

 薬品の匂いを誤魔化すためか、やや強めの香り。それに、Mは興奮した。

 別れ話をしに来た事は、完全に忘却の彼方だ。

 けっして、Mが悪いわけではない。おっぱいが悪いよ、おっぱいが。

 

 

「ほら、このデータを見てくれ。この薬を君に注入すると、小指が痙攣するんだ。この脈動が、私は好きでねぇ。私は、君のコレに惚れたと言っても過言では無いよ」

「嘘でもいいから、もう少しマシな理由を用意しておいてくれ」

「これもお気に召さないかい? こんなに素敵なのに」

「うおおおお……! 発言内容はこんなにも駄目駄目なのに誘惑されてしまう。なぜだ?」

 

 おっぱいが大きいからです。

 

 Mの狼狽を見たA子が、さらに体を寄せてきた。

 手を回せば、抱きしめられるほどの至近距離。

 A子のたわわな胸が、目の前にある。

 

 A子は、おっぱいがでかかった。

 お、おっぱいが

 でかっ

 でっ

 

「どひゃあああああ! この位置だと、右を見ても左を見てもおっぱいに包まれておる~~~! シュパーン! (魂が昇天する音)」

「はっはっは、やめておきたまえ。今の君はライフが1しか残っていないのだぞ。本当に死んでしまう。本当に……本当に……?」

 

 

 A子はMの腕を取り、脈を測った。

 

「し、死んでる」

 

 

 

 こうしてMは、別れ話に失敗したのだった! 

 

 

 

 



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ハーレム三人目

 

 

「はっ!?」

 

 Mは目を覚ました。

 薄暗い、どこかの地下室。

 室温は相当に低いようで、周囲は凍り付いたマグロが山積みになっている。

 

「いったい何故……めっちゃ魚臭いんだが……いや、そんなことより! 俺は、B子の元へ急がねばならん。ふんっ」

 

 体に張り付いたマグロ、ついでに部屋の扉を爆砕し、外に飛び出るM。

 多少の疑問はあったが、その程度で彼を止めることなどできやしない。

 よくわからんことは無視して突撃する。それが彼の信条だった。

 

 急げ、M! 遅れてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。

 身代わりとなりB子の足止めをしている親友のためにも、走れM! 

 

 

 そんなこんなで、メロスっぽい雰囲気を醸し出しながら自分の部屋へと辿り着いたM。

 そこにはA子も親友も既におらず、部屋の中央にドデンと鎮座しているのは、B子ただ一人であった。

 

「間に合わなかったか……!」

「何が? よくわからないけれど、とうとう現れたわねM!」

 

 ちなみに、A子と親友は普通に家に帰っただけである。

 死亡後、霞のように消えゆくMの姿を見届けた後、二人は思った。

 「まぁ、たぶん明日には復活してるよね」

 薄情と思う人もいるかもしれないが、だいたい事実なので仕方の無い話だった。

 

 

 さてさて、Mの前に仁王立ちしているのは、里長の娘であるB子。

 威風堂々とした面持ち。獅子のたてがみのように燃えあがる赤髪は、まさに王者の風格。

 怒らせると明らかに面倒くさいタイプの、俺様系お嬢様であった。

 

 ちなみに、おっぱい以外は特に描写していなかったが、B子だけでなくA子も赤髪である。

 マイナー性癖かつ不人気キャラが多い赤髪をヒロイン二人に据えるなど、仮にこの物語がハーレム物二次創作だったとしたら、正気の沙汰ではないと非難されることであろう。

 だが、落ち着いて考えてみて欲しい。赤い髪の女の子は、格好いいのだ。苛烈な性格のキャラが多いため、踏み台のように扱われるケースが多いだけで、赤髪の見た目は最高だった。どんなに白黒金銀が世を席巻しようとも、この事実だけは揺るがない。

 赤は人気色! 緑よりはマシ。

 

 

「話は聞いたわ! 私と別れたいそうね!」

「ああ、話が早くて助かる。言葉は不要か」

「言葉は要るに決まってるでしょ! 犬や猫ですら鳴き声は必要なのよ!」

 

 と、ここまで強気に怒鳴っていたB子だが、急に声のトーンを落とす。

 同時に目を伏せ、なんだかシリアスそうな雰囲気を醸し出し始めた。何かの戦略であろう。

 緩急を付けられるとバッターは翻弄されるって、ばっちゃが言ってた。

 

「……あんたと私が別れるには、一つ。大きな壁があるのよ」

「ほーん」

 

 だが残念ながら、そんな仕草を織り交ぜたとしても、どうせMは気付かないので意味はまるで無かった。シリアスな雰囲気をスルーされて、若干寂しそうなB子。だがすぐ気を取り直し、懐から資料を取り出す。

 

 なぜ資料を用意したのか? 

 口で言っても、Mは話を聞かないからである。

 限りなく正解に近い対応であった。*1

 

「ではここで、お手元に用意した資料Aを見てちょうだい」

「この流れ、流行ってるの? いや、見るけどさ……」

 

 お手元に用意されたという資料A。

 そこには、様々な数値が書かれていた。

 Mの脳が理解を拒絶するほどの羅列具合。

 細かく描写すると無駄に文字数を消費するし、そもそも書くのが面倒なので要約すると、おおまかな内容はこうである。

 

 

 

 ・発行済みM紙幣 : 5,820,000[M]

 ・交換レート   : 1M紙幣 = 80[両]

 ・発行者     : B子

 

 

 

 

「なにこれ」

「あたしが発行した紙幣の現状よ。あんたを1時間働かせるごとに得られるのが1M。あたしはこの紙幣を発行し手数料を得ることで、お金持ちになったの」

「聞いてないんだけど」

「言ってないもの。当然ね!」

 

 チート転生者Mは、いつのまにか紙幣になっていたらしい。

 衝撃の事実である。

 

 Mは、これまでの事を振り返ってみた。

 やけに仕事を頼まれるとは思っていたのだ。

 なるほど、どうりで。こういう絡繰だったのか。

 

 

『デートしたいけれど、仕事が終わらないと一緒にいけないの!』

『はっはっは、じゃあ俺が影分身でやっておくよ!』

『ありがとう。素敵!』

 

『一緒にお食事したいけれど、畑仕事が……』

『はっはっは、じゃあ俺が影分身でやっておくよ!』

『ありがとう。素敵!』

 

『一緒に任務に行きたいけれど、探掘の仕事が……』

『はっはっは、じゃあ俺が影分身でやっておくよ!』

『ありがとう。素敵! 上昇負荷に気をつけてね!』

 

 

 こんな感じである。

 

 女の子達はMを言いくるめ、働き手を求めている場所に派遣する。

 Mが働いた分は、M紙幣という形で女の子に支払わる。

 M紙幣は、協定を結んだ店舗で使用できる。

 Mの労働力があると都合が良い人達が増えれば増えるほど、協定を結ぶ店舗が増えていく。そして女の子達は買い物をするため、Mにもっと働かせようとする。

 里では、いかにMを言いくるめ働かせるかが、女性達の間でブームになっていた。最悪である。

 

 

「ていうか、俺の時給って80両なの?」

 

 ナルト世界の80両は、日本円に換算すると約80円。

 

「安請け合いするのが悪いわね。もっと自分の価値を値上げしていかないと」

「わりとショックだ……あれ? でも、この話と超えなければならない壁ってやつが、どう繋がるんだ?」

 

 Mの疑問に、B子は言葉を詰まらせた。

 普段はどんな鬼畜な事ですらあっさり言い放つB子が、言いよどむとは! 

 とんでもないことである。さすがのMも、なんかヤバそうな雰囲気を感じ取った。

 

 

「……基本的には、実際に労働した分の対価として発行して、その手数料分だけあたしもM紙幣を使っていたのだけれど……魔が差したのかしらね。見込みで使ってしまった分もあるのよ」

「それって、横領とか言うのでは?」

「そうとも言うわね! 先行で使い込んでしまった負債を、どうにかしないといけない。バレたら投獄されるわ……負債が解消されるまで、あたしはあんたを確保しておく必要があるってわけ」

「ええ……」

「でも、これはチャンスでもあるわ! 今までの紙幣は、過去の労働に対する対価を示すもの。ま、言ってみれば商品券みたいなものね! 子供のお遊びレベルよ。過去の事実を形に変えたものだから、横領した時にも足がつきやすい。けれども、あんたがM紙幣と引き換えに、影分身による労働力を提供する……つまり、将来の労働に対する対価としても扱うような仕組みに変えたのなら、話は変わる」

 

 紙幣の発行を『子供のお遊び』と表現したB子に、Mはドン引きした。

 こいつは、お金や人で遊んではいけませんと親に教わらなかったのだろうか? 

 教わらなかったのである。

 

「通貨とはすなわち、信用や期待を形に表した物! あんたの労働力に対する信用と期待が、通貨の価値を担保するの。いくら学習能力がクソ雑魚ナメクジで、影分身を宝の持ち腐れにしているあんたでも、熟練すれば労働生産性は上がるわ。つまり、1Mという通貨価値は、上昇していくのよ!」

「学習能力クソ雑魚ナメクジって言った?」

「言ってない」

「言われたような」

「言ったわ! 事実ね!」

「嘘をつくなら、最後まで貫き通してくれ」

「うるさい!」

 

 カッと目を見開き、その場に仁王立ちするB子。

 完全な開き直りである。こうなっては、Mが何を言っても聞きはしない。

 Mもあんまり話を聞いていないので、おあいこであった。

 

 

「あたしは決めたのよ! これからは、未来の労働に対する対価という意味でM紙幣を発行する! そして、あんたが働けば、その分あんたが紙幣を受け取る。そしてあんたは、受け取った紙幣で女の子に貢ぐ」

「貢ぐの前提かよ」

「物をプレゼントしようが、直接お金を渡そうが、いずれにせよ小売店にM紙幣が回る。小売店が受け取った紙幣は、仕入れ先を経由して、あんたをコキ使うために使用される! つまりは、こういう形ね!」

 

 

 

  M ⇒ 女の子 ⇒ 小売店 ⇒ 工房、農場等 ⇒ M

             ↑

            B子(お金を発行して市場に流す係)

 

  みんなハッピー無限ループ! 

 

 

 

「ふふ……完璧なループね」

「一人、ループから外れた存在がおらんか?」

「我ながら、恐ろしい仕組みを作ってしまったわ」

「俺は、ナチュラルに人を馬車馬のごとく働かせようとしているお前が恐ろしいよ」

 

 必死に突っ込みを入れ続けるMだが、B子の心に届くことは無かった。

 興奮した彼女に、言葉など届かない。彼女の目を覚ますには、お金を目の前にちらつかせるしかない。

 だが残念ながら、Mはお金を所持していなかった。打つ手無しである。

 

 

「過去の歴史を振り返ると、限りある資源……金貨のような、それ自体に価値がある物を貨幣としたことはあった。あるいは、金と交換できる事を保障して紙幣を発行する、金本位制もあった。けれど、そのいずれも発行できる量に限りがあったのよ。けれど、これは違う! これは、あんたの持つ無限の労働力を価値に変えた紙幣! いわば、M本位制とも呼ぶべき制度! 時間と共に紙幣価値が上昇していく。こんなの、皆が欲しがるわ! いくらでも作って、いくらでもバラ撒けばいい。既存の通貨より強いのだから! 発行しすぎて市場の紙幣がダブついたら、あんたが働いて回収するだけ! まさに理想の通貨! これは、いずれ世界を支配するお金となる。間違いないわ!」

「俺の紙幣が世界を……!?」

 

 

 と。ここにきて、ようやくMは思い出した。

 そもそも、自分はなぜB子と話すことになったのか? 

 そうだね。術を封印されたからだね。

 

「ていうか俺、影分身の術、封印されてるんだけど」

「それについては大丈夫よ。だってあんたの術を封印したの、パパだもの」

「えっ、あれ里長だったのか?」

「気付いてなかったの?」

「だって、いきなり現れて速攻で去っていったし……」

 

 Mは、当時の状況を思い返してみる。

 本当に突然だった。

 突然目の前に、変態が現れたのである。

 覆面マントにパンツ一丁。具体的に言うと、ドラクエ3の勇者オルテガのような格好であった。オルテガについて知らない人は、google先生に聞いて確認してほしい。

 

 オルテガは、まさに変質者と呼ぶに相応しい格好をしていた。

 彼の子供ともなれば、真っ先に虐めの標的にされてしまうであろう。

 まともに生きるためには、強い心と強い体を持つしか無い。勇者オルテガの子供は、生まれながらに勇者となることが宿命づけられていたのだ。それは勇者の子供だからではなく、変態の子供だからである。

 

「そうか……お前が勇者だったのか……」

「勇者ってなに?」

「いや、それは言いにくいが……てかお前の父親、あんな憐れな姿してるの?」

「憐れとは何よ。まがりなりにも里長なのよ。かつて、七代目火影とも渡り合った、なんて話もあるぐらい有名なんだから」

「でも、変質者にしか見えないし……」

「まぁ、そうかもしれないけれど……」

 

 とはいえ、事情についてはわかった。

 里長は、娘のB子が変な事をしているので、止めに入ったのだろう。

 

「ともかく! 私がパパに頼んだら、封印もパパっと解除してくれるに違いないわ。まったく、ちょっと私に無視されたぐらいで子供の交友関係に手を出すなんて、幼稚にも程があるわね」

「いや、子供がよく分からん紙幣を発行し始めたら、止めるのが正常な大人な気はするが」

「M紙幣は、よくわからない紙幣なんかじゃないわ!」

 

 間違いなく、よくわからない紙幣であった。

 

 

「パパは、きっと里の運営がうまくいっていないから不機嫌なのよ。そもそもウチの里は今、とても不景気なの。里の収益源だったダイヤの採掘量が減ったせいで外貨が獲得できなくなって、市場が冷え込んでいるから……でも大丈夫! あんたが通貨になれば、お金の問題は解決する。あんたは、ダイヤの代わり……そう、里のダイヤモンドになるのよ!」

「まじかよ。俺がサトノダイヤモンドに……!?」

 

 ウマ娘プリティダービーは、ハーメルンにて最強。

 なお、筆者はサトノダイヤモンドガチャで爆死した模様。

 みんなも爆死してくれ。

 

 

「でもよ、B子! その制度、致命的な弱点がないか?」

「私の完璧な制度に、弱点は無いわ」

「いや、俺が死んだら制度崩壊じゃん」

「ふん、そんなこと」

 

 当然の疑問。だがB子は、それすら意に介さなかった。

 どんな強い人間でも、いつか死ぬ。それが自然の摂理である。

 だが。

 

「大丈夫よ。だって、あんた不死身だもの」

「は?」

「あんたの術は、普通の影分身じゃないわ。本体が無いのよ。分身の一人でも生き残っていたら、そこからまた増やすことができるの」

「俺はプラナリアだった……?」

「そしてあんたの体は、里の各地にある地下施設に凍結保存してある*2。術で凍結させると、細胞分裂も停止するから、寿命の問題も解決するわ! 完璧ね!」

「俺の分身に、人権は無いのか?」

「人権を主張してもいいけれど、人数分の税金は掛かるわよ。別にそっちでも里は救われるかも」

「あいつらに人権とか、いらねーっすわ」

 

 

 

 ひと通り、話を終えて。

 Mは目を閉じ天を仰ぎ、考え込む。

 

「うーむ、しかし」

 

 話半分に聞いただけのMだが、B子がやろうとしていることは、少しだけわかった。

 影分身の封印を解いてもらえるかもしれない、という事も。

 

「うーん」

 

 しかし、Mは思うのである。

 こいつとは、影分身の有無に関係なく別れた方が良いんじゃないかな。

 B子は、Mのことをお金の化身ぐらいにしか思っていない。

 

 

 そんなMの思考を読んだのか、B子がクネクネしながら近寄ってきた。

 不思議な踊りを披露する泥人形レベルの動きであり、色気など微塵もなかったが、B子は美少女である。いくら性格が悪く、高慢でわがままで優しさの欠片すら持たず、品性が下劣で欲望の塊な最悪生命体であろうと、見た目だけは可愛かった。

 

「ねぇ、いいでしょ?」

「うーーーん」

「協力してよ」

「うーーーーーーーーーーん」

「ねぇねぇねぇ」

「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」

 

 ぐいぐい寄せてくるB子。

 豆腐より軟弱なMの精神では、とても耐えきれない。

 Mは、押しに弱いのだ。

 

 迫るB子に対し、Mが発することができたのは、この一言だけだった。

 

 

「考えておきます……」

 

 

 こうしてMは、別れ話に失敗したのだった! 

 

 

 

*1
完璧な正解は、Mを相手にしないこと

*2
非常用の食料(魚)とセットで保管されています



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ハーレム一人目 その2

 

 

 翌日。

 Mは、鼻孔をくすぐる香りにつられ、目を覚ました。

 体を起こし、キッチンに向かう。どうやら、親友が朝食を作ってくれているらしい。

 

 Mに気付いた親友が振り返る。

 

「おはよう、M。別れ話は順調に進んだのか?」

「いや、保留になった」

「お前、何もできない赤ちゃんか?」

 

 怒りの色を僅かに滲ませつつも、親友は前を向いて料理を続ける。

 燻製肉と卵を使った、ごくごく一般的な朝食。あと数分で出来上がりそうだった。

 Mは棚から皿を取り出して、テーブルの上に並べた後、席に着く。

 

「いや、大丈夫だよ。よくわかんないけど、どうも俺の術を封印したのは里長らしくてさ。B子が、封印を解除してもらうよう頼んでくれるって」

「ええ……お前、よくわかんないうちに術を封印されて、よくわかんないうちに封印を解除してもらう流れになったのか?」

「どうやら、そうらしい」

 

 なんの脈絡もなくトラブルが舞い降りて、主人公は何もしていないのにいつのまにか解決する。

 こんな話が、数多の大人気小説が投稿されているハーメルンにUPなどされようものなら、低評価を喰らうのは間違いなかった。

 

 

「ま、Mの問題が解決したのなら良かった。さぁ、食事にしよう」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 しばらく無言で、料理を口に運ぶ二人。

 いつもならMがいらん事を言って会話が始まるのだが、この日のMは、珍しく口数が少なかった。

 彼なりに、思うところがあったらしい。

 

 

 狭い部屋。

 Mと親友、二人で一杯になってしまう程度の広さしか無い。

 小さい頃は暴れ回る余裕すらあったが、二人とも、大きくなった。

 

 窓から差し込む朝日が、二人に降り注ぐ。昔はもっと小さい窓しか付いていなかったのだが、二人で暴れた際に壁をぶち抜いてしまったので、せっかくだからと大きく作り直したのだ。

 

 鳥の声が聞こえた。何度追い払っても、なぜかこの部屋の外壁に巣を作ろうとするので、諦めて住まわせている。もう十年以上になるので何度も世代交代しているはずだが、この場所がお気に入りなのは変わらないらしい。

 

 Mは、全部覚えている。

 この世界に来てから、ずっと。

 Mは、この部屋で過ごしてきた。

 

 両親のことは、知らない。

 気付けば、この部屋に一人でいた。

 

 もし、誰もこの部屋を訪れていなければ。

 Mはずっとこの部屋の中で、一人でいたのかもしれない。

 

 

 

 食事のほとんどを終えてから、ようやくMが口を開く。

 

「……俺、昨日ずっと考えてみたんだけど。ハーレムってのも、大変なんだな」

「そうだな。きっと大変だ」

「みんな、何考えているかわかんないし」

「そうだな。君は、もう少し一人一人と向き合った方がいいかもしれない。大抵の人は、君みたいに身軽には生きていけない。色々抱えているんだ」

「一人一人のことを考えるのって、大変じゃないか?」

「大変だよ。たくさんの人を相手にそうするのは無理だ。まずは一人。君が知りたいと思える相手を、決める所から始めたらどうだ?」

「それが難しいんだよ……少し考えたけど、A子もB子も、俺のことを人間として見てない気がする。女の子ってこえぇわ」

「そうだな……いや待て。5000人中のツートップを、一般的な女の子のカテゴリに当てはめるのは止めろ」

 

 

 Mは、食後のお茶を飲み干した。

 あとは片付けをすれば、朝食タイムは終了。

 

 だが、足が重い。

 席を立てば、片付けをしなければならない。

 片付けをすれば、今日という一日が始まる。

 部屋を出て、色々やらなければいけない。

 

 なんだか、億劫だった。

 もう少しだけ、親友と一緒にいたい。

 何もせずに、だらだらしていたい。

 

 

 Mは、この世界で真剣に生きていこうという意欲が薄かった。

 むしろ、意識的に考えないようにしている節すらある。

 Mにとって、間違いなく現実。目の前に広がる世界。

 だが、妙に現実感がない。

 

 影分身の影響か。

 はたまた、前世の記憶を持つが故か。

 

 明日の朝、目を覚ましたら。

 周囲の全部が、消えて無くなっているのではないか? 

 そんな恐怖すらあった。

 

 

「疲れてるのかな……」

 

 Mはカップに口を付ける。中身は、既に空だ。

 少しだけ迷ってから、カップをテーブルに置く。

 喉が渇いていたわけではない。

 ただ、気を紛らわせたかっただけだ。

 代わりに首を上に向け、緊張をほぐしつつ考える。

 

 一時的にとはいえ、影分身が使えなくなったのは幸いかもしれない。

 何もしない言い訳になる。

 少しだけ。一人の人間として、ゆっくりしてみたい。

 ゆっくりしてみて、ほんの少しだけ。

 親友が薦めたように、真面目に誰かと向き合ってみるのもいい。

 Mは、そう思った。

 

 

「なぁー」

 

 親友に声を掛ける。

 幼なじみで、ずっと一緒だった親友。

 自分を部屋から連れ出してくれた人物。

 おそらく、Mのことを一番よく知っている人。

 

 もし、誰か一人だけ。

 この世界の中で、たった一人だけ。

 深く知りたい相手を選べと言われたのなら。

 

 Mは、()()を選ぶ。

 

 

「お前、おれと付き合わねぇ?」

 

 

 今まで"親友"という描写しかしていなかったが、Mの親友は美少女であった。

 ボクっ娘幼なじみの黒髪スレンダー世話焼き美少女系ヒロインであった。

 仮にこの物語が異世界チート転生二次創作の世界だったとしたら、大勝利間違いなしである。

 

 

 Mの言葉に、親友は体を一瞬硬直させる。

 だが、すぐ気持ちを落ち着かせた。

 どうせMは、深く考えて発言などしていない。

 そんなこと、わかりきっている。

 今までの経験から、彼女はそう判断した。

 

 彼女は思案する。

 はたして、どう回答するのが最適か。

 彼女にはわからない。

 今まで、こんな事を言われたことがなかったので、わからない。

 

「あー……」

 

 言葉が出ない。

 Mの方に目を向けても、Mは無言で彼女のほうをじっと見ているばかりだった。

 

「……んー」

 

 

 そうやって、しばし迷ったのち。

 彼女は、どう答えるかを決める。

 

 彼女が下した結論。それは、"保留"であった。

 彼女もまたMと同様、クソ雑魚ナメクジな恋愛経験しか持っておらず、有り体に言えば優柔普段。何も出来ない赤ちゃんであった。

 

 

 コホン、と。咳払いを一つしてから、彼女はこう答える。 

 

 

「……君がまじめに人と向き合う気になれたのなら、考えてやるよ」

 

 

 




A子もB子もMを手放さないため、この物語はハーレムです。


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