ヤンデレ妹のような何か (チベットスナたまも)
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兄と妹と
クーラーの効いた程よく涼しい教室内に授業の終了を知らせる鐘が鳴った。
「よっしゃ!購買行ってくるっ!」
「おぅ、行ってらー」
友人はいつも終鈴と共に購買に昼食を買いにすっ飛んで行く、友人の声が起爆剤になりざわつきが増した教室内でポツリと呟く。
「さて、トイレでも行って来るか…」
教室へ戻って来ると少女が一人、扉前で教室内を見回すようにして佇んでいた。相変わらず来るの早いな、まぁ良いけど、と心の中で独り言ち少女に話しかける
「ごめんごめん、ちょっとトイレ行ってた」
「なんで勝手に行くの…」
「いや、なんでって…」
またよく分からん事を仰る…と、何か言い返してやろうと思わんでもないがこんな時はさっさと話を逸らすに限ると少し早口で切り返す。
「そんな事より早く飯にしようぜ、ほら、もう腹減ってヤバいから」
そう言ってそそくさと自分の机と友人の机をくっ付け席につくが彼女は座ろうとしない。
「そっちの席に座って…」
「え?なんで」
「なんでも…」
彼女の言葉に理解の及ばないまま仕方なく自分の席から友人の席に移ると彼女は漸く席につき、弁当の入っているであろう巾着袋を二つ、机に置いた。
「いつもありがとな」
「うん…」
自分は感謝を伝えるのを忘れない男なのだ、と顔を綻ばせる彼女を見て少しだけ得意げになりながら昼飯にありつく。
「それにしても、もう一学期も終わるっちゅーに一緒に飯食う友達も居ないのか?」
「別にいいもん…」
「そんなんじゃボッチまっしぐらだぞ?高校生活初日から上級生の教室に突撃する度胸はあるくせに同級生に話しかける勇気は無かったのか?」
「……」
「ま、
柚子が黙り込んでしまった為少しだけ暗くなった空気のまま特にこれといって会話も無く昼休みが消化されていった。そんな中ふと思い浮かべたのはやたら声の大きい友人だった。
昼食を食べ終え睡魔との戦いに負けた結果気づけば帰りのホームルームの時間、放課後友人と遊びに行く事を思い浮かべれば途端に眠気が吹き飛び生き生きとし始める。どうやらそれは友人も同じようでソワソワした様子で話かけてくる。
「なんかお前と遊びに行くの久しぶりに感じるな、受験勉強って大変かなぁ?」
「まぁ、元々頭良くねえしそれなりに、いやめっちゃ大変だろうな、お前はどうすんだよ、もうそろそろ絞らないとヤバいんじゃないか?」
「いやぁどうすっかな〜お前と一緒んとこでも行こうかな〜」
「そうかい、まぁ俺も一つに決めた訳じゃないけど進学するなら勉強しとけよ」
「おーい、喋ってるといつまで経っても帰れないぞ!」
担任の先生に注意され今がホームルーム中である事を思い出し前を向くが意識は未だこの後何をしようかという事に向けられていた。最近バイトと勉強漬けだったのだ、これは仕方ない事なのだ許せ。と届くことの無い弁解をする。
ホームルームが終わり、さて遊びに行くぞと友人と教室を出ると柚子が廊下で待ち構えていた、余程急いで来たのかやや肩で息をしている様だ。が、今日は一緒に帰ることは出来ないのだと心を鬼にする。
「あー悪い柚子、今日このままコイツと遊びに行くから先に…」
「お兄ちゃん…」
「…ん?」
「約束したのに…」
はて?何かあっただろうかと記憶を探ってみるが中々思い出せずにいるとどんどん柚子の目付きが険しくなっていく。ゴメンて悪気は無いんだよ。
「あーなんだ先約があったんじゃねぇか?今日は柚子ちゃんと一緒にいてやったらどうだ?な?また暇が出来たら誘ってくれよ!」
「え、ちょ…」
「行こう」
友人がやけに態とらしく捲し立てたかと思いきやそそくさと走り去って行ってしまった。何が起きたのかと呆けている内に柚子に手を引かれ歩き出す。
真夏の太陽に焼かれやって来たのは駅近くのショッピングモール、駐輪場に自転車を停め火照った体を冷やそうと出入口から漏れる冷気に吸い寄せられて行く。
「あ〜涼しい〜」
「待って」
「ん?」
「…やっぱり何でもない」
「そうかい、先にアイス食べに行かね?」
「うん」
友人と遊びに行けなかったのは痛いが勉強漬けでないならなんでもいいやと、愛しのバニラアイスに思いを馳せ少しだけ上機嫌になった。
二人でアイスを受け取りフードコートの席に対面で座った。柚子は昔からあのパチパチの奴が好きだったが今も変わらないらしい。
「…はい、お兄ちゃん」
柚子のアイスを眺めてノスタルジーに浸っていると欲しがっているとでも思われたのかこちらへアイスを乗せたスプーンを向けてきた。ので遠慮なく頂く。
「うむ、美味い」
久しく食べていなかったが美味い、パチパチも中々やりおる。ま、バニラには及ばないが。と謎マウントをとっていたが虚しいだけなのでせっかくだからお返しをしようとアイスを柚子に差し出す。柚子は少しの逡巡の後カップを手に取りアイスを舐めとった。
「いやスプーンあるんだからスプーン使えよ」
「美味しい」
「いや聞けよ」
そんな事してたら友達に引かれるぞと言おうかと思ったがそういえば高校に上がってから柚子が誰かと遊びに行く所を見聞きした事が無いなと思いだす。やはり高校の皆と馴染めていないのだろうかと心配だ。
「なぁ柚子、学校辛くないか?イジメとか無いよな?なんかあったら直ぐ言えよ」
「大丈夫、心配ない…」
「そっか、なら良いけどさ」
こいつ人が真剣に心配してるっちゅうに呑気にアイス食ってニヤけてやがる、確かに湿っぽい態度が似合わない自覚はあるが心配なものは心配なのだ。杞憂だったのならそれに越したことはないが。それはそうと今のうちに今日の目的を聞いておくか。
「この後どこ行くんだ?」
「もうすぐ夏休みだから、水着、買いに行く」
「あ〜そういやそんな話してたような…てかそれ俺いるか?」
「いる…お兄ちゃんも新しいの買お…今年も一緒に行こ…海」
「まぁ行っても良いけど、瑠璃ちゃんとか誘うのか?」
「なんで瑠璃が出てくるの?」
急に声色が暗くなり明らかに不機嫌になってしまった。友達の名前が地雷なのか?と動揺せざるを得ない。何かあったのだろうか…
「え、なんでって仲良かったじゃんか、確か瑠璃ちゃん高校同じじゃなかったっけ?俺はあんま会わないけど」
「……」
「まさか瑠璃ちゃんとなんかあったのか?喧嘩とか…」
「別に、何も無い…」
「ホントか?さっきも言ったけど兄ちゃんホントに心配なんだよ、数少ない友達なんだから大切にしろよ?」
「…うん」
こりゃなんかあったんだな、と半ば確信に近い疑いをもつ。今度瑠璃ちゃんに聞いてみようか、いや流石に干渉しすぎだろうか?もうお互い高校生なんだし自分たちで解決してくれる事を願うか…
思わず思考の渦に囚われてしまった、柚子は兄離れ出来てないなと思っていたが自分の方こそ妹離れ出来ていなかったか、と自嘲気味な笑みが漏れる。
さて、現実逃避を終え目の前の水着売り場へと目を向ける、去年も一緒に来たはずなのだが思ってたより恥ずかしいのだ。なにより同じ高校の制服を来ているというのが非常に良くない、これが中学の制服なら兄妹で通ったかもしれないのに、と今更ながらここへ来たことを後悔していると声がかかった。
「お兄ちゃん…これとか…どうかな…」
そう言って柚子が持ってきたのはビキニタイプの黒い水着。
「いや〜兄ちゃん柚子にはそういうのまだ早いと思うなぁ」
「…じゃあお兄ちゃんに選んで欲しい」
「あ〜いや〜他に良いと思ったのとかないのか?」
苦しい言い逃れだ、しかし逃がさんとばかりに追い討ちがかかる。
「お兄ちゃんが選んでくれないならこれにする…」
「おーけー分かった!選ぶからそれは置いてきなさい…」
負けた、いやその水着が似合わないという訳ではないが柚子にはきっともっと可愛い感じのが似合うはずだ、決意を新たに重い足を動かす、またの名を諦めという。
「う〜ん…これは、どうだ?」
悩みに悩み抜いた結果行き着いたのはタンキニタイプのオレンジ色の水着、下はスカートになっていてフリフリがついてるやつだ。これなら似合うだろう、柚子の反応は如何に…
「うん、それにする」
よし、自分のセンスも捨てた物では無かったらしい僅かにだが柚子の口角が上がっている、気がする。漸くこの空間から解放される!
「じゃあお兄ちゃんのも見に行こう」
「いや俺は良いよ去年と一緒で」
「…行こう」
どうやらまだ続くらしい、適当に安いやつで済ませよう、だって柚子の水着高いんだもん…
会計を済ませショッピングモール内を歩く、柚子も機嫌が良いようだ自分もなんだかんだ良い息抜きになったし来てよかったと思う。
「他になんかあるか?」
「ん…特に…」
「そっか、じゃもう少しぶらついたら帰るか」
「うん…」
多くの客の喧騒で賑わうこの空間で二人の間にはなんとも言えない空気が流れる、ちぐはぐなようで、でもしっくりくるような、ただ、悪くはない、そんな空気。
今頭の中を支配するのは隣を歩く妹の事、これでは本当に妹離れ出来ないシスコン野郎だが全くもってその通りである、寧ろそれは当たり前の帰結なのだろう、なにせ世界でたった二人だけの兄妹で、相手は世界一可愛いと言っても過言ではない妹なのだ、これでシスコンにならない兄など居るだろうか?いや、居ないだろう。それだけに心配なのだ、本当に。
昔から妹は感情表現が乏しく人付き合いが苦手だった、小学生の時は周りに馴染めなくて寂しそうにしているのを見ていられなくて自分が半ば無理やり縁を作った、その時に出来た友達の一人が瑠璃ちゃんなのだがどうやらなにかあったらしいし、中学ん時は部活に入らないといけなくて自分と同じ部活にするんだと言い出して運動音痴な妹にバスケ部はキツいからと何度も説得したがどうしても聞き入れてくれず結局自分が折れてマンツーマンで練習したり女バスの皆さんに無理言って練習に参加させてもらったりした、あの時は頭のおかしい変態だのシスコン野郎だの色々言われたがそんな事気にしてられないくらい必死だった。しかし女バスで唯一瑠璃ちゃんは協力的に動いてくれて助かった、本当に心のオアシスだった事を思い出す。
そんな感じで寧ろ自分のほうから干渉していってた気がしないでもないがきっと気のせいだ。可愛い妹から頼られるのは兄としてこれ以上ない誉だが最近の妹は頼り方を間違えている気がして心配なのだ、自分が色々やり過ぎてしまったのだろうか、今後自分から離れていけるのだろうか、いや寧ろ自分が妹離れ出来るだろうか…ただ、一つだけ確かな事はある。
「何度もゴメンな、でもこれだけは言っとくけど、俺は何があっても柚子の味方だからな」
「……うん」
やはりなんとも言えない空気の中帰路へついた。
続けたい
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兄と妹と天国と地獄
朝日に瞼を擽られる様なウザったさに思わず腕が上がる、徐にもう片方の手を伸ばせば少し冷たいスマホが指先に触れる感触。寝惚け眼をこすりなんとか横目で見たのはスマホの無機質な画面。ここまでほぼ無意識である。再びスマホに目を向けると九時十分の表示。いつもより一時間程早い起床に眠りが浅かったか、と思ったが今寝てしまったら起きれない気がしたので活動を開始した。
「ぉはよぉ」
「…あれ…お兄ちゃん…おはよう…いつもより早い…ね」
柚子がキッチンで朝の支度をしていた、家の親は家を空ける事が多いのだが自然と柚子が朝の支度をしてくれるようになった、しかもいつも俺の起床に合わせて支度してくれるのでもう柚子には頭が上がらない。
「なんか目が覚めたから…起きた」
「ふーん…あ…お味噌汁直ぐ作るからちょっとだけ待ってて…」
「あー悪いな、急がなくて良いから気をつけてな」
そのままダイニングテーブルにつくと不意に、コトっと小気味良い音がなった。そう、俺がまた一歩ダメ人間へ近づいた音である。
「先にお茶だけでも…置いとくね」
「お〜ありがとぉ」
もう柚子無しじゃ生きていけないな…いや、いかん朝はどうしてもそんな感情が湧いてきてしまう。勿論柚子には色々言ってみたがキッチンへの道は守護されてしまったので仕方ない事なのだ…
待つこと数分、目の前には湯気立つ純白のご飯、そして俺の好物の一つお味噌汁、この組み合わせが最高なのだ。加えてブロッコリーとベーコンのホットサラダがさりげなく置いてある、この一品が実に有難い。
「いただきます」
美味いの一言に尽きる、せっかく早起きしたのだからゆっくり味わって食べよう。うん、美味い…自然と笑みが溢れてしまう。…ふと視線を感じ顔を上げると何が面白いのか柚子がじっと見つめてきていた。
「…美味しい?」
あぁ、そういう事か、俺とした事が忘れていた。
「美味しい」
いつも急いで食事を済ませ急いで支度してばっかりだったからかこの時間がとても尊い物に感じる、あぁここが天国か…こりゃ早起きもたまには良いなと思わせるには十分過ぎるほどに幸せな時間だった。
「それじゃ行ってきます」
「ん…行ってらっしゃい」
先程の天国から一転これからピークを迎えたファミレスという名の地獄へバイトに向かう。だがしかし英気を養った今の俺に不可能など無い。
「おはようございまーす」
「おはよう、今日朝からクレーム対応あってさ〜もうぐちゃぐちゃだよぉ…」
「それは…ヤバいっすね」
「隙見て中も手伝ってあげてー」
「あ、はい」
どうやら今日は本当にヤバいらしい…大天使ユズリエルの祝福を賜った俺でもヤバいかもしれん。なんて考えている場合ではないのでさっさと着替えて戦場へと向かった。
ところ変わってとある高校の体育館内、燦々と輝く太陽に照りつけられたそれは地獄の炎もかくやという程熱されている。そんな中バッシュの擦れる音とバスケットボールが床を叩く音がこだまする。
「瑠璃っ!」
ボールがアーチを描きパスが通る
「ヤバい!ヘルプヘルプ!」
パスを受けディフェンスを躱す
「ごめん!抜かれた!」
また一人躱す、リングは目の前、全身に力を込め跳躍する。
「行けっ!」
己の手から放たれたボールがリングに吸い込まれていった。
「ナイシュー!」
ブザーが鳴り響き、急速に五感を取り戻していく様な感覚を覚えた。久しぶりだ、そういえばこんな感じだったかも、と忘れかけていたものを少しだけ、思い出した気がした。
「おつかれーい」
「あ〜終わったぁ〜」
「てかまじで瑠璃ヤバすぎ」
「朝から極まりすぎだろ」
乱れた呼吸を整えつつ仲間のもとへ向かう。
よし大丈夫だ、アタシにおセンチなのは似合わないからな。
「いや〜ちょっとやり過ぎちゃったかなぁ〜ハッハッハ〜」
「ちょっととかいうレベルじゃねーだろお前」
「そッスか?先輩もディフェンス上手かったッスよ!ちょっとキツかったッス!」
「嫌味か!てかそこもちょっとかよ、ガチっぽくて笑えねえ…」
そッスね…ちょっと、物足りないッスね…
口の先まで出かけた言葉をなんとか飲み込んだ。
「あっちぃ〜死ぬ〜」
「はーいストレッチして終わるよー」
各々適当に散らばってストレッチを始めていく、自分も適当な場所でゆっくり筋肉を伸ばしていく。
「瑠璃さぁだいぶ髪伸びたよね、切らないの?」
「そッスねー、でもまだいいかなー」
なんとなく切ってないだけだから、その内切るよその内ね。
「誰かこの後どっか行かない?」
「あ、じゃあアタシなんか食べに行きたいッス」
「ウチも行こうかなー」
「自分も服見に行きたいかも」
服か、アタシもちょっと見に行きたいかも…今はどういうのが良いんスかねぇ、まぁ誰に見せるでもないケドな…
「よしじゃあ早く行こうもう暑すぎてヤバいッス」
「いや着替えるの早すぎだろ!」
「ちゃんとストレッチしたのかー」
「ちゃんとやったッス!」
「あーじゃあ今日は午後から男子来るからこのまま解散でいいよ」
「よし!皆早く行くッスよ!」
勢いよく駆け出して行った彼女を見た皆はその体力の多さに戦慄を禁じ得ない。元気なのは良いことだが些か元気が過ぎるのではないかと時々心配になるほどだ。
そして彼女は皆の心配をよそに自転車を漕ぐ、暑すぎて頭がどうにかなってしまいそうだったが目的地は目と鼻の先まで来ている。
「はぁ〜やっとついたッス」
「ひゃ〜混んでんねー」
「早く入ろー」
陽炎が燃え盛る炎天下から一転、店内の冷たい空気が五臓六腑に染み渡る。
「いらっしゃいませー」
やけに聞き慣れた声が耳に心地良い…
「あれ…瑠璃ちゃん?」
…て、え…
「お兄さん!?」
「おうおう、どした」
「瑠璃の知り合い?」
「え、瑠璃お兄さんいたの?」
何でここにお兄さんが?えここでバイトしてたの?マジ?ちょなんか気まずいてか恥ずかしいんだけど!
「あ、朝練終わり?お疲れ様、とりあえずめっちゃ混んでるから案内しちゃうね、四人でいいかな?」
「ハッそッスね!四人スよ!」
「かしこまりました、ご案内致します」
これは誤算ス…ここでお兄さんがバイトしてるなんて知らなかったッス…あ〜絶対コイツら根掘り葉掘り聞いてくるッスよ…
「お決まりになりましたらお呼びください」
よし、適当にいなしてご飯食べるッス
「ねぇさっきの人お兄さんなの?」
「あーいやアタシがそう呼んでるだけで友達のお兄さんス」
「はぇ〜大学生?」
「いや高3ス、同じ高校の先輩ッスよてかもう皆決めたんスか」
「ん〜ちょっと待って〜」
なんだ意外と興味無くすの早いな、なんて思ったのが間違いだった、コイツらがこの手の話題に食いつかないはずが無いと言うのに気が抜けていた。
「ご注文は以上で宜しかったでしょうか?」
「あ、はい」
「ごゆっくりどうぞ」
「あのすいません!お兄さんと瑠璃ってどういう関係なんですか…?」
は?コイツ今何を?バカか?暑さでおかしくなったッスか?
「え、ん〜強いて言うなら妹?みたいな感じかな、なんだかんだ小学生の頃から一緒だったし」
「じゃあ幼馴染的なあれですか?」
「あ〜そうとも言うのかな?」
「
「ヤバ、もう行くね!」
まさか直接聞きやがるとは思わなかったッス…どんだけ飢えてるンスか…
「全くお店に迷惑かけてどうするッスか…」
「え〜だって気になったから?なんか仲良さそうだったじゃん?」
「てか幼馴染なんだ!なんかそういうのって疎遠になっちゃうイメージあるけど仲良さそうだったね!」
「なんか幼馴染って良いなー」
そうか、アタシとお兄さんて幼馴染になるのか…イカン感傷に浸っている場合ではないコイツらはスグ茶化してきやがるからな、興味無さげな反応をしなくては。
「そッスかね〜言うてそれだけッスよ」
「え〜なんか無いの?こう、思い出話的な?」
「やっぱり幼馴染ってそういう目で見れないってマジなん?」
「まぁ瑠璃はバスケバカの脳筋だもんね期待するだけ無駄かぁ」
おい、最後のやつ後で覚えとけよ誰がバカで脳筋だコラ
「なぁんだ…それでもお前JKか!?」
「そうだぞ!こいつなんかなぁ気持ち悪い位青春してるぞ!」
「は!?今度はウチか?!なんも無いよ!」
「はぁ…」
なんだコイツら水を得た魚か…いやさしずめ恋バナを得たJK、か?
「シラを切るつもりかぁ?ネタは割れてんだぞ、お前いつもあの声デカい先輩の事見てるじゃねーか!そういう事だろ!」
「しかもやたら気持ち悪い声で喋りやがって!さっさと告って玉砕しろ!」
「はぁ!?ちげーし!?適当言ってんじゃねーぞ!」
「ちょ、皆声デカいッスよアタシの方が恥ずかしいっス周りのお客さん見てるじゃないッスか」
コイツ好きな人居たのか、全然知らんかった、てか多分あの人の事だよなぁ
「その先輩って三年の茶髪っぽい背が高い人ッスよね?」
「そうそう!」
「あの人お兄さんとめっちゃ仲良いンスよ、今度色々聞いてみようか?」
「えマジ?」
「やっぱそうなんじゃねーか!」
かしまし女子高生四人組はこの後も恋バナに花を咲かせ賑やかなお昼を過ごした。
「ふぃ〜もう入らないっス」
「よく食べたねぇ」
「ちょっと休んでから会計しようか」
「この後どこ行くー?」
膨れた腹をさすりながら顔を上げるとふと、兄の様に慕っている人が目に入る、彼がせっせとテーブルを片付け、接客している姿をつい目で追ってしまう。先程彼の口から出てきた“妹の様だ”と言う言葉に自分が本当に彼の妹だったら、等と想像してしまう。それも良いが…と想像しかけて頭を振る、違う、それはまだだ、まずは柚子をどうにかしないと。あーあコイツらは気楽で良いなーと友達に目を向けるとものすごいニヤついている。やってしまったかと思った時には時すでに遅し。
「ん〜?瑠璃どした〜?やっぱり気になるのか〜?ん〜?」
「…まぁ」
「「「…え?」」」
何とかしないといかんよなぁ…でも今は切り替えよう!ヨシ!
「だぁー!その話題終わり!会計行こ!ほらこの後どこ行くンスか!」
「お、おう…」
無理やり話をぶった斬り会計に向かう
「じゃお兄さん頑張ってくださいッス」
「ありがとう、あ、瑠璃ちゃんスマホ買って貰った?」
「え、うん」
「じゃあ連絡先交換しとかない?」
「あ、良いっスよ!ぜひぜひ」
予想外の収穫につい頬が緩む
「ありがと!あとこれからも柚子と仲良くしてやって欲しい、急にごめんね、柚子の事頼めるの瑠璃ちゃんしか居なくて」
「…もちろんッスよ!親友ッスから!」
「まじでありがとう引き留めてごめんねじゃまたね」
頼まれたからにはどうにかしないとなぁ正直アタシもお兄さんを頼るしか無いンスよねぇ…だって柚子があんなに拗らせてるとは思わなかったンスよ…
「ふっまぁ頑張れよ」
「なんスか急に気持ち悪い」
言われなくても頑張るっスけど…
とにかくあのブラコンモンスターを説得せにゃ話にならんのだがスグに突っぱねられてしまい現状取り付く島もないのだ。だがしかし今日エマージェンシーコールを手に入れられたのは精神的に有難い、最終手段だがその時はお兄さんに助けてもらおう。コイツらに相談するのももしかしたらアリかもしれないなと、心做しか軽くなった足取りで友達の輪に加わった。
「誰にも言っちゃダメッスよ!…特にお兄さんの妹さんには絶ッ対ッスよ!」
これが私の限界です
続くかな
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兄と妹と一日の終わり
静寂に包まれた部屋の中一人の少女がベッドに寝転がっている。我が物顔で居座っているが明らかに違和感がある、なぜなら部屋の中は男子の学制服や少年漫画など男物で占められているのだ。しかし少女は欠片も意に介した様子は無く自然な動作で窓へと顔を向ける。窓から覗く景色は闇に染まった夜空と僅かな住宅街の光、そのままヘッドボードに置かれたデジタル時計を見やるとおもむろに立ち上がり部屋を出た。
そして彼女はキッチンで調理中、兄の帰りを待っていた、早く帰って来ないかなとただひたすらそれだけを考えている、もはや瞑想の域に達するレベルである。そんな想いが届いたのか玄関からドアの開く音がした。瞬間彼女は手を止め駆け出した。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
兄の姿を見た途端無意識に吸い寄せられてしまう、抱きつきたい衝動をグッと堪える。邪険にされる事は無いだろうが疲れている兄を労るのが先だ。私はできる妹なんだと意識を強く持つ。
「お疲れ様…ご飯の支度済ませちゃうね…」
「あぁ、ありがとうそれじゃ俺はシャワー浴びて来ようかな」
「ん…着替えは置いてあるから」
この時期は帰ってすぐシャワーを浴びる事が多いから先んじて用意しておくのだ、既に兄の行動に関して兄より詳しい自信がある。
兄を見送り調理を再開する、今日の献立は豚の生姜焼き、にらたまのお味噌汁、昼間の内に作っておいたポテトサラダ、どれも兄の好物だ、きっと喜んでくれるだろう。そんな兄の姿を想像するとつい頬が緩む。夕飯の時間が楽しみだ。
「ふぃ〜さっぱりした…おぉいい匂い美味そうだな!」
「いっぱい作った…」
「早速いただきます!」
「ん…いっぱい食べて…」
兄の笑顔を見られるならそれだけで作った甲斐があったというものだ。
「うん美味い」
「良かった…」
やっぱり夕飯の時間が一番好きだ、兄と二人きりで誰にも邪魔されずに穏やかな時間を過ごせるこの時間が。
「そう言えば今日さ」
「うん…」
夕飯のとき兄はよく話かけてくれるが、ろくな返事も出来ないこの口が恨めしい、私は喋るのが下手だから話が続かないしすぐにネタも切れてしまう、そうすると兄の意識はスマホかテレビに向いてしまう、電子機器にすら兄を奪われてしまう自分が情けない。
「バイト先でさ瑠璃ちゃんに会ったよ」
「…」
またそれか…最近兄の口から良くその名前が出る。しかも今日は直接会ったらしい、流石に兄のバイト先にずっといる訳にはいかないからどうしても一緒に居られない時間がある。最近大人しいと思ったら私が兄から目を離す隙を窺っていたのだろうか。
「部活の友達と遊んでたみたいだよ」
「…ふーん、なんか言ってた?」
「いや忙しすぎて特に話せなかったからとりあえず柚子と仲良くしてねーとだけ言っといたよ」
「ん…」
彼女は現状一番危険度が高い、申し訳ないがもう仲良くできる気がしない。
「柚子は高校でバスケはやんないのか?あんなに頑張って上手になったのにさ瑠璃ちゃんも居るんだし」
「やんない…」
兄が居ないのだからやる意味がない、それどころか部活に入ったら兄と一緒にいられる時間が減ってしまう。私にとって最優先は兄だからそれ以外なんて二の次だ。
「そっか部活楽しいと思うけど…」
「お兄ちゃんと勉強してる方が良い」
「うーん柚子はもう十分過ぎるくらい勉強出来てるよ、たまには誰かと遊んでみたら?」
「…じゃあまた一緒にどっか行こ」
「あー、いやクラスの子とかさ」
前は二つ返事で一緒に出かけてくれたのに…どうしてだろう今は遠ざけられている気がする。何か気に障る事をしてしまったのだろうか、兄は私と違って昔から社交的で沢山友人が居るしこんな私と居てもつまらないのだろう。今まで無理して付き合ってくれてたのかもしれない。もしかしたら私は邪魔なのかもしれない。考えれば考えるほど悪い事ばかり想像してしまう。そんなはずは無いと自分に言い聞かせ兄に尋ねる。
「…お兄ちゃんは…私と居るの…嫌…?」
「急にどうした?そんな訳ないだろ」
「ホント…?」
「ホントだよ嫌な訳ない」
兄はこう言ってくれたがどうしても不安な気持ちが収まらない、でも何度も聞き返すのはしつこいと思われるかもしれない。結局胸の内にモヤモヤを抱えたまま不安は増すばかり。なにか確証を得られる物が欲しい、書面に起こしてもらうとか、録音させてもらうとか…でもそんな事言ったら気持ち悪いと思われるに決まってる、それは絶対ダメだ。兄を信用してない訳では無いが何故か悪い事ばかり考えて不安になってどうしたらいいか分からなくなってしまう。縋るような気持ちで兄を見ると手を止めて何を言おうかと悩んでいる様だった。
「柚子が何を思ってそんな事を聞いたのかは分かんないけど兄ちゃん柚子の事嫌なんて一度も思った事無いしこれからも無いからな絶対。まぁそんな訳だからとりあえずご飯食べよ、めっちゃ美味いよ柚子の作ってくれたご飯。」
「…うん」
その後食卓には静かな時が流れていた、珍しく兄はテレビもスマホもつけず食事をしていた、時折美味いと呟いていたがその顔は心做しか暗い様な気がした。何かあったのだろうか心配だ。
そのあとは手短に入浴を済ませリビングに戻ってきた、するとまた珍しいことに兄がリビングのソファでスマホを眺めていた。いつもならこの時間は部屋に戻っているはずなのに。しかしこれはまたとない機会、正しく僥倖である。迷いの無い足取りでソファへと向かい兄のすぐ隣に腰を下ろした。
「そんなにくっついたら暑くならない?」
「大丈夫…」
「そっか」
兄はSNSを眺めているみたいだ、特に嫌がる素振りは無いので今のうちに兄の温もりを堪能しておく。ちょっと寄りかかってみたり、さりげなく顔を近づけて兄の匂いを嗅いでみたり、兄の手に自分の手を重ねてみたり、普段出来ないことが色々出来る。永遠にこの時間が続けばいいのにと思っていると、やけに兄の反応が鈍いというよりもほとんど無い事に気づく。
「お兄ちゃん?」
「ん…?」
「眠い?」
「うーん…」
どうやら眠気が限界ギリギリだったらしい、しかしソファで寝かせる訳にはいかない私では兄を運ぶ事は出来ないので何とか動いてもらうしかない。
「お兄ちゃん、部屋行こ」
「うーん…」
私の手を取って何とか立ち上がりすり足で歩く兄、なんだか兄がおじいちゃんになってしまったみたいだ。ヘロヘロになった兄のお世話をしながら何とか兄の部屋へと辿り着きベッドに寝かせる。今日は珍しい事が続いて兄とたくさん触れ合えたからか気分が高揚している気がする、今ならいつも出来ない事が出来るかもしれない。
「お兄ちゃん…」
「ん〜?」
「今日…一緒に寝ていい?」
「うーん」
「……」
「……」
…肯定でも否定でもない曖昧な返事、でもちゃんと確認したし一応返事も帰ってきたから良い…って事でいいのかな。ちょっとずるい気がするがそういう事にしよう。多分、大丈夫。そうと決まれば早速ベッドに入り込む、兄と一緒に寝るのはすごく久しぶりだ、ちょっとだけドキドキする。大きくて暖かい兄の手を握る、小さい頃からずっと私を守ってきてくれたこの手が大好きだ。あどけない表情で寝息を立てている兄を見る、兄は昔からころころと表情が変わる、兄の笑った顔が私は一番好きだ、でも困った顔も怒った顔も大好きだ。兄の全てが尊くて愛おしい。大好きで愛してる。自分が異端な事はとっくに理解しているがそんな事は関係ない、兄は自分の全てで自分の生きる意味だ。だから…どこにも行かないでほしい…誰にも渡したくない…ずっと一緒がいい。
「おやすみ…お兄ちゃん…大好き…また明日」
次はいつになるかな
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兄と妹とテスト勉強
ある日の放課後、たくさんの本に囲まれた窓から覗くのは生憎の空模様。普段は閑散としているはずのその場所は、珍しくペンを走らせる音やページを捲る音がわずかに、だが絶えず聞こえてくる。その日はさらに珍しい事に落ち着きのおの字も知らない嵐のような男が静かに机と向き合っていた。
「あーそろそろ休憩しないか?」
「何言ってんだまだ10分位しか経ってないだろうが」
「マジかよとっくに1時間は経ってると思ってた」
「精神と時の部屋かここは、じゃなくて、言い出しっぺが早々に諦めてどうする…」
この日は柚子と、ではなく珍しく親友と勉強をしている、しかも勉強嫌いの親友の方から誘ってきたものだから驚いたが、やはり長続きはしなかった。さてどうしたものか。
「いいのか?高校生活最後の夏休みが補習でなくなっても…」
「ウッ」
とは言ったものの実際俺らの頭じゃ進学するとしたら夏休みのほとんどを勉強に費やす必要がありそうだがそんな事言うだけ損だ、今は目先の事に集中してもらおう。
「お前よくお世話になってたもんな…」
「ウッッ」
「まぁそういう事だ、観念してペンを持て」
「そうだよなぁ流石にそろそろ真面目にやるか」
なんとかやる気を持ち直した様だ。柚子の誘いを断ってでもこちらに来たのだから有意義な時間にしなければ柚子に申し訳ない。しかし丁度良く瑠璃ちゃんが柚子に一緒にテスト勉強しようと言ってくれたのはラッキーだった、そうでなければきっと柚子はテコでも動かなかっただろうから。
こうして無事問題を解決し次なる問題へと意識を集中させた。
住宅街の一角を二人の少女が並んで歩いている、その字面だけを見れば華のある光景が思い浮かぶかもしれないがしかし、片や正に不機嫌ですといった表情、片やその雰囲気に押され萎縮している様子で険悪一歩手前な状況。その空気に耐えられなくなったのか意を決して少女は口を開いた。
「柚子さんや、そんなにプリプリしてちゃ可愛いお顔が台無しっスよ」
「………」
「あの、まだご機嫌ナナメですか?」
「…………」
「えっと、もうそろそろ着きますんで…って何度も来てるんだから分かるか」
不穏な空気を漂わせながら二人は目的地であろう二階建ての小綺麗な一軒家へと入って行った。
「ただいまー、ママー今日柚子来てるからー」
「お邪魔します…」
二人が家へ上がると目鼻立ちの整った利発そうな女性が柔和な笑みを浮かべて迎え入れてくれた。
「おかえり〜…あらあら柚子ちゃんいらっしゃい!久しぶりね〜!中学校の卒業式以来?セーラー服も可愛いかったけどブレザーも似合うじゃない!」
その女性は穏やかな雰囲気とは裏腹に仏頂面をした少女を見るなり目の色を変えてまくし立てるように喋り始めた。
「ぁ…ど、どうも」
「ちょっとママ?」
「やだごめんなさいね、久しぶりに会ったものだからつい喋りすぎちゃったかしら?じゃおばさんは退散するからお兄ちゃんにもよろしく言っといて」
「はいはい今日は柚子と勉強するんだから、さっアタシの部屋行こ」
二人はそそくさと二階へ上がって行く、それを嬉しげに見送る女性は僅かに憂いを帯びた表情をしていた。
「ふ〜、適当に座ってー」
「ん…」
「よっこいしょ…お菓子とジュース持ってくるからちょっと待っててー」
部屋に入って私はベッドに腰掛けてひと息ついた。瑠璃はローテーブルを出してすぐ下へ行ったようだ。瑠璃の部屋に入ったのはいつぶりだろうか、なんとなく落ち着かず周囲を見回してみる。整頓されて綺麗に見えるが多分ものが少ないのだろう、パッと目に入ったのは隅に置かれたバスケットボール。瑠璃もお兄ちゃんに影響を受けてバスケ部に入ったんだっけ…しっかりとは覚えてないがそんな感じだった気がする。せっかくお兄ちゃんが二人きりで練習してくれてたのにいつもくっついてきて鬱陶しかったのははっきり覚えてる。お兄ちゃんが友達は居た方が良いと言っていたからなんとなく付き合い続けてるがさっさと縁を切るべきだったかもしれない。中学に入ってからお兄ちゃんと一緒に居る時間がめっきり減ってしまった、現に今だってそうだ本当はお兄ちゃんと勉強しようと思ってたのに…。
「おまたー、はいどーぞ」
「ありがと…」
来てしまったものは仕方ないから今日は付き合うしかない。明日以降はお兄ちゃんと勉強すると約束したから今日一日の辛抱だ。
「さぁて、やりますかー」
「ん…」
私と瑠璃は各々ノートやプリントを出し始めた、瑠璃の事だから最初はグダグダするのかと思ったが素直に勉強するなんて珍しい。高校に上がって真面目になったのだろうか。私はもう高校で学ぶ範囲は大体理解出来ているのでノートを開くだけ開いて晩御飯は何にしようかと冷蔵庫の中身を思い出しながら瑠璃の持ってきたカラフルなチョコに手を伸ばした。そういえばお兄ちゃんに何時頃帰るか聞くの忘れてた、ラインしておこう。ついでに晩御飯何がいいか聞いておこう。
三十分程経っただろうか、暇だったのでチョコを頬張りながら時折瑠璃の方を見ていたのだが進みがとても遅い、お兄ちゃんと勉強するのを諦めてまで来たというのにやる気が感じられない、なんだか見てたらイライラしてきた。
「ねぇ…ちゃんとやってる?」
「ぅえ?やってるよぉ…」
「全然進んでないけど」
「……あきた、かも」
正直そんな気はしてた、瑠璃は昔からこんな感じだったから今更怒りはしないが、このまま無為に時間を浪費するのはいただけない。
「…分かんない所あるなら見てあげるから、そっちよけて」
「あーい」
二人並んで勉強を再開すること一時間と数十分、二人とも疲れがきたのかどちらからともなく手を止めて雑談に耽り始めた。
「柚子はさぁ、もうバスケやんないの?」
「やんない」
「楽しいよ?」
「別にいい」
「そっか…」
僅かに訪れた静寂から逃れるように少しだけ前のめりに喋りかける。
「夏休みになったらさ、また海とか行こうよ、あたしと柚子とお兄さんの三人で」
「…お兄ちゃん今年受験だから」
「あーお兄さんは忙しいか、じゃあ二人でプールでも行くか、あ!あとキャンプとかもしてみたいっスね!」
「…考えとく」
「約束ッスよ!」
「行くとはいってないけど…」
会話が途切れるとタイミングを見計らったかのように電子音がなり、少女は待ってましたと言わんばかりの勢いでスマホをとった。
「私もう帰るから」
「えーもうちょっとゆっくりしてったら?」
「そんな暇ない」
「そ、そっか…じゃ見送りだけ」
あっという間に帰り支度を済ませ早足気味に玄関へと向かっていった
「あら、柚子ちゃんもうお帰り?」
「あ、はいお邪魔しました」
「またいつでもおいで」
「あ、はい」
「じゃ柚子また明日ね」
「ん」
友達を見送り一人佇む少女は独り言ちる
「また三人で遊びに行きたいッス…」
願わくばこれが独り言で終わらぬように
また忘れた頃にやってきます
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兄と妹とご褒美と罰ゲーム
ちょっと短いです
ごめんね
「期末テストで学年一位だったらご褒美が欲しい」
柚子と一緒に自室で期末テストの範囲を復習している時不意に柚子の口からこぼれ落ちたひと言。ハードル設定が明らかに高い気がするがなんと中間テストでは柚子が全教科満点というぶっちぎりの一位だったので本人としては普通なんだろう。我が妹ながらそのスペックの高さに戦慄を禁じ得ない訳だが、その実積み重ねた努力が報われた結果でもある訳で、つまり兄としてはそんなささやかなお願いをきかない訳にはいかないのである。
「ご褒美?例えば?」
「例えば…」
果たして柚子は何を所望するのか、欲しい靴や服でもあるのだろうか、自分に出来ることならなんでもしてあげるつもりだが。
「…お兄ちゃんとお出かけしたい」
「…他には?」
「…一緒にご飯食べたり」
「うん」
「…一緒にお買い物したり」
うーん、果たしてそれはご褒美と言えるのだろうか?いや俺が奢るまでがご褒美という事なのだろうか?柚子は昔から物を欲しがらない子だったから我慢を強いてしまっているのではないかと心配になる事もあったが最近はむしろ本当に物欲が備わっているのか心配になるレベルだ。しかし出かける事が柚子にとってご褒美になるなら喜んで付き合おう。
「ちなみに何か欲しい物とかないのか?」
「……」
「なんでも良いぞ?」
「なんでも…」
ちらちらとこちらを横目に見ながら悩む素振りをみせる柚子、やはり何か欲しい物はあるのだろうが、そんなに言い出しづらい物なのだろうか。
「今は…思いつかない」
「そっか」
そんなに遠慮しなくてもいいのだが、あまりしつこく追求しても嫌がられるだろうから柚子の気持ちを尊重しよう。
「じゃあ学年一位とれたら一日柚子のやりたい事をしよう、その日は空けとくから」
「ほんとに…!」
「ああ、なんでも付き合うよ」
「……!!!」
明らかに柚子の目の色が変わった、立ち上るオーラを幻視するほどの気迫が柚子から発せられている。人が変わったようだとはまさにこういう事を言うのだろう。
「あの、やっぱり今日は自分のテスト勉強してもいい?」
「あ、うん全然良いよ、いつも悪いな」
「うん」
そう言い残して柚子は自分の部屋へと帰っていった。もはや柚子に勉強を見てもらう事に何の抵抗も無くなっている事にふと、気づいてしまった。最初は恥ずかしさやら情けなさで葛藤があったというのに今や当たり前になってしまっていた。いや、これは仕方ないことなのだ、なにせ俺と柚子ではおつむの出来が違いすぎる、適材適所というやつだ。
ちっぽけなプライドにお別れを告げて一人勉強を再開させた。
「ねぇねぇ、期末テストで一番順位低かったやつなんか罰ゲームしよう」
「いいよー」
「いんじゃね?」
「マジっスか」
あ〜ぁまた余計な事を…さてはこいつちょっと自信ありげだな、まぁビリじゃなきゃいいんだし、なんとかなる…。
「なにする?ジュース奢りとか?」
「うちアイスがいい!17でも31でもいいよ」
「それはちょっと高くないスか?スーパーのアイスとかなら…」
「ありよりのあり」
さすがに31はヤバいって、コイツら平気でトリプルとかいくだろ…いや、まだあたしが奢ると決まった訳ではないけど。
「ちゃんと勉強しよー」
「ま、数学8点とか取らなければ大丈夫っしょ」
「それな」
「いやいやあれは事故みたいなもんッスよ!不慮の事故ッス!、あたしだってやればできる子だし!」
くっそぉ馬鹿にしやがって…でも事実だから何も言い返せない……てかさすがに8点てヤバいッスね、どこからどうみてもただのバカ……真面目に勉強しよ。
「じゃビリの人がアイス奢りって事でおけ?」
「オッケーちょっとやる気出たかもー」
「いいっスよ」
「おけおけ」
やや不純な動機に競争心を煽られた彼女たちは賑やかな雰囲気から一転して真面目に勉強し始めたのだった。
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