とあるオタク女の受難(ジョジョの奇妙な冒険編)。 (SUN'S)
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ファントムブラッド
第1話


○月%日

 

早朝、今日もお父様に付き添う。

 

お父様の日課とも言える狩りは、私には退屈で野蛮なものでしかない。こんなことなら遠縁のパーティーに参加しておけば良かった。

 

そう私が心の中で後悔しているというのに、お父様はジョージ・ジョースターと楽しげに語らっている。彼の息子も紳士を目指し、この狩りに付き添っているそうだ。

 

こんな逃げ惑うキツネをひたすら追い詰め、一方的に殺すようなものをスポーツとする殿方とは絶対に私は結婚しない。

 

私の決意なぞ露知らずにお父様とジョースター卿、ジョナサン・ジョースターは楽しそうに談義し、お父様はジョナサン・ジョースターへ猟銃の使い方を手ほどきしている。

 

ただの一度だって私には教えてくれず、お母様のように美しく育ってくれと走ることさえ禁止したお父様に手ほどきを受けるジョナサン・ジョースターを見つめる。

 

○月₩日

 

お昼頃の出来事だ。

 

お父様とジョースター卿が談義しているところを屋敷の二階から眺めていると、いきなり目の前にジョナサン・ジョースターが現れた。

 

どうやって来たのかと問う。

 

木登りという樹木を登る遊びをしていたときに私を見つけ、そのままやってきたと教えてくれた。君もするかい?と手を差し出すジョナサン・ジョースターの誘いを断る。

 

もしもお父様に見つかったら怒らせてしまう。そうジョナサン・ジョースターに伝えると、少し悲しそうに顔をうつ向かせるように落とした。

 

でも、私を誘ってくれて、ありがとう。

 

そう彼に伝える。今まで屋敷の執事や給仕婦、それとお父様としか話したことがなかったから新鮮で楽しかった。

 

私の言葉に首を僅かに傾げるジョナサン・ジョースター。なにか私は変なことを言ってしまったのだろうか?と心の中で落ち込む。

 

○月£日

 

ジョナサンと文通を始めた。

 

お父様の「まだ婚約者は早いんじゃないか」と言う言葉に気恥ずかしさを感じる。きっと、これが友達が出来たことの喜びなのね。

 

そうお父様に話す。すると、何故かちょっと困ったように笑っている。また、私は変なことを言ってしまったのだろうか。

 

お父様は優しく私の頭を撫でる。お母様に似せた髪型を崩さぬように、まるで一摘まみの宝石を触るように、私の事を撫でてくれる。

 

ジョナサンにやったようなワシャワシャと撫でても大丈夫だと言っても淑女の髪を弄り回すのは紳士に非ずと呟き、その代わりと言い、私を優しく傷つけないように抱き締めてくれた。

 

それから誕生日には早いけど。

 

外国の、東洋の書物をプレゼントしてもらった。お父様や殿方達の使うステッキとは違った形状のものを使った護身術を記したものだ。

 

これはなんて読むの?とお父様に問う。

 

お父様は文字の配列や文章が入れ替わっていると驚き、私は突然、全ての文字が読めるようになったことに驚く。さっきのは一体、なんなのだろうか。

 

そう私が呟くと書物が文字の配列を入れ換えて、さっきとはまるで違う文章になっている。お父様は魔女の書物かと警戒しているけど、もっと別のなにかのように思えてしまう。

 

 



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第2話

○月∞日

 

先日、お父様に戴いた奇妙な本。私が読みたいと考えると、表紙も文章も変わり、その本と寸分違わず同一の存在になるのだ。

 

お父様は捨てなさいと言うけれど。私はお母様譲りと言われるほど本を読むのが好き。この不思議な本をお父様が選んだのは運命としか思えない。

 

こっそりと夜に読んだ時、私の知らない東洋の書物に変わった。タイトルは読めなかったけど、その内容はハッキリと読むことが出来た。

 

それは必要な時だけ行く事の出来るお店。そのお店の店主、それとモンスターの見える青年の物語。今まで読んできた物の中で一番面白い。

 

いつか私も行ってみたい。

 

そう思えるほど本の内容に引き込まれ、気がつけば夜明け前だった。あの時、お父様を心配させてしまったので、この本を読むのはお昼頃だけ。

 

お父様もその約束に納得している。私を愛しているからこその厳しさだと爺やは言うけれど、本当はお母様のように私の身体が弱いからでしょう?

 

そう爺やに問えば悲しげに笑う。

 

○月∀日

 

お父様との食事は退屈だ。

 

少し食べただけでお腹は膨らむのに、お父様は残してはいけないと言うのだ。お父様は交易によって知り得た東洋の漢方、食べることで健康になるものを実践しているのだ。

 

私のためを思ってお父様は高いお薬を買ってくれるけど、そのお薬の量や苦さで不安になってしまう。それほど私の身体は弱いのだろうか。

 

ジョナサンと木登りする約束を果たすことは出来ないのだろうか。そう考えれば考えるほど私は心が折れそうに、寝てしまったら二度と起きれないのではと考えてばかりだ。

 

そんな私の不安を感じ取ったのか。

 

あの奇妙な本は独りでにページを動かし、私の不安や恐怖を打ち消す、とても素敵で幸せな物語を読ませてくれる。

 

きっと、この本は沢山の人を幸せにしてきたんだろうと表紙を撫でる。もしも私が子どもを産めたら、その子にも素敵な本を読ませてあげてほしい。

 

○月≠日

 

ジョナサンと久しぶりと挨拶を交わす。ジョースター卿はお父様と交易の話、つまりお仕事の話で忙しそうだ。でも、そのおかげで私はジョナサンとお話しするこもができる。

 

彼の話は面白い。

 

ジョースター卿に買って貰った犬のお話は羨ましく、私もダニーに会ってみたいと思えるほど素敵なことばかり。

 

そうジョナサンに言うと屋敷の外にいるんだと言って、私の手を引いて外へ向かう。お父様に言わないといけない。そう心で思う反面、外に行ってみたいと思う。

 

ほんの少しだけとお庭に出て、ジョナサンのところへ駆け寄ってくるダニーを見る。まだら模様の凛々しい犬だ。私が触ってもダニーは平気?とジョナサンに聞く。

 

すると、ジョナサンはダニーは優しいと言う。

 

私もダニーに目線を合わせて、少しだけ触ってもいい?と問い掛ける。わん、と一度吠えるとダニーは私に頭を差し出してくれた。

 

毛並みは柔らかくて温かい。

 

よしよし、と頭を撫でる。ジョナサンのように上手く撫でられているのかは分からないけど、ダニーは楽しそうに吠える。

 

 



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第3話

○月ゐ日

 

早朝、お父様と食事をする。

 

少しだけ多く食べれるようになった。そうお父様に指摘されて嬉しい反面、淑女としてはしたなかったかもしれない。

 

そんな恥ずかしさで顔をうつ向かせる。

 

お父様は食べるのは良いことだと言うけれど。私がお父様はふくよかになっても良いの?と聞けば少し悩んで、お母様のように可憐で美しくなってほしいと言った。

 

私もお母様のような淑女になりたい。

 

でも、私に残っている時間は幾らなのか、それは分からないもの。そうお父様に伝えると泣きそうになりながら私を抱き締めて、二度とそんなことを言わないでくれと懇願される。

 

お父様、ごめんなさい。

 

それに私もお母様のようにお父様みたいな人と結婚したい。そう告げるとジョナサンか?と聞かれ、彼は優しいけれどお父様とは違うもの。

 

なぜかホッと息を吐くお父様に首を傾げ、どんな人なら良いの?と聞けば立派で家族思いな優しい人を選びなさい。

 

そう私に言うお父様は苦しそうだ。どこか痛いの?と聞くよりも前にお父様は書斎へ残っているお仕事を片付けに行ってしまった。

 

○月÷日

 

ジョースター卿が恩人の子どもを引き取ったというお話をお父様がしていた。ジョースター卿は優しく聡明な殿方だ。

 

ジョースター卿のお屋敷は遠く、こちらへ来るのは一年に数回ほど。お父様から出向くときはあるけれど、私はお屋敷に残ってお父様の帰りを待つ。

 

お父様のいないお屋敷はいつもより広く、爺やがいてくれるのに怖いと思ってしまう。恐怖をまぎらわすため本を読む。

 

おちゃめな動物と小さな女の子のお話。その女の子の寝室の床下から現れる不思議な動物たちと遊び、時には喧嘩して楽しく過ごしている。

 

私の寝室に床下の隠し部屋はないけれど。この本を読んでいる間だけ、私も動物たちと遊んでいる気分になれる。

 

○月ヰ日

 

早朝、お父様が帰ってきた。

 

しかし、お父様はジョースター卿が引き取った恩人の子どもに私を会わせるつもりはないというのだ。どうして?と聞けば野心家の目、それも他者を利用することに躊躇のない人物だと教えてくれた。

 

お父様にはそれが分かるの?

 

そう問えば少し悩んでお仕事の話、交易の損得を差し引いても彼のような目をした人物と関わって成功したり、なにかを得た人はいない。

 

お仕事をしていると色々な事がわかるのね。お父様は笑みを浮かべ、私が大きくなったら手伝ってくれるかい?と聞いてくる。

 

私はお父様のお仕事を手伝えるのだろうか。でも、お父様とは一緒にいたい。不安はあるけれど、私は頷いて手伝いたいと伝える。

 

お父様は嬉しそうに笑って私を抱き上げる。この姿を見られるのは恥ずかしいけれど、お父様に抱っこされるのは子どもの時以来…。

 

高くて怖いわと嘘をついてお父様に抱きつき、たったの一日だけど。お父様と離れていた分の時間を取り戻すように甘える。

 

私は淑女でありたいけど、お父様には甘えたい。

 

 



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第4話(ジョナサン・ジョースター)

ある日の出来事だ。

 

父さんのハンティングに付き添って出会った少女は触れれば壊れてしまいそうなほど儚げだった。彼女は父さんの友人の娘で心臓に重い病気を患っているそうだ。僕が彼女と会える機会は少なく、翌日の昼に外を眺める彼女を驚かせたのが初めての会話だ。

 

彼女と会うのは決まって彼女の寝室。紳士としてレディに失礼の無いように語らう。少し世間知らずなところのある彼女は僕の話を聞くたびに驚き、すごく瞳を輝かせて聞いてくれる。

 

しかし、その素敵な時間も長くは続かなかった。

 

父さんの恩人の息子であるディオ・ブランドーを見た彼女の父親が警戒心を剥き出しにしたのだ。一度として怒ったところの見たことのなかった彼女の父親が、まるで肉親の敵を見つけた時のような、そんな顔でディオを睨んだ。

 

「ジョジョ、どうたんだい?」

 

「…いや、なんでもないよ」

 

僕の顔を見て首を傾げるディオ。僕よりも礼節を正しく知り、父さんの厳しいレッスンも楽々と乗り越える彼を追い越すため、僕は密かにレッスンの内容を反復練習している。

 

それを知っているのか。ディオは定期的に部屋にやって来て、僕の部屋に飾ってある写真や本を読みながらレッスンする僕を見てくるのだ。

 

「なあ、ジョジョ。この子は誰なんだ?」

 

ディオの呼び掛けに気がつき、後ろに振り返る。彼女から届いた手紙を、ディオは勝手に開けた。ショックを受けると同時に、まだ自分が読んでいないものを先に読まれたことを悲しむ。

 

冷静さを取り戻すため呼吸を整え、ゆっくりとディオと向き合って彼女について話す。納得したのか、興味を無くしたのか、僕に手紙を渡して部屋を出ていくディオを見る。

 

「なっ、こ、これは!?」

 

手紙に視線を戻した僕は「お父様のお仕事を手伝うためにそちらへ行きます」という最後の文章に喜びを感じつつ、ディオが僕よりも先に手紙を読んだことを思い出す。

 

もし、もしも、ディオが彼女と話したら僕なんか忘れられるじゃあないのか?とてつもない不安を抱きながら手紙の返事を書く。

 

彼女は僕が守らなくてはいけない。

 

そう考えながら彼女と歩く姿を思い浮かべる。

 

いや、彼女の父親がそれを許すとは思えない。僕と彼女、それに付き添う彼女の父親と僕の父さん、そんな構図が出来上がるだろう。

 

だが、それも美しい光景だ。そこにディオも加われば、僕を貶めようとしないディオが混ざれば、どれだけ幸せなことか!

 

「ダニー、お前も会いたいのか?」

 

そっと床に横たわるダニーを撫でる。わん、と嬉しそうに吠える。あのときの彼女は生き生きとして、とても素敵だった。

 

 



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第5話

○月ヴ日

 

はじめて、お父様のお仕事をお手伝いする。ジョースター卿や漁師たちと会談をするお父様の傍らに座り、彼らの話を丁寧に書き記す。

 

他の人達も私を見習って付添人に書くように指示している。お父様が会談の主要を押さえ、お話の重要なところを纏めてくれる。

 

我々の考えに民衆の考えを取り入れるのはどうだろうかと話すジョースター卿の提案は画期的で、お父様もそのお話に賛同する。

 

他の人達もジョースター卿の提案を受け入れ、私は会談のお話をすべて纏めたものをお父様に手渡すと、良くできたと頭を撫でて褒めてくれた。

 

これからもお父様のお仕事をお手伝いします。そう伝えるとお父様は笑ってくれる。まだまだ、分からないところは多いけれど、お父様のために私は一生懸命がんばります。

 

お父様はそれは頼もしいなと笑う。むーっと頬を膨らませ、私だってお父様の役に立てるもの、そう言っても優しく撫でてくる。

 

もっと撫でてくれないと許しません。私の言葉にお父様は笑って抱き上げると頬を擦り合わせて、お髭を押し付けてくる。

 

もう、くすぐったい。

 

○月⊂日

 

ジョナサンと久しぶりと挨拶を交わし、他愛もないお話をしていると彼の後ろから金髪の少年が現れた。ああ、この人がお父様の言っていたディオ・ブランドーなのね。

 

そう心の中で納得し、彼とも挨拶を交わす。礼儀作法はジョナサンよりも上手く、彼のお話は面白いのに値踏みするように私を見る目が怖い。

 

一刻も早く彼から離れたい。

 

ジョナサンに別れを告げて、お父様の待つホテルへと早足で帰る。あんな冷たくって、なにを考えているのか分からない目を見たのは初めてだ。

 

私は彼が怖くて走ってしまった。

 

そのせいなのか、胸が痛くて仕方がない。

 

もう、だめ……。

 

○月←日

 

私が目を覚ましたのは病室で、お父様は一睡もしていないのか少し窶れている。私が怖くて走ったりしたせいで、心臓に負担を掛けてしまった。

 

お父様は謝ってくれるけれど、悪いのは私なのだから叱ってほしい。私が生きていられるのはお父様とお母様のおかげだもの。

 

そう伝えると涙を流しながら二度と走るなと叱ってくれた。はい、私はお父様の言う通り、どんなことがあろうと走りません。

 

私の言葉を聞き終えたお父様は医者を呼んでくると言い残し、病室を出ていってしまった。ぽつん、と独りだけの病室は少し怖いけれど、すぐにお父様とお医者様が来てくれる。

 

私の部屋をノックする音に気づき、ドアに視線を向けると私と変わらない年頃の看護婦見習いの女の子が入ってきた。

 

いったい、どうしたのだろうか。

 

そう疑問を抱きつつ、お話を聞けば飲み水を代えに来てくれたそうだ。ありがとう、これは貴女が持ってきてくれたのね。看護婦見習いさんとお話ししているお父様が戻ってきた。

 

またね、と手を振って別れを告げる。

 

お父様の見守る中、お医者様の診察を受け、私の心臓はお父様が危惧したようにお母様と同じ病気を患っていることが判定した。

 



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第6話

○月≦日

 

いそいそとカートを押しながら病室へやって来たエリナ・ペンドルトンから食事を受けとり、今日もありがとうと伝えて、外の楽しそうな声を聞きながらパンを千切って食べる。

 

お父様のお仕事の成功を祈って、お父様やジョースター卿からのお見舞い品を眺める。その中にジョナサンのものはなく、代わりにディオ・ブランドーのものがあるのだ。

 

しかし、どれもこれも着飾るようなものばかり。私はネックレスやイヤリングはお父様のお願いでつけるつもりはないので箱の中には仕舞っている。

 

私は栞を挟んでいた本を開き、今朝の続きを静かに読む。この本の秘密はお父様と私しか知らない。そして、本当の使い方は私だけしか知らない。

 

この本は読み手に物語の力、才能を与える。

 

そのデメリットは不明、それでも私に走れる力を与えてくれた。私の何かを代償としているのか、あるいは何も必要としないものなのかは分からない。

 

○月⇔日

 

早朝、お父様が病室へ来てくれた。

 

お仕事は滞ることなく終わり、ジョースター卿に現場の指揮を頼んできたと教えてくれた。私の頬を撫でながらお家に帰ろうと言うお父様に従う。

 

お屋敷を出るときはお父様や爺やと一緒にします。でも、お屋敷に帰る前にエリナにお別れを言ってもいい?と聞く。

 

少し悩むようなそぶりを見せて、あまり身体を動かさないようにと言って車椅子を押してくれる。本当なら車椅子に座る必要なんてないけれど。

 

お父様との走らないという約束を守れるのなら、これも必要なことだと割り切れる。ただ、お父様に押してもらうのは申し訳ない。

 

そう伝えると問題ないよと笑って、パタパタと小走りで働くエリナを引き留めて、退院とお別れの挨拶を交わし、また会おうねと約束する。

 

エリナは寂しくなるけど、退院は良いことだから気を付けてねと抱き締めてくれた。うん、エリナも怪我や病気をしないように気を付けてね。

 

○月$日

 

今朝、爺やからディオ・ブランドーから手紙が届いていますと教えてもらった。私に付きまとっているのか、自分の汚点を消そうとしているのか。

 

それは分からないけれど。

 

一度会って話したいと書かれている。彼と、ディオ・ブランドーと会うのは怖い。でも、手紙を送ってまで話したいことがあるということは、重要な、とても大事なお話があるのではないだろうか。

 

しかし、私は彼に会いたくない。爺やに相談して公共の場所、人の行き交う場所を指定する。私の付添人は爺やがしてくれる。だが、もしものためにと爺やが護身用に何かしら持つべきですと言う。

 

確かに爺やの言う通りだ。

 

それでも人と話すときに危険なものを持つなど淑女として、それだけは絶対に有り得ない。それに、私の傍には爺やがいる。だから、なにがあっても私は安心して話し合える。

 

 



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第7話

○月¶日

 

ディオ・ブランドー。ジョースター卿の恩人のご子息で、ジョナサンとは犬猿の間柄、その彼が私の目の前に座って紅茶を飲んでいる。

 

私は呼吸を整えて彼に用件を問う。

 

かちゃり、とティーカップを置いたディオ・ブランドーは私とジョナサンの関係を聞いてきた。質問を質問で返すのはいけないことだも思いながら彼の問いに友人ですと答える。

 

少し眉をつり上げて訝しげに私を見た後、私の問いに彼は答えた。言い訳や表向きの心配を言い繕っているが、彼は私が自分と話した後に急に倒れたんじゃあ目覚めが悪い。

 

そう言っているのだ。私が分からないと思っているのだろうか。悟られないように怒りを押し込めて、ディオ・ブランドーの話を聞く。

 

ジョナサンは嘘つき。ジョナサンはチクり。私の後ろの席に座って控えている爺やも不機嫌そうに顔をしかめている。

 

爺やは小さな頃のジョナサンを知っているからこそ嘘つき呼ばわりされたことに怒り、ディオ・ブランドーに怒りの矛先を向けている。

 

○月¢日

 

私のところへダニーがやって来た。ジョナサンが書いては捨てていた手紙を届けるために、手紙の内容は私の身を案じる言葉ばかり。

 

そこにエリナと出会ったこと。彼女と楽しく過ごしていることが書かれている。もしもダニーが手紙を持ってきてくれなかったら分からなかった。

 

ありがとう、ダニー。

 

よしよし、と頭を撫でながらダニーの身体についた土や泥をタオルで拭う。爺やにあまり動いてはと心配される。ダニーも爺やの方へ行ってしまう。

 

私は悲しいけれど。

 

爺やもダニーも心配してくれているのだから仕方がない。そっとダニーから離れて、お湯やタオルで洗われるダニーを眺める。

 

気持ち良さそうに顔を緩め、爺やの持ってきたお水を美味しそうに飲んでいる。もう、触っても平気ですよと爺やに言われ、私はダニーに抱きついたりしながら撫でる。

 

○月¥日

 

誰もいないことを確認して、私は本から『超回復』という一文を栞に書き加えて抜粋する。その栞を枯れた花に挟み込む。

 

どういう原理で、そうなるのかは不明だ。

 

しかし、この本から『文章』を取り出し、別のものに挟み込めば、その通りになる。お父様にも教えていない本の秘密を、私は何故かジョナサンのところへ帰ろうとするダニーにも挟んでしまった。

 

私が本の使用法を知ったこと。それが影響しているのかは分からないけれど、ずっと読めずにいた表紙のタイトルも読めるようになっている。

 

いったい、どこの国の本なのか。それは分からないままだが、私はこのレヴィー・ブレイクの持ち主と認められた。

 

きっと、そういうことなのだろう。

 

そう私は納得して本を閉じる。

 



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第8話(ディオ・ブランドー)

ジョジョの友人を名乗る忌々しい女のせいで、俺は不快な気分を味わっている。あの女は、このディオを見るなり逃げるように帰った。

 

そのせいで病気が悪化した。それでは俺が何かしら彼女を傷つけたと思われるっ!そして、このままではジョージ・ジョースターにすら警戒されかねん。それだけは何としても避けなければいけない。

 

まったく忌々しい。

 

さっさと病魔に蝕まれて死んでしまえっ!いや、それだけでは腹の虫が治まらない。ジョースターと同じく、あの忌々しい女と婚約して、二つの家を支配すれば良いのだ。

 

その頃には女も病で死ぬ。もし生きていたとしても親父と同じように毒を盛ればいい。

 

〈五日後〉

 

ふん、憎たらしい女だ。

 

俺の手紙や贈り物への返答は一つもない。ジョジョにいたっては手紙を書いては引き出しに入れ、いっこうに手紙を送ろうとしない。

 

えぇい、なんだ、あの体たらくはっ!

 

ふと気がつけば俺はよりにもよってジョジョなんぞに「手紙を書いたのならさっさと送れば良いだろう、それともお前は意気地無しのはな垂れか!」と訳のわからない言葉を掛けていた。

 

これは、いったい、どういうことだ。

 

あの女と二人で会ってからというもの、俺の意思(・・・・)とは関係なく言葉を発する。あの時、あの女になにか仕込まれたのか!?

 

ジョジョのやつは人が変わったようにすり寄ってくる始末だ。このままでは、俺がっ、このディオがっ!ただの意地っ張りで友達思いの甘ったるいやつに思われるではないか!!

 

「ディオ!君のおかげで彼女から手紙が届いたよ。ありがとう、君がいて良かった!」

 

「えぇいっ!そう近寄るな、お前がすり寄ってくると犬も寄ってくるのだ!」

 

「はははっ、ディオは相変わらずダニーが苦手なんだね。それなら心配ないさ、ダニーは絶対に噛んだりしないよ!」

 

そうではない、そういうことではないのだ!!俺はお前と仲良くするつもりも犬と馴れ合うつもりもない。おい、やめろ、俺に抱きつくんじゃあないっ!

 

〈七日後〉

 

これで、ようやく元通り。

 

ジョジョの大事な犬を箱に詰めて焼却炉へぶち込んだ。ジョジョのやつも絶望し、脱け殻になるに違いない。そう思っていたのに、なぜ犬が生きているのだ。それも火傷一つない。

 

まるで最初から焼却炉に入っていなかったようだ。いいや、そんなはずはない。たしかに、俺は犬を入れたはずなのだ。

 

わ、わけが分からない!

 

まさか、あの女は魔女だったのか。そうでなければ辻褄が合わない。しかし、そんな存在がいるとは考えられない。くそ、何もかもが忌々しい。

 

「ディオ、ダニーったらすごいんだぜ。このボールを投げたら前足でキャッチするんだ!」

 

「それは、すごいじゃあないか」

 

俺だけでなく犬にも何かしたのか!?

 



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第9話

○月Ω日

 

あれから数年の月日が経った。

 

ジョナサンとディオ・ブランドーは以前よりも仲良くなり、ダニーは会談にいた殿方の飼っていた犬と結婚し、私のところに蝶ネクタイをつけて着飾ったダニーとジョナサンたちの写真が送られてきた。

 

ジョナサンの傍らにエリナも写っている。

 

なぜ、ディオ・ブランドーが悪意を潜めているのかは不明だけれど。今は素敵な一時を過ごせていると考えれば、そう悪いことではない。

 

私はあの頃と変わらずにお父様と一緒にいる。

 

それに最近はお見合い話が舞い込んでくる。尤も私の〈レヴィー・ブレイク〉によって本性をさらけ出すのでお見合いは一度も成功していない。

 

なにより彼らは遺産目当てで、私は死んでも構わないと宣う。お父様が許すはずもなく私は独身のまま平穏に生活している。

 

その結婚(婚約者としての)申し込みの中にディオ・ブランドーがいたときは心底驚いたけれど。私がそれを知るよりも前にお父様がディオ・ブランドーの申し込みを断っている。

 

○月♭日

 

ジョナサン・ジョースターとディオ・ブランドー。二人の卒業式を拝見するため、お父様に無理を言ってしまった。少しお父様と口論になったことを悔やみながら車椅子を動かす。

 

お父様の言いつけを守っていたせいか。

 

私の下半身、とくに両足はまともに立てないほど筋肉が衰えてしまい。誰かに押してもらうか、自分で動かすしか移動する手段がない。

 

しかし、それも悪くないと思える出来事はあった。それが、いつだったかは覚えていないけれど。私がお父様につれられてお屋敷の外へ出たときだ。

 

運悪く物取りの人質にされ、お父様も警察の方々も膠着状態で何も出来ずにいたときだ。彼は颯爽と現れたかと思えば物取りから私を助けてくれた。

 

私はお父様や彼のような男性と結婚したい。そうお父様に伝えたときはすごく辛そうだったけれど。きっと、私は彼に恋をしている。

 

○月∥日

 

お父様がジョースター卿の回復を願って集めたお薬は、いっこうに効果を発揮することなく。むしろ悪化させてしまっているように思える。 

 

私の〈レヴィー・ブレイク〉の能力では回復力や免疫力を一時的に向上させることしか出来ない。だが、何もせず見ているよりはマシだ。

 

そして、なによりジョナサンが解毒剤を探しに行っている。彼なら見つけられる。何一つ、彼の行動を肯定できる根拠はない。それなのに私は彼がお薬を見つけてくると確信している。

 

ディオ・ブランドーにいたっては夜間だというのに出歩き、ジョースター卿を心配させている。二人の外出は偶然とは思えない。

 

おそらくジョナサンは何かしら解毒剤の手がかりを見つけて、それを確かめることでお薬を手に入れる算段なのだろう。

 

だが、ディオ・ブランドーはどこへ行った。彼の性格からして逃げるとは思えない。彼もまた何かをしていると考えるべきだ。

 

 



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第10話

○月ゑ日

 

私は恐ろしい。

 

人間を超越する、そう言ったディオ・ブランドーは弾丸に撃ち抜かれたというのに死なず、本当に人智を越えた何か(・・)になってしまった。

 

そして、私の〈レヴィー・ブレイク〉は抜粋した『文章』を直接埋め込まなくてはいけない。幸運にも、そう本当に幸運なことに、ジョースター卿が死ぬ前に能力を使えたのは良かった。

 

あと数分、私が人前で能力を使うのを躊躇っていたらジョースター卿は死んでいた。ジョースター邸が燃える最中、私はジョナサンがディオ・ブランドーを女神像に突き落とすのを見た。

 

これで終わったの?

 

そう私が呟くと同時に窓を突き破って出てきたジョナサンに這いずりながら近づき、『重度の』火傷を『軽度の』火傷にすり替える。

 

よかった、生きてる。

 

○月<日

 

私はロバート・E・O・スピードワゴンと一緒にジョナサンのお見舞いへ向かう。少し渋さの増していたので、切羽詰まっていたので私もあの時の彼だと気がつかなかったけど。

 

こうして、また会えて嬉しい。お父様は破落戸と言うけれど、私はロバートが好きなのだから仕方がないと諦めてほしい。

 

ジョナサンの病室の前で止めてもらう。ロバートが不思議そうに首を傾げるので、ドアの隙間を指差す。部屋の中を覗いたロバートも納得する。

 

もう、ジョナサンたらエリナと会えたことが嬉しくて怪我しているのも忘れてるわね。でも、その気持ち、私も分かるから今は帰りましょう。

 

そうロバートに伝える。彼も同感らしくクールに去るぜとお見舞いの品をドアノブに引っ掛け、私の車椅子を押しながら病室を後にする。

 

エリナとジョナサンは結婚するのかな?と考えながら車椅子を押すロバートを見る。

 

○月→日

 

ジョナサンのところへ石仮面の秘密を知る男の人が現れたそうだ。ロバートも彼の話を聞くために出ていってしまった。

 

私も彼に着いていきたいけれど。まともに歩けないようなか弱い女が来るんじゃあねぇぜと言われ、私はお屋敷に残っている。

 

ジョースター卿はお屋敷の再建築が終わるまで、お父様と一緒に緑豊かな土地で療養生活を送るらしく、お屋敷には私しかいない。

 

どうして、そのことを知っているのか。

 

それは分からないけれど、私の目の前にディオ・ブランドーがいる。私と同じように車椅子に座り、私に〈レヴィー・ブレイク〉を使って治療しろと言うのだ。

 

その代わりに永遠の若さをやろう。私は若さに興味もなければ永遠なんてものもいらない。さっさと出ていかないと『死』を挟み込むわよ。

 

こんなハッタリが彼に通用するとは思えない。だが、ロバートが言ったように、まともに動けない私では彼を倒すなんて絶対に不可能だ。

 

私が素早く動けてディオ・ブランドーに触れることが出来れば良いのだが、如何に〈レヴィー・ブレイク〉が『加速』『高速』を抜粋したところで、私の両足じゃあ動きを制御することが出来ない。

 

 



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第11話

○月Å日

 

早朝、ジョナサンの修行を見学する。

 

かつてチベットで会得したとに語るウィル・A・ツェペリの言葉に耳を傾けながら、私の〈レヴィー・ブレイク〉とは違うと認識する。

 

ツェペリ男爵の話す内容。それこそ波紋とは人体の未知の部分を使う独自の鍛練をクリアしたものにしか扱うことは出来ないのだ。

 

その波紋エネルギーを生み出す源こそ呼吸だ。波紋エネルギーは血液の流れを利用し、血液の流れは波となって波紋を起こす。

 

そのため波紋エネルギーの要となる喉や肺、心臓は最も重要な器官だ。私も使えれば手助けになれると考えたけれど、私の心臓では戦うことも波紋エネルギーを生み出すことは出来ない。

 

だが、その原理は理解した。

 

ジョナサンの助けになりたいと言うロバートの肉体に〈レヴィー・ブレイク〉で『波紋を起こす呼吸のやり方』を挟み込めば良いのだ。

 

私はエリナに頼まれていたお弁当の入ったバケットを川辺に置き、ツェペリ男爵にも私のお屋敷で作ったサンドウィッチがあるので宜しければ食べてくださいと伝える。

 

○月ヱ日

 

ツェペリ男爵はロバートが波紋を使えるようになったことに驚きつつ、戦力が増えるのは有り難いとジョナサンと一緒に修行をつけている。

 

私もディオ・ブランドーの痕跡を調べながら、目撃情報のあったところへ赴き、痕跡や不可解な出来事の有無を尋ねる。

 

おおよそ分かった事は車椅子の男と、それを押す東洋人に出会ったらミイラにされるという噂話だ。それも若く美しい女性ばかりを狙い、ほとんどの女性が家から出なくなってしまった。

 

そう私に教えてくれたお爺さんは杖をつき、裏路地へ入ったかと思えば忽然と消えた。

 

まるで最初から居なかったかのように、もしや彼もディオ・ブランドーの被害者の、そう考えたがお爺さんの話と辻褄が合わなくなる。

 

私はジョナサンたちへ知り得た情報を渡すため、車椅子の車輪に『加速』を加える。馬よりは遅いけれど、普通に押し動かすより早い。

 

○月μ日

 

ジョナサン、ロバート、ツェペリ男爵、彼らを見送るふりをして〈レヴィー・ブレイク〉を使う。本から抜粋するのは『今の死という運命に逆らい、死は一度だけ未来へ失われる』だ。

 

人体の秘められた能力を使えるとはいえ傷つけば死んでしまう。だからこそ私は一度限りの命(・・・・・・)を無理やり繋ぎ止める鎖を三人に挟み込んだ。

 

そう、この『文章』の力は凄まじく、ほんの数秒前に失われた生命なら繋ぎ止められるのだ。私がジョースター卿を救った時のように、この『文章』を挟み込めば彼らは生きて帰ってくる。

 

私に出来るのはこれだけだ。

 

どうか無事に帰ってきて……。

 

 



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第12話(ウィル・A・ツェペリ)

私は幸運にもタルカス鎖に分断されることなく(・・・・・・・・・・・)、ジョジョへありったけの生命の波紋を流し込むことが出来た。

 

吸血鬼ディオによって甦ったブラフォードをジョジョが打ち倒し、無数の屍生人を私とスピードワゴンで露払いしていたといえ彼の成長には驚かされてばかりだ。

 

「ツェペリさんっ、目を、目を開けて下さい!」

 

「しっかりしろ、ツェペリのおっさん!」

 

彼らの騒々しくも私を心配する声を聞き、僅かながらに目を開ける。よかった、生きている。そう安堵する声とは裏腹に、私はまだ波紋の呼吸を練ることは出来ること、この程度の浅い呼吸では奴らを倒す威力は出ない。

 

この先に待ち構えているであろうディオを倒すため、死地へと二人を送らねばならないことに気が重くなる。ゆらりと覚束無い足取りで立つ。

 

しかし、スピードワゴンに肩を借りなければ歩くことも儘ならない。

 

「ジョ、ジョジョ……、私の波紋は君の中でかつてないほど燃えたぎり迸っている。スピードワゴンとともにディオを、石仮面を破壊するのだ!」

 

私の言葉に「あんたを置いていけるわけねえだろ!?」と反論するスピードワゴンを押し退け、ジョジョへディオを倒せるのは君だけだと告げる。

 

我が師トンペティの占いは当たっている。おそらく、あのお嬢さんが私たちになにかを仕込んでいたのだろう。

 

私が生きているのはそのおかげだ。

 

〈一ヶ月後〉

 

私は言葉に従ってウィンドナイツ・ロットへ向かったジョジョたちは我が師に出会ったそうだ。私の親友のダイアーはディオの片腕と片目を奪い、誇り高き最後であったと知らされた。

 

そして、今日はジョジョとエリナお嬢さんの新婚旅行を見送る日だ。スピードワゴンは、あの時のお嬢さんに捕まり、一応は観念して恋人になったというのはジョジョから聞いた。

 

「ツェペリさん、来てくれたんですね!」

 

「ああ、当然だとも」

 

私と握手を交わすジョジョは一月のうちに、また大きく成長したように思える。やれやれ私も歳を取ったものだ。そう思っていると慌ただしく車椅子を押しながら走ってくる男が見えた。

 

「待ってくれよ、ジョースターさん。せめて挨拶ぐらいさせてくれ!!」

 

自らをお節介焼きと自称し、そのとおり我々の戦いにまで着いてきた男、ロバート・E・O・スピードワゴンがジョジョたちに花束を差し出す。

 

「ありがとう、スピードワゴン。あの時、もしも君がいなかったらどうなっていたことか」

 

「よ、よしてくれ。おれは、あんたらのためなら世界の裏にだって行くつもりなんだ。そんな小さなことを感謝してもらいたくてした訳じゃあないぜ」

 

「それは頼もしいな」

 

二人の会話を区切るように船員が乗客へ声を掛ける。私たちも二人から離れ、若人の素晴らしき人生への門出を願って祝福の拍手を贈る。

 

 



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戦闘潮流
第13話


◇月∬日

 

早朝、アタシの部屋に小包が届いた。

 

差出人はロバートお祖父ちゃんか。

 

また、変なものを送ってきたのか?と同封の手紙にお祖母ちゃんやママの持っていた「本」を送ると書いてある。

 

アタシのお祖母ちゃんは不思議な力を持っていたそうだが、本当なのかは不明だ。少なくともロバートお祖父ちゃんはアタシの怪我を治したり、アタシを抱えて水の上を歩けたりする。

 

もちろん、アタシには出来ない。

 

しかし、どうして、こんな本を送ってきたんだ。なんにも書かれていない上、ヘンテコな〈レヴィー・ブレイク〉ってタイトルが書いてあるだけだ。

 

ただ、この本をママが持っていたというのには興味がある。あの寂しがり屋で、意地っ張りなママの持っていた本だ。

 

きっと、お祖母ちゃんの力の秘密が隠されている。そんな予感がアタシの中に生まれ始めている。そう、これは運命的に出会った男女のように、アタシはこの本を持っていなくてはいけない。

 

◇月℃日

 

アタシのところへロバートお祖父ちゃんが死んだという話が届いた。しかし、あの何をやっても死ななそうなお祖父ちゃんが死ぬとは到底思えない。

 

おそらく身動きが取れなくなっているか。

 

どこかで変な遺跡や土地を探検しているのだろう。そうでなければ本を送ってきた意味を聞くことは出来ないし、アタシをアメリカへ呼び戻した理由も全てが分からないままだ。

 

ロバートお祖父ちゃんの友人。エリナお祖母ちゃんのいるレストランに向かう途中、すごく昔に見たことのある後ろ姿を見つけた。

 

ふーん、あいつも来たんだ。

 

ちょっと嬉しくなりながら走る二人を小走りで追いかける。アタシの心臓はママやお祖母ちゃんと違い、そこそこ丈夫なとのなので小走り程度ならオーケーだと主治医のおっさんも言っていた。

 

鉄骨の柱に寄りかかって溜め息を吐くジョセフ・ジョースターの右肩に手を置き、久しぶりねお兄ちゃんと声を掛ける。

 

数秒、数十秒、アタシの顔を考えるジョセフお兄ちゃんにアタシのことを忘れたのかと頬を引っ張りながら文句を言う。まったくもうエリナお祖母ちゃんに告げ口してやろうか。

 

◇月∴日

 

ジョセフとエリナお祖母ちゃんと別れて街を歩いていると見たことのある男がいた。ロバートお祖父ちゃんと一緒にメキシコへ行っ男だ。

 

いや、きっと他人のそら似だ。アタシが見たのは初老のおっさんだった。あんな若くてハンサムな顔の男じゃあなかったはずだ。

 

そんなことを考えるアタシの目の前にやって来た男は、いきなり掴み掛かってきたかと思えば、お祖母ちゃんの名前を呼んだ。

 

そして、あろうことか。

 

アタシの持つ「本」を奪うと宣言した。つまり、これはロバートお祖父ちゃんの話してくれた五十年前の名残ってやつだ。

 

アタシのお祖母ちゃんとお祖父ちゃんが手助けしたという吸血鬼退治の続きだ。ただの冗談だと思っていた話は、アタシへの警告でもあったんだ。

 

それじゃあ、アタシがロバートお祖父ちゃんの仕事を、吸血鬼退治を引き継いでも良い訳だ。そっとジャケットの裏に仕舞っていた本を取り出す。

 

お祖父ちゃんの仇、取らせてもらうわよ。

 



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第14話

◇月×日

 

まったくジョセフのヤツは大袈裟だ。ほんのちょっと怪我したぐらいで騒ぎ立てて、波紋というものを使って怪我を治してくれた。

 

それに関しては感謝するが、アタシのお腹に触ったのは許さない。ビンタ一発で済んだだけ有り難いと思ってほしいものだ。

 

だが、それにしてもだ。アタシのところへ来たのがゾンビで、ジョセフにはストレイツォ本人が行ったのには納得できない。

 

そうジョセフに文句を言う。すると、自慢げに俺ってば優秀だからね、なんて嫌みったらしいセリフを吐くので脛を蹴る。

 

ロバートお祖父ちゃん、アタシが仇を取った訳じゃないけど。安らかに眠ってくれ、今後の石油王の座にはアタシがいるからさ。

 

アタシの決意を遮るように、口に手を当ててきたジョセフが小声でロバートお祖父ちゃんは生きている可能性があると教えてくれ、ちらりとジョセフを見上げながら、さっきのセリフは内緒で頼む。

 

そう伝えた。

 

◇月〓日

 

すごく暑い。

 

ジョセフとのメキシコ旅行、もといロバートお祖父ちゃんを連れ帰るためにやって来たのは良い。あと少しで馬の飲み水を使いそうになったジョセフを止められた。

 

それに意外と気さくな人たちにガソリンと食べ物を別けてもらえた。アタシがいるのはサイドカーだし、時おりジョセフに飲み物をストローで吸わせたり、香ばしい燻製の干し肉を与えているだけ。

 

さほど窮屈という訳でもない。

 

ただ、トイレの有無は心底呪った。ジョセフはイチイチ借りにいくなと言うが、あいつはレディをなんだと思っているんだ。

 

ふと視線を感じて後ろに振り返る。サボテンとマントらしきもの以外なにもない。いや、こんな砂漠のど真ん中にマントがあるのは不自然だ。

 

そうジョセフに伝えると面白いことを思い付いたように急カーブを決め、マントを轢き潰した。若干、車体が浮いたような気もするが、とくに何事もなく進むことになった。

 

◇月+日

 

アタシの着替えを勝手に使い、あろうことか女装して忍び込もうとするジョセフに呆れる。波紋砲、テキーラヴァージョンと格好をつけるジョセフの背中を叩き、軍人のふりをさせる。

 

まったくアタシの服だぞ。

 

ああ、ウエストの部分が無理やり広がったせいで着れない。ロバートお祖父ちゃんをジョセフに助けたら新しいのを買うように叱ってもらおう。

 

そう心の中で考えつつ〈レヴィー・ブレイク〉を取り出し、ジョセフとともにロバートお祖父ちゃんのいる場所を探しに基地へ侵入する。

 

一歩間違えれば銃殺刑だが、うちの大切な家族を取り返すためだ。その辺は大目に見てもらえるように取り計らって、真摯に説得するとしよう。

 

 



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第15話

◇月∇日

 

ドイツ軍は選択を間違えた。

 

この生き物だけは目覚めさせてはいけなかった。

 

ハッキリとアタシの中の生存本能がそう言っている。ロバートお祖父ちゃんを抱き起こし、ジョセフに逃げようと言うもふざけるばなりで、アタシの声に耳を傾けようとすらしない。

 

そして、なによりジョセフの蹴りをゴムのように受け流し、巨漢のジョセフを吹っ飛ばすパワー。アタシの力では到底叶わないだろう。だが、アタシは兄貴分を見捨てるほど怖がりじゃあない。

 

ロバートお祖父ちゃんの制止を振りきってサンタナの前に飛び出す。お祖母ちゃん、ママ、アタシに力を貸してほしい。

 

アタシの願いが通じたのか、この本が勝手に動いたのかは分からない。しかし、アタシの手がサンタナを壁にめり込むほど吹っ飛ばした。

 

この〈レヴィー・ブレイク〉は使える。気絶したふりを決め込んでいるジョセフを起こし、新たに出てきた『COIMC』をジョセフに見せる。

 

おそらくアタシの能力は『キャラクター』だ。さっきのパワーは偶然にも開いたページが『スーパーマン』だったおかげだ。

 

◇月Χ日

 

早朝、肩凝りや疲労を感じながらロバートお祖父ちゃんとジョセフに付き添ってローマへやって来た。なんでもドイツ軍のルドル・フォン・シュトロハイムの遺言だそうだ。

 

サンタナを外へ追いやったのは彼らだ。

 

アタシは『キャラクター』のパワーを利用して、ジョセフへの攻撃を防いでいただけに過ぎない。アタシの能力はお祖母ちゃんとは違う、ロバートお祖父ちゃん曰く性質も違うらしい。

 

お祖母ちゃんは『文章』の意味を他人へ与える能力、アタシは『キャラクター』のパワーを借りる能力、同じ〈レヴィー・ブレイク〉の持ち主だというのに似て非なる能力だ。

 

それに付け加えてアタシは先天的に波紋の呼吸を練れるほど頑丈な肉体と心臓をしていないのだ。ロバートお祖父ちゃんは練れるが、アタシには波紋の呼吸は遺伝していない。

 

確かに若さを保てるのは羨ましいが、アタシには〈レヴィー・ブレイク〉がある。あれもこれもと言うのは我が儘で、少し意地汚いように思える。

 

◇月₩日

 

アタシのスパゲッティーにワインをこぼすジョセフに苦言を吐こうかと思ったが、ロバートお祖父ちゃんの言っていた件の男とは彼のことらしい。

 

イタリアの男性はキザだと聞いていたが、まさかアタシを口説いてきたのは予想外だ。ジョセフはジョセフで妹分を口説いてじゃあねえと文句を言う。

 

アタシからすればどっちもどっちなんだが?と思いながら、無駄に口論が発展しそうなので黙っておこうと決めた。

 

途中からやって来たロバートお祖父ちゃんもアタシが口説かれたと知り、ジョセフと一緒にシーザー・A・ツェペリに抗議している。

 

べつに口説くぐらい良いんじゃないか。アタシは、そう簡単に靡くほど安くも軽くもないけど。なんならジョセフを口説けば良いじゃないか。

 

そいつ、アタシのドレスを着てたよ。

 

 



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第16話(ジョセフ・ジョースター)

「アシュリー。アシュリー・スピードワゴン!」

 

俺の叫び声で正気を取り戻した妹分の両肩を掴み、刻一刻と迫るタイムリミットを考えながら、今ここでマルクを救えるのはお前しかいないと説明する。シーザーのやつも話は聞いているのか、アシュリーにマルクの存命を頼んでいる。

 

「ああもう、やる、やってやるわよ!」

 

コミック本より小さな、ちょうど持ち歩ける聖書のような「本」を素早く取り出し、パラパラと勝手に捲れるページが止まった瞬間、アシュリーの背後に金髪の美女が見えた。

 

そのまま美女がマルクへ手を翳す。

 

いや、違う。

 

これは心臓へ直接なにか(・・・・・・・・・・・)を打ち込んでいる!奇怪だ!あまりにも奇怪な光景にじいさんもシーザーも動けていない。数秒後、マルクの失われた半身がモゴモゴと蠢き、腕と顔が生えてきた!

 

す、すげー、マジでやりやがった。ダメ元で頼んだとはいえ本当に生き返らせた。ふらりと姿勢を崩すアシュリーを受け止め、マルクをこんな目にあわせた柱の男を睨み付ける。

 

「ジョジョ、そこを退けぇーっ!」

 

シーザーの声に不覚にも従って横に下がってしまったが、両手を擦り合わせて波紋入りのシャボンを作り、華麗な攻撃を繰り出すアイツを見る。

 

即興でも即席でもいいんだ。

 

あいつのような必殺技を作らなくちゃあダメだ。いくら多彩な攻撃を仕掛けようと一人で三人を相手にするのは無謀だ。

 

「ジョ、ジョセフ、これを…」

 

「こ、こいつは!?」

 

苦しそうに胸を押さえるアシュリーが渡してきたクラッカー・ヴォレイを手に取る。おまえ、ちょいとおふざけで買った鉄球を、こんな真剣な空間で使えって言うのか!?

 

ちくしょーっ、やってやるよ!

 

クラッカーを振り回しながら顔を刻まれたシーザーの前に立つ。考えろ、あいつが策もなく俺に渡すとは思えん。あん?こいつは、ほほーん、にゃるほどぉ~っ、そういうことね。

 

「うおりゃあっ!」

 

俺の投げ放ったクラッカーは放物線を描き、ものの見事にワムウとかいうやつを通り越して、その後ろへ飛んで行ってしまう。

 

だが、しかし!そいつは想定済み。

 

「投擲と見せかけてのSPARC!」

 

「なに、これはァッ、ヌウゥ!?」

 

アシュリーの使った再生能力を持つ『キャラクター』は偶然にも雷を操れる能力を保有していた。ここは地下、それもローマの地下だ。闘技場で使われた刀剣は当然のこと何でもござれだ。

 

「いま、テメーの身体はクラッカーとアイツの放つ電磁波によって超強力な磁石になっている!つまりだ、ここにある機材もテメーにくっ付く!」

 

そう言って蹴り飛ばした照明がヤツの頭部を削る。よし、よおぉーっし、いいんじゃあないの、ここでこいつを倒せればぁ~っ!

 

「貴様に敬意を評し、奥義で殺す」

 

「はっ、そんな鉄屑にまみれて威張ったところで怖くもなんともないねぇ!」

 

自信と絶対的な誇り。

 

その二つを同時に傷つけたことを怒っている。そして、やつは機材や刀剣の破片で身動きの取れない、雁字搦めになっている。

 

だが、ワムウのヤツは奥義と言った。

 

それはつまり、あの体勢からでも放てるということだ。俺が理解した瞬間、ワムウの両腕が左右逆向きへ回転した。

 

な、なんだ、この凄まじいパワーはっ!!

 

「ぐぬおおぉぉぉっ!?」

 

 



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第17話

◇月%日

 

早朝、アタシとジョセフはシーザーの先生を訪ねて、遥々ヴェネチアへ来ている。まあ、アタシが来たのは「柱の男」にも〈レヴィー・ブレイク〉を見られたからだ。

 

いくら身を隠そうと見つかるのは時間の問題だ。それならばジョセフやシーザーと一緒にいて、三人あるいは数人で相手する方が生存率は高い。

 

それに波紋の修業にも興味がある。屈強な彼らが汗水垂らして鍛える波紋、きっと美しく鮮やかなものになるはずだ。

 

アタシの言葉にあきれるジョセフを尻目に、身の安全は保証できないと言うシーザーに、少なくともアタシの家系は早死にが多いから平気だと答える。

 

もっともアタシの血筋は女性が生まれやすく、そのほとんどが心臓病で亡くなっている。今もこうして平気そうにしているけど、アタシの心臓にも小さいながらも疾患はある。

 

あんたらが死の覚悟を背負うよりも前にアタシは死ぬことが決まってるんだ。柱の男に殺されるか、病気で死ぬか、どちらも同じものだ。

 

そう言った瞬間、シーザーに頬を叩かれた。

 

シーザーの祖父。ウィル・A・ツェペリは自らの死を師匠に宣告されながら戦い、その運命を変えたという。アタシが諦めなければ病気も治る、とシーザーは励ましてくれた。

 

はあ、あきれるほど前向きなやつね。

 

◇月⊥日

 

アタシがリサリサと優雅に紅茶を楽しんでいる最中、ジョセフたちは死に物狂いでヘルクライム・ピラーを登っている。

 

この塔の修業は実に効率的だ。

 

波紋の精密操作を鍛えつつ、肉体と精神も鍛えることが出来る。とくにジョセフのおざなりな波紋が塔を登れるほど成長しているのが、その良い証拠だ。

 

アタシも経験してみたいが、アタシの波紋への素質はリサリサ先生曰く皆無だそうだ。素質があったとしても心臓が耐えきれない。

 

もしも下手に習ってしまうと死期を早めるかもしれないと言われた。そういう脅し文句はジョセフに言うべきだろうだと思うのだが、ひねくれものだからな、意地になって今にも登ってきそうだ。

 

そう他愛もない話で盛り上がり、リサリサ先生に付き添って塔の中を覗く。二人ともあと少しのところまで登ってきている。

 

二人とも男の子だろ、がんばりなよ。

 

◇月∨日

 

リサリサ先生にジョセフを引き上げる許可を貰ったシーザーは小うるさく絶対に離すなよと騒ぎ立てるジョセフを何とか引き上げた。

 

そして、やたらと高圧的に詰め寄ってきた。

 

そのあと直ぐにリサリサ先生へ感謝の言葉を捧げ、アタシが紅茶を楽しんでいたことを知り、ジョセフがオイルまみれの手で触ってきたのは許さない。

 

どれほど時間を掛けて髪型をセットしていると思っているんだ。ロバートお祖父ちゃんに告げ口してやろうか、と思いながら二人に飲み物を手渡す。

 

一応、お疲れさま。これから過酷な修業が待っているとは思うが、アタシはリサリサ先生と一緒に楽しく見学させてもらうよ。

 

 



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第18話

◇月×日

 

アタシもジョセフたちのように〈レヴィー・ブレイク〉を鍛えることにした。が、どう鍛えれば良いのか、まったく分からない。

 

『キャラクター』の能力を借りる、言ってしまえばそれしか出来ない。もしくはそれ以外の能力をアタシが使えていない可能性もある。

 

うんともすんとも言わない本を持ち上げ、アタシの身体に『キャラクター』のパワーを与えるのではなく、真っ正面にパワーを運ぶイメージをする。触れる、当てる、与える、どれでもいい。

 

一度でも使えれば直感で分かる。

 

お祖母ちゃんのように他人へパワーを与える。

 

それが出来れば「柱の男」たちとの戦いで怪我する確率も下がるだろうし、誰も死なずにジョセフたちへの助力も出来るかもしれない。

 

アタシは一粒の希望的な可能性にすがり付き、より精確に〈レヴィー・ブレイク〉を使えるよう、ゆっくりながらも能力を引き出す。

 

◇月〒日

 

早朝、ジョセフとロギンズの修業へ混ざって彼らの怪我や傷を癒やす。アタシの〈レヴィー・ブレイク〉は直接触らないと効果がない。

 

これは検証済みだ。

 

それに付け加えて、他人への能力は持続させても精々10メートルそこらで効果は消える。つまり、その10メートルという範囲に居ればアタシの能力で即座に治療もパワーアップも可能となる。

 

だが、その場合のデメリットはアタシだ。まともに戦えない、浮遊や超パワーを使えても「柱の男」には効果は薄い。

 

アタシの話に納得するジョセフ、超パワーその物を放てないのかと言うロギンズ先生、確かにパワーだけを使ったことはない。

 

ジョセフたちへの差し入れを詰めたバゲットから〈レヴィー・ブレイク〉を取り出し、ジョセフやロギンズのゴツい拳をイメージした瞬間、轟音とともに鉄格子がひしゃげた。

 

いま、すごい速い何かが出たのは確かだ。ジョセフもロギンズ先生も驚き、ひしゃげた鉄格子を見ている。これなら、これならアタシも戦える。

 

そう伝えると小声で痛くなかった仕返しが痛くなると呟いていた。お前は、もう本当になんでそうなんだ。アタシの感動を返せよ。

 

◇月⊃日

 

シーザーとメッシーナの修業はジョセフよりも過酷な水中での戦闘だった。如何に波紋の伝導率は高くとも呼吸を出来なければ意味がない。

 

その危険な状況下で、どう対処するかを考える修業だとメッシーナ先生が教えてくれた。ジョセフもしているらしいが矯正マスクを着けていることもあって、かなり苦戦しているそうだ。

 

アタシも頑張ろう、そう呟きながら、シーザーとメッシーナ先生にお弁当の入ったバゲットを手渡し、アタシも〈レヴィー・ブレイク〉のパワーアップを試みると言い残して修業場を離れる。

 

しかし、シーザーが気取ることも忘れて熱中しているのは意外だ。ジョセフも限界を越えるため過酷な修業へ自ら飛び込んでいる。

 

 



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第19話

◇月+日

 

リサリサ先生と一緒にランチを楽しみながらジョセフとシーザーが修業の最終試練へ辿り着けるか、あるいは「柱の男」がやって来るのか、そのどちらかだと密かに聞かされた。

 

アタシは波紋の戦士と違って「柱の男」に対抗する手段が〈レヴィー・ブレイク〉のみ。しかも本を手放さず、しっかりと持っていなければ能力を使えない。10メートルという射程距離、奴らからすれば一歩踏み込む程度の間合いだ。

 

つねに『キャラクター』を出し続けたり出来れば違うのだろうが、アタシは無理な事を続けるつもりはない。尤も『スーパーマン』を出せば浮遊したり、ビームを撃てる。

 

アタシの言う10メートルは味方へのサポートを最適に行える距離の事だ。いくら『キャラクター』が強くても出せるのは『ひとり』だ。

 

いきなり〈レヴィー・ブレイク〉へ波紋を流してきたリサリサ先生に驚く。

 

アタシの身体と〈レヴィー・ブレイク〉は繋がっている、そう伝えたはずなのに、リサリサ先生は何もなかったかのように波紋を走らせる。

 

しかし、とくに身体に変化はない。

 

◇月#日

 

今日だけで沢山の出来事があった。

 

ロギンズ先生とジョセフがエシディシと交戦しながら、辛くも二人で勝利し、ロギンズ先生は片腕と肺にダメージを受けた。

 

ジョセフが死にかけているロギンズ先生を運びながら急患だと騒ぎ、ロギンズ先生をアタシの借りている部屋に連れ込み。

 

アタシが〈レヴィー・ブレイク〉を使ってロギンズ先生を治療している間、スージーQがエシディシに身体を乗っ取られ、あろうことかエイジャの赤石を奪われるという事態だ。

 

シーザーとジョセフの機転でエシディシは倒せたものの赤石は何処かに送られてしまった。少なくともアタシの一日で起こりそうな、騒動の範疇を軽く越えているのは確かだ。

 

◇月♀日

 

早朝、みんなで仲良く赤石を追う。

 

ジョセフの膝元に乗せられているのは不満だが、巨漢の先生ふたりに挟まれている後ろのシーザーに比べれば、まだマシな方だ。

 

しかし、ちょっと窮屈なのは本当だ。ジョセフもアタシの髪を鬱陶しそうに押さえているが、あまり触らないでくれないか。

 

アタシだって髪型を気にする。

 

あとお前のポケットから漂ってくる植物油、かなり臭いが酷い。粗悪品でも買わされたのかと聞けば、自分でブレンドした特製品だと語り始めた。

 

そういう話は後で聞いてやる。とりあえず、その太い腕を上げたり下げたりするのをやめろ。すごい圧迫されているような気分になる。

 

アタシの言葉に文句を言いながら、ドアを腕かけ代わりに外を見るジョセフにもたれ掛かり、少し眠ると言って目を閉じる。

 

やはり、心臓の辺りが気持ち悪い。アタシはジョセフたちの戦いを見届けられるのか。そんなことを考えながら胸を押さえる。

 

 



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第20話(シーザー・A・ツェペリ)

「今すぐ攻め込むべきだ!」

 

「俺は反対だって言ってるだろうが!」

 

俺は柄にもなくジョジョと本気の口論を繰り返し、カーズの逃げ込んだホテルへ攻めいるべきだと訴える。ジョジョ、メッシーナとロギンズ、リサリサ先生も臆している訳ではないのは分かっている。

 

しかし、俺は知っている!

 

ジョジョの心臓に埋め込まれたリングの溶解へのタイムリミットが、あと数日しかないのを、アシュリーはリングのことを知ってか知らずか、俺の提案に賛同してくれている。いつもジョジョを無意識に贔屓していたアシュリーがだ。

 

「もういい、俺ひとりでも行くぞ!」

 

「ああもう、アタシも着いていく…」

 

リサリサ先生の制止を振りきって、その場から走り出した俺に着いてくるアシュリーに心の中で感謝する。じいさんツェペリの時もアシュリーの祖母が手伝ったとスピードワゴンさんに聞いた。

 

おそらく、そういう危険に対する察知能力が人一倍鋭いのだろう。現に俺がホテルへ踏み込もうとした瞬間、カーズやワムウへ波紋を使えないという決定的なデメリットを抱えながら、俺と共に来てくれた彼女が独りでに開いたドアを凝視したのだ。

 

「見えてるわよ、ワムウ!!」

 

正しく一瞬、ほんの一瞬の出来事だ。彼女は真上を向き、腕を突き出す。すると、アシュリーの手のひら、手首から蜘蛛の糸(・・・・)が飛び出た。

 

その能力を俺は知っている。だが、こんなだだっ広いところで使ったとしてワムウを捕らえることが出来るとは思えない。

 

俺の考えとは裏腹に彼女はまるでハンマー投げをするオリンピック選手のように回転し、ワムウを捕らえたであろう糸をホテルの壁に叩きつけたのだ。

 

「シーザー、アタシは無茶するけどさ。それは、あんたがいるから出来るってこと理解してよ?」

 

アシュリーが、そう俺に言った。

 

次の瞬間、アシュリーは糸に引きずられるようにホテルへと吸い込まれた。あまりにも愚策だ。しかし、彼女は知っているのだ!俺のやろうとしたシャボン玉の応用編を、だからこそ彼女は自らを俺の作戦のために囮にしたのだ。

 

「ワムウウゥ!俺のシャボンは、あの時とはひと味もふた味も違うぜ!!」

 

両手を擦り合わせてシャボン玉を作る。むろん、ホテルに投げ込むのではなく、真正面に居るワムウへ向けて放つためだ。アシュリーの付けた血染めの目印は見えている。

 

「食らえ、シャボン・カッターッ!!」

 

ワムウに絡まった糸を巻き込み、本体へ向かって突き進むシャボン・カッターから逃れる術はない。無数のシャボン・カッターがワムウを切り裂く。

 

いま、ハッキリと見えたぞ。

 

シャボン・カッターを受け、ワムウは驚愕していた。俺の波紋が強くなっているのを理解したのだ。外では分が悪いと判断したのか、ホテルへ逃げるワムウを追ってホテルに入る。

 

ワムウの気配を探りながら地面に傷一つなく寝かされているアシュリーを見て安堵する。おそらくアシュリーも確信していたのだろう。

 

この「柱の男」は、ワムウは女子供を殺さないと信頼していたのだ。ゆっくりと踊り場で踞る傷だらけのワムウを睨み付ける。

 

ついに、ついに父さんの仇を討てる。

 

「このワムウを追い詰めるとは、些か過小評価していたぞ、若き波紋の戦士よ」

 

「俺の名は波紋の戦士じゃあないぜ!俺はシーザー、シーザー・アントニオ・ツェペリ、貴様らを倒すために生きてきたものだ!」

 

ジョジョのためにリングを奪う。アシュリーを守りながら戦う。そして、この手でワムウを倒す。容易に出来ることじゃあないのは分かっている。だが、俺もツェペリ家の男だ。

 

じいさん、父さん、俺に勇気を!

 

 



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第21話

◇月£日

 

アタシとシーザーは幸運にもワムウとの戦いでた生き残った。もっともアタシは囮をしたり、蜘蛛の糸を使って事前に援護しただけだ。

 

無意識にシーザーの身体を引き寄せて瓦礫に押し潰されるのを防いだのも本当にまぐれ。あの時の記憶は曖昧で、あまり覚えていない。

 

ワムウはアタシたちが生きていることに気づいていたのに敢えて殺さず、アタシたちを置いていったのは戦士としての誇りか、シーザーへの敬意だったのかもしれない。

 

そう率直に思ったことをシーザーに伝える。

 

だが、シーザーはアタシの話よりもジョセフの戦車戦に夢中だ。アタシもリサリサ先生の隣に腰かけ、ジョセフを応援する。

 

この間合いならカーズを殺せる。

 

しかし、それは戦士への冒涜だ。ジョセフを鼓舞するシーザーの掛け声、それに答えるようにワムウと互角に渡り合うジョセフ、素晴らしい友情だ。

 

はじめて出会った頃はいがみ合って、自分が先に「柱の男」を倒すのだと競っていた二人の心が一つになっている。

 

ジョセフの取り出した手袋を見て、驚愕と喜びに打ち震えるシーザー。あれは応急手当を受けているとき、シーザーがジョセフに託したものだ。

 

今のジョセフなら使える。

 

そう確信しての行動だ。現にジョセフは波紋入りのシャボン玉をワムウへ弾き出した。しかも植物油の詰まった特製のシャボン玉だ。

 

シーザーは本当に抜け目のないやつだとワムウの神砂嵐をシャボン玉と波紋を流した手綱で防いだジョセフを笑う。

 

◇月₩日

 

カーズの作った吸血鬼の軍勢を〈レヴィー・ブレイク〉から出てきたスーパーマンが吹き飛ばしながら、シーザーとジョセフをリサリサ先生のところへ連れていく。

 

シュトロハイムやロバートお祖父ちゃん、スピードワゴン財団、ドイツ軍の親衛隊、ロギンズ先生とメッシーナ先生、みんながカーズを追いつめる。

 

これで終わりだ。

 

そう思っていたのにカーズはリサリサ先生からエイジャの赤石をすでに奪い、紫外線照射装置を利用して究極生命体へと進化を遂げた。

 

誰も勝てないと諦めるロバートお祖父ちゃんを支えながら、ジョセフを追いかけるカーズを見つめる。もうアタシに出来るのは祈ることだけなのか。

 

◇月√日

 

ジョセフ・ジョースター。アタシの大切な兄貴分、いい加減なところもあるけど、正義感の強さは人一倍のお人好し。

 

そんな彼は、もういない。

 

シュトロハイムの大気圏外へ岩盤ごと吹き飛ばされたという話を聞いたとき、アタシの能力では助けられないと悟った。

 

シーザーはやるせない気持ちを押さえ込むように墓標を見下ろす。ロバートお祖父ちゃんは、もっと自分が若ければと悔やんでいる。

 

リサリサ先生、ロギンズ先生、メッシーナ先生、三人の誰もがジョセフの死を受け入れられるずにいる。アタシもそうだ、あいつならひょっこりと帰ってくるんじゃないかと思ってしまう。

 

それこそ希望的な考えだ。

 

死んだ人は生き返らない、アタシの能力でも蘇生は不可能だった。ジョセフの髪の毛を使って、クローンを作ろうとしてシーザーに止められた。

 

はあ、と溜め息を吐く。もう、墓標を見るのも辛い。そう思って後ろに振り返った瞬間、アタシは自分の目を疑った。

 

そこには生きているはずのないジョセフが、スージーQと仲睦まじくやって来たのだ。シーザーの顔を無理やり動かし、彼に松葉杖をつくジョセフを見せるとマンマミーアと叫んだ。

 

そりゃあ、当然だ。

 

ジョセフが生きてるんだもの。

 

 



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スターダストクルセイダース
第22話


♡月%日

 

十年ぶりにシーザーお祖父ちゃんが来る。

 

私たち三姉妹の身に起こっている怪奇現象の理由、私の血筋にまつわる話もあるそうだ。正直に言えば血筋とか宿命なんて言葉は聞きたくない。

 

しかし、私は長女だ。まだ幼くてかわいい双子の妹を巻き込む訳にはいかない。シーザーお祖父ちゃんを迎えに空港へ向かう。

 

ひとりでタクシーに乗るのは初めてだけど、わりと快適に過ごせた。空港のロビーでシーザーお祖父ちゃんを見つけ、久しぶりとハグをする。

 

こほん、と咳払いをして。この人がシーザーお祖父ちゃんの友だち、ジョセフ・ジョースターさん。二人ともさ大きいから見つけやすいけど、私は目立って少し恥ずかしいよ。

 

そう二人と話しながらジョセフさんの連れてきたモハメド・アヴドゥルとも挨拶を交わし、私の乗ってきたタクシーに戻り、私と同じように怪奇現象に悩まされる人のところへ行くと教えられる。

 

私が会っても平気なのだろうかと思いながら、シーザーお祖父ちゃんに「本」を渡される。今の私に必要になる、そうなのだが特に何も書かれていない。

 

♡月゜日

 

私は空条承太郎と同じスタンドというものを持っているらしい。もっとより正確に言えば私のスタンドは高祖母、アレクシア・エインズから引き継いだものだそうだ。

 

アレクシアお祖母ちゃんはスピードワゴン財団の設立者と結婚し、その五年後に心臓病で亡くなっている。もう一人は、シーザーお祖父ちゃんの奥さん、アシュリー・スピードワゴンも同じく心臓病で亡くなっている。

 

だが、どちらも有名な組織のトップだ。

 

ひょっとして私の家系はお金を呼び込んでいるのだろうか?と考えながら、シーザーお祖父ちゃんに貰った「本」を開く。

 

アレクシアお祖母ちゃん、アシュリーお祖母ちゃん、二人には読めていた「本」を見る。だが、私には読むというよりも『旅行の記録』をするためのものにしか見えない。

 

私も空条くんみたいに出来れば良かったんだけど、どうも私はスタンドと上手く噛み合っていないように思えて仕方ない。

 

♡月<日

 

早朝、私の家へやって来たDIOの刺客を運良く撃退することが出来た。そして、この〈レヴィー・ブレイク〉の使い方も把握した。

 

これは冒険の書(セーブ)だ。

 

私は一日をリプレイすることが出来る。それは決して相手には分からない。私に向かっていた『パンチ』を『記録』し、そのまま刺客に『昨日のパンチ』も一緒にまとめて返す。

 

いわゆる、チャージ&ファイアだ。シーザーお祖父ちゃんに、その事を伝えると空条くんも刺客に襲われていたと聞いた。

 

しかも殴ってやっつけたそうだ。やっぱり、空条くんは怖い男の子なんだ。きっと、なにかあると殴ってきたりするんだ。

 

空条くんの家に行きたくないが、私の可愛い妹たちを苦しめるDIOとかいうやつにビンタする。ほとんど無関係な私たちを巻き込むな、そうハッキリと面と向かって言ってやる。

 

 



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第23話

♡月≧日

 

空条くんが家の前にいた。

 

どうやらスタンド使いの刺客を送られてきたと聞き、私のところへ心配して来てくれたとのことだ。そんなに柔じゃないよと話しながら、空条くんと一緒にタクシーに乗る。

 

最愛の妹たちにもスピードワゴン財団の医療機関がついているので安心できる。シーザーお祖父ちゃんとジョセフさんの自家用ジェット機は快適だが、私しか女の子がいない。

 

ちょっと反応に困るのだ。

 

アヴドゥルさんは紳士的に接してくれるおかげで、多少は落ち着いているけれど。どうもシーザーお祖父ちゃんが過保護すぎてイヤだ。

 

空条くん、おっきいクワガタムシがいる。私の言葉を鬱陶しそうにしながら窓に張り付いている灰色のおっきいクワガタムシ、それと左翼にしがみついているおじいさんを見る。

 

最近の自家用ジェット機は、ああやってバランスを保つのかと納得する。なぜか微妙そうな顔で見てくる花京院典明に首をかしげる。

 

ああ、おじいさんが落ちちゃった。

 

♡月ゑ日

 

早朝、今度は空路ではなく海路を通る。

 

私には良く分からないけど。どうやら自家用ジェット機の機体に穴が出来ていたらしく、こうして香港で食事を済ませる余裕はあるそうだ。

 

しかし、フランスの人はカエルをどうやって食べるのか悩んでいる。ささっとナイフでカエルを切り分け、みんなのお皿に盛りつける。

 

花京院くん、メルシーって、どういう意味なの?と聞けばありがとうだと教えてくれた。シーザーお祖父ちゃんは、それくらい私に聞けば良かっただろうと拗ねている。

 

そうは言っても二つに別れて食事してるし、あんまり食事中に歩き回るのははしたないよ。私の言葉に渋々ながらも納得してくれたシーザーお祖父ちゃんは、またロケットペンダントを見る。

 

なにかしちゃったかな?

 

花京院くんは孫離れ出来ていないだけだよ、と私の切り分けたカエル食べながら言う。うん、カエルを食べるのは抵抗あったけど、意外とピリ辛で美味しいかもしれない。

 

♡月Ь日

 

まさか昨日のフランスの人がスタンド使いだったなんて予想外だ。私は〈レヴィー・ブレイク〉を開き、アヴドゥルさんの魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)が放つ炎熱を『記録』する。

 

しかし、私よりも大きな男の人を守るという行為はすごく虚しい気持ちになる。ふつう、こういう場面だと男の人が守ってくれるのでは?と考える。

 

まあ、これも適材適所…なのかな?

 

ようやく炎熱が無くなった。終わったのだろうかと〈レヴィー・ブレイク〉をずらし、アヴドゥルさんたちのいる広場を見る。

 

そこにあった筈の遊具や銅像は〈魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)〉の炎熱で熔解し、地面や遊具がジャン・ピエール・ポルナレフ銀の戦車(シルバー・チャリオッツ)によって切り裂かれ、その余波で私のセーラー服と髪の毛が切れたり、ちょっと焦げたりする。

 

私だって髪や服を切られたら泣くよ?

 

 



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第24話(空条承太郎)

俺を星の白金(スタープラチナ)ごと海底へ引き込んだスタンド使い、自称・キャプテン・テニールは、自身のテリトリーへ引きずり込んで浮かれているが───。

 

ひとつ、やつは誤算をした。いかに肺活量が俺より凄かろうと四宮文月の〈レヴィー・ブレイク〉によって『昨日の酸素(・・・・・)』を配給されていた。

 

あの女と出会って二日三日の間柄だが、咄嗟の判断力はずば抜けてやがる。じじい共は、やはり四宮の祖母と似ていると嬉しそうに話しているが、俺は一張羅の学ランをずぶ濡れにされた。

 

「空条くん、これ使う?」

 

「…ああ、恩に着る……」

 

四宮から花柄のタオルを受け取り、海水に濡れた髪を拭う。花京院とポルナレフは浮かんでこない海の男を探している。少なくとも海底の岩盤に埋もれてるんじゃあ引き上げようがない。

 

「あ、ついでに学生服も乾かすね」

 

こいつはスタンド能力をアイロンか洗濯機だと思ってやがるのか?と呆れながら、しっかりとアイロン掛けされた洗い立てのように着心地のいい学ランを四宮から受けとる。

 

しかし、四宮のやつ落ち着きがねえ。

 

さっきから何をして、こ、こいつはっ!?

 

〈オラァ!〉

 

「おい、さっさと身体を『戻しな』!」

 

「…はぇあ…っ…」

 

あの野郎、俺に負けた腹いせに四宮を狙いやがった。あと数分、小型のヒョウモンダコに気づかなかったらヤバかった。じじいたちのところへ四宮を追い返し、甲板に落ちてくる魚を投げ返す。

 

〈数時間後〉

 

花京院は船酔いに苦しむ四宮を介抱しながら、俺やポルナレフとポーカーをする。強運、幸運、どう言い表そうと考えるのは勝手だ。だが、花京院へ渡る手札には必ずと言っていいほどキングがいる。

 

流石の花京院も不自然だと思ったのか。四宮から少しだけ離れる。すると、どういう訳なのか。俺の手札にキングが集まり始めた。

 

「成る程、四宮さんは幸運体質なのか」

 

ポルナレフは不思議そうに船酔いに苦しむ四宮を見下ろし、花京院の話す幸運体質の実話や噂を細かく説明してくる。

 

こいつ、意外とおしゃべりなのか?

 

「つまり、文月の近くにいると運気が好き勝手に上がり続けるのか?」

 

「少なくとも僕は幸運の加護を受けた」

 

「それじゃあ、この三人の中の誰かは必ず勝利の女神様に愛される訳だ。ちょいと俺も女神様の加護を試してみるか」

 

なんとも言えん内容だが、ポルナレフは四宮の寝ているベッドに腰掛け、〈星の白金(スタープラチナ)〉がシャッフルしたカードを適当に四枚引いた瞬間、ポルナレフがピタリと動きを止めた。

 

「ロ、ロイヤルストレートフラッシュ!?」

 

「…やれやれだぜ…」

 

そっと学帽を深く被り直す。

 

 



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第25話

♡月。日

 

サル殺す、サル殺す、クソザルぶっ殺す。

 

私のシャワーを覗いていた気色悪いサルを探しながら艦内を歩く。私の大切なセーラー服を盗んだサルを殺す。空条くんや花京院くん、ポルナレフさんの『攻撃』を〈レヴィー・ブレイク〉でリプレイしながら歩く。

 

ふと視線を感じ、後ろに振り返る。おほん、と態とらしく咳払いをする花京院くん、それと私を見ないように学帽を深く被る空条くんがいた。

 

クソザルぶち殺す。

 

もう正確に〈レヴィー・ブレイク〉を操作せず、無理やり艦内を叩き壊して突き進む。ごめんね、私はママとの好きな人以外に肌を見せないって約束を守れなかった。

 

ようやく見つけた。

 

なに人間様の真似して服を着てるんだ。

 

このサルがよぉーっ、私は〈レヴィー・ブレイク〉に『記録』していた『全ての攻撃』をサルに向かって放つ。私にお腹を見せようとしたので、さらに『攻撃』をリプレイする。

 

♡月⊃日

 

うぅ、昨日の私のことは忘れて…。

 

そう空条くんたちに顔を隠しながら懇願する。

 

わたし、昔から怒ったりするとテンションが可笑しくなるの。ねえ、本当に昨日のことは忘れて、お願いだから、ふたりとも聞いてる?

 

花京院くんはギャップは凄かったが、あれも君の一部なんだから引いたりしないよと言う。う、ううぅ、今の私にはそういう言葉が一番効くよ。

 

私の恥ずかしがる姿を愛らしいと言うシーザーお祖父ちゃんに、大嫌いと叫んだら失神した。

 

ジョセフさん、シーザーお祖父ちゃんは放っておいていいもの。私が恥ずかしいところを見られたのに、愛らしいとか言う方がひどいもん。

 

♡月↑日

 

ポルナレフさんが一人で呪いのデーボというスタンド使いを倒したそうだ。足首や刺し傷だらけの背中を昨日の状態へ戻す。

 

私のスタンド能力なら死者蘇生さえ出来そうだと言い出したポルナレフさんに驚き、思わず後ろに下がってしまった。

 

しかし、死んだ人を生き返らせる。いや、もしかしたらポルナレフさんの妹を生き返らさせることは出来るかもしれない。

 

この〈レヴィー・ブレイク〉を初めて使ったのは私がDIOの送ってきた刺客に殺された時だ。ほんの僅かな時間だけど、あの時の私は確実に死んでいた。

 

私の話に希望を抱くポルナレフさんに、あまり私を信用しないで下さいと伝える。ただ、私のスタンド能力が『生き返り』も可能ならDIOへのエサに成り得るのは事実だ。

 

あとでジョセフさんたちに相談して、私の能力を限界を見極めてもらわないといけない。はあ、私が帰ってくるのを待つ妹たちに会いたいな。

 

そう思ったりしていると二人の花京院くんが見えた。私は疲れてるのかな、花京院くんがすごいマッチョになっているように見えた。

 



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第26話

♡月=日

 

正しく黄の節制(イエローテンパランス)は強敵だ。

 

空条くんのラッシュを受けきる防御力、生物を取り込むことで強くなる性質、私の『記録』さえ食べる獰猛さ、私たちが出会ったスタンド使いの中で、ダントツの強さだ。

 

もしも空条くんの機転が無かったらゴンドラの中で負けていた。だが、しかし、だ。私の『記録』の情報を何処で手に入れたのだろうか。

 

それが気になる。

 

私が考え込んでいるとハンサム顔のスタンド使いが飛び降りてきた。その位置はダメなんじゃないかな?と思いつつ、花京院くんの必殺技エメラルドスプラッシュを放つ。

 

確かに〈黄の節制(イエローテンパランス)〉は強敵だ。

 

しかし、こうやって生身の部分を作れば空条くんのラッシュは通る。空条くんの海へ飛び降りる人に追いつき、高速のラッシュを叩き込める素早さを持つ〈星の白金(スタープラチナ)〉なら、そのくらい容易くこなす。

 

はあ、早くシャワーを浴びたい。

 

♡月Φ日

 

ポルナレフさんが妹の仇を見つけた。

 

しかし、アヴドゥルさんと口論しながら仲違いしたまま別れる。一応、私は『傷を治す』ことが出来るので、もしもの時のためポルナレフさんに着いてきているが、物珍しそうに私を見てくる人たちはなんなのだろうか。

 

私の足下の水溜まりに、ミイラのような独特の姿をした何かが現れる。これがポルナレフさんの妹を殺したスタンド使いの能力かと納得する。

 

鏡の中で私の太ももや足を掴む吊られた男(ハングドマン)を指差し、ポルナレフさんに「両手とも右手の男」が現れたと叫ぶ。

 

だが、水溜まりの中のスタンドに〈銀の戦車(シルバーチャリオッツ)〉は攻撃できない。この戦いの中、私は初めて攻撃を受けた。みんな、こんな痛みに耐えながら戦っていたのかと恐れる。

 

私は怖くて仕方がない。今すぐにでもシーザーお祖父ちゃんに泣きついて、日本へ帰りたいと懇願しそうになっている。

 

それを我慢する。

 

私が居なくなったら、みんなを治せる人がいなくなるからだ。ゆっくり、心を落ち着かせて、状況を判断すればいい。

 

それに何となく私の本当の(・・・)スタンド能力も分かってきたような気がする。

 

♡月Å日

 

私のスタンド〈レヴィー・ブレイク〉はお祖母ちゃん達の経験や歴史の上に成り立っていた。私も最初は『文章』『キャラクター』『旅行の記録』の三つだけだと思っていたが、私の本当のスタンドは最初から違った。

 

ゆっくりと〈吊られた男(ハングドマン)〉と一緒に間合いを詰めてくる皇帝(エンペラー)を構えるホル・ホースを指さす。これが私のIn My Time of Dying(イン・マイ・タイム・オブ・ダイイング)だ。

 

アヴドゥルさんの死は無くなり、すべてが元通り。そう死という出来事が起こらない昨日へ戻った。ポルナレフさん、花京院くん、アヴドゥルさんの代わりに三人でやっちゃうわよぉーっ。

 

私の言葉に失笑するふたりと、私の笑顔にゾッとするふたり、これは強さ比べなんてもんじゃあない。

 

ただの、一方的なお仕置きだ。

 

 



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第27話

♡月Η日

 

早朝、爽やかな日差しを浴びる。

 

アヴドゥルさんも傷一つない状態で起き上がり、ポルナレフさんに抱きつかれていた。シーザーお祖父ちゃんとジョセフさんは私の「死を寄せ付けない」というスタンド能力を喜ぶ。

 

私の家系の女性は心臓が弱く、たとえ心臓が丈夫に生まれても長生きは出来ないそうだ。

 

シーザーお祖父ちゃんの奥さん、アシュリーお祖母ちゃんは三十歳という若さで亡くなったと聞いたとき、それでも血筋的に考えると、かなり長生きした方だと聞いた。

 

私のスタンド能力なら長生きしてくれると喜んだのには、そういう理由があったのかと納得する反面、私も長くは生きられないという確信がある。

 

♡月℃日

 

ジョセフさんが帰ってこない。どこへ行ったのかと空条くんに聞けば虫刺されにバイ菌が入ったから病院へ行ったと教えてもらった。

 

私も虫刺されには気をつけよう。

 

そう思いながらも外を眺めているとポルナレフさんがホル・ホースの彼女さんから吐瀉物を吐かれているのが見えた。

 

あれはすごく可哀想だ。

 

シーザーお祖父ちゃんは、もしかしたらスタンド攻撃かもしれないと言っているけど。どこからどう見てもあれはポルナレフさんの顔に向かって吐いているようにしか見えないよ。

 

私の言い分に警戒心が足りないぞと苦言するシーザーお祖父ちゃん。四六時中、ずっと警戒していると脳が疲れて、突然のことに反応できないよ?

 

♡月ヱ日

 

香港で出会った女の子がいた。

 

どうやら空条くんに恋をしてしまったらしく、何がなんでもついてくるという気迫を感じる。それにしても、さっきから並走してくる車はなんなの?

 

わざとらしく車体をぶつけて、私たちを崖から落とそうとするなんてイカれてる。ぶつかり、押し返す、それを繰り返しながら車がイビツに蛇行する。

 

そのせいなのか。

 

だんだん気分が悪くなってきた。

 

ポルナレフさんに車を止めてもらい、みんなに見られないように岩影で吐く。車酔いで気持ち悪いし、タバコの臭いも充満してのもあって、かなり体調が悪くなっているのは確かだ。

 

このDIOを倒す旅を始めてから私の乙女としての尊厳が確実に砕けているのは間違いない。どうにかして、乙女のプライドを取り戻したい。

 

そんなことを考えながら太い腕をさらす、さっきの迷惑車の運転手を睨みつける。もし、こいつがスタンド使いだって判明したら、絶対に〈In My Time of Dying〉で『痛みの地獄』に突き落としてやる。

 

私の言葉に首をかしげる空条くん。私のスタンドは『すべてを昨日へ戻す』能力、つまり『怪我した時の痛み』を絶え間なく与えることができるのだ。

 

なぜか、みんな私から距離を取る。花京院くんと空条くんが「女の嫌がらせは陰湿と聞くが、こいつの場合は悪質すぎるぜ」と言うのだ。

 

むう、そうなのかな?

 

 



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第28話(花京院典明)

僕の教皇の緑(ハイエロファントグリーン)で四宮さん、それと不本意ながらホル・ホースを引き上げ、霧によって無数の死体を操る正義(ジャスティス)のスタンドを攻撃する。

 

しかし、僕のスタンド〈教皇の緑(ハイエロファントグリーン)〉では霧その物である〈正義(ジャスティス)〉のスタンドを倒せない。四宮さんは両手を負傷しているホル・ホースと舌をやられたポルナレフを『昨日の状態へ戻す』。

 

「ジョジョ、久しぶりにやるか?」

 

「フッ、そいつは血が騒ぐのぉ!」

 

この旅を始めてからツェペリさんのスタンドは一度も見たことがなかった。いや、正確に言うとすれば僕らの目は、文字どおり速すぎて映っていなかったと表現する方が正しいのかもしれない。

 

ジョースターさんの隠者の紫(ハーミットパープル)に添って、ツェペリさんから飛び出したスタンドと思わしきものが駆ける。

 

「こいつが俺の〈ハート・ブレイカー〉だ」

 

それはシャボン玉のような流動的な球体だ。だが、ジョースターさんの〈隠者の紫(ハーミットパープル)〉がシャボン玉に付いている。

 

「ちょいと扱いが難しくてな。こうやってジョジョのやつに捕まえて貰わんと『一瞬』で突っ込んじまうのさ。俺のように『一途』でなぁーっ!」

 

ツェペリさんの言葉と共に突進するシャボン玉が建物の壁を砕き壊す。僕のスタンドよりも小さな〈ハート・ブレイカー〉の何処に、それほどのパワーを有していると言うのだ。

 

「あのスタンドの能力とは一体…」

 

「シーザーお祖父ちゃん曰く、ただの『重さ』らしいよ。と言っても空気抵抗を受けないスタンドでの『重さ』だからね?」

 

僕の疑問に答えるように四宮さんが語る。

 

あのスタンドに物質としての重さは無関係であり、あれはジョースターさんが角度や軌道を制御しなければ、本当に止まることなく『重さ』を増して、その場で永遠に加速するそうだ。

 

そして、僕の目の前ではJリーガーさながらの回転の加わった〈ハート・ブレイカー〉に巻き込まれ、無理やり一ヶ所に押さえ付けられる〈正義(ジャスティス)〉がある。

 

こういうのを年季が違うと言うのだろうか。

 

「「さあ、仕上げの波紋疾走(オーバードライブ)だ!」」

 

ジョースターさんとツェペリさんの身体が太陽のように光り輝き、無数の死体の中に潜んでいたエンヤ婆の身体が内側から炸裂する。

 

流石の承太郎もジョースターさんたちのコンビネーションの良さに驚いている。少なくとも今の僕と承太郎では真似することは出来ないだろう。

 

「嬢ちゃん、治療の借りは何時か返す」

 

「あ、テメー待ちやがれ!」

 

ひらひらとバイクに股がって逃げるホル・ホースに手を振っている四宮さんを見る。あの時のことを忘れているのかと思うほど、四宮さんはおおらかな表情を浮かべている。

 

 



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第29話

♡月∬日

 

ジョセフさんが空を飛んだ。

 

私たちの目の前にいる鋼入りのダンのスタンド能力だそうだ。空条くんのラッシュを受ければジョセフさんにも反映される。

 

このスタンドは厄介だ。

 

そう、私が居なければ、みんな手こずっていただろう。いくら小さなスタンドを体内に潜ませようと、私の〈レヴィー・ブレイク〉は『昨日』へ戻る。

 

私の言いたいことを理解したのか、空条くんは拳を鳴らしながら一歩前へ出る。ジョセフさんは、さっきのラッシュを忘れられないのか、かなり空条くんの行動に焦っている。

 

ジョセフさん、私がいるかぎり貴方にダメージは来ることはありません。それに、あんまり暴れすぎると、うっかりと私がジョセフさんから手を離してしまうかもしれないですよ。

 

そう伝えるとピタリと動きを止めた。

 

みんな、その陰湿で姑息な鋼入りのダンをやっちゃってください。私の言葉に呆れながらスタンドを出現させ、一斉にそれぞれの攻撃を放つ。

 

ジョセフさんはオーマイゴッドと言い、シーザーお祖父ちゃんは段々とアシュリーお祖母ちゃんに似てきたと笑って喜んでいる。

 

♡月∇日

 

花京院くんが可笑しい。

 

誰かが着いてきていると後ろを警戒しているのだ。それでも私をラクダに乗せてくれたり、手綱を握って進む方向を示してくれる。

 

それは助かるし、素直に嬉しいけど。私たちが一緒のラクダに乗る必要はあったのだろうか。そう考えながらも花京院くんに操縦を任せ、時おり水筒の飲み水をストローで飲ませてあげる。

 

ジョセフさんは懐かしいものを見るように、シーザーお祖父ちゃんは憎らしそうに花京院くんを睨みつけ、スタンドを構えて消したりを繰り返す。

 

アヴドゥルさんとポルナレフさんは花京院くんの警戒心を和らげるため、それとなく周囲を見張ってくれている。しかし、空条くんの〈星の白金(スタープラチナ)〉で見つからないというのは異常だ。

 

もしかしたらすごい能力を持つスタンドなのかもしれないと花京院くんに話す。それにしても今日は暑い。今すぐにでもセーラー服を脱ぎ捨てたい。

 

まあ、流石にそれはしないけれど。

 

♡月∂日

 

花京院くんの感じた視線は本物だった。

 

まさか太陽(サン)そのものがスタンドだなんて予想外すぎる。規模とパワーは過去に出会ったスタンド使いでも最上位にランクインするほど凄まじい。

 

もしも空条くんたちが気づかなかったら私は確実に倒れていた。あんな暑いところ、しかも複数の巨漢に囲まれていたんじゃあ小柄な私は酸素が足りなくて気絶してしまうのも仕方ない訳です。

 

そう夜番をしてくれているアヴドゥルさんに話したら、なんとも言えない顔をしている。ああ、いや、べつに責めている訳じゃないです。

 

あれは仕方ない状況でしたのでファーストキスをケチって死ぬより、さくっとキスして死なずに済んだのなら安いものだと思っていますよ。

 

流石に唾液の交換は堪えたけど。

 

まあ、私が生きていられるのは、その唾液のおかげですからね。それで、私に無理やりキスして唾液を飲ませたのは誰なんですか?

 

空条くんも花京院くんもポルナレフさんもシーザーお祖父ちゃんもジョセフさんも答えてくれないんです。私は、脱水症状で気絶していた私の事を助けてくれた人にお礼をしたいだけなんですよ?

 

ねえ、ちょっとだけ教えてくれませんか?

 

 



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第30話

♡月≦日

 

早朝、花京院くんの叫び声が聞こえた。

 

どうしたのだろうかと考えながら寝癖を櫛を使って解かす。シーザーお祖父ちゃんの私を呼ぶ声を聞き、セーラー服を着る。

 

私の妹たちは大丈夫だろうか。私がいなくて泣いていないだろうかと不安に思う。ジョセフさんがセスナの持ち主と口論している。

 

どうやら赤ちゃんが熱を出してしまったそうだ。ゆっくりと〈レヴィー・ブレイク〉を開いて、赤ちゃんが風邪を発症する前に戻す。

 

私の行動に首をかしげる村の人たちに看護婦の卵ですと誤魔化し、一週間はスタンドの能力が持続するように本の切れ端を赤ちゃんの服に忍ばせる。

 

よし、これでもう安心です。

 

アヴドゥルさんが素晴らしい手際だったと褒めてくれ、私も嬉しくて笑ってしまう。それにしても生後十一ヶ月ぐらいなのに「歯」が生えてるなんてすごいわね。

 

♡月&日

 

私が一時の安らぎを得るためアヴドゥルさんの私有地へ寄ることになった。小さな孤島らしく色とりどりの花や草が生い茂っている。

 

しかし、すごい場所だ。

 

一日だけとはいえリッチな気分を味わえる。これは、アヴドゥルさんの私物だろうか?とフジツボまみれのランプを拾う。

 

すこし汚いけれど、フジツボを剥がせば綺麗になる。そう思いながらランプを擦った瞬間、へんな生き物が私の目の前に現れた。

 

私よりも大きな身体のランプの妖精を見る。願いを言ってみろと語りかけてくるカメオを見上げながら、私の欲しいものを考える。

 

だが、これと言って欲しいものはない。

 

私はスピードワゴン財団のお嬢様で、ツェペリ社の社長令嬢である。私はお金に困っていないし、なにかが欲しいと言ったら、その会社ごとシーザーお祖父ちゃんに買収される。

 

とくに欲しいものは無いかなと答えて、そっとランプを地面に置くだけ置いて船に戻る。なにか後ろで言っているけど、本当に欲しいものは自分の力で手に入れるから必要ないのだ。

 

♡月≒日

 

私が寝ている間にDIOの刺客と戦っていたらしく、ポルナレフさんが噛み傷を負っていた。あの〈銀の戦車(シルバーチャリオッツ)〉より速かったのかと驚きつつ、ポルナレフさんの怪我を治す。

 

アヴドゥルさんは怪我はしていないけれど、ポルナレフさん曰くホル・ホースに撃たれた後遺症なのか下品になっているそうだ。

 

流石の〈In My Time of Dying〉でも人の性格は変えられない。そっとポルナレフさんの肩に手を置き、ふるふると首を振って無理だと伝える。

 

私たちのやり取りにジョセフさんが呆れ、さっさと潜水艦に乗り込むように言ってくる。いや、私はスカートだから最後でいいよ。

 

その言葉を聞いて先に行かせようとするポルナレフさんを睨む。ちょっとしたお遊びは付き合うけれど、そういうセクハラは嫌いだ。

 

花京院くんの〈教皇の緑(ハイエロファントグリーン)〉にお姫様だっこで引き上げてもらい、直ぐに壁際に移動する。

 

もうポルナレフさんには背中を向けない。

 

 



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第31話

♡月±日

 

海の旅を楽しむ余裕すらなく、私たちは女教皇(ハイプリエテス)の攻撃を受ける。アヴドゥルさんが金属などに化ける極めて厄介なスタンドだと教えてくれた。

 

これなら濡れないと思っていたのに、とため息を吐きながらセーラー服とスカートを脱いで下着だけの格好になる。

 

あんまり見ないでよ、ポルナレフさんに言う。スカートやセーラー服は泳ぎにくい。それなら、いっそのこと下着になった方がましだ。

 

スキューバダイビングなんてしたことない。そう考えると溺れる原因になる服は必要ない。シーザーお祖父ちゃんは、私の下着姿を見るなと騒いでいるが、私が死んだら誰が助けるの?

 

そう伝えると静かに項垂れた。

 

私は怒っている訳じゃない。これが、最善の策だと確信しているだけよ。

 

♡月-日

 

空条くんの〈星の白金(スタープラチナ)〉のラッシュはダイヤモンド並みの歯を粉砕する。それって、つまり今まで全身にラッシュを受けた人は、みんな全身複雑骨折になっているということだろうか。

 

ふと思ったことを岩影で呟く。

 

スピードワゴン財団の人が持ってきてくれたセーラー服に着替える。花京院くんが学生は学生らしく制服を着るものですよと言うので、私も納得してセーラー服を着ている。

 

しかし、ジョセフさんが頼んだという助っ人はどこにいるのだろうか。私の疑問にポルナレフさんが指差して答えてくれる。

 

うわあ、ワンちゃんだ。

 

よしよしと頭を撫でても吠えたりしない賢いワンちゃんだ。そうポルナレフさんに言ったら、私とポルナレフさんでは態度が違うと怒っている。

 

ねえねえ、ワンちゃんは悪い子なの?と膝の上に乗ってきたイギーを持ち上げ、そう尋ねると頭を横に振って否定する。

 

おお、私の言葉が分かるなんて偉いね。

 

♡月∽日

 

私だけ後部座席にいて、ごめんね。

 

そう荷台に乗っているアヴドゥルさんたちに謝りつつ、いっこうに膝の上から退いてくれないとイギーちゃんの頭を撫でる。

 

コーヒー味のチューインガムを食べさせようとした瞬間、私の袖を噛んで車の外へ飛び出す。ここが砂漠だったから良かったけど、あんまり危ないことはしちゃダメよ?とイギーちゃんを叱る。

 

私は平気だと伝えるため後ろに振り返ると、車体が綺麗に直立していた。私のせいですか?と言う前に、空条くんの怒鳴り声が聞こえた。

 

ジョセフさんによるとスタンド攻撃を受けているが、そのスタンドは砂の中を移動しているそうだ。

 

私の膝の上に乗って気持ち良さそうに眠るイギーちゃんを優しく地面に下ろし、両目を負傷した花京院くんのところへ向かう。

 

そして、ハッキリと分かった。

 

私の体重は45kg以下だから音は聞こえにくいし、ゆっくりと歩けば無音に限りなく近い。ポルナレフさんの抱える花京院くんに触れて『昨日』へ戻す。

 

イギーちゃんは危ないから動かないで、と伝えようとしたら空条くんが走りながらイギーちゃんを掴み、どこかへ行ってしまった。

 

 



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第32話(モハメド・アヴドゥル(オインゴ&ボインゴ))

なにやら承太郎の様子が可笑しい。

 

お見舞い品やプレゼントを選ぶため、花京院を連れてショッピングへ行っていた四宮さんが戻ってきてからというもの、ずっと挙動不審だ。

 

チラチラと四宮さんを見ている。ごくりと唾液を飲み込んだり、どうも普段の承太郎と比べると不自然だ。なにかしらのスタンド攻撃を受けているのか?

 

そうジョースターさんに伝えると「承太郎も年頃なのだろう」と小声で言ってきた。なるほど、そういうことかと納得する。

 

私の微笑ましいものを見る顔に首をかしげる四宮さん。日本の女性は奥ゆかしく慈愛に満ちている。イギーをあやす姿、花京院や承太郎と語らうところを見れば有り得ない事ではない。

 

「承太郎、こいつなんてどうだ?」

 

「な、なにが、だぜ」

 

「そう隠さんでも良いじゃあないか」

 

なかなか上手い誘導だぞ、ポルナレフ。ジョースターさんも悪のりして追撃し、不思議そうに私たちを見る四宮さんの鈍さに笑ってしまう。

 

まあ、それもいいさ。

 

こういった何気ない日常を実感できるということは、とても素晴らしい事だ。ポルナレフは話題を巧みに変えて、承太郎の想いを引き出そうとする。

 

〈数時間前〉

 

「お、おおにいぃちゃん」

 

「なんだ、弟よ」

 

俺がついていてやらないといけない。ちょっと変なところもあるが、大切でかわいいボインゴがプルプルと震えながら〈トト神〉を見せてきた。

 

〈オインゴとボインゴは仲よし兄弟!承太郎たちを倒したらDIO様に褒めてもらえる。でも、四宮文月のスタンドがいるかぎり、僕たち兄弟は承太郎たちを倒せません!〉

 

ふむふむ、それで?と内容を読みながらボインゴにページを捲ってもらう。

 

〈な、なんと、四宮文月は承太郎にキスをされて恥ずかしさのあまり逃げてしまったのです!これなら承太郎を倒せるぞ~!〉

 

日本の女性は恥ずかしがりだと聞いていたが、ただのキスだけで、そこから逃げ出すなんて可愛いところあるじゃあないか。

 

〈元の時間へ戻る〉

 

まさか、こいつにキスするのは俺か!?

 

ボインゴの〈トト神〉で予言された運命は絶対であり、それから逸れることは許されない。よし、よおぉーし、キスぐらいしてやるさ。

 

「空条くん、どうしたの?」

 

よく見ると可愛いじゃあねえか。そんなことを思いながら車体の揺れを利用してキスした瞬間、ジョースターたちが雄叫びをあげる。

 

「ば、ばかぁー!!」

 

それだけ言い残して車を飛び出す四宮文月を眺める。ふっ、ずいぶんと乙女なやつだ。ポルナレフのやつが追いかけてやれと言うので、わざとらしく走って追いかける。

 

しっかりと爆弾は設置してあるんだ。後ろで爆発する音が聞こえた瞬間、そこで俺の意識は真っ暗闇に消えた。

 

〈一時間後〉

 

元の学生服で戻ってきた承太郎に四宮さんからの返事はどうだった?と聞けばなんの話だと聞き返され、さっきの承太郎はなんだったのか。

 

それが話し合われる。

 

花京院と帰ってきた四宮さんは恥ずかしそうに承太郎から視線をはずし、花京院の影に隠れてしまう。私たちは何と話していたのだ。

 

「おい、面倒事はこりごりだぞ」

 

 



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第33話

♡月₩日

 

ポルナレフさんの持っている綺麗な剣を見る。私は包丁くらいなら触ったことあるけど、本物の剣を間近で見たのは初めてだ。

 

私の言葉にポルナレフさんが反応して、それなら持ってみるかと言うので持たせてもらう。うわあ、剣ってこんなにずっしりとしてるんだ。

 

あれ?なんだか声が聞こえる。

 

私がシーザーお祖父ちゃんたちを殺すわけないじゃない。それに私は殺すより助けてあげたい。そう何者かと話し、ポルナレフさんに剣を返す。

 

しかし、私が剣の達人だって言っていたけど。どちらかと言えば運動は得意じゃないし、むしろスタンド能力のおかげで動けているほどだ。

 

そう思いながら鬱陶しく語りかけてくる謎の声を聞く前の状態に戻る。これでよしとイギーちゃんを抱えて、ポルナレフさんを追いかける。

 

♡月Η日

 

ジョセフさんとアヴドゥルさんがくっついて歩いているのが見えた。空条くんに二人って仲良しなの?と聞けば少なくとも彼が知るかぎり引っ付いて歩くほど仲良しだそうだ。

 

私は素敵だと思うけれど。

 

シーザーお祖父ちゃんが不貞腐れて部屋に引きこもっちゃった。やれやれ、と溜め息を吐きながら部屋を出る空条くんを見送る。

 

ひゃあああぁぁっ、お外であんなことを。

 

さっき見たものを花京院くんに相談する。おほん、と咳払いしながら視線を逸らす。辺りを気にしつつ小さな声で、そういうものは見て見ぬふりをしてくださいと言われた。

 

♡月¶日

 

空条くんによって私が見ていたことを聞き、なんとか弁明しようとするジョセフさんたちに愛の形は人それぞれですと伝える。

 

私の見てないところでしてほしかったけど。そう隠さずに私は大丈夫ですから、正直に言えば見たくもないものを見せられて最悪の気分ですが…。

 

そーっとシーザーお祖父ちゃんの隣に座って、昔のジョセフさんはどっだったのかを問う。普段はいい加減で不真面目だが、戦いとなれば抜け目のない策士だとべた褒めだ。

 

それじゃあ、あれも敵を惑わす策だったのだろうかと考えながらアヴドゥルさんを見る。なぜか目を合わせてくれず、私は仕方なくジョセフさんを見る。

 

それにしてもポルナレフさんは何処へ行ったのだろうか。イギーちゃんに吠えられてから一度も見ていない。ひょっとして、なにかあったのかな?

 

そう花京院くんに問うとトイレじゃないですか?と言うので待つことにした。しかし、いつもポルナレフさんは何処かに行っているとスタンドに襲われているような気がする。

 

私の呟いた言葉に食事をしていたはずの、みんなが手を止めて考え始める。また、へんなこと言っちゃったかな。大きなお肉を食べるイギーちゃんに聞いても言葉は分からないので諦める。

 

 



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第34話

♡月√日

 

私たち三姉妹の魂も賭ける。

 

そう空条くんは言った。

 

私は怒らないように心掛けているけどさ。自分の大切な家族を賭け事の景品にされるのは初めてだよ、もう怒りでどうにかなりそうだ。

 

だいたい、そんなイカサマばっかりしているスタンド使いと賭け事したって負けるよ?と言えばダニエル・J・ダービーが驚愕し、どこで見破ったと聞いてくる。

 

えっ、ほんとにイカサマしてたんだ。

 

私って意外と鋭いかもしれないなと思いながら、カードを配っていた男の子を『昨日』へ戻す。こうやって戻したらカードが良いのと悪いの、どちらが有利になるのかも分かるよね。

 

こういう賭け事で盛り上がるのは男の人だけだし、私たち女の子は興味も最初からない。なんで、と聞かれてもお金を賭けたりしたら稼いでくれる人に悪いじゃあないですか。

 

花京院くんが少し窶れたダービーさんに、男の悪いところも受け止めてくれる女性を探すことですねと告げる。私は好きな人だったら悪いところだって受け入れるつもりだよ。

 

♡月∃日

 

かわいい鳥を見つけた。

 

よしよしと撫でながら乱れている羽根を綺麗に整える。この子はスカーフをつけているから、誰かの家族なのかな?と考える。

 

私の手から飛び立った鳥を見送りつつ、DIOの屋敷へと突入する機会を伺う。ふと空を見上げると、さっきの鳥が鍵束を持ってきた。

 

もしかして、この鉄門の鍵なの?そう思いながら鍵穴に差し込むと簡単に開いた。ジョセフさんは動物に好かれるのは良い人の証拠じゃよと笑う。

 

なるほど、そういうものなのか。

 

私はジョセフさんの言葉に納得して、イギーちゃんを抱えながらアヴドゥルさんに後ろを着いていくことになった。まあ、少なくとも空条くんたちは負けて死ぬことはないだろう。

 

♡月×日

 

私の前に唐突に現れたヴァニラ・アイスというスタンド使いの攻撃を受け、アヴドゥルさんが片腕を削り取られた。

 

ほんの一瞬の出来事だ。ヴァニラ・アイスは現れると同時に消えた。まるで透明人間のように、そこに『いる』のに『見えない』のだ。

 

いや、イギーちゃんと鳥ちゃんのおかげで削り取るスタンドと思わしきものは見える。だが、そのスタンドの本体であるヴァニラ・アイスがいない。

 

ポルナレフさんは、この部屋のどこかに隠れているのは間違いないとところ構わずものを切り裂き、私たちの退路も進路も塞いでしまう。

 

焦るな、我々ならば勝てる。

 

そう私たちを励ましてくれるアヴドゥルさんに感謝しながら、スタンドの口の中から現れたヴァニラ・アイスに驚愕する。

 

私が知らないだけでスタンドは、そんなことも出来るのかと〈In My Time of Dying〉を出現させ、私も本の中に入れるのかを試す。

 

しかし、私は入れなかった。

 

 



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第35話

♡月$日

 

イギーちゃんと鳥のおかげでヴァニラ・アイスを倒すことが出来た。もっとも決定的な一撃を与えたのはアヴドゥルさんとポルナレフさんだけど。

 

私もそれなりに頑張ったつもりだ。

 

どうやったらスタンドに入れるのかを聞く前に倒してしまったのは勿体なかった。灰となって消えるヴァニラ・アイスに黙祷を捧げる。

 

そういえばヴァニラ・アイスが、この鳥のことをペット・ショップと呼んでいた。試しにペットちゃんと呼び掛けると頭に乗った。

 

アヴドゥルさんは頼もしいた護衛が出来たと笑っているが、イギーちゃんは不満そうに腕の中に収まっている。あとでガムをあげるから我慢してね。

 

そんなことを言いながら歩いていると、気がつけば私だけが動けていた。ペットちゃんもイギーちゃんも動いておらず、ポルナレフさんたちもビデオの一時停止のように動かない。

 

これは、どういうことだろうか。

 

私の疑問に答えるように現れた人こそDIOだ。出会い頭にビンタを放ち、あっさりと空振ってしまう。そこは決めなさいよと恥ずかしさを隠しながら、私はDIOを睨み付ける。

 

よくも私のかわいい妹たちに変なウイルスを移したわね、その罪は貴方の命で償いなさい。私の言い分に納得しながら、私では決して自分を殺せないと宣うDIOを睨む。

 

♡月≦日

 

いま、私はDIOと向かい合っている。

 

私に高祖母の話を聞かせてくるのは何かの儀式なのかと考える。だが、どうもジョセフさんたちが言っているような悪い人には見えない。

 

そう思いながらもDIOの「君のスタンドを出してくれ」という言葉に従って、手もとに〈レヴィー・ブレイク〉を出現させる。

 

ゆっくりと確かめるように表紙を触る。

 

私のスタンドは、高祖母とは似て非なるものだ。DIOの首から下はジョセフさんや空条くんのご先祖様の身体で、私の「本」を交える。ようやく三人一緒だった時のことを思い出せるよ、と話してくれた。

 

そう彼が呟いた瞬間、私は吹き飛んだ。

 

私の「本」が、お祖母ちゃんたちの〈レヴィー・ブレイク〉が奪われた。いや、私が持ち主なのは感覚的に分かるけど、こっちに呼び戻せない。

 

♡月Κ日

 

これは最悪の結末だ。

 

私のスタンド〈レヴィー・ブレイク〉の能力を無理やり引き出すDIOの動きをジョセフさんたちは捉えきれていない。辛うじて空条くんは見えているのか、花京院くんと一緒に応戦している。

 

シーザーお祖父ちゃん、ごめんなさい。

 

DIOの投げたナイフを拾い、心臓に突き刺す。私が死ねばスタンドも消える。みんな覚悟して戦っているんだ。ほんの少しの痛みで、みんなが助かるならなんだってやってみせる。

 

私だってやってやる。



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第36話(空条承太郎)

俺たちが不規則に消失と出現を繰り返すDIOと戦っている最中、四宮が自ら命を絶ったとアヴドゥルが叫んだ。DIOにスタンドの核ともいえる「本」を奪われたことで自暴自棄になったのか。

 

いや、あいつのことだ。俺たちの誰かがDIOに負ける可能性を考えて、自分のスタンドを死ぬことで封じ込めようとしたのだろう。

 

「四宮文月の『昨日へ戻る』という能力は実に厄介きわまりなかったが、このDIOを更なる高みへ押し上げる鍵となったのも事実だ」

 

「テメー、なにを言っていやがる」

 

「フン、この際だ。特別に教えてやろう、我が野望を悉く打ち砕いてきたジョースター。それを手助けるように現れるツェペリとエインズ!」

 

やたらと仰々しく振る舞うDIOとの間合いを詰める。おそらく気づいているだろうが、お構いなしに話を続けているDIOを見上げる。

 

「ジョナサン・ジョースター、かつて俺を殺す寸前まで追い詰めた男!しかし、その肉体(ボディ)は我が物となり、スタンド能力を目覚めさせた」 

 

こつ、こつ、と歩み寄ってくるDIOと射程距離が重なる。俺のラッシュは当たる。だが、俺はやつの言葉に耳を傾けている。なぜか、この話を聞かなくてはいけないと思っているのだ。

 

それを知っているのか。

 

それとも知らずに話しかけているのかは分からんが、俺は間合いで余裕を見せるDIOを睨み付け、一瞬の隙をついて〈星の白金(スタープラチナ)〉を叩き込む。

 

「そして、この本はエインズの女たちが脈々と受け継いできたスタンドだ。幾千人もの強者と戦ってきた歴史を持つ本を、我が最強のスタンド世界(ザ・ワールド)に取り込む!」

 

「なにっ!?」

 

先程まで後ろに佇んでいたDIOの〈世界(ザ・ワールド)〉が一回り大きく強靭な肉体となる。ひしひしと凄まじいパワーを感じる。

 

こいつは、ちと不味いかもしれない。

 

「〈天国へ到った世界(ザ・ワールド・オーバーヘブン)〉。今まさにジョナサンとアレクシア、二人の魂と肉体を得た!」

 

「〈星の白金(スタープラチナ)〉!!」

 

〈オオォォラァッ!!〉

 

おいおい、どうなってやがる。

 

確実にDIOの頭を砕いた感触はある。だが、DIOは何事もなかったかのように俺の前で首を回しながら肩凝りを確かめている。

 

「いま、ゾッとしたな。このDIOの能力に」

 

「テメー、四宮の能力を……」

 

「もはや、これは四宮文月の能力ではない!我が〈天国へ到った世界(ザ・ワールド・オーバーヘブン)〉の副次能力よ、如何に対策を考えようと貴様が攻撃しているのは、俺の通りすぎた過去に過ぎん!」

 

「やれやれ、こいつだけは使いたくなかったが、どうも使わざるを得ないようだ」

 

スーーーッと息を吸い込む。

 

かつて、じじいやシーザーのじじいを諌めるため、四宮の祖母が「本」の応用編として使った、とっておきの技だ。俺にも多少のダメージは残るが、今は緊急事態だ。

 

「ジョースター家の誇りを示せ!」

 

「それで、なにが起こっ!?」

 

DIOの身体がボコボコと膨れ上がる。それに呼応するかのように〈天国へ到った世界(ザ・ワールド・オーバーヘブン)〉の胸元にページが現れ、複数の影が飛び出してくる。

 

「アシュリー・ツェペリのとっておき、そいつは俺たちジョースター家、その関係者の幻像を出現させること。ただし、ちょいと厄介な幻像だ。一度でも「本」と関わったジョースターたちを全盛期の姿で再現する」

 

「ジョ…ジョジョ、アレクシアもか!?」

 

「少し悪ふざけが過ぎるよ」

 

「ディオ、やはり君は……」

 

こつり、と一歩前へ出る。

 

それと同時に勢揃いだった幻像たちが俺の中へ流れ込む。おいおい、ちょいとパワーを込めすぎじゃあねえか?それに流石のDIOも死んだ知り合いとの再会にはド胆を抜かれるようだ。

 

「さあ、第2ラウンドだ」

 

「小癪なッ」

 

〈無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!〉

 

〈オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラア!〉

 

DIOの肉体は『昨日』へ戻りながら〈星の白金(スタープラチナ)〉の攻撃を受け止める。俺は〈天国へ到った世界(ザ・ワールド・オーバーヘブン)〉のラッシュを受ける度、身体の生気が弱まっていく。

 

「ジョジョが現れたときは驚いたが、所詮は猿の浅知恵よ。このDIOを倒すことは出来ん!」

 

「確かにテメーのスタンドは強い。どれだけ策を練ろうと勝てんかもしれん。しかし、だからこそ(・・・・・)俺は勝つ!」

 

〈オオォラアァ!!〉

 

「何度〈星の白金(スタープラチナ)〉で攻撃を繰り返そうと俺には通用せんのだ!なにっ、これは!?」

 

「俺もようやく馴染んできたぜ、今のはアレクシア・エインズの『文章の意味を他者に与える』能力だ。テメーのオーバーヘブンは『一瞬だけ過去へ戻り、すべてをなかった』ことにする能力、そいつを『一瞬』だけ逆説的に(・・・・)裏返した」

 

ゆっくりと両手をだらしなく下ろし、俺を睨み付けるDIOの前に立つ。三秒、いや再生するまで五秒は掛かりそうな傷だ。

 

「三秒か、四秒か、どっちでも構わねえが、テメーの傷が治ると同時に〈星の白金(スタープラチナ)〉をぶち込む」

 

そう地べたに膝をつくDIOに告げた瞬間、片腕を振るって血しぶきを飛ばしてきた。ちっ、最後の最後で生き汚ねえ野郎だな!

 

「俺の勝ちだ、死ねい承太郎っ!!」

 

「〈オォォラアァ!!〉」

 

「このDIOが、世界の支配者となる俺が、古臭い波紋なんぞに、よりにもよってジョジョの波紋でエェェェ!!」

 

ようやく粉々に消え去ったDIOの死体から四宮の「本」を拾う。俺の〈星の白金(スタープラチナ)〉はDIOとの戦いの最中、一瞬とはいえ『時間』を止めた。

 

「やれやれ、面倒事はこりごりだぜ」

 

そう呟きながら〈星の白金(スタープラチナ)〉で四宮がDIOのやつに「本」を『奪われる前』に戻す。花京院、アヴドゥル、ポルナレフ、じじい、シーザーのじじい、イギー、ペット・ショップ、四宮、ずいぶんと大勢のダチと仲間をやられたが───。

 

「これで元通りだ」

 

パタン、と「本」を閉じる。

 

 



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ダイヤモンドは砕けない
第37話


◇月%日

 

なんとか一番上のお姉ちゃんと双子の姉を説得し、この杜王町で独り暮らしを許してもらえた。ああ、本当に素晴らしきかな、独り暮らしの新生活よ、と笑みを浮かべる。

 

ついでに日用品を買い揃えるため、アパートの近くにあるコンビニへ向かう。私の間が悪いのか、いつも事件や事故が起こっている。

 

こうなったら仕方ない。別の店舗を探すのと杜王町の探索を同時に決行しよう。

 

うん、それがいい。

 

それが一番ベストなはずだ。私の気持ちとは裏腹に事件現場へ押し出され、不良っぽい男の子と並ぶように立ってしまった。

 

えぇ、これって私も補導されるパターンじゃんと困りつつ、不良くんのスタンドがやったアーミーナイフの丸飲みショーを自分のスタンドで誤魔化す。

 

まったく他の人に見えないから良かったけど。あれで下手したら犯人も死んでたよ?と不良くんに文句を言いながら、警察の人に危ないことはしないようにと怒られる。

 

◇月∃日

 

早朝、晴れやかな気分だ。

 

私の新生活を彩ってくれるぶどうヶ丘高校の校門を通ろうとした瞬間、私が注意した不良くんがいた。よし、見つかる前に逃げよう。

 

そう考えたけれどもダメだった。

 

今さら自分の運動神経の無さを悔やみながら、私は東方丈助に根掘り葉掘り、空条承太郎さんのことやスタンドについて聞かれる。

 

私のスタンドはパワーは無いし、そんな東方くんみたいなマッチョじゃないよと答える。もはや、ただのカツアゲの現場にしか見えない。

 

しかし、私はへこたれないぞ。

 

お姉ちゃんたちと違って、私はスタンドとは関わらないように生きたいんだ。確かに不幸に巻き込まれてばかりだが、私だってやれば出来るんだ。

 

そういう事なので離して貰えると嬉しいです。ひぇっ、これが女子高生の憧れる壁ドン。ちょっと怖いけど、意外と悪くないかも?

 

いや、やっぱり怖いです。

 

◇月$日

 

私は不良じゃないです。

 

そうクラスメイトに弁明しながら東方くんに引きずられて屋上へ向かう。私と同じ雰囲気の広瀬康一となら仲良くなれそうだ。

 

なぜ、東方くんはなんで私に構うのだろうか?他にも女の子は沢山いるのだから他の女の子を連れて歩けば良いのに…。

 

私の独り言に苦笑いを浮かべる広瀬くん。

 

いや、そんなところで笑っていないで助けてくれない?私は普通に生活していたいだけなんだ。私は事件になんか関わりたくない。

 

私はハッキリと東方くんに訴える。だが、あの水のスタンドの本体が、私も東方くんの仲間だと認識した言ってきた。

 

成る程、私は狙われているわけか。それなら最初に言ってくれれば済んだのに、なんで私を屋上まで連れてくる必要があったんだ。

 

私の問いかけに東方くんは少し考えて、私の顔を真っ直ぐ見ながら「その、俺と同い年のスタンド使い?でいいんだよな。ちょっと境遇が似てるわけだし、少しだけ話してみたくてよ」と言った。

 

あれ、東方くんって意外とかわいい?

 

 



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第38話

◇月ー日

 

東方くんの家にお呼ばれしてしまった。

 

よくよく考えたら男の子の家に来たのも初めてだ。ど、どうすればいいんだろう。こういう時はお姉ちゃんたちに聞いてたから何も分からない。

 

それにしても東方くんのお母さんは美人だ。私のお姉ちゃんたちも綺麗だけど、こう東方くんのお母さんは大人の魅力が溢れ出ている。

 

ふと東方くんが香水を捨てているのが見えた。えぇ、もしかして悪戯してるの?と考える。しかし、そういう訳ではないようだ。

 

あの時の水のスタンドだ。

 

私たちを狙っている理由を問う。すると、東方くんが暖かい家庭に生まれているのがムカつく。小柄でかわいい彼女がいるのがムカつく。若くて美人な母親がいるのもムカつく。

 

そう恨み言の数々を答えた。

 

だが、一つだけ訂正してほしい。私は東方くんの彼女じゃない。確かに東方くんはカッコいいけれど、ほんの数日前に出会ったばかりで私は彼の良いところも悪いところも知らない。

 

私は何も知らない人を外見だけで好きになったりしないし、その人の性格や人生も否定しない。あなたの行為を咎める権利も私にはない。

 

◇月#日

 

早朝、私はアンジェロ岩の前にいる。

 

東方くんの〈クレイジー・ダイヤモンド〉によって岩石と一体化した彼は何を考えているのかも分からない。いや、もう考えることすら出来ていないのかもしれない。

 

ぽふっと私の頭に東方くんの手が乗る。東方くん、自分の髪型を貶されたら怒るんだったらさ。女の子の髪を気安く触るのはやめなよ?

 

そう文句を言いながら東方くんのおじいさんは無事だったのかを問う。私のスタンド能力、ちょっぴり東方くんのに似てるけど。

 

パワー、スピード、どっちも私より上だ。

 

それでも私の方が能力は勝っている。まあ、私よりお姉ちゃんたちのスタンドの方が数倍は強いけれど。私は非戦闘員というやつなのだよ。

 

そんなことを彼に話しながら〈スティール・ホウィールズ〉を出現させる。東方くんの〈クレイジー・ダイヤモンド〉は『治すこと』に特化した優しいスタンドだ。

 

私の〈スティール・ホウィールズ〉は『エネルギーの循環を操作する』ことが出来る。あの時は咄嗟だったから私の『生命エネルギー』を、おじいさんと循環させて命を繋ぎ止めた。

 

もっと分かりやすく言えば『輪』だ。この指輪のように一つの『円形』として、私とおじいさんを繋げてエネルギーをフル回転させる。

 

えーっと、つまりだ。ガソリンがすっからかんのおじいさんに、私がガソリンを満タンになるまで注いだわけよ。

 

東方くん、もう分かったわよね?

 

◇月≧日

 

広瀬くんは素朴だけど優しいね。東方くんは私の事情なんて関係ないと言わんばかりに近寄ってくるせいで、未だに二人以外に友達がいないんだ。

 

どうやったら友達って出来るの?

 

私の切実な言葉に憐れみの目を向ける広瀬くん、それと美味しそうにお弁当を食べる東方くん。いつものクールな雰囲気は作り物なのかと疑うレベルだ。

 

承太郎さんにいたっては私がいるのに気づいて東方くんのことを任せると言ってきた。そりゃあ、承太郎さんは典明義兄さんの親友だけど。

 

私は無関係でしょうがと叫んだ。

 

はあ、私の薔薇色の生活は何処へ……。

 

 



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第39話

◇月℃日

 

早朝、杜王町の探索をする。

 

古びた本屋、ビデオショップ、いろいろと品揃えの良いスーパーマーケット、私の素敵な休日を彩ってくれるスパイスになってくれるのはどれかな。

 

ルンルンと嬉しさを隠さず、ビデオショップに入ったら顔面凶器のような二人組の不良とぶつかった。咄嗟に謝りながらお店を出る。

 

もう、あのビデオショップには行かない。

 

そう固く決意しながら東方くんと遭遇し、スタンド使いに会ったかを問われる。だが、私はスタンド使いということを隠しているので、あまりスタンド使いと思える人には出会えていない。

 

東方くんも私や承太郎さん以外のスタンド使いには会っていない。それは良いことなのだろうか。それとも悪いことが起こる前触れかもしれない。

 

しかし、私はスタンドには関わらない。

 

私は平穏に暮らせれば良いんだ。こっちに来る前はDIOとかいうやつの信者に襲われて、本当に辛くて苦しかったんだ。せめて杜王町でくらい普通の女の子として過ごしたい。

 

◇月∪日

 

広瀬くんが「弓と矢」に射抜かれたが、不幸中の幸いというのか、広瀬くんは喉を射抜かれただけで即死ではなかった。

 

だが、これは非常に不味い。

 

承太郎さんの〈星の白金(スタープラチナ)〉を凌ぐ東方くんの〈クレイジー・ダイヤモンド〉と張り合えるパワーを持つスタンド使い虹村億泰を見る。

 

鋭い眼光と東方くん並みの背丈、そしてスタンドの「右手」に絶対的な自信を持っている。ちょうど彼の背後にいるとはいえ広瀬くんを放っておけない。

 

ジリジリと間合いを詰める二人を見ながら広瀬くんの容態を確認する。この「矢」を抜かなければ出血多量で死ぬことはない。

 

しかし、この「矢」を回収するために家の中から、もう一人の男が現れるはずだ。そいつを倒せれば東方くんも心置きなく虹村億泰と戦える。

 

◇月∪日

 

私のお姉ちゃんと義兄さんが来た。私への引っ越し祝いにではなく、高圧電流に吸い込まれて亡くなった虹村億泰のお兄さんを救うためにだ。

 

お姉ちゃんの〈In My Time of Dying〉は時間を戻す能力だ。私のスタンドと違って死者の蘇生さえ可能とする稀有な存在である。

 

それにしても承太郎さんと同じで、子供を置いてきてるのかと聞けば二人とも連れてきたと満面の笑みで言ってきた。

 

流石の承太郎さんも娘が来ていると知り、スピードワゴン財団の託児所へ早歩きで向かっている。東方くんも承太郎さんの意外な一面に驚き、虹村くんはお姉ちゃんに何度もお礼を言っている。

 

しかし、虹村くんのお兄さんを襲ったスタンド使いは未だに分かっていない。ずる賢いのか、単なる臆病なのか、それは分からないが、私の日常を壊すつもりから容赦はしない。

 

 



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第40話(東方仗助)

すこし小走り気味に歩く四宮詠月を見ながら、お袋の作った弁当を食べる。ようやくクラスに馴染めたのか、黒髪の女の子と楽しそうに談笑している。

 

「仗助、どーしたんだよ」

 

「んにゃ、なんでもねえよ」

 

四宮詠月、俺のじいちゃんの命の恩人だ。それと承太郎さんがこっそりと話してくれた事情は、かなりヘビーなやつだった。

 

アイツは三姉妹の末っ子で、遺伝的な心臓病が早くに発症しているらしく、この杜王町に来たのも療養を兼ねての事だ。

 

「おっ、詠月じゃあねえか。なんだ、あいつのこと見てたのか。〈クレイジー・ダイヤモンド〉の東方丈助があいつに惚れたか?」

 

「そんなんじゃあねえよ。ただ、あいつも苦労してるんだなと思っただけだ。それより億泰よぉ、テメーの兄貴はどうなんだ?」

 

「あの姉ちゃんのおかげで生きてるぜ。ただし、一週間は絶対安静だってよ。あの電気のスタンドを警戒してのことらしいが、病室つっーのも思ってたより窮屈だって文句言ってた」

 

「くはっ、そんだけ言えれば十分だな」

 

そんなことを話しながら屋上の片隅で寛ぎつつ、億泰の言う電気のスタンドのことを思い出す。おそらくスピードは俺や承太郎さんと同等、あるいは俺たちより素早いかもしれない。

 

俺のスタンドは怪我なら『治す』ことはできる。だが、病気を治すことは出来ない。それに詠月のお姉さんたちも病気の治療法を探している。

 

どうこう考えるのは俺じゃあない。

 

ただ、普通に接してやればいいだけだ。

 

「なあ、なあってば仗助!」

 

「んだよ、うるせぇな!?」

 

「あそこの茂みになんか居ねえか?ほら、詠月の後ろの茂みだよ。なんつっーのか、知らねえけど。ずっと詠月のこと見てるぜ」

 

「ありゃあ、玉美の言ってた野郎か?」

 

しかし、なんで詠月のことを見てるんだ。なにかスタンド攻撃を仕掛けようとしてるのか?と思った瞬間、詠月と隣の女が後ろのヤツを吹っ飛ばした。

 

おいおい、どういうことだよ。詠月のやつはいつの間にかスタンド使いと友達になっていたのか。それも女の子のスタンド使いに!

 

「仗助、あいつ捕まえとくか?」

 

「あーっ、まあ、そうするか」

 

ポリポリと頭を掻きながら気絶している間田敏和のところへ向かう。ちくしょーっ、あんまり詠月には近寄らねえようにしてたのによぉ、アイツのせいで近づかなくちゃあいけなくなった。

 

ちょいと強引に「弓と矢」のことを問い詰めると必要が出てきた。ゆっくりと階段を降りながら、ふと視線を感じて後ろに振り返る。

 

しかし、誰かが見ているわけでもなく気のせいかと納得する。それにしても髪の毛を突き刺すなんて、えげつねえ攻撃の仕方だったな。

 

 



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第41話

◇月↑日

 

私は新しく出来た友達の山岸由花子に広瀬くんのことを相談される。だが、私は恋愛をしたことが無いから応援する以外なにも思い付かない。

 

どうすれば二人は付き合えるのか。

 

えと、お姉ちゃんと義兄さんはデートしたり、ふたりでドライブに行ってた。由花子さんも広瀬くんとデートすれば良いんじゃあないかな?

 

私の言葉に納得してくれたのか。

 

ふんす、と胸を張って広瀬くんをデートに誘うと宣言する由花子さんを応援する。由花子さんとなら広瀬くんも幸せな家庭を作れるはずだ。

 

私がそう呟いたら「まだ気が早いわよ」と照れる由花子さん。こんなかわいい女の子と付き合えるなんて広瀬くんは幸福者だ。

 

もしも私が恋したときは由花子さんがアドバイザーになってくれれば百人力だ。そう楽しく話しながら広瀬くんを呼び出す喫茶店の前で別れる。

 

由花子さん、がんばってね。

 

◇月≦日

 

早朝、東方くんと虹村くんが家に来た。

 

広瀬くんが誘拐されたと言うのだ。

 

しかも犯人は山岸由花子だと宣う二人に文句を言う。確かに由花子さんは思い込みは激しいけど、クラスに馴染めていなかった私と友達になってくれた優しい女の子だ。

 

私の言葉を遮って広瀬くんの命に関わるかもしれないと切羽詰まったように虹村くんが騒ぐ。もう、わかった。わかったから、せめてセーラー服くらい着てから行かせてよ。

 

まったく恋する乙女は最強ってことわざを二人は知らないのかしら?と考えながら、無理やり部屋に入ってきた東方くんに櫛やドライヤーを投げつける。

 

ふたりが広瀬くんを心配してるのは分かったから、少しは身仕度を整えさせてくれ。あと東方くんは覗きをしたっておじいさんに言うので悪しからず。

 

そう彼に伝えると必死に弁明しようと話しかけてくるが、私は由花子さんの潔白を証明するために着いていくだけだからね?

 

◇月Ф日

 

私は由花子さんを信じすぎていたのか。

 

そう思いながらも色素の戻った黒髪を風に揺らす由花子さんとお弁当を一緒に食べる。しかし、由花子さんの意外な一面を見れたと思えば、わりと苦ではないかもしれない。

 

流石に睨まれるのは怖いから嫌だけどさ。私と由花子さんは友達で、同じスタンド使いだもの。どんな性格をしていたって絶交したりしない。

 

むしろ私は絶交されたら話し相手がいなくなり、薔薇色の生活が灰色に染まってしまう。だが、自分の食べるお弁当を、広瀬康一キャラ弁当にしてくるのはやめてほしい。

 

かなり病んでるみたいで怖い。

 

ああ、いや、ちがうのよ?私は由花子さんをきらっているけじゃない。ほんのちょっとお弁当の出来映えにビックリしちゃっただけでさ。

 

ほんと、ほんとに、それだけだよ。ひぇっ、そんな髪の毛を身体中に巻き付けないで、そういうのは本当に心臓に悪いのよ。

 

いや、ほんとに怖いです。

 

 



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第42話

◇月∨日

 

ある日の放課後の出来事だ。

 

私は東方くんたちと一緒に寄り道しながら帰っていると虹村くんがイタリア料理店へ行こうぜと言い出した。それって私がイタリアの血筋だから?と聞けば、二人ともビックリしていた。

 

えっ、違うの?と思いながらも二人の後ろを歩いて料理店へ入る。ちょうどお客さんはいないらしく、東方くんと虹村くんに相席をオススメする。

 

それにしても献立表がない。

 

なにか拘りを持っているのか、それとも開店して間もないのか。まあ、それはどちらでもいい。そう考えながら店主のトニオ・トラサルディーの手相占いを受ける。

 

私も虹村くんみたいに言われるのかと期待する。

 

だが、私の期待は最悪の意味でハズレた。トニオさんは私の心臓病を指摘し、あなたにお出しできる料理を作るのは時間を掛けなければと言われた。

 

いやへーき、へーきだよ。

 

こういうこと言われなれてるし、二人とも座って料理を楽しんで食べてよ。その、私は用事があるの思い出したから先に帰るね。

 

◇月∋日

 

お風呂上がりに牛乳を飲む。

 

これだけは子供の頃から止められない。

 

もっとも小さい頃に牛乳を飲んでいたのは身長を伸ばすためだったけど、私は160センチメートルには届かなかった。

 

そんな懐かしい思い出に耽っていると電気のスタンドがドライヤーから出てきた。とりあえず、髪を乾かすまで待ってほしいと頼む。

 

私は髪の毛が傷んだりするのは嫌だ。

 

そう伝えると髪を乾かしている間は攻撃しないと約束してくれた。ありがとう、と言いながらラジオの中に入っていく電気のスタンドを見る。

 

私のスタンドより強そうな見た目。それから、たぶん分類的には遠隔操作型、しかも電気を操るスタンドだ。私が攻撃を仕掛けても返り討ちかな?

 

髪を乾かしながら作戦を考える。

 

だが、ひとつも作戦が思い付かない。

 

◇月∬日

 

早朝、東方くんに〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉に会ったと話す。

 

ソイツに何もされなかったかと聞かれ、私の愛用しているドライヤーとラジオを数時間ぐらい占領されたと話しておいた。

 

広瀬くんとのデートを成功させると張り切っている由花子さんと挨拶を交わし、お兄さんと一緒に登校してくる虹村くんにも挨拶する。

 

さっきの話は内緒だよ、そう東方くん告げる。

 

不服そうなしかめっ面を見せてくるけど、こういうときは承太郎さんを頼るのが一番だ。もしかしたら義兄さんも助っ人に来てくれるかもしれない。

 

私の義兄さんは承太郎さんの親友だ。

 

それこそ死線を乗り越えて、私と双子の姉の命を救ってくれた。おそらく彼がいないと勝てなかった戦いもある。

 

そう東方くんに伝える。

 

なぜか少しだけ嬉しそうだ。やっぱり、東方くんは怖い不良なのかと思いながら、こちらに向かっているむ義兄さんに無事を祈る。

 

 



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第43話

◇月♭日

 

今日、ジョセフさんが来る。なんとも言えない表情を浮かべながら、承太郎さんの話を黙って聞いている東方くん。

 

そして、私が承太郎さんに呼ばれた理由は電気のエネルギーを相殺できるからだ。私のスタンドならば〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉を捕まえることが出来る。

 

そう承太郎さんは考えているんだろうけど。

 

私のスタンドよりも素早い〈チリ・ペッパー〉を押さえつけるものがないと捕まえることは出来ない。それこそ絶縁体であるゴムを、何枚も重ねたような分厚いものが必要だ。

 

そうみんなに伝えながら虹村くんのバイクのバッテリーを利用して着いてきた〈チリ・ペッパー〉にパンチを叩き込む。

 

ただのパンチじゃない。

 

私が殴れば殴るほど〈チリ・ペッパー〉はパワーを失う。その理由はシンプルだ。私の身体でエネルギーを塞き止めているのだ。

 

正直に言えば使いづらい能力だ。

 

◇月≫日

 

私たちは無事に〈レッド・ホット・チリ・ペッパー〉を倒せた。もっとも倒したのは虹村くんと東方くんなのだが、私の手柄だと二人が言うのだ。

 

パワーを吸い取った程度の些細な活躍だが、東方くんがジョセフさんと出会えて良かった。広瀬くんたちも同じことを思っているのか。

 

自分のことのように喜んでいる。

 

しかし、私のせいで〈チリ・ペッパー〉を倒したからジョセフさんを呼んだ意味がなくなった。そう考えながら承太郎さんにジョセフさんの滞在期間を聞くために話しかける。

 

それなりに長く滞在するらしく、もし見かけたら話し相手になってくれと頼まれる。私は平気ですよ、それに私もお祖父ちゃんのこと聞きたいし…。

 

お姉ちゃんは話したことがあるけど、私は一度も話した記憶がないからね。それとなく私もお祖父ちゃんのことが気になっていたんだ。

 

◇月Ο日

 

私の記憶のすべてをデッサンしたいという岸辺露伴と話しながら広瀬くんから奪い取ったすべての記憶を返してと告げる。

 

私は生身の人間に攻撃はしたくない。

 

そう彼に説明する。しかし、私の忠告を無視してむスカートを捲ってきた岸辺露伴に蹴りを食らわせ、さっさと家を出る。

 

広瀬くんは待ってと叫んでいるが、私の苦手なタイプだから東方くんたちを呼んでくるだけだ。その言葉に安堵の溜め息をこぼす広瀬くんと。

 

未だに私の事を見ながらみ大胆不敵に微笑む岸辺露伴を睨む。まったくスタンド能力を持った漫画家なんて、どうやって対処すればいいんだ。

 

もしも下手したら私まで広瀬くんのように反撃すら出来ない状態にされる。そうなったら私の〈スティール・ホウィールズ〉は岸辺露伴へ栄養を与えるスポーツドリンクのような扱いを受ける。

 

それだけは絶対にいやだ。

 

 



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第44話(虹村億泰)

「なあ、兄貴…」

 

「なんだ、余計なもんは買わんぞ」

 

「いや、そういう訳じゃねえけどよ。兄貴のときみたいに詠月の姉ちゃんなら親父のこと治せたんじゃねえかと思っちまったんだ」

 

ふと晩飯の材料を買った日の帰り道───。

 

俺は兄貴と並んで歩きながら思ったことを告げる。少し悩んだような表情を浮かべる兄貴を見る。バカの俺でも考えつくことだ、兄貴のことだし、とっくに詠月の姉ちゃんと聞いてるか。

 

「ああ、試してみる価値はある。億泰、この材料を置いたら直ぐに空条承太郎のところへ行くぞ」

 

「お、おう。わかった」

 

「その考えは俺も思い付かなかった。ずっと『治す』能力か『殺す』能力を探していたからな、少しばかり考え方が偏ってやがる」

 

そう言いながら俺の肩に手を置き、ようやく一筋の希望を見つけた。本当に詠月の姉ちゃんのスタンドで親父を戻せたら、俺は何を親父に話そうか。

 

〈数日後〉

 

詠月の姉ちゃんが旦那と一緒に来た。この前より少し痩せているように見えたが、俺が考えても仕方ないので静かに兄貴や承太郎さんと着いていく。

 

そこは真っ白な病室の真ん中、鎖やらベルトやらで拘束された親父を見る。詠月の姉ちゃんと旦那が部屋に入り、スタンドを出現させる。

 

ここまで来るのに十年も掛かった。

 

「〈In My Time of Dying〉」

 

ほんの一瞬だけ親父の身体が元に戻った。そして、親父を化け物に変えた元凶の『肉の芽』らしきものが額にあるのも見えた。

 

今度は承太郎さんが部屋に入る。また、詠月の姉ちゃんの能力で人間に戻る親父を見る。しかし、さっきと違って化け物には戻らなかった。

 

「二人とも終わったぞ」

 

コツコツと靴を鳴らす承太郎さんの後ろから半裸の親父が恐る恐ると出てくる。どこか夢を見ているような表情だったが、ゆっくりと俺たちに手を伸ばしてくる。

 

「本当に形兆と億泰なのか…」

 

「お…おや…じぃ…っ!…」

 

昔は、ずっと怖かった。

 

それでもたった一人の親父だ。

 

俺たちは親父が化け物に成り果ててから、ずっと親父を救うために生きてきた。それが、ようやく終わったんだ。今日から親父と兄貴と俺で、昔のように三人で飯が食えるんだ。

 

「空条承太郎、今回も助かった」

 

「いや、気にする必要はねえぜ。今は親父さんと一緒にいてやりな」

 

まともに喋れるようになった親父に、この十年のことを話していると兄貴と承太郎さんの話し声が聞こえてきた。そう言えばそうだ。俺も兄貴も承太郎さんと詠月のお姉ちゃんに助けられるのは二度目だ。

 

「形兆、大きくなったなあ……」

 

「ああ、十年も経ったからな」

 

「ごめんな、俺が……」

 

「なあ、親父も久しぶりに飯食いてえよな?」

 

俺と同じように兄貴も親父と話すのに照れているのか。親父に顔を背けながら一緒に飯を食べようと誘っている。

 

 



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第45話

◇月∧日

 

また、東方くんたちは良からぬことを考えているのか。おそらく年下の男の子と話しながら、小銭の詰まった空き缶を囲んでいる。

 

もしもの時は私が止めよう。そう由花子さんに伝えて、広瀬くんを見守る習慣の付き添いを断る。私は恋する乙女の味方だ。

 

しかし、流石に由花子さんの行き過ぎた行為には驚きを隠せない。それどころか広瀬くんの使ったストローや広瀬くんの落としたハンカチを大事なプレゼントだと言って保管しているのだ。

 

ちらりと東方くんたちを見る。

 

よく分からない紙束を集めている。ひょっとして、今回はスタンドを使った杜王町の清掃が目的なのかな?それなら私が注意する必要はないか。

 

そう思いながら三人を見つめる。

 

ふふっ、なんだか東方くんたち後輩と楽しそうに話すセンパイみたいだ。これなら私が出ていかなくても大丈夫そうだ。

 

◇月゜日

 

早朝、東方くんと一緒に登校する。

 

ちょうど虹村くんも加わって、三人で歩いていると昨日の男の子がいた。おはよう、と矢安宮重清に声を掛ける。

 

私の目の前でカツアゲするのはやめなさい。まったく矢安宮くんも嫌なら断るのよ?と教える。それじゃ、私も先に行くわね。

 

あとで東方くんのお母さんに報告しておこう。しかたない、私も矢安宮くんに一緒に謝ってあげるか。そんなことを考えながら歩いていると矢安宮くんを見つめる男の人を見た。

 

いったい、なにをしているのだろうか。

 

◇月↓日

 

もう本当に最悪だ。

 

どこかへ走る矢安宮くんを追いかけたせいで、広瀬くんと岸辺露伴が言っていた殺人鬼に会ってしまった。しかも私が出会った中でもトップクラスの破壊力をもつスタンド使いだ。

 

なんとか矢安宮くんが爆発する寸前にエネルギーの方向を地面に向けられたけど。次に彼と出会ったとき、おそらく私は殺される。

 

それに彼と私は同じだ。

 

ただ、普通の暮らしを送りたいだけの無害を装おうスタンド使い。もしかしたら私よりも壮絶な過去を隠しているかもしれない。

 

そう考えながらアパートに入った瞬間、私は失敗したのだと理解した。私の住所は分からずとも素顔や年齢は分かるのだ。

 

そして、私は独り暮らしだ。

 

この杜王町でなら私を見つけることは容易い。ゆっくりと床に座って彼と向かい合う。おおよそ三十代くらいだろうか。

 

彼が私の両手を触る。かなり気持ち悪いがスタンドを出せていない私は抵抗せず、彼が気を緩めるのを待つしかない。

 

彼はモナリザの絵で、その、あれしたことを話してきたりする。普通は、そんなこと話さないよね?と思いながら指先を舐める彼を見る。

 

その目は運命の人と出会えたような、これからの幸せな生活に想いを馳せる花嫁のようだ。そっと私の「手」を掴んで、あなたが欲しいと言ってきた。

 

う、うーん、まさかの告白だ。

 

どうやって断るべきか。

 

そもそも断った方がいいのかな?

 

 



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第46話

◇月→日

 

私の「左手」を吉良吉影に奪われた。

 

利き腕を奪われた最悪だが、あんなことやそんなことに使われると考えるだけでおぞましい。東方くんに頼んで治してもらおうか。

 

いや、それはダメだ。下手したら空を飛ぶ「左手」が朝イチのニュースに乗るかもしれない。しかし、本当にどうすればいいんだ。

 

一応の処置は施しているが、私のスタンド能力は『両手』が無いと使えない。片手だけでは上手くエネルギーを循環させられない。

 

そんなことを考えながら病室に入ってきた文月お姉ちゃんと久しぶりに二人で話す。だが、お姉ちゃんは今にも泣きそうだ。

 

お姉ちゃん、悲しませてごめんね。

 

それでも私は東方くんたちと出会えた杜王町を吉良吉影から守りたいんだ。だから、私にお姉ちゃんの「本」を貸してほしい。

 

◇月Д日

 

早朝、私は吉良吉影の家にいる。

 

承太郎さんと東方くんたちが手がかりを見つけるために何度か近所に来ているのだそうだ。ずいぶんと古びたものが多い。

 

そう思いながらも庭を調べているとカラスに写真のようなものが引っ付いているのが見えた。もう、誰かのイタズラかしら?

 

なにやら後ろで慌てている東方くんたちを宥めながら〈スティール・ホウィールズ〉とお姉ちゃんの〈レヴィー・ブレイク〉を出現させる。

 

私の〈スティール・ホウィールズ〉は『プラス』や『マイナス』のように、色んなエネルギーの循環を操作できる。

 

それにお姉ちゃんの『時間を戻す』〈レヴィー・ブレイク〉を合わせれば『超破壊力を持つ衝撃波』だって出せる。

 

空間が抉れるほどの風圧と轟音を発する衝撃波は見事に写真をねじり潰し、そのまま私のところへ微風となって戻ってくる。

 

私の突然の行動に驚く東方くんたちに、わりと私も怒ってるんだよと話す。まったく私が両手を使えていたら、もっと正確に狙えてたんだけど。

 

これは仕方ないよね。

 

へろへろになったおじいさんの映った写真を承太郎さんに手渡す。しかし、どこに吉良吉影の手がかりがあるのだろうか。

 

◇月℃日

 

お姉ちゃんに「本」を返して、あんまり激しい運動はしないようにとお互いに言い合う。私の「左手」も吉良吉影の家の冷蔵庫の中にあったし、一応の不安はなくなったかな?

 

それにしても吉良吉影はどこにいるのか。

 

矢安宮くんもご両親の安全と幸せのため、東方くんたちに混ざって吉良吉影を密かに探しているけれど、彼のスタンド〈キラークイーン〉の脅威を知っているはずだ。

 

あのスタンドは恐ろしい。

 

スタンドVSスタンドによるバトルなら承太郎さんや東方くんの勝ちだろうが、あの〈キラークイーン〉は極めて珍しい遠距離と近距離の複合型だ。

 

もしかしたら私の触っているものが爆弾の可能性だってあり得る。そう言った疑心暗鬼に陥ったところを狙ってくるのは間違いない。

 

 



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第47話

◇月∀日

 

早朝、私は宇宙人に出会った。

 

すごく不思議な男の子だ。私のスタンドは見えていないようだけれど、自分の姿を変えられる能力を持っているのは確かだ。

 

しかし、それにしてもだ。

 

東方くんと一緒に跳んだのは驚いた。あれだけの跳躍を生身で行える。でも、彼はスタンドを見えないからスタンド使いじゃあない。

 

なんとも不思議な事だと思いながら、虹村くんと二人っきりで学校へ向かう。東方くんのことを聞かれたけど、ちょっと遅れるだけと伝えておいた。

 

私は基本的にウソをつきたくないが、こういう場合はウソをつくしかない。虹村くんも東方くんが優しすぎるのもあれだなと言う。

 

それには私も同意する。

 

すこし前にハンティングしてきたと話していた時もネズミを殺さずに済んだんじゃないかと呟いていた。私が思うに東方くんは優しすぎるから、面倒事を引き寄せているんだと思う。

 

◇月〓日

 

今日も岸辺露伴と東方くんが喧嘩する。

 

偶然にも居合わせてしまった私は岸辺露伴に付き添って、二つ杜トンネルへと入る。実は二人乗りというものに憧れていたので、いまの状況は少し嬉しかったりする。

 

だが、私は一度も岸辺露伴からスタンドと戦うなんて聞いてない。私の〈スティール・ホウィールズ〉と運良く似たタイプだったから良かったけどさ。

 

もしも私がいなかったら、岸辺露伴だけだったら確実に捕まっていた。しかもエネルギーを『奪う』タイプのスタンドだ。

 

あのスタンドはパワーは弱いが、私の〈スティール・ホウィールズ〉より奪うのは上手い。何度か触られただけで、かなり心臓が苦しくなった。

 

しかし、そう、しかしだ。

 

なんで岸辺露伴ともあろう人が、こんな状況でスケッチを始めているんだ。さっさと逃げてくれないと私が動けないじゃないか。

 

◇月⌒日

 

もう、本当に最悪だ。

 

あのあと私は岸辺露伴を守って倒れた。

 

その気絶している間に〈ヘブンズ・ドアー〉で記憶を見られた。心臓の病気を患っていることも知られたが、この杜王町で知っているのは彼だけだ。

 

すぐに暗殺すれば誰にもバレない。そんなことを考えながらリンゴの皮を剥く岸辺露伴を見る。しかもウサギさんにして剥いている。

 

すごくかわいい。

 

あっ、こっちもかわいい。

 

そう思いながらリンゴを食べる。岸辺露伴、露伴さんは私が杜王町にいる理由も知っている。だからこそ、私は杜王町を出るべきだと彼は言う。

 

しかし、吉良吉影は「(わたし)」を求めている。私が杜王町から出ていったと知れば追いかけてくる可能性もある。

 

もしもの時は頼りになる友達がいる。

 

もちろん、露伴さんもだ。



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第48話(川尻浩作(吉良吉影))

私の名前は吉良吉影────。

 

いたって普通の会社員だ。もっとも、それは少なくとも数日前までの話だがね。あの忌々しい空条承太郎と東方仗助のせいで、私の人生は滅茶苦茶だ。

 

しかし、私はモナリザ(四宮詠月)に出会えた。

 

彼女の『手』は素晴らしい。ほんのり漂うボディーソープの香り。綺麗に整えられた爪、汚れ一つない色白の肌、そのどれもが愛おしい。

 

「あなた、お弁当忘れてるわよ!」

 

「ああ、すまない」

 

ゆっくりと後ろに振り返ると、そこにいるのは私が成り代わった川尻浩作の妻である川尻しのぶだ。いつも気だるそうにしているが、私のためにお弁当を作り、ごく稀に夫婦の営みをする。

 

しかし、最近の私は可笑しい。

 

この時期になると必ず起こっていた『衝動』が出てこないのだ。ひょっとして、私は、あの『衝動』から解放されたのか。

 

そう何度か考えた。

 

だが、それは違うと分かった。

 

私の『衝動』は彼女だけに、そうモナリザ(四宮詠月)に、その一人のみに向いているのだ。だから、私は普通に静かに暮らせている。

 

多少の息苦しさはあるが、私は川尻しのぶと川尻早人との生活は悪くないと思っている。私はモナリザのおかげで変わりつつある。

 

しのぶのお弁当をカバンに入れて仕事へ向かう。この川尻浩作は出世意欲の高さ、それと他人を惹き付けるセンスを持ち合わせていた。私ならば上手く使えるステータスばかりだ。

 

「パパ、どうしたの?」

 

「うん?いいや、なんでもないよ。それより早人も急いだ方がいい。そろそろバスが来る時間だ」

 

「えっ、あ、やばい!?」

 

トタトタと軽やかにバス停へ走っていく早人を見送り、私は歩いて職場へと向かう。通勤時のルートは変えず、少し体力をつけるために歩いて向かう。

 

あの時の失敗は努力で補える。

 

ふふっ、なんだか、とても気分が良い。私が川尻浩作と出会ったのは運命だ。しかし、空条承太郎たちと出会う可能性を考えると引っ越しを検討したほうが良いかもしれない。

 

私の名前は川尻浩作────。

 

いたって普通の会社員だ。大切な妻子を持ち、成績優秀で営業部の稼ぎ頭。今日も妻子の幸せを願って仕事へ向かう。

 

今の幸せを奪わせるつもりはない。

 

たとえ私が凶悪な殺人鬼に戻ろうとも川尻浩作として、私はモナリザ(四宮詠月)を心に仕舞って生き続ける。私は静かに植物のように家族と暮らす。

 

私の細やかな願い。

 

それを奪うものは絶対に許しはしない。

 

どんな相手だろうと私の〈キラークイーン〉で、粉々に吹っ飛ばす。私は川尻浩作として家族と幸福な暮らしをしたい。

 

それが今の私の望みだ。

 

 



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第49話

◇月*日

 

早朝、私の住むアパートの前に人がいた。

 

私の家ってスタンド使いを引き寄せる、そういうパワーを持っているのだろうか。そう考えながら私の個人情報を口ずさむ男の子を見る。

 

こいつは変態だ。

 

そっと部屋に戻って警察に通報しておいた。いくらスタンドを持っているとはいえ変態とは関わりたくない。さっさと帰れと玄関越しに告げる。

 

どうして変態や変人ばかりに好かれるんだ。

 

私だってお姉ちゃんみたいに素敵な旦那さんと出会いたい。悲しみの籠った言葉を呟きながら、べったりとドアに張り付いている変態を台所の磨りガラス越しに見つめる。

 

◇月⇔日

 

たぶん、あれを一生の不覚と言うんだろう。

 

私は〈エニグマ〉というスタンドに捕まり、幸運にも噴上裕也に、私の養分を吸って病院へ入れた男に助けられた。

 

ほんのちょっぴりカッコいいと思ったのは内緒だ。彼は何人もの女の子を引き連れてるし、きっと私なんかが好きになったところで見向きもされない。

 

そう東方くんに言ったら拗ねた。

 

ねえ、ちょっと何を怒ってるの?と聞いても不貞腐れたように顔を背ける東方くんに首をかしげる。むう、やっぱり男の子ってよく分からない。

 

あとでラブラブな交際関係へと辿り着けた由花子さんに相談してみようか。うん、それなら一番の解決法を教えてくれるはずだ。

 

◇月=日

 

私は露伴さんの背中にいる。

 

どうやらスタンド攻撃を受けているらしく、私にも他の人にも背中を見せられないとのことだ。それなら〈ヘブンズ・ドアー〉で、私の視力を無くした上で目隠しを着けてからおんぶすればいい。

 

私の胸が大きくなったんじゃないか。ちょっとお尻が大きすぎやしないか。もしかして、太ったのかい?なんてセクハラを受ける。

 

だが、私は〈スティール・ホウィールズ〉で『音』のエネルギーを露伴さんからしか聞こえないように調整している。

 

いくら露伴さんの『音』を真似ても『ノイズ』は無条件に省ける。それに、どれだけ『音』を真似ようと私が露伴さんの声を聞き間違えるはずがないのだ。

 

そう言いながら露伴さんの降りていいよと言う声に従って彼の背中から降りる。ああ、なるほど、オーソンの小道を使ったんだ。

 

さっきの言葉の意味を尋ねてくる露伴さん。そりゃあ、私は好きですからねと伝えた。なぜか露伴さんは私に嫌われていると思っていたらしい。

 

少しだけ考える時間がほしい。

 

そう言い残して私からフラフラと離れていく露伴さんを見送りつつ、ついでに色紙にサインを貰えば良かったと悔やむ。私は、けっこう好きだけどな、露伴さんのピンクダークの少年とかさ。

 

 



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第50話

◇月⇒日

 

今朝、お姉ちゃんがやって来た。

 

私は同じ日を七回目も巡っている。吉良吉影のスタンド〈キラークイーン〉の能力なのか、あるいは別のスタンド使いの能力なのか。

 

それは分からない。だが、なにかヤバいのは間違いない。私がスタンドの能力の何かに関わっている。それだけはハッキリと分かるんだ。

 

お姉ちゃんは知っている。

 

しかし、それを言わないのは『言えない』理由があるということだ。私の〈スティール・ホウィールズ〉はエネルギーを循環させる。もしも『過去』へ戻るのならば私が何かを覚えているはずだ。

 

私はお姉ちゃんから「本」を受けとる。

 

そうだ、この〈レヴィー・ブレイク〉を持っていれば私は『過去の出来事』を覚えていられる。たとえ、それが最悪の出来事だとしてもだ。

 

私も東方くんの髪型のように、一つだけコレは許さないと決めていることがある。それは、お姉ちゃんを泣かせるやつだけは絶対に許さないことだ。

 

◇月∪日

 

早朝、私がすれ違った川尻浩作という男こそ吉良吉影だった。あまりにも突然の出会いに吉良吉影も驚き、とっさに『爆弾』を使ってきた。

 

しかし、ようやく分かった。

 

吉良吉影の〈キラークイーン〉は私の瞳の中にいる。矢安宮くんの時の『触れたものを爆弾にする』能力、承太郎さんの時の『遠隔操作型の爆弾』シアーハートアタック、そして『四宮詠月を条件付きで爆弾する』能力だ。

 

もしも私のお姉ちゃんが〈レヴィー・ブレイク〉を持っていなかったら勝てない相手だった。だが、これで私は〈キラークイーン〉の能力を知った。

 

あとは吉良吉影を倒す方法だ。

 

最後に見たときも彼は私の「手」を掴んでいた。私が誘き寄せるエサになる。川尻浩作、彼の家に電話して呼び出すしかない。

 

また、私は死ぬだろう。

 

しかし、それだけだ。私のお姉ちゃんを泣かせるやつは、それが殺人鬼だろうと神様だろうと関係なく殴り倒してやる。

 

◇月∃日

 

おはよう、川尻浩作さん。

 

そう家から出てきた吉良吉影に話しかける。

 

ちょうど曇ってきたので喫茶店に行きません?なんて言いながら〈スティール・ホウィールズ〉を出現させる。

 

私も静かな生活を望んでいる。しかし、それだけのために人を殺そうとは思わない。私が両手だけ残して死ぬか、あなたが吉良吉影として死ぬか。

 

今から私と勝負しましょうか。

 

そんなことを言いながら杜王町のはずれにある霊園の隅っこで向かい合う。私の〈スティール・ホウィールズ〉は今日よりも強くなってるので、あなたも〈キラークイーン〉を呼び戻した方がいいよ。

 

ちょっと私も怒ってるんですよ。

 

 



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第51話

◇月&日

 

早朝、お姉ちゃんに「本」を返す。

 

とても素敵な気分だ。

 

私は杜王町を守れて、お姉ちゃんを泣かせたやつをブッ飛ばせた。ありがとう、杜王町に行かせてくれて、私の言葉に訳もわからずわけ首をかしげるお姉ちゃんに抱きつく。

 

すごく怖かった。

 

それでも嬉しいことが分かったんだ。私もお姉ちゃんたちと同じエインズの血族だった。この「本」が私に力を貸してくれたんだ。お姉ちゃんが話してくれた承太郎さんとDIOの戦いの時みたいにさ。

 

そうお姉ちゃんに伝える。すこし逞しくなったねと笑うお姉ちゃんに、そんな簡単に筋肉なんかついてないよと言い返す。

 

私は晴れやかな気分で過ごせる。ぜんぶ、お姉ちゃんのおかげだ。私を助けてくれて、ありがとう。お姉ちゃんがいなかったら負けてた。

 

それだけは確信して言える。

 

私はお姉ちゃんのこと大好きだ。もはや愛していると言っても過言ではない。だから、私はお姉ちゃんを泣かせるやつは許さない。

 

それぐらい大好きなんだ。

 

ふふっ、恋愛的な感情じゃないよ。

 

私はカッコよくて頼りになる男の子が好きだもん。えっ、いや、東方くんは関係ないよ?もう、だから東方くんは違うってば、べつに嫌いじゃないけど。

 

◇月¥日

 

東方くんたちに吉良吉影を倒したと話したらさ驚きのあまり教室の窓から落ちてしまった。うん、私も同じ反応をすると思う。

 

そんなことを考えながら東方くんに、どうやって倒したのかを聞かれた。どうって言われてもさ、私のスタンドはエネルギーを循環させる。

 

吉良吉影の〈キラークイーン〉の能力は爆弾を作ることだ。だったら、その爆弾のエネルギーその物を塞き止めて、いっきに相手に叩き込めば倒せる。

 

もちろん、死なないように加減したよ。

 

ああ、そんな焦らなくて大丈夫だよ。もう吉良吉影はスタンドを使えない。そういう感じにしておいたから私たちは何も怖がらなくて済むんだ。

 

あっさりと決着がついた。

 

みんな、そう思うんだろうけど。

 

私は長く苦しい戦いだったってことは覚えているよ。もしもお姉ちゃんの〈レヴィー・ブレイク〉がなかったら危なかった。

 

◇月%日

 

おはよう、早人くん。

 

川尻浩作さんは元気にしてる?

 

あの時は助けてくれてありがとうございますって伝えてくれると嬉しいんだけど。あとお見舞い品を持ってきたんだ。

 

うん、ごめんね。

 

私が横断歩道の真ん中で発作を起こさなかったら川尻浩作さんは怪我しなかったよね。私の知り合いの『魔法使い』を連れてきたんだ。

 

そういう訳で、お願いできる?

 

東方くんの〈クレイジー・ダイヤモンド〉で川尻浩作を治せる?と聞けば余裕で治せるから待ってろよと言ってくれた。

 

私の友達は凄いでしょう?

 

 



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第52話(川尻浩作(■■■■))

私の名前は川尻浩作────。

 

ほんの数ヶ月前に女子高生を庇って(・・・・・・・・・・・・・・・・)交通事故に巻き込まれただけの普通の男だ。交通事故の後遺症なのか、少しばかり記憶の混濁はあるが、私はいたって平穏な生活を送れている。

 

私の最愛の妻である(・・・・・・・)しのぶは付きっきりで看病してくれるし、たった一人の息子である早人も学校帰りだというのに毎日のように病院へ寄ってくれる。

 

この前も私が庇ったという女の子がお見舞いに来てくれた。なにかを忘れているような気もするが、いずれ思い出すだろうと医師は真摯に言ってくれた。

 

「僕がパパを支えるよ!」

 

「ありがとう、早人。それじゃあ、ロビーの自動販売機まで手伝ってくれ」

 

未だに記憶は穴だらけだが、私は妻と息子のおかげで幸せだ。私が勤めている会社も復帰を心待ちにしていると、しのぶが教えてくれた。

 

「川尻浩作さん、お久しぶりです」

 

「ん?ああ、あの時の女の子か」

 

「ふふっ、早人くんも久しぶり」

 

「あ、ひさしぶり!」

 

私の前に屈んで早人と話す四宮詠月ちゃん。しのぶの話だと彼女が杜王町に来たのは最近で、心臓の病気の療養も兼ねての高校生活だそうだ。

 

なるほど、彼女が倒れたのは病気のせいか。

 

私は数日後には退院する予定だが、彼女は定期的に通わなくていけない。もしもの時は私たち家族で助けてあげようと早人と小さな声で話し合う。

 

〈数日後〉

 

「ふう、少し休憩するか」

 

私は杜王町でも一二を争う会社の営業部のエースであり、今回の女の子を庇っての交通事故の功績も合わさって部長に昇格した。

 

なんだか彼女を助けてから最近の人生は素晴らしい方向へ向かっているようだ。そう思いながら妻の作ってくれたお弁当を食べる。

 

やっぱり、しのぶのお弁当は美味しいな。今日も帰ったら早人とゲームをする約束をしているし、このお弁当を食べ終わったら残りの仕事を済ませよう。

 

「川尻さん、こんにちはッス!」

 

「おや、仗助くんじゃないか。こんな会社の近くに来るなんて珍しい。なにかあったのかい?」

 

「その、今からデートなんスよぉ~っ」

 

「ひょっとして相手って詠月ちゃんかい?」

 

私の指摘にビックリしたように表情を変える仗助くんにお駄賃代わりに三万円ほど手渡す。いいっすよ、なんて断ろうとする仗助くんを見上げる。

 

「もしも彼女にほしいものがあって、それをプレゼントしようと思っているならお金は余分に持っておきなさい。私も妻とデートするときは余分に持つようにしているんだ」

 

「えっ、まじ?そーなんすか?」

 

「私はしのぶを愛しているからね」

 

「おお、スゲーのろけっぷりだー!」

 

私は自慢するように胸を張って仗助くんにしのぶとの思い出を語ろうかと思ったが、そろそろお昼休みが終わる時間なので、仗助くんに今度あったら続きを話そうと言い残さて会社へ戻る。

 

ふと後ろに振り返ると詠月ちゃんがいた。

 

「さようなら、■■■■さん」

 

「ああ、さようなら」

 

私だけの愛しいモナリザよ────。

 

 



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黄金の風
第53話


△月%日

 

オレの仕事を増やす空条承太郎と公衆電話で話す広瀬康一を押し退け、オレだけでジョルノ・ジョバァーナのやつを追跡すると告げる。

 

まったく忌々しい。

 

ただの姉さんの旦那の友達ってだけで、オレの大切な詠月と文月姉さんをジョルノ・ジョバァーナとかいうやつの捜索を手伝わそうなんて、いったい何様のつもりなんだ。

 

そう思いながらアイツと一緒に電車に乗り、少しだけ離れた位置から観察する。康一のやつは『自分への攻撃を、そのまま返す』能力とか言っていたが、オレには別の能力に思えた。

 

先ずはアイツの事を観察する。

 

オレのスタンドは、ここだと使えない。

 

しかし、アイツは本当にイタリア人と日本人のハーフなのか?オレには何処からどう見ても純正のイタリア人にしか見えない。

 

お、おお、すげぇな。今の白スーツのスタンドの動き、ジッパーを開けるのと何かを入れるのを ほぼ同時にこなしてやがる。

 

△月¥日

 

早朝、オレはジョルノと一緒にいる。

 

ちょっと隙を見せたら捕まったと言った方が正しいのだろうが、なんかムカつくからオレは一緒にいると表現する。だいたい、こいつの考えが読めない。

 

オレほどの美少女を捕まえたっていうのに、なにもしてこないどころか拘束もしない。こいつは、本当になにがしたいんだ?

 

ただ、一つだけ分かったことがある。

 

ジョルノ・ジョバァーナは弱き者の味方だ。こいつは見ず知らずの誰かのために命を張れるスゴい男だと確信できるのだ。

 

本当ならオレのスタンドは誰にも見せたくないが、ジョルノになら見せても良いとさえ思える。そういう不思議なカリスマ性を持っているんだ、このジョルノ・ジョバァーナという男は……。

 

少なくともオレが出会ったやつだと空条承太郎や姉さんの旦那ぐらいだ。他の奴らはDIOの仇だとか面倒なことばっかりだ。

 

△月£日

 

ジョルノに付き添ってブローノ・ブチャラティの仲間と会ったが、かなりの変態だった。普通は初対面のやつに、あれを飲ませるか?

 

そう考えながらもオレはエスプレッソとシナモンケーキを注文する。まったくオレはジョルノのやつを調べに来ただけなのに、いつの間にかギャングになろうとしている。

 

オレの性格は悪いのは分かってるつもりだ。だが、こいつは悪いどころか一度決めたことは絶対にやり遂げないと気が済まないってタイプだ。

 

こいつはオレと似ているように見える。

 

しかし、ジョルノ・ジョバァーナという男はイビツだ。ギャングに助けられたからギャングになる?そんなことを普通なら思いもしない。

 

現にオレの双子の妹はスタンド犯罪の捜査員にはならず、杜王町で彼氏と平和に暮らしている。くそが、なんでオレの妹が、東方仗助なんぞと付き合ってるんだ。

 

すげー、ムカついてきた。

 

 



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第54話

△月ヴ日

 

オレの事を信用しないと宣うレオーネ・アバッキオという男を見る。こいつもスタンド使いか?なんてオレが警戒するだけ時間の無駄だな。

 

明らかに持ってる(・・・・)やつの態度だ。

 

自分のスタンドに絶対的な自信を、こいつが居れば勝てるという確信を持っている目だ。だが、オレのスタンドには誰も勝てない。

 

それだけは言える。

 

オレの態度が悪いのは認めるが、絶対にお前らが入れたり作ったやつは食べない。オレは姉さんか妹の作ったもの以外は食べたくないんだ。

 

そう言いながらカバンからサンドウィッチを取り出して食べる。なんだよ、お前らにはやらんぞ。おい、勝手にカバンを広げるな。

 

まったく〈グッチの鞄〉が、そんなに珍しいのかねえ?とジョルノに聞く。すると、小さなカバンから大きなバケットが出てきたことが、僕たちは気になると言ってきた。

 

あーっ、あれだよ。

 

オレはイタリア貴族の末裔だ。このネアポリスの半分以上の土地はオレの家のものだし、その気になればお前らにも無料で提供できるぞ?

 

うおっ、なんか人が生えてきた。

 

△月≡日

 

えーっと、なんだ?

 

オレの部下(?)になったマリオ・ズッケーロだ。ブローノが警戒するのは分かるが、オレの雇っている護衛だと思ってくれ。

 

少なくともオレは諦めた。

 

こいつ、無駄に売り込みが上手いんだよ。オレの家は給金として大金だろうが払えるっていうだけなんだが、オレを守って給料アップを狙ってるんだ。

 

そんなことを話しながらズッケーロへ今日の給料を手渡す。もちろん、オレの貯金から払っている。いきなり、知らないやつを雇うのは無理だ。

 

先ずはズッケーロの事を観察する。それから信用できると判断したらツェペリ家に連絡を送り、オレの専属として雇ってやるつもりだ。

 

ああ、なんならブローノも雇うぞ?

 

△月∀日

 

ズッケーロのカス野郎がよぉ。

 

このオレに仲間がいることを黙っていやがった。いくらオレがスタンドを使いたくないからってよぉ、そりゃあ許せねえよなあ?

 

そうジョルノに問う。ふるふると首を振りながら僕なら許しませんけど、彼が心の底から謝ったら許すかもしれません。

 

ジョルノは、そうオレに言った。

 

とうぜん、ズッケーロも聞いている。しかし、いっこうに謝ろうとしないズッケーロの頭を掴む。光栄に思えよ、ズッケーロ。テメーにオレのスタンドを、ほんのちょっとだけ見せてやるよ。

 

こいつがNobody's Fault but Mine(ノーバディーズ・フォルト・バット・マイン)だ。

 

こうやって高圧電流の籠った拳で殴り殺す。何を怯えてんだ、安心しろよ、たかだか百万ボルトだ。人間は簡単には死なねえから、たっぷりと死ぬ寸前まで遊んでやる。

 

 



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第55話

△月≦日

 

あのサーレーとかいうやつもいいな。

 

もしも生きていたらオレが雇ってやろう。そう呟きながら穴だらけのグイード・ミスタの身体を触って『昨日』へ戻す。

 

おい、感謝しろよ。普通ならオレが使うのは緊急時とか死にそうな時だけだ。だが、これで上手くオレのスタンド能力を誤魔化せた。

 

サンキュー、オレの文月姉さん。

 

そんなことを思いながら動かないサーレーをズッケーロに押し付け、オレが仕切るツェペリの部下に任せて、ブローノに着いていく。

 

オレは有能なやつは引き抜く主義だ。

 

なぜならば有能なやつほど燻るし、上のやつらに邪魔されて鬱憤を溜め込んでいる。おい、アバッキオ、そんな急に近づくなよ。

 

オレだって女の子だぞ?

 

お前にキュンと来ちゃうだろうが、オレは惚れっぽいんだ。そんなチューするような距離に来るなよ、マジで惚れちゃうぞ。

 

△月>日

 

オレはパッショーネのボスの娘と二人っきりで向かい合っている。アバッキオとパンナコッタ・フーゴなりの配慮なのだろう。

 

しかし、どこか違和感がある。オレのスタンドが勝手に出てこようとしている。お前はオレも危ないんだから大人しくしててくれよ。

 

そう思いながら姉さんの〈レヴィー・ブレイク〉を出現させ、そっとトリッシュ・ウナへ向ける。ただの疲労回復を促進させる『文章』を書き加えただけだが、少しは落ち着いたか?

 

まあ、オレも血筋的に似たようなものだ。

 

お互い様ってやつだよ。

 

だが、オレは血の運命を受け入れる。たとえ朽ち果てようと高祖母から受け継いだスタンドという能力を誇り、オレは自分の人生を生き抜くつもりだ。

 

トリッシュ・ウナ、テメーに夢あるか?

 

どんな逆境だろうとオレは夢を叶える。そう信じることが自分を肯定する大切な一歩だ。もしも挫けそうなときは、このオレが助けてやる。

 

△月≒日

 

なんかトリッシュになつかれた。

 

確かに好かれるようなことは言ったかもしれないが、こうも簡単に近づいてきたのは予想外だ。おい、お前らオレはレズじゃないぞ。

 

ただの親切で話しただけだ。

 

オレのスタンドは精神を操作する能力じゃない。もっと強烈で派手な能力だとは言っておくが、そうそう見せるつもりはない。

 

まあ、そんなに心配はするな。

 

トリッシュとは仲良く待ってる。その間にナランチャ・ギルガが買い物へ行くんだろ?それならオレの財布を貸してやる。

 

いくら使ってもいいが、余計なものは買うなよ。そういうのは場所を取る。しかし、せめて日用品は買ってきてもらえると助かる。

 

あとは携帯用トイレぐらいだな。お前らは外でも良いだろうが、オレとトリッシュは女の子だってことを忘れるなよ。

 

 



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第56話(ジョルノ・ジョバァーナ)

アバッキオとフーゴが消えてから、直ぐにスタンドによる攻撃だと理解し、わざと敵のスタンドの術中にハマってフーゴの〈パープル・ヘイズ〉のウイルスを感染させた。

 

僕たちを鏡の中へ引きずり込んだスタンドは、フーゴの〈パープル・ヘイズ〉のウイルスで消えるかと思っていたが、あの四宮葉月(ハヅキ・シノミヤ)がウイルスを除去し、あろうことか追手を助けたのだ。

 

彼女はイカれている。

 

彼が有能だから自分の部下として連れ帰る?そんな簡単に人を殺すやつが有能と言うのならばフーゴやアバッキオ、ナランチャは更に有能なはずだ。

 

なぜ、彼らを勧誘せずにソイツを勧誘する。

 

まったく理解できない。

 

いや、そもそも彼女は僕たちの任務とは無関係だ。それなのに、なぜ彼女は僕たちと行動を共にしているんだ。そう考えながら彼女を見る。

 

ブチャラティたちと一緒にフィレンツェ行きの列車へ乗り込み。また、ハヅキは一人だけで行動するように個室に入っていく。

 

「成る程、彼女は囮をするつもりだ」

 

「ブチャラティ、なんですって?」

 

なにかの聞き間違いかと思ったのか、フーゴがブチャラティに聞き返す。ゆっくりとブチャラティは「亀」の中のソファに腰掛け、僕たちにも聞こえるように話す。

 

「トリッシュと彼女は『女性』だ。俺たちを追っている連中はトリッシュの素顔を知らない。それを利用するために、俺たちと別れたんだ」

 

「おいおい、そう簡単に行くのかよ?」

 

「彼女は口は悪いが、彼女は常に気品を感じさせるような振る舞いを心掛けていた。ボスともなれば気品ある振る舞いをする、そう錯覚させるためにだ」

 

それならば彼女の行動も納得できる。だが、それを見ず知らずの相手に出来るかと聞かれると素直に頷くことは出来ない。

 

〈数時間後〉

 

「ジョルノ、ハヅキの安否確認をするぞ」

 

「えぇ、分かっています」

 

ミスタとナランチャが老いさせるスタンドの本体を探している間に、僕とアバッキオはハヅキの生死を確かめる。

 

しかし、彼女がいるのは102号室だ。

 

僕たちのいた「亀」から離れているが、その102号室に辿り着く前にスタンドの本体に出会う可能性も捨てきれない。

 

おそらくナランチャは列車の上をミスタと一緒に渡っているのだろう。彼のスタンド〈エアロスミス〉が何度か窓の外を往復するのが見えた。

 

「シッ、静かにしろ…」

 

ギィッと音を立てるドアを少しだけアバッキオが開ける。かなり老け込んだハヅキと知らない男が向かい合うように座っている。

 

僕の傍で最悪の相手だと吐き捨てるアバッキオに問いかける。彼が何者なのか。どうして、ハヅキを恨めしそうにう睨み付けているのか。

 

「あいつは麻薬チームの新入りだ。しかもキレやすい上にスタンドの能力も相性が悪い。たしか名前はビットリオ・カタルディだ」

 

成る程、彼がネアポリスにばら蒔かれている麻薬を取り仕切るチームの新入り。そのスタンド能力は本体の受けたダメージを返すというもの。

 

僕の黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)の能力と僅かに似ている。アバッキオの髪の毛を「蝿」に変えて、ビットリオさんのところへ飛ばす。

 

自分の近くをうろちょろする虫ってウザいですよね。もう殺すってつもりで潰すしかない。そう、それこそ廃車を押し潰すプレス機のようにね。

 

「こいつはやり過ぎじゃあねえか?」

 

「これくらいやらないとダメですよ。ほら、ハヅキの足を見てください」

 

「くそっ、ヒデェことしやがる!」

 

アバッキオが左右から押し潰されたように死んでいるビットリオさんを見下ろしながら呟く。しかし、そう思えるのはアバッキオが優しいからだ。

 

彼は動けないハヅキの太ももを短剣で突き刺していた。まるで裁縫針を仕舞うように、何度も彼女の太ももにですよ?いくらハヅキの口が悪いとはいえ女の子を虐めるやつは許せない。

 

 



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第57話

△月♀日

 

オレの両足が穴だらけにされた。

 

かなり痛みは残っているが、ブローノが作戦に気づいてくれたおかげでやり易かった。だが、このストッキングは買い換えないとダメだな。

 

まったくオレのお気に入りだぞ。あとで持ってきてもらわねえといけなくなった。そう文句を言いながらアバッキオの隣に座る。

 

べつにオレは空いてる場所に座ってるだけだ。ちょっとカッコいいからって調子に乗るなよ。ふん、オレだって好みくらいあるんだ。

 

トリッシュ、まさかって言いたげな表情をするのは良いけど。オレはレズじゃないし、いたってノーマルな恋愛を求めている。

 

オレの可愛い妹は殺人鬼とか不良とかなんぞに好かれる悲しい運命を背負っている。だが、オレの姉さんは普通の恋愛をして結婚した。

 

あのくそったれな義兄を追い出す方法を考えたりしているが、なかなか義兄もトラップに上手く引っ掛からないからムカつくんだよ。

 

△月Å日

 

オレは謎の変態と出会った。

 

トリッシュの頬を優しく撫でる変態だ。あまりの出来事に思わず〈Noboody′s Fault but Mine〉を使ってしまったが、オレ以外に起きていなかったのでセーフと思っておこう。

 

いったい、あの変態は何者なんだ。

 

どことなくトリッシュと似ていたように思える。いや、それこそ有り得ない事だ。トリッシュの父親は、彼女の事を一人だけで待っているはずだ。

 

そう考えながらブローノが指令を読み上げる。だが、今回の指令は不自然なところが多い。トリッシュの『安全』を優先する命令は、いつもと同じだ。

 

誰もがトリッシュを見る。しかし、この指令を書いたものはトリッシュの『殺害』を目的としている。そう、ハッキリと書かれているのだ。

 

こういうときは姉さんの〈レヴィー・ブレイク〉が役に立つ。みんなの精神を安定させて冷静な判断を下せるようにする。

 

△月₩日

 

あのセクハラ野郎はブッ飛ばす。

 

オレに変なこと聞きやがって、そういうのはしたことないから分かんないんだよ。まだ、キスもオレはしてねえんだぞ。

 

フーゴとナランチャに愚痴りながらジョルノのブッ飛ばしたスタンドの欠片を拾う。お前は産み出す父親を間違えたんだ。

 

とりあえず、テメーは赤ん坊なのは分かった。ちょいと試したことはねえが、オレの姉さんのスタンドなら出来るはずだ。

 

そこそこ良いんじゃあないか?

 

これはお前が実体型スタンドだったから成功しているだけで、他のスタンドは人間に生まれ変わることはことは絶対にない。

 

ジョルノ、子供の責任は親が取るよな?

 

まあ、そういう訳だ。お前は眠ることだけを考えれば良いんだ。次に目覚めるときは素敵な両親との幸せな生活が待っている。

 

オレだって女の子だ。自分の子供だったらと考えると、こうしちまうのが当たり前なんだよ。ほら、ブローノたちも待ってるぞ。

 

 



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第58話

△月※日

 

最後の指令を伝える『DISC』を回収する。そのチームにオレが入っているのは謎だが、これも追手を撹乱するブローノの作戦なのだろう。

 

そう納得してジョルノの運転する車の助手席に座り、オレは静かに姉さんの〈レヴィー・ブレイク〉を読む。この時間だけがオレの心を静かに落ち着かせてくれる。

 

ゆっくりとページを捲る。

 

ほんの一瞬だ、ジョルノが窓を開けた瞬間、オレの身体が凍りついた。いつ、どこでスタンド使いとすれ違った。じわじわと氷に覆われていく最中、そんなことを考えながらオレは〈Noboody′s Fault but Mine〉を使った。

 

くそが、すげぇムカつく。

 

オレはスタンドを見せたくねえんだよ。そう思いながらミスタとジョルノの近くに〈バット・マイン〉を寄せて火ぶりの刑を執行する。

 

これがオレの能力だ。

 

あらゆる『刑罰』を執行する薄気味悪いスタンドだ。ちょいと火加減の自信はねえが、これなら〈黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)〉も使えるだろ。

 

△月₩日

 

ジョルノの蹴り殺したギアッチョを見ながら後ろから聞こえてくるミスタの変な声を聞き流す。そういうのは本当にやめてくれ。

 

いやーんとかだめーとか聞こえてくるが、ギアッチョを引きずり下ろして『昨日』へ戻す。こいつも使えそうなのでツェペリ家で雇ってやろう。

 

とくに夏場は快適に過ごせそうだ。

 

そんなことを考えながらボートに乗っているナランチャと目があった。どうもジョルノの治療行為を勘違いしているようだ。

 

たぶん、オレも初対面だったら勘違いする。それほどミスタのふざけた声は大きいし、ジョルノも押さえつける様があれなのだ。

 

△月&日

 

トリッシュの父親と会談する。

 

しかし、そこへ向かうのはブローノだけだ。そういう指示をパソコンで送って来ている。おそらく無関係のオレが関わっているせいだ。

 

もっともオレたちはトリッシュの父親の用意してくれた要人警護を受けるお偉いさん御用達の一流ホテルへ泊まる。

 

これはトリッシュが女の子であることを配慮して、清潔な環境で落ち着けるようにと彼女の父親が手配してくれたものだ。

 

フーゴの礼節指南を受けるナランチャとミスタを眺めながらオレは外を警戒する。ここは安全という保証は、どちらかと言えば無い方だからだ。

 

ゆっくりとトリッシュの泊まる部屋を調べて、ここは安全だと確認したブローノたちは食事を取るため各自の部屋に戻る。

 

先ずはシャワーを浴びて落ち着くと良い。

 

オレがいるから襲撃の心配はない。

 

それにオレのスタンドは空条承太郎ほどじゃあないが、それなりに強いやつだ。お前を傷つけるやつは許さねえよ。

 

 



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第59話

△月∋日

 

オレはトリッシュに連れられてショッピングを楽しみながら周囲を警戒する。だが、この地域の住人の半数以上が彼女の父親の信者だ。

 

彼女の父親は『ギャング』でありながら『救世主』として紛争の絶えない国や土地で信仰を受ける程の人格者であり、ジョルノやブローノの嫌悪する『麻薬』の排除を望んでいる。

 

これだけ聞けばトリッシュの父親は素晴らしい人物に思えるが、どうも彼の噂には必ず裏表が存在するのだ。一つは『救世主』と崇めながら『悪魔』だと侮蔑する声もある。

 

そのことはブローノも知っているらしく、どちらが本当のボスなのか判断しきれていないのが、今の彼らの状況だ。

 

もっともブローノとしてはトリッシュの安全を優先するメッセージを送ってきていた方だと信じたいようではあるが、今の平穏な一日が罠という考えも捨てきれないと話しているのを聞いた。

 

それをトリッシュに伝えるつもりはない。もしも真実を伝えるとすればオレたちじゃない。それは、トリッシュの父親が教えることだ。

 

△月ф日

 

早朝、トリッシュが父親と会う。

 

その付添人としてボスはブローノ・ブチャラティを指名しており、二人だけでサン・ジョルジョ・マジョーレ島へ上陸する。

 

オレたちは彼女の父親の用意してくれた小型ボートに乗って、二人が無事に出てくるのを待てば良いだけだ。それなのにジョルノはソワソワと落ち着きのない様子で、大鐘楼を見上げている。

 

ちらりとボートを見る。

 

また、ナランチャのチョコレートを取ろうとするミスタに呆れながら、彼の口へクッキーを押し付け、それでも食べてろと言う。

 

そういう事はやめろ。

 

いくら気心の知れた間柄とはいえ無理やり奪い取るのは最低の行為だ。ほら、そんなにチョコレートが欲しいならクッキーと一緒にやるからナランチャのは取ってやるな。

 

△月Д日

 

トリッシュはブローノたちのおかげで父親と再会することが出来た。だが、その父親の半分(・・・・・)がトリッシュを殺そうとしたのだ。

 

フーゴのボスは「二重人格」や「解離性障害」の可能性があると話しながら、右腕を怪我したトリッシュを慰めている。

 

だが、これで合点がいく。

 

彼女の父親は善悪どちらも持ち合わせている。その『悪』の精神を切り取る事が出来れば、彼女の父親は『善』の精神しか持たない優しい人物だ。

 

しかし、どうやって精神を切り離す。オレのスタンドは使えない。いや、こういう時に頼れるやつならオレの携帯電話にも登録されている。

 

あんまり電話しないせいで怒ってるかもしれないが、オレが我慢すれば良いだけのことだ。

 

 



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第60話(ブローノ・ブチャラティ)

トリッシュ・ウナの父親────。

 

俺達のボスが目の前で眠っている。ハヅキのスタンド能力の一部を応用し、僅かな時間だが眠らせることが出来るそうだ。

 

だが、ボスを殺るなら今しかない。そうジョルノは考えている。それだけは不味い。このボスはヴィネガー・ドッピオという『悪』の精神を押さえ付ける枷の役目を担っている。

 

もしも彼が肉体の所有権を失えばマジで一瞬のうちに俺達は殺される。それほどボスの〈キング・クリムゾン〉は恐ろしいスタンドだった。それを奪われるのだけは絶対に阻止しなければならない。

 

「ブローノ、そろそろ着くぞ」

 

「おい、待て。今、お前はつく(・・)と言ったのか?いったい何が来るというんだ!」

 

「そいつは私だ!」

 

そう言って現れたのは塔を彷彿とさせる銀髪のヘアスタイルが特徴的な男だった。ゆっくりと警戒させないように進んでくる男を見上げながらトリッシュたちを庇うように立つ。

 

「私の名前はJ・P・(ジャン=ピエール)ポルナレフ、そこのハヅキに呼ばれてきた凄腕のスタンド使いだ。さあ、安全なところへ案内しよう」

 

そう彼は俺たちに告げる。ハヅキはボスを背負いながらポルナレフと名乗った男に着いていく。ここで悩んでいるのは時間の無駄だ。

 

〈数日後〉

 

俺達はジョルノ・ジョバァーナとヴィネガー・ドッピオの対決を見守ることしか出来ない。かつてポルポの持っていたという『スタンドの矢』を回収したヴィネガー・ドッピオは強烈な自我を持ってしまい、ボスの肉体を奪うことに成功した。

 

いつもボスの傍らに居続けたヴィネガー・ドッピオは自分こそ主人格に相応しいと思うようになり、トリッシュの殺害を企てた。当然ながらトリッシュを傷つけることをボスは許さず、こうしてヴィネガー・ドッピオ諸とも自害すると選んだ。

 

「なぜ、僕の邪魔をするんだァ!」

 

「なぜ、なぜですって?僕が『許せない』と思ったからですよ」

 

ふたりがお互いのラッシュを防ぎつつ言葉を交わす。しかし、俺の時のように『時間を吹っ飛ばす』能力は使えない。俺の隣に腰かけて「本」を開いているハヅキの能力のせいだ。

 

そして、俺の予感は確信へ変わった。

 

ジョルノ・ジョバァーナの黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)がポルナレフの与えた『スタンドの矢』でサナギから成虫へ脱皮するかのように生まれ変わった。

 

そう言えばポルナレフがジョルノに言っていた。ジョルノの血筋の生み出すスタンドは必ずと言っていいほど特殊な能力を持って進化を遂げる。

 

もしや、これがそうなのか!?

 

「私は、あの進化を鎮魂歌(レクイエム)と名付けた」

 

〈無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!!!〉

 

それは一瞬だけ見えた幻覚だったのか。ジョルノが〈キング・クリムゾン〉を叩き上げた瞬間、俺はボスの肉体から気弱そうな少年が抜け出ていくように見えた気がする。

 

〈WRYAAAAAAAAAAAA!!!〉

 

ドグシャアァッ!と炸裂する音と共に吹っ飛ぶボスの肉体は重力に従って地面に落ちていき、ゆっくりと動かなくなった。

 

「…ボ…ボス…いっ…ひとりは…さびしいよぉ…」

 

おそらく俺だけが辛うじて聞こえた。今のがいヴィネガー・ドッピオの本心からの言葉だ。か細くなっていく声を聞きながらジョルノを見る。

 

あいつも聞こえていたのか。

 

ジョルノはハヅキを呼び寄せて何かを囁いている。まだ、なにかするつもりなのかと二人を見守る。だが、ハヅキはボスを見下ろしながら、唐突にスタンドを出現させた。

 

「おい、それマジでやるのか!?」

 

「えぇ、そうです。責任は持ちます」

 

「くそが、テメー覚えてろよ。ヴィネガー・ドッピオ、お前へ『刑罰』を執行する。お前の『罰』は来世で幸せになることだ。ジョルノ、そういうわけだ。思いっきり、やってくれ」

 

「〈黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)〉!彼の遺伝子を掛け合わせ、新たな生命を産まれさせろ!」

 

おいおい、それってつまり────。

 

「あたしのパパがジョルノに寝取られた!?」

 

「その言い方はやめて下さい!」

 

まったく、なんと言うことを考えるんだ。いや、この一ヶ月の間にジョルノ・ジョバァーナの、そういうところを見てきたんだ。

 

こういう結末もあったのだろう。

 

 



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ストーンオーシャン
第61話


☆月%日

 

早朝、私はパパとガラス越しに面会をする。

 

私の親友である空条徐倫をハメた奴らを捕まえる。そう私は病院にいるママと約束してきた。そのため徐倫ちゃんと同じように捕まる必要があった。

 

そういう理由で捕まったからパパは帰って良いんだよ?と伝える。少し呆れたように溜め息をこぼすパパと話しながら、この「本」を渡す理由も問う。

 

いつも大事そうにママが持っていた「本」だ。それを私へ贈るのには何かしらの意味がある。たとえばパパの後ろに立つ緑色の生き物と関係している何かがあるんだよね。

 

それが「本」を渡す理由だ。

 

ふむ、これはスタンド能力っていうのか。私が使えるのはママとパパの遺伝って訳だ。すごく面白いものなのは、だんだんと分かってきた。

 

へぇーっ、徐倫ちゃんも使えるんだ。

 

それなら私が無理やり看守を殴って従えるより楽そうで良いね。あはは、パパったら私の性格が葉月おばさんのせいだと思ってるんだ。

 

うん、それは正解だね。私の性格がこうなったのは葉月おばさんが関わっているよ、あの人ってイタリア全土を牛耳ってるじゃない。

 

その手法を少しだけ私は学んだんだ。

 

☆月#日

 

ハロー、私の親友の徐倫ちゃん。

 

あなたのピンチを救うために看守さんをボコボコにして捕まってきた幼馴染みだ。いやあ、そんな驚かなくても良いじゃないか。

 

私は普通に捕まって入ってきただけだよ。そう胡散臭いものを見るような目は止めてよねえ。ああ、そうだ、看守のお姉さん、私のご飯を持ってきてよ。

 

とりあえず、あの美味しそうなヤツだ。

 

どうしたのさ、徐倫ちゃん。

 

さっき私は普通に(・・・)捕まって来たって言ったじゃあないか。これぐらい私は出来るってことを覚えておくといい。

 

あはは、すごく面白い表情だ。

 

私なら看守さんの仕事内容を書き換えることぐらい容易く行えるんだよ。もちろん、誰にも危害は加えていない。

 

まあ、セクハラしてきた奴らは別だけど。ああいうことするやつは痛い目を見た方が良いと思うんだ。ああ、ただの私の個人的な持論だよ?

 

☆月↑日

 

グッドモーニング、徐倫ちゃん。

 

私が朝食を確保しておいたよ。それなりに面倒な事はあったけれど、今のところ徐倫ちゃんが悩んだりすることは起こっていないからね。

 

ふと視線を感じて後ろに振り返る。

 

ふむ、彼女もそういう感じか。まったく徐倫ちゃんを猛獣の檻に入れるなんて最低な弁護士だ。尤も私のスタンドは「本」との相性も抜群だ。

 

そう考えながら小鳥と話すグェスという女を見上げる。彼女は徐倫ちゃんのズボンを濡らしていたっけ、あとでお仕置きしないといけないな。

 

私の言葉に反応する徐倫ちゃん。ふふっ、本当に徐倫ちゃんは耳が良いよね。いつも私の言葉を、しっかりと聞いてくれる。

 

そういうところが大好きなんだ。

 

もちろん、親愛的な意味でだよ?

 

私は普通にかっこいい男の子が好きだからね。そのカッコいい判定は曖昧だけど、少なくとも徐倫ちゃんは入っていないよ。

 

 



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第62話

☆月〆日

 

ようやく徐倫ちゃんも目覚めた。

 

私の後ろに立つスタンドを見る彼女は驚きと納得に満ちていた。それが当然の反応だろうね。私は生まれながらのスタンド使いだ。

 

こうやってスタンドを出すのは呼吸するのと同じであり、私のピンチは自動的に動いて未然に防いだりする。私の傍らを離れず、ずっと助けてくれる。

 

彼女は、とても信頼できる親友だ。

 

私の生涯の親友は彼女と徐倫ちゃんだけだ。あはは、そんな嫌そうな顔をしないでさ。ずっと私は思っていたんだよ、徐倫ちゃんも『見える』になればいいのになってね。

 

それは叶ったからいいんだけど。

 

その親友が困っていたら助けるのが友達ってものだ。まあ、グェスってやつをぶっ飛ばす時も助けようかと思ったんだけどね。

 

流石に徐倫ちゃんが滅茶苦茶にラッシュを叩き込んでいるところへ行くのもあれでしょ?私なりに気を使って待っていたんだ。

 

そう怒らなくてもいいじゃあないか。それに、あの着ぐるみ姿の徐倫ちゃんも可愛くて良かった。おおっ、私もスタンドでのビンタは勘弁してほしい。

 

☆月∀日

 

ハロー、徐倫ちゃん、グェスちゃん。

 

私の牢屋へ来るなんて珍しい。ふーん、お金の貸し借りを妨げる方法を探しているのか。それなら腐ったものをスタンドで盛ればいいだけだよ。

 

二人ともスタンドは使えるんだ。それが姑息だろうと陰湿だろうと仕返しということなら神様だって許してくれるはずだ。

 

もっとも私は体質的に受け付けないけどね。心臓が弱い代わりに免疫力は高いっていう、なんとも矛盾している身体というわけだよ。

 

そう変顔を披露してくれるのは嬉しいが、私は大声で笑ったりしないよ?こうやってクスクスと笑うだけで隙なんか見せない。

 

うん、私はそれほど長くないね。

 

この刑務所へ入っているのも徐倫ちゃんのためだし、本当ならママと同じく清潔な病院のベッドで過ごしている方が長生きできるさ。

 

それに私の命と引き換えに親友を助けるのも悪くないと思えるほど、私は空条徐倫という幼馴染みで親友な君のことが大好きなんだ。

 

☆月∪日

 

おや、ずいぶんと苛立っているね。

 

もう一度言ってもらえるかな?私の耳が可笑しくなっているようなんだ。ふむ、確かに今度はハッキリと聞こえた。あの空条承太郎を出し抜き、彼のスタンドを奪い取ったということか。

 

おそらく、そいつの目的は空条承太郎のスタンドもしくは記憶だろうね。私はママに聞いたことがある程度だけど、その『ディオ』という人物は私の血統とも関係深いものだ。

 

今から凡そ百年ほど前ぐらいだ。

 

私の曽祖母『アレクシア・エインズ』は『ディオ』と出会った。その時には徐倫ちゃんの曽祖父『ジョナサン・ジョースター』と知り合い、私の曽祖母たちは建前上は仲良く過ごしていた。

 

しかし、この『ディオ』の裏切りから運命は大きく歪んでしまったんだ。なぜ、私がそれを知っているのか?そんなの「本」に書いてあるからだよ。

 

私の家系は「本」として歴史を残す。

 

まさか、私も歴史の記録を残すとは思わなかったが、逆に言えばそれだけ私はジョースターと関わりが深いということなのだろう。

 

 



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第63話

☆月+日

 

おや、私の隣は嫌だったのかな?そう思いながら医務室のベッドに寝転ぶ。まったく看守さんたちがパパの言いつけを守っているとは驚きだ。

 

いくら世界有数の大企業の娘とはいえ区別することなく指導すると思っていたのにね。少しばかりガッカリしてしまうよ。

 

私は心の中で呆れながら「本」を読む。この「本」のストーリーは凝っているけど、どうも凝りすぎて読者への配慮が欠けている。

 

そんなことをエルメェス・コステロに話しながら「本」を閉じる。いきなり、私の顔をビンタしようとするなんて酷いじゃあないか。

 

なぜ、看守さんがお金を盗むのを止めなかったか?その問いかけに答えるのは構わないけど。その振り上げている右手を下ろしてくれたらだ。

 

私が看守さんを止めなかった理由は、すごく粘着性の高そうな男だったからだよ。もちろん、私の個人的な感想なので聞き流しても問題ないさ。

 

しかし、あの看守さんは本能的に近寄るなと感じたんだ。ほら、現にエルメェスはエロスを醸し出したせいでお金とパンツを盗まれている。

 

おっと、それは失礼してしまった。

 

私の使っていない新品のパンツをあげよう。ふふっ、それは私も愛用している日本製の下着だよ。もちろん、履き心地の良いやつさ。

 

ああ、その値札は気にしなくていいんだ。

 

☆月∬日

 

ハロー、三人とも元気そうだね。

 

おっとエルメェスってば乱暴だな。

 

おやおや、私が何をしたっていうんだ。

 

ふむ、あの掃除の男のことなら私は無関係だと主張する。確かにエルメェスを手助けしたが、スタンドの彼女は道具って訳じゃないんだ。

 

こうやって彼女は食事をする。もしかしたら呼んでいない間は眠っているのかもしれない。私と彼女は対等な関係なのさ。

 

そう何度も彼女を呼ぶのは失礼だと私は思っている。しっかりと彼女にも休息は必要なんだ。ふふっ、そう困惑するのは良いが、そのスタンドも休息を必要としているかもしれないよ?

 

何を言われようと彼女は私の親友なのさ。

 

☆月>日

 

彼女を狙うなんて良い度胸だ。

 

確か〈ホワイトスネイク〉だったね。ずいぶんと本体とシンクロ率の高さを持っているようだが、彼女の能力と君では相性が悪い。

 

今は出直す事をオススメするよ。

 

ふむ、その勧誘のメリットは何だろうか?生憎と私は神様なんて信じていないんだ。それこそ自分の運命を切り開くのは自分だと信じているだけだ。

 

そう〈ホワイトスネイク〉に告げる。それに私は徐倫ちゃんを助けるために来たんだ。私が敵の仲間になること事態が有り得ない。

 

まあ、そういう訳だ。

 

彼女に吹っ飛ばされないうちに帰ることを、もう一度オススメしようかと思ったけど。私がそれを伝える前に吹っ飛ばしてしまった。

 

まったく君はおっちょこちょいだね。

 

 



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第64話(空条徐倫)

私の後ろを着いて来ていたグェスを突き飛ばし、敵のスタンドの間合いから出来るだけ遠くなるように押し退ける。

 

なにより、このスタンドはヤバい。

 

エルメェスを沼の中へ引きずり込むパワーもそうだが、こいつの異様なスピードと分裂する能力、いつ襲ってくるのか私たちには見えない。

 

「ジョリーン、後ろだ!」

 

「違うわ、左よ!」

 

〈オラァ!〉

 

エルメェスとグェスの叫び声を信じて、私は〈ストーン・フリー〉で迎撃する。どちらにも手応えはあるのに確実に決まった訳じゃあない。

 

ちらりと花京院月美希を見る。私の事を応援しているが、エルメェスやグェスのようにスタンドを出すそぶりを見せない。

 

くそ、自分は親友だって言ってただろうが!と怒りを込めて睨み付ける。その視線で月美希は理解したのか。彼女のスタンドを出して、私の方へ向かってくる。

 

「ハロー、徐倫ちゃん。彼女の強さは桁外れだから離れることをオススメするよ」

 

そう月美希の声が聞こえた瞬間、私たちの周りが象が踏み歩いたかのように陥没した。いったい、これは何の能力なんだ、私は何を見ているんだ!?

 

「彼女は〈I Can’t Quit You Baby(アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー)〉、その能力は『重力』を操作すること」

 

「そりゃあ、刑務所じゃあ使えないわね…」

 

私の言葉にクスクスと笑いながら頷く月美希を見上げながら『引力』と『斥力』でバウンドを繰り返す〈フー・ファイターズ〉と名乗ったスタンドを見て、流石にやり過ぎだと月美希を止める。

 

〈…あんた……ぃいやつ…ねぇ……〉

 

たぶん、そうでもない。

 

私は父さんを助けるために刑務所へ戻った。あの月美希も重病人と変わらない。なぜ、ここにいるのかを問われれば私のせいだ。

 

彼女は親友のためと笑顔で刑務所へやって来るほど身内に甘いやつだ。私が帰っていれば簡単に釈放されて出てこれる。

 

おそらく、そうしないのは私が『DISC』を取り戻すために手助けが必要だと知っているからだ、私のせいで月美希は命を削っている。

 

「グェスとエルメェスもお疲れだね」

 

「あ、あんたが早めに出てりゃあ疲れなくて済んでたんだよ…!」

 

「せめて、もう少しだけ早く来いよ」

 

「ふふっ、それは善処しよう」

 

いつも彼女は楽しそうに微笑み。私たちの反応は態度を眺めている。それは思い出作りの一環だと父さんに聞いたことがある。

 

「月美希、そろそろ引き上げてくれる?」

 

「もちろん、構わないさ」

 

グィーッと『引力』で私たちの身体が浮き上がり、全身の汚れや沼の水を綺麗に剥がされる。こういう几帳面なところはおじさんにそっくりだ。

 

そんなことを考えながら看守をボコっている囚人たちと合流する。しかし、よく気絶しているやつに追い討ちをできるな。

 

少なくとも私はしないぞ。

 

もっとも当然と言えば当然なのだろう。そいつの不注意で囚人の一人が亡くなったんだ。あまり話したりしたことはないが、私だけでも彼女の死後の安息を祈ってあげよう。

 

 



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第65話

☆月щ日

 

ハロー、グェスにエルメェス。

 

私は見ての通り、あそこで仲良くキャッチボールをしている徐倫ちゃんと〈フー・ファイターズ〉を眺めているのさ。それにフー・ファイターズは私の隣にいる彼女と同じく自我を持つスタンドだ。

 

もしかしたら仲良くなれるかもね。

 

そう彼女に話しかけながらの豪速球を受け止める徐倫ちゃんの運動神経の良さを褒めつつ、だんだんと球速をコントロールできるようになってきたフー・ファイターズを応援する。

 

私の隣に腰かける女性を見る。

 

いきなり、賭け事を持ち掛けるのは悪いことだね。そういうのは私の見ていないところでしてくれ。そう呟きながら徐倫ちゃんたちの成功に私は二人分の、つまり200ドルを賭ける。

 

私の言葉を遮って100ドルを賭けると言い出した彼女を咎めるのをやめて、徐倫ちゃんとフー・ファイターズを応援する。グェスとエルメェスも応援しながら彼女のことを警戒している。

 

しかし、当然と言えば当然だ。

 

私たちと面識もないのに話しかけてくるということは生まれながらのスタンド使いか、あるいは〈ホワイトスネイク〉の送ってきた刺客としか考えられない。おそらく後者だろうが、本体を見せる理由が分からない。

 

☆月ヱ日

 

ふむ、ずいぶんと愉快な状況だね。

 

私は『無重力』となっている工場の中へ入り、フワフワと浮く徐倫ちゃんとウェザー・リポートに無理やり重力を与える。

 

まったく彼女と正反対のスタンドと戦っているなんて面白いじゃあないか。とても私はワクワクしているよ、さっきの『無重力』は私にも使えるのかい?それとも単体への限定的な能力なのかな?

 

そう私は釘や部品を銃弾のように射出するスタンド使いを見上げながら問い掛ける。これは正確な狙撃ってわけじゃない。

 

どちらかと言えばマシンガンみたいに乱射するタイプだね。私の親友と新しく出来そうな友達を傷つけた分は本人に返すことをオススメするよ。

 

もっとも、それは徐倫ちゃんのラッシュを受けて、君が気絶しなかったらの話なんだけどさ。ふふっ、二人ともお疲れ様ってところかな?

 

ちょっと怪我を治してあげる程度のことしか出来ないけど、今回はこれで我慢してもらえると助かるよ。私も「本」を使うのは初めてだからさ。

 

☆月←日

 

流石にカエルが降るのは予想外だ。

 

私は彼女のおかげで毒性の体液を浴びることはなかったけど。ウェザー・リポートと徐倫ちゃんは少しだけ爛れた皮膚の治療を受けている。

 

だが、それにしてもだ。

 

私はウェザー・リポートのスタンドを間近で見てみたい。どうやって気象を操っているのかを知りたい。すごく、すごく、私はウェザー・リポートに興味を持っているのさ。

 

エルメェスとグェスの言いたいことは分かる。私はそういう意味で言っている訳じゃない。彼のスタンドを調べたいんだ。もっと、じっくり、余すところなく観察してみたいんだ。

 

ちなみにフー・ファイターズにも同じことを思っているよ。もし良かったらあとで能力を詳しく教えてくれると嬉しい。ふふっ、そうだね。それなら五リットルほどミネラルウォーターを買ってあげるよ。

 

そう何も不安に思わなくていいのさ。私が隅々まで調べるまで君はリッチで美味しい水を飲んでいれば良いだけだ。

 

ほら、なにも怖くないからさ。

 

おっと、いきなりビンタしようとするのはやめてくれ。私はフー・ファイターズと話しているんだ。あとでグェスとエルメェスに聞きに行くから焦らなくていいよ。

 

 



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第66話

☆月ж日

 

ハロー、フー・ファイターズ。

 

私のプレゼントは喜んでくれたかい?

 

ふふっ、そんなに喜んでもらえると私も嬉しいよ。ちょっとしたお願いなんだがね、彼女とも仲良くしてほしいんだ。

 

彼女は私と同じ恥ずかしがりやなのさ。ふふっ、そう言ってもらえると助かるよ。それじゃあ、私は10メートルほど離れたところにいるから好きなだけ話していてくれ。

 

そう彼女とフー・ファイターズに伝えて、グェスとエルメェスの座っている長椅子に腰掛け、さっき購買で試しに買ったガムを手渡す。

 

しかし、私の家にいるイギーペット・ショップはガムや生肉を食べたりしていたが、あれは動物的に食べて良いものなのだろうか。そんなことを考えながらグェスの膨らみ続けるガムを見る。

 

どうやったら膨らむのか。それも気にはなるが、私としては二人の胸の膨らみも気になる。私の胸が大きくならないのは遺伝なのだろうか?

 

そう考えながらグェスのガムが破裂し、エルメェスに飛び散るところを見つめる。ふふっ、私は紫外線にも弱いからね、折り畳みの日傘を持っているのさ。あとで洗わないといけなくなったけど。

 

☆月,日

 

おや、エルメェスは何処へ行ったのだろうか?

 

グェスやフー・ファイターズに尋ねても個人的な用事に着いていくのは野暮だと言われた。それもそうかと納得しながら彼女にパンを手渡す。

 

こっちのワインもあげよう。

 

私の言葉に頷き、グラスを持って綺麗に飲み干す彼女の酒豪っぷりを称賛しながら困惑する人達にマジックだよと説明する。やれやれ、彼女が見えないのも難儀なものだ。

 

これほど美しいスタイルの女性を見ることが出来ないなんて本当に可哀想だ。私の言葉に呆れながらも頷くグェスと胸の大きさは勝っていると言うフー・ファイターズを見る。

 

確かに私は身長も胸の大きさも負けているが、彼女のスラッとしたプロポーションは君たちより勝っていると私は断言することが出来るよ。なぜなら私がヘルシーな食事とストレッチを欠かすことなく一緒にやっているからさ。

 

今のは自慢しているようでダメだな。あとで徐倫ちゃんに納得できる言い回しを尋ねておこう。だが、フー・ファイターズが食べ物のレパートリーを水分量で決めているのは教えてあげるべきか?

 

☆月∩日

 

ふむ、透明人間と戦うのは初めてだ。

 

エルメェスの殺したい相手がいるとは聞いていたが、まさか透明人間だったなんて驚きだ。しかし、彼女の能力を最大限に広げれば押さえつけることは可能だが、私も『重力』に押し潰されてしまう。

 

まったく、どうしたものか。

 

いっそのこと私の血を撒き散らして血化粧をつけてみるか?そう冗談っぽく徐倫ちゃんとエルメェスに伝えたら採用された。

 

もちろん、三人で分割しているので出血多量で死ぬ危険はない。だが、どうもエルメェスの狙っていた男の他にも透明人間はいるようだ。

 

現に私も何者かに掴まれて動けなくなっている。あまり使いたくはないのだが、私の蹴りの勢いに『斥力』を加えよう。

 

やれやれ、明日は筋肉痛だ。

 

そう溜め息をこぼしながらエルメェスと徐倫ちゃんの手足に『斥力』を加えて、一時的なパワーアップを施す。しかし、そのせいなのか。コンクリートの支柱を叩き壊し、えげつない打撃音が聴こえる。

 

これは、なんとずいぶんと怒りの籠った鉄拳だ。私が手助けしなくてもエルメェスだけで倒せていたんじゃないかと思えるほど墓地が滅茶苦茶だ。

 

 



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第67話

☆月×日

 

ふむ、すごく興味深い能力だ。

 

おそらく他者の精神その物を操るのではなく、怒りや闘争本能のようなものを引き出すスタンドだね。徐倫ちゃんも知らず知らずのうちに術中にハマっているようだが、私の手助けは必要無さそうだ。

 

あの看守さんの超人的な身体能力は怒りによって脳機能を抉じ開けているのか、それとも精神とは別に肉体のリミッターを外すスタンドがいるか。

 

尤もそれを考えるのは後回しになりそうだ。

 

まさか『隕石』を引き寄せるスタンドがいるとは驚きを通り越して呆れてしまった。あんなものを操作する精神の持ち主はロマンチストか人類の滅亡を望んでいるとしか思えないからね。

 

彼女のパワーでも小規模の隕石なら呼べるかもしれないが、あのサイズを地球へ引き込むのは無理そうだ。おや、そうでもないのかい?私の言葉を否定する彼女に頼んで隕石を跳ね返す。

 

ふふっ、これはこれで面白い。彼女の『斥力』の跳ね返せる重量の限界を知る良い機会だ。そう思いながら手のひらに落ちてきた隕石の欠片を眺める。

 

☆月Γ日

 

ハロー、フー・ファイターズ。

 

ずいぶんとさっきは派手なバトルを繰り広げていたね。私も「心が震える」というのを実感できて楽しかった。これは、ほんの感謝の気持ちだ。私が飲んでいる健康と美容に良いという天然水を買ってきたんだ。

 

さあ、ぐいっと飲んでくれ。

 

おっと徐倫ちゃんてばビンタするのは無しだよ。今回の飲み物はフー・ファイターズのためだけに取り寄せたものだからね。なんだ、昨日の懲罰房でのことなら彼女も手助けしていたよ、それこそ地球の平和を守っていたほどさ。

 

ふふっ、そうだね。今の発言は子供っぽかったね。今から言い直すよ、彼女のおかげで『巨大隕石』を降らすスタンドを止めることが出来たんだ。

 

ちなみに、そのスタンドの本体は徐倫ちゃんが殴り倒していたマッチョな看守さんだ。もしかしたら徐倫ちゃんに欠片が当たっていたかもしれないね。

 

おおっとグーはノーサンキューだ。

 

私の柔肌は弱くてね、すぐ殴られた痕のように腫れてしまうよ。おや、意外と騙されなかったね。フー・ファイターズ、さっきの言葉は「結局、殴られないと腫れない」ということだよ。

 

☆月Ξ日

 

さっきの赤ちゃんは何なのか。

 

すごく興味を唆られる。

 

ちょっと私にも見せてくれないだろうか。そう徐倫ちゃんに聞こうとしたら何者かのスタンドが赤ちゃんを丸呑みにした。あまりにも突然のことだったが、私のお腹のところに赤ちゃんを引き寄せておいた。

 

ふふっ、今の気分は妊婦さんだ。

 

私の言葉に呆れたように溜め息をこぼすフー・ファイターズと徐倫ちゃん。その徐倫ちゃんを見つめるナルシソ・アナスイへ視線で落とすつもりかい?と聞けば「情熱的な愛を持てば視線だけで落とせる」と真面目な顔で返された。

 

確かにアナスイはカッコいい部類だ。

 

しかし、私の可愛くてカッコいい幼馴染みで親友の空条徐倫と付き合いたければ、しっかりと罪を償って真っ当な生活を送れるようにならないと私も空条承太郎も認めないぞ。

 

おっと君たちは?に乗り込むんだから私をビンタしようとするのはやめてくれ。こんなところに落ちたら私は感染病を患って死んでしまうよ。

 

おや、私のジョークは通じなかったかな?

 

 



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第68話(フー・ファイターズ)

あたしの目の前に現れた〈ホワイトスネイク〉の本体を見下ろす。確かアイツの名前はエンリコ・プッチだ。この距離でアイツに『指鉄砲』が当たるなんて思えないが、あたしに出来た初めての友だちの徐倫の父親を助けるためだ。

 

ゆっくりと呼吸を整えろ。

 

あたしの隣に座っているツミキも弾道の補助をしてくれているんだ。この一発は絶対に外れることはない。そう確信して放った、あたしの欠片が〈ホワイトスネイク〉に弾かれた。落ち着け、落ち着くんだ。まだ、あたしたちの居場所はバレていない。

 

「ツミキ、あれに変装するぞ」

 

「おや、名案だね。それなら私が〈ホワイトスネイク〉を引き付ける『もの』を演じよう」

 

そうツミキが告げる。

 

すると、どういう訳なのか。さっきの赤ん坊が樹木の中から生まれてきたところを本当に再現していく。ツミキのスタンドは『重力』を操作する能力じゃないのか?と考えながら救急隊員を殴って、そいつの服を奪い取る。

 

これならDアンGを殺せる。あたしの存在に気づいていない〈ホワイトスネイク〉を無視して、無音の一撃をDアンGに撃ち込む。よし、これでツミキも逃げられるはず────。

 

「その能力から察するに君が私を裏切って空条徐倫に寝返った〈フー・ファイターズ〉か?」

 

いったい、どういうことだ。さっきまで樹木の中を動く『もの』を見ていたじゃあないか。それなのに、なんであたしを見ずにコイツは後ろのあたしをブッ飛ばせるんだ!?

 

「なるほど、君の『DISC』も使い方によっては三人称の視点を得るわけだ。ずいぶんと器用な能力のようだが、私の親友には勝てないよ」

 

〈私の友達を殴ったやつは殺す!〉

 

「おやおや、彼女も怒っているよ。尤も私だって友達を傷つけるやつは許さないと決めているんだ。とりあえず、テメーは宇宙でも行ってろ」

 

くるりと〈ホワイトスネイク〉に背中を向け、あたしのところへ歩いてくるツミキを見上げる。もう『皮』のないあたしを見てほしくないと思う反面、彼女たちに抱き締められている今の状況を幸福に思ってしまう自分がいることに驚いた。

 

あたしの『知性』は人間と変わることなく、こうして友情を感じて幸福だと思えるまでに『進化』している。それが嬉しくて堪らない。

 

「あたしの『皮』を取ってくれる?」

 

〈すでにツミキが治しているぞ〉

 

「ふふっ、私も〈ベイビー〉もフー・ファイターズを死なせるつもりはないよ。ほら、私が『戻して』おいたから入るといい」

 

そう言って微笑みを浮かべる。二人に抱きついて感謝の言葉を繰り返す。おそらく、あたしだけだったら負けていた。

 

あいつはスタンド能力を与えてくれた『親』のようなものだ。いくら人間よりも学習するスピードがあっても『DISC』を奪われたら、あたしは何も知らない水の中を漂うだけの『知性』を失ったプランクトンに戻ってしまう。

 

〈ほら、一緒に行こう〉

 

「そう急かす必要もないさ。こうして〈ホワイトスネイク〉から空条承太郎の『DISC』も取り返して……なぜ二枚あるんだ?」

 

〈そいつは、こうするためだ〉

 

あたしの後ろから現れた〈ホワイトスネイク〉がツミキの頭に『DISC』を差し込み。そして、忽然と最初から居なかったかのように消えた。

 

「おい、しっかりしろ!テメーが死んだら徐倫が悲しむだろうがよぉーっ!?エルメェスやグェスだって悲しんで泣くぞコラァ!!」

 

〈これは予想外のピンチだが、ツミキは無理やり『戻る』ようにママに『書き込まれて』いる。だからフー・ファイターズも安心しろ〉

 

「ふむ、さっきの『DISC』は驚きだね」

 

ツミキは何事もなかったかように起き上がり、あたしの手を借りて普通に立った。どうなってるんだ、こいつの身体?なんて考えながらツミキの後を追う。ひょっとして、あたしと同じ『知性』溢れる〈ベイビー〉のおかげなのか?

 

 



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第69話

☆月↑日

 

私の記憶を操ろうとしているみたいだが、生憎と私は忘れることが出来ない性格なのさ。もっともアホになった徐倫ちゃんも可愛かった。それだけは褒めてあげようじゃあないか。

 

ふふっ、すごく面白い言い訳だ。

 

確かに私は彼女を屋内で出すつもりはないよ。しかし、べつに能力を使わなくても君を倒すことは出来るのさ。たとえば私の持っている「本」で殴り倒すとか他にも思いつくものはあるけど。

 

今回はシンプルに撲殺としておこう。おや、記憶を変えるためにスタンドを出しているみたいだが、私は何ともないのだよ。

 

そんな化け物を見るように見ないでくれ。所詮は記憶など脳機能の一部に過ぎない。こうやって優雅に振る舞っていようと些細な出来事としか覚えることは出来ないということさ。

 

だが、スタンドだけは評価しよう。もしも人間性の高さが私より上だったら従っていただろうし、私も君の言葉に納得もしていた。

 

とてもシンプルな答えさ。

 

私の方が君より賢いというだけだよ。

 

☆月`日

 

ハロー、六人とも元気かい?

 

ちょっと徐倫ちゃんがアホになっている間に緑色の赤ん坊を奪われてね。今から本土へ行ったという〈ホワイトスネイク〉を追うつもりなんだ。

 

ふふっ、安心してくれたまえ。

 

私のコネと権力を使って五人とも数ヶ月の仮釈放をもぎ取ってきた。おっとビンタかと思ったけど、まさか抱擁とは予想外だ。うん、こういうのを姦しいと表現するのかな?

 

そう考えながら刑務所の出入り口で出迎えてくれたパパとも話す。徐倫ちゃん、とても嬉しいお知らせだ。さっき空条承太郎が目覚めたそうだ。

 

おやおや、アナスイってば「私もお義父さんに挨拶に行かねば」だなんて気が早いねえ?と後ろに振り返って聞けば同意の頷きが返ってきた。

 

私も数ヶ月ぶりにパパと会えて嬉しいよ。ああ、それとママに「本」をもう少ししたらも返すと伝えてほしいんだ。私も徐倫ちゃんに着いていくからね。

 

ふふっ、私がママと似てる?そんなの当たり前じゃないか。なんたって私はママやパパのような誇り高き人達の血を受け継いでいるんだ。

 

☆月>日

 

ふむ、ピノキオを読むのは久しぶりだ。

 

私はグリム童話の方ばかり読んでいたが、こう言った子供向けの絵本も面白味があっていいね。とりあえず、ここに君のサインを貰えると嬉しい。

 

おお、ありがとう。

 

それとウェザー・リポートも絵本を読んでいるのは構わないが、今にも落ちそうなアナスイを引き留めるのを手伝ってくれると助かる。

 

まったく、うたた寝するのはいいが、私の太ももを枕代わりにするのはやめてほしいね。ああ、いや、アナスイが眠いなら構わないよ。ただ、私は徐倫ちゃんじゃないぞ?

 

それでも構わないならだけどね。

 

そんなことをウェザー・リポートに話しながら空を飛ぶゲッターロボマジンガーZを見上げる。そして、鬱陶しく絡みついてくるイバラや魔女の振り掛けてくる毒薬とを『斥力』で作った壁で遮る。

 

私は読書を邪魔されるのが嫌いなんだ。あんまり彼女を酷使したくないが、私の〈ベイビー〉の『重力』を最大限に発揮しようじゃあないか。

 

ふふっ、ようやく消えたね。

 

 



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第70話

☆月∩日

 

ウェザー・リポートって意外とワイルドなのだろうかと考えながらアナスイと一緒に彼を追う。彼の特殊な感覚で〈ホワイトスネイク〉の位置は分かるのはいいが、ずいぶんと公共の場に潜伏しているように感じるのは気のせいではないと思う。

 

もっとも人間の多い場所なら無闇に手出しすることは難しい。だが、この「カタツムリになっていく」とか「動きが遅くなるうぅ」とか言っている人達は何かしらのスタンド攻撃を受けているのか?

 

そう思いながらアナスイが虚空へ向かって〈ダイバー・ダウン〉を放つ。どうやら私には見えない何かと戦っているのは間違いないようだ。しかし、どうなっているんだろうか。

 

私だけ見えないというのも寂しい。

 

ふむ、エンリコ・プッチは地面に倒れている。誰かに攻撃を受けたようには見えない。もしや、私のスカートを覗いているのか?

 

それでも聖職者かと考えながら病院から出てくる徐倫ちゃんたちを見つけた。おやおや、こういう出会い方もあるんだね。

 

☆月Χ日

 

まったく最悪の出来事だ。

 

私の押さえつけていたエンリコ・プッチを何者かが救出し、どこかに逃げてしまった。まだ、私たちの知らないスタンド使いと考えるべきか。

 

しかし、よく動き回る男だ。傷だらけのウェザー・リポートへ「本」を向けて、ゆっくりと『昨日』へ時間を戻す。

 

ほんの少しだけ、本当に数秒程度だが、私はママの能力である〈レヴィー・ブレイク〉を使える。いわゆる『奥の手』というやつだね。

 

そう言いながら六人の怪我を治し、グェスやフー・ファイターズにウェザー・リポートの護衛をお願いする。おそらくエンリコ・プッチは新しい能力を手に入れたら彼が死んだのかを確認に来るはずだ。

 

空条徐倫と空条承太郎が『絆』で繋がっているように、彼ら兄弟も絡み合う糸のように繋がっている。ふふっ、そう怖がる必要はないさ。

 

こっちには〈スタープラチナ〉と〈ハイエロファントグリーン〉の他にも私のママのスタンド〈レヴィー・ブレイク〉もいるんだ。

 

安心してなよ、私たちは絶対に勝つよ。

 

☆月#日

 

おや、ずいぶんと優雅にティータイムを楽しんでいるようだけど。私と彼女には『重力』の向きなんて関係無いってことを忘れてるのかい?

 

そうエンリコ・プッチに問いかける。

 

しかし、それにしてもだ。君の〈ホワイトスネイク〉は風変わりしたね。ふふっ、緑色の赤ちゃんと融合して、そうなっているのだとしたら食べ過ぎ注意と言っておこうか。

 

私の周りを破壊しながら突っ込んできたスタンドを弾き飛ばす。だが、どうも手応えが以前と比べると異様に軽く思える。

 

おや、新月まで時間は掛かりそうだね。

 

なぜって?ほら、あと三日も必要なようだね。くふっ、ずいぶんと面白い顔だ。ふむ、いきなり何時からだと聞かれてもね。

 

最もらしい時間を言えば『さっき』だよ。

 

私は空条承太郎と花京院典明の二人が到着するまで足止めすれば良いだけなのさ。はっはっはっ、今の君のスタンドには〈ベイビー〉の『斥力』の障壁を壊すパワーはない。

 

 



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第71話

☆月Å日

 

ハロー、パパと空条承太郎。

 

そうエンリコ・プッチの背後へと降り立った男たちに話しかける。私は実に運のいい女だ。ママの『時を戻す』能力の使用は〈ベイビー〉を呼び出せないデメリットを抱えている。

 

私の傍らにやって来た〈教皇の緑(ハイエロファントグリーン)〉を見上げつつ、私はエンリコ・プッチと向かい合う空条承太郎に向かって「本」を投げ渡す。かつて『ディオ』と戦ったとき、彼は「本」の能力を使えたと聞いた。

 

勿論、私はママの言葉を信じている。

 

だからこそ空条承太郎に渡すことも躊躇ったりしない。そして、エンリコ・プッチも『ディオ』がママから「本」を奪い取り、自らのスタンドに取り込んだのを知っている。つまり、その奪いにいく瞬間こそ絶対の隙が出来る。

 

その瞬間を狙って〈ストーン・フリー〉や〈教皇の緑(ハイエロファントグリーン)〉がエンリコ・プッチと、そのスタンドであるC-MOON(シー・ムーン)を捕らえる。

 

ふむ、あれは痛そうだ。

 

そう考えながら天国へ到る星の白金(スタープラチナ・オーバーヘブン)のラッシュを受け、緑色の赤ん坊と融合する前の状態まで『戻された』エンリコ・プッチを見上げる。

 

☆月Φ日

 

結局、エンリコ・プッチの野望はジョースターの血統に防がれた。

 

しかし、彼は連行される最中、私に向かって「エインズとツェペリ、お前たちはジョースターと絡まり、どこまでも彼らの『運命』に翻弄される憐れな一族だ」と言い残した。

 

まったく私達の気持ちは昔から変わらず、大好きな友達や家族と過ごしたいっていうだけなのさ。エンリコ・プッチ、それは君が『ディオ』に抱いたのと似た気持ちであり、誰もが持っているものだ。

 

私はエインズとツェペリの直系だ。

 

そして、今の空条徐倫(ジョジョ)の幼馴染みで親友だ。

 

ずっと一緒に生きることは出来ないけれど、私はジョジョに寄り添っていたい。彼女達の『勇気』や『覚悟』こそ私の生きる希望の星なんだ。

 

☆月∀日

 

おや、アナスイと徐倫ちゃんだけかい?

 

私は刑期を終えて出てきた二人を見ながら問う。すると、エルメェスたちは看守と別れる際に今まで受けた暴行の鬱憤をスタンドで晴らしていると教えてくれた。それは可哀想だが、仕方のないことだ。

 

私の傍らに腰掛けるウェザー・リポートも二人の門出を祝いつつ、空条承太郎から結婚の許しを得るために戦うことなった経緯について聞いている。

 

まったく私はアナスイのことを認めているのに空条承太郎はなんで認めないんだ。そうパパに聞いたら「大事な一人娘だからだよ、僕も承太郎と同じように結婚を認めるつもりはない」と言ってきた。

 

ふむ、私は結婚する予定はないぞ?

 

そう聞き返せば憐れみの視線をウェザー・リポートに向けていた。うむむっ、なにか二人は通じ合っているのか?そんなことを考えながら、ようやく出てきた皆にこっちだと呼び掛ける。

 

 



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第72話(空条承太郎)

私の大切な娘である徐倫が結婚すると言って婚約者を連れてきた。かつての仲間を呼び集めて、直談判して来たときは焦りはした。だが、私の徐倫の結婚を認めるのはとても辛い。

 

よく花京院のヤツは認めたものだ。

 

そう思ったことを言えば女房に認めないと離婚すると言われ、直ぐに認めると叫んだらしい。私の方も同じ手口で攻めてきたときは敗けを認めるしかなかったが、私を倒さねば徐倫は渡さんと告げた。

 

しかし、私の仲間や部下も徐倫の方へ肩入れした。どうやら花京院の娘がスピードワゴン財団の実権を握っているのが原因らしく、ポルナレフもアヴドゥルも結婚を認めるべきだと攻撃してくる。

 

「俺は認めんぞォーーーッ!!」

 

〈オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!〉

 

「往生際が悪いぞ、テメー!」

 

「二人とも落ち着いてよ!?」

 

私の前に立ちはだかって徐倫とアナスイの誓いのキスを邪魔する、血縁上では親戚のジョルノ・ジョバァーナと結婚し、表も裏もイタリア全土を牛耳る汐華葉月の〈Noboody's Fault but Mine〉とラッシュをぶつけ合う。

 

それを止めるべく車椅子でやって来た現在は東方仗助の妻となった東方詠月の〈スティール・ホウィールズ〉が飛び交うエネルギーを分散する。

 

それを困ったように笑いながら静観する花京院文月と私へ諦めるべきだと訴えるような視線を向けてくる花京院典明を見る。

 

「承太郎さん、荒れてるスね」

 

「僕としては早く終わってほしいですね」

 

「自分の嫁なら止めに来やがれ!」

 

自分は無関係だと言わんばかりに赤ん坊を抱きながら壁際に退避している仗助とジョルノへと文句を叫ぶ。だが、二人は「赤ちゃんがいるので」とヨダレを垂らして眠っている子供を掲げる。

 

「〈星の白金:世界(スタープラチナ・ザ・ワールド)〉!」

 

今の状況では二秒止めるのが限界だ。

 

しかし、今はそれで十分だ。あと少しでキスする寸前の徐倫とアナスイの傍へ駆け寄った瞬間、花京院の隣に座っていた文月が「本」を私へ向けていた。

 

「さすがに、それはズルいよ」

 

そう彼女は言い残して、時は動き始めた。

 

「ヒューッ、良かったぜ!!」

 

「それは手を洗うやつだってば!」

 

「あたしの水だって言ってんだろ!?」

 

おそらく他の者たちには私が徐倫とアナスイのキスを最前列で見届けるために能力を使ったと思われるだろう。だが、いつの間にか花京院のところへ戻った文月のせいで動けなかったの間違いだ。

 

「ふふっ、さっきの面白かったよ」

 

「さっき、なにかあったのか?」

 

「さあ、直接聞いてみるといい」

 

私の後ろで話す花京院月美希とウェザー・リポートの声を聞きながらブーケトスすると叫ぶ徐倫を見つめ、私の時も似たようなものだったなと思い出す。

 

そっと妻の写真を入れたロケットを開けて、みんなに祝福される徐倫とアナスイの姿を見せる。私だけが認めないのもあれだな。

 

そう考えながら幸せに満ちた場所へ向かって歩き出す。ふと誰かの視線を感じ、後ろに振り返ると忌々しげに腕を組む『ディオ』と、かつて私を助けてくれた『ジョナサン・ジョースター』と『アレクシア・エインズ』の幽霊が笑っていた。

 

「やれやれだぜ」

 

ゆっくりと「本」の閉じる音が聴こえた。

 

 




このお話で終わりです。

見てくれてありがとうございました。


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おまけ

【ファントムブラッド編】

 

アレクシア・エインズ

 

1886年7月7日生まれ。血液型はO型。

由緒ある英国貴族、エインズ家の一人娘。第二部アシュリー・スピードワゴンの祖母であり、三部以降にも彼女の子孫が登場する。

 

病弱ながらも「淑女」となることを志し、日々努力を怠らない少女。穏やかで心優しく、少し夢見がちな性格。また、家族や友人の為ならば命を投げ出すことも厭わない勇気を持っている。

 

ジョースター家と関わり深く、幼い頃からジョナサン・ジョースターと交遊関係を築いていた。しかし、病気の発症と時を同じくして現れたディオ・ブランドーに言い知れぬ恐怖を抱き、知らず知らずのうちにスタンド能力「レヴィー・ブレイク」を使ってしまう。

 

それから七年後、彼らと車椅子ながらも交流を続け、病気の侵攻を遅らせるようにと東洋の薬膳料理を食べつつ、親友エリナ・ペンドルトンの話す恋愛に興味を抱く。

 

ジョナサンの父親であるジョージ・ジョースターの風邪を治すため、イギリスで最も危険な食屍鬼街(オウガーストリート)へ旅立ったジョナサンの代わりに、ジョースター卿の看病を受け持つ。

 

しかし、ジョースター卿の血と「石仮面」によって人間を超越したディオへ再び恐怖を感じてしまい、彼に怯えているところを励まし、優しく支えてくれたロバート・E・O・スピードワゴンに恋をする。

 

ジョースター邸での死闘を知り、「石仮面」の秘密を知るというウィル・A・ツェペリのもとで波紋の修行を始めたジョナサンとスピードワゴン(アレクシアの能力による後天的修得)を陰ながら応援し、死地へと向かう彼らに再生の力を込めたお守りを与える。

 

無事にディオを倒して帰ってきた彼らと喜びを分かち合い、1889年にジョナサンとエリナの結婚を見届けて、彼らの新婚旅行を見送った2年後、1891年にロバート・E・O・スピードワゴンと結婚し、一児の出産を経て数ヵ月後に心臓病で死亡。21歳没。

 

【戦闘潮流編】

 

アシュリー・スピードワゴン

 

1922年誕生、イギリス出身。16歳の時に祖父とエリナ・ジョースターの頼みでアメリカへ移住。アレクシア・エインズとロバート・E・O・スピードワゴンの娘、イギリス軍人の父との間に生を受ける。

 

生まれた頃からジョセフ・ジョースターに関わっていたため、少し荒っぽい口調で話してしまう癖があり、彼の真似をして何度も危険な体験を味わっているのか、大抵の事では驚かない度胸を持っている。

 

アメリカで兄貴分ジョセフ・ジョースターとの再会を果たし、彼の友人スモーキー・ブラウンたちと交遊を持つ。それから数日後に祖父の死亡を知らせを聞かされ、祖母の超能力の源「レヴィー・ブレイク」を受け継ぎ、祖父殺害の犯人と思わしき人物の下僕と戦い、辛くも勝利する。

 

それから祖父奪還と「柱の男」を知るため、ジョセフと共にメキシコへと向かう。そこでサンタナという超常生物と出会い、彼らという存在に恐怖を抱く。ジョセフとルドル・フォン・シュトロハイムの意地と誇りによって、不死身と思われたサンタナを倒すことに成功する。

 

ジョセフの脆弱で無駄の多い波紋を鍛えること、強力な助っ人に会うためにレストランで昼食を取っていたところジョセフや祖父と同じ波紋使いシーザー・アントニオ・ツェペリと出会う。

 

しかし、ジョセフとシーザーの喧嘩によって大幅に時間を取られ、「柱の男」の復活を許してしまう。だが、アシュリーはジョセフの叱咤によって「レヴィー・ブレイク」の新しい能力を開花させる。

 

ジョセフとシーザーは自身の無力さを噛み締めながらヴェネツィアへと向かい、シーザーの師匠であるリサリサを師事する。だが、アシュリーには波紋の才能も無ければ波紋に耐えられる身体ではないと諭され、超能力を鍛えることを勧められる。

 

その後、ジョセフやロギンズが「柱の男」エシディシを打ち倒すもエイジャの赤石を奪われ、ドイツの科学力によって甦ったシュトロハイムとともに「柱の男」を迎え撃つ。

 

それではジョセフの解毒剤が手に入らないと焦ったシーザーに付き添ってアシュリーも敵陣へ乗り込み、ワムウをあと一歩まで追い詰めるが起死回生の一撃を受けて深傷を負ってしまう。

 

ジョセフ・ジョースターと引き換えに世界の平和は守られ、彼の死を惜しんでいたところへ本人が生きていたことを知り、のちにシーザーと交際を始め、1940年に結婚する。彼との間に一児の子を授かり、その十二年後に心臓病で死亡。30歳没。

 

【スターダストクルセイダース】

 

四宮文月

 

1970年、おとめ座生まれ。日本人の父親とイギリス系イタリア人の母親を持つクォーター。血液型はO型。シーザー・アントニオ・ツェペリとアシュリー・スピードワゴンの孫娘。

 

三姉妹の長女で、しっかり者。おっとりしているが物腰は柔らかく、普通の大和撫子とも言える少女。双子の妹を助けるために祖父であるシーザーから譲られた「レヴィー・ブレイク」と空条承太郎たちとエジプトへ向かう。

 

いわゆる幸運体質であるが、本人への幸運ではなく他者限定の幸運をもたらす。最初はDIOやジョースター家のことは知らず、本人は意図的に母親に隠されていたと察している。また、エインズ一族に受け継がれるスタンド「レヴィー・ブレイク」だけでなく、生まれながらにIn My Time of Dying(イン・マイ・タイム・オブ・ダイイング)というスタンドを持つ。

 

二人の祖父や花京院典明、J・P・ポルナレフ、モハメド・アヴドゥルたちと冒険を続け、ときにはスタンド使いに襲われるもすれ違い、どこかでハグレたりと見過ごされることが多い。男の勝負やギャンブルに疎く、賭け事はダメなものと主張し、スタンド勝負を阻止する。

 

DIOと接触した際に「レヴィー・ブレイク」の所有権を奪われ、自らの命を絶つことで能力の軽減しようとする。しかし、スタンドは消えることなくDIOに取り込まれ、承太郎を苦しめる。だが、四宮家、エインズ家のとっておき「記録の投影」によって「レヴィー・ブレイク」に刻まれた歴史の力を借り、承太郎はDIOを打ち倒す。

 

その後は承太郎によって生き返り、日本帰国後は花京院と交際を始めるも無理な旅の影響で病気が侵攻し、入退院を繰り返しながら花京院典明と結婚し、一児を授かり、特効薬のおかけで無事に病気は完治した。

 

【ダイヤモンドは砕けない編】

 

四宮詠月

 

1983年生まれ。ぶどうヶ丘高校に通う高校1年生。療養と想い出作りの杜王町へ移住してきた。東方仗助のせいで事件に巻き込まれ、嫌々ながらも町のためにスタンド使いと戦う。

 

しかし、三姉妹の末っ子で、病気の侵攻が早く、数年の命と余命宣告を受けていた。スタンド使いが多い町ながらも友達を作り、平穏な生活を夢見る。

 

また、仗助に頼りがちだと自覚しているが、それは仕方ないと割りきり、彼らと過ごすことが多く、意地っ張りで負けず嫌い、年相応に女の子らしい一面を持っている。

 

病弱な身体を気遣ってくれる仗助に惹かれつつ、自分ではダメなんだと諦めていたが、はじめての友達である山岸由花子に励まされ、彼へ気持ちを伝えようと決意する。

 

杜王町を脅かす殺人鬼を捕まえるため自ら囮となる。しかし、殺人鬼と接触してから平穏な生活が続いていたが、四宮文月の助言を受けて、人知れず■■■■と殺し合い、仗助たちに「全部終わった」と伝える。

 

その後、無事に東方仗助と交際を始めて長い闘病生活の末に結婚し、東方詠月となり特効薬のおかげで車椅子に乗りながらも病気は完治し、仗助との間に子供を授かる。

 

【黄金の風編】

 

四宮葉月

 

1983年生まれ。イタリア貴族ツェペリ家の当主であり、イタリア表社会の頂点に君臨する口の悪い少女。イタリアマフィアを煩わしく思っており、この際壊すかと承太郎の仕事に付き添っていた。

 

ジョルノ・ジョバァーナに興味を抱き、彼の行動や理念を知るために彼に引っ付いている。また、自分と同じく血筋の問題に苦しむトリッシュ・ウナとは友達かつ戦友のような関係であり、パッショーネの使えそうな人材を引き取り、イタリア表裏支配の手助けをさせるために引き入れる。

 

しかし、パッショーネ自体は慈善団体としても有名ということもあり、無闇に襲撃することは出来ず、ポルナレフに強力を要請し、パッショーネのボスの二面性の正体を突き止め、それを取り除く。

 

その後はパッショーネの二代目となったジョルノ・ジョバァーナに交際を申し込み。名実共にイタリアの支配者として君臨し、特効薬のおかげで病気は完治し、詠月と同じ日に一児の子供を出産する。

 

【ストーンオーシャン編】

 

花京院月美希

 

1992年生まれの19歳。自分の知的好奇心を満たせるものを探しながら親友(月美希による自称)である空条徐倫を助けるため、自ら投獄される。唯一刑務所内で自由に動ける存在であり、その理由を知ったものは懲罰房へ送られる。

 

スタンドのDISC化や記憶の取り出しに興味を抱きつつ、スタンド使いと戦ったりするが、彼女の親友(スタンド)であるI Can’t Quit You Baby(アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー)は承太郎の「スタープラチナ」を除いて、最強に位置付けされるスタンドであり、自我を持って話す稀有な存在。

 

しかし、エインズ家の血筋とは思えないほど他人への配慮に欠けており、両親から怒られることは多いが、それも愛情だと理解し、自分のスタンドをつねに「親友」と呼ぶようにしている。

 

母親から受け継いだ「レヴィー・ブレイク」のおかげでエインズ一族の歴史を知り、エンリコ・プッチの目指す「天国」を阻止し、その絶望に染まった顔に言い知れぬ快感を覚えつつ、ウェザー・リポートと交際を始める(その理由は徐倫が結婚するから)。

 

【スタンドについて】

 

「レヴィー・ブレイク」

 

出自不明、独り歩き、自立型、その他にも分類される極めて珍しい本のスタンド。『文字の意味』『キャラクター』『記録』『人の歴史』など数多く能力を持ち、エインズ一族の女性のみに受け継がれてきた品物。パワー、スピード、どちらも低く、能力依存の支援向き。

 

In My Time of Dying(イン・マイ・タイム・オブ・ダイイング)

 

『昨日へ戻る』スタンド能力。レヴィー・ブレイクと重ねて使用することが多く、四宮文月の生まれながらに持っていたスタンドであり、そのパワーは地球の回転さえ逆転させ、天国へ到達するほど凄まじいパワーを秘めている。

 

「ハート・ブレイカー」

 

『一途な重さ』のスタンド能力。シャボン玉のように透明だが、回転と重さによってあらゆるものを破壊するスタンド。シーザー曰く「アシュリーへの想い」で発現したスタンドであり、自分と同じく一途な攻撃しか出来ない。

 

「スティール・ホウィールズ」

 

『エネルギーを循環させる』スタンド能力。パワーに関係なく受けたダメージを跳ね返し、生命エネルギーの循環で蘇生すら可能とする。エネルギーそのものを弾き飛ばし、攻撃することもできる。

 

Nobody's Fault but Mine(ノーバディーズ・フォルト・バット・マイン)

 

『刑罰を与える』スタンド能力。決して逃げることの出来ない攻撃を繰り返し、あらゆる苦痛や恐怖を刻み付けるスタンド。そのパワーは因果さえねじ曲げ、どこまでも追い続ける。

 

I Can’t Quit You Baby(アイ・キャント・クイット・ユー・ベイビー)

『重力を操り、自我を持つ』スタンド能力。地球の動きさえ締め付け、一切合切すべてを叩き潰す最強の呼び声高きスタンド。フー・ファイターズとは仲良しで、スタンドによる攻撃を遮り、ひたすら重力の掛かったラッシュを叩き付ける。

 

 

 



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