知識も無いのにポケモン世界にチート転生したが何も面白くない (Imymemy)
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ビードル

 ポケットモンスターの世界に神様転生した。

 

 心臓麻痺か何かで死んでしまったらしい俺は、神様を名乗る謎の光の球体と邂逅をして、異世界に転生することになった。

 

 異世界に転生といっても名も無き中世ファンタジーの世界というわけではなく、ポケットモンスターというゲームの世界への転生だった。

 

 だがここで問題がある。何を隠そう俺は『ポケットモンスター』を殆ど遊んだことが無かった。

ゲームのストーリーや登場キャラクターはほとんど分からず、辛うじて知っているのは、ポケモンと呼ばれる存在が野生の動物と同じように生息しているということ。そしてそのポケモンを使役して戦わせること――ポケモンバトルを行っているということだけだった。

 

 いわゆる原作を知らないと神様に話したところ、呆れた様子で「別に原作を知らなくても死ぬわけじゃない」と言われてしまった。

 

自身の記憶が残ったまま転生ができるという何物にも代えがたい恩恵を受けるということもあって特に不満は無いのだが、出来れば知っているゲームの世界に転生したかったものだ。

 

「転生と来たらチートだろ? 何が欲しい?」

 

続けざまにそう尋ねられたのは転生特典、いわゆるチートについてだった。そんなものは要らないと伝えても笑って「それはできない」と返される。

 

 こういう事(神様転生)をする時、どんなものが欲しいかという問いに対する答えを聞くのが楽しみの一つなんだそうだ。純粋な人の欲望が出るからこそ聞いていて楽しいという。

 

 悪趣味な気がしないでもないが、貰わなければならない、どんなものでも出来るだけ願いに沿って聞き入れるということもあり、俺は少し考えてから欲しいものを答えた。

 

「自分ではなくポケモンを使って戦う、か。それなら『ポケモンバトルの才能』が欲しい」

「『ポケモンバトルの才能』、そういう詳細な指定の無い『才能』とか『技術』って言うのは良くも悪くも僕ら転生をさせる側の匙加減一つで大きく変わってしまうんだ。本当にそれで良いのかな?」

 

 そんなことを言われて、少し考えてから頷いた。

 

 この時は本当に何も考えていなかったと反省する他なかった。

俺の失敗は二つ。一つ目は貰えるものを『才能』にした上で、それに何も細かい条件を付けなかったこと。二つ目は『ポケットモンスター』の世界が自身の考えている以上に『ポケモン』や『ポケモンバトル』に依存しているということだった。

 

「君のお願いは聞き入れた。君はポケットモンスターについてあまり知らないようだから君のお願いを『僕の裁量で』反映させても問題無いかな?」

「……? えぇ、まぁ。お願いします」

 

 

 

 

 そうしてこうして、気づけば俺は生まれていて、物心ついたときに色々と思い出したという事だった。

 

 カントー地方のトキワシティに住み、6歳になった俺はトレーナーズスクールという場所に通うことになった。

 

 ポケモントレーナーと言うのは割と一般的な趣味、職業? らしく、こういったスクールが存在するのは別に不思議な話ではないようだった。

 

「ウィン君、何やってるの?」

 

 スクールでの休憩時間、校舎入口の前に大きく設けられたグラウンドの隅っこで俺はぼうっと木の根元を覗いていた。

 他の生徒たちは年齢関係なくグラウンド上でポケモンたちと戯れており、つねに楽しそうな声がグラウンドの隅っこにまで聞こえてきていた。

 

 ウィン。今世でそう名付けられた俺に話しかけてきたのはちょうど同い年の女子生徒で、たしか名前はアキと言ったはず。

 

「アキちゃん、だっけ?」

「わあっ、覚えててくれたんだ! ウィン君は何をしているの? みんなと一緒にグラウンドで遊ぼうよ!」

 

 可愛らしい笑顔で見るからに暗い子供の俺を誘ってくれるなんてとてもいい子だと思った。だけど精神年齢的にも他の子供に混じって遊ぶことは耐えられないし、別に一緒に遊びたいとも思わなかった。

 

「ビードルを見ていたんだ」

「ビードル? わわ、虫ポケモンだっ!?」

 

 俺とアキの視線の先には、丸くなった黄色の体表を持つ巨大な芋虫が木の根元で寝ている。カントー地方では別に珍しくも無いポケモンで、トキワの森に潜ればいくらでも見つけることが出来るだろう。

 

 ただ街中にいるポケモンとしては珍しく、アキもそこまで見たことが無かったようで、驚いた様子で尻餅をついて茫然とビードルを見つめていた。

 

「この子がどうしたの?」

「……いや、気持ちよさそうに寝ていて、気楽に生きていそうで羨ましいなぁって思ってね、見ていたんだ」

「あはは、ウィン君っておじいちゃんみたいね! ……でもこの子、多分そんなに気楽に生きているわけじゃないと思うわ」

 

 アキはそう言って、眠っているビードルを指差した。

 

「虫ポケモンってたいてい生態系の下の方にいるから、気を抜いていると鳥ポケモンとかに食べられちゃうのよ。この子は確かスピアーの進化前……群れから離れちゃったのかもしれないね」

「食べられる……」

 

 巨大な黄色の芋虫と文面上では気持ち悪い感じが出てしまうが、実物はそんなことは無く、どこか愛嬌のあるマスコットキャラのような見た目をしている。

尻についている毒針は確かに危険だが、この世界の人間がビードルに刺された程度ですぐに死ぬわけではない。

 

 つまるところ、あまり危険ではなく、可愛らしいこういったポケモンでも無慈悲に捕食されることがある、という事に俺は恐怖を抱いていた。

 

「ポッポと戦ったのかしら、ついばまれた痕が幾つもあるね。もし戦いに負けたら食べられちゃうんだろうな」

「戦いに負けたら食べられる……」

 

 転生前後でやはり考え方や倫理観といったものの違いを感じる。まだ発達しきっていない社会の所為だろうか、ポケモンも人も平等に命の価値が軽く見えてしまう。

 

 ビードルの未来を夢想して、少し悲しくなった俺はその場から立ち上がった。ビードルも俺がいきなり立ち上がったことに反応して起き上がり、そのままどこかへ去っていった。

 

「……ごめん、アキちゃん。行こうか、次の時間はポケモンバトルの実践だったよね」

「うん! ウィン君はポケモンバトルが好き? 私はお父さんがジムトレーナーでね――」

 

 

 

 

「10歳になるまで個人でポケモンを持つことはできません! ですので、この授業でポケモンバトルをする際は、スクールで所有しているポケモンを貸し出ししてバトルを行います!」

 

メガネを掛けて生真面目そうな雰囲気の先生はそう言って、台に並べられたモンスターボールに手を向けた。

 

「入っているポケモンは全てランダムです。ある程度レベルの調整はされていますが、個体差は出てしまうので、ここでは勝ち負けを気にせず、ポケモンバトルをした経験(・・・・・・・・・・・・)だけを学んでください」

 

 ポケモンを収納しているモンスターボールを渡されたので、周囲がやっているようにボールの開閉ボタンを押し込んでポケモンを出してみる。

 

 ボールがパカっと開いて光を放ち、そして中から出てきたのはビードルだった。

 

「ビードルだって…?」

 生態系底辺のポケモンが出て来るとは俺も運が無いな、周囲の生徒たちはポッポやらオニスズメやら、ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネ、ヤドン、シェルダー、キャタピー、イシツブテなんかもいる。

 

「ポケモンを出すことが出来たら二人組を作ってください、その相手とポケモンバトルを行います」

 

 二人組を作る!? 勘弁してくれよと心中で悪態をついていたところ、先ほど話しかけてきていたアキという少女が近寄ってきた。

 

「ウィン君、一緒に組もう?」

「……うん」

 

 

 彼女がボールから出したのはポッポだった。

 キャタピーやビードルを食べるような鳥ポケモン。戦意は十分なようでこちらを睨みつけてる。

 

対する俺のビードルは所在なさげに周囲をキョロキョロ見渡していて、トレーナーである俺を模倣したようにも見える。

 

 そんなビードルと目が合う。被捕食者の瞳だった。『おくびょう』と言った所か。

 

「……死ぬわけじゃない。頑張ろうな」

 

 俺の顔を見て、俺の言葉を聞いたビードルはコクリと頷いた――ようにも見える。所詮虫ポケモンなので感情の機微を俺が理解することは出来ない。

 

「いくよ、ウィン君!」

「うん、大丈夫だよ」

 

「行け! ポッポ!」

「行け、ビードル」

 

飛び上がったポッポが一直線にビードルに向かって突っ込んでくる。テレビで見た有名なポケモントレーナーのように細かい指示が出来るわけでもないのでこれが正しいのかもしれない。

 

 俺は何が正しい動きなのか分からなかった。

 だが口から出てくるのは冷静な命令だった。

 

「ビードル、『いとをはく』」

 

 指示を聞き入れたビードルが直線的に向かうポッポに対して大量の糸を吐きつける。

 

「回避して!」

「逃げ道に『どくばり』」

 

 糸を避けようと上に飛んだポッポの退路を塞ぐようにビードルの尾針から放たれた『どくばり』がポッポに突き刺さる。

 

「ポッポ! かぜ――」

「『いとをはく』、風を回避して『むしくい』」

 

 怯んだポッポにビードルは糸を吐き出して動きを拘束させる。そんな状態ながらも『かぜおこし』で必死に攻撃を行うポッポに対して、ビードルは機敏な動きで技を回避して空中に跳ね上がった。

 

「ポッポ! 避けて!」

 

 彼女の指示は遅かった、いや、子供ながらにしては早かったのかもしれない。ただポッポの喉元に食らいつく寸前の命令は遅すぎた。

 

 回避を行おうにもポッポは毒針と糸によって動くことができず、ビードルの攻撃を受け止めることしかできなかった。

 

 拘束状態のまま『むしくい』を受けたポッポとそれにしがみ付くビードルは地面に落下した。だがポケモンの体力はまだ残っている。

 

「毒針と糸で弱らせろ、拘束から逃すな」

「ポッポ! 動いて! 『かぜおこし』! 『たいあたり』!」

 

 彼女の懸命な呼びかけにポッポは満足に応えることが出来ない。毒に侵された状態のまま糸でグルグル巻きになったポッポは蜘蛛に捕えられた蝶のように見えた。

 

 体力限界までポッポを弱らせるとバトルが終了した。本当にあっさりとしたもので、勝ったことに対して感動とか興奮といったものは無かった。ただビードルが様子を窺うように俺を見上げていたのが少し印象的だった。

 

「勝負はついたようね。アキちゃん、指示はちゃんと出来ていたし判断も悪くはなかったわ。あまり気を落とさずにね」

「でも私、パパがジムトレーナーで……」

「パパはパパ。アキちゃんはアキちゃん、でしょ? 徐々に強くなっていけばいいわ」

「……はい。ありがとう、ございます」

 

 先生はアキにそう言った後、眼鏡を直して俺の方へと振り返った。少し驚いた表情を浮かべた先生にモンスターボールを返すと、少し言いにくそうに話し始めた。

 

「……ポケモンバトルは初めて?」

「はい。今日が初めてです」

「そう。とても良かったわ、指示も的確で冷静、そしてとても――いえ、ともかく、初めてというには信じられないくらい上手な戦い方だったわ。才能がとてもあるのかも」

「……ありがとうございます」

 

 それだけ話すと別の生徒のところに向かった先生を後ろから見送り、アキという少女の方を向いた。

 

 彼女はもう意気消沈といった様子で、涙ぐんで目元を濡らしたまま俺に話しかけてきた。

 

「私に勝てて嬉しい?」

「……え、いや、その」

「馬鹿にしてるんでしょ! ジムトレーナーの娘のくせに弱いって!」

 

 タガが外れたように俺に向かって叫び出したアキに周りの生徒たちは一歩離れた様子で見ている。

 

 先生たちも何事だと様子を見ているが、ポケモンバトルをした後に喧嘩が起きるのは珍しくないことなのか特に何も言っては来なかったが、叫んでいた彼女が俺の服に掴みかかったのを見て慌てて止めてきた。

 

 結局言葉にならない言葉を吐いて泣き続けているアキに対して、俺は何もすることはできなかった。

 

 ポケモンバトルの才能。やっぱ必要なかったかな。

 



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ジムリーダー

 6歳になった俺がトキワシティのトレーナーズスクールに入学して初めてポケモンバトルを経験した日、あの日から徐々にポケモンバトルというものが嫌いになってきていた。

 

 あれからずっとポケモンバトルに勝ち続けていた。多少のハンデがあっても全く苦戦することなく勝利が続き、戦ってくれる生徒がいなくなった。

 次第にスクールの教師が相手をしてくれるようになったが、それでも負けることはなかった。

 

 そして何より、ポケモンバトルが面白くなかった。

 

 神様が”チート”として俺に授けた才能は、天才と呼ぶに値する非凡な能力で、俺が元々望んでいたのは同じ実力の相手と10回戦って5回勝てるくらいの才能があれば良かったのだ。いわゆる処世術の一つとして持っていれば良かった。

 

 ジャンケン、そう俺にとってポケモンバトルとは相手の出す手が分かるジャンケンみたいなもので、勝つか負けるか分からないギリギリの戦いが楽しみの一つであるポケモンバトルにおいて、この過ぎた才能は楽しみという名の四肢が捥がれたのも同然であった。

 

 それに神様から貰った才能と分かっている分、文字通りズル(チート)しているので、どうにも乗り気になれなかった。

 

 1年、2年とトレーナーズスクールの学年が上がっていく度に、俺――ウィンという人間はまるで触れてはならないタブーのような存在へとなっていった。

 

 

「ジムリーダー?」

「そうなんだよ、ウィン君。今日はトキワシティのジムリーダーが来る日なんだ」

 

 スクールの中にある図書室で読んでいた本から顔を上げて、声の主に目を向ける。少年だった。短パンを履いた少年は脇にいたコラッタを抱き寄せながら目を煌々と輝かせている。

 

「トキワシティのジムリーダーと言えば『じめんタイプ』のエキスパート! ニドキングにサイドン、ダグトリオにガラガラ。カッコいいポケモンを使うんだ!」

「へぇ」

 

 ジムリーダー、多くの主要な町などに設置されている公的な施設『ジム』を運営していて、訪れるポケモントレーナーの実力認定試験や若いトレーナーの育成などを率先して行っている。

 

「ジムリーダーってどういう人なの?」

「トキワシティに住んでてトキワジムのジムリーダーを知らないの!? 『サカキ』って人なんだけど――」

 

 

 

 教室のドアを開けると、俺に対して室内の視線が一気に集中する。

 まだ授業が始まる前だったので特に視線が集まるような事は本来無いはずだったが、どうも珍獣でも見るような目でこちらを見つめている視線が多くあった。

 

 気にしていてもしょうがないので、針のむしろのような中で自席まで歩いて席に座る。別に寄ってたかって虐められるわけでは決してないし、ハブられることがあるわけでもない。

 

 ただ俺の座る席の隣、3年間一緒だった彼女がいると話が別だった。

 

「ウィン君、来たんだ」

「……アキちゃん。おはよう」

 

 アキ。入学して最初のポケモンバトルで戦った女子生徒だった。茶色のストレートヘアーに大きな瞳。出会った当初から3年近く経っているということもあってどこか垢抜けた表情を浮かべている。

 

 そんな彼女だったが、仲が良かったのはグラウンドでビードルを見つけて話をしていた時だけ。それ以降は俺に対して良い感情を抱いていないのだろう、目の敵にしているようで、チクチクと小言を言ってくるようになった。

 

 それでもそこそこ普通に話をしたりはするので、嫌いな相手でも分け隔てなく話すことのできる彼女の懐の広さを感じずにはいられない。

 

「そろそろ10歳、ポケモントレーナーとして自分のポケモンも持てるようになって、自由に旅も出来るようになる。ウィン君はどうするの?」

 

「旅はちょっと面倒だから考えていないな。アキちゃんは?」

「ふん、私は勿論旅に出るわ。旅に出て新しいポケモンを捕まえて、強く育てて、それで私もポケモンリーグに出るの」

 

 鼻を鳴らして俺の答えを一蹴すると、彼女はつらつらと自身の人生設計を話してくれた。どうにもポケモントレーナーというのは夢のある職業らしい。

 

「すごいね、アキちゃんは」

「……あんなにバトルが上手なのに、本当に旅に出る気が無いの?」

「さっきも言ったけど、興味が無いんだ。それにポケモンバトルが楽しくないし」

「っ……! ウィン君より強いトレーナーなんていっぱいいるわよ! 今日来るジムリーダーの人だってあなたより――」

 

「皆さん揃っていますね。始めますよ」

 

 メガネを掛けた神経質そうな女の先生が教壇の前に立った。教卓には綺麗に整えられてズレ一つないプリントの小山があった。

 

「あらウィン君、来ていたのね」

「はい。おはようございます、先生」

「えぇ、おはよう。……アキさん? 一人立ち上がったままどうしたの?」

 

 アキは俺に何かを言おうとして机に両手を置いて立ち上がっていた。そんな中で先生がいきなり来るものだから、驚いて立ち竦んでしまっていたのだろう。

 

「……いえ、すみません先生。なんでもないです」

 

 キッと俺の方を睨むが、流石に大人しく席に座った。それを見届けた先生はプリントを配りながら話を始めた。

 

「皆さんもそろそろ10歳、一人前のトレーナーとして恥ずかしくない立ち居振る舞いをするように心がけましょう」

 

「そこで今日は特別顧問としてトキワジムのジムリーダーであるサカキさんが来てくれました。プリントは後で感想等を書くので軽く目を通しておくこと……サカキ先生が入って来たらみなさん、ご挨拶を」

 

 その言葉が終わると同時にドアが開いて黒いスーツを来た男が入ってきた。

 

 パリっとしたスーツ、整えられたオールバックの黒い髪に、余裕綽々といった笑みを常に浮かべ、できる男といった感じの風貌だった(それにちょっと怖い)。先生が教壇から少し離れると、入れ替わる形で男が教壇の上に乗った。

 

 男は、生徒の「おはようございます」という挨拶を受けて、座っている生徒を一通り見渡した後に頷いた。

 

「おはよう。大体皆知っていると思うが、私の名前はサカキ。このトキワシティでジムリーダーをやっている」

 

「今日、この教室にいる生徒は全員、今年で10歳になるポケモントレーナーのタマゴだと聞いている。そうだな……10歳になると一人前のトレーナーとして旅に出ることが出来るのは皆知っていると思うが、この中で旅に出ると考えている者たちは手を挙げてくれるかな」

 

 サカキの言葉に生徒の8割くらいが手を挙げる。俺は旅に出る気は全く無いので手を挙げず、他の手を挙げた生徒たちをボーっと眺めている。

 

「なるほど、だいたいわかった。せっかく大多数が旅に出る気があるというのだから、それらしい事を言わなければならないね。旅をするにあたって重要な生活に関する事柄は先生方から聞いていると思うので、私からはトレーナーとしての心構え、ポケモンとの向き合い方について話していこうと思う」

 

 そう言って、サカキはジムリーダーとして、トレーナーを育成する者に相応しい言葉で生徒たちに言い聞かせていく。

生徒側にいる普段は真面目に座学を受けない者たちも、流石にジムリーダーの言う事となれば話は違うようで、とても真面目に聴き入っていた。

 

 

「――そして、ポケモントレーナーになったのなら、相手のトレーナーにも、相手のポケモンにも、何より自身のポケモンにも敬意を持って接していくことが大切だ」

 

 話すことは終わったのか、サカキはチラリと先生に目を向ける。聴き入っていたのは先生も同じのようで、ウンウンと頷いて何かに共感しているようだったが、アイコンタクトを受けて慌てて取り繕ったように声を上げた。

 

「は、はい! サカキ先生、ありがとうございました。 では次に、サカキ先生とクラスの最優秀生徒とのエキシビションを行います。その他の生徒たちも模範となる戦いを見て勉強をするように。ではアキさん、最も優秀な生徒の貴方にエキシビション……模擬試合を任せたいのですが、問題ないですね?」

 

 彼女の名前が呼ばれると、サカキはなるほどと言わんばかりの様子で軽く頷いた。

 

「アキ……なるほど。君はジムトレーナーの、彼の一人娘か。聞いているよ、とても才能に満ち溢れた(エリート)トレーナーだとね」

「ありがとうございます! ……あの、今回のエキシビション、私では無くて、彼を……ウィン君を推薦したいのですが」

 

 アキはそう言って俺に指を向ける。先生も生徒も、そしてサカキですら俺に目線を向けてくる。

 

「え、あの、自分は別に――」

「彼は! 強いです。トレーナーズスクールで彼に勝てる人は先生も含めて誰もいないです」

「ほう?」

 

 先生は予定が狂ったとばかりに慌てた様子でアキとサカキを交互に見ているが、サカキはその言葉に惹かれたようで、目を細めてこちらを見つめている。

 

「ウィン君……と言ったかな。申し訳ないんだが、生徒全員を把握しているわけではなくてね、君がどういった生徒なのかまだ掴めていないんだ。しかし、アキさんの話を鵜呑みにするなら素晴らしい実力を持ったトレーナーの卵ということになる」

 

「はぁ、ありがとうございます……?」

 

 気の抜けた俺の返答に対して笑みを浮かべたサカキは、「よし」と言って先生の方を向き直した。

 

「リリコ先生、授業の時間はまだ大丈夫でしょうか? せっかくですので2人とバトルをしてみたいのですが、どうでしょう?」

「そう……ですか? えぇと、はい、大丈夫です。では皆さん、今からバトルを行うためのグラウンドに出ましょう」

 

 先生はいつも手元に持っている予定表が挟まれたボードを確認して、問題が無いと判断したのだろう。特に言及することなくサカキの話を受け入れて、移動の指示を生徒に出す。

 

 生徒たちは自分が戦うわけではないが、ジムリーダーのバトルを間近で観戦できるということでテンションが上がったまま我先にとグラウンドに駆けていく。

 

 アキは俺のことをチラリと見たが、他の子たちに引っ張られるようにして外に向かっていった。

どういう考えで彼女が俺の事を推薦したのか分かりかねるが、勝ち続けている俺憎しでジムリーダーに負けてしまえばいいとでも思っているのかもしれない。

 

 サカキも外に向かっていくのを見届けた先生は、一人残った俺の傍に寄ってくる。少し不安そうな表情を浮かべながら、恐る恐るといった感じで尋ねてきた。

 

「ウィン君、アキさんがああやって言っていたけれど大丈夫なのかしら? あなたは確かそこまでバトルが好きじゃないって……」

「大丈夫ですよ、それにジムリーダーと戦えるなんて光栄です」

「そう、そうよね。頑張ってね、先生も応援しているから」

 

 先生は俺の肩をポンと叩いて、それから教室を出ていく。俺もそれに続いて教室から出てグラウンドに向かって歩き出した。

 

 町一つに対してジムリーダーの権限というのは決して小さくない。もし自身がジムリーダーと戦って悪くない成績を叩き出せば、後々のトキワシティでの就職活動で有利に働いたりするかもしれない。

 

 トキワシティはカントー地方で開かれるポケモンリーグの開催地に最も近い都市、つまりそれだけ活気づいているということ。このトキワシティはいわば現代の東京と言っても良いのではないだろうか。

 

 そう考えればトキワシティで良い仕事に就くためにもジムリーダーに顔を売っておく必要があるのかもしれない。

 

 ポケモンバトルは楽しくないが、発想を転換させてみれば決して悪いことばかりではない。心なしかやる気も湧いてくる。

 

 ありがとう、神様!

 



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ニドリーノ

誤字報告ありがとうございます。変換ミスだったり単純に間違っていたりする部分があったりするので、ご指摘に感謝しています。


 サカキは嘘をついていた。トキワシティ内にて設立されたトレーナーズスクールの生徒についての情報、とりわけウィンという名前の少年の事については特に。

 

 アキという少女については、父親が自身のジムのトレーナーの一人であるというところから軽く知っている程度の事でしかなかった。

 

そしてその判断は間違っていなかったと、スクール内で外部から講師を招いて行われるエキシビション――いわゆる模範試合、模擬試合で直接戦ってみて良く分かった。

 

「(戦い方は年齢にしては上手いが……それだけだな)」

 

 エリートトレーナーの卵、年齢を鑑みてもその程度の評価でしかない。言ってしまえばエリートトレーナーと呼ばれる者の数は少なくない(・・・・・)

 

ポケモンバトルがありとあらゆる娯楽の中で最も主流となっていて、多種多様なスポーツを差し置いて大会が開かれていることを考えると、ポケモントレーナーという競技の人口は非常に多く、老若男女問わず誰でも携わることのできる競技とも言える。

 

 その中で生まれるエリートトレーナーと呼ばれるトレーナーの実力はピンキリで、ジムバッジを複数の地方で取得している者や、地方のローカル大会のチャンピオン、果ては小さな町の一番の実力者、そういった他人から評価されるような実力者のことを一纏めにエリートトレーナーと呼んでいるだけ。

 

 サカキの評価は中の下、経験を経てみれば中の中から中の上程度の実力になるだろうと予想していたし、3vs3のポケモンバトルをしてみた結果が一目瞭然だった。

 

 アキの使用ポケモンはナゾノクサ、プリン、そして親から借り受けているというヤドンの三匹。対するサカキの使用したポケモンはサイホーンのみだった。

 

「……うそ」

「悪くない、悪くないが……若いな」

 

 レベルもバッジ未所持相当の相手にまで落とし、タイプ相性も決して悪くない。だがまだ未成年の10歳にも満たない少女がジムリーダーに対して勝つのは些か無謀であった。

 

 若いから、そうサカキは評したが、心中の考えはまるで違った。

 

「(才能が無い。ポケモンの動かし方、技の選択、指示、そして何よりレベルが足りない)」

 

 レベル。より正確に言えばポケモンの実力を発揮できていない。一例を挙げれば、ポニータは一回のジャンプで何百メートルものタワーを飛び越える力があったと言うが、野生で生息しているポニータにそんな芸当が出来るのだろうか? トレーナーが育てたポニータが出来るのだろうか? おそらく不可能ではない、だが多くのポニータにその芸当が出来ないのは事実だ。

 

「(ポケモンの実力を真に引き出すことのできる才能、彼女に存在しないとは言わないが、恐らく殆ど無い)」

 

 目算10レベル相当のポケモンを3匹並べたところで、一般の実力しか持ち合わせていないトレーナーが、1.5倍以上レベルの高いサイホーンを崩すことが出来ないのは道理であった。

 

 サイホーンに労いの言葉を掛けてボールに戻し、へたり込んでしまった少女に話しかけた。

 

「危うくサイホーンがやられかけてしまった、君は素晴らしい才能を持っているね。自身のポケモンを捕まえて、きちんと育て上げればもっともっと強くなる。分かるかな?」

「は……はい。ありがとうございます……」

 

 圧倒的な実力差でポケモンを1匹も削ることなく負けてしまう、そんな経験が前にもあったのだろう。心がポッキリと折れた様子も無く、いきなり泣き出す事もない。おそらく内心で必死に平静を保とうとしているのか。

 

 少女の手を引いて、その場から立たせる。だが放心状態のようになっているので早めにポケモンをボールの中に戻させる。

 

「……戦闘不能になったポケモンを治療マシンで治してくるといい、ポケモンを良く労ってやり、次に活かしなさい」

「はい……失礼します」

 

 軽くフォローは入れたが、あの反応では馬の耳に念仏と言ったところだろう。面倒ではあるが父親の方に軽く伝えてフォローを頼んでおくことにしよう。

 

「さて、待たせたね。ウィン君?」

「あー……いえ、別に」

 

 黒髪黒目の普通の少年。人相が悪いわけでもなければ口が悪いわけでもない、多少暗い性格ではあるが本人の生い立ちを知れば決して変なことではない。見れば見るほどただの子供にしか見えない。

 

 しかし外見だけで決めつけるのは時期尚早か、年甲斐もなくワクワクしている。

 

「先ほど同様、3vs3のバトル。ハンデとして君は途中交代も可能だ。何か疑問は?」

「特にありません」

「では――」

 

「行け、ニドリーノ」

「スピアー、行け」

 

 スーパーボールとモンスターボール、二つのボールから同時にポケモンが飛び出してくる。なるほど、先鋒はスピアーか、決して珍しくはないが……

 

 彼は、ウィンは孤児だったはず。親から借りているポケモンでは無いが、進化後のポケモンと来たか。

 

「そのスピアー、君のか?」

「いえ? ビードルの頃からスクールで使っているので進化しただけです。……問題がありましたか?」

「……いや、何も問題はない」

 

 ポケモンが進化している。別に驚くことではないが、気になる点は幾つかある。

 

「ウィン君、行くぞ……! ニドリーノ、『つつく』だ!」

 

 ニドリーノは命令を聞いて即座にスピアーへと飛び掛かる。額のツノを利用した突進をどう対処する?

 

「後ろに下がって『みだれづき』」

 スピアーは軽やかに後方へ退いて『つつく』を回避したあと、ニドリーノ目掛けて『みだれづき』を打ち込んでくる。流石に飛んでいるスピアーに攻撃を当てるのは厳しいが――

 

「気にせず受け止めて、『どくばり』を返してやれ」

「引け」

 

 簡潔明瞭。ニドリーノの返しの『どくばり』が打ち出される前に逃げおおせたスピアーに『どくばり』は当たることなく、針は虚しく空を裂くのみだった。

 

「ヒットアンドアウェイの対応は素晴らしいが、ダメージが弱いぞ。タイプ相性を考えれば別のポケモンに切り替えるのが正解なんじゃないか?」

「タイプ相性……?」

 

「……は?」

 

 ウィンは不思議そうに首を傾げ、少し考えてから「あぁ」とだけ言って首を振った。

 

「タイプ相性、確かに悪いですね。でも大丈夫です」

「……なんだと?」

 

 この少年、タイプ相性がろくに理解できていない? おかしい、トレーナーズスクールでは毎日のようにポケモンバトルを実施しているはず。そんな場所でタイプ相性の勉強など耳にタコが出来るほど聞いていてもおかしくない。あまり真面目に覚えていない? 直観タイプか?

 

 舐めている? 違うな、こいつは――

 

「興味が無い、面白くない、か」

「?」

「いや、何でもない。……ポケモンを変更しないのならこのまま行くぞ!」

 

「スピアー、とぎすませ」

「構わんニドリーノ、『とっしん』だ!」

「迎え撃て、『みだれづき』」

 

 受けの態勢か、スピアーにとってニドリーノとの相性は決して良くない。特に低レベルの状態で外部から特別に技を習得させていない限り、どくタイプを持つニドリーノを倒す手段は殆ど無いと言ってもいい。

 

 しかし、驚くべき事が目の前で発生した。

『とっしん』に合わせるように撃ち出された『みだれづき』の一撃によってニドリーノが怯み、攻撃を止めてしまう。

 

「な……! スピアーの攻撃の方が上なのか……!?」

 

 正確に言えば怯みではない、動きが完全に停止したわけではない事から、想定外のダメージが発生したことでニドリーノの動きが止まってしまったのだろう。

 そしてスピアーの技は止まったニドリーノに次々と撃ち込まれていく。

 

 一発、二発、三発、四発、五発――最大の攻撃回数を当たり前のように引いたスピアーは、もはや主人であるウィン君の指示を聞くことすらなく、追い打ちとして噛み付き、『むしくい』を行う。

 

 ニドリーノへ指示を行うが、スピアーの『むしくい』によって一気に削られてしまい、ニドリーノは倒れてしまう。

 

 まるで夢でも見ているようだった。タイプ相性をロクに考えていないような少年に、同レベル帯ではあるが有利なポケモンを使用して負けるなんて今まで一度だって無かった。

 

「……驚いた。そのスピアー、最初に見た時はあまり強く見えなかったが、『みだれづき』に『むしくい』、そのどちらも素晴らしい威力だった」

「えっと、ありがとうございます?」

 

 褒められることに慣れていないのだろうか、少し困ったような表情で感謝を返されてしまい、こちらの気が削がれてしまった。

 

 対峙しているあのスピアー、私の見立てでは決して強くない。同じポケモンであっても個体ごとに強さの差が生じるが、おそらくあのスピアーは下から数えた方が早いであろう個体。トキワの森に出没するスピアー達はもっと動きが速く、そして技も洗練されているのを知っているからこそ分かる。

 

 だが――。

 

「サイホーン、出たらすぐに『ロックブラスト』だ、行けっ!」

「スピアー、すぐに引いて構えろ」

 

 やはりこれだ、ウィン君の命令を受けたスピアーの動きが、弱い個体特有の緩慢な動きから非常に洗練された俊敏な動きに変化する。

 普段は気を抜いているから弱いのか? 違う、おそらくは――

 

「ポケモンの実力を100%以上(・・・・・・)引き出せるのか……!」

 

 出現したサイホーンは間髪いれずにロックブラストを撃ち出すが、回避に専念したスピアーに技を当てることが叶わない。レベル差も個体差も当たれば関係なくひっくり返せるはず、しかし当たらない。

 

 幾度か技をぶつけ合うが、最後までスピアーに攻撃が命中することはなく、スピアーのトドメの『むしくい』に敢え無く倒れてしまった。

 

「は、はは……ははははっ!」

 

 サイホーンを戻した私は自然と笑いが込み上げてきて、その場で馬鹿笑いをしてしまう。先生もスクールの生徒も、ウィン君も、そして治療が終わったのであろうアキ君も、それぞれ三者三様の表情で私の笑っている姿を見つめている。

 

「は、は、は……悪いね、久しぶりに心が躍るよ。聞きたい事は色々あるが、まだポケモンバトルは続いている。1vs3……これでは私がチャレンジャーのようだな?」

「いえ……そうですね?」

「子供らしくない、少しは喜んだり楽しそうに笑いなさい」

「はは……」

「まぁ……いい、君の実力がもっと知りたくなった。少々大人げ無いが、子供に対して完敗するのはメンツというものもある……多少本気で行くぞ――行け、サイドン!」

 

 握ったボールはハイパーボール、バッジを7つ以上揃えた相手にのみ出すポケモンを入れておく特注のボールだ。中から現れたサイドンは戦意たっぷりな表情で、スピアーとその背後にいるポケモントレーナーのウィンを睨みつけた。

 

「レベルは50相当、同じレベル帯であってもコイツを落とすのは少々骨が折れるぞ」

「うわ、大人げない……」

「これが大人さ」

 

 熱くなってきた私に冷や水を掛けてくるウィン君だったが、ポケモンに関して何か言ってくる気配はない。つまり――。

 

「最初から全開で行くとしょう。『ストーンエッジ』だ!」

「――――」

 

 こうして、最後のポケモンを使った戦いが幕を開けたのだった。

 



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トレーナーズスクール

「ありがとう、ウィン君」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

 

 俺とサカキは最後に握手をしてポケモンバトルを終了させた。と言うのも授業時間いっぱいまで千日手の状態でスピアーとサイドンの戦いが続いてしまったためだ。

 

 ゾウ対アリならぬ恐竜vs蜂、スピアーは奇跡的に攻撃を避け続けてサイドンへとチクチク攻撃を撃ち込んでいたが、ダメージがあるのかないのか分からないままの戦いが続いた。

 

 スピアーもポケモン、つまり生物? なので、疲れが出てきてしまっていて、スピアーの体力が無くなって躱せなくなるか、サイドンの体力を削り切るかのどちらかだったが、最終的に時間切れで決着がつかなかったことでサカキは消化不良だったようだが、時間は時間と言うことで一旦止めにしてもらった。

 

「バトル中にも言ったが、久しぶりにワクワクさせられたよ。なるほど、スクールの先生方が君に手も足も出ないというのは全くデタラメではなかったということだね」

「恐縮です……」

「難しい言葉を知っているね、本を良く読んでいるからかな?」

「あー……えっと、なんで知っているんですか?」

「さて、何故だろうね」

 

 そう言って笑みを浮かべた目の前の男、サカキというジムリーダーはどうにも食えない人のようで、ただ質問しただけではのらりくらりと躱されてしまう。ポケモンバトルをするより、どこかの組織で纏め役でもやっていそうな腹芸の上手い人物だった。

 

 握手を終えたサカキは、いつの間にか隣にいたアキに目線を向けると、先ほどよりいくばくか優しい表情で口を開いた。

 

「アキ君、試合終了後に軽く話したが、君には素晴らしいポケモンバトルの才能がある。君の父も素晴らしいトレーナーだ。彼からよく見て、よく聞いて、よく学びなさい。君の実力はまだまだ伸びていく」

「……それは、私の実力は、この人を……ウィン君を超えることができますか? 彼に、勝てるようになりますか?」

 

 隣に本人がいる中でこの人に勝てるかどうかとか聞くべきじゃないのでは、と思う部分もあるが、こうやって他人と実力なんかを比較してくれる人がいる機会はそう多くないのかもしれない。俺は何も言わずに黙って聞くことにした。

 

「……アキ君、君がそうやって尋ねるという事は、彼の存在を、まるで越えることのできない高い壁のように感じているんだろう」

「……はい」

「そしてそれは私に聞くまでもなく、私以上に君自身が理解しているんじゃないか? 自分では勝てないと」

「……」

「……人は、一人で何かを成し得ることはできない。たった一人で高い壁を越えることや、大きな夢を叶えることは困難だ。しかし君は一人ではない、君にはポケモンがいるだろう」

 

 アキはヤドンの入ったボールをギュッと握りしめ、俯いていた顔を上げた。

 

「君とポケモン、二つの力を合わせれば、高い壁も越えることが出来るかもしれない」

「はい……! ありがとうございます! 私、頑張ります! ポケモンと一緒に!」

 

 頷いたサカキは改めて俺の方を見る。

 

「ウィン君、君の方は少し退屈しているようだね」

「あ、いえ、別に……」

「今の話じゃなくて、ポケモンバトルについてだよ。いや……ポケモンにも、そこまで興味が無いのかもしれない」

 

 サカキの言葉を聞いていたアキは、俺の方をジッと見つめている。

 

「別に答える必要はない。ただ、君の才能をこのまま埋もれさせてしまうのは、一人の大人としても、ジムリーダーとしても、惜しいと感じてしまう」

「ありがとうございます」

「どうだろうか、君は先ほど座学の時に旅に出る気はなさそうだったが、見識を広めるために旅に出てみるというのは?」

「あー……」

 

 興味が無いと言えばウソになる。せっかく第二の人生を送ることになったのだから、色々な場所に行ってみるというのは決して悪いことではないのかもしれない。

 

「君のスピアー一匹にしてやられた私が言うのも何だが、世の中には強いトレーナーは星の数ほどいる。旅を続けていれば、君自身を満足させるようなトレーナーに出会うことが出来るかもしれない」

「そうかも、しれないですね」

 

 俺の反応を見て満足したのだろう、サカキはスーツの内側の胸ポケットから上品な名刺入れを取りだすと、名刺入れの中に入っていた名刺を1枚手に取った。

 

「ウィン君、君がこのカントー地方のバッジを7つ集めて、再びトキワジムであいまみえた時、その時に君とまた改めて話をしたい」

「――名刺ありがとうございます。ジムに挑戦するか分からないですが、もし機会があれば是非」

「あぁ、楽しみに待っているよ」

 

 そうして授業も終えて、アキと俺との話も終えたサカキはスーツを軽く直した後にスクールから去っていった。サカキ――というよりジムリーダーは、ジムリーダー業自体が忙しいのもあるが、大抵は別に仕事を持っていたりで非常に多忙らしい。

 

今回のトレーナーズスクール訪問も急遽決めたことと言うことで、ジムリーダーが次回も来てくれる保証は無いようなので、もしかしたら次トレーナーズスクールに来るのはジムトレーナーの方かもしれない。

 

「……ウィン君」

「うん?」

 

 アキは俺を呼び留めると、少し言いにくそうにモジモジとしていたが、覚悟を決めたようで俺自身の目をハッキリと見ながら話を始めた。

 

「私はウィン君に……嫉妬していたんだと思う。私はうんと小さいころから色んな人に褒められて、才能があるって言われて、トレーナーズスクールに通うってなった時も一番を取り続けるんだって心のどこかで思ってた」

 

「でもスクールの最初のバトルで貴方に負けて、それからずっと、ずっと、ずっと負け続けて、夢にまでウィン君が出るようになって。そんな強い人の筈なのに何てことの無い態度で毎日過ごして、それで旅に出ないなんて言い出して、悔しかった」

 

 トレーナーズスクールでは一般常識などを含めた通常の授業に加えて、毎日のようにポケモンバトルが行われている。確かにアキとは当たる回数が多く、その都度勝っていた記憶があるが、2度目以降は泣くことは無かったので勝手に大丈夫かと思っていたけれど、割と精神的にやられていたのかもしれない。

 

「だから今日、サカキさんに倒してもらうって意地悪を考えたけど……負けたのは、また私だった」

「アキちゃん……その――」

「いいの、さっき教えてもらったから」

 

「私は、私と仲間のポケモンたちで貴方に勝つ。ポケモンバトルをつまらない、楽しくないなんて言わせないように、必ず勝つから。それまでポケモンバトルをやめないで!」

 

 そんな言葉に今世で初めて心が動かされた気がした。

 ポケモンバトルは相変わらず楽しくはないし、ポケモンにそこまで興味を持てないけれど、一人の人間が発した一言は案外心に響くものだった。

 

 それから一言二言と交わして、エキシビションで使用したモンスターボール1つをボールを管理する台に戻した。

 

「……みんな教室に戻ってるよ。アキちゃん、帰ろうか」

「……うん」

 

 多くの言葉を交わしたわけではないが、以前より仲が良くなることができたんじゃないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 10歳になって、ようやくというか、もうというか、ポケモンを所持する資格を取得できることになった。ついでにトレーナーズスクールも卒業なので、さてこれからどうしようかと考えることが増えてきた。

 

「ウィン、君にトレーナーズスクール卒業証書を与える」

「ありがとうございます」

「申し訳ないね、まともに君の相手になってやることが出来なくて」

 

 トレーナーズスクールの校長先生は最近少し白髪の増えた髪の毛を掻きながら、申し訳ないと謝ってくる。しかし感謝をすることはあっても恨むことは無いだろう。

 

「大丈夫ですよ、それよりも毎日ギリギリまで図書室を使用していて申し訳ありませんでした」

「はは、それこそ気にしなくていい。君がそれで少しでも楽になるのなら、何も言わないよ」

「……ありがとうございます」

 

 幾つか卒業後の資料を手渡しながら校長先生は話をつづける。

 

「これからウィン君はどうするんだい? ……孤児ということだったが、一応成人したということで孤児院の扶養からは外れてしまうだろ?」

「それも大丈夫です。旅をするお金は一応頂いているので、それを少しずつ使ってカントー地方を巡ってみようと思います」

 

 10歳で成人して旅をしている途中、お金が無くなったりした場合はどうするのか、というのは割と手段が豊富だった。住み込みで働きながら旅の資金を集めたり、何かしら手に職をつけてお金を稼ぎながら旅をしたり、旅先で開催されている大会などで成績を残して賞金を手に入れたり。

 

 手段を選ばなければお金を集めるのは全く不可能というわけでもない。色々なところで現代とルールや常識が違うのが功を奏したという感じか。

 

「なるほど、君ほどのポケモンを使いこなす実力があれば食っていくには困らない……か」

 

 校長先生は一通り資料を渡し終えると、最後にとモンスターボールを5つくれた。卒業祝いということだったが、実はモンスターボールは結構高いので、無料で貰えるのは嬉しい。

 

「それと、君がスクールで唯一使っていた(・・・・・・・)と聞いているこのポケモン、スピアーを渡そう。本来はもっとレベルの低いヒトカゲやフシギダネ、ゼニガメなんかを渡すんだが――」

「あ、俺も同じで大丈夫です。スピアーは要りません」

「な……良いのかい?」

「はい。別にスピアーじゃなくても旅は出来るので、スクールで使ってください」

「いやいや、違う。君は入学してから4年間スピアーしか使用していないと聞いている、愛着とか愛情とか――」

「別にないです」

 

 適当に言って初心者トレーナー向けのポケモン3匹の内、1匹が入ったボールを引っ掴んでスクールから出てきた俺は、入り口の前で待ち構えていたアキと遭遇する。

 

「ウィンく――ウィン。終わったんだね」

「うん」

「私は明日から旅に出て、ニビシティに向かっていくけど。ウィ、ウィンはもう今日から?」

「そのつもりだよ」

 

 それを聞いたアキは「ちょっと待って」と言うと、スクールに通うときに使用していたバッグの中からメモ帳とペンを取りだして何かを書き始めた。

 

「……よし、これ。ポケギアの電話番号だから、旅の途中で手に入れたら登録して連絡して!」

「ポケ……なに?」

「ポケギアを知らないの!? ……ジョウト地方の方が多く出回っているから知らなくても無理はない……?」

「まぁ、覚えていたら登録するから」

 

 色々言われながらもアキとも別れて、ニビシティ方面へのトキワシティの出口に到着した。

 

「ニビ、ハナダ、クチバ、タマムシ、セキチク、ヤマブキ、グレンか。遠い旅になりそうだ」

 

 そう言ってサカキから貰った名刺には、トキワジム、ジムリーダーと書かれている。サカキにもう一度会うために、一旦旅の目標はジムバッジを揃えることとしよう。そうと決まれば、まずはニビシティ。石の男として有名なジムリーダーに会いに行こう。

 

 こうして俺のカントー地方の旅が始まった。

 



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カイロス

 トキワの森、トキワシティとニビシティの中間に広がる鬱蒼とした森で、むしポケモンやくさポケモン、それらを捕食するポケモンたちで生態系が構築されている。

 

 入口と出口の付近には大きなゲートが設置されており、正式にゲートから入場を行っておくと、トキワの森に入ってから数日以上経ても出口ないしは入口に到着していない場合は捜索隊が編成されて捜索が始まるという。

 

 道などに沿わず森に潜った場合は、大人や子供を問わず熟練した旅人ですら遭難する比較的危険度の高い森であった。

 

「食料よし、ボールよし、ポケモン……よし?」

 

 正直なことを言うと、俺はポケモンという存在が恐ろしい。トレーナーズスクールでポケモンの扱い方を学ぶ過程でより一層その考えが強く根付いてしまったと言ってもいい。

 

 この世界の人間は多少(・・)丈夫に出来てはいるが、そんな人間を容易く殺してしまうのがポケモンという存在だ。その上好戦的で、戦えば戦うほど強くなり、最終的には変態にも似た進化という変化を経て更に強くなっていく。

 

 モンスターボールやボックスに仕舞うために肉体が粒子状に変化する理屈も全く理解できないし、ボールに収まると比較的言う事を聞くようになる理由だって証明できないのだ。

 

「……さて、何が出てくるか」

 ボールの開閉ボタンを押し込んで中からポケモンを取りだしてみれば、出てくるのは青い身体に背負った甲羅――ゼニガメだった。

 

「……?」

 

 ボールからいきなり排出されたゼニガメは不思議な様子で辺りをキョロキョロと見渡し、困った顔でこちらを見る。敵もいなければ食事もないし、何故出されたのか理解できていないのだろう。

 

「レベルは5くらいかなぁ……」

 ポケモントレーナーが持つ技術の一つにポケモンの実力――レベルを測るものがある。ポケモンの強さというのは、個体ごとの強さ+成長度+鍛錬で身に着ける力+αの、大まかに三つから四つに分類された要素を組み合わせたもののことを言う。

 

 個体ごとの強さは生まれた時から決まっていて、これを変化させる方法は現代科学では存在しないという。しかし後者の成長度――レベルと、鍛錬で身に着ける力の二つに関しては後天的に成長させることが出来る。

 

 生まれたばかりで最低限のバトル経験が無いのだろう、レベルも低く、全く鍛錬、訓練がなされていない。俺はこういうポケモンを望んでいたのだ。

 

「よろしくな、ゼニガメ」

「ゼ……ニ?」

 

 一目見てゼニガメを見て満足できた俺は何か訴えようとしていたゼニガメをボールに戻す。相手の反応は期待していないのだ、すまん。

 

 

 トキワの森をどんどん進んでいくと、確かに様々なむしポケモンやくさポケモンの姿が見える。新しいポケモンを捕まえに多くのトレーナーが森を散策しているというが、彼らにとってはポケモンを捕まえるというのは昆虫採集と同じようなものなのだろう。

 

 トキワの森にはある程度踏み均された道が出来ている。それは多くのトレーナーなど、行き交う人々が幾度と通ったから自然と出来ているもので、その道なりに沿って歩けば、半日どころか数時間も経たずにトキワの森を縦断できてしまう。

 

 だがトレーナーは別だ。

 

「目が合ったらポケモンバトル、知らないの?」

 

 麦わら帽子を被った少年に声を掛けられてしまい、彼の握りしめているボールを見て溜め息が出てきてしまう。これで3回目だった。

ポケモントレーナーはバトルをするのが本分と言われているが、こうも絶えず勝負を挑まれ続けると戦いを回避する方が面倒ではないかと思ってしまう。

 

 1回目、2回目は上手くバトルを避けることに成功したが、今度の少年はどうにも粘り強い。

 

「お前、トキワシティのトレーナーの間でちょっとした有名人だぞ、負けなしだってな。オイラがその事実、本当かどうか確かめてやるよ」

「あー……」

 

 話題になること、なんだろうなぁ。ポケモンしかやることが無いから皆こういう噂話ばっかり広まってしまう。しょうがない、しょうがない。

 

 無言でボールを取りだした俺を見て、戦意があると見たのだろう。虫取り少年はボールを投げた。

 

「――行け、カイロス!」

 クワガタムシのモンスターといった姿形をしているので、むしタイプで間違いないだろう。

 

「ゼニガメ」

 声掛けと共にボールから出てきたゼニガメは戦意十分な様子でカイロスと相対している。しかしこちらのポケモンのレベルを見て悟ったのだろう、虫取り少年は得意げに語りだした。

 

「はっ、貰いたてのポケモンだな!? そんなポケモンでこのトキワの森を抜けようなんて甘いぞ! カイロス、挟め!」

「『からにこもる』、そのまま『こうそくスピン』だ」

 

 カイロスは直線的にこちらに向かって、ずつきのような体勢のまま突進をしてくる。攻撃の様子を見て、指示を受け取ったゼニガメは自身の甲羅の中にこもった。

 

「待てカイロス! 近寄るな――」

「『こうそくスピン』を止めて『みずでっぽう』に切り替えだ」

 

 急停止をしたカイロスに向かって、甲羅から首だけだしたゼニガメは『みずでっぽう』を撃ち出す。高圧洗浄のように、非常に強力な水圧で撃ち出された『みずでっぽう』は、動きを急に変えたカイロスに対して突き刺さる。

 

「なんだこの威力っ……!?」

 

 カイロスは腹部に受けた攻撃によって後方に吹き飛び、大きな木に激突する。だがそれでもまだ動けるようで、体躯に対して細い己の腕を使って起き上がろうとしている。

 

「近寄るな、『みずでっぽう』を撃ち続けろ」

「カイロス、『まもる』!」

 

 立ち上がったカイロスは腕を交差に組むようにしてその場で蹲る。するとカイロスの周囲に薄い膜のようなものが出来上がった。『まもる』、あまりにも強い威力の攻撃を防ぐことは出来ないが、今のゼニガメ程度の『みずでっぽう』では攻めきれないだろう。

 

「『みずでっぽう』を一旦止めろ」

 

 水の無い森の中、ゼニガメがあとどれくらい『みずでっぽう』を撃ち続けられるか分からないし、何より防がれると分かっているのなら撃つだけ損だろう。

 

「……」

「……くっ」

 

 虫取り少年と俺、カイロスとゼニガメ。お互い向かい合っているが、先に音を上げたのは相手の方だった。

 

「カイロス! 『ちきゅ』――」

「ゼニガメ、やれ」

 

 技の指示など不要だろう。ゼニガメは指示の直後、間髪入れずに全力で『みずでっぽう』を撃ち出し、『まもる』の解けた無防備なカイロスを吹き飛ばした。

 

攻撃を受けて木を圧し折りながら吹っ飛んでいくカイロス、それを見た少年は顔色を青くしてカイロスの下に駆けていく。しかしわざわざ近寄らなくとも、モンスターボールを使って手元に戻せば手間も掛からないはずだが、きっと焦っているのだろう。

 

「か、カイロス!」

 虫取り少年はカイロスを揺すり、反応が全くないことに気づいたのだろう。ポケットに入れていた小さなガス噴出機……おそらく『きずぐすり』をカイロスに吹きかけた。

 

「大丈夫か、カイロス! すぐにポケモンセンターに連れていってやるからな!」

 

 モンスターボールにカイロスを戻し、草の陰に隠すようにして置いていたのだろう、自身のバッグを手に持ってからこちらを振り返った

 

「えっと、いい勝負だったな……?」

「ふざけるな!」

 

 少年は麦わら帽子を深く被ってしまい目元は見えないが、口元は悔しそうに歪んでいる。バッグを握った拳は強く結ばれていて、少なからずショックを受けていることはすぐに分かった。

 

「……くそっ、確かにオイラが身の程知らずに喧嘩を売ったのは悪かった。だけどあんな強い攻撃を使う必要は! いや、オイラが悪かった。ごめん」

 

「まぁ、特に気にしては……それにゼニガメが使ったのは普通の『みずでっぽう』で、特別強い威力はなかったはずだけど」

「オイラの目算だとあのゼニガメはレベルが5から10くらいで、本来はあんな威力の『みずでっぽう』なんて撃たないと思っていたんだ。ごめん、どれだけ言っても悪いのはオイラだよ。オイラは先に行くよ。絡んじまって悪かったな」

 

 そう言って足早にトキワシティとは反対の方向に駆けて行った少年を見送る。もうニビシティの方が近いのだろう。俺は何とも言えない気分のまま、足元にいたゼニガメを見た。

 

「ゼニ……?」

「才能、ね」

 

 ポケモンバトルをしていると、まるで夢の中にいるような気分になる。空に浮いた状態で、俯瞰的な視点で戦いを見ている。そんな状態で戦いを始めると、相手のやりたい事、ポケモンの動き、思考、これからどうなるか、そう言ったものがぼんやりと見えてくるのだ。

 

 先ほどの戦いだって、カイロスがあとどれくらい『まもる』を続けていられるかも知っていたし、今までの戦いでその目算が外れたことは無かった。これも神様がくれた才能の一端なのだろう。

 

 何より俺は俺自身の意志でポケモンに動きを指示したことは一度たりとも無い。夢の中にいるような状態、いわゆる半覚醒の状態で勝手に浮かんでくる言葉を口にしているだけ。

 

 オートバトル。そんなワードが頭に浮かぶが、深く気にしないよう努める。自分の身体のはずなのに、自分ではない存在が身体を動かしているなんて思いたくもないからだ。

 

俺自身、神様から貰ったチート(ズル)の内容を把握していない。転生してからあまり落ち着かない日々を過ごしてきたので色々と目を背けてきたけれど、前向きに自分のことを知る必要があるようだ。

 

 ゼニガメをボールに戻してから降ろしていた荷物を持ち上げる。木が折れることはポケモンバトルでは珍しいことではないけれど、戦いの音を聞きつけて他のトレーナーが寄ってくるのはどうにか避けたい。

 

 ニビシティまであと少しであることを期待して、少し足早に歩き始めた。

 



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ニビシティ

 森の出口にはあっさりと到着した。トキワの森とニビシティを繋ぐゲートを抜けると、少し遠くにはニビシティの街並みが広がっている。

 

 昼間からずっと移動を続けていたので、あと1,2時間も経てば夕方になってしまうだろう。ジムリーダーに挑む前に寝床を見つけるほうが先だろう。

 

 トキワシティを出る前に拝借していたガイドブックをバッグから取りだしてパラパラと捲っていく。目次に沿って見ていくと、ページ数の浅い所にあるのが目的の内容だった。

 

 目的のページを開いて中を確認すると、ポケモンセンターについて、という題名が載っている。ポケモンセンターは公的に建てられていて、トレーナー業を補助する施設だ。

 

 ポケモンの治療と最低限の食事提供サービス、何より無料で宿泊が可能である点が非常に優れていて、旅を続けるトレーナーは多かれ少なかれポケモンセンターを利用しているという。

 

 俺もそれにあやかって、他のトレーナーと同様に、ポケモンセンターに泊まっていくつもりだった。特に事前予約などは必要ないらしいが、食事などのサービスは状況によって受けられない場合があるのだけは注意らしい。

 

 ゲートの出口から多少歩けばすぐにニビシティの入口は見えてきて、街の様子も何となくは掴めてきた。

 おつきみやまのすぐ傍にある山間部の街なので、トキワシティほどの活気があるわけではないが、大きな建物はいくつも並んでいて、全く発展していないというわけでもない。

 

 科学博物館も結構有名ということで、化石やスペースシャトルの展示がされているということで、そういう類のものが好きないわゆるマニアなどが割と訪れているため、ジムがあるということを踏まえても人の行き来はそこそこ盛んらしい。

 

 ニビシティの入口らしきところをくぐって真っすぐ進むと、すぐに目につく場所にポケモンセンターが建っていた。トレーナーらしき人々が出入りしているが、その中にはトレーナーではなさそうな老人などもいる。しかしそれは決しておかしいことでもない。

 

 

 ポケモンセンター内は明るい照明で照らされていて非常に清潔な空間だった。カウンターにいるラッキーやジョーイさんを見つけなければ普通の病院だと思ってしまいそうだ。

 

 奇跡的に空いていたカウンターの前に立つと、それに気づいたジョーイさんが笑顔で話しかけてきた。

 

「こんにちは! ポケモンの治療に来たのかな?」

「あ、はい。それと今日ここで泊まることって大丈夫ですか?」

 

 一回しか戦闘をしていないゼニガメに回復は不要だが、なんだか違うと言いづらくなってしまい、宿泊の相談を兼ねてボールを渡すことにした。

 

 ボールを受け取り、カウンター内側のテーブルの上に置かれていたトレイにボールを置いて、ラッキーに持っていくように指示を出している。

 

「ええっと……ごめんなさい、個室は既に埋まっていて使えないの、貴方から見て左側にある休憩室だったら泊まっても問題ないのだけれど、どうかしら?」

「ありがとうございます。休憩室で眠るんで大丈夫です」

 

 礼だけ言って、ついでにポケモンの回復がどれくらい掛かるか尋ねてみる。するとジョーイさんはカウンターの後ろにある出入口に入って、1分か2分経過すると、どうにも釈然としない表情で戻ってきた。

 

「あなたのゼニガメ、特に外傷はないのだけれど、どうにも喉の辺り、水を吐き出す部分が傷ついてしまっているようなの。外傷だと数分で終わるんだけど、体の内側を治療するのはちょっとだけ時間が欲しいの」

「なるほど……」

 

 弱ったな、治療が長引けば――というか十中八九、今日中にジム戦は出来ないだろう。こんなことだったら森で適当にポケモンを捕まえておくんだったと後悔する。しかしもう手元にポケモンはいないので、これ以上何かすることはできない。

 

「わかりました、どれくらい掛かりそうですか?」

「そうね、治療には30分あれば完璧に治るはずなんだけど、一応検診って形で少し調べてみても大丈夫かしら? すべて含めて1時間でポケモンをお返しするわ」

「1時間ですか、まぁ……はい」

「ふふ、ごめんなさいね。あなた、ちょうど今日旅を始めたって感じの子みたいで、ポケモンも一匹しか持っていないみたいだし、一応ちゃんと見ておいて困ることは無いと思うの」

 

 ジョーイさんなりの優しさなのだろう。そんなことを言われてしまえば断ることは出来ない。俺は改めて感謝の言葉を述べながら頭を下げた。

 

「今日とか明日は10歳になった子供たちが旅を始める日でね、個室が珍しく埋まっちゃったのもそれが理由なの。近い年の子も今日は特にいっぱい見るから、色々話しかけたりして、時間でも潰して待っていてね」

 

 そう言って俺の後ろに誰もいないことを確認したジョーイさんは、内側の部屋に戻ってしまった。

 

 俺はトキワシティでトレーナーとしての資格を手に入れたが、おそらく他の街で今日、同じく資格を手に入れた10歳くらいの子供たちは大勢いるということね。

 

 トキワの森であったトレーナーも確かに子供ばかりだった。嫌になってくる。そんな気持ちを抱えつつ、手持ち無沙汰になった俺は休憩室に入って、取り敢えず荷物を整理することにした。

 

 休憩室は思っていたよりも広くて、L字やI字のソファと、その前に置かれたテーブルがいくつも並んでいて、座るだけなら何十人と収容できそうだ。飲み物が売られている自動販売機もあるし、無料の雑誌や公衆電話も設置されている。

 

 しかしやはりトレーナーが、とりわけ10代の子供たちが非常に多い。子供特有の喧騒で休憩室は騒々しい状態になっていて、これでは満足に休むことは出来ないだろう。

 

 幸運にも壁際に設置されたカウンターテーブルはスカスカだったため、カウンター一番端のちょうど隅の椅子に座り込んで溜息をついた。

 

「……はぁ」

 

 足が痛い。今までほとんどトキワシティの中だけで過ごしてきた俺にとって、トキワの森を通ってニビシティへ向かうのは本当に大変だった。最低限の生活ができる分の荷物を持って歩くのがこんなに大変だとは想像以上だった。

 

 結局旅を始めて良かったのだろうか、そんなことを思い始めるとキリが無くなって、どれが正解なのか分からなくなっていく。

 

 ポケモンに極力関わらないことだって恐らくできるだろう。じゃあ何で旅をしようとしているのか、今からでも遅くない。トキワシティに帰って適当に仕事を探せばいい。

 サカキに、ジムリーダーに言われたから旅を続けているのか、それとも神様から貰った特別な力が惜しくて旅を続けているのか。

 

 そんな思考の海を彷徨っている俺の背後から、恐らく俺を呼びかける声が聞こえた。

 

「おいアンタ」

「は……い?」

 

 同い年くらいだろうか、休憩室にいる他の子どもよりも落ち着いていて、大人びた表情を浮かべている、髪の毛を立てている特徴的な少年だった。

 

「俺はグリーン。あんた、名前は?」

「あの、なんで俺に話しかけて……」

 

 自身をグリーンと名乗った少年は、「はぁ?」と呆れた顔で俺の事を見て、それから自身のベルト近くに嵌めているボールを見せてきた。

 

「俺もあんたもポケモントレーナーだろ。トレーナー同士、仲良くしようと話しかけるのは別に変なことじゃないと思うが?」

 

 仲良くしようとしている雰囲気ではなかったが、そんなことを言い出せば角が立つだろう。多分今、俺はものすごく嫌な顔をしているのだろうが、それでも名前だけは名乗っておく。

 

「……ウィン」

ウィン(勝利)ね、大層な名前じゃんか。あんたカントー出身じゃないだろ?」

「……それが?」

「いや別に、カントー地方でそういう名前を付けるのは珍しいから何となく……それとカントー特有の顔立ちじゃない気がして、かな」

「どうだろうな」

 

 そう言って話を断ち切るが、グリーンは戦意のある笑顔を浮かべると、まだまだ話足りないのか口を開いて話を続ける。

 

「つれないな。ウィンもトレーナーなんだろう? なら、俺と勝負しようよ」

「休憩室には他にもトレーナーがいるだろ……俺よりそいつらに――」

 

「ピンと来たんだよ」

 

「……なに?」

「ウィン、あんたにさ。あんたがポケモンセンターに入っていくのを見ていて、ちょっと気になったんだ。歩き方は猫背気味、荷物も重そうにしていて旅慣れている様子もない、ジョーイさんとの会話からして暗いオーラしかない、多分友達にしたくないタイプだ」

「馬鹿にしてるのか?」

 

「だけど、なんだかこう……ただならぬ気配っていうのか、普通なのに普通じゃないみたいな……とにかくそういう雰囲気がして、わざわざ俺から話しかけてやって、わざわざバトルを挑んだってわけだ」

 

 グリーンは腰に付けてある3つのボールから1つを手に取ると、そのボールを人差し指の上でクルクルと回転させている。そういった一挙手一投足から、グリーンという少年は非常に自信家なんだろうなと思った。

 

「俺は昨日から旅を始めたんだ。持っているポケモンだってこの3匹だけ、なんならハンデを付けてやっても――」

「悪いけど無理だ」

 

 ボールを回すのを止めたグリーンは、眉をひそめてこちらを見る。トレーナーだからこそ挑まれた勝負というのは、特別理由がない限り断ることはしないのが暗黙の了解というものだ。

 そんなルールを無視するような俺の態度が気になったのだろう、グリーンは次の言葉を待っているようだった。

 

「俺は今日旅を始めた。ポケモンは一匹しかないし、今は治療中だ。それに明日はジムリーダーに挑む予定だから今日明日は他に誰とも戦う予定はない」

 

 そう言い切ってしまえばグリーンは何も言えないようで、わかったとだけ言ってボールを戻した。

 

「……どんなポケモンで戦うか知らないし、特に止める理由はないけど、旅に出たばかりの奴がジムリーダーには勝てないよ」

 

 グリーンはそれだけ言うと、踵を返して休憩室から出て行った。

 

 俺はバッグに放り込んでいたペットボトルの水を口に含み、それからまた大きな溜息をついた。ポケモントレーナーってああいう好戦的なやつしかいないのだろうか、口も悪いし。

 

 気に病んでも仕方ない。取り敢えずは予定通り、ニビシティのジムバッジを取ってくること、それだけに注力しよう。それと予備のポケモンもどこかで取っておくべきだろう。

 

 やることは他にもあって決して少なくない、勘弁してくれと思いながら、俺はもう一度、水を飲んだ。

 



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イシツブテ

「お預かりしていたゼニガメをお返しします。日を跨いでしまって申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です」

 

 渡されたボールをそのまま腰のベルトに付いているボールを嵌めていた箇所に戻す。結局治療は1日掛かってしまった。治療が遅れてしまった理由は簡単で、旅を始めた多くのトレーナーがポケモンセンターを利用したことによって、ゼニガメの検診を行う作業が後回しになってしまったためだ。

 

「検診結果についてですが、正直なところ良く分かりませんでした。自身が耐えられないほど強力な技――『とっしん』や『もろはのずつき』を使用すると、大抵の場合は外側に目に見える形でダメージがいきます。ただゼニガメがそれらを使った様子はありませんでした」

「……そうですか」

 

「もう一つの可能性は、自身の身体が耐えられる限界を越えた攻撃をしてしまった場合です。『ふしぎなアメ』という道具を大量に使用した状態で、身体を全く慣らすことなくバトルを始めたポケモンは、似たような状態になると聞いたことがあります」

「『ふしぎなアメ』?」

「はい。かなり希少な道具で、ここカントーではごく少数だけ流通していて、ポケモンを急速に成長させる効果があると言います。ただあなたの反応を見る限り、恐らく使用したわけではないのですね」

 

 首を縦に振ることで返答をする。

『ふしぎなアメ』について聞いたことがあるような、ないような。ジョーイさんの話をそのまま受け取ると、その道具自体は別に悪いものではないが、用法用量という観点から見て、アメを摂取してからすぐに戦いだすのはあまり良くないらしい。

 

「あなたもトレーナーなら、そう言った道具を使う場合、予め調べて、ポケモンのことを考えてから使用するようにしてくださいね」

「はい。ありがとうございます」

 

 一日を越すために、休憩室に設置されたソファで眠ることになってしまったが、割と高品質なソファだったからか体調自体は悪くない。不思議なことに身体の節々の痛みも殆ど無くなっている。成長期だからだろうか?

 

何はともあれハナダシティに向かうため、おつきみやまを越えて行かなければならないという。ニビシティに気になる観光場所が無かったので、さっさとバッジを貰っておつきみやまに向かうとしよう。

 

 

 

 

 フレンドリィショップで少し道具を買い揃えて、ニビジムの前まで来た。

 

 しかし今日はどうにも挑戦者――トレーナーが多い。他人より早く、他人より多くジムバッジを集めたいと考えるのは、旅を始めたばかりのトレーナーが多いと聞く(俺もこの中に入るのだろう)。旅を始めたてで、自分の持っている実力がどれくらいか分からないため、取り敢えず一番近いジムに挑戦してみるというトレーナーだっている。

 

 自分の実力を測る。その試金石として今回ジムに人が多く来ているのだろう。

 

 ニビジムはトキワシティと比べてとても大きく感じた。トキワジムをちゃんと見ていないから大きさが掴めていないからとか、土地が余っているから、というわけではなくて、おそらく『いわタイプ』のポケモンを使うため、多くの岩石を設置するため必然的にジムのサイズが大きくなっている。

 

 ジムの外観は非常に大きいが、大量のトレーナーを上手く捌いていくことはできるのだろうか。

 

 ジムに並び始めたジム挑戦者たちを見て、俺もそれに迎合する形で列に並ぶ。前方でジムトレーナーたちが上手いこと捌いているのが見えたので、あまり時間が掛からずにジムへと挑むことが出来るのが分かったため、あまり時間は掛からないだろうという安堵のため息をついた。

 

 

 俺の予想は決して外れることはなく、1時間も経たず大きい列の殆どを捌き切ったニビジムのトレーナーは、流石に疲れたのか、辟易とした表情で先頭にいる俺を呼んだ。

 

「君も……ジム挑戦者かな?」

「はい」

「あぁ、なるほど。今日は時間が無いからね、かなり厳しくいくよ。大丈夫かな?」

「大丈夫です」

 

 

 ジムの中に連れられ、まだ10代後半くらいのジムトレーナーと向かい合う形でバトルスタジアムに立った。使用ポケモンは互いに1匹、本来はもう少し弱いポケモンを使うようだが、今回は厳しいというだけあって使うポケモンのレベルが高いらしい。

 

 バトルスタジアムの様子と言えば、まるで荒野を再現したかのようだった。大小様々な岩が転がっていて、地面も硬すぎず、柔らかすぎず。いわ・じめんタイプのポケモンはきっと戦いやすいだろうなと予想した。

 

しかし持っているポケモンはゼニガメ一匹のみ、タイプ相性は悪くないが、スタジアムがどう左右するか。

 

「バトルといこうか、君も口だけじゃないと良いが――行け、イシツブテ!」

「ゼニガメ、行け」

 

 俺とジムトレーナーの男、二人の持つボールからほぼ同時にポケモンが出てくるが、動いたのはゼニガメの方だった。

 

「『みずでっぽう』」

「イシツブテ! 『あなをほる』だ!」

 

 凄まじい勢いで放たれた『みずでっぽう』を受けつつ、イシツブテは手際良く地面に潜っていく。イシツブテの動きは予想していた通りの動きで、それを上回る動きは全くしてくることはない。

 

 ジムトレーナー側も不利を悟ってはいるのだろうが、戦いを止めるわけにはいかないのか、次の指示を出そうとする。

 

「行け、イシツブテ! 地面から奇襲を――」

「ゼニガメ、その場で跳んで、地面に『みずでっぽう』を撃て」

 

「ゼニっ!」

 器用にもその場で大きくジャンプをしたゼニガメは、地面に向かって先ほどよりも大量の『みずでっぽう』を放つ。イシツブテが掘った地面からの奇襲攻撃を避けて、返しに強力な勢いの水による攻撃をイシツブテにぶつけることに成功する。

 

「くっ……撃ち落とせ!」

「『みずのはどう』だ」

 

 ゼニガメは『みずでっぽう』を撃つのを止め、リング状の水を口から撃ち出す。『みずでっぽう』にも負けず劣らずの強力な勢いで放たれた『みずのはどう』によって、イシツブテは技を使う事もできずに吹き飛ばされた。

 

「イシツブテ!? なんて威力……!?」

「ゼニガメ、とどめを――」

 

 『がんじょう』なイシツブテだと少し驚いた。

 

 いや、ゼニガメの攻撃が弱いだけかもしれない。みずタイプの技を短い時間で2回以上受けたイシツブテは流石に限界なのか、ギリギリ起き上がれるかどうかの瀬戸際にいる。

 

 これで倒しきれないとなると、今のゼニガメが使える技の中にもっと強い技なんてあったか――。

 

「そこまでだ」

 

 第三者の声によって試合の動きが止まる。ゼニガメも俺が指示を途中で止めてしまったためどうしようかとこちらを見ている。俺も指示を潰されて対応に困り、対面するジムトレーナーの方を見ると、ジムトレーナーは慌てた様子でイシツブテをボールに戻した。

 

 俺の勝ちということで良いのだろうか、ゼニガメを戻すか否かを考えていると、ちょうど俺の背後に存在している、バトルスタジアムの出入り口から一人の男が入ってきた。

 

「タ、タケシさん!」

 

 ガッシリとしていて浅黒い身体、糸目に短髪。この場で名前を聞いても聞かなくても、テレビで何度か見たことがあるので知っていた。ニビジムリーダーのタケシだった。

 

 ジムトレーナーはタケシの下へと駆けていくと、心底申し訳なさそうに謝っている。

 

 ジムトレーナーは見るからに好青年という感じで結構若く見える、タケシも恐らく近い年代なのだろう、近い年齢同士なのに、ここまで上下関係が出来ているのは傍から見ているとちょっと辛いものがある。

 

「……何が言いたいか分かるか?」

「タケシさん……その」

 

 困った様子で首を振るジムトレーナーを見て、タケシはゼニガメに視線を向けた。

 

「技の威力、動き、どちらを見ても俺に挑戦できるレベルに達しているのは最初の技で分かったはずだ。なぜすぐに試合を止めなかった?」

 

 タケシが言い出した言葉を聞いて、なるほどと納得してしまった。今日はトレーナーの数が多く、一人一人を捌くのに時間が掛かるため、使うポケモンがジム挑戦に値するかどうかだけを確認するのが今の試合の必要性だったのか。

 

 ジムトレーナーはゼニガメを一瞥し、困った様子で頭を掻いた。

 

「すみません。ボールからポケモンを出した時、適正レベルに届いていないように見えたので、確かめなければと思って……」

「……いつも言っているだろう、ポケモンとトレーナーは一心同体。一目見たポケモンの強さがどうであれ、使用するトレーナーによって、ポケモンの強さはいくらでも変わっていく、と」

「すみません、タケシさん」

「いいさ、失敗は次に活かすんだ。さぁ、倒れたポケモンに回復を。その回復が終わるまでは外と試験官役を交代をして、君が代わりの誘導係をやってくれ」

「……はい。失礼します」

 

 ジムトレーナーはタケシと俺に頭を下げてスタジアムから出て行った。それを見届けたタケシはこちらに振り返った。

 

「……見事な動きだったよ」

「あー……ありがとうございます」

「君でなく、ゼニガメの方だ」

 

 俺の足元にまで近寄ってきていたゼニガメを、タケシはひょいと拾い上げ、ゼニガメの身体などをしげしげと観察をしている。

 

「君はこのゼニガメを見て、何も気づかないのか?」

「……えっと、何がですか?」

 

 俺の言葉を聞いて首を振ったタケシは、足元にゼニガメを下ろした。

 

「なるほど。君、少年……いや、名前はなんというんだ? 俺はここ、ニビジムのジムリーダーをやっているタケシという」

「ウィンといいます」

「ウィン……どこかで――。いや、今はいい。ウィンは今日俺に挑みに来たということで間違いないのか?」

「そう、ですね」

 

「よし、分かった。俺が提案するのは3vs3のシングルバトル、ジム挑戦者ということでハンデを付けて、俺はポケモンが使用不能になるまで交代不可能、君はいつでも交代可能、というところでどうだろうか?」

 

 どうやら問題無くジムの挑戦を認めてくれるようで、タケシは自身のポケットに入れていた木の実――おそらくオレンの実をゼニガメに食べさせながら、試合ルールを提示した。

 

「はい、問題ないです。ただ、俺のポケモンがゼニガメしかいないので、1vs3で大丈夫です」

「……な、ポケモンが一匹?」

「えぇ、はい」

 

 頭を押さえたタケシを見て、俺は内心なにか間違ってしまったかなと会話の内容を思い出してみる。ジムリーダーの使うポケモンはジム挑戦に限り、挑戦者の所持しているバッジの個数で変えていく。

 

 特にジムバッジを一つも持っていない現状では、レベルの高いポケモンを使うことは絶対にないはずだ。(サカキとはエキシビションという形だったため、おそらく高レベルのサイドンを使用してきたのだろう)

 

「……ウィン、おそらく君は、少々頑固そうに見える。言っても納得がいかないと思うから、直接分かってもらう事にしよう」

 

 オレンの実を全て食べさせたタケシは先ほどのジムトレーナー同様、スタジアムの向こう側へと歩いていき、後ろに設置してあるポケモンを格納するボックスを弄っている。

 

 ちょっと待つと、ボックスの中から出てきたであろうスーパーボールを三つ取りだした。

 

「良いだろう。1vs3のポケモンバトル、もしもウィン、お前が勝てばジムバッジを渡そう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 準備万端と言った様子でゼニガメはスタジアムの戦闘スペースへとトコトコと歩いていく。タケシはゼニガメが到着するのを見届けた後、大きな声で叫んだ。

 

「改めて名乗ろう! 俺はニビジム ジムリーダーのタケシ! 俺たちのかたい意志、絆を、お前にも教えてやろう!」

「――ウィンです。お願いします」

 

「行け、イシツブテ!」

「ゼニガメ――『みずのはどう』だ」

 

 タケシの手に握られたボールから、先ほどのジムトレーナーと同じポケモン、イシツブテが繰り出される。

 

 ジムトレーナーとジムリーダー、使っているポケモンは全く同じで、レベルもそう大して変わらないはず。しかし動きが明らかに違った。

 

 

「『ロックカット』! 己の身体を磨いてスマートになったイシツブテは、お前のゼニガメよりも早いぞ!」

「――『からにこもる』」

 

「ゼニ!」

 

 『ロックカット』によって敏捷さを増したイシツブテは間一髪といったところで『みずのはどう』を躱し、即座に身体を丸くして、攻撃の態勢に入る。それに対してゼニガメも同じく対抗するように甲羅の中に身体を潜め、俺の次の指示を待つ。

 

「イシツブテ、『ころがる』だ!」

「『こうそくスピン』」

 

 強烈な縦回転で迫りくるイシツブテに対して、ゼニガメも『こうそくスピン』によって突撃を行う。ガン、と岩と甲羅がぶつかる音と共に、お互いが後方に吹き飛んだ。

 

「くっ、やはりそのゼニガメ、強いな……!」

「『みずでっぽう』」

 

 レベルの差によるものか、ゼニガメは後方に吹き飛びはしたものの、殆どダメージを受けず、逆に弾き返されたイシツブテは目を回している。

 

そしてその隙を見逃さず、ゼニガメの『みずでっぽう』はイシツブテの意識を刈り飛ばした。

 

 

 イシツブテをボールに戻し、次のボールを構えたタケシは悔しそうに、ボールを構えた手とは逆の左の拳を握りしめた。

 

「っ……なぜ分からない。ゼニガメは、お前の勝利への意志を汲んでいるからこそ、ここまで急な成長をしているんだぞ!」

 

 タケシはポケモンを繰り出さず、真っすぐに俺を見つめている。

 

「……認めるよ、ウィン。お前は強い。お前は才能の塊、原石なんだろう。ポケモンの力を真に引き出す才能がある。だが今のお前はその才能に振り回されているだけだ、才能による暴力でゼニガメを傷つけているだけだ!」

 

「……才能――?」

 

「……今のお前には何も響かないようだな。危うい状態のお前には、このままバッジを渡すわけにはいかない。行け、イシツブテ!」

 

 タケシは二匹目のイシツブテを繰り出してくる。そして俺はゼニガメに指示を出す。

 

「ゼニガメ、『みずのはどう』だ」

「イシツブテ、『まるくなる』!」

 

 イシツブテは『みずのはどう』をどうにかギリギリで耐えて、フィールド上の岩の中に隠れてしまった。

 

 『みずのはどう』による衝撃で大量の砂煙が舞い、ゼニガメも俺も、もしかしたらタケシでさえもイシツブテの場所を完全に見失っている。

 

 技の予想は『ころがる』か『ロックカット』辺りだった。『まるくなる』を使ったことによって『ころがる』の威力や速度を押し上げ、次のポケモンに交換することを見越して、捨て身覚悟で来るのだろうか。

 

 相手にはまだもう一匹の手持ちがいて、俺にはゼニガメだけだ。この大きなハンデは結構厳しい。このまま素直にやられてしまうわけにはいかない。

 

 ――空気の動きが変わった。イシツブテが動き出した、俺はどこから来ても問題ないように、次の指示を――。

 

「ゼニガメ、『からにこもる』だ!」

「遅い! 『じばく』だ、イシツブテ!」

 

 スタジアムの中央を大きな爆発が襲う。

 

 『まるくなる』で守りを固めつつ岩に溶け込み、『すなあらし』で身を隠し、『じばく』で相手を削る。ゴローンやゴローニャのように大きな体躯のポケモンでは身を隠すことは出来ないが、イシツブテなら出来るというわけか。

 

 

 砂煙が晴れる。そうすると状況がすぐに理解できた。スタジアムの中央にゼニガメが転がっていて、イシツブテの残骸が離散している。

 

「すまない、イシツブテ……」

 

 『じばく』をしたイシツブテに謝っているのだろう、タケシはすぐにイシツブテをボールをしまって、次のボールを構えた。

 

「イワーク、行け」

 

 いわへびポケモン、イワーク。いわ・じめんタイプ。岩に蛇なんて言ってはいるが、その巨大な岩石で作られた身体は龍を彷彿とさせるほどだった。そしてそのイワークが場に出て、スタジアムを揺らしているのに、ゼニガメは倒れたまま動きを見せる様子もない。

 

「ゼニガメをしまって、負けを宣言するんだ」

 

 タケシはイワークに攻撃指示を出さない。

 イワークは様子を見ている。ゼニガメは倒れている。

 

「ゼニガメはおそらく既に『ひんし』だ。このまま出していたら死んでしまうぞ」

 

 イワークは様子を見ている。ゼニガメは倒れている。

 タケシは俺の様子を見ている。

 

「ウィン、お前……なぜ、笑っているんだ?」

 

 

 まだ勝負は終わっていない。

 

 



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チート

 ジム挑戦者の中に並んでいる彼は、良くも悪くもただの陰気な少年に見えた。どこにでもいる黒い髪、黒い瞳、少し猫背で、常に地面に視線が向いていた。

 

 俺がジムの2階から挑戦者を眺めていた時、挑戦者たちの多く、まだ旅立って間もない者たちばかりの中、同じような境遇の彼だけが下を向いていた。まるで異物のようにも見えたのだ。

 

 ジム挑戦のために行われた試験としての戦いでは打って変わり、淡々とした指示でありながらも、よく見て、よく考えて指示をしているように見えた。

 

 だが違った。おそらく彼の普段とそう変わらないからこそ、よく見ていなければ気づかなかった。

 

 彼は虚ろな表情で、前を向いているはずが、まるで何か別のものを見ているかのように、自身のポケモンを見ているようで見ていなかった。自分の代わりに戦っているポケモンを、仲間でもなく、友でもなく、家族でもなく、自分の手足を扱うように指示を出している。

 

 俺は今までにも見たことがあった。ポケモンという存在を、目的達成するための道具として扱うその思考、考え方。危うい、非常に危うい思考のまま、知ってか知らずか、自然とそのまま生き続けてしまっている。

 

 彼を、ウィンを、歪んだ状態のまま成長させてはならない、歪んだ状態のまま目的を達成させてはならない。彼の良心を信じて、真っすぐな正しき道へと戻さねば――――。

 

 

 

「ウィン、お前……なぜ、笑っているんだ?」

 

 取って貼り付けたような笑顔、何てことのない少年が、この時ばかりは怪物に変わったのかと錯覚してしまうほどに、恐怖を感じてしまった自分がいる。

 

「良い勝負、ですよね?」

「……な、なにを」

 

「……良い勝負だから笑っているんですよ。お互いのポケモンは残り1匹。互角で、勝負の行方はまだ分からない」

「なにを、言っている……? ゼニガメは『ひんし』だ、早くボールに――」

 

「やっとだ、ようやく、少しだけ分かってきたんですよ」

「なんだ、なにを、なにが……」

 

 何が起きている。ジムの前にいたときから、イシツブテの『じばく』による強制的な勝負の中断を目論んだつい先ほどまでの間、最低限しか話していなかった少年は、ウィンは、まるで水道の蛇口をひねったように言葉を発し始めた。

 

「才能……ポケモンの強さは、使用するトレーナー(才能)によって、変わっていく、でしたよね?」

 

 ウィンは視線をぐるりと、俺から、倒れ伏した『ひんし』のゼニガメに移した。

 

わざと(・・・)弱いポケモンを使って、強いトレーナーと戦えば、ギリギリのバトルになる。勝負は全力で、それでいて、どう転ぶか分からない、それが楽しい勝負。 ……ゼニガメ!」

 

 ウィンが発した今日一番大きな声が、倒れていたはずのゼニガメの身体を大きく震わせた。

 

「ば、バカな……」

 

 『ひんし』の状態のはずだったゼニガメを覆っているのは白い輝き――進化の光だった。

 

「ポケモンが急速な成長(レベルアップ)に耐えられないなら、耐えられる身体になればいい」

 

「イワーク! 進化を終える前に攻撃をっ! 『じしん』だ、早く技をっ!」

「カメール、『アクアテール』」

 

 進化の途中のゼニガメが、『ひんし』状態とは思えない速度で跳躍してくる。この行動によって、俺は技を失敗したことを悟る。跳び上がってくるとは思わず、その場で最も確実性の高い攻撃を選ぼうと安定した技を選択してしまった。

 

 常に合理的な動きを求めてしまうからこそ、俺がジムリーダーだったからこそ、取ってしまった最大の失敗だ。

 

「イ、イワーク! 『りゅうの――』」

 

 命令を急遽変更し、イワークが使える中で『アクアテール』を受けずに使えるはずの技を叫ぼうとする。しかしもう全てが遅い、戦いの中で、レベルの劣っている側が勝つには常に正解を取り続けるしかない。

 

 俺は失敗した。

 

 進化を終えたカメールが、想像を絶する破壊力を伴った渾身の『アクアテール』をイワークに向けて放つ。尾から放たれる水の鞭はイワークの岩の身体を易々と粉砕し、スタジアムの四方に吹き飛ばした。

 

「イワーク!」

「あ」

 

 バラバラになったイシツブテを回収した時同様、砕かれたイワークをボールに収めるのであれば、ポケモンの核が必要だ。

 

 焦る気持ちを必死に抑えて、吹き飛ばされたイワークの頭部にボールを向け、戻す。すぐにスタジアム内に取り付けられていた回復ボックスに3つのボール全てを預けて装置を起動、それで一息つく。

 

 ポケモンバトルは娯楽でもあり、競技でもあり、決闘でもある。実力差が大きければポケモン、トレーナーどちらにも危険は及ぶ。

 

 急激な進化による技の破壊力上昇、そして『ひんし』の状態から進化したことによってほんの少しだけ回復したギリギリの状態、ポケモンが持つとされている特性、『げきりゅう』による技の威力の上昇。全てが噛み合ってしまったことによる一撃は、レベル15相当のイワークを一蹴しても余りある威力だった。

 

「カメールに……進化、か」

 

 ウィンはそう言って困ったように眉をひそめて、進化したてのカメールをボールに戻した。その行動に、ポケモンを労うことなく扱う行動に、俺は何も言えなかった。

 

 ポケモンとの絆を、意志を、繋がりを信じた俺が何を言おうと、敗者の言葉でしかないのだ。彼には敗者の言葉は届かない。

 

 

 ウィンはその場に立ち尽くす俺の前まで歩いてくると、申し訳なさそうに頭に手を置いた。嬉しそうに笑っている、そんな笑顔を張り付けている。

 

「……いや、ありがとうございました。すみません、ちょっとした疑問が解けたのが嬉しくて、つい饒舌に――」

「君は」

「……はい?」

「君はなんのために旅を、バトルをしているんだ?」

 

 先ほどまで貼り付けていた笑顔はどこかへ消えて、ウィンはつまらなそうに零した。

 

「楽しむためですよ」

 

 

 

 

 

 次のジムがあるハナダシティへ向かうと言って、ウィンは『おつきみやま』に向かった。俺はそんな彼にジムバッジを渡し、本来であれば勝利をした相手に餞別として渡すはずだった『わざマシン』の代わりに、同額相当の旅費を現金で渡した。

 

 本気で戦っていたら、本気の仲間たちで戦っていれば勝てたか?

 

 今となっては分からないし、今の精神状態のままでは仲間たちにも動揺が伝わって、まともな戦いにならないだろう。

 

 願わくば誰かが彼を止めてくれることを祈るしか――。

 

「……俺は、何を?」

 

 ニビジムリーダーのタケシが、いわのエキスパートが、トレーナーを導く存在であるべきはずの俺が、誰かが導いてくれることを祈るだって? 普段なら考えもしないような、恥ずべき考えだった。

 

「彼は確か……トキワシティから来た」

 

 ジムバッジを渡す際に見たトレーナー資格には、トキワシティから来たと間違いなく書かれていたはず。

 

 ここで見て見ぬふりをするのは簡単だ。悪い夢でも見ていたと思えばいい。だがしかし、本当にそれでいいのか? 何もしないということは正解なのか。

 

「……」

「あ、タケシさん!」

 

 最近ジムトレーナーとしてニビジムに来たトシカズという少年が、俺が待機している部屋に入ってきた。彼はまだとても若いが、俺のいる部屋に入るときにノックを欠かさずするような礼儀正しい人物だ。

 

そんな彼に呼ばれるまで気づかないほど俺は考え込んでしまっていたようだ。

 

「トシカズ、どうした? 次の挑戦者か?」

「はい、そうです!」

「分かった、すぐに見に行く。トレーナーの名前は?」

 

「えっと……アキ、アキさんです!」

「よし、試験官はトシカズ、君が?」

 

「はい、そうです! タケシさんに挑戦なんて10000光年早いって教えてやりますよ!」

 

 

 

 

 ニビジムでのジムリーダー戦までの戦いを経て、俺は神様から貰ったチート能力について多少学ぶことができた。

 

 結論から言うと、『ポケモンバトルの才能』とは、ポケモンバトルに勝つため(・・・・)の才能で、ポケモンバトルを上手くやる才能ではない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ということだ。

 

 ポケモンバトルに勝つために、神様のくれたチート能力は、俺の意識をわざと散漫にして指示をさせていた。俺が思考するより、本能が選ぶ指示の方が勝率が高いから。

 

 バトルが始まれば、半分寝ていてもいつの間にか勝っている。そんな状態が続いていて、それが楽しくなかった。そしてそれはタケシとの一戦でもほぼ同じだった。

 

 しかし、そんな中で、手に入れたゼニガメを使ったあの時、あの一瞬だけ、イシツブテの『じばく』によって、ゼニガメの意識が掻き消えようとしていたあの瞬間だけ、初めて脳に血が巡っていくような感じがした。

 

分かりやすく言えば、オートからマニュアルに操作が切り替わった。そんな感覚。

 

 才能はあくまで才能で、能力ではない。才能とは潜在能力であり、可能性だ。磨かなければそのままで、そしていつか錆びてしまう。

 

 このまま(本能だけ)では負ける、負けてしまう。そんな状況を打破するために神様から貰った才能チートは、勝利(ウィン)を得るために、初めてまともに俺の脳を動かしてくれた。

 

 オートでは勝てないからマニュアルに切り替える、確かに当然の理屈だ。弱いポケモンでは勝てないからレベルを上げる、なるほど。レベルを上げただけでは肉体の成長が追い付かず、ポケモンにガタが来るから進化をさせる。だからカメールへと進化した。

 

 神様は間違いなく、俺の願いを叶えてくれたのだ。

 

 楽しく生きたい、貰った(チート)を活かして、自由に、思うがままに。

 

 俺がポケモンを楽しむ方法は簡単だった。強い相手とギリギリの、互角の戦いをすれば良かっただけなのだ。そうすればオートからマニュアルに切り替わり、俺の意志で自由にできる、そんなことに気づくまでに随分と時間が掛かってしまった。

 

 ハナダシティへ向かう道中、『おつきみやま』で新しいポケモンを捕まえて、新しくジムリーダーに挑む。これが旅で、これが冒険。

 

 ポケモンバトルは未だに楽しくないが、楽しむために四苦八苦するのは少し楽しくなってきた。少しだけこの世界が好きになれそうだ。

 



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カメール

 おつきみやま。昔から流れ星が降ってくることで有名な山らしく、希少な石や珍しいポケモン、その他に化石などがしばしば見つかると本で読んだことがある。

 

 おつきみやまへと向かう道中にも少なくないトレーナーが徘徊していて、みんな楽しそうにバトルをしている。俺はそれらに巻き込まれないように、出来るだけ人通りの少ない道や視線を避けるようにしていた。

 

 少なくとも俺にとって野良のポケモンバトルをするメリットというのは特に無く、バトルをする分時間は取られるし、指示する分体力だって消費する。旅をしていることもあってお金は決して無限ではない。

 

 むしろ楽しそうにバトルをしている者たちは何かしらの方法でお金には困っていないのだろう。いや、もしかしたら困っていても能天気にしているだけかもしれない。

 

「……おつきみやま、か」

 

 おつきみやまに到着するのに出来るだけ人目を避けて進んだため、想定より倍以上――1時間近くは経過していた。おつきみやまからハナダシティに行くルートは山道を抜けるルートと、化石や流れ星を調べるために昔から掘られていた洞窟のルートがある。

 

 旅慣れていない俺はどちらのルートも不安しかないが、山道で遭難してしまうのは流石にまずいだろうと洞窟のルートを選択することにした。道中あれだけトレーナーがいたのだから、洞窟の中もトレーナーがいるだろうという楽観的な考えもあった。

 

 洞窟に入る前に気づいたが、今日は朝早い時間帯から段階からニビジムに並び、諸々が終わったのがちょうど昼前だったはず。移動も含めればお昼とくるとお腹が空いてくる時間帯だった。

 

 バッグの口を開けて中から食料を纏めて置いた袋を取りだして、自分用とポケモン用のものを取りだして、唯一中身の入ったモンスターボールからポケモンを出す。

 

「……カメール」

 

 進化してしまった、いやさせてしまったと言うべきだろうか。タケシはあの時のゼニガメを『ひんし』だと言っていたが、正確には『ひんし』ギリギリの状態、才能チートによって視覚的に俺の瞳に映っていたゼニガメの体力は赤いゲージがほんの1ミリ程度表示されていた。

 

 『げきりゅう』と名付けられた体力が減っていれば減っているほど技の威力が上昇する特性、これがあることは知っていたし、ゼニガメがそれであることは分かっていたので、俺が強めに声がけをして叩き起こしてやれば逆転できるはず。少なくともそれくらいのレベル差はあったのだ。

 

 しかしそのタイミングで自身の持つチート能力の内容が分かったことにテンションが上がり、本来であればさせてはいけない進化を行わせてしまった。俺のミスであった。

 

 ボールの中から出てきたカメールは、ジムを出てからポケモンセンターに行っていないこともあり、まぁ、ギリギリ……そんなところだった。

 

「か、カメっ……!?」

 

 すわ戦いかとイキんで出てきたのだろう、ボロボロの状態ではあったが戦闘態勢の状態でボールから出現する。しかし戦いではないことに安堵したのだろう、ヨロヨロとその場に座り込んだ。

 

 回復をさせるかどうか。ポケモンフードというポケモン向けの食事を与えつつ、俺はそのことについて考える。

 

 『げきりゅう』のことを考えれば回復させないのが正解だが、倫理的に考えてこんな『ひんし』ギリギリのポケモンをそのままの状態にするのはまずいだろうと、そう思う気持ちもある。

 

ポケモントレーナーの口は軽い。俺が死にかけのポケモンを運用していることを知られれば、孤児院やスクールに迷惑が掛かるかもしれないし、俺自身も迷惑を被る危険性がある。

 

 そうなると自ずと取れる選択は一つしかなかった。

 

「いいきずぐすり……今朝買ったばっかりで高かったのにな」

 

 先日戦った虫取り少年が出していた『きずぐすり』よりも1段階効能が上の回復道具で、20から30レベル程度のポケモンであればこれ一つで最低限戦える程度には体力を回復させてくれる。

 

 こんな薬一本で本当かと思ってしまう気持ちもあるが、ポケモンの生命力はとても高いので大丈夫らしい。

 

 いいきずぐすりを食事中のカメールに吹きかけつつ、適度に水も飲ませる。みずタイプ(それ以外も十分奇妙だが)のポケモンはどういうわけか体積以上の水をどこからか放つことができるが、食事や水なんかはある程度摂る必要があるらしく、食事なんかが十分ではないポケモンは技を使う事ができない。

 

 ファンタジーな生物だよ全く。

 

「カメ?」

 

 回復道具の使用を終えた俺は、空になった『いいきずぐすり』の外側を袋にまとめてバッグに戻す。ポイ捨ては問題になるのでダメらしい。

 

 未だ食事を続けているカメールを傍目に、俺も自身の食事としてエナジーバーを開封して食べはじめる。

 

「カメ? カメ?」

 

エナジーバーに興味でもあるのか、カメールはぐいぐいと傍ににじり寄って来るが、残念ながらエナジーバーは人間用だ。それにしても手持ちのポケモンというのはここまで近いものなのか、スクール時代は興味がなさ過ぎてポケモンと関わるのも最低限にしていたし、スピアーをバトルで使用するときだってこんなことは無かった。

 

「人とコミュニケーション取るのも大変なのに、ポケモンともコミュニケーションを取らないといけないなんて勘弁してくれよ……」

 

 もう自身の食事は終わっているのだろう。食事よりもエナジーバーに興味のあるカメールをボールに戻し、俺もエナジーバー自体を水で流しこむ。

 

 食べたものも含めてゴミ一つ残さないように綺麗に片づけて、それらをバッグにしまって背負い直して、それからまた歩き出す。

 

 食事もケアも出来ているし、一人旅のマナーも守れている。俺は中々良いポケモントレーナーなんじゃないかと自分を見直すことが出来た。わはは。

 

 

 

 

 洞窟内は暗かった。暗かったが、洞窟内にはバラバラな間隔ではあるが、光源としてランタンが設置されていて、取り敢えず普通に通る分は問題ないくらいの明るさは確保されている。

 

 ハナダシティへの単純なルートとして知られているだけあって最低限のケアなんかはされているようだ。しかしそうやって光源が確保されているのは洞窟の出入り口に向かうルートだけで、ちょっと道を外れて別の道を行こうとするとランタンなどは設置されていないらしく、どうしてもそこを通りたい場合は個人で光源を持っていくか、『フラッシュ』という技を持つポケモンか、火を出せるポケモンが必要になりそうだ。

 

 一応自分でも手提げライトは持っているが、諸々使わなくて良いに越したことはない。先駆者に感謝しておこう。

 

 

「ズバット、イシツブテ、サンド、パラス……」

 

 洞窟内を進みつつ、一人の寂しさを紛らわせるため、おつきみやまで良く出現するらしいポケモンの名前を一つずつ上げていく。

 

「イワークに……目撃情報だけだけど、ピッピやドーミラーに、ダンゴロ、ココドラもある――か」

 

 なんだか聞いたことがある名前もあって、ノスタルジーな気分になってきた。取り敢えず何かポケモンを捕まえて、それとカメールでハナダジムに挑みたい。

 

 挑みたい……なんて、まるでゲーム――いや、ゲームだったか。

 

 そんな問答を繰り返していると、何か聴きなれない音が聴こえてくる。なんだこれはと天井を見上げると、なるほどとすぐに納得してしまった。

 

「カメール、出番だ」

 

 天井に張り付いているのは無数のコウモリ、いやズバットであった。

 

「カメっ!!」

 

 ズバットを倒さんと意気揚々と出てくるカメールだったが、今回倒すのではなく弱らせること、つまり捕獲が目的だった。

 

 最初に出たのがズバットだなんて運がいいのか悪いのか、こいつはタイプ的にカメールと全く被っていないので恐らく前者だろう。カメールに指示をしようと意識を切り替える俺に対し、ズバットも敵対的な意志を悟ったのだろう。天井に控えていたズバットの群れが、何十匹という数で襲い掛かってくる。

 

「散らさないとな、カメール――」

 

 あー。あぁ、忘れていた。戦う気になると思考がぼうっとしてくるこれは、チート様ご登場の合図だった。あくまでメインはオートがやって、どうしようもなくなったら(マニュアル)に放り投げてくるらしい。これ何か壊れているんじゃないか?

 

 文句を言ってもしょうがない、口元は半ば自動的にカメールに指示を出している。

 

「『アクアテール』」

「――カメっ!」

 

 回復によって『げきりゅう』は機能していないが、上がったレベルと進化の影響によって十分強力な技を放つことが出来る。『アクアテール』という指示によって、カメールの波のような尻尾から強烈な水の鞭が放たれた。

 

 その一撃は大量のズバットを叩き落し、天井に大きな亀裂を残すほどの威力があった。

 

 しかしそれでも落とした数を上回るズバットの群れは俺とカメールに殺到し、俺たちは黒い波に飲み込まれていく。

 

 ズバットは生物の血やらエネルギーやらを吸い取るらしい。干物にでもなって死ぬんだろうか?

 

 大量のポケモンに襲われる。

 

 俺も、俺は、襲われて、殺される? いや――

 

「『こうそくスピン』だ……!」

 

 ズバットのキィキィと鳴く声と羽ばたきの音の中、俺の指示を聞き取ったのだろう、甲羅の中に篭った状態のカメールは『こうそくスピン』を行い、周囲のズバットを引きはがしていく。

 

 俺はどうだ? 俺を守らせるにはまだ時間が掛かる。あぁ、もう一匹か二匹いたら自分の身は自分で守れたはず。これもまた俺のミスだ。ポケモンを増やしておくって確かにそういう意味があったな。

 

 噛み付いてくるズバットに対して、俺は満足に身体を動かすことが出来ない。自身の命を狙われることへの恐怖か? 蛇に睨まれた蛙の方がもっと動けただろうに。

 

 ズバットは大量に飛び込んできて、俺に噛み付いて、噛み付いて、噛み付いてくる。死ぬのは勘弁だな、嫌だな、そう考えてどうにか振り払おうと努力するが、数が多い。

 

 命の危険からか、自身の心拍の音がうるさいくらい聞こえてきて、それで俺は――。

 

 

 

 ズバットを握り潰した。

 

 

「お、おおっ……!」

 

 身体が勝手に動く。オートのおかげだ。まるで自分の身体ではないかのような膂力を発揮しながら、捨て身のように飛び付き、噛み付いてくるズバットを引き裂いて、俺はゴロゴロと転がる。

 

「『みずでっぽう』」

「カ、カメ!」

 

 俺の状態がヤバいことに気づいたのだろう、慌てて俺の方へと向けて『みずでっぽう』を放つ。カメールの口から撃ち出された水の弾丸がパンッと、背中を思い切り叩いたような音を上げながら、俺の身体に纏わりつくズバットを撃ち抜いていく。

 

 1匹、2匹、3匹。俺の抵抗も含めてあらかたズバットを排除し終えると、攻めるタイミングを見失って困ったように周囲を飛んでいる1匹のズバットだけが残った。

 

「ィ――!!」

 

 残ったズバットは、どうにか俺たちを攻撃しようと『ちょうおんぱ』で攻撃してくる。思考をかき乱されるような不協和音を鳴らされて、俺もカメールも耳を抑えるしかなかったが、指示をせずともカメールが気を利かせて『みずでっぽう』で撃ち抜いたようだった。

 

 俺が新しくポケモンを捕まえようとしていたのは気づいていたのか、最後に『ちょうおんぱ』を出していたズバットだけは、倒さずに弱らせたままでいる。

 

 俺はバッグから空のモンスターボールを取り出して、目標のズバットに向けて命を狙われた不満を籠めつつボールを投げつける。

 

 流石に至近距離で投げつけたボールが外れることはなく、あっさりとボールの中に納まったズバットは呆気なく捕まった。

 

 

「……はぁ、疲れた……」

「カメェ……」

 

 その場にへたり込んだ俺はカメールをボールへと戻すと、ペットボトルを取りだして水を一口飲むと、一息ついた。おつきみやまに入って30分やそこらで命の危険に曝されるとは思わなかった。

 

 旅は簡単なんじゃないかと楽観的な部分がちょっと出ていたが、そんな驕りは一切合切引っ込んでしまった。やはりこの世界は怖すぎる。

 



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やまおとこ

「あぁくそ、ドロドロだ」

 

 ズバットの体液まみれになった俺はもう最高に不快な気分に変わっていた。ちょっと良いことがあればこれだ。世の中はよく出来ているよ、幸運を帳消しにするように不幸な出来事は現れる。

 

 そこらに転がっているズバットを避け、フラつきながらも落としてしまったバッグを背負う。血は多少出ているし、心なしか疲れてしまっている。『きゅうけつ』か『すいとる』、その辺りの攻撃によってエネルギーでも吸われたのだろう。

 

 とはいえ俺は転んでもただでは起きない、一応目標にしていたズバットを捕まえることに成功したのだ、決して最悪ではない。

 

 とにかく早くこの洞窟を抜けてしまいたい。カメールの方は全然問題ないはずだが、ズバットは完全に『ひんし』の状態で捕まえてしまったので、面倒なことにさっさとポケモンセンターに放り込まないと死んでしまう。

 

 今からでも捨てて新しいポケモンを捕まえたい気持ちはあるが、モンスターボールっていうものはどういうわけか精密機械の一種らしく、一度ポケモンを捕まえてしまうと他のポケモンが入らないようになっているのだ。

 

 そして新しいボールを無駄に買う余裕は俺にはない。旅をするってのは大変だ。

 

「……まだまだ先、か」

 

 おつきみやまは広大な山だ。山道から行くと何時間も掛かってしまうし、洞窟内を選んで進んだとしても山道より若干疲れずに到着できるくらい。つまりどちらにせよハナダシティに到着するには中々時間が掛かってしまうのだ。

 

 

 

 1時間も歩いていると、洞窟内でトレーナーに遭遇した。自分のことを『やまおとこ』と自称する大柄な男で、ズバットの体液やら何やらでドロドロの状態のまま歩いている俺を見て驚いた様子で駆けてきた。

 

「おい、おい、大丈夫か?」

「あー、大丈夫です」

「馬鹿を言うな、大丈夫なわけないだろ!」

 

 『やまおとこ』は自身の背負っている巨大なリュックから清潔なタオルや救急キットを取り出すと、その場で軽い応急処置をしてくれた。

 

「この噛み跡はズバットか、ポケモンはどうした?」

「一応持ってますよ、それで戦いました。ただちょっと量が多くて」

「運が悪いことにズバットの群れに、か。なるほどな。よし、最低限の治療は終わったぞ」

「……ありがとうございます」

「礼には及ばんさ。ただハナダシティに着いてから病院に行った方がいいな」

 

 リュックの中に汚れたタオルやら使用した救急キットをしまいながら、『やまおとこ』はそう言った。金が無いから無駄に病院に行きたくないんだよ! という気持ちは飲み込んで、軽く笑って済ますだけにする。

 

「はは……そうですね、ありがとうございます」

「救急キットなんかはどうしたんだ? 見た感じスクール出たてか、何かだろう? 旅にそういった治療用の道具は必要だって聞かなかったか?」

「えーっと、聞きました……」

「横着でもしたのか? ハナダシティに行くのならついでに買うべきだな」

「は、は……そうですね」

 

 金がないんだよ。とは、最後までなけなしのプライドから口にすることは無かった。本当に最低限の荷物で旅に出たので、そういったものは行く先々で調達する予定だった。とはいえ旅序盤からこんなことで挫かれるとは思いもしなかった。

 

「本来ならポケモンバトルを挑みたいところだが、そんな状態のトレーナーに挑むのは流石にな」

「あぁー……ありがとうございます」

「本当なら一緒にと言いたいんだが、私はニビシティ方面に向かうのが目的でな」

「大丈夫ですよ、治療ありがとうございます」

 

 軟膏やら何やらを無償で使ってくれた相手に何も文句があるはずもない、感謝の言葉を言いながらフラフラと立ち上がり、それから歩き出そうと視線をハナダシティへの道のりへと向けた。

 

「あぁ、君。この先、ロケット団と名乗る迷惑な輩がいるから、気を付けて進みなさい。弱そうな相手だと見たら強気に出てくる。トレーナーと名乗るのもおこがましい連中だ」

「はぁ……ありがとうございます」

 

 『やまおとこ』もそれだけ言うと、手を振りながらニビシティの方へと歩いていった。いや本当にいい人だった。それにしてもロケット団、ロケット? なんの話をしているんだか最後の言葉は全く理解できなかった。

 

 

 

「うそだろ」

 

 いや、『やまおとこ』の言っていることは嘘ではなかった。胸に「R」という文字をデカデカと表示させたスーツ? 服を来たどう考えても怪しい二人組が洞窟の道を塞いでいる。

 

 洞窟という関係上もあって回り道は不可能だし、二人組の視線を避けて道を抜けるのはどう考えても出来ない。少なくとも何かしら因縁を吹っ掛けられそうな気配がある。

 

 何も言わずに見逃してくれるのを願うしかないと、一歩、二歩と二人組に近づいていく。

 

「ん?」

「お、なんかきたぞ」

 

 二人は俺が来たことに気づく。結構近寄るまで気づかなかったのは、暗い洞窟内だからだろう。

 

 そんな二人は軽薄そうにヘラヘラと笑ってこちらを見ているが、どちらもまだ若そうな容姿をしている。20代前半くらい、上下とも殆ど真っ黒な服装をしていて、それ以外は白い手袋を付けて、白いベルトを腰へと巻き付けている。ベルトにはモンスターボールが設置している。

 

「……通してもらってもいいですか?」

「はは、俺たちはロケット団って言うんだ。聞いたことはあるか?」

「聞いたことくらいはあるだろ!」

 

 俺に話しかけているのだろうが、そんなのおかまいなしに二人でも話をしている。俺が知らないと告げると、ジロリと俺の身体を上から下まで見てくる。

 

「なるほどなぁ。俺たちロケット団はな、言っちゃうと、悪いことをしてお金を稼ごうって考える悪い組織なんだよ」

「まぁまぁそんな感じ、俺らはいくつか目的があってここに来てるんだけどさ、その一つがポケモン集めってわけよ」

「はぁ」

 

「それでよ、君のポケモンも、俺らにくれねえか?」

「ポケモンをくれたら何もせずここを通してあげるんだけど」

 

 やはりロケット団と名乗る二人組はそう言って、腰に下げたボールを持って、じりじりと詰め寄ってくる。ロケット団という名前は確かに聞いたことがあるが、こういう集団なのか。

 

 どんなに悪いことをしていると言っても、ポケモンを欲しがっているとだけ聞くと途端に陳腐に見えてくるし、あまり怖さを感じない。

 

「ポケモンを渡すのは嫌です」

「はぁ? なるほどな。じゃあ、強引に貰っていくしかねえな!」

「クソガキがよ!」

 

 二人とも持っているボールは一匹のみで、同時に出してくる。カントー地方ではあまりしないらしいが、別の地方に行くとダブルバトルが盛んな地域もあるという。彼らもそういう考えなのだろうか。

 

「ラッタ!」

「ズバット!」

「……カメール」

 

 洞窟内に3匹のポケモンが出揃った。相手のポケモン2匹はどちらもレベル20に到達していない。弱い相手しか狙わないのはポケモンのレベルが低いからか?

 

「おいおい、1対2で勝てると思ってるのか!?」

「ボロボロのガキがカメールを持っているなんて、ツイてるぜ、なぁ!」

 

 ロケット団の二人は同時に自身のポケモンへと攻撃を命令する。それに対して俺もカメールに命令を行おうと自身の手持ちへと視線を向ける。

 

「ラッタ! 『ひっさつまえば』で甲羅ごと噛み砕け!」 

「ズバット! トレーナーに向けて『ちょうおんぱ』だ! 命令をさせるなよ!」

 

 ラッタが猪突猛進で向かってくるのに対して、ズバットはこちらに向けて『ちょうおんぱ』を放ってくる。攻撃指示の予想はついていたが、俺に直接攻撃とは驚いた。俺は反射的に耳を抑えて攻撃を防ぐ。

 

「ぐっ……」

「はははっ! 行け、ラッタ!」

 

 二人のロケット団は決して攻撃を止める気はない。彼らの考えからすれば、これもポケモンバトルということなのだろう。これが彼らの常識ならばそう言うことだろうし、トレーナーに攻撃が飛んでくるのはただのバトルであっても同じこと。だから直接攻撃するのもその延長線にあるものでしかないのだろう。

 

 戦いに負けたら食われる、殺される。そう言ったことが当たり前だからこのようなことも出来るのだろうか。この二人がどういう考え方やカルチャーといったものを持っているのかは聞きたいところだが、聞いても理解できないかもしれない。

 

 そう。結局のところ俺も同じように、郷に入っては郷に従うしかないのだろう(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「カメール、『みずのはどう』でラッタを返して、『みずでっぽう』で左のトレーナーを狙え」

「カメッ!」

「な!?」

「耳を防がない!?」

 

 カメールは俺の指示が通るまで何もせず待っていたようで、指示を受けた途端、直線的に走ってきていたラッタに対して『みずのはどう』を撃ち放つ。ラッタは正面からそれを受け止めてしまい、衝撃によって転がりながら吹っ飛んでいく。

 

 それから『みずでっぽう』を左の、ラッタに命令を指示していたロケット団の男に向けて撃ちだすと、飛んでくるとは思いもしなかったのか、無防備なままの右肩に直撃した。

 

「ぎ、がぁっ……くそが、くそがきがっ!」

「な、オイ……! お前――イカれ野郎がっ! ズバット、奴へと『かみつく』だ!」

 

「下手くそか、狙うなら足か腰だろ。カメール、ズバットに向けて『みずでっぽう』」

「か……カメッ!」

 

 俺からの叱責を聞いて慌てた様子だったが、次の命令を聞いて気を取り直したカメールは、俺の方に向かってきていたズバットを『みずでっぽう』で叩き落とし、そのまま追撃として『アクアテール』を撃ち込んだ。

 

 地面にすらヒビが入るほどの一撃をそのまま受け止めたズバットは、きぃきぃと弱々しい声を上げながら地に落ち、もがくだけになっている。それを見た右のロケット団は悲鳴ともつかない声を上げながらその場にへたり込んだ。

 

「あ、あぁ、ああっ! ま、待ってくれよ! もう俺たちはポケモンを持ってないんだ!」

 

 元気な方は必死に俺を止めようと声を出しているが、俺はそれを無視して転がっている危なそうな状態のロケット団の様子を見る。

 

「あー……大丈夫そうですね?」

 

 この世界の人間は相当頑丈で、元の世界だと超人と言われるような人間も少なくない。そもそも昔はボールも無しに生身でポケモンと接していたとかいう歴史だってあるのだ、丈夫でなければそれこそ人類が絶滅していただろう。

 

 骨が折れた男も荒い息で右肩を抑えているが、命に別状があるようには見られないし、病院に行って一ヶ月もすれば問題ないくらいになるんじゃないだろうか。(カントー地方の医療技術はあまり知らないが)

 

「はぁ、はぁ……な、なんで……」

「……はい?」

「なんで……『ちょうおんぱ』が、効かねえん、だ?」

 

「――あぁ、慣れました」

 

 

 

 もう一人いたロケット団の男は、抵抗する気はなさそうだったが、才能チートのおかげで敵意があると視界の端にチラついているのが見えたので、念のため片足をカメールに折らせておいた。

 

「戻れ、カメール」

 

 カメールをボールへと戻し、その場に倒れて転がっている二人をチラリと見て、癖になりつつある溜息を飲み込んだ。溜息をすると幸せが逃げていくというし、今回はとても善良な『やまおとこ』というトレーナーに会えたから幸せなほうだ。

 

 そろそろ出口らしく、歩いていると洞窟内が明るくなりつつあるのが分かった。

 

 結局のところ、トレーナーとは3人しか会う事はなかった。おつきみやまは何だかんだ危ないところだし、そんなにトレーナーがいなくても不思議ではないのかもしれない。

 

 おつきみやまの入口に向かうまでの道中にはトレーナーがいっぱいいたし、きっとそう言う者たちは後から来るんだろう。ハナダシティ側からトレーナーが来ていないのは先ほどのロケット団の影響か?

 

 今回のことは悪いことではあったが、逆に良いことと考えられなくもない。野生のポケモンに命を狙われ、ロケット団を名乗るトレーナー二人によって危ない目に遭う。ガイドブックの中では確かに危険があると書いていたが、見ただけなのと経験するのでは大きな違いがある。

 

 危ない目に遭ったことは教訓として、これからも似たような危険があると思っていれば何も問題はないわけだ。子供たちに旅をさせようとする理由が何となく分かってきたかもしれない。たしかに学ぶことはいっぱいあって、良い出会いもあれば悪い出会いもある。これが旅の醍醐味なのだろう。

 

 しみじみとしながら歩いていると、ようやく出口が見えてきた。街に到着したらポケモンセンターに向かって、取り敢えず個室が使えるか聞いてみよう。シャワーも入りたいし、お腹も空いたし、そういえばポケモンも治療しないといけない。

 

 ハナダシティまであとちょっとだ。

 



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ズバット

「孤児?」

「……はい、あんまり、その、言い触らしてほしくはないんですけど……」

 

 アキという少女、まだトレーナーになりたての未来ある若者だ。そんな彼女はとても言いにくそうにポツポツと、少しずつではあるが、語ってくれた。

 

「勿論だ。君はおそらく俺を信用してくれているからこそ、教えてくれているんだろ?」

「……はい」

 

 ジム挑戦者としてニビジムに訪れた彼女と出会うことが出来たのは何かの縁だろう。彼女が先に来ていたとしたらこの話を聞くことはなかったはずだ。

 

「タケシさん、その、本当ですか? ウィンがここを突破したって……」

「ああ。ポケモン一匹に完敗してしまったよ」

「う、そ、そんな……」

 

 アキもジムリーダーである俺に挑戦してきたが、いくら弱いポケモンとハンデを渡したとはいえ、そうやすやすと負けてしまってはジムリーダーなんてやっていけない。だが彼女の実力は相当のもので、ある程度ポケモンが育てば負けてしまうだろう。

 

 そんな彼女のトレーナー資格を確認した際、トキワシティ出身であることが分かったところから違う形で彼女と話をする機会が生まれた。

 

「それで、その孤児というのは? 最近になって孤児院に? それとも生まれてからすぐ?」

「あ、いえ……たしか、2歳から3歳くらいって言っていたのを聞いたことがあります」

 

 2歳から3歳。最近になって両親を亡くしてしまったということであれば、確かにああいった暗い子供になってしまってもおかしくはない、しかしその年齢でとなると――

 

「ご両親が亡くなってしまったとか、そう言った話は?」

「……あ、海難事故で亡くなったとか――」

 

「海難事故?」

「はい、あ、でもこれはウィンに確認したわけじゃなくて、そうだって言っているのを孤児院に行ったときにチラっと聞いただけなんで……」

「孤児院に行った……か」

「あぁいや! 別にその、あれですよ! ポケモンバトルが授業の日にあまり出たがらなかったり、そういうのがあったので何しているのかなとか、あ、プリントを渡しに行ったりですね、友達も殆どいなかったんで私がいないときはなにしているんだろうなとか」

 

「……なるほど」

 

 彼女が慌てて取り繕っているのは目を瞑るとして、そうか、事故――。それにポケモンバトルをやりたがらない、か。

 

「彼はポケモン、いやバトルが嫌いだったのか?」

「え、あ、えっと……好きではなかったと思います。最初の方はちゃんと出ていたんですけど、途中からポケモンバトルに関する授業には殆ど出ていなかったので……」

 

 トレーナー資格と言うのは別に、ポケモンバトルが上手くなくても取得することができる。結局のところポケモンを持つ資格があるかどうか、つまりポケモンバトルに関して殆ど知らなくても資格を手に入れること自体は出来てしまうのだ。

 

 それにしてもウィンはポケモンのタイプ相性を知らない様子ではなかったし、ポケモンへの指示はつねに冷静で正確、相手のポケモンが使用する技も何となく知っている風だった。決して無知ということはないはず。

 

「……なぜ彼は途中から授業に出なくなったんだろうか、何か切っ掛けになるようなことは?」

 

 そう尋ねると、アキは表情を暗くして俯いてしまう。なんだか悪いことを聞いてしまったようで、今までと打って変わってとても言いづらいという雰囲気を出している。

 

「……初めてポケモンバトルをした日に私が負けて、その、彼に――」

「い、いや、もう言わなくて大丈夫だ。ありがとう。辛いことを聞いてしまったね」

「それからずっと私たちも先生も、誰も彼に勝てなくて、きっとポケモンバトルが楽しいって思わなかったんじゃないかなって。全部私の……」

 

 慰めることをどれだけ言っても恐らく意味はないのだろう。しっかりとした意志を持つ彼女はきっと他人からの慰めの言葉を必要としていないし、それ以上に彼女は出来ることをしようと考えているのだろう。だから、こうやって会話をする機会を作ってくれた。

 

「……ありがとう、彼に対して多くの事を知ることができた」

「い、いえ! ……あの、なぜここまで彼に対して?」

 

 彼女の質問になんて答えたらいいのか、俺には正解が分からなかった。ただ、自分が思っていることを素直に話すことが、彼女への誠意になると思った。

 

「……彼のポケモンバトルの才能は、俺が今まで見てきた多くのトレーナーの中でも飛びぬけて高いものだ。それは君が話してくれた彼の過去から、俺が負けた今に至るまでの内容で十分わかった」

「……はい」

「しかし彼は、善悪どちらに傾くか分からない、子供特有の危うさを持っている。彼ほどの才能を持つトレーナーが良くない道へと進んでいくのをただ見ているのは、しのびない。それが俺の正直な答え……かな」

「そう、です。しのびない……ですよね」

「あぁ。それに俺はジムリーダーだ、若いトレーナーを導いていくのも仕事の一つなんだ。彼でなくても、彼ほどの才能がなくとも、きっと俺はそうしたよ」

「……はい!」

 

 

 彼女とはそれから少し会話をして、ポケギアの連絡先を交換してから別れることとなった。またニビジムに挑戦するのかと尋ねると、少し迷ってから首を振って否定をした。

 

「まだ自分の実力が足りないって分かったので、もう少し色々と旅をして、この子たちも、私も、成長してからもう一度挑みに来ようと思います!」

 

 他の街にもジムはあるし。そう付け足して、彼女はウィンと同様におつきみやまへと向かうと言って出て行った。ジムの仕事が落ち着くまで待ってもらったので外はもう夕方前、きっと彼女はポケモンセンターかどこかへ泊って、それから向かうのだろう。それにジムを回る順番は自由だ、彼女の選択は間違いではない。

 

 そして俺もやることをしないと、か。ウィンについてはもう少し調べてみないといけないが、それにしても海難事故の件――まだ赤ん坊の頃とはいえ年齢が年齢だ、記憶があってもおかしくない時期。どう考えても無関係と言い切れない。一度孤児院の方にも確認をするべきか。

 

 ポケギアの電源を入れてカチカチと操作をしていく。目的の電話番号を見つけて、それからコールを行う。1,2,3と、たった3コールで出るとは、忙しい彼女にしてはだいぶ早い反応だった。

 

「……カスミか? あぁ、俺だ。タケシだ。ちょっと新人トレーナーの件で話が――」

 

 

 

 

 

 おつきみやまから出ることに成功した俺は、何とも言えない達成感を持ちながら空を見上げる。まだ全然明るいが、もうしばらくすれば一気に暗くなってすぐに夜になってしまうだろう。

 

ハナダシティの様相はおつきみやまに出てからすぐに見えていて、少し遠くにはなるが決して今日たどり着けない距離ではない。到着できる可能性を潰して一日野宿で費やすのはまだ避けたかった。

 

 というのも野宿をするための食糧、機材、準備含めて諸々が足りていないのだ。思い立ったが吉日と言うことで、サカキに言われたあの日から色々考えて、旅を始めると前々から決めていたのだが、逆に旅をすることを決めてしまったことで下手に住み込みの仕事なんかに従事することが出来なかった。

 

 まだ10歳の俺が孤児院にいても大きな問題はないだろうが、少なくとも一人立ちを迫られているのは間違いがなく、あのまま孤児院にいる選択は取れなかった。

 

 そんなこんなで住所不定(一応孤児院)無職、お金も荷物も最低限、年齢10歳のポケモントレーナーが誕生してしまった。住所と仕事を見つけて何かしようとしていたら旅をするタイミングを逃してしまいそうだったし、すぐに旅を始めるのは悪い考えじゃないと思ったんだけれども。

 

 それこそゲームのように野生のポケモンや野良のトレーナーを倒してお金が貰えればいいのだが、そう都合よくお金を持ったポケモンが出てくるわけでもなし、トレーナーから所持金を奪い取るという鬼畜な所業を行うのなんてもってのほかだ。

 

 大抵旅を始めたトレーナーはそう、事前にお金があるか、親からお金を貰いつつ旅をしているんだろう。スクールではアキも、それ以外の生徒も後者と似たようなことを言っていたし、多分間違っていないはず。

 

 そろそろ暗くなってきて、ハナダシティに向かう道中のトレーナーは殆どいない。いたとしても野営の準備とか、ハナダシティに向かうトレーナーばかりだ。俺はそういったトレーナーを抜かしながら平地を駆けていく。おつきみやまを越えてきて体力がついてきたのか、まだまだ走れそうだった。

 

 

 

 ハナダシティに到着をするとすでに夜の帳が下りていて、せっかく街の中に入ったのにどこもかしこも電灯や家、立ち並ぶビル群の明かりが点いているのみとなっている。

 

 必死にポケモンセンターを探し出し、個室が空いていることを確認すると、二匹の入ったボールを渡して治療をお願いした。

 

「こ、この子……『ひんし』になっているじゃない!」

 

 なぜもっと早く言わないのかと叱責されつつ、ジョーイさんは回復マシンへとボールを設置して治療を開始する。なんだか申し訳ないとは思いつつ治療は任せ、借りることのできた個室に荷物を置きに行った。

 

 まるでホテルの一角のような廊下の配置になっており、所々にはジョーイさんとポケモンのラッキーが描かれたポスターが設置されていて、ポスターには『ポケモンセンターは清潔に使いましょう』と書かれている。

 

 借りた個室は寝るのには困らない程度といった感じで、部屋の中にはトイレも無ければシャワー室もない。どちらも休憩室の所に設置されているので、そちらを使えということなのだろう。

 

「あれ」

「……どうも」

 

 荷物を置いて部屋から出ると、ちょうど同じタイミングで部屋を出てきた一人のトレーナー……見たことのある顔――グリーンとばったり顔を合わせてしまう。目を白黒させて、どうしてここにいるのか不思議でならないといった様子だった。

 

「昨日ニビのポケモンセンターで出会った……ウィンだよな? なんでここに……」

「……それじゃあ」

「いやいや、待て待て。もしかして昨日の内にニビジムでバッジを取ってきたのか!?」

「まぁ、はい」

 

 昨日バッジを取ったか今日バッジを取ったか、どちらも取ったという事実に違いはないので、別に何か付け足して言うことでもないだろう。俺が首を縦に振って肯定の意を示すと、グリーンはしばし黙った様子だった。

 

「なんだそれ、ジムがクリアできなかったから後回しにしてきたって言われたほうがまだ信じられるぞ……」

「じゃあ……そういうことで」

 

 そう言ってジョーイさんの様子を確認しに行こうとすると、その後ろをグリーンもついてくる。俺がチラリとそちらに視線を移すと、ぶすっとした表情で視線を逸らした。無駄に整った容姿をしているだけあって、妙に腹が立つ。

 

「……」

「俺の目的もこっちなんだ、別にいいだろ」

 

 何とも言えない沈黙の中、二人でポケモンセンターの廊下を歩いていく。誰かに見られたら勘違いしてしまいそうだ。

 

 

「……はい、この二匹はお返しします。次からは本当に気を付けてくださいね」

 

 カウンターにボールを受け取りに来て早々、ジョーイさんから強めの口調でそう言われてしまう。特にズバットの方は『ひんし』になってから大分時間が経っていたため、相当まずい状態だったらしい。

 

 それらを含めて、というよりはポケモンセンターに来てからの行動がどうも気に入らなかったらしく、部屋の確認をするより先にポケモンを診てもらう必要があるだろうと言われてしまった。そう言われると何も返答しようがないため、申し訳ないと平謝りをするしかなかった。

 

「……カメールとズバット? この二匹でタケシを倒しただと……?」

 

 グリーンの用事が何だったのか分からないが、いつの間にか俺がジョーイさんに怒られているのを聞いていたらしく、後ろで手を組んでこちらの様子を窺っていて、それになにか独り言をぶつぶつとしている。

 

「……ウィン、どうやってそのポケモンたちでタケシを突破したんだ?」

 

 俺の名前を呼んで呼び止めてそう尋ねてきた。グリーンは俺がジムバッジを取っている前提で話をしているが、俺がそう言っているだけで別にジムバッジを持っていない可能性を考えていないのだろうか。

 

「普通にカメールで」

「……そうか、タイプ相性が良ければそういうこともある……か」

 

 変なことを訊いて悪かったとだけ謝って、グリーンはそのまま部屋に戻って行った。本当に何しに来たんだろうか? 俺のポケモンを確認しにきただけ? そんなにポケモンが好きなのだろうか。

 

 



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ハナダジム

「あなたがウィン?」

「……そうですけど」

 

「ふぅん……」

 

 早朝、まるで水族館のような施設と共に併設されたハナダジムの前に立っていたのは、ハナダジムリーダーのカスミであった。明るい茶髪に勝ち気な表情を浮かべてこちらを値踏みするように見つめてくる。カスミは上着を羽織っているが、内側に着ているのは間違いなく水着だった。

 

 ……水着? みずタイプのジムリーダーという話だったが、だからと言って水着を着なければならないのだろうか?

 

「何であたしをジロジロ見ているか何となく予想はつくけど、この格好はジムリーダーとして必要なの。みずポケモンっていうのは大抵水の中にいるんだから、私だって水の中に入って触れ合わないとポケモンの気持ちが分からないじゃない」

「はぁ」

 

 ポケモンの気持ちね、確かに何を考えているか全くわかったもんじゃないな。昨日捕まえたズバットだって、今日試しに出してみたら当たり前のように命令を聞いた。殺されかけた相手の言うことを聞くなんて、どんな気持ちなんだか。

 

「ここに来たってことは私に挑戦しに来たってことでしょ?」

「そのつもりで、はい」

「勿論歓迎よ。ただ、分かっているでしょ? 実力の確認として、うちのトレーナーと戦ってもらうわ。どう?」

「大丈夫です」

「二日連続でジムに挑戦、か。まさかとは思ったけれど、舐められたものね」

 

 カスミは何故俺の名前や、昨日ジムに挑戦したことを知っているのか少し気になったが、それをわざわざ聞く気はなかった。特に興味がないというのもあったが、別に何か知られて困るようなことをした人生を送っているわけではなかった。

 

「すみません」

 

 ジムに入ろうとしているカスミと、それに続こうと後方にいた俺の二人を呼び止めるように誰かが話しかけてきた。カスミと俺はその声の主を確認しようと視線を向けると、見慣れてしまった男がいた。

 

「……グリーン」

「何かしら? ジムに再挑戦したいって言うのなら、ちょっと待ってもらうことに――」

「彼の試合の観戦がしたいんですけど」

 

 試合の観戦がしたいと言ってきたグリーンに対して、カスミは別にどうでもよさそうな表情で視線を空に向け、それから俺の方を向いた。

 

「……私は別に構わないけど、あんたは?」

「まぁ別に……」

「なら大丈夫よ。手持ちを出来るだけ隠したいって考える人もいるから、一応双方の了承がないとね」

「ありがとうございます」

 

 そう言ってグリーンは丁寧に頭を下げると、ちらりと俺を見た。見ているぞとでも言いたげな表情を浮かべていて、なんだか面倒なやつと関わってしまったと思わざるを得なかった。

 

 

 ハナダジムの中に入ってどんどんと進み、バトル用のスタジアムに向かう。スタジアム内の殆どはプールのようになっており、区分けされた魚の養殖場に存在する足場のようなものが設置されている。

 

 プール内の水は真水というわけではなく、海で生息しているポケモンのことも考えて海水とほぼ同じ状態にしているという。(みずポケモンは別に真水か海水かそこまで気にしないが、みずポケモンを扱うジムということでその辺りのこだわりがあるのだろう)

 

 スタジアムの中にいたジムトレーナーらしき男1人が、水の中に潜りつつポケモンと訓練しているらしかった。それを見たカスミはうんうんと満足げに頷いて、そのジムトレーナーを呼びつけた。

 

「あなたのジムバッジの所持数は1つよね。若手だけど彼はとても優秀なトレーナーよ、じゅうぶん相手になるはず。トモキ、相手をしてあげて!」

「おわっ! わ、わかりました!」

 

 そう言ってジムトレーナーの男は水の中から上がってくると、身体が水浸しのままこちらに近寄ってきた。海パンを履いたジムトレーナーは見たまんま、『かいパンやろう』といった風貌だが、こんなのでもジムトレーナーをやれるんだなと少し感心してしまった。

 

 そしてジムトレーナーを追うような形で水の中から浮かんできたのは『くらげポケモン』のメノクラゲであった。それを見て俺の表情が曇るのが見えていたのか、カスミは傍に寄ってきて体調に問題は無いのか尋ねてきた。

 

「ウィン、あなた大丈夫? スタジアムの中に入ってから気分が悪そうだけど試合はできるの?」

「えぇ……その、大丈夫です。あまり海水の臭いとかクラゲに良い思い出が無くて……」

「へぇ、そうなの。海が嫌いなんて色々損してるわね」

「は、は……」

 

 体調が戻るまで少し休んでからバトルをするかと体調を気遣ってくれたが、クラゲが嫌いだからポケモンバトルが出来ないというのも変な話だし、どちらにせよハナダジムに来ているのに避ける理由も無い。さっさと勝って出ていけばいいだけのことだった。

 

 カスミとグリーンは観戦をするということで、スタジアムから少し離れたところに設置されている簡素な作りの椅子に座っていた。イルカショーでも見ているかのような気楽な態度に辟易としていると、スタジアムの向かい側にいるジムトレーナーの『かいパンやろう』が大きな声で確認を取ってきた。

 

「よーし! 使用ポケモンは一匹、ポケモンを戦闘不能にするか、トレーナーが棄権を宣言したら試合終了だ! 大丈夫だな!」

 

 俺は頷いてルールを了承した。俺の体調が悪いのを知っているからか、特に何も言われずに試合が始まった。

 

「行くぞ! メノクラゲ!」

「……ズバット」

 

 ジムトレーナーは水に向かってポケモンを出現させる。水中からは先ほど調整していたメノクラゲが頭を出しているのが見えた。俺が出したのはカメールではなくズバット。あまり昼間に出すポケモンではないが、室内だということで我慢してもらうとしよう。

 

 ポケモン同士の顔合わせが終わり、ほんの少し指示も攻撃も何もない間が生まれるが、ジムトレーナーは物怖じすることも無く攻撃を指示した。

 

「飛んでいるポケモンには――『ようかいえき』だ!」

「良く見――れないか。『ちょうおんぱ』を撃ちながら攻撃を避けろ」

 

 メノクラゲの口腔から『ようかいえき』が放たれるが、ズバットは目が見えずとも他の器官で飛翔物を察知したのか、何事もなく攻撃を避けて『ちょうおんぱ』を放つ。

 

「メノクラゲ! こちらからも『ちょうおんぱ』だ!」

 

 二匹のポケモンによる『ちょうおんぱ』合戦は不毛極まりない闘いで、ズバットの攻撃は完全に無意味になってしまう。しかしメノクラゲ自体がズバットを直接攻撃する手段はそう多くはなく、覚えている中で飛んでいるズバットに当てられそうな技をいくつか指示している。

 

「『みずでっぽう』! 『どくばり』!」

 

 どの攻撃もズバットに掠ることは無く、ことごとく攻撃を回避していく。しかし水中にいるメノクラゲに対してズバット側から強気に出ることは出来ず、お互いに攻撃が当てられない状況となってしまった。

 

 しかし長い時間を使って戦っていると、常に飛んで体力を使っているズバットの方が不利である。こちらから攻撃する手段は少ないが、逃げることは俺のプライド(チート)が許さなかった。

 

「ズバット、『かみつく』だ」

「――今だ! 『からみつく』!」

 

 『かみつく』を回避したり、『ようかいえき』や『みずでっぽう』で迎撃をするのではなく、『からみつく』によって水中に引きずり込もうという作戦だった。

 

 その状況を受け止めて、俺はズバットに追加で指示を出した。

 

「――止めて『ちょうおんぱ』だ」

「な、なんだと!? メノクラゲ、攻撃を止め――」

 

 

 俺は、トレーナーはポケモンに働きかけることしか出来ない。技の命令をしたり、攻撃防御や進退を指示するのみ。そしてそのありとあらゆる動作には、声を掛けてから命令を実行するまでのラグが生じる。

 

 そして、今俺の才能チートが出来ることと言えば、俺の半自動操作(オート操作)(口を開いてポケモンに指示を出すか出さないかくらいはどうにか融通が利く)と、ポケモンの技の先読みや、体力、気力、意志、その他諸々を読み取って目で見えるようにしてくれることの二つのみ。

 

 ポケモンを強引に成長させるのもチートのお陰のようだが、俺が自由にポケモンのレベルを上げることが出来る能力というわけでも無いようで、ズバットを一気にゴルバットに進化させようとしても無駄だった。

 

 結局のところ貰ったチートに対して俺がオンオフ自由に操作できる部分は全く無かった。ただオート操作は恐ろしく優秀で、俺が多くの手札を持っていればいるほど、俺が経験を積めば積むほど、ポケモンへの命令は最適化していくらしい。

 

 しかしだからと言って、水中にいるポケモンに対してほぼ無力なズバットを素のチートだけで勝たせる方法はない。だからこそ、俺の方で一つだけ使用する技に命令を加えた。命令の内容は単純で、『かみつく』は『かみつく』を使用するのではなく、「近づいて『ちょうおんぱ』を行う」といった技の変更だった。

 

 要するに、オート操作はズバットの『かみつく』という技の命令が一番効果が出るタイミングは今だろうと考えて技を指示したのだ。

 

 それは今までのこう着状態が嘘のように、あっさりと決まってしまう。ズバットは『からみつく』攻撃が当たる直前に空中で停止して『ちょうおんぱ』を放った。至近距離で『ちょうおんぱ』を受けたメノクラゲは『こんらん』してしまい、トレーナーの指示を受けられる状態ではなくなってしまう。

 

「ズバット、『エアカッター』だ」

 

 無防備なメノクラゲはズバットの『エアカッター』をそのまま受けてしまい、その隙を見逃さずにズバットは追撃を行う。急所に当たって完全に身動きが取れなくなっている所に、本当の『かみつく』を行うと、体力が尽きたメノクラゲはついに倒れた。

 

 

「驚いた……『かみつく』が『ちょうおんぱ』になっていたのはわざとかい?」

「はい、そうですね」

「やっぱりか。ずっとフラフラ攻撃を避けるばかりで、ついにヤケになって攻撃してきたのかと思って油断してしまったよ。流石にジムバッジを手に入れているだけあって柔軟な思考をしているね」

「……どうも」

 

 

 試合が終わり、近寄ってきたジムトレーナーと握手をしたり、そう言った会話をしている間、頭の中で要素を整理していく。

 

 今回、ズバットに指示する技のタイミングを見ていて強く感じたが、才能チートが成長している。いや、才能チートによって俺自身が成長しているという言い方が正しいのか。

 

 なんだか頭の中に成長するAIでも搭載されている気分だ。自分が成長しているのかチートが成長しているのかわかったもんじゃない。

 

 旅を始めてからチートと向き合うようになって、少しネガティブなことばかり考えてしまうようになっている。嫌なことばかり考えずポジティブな事も考えないと、きっとやっていけないだろう。

 

 ジムリーダーとのポケモンバトルで何か得るものがあれば良いなと思いつつ、こちらに歩いてくるカスミとグリーンを一瞥した。

 



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スターミー

「ズバットで水中のポケモンにどう当たるのかと思ったけど、ああいう戦い方をするなんてね」

「……ズバットと前もって打ち合わせをしていたから出来たのか。あっさり負けると思っていたけれど、なるほど」

 

 何だかんだ褒められているのだろうが、別に嬉しいわけではない。結局良いタイミングで指示したのは俺であって俺ではないのだから。

 

 とは言いつつも、それを表に出して嫌味な態度を取ることも無いだろう。俺は軽く頭を下げるだけに済ませた。結局のところジムトレーナーとはただの前哨戦で、ズバットの操作感がどうなのかを判断する程度の価値しかないのだ。

 

「あまり褒められることに興味ないって感じね、ならさっさと始めちゃいましょうか」

「お願いします」

「えぇ、勿論。トモキはポケモンの治療に、グリーンは続けて観戦するのなら、回れ右してさっきと同じところでね」

「了解です」

「勿論観戦するつもりです。それじゃあ」

 

 そう言って座席へと戻っていくグリーンと、メノクラゲの入ったボールを持ってスタジアムから出ていく二人を見届けた後、俺の方に向き直った。

 

「使用ポケモンは2対2、ジムリーダー側のハンデとして私は自由交代の不可、挑戦者側には特に無し。ポケモンの回復はしなくて大丈夫なのかしら?」

「はい。大丈夫です」

「……へぇ。何だか貴方と会った時から思っていたけど、貴方の事は好きになれなさそうね」

 

 それだけ言ってボールを二つ持ってスタジアムの奥に向かって行ったカスミを見送る。なぜいきなり嫌われたのか分からないが、きっと何にでも噛み付きたくなる年頃なんだろう。

 

 互いがスタジアムの前に立ち、ボールを持って構える。上着を脱ぎ捨て水着姿のままになったカスミが大きく叫んだ。

 

「準備は良い? 行くわよ――ヒトデマン!」

「カメール」

 

 同時にボールからポケモンが出てきて相対するこの瞬間。俺の(チート)は多くの情報を取り込む。ポケモンの情報、環境、トレーナーの情報、自分の体調、できること、できないこと、過去の情報から現在まで全て。そして取り込んだ情報から必要なものを視界に映してくれる。

 

 ヒトデマンとカメール、その両方が同時に出揃い睨み合う。その時、カスミは俺に向かって話しかけてくる。命令を妨害する意図は恐らく無く、もしかしたらただの世間話程度なのかもしれない。

 

「目は口程に物を言うって言うけれど、貴方の場合は本当ね」

「……?」

「ヒトデマン! 『スピードスター』よ!」

「カメール、『からにこもる』」

 

 ヒトデマンと呼ばれる星型の――ヒトデのポケモンは空中に浮かび上がりながらクルクルと回転し、まるで水しぶきでも飛ばすかのように星の形状をしたエネルギーのつぶてを撃ちこんでくる。

 

 カメールは自身の甲羅に身を潜めて難なく『スピードスター』を弾いた。そしてそれを見ていたカスミは遠目ではあまり良く分からなかったが、小さく口を開いて「やっぱりね」と呟いた。

 

「ウィン。あなた、どういうわけか私が技を指示するより早く、どの技を使うか知っているのね?」

「……どうですかね」

 

「さっき言ったでしょ。目は口程に物を言うって。貴方の目は今日出会ったときから今に至るまで、一度たりとも(・・・・・・)ちゃんとポケモンを見ていないわね。ずっとトレーナーの動きばかりを追っている」

「……さぁ」

「ポケモンに対する愛情が全く感じられないって態度がはっきりと出ているわよ、まるで死にかけの虫でも見ているみたいにね」

 

「『みずのはどう』」

「ヒトデマン! 『みずのはどう』をお返ししなさい!」

 

 カメールが『みずのはどう』を撃ちだすと、ヒトデマンも返すように『みずのはどう』を放つ。しかしポケモンのレベルが違うため、どれだけ撃ち合おうともがいても、同じ技ではレベルの差が如実に出てしまう。ヒトデマンは『みずのはどう』を相殺することは出来ず、ダメージを食らいながら水の中に落ちていった。

 

「っ……流石に厳しいわね。けど貴方の戦い方は読めてきたわよ」

「……」

「常に受けの姿勢、相手の攻撃をカウンターするような戦い方。そりゃそうよね、相手の使ってくる技が分かるんだから。相手の動きに対して最適な技と動きを指示すれば最善の動きで返すことが出来る」

 

 『みずのはどう』で水中に落ちたヒトデマンが浮上してきて、水上に設置された足場に乗った。戦意も体力も十分で、同じタイプの技を受けてもそこまでダメージは無いようだ。

 

「でもね、それくらいで負けているようじゃプロ(ジムリーダー)にはなれないのよ。私はみずタイプのエキスパート、ハナダジムのジムリーダーカスミ。プロになるにはポリシーが必要なの、育て方も、戦い方も――私のポリシーは攻めて、攻めて、攻めまくることっ! 見せてあげるわ、攻めのポケモンバトルをね!」

 

 ヒトデマンはまるでカスミの声に呼応するように空へと飛び上がると、またクルクルと高速で回転を始めた。

 

「『スピードスター』!」

「『まもる』、『みずのはどう』」

 

 撃ち出された星型の射出物を『まもる』で受け止め、それから返すように『みずのはどう』を放つ。ヒトデマンはそのまま回転を止めず、『こうそくスピン』の要領で『みずのはどう』を避けて見せた。

 

「『サイケこうせん』よ!」

「『まもる』」

 

 二度目の『まもる』は成功率が低い、続けて強力な防御を行うのは非常に膨大なエネルギーを使うのだ。しかしカメールは、出来て当然と言わんばかりに『まもる』の態勢へと移行した。

 

 ヒトデマンの身体の中心部に存在する宝石のようなコアから『みずのはどう』にも似た形状のエネルギーがビームのように撃ち出される。エスパータイプの技である『サイケこうせん』だが、エスパータイプを持たないヒトデマンはそれでも撃つことが出来るようだ。

 

「カメっ!」

 

 二度目の防御に成功したカメールは『からにこもる』を行った後、『こうそくスピン』でヒトデマンへと向かって行く。

 

「『かたくなる』、それからこっちも『こうそくスピン』よ!」

 

 ヒトデマンは謎の叫び声を上げてカスミの指示に従うと、『かたくなる』によって身体を硬化させて『こうそくスピン』でカメールに対抗せんと突撃していく。全く同じ技のぶつかり合いは何度も続き、しかし明確にダメージを受けるのは常にヒトデマンの方だった。

 

「……レベルが高いわね。でもカメールを倒してしまえば、残りは種が割れているズバットだけ。やはりここは少しでもカメールにダメージを与えることを優先するべきね。『スピードスター』を撃ち続けて!」

「――守らなくて良い、全部受けて『アクアテール』だ」

 

 空に浮かんだまま『スピードスター』を雨のように撃ちだしてくるヒトデマンに対して、カメールは命令通り守ることを捨てて思い切り飛び込んだ。本来であれば『まもる』で防ぐか、『からにこもる』で多少ダメージを和らげてチャンスを待つのがスクールでは一般的な動きだった。

 

 しかしここで守り続けるのは得策ではないと判断したのか、口は勝手に攻撃指示を出した。被弾覚悟とは言うが決してダメージ量は少なくない。無謀にも思える指示に視界の端でグリーンが立ち上がっているのが見えた。

 

「カ――メッ!!」

 

 超至近距離で渾身の『アクアテール』をヒトデマンにぶち当て、天井に向かってヒトデマンは吹き飛んでいく。いくら『かたくなる』で硬くなろうとも、レベル差に加えて『急所』に当たった強力な一撃を耐えることは今のヒトデマンでは不可能だった。

 

 天井にぶつかって自然落下してくるヒトデマンを直前でボールに戻し、カスミは鋭い目でこちらを睨むように見た。

 

「……あなた、信じられないわ。守るでも避けるでも、別の技で相殺するでもなく、生身で突撃させるなんて、ありえない。なぜそんな命令を……!」

「……なにか問題でも――」

「ポケモンを何だと思っているのよ! 指示したら確実に動く駒とでも思っているの!?」

 

 沈黙は金と言うが、今はどうだろうか。何か返してあげるべきだろうか。結局ポケモンセンターで回復すれば治るのだから、別に多少無茶しようが問題ないのではないだろうか? 才能チート(オート操作)が出している命令をそのまま口に出しているだけだが、何も間違った指示を出しているようには見えない。

 

「守るのも避けるのも、技で相殺するのも倒すのに時間が掛かるので、無駄な時間を掛けるよりかはと」

「その考え方はポケモンを使い潰すことしか考えていない者の発言よ。あなたがどんな境遇でそんな性格に至ったか知らないけれど、その考え方を続けているといずれ痛い目に遭うわよ」

 

 カスミはそう吐き捨てると、最後の一匹が入ったスーパーボールを空に投げた。

 

「行きなさい、スターミー!」

 

「――カメール、『まもる』だ」

「スターミー! 『10万ボルト』!」

 

 紫色の身体に赤いコアを持つ『なぞのポケモン』スターミーがボールから出てくる。そして間髪入れずに『10万ボルト』をカメールへと向けて放出した。

 

 空気すら焼き尽くすほどの強力な電撃波がカメールに殺到するが、『まもる』によって傷一つ負うことなく捌き切る。次にもう一度『10万ボルト』を撃ってくるのはいつだろうか? みず・エスパーであるスターミーが相性の悪い技である『10万ボルト』を連続で撃つことができるほどエネルギーがあるのだろうか?

 

「出て早々の奇襲は当たらない……か、本当にただの先読み? 一体何を見て技を把握しているの……?」

 

「行けカメール。『かみつく』だ」

「スターミー! 『リフレクター』よ!」

 

 カメールは強靭な牙でスターミーに噛み付こうとするが、寸でのところで『リフレクター』を張られてしまう。ダメージは確実に入っているが、決定打には至っていない。そして『リフレクター』を張られてしまったことで、物理的な技が入りづらくなってしまった。

 

「……嘘でしょ、リフレクターを張ったスターミーがダメージを? トレーナーがおかしいなら使ってるポケモンもおかしいってわけ?」

 

 いくらポケモン同士のレベルが離れているとはいえ、流石に今のカメールでは一撃でスターミーを倒しきる威力の技を出すことは出来ない。しかしスターミーには強力なエスパーの技や『10万ボルト』が控えている。

 

 ダメージを受けているカメールの分が悪いのは明白であった。しかし、それでも俺は虚ろな視界の中、まだまだ負ける盤面が見えてはきていない。

 

 あの時の『じばく』や、高レベルのサイドンのような思いがけない何かが無い限り、俺の勝利が揺るがないと分かってしまっていた。その反面、俺はその何かが来ることを期待していた。

 



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10万ボルト

 勝っているはずなのに負けているように見えている。

 負けているのに勝っているように見えている。

 

 データ上で見ると間違いなく後者であるが、データから現実に起こしてみると、不思議なことに今の私は前者だった。

 

 相手のポケモンはカメールとズバット。私はスターミーだけ。目算で見ると相手はレベル30相当と25相当のポケモンを使用しているのに対して私のスターミーはレベル25近く。

 

 データ上、数値上で見ていると一見不利に見えるが、ポケモンが持つポテンシャル、技の範囲、体力、ありとあらゆるものを総合的に判断すれば勝利が濃厚なのは私の方で間違いない。

 

 相手の使用するポケモン二匹が持つ物理技『かみつく』や強力なみず技でもある『アクアテール』に対して『リフレクター』を張ることで、相手の手持ちから飛んでくるであろう相性の悪い技を完全にカットする。そして相性の良い『10万ボルト』や『サイケこうせん』で相手を攻めたてる。私が本来のパーティでする動きとは全く違うが、使用ポケモンを制限しての戦いで見ると最善を尽くしているはずだった。

 

 勝っている。間違いなく勝っている。なのに、アイツ(ウィン)の目からありありと浮かんでいる失望の感情が、どうしようもなく私の不安を掻き立てている。

 

(このまま防ぎづらい『サイケこうせん』を撃ち続け、相手が攻めるしかない状況を作り出し、近寄ってきた所に『10万ボルト』を叩きこむ)

 

 カメールを倒せばいい、倒してしまえば水中戦が全く出来ないズバットしか残っていない。あとはどうとでもなる。どうとでも――。

 

「スターミー、『サイケこうせん』よ!」

「『みずのはどう』で弾き返せ」

 

 技の応酬。レベル(成長度)で負けているが、ポテンシャル(個体値)では勝っている。だからこそ互いの技がギリギリ相殺されている。されてしまっている。

 

 スターミーが使用できる技の範囲というのは他のポケモンと比較しても決して少なくない。様々なタイプの技を覚えて、高い攻撃力と素早さを活かして上から押しつぶせる。しかし今、ジム側が設けている暗黙の制限がその手札の多さを狭めてしまっている。

 

 ジムリーダー側はジム挑戦に対して強力な威力を持つ技を複数使用してはならない。また、あまりにも破壊力の大きすぎる技を使用してはならない。そういった暗黙のルールがある。前者であれば『10万ボルト』に『サイコキネシス』、『れいとうビーム』といった技を複数使ってはならず、後者であれば『はかいこうせん』や『ハイドロポンプ』、『かみなり』といった技を使ってはならない。

 

 ジムバッジを4つ以上持っている者に対してであれば、そういったルールは暗黙なので別に無視しても構わない。だが今回のバトルはそうではない。

 

 少なくとも『10万ボルト』を使ってしまっている(使用させられた)ので、別に強力な技を使用することはルール的にも、プライド的にも許されることではない。

 

 『10万ボルト』を当てさえすればほぼ確実に勝利が決まる。だが避けられてしまえば勝負は相手に傾いてしまう。確実に当てなければ、勝てない。

 

 

 普段であればここまで勝利に拘ることはない。別に負けたらバッジを渡すだけだし、逆に私が勝ってしまっても、相応の実力や考え方が間違っていないのであれば、ジムバッジを渡しても構わない(・・・・・・・・)というルールがあるのだ。

 

 ジムバッジとはトレーナーとしての考え方、そしてそれに基づく実力を証明するものである。所持バッジ数が多ければ多いほどそのトレーナーの考え方、育て方、戦い方全てが正当化されるのだ。

 

 だが私はウィンの戦い方や考え方を認めるわけにはいかない。コイツの戦い方が正当化されてしまえば、死に至るような攻撃を受けたとしても、試合に勝てば全てが許されると認めているようなものだ。勝利至上主義とは言えば聞こえはいいのかもしれないが、この考え方が招くのはポケモンバトルという競技の寿命を縮め、ポケモンとの繋がりを踏みにじるような考え方だ。

 

 しかしどれだけ言っても実力が全て。負けてしまえばバッジを渡さなければならない(・・・・・・・・・・)。だからこそ、負けてはならないのだ。

 

 負けてはいけない。負けられない。負けちゃだめ。勝たなくちゃ。勝たないと、勝たないと。何が何でも勝たなければ。

 

「スターミー、『パワージェム』を!」

 

 スターミーは自身のコアに力を集中させて、強力なエネルギーをビームのように撃ちだした。プライドもルールもギリギリを攻めた威力の一撃。当たれば隙が出来る。

 

「水中に避けろ」

「カメッ!」

 

 『こうそくスピン』の影響か、『パワージェム』によって放たれた一撃を俊敏に避けて水中に逃げ込むカメール。ここで『10万ボルト』を使えば一気に感電させてダメージが入るが、直撃よりも威力は低い。もし倒せない場合、やはり負けてしまう可能性が一気に上がってしまう。

 

 ウィンはそれを見越している。私が馬鹿みたいに『10万ボルト』を使って隙が出来るのを、虎視眈々と狙っているのだ。

 

 『リフレクター』を張り直すべきか? 一度張った『リフレクター』はしばらくすると解けてしまうから、このまま戦いが長引けば気づかぬ内に解けていた『リフレクター』の隙間を縫って攻撃してくる危険性だってある。しかし『リフレクター』を使えば攻撃を受ける隙を作ってしまう。

 

 

「……くっ、どうする。私はどうすれば――」

 

「――――もう」

「……は?」

 

 

「もう、手 詰 ま り で す か ?」

 

 

「っ――――やってやろうじゃないっ!! スターミー! 『こうそくスピン』!」

 

 指示から行動に移るまで、スターミーは今日一番の速度で動きだした。私の感情に影響されたのか、それともスターミーも同じようにやり切れない思いが爆発したのか、少なくとも本来であれば想定しないような俊敏な行動だった。

 

 そしてそれを見ていたウィンも目を細めて、初めてスターミーの行動に注視していた。

 

「カメール。水中から出て『みずのはどう』」

 

 水中で水分を補給したのか、まだまだ戦意の衰えないカメールは水上に飛び上がると、迎撃をするように『みずのはどう』を撃ち出してくる。『こうそくスピン』では弾ききれない威力なのはすぐに分かった。

 

「『パワージェム』!」

「『まもる』、『かみつく』」

 

 スターミーは『みずのはどう』が直撃する直前、『こうそくスピン』を止めて、チャージしていた『パワージェム』を放つ。その威力は『みずのはどう』を貫通し、『まもる』をしていたカメールにも少なくないダメージを与えるが、『かみつく』によって『リフレクター』越しにこちらもダメージを受けてしまう。

 

 だがこれこそ、相手がカウンターを決めようとしてくるこの瞬間こそ、私の方のカウンターを決める瞬間でもあった。

 

「『パワージェム』を撃った後、『10万ボルト』を撃てないと思った? この距離なら確実に当たるわよ!」

「……」

 

「スターミー! 『10万ボルト』!!」

 

 『まもる』を指示しない。防ぐも避けるも指示をしない。自身のポケモンを顧みない戦い方に対する最高の回答、それが今放たれた。

 

 スターミーが発光し、周囲の空気ごとカメールを飲み込むほどの強力な質量を伴った電撃が放出される。至近距離で撃ってしまうため、スターミーも多少はダメージを受けてしまうが、まだまだ体力には余裕がある。ズバットを倒すための体力は十分――。

 

 なぜウィンは棒立ちしている? 次のポケモンを構えるでもなく、カメールを回収するでもなく、棒立ち? 茫然としているわけでもない、全て許容した上で動いている。

 

 まて、私のミス? あんなに冷徹な命令と的確な技の指示をしてきた奴が、勝率の低いズバットを残してカメールを早々に退場させるような動きを取る? やつの動きは全て勝つためにしている。そんなやつが無策で攻めるような真似を――。

 

「の、乗せられた……っ!?」

「『からをやぶる』――『アクアテール』」

 

 底冷えするほど冷たい声が、私の耳朶を打った。

 

 

 『げきりゅう』を伴い、『からをやぶる』カメールの放つ『アクアテール』は、タイプ相性も、ポテンシャルも、何もかも粉砕するかのように無慈悲な一撃で、スターミーのコアを粉々に砕き、まるで怪物が暴れるかのような水の鞭がスタジアムの足場を粉砕し、水を切り裂き、地面をえぐり取った。

 

「ス、スターミー……」

 

 私は地に落ちていくスターミーの姿を見て、膝から崩れ落ちるのを耐えることができなかった。どう取り繕おうとも、私は負けた。

 

 

 

 

 

 まぁそうだろうなと思うだけだった。『10万ボルト』を食らっても、レベル差が大きく離れた状態では致命傷にはなり得ない。それも本来でんきタイプではないポケモンであれば威力も落ちる。そんなのはスクールで学ぶようなレベルのことだ。だからこそサブウェポンなのだ。

 

 カスミという実力者がそれを知らないはずは無いし、本来であればレベル差がある分徐々に詰め寄るような戦い方をするべきだったはず。どうトチ狂ったとしてもすぐに勝負を決めにいけるような状況ではなかった。

 

 なのになぜ勝負を決めに行ったのか、カスミが持っている性格的な問題でもあるだろうし、彼女は不思議なまでに勝利に拘り冷静ではなかった、そして最後のダメ押しである盤外戦術(煽り)が予想以上に刺さってしまったことによるだろう。

 

 本来バトルの最中は技の指示くらいしかやらない才能チート(オート操作)が珍しくセリフを吐いた。恐らくさっきカスミに色々言われていたので、そう言った部分から相手に刺さる手段の一つとして取ったのだろう。

 

 カスミはそれで本来持っているはずの冷静さを失い、呆気なく負けてしまった。そんな所か。普段の戦いであればもっと長引いてもおかしくない試合だったし、一つ目のジム戦であれば危ないところまで持っていかれる可能性もあった。

 

 そう考えるとジムリーダーというのは素晴らしい実力者なのは間違いない。

 

 それにしても驚いたのは、カスミが激昂したのと同時にスターミーの動きが良くなったことだった。カスミ自身が意図したのかどうかは判断しかねるが、トレーナーの感情と少なからずリンクするということはあるのかもしれない。

 

 スターミーをどうにかボールに回収し、座り込んでしまったカスミの下に向かうと、元々着ていた上着のポケットからジムバッジを取り出して、俺に向かって軽く放り投げてきた。

 

「私の負けよ。悔しいし、認めたくはないけどね」

「ありがとうございます」

「……ふん、私の気が変わる前にどこかに行って」

「はぁ、あの……わざマシンのことなんですけど」

 

 カスミは上着を羽織りながら首を傾げて、それから納得したような声を上げた。

 

「あぁ、わざマシンね。いくつか種類があってその中から選んで貰うようになっているんだけど――」

「そのことなんですけど……」

「……?」

「現金が欲しいんで、一番高値のやつを貰う代わりに現金でってできますか……?」

 

「……は?」

 



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ピカチュウ

「まさか本当に一度でハナダジムを突破するなんてな」

 

 ポケモンセンターにボールを預けて治療を待つ間、受付の近くに設置してあった長椅子に座ってバッグの中を整理していると、結局ジム戦から今の今まで付いてきていたグリーンに向かい合って話しかけられた。

 

 グリーンの上げた話題に対して、どう返せば角が立たないかを考えていると、何を勘違いしたのかニヒルな笑いを浮かべて話を続けた。

 

「それにしてもどうやって一日でハナダシティまで来たんだ? お前のポケモンじゃ空を飛んでここまで来るってのは不可能だろ?」

 

 俺はコイツがいるからよ。そう言って腰に付けていたボールの一つを取って放り投げると、中から大きな鳥のポケモン、ピジョットが出てきた。ピジョットは何故呼ばれたのか不思議そうに小首を傾げると、グリーンに頭を擦り付けた。

 

「こいつは戦闘用じゃなくて移動用ってことで借りてるポケモンでな、こいつを使って山の上を越えて1日で来たってわけだ。ウィン、お前は誰かに乗せてもらったのか?」

「ここまでは、徒歩で来た」

「徒歩? ……はっはっは、お前笑いのセンスがあるよ。一日で山を越えてここまで来るなんて、一日中走り続けるんでもなきゃ無理に決まってるだろ」

 

 本当の事を言っても否定されるなんて、やっぱりコイツは妙に気に食わない。斜に構えた態度で話しかけてくる辺り相当性格が悪いに違いない。俺とはそりが合わないだろうな。

 

「まぁいいや、この後はどうするんだ?」

「……ヤマブキシティに行くかな」

「ヤマブキ? いやまて。今日、ポケモンの治療が終わってからすぐに行くつもりか?」

 

 そうだと言う代わりに頷いてみせると、グリーンは少し引いたような顔で首を振った。

 

「そんな身体の至る所を包帯を巻いたようなボロボロの状態でか? そんなギリギリの状態で旅をするなんて、急ぐ理由でもあるのか?」

 

 急ぐ理由、急ぐ理由か。ジムバッジを集めることと、旅を楽しむこと。この二つを目的に旅をしているが、確かに直近で急ぐ理由は無い。けれどゆっくり観光をして、旅をして、そんなことをしてる余裕があるわけでもない。

 

「いや、べつに――」

「ならさ、俺のパーティ増強を手伝ってくれないか? 俺も昨日カスミに挑んだんだけど負けちゃってさ、新しいポケモンが必要かなって思ってるんだ」

「……なんで俺が?」

「さぁ、なんでだろうな。な、別に大丈夫なんだろ!」

 

  顎に手をやって少し考えてみる。この話を無かったことにして旅を続けるのも出来る、出来るが……出会いっていうのは新しい発見がある、か。旅を楽しむためには道草も必要なのかもしれない。

 

「それにさ、ヤマブキジムのジムリーダーのナツメはエスパータイプ使いだって言うし、本人もエスパーだって聞くぞ。流石にお前も手持ちが2体、それに相性の悪いズバットを入れたパーティだと厳しいんじゃないか?」

「……そう、かもな。いいよ、手伝うよ、グリーンのパーティ集め」

 

「……! おぉ、それならほら、すぐ行こう! この辺りでケーシィが出るって話で――」

「いや、ポケモンの治療がまだだから」

 

 

 

 

 

 

「……ヤドン、疲れちゃったね」

「や~?」

 

 ヤドンは話を聞いているんだか聞いていないんだか分からない、とぼけた表情で私の事を見つめる。何を考えているのか分からないなんて言ったが、この子とは短くない付き合いだから私にはヤドンの気持ちがわかってしまう。何も考えてない。

 

 とはいってもこの気の抜けた鳴き声に助けられてきた部分もいっぱいあって、ヤドンと私は切っても切れない仲で結ばれている。

 

 

 つい先日に10歳となって正式に旅を始めた私は、初めて自分の力だけでニビシティに足を踏み入れた。トキワの森は野生のむしポケモンに加えて、虫取り少年や短パンの子供などトレーナーが多く、本来であればすぐ抜けるつもりだったのがだいぶ時間を食ってしまう形になってしまった。

 

 ニビシティについてすぐ、私より先に旅立ったウィンを探したが、もうどこにもいない。同じルートを辿っているのであれば、ニビシティについてから周辺でレベル上げやポケモン集め、ニビジムに挑んでいる頃なんじゃないかと思っていた。

 

 ポケモンセンターで尋ねてみると、昨日までは確かにいたが早朝に出ていったという話を聞いたので、私もすぐさまニビジムに向かうことにした。

 

 ウィンはポケモンのことについてあまり詳しくないし、ポケモンのこともポケモンバトルのことも、どちらともあまり興味がないらしい。しかしポケモンバトルの実力は、テレビの中にいるプロのポケモントレーナーと比較しても遜色がないもので、少なくとも並のトレーナーでは相手にならないほど高い。

 

 そんな彼が旅を始めた理由は一つしかない。ジムバッジを集めること。あの時、トキワジムリーダーのサカキさんと戦った後にしていた話では、ジムバッジを集めきってからもう一度会いたいと言っていた。

 

 旅に興味がないと言っていた彼を動かしたのは恐らくあの時の会話に違いないと睨んでいたし、きっとそれは間違いではない。だからこそニビジムに挑んでいるはずだと踏んだのだ。

 

 

 結果としては合っていた。彼はニビジムに挑んでいたし、どういうわけかポケモン一匹。つまりトレーナーズスクールを卒業した際に貰ったポケモンだけで、ニビジムのジムリーダーであるタケシさんを倒したのだ。

 

 私の目標は彼に勝つこと、そのために彼が勝った相手に勝てるくらいではないと彼に追いすがることなんて出来やしない。そう思って私もニビジムに挑んだ。

 

 結果は惜敗……ということにしておこう。相性的には絶対に有利なみずタイプのヤドンを使用したのに負けてしまうなんて、ジムリーダーというのは生半可な相手ではないと思って少し心が折れかけたが、ジムリーダーであるタケシさんからウィンについて話したいと言われて色々聞かせてもらうことが出来た。

 

 ゼニガメ一匹でタケシさんに勝利を収めたこと。そのゼニガメに対する扱いがとてもぞんざいだと感じたこと。そして何かを求めてポケモンバトルをしていること。

 

 その話を聞いたとき、すんなりと理解してしまった。きっと彼は昔から何も変わってないのだ。ポケモンバトルに楽しみを見出すこともなければ、ポケモンに興味を持つこともなく、ただジムバッジだけを目的に旅をしている。

 

 彼は待っているのかもしれない。私を。彼を変えられるのは、私だけ。

 

 そうと決まればニビシティで詰まっているわけにはいかなかった。ニビジムの攻略は一旦後回しにして、彼に追いついて追い越すくらい旅をして、いっぱい仲間を集めなければ。一人ではどうしようもないけれど、仲間とならきっと何でもできる。ジムバッジを集めなおすのは全て済んでからでも大丈夫なのだから。

 

 

「ヤドンはもう、本当に能天気なんだから。……ねぇレッドちゃん?」

「……」

 

 そう言って私は隣を歩いている、一人の赤い帽子を被ったポケモントレーナーに話しかける。帽子を深く被り、髪も目元も殆ど隠しているが、とても中性的で整った容姿をしている。まだ10歳くらいだと男子か女子か分からないような人は結構いるが、レッドに関しては男子とも女子とも判断が付かなかった。

 

「レッドちゃん? レッドくん? どっちなの?」

「……」

 

 首をふるふると横に振って何かを伝えようとしているのは分かるが、あまりにも口数が少ないんじゃないだろうか。初めて会話をしたときだって自分の名前しか言ってくれなかった。

 

「……あ、もしかして。ちゃん付けも、くん付けも嫌ってこと?」

「……」

 

 口元を固く結んで何かを言いづらそうにしているが、本当に何も言ってくれない。けど何となく嫌いじゃない。なんだかウィンに似ているのだ、雰囲気も、オーラも。

 

「じゃあ……レッド、レッドって呼ぶね」

「……うん」

 

 この子――レッドとは、おつきみやまの洞窟で出会った。ハナダシティ側の出口に向かうまで色々あって、ものすごく疲れながらどうにか出口前まで来たのはいいが、ロケット団を名乗る、ボロボロの身体で松葉杖を持った二人組に絡まれてしまったのだ。

 

 ロケット団と言えば、ポケモンの不正売買や解体、密輸、その他多くの犯罪行為を行う犯罪組織で、最近急速にカントー地方で勢力を伸ばしているという話を聞く。

 

 そんな恐ろしい組織の構成員である二人に絡まれて、痛い目に遭いたくなければポケモンを渡せと訴えてきた。確かに怖い、怖いけれど、ボロボロで痛い目に遭った後みたいな二人に言われると恐怖よりも心配が先立ってしまう。

 

 そうは言っても悪い人達というのは間違いないわけで、二人同時にポケモンバトルを挑んできた。ダブルバトルというのはあまりしたことが無く、私の手持ちもヤドンはともかくもう一匹はそこまで戦えるわけではない。

 

 そんな中、通りかかったレッドが助けてくれたのだ。

 

 レッドは私と一緒にロケット団と戦い、ウィンを彷彿とさせるような実力で瞬く間に勝利を収めてしまった。そんなレッドはニビジムを終え、今からハナダジムに向かう途中らしい。

 

 道のりが一緒ということであれば、一緒に旅をするのだっていいだろう。そういうことで、レッドと一緒にハナダシティに向かうため、おつきみやまを抜けた先の4番道路を共に歩いているのだった。

 

 レッドと一緒に戦った時はフシギダネを使っていたが、基本的にはいつもボールから出して足元をチョロチョロと動きながら付いてくるピカチュウと一緒のようだ。ずっと出しっぱなしにして長い距離を歩いたせいで、ピカチュウはだいぶ疲れているようだった。

 

「でもレッドは本当に強いね。そのピカチュウ……トキワの森で?」

「……最初に貰った」

 

 レッドは小さい声でそう呟く。男の子か女の子か、声や見た目じゃあまり判断が付かない。そんな色々と謎の多い子だが、口数が少ないのも悪気があるわけではなく、きっと単純に口下手なんだろう。ピカチュウに接する態度や一つ一つの所作から、とても優しい性格をしているんだろうということがすぐに分かった。

 

「ピカチュウが最初に貰ったポケモン?」

「……」

 

 コクンと頷いたレッドは、歩き疲れてフラフラと蛇行をし始めたピカチュウを拾い上げて頭の上に乗せている。普通に重いから首の負担が凄そうだけど大丈夫なのだろうか。

 

 マイペースで生きているなと、傍からレッドを見ていて強く思うが、なんだかそれがとても懐かしく感じられる。スクール時代にレッドのようなマイペースな日々を送っていた子を私は知っていた。

 

「レッドはなんだか……私の友達に似ているんだ」

「……友達?」

「うん。口数が少なくて、マイペースで、それでポケモンバトルが凄く上手な友達がいるんだ」

「ポケモンバトルが、上手……」

「うん。レッドにだって負けないくらい強いんだ。私はその友達に――――」

 

 ハナダシティまで、あと少し。

 




ご存じかもしれないですが、別視点での時系列は若干ぐちゃってます。
主人公視点だけが真実です。


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くろいまなざし

 ケーシィを欲しがっているというグリーンに連れられて、本来行く方向とは反対のハナダシティの北出口から出て、24番道路と呼ばれる道を歩いていた。

 

「なるほど、だからジムで貰えるわざマシンの代わりに現金を要求したのか」

「まぁ、そんな感じ……」

 

 グリーンは俺が孤児院出身という話を聞いて、ジムで現金を要求した理由を理解したようだった。

 

 所持金に余裕はないが、別に何か大量に物を買ったわけでもないため、現在の所持金だと一ヶ月どころか二ヶ月くらいなら特別生活に困ることはないだろう。

 

 貧乏トレーナー救済のためなのか分からないが、ポケモンセンターでは最低限の食事と寝床、それからシャワーや洗濯機なんかも無償で提供されているので、本当にギリギリの状態でもなんとかやっていける。

 

 逆を言うとギリギリの状態でやっていけるせいで、実力のあるトレーナーとしての芽が出ない弱小トレーナーであってもどうにかやれてしまい、いつしかリカバリーが利かないような事態になってしまうこともあるらしいが。

 

 あまり細かい事情は伝えなかったが、ジム戦終了後、カスミに金欠でわざマシンを貰うより直接現金が欲しいと伝えたところ、ジムバッジを取得した数でトレーナー助成金のようなものが支給されるという話を聞いた。

 

 ジムバッジ4つ。これが助成金を受け取ることができるようになる最低条件で、ジムバッジを更に集めていくと追加で助成金が貰えるらしい。というのもジムバッジ4つというのはプロのポケモントレーナーの登竜門とも言われており、ジムリーダー側にハンデがあるジム挑戦の中、ジムバッジ4つも取得できないトレーナーはアマチュアですらない、ルーキーや、ビギナーと呼ばれている。

 

 そういった諸々の事から、ジムバッジを4つ集めれば多少は生活がマシになるということで、お金のことをそこまで重要視する必要がなくなったのだ。

 

 だからこそ今回のようにグリーンとのポケモン散策に付き合っているし、旅に必要な道具をいくつか買い揃えることもできた。

 

 グリーンは少し申し訳なさそうな表情を浮かべて顔を背けた。

 

「悪いな、変なこと聞いて」

「いや、別に」

 

 実際のところ本当に気にしているわけでもなかった。野生のポケモンに襲われて死んでしまったり、大怪我を負ってしまうようなトレーナーは少なくないし、別に街の中にいても確実に安心なわけでも無い。少なくとも俺はチートを持っていないのであれば旅には出ない選択肢を取っただろう。

 

 様々な理由で親を亡くした子供が孤児院に来るのを見ていたし、別に親がいないことが特別珍しいわけでもないのだ。

 

「あ、ケーシィだ」

「ホントか!」

 

 俺の視線の先にある草むらの中で、黄色い狐のような姿をしたポケモン、ケーシィが座り込んでいた。目が開いているのを見たことが無いが、視界はちゃんと見えているのだろうか。

 

「確かにいるな……よし、いけ、ヒトカゲ」

 

 グリーンはケーシィを目視で確認すると、手元に握りしめていたモンスターボールからヒトカゲを出した。グリーンはヒトカゲの頭を軽く撫でてケーシィに指を向ける。

 

「あいつを弱らせるぞ、倒すなよ。『ひっかく』だ」

「カゲ!」

 

 ヒトカゲは『ひっかく』の指示を受けると、ケーシィに向かって飛び掛かっていく。ケーシィはヒトカゲが肉薄する寸前までピクリとも動かず、寝ているんじゃないかと思うほどだったが、『ひっかく』が当たる直前になっていきなりその場から消え去る。

 

「ちっ、『テレポート』か!」

 

 グリーンはポケットから物珍しい赤い機械を取り出すと、機械の画面と『テレポート』で離脱したケーシィを交互に見ている。俺がケーシィより機械の方に興味を持ってジッと眺めていると、俺の視線に気づいたのかグリーンはこちらを見返した。

 

「これは……ポケモン図鑑っていって、俺の祖父――オーキド博士から貰ったもので、出会ったポケモンの情報がこの図鑑に登録されていくんだ」

「へぇ。ポケモン図鑑、オーキド博士……」

 

 オーキド博士という名前は多くのニュースや新聞、雑誌などでいくつも取り上げられており、とても権威のある研究者として有名で、人名を覚えるのが苦手な俺でも知っているくらいには知られている。

 

 たしかマサラタウンに研究所を構えているという話をどこかで聞いたことがあるが、そのオーキド博士の孫がこいつ(グリーン)だっていうのは、世の中案外狭いものだなと思ってしまう。

 

「ケーシィ……眠った状態でも気配を感じ取ってテレポートで逃げる……か。さて、どうしたものか」

 

 グリーンはヒトカゲに『ひのこ』で攻撃してみるように指示を出し、ヒトカゲが口から小さな火球を放ったが、ものの見事に避けられてしまっていて、どうにも当たる気配がない。

 

 一日中追いかけまわしていれば、もしかしたら疲れたタイミングで捕まえられるかもしれないが、グリーンだってそんな徒労をしたくはないだろう。俺は腰に取り付けていた空のボールと、ポケモンの入ったボールを一個ずつ取り出した。

 

「ウィン? いったい何を――」

「ズバット、『くろいまなざし』」

 

 ズバットの『くろいまなざし』がケーシィを捉えてテレポートを抑制させる。ズバットに目があるわけではないので、どうやって『くろいまなざし』を使っているのか良く分からないが、とにかく瞬間移動を制限させた。

 

 あとは持っていたモンスターボールを投げるだけだ。右手に力を込めてボールを投げつけると、思っていた以上に力が籠っていたのか、文字通りの剛速球で放たれたボールがケーシィに吸い込まれるように飛んでいき、あっさりと捕まってしまった。

 

「うわ、ポケモントレーナーじゃなくて野球選手でもやっていけそうだな」

「人気ないだろ」

「は、そうだな。お前は人気出なさそうだ」

 

 俺じゃねえよ。そんな文句は飲み込んで、捕まえたばかりのケーシィが入ったボールを渡す。グリーンはいきなりボールを渡されて少し驚いた様子だったが、大人しくボールを受け取ると、顔を見てきた。

 

「……いいのか?」

「……代わりのボールはくれ」

「あ、それならこいつを――」

 

 そう言ってグリーンは腰に取り付けていたボールの一つを俺に手渡してきた。空のモンスターボールかと思ったが、どうやら何かポケモンが入っているようだ。

 

「そいつはゴース。ちょっと前に捕まえたんだけど、今回ケーシィを貰ったからその交換ってことでいいか?」

「交換、か」

 

 ポケモンの交換なんて俺にとっては中々縁のないことかと思っていたのに、案外できるもんなんだな。少し感慨深く思いつつも俺は頷いて了承の旨を返す。それを見ていたグリーンも満足そうに受け取ったケーシィの入ったボールを腰に取り付けていた。

 

 やることは終えたので、余った時間で24番道路に設置されているゴールデンボールブリッジと呼ばれる金色に光る橋を観光して、日がそろそろ暮れてきそうだということで、これからポケモンの訓練(レベル上げ)をすると言っていたグリーンと別れることになった。

 

 知り合いのポケモン捕獲を手伝ったら新しくポケモンを貰った。そんな棚から牡丹餅とも言える幸運に恵まれた俺は、新しくポケモンを捕まえる必要性がないことを素直に喜ぶことにした。

 

 手持ちを増やすメリットとして、手持ちが多ければ旅をする際に危険に陥る可能性を減らすことが出来るし、何かしらの要因で1匹2匹ポケモンが使えない状態になってもリカバリーできる。『ひんし』の状態であっても、『げんきのかけら』という回復道具を用いることで、一時的にポケモンを働かせることは可能だが、未だ金欠の身ということで無駄に浪費する余裕はないのだ。

 

 結局今日はハナダジムでジムバッジを手に入れて、ハナダシティや24番道路付近を観光し、足りていない物資を買うだけで1日が終了してしまった。

 

 

 

 次の日の早朝になると、ポケモンセンターの個室をチェックアウトして、次の街へ向かうための最終準備を行っていく。旅をするにあたって必要な荷物を確認し直したところ全く足りていなかったので、荷物はちょっと増えてしまったがある程度は買い揃えることができた。

 

 残りは自分の手持ちの様子だった。カメールとズバットの回復は昨日には全て終えていたので特に気にすることは無かったが、結局昨日いっぱいボールから出していた問題のポケモンをようやく出すことにした。

 

「ゴース、ね」

 

 どういう状態かを確認するために貰ったゴースをボールから出してみたが、確かに『ガスじょうポケモン』と呼ぶべき見た目をしている。紫色のガスを纏った黒い球体。それに顔がくっ付いている、そんな形をしたゴースは俺がする指示を待っているのか、何もせず空中を漂っている。

 

 レベルは20程度のようで、使える技も微妙なものばかりのようで、盾として置いておくにはあまりにも弱い。ゴーストタイプを持っているようで、物理的な意味での盾になることもできないだろう。

 

 こいつが使えるかどうかはともかく、タダ飯喰らいにならない程度には使わなければ勿体ないので、ズバット同様率先してバトルに出してやるべきなんだろう。

 

 出したのは良いが、状態を確認するためだけに出したので、すぐにボールの中に戻ってもらう。ゴーストタイプのポケモンが普通のポケモンフードを食べるのかは確認する必要はあるが、食費が増えることは間違いない。結局のところ、金欠の問題は何も解消されていないため、ジムバッジは早々に集めていかなければならないだろう。

 

 

 ジムバッジを手に入れる。そんな皮算用を終えた俺はポケモンセンターから一歩踏み出して外に出る。次のヤマブキシティへの距離自体はそう遠くないが、街についてからすぐにジムに行きたいので、出来れば早めに行動したい。

 

 そして俺は見知った顔に鉢合わせをしてしまう。

 

「――あ!」

「……」

「……アキか」

 

 相変わらず綺麗に伸びたブラウンのストレートヘアー。そして栗色の大きな瞳。スクール時代は常に成績は上位で、人望も性格も全てが優れている。幼いながらも整った容姿をしていて、トキワシティで最もかは分からないが、少なくともトレーナーズスクールでは最も綺麗な容姿をしていて、男女問わずモテていた。

 

 そんな少女とハナダシティでばったりと会ってしまった。

 

 数日前に会ったばかりなので、別に懐かしいと思うことはないが、アキはそうでもなかったのか何が楽しいのか瞳をきらきらと輝かせて俺を見つめている。

 

「ウィンは、もうこんなところまで来てたんだ?」

「そうだね。昨日くらいには到着してたよ」

「昨日!? いや、でも、おかしくはない……かな? ウィン君って昔はすごい運動できたよね? あの時くらい体力があるなら、いけるのかな?」

「……スクールに入って1,2年くらいの間はね」

 

 今ではちょっと暗い子供のようになっていたが、トレーナーズスクールに入学した当初、俺はとてつもなく運動が出来た。しかし、トレーナーズスクールに入学して暫くしてから図書館に引きこもり始めて全く運動をしなかった結果、数年でみるみるうちに体力や身体能力は衰えていった。

 

 旅を始めた当初は街から街への移動で筋肉痛になってしまうほどだったが、昨日今日は筋肉痛に悩まされることも少なくなっていたので、すっかり気にしていなかった。

 

「……も、もしかしてもうヤマブキシティに行っちゃうの!?」

「そのつもりだけど」

「……あの」

 

 信じられないとばかりの表情を浮かべたアキ、そしてその隣にいた赤い帽子を被り、両腕の中にピカチュウを出したままの……男、女? トレーナーが話しかけてきた。あまりにもか細い声で一瞬気づき損ねたが、俺の耳は決して悪くない。声の主に視線が向く。

 

「あなたが、ウィンですか?」

「……そうですけど」

「そう、ですか」

 

 何か納得したように頷いて帽子を深く被った。見るからに変人の部類であまり関わり合いになりたくないが、真横にいるということはアキの友人か何かなのだろう。

 

 どう見ても変人の類で、いかにも根暗そうな人物だ。俺も少し根暗なので分かるが、こういう人物は誰かと会話をするのは苦痛と感じるタイプだ。相手の事も考えて、俺はもうこの辺りで話を切り上げて次の街へと向かう旨を伝えた。

 

「……もう行っちゃうの?」

「まぁ、うん。ジムバッジが必要だし」

 

 それで話を終えると、諦めたように何か口でもごもごと言っていたが、納得したのか頷いていた。俺は改めてアキと、アキが『おつきみやま』で知り合ったというポケモントレーナーのレッドという人物に軽く挨拶をして別れることにした。

 

「アキと……レッドさん?」

「……レッドでいい、です」

「……アキとレッド、じゃあ俺は行くんで」

 

 

 そして俺はハナダシティを出て、ヤマブキシティへ向かう道のりである5番道路をゆっくりと歩き始めたのだった。

 



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ギガイアス

「一時閉鎖、ですか」

 

 ハナダシティを出てから暫くの間ずっと南に進み、ついにヤマブキシティへと到着した。距離的にはそこまで遠いわけではないが、目と鼻の先というわけでも無い。特におつきみやまの移動はだいぶ強行軍だったのを反省して、ハナダからヤマブキシティへの移動は少しゆっくりにしてみたが、案の定一日以上掛かっての到着となってしまった。

 

 空を見上げればすでに明るさのピークが過ぎて、後は沈むだけになるのが分かった。もうあと1,2時間もすれば夕方から夜に移り変わっていくだろう。

 

 ヤマブキシティはカントー地方を上から数えて1,2位を争うほどの大都市で、いくつもの巨大なビル群が立ち並び、人口も他の街と比較して倍以上もあるという。

 

 そして巨大企業の一つであるシルフカンパニーの本社が置かれており、人口、施設の発達具合を見れば、カントー地方で最も発展している都市と言って間違いないだろう。

 

 そんな大都市ヤマブキシティは街の中と外を区切る目的で、ヤマブキシティの東西南北に出入り口を管理するためのゲートが設置されている。ゲートを除いた街の周囲は柵や壁で塞がれていて、ゲート以外からの勝手な侵入を極力防ぐような作りになっていた。

 

 ハナダシティから真っすぐ歩いてヤマブキシティに到着し、北口のゲートに入ったのはいいが、ゲートを管理する警備員に止められてしまい、冒頭のセリフを言われてしまったのだった。

 

「はい。今、ヤマブキシティは一時入場を制限させていただいております。詳細をお伝えすることは出来ませんが、現在ヤマブキシティの治安に関わる非常に深刻な問題が発生していて、その問題を解決するまで暫くの間、一般の方を街の中に入場させることが出来ない状況となっています」

 

 どうかご了承の程、よろしくお願いします。警備員がそう言って申し訳なさそうに頭を下げるのを見て心中でため息をつきつつ、しょうがないと切り替えることにする。

 

 警備員側も似たような話を連日続けているのかあまり休みが取れていないようで、目元には隈が浮かび、見るからに寝不足で疲れ切っているようだ。何か飲み物でも奢りたいところだが、生憎ヤマブキシティに入ることも出来なければ飲み物も最低限しか持ち合わせていない。

 

 何を考えてもヤマブキシティに入ることが出来ないのは変わらないだろう。警備員に別の街への移動ルートとして、ゲートを出てすぐ傍にある地下通路からクチバシティに向かうルートを勧められた。

 

 緊急避難用として作られた地下通路で、ヤマブキシティの北口から南口のゲートと、東口から西口のゲートを繋いでいるらしい。どうしてこういう作りになっているのか理解できないほど使いにくい構造をしているが、どちらにせよ地下通路を通ってクチバシティに向かうか、大幅に戻ってハナダシティを東に向かうしか道は無い。

 

 ハナダシティにもう一度戻るか、すぐ傍の地下通路を進んでいくか。俺は少しも悩むことなく地下通路を通ることを選択した。クチバシティに向かう道がすぐ傍にあるのにわざわざハナダシティまで戻るのもおかしな話だ。

 

 

 警備員に感謝の言葉を告げて地下通路に降りていくと、最低限の照明が等間隔で設置されているだけで殆ど直線の道が広がり、薄暗い闇の中へと繋がってる。

 

 ヤマブキシティの地下を通っているだけあって、ここを抜けるのはヤマブキシティを縦断するのと同じだ。ビルや壁、柵、人込みなどの障害物が全くない地下通路の方がヤマブキシティ縦断より圧倒的に早いはずだが、それでも長い間この暗闇の中を歩かなければならないのは少し億劫に感じた。

 

 地下通路を通っている最中にトレーナーともすれ違ったが、流石にこの暗くてあまり広くない通路の中で戦おうと考える者はいないようで、俺の事をちらりと見るだけですぐに通路の奥に消えていった。

 

 しばらく暗闇の中を進んでいけば、ようやく地下通路の出口らしきものが見えてくる。出口から伸びる日光によって出口付近は照らされて、外に続くであろう上りの階段がハッキリと目に入った。その階段を一段飛ばしで歩いて出口を抜けると6番道路が広がっていた。道路の先には海と、海に隣接するよう形で発展を遂げたクチバシティが既に見えている。空は徐々に暗くなりつつあるが、この距離なら夜中にでも到着できるだろう。

 

 

 

 

 

 地下通路を出てから数時間経ち、クチバシティにようやく到着した。

 外はもうだいぶ真っ暗で、地下通路を抜けた時に想定していた時間より大幅に遅れての到着となってしまった。理由は簡単で、外にいたトレーナー、いわゆるキャンプボーイ、キャンプガールに勝負を挑まれてしまったからだった。

 

 一人のキャンプボーイにバトルを挑まれ断っていると、後ろから新しいキャンプボーイやキャンプガールがぞろぞろと集まってきて、最終的には3人のトレーナーに囲まれてしまうこととなった。

 

 子供は大人と違って感情的に行動してしまうきらいがある。ポケモンバトルをできない、したくないといった俺の言葉は、血の気の多い少年少女にとって相容れないものらしく、ポケモンが『ひんし』では無いのならバトルは絶対やるものだという態度だった。

 

 ロケット団のようにトレーナーに対して攻撃を行ってくる相手であれば、こちらも正当防衛として相手に直接攻撃をするのが手っ取り早い。だが、彼らは最低限トレーナーとしての体裁を整えている。暴力的な行動に出るのは負けた気がして良くないし、かといってポケモンバトルで一人ずつ相手にするのはあまりにも時間が掛かってしまう。

 

 

 色々悩んだ末に、俺は3人同時――いわゆるトリプルバトルを行うことを提案した。彼らはダブルバトルを知っているようだったが、トリプルバトルについてはあまり知らなかったようだった。しかし興味を持ったようで、どちらにせよポケモンバトルが出来れば満足らしい。

 

 そうして3人同時に相手をしてみたが結局負けることは無く、3人を一蹴とはいかなかったが、問題なく勝利を掴むことができた。

 

 ポケモンを同時に3匹出したところでトレーナーが命令できるのはポケモン一匹のみ、トリプルバトルでトレーナー3人を相手にする以上、命令できる対象の数で大きくハンデが付いてしまう。

 

 このハンデを埋めるのは口が3つあって同時に別々の動きを命令できるようになるか、命令していないポケモンが勝手に動き、相手のポケモンと戦ってくれるのを期待するくらいだ。とはいえ、ジムリーダーほどの実力も無いトレーナーと戦ったとしても、その程度のハンデで負けることは無かった。

 

 本当にただただ無駄に時間を消費しただけではあるが、クチバシティに到着することは出来ているので、当初の予定通りということで納得する。

 

 港町、夜中でも関係なく漂ってくる潮風の臭いに吐き気を抑えつつ、早々にポケモンセンターへと直行する。街に着いてからの行動は既に手慣れたもので、ポケモンセンターに行って早々に寝床を確保するのは優先的にやるべきことだと学んでいた。

 

 

 先ほどまで眠っていたらしい寝ぼけまなこで目元を擦るジョーイさんにボールを預け、空いているという個室を借りることに成功する。

 

 港町ということで船員や旅行客など多くの人がクチバシティに来ているので、ポケモンセンターに泊まる者も決して少なくないという考えだったが、案外そうでもないらしい。ポケモンセンターに泊まるのは殆どがポケモントレーナーだけで、旅行客はちゃんとしたホテルに泊まるのが常識なんだと、ジョーイさんからそういった内容とその理由について教えてもらったが、理由の方は殆ど聞き流してしまっていた。

 

 話半ばで切り上げ、借りることのできた自身の個室に入ってベッドに飛び込む。

 

 2日、3日は外だったか? あ、いや、1日程度だったかもしれない。だが外で野宿していた日数を数えるのは意味のない行為に他ならない、どちらにせよ久々のベッドの上で俺は信じられないほど疲れていた。

 

 ベッドから這いずり出ると、バッグの中に入っていたエナジーバーを取り出して一口二口とかぶり付く。口の中に甘ったるいチョコレートの味が広がり、不快感が鼻腔を駆け抜けていくのを、顔をしかめて受け入れつつ咀嚼していく。

 

 エナジーバーが美味しくない問題について三日三晩でも語れるくらいの不満はあるが、それをぶつける相手はどこにもいない。口の中でボロボロになったエナジーバーの欠片を、バッグから取りだした水で流しこんで終わりにする。

 

 夜中のため食事は明日の朝だ。今日は取り敢えずシャワーに入って、それから、それから、それから……――――

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中で小さな、幼い、もっと幼い頃の自分と出会った。

 

 黒い霞にまみれて顔も見えない、おそらく両親であろう男女二人に支えられている小さな身体。

 

 物心が付いたときか、付いていないときか。記憶すら曖昧な幼い時期の出来事を、こうやって夢の中で再現するように思い出すことがある。いや、こんな明晰夢のような夢現の状態でしか思い出すことができない。

 

 ちょうど今日、クチバシティに着いたときに嗅いだ潮風。俺は船にいて、両親と一緒に乗っていた。

 

 ポケモンバトルかどうとか、人生がどうとか、ポケモンとか、赤ん坊と変わらない頃の自分には全く理解できない言葉をずっと話し合っていて、その時に見せてくれたポケモンがそうだ、ギガイアス。ギガイアスという名前だった。

 

 その後の事はあまり夢の中では再現されない。雷、強い風、打ち付ける波。モンスターが存在するこの世界では当たり前に起きる事故が発生して、俺は孤児になった。

 

 それだけ。たったそれだけ。

 

 

 

 目が覚めたのはもうとっくに朝で、シャワー行かなくちゃなんて考えて寝落ちしてしまったのはもう明白だった。予定は変わらず、シャワー、ご飯、ボール回収、クチバジム、あとは軽く観光して……荷物を整えて追加で一泊か。

 

 明日の朝にクチバシティを発てるように色々やることはあるが、取り敢えずシャワーに入ってから全て考えよう。もう汗で服がベトベトだ。

 



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クチバジム

 汗を流して前日に預けたポケモンを受け取り、少し遅めの朝食を摂ってからポケモンセンターを後にする。

 

 クチバジムに向かうまでの道中で、改めてクチバジムに関する情報をまとめていく。でんきタイプを扱うジムで、ジムリーダーの名前はマチス、別の国の元軍人だという。外国の元軍人でも問題なくジムリーダーになれるのは不思議だと思ってしまうが、そういうものなのだろうか。

 

 逆に国籍や経歴は特に問わず、相応の実力があればジムリーダーになれるのだろうか? もし自分の将来で食うに困ったのなら、ジムリーダーを目指してみるというのも良い選択肢かもしれない。

 

 そんな話はともかく、今回のジムで使用されるのは『でんきタイプ』で、俺の持っているポケモンとの相性があまり良くない。カメールもズバットも相性的には最悪だし、いきなりゴースを起用して活躍できるのかという問題もある。

 

 しかし正直なところ、自分の才能チート(オートバトル)がどれだけ不利な状況で勝利に導けるのか気になるところではある。テレビを見ている限り、ポケモンのタイプ相性が悪くとも試合に勝利しているトレーナーというのは少なくない。多少の不利であってもトレーナーの指示が良ければ幾らでも試合はひっくり返すことが出来るのだ。

 

 

 ジムの前に到着したがどうにも人が少ない。今までのジムのように多くのトレーナーが訪れているわけではないようで、ジムの外観を見る限り他のジムと同じく大きいのだが、それが逆に人気の無さを浮き彫りにしているようだ。

 

「君は……ジム挑戦希望者かい?」

 

 入口の前に立っていると、中から大柄な船乗りのような恰好をした男が出てきた。ジムトレーナーというのは別の職業も兼任していることが多いようだが、この船乗り姿の男もジムトレーナーなのだろうか。疑問を抱えつつも質問には首を縦に振って答えた。

 

「マジかよ! あー……ちょっと待ってくれよ。 マチス!」

 

 俺を入口前に立たせたまま、船乗りの男は踵を返してジムの中へと駆けていった。何か込み入った用事でジム挑戦が出来ないのかもしれない。

 

 少し待つと、先ほどの船乗りの男が戻ってきて、手をサムズアップの形に変えて爽やかに笑った。

 

「ジム挑戦、オッケーだ。申し訳ないが、ジムのギミックが今調整中でな。本来ジムリーダー挑戦のためにやってもらうチャレンジがあるんだが、今回それは無しとさせてもらいたい。大丈夫かな?」

 

「チャレンジ、ですか」

「ああ、中に入ってくれ」

 

 船乗りのジムトレーナーに続いてジムの中に入る。ジム内はまるで体育館のような部屋の作りになっていて、部屋の中には大量のゴミ箱が、それも中身がぎっしりと詰まった状態で、等間隔に設置されている。

 

「……?」

 

 俺が等間隔に置かれているゴミ箱の意味を探っていると、ジムトレーナーは笑いながら、本来のジムチャレンジについて教えてくれた。

 

「クチバジム、ジムリーダーのマチスは元軍人で、とても用心深い男なんだ。ジムリーダーがいる部屋に向かうための扉には鍵が掛かっていて、その鍵を開錠するためのスイッチが――」

「……このゴミ箱の中」

「そういうことさ。ただ、生憎今日はこの鍵の点検日でな。一時的にスイッチを切ってあるんだ。だからゴミ箱漁りは無しってことだ」

 

「なるほど、分かりました」

 

 何故このジムの人気が無いのか良く分かった。ジムに挑戦しに来たと思ったらゴミ箱を漁らなければならなくなるとは思いもしないだろう。他のジムでも挑戦するために似たようなチャレンジが設けられているところもあると見たことがあるが、流石にゴミ箱を漁るチャレンジは他に無いだろうな。

 

 ゴミ箱を漁る手間が無くなった代わりにジムリーダーへ挑戦するためにジムトレーナーと戦う必要があるという。俺はその提案を受け入れると、すぐさまジムトレーナーとの対戦に移ることになった。

 

 

 

 ジムトレーナーと共に別室のスタジアムに移動して、試合を始める前にルールのすり合わせを行っていく。ジムトレーナー、挑戦者どちらも使用するポケモンは一匹のみ。ジムバッジの所持数や時々でルールは違うらしいが、今回は割と厳しい条件だという。

 

 1対1はポケモンの入れ替えが出来ないので、トレーナーの腕が如実に出てしまうという。ジムバッジを何個も持っているトレーナーであっても、ポケモンを自由に入れ替えることのできないルールというのは非常に苦戦するものらしい。

 

 

「さぁ、準備はいいか?」

「大丈夫です」

 

 ジムトレーナーの『ふなのり』タツヒコがニヤリと笑った。

 

「ジムバッジを2つ持っているからと言って、簡単に突破できると思ったら大間違いだぞ! 行け、ピカチュウ!」

「行け、ゴース」

 

 ボールの中から現れたピカチュウとゴース。どちらも出た瞬間には技の準備に入っていた。

 

「ピカチュウ、『かげぶんしん』だ!」

「『あやしいひかり』」

 

 ゴースが口の中で怪しく光る球状のエネルギーを作り出し、それを『かげぶんしん』に入る前のピカチュウにぶつける。

 

「ピ、ピカッ……?!」

 

 『こんらん』状態に陥ったピカチュウはその場でフラフラと千鳥足を踏みながらも、必死に踏ん張って『かげぶんしん』を行う。しかし『こんらん』状態で作りだされた『かげぶんしん』は不安定で、本体のピカチュウ以外の『かげぶんしん』はどこか掠れている。

 

「バレバレか、なら『でんきショック』だ、ピカチュウ!」

「ピ――カッ!!」

 

 指示を聞き入れ『でんきショック』を放つピカチュウだったが、『こんらん』によって狙いが定まっていないようで、周囲に電撃を放ってしまっている。ゴースはそんなピカチュウを見て隙が出来たと感じているのか、攻撃指示を待つようにチラリと俺の方を見た。

 

「近寄るな、『あやしいひかり』だ」

 

 ピカチュウは周囲に電撃を滅茶苦茶に撃っていて『こんらん』状態のように見えたが、ゴースが『あやしいひかり』を撃つのを見ると大きく後ろに飛び退く。そしてその場には小さい食べカスが、何かの『きのみ』を食べている痕跡があった。

 

「ラムのみ、知っていたのか?」

「……さぁ?」

 

 俺がそう答えると、ジムトレーナーは更に深い笑みを浮かべた。

 

「状態異常への対策を読んでいたか、それともたまたまか――しかしまだ試合は終わってないぞ! ピカチュウ、『でんこうせっか』に『かげぶんしん』だ!」

「『うらみ』、『さいみんじゅつ』だ」

 

 『でんこうせっか』によって高速でスタジアムを駆け巡り、『かげぶんしん』によってデコイを増やしていくピカチュウ。ゴースは『さいみんじゅつ』をピカチュウに向かって撃つが、疑似的な高速移動の環境では当てることはできないだろう。

 

「打つ手なしと見える! ピカチュウ、『エレキボール』を撃て!」

「ピッ!」

 

 素早くゴースの死角に移動したピカチュウは、自身のイナズマ状の尻尾からボール状の電気の塊を圧縮した技『エレキボール』を撃ち出した。

 

 背後から『エレキボール』を受けてしまったゴースは少し吹き飛ばされてしまうが、これくらいのダメージで倒れることはない。ジムトレーナーはその様子を見て、改めて『かげぶんしん』を指示する。

 

「ピカチュウほど速くはないが、レベルが低いわけではないか。あとどれだけ耐えられるかな! 『かげぶんしん』を続けるんだ!」

「『あやしいひかり』、『うらみ』」

 

 スタジアムの中心にいるゴースを取り囲むように、ピカチュウの『かげぶんしん』が大量に出現している。『あやしいひかり』をがむしゃらに撃ってみるが、勿論それで当たるわけもない。

 

 ゴースの使える技の中に『かげぶんしん』をまとめて攻撃できる技はない。『シャドーボール』や『あくのはどう』で一掃できるが、現在のゴースのレベルでは到底使えるものではなかった。

 

「『エレキボール』!」

「『あやしいひかり』」

「避けろピカチュウ! 『かげぶんしん』だ!」

 

 非常に命中率の高い技である『あやしいひかり』を確実に避けるため、『かげぶんしん』と『でんこうせっか』での回避を行っているピカチュウは、攻撃よりも回避を優先している。

 

「『あやしいひかり』をもう一度だ」

「『かげぶんしん』を、ピカチュウ!?」

 

 ピカチュウは『かげぶんしん』を行おうとゴースの周囲を走っているが、先ほどまでの勢いは完全に削がれ、『かげぶんしん』を使う事が出来なくなっている。

 

 『でんこうせっか』によってスタジアムをぐるぐると回っているだけのピカチュウに対して、『あやしいひかり』が命中する。

 

「なっ、なぜ――」

「『さいみんじゅつ』」

 

 再び『こんらん』状態に陥ったピカチュウに重ねて『さいみんじゅつ』を撃ちこんでいくゴース。当たりづらい技ではあるが、『こんらん』によって動きの止まったピカチュウに当てるのに苦労はしない。

 

 何も出来ずに『ねむり』へと陥ったピカチュウはスタジアムに沈んでいった。

 

「――『たたりめ』だ」

 

 どれくらい『ねむり』状態が続くかで次の攻撃が変わったのだろうが、今回は直接攻撃することに切り替えたようだ。本日初めての攻撃である『たたりめ』によってピカチュウを攻撃する。

 

「ヒ“、ビカ”ァ“……!」

 

 ゴースは今までの恨みを晴らすように、ピカチュウの首元を締め上げていく。本来であればここまでの威力は出ないはずだが、『ねむり』状態のピカチュウには非常に効果的のようだった。

 

 『ねむり』状態のままのたうち回るピカチュウだが、不定形でガス状のゴースに対してはほぼほぼ無力。『ねむり』状態が解除されるまで待つしかないが、残念ながら今回の睡眠パターンは死ぬまで起きないだろう。

 

 苦しそうな表情で見つめるジムトレーナーだったが、『ひんし』に陥る直前になって慌てて大きな声を出した。

 

「ま、負けだ! 俺の負けだっ!」

 

 その声を聞いてゴースはチラリと俺を見る。あんな卑怯な戦法を使ってきて憎いのは分かるが、俺に対して「どうしますか兄貴」みたいな顔で見られても困ってしまう。トレーナー戦であることを考えてほしい。

 

 俺が首を横に振ったのを見て、ゴースは渋々とピカチュウから離れてこちらに戻ってくる。ゴーストタイプのポケモンはどうにも陰湿な奴ばかりのようで嫌になる。俺はゴースの顔を見ずにボールへと戻した。

 

「ピカチュウ、大丈夫か!?」

「……ビッ、ビピッ」

「待てよピカチュウ、すぐに回復してやるからなっ」

 

 痙攣状態に陥っているピカチュウをボールへと戻して回復マシンにセットすると、ジムトレーナーのタツヒコはその場に座り込んだ。

 

「はぁ。勘弁してくれ、ゴーストタイプとの対面は胃に悪いんだ」

 

 そうは言っていたがすぐに立ち上がると、手をハンカチで軽く拭ってから俺に握手を申し込んできた。

 

「お疲れ、今の戦いには驚かされたよ」

「……どうも」

「盤面に踊らされない君の冷静沈着な指示があってこその勝利、胸を張ってくれ」

 

 ジムトレーナーは先ほどの戦いなんて無かったかのように笑って俺の肩をバンバンと叩いた。それからすぐに少し驚いた声色のまま話を続けた。

 

「な、見かけによらず結構鍛えてあるんだな、納得だよ。マチス少佐――マチスは試合の結果を見て君の挑戦を受けるつもりだそうだ。しばらくしたらここに来るから、それまでポケモンの回復をして待とうか」

 

 どうやらジムリーダーに挑むことはできるようだ。ポケモンをジムトレーナーに預けて回復とジムリーダーの到着を待つ間、手持ち無沙汰になった俺はスタジアムに設置されているイスに座って待つことにする。

 

 バッグから旅のガイドブックを取り出して読み始めれば、次の試合を待っている間の時間はさほど気になることは無かった。

 



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ビリリダマ

「ヘイ! ユーの戦い見てましたヨ! なかなか良いタクティクスを持っていますネ!」

 

 大きな声でそう叫びながらスタジアムに入ってきたのは、クチバジムのジムリーダーであるマチスだった。がっしりと鍛えられた身体を勲章がいくつも付けられた迷彩服に包み込み、短く整えられた金髪に碧眼、文字通り外国の軍人という風貌だ。

 

 マチスは強面の容姿に見合わないほどフレンドリーな態度で慣れ慣れしく肩を組んでくる。こういった輩は無駄に抵抗すると面倒なことになると俺は知っているので、愛想笑いで早く試合を始めてもらうことを祈るしかない。

 

「戦いのルールは3対3のシングルバトル、モチロン君は交代してもオーケー」

「大丈夫です」

「オーケー。じゃあスタジアムの向かいに立ったらバトル開始デース!」

 

 今までに無いタイプでとてつもなく話しにくい。俺はさっさと回復マシンからボールを回収して、スタジアムの向かい側に移動する。

 

「君の事、チョットは知ってるヨ。プアリトルボーイ? 旅を始めて数日でミーに戦いを挑むなんて身の程知らず! ミーのエレクトリックポケモンはナンバーワン。ユーも戦場の敵ソルジャーみたく、ビリビリシビレさせるよ!」

「はぁ……」

 

 プア……? なぜ俺が貧乏なことを知っているのかとても不思議だが、ジムバッジを複数取っているトレーナーの情報っていうのは案外出回っているものなのかもしれない。

 

 お互いがスタジアムに立って向かい合う。片やモンスターボールを手に、片やハイパーボールを手にしている。マチスは自信満々といった表情で、己の勝利は決して揺るがないとでも思っているのかもしれない。強者特有の自信、俺も見習う所はあるだろう。

 

「準備はイイ? 行くヨー!」

「……どうぞ」

 

「ゴー! ビリリダマ!」

「行け、ズバット」

 

  ハイパーボールの中から出てきたのはビリリダマと呼ばれる、モンスターボールに酷似した見た目を持つポケモンだった。

 

 俺がズバットを出したことにマチスは首を傾げて、理解できないといった様子で尋ねてきた。

 

「ンー? ユーはタイプ相性、知ってマースか?」

「……まぁ、なんとなくは」

「オーケー。知ってて出しているなら、問題ないヨ」

 

 マチスの開かれた眼が細く鋭い目つきに変わっていく。ポケモンバトルのスイッチが入ったのだろう、先ほどから継続していた飄々とした話し方を潜め、まるで人が変わったかのようだ。

 

「行くヨ。ビリリダマ、『でんきショック』」

「電撃全般に当たるな、避けろ」

 

 攻撃指示は出さず、電撃から避けることだけを考えてズバットを行動させていく。ビリリダマは牽制として『でんきショック』をまばらに放ち、こちらの様子を窺っている。飛んで回避に専念しているズバットに対して、直接的ではない電気技では当てるのが困難と判断したのだろう。

 

「勢いが足りないのなら――ビリリダマ、『じゅうでん』だ!」

「『どくどくのキバ』」

 

 電気技の威力を向上させるため、『じゅうでん』を始めたビリリダマに対してズバットは『どくどくのキバ』を当てんと向かって行く。『じゅうでん』を一時取りやめ、ズバットの攻撃を掠りつつもギリギリのところで転がりながら回避したビリリダマを見て、マチスはヒューと口笛でも吹くような声を出した。

 

「『ちょうおんぱ』を撃たない、接触技を使う。……特性分かっているネ、それもミーのビリリダマの特性がピンポイントで? たまたまじゃ無いナ?」

「……どうですかね」

 

 『ぼうおん』という特性によってビリリダマは音に関する技を無効にしている。つまりズバットの『ちょうおんぱ』が効かないため、小細工抜きでビリリダマを押していく必要がある。

 

 タイプ相性は最悪で、搦め手の一つが封じられている。ポケモンを交換するのが得策だとまともなトレーナーなら判断する。だからこそマチスは交換をさせるまいと強気に攻めてくる。

 

「ビリリダマ、『チャージビーム』を!」

「避けろ」

 

 ビリリダマは『どくどくのキバ』によって毒状態になっているが、そんなものは気にしないとばかりに『チャージビーム』を撃ち出してくる。『でんきショック』とは違った直線的な電撃のため、回避をすること自体は難しいことではない。

 

「ハッハッハ、『チャージビーム』は電気を溜めつつ撃ちだす技! 避けてるだけじゃ、ドンドン電気の威力、上がっていくヨ!」

「ズバット、『エアカッター』」

 

 ズバットは『チャージビーム』を回避しつつ、攻撃と攻撃の隙間を縫って、翼を大きく振るい、風の刃と形容するべき『エアカッター』を2つ撃ち出した。

 

「避けろ、ビリリダマ!」

 

 その言葉に反応したビリリダマは飛んできた『エアカッター』を回避しようとするが、『チャージビーム』を放つ体勢からの動きだったため一瞬遅れが生じ、初撃の『エアカッター』が直撃する。

 

 ダメージを受けつつもその場から飛び退いたため2つ目の『エアカッター』を受けることは無かったようではあるが、一度目の『エアカッター』が急所に当たったようで、ビリリダマは大きく身体を揺らしている。

 

「くっ、良いウデしてるヨ! ビリリダマ、『ソニックブーム』!」

「『エアカッター』」

 

 ビリリダマの周囲がぐにゃりと歪み、そこから半透明なブーメラン状の衝撃波が放出される。高速で飛んでくる衝撃波に対して、ズバットは『エアカッター』を撃ち返して相殺しようとする。

 

 その目論見通り、『エアカッター』と『ソニックブーム』は互いの攻撃を打ち消し合い、本来の形を保てず消散していく。それを見たマチスは眉をひそめる。

 

「オーノー、コレも通らないですカ……」

 

 『どくどくのキバ』と『エアカッター』の掠りによって、ビリリダマの体力はすでに半分以上消費されている。このまま逃げ回っていても勝てそうだが、電気技のゴリ押しでズバットが押し切られる可能性は決してあり得なくはなかった。

 

交換をするか、このまま戦うか、どちらを取るか考えはするが、結局このまま戦うことを選択。ビリリダマ逆転の一手でもある『じばく』をリーサルウェポンとして抱えているので、新しくポケモンを出してダメージを貰う必要はないだろう。

 

「ビリリダマ、『チャージビーム』!」

「避けろ」

 

 そして再び始まる不毛な『チャージビーム』、威力速度ともに申し分ないものだったが、弱っているビリリダマが全力で撃てるわけもなく、全盛期の状態からは何段階も弱った状態の電撃が飛んでくる。

 

 ズバットは手慣れた様子で『チャージビーム』を避けつつ、俺の次の指示を待っている。だが才能チート(オート操作)が攻撃指示を出すことはない。このまま体力が完全に尽きて倒れるのを待つほうが攻めるより最善だと判断したのだろう。

 

 ビリリダマとズバットの戦いをボーっと眺めつつ、マチスの方をチラリと見る。そこでマチス自身と視線が合ってしまう。このマチスという男は口角を上げてニヤリと笑った。

 

「攻撃でハなく毒での戦闘不能を待って決してアタックしてこない。用心深く慎重に慎重を重ねるこのスタイル、ミーととっても似ていますネ」

「……」

 

「カウンターを狙うユーのファイトスタイル、ユー自身の才能と動体視力によって可能なそれは一見、セーフプレイ且つ無敵に見えますガ――」

 

「常に後手と言うコトは、相手に付け入る隙を与える弱点がありますネ!」

 

「ビリリダマ、『ころがる』で詰め寄るのデス!」

「――ズバット、『エアカッター』」

 

 『チャージビーム』を止め、『ころがる』でこちらに向かってくるビリリダマを迎撃するべく『エアカッター』を指示するのを確かめてから、マチスは大きく叫んだ。

 

「ビリリダマ、そのまま受け止めて、『でんきショック』を撃ってください!」

「ズバット、上に大きく飛べ」

 

 ズバットによる『エアカッター』を全て受け止めきったビリリダマは、すぐさま『でんきショック』に攻撃を切り替えると、更に上空へ逃げ出そうとするズバットに向かって電撃を放つ。

 

 度重なる『チャージビーム』によって強力な電撃技と化した『でんきショック』は相当の威力と速度を持ってズバットを撃ち抜いた。

 

「よし! クリティカルヒットですヨ!」

 

 電撃によって地上へと落下していくズバットを見て、握り拳で喜びを表現したマチスはそう叫んだ。実際急所に入ったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。威力を考えると『ひんし』は免れないダメージだったはずだ。

 

「……きのみ」

「やはり良い目をしてますネ、そうデース、オボンの実と言うきのみデス」

 

 オボンの実。体力を回復させる効果がある『きのみ』の一種で、削られた体力を一時的に回復させた状態で『でんきショック』を撃った。弱っているときよりパワーが出せるのは間違いないだろう。

 

「戦闘不能デス、ズバットを戻して――」

 

 マチスは視線を俺からズバットへと移して、驚愕に目を見開く。

 

「なっ……!」

 

 倒れたはずの、地に転がったズバットが光り輝くそれは進化の光。ズバットは倒れる直前でズバットからゴルバットへの進化を遂げようとしていた。マチスは慌てて追い打ちを撃たんとビリリダマに指示をする。

 

「ビリリダマッ! 『チャージビーム』を――」

「ゴルバット、『エアカッター』」

 

 それよりも早くゴルバットへと指示が通り、光の中から風の刃が飛んでくる。マチス同様、進化の光によって気を取られたビリリダマは『エアカッター』に直撃してしまう。

 

「オーシット! ビリリダマ、耐えるのデス!」

「――『どくどくのキバ』」

 

 ゴルバットは光の中から一直線にビリリダマに向かって飛んでいくと、その巨大な口を開いて噛み付こうと牙を光らせた。

 

「――勝負を決めようと焦りましたネ?」

「――――」

「ビリリダマ、『いやなおと』!」

 

 ゴルバットを飲み込まんと大音量の不協和音をかき鳴らしたビリリダマは、『どくどくのキバ』を貰う前にゴルバットの動きを一瞬であるが完全に停止させた。その一瞬の空白、隙を狙ったマチス本人は耳を抑えて、口をパクパクと開いた。

 

「『じ ば く』」

 

 爆音によって戦闘が止まったフィールドを、ビリリダマを中心とした巨大な爆発が覆いつくした。渾身の『じばく』によって進化したてのゴルバットは吹き飛び、ビリリダマも勿論吹き飛んでいく。

 

 白と黒の煙がフィールドどころかスタジアム全体を包み込み、お互いトレーナーの姿を観測することができなくなる。しかし煙の奥で、確かにマチスが何かを言っているのが聞こえた。

 

「――勝利を得るためにありとあらゆる手段を用いる。争いという点ではポケモンバトルも戦争も、同じようなものデス」

 

 砂煙が徐々に晴れて、倒れて転がっているゴルバットとビリリダマの姿を見ることが出来た。

 

「これで互いにポケモンを1匹消耗しましたネ。ユーほどの才能と実力に対して、手を抜くのは無礼ですヨネ。ミーも勝つため、フルパワーで戦いますヨ……!」

 

 マチスは笑って、次のボールを構えた。

 



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ナイトヘッド

 ズバットから進化を遂げたゴルバットをビリリダマの『じばく』によって吹き飛ばし、相打ちに持ち込むことに成功した。元々はビリリダマで相手のポケモンを一匹落とし、二匹目が出てきた時点で『じばく』を使う想定で考えていたが、今回はその手を使えるほど相手は弱くない。

 

 胸が強く脈打ち、緊張を感じているのを実感する。公式戦でも無いのに勝利を狙うバトルをするのはいつぶりだろうか?

 

 スタジアムの向かい側、戦場を見据えている少年。吹けば飛んでいきそうな細い身体だが、見た目からは想像できないほど強靭な身体をしている。まるで、そう、ポケモンのようにも思えた。

 

 勝利(Win)の名を持つ少年は、虫か石を彷彿とさせる無機質な瞳でこちらを見つめ私の動きをじっと窺っている。先ほど見せてくれたタイプ相性が不利な盤面をもひっくり返す戦術は恐らくこの観察眼によって裏打ちされたもので間違いないだろう。

 

「2匹目は――……ゴー! エレブー!」

 

 ボールの中から現れたのは、でんげきポケモンのエレブー。我々ジムリーダー側が使用する、いわゆる奥の手(・・・)のポケモンの一匹で、先鋒で出したビリリダマとは比較にならないほど鍛え上げられている。

 

 本来であれば3vs3のバトルで2匹目に出すレベルのポケモンではないが、あくまで暗黙の了解なだけで100%守る必要があるわけではない。どんなポケモン、どんな戦い方、どんな教え方をするかの大部分はジムリーダー側に決める権利があるからだ。

 

 黄色と黒の体色を持つエレブーを見たウィンは無言でボールを放り投げると、中からガスじょうポケモンのゴースが姿を現した。

 

 ズバット――ゴルバット、ゴース、そしてカメール。事前にトレーナーの情報は下調べが済んでおり、新たに手に入れたであろうゴースも含めて持っている手持ちはこの三匹のみなのだろう。

 

 ジムバッジを複数所持しているトレーナーというのは星の数ほど存在しているが、ポケモントレーナーを管理しポケモンジムを運営している団体によって、ポケモントレーナーの情報は(ジムバッジを持っている者に限るが)知ることができる。

 

 もちろん一般トレーナーがそういった情報を知ることは不可能で、それこそジムリーダーでも無ければ情報を知ることは出来ないだろう。私はそういった情報も欠かさず確認し、カントー地方の目ぼしいトレーナーはマークをしている。

 

 前例に無いスピードでジムを攻略していくトレーナー、そんな存在が目につかないはずもない。だからこそ私は彼の事を知っていた。

 

「『じばく』で道連れにしたこと、あまり気にしていないようですネ? 怒らないトレーナーというのは珍しいデス」

「……勝つための行動だと思えば、別に。それに他のジムでも似たような経験があるので」

 

 似たような事、『じばく』の使用ができるポケモンを扱っているジムともなればニビジムのジムリーダー、タケシだろうか。

 

 彼とはタイプ相性からそりが合わない事もあり、あまり話した事はないが、それでもそういった行動はまず取ることがないような、いわタイプのエキスパートらしいお堅い性格だったのを記憶している。ともすれば、何かしら彼の琴線に触れるようなことがあったのだろう。

 

 『じばく』、『状態異常』、『みちづれ』や『ほろびのうた』。こういった戦法を嫌うトレーナーは少なくない。簡単に言ってしまえば卑怯な戦法。ポケモンバトルをエンターテインメントとして捉えているトレーナーや観客ほどこういった考えを持っていることが多い。

 

 しかし(ウィン)は珍しくそういった考えとは無縁のようで、年齢にそぐわない理性的、あるいは淡泊な考え方は個人的に非常に好感が持てる。しかしそれだけだ。私のように彼に好感を抱く人物はそういないだろうということは想像に難くない。

 

「――ユーの考え、ミーはとてもライクですヨー!」

「……そうですか」

 

 語り掛けても一蹴されるだけ。共感は不要だと考えているのかもしれない。

 

「さぁ、バトルを再開シマショー! ユーがどれだけストロングでも、ミーには勝てませんヨ!」

「ゴース、行け」

「エレブー! 『でんげきは』で迎え撃つのデス!」

 

 私のエレブーが放つ『でんげきは』が一直線にゴースへと向かって飛んでいく。

 

 物理的な攻撃を一切通さないような不定形のポケモンであったとしても、ノーマルタイプを除く『とくしゅ』に分類されるような『わざ』のほとんどは命中する。

 

 何故それらの『わざ』だけが命中するのかについての正確な理由は判明していないが、一説ではゴーストタイプに分類させるような不定形ポケモンであっても大抵何かしらの姿を保っている。ということはその姿を一定に保たせるための”核”のようなものが存在していて、『とくしゅ』わざはその”核”も含めて攻撃しているのではないか、ということだった。

 

 さて実際のところ分からないが、事実として存在しているのは『とくしゅ』わざであればゴースの実体を捉えることが出来るということだけ。

 

 『でんげきは』がゴースに当たる直前、ゴースのガスじょうの身体が大きく膨れ上がり、弾け、満ちるように空間に溶け込んでいく。ゴースのガスによって視界は一気に悪くなり、冷えた空気が周囲に立ち込める。

 

 ガスは瞬く間に広がっていき、ついにはスタジアムを覆い隠すほどまでになった。

 

 エレブーが放った『でんげきは』は途中までゴースに向かって飛んで行ったが、ゴースの身体が大きく広がり、本体の核を見失ったことで、電撃による攻撃は虚しくガスで満ちた空気を切り裂くことしかできない。

 

 エレブーが『でんげきは』を撃つ先を見失い、困ったようにこちらをチラリと見る。ゴースは文字通りガスになってスタジアムを包み込んでしまったため、攻撃を当てようにも本体が消えているので見つかるわけもない。

 

 霧のようになったガスによって視界が遮られ、相手の姿が辛うじてシルエットのように見えるだけになり、エレブーの様子も把握し辛いこの状況は恐ろしくマズい。

 

 ポケモンの機微を感じ取って戦うことが優秀なトレーナーにとしては重要だが、エレブーの状況が分からないということはそれだけで非常に大きな隙となる。エレブーが攻めたいのか、引きたいのか、どの技をどのタイミングで打つべきなのか。多くの思考が波のように押し寄せてくる。

 

 そんな私の思考を許さないと言わんばかりに、ウィンが攻勢に打って出た。

 

「ゴース、『ナイトヘッド』だ」

「エレブー 『ほうでん』!」

 

 日頃のトレーニングの賜物だろう。ゴースの攻撃よりも早く、エレブーは『ほうでん』によって周囲を無差別に攻撃する。ゴースにヒットさえすれば一撃で倒すことが出来るであろうというほど高威力な電気技だが、近くにいないのか、それとも奇跡的に当たっていないのか、ゴースの反応は全く無い。

 

 攻撃が来ない。ゴースも自身のガスの中とはいえ『ほうでん』を食らうのは嫌なのだろう。エレブーも延々と電撃を出し続けていられるわけではない。電気切れを狙っているのか。

 

 ウィンは『ナイトヘッド』の指示を出したきりで、追加で何か指示を出している様子はない。『ほうでん』が収まった後に攻撃をするように追加で命令を出してもおかしくない状況だが、シルエットに見えるウィンの姿は何かを気にしているでもなく、落ち着いた様子でただ立っているだけだ。

 

 育成、トレーニングの中で既にこういった状況の対応策を教えているのか? それともゴースを信頼して特に命令を出していないのか?

 

 疑問は尽きないが、先に『ほうでん』による電撃が途切れた。

 

「エレブー! 『じゅうでん』を……っ!?」

 

その時、空気がぐにゃりと曲がったように見えた。

 

 薄紫色のガスが立ち込めるなか、突如として紫色の両腕が現れた。幻覚か実体か、そんな考えを嘲笑うように紫の腕がエレブーの肩と首元を掴み上げる。

 

 決して軽くはないエレブーの身体がゆっくりと持ち上がる。私にも見えている腕は幻覚ではなく実体なのか?

 エレブーは両足をバタつかせ、動かせる片腕で首元を掴み上げている死人のような色をした腕を掴もうとするが、霞を掴もうとするように透けてしまい触れることは叶わなかった。

 

「エ“、エレ“ッ……!」

「エレブー! Calm Down(落ち着け)! 『かみなりパンチ』!」

 

突如として現れた紫の腕に首元を思い切り掴まれたエレブーだったが、指示通り『かみなりパンチ』を自身の首元を掴む腕に向かって振るう。紫色の腕は『かみなりパンチ』によってぐしゃりとへし曲がり、それから溶けるように消えていく。それに合わせて肩を掴んでいた腕を消え去った。

 

拘束が解けてその場に落ちたエレブーはほんのりと恐怖の感情を抱きつつも、フラフラと立ち上がった。

 

「今のは本当に『ナイトヘッド』……!?」

 

 本来の『ナイトヘッド』とは幻覚を見せて精神ダメージを相手に与える技だが、今の技は幻を見せるだけではなく実体を伴っていた。

 

 どういう仕組みかは不明だが唯一分かったことと言えば、ゴーストタイプの力をここまで引き出すことが出来るウィンという少年は、ゴーストタイプを扱う才能がある(・・・・・)ということだった。

 

「アンビリバボー……。ここまでゴーストタイプのポテンシャルを引き出せるトレーナーはミーもそう多くは知りマセン」

 

 ポケモンが持つ実力以上のパワーを引き出す才能を持つトレーナーというのは実際の所少なくない。

 

日常をでんきタイプのポケモンと過ごす私が、でんきタイプのポケモンを直観的に上手く扱えるように、常日頃からドラゴンと共に生きる者たちがドラゴンタイプのポケモンの力を引き出せるように、(ウィン)もゴーストタイプのポケモンの力を引き出す才能がある。それだけのこと、しかしだからこそ、その事実が恐ろしくもあった。

 

 ガスで覆われたスタジアムの中、ゴースの顔が浮かび上がってくる。一体なぜ姿を現したのか。邪悪な笑みを浮かべるゴースと肉体的にも精神的にもダメージを負ってしまっているエレブー。ほんの一瞬でここまで差が広がるのは予想していなかった。

 

 しかし臆してはいなかった。いや、むしろワクワクしている。こうしてジムリーダーをやっていて強く思う。ポケモンバトルは、最後まで分からないからこそ、やる価値があるのだと。

 

 エレブーも私も未だ戦意は衰えていない。

 



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フシギダネ

「フシギダネ、『はっぱカッター』!」

「ヒトデマン、『こうそくスピン』で攻撃を避けなさい」

 

 フシギダネが背中に背負った(つぼみ)の影から、三発の『はっぱカッター』が放たれ、弧を描きながらヒトデマンへと向かって飛んでいく。当たれば『ひんし』は免れないだろう攻撃ではあったが、ヒトデマンは冷静に、自身の主人の命令通り自身の身体を高速で回転させつつ、その場から跳ねるように飛び退いた。

 

「そのまま『スピードスター』を撃ち続けて牽制よ!」

 

 攻撃を避けられて距離を取られたフシギダネが困ったようにレッドの方に目線をやると、レッドは頷きと共に即座に次の指示を出す。

 

「フシギダネ、『せいちょう』だ!」

 

 ハナダジムのリーダーであり、みずタイプの使い手でもあるカスミは、『せいちょう』――いわゆる『変化技』を指示した挑戦者の様子を見て、また一つ評価を上げた。

 

(ここで『せいちょう』を使う判断。決め手に欠けるこちら側としてはやりにくいったらないけど――)

 

 ヒトデマンが『こうそくスピン』によって身体を回転させつつ、雨あられのように『スピードスター』を撃ってくる中、耐えるという選択肢を取ったフシギダネは、『スピードスター』による攻撃を受けつつも『せいちょう』によって自身の身体を一回り大きく成長させた。

 

「ヒトデマンの『スピードスター』……じゃ、もう『はっぱカッター』は相殺できないか――なら、ヒトデマン! 『こうそくスピン』でフシギダネに近づくのよ!」

「っ! フシギダネ、『つるのムチ』!」

 

 ヒトデマンの動きが突如変わる。くるくると旋回するように空を飛んでいたヒトデマンは、放たれた矢の如く、フシギダネに向かって直線的に飛んでいく。

 

 『こうそくスピン』の勢いに乗ったヒトデマンの動きは、先ほど『はっぱカッター』を避けた時よりも更に素早い。フシギダネは虚を突かれる形でヒトデマンの『こうそくスピン』を正面から受けて、ぐらりと身体をよろめかせる。

 

「ポケモン自身の判断が遅れたわね、まだまだトレーニング不足の証ね。『あやしいひかり』!」

 

 よろめきつつも『つるのムチ』を撃とうとフシギダネがヒトデマンの姿を捉えた瞬間、ヒトデマンの中心のコアが妖しく光り、フシギダネの思考を散らす。

 

「……っ!!」

「ヒトデマン、『サイケこうせん』でトドメよ」

 

 ヒトデマンのコアから続けざまに『サイケこうせん』による光線が放たれ、混乱状態によって身動きが取れないフシギダネに吸い込まれていく。そして『サイケこうせん』は物理的な威力を伴って、フシギダネの身体を見事に後方に吹き飛ばした。

 

 数メートルほど後ろに吹き飛ばされたフシギダネは辛うじて立ち上がったが、両足はフラつき、もう満足に動くことはできないように見える。

 ひんし一歩手前といった状態ながら戦意を失わず立っているフシギダネの姿を見たカスミはふと、今の状況が先日のバトルと似ていることに気がついた。

 

 それからカスミは、ほんの少し挑戦者の判断を待つためポケモンに指示を出さなかった。これはあまりの大きな隙で、本来であればこのまま畳み掛けるというのがポケモンバトルの常ではあった。しかしこれはあくまでジム戦であり、公式的なポケモンバトルではない。

 

 こういったひんし間際の状態で、ポケモンを交換するか継戦するかを決める判断力も含めた、トレーナー自身を育成する(・・・・・・・・・・・・)というのもジムの目的の一つだった。

 

「レッド、フシギダネはもう限界! 交換するべきよ!」

「……アキ」

 

 挑戦者――赤い帽子を被った寡黙なトレーナー、レッドは、アキにチラリと視線を向けてから、しばし目を伏せた。対面に立っていたカスミから見ても、帽子によってレッドの表情が隠れて分からない。しかし判断をしかねているのは間違いなかった。

 

 レッドによるカスミとのジムリーダー戦は二対二のシングルバトル。現在場に出ているポケモンはお互い一匹目で、互いに控えのポケモンは万全の状態で残っている。

 

 ここでポケモンを交換するのは決して間違いではないが、正解でもない。先に二匹目のポケモンを出してしまうというのは情報的なアドバンテージを与えてしまうし、ポケモン交換の隙を狙われて攻撃を受けてしまう可能性だってある。

 

 しかしこのまま戦いを続けたとして、弱り切って動きの鈍くなったフシギダネが活躍する見込みは薄く、逆に足を引っ張ってしまう可能性もある。

 

 ひんし間際で動きが鈍くなっている隙を突かれてしまえば、フシギダネが行ったように『せいちょう』、ヒトデマンで挙げるとすれば『ちいさくなる』などの『変化技』を使用するための基点にされてしまう事だって考えられる。

 

 ポケモンバトルは生物同士のぶつかり合い。ポケモン自身も体力が減れば動きが遅くなり、疲労が溜まれば判断力も鈍る。デジタルゲームや、ボードゲームのように決められたルールなんてものは存在しないのだ。

 

 だからこそトレーナーはこういった際の判断力というものが求められる。トレーナーの指示は逆転の一手にもなるが、敗北の決め手にもなる。カスミはそのことを痛いほど理解しており、だからこそ新人トレーナーには特別このような選択を迫る。

 

 

「……フシギダネ」

 

 レッド(挑戦者)はフシギダネに呼びかけた。

 

「ダ……ネッ!」

 ヒトデマンとカスミへ意識を向けつつ、ふらついたフシギダネは、それでもレッドと視線を合わせた。ほんの少しの間があって、それからレッドはふっと笑った。

 

「――いくよ、フシギダネ」

「な……レッド!?」

 

 アキは驚いた様子で後ろからレッドに呼びかけるが、レッドは首を横に振るだけで、取り付く島もない。それを見ていたカスミはレッドからフシギダネに視線を移した。

 

「それがアンタの判断……ってことね」

「はい」

 

 ならばと、カスミは深い笑みを浮かべる。

 

「ヒトデマン! 『こうそくスピン』でフィニッシュよ!」

 

 ヒトデマンは飛び上がり、回転によって更に一段回加速を行いながら空中を飛び回る。ここまで加速したヒトデマンに対して、フシギダネが空中に向かって撃ち込める技はもう当たらない。

 

 回転を伴ったヒトデマンはまるで流れ星のように流れる線を描きながらフシギダネの頭上に降ってくる。それをレッドとフシギダネは、ジッと見つめていた。

 

「――『タネばくだん』」

「ダネ!」

 

 ヒトデマンの『こうそくスピン』が衝突する瞬間、『せいちょう』によって大きく膨れていたフシギダネの蕾が爆発した。爆発音と共に蕾の先端から凄まじい勢いでタネが撃ち出され、向かってきていたヒトデマンにぶつかるともう一度爆発音が響いた。

 

 撃墜されたヒトデマンはフシギダネに当たることなく吹き飛ばされて、水の中にどぼんと落ちていく。それを見たカスミは目を閉じて、首を振った。

 

「逆転――2度目ね。『しんりょく』を伴った威力と速度を見誤ってたわ。お疲れ、ヒトデマン」

 

 カスミがヒトデマンをボールに戻している最中、レッドも限界を迎えつつあるフシギダネをボールに戻した。まだやれると意気込み、ボールに抵抗するフシギダネであったが、抵抗虚しくボールの中へと帰っていく。

 

 お互いボールにポケモンを戻したためフィールドは空になり、また仕切り直しとなる。

 

「これで1対1。ねぇ、チャレンジャー? 実はハナダジムってね、ジムバッジが3つ未満の――ルーキーの突破率が一番低いジムなのよ。なんでだと思う?」

 

 レッドは視線を上に向けて少し考えてから、首を横に振る。分からなかったらしい。その様子を見たカスミは悪戯な笑顔を浮かべると、手に持っていたボールを軽く降った。

 

「わからない? なら教えてあげる。それはこの子が奥の手だからよ! 行きなさい、スターミー!」

 

 カスミはその言葉と共にボールの開閉スイッチを押して空へと投げる。ボールから発せられる青い光を伴って、中から最後の一匹が顔を出す。

 

「ピカチュウ!」

 レッドの声に応じて、ボールの中からでは無く、常にレッドの傍にいたピカチュウが勢いよく飛び出して――。

 

「『でんこうせっか』から『スパーク』!」

「『リフレクター』よ」

 

 電撃を身に纏い、高速で駆け抜けてくるピカチュウを『ひかりのかべ』で受け止めたスターミーのコアが朱く光る。

 

「さて、2戦目を始めましょうか」



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うらみ

 強い。ジムリーダーであるマチスと戦って、素直に出た感想がそれだった。

 

 ガスじょうポケモンであるゴースがフィールドをガスで覆い、その不定形な身体を駆使してエレブーを狙うがどうも当たらない。マチスの指示によって深追いはせず、エレブーを直接狙う攻撃に対するカウンターだけを狙っている。

 

 やっていることは単純で、『ナイトヘッド』による幻覚で目くらまししつつ、幻覚の陰から『したでなめる』や『しっぺがえし』で直接体力を削っていくという、タネが分かると何てことのない戦い方だが、知らなければ幻が攻撃してきたとでも思うだろう。

 

 ゴースがガスに紛れて『したでなめる』を撃ち込もうと近寄るが、エレブーは『じゅうでん』によって蓄えた電撃を用いた攻撃によって近寄る隙を少しも与えてくれない。負けはしないが勝てもしない、そんな微妙な状況は過去に一度陥ったことがある。

 

 これはポケモンの地力の差によるものだ。

 

 

 俺が神様にお願いをして、神様が俺に搭載した『ポケモンバトルの才能』というチート(ズル)は、『才能』一つで片付けるには多機能すぎると常々思っていた。

 

 ポケモンを視界に入れると、体力がどれくらい残っているのか、どんな技を持っていそうなのかが分かること。

 トレーナーの方へ視線を向ければどの技を指示しようとしているのか、そういったものが何となく分かること。

 バトル中はオート(半自動)で俺を操作してポケモンに指示を出してくれること。

 

 最初はあまりに曖昧な俺の願いごとを全て叶えようとした結果こうなってしまったのではないかと思っていた。しかし何だか違う気もする。

 

 そんな疑問が尽きないチートにも欠点があるのが分かった。1つ目は俺の操作が完璧ではないこと。2つ目はチートがポケモンに出す指示は必ず勝ちに導いてくれるものではないということ。そして最も重要な3つ目は、ポケモンバトルをしている間、俺自身の体力がガリガリと削られていること。

 

 1つ目に関しては、チートが判断しきれないような状況が差し迫った時、問題解決に人力の判断が必要な時はオート操作がマニュアル操作に切り替わる。それとオート操作といっても最低限の融通は利く。例えばバトル中、ポケモンへの指示を出すときに、声――つまり命令を出さないという選択肢も(一応は)ある。喉が痛いときでも構わずチートは指示を出そうとするので、その部分での抵抗が利く。

 

 そして2つ目は、今この状況そのものだった。

 

 マチスのエレブーは明らかにこちらのゴースより格上だ。一回り以上離れたレベルのエレブーが放つ技の威力は一撃でも貰ってしまえば『ひんし』に至るのはチートの有無関係なく見て分かった。

 

「どうしまシタ? アタックしてこないのデスカ?」

 

 ゴースが攻撃を止めて少し引き下がる。どれだけ有利な環境を作っても一撃喰らえば逆転してしまう状況なのは理解していて、ゴース自身だけでは勝てないのがわかっているからこそ、時間を稼いで次に俺が出す指示を待っているのだろう。

 

 ゴースの攻撃は決め手に欠けており、倒すには攻撃を積み重ねるしかない。マチスもそれを分かっていて挑発しているのだ。

 

「来ないならコッチから行くヨ! エレブー、『でんげきは』!」

 

 エレブーの頭部に付いた両角の中心から、『じゅうでん』によって集められた電撃が不安定な軌跡を描いて放たれる。ゴースは『でんげきは』を受けまいと、フィールドに充満したガスに紛れて避けつつ、『ナイトヘッド』による反撃を行う。

 

「地面に『かみなりパンチ』を打ちナサイ!」

 

 その命令を受けたエレブーは電撃を纏った拳を地面に叩きつけ、その風圧で自身の周囲を覆っていたガスを吹き飛ばす。ガスがはけた場所ではゴースは本体を晒すしか無く、ガスと『ナイトヘッド』に紛れての奇襲が不可能となった。

 

 『ナイトヘッド』によるダメージは微々たるもので、『しっぺがえし』や『したでなめる』といった攻撃で削ったエレブーの体力は6割程度と見える。

 

 使える技の中で比較的威力の高い『しっぺがえし』で残りの体力を削り切るには2,3度は当てなければならないことを踏まえると、良い状況ではなかった。

 

「ゴース、『あやしいひかり』」

 

 再び『でんげきは』を放とうとしていたエレブーに、ゴースはガスの中から『あやしいひかり』を発する。

 

「……っ! エレブー! 目を閉じて『でんげきは』を撃ちナサイ!」

「避けず、そのまま『しっぺがえし』」

 

 先ほどからずっと使用していた『でんげきは』は一度たりとも直線的な軌道で飛んでくることは無かった。おそらく回避しようとすると当たるように撃っている。だからこそ今回は回避をしなかった。

 

 ゴースの中から黒い影のような実体が、無数の触手のように伸びてエレブーに向かっていく。本来であれば避けずに向かってきた相手に対するカウンターを用意していたのだろうが、今回は目を瞑ってしまっているため迎撃のチャンスを逃している。

 

 影のような触手がエレブーにクリーンヒットし、エレブーは耐えきれず大きくよろめいた。しかし、倒れずに『しっぺがえし』を受け止めたエレブーは、目を開いてゴースを捉えると、バチバチと帯電していた拳を振りかぶった。

 

(Now)! 『かみなりパ――』」

 

 隙を見せたのはどちらだったかと言わんばかりのカウンター、エレブーに『かみなりパンチ』を指示したマチスは攻撃命令を言い切る前に、己の判断が間違っていたことを理解したのだろう。驚愕に目を見開いてこちらを見た。

 

 

 マチスが叫ぶのと同時に撃ち込まれたエレブーの拳が空を切り裂き、隙だらけになったエレブーの身体に『しっぺがえし』が叩き込まれる。

 

 維持していた均衡を一気に崩したゴースの『しっぺがえし』は、瞬く間にエレブーの体力を根こそぎ奪い取り、黄色と黒の身体を場外へと弾き飛ばし、戦いの勝敗を決定づけた。

 

 エレブーをボールに戻したマチスは悔しそうに首を振ると、一言呟いた。

「『うらみ』、ですか」

 

 長期戦の中で幾度となく使用された『かみなりパンチ』、最後にガスを散らすために使用したタイミングに『うらみ』を使い、一時的に『かみなりパンチ』を打てない状態へと持っていくことで技を空打ちさせることに成功した。

 

 電撃を纏わないパンチはノーマルタイプの技同様、ゴースの実体を捉えることはできない。別の技を撃つのが正解だったが、『でんげきは』から『かみなりパンチ』に移行する流れが非常にスムーズだったところを見ると、予め決められていた動きをしていたのだろう。

 

 俺が小さく頷くとマチスは納得したようだった。最後のポケモンが入ったボールを取り出すと、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「こいつでラスト。しかし、まだまだこれからが本当のスタート、ネ!」

 

 マチスはボールを上に向かって投げつける。野球選手のように真っ直ぐ飛んでいったボールが天井にぶつかると、中から最後のポケモンが姿を表した。

 

「ライ!」

 オレンジ色の体毛を持つ大きなネズミのようなポケモン、ライチュウが既に準備万端の状態で上から降ってくる。ライチュウの頬にある電気袋に蓄えられた電気はバチバチと音を立て、放出のタイミングを今か今かと待っていた。

 

「ライチュウ! 『10まんボルト』!」

 

 空中で出てくることによって、ボールから出るタイミングの隙を無くすと同時に、ガスの範囲外である空から攻撃をすることが可能となる。

 

 空中で太陽のように光り輝いているライチュウは、溜め込んでいた電気をフィールドに向けて放つ。

 

「ラァ――イ!」

 

 『かみなり』と錯覚するほどの轟音を立てながら、ライチュウの放った『10まんボルト』はガスを消し飛ばしながらフィールドを駆け巡る。

 

 ゴースが必死に『10まんボルト』を避けているが、マチスの狙いはゴースではなくガスそのものなのだろう。フィールド全体を覆っていたガスの殆どはあっという間に吹き飛ばされて、ゴースの有利な環境が無くなってしまった。

 

 ガス掃除を終えたライチュウが地面に着地すると、逃げ場が無くなり慌てた様子のゴースと対面する。ライチュウが一歩、また一歩と強気に前へ進むと、ゴースはジリジリと後退をしていく。

 

「……フゥ。厄介なガスはこれで掃除が完了しまシタ。あとは本体のゴースだけ、逃げ場はないヨ! もう一度『10まんボルト』!」

「ゴース、左に回避しろ」

 

 レベルの高いライチュウが放つ電撃を避けるのは現実的ではないが、とりあえず安全な位置へと回避指示を出す。ライチュウの放つ『10まんボルト』がのたうち回る蛇のように動いて地面を叩き、ゴースの傍の地面を抉りとばす。

 

「ゴース、『さいみんじゅつ』」

「っ! ライチュウ、退け(back)!」

 

 電撃を途中で止めたライチュウは後ろに飛び退き、ゴースの『さいみんじゅつ』による光線を危なげなく回避する。マチスはそれを見て、額に浮かべた汗を拭うふりをした。

 

「やはり覚えてましたカ」

「……えぇ、最初から」

「やりづらいですネ……!」

 

 マチスはそう言って、笑みを浮かべる。なぜ笑っているのか、その理由を気にする前に、思考が次のポケモンへの指示へと切り替わっていくのを、俺は冷めた気持ちで感じていた。

 



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ライチュウ

 ガス状の気体と化して逃げ回るゴースの背後ギリギリを電撃が通過していく。

 

 両手の指で数え切れない数の攻防を経て、ゴースはライチュウの電撃を完全に捌くことに成功していた。

 

「――『ナイトヘッド』」

「下がれ、ライチュウ!」

 

 ライチュウを飲み込まんとガスが波のように押し寄せフィールドを侵食していく。それを間一髪で避けたライチュウは、引く間際に『でんきショック』でこちらの行動を牽制してくる。

 

 未だ膠着(こうちゃく)状態から脱せない状況は続くが、戦いの流れはこちらに向きつつあった。

 

「フゥー。幻覚を見せる『ナイトヘッド』をガスに混ぜるなんて戦い方、初めて見たヨ。ガスじょうポケモンのゴースならではの技だネ!」

「……バレないかと思ってました」

「ミーはジムリーダー! 色々なトレーナー、タクティクスを見てきたから分かるんだヨ! ライチュウ! 地面に向かって『かみなりパンチ』!」

「ライッ!」

 

 ライチュウがくるりとその場で回転し、勢いに任せて帯電した小さな拳を地面へ叩きつけると、足元を覆い尽くそうとしていたガスを四方へ吹き飛ばした。

 

「何度も同じ手は貰わないヨ」

「――ゴース、『さいみんじゅつ』」

「それもさっき見たネ! ライチュウ、避けなさい!」

 

 ライチュウの動きは俊敏で、ゴースの妖しく光る瞳から放たれた輪状の光線に触れること無く『さいみんじゅつ』の圏外まで退いていく。

 

こちらが攻撃を避けることが出来るように、相手がこちらの攻撃を避けることが出来るのは当たり前のことで、命中率の低い『さいみんじゅつ』なら尚の事だろう。

 

「『せいでんき』を嫌がって極端に接触技を避けてるのがわかる動きだネ。ミーのエレブーの特性が『やるき』なのを初見で見抜けたトレーナーなんて初めて見たヨー!」

「見たらわかりますよ」

「ユーのジョーク、中々ファニーね! ミーのライチュウに触れたくないならコッチから触りに行ってあげるヨ!」

 

 ――『でんこうせっか』。ライチュウは息を止める仕草をすると、先ほどまで嫌がって近づかなかったガスの中へと高速で駆け抜けていく。この動きを追うことは今のゴースでは不可能だ。

 

「ゴース、上へ飛んで距離を取れ」

「ライチュウ! 『こうそくいどう』からの『スパーク』!」

 

 指示が同時に飛び交い、先に行動したのはゴースだった。近寄られまいと上空へと飛び上がったゴースを見て、ライチュウは『スパーク』の準備を終えると、更に加速して一気に距離を縮めてくる。

 

「『さいみんじゅつ』」

「気にせずゴー! ライチュウ!」

 

 地面を覆っていたガスを突き破り、大量の電気を帯びたライチュウが打ち上げロケットのようにゴースへと突き刺さる。強烈な衝撃を一身に受けたゴースは甲高い声で叫びながら『さいみんじゅつ』を放つ。

 

「『たたりめ』だ」

「っ――ライチュウ!」

 

 ゴースが吹き飛びつつも、ガス状の身体から影のような紫色の触腕を出してライチュウを射抜き、そのまま地面へと叩き返す。

 『さいみんじゅつ』による『ねむり』効果によって意識を失いかけていたライチュウは、苦悶の表情を浮かべつつも、団栗(どんぐり)に似た木の実を齧ることでどうにか意識を繋いでいる。

 

「……カゴの実」

その通り(That's right)。……ですが手痛い反撃を貰いましたネ」

 

 上空に逃げ延びたゴースは『スパーク』によるダメージを受けてフラついているが、『まひ』状態になること無く五体満足で生存している。捨て身の攻撃を行ったライチュウはダメージこそ与えるのに成功したが、状態異常下での『たたりめ』による反撃で非常に大きいダメージを受けている。

 

 視界に映るゴースとライチュウの体力はどちらも黄色を指し示しているが、ライチュウの方がダメージを受けているのが見て取れた。

 

 野生のポケモンや普通のトレーナーが相手であれば、このまま押し切って勝つことも可能だが、ジムリーダーという実力者が相手では簡単にはいかない。

 

 マチスとライチュウ。どちらもまだ諦めた様子は無く、十分な戦意を維持している。ジムリーダーという役職がそうさせるのか、経験によるものなのかは不明だが、ポケモンバトルを学んでいく中で分かったことは、完全に不利な状況であっても決して諦めないトレーナーやポケモンは珍しく、そういった相手は得てして強者だということだった。

 

 あと一度か二度、そこそこの威力を持つ攻撃を命中させることができれば、ライチュウの体力は削りきれる。マチスの方もそれが分かっているからか、おいそれと攻めてくることはない。

 

 マチスは流れる汗を拭うこともなく次の手を無数に考え続けているのが、俺の瞳には全てが映し出されている。かげぶんしん、こうそくいどう、でんこうせっか、でんじは、10まんボルト。何をするべきか、攻撃か、防御か、妨害か、回避か、どの手が最も良いかを必死に考え、指示したい技が次々と切り替わっていく。

 

 これがあまり強くないトレーナーであれば、指示する技が切り替わることは無く、指示を出す技は固定されている。どれだけ考えていたとしても最初から出す技は何一つ変わらない。

 

 相手の動きを待っている俺を見て、マチスは焦りを感じさせない落ち着いた声色で話しかけてくる。

 

「ユーの方が有利なこの状況で、何もしてこないのですか?」

「……そちらこそ、降参してはどうですか」

「サレンダー? ハハハ! ノー ノー。ミーのライチュウ、まだまだ諦めてないヨ! ポケモンが諦めてないのにトレーナーが先に諦めたら駄目ネー!」

 

 そう言うとマチスはライチュウに視線を移し、ニヤリと笑った。

 

「これで準備ができたネ。ライチュウ、『10まんボルト』!」

「ゴース、避けろ」

 

 指示を待っていたと言わんばかりに互いのポケモンが素早く動き出す。ライチュウの『10まんボルト』がゴースへ向かって放たれるが、回避の準備を既に済ませていたゴースは難なく回避する――はずだったが、予定していた以上に『10まんボルト』の速度が速い。

 

 『10まんボルト』による電撃は明らかに先ほどよりも速くゴースに向かって飛んでいく。それを辛うじて回避したゴースは攻撃に対する牽制として『さいみんじゅつ』を放つ。

 

「ライチュウ、避けろ!」

「ゴース、そのまま『さいみんじゅつ』だけ撃って回避に専念しろ」

 

 ライチュウは『さいみんじゅつ』の光線を避けると即座に『でんきショック』による攻撃へと切り替えてくる。電気を溜め込んで準備をしていたのだろう、あまりにも攻撃への反転がスムーズに行われている。

 

 『でんきショック』に当たることなく回避を行い続けるゴースに対して、ライチュウは攻撃の姿勢を決して崩さず、それどころかより熾烈なものへと変化していく。先ほど撃たれた『10まんボルト』の威力が上がっていることから、ライチュウが『わるだくみ』でもしていたのだろう。

 

「――『こうそくいどう』!」

 

 何度も技を撃つが、ガス状のゴースが回避に専念してしまうと中々命中しない。痺れを切らしたマチスは『こうそくいどう』を積むことで対抗しようと考えたのだろうか。

 

 先ほどエレブー戦で見せた『うらみ』による技のガス欠を警戒しているのだろう。これ以上の消耗はまずいと早期決着を狙っているのは火を見るより明らかだった。

 

「ライチュウ、『スパーク』したままゴースへ一気に近づけ!」

 

 電撃を帯びたライチュウがガスを切り裂いてフィールドを駆け出す。『スパーク』は少なくともあと2回当てなければ倒せないことを理解しているであろうマチスが取る手段は、『わるだくみ』を積んだ状態による『10まんボルト』、『でんきショック』、大穴で『エレキボール』の三択。それ以外は『さいみんじゅつ』か『あやしいひかり』のカウンターが来る可能性を考えると、()()()()()()()()()()()()

 

 であれば遠距離からでは命中しづらい『さいみんじゅつ』や『あやしいひかり』を撃つより、攻撃で妨害していくべきだ。

 

「ゴース、『たたりめ』」

「くると思ったヨ! ライチュウ、『スパーク』」

 

 止まる事無くフィールドを高速で駆け抜けるライチュウは攻撃の射程距離に入ると、速度を保ったままゴースへ向かって、弾丸のように飛び込んでくる。流石に『こうそくいどう』をしたライチュウの『スパーク』を避ける術はない。

 

 ゴースは『スパーク』を纏ったライチュウに衝突されて、声にならない悲鳴を上げる。しかしその状態でも放った『たたりめ』はライチュウの身体を的確に貫く。しかし状態異常下ではない『たたりめ』は威力に欠けているため、一撃で倒し切ることは不可能。

 

「ライチュウ、このまま『スパーク』で押し切りますヨー!」

 

 『スパーク』でゴースを倒しきった後は『わるだくみ』を積んだ電気技で後続と戦う気なのだろう。こちらの最後はカメールであることを考えると、マチスが俺の3匹目のポケモンを知っているかどうかはともかく、タイプ相性で勝てる可能性は十分にあると考えるだろう。

 

 

 だが3匹目は来ない。

 

 

「――『シャドーボール』」

 

 レベルは足りていた。後は来るタイミングを待つだけ。

 

 『スパーク』によって体力を削り切られようとした瞬間、ライチュウの放つ『スパーク』の光に混じってゴースが光り出す。

 

 偶然ではなく必然だが、見るものが見れば奇跡と呼ぶだろうそれは――本日2度目、進化の光だった。

 

「What's the……!!」

 驚愕の表情に染まったマチスが何か言おうと口を開く前に、この戦いは決着することとなる。

 

 ゴースがゴーストへ進化することによって、削りきれるはずだった体力に若干のスペースが生まれる。

 『スパーク』を受けつつ、ゴーストは新たに手に入れた虚空に浮かぶ両手の中に『シャドーボール』を生み出すと、間髪入れず至近距離でライチュウに撃ち込んだ。

 

「ラ“ッ……!」

「ノー! ライチュウ!」

 

 ライチュウは空中へ弾き飛ばされるとそのまま地面へと落下していく。『たたりめ』こそ耐えたライチュウだったが、『シャドーボール』を耐える体力は既に無かった。

 



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おとくな けいじばん!

未来


カントー・ジョウトの新チャンピオンwww

 

1:名無しのトレーナー ID:U5mXYj4Z8

強すぎるwww

 

2:名無しのトレーナー ID:EzeW7oldg

顔が怖い

 

3:名無しのトレーナー ID:d1sSveydg

こわいかお

 

4:名無しのトレーナー ID:/vZ3BbWke

へびにらみ

 

5:名無しのトレーナー ID:QBGwIHwhp

にらみつける

 

6:名無しのトレーナー ID:EUzC9csMP

チャンピオンってワタルじゃないの?

 

7:名無しのトレーナー ID:ObIqdfRKo

>>6

ワタルは四天王

 

8:名無しのトレーナー ID:Vr9InOGoE

何もなければワタルがチャンピオンだったな

 

9:名無しのトレーナー ID:ghtkhVJCg

テレビでやってたけど新チャンピオンってトレーナーになってまだ1年弱くらいらしい

 

10:名無しのトレーナー ID:EpREb7ZmO

>>9 まだ子どもだったよね

 

11:名無しのトレーナー ID:81ef/P3l2

>>9

トレーナー歴1年にしてはポーカーフェイス完成されすぎだろwww

 

12:名無しのトレーナー ID:uj8prg71R

トレーナー1年目で四天王に勝てんの?

 

13:名無しのトレーナー ID:V3nRU0js+

>>12

ポケモンが強ければ

 

14:名無しのトレーナー ID:7i2EJFUeG

>>13

四天王の使うポケモンより強いポケモンってレベルいくつだよ

100レベでも持って来いってか?

 

15:名無しのトレーナー ID:E4bTTnkNY

チャンピオンシップじゃない四天王が使うのって50レベくらいでしょ

なら60とか70くらいあれば勝てる?

 

16:名無しのトレーナー ID:zp5Gdo2FA

>>15

レベルだけ高くて勝てるならトレーナーなんて要らないんだよなぁ

 

17:名無しのトレーナー ID:9FzSdbgX/

>>15

正直そのレベルになると10とか20のレベル差はあんまり意味ない

野生のポケモン同士ならともかく、試合中だとトレーナーとか構成次第でいくらでも逆転できる

 

18:名無しのトレーナー ID:NRznSodgd

ワタル様のドラゴン軍団に勝てるトレーナーがいるとか想像つかないんだけど

 

19:名無しのトレーナー ID:6ejbowF/v

カンナ様を信じろ

 

20:名無しのトレーナー ID:5vaJDYbHU

ドラゴン(リザードン)

ドラゴン(ギャラドス)

ドラゴン(プテラ)

 

21:名無しのトレーナー ID:gji0g5Bsn

ドラゴンみてえな外見だろうがよ!!!

 

22:名無しのトレーナー ID:wKzv2mxR9

見た目で判断するな

 

23:名無しのトレーナー ID:adVe/D9pa

タイプで判断してんだよなぁ

 

24:名無しのトレーナー ID:MroRRSx8M

新チャンピオンの情報殆ど無いんだけど試合見た人とかいるの?

 

25:名無しのトレーナー ID:1V2kwSaDI

>>24

趣味:リーグ観戦のワイが調べてきた情報

トレーナー名:ウィン

使用ポケモン:ヘルガー、ゲンガー、カメックス

顔:無表情

 

総評

意味分からんくらい強い

色んなトレーナー見てきた感想だけど多分よその地方の人?だと思う

 

26:名無しのトレーナー ID:NjWqstH3D

無表情でわろた

 

27:名無しのトレーナー ID:/0Wg9CkE+

タイプ統一してないのか

 

28:名無しのトレーナー ID:p2+4vBbP/

3匹しか使ってないの?

 

29:名無しのトレーナー ID:1V2kwSaDI

>>28

そう

カンナ様との試合でヘルガーとカメックス

柴とキクコの試合でゲンガーとカメックス

ワタルの試合はヘルガーとカメックス

 

30:名無しのトレーナー ID:GOFOMmj9g

??????????

 

31:名無しのトレーナー ID:lwFMzjr8H

強すぎて草

 

32:名無しのトレーナー ID:gOmOekiKk

嘘だろお前www

 

33:名無しのトレーナー ID:8kM1IY2ay

チートでも使ってんのかよwww

 

34:名無しのトレーナー ID:UxZjwGM7J

ポケモンリーグって使用ポケモン6体だよね?

ポケモン2匹で6匹全抜きってできるか?

 

35:名無しのトレーナー ID:WuoijMVC6

>>34

相手がキャタピー6匹だったらいける

 

36:名無しのトレーナー ID:ovJdG5YJn

どうやったらそんなこと出来るの…

 

37:名無しのトレーナー ID:jGOKmz6lo

ポケモンリーグって観戦できるの!?

 

38:名無しのトレーナー ID:0lDjV4+Wo

>>37

そりゃそうよ

予定が決まって空いてれば当日、もしくは前日までに予約を入れれば観戦チケット取れるよ

 

39:名無しのトレーナー ID:qnKRCAT94

観戦ってお金掛かるの?

 

40:名無しのトレーナー ID:CtHkGVmHa

>>39

午前・午後の観戦チケットどっちも2000円くらい

1日中見ようとすると4000円掛かる

 

41:名無しのトレーナー ID:4DIl5Q6mQ

映画2回分かー

 

42:名無しのトレーナー ID:Zr++iEfJv

だいたい1戦目の四天王にボコられて終わりなんですけどね

 

43:名無しのトレーナー ID:4kGU4YhSM

四天王に勝つことが目的じゃないからな

 

44:名無しのトレーナー ID:NGN5x3d2L

>>43

当方トレーナーではないのですがどういうことなんですか?

 

45:名無しのトレーナー ID:4kGU4YhSM

>>44

ポケモンリーグの試合はトレーナー資格の最終テストみたいな感じ。

その地方のジムバッジを全部集めたトレーナーだけが受けられて、その地方に則ったルールに応じてトレーナーを選定する。

勝つことが目的じゃなくて、その地方のポケモンリーグが認定したトレーナー(四天王・チャンピオン)から正式にトレーナーとして認められることが目的。

 

46:名無しのトレーナー ID:NGN5x3d2L

>>45

正式にトレーナーとして認められると何か良いことがあるんですか?

 

47:名無しのトレーナー ID:4kGU4YhSM

>>45

その地方でいわゆるプロのポケモントレーナーって名乗ることができる

後はその地方でやってるローカル大会なんかではシード権貰ったり色々優遇されるし、

他地方でやってる公式大会とかにその地方のプロトレーナーとして参加できたりする。

 

48:名無しのトレーナー ID:7nbsqXEfw

ジムバッジ全部集めるだけでもエリート中のエリートだしな

 

49:名無しのトレーナー ID:VErxGUUDZ

地方によってポケモンリーグの内容も全然違うって聞いたことがある

 

50:名無しのトレーナー ID:4kGU4YhSM

>>49

ポケモンリーグって名称が全く無い地方もある

そういう地方はポケモンリーグの代わりにトレーナーを選定する機構が既にあったり、ポケモンリーグって名称を使ってないだけで中身は同じようなものって場合もある

 

51:名無しのトレーナー ID:5tY1QmABn

リーグガチ勢わらわら湧いとるやん

 

52:名無しのトレーナー ID:PXYoq65bS

新チャンピオンがどれくらい凄いか正直分からん

 

53:名無しのトレーナー ID:CsjM2A69N

>>52

世界トップクラスのトレーナー4人に勝てる実力があるだけでヤバいでしょ

 

54:名無しのトレーナー ID:1V2kwSaDI

>>52

試合見てたワイも殆ど分からなかったけどマジで強いってことだけは理解できた

 

55:名無しのトレーナー ID:/SgpVZXO5

このチャンピオンのウィンって子がトレーナーと戦ってるの見たことあるわ

他トレーナーとはレベルが違ったね

 

56:名無しのトレーナー ID:F2GISFO/b

そりゃチャンピオンだし…

 

57:名無しのトレーナー ID:+a52r4KuV

>>35

コイキングじゃなくてキャタピーって言ってるのがプライドの高さを感じる

 

58:名無しのトレーナー ID:PXz4eEX8h

でも最近の若いトレーナーは凄いよ

みんなバトル上手いもん

 

59:名無しのトレーナー ID:cr5PmZZwe

コイキング5匹使って戦う釣りおじ見たことある

 

60:名無しのトレーナー ID:8JvFrHiJ5

 

61:名無しのトレーナー ID:r1EgdZNJY

はねる(迫真)

 

62:名無しのトレーナー ID:jW2OAPpJZ

釣りおじ変なヤツしかいないし無駄に絡んでくるし怖い

 

63:名無しのトレーナー ID:D0sgJyJcr

ボロのつりざお渡された事あるやつwww

 

64:名無しのトレーナー ID:hE3yv+RHj

おさがり寄越すな

 

65:名無しのトレーナー ID:QnJBuGB4r

新チャンピオンの活躍が楽しみだ

 

 



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