【仮完結】死んでもやり直せます (クラウスAB)
しおりを挟む

死からの生還

なろうの「即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。」の二次創作です。



 

『贖罪するのだ、さもなければ汝のゆく道はない』

 

世界ではない、どこかでそう言葉がだれかに投げかけられた。

 

 

 

 

───黒い。

 

気がつくと、視界が何もかもが黒かった。

 

これは一体なんだろうか。もしかして、地獄とかに落ちたのかな。

 

そりゃそうだ。あんだけたくさんの人を騙して攫っておきながら。

 

そうでもなきゃ、騙された人達が報われない。

 

勧善懲悪。まさしくシンプルな論だ。

 

「……あ」

 

────────違う、これは……ただ()()()()()()()()()()()

 

睡眠から目を覚ます寸前のあの感覚と同じだ。

 

それに気づいた私はゆっくりと瞼を開く。

 

視界に映ったのは、悲しくも澄み渡る青空だった。

 

……綺麗だなぁ。

 

なんの事柄にも縛られず、あの青空を羽ばたく。

 

猫獣人である私には、到底叶えられなさそうな、そんな願望。

 

一瞬だけの安穏に浸っていると。

 

『死ね』

 

あのおぞましい、日本人の顔が頭を横切る。

 

「ッッ!!?」

 

ゾクリと来た、恐怖感に飛び跳ねるように猫耳をピーンと伸ばしながら体を起こす。

 

そうだ……私は、あの日本人に殺されたんだ。

 

人を定めて、引っ掛けられそうなら罠に引っ掛けては売り飛ばしての繰り返し。

 

いわゆる、人攫い。

 

そんな日々を送っていた私に、とてつもない人材を見かけた。

 

それが、黒髪の日本人。それもギフトなしと来る。

 

これは高く売れると踏み込んで、罠に引っ掛けようとした。

 

だけど、相手は何かよく分からない方法で、触れずに殺せる力を持っていたようで。

 

それに為す術もなく、私は殺された。

 

────じゃあ、今、私はどうなっている?

 

思わず、胸に手を当てると……()()()()()()()()()

 

……なぜ?

 

先ほどまで感じていた、急に目の前が暗くなり、力が抜ける感覚。息も止まり、心臓が停止し身体が急激に冷たくなっていくあの感覚。

 

あれが、“死”というものだと。

 

最期に、そう悟って。私は死んだ。

 

だと言うのに、今、心臓の鼓動を感じている以上……私は生きている。

 

──分からない。何が何だか、分からない。

 

生きているという喜びよりも、疑問が先に来る。

 

頭がこんらがってどうにかなってしまいそうだ。

 

見上げると、私が逃げ込んだ先であっけなく心臓が止まって死んだと思われる屋根が目に入る。

 

恐らくは、あそこからここに落ちてきたというのだろう。

 

……ますます、分からなくなった。

 

何故なら、私の身体には傷一つもなかったのだから。

 

奇跡的に生きていたとしても……あの高さから落ちてきたらとても無傷ではいられない。

 

だと言うのに、身体に傷がない。本当にあそこから落ちてきたのかと疑うほどである。

 

試しに立ち上がってみるも、なんの問題もなく立ち上がれた。

 

……軽くジャンプしてみても、体のどこかが軋むといったものはない。

 

耳を済ませてみると、街道を往く人々の生活音や話し声が聞こえる。

 

……少なくとも、今分かっている範囲では、体の感覚にも異常はなさそうだ。

 

──夢?

 

死を前に直面して、最期に見ている夢なのか?

 

そんな可能性を思い浮かんではすぐに消す。

 

──私は、確かに足を地につけている感覚がハッキリとしている。

 

生きている証でもある、心臓の鼓動。

 

今、こうして手に伝わってきている、私の鼓動。

 

……夢にしても、鮮明すぎるのだ。何もかもが。

 

やはり、これは夢ではなく“現実”だ。

 

「……はぁ」

 

安堵したからなのか、それともげんなりしたからなのか、思わずため息を吐く。

 

生き延びた私は……これから何をすればいいのだろうか。

 

一度私を殺した、あの日本人に復讐する?

 

まさか。

 

“あんな奴らに関わるんじゃなかった”。

 

最期、私はそう思って死んだ。

 

だと言うのに、自分から関わりに行くなんてありえない。

 

復讐するどころか、また返り討ちにあって今度こそ死ぬだろう。

 

何よりも────怖い。

 

どういうわけか、恐怖感を抱いているといってもそこまで大きくは感じなかった。

 

だけど、それでも怖いものは、怖い。

 

死ね、とそう言い放つあの日本人の鋭い瞳。

 

あれは化け物だ。もう二度と、関わってたまるものか。

 

「あ、ははは……バカみたい、にゃ……」

 

あえて、猫かぶった言動をして自分を蔑む。

 

もはや、ミレイユの、あの日本人への恐怖感は本能的な部分にしっかり記録されてしまったのだった。

 

っ、とにかく……こうして生きている以上これからの事を考えなければならない。

 

……罪を償う?

 

自分に対して、真っ当に生きたいのであれば。

 

今すぐにでも、自分の行いに対する贖罪をしなければならない。

 

──いや。今、打算的に考えていなかったか?

 

それでは贖罪の意味がないのでは?

 

そもそも、自首したとして私は既に犯罪組織と関係を持ってしまっている。

 

犯罪組織というモノに、足を踏み入れてしまっている。

 

自首したとしても、それを嗅ぎつけた犯罪組織に消されるかもしれない。情報を漏れさせられてはたまらないからだ。

 

そう考えると、ゾクリと身震いした。

 

──ああ、そうか。

 

もう、 普通に……生きていくだけでも難しいんだ、私は。

 

こうして死にかけて初めて知った。

 

生きているだけで、ありがたくて……とても尊いものだったんだ、と。

 

気がつくと、頬を何かが流れていく感覚がした。

 

それが涙だと理解した瞬間。

 

「っ……ぅ、うう……」

 

涙が止まらなかった。

 

……哀れな。泣くぐらいなら犯罪組織などに関わらず最初から真っ当に生きればよかったのだ。

 

そもそもの話──私から、人攫いを取ったら何が残る?

 

ただの猫獣人? ただの犯罪者?

 

大して役に立たない、ただ食料を食い潰すために生きているだけの存在?

 

そもそも──……あれ?

 

これからの事を考えると、ある事が頭に引っかかった。

 

私、今まで……どうやって暮らしてきたんだろう?

 

今まで、大して気にも留めず当たり前に出来てきたことがひどくあやふやなそれになっていた。

 

やはり、あの死の感覚を身をもって経験したからこそ、今までの事がひどく小さいそれに感じてしまったからだろうか。

 

そんな風に考えていたら。

 

 

- 技能 -

 

詐術 (8) 話術 (5) 剣士 (3) 回避術 (2) 逃走 (7) 生還 (1)‌‌ 恐怖耐性 (3)

 

 

「───え?」

 

なん、だこれ?

 

突如頭に思い浮かんだ、 何か。

 

それに、ますます混乱する。

 

……そんな、あまりにもの突然のことに、涙が止まっていたこと自体には気づかなかったミレイユだった。

 

技能? ギフトじゃなくて、技能?

 

これは一体どういうことなんだ。

 

まさか、死を直面して新たな力に目覚めたとかいうそんな上手い話があるわけがない。

 

でも、現にこうして勝手に思い浮かべているコレは一体?

 

──いや、落ち着け。

 

まずは情報を整理しなければならない。

 

まずは詐術。これは、確か嘘をつく技術……とも言い換えられる。

 

( )の中にある数字が何を指しているのかは分からないけど……詐術が一番数字が大きかった。

 

──そりゃそうだよね。

 

今まで何人もの人を騙してきた身だ、詐術なんていう技能がいつの間にか身につけててもおかしくはない話だ。

 

……いや、待って。呑気に整理している場合じゃないでしょ私。

 

思わず周囲をキョロキョロと見渡す。

 

──あの黒髪の日本人が、ここに来るのかもしれない。

 

ちゃんと殺せたかどうかを確認しに、という可能性は無視できない。

 

見つかりでもされたら、今度こそあの力で殺される。

 

──嫌だッ、嫌だッ! 死にたくない、私は生きたい、生きたいんだ!!

 

そんな言葉が頭中をぐるぐると回りながらも、私はこの場から離れることにしたのだった。

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これからの事

 

「どうぞごゆっくり~」

 

そう声がすると同時にぱたり、とドアが閉められる。

 

あの後、私はなるべくあの日本人と会った場所からかなり離れた宿に泊まることにした。

 

こうして部屋に案内され、今に至るというわけである。

 

「……ハァ」

 

ベッドに倒れ込み、ため息を吐く。

 

ふと、窓の方に目を向けると、もう日は暮れていき夜になる時刻だった。

 

――――本当に、色々ありすぎて頭がどうにかなってしまいそうだ。

 

死んだと思ったら生きてて。しかも“技能”とかよくわからないモノまで加わってきていると来る。

 

……試しに、“技能”と思い浮かんでみると。

 

 

- 技能 -

 

 

詐術 (8) 話術 (5) 剣士 (3) 回避術 (2) 逃走 (7) 生還 (1)‌‌ 恐怖耐性 (4)

 

 

 

またあの意味不明な一覧が頭に浮かんでくる。

 

“技能”。これが一体どのようなモノなのか。その意味は未だつかめずにいた。

 

技能とはなんだ? ギフトとは別なのか?

 

技能から枝が分かれていると思われる、これらの単語の意味はなんだ?

 

己の能力を示しているのか?

 

――詐術が(8)で、逃走が(7)。これらの数字が高い。

 

確かに自分自身、詐術まがいのことはたくさんしてきたのだし、職業上の関係ヤバそうな相手から逃げることもたくさんした。

 

……己の能力を示している、という可能性が高いのかな。

 

とりあえず……落ち着ける場所にいることだし、改めて整理してみるか

 

詐術はいわずもがな。話術は……要するに、話が上手かどうかということ?

 

(5)、といくつかの技能のうちで、比較的高いみたいだが……それだけ自分は話が上手ということなのか?

 

自分ではあまり自覚していない、絶対にそうであるとはいえない。

 

深く考えていても、答えは出ない。さっさと次に行くことにした。

 

剣士は……つまり、剣を扱う技術ってことなのかな。

 

私自身、普段剣を帯刀しているし。そういう意味でいいだろう。

 

回避術は、名の通り回避する技術ということかな。(2)と一番低くはないけど、下から数えて早いぐらいだ。

 

逃走は詐術と同じくいわずもがな。要するにいかに相手から逃げる技術といってもいいだろう。

 

次は――“生還”? 生還とは。まさか、死から生還できる技術とでも言うつもりか。

 

――そんなもの、どうやって磨けばいいのだ。

 

死ぬ寸前まで行けと?

 

ともかく、次だ。

 

――“恐怖耐性”、か……恐怖に対して耐性を持つ、つまり恐怖を感じずにいる技術ということか?

 

初めて見たときは、(3)だったが、今は(4)になっている。

 

確かに今考えてみれば、あの日本人への恐怖感が薄まってきている……とは、思う。

 

感覚レベルの話なのだ、ハッキリとは言えない。

 

「ふぅ……」

 

技能についての情報整理はこれでいいだろう。

 

問題は、これからのことだ。

 

――――やっぱり、私は真っ当に生きたい。

 

何を今更、という自分の声が聞こえてくるが……それでも私は真っ当に生きたいのだ。

 

きっと自分が思っている以上に罪を積み重ねてきたのだろう。

 

自首して、そこでひどい扱いをされるのなら、受け入れよう。

 

それが自分自身への罰なのだから。

 

だが、死にたくはない。

 

……自首した結果死刑が求められたとしたら?

 

そう考えると、ざーっと自分の血の気が引く感覚がした。

 

嫌だ。まだ死にたくない。生きることができるなら、どんなことをしてても生きる。

 

たとえ、川水を啜ることになろうとも、満身創痍になろうとも。

 

生きるために身を売るなら、喜んで売る。

 

生きるために働けというなら、喜んで働く。

 

生きるために道具になれというなら、喜んで道具でも何にでもなってやる。

 

何としてでも――――生きるんだ。

 

自分の心は定めた。

 

ならば、まずは……犯罪組織のことを何とかしよう。

 

自首するにしても、犯罪組織のことを何とかしないことには一生“死”の恐怖が付き纏ってくるからだ。

 

……今すぐ対策は思いつかない。こればっかりは時間をかけて考えていくしかないだろう。

 

「……あ」

 

腰にかけてある、帯刀している剣を外して置こうとしたら。

 

剣にヒビが入っていた。

 

……もしかなくても、屋根から落ちた時、だよね。

 

やっぱりアレは夢などではなかったのだ、とやや戦慄を覚えながら明日は武器屋に行こうとそう思った。

 

 

 

 

翌日。

 

昨日の夜、寝ようとしたがこれが夢でこのまま目が覚めないままになるのではないかと恐怖を覚えたが……なんとか寝付けた。

 

そして今日の朝目覚めることができて、とても安心した。

 

今、私が生きているのは夢などではないのだと、再確認できての事だった。

 

――そして、私がいつも足を運んでいる武器屋。剣のこともありそこに足を運ぶ。

 

「おう、ミレイユ。どうしたんだ、顔色が悪いぞ?」

 

店内に入った私を待っていたのは、店主さん。

 

常連客と店主の関係……といえば分かるかな。

 

「まあ……ちょっと、ね」

 

昨日とはいえ一度死んだのだ。流石に一日で本調子とはいかない。それどころか一生かかっても忘れられそうにない。

 

「……? そうか」

「うん――えっと、これ、なんだけど。直すの頼めるかな」

 

ヒビが入った剣を、店主さんに差し出す。

 

「ん、おお、これか。……なんだかヒビの入り方がおかしい気もするけど、まぁいいか。ちょっくら待っとけよー」

 

そう言って、私が差し出した剣を持って奥の方に行く店主さん。

 

ヒビの入り方がおかしいと言われて、ちょっとギクリときたのはここまでの話だ。

 

……店主さんが戻ってくるまでの間、他の武器でも見ていこうか。

 

そう思った私は、店内に飾ってある様々な武器を見ることにした。

 

何回も足を運んできたものだから、特にこれといった変わった武器はないのだが。

 

ともあれ、武器を眺めていくと……

 

「ッ……!?」

 

一瞬だけズキッと締め付けられるような頭痛がした。

 

思わず頭を抑える。

 

――今のは、一体なんだ?

 

 

- 技能 -

 

詐術 (8) 話術 (5) 剣士 (3) 回避術 (2) 逃走 (7) 生還 (1)‌‌ 恐怖耐性 (4) 特殊看破 (1)

 

 

すると、また例の一覧が勝手に思い浮かばされる。

 

特殊看破という、よくわからない技能が追加されていた。

 

つくづく思うけど、本当にこれらは一体なんなんだろうか……

 

「……おい、大丈夫か?」

 

頭を抑えている私を心配しての事か、後ろから店主さんがそう声をかけられる。

 

「あ、う、うん……ちょっと、疲れがたまっちゃったかな――」

 

そう言葉にしながら、店主さんの方を振り返ると――

 

 

ガレス 【武器屋店主】

 

- 技能 -

 

鍛冶 (9) 経営術 (15) 指導術 (7) 剣士 (7) 戦士 (8) 話術 (4)

 

 

「……え?」

 

またもや、例の一覧が勝手に思い浮かばされる。

 

だが、その内容は先ほどとは違っていた。

 

――店主の、情報?

 

これが、特殊看破の力?

 

しかも、店主さんの“技能”……私よりも高い数字がいくつもある。

 

てことは――店主さんは、私より強いってこと……?

 

特殊看破の効果に、また情報の整理を追われることになったのだった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

弱音と始まり

 

店主さんのあの一覧が見えたことに混乱したが、なんとか己を落ち着けて。

 

「あ、ありがとう」

 

やや覚束無い言動ながらも、剣を直してくれた店主さんにお礼を言って武器屋を出る。

 

……これから、どうしようか。

 

犯罪組織のことを何とかせねばならない。

 

といっても、私が知っているのは売り渡す相手のことだけだ。

 

それも顔と名前程度。

 

確かに犯罪組織に足を踏み入れてはいるだろうけどまた一歩目。

 

ここで引き返すならさほど問題はないかもしれない。

 

けれど、やはり“死”から逃れるためにはやはり確実性が必要だ。

 

無理にでも身の安全を保障できる何かを手に入れるか、それとも、犯罪組織を滅ぼすか。

 

前者であれば、上手く行けば身の安全を保障できるがいずれ罪を償うつもりでいる自分としては、あまり良い選択とはいえない。

 

されば、後者?

 

……犯罪組織を壊滅ってどうすればいいんだ。

 

「ッ」

 

そんなことを考えていると、通行人と肩がぶつかり合ってしまった。

 

「す、すみません」

 

それが気まずく感じて、一瞬相手の顔を見ては謝りすぐさまこの場を去った。

 

……そういえば、さっきの人。

 

私と同じ猫獣人だったなぁ。

 

なぜかそれだけが妙に印象に残りながらも。

 

途中で防具や食べ物なんかを見ながら、最後に自分が利用している宿屋に戻ることにした。

 

 

 

 

自分の部屋に戻ると、そこには見知らぬ男がいた。

 

見知らぬ男、といっても掃除をしている様子からしてここの従業員だろう。

 

「あ、あれ?」

 

従業員と思われる人物を目にすると、どこかで見たような気がした。

 

すると、私を見た彼は驚いた顔をしながらも懐から何かを取り出し……

 

「あの、これ、落としましたよね?」

 

そういった彼は、私にとあるものを差し出す。

 

「あ! それ、私の財布……!」

「ああ、やはりそうでしたか。よかった、貴方が落としたのに気づきまして」

 

私の財布だと気づくと同時に身なりを確認する。

 

……ない。とするとこれは私の財布ということになる。

 

「あ、ありがとう」

 

いえ、とんでもないです。と彼は笑顔を浮かべて私に財布を返す。

 

どこかで見たことがあると思ったら、肩をぶつかった人だ。

 

……その時に財布を落としたというわけだ。

 

──なんだか、不思議な縁を感じるなぁ。

 

「ねえ、貴方って猫獣人……よね?」

「はい。そう言う貴女もですよね?」

 

妙に印象に残った、彼の耳について触れて話をする。

 

「うん、私もそう。……えっと、聞いていいかどうか分からないけど、貴方のそれって何かあったり、する?」

 

控えめに、彼の耳を指してそう言う。

 

彼の耳は、銀色。

 

猫獣人の耳の色は、茶色・白色・黒色の三色だけだ。

 

耳の色がこの三色なら、猫獣人という種族だと判別出来るほどに分かりやすい特徴だ。

 

だが、彼の耳の色はその三色とは違う。

 

だというのに彼はどう見ても猫獣人にしか見えないのだ。

 

同族としてのカンが鋭く働いているのだ。

 

「ああ、この耳ですか……ひとまず、席につきませんか? 話すにしても、私たちは互いに知らなさすぎる」

「それもそうだね。だけど、仕事の方は大丈夫?」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。貴女の部屋で最後ですからね、少しだけ長引いたとしても怪しまれませんよ」

 

そういって彼はいたずらっぽく笑う。

 

「そうなんだ、ふふっ……」

 

それにつられて私も笑っていた。

 

────────彼は、クラウスというらしい。

 

彼の耳は、生まれつきのものだった。

 

【猫獣人】にないはずの色を発現した子が生まれたことで、周りからよく【呪い子】と呼ばれ、いつも蔑まれてきたらしい。

 

それでも、家族がいたからこそ耐えてこれたが――ついには家族にさえ勘当された。

 

絶望した彼は、気が付いたらここの街にいたらしい。

 

「そんな、ことがあったんだ……」

 

私は驚いた。確かに耳の色が違うというのだから多少の事情はあると思っていたが……まさか、そこまでだとは思わなかったからだ。

 

「はは……でも、あれがあったからこそここの街にいるんだと思うとあながち悪いことではないかも、ね?」

 

そう言って、微笑む彼。

 

言葉もいつの間にか敬語じゃなくなっていた。

 

でも、なんとなくそれが嬉しく感じてもいた。

 

彼との距離を縮めた気がしたから。

 

「……クラウス、聞いてくれる?」

「うん? 何をだい?」

 

彼は笑顔を私に向ける。

 

「私の罪を」

「……罪?」

「うん……聞いてくれる? 私の犯した罪のことを……」

 

──ああ、と彼は強く頷く。

 

そして……己のした罪を吐き出す。

 

この時点では、彼とはこの場限りの関係だからと思ったからかもしれない。

 

また、彼の境遇に何かを思ったからかもしれない。

 

 

 

 

――――許せない。

 

ミレイユを一度殺した、という黒髪の日本人。

 

彼女が罠に引っかけて、それに抵抗したという話自体は分かる。

 

それ自体については彼女が悪い。そこまで僕はかばうつもりはないし、彼女が間違っているのだから彼女自身が償う必要がある。

 

でも――――殺すのは、やりすぎじゃないのか?

 

彼女を、一度殺した。

 

それだけでもう立派な理由になり得る。

 

……果たして、これは逆恨みなのだろうか。

 

僕自身、よく分からない。

 

確かに彼女は決して許されない罪を犯したのだろう。

 

その結果、彼女が死んだというのであれば……客観的に言うと“自業自得”だ。

 

だが、そんなきっぱりと割り切れる問題ではない。

 

現に、僕自身その日本人とやらに対して怒りを抱いているのだから。

 

相手が違う? そんなのは分かり切っている。

 

だけど――頭が分かっていても、心はそうはいかない。

 

僕は狭量だろうか。

 

「そんな、ことがあったんだ」

「……信じてくれるの?」

 

信じている様子の僕に驚いているのか、目を開いている彼女。

 

「信じるよ。といっても、今日会ったばかりだからあまり信じてくれないとは思うけど」

 

僕は苦笑いをしながらも。

 

「でも、嘘をついているかどうかは君を見ていたら分かる。……がんばったね」

 

僕の言葉に、彼女は目を大きく開く。

 

やがてその瞳から涙が零れ落ち始める。

 

「ご、ごめっ、ごめん……な、さい……クラ、ウス……」

「いい……いいんだ。どうか全てを吐き出してくれ。それで君が救われるなら、僕はいくらでもそばにいる」

 

むせび泣く彼女を優しく抱きしめる。

 

僕には、こうするしかできない。

 

彼女の罪は彼女にしかどうこうできない。

 

だから、僕にできることは……今、こうしてそばにいるだけだ。

 

 

 

 

それから、クラウスとは時があれば話を交える関係になった。

 

何よりも彼といると心地がよい。もっと一緒にいたくなる。

 

……クラウスのことを、【特殊看破】で見させて貰えないかと頼んだところ、快諾してくれたので早速見てみる。

 

クラウス【猫獣人】

 

- 技能 -

 

剣豪 (58) 盾術 (25) 回避術 (39) 格闘術 (57) 生還 (18)‌‌ 恐怖耐性 (87) 風属性魔法 (43) 蘇生魔法(78) 自動回復 (27) 即死耐性 (∞) 話術 (5) 

 

 

「───すごい」

 

クラウスの技能を目にして、一言目がそれだった。

 

()の数字が、ほとんど二桁。

 

それも──即死耐性が(∞)。これを見るに、彼に即死攻撃は絶対的に効かないということだろう。

 

……じゃあ、あの日本人の攻撃も効かない、ということなのだろうか。

 

「ぁ……」

 

それに気づくと、思わず膝が崩れ落ちた。

 

「ミレイユ!?」

 

──────────よかった。

 

クラウスが、あの日本人の力で殺されないんだ、と。

 

ただ、よかった。その一心のみだった。

 

そんな、彼と暮らす数日の中での一出来事だった。

 

 

 

 

彼とはじめて出会って数日が経とうとしていた。

 

私とクラウスの距離は、出会って数日とは思えないほどに縮まっていた。

 

「ねぇ、どうして貴方は私にここまでしてくれるの? 貴方と私は昨日会ったばかり。だというのにどうしてそこまで?」

「……そうだね」

 

私がそう聞くと、彼はなぜか頬を少し赤く染めて、かくような仕草をみせる。

 

「その、大した理由はないんだ。ただ、君を一目見て……なんだか、放っておけなくて。それで」

「そう……なんだ」

 

放っておけなかった、か。それだけ憔悴していたということなんだろうなぁ。

 

「ああもうッ、ミレイユ!」

 

そう言って、突如立ち上がるクラウス。

 

そして彼はがっしりと私の肩を強く掴んでくる。

 

「な、何?」

「君が好きだ」

「――――……」

 

その言葉を聞いて、時が止まったような感覚がした。

 

好き? ……私が、好き?

 

「……本気?」

 

恐る恐る、そう聞いてみると。

 

「本気だ」

 

そう頷くクラウス。ああ、これは――――嘘じゃない、本気だ。

 

でも、なぜ? 私のしてきたことを知った上でそう言っているの?

 

私は許されぬ罪を犯した。だというのに私が好き?

 

――夢物語だ。そんなのは、ありえない。

 

別の目的があって、とかその方がよっぽど現実味がある。

 

「……ミレイユ、僕は、君に一目惚れしたんだ」

 

――ドキッ。

 

自分の脈拍が一つ飛んだのを、自覚せぬまま彼の言葉を聞く。

 

「出会ってまだ日が浅い、とかそういうのはどうでもいい。僕は、君に一目惚れした。だからミレイユの力になりたいと思った。ただ、それだけなんだ」

 

――――ああ。

 

彼の言葉に、脳が蕩けてしまいそうになる。

 

魅了? いや、違う。これは……ただ、“嬉しい”んだ。

 

こんな私でも“好きだ”と言ってくれる人がいる、ってことに。

 

彼とは昨日出会ったばかり。

 

だというのに、どうして長年付き合ってきたような覚えがあるのだろう。

 

……彼も、そうだといいな。

 

「ありがとう、クラウス。貴方の気持ち、確かに受け取ったよ」

 

彼は、優しい瞳で私を見つめて、笑顔でそう頷くのだった。

 

 

 

 

- 技能 -

 

 

詐術 (7) 話術 (5) 剣士 (19) 回避術 (12) 逃走 (7) 生還 (1)‌‌ 恐怖耐性 (15) 特殊看破 (3) 格闘術 (8) 即死耐性 (∞)

 

 

あれから、早数日。早速クラウスから様々な技術を叩き込まれた。

 

クラウスの本気に恐怖を抱いたこともあったけれど、それも今となっては必要なことだったんだなとすんなりと納得できた。

 

それほどに、クラウスと暮らすこの数日は濃いそれだった。

 

そのおかげで、クラウスと同じ即死耐性(∞) を手に入れることができた。

 

これで一安心。だが、根本的な解決はしていない。

 

犯罪組織。まずはそれをなんとかするために、私は宿屋を出る。

 

「……本当に、よかったの?」

 

そして、私の横に立つクラウスにそう言う。

 

「ん、何が?」

「その、無理に、私に付き合わなくてもいいんだよ? これは私がやるべきなことで……」

「ミレイユ」

 

真剣な目差しをして私を見つめるクラウスに、口を慎む。

 

「ミレイユに付き合うと決めたんだ。決して君が可哀想だからとかじゃない。君に付き合いたいから、僕はそうしている。それだけの事だよ」

「クラウス……」

 

彼の言葉に、心が歓喜に震える。

 

彼に言われると、これ以上頼もしいものはない。

 

何よりも、私の行いを。

 

彼に、一番近くで見てもらいたいから。

 

まだ、私の贖罪は始まってもいない。

 

だけど、今この瞬間。

 

始まろうとしていることだけは、確かだ。

 

クラウスと一緒なら。あの青空のようにどこにでも羽ばたいていける。

 

そんな確信を持って。

 

 

~完~

 

 

 




短い間ですが、この物語はひとまずここで区切りとします。

また時間があれば再開……するかもしれませんのでその時はよろしくお願いします。

改めまして閲覧いただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。