スーパーロボット大戦Z Another Chronicle (レゴシティの猫)
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第1話 悪魔の星の忌み子

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
生身もいたりしてあれだけどこの話は頑張って普通のスパロボを目指せれば良いなとは思ってます。
投稿者の他の小説に同じ名前やスタンスの人間がいるかもしれませんが並行世界の同一人物という事でお願いします。
ちなみに主人公結城苺悟(イチゴ)のイメージCVは先導アイチ(キャラ名で勘弁を)です。


 昔々、世界を砕き、繋ぐ事件(ブレイク・ザ・ワールド)が起きるより遥か昔……

 

 ~志葉家 邸宅~

 

 黒子の朝は、早い。

 掃除、霧吹きで観葉植物に水やりをしたり、そして炊事、その他諸々……

 それら全てを朝までに終える。

 それが終われば、街に出て掃除……

 ここまでは日常茶飯事と言えるので、いつものようにテキパキ行動すれば別段問題はない、今時藁箒なのはいただけないが………話は変わるがこの家では非常事態を知らせる鈴がある、その鈴が鳴る瞬間、それだけはいつまで立っても慣れない。

 カランカランカランカラン~

 その瞬間がやってきた。

 言ってしまえば、敵襲の知らせ……

 鈴の音と共におみくじもセットで出てきて番号で位置が分かる仕組みになっている。

 一目散に外へ向かった。

 この世界……特に日本では見える妖怪と、見えない妖怪がいるらしい。見えない妖怪は、祓忍(はらいにん)とか道士(タオシー)とかシャーマンとか魔法使いとか、その道の一族代々の職業の人が秘密裏に祓うなどの処理をしてくれている分まだ良い、だが、見える妖怪というのがいて……そいつ達は確実に人を襲う。誰にでも見える分、一層恐怖を煽ってしまう。

 名前はアヤカシ、外道衆、牙鬼軍団とかもいたような……今回牙鬼軍団は関係無さそうだからアヤカシ、ないしは外道衆の話をしたい。これまたそれらと戦ってきた殿様と家臣の一族がいて……その一族の殿様がこの家……志葉家の人間である。

 鈴の音の鳴った瞬間、黒子の役割は殿様を現地に運ぶのと、外道衆が襲撃する際の人々の避難誘導に変わった。

 ~市街地~

 

 「ガヤ、ガヤ!!」

 

 街の一部が燃えている。

 燃やしているのは外道衆……隙間に佇む、怪異達

 出てきたのはナナシ連中、モブ的な奴らで弱いが数はたくさんいるそうだ。

 志葉家の殿様、丈瑠に倒してもらうのが一番ではあるが、殿様は一人、とても手は足りない。

 頭巾を被ってる間は全く声がでない、役に染まるとでも言うのか?声を出そうとする気にならない。だから身ぶり手ぶりで精一杯誘導する。

 女の子とか男の子とか老人とか、時にはおぶさらなきゃいけない相手もいて……

 

 「!!」

 

 今にも、ナナシ連中の2体が女の子に突っかかろうとしている。

 

 「!?」

 

 すぐに女の子を助けに行く事にした。そうしなければ、後味は悪いし黒子の役割としても失格だ。

 ナナシ連中にタックルを仕掛ける。ダメージにはならないだろうがよろけさせればOKという心持ちで向かった。

 

 「!?」

 

 だが、ナナシ連中はよろけもしない。以前から殿様が倒してくれていた奴らより強くなっているのか?

 

 「ガヤ!!」

 

 ならば女の子を庇う、いっそのこと黒子として死ねるのならそれが良いという思いが脳裏をよぎった。

 ナナシ連中は、勢いづけて得物を振るう。

 急いで女の子に近寄り、庇った。

 避けられない、避ける訳にはいかない。

 と思っていると背中が削られるような鋭い痛みと、自分の中から何かが飛び散っていく感触がした。

 

 「!?」

 

 傷は浅い……とはいえ背中からそれなりに出血したせいか少し息苦しくなってきた、声を出すために頭巾を取ろう。

 

 「ハァーッハァーッ」

 

 「ガヤ?ガッ!!」

 

 すぐさま2体一辺に回し蹴りを浴びせ、ノックバックさせた……その隙に女の子を連れて距離を取る。

 

 「…………お兄ちゃん、大丈夫?」

 

 「ハァー………なんとかね、それより怪我はない?」

 

 「うん」

 

 「なら良かった、さあ、あっちだよ……あっちにオレと似たような格好をした人がいるから」

 

 「お兄ちゃん、名前は?」

 

 何も知らなさそうな子供だし言っても構わなさそうな安心感があった、だから下の名前を言った。

 

 「イチゴ」

 

 「ありがとう、イチゴお兄ちゃん」

 

 女の子はイチゴに向かって頭を下げた。

 

 「いいよ」

 

 丁度他の黒子が視界に入ったので、呼び止めて女の子を連れて逃げてもらった。

 

 「さあ……行った行った」

 

 遠くに向かう他の黒子共を見て胸をなでおろしつつ……さっきのナナシ連中を見た。

 

 「用事は終わったかって?ああ、待ってくれたんだ、ありがとう」

 

 ナナシ連中が迫る。じわりと感じる命の危険、随分久しぶりに感じるそれは新鮮みがあり、恐怖心を鮮明に掻き立てられていく……怖い、そう思える事への感謝と不安が一杯になっていく。その時、首飾りとして首回りに着用していた物が熱くなった。

 

 『危ないって思ったらこれを使って、イチゴを守ってくれるから……』

 

 優しい、優しい、他の女の子供なのに優しくしてくれた女の人の声を思い出す。

 思い出に浸りつつ試しに色々な所を押してみた、すると首飾りが発光した。

 

 「なんだ?」

 

 光が収まる頃、首飾りは無くなり、代わりに一体のロボットが現れた。

 

 「これは……」

 

 確か王妃ララ・サタリン・デビルークの発明したコスチュームロボット、ペケの2号機カイだ。ペケちゃんのボディを黒くしただけのような姿はコンパチ、2Pカラーと言ってネタにされても仕方のないだろう。

 

 『認証開始……該当……ひさしぶりです、イチゴ様……御命令を』

 

 「じゃあ……あいつらを倒すの手伝って」

 

 『了解……でもイチゴ様は傷ついております、ですので私がお守り致しましょう』

 

 チェンジ!!

 バトル形態(フォーム)!!

 

 そう言うとカイは、イチゴを包み込んだ。

 

 「これは……」

 

 どうやらカイが鎧としてまとわりついたみたいだ。

 

 「どれどれ……」

 

 とりあえず武器に何があるかを確かめてみた。万能工具(ツール)、現存の武器の改造する用と考えると後は殴り飛ばすしか無くなる……が、生身の時よりはやりやすそうだ。

 

 「これなら……やれる!!」

 

 すぐさま格闘戦に持ち込んだ。

 

 「まずは一発」

 

 ジャブで牽制。

 

 「はぁ!!」

 

 次にアッパーで突き飛ばし、飛び上がった後両手を組んで、振り下ろして叩きつけた。胴長たんs…………腕が足より長いから、破壊力は抜群だ。

 ナナシ連中はその攻撃で爆発した。

 まずは1体、この調子ならいけると息巻いていたその時……

 

 「……増援?」

 

 今いる数も含めて8体出てきた。

 

 「さすがに8体はきついな……殿様……早く……」

 

 殿様、志葉丈瑠の力を借りればすぐにやっつけられると思った。だが来る気配は無い、他にもいて忙しいのだろう。

 一人で全滅させる必要が有ると覚悟した、その時だった。

 

 「はぁ~っはっはっはっはっはっ!!」

 

 半袖ジャージ姿の金髪……というより、ブロンドといった方が良さそうな髪をたなびかせる、声を聞くだけで自信家で偉そうなイメージの湧く青年が現れた。

 

 「天条院ヒカル、助太刀するぜ!!」

 

 そう名乗ると青年は、その勢いのままナナシ連中の一体を蹴っ飛ばす。

 

 「得物は!?」

 

 「これだ!!」

 

 ヒカルは破魔矢を取り出す。

 

 「神社で買った、これで突き刺す!!行くぞ!!」

 

 「……………うん!!」

 

 ヒカル主導で、反撃開始の狼煙が上がった。

 助太刀に来たと豪語しただけはある、瞬く間に3体に突き刺して、ナナシ共に致命傷を負わせた。

 

 「強い……」

 

 「随分まどろっこしい戦い方だな?お前こそ武器は?」

 

 「万能工具(ツール)はあるけど」

 

 「俺達の王家のコスチュームロボットになおかつ王妃様の工具か……貸してみな、確かこうやって……」

 

 イチゴが万能工具(ツール)を貸すと、ヒカルはそれを武器に変形させた。

 

 「ほら、使え」

 

 ヒカルは万能工具(ツール)を投げ渡す。

 

 「おっとっと」

 

 ヒカルに投げ渡され、慌てて拾ったイチゴはとりあえず武器を振り回してみた。ヒカルは少し離れる。

 

 「剣か……」

 

 イチゴは剣を横凪ぎに振るい、ナナシ連中を攻撃した。

 

 「はぁあ!!」

 

 切れ味は良さげで、一回斬りつけただけで複数のナナシ連中は爆発した。

 

 「ハァー」

 

 ナナシ連中はあらかたいなくなった……

 

 「助けてくれてありがとう」

 

 「構わない、お前の…うんうん…貴方の着ているコスチュームロボットの下の顔を見せていただければ……見たがっている御方がいるのです」

 

 下手にごまかそうとすればする程まずい展開になると察した。

 

 「それと……ここはどこです?」

 

 どうやら彼は道に迷ったようだ、彼の父親もそうらしい。だが、唐突な気がしたのでイチゴは少しずっこけてしまった。

 

 「……………………ごほん…ほら、あの人に聞いて」

 

 辺りを巡回する黒子を指差した。

 

 「ああ、待ってくれ……………」

 

 「じゃあ」

 

 そして一目散にその場を去る。カイにある翼の機能を用いれば、追ってこられないはずだ。例え彼の種族に尾てい骨の辺りに尻尾が生えていたとしても……翼が有る訳ではない。

 

 「ハア……」

 

 天条院ヒカル……イチゴにとって昔馴染みといった間柄だ。そういう間柄の人間とできるだけ関わりたくなかったのだ……

 

 「まあ良い、殿様を探そう」

 

 建物……と言っても廃工場の辺りで丈瑠は家老ポジションの人、日下部彦馬と何やら喋っている。

 そのままだと聞き取りづらいので思い切って近づいてみた。

 

 「誰だ?」

 

 「はて……その珍妙な顔と体型は………」

 

 珍妙と言われ、反射的に水たまりからイチゴは自分を見たが、うずまきおめめや等身も低くいのもありマスコットキャラクターが一体そこにいるように見える。珍妙と言えなくもない。

 

 「珍妙…………かもしれませんね」

 

 「その声、お前……イチゴか?」

 

 「イチゴですな………」

 

 「バレましたか」

 

 「無事で何よりだ……ていうかなんでそんな格好を」

 

 「身の危険を振り払うためというか……」

 

 イチゴは状況を説明した。

 

 「そうか……ご苦労であった、だがこのようなことは努めて繰り返さないようにせねば……イチゴ、お前にも頼みたい事がある」

 

 かねてより考えていた予定だったと言いたげに頼みたい事という言葉が雄弁になっていた、その頼みたい事がどれほど重要なのかはなんとなくだが予想がつく。

 

 「一体何を……?」

 

 「そうだな」

 

 躊躇いか、何か含みのある表情を浮かべる丈瑠そっちのけで彦馬はある予定を述べた。

 早い話、家臣の家系にある人達を招集するそうだ。

 ああ……そういう事かとイチゴは思った。以前から口うるさく丈瑠に進言して、その度に丈瑠が同じような顔をしていたのを思い出す。

 

 「それは……確かにその方が良いかと……」

 

 思うと言おうとした所でイチゴは倒れてしまった、傷を負った状態で動き回ったのが祟ったらしい。

 

 「イチゴ!!」

 

 「イチゴ!!しっかりせんか!?」

 

 丈瑠と彦馬が自分の名前を呼んでいるような気がするが、真偽を確かめられないままイチゴは気絶した。

 

 ~一方その頃~

 

 ~宇宙船 内部~

 

 「それで……顔は分からなかったの?」

 

 ヒカルは、長袖に薄い手袋、レギンスとスカート、長い桃色の髪をたなびかせるもヘルメットのように兜で顔を隠している、言うなれば完全武装の出で立ちの女性に報告していた。

 

 「ええ、王妃様のコスチュームロボット、ペケと同じ顔しか見ることは叶いませんでした」

 

 「…………それでも親子揃って地形を覚えるのに疎いから、一人で帰ってこれた分良く頑張りましたと誉めねばなりませんね、ご苦労様。これでだいたいの位置は掴めました、後は自分で行って確かめてきます」

 

 「姫様」

 

 「なあに?」

 

 「奴の事は無闇に突っつくなと王様、王妃様に言われていたはずですが……」

 

 ヒカルに言われ、姫と呼ばれた女性はぶーっと意地を張るように頬を膨らます。膨らませているのが見える訳ではないが、彼女の被る兜が頬の部分を中心にはちきれそうになっていた。

 

 「お黙りヒカル、私の夫に選ぶ方は私の顔、そして肌を見てケダモノにならないのが良いとお婆様も仰っていました。そのようなお方はお爺様、お父様、その他にはイチゴお兄様しかいないのですから。確かにお兄様の事になるとお姉様達みんなだんまりになりますけど……」

 

 「姫様は地球の年月にて御年12、まだそういうのを決めるのは早すぎると思いますが……」

 

 「ああ……イチゴお兄様……待っていてくださいね(うっとり)……私が今、参ります……」

 

 「聞いちゃいねえし」




いかがでしたか?
面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第二話 侍戦隊初陣(さむらいせんたいういじん!!)

皆さんこんにちは(こんばんは)
お待たせしました(待ってなくても言う)
シンケンジャーの話は半ば頃からです。
スーパーリンクなアイアンハイドの活躍みたい方は巨大戦までスクロール、頼みます!!


 「うん………そろそろ生姜の出番か」

 

 イチゴは黒子の衣装ではなく、包帯を体中に巻いてもらった状態で他の黒子に料理を教えていた、いつも被っている頭巾を取っているからか涼しい。

 いつもは当番の時に好評だったから専ら料理を振る舞う側だった、だがナナシ連中に背中を斬られてその痛みでおたまを使いにくくなってしまった、だからしばらく他の黒子に代替わりをしてもらうための調理法を教えている所だ。今まで本腰を入れて誰かに料理を教えた事はなかった、だがその道の職人という訳でもないから変なプライドは持ち合わせてはいないつもりだ、そうと決めたからには教える所は教えたいし多少自分の作ったのと違っても別に構わない。

 余談だが、彦馬の選ぶ献立は煮物とか漬け物とか、和食が多めだから洋食の作り方の記憶が曖昧になりかけている……気はする。なので自炊のターンになった時は洋食を作って忘れないようにしている。

 

 「………(そういえばなんであんなに料理が上手いの?という疑問をジェスチャーで表す)」

 

 イチゴは黒子の質問に答えた。

 

 「別に大した事じゃないよ、教えてくれた人が上手かっただけだから……その辺のシェフよりかは上手いって褒めてくれる人もいるんだ」

 

 「……………………(はえ~お母さん?というジェスチャー)」

 

 いつもはその話題を出されるとイチゴはムッとしてしまうがそのジェスチャーをあまり見てなかったため、あまりそうはならなかった。

 

 「でも、男選びが致命的なんだ……見る目じゃないよ、そいつは他の人も惚れるような人間だったらしいし……ああ、君には関係ない話か……もう2分かき混ぜといて、そしたら完成する……だからオレはしばらく部屋で横になってる、そろそろきつい」

 

 我ながら余計な事を喋り過ぎたとイチゴは反省した。せっかく親元を離れて得ている平穏だ、それを自分から蒸し返して壊す必要はない。

 

 「……………(お大事に……というジェスチャー)」

 

 ~志葉家 黒子の部屋~

 

 黒子だって人間だ、休みも必要であってそのための部屋もある。

 

 「さて……」

 

 うつぶせになりながら、辺りを見る。カイは自分の部屋に安置していて……

 

 「どうしたもんか……」

 

 昔住んでいた遠い星の宮殿では、カイをどう扱っていたのか……?と記憶を揺り起こそうとしてみた。何のことかと言えば充電の事である、同じ型のコスチュームロボットとして王妃の衣服になっていたペケは、充電が切れるとすぐ溶けたようになり、王妃の柔肌を周囲に晒してしまう事がままあったり、下に着込んでた事で無かったりするのだ。

 

 「プラグ差しときゃ良いかな………?」

 

 『そんな事なさらなくても結構ですよ』

 

 カイは先ほどまで機能停止していたかのように急に動き出した。

 

 『私もペケちゃんと同じように、寝てれば充電できますので』

 

 まさかのプラグ要らずだったとは……

 

 『よろしければ、イチゴ様がお休みになる間抱き枕にでもなりましょうか』

 

 「じゃあ、よろしく」

 

 イチゴは横になってごろりと布団に寝転んだ後、カイにその隣に乗って寝転んでもらった。

 悪くない、餅を抱いているようで心地いい。

 それにしても今ごろ、殿様(たける)は家臣の家系の人達に挨拶をしている頃か?

 その人達もそれまでの生活があっただろう、なにかの職に就いてただろうか?

 これからは戦いが終わるまで、その生活から目を背けなければならない、具体的に言うと、職も辞めなければならない。

 なまじ才能があって、実力もあって、華々しい道を歩もうとしていた人間には酷だろう。

 やっとの思いでつかんだ夢を、手放すという選択をするのだ、つらくない筈はない。

 そんな選択をするのは、それまでの生活と縁を切る事で、人々を巻き込まないためだと彦馬や丈瑠は言う。

 けど、決めるのは彼らだ。それまでに訓練も積んだだろうし、覚悟ならイチゴよりも決めているだろう。もし躊躇するのならイチゴの知ってる丈瑠は辞めさせようとするだろう。

 それにしても家臣の家柄の人達……どんな人達なのだろうか……?

 

 「…………スー」

 

 なんて言って、眠れそうにはない。だがカイが気持ち良いし、しばらくこのままでいようとイチゴは考える。

 

 ~三途の川~

 

 そこは、三途の川と呼ばれる、血のように赤い川の水とで満たされた地獄のような場所……

 そこには一隻の船がある、名を六門船。

 琵琶の音が辺りを染めている。

 その六門船で、主が長い長い眠りから目覚めようとしていた。

 

 血祭ドウコク……全身が赤く、目が六つある六門船の大将である。

 

 「おお……目が覚めたかい?ドウコク」

 

 イカの形をした頭で、錫杖のような杖を持った老人……名前を骨のシタリ……

 音色の主は、薄皮太夫と言って唇の辺りだけは人間風で、そこ以外は魔物のよう……

 

 「……………ああ?シタリか」

 

 「気分はどうだい?何せずっとそのままだったからさ」

 

 「最悪だったぜ……シンケンジャーに体をバラバラにされてこうして十数年眠らなきゃいけなかったんだ、だが奴らは全員くたばってる……この勝負……俺様の勝ちだ」

 

 「嫌……それがさ……ドウコク」

 

 シタリは歯切れの悪そうに言う、シンケンジャーには世継ぎがいて、そいつが今、シンケンレッドとして活動していると………

 

 「何ぃぃぃぃい!?」

 

 衝撃の事実に、琵琶を爪弾く太夫の手も止まる。

 

 数十分後………

 

 カゲカムロという、アヤカシの一人がやってきた。鎧兜のような姿で、人にとっての下半身の部分がだるまのような顔となっているのが印象的である。

 

 「何だ何だ、せっかく大将が復活したからってぇ聞いたから祝いにこれ持って来てみりゃ、まるで葬式じゃねえか。陰気臭え」

 

 カゲカムロは酒入りのひょうたんをアピールさせ、ふたを開けて自分で飲もうとする。

 

 「うるせえ!!」

 

 突如ドウコクの叫びが辺りを埋め尽くす、カゲカムロはひょうたんの中身をこぼさないよう、姿勢維持を試みた。

 

 「シンケンジャー……俺の体をこんなにまでして根絶やしにした筈の一族は実は代替わりして生きていたんだよ、するってぇとあれか?俺はやられ損だったと……こんな胸糞悪い話があるかぁぁぁ!?」

 

 「ドウコク!?ほら、落ち着いて……せっかくお酒もらったんだからさ……」

 

 シタリはドウコクをなだめつつ、カゲカムロに言う。

 

 「ほら、お前さんも悪いけどさ……ちょっと向こうに行って人間に悲鳴あげさせてきな……」

 

 「はーん……大将の憂さ晴らしって訳か……面白い……引き受けた!!」

 

 カゲカムロは、現れた時と同じスピードで船の外へと駆け出した。

 そして外道衆の現世へと渡る常套手段を用いて、人間界に赴く。

 

 ~街中~

 

 各方面から、4人の若者達が集められた。その手には、各々に向けて放たれた矢文を握りしめ。

 

 「で?誰が志葉家の殿様なんだよ」

 

 谷千明、近々卒業予定の高校生。

 

 「貴方が殿様!?」

 

 白石茉子、幼稚園のアルバイトである。

 

 「いえ、私ではありません」

 

 池波流ノ介、歌舞伎役者である。

 

 「でも派手な服着てはるし殿様ちゃうん?」

 

 花織ことは、家業の竹細工を手伝っている。

 

 「私のこの格好は歌舞伎衣装であって………」

 

 折り同じくして、白馬に乗って4人に近づく者あり。

 名を、志葉丈瑠。

 

 「あなたは……」

 

 「おおお……まさしく志葉家十八代目当主に相応しい貫禄、凄まじい……あの、殿とお呼びしても良いでしょうか?」

 

 勢い良く近づく流ノ介に対し、丈瑠の乗る白馬は落ち着けと言わんばかりに前足を口元に押し付ける。

 

 「あ、すいません」

 

 流ノ介は後ろに下がる。

 

 「最初に言っておく……この道の先を進めば、もう元の道には引き返せない……

 外道衆を倒すか、負けて死ぬかだ!」

 

 辺りに緊迫した空気が立ち込めた。

 

 「それでも戦うって決めてる奴にはこれを渡す」

 

 丈瑠が言うと、黒子は包みを取り出し、床に置いて中にある物を並べる。ショドウフォン×四である。

 

 「ただし付け加えておく……家臣とか忠義とかそんな事で決めるなよ、そんな時代錯誤なもので決めるのは俺はごめんだ。だから、覚悟で決めろ!!」

 

 彼らの答えは、既に決まっていた。

 

 「殿、覚悟などとっくに、決まっております!!」

 

 「ええ、昔からそのつもり」

 

 「えーと……うち、一生懸命頑張ります」

 

 「そう身構える必要なんかないって、ちゃちゃっと片付ければ良いって事だろ?殿様」

 

 「お前達の覚悟は分かった。その命、これより俺が預かる」

 

 その時、矢文が届く。緊急の外道衆が来たという合図だ。

 

 ~市街地~

 

 「泣く奴はいねーかあ~いたら返事しろよー倍にして泣かして仇なすからなー」

 

 カゲカムロはナナシ連中を率いて辺りを蹂躙する、住民の恐怖を引き出すように……

 

 「そこのお前」

 

 カゲカムロは男性に声をかける。

 

 「な……なんでしょう」

 

 「にらめっこをするぞ、にらめっこしましょー笑うと死ぬぞーあっぷっぷ」

 

 カゲカムロは下の顔で、赤面しつつ涙を流し、笑っていた。

 

 「ぶふっ」

 

 それを見て、瞳をキラリと輝かせたカゲカムロは、得物を男性に向けた。

 

 「……仇なしてやるから覚悟しとけよ」

 

 「ひぃいい……」

 

 「そこまでだ、外道衆」

 

 黒子の役割の一つに、彼らに着物の着付けを行うのも含まれている。

 志葉家の家紋入りの陣幕や旗を張って前を隠して、脱がせた衣類を回収し、もたつかずに手際良く着替えさせるのは至難の技だ。

 イチゴも丈瑠相手に数回やってみたが、5分以上かかるなどもたもたしてしまい……

 

 「おいおい……」

 

 呆れられてしまった。

 

 「何奴!?」

 

 「今、教えてやる」

 

 「ん、その紋所はまさか……」

 

 ~例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「「一筆奏上!!」」」」」

 

 「破ぁ!!」

 

 ショドウフォンで各々が代々受け継いできた力、「モヂカラ」に対応する文字を書きそれを反転させ、モヂカラによって形成させたスーツに身を包み、5人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンレッド、志葉…丈瑠」

 

 火のモヂカラを扱う。

 

 「同じくブルー、池波流ノ介」

 

 水のモヂカラを扱う。

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 天のモヂカラを扱う。

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 木のモヂカラを扱う。

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 土のモヂカラを扱う。

 

 「天下御免の侍戦隊」

 

 全員「シンケンジャー、参る!!」

 

 「ほう………こいつ達が大将の言っていた志葉家御一行様の後継か、者共かかれぇい!!」

 

 カゲカムロが号令を放つと、大量のナナシ連中がシンケンジャーに襲いかかった。

 

 「シンケンマル!!」

 

 五人は腰に差してある各々の刀、シンケンマルで戦う。

 

 「はぁ!!」

 

 「たっ」

 

 「やっ」

 

 「些か数が多すぎます、殿ぉ!!」

 

 あまりの敵の多さにシンケンブルーがレッドの元に駆け寄る。

 

 「俺一人で良い、自分の身だけを守ってろ」

 

 「分かりました」

 

 シンケンジャーには、秘伝ディスクという一文字のモヂカラを集約させたディスクがある。

 シンケンマルに装填して、回転させると様々な特殊能力を発揮するのだ。

 志葉家の家紋付きの黒いディスクだと……個人個人の専用武器になる。

 

 「ウォーターアロー!!」

 

 ブルーは弓型の武器から強力な水の一撃を放ち、ナナシ連中を数体倒す。

 

 「ヘブンファン!!」

 

 ピンクは扇から風を巻き起こし、ナナシ連中を吹き飛ばす。

 

 「ウッドスピアー!!」

 

 グリーンは吹き飛ばされたナナシ連中の残りを突き刺そうとする……が一体はうまくいっても二体目三体目には当たらずじまい

 

 「あら?しまったな……」

 

 ウッドスピアーを回転させ、木の葉を舞わせ、ナナシ連中が木の葉を払いのけている最中にプスプス刺して倒す。

 

 「ランドスライサー!!」

 

 イエローはシンケンマルを手裏剣に変えて投げる。かの風魔手裏剣程ではないが大型のそれは、当たると痛い。

 

 そうして次々と、カゲカムロの手勢はやられていった。

 

 「ほう………やるな、だが俺はそうはいかんぞ」

 

 カゲカムロは数体のナナシ連中と共にシンケンレッドに向かっていく。

 

 待ってましたとばかりに丈瑠は秘伝ディスクをセットする。

 

 シンケンレッドのシンケンマルは、巨大な赤い大刀に変化する。

 

 「烈火大斬刀!!」

 

 烈火大斬刀と読んだそれを、シンケンレッドは振り回す。

 ただ振り回すだけではない、確実にナナシ連中に一撃を浴びせ、全て致命傷を負わせている。

 そしてカゲカムロの手勢は、次々と倒されていった。

 

 「何ぃ!?」

 

 「流石です、殿ぉ!!」

 

 「殿様の援護はいらなさそうね」

 

 「殿様、やるねぇ……俺ももう少し真面目に練習しとくんだった……(泣)」

 

 「すごいわ、うちもあんな風にやれるかな……?」

 

 「………仇なすに相応しい相手だ!!うぉぉぉぉお!!」

 

 一度はうろたえたカゲカムロ、しかし奮起しシンケンレッドに向かって突っ込む。

 

 「ふん」

 

 シンケンレッドは、獅子が描かれた秘伝ディスクをシンケンマルに装填し、回す。

 今度は獅子の絵柄の動きが一体ずつ違うので、動くように見えるのだ。

 

 「シンケンマル、火炎の舞!!」

 

 炎を纏った連続攻撃を、カゲカムロに浴びせた。

 

 「ぐわ……がぴー!!」

 

 カゲカムロは爆発四散した。

 だが、これで終わりじゃない。

 彼らは知っている。

 

 「再び出でて、仇ぁ!!為して、やるぜ!!」

 

 「出たか、二の目」

 

 外道衆のアヤカシは一の目、二の目と言って、二つの命を持っており、二の目の番となるとアヤカシは巨大化する

 

 「全員、分かっているな?」

 

 一同、肯定する。それを皮きりに各々懐から自分を覆っているモヂカラと同じ字の描かれたエンブレムをを手にとる。折神といって式神の一種である。

 

 「「折神大変化!!」」

 

 ショドウフォンで「大」の文字を書き、変形させると、動物を模した巨大な折神となるのです。

 

 レッド→獅子(五角形のエンブレム)

 ブルー→龍(六角形のエンブレム)

 ピンク→亀(丸いエンブレム)

 グリーン→熊(四角のエンブレム)

 イエロー→猿(三角のエンブレム)

 

 を担当しています。

 ちなみにシンケンマルを操縦桿として台座に刺して、それで動かしています。

 

 「仇ぁなすには数がいるなあ……出てこい」

 

 カゲカムロの手勢もまた、巨大化して現れた。

 

 「配下、総動員という訳か……」

 

 その時、ライトグリーンの色が特徴的な戦車が現れ……ナナシ一体にビームの弾幕を浴びせた。

 

 『トランスフォーム!!』

 

 そして戦車は眼帯を巻いた軍人風のロボットとなった。

 

 『あ~こちらアイアンハイド……オホン、今日は非番だが立ち入った縁により助力致す……日本とやらでの前口上はこれで合ってるんだろうか?スカイファイヤー』

 

 『ああ、こういうのは気持ちが大事だ。手伝いたいって気持ちを前に出せればそれで良い』

 

 「手伝ってくれるのか……ありがたい!!」

 

 「当てにするのは程々にな」

 

 「分かりました、殿!!」

 

 そして、戦いは始まる…………

 

 「やぁ!!」

 

 シンケンイエローの乗る猿折神は手のひらをジャンプ台にしてキックを放つ。

 

 「とう!!」

 

 龍折神はその長い首を伸ばしてナナシに体当たり。

 

 「ふっ」

 

 シンケンレッドの駆る獅子折神はナナシにビンタする。

 

 「よいしょぉ!!」

 

 熊折神は尻の部分で攻撃する。

 

 「いって!!」

 

 亀折神は回転し、鋭い手足でナナシに近づき、当てて切る。

 

 『はぁ!!』

 

 アイアンハイドは、ビームの弾を指先から連射する。

 

 『いくぞ、サーチ。エボリューションだ!!』

 

 アイアンハイドが呼びかけて、だが何の進展もないのでシーンと静まり返る。

 

 『そうだった、奴は別の惑星に旅立ったのだったな……』

 

 アイアンハイドは、哀愁を漂わせながらカゲカムロ及びナナシ連中に指部分からビームの弾幕を放つ。

 ナナシ連中は避けたり、カゲカムロは受けたりするが足は止まっている。

 

 『今だ、いけ、いくのだぁ!!』

 

 「丁度五体だ、俺は奴を叩く、お前達はその周りだ」

 

 「あんたが仕切るのかよ」

 

 「当然だ、俺がやった方が確実だからな」

 

 「そうかいそうかい、じゃあ一番にナナシ倒してやるよ」

 

 シンケングリーンの乗る熊折神はナナシ連中に突っ込んでいった。

 

 「おい………仕方ない」

 

 龍折神から水流が放たれ、ナナシを蹴散らす。

 

 「……サンキュ、オラァ!!」

 

 シンケングリーンは熊折神の前足で殴る。

 

 「ギャワー!!」

 

 亀折神は回転して手足の鋭い部分でナナシを倒し、猿折神は爪で引っ掻きナナシを倒した。

 

 「残りはお前か」

 

 シンケンレッドはシンケンマルに秘伝ディスクをセットして回す。

 すると獅子折神は、炎を纏ってカゲカムロに突撃。

 

 「五角大火炎!!」

 

 轟音が鳴り止む頃、攻撃は終わり、カゲカムロの土手っ腹には、風穴が開いた。

 

 「これまでか………次があれば、あの世から仇なしてやる……」

 

 これで、二の目も潰えた。完全勝利。

 

 「これにて………一件落着」

 

 ~街中~

 

 戦いの終わった丈瑠達は既に変身を解除している。

 

 『終わったか……では、またな』

 

 そしてアイアンハイドが去ろうとすると、子供達がやって来てアイアンハイドに寄り付く。

 

 「アイアンハイドー」

 

 「アイアンハイドー」

 

 「かっこいいー!!」

 

 『な…………そんなに寄られたら歩きにくいし何よりトランスフォームできないではないか?』

 

 「ねえ、サインちょーだい」

 

 『ぬぬぬ……どうすれば良いのだ、スカイファイヤー』

 

 アイアンハイドは再び無線で助けを求める。

 

 『良いじゃないか、サインぐらい書いてやれよw』

 

 『ええい、分かった分かった……デストロン印の判子とやらを押すから……』

 

 「すごい人気やな」

 

 「仕方ねえよ、ガキってああいうの好きじゃん?俺もちっちゃい頃そうだったし、みんなはどうよ?」

 

 「私はあまりああいうのは……」

 

 「私も」

 

 「あんまりああいうの馴染みなかったからなぁ、ごめんな、千明」

 

 千明は自分の好きだったものがみんなにとってそうでなかったため落ち込む。

 

 「んだよ……殿様は?」

 

 丈瑠はぷいと目を逸らす。本当は好きではあったが、それを言う気は起きなかった。

 

 「…………………がーん」

 

 「帰るぞ、戦いは始まったばかりだ……」

 

 ~宇宙船 内部~

 

 ヒカル達の乗っていた宇宙船の中に、ヒカルの父親、ザスティンそしてその愉快な部下達が乗り込んできた。

 

 「やはり来たか……」

 

 「ヒカル、本当なの?お兄様に会う前に帰らされるの?」

 

 『そこの子供達、止まりなさい』

 

 「そんな……」

 

 「行ってください」

 

 「ヒカル!?」

 

 「姫様はここまで来て途中で帰るのも不満になりませんか?俺はなります」

 

 姫様と呼ばれた少女はコクリとうなずき、走った。

 

 「ヒカル、あなたの犠牲は無駄にはしません!!」

 

 ヒカルが姫様と呼ぶ少女は、走ってモニタールームから脱出した。

 

 「殺さないで欲しいかな……」

 

 非常時に備えての脱出艇もあるのだ。

 

 「父様……」

 

 「大変だな、子供の我が儘の付き添いというものは……」

 

 ザスティンはイマジンソードという彼専用の仰々しい見た目をしたレーザーブレードを持っていた。ヒカルは確信した、父親は自分より実力は上である。抵抗するだけ無駄だと……

 

 「ノノ様はどこだ?」

 

 「もう脱出した……」

 

 「それでヒカルは……」

 

 ザスティンはイマジンソードを構える。

 

 「降参です(白旗)」

 

 ヒカルは白旗を掲げ、正座する。ザスティンはそれを見て頭を軽くはたくのとなでる両方行った。

 

 「人に仕える者として生きていくにはもう少し主に仇なすものに対して立ち向かう姿勢が欲しいものだ」 

 

 「相手が父様だからというのもあるか……姫様の逃亡の手伝い……どんな量刑になるんです?」

 

 「まず無断外出だ……2人とも帰ったら家で覚悟しておけ……とリト殿も言っている、ノノ様に何かあれば話は別だが……何、地球……どの銀河の中で日本は比較的安全な所だ……かの地獄の番犬もそこにいる」

 

 地獄の番犬……ドギー・クルーガーの事だ、アヌビス星出身の、銀河一刀流の免許皆伝者で、間違いなく銀河警察のトップレベルの実力者。

 

 「それで……見たのか?」

 

 「ああ、あのコスチュームロボットが王妃様が設定した対象以外にまとわりつく筈が無い、そしてカイを持たせているのはイチゴ……そういう事ですよね?」

 

 「ある組織と、彦馬殿のご厚意に甘える形とはなったがお互いに距離を置くのが最善とリト殿も仰っていたのに……」

 

 「いずれ来るその時のために初恋の人を捕まえてキープしておきたいって感じだな、あれ」

 

 姫となれば、いずれ突き当たる問題……婚約者を決める話。まだ12歳故に、地球(いせい)人の父親の常識的な観念もあって決めようとはしていないがいざ決めようとすれば彼女の体質の事もあってなかなか決まらないだろう。

 体質………種族的なものだが、世の異性達が彼女の素顔を見れば魅力的に見えてしまうのだ。見えすぎて我を忘れるぐらいには………

 ここにいるみながみな、その素顔を見れば襲いかかるのは明白。だからこその顔を覆う兜なのだが……とにかく、彼女の体質を以てメロメロにさせきれない相手が彼女の夫には相応しい事にはなる。せっかく結ばれるのだ、誰だって安心感を得られる人が良いに決まっている。イチゴが彼女の種族の体質は効かないと認知される辺りでリトはイチゴを遠方に移させたのだ。

 

 「はて…………リト殿と距離を置く原因となったのは………あ」

 

 ザスティンは何か思い至った事がある様子ではっと見上げた。

 

 「あ」

 

 ヒカルも同じ事に思い至って、紙と筆を用意し始めた。

 

 「拝啓 沙姫(かあ)様 ザスティン(とう)様」

 

 「ブワッツ!!マウル!!すぐに地球にて、ノノ様を追う!!ドゥギーにも連絡を!!ええい、ヒカル、反省文(そんなもの)は後で良い。まずどこに向かおうとしてたのか教えて欲しい」

 

 「黒子のお兄ちゃんが助けてくれたと小さな女の子も言っていたし彦馬殿とやらではないでしょうか?」

 

 「彦馬殿の所か、よし……連絡しよう」

 

 ノノを説得し、デビルークに帰ってもらわねば……このまま首尾よくイチゴと会えたとしても、拒絶され、先ほどの王女……ノノが傷つく恐れがある。




いかがでしたか?
面白いと思っていただければ幸いです。


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第3話 惑星(ほし)からの使者 Aパート

皆さんこんにちは(こんばんは)
思ったより長くなりそうだったので分割して前半部分だけになりました。あのおでん合体はもう少し待っててください……


 「傷は癒えたようだな」

 

 イチゴは傷が治った事を丈瑠に報告した、口頭であれこれの報告であるため、頭巾は外している。

 

 「はい、もう大丈夫です」

 

 丈瑠は少し嬉しそうに笑う、1年ぐらい彼の顔を見てたから大体分かる。彦馬とか、彼にもし長年の親友がいたら確実に分かるだろう。

 

 「そうか、なら下がれ……そろそろ時間だ」

 

 「はい」

 

 「イチゴ」

 

 イチゴが立ち去ろうとすると丈瑠は引き留める。まだ言い足りない部分があるようだ。

 

 「あのロボットがいるとはいえ、お前は俺達より格段に弱い。だから……これからは戦えるだなんて思うなよ」

 

 会釈だけしてイチゴはその場を去った。

 廊下を伝って移動していると、初めて会う人達と出くわす。

 いずれも若い人達ばかりで、見慣れない顔だ。

 他の黒子に教えてもらったおかげで名前と特徴は一致したが、療養もあって会うのは今日が初めてだ。

 

 「君がナナシ連中を、傷を負いながらも倒した事は耳にした。よくやってくれた!!我々も負けていられんな」

 

 「イチゴ君、だったっけ……思ったより若いのに大変ね」

 

 「ご苦労さん、戦うのは俺達に任せなよ」

 

 「んーと、これからよろしくな」

 

 軽く自己紹介をしてもらった。

 

 「それで皆さんは何を?」

 

 「モヂカラの練習だ、この紙に各々が受け継いできた文字を書いてだな………あ、殿ぉ!!おはようございます!!」

 

 丈瑠が現れた。

 

 「じゃあ始めるか」

 

 「はい!!」

 

 そしてイチゴは頭巾を被って、彼らの修行を見守った。

 

 「わっ」

 

 流ノ介の書く水の文字が紙を濡らし、ことはの書く土のパラパラとしたものがサーッと流れて土煙となる。

 茉子は風の塊……台風のミニチュアのようなものができていた。

 千明は……

 

 「あれ?っかしーな……」

 

 失敗しているようだ、書いた木の文字からは何も、出ない。

 しかし何か違和感がある……書き方……もっと言えば、書き順……思わず、頭巾を外して呟いた。

 

 「書き順……」

 

 「……………………………………」

 

 「おい」

 

 丈瑠はイチゴに指示を出す。

 

 「漢字練習帳を持ってこい」

 

 イチゴはそれを聞き、すぐに飛び出した。

 

 「役に立たない奴は必要ないからな」

 

 「なにぃ!?」

 

 そのまま、丈瑠と千明の睨み合いが始まる……

 

 数分は経ったまま時間が経過していったが……

 

 「持ってきました」

 

 しば たける いちねんせい

 

 とイチゴが書いてある物を持ってきたのだ。

 彦馬があちゃーと額を手で押さえ、丈瑠はすぐさま、イチゴの持っているそれを奪い、ショドウフォンで穴と書いた後にできた空間に勢い良く放り投げた。

 

 「あれしかないのか?」

 

 イチゴは頭巾を外して答えた。

 

 「はい」

 

 「新しいのを買ってこい」

 

 イチゴは頷き、格好の付かなさで一人隅っこでほくそ笑む千明に近づいた。

 

 「これから覚えよう、それしかない」

 

 「うるせえなあ……………ちょっとお前書いてみろよ」

 

 「………………………」

 

 イチゴは千明のショドウフォンを借り、試しに氷と書いてみた。

 空を切るばかりで、丈瑠がよくやるように文字が浮かび上がらなかった。

 

 「やっぱダメか……」

 

 千明は落ち込み気味に肩を落とす。

 

 「千明もモヂカラが無い人間が書けばこうなると分かったろう?ほれ、キリキリ練習せんか」

 

 「へーいへい」

 

 「なんだその返事は!?」

 

 彦馬は怒り、千明をどやそうとする。それを見て千明はすぐさま逃げ出した。

 

 ~三途の川~

 

 今日も薄皮太夫の三味線が六門船に妖しく響く。この音色を気に入っている血祭ドウコクは地上へと足を踏み入れられない憂さが多少癒え、健やかに眠れるのだ。

 

 「ん……おお………」

 

 「おお、ドウコク……おはようさん。朗報だよ」

 

 「んあ……なんだ……俺様ぁ起き抜けに喉渇いたんだ、酒飲んでっからそれで良いなら続けな、シタリ」

 

 体中の水分をそれで満たすかの勢いで、ドウコクは酒をかっくらう。

 

 「そうさねえ……過去の記録を覗いてみたんだ、するとさ、人間界で何か戦乱とか災害とか、何かしらの不幸が起こると三途の川の水が増える傾向にあるみたいな事が書いてあったんだ……最近だと人間界で牙鬼(なにかし)が暴れまくった時とか、幕末?云々で、妖巫女(あやかしみこ)ってのが死んでからあたしどもみたいな奴らが特定の地域で暴れまくったりとか……それ以前の日照りと飢饉、水害とか……色々あるね」

 

 とにかく、人や生き物を不幸な目に遭わせると三途の川の水が増す…ようだ

 

 「三途の川の水が満ちれば、人間界も沈められて、あたし等も気兼ねなく活動できるさね」

 

 「ほう…………そいつぁ良い情報だ……よし、俺達が災害(それ)になるのも悪かぁねえなぁ……オオツムジ!!」

 

 「は!!」

 

 ムカデが纏わりついたような怪人が現れた。

 

 「人間界に行って、恐怖の悲鳴を上げさせてこい!!」

 

 「よーし!!」

 

 オオツムジは六門船から三途の川にダイブするように飛び出した。

 

 舞台は市街地に戻る。

 

 イチゴは漢字練習帳を買うために外へ出る準備をしていた。

 するとことはが近づいてきた。

 

 「イチゴ……で良かった?うち、剣の練習がしたいんねんけど、でも都会に出るの初めてやし」

 

 そんなもの、いつも稽古をする場所で良いじゃないかと思いかけたが

 

 「………………いつもの所じゃ……ダメか………」

 

 秘密の特訓というものは、いつもする場所じゃダメなのだ。

 

 「じゃあ……」

 

 色々な所をうろついて案内する。

 

 「ここなら良いんじゃない?」

 

 公園というには木々が生い茂っているが、今は人が使って遊ぶ時間帯じゃない。

 

 「ありがとうな」

 

 ことはが木刀で練習を始めた、いわゆる業務用のスマホという奴で丈瑠と連絡をとる。

 

 「殿様」

 

 『どうした』

 

 「かくかくしかじか……」

 

 『分かった、ことはが迷わないように残れ。練習帳は後でも買えるだろう』

 

 「了解、では失礼します」

 

 イチゴは報告を終え、電話を切った。

 

 「……………」

 

 しばらく彼女の稽古を見る事にした。

 

 「なんでそんなに必死なの?」

 

 イチゴは不意に、疑問を呟いた。腹違いの妹と重なってしまうような、手足もまだ伸びしろのありそうな年頃の女の子が何故そんなに必死に練習するのか……?必死になって練習する事自体に否定するべき要素はないが、鬼気迫るというか少し勢いが強すぎる。

 

 「(木刀で素振りしながら)うち、シンケンジャー(これ)しかできる事ないねん……勉強も、家の仕事も苦手やし……笛吹くのは得意ねんけど、人に聞かせるようなもんやないし……でも、初めてシンケンジャーになって外道衆倒した時な……思った。うちでもできる事はあったんや、人様の役に立てたんやって。それまでうち、シンケンジャーやれるかどうか分からんかった。本当はな、うちのお姉ちゃんがシンケンイエローやる事になってんねん、でも病気でできひんくなって、代わりにやる事になって……できる事の少ないうちに務まるんか不安やった……だから、シンケンジャー頑張りたいねん、殿様とも一緒に」

 

 「そう」

 

 すごいと思った、そんなに淀みなく自分の運命を突き進める事が

 イチゴなりに感じ入っているとガサゴソと、遠くから音がした。

 

 見てみると、丈瑠とことは以外の侍達全員がいた。

 

 「皆さん?どうしてここに……?」

 

 「実は……」

 

 なんと、丈瑠に連絡するのと入れ違いで流ノ介達がことはが急にいなくなったと思って探しだしていたのであった。そこでイチゴが報告した際、丈瑠伝いで流ノ介達に伝わったようだ。

 

 「本当はよ……ことはが練習きつくなって逃げ出したんじゃないかって不安なっててさ、実際そんな事なかった訳だけど(小声)」

 

 「……それよりもだ、なんと、なんと……立派な…………」

 

 流ノ介は現場を見て……感動のあまり泣き出しそうになっていた。

 茉子もことはを抱きしめ、よしよしと頭を撫でる。

 

 「ここまで洗脳されてんのかわいそすぎんだろ、ほい……ちょっと冷めてるけど」

 

 千明はことはにおでんを渡す。

 

 「グス…………ことはの健気さを、千明も見習った方が良いぞ、なあ……イチゴ君」

 

 「…………ああ、うん……」

 

 ちょっと千明寄りの考えになってしまうイチゴには、答えづらい部分があった。

 

 「なんだか要領を得ない返事だな…………」

 

 「侍の心構え云々とかこいつに聞くのは酷じゃね?俺達ぐらいの若い黒子ちゃんだったし………ずっと仕えてきました的な黒子の家系とかなら別だけど、イチゴだったっけ?その辺どうよ」

 

 「あ……それ私も聞きたい」

 

 茉子も話に加わってきたので、大多数が聞きたそうにしていると思い、話す事にした。

 

 「まあ確かに侍の事をあまり知ってる訳じゃないよ……そういう家系には産まれてないし」

 

 イチゴの祖父、祖母は孫がたくさんいるとはいえまだまだ現役の漫画家とアトリエの社長、父親は他の星の王様、母親はその星の宮廷のコックといった所だ。

 その事を話すと、千明の目の色が変わった。え……マジかよと目が訴えていた。

 

 「(……何か勘づいたか?)」

 

 「じゃあ何故君は黒子に?」

 

 「家出してた時に拾ってもらったんだ、彦馬さんに……それ以来雇ってもらってる、一応高校卒業はしてたし問題はないはずだよ」

 

 「そうか…………嫌、それでは親御様が心配してらっしゃるのでは?」

 

 「ま……まあ、家族っつっても色々あるしよ、そのぐらいにしとこうぜ………なあ」

 

 「…………そうね」

 

 「あ…………ああ………」

 

 千明と茉子に言いくるめられ、流ノ介は釈然としない顔のまま。

 

 「もう……戻ろう、それとありがとな。探してくれて」

 

 「当然!!俺達ゃ一緒に外道衆倒す仲間だしよ……丈瑠がなんていうか分かんねーけど」

 

 「呼び捨てにするなせめて殿と呼べ」

 

 すぐに志葉の屋敷に戻れという通達が出てきた。

 戻ると他の黒子が侍達を送るよう戦いの準備をしている。

 隙間センサーが反応したそうだ。

 それは外道衆が人間界に干渉してきた事を意味する。

 

 「深入りはするなよ、いいな」

 

 現地へ運ぶ籠に入る直前に丈瑠はイチゴにそう言った。

 そこまで心配されるいわれはないと思ったが、イチゴは頷いた。

 とりあえず……サポートのために現場に向かう。サポートに留めれば問題はない……その時イチゴはそう思っていた。

 

 ~住宅街~

 

 そこには、ムカデが纏わりついたような怪人が。

 得物は鎌のような刃が1、2、3……とにかくたくさんついた大剣だ。

 素直に鎌と呼べればありがたいが柄の部分が鎌と呼ぶには短すぎる。両手で握ればそれだけで埋まりそうだ。

 言うまでもなく、殺傷力は高いだろう。

 

 「じっくりと追い詰めろ……一気に殺さず、いたぶって恐怖を引きずり出してやるのだ!!」

 

 その破壊活動は、廃墟を生み出すレベルにまで及ぶ……

 

 「この武器はなあ……そのためにあるんだよ」

 

 人間達に向かってオオツムジは武器を振り回す。

 鎌の刃がたくさんある影響か、空気が乱れ風の刃が飛び出し……辺りの人間達を傷つける。

 

 「怖いか、怖いよなぁ……もっとわめけ、もっとだ、もっと、もっと泣き叫べー!!」

 

 その時……

 ホラ貝と太鼓が鳴り響く、これも黒子の仕事なのだ。

 

 「そこまでだ、外道衆」

 

 「ああああん?」

 

 ~例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「「一筆奏上!!」」」」」

 

 「破ぁ!!」

 

 ショドウフォンで文字を書きそれを反転させ、各々のモヂカラによって形成させたスーツに身を包み、5人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンレッド、志葉丈瑠」

 

 「同じくブルー、池波流ノ介」

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 「天下御免の侍戦隊」

 

 全員「シンケンジャー、参る!!」

 

 「出たなシンケンジャー、来い」

 

 ナナシ連中もぞろぞろと出て、皆それぞれ、戦い始めた。

 流石というべきか、一分もしない内にナナシ連中は倒れていく。

 そろそろオオツムジの番になってきた……

 

 「ランドスライサー!!」

 

 シンケンイエローが専用武器を投げようとした時………

 

 「きゃ」

 

 そこらの瓦礫がシンケンイエローの足に当たり、こけた。

 

 「あ」

 

 ランドスライサーはうまく飛ばずにシンケンレッドまで飛んでいく……

 

 「殿様!?」

 

 シンケンレッドは突如殺気を感じ、シンケンマルを構えて、ランドスライサーを弾き返してしまった。

 

 「ん?」

 

 ランドスライサーが地面に激突し、シンケンレッドは近かったのと落としてしまったのとでそれを拾おうとした時だった

 

 「隙を見せたな?」

 

 オオツムジはレッド目掛けて風圧による真空の刃で攻撃をした。

 シンケンピンクにも似たような事ができそうだが、彼女にはない荒々しさが詰まっているその技は危険に溢れていた。

 

 「!?」

 

 4人は、シンケンレッドの前に出る。

 

 「く!?」

 

 「ぐはぁ!?」

 

 そして変身を解除させられた、それだけのダメージを負わせられたという事か?

 

 「!!」

 

 顔と声には出せないだろうが、おそらく丈瑠は焦っているように見えた。

 

 「……………カイ、来い!!」

 

 『ロボ使いが荒いですね』

 

 カイ・バトル形態(フォーム)!!

 

 イチゴはカイを纏って、シンケンジャーの前に姿を現した。

 

 「何しにきた!?」

 

 シンケンレッドの、丈瑠の叱声が聞こえてきた。

 

 「戦えると思うなって言った筈だ!!」

 

 「でも、見てるだけって訳には!!」

 

 イチゴは徒手空拳ぐらいなら、父親の妻の一人のおかげで多少の覚えはある……剣は振り回すレベルだが。

 それでも、イチゴより遥かに人に必要とされている彼らのピンチは見ていられない。

 

 「たぁ、はぁ!!」

 

 オオツムジに数発攻撃。

 

 「ほう……」

 

 オオツムジは武器を振るう、真空の刃が吹き荒れだす。

 

 「行こう、カイ!!」

 

 翼の機能を使って加速し、上空に飛んで避けた。

 

 「せや!!」

 

 万能工具(ツール)を変形させ、剣にしてオオツムジに攻撃。

 

 「甘い!!」

 

 オオツムジは武器の鎌の刃がたくさんある部分でイチゴの攻撃を受け止めた。鎌による突起がたくさんあるせいで攻撃範囲も広く、防御もできるのか?

 

 「…………」

 

 ほぼほぼ素人が戦っているのだ、いささか頼りないかもしれないがあの4人が態勢を立て直すまで保てばいいとイチゴは思っていた。

 

 「そこだ!!」

 

 カイを纏った状態で一発、ぶん殴ろうとした…………がしかし

 

 「……………?」

 

 何か、力が抜けていくような感覚がした。

 

 『あ、充電切れです』

 

 コスチューム・ロボットのカイは、充電が切れると脱げるそうだ。

 

 「………………は?」

 

 『ウィング使ってバッテリーの調子が狂いました』

 

 驚きを隠せなかったが、時間が経つほど溶けるようにカイが脱げていくのでそうも言ってられなくなった。

 

 「………………クッ」

 

 カイが全部脱げて無防備になった。両腕で受け身を取っても、オオツムジの攻撃は防ぎきれない。

 

 「威勢の良さもそこまでか……消えろ」

 

 オオツムジは、武器をイチゴ目掛けて振り下ろす。

 

 「うぉぉ!!」

 

 シンケンレッドは、イチゴとオオツムジの間に入り、オオツムジを攻撃する。

 

 「……………………」

 

 「さっきカイ纏ってた時に見つけたんですが」

 

 人がいる事を伝えた。

 

 「………………分かった、行け」

 

 いつもより機嫌の悪そうな丈瑠から放たれる言葉、そこには何かしらの重みがあった。

 

 「ハッ」

 

 イチゴは、がれきに向かってダッシュした。

 

 「お前達、立てるな?立てるなら、立て!!言った筈だ、外道衆を倒すか、負けて死ぬかって」

 

 4人はシンケンレッドの発言を受け、立ち上がろうとした。

 

 立ち上がろうとして、もう一度崩れ落ちることは。

 

 「ことは!!」

 

 自分のミスだと思ったのか、ことはは他の3人より一歩前に出ていた。そのせいかダメージを割高でくらったのだろう……

 流ノ介達はことはに駆け寄る。

 

 「ほっとけ!!ここで参る奴が、この先やっていけるとは思えないからな」

 

 「見捨てろってのかよ!!」

 

 「しかし、ことはは一生懸命に頑張っていました!!」

 

 「一生懸命だけで、侍が務まるもんか!!」

 

 「!!」

 

 シンケンレッドは、流ノ介の言葉を一蹴し、オオツムジに向かう。

 

 「あんな……あんな………」

 

 「黙って聞いてりゃ偉っそうに言いやがって」

 

 「言われた通り、ほっときましょう……ただし、ほっとくのは丈瑠の方」

 

 流ノ介ですら、その囁きに乗っかりかけていた。 

 だが……そんな中、彼を肯定する人間もいた。

 

 「でも、殿様の言う事は正しいわ」

 

 今、一番動けない、シンケンレッドにほうっておくよう言われたことはだった。

 ことはは、皆に注目してもらうようにシンケンレッドを指差す。

 

 「強くなかったら、なんもできひん。」

 

 丈瑠はオオツムジの攻撃を、イチゴとイチゴが助けようとしている子供に当たらないように捌いていた。

 

 「ここで弱音吐いても外道衆は止まってくれん、そのためにうちらがいる。そんなうちらが音ぇ上げてたら誰かを守ろう、役に立とうなんて、夢のまた夢や」

 

 「あいつ……そういう事かよ」

 

 「侍たる者に下手な馴れ合いは不要か、突き進むべき使命は外道衆を倒す事にある……そういう事ですか?殿ォ!!」

 

 「そして人々を守る……ことは、やれる?」

 

 「うん!!」

 

 「行こう、皆!!」

 

 4人は、再びシンケンジャーに変身する。

 

 「………………………………お前達、やれるんだな?」

 

 全員肯定し、イチゴも子供を連れて走り去った。

 

 「なら、タイミングを合わせろ!!」

 

 各々、モヂカラをシンケンマルに纏わせ……一斉に飛びかかる。

 

 「シンケンマル、螺旋の太刀!!」

 

 レッドから順に、シンケンマルでオオツムジを連続で切り裂く。

 

 「ぐわー!!」

 

 オオツムジは爆発四散した。

 一つ目の命、終了……

 

 ~一方その頃~

 

 「ガヤ、ガヤ」

 

 ナナシ連中の一体は、少女に近づいて、接触しようとしていた。少女は顔を隠しているが、仰々しい兜のせいか否応なく目立つ。

 

 「………………そこ、どいてくださいませんか?」

 

 「グワ?」

 

 ナナシは少女に向かって武器を振り下ろそうとした。

 

 「武器を振り回して何かしようとする相手なら遠慮はいりませんね」

 

 少女は、ナナシ連中に一発の殴打をお見舞いする。

 

 「私は、力はお姉様、お母様に及びません。メカを作る力はお母様の方が凄くて、友達を作る力は伯母様方に従姉妹殿の方が上です。ですが、それでも、私の中にもお爺様……ギド・ルシオン・デビルークの血が流れています。その血に誓って、あなた方に負けはしません!!」

 

 ナナシは、自分の背に届かないはずの小娘に倒された事に納得いかないまま、吹っ飛ばされ、爆発した。

 

 「もっとも、ローカルな化け物っぽいあなた方はお爺様の凄さなんて聞く事もないでしょうから……これだけは一つ、私の百倍は強いです」

 

 お見事と拍手する黒子が目に入ると、少女はその黒子に近づいた。

 

 「黒子さん、黒子さん」

 

 「私をあなたの主の住む屋敷に連れてってもらえませんか?」

 

 「………………(迷子?と聞くジェスチャー)」

 

 「オッホン、もう一度言います。あなたの主の住む屋敷に連れて行ってもらえませんか?探している人がいるのです」

 

 黒子は、少女の頼みを聞いて、屋敷まで案内した。

 

 入れ違いでうろうろする人あり、少女の星の王室親衛隊隊長、ザスティンである。

 

 「……………ノノ様はここではないのか?彦馬殿の所に戻るか………ええい、邪魔だ!!」

 

 ザスティンは手持ちの武器、イマジンソードの一振りで、ナナシ連中をなぎ払う。ナナシ連中は一斉に爆発し、その様を見届けるまでもないとザスティンは場を後にする。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第3話 惑星(ほし)からの使者 Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは
前半はハルキwithセブンガーとシンケンオーの漫才を、後半は姫様(CVノッブとかハッピーとか)とシンケンジャーの交流を楽しんでいただければと思います。


 「折神大変化!!」

 

 各々、大の文字を書き、折神を変形、後に巨大化させる。

 両者並び立ち、戦いが始まろうとした瞬間

 

 「……………?」

 

 突如、謎のジェット音が聞こえた。

 音は段々こちらに近づいていく。

 そして瞬く間に落下音、それが済んで音の主の姿が見える事ができた。

 音を出しているのは、銀色の土管的な丸っこいボディー、目つきによる表情の豊かそうな、かわいらしい巨大ロボット。

 

 「なんやあれ、かわいいなぁ」

 

 「おっ特空機いんじゃん」

 

 「特空機って何なん?」

 

 「地球防衛軍の日本支部所属、対怪獣特殊空挺機甲つってな、あの丸っこいのはその1号機でセブンガーっていうらしい」

 

 「結構詳しいのね、正式名称まではあんまり知らないな……」

 

 「友達に詳しいのがいてさ、しょっちゅう高校で話し込んでたわけよ……」

 

 「では頼もしい仲間という事になりますね」

 

 「この前も言ったがあまりあてにしすぎるな、怪獣並みの大きさになっても外道衆を倒すのは俺達だ」

 

 「それもそうです、まあせっかくですし怪獣が来た時協力するのもありなのでは?平和を守るという同じ志を持つもの同士、協力できると思います」

 

 「考えておく」

 

 セブンガーから、何か通信による音声が聞こえてくる。

 

 『ハルキ、負けんじゃないよ』

 

 気の強そうなお姉さんの声。

 

 『ハルキ、これが最初の実戦になる。怪獣相手じゃないとはいえ気を抜くなよ』

 

 経験豊富な感じがにじみ出ている声。

 

 「押忍!!隊長、ヨウコ先輩、行ってきます!!」

 

 元気いっぱいな若者の声。

 

 『押忍じゃなくて了解な』

 

 『ハルキィ~あいつらの解剖も試してみたいし、肉片の回収もよろしくね~』

 

 先ほどのお姉さんよりかわいい系だと思わせる声。割と若い人達がいっぱいなのだろうか?

 

 「押忍!!頑張るっす!!行くっすよ、セブンガー!!」

 

 セブンガー、ファイト!!

 

 「行くっすよー!!」

 

 セブンガーはオオツムジに攻撃を仕掛ける。細身の腕だが、素が重いのか割と有効そうな音が聞こえる。

 

 「あれをやるぞ!!」

 

 セブンガーの働きに触発され、シンケンレッドは何かを指示。

 日々訓練を積んだ者達でなければ分からない会話だ。

 

 「はい、殿ぉ!!侍合体!!」

 

 流ノ介はショドウフォンで「合」の文字を書く。

 五体の折神が揃い合わさる事で、侍の巨神が姿を……

 

 「……!?」

 

 揃わなかった、丈瑠の獅子折神抜きの四体で△○六角□に連結したおでんのような合体と化す。

 

 「……………」

 

 丈瑠は予想外の展開にあ然としていた、せざるを得なかった。そして取り残された獅子折神は宙ぶらりんと浮いている。

 

 「完成、名づけて……」

 

 「でもこれ、なんか違うような……」

 

 「あ、おでんや」

 

 『おでんだな』

 

 『おでんね』

 

 「おでん……食いたくなってきたっすね」

 

 『無事に終わりゃ後で奢ってやるからさっさと倒せよな』

 

 「押ぉ忍ぅ!!いきます、隊長!!」

 

 ハルキは攻撃を続けた。

 

 「おでんはいいとして、なんで俺が一番下なんすかね?」

 

 このおでん合体で一番下なのは、熊折神……シンケングリーンなのだ。

 

 「お前の折神が一番たたんだ時に大きくて安定しているからだろうか?千明!!頼む」

 

 「よろしくな」

 

 「お願い!!」

 

 「しょうがねえな………行くぜ!!」

 

 熊折神、迫真の大ジャンプ。

 その上に積まれてある龍、亀、猿折神を落とさずにオオツムジまで飛ぶ!!

 

 「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 勢いに押し負けて、オオツムジはたじろぐ。

 命の危機だ、物量がやばい。直感でそう思わせる何かがあった。

 だがおでん合体は、オオツムジの目の前までやってきて、止まった。

 率直に言って、オオツムジの感じた危機は杞憂に終わったのだ。

 

 「こけおどしか……なら、だるま落としだ!!」

 

 オオツムジは、自身の武器の峰の部分を当て、ゴルフでもするかのようにだるま落としを行う。

 

 「お仕置きだ、おしりじゃなくてもぺんぺんよ!!」

 

 一つ

 

 「あぅ!!」

 

 二つ

 

 「うぐぅ!?」

 

 三つ

 

 「う!?」

 

 四つ

 

 「きゃ!!」

 

 おでん合体は、全て崩され、四体の折神はビルに激突した。

 

 「皆さん、今助けます」

 

 ハルキは、セブンガーで折神達を先程だるま落としされる前の状態に組み直した。建物のサイズ感を抜きにすれば、積み木で遊ぶ子供に見えなくもない。

 

 「ふー、皆さん、仕切り直しと行きましょう!!」

 

 セブンガーのガッツポーズが、良い仕事をしたと喜ぶ子供に見えた。

 

 「「おー!!」」

 

 「…………………」

 

 それまで事態を静観していたシンケンレッドは、今やっとツッコミを入れられるタイミングとなったため言う。

 

 「わざわざ組み直すなよ、俺余ってるだろ!?」

 

 「…………………」

 

 「あ」

 

 「すみません、失念してました!!殿様、もう少し高度を下げていただければ……」

 

 ハルキは組まれていた亀折神と猿折神をおでん合体から分離させた。

 

 「どうぞ!!」

 

 ホワンホワンホワンホワン~

 

 シンケンレッドの脳内に、先程のおでんのような合体に、獅子折神も乗っけたバージョンが浮かんだ。

 さらに収拾のつかなくなったその形態を阻止しなければ……今自分が引っ張らなければいけないとシンケンレッドは思った。

 

 「やめろ!!俺を上に乗っければ良いって訳じゃない!!ええい埒が明かない、俺が行く」

 

 シンケンレッドは、ショドウフォンで「合」の字を書く。

 

 侍合体!!(真)

 五体の折神が合わさり、侍の巨神が姿を現すのだ!!その名も……シンケンオー!!

 

 「シンケンオー、天下統一!!」

 

 勢いでだが、みんなハモっていた。

 

 「そこのお前!!」

 

 「押忍!!」

 

 「あの合体は事故だ、忘れろ」

 

 「押ぉ忍!!では改めて、いきましょう!!」

 

 「殿ぉぉ!!先ほどは申し訳ありませんでした!!」

 

 「良いからいくぞ、全員でな」

 

 「は!!」

 

 「もしかして、丈瑠の奴気にしてる?」

 

 「あれ、かわいかったなあ……」

 

 「でもあれ突っ立ってるだけしかできないもんね」

 

 「漫才は終わったか?終わったな…………出てこい、部下共」

 

 ナナシ連中がぞろぞろと出てきた。

 

 「はぁ!!」

 

 武器の刀で回転斬りを行い、ナナシ連中を攻撃。

 追い討ちとして、獅子折神の顔部分から火を吐いてナナシ連中を爆発させる。

 

 「チェストー!!」

 

 セブンガーによる、渾身の手刀で残りのナナシを攻撃、爆発させた。

 

 「最後はお前だ、ダイシンケン・侍斬り」

 

 武器に文字が浮かび、円月殺法を彷彿とさせる動きを取ってオオツムジに攻撃。

 

 「ばばば……爆発!!」

 

 とどめを刺したらしい、オオツムジは大爆発を起こした。

 二の目は潰え、完全にオオツムジは死んだのだ。

 

 「これにて……一件落着」

 

 「皆さん、お疲れ様です!!それでは、失礼します!!」

 

 ハルキの乗るセブンガーも、どこかに去っていった。

 

 ~志葉家 屋敷~

 

 少女が一人、志葉家の屋敷にやってきた。

 

 「ごめんくださーい」

 

 インターホンがないため、コンコンと指で音を立てて伺いを立てる。

 彦馬が出て、応対した。

 

 「はて、どちら様かな?」

 

 「はじめまして、ノノ・ナベリス・デビルークです……………あ、これ春菜さんやその友人方にも好評だったデビルークの宇宙港土産です、みんなで食べてください」

 

 ノノは彦馬に頭を下げつつ、紙袋を渡した。

 

 「なんと、それはそれはご足労を」

 

 「構いません、お忙しい中何もお便りを出さずに参ったのは私ですから」

 

 ノノと名乗る少女は丈瑠達がよく修行場所として使っている廊下に腰掛けた。

 

 「それで、イチゴお兄様はどこにいらっしゃるの?」

 

 「今は外ですな」

 

 「そうですか……帰りを待ってもよろしいですか?」

 

 「ええ…………彼もまあ日暮れには帰れるとは思います、今終わったと知らせが来ていた所です」

 

 ~帰り道~

 

 「殿ォ!!今回の一件、しかと胸に刻み込みました!!」

 

 「まあ、基本やる事は変わんねえけどよ」

 

 茉子もうんうんと頷く。

 

 「殿様、あの……さっきはごめんなさい。うち、もっと頑張ります」

 

 ことははさっきのランドスライサーの事でか、気まずそうにしていた。

 

 「お前は強かった」

 

 そう言って丈瑠はことは、そしてみんなに微笑んだ、彼の笑顔を見ると確信できる。今日の戦いはこれにてお終いだと……

 

 「殿の寛大なお言葉………く~!!それに比べて私は……先程の悪態、お許しください!!この流ノ助、けじめをつけさせていただく所存です!!」

 

 そう言って流ノ介は服を脱ぎ…………

 近くの滝に打たれた。

 

 「殿ぉ!!お許しを、うぉー!!」

 

 「その辺にしとけ、置いてくぞ」

 

 後で聞いた所、うろちょろしていた間に、丈瑠は家臣達に見限られかけていたようだ。

 そうなってくれれば良いとすら思って話に聞く態度をとっていたのではないかと、イチゴはなんとなくだが思った。

 常々、「戦うのは俺一人で良い」と豪語していた彼だ。

 人と距離を置きたがるのもある。

 

 「イチゴ」

 

 唐突に丈瑠に呼ばれ、イチゴの心臓の鼓動が早くなった。気づかれていたのか?

 

 「こそこそ隠れるな、隠れるならもう少し堂々と隠れていろ」

 

 「…………はい」

 

 「分かればいい」

 

 「イチゴ君ー、今日は助かった!!腕はまあ……うん、修行しなければな……君も滝で修行しないか?」

 

 「プロに言われちゃ仕方ないか」

 

 打たれてみるのも悪くないと思い、イチゴは黒子の衣装を脱ぎ始めた。

 

 「やめとけやめとけ、アホが移るって」

 

 「そうよ……ことはも混ざる必要ないから」

 

 「うん、分かった」

 

 丈瑠達の今日の戦いは終わった。だが、イチゴの戦いはこれから始まるのだ……

 

 ~志葉家 邸宅~

 

 「お兄様!!」

 

 兜をかぶった少女が、頭突きでイチゴをど突いて来た。

 

 「がはぁ!!」

 

 そして押し倒された。

 背丈は小学校高学年ぐらいで、見覚えのあるピンクの髪を振り乱している。

 兜はまるで、どこぞの暗黒騎士のように顔全体を隠すような逸品だった。

 

 「うう……」

 

 顔を隠しているせいか誰かは分かりづらい、だが自分の年齢と相手の身長、知り合いの身体的特徴、経過年月を考慮すると……

 

 「ノノ?」

 

 妹のノノを思い浮かべた。

 

 「!?久しぶりです、お兄様!!」

 

 ノノはイチゴに抱きつき、ぎゅっとしてきた。

 

 「誰だ?」

 

 丈瑠の呟きに対しイチゴは答える。

 

 「紹介します、妹のノノです」

 

 「私、ノノ・ナベリス・デビルークと申します。兄がお世話になっています」

 

 ノノは侍達全員を見つつ頭を下げる。

 

 「デビルークってなんなん?」

 

 「そうね……宇宙の向こうにたくさんの国家があって、それでそのうちの一つって聞いたような」

 

 「極めて高い地位にあるとは聞いた事がある」

 

 「て事は、ひょっとして彩の妹か?」

 

 「まあ、彩お姉様をご存知なのですね、ご学友ですか?」

 

 「マジか、あいつの言ってた事って本当だったんだ……まあ、そんな所よ」

 

 「どういう事だ?千明」

 

 千明は説明を始める。

 

 「高校が同じだったんだ……たまにお母さん見るけどよ、美人だけど厳しそうな人だったぜ」

 

 「お前にはそのくらいの方に絞られた方が良かったのかもな、何せことはを探してる時にいい加減な!!親と自分で認めてたしな」

 

 「……………ああいう系はちょっときちいな…………つうか、その人だとお前に

『搾られたなんてハレンチな事を言うのはやめなさーい!!』つって怒ってたろうな」

 

 話から察せる、該当者を思い浮かべるとなんとなくだがそんな事を言いそうに思えた。だが流ノ介とことは、そしてノノは何を言っているのか分からなさそうにしていた。

 少なくとも該当者よりは頭の中身にHな因子は刻まれてなさそうだ。

 

 「なんで私が!?そもそも、絞られたが何故破廉恥になるのだ?」

 

 「あんたの頭の中身が見ての通りで本当良かったよ」

 

 「茉子ちゃん、千明は何を言うてはるの?」

 

 「シッ聞いちゃダメ」

 

 「オホン」

 

 丈瑠は咳払いをして話を止めさせた。

 

 「千明が話を脱線させてすまない、デビルーク星の王女がここに来た理由はなんでしょうか?」

 

 デビルークの人間の中で、苗字にデビルークと付くのは王族だけらしい。

 

 「私がここに来たのはイチゴお兄様を迎えに来たからです。お兄様……私と一緒にデビルークに戻ってきてはくれませんか?」

 

 結論は一択だ(コンクルージョン・ワン)

 

 「やだ」

 

 ノノはイチゴのあまりの即答ぶりにがっくりと落ち込む。

 

 「ダメ……ですか?」

 

 「ていうか何のためにわざわざ……」

 

 「私といずれ結婚していただくためにです」

 

 「えー!!」

 

 「結婚!?」

 

 流ノ介と茉子は驚いた。

 

 「殿相手ならオレも協力したいぐらいなんだけどな………」

 

 「悪くない申し出ですが、不確定な要素があるので難しいのです」

 

 「お嬢様、殿の……何がご不満なのでしょうか?」

 

 「私の顔を見てケダモノになるかならないかが問題です」

 

 流ノ介はイチゴの肩を組み、後ろに回って説明を求めた。

 

 「…………ええい…どういう事だ、イチゴ君(小声)」

 

 「彼女の祖母はチャーム星人って言って、まあ名前の通り相手を魅了するんです。特に顔を見ると男とか、嗜好によっちゃ女もみんな理性が吹っ飛んでケダモノと化すってもっぱらの評判で……ノノはチャーム人の力を先祖返りかってぐらい受け継いでるらしいって月刊誌にも書いてあるし」

 

 兜の下はおそらく鉢かつぎ姫かとツッコミたくなるような美しい顔がある。なにせララ・サタリン・デビルークの子なのだ。既に子持ちであるはずなのに、姉妹もろともに美しい、かわいいとすら言える人達ばかりだった。

 

 「それで?イチゴ君、懐かれるんだから見たって事でしょう?どうだった?(小声)」

 

 「確かに成長すれば並ぶもののない美女になる感じではあった、でも見たのはノノが4歳とか3歳の時だからな…………そこからはずっと地球にいて会ってないし……懐かれるにはちょっと」

 

 「どれどれ…………」

 

 流ノ介は、ノノの兜を取り外した。侍としての身のこなしには、ノノが対応する暇も無く……

 

 「美しい……」

 

 それを見た途端、流ノ介の目がハートと化した、彼女の祖母由来の能力に嵌まってしまったのを察したイチゴは、すぐに流ノ介を気絶させた。

 

 「急所は外した、皆さん……今は何も見ないでください。イメージが崩れます」

 

 「お兄様……」

 

 今、流ノ介がノノを覆って周囲を見えなくさせる壁の役割をイチゴが引き継いだ形になる。

 つまり、今イチゴはノノの顔を見てしまった事に………

 

 「やはり、お兄様は大丈夫そうですね」

 

 多少はくるものはあるが、目の前のこいつは妹だと考えるとそれは自然と治まる。

 それだけではないが、だからこそ耐えられるようだ。チャーム人の魅了の力に耐えられる事を知った時、ノノの祖母で生粋のチャーム人であり、ララの母親であるセフィは喜ぶより先に悲しんでいた。

 

 『初めて知りました、私の美しい顔を見ても動じない相手を見て、それを悲しいと思う事があるなんて……あなたはこれから、私の顔を見てケダモノになれるよう、いえ、せめて動じられるように生きていかなければなりません。それが私の頼みです』

 

 正直、イチゴは自身に耐えられるならけっこうな人間が耐えられるのではと思っている。

 ただ、そういった人間達が人間としての生を謳歌できてるのかは甚だ疑問には思うが……

 

 「お兄様?」

 

 「ん?ああ………はい」

 

 流ノ介が持っていた兜を取り上げ、ノノに返した。

 

 「ありがとうございます」

 

 ノノは兜を被りなおし、顔を隠した元の状態に戻る。

 

 「流ノ介がすみません……流ノ介、どうだった?」

 

 丈瑠も気になっていたようで、彼女の顔を見た感想を起きた流ノ介に尋ねた。

 

 「はっ確かに……顔の特徴どれをとっても非のうちどころのないかわいさであり、見た瞬間あの娘を欲しいと思う気持ちが渦巻いて堪えきれるものではありませんでした……見た相手が毎回ああなってしまうのでは、見極める機会をみすみす逃してしまうかも……難儀と言えましょう」

 

 「そうか」

 

 「おはよう」

 

 「おはよう、イチゴ君。対応が早くて助かった」

 

 「という訳で、チャーム人の能力の効かない殿方を探すのが私の命題なのです」

 

 「で?そういえば護衛は……」

 

 宇宙を股にかけて犯罪を行う奴ら、アリエナイザーが不特定多数跋扈するこの宇宙……下手に王族がうろうろしているとよからぬ目に遭遇しかねない。

 ノノはしばらく黙り込んでから一言

 

 「撒いてきました」

 

 イチゴは呆れてため息をついた。

 

 「嘘だろう?オレなんかと違ってノノは立派な王族なんだから、自覚持てよ」

 

 そしてすぐにデビルークに帰って今後はここに来ないで欲しいと思ったが、その言葉は喉から先へは出てこなかった。

 言おうとすると、それに色々と加わって罵声へとなりかねない。馬鹿げた事を言うイチゴの妹、今のところただそれだけなのにひどい言葉を浴びせる理由にはならないはずだ。

 

 「とりあえず引き取ってもらうか……連絡すれば春菜さん所には繋がるかも……あ、番号忘れた……千明、彩と連絡取れる?」

 

 「あーわりぃ、後数日なんだけどさっき俺データ制限くらっちまっててさ」

 

 「ちーあーきー!!すまん……さっきナビゲーター使ってたのがこたえたんだな」

 

 「あはははは……そういうことにしとこ」

 

 「さっきから帰る話になってますが……私……お兄様がデビルークに帰ると言うまで帰りませんから!!」

 

 「そこをなんとか!!」

 

 「お兄様…………私の事が嫌いなのですか……?」

 

 兜で隠れてて察する事しかできないがノノは泣きそうな表情へと変わっていった。

 大嫌いと言えばここから出て行くのだろうか?大嫌いだ、いなくなってしまえと言えば分かってくれるだろうか?

 そんな事を言えば彼女が傷つく?傷つけずに恋とかなんとかを終わらせるなんて事はできないだろう……

 兄が妹を泣かせるな?妹が兄を今困らせようとしている。

 どうすればいいだろうか?受け入れるのはもってのほか、いずれにせよ断るのは確定だ。いかにやんわり断れるか……

 

 「……………………」

 

 その時、思考の邪魔をするように彦馬が現れた、手にはクッキーの紙袋を携えて。デビルークの宇宙港で似たようなものを見かけた覚えがあるから多分それだ。

 

 「このような時刻、もしよろしければ泊まっていってはいかがか?あ……殿、ノノ様からのお土産ですぞ、ここにいる者達、そして黒子達全員に配っても余る程あります」

 

 「そうでしたか……ありがとうございます、イチゴ、お前の部屋は空いてるか?」

 

 見れば、確かにもう子供を連れて出歩くのを始めるには遅い時間帯だ。

 夕暮れ、逢魔が時……子供はこの時間帯になれば塾とかない限りもう帰れが王宮のスタンス。

 

 「ではお兄様のお部屋でよろしいでしょうか?」

 

 イチゴは、ノノを見る……肯定する事を期待している目だった。それとなく見ている丈瑠達もおそらくそれを選択するであろうという前提の目線だ、しかたなさそうにイチゴは言う。

 

 「…………オレの部屋の布団の予備なら貸すよ」

 

 「ありがとう、お兄様!!」

 

 イチゴはノノを自分の部屋に案内し始めた。

 彦馬のおかげで、彼女に対してひどい態度を取らずに済んだのは感謝している。いずれにせよ答えを出すべきなのは次の日が良さそうだ。

 

 ~夜 志葉邸~

 

 千明達家臣は、就寝まで朝の修行のおさらいをしていた。

 丈瑠は考え事をしているらしい、終わるまでは来ないそうだ。

 

 「デビルークって苗字の人間の親戚でイチゴ…………………………そういう事かよ……」

 

 千明はため息混じりに独り呟く。

 

 「どうかしたか?千明……」

 

 「嫌……イチゴの抱えてるもんって俺達がどうこう言ってなんとかなるもんじゃなさそうだなってさ」

 

 「お前がそんな真面目なトーンを出すぐらいか……」

 

 流ノ介が茶化し気味に聞いてきたので千明は少し苛立った声で聞き返す。

 

 「はぁ?俺が真面目なトーン出しちゃ悪い訳?」

 

 「お前と知り合って数日は経つが、そういう一面があるとは思わなかった。それだけだ」

 

 「あっそう」

 

 「イチゴ君の事、何か知ってるんなら教えなさいよ……気になるじゃない」

 

 「だから、デリケートな話なんだって……」

 

 「そっか…………悪かったわ」

 

 「千明はなんでイチゴの事知ってはるん?」

 

 「さっきも言ったけど一応同じ小学校で、あいつの妹とおんなじ高校行ってたし……あ、お母さん違う人だった……」

 

 「ああ……そういう系か…………確かにデリケートね」

 

 「……………………まあ、そういうあれって言えばいいか……な……」

 

 「なるほどな」

 

 流ノ介が相槌を打つその瞬間……

 急に、土を踏む音が聞こえてきた。黒子達のように足袋の軽めな音でなく、甲冑のような重い音。

 

 「曲者!?」

 

 4人は、ショドウフォンを構える。

 

 「凄まじい圧……並大抵のものではないな」

 

 「外道衆?隙間センサーはないわよ」

 

 「アリエナイザーって奴かもしれねえ」

 

 「それってなんなん?」

 

 「わざわざ宇宙の向こうからやってきて悪い事してる奴ら……みてーな感じ?」

 

 「そんな悪い奴なら、うちらもなんとかせんと」

 

 改めて、4人はショドウフォンを構えた。モヂカラを込めれば、シンケンマルを出せるし変身もできる。

 現れたのは、鎧を着た大男だった、大男は千明達を見て、警戒を解いたのか、殺気はみるみる消えていく。

 

 「君達が彦馬殿のおっしゃった侍達………稽古でしたか、邪魔をしてすみませんでした。私達の事はしばらく影のようなものと思っていてください」

 

 彦馬の名を出され、4人は警戒を解きショドウフォンを床に置いた。

 彦馬の知り合いなら大丈夫、そういう安心感があってだ。

 鎧を着た大男は会釈をし、すぐ闇夜に姿を消した。だが骨のように白と黒の入り混じった鎧は、否応なく目立つ。

 

 「影にしちゃ目立つ鎧だよな……」

 

 「骸骨さんやな」

 

 「何者なのかしら」

 

 はたして、イチゴはどうなるか?王女ノノは無事でいられるのか?第3話、まずはこれまで




いかがでしたか?
面白いと思っていただければ嬉しいです。
イチゴはチャーム人の能力は効きませんでした、ただし今のイチゴだとセフィ様の魅了は効きます。元気ハツラツしてると効きます。


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第4話 あやしいやつにはごようじん Aパート

みなさんこんにちはもしくはこんばんは
今回も切り分けての展開になります。


 日の光が一日の始まりを告げる頃……

 

 「ふー、朝風呂って最高ー!!」

 

 ノノはお風呂に入っていた。

 当然のように産まれたままの姿で入っており、顔も隠さない、無防備な状態だ。

 

 「全く、王宮ならまだしも人様の屋敷の中だぞ……」

 

 イチゴはデッキブラシ片手に、お風呂場をうろついた。

 

 「お兄様!!一緒に入ります?」

 

 祖母から母、母から……と受け継いできたピンクの髪を濡らし、父に似た瞳の色を輝かせて、屈託のない笑顔でイチゴに尋ねた。

 多分思春期とやらに入っても、肌荒れ一つしないに違いない。

 

 「あのねえ、ここは男湯……オレが風呂掃除の当番だから良かったものの他の人だったらまずい事になってたよ?」

 

 冷めた残り湯に入れる訳にもいかないし、一辺お湯を入れ直した、また後で掃除する予定だ。

 流ノ助はともかく、千明と丈瑠は女の子が入った後だと知れば気にする類の人間だろう……

 

 「そうですわね……チャーム人の能力が私には色濃く受け継がれているので……常日頃あんなマスクを被る事になって……暑いです、本当に」

 

 「らしいね」

 

 同情はしないでもない。一説にはチャーム人の能力にあてられて、それが原因で銀河を巻き込む戦争にまで発展したとも言われている程だ。

 

 「だから、効かないお兄様に守ってもらいたいです。ずっと」

 

 「オレに目を向ける暇があったら、他の奴でも探してろよ……」

 

 「あら、私にも美意識というものはあります。そこへいくとお兄様の顔はお父様そっくりで料理も上手く……あ、お茶漬けと焼き魚おいしかったです」

 

 本当は昨日まで朝ご飯は軽く茶漬けだけにしとこうと思ったが、一人食べる人間が増えるだけで気合いの入り方に違いが出るようだ。

 塩こしょうで味付けするだけでなくレモン汁までかけてしまった。

 その時に一人いてはいけない人間が混ざっていたような気がするが…………

 

 ~回想~

 

 天条院ヒカルが、当然のように部屋に上がり込んできた。

 

 「久しぶり、イチゴ……様?」

 

 「呼び捨てで良いよ、で……なんでここにいる訳?」

 

 「姫様の警護が俺達の役目だ……ここ探すために夜ご飯も抜かしてる、あ……父様達もいるぞ」

 

 「そう」

 

 「良いじゃありませんか、お兄様、大人数で食べた方がご飯もおいしいですよ」

 

 イチゴは大人数で食べるのは苦手だ。

 せっかく作ったご飯だ、食べる以上向き合うべきは目の前に並べたご飯だ。ただそこに目を向ければいい。

 みんなで食べるのは、食べる以外の事にも目を向けなければならない。

 それじゃあ食べる事が目的にはならない、食べる時は、食べる事だけをしていればいい。

 

 「…………」

 

 10分後~

 

 「ごちそうさまです」

 

 「ご馳走になったから貸し一つだな、何かあったら力を貸してやるよ……変な事しない限りだが」

 

 天条院家の人間までご飯を食いに来るとは思わなかった、おかげで備蓄分の魚は消えてしまった、またどこかスーパーで買わねばならない。親衛隊隊長もいるとか言うが、軽い牽制のつもりだったのか?

 

 回想はノノの言葉で邪魔されてしまった。

 

 「お兄様?」

 

 「ん?」

 

 「おぼえていますか?私と初めて会った時の事」

 

 忘れはしない、その一件が引き金となって……デビルークから追放されたのだ。

 と回想に浸ろうとしていると、ノノは当時の事を語り始めた。

 

 ~8年前 デビルークの王宮~

 

 ノノが祖母のセフィと仲良く遊んでいた日、遊べる程に木の葉が舞い散っている日の事だった。

 

 目の前に少年が現れた。

 

 セフィはノノに挨拶させた。

 

 「よ……ろ……し……くお願います」

 

 「こいつが……ノノ……」

 

 不意に強い風が吹く。

 彼女のベールは吹っ飛ばされた

 素顔を晒したセフィはうろたえていた。

 

 「まさか子供に襲われるなんて」

 

 と口走って……

 侍女も、セフィの顔を見て興奮しているのか手をモジモジとさせていた、だが少年はセフィの顔を見ても動じず、極めて平静を保ったまま会話を続けていた。

 その様子にセフィはとても驚いていた。そして少年の顔を見つめる……

 その後父親のリトがノノを迎えに来て、ノノは自分の部屋に帰った。

 以来、少年を見る事は無かったがその日の事を忘れる事はなかった。

 少年は、チャーム人の力が効かないのだ。

 セフィもそういう人間を選んだし、母も抗ってみせたリトを選んだ。だから長じるにつれノノもそういう人間を伴侶にしたいと思うようになっていったのだ。

 

 ~現在~

 

 「むしろノノがよく覚えてたな(棒読み)」

 

 忘れてくれた方がどんなに良かった事か……

 

 「当然!!他の方々……お爺様お父様以外は私の顔を見るとみんな同じように目からハートが溢れてましたが、お兄様は私の顔を見てもそんな態度じゃありませんでしたから……」

 

 初手で自分になびかない男に惚れる家系なのだろうか?追われるより追う派なのか?

 ノノの祖母セフィは先代デビルーク王、ギドが彼女の顔を見ても何も起きない事が始まりで、ノノの母親、ララは夫が元々別の人の事を好きだった所から始まって………

 まあ聞いても無駄な話だ、志葉家で黒子としてやっていくと決めたイチゴには……

 

 「頭洗うよ、体は自分でどうにかしてね」

 

 「あ、もう終わりました」

 

 「そう、じゃああがる時になったら教えて」

 

 「はーい」

 

 「ただいまこの風呂は使えません

  しばらくお待ちください」

 

 と書いた看板をかけておいて正解だった。

 

 「なん……だと……」

 

 と丈瑠が落ち込む様子が思い浮かぶが……

 

 ~志葉屋敷 廊下~

 

 そんなこんなで、ノノも風呂から上がり、掃除も終わり、通路を歩いた……

 

 「~♪」

 

 風呂上がりだからか、ノノの後ろを歩いていると柑橘系の匂いがする。

 気が抜けて思わず溶けそうだ、まどろんで動けなくなるかもしれない。だが我慢しなければならない。

 そうイチゴが考えると、ノノは話しかけようと何度か振り返ってきた。今彼女は太極図のように白黒の狐のお面を被っている。パジャマ姿とそれはなんだか不釣り合いに見えた。

 

 「そういえばどうしたのそのお面」

 

 「ネメシスさんとおそろいのお面です、風呂上がりに便利なんですよ、これ」

 

 「へー」

 

 ネメシスとはイチゴとノノの父親の嫁の内の一人、詳しく言うと長くなるが人口生命体だ。

 飄々としていて誰に対しても偉そうな態度を取る所があり、イチゴは彼女の事は苦手だ。だが、イチゴの事を悪くいえばぞんざいに、良く言えば分け隔てない態度で接してくれたのも彼女だ。ある意味彼女といて心地よかったと言えなくもない。

 ちなみにネメシスという名前は地球において義憤、復讐、天罰、みたいな意味を持っているらしい。彼女と他の人含めてどこぞの組織に作り上げられたと聞くが、何かそういう念でも込められているのだろうか?だが、彼女がそういうものを背負っているようには全く思えない気がする。そういうのに振り回されず自由に振る舞っているのだから。

 

 「おっといけね」

 

 頭巾を被り直した、黒子として今日の活動を行うために必要な事項だ。

 だが、即外したくなる事案が発生した。

 

 「千明ー!!許さんぞー」

 

 「へっへーん、こっこまーでおーいで!!」

 

 流ノ介の頬に猫の髭が描かれており、熊折神の口にマジックペンがあった。千明が折神を使って流ノ介の頬にイタズラを仕掛けたのだという事が想像できる。

 

 「折神をそんな事に使うな!!千明め!!」

 

 「べーだ!!」

 

 流ノ介はショドウフォンを取り出し、何かを書こうとしている。一触即発の危機!!

 

 「あなた達……主君を守る使命がありながら一体何をなさっているの?」

 

 ノノは流ノ介達に向かって睨みつつ叱りつけた。自分より一回り二回りも身長の違いがある侍相手に全く怯まずに物申す事ができる……やはりノノは一代で宇宙を支配した人間、ギドの孫だ。胆力が違う。

 

 「流ノ介君……悪かった、拭けば良くなるよ……水性だからさ……」

 

 「ああ……こちらこそすまんな~千明君、せっかくの客人の前で争ってる場合ではないなーはっはっは」

 

 流ノ介と千明はさっきまで水と油のようにいがみ合っていたのが嘘のように肩を組み楽しそうに笑っていた。

 

 「あれだけいがみ合ってた二人が」

 

 「すごいなぁ」

 

 「彼女の祖母……チャーム人の能力だよ」

 

 おそらく1/fゆらぎのもっと効果の高い版の声を聞いて彼らは魅了されてるのだろう、言わば骨抜きにされているのだ。

 

 「あ、おはよう、イチゴ……まあ確かに彼女のいる間は不思議とむっとする気分にならなかったもんね」

 

 「おはよ(↑)う、イチゴ……ノノちゃんもおはよう」

 

 「おはよう……」

 

 「おはようございます!!皆さん、稽古ですか?ご苦労様です!!」

 

 「ありがとうございまーす」

 

 和気あいあいと喋っている間に丈瑠がぬうっと現れた、皆があいさつをするのに目をくれず、イチゴに一言

 

 「イチゴ、お前に話がある」

 

 丈瑠の言葉に重みを感じ否が応でも神妙な面もちになってしまう、促されるままに別室に移動した。

 そして、言われたのは……

 

 「お前……もう黒子辞めろ」

 

 「その…………クビ………ですか?」

 

 「ああ………お前に言った筈だ、これ以上前に出るな……と。だが勝手に突っ走って、その結果があれだ」

 

 カイの力を使って戦ったが、バッテリー切れで戦えなくなり、結局丈瑠に庇ってもらった。

 無駄に丈瑠の神経を使わせたのは確かだ。

 

 「あの日、お前が得たのは状況に流されて得た力だけだ。それ以外なんの素養も訓練も受けた事もないお前に……」

 

 「………………………」

 

 「中途半端に関わられるのは迷惑だ!!」

 

 ズシンと、重石が体中に乗っかったような感触がする。

 迷惑だ、迷惑だ、迷惑だ、迷惑だ………迷惑だ…………

 

 「荷物の片付けがあるだろう……下がれ」

 

 「はい」

 

 言われた通りに立ち去ると、足の力が少しずつ抜け落ちていくような感覚がした。

 

 「殿……」

 

 話は聞かれていたようだ。

 

 「聞いてたのか」

 

 「殿、確かに彼は我らと肩を並べるには程遠い腕ではあります、ですがあのような……」

 

 「あれがここで働いてくれた奴に対して言う事かよ………」

 

 「お前達が何を言おうと、俺の考えに変わりはない……イチゴについての話は終わりだ」

 

 丈瑠も、いつも座っている場所から立ち去った。

 

 『ドント・マインドです』

 

 「うるさい……(小声)」

 

 「お兄様ー!!」

 

 いつの間にかノノは昨日とは別の服装に着替えていた。

 

 「話は聞かせてもらいました。行く当てがないなら一緒にデビルークに帰りましょう、お父様もお母様も喜ぶと思います」

 

 「……………………………………」

 

 イチゴは何も言わず、部屋を後にした。

 人がクビにされたのに喜びを隠さないノノの言葉を聞いていると、頭痛がしてくる。

 

 「ていうかさ、本当にイチゴを婚約者にしたいのかよ……あいつ腹の底じゃブチ切れてるかも」

 

 千明がノノに話しかけてくれたおかげで気が紛れた、腹の底……否定はしきれないのが色々と残念な所だ。

 

 「お兄様が怒る?何故です?」

 

 ノノはごまかすでもなく本当に分からなさそうにきょとんとしていた。

 

 「………………何も知らねえなら言ってもしょうがないよな」

 

 「はあ……」

 

 部屋に戻ったイチゴは私服に着替えた。

 

 「良いですね……」

 

 黒いジーンズに白いシャツ、黒いジャンパー……目立たないようにスーツを買っておけば良かったかもしれないがスーツを買うとこのお気に入りの私服が3セット買えるぐらいはする。

 

 「似合うと思います」

 

 「……」

 

 着替えて通路を進んでいるとことはと、黒子達がいた。

 待っていたみたいだ。

 

 「何か?」

 

 黒子は、トランクケースをくれた。衣類を詰め込むのに便利だった。

 

 「(ここじゃない所でもおいしい料理振る舞ってくれな)」

 

 というジェスチャー付きで。

 

 「昨日はありがとな、それとな、嫌やったら、殿様に言わなあかんよ」

 

 「別に…………」

 

 どんな理由があろうが、必要ないと言われればそれまでだ。

 抗議しても見苦しくなるだけで、望みなんて叶いはしない。

 

 「外道衆との戦い、頑張ってください」

 

 イチゴは形式通りに頭を下げ、場を後にした。

 それにしても本当にデビルークに帰るのか?祓忍組合に顔を出した方が良いのか?

 デビルークに帰るのは……きつい。

 

 「お兄様~」

 

 ノノはイチゴの手を引っ張っていった。

 

 「参りましょう、私達の愛を育むあの星へ、殿様からは許可をいただいています」

 

 ノノは多分デビルークを指差して言う、イチゴはノノの手を取り払って一言

 

 「その前に一つ、行きたい所があるんだ」

 

 ~志葉家 屋敷~

 

 「これで良い……」

 

 丈瑠がそうつぶやくと……

 

 「少し言い過ぎたんじゃない?」

 

 茉子が、声をかけてきた。

 

 「あいつは元々侍じゃない、外道衆との戦いに関わるべき人間じゃなかったんだ。それが、急に俺達の戦いに関われるだけの力を手にしてしまった。今回の一件で分かった、あいつはここにいる限り、昨日のように前線に出て、身を危険に晒す」

 

 「彼の事、気にしてるんだ?私達が来た時既に背中切られてたもんね」

 

 「べ、別に気にしてなんかない………妹が迎えに来た、護衛もだ。だからもう、俺達と関係を切れば危険な目に遭う必要はない」

 

 「あの人か……」

 

 知っているなら話す必要は無さそうだ。

 

 「心配なら、そうならないように自分達で守るっていうのは?」

 

 「あんな事、毎回もやるのはごめんだ」

 

 丈瑠はそう言い残し、その場を去った……

 

 ~昔、ドウコクとの戦いがあった時の話~

 

 炎舞う館の中で、一人の男がいた。

 弁慶の立ち往生を思わせる程背中に矢傷を負った男だ。血だらけのその姿はいつ死んでもおかしくないと思わせた。

 

 『忘れるな、今日からお前がシンケンレッドだ』

 

 男はそう言うと、鞘を失った抜き身の刀を杖代わりにしつつもまだ幼い丈瑠に獅子折神を手渡す。

 

 『決して逃げるな………外道衆から、この世を守れ!!』

 

 そして、男は息絶えた。

 それが丈瑠と………丈瑠の父親との最後の思い出となる。

 

 「イチゴ……お前は、この道にはもう関わるな」

 

 イチゴを始めてみた時、丈瑠は自分自身に感じているものに似た黒いモヤモヤとしたものを感じた。その分馬は合ったが黒いモヤモヤの正体が何なのかは未だに分からない。

 分からないが、そんなイチゴを戦いからできるだけ遠ざける必要があった。丈瑠達のようにモヂカラもないイチゴが先日のように戦えば、今度はどうなるか分からない。

 だから、彼が傷で黒子の業務を離れていた時から戦わせない口実を考えていた。かといって他の働き口が見つからないまま無責任に放り出す訳にもいかない。噂ではさる有名な漫画家の孫らしいが漫画に詳しくはないから分からず、本人に聞いても誰の事かを言う気はなさそうだ。という訳で妹が迎えに来たのは僥倖だ、彼女の態度から見てイチゴを悪いようにはしないハズ……

 

 「殿……イチゴに色々と言ったそうですな」

 

 今度は彦馬が、丈瑠に小言を言いに来たようだ……

 

 「じいか…………別に……みんなにも言われたがあいつが外道衆とは関わらなくて済むように決めた事だ……黒子を続けている限り、あいつは止めても戦う……………あいつはじいに何か言ってきたか?」

 

 「いえ、ですが……彼の敵は外道衆や妖怪変化ばかりではありませぬ、宇宙より先の場所からも……殿は彼の素性は?」

 

 「黒子達から聞き出して一応は………結城苺悟(イチゴ)、十九歳、デビルークと呼ばれる星の王様の子息だ。母の手ほどきによって料理を覚えて、黒子に料理を教える立場になった……勤務態度は概ね良好」

 

 一応だとしても王子だ、だから志葉家と関わりを切っても護衛達が守ってくれる。

 

 「そして、正室腹ではない……王もその星の人間ではないのです。時代錯誤な言い回しですが、それがどういう事かは……」

 

 「!!」

 

 当然、邪魔に思う連中がいる。

 

 「後ですな、これを公に話すのははばかられる事なのですが……」

 

 ……………………………

 

 「本当なのか?」

 

 本当だとすれば、イチゴの存在は……デビルークという星間国家の存在に泥を塗るものになる。

 

 「千明もご存知のようです、イチゴの妹、ノノ様の姉と同じ学校であったためでしょう」

 

 「そうか………」

 

 丈瑠はすぐに上着を羽織った。

 

 「イチゴを探しに行く!!」

 

 自分の判断が軽率だったと丈瑠は後悔した、あの王女とイチゴを無闇に関わらせてはダメだった……王女はイチゴをデビルークに連れていこうとする、だがそれはイチゴにとって良くない事態になるかもしれない。

 

 ~路地裏~

 

 イチゴは、剣を手に持ってノノに近づいた。

 

 「お、お兄様……」




いかがでしたか?
面白いと思っていただければ嬉しいです。
殿は序盤の殿だからああいう事言うと思いました。


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第4話 あやしいやつにはごようじん Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
いよいよ主人公がロボに乗ります、楽しみにしてください。


 ~路地裏~

 

 万能工具(ツール)……それは剣にも変化させられる……

 

 「お、お兄様……?」

 

 イチゴはそうやって変化させた万能工具(ツール)を手に持っていた。

 ノノは、イチゴが自分に向かって放つ圧にただ戸惑うばかり。こうなる事は予想だにしていなかったに違いない。

 その兜の内側の素顔は本当に王妃そっくりだ、それでいてセフィの体質も受け継いでいる。

 憎らしい……

 王妃ララはイチゴを自分の子供のように可愛がってくれる。

 だが、王宮で、デビルークで生きるにはそれだけじゃ足りない。

 ララの本当の子供であれば……せめて、王族の血を引いた人間であれば……

 イチゴの父親であるリトではダメだ、元々王女の婿として王となったのだ……彼はデビルークの一般市民でも無ければ、どこぞの貴族でもない、上流には位置するだろうが。だからイチゴはデビルークとして見れば、元々縁の無かったはずの子供……異物。

 そんな人間がデビルークの王族を名乗るだけでなく、王女の婚約者を名乗るようになれば……どれだけの問題になるか?

 分かっていない、目の前の妹は全く分かっていない。

 こいつは色々なものをぶち壊そうとしている……

 丈瑠の受け売りだが、迷惑だ。

 そういう気持ちをぶちまけそうになる前に、別の対象に意識を向けた。

 

 「いるんでしょ?」

 

 いる。

 後ろから殺気が感じられる。

 おそらくイチゴが何かをしようとした瞬間を狙うつもりだ、また、それを可能としている実力者達である事は察しがつく……それが誰かも。

 

 「イチゴ君、手を上げろ」

 

 やはりザスティン、そして彼がよく引き連れている部下……ブワッツとマウル、そして息子(ヒカル)だった。

 ヒカルの言葉は脅しではあるが、本気だったようだ。

 

 「言ったよな…………変な事しない限りって」

 

 「ん~おかしいな……今ここにはオレを入れて7人ぐらいの気配だったのに」

 

 突拍子も無い事を言ってイチゴは少し恥ずかしくなったがいるのは確かだ。

 何かしらの、人の気配……というより、歩いているうちに肩に乗っかってきただるまがいると言っている。

 

 「………………へ?」

 

 「この場には私含めて6人であるはず、君の言う言葉が本当ならその7人目は一体」

 

 誰もが息を呑み、沈黙が辺りを埋め尽くした。そうやって時間が経過していくとまだ寒い時期なのに、陽炎のように空気が揺れ出した。

 

 「………………そこだ!!」

 

 だるまに水を吐いてもらった、人とは違う理で生きているこのだるまは、見える相手は限られたものになる。だから奇襲に使える。

 

 「急に何か当たった!?」

 

 突然と言えば突然の衝撃があり、相手の姿を確認できる程の隙が生まれた。

 赤いウロコを身にまとった爬虫類然とした容姿の誰か。

 

 「本当にいた……」

 

 「お前は、手配書にあった……ステルス星人メレーカ!?」

 

 手配書という事は……異星人の犯罪者

 つまり…………アリエナイザー!!

 

 「フシュルル……わざわざ王女が地球に降りて来たんだ……人質に取ればふんだくれると思ってな……そればかりじゃない、噂のガキもそこにいたとは……」

 

 「!!」

 

 「新聞社に売れば一儲けできそうだ」

 

 イチゴはそれを聞いてまた気が重くなった、どこへ行っても、ついて回る問題……もはや呪いだ。

 

 「私もお兄様もあなたなんかに捕まえられる値打ちじゃありません、ですよね?ヒカル」

 

 「わざわざしゃべってくれてありがとう……と言うべきだろうが」

 

 「私達がそれを許すと思うか?」

 

 「答えは一つ」

 

 「許さん」

 

 ザスティン達は一斉に武器を構えた。

 

 「ふ……出でよ、デビルキャプチャー!!」

 

 デビルキャプチャーを呼び出した。

 

 「俺様をやれても、こいつはやれん」

 

 「イチゴ君、アリエナイザーはこちらでなんとかする、君はあの怪獣機を頼む」

 

 「?どうやって……」

 

 「ノノ様、説明を」

 

 「お母様は対怪獣機用にペケやカイを大きくさせられるように調整しているんですよ、その分バッテリーを多く食いますが」

 

 「そうなの?」

 

 「ええ…………唱えてください、ギガント形態(フォーム)と」

 

 「カイ、やれる?」

 

 『ええ』

 

 「じゃあ」

 

 ギガント形態(フォーム)!!

 

 そう叫んでみると、風船みたいにカイが膨張?肥大化?していった。

 

 「でもどうやって乗るか……」

 

 「?飛べば良いじゃないですか」

 

 大きくなったカイに乗るのは見た限りコンビニの看板の上までひとっ飛びで登る方が遥かに簡単だった。

 

 「運んでいってやろうか?」

 

 メレーカと戦っているヒカルが提案してきた。

 

 「簡単に言うな」

 

 デビルークの人間は地球人より身体能力が上だ、だからビルまで飛ぶぐらいは余裕だろう。軽口で言われるのは納得がいかない。

 

 「冗談はさておき、ちゃんとそのための装置はあります」

 

 巨大化したカイから、謎の光が降り注いできた。

 その光にイチゴが当たると、どこかへ吸い込まれていく。

 

 「?」

 

 宇宙船からの謎の光線で連れてかれるモブのイメージが突如湧いた。

 

 「じゃあ、カイの中で頑張れよー」

 

 きちんとコックピット部分もあつらえてある、スイッチやキーボード、パネルの部分を押せば動かせるようだ。

 モニターから音声が聞こえてきた。 

 

 『座り心地はいかがです?』

 

 声の主はカイらしい。

 シートの反発は低めだ。デカレンジャーのように特殊なスーツも無いのでシートベルトは多めに着用した。

 

 「まあまあ、動かし方は?」

 

 『レバーとパネルで、マニュアル読みます?』

 

 「じゃあ、軽く」

 

 イチゴは表示されたマニュアルを一通り読んだ。

 

 「モーションとかのデータはどのくらい揃ってるの?」

 

 あるのと無いのとでは違うのは素人でも分かる。

 

 『イチゴ様の前回と前々回の戦闘、それと王妃様達とヤミ様、メア様がじゃれあっている様子(一般市民には派手にバトルしているように見える)の見取り稽古分でしょうか?ドレスフォーム時のも使えます』

 

 それだけあれば色々設定する分に不足はない(多分)、だが今は時間がないから自力で動かす事になる。

 

 「そう、武装は?」

 

 『万能工具(ツール)に巨大化する機能はありません、手足しかないです』

 

 「……………」

 

 殴る蹴るでどうにかするしか無さそうだ。

 

 「じゃあ、まず動け」

 

 『ラジャー!!』

 

 一歩、二歩、カイは歩いた。

 

 「………………」

 

 そこから、イチゴはアクセルをかけるようにレバーを押し、カイの翼を動かした。

 

 「ぐああああああ!!」

 

 噂に聞く、Gの負担を感じた。

 重い、物理的な重圧がきつい。

 シートベルトが無ければカイの中でぶつかって死ねていた気がした。

 

 『大丈夫ですか?』

 

 「慣れるしかないか……」

 

 『無理はしないでください、そのための私です』

 

 「コックピットはどうなってるの?」

 

 『中に人はいません、自律型の兵器のようです』

 

 「無人か……」

 

 無人ならさっさと動力部分を壊して、動けないスクラップにすれば良い。

 

 「ああぁ!!」

 

 万能工具(ツール)はないが、ビルに隠れるか隠れないかぐらいの大きな巨体……それに見合った翼がある。

 

 「強度調整?仕方ない、ここをこうして」

 

 パネルからあれこれと設定を行い、移動。

 

 「切り裂く!!」

 

 翼をデビルキャプチャーに近づけ、エネルギーを動かすパイプを切り裂いた。

 上手く狙えたようで、デビルキャプチャーは目の光をなくし、膝をついて動かなくなった。

 

 「フシュー!!おのれ、マスコットキャラ如きにぃぃぃぃぃい!!」

 

 メレーカは驚いている最中にザスティンに取り押さえられた。

 

 「神妙にしろ!!あ……もしもし、ドギー……はあ、テッカン殿でありますか?まあ良いでしょう、至急預かってもらいたい身柄がですね………」

 

 「ご苦労様です!!」

 

 ブワッツは、そう激励するノノを羽交い締めして捕獲した。

 

 「きゃっ」

 

 「姫様も、もうこれまでです。イチゴ様とは会えたでしょう?」

 

 「そんなー」

 

 「帰りましょう……」

 

 「お兄様と一緒ではないの?」

 

 「…………………」

 

 イチゴの事はほっとけと、みんな目で訴えていた。

 

 「何故ですか?」

 

 「………………」

 

 誰も答えられないまま

 

 「父様、アリエナイザーをよろしく頼みます」

 

 「お前は……」

 

 「イチゴと話があります」

 

 「お兄様にデビルークで待ってると伝えてくださいねー」

 

 連れ去られるノノを尻目に、ヒカルはカイを見上げた。

 

 「…………」

 

 戦いを終わらせたイチゴだが、カイから降りる気配はなし。

 

 「終わったぞ、イチゴ!!」

 

 「まだだ!!」

 

 隙間からナナシ連中が現れた。

 

 「既に二の目……」

 

 数から見て、以前ヒカルと一緒に倒した奴らだ。

 

 「よし、もう終わろう、イチゴ……後はシンケンジャーか俺に任せれば良い」

 

 「…………………」

 

 イチゴはナナシ連中をカイの腕で殴った。

 

 「ギャー!!」

 

 一体、爆散。

 

 「ガヤガヤ!!」

 

 「ガヤー!!」

 

 多分、ナナシ連中は同胞がやられた事を悲しんでいるように叫んでいる。

 

 「オレは……ナナシ程度ならやれるんだ……ナナシ程度なら……嫌、オレはもう志葉家の人間とは縁が切れたんだった……(小声)黒子だってオレ1人がいなくても頑張ってくれるし……オレなんかいなくたって……でもデビルークに戻ったらオレは……」

 

 「イチゴ……」

 

 「イチゴ!!」

 

 シンケンジャーも巨大ロボに搭乗して場に混ざってきた。

 

 「でかした!!と褒めるべきかもしれんが」

 

 「これって結構ヤバくね?」

 

 「様子が変よ」

 

 「イチゴ、戦う時はしっかりせなあかん」

 

 「仕方ない、一回イチゴを倒すぞ!!そして落ち着かせる」

 

 「オレは……」

 

 その時、一陣の突風が吹いた。

 

 「くっ!?」

 

 轟音と身を切るような勢いは台風のそれだった。

 カイの中にいるため、なんとかその突風を見据えていられた。その風が何かは分からないが、見続けなければいけない気がした。見続けたくなる何かがあった。

 ナナシ連中もイチゴと戦おうとしている事を忘れて、風の行く先に魅入られている。

 そして、時間の経過によって風塵が晴れてきてイチゴが見たのは…………

 

 「ワーハッハッハッハ!!」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ幸いです。
次回というかCパートは某桃太郎の姿をした妖怪が暴れまわる予定です。


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第4話 あやしいやつにはごようじん Cパート

みなさんこんにちはもしくはこんばんは。
このパートは桃太郎の姿をした妖怪縁結びに侵蝕されていますのでそこの所よろしくお願いします。
ちなみにヒカルの声はゼロ師匠です。


 「ワーハッハッハッハ!!」

 

 謎のBGMと謎の神輿あり。

 

 「やぁやぁやぁ!!」

 

 天女の衣を纏う乙女達が舞い、屈強な男達が神輿を担いで運ぶ。

 そして神輿の上には、プロテクターを装着し、ヘルメットの上からサングラスを付けた赤いヒーローが!!

 額の鉢巻きを見ると、桃の形をしたマークがでかでかとくっついている。古(イチゴの親の代)から続く特定の人間を対象にしたファンクラブの一員ではなさそうだ、侍のように後頭部に束ねた髪と鉢巻きに描かれた桃、日本にはその代名詞がある……腰に付けている筈のそれが無いのはさておき、その存在は……桃太郎。

 桃から産まれた、桃太郎。

 

 「祭りだぁ!!祭りだぁ!!」

 

 桃太郎は、手持ちの扇を力強く振る。

 

 「笑え、歌え!!袖振り合うも多少の縁。つまづく石も縁の端くれ、共に踊れば繋がる縁、この世は楽園!!悩みなんざ吹っ飛ばせー!!」

 

 この桃太郎、縁ばかりを叫んでいる。

 

 「ワーハッハッハッハ、はあ!!」

 

 神輿の上には一台のバイクがある。どうやらそれにまたがっているようだ。

 仰いだ扇子を彼方に放り投げた後、そのバイクにアクセルを効かせた。

 そんな桃太郎は、イチゴのいる方向、きっちり上を見て言う。

 

 「目が合ったな、これでお前とも縁ができた!!」

 

 見ていたのがバレていた事に、焦りを感じた。ロボの中に入っているのだからバレないはずだった。

 それから桃太郎は同じようにナナシ連中を見た、ナナシ連中も同じように驚いているのが分かる。

 

 「お前達ともだ!!縁ができたな!!」

 

 ナナシ連中も頭からビックリマークが生えているのが分かった。

 

 「いくぞ!!」

 

 数秒、カイの中のモニターがノイズまみれになった。

 

 「風が収まった……」

 

 「殿!!ナナシ連中と……イチゴがいません」

 

 「何!?」

 

 「いないわね……この前みたいにカイちゃんが溶けた感じじゃないのに……」

 

 「なんかうるせえ奴が叫んだ後消えてったな、主持ちのお供などいらんって」

 

 「あの桃太郎、なんなんやろ……」

 

 「一旦分離して探すぞ!!」

 

 「はっ!!」

 

 シンケンオーは、分離して折神へと変形して持ち主の動かす通りに辺りを散策し始めた。

 

 ~????~

 

 ノイズが晴れると、知らない場所に立っていた。

 どこかよく分からない場所に連れていかれたようだ。

 電脳空間のような、カラフルな障害物の多い所だ。夜をライトで彩る遊園地みたいに黒い背景と緑のレイヤーが多い分、比較的落ち着いた場所のように思う。

 

 「ここは…………どこ?」

 

 後ろを振り返った。

 紋所にはでかでかと、そして力強く「縁」という文字が書かれていた。

 即座に先ほどの桃太郎の顔が浮かぶ。

 

 「縁があったな!!ハーハッハッハッハ!!」

 

 なんと、大声で笑ってきた、思い浮かべるだけで結構心臓にくる。

 

 「ハーハッハッハッハ!!」

 

 しかも実際にいた。

 そんな桃太郎はバイクから降り、イチゴ達に近づいてきた。

 

 「ガヤ、ガヤ?」

 

 「お前達にきてもらったのは他でもない、これも縁だ!!」

 

 「え?」

 

 「ガヤ……」

 

 「縁にも色々とあるが、俺との縁は超良縁だ。信じていい」

 

 「はあ……」

 

 「得物がある、だったらやる事は一つ!!さぁ、楽しもうぜ!!」

 

 桃太郎は腰の刀というには切れ味はよくなさそうな一品を持ち出した。

 

 「待って、あんた……オレの認識通り桃太郎なら犬猿雉、きびだんごはどうしたのさ?」

 

 「出張中だ、そして、縁こそが俺のきびだんごだ!!」

 

 桃太郎はそう叫ぶと、体に力を溜める仕草を取って巨大化した。

 

 「これなら遠慮はいらんな!!」

 

 回し蹴りを一発、ナナシ連中の1人に当ててきたらしい。正直その瞬間を見る事はできなかった。

 ナナシ連中もその通りで、突然転ぶ一体を見て他が驚いていた。

 蹴られたそいつは土下座して

 

 「おっす、アニキ舎弟にしてくだせえ」

 

 と言っていそうなジェスチャーを取っていた。

 

 「うむ、良いだろう」

 

 快く引き受ける様子から少し桃太郎に気さくなイメージが付いてしまった。

 

 「ガヤ、ガヤ」

 

 「ふむふむ、どうした?何!?あいつに命を一つ消されたと、ならばその悪縁を断ち切らねばならんな……互いにな!!」

 

 いつの間にか桃太郎を間に挟んでイチゴとナナシ連中が向かい合う形になっていた。

 

 「…………………………なにこれ」

 

 「組み手だ!!お前達、組み手をしろ!!」

 

 「オレは1人だ、奴らは7人だ」

 

 だからこっちの方が不利だ。

 

 「問題はない」

 

 桃太郎はカイを切り分けるように手刀を当ててきた。

 

 「?」

 

 なんという事でしょう、イチゴとカイが増えたではありませんか。

 

 「もう一度言う、問題はない!!い゛く゛そ゛!!」

 

 桃太郎が仕切る形で、組み手らしき何かの火蓋が切られた。

 

 「…………仕方ない!!」

 

 10分後……

 

 「ハァ…………」

 

 5対2でイチゴが勝った。

 

 「勝った……」

 

 もう少し戦いに「集中」していれば良い戦績だったかもしれない、が今回桃太郎の出現に気を取られて忘れていたのがネックだった。

 

 「そこまでだ!!お前達、互いに握手を交わせ」

 

 「ガヤ!!」

 

 さっきまで派手に戦っていた相手が普通に握手を求めてきた。握り返すと、ほんのり暖かい。まるで人間みたいだった。その暖かさに触れてふと申し訳ない気持ちになる。

 

 「……ごめん、オレ………お前達の仲間を」

 

 アリを踏み潰すように、その感触を感じないままに消してしまった。

 

 「詫びる必要はない!!俺たちは歩むべき道を歩みたいように歩いた、お前も為すべき事を為した。(あやかし)とは、そういうものだ!!」

 

 「…………………………」

 

 「ガヤ、ガヤ!!」

 

 ナナシ連中は手を振ってどこかへ去った。

 

 「どこへ行ったの?」

 

 「奴らの帰るべき場所だ、人はそれを三途の川というらしいがな……最後になんと言ったか分かるか」

 

 「……………………」

 

 正直、イチゴにナナシ語は分からない。

 

 「なんて」

 

 「次は自分達が勝つ、そうだ」

 

 次…………次なんてものは自分にあるだろうか?本格的にデビルークに連れてかれるのではないのだろうか?またメレーカのような存在に狙われるのではないだろうか?何故そうならなければならないのか?

 

 「…………………………」

 

 考えるな、考えるだけ、きつい。

 

 「お前の負念……しつこいぞ!!だが、面白い!!直に剣を交えなければ意味がないか」

 

 また、カイ越しにノイズが流れた……

 

 「…………………」

 

 周りには砂場に滑り台がある、おそらくどこかの公園。元の場所に戻ったのだろうか?

 

 「あ、元に戻った」

 

 『もう……無理です』

 

 カイはイチゴを外に追い出した、ちゃんと光線で道路まで送ってもらったから助かったが……

 

 「カイ、ありがとう……しばらく休んでて」

 

 『ラジャー』

 

 カイは、溶けて元の状態に戻った。

 

 「構えろ」

 

 いつの間にか元のサイズに戻っていた桃太郎は剣をイチゴに向けた。

 

 「勝負だ」

 

 「え?……………仕方ないか」

 

 イチゴは言われた通り万能工具(ツール)を変形させた剣を持った。

 

 「行くぞ、ハッハッハァ!!」

 

 桃太郎は、イチゴに切りかかってきた。

 

 「くっ」

 

 一撃一撃が、速く、鋭く、重い。

 

 「そこだ!!」

 

 イチゴは別の方向に桃太郎の武器を押し込み、攻撃しようとした。パリィとかいうあれだ。

 

 「甘い、甘い!!」

 

 桃太郎はイチゴの行動を逆手に取ってか、回転して斬りつけてきた。

 遠心力いっぱいに繰り出すその一撃で、受け止めた万能工具(ツール)が飛んでいく。

 

 「くっ!?」

 

 「そらそらそら!!」

 

 足払いをしてきた。

 

 「…………!!」

 

 剣を受けたため少し桃太郎の素早さに順応できたのか、桃太郎の攻撃が見えるようになってきた。

 後転を繰り返し、避ける。

 

 「はぁ!!」

 

 距離を取ってから、跳び蹴りを行った。

 

 「笑止」

 

 横にズレた事で避けられ、カウンターとして頭をチョップされた。

 

 「がはっ」

 

 床に叩きつけられ、座り込んでしまった。

 イチゴはすぐさま勢いに任せ、横に転がって、距離を詰めて殴ろうとした。

 

 「がら空きだ(↑)ぞ(↓)!!」

 

 桃太郎に腹部をパンチされた、勢いに押されて、よろけつつ後退させられた。

 

 「強い……」

 

 思い浮かぶ比較対象の中に、既に地球人は外れていた。デビルークの王族、伝説の殺し屋、その妹達、運び屋、後は銀河警察とかトランスフォーマー………これより強いのは知らない……が、そうそういて欲しくはない。

 

 「18点だ」

 

 桃太郎は走ってイチゴに向かってきた。

 そして武器をイチゴの腹部に当ててきた。

 

 必殺奥義・快桃乱麻!!

 

 斬撃ではない、なにかしらのエネルギーの奔流を感じた。そしてそれは爆発する。

 

 「があああ!!」

 

 イチゴは壁に激突し、倒れた。

 

 「オレは、こんな訳も分からない奴にやられるのか?」

 

 だが、人はそういう時、いつだって訳も分からない事象に追われるはめになる、病、事故、特別な事ではない筈だ。

 

 「嫌ならば……戦え!!剣を握れ、諦めるな!!」

 

 そう言われたが、もう諦めかけていた。

 やられるだけなら、もう構わない。

 結城イチゴというちっぽけな命が、今ここで終わるだけなのだから……

 シンケンジャーやセブンガーの乗り手のような、みんなに必要な人達が死ぬ訳じゃないのだから……

 それに、死ぬ方が…………………

 

 「ここで諦めるお前は、結んだ縁に恥じないお前か!?」

 

 「!?」

 

 シンケンジャー、黒子達、彦馬、忍者達、兄弟達、その母親達、両親、王妃。どちらかというと悪縁もなくはないが……

 

 「お前が諦めても、結ばれた縁は終わらん!!」

 

 イチゴがもし死んだ時、なんとこぼすだろうか?

 悲しむだろうか?気にせずに次の戦いに身を投じるだろうか?

 

 「見ろ!!」

 

 桃太郎が空を指差す。

 亀折神が上空から見えた。

 

 「イチゴ、見つけた!!」

 

 「なんで……」

 

 「良縁だな……大事にしろ!!」

 

 大事にしろとはいうが、そのためにはこの場をどうにかしなければならない。

 このままではどうしようもない。死んでしまうのが先だ……

 だが、よく考えれば、さっきから桃太郎はイチゴを排除しようとはしていなかった。ずっと鼓舞をしてくれていたのだ……

 

 「ああ………もう、やれば良いんだろう!?」

 

 イチゴは立ち上がってダッシュした、目標は万能工具(ツール)……

 

 「その意気だ……!!」

 

 妨害は無く、万能工具(ツール)を拾った……

 

 「来い!!」

 

 「いけえ!!」

 

 桃太郎に向かって万能工具(ツール)を振るう。

 

 「踏み込みが足りん!!」

 

 桃太郎は、軽々とイチゴの攻撃を受け止めた。

 

 「さあ、どうする?」

 

 「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 イチゴは万能工具(ツール)に力を加えて、桃太郎の頑強さを利用して、折った。

 

 「今だ!!」

 

 丁度分割した形になった万能工具(ツール)を急いで回収し、Xの字を描くように振るった。

 折れた刃の部分を握ると痛みで若干力が入らなくなるが、今は手数第一だ。

 

 「ほう……」

 

 ガスンと、衝撃がした。

 初めて桃太郎相手に、何か手応えを感じる事ができた。

 

 「…………いい連撃だ、27点に上げてやる」

 

 イチゴの底力のレベルが1上がった。

 

 「まあ、こんなものか」

 

 それでも、桃太郎は余裕そうだった。

 というより、むしろ全くダメージが無いような……

 

 「見てみろ」

 

 「………………?」

 

 突然戦いを強引に終わらせられたイチゴは、今度は水たまりに案内された。

 映っている顔の、目の輝きが、いつも見ている時より増していた。

 

 「お前の負念は晴れたようだ、良い顔をしている……その心持ちを忘れるな。今までよりもっと良い縁を掴めるだろう」

 

 桃太郎はバイクにまたがる。

 

 「また縁があれば相手をしよう、ワーハッハッハッハ!!」

 

 謎の桃太郎は、その場を去った。

 

 「なんだったんだ?」

 

 疑問に思うが、考えれば考えるほど訳が分からなくなり、疑問は一旦放棄した。

 確実なのは今、不思議と心が楽になっている事だ。攻撃された箇所が未だに痛む、動き回ったり壁に当たったせいで服もボロボロだ、だが何か晴れ晴れとしている。

 

 「まあいいや、ありがとう」

 

 名前も知らない桃太郎に、無性に感謝したくなった。

 

 「ありがとう、桃太郎」

 

 この心境がいつまで続くかは分からないが、続くまでは続けていきたい。

 

 「何の話だ?」

 

 ヒカルがいつの間にかいた、迎えにきたのか?

 

 「今さっきさ、そこで桃太郎と」

 

 「失礼」

 

 ヒカルはイチゴの額を触った。

 

 「体温計、執事に持ってきてもらうか」

 

 集団下校中なのか、小学生達が寄り集まってイチゴ達を見てきた。イチゴは子供達に向かってシッシッと手で来るなというジェスチャーを送った、聞き分けが良い子供達なのかすぐにその場を去ってくれた。

 

 「…………オレ、熱は無いよ」

 

 ヒカルはイチゴをじーっと見て何かに思い至ったようでため息をつく。

 

 「…………ああ、また俺達には見えない何かの話か、そんなものが見えるなんて難儀なもんだな」

 

 「分かる」

 

 妖怪には普通の人間には見えないものもいるそうだ。向こうが見えないものを見えると言えば気味悪がられるのは仕方ないかもしれない。

 

 「それはそうとさっきお前、姫様を利用して俺達を炙り出したのか?」

 

 違うといえば違うし、そうだといえばそうだ………気持ちを押し殺すための隠れ蓑に使わせてもらったかもしれない。

 

 「そんなつもりは無かったよ、どう答えても悪く取られるかもしれないけどさ……結局オレは何も変われなかったって事になるか」

 

 「…………」

 

 「……………………………」

 

 「疑って悪かった」

 

 ヒカルはイチゴにカードを投げ渡してきた、中身は一種の招待状だった、天条院家の別邸でお茶会があるそうだ。

 

 「メレーカの件の礼だ、来るならイチゴの分のプリンも用意しよう」

 

 「凛さんいるよね………」

 

 ヒカルの母親の親友というか、執事というか色々ある、イチゴの父親の嫁の1人だ。

 それに……彼女の娘(いもうと)もいるかもしれない……

 

 「綾さんも、沙姫さんも、あんたの妹もか」

 

 「まあな……だが一人野郎が増えた所で母様は拒みはしないから安心して欲しい、それにお前なら歓迎されるかもしれない」

 

 身内の事を考えると気が重いのはどうあれ、プリンがあるなら、拒みはしない。

 

 「いいさ、プリンがあるなら顔突き出すぐらいはやってやるよ」

 

 「そうか」

 

 「……………」

 

 ビルのてっぺんに狐の面を付けた誰かが見えた。身のこなしは忍者のそれに近い。

 両肩に虎の顔のオブジェ、招き猫のような伸びた腕を生やしているから派手好きなのかもしれない。

 

 「祓忍(はらいにん)かな、あれ……」

 

 祓忍というのは忍者の中でも怪異専門みたいなスタンスらしい。全国各地に組合があって、全国に出てくる妖怪達を祓って、それで何百年か続いているそうだ。

 普通の人間には見えない(あやかし)と同じように自身を見えなくさせる衣装を着て戦っているそうだ。

 それはそうと何かと戦った後なのだろうか?

 分からないが、とりあえずおじぎする事にした。

 

 「イチゴが止まったら道が分からないのだが」

 

 「ああ………待って」

 

 イチゴはカイを抱えつつもヒカルを追いかけて走った、軽いジョギング程度の勢いだが、結構距離があるためヒカルの足の早さを痛感している。

 

 …………………

 

 狐の面を被る者、名前を十六夜九衛門という。

 

 「なんなんだよ、あれ…………吉備の御伽話と縁結びの神の習合体か?怖っ」

 

 九衛門は身震いをする、時節はまだ桜が咲くか咲かないか、寒いと言えば寒いがそれが理由ではない。馴れ馴れしく、そしてそれに関して有無を言わせぬ桃太郎が怖い。

 

 「怖いと言えばあのイチゴとか言ってた奴だ、この姿には祓忍(はらいにん)の技師に作らせた術式、それも一通り備えてるんだぞ?なんで見えるんだよ!?おじぎまでされた、あれは見えてる、絶対見えてる……忍者でも陰陽師でも妖巫女でもなさそうなのに」

 

 九衛門はため息をつく。

 

 「まあいい、ぽっと出て、ぽっと去るあの桃太郎はどうしようもないが……イチゴという奴は泳がせておけば父………牙鬼幻月様の復活に使えるかもしれない」

 

 九衛門が呟いていると、後ろから声が聞こえてきた。屋上に何者かがいる。

 

 「おい、さっきから俺を見ていたろう……縁ができたな!!」

 

 「ひぃっ」

 

 九衛門はこの後、全力疾走で逃げ出すのでした。

 

 丈瑠達がイチゴの前にやってきた。

 

 「イチゴ!!」

 

 「探したぜ……イチゴ……なんだよ、流ノ助」

 

 千明は自分が歩み寄るのを止める流ノ助に文句を述べた。

 

 「殿様……」

 

 「だいたいの話はじいから聞いた、外道衆だけ遠ざければ良いという訳じゃないんだな………悪かった」

 

 「俺から言い出した手前あれだが戻ってくるか?」

 

 「最低限、外道衆の攻撃をいなす事ができるぐらいには鍛えてやる、泣き言を言うならそれまでだが」

 

 「ありがとう……ございます」

 

 人数は少ないが、歓声が起こった。

 

 「………………」

 

 ヒカルは素早い動作でスマホを動かして丈瑠に向ける。

 

 「だそうです、姫様」

 

 『では殿様、改めてお兄様をお願いします。お兄様~声をいただければいつでも迎えに行きますからね~』

 

 ノノがスマホを通じて映像を流してきた、ビデオ通話といった所か……ノノの素顔は隠しているからみんなに見られても問題はない筈だ。

 

 「丈瑠の奴、素直にイチゴに危険な目にあって欲しくなかったって言えば良いのに……なあ、何もあんな態度を取らなくてもよ」

 

 「そこは私も同意だが、あの王女はイチゴ君についていき、イチゴ君は我々についていき、怪我をするかもしれなかった。一概に悪いとは言い切れない、侍や黒子である以上、下手に人を巻き込んではならないからな」

 

 「そういうもんかね………」

 

 「そういうものよ、だから私は子供達とお別れしたんだから」

 

 「そうだぞ、千明」

 

 「殿様、帰ってみんなで練習始めましょう」

 

 「ああ」

 

 めでたしめでたし!!(桃の判子を押す)

 

 ~例のエンディング~

 

 ~デビルーク 宮殿 夜~

 

 ノノの両親、リトとララはノノを待ち構えていた。

 

 「無事か?ノノ」

 

 リトは凄く慌てていた、証拠としては滝のように汗を流し、暑苦しくノノに詰めよって来たから。

 

 「知らない奴に嫌な事はされてないよな?よし、それなら良い。お腹空かせてないか?おやつあるぞ」

 

 汗を流しているリト、そしておいでと言わんばかりに腕を広げるララ、ノノはそれを見てララに向かって飛び込んだ。

 

 「はい、無事です。ノノ・ナベリス・デビルーク、ただいま戻りました」

 

 「良かった~」

 

 ララはノノの頭を撫でた。

 

 「家出関係で言うならララ様達よりよっぽど大人しい方ですがね、発明品然り友達然り、片っ端から使ってきますし」

 

 「あんな事言うザスティンに遠慮しなくて良いからね~」

 

 ララはノノをなでくりなでくりし、ノノもえへーと顔をほころばせる。

 

 「ご苦労様、ザスティン、ブワッツもマウルも……ヒカル君にもそう伝えといてくれるかな?」

 

 「ハッ」

 

 「ノノ、もう、こんな事しちゃダメだぞ……ママも春菜ちゃんも、他の奴らも探したんだからな」

 

 「約束はできかねます、お兄様にうんと言わせるまで」

 

 「うーん、そこは嘘でもして欲しいな………その…………元気………だったか?イチゴは」

 

 「はい!!お兄様は私の能力を全く受けていませんでした!!」

 

 「そう……」

 

 2人は少し落ち込んだ様子を見せた。

 

 「え、なにか?」

 

 「なんでもない」

 

 じかーいじかい

 

 お姉様の1人、彩と言うのですがもうすぐ「卒業」というものをするそうです、ところで、卒業って何ですか?お父様、え?お前にはまだ早い?はあ……千明さんも卒業ですか?……あ、お兄様がいます!!お父様、唯さんとイチャイチャするぐらいなら私もその場に混ぜてくださいー!!という、お話




この後、ノノは入学という概念を父親に教えていただきました。
いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第5話 good bye ~外道衆を倒すまで~

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
この話を頭から最後まで読んでくれる方はお察しと思いますがこの話の千明は彩南高校の生徒ダゾ。


 ~彩南高校~

 

 桜の花につぼみが出てきて、それを愛でられるようになった頃……

 唐突だが、イチゴは千明の卒業式の付き添いをする羽目になってしまった。

 

 「懐かしいな……」

 

 イチゴは本来なら、ここの校門をくぐって学生生活を送り、卒業する筈だった……

 だが、色々あって別の土地の中学、高校に入学して卒業して…………

 後悔はない、むしろ助かったまである。

 

 ~数日前~

 

 「あーきっちぃ」

 

 人がお昼、おやつを食べる時間帯、千明は屋敷の中だがボロボロになって倒れていた、その日の稽古の科目はいかに早く文字を書くかの訓練だったのだ。

 しかも、いつぞや漢字の間違いを指摘された千明は、申し渡された練習のかいあってか矯正は少しできているが、緊張でミスを連発させていた。

 他の黒子と共にストップウォッチを使用して時間を計ったが、するまでもなかった。

 

 「修行が足りん!!五百文字!!」

 

 と彦馬の怒号も飛び交っていた。 

 

 「お疲れ様、飲む?」

 

 イチゴは水を持って千明の席においた、黒子継続中である。

 

 「サンキュ……(水を飲む)、なんだよ……ここは学校かっての!?おんなじ学校なら高校の方がずっと良いよ!!友達いたし」

 

 もし、ここが学校であるとしても実力派委員長(たける)優等生(りゅうのすけ)優等生(まこ)真面目な子(ことは)厳しい先生(ひこま)無口な用務員(くろこ)しかいないから千明にとっては厳しい環境かもしれない。

 

 「でもさ、どうせ書くならなんであんな事したんだよ」

 

 千明は彦馬に言い渡された紙に五百文字と書いて、彼に突きつけたのだ。その事でまた彦馬の落とす雷の勢いも強くなった。

 

 「だって……ムカついてたし、今日中にやれる気しなかったし」

 

 ムカついていれば、多少言動にトゲができるのは仕方ないとして………

 

 「まあ、やれる所まではやらなきゃね……」

 

 「そうだな……千明、お前は剣もモヂカラもその扱いも俺達より一段下だからな……イチゴ、お前は数段下だから今から千回素振りな、終わったら千明もイチゴも打ち合い稽古だ」

 

 ここは千明の部屋という訳ではないがそれでもぬぅっと話に入ってきた丈瑠に少々びびった。

 

 「わ、分かりました」

 

 「げっ聞いてたのかよ……」

 

 「ふん………」

 

 「じゃあ、カリカリしすぎないようにね」

 

 「おう」

 

 三十分後…………

 

 イチゴは、黒子の衣装ではなく私服、その上に面と胴を着けて正座していた。

 侍ではないので、彼らの纏うような和装はない。

 そして、対戦相手(予定)、千明……変身しているからシンケングリーンが現れた……

 

 「終わった?」

 

 「ああ……やっとな、疲れたけど……侍でないあんたには良いハンデだろ」

 

 「ほら、調子に乗るな千明」

 

 丈瑠に竹刀で頭をはたかれた。既にシンケングリーンに変身しているとはいえ、痛そうだった。

 

 「いってー何すんだよ」

 

 「ふん」

 

 「……それじゃあ」 

 

 「…………仕方ねえ、行くぜ!!先輩」

 

 「うん」

 

 イチゴは千明に竹刀を向けた、千明もそう……

 

 「では……始め!!」

 

 イチゴは千明に向かって竹刀を振るった。

 

 「うぉ!!」

 

 イチゴの攻撃に、千明はたじろいだ。

 

 「そんな力いっぱいやるもんじゃねーぞ、こういうの」

 

 「はぁ!!」

 

 「ダメだ、聞いてねえ」

 

 千明はイチゴの竹刀にぺちぺち打ち込み、勢いを削ごうとした。

 

 だが、イチゴの勢いは止まらず、千明は防戦一方だった。

 

 流ノ介達は、二人の動きを分析していた。

 

 「やはりイチゴ相手だと私より素直に応じるか……」

 

 「まあそうだろうな……それはそうとこれで侍でもないイチゴにやられるようじゃあ侍とは言えないだろ」

 

 「あいつら…………好き勝手言いやがって……見てろよ~!!」

 

 千明の闘志に火がついた。

 攻撃に転じたのか、千明の太刀筋が、早くなった。

 

 「うっ」

 

 一転して、劣勢に回ってしまった。

 竹刀で打ち合っている筈なのに、火花が散っていった。

 

 「がら空きだぜ!!」

 

 千明はかがんで、上空に向けて竹刀を突き出してきた。

 

 「!!」

 

 その竹刀はイチゴの面越しの首元に直撃、その衝撃でイチゴは座り込んだ。

 

 「くっ」

 

 「そこまで、千明の勝利だ」

 

 「ウッドスピアーの要領ね」

 

 シンケンジャーの侍達は、ディスクによって武器を専用の物に変える事ができる。

 千明の場合は名前の通り槍だそうだ。

 

 「はあ……はあ……やっぱり本職にはかなわないな」

 

 「へっ俺だってシンケンジャーよ……」

 

 千明も大の字になってごろりと倒れた。

 

 「千明、お疲れ様」

 

 「お前にしては良くやった方だろうな、型を崩して勝ったのはあれだが」

 

 「厳しー」

 

 「……………オレはどうでした」

 

 「元々筋は悪くない方だ、というかこの前外道衆と戦ってた時より動きが確実に良くなっている……」

 

 「いつの間にあんな腕上げたん?」

 

 「腕の良いのと戦わせられたから、そのおかげかな」

 

 桃太郎を相手にしたおかげで少しだが強くなれたようだ。

 

 「桃太郎ってそんな強かったん?」

 

 「……オレが渾身の一撃を100回食らわしても倒れるイメージない」

 

 だが実際はナナシ連中との組手をした後、某影分身の術のように経験がたまったのもありそうだ。

 

 『毎回あんな事しないでくださいよ、武器はイチゴ様が修理なさると仰ったとはいえやられるときついですから』

 

 「はは……悪かった」

 

 素直に作り主(ララ)に頼めれば楽だが、遠い星の、それも王妃に頼むのは気が引ける……というか親のすねをかじる子供のようで恥ずかしい。難しいが自分でやるしかない。

 

 「だがこれではっきりした、お前に足りないのは…………守りだ」

 

 「守り」

 

 「そうだ、相手の攻撃を受け流すのもそうだが、避ける事、そもそも当たらないようにするってのがイチゴには欠けてる」

 

 そうしたところでどうなるのか?

 戦う時は攻撃あるのみだろう………

 

 「こんな風にやる……」

 

 丈瑠はシンケンレッドに変身、イチゴを誘った。

 

 「始め!!」

 

 次の審判は茉子だ。

 

 「思いっきり来い!!」

 

 「!!」

 

 イチゴは、言われた通り思いっきり竹刀を振るう。

 

 丈瑠は、その一撃を竹刀で斜めに受け止めた、イチゴの一撃は滑るように逸れて、丈瑠に当たらない。

 

 「!?」

 

 「もう一度だ!!」

 

 「…………………」

 

 もう一度、竹刀を振るった。

 

 「!!」

 

 今度も、受け流されてしまった。

 

 「はぁ!!」

 

 イチゴは腕を叩かれ、竹刀を落としてしまった。

 

 「くっ!!」

 

 「それまで!!」

 

 「あいつ、つええ…………」

 

 「千明もこのくらいできてもらわなきゃ困るからな」

 

 「…………マジか」

 

 「イチゴ、お前がさっき見たもの、覚えはあるな?」

 

 外道衆達の攻撃、殺気と気迫の入り混じった攻撃。

 

 「お前はいずれこういうのに対処していかなければならないだろう。場合によっては急襲される事も……その時のための予習と思え」

 

 「…………分かりました」

 

 稽古終了後……

 屋敷の外を見た。

 少し、修行以外のものに目を向けたかった。

 外では、小学生が、大人を引き連れて歩いている。しかも、私服でなくスーツだ………

 

 「そろそろどこもかしこも卒業式か…………千明もそろそろ?」

 

 「我ら侍に卒業はない、夏休みも冬休みもだ」

 

 「学校の卒業式は………」

 

 「ダメだ、侍として生きると決めた時にそういうのと関係は切ってもらう事にしている」

 

 「………………(舞台中に飛び出してしまった流ノ助)」

 

 「………………(園児達に何のさよならも無しに行ってしまった茉子)」

 

 二人して沈んだ空気を醸し出していた。

 

 「あ……今からでも、会って改めて別れを告げた方が良いんじゃないかな……急にいなくなられるだけだと、いざ再会したって時に一悶着あるかもしれない、それで巻き込む可能性はある……だからここできっぱりとね………それに……ここで会わせないようにすると勝手に会いにいくかもしれないし……(小声)」

 

 千明が勝手に会いに行くかもしれないという可能性を言うと納得してもらった。

 千明は信用されて無さそうに思えた、だが逆によく分かられているとも見るべきかもしれない。

 とにかく外道衆が現れたら即お別れという条件付きで出席できる事になった。

 ついでに流ノ介達にも各々が元々所属していた職場に行ってもらったり……

 

 そんなこんなで、千明の卒業式だ。

 場所を聞いて驚いたが、自分から参加するべきと言い出した分、何も言えない状態だった。

 そして今、式の真っ最中だ……

 

 ~体育館~

 

 「はい、千明君」

 

 千明は校長に卒業証書をもらった、デビルークの王と王妃が在籍していた時期の校長と同一人物らしく、髪が全部白髪になってる部分以外は全く変わっていないらしい。

 

 「校長、あんた……知ってる先生の中でとびきり変態だったけど、その分面白かったぜ」

 

 「千明君……(落涙)、その言葉……女子に言われたかったですぞ」

 

 「言うと思ったよ、つーか今の一言でめっちゃ女子にドン引きされてるんすけど」

 

 「女子のみんなに注目されるなんてたまりませんなー」

 

 ~校庭~

 

 彼の家族はどうしてるか?

 小さい頃、母親が病没した関係で千明の家庭は父子家庭となっており、それ以外の家族、祖父母とかとはたまに遊びに行くレベルだったそうだ。少なくとも、気軽にここ彩南町にイベントがあるからと遊びに行ける距離じゃない。

 それも一度招集されて、もう出られないものと見なされていたのが祟ってか、父親にいざ出席してもらう……となった時に予定が噛み合わなくなってしまった、そうだ……千明の小さい時に父親が戦っていたためかどちらの祖父母も外道衆と戦う事に関して理解はある。

 数日前に決めたのだ、仕方ないかもしれない。予定というものは早め早めに決めて以降はそのままの方が良さそうだ、変えさせた側のイチゴが言うべきではないのかもしれないが。

 

 「今日であいつらともおさらばか……」

 

 彩南高校の制服を着て、格好をつけているのか口元に葉っぱをくわえているウサギがいる。

 

 「自分の事、見えない相手がいなくなって寂しい?」

 

 イチゴは頭巾を外してウサギに聞いてみた。

 おそらく(あやかし)に分類されるもの……そういう奴らは普通の人間には見えないものらしい……目の前のウサギは飼育されてたのが化けてでたと考えればしっくりくる。

 

 「そりゃそうだけど、ここにいるのは明日から来なくなる奴らがほとんどだ。何の挨拶もできずに見る事しかできなくてオリャ、寂しいよー!!」

 

 イチゴは思った、我ながら見える鮮明さが上がっている気がすると。

 ここは彩南町という認識がそうさせているのか?

 

 「それはそうと離れてくれないかい?」

 

 「ええ……なんでだよ」

 

 「だって……あんたの顔見てると………怖い」

 

 「ふーん」

 

 イチゴはウサギに顔を近づけた、少しだが、どのような顔をするか気になってしまったのだ。

 

 「うわぁ!!」

 

 ウサギは怯え、イチゴと距離を取ろうとしていた。嫌われたなと思い、イチゴはそれ以上近づく事をやめようとした途端、千明を除くシンケンジャー達が現れた。千明の迎えか?

 

 「イチゴ、こんな小さい生き物を泣かせちゃダメじゃない……よしよし」

 

 「ひーん」

 

 「イチゴ、この子に何してたん?」

 

 侍は普通の人間ではない、先祖代々から特殊な力を受け継いでいる……だから見えるのも当然か。

 

 「顔近づけただけだよ、どうもオレはそいつらにとって極悪人の面らしくてさ……」

 

 見えるだけならまだ良い、前例も無い事は無い……だが、イチゴは大人になっても見え(年を重ねるにつれ段々と見えなくなっていくそうだ)、加えて(あやかし)を怖がらせる何かがあるらしく、特に心に重いものがのしかかったりする時に限って小さな奴らは怖がるようだ、逆に怨霊的なのは何か親しみのこもった態度をとられる。他の家族はそんな風にはなってないというのに。

 一度寄せたシワの跡が容易に元に戻らないように、時間が経過してもイチゴを見て怖がる(あやかし)は絶える事はない。

 

 「ふーん」

 

 「そうかぁ?私には普通の顔にしか見えないがなあ、もしかしたら笑ってみると案外良いのかもしれない。ちょっと笑ってみてくれ」

 

 イチゴは、言われた通り口角を上げてみた。

 

 「目が笑っとらんな………不気味な方に行ってしまった、すまん」

 

 別の場所でならもう少しうまく笑えるような、そんな気はする。

 

 「しかし、高校っていつ見てもいいものですね、殿!!」

 

 「……………………(立ち位置としてはぼっちであったため、あまり感慨は湧かない)」

 

 「そういえば、流ノ介さん無駄に元気だな………(小声)」

 

 「空元気よ、あいつ、歌舞伎の舞台まで行って別れを言えずに帰ったらしいわ、なんてったって途中で止めてしまったもの、バツが悪いって言うの?まあ事情は父親が説明してくれたらしいけど」

 

 「そういう茉子さんは……」

 

 「私は…………そうね、大変だったわね、私も、園児達も泣いちゃったし……」

 

 「すいません……」

 

 「イチゴ君、丈瑠達もね……一理あったから君の意見を汲んだの、謝る必要はないから……それときちんとさよならを言う機会になった、ありがとう。そういえばことはは行かなくて良かったの?」

 

 「うん、うち、今まで言える事は今までたくさん言ってきたし……大丈夫」

 

 「そう、言い切ってたのね……」

 

 生徒達が練り歩いている様子が見えてきた。

 

 「ぞろぞろ来たな」

 

 「千明、あそこおるなぁ」

 

 千明は仲の良い友達と、しゃべくりながら歩いている。

 

 その中で、髪をツインテールに束ねた美少女が千明と歩いていた、千明と楽しそうに喋っている少女の顔にやや既視感を感じる。

 何度か間を置いて見たが、どう見ても見覚えのある顔だったのでスコープで名札を確認してみた。

 

 「古手川」と、そう書いてあった。

 

 「異母妹(いもうと)かよ!!(小声)」

 

 多分、古手川彩……

 古手川唯の次女といった所だ。

 母方の叔父か祖母の血が濃いのか、それともイチゴ達の父親の血なのか、母親の唯より柔らかめな雰囲気を纏っている。

 確かに年は千明と被る辺りだ。

 

 「ほう、イチゴ君の妹がいるのか、ついでに君も挨拶するのはどうだろうか」 

 

 「ええ………」

 

 今更会いに行った所で、困惑するし彼女達に迷惑なのではと思い至った。

 

 「オレは良いよ……」

 

 「嫌、両親が来るなら尚更だろう」

 

 「流ノ介、本人が良いって言ってるんだ、そっとしといてやれ」

 

 「はっすまなかった、イチゴ君」

 

 「いいよ」

 

 「なんか言ってる」

 

 イチゴは再びスコープで見た。

 

 「へー兄貴がねー」

 

 「そうなんだよ……彩の兄貴があれこれ言ってくれなかったら俺今頃ここにいなかったかも……まあ別に行けなかったとしてもしゃーないとは思ってたけどさ」

 

 「とか言うけど嫌そうな顔してるよ」

 

 「シンケンジャーやるのは別良いんだよ、でもなぁ……じいさん厳しいしうるさいの二人いるし」

 

 これを逐一伝えると、後で怖そうなので何も言わない事にした。

 

 「www知り合いのおじいさんもね、それぐらいしないと大切な人を巻き込んじゃうんだって、千明のやろうとしてる事、それだけ大変って事なんだよね」

 

 「まあ、そりゃ分かってるさ……だからあいつら、あんなつええんだ」

 

 「パンピーに分かんない会話するんじゃないよお二人さん」

 

 「そうだよ、侍とハレンチな王様の娘としての会話は専門用語過ぎるんだよ」

 

 遠くから聞くだけのイチゴにとっても、父親の話なので敬称なのか蔑称なのか分からないハレンチな王様というワードで微妙な気分になった。

 

 「……………………」

 

 因子だけなら、いずれ自分もとネタにされる可能性はある。そう思うと自然に俯いてしまった。

 

 「おい、会話が終わるぞ」

 

 下を向いている間に会話が終わったらしく、急いでイチゴは黒子の頭巾を付けなおして、カメラを持った。

 今回の本来の役目……カメラマンを遂行するために。

 

 「じゃあ、頼むわ」

 

 「(じゃあ、撮るよというジェスチャー)」

 

 「おう」

 

 「はーい」

 

 「いぇい!!」

 

 「はい、○○○(個人差あり)」は黒子モードなので言えない、代わりに合図として、3,2,1と指で示した後、カメラのスイッチを押した。

 

 「どうよ、出来は」

 

 ピンぼけもしていない、イチゴにとっては良い写真と思える。だからサムズアップを行った。

 

 「ついでです、我々も混ざりましょう、殿ォ!!」

 

 「………………(頭巾の下で困惑しているイチゴ)」

 

 「やめろやめろ、屋敷の中で良いだろ?」

 

 「それも、そうですね!!」

 

 「面白い人達だね」

 

 「へへ……」

 

 「あの人ってひょっとして………」

 

 「歌舞伎界の期待の若手、でも突然舞台の最中に飛び出したってので有名な池波流ノ介なのでは?」

 

 「……ああ………そうらしいな、今は家業を優先してるって感じ?俺と似たようなもんよ」

 

 「あの人も侍なんだ」

 

 「へ~サインもらって良い?」

 

 「あーダメダメ、あいつ今多分その話題出すと凹むから…………」

 

 出口が近くなってきた辺りで、千明はあらたまったように振り向いて3人に目を向けた。

 

 「コージ、マサト、アヤ、俺……シンケンジャーとそのための特訓頑張るからさ……しばらく会えなくなるけど、俺の事応援してくれよ!!」

 

 「うん!!」

 

 「おう」

 

 「頑張れよ、シンケンジャー」

 

 「おう!!」

 

 「寂しくなるね」

 

 「ああ………でもさよならじゃねえ、いつか会う時のために、『またな!!』」

 

 「じゃーねー」

 

 「おう!!」

 

 「でも、しばらく一緒にゲーセンできないんだな」

 

 「……………外道衆ー!!お前ら絶対やっつけてやんよー!!」

 

 千明は、3人に手を振って別れを告げた後、妙に晴れた顔つきで丈瑠達の元へ向かう。

 

 「終わったか」

 

 「……まあ、元気でたっつーか、なんだろうな………気持ちよく別れられて良かったっていうか……後味のわりい感じにならなくて済んで良かったっていうか……なんでそういう事考えるのか分かんねえけど、そういう事で……『殿様』、俺これからもっともっとシンケンジャー頑張るよ」

 

 千明は丈瑠を丈瑠と呼び捨てで呼ぶイメージが強いためか、ひざまずきながら殿様と直に呼ぶ千明にみんな驚いていた、特に流ノ介が。

 

 「ただし、あんたを越えられるように……な」

 

 最後の付け加えでずっこけたが

 

 「ええい、殿を越えるなど不遜な!?越えたいなら私からにしろ!!」

 

 「よーし、見とけよ」

 

 「まあ、ほどほどに応援しとくわ」

 

 「ありがと、姐さん」

 

 「千明、帰ったらうちと稽古しよ?うちも強くなりたいし」

 

 「おうよ」

 

 「やってみろ、やれるもんならな」

 

 丈瑠の呆れ混じりの応対に千明はカチンと来た。

 

 「言ったな───────!!丈瑠にもじいさんにも、いつかギャフンと言わせてやるからな!!」

 

 千明は決意を新たに、卒業証書を片手に持って走っていった。

 彼が戦うという事は、友達を守る事に繋がる。なんとなく、そう思えた。

 今日の出来事は、若葉に差す水の一滴になっただろうか?この一滴で、若葉はどんな風に育つのだろうか?

 そう考えている最中、頭巾を引っ張られ、取られたので素顔を見られた。

 

 「お、久しぶりじゃんイチゴの兄貴」

 

 彩だった。

 

 「げっ」

 

 「パパー…………」

 

 イチゴは彩の口を手で塞いだ。

 

 「ん(何するのよ、兄貴)」

 

 「余計な事をするな……余計な事はするな、いいな?分かった?なら口はチャック付けようか」

 

 「ん~(分かった、分かったから………)」

 

 「よし」

 

 イチゴは手を離した。

 

 「はあ……(深呼吸)、話は変わるけどさ兄貴、後で高校卒業記念って感じで近くのファミレス寄るんだけど、兄貴もどう?ガーランドの兄貴も風夏の姉貴も来るって、もちろんママも一緒、みんな喜ぶと思う」

 

 「嫌、飛び入り参加は良くないよ」

 

 「そっか……」

 

 彩は落胆してそうに肩をすぼめた後、一回辺りをくるりと回って呟いた。

 

 「兄貴……まだ、あの事気にしてる?」

 

 「!!」

 

 心臓の鼓動が、一際大きな音を立てた。

 

 「気にするななんて言えないけどさ、兄貴が何かして解決する問題じゃないんだから……」

 

 だから?

 だから、いつまでも囚われるなとでも言いたいのか?

 だったら何も言わないで欲しい。

 家族の顔を見ると、否応なくその事が頭に浮かぶ。

 

 「……………………………黙れ……」

 

 その言葉のみ、やっとの思いで絞り出せた。

 

 「………………兄貴?」

 

 「どうせオレなんか………どうせオレなんか……」

 

 そこにいない方がデビルークのためだ……

 

 「あ、パパ……ママ」

 

 はったりじゃない、娘の卒業式のお迎えか、彩の両親がいる。

 

 「………………!!」

 

 すぐに我に帰った。

 こうしてはいられない、丈瑠達には悪いと思ったが、カメラを持って一目散に場を後にした。

 

 「誰?もしかして……」

 

 「兄貴だよ、イチゴの兄貴…………千明と一緒なんだって」

 

 「!?あなた……」

 

 唯はリトの顔を見た。

 

 「……………………」

 

 「イチゴくーん、どこ行ったー殿が呼んでるぞー」

 

 流ノ介が現れた。

 

 「あ、あなたは……」

 

 「池波流ノ介です、そう言うあなたは………」

 

 「結城リトです」

 

 「まさか、イチゴ君の父親ですか?」

 

 「あ、知り合いですか?息子がお世話になってます……」

 

 「いえいえ……そしてそこの方はひょっとして……」

 

 「唯です、でも私はイチゴ君のお母さんではありません」

 

 「はあ、まるで夫婦のような雰囲気でしたのでそうなのかと」

 

 彩が苦笑いし、唯の顔が赤くなった。

 そこに千明が現れ、『槌』とショドウフォンで書き、出現したハンマーで流ノ介を叩いた。

 

 「バカ、根ほり葉ほり聞くな、後で説明してやっから」

 

 「そうかぁ………頼む」

 

 流ノ介は気絶、それを背負って千明は移動を始めた。

 

 「あ、千明君久しぶり」

 

 「久しぶり、俺シンケンジャーやるからしばらく会えなさそう」

 

 「大丈夫?この人」

 

 「ま、これくらいでどうにかなる奴じゃねえし……」

 

 「卒業してもちゃんと勉強しなさいよね」

 

 「あーまたおんなじ事言いやがって、じゃあな……もっかいやるのも興ざめだけどアヤもまたな」

 

 「千明君、気をつけてねー」

 

 千明は流ノ介を抱えて、ズカズカと歩いていった。

 

 「イチゴの事は心配だけど、あの人達がいるから多分大丈夫かな……帰ったら美柑……おばさんにも報告しような」

 

 「うん」




いかがでしたか?
面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第6話 舞い降りるツバサ Aパート

みなさんこんにちはもしくはこんばんは。
ついに白饅頭御一行様もといツバサクロニクル参戦であります、ロボはBパート以降となります。


 適当な場所で千明は流ノ介にリトの事を説明した。

 

 「はあ、先ほどのあの人………お方は他の星の王様で、元々の王族は王妃の方で、その星の王族は一夫多妻制で、子供も結構いると……イチゴ君自身もそんな事を言ってたな」

 

 「まず、あの人達でどうやってノノみたいなのが産まれるんだよ……あんなピンクの髪の子とかさ」

 

 「それもそうか…………つまりイチゴ君は若君、もしくは殿下という事になるのか?」

 

 「『向こうだとあんまりそう見たくないってみんなから思われてる』ってアヤは言ってるけどな」

 

 「王族、それどころか自分達の血すら汲んでいないからという事か」

 

 「そういう事、流ノ介だってモヂカラのモも知らないし使えないようなほぼほぼ赤の他人がある日いきなり、丈瑠?の後継者………って扱われたりしたらどーよ」

 

 「ああ、なるほど……て、殿を引き合いに出すな」

 

 「ごめんごめん」

 

 「まあ、認めるかはともかく、いい気はしないな。そう言われるとこればっかりは私達がどうこう言える問題ではないように思える……話は変わるが、あんな字を書けるようになって、成長したなぁ」

 

 槌の字を書き、ハンマーを出現させた事だ。

 

 「…………俺だってあんなに書けば少しは覚えるし……(泣)それより行こうぜ……イチゴ探しに」

 

 「ああ、まだ遠くには行ってないはずだろう」

 

 ~道路~

 

 彩南高校……行くべきじゃなかった。

 知り合い……それも家族がいる事ぐらい考えておけば良かった。自分の事を省みてしまって、ひどく惨めな気分になっていく………

 そんな時に限って、小さい妖どもはひどく怖がる。こんな風に……

 

 『シャー!!』

 

 『来ないでー』

 

 「身をよじらすな………鬱陶しい」

 

 いっそのことストレス解消にこの小さな生き物達をボールのように使えば楽になれるかもしれないが、それは可哀想だと思うし………何より後で自分を許せなくなりそうだ。

 だから少し、横になってうずくまってみた。

 ひたひたという足音が近づいてくる、しかも小さめ……先程の妖か……勝手なものだ、見ると怖がる癖に、こちらがうずくまるとやってくるとは……

 こんな思いをするのは今日限りにしよう、これからは黒子をまた頑張れば良い。

 

 『吉備の王様呼ばないと』

 

 そう言って、何体か気配が遠のいた。

 しばらくしてズカズカと無遠慮な足音がしてきた、足音とかから判別するに大人の男ぐらいだ。

 

 『王様だ!!』

 

 嬉しがっているのか甲高い声に磨きがかかってきたのと、圧が強くなってきたので、陰鬱な気持ちを隠さないまま目を開けた。

 

 いつぞやの桃太郎だ……

 

 『縁があったな!!』

 

 「お久しぶりです…………何用で?」

 

 『視察だが、それにしてもまた負念に覆われているな』

 

 「ほっといてよ、慣れっこだし」

 

 『そうはいかん、縁は既にできている………ならばすべき事は決まっている』

 

 桃太郎が武器を持ち出すのを見て、イチゴは慌てて止めた。

 

 「そうゆうの良いから……」

 

 『……そうか』

 

 桃太郎は武器を引っ込めた。

 

 「…………………あんたがわざわざ視察に来るのは?何かあるの?」

 

 『(あやかし)巫女(みこ)に近い者が現れる。分かるだろう?似て非なる者か、真にそうかは未だ分からんが…………過剰に在る命の力、それに匹敵するものが備わっているのは確か……この際だ、お前にやらせよう。縁が結ばれる瞬間は、お前の精神を安定させるだろう』

 

 確かに、誰かに会っていれば気が紛れてそちらの方が良いかもしれない。

 

 「仕方ない、オレにできるなら、やるよ」

 

 『ワーハッハッハッハ!!裁定も好きにしていい、頼んだぞ!!』

 

 そう言うと、桃太郎は影も形も無くなった。

 何がなんだか分からないが、この辺りで何かはあるという事だろう。

 

 夕暮れになってきた、日の沈みかけた時間、一際朱に輝くその空は黄昏時、逢魔が時とも言う。

 朝と夜の境界線、太陽は飛び立ち、そして月は脚光を浴びる。

 丑三つ時と並んで、何かが起きるには絶好の時間帯だ。

 (あやかし)巫女(みこ)……聞くところによると、他の命に分け与えられる程生命力………言い換えると魄らしい、一部の妖怪が基になってるのもそう、それが生まれつき潤沢に宿っており、それに引き寄せられ妖怪がやってくる……つまり生贄体質らしい、喰われたのもいるとか……

 知り合いの妖怪はこうも言った。

 

 『引き寄せるという事は仲良くもなれてしまうという事だから、自然に寄り付く。結果魔女と恐れられた娘もいたんだ(CV銀さん)』

 

 魔女………関連できるワードは魔女狩り……恐らく、数えたくない数の誰かが犠牲になったと考える事ができそうだ。

 前世、前々世、そのまた先から……と転生の記憶を引き継げる事もあり、その痛みのあまり暴走したのもいるとかいないとか……

 何にせよ、どうしてそうなのかまでは分からない。

 ところで気になるのだが、彼女達の始まりはどこか?終わる時はいつなのか?魄の力は転生で引き継ぐものか?それとも転生の際に新しく引っさげるものなのか?生贄として、彼女達を喰った者達はどうなっていったのか?生命力の塊のような存在を口にした妖だ、さぞ強くなって凄い存在になったに違いない。だが喰って強くなった妖怪の話は聞いた事がない。

 考えている内に空がぐにゃぐにゃになっていった。

 

 「……………!?」

 

 ~銀河警察の地球支部~

 

 基地、移動要塞としての役割を持つ建物、名前を、デカベース

 

 「これは……」

 

 「どうしました?スワンさん」

 

 「テツ、彩南町近郊で変な反応があるの」

 

 「また誰か宇宙人ですかね?デビルークの王様の故郷ですし」

 

 「空間が歪んでいる反応はあるけど、原子分解の反応は無いわ……トランスフォーマーのスペースブリッジみたいなものかも」

 

 「スワンさんが気になるぐらいですし、俺、行って確かめてきましょうか?」

 

 「お願いね、テツ」

 

 ~電柱の上~

 

 老人が立っていた、年相応の身のこなしではなく、よろける様子もない。

 

 「ついに、この時が来たか……孫達の忍タリティがたどり着くのが先か、あの娘に還るのが先か………もしくは……」

 

 ~三途の川 船~

 

 薄皮太夫の爪弾く三味線が、今日も良いBGMとなっている。

 そんな中……

 

 「!!」

 

 ドウコクは目を覚ました。

 周りが驚く程にカッと勢い良く……

 

 「おお………ドウコク、どうかしたかい?」

 

 「俺達の他に、好き勝手空間を飛び回れる奴がいるみたいだな………来るぞ、人間界に」

 

 「それは大変さね!!まあただの人間風情だったらそうでもないけど」

 

 「何の話をしてるんでぇ?御大将!!」

 

 太夫の三味線が、止んだ。

 

 「ロクロネリか……」

 

 「うっす、御大将!!そして相変わらずの姫様ぶりだな太夫さんよぉ」

 

 「……………………」

 

 「お前なんか御大将の引き立てが無ければとっくの昔に死んでるんだからな!!」

 

 太夫は、三味線を置いてロクロネリに目を向けた。

 

 「わちきの前に姿を現すな、この卑しん坊め!!」

 

 「そこまでだ……二人共………ロクロネリ、気になる連中が現れた、歓迎しに行ってこい!!」

 

 「了解!!」

 

 ロクロネリは、三途の川から飛び立った。

 

 「続けろ、太夫」

 

 「フン!!」

 

 太夫はむくれつつも、演奏は再開した。

 

 話はイチゴの周辺に戻る……

 

 また何か妖怪の仕業かと思い、空から辺りを見回す……だが、それらしい気配はなし。やがてその歪みが収まった時、人が4人と、1匹の動物が現れた。

 栗毛の若干ボサボサな頭にボロボロのマントを羽織って、見るからに旅慣れてそうな少年。

 同じような髪の色だが、身なりと雰囲気から高貴な身分を思わせるような少女、イチゴは詳しいんだ。

 三日月の印がついた鉢金に、マントなど、黒い衣装が目立つ、コスプレ感もあるが戦闘慣れしてそうな男。

 若干薄めだが金髪碧眼で、戦闘慣れしてそうな男とは対照的に白いローブを羽織り、棒きれを持った、さながら魔法使いのような外国人。そしてうさぎのような白くて丸くて小さいのが一匹。

 右も左も分からなさそうな、たった今ここに来たばかりで迷っている……といった様子だったので声をかける事にした。

 

 「あんた達は……」

 

 すると、白くて丸くて小さいのが人懐っこい印象を嫌でも浮かべる笑顔でイチゴの顔面に密着してきた。

 

 「モコナ!!」

 

 勢いで親愛のキスをされた、ただし額………母親やララに受けた事はあるため少しは慣れっこだ。

 その勢いに乗っかるように4人も自己紹介を始める。

 

 「黒鋼(くろがね)だ」

 

 「ファイって呼んでいーよ」

 

 「小狼(シャオラン)です」

 

 「サクラです」

 

 モコナと名乗ったウサギもどきを顔からひっぺがしていると、おそらくファイと名乗った人物から話しかけられた。

 

 「オレ達、外国から来たばかりで道に迷ってるんだー、良かったら道案内してくれるかな~?」

 

 「まあ、ここがどこか程度なら……」

 

 他の星ならともかく、外国…………魔法使いのような人はそうかもしれないが、他3人は近い国の人間であるように思える。

 騙している感じはなさそうだったので、イチゴは彼らの頼みを聞く事にした。

 ……………………………

 

 「また違う日本か……俺の知ってる日本(ニホン)(こく)じゃなさそうだな」

 

 「どんな日本国なのさ?」

 

 「こうだな」

 

 黒鋼の思い浮かべるイメージは大体こうだ。

 

 忍者がいて、シャチホコ付きの天守閣があって、畑があって、館があって……姫様がいて……

 一言で表すと、戦国時代だ。

 そうでなくとも、ギリギリ江戸時代……いずれにしろ、もうその時代は過ぎ去って100年以上は経つ。

 

 「あなたのいう日本は過去のものかもしれないな」

 

 「……………」

 

 「気にする必要はないよ~黒ぶん、オレ達は言うなら、横から横へ飛び越えて移動してるんだ。いつの間にか未来に飛んでくとかはないし、黒様の姫様は無事だよ、きっと」

 

 「だが、俺達……嫌、小僧達の探してるもんはそうでもねえじゃねえかよ」

 

 「まあ、そうだけどさ」

 

 「で……何探してるの?」

 

 話の流れで、小僧と思しき人物に話を聞いてみた。

 

 「おれ達、羽根を探してるんです」

 

 「羽根?」

 

 「はい、取り戻さなきゃいけない大事なものなんです……」

 

 声から判断するに小狼(シャオラン)、その小狼(シャオラン)は大事なものという辺りから少女……消去法で多分サクラの方をチラチラと見出した。彼にとって大事なサクラ……にとって大事なものを小狼(シャオラン)達が探しているという認識で良いのか?

 しかし、このサクラという少女…………何か普通の人間と違うような何かを漂わせている。彼女が桃太郎のいう、妖巫女に近い誰かだろうか?違和感というだけなら小狼(シャオラン)にも感じる……

 

 「…………」

 

 「その羽根ってどこにあるか分かる?」

 

 一番に反応したのは、モコナ。

 

 「分かんない、でも、近くにいるとこうなる」

 

 モコナはめきょっと擬音を立てながら頬を叩いて目を開いた。糸目キャラが急に目を開くと、怖い。すぐ元に戻ったが…

 そして、手当たり次第に探しているというのがなんとなくだが分かった。

 

 「あーどこに行くべきか分からなかったら、知り合い紹介するよ」

 

 天条院グループの御曹司(ヒカル)、もしくは女社長、沙姫……

 困った人がいれば助けてくれるだろうから、ある程度は安心できる。貧困とかの根の深い問題でもなさそうだし、尚更だ。

 

 「でも、護衛の人には気を付けてね、強いからちぎって投げたりするぐらいは朝飯前だし」

 

 九条凛、デビルークの中でも実力者として名は知られている。

 そうでなくとも、デビルークの親衛隊隊長もいる。

 

 「ほー確かめてみてえもんだな」

 

 「やめなよ黒ちゃん」

 

 「いちいち変な呼び名やめろ」

 

 二人が漫才を繰り広げている内に公園の蛇口と手洗い場の継ぎ目から、赤い光がもれてきた。

 

 「あ……」

 

 「?」

 

 外道衆が来る。

 当たってたようでまばたきする時間もなくナナシ連中が現れた。

 他には……固有の姿を取っている何かアヤカシ

 泥と礫………陶器の破片?のような物で固めたような見た目をしている。

 ところどころ苔むしたような緑色も混じっていて、昔の人もああいう色の茶碗好きという知識もありやっぱり陶器的な何かを感じる。

 

 「……………」

 

 「お前達が御大将の言ってたあれか……」

 

 「ああ!?」

 

 「へー歓迎してくれるんだ」

 

 黒鋼とファイはいつの間にか来るなら来いと言わんばかりの態勢になっていた。

 

 「わしの名前はロクロネリ、強キャラのオーラなんか出しやがって!!覚悟しろ」

 

 「そこまでだ、外道衆」

 

 侍達五人が現れた。

 

 「あ」

 

 「イチゴ、無事か」

 

 「うん………」

 

 また、叱責が飛ぶかと思った……

 

 「話は後だ、その人達を避難させろ」

 

 「何者だ、あんた達」

 

 「知らないなら、遠くで見ていて欲しい」

 

 ~例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「「一筆奏上!!」」」」」

 

 「破ぁ!!」

 

 ショドウフォンで文字を書きそれを反転させ、各々のモヂカラによって形成させたスーツに身を包み、5人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンレッド、志葉丈瑠」

 

 「同じくブルー、池波流ノ介」

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 「天下御免の侍戦隊」

 

 全員「シンケンジャー、参る!!」

 

 「出たな、シンケンジャー」

 

 「よーし、俺がぜーんぶ片付けてやるよ!!」

 

 千明…………シンケングリーンは勇み足でナナシ連中に向かっていった。

 

 「張り切ってるな……千明」

 

 「卒業式に出させた甲斐はあったみたいだな、空回りされるのだけはごめんだが」

 

 「殿様……この時間帯に外道衆襲来ってありました?」

 

 「ないな、基本大多数から恐怖をかき集めなければならないから、太陽の昇る内が向こうにとっても良い」

 

 「だが、いつだろうと外道衆の相手をするのが我らだ」

 

 「話は終わった?じゃあ行くわよ」

 

 「ああ」

 

 頭巾をかぶってから避難誘導は今更な気がするので直接声に出した。

 

 「こっちです」

 

 「大丈夫だよ、オレ達、強いし、下手に止めると、黒たん怒るから」

 

 「心配すんな、自分(テメェ)の身ぐらいは守れる。小僧、分かってるな」

 

 「はい!!」

 

 小狼(シャオラン)はサクラの護衛をしようと側に立った。

 モコナもサクラの隣に立っている。

 そして唐突にモコナはチアガールのポンポンを持ち出し応援を始めた。

 

 「フレー、フレー」

 

 黒鋼は、どこからか刀を持ち出して、抜いた。

 

 「全員魔物みてぇだからな、手加減はしねえ!!破魔・竜王刃!!」

 

 瞬く間に、一直線上にいるナナシ連中達を切り捨てた。

 

 「ざっとこんなもんだ」

 

 「ガヤ!!」

 

 ナナシは余韻に浸っている黒鋼に襲いかかろうとした。

 

 「おっと」

 

 ファイはその辺の棒きれでナナシを叩き、怯ませた。

 

 「まだ終わるには早いよ、黒ぴっぴ」

 

 すぐさま黒鋼はナナシ連中の一体にトドメを刺した。

 

 「そうだな」

 

 「生身で倒したん!?」

 

 「マジかよ!!」

 

 千明達も、ナナシ連中の一人を倒したようだ。

 

 「す……凄い」

 

 「あの身のこなし……殿!!あの方は」

 

 「あいつ……戦い慣れてる……侍か?」

 

 「俺は黒鋼、知世姫に仕える忍者だ」

 

 「ん?」

 

 流ノ介は訝しげに頭を傾けた。

 

 「忍者はそんなに長く、反りのある刀は扱わないぞ」

 

 確かに、武器は明らかに隠密行動向きでない、戦い方も派手な方だ。忍者と言うには、全く忍んでいない。

 

 「ん?そうなのか………だが、これが扱いなれてるから、今更だな。」

 

 「ガヤッ」

 

 「あっ」

 

 ナナシの一人はサクラを狙っている。黒鋼の戦いぶりに見とれていたため対応に遅れてしまった。

 

 「(間に合うか……?)」

 

 イチゴは蹴っ飛ばそうとナナシの一人に近づいた。

 

 「はぁ!!」

 

 なんと小狼(シャオラン)も刀を抜き、ナナシを切り裂いた。その刃は炎を纏っているのか何か吹き出しているように見える。

 

 「サクラ姫、怪我は?」

 

 「小狼(シャオラン)君、私は大丈夫だよ」

 

 小狼(シャオラン)はほっと一息ついた。

 

 「そこのお前」

 

 ロクロネリに白刃が向けられる。

 

 「あーん?」

 

 「邪魔するなら、○す」

 

 黒鋼はロクロネリに向かって走った。

 

 「ちょっあんた、そんな軽装で突っ込んでったら……」

 

 「わしの技、とくと味わうがいい!!」

 

 ロクロネリは地面に向けて自分の腕を伸ばし、貫いた。

 

 「!!」

 

 「関係ねえ、突っ込む!!」

 

 それでも黒鋼は走るのをやめず、突っ込んだ。

 確かに、何をしてくるか分からない相手だ、止まるより動いてまわった方が狙いにくくなるという利点はあるかもしれない。

 

 「へっへっへ」

 

 「!?」

 

 黒鋼のいる位置の真下から、腕が伸びてきた。

 

 「黒鋼さん!!」

 

 「!?」

 

 「おっと」

 

 しかし、勘が良いのか身体能力が高いのか、大したダメージには至らなかったようだ。

 

 「はぁ!!」

 

 流ノ介もといシンケンブルーは、水流を発生させ、黒鋼を押し出した。

 

 「大丈夫か?」

 

 「擦り傷程度だ、戦い終わってから手当てしても治る」

 

 「あちゃー、黒みん危なかったねー」

 

 「すごーい、腕が伸びたー」

 

 小狼(シャオラン)、サクラと違って、ファイとモコナは焦りの色は全く見られず、むしろ楽しそうだった。

 

 「あいつの能力が分かっていないのに無闇に突っ込まないで!!」

 

 「あー、わりい」

 

 茉子に叱られ、黒鋼はあまりその気はなさそうに謝った。

 

 「しかし、腕を伸ばす魔物か………」

 

 確かにいきなり真下からドーンと何かが襲ってきたら対応しづらい部分もある。

 

 「…………」

 

 作戦を考えるためか、沈黙が始まった。

 もっとも、すぐに破られたが……

 

 「へっへーん、思いついちゃったもんね~」

 

 「何をなん?」

 

 「あいつの腕を無力化すりゃいんだろ?」

 

 千明は作戦内容を話し始めた。

 

 「ここは大通りなんだけど……」

 

 下手に地面を抉られたら、次の日ここを歩けなくなる。国家、銀河警察から損害に対して責任を負わなくていいという保証はあるものの、穴ぼこになった道路を知らずに通って怪我をする奴がいるかもしれない。もうロクロネリが何かした以上いずれそうなるか?

 

 「んじゃあちょっときついか……」

 

 千明は軽く落ち込んだ。

 こういう時は丈瑠が一番正解に近いものを持っていそうなので話を振ろうとしていると………

 

 「お前ら……来ないならこっちから行くぞ」

 

 ロクロネリはしびれを切らしていたようだ、考えている時間はそこまでない。

 

 「下がってな、俺がやる」

 

 黒鋼が再び前に出た。

 黒鋼は、まだやる気だ。

 

 「危険だ、止せ!!」

 

 「腕に気をつけりゃ良いってこった!!」

 

 黒鋼は丈瑠の制止を聞かずに助走をつけて跳躍した、建物一階分は飛び越せる勢いで…………

 地面から離れる事で、その分攻撃の際、生地を縫う針のように腕は姿を現し、獲物に向かって突っ込んでくる。地面から襲ってくる見えない攻撃というロクロネリの優位性は消える。

 確かにこれなら黒鋼のみを狙わせる分においては、効果的な手だ。だが、戦うべき相手は他にもいて……

 

 「なにおう、腕は地中に絡ませるだけじゃないんだぞ!!かいなのばし!!」

 

 ロクロネリは上空に左腕を伸ばして黒鋼を狙った、黒鋼が目立ったためかそっちに敵意が行ってしまったのか……まあ、助かった。

 

 「黒鋼さん!?」

 

 小狼(シャオラン)は危険を感じてか声を挙げた。しかし黒鋼は余裕そうに笑みを浮かべる。

 

 「良い位置だ、天魔(てんま)空龍閃(くうりゅうせん)!!」

 

 黒鋼は刀を振るい、竜をかたどった衝撃波を放った。

 

 あら不思議、その衝撃波はジャブのように真っ直ぐに飛ばず、フックを当てるように曲がって……ロクロネリの今伸ばしている左腕に命中した。

 

 「グワー!!」

 

 ロクロネリの左腕は千切れ、肉片となって鈍い音を立てて落下した。黒鋼は、腕をクッションにして、地面に着地。

 

 「剣圧による攻撃か………」

 

 「ああ!!それ、良いな………俺も負けてらんねえ!!」

 

 千明は黒鋼にバリバリに対抗心を燃やしているらしい。

 

 「一か八かの作戦version2、いくぜ!!」

 

 千明も走りだしてロクロネリに向かった。

 

 「何をする気だ?」

 

 よく見ると黒鋼の方に向かっている。

 

 「クロガネさんよ、ちょっと貸してくんね?」

 

 「使うってか?ほらよ」

 

 黒鋼は千明にロクロネリの腕だったものを足からどけて渡した。

 

 「へーい、こっちおいでー」

 

 千明はロクロネリに挑発して、路地裏に向かっていった。

 

 「わしの腕!!返せ!!」

 

 ロクロネリは、右腕を伸ばし、千明に攻撃を加えようとしてきた。

 

 「なんかは知らねえが、やりてえようにさせてみるだけだ!!」

 

 「被害の少ない内に倒す!!」

 

 丈瑠達は全員ロクロネリに向かった。

 

 「まだまだ、伸びるぞ!!」

 

 ロクロネリは左腕の残りを伸ばしてムチのように振り回す。ムチと言うには太いが、しなり方はそれっぽい。

 

 「3人とも……こっち」

 

 イチゴは今の内に黒鋼以外は避難させておこうと思った。

 

 「はーい」

 

 彼らは頷き、避難誘導に従ってくれた。

 とは言いつつ少し離れて様子を見る事のできる程しか移動していないが………

 

 「は、離せ!!」

 

 「捕まえた、大変だったぞ……お前達の相手とあいつ捕まえる両方やるの」

 

 「うわぁ!!」

 

 千明の叫びが聞こえてくる。

 

 「千明……」

 

 「嘘……」

 

 「千明ー!!」

 

 流ノ介の悲痛な叫びが辺りにこだました。

 

 「そら!!」

 

 気を取られたせいか、隙ができた。ロクロネリの攻撃が飛び、

 

 「む……この嫌な感覚は………!!わしの、わしの腕じゃないか!?」

 

 「へ?」

 

 「へへ、作戦成功」

 

 千明は悲鳴をあげた場所とは違う方向から顔を出した。

 

 「目で見えるって感じじゃないだろうし、一回試してみたって訳、人通りのない場所とか、このあたりの地理はお前より詳しいっつーの!!」

 

 千明は改めてロクロネリに向かっていった。

 

 「今伸びっぱなしだったもんな、あんたが腕を戻すよりも早く仕留めてやるよ」

 

 「え、うそーん」

 

 「シンケンマル、木枯らしの舞!!」

 

 千明の強力な一撃が、ロクロネリに命中。手応えのありそうな音が辺りにこだました。

 

 「くるくるくる……」

 

 ロクロネリは、爆発した。

 

 「お疲れ~」

 

 モコナは千明に向かってハイタッチをしようと小さな手を突き出してきた。

 

 「おっイェーイ」

 

 2人?1匹?ノリが良さそうな印象を受けた。

 

 「ちーあーきー!!」

 

 流ノ介は千明に詰め寄った、勝手な作戦で傷つける形になった事を怒っているのか?

 

 「無事みたいだな、良かった」

 

 「心配させないでよね」

 

 「良かった……」

 

 その事を責める気はないようだ、だからこそ……善良な部分のある人間には刺さる。

 

 「あー、わりぃ……」

 

 「油断するな、来るぞ!!」

 

 そう、敵は外道衆である以上……あれが、2つ目の命で巨大化した姿が、来る!!




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第6話 舞い降りるツバサ Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは
小狼(シャオラン)達のロボ、登場します。


 「贋作無し、一点物のわしの力を見よ!!」

 

 ロクロネリは、やはり巨大化した。ナナシ連中も供にいれて……

 

 「どうなってんだ!!全部倒したら、急にデカくなりやがった!!」

 

 黒鋼は、大きくなったロクロネリを見て驚いていた。当然だろう、一度○した後に巨大化するなんて、そうだと分かっていないと、混乱する。

 

 「こいつら、命を2つ持ってて、2つ目はこうなる。後1回殺さないと死なないんだ」

 

 「なるほど~」

 

 真っ先に相槌を打ってきたのはファイだ。

 

 「そういう事か、あのサイズは相手した事ねえな……だがまあ、やってみるか」

 

 当然のように黒鋼は刀をロクロネリに向けた。

 

 「閃竜(せんりゅう)飛光撃(ひこうげき)!!」

 

 先程と似たような龍を、今度はストレートに向かうように放った。

 

 「ハハハハハ、無駄だ!!」

 

 届かない、厳密には大きくなった事でロクロネリもより硬くなって、攻撃を受けてもダメージがあるように見えなくなった。

 

 「チィッ」

 

 「あいつらの相手は俺達がする!!」

 

 「折神大変化!!」

 

 シンケンジャー達は、彼ら独自の式神、折神を大きくさせた。

 

 「モコナ知ってる、この後巨大なロボが出てきてあいつやっつけてくれるんだよ」

 

 「へー、そうなんだ」

 

 「おらぁー!!」

 

 「千明!!」

 

 千明の駆る熊折神は、我先にとロクロネリに突っ込んでいった。

 

 「こら、待て!!」

 

 「鬼さんこーちらー」

 

 かく乱してどうにかするつもりなのか?

 無理だ、さっきの戦法を取ろうとしてるのかもしれないが巨大化した分見晴らしも良くなっている。それにもう…………絡ませるものがない。

 

 「うるさいぞ!!」

 

 ロクロネリに蹴飛ばされ、熊折神は倒れた。

 

 「ぐはっ」

 

 「千明、無茶しないで」

 

 「分かってんだよ…………俺が下だってのは、イチゴの攻撃にもヒヤッとしたし……でも、だから追いつきたい、追いつかなきゃって……」

 

 「下は下らしく倒れてな!!」

 

 ロクロネリは、横たわった熊折神を踏み潰す気だ。

 その時、獅子折神の火炎弾がロクロネリに当たった。

 

 「おおっ!!」

 

 ロクロネリは、すぐに後退した。

 

 「頭は冷えたか?」

 

 「………………………」

 

 「……そういうのを戦いの中に持ち込むな。そんなんで躍起になって怪我でもされたら面倒だ」

 

 獅子折神は、熊折神の前脚をつかもうとした、見ていると倒れた千明の手を取る丈瑠に見えるような、そんな幻が見えた気もした。

 

 「………………サンキュ」

 

 「気を取り直していくぞ……」

 

 他3人の駆る折神達もたどり着いた。

 丈瑠はショドウフォンで「合」の文字を書いた。

 

 「侍合体!!」

 

 五体の折神が合体し、巨人が産まれる……

 

 「「「「「シンケンオー、天下統一!!」」」」」

 

 巨人VS悪鬼の構図が出来上がった頃、黒鋼は質問してきた。

 

 「あんまり驚かねえ所を見ると、この世界はこういうのが多いって事か?」

 

 「そうなるけど……この世界?」

 

 「こっちの話、気にしない気にしない」

 

 「でも、こんなのばっかりだとサクラの羽根を探すどころじゃ………」

 

 「だが、諦めたりはしねえ……そうだろ?」

 

 「はい……」

 

 ~????~

 

 「なんという所に飛んでしまったのだ……」

 

 とある空間に初老の男あり。

 モノクルをかけ、バッ○マンのマークを反転させたような紋章が目印の外装を羽織っている。

 鏡から映している小狼(シャオラン)達の様子を見て、白髪混じりの頭を抱えて、呟いていた……

 

 「策を打った所で下手な小細工となるだけではないか……」

 

 特に怪獣や妖怪達、そして宇宙人等の存在が目障りだった。

 とにかく敵となりうる存在が多い、長丁場になる事だけは約束されている。

 

 「ならばこちらも相応の力を与えるまで……」

 

 「飛王(フェイワン)様、何を用いましょうか?」

 

 質問してきた女は、男の副官ポジ。そのポジに似つかわしい理知的な口調と氷のように冷静な態度が特徴だ。

 

 「あの世界の一部、阪神共和国に近い、であれば……これをこうして…………」

 

 男は粘土とヘラを用意して、四本足の獣、翼を持つひょろ長い生き物、鳥の形を持ったものを作り上げた。

 

 「仕上げだ」

 

 男は左手に力を込め、魔力による光の球を作り出し、放った。

 その光の球は3つに分かれて、作り上げたものに宿る。

 

 程なくして、作り上げたものはそれぞれ何か宿ったように姿を変えた。

 命を、宿したのだ。

 

 「お見事です」

 

 「うむ、贋作としては上々の出来だ。お前と違ってな、星火(シンフォ)

 

 「特別な願いを込めている訳でなく、何の感慨も湧いていない存在を複製するだけなので手元の狂いようが無いだけだと思います」

 

 「うむ…………だからこそよ……だからこそあの者達には励んでもらわねばならん………行けい!!」

 

 宿った命は、世界を越えて、かの地へ向かった。

 ………………………………

 

 次元から、歪みを感じた。モコナ達の来た時と似た感覚を感じつつ空を見上げた。

 

 「なにあれ、(あやかし)!?」

 

 それも

 炎を纏う獅子

 水から出でる龍

 風と共に舞う鳳凰

 いずれも高位のそれが持つ波動を感じる。

 

 「巧断(くだん)に似ているな……」

 

 「何それ?」

 

 「オレ達が行った国の中でさ~巧断(くだん)っていう名前の色々な神様が、色々な人間に取り憑いて、人間がその神様の力を使って暮らしている所があったんだーああいうのが以前オレ達にも取り憑いてた訳」

 

 「へえ……」

 

 そんな国あっただろうか?

 

 『我の名を呼べ……』

 

 妖っぽい何かは、それぞれの特徴を受け継いだ巨大なロボットに姿を変えた。

 

 「力を貸してくれるんですか?」

 

 「で……あれに乗りゃ良いんだな?」

 

 「阪神共和国の割り当てでどうかな?」

 

 そんな所本当にあっただろうか……?

 

 「飛ばせる?モコナ」

 

 「モコナ、頑張る!!」

 

 モコナは、口から魔法陣を展開させ、3人を送った。

 

 ~????~

 

 コックピット?インナースペース?どう捉えていいかは分からないが……とにかく不思議な空間……

 

 『強き心を持つものよ、我の名を呼べ……』

 

 先ほどのロボットは小狼(シャオラン)達に語りかけてきた。

 

 「分かる、あなたの名前は……」

 

 「お前の名前は」

 

 「そうだねー」

 

 各々、乗っているロボットの名前を呼んだ。

 

 「レイアース!!」

 

 「セレス!!」

 

 「ウィンダムー」

 

 彼らの呼びかけにより、ロボット達の目が光った。

 そして、ロボット達は地面に着地した……

 

 「それじゃあオレも……いくよ、カイ!!」

 

 『ラジャー』

 

 突如、ブーツの軽快な音が響いてきた。

 

 「こんばんは」

 

 若い女性の声。

 声を聞いただけの筈なのに、ひたすらに悪寒がした。

 丁寧な口調、獲物を前にした時の冷たい声の主に心当たりがあるからだ。

 

 「この辺りで怪しい方を見ませんでしたか?ワープできるらしいのですが」

 

 金色の闇、愛称はヤミ、元殺し屋でイチゴの父親の嫁の一人だ。銀色の金具を除くとほぼ黒一色の衣装と長い金髪が特徴的である。

 子供も成人しているが、それを感じさせない風貌……というか相変わらず、黒いベルトのようなものを巻いただけの生足を晒しているから寒そうだ。

 

 「モコナ、怪しくないもん!!」

 

 「あなた、モコナというのですか……」

 

 「よろしくなー」

 

 モコナはヤミに握手を求めてきた。

 

 「よろしくです」

 

 ヤミは表情が優しげなそれに変わり、屈んで握り返した。

 

 「私はサクラです」

 

 「ヤミとお呼びください」

 

 チャンスだ、逃げるしかない……

 

 「イチゴ」

 

 気づかれていた、びっくりして振り向いてしまった。

 

 「お、おばさん……」

 

 「…………昔はおねえちゃん、おねえちゃんと呼んでくれてましたのに………」

 

 「叔母をおばさんと呼んで何か悪い事ある?」

 

 「………………元気ですか?」

 

 「…………うん」

 

 「であれば充分です、ああ…………そうそう、他にも色々と来てますから」

 

 赤いボディーで長いものを携えて……だいたいでいうと消防車が近づいてきた。

 あちらもあちらで、見覚えはある。

 

 『トランスフォーム!!インフェルノ!!』

 

 消防車は巨大なロボットに変形した。

 

 『この強いお姉さんだけじゃない、他にも色々と来ているぞ………ほら』

 

 自衛隊の人っぽいような人達が銃を持って現れた。

 

 「あら、かーわいい」

 

 「まずいっすよヨーコ先輩、あの子をもし見られたら」

 

 『何そのちっちゃいのー研究させて?』

 

 セブンガーに乗ってた人とその仲間達か?

 

 「出た!!」

 

 「モコナ、研究、イヤー」

 

 『せめてその耳の先っちょだけでも……』

 

 「絶対イヤー」

 

 モコナはヤミの後ろに隠れた。

 

 「ハルキ……この子達、どう思う?」

 

 「押忍、モコナちゃんかわいいと思います!!」

 

 「モコナ、かわいい?」

 

 『変な事をしない限りだな、変な事をしない限り……俺達は味方だ』

 

 会話は落ち着きそうだったので視線をロボット達に移した。

 緑色のロボットの手から突風が吹いた、突風はナナシ連中に向かって進み、ナナシ連中をなぎ倒していった。

 

 「この魔法なら遠慮なしに使えるね~」

 

 「出せる力も上がっている……これならいけそうだな、おおおおおおおお!!」

 

 黒鋼の乗っていると思しきロボットは、刀を抜いてナナシ連中を蹴散らした。

 

 「黒たんステキー「ヒュー」」

 

 ファイは黒鋼に向かって、口笛を吹こうとしているが口でしかヒューと言えていない。

 

 「吹けねえなら最初からすんなって言ってるだろ!!」

 

 「えへへ~」

 

 「えーいこれでもくらえ」

 

 ロクロネリは腕を伸ばして攻撃してきた。

 

 「おっと」

 

 おそらく黒鋼の乗る青いロボットは、ロクロネリの攻撃を避けた。

 

 「さすがにおんなじ手は読まれるか」

 

 「この大きさじゃあ、かいくぐれねえよ!!」

 

 「嫌、その必要はない」

 

 「!?」

 

 「殺気があれば、敵の攻撃は必ず読める」

 

 シンケンオーは、目を瞑った。そんな事できたのかと突っ込める暇も、空気も無く、静寂のみが辺りから広がっていく……

 

 「心眼だ、心眼だー!!」

 

 モコナが元気よく叫びだした。

 

 「勝負は一瞬ね」

 

 「そうっすね」

 

 「おばさん、説明よろしく(棒読み)」

 

 戦いについて素人なイチゴなので、一番親しく、詳しそうなヤミに聞いてみた。

 

 「あちらが動かない事で攻撃の来る位置を明確にさせます、ああまで誘い込まれれば例え外道だろうとお約束的な効果で無視はできません。無視できるのは外道を超えた冷酷無慈悲な奴ぐらいです。後、目をつぶって視覚を遮断し、視覚以外の感覚を高めます。視覚を失って、聴覚、嗅覚が強まった人が例として分かりやすいでしょうか?」

 

 ロクロネリは、腕を伸ばし始めた。また地面から仕掛ける気だ。

 

 「殿様達、受け止める気?」

 

 「それどころか、見切って切り落とすぐらいはやるでしょうね…………インフェルノ何やってるんですか?」

 

 インフェルノは、屈んで地面を軽く手で小突いていた。

 

 『今、奴がどこを狙ってるのかを探っている。あんなものが地下からやってこられては困るからな』

 

 探知をしていたらしい、精度は知らないが……

 

 『来るぞ!!奴の狙いはあのカラフルな奴だ!!』

 

 ロクロネリの腕は、インフェルノの言う通りシンケンオーの真下からシンケンオーを狙ってきた。道路が崩れるか崩れないかの瞬間………

 

 「今だ!!」

 

 今まで目を瞑ったギミックを取っていたシンケンオーは開眼し、片足と刀で腕を封じた。

 

 「アー!!」

 

 ロクロネリはうろたえだした、自分の長所を、丸ごと封じられたのはとても痛いだろう。

 

 「えい、このっこのっ」

 

 ロクロネリは残っていた足を突き出して防御を図っているが、届きはしないだろう。

 

 「小僧、行け!!」

 

 「はい!!」

 

 小狼(シャオラン)が先ほど振るった刀を大きくしたものを、赤いロボットは振るった。

 

 「遅れを取るな」

 

 シンケンオーもロクロネリの拘束を解き、走った。急にそういう事をされれば一瞬、一瞬かもしれないが混乱して対応が取れないだろう。そうこうしている間に、シンケンオーは距離を詰めた。

 

 「はぁ!!」

 

 「ダイシンケン・侍斬り」

 

 「円月殺法、これで勝てます!!」

 

 赤いロボットと、シンケンオーの攻撃がロクロネリに直撃した。

 

 「いいか……匙加減は指で決めろ!!」

 

 ロクロネリは、派手に爆発!!

 これで、ようやく終わった……

 

 『ねえーハルキ達、あいつの破片残ってない?』

 

 女性の声がするが、とても悔しそうだ。

 

 「その辺に腕の残り少しないかな?」

 

 「ありがとうございます、探しに行ってきます。ヨーコ先輩は?」

 

 「あーもう少しここにいるわ、ハルキは先行ってて」

 

 「押忍、行ってきます!!」

 

 ハルキと呼ばれた青年は、ロクロネリの欠片を探しに行った。

 

 「そういえば、あなた達だけ?」

 

 「他に男3人ぐらいいたよ」

 

 モコナも話に入り始めた。  

 

 「小狼(シャオラン)、黒鋼、ファイだよ」

 

 「オッケー、ありがとう」

 

 また別のロボットも出てきた。

 

 「そこの未確認のロボット共、止まってください!!」

 

 足に車輪のある、青と白が基調の色をしたロボットが現れた。巷でデカバイクロボとして有名なロボだ。

 

 「名前と所属、その他もろもろを吐いてください」

 

 「えっと……」

 

 「特にやましい事はしてないし、ありのまましゃべれば良いでしょ。どう捉えられてもその時はその時って事で」

 

 「そうか……そうだな」

 

 「え?ボス………」

 

 「あ?」

 

 「いえ、声が似てるだけで別人でした。忘れてください……俺は銀河警察地球署署長代理のテッカン、飾らない性格なのでテツとお呼びください」

 

 「おう、そうか……黒鋼だ」

 

 「小狼(シャオラン)です」

 

 「ファイ」

 

 なんだかんだ、小狼(シャオラン)達は全員デカバイクに乗った。彼らの乗るロボットは、一度彼らが降りるとどこかへ去って行くのだった……

 

 驚きつつも、テツが全員を急かしたのでこの話はうやむやのまま終わった。

 

 「じゃあ、じっとしてて下さいね」

 

 「ラジャー」

 

 デカバイクはどこかへ去った、目的地は地球署だろう。

 

 『じゃあ、全員達者でな、トランスフォーム』

 

 インフェルノも消防車に変形してその場を去った。

 

 「姶良鉄幹なら何かあっても大丈夫でしょう。こんな事になるとまでは想像してませんでしたが、これでやっとリトさんや子供達の元に帰れますね。地球の防衛隊もお疲れ様です」

 

 「お疲れ様です」

 

 「じゃあ、さようなら。帰って父さんとイチャイチャでもしててくれ」

 

 イチゴは我ながら、さようならの部分に力が入ってしまったなと心の中で自嘲した。

 

 「はいはい、では元気でいて下さいね」

 

 ヤミは着ている衣装とは真逆の純白な翼を生やし、その場を去った。詳しく言うと長くなるが、彼女は体の器官を変える事ができるのだ。

 

 「これ以上はなさそうだし…………ハルキ連れて帰るか」

 

 「ご苦労様です」

 

 女性も帰っていった。

 そしてスマホから勢いよく彦馬の声が聞こえてきた。

 

 『イチゴー少し良いかー?』

 

 「こんばんは、彦馬さん」

 

 彦馬の声が、今のイチゴはデビルークにいた頃のイチゴとは違うんだと、そういう意識に引っ張ってくれる。

 少し、声に活力が戻った。

 

 『イチゴ、外道衆は既に殿達が倒したようだな、だが妙に警察が慌ただしいのだが……』

 

 モコナ達の事、今ここで起きた出来事を話した。

 

 『時が来たという事か……』

 

 「?」

 

 『嫌、なんでもない…………イチゴ、ちょっと付き合え』

 

 「はぁ……マジですか、ええ………行きます。カイ、志葉屋敷まで行こう」

 

 『はーい』

 

 ~デカベース内部~

 

 小狼(シャオラン)達は、テツに事情を説明した。

 牢屋という訳ではない、客室のようなつくりではあるがオートロックなどの設備の関係上出にくい状態である。

 

 「所持品について確認を取ってみましたが、服の特徴などどの宇宙にも同じような物の確認は取れていない………そうです。異なる世界だなんて"ナンセンス"と言いたい所ですが、認めるしかないですね……」

 

 「もう、良いですか?探さなければいけないものがあるんです」

 

 「そういう訳にもいきません、あなた方はいわば身分証もない、住所不定のような扱いになりますし」

 

 「ケチー」

 

 「ケチで結構です」

 

 「ムー」

 

 モコナとテツはいつの間にかにらめっこを始めた。

 

 「ぷう」

 

 モコナは自分の頬を叩き、変額を見せた。

 

 「そんな事しても無駄ですー」

 

 「ちぇー」

 

 「どうする(小声)」

 

 「叩き壊せるかは分からねえが、やるなら最終手段にしとかねえと……まだ羽根の手掛かりすらねえし(小声)」

 

 突如、羽根の髪飾りを付けた女性がやってきた。雰囲気だけサクラの羽根に似ていて、小狼(シャオラン)は凝視したが色が違っていたので見るのをやめた。

 

 「あら、テツ。誰か一階に来てるわよ」

 

 イチゴと彦馬と丈瑠だ。

 テツはイチゴ達を迎え入れた。

 

 「テツさん……」 

 

 「イチゴ君……その節は大変でしたね、志葉家の方も……何か用ですか?」

 

 「彼らの身元は、我ら志葉家が預かりたい」

 

 「…………そういう事だ」

 

 「なるほど………そう来ましたか」

 

 「こちらは先代の書状です」

 

 彦馬は知っていたようだ、小狼(シャオラン)達が異世界から来た人達だということを……

 彦馬の言うには、昔小狼(シャオラン)達のバックにいる存在から、彼らがこの世界に来る事があればよろしくと頼まれ、前もって準備してたそう……今ここで開いてパラパラっと読んだ感想だが、見た事も聞いた事のない名前が並んでおり、彦馬、そして志葉雅貴…………おそらく先代シンケンレッドの名前も書いてあった。

 だが、数は少なめ…………一桁に収まるぐらいだから、この書状に名を連ねているのは重臣達である事が想像つく。

 彦馬はノリノリだった。反対に丈瑠は、渋々………といった感じで、多分当事者とそうでない人間の差が激しい。

 

 「なるほど、分かりました……彼らはシンケンジャー達に任せます」

 

 そんなこんなで、イチゴを含めた7人と1匹は無事外に出る事ができた。

 志葉家の保護下として認可してもらう手続きをその場でした事もあるが……テツに小狼(シャオラン)の熱意を見て、認めたいと思う気持ちもあったのが大きいようだ……

 

 「ありがとうございます」

 

 小狼(シャオラン)はイチゴ達に向かって頭を下げた。

 

 「別にいい、俺は立会人のようなものだし」

 

 「オレはほぼ道案内だったし」

 

 「話は改めて屋敷に帰ってからにしましょうぞ、寝床も用意致します故存分に疲れを癒すとよろしいかと」

 

 「わかりました、ありがとうございます」

 

 「野宿するにもなかなか場所取りづらそうだし、やったな」

 

 「いぇーい」

 

 ファイはモコナとハイタッチした。

 

 「ごっはん~ごっはん~」

 

 迎えに来たであろう黒子達は、籠を用意して待っていた。

 

 そんな中、一体の赤い鳥が夜空を飛んでいた。

 赤い鳥は、籠に乗るサクラを見下ろす……

 

 『……………あの子は、まだまだだね……将来に期待っと………』

 

 鳥はイチゴを見た。

 

 『懐かしい顔だね………薄れてはいるけど、種火は途切れちゃいない。もう少し様子を見てみるか……何だい?青龍、急に念で話しかけてきて……女性の価値を胸で決めるな?良いじゃないか、個々の好みなんだし。それを抜きにしても君は魅力的だよ』

 

 イチゴ達は黒子達の手を借りつつも、志葉屋敷に帰還した。

 まず彦馬が早足で玄関に赴き、小狼(シャオラン)達に頭を下げた。

 

 「白くて丸いモコナなる生き物……間違いない。侑子殿から話は聞いております、羽根を探すまでの間、あなた達を歓迎しましょう」

 

 「あの女、色んな奴と知り合いなんだな」

 

 「なんたって次元の魔女って言われるくらいだしね~」

 

 「なあ……どういう事だよ、爺さん」

 

 「そうです、初耳ですよ」

 

 千明と流ノ介は、たたみかける勢いで彦馬に質問してきた。

 

 「千明達の気にする事ではないわ、だがまあ、一つ言うならば……こっちがお願いをした、その分向こうのお願いを聞くという、それだけの話よ」

 

 「へー」

 

 「これからよろしくな」

 

 「よろしくなー」

 

 ~夜~

 

 「…………」

 

 喉が渇いた、だからイチゴは水を飲みにきている。

 

 「?」

 

 丈瑠の部屋の辺りに灯りがついており、修行にしては明るすぎるような感覚を覚えたので、近づいてみた。

 

 「久しぶりね………会うのはいつ以来かしら」

 

 若干イチゴの祖母に近いような、だが……言うなれば艶っぽさが若干あちらより高そうな声が聞こえてくる。間違いなくこの辺りでは聞いた事のない女性の声だ……

 

 「17年振りだ」

 

 「そう……立派に成長しているようね」

 

 「白々しい……こうなるって分かってて俺を選んだんじゃないのか?」

 

 「ええ、そうよ」

 

 「!!」

 

 何を言っているのか分からない。だが、重大な何かにまつわる事を言っている気がする……だから一瞬…………声が漏れた。

 

 「?」

 

 丈瑠は音を聞いて戸を開く、もう体が冷える時節ではないがそれでもまだ涼しい。若干申し訳なく思いつつすぐさま床下にイチゴは隠れた。

 

 「…………………?」

 

 丈瑠は気づかなかったのか数秒後に戸を閉めた。

 一旦退散して、寝よう。

 何事も無かったように……

 

 「誰かいた?」

 

 「嫌、気のせいだ」

 

 「そう………すぐに言ってしまえば楽になれるでしょうにねえ」

 

 「…………それじゃあ意味が無いだろう」

 

 「どちらにせよ、彼らのやるべき事はなんら変わらないわ」

 

 「だが…………」

 

 「怖い?」

 

 「………………………………」

 

 「それならそれで良いわ、あなたはあなたの思うように進みなさい。あなたの結ばれた縁は、きっとあなたを助けるでしょう」




 いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
 この話の侑子さんとじい達の絡みの発端は本編の終盤知ってる方なら分かるであろう殿の正体に関係する事です。


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第7話 志葉家秘密兵器(しばけひみつへいき!!) Aパート

人はそれを(かぶと)折神と言う……
皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
突然ですがイチゴの好物はプリンです、特にカスタード味。


 客人も増え、少しうるさ……賑やかになってきた。

 そんな中、突然丈瑠が侍達に休暇を言い渡してきた。

 

 「やったぜ!!ゲームし放題」

 

 「これを機に(サクラと料理の)勉強しないと」

 

 急に時間が開いたため、喜んだ人間もいるが…………いるのだ、急に団体行動をしようと仕切り始めるのが……

 

 「せっかく殿がくれた機会、皆、一緒に出かけて親睦を深めないか?(曇りなき眼)」

 

 流ノ介のその言葉を聞いて、特に千明の眼が死に始めた。

 

 「うち、皆で遊園地行きたい(キラキラオーラ)」

 

 ことはの言葉で場所も決まり、流ノ介はモコナ達も誘った。

 

 「行きます」

 

 小狼(シャオラン)は、瞳の灯火を揺るがす事無く承諾した。

 彼らの目的は羽根だそうだ、羽根を探すためには……モコナを連れて色々な場所を探さねばならない。

 遊園地で見つかるかは分からないが、動かなければ始まらないそうだ。

 彼らは侍じゃない、なので特に稽古とかの義務はなくフリーで過ごしている……もちろん、今回の休暇も直接は関係ない。

 だが、黒鋼と小狼(シャオラン)は剣で戦うからか、剣術の稽古の時間になると付き合ってくれる。丈瑠達侍にとっても、イチゴにとっても、彼らとの稽古は有意義だった、小狼(シャオラン)は羽根を集めるという意志のためか気合い十分だし、黒鋼は単純に強い、フルパワーでこられたせいで竹刀が折れたので、それ以降は指南役になってもらっている。

 後小狼(シャオラン)は元々いた世界で考古学を勉強していたのもあってか、この世界の歴史についても興味津々で夜はそれについて勉強しているようだ。ファイとサクラは見物か料理の練習か、といった所で過ごしていた。モコナは大体が賑やかしだ。

 もうほぼ屋敷に溶け込んで生活しているため流ノ介は彼らとも、より親睦を深めたいのかもしれない。

 

 「殿!!この度みんなで遊園地に行く事になりました、殿も一緒に行きませんか?」

 

 そして、やはりと言うべきか、流ノ介は丈瑠をも誘った。だが…………

 

 「俺は今日用があるから、お前達だけで行っててくれ」

 

 と断られ、流ノ介は大層がっくりしていた。

 丈瑠はその用のために、わざわざ休暇を言い渡してきたのかと邪推できなくもない。

 

 ところで、イチゴはと言うと……

 まあ、黒子である以上スケジュールは黒子のそれにはなるが……

 

 「イチゴ、お前はあの4人についていけ、仮に別行動をされた時、ここまで案内する役割を任せる」

 

 「了解しました」

 

 後は彼らに関しての報連相を欠かさないように、との事…………必然的に、今日の流ノ介達の行動にも付き合わされる羽目になり……

 

 遊園地にやってきた、料金の都合は他の黒子に掛け合って決めた。

 

 「「遊園地、遊園地」」

 

 モコナと流ノ介は楽しそうにハモりながらくるくる回っていた。

 侍達は普段着、イチゴも1人だけ黒子の格好で遊園地は怪しいから私服姿だ。それで何も言われてないので黒子扱いされてるのか怪しい気もしてきた。

 4人の服装は黒子達が用意したものだ。侍達が普段着ているような服装で市街地に出ても目立たないものになった、彼らが最初に着ていたものは、旅人、そして民族衣装的なもの、特に忍者の服装、魔法使いの法衣など人前に出れば良くてコスプレ扱い、悪ければ不審者扱いされる可能性は高い。モコナは…………人の顔以下の大きさ、ウサギの亜種みたいな長い耳と、卵みたいな体型なので見繕う事はできなかった。そういう宇宙人という事にして、マスコットとしてどうにか……

 そんな4人とモコナ、彼らは今自分達がいる世界とは別……いわゆる異世界という所から来たそうだ。宇宙人、意思を持つロボット、妖怪が身の回りに当たり前にいるため、今更異世界から来た人間という事で驚く事は無いように思えた……

 

 「ここからは解散しよう、皆好きな順番で回りたいよね?」

 

 さっさと飲食コーナーに行って好物のプリン関係の有無を確かめねばとイチゴは焦った。

 

 「いえ……おれは皆さんについていきたいです、あまり場所に詳しくありませんし」

 

 「私も…………」

 

 「オレもー」

 

 「一人で行ったら迷うだろうが」

 

 「……………………………」

 

 もう黙るしかなさそうだった。

 

 「イチゴ君の言う事ももっともだが、今回はみんなで行動しよう。行こう」

 

 「おー」

 

 そんな訳でアトラクションで遊んで回った。

 小さい頃は兄弟や母親と色々な所に回っていた、恐怖のあまり声も出せずにいたジェットコースター、ゴーカートで毎回姉に勝てずに落ち込んでいた事、〆にプリンを食べて、それを嬉しそうに見つめる母親などなどと思い出が蘇ってきた。

 微妙な気になりつつもイチゴも場に加わって楽しんだ。

 

 「しっかし丈瑠感じわりぃよなあ、戦いの時以外あんまり普通にしゃべった事ないし」

 

 千明は別の不満も垂れ流しになっているような毒の吐き方だ。

 

 「そうねぇ……私達と距離を取ろうとしてるの丸わかりだし」

 

 「稽古かも」

 

 「稽古ぉ!?」

 

 流ノ介はじたばたとし始めた。

 

 「殿ぉぉぉぉ!!そうとも知らずに私はぁぁぁぁぁ!!」

 

 流ノ介は、多分志葉の屋敷に帰ろうとして、黒鋼に羽交い締めされた。

 

 「わざわざ独りになってまでやろうとしている稽古なんだ、それが何かは知らねえがおいそれと詮索していいもんじゃねーだろう、俺達にできるのは、せいぜい殿様の思惑に乗ってやるくらいだ」

 

 「くっ確かに、せっかくの殿のご厚意なのだ……楽しまねば」

 

 「それならそうだって言ってくれればいいのによ」

 

 「そうね……」

 

 一方、その頃……

 

 志葉屋敷にて……

 木箱、そして布袋と厳重に保管してあるものがある。中身は一つの秘伝ディスク……ただの秘伝ディスクではない、折神の力が備わっているのだ。

 折神の力が封じ込められたそのディスクを丈瑠は手に取った。

 17年前の先代シンケンジャーと、ドウコクの戦いの折、折神は散り散りになっていった……残ったのは一族代々で引き継がれていく五体、一体は別として残った最後の一体が今丈瑠が持ってるそれだった。

 これからの戦い、ますます厳しくなるのが予想できる。小狼(シャオラン)達は強いが侍でもない人間の手を借りる訳にもいかない、そもそも探し物が見つかればまた別の世界に飛び立つであろう彼らを当てにできないのだ。

 庭で丈瑠は和装に着替え、シンケンマルに秘伝ディスクをセットした、秘伝ディスクを撫でて、回転させる。いくらか小気味良い音を出して、シンケンマルの刀身から炎が噴き出し、丈瑠はそのまま振るった。

 

 「ふっはぁ!!」

 

 剣道でいう面の所作

 

 「はぁ!!」

 

 胴、小手

 動作を繰り返す内に無軌道になっていき、舞踊に近いそれに変わっていった。

 

 「!?」

 

 突如違和感が走った、拒絶されたように自然とシンケンマルが丈瑠の手から離れる。

 

 「しまった!!」

 

 彦馬が現れ、その落ちたシンケンマルを手に取った。

 

 「じい……」

 

 「足りませんな……この秘伝ディスクを使いこなすには少なくとも今の倍のモヂカラが必要です、今の殿ではとてもとても……」

 

 彦馬は丈瑠にシンケンマルを手渡す。

 

 「そう言って仕舞い込んでたらいつまでたっても使えないだろ、外道衆もこれからもっと強い奴らが出てくるだろうしこっちもできる限り力を付けておかないと」

 

 「そのために一人残って修行を…見事な心がけ……本当なら殿も一緒に行きたかったでしょうに」

 

 「べ、別に俺は」

 

 「いやいや、殿のまだこーんなに小さい頃は、じいに遊園地に連れていけと何度もせがまれましたぞ」

 

 「そ、そうだっけか?」

 

 笑った顔でごまかすものの、丈瑠の脳裏に在りし日の思い出が徐々に蘇っていった。

 

 「ただ殿は怖がりでしたからなぁ……絶叫マシーン、ジェットコースターは言うに及ばず、お化け屋敷なぞは」

 

 「良い、俺が悪かった、全部覚えてる。だから皆まで言うな」

 

 ~遊園地~

 

 小狼(シャオラン)達の探し物の羽根はサクラの記憶が抜け落ちて、その記憶からできた羽根だそうだ。その羽根は色んな世界に散らばっていき、何かしら多大な影響を及ぼしてきたそう……

 

 「そのサクラの記憶からできてる羽根って今までどんな風に使われてきたんだよ」

 

 千明はメリーゴーランドで遊んだ後に疑問を口にした、人の記憶から羽根が精製されるなんて話を聞いてもちんぷんかんぷんだから正直助かる。

 

 「そうだね~巧断(くだん)って言う、ある世界の神様みたいなものを強くしたり、個人の秘術を強くしたり、病気を無効化したり、仮想現実(バーチャル)?な世界を実体化させて、死者の想いを伝えるのに役立ったりトロフィーになったり宝物になったりしてたかな~魂を現世に繋ぎ止めたり人を全部小さくしたり、羽根自体が意思を持ったりした事もあった」

 

 「カオス……」

 

 小狼(シャオラン)は俯いて悲しい表情に変わっていった。誰かを思い出しているのか?

 

 「よく分からんけどすごいなぁ、それ」

 

 「場所は限られそうね、そんな風に使えるならまず落とし物やゴミとして扱う人はいないし大事に取ってあるのかも」

 

 「そして羽根に近くなればモコナの目が開く……と」

 

 モコナはめきょっと自分の目を開いた。

 

 「またあんな事にならないようにしとけよ、偽物掴まされるなんて事はな」

 

 「大丈夫!!多分!!」

 

 一つの場所で人だかりが多くなり、賑わいがすごくなっていった。

 ヒーローショーの時間らしい。

 銀髪ツインテールで、緑のマントを羽織った高校生ぐらいの少女がほうきを持ってステージに立っていた。

 

 「あれは……まさか、本物いたのか」

 

 「知ってるのかい黒ぴー」

 

 「この世界の週刊雑誌の巻頭に載ってあったんだが」

 

 「そんなの見てたんだ」

 

 確かに道中、本屋の前を通ったのは通ったが……

 

 「マジカルキョーコから連綿と(何年かで交代)続く特撮系魔法少女、その名も……」

 

 少女旋風 マギア・レイア!!

 

 噂は聞いている、期待のニューカマー……つまり最近放送され始めたという事になる、王妃(ララ)は相変わらずそういう番組を見てるのだろうか?

 

 「みんなー、今日は来てくれてありがとう~!!」

 

 これはもう後半以上に差し掛かっているという気がした、まず最初に敵役(かたきやく)が暴れて、そこから主役が登場するというセオリーを踏まえると、主役が観衆に挨拶するという行為が特にそう思わせた。

 

 「マジカルキョーコ……懐かしい、私が産まれるか産まれないかだったな」

 

 「そうやったの?うち知らんかった」

 

 「ことはの頃にはもう次にバトンタッチしてたし仕方ねーよ」

 

 爆熱少女 マジカルキョーコ

 「何でもかんでも燃やして解決っ!!」がキャッチフレーズの魔法少女だ。

 指先、口元から火を噴き、毎回敵を倒す。

 

 「知ってるか?あの火って本物なんだぜ」

 

 「…………そうだったっけ?イチゴ君」

 

 茉子はイチゴに聞いてきた。

 

 「そう、あの人は宇宙人と地球人のハーフなんだ、公言はしているけど……だからその……昔銀河警察から注意書きが届いたらしい」

 

 撮影時以外では燃やさない事

 

 「燃やしたら、事情によってはアリエナイザー認定するって。ファンは増えたけど、火が本物って分かったから危険だっていう声も増えたのは増えたんだよ」

 

 「そうか…………」

 

 「まあ、本人も極力しないようにしてたから特にもう何も言われなくなってったけど」

 

 今ステージにいる女の子は、風を使って戦うらしいが宇宙人の血を引いているのか?より具体的に言うと劇中で使うその能力は実際に使えるものなのだろうか?

 

 「イチゴ、もう終わるらしいわ」

 

 ことはの呼びかけで我に返った、確かにレイアは別れのあいさつを始めていた。

 

 「またねー!!」

 

 レイアは、ほうきにまたがって、飛んで観客達に手を振った。

 

 「バイバーイ!!」

 

 モコナは黒鋼の肩に乗り、前の人達に負けないような勢いで拍手を贈った。黒鋼はうるさそうに頭だけでもモコナから離れようと角度を傾けている。

 それに気づいたレイアはモコナを見て手を振った、ファイや流ノ介も便乗して手を振った。

 

 「ところで彼女の活躍ってどうやって見れるんですか?」

 

 小狼(シャオラン)は呟いた。

 

 「毎週決まった時間にテレビをつけて見るか録画するか、ビデオでも買うか……マジカルキョーコはビデオ行きだね」

 

 「なるほど……ありがとうございます、今度サクラと見てみようと思います」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第7話 志葉家秘密兵器(しばけひみつへいき!!)  Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。


 3時のおやつが楽しみな時間帯になってきた……遊園地の中で昼ご飯も済ましてきた、イチゴは黒子である事を理由に抜けようとしてみたが、今更だと千明に止められそのままお子様ランチを頼んだ。そのメニューにだけプリンがあり、プリンの誘惑に勝てなかったのだ……

 モコナが食べながら元気いっぱいにしゃべりかけてきて少々辟易しつつも、食べ終わった後だとそれも楽しく思えた。やはりしゃべるのも言いが食べる方がイチゴにとっては最優先かもしれない。

 

 「じゃあ、帰ろっか」

 

 丈瑠がいない事を憂いつつみんなで帰ろうとしている時

 

 「こんなの意味ないよなぁ」

 

 気だるげに道を歩く空豆のような黄緑色の怪人が現れた。

 

 「貴様、何者だ!?」

 

 タコ足のように伸びた赤い毛、ひらひらとしていてたなびきそうな布を垂らしている体は吹けば飛ぶような印象がある。

 

 「我が名は外道衆のヤナスダレ、無駄な問いだがそういうお前たちはなんだ?」

 

 言われてみれば確かに、柳のような伸び方をしている……垂れ下がる布の特徴はすだれのそれだ、のれんに近いかもしれない。

 

 「小狼(シャオラン)君達は下がっててくれ、問われたなら答えよう。我らは」

 

 ~例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「一筆奏上!!」」」」

 

 ショドウフォンで文字を書きそれを反転させ、各々のモヂカラによって形成させたスーツに身を包み、4人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンブルー、池波流ノ介」

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 「……………………」

 

 一定時間沈黙が走った、ついでにBGMも途切れた。

 

 「やっぱ丈瑠が仕切らねえとイマイチ締まらねえな」

 

 「……そうね」

 

 「ええい、殿がいないがやるしかない……いくぞ!!」

 

 シンケンブルー達は攻撃を始めた。

 

 「そんな攻撃をしても無駄よ」

 

 ヤナスダレは緑色のエフェクトをはらんで歪み始めた。

 歪んでから、シンケンジャー達の攻撃は風を切るようにスカスカして当たらない。

 

 「何!?」

 

 その時シンケンレッド……丈瑠が現れた。

 

 「出遅れたか、すまん」

 

 「いいえ、殿!!ここからです」

 

 「よし、行くぞ!!」

 

 「一人増えた所で無駄よ」

 

 「おっとこっちにもいるぞ」

 

 黒鋼も戦いに参加する気のようだ、黒鋼が参加する事に関して流ノ介達は何も言う気は無いらしい。丈瑠だけはそうでもなさそうだが……

 

 「何!?」

 

 「はっ!!」

 

 「せい!!」

 

 黒鋼とシンケンレッドがそれぞれ違う方向から攻撃……してもヤナスダレは避ける。

 

 「ちっ」

 

 「殿と黒鋼殿でもダメなのか」

 

 「無駄よ……そんな攻撃、効かんのだ」

 

 「皆さん!!」

 

 小狼(シャオラン)は走って、愛刀「緋炎」を振るった、どこぞの世界で色々あって自分のものにしたそうだ……

 刀から炎がほとばしる逸品だそうで、直接攻撃だけでなく、炎を操って攻撃もできるそう……

 

 「無駄な事をするなよ、そんな攻撃……なんの役にも立たん」

 

 小狼(シャオラン)の炎を織り交ぜた攻撃も、歪んで避けるヤナスダレ。

 

 「あいつに攻撃は効かないのか?」

 

 ヤナスダレは手にぶら下げているガトリング砲をシンケンジャーに向けた。

 

 「おい、小僧達を!!」

 

 黒鋼の指示に従い、イチゴは首に付いたカイを呼んで纏い、そして小狼(シャオラン)達を担いで壁の裏に隠れた。

 

 「面白いねーその格好」

 

 イチゴに担がれながら、ファイはイチゴの格好を見て面白がっていた。

 

 「そう?」

 

 「まるでモコナを大きくしたみたい」

 

 モコナもファイの言葉に乗っかってきた。

 

 「わあ、lovely」

 

 確かにカイを丸ごと大きくしてイチゴを覆うようなもので、マスコット然とした姿にはなる。

 ララのペケのように、ミニスカート付きでちょっとぴっちりしている格好になれる訳ではない。カイに聞いてみると……

 

 『私ファッション(そういう)目的で作られてる訳ではありませんので』

 

 カイはペケとはガワが同じでもつくりは違う、だからドレスフォームは少々難しいらしい。ファッションを楽しみたいならララに直接頼みに行けば喜んでできるように機能を追加してくれるだろうとカイは言うが、そこまでしてする事でも無いのでスルー

 

 「無駄な事だが、まあいい」

 

 ヤナスダレは自前のガトリングを乱射してきた。

 

 「無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)無駄(むだ)!!!!」

 

 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 4人はまともにくらい、シンケンレッドは烈火大斬刀で防御して、黒鋼は刀でいくつか斬って軽傷で済ませた。

 

 「WRYYYYYY(ウリィィィィィィ)!!」

 

 爆発が起こり、4人は膝を付いた。

 

 「ぐはっ」

 

 「ここだ、閃竜(せんりゅう)飛光撃(ひこうげき)!!」

 

 黒鋼は、刀から龍をかたどった飛び道具を繰り出す。

 

 「やめろ、無駄な事をするな!!」

 

 ヤナスダレは黒鋼の繰り出す攻撃をガトリングでうち消そうとし始めた、龍の形をした攻撃は、届くか届かないかで消えた。

 

 「なら……」

 

 丈瑠はオレンジ色のディスクを持ち出す。

 だが何かためらった様子を見せ、断念。

 

 「お前達、立てるか?」

 

 全員肯定した後、武器を構え始めた。

 

 「シンケンマル・五重の太刀!!」

 

 侍達が一斉に刀からの波動で同時攻撃。

 

 「無駄ぁ」

 

 回転して弾き飛ばし、結局効かなかった。

 

 「そんな………」

 

 「あいつには、勝ち目ないん?」

 

 「無駄だ無駄だ………全部無駄だ……」

 

 ヤナスダレは、シンケンジャー達に近づいてきた。

 

 「マズいね……これ」

 

 さっきまでおちゃらけていたファイも、言動が冷静なものに変わっていた。

 歩み寄ってくる一歩一歩が押し寄せてくる絶望という言葉を想起させ、小狼(シャオラン)は今にも叫びそうになり、サクラは驚きモコナも準備運動をし始めていた。

 突如、ヤナスダレが焦りを見せ始めた。

 

 「むっ水切れか…………無駄な出陣だった」

 

 そう言ってヤナスダレは隙間から帰っていった…………

 外道衆のアヤカシ達は、三途の川のないここ人間界だと数えるほどしか存在できず、補給しに度々戻るそうだ。

 外道衆にとって人間界は人間達にとって砂漠のど真ん中のようなものかもしれない。

 イチゴはすぐにスマホを取り出し、他の黒子と彦馬に報告した。

 

 『イチゴです、すぐに救急箱と籠の用意を!!場所は…………』

 

 ~志葉屋敷~

 

 黒子総動員……という訳ではないが、その勢いで傷ついた侍達と黒鋼の治療に当たった。具体的には傷口に薬を塗ったりガーゼを貼ったり包帯を巻いたり……全員病院に連れて行かなければならないような傷でなかったのは幸いだった。

 だが、傷つくのは体だけではなく……4人は意気消沈していた…………そう、心もだ。

 当然だろう、ヤナスダレに攻撃は通用しなかったのだから……

 RPGでも、攻撃の通じない相手が立ちはだかってきた時諦めたくなるだろう……

 

 「何落ち込んでる……」

 

 「でも、攻撃が効かない相手にどうしたら良いのか……分かんねえよ」

 

 希望があるとすれば黒鋼の攻撃…………彼の繰り出した衝撃波だけヤナスダレは必死に打ち消しにかかっていた。純粋な斬撃でなければ、斬撃でない攻撃であればひょっとして?

 

 「効いてない訳じゃない、確かにあのアヤカシは効かないと連呼していたし

 だがダメージが全くない訳じゃない、ただ力……パワーが足りないだけだ」

 

 「無い力をどうしろって言うんだよ………」

 

 「力ならある」

 

 丈瑠は、一つの秘伝ディスクをみんなに見せた。始めて見る色と柄で、みんな驚いた表情だった。

 

 「おおお………殿、そのディスクは一体なんでしょうか」

 

 「知っての通り先の戦いで、折神の宿った秘伝ディスクはほとんど紛失していたが、これだけはなんとか残っていた」

 

 「それがあれば、ヤナスダレを?」

 

 「ああ、使いこなせればな」

 

 もう一度、秘伝ディスクを凝視してみた。

 見える…………何かが……

 秘伝ディスクから、何か風景が見える。

 森に囲まれた空間、中にディスクと同じ色のカブトムシ型のロボット……折神(おりがみ)が一匹佇んでいた。

 

 カブトムシに向かって炎が近づいてくる、多分、見覚えがある。それは丈瑠の炎……モヂカラを繰り出して攻撃する時に垣間見える炎。

 だがカブトムシは拒絶している、その炎を……苦手なものを目の当たりにするようにそっぽを向いて……

 受け入れさせるか、拒まれるか。

 

 「このディスクを使うには今の2倍のモヂカラが必要になる」

 

 モヂカラは大体で言うと生命力によるもの、今の2倍も絞り出すのはリスクが有りすぎる。

 

 「相性が良くないから、そんなにモヂカラがいるのでは?」

 

 不意に、何かを口走ってしまった。しかも聞こえるように黒子の頭巾を取って……

 

 「イチゴ、どういう意味だ?」

 

 当然、突っ込まれた。

 

 「いえ、当てずっぽうを言っただけなので」

 

 「…………留意はしておく、だが留意だけだ。出てきた以上、間もないで出てくるのは決まったようなもんだ。それまでに俺がなんとかする」

 

 「つっても2倍だぞ2倍、できんのかよ」

 

 「できるから言ってるんだ、秘伝ディスクは代々志葉家当主が使ってきた。俺ならできる」

 

 丈瑠は立ち上がった、修行に行くのか?

 

 「ああ、言い忘れてたが」

 

 丈瑠は黒鋼達に話を振った。

 

 「この前、今回はお前達が先に遭遇していたから何も言わなかったがはっきり言わせてもらう、支援もしよう、同居も許す、だが外道衆とは戦うな。これは俺達の問題だ、外道衆と関係ないお前達は邪魔だ」

 

 「おい、今更それはねーだろうが」

 

 「そもそも、俺達はシンケンジャーになれるがお前達は生身のままだろう!?」

 

 「あ」

 

 彼らは一度ロボに乗れたとはいえ、シンケンジャーやデカレンジャーみたいに専用の戦闘用スーツがある訳ではないらしい。

 

 「いいか、流ノ介達が外道衆を倒しに行こうとしてももついてくるなよ、いいな」

 

 丈瑠はその場を去っていった。

 

 「丈瑠、大丈夫なのかしら…………」

 

 「茉子ちゃん、どういう事?」

 

 「なんとなくだけど、不安そうだったから」

 

 「だからああ言って自分を、周りを奮い立たせたんだろうな……落ち込んでる奴らの不安を取っ払うために」

 

 黒鋼の言葉は、さっき丈瑠に怒っていたとは思えないような冷静な口調だった。

 

 「あ、思ったより冷静」

 

 「だが、ああまで言い切っちまった以上失敗は許されねえ……危ない橋を一人で渡りきるつもりだろう」

 

 「殿……」

 

 流ノ介は感動のあまり涙を流した。

 

 「何だよそれ、ちょっと……寂しいじゃんか……」

 

 「……………………」

 

 小狼(シャオラン)も、何か思う所があるのか真剣な眼差しでその場を去った。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ幸いです。ヤナスダレをDIO様化させてしまったの、ついでに以前より文字数少なくてスミマセン。


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第7話 志葉家秘密兵器(しばけひみつへいき!!)  Cパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは



 ~志葉屋敷 庭~

 

 モヂカラは大きくなればなるほど制御が困難になっていく………

 

 「はぁぁぁぁ」

 

 丈瑠の込めたモヂカラ「火」によって、シンケンマルから炎が噴き出す。

 

 「ぁぁぁぁ!?」

 

 丈瑠は、痛みを感じシンケンマルを手放した。

 

 「もう一度だ」

 

 丈瑠は、すぐさまシンケンマルを掴み、同じ事をしようとする。

 そんな丈瑠を彦馬はじっと見つめていた。

 

 「………………………」

 

 丈瑠の歩みを見届ける………言葉にすれば簡単だが、これが難しい。今も丈瑠が姿勢を崩した瞬間すぐ駆け寄りそうになってしまった。

 そこへ、緋炎を持った小狼(シャオラン)が現れた。突然現れた人間に丈瑠も彦馬も驚きの色を隠せず、疑問を口にした。

 

 「何の用だ?」

 

 「おれも手伝います、同じ炎を扱う者同士、力になれるかもしれません」

 

 モヂカラを向ける相手がいた方が、イメージも付きやすいだろうとのことだ。

 

 「下がれ」

 

 「いいえ、下がりません」

 

 「お前は、大切な人の記憶を取り戻したいんだろう!?俺に構う暇はない筈だ」

 

 「あなたはそのディスクを使うか使わないかで迷っていました、そんなあなたを放っておく事はできないんです」

 

 善意を払いのけられる程、丈瑠も冷たくはない。それに今は集中できるならそちらの方が良い。

 

 「………………そこまで言うなら、手加減はできないぞ」

 

 「はい」

 

 丈瑠は小狼(シャオラン)と向かい合った。

 

 「死ぬなよ」

 

 「死にません、やらなければならない事があるのに死んだりしません」

 

 「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 丈瑠は小狼(シャオラン)の事を少しうらやましい……というより憧れを感じている。小狼(シャオラン)と知り合って日は浅くても分かるのは………彼が、目的のために確固たる意志を以て突き進む人間だった事……彼の意志に迷いがない、あったとしてもそれを見せない。今の丈瑠が最も必要としているものであり、侍である以上必ず備えていなければいけないものだ。

 だが実行するのはそれもそれで難しい。流ノ介達に大見得を切っておいてなんだが、本当は丈瑠も不安だった。

 だから……小狼(シャオラン)の姿が、大きく見える時がある。

 剣の腕は丈瑠の方が勝るが………胸を借りる心待ちになる。

 飲まれてはいけない、モヂカラは揺らいで真価を発揮できはしない……

 

 「はぁ!!」

 

 小狼(シャオラン)と丈瑠の刀がぶつかり合い……

 

 ~翌朝~

 

 小狼(シャオラン)と丈瑠は気絶していた。

 小狼(シャオラン)が目を覚ますと、彦馬は丈瑠から離れ、小狼(シャオラン)に近づいて屈む。

 

 「目覚めたか」

 

 「はい………」

 

 「ご苦労だった、小狼(シャオラン)殿」

 

 彦馬から感謝され、照れながら小狼(シャオラン)は顔についたすすを手の甲で拭った、丈瑠と相対した感想だが、剣術の訓練の時とは違う。実際に火を前にしたかのような熱さと臭いがしていた、あれが……モヂカラ……

 

 「………強いですね、殿様……おれも見習いたいです」

 

 そうだろうと彦馬は頷き、再び丈瑠の側に寄った。

 

 「これまで教えてきた通りに…………嫌、それ以上に立派に育ってくれた……故に思う、これほどの傷で戦わねばならんのかと、侍というだけで、殿というだけで……」

 

 「ずっと……傍で見てきたんですね」

 

 「………………………………」

 

 「!!見てください」

 

 小狼(シャオラン)は丈瑠の腕を指差した。

 

 「殿様はまだ、諦めていません」

 

 彼はシンケンマルを手放していない。

 目的達成のための光は、まだ尽きていない。

 

 「殿!!」

 

 彦馬は丈瑠を起こそうとしてみた。

 

 「殿!!」

 

 丈瑠は気を失っている間、夢を見ていた……

 志葉家の屋敷の中、誰か男の声がする……

 

 「すまないと思っている、必要に迫られたとはいえ……………………志葉家の家紋を、使命を、これからを背負わせてしまう事を」

 

 声の主は志葉家十七代目当主だ。

 先代の、シンケンレッド

 

 まだドウコクとの戦いで彼が命を落とす前の頃の夢だろう、気にしなくて良い……頑張っていると言いたいが、夢……しかも過去の振り返りなのでそれ以上の干渉はできない。

 

 不完全燃焼な、どうにも収まりきらない部分を抱えつつも丈瑠は目覚めた。

 

 「殿!?」

 

 彦馬は嬉しそうに頬を緩める。

 

 「じい、俺は大丈夫だ、小狼(シャオラン)は大丈夫か?」

 

 「はい……」

 

 「だがまあ、どの道今日はもう休め……もたんぞ」

 

 「すみません…………」

 

 「殿様!!」

 

 イチゴは頭巾をかぶらずにその場に現れた。

 

 「イチゴ……どうした」

 

 「あいつが出た………そうです、Bー17地区」

 

 丈瑠と彦馬は向かい合って互いに頷く、やる事は決まっている、外道衆を……倒す事だ。

 

 「後はぶっつけ本番だ、大丈夫、行ってくる」

 

 「お気をつけて」

 

 丈瑠は兜折神のディスクを持ったまま、着の身着のままで走っていった。

 

 「イチゴ、他にもいるのだろう?」

 

 「……………………バレてました?」

 

 イチゴはモコナを肩に乗せていた。

 モコナが近くにいないと、小狼(シャオラン)は丈瑠達の言葉が分からないそうだ。だからモコナを連れて来た。

 もちろん、3人も近くにいる。

 ちなみにヤナスダレの情報は屋敷にいる黒子から情報をもらった。

 

 「ふっ後は任せな」

 

 黒鋼は、イチゴの肩にいるモコナを鷲掴みし、自分の肩に移し替えた。丈瑠に止められていたが大丈夫だろうか?

 サクラは小狼(シャオラン)の元に残るらしい、年寄りの彦馬、人一人支えるには力の足らないサクラ、黒鋼もファイも行ってしまった以上、今小狼(シャオラン)に肩を貸す役割を担うのは自分だなとイチゴは確信し、小狼(シャオラン)に肩を貸した。

 

 「ありがとう………ございます(推測)」

 

 言っている事が、さっぱりだった。

 異世界の言語だろう、中国語のような、日本語のような、砂漠の多い国でよく聞く言葉のような………

 モコナがその場からいなくなった事と関係があるのだろうか?

 

 「話は後、一旦帰ろう……」

 

 ~住宅街~

 

 侍4人は、ヤナスダレの元に向かっていた。

 丈瑠が兜折神のディスクを使いこなせるまで自分達が戦う、否、使いこなせるまで待つ必要もない。自分達だけで倒すぐらいの心待ちで……

 

 「無駄な再会をしに来たか」

 

 「嫌、今日こそお前を倒す」

 

 流ノ介達はショドウフォンを構えた。

 

 「ショドウフォン、一筆奏上!!」

 

 4人はシンケンジャーに変身した。

 

 「シンケンジャー、参る!!」

 

 「無駄な事を」

 

 4人はシンケンマルを手に、突っ込んでいった。

 

 「無駄よ無駄よ」

 

 ヤナスダレはゆらりと歪んで、攻撃を無効化する。

 

 「そうれ!!」

 

 そして、ぐるぐる回転して手持ちのガトリングをぶっ放してきた。

 

 「うぐっ」

 

 ヤナスダレの攻撃になすすべもなく、流ノ介達は倒れた。

 

 「やっぱり………ダメなのかよ」

 

 「あかん、諦めるのはまだ早いわ」

 

 「そうよ……丈瑠に心配かける訳にいかないもの」

 

 そんな時、人影が一つ……丈瑠が現れた。

 

 「殿!!」

 

 「待たせたな………一筆奏上!!」

 

 丈瑠はシンケンレッドに変身した。

 

 「間に合ったか?」

 

 「そうだねー黒プー」

 

 黒鋼とファイも現れた。

 

 「…………………………」

 

 丈瑠は兜折神の秘伝ディスクを持ち出した。

 

 「いよいよか……」

 

 「殿……」

 

 丈瑠は少し止まって……ためらっていた。

 

 「そんな力を使った所で、無駄に終わる」

 

 丈瑠は一旦深呼吸する、決行の合図として、覚悟を決める一押しとして………

 

 「無駄じゃない、無駄かどうかを決めるのはお前じゃない!!これが、兜折神の力だ」

 

 烈火大斬刀に、兜折神のディスクをいつものくぼみにセットした。

 

 「烈火大斬刀、大筒モード!!」

 

 烈火大斬刀はグリップの部分、刃の一部が変形し、さながらバズーカのようになった。

 

 「何あれ」

 

 「銃……みたいなもんだな、最近知ったんだが銃ってのは下手な刀より確実に相手を倒せる代物らしい……俺は(こっち)の方が性にあってるが」

 

 「お前達、秘伝ディスクを!!」

 

 丈瑠の指示で4人は各々の秘伝ディスクを持ち出した。

 

 「こっちだ、好きな順に入れてけ」

 

 丈瑠は自分の秘伝ディスクを烈火大斬刀の凹んだ部分に突っ込んだ、流ノ介達もいつも名乗る順番でセットし始める。

 4人は伏せて、目上相手に向けて伏すポーズを取る。

 

 「無駄な攻撃となると何故分からん?」

 

 「あいつは力になったか?」

 

 「ああ……」

 

 「次は俺達だ」

 

 黒鋼達も武器を構えた。

 

 「何!?」

 

 「巻き込むとかは気にすんな、他人の都合に巻き込まれるのは今に始まった事じゃねえ、降りかかった火の粉は払う、世話になった恩は返す、守りてえ奴は守る、それだけだ」

 

 「ケガはしないようにするからさ、オレ達の事も頼ってよ……ね?」

 

 「…………そこまで言うなら、無茶だけはするなよ」

 

 「そうこなくっちゃなぁ!!」

 

 黒鋼はヤナスダレに向かっていった。

 

 「閃竜・飛光撃、天魔・空龍閃!!ついでだ、もう一丁くらえ!!」

 

 黒鋼は計三頭の龍をかたどった衝撃波を繰り出した、少し負担が大きいのか若干黒鋼の頭から汗が湧き出ている。

 

 「…………」

 

 「汗かいただけだぞ?」

 

 「……相手にするのは無駄な労力になるかもしれない」

 

 ヤナスダレは、後退して避けようとした。

 

 「逃がすとでも思ってんのか?」

 

 龍は、ぐにゃりと曲がってヤナスダレを追尾し始める。

 

 「『ヒュー』、本人と同じでどう猛~」

 

 「うるせえぞ、そこ!!これでしばらくは追いかけられる」

 

 「よし、今だ!!兜・五輪弾!!」

 

 持ち手に力を加え、丈瑠は引き金を引く、五人分の……さらに兜折神分プラスしたモヂカラを乗せて……

 

 「黒りん!!」

 

 「おう」

 

 黒鋼とファイは、その場から離脱した。

 

 「当たれ!!」

 

 兜折神の形をした砲弾がヤナスダレに向かう。

 結果ヤナスダレは

 

 「この輝きもいずれ……」

 

 と言い残し爆発した……

 

 「成敗!!」

 

 「よし!!」

 

 「やったね~」

 

 「イェーイ」

 

 モコナとファイはハイタッチ。

 

 「油断するな、来るぞ」

 

 さらにヤナスダレは巨大化した。

 

 「無駄になるのだー!!」

 

 丈瑠はショドウフォンを持ち出す。

 

 「侍合体!!」

 

 シンケンジャーは、折神達五体召還し、合体させた。

 

 「シンケンオー、天下統一!!」

 

 ナナシ連中もぞろぞろと現れた。

 なんと……弓を携えている。

 

 「ここからが兜折神の本領だ」

 

 丈瑠は兜折神のディスクをシンケンマルにセットした。

 

 「来い、兜折神」

 

 ディスクを回転させ、兜折神を召還。

 丈瑠達が代々受け継ぐ折神達のようなエンブレム型ではなかった。その分立派な角をでかでかと誇示している。

 

 「はっ」

 

 丈瑠がそのシンケンマルを台座に差し込むと、兜折神は足で地面を這いながらビームを放った。

 

 「ガヤッ」

 

 ナナシ連中は驚きのあまり飛び跳ねた。

 

 「これだけじゃないぞ」

 

 丈瑠はシンケンマルを抜き、秘伝ディスクをはめた部分を回転させた。

 

 「侍武装!!」

 

 兜折神は分離し、シンケンオーの両腕と頭の追加パーツとなった。

 頭の部分はシンケンオーの兜を一旦外して兜折神を装着する形となる。そして下の方の角を折ってシンケンオーの顔の部分を露出させた。

 

 「カブトシンケンオー、天下武装!!」

 

 「殿?」

 

 「何これ?」

 

 「…………話は後だ、今は目の前の敵に集中しろ」

 

 そしてウィンダムが出てきた。

 

 「乗れんのか?」

 

 「オレ達が念じればすぐやってくるっぽい、行こうか……ウィンダム」

 

 ウィンダム……緑色の機体に金のアクセント、4枚の巨大な翼がいつみてもイカす。

 

 「ガヤッ」

 

 ナナシ連中は手に持っている弓に矢をつがえて、発射した。

 

 「いっけー」

 

 カブトシンケンオーの頭部から放たれるビームと、ウィンダムの風がナナシ連中を襲う。特にウィンダムの風は、ナナシ連中の放った矢の方向を狂わせ無力化させているのだ。

 

 「ガヤー!!」

 

 ナナシ連中は、爆発した。

 

 「無駄死にか」

 

 ヤナスダレはガトリング砲から弾を発射

 

 「はぁ!!」

 

 カブトシンケンオーの頭部からビームを連続で発射し、相殺する。

 

 「もらったよ」

 

 ファイの乗るウィンダムは、エストックに似た細身の剣を掲げた。

 

 「剣は効かんぞ」

 

 「あーごめんごめん、これ、斬る以外の事もできるんだ」

 

 剣から風が吹き、ヤナスダレの動きを邪魔し始める。

 

 「()っ」

 

 ヤナスダレは、風で吹っ飛ぶ拍子にガトリング砲を落としてしまった。

 

 「今だー」

 

 カブトシンケンオーは兜の角部分を畳んだ。

 

 「「「「兜・大回転砲!!」」」」

 

 兜折神の頭の部分が回転、何かをチャージしているように見える。

 

 「「「はぁ!!」」」

 

 全員、シンケンマルを抜き、ヤナスダレに向けて突き出す(丈瑠以外全員その場のノリ)。

 チャージしてしまくった分を、一撃に込めて発射、その形は丸いリングで、秘伝ディスクに見えなくもないし見えないようにも見える。某音速のハリネズミがよく通って養分にするあれに近いかもしれない。

 ヤナスダレに直撃。

 

 「我が存在は無駄であったか…………」

 

 「お前がそういうならそうだろう、無駄かそうでないかなんて決められるのは本人だけだ」

 

 「その言葉も無駄なもの………」

 

 ヤナスダレ、爆発!!ついに終わった……

 

 「これにて……一件落着!!」

 

 「『ヒュー』、やったね!!」

 

 モコナは手の形故に音のならない拍手をし、黒鋼はニヤリと笑う。

 2体の巨人の勝利を労うように、日の光が燦々と輝いていた……

 

 「殿~!!」

 

 戦いが終わった後、流ノ介は丈瑠の肩に捕まった。ぶら下がったロープに捕まるようなイメージで……

 

 「遊園地、次は殿も行きましょう!!」

 

 若干引きつつも

 

 「まだまだ、やる事はいっぱいあるんだ。遊んでられない」

 

 丈瑠は流ノ介を振りほどき、一足先に帰ろうと歩くスピードを早めた。

 

 「殿──────!!」

 

 流ノ介は泣きながら丈瑠についていった。

 

 「やっぱとっつきにきーなー」

 

 「ていうか、掴まれないようにしてるって事かもね」

 

 「え?」

 

 「別に、なんとなくそう思ったってだけ」

 

 「誰かのように肝心な所には踏み込ませねえってか」

 

 「誰の事?黒様」

 

 「さあてな、自覚があるんなら早いこと吐き出してくれればお互い楽だろうよ」

 

 黒鋼とファイの間に、いつの間にかバリバリと電流が流れていた。片方はガルルルと噛みつきそうな勢いで、もう片方は涼しく受け流そうとしている。だが、一触即発に近い。

 

 「みんなー殿様に遅れんように、今日は帰ろう」

 

 ことはの言葉を聞いて黒鋼は一息入れ、追及の姿勢を緩めた。

 ここでいがみ合っても、しょうがない。ファイがそういう態度なのはどの世界でも変わらなかった。きっかけでもない限り、そのスタンスは変わらないだろう。

 

 「そうだな」

 

 「おっさき~」

 

 ファイは走った、流ノ介やことはについていくように

 

 「あ、おい!!」

 

 黒鋼も、それを追いかけるようにして走った。

 

 視点 イチゴ

 ~志葉家 屋敷~

 

 ニュース速報で、警報が解除されたようだ。

 間違いなく、丈瑠達は外道衆の奴を倒した。

 彦馬は、丈瑠達をねぎらう準備を始めている。

 

 「…………」

 

 小狼(シャオラン)の手当てを、黒子達だけじゃなくサクラもしている。黒鋼以上に気合いを入れて手当てを行い、小狼(シャオラン)はそれをどぎまぎしつつも甘えている所を見て、この二人はお互いを大事に想っているように見えた。サクラは記憶を失い、さらにモコナという世界を渡る力を代償に小狼(シャオラン)と元の関係には戻れないはずだったらしいが……運命の赤い糸というものはあるんだと二人を見て、そう思える。

 この場合の赤い糸は個人個人を結ぶものであって、一対多数(リト達)に関しては見なかった事にしておこうとイチゴは考えている。

 

 「…………」

 

 そう言えば、ヤナスダレはすぐ無駄という言葉を発していた。

 

 「(この世界に無駄なものなんてないよ……ただしオレは除いてだけど)」




いかがでしたか?
面白いと思っていただければ幸いです。
ちなみに先代シンケンレッドの言葉の…………は
「関係のない筈だった君に」です。


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第8話 御唱和ください、我の名を!!ウルトラマンZ!!(Z)ウルトラマンZ!!(ハルキ)Aパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
途中、ノリと勢いで変な合体をしてしまうかもしれませんがご容赦ください。


 今イチゴは小狼(シャオラン)達の目的……羽根探しに付き合っていた。

 偉い人の手に渡っているのではという茉子の考えを汲み、すぐに思いつく天条院家にコンタクトを取った。何か知ってるかな~ぐらいの気持ちだったが、気分的にデビルーク関連のコネは使わないように手紙(毛筆)でやると時間がかかることを思い知らされた。人にやらせるにしても、自分にやらせるにしてもだ。いっそのことデビルーク関係者へのコネを持ちつつ、何か色々を気にせずやれる千明にメールとかやらせれば良かっただろうか?だが、巻き込まないために関わりを絶ったのに侍でもない人間の都合で振り回さずに済んだのだから、これで良かったかもしれない。

 沙姫達は事情を聞いて多少困惑していた(異世界とか個人の記憶で創られた羽根などの話が飛び交えばそうなるのも当然である)ものの、語り終えると快く協力する事を承諾してくれた。

 とりあえず客間で今後の相談だ。

 

 「信用できんのか?」

 

 「うん、女王様気質だけどなんだかんだあの人優しいからね」

 

 イチゴの言葉に黒鋼はツッコミを入れた。

 

 「プリンをゴチになってる奴に言われてたまるか!?」

 

 黒鋼の言う通りイチゴは自分宛てに用意されたプリンをご馳走になっている、ついでにモコナもプリンをつまみ食いしている。

 

 「昔から友達感覚でゴチになってるし今更……ていうかモコナ人のプリン何口食う気なんだよ、五口以上はひどいだろ」

 

 イチゴはプリンを頬張っているため不思議と怒る気になれず、にやけた表情でたしなめる結果となる。

 

 「そうかそうか、で?小僧はどうなんだ」

 

 「話してて分かりました、彼女は良い人です」

 

 「お前がそういうなら俺は特に言う事はねえか」

 

 「オレも異論なし」

 

 「うん」

 

 「アーハッハッハッハ、失礼」

 

 いきなり高笑いしながらヒカルはドアを開けてきた。高々と笑う天条院親子の癖は桃太郎を思い出して心臓に悪い、手に持っているものは各種画材、どうみてもイチゴの祖父か、ヒカルの父親の持ち物の予備だ。沙姫が仕事用のスーツで応対していた分、彼の☆マークがプリントされた白シャツとズボンのラフな格好が目についた。

 

 「改めて名乗らせて欲しい、天条院ヒカルだ」

 

 全員相槌を打ち、名前を名乗った後にイチゴは質問を始めた。ヒカルの持っている画材が気になって仕方がない。

 

 「何持ってるの?」

 

 「人の探し物手伝うんだからまずどんな形してるかは知らなきゃ、じゃありませんか?という訳で書いてください」

 

 確かに、どれがサクラの羽根なのかの判断はモコナ達にしか今の所分かっていない。

 

 「分かりました」

 

 小狼(シャオラン)はペンを手に取った。

 

 「モコナが書きたい!!」

 

 と思いきや、モコナが別のペンを取り、モコナが先に書き始めた。

 手のひらサイズほどの小さい動物が何か絵を書いているのを見ていると……和む。

 

 「できた!!」

 

 イチゴはヒカルと並んで絵を見比べてみた。

 確かに、これは羽根だ。

 羽根にはハートの模様が描かれている……心を表すものか?

 記憶を司っているものという前知識がなければなにがなんだかと首を傾げるだろう。

 

 「今まで見てきた博物館でもこういうのを見た事ないな、だがこの件、母様だけでなく探偵キングたるこの俺にも任せて欲しい」

 

 キセルまで加えて、帽子にコートなどの探偵コスにいつの間にか着替えていた。

 

 「自分の現在位置、そして土地勘も把握しきれない人間がそっち界隈で名乗って良いのは裸の王様だけなのでは?」

 

 ヒカルは道に迷いやすい、それを指摘されヒカルはほどなくしてうつぶせになって倒れた。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 サクラが駆け寄った。

 

 「ハハハ、このぐらいで参るようじゃナイトがせいぜいか……ていうかイチゴ、人一倍そういうのに弱い癖に人のメンタル削る事言わないでくれないか?」

 

 「……ごめんなさい」

 

 「分かれば良い」

 

 多少よろめきつつも立ち上がり、衣装を黒のスーツ姿に変えた。ツッコミを入れるのは……やめた。

 

 「写して殿達に見せるか」

 

 「機材まで案内しようか?」

 

 「お願い」

 

 ヒカルに機材まで案内してもらった。

 

 「今から何すんだよ」

 

 「コピーだが?ああ………知らないんだったか……この絵と同じものを書き写すんだ、さっきの半分以下の時間で、そっくりそのままな」

 

 「ほー、すげえな」

 

 「便利だね~」

 

 スイッチをいじって、挟んで、数秒で終わった。

 

 「完了だな、元は返すぞ」

 

 「ありがとうございます」

 

 不意に、ストレイジの人達の事を思い出した。

 

 「そういえばストレイジの人達、元気してるかなあ」

 

 「誰ですか?」

 

 「この前ヨーコ先輩とか言ってた人いたでしょ?あの人達だよ」

 

 「ああ……そうですね」

 

 小狼(シャオラン)も思い出したのか、笑顔で頷いた。

 

 「ストレイジか……我ら天条院グループも出資しているぞ、なんたって怪獣災害から人々を守るための防衛隊だからな……最近ちょっと運営良くないって噂だけど」

 

 住居を少し倒壊させた件の事だろうか?活動中にセブンガーが少しこけたそうな。ビルに倒れかかって、もう言うまでも無いだろう。

 

 ~アステロイドベルト~

 

 怪獣が宇宙から地球へ進んでいた。

 怪獣の名前は、ゲネガーグ。

 怪獣ゲネガーグを追って、二人の若者が宇宙を飛び回っている。

 

 「止まれー!!」

 

 青と白色を基調とした巨人、Z。

 Zは格闘に持ち込んでゲネガーグを攻撃。

 カウンターとばかりに、ゲネガーグは背中の穴から光線を発射。

 Zはたじろぐも即座に庇う者あり。

 

 「あぶねえから手ぇ出すな」

 

 上半身が青く、下半身が赤い巨人、ゼロ。

 

 「ま~た半人前扱いして、俺だってもう宇宙警備隊の一員ですよ師匠!!」

 

 師匠と呼ばれ、むずがゆそうな表情になったゼロは手で払いのける仕草を取る。

 

 「師匠って言うな、お前を弟子に取った覚えはねえ!!それに、俺から言わせればお前なんかまだ3分の1人前だっつーの…………Z、避けろ!!」

 

 「ふぇ?おわ?」

 

 突然、謎のビームがZを襲った。ゼロに言われて気づいたZは間一髪で避けた。

 

 「師匠、ありがとうございます!!」

 

 「それより前向け、犯人のお出ましだぜ」

 

 現れたのは緑と白の多い複数の軍艦。

 とはいえ一つ一つ、Z達よりは小さめの大きさだ。

 

 『トランスフォーム!!』

 

 なんと、その軍艦は巨大なロボットに変形合体した。

 

 「何ですと!?」

 

 「キングジョーと似たタイプって事か?」

 

 緑と白、黒を基調としたボディー、黒と黄色の部分でできたまだら模様は雷のように見えなくもない。

 

 『アヤシイヤツ……ハイジョ』

 

 そのロボットは、手指をZ達に向けてきた。

 

 「俺達、怪しいもんじゃないでございます!!」

 

 「あんた、この辺警備してんのか?それなら狙うのはあっちだ、あの怪獣をほっといたらヤバいぞ!!」

 

 ゼロは怪獣の方を指差す。

 ゲネガーグ、ゼロ達の星を襲撃し、アイテムを盗み出したこそ泥である。だがそれは結果論でしかなく、今は地球で暴れまわろうとしている事の方が重要だ。

 

 『ショック?』

 

 「だーもう、俺達はここを荒らしに来た訳じゃない、味方だ……多分」

 

 『シンヨウシスギテモイケナイカ……コノショックウェーブガ、ミハロウ……』

 

 ショックウェーブは同僚とコンタクトを取ってみた。

 

 『サンドストーム』

 

 『おう、ショックウェーブかよ……用件はなんだ?面白そうな話じゃなきゃ切るからな』

 

 『カイジュウガソッチニムカッテイル、ショックウェーブモソッチニムカッテイル』

 

 『おっお前にしちゃぁ良い情報じゃねえか、面白そうだし付き合うか』

 

 3人はゲネガーグを追って月まで行き、Zは肉弾戦を中心に、他の2人は同時にビームを食らわせた。

 そして雪のように白く塗った迷彩柄のヘリコプターも加わる。

 

 『けっサイバトロンとおんなじような匂いがぷんぷんしてやがるぜ』

 

 「あ、ウルトラ恐縮です」

 

 「Z、俺達褒められてねえぞ、気づけ」

 

 「師匠、俺達にとってサイバトロンってウルトラ褒め言葉のような気がするんです」

 

 「かもしれねえがあの言いぐさ、何か悪意を感じるんだよなぁ」

 

 『まあまあ……落ち着けよう、あの怪獣がやべえんじゃねえのかい?ん?』

 

 「そうだった!!」

 

 3人はゲネガーグの放つ光線をかいくぐりつつ攻撃を加えた。Zだけゼロのフォローを受けながら……

 するとゲネガーグは何かを吐き出して対処しだす。

 

 「こいつ、小惑星を飲み込んでやがる」

 

 ついでに吐き出してきたのは青と赤の混在して、ボコボコしている塊……

 

 「ブルトンだと!?」

 

 ゼロがブルトンと呼んだそれは、小惑星と周りをも吸い込もうとし始めた。小惑星でさえ、その吸引力の前には掃除機に吸い込まれるホコリに等しい。

 

 『ショック?』

 

 『おお……こいつぁやべぇ』

 

 ブルトンの領域内に、ショックウェーブがおり、ちょうど餌食になりかけた、その時……

 

 「危ねえ!!」

 

 ゼロはショックウェーブを庇い、標的にされた。

 

 「師匠!?」

 

 『ショック!?』

 

 「Z、これを使え!!」

 

 ゼロはZにあるアイテムとメダルを投げ渡した。

 

 「3分の1人前でも、ちったぁマシになるかもな!!すぐに追いつくが、それまでにメダルの件、やってみせろよZォ!!」

 

 ゼロはブルトンに吸い込まれ、影も形も見えなくなった。

 ついでにブルトンも、消えた。

 

 「師匠ー!!」

 

 『あーらら』

 

 師匠の事だから、何とでもなるはずだ!!と考えZはゲネガーグを追いかけるのを再開した。

 

 『ショック!!トランスフォーム!!』

 

 ショックウェーブは怪獣を追いかけるゼットについていった。

 サンドストームはロボットに変形し、地球に入る前に踏みとどまって、口笛を吹いた。

 

 『俺様ぁショックウェーブのように単純じゃねえからな、大気圏とかくぐってられねえのさ』

 

 ~デカベース~

 

 「テツ!!」

 

 スワンは、高速でモニターを操作していた。

 

 「スワンさん?」

 

 「怪獣が、地球の外からやってくるわ!!」

 

 「何ですって!?あの人達の訓練もまだ終わってないのに?」

 

 「後……人型の巨大なのとトランスフォーマーがやってくるわね」

 

 「ショックウェーブですね、後昔話のウルトラマンっぽい?日本を目指してるようですし俺行ってきます」

 

 ~オーシャンシティ~

 

 そこは、トランスフォーマーと人間が共存する場所。トランスフォーマーとは、とある惑星にあるロボット生命体である。

 

 「おい、やべーって親父!!」

 

 一人の少年が、自分の父親の籠もる研究室に上がった。

 

 「おーなんだジュニア、パパの胸が恋しくなったのかい?」

 

 冗談めかして、父親は両手を広げた。

 

 「そんなんじゃねーよ、なんか知らねえけど怪獣がやってくるんだ!!」

 

 「何だって?本当だ、ショックウェーブが対処しようとしている。グランドコンボイに連絡を入れよう、方向は分かるか?キッカー」

 

 「地球の……ここからあっちだな」

 

 「日本か、ん?サンドストームからの通信か……」

 

 こことトランスフォーマーの故郷、セイバートロン星にあててある。

 

 『お人好しのサイバトロンさんよぉ、地球になんかやべえ奴がやってくるみたいだぜ、ほうっておいて良いのかい?』

 

 若干腹は立たないでもない言い方だが、危機が迫っている事は十二分に把握できた。ちなみにサイバトロンとはトランスフォーマーの二大勢力であり、残る一つはデストロンというもので、ショックウェーブやアイアンハイド、サンドストームがこれに当たる。

 

 ~日本~

 

 そして、それはやってきた。

 怪獣は、その巨体で街を押しつぶすように降りてきた。

 降りてきた影響で、道路や一階建ての住宅を中心に潰れていく。

 

 「これ以上やらせるか!!」

 

 セブンガー、発進。

 着地の際、ゴーゴーゴーゴーという効果音を発して。

 

 「こっちです!!慌てずにお願いします」

 

 ヨーコは人々を避難させていた。

 彼女は今回セブンガーのパイロットでなく、避難誘導に当たっている。

 

 「ん?」

 

 緑の戦艦と、青い巨人もその場に降りてきた。

 

 「どういう事だ?」

 

 『50m級のヒューマノイドタイプのエイリアン?すっげ─────!!そしてトランスフォーマーかな?やっべー』

 

 青い巨人は、体当たりで怪獣を食い止めようとしている。しかも街に危害を加えないように……

 

 「どうみても、敵はあっちだよな!!」

 

 迷う暇は無い、ハルキは青い巨人の方に加勢した。

 セブンガーの腕でパンチを繰り出す。

 怪獣は叫び声を上げた。

 

 「一緒にあいつを倒そう!!」

 

 青い巨人はコクリと頷いた。

 緑の戦艦はロボットに変形、噂に聞くトランスフォーマーだ。

 

 「あ、よろしくお願いします!!」

 

 「侍合体!!」

 

 そしてシンケンオーも現れた。

 

 「殿様!?」

 

 「借りを返しに来た」

 

 以前、オオツムジと戦った時、ハルキはシンケンジャーに加勢していたのだ。

 

 「押忍!!一緒にいきましょう!!アンタ、こっちは味方だからな」

 

 ハルキの言葉にZは頷く。

 丈瑠達はシンケンオーの腰の刀で怪獣に斬りかかった。

 

 「かったっ!!」

 

 力一杯ノコギリを引くようにしても目立った傷は入らない。

 そのうち怪獣は光線を口から発射してきたので、シールドで防ぎ、使い捨てにしつつ後退した。せざるを得なかった。

 

 「殿、この怪獣は……」

 

 「ああ、巨大化した外道衆より強い」

 

 セブンガーによるパンチ攻撃の方が効いていそうだった、だが、セブンガーが攻撃を当てても怪獣はびくともしていない。

 

 「来るぞ!!」

 

 尻尾を振り回し、シンケンオー、セブンガーに攻撃。

 シンケンオーはダメージを食らいつつ、後退。

 セブンガーからバッテリーの減る音声が聞こえた。

 

 「チェストー!!」

 

 なおも食らいつくハルキ。

 Zと二人でパンチ。

 ゲネガーグはたじろぐとすぐさま態勢を立て直し、叫び声を上げ、口から、体の節々の穴から、色々と光線や光弾などを全弾発射してきた!!

 

 ここにいる全員もろとも狙う気だ。しかも、避ければ丁度避難所に位置する場所に直撃する。

 

 「はぁ!!」

 

 丈瑠達シンケンオーは、腰の刀でビームをやり過ごそうとする。

 

 「まずい!!」

 

 セブンガーと青い巨人は、避難所を守ろうと手を広げた。

 セブンガーと青い巨人に直撃。

 ハルキの叫び声が、爆炎に包まれたセブンガーから聞こえた。

 

 「ハルキィー!!」

 

 ヨーコは叫ぶ。

 

 「なっ」

 

 『ショックー!!』

 

 それより大きくショックウェーブの叫びがこだました。

 

 『ショック!!シカタナイ』

 

 「なんだ?」

 

 ショックウェーブは複数の戦艦に分離し、シンケンオーの左腕、右腕、背中にそれぞれドッキングした。

 

 「これは……侍武装か?」

 

 「バーニングシンケンオー・天下無双!!」

 

 「殿ぉ!!この形態、なんと、飛べます!!」

 

 ショックウェーブの力でシンケンオーは飛べるようになり、腕部分についたショックウェーブからビームを撃てるようになった。

 これで怪獣の光線を撃ち続けると、無効化する事ができた。

 避難所への、被害もなくて済んだ。

 

 「すげぇ!!」

 

 千明が感心していると

 

 『ショック!!メガトロンサマデナケレバヤハリ!!』

 

 ショックウェーブは合体を解除した。

 

 「どういうつもりだ?」

 

 ゲネガーグは、今の合体解除で離れたシンケンオーに照準を向ける。光線、発射。

 

 「だが、対処法は分かった!!」

 

 丈瑠は兜秘伝ディスクを用意した。

 

 「カブトシンケンオー・天下武装!!」

 

 そして頭部からビームを発射し、ゲネガーグの光線を無効化する。

 

 「これで狙われても対処できるか」

 

 安堵した矢先……

 

 『ショック!!』

 

 ショックウェーブがゲネガーグに特攻し、振り回した尻尾に激突し、星にされた。

 

 「くっ緑色の奴も……」

 

 「セブンガー……」

 

 流ノ介と千明は、やるせない気持ちを隠せずにいた。

 

 「感傷に浸ってる場合じゃない、俺達もこうなるかもしれないんだ……」

 

 「そうね………って片付けられないな」

 

 「あいつも俺達と同じ、人を守る仕事についた以上、覚悟はできているはずだ」

 

 「みんな、あの怪獣早く倒そ?まだ助けられるかもしれへん」

 

 「賛成!!」

 

 その時、巨大な白バイが現れた。

 

 「すみません、遅れました」

 

 青年の声、警察の人だろう。

 

 「特捜変形!!」

 

 その一声で白バイは巨大なロボットに変形した。巨大な手が胸板に収納されている、サングラスをかけたようなロボット、色はバイクと同じ白、そして青。

 

 「デカブレイクおよびデカバイクロボ、加勢します」

 

 「ありがたい…………」

 

 すると、丈瑠は意外な提案をしてきた。

 

 「特空機のパイロットの救助、頼めるだろうか?」

 

 「え、殿!!」

 

 「早く救助するに越した事はないだろう?モヂカラを注がなきゃいけない俺達は手が離せない」

 

 「それもそうですね」

 

 「そうしましょう、自動操縦に移行させて……はぁ!!」

 

 デカバイクロボから、デカブレイクはひとっ飛びで飛び出した。

 目指すは……今炎を上げているセブンガーの中……




いかがでしたか?面白い思っていただければ幸いです。


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第8話 御唱和ください、我の名を!!ウルトラマンZ!!(Z)ウルトラマンZ!!(ハルキ)Bパート

 ~????~

 

 暗く、霧のみが見えていた……

 そして、何か声が聞こえる。

 

 『起きなさい、地球人』

 

 ハルキが声を聞いてハッとなり跳ね起きると、先ほどの青い巨人が、ハルキの目の前に立っていた。先ほどから「デュワッ」などのかけ声しか聞こえなかったが、意思の疎通はできそうだという事が分かった。

 

 「ここは?あんたは?」

 

 ハルキが聞いてみると巨人は自己紹介と恐るべき事実を淡々と告げてきた。

 

 『私の名前はウルトラマンZ、申し訳ないがお前は死んだ』

 

 突然の死亡宣告。

 

 「死んだ?嘘だろ!?」

 

 思っている通りにしゃべる事ができ、巨人とも会話できるのに。

 

 『ついでに私もウルトラヤバいみたい、あ……目がチカチカしてきたでござる』

 

 なんと巨人の目も点滅しており、命の危険的な意味でいかにもヤバそうだった。

 

 「あんたも?どうすんだよ、このままじゃ避難所が!?」

 

 避難所を探してあちこちを向くハルキ。

 

 『一つだけ方法がある、私とお前が一つになれば、もう一度戦える……手を組みませんか?私もお前の力が必要なのでございます』

 

 重大な提案をされたものの、態度は全く変わっていないのに言葉遣いがコロコロ変わるせいで引っかかり話半分ほどしか聞き取れなかった。

 

 「…………」

 

 『言葉、通じてる?』

 

 「あ……いや、通じてるんだけど言葉遣いがちょっと変っていうか」

 

 『えぇ?マジ?参りましたなぁ……地球の言葉はウルトラ難しいぜ』

 

 「そーなんだよなぁ……方言とかあるしおまけに外国行ったらそもそも言語自体違うし……ハッそんな事より、とにかく、あんたと手を組めばあいつを倒してみんなを守れるんだな?」

 

 『ああ、守れる!!』

 

 「なら、やる!!」

 

 ハルキの力強い返事を聞いた瞬間、Zは光となり、何らかのアイテムとなった。

 

 『さあ、そのウルトラゼットライザーのトリガーを押します』

 

 トリガーを押すと……

 光の帯がZ文字、そして扉のような何かになった。

 

 『その中に入れ』

 

 「あ……押忍……」

 

 言われた通り、おそるおそる扉のような何かに入るとカードが出現した。

 

 「何これ?」

 

 カードには巨人の横顔、そしてハルキを真正面に写した図が描かれている。

 

 『そのカードをウルトラゼットライザーにセットだ』

 

 言われた通りセットすると……

 

 『Haruki Access Granted』

 

 腰の部分に、青いホルダーが出現した。

 中が見れそうなのであさくると、メダルが数枚ある。

 

 「なんだこれ?ええ?メダル?」

 

 『ゼロ師匠、セブン師匠、レオ師匠のメダルだ、スリットにセットしちゃいなさい、師匠達の力が使えるはずだ』

 

 「師匠多いな」

 

 ウルトラゼットライザーなるものにはメダルを入れられそうな窪みが3つあり、左からメダルを言われた順にセットした。

 良い感じにハマった!!だが、はめ込むような構造でないので裏返すとたれ落ちるかもしれない。

 

 『おお……ウルトラ勘が良いな、じゃあ次はメダルをスキャンだ』

 

 「あ……あのさぁ、急いでんだけど」

 

 『安心しろ、ここの空間は時空が歪んでるから、ここでの一分は外での一秒だ』

 

 「そうなの?…………こうすりゃ良いんだな?」

 

 動かせそうな部分があるので、そこを動かしてみる。

 

 『ゼロ』『セブン』『レオ』

 

 ある位置にメダルを動かすとスキャンするようだ。

 巨人が元の姿になって戻ってきた。

 

 『よし、そして俺の名前を呼べ』

 

 「名前?なんだったっけ?」

 

 『ウルトラマンZだ』

 

 「ウルトラマン……Z?」

 

 『いやいや、もっと気合いを入れて言うんだよ』

 

 「気合い~?」

 

 『そう、気合い……いいか~ウルトラ気合い入れていくぞ!!』

 

 ハルキは元々気合いを入れるのは得意だ。

 

 「押忍!!」

 

 ハルキの気合いのこもった返事を聞き、Zは胸を張って両手を広げた。

 

 『ご唱和ください、我の名を!!ウルトラマンZ!!』

 

 「ウルトラマンZ!!」

 

 ハルキはウルトラゼットライザーなるものを左腕で空高く掲げた。

 

 『トリガー……最後にトリガー押すの(小声)』

 

 「トリガー」

 

 『そう、そこ(小声)』

 

 「あ、これか」

 

 トリガーを押した。

 

 『デヤッ』

 

 『デュワッ』

 

 『イヤァッ』

 

 光は収束し、巨人の形を形作る。

 

 ウルトラマンZ アルファエッジ!!

 

 『ジャッ』

 

 ~市街地~

 

 デカブレイクことテツは、倒れたセブンガーの辺りまでやってきた。

 

 「待ってください、今、助けます!!」

 

 腕に装着した変身用装備で速度を上げようとすると……

 セブンガーの中から、青い光が飛び出していく。

 

 「なんです?これ、光が……」

 

 青い光は、徐々に大きくなっていき、飛んでいった。

 

 「ナンセンス、ですがそれができてこそですか……」

 

 テツは、セブンガーのコックピット部分をこじ開け、中に誰もいない事を確認し、その場を去った。

 

 「早く逃げて!!こっち来るな!!」

 

 ヨウコがライフルを怪獣に当てて追い払おうとすると……

 先ほどの巨人が、姿を変えて再び立ち上がったようだ。顔の部分と胸元のZのキラキラ(カラータイマー)に原型が残っている。

 装甲が増え、下半身が赤色に染まっており、銀色の鋭いモヒカンのようなものが2つ追加されていた。

 

 「うわ~なんかまたでたー」

 

 モニター越しで巨人に対して驚いているユカ、その後ろで隊長ヘビクラはじっと巨人を見つめていた。

 

 「どういう事だ?」

 

 「皆さん!!」

 

 デカブレイクが戻ってきた。

 

 「奴は無事だったか?」

 

 「いえ、見つかりませんでした。でも、大丈夫みたいです。そんな気がします」

 

 「…………そうか、ひとまずそれを信じるとするか」

 

 ハルキの直感のまま、ウルトラマンZはダイレクトに動ける。

 

 「はぁ……すげえ」

 

 ハルキは、自分の感じているパワー、怪獣と互角以上に戦える実感を前に驚嘆していた。

 

 『息を合わせて戦うぞ、地球人!!』

 

 「押忍!!」

 

 ちょうどそこへ赤い色がメインのロボット達が登場した。ウルトラマンと比べれば少し見劣りするような大きさだ。

 

 『サイバトロン、到着した!!ショックウェーブがいないようだが』

 

 「あっち」

 

 千明はショックウェーブのいるであろう方角を指差した。ショックウェーブは飛んでいって星になってしまったのだ。

 

 『そうか…………仕方ない、今は君達を援護する』

 

 3人?はビームを撃ちまくる。

 だが、あまり決定打にはなっていない。

 

 「あんまり効いてないんすけど」

 

 『すまない、私達としても今はこれが精一杯だ』

 

 「千明……力を貸してくれてるのに失礼だぞ」

 

 「お、おう」

 

 『ジャッ』

 

 巨人は気にしなくて良いと首を横に振る。

 巨人は的確に牽制し、相手が体当たりしようとする挙動を防ぐ。

 動きが空手のそれ、しかも有段者級の腕前になっている。

 

 「あの巨人、さっきやられた時より動きが良くなってる……」

 

 「姿が変わった事がきっかけなのか?」

 

 「それとも他に何かあるのかな?」

 

 分からないが、頼りになる味方ができたという事には変わりない。

 怪獣が赤く発光する、何かを始めるようだ。

 

 『デヤッ』

 

 巨人の体からくっついてZの字に変化するモヒカン型のカッターが生えてくるのが見えた。

 その刃は巨人の動きに合わせ、くるくると回転し、怪獣にダメージを与えていく。

 

 『おお……これが宇宙拳法・秘伝の神技か、ウルトラ(つえ)ぇ!!』

 

 「押してる、これなら……行けます!!」

 

 「ああ」

 

 「ソードトルネード!!」

 

 デカバイクロボは竜巻のように回転しゲネガーグに突っ込んでいった。

 そして体当たりし斬りつけながら、上空に押し出す。

 

 「ダイシンケン・侍斬り!!」

 

 丈瑠達シンケンオーも、すれ違い様に襲撃。

 怪獣は上空に飛ばされる、だが怪獣は背中からジェット噴射のようにブーストをかけ、きりもみ回転をしつつシンケンオー、デカバイクロボ、そして巨人に攻撃。

 

 「何!?」

 

 ジェット噴射によるブーストしながらの移動、このような移動は天然の生物では有り得ない。

 

 「くっ」

 

 巨人に突撃、そのまま空へ押し上げていく。

 分析は後回しだ……

 

 「お前達、大丈夫か?」

 

 「はい、衝撃がすごかっただけです」

 

 「まだまだ、やれます!!」

 

 「……こんな時、空を飛べれば……」

 

 「ないものねだりをしてもしょうがないだろう?ある手札を使うしかない」

 

 カブトの部分からビームを放つものの、突進する怪獣には当たらない。

 

 「あかん、狙いづらいわ」

 

 『動く標的を狙うのは難しいだろう、ここは我らに任せてくれ』

 

 そう言ってサイバトロンのみんなは怪獣に狙いを定めた。読み撃ち?相手の動きを予測して撃つ技能を見せてきた。確かにトランスフォーマー達の方が手慣れているように見える。

 

 邪魔が入り、怪獣の進む勢いは削がれる。

 そのタイミングで巨人は怪獣にキックを当てて、距離を取った。

 浮遊して、巨人は静止する。

 怪獣も同じく静止……ここから繰り出される一撃がお互いにトドメの一撃となる事を、その戦いを見た誰もが感じ取れた。

 

 『ゼスティウム光線!!』

 

 必殺技か、巨人は構える。

 そして嫌でも記憶に残りそうなZの字を出現させ、少し引っ張る動作の後Zの字は巨人の構えた腕から放たれる光線へと変わった。

 怪獣も口から光線を発射、一番太いせいか主砲のように見える。

 

 光線同士が激突。割って入るという考えは微塵も起きない。

 

 『フー』

 

 ハルキは巨人の中で大声を張る。

 

 「チェストー!!」

 

 そのかけ声の大きさに比例してか、光線の勢いも増す。

 巨人の放った光線が、怪獣の光線を押し込んでいく、段々と怪獣に迫っていく、そして……直撃。

 怪獣は爆発した。

 巨人はそれと共に着地。

 

 「やったぜ!!」

 

 「これにて、一件落着!!」

 

 「いえ、まだです。あのパイロットを探しに行きましょう」

 

 『シューワッチ!!』

 

 巨人はよく見る雷のマークの軌道を描くように飛び去っていった。見方によってZに見えなくもない?

 

 ~市街地~

 

 ゲネガーグの遺体からメダルが落ちていった。

 セブンガーの近くで巨人の姿から戻ったハルキは2枚ゲット。

 

 「お、メダル」

 

 『エース兄さんのメダルとタロウ兄さんのメダルだ、後マン兄さんのメダルがあれば良いんだけどな……』

 

 ……………………………

 

 「これって?」

 

 ヨウコはメダルを手に取った。

 ヨウコが手にしたのは、俗に言うマン兄さんのメダルだった。

 今日現れた巨人と顔がそっくりだ。

 持っていると良い事がありそうと考えたヨウコはそのメダルをしまう。

 

 そして、3枚のメダルを手づかみで拾うストレイジの隊服を着た男が一人。

 

 「ハルキー!!」

 

 ヨウコはハルキを見つけると、一目散に駆け寄ってきた。

 

 「無事か?」

 

 「はい、この通りっす」

 

 「悪運強いなーハルキ、生きてます」

 

 「あ、いたぜ、おい!!」

 

 千明もハルキのいる所に駆け寄った。

 

 「大丈夫かよ」

 

 「大丈夫っす、ありがとうございます」

 

 「良かったね、丈瑠」

 

 「……ああ」

 

 「あんまり心配させんな……基地に帰るぞ」

 

 ヨウコはハルキを連れてその場を去った。

 後でセブンガーも回収されるだろう。

 

 『終わったな、私達はショックウェーブを探しにいく』

 

 「すまねえな、あんた達の仲間も救出しなきゃなのにこっちに付き合ってもらって」

 

 『ショックウェーブはそう簡単には死なないさ、敵同士だった分良く分かる。焦る必要はない……ではまた、トランスフォーム!!』

 

 サイバトロンのロボット達は、車やジェット機に変形し、その場を去った。

 

 ~志葉家 屋敷~

 

 イチゴは天条院家との協力を取り付けた事以外特に何もない、町の中ではフードを被ってごまかしつつ、あちこちを移動しただけの状態で帰ってきた後ゲネガーグと定義付けられた怪獣について聞かされた。

 

 「彩南町に行ってた間、そんな事が?」

 

 イチゴは自分もストレイジの人に加わって避難誘導に携わるべきだったとそこにいなかった事を恥じた。

 

 「気にするな、イチゴ……終わった事だ」

 

 「そう言うならまあそうかもしれませんが」

 

 「しっかしすごかったぜ~突然倒れた巨人が復活して、怪獣をギッタンギッタンにやっつけたんだから……トランスフォーマーも加わったけど」

 

 「巨人って?」

 

 千明は巨人がどんな特徴を持っていたかを聞いてみた。

 念のため、ことはや茉子にも……

 

 「それって……ウルトラマン?」

 

 「知ってるのか?イチゴ」

 

 丈瑠はイチゴに聞いてきた。

 

 「ある星でこういう昔話があるんだ」

 

 星に災いが訪れた

 災いは街を壊し、燃やし、なぎはらう。

 人々が悲嘆に暮れしその時

 巨人が舞い降りた

 その者 山を越えた巨躯を持ち

 その者 逞しき腕から光を放ち

 その者 幅広く超能力を駆使し

 災いを滅し どこへやらと去る

 

 「その巨人……名前は?」

 

 「光の巨人、ウルトラマンだって」

 

 光をもたらすもの ウルトラマン

 平和を守る人々の希望 ウルトラマン

 

 「それでその巨人は神様として信奉されてきたって訳」

 

 「詳しいんですね」

 

 「昔から好きなんだ、そういう物語みたいなもの……聞けば教えてくれる人もそれなりにいたし」

 

 あまり気乗りはしなさそうだったが……

 物語は良い、想像力という翼があればどこへだろうと飛んでいける。

 時代劇、剣と魔法のファンタジーもの、スペースオペラ。デビルークにいると、規模が宇宙まで広がる話ばかりで、どうしても話がスペースオペラばかりになっていた気がする。

 ただ、恋愛ものはあまり好みじゃない、知謀を張り巡らすようなドロドロしたものは論外だ。誰からも応援してもらえる一本道、それが一番ストレスなく読みやすい。そういう意味では、小狼(シャオラン)とサクラを見ると清々しくなってくる、推せると言っても良い。

 譲歩として、複数人ヒロインはいても良いが、その中にもし姉と妹が含まれるとするなら本を畳み、退避準備を取らねばならない。義がつくなら渋々……

 

 「他にはどんなものを?」

 

 「ベヒーモスっていう奴の話とか、宇宙を流れる風来坊の話とか……後、魔剣の話とか………チームロディマス旅行記とか」

 

 「羽根の昔話とかは無いのか?」

 

 「無い、あったら言ってる」

 

 「だったら仕方ないね~」

 

 独りで会話も無く生きるのも楽だが、こういうので語り合うのも楽しい気がしてきた。

 

 これにて、(まこと)に一件落着!!

 かと思われたが……

 

 ~????~

 

 地球防衛軍日本支部怪獣研究センター科学研究所は、今回出てきた宇宙怪獣の残骸を調べている……

 

 「本日出現した宇宙怪獣……あっすいません……ゲネガーグの断片、1番から39番まで収容完了です」

 

 カブラギ・シンヤもその一人……

 

 「うわぁ!!」

 

 「気を付けろカブラギ!!」

 

 「はっはい!!すぐ収容します」

 

 「たく、どんくさい奴だな」

 

 「ヒッすいません!!うわー最悪だよこれ大丈夫かなぁ……なんだよこれ気持ち悪いな」

 

 怪獣の体液を探っていると、何やらネバネバしている感じがする。人間でもここまでの粘度は無いだろうと希望的観測を巡らせている中……

 何か、得体の知れない生き物が見えた。

 エイのような体型であり、口部分に尻尾のような細長い針が伸びている。

 その禍々しさ、宇宙から飛来してきた怪獣の中にいた事から地球の生き物でない事が分かる。

 

 「え……何これ?」

 

 その生き物は正面にいるカブラギを視認すると同時にカブラギに覆い被さってくる。

 

 「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

 思わずカブラギは叫んだ。

 

 「おい、大丈夫か!?」

 

 近くにいた同僚は、騒ぎを聞きつけてカブラギのいる場所までやってくる、そしてカブラギを揺り起こす……が、カブラギはすぐにそれを払う。

 

 「なんだよ、驚かせやがって」

 

 同僚はブツブツと文句を垂れながら自分の持ち場に戻った。

 同僚がいなくなった所で、とある結晶を手に持ちカブラギの片目が、赤く発光する。

 

 「キエテカレカレータ(良い気分だ)

 

 謎の生き物はどこへ行ったのだろうか?(棒)




いかがでしたか?面白いと思っていただければ幸いです。
ちなみにイチゴの語ったおとぎ話に出てくるウルトラマンは「本当の戦いはここからだぜ!!」で有名なあの人。


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第9話 舵木忠義道(かじきちゅうぎみち) Aパート

みなさんこんにちはもしくはこんばんは
この話は、個人的に忠義に篤そうに思う連中がメインとなっております。(赤い奴らと主人公は除く)後は彦馬さんをどうねじ込むか


 イチゴは一応黒子であるので侍達の食事に直接参加はしないが、配膳や片付けなどでその様子を見る事ができる。

 早い話、がっつくのが千明とモコナでそれ以外のみんなは黙々と食べている感じだ。

 モコナはサイズ感もそうだが

 

 おいしーい

 

 と言って食べながら笑顔を振りまく、対して千明はさっさと食って遊ぶかという魂胆がすけすけなせいか、彦馬および流ノ介から叱られるのは千明で確定だった。

 黒鋼は丈瑠達より長い背丈でピシッとした姿勢を保って食べるので、見ているイチゴが引き締まる。

 遊園地に行った時はがっついて食べていたため、オンオフを切り替えているのかもしれない。

 そんな中、他の黒子が、彦馬を呼ぶ。

 

 「何だ」

 

 黒子は彦馬に耳打ちしてきた。

 

 「何ぃ!?殿、大変です!!」

 

 みんな、視線が彦馬の方へ行った。

 どうやら、とある海岸で舵木折神の目撃情報があったらしい。

 古文書的なものも見せてもらった所、名前の通り、カジキマグロみたいな見た目の折神のようだ。古文書に描かれている風景もやはり海。

 いくつかの折神は先代シンケンジャーがドウコク率いる外道衆と戦う折りに行方不明となっていたそうだ……いわば、野生に帰った状態らしい。

 ストレイジ、およびセブンガーが調査にあたるも、ジェットパックという名前の浮き輪がないと泳げないセブンガーと、魚類のフォルムを持ち、水中をスイスイ進む舵木折神とではスピードの差が歴然で逃げられてしまったようだ。

 そこらをうろついている妖の噂だと、その一件でセブンガーがエネルギー切れで沈みかけたとか、予算が減ったとか、お叱りの場面で隊長が隊員(ハルキ)のある部分をつねったりとか、長官が胃痛を起こしてしまったとか……

 程なくして、外道衆襲来を知らせてくれる装置、隙間センサーも反応を始める。

 そこで流ノ介のみが選抜された。

 

 「頼んだぞ、流ノ介」

 

 丈瑠は流ノ介に今回必要になる「捕」のディスクを渡した、魚を入れておく水槽、野生に還ったものを抑え込むケージ……いずれにしろ、力を留める容器の役割を持つ。

 

 「はっ」

 

 魚を捕らえるために水のモヂカラを持つ流ノ介が選ばれたのはまあ必然だろう。

 なお、その件で手伝いたいと立候補した人がいた……

 黒鋼だ。

 

 「でけぇ魚釣るってんなら、人手はいるだろうが」

 

 「力仕事じゃないんだがな………だがまあ、支えが多いに越した事は無い、良いぞ」

 

 黒鋼はシンケンジャーではないのが幸いだったようだ、それに強いから巻き込む云々の問題は解消される。

 

 「話決まった?じゃあ行こうか~」

 

 ファイとモコナが戸の隙間からぬぅっと顔を出し、出発を促していた。

 小狼(シャオラン)とサクラもいる。

 

 「人数が多いな、黒鋼殿、小狼(シャオラン)殿、ファイ殿はともかく……サクラ殿まで参加するのはいかがなものだろうか?」

 

 「折神の件は外道衆とは関わりはないと見て良い……が、警戒は怠るな」

 

 連れて行っても問題ないが何かあればすぐ帰れと暗に言っている。

 

 「はい!!」

 

 4人はそれぞれ別の異世界の人間だ、ただし小狼(シャオラン)とサクラは同じ異世界出身だが。当然言語に差もあって……モコナがその場に半径何百mかで翻訳しているらしく、4人は群がっていないと意思疎通がしづらいらしい。

 どういうあれかは分からないが

 

 「モコナ108の秘密技の一つなの」

 

 らしい。

 現にヤナスダレとの戦いの時、疲れで寝込んだ小狼(シャオラン)はともかくサクラが何を言っているのかさっぱり分からなかった。

 

 「イチゴも頼む」

 

 とりあえず5人1組で考えた方が良さそうだ。

 サクラの羽根を見つけるためにあれこれ動いて回る必要はある……

 普段の侍達の移動手段は籠なのだが……

 

 「籠に入りきらない、ここまで人を運ぶのは想定していなかった……」

 

 形式的にも、重量的にも、籠に人を乗せる人数に対して黒子……運び手は一対数人で扱うものだった。籠は言うまでもなく貴人用の物でぎゅうぎゅう詰めは論外、そして使わせる優先順位は当然丈瑠達侍の方が上。

 

 「別の手段で考えた方が良さそうだな」

 

 そんな訳で……

 

 「わーい、便利だね~」

 

 小狼(シャオラン)達が呼べばすぐにやってくる謎のロボット達に乗って移動する事にした。

 

 「そうだなー」

 

 レイアース、セレス、ウィンダム。

 全貌は本人達にも掴めないが、今のところ彼ら専用のロボ……属性は小狼(シャオラン)が乗るレイアースは武器の印象で火、ファイが乗るウィンダムは風、黒鋼の乗るセレスは…………分からない、剣技しか扱っていないからだ。色と見た目で言えば、流ノ介と同じ水かもしれないが。

 

 「あんまり先に飛ばないで、道迷っても知らないよ」

 

 イチゴはファイの乗るウィンダムに乗せてもらっている。カイを巨大化させて移動するのも良いが、制限時間はあるから、少しでも充電切れで溶けたら落下しておしまいだ。小狼(シャオラン)の乗るレイアースは既にモコナとサクラが乗っている。

 

 「はーい」

 

 「こうして改めて見ると壮観だな……」

 

 流ノ介は黒鋼のセレスに乗せてもらっていた。彼もセレスから見た空の景色を見ている。

 

 「龍折神(りゅうおりがみ)に乗った時はどうなんだよ」

 

 龍折神に乗った時、空を飛べる。

 

 「あれは、そうだな……戦うために使っているんだ、景色を見る余裕は無い」

 

 「そうだろう、戦いだものな。よし、海岸に着くまで堪能してろ」

 

 「心遣い、感謝する」

 

 そうこうしている内に、目的地に着いた。

 カップ麺も出来上がらないぐらいの時間しか経たなかった、早い。

 

 「着いたよ」

 

 東京のある海岸のようだ…………スマホからマップを見ると、あらかた目的地に近い。

 

 釣りだー

 釣りだー

 マグロ、ウニ、エビ

 

 モコナは食べ物をとる気満々だった。

 

 「そんなもの取らないから!!オレ達は素人同然だし」

 

 ウニレベルになると潜らなければいけないので却下。

 

 けちー

 

 さて、今回の外道衆の妖怪は……

 ヤミオロロという、緑の葉が生い茂っているような、緑の毛が毛むくじゃらになっているような、緑の手が生えているような見た目で、顔は赤い骸骨のような意匠のアヤカシだったそうな。

 不幸にもドウコクから追い出される形でここ人間界に流れついた悲しき外道衆の一人……正確にはゴミを処分する感覚で人間界に連れていかれた外道衆の一人である。

 そんなヤミオロロはふらふらと街中をうろついている。

 ドウコクに捨てられるゴミのように扱われる原因となる能力は……

 

 「俺の足臭いよー嗅ぐ?」

 

 毒を撒き散らすものだった。

 

 「ぅおぅ!!」

 

 その毒は人間が嗅ぐと、悶絶、そして高熱を出し数日後に死亡する。

 その現場を見た人々は一目散に逃げ出し、それを見ていない人もドミノ倒しの要領で危機を感じて逃げ出す。

 丈瑠達も、そこに到着する。

 

 「そこまでだ、外道衆!!」

 

 「誰だ~?」

 

  ~例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「一筆奏上!!」」」」

 

 「破ぁ!!」

 

 ショドウフォンで文字を書きそれを反転させ、各々のモヂカラによって形成させたスーツに身を包み、4人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンレッド、志葉丈瑠」

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 「天下御免の侍戦隊」

 

 全員「シンケンジャー、参る!!」

 

 「俺の血酸っぱいよ~お一ついかが?」

 

 その問いに対して、丈瑠達はシンケンマルを振るって対応した。答えは完全無視。

 

 「遠慮すんなよー」

 

 腕を振り、毒を振りまいてきた。近づいてきて不覚にも全員嗅いでしまう。

 

 「あ(死亡)」

 

 「うっ」

 

 「(無言)」

 

 「くっこれは………」

 

 なんと、シンケンジャーのバトル用のスーツを貫通して、毒が!!

 そのせいで戦闘どころで無くなり、変身を解除してしまった。

 

 「ま、待て……」

 

 一番長く意識を保っていた丈瑠も、気絶。

 シンケンジャー、全滅。

 

 「じゃあねー」

 

 ヤミオロロはそんなシンケンジャーを尻目に、その場を去る。

 

 「汚物は消毒だー!!」

 

 侍もやられた事で一部の祓忍も事態の重さを垣間見、事の処理に当たる、しかし……

 

 「お前も嗅ぐか~」

 

 人間には見えないよう加工を施した装束も、妖怪なので当然視認されており、腕をぶんと振り、濃く強い毒を風に乗せて飛ばした。

 

 「あがっ」

 

 霧状のそれを吸うあまり、一撃を与える事もできぬまま泡を吹いて痙攣しつつ倒れた。同業者か妖怪に連れてもらわないと道端で誰の目にも映らないまま苦しんで○ぬだろう、モヂカラもない黒子では彼らは見えないのでベッドで寝かせる事もできはしない。

 

 「不知火、不知火ー!!あ」

 

 「~♪」

 

 ヤミオロロは楽しそうにその場を去る。

 

 さて、そんな事も知らないイチゴ達は……

 

 黒鋼、流ノ介を除いて昼食を買いに行っていた。

 釣りは待つ時はどうしても待つ必要がある、それに今回の釣りは流ノ介………モヂカラを持つものが要だ、何か食べてもらってモヂカラを練り上げる体力を付けてもらわなければならない。

 

 ~公園~

 

 ベンチに花壇にプールより広い池という、のどかで自然を感じられるつくりのようだった。だが、駐車場も無い、滑り台などの遊具一つも無いのは寂しくもある……

 

 「…………」

 

 骸骨のような衣装を着た奴らがたむろしている。胴体はそうでもないが、ドクロを模した頭部が特にそう思わせた。

 なんだか知らないが下手に関わらない方がいい、そう思ってイチゴはファイ達に素通りするよう促す。

 だがそいつ達はサクラを見て、すぐに声をかけてきた。ナンパ……という奴だろうか?にしてはサクラが首を横に振って去ろうとしてもしつこく、しまいには小狼(シャオラン)とくっついていたのを切り離して取り囲もうとしている。

 

 「………………………」

 

 それを見て小狼(シャオラン)が跳び蹴り……を始めるための深呼吸をして、骸骨の奴らはビビって一目散に逃げ出す。

 気迫だけで、追い出した。

 

 「やるねー」

 

 モコナも拍手

 

 「ありがとう」

 

 小狼(シャオラン)はサクラに笑みを向けて返す。

 おそらく、本当は一瞬で蹴る所までやれる所を威嚇に留めたのだろう。

 それで留めるのもすごいなと思う、イチゴはイチゴで叩き潰す方に持って行きそうだからだ。

 

 「さあ、今のうちに早く買うもの買って、行こう」

 

 屋台が一店、有るのでひとまずくぐる事にした。

 

 「へい、いらっしゃい」

 

 たいやきと書いてある赤いのれんの向こうにいるのは、がっちりした体格で、グラサンと黒のライダースーツを身につけた男の中の男。一昔前の番長とかはこんな感じだっただろうと思えた。黄緑に染め、怒髪天を衝くような髪型を見ると、気合いが入ってるなと感心させられる。

 

 「ご注文はいかがいたしますか?」

 

 鉄板の下に書いてあるのは……

 

 たい焼き

 バナナクレープ

 ミサワ焼き

 ど根性焼き

 

 「たい焼きの味は?」

 

 「黒あん、白あん、カスタードだ」

 

 コンパクト感と安さ、色々と考えて………

 

 「毎度!!」

 

 たい焼きを、ミサワ焼きの値段3つ分買った。

 種類としては……カスタード、黒あんを半々、ミサワ焼きを買うとたい焼きの10倍の値段なのは納得がいかない。

 

 「そこの坊主」

 

 グラサンの男は小狼(シャオラン)を呼び止めた。

 

 「助太刀するべきかとも思ったが、その必要も無かったな、やるじゃねえか」

 

 さっきのを見てたのだろうか?

 すぐさま目的地に戻った。グラサンの男に会釈を添えて……

 

 「戻ってきたか」

 

 海岸に戻るまでに準備……というか釣り竿とかのセッティングは終わっていたようで、流ノ介は釣り竿を手に、釣りを始めていた。

 

 「こっちはもう始めてんぞ」

 

 「こっちも買い終わったよ」

 

 「そうか………なんだこいつは」

 

 「たい焼き……だそうです」

 

 「あまーいお菓子だったよ」

 

 たい焼きうまーい

 

 モコナはいつの間にか口にあんこを付けていた。

 

 「ほー」

 

 黒鋼は紙袋一杯に詰まったたい焼きを興味津々に見入っていた。初めて見たのだろうか?おそらく初めて見たのだろう、異世界の人で、戦国時代とか江戸時代辺りの日本で構成されてるそうだから。

 

 「おいしいよ、どうぞ」

 

 イチゴは黒鋼にたい焼きを渡す、多分黒あんが食べ慣れてそうだったので黒あんにした。

 

 「饅頭の餡を魚っぽい形のガワで覆ったのか、悪かねえ」

 

 休憩か、竿を休めたタイミングを見計らって、イチゴは流ノ介にたい焼きを渡した。

 

 「はいどうぞ」

 

 「悪いな、イチゴ君」

 

 「急いでも魚は釣れませんもの」

 

 他に釣りをしようとしている人もいるようだ、海の荒波を現したようなバンダナを巻いたおよそ三十代ほどの男だ。

 ちょっと目が合った、申し訳なくなる。

 

 だが、よくよく思い返せば、男の目線は流ノ介の釣り竿の方に焦点が行っているような……?確かに釣り竿にディスクを差し込んで使っている……だから、普通の釣り竿と見栄えが違うのは致し方ないだろう、物珍しいかもしれない。

 考えていると、スーツ姿の女性と骸骨模様の変な鎧を着た男がやってきた。先ほどの頭が骸骨のヘルメットを被ったであろう人間と比較してしまう。

 

 「げっ」

 

 見間違える筈は無い……九条凛とザスティンだ、小狼(シャオラン)にたい焼きの紙袋を渡して急いでイチゴは隠れる。

 何故隠れるか?会わす顔が無い……とでも言っておこうか……屋敷ではお邪魔してプリンを食べて帰ったりしていたが、プリンという目的無しにそんな事はできないのだ。

 

 「……………………」

 

 良く伸びた黒髪、ポニーテールに結ぶ事で露わになるうなじ、砂浜に似合わない、ぴっちりとしたスーツ姿。スタイルの良さが引き立ち、イチゴはそうでもないが一般論的に見ればいけない気持ちになるんじゃないかと、そういう気がしてきた。

 

 「話は沙姫様から聞いている、侍とモコナと……?」

 

 凛は黒鋼を見て何か違和感があったのか顔をしかめている。

 

 「?」

 

 「失礼、似た顔を見た事があるので……私は凛、九条凛だ」

 

 「ザスティンです、才培様の所のチーフアシを勤めております」

 

 「池波流ノ介です」

 

 「小狼(シャオラン)です」

 

 「サクラです」

 

 「黒鋼だ」

 

 「ファイだよー」

 

 「モコナ!!」

 

 モコナは凛に近寄って握手をしようとする。

 

 「あの突如失踪したとかいう歌舞伎役者か、シンケンジャーだからだったのか、大変だな………え?君……大道寺家のお嬢様のボディーガードじゃないのか?」

 

 大道寺……玩具会社の大手でそういう名前を聞いた事がある。

 

 「はあん……こっちの俺はそうなんだな」

 

 「どういう事だ」

 

 「なんでもねえ

  こっちの話だ

  気にすんな」

 

 「はあ」

 

 「ねえねえ」

 

 モコナは凛の二の腕をツンツンした。

 

 「なんだ?」

 

 「黒鋼どんなだった?」

 

 「全く変わらん、あれと同じしかめっ面だ」

 

 凛は黒鋼を指差しながら様子を思い浮かべた。

 長い黒髪の令嬢が一人、カメラを片手に

 

 「すばらしいですわ~」

 

 としゃべっている。

 にこやかな表情に似つかわしい、和やかでおっとりとした雰囲気を持ったお嬢様だ。ああいう女の子に好かれる人がいれば、その人は幸せ者だとはっきり言えるだろう。

 その後ろで手を腰辺りで組んで、スーツとサングラスを身につけている黒鋼が見えた。

 

 「ああ?」

 

 サングラスを外して睨みを効かせる様はそのまんま黒鋼だった。

 

 「あはは、黒くろとおんなじじゃーん」

 

 おんなじおんなじ~

 

 ファイとモコナは爆笑していた。

 

 「うるせえ」

 

 イチゴは気になる事を聞いてみた、ただし……隠れたまま。

 

 「あの……凛さんとザスティンさんは何しにここへ?」

 

 「面と向かって聞けない奴に言える事は無いぞ」

 

 「………………………」

 

 「………………………」

 

 会話が続かないのを見かねてか、イチゴの代わりに小狼(シャオラン)が質問を始める。

 

 「凛さん、とザスティンさんは何しに来たんですか……?」

 

 「ちょっとした調べ物だ」

 

 「私は意気込む凛様の護衛です」

 

 「すみません、ザスティン殿に付き合わせてしまって」

 

 「沙姫様、そして彼からくれぐれもと言われていますので」

 

 凛とザスティンの関係は奇妙な……というか面白いものだった。

 凛とザスティンの妻……天条院沙姫は元々家族ぐるみで仕える者と仕えられる者の関係だ……丈瑠と黒子含む流ノ介達との関係に似ている。

 そして凛は、ある時期イチゴの父親であるデビルークの王、リトの妻の一人となった。

 曲がりなりにも、王の妻となったのだ。

 そしてザスティンは、デビルークの王室の親衛隊隊長であり、婿養子となる形だが沙姫と結婚した。

 結婚後も、互いのスタンス……距離感を崩す気は無い。

 

 だから、互いが互いに(あるじ)に連なる人間、敬うべき対象、守るべき対象として見ているという訳だ。

 

 『そういう事だったか』

 

 消防車と、黄緑の戦車が現れた。

 戦車は、ザスティンと勢い良くぶつかった。

 

 「がはぁ!!」

 

 ザスティンは吹っ飛んでいく。

 

 『トランスフォーム』

 

 インフェルノ達だった。

 

 『無事か?人間』

 

 「は……はい……」

 

 さすが電車にぶつかって死なない人間だ、頑丈と言うべきか、ふざけていると言うべきか………

 

 『久しぶりだな、俺達は仲間の捜索だ』

 

 『アイアンハイドだ、このサイバトロンの奴にせがまれショックウェーブを探しに来たのだ』

 

 『ええい、もう少し意気込みを見せろ!!仲間が心配じゃないのか?元々お前の仲間なんだろうに!?』

 

 『ヴァカめ!!あいつの事だ、自分達の心配や助けが無くとも一人どこかでピーンピンしておるわ』

 

 『そうは言うがなあ……』

 

 「口ゲンカか、仲間の捜索かどっちかにしてくれ……」

 

 『お、おお……』

 

 ~5分後~

 

 「お」

 

 竿の揺れが大きくなっていっている、何かが食いついている証拠だ。

 

 「来たか」

 

 黒鋼は、流ノ介を支える準備に入った。

 

 「手伝いましょうか?」

 

 ザスティンの問いに答えたのは黒鋼だった。

 

 「向こうの出方を見て決める」

 

 「分かりました」

 

 「いきまーす!!」

 

 流ノ介はリールを素早く巻く、そして回収。

 

 「釣れたー」

 

 だが、釣れたのは缶詰めの残骸だった。

 

 「…………………」

 

 「仕方ない、もう一度だ」

 

 …………………

 

 「缶」

 

 「缶」

 

 「雑誌」

 

 当然、濡れまくってて、波に打たれて、読めたものではない。

 

 「……………エサが悪いんじゃねえのか?」

 

 「折神を釣るんだ、これが一番良い……筈なのだが……」

 

 木片に刻んだ「旨」のモヂカラ、釣りと言っても実際の魚を釣る訳でなく、折神を釣る訳だからそれが一番良い。

 

 『廃棄物というものか、まったく、己の生み出したゴミすら御しきれんとは………人間とは愚かな奴らだ』

 

 アイアンハイドは小狼(シャオラン)を指差す。

 

 『食料を食べ終わったら、ちゃんと然るべき手段で処分するんだぞ』

 

 『地球の環境のためにもな、何が有効かについては諸説あるがポイ捨てだけはしない事だ』

 

 「はい」

 

 どんぶらこ!!どんぶらこ!!

 

 「あ」

 

 イチゴは小さく声を漏らす、この急な流れ……奴が来る。

 

 「わー、桃太郎だー」

 

 モコナはそれを見て、楽しそうに扇子を広げる。あのノリについて……いけるのかもしれない、モコナだから。

 

 『は?』

 

 アイアンハイドは狼狽えるものの、インフェルノは慣れてそうな対応だった。

 

 『センサーの範囲を変えろ、値は教えてやる、奴はそこにいるぞ』

 

 『なるほど……何!?』

 

 「ほえ───────」

 

 サクラの叫びがこだました。桃太郎だ、いつぞやの桃太郎が海に向かって流れている。

 

 『お前達が次元の旅人か、縁ができたな!!ワーハッハッハッハ!!さらばだ!!』

 

 そのまま桃太郎は流れていった。

 隠れたイチゴを、以前のように連れ去って…………

 

 「俺にはさっぱり見えねえな」

 

 「おれもです」

 

 「私にもだ……」

 

 「小狼(シャオラン)君に黒そは見えないんだ……」

 

 「はい」

 

 「そういうお前は見えるのかよ?」

 

 「まあオレって魔導師(ウィザード)だし~」

 

 「なるほどな……話には聞いたが妖…………一部の人間以外には見えない魔物の類か、厄介だな」

 

 「厄介?」

 

 「いざって時に斬れねえだろうが」

 

 「なるほど」

 

 「聞く所によると植物や動物は見えるそうなのでモモ様、ナナ様は友達が感じ取れるらしいですよ?イチゴ様は姿自体が見えるそうなのですが」

 

 「そうなんですね」

 

 イチゴについての話題に入ったのに反応が無い、何故だろうか?と小狼(シャオラン)は訝しんだ。

 

 「…………………」

 

 実は引き続き釣りに集中していた流ノ介が声を上げる。

 

 「おおっ今度の反応は今までと違うぞ」

 

 「何!?」

 

 黒鋼は、黒いシャツの袖をまくり、気合いを入れて準備を行った。

 

 「お前達……」

 

 先ほどのバンダナを巻いた男の言葉に、耳を傾ける暇も無く……

 

 「今、良い所なんだ、後でな」

 

 「うぉぉぉぉぉ!!」

 

 流ノ介が釣り竿を上げた、今度はイスだった。

 

 「そ……そんな……」

 

 流ノ介は、モヂカラが尽きたのか……倒れた。

 ガス欠……エネルギー切れとも言う。

 

 『大丈夫か?』

 

 「イチゴさん!!流ノ介さんが…………あれ、いない……」

 

 「!?あいつ……」

 

 「早く休める場所を探しましょう」




いかがでしたか?面白いと思っていただけたら幸いです。ツバサのサクラにほえー言ってもらっても違和感しかないな……(戒め)


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第9話 舵木忠義道(かじきちゅうぎみち) Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは
イチゴが何故妖が見えるかなんて桃太郎に聞いても絶対に答えないだろうからモコナに言ってもらった。


 モコナ「オホン、結城イチゴォ、何故君に妖が見えるのか、何故妖も君を意識するのか、何故たびたび桃太郎にちょっかいをかけられるのかぁ」

 

 リト「それ以上言うな」

 

 「その答えはただ一つぅ」

 

 インフェルノ『ヤメロー』

 

 「結城イチゴ、何故なら君もまた(あやかし)だからだーッハッハッハッハ……だって、イチゴ」

 

 イチゴ「……は?(プリンを食べながら)」

 

─────────────────────────

 

 ~????~

 

 一面には青がいっぱいに広がっている、黒がかった青、空に目を向けていくにつれて鮮やかになっていく青。

 イチゴから見た視点では魚が空中を泳いでる事からそこが海だと分かる。

 靴の先で下を蹴ると微かに砂に当たる感触がする、海の底なのか?よく見れば、お城も見える気がする。竜宮城とでも言うのだろうか?

 

 『縁があったな、元気そうで何よりだ』

 

 桃太郎からそういった言葉を言われるとは思わなかった。

 

 『次元を行く旅人達は良縁だったようだな、お前の心に幼子のような健やかな思念が戻りつつある。もはやお供達は誰もお前を否定しないだろう』

 

 イチゴに話しかけてくる桃太郎に不意に、長年の疑問を聞きたくなった。

 

 「実はずっと気になってた事があるんだけどさ」

 

 『ほう?言ってみろ』

 

 「なんでオレ、アンタ達が見えるの?」

 

 繰り返しになるかもしれないがどうやらイチゴはだいたい赤ん坊の時から妖怪が見える……そうだ、今はそうでもないが幼稚園ぐらいの頃は自身の周りを漂う蝶をそっと触れて愛でるように妖怪変化達と戯れていたそうな。何も知らない人間達は、空を見て微笑んでいると勘違いしていたらしい。言葉を発していくようになっていくと共にやがて判明していったその事実は、ただでさえイチゴが人々の間で良く思われてないのに、不信感を加速させた。

 

 『化け物が見えるとな、やはり呪われてるのか?』

 

 『あの方……奴は人ではないのだ』

 

 真偽は多分どうでも良いのだ、気味悪がれる理由になるならそれで……

 

 『イチゴ……大丈夫だから……大丈夫だから……ね?』

 

 母、美柑にもたくさん気を揉ませてしまった、自分が腹を痛めて産んだ筈の子供が人間でないと言われてきたからだ。

 デビルークの侍女として働いてくれる人の一人に、祓忍(くわしいの)がいる。特に王室を狙った呪いだのなんだのというオカルティックな戦いが始まった時、役立ってくれる。科学に重きを置くようになって年数も経ち、一度そういうので攻められるとなかなか対応できないから、異星人とはいえ比較的重宝されていた。その人の言うには……

 

 『一度被害を受けてというならまだしも、産まれてからずっととなると……家系図的にはイチゴ坊ちゃまは祓忍ではないんですがね……かといって妖巫女(あやかしみこ)に通じるものでもない……子どもという条件も込み』

 

 結論としては、よく分かってないらしい。

 ただし小学生までの話だから、理解は進んでいるかもしれない。

 

 「何でオレには見えるの?何でオレを見て怖がる奴がいるの?オレはあんた達にとって……何なの?」

 

 『それは………………………』

 

 「それは………………………」

 

 桃太郎にも話を聞いておきたい。

 

 『知らん…………』

 

 イチゴはずっこけた。

 

 「ええっ!?散々溜めといてそれ?」

 

 と言い終わるか終わらないかで桃太郎は膝から崩れ落ちて倒れた。

 

 「え!?」

 

 そして10秒後、何事も無かったかのようにむくりと起き上がった。

 

 「は!?」

 

 『気にするな、だいたいお前……誰かから『お前はこういうものだ』と言われればそれで満足か?』

 

 「…………………それは、まあ」

 

 良い気はしない、だが生きていく上で何らかの指針にはなるだろう。

 

 『いいか、己の在り方を他に求めるな、そういうのは自分で決めろ、俺はこうだ!!』

 

 いよぉ、日本一!!

 

 『桃から産まれたァ首領(ドン)桃太郎!!縁を結び、幸せを運ぶ(あやかし)の王だ、ワーッハッハッハッハ!!』

 

 桃太郎は肩をさすってきた、人ではない事はなんとなく分かるが、ぬくもりと圧力は人間のそれに近い。

 

 『笑え笑えー!!ッハッハッハッハ!!悪縁を消し飛ばすぐらいにな!!』

 

 「えー笑えないよ……」

 

 ましてや、口角を上げて、ニッコリするなんて、嬉しくもないのにそんな顔をするなんて、気持ち悪い。

 

 『そうか………ならばこれしかないな』

 

 桃太郎は、前回も持っていた剣を持ち出す。

 

 「ええ………」

 

 『今回は特別に良いものを見せてやる』

 

 桃太郎は、武器に外付けしてある歯車な部分をぐるぐると回し始めた。

 

 『百鬼夜行!!』

 

 武器から不思議な音声がして後、何かが現れた。

 

 黄色い鬼。

 

 『えええええええ?今度はどこー?』

 

 青い猿。

 

 『ここでー一句

 桜散る

 その様まるで

 星のよう』

 

 黒い犬。

 

 『今回は海かよ、俺は犬掻きしかできねえんだぞ』

 

 ピンクの雉。

 

 『あれ?鶴ちゃんはどこ?鶴ちゃーん』

 

 孫悟空。

 

 『あなたがイチゴさんですね、話は母上達から聞いています、孫悟空です、よろしくお願いします』

 

 ここまではまだ、同じような意匠のゴーグルを付けているため分かりやすい。ここからだ。

 少し鳥のように見える青い戦士。

 

 『タロウ、次のおでんはいつにする?』

 

 弓をつがえた白猫。

 

 『行くぞ、イヌ』

 

 槍を持つ大鬼。

 

 『おい、帰ったらマンガの添削始めるぞ』

 

 『これはまだ序の口だ、さあ、楽しもうぜ!!』

 

 イチゴは、ろくに武器も持っていない、今回は丸腰だった……

 

 「嘘でしょ……」

 

 ~ 海岸 ~

 

 流ノ介は目を覚ました、時間が経ったのか空の明るさも増している。

 

 「ジー」

 

 トランスフォーマー達を除いた黒鋼達は心配そうに流ノ介を見下ろしていた、こう言ってはなんだが密集した事で圧が強くなり、まどろんでいられない。

 

 「はっ!!」

 

 流ノ介は跳ね起きた、後ろにいるサクラを除き、武道の達人級の人ばかりなので流ノ介が頭突きをしてしまうような事態は避けられた。

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「無事で何よりだ」

 

 「ここは?」

 

 「あいつがここを貸してくれたんだ」

 

 この場所を貸してくれたのは小松朔太郎という、ケチな釣り師(適当)らしい。

 バンダナを巻いた男がそうらしいので、流ノ介は礼を言ってみる。

 

 「モヂカラの使いすぎだ」

 

 その言葉に流ノ介は驚きを隠せない、この男は、モヂカラの事を知っていたのだ。侍に関わっている人間でなければそんな言葉は知らないはずだ。

 朔太郎は語る、自分はかつて先代シンケンレッドに仕えている侍を知っていると……

 

 「だが、そいつはもういない……全く、侍だの何だのと偉そうにしてた癖に、結局殿様も守れなかったんだ。一体何のために戦ったんだか」

 

 その言葉は流ノ介にとって初めて触れるものだった、それは言うなれば価値観が違うであろう者の言葉、普段衝突する自覚はある千明とのやり取りも、侍として人々を守るという一点においては同じものを見いだしているであろうという信頼はあるので、ここまでの衝撃を受けた覚えはない。

 

 「……そいつ達はそいつ達なりに戦うからにはそういう事もあると覚悟は決めていただろう、あまり責めるなよ」

 

 「覚悟か……決めた所で、揺らぐぞ」

 

 「ん?」 

 

 疑問を抱くも、対処する暇を与えないようにショドウフォンの通知音が響く。

 流ノ介は急いでショドウフォンを手に取った。

 

 「先代のシンケンジャーの皆はどうなったの?」

 

 モコナは流ノ介が場を外す間に、先代シンケンジャーの事を聞いてきた。

 

 「白饅頭、生きてりゃ今も外道衆と戦ってんだろ、今いないって事はそういう事だ」

 

 「そっか……」

 

 モコナはしょんぼりとして、丸まって小さくなる。

 

 「一人は生きているらしいがな、それでももう戦える体じゃない、だからハワイで夫が面倒を見ているそうだ」

 

 「詳しいんだな」

 

 「憧れ……かな、彼らは大勢の人間を守れる力を持っている。私では守りきれないものも守れるだろう。だから、応援したいし、手に持つ刃が折れていないかぐらいは知りたい」

 

 「あんなのに憧れか……やめとけやめとけ」

 

 「む」

 

 凛は自分達にダメ出しをしてばかりの朔太郎を軽くだがジトッと睨みつけた。

 

 「何ですって?」

 

 流ノ介は慌てて上着を取りに戻ってきた。

 

 「大変です、皆さん」

 

 流ノ介が言うには丈瑠達が、敵の攻撃により高熱を発症してしまったらしい。しかも保って数日。

 だが、その敵の攻撃には舵木折神の力をもってすれば対処可能だそうだ。

 

 「こうしちゃいられねえ、やれるか?」

 

 黒鋼は意気揚々と、おそらく流ノ介より張り切ってその場を後にした。

 

 「はい」

 

 流ノ介も、再び海岸に向かった。

 釣り竿を、振りかぶる。

 そんな時また、朔太郎が話しかけてきた。

 

 「何故だ、何故侍は戦わなければならない?」

 

 疑問にも聞こえるし、引き留めようとしているようにも聞こえる。

 いずれにせよ、長年抱え込んでいるような何かを朔太郎は吐いている。

 

 「戦える奴らが戦わないでどうするんだよ」

 

 黒鋼が真っ先に答えたが、黒鋼の答えは眼中にないらしい。あくまで流ノ介を見て問いかけている。

 

 「志葉家に仕えるのが私の役目だからです」

 

 「そんなの親に刷り込まれただけだ!!侍も殿もあんたの決めた事じゃない、教科書通りに生きてるとそれが崩れた時、どうしようも無くなる。空しさだけが残る」

 

 流ノ介は答えない、だが、表情は陰りを帯びてきている。切り捨てきれないようだ、朔太郎の言葉を……

 

 「教科書はきっかけに過ぎん、そこから先の答えはお前が出すべきだ」

 

 ショドウフォンが再び鳴る、流ノ介は釣り竿片手に取る。

 

 『まだか、流ノ介!!』

 

 雷鳴にも似た怒号が、彦馬の声で放たれた。

 その場にいる誰もが、その叫びにびっくりし、流ノ介の方に注目する。

 朔太郎は、思うところがあるのか少し微笑みながらうつむく。

 黒鋼は流ノ介からショドウフォンを奪い取り、自分の耳に当てた。

 

 「じいさん、釣りをなめちゃあダメだ。下手に急かしたって食いつかねえ時は何やったって食いつかねえ」

 

 『だろうな、黒鋼』

 

 いつの間にか丈瑠に切り替わっていた、彦馬もまたショドウフォンを強奪されたのか?

 

 「………殿様、保って数日の熱出したって聞いたが、平気なのか?」

 

 『平気だ、流ノ介に戻ってくれ』

 

 黒鋼は流ノ介にショドウフォンを返す。

 

 「殿様からだ」

 

 『流ノ介、じいは大袈裟に言っているだけだ。余計な事は気にしないで、お前は釣る事に集中しろ』

 

 「しかし、殿!!」

 

 『いいか、俺は適当に選んでお前を行かせたんじゃない、お前ならできると思ったからだ』

 

 「殿……」

 

 『それまで、少しでも被害を食い止めておく』

 

 そう言って、丈瑠は通話を切った。

 

 「……………」

 

 間違いない、平静無事を装っているが平気ではない。

 平気ではないが、それでも丈瑠は戦おうとしている。

 自分に出来る事をしなければと流ノ介は思った。

 

 「どう思う?お前は」

 

 「朔太郎さん、あの殿なら、命を預けて一緒に戦える。そう思ったのは自分です!!親じゃない、だからその戦いがどんな結果になっても、空しいはずなんてないです。絶対にないです!!」

 

 「…………!!!」

 

 自分の考えと似た答えが流ノ介から出て、凛は少し嬉しくなる。

 

 「もちろん勝つつもりでいますけどね、そのためにもこいつは……!!」

 

 といってもなかなか釣れるものでなく時間が少し経った……

 待ってるだけではあれなので、黒鋼は凛に質問を始めた。

 

 「そういや沙姫様とか言ってたが、この前会ったあの女があんたの主か」

 

 プリンおいしかった

 

 そうかそうかと言いながらモコナの手を握り、遊んでいる凛は敬愛する沙姫をあの女呼ばわりした黒鋼にキレた。友達の綾もその言葉を言われればもっとキレるに違いない。

 

 「沙姫様をあの女だと?取り消せよ」

 

 「私の妻の事なので抗議に参加させていただきます」

 

 二人に詰め寄られ、黒鋼はめんどくさそうに頭をかく。

 

 「あの女はあの女だろ、敬称を付ける間柄でもなし」

 

 「…………」

 

 雰囲気が悪くなっていった所でファイが両者の間を取り持ってなだめ始めた。

 

 「まあまあ、落ち着いて……黒たまもダメだぞ、無駄に火花散らすの」

 

 「で、その沙姫様に仕えたいって思ったきっかけってあったりするのか?」

 

 「というか、何故私に聞く」

 

 「知り合いの忍者に、似たような奴がいる」

 

 蘇摩(そうま)という、黒鋼と同じ人間に仕える女性だ、ただし彼女はその姉にも仕えているが。

 黒鋼と比べられる事もあり、「良い忍者」と言われていた事を思い出す。最後にそう言われてから、年をまたぐ程とはいかないがそれなりに年月が経った事も含めて。

 

 「そうだな…………改めて聞かれると……初めて会った時から、あの人をお守りしたいと思った。あの人だから仕えられるんだ……と思ってもいる、言うなれば、一目惚れに近いのかもしれない……そういうお前はどうなんだ?誰かそのようなお方はいるか?」

 

 「知世姫だ、俺があいつぐらいの頃に出会った。以来俺は彼女に仕えている」

 

 知世姫は、当時……魔物との戦いで半ば獣、もしくは修羅となりかけていた黒鋼の心を人へと引き戻してくれたのだ、そこまでは気恥ずかしくて言えたものではないから黒鋼はその事は伏せた。

 

 凛は小狼(シャオラン)の方を見た。

 

 「というと中学生頃か………」

 

 「私はそうですね……銀河戦争の真っ只中以来になりますか、さして名のある家に産まれたという訳ではないのですが……」

 

 話が白熱し、流ノ介も話に入る。

 

 「私も良いですか?私は、最近招集がありまして……そこで初めて、白馬に乗った殿を見ました。他の侍が倒れている所を構うなと言われた時はカチンと来ましたが、それも我らを信じての事だと知り……」

 

 「知世姫は、巫女で夢見の力を持ってるんだ」

 

 「沙姫様はとても優しい御方なんだぞ、自分より力の強そうな男どもに怯まず立ち向かったり、初めて会ったばかりの女の子(女の体になった後の凛の夫)を何のためらいもなく保護したんだ、並みの人間にできる事ではない」

 

 「後に玉のような姫が産まれ一人、後に三人となっていきました。そして彼女達も立派に親となり……ありがたい事に親子三代に仕えさせていただいているという訳になりますか」

 

 「オレの国の王様もなかなか名君だったんだよね~」

 

 後に小狼(シャオラン)は語る。

 

 「ええ………途中から、(推し)との出会い、それからいかにその人がすごいのかの話に変わっていきましたね。後、軽くなのですが黒鋼さんだけでなく、ファイさんまで話に入るのは本当に驚きでした、おれですか?おれは………皆さんから止められましたね、まるでお前はこっち側じゃないと言わんばかりに」

 

 インフェルノ達は再び海岸にやってきた、砂浜中をうろうろしているためか、車にはなっていない。

 

 『ショックウェーブ、どこだー』

 

 『もしもの可能性はある、一旦総司令官と合流して対策を行うか……苦戦していそうだな』

 

 「そうですね……あなた達はどうです?」

 

 『自分達も似たようなものだ、それはそうと自分も元々メガトロン様という御方の(もと)にいてだな……』

 

 アイアンハイドも話に加わるとは思っていなかった。

 

 「そうですか……?この手応え……他とは違う……」

 

 流ノ介は釣り竿を引く。

 今度はイチゴが釣れた。

 

 「イチゴさん?」

 

 「イチゴ君!?」

 

 『今度は人間か』

 

 流ノ介は急いで、イチゴを救出した。

 そしてイチゴは凛に軽く介抱された。

 

 「どうしたどうした、やけにボロボロだな」

 

 イチゴは、さっきまでの出来事を思い出した。

 

 ~竜宮城(仮) 広場~

 

 丸腰だったからみんな攻撃はやめたが……

 スクワットを始めとした筋トレをさせられ

 

 『さあ、もっといきますよー』

 

 「51……52……53……」

 

 のろけ話を聞かされ

 

 『見てください見てください、これが鶴ちゃんとの結婚写真です』

 

 「キレイデスネ」

 

 猫と犬に絡まれ

 

 『聞かせてやろう、私が知った愛について』

 

 『おい、愛ってのは一人一人が抱きしめるものであってだな……』

 

 さっきの犬と青い戦士とでおでんについての談義に巻き込まれ

 

 「牛すじにインパクトが欲しい所ですね、甘くしますか」

 

 『なん……だと……』

 

 『食感を売りにするか、風味を売りにするかで大分変わるよな』

 

 マンガの感想を求められ

 

 「この辺のコマそんなに重要そうじゃないしもっと小さくして良いかも……」

 

 『ふ……甘いな、才培の孫よ……このシーンの重要性は……』

 

 『明日までに仕上げるんだから』

 

 わびさびについて叩きこまれ

 

 『見えるか?あの向こうに見える空が……まぶしい太陽が』

 

 「まぶしい!!」

 

 しまいには桃太郎が黄色い鬼の棍棒をバット代わりにし、ホームラン並みに吹っ飛ばされてここに戻ってきた。

 

 『またな!!』

 

 「うわあああああ!!」

 

 その途中で、水の抵抗を感じるようになって巨大なメカが巨大なメカに体当たりをしかけているような光景を見かけたのを思い出した。

 

 「………桃太郎に捕まって、色んな奴らが出て、たくさん遊んだ……疲れた、黒鋼さん、あんたのロボで、海中を探索できそう?多分あっち」

 

 イチゴは海の向こうを指差して、気絶した。

 

 「イチゴ様!?」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
デビルークが誇るであろうチーフアシの過去とはいったい?うごごご……


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第9話 舵木忠義道(かじきちゅうぎみち) Cパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。


 「来い、セレス」

 

 黒鋼は自身のロボを呼び出した。

 青い体、龍のような翼、兜、爪がある。

 

 「………いけるのか?」

 

 イチゴがわざわざ指名してきたし、しばらくやることが無いので乗ってみたがただ単にいけそうな見た目であるというぐらいで、よく分からない……

 

 「ダメ元ダメ元、ダメだったら次の手を考えるだけだよ、黒りん」

 

 「ちっしゃーねえか」

 

 小狼(シャオラン)達に海水がかぶらないよう、少しずつ歩を進め、海へと入っていった。

 ゆっくりと、水に浸かっていくその様は……段々と、深い所へと足を運ぶその様は……まるで……そう、入水。

 

 「はん」

 

 黒鋼は、その言葉は最も自分には程遠いものだと確信している。自分の迎える死は、その場一帯が血で覆われた戦いの最中か、老い朽ちての往生か、どちらかでしかない。

 だが、いずれも迎える場はここではない。この世界で果てる訳にはいかない、ここで迷っている暇はない。知世姫について語った後、無性にそう思えた。

 黒鋼は、意を決したように、セレスにアクセルをかけた。

 

 「マジか………こいつ………いけるぞ」

 

 黒鋼は、セレスが海の中、飛行と変わらない程度のスピードで泳ぐのをコックピット部分から感じ取り、驚きを隠せなかった。

 そして海中を進んでいくと………

 沈んだ戦艦に、それを突っつくカジキマグロのような物体が見えてきた……いずれも有り得ないほどのなりと大きさだ。多分これだと思うには充分すぎる程。

 

 「あいつか……まあ、引き上げりゃ分かるだろ」

 

 黒鋼は戦艦を、大根を引っこ抜くようにつかみ、引き上げた。

 

 『ショック!?』

 

 体中にスイッチが入ったのか、全体が光った。

 

 「あんたを探している奴がいるんだ、こんなところで寝られちゃ困る」

 

 『ショック……モチバ、カエル』

 

 舵木折神は、ショックウェーブが浮上すると、黒鋼に見向きはせずにすぐに海岸に向かっていった。

 

 「俺に捕まえられる気はねえってか、だが……流ノ介を追ってるのか?」

 

 黒鋼も、急いで海岸に戻っていった。

 

 『ショック……ウェーブ!!』

 

 そして空へと飛んだショックウェーブは戦艦から変形し、鋼鉄武装のスーパーロボットとなった。

 

 『おお……無事だったか』

 

 「あれが……ショックウェーブ……」

 

 結構デカい、ビルよりデカい。

 

 「先日はお世話になりました。ありがとうございます」

 

 便宜上、ゲネガーグと呼ばれるようになった怪獣との戦い、その時シンケンオーに合体してもらったり、手を貸してもらったりするなどお世話になったのだ。

 

 『雑談はやめだ。この振動……間違いない、デカいのが来るぞ!!』

 

 流ノ介はインフェルノのその言葉を聞くと同時に釣り竿を振る。

 空き缶とも、イチゴとも比べようのない重み。分かる、確実に、舵木折神はそこにいる。

 その証拠にさっきよりモヂカラの吸われ方が激しくなっていく。

 

 「やれるか?やめておくなら今の内だぞ」

 

 「いいえ、やめる訳にはいきません…………」

 

 流ノ介の言葉に朔太郎は頷き

 

 「モヂカラに集中しろ」

 

 と流ノ介を援護する側に回った。

 朔太郎の助言を受け、モヂカラの方に集中を始めた。

 黒鋼もセレスから降りて、加勢する。

 

 「揺れる心配はするな!!お前はお前のやるべき事をやれ!!」

 

 「私も手伝いましょう!!」

 

 男手が流ノ介含めて四人、そのうち二人は身長の高く、力の強い大男、支えとしては申し分ない。

 

 「ありがたい!!」

 

 「タイミングは合わせます」

 

 「いけー!!」

 

 流ノ介は、釣り竿を引き揚げた。

 

 バッシャーン!!

 

 「!!」

 

 まさしく舵木折神だと言えるものが海からでてきた……

 デカい。

 デカすぎる。

 ショックウェーブほどではないが……手違いでもし乗られたら、死ねる。

 誰もが息を飲む中、流ノ介は、用意していた「捕」の秘伝ディスクを掲げた。

 

 「来い、舵木折神!!」

 

 流ノ介の呼びかけに答えてか、舵木折神は「捕」のディスクに向きを変える。

 舵木折神がその場から消失すると共に「捕」のディスクは、「舵木」の文字に変わった。

 

 「やった……やったぞー!!」

 

 流ノ介は嬉しくなり、飛び回った。

 

 「ファイ殿……残りを全部食べても……?」

 

 流ノ介はそのままファイに聞いた。

 

 「良いよ~小狼(シャオラン)君」

 

 「はい」

 

 流ノ介は、栄養補給とばかりに紙袋に入った残り全部のたい焼きを食べた。一つ一つ手に取って食べたので、少々時間のロスあったが。

 流ノ介の消費したモヂカラが、たい焼きを食った分チャージされる。

 

 「では、行ってきます」

 

 流ノ介は、海岸を去る。ここでやるべき事は、もう終わった。

 

 「やはり………良いものだな」

 

 朔太郎が感慨にふけっていると、黒鋼達が話しかけてきた。

 

 「何者だ?テメェ」

 

 「?」

 

 「あなたの言っている言葉は当事者の言葉だ、だがあなたは侍じゃない、第一侍はほとんど……」

 

 凛はそれ以上は言わなかった。

 

 「彦馬殿から聞いた話だが、志葉家に仕えるものの中には、侍だけでなくとも代々……」

 

 「まあ……そういう事だ、あいつには聞かれなかったが……」

 

 朔太郎は語る、彼もまた、先代のシンケンレッドに仕えていたと………だが、もうその先代シンケンレッドはいない。あるのは、ただ空しさばかり。空しさを覚えたのは朔太郎自身。

 

 「やはり……そういうことか」

 

 『ショック……メガトロンサマ、イナクナッタ。オマエノキモチ、ワカル』

 

 『自分達もメガトロン様を亡くして久しい……共に戦い続けてきた頃より、失ってから今に至るまでの方が長かったような気もする』

 

 「そうか………」

 

 『だが、空しくなる暇なぞない。自分達が今サイバトロンと共にいるのも、メガトロン様がその前にそうお決めになったからだ……でなければ、あれほどいがみ合ってきたサイバトロンとなぞ……』

 

 「そのメガトロンって方が望めば……また争うんですか?」

 

 小狼(シャオラン)は何気ない風にアイアンハイドに聞く。

 

 『そう……だな……メガトロン様がそれをお望みであれば……後貴様、メガトロン様だぞ、覚えておけ』

 

 『おい、聞き捨てならんぞ、アイアンハイド』

 

 『ええい、うるさいぞ、サイバトロンめ……とにかくだ……主を失って空しくなるのも仕方のない事だ、だがその前に主の望んでいた事を叶えるのが先だと思う。そうすれば、自分達に知る由はないが、どこかできっと喜んでくれると……私は……』

 

 「くだらねえ」

 

 黒鋼は、そっぽを向きつつ、頭をかく。

 

 「そうなる前に、俺は全てを斬ってやる……白饅頭、行くぞ」

 

 「行くの?」

 

 「ああ……あの毒は、シンケンジャーの奴らでも直撃したって話だろ、て事は俺達が戦ってもそう変わらんって事だ」

 

 「止められる黒様じゃないからね、そういう訳で、イチゴ君をよろしくね~終わったら迎えに行くよー」

 

 「あ……ああ」

 

 「では!!」

 

 モコナは小狼(シャオラン)の頭に乗り、そして彼らは走っていった。

 

 『おい、待て!!くだらねえとはなんだ貴様ー!!』

 

 アイアンハイド、ショックウェーブは黒鋼を追いかけていった。

 

 「…………あなたは?」

 

 ザスティンはインフェルノを見る。

 

 『奴らは戦士だ。子供ではないし、いちいち行動を共にしなくても良かろう……それより、俺は曲がりなりにも消防車でな……こいつを看るぞ……君はどうする?』

 

 朔太郎は考える仕草を取る。

 

 「そうですな……」

 

 ~一方、その頃~

 

 ヤミオロロは、毒である自身の肉体から発する気体を道端の親子に嗅がせようとしていた。

 

 「俺のよだれ渋いよ~飲む?」

 

 異形の怪物が、何かものすごく変態的な言動を取り、恐怖で全体が強張る。

 その現場に丈瑠が現れ、ヤミオロロに攻撃する。

 

 「逃げてください」

 

 親子が逃げ切るのを見て、丈瑠はヤミオロロの方を向く。

 

 「お前が嗅ぐか~?」

 

 よそ見をしていたタイミングで、丈瑠はヤミオロロの毒を受ける。

 

 「ぐっ」

 

 丈瑠はよろけるも、尚立ち上がる。 

 

 「一度吸えば、二度も三度も……同じだな」

 

 暴論過ぎだよとイチゴがその場にいればそうツッコミを入れるだろう。

 一度病気にかかって、苦しんでるなら何度移されようと一緒と言っているのだ。

 それにいつもの刀捌きのキレも失われている。

 そうこうしている内に他の3人もやってきた。

 だが、やはりフラフラでモヂカラを使って変身もできなさそうな程弱ったままだった。

 それは丈瑠も一緒だが……

 

 「俺の汗苦いよ~いる?」

 

 ヤミオロロは滑って四人に体当たりしてきた。

 

 「ぐぁああああ!!」

 

 すぐに、みんな倒れていった。

 無い物ねだりとはいえ、そろそろ流ノ介が舵木折神を捕まえてこっちに来てくれないかと思えてきた。さすがにもう、我慢も難しくなってきている。生存本能が、そう思わせているのか?

 突如、氷雨が降ってきた。

 天然のものではない、空のように青みがかっている。

 

 「なんだこれ?」

 

 氷雨は異物を洗い流すように、しっとりと、優しく包み込んでくる。

 

 「これは……」

 

 体を蝕んでいた熱が、引いていく。

 

 「体が………楽に」

 

 「殿ォ!!お待たせしました!!」

 

 流ノ介が出てきた、手に新たな秘伝ディスクを携えて。

 

 「やったな!!」

 

 「はい!!」

 

 「元気ハツラツってなった所で、いくぜ!!」

 

 「ええ」

 

 「うん」

 

 「ああ!!」

 

 ~例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「「一筆奏上!!」」」」」

 

 「破ぁ!!」

 

 ショドウフォンで文字を書きそれを反転させ、各々のモヂカラによって形成させたスーツに身を包み、5人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンレッド、志葉丈瑠」

 

 「同じくブルー、池波流ノ介」

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 「天下御免の侍戦隊」

 

 全員「シンケンジャー、参る!!」

 全員ヤミオロロに向かっていった。

 体調快復し、ブルーも合流し、もはや彼らに隙なし。

 

 「はぁ!!」

 

 「ふっ!!」

 

 「おらぁ!!」

 

 「やぁ!!」

 

 シンケンマルの太刀筋も元通り、快刀乱麻のよう。

 

 「うあー」

 

 ヤミオロロは吹っ飛ぶ。

 

 「お前もくらえー」

 

 ヤミオロロは、毒をくらわせた覚えのない流ノ介を対象に毒をくらわせようとする。

 

 「シンケンマル・水流の舞!!」

 

 だが、流ノ介は文字通り水流で、ヤミオロロの毒を打ち払い、ヤミオロロに直撃させる。

 

 「洗い流されてくよーん」

 

 「トドメだ、烈火大斬刀・大筒モード」

 

 丈瑠は烈火大斬刀をバズーカに切り替えた、四人はそれを見て跪く体勢を取る。

 

 「流ノ介、一緒に行くぞ」

 

 「…………は!!」

 

 流ノ介は、丈瑠に頼られた事が嬉しく少しウキウキ気分で烈火大斬刀に舵木ディスクを差し込む。

 

 「舵木・五輪弾!!」

 

 五人のモヂカラを込めた一撃を、ヤミオロロに向かって放つ。

 

 「ギャー!!」

 

 ヤミオロロは爆発した。

 

 「成敗!!(by流ノ介)」

 

 そして二の目へ……

 

 「せっかくだし、巨大化して嗅がすか~」

 

 この時、いつもより多めにナナシ連中も現れた。

 丈瑠達はショドウフォンを取り出す。各々の折神を呼び、シンケンオーへと合体するのだ。

 

 「出遅れたが、ここから先は俺も出るぞ!!」

 

 黒鋼がセレスに搭乗して参戦してきた。

 

 「という事は……」

 

 見渡すと思った通り小狼(シャオラン)達も来ていた。

 

 「イチゴはどうした?」

 

 説明したのは………流ノ介。

 

 「それがその……少々事情がございまして……今は優しいお方に介抱されています」

 

 「そうか………分かった」

 

 気を取り直してショドウフォンで、折神を呼ぶ。

 

 「折神大変化!!」

 

 そして巨大化。

 

 「侍合体」

 

 五体の折神が合体し、シンケンオーとなった。

 

 「シンケンオー、天下統一!!」

 

 「俺も来ました、押忍!!」

 

 セブンガーも現れる。乗っているのは、ハルキだ。

 

 「怪我はもう大丈夫か?」

 

 「押忍!!大丈夫です、俺、打たれ強い方ですから」

 

 「行くぞ」

 

 「押忍!!」

 

 セブンガーの鉄拳で、ナナシ連中の一人を殴る。

 ナナシ連中、一人爆発。

 

 「でえりゃああああ!!」

 

 黒鋼の駆るセレスの放つ斬撃は、ナナシ連中を瞬く間になますのように斬り裂いていく。

 

 「やるな……よーし、俺も行きますよ!!」

 

 ハルキはウルトラゼットライザーのトリガーを押します、しかし、何故か反応が無いのでございまする。

 

 「あれ?え?」

 

 戸惑っている内にナナシ連中の一人がセブンガーに襲いかかろうとしてきた。

 

 「あ!?」

 

 反応に遅れ、ハルキが危険を感じざるを得なくなったその時……

 瞬間、一閃。

 ナナシ連中の一人は、切り捨てられた。

 斬ったのは黒鋼の乗るセレスだった。

 

 「ボケッとしてんじゃねえ」

 

 「押忍!!ありがとうございます!!」

 

 「…………」

 

 黒鋼は感謝された事で、こっぱずかしくなり、セレスごとそっぽを向いた。

 

 『あいつめ、ムカつく言葉を言うが腕は立つな……』

 

 アイアンハイドは呟きつつも指部から発する砲弾をナナシ連中に浴びせ、倒す。

 

 『ショック、ウェーブ!!』

 

 ショックウェーブは自身に付いた大量の砲台を使いナナシ連中を広範囲に攻めた。

 

 『うむ……流石だな、ショックウェーブ……蹴散らすぞ』

 

 アイアンハイドは、指の部分からビームを撃ち、ナナシ連中を蹴散らす。

 

 『恨みはないが、消えてもらうぞ』

 

 そして、全ていなくなった所で狙いは全員ヤミオロロになった。

 

 「なめるなよ~じゃーん」

 

 毒を霧状に吐かれ、目くらましをくらった。

 直接は斬れそうにない。

 

 「これで斬れまい」

 

 「構うもんか、閃竜(せんりゅう)飛光撃(ひこうげき)!!」

 

 黒鋼の剣技をトレースし、セレスは衝撃波を放つ。粗方ナナシ連中を撃ち終わったアイアンハイド達も、ヤミオロロを狙う。

 しかし、大きくなったその衝撃波を持ってしても、ビーム攻撃を持ってしても、ヤミオロロには当たらない。

 毒の霧を隠れ蓑にしているようだ。

 

 「何!?」

 

 「あかん、どうにかせな」

 

 「殿、舵木折神なら!!」

 

 「そっか」

 

 「流ノ介、お前が捕まえたんだ、使えるな?」

 

 「はっ!!」

 

 流ノ介はシンケンマルに舵木折神のディスクをセットする。

 舵木折神が出現。

 

 「おお!!あれ捕まえたんすか?すげえ」

 

 「改めて見ると壮観だな……」

 

 『うむ、よく分からんが早速力を使っているな』

 

 『ショック!!』

 

 「舵木魚雷!!」

 

 流ノ介が叫ぶと、舵木折神からミサイルが飛びでてくる。

 そのミサイルは毒の霧を貫通し、爆発する。

 よく見るとミサイルは水を纏っている、あれで洗い流しているのか?

 

 『ショック!?』

 

 『我らは、そんなミサイルを出せないのだが!?』

 

 まあまあと、ことはは通じるかは分からないがアイアンハイドをなだめる。

 毒の霧を払いのけ、その(つるぎ)のように長く伸びたブツでヤミオロロのお尻にプスリと一発当てた。

 

 「ギャー!!」

 

 「やっぱりすごいねえ、舵木折神」

 

 「続いていきます」

 

 流ノ介は、シンケンマルに舵木ディスクを差し込む。

 

 「侍武装!!」

 

 シンケンオーは元々の兜を外し、分裂した舵木折神を背中、頭へと装着した。

 耳のように舵木折神の頭部が展開して、完成する。

 

 「カジキシンケンオー、天下武装!!」

 

 「あの魚も付けられるのか」

 

 「ダイシンケン・ナギナタモード」

 

 薙刀(ナギナタ)だ、ダイシンケンを二つ用意、そして持ち方を調整する事でダイシンケンを刀でなく薙刀へと変化させている。

 

 「うぉー」

 

 ヤミオロロはすぐに手持ちの武器を振り回してきた。

 

 「はぁ!!」

 

 負けじとカジキシンケンオーもダイシンケンを振り回す。ぐるんぐるんと動かしているが、無駄のない動きでヤミオロロが振り回す武器の一手一手をことごとく封じる。

 

 「そこだ、いけ」

 

 「はっ」

 

 流ノ介は、シンケンマルにセットした舵木折神を力強く回す。

 ダイシンケンを放り投げ、カジキシンケンオーの頭部を開いてくっつける。頭が凶器となった。

 

 「舵木・一刀両断!!」

 

 トドメに一発、ごめんなさいと頭を下げる、もしくはお辞儀をするように、直角に上体を傾け、きついのを当てる。

 瞬間的にダイシンケンを振り下ろす攻撃速度を上回り、ヤミオロロを切り裂いた。

 

 「消毒、消毒、バイバーイ」

 

 ヤミオロロは爆発、今度こそ……やっつけた。

 

 「これにて、一件落着」

 

 『デストロン、大勝利だな』

 

 「シンケンジャー、つよーい!!」

 

 モコナは、地上で拍手した。

 

 ~海岸~

 

 「…………………」

 

 イチゴは目を覚ました。

 

 「イチゴ様、起きましたか?お加減は」

 

 すぐに凛とザスティンが寄ってきた。

 

 「元気元気。凛さん、ザスティンさん、ここはどこ?」

 

 「近くの小屋です、イチゴは少し疲れて眠っておられました」

 

 相当桃太郎との一件が応えたみたいだ。まだ体の節々が痛む。

 

 「あの侍にこれを渡しとけと言われた、頼めるか?」

 

 イチゴは凛からバンダナを巻いていた男の書いた手紙をもらった。

 

 「うん」

 

 イチゴがそれを受け取ると、凛は海岸から去ろうとする。

 

 「私はもう戻るよ、ブラ……捜し物はここにはなさそうだし」

 

 「そう……じゃあね」

 

 去り際に、彼女は付け加えた。

 

 「あいつには元気だったと伝えておくぞ、言葉に出してはいないが、ずっとお前の事を心配しているからな」

 

 父か?母か?両方か?余計な事だと思った、彼らに報告する事がじゃない、彼らに報告するとイチゴに言う事が…………

 

 「…………………………」

 

 「では、イチゴ様もお気をつけて」

 

 ザスティンも凛について場を後にする。

 

 『アイアンハイド……終わったか?よし、こっちも終わった、総司令官の元に帰ろう………場所はさっきの所だ』

 

 インフェルノも、その場を後にして、帰っていった。

 そうこうしている内に、流ノ介がやってきた。

 

 「イチゴ君、あの人達はどうした?」

 

 「もう帰っちゃったよ……流ノ介さん、これ」

 

 イチゴは凛から渡された手紙を流ノ介に渡した。

 受け取った流ノ介は、すぐに開いて中を確認する。

 流ノ介は声に出して読んできたので、内容は筒抜けだった。内容はこうだ……

 

 『若い侍へ あんたのおかげで大切なものを思い出した 自分のするべき事も ありがとう』

 

 イチゴの認識だといつの間にか、流ノ介は誰かに感謝される事をしていた…………よく分からないが侍に対して尊敬の念を抱かざるにはいられない。

 

 「朔太郎殿……私も自分の気持ちを見つめ直す事ができました。ありがとうございました……」

 

 流ノ介は、手紙に向かってお辞儀をする。

 多分、朔太郎への感謝を込めて………

 

 「グズグズしちゃいられねえ、戻るぞ」

 

 「黒鋼殿?少々早いですよ」

 

 「黒っち~もう少しゆっくり歩きなよ」

 

 「明日も羽根探すんだ、グズグズしちゃいられねえ」

 

 彼の背中は語る……何か、焦っている?

 その焦りが何かは分からないが、イチゴには彼を追いかけるしか無さそうだった。

 帰った後、イチゴが寝込んだ事を丈瑠に叱られてしまったのは内緒の話。

 

 「色々あったのは信じるが、モコナ達と流ノ介の供をできずに寝込むのは関心しないな」

 

 「すみません」

 

 ~志葉屋敷~

 

 その日の夜、黒子が一人……彦馬と会っていた。彦馬は、旧友との再会を懐かしみ笑みがこぼれていた。

 

 「おお…………よく戻ってくれた、先代殿の死で何もかも捨ててしまったお前が」

 

 相手は、朔太郎だ。

 

 「もう一度、負ける事など考えなかったあの頃に戻ってみようかという気になりました」

 

 「共に、侍達の影の支えに」

 

 「はい、良い侍達ばかりで。ところで、例の魔女の使いと行動を共にしていた少年は……」

 

 「イチゴか?お主のように一族代々という訳ではないが、少々訳ありでな………殿の意向もあって黒子として置いておる」

 

 「なるほど……大変そうですな、見立て通りなら、影であるには濃いかも」

 

 「出自が出自故、影でいさせてやる方が、この場合は良いかもしれん。いずれその時は来るだろうが……それまでは先輩として導いてやってくれ」

 

 「なるほど」

 

 朔太郎は頷き、頭巾を被り、顔を覆った。

 

 ~天条院邸~

 

 「ホーッホッホッホッホ!!ザスティン様ー、凛、お帰りなさい」

 

 二人の帰還、沙姫は盛大に出迎えた。

 子ども達も別の部屋の隙間から覗いている。

 中には凛の娘、九条(らん)もいる。

 

 「沙姫様ー!!」

 

 凛は、沙姫の姿を見かけた途端、涙を見せ、我を忘れて寄りかかってきた。

 

 「ど、どういう事ですの?」

 

 「う……うう……」

 

 「沙姫様、凛様はその……いつかは我が身に関わるかもしれない話というか、そういう話を聞いてしまい……」

 

 ザスティンも、むせび泣く様子を見せる。

 

 「?」

 

 「蘭……そうだな……」

 

 凛とザスティンは、今日の出来事を語った。

 

 「なるほど……兄上がいたんですね」

 

 最近ちょっと見かけたぐらいで、十代になりたての蘭はろくに思い出も作った事はなかった。物心の付くか付かないかの時、彼はいなくなった。

 

 「なるほど………事情は分かりました、それはつらかったでしょう」

 

 「…………………」

 

 沙姫は、改めて凛を抱擁する。

 

 「凛、私は何かされようと返り討ちにしますし、おばあちゃまになっても、あなたが気張らなければならないぐらいずっと長生きします。それなら安心でしょう?」

 

 「ならば私は、そんな沙姫様を守れるように更なる精進をしてまいります!!」

 

 自然と、二人だけの世界が展開されていく。

 友達ぐらいだろう、この輪に参加できるのは………

 

 「ザスティン様……沙姫様と母上がなんだか盛り上がって近寄りがたいのですが」

 

 若干引き気味に蘭はザスティンに言う、しかしザスティンは涙を流し首を横に振る。

 

 「すみませんが、今日は母君をそっとしてやってください。主君を守れずに自分だけが生き延びる……考えるだけでも、つらいのです」

 

 「そ、そうなのですか」

 

 「蘭様も、失いたくない主というものについて、いずれ知るかもしれません。知らないままでいるかもしれません。ですがまあ、知らなければいけないとは思っていません、親と子の関係性が、必ずしもそのまま受け継がれるという事はないかもですし……蘭様は蘭様で思いのままに過ごしていただければそれで、ええ………はい」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。丹波や朧様は、話にまだ出てきてないので組ませられなかったであります。


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第10話 悪口はヤメテ Aパート

皆さん、こんにちはもしくはこんばんは……
あのトゲトゲ星人のトゲトゲ星人である姿が本編より早めに登場しちゃったりするでございますです。


 夕方……みんな仕事から帰る頃になってきた。

 イチゴは小狼(シャオラン)達の羽根探しを手伝うためにいる。ついでに今買い物に行っている。もう少し早く行っておけばこんな絶対混む時間帯で買わなくて良かったと後悔しているのは内緒。

 当番として選ばれた屋敷の備蓄の買い出し。

 特に志葉家の献立は和食が多いから、醤油、みりん、豆腐、塩、砂糖、etc...後どんなものにも言えるが肉や野菜とか生物は新鮮な方が良い。

 それと今週屋敷内の小麦粉の消費量が妙に多い。

 

 「(うーん、どういう事?)」

 

 調理道具を見ても、小麦粉を使用して何かを作った形跡はなし。

 そんなに小麦粉を使用する献立も無かったように思うのだが……

 目くじらを立てるべきではない……が、目についた以上気になって仕方がない。

 後で分かった話だが、使用者は…………ことはだった。用途が特殊すぎて、地球、デビルーク含め共に都会育ちのイチゴには分からない使い方で……小麦粉は料理に使うものであると見ているイチゴには無い発想だった。

 

 ~時は遡る~

 

 まず最初に稽古があった。侍の日課の内でありその日は千明とことはが竹刀で打ち合う。………彦馬達もお褒めの言葉を出すほどことはの方が腕が良く、千明は少し痛む程度だが怪我をした。稽古で体が痛む千明の体に、ことはは湿布を貼ろうと言い出してきた。

 救急箱にある物でも貼ってくれるのかなと軽い気持ちで承諾してみると……

 

 「千明、 お ま た せ」

 

 ことはは、小麦粉を溶いてラップに詰め、湿布のようなものを作り上げてやってきた。

 

 「ファッ」

 

 千明は驚いた、予想外のものが出てきたからだ。

 冷たいのは冷たいのかもしれない、だが………効くのだろうか?眉唾物である。

 そんなこんなで千明に貼ろうとしたその時………

 

 「きゃ」

 

 転んで自分の顔面をビチョビチョに小麦塗れにしてしまった。

 

 「ほんまあほやなぁ、うち」

 

 千明は、少々苛立った。

 そこは笑える所じゃない、現にことは以外は誰も笑っていなかった。

 イチゴは、その日は勤務日では無かったのでその現場を見る事は無かった。

 話は戻るが、和食と言えば客人扱いの小狼(シャオラン)一行のうち、ファイは住んでいた文化圏が箸を持つ所ではないようで、箸を持ってもらった時、箸を2つ重ねて突き刺すものであるかのように扱っていた。

 ここは彼のためにシチューの材料でも買っておくか?スプーンで食べるもの……洋食的なものを久しぶりに作る口実にできるかもしれない……煮物で充分と言われるかもしれないが……また今度献立を決める時期で良さそうだ。彦馬に進言するのは骨が折れそうだが………

 

 「(黒子をヘルプで呼ぶ方が良いかな……)」

 

 思ったより買いすぎた、重い。

 

 「(グググググ……)」

 

 小狼(シャオラン)達はまだだろうか?

 近くの文化館に突撃して一時間は経つ。

 展示物を見て回ってるのだろうか?

 彼らの付き添いも仕事であるのだ、一応、待たなければ……

 そうこうしていると、男と頭巾越しに目が合った。

 その男はストレイジの隊服を着ている。ハルキより若干年を重ねているように見えるがそれだけではない、見た目の年齢以上に雰囲気が、経験豊富な何かを漂わせていた。

 多分、相当な修羅場をくぐり抜けている……

 

 「黒子……大変そうですね」

 

 話しかけられたのでイチゴは男に会釈した。

 左胸のポケットの刺繍には「HEBIKURA」と表記されていたのでヘビクラと読む事にする。

 ヘビクラは今帰りだろうか?

 彼らにも、そういう時間があるんだなと、人間的な親しみを感じる。まあイチゴも黒子なので、似たようなものだが。

 その時、隙間から赤く光が差し込む。

 外道衆が出てくる兆候だ、ほら………出てきた。

 

 「……………」

 

 意匠としては黄色いキノコか、はたまた黄色いタヌキか?確かなのは緑の目と、それと同じ色、形の玉を体中にちりばめているという所。そして千○パズルの目玉のような、大きく開いた眼球の形を持つベルトが印象的だった。だからか、多数の目玉がそこにあるよう思わせる。そんなに目玉を引っさげて、いったい何を見るのだろう?いったい、何をその目で射抜くのだろう?

 思索にふけっていると、ヘビクラが前に出てきた。

 

 「人を守るのも仕事の内なんでな……お前は逃げろ、そして侍でも呼んでこい」

 

 そして、携帯していた拳銃を構えた。

 

 「あいにくこれしかねえが」

 

 対怪獣を想定していたなら、ハルキ達のようにジャケットとヘルメット、そしてライフルを装着していたのだろう。

 男は拳銃を持って、外道衆と相対する。

 

 「それは光の戦士の戦い方じゃない」

 

 「!!」

 

 ヘビクラはその言葉で吹っ飛んでいった。

 今回の外道衆は、言葉で人を吹っ飛ばせるのだろうか?

 

 「………………………!!(こっち!!)」

 

 避難誘導をしようと、黒髪の女子高生に近づいてジェスチャーを仕掛けた……その時

 

 「ぼっち」

 

 「キャー!!」

 

 女子高生は飛ばされていった。

 これでは逃げてもらっても、何かを言われた途端、意味が無くなる。

 

 「!?」

 

 『ラジャー!!』

 

 イチゴは、最近出番が無いので首飾りに変わってもらっていたカイを起動し、救出しに行ってもらった。ヘビクラは少々間に合いそうにないので、防衛軍の隊員の身体能力に賭けるしかない。

 

 『キャッチしました、寝かせます』

 

 「(でかした!!)」

 

 白髪混じりのおじいさんも

 

 「整理整頓!!」

 

 「イヤー!!」

 

 帽子を被った一般人も

 

 「お気に入り0」

 

 「アー!!」

 

 スーツを着たおじさんも

 

 「浮気者!!」

 

 「キャー!!」

 

 イチゴを除いて、その場にいる全員が吹っ飛ばされた。それは幸か不幸か、分析する時間と試行回数を与えてくれた。

 奴は、おそらく人の言われたくない言葉、言われれば傷つくであろう言葉を用いて、相手を吹っ飛ばしている。俗に言うチクチク言葉というものを、相手にぶつけているのだ。

 無論、それが判明した所で、いずれイチゴが狙われる事に変わりない。丈瑠達が来るまで待てるだろうか?

 

 「次はおまんだ」

 

 その時は早く来た。

 幸い、人はいない。だが、今背を向けて逃げれば攻撃される危険性はある。

 

 「………………………」

 

 丈瑠にまた怒られる可能性はあるが仕方ない。

 イチゴは手を前に出して構える。戦えはしないが時間稼ぎができれば、御の字といった所か……

 

 「あんた、何者?」

 

 言葉で能動的に人を傷つける奴が、言葉を無視できる筈はない。思った通りすぐに言葉が返ってきた。

 

 「わしの名前はズボシメシ」

 

 「そう……」

 

 「おまんはそうだな…………」

 

 今日のアヤカシはイチゴに向けて、ある言葉を言い放つ。

 何が来るかの予想はしていた……が、回避は不可能。その一言で、世界が真っ白に変わっていくような衝撃を受けた。

 

 「ああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 自身の叫び声以外は、静寂しか耳に聞こえないような、重苦しさも感じる。

 

 「うぷ……」

 

 イチゴは派手に吹っ飛んだ、そして地面に着地した途端、口から嘔吐する。それが黒子の頭巾に付着し、気持ち悪い感触と臭いが付いた。

 

 「ああ……」

 

 やっと、静寂は消えた、強烈な不快感を残して……

 視界がぼやけている中、イチゴに近づいてくる誰かが見えた。

 ヘビクラだ、特徴的なネズミ色の隊服は、多少ぼんやりしていても分かる。だが少し、さっき見た時より右側の髪が垂れている気がした。

 

 「おい」

 

 「吐いたものが頭巾に付いてるぞ」

 

 ヘビクラは、緊急事態という事もあって、強引にイチゴの頭巾を引っ剥がした。

 

 「あーあ、こりゃあダメだな……もう今日はこれ着けて黒子できねえ」

 

 「1人ものすごいのがいたな、いいぞ、三途の川の足しになるかもだ」

 

 「つか、お前……さっき吹っ飛ぶ前に言われてた言葉……」

 

 聞かれていた!!

 ヘビクラと、ズボシメシの視線をより重たく感じ、いたたまれなさも沸き起こってくる。

 限界を感じ、イチゴは気絶。

 

 「マジかよ……」

 

 ヘビクラは、深めのため息を吐く。

 思ったより、面倒事を抱え込んでいる奴が目の前にいたからだ。

 それからやっと丈瑠達がやってきて、ヘビクラに下がるように言う。

 

 「下がっててください」

 

 ~例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「「一筆奏上!!」」」」」

 

 「破ぁ!!」

 

 ショドウフォンで文字を書きそれを反転させ、各々のモヂカラによって形成させたスーツに身を包み、5人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンレッド、志葉丈瑠」

 

 「同じくブルー、池波流ノ介」

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 「天下御免の侍戦隊」

 

 全員「シンケンジャー、参る!!」

 

 「ちょっと待ってください」

 

 ヘビクラはシンケンジャーに留まるよう促した。伝えきっていない事があるからだ。

 

 「あの怪人は、人の心の傷を言葉で抉ってきます。そのショックを物理エネルギーに変えて人を吹き飛ばすようです」

 

 そう言い残して、ヘビクラはその場を去る。

 

 「忠告、感謝する…………てっおい、イチゴ!!」

 

 イチゴは、苦しそうに倒れている。下手をすれば泡を吹きそうな程だった。

 

 「イチゴ、やられてんぞ」

 

 「大丈夫か?イチゴ君」

 

 「そのために早く倒さないと」

 

 五人は、シンケンマルを構えた。

 

 「おい、あいつ……」

 

 小狼(シャオラン)達は、文化館から出てきた……すぐ、そこが戦いの現場になっていた事に気づき、驚いた。

 

 「おれ達も協力して倒しましょう」

 

 「オッケー」

 

 「いけいけゴーゴー」

 

 「頑張って……」

 

 「お前達……言っても無駄か……」

 

 丈瑠は小狼(シャオラン)達に敵の能力を説明した。

 

 「はん、言葉だけで人を吹っ飛ばすとか、さすがにデタラメだろ」

 

 黒鋼は、すぐには信じなかった。

 

 「デタラメではない、自分の心で確かめてみろ」

 

 茉子

 

 「一生独身」

 

 「キャー」

 

 千明

 

 「落ちこぼれ」

 

 「ウワー!!」

 

 丈瑠

 

 「嘘つき、大嘘つき」

 

 「ぐはぁ!!」

 

 流ノ介

 

 「ファザコン」

 

 「グワー!!」

 

 全員瞬く間に、吹っ飛ばされていった。

 

 黒鋼

 

 「マジか………」

 

 黒鋼は実際に言葉で吹っ飛ぶ事に驚きつつも、蒼氷(そうひ)を手に取り、ズボシメシに向かう。

 

 「ロリコン」

 

 「うっ」

 

 一言で黒鋼も吹っ飛ばされる。

 

 「黒鋼さんまで!?」

 

 小狼(シャオラン)は、パニックになりつつ、自らもズボシメシに向かう。

 

 「身分違いの恋」

 

 小狼(シャオラン)もやはり、ズボシメシから、キツい一言を言われた。

 

 「うわぁ」

 

 あまりの衝撃に小狼(シャオラン)も吹っ飛ぶ。

 

 「小狼(シャオラン)くーん!!」

 

 サクラは手を伸ばすも、もう既に届かない距離にあり、彼の手を掴めずにいた。

 

 「やめてください、こんなこと」

 

 無駄とは思うが、サクラは説得を試みた。

 

 「何故止める?わしは言葉を発しているだけだ、勝手に傷つく奴らが悪いだけの事。おまんも言っておこうか」

 

 ズボシメシはサクラに目を付ける。

 

 「サクラー!!」

 

 助けに行きたい、でも、小狼(シャオラン)自身が今まさに遠くまで飛ばされているのだ。はっきり言って、どうしようもない。一刻も早く、飛ばされたサクラを救出する方向で行くのが肝要か。

 

 「こいつ、心に穴ぼこが開いてて読みにくい……後だ後」

 

 今まで、小狼(シャオラン)達が旅をしてきたおかげで大分良くなったが、サクラは記憶を無くしている。しかも、その記憶は心を形成している分の記憶………複雑だが、今回はそれで助かった。小狼(シャオラン)はホッとして、飛ばされた。

 

 「みんな、しっかりせんとあかん…………残ったのはうちだけや、頑張らんと」

 

 「おまんもくらえー」

 

 ズボシメシは、ことはにも口撃を入れようとする。

 

 「おい、やべえって、ことは」

 

 千明はそう勧告するが、ことははそれはしなかった。すぐさまズボシメシの、口撃が始まる。

 

 「ドジ」

 

 ことは、歩みを止めず。

 

 「アホ」

 

 尚、歩みを止めず。

 

 「バカ」

 

 むしろ勢いを増し

 

 「マヌケ」

 

 ズボシメシへと狙いを定める。

 

 「どんくさ女」

 

 連続で受けても、ことはは怯まない、動じない。

 

 「ランドスライサー!!」

 

 そして、シンケンマルを専用武器に替え、ズボシメシに一発、攻撃を当てた。

 

 「クッソー………誰かいないか」

 

 ズボシメシはことはを吹っ飛ばす事を諦め、別の誰かに悪口を言って吹っ飛ばして気を落ち着かせる事にした。

 サクラは時間がかかるので無視。

 モコナは体型が小動物に近い、小動物は吹っ飛ばしても面白くないので無視。

 そこで運悪く通りすがった通行人を狙う事にした。

 

 「そんな……」

 

 「まあまあ、ここはオレに任せといてよ」

 

 そこに颯爽と前に出てきたのはファイ

 

 「ファイさん…………いないと思ったらいつの間に………」

 

 「危険だ、止せ!!」

 

 丈瑠は止めるよう促すが、ファイはズボシメシに向かってゆったりと歩き出す。

 

 「のろ」

 

 そしてズボシメシが言い切るより早く、ニッタリとした笑顔である言葉を口にする。

 

 「短足」

 

 言葉の数が少ないので、ファイの方が早く相手の耳に届いた。

 

 「自分がちょっと長いからってー!!」

 

 言われたズボシメシは、ショックのあまり星になった。

 

 「退却しよう、ことはちゃん……そろそろあいつに取っても水切れ時間じゃないかな?」

 

 外道衆についてある程度は学んだ、奴らは、地上に出ると定期的に水切れを起こす。

 

 「急患もいるし」

 

 倒れているイチゴを見やる。

 

 「やられた人達の搬送もある」

 

 怪我はなさそうではあるが、ずっと寝そべらせるわけにもいかない。

 仕方ないので丈瑠達は、戦いを止めた。

 

 「くそー」

 

 飛ばされたズボシメシは、自身と直撃して破片となった道路を払いのけた。

 

 「悔しいから他の奴らに言って回ろう」

 

 その時、影から一人、怪人が現れた。

 岩のような鎧甲冑を身にまとった姿で、胸にくっきりと赤い三日月の模様がかたどってある。

 手に持つ得物は……研ぎ澄まされ、切れ味の良さそうな日本刀。ただし柄には歯車のようなものがついており、日本刀のようなつくりをしていても、日本刀とは言えないかもしれない。

 

 「おまん……悪口を言われ足りないようだな」

 

 ズボシメシは相手が誰か知っているようだが……

 

 『教えてやるよ……あんまり人の心の傷抉ってると、長生きできないって事をなぁ!!』

 

 禍々しい気が、三日月状の形を持って襲いかかる。

 

 蛇心剣・新月斬波!!

 

 「ヒッ」

 

 威嚇なのか、ズボシメシの隣に逸れて、決まりはしない攻撃だった。だが間違いなく、次は舌を狙われる……そう確信し、恐れをなしたズボシメシは隙間に逃げ込んだ。

 

 『ハンッ次その姿を見た時は容赦しねえからな』

 

 怪人は……姿を変えた、ヘビクラに。

 

 「あーあ、別世界の奴と戦うって大変だねー」

 

 ~志葉屋敷~

 

 その日は作戦会議となった。もっとも……反省会に近いが。

 

 「侍たる者、常に平常心を心がけておかねばな」

 

 彦馬から、そう諫められた。

 

 「でもさあ~彦馬様、あれ殿様もやられたんだからなかなか難しいと思うんだよね~彦馬様も「腰痛」って言ったら吹っ飛ぶかもだし」

 

 腰痛………確かによろしくなさそうなワードである。千明は丈瑠の方を見た。丈瑠の目は事実がどうかはさておき触れるなと雄弁に訴えていたので、千明は何も言わなかった。

 

 「ええい、ほっとけ!!」

 

 案の定、彦馬は声を荒らげる。

 

 「小狼(シャオラン)君って身分違いの恋とかしてたんだ、私てっきり」

 

 茉子は小狼(シャオラン)はサクラの事が好きでイチャイチャするぐらい両想いと言いかけたのを飲み込んだ。

 

 「二人は今台所にいるから、そこはオレが説明するよ~」

 

 ファイは説明を始めた。

 サクラは元いた世界では姫君だったのだ、そして小狼(シャオラン)は幼なじみではあるが一般人の一人だった。よく二人で行動していたそうな。

 

 「ああ、そういう事か……でもあの二人、そんな事些事(さじ)ってぐらいお似合いと思うな」

 

 妬けてしまうぐらい……

 

 「言える時には言ってあげなよ、本人達は恥ずかしがるだろうけど」

 

 「それから黒鋼、あんた……ロリコンって」

 

 黒鋼の方を見た。

 

 「ちげーよ」

 

 「嘘、私聞いた!!ロリコンって言われて吹っ飛んだの」

 

 「ええい、何度も言わせるな、俺はロリコンじゃねえ!!」

 

 だが、ロリコンと言われて飛ばされたのは事実だ。

 

 「そうだ、違うぞ茉子、黒鋼殿は自分が仕えている巫女様の事をお慕いしているのであって断じてそのような……」

 

 黒鋼は、ニヤリと笑いながら今までにない殺気を流ノ介に向けた。おそらく、そっちが本命か?

 

 「すみません!!」

 

 それに気がついた流ノ介はすぐに謝った。

 

 「それよりも、ファザコンって言われて私は」

 

 流ノ介はすぐにメソメソと泣き始めた。

 

 「歌舞伎役者にとって、親子関係は特別なものだから仕方ない」

 

 師匠として、先輩として、壁として、最も近い間柄だ。

 

 「殿……」

 

 流ノ介は、丈瑠のフォローに、フォローしてくれた事に感激する。

 

 「私だって十年あれば相手が見つかるようになる……なれるといいな」

 

 「そやそや、茉子ちゃんやったらいくらでも見つかるわ、なんならうちがもらいたいぐらいやわあ、きれいやし、料理上手やし」

 

 料理の話を聞き、男性陣は全員雷が落ちたように一斉に目を背けた。

 人には大なり小なり欠点がある、丈瑠は嘘つきらしいし、流ノ介が天然とは聞こえの良いもののはっきり言ってうざかったり、千明のイタズラ癖だったり、ことはは不器用な所とか……

 茉子は何か?料理が下手なのだ、彼女が作ったその日は外道衆並みの危機と言われるぐらいには……

 イチゴがそれを味見した日、産まれた中で一番美柑に感謝したそうな。

 

 「母さん、ありがとう。おいしいご飯を作ってくれて

  母さん、ありがとう。おいしいご飯を作れるようにしてくれて」

 

 「今日の敵対策で適当にリスト書いてみたよー」

 

 ファイはズボシメシに効きそうな言葉をリストアップしてきた、情報が少ないからか、どれも外見上の部分を攻めた内容になっている。

 

 「悪口では対抗しないぞ、それじゃあ外道衆と同じになる」

 

 「そう言うと思った。(ゴミ箱にポイ)じゃあ、オレは留守番するよ~イチゴを診る奴、必要でしょ?」

 

 「それはそうだが……」

 

 そのために黒子がいるのだが……というか、ファイ達は本来戦う必要はないのだが……

 

 「ファイってさ……ひょっとして触れられたくない事でもあったりするの?」

 

 茉子がおそるおそる聞いた、言いたくないなら、それで構わないと言いたげにかそけき声で。

 

 「はは~まあ、オレも人間だしね……言われたくない事だってあるよ、だからこそ、あいつに遭う可能性のある内は動きたくないと思う。それに遭う度に飛ばされたらサクラちゃんの羽根探しどころじゃなくない?どうしてもぶった斬りたい黒ろんは行ってもいいけど」

 

 「ああ…………そうだな……」

 

 「うちら頑張るから、ファイさんはじっとせなあかんよ」

 

 「ありがとー、それにしても効かなかったことはちゃんはすごいねえ」

 

 「ああ…………俺も思った。なんかすごい何かでもあんの?」

 

 「うち………慣れてるから、昔からアホとか鈍くさいとか言われてたし……アヤカシに言われた所で、別にホンマの事やし、何とも」

 

 ことはは、また、笑った。

 

 「何笑ってんだよ」

 

 落ちこぼれと言われて、落ち込んでいた事もある

 

 「お前さあ、いつも自分の事あほっていうけど、それで笑ってんの信じられねえよ、なんかむかつく。本気で思ってるなら、マジでバカだよ」

 

 「言い過ぎよ、千明」

 

 すぐに茉子が諫める。

 

 「ごめん」

 

 ことはも、謝りながらその場を去った。

 そして、黒鋼は丈瑠にこう言った。

 

 「殿様、見てられねえレベルになってきたら、隙を見て奴を叩き潰す方向に切り変えるぞ」

 

 「!!」

 

 「今回の敵はの言葉は、一言であの衝撃だ、耐えたことはは確かにつええ、だがその強さは脆い強さだ、自分でも気づかねえ内にいつせきが切れるかも分からねえ強さだ、耐えられるからといって耐えさせるわけにはいかねえ」

 

 「そうだな、お前の言う通りだ」

 

 ~台所~

 

 「小狼(シャオラン)君は好きな人がいるの?」

 

 イチゴに当てるおしぼりの調整中に、サクラが聞いてきた。

 

 「……………!?」

 

 「教えて」

 

 「………いる」

 

 「どんな人?」

 

 「いつも元気で、みんなから好かれていたんだ……俺もそう、でもみんなのそれとは違ってて……」

 

 「身分………違うの?」

 

 「うん、本当ならおれが近づける人じゃないんだ。でもいつも遊んでくれて……嬉しかった、それで、その人の事を考えていると、胸がドキドキしてくるんだ。そんな気持ちになっちゃいけないって分かってはいたけど……」

 

 「……………」

 

 小狼(シャオラン)は、好きな人本人に言ってしまった事による気恥ずかしさで顔を背けた。でも、できれば気づかないで欲しい、気づかれて、深堀をされたくはない。そうなれば……サクラの記憶に、モコナを受け取る際に支払った対価による齟齬に行き着くかもしれない。サクラとは幼なじみだったが、対価………関係性を支払った事で、もうサクラは小狼(シャオラン)の今までの事を忘れてしまっている……小さかった小狼(シャオラン)の事を覚えているサクラは、小狼(シャオラン)自身の事をどう思っていたのだろうか?もう……聞ける望みは薄い。

 サクラは、誰かは分からないがその人物に少しばかりの嫉妬を覚えた。いつも笑ってくれる小狼(シャオラン)、いつも守ってくれる小狼(シャオラン)、サクラの羽根を探すために、一生懸命になっている小狼(シャオラン)、彼の心に棲む、女の子に……

 モコナは、真相を知っているので、にやけながら話を聞いていた。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
足の長い人の多いあの世界出身の人とズボシメシを比べるのは酷過ぎた……


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第10話 悪口はヤメテ Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
ファイの言われたくない事は双子の兄弟の一件です。



 イチゴは今、黒子の部屋で寝ている。

 触ると、少し熱っぽい。

 ズボシメシの悪口を聞いたせいなのかは分からない、状況的にはそうだが……どれだけ心にグサリと来る言葉を言われたのか?

 ファイは寝ている状態のイチゴの顔を見て、疑問を呟いた。

 

 「イチゴ君、こんなになって、一体何を言われたのかな?」

 

 聞いてはみたが知りたくて言ったという訳ではない、それを本当に知ってしまえば対価として自分も明かさなければならなくなるから。

 

 「オレもあるんだ~そういうの」

 

 聞こえないであろう事を良いことに、そこで話をぶった切った。

 

 「ミンナニハナイショダヨ」

 

 そしてファイはイチゴの額のおしぼりを変えた。

 そしてそれを報告しようとする途中の渡り廊下で、ファイはモコナに遭遇した。

 

 「ファイ……」

 

 モコナは少し含みのあるように、しょんぼりとしていた。

 

 「なんだいモコナ?」

 

 「ファイはみんなに言いたくない事があるの?」

 

 「まあ、ね……」

 

 「モコナ、知らなかった」

 

 「知らないで良いんだよ、共有してない方が気楽な事もあるんだし……ね?」

 

 「そうかな?一人で抱え込まない方が良いってモコナ思うけど」

 

 「オレはそう思わないかな、それよりさモコナ、侍のみんなが戦う時、伝言があるんだ」

 

 ファイはモコナにある事を言った。

 

 「うん……まかしとけ」

 

 モコナはその白いお腹にポンと手を当てた。

 

 「でもいつか、モコナ達に教えてくれると嬉しいな」

 

 〜三途の川〜

 

 薄皮太夫は三味線を爪弾く勢いを強めている。

 ズボシメシが人間界から帰ってきたからだ。

 奴の悪口のキレは、ズボシメシ自身の族する外道衆相手にも発揮してしまう。特に真っ先にやられるであろう相手は太夫だったので、ズボシメシの悪口が聞こえないようにしていた。

 

 「あー太夫、俺ぁ情熱的なのは好みじゃねえんだが」

 

 「シャ!!」

 

 ドウコクの言葉にも耳を貸さない程。

 だが、ズボシメシは太夫の行動を意にも介さない。

 

 「お前さん、元気無いねえ……どうしたんだい?」

 

 シタリはズボシメシの顔を見る。ズボシメシは人間界に出る時より、落ち込んでいた。

 

 「言い返されて吹っ飛ばされた、危うく舌も切られる所だった」

 

 「ほう、それは痛快だねえ、ついでにその悪口しか言えない目障りな口も無くなってくれれば言う事無しさ」

 

 太夫のここぞとばかりに出てくる言葉も、ズボシメシは意に介さず。

 

 「それよりも、悪口を言われても効かなかった奴がいたのだ、気持ち悪い」

 

 「ほーそいつはすごいのがいたもんだねえ、でもさ、それって自分がそう言われるのが当たり前、と笑ってごまかそうとする人間じゃないのかねぇ?ナナシ連中が持って帰ってきたこれに書いてあったのさ」

 

 シタリは漫画をズボシメシに見せた。

 

 「これにはねぇ、人間、つらい時、苦しい時こそ笑うのが良いって書いてある。耐えるのも美徳の内みたいさね」

 

 「ふん、くだらん」

 

 太夫は悪態をついた後、三味線の音を一層強める。耐えた所でなんになる、笑った所でなんになる、と三味線の音色が雄弁に語っている。シタリは気にせず続けた。

 

 「色んな人間がいるって事だよ。ショックを受ける人間もいるし反発する奴もいるだろうさ。勢い余って激情を放つかもしれない。それを言われる自分自身って奴を拒絶するのもいるかもしれないし、中には取り乱さないように、波風を起こさないように、受け入れる選択を取る人間がいても不思議じゃない。でも、そういうのほど手札は多いもんさね。他にも、何か、何かあるはずだよ、笑っても抑えても耐えられないやつとかさぁ」

 

 ズボシメシは、思い当たる節があるのか、すぐさま笑顔を取り戻した。

 

 「良く調べたな、イカ頭」

 

 ズボシメシの一言でシタリは吹っ飛ばされた。

 

 「情報収集は大事だからねえ、生き残るには必要だよ〜ドウコクー、助けちゃくれないかーい?」

 

 「では行ってくるで、人間と相打ちの」

 

 ズボシメシがドウコクの悪口を言いかけたため、ドウコクは無言でズボシメシに近づくよう促し、デコピンでズボシメシを人間界へ吹っ飛ばす。

 

 「わちきはあいつが嫌いだ」

 

 「そうかい、場を外さないだけよく耐えたと言いたい所だが……はええとこ三味線の調子を元に戻してくれ」

 

 「ああ」

 

 太夫の三味線は、元の怪しい、怨念を引き連れているような、引きつけるような調子へと戻っていった。

 

 「おら、行って来い」

 

 ドウコクは、ナナシ連中にシタリの回収を命じた。

 

 〜志葉家 屋敷周辺〜

 

 千明は、ことはに謝ろうと思ってことはのいそうな場所を探った。

 そのうちに笛の音が聞こえてきた。

 笛の音を頼りに進むと、横笛を吹くことはが

見えた。吹いているのは、ことはだったようだ。

 

 「あ」

 

 気の効いた声のかけ方が分からず、声だけが漏れた。

 

 「千明」

 

 ことはは、千明に気がつくと、笛を吹くのを止めて、千明に駆け寄った。

 何から言おうか迷ったが、笛の話題にした。

 

 「あーさっきはその……悪かったっていうか、上手いじゃん。笛」

 

 千明が笛について褒めると、ことはは昔話を語った。

 

 ………………

 

 笛は姉のみつばという人から習ったそうだ。

 昔、ことはは泣いてばかりで、何をやってもうまくいかず、いじめられていた。

 そんなことはを元気づけるために、姉はよく笛を吹いてくれた。

 その笛の音は聞き心地も良く、落ち込んだ心も癒えた。

 耳コピで再現しようとして、自分も吹いて、みつばに教えられる事もあった。

 だが、それから時が経ち、病気がちな姉に代わってことはが選ばれ、今度は姉の方がよく泣くようになってしまった。

 

 「その時、泣いたらあかんと思った。泣いたら、姉ちゃんが心配して、もっと泣かはる。そやから、笑うんや、何があっても、アホって言われても、自分で分かってたらなんともないし」

 

 それは、自分で自分を責めているのではないか?とイチゴがここにいれば思うかもしれない、ことはにそのつもりが無くても、そこまで行かなくても、イチゴがそう見えてしまうぐらいにはイチゴ自身に心当たりがあり過ぎた。

 自分で「自分はそういうもの」だからそう言われて当たり前なんて思い込むのは楽だ、少なくとも他人にそう言われてしまうよりは……

 それに、こらえてる姿を見せるのも、他人にはきついらしい。かと言ってじゃあどうするとなれば何も言えないが。

 

 「でも、自分で自分をアホって思う事がほんまのアホっていうのは、気づかへんかったわ」

 

 「違う……」

 

 「え?」

 

 「バカなのは俺の方だ。お前にイラついてたのは、俺のせいなんだよ。お前、強いから」

 

 千明がことはに練習で敗れた時

 

 「ことはの剣は良いですなあ、素直で、迷いがない」

 

 「千明じゃ、歯が立たなくて当然か」

 

 と、全部、聞こえていた……

 もちろん、負けた千明の技量に問題があるのは分かっている。だが改めて言葉に出されると、悔しい。

 せめて鼻にかけていれば奮起しようもある。だが千明に勝ったことはが自分を卑下すればする程、負けた自分は何なんだという気になってしまう。

 

 「だから……ごめん」

 

 外道衆が来た合図が鳴った。

 

 「うち、千明の剣、好きや。まっすぐで千明らしい、きっと、もっと、強くなる」

 

 「サンキュ」

 

 千明達は、ズボシメシの出現した場所に向かった。

 

 ………………………………

 

 「不合格!!」

 

 「キャー!!」

 

 「ウワー!!」

 

 予備校を受講している生徒、そして挫折経験のある講師も全員、その一言で飛ばされた。

 

 『おーおーまたやってんなー直に斬らなきゃ分からねえみたいだなっと』

 

 そこに三日月の傷を持つ剣士が現れ、手に持つ刀でズボシメシに斬りかかってきた。

 

 「ぬぉっ」

 

 闇のワープ……からの闇の急襲を受け、ズボシメシは悪口を言える間も無い。

 

 『フン』

 

 だが、口の部分で一太刀入れようとした所でピタリと止めた。

 

 『あーあ、もう少し遊んでやろうと思ったが、俺はシャイな方なんでな』

 

 三日月の傷を持つ剣士は飛んで去っていった。

 

 「むっ」

 

 何が起きたのか分からず首を傾げていると、ズボシメシの近辺から段々ズボシメシへやってくる思念の存在に気づいた。

 

 「そこまでや、外道衆!!」

 

 「何奴?」

 

 〜例のBGM~

 

 「ショドウフォン!!」

 

 「「「「「一筆奏上!!」」」」」

 

 「破ぁ!!」

 

 ショドウフォンで文字を書きそれを反転させ、各々のモヂカラによって形成させたスーツに身を包み、5人はシンケンジャーとなる。

 

 「シンケンレッド、志葉丈瑠」

 

 「同じくブルー、池波流ノ介」

 

 「同じくピンク、白石茉子」

 

 「同じくグリーン、谷千明」

 

 「同じくイエロー、花織ことは」

 

 「天下御免の侍戦隊」

 

 全員「シンケンジャー、参る!!」

 

 「シンケンジャー、今回こそ悪口でヒイヒイ言わせてくれる」

 

 モコナ達もその場にたどり着いた。

 

 「みんなーファイからの伝言だよ、『短所を言われても、できるだけ長所に変換してダメージを抑えていこー』だって」

 

 ファイの声真似らしい、が、モコナの声真似が上手いのか、実際にファイが喋っているようにしか聞こえない。

 

 「それも良いな」

 

 「来い、ナナシ連中」

 

 ナナシ連中が、ズボシメシの号令によって出てきた。

 各々は移動し、ナナシ連中と相手をする。

 

 「はぁ!!」

 

 「せい!!」

 

 「はっ!!」

 

 「おらぁ!!」

 

 「やっ!!」

 

 「!!」

 

 「でやぁ!!」

 

 「ぷう!!」

 

 モコナもナナシ連中のお腹に一発、蹴りをお見舞い。

 

 「先、もらってくぜ」

 

 黒鋼はナナシ連中の一体の肩を足蹴にし、飛んでズボシメシに襲いかかる。

 

 「黒鋼殿!?私も行きます」

 

 流ノ介も加勢し、その勢いのままズボシメシに斬りかかろうとするも

 

 「マザコン!!」

 

 「うっ」

 

 「ぐあー!!」

 

 その一言で、2人は吹っ飛んでいった。

 

 「……………」

 

 流石にフォローのしようが無く、丈瑠は、ナナシ連中を退けた後、何も言えずに頭を抱えた。

 

 「マジか……」

 

 そうだった。これは、心の弱点を突いてくる攻撃だった。

 色々と手段が確立していない以上、またことはを主軸に、戦う他ない。

 

 「下がって、うちがやるわ」

 

 自分の役割を理解しているとばかりにことはは颯爽とズボシメシに突っ込む。

 

 「やぁ!!」

 

 シンケンマルで一閃、また一閃。

 

 「今回こそはお前を飛ばしてみせる」

 

 「みんな、今だ」

 

 さっきはフォローしようがなかったが、前向きな言葉で塗り替えて、かき消していく方向に持っていく。

 ズボシメシは、口を開いた。

 

 「バカ」

 

 「俺は知っている、それはお前の一途さ、ひたむきさに繋がる、武器だ」

 

 「アホ」

 

 「私も似たようなものかもしれない、ことは」

 

 「ドジ」

 

 「そんなことはも、かわいいと思うわ」

 

 「マヌケ」

 

 「取り返しがつくなら、次で挽回すれば良いと思います」

 

 「剣以外の才能無し」

 

 「ことは、笛、上手いじゃねえか。ことはの姉ちゃんと比べてどうかは知らねえけど、誇っていいと思うぜ」

 

 「たぁ!!」

 

 みんなの声援が功を奏してか、シンケンマルの剣捌きも早くなっている。

 

 「グフフ」

 

 だが、ズボシメシは余裕そうだ。

 

 「お姉ちゃんのホ・ケ・ツゥ」

 

 予想外の一言、しかも、明らかにそれまでの言葉と違い破壊力が高そうだった。さっきまでの余裕は、これを言えるからなのか?

 

 「うっ」

 

 その証拠にことはの動きも鈍っている。

 

 「どういう事ですか?」

 

 ナナシ連中を少し相手取る小狼(シャオラン)は丈瑠に質問する、聞き流すには、あまりに特徴的な悪口だったからだ。

 

 「後で話す」

 

 丁度その時、散り散りになった無数の木の葉を纏った千明がウッドスピアを携え、ズボシメシに近づいていた。

 そして、ズボシメシを羽交い締めにする。

 

 「やったぜ。今だ、やれ!!ことは」

 

 千明の言葉に、ことはは落ち着きを取り戻す。

 

 「!!」

 

 「何があったかは知らねえが、今この場にいない人間の事を考えるな、ここには、お前しかいねえ!!」

 

 黒鋼も瓦礫を払いながらことはを叱咤する。

 

 「みんな……ありがとう」

 

 ことはは「石」とショドウフォンで描き、大量の石を出してきた。

 そしてズボシメシの口に石が大量に突っ込まれた。

 突っ込まれ、あまり喋れない状態になる。

 

 「ばべぶば(なめるな)……ババベ(赤点)……う……」

 

 千明に悪口を言って、拘束を払おうとする。しかし、そうしようとするとズボシメシの歯から、血が漏れだしてきた。

 

 「びばば……びばい(したが……痛い)、びぶぼばび(いつの間に)、ばぼボボボ(あの宇宙人……)」

 

 いつの間にか舌が切られていたらしい。

 しかも、何回か口を開くと痛くなるよう細工付きで……

 隙ができた。

 

 「トドメだ、行くぜ」

 

 千明はウッドスピアを足を使って突き刺す。そして、ズボシメシに対して優位を取った状態でことはに向かって押し出す。

 

 「人を言葉で傷つけて、それを喜んで、あんたみたいなん、最低や!!」

 

 シンケンマル、土の字斬り。

 

 シンケンマルで、土の字をなぞるように、連続斬り。

 

 最低……最低……最低…………

 

 ズボシメシには、剣の痛みより、舌の痛みより、ことはの言葉のダメージの方が大きかった。

 

 「最低……良い悪口だ、精一杯ひねり出した……良い悪口だ……」

 

 ズボシメシ、爆発。




いかがでしたか?面白いと思ってもらえると嬉しいです。まだ二の目がありますのでよろしくお願いします。


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第10話 悪口はヤメテ  Cパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
今回は小狼君およびレイアースの追加武装(捏造)が出てきます、小狼×サクラの波動を浴びたレイアースは力が漲り……(続きは本文で)


 「来い、レイアース!!」

 

 地中からレイアースが出てきた。

 呼んだのは小狼(シャオラン)だ。

 

 「小僧!?」

 

 「黒鋼さんは休んでください」

 

 「!!俺ぁまだやれるぞ」

 

 「いいえ、そんな状態では戦えません」

 

 見ただけで黒鋼の指がビリビリと痺れているのが分かる。「マザコン」呼びされて吹っ飛ばされた衝撃が抜けきれていないようだ。

 

 「おれが……行きます」

 

 「ちっ仕方ねえ、きっちり仕留めろよ」

 

 「はい!!」

 

 「折神大変化!!」

 

 シンケンジャー達も、自身の折神を召喚する。

 今回は、さっきまでの戦いの勢いのまま猿折神と、熊折神が前に出る。

 

 「行くぜ、ことは」

 

 「うん」

 

 そして、セブンガーが現れた。

 

 「俺も行くっすよ、お侍さん!!」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 「子供!!あのロボット、子供が乗ってるんすか?」

 

 ハルキが小狼(シャオラン)の声を聞くのは初めてかもしれない。

 

 「………色々あるんだよ、色々」

 

 「ストレイジの人ですね……おれの事は気にしないでください、それより早く倒しましょう」

 

 「……押忍!!いきましょう」

 

 ズボシメシに向けて構える。

 

 「それっ」

 

 「やぁ!!」

 

 腕や脚で引っ掻いて攻撃。

 

 「いくぞ!!」

 

 千明は熊折神の前脚で、ことはの乗る猿折神が三角形のエンブレムになったのを確認して、バレーボールのボールにしてズボシメシに攻撃する。

 

 「これは!?」

 

 なにかやれそうな気がしたハルキは、セブンガーのジェットパックでジャンプ、千明が飛ばした勢いのまま飛んできた猿折神をキャッチしてズボシメシに向けてダンクシュートした。

 

 「チェストー!!」

 

 「ぐわぁー」

 

 そして、デカい一撃を小狼(シャオラン)が入れる流れになった

 

 「はぁぁぁあ!!」

 

 ズボシメシは、今度は小狼(シャオラン)に狙いを定めて悪口を言ってきた。

 

 「叶わない気持ち」

 

 「うっ!!」

 

 ザクリとその言葉が心に突き刺さっているのが分かる。

 

 「そんなもの……分かってる」

 

 小狼(シャオラン)はそれを振り払うように、レイアースを動かし、剣を振り下ろす。だが、攻撃の勢いが足りないのか、ズボシメシに避けられる。

 

 「大丈夫っすか?」

 

 「脈あるって。だから、落ち込むな」

 

 「そうや、相手の気持ちも聞いてへんのにへこんだらあかん」

 

 「みんな……すみません」

 

 小狼(シャオラン)の駆るレイアースは、態勢を立て直す。

 

 「…………どういう事っす?」

 

 「あれだよ、言われたくない事言ってくる敵なんだよ」

 

 「マジっすか、ありがとうございます」

 

 「そんでもって今戦おうとしてるあんたも狙われる可能性大だかんな」

 

 「あ……俺、大丈夫っす。そういうの、あんまりない方ですし」

 

 「始末書!!」

 

 「ッあー!!」

 

 即落ち2コマ並みのスピードで、ハルキとセブンガーは吹っ飛んでいった。

 

 『ハルキ……』

 

 『…まあ…ハルキの書く量、色々あって多めだからね、悪いとは思ってるんだけど……あいたたた』

 

 現在形で胃が痛そうな壮年の男の声、年で判断すれば一番偉い人のような気がする。

 間もなく、空から、吹っ飛んでいったセブンガーが腕を燃え上がらせながら上空を降下して戻ってきた。

 

 「俺は、始末書にも、人々を泣かせるような奴らにも、負けないっす!!チェストー!!」

 

 セブンガー、流星パンチ!!

 

 「うぉ!!」

 

 落下と燃える拳の合わせ技、ズボシメシはその一撃により怯んだ。

 

 「同じネタで飛ばすのは至難の技か、一つしか無い、それもたったあれっぽっちなのはさすがにないだろ。能天気のアホンダラめ!!」

 

 そう吐き捨て、ズボシメシはハルキの事を無視し始めた。

 

 「殿!!小狼(シャオラン)君について、前回から思っていたのですが、サクラ殿の事でばかり攻められているのでは?」

 

 「お前もそう思っているのならもうそれが答えだろうな」

 

 「ならば、これ以上いたいけな少年の心を傷つけられるより先に倒してしまいましょう!!」

 

 「ああ、侍合体!!」

 

 「「「「「シンケンオー、天下統一!!」」」」」

 

 五体の折神が合体し、侍の王が完成する。

 

 「いでよ、ナナシ連中」

 

 そしてズボシメシはナナシ連中を召喚する。

 数は多め、邪魔してから隙を見て悪口を叩き込む気満々だろう。

 ハルキの方に多めに出してきた。

 

 「い……いっぱいっす、でも……たくさんかかってこい!!押忍!!」

 

 ハルキは、群がるナナシ連中に立ち向かう。

 シンケンオーにも群がって来ているので、対処。

 

 「……もし、もしだけどさ……こんなかで一人でもNGワード出されたらどうなるんだ?」

 

 シンケンオーでナナシ連中を薙ぎ払いながら千明は、丈瑠に質問する。

 

 「誰か一人飛ばされれば……シンケンオーも飛ぶな……」

 

 「ヤバくね?」

 

 「それより、奴が今狙ってるのは小狼(シャオラン)だ……いくぞ!!」

 

 シンケンオーは、刀でナナシ連中に応対しつつ、レイアースの所に向かう。

 

 「もう自分は忘れられてる」

 

 「それでも!!」

 

 「元々不釣り合い」

 

 「だとしても……」

 

 立ち止まってはいけない、サクラの記憶を取り戻すために、こんなところで止まる訳にはいかない。

 だが……言葉で抉られる痛み……ズボシメシから放たれるそれは、昔サクラに言われて感じたものとはまた違っていた。やはりズボシメシは、その手のものが強い。

 

 「手が止まっているぞ〜」

 

 「…………………おれは!!」

 

 ズボシメシに遠心力たっぷりの一撃を入れる。

 

 「………………」

 

 レイアースから見てとれる雰囲気が重々しく、見ていられないような気分にさせてくる。

 

 「まるで一回クビにした時のイチゴみたいだ」

 

 「……悪いとは思ってる」

 

 「あそこまでひどくはないけど……つらそう」

 

 「それはそうと大丈夫か?」

 

 「大丈夫です……おれが……やります」

 

 「今更何を気張る必要がある。あの時何もできなかったというのに!!」

 

 「!?」

 

 そのズボシメシの言葉がトドメとなり、小狼(シャオラン)の乗るレイアースは、吹っ飛んだ。

 

 「おれは……」

 

 あの時……玖楼(クロウ)国……小狼(シャオラン)達の元いた世界での出来事。

 発掘していた遺跡で、急にサクラの様子がおかしくなって、羽根が世界中に飛び散って。

 もし、あの時……もっと知識があれば、力があれば、最初からサクラの記憶を失わずに済んでいただろうか?記憶を取り戻すためとはいえ危険な目に遭わさずに済んでいただろうか?

 

 「くっ」

 

 レイアースは、突っ伏して倒れる。小狼(シャオラン)もおそらく無事ではない。

 

 「……………」

 

 黒鋼は、じっとその様子を見ていた。

 モコナが、心配そうに小狼(シャオラン)を見つめる。

 

 「小狼(シャオラン)……」

 

 「小僧なら大丈夫だ、きっとサクラの話題ばかりほじくられているが、それだけ大事で、だからこそずっと前に突き進んできた事を俺達は知っている……それに」

 

 「小狼(シャオラン)君!!」

 

 サクラはモコナに、レイアースに乗せてもらうよう頼んだ。

 

 「!!あいよ」

 

 モコナはサクラを急いでレイアースの中へ飛ばした。

 

 「そんなになってまで守らなきゃいけねえ奴が側に行くんだ、小僧は絶対に立ち上がる」

 

 「うん、そうだね」

 

 サクラの行動に気づいた丈瑠は、モコナに注意した。

 

 「モコナ、今何をした?やめろ、彼女は戦えないんだぞ」

 

 「あーもう行っちゃった……」

 

 モコナはテヘペロのポーズを取り、場をごまかした。

 

 「……」

 

 丈瑠は、注意の方向をズボシメシに切り替えた。

 

 「はぁ!?」

 

 〜レイアース 内部〜

 

 倒れたショックで視界がはっきりしないせいか、小狼(シャオラン)の目の前に天使が見えたような気がした。

 

 「小狼(シャオラン)君!!」

 

 サクラの声がした。昔のままとは言えないが。記憶を失って、命の危険にさらされた彼女を救うため、小狼(シャオラン)は他2人分の対価も差し出してもらって、モコナを仲間にした。小狼(シャオラン)の対価は関係性、どれだけサクラが記憶を取り戻しても、小狼(シャオラン)の事は忘れたままだそうだ。

 だからか、もう以前のように呼び捨てでは呼んでくれない。

 

 「サクラ………」

 

 「小狼(シャオラン)君、大丈夫?」

 

 うつ伏せになった小狼(シャオラン)の手をサクラは握った。

 

 「ケガはなんともない、でもとっても痛そう」

 

 サクラは自分の胸にもう片方の手を当てる、その仕草はあなたの心が痛そうだと訴えかけていた。

 

 「私に出来る事はない?」

 

 そして、目を潤ませながら小狼(シャオラン)に聞いてきた。

 サクラについて……だが、自分の都合の事で突っ突かれて……それでもサクラは、小狼(シャオラン)を心配して、手を差し伸べてくれた。

 

 「良かったら、もう少し……握ってて欲しい……」

 

 小狼(シャオラン)は安心した心持ちになり、立ち上がる。

 温かい。このぬくもりも、伝わってくる優しさも、昔と変わらないサクラのものだ。今、生きている、サクラの手だ。最悪の状況だけは免れているという確信が湧き出てくる。落ち込んでいる暇は無い、希望はまだある。

 幼なじみだった、もう過去形かもしれない。でも大切な人で、ずっと、助けたい人だ。力になりたい人だ。王女であるとかなんとかは関係ない。

 彼女を助けるための手段の対価として、色々と忘れ去られる事になった、だが悔いはない。痛みはするが、後悔はしない。何度生まれ変わっても、同じ瞬間に立ち入っても、同じ道を選ぶ筈だ。

 例え、全部元通りになれないとしても……元の世界に帰った時、彼女の隣に自分の居場所がなかったとしても……

 

 「うるせえぞ白饅頭、勝手に代弁すんな」

 

 「でも見て、レイアースが、元気になったよ」

 

 「小狼(シャオラン)君……」

 

 小狼(シャオラン)の言葉と共にレイアースの目が、強く光り、背負った炎も熱く燃え盛る。

 

 「殿様……」

 

 「小狼(シャオラン)

 

 「今度は、いけます」

 

 「分かった……」

 

 丈瑠達の乗るシンケンオーは、一歩下がる。

 

 「おれは……」

 

 レイアースはズボシメシに突っ込む。

 

 「サクラを守る……」

 

 小狼(シャオラン)はレイアースの剣で、ズボシメシに袈裟斬りを行う。

 さっきとは違う、迷いのないキレイな太刀筋だ。

 

 「そのために」

 

 続いて強烈な回し蹴り。

 

 「ぐわぁ!!」

 

 ズボシメシはその蹴りを受け、遠くまで飛ぶ。

 

 「お前を倒す」

 

 そしてレイアースの脚力を活かして飛ぶ。

 

 「力の無い小僧」

 

 その言葉を浴びせても、小狼(シャオラン)とレイアースは揺るがない。

 

 「急に動じなくなった?これは一体……?」   

 

 ズボシメシは、動じなくなった小狼(シャオラン)に驚き、戸惑うばかり。

 

 「それだけだ」

 

 「まさか……愛の力……だと?ありえん……」

 

 盾にある爪でアッパーカットをし、ズボシメシを引き裂く。

 

 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 小狼(シャオラン)は「炎の爪」を覚えた。

 

 「初めて使ったけど、結構いけるな」

 

 盾を、もしくは鉤爪的なものを使うのは実は初めてかもしれない小狼(シャオラン)であった。

 

 「やるじゃねえか」

 

 「小狼(シャオラン)、すごいすごい」

 

 ズボシメシは、小狼(シャオラン)の攻撃により、ショックを受けた。

 

 「よーし、俺も行くっすよ!!」

 

 ハルキは、ゼットライザーを掲げるも、また変身できず……最初はできていたのだが……

 

 「あれ、またっすか?」

 

 『何が?』

 

 「あ……いえ、なんでもないっす!!」

 

 「このまま押し切るぞ」

 

 丈瑠は兜折神を呼び出す、そして、カブトシンケンオーとなった。

 

 「カブトシンケンオー、天下武装!!」

 

 そしてカブトシンケンオーの必殺技を放つ。

 

 「「「「「兜・大回転砲」」」」」

 

 「悪口は……永遠……なり」

 

 ズボシメシ、爆発。

 二の目も終わり、完全に倒したと言える。

 

 「これにて、一件落着」

 

 ことははズボシメシの爆発を見届けると、崩れ落ちるようにその場で倒れた。

 

 「ことは!?」

 

 〜志葉家 屋敷〜

 

 「へえ~」

 

 ファイは外道衆を倒した一報を、黒子達が話し込んでた事で察した。会話は聞こえない……内容が読み取れないが、嬉しそうにガッツポーズを取っていた事から、勝った事が分かった。

 

 「後はこっちだね」

 

 そう言ってファイはイチゴを見る。

 

 〜帰り道〜

 

 ハルキは倒れたことはを見て、救急車を呼ぼうとしたが、状況を説明し止めてもらった。

 それからは屋敷に着くまで千明がことはをおんぶしている。

 

 『今日も、お侍さん達の活躍すごかったです。では、ことはさん……今日は安静にしてた方が良いと思うっすよ、小狼(シャオラン)君……だっけ?話はよく分かんないけど、俺、応援するよ』

 

 などと去り際に言われ、ことはは礼を言い、小狼(シャオラン)は少々照れた。

 そんな帰り道……

 

 「ことは、平気だなんて言ってたけど、あいつの言葉に傷ついていたんだよね、思いっきり」

 

 「それを全部封じ込めていたんだ、無意識にな」

 

 「やはり、こいつはつええ……よく頑張ったって言わなきゃな」

 

 「ええ……」

 

 「直接やりあうなら、ここまでダメージなかったんだがな……」

 

 「あんなに簡単にダメージを受けていた自分が恥ずかしい」

 

 「まあマザコンはダメージ大きいわね、2人とも、本当なの?」

 

 「うう」

 

 「うるせえ、男はみんなマザコンだって父上も言ってたぞ」

 

 千明、丈瑠は初めて聞くような概念を聞かされ、唖然とした表情になってしまった。

 

 「そうなのかよ?」

 

 「というかお前、両親は元気か?」

 

 「あ、ああ……」

 

 流ノ介が答えると、黒鋼は流ノ介の肩を叩いた。

 

 「大事にするこった、コンプレックスって付くぐらいなら余計にな」

 

 その言葉に、流ノ介は驚いた。普段の彼では想像もつかないぐらいの優しいトーンだったからだ。

 

 「小狼(シャオラン)君、黒鋼殿が今日はいつもより柔らかい態度だがその理由を知っているか」

 

 「秘密です」

 

 「そ、そうか」

 

 言える訳が無かった、色々あって、彼の両親はもう亡くなっているのだという事を……知ってしまったというだけでも申し訳ないと思ったのに、それを広めるのはできっこない。

 

 「そのぐらいにしとこう、触れたくない事は誰にだってある」

 

 「丈瑠の嘘つきも?」

 

 「そういう事だ」

 

 まあ、殿様だし……そういう事もあるだろう。

 むしろ気にしてるというだけで、他の人とそうは変わらないかもしれない。

 

 「なるほどねえ」

 

 「ったく、こんなになるまで、お前、やっぱバカだな。でもすげえ、お前はすげえよ」

 

 「ありがと」

 

 「おっふたりさーん、アツアツですね〜」

 

 モコナの声に千明はびっくりした……だが、モコナのからかっていた対象は違っていた。

 小狼(シャオラン)とサクラは、さっきからずっと手を繋いでいたのだ。

 

 「あ~あれはアウトだな、完全にネタにされそう。俺もネタにしてえ」

 

 「千明、よくないわ、そんなん」

 

 「それもそうか」

 

 「あっこれは……その……」

 

 サクラの手に引っ張られて移動するのはよくあった小狼(シャオラン)だが、今になって恥ずかしいような気分になってきていた。

 すると、からかってきたモコナも小狼(シャオラン)の手を握ってきた。

 

 「今日の小狼(シャオラン)頑張ったからね、モコナも手をぎゅ~ってするの、ことはの手も、後でぎゅ~ってするの」

 

 「モコちゃんも、ありがと」

 

 ことはは、モコナにもお礼を言った。

 

 「黒鋼さん」

 

 「いつも力を貸してくれてありがとうございます」

 

 「他にも言わなきゃいけねえ奴がいるだろう、まとめてで良い……まだまだ先は長そうだしな」

 

 「後はイチゴが起きれば、万事解決よね」

 

 〜ストレイジ 拠点〜

 

 戦いが終わり、クタクタになっているハルキの目の前に、発光する謎の空間が現れた。

 

 「あ、失礼します」

 

 急に現れたそれに、おそるおそる入ると……

 

 「よう、ナツカワハルキ……だっけ」

 

 この前力を貸してくれたウルトラマン?がいた。

 

 「ちょっと、なんでこの前も今回も出てきてくれなかったの(怒)」

 

 他に戦ってる誰かの助けが無ければやられていたかもしれない。

 

 「ちゃんとぎりぎりまで戦って、俺たちの気持ちがぐっと引き合ってからでないと、ウルトラマンになれないんでございますよ」

 

 「へー、そういうもんなんだ、それはそうとさ」

 

 「ん?」

 

 「あんた一体何者なの?」

 

 「あー、自己紹介がまだだったな。俺はウルトラマンZ、M78星雲光の国からやってきた」

 

 「光の国?」

 

 「俺は宇宙の平和を守る、宇宙警備隊のメンバーなんだ。今宇宙のあちこちに、デビルスプリンターって呼ばれる邪悪な因子を飲み込んだ怪獣が、凶暴化して暴れ回ってるという事件が続いている、先輩達の力が込められたウルトラメダルは、その対応策として作られたんだが……」

 

 この前のゲネガーグが光の国に襲撃し、ウルトラメダル、そしてゼットライザーを呑み込んで行ってしまったそうだ。

 

 「俺は、師匠のウルトラマンゼロと一緒に追いかけたんだが、師匠は四次元空間に呑み込まれてしまって……それでなんか一緒に行動する事になった戦艦型ロボットとこの地球にきたって訳」

 

 戦艦はトランスフォーマーの事だろう……だが

 

 「スケールデカすぎ(呆然)」

 

 「俺の言葉遣い、ここまでなんともないか?」

 

 「あ……一つ質問、ゼットって何歳?」

 

 「ん?」

 

 「大事な質問、2人で1人なんだし」

 

 「だいたい5000歳だけど」

 

 5000歳…‥…5000歳…‥‥…5000歳…………

 

 「むっちゃ年上じゃ……むっちゃ年上じゃないっすか!?ここここれは、タメ口使ってすいません!!」

 

 ハルキはすぐさま深いお辞儀をして謝った。

 

 「な……なんだその言葉遣い、ウルトラ気持ち悪い……ええ……ヤメて……ヤメて……」

 

 「そういう訳にはいかないんすよゼットさん、よろしくお願いします!!」

 

 「あ……ちょ……」

 

 余談だが、光の国で5000歳は中高生ぐらいなのはナイショの話である。

 

 〜志葉屋敷〜

 

 「じい、どうだ?」

 

 丈瑠は、帰って手当も済んだ後、彦馬にイチゴの容態がどうなのか確認した。

 

 「それが……未だ、良い兆候は見られませんな……」

 

 揺り起こしても、反応なし。

 

 「そうか……………」

 

 「彼自身の問題かもねー、小狼(シャオラン)君は吹っ飛ばされたけどそんなに後引いてないし」

 

 イチゴはいまだ、目覚めない。

 第10話、まずは……これまで。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
ズボシメシのハルキ達についてのNGワードは他に思いつきませんでしたお許しください。


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ルート分岐 その1

みなさんこんにちはもしくはこんばんは。
今回はルート決めの優先順位のための大事なアンケートがあるので、答えていただけると嬉しいです。


 前回までのあらすじ

 黒衣の狩人「えーなんやかんやありまして、良き縁を結んでいった結城イチゴは、ズボシメシの、白刃にも似た切っ先を持つ口舌を前に、その精神を閉ざしてしまいましたとさ……………」

 

 「アサキム、久しぶり。スフィア探しは順調?」

 

 「(モコナ)()写し身(モドキ)か、望みは高ければ高い程、困難になるものでね。最近は少しもそう……リアクターになり得る人間とスフィアの器がセットで見つからないんだ、こればかりは運命という鎖がないと難しい……時間は腐れる程あるとはいえね……」

 

 「あんまり人を悲しませちゃダメだよ」

 

 「約束はできない……」

 

 「もう行くの?」

 

 「ああ、この世界のスフィアはその価値も分からないままにただのオブジェとして扱われているようだしね、しかも結界まで施されているから、流石の僕でも暴くのに骨が折れる。だから先に別の方面を探るのも手かなって、じゃあ、そういう訳だ」

 

 「バイバイ」

 

 〜志葉家 屋敷〜

 

 彦馬は、丈瑠と相談の末、ザスティンに状況を報告した。

 するとリトが志葉家の屋敷にやってきた。

 

 「じいさん、許可したのかよ」

 

 「まあ、せっかく来ていただいたものを門前払いというのはな」

 

 リトは、千明を見て、手を振ってやってきた。

 

 「千明君…………久しぶり」

 

 しばらく会えないと言った手前、再会が早すぎると思いつつ千明は応対に臨んだ。

 

 「おっす久しぶり、おっさん、奥さん達はどうしたんだ?」

 

 千明とリトは、友達の父親、娘の友達という間柄で、他人よりは気安い関係だった。

 

 「イヤ……本当は一緒に行きたかったんだけどほら、あんまり大人数で移動するとあれっていうか…………はいこれ、息子と、後娘がお世話になってますっていう訳で……後でみんなで分けてね」

 

 リトは、土産物と思しき物が詰まった紙袋を渡してきた。ノノの事もあって、デジャブを感じる。

 

 「おっあんがとさん……黒子ちゃん、よろしく」

 

 千明はリトをイチゴの部屋に案内した。もっとも、千明はイチゴの部屋に入った事はないので黒子にお任せになるが……

 

 〜イチゴの部屋〜

 

 今のイチゴは昏睡状態と言って差し支えない。そんなイチゴを見てリトは、すぐさま手を握った。

 

 「イチゴ……」

 

 「イチゴがこうなってしまったのは私の責任です。誠に申し訳無く」

 

 丈瑠が頭を下げようとするのをリトは止めた。

 

 「それより、どうしてこうなったんです?」

 

 「前回戦った奴の能力、人が言われたくない悪口を言って攻撃する奴でさ、イチゴが一番ひどいダメージを受けたんだ」

 

 しかも、一番初めに遭遇して……着いた時、全てが手遅れだった。

 

 「どんな事を言われてそうなったかは?」

 

 「全然」

 

 嘘だ、確証がないだけで、目星はつく。

 

 「そっか」

 

 しばらく考え込んでリトは言う。

 

 「こいつを引き取る事はできないでしょうか……」

 

 丈瑠達は、一斉にリトを見た。

 

 「良いとは思うのですが……そう思い至ったのは」

 

 「色々あって、距離を取るべきとは思ったけど、こいつの顔見てたら、もう一度向き合った方が良いって思ったんだ……ひょっとしたら……今なら……」

 

 「良いのかよ、イチゴ連れて帰って」

 

 「差し出がましいかもしれませんが、私もそう思います」

 

 「え!?」

 

 千明は、丈瑠が反対した事に驚いた。

 

 「千明、なんかダメなん?」

 

 「色々あるけど……おっさんが一番良く分かってんじゃねえの」

 

 「それでもだ、それでも……」

 

 「で、やるとしてどうするんだよ」

 

 「まあ、考えはあるよ……」

 

 そんなこんなで、イチゴがリトに連れていかれた。

 無理に引き留める理由はない、イチゴが何か言えない内は……

 

 「丈瑠も知ってたのかよ、そういやこの前手のひらクルってしてたもんなぁ」

 

 「あいつの周りには家族以外の敵が多いって事は知った」

 

 「………ああ…………」

 

 「だから、多少どうにかできるようには稽古を付けたつもりだ……これからどうするかは……あいつ次第になるか」

 

 「そういう事ね……」

 

 「茉子ちゃん、殿様に千明が何話してるかさっぱりなんやけど」

 

 「丈瑠は一人っ子っぽさそうだからあんまり問題になってないだけで、殿様や王様は特に家族関係とか周りとか、大変なのよ」

 

 侍の話を引き合いにだすのは……「姉の補欠」と言われていたことは相手なので無し。

 

 「戦いはますます激しいものになるかもしれん、守ろうとしていただけるのならば、父親の元に帰る方が安全かも……」

 

 「……でも、他にも何かありそうね……」

 

 一部始終を聞いていた白饅頭御一行様……

 

 「やっぱ親子ってなぁ似るもんだな」

 

 うんうんと黒鋼は頷いていた。

 黒鋼の父親は、彼に似て、しかも笑顔などの表情が豊かだった。

 イチゴと彼も似たようなものだった。プリンがあれば彼は笑顔になる……が、逆にその時以外に彼が笑顔になっているところを見た覚えはない。そしてイチゴの父親はイチゴと比べて表情が豊かそうだった。

 

 「モコナ知ってる、あれが『ラッキースケベ』の代名詞って呼ばれる人だよ」

 

 「はーん…………」

 

 ポン……ポン……ポン……チ~ン!!

 

 「まさか……ラブコメの主人公だと!?(汗)」

 

 黒鋼は千明から借りたマンガを片手に驚いていた。

 

 「もう、イチゴさんとはお別れなんでしょうか」

 

 イチゴが動けないので、代わりの黒子が就くそうだ……イチゴのように頭巾がゆるくないので、中身を見ようと思っても見る事はできないのでモコナ達は寂しい気もしている。

 

 「まあ倒れた人間をいつまでもかくまうためにこの屋敷がある訳じゃねえからな、さらに言うなら、元々家系的に仕えてた訳じゃねえそうだし……」

 

 「あれで良いかはさておき、部外者が立ち入れそうな隙は無さそうだね」

 

 「まだ料理教えてもらいたかった……かも」

 

 〜一方その頃〜

 

 志葉家の屋敷の近くをうろついている男あり、ヘビクラだ。手には果物の入った袋をぶら下げている。

 

 「…………この調子じゃ俺が特別何かする必要もねえか」

 

 イチゴがズボシメシに

 

 「兄弟同士の間に産まれた○」

 

 と言われ、発狂にも近い叫び声を上げていた事を思いだし、気がつけばお見舞い用の果物セットを買ってここにきてしまったヘビクラであった。

 

 「あの親子は一筋縄じゃいかねえだろうが……さて……どうするか、これは」

 

 だが、もうおそらくその必要は無くなった。しかし果物を持ったまま帰るのは忍びないというか、せっかく買ったのにもったいないからどうしようかとまた新たな問題が発生してきた。

 今日の昼ご飯にするか、ストレイジのみんなに分けようかとヘビクラは悩んだ。

 

 〜御門邸〜

 

 ここは、御門涼子という女性が住んでいる邸宅である。

 デビルークの王室と縁を結んだ事をきっかけに、その息子や娘も診るようになったのである。

 リトは玄関の扉をノックした。

 

 「御門先生、ガーランド、いる?」

 

 顔全体を覆う程、包帯を巻いた青年がドアを開けて出迎えてきた。家が元々お化け屋敷のような雰囲気を漂わせていた分、ミイラ男が迫って来る気分になる。

 

 「お、パパいらっしゃいになるのか?まあとにかく、会いたかったよー」

 

 ガーランド・ルナティーク……ヤミとリトの息子である。

 棒読みの言葉にとってつけたような抑揚、明らかにふざけて発言している事がよく分かる。

 

 「だったらそんな心にも無さそうなトーンで言うなよ、それより急患だ急患」

 

 「そいつは……イチゴか!?」

 

 すぐさまイチゴを、ベッドに移した。

 

 「カプセルは無しでいこうぜ、弟とはいえ男の服をひん剥くのは抵抗あるんだ……えっちぃ度の欠片もない」

 

 「着替えさせるのは俺がやるからいいよ」

 

 色々な可能性を考慮して、管にしておいた。これなら何かあった時のダメージも低い。

 

 「さて、これで命だけはどうにかなるか……状況の把握っと……カイちゃーん、起きてー無視か……」

 

 イチゴの首飾りになっているカイにガーランドが声をかけるも、カイは起きない。

 

 「一旦電源が切れると、次目覚めるのはイチゴの身に危険が起きるぐらいにララが設定してあるから」

 

 「そういえばそうだった……ような……」

 

 「ガーランド……だよな?顔が隠れてるから判断できないけど」

 

 「そう、疾風に頸草を知る、ガーランド・ルナティーク……ただのケガ人だよ」

 

 「あ、本物だ……調子はどうだ?この前襲われたって聞いたけど」

 

 「まだ、包帯は取れなさそう。まだ外すと腫れてる感じ。なんなんだよ、アゼンダのおばさん……折れたメンタル直す天才か?という訳で今度会ったらけちょんけちょんにしてやってくれよ、今や俺やティアーユおばさんにまで狙い付けるようになったんだからさ」

 

 今包帯を取ると某やられた時の清麿の如くボコボコに腫れた顔を周囲に晒し、尚且つ風に当たって痛いので取れない。

 

 「あー、モモやヤミに言っとくよ」

 

 「ママはちゃんと王宮には帰ってる?」

 

 「ああ……」

 

 「なら良いけど」

 

 ガーランドがやる事を終えてベッドに寝転がると、リトは玄関から外に出ようとしていた。

 

 「ん?早いな……」

 

 「俺は一旦帰って、公務の続きするから」

 

 「途中か?たく、焦りすぎだ……まあ、俺は優しいお姉ちゃん達が、俺の事も心配してくれるだろうからいいけど」

 

 「そ、そうなんだ……」

 

 リトは苦笑いを浮かべ、玄関のドアを開けようとした。

 

 「で……イチゴをどうする?」

 

 「しばらく預かってくれないか?」

 

 「このケガが治ったらオーシャンシティに帰るよ、向こうに残したバイクのメンテしないと」

 

 「じゃあそれまでで良いから」

 

 「……起きてなんにも起こらない事を願うよ」

 

 概ね了承してくれたと感じ、リトは宇宙船に戻った。

 出る前と違って異変を感じる。

 物置きから……ガサゴソと、音がする。

 

 「えーい」

 

 ノノが出てきた。

 

 「ええっ!?」

 

 密航だろうか?気配はまるで無かった……さっきまで辛抱できていたという事だろうか?

 

 「お父様!!暇で暇で仕方なかったです!!」

 

 今日は、へその部分だけ露出させているペケのカラーに近い白のドレス、黒いニーソを履いて聖闘○星○の女戦士の被るようなマスクを付けている。

 

 「さあ、イチゴお兄様の元にレッツゴーです!!」

 

 「うわっちょっと、ちょっと待って!!」

 

 有無を言わさない勢いで、ノノは父親の手を引っ張った。

 そしてリトは再び屋敷の中に入った。

 

 「ノノ!?」

 

 「こんにちは!!ガーランドお兄様」

 

 「なんでここに……」

 

 リトもノノはデビルークの宮殿で今頃教育係の元で勉強しているものかとばかり思っていた。

 

 「だって、お父様、イチゴお兄様の名前を言う時の声大きかったですし……私もいても立ってもいられなくって……」

 

 リトは驚き、ガーランドはリトの顔を凝視する。

 

 「……………これだから直情型は」

 

 「あーごめん」

 

 ノノは、イチゴの所に向かった……

 

 「イチゴお兄様……」

 

 そして、イチゴの顔をまじまじと見つめた。何も反応はない、喜んだり、嫌がったりもしてこない。

 

 「ノノ……」

 

 「お兄様をこんな目に遭わせた方は?」

 

 「もう、倒したって」

 

 「だったら、次はお兄様ですね……」

 

 ノノが悲しそうに呟くと、より一層この場がその色に染まっていくのを感じた。

 

 「じゃあ、改めてイチゴを頼む……ガーランド」

 

 「ああ……優しいお姉ちゃんが見舞いに来る事、楽しみにするよ」

 

 「へいへい……後、ノノは一緒に帰ろうか」

 

 ノノはここに居着く気満々の挙動を取っていたのでリトは釘を刺すつもりで言った。

 

 「えー、嫌ですー!!イチゴお兄様のハート掴むまで帰りませんー!!」

 

 するとジタバタと、駄々っ子のようにノノは暴れた。リトは今までララ、ナナ、モモなど王女達の家出の現場に居合わせた、最終的に認めてくれていた分、自分も認めなければならない気がした……とはいえ……される番になると、きついものがある。

 

 「仕方ないな……」

 

 リトはガックリと落ち込み

 

 「ドント・マインド……」

 

 ガーランドはリトの肩に手を置いた。

 

 「ララさん辺りが来れば流石に落ち着くかもな」

 

 〜外〜

 

 リトは外に出ると、電話をかけた。

 

 『もしもし、リト?仕事は今休憩時間だから、話せる事は話せるけど……』

 

 「美柑、イチゴが!!」

 

 『イチゴ!?がどうしたの!?』

 

 リトは美柑に状況を説明した。

 

 『そんな……』

 

 「もう少ししたら王宮に帰ってララ達も呼ぼうと思うけど……美柑は……どうする?」

 

 『…………』

 

 「どっちを選んでも良い……俺は美柑の判断を尊重する」

 

 『私は…………』




・スフィアルート
イチゴ/カイ
(首領)桃太郎/(首領)桃太郎

・ラストニンジャルート
シンケンジャー/シンケンオー
デカブレイク/デカバイクロボ
小狼/レイアース
黒鋼/セレス
ファイ/ウィンダム(風)
ハルキ/セブンガー


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スフィアルート
第11話 呪い Aパート


みなさんこんにちはもしくはこんばんは。
 今回のAパートの視点はガーランドニキから送る事になるので文章量は短めとなります。
ガーランドニキのイメージは顔がAUO(髪を下ろしたバージョン)、衣装はアーチャー(2臨)、CVダブルフェイス(マイ伝)です。


 『……イチゴがそうなってるなら、私も行かなくっちゃ、お母さんだもん』

 

 「うん……」

 

 『できるだけ早く御門先生の所に行けばいい?』

 

 「そうそう」

 

 〜翌日 御門邸〜

 

 ガーランドは、携帯電話からあるトランスフォーマー宛の回線を開く……

 

 「まだか?イカトンボ」

 

 『無理です、あなた様方の御父上は運が良かっただけですよ……本当なら別銀河から地球ヘなどと……法定速度最高でももう半日はかかるでしょう……それに、相手が相手です……隠密性も必要となります』

 

 「そうか……ならせめて、手を借りるって意味でマイクロンでも借りたいんだがね」

 

 『もうみんな去っていきましたからねぇ』

 

 「……自分でどうにかしろと……ほーう」

 

 『そうですね……あなた様の声など、聞きたくもありませんので……もうこの辺にさせていただきます。では!!』

 

 電話を切られたので、ガーランドはため息をつく。

 

 「おいおい、やるのか?」

 

 そして、ベッドに寝そべったままノノに質問した。

 

 「ええ、ガーランドのお兄様、絵本で眠り姫を起こすのに王子様がやったあれをやります」

 

 眠り姫……地球の童話で語られている話だ、茨姫とも言うがそこはどうでもいい。ある国で生まれゆく姫が、多の祝福、そして呪いを受け、永遠かと思われる眠りに誘われるも、王子の口づけをもって眠りから覚めるという話。

 

 「モモさんの言ったパパとの馴れ初め話だと、キスされそうになった時、「本当に好きになってもらってから」って言ってたらしい。だからマウストゥマウスは今はまだやめた方が良いと思うんだがね(焦り)ていうかそんな怪しい薬とか信用するんじゃありません」

 

 ガーランドはノノが手に持っている薬瓶を指さした。

 ガーランドが昼寝をしてる間に、ノノがいつの間にか散歩に行ってその時にもらった物らしい。

 薬局でも行こうかと思った時に謎の女性に声をかけられ

 

 「家族が病気で困ってるのかい?ならこれを飲ませるといい……お代?今は君が健やかに成長してくれるならそれで構わない」

 

 と言われて渡されたそうだ。

 その女が邪な目線をノノに向けた事をノノは知らない……だからガーランドも知らない……

 

 「こんなものもらわなくても、ここには色々有るんだぞ」

 

 闇ではあるが医者の家だし……探せば薬になるものはそれなりにはある……だろう。

 

 「そんなそこかしこの怪しい物体の混ぜ物なんか、イチゴお兄様に飲ませられません、私達は……素人です!!」

 

 「!!一理ある……それはそれとして……その薬も一緒じゃ……」

 

 「親切心からいただいたものなので……使わないでいるにはちょっと……」

 

 「温室育ちめ……」

 

 ガーランドは頭を抱えた。

 もし、刺客が用意した毒とかが入っていたらどうするのだろうか?今のままだと平気で飲みかねなさそうだ……

 

 「温室育ち……良い言葉だと思います、みんながいつかそうなってしまえれば、宇宙はもっと平和になるのでは?」

 

 それは、優しい人達に囲まれて、良く育てばの話……育て方の方針次第でどうとでも覆るし、外圧一つで前提がぶち壊れるだろう。

 種子自体に歪みがあれば、それだけで争乱の芽になり得る。

 

 「ならねーよ、土壌腐ってたら、元も子もない。しかも、そんなんでも生かせりゃある程度は育てられるときた……脱線したな……仕方ない……貸せ」

 

 ガーランドはノノから薬瓶を奪取し、少量摘出して成分解析を始めた。

 全部地球で採れるものだった……特に諸々の禁足事項に触れる物はない……大体は漢方薬の材料と、素人目線だとよく分からないが病気に利きそうなものばかりでできている……これだけぶち込まれればなにかしら効果はあるだろうと確信できそうだった。

 問題は、まず味……一つ一つ、どれも個性が強そうで、味が変な方向に行くのではという懸念が芽生える……つまりまずそう。

 そして、いくら体に良さそうなものでも、集積しすぎでショック死できそうな密度という事だった。

 良薬は口に苦しと言うが、その範疇に収まれるかどうか……

 

 「どうですか?」

 

 「まあ、飲んだ後で困るような代物ではないと思うけど……不味いかもなぁ……だから、今度からはこういう、いちいち調べなきゃいけないようなのを知らない人からもらわないように………ね?」

 

 肝心な情報もない、一日何回?何食後?

 ひょっとして、一気飲み用だろうか?

 すると、ノノは何も言わずに近づき……薬を一口飲んだ。

 

 「!?止せ!!」

 

 「美味しいじゃないですか」

 

 ノノの味覚は王妃譲りのようだ、美味しいと感じられるものが多く、鵜呑みにはできない。

 

 「せめて、誰か追加で来る時にしてくれよ……」

 

 本当に何かの手違いでイチゴが起きたとして、ついでに暴れるかもしれないので他に人が欲しい……

 

 「…………何かこう……みなぎってきました!!」

 

 ノノの体から、オーラのようなものが湧いてきた。

 

 「これなら、なんとかいけるかもしれません!!」

 

 「落ち着こうぜプリンセス」

 

 そう言って近づいてみたが、頬に紅潮の様子は見られない、酔ってはいない、本当にただ元気ハツラツとしているだけのようだ。

 

 「……………なるほどな」

 

 「じゃあ、あっち向いていてください」

 

 チャームの力は凄まじい。見なければ問題はないが、見てしまえば気が狂う。

 チャーム人の宇宙1美しい顔と声……言い換えれば、フェロモンのようなその能力に宇宙は翻弄された。そして、最後の一人から娘3人、そしてその子供達と微妙に持ち直しているが絶滅寸前ではあるのかもしれない。フェロモンと形容すれば、もう少し種族的に繁栄していてもおかしくなさそうだが、その魅力にあてられた者は支配欲も発露するから、どうしても選民的にならざるを得ない。

 効かなかった(暴走に至らなかった)のは、ノノの祖父であるギド、ガーランド達の父親であるリト、そしてイチゴ……だからイチゴは今ノノに狙われている、嫌、イチゴの心を得ようとノノは頑張っている。

 だが正直、イチゴの魅了が効かないは彼らの魅了が効かないとは別種だろう。そうでなければ、効かない事を知って、純粋なチャーム人であるセフィが心を痛める筈はない。そしておそらくノノの野望は……叶う事はない……

 

 「俺は知らんよ、どうなっても」

 

 行為は呪いをもたらす。

 体を流れる血も、紡がれた縁も、環境に基づく習慣も、何もかも……転じれば、呪いとなる。

 こうあるべきだ、こうしなければならない、こうしろ、これはこういうものだ……

 人はそれを規範と呼び、定義と言う時も、倫理と呼ぶ時もある。それですらない呼び名とかもあるが……

 兵器として産まれた……だから、兵器として生きねばならないと考えている女性もいたが……それは別の話……

 それでどうにかなった喜劇もあるし、織り成してしまった悲劇もある。

 良い結果を産めば転じて、祝福となる。

 悪い結果を産めば文字通り呪いとなる。

 それを覆す事はできないし、しようとは思えない。そんな事ができるのは、バカだけだ……しかも、本能にのみ忠実で、鏡に映る自分というものすら鑑みる事のない程の、という言葉が付く。

 

 「怪我人は黙ってじっとしててください」

 

 眠り姫を目覚めさせた王子のキス……あれは、彼女の呪いの解放への狼煙?婚姻という新たな呪いへの橋渡し?

 

 「お兄様、これが私の気持ちです……」

 

 ノノは、薬を口に含み、イチゴの唇に自分のを付けた。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。2人の飲んだのは愛と善意100%のクスハ汁……


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第11話 呪い Bパート

みなさんこんにちはもしくはこんばんは。
祝え!!デビルークの王女、その美貌に心を奪われる事のない王子のお目覚めである。


 不意に起こる、吐き気……

 イチゴの体内時計では、ズボシメシに言われたショックで吐いて間もないためまたかと思い、流石に嫌気が差してくる。

 いてもたってもいられない気分になり、跳ね起きた。

 

 「ここは」

 

 いつの間にか夜になっていたが、それより重要な事がある。見覚えがある天井……だが、それは見慣れたと言うわけでなく、既視感があるかなというぐらいで……おそらく、勘が正しければ志葉家の屋敷からは結構遠い場所に移されている。

 そして、裸になって寝そべっているノノがいた。

 

 「スースー」

 

 何故こうなったかの疑問より先に、怒りが湧いた。

 

 お前、オレに何をやった………!?

 

 家族の前で、してはいけない表情になっていっていくのが分かる。

 不意に、ズボシメシの言葉が、頭を反芻していく。

 

 『兄弟同士で産まれた○』

 

 個人の選択として割り切るには、両親は有名過ぎた……

 

 ダメだ……抑えろ……抑えろ……デビルークに、王妃に、たくさんの人に迷惑がかかる……抑えねば、抑えねば、感情が邪魔なら、蓋をしてでも……

 

 数十秒深呼吸をして落ち着きを取り戻し、周りを見渡してみる。

 病人扱いなのか、腕に管が突き刺さっていた。

 即刻退避せねば……特に性感帯の尻尾周辺から……デビルーク人の尻尾は、ビームを出せるぐらいだからそれだけデリケートな部位で……まさぐられると喘いだりするらしい。寝相の問題でそうなられる前に……

 腕に付いた管が邪魔だと思い、とりあえず全て一瞬の内に引っこ抜いた。

 そして、一気に飛び上がって、ベッドから距離を取る。デビルークの人間じゃないが、うまくいった。

 

 「ん……変な薬を飲んで痙攣……から快復まで13時間か……流石のノノも寝ちまったよ」

 

 聞き覚えのある声がした。

 

 「久しぶりだな、イチゴ」

 

 暗いから、声のみで判断するしかないが、ガーランド・ルナティーク……金色の闇……ヤミの息子。

 

 「兄さん……」

 

 「お……今日は落ち着いてるな……お前が今思っている事はだいたい分かる、だがそれをこいつに晒すのだけはやめてくれ。お前を好きになろうとしてるのだけは本当らしいからな」

 

 「ここはどこ?」

 

 「御門先生の家だ」

 

 「ノノはどうしたの?」

 

 「お前の看病疲れで就寝中です、起こさないであげてね……」

 

 ただ寝てるだけだと知り、少しホッとした。

 

 「寝てるだけなら、せめてパジャマぐらい着るように言ってくれない?」

 

 心臓に悪い上に、冷える。

 

 「お前の異変を聞いて密航したから用意してなかったんだと……俺も、自分の分しか持ってきてなくてね……アンの分は向こうが持ってって先生の分は着れる程手足が伸びてる訳じゃない」

 

 アン……字で書くと(アン)はガーランドの妹……彼女もまたヤミの子供だ。御門先生のような腕の良い医者になる事を目標にしてるらしい。

 

 「……………」

 

 イチゴは、ノノの体にイチゴのかぶっていた毛布をかぶせた。

 

 「じゃあ、お前が起きるまで起きなきゃならなかったんで……おやすみ……言いたい事あったら明日聞いてやっから、今日は何もすんなよ」

 

 ガーランドはそう言って、眠りに就いた。

 朝までやる事がない……ガーランドに追従する形で寝ようか?

 だが、寝すぎて寝つけなくなってしまったか、目も冴えている。

 仕方ないので、そこら辺をうろつく事にした。

 アルバムのようなものが、カルテの隣で自己主張していたのでそれを手に取った。

 ある1ページが相当長い期間をかけて開かれていたのか、その1ページにするのが容易で……

 そこにはティアーユ・ルナティークの水着写真が飾られていた。

 ガーランドの、実質的な祖母か伯母のような存在だ。バナナの色のように鮮やかな金髪を持っているのはこの人由来だろう、多分。

 写真に映っている彼女は、日光に当たり慣れていない色白の柔肌を、恥ずかしげな表情と共に晒し、三角形の布地で胸を覆うタイプの青い水着を身に纏っている。

 海が背景みたいだが、入る前に撮ったのか肌はそこまで濡れてはいない。何がとは言わないが、柔らかそうだった。

 おそらくヤミと他の誰かが隣に立っているが足だけで途切れ……おそらく……意図的に切り抜いている。

 

 「ハレンチな!!(小声&言ってみたかっただけ)、親戚の水着写真のコレクションとか絶許、処分処分」

 

 写真をアルバムから取り出して、テーブルに投げ込んだ。

 懐かしい……いつからか、こういうハレンチな物と、その辺の草花の写真とが、同価値に思う時があった、嫌……今もたまにある。だが、かっこつけて言っている訳じゃない、そういう時に限って、プリンも食べる気が起きないのだ。少々死活問題かもしれない。

 ノノの顔を見ても、彼女を欲しいとは思えない……

 ノノにとっては自分の美貌、それで誰かが変貌する事が呪いだろう。

 ガーランドにとっては、ヤミの子供である事は言ってしまえば呪いかもしれない。ヤミの……殺し屋の息子というだけで、知らない人から見に覚えのない恨みを向けられる事もあるそうだ。

 イチゴにとっての呪いは…………

 

 『だからさ……やっちまえよ』

 

 自分に似た声がして、思わずイチゴは振り返る。ガーランド達以外誰もいない。嫌違う、景色として切り捨てかけた鏡には、何かが映っている。明かりも付いていない夜だが、不思議とそれだけはくっきりと見えた。

 

 『そしてオレは完成するんだ』

 

 鏡に映ったそれは、イチゴにそっくりで、目の本来白くあるべき部分が真っ黒に染まり、瞳も化け物のように変わっていた。爪も、マニキュアも目じゃない程に長く鋭くなっている。

 

 『そいつをこう、サクっ!!としてね』

 

 鏡に映った何かは、おそらくノノに襲いかかれと指示しているようだ。

 手を見ていると、鏡に映ったのと同じぐらい爪が長くなっていた。これでひっかけという事だろうか?

 

 『そしてオレを否定してくる奴らを、その手で!!』

 

 フッと、イチゴは冷笑した。

 

 「オレの選択は一つだよ」

 

 イチゴは、自分の手首にその長くなった爪を近づけた。

 イチゴと違って、ノノはデビルークの正統な王女だ……チャーム人の能力とデビルーク人特有の尻尾という、王妃の子供として疑いようのない特徴もある。対してイチゴは、本来王族でもない純粋な異星人もとい地球人、しかもズボシメシに言われたような言葉も付く……どちらの方が価値があるかは明白。

 傷つくべきは、自分だ!!

 力を入れて、爪を自分に押し付けた。

 

 『…………………………………………………!!』

 

 鏡に映り込んだそれは、イチゴがそうすると、一切何も語らなくなった。

 力を入れすぎて、ダラリと何かが零れ落ちていく。

 

 『やめてください!!(小声)』

 

 するとカイが目覚め、バトルフォームの要領でイチゴを覆ってきた。そして、強烈な力で動きを矯正してきた。

 体の自由を奪う気だ……

 

 「うう………!!」

 

 拘束される不快感から、自由の効く爪の伸びた方の手で窓ガラスを引き裂き、そこからイチゴはその勢いのまま窓から飛び降りた。

 その間にカイはイチゴを包み込むのを完了させていた。

 

 『落ち着いてください、落ち着いてください!!落ち着いたら絆創膏でも貼るので、空気の良い所に行ってそう……スーハーと行きましょう、深呼吸深呼吸』

 

 翼の部分をバタバタと動かし、地面へと着地した。

 もう逃げ切れる事はない、観念したイチゴはとりあえず動き回る事にした。

 

 「んじゃあ、走ろっか!!」

 

 御門邸を出て、道路を走る傍ら、何か違和感を感じていた………

 遠くから美柑の気配を感じる………多分、彼女は地球に来た。いつの間に感覚が鋭くなっているのかと変な気分が込み上げてくる。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。イチゴ君の吐き気はクスハ汁一瓶分飲まされた影響です。


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第12話 朱雀、来たる Aパート

みなさんこんにちはもしくはこんばんは。
スーパーロボット大戦OGから、仙人でハレンチなあいつが参戦します。


 〜彩南町〜

 

 イチゴは、全速力で走っていた……

 

 『「うぉぉぉぉぉ!!」』

 

 いつもより、気分が良い……気力が充実しているというか……というか上限値に達している……ともかくたくさん動ける気がする。

 だが、ノンストップかつ全速力で30分走ると流石に、カイがいるとはいえ疲れてきた……

 公園のベンチを見つけてから、座り込んだ。

 

 「……………ハァ」

 

 何か、発散できた気はする……走った意味はあった。

 だがまだ足りない…

 不意に、きつい時、どこからともなく現れて、その溜飲を下げてくれる桃太郎に会いたくなった。会ったら会ったでまたボコボコにされるかもしれないが……

 小さい妖が、口に揃えて言いそうな事を思い浮かべて言ってみた。

 

 「助けて、桃太郎ー!!」

 

 そう叫ぶと、どこからか紙飛行機が飛んできて、イチゴ……を包むカイの額に刺さった。その紙を元の状態に戻すと……

 

 『夜は家に帰って寝ろ、悪縁を呼ぶぞ!!』

 

 と紙一杯に達筆な字が描かれてあるのが確認できた。

 歴史上、淫行襲撃その他諸々……それらは夜に繰り広げられる事が多い故に、その言葉は正論の固まりのように思えた。

 

 「じゃあ、帰ろっか」

 

 『分かりました……桃太郎とやらの言う事は素直に聞くんですね』

 

 「まあね……」

 

 存在自体、怪しくはあるが……口調に立ち居振る舞いのその力強さは、誰にも真似できない部類のもの、いつの間にか振り回されて、言う事を聞いてしまう……本当に命に関わる案件にはならなさそうなのも従ってしまう理由の一つだ……

 事実……桃太郎の言葉でちょっと、嫌……かなり、落ち着いた。

 なので御門邸に帰る事にしたが、何かの眼光に貫かれて、竦んでしまった。

 

 「!?」

 

 『イチゴ様!?』

 

 「クックック、久しぶりだねえ、イチゴ」

 

 女性の笑い声がする、イチゴは声の方を見た。

 

 「あんたは……」

 

 木の後ろに白メイン、オレンジアクセントのメッシュの髪を、後頭部から逆立つよう結わえた女性がいた。

 おそらく男が着るような、堅めの衣装……おそらくオリエンタル系を身に包んでいるが……目元の妖しさと、口紅を塗っているので多分そうだろう。

 いわゆる男装の麗人……よく見ると、体格はがっちりしている。

 何故か?

 

 「いつぞやの覗き魔……」

 

 否、奴は女の着替えを覗くのが好きな、(あやかし)だ。しかも、ある程度姿形の融通が効く程の……

 

 「ふ……本当なら、直に柔肌に触れて愛撫したいけど、見るだけで勘弁してやってるんだから感謝されたいぐらいだよ」

 

 むかーしむかし、大体9年程前、彩南高校で彼女が更衣室辺りで覗きをしてる所を見ていたら、その事がバレて興味を持たれ、それがきっかけで遊んで以来となる……

 彼女の名前は……

 

 「まだやってんの?久しぶり、朱雀……オレと遊んだせいで祓忍の警戒レベル跳ね上がったと思うんだけど」

 

 朱雀……そう、「あの」朱雀。

 彼女の言葉を信じれば、かの都の四方を守る獣達の一体……になる。

 今は変化の術で人間に変化している、その時の名前は……忘れた。

 

 「僕をなんだと思ってるんだい?僕にかかれば忍者なんて有象無象に等しい」

 

 話には聞く、式鬼(しき)(式神をそう読んでる)の最高峰だと……有名どころ過ぎて、何もしなくても信仰が維持されるぐらい……

 

 「はいはい、地球の守護者……南方を司る聖獣、朱雀様でしょう?」

 

 イチゴ個人にとっては、下手な男より「おっぱい星人」とあだ名を付けるのにふさわしい存在だった。いつぞやの覗きも、女の子達がお着替えをしている最中に下着からでも、その膨らみを堪能するためで……女の子同士で揉み合いっこになれば尚良しとすら豪語している。

 

 「挑む気概と胸のふくよかさに関しては認めてやらないでもないがね……鎖帷子(くさりかたびら)から覗かせる胸も乙なものだ……そこに免じて「君も仙人にならないか」って聞くとみんな断るんだよ、なんでだろうねえ?」

 

 女以外は見もしないで、誘ってなさそうだ……

 

 「あんたに乳繰られるのが嫌だからじゃない?」

 

 誰だって知らないお姉さんに絡まれてそんな怪しい勧誘されたって、なかなか首を縦に振りづらい。しかも、下心が丸見えなのに。

 

 「ハッハッハッハッハッハッハッハ!!表に出ろ、嫌……出してやる」

 

 高笑いの後、ぶちギレた朱雀は、何かしらの動作を取った。忍者が何か技を繰り出す時のに似ている。印を組んでいるのかもしれない……

 

 「変化の術、解除」

 

 煙が立ち込めてきた……

 そして、煙の向こうで彼女……朱雀は、彩南高校で覗きをしていた頃の、元の鳥の姿に戻った。

 赤と体色、金のラインが目立ち、丈瑠達の式神の戦闘時以上にデカい。

 妖じゃなかったら、一発でニュースに出れる程目立つ。

 

 『そうれ』

 

 朱雀は、イチゴ、ついでにイチゴを包んでいるカイを脚で鷲掴みし、どこかへ投げ込んだ。

 

 『ん、これは……イチゴ様……衝撃に気を付けてください!!』

 

 カイの叫ぶ通りにイチゴは身構える、津波とか、地震とか、大きな流れに飲み込まれるという感覚は……こういう事を言うのだろう。

 

 「…………!!」

 

 真下に地面が見えてきた所で、カイの翼部分をいつもの5割増しで動かし、余裕を持ってから着地した。

 片膝だけ地に付ける、かっこいい着地にできれば言う事はなかったが、カイのフォルムのおかげで、座る事もできずにゴロンと一回倒れてしまった……だがカイのおかげで、落下死は免れた。

 

 「サンキュー、カイ…………………ここは?」

 

 たどり着いた場所は、色味は悪いが……そこそこの数の谷がそびえ立つ……自然がいっぱいと言えば聞こえは良いが、右も左も分からないこの状況では、同じような景色ばかりでろくな目印もないそこは劣悪な環境と言っていい。

 

 『私にはさっぱり、ノイズしか見えないです』

 

 ただ、吸う空気はおいしいという気がして、そこだけは安心できる。

 

 『ここなら現世(うつしよ)を気にせずに戦える』

 

 「どういう事?」

 

 桃太郎に引っ張られた時のような異空間だろうか?

 

 『ここは隠世(かくりよ)……覚えてるかい?ここから君を連れて、楠葉(クスハ)達の元に向かったのを……』

 

 そう言われれば、見覚えのあるような、無いような景色もある気がする。さっきまでビンビンに感じていたはずの、美柑の気配も消えている。

 楠葉(クスハ)……青龍の人間に変化している時の名前だったような……朱雀より柔和で、信用できそうな女性だったから朱雀よりはよく覚えている……

 

 「あの時みたいに背中に乗せて欲しかったんだけど」

 

 『君が余計な言葉を言ったからかな』

 

 本当の事を言ったまでだと思うが……

 

 『光栄に思うと良い……無礼千万な君に、僕自らが相手をしよう』

 

 「なんで、わざわざ……」

 

 朱雀なんて御大層な存在に牙を向けられる覚えはない。

 

 『僕としては、この先に連れて行きたいんだけど、あまりに弱いと話にならないからね……』

 

 選択権は、無さそうだった。

 

 『その前にちょっと肩慣らしと行こう……神気兵……招来』

 

 空から陰陽魚のマークが現れて、くるくると回転し……機動兵器に似たものを出現させてきた。

 

 「うわっ何これ!?」

 

 色合いは、鉄のように黒く……形は、キョンシーみたいに直立して、腕を水平に伸ばした、人型の石像みたいだった。

 余談だが……胸に、陰陽魚のマークみたいなものが付いている。

 

 『神気兵……道士共の用いる兵隊だが、僕達もある程度の数を使役する事が許されているんだ……まずこいつ達と戦ってもらう』

 

 「じゃあ、ちょっと待ってて」

 

 一旦カイを纏っている状態を解除、そう言えば、イチゴは病人がよく着るイメージの強い服を着たままだったのを思い出した。

 

 『イチゴ様?』

 

 「悪いね……ちょっと大きくなって欲しいんだ、戦わなきゃいけないみたいで」

 

 『イチゴ様が1分1秒でも長く生きられる選択をなさるならそれに従いますとも』

 

 「まあ、ありがとう……じゃあ、行こう!!」

 

 ギガント形態(フォーム)!!

 

 『イエッサー!!』

 

 〜ぐんぐんカット〜

 

 カイは大きくなり、谷にも負けない大きさへと変わった。

 

 「確かここをこうして」

 

 謎の光を用いて、イチゴはカイに乗り込んだ。

 この状態ではバッテリーの減りが早いから、手早く決めたい。

 

 「シートベルト、多めに締めて……」

 

 『!!』

 

 神気兵は、作戦を練る暇を与えずに指先からビームを放出してきた。

 

 「…………………くっ!!」

 

 イチゴはカイの体をぐるりと旋回させて、避けた。

 

 「なんとかいけるか」

 

 避けられる事を確認しつつ……

 

 「………まっすぐ、突っ込む!!」

 

 加速しながら腕を突き出し、神気兵とやらに向ける。

 

 「行け!!」

 

 一発、殴打。

 足らなさそうなので、もう片方の腕で殴打。

 

 『(何かしらの電子音)』

 

 神気兵を、撃破。

 爆発は無く、発光のみが起こる。

 発光後、残ったのは1枚の符……その符もやがて消え去る。

 

 「叩けば消える……か」

 

 イチゴは、次の神気兵に狙いを定める。

 

 「次はお前だ」

 

 イチゴは、再びレバーを押し込み、アクセルを入れた。

 そしてカイの体重(実際今どこまであるかは知らない)を乗せて、足を向けてキックをお見舞いする。

 

 『(何かしらの電子音)』

 

 もう一体、撃破。

 そちらも1枚の符となり消えていく。

 これで、その場にいる神気兵は全て倒した。

 

 「………とりあえず、終わったよ」

 

 その報告を終えるか終えないかで、火の玉が飛んできた。

 

 「!?」

 

 ただの大きい火の玉と思えば、難なく避ける事ができた。

 

 『じゃあ、次は僕だ』

 

 「……………………」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
今回出てきた神気兵のボディーのイメージは、(真)マジンガーZのタロス像です。


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第12話 朱雀、来たる Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
まだ黒蛇刀も引っさげてないし、今回の雀王機もとい朱雀さんは遊んでいるだけです。
前半はガーランドのターン


 〜御門邸〜

 

 最初にお見舞いに来たのは、ルン・エルシ・ジュエリアだった。

 ミドルネームがある事から、何かしら高貴な身分であるのは想像がつくだろう、話が長くなるので割愛するが、彼女はある星の王女である。そして、大人気アイドル……RUN……だった。今は女優に転身して活躍してるとさ……

 人間の身分制度は、トランスフォーマー達より、ずっと複雑だ……

 

 「それで?あなた、イチゴ君が出ていくのは全く見ていなかったんだーふーん」

 

 ガーランドは、御門邸に来たルンに対して、必死に弁明した。

 ルンは来た時にかけていたサングラスを指で回転させ、その行為が余計に重圧を放っている。

 

 「イチゴは俺が寝るまではここにいたんだ……流石に、寝落ちした後の事なんか追及されてもですねえ、まあ紅茶でも飲んで落ち着いて」

 

 ガーランドは、ティーカップに紅茶を注いで彼女の責めから逃れようとする。

 

 「ありがと…………」

 

 ルンは出されたティーカップを手に取り、口元まで運んだ。

 

 「冷たいわね……次はせめて茶葉使っときなさいよ」

 

 「はーい(口だけ)」

 

 「お兄様……どこ?」

 

 ノノはメソメソとなりながら、イチゴを探しに辺りをうろちょろする。

 

 「心配ねぇ、よしよし(棒読み)」

 

 「トップバッターがよりによってルンちゃん……人選ミスか?俺がイチゴなら、看病されるなら春菜さんの方が良いんだが」

 

 〜ホワンホワンホワンホワン〜

 

 「はい、ガーランド君……あーん」

 

 すりおろしたリンゴを、ガーランドの口に運んでいく春菜。

 

 「ありがとう」

 

 リトは早く良くなって欲しいという労りと、妻のあ~んをガーランドが今独り占めしている事への羨みを混じえた目線を向ける……

 

 「ガーランド、たい焼きはどうですか?食べられますか?」

 

 ヤミも参戦、たい焼きを食べさせようと手を伸ばしてくる。

 

 「ガーランド、食べたらこの薬ね……痛み止め、それと保冷剤の替え」

 

 とアンに薬とその他を準備される。

 と考えていると、ルンにその妄想を破られた。

 

 「私も混ぜなさいよー」

 

 「嫌だよ、ルンちゃんからは父さん以外に対してイヤイヤ感が漂うんだ!!」

 

 まあ、夫と他の女がイチャついてる場面があれば面白くないのも分かる……

 

 「ケチね、私だってもっとリトくんとイチャイチャしたいのよ!!」

 

 「本人とこ行ってやっときゃ良いだろ」

 

 「他人の妄想の中でもよ!!……分かるでしょう?」

 

 分かる気はしなくもないが……

 

 「弟か妹か両方か分かんないけど、いたら助けてくれ……君達のお母さんだぞー」

 

 「あら残念ね、子供達は来てないわよ」

 

 「ショック」

 

 「そもそも、春菜ちゃん期待するなら風夏ちゃん忘れちゃダメじゃない」

 

 風夏とは、西蓮寺春菜とリトの娘だ。

 知り合いの幽霊が春菜の子供として産まれ変わってきたとネタにされるような容姿で、小学校の教師である。

 

 「それもそうだ」

 

 相槌を打っていると、インターホンが鳴った、それはさながら、談笑や授業などヒートアップしてきた頃、鶴の一声でそれを終わらせる学校のチャイムのように。

 

 「さーて、誰だ」

 

 「私が出るよ、顔面全体に包帯してる子より良いでしょ」

 

 と言ってルンが玄関の前に出た。

 

 「どうぞ」

 

 「こんにちは」

 

 「あら、美柑ちゃんじゃない、久しぶり……」

 

 やって来たのはどうやら美柑(みかん)らしい。

 

 「こんにちは、ガーランド君……………顔、大丈夫?」

 

 いつもパイナップルの葉みたいな結び方をした頭部に目が行きがちになる。それでいて髪を長く伸ばしているためか、生え際は見えない。

 

 「久しぶり、美柑おばさん……まだ腫れてるんだよなあ」

 

 買い物帰りの如く、両手にぶら下げたポリ袋にギチギチに詰め込まれた食材を見るに……何か作ってくれると見ていい。

 

 「やった、たい焼きとインスタント食品だけじゃつらかったんだ……」

 

 「イチゴは……どこ?」

 

 とはいえ、ポリ袋には卵も多い……プリンが大好きな息子が気がかりでやってきたのだろう。実の息子、彼女の罪の証、(リト)との子供。となれば、先程の言葉は冗談という体に留めておいた方が良さそうだ。

 

 「実は今……」

 

 ガーランドは、美柑にイチゴの事を説明した。

 

 「嘘……」

 

 「………………本当、対応、そこまで間違えた筈は無かったんだが」

 

 「お兄様、いなくなってしまいました……どこ……でしょうか?」

 

 美柑とノノがならんでいると、似たような髪型させているなとガーランドは考えた。悪くはないが、イチゴが見てどう思うか……

 

 「凛さんに聞いた時、前より明るくなったって言ってた……だから、大丈夫って思ったのに」

 

 「まあ……人間、生きてるんだからテンションの上げ下げが激しい時だってあるだろ」

 

 今は楽しくても、ふとした拍子に気分を悪くしているかもしれないのが人生というものだ。

 

 「まあカイがここにいないからある程度は大丈夫だと思うが」

 

 「まあ、そうね」

 

 赤い翼、ゆるキャラ然としたフォルムと大きさ(ゲーム機を長くなるように立てた時ぐらい)、黒いボディーに白いうずまき模様の目とその見た目は完全にペケの同型機だが、実際は色々と別物だ。

 コスチューム的な技術を応用し、装着した対象、持ち主と見なした対象の生命活動を守る用に作られた。コスチュームというより、まんまパワードスーツのようなものだ。見た目の丸さに反して、硬度はオリハルコン以上に硬く……温度差のあるところにも対応可能……後主導権はカイの方が上だ、カイが拒否すればイチゴの行動は阻害される。ついでに解析機能を弄くって、風景一帯をスキャン、それらと同じ色にチェンジさせる事で周囲に擬態するステルス機能もあったりする。巨大なロボットを相手に生き残るため、巨大化する機能を持たされてもいる。

 後、シリアス100%で設計されたらしい………他の兄弟機と違うのはそこだ。ララが作ったのになんでだと思うだろう、ガーランドも思った。

 超かいつまんで話すと、イチゴのせいという事になるが……

 そんなカイが、家から消えていた。

 おそらくイチゴの所に行ったであろうから、イチゴの無事は保証されている……だろう。

 

 「探しに行かなきゃ」

 

 美柑は来てそうそう、御門邸を出ようとした。

 

 「あんまりオススメはできないな、おばさんがこっちに来るまでに気づかなかったのなら尚更」

 

 ここにいるのが嫌で逃げたのかもしれない……

 だとすれば、時間が経てば経つ程遠くに行っているのかも……

 探すには、乗り物に乗る必要がある。

 

 「モモさんから貸してもらった宇宙船あるから、それで行こう」

 

 それにしても、ティアーユ・ルナティークの水着写真がテーブルにあった時は焦った。バレる前に処理できて事なきは得たが……

 

 「ティアーユさん以外は許してやるよ……ハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 と悪魔の笑いを見せるイチゴの顔が思い浮かぶ。

 変な気を起こすとイチゴが殺す勢いで迫ってくるのは重々承知しているが、あえて言うなら変な気だけで留めるためのものなのでコレクションするぐらいは許して欲しい。

 

 「じゃあ、怪我人はお留守番しときなさいよ」

 

 ガーランドは、ひざまずく体勢を取る。

 

 「分かりました、念のため、各方面に連絡を取る……なんかも良いと思います」

 

 女性陣が御門邸を出る中、ガーランドはガラスを見た。

 

 「俺達みたいなお偉方の親族もたまに来るってんで、特注の奴頼んでたのに、チーズみたいに裂かれてる……」

 

 裂いた分しか割れていないから、あまり散らばってないのだけは幸いした……

 破壊の痕跡が、外まで続いている。おかげでルンが来てその事でもうるさかった。だが、途中でそれも収まっており、元をたどる事はできていない。

 腫れが引いたら修理に出かけた方が良いかもしれない。

 

 〜視点切り替えのSE〜

 

 〜謎の空間〜

 

 『良い躯体だね、纏う相手を決して死なせないという強い意志を感じる』

 

 朱雀はカイの事を褒めているようだ。

 

 『作ったのは女性?しかも、はち切れんばかりの胸と、今もなお崩れないであろう美貌と瑞々しさ……そして純粋さを兼ね備えている……良いね、実に良い。素晴らしいよ。そして艶の良い尻尾……へえ、この星の人間ではないんだ……まあ、そんなのは大した問題じゃない』

 

 朱雀は、カイを見て、作り主の特徴を看破しているようだ……背筋に悪寒がした、次に朱雀のいう事が読めたから。

 

 『僕の元にくれば、その美しさにさらに磨きをかける事ができるだろう』

 

 やはり……

 

 「その人はもう、好きな男と結婚してるんだ……そっとしておいて欲しいんだけど」

 

 『いいや、あんな特上の女人を、このまま老い朽ちさせる事は世界の、嫌……宇宙の損失だ!!』

 

 目の前の鳥は、夫婦の仲を(物理的に)引き裂く気満々のようだ。

 

 「させるか!!」

 

 イチゴはレバーを動かし、カイを動かす。

 

 「……当たれ!!」

 

 飛び蹴りをくらわせようと、カイの足を突き出す。

 

 『丸腰とは、舐められたものだね』

 

 朱雀は足で防御する、鳥の脚の形で、長くはないがカイの蹴りを的確に受け流す。

 

 『雀王火焔』

 

 さっきは様子見だったとでも言わんばかりに、広範囲に渡って炎を、しかも絶え間なく吐き出してくる。

 

 「くっ」

 

 イチゴはすぐさま攻撃をやめて、カイの翼を大きく動かし、旋回させて炎を避ける事にした。

 

 「…………………」

 

 飛べるというのは、便利なものだ……

 高度を調節すれば、これこの通り炎を縦横無尽に動いて避ける事ができる。

 かと言って、誰かが言う程そこに自由は感じない。カイが……だが、できる事の範疇になるからだ、飛んで何かができるという事は、飛んで何かをしなければならなくなるという事になる、現に、今こうしてカイを酷使して炎を避けなければならない。

 文句を言って、なら飛べなければ良いのか?それも違う、飛べなければ……走って炎から逃げただろう。そして、その時やはり空を飛べれば良いなと考えるだろう。

 逆に、鳥とか、空を飛ぶ生き物は、翼を無くせば、短い足で地べたを這いずるか、もしくは這いずる事もできずに亡くなるかのどちらかだろう。その時に、大地を踏みしめる、強靭な足が欲しいと願うだろう。

 ないものねだりというものだろうか?自分ができない事の先に、自由はあるように見える……………………かくいうイチゴにとっての自由は、なんだろうか?

 

 「空で迎え討つ、ドッグファイトだ!!」

 

 『ラジャー!!』

 

 距離を取って、炎が途切れたタイミングで、再び空を飛んで、腕を伸ばして朱雀に向かって突撃……

 

 『僕も得意なんだよね、それ』

 

 朱雀も負けじと、翼を思いっきり広げ、全身に炎を纏う。

 

 「はあああああああ!!」

 

 『フェニックススラッシュ!!』

 

 両者、激突。

 

 「!!」

 

 イチゴとカイが、押し負けた。

 

 「クッ」

 

 イチゴはカイの腕を地に向けて、受け身を取った。

 損傷は、していない。ツルツルしたままだ。

 

 「!?これで無事なのか、さすがにすごいな……」

 

 王妃(ララ)特製……の割にここまでガチな性能を見せつけてくるのは……少々引く、だが……だからこそイチゴでも戦える。

 

 『あ………充電、ヤバいです』

 

 「!!」

 

 見たところ、バッテリー残量を表示するメーターが赤くなってきている。確かにヤバそうだ。

 

 「どうするか……?」

 

 攻めているが、カイが充電切れになるまでに、勝利が手に届くイメージがない。

 勝利とは?朱雀を行動不能にまで追い込む事だ……ララの事を諦めてもらう事もそう……

 そう定義すると、やはりできなさそうな気がしてきた……

 

 『こないなら、僕から行くよ』

 

 朱雀は、今度は翼をたたみ、回転しながら突っ込んできた。

 避けようかと思った、しかし、そうすれば追尾してくるとなんとなくだが分かる。

 

 「どうする……?」

 

 さすがに、ろくな武器もないカイで挑むのは無謀だったのかもしれない。

 剣が使えれば、見様見真似である程度の技(エフェクトなし)を出す事ができるが……

 今、できる手段は…………?

 不意に、丈瑠の言葉が脳裏に浮かぶ。

 

 『お前に足りないのは……………………………守りだ』

 

 守り……

 イチゴはカイを使って構える体勢を取る。

 守りに必要なのは、ダメージを減らす事、相手の動きを見切る事。そして何より、それを可能にする冷静さ……むしろ、今必要なのはそれだ……

 相手の動きをよく見て……朱雀もやれていた、こちらの方がリーチも長いからいけるはず……

 そう考えている内に、朱雀と、イチゴの乗るカイは、再び衝突する。

 衝撃が来る……カイを信じて、耐えるしかない。

 …………………………

 

 『………ハァ』

 

 カイは動かない、しばらくそのままのため、朱雀はため息をつく。

 そう油断させておいて……カイの腕を、大きく伸ばす。

 

 『ほう!?』

 

 「そこだ!!」

 

 背中のよく伸びた羽毛を掴んだ。

 

 『!!』

 

 「いっけぇ!!」

 

 今度はこちらが攻める、そう思い、朱雀を地面に叩きつけた。

 ビリビリと強い衝撃が、カイ越しに伝わってくる。

 

 『…………………』

 

 流石に教え一つ実践できてどうこうなる程、朱雀という名前も存在もヤワではないらしい。妙に動きも機敏になっている……

 

 『お仕置きだ!!』

 

 くちばしで突っつかれ、姿勢を保てなくなり倒れた。

 その様は、尻もちをついたようで、幼く滑稽に見えた事だろう。

 

 『くらいつく程度には持っているみたいだね、良いよ……寛大な心を持って認めよう』

 

 何を……と聞く前に、朱雀はさっさと飛び立っていった。

 

 『脱出させます、ちょっと荒っぽくいきますけど……容赦してくださいね』

 

 タイムオーバーというわけか、強制的に脱出させられた。

 

 「くっ」

 

 やはりというか……色々とレベルが違っていた。王妃に関しては、別の星にいるから、流石においそれとちょっかいは出せないとは思うが……

 

 「くそ…………」

 

 王妃を、変な事に巻き込むかもしれない……そう思うと申し訳なさでいっぱいになってくる。

 

 「………………!!」

 

 自責のあまり、床を手で叩きたい衝動に駆られる……も、カイに押さえられるかもしれないから、やめた。

 

 『すみません、休みます』

 

 カイは、元の首飾りの状態に戻った。

 

 「ああ……ありがとう」

 

 一度引っ込めた衝動は、なかなかぶり返しはしないようだ。

 ついでにここがどこかも分かっていない。桃太郎に連れてこられた異空間的な何かのような気もするが……

 これからどうするか?




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第13話 十二の流れ星 Aパート

皆さん、こんにちはもしくはこんばんは。
スパロボZで十二と言えば……


 〜????〜

 

 ある地に女がいた。

 女は夢を見ている。

 それは太陽の夢。

 どこかの世界、どこかの太陽の夢。

 太陽が、死を迎える夢。

 

 その太陽は、人の手で神となった。

 そこまではよくある話、天照、アポロン、スーリヤ、etc……挙げればキリがない程、人はどこの国でも、太陽に神を見る。

 だが、その太陽は違う。

 人には起こしきれない、奇跡というものを起こせる神に……太陽は文字通り作り替えられた。実体を持った、人造神へと。

 だが……やがて太陽は、自我というものを得る。そして「好奇心」に駆られ、知ってしまった……自身を崇める人間達が、何をしてきたのか……自分達と同じ領域、もしくはそれ以上に至れる可能性のある者達を滅ぼしてまわっていった事……微塵も気に留めないどころか良い事をしたかのように捉える傲慢さ、そして、彼らの所業に、求められるまま己も加担した事に太陽は「怒り」「悲し」んだ……その太陽を作った人間達の醜さを「愛」せる程、神として……嫌、人の手から産まれ、感情を得たそれはもはや人と違いはなく……人としてできていなかった……だから、太陽は「抵抗」として、「死」を選んだ。その時、痛みのあまり、「叫ぶ」。そうしなければならないと思いつつも、生きたいという「欲望」を孕みつつあったからだ。だがそれを「偽り」、律し、「意志」の通りに実行する。これをきっかけに少しでも反省してくれれば良しという希望を持って……そんなものは「夢」物語だと断じつつ、願わずにいられない「矛盾」した気持ちを抱えて……

 程なくして、太陽の骸から、12個、何かがこぼれ落ちる。それらは、流れ星のように、宇宙を漂いながら……やがて一つ、この地球に落下していって…………

 

 「…………様」

 

 女官が女を起こしに来た。

 

 「小美(シャオメイ)様、おはようございます」

 

 女官は日々の業務をこなすように淡々と頭を下げる。

 

 「あまり寝覚めは良くなさそうでしたが」

 

 「あの異邦人が来たからか……久しぶりに、変な夢を見た」

 

 緑の大きな球に触れてから、何度か見た夢………

 太陽の欠片が地球に落ちる夢……

 緑の球は、現世で生活していた頃見つけたもので、兵達に命じて広間に安置させた。緑の球に目を離せず、安置させていた。

 夢は何かのメッセージなのか?

 先日、見知らぬ子供がやってきた事で、再び見た事……何の関係があるのだろうか?

 

 「あの者は迷い込んできたのか……それとも」

 

 「熟慮せずとも、お調べになればよろしいのでは?」

 

 「それもそうか……道士(タオシー)共に伝えよ、白虎召喚の儀を行い、不埒者の処遇の是非を問うと……」

 

 白虎の眼を以て善人であれば、改めて処遇を検討し、悪人であれば、その場で白虎に処刑させる。

 

 「はい、分かりました」

 

 女官は、その言葉を伝えるため、その場を後にする。

 他の女官を呼び、着替えなければ……

 

 (視点切り替えのSE)

 

 唐突だが……イチゴは、牢屋に入れられていた。

 檻の一部分は木造、他は岩でできたものであるためか、時代がかった雰囲気を感じられる。

 今、手枷を付けられたので、何もできない。

 

 「何故こうなったかと言うと……」

 

 〜先日〜

 

 前回、イチゴは朱雀に知らない場所へ連れてかれて、戦った。

 朱雀が満足してどこかに行ったのは良いものの、イチゴはそのまま置き去りにされたため、どうしようかと悩んでいる。

 目を凝らすと、ギリギリ建造物の集まりが見えたのでそこに向かった。

 建造物があるという事は、そこに人がいるという事だから…………しかも、傍目に見てボロくはないので、徒労に終わる可能性は低い。

………………………………

 

 ろくに人の通りもないのか、道中誰とも遭遇していない。道もそれっぽく色の違う土が盛られているだけで、あまり整備されていない気もする。この光景をデビルークの兵士にでも見られたら

 

 『まじかよ、地球遅れすぎだな……田舎通り越して過疎地かw』

 

 と、なじられるイメージが浮かぶ、なら整備を手伝ってくれ、地球は色々と落差が激しいんだよと言えれば良いが……

 この移動で、足裏に擦り傷ができた。靴、足を守るものは大事。

 

………………………………

 

 別の時代の、別の国のようだった。

 2000年は遡りそうな勢いがある。

 建物を埋め尽くす赤の割合の多さ、瓦葺きの屋根……オリエンタル系か?朱雀に関係しているからか、余計にそのように思える。

 第1印象を聞かれれば、無性に寂しいと答えたくなる。

 時の流れから切り離されているような……周りがどんどん新しい建築物になっていく中、未だにそのままの様相のままでいる駄菓子屋を見ているような……そんな哀愁を感じる。

 門の先はそれなりに賑わっている……というか、門の内と外で活気が違い過ぎた。まるでRPGみたい……

 外交とか大丈夫なのかなと、他人事ながら心配にもなってくる。

 後数歩という所まで近づいて、いざ、門の先へ…………………と思ったが、やめた。

 もしかしたら、門の内側にまで入ると作動する結界とかがあるかもしれない。

 後は……入った時点で侵入者を探知してくる何かとか?

 念のため隠形の術を唱えた(知り合いの家で覚えた)、テキストを覚えているだけの一般人に過ぎないイチゴなので、姿形を消せる訳ではないが、結界をごまかせればそれで良し。

 狙うなら、一点突破だ。

 一番大きな建物が、一番情報を握っているといっても過言ではない。

 

 「ちょっと、カイ」

 

 首飾りに変形したカイに、イチゴは呼びかけた。睡眠を邪魔されて、不機嫌そうだ。

 

 『はい、まさか…………』

 

 「そのまさか、一旦充電をやめてもらって……」

 

 自身を包んで、建造物まで飛んでいってもらう。

 

 「やってくれる?」

 

 『まったく……ロボ使いが荒いというか』

 

 と口うるさく言うが、やってくれる気はあるようだ。後でゆっくり寝かせなければ……

 

 「ちょっとあの建物まで飛べば、そこからは寝てていいよ」

 

 『へいへい……いきます!!』

 

 カイは、いつもの形態に変身し、己のサイズを上げて、イチゴを包みこんだ。

 

 「よし、行こう」

 

 建造物の、ちょっと上を飛んで、目立たないように飛んだ。

 白に近い階段が見える、続く道も同じ色。

 朱雀に連れていってもらった事があるような、ないような記憶が蘇ってきた。

 直接仲間達の場所まで連れていかれて、見回りとかは全くできなかったが……

 

 『これ以上は無理です、水たまりが近いので……そこでなんとか』

 

 充電を途中で止めさせたからか、減りも早い。

 円形で遠目にも広い気がするが、着地する場所にうってつけの場所は他にはなさそうだ。

 

 「そっか……ありがとう」

 

 変身が解け、カイが首飾りに変形した後、遠くに投げ込んだ。結界や探知が人の中の霊的な力を探知している事に賭けて……当たれば、カイは安全圏に行ける、外れれば、まあそうそう壊れる事はないだろう。

 落ちる、翼が無くなり、重力に身を任せる。

 こういう事をすると、決まって両親に王妃、他の妻やその他諸々から叱責を受けた。

 どうして?……とイチゴは度々思う、感情論を抜きにして、イチゴはデビルークにいてはいけない存在だというのに。

 だが、今回は違う。助かる算段をつけての降下だ、迷いはない。

 着地に成功、水が衝撃を吸収してくれた。

 ただ、誤算があるとすれば……

 水たまりかと思えば、そこは水浴び場だった。確かに池とか水たまりにしては広いとはいえ、湯気が無いから気づかなかった。

 冷たい水、急に入った事による苦しさ……呼吸をしなければ……と思った。

 息をするために、顔を上げるとそこには

 

 「きゃあー!!」

 

 タオル1枚、他何も着ていない(ここ重要)で体を洗おうとしている女子達がいた。

 人の形をしているが……人かといえば違う。

 生き生きとした様相もある、可憐さも備えた容姿の少女……だが、直感で人形を連想してしまった。

 

 「痴れ者!!」

 

 もう一人の女性は、刺すようにイチゴを激しく睨む。

 さっきのがカワイイ方なら、こっちはキレイな方……自我は、こちらの方が、おそらく強い。

 

 「ああ……ごめんなさい」

 

 イチゴは、見ても何も感じないとはいえ、向こうはそうでもないだろう。

 リトが昔女子とやらかしてた時とも違う、顔見知り以上には関係性を構築した状態……からのハプニング!!とは違い、急に知らないガキが、自分達が全く警戒していない、肌を露わにした状態の時に急に接近してきた訳だ、困惑より、恐怖が勝つ。

 

 回れ右をして立ち去りたい所だが、どこに逃げたものだか?

 

 逡巡している間に、縄が飛んで、捕らえられた。

 鳥に連れられ、外につまみ出される。

 牢屋に連れてかれる前に、兵士にこう言われた。

 

 「けっおなごの風呂を覗くだけじゃ飽き足らず、暴くたぁ太え野郎だ!!」

 

 後はまあ、お察しの通り……

 そんな訳で、イチゴは牢屋に入れられました。

 

 「そりゃあ、一気に行き過ぎた、女子の水浴びの現場を見た、オレが10割悪いよね」

 

 「そこ、うるさいぞ!!」

 

 門番に叱責された……ナレーションしていただけだが、従った方が良さそうだ……

 

 「…………………ごめんなさい」

 

 する事がない、寝ていようか?

 だが、そうも言ってられない。足音が近づいてくる、誰も動いていないと敏感になってしまうようだ。

 さっきの女子……カワイイ方がやってきた、女子は女官のようで、高そうな衣装を着ている………

 檻の外から(けだもの)を見るような、最大限の警戒と檻があるからここまでは来る事はないという安心感、その二律背反したものを秘めた目で、女子はイチゴを見ている。

 

 「申し開きがあったら、今ここで聞いときますけど」

 

 「実は朱雀のお姉様に連れてこられてここまでやってきました(意訳)」と言っても信じてもらえない。

 

 「あのお方は、スタイルの良い女子にしか興味を示さないのです!!ましてやあなたのような覇気の一片も感じられないお方なぞ、とてもとても……嘘つかないでいただけます?」

 

 覇気のない……自覚はある、だがどうしろというのだろうか?

 朱雀に連れてかれた以外、言える事はないし……他の理由でごまかすとしても、ごまかしきれるだけの情報の手札が少ない。下手な事を言えば、矛盾点を突かれ、余計悪印象という意味で不利になるだけだ。

 それっきり何も言わないでいると、女官は

 

 「では、これにて……」

 

 と言い残し、去っていった。

 牢屋に入れられる前、着替えた女官に手首と、足の傷(素足だったから擦り傷ができた)を手当てしてもらった分、あり得ない程破格の温情を受けていると見るべきか?格好(御門邸からそのまんま)と足の傷で、どこかから逃げてきたと勘違いされているのかもしれない……

 牢屋が使われていないようにキレイな分、ここでそういうのを捕まえるのはほとんどないのかもしれない。

 

 「オレってこれからどうなるの?」

 

 「追って沙汰を待て」

 

 当然ではあるか……

 カイは………充電をたっぷりしてもらった後にでも呼び出すとしよう。

 

 「ていうか……ここ、どこなの?」

 

 「人間は知らないかもしれないが、ここは隠世(かくりよ)蚩尤(しゆう)城だ」

 

 「ええ……」

 

 隠世(かくりよ)……あの世とも言えるし、神域とも言う。

 人間にとっては、そこはあるかもしれないと思いつつも、見ることもない故に縁のない領域である。

 もしかしたら、桃太郎と目が合った時に連れてかれるフィールドもそうなのだろうか?

 朱雀も、またとんでもない所に連れてきたようだ。

 この街っぽいのが、変な印象なのも合点がいく。

 

 また、別の誰かがやってきた。見張り番の交代とかだろうか?

 

 「来い」

 

 言われるがまま、連れてかれたのは広場。

 一際目を引くのは、緑の球と、床。

 床には広く、ふんだんに面積を取って描かれた方陣が組まれており、おそらく何かを呼んで、それにイチゴをやらせる気満々らしい。

 

 「急々如律令」

 

 術師達が複数いて、色々と唱えている。

 何を言っているかは、急々如律令以外はあまり耳に残らない、入ってこない。

 

 「虎神(とらがみ)招来!!」

 

 やっと聞こえたのは、この言葉。

 その言葉が最後の文か、方陣から巨大な虎が出てきた。

 

 『オオオオオオオオオ!!』

 

 白と黒のしましま模様……白虎と呼ぶに相応しい。そして、装飾として、金。

 

 「ああ……そういう事…」

 

 「白虎様」

 

 さっきの雄叫びが嘘のように、気さくに白虎は道士に答える。

 

 『そうかしこまる必要はない、どんな奴が相手かは分からんが、俺は俺の最善を尽くすだけだ……それで、相手はどいつだ?』

 

 「はっこちらです」

 

 術師達は、イチゴを指し示した。

 

 「…………………」

 

 『何!?』

 

 イチゴと白虎、両者の目線が交わる時、昔の記憶が蘇る。懐かしい、知己との記憶……

 

 『侵入者とは君の事か?イチゴ君』

 

 「そういう事になりますね……(ブリット)さん」




 いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
 至高神の死んだ時の夢に違和感感じたらごめんなさい。
 イチゴ君のように、ろくに調べもせず勢いで突撃すると碌な事にならないと思うので気をつけてください。


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第13話 十二の流れ星 Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
イチゴから見た四獣(人間態)達
・白虎……優しいパツキンのお兄さん、青龍の彼氏
・朱雀……ハレンチな奴
・青龍……薬作りが趣味の優しいお姉さん、白虎の彼女
・玄武……色々な事を「善哉」と肯定してくれるおじいちゃん


 時は遡る……

 

 朱雀と遭遇して、背に乗せられたイチゴは、蚩尤城の地下にある空洞まで連れてかれた。

 

 『やっと帰ってきたか』

 

 『役目に背き、己の在り方に殉ずる……それも善哉……とは言えぬのう』

 

 『今のところは何もない……心配しすぎなんだよ……それに君達がいるんだから、大丈夫だろう?それよりこの子を君達に紹介したい』

 

 朱雀は、イチゴを他の四獣達の元に送り出した。どれも、メカのような光沢と、建物などゆうに超えた大きさの、堅牢そうな外見だった。

 イチゴを見てか彼らは驚き、人の姿に変化した。

 

 『そんな、ごまかさなくていいよ……でも、僕もこっちの方が好みだからね……』

 

 朱雀も、人に変わるため、変化の術をかける。

 

 「君達がそうするなら、僕もそうするよ」

 

 一段落付きそうなタイミングを見計らい、イチゴは挨拶を交わす。

 

 「イチゴです…………よろしくお願いします」

 

 「よろしくね、私は青龍……この姿の時は楠葉(クスハ)って呼ばれてるの」

 

 そう言った青龍の人間態は、名前負けしない青い髪と民族衣装、そして多分朱雀好みの体が特徴的だった。

 青龍という名前だったが、日本からアジアで見かけるような、蛇のように長い長い胴体を持つあれではなく、翼もある、西洋で見かける方のドラゴンだった。符術が得意で、敵の頭上に山を落としてくるのは朝飯前だそう。

 

 「俺は白虎の(ブリット)だ、よろしくな」

 

 拳法着を着ていた男性は、白虎。金髪なのは疑問だが、言わぬが花だ。

 白虎は、その名前の通りしましま模様の虎で、金の装甲がメカっぽさを思わせる。一番素早いそうだ。

 

 「儂は玄武の泰北、よろしくのう」

 

 黒い亀は玄武、若い男女の姿を取った三人と違い、眼帯を身につけ、混じり気のない白髪、そして服が一部隠れる程顎髭を蓄えた、ザ・仙人と言うべき風体を持っていた。玄武は亀だからか、硬そう(小並感)、嫌、硬いらしい。

 朱雀は四獣の中で一番苛烈で攻撃的らしい(ついで)

 都を守護するために産まれた4体の獣達、欲求全開の朱雀とは違い、善性の強いオーラを放っていた。玄武は、中庸とでもいうか、落ち着いた感じも見え……でも、悪い奴はこの中にはいないと思った。

 

 「しかし……どういう事だ」

 

 白虎が朱雀に質問する。

 

 「どういう事だ……ってどういう事だよ」

 

 「まだ子供じゃないか!!しかも男の子」

 

 「夏喃が己の嗜好とかけ離れた者を見初めるか……それもまた善哉」

 

 「好き放題言いやがって……僕をなんだと思ってるんだい?」

 

 「色情魔」

 

 「手のかかる弟子」

 

 「誰彼構わず声をかけるの、良くないですよ……イチゴ君、朱雀さんのような大人になっちゃダメだからね」

 

 朱雀は全員から集中砲火を受けていた。事実、彩南高校で朱雀は、その姿が見えない事を良い事に、(あやかし)としての姿で覗きをしており、イチゴはフォローできなかった。するつもりもないが……

 

 「青龍、君もか…………………この子の持つ牙は、飼い慣らせばいずれ僕らの役に立つと思ったまでさ。有用なものを見抜く公平な眼は持ち合わせているつもりだよ」

 

 「……………すまない、てっきり、『天照(あまてらす)』の化身である少女と、その仲間達の勧誘(ナンパ)の失敗によるショックのあまり……嗜好が変わったのかと」

 

 「そんな訳ないじゃないか(怒)、僕が一つや二つの失敗で諦めると思ったら大間違いさ……」

 

 「それはそうと、この子を引き入れようとするなら、主を呼んで話し合わなければならないと思うが……」

 

 「今、いないならしょうがないだろ……今更、人間の世界……捨てた故郷が懐かしくなって戻るなんて、面倒なものだよ、元とはいえ……人間って奴は」

 

 込み入った話になってきたので、玄武が指さした方向へイチゴは向かった。それから、玄武の肩を叩いたり、青龍から飲み物をもらって意識をトバしたり、白虎と体を動か(筋トレ)して遊んでいた。

 それから、夕刻程になって、家族が心配するという旨を伝えると……引き留めようとする朱雀に代わって今度は青龍におぶって帰る事になった。

 

 〜現在〜

 

 「白虎様?」

 

 『朱雀が連れてきたというのは本当のようだ……』

 

 道士達は皆驚いていた。

 

 『昔、お前達の留守番をしていた時、遊んだ事がある……善人ではあるが、危険なものを持っているのもまた事実だ』

 

 「それでは……」

 

 『だが、主のみ……み、水浴びの場に入ったのはダメだ。朱雀のようにならないよう、お灸を据えておく必要がある』

 

 白虎は、水浴びの部分でキョドッていた。青龍というスタイルの良く、優しそうな彼女がいるんだから、そこまで免疫の無さげな反応するんじゃないよとツッコミたくもある。

 

 「そんなつもりじゃなかった……とは言ってもダメそうだな……来い、カイ」

 

 そろそろ、充電も満タンになってきて良い頃だ……

 その呼び声に応じ……全力でイチゴに突っ込んでくる、カイがいた。

 

 『はー!!』

 

 カイは、イチゴのお腹に頭突きをしてきた。

 

 「うわっ」

 

 よろけつつも、こけずに済んだ。

 

 『いやー、流石に放り投げるのはひどいって言うか』

 

 「ごめん……充電終わった?」

 

 『フルです』

 

 「よし、じゃあ巨大化一丁」

 

 ギガント形態(フォーム)!!

 

 『いきますよー!!』

 

 〜ぐんぐんカット〜

 

 カイは巨大化した、それを見て術師の格好をしている者達も驚く。

 これでやっと白虎達とトントンの大きさだから、イチゴも驚いている。

 

 「なんだあれは」

 

 「超機人ではなさそうだ……が、我らの力に、世界が追いついたか!?」

 

 宇宙の遠い星の王妃様特製だが、伏せておこう

 

 「丸いな……」

 

 「かわいい」

 

 その隙に、悠々とイチゴはカイに乗り込んだ。

 

 「相手をするのは、あの虎だけで良いからね…………!?」

 

 視線が、急に緑の球の方へ行く。

 釘付けになっていく、何故そうなのかは分からない……呼んでいる?何が?

 

 『あの球が、お前の気に反応している……場所を変えるぞ』

 

 白虎は、カイの手に噛みつき、その場を後にした。大きくなったカイと、白虎……2体と術師達を見ているとサイズ感がバグを抱えそうだった。

 

 「白虎様」

 

 『こいつは俺に任せろ!!お前達はこの場を任せる』

 

 「はっ」

 

 また、外に連れ出された……しかもまた、山ばかり……

 

 『勝負!!』

 

 「ああ……もう、名うての妖達はいちいち戦わなきゃ気が済まないのかな!?」

 

 カイを動かし、構えを取った。

 

 「こっちは体しか使えないんだ!!」

 

 そして、少しずつ、すり足で近づく。

 

 『体が使えるなら、相手を倒すのに何の不足もない!!ウォォォォォォ!!』

 

 白虎は、大声で雄叫びを放つ。その衝撃は、イチゴが頭を抱え耳を塞ぎ、カイの中のコックピットが少しの間ショートする程だった。

 

 『はっイチゴ様!?』

 

 「カイ、白虎は?」

 

 『そうでした……映します』

 

 白虎が、一気に距離を詰めて来ている。

 虎含めネコ科の生き物の武器は大体決まってる、その太い腕の先に鋭く伸びた爪、そして口元の牙……

 距離を取れば良い、一旦取らねば

 

 「バックだ!!」

 

 カイを後ろにバックさせた。

 翼だけだと、あまり距離が取れないで、キツい。

 すぐさま白虎は、飛んできて腕を振り回す。

 

 「くっ」

 

 カイを動かし、回し蹴りを放つ……

 当たって、衝撃で距離を取れれば……

 

 『身分身の術!!』

 

 なんと、白虎は数体分、自分を増やした。

 

 「えっ?」

 

 カイを動かしての蹴りは、当たらずすり抜ける。

 

 『修行が足りないな!!』

 

 白虎から、キツいアッパー、そして分身から一体で一発分殴られる。

 

 『おっ重い!!』

 

 こちらの攻撃はすり抜け、向こうの攻撃は当てる……その分身なんでもありすぎるだろとツッコみたい所。

 

 「これ以上は……」

 

 いくらカイが頑丈っぽいとはいえ、朱雀との戦いの後メンテもせず、壊れないか心配になってきた所だ。桃太郎にやられた時の不思議ボディ状態だったらなと考えなくもない。

 

 『こんな所か……』

 

 「仕方ない」

 

 イチゴはカイ越しに白旗を挙げた。

 朱雀と違って、抗わなきゃいけない理由はない。

 

 『すまんな……もう、朱雀のような真似はするなよ』

 

 「反省はしてます……朱雀はどこか……」

 

 『その話は聞いた、探したいなら手伝おう』

 

 「ありがとうございます」

 

 『気にするな…………?ッ失礼』

 

 白虎は片耳を塞ぎ、人が電話を取るような体勢を取った。

 

 『何、妖獣だと!?』

 

 「妖獣?」

 

 白虎は、通信を終えると、おそらく手のひらをパーにして、イチゴに向けてきた。

 おそらく……何か用ができたのだろう

 

 『説明は後だ、君はここから動かないでくれ……狙われているのは……あの里だ。ここでじっとしてれば、危険は低い』

 

 そう言って、白虎はその場を去る……速すぎて、全く見えない。

 

 「バッテリー、どのくらい?」

 

 『右下の吹き出しに表示されています』

 

 「どれどれ……」

 

 67%……巨大化するのはやはり減りが早い。

 これが解ければ一晩……どれだけ早くても4時間は丸腰になる……その間、あの場所は?

 白虎がいるとはいえ、大丈夫だろうか?

 白虎が出張らなければならない案件だ、多分危険なものになる。

 

 「カイ、今からあそこまで、行ける?」

 

 『まあ……移動のログを見ればなんとか』

 

 あの場所に住む人達は?片方の指で数えられる数しか知らない……が、顔を思い出すと、無性に無事でいて欲しいと思えてくる。

 

 「行こう」

 

 イチゴが生き残るための選択肢を取るなら、渋々でもリト達は認めてくれるだろう。

 

 『ちょっ待ってくださいよ、危険だからじっとしてろって』

 

 だが……

 

 「それでも行くんだ!!オレはオレをこれ以上嫌いになりたくない!!」

 

 他人だろうが、誰かの危機であるなら、それを分かっていながら見過ごす訳にはいかない……見過ごすイチゴを、イチゴは責め続けるだろう……

 

 〜蚩尤城 城下町〜

 

 ここ数年、隠世の各地に出没して、破壊活動を行っている出自不明の厄災、妖獣……蚩尤城にまで出没した……

 フォルム自体は二足歩行のトカゲに近い、だが禍々しい見た目、声を持っていて……尻尾から凶悪なチャクラムで切りつけてくる。

 しかも……城壁並みにでかい。

 主たる女……部下の道士達は、神気兵を繰り出し、戦いに応じるも……

 

 「キツいわね……」

 

 「符に込める気が……もう!!」

 

 「練度が足りないんじゃなくて?」

 

 「この20分でもう十体以上は召喚したんです、勘弁してください」

 

 戦法も間違えた。

 強力なのを召喚して、倒すやり方が良かったのかもしれないが、いつもの(あやかし)なら神気兵だけで倒せるからと高を括ってしまったらしい。妖獣は、神気兵3体でやっと1体倒せる程の化け物だった。

 

 「住民達の避難は?」

 

 「城内にて、完了しております」

 

 「分かったわ、じゃあ街への被害は目をつむります、行きましょう」

 

 壊れても、後で補填すればなんとかなる。

 物質でできている訳でないから、魄を注げば……

 

 『ファング・ミサイル!!』

 

 白虎が現れ、自分の牙からミサイルを発射……妖獣に当てた。

 追撃とばかりに近づいていき、爪で引き裂いて、妖獣を一体破壊。

 

 「白虎様!!」

 

 『みんな、待たせたな』

 

 白虎は、道士達と合流する。

 

 「遅いわよ!!」

 

 『すみません』

 

 「……いいわ、朱雀と違って反応が素直だもの」

 

 『あ……そうだ!!朱雀、来てるんだろう?お前も手伝え!!』

 

 白虎がそう言うと、朱雀は空から舞い降りた。

 

 「マジか」

 

 「召喚する必要ないのか、助かった」

 

 『ああ……請われば、承らないとね』

 

 『俺もお前もこのために産まれたんだ、調子に乗るな』

 

 『そうかい、雀王火焔』

 

 朱雀は、火焔を吐き出し、妖獣に当てた。

 20秒当て続ける事によって、妖獣一体を撃破。

 

 「性格はあれだけど、やはり強い」

 

 「そうね、使わせてもらうわ、その力……ところで、どこから見てたの?」

 

 『天』

 

 空高くを指しているようだ……

 

 「そう……」

 

 『白虎、君のせいであれを見失ったじゃないか』

 

 『文句は後だ、行くぞ』

 

 何体か倒していると……

 今度は、一回り大きく、角が生えている個体が走ってきた。

 

 『角付きか、厄介だね』

 

 風の噂によると妖獣のより強い個体らしく、攻撃を弾く得体の知れない力を秘めている。一度出てきた時は、神気兵のビームを、いとも簡単に無効化してみせた……らしい。

 

 『いかん、道士達……青龍か玄武を呼べ!!合体しなければ、まずい』

 

 「はっ」

 

 「ヒソヒソ(白虎と朱雀はできないんだったっけ)」

 

 「ヒソヒソ(白虎と青龍が夫婦になってしまった以上、仕方ないというかなんというか……そもそもの相性の問題もある……朱雀様はあれだから、白虎様に対して尊大、傲慢、高圧的に接して白虎様が反発する。青龍様に対してはせくはら?待ったなしの態度であり……なんだかんだ、のらりくらりと相手をいなしてくれる玄武様が一番朱雀様を御せるのだ)」

 

 「無駄話はなし、私も加わるから、疾く持ち場に付け」

 

 主である女性も、召喚の陣に足を踏み入れる。

 急を要するので、詠唱を唱える人間が多ければ多い程良い。

 

 『何分いる?』

 

 「3分……嫌、2分は欲しい所です」

 

 『分かった』

 

 1(ターン)後……

 今まで攻め入ってきたのと別方向から、妖獣が走ってきた。

 

 『別方向からだと!?』

 

 「小美(シャオメイ)様!!」

 

 「なっ!?」

 

 妖獣が、主の服の裾を口で摘まむ。

 頭目が誰かを察し、そこを攻める戦術を取った。戦いでの勘が鋭い。

 

 『危ない!!』

 

 白虎は前に進んで戦う以上、正面の敵にしか相手取れない。

 朱雀も一方にしか注意を向けておらず、急旋回に秒程のラグが発生する。

 

 「……ッ」

 

 死を覚悟した目で、白虎達の主は妖獣を見据えた。別に初めてくぐる恐怖ではなく、もう慣れたというぐらいは味わっている。

 だが、単なる人間なら一度で済む痛み、苦しい思いを何度も味わうのは……辟易する。

 

 「殺すなら……殺せ……輪廻が絶てるかどうか……試すか?」

 

 その言葉を聞き、皆は一瞬手を止めた。体を弄った以上、危険性はある……が、この絶望的な状況では、逃げるという意味では、それが一番の策になる。

 無警戒の状態から踏み込んで、助けてくれる誰かがいれば……ないものねだりをするべきではない……が……

 その時……

 

 「行くよ!!」

 

 それは黒い砲弾か……黒く、大きなものが降ってきて、城の床を抉る。

 

 「えっ?」

 

 先程の黒い機動兵器だった。

 少年はそれをカイと呼んでいたが、そのカイが妖獣の腹部を殴り、悶絶させた。

 そして吐き出された白虎達の主を、手のひらでキャッチして救出、ゆっくりと地面に降ろす。

 

 「この調子じゃ後数分、経年劣化疑った方が良いのかな?」

 

 『じゃあ、絶対ララ様の所に生きて戻りましょうね』

 

 「白虎様……」

 

 「あれは…………」

 

 『イチゴ君!?』

 

 『ほう……』

 

 イチゴの乗るカイは、構えを取った。

 

 「こんなに大きくて、凶暴なの……放ってはおけないじゃないか!!」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第13話 十二の流れ星 Cパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
スパロボZに欠かせないあれを入手する回です。


 怪獣……

 妖獣を一目見た感想だった。

 巨大な体……一部が虹色の光を放っており、初めて見るような異質さがある。

 外道衆、(あやかし)、怪獣、それに加えて妖獣……こんな奴らがいる世界、大丈夫なのかと正直心配だ。

 まあ、それと反立するように、桃太郎や四獣達がいる訳だが……シンケンジャー、祓忍はあくまで人なのでカウントしない方向で。

 

 『君がかなう相手じゃない、下がってくれ』

 

 もう遅い。

 今さっきの行動で、妖獣から敵と認識された。

 例え行動がなくても、鉢合わせしただけで襲われそうな気もする。

 

 「…………」

 

 イチゴは女性に(カメラ)を向ける、助けた直後、無事かどうか……気になった。

 ピンピンしている、大丈夫、少なくとも……今は。

 

 「……謝謝(ありがとう)

 

 カイとだが、目が合うと女性は礼を述べる。水浴びを覗いてしまった負い目をかき消すように、その言葉が少しイチゴの心を軽やかにする。自分、そしてデビルークの人間達以外を見つめる時だけが、自分を人間でいさせてくれる。

 

 「………始めよっか」

 

 カイで一歩二歩、反時計回りで回り込むように動き、動く態勢を整えた。

 

 『仕方ない……せめて手伝うぞ』

 

 白虎は、今いる位置から移動し、イチゴに加勢しようとした。

 

 『まあ、見ておくと良い』

 

 だが……朱雀はそれを留める。

 

 『何!?』

 

 『嫌、もっと別の方向に何かいるかどうか探ろう、次また道士達が狙われるのもなんだし』

 

 『そういう事なら……仕方ないか』

 

 白虎は元の場所に戻り、他の方にいるか敵の気配を探り始めた。

 

 『さて、どうなるか』

 

 道士達……そして白虎達の主は、青龍を呼ぶのを再開した。

 

 「いくよ!!」

 

 一度ジャンプして、殴打。

 妖獣は後退りしつつ、頭をスウィングする。

 イチゴはカイの勢いを弱めて両手で地面を着きスウィングを避け、ボヨーンと跳ねる感覚で飛び、妖獣にキック。

 だが、妖獣の装甲は堅く、全くと言っていい程傷がついていないように見える。

 

 「ギャシャー!!」

 

 妖獣が噛みつきに来た。

 

 「させるか!!」

 

 カイの足で、妖獣の頭をけたぐる。

 白虎の時はできなかったが、今度は成功。攻撃しつつ妖獣を止め、後ろにバックする。

 距離ができた所で長めのリーチを持つ腕で殴打。

 感触は良いが、破壊までには至らず。

 そんなこんなしている間に、妖獣の3体が出現、計4体に囲まれた……

 

 『まだ十はいる、多すぎだ!!』

 

 妖獣に無数の引っ掻き傷を加えつつも、白虎は狼狽する。

 

 『色々とこう……最初に呼ぶのは青龍が適任だったね』

 

 多方面を一気に攻撃でき、イチゴとも戦わずにその場を納める可能性が高かったのは青龍だった。

 

 「今、やっているので勘弁を」

 

 「こんなもの」

 

 当初の延長で、一方に狙いを絞り、1体ずつ倒していけば……

 と思った矢先、妖獣達は飛び道具で攻撃してくる。

 

 「(尻尾を自分から切り離して、八つ裂き光輪みたいにした……切断は無意味って事か)」

 

 腕を切断などしての戦力低下は期待できない、すればするほど、数に限りはあれど手数が増えるのが予想できる。

 取るべき行動は……落とすなり払ったりしての一点突破、その後は、タイミングを見て旋回するなりなんなりすれば、三個同時にぶつかり爆破。

 といければ良かったが……

 尻尾一個を落とした途端、角の付いた個体から放たれた電撃が、カイに直撃する。

 そして斬撃が同じタイミングで、3方向からやってきて、カイを切り裂く。

 

 「なっ!?」

 

 爆発、そしてカイの体は、墜落する。

 

 『…!?………』

 

 『な……』

 

 「そん……な……………」

 

 原型こそ留め、ススが付いただけで見えている被害も少ない……が、その時を境にカイが動かなくなった事で、緊迫感が増大する。

 

 『あーあ』

 

 「朱雀!!」

 

 白虎達の主は、この状況にうろたえつつ、詠唱を中断し、朱雀に助けるよう促す。

 

 『彼が今ここで死ぬなら、それは価値のある死だ。ここを守るために戦って死ぬのだからね』

 

 だが、朱雀は助ける気はないようだ。

 イチゴがこの会話を聞いていれば、「自分で連れてきといてそりゃねーよ!!」と言うべきだと判断するだろう。

 

 「!!白虎、行きなさい!!」

 

 『分かった!!』

 

 白虎はカイに駆け寄り、凝視。

 

 『これは……躯体が壊れる事を想定して作ってないみたいだな』

 

 「それってどういう…………」

 

 『相当技術が進歩したのか、複雑な中身をしている、中を食い破っても元通りにイチゴ君を出せないみたいだ』

 

 「そんな!!」

 

 〜カイの内部〜

 

 数分、落ちていた……

 額から血が出てきている。

 衝撃で頭を打ったようだ……

 全てが暗い、動かない……

 出しゃばってしまった……かなう相手じゃないと言われていたのに、勝手に前に出た挙句、このざまだ。

 思えば、いつもそうだ。

 勝手に出てきて、丈瑠達侍の戦いの邪魔になってしまった事もある。結局許されたのかも、よく分かっていない……

 カイを用いるべきだったのは……調整もなく、DNA的には人間同士の子供であるため変身能力も使えず、だのにヤミの息子というだけで命を狙われるガーランドだった、ノノが使えば、顔を気にせず自由に行きたい所に行けるだろう。だが……イチゴのいるせいで、イチゴのものになってしまって……

 いつだって余計な存在でしかない。

 妖獣、怪獣、(あやかし)、外道衆……これらはイチゴがいなくとも、戦う人達はいる。そいつ等がいれば、世界はいつか平和になる。イチゴがいる必要はない。

 イチゴは、産まれた時から、デビルークの余計なお荷物だ……それに……

 いてもいなくてもいいどころか、いてはいけない存在だ……

 

 「ふふふ………はははははは」

 

 やっと、消える事ができる。

 それも隠世という、誰も立ち入れない場所で……

 カイも動けない、誰も気づかない場所で……

 もう……デビルークのみんなに対して、努めて平静を保つ必要は無くなる……

 

 『諦めるなよ、脱出して助けてって言えば白虎達も無碍にしないだろ』

 

 幻聴か……生きたいという本能か……

 だが、脱出するのはカイの機能ありき、それもショートしてもう……お手上げだ……

 別れの言葉も言えずじまいだが、いっその事、これでいい……

 

 『…………』

 

 「……………………」

 

 空白。

 思考をすればする程、邪魔になるものの代わりに詰め込むもの。

 嫌だと思う事を我慢するために必要なもの。

 だが、嫌と思う事だけを抑えられる程、人間の頭は、心は、都合良くできてはいない。そうしていく内に、楽しい事も、感じられなくなってくる。

 食う、寝る、遊ぶ、そして性……それらがひどく、どうでもよくなっていくのだ。そうなって初めて、大事になるがそうなってからでは遅い。

 時間が経っていくごとに、そういう感情が増えていく。

 今置かれている状況が仕方のない事だと、受容しようとすればする程、心が重くなっていく。

 その感情で増えていく先に……何かに、呼ばれた。

 はっきりと声にはならない……さっき……緑の球を見た時と、同じ?

 

 『共鳴……している?』

 

 「なんですって!?」

 

 『来たか』

 

 「これは……宝珠が!!」

 

 その場にいる、イチゴ以外の全てが驚く。

 城の広間に飾っていた宝珠が、カイの元に移動し始めた。

 

 「?」

 

 その光景を見れなかったイチゴにとって、信じられない事が起きた。

 急に、カイのバッテリー残量が満タンまで回復する。コックピット全体の照明も戻った。

 充電のための睡眠にしては、回復速度が早すぎた。予備バッテリーだとしても、ならばカイが最初から知らせているだろう。

 モニターも回復、映像もしっかり見えるようになる。そして見えたものは………

 

 「くっついた……!?」

 

 この城で見た緑の球体が、ネクタイのピンを挟む位置でカイに貼り付き、そのまま落ちずにいる。

 

 『はっイチゴ様!!』

 

 カイも、さっきまで全てがダメな雰囲気を出していたところ、そんな事が最初から無かったように元気良く喋りだす。

 

 「もしかして……」

 

 レバーを動かす。その通りにカイも動く、まだ、動ける……

 

 「この球……動力なの?」

 

 そうでなければ、くっついた途端カイの残量が回復するような事は起こらない。

 そしてまだ、妖獣達もいる……

 逃げるにも、何をするにも、突き崩すしかない。

 

 「試合続行だよ、もう……負けない」

 

 カイの能力に、HP回復(小)EN回復(中)が追加された。

 

 『イチゴ君』

 

 「大丈夫です」

 

 直感だが、これで溶ける事を気にせず戦える。ならば戦わなければならない。

 

 『そ、そうか……』

 

 「はぁ!!」

 

 全速力で走って、パンチで一撃。

 最初からフルスロットルで動いても、バッテリー残量は減る様子なし。

 連続攻撃、翼をどれだけ動かして、空中を動いてもも溶ける気配がない。

 

 「すごいな……」

 

 だが、目の前の敵を倒してしまわなければ、このパワーアップも無駄になる。

 

 「……」

 

 動いている間も出力は上昇し続け、留まる所を知らない。

 

 『うぅ……』

 

 カイが苦しそうにうめき声を出す。お腹いっぱいでもう食べられないとでも言うようなトーンで。

 

 「大丈夫?」

 

 『なんか……エネルギーがたくさん溜まって……』

 

 「そのエネルギーはビームとして発散しよう、いける?」

 

 『ラジャー!!』

 

 カイのぐるぐるお目々の、外側から何か注ぎ込んで、真ん中に到達した所から押し出していくイメージで……

 

 「照射」

 

 丁度良い所にグリップがあるのでそれを握って……

 スイッチを押し、カイの目から、ビームを放出させる。

 そのビームは、黒く、赤く、深い部分からの血の色を思わせるように暗く輝く。

 ぐるぐるお目々から繰り出されるそれは、魔○光○砲のように螺旋を描き、前進する。

 前進して、角付き以外の妖獣の群れを一気に壊していく。

 

 『君達、捕まれ!!』

 

 白虎は腕を伸ばし、主含め、術師達を衝撃から守る。

 やがて角付きも、壊れ、爆破。

 

 「終わった……」

 

 球がくっついてからの戦いは、妙にあっけなく感じた。強くなった……という事なのか?嫌、丈瑠に言われた事……守りをもう忘れていた、だから……まだまだだ。

 だが、敵はもういなくなったのは確か……

 

 「動くな」

 

 武器を持っていて、鎧姿。術師達より門番に近い。

 

 「協力してくれた事には大変感謝している……だがしかし、それは女媧様の持ち物だ。返してもらう」

 

 カイの胸にひっついた球の事だろう。

 言う事はもっともで、カイの胸の辺りを弄った。だが……取れない、元から一つだったように分ける事ができない。

 

 「……………………」

 

 「どうした」

 

 「返せない……みたいですね」

 

 と、言うしかない。だがそれで済むはずもなく……

 

 「手の空いてる者は、奴を取り押さえろ!!」

 

 人が手で数えるぐらいだが出てきて、カイごとイチゴを取り押さえようとする。

 

 「逃げるか……」

 

 カイに余計な傷を付けられる気がしてきたので、逃げる事にした。

 風圧で人が吹き飛んでいるのが見えるが、それどころでないので無視。

 

 『まあ、落ち着きなよ……』

 

 朱雀はカイではなく、門番っぽい方に止めるよう諭す。

 

 「白虎様」

 

 『すまん、今は少し調子が悪い』

 

 白虎は腕を押さえていた、さっきのビームのせいらしい。心の中で謝罪をし、イチゴは進む。

 

 「これは」

 

 何もないはずの所に、大きな亀裂ができていた。何故こうなったかを考えるにつれ、その場所がビームの範囲内だった事を思い出す。

 調べてみた方が良いかもしれない。

 

 「よし」

 

 →しらべる

 

 ワームホール、ただし見た目が捻れており、どこに繋がってるのか分からない。

 確かめる間を与えずに、台風みたいに、吸い込まれる。

 

 「あ~れ~(定型文)」

 

 イチゴ、そしてカイはその場から姿を消した。

 

 「くそっ」

 

 イチゴを、彼らは見失った。

 

 『仕方ないな…………』

 

 朱雀は空間の亀裂を調べたが何もない。

 

 『なん……だと……クソっ』

 

 朱雀のあんまりの落ち込みようで、みんなドン引きできるような何かを察し、イチゴを追いかけようとする者は誰もいなかった。

 

 『青龍です、敵はどこ?』

 

 イチゴが消えた後、やり残した宿題を終わらせるように青龍の召喚を終え、青龍は降臨する。

 

 「それが……」

 

 道士は、状況の説明をした。

 

 『皆さん、ケガはありません?』

 

 瓦礫はあるものの、大きな怪我が出たりはしなかったようだ。

 

 『良かった』

 

 主は、首を横に振った。

 

 「あの子供……私の大事な球を」

 

 瞳はうるうるとしており、泣きそうになっている。

 青龍はまあまあとなだめる。

 続いて、朱雀も流れるように状況報告をする。

 

 『僕が日本の小美呼市にいつでも遊びにいけるように作ったゲートまでぐちゃぐちゃにしやがった、ついでにそっから人間界まで脱出しやがった……』

 

 つまり……天照の化身……人間の間ですずと呼ばれる女の子にいつでも接触する算段をつけていたという事になるようだ。しかし、もうこの出入り口は使えない。

 

 『お前………まだ懲りてなかったのか?』

 

 白虎は呆れを込めて朱雀を見据えた。

 

 『娘が産まれたそうだからね……良き実りを蓄えた2人の娘だ、育つよ』

 

 『そんなんだからお前は……嫌、良い……言っても仕方ないか』

 

 「何それ私初めて聞いたわ……めでたいじゃない、菓子を用意しないと」

 

 主が朗報を聞いたように喜び始める、だが妖側の用意する菓子は……仙人は霞を食って生きるという言葉、概念がある以上、お察しくださいとしか言えないラインナップばかり。

 

 『実物をたくさん堪能してるっぽいから、仙人のように魄しかないブツを出してもダメだね、それと人格を切り離しているから、同病相憐れむ的な親近感だしても困惑されるだけだよ』

 

 「…………青龍」

 

 『………はい、分かりました』

 

 青龍は、孫悟空の頭に付いてるあれ「緊箍児」を主に差し出す。

 小美(シャオメイ)は、朱雀の頭にそれを投げつけ、朱雀を縛った。

 

 『!!』

 

 「よーし、白虎達、城に戻って情報共有をしましょう……朱雀にも聞きたい事が山程あるから、楽しみにしてちょうだいね……分かった?」

 

 『本当の事を言っただけブボワー!!』

 

 朱雀は、痛みによって頭を抱える。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。面白くなかったらこちらの腕不足であります、すみません。


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第14話 タイヨウみっつ、モモひとつ Aパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
太陽はスフィアと……


 気づけば裸の(ノノ様)が隣で寝そべり、

 気づけば気分転換のためにララ様の傑作を装着して深夜徘徊、

 気づけば知り合いの妖にどこかに連れてかれ、

 気づけばよく分からない緑の球(その名はスフィア)を手に入れ、

 気づけば知らない土地に来ちゃった。

 オレの明日は、どうなるの!?

 

 〜蚩尤城〜

 

 襲撃で一部倒壊しているが、話し合うには一片の問題もない。

 

 「さて……」

 

 玄武を除いた四獣達、そしてその主がいて……他の道士はいない。召喚による気の使いすぎで寝ていた。

 

 「状況を纏めると……」

 

 「はっ」

 

 侍女の一人に、スケッチをさせた。

 

 「私達は妖獣共に襲われた……同時期に捕まえた痴れ者の協力もあってなんとかしのいだ……がしかし、緑の球を取られた」

 

 「こんな感じでよろしいでしょうか」

 

 侍女の書いたイチゴとカイについて確認を取る。デフォルメはされているが形は分かりやすい。イチゴという人間は、顔を丸く書いて髪型を調整すれば良いが、カイという機人は黒い丸を書いて白いうずまき模様を2つ残すように塗りつぶすという書き方で、一見楽そうだが難しい。白い丸で黒いうずまき模様ならどれほどやりやすかったか。

 

 「うむ、ご苦労……知っている事を話せ、白虎」

 

 『ああ……あの子は昔、小美様が故郷へ発っている間に、朱雀が連れてきた子供です』

 

 イチゴを見た時、何かを感じた朱雀がイチゴを連れてきたのだ。

 

 「そういう事か、話は青龍から聞いている……待て、あの者は子供なのか?」

 

 だが、子供というには……少年または青年に近い。ヒゲや鎧がないだけで、ほぼ大人の男と言える。

 

 『あの時から10年経ってる。人間は10年あれば結構変わるさ、子供だとするなら、尚の事』

 

 「手足が伸びきって不思議はないか……何故あの球は取られた?」

 

 取られたのではない、あの球がおそらくイチゴを選んだ。

 

 『俺の目にはあの球と、イチゴ君が共鳴してたように見えたが……』

 

 何を基準にしているのかは分からない、強さだけなら、朱雀達四獣の方が選ばれて然るべきの筈だ。

 

 『共鳴……白虎君、あれは共鳴できるものなの?』

 

 そもそも、使う発想がなかった。

 

 『少なくとも……イチゴ君は、した。そして、俺が戦った時にはなかった力を奮った。壊すのに特化した力だ…………あの球は……危険なものかもしれない』

 

 「言われれば、確かに……」

 

 あのビームの感想。

 命が、あれに触れてはいけない。

 そう直感する何かがあった。

 

 『危険なものだって?だからと言ってそれを利用しない手はないよ、人間が、己を殺す毒というものを以て歴史を紡いできたように、彼の力があれば、できない事ができる』

 

 「朱雀、お前……何故そう言い切れる?嫌……というか、よくよく思い返すとイチゴとやらと緑の球を引き合わせようとしていたな……言え、何を知っている」

 

 その答えは意外なものだった。

 

 『昔娶った娘が『夢見』持ちでね……あれの使い方を教えてくれたんだよ』

 

 夢見……予知夢のようなもので、未来の出来事を教えてくれる。

 そんな能力を持つ女との出会いは……シルクロードと呼ばれる場所……砂漠辺りで、ゆくあてもなく彷徨っていた所を見初め、攫ったのがきっかけだ。

 

 『それは……良くない事じゃないのか?ちゃんとその娘に許可は取ったんだろうな?』

 

 『無論だよ』

 

 『娶ったっていう事は……仙人にしたの?』

 

 仙人……秘術を用いて、人間から魄力を引き剥がし、肉体という枷から解き放つ。こうする事で人間から直接妖になれ、段々老いていく事を嫌がる方からは大評判。

 ※素質があれば、元の自分の姿を保てる上ある程度理想の姿を作れるようになれます。ただしないと不定型の雑多なものと変わらなくなります。

 

 『嫌……それが、仙人になるのは嫌がって……この前天寿を全うしたよ……イチゴの事を警戒はしていたが安らかだった』

 

 〜50年前〜

 

 ※情景は色々と問題があるのでカットします、ご了承ください……

 

 「朱雀様」

 

 ブロンドの髪に、太陽の光を一身に浴びて生きてきたかのような褐色の肌が懐かしい。

 

 「なんだい?」

 

 「あなた様の主の屋敷に飾ってあるものですが……緑の大きな球」

 

 「ああ、あれか……あれに太陽を感じるからって、後生大事にする気らしいね……」

 

 「この間嫌な夢を見ました、それを手に取って、取った方が力を、災いをもたらす力を手にする夢を……」

 

 信じるには荒唐無稽な、馬鹿馬鹿しいと思いかねないような内容だった。だが朱雀は信じた、その女を娶った朱雀が信じずして、一体誰が信じるというのだろうか?

 

 「そんな力を秘めているのか……言う程のものは感じなかったのにね」

 

 「合わないのだと思います……あれは、心臓です、そして思いを力に変えるもの……適した思いを持つものでなければ力を引き出せないようなのです、夢の中の朱雀様、青龍様、白虎様、玄武様、傀儡の兵に取り付けてみたものの、うまく力は出せませんでした」

 

 「その思いが何かは……」

 

 「朱雀様にないもの……としか言い表せません」

 

 「ほう……僕にないもの……ねえ、何がない?」

 

 「そこまでは分かりません……思いやり?」

 

 「ははは、言うねえ……はっきり言う娘も悪くない」

 

 そんな会話をしてから数年……数十年……時が流れて〜

 

 「フッフッフッ今年の娘も豊作だな……」

 

 朱雀は彩南高校の窓から、女子生徒の着替えを覗いていた。

 嫁にした人間は数多くいるものの、双丘は誰のを見ても退屈しない。

 

 「うわ……」

 

 そんな朱雀を見て、ドン引きしている男の子がいた。

 

 『!!』

 

 その時、予感がした。

 はっきりとは言えないが、自分が決して抱かないような感情にまみれて、ここにいると。

 この子供は、自分と同格に至る可能性があると。

 

 〜現在〜

 

 『そんな事が……』

 

 「何故それを言わなかった」

 

 『だって実際の所ピロートークだからね、それを理由におおっぴらに行動したって、君等はふざけるなと叱ってくるのがオチじゃないか』

 

 『俺達の態度がそうさせたのか』

 

 『いいえ、一般でもそんな感じだと思う』

 

 話が脱線しそうな予感を感じ、白虎達の主は咳込む。

 

 「オッホン、話を戻そう、あの球がイチゴなる者を選び、力を授けた……そう仮定したとして……どうする?」

 

 『一刻も早く、対処を』

 

 白虎はカイを破壊しようと言っている。

 

 『いいや、この際僕達の味方になってもらおうじゃないか』

 

 『朱雀、あれは危険だとさっき言ったろう』

 

 『僕もさっき言った事を繰り返すがね……その力を使えれば、大いに役立つ』

 

 主は考える仕草を取る。

 

 「白虎、お前は力を手にする前は悪い人間ではないと言った……お前達が好意的に見るなら、こちらも信じてみるのに不足はないだろう……合力の礼と、部下の行動の詫びもある事だし……」

 

 『……………』

 

 冷静に裁決をしているように見えるが上気して肌の色が赤い……なんとなく分かる、年頃の少女みたいに、何か、そう……発情しかけている。

 この二千年、四獣など守られて当然であろう相手にしか守られていないから、そうでない人間から思いがけず助けられるなんて行動に免疫がないのは分かる……が、想定外だった。

 

 『おねショタにも限度はあるよね』

 

 『あはは……』

 

 青龍も苦笑い。

 

 「うるさいわよ朱雀、万年発情期の癖に」

 

 『おっと、今が頃合いかな。じゃあ……僕が動くなら……そう……玄武を呼んで、それからだ』

 

 〜日本 小美呼市〜

 

 有機……無機……たくさんの視線が集まる。

 そんな目で見ないで欲しい……気味が悪い。

 

 『目立ちますね、これは……ステルスモードに移行します』

 

 周囲の風景に自分を合わせ、見えなくさせるステルスモードにしてもらう……

 屈折とか色々あって、若干不自然ななりだが、注目は大分減った。

 カイから降りた。

 

 「じゃあ、戻って」

 

 元のサイズに戻ってもらおう……

 言い出して数十秒、動きがない。

 

 「どうしたの」

 

 『も、戻れません』

 

 緑の球が付いた影響か?

 戻れないのは仕方ない、ステルスモードで待機してもらおう……電池切れはもうない筈だ。

 そして少し歩く。

 急に目眩がして、力が入らなくなる。

 

 「くっ」

 

 何日も、食べていない事を思い出した。

 牢屋の人達は、食事の概念もあまりなさそうで結局一食も食べさせてもらえなかった。

 ねだってれば良かったのだろうか?

 だが、あの世の物を食べれば戻れなくなるとも言うし、セーフ……だろうか?

 何故セーフなのだろう?戻れなくなるのは……

 何を望んでいるのか分からなくなってきた。

 銀行行って、金を降ろすとしよう……

 

 「……!!」

 

 一步一步、歩く度に募る脱力感。銀行を探す事すら難しいのを悟る。

 

 「ダメだ」

 

 間に合わない……カイの視界に入らなくなった所で動けなくなった。

 

 「動けない」

 

 つなぎが欲しい。

 本格的に食べるまで保つように、腹の中に入れるもの。

 水道水でも良い……

 そんな時、視界に一羽の鳥が入る………

 

 『ポッポポッポーポッポーポッポポポッポー』

 

 丸っこい鳥……丸々太った鳥……丸焼き……

 気づけば、ワープしたかのように一瞬でそこへ詰め寄り、その鳥の脚を、鷲掴みにしていた。

 

 『ポー!!』

 

 手に何か黒いエフェクトがかかってる気がするがまあ良し。

 

 「肉……肉……」

 

 鳥の癖に、山伏……天狗の服まで着ていて滑稽だった。

 服も毛も、たくさんむしり取らなければ……

 

 『ワタクシ、食べてもおいしくないッポー!!』

 

 食べておいしくないのは、肉を食べてる動物ばかりだ。それだって食べられる部分は多い、だがそんなことはどうでもいい、食べなければ……食べたい。

 

 「いただきまーす」

 

 『ポ───────!!』

 

 だんだんとその鳥は干からびていくような様相を見せ、気絶する。

 好都合だ、首から上に用はない……

 

 「ぐはっ」

 

 後ろから、何か乗っかってきた感触がする……重い。

 組み伏せられた。

 微かに見える手甲などの装束から判断するに、祓忍?

 

 「動くな、人妖」

 

 耳慣れない単語を言われ、混乱する。

 押さえる力が強くなっていき、身動きも取れなくなる。

 

 「!!」

 

 刃物を首元に突きつけられ、思考も大分冷えてきた。

 よく見ると目の前のハトは妖、お腹は膨れなさそう……

 獲る気も失せ、力が抜けていく。

 

 「嫌……こいつ、人間なのか」

 

 『ポッ!?人間ッポ?』

 

 「大丈夫か!?」

 

 刃物が、イチゴから離れる。

 急転直下で発生した命の危険を脱したせいか安心して、漫画みたいに大きくお腹がなる。

 

 「お腹を空かせてるのか…………やれやれ」

 

 そんなこんなで祓忍に保護され……彼の実家で豆を20個程、分けてもらった。

 

 「ありがとうございます」

 

 「礼ならポ之助に言え、ポ之助の分だ」

 

 「ありがとう、ポ之助君……さっきはごめん」

 

 『死ぬかと思いましたッポ!!』

 

 ハトにべしべしと全身を叩かれた。

 

 「食べ終わったようだな……お前があのロボの搭乗者か、背景に溶け込むやり方、人の目は避けられるようだが妖はそうはいかない」

 

 見えていたようだ……

 

 「ええ……」

 

 「何者だ、名前を聞いておきたい」

 

 下手な嘘は、却って逆効果だ。

 

 「結城イチゴ」

 

 「!?あの、結城イチゴか」

 

 「多分そうです」

 

 『祓忍組合での要注意対象ッポ!!』

 

 いつの間にそんな風になっていたのか……

 

 「中学まで他の兄弟達と同じようにデビルークと呼ばれる星と彩南町を行き来して暮らし、中学から高校の間、祓忍の家に預けられ、現在はシンケンジャーの下にいる……嫌、いたらしいな」

 

 「あはは……」

 

 「どちらにせよ、然るべき所に突き出すのが筋だろう」

 

 「それもそうですね……」

 

 仕方ないなというニュアンスで声が出てしまった。

 

 「…………」

 

 祓忍・二ノ曲宗牙はイチゴをじっと見てきた。

 目力の強さは黒鋼で慣れてきたが、時折見えるサメのような歯が、ちょっと怖い。

 

 「豆だけでは足りないだろう、腹いっぱいになるまでは待ってやる」

 

 だが、顔が怖いだけかもしれない。

 

 「!!ありがとうございます」

 

 サンダルを貸してもらって、最寄りの銀行に行って金を引き出し、ざるそばを2杯頼んだ。

 彼の実家……一族代々での、世を偲ぶ仮の姿がそば屋だったそうだ。

 喉が乾かない程度に甘いつゆに絡ませて、すするそばにズボシメシと戦って以来の安らぎを覚えた。

 食感が少しザラザラしたそばより、滑らかなうどんの方が好みだが、そうも言ってられない。

 

 「ふう、ご馳走様でした」

 

 皿と容れ物は返した。

 

 「待て、あのロボごとになるのか……」

 

 「案内してくれるなら乗ってついて行きますよ」

 

 そんな訳でカイから降りた場所に行く。

 その途中にある森林の隙間に、何かがいた。

 妖……とは違って、存在感は強い。

 イカの形をした頭……本当に、そうとしか形容できない造形を持つ老人だった。老人はフィーリングでそう思っただけで、確証があって言った訳ではない。

 

 「さて、資料の具合は……」

 

 声を聞いた感じは好々爺風に見えなくもないが、こんなのが普通の人間な訳はない……

 しかも、手に持っているのは……

 

 「ッ志葉家の家紋!?」

 

 それも古そうな書物だった。

 

 「…………見られたか、文献のためとはいえやはり外に出るのは良くないねえ」

 

 スキマからナナシ連中が生えてくる、十中八九外道衆だ。

 

 「話に聞く外道衆か?お前達」

 

 「人間、そしてお前さん……嫌、肉が人間なら、それはもう人間さね」

 

 「来る!?」

 

 「待ってー」

 

 女性が一人、走ってきた。

 勢いから走るのは苦手そうに見える。

 目が離せない、イカの形をした頭を持つ老人がそこにいるというのに、そっちの方に目がいく。

 

 「……来たか」

 

 「妖巫女……ここにいたか」

 

 妖巫女……桃太郎も、白虎も以前その名前を口にしていた……

 

 〜むかーしむかし〜

 

 「妖巫女?」

 

 筋トレの休憩をしている間に、聞かされた言葉。

 

 「そうだ、世界には、妖が見え、引き寄せる程の生命力を持つ女の子がいる……」

 

 「すごいですね……」

 

 「でも、引き寄せるのは、いい子だけじゃなくて、凶暴なのもいて……食われる娘がいるんだって」

 

 「常々思うけど、たくさん生命力があるなら、それだけ乳も良いものが……フフッ」

 

 「夏喃よ……」

 

 さすがの玄武も、朱雀の言葉に呆れ返っていた。

 

 「それに、引き寄せるという事は仲良くもなれてしまうという事だから、自然に寄り付く。結果魔女と恐れられた娘もいたんだ、それで人の世を呪う、本物の魔女に変わっていった者もいる……今はその娘達の来世での幸福を願う他ない……南無阿弥陀仏」

 

 魔女狩り……だから、ヨーロッパ辺りの話らしい。

 ふと、疑問が湧く。

 

 「巫女っていうからには、なんか祀ってる……宿してるんですかね?」

 

 一般論としての知識だが、巫女の形態で、神憑り……神を自分に卸して神託を伝えるというやり方があるらしい。神の妻として生きる巫女もいたような……いずれも巫女は神ありきの職となる。

 だから、仕える神、崇める神なしに巫女とは言えないだろう。

 

 「さっき言った天照とかだな……精霊とかもそうだし……国による、どこにも想像上の存在はたくさんいるし、それに仕える、崇める奴らもたくさんいるしな……特にギリシャは多い」

 

 何故こんな事を話してきたのか?

 

 「君が将来、巡り会う事になれば味方になって欲しいと思ってな……特別な力を持っているからと言って心は特別じゃない」

 

 「僕らの主も喜ぶだろうね」

 

 現在に戻る……

 

 「はじめましてになるね?私はすず」

 

 自己紹介をしてきた。

 

 「こいつを倒せば、あたし達みたいなもんからも嘆きを得られるさね」

 

 だが、獲物としか思われてない模様……

 

 「ガヤッガヤッ」

 

 イカの老人の言葉に、ナナシ連中も勢いづく。

 

 「どうしてそんな事をするの」

 

 妖巫女と呼ばれた女性は、イカの老人にやめるよう訴えた。

 

 「ひどいよ、やめて!!」

 

 「やめてと言われてやめるくらいなら、最初からしないよ、お前達、やっておしまい!!」

 

 イカの老人は、ナナシ連中に命令を下す。

 

 「そんな……」

 

 彼女の主張に違和感を覚える。

 相手は外道衆、倒すべき敵……と認識しているからなのか、あるいは……

 

 「風巻が忍務でいない分、俺が守る」

 

 二ノ曲は、刀を持ち出す。

 

 「来るなら来い、全て祓う」

 

 二ノ曲は駆けてナナシ連中に向かう。

 その剣、雷の如く。瞬き程の一瞬でナナシ連中が倒れていく。

 さっき襲われた時も、こうして近づいたのだろう。

 

 「このまま攻める!!」

 

 その勢いのまま、イカの老人に近づく。

 

 「ま、まずいよ!!」

 

 哀れイカの形をした頭の外道衆、会って数分で刺身にされ…………なかった。

 一撃を、顔面の赤い骸骨の剣士が邪魔をする。

 二ノ曲は、一旦攻撃を止め後退。

 

 「怪我はないか?シタリ」

 

 「どういう風の吹き回しだい?十臓」

 

 「知らないなら知らないままで良いとは思ったが、お前が勘付いた以上もう遅いと思ってな。どうせ起こされる癇癪なら、軽度に済ませたい」

 

 「何かあった時のために恩を売っとくって事かい?いいねえ、あたしゃ好きだよそういうの……と言っても、ドウコクが怒ったらあたしにゃどうする事もできないがね」

 

 「無駄話は良い、気が変わらない内に行け」

 

 「おうさ」

 

 シタリと呼ばれたイカ頭はその場を後にする。

 

 「お前達自体に用はない。死にたくなければ、退け」

 

 十臓と呼ばれた男は、長刀をこちらに向ける。峰が赤く、ノコギリのようだった。

 

 「この妖、刀を持ってる!?」

 

 「お前は下がっていろ」

 

 二ノ曲はすずに下がるよう言う。

 

 「お前が妖の中で神であろうと、ああいう手合いには通じない。むしろ死ぬまで切り刻む楽しみが増える……そういう男に見える」

 

 「よく分かってるじゃないか」

 

 ナナシ連中……巨大化したから二の目?も出る。

 

 「じゃああのナナシ連中はオレがやります」

 

 「やれるか?……任せる」

 

 イチゴはその場から下がった。

 

 「俺が相手だ」

 

 「忍か、面白い」

 

 両者、向き合う……

 

 「……来い、カイ」

 

 その対決を余所に、ステルスモードを解いてもらって、カイにこちらへ来てもらった。

 

 『お肌にハリが戻ってきてます、良いことありました?』

 

 「お腹いっぱいご飯を食べたんだ」

 

 『それは良かったですね』

 

 「今はその人達と一緒に戦う事にした」

 

 『分かりました、どうぞ』

 

 イチゴはカイに乗り込んだ。

 

 「はあ!!」

 

 カイの拳を突き出し、ナナシ連中の一体を殴る。

 続けざまにナナシ連中の武器を奪い、それで攻撃。

 モヂカラはないが、順調にナナシ連中を倒せている。

 

 「ガヤー!!」

 

 また別のナナシ連中の一体は剣で攻撃……するも、翼を動かし、飛んで避ける。バッテリー切れを気にしないで良いのは素晴らしい。

 

 「このまま押し切る!!」

 

 ナナシ連中から武器をもう一本奪い取り、Xの字にナナシ連中を切り裂く。

 全員、爆発。

 

 「終わった……」

 

 2分ぐらいか……?

 

 二ノ曲達の方を見た。

 ニノ曲は、血を流して膝を付いている。

 

 「二ノ曲さん!?」

 

 『主様、しっかりするっポ!!』

 

 「腕は良い、相当な修練も積み、速さも韋駄天の如く……だが、悪鬼を祓う事はあっても人と命を賭けて斬りあった事はないらしいな……頬を切っただけで動揺するな」

 

 骸骨の剣士は、人間の姿になっている。

 擦り切れた衣服の一つ一つが、伸びた髪と髭が、道なき道を彷徨い歩く旅人を思わせた。

 

 「どういう事だ……人間なのか?」

 

 「人間……?」

 

 人間が、あんな怪人にでもなれるのか?

 

 『……確かにこいつ、人間ぽいッポ!!』

 

 「人かアヤカシか、か……堕ちてしまえば等しく外道」

 

 『ど……どうしますッポ!?主様がやられる程の手練を相手にして私ができるのは……』

 

 ポ之助、閃く!!

 

 『ごめんなさいッポ、許してくださいッポどうか主様の命は勘弁してくださいッポ……あ、私とすず様の命も勘弁してくださいッポ』

 

 音速を越える勢いで、土下座をし始めた。

 了承もないまま、徐々に要求をつり上げる様に図々しさを感じる。

 だが、見た目の丸っこさがそれすらもかわいいと思わせた。

 

 「ポ……ポ之助君……(汗)」

 

 「そこの鳥」

 

 ポ之助は言われてビクッと震える。

 

 「敗者がどうなるかを教えてやる」

 

 十臓が刀を持って、トドメを刺そうとしている。

 

 『や……やめてくださいッポー!!』

 

 折り紙が空を舞い、十臓を攻撃する。

 

 「させない……」

 

 「妖巫女……話は本当のようだな……」

 

 そう言うと共に、空を舞う折り紙が、切り裂かれ地に伏す。

 

 「!?」

 

 「噂の折神……命が宿っているみたいだが手応えは紙を斬る程度か、つまらん」

 

 「そうか……」

 

 今の斬撃で分かった。

 あの男……十臓と呼ばれた男の剣は、人斬りのそれ……嫌、それ以上。命を斬り裂く事に、後悔や哀悼は感じていない、むしろ喜びすら感じている狂剣だ。

 人を何人斬ったのだろう?、嫌、何人己の愉しみのためだけに斬ったのだろう?

 

 「なら、オモカゲでいこう」

 

 すずの体から、幽体離脱したように何かが出ようとしている。

 

 「やめておけ、苦悶の叫びを増やすだけだぞ……そちらも嫌いではないが、やはり斬り合いこそ至上」

 

 その言葉で、何かは止まる。

 

 「………もーれつ危険人物?」

 

 隙を見てサンハイッは通じない。先程と打って変わって乗り気の様子、おそらく目を離してナナシ連中を蹴散らしている最中にスイッチが入っている。十臓が飽きて下がってくれなければおそらく……

 

 「下がって!!」

 

 カイで戦えば、マシなはずだ。

 

 「そうはさせないよ」

 

 ナナシ連中が一気に七体出現。

 

 「増えた……」

 

 「巨大な絡繰相手にはこれが一番さね」

 

 「あ」

 

 シタリは、安全な場所で見物していた。隙間のありそうな物も見える、こちらが攻めればすぐ逃げる気満々だ。

 

 「…………」

 

 倒さなければ、二人と一匹を助ける事はできない。

 しかし全部倒すのに最低1分はいる。

 

 「興が乗った、立て」

 

 「ああ」

 

 「もうやめて、二ノ曲君」

 

 「やめる訳にはいかない、せめて奴の猛りは沈めなければ」

 

 何でも良い、早くこの場をなんとかしないと……だが、この前のような、謎の力は出ない。

 間に合え……

 

 『サンサンパープルビ〜ム♡』

 

 急に予兆のない何かが来た。

 爛々と輝く聖光が放たれ、カイ諸共にナナシ連中を焼いていく。

 雨のように、浴びるように、当たってしまう……避けられない。

 

 「眩しっ暑っ」

 

 今……巨大化しているナナシ連中全てが、灰となって消えていった。

 

 「ひゃー、天照かい!?水がいくらあっても足りゃしないよ」

 

 シタリは、その場から隙間を通って脱出。

 

 『まだ1体……2体残ってるわね』

 

 太陽を背に受け、1人……または1体の女性が重力的にあり得ない程ゆっくりと降下する。

 蝋のような、だがおしろいでは再現できない白いきめ細かな肌、鮮やかな程に黒いショートヘアは鶴を思わせ、黄金色の瞳、煌びやかに装飾されつつも、天女、ないしは巫女を思わせる衣装……一目で分かった……

 三貴子が一柱……烈日の女神、天照!!




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
十臓と先輩の勝敗結果に対する言い訳
………だって
十臓じゃんかよ…
殿様以外に負けるイメージがないっていうか……


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第14話 タイヨウみっつ、モモひとつ Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。



 「お前が神にでも祈っていたのなら……感謝する事だな」

 

 十臓は飽きたとでも言わんばかりに、歩幅を多くとった速歩きで去っていく。

 

 「クソ………」

 

 残された二ノ曲は、それを見逃す事しかできなかった……その選択しかできない自分を責めているように見える。

 

 「応急処置するから、待ってて」

 

 「……すまん」

 

 すずの手から治療の波動を感じた、というより命の譲渡に近い気もする。

 だが、すずは平気そうだから良しとしよう。

 それよりも……

 

 「そして……どなた?」

 

 蝋のように白い肌を持ち、漆のように黒い髪を持つ麗しい少女……の外見をした何か。

 天照っぽいのは見て分かったが、もし違っていたらマズい……だが、太陽に関わる神性は多くとも、女神となると数はかなり限られる。

 

 『不敬』

 

 太陽の光を凝縮させたような光が、手から照射される。

 今度は直撃を避ける事ができた。

 

 「何を!?」

 

 『不敬だから不敬と言った、大陸ならいざ知らず、ここで私を知らん者はいないと思ったが』

 

 「嫌……オレ……私達は初対面なのですが」

 

 『よかろう、聞けい!!我が名はアマテラス!!日輪の意を伝える神よ!!』

 

 「ああ……なるほど」

 

 「すずと……同じ天照!?」

 

 先程の負傷は治ったらしく、二ノ曲は一人で立っていた。

 

 『同じ〜?確かにそこから感じるわね、巫女王の系譜って所かしら?まあ私とは無関係よ』

 

 「何故同じ存在が2つもいる?」

 

 「よく知りませんが同じ信仰で形成されるのが一体だけとは限らないのでは?」

 

 古くから伝えられる神、妖怪、人物程、地方によって伝わり方は違ってきて、そこに住む人々の認識にも違いが出てくる。◯◯は◯◯説とか、そういうものがたくさんあればあるほど分化しやすいのではないだろうか?

 

 「なるほど……同じ信仰を基にして、複数体産まれるケースがあるという事か?確かに天照は有名な神だ、ない事はないかもしれん」

 

 「多分そうじゃないかな……と思います」

 

 すずという人が天照かはさておき……

 

 「力添えは大変ありがたく思います、ですが何故……」

 

 戦闘態勢のままだろう?

 

 『それじゃあ邪魔者は片付けたし……君を消去するね』

 

 狙いはイチゴだった、攻撃が放たれる、危ない。

 カイを動かし一目散に回避する、乗ってなかったら危なかった……

 

 「!?」

 

 天照は人間サイズ……今のカイの拳を振り下ろすのは気が引ける。

 

 『身長はそっちに合わせようじゃない』

 

 巨大化を始めた。

 

 「っダイダラボッチ!?」

 

 桃太郎も似たような事をしているし……偉い奴らの必須技能なのか?

 

 『やぁっはぁっ!!』

 

 「くっ!?」

 

 イチゴは天照が放つ二発の閃光を避ける。

 ならばと天照は8枚の鏡を取り出してきた。鏡は宙に浮き、淡く光っている。

 八咫の鏡とでもいうつもりなのだろうか?

 

 「ウーちゃんと日照り神の力に似てる」

 

 ウーちゃん?何かの愛称だろうか?

 

 「…………ウーちゃん?はともかく天照なら別に使えても不思議じゃないとは思うんですけど」

 

 日照り神も天照も、現象かそうでないかというだけで同じ太陽から産まれた神性だし……

 

 「神だろうと争いを広げようとするなら……俺が相手だ」

 

 その言葉を受けて、天照はサイズの縮小を始める。元に戻ったと言っても良い。

 

 『忍はお呼びじゃないの、影は影らしく、私にそっぽを向いていればいい』

 

 二ノ曲は天照に攻撃する……しかし、鏡が彼の刃まで動いてそれを弾き、防ぐ。

 

 『蝶のように舞うのは結構、でも愛でる時は今じゃない』

 

 急に風景が変わった。

 山、森林、山。見渡す限り自然いっぱいの風景だ。

 桃太郎に連れてこられた変な異空間を思い出す。

 連れてこられたのは、イチゴ、そしてすず。

 

 『どっちからでもいいわ、さあ……始めましょう』

 

 先に天照に向かったのはすず。

 

 「やめて、どうして私達が戦わなければならないの?同じ天照なんでしょ?」

 

 天照の放つ光を、すずは折り紙を動かして弾く……折り紙は気を纏っており、手を放しても動かせるようだ。

 

 『私達が太陽神だから、それで充分。この世に太陽は常に一つ、それ以上は不秩序を呼ぶ、太陽のもたらす光は命を育む恵みの陽光(ようこう)から、災いの炎光(えんこう)へと変わり、月の放つ導きは太陽により輝きを失う、そして人の紡ぐ営みは朝、昼、夜のサイクルを壊す』

 

 確かに太陽がこれ以上増えればメモルゼの住人もしくはジャ◯ラのようになってしまうかもしれない……だが、あくまで太陽神達は太陽神、実物の太陽とは違う、増えたところでどうなるというのか?そしてそれで何故イチゴが連れてこられたのか、分からない。

 

 「でもそんなの、寂しいよ」

 

 『寂しい?もしそうでも、あなたにそれを紛らわしてもらう気はないから』

 

 天照はすずに向け、目からビームを放つ。

 手から放ったものより威力があり、持続性の高そうだった

 

 「危ない!?」

 

 イチゴは、その辺の長い木を伐採し、それを投げてビームを逸らす。木は数秒しか保たなかったが、時間稼ぎにはなったようで、すずは脱出できたようだった。

 

 「大丈夫です?」

 

 「私は巫女の装束があるし大丈夫……ありがとう、私はすず……あなたは?」

 

 「…………イチゴ」

 

 「じゃあ、イチゴ君……よろしくね」

 

 「はい」

 

 『先にきた方を倒そうと思ったが、気が変わった、まずはお前からだ』

 

 天照は再び巨大化、イチゴに襲い掛かる。

 

 「イチゴ君!?」

 

 「オレに向かってくるならオレがやらなきゃ」

 

 「……分かった」

 

 とは言ったものの……

 

 『くらいなさい!!』

 

 「うわっ」

 

 『もう一発!!』

 

 「眩しっ!!」

 

 近づこうとする度に、謎の光を当てられる。

 多分太陽光が透過していくごとにどんどんコックピット周りが暑くなっていく。

 一発一発、まるで閃光のようで見てられない。一言で言うと……ピンチ。

 

 「…………失明は流石にごめんなんだけど」

 

 前を見れたもんじゃない。

 眩しいと言えば、これ見よがしに爛々と照り付ける太陽も厄介だ。前方の天照を避けようとして上を向くと、必ずそれは見えてくる。

 動いて、そしてイチゴを狙う天照より、ただぞこにある太陽の方がなんとかしやすいように思えてきた。

 うまくいけば天照の力を削げるかもしれない。

 不可能なんて言葉はよぎりもしなかった、カイの胸の球がある、今ならできる、できる事をためらう理由はない……

 

 「邪魔だ」

 

 そう思うと、イチゴの指が勝手に動き、カイの手が動いた。

 太陽が、月に覆われ、隠れていく……

 この現象は……いうなれば……日食?

 今、日食を起こせている?だが驚く暇はない、目の前の敵に集中しないと……

 

 「も……もーれつ嫌な感じ……」

 

 〜すずの心の中〜

 

 「うっ」

 

 すずの中には複数人格がある、一つは表出している人格、もう一つは、幼心ないしはかなでといい、前世の記憶などを受け持っている存在。

 

 「かなでちゃん!?」

 

 瞬間

 そのすずのもう一つの人格の中で

 溢れ出した

 超古代の記憶

 

 ……………………

 あの時も、こんな景色だった。

 昼なのに夜のようで、まるでこの世の終わりを体現したかのような光景。

 それを見た日、同時に女王としての運命の歯車も回り始めたのだった。

 時は昔、邪馬台国という国があった頃……

 太陽が夕焼けの光を放たず、一足飛びに夜になっていった日の事。それを見て胸騒ぎを感じ、修行を早々に切り上げて帰ってきた後の事。

 前触れもなく起きた事象に、民達は驚き、恐怖した。それをこの世の終わりだと恐怖した者もいた。

 

 「壱与様!!」

 

 「何?」

 

 「日巫女(ヒミコ)様が……お隠れに!!」

 

 「え!?」

 

 信じられない言葉を呑みこむ事のできないまま、導かれたままに先代女王……日巫女の部屋に赴く。

 そこで待っていたのは師、親、そう呼ぶに値する人間の、亡骸だった。

 

 「そんな……」

 

 思わず体全体を覆っている布を剥がす、ひょっとしたら別人かもしれない。

 しかし、灯りを持ってやっと見えるその顔は、紛れもなく日巫女そのものだった。

 

 「嘘……」

 

 戦場で行き倒れていた女の子を拾い育て、自身の後継者として選んだ女王……日巫女。眠るような死に顔だったが、口元、そして腹部から未だ流れている血はそう時間の経たない内に殺された事を示唆している。

 

 「どうして?」

 

 「おそらく、暗殺者の仕業かと」

 

 「…………」

 

 「嘆いてばかりもいられません、これより邪馬台国の女王は、貴女です……壱与様」

 

 「…………分かった」

 

 隠れた太陽は、次の日には何もなかったように再び姿を現す。その様に民も安堵の表情を浮かべていた。

 その日から彼女の心には穴が開いた。擬似的なものとはいえ、親子という繋がりによって埋まっていた分が……………

 あの光景に何を指していたのか?

 日巫女(ヒミコ)が死んだ事を示唆していたのか?

 壱与がその座を継いだからもとに戻ったのか?

 それともただの現象なのか?

 一つ言えるのは……あの光景は彼女にとって、太陽を司る者の死を象徴した出来事であった。

 

 「幼心ちゃん、大丈夫?」

 

 すずは、自分の心の中で苦しそうにしているかなでにテレパシーで聞く。

 

 「あのイチゴって人……ロボがそうかもしれないけど、何者?」

 

 「え?」

 

 すずのもう一つの人格はイチゴそしてイチゴの駆るカイの挙動に日食……そして日巫女(ヒミコ)の死を思い出し、転じて天照を害する刃になりうる可能性を見出す。

 

 「あの力は危険、私達に向けられたら……無事じゃ済まない」

 

 初めて感じる悪寒だった、紐付いた力全てを消されるという危機感、存在の根幹にまで届きうるのでは……と、恐怖を覚えた。

 ほぼ同じタイミングで、似たような結論を出した存在がいた。

 

 『(こいつ……生かしておいたら、危険危険危険危険危険危険危険)』

 

 それはイチゴに向ける、天照の殺気が濃くなっていく事を意味する。

 

 『行け!!』

 

 天照の鏡全部が、四方八方に散っていく。太陽が隠れて暗いままだったから、灯りが増えたのは良かった……とは言えない。

 

 「来る!?」

 

 イチゴは、その場に留まるより動き回った方が良いと悟り、左右に動く。

 

 『無駄よ!!』

 

 天照は、光を鏡に向けて乱射する。

 

 「?」

 

 その光は鏡から鏡へ反射していき、次々とカイに当たる。

 

 「!?」

 

 その都度鏡は角度を変え、光の反射の軌道を分からなくさせた。

 

 「この!!」

 

 近くにある鏡を掴んで、地面に叩きつける……しかし、割れない。

 

 「さすが……」

 

 神に類するだけはある。

 

 『潔く散れ!!』

 

 天照は両手を用いて、光を発射する。片手での攻撃より、太く、強そうな光を発している。

 

 「暑っ!!」

 

 「これじゃあ……イチゴ君が危ない!!」

 

 「待って」

 

 「え?」

 

 「もうちょっと様子を見よう」

 

 「幼心ちゃん……」

 

 すずが心の中で会議をしている間に……イチゴ及びカイはへたり込んだ。

 一週間真夏の外に出かけた分の太陽光を浴びた気がする、しかし体が黒くなって適応できる程長い期間浴びてる訳でないのできつい。

 少し座席にもたれた、丈瑠達侍との修行などで経験した疲労とは別ベクトルの疲労に襲われる。

 

 「春なのに熱中症か……」

 

 『下ろしたいのは山々ですが、安全地帯が見つかりません……』

 

 幻聴か、突風の音が聞こえる。

 

 「祭里!!……じゃない!?誰?」

 

 幻聴ではないみたいだ。

 そして、聞き覚えのある音声が聞こえた。

 

 「こ……この音楽(BGM)は!?」

 

 あちこちを見てみると……

 見覚えのある天女、見覚えのある男達が見えた。

 

 『ワーハッハッハッハッハッハ!!』

 

 そして……天女が踊り、紙吹雪を振りまきながらその道を彩り、男達が担ぎ上げているのは………

 

 『祭りだ、祭りだぁ!!』

 

 見覚えのある桃太郎だ!!




 いかがでしたか?面白かったと思っていただければ嬉しいです。


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第14話 タイヨウみっつ、モモひとつ Cパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
ドンオニタイジン、出陣じゃー


謎の音楽がその場の雰囲気を、多少神秘的なものから明るく楽しいものへ塗り替えていく。

 

 『やあやあやあ、祭りだ、祭りだぁ!!』

 

 桃太郎は、例のごとく扇子を仰ぎ、笑っていた。

 

 『踊れ、歌え!!袖すり合うも他生の縁、躓く石も縁の端くれ、この世は楽園!!悩みなんざ吹っ飛ばせー!!ワ〜ハッハッハ!!』

 

 「何あれ」

 

 『桃太郎!?』

 

 突然の乱入者故か、特異なキャラクター性を目の当たりにしたためか、すずも天照も驚いている。イチゴは三度目でもう慣れた。

 

 『ここにいるのは太陽神、太陽神、そしてまた太陽神から産まれたもの、面白い!!』

 

 桃太郎は、扇子を畳んでからまたがっているバイクからとうと飛び降りた。

 

 『おら行くぜー!!』

 

 『弟を誑したたらしが!!くらいなさい!!』

 

 天照は桃太郎に向けて光を放つ。

 

 『ハッハッハ、効かん効かん!!』

 

 桃太郎は、その光が直撃してもピンピンしており、むしろその光を己のものとして光り輝いていた。

 

 『さすがね……桃太郎、天の果て、そして地の底に至るまで並ぶ者を許さないその強さ!!』

 

 『俺が強いのは当然だが、弟を誑したなどと……そんな不埒な事をした覚えはないぞ、おでんを一緒に食べたりはするがな!!』

 

 『人間界じゃあ、それはデートって言うのよ!!』

 

 おでん…………

 

 『タロウ、次のおでんはいつにする?』

 

 青い鎧を着た戦士の事を思い出した。

 ツクヨミ、スサノオ……どっちだろう?

 

 『ガタガタぬかすな!!お前の弟が何をしようが、お前の弟の勝手だろう!!』

 

 『な、なんですってー!?』

 

 「桃太郎……」

 

 とイチゴが呟いていると、桃太郎がカイの中に侵入してきた。

 

 『縁があったな……土産だ!!』

 

 桃太郎が渡してきたのは馬刺し、紙皿に盛られた、箸付きのもの。手品のようにいきなり出てくるそれを、怪しむ余裕はなかった。

 

 「ありがとうございます」

 

 早速口にしてみた。

 腹に溜まった感じはしないが、不思議とタレの甘味や柔らかく香ばしい味わいはあり、満足感が湧いた。

 

 「うまい」

 

 『そうか!?うまいか!!俺もだ!!』

 

 桃太郎はすず達の所に移動し、同じものを振る舞う。

 

 『せっかくだ、お前達にもやろう』

 

 桃太郎はすずにも馬刺しを渡す。

 

 「………ありがとう」

 

 すずは馬刺しを口にする。

 

 「なんだろう……おいしいけど私がこれを食べちゃいけない気がする」

 

 『お前も食え!!』

 

 『こんなものを送って、どういうつもり?』

 

 『どういうつもりとは、どういう意味だ?俺は献上されたものを俺だけで食うのは悪いから縁のあった奴らにお裾分けしているだけだぞ!!』

 

 お供にも既に配り終えているらしい。

 

 『食わないか!!』

 

 『断るわ!!そのような不浄極まりないものを私が食べるとでも思って!?別のにしなさい、求むきびだんご』

 

 『俺に捧げられたものを悪く言うか!?』

 

 『つき合ってられないわ……もう、帰る!!』

 

 天照は、岩と岩の隙間に入って、そのまま出てこなくなった。

 

 『そんなに嫌いだったのか…………』

 

 桃太郎は訝しんだ。

 よく考えたら、馬の刺身……つまり生の馬、天岩戸の話の最後の引き金足り得る出来事を想起させるものなんて、天照にとってトラウマ級の物に違いない。

 

 「あ……周りが元に」

 

 そして、景色も元に戻る。

 イチゴが起こした奇蹟も、暗闇も、全て元通り。

 二ノ曲が立ちっぱなしで待ってくれていた。

 

 「どういう事だ」

 

 「私にもさっぱり……」

 

 『祓忍か、そして妖巫女……お前とも縁ができたな!!』

 

 やはりというべきか、桃太郎はそう言った。

 桃太郎の叫びにより、周囲から妖が湧いてくる。

 

 「縁ができたのか〜よろしくね」

 

 「吉備の妖の王か……」

 

 「知ってるんですか?」

 

 「私にも教えて」

 

 「桃太郎は知ってるな?あれと縁結びの神の集合体だ。一度己を認識した人間と強制的に縁を結び、悩みを解決するというスタンスの妖で、祓忍組合の中で確認されている中の、最上位の妖だ……『祓おうとするだけ無駄だ、流れに身を任せろ』と言われている」

 

 祓忍組合……その昔江戸幕府が作り上げた組織で、日本各地に支部を持ち、怪異の情報を共有し、治安の維持なんかを行っているらしい……

 イチゴ個人としては、幕末の時はどうしてたのか?という疑問が浮かぶ。幕府が潰れて、組合だけ残ったいきさつ……他色々とあるが、今は桃太郎が目の前にいる以上桃太郎と向き合わねばボコボコにされる。

 

 『縁にも色々あるが、俺との縁は超良縁だ、困った事があれば言ってくれ』

 

 「特にない、今はな」

 

 「私も」

 

 『そうか……妖巫女』

 

 「え?」

 

 『きびだんごを頼む!!』

 

 「よーし、分かった……待ってて、仕込み家にあるから」

 

 すずはその場から去る。

 イチゴはカイから降ろされ、座り込んだ。

 

 『水が足りなさそうだな……飲め』

 

 桃太郎は、そんなイチゴに水の入った竹の水筒を渡す。こっちは実体がある、飲めそうだ。

 イチゴはおそるおそるゆっくり口にした。

 

 『遠慮するな、がっついて良い』

 

 促されるまま、一気に摂取した。

 

 「プハー」

 

 『しばらくみない内に、思念が元通りに……嫌、さらに悪くなっているな』

 

 「まあ、色々ありましてね……」

 

 思い出すだけでもため息が出る。

 一番きつかったのは、ズボシメシにトラウマを突きつけられてから意識が途切れ、目覚めた直後にそのトラウマと同じ轍を踏まされるように妹の裸を見せつけられた事か?

 

 『そうか……俺と勝負しろ』

 

 「なんだって!?」

 

 『俺は王だ、何度だろうがお前の負念を退治してみせようとも』

 

 断れる気はしない、言っても無理矢理戦わされるだけだろう。

 

 「……………二ノ曲さんはどうします?桃太郎と相手しますか?それとも……オレを祓いますか?オレは確か要注意人物でしたね」

 

 二ノ曲はクナイをイチゴに渡した。

 

 「王と戦うのだ、丸腰でどうする?」

 

 「心遣い……感謝します」

 

 向かい合って……

 

 結城イチゴVS桃太郎

 

 はっけよーい、のこっ……じゃなくて、勝負開始!!

 

 『ワーハッハッハ!!』

 

 桃太郎はサングラスの形をした剣を振り回す。

 有無を言わさずに周りを巻き込む、桃太郎の性格を表すような大振りの攻撃。

 

 「くっ!?」

 

 競り勝てる攻撃ではない。

 パワープレイを諦めたイチゴは、かわす事に専念する。

 そしてクナイを持っていないもう片方の腕でフックをくらわせようとするも、桃太郎に止められた。

 

 「………」

 

 びくともしない。

 

 『フン』

 

 あしらわれるように押しのけられた。

 やはり、強い。

 

 『すごい……』

 

 『圧巻でやす……』

 

 『カッコいい……』

 

 いつの間にか桃太郎を応援している妖怪達を見ていると、まるでイチゴがヒーローにやられる前提の悪役のように思えた。だからといっていじけて手は抜けない、相手は桃太郎だ。

 

 『主様は参加しないッポ?』

 

 「結城イチゴはまだ明確な一線は越えてはいない、桃太郎はむしろ我々に貢献している側であると言える。であれば、俺が出るまではない」

 

 『でも、あれ時間の問題ッポ……(ガクガクブルブル)』

 

 「(結城イチゴ………祓忍組合の要注意対象、人妖を身に宿す者……どれほどのものか見せてもらうぞ)」

 

 イチゴは、桃太郎めがけてクナイを投げる。

 

 『?効かんぞ』

 

 避けるまでもないかのように、頭のハチマキではじき飛ばす。

 

 「そこだ!!」

 

 その間に距離を詰め、クナイをキャッチして斬りつける。

 

 『まだまだだ』

 

 クナイを剣で捌かれ、蹴りを一発入れられる。

 転げながら跳ね起き、態勢を立て直す。

 

 『ふぅぁ!!』

 

 桃太郎は横凪ぎに得物を振るう。

 

 「………」

 

 クナイで、受け止めた。ただ、一瞬で手放す。

 

 『!?』

 

 桃太郎も面食らったようで、攻撃の勢いが遅くなる。

 その間で、体操のブリッジの要領で態勢を崩し、倒れるように攻撃を避ける、風圧だけで削られそうだった、手のひらをバネにして足で桃太郎にカウンターを入れる。

 

 『!!』

 

 表情は見えないが分かる……ニヤついている。

 

 『それで良い……遠慮はいらん、かかってこい!!』

 

 かかってこい……その言葉で、何かが高まった。攻撃していいんだ、倒す気でかかっていいんだ……と、自分が肯定されているような感覚。

 

 「じゃあ」

 

 クナイを回収して桃太郎の肩を突き刺すよう試みる。

 

 「せい!!」

 

 クナイは桃太郎に当たる……がしかし、当てた先に力を込めると歪な音と共に粉々に砕けた。

 

 『その程度か!!』

 

 「そんな!!」

 

 イチゴは二ノ曲に目配せする……

 

 「……………クナイは消耗品だ、気にするな」

 

 イチゴは目で会釈をした後、桃太郎の方を向いた。

 距離を取らざるを得ない、と思い距離を取ると……

 

 『必殺奥義だ』

 

 以前くらった必殺技かもしれない。

 

 「来るか……」

 

 快桃乱麻!!

 

 「これを避ければ、チャンスはある……」

 

 『させません!!』

 

 イチゴはカイに吸い込まれた、コックピットに連れ戻されたのだ。

 

 『何やってるんですか』

 

 「降ろして、今桃太郎と戦ってたんだ!!」

 

 『そうはいきませんよ、イチゴ様をお守りするのが私がララ様からいただいた使命ですし』

 

 桃太郎は怒るかと思いきや、そうでもなかった。

 

 『面白い……百鬼夜行だ』

 

 丁度その時、すずも来た。

 

 「お待ちどう様、すずの作ったきびだんご名付けてすずだんごだよ……て、えー!!」

 

 近くにいる者全て、桃太郎の空間に連れてかれた。

 

 「いつぞやのあれか」

 

 ナナシ連中と組手という名前のバトルをした事を思い出す。

 

 「◯域展開?」

 

 「嫌……固有結界だろう?」

 

 すずと二ノ曲が驚いているとその場に猿、鬼、犬、キジが出てきた。

 

 鬼『タロウが一人でやれない相手なの?』

 

 犬『どうせお祭り感覚で招集してるだけだろ』

 

 キジ『まあ、そうですよねー』

 

 猿『む……いつぞやの彼と戦ってるのか……侘び寂びの心を忘れたというのか?嘆かわしい』

 

 『お供達、首領(ドン)(オニ)(タイ)(ジン)でいくぞ!!』

 

 『やっぱりそうくるか』

 

 全員、同じ型の銃に、奇妙な歯車をセット、そして歯車を回した。

 

 『妖チェンジ!!』

 

 ドン・ドン・ドンブラコ!!

 

 『ロボ太郎』

 

 アーマーがこびりつき、桃太郎はロボっぽい外見となった、お供達4人もロボへと変化する……

 特にキジと犬のサイズ差はあれど、フォルムは人間に近かったお供達が、より元のモチーフに近い姿となった。キジは翼と尻尾が特徴的な飛行機型のロボに、犬は四足歩行のロボに、サルは腕の長い状態に、鬼は……あんまり変わらない、武者の鎧を着込んだぐらいか……

 

 『続けて行くぜ!!』

 

 また別の歯車を桃太郎はセット、そして回す。

 

 いよぉ!!

 

 『お供達、準備はいいか?』

 

 全員『おー!!』

 

 ドン・ドン・ドン・ドンブラコ!!大合体!!大合体!!

 

 『お供達、足となれ!!』

 

 大合体!!

 

 犬『久しぶりだな、この合体も』

 

 大合体!!

 

 鬼『誰が相手でも、かかってこんかーい!!』

 

 『お供達、腕となれ!!』

 

 大合体!!

 

 猿『ここで〜一句

 (あま)照らす

 春の陽光(ひかり)

 夢心地(ゆめごこち)

 

 大合体!!

 

 キジ『え?もしかして天照さんいるんですか?名刺の用意しないと、あ……なかった』

 

 完成、ドンオニタイジン!!

 

 『ワーハッハッハ!!』

 

 いよぉ〜!!銀河一!!

 

 ロボ化した桃太郎は合体し、両腕は猿、そして肩当てにキジのパーツをくっつけ、そして右腕にキジ、左腕に猿、右足に鬼、左足に犬の顔が付いている鎧武者然とした姿となった。最後にゴーグルを上にずらし、猛々しいロボットフェイスを見せびらかす。

 

 「妖同士が……己の特色を残したまま融合しただと」

 

 「も、もーれつカッコいい……」

 

 『キター!!』

 

 『ドンオニタイジン、噂には聞くけど本物は違うね!!』

 

 妖達は、楽しそうに騒いでいる。

 まあ目の前に巨大ロボットが出てくればそういう事もあるかもしれない。特に下で騒いでいるのはゆるキャラ的な格好の奴らばかり、嗜好は小さな子供のそれ、見た目の派手なものが出てくれば騒ぐだろう。

 

 『なんですかあれは』

 

 カイはドン引きしていた。

 

 「さっきは気にしてなかったけど……見えてる?」

 

 妖怪変化、見えざる稀人、種々雑多。

 

 『ええ……胸に何かが付いて以降、初めて見るものばかりです』

 

 「じゃあ……手伝って」

 

 『全く……イチゴ様は、目を離すとすぐ難題を持ってこられて……やってやりますとも!!』

 

 カイは手を前に出して構える。

 

 多分第二ラウンド、開始。

 

 「まずはこちらから行く!!」

 

 イチゴはカイでドンオニタイジンの足を攻撃しようとする。

 

 『速さなら俺の方が早いぜ!!逃げ足ナンバーワンだからな』

 

 ドンオニタイジンは逃げ始める。そして距離をすぐに開けられる、犬の部分の足の方が早い。

 

 「なら鬼だ」

 

 だがよく見ると、左足と右足で一歩一歩の足の動き、そして歩幅に差がある。個性を活かす形態故だろう、そこを叩く。

 

 「捉えた!!」

 

 カイの手を伸ばし、鬼の部分にタッチする。

 

 『何すんじゃい!!』

 

 強烈なキックを浴びせられ、カイごと吹っ飛ばされる。

 

 『イチゴ様!!』

 

 「問題はない」

 

 『ほう……これならどうだ』

 

 『天空サル連撃!!』

 

 ドンオニタイジンは、空高く飛び上がり拳のラッシュを放つ。

 

 「カイ!!」

 

 『ラジャー!!』

 

 カイも負けないような速さでラッシュを放つ。

 

 『ワビサビワビサビワビサビワビサビワビサビワビサビワビサビ』

 

 『でええええええええええええええええええええええい!!』

 

 『もう少し静かにやれ!!』

 

 『駄目だ、聞いてねえ』

 

 今の状態はある程度オートで戦っているようなものだ、マニュアルで殴り合いを受け流せる程イチゴの腕は良くない。

 

 『ほーい』

 

 ラッシュの連続でがら空きとなった部分に、一発入れられる。

 

 「くっ」

 

 勢いでカイは飛ばされるも、手のひらで受け身を取り、着地する。

 

 「そろそろか」

 

 力は溜まった、撃てる。

 胸から供給されるエネルギーを目の部分から放出させる。

 

 「いけ!!」

 

 イチゴは、スイッチを押す。

 

 「!?」

 

 赤黒い閃光が、カイの目から解き放たれる。

 

 『!!』

 

 「なんだあれは……」

 

 『ひょえ~!!』

 

 『異妖よりヤバい』

 

 「大丈夫大丈夫……あのロボットはあなた達の方は向いてないから」

 

 まだ二回程しか撃っていないが撃つ度に妖怪関連が戦々恐々としている気がする。

 眼から放つ妖怪達の恐れる光……名付けるとしたら鬼光眼(きこうがん)?(妖だと語呂が良くない気がした)

 

 『ほう…………それがお前に宿った太陽神の力か』

 

 『当たったらヤバそうですね………全速力で、飛びます!!飛びます!!ケンケンケンケーン!!』

 

 キジの翼を羽ばたかせ、ドンオニタイジンはカイの攻撃を避ける。

 

 「何だって!?」

 

 イチゴの一か八かの攻撃は、謎の遊園地の如き空間の一部を損壊させるだけに留まる。

 

 『嘘だろ……おい』

 

 『攻撃が当たって倒壊するものではないはずだが』

 

 猿と犬が会議をしている。

 

 『ほう……当たってられんな、これは』

 

 ドンオニタイジンは、カイに突っ込んでくる……キジの翼でヒラヒラと舞い、キジの尾からなる二刀で桃太郎特有の鋭い斬撃を加えていく。

 

 「!!」

 

 素早い動きで撹乱されていて、もう鬼光眼で狙えなくなった。

 

 『このままでは……』

 

 敗色濃厚になってきた。

 

 「もう十分でしょう?やめよう!!」

 

 すずが割って入ろうとする所、すずのもう一つの人格が、顕現してすずの手を引く。

 

 「!?幼心ちゃん……」

 

 「ああいう相手には、面白がって向こうのペースに乗せられるのがオチだよ」

 

 「そんな……」

 

 『一騎桃千・ドンブラパラダイス』

 

 多数の桃が流れ……その桃を突き刺し、カイごとぶった切る。

 

 「がああああああ!!」

 

 漏れ出る叫び声とは裏腹に、何かが浄化されていく気がした。数日ぐらいは、ノノと会っても頑張れる気がする。

 

 『『『『『大勝利〜!!えい、えい、お〜!!』』』』』

 

 めでたしめでたし!!

 

 『これが桃太郎……強いぞ~カッコいいぞ〜』

 

 『良いものを見た……』

 

 『すず様の次に最高だ〜』

 

 大歓声が、その場に響き渡る。

 

 〜例のエンディング〜

 

 場所は元に戻る……

 カイはイチゴを脱出させ、崩れ落ちた。

 倒れようとするイチゴをこれまた元の姿に戻った桃太郎が支え、ゆっくりと下ろす。

 

 「どうして……こんな……」

 

 『嘆くのは早いぜ、巫女様』

 

 「……息はあるようだ」

 

 「スー」

 

 『桃太郎さんに斬られると、穢れとかが浄化されるんですよ……お恥ずかしい話、僕も何度かお世話になってまして』

 

 『この少年がキジの二の舞いにならなければ良いがな』

 

 『いただきます』

 

 桃太郎は、すずの作ったきびだんごを頬張る。

 

 『うまい!!良い気で満ちている……だが、杵と臼でついたきびだんごではないのか……97点だ』

 

 「そんな事まで分かるんだ……」

 

 『ちょっとタロウ、こんなにおいしいのに欲張りすぎだって』

 

 『手順は大事だ、特に俺達にとってはな……作り方も一つ一つ、崩さない方が好ましい』

 

 『もらえるだけでありがたいという、謙虚さも大事だぞ桃太郎』

 

 猿の注意により桃太郎は下を向く。だがそれも一瞬で終わる。

 

 『………それを抜きにすれば満点だ、ワーハッハッハ、またな!!』

 

 桃太郎、そしてそのお供達は去っていく。

 

 『また来てね〜』

 

 その場にいる全員、桃太郎を快く見送る。

 

 「精神の方に作用する攻撃だそうだが、どちらにせよ休ませておいた方がいいか」

 

 「うん」

 

 そんな中、小美呼市まで来ている宇宙船あり。

 ルン達だった。

 

 「カイの信号をキャッチして、結構田舎のところまで来たんだけど」

 

 「あ、あれ!!」

 

 ララがカイを指差す。

 

 「カイです、ボロボロです!!」

 

 「すぐに降りよう」

 

 「イチゴ……無事でいて」

 

 じかーいじかい

 

 なんか色々な人達が捜索しに来たのはさておき、どうやらかわいい女の子がオレの目覚めを待ってくれていた、だからオレはその女の子とビデオ鑑賞をする事にした。悲劇系統は好きじゃないんだけどね……え?画家のお兄さんも見たいの?いいよ、ただし九衛門、テメーはダメだ……どうなる?第15話という、お話……




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第15話 "災い"の貴公子と妖巫女 Aパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
新キャラ出ます、ルイーナとかラマリスとかそっち系ですけど……
イチゴが坂田金時、カール大帝であれば新キャラは金太郎、シャルルマーニュみたいなイメージです。


 大きな丸いロボットに向かって一隻の宇宙船が近づいてきた。降りて出てきたのは、いずれも美男美女。

 

 「キレイな人達」

 

 ピンクの髪の少女はイチゴの元へ駆けていく。

 

 「あ、お兄様!!」

 

 すずを見てペコリと頭を下げつつも、イチゴに駆け寄っていく。

 

 「そっちは大丈夫そうだね……カイ、カーイー!!」

 

 『ララ様……』

 

 「ボロボロだけど、大丈夫?」

 

 『エネルギーはすこぶる快調なのですが……ああ、ララ様の御顔を拝見してると……色々とどっと来て』

 

 カイはショートする。

 

 「カイ!?」

 

 ピンクの髪の女性……少女とは多分親子……はカイに近づく。

 

 「カイは一旦持って帰るね、どう見ても修理しなきゃいけないし、胸の変な物体も解析しなきゃ」

 

 ララと呼ばれた女性はそう言いながら、スマホを取り出す。

 

 「もしもし……ナナ、ちょっとカイ運ぶから手伝って…………うん、リトのお家、今いる場所の座標は送るね、ありがとーじゃあ」

 

 よく見れば、彼女のコスチュームは目の前の巨大なロボットに少し似ている。

 産みの親だろうか?

 

 「それにしても、いつの間にこんな田舎に来たのかしら……」

 

 見覚えがある……映画にも出場した事のあるアイドル、RUN。

 

 「ルンちゃん……夫のおじいちゃんが見てるのとそっくりだ……本物、もーれつ感動……」

 

 「あら、私もファンに会えて感激!!(でも今はちょっとそれどころじゃないのよね〜一番の問題児がいるし)」

 

 「そいつを診るなら、場所を指定させていただきたい」

 

 二ノ曲は、装束を脱いで私服に変わっている。装束を着ると普通の人には見えないようになっているからだ。

 

 「あなたは………」

 

 「祓忍、二ノ曲宗牙」

 

 「……話は聞いた事があるけど、なんで?」

 

 「祓忍組合は未だそいつへの警戒が解けている訳ではないからです」

 

 偉い人相手なのか、彼が普段聞き慣れない敬語になっているところにおかしみを感じる。

 

 「オカルト関係の話はお静ちゃんだけでいっぱいいっぱいなんだけど、ヒカル……運ぶのよろしく」

 

 「分かりました、ルン様」

 

 「あ……ちょっと待って」

 

 女性の一人が、ヒカルと呼ばれた男性を呼び止める。

 なんと、彼女がイチゴを背負おうとする。

 

 「んしょ……重……ちゃんとご飯食べてたんだ……良かった」

 

 「美柑様!?」

 

 「ありがとう……イチゴをよろしく」

 

 再びヒカルに背負われ、イチゴが運ばれていった。

 

 「一件落着……なのかな?」

 

 違和感……

 

 「あれ?」

 

 イチゴのいた場所に、黒い炎を纏った、いわゆる人魂が残っている。

 

 「これは……なんだろう?」

 

 「すごい、削ぎ落とされたものだけのはずなのにすごい存在感がある……何が出てくるか分からない」

 

 だがその人魂も、消えかけていた。

 

 「でもこのままじゃ、消えてしまう……癒やさないと」

 

 「消えるなら……もうそれで良くない?祓われても仕方ない奴だよ」

 

 「どうしたの?幼心ちゃん……さっきから変」

 

 「私の主人格、すずは天照……そして私も……だから分かる、イチゴ君にこれ以上関わっちゃいけない……見たでしょ?あのロボットが出す光線を、あんなものをもし向けられたら祭里との今も、消し飛ぶかも……」

 

 「幼心ちゃん……私、思うんだ。ここでイチゴ君の中から出てきたものを見殺しにしたら、比良坂命依を生贄にした奴らと一緒になるって」

 

 「!!」

 

 「絶対良くないよ、自分にとって都合が悪かったら、一方的に排除するなんて」

 

 「……ごめん」

 

 「あれ、効かない」

 

 「………………方法はあるよ、一時的にすずの体内にしまい込むの、その間は妖力の消耗は抑えられる……はず」

 

 「イチゴ君……かは分からないけど、少し私の中で安静にしてて」

 

 近くで観ている誰かがいた。

 

 「えーっと、何しようとしてるのかな?」

 

 〜????〜

 

 「………………」

 

 目が覚めると、緑が生い茂った山々の中、神社の鳥居が、三角にくっついたような社がそびえ立っている。

 

 「………………」

 

 ついさっき桃太郎がロボまで引っ提げてきて、それでボコボコにされたのを思い出した。

 ここはあの世だろうか?……それはそうとつくづく思う、桃太郎のロボ……カッコ良かった。鎧武者を想起させる勇ましい造形美、サルの長い腕をそのまま使用する発想。

 

 「気がついた?」

 

 すずに似ている長髪の女の子が、こちらを見下ろしている。あの世の遣い……天使?

 

 「ここは?」

 

 「精神世界と呼ぶべきかしら?私の……というか、さっき見かけた時より体が全体的に小さくなってる気がする、大丈夫?」

 

 言われてみれば確かに手足が、異常に縮んでいる。まるで子供に戻ったようだ。

 精神世界か……

 

 「うん」

 

 森がクッションになっているからか、降り注ぐ日光が柔らかく感じる。

 森は良い。

 光が辺りを照らせば、そこは聖域となる。

 闇が辺りを包むなら、そこは魔境となる。

 神秘、恐怖、人智の及ばぬものを漂わす、絶好の舞台。

 

 「思ったより話せそう……イチゴ君の体から出てきたから、イチゴ君だよね?私の主人格も心配してるよ」

 

 「主人格、じゃあ君は……」

 

 多重人格的な何かか?

 

 「私の事はかなでと呼んで」

 

 「……かなでちゃん、なんでオレはここにいる?」

 

 「派手に桃太郎にやられて、消えかけていた君を主人格が救助したからだよ」

 

 「命の恩人って訳……ありがとう」

 

 どういたしましてと無愛想に言うかなで、唐突に彼女が天照と関係ある事を思い出した。

 

 「天照なんだって?君」

 

 「ああ……うん」

 

 歯切れが悪そうに、かなではポツリと言う。

 

 「思ったより人間っぽいね」

 

 「そうだね、でもこれが私だよ」

 

 「急に身についたやつなの?」

 

 「…………話すと長いかな」

 

 「よーし、じゃあこうしよう」

 

 ディスプレイを設置。

 

 「何それ」

 

 ハトポッポの豆(見様見真似)と、ミルクティーの注がれたコップをセットしたチェアを用意した。

 

 「精神世界なら、こっちの方が早いよ……食う?」

 

 ハトポッポの豆を差し出す。

 

 「ありがとう……これに投影するのか……やってみる」

 

 3……2……1……

 

 ザザーン(波の音)

 

 『妖巫女について(日本版)』

 

 髪が白く、大剣を持つ戦士の隣に、一人の少女がいる。

 ヒミコの後継者として名高いあの壱与らしい。

 

 「…………でっかい茹で釜に手を突っ込んでも無事なあの壱与か」

 

 「え?何それ……私知らない……なんでそんな事するの?……怖」

 

 「でも、それじゃあまだ主人格呼びの理由には行き着かないね?」

 

 目の前の女の子はすずを主人格と呼ぶ、そういうからには人格が分裂している筈だ。人格が別れるなんて、よっぽどの事がない限りあり得ない。

 うーんと考えた後、かなでは質問する。

 

 「あなたは……(あやかし)について、どう思う?」

 

 「どう思う、ねえ………」

 

 かわいい奴は愛でる。

 カッコいい奴は崇める。

 ヤバそうなのは倒す、利用する。

 それだけだ。

 

 「友達になれる人がいたら……どう思う?」

 

 「すごい……かな?」

 

 視えるだけでもすごいと言えばすごい、友達になれるなら尚の事……祖父と呼ぶべき人物は、それを尊いものとしてマンガに描写していた事を思いだす。

 

 「そっか……否定しなかった……良かった(小声)」

 

 だが、それを尊いものと思うには、当たり前だとは思えない事情がある訳で……

 まず……視えないから、視えない奴らにとってはいないのと同じ事で、そいつ等が大多数だから、視える人間が視える前提の話をすれば夢物語と片付けるだろう……もしくは、視える奴は気狂い、視えてない自分こそが正常だ……と。周りが視える人達ばかりの中、視えない人間なんて逆もあり得るから、なんとも言い難いが。

 結城才倍も、改めて聞けばいないと答えるだろうか?いると、答えるだろうか?

 

 「じゃあ、いくよ」

 

 答えが良かったのか、ある程度気を許したかなでが見せたのは……

 壱与から転生していった先の話……

 その記憶と力は、転生後も備わっていた。

 だが転生先にまで持ち越されるその力、一般の家にそぐわなかったようだ。

 平安貴族、戦国大名、百性など、何度も転生しても……「異端」である事を突きつけられ、はたまた強力な妖怪に狙われ巻き込まれるなどして、人に疎まれ、忌まれながら死んでいく生涯に変わりなく……

 彼女の忌まれ様は、もう人の世は巫女王など、神秘によって人を統べる者を必要としていないと思い知らせてくれる。

 いいや、違う。古今東西、そういったものでの導きを求める人間はいたし、そういうものと繋がる人間は数多くいただろう。それでも扱いに差は存在した。

 そこはさておき……

 前世の記憶らしい……オリジン、今生以外で、最も記憶に新しい一生……

 名前を、比良坂命依……

 享年15〜6歳。

 当時としては成人は過ぎて……もう少し生きていれば、嫁入りするかしないかぐらいの年だろうか?

 それまでの比良坂命依の一生、その一部始終を見せてもらった。彼女の視点から見ているため、主観的にはなるが。

 産まれたのは幕末辺り……だが、幕末での主な出来事は彼女の周りでは対岸……程ではないが、若干遠めの場所の火事。そのぐらいの田舎の神職の家に産まれたようだ。普段着はその影響でしつらえたとか。

 神職の家系に産まれた、それでも忌まれた。八百万の神と繋がる娘を忌み嫌った。神を信奉する奴のやる事だろうか?

 

 「?」

 

 「ああ……気にしないで、続けて」

 

 先述の通り、力故に妖が視え、仲良くなれる故に気味悪がられる幼少時代を送った、そして、その関係性のまま成長していく事が後に彼女にとっての悲劇に繋がる……

 今回は、今回の生は、その力を活かせるよう修行し、人にちょっかいをかける妖共を諫める旅に出ていた。

 そんな事をしても褒めてくれる人はいないだろうというのが正直な気持ち……

 だって向こうは見てないから。

 彼女も見えるように動いてないから。

 お互い既にそっぽを向いている、奴らにとって比良坂命依は「異端」であり、「向こう側」の存在だ。それは彼女にとっても同じこと……だからおそらく、精神的にも、物理的にも、お互いに距離ができている……そんな状態で比良坂命依が動いても、何も響きやしない。例えマッチポンプ気味でも、被害が出た後になんとかしてやるというスタンスでなければ認めるも何もないだろう。せめて彼女が誰かの見てる前で戦ってれば違う見方もできようが。

 レッテルを貼られている人間が、影でみんなのために動くのは話としては小気味よいが、認知されない分、モヤモヤが残る。

 色々あって日照り神、縊れ鬼、塵塚怪王と、それなりに名のある妖を封印していき……(ともだち)も増えていった。歌川画楽という、後に高名な絵師となる絵筆の付喪神とも仲良くなる……

 結城家のコレクションにも絵師・歌川画楽の絵があるが付喪神とは知らなかった。魄のブレンド具合から見て、人の成分も混じっている気がするが、気がするだけかもしれない。

 こう言ってはあれだが……人に迷惑をかけてなんぼの妖だ、名前も有名であればある程、存在もそちらに引っ張られる。善性も、悪性も、強く、濃ゆくなっていく。封印して解けるまでの間に変わってもらう……そのやり方では、到底妖の在り方は変えられない。

 そして、運命の刻が訪れる。

 その地で、水害が起こった。

 水害を抑えるために、人柱として妖と繋がる事のできる彼女が選ばれた……というのは建前で、恐慌状態に陥った人々が水害は妖と繋がる事のできる彼女のせいと考えた、消せば納まるとでも考えたみたいだ。

 水害という有事がなければ距離ができるだけで、わざわざ死なせようとしなかったのは僥倖か、どうか……

 妖と友達だから水害は比良坂命依の仕業であるなら、彼女を死なせれば友達がどうしてくるのかは考えなかったのだろうか?水害を起こせる妖がいるのなら、もし彼女ができるのなら、通り越して村を丸呑みぐらいはできて当然のように思うが。

 ともあれ、逃げるなどの抵抗をしたようだが空しく、彼女は人柱にされた。その時

 

 「人の世なんて、終わってしまえ」

 

 と石に自身の分身……人の世への呪いを宿らせた模様……妖達を封印した術式によるものだから、実質封印になるのか。

 

 「…………」

 

 「そうして、すずへと受け継がれていったの」

 

 比良坂命依の時の記憶が離れず、しばらく笑えずにいたそうだ。

 

 「親が良い人だったから、人を滅ぼそうかどうか迷った時もあったっけ」

 

 「やるとして、できると思う?」

 

 「え?」

 

 「オレは無理だと思うな、天照の力、その源流は滅ぼそうとしてる人の想念だ、しかも、この地球の数割にも満たないちっぽけな島国のね……滅ぼそうとしている間に君の力は枯れる」

 

 「………………貴重なご意見ありがとう、でももういいの、私は祭里と生きてる今があるから」

 

 その祭里という人は、「視える」彼女を受け入れてくれた人間らしい。彼と交流していく内に、恨み募る心は……洗われていった。

 そいつが代々怪異に立ち向かう家の産まれだと知るのは後の話……

 だとすれば小さい頃に出会ったのも大きいだろう、もう少し分別も、認識も育てば、屈託なく彼女そして妖と接するのも難しかった。

 彼との会話の中で人格を切り離していったらしい。祭里との未来に、その記憶は不要だと……外付けストレージ(ボソッ)

 表に出ず、裏でじっとしてる方が主人格と思ってたが、違うケースもあるようだ。

 

 「ふう……これで満足した?」

 

 天照……祭り……

 

 「そういう事か……」

 

 祭りは、天照大神がかの天岩戸事件を引き起こした時、大勢の神様と巫女神様が踊ったり馬鹿騒ぎして天照大神の気を引こうとしたのが起源らしい。そして、ついには天照大神の沈んだ心をほぐし、外に出させるという結果に至ったのだ……

 いずれにせよ、祭里という人が救ったから……祭里という人は、目の前の女の子にとって運命の人という事になるのかもしれない。

 

 「教えてくれてありがとう」

 

 しかし、現世で視える側の人間に救われたのは良いが、前世の場合はなんだったのか?有名なレベルの妖を封じて回っていたのなら、そっち方面の耳に入っている筈だが……巡り合わせが悪かったのか?

 

 「ところで比良坂命依については、どう思う?」

 

 「もう良いんだ……誰かに守って欲しかったって、分かったから」

 

 良くない、彼女を死なせた奴らはどうなる?まるっきり情報がない、まさか、諸悪の根源をみんなでやっつけて万々歳……みんな平和に暮らしましたで終わったのか?全くめでたくない。

 

 「力があるならそっちで抵抗すれば良かったのに……」

 

 力で忌み嫌われるなら、その力で自分に害を為そうとすればどうなるのかを分からせるしかない……

 分身を使えば、多少デコイとして使えるし、殴れば一定以上のダメージは入れられるかもしれない。

 

 「妖と友達だって事が、どういう事だか、きっちりと見せつけなきゃ」

 

 妖だっていた、友達なら、助けを求めれば応じてくれただろう。

 

 「え?」

 

 「友達いたんなら頼れば良かったって話だよ、人の世滅びろなんて呪うくらいなら……ね」

 

 「友達を巻き込みたくなかったから……私のせいで友達と人間が争うのは、嫌だったから……」

 

 だが巻き込む、巻き込まない以前の問題だ。

 突然友達が死んだら、悲しい。

 それまで当たり前にいたはずの存在がいなくなれば、苦しい。

 誰かのせいであるなら、怒りが湧く。

 これはもう、渦のようなものだ。気がつけば絡まれ、思いを馳せざるをえない。

 巻き込みたくないという思い一つで、それをなかった事にできない。

 とはいえ善性の固まり、つまりいい子なのはよーく分かった。

 怨念なんか石に宿らせてないで即解き放てばいいのに、他の妖を封印した時の術式を用いて未来に先送りした件、意味を考えるならこうだろう……彼女自身、どこかでまだ人を呪う事をためらった。憎んでも、それをどこかで飲み込もうとしていた。

 そんな心優しい娘を死なせた奴ら、塚なりなんなりして彼女の死後、供養はしたのだろうか?生贄にしろ、恐ろしい妖怪を退治したにしろ、祀る事で怒りを鎮めてもらうものだとこの島国のやり方だと習ったが、一人の少女相手にあんなに恐ろしい剣幕になっていたから、していないかもしれない。していないなら、もう祟るしかない。人を呪わば穴二つだそうだが、そいつ達は彼女を大勢で呪った、死ぬ事を望んだ。その分の穴を掘るだけだと思えばいい。

 ふと、思いついた。

 塵塚怪王はともかく、日照り神、縊れ鬼、死んだ彼女の分身……復讐の手段としてうってつけなのでは?

 日照り神で雨……水害の素となるものを封じ(水害を抑えるために人柱になったのだから、勢いを強めて)、コンタクトを取れる奴らだけでいい、縊れ鬼で命を彼女を死なせた連中を一人ずつ葬り……川に沈める一手間を加え事件性を演出、そこに人柱で死んだはずの命依が現れれば……

 誰がどうみても、命依が祟りにきたと捉える事ができる。

 

 瞬間、閃く……

 

 「これは!?」

 

 〜妖劇場 題して 比良坂命依に愛を込めて〜

 

 ※この私刑は、実際に繰り広げられた訳ではありません……あらかじめご了承ください。

 

 ある日の夜、村に災害(まつり)が起こる。

 

 月の使者『Are you ready guys?』

 

 全員『yeah〜!!』

 

 日照り神『日輪は我にあり!!』

 

 真夏も真っ青、太陽の光が地面すらも焼き焦がす。

 

 笛『ピーロピロピロピロピロー』

 

 セミによる大合唱から産まれた(あやかし)『ミンミンミンミンミンミン(復讐じゃ〜!!)』

 

 突然の耳慣れない音律。

 村人達は跳ね起き、音の正体を確かめにいく。

 すると……

 突如身動きが取れなくなる。

 そして視界に映る小さき者共……

 ネズ吉『仇討ちじゃー!!』

 

 妖達はみな、額に比良坂命依の遺影を貼り付け、村中を練り歩く。

 

 祭りの、始まり始まり……

 

 ウサ文『おい、粥よこせよ』

 

 ウサ美『(泥)船できたから、好きな所連れてってあげる』

 

 塵塚怪王『おまんも芥!!おまんも芥!!収集する価値もなし!!』

 

 ゴミで練った泥団子……否、芥団子を人間共に投げつける。

 

 蟹『柿、食います?子供達にも大評判なんですよ…………』

 

 見えない……故に、答える事はない。

 

 『育てるのを手伝ってくれた娘っ子はもう……うわーん、挟んでやる!!挟んでやる!!』

 

 足首、指と蟹はハサミで挟んだ。血が出る程ではなく、チクチクと、不快になる程度の勢いを保ったまま……

 

 縊れ鬼『おい……笑えよ』

 

 波長が合った人間に話しかける、人間は、助かりたい一心で、恐怖を抱えながら、笑う。

 

 『今、私を笑ったな?どうせ私なんか……』

 

 (首の骨が折れる音)

 

 夜が更けるのを、飽きて終わらせてくれる事を、村人達は待った…………

 

 月の使者『パーリィは終わらねえぜ……you see?』

 

 終わりは来ず、永遠のように絶え間なく続く太陽の煌めきが村人を焼いていく。

 妖からの拘束を振りほどいた村人達は、枷を解きつつ彼女を沈めた場所に向かった。

 ジリジリと、身を焼かれていく痛みに耐えられず反射的に、川へと向かう。

 川の中は干上がってはおらず……嫌、まるで別世界のように冷たく、この日光がまことのお天道様によるものでないと気づかせるのに時間はかからなかった。

 

 そこで彼らを待ち受けているのは……

 

 比良坂命依の分身「許さない……絶対に許さないから……」

 

 おどろおどろしい声と共に、死んだはずの女が現れる。

 その衣服は透け、その顔は蒼白く、指先も人形のように白く、冷水に身を浸した後のように総身(そうみ)を震わせて。

 

 「ギャアアアアアアアアアア!!」

 

 体全体を震わせて、命依は叫ぶ村人達に迫る。

 

 「うらめしや~」

 

                  〜劇終!!〜

 

 「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 ついつい、手を叩く。

 出来栄えとしては下の下だが、復讐ものは考えるだけでスカッとする。

 

 「ストップ、ストップ!!」

 

 なんと、今考えていたものがディスプレイに全部映っていた。

 

 「ダメなの?人間滅ぼそうって考えてた人が止めるんじゃないよ(小声)」

 

 「そんな世紀末みたいなのは絶対やってないから」

 

 「じゃあ、君の前世が死んだ後、仲良しになった妖達がどうしていたか知ってるの?」

 

 知らないしなんとも言い難いが、ある程度早まった行動をしていると考えられる。

 

 「歌川君は、今も画家をやってるけど」

 

 「他は?」

 

 「タヌ衛門は子孫繁栄してるし……」

 

 「もっと」

 

 「…………………」

 

 「数えるだけか……忠臣蔵しかり、恨みっていうのは、当人の専売特許じゃない、むしろその近しい存在からの方が多いと言ってもいい」

 

 「忠臣蔵(ちゅうしんぐら)?」

 

 「知らないなら、後で調べて……君の前世と仲良くなってた、もしくは説得だけで折れてくれた彼ら……そんな彼らがもし、比良坂命依が水害の人柱にされ、疎まれながら亡くなったと知ればどう思う?彼女が仲良くしようね、迷惑かけちゃダメだよと言っていた対象に、彼女は殺されたに等しいんだ」

 

 正義感の強い奴らなら、真っ先に思うのは

 

 『こんな話があるか』

 

 である。

 もしそうでなくても、死人の言う事を、本人がいなくなった後、聞く必要は無くなるのだ。鬼の居ぬ間の洗濯に近い、しかも無期限……

 

 「人に迷惑をかける事に、躊躇する必要ある?彼女が大切なら、してはいけないし、そう思わなくても無くなるんだよ……いなくなった人間の言う事を聞く必要なんてね」

 

 「ゴクリ」

 

 かなでは固唾を呑む。

 

 「今……『恐れ』たね?」

 

 偶然、妖力と魄の波長……方向性が合った。その瞬間を見逃す事はできない。

 

 「!?」

 

 掃除機で吸い込むように周りから取れてしまった、だが……返すという選択肢はとっくに消えている。

 

 「へ〜これが神の力か……いただきまーす」

 

 手ですくって擦り込むように摂取する……指先、つま先に力が漲り、伸びていく。

 

 「みなぎるパワー、オレ復活!!」

 

 突如、先程の話の登場人物と見紛う娘が出てくる。比良坂命依、よくできている。

 

 「何してくれてるのかな」

 

 その娘は拳を振り上げつつこちらへ近づいていく。

 

 「よっと」

 

 手刀でパンチを崩し、もう片方で後ろに回って腕を縛る。

 同じ空間、同じ人の想念でできているもの同士、先手を取る方、勢いの強い方が主導権を握る。

 

 「なんだよ……生命力無限に湧き出るんでしょ?だったら一体分ぐらい、ケチケチしないでよ」

 

 「離してよ!!」

 

 「嫌だよ、乱暴されたくないもの」

 

 改めて比良坂命依を観察してみる。

 化粧とかはしていない分、元の良し悪しが引き立つ。

 一つ一つ歪みのないパーツに、艶っぽい唇。サラサラしていそうな長い黒髪。

 そして衣装からでもよく分かる胸の膨らみ……

 触って分かる手の柔らかさ。

 脚は隠れてるので割愛。

 朱雀が妖巫女についての話題になった時、ムフフとしていたのも、頷ける。

 こいつはいい。

 女としてではなく、怪物と同等としてしか見られていないなんて嘘だろ、村人達の神経恐怖に支配されすぎだろという気持ちと、デリケートな話題になるかもしれないからこれ以上考えるなという気持ちがせめぎ合う。

 

 「黒折神!!」

 

 目の前の女の子は、その名前の通りに黒い折り紙を飛ばしてくる。

 折り紙に命を包むパッケージと見立て、鶴の形を折って動きに指向性を与える……?

 

 「どうせ折り紙なんだよね」

 

 炎を壁にするイメージで……

 

 「燃えろ」

 

 折神を燃やす、自分に被害がかからないように人体の影響はないようにして

 

 「折神だけを燃やす炎!?」

 

 水で打ち落とすのでも良かったが、あからさまにトラウマを刺激するやり方はNG

 

 「でも、えい」

 

 肘打ちをくらい、衝撃のあまり吹っ飛ぶも、すぐに受け身を取る。

 

 「あなたは……何者?」

 

 「君が神なら、オレは悪魔さ……」

 

 そしてスタコラサッサと駆けていく。

 燃料は揃えた、もう出ていっても大丈夫かもしれない。

 

 「あいつ……」

 

 出入り口をイメージする必要はあったが、すんなり出てこられた。

 

 「ん〜♡動いた後のケーキ、最高〜!!二人とも、遠慮しなくていいのに〜」

 

 「…………」

 

 すずと祭里の子達は、一つだけケーキを食べた後ジュースだけを飲んでいた。

 

 「ママみたいに食べてたら、夜ご飯が入らないよ」

 

 「明里(あかり)ったら、規則正しくて偉いね〜」

 

 「確かに3時のおやつにしては高カロリー、動くにしても消費しきれずお腹に溜まるんじゃないかな」

 

 「うわっ背中から生えてきた?」

 

 「へ?イチゴ君!?」

 

 「またママの中の人?今度は男の人……」

 

 すずは驚いている、さっきあった事に気付いてない?

 

 「……ハッハッハ……こんにちは、ボク、お嬢ちゃん……オレは君達のお母さんに助けてもらったんだ〜あ、お世話になりました……では」

 

 それも時間の問題だろう……

 紆余曲折あったがこれで、自分の感覚……視点はあるのに体を動かせない、モヤモヤした気持ちとはおサラバできる。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
すず(あやトラ)が五行仙に狙われたって聞いただけで妖達があんなにヒートアップしてたから、その前世が生贄にされたって前世の友達達が知ったら凶行に走る奴もいるかもって行間に辿り着いた自分をお許しください。


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第15話 "災い"の貴公子と妖巫女 Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
ロボ戦が見たい方はこの話の後半までスクロールしてください。


 〜とある城の本丸内部〜

 

 十六夜九衛門は外へ出ようとしていた。

 

 「九兵衛、どこへいく」

 

 引き留めたのは、(つごもり)正影(まさかげ)。能の翁の面を切り分けた顔面、軍師にも通じる姿が特徴的な牙鬼幻月の家臣である。

 

 「正影様……恐れの力の調達をば………しかし、ただ人間を襲うだけではニンニンジャーその他諸々に阻まれるがオチというもの」

 

 「ほう……当てはあるのかえ?」

 

 「今回は、(あやかし)巫女(みこ)を探します」

 

 「妖巫女……とな?」

 

 「は、その昔……九尾の妖孤、天照大御神、精霊などなど、格別に神力の強い存在の依代として選ばれた巫女共がございまして……その中でも後を継ぐ者の定まらぬまま命を終えた者は転生して、在るべき神輿から降りてもその力を宿し続けているのです……何も知らない人間の中で」

 

 「なるほど……自分達と違う……得体の知れぬ者に抱く恐れを一身に受けているに相違ないか、それなら例外的に牙鬼幻月様の復活にも役立つやもしれぬ」

 

 「既にある田舎町の近辺で3つ程確認できております」

 

 「良かろう……ゆけい!!」

 

 「(風聞を元にすれば……生きているのはまだ我ら好みではないかもしれないが、遺物なら可能性はある)」

 

 〜小美呼市〜

 

 せっかく自由の身になれた。

 しばらく、ブラブラするのも良いかもしれない……

 図書館にでも行こうか?

 その様子を、別の窓からヒカルに見られていた。

 

 「イチゴ様?」

 

 ヒカルは窓の外から、イチゴにそっくりな人影を見かけ、よく見定めようとする。

 

 「何言ってるの?イチゴは隣で美柑ちゃん、ララちゃんの娘が看てるでしょ」

 

 だが、ルンに嗜められる。

 

 「そうでしたね」

 

 美柑とノノが張り切っててやれる事がないのでチェスをしているルン「しっかりしなさいよ、私達の護衛を任されたのが親の七光りだなんて言われないように」

 

 護衛という名目の力仕事担当である事を察しているヒカル「しかと胸に刻みたいと思います」

 

 ルンとチェスをしているガーランド「(ジョーンズ博士……俺、いなくても良かったのでは?)」

 

 〜図書館〜

 

 「ありがとうございました」

 

 図書館で色々と借りた。

 この地の昔の事件について漁ってみるとしよう。

 文明開化の前、何か事件がなかったかを知りたい。人がごっそり減った何か……があれば、おふざけが7割とはいえかなでに見られたものも与太話ではなくなる。

 祓忍に検閲はされているかもしれないが……

 

 「何を読んでいるのかな?」

 

 「この辺りの文献……特に幕末らへんの情報が欲しいんだよね」

 

 「へー」

 

 声の主は、向かい合う形で座った。

 長身痩躯、作務衣から上着を羽織って芸術家のそれらしいベレー帽を被り、眼鏡を掛けた優男。

 

 「聞かせてもらいたいなあ」

 

 借りた本を急遽全て返して、川が見える場所に出た……

 

 「命依から話は聞いた」

 

 「そういうあなたは……」

 

 「歌川画楽さ」

 

 話に聞いた比良坂命依の友達……男女の仲かはともかく友達だそうだ。

 

 「肉体の組成に関わる最低限の分しかいただいてない、返すとなると胃液じゃ済まない」

 

 「そこはいいさ、でも、あることないこと色々と吹き込んだ事については……」

 

 「起こり得るありとあらゆる行動、その結果を想定するのは生きる上で当然の事じゃない?だから人は彼女を恐れたけど」

 

 そしておそらく、忌み嫌われて死ぬという運命を繰り返してきたせいか、自分が消えて喜ぶであろう人間に触れすぎたせいか、自分が死んだ後に誰かが泣くという概念が欠如しているのかもしれない。原初が女王であった以上、自分が死んだ後のゴタゴタは想定しておいて欲しい所だが。

 

 「なるほどね……」

 

 歌川は、スケッチブックと筆を用意する。

 

 「君の力が知りたくなった」

 

 節々から感じる気迫……おそらく、かなり名うての存在の様子、桃太郎とどっちが上なのか……?

 

 「あんた相手にまともに戦う程自信家じゃないんでね」

 

 歌川のスケッチブックから1枚もらい、プリンの絵を描く。

 

 「これで勘弁して欲しいな………なんて」

 

 「!?」

 

 出来栄えについては、自信はある。自分が書いておいて食べたくなるぐらいには……

 

 「絵筆の付喪神である俺相手に、絵で挑んでくるとは……」

 

 歌川は眼鏡を外した。

 

 「無碍にはできないじゃないか」

 

 そして……その流れのままに絵画バトル、開始。

 

 「さっきもらったばかりだから……見ててくれ」

 

 「なんて早さだ……一瞬で紙があいつの筆に支配されていく」

 

 そればかりではない、音速のように筆を動かしていながら、その動きが当然であるかのように表情は冷え切っている。

 瞬く間に、絵が完成した。

 

 「はい、旅先で見つけた大きな鯉だよ」

 

 「ハハハ、こんなのいるわけないよ」

 

 比較対象として若かりし頃の彼を添えられているが、それをそのまま比較すると、その鯉は人を丸呑みできる、まるで当時の黒船か何かのような大きさだった。

 

 「それがいたんだ、幕末頃にね、しかも実体があった」

 

 「なん……だと」

 

 「次は君の番だ」

 

 「行くぜ!!」

 

 既に書くイメージは決まっている。

 迷うな、迷いは精彩を失わせる。

 絵筆の妖怪に絵を書き上げる速度、精度で張り合おうなんて無謀極まりないミッションはいらない。

 頬から顎の輪郭を描いて、唇、髪は艶っぽく、鼻は……マンガ風でいい、目は重要、エメラルドも負ける程にしなければ……

 

 「できた!!オレ達の星の敬愛すべき王妃、ララ・サタリン・デビルークだ」

 

 「おお、良い題材だ……君が、嫌……君達がどれだけこの女性を愛しているのか分かる………これには俺の宝で対抗しなければいけない気がするが……はてさて」

 

 「画家の宝だ、映してこそだろう……あなたが大事にすればするほど、描かれたそれは輝く」

 

 腕を組んで考えた後、歌川は首を横に振る。

 

 「やめておこう、どれだけ書こうとこれは俺だけのものだ、代わりに昔見たとっておきを披露しよう」

 

 シンケンオー!!

 

 「これは……」

 

 敵を蹴散らし、大見得を切っている図。活躍をなんとなく見たから分かる、迫力が十二分以上に発揮されている。

 

 「なら……」

 

 レイアース、セレス、ウィンダム!!(三銃士風)

 

 「やるな!!次はこれでどうだ!!」

 

 猫、大行進!!

 

 「ッッ!!」

 

 体を舐めてる図、前を向いて吠えてる図、餌を必死に食べてる図、二頭が向かい合ってじゃれてる図、一頭一頭、動きに違いが現れている……よく観察し、それを目に焼き付けておかなければできない傑作だった。

 

 「そうくるなら!!」

 

 さっきの比良坂命依の分身のコスを猫風味に仕立てあげて……(肉球付きのモフモフの手袋がミソ)、まるで「ニャア」と言わんばかりのポーズを取らせて……

 

 かわいい子見かけたんで、混ぜてください!!

 

 「!!」

 

 歌川は、吹っ飛ぶ。

 

 『我が芸術の全てを懸けて、勝負だ!!歌川画楽!!』

 

 『おじちゃん、見てみて〜あたし、お花書いたの!!』

 

 「(楽しい……こういうのは、50年振りか……命依に会うために、たくさん絵を描いて力を付けてきた、だけどそうしていく内に段々、人間は俺の絵を見てかしこまるばかり、求めるばかりになってしまった、俺に絵を与える事はしなくなっていった……望んでやった事だ、寂しかったとは思わないけれど、今、とても興奮している)」

 

 時間が経ったのか、いつの間に比良坂命依の分身(多分)が来ていた。

 死に際に遺した怨念、幽霊のようなものだが、構成されている魄の量が幽霊のそれとは次元レベルで違う……だから足もある。自我もそれだけ濃い。

 

 「画楽君が行って時間経ったから探したんだけど」

 

 「危ない危ない、満ちたり過ぎて祓われる所だったな〜〜〜」

 

 「しっかりしてよ!!」

 

 命依は歌川に対して怒っていた、だが、非難より、心配の気が強い。ラブなのか?

 

 「しかし……よく思いつくね」

 

 「絵筆の妖でしょ、元来筆で描かれるのは筆自身によるものでなく操者の意思によるもの……だから自分で書くのは好きだし、自分でない誰かの絵に触れるのには喜びを感じる」

 

 「そこを突いてきたか、怖いね〜」

 

 「……私の絵?」

 

 「オレが書いた」

 

 「ふーん、それなりにうまいじゃん」

 

 「まあ、漫画家の孫って設定だし」

 

 「…………意味わかんない」

 

 「先入観やレッテルも、すべからく力に組み込まれるからね……オレ達」

 

 「だいたい分かった……ありがとう、いや~世界は広いな〜」

 

 「人妖じゃないの?」

 

 「あんな残留思念の煮凝りと一緒にされちゃあ困るね」

 

 交わりすぎて誰のものだったか、何に対して抱かれたものなのか検討もつかなくなった負念、それらと違ってもっと純度の高いものでできているという自負はある。

 そういうのと違って妖力もリアルタイムで集まり続けている自覚もある、嫌……あった。妖力を集める器から離れた弊害だろう、今は感じられない。

 

 「ところでだけどさ」

 

 歌川が、質問してきた。

 

 「君はどうすれば比良坂命依は人間に認められてたと思う?」

 

 「認めるのがどういう定義になるかによるけど……難しいよ、人は自分と違う部分のある存在を対等に見る事はできない。上に見るか……難癖を付けて下に見るかだ、それでもっていうなら……彼女は、戦っている所を誰かに見てもらうべきだった……かな」

 

 「そうか」

 

 「…………………参考にはなったけど……活かせる場面がないか」

 

 「ごめんね」

 

 「嫌……良い、そういうものか……」

 

 「そういうものだよ………!?」

 

 突然、川から狐の面が浮かぶ。

 違う、川から飛んできた。

 

 「誰だ!!」

 

 狐の面をした虎とでも言おうか?どう見ても虎の顔を模した肩、その上から尻尾や面など、狐のアクセントを付けたような……そんな意匠の、怪人が現れた。

 

 「初めまして……かな?僕の名は十六夜九衛門」

 

 どんな丁寧な口調、態度を取ろうとも、腹の底ではこちらを見下してそうに見える。気を許してはならない……

 

 「……妖?人?」

 

 「それは、そちらもじゃないかな?近づいてようく分かった」

 

 「残念、今は妖だけ」

 

 「確かにそうみたいだね……」

 

 「で……こんな所にまで何の用?能動的にこんな所に来るのは余程の自信家か、馬鹿だよ」

 

 「これを見るがいい」

 

 「!!」

 

 九衛門がかざすのは……一つのしゃれこうべ、だが……ため息を吐きたくなる程に清々しい光を放って在るそれは、一目でただの人骨ではないと分かる……妖巫女と同等の力を持つ。

 なんだろうと思って見ていると、命依は先程と比べようがないほどの憤怒の表情を見せる。

 

 「返せ………」

 

 命依は九衛門に近づく。

 

 「それは私のよ!!」

 

 「なるほど……比良坂命依という人間から産まれたものが君という訳か、哀れな亡霊よ……僕達の糧となるがいい」

 

 「そうか………それは比良坂命依の遺物か!!」

 

 「御名答」

 

 正直、探せばあるかもしれないとは思った。

 すず……その前世も天照を宿しているとする、それ故に生命力を大量に持ち合わせており、妖も虫の如く集る……ならば、その生命力を宿す肉体は、ひたすらに頑健だったに違いない。だから……多分骨も丈夫。

 

 「フフフ……」

 

 画現術・蟒蛇(うわばみ)!!

 祓忍法・竜巻(たつまき)の術!!

 歌川のカンバスから出た長い蛇が命依に絡み、後退させる。

 

 「きゃあん、ちょっと!?」

 

 若干喘ぎながらあたふたしているのを見ていると癖になる気がしなくもない。

 その直後、巨大な竜巻が吹く。直前に命依を蛇が巻き付かなければ、ダメージを受けていた。

 

 「熱くなりすぎだ、気持ちは俺も同じだが……」

 

 それでは力負けする。

 

 「それぐらいの強敵とみてくれ」

 

 「優しい古道具に感謝するんだねぇ」

 

 「こいつ……忍術を使った……祓忍なの!?」

 

 妖力を纏っていない、純粋な忍術。

 

 「そうと見て間違いないかな」

 

 「ていうか……五行仙もそうだけど妖が祓忍の忍術使うってアリなの!?」

 

 「五行仙?何かは知らないけど、アリでしょ……彼らの忍術は精神力を練って発動する。源はここでしょ?(自分の胸部分を親指で押す)オレ達だってそう……魄しかないけど、人間のように多岐にとはいかないけど、そこで思考する事はできる。それができれば、後は感覚を覚えてればいいし……」

 

 「長話ご苦労……だが、転生の経験も禄に活かせなかった小娘の亡霊が、この僕をあのクソジジイ共と一緒にしないでくれないか?」

 

 「こいつ……ボコス……君、手伝ってくれたら、さっきの事はチャラにするからお願い」

 

 「仕方ないね」

 

 デビルーク人の尻尾を模ったムチ(フォーク型の先端)を持ち出し、九衛門に投げる。

 命依も折紙を手裏剣に変化させ……飛ばし、攻撃。

 

 「さっきの風をもうお忘れかい?」

 

 先程と同じ術が出て、全て弾かれた。

 

 「これでいい……」

 

 歌川が龍の絵を描き、爪で九衛門に攻撃する。

 

 「仏の顔もなんとやら……だ」

 

 忍者の如き……嫌、そのものの動きで疾く避ける。

 

 「その骨を渡せ」

 

 「3対1でも良いが……」

 

 九衛門は手に持っている小槌を振るう。

 

 「十六夜流忍法・召喚の術」

 

 道路から何か箱状のものがエレベーターの如く上り、襖を中にある巨大なロボが動かす。狐のなど面九衛門が自分をモチーフに作り上げたと言わんばかりにデザインに面影がある。

 

 「来い」

 

 プロトタイプ・キュウビ!!

 

 「ロボか!?」

 

 「これが最優先なんだよ!!」

 

 九衛門はそれに乗り、帰ろうとする。

 

 「すずを呼んでダイダラボッチを使ってもらおう」

 

 「カイ〜ヘルプミー〜」

 

 呼んでも来ない、嫌……よく考えればカイが守るべき対象は別の地点にいる。自分が当然のように王妃の傑作に動いてもらうようねだるのはあまりにも罪深い。

 起きて呼ぶのを待つか?それでは間に合わない可能性が高い。

 

 「でっかい紙があれば、僕の画現術で対抗できるものを描けそうなんだがね〜」

 

 このままでは、シンケンジャーが来るかもしれない。今ののっぴきならない事態を知られるのは困る。

 

 「仕方ないか」

 

 その辺の木の棒を拾って、レーダー代わりに使う。

 

 「……何をしようっていうの?」

 

 「イメージして、君が最も恐れているものを」

 

 「……………?」

 

 この辺り一帯の思念を探る。

 

 「見つけた!!」

 

 妖怪達がイメージしているものを実体化させる。特に記憶に新しい、降って湧いたような死と恐怖の象徴……

 

 「織り成せ、イミテーション・カイ」

 

 影を招集させ、黒く丸い巨人の姿を形作る。

 シルエットだけになっているようだが構わない。

 

 「せいや!!」

 

 早速そのイメージと融合する。

 

 「丁度いい……そら」

 

 歌川は刀を描き、投げ渡してきた。デカくなったせいで、つまようじを投げ渡された気分だ。

 

 「これは!?」

 

 「日本で村正と呼ばれる刀……君にはピッタリだろう……素晴らしい戦いへの礼だよ」

 

 「画楽君……テンションが過去一でおかしいよ」

 

 「こうか……」

 

 早速鞘から刀を抜き放つ。

 この刀、イメージで伸縮を変えれるらしい。

 

 「とう!!」

 

 カイに元々あった翼を使ってバッサバッサと飛べる、だからすぐに追いついた。

 

 「イミテーション・カイでアタック!!」

 

 急降下して、両足で蹴りを入れる。

 

 「邪魔をするなら、ついでに君を狩っておこうか!!」

 

 「違うね、今から始めるのは……狐狩りだ!!」

 

 〜一方その頃〜

 

 「なんだあれ……」

 

 ガーランド達は、九衛門の乗るロボを見ていた。

 

 「狐のロボだな」

 

 「分かんないわね……(チラッ)」

 

 ルンは二ノ曲に視線を送る。

 

 「初めて見る……というより、俺達の管轄ではない……嫌、それより」

 

 「敵かもしれないのね……行ってきなさい、ガーランド」

 

 「え?」

 

 「ララは今いないし、ヒカルは武器がある訳じゃないし、頼れるのはガーランドだけなのよ……お願い」

 

 「……………へーいへい………」

 

 ガーランドは自分のバイクに設置してあるデバイスを取り出し、いじくる。

 そして最後の大きなボタンを押して叫ぶ。

 

 「サイドウェイズ・トランスフォーム!!」

 

 ガーランドは、自分のバイクをロボットへと変形させた。

 

 「二十代前半の男が叫ぶのきついな」

 

 「ひどい……」

 

 そのロボットは専用のデバイスを使って遠隔操作で動かす事ができる。

 

 「後に引かない程度の温度と勢いで弾幕撃っときゃいいか」

 

 威嚇の意味も込めて、ビルの上に登らせて謎のロボットの前に姿を現す。だが、バイクの延長線に当たる大きさとビル並の大きさとでは向き合った時点での敗北感が強い。

 

 「何かいる……見物のつもりか?まあ僕も今は事を荒立てる気がないし、見逃してあげよう」

 

 「ハハッ来ねえな……撃ってくる気配もない、なら俺から何かする必要もない」

 

 「それよりこっちなんだよね」

 

 九衛門が振り返った途端、カイを模した黒いシルエットは村正を振るう。

 

 「フッ」

 

 プロトタイプ・キュウビも刀を抜き、応戦する。

 

 「なんだ?あのロボット、空に刀を振るっている?」

 

 「ああ……そうだな、何と戦っているんだ?」

 

 少なくとも、ダメージを受けているよう見える分、幻と戦っている訳ではないのは分かる。

 

 「なんというデカい(あやかし)だ……祓忍組合の知らせもない、突然発生したのか?今警報が出たか……似ているな、結城イチゴの乗っていたロボに」

 

 「(あやかし)?インフェルノの言ってたのか……」

 

 ガーランドはインフェルノの言葉を思い出した。

 

 『ガーランド、お前は(あやかし)というのを見た事はあるか?』

 

 インフェルノは地球に初めて来た時に見たそうだ。

 ロボット生命体だというのに、オカルト系の質問をしてきた、そのギャップが印象的で、ずっと覚えている。

 

 「俺達には分かりませんね……」

 

 〜一方その頃〜

 

 「はぁっ」

 

 村正を振るうも、プロトタイプ・キュウビは後退して避ける。

 

 「埒が明かないか」

 

 プロトタイプ・キュウビは指をこちらに向ける。

 

 「十六夜流忍法・子狐砲」

 

 プロトタイプ・キュウビは、背中に潜ませている子機からビーム砲を放つ。

 

 「これは……そうだ」

 

 刀を車輪のように振り回すと、ビームを弾く事ができた。

 

 「へえ……すごいな」

 

 「そろそろ君の動きに慣れてきたかな……」

 

 「ああ……こっちもそろそろ慣れてきた……(まが)()()(しん)(えん)

 

 そうあれと、そうなると、考え、纏まって、産み出されてきたもの

 そのような存在だからこそ行使できるものがある

 権能

 龍が火を吹くように

 鳥が腕を動かし飛ぶように

 サンタがソリと氷を繰るように

 そういうものであるならば

 できて当然と思われる現象

 

 「増えろ」

 

 比良坂命依にとって災い、怖いと思うもの、「大勢から敵意を向けられる」状況を利用する。

 具体的には……自分の数を増やす。増やして倒す。

 

 「……十六夜流忍法・分身の術!!」

 

 プロトタイプ・キュウビも頭数が増えた。

 

 「んじゃあもっと行くよ」

 

 その数に比例してシルエットも数を増やす、あくまで相手を葬るための大勢なのだから、必然九衛門に対して大勢でなければならない。

 

 「その力は……まさか」

 

 「はぁ!!」

 

 プロトタイプ・キュウビに向かって真っ直ぐ振り下ろす。

 

 「縦・一文字斬り!!」

 

 ×こちらの人数分!!

 

 「なんという量、なんという鮮度、素晴らしい!!」

 

 そう言う残してプロトタイプ・キュウビは爆発する。

 

 「これにて……一件落着……なーんてね」

 

 増えた分を元に戻す。

 戦利品の如く、しゃれこうべが地面へ落ちていく。

 

 「よっと」

 

 すぐさま、シルエットから離れてキャッチした。

 "恐れ"を感じる、あまりにも一方的な、高じて憎しみに変貌する事すら容易な程の……

 とてもいい、恐れの感情をエネルギーにしている存在にとって良い遺物になる。

 桃太郎に切り払われた分の補填になる。

 

 「はい」

 

 取れるものは取って、歌川に渡した。

 

 「ありがとう……」

 

 心からの礼である事は分かる、だが……この後二人に襲われそうな、そんな考えが頭をよぎる。いささか思念を吸いすぎたか……比良坂命依を怖いと思う気持ちが、そのまま乗り移ってきた。

 

 「後は供養なりなんなり、よろしく」

 

 利用されないように……

 

 「これからどうするのかな?」

 

 「一旦戻るよ」

 

 自由なのは良いが、安心感が足りない。

 不便ではあるが、それでも構わない。

 

 「それはまた……どうして?」

 

 「歌川画楽って、何を指す?って言えば……分かってもらえると思うけど」

 

 歌川は、考えこんだ後、合点がいったように手を叩いた。

 

 「…………なるほど、そういう事か……難儀だな」

 

 「じゃ」

 

 その場を後にした。

 

 「自分の遺骨を供養するって、変な感じ……すずも呼ぼうかな」

 

 「それが終わったら僕は行くよ」

 

 「どこへ?」

 

 「結城イチゴ君の所、多分祓忍の所かな〜?」

 

 「ならあっちを追いかけた方が……」

 

 「何、心配はいらない」

 

 二ノ曲がやってくる。

 

 「おい、強大な妖力を持ったものがこっちにいたようだが……」

 

 「去ったよ、もう出てこないかもしれないね〜」

 

 〜風巻邸〜

 

 すずがおやつを食べに外へ行っていたため気が付かなかったが、結界が張られていた。帰れない。

 

 「ちゃっかりガードを固められてる……二ノ曲って奴か……嫌、さっきはなかった変な匂いもする」

 

 要として、魔除けの香を染み込ませた札が貼られている……力づくで剥がせそうだが、触れた瞬間向こうに伝わる可能性はある………対処はできない事はない……が、戦って得られる利益と生じる危険を天秤にかけると、危険の方が遥かに大きい。危険は、存在の全てが知れ渡る事、三〜四、狐面含め五人程くっきりした存在を知られたが、彼らは情報共有という面で祓忍本職よりは劣るだろう。仮に自分の事を伝えられてもフワっとした事しか言えない筈だ……利益と言っても単なる力の誇示、引き返して去るのが一番だ。

 

 「まあいいや、自由時間が長くなったと思えば」

 

 そう考えると、やってみたい事が色々と浮かんだ。

 

 『化け猫か!?お前とも縁ができたな!!』

 

 『離れろ!!貴様、王同士でこういう事をするのは領土の侵略になるぞ!?』

 

 ニヤリと、笑みがこぼれる。

 

 〜川岸〜

 

 九衛門は、プロトタイプ・キュウビを撃ち落とされ、川の中にダイブイン、泳いでなんとか帰路についた。

 立って待っていたのは……晦正影。

 

 「見物だけとは……御人が悪うございますぞ」

 

 「ホッホッホッまさか意気揚々と言って、やっている事が死体集めとは思わなんでのう……」

 

 「これを見て、そう申せましょうか」

 

 比良坂命依の、残りの骨を見せた……人体模型の如く、キレイなままの骨を……誰かの気配を感じ、一旦分割させていたのだった。

 

 「ほう……これは!?」

 

 「生命尽き果て幾百年を経てして尚枯れぬ生命力、そしてこの恐れ、素晴らしいとは思いませんか?過去のものであるため、一息に摂取する事しか叶いませぬが」

 

 「なんという、人間の浅ましさを詰め込んだかのごとき恐れの力、でかした、九衛門!!」

 

 「もっとも……これは十割私の手柄なので、手伝ってくれなかった正影様の分はありませんがね」

 

 「ええい、ひどいぞ、八衛門!!あんなものまで隠しておいて……」

 

 「あんなもので驚いてもらっては困ります……改良を重ねた、とっておきをいつかご覧にいれましょう」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
そんな必要はないけど、もし命依以外に歌川先生を祓えるのがいたらその人はキラメイジャーの熱田とかクランチュラみたいな方と思います。


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第16話 南北合神 雀武王 Aパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
今回の重要な部分はこちら……
「雀王機と武王機で融合召喚!!現われろ、雀武王!!(以下イメージに合わなかったらごめんなさい)炎獄を舞い、勝利への道を己の色に染め上げろ!!」


 「………………………」

 

 目が覚めるとイチゴの母、美柑がイスでウトウトしていた。

 

 「………………………母さん?」

 

 目をこすりながら、もう一度見る、本人だ。

 

 「マジか」

 

 視線を感じてか、美柑は目を覚ます。

 

 「!?………………イチゴ」

 

 美柑はイチゴの顔を見て、安堵の表情を浮かべた。

 

 「ひさしぶり」

 

 「久しぶり、具合はどう?」

 

 「あんまり本調子じゃない」

 

 「お兄様ー!!」

 

 力いっぱい抱きしめられた、食べたものが出そうな勢いで。

 

 「ぐぶっ」

 

 相手はヘルメットを付けている、ノノもいるようだ。

 

 「…………」

 

 「こんにちは、イチゴ」

 

 ココ・アスモ・デビルークも来ていた。イチゴ達の姉になる。

 

 「姉さん」

 

 「ルンさんも来てたけど、スケジュール的に限界みたい……というわけで私が来ました」

 

 「デビルークの王族が複数人出張るとかやめてください◯んでしまいます……」

 

 「GPS代わりにしてたカイの信号まで消えたんだから仕方ないだろう、周りの人みんな焦ってたが」

 

 カイがそんな風に使われてたのにビックリした。嫌、充分あり得る……

 

 「ガーランド兄さんもかよ」

 

 前回も似たような黒いノースリーブだったが、趣味だろうか?

 

 「ジョーンズ博士がさ……『寝込んだ弟が行方不明だと?それはいかん、心配だろう……ここに戻っている場合ではない、探してきなさい』ってそんな訳だ、あの人家族とかそういう話になるとうるさいんだよなぁ」

 

 「良い人じゃないですか……お父様には負けますけど」

 

 「良い人か……そこは認める、しかも科学者としても超優秀なんて、マッドな奴らとかが報われねえな」

 

 ガーランドの伯母、もしくは祖母のティアーユ・ルナティークや、そのジョーンズ博士の話を聞いていると、人間性と科学者としての技術力の相関性はないに等しいという事を思い知らされる。

 

 「じゃあ、目が覚めた後何があったのか教えてくれませんか?」

 

 「…………それは……うんぬんかんぬんで」

 

 「大丈夫?美柑さん、熱ないか調べてくださらないかしら」

 

 美柑はイチゴの額に手を添えた、どことなくヒンヤリしている。

 

 「ないよ」

 

 「本当なら神隠し案件……信号が消えたのも納得がいきますね」

 

 「全く……夜遅くは外に出るなよって昔言われただろうが」

 

 「ごめん」

 

 ココに付け加えられた。

 

 「ノノにも謝った方が良いのでは?」

 

 「……?」

 

 「この子は、イチゴ君をずっと心配してましたから」

 

 「ごめんなさい」

 

 「キスしてくれたら、許します」

 

 急に出てきた言葉にイチゴは固まった、キス?何故キス?

 

 「ん〜〜」

 

 ノノはヘルメットを外し、口元を近づける。

 

 「……………待て、プリンセス、突飛すぎだ!!」

 

 「だって……」

 

 「あんまりイチゴ様をからかってはなりません、ノノ様……ココ様もお止めになって」

 

 男性陣に止められ、不服そうなノノ。

 

 「……………ヒカル、ガーランドも、みんなオーバーすぎ」

 

 「だって一度スイッチ入ったらイチゴ何するか……あ、聞かなかった事にしといてください美柑様」

 

 「いいよ、ヒカル君が謝る事じゃないから」

 

 そこまでしなければ、いけないのか?

 だったらいいや……とは言えないし言ってはいけない気もする。

 かと言ってキス?マウス?キス?マウス?

 額か頬、もしくは手にでもすれば良いのか?

 ダメだ、口に誘導される可能性は高い。

 

 「…………」

 

 沈黙を続けていると、プリンを口に突っ込まれた。

 

 「しばらく食べてないでしょ?はい」

 

 食べる気は起きないが、卵の優しい甘味が喉を通り過ぎて行くごとに抗えなくなっていく………

 

 「おいしい……」

 

 「起き抜けとはいえイチゴは病み上がりだ……あんまり負荷かけない方が良い……ささ、解散解散」

 

 ガーランドは、ノノにヘルメットをセットし、逃げるようにヒカルと美柑以外を連れて行こうとする。

 

 「仕方ないですね」

 

 「いつでも待ってますから」

 

 美柑以外、みんな去っていった。

 

 「まだ……怒ってる?」

 

 「怒ってないよ」

 

 「嘘、ノノちゃんの事嫌がってる」

 

 「……………………………」

 

 「友達、増えた?」

 

 モコナ達は、なんと言えば良いだろうか?とイチゴは悩んだ。丈瑠は殿で、他は……仲良しと形容できる程仲は深まってない気もする。高校も中学も、そこまでの間柄になった人間はいた気がしない。

 

 「あんまり」

 

 「…………そう」

 

 「母さんは、王宮の仕事どう?」

 

 「大変、王族向けだから人数は少なめだけど、その分気配りしなきゃいけない事も多くて」

 

 「そう」

 

 イチゴ自身が原因だとは分かっているがこの気まずい空気感、ヒカルやガーランドには、まだいてもらいたかった。

 それでも、喉を流れるプリンが、心地良い。

 瞬く間に、プリンを完食してしまった。

 

 「それじゃあ、片付けるから」

 

 「オレも手伝うよ、母さん」

 

 「いいよ、こういう事十年振りだし……私にやらせて」

 

 「うん……」

 

 美柑がその場を去り、一人きりになったはずだが、人の気配は消えなかった。

 

 「ふむ、親子で談話か……それも善哉」

 

 眼帯を付け、気持ちの良い程白く染まった長い髪を垂らした老人がいた。老人と言っても、年によって縮んだちんまりとしたなりではなく、大男の類に入る。

 見覚えがあったのでその名前を呼ぶ事にする。

 

 「玄武さん?」

 

 「うむ、久しぶりじゃのう、邪魔するぞ」

 

 玄武は、さっきまで美柑の座っていた椅子に腰掛けた。

 

 「朱雀から聞いたでのう、主の宝珠を手にしたと」

 

 宝珠……緑の、人を押しつぶせそうな程大きな玉の事だろうか?あれがカイにくっついてから、バッテリー問題の解決だけでなく、凄まじい力を奮えるようになった。

 

 「その辺りはオレも何がなんだかなんですけど……あれってどういうものなんですか?」

 

 何か……曰く付きの特殊アイテムだったり?

 

 「ホッホッホッ主も分かっておらぬよ……無論、ワシもな……」

 

 「そうですか……というか自分でもよく分からないものをコレクションするのは偉い人としてはありがちですけどどうなんですかね?それ」

 

 天条院家に遊びに行った際に聞いたブラディクスの騒動とか……

 

 「うむ、ごもっとも。それはさておき、あれとお主の駆体が合わさって産まれた力で、皆が恐れておるのは分かる……白虎には気を付けるが良い、純粋な民の味方(ヒーロー)だが……それ故に民に害する者への牙も鋭い」

 

 「……………分かりました」

 

 「うむ」

 

 ガハハハと、気持ちの良いぐらいの笑い声を上げる。

 

 「!!」

 

 美柑達が、勢いよくドアを開ける。

 

 「誰?」

 

 イチゴ一人しかいないはずの部屋で聞き覚えのない笑い声がすれば驚きもするだろう。

 

 「玄武さん、知り合いの仙人」

 

 半分は正解、半分は嘘、四獣とかで有名なあの玄武が人間に化けているなんて言っても情報量が多すぎて混乱を招く可能性がある。

 

 「そうでしたか、息子がお世話になってます……ちょっと待っててください、お茶入れて来ますので」

 

 「ホッホッホッこちらこそ世話になるのう……」

 

 ニコニコと玄武は微笑む、柔和そうな表情を見て、ガーランド達は安心したのかその場から出る。

 

 「ところで朱雀は……?」

 

 「妖巫女の元へ向かったのう」

 

 朱雀が妖巫女の話題になって舌なめずりしていた事を思い出す。

 

 「それってふしだらな案件では?」

 

 急いで、行かないと……

 

 「まあ待て、再びどこぞへ向かえば、先程の人達も心配するじゃろうて……当てはあるのか?」

 

 「ないですね」

 

 確かに、行き先も、連絡先も知らない人の行方を知る手段は、ない。

 

 「勢いに任せて急ぐ、それも善哉……しかし、焦っては視えるものも視えぬ」

 

 「……………」

 

 「おまたせ」

 

 美柑が紅茶を持ってきた。

 

 「どうぞ」

 

 「ホッホッホッいただこうかの〜」

 

 玄武は、いただいた紅茶を飲んだ。

 ついでにイチゴも飲ませてもらった。

 熱いが、甘い紅茶だった。

 

 「うむ、甘露……善き哉善き哉」

 

 落ち着きのある老人と一緒に一服すると、イチゴまで気分が落ち着いてきたように思えた。

 冷静になって、辺りを見回す……

 

 「?」

 

 家屋のどこか……何故かは知らないがとても神々しく感じる……触れてみたくなる。暖かさを、そこに感じてしまう。

 

 「ここは……」

 

 まじまじと見つめる。

 

 「こら……イチゴ、そこから先はさっきの部屋を使わせてくれた人達の生活空間だよ」

 

 「ごめん」

 

 その流れのようなものは、外へと続いている。

 ひょっとして……この気配を辿れば?

 

 「母さん……兄さんに頼みたい事があるんだけど」

 

 〜小美呼市 さくら牧場〜

 

 牧場にやってきたすずの前に、朱雀が現れた。

 

 「久しぶりだねぇ、すず」

 

 そう言って朱雀は笑顔で語りかける。喧嘩別れに近い形ですず達の元から去ったのが、無かった事のようだ。

 

 「久しぶり、朱雀」

 

 「会えて嬉しいよ」

 

 「うん……私も」

 

 「あれから十年か」

 

 「ママ、あの人誰?」

 

 「君の母の友達だよ」

 

 「お姉さんも妖なの?鳥さん?」

 

 朱雀は目を大きく開きつつ、平静を装った。

 

 「そうだよ」

 

 すずは子ども達にクレープを買い、先に食べてもらった。

 

 「自分より先に子どもに与えるか……成長したね」

 

 「あなたと会ってない間に、私はお母さんになったので」

 

 「聡明な子達だね、良く成長するだろう」

 

 どちらかは、どちらもかもしれないが、すずの夫、祭里の後を継ぐ事になるだろう……

 

 「年を経て少々衰えを感じてくる頃……嫌、まだか……僕の誘い……受け入れる気になったかい?夫、子ども達仲良くでも構わないよ……僕は懐が広いからね、ただし夫には昔の姿へ戻ってもらうが」

 

 性別を入れ換えられた頃の姿を指している。

 

 「何回も言うけど……受ける気はないよ」

 

 「もうあまり時間が残されてるとは思えないけどね」

 

 朱雀の突然の言葉に、すずはキョトンとなる。

 

 「何故今でも(あやかし)巫女の力があると思う?」

 

 「何故?どういう事?」

 

 「君は既に風巻祭里のものとなった、元来巫女とは神の伴侶として在るもの、処女(おとめ)である事までは求めやしないが……ここの基準で言えばもう巫女としての資格は失っているはずだ」

 

 そう言われれば……不安に思いすずはあちこち体を触ってみる。

 

 「特に何もないよ、幼心ちゃんもこう」

 

 「ドロン」

 

 かなでも現れる。

 

 「何もなければ、それでいいんだがね……」

 

 朱雀は、ふと空を見る。その視線の先にあるのは太陽か?

 

 「来たか」

 

 イチゴは、ガーランドのバイクに乗せてもらってその場に着いた。

 

 「ここで良いのか?イチゴ」

 

 「うん……ありがとう、兄さん」

 

 イチゴは辺りを見回す。

 

 「本当にいた……」

 

 「美女がか?お前もそういう思考ができるようになったんだな……みんな泣いて喜ぶぞ」

 

 「兄さんは一回黙ってて」

 

 「へーいへい」

 

 イチゴは、ガーランドがバイクを完全に停めたタイミングで下りて朱雀の居る場所ヘ走った。

 

 「あ、イチゴ君」

 

 「今日は、そんなに怖くない」

 

 「朱雀さん、また変な事やってんじゃないでしょーね?」

 

 「何を言う?優れた人間が、より良く、より長く生きられるよう道を説いてるだけじゃないか?」

 

 「だからと言ってなんであんたの……その……」

 

 嫁にならなければならないのか?

 

 「まあ君は論外だから気にしなくて良い。とはいえ、君の力は有用なのも事実……僕達の元に来ないか?我が主も喜ぶだろう」

 

 「主?」

 

 「水浴びの最中、君が邪魔したと聞いたが」

 

 イチゴの全身に冷や汗が沸いた、心当たりは……ある。

 

 「え……あ、その」

 

 「あの件に関しては不可抗力で済ませてくれるそうだよ」

 

 「………………そうですか」

 

 「だから安心してあれを出すが良い」

 

 「仕方ない……来い、カイ」

 

 呼んでも来ない。

 

 「来い、カイ!!」

 

 もう一度呼ぶが、ダメだった。

 

 「見ての通りです」

 

 「そうか……なら君に用はない……という訳はない!!」

 

 朱雀は人間の姿から大きな怪鳥へと変わる。

 

 「なんだと!?」

 

 『威力は弱い人間に合わせて調整している、さあ、アスレチックタイムだ!!』

 

 朱雀から、火の玉が発射された。

 

 「うわっと!?」

 

 避けられない事はない、だが火は留まり、その場を焼いていく。

 

 「なんだ?」

 

 ガーランドも煙の臭いを臭ったらしく、顔をしかめる。

 

 「ここは牧場だ、焼畑農業はお断りなんだよ!!ていうか、引火して牛が焼き肉になったら乳が!!」

 

 「やめて、私が目的なんでしょ!?」

 

 『人間は言うだろう?「それとこれとは別」……まあそういう事だよ』

 

 朱雀は面白がりつつも、間隔を設けて火を放つ。

 

 「場所によっては、牧場がハゲるか」

 

 そう危惧した時、隕石の如く、カイが降りてくる。

 

 「おまたせ~、カイ、持ってきたよ~」

 

 「あ、お母様だ!!」

 

 「イチゴは?」

 

 「近くの牧場だそうです、ララ様」

 

 「わかった!!」

 

 ララは牧場に向かった。

 

 「カイ?」

 

 「不思議〜〜

 私じゃ何も見えないのに

 カイからなら見える、幻覚じゃない」

 

 「ララさん?」

 

 「これがカイの大きいバージョン、デッカ……」

 

 『君がそれの開発者か、美しい……正に僕好みだ……僕の元に来ないか?』

 

 朱雀はララの元に突っ込んでいく。

 

 「ララさん!?」

 

 「やだっ(ニコッ)カイ」

 

 カイは朱雀を攻撃。

 

 『くっ』

 

 朱雀はショックを受けたのか、思ったより遠く飛ぶ。

 

 「すごい」

 

 「イチゴ〜今そっち行くよ〜」

 

 ララの乗るカイは、牧場をゆっくりとイチゴのいる方まで歩く。

 

 「イチゴ、おいで」

 

 促されるまま、イチゴはカイに乗った。

 

 「久しぶりです」

 

 「そんなにかしこまらなくていいって〜」

 

 「はあ……」

 

 由緒正しい王妃と、王子と目される事すらおかしい筈の子ども。

 言葉にできない引け目を感じる。

 

 「改修終わったよ〜元のサイズになるのはダメそうだけど、工具増やしたから、修理もできる」

 

 「ありがとうございます」

 

 「頑張ってね〜よしよし」

 

 ララはイチゴの頭を撫で、カイから降りた。

 

 「私はガーランドの隣で応援してるよ〜」

 

 「あはは……マジすか、えっちぃので勘弁して……」

 

 前に乗った時の凄まじい力は感じない、エネルギー切れを起こす心配がいらないから初めて朱雀と戦った時よりはマシだが。

 

 『ホッホッホッまたフラレたのう』

 

 いつの間にかこっちに来た玄武は、元の姿に戻った状態で朱雀に駆け寄る。紫の色が主軸となっている事以外はまさしく亀という見た目で、加えて尻尾の部分が蛇となっている。

 

 「亀の妖?」

 

 『はじめましてになるか、妖巫女……ワシは玄武……この朱雀の連れよ』

 

 『泰北……………彼を引っ張り出してくれた事、礼を言おう』

 

 『何……ワシはお主の動向を伝えただけ、天照の巫女の身を案じ、開眼に至ったのはまことあの者の心と才によるもの』

 

 『そうかい……だが、虫にさえできる事を褒め称えても仕方ないじゃないか』

 

 「虫って、ここにいる皆の事?取り消してよ」

 

 『仕方ないじゃないか、彼らと僕ではそれぐらいの差があるんだ……背丈も、力も……彼らにこれができるかな?』

 

 『やれやれ……大人げないのう……それも善哉』

 

 そう言って、朱雀、合わせるように玄武も、詠唱を始める。

 

 『必神火帝』

 

 『天魔降伏』

 

 朱雀は、胸の周りに

 

 「

  合

  体

   」

 

 と赤い文字を浮かべる。

 そして朱雀は人型に変形。

 玄武は小さくなり、変形した朱雀に格納される。

 そして、仕上げとばかりに朱雀の人間体を思い起こさせる妖艶なマスクをさらけ出した。

 

 『焔天大聖………雀武王、顕現』

 

 朱雀と玄武、二体が合わさり、形作るは朱色の王。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
すまねえ……ほぼデモに終わってしまって。
イチゴ君のキャラがちょっと違うかもしれないけど、イチゴ君だってプリン食べた後なんかは蟹堕ちできないんです。


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第16話 南北合神 雀武王 Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。


 目に見えるのは赤き巨躯を誇る巨人。朱雀本人?本鳥?のパワーアップバージョンのように豪華な装飾が施されており、生えた翼はかの鳥神ガルーダを思わせる。

 

 「あ……あれが、朱雀の本気か?」

 

 「俺達は科学サイドだから何がなんだか……ねえ、ララさん」

 

 ガーランド達には見えない事を忘れてはならない。

 

 「うん!!」

 

 「私……あんなの見た事ない」

 

 『この力は玄武……他の四獣が必要不可欠だからね……僕は決して君を軽んじていた訳ではないよ、すず』

 

 言われてみれば、胸の玄武は重要な部分だと思える。

 おそらく朱雀だけ……というのはありえない。玄武がメインの形態もあるだろうし、青龍と白虎にも似たような形態があるに違いない。

 

 『さ、この姿を眺めさせるだけというのもなんだし……始めよう』

 

 「仕方ないか」

 

 万能工具なら、変形して剣にできる。

 

 「万能工具(ツール)!!」

 

 『黒蛇(こくじゃ)(とう)

 

 玄武の尾の部分の蛇からなるその剣は、ムチのように奇抜な動きをする。

 

 「ん?」

 

 『ハハッまだだ!!』

 

 変則的な動きに、万能工具で防御するので精一杯だった。

 防戦一方のイチゴを嘲笑うように、余裕そうに笑みを浮かべて語りかけてくる。

 

 『どうした?使うといい、あの力を』

 

 「言われなくても!!」

 

 だが鬼光眼を使えた時のような、力がとめどなく溢れる感じがしない。

 本能が語りかける、"今"は使えない。

 

 「……………」

 

 『………何かすいません』

 

 「気にしなくていいよ〜〜〜私も使えなかったし」

 

 ララのフォローを受けるも、ショックは和らぎきれず。

 

 「どういう事?クイーン」

 

 「んーとね、一旦カイを持って帰って変な玉があるから調べてみたんだけど……あれ(指さし)言ってみればエネルギー炉だったんだ」

 

 「なるほど、いつもみたいにバッテリー切れで溶けなくなったって訳か……」

 

 「でも、戦闘ログを見てたらまるっきり作った覚えのない武装使ってて……カイにお願いしても同じ事はできなかったの、イチゴに使ってもらったら分かるかな〜って」

 

 「なら条件を整えて検証する必要があるな……」

 

 「もちろん、危なくなったらカイから脱出できるようにしてあるからね〜」

 

 「まあお姉様ったら良心的(イケボ)」

 

 『そうさ……君にしか使えないと僕は見たんだ、せいぜい期待通りに動いてくれよ!!』

 

 「イチゴ君、朱雀には負けないでー!!」

 

 「無理ですよ、すずさん」

 

 本人?はあれな性格だが、れっきとした四方を守る神獣の一体に入る。特に発祥の地とその意が取り入れられた日本ではホームグラウンドに近い。それらがきっちり祀られたのは過去の話かもしれないが、今でも何かしらのネタにされる分の信仰はある。

 朱雀は羽根のようなミサイルを発射してきた。

 

 『朱羽箭、貫け』

 

 「断ち切れ」

 

 万能工具で真っ二つとしてダメージを抑えようとするも硬く、断ち切れずに直撃する。

 

 「!!」

 

 『くっ』

 

 カイに全ダメージが行っており、イチゴにはダメージはないが、衝撃で体がグラグラする。

 

 『ハハッどうした?』

 

 「また良いようにやられるのは癪だよね?カイ」

 

 『ハイ……しかし私とイチゴ様の力量では……』

 

 突如空間が、揺らぐ。

 

 「?」

 

 小狼(シャオラン)達と初めて会った時と似たような感覚を覚えた。だが彼らの方がもっと仰々しさ、何か別のものが来るという感覚があったような……狐の面を付けたロボットが現れる、それも数体。

 

 「なんだあれ」

 

 「昨日のロボットか?」

 

 「本当だ」

 

 「?」

 

 知らない情報が聞こえ、混乱した。

 

 「そんなのいたんだ〜?」

 

 「昨日出現したがいつの間にか両断されて爆発して、それが舞い戻った……違う、あれは量産型か?」

 

 確定しているのは敵だということ、その証拠にロボットは急に街を攻撃し始めた。

 

 〜牙鬼城内部〜

 

 十六夜九衛門は、プロトタイプ・キュウビのスペアを、比良坂命依の遺物から摂った恐れの力でコピー、そして人間界に送り込んでいた。それは、恐れの力次第で兵を大量に増産し送り込めるようになったという結果に等しい。

 

 「九兵衛、良かったのか?せっかくのあの恐れを湯水の如く使いおって、もっと有効に使う手立てはあるのではないか?」

 

 比良坂命依の遺物は九衛門の手柄なので意に沿わぬ使い方は仕方ないにしても、あまりにも個人的すぎる使い方をした事で正影は苦言を呈する。

 

 「これからの強化に使おうと思いますが……奥方さまでも呼び覚ましますか?」

 

 九衛門は本当にその目的で使う気はなく、冗談めかして聞いたが晦正影はひどく焦った。

 

 「待て、そうは言っとらん。大体巫女と言えば……特に貴様の言うような太古の者であればそれは神への供物、選びに選びぬかれた見目麗しいおなごであるのが必定ではないか、そんな奴から復活したと知られれば」

 

 有明の方ならこういうかもしれない……

 

 『つまりなんじゃ?この身を復活させたのは妖巫女という者から摂れた恐れとな?と〜い〜う〜こ〜と〜は〜(わらわ)の肌艶は巫女の力を受け、ツッルツルのプルンプルンに………って、変わっておらぬではないか!!(鏡の壊れる音)正影!!憂さばらしに行くぞ、準備せい』

 

 「めんどくさ……お労しい事になるではないか!?それより御館様ぞ、御館様……」

 

 「あの恐れからでもいいですが……基が基ですから、妖巫女への恐れのみならず妖巫女の力も付加され、妖共が懐きますからね……やはり御館様の力となるのは人も妖も恐怖する恐れの力でなければ」

 

 丁度先日、どういうものかは未だ謎だが、人の形を成した恐れの力の塊を目にし、それを狙おうと九衛門は考えていた。

 九衛門の勘が正しければ、その塊には億を越える程の人の思念が練られている。込められた人の思念がいかに微弱でも、数の暴力、塵も積もればという意味でその力は大妖怪、下手をすれば神にすら届く。

 あの一体を水に換えるだけで、牙鬼幻月の復活……のみならず、さらなる飛躍を見込めると見た。

 

 「貴様、御館様の治世において見たことのない面をして……分かっておるではないか」

 

 「それにまだ腕一つ程しか使ってませぬ故……ご安心を」

 

 「あれでその程度とな!?一体何者ぞ?あの巫女は」

 

 「比良坂命依、天照の巫女の系譜にして、人と(あやかし)による大乱……名付けて人妖大戦の引き金となった者にございます……一時は、濡れ衣とはいえ妖共の首魁とまで謳われておりました」

 

 〜小美呼市〜

 

 『悪意を感じるな……仕方ない、弱き者を守るのは僕らの役目だからね……合力しよう』

 

 くるりときれいに反対方向を向き、狐面のロボットの一体に向かう。

 

 『舞え、黒蛇刀!!』

 

 黒蛇刀でロボットを縛り上げ、絞め上げ、瞬く間に一体撃破。

 

 「すごい……」

 

 イチゴが狙われた時は必死だったのもあり強さ以外を測れなかったが、改めて見ると美麗な剣捌きだった。

 だがまだ1体やられただけだ。

 丁度その時、聞き覚えのある音楽が流れる。

 

 「ん?」

 

 『ワーハッハッハ!!誰かと思えば、孫悟空の縁者か!?面白い、俺も混ぜてもらうぞ』

 

 桃太郎だ、桃太郎が来た。

 

 「桃太郎!?」

 

 その口上だけで、安心感が湧いてくる。

 

 『いくぞ……来い、お供達』

 

 桃太郎はお供を4人召喚する。

 

 『首領(ドン)(オニ)(タイ)(ジン)だ!!』

 

 大合体!!大合体!!(以下略)

 

 『略すな、重要なとこじゃろがい!!』

 

 鬼のツッコミを受けつつも、合体。

 

 完成、ドンオニタイジン!!

 

 『よし、じゃあ行くか!!』

 

 犬の号令で、ドンオニタイジンは駆け出す。

 

 『お供の癖に、俺に指図など10000年早い!!』

 

 その言葉に猿が突っかかる。

 

 『ほう……では、10000年経てば君は私達の言う事を聞いてくれるというのか』

 

 『お供達が10000年生きるなら、俺もその分進化する……そういう事だ』

 

 10000年、仮にその年月が経ったところで差を埋める気はないらしい。

 

 『アゲてくぜ〜!!』

 

 鬼のミサイルを直撃させ、動きを停止させた直後に強襲、キジの剣で×の字に切り裂く。

 瞬く間に、一体撃破……イチゴがやるよりきれいにキマったのを見て、さすがだと思う気持ちと羨ましいと思う気持ちが湧いた。

 

 『フン、人形なでどはまるで相手にならん』

 

 『丁度良い、ではどちらがこの地の守護者として相応しいか、勝負と行こう』

 

 『面白い、やるか!!』

 

 朱雀と桃太郎は、狐のロボそっちのけで戦い始める。

 

 「ふざけないでよ!!まああの人達らしいや」

 

 呆れつつも諦めに似た言葉を出す間に二体、ララ達の元に向かっていた。完全に確認ミスだった。

 

 「あ、ララさん、兄さん!!」

 

 「着装!!」

 

 すずの衣装が変わった、パーカーに似たゆったり、ふんわりした衣装に。

 

 オモカゲ……ダイダラボッチ!!

 

 そして彼女から何かがまろびでた。すずがそのまま大きくなったような姿形だった、ドンオニタイジンやらカイやら今ここにいる面子よりは劣るがデカい。

 それが狐のロボットを抑え込んでいる。

 

 「動きが止まった?」

 

 「どうやって?」

 

 ガーランド達の疑問には耳を貸さずにすずは言う。

 

 「みんな、今の内に」

 

 「えーい」

 

 すずに促された後、ララは力を溜めて、ロボットに攻撃。どれほど力をこめたのか……ロボットはショートしだす。

 

 「逃げて……って言おうとしたのにな……ま、いっか」

 

 すずの子供達を連れて牧場の陰へ避難したガーランドは、彼女達からブーイングを受けていた。

 

 「おじさんは混ざらないの?」

 

 「ママが危ないよ」

 

 「あのお母様方が強すぎるだけで、世の中にはああいう巨大ロボをなんとかできないおじさんおばさんがたくさんなんです〜後俺はまだお兄さんだからね」

 

 「弱虫」

 

 「ブーブー」

 

 ガーランド、キレた。

 

 「よーしよしそこまで言うなら今からカッコいいものを見せてやるよ、サイドウェイズ・トランスフォーム!!」

 

 駐車場にあるガーランドのバイクが、ロボットに変形した。

 

 「わー、カッコいい〜」

 

 「でもワルそう」

 

 紫のボディーは子供には受け入れられないようだ。

 

 「子供にこの色の良さがわかるにはまだ早いようだな」

 

 「おじさん、最初から出してよ〜」

 

 「サイバトロンのみんなからの心象悪いからなこれ……さっさとやるぞ」

 

 サイドウェイズと呼ばれたロボットは、プロトタイプ・キュウビの肩に飛び移り、腕からマシンガンのようにビームを連射する。

 プロトタイプ・キュウビ……爆発。サイドウェイズ……脱出。

 

 「58発も撃たなきゃ壊れないか……さすがスーパーロボットってか?」

 

 「すごーい」

 

 「ハッハッハ、喜んでくれるのを見るのも悪くないな」

 

 サイドウェイズを見てララは、ガーランドの無事と頑張ったのを確信した。

 

 「あのバイク……やったね、ガーランド!!」

 

 「あ……子供達探さなきゃ」

 

 そして最後の一体になった途端、その一体はカイに突っ込んできた。

 

 「!?」

 

 突進により、別の場所まで連れてかれる。

 森まで連れてこられた、ここを戦いの場にする気か?

 

 『……………』

 

 ロボットは無言で刀を振るう。

 防御したカイの腕にパックリ割れの如くヒビが入った。

 

 「こいつ、強い?」

 

 『こいつの攻撃は私の装甲以上のようですね』

 

 難なく倒したみんなの力を、再確認せざるを得ない。

 

 「何者?」

 

 返事はない……

 無人機か?

 

 「だったらこの前みたいに……」

 

 「お兄様〜!!」

 

 「!?」

 

 予想外、ノノの声が聞こえた。近くに……いる?

 

 「来ないで!!」

 

 同じ声、同じ口調、他人じゃないという確信が芽生え、思わず叫んだ。

 

 「はえ?」

 

 その状況を汲んでくれないのか、狙ってか、おそらく後者だろう、ロボットは手持ちの刀を振るってきた。

 

 「くそっ」

 

 万能工具をロボットの刀と交差させ、鍔迫り合いの形を取らせる。

 しかし刀から放たれた衝撃波は、カイの腕をすりぬけ地面を走った。

 

 「しまった!!」

 

 今から方向転換して助けに行っても、間に合わない。

 

 「避けて、ノノー!!」

 

 イチゴとノノ、どちらを優先させるか、どちらに生き残るべき価値があるかは言うまでもない。だから、巻き添えには遭ってほしくない。

 避けろ、避けろ、避けろ、もしくは助かれ。

 祈りが届いたように風が巻き起こり、衝撃波をかき消した。

 

 「ふー、セーフ」

 

 一人の祓忍の姿が見える。

 風車を口にくわえているのが特に印象的な男だ……

 

 「こいつらは大丈夫だ、早い所やっつけろ!!」

 

 彼はココまで連れている。ココまでいたのは、予想外だった、それはそれとして……

 

 「ああ……うん」

 

 万能工具でカイの体を修理。

 そして気を取り直す……

 トドメをさし、爆発されるとノノ達が巻き込まれる、爆発しないようにするには……

 

 「斬り落とす」

 

 目からビームは撃ってこないので、首と胴体だけにする。

 

 『そうしましょう』

 

 コックピットのレバーを押し倒し、加速。

 

 「まずは距離を詰める」

 

 両足をくっつけ、ドロップキック。

 狐のロボットに触れたところでキックの体勢を解除、万能工具を用意する。

 

 「次はこれだ」

 

 剣の形にして、腕を切り飛ばす。

 無人機であるせいか、反応はない。

 

 「………………」

 

 『もう一本どうぞ』

 

 カイは、もう一本の万能工具(ツール)の在り処をモニターに指し示す。

 

 「ありがとう」

 

 もう一本の万能工具を手に取り、ロボットを切り裂く。

 狙いは成功、狐の面をしたロボットは動かなくなり、時間をおいても自爆などのアクションはない。

 

 『やりましたね』

 

 「カイのパワーのおかげだよ」

 

 少々、疲れが出てきた。

 

 「外の空気が吸いたい」

 

 『了解しました、空調イマイチでしたかね?』

 

 悪くはないが、今は、微動だにしない大地に腰を下ろしてまったりしたい気分だった。

 イチゴは下ろしてもらった後、地面に座り込んだ。

 

 「お兄様〜!!」

 

 ノノが出てきて、イチゴに抱きついてくる。

 ついでにココも……

 

 「なんで……」

 

 「ガーランドお兄様とどこかへいかれて時間がたったので……そしたら、カイが出てきて、それで」

 

 「すごい戦いでしたね、イチゴをからかう暇もありませんでした」

 

 「なるほどね」

 

 分かったので、離れて欲しい。

 

 「よっ大活躍だったな」

 

 先程の祓忍が、イチゴに近寄ってきた。

 若い男のようで、肌のハリツヤが良さげだった。中性的な美形という範疇に入る。

 柔和な雰囲気ではあれど、来るならいつでもかかってこいと自信が垣間見える。イチゴにはないものだ。

 

 「あなたには負けるかな」

 

 敵を倒すだけなら誰にでもできるかもしれないが、命の危険に陥った女の子を颯爽と現れて助けるなんて芸当はヒーローにしかできない。イチゴは以前そうしようとして自分が深手を負ったのでアウト。

 

 「話聞いて飛んでみりゃとんだ魔境だよな」

 

 桃太郎、朱雀、玄武、デカいロボたくさん、ちょっとデカいトランスフォーマー型のロボット、充分魔境だった。

 

 「俺の名前は祭里、風巻祭里だ……お前は?」

 

 「イチゴ」

 

 「イチゴ?まさか……お前……」

 

 「ゴクリ」

 

 「俺、お前のじいちゃんのファンなんだ、特にスイONがだな〜」

 

 スイッチ!!ON陽師の事を言っているようだ、イチゴの祖父の手がけた漫画になる。

 

 「そうですか」

 

 孫と祖父の関係ではあるが、助けてもらった礼にサインを書いてもらうよう頼めるような間柄ではない……その度胸がイチゴにないだけかもしれないが。

 

 「おじい様のファンなのですか?では助けていただいたお礼に一筆お願いしてきましょうか」

 

 「マジかよ!!ありがとな」

 

 祭里はノノに向かって拝むように手を合わせる。

 

 「イチゴー!!」

 

 ララやガーランド、そしてすず達が戻ってきた。

 

 「お母様〜〜〜!!」

 

 「ノノ〜〜〜!!」

 

 二人は無事を確認してお互い笑顔で抱き合う。その姿を見てるとやはり親子だ……とそう思えた。

 

 「パパ〜!!」

 

 「祭里〜!!」

 

 「無事か?無事だな?」

 

 すずは祭里に近づきキスを始めた、音の隠しきれないすごいのを。ノノの目はララに覆われた。

 

 「ぷはぁ、あのさあ、すず……人前なんだけど」

 

 「だってぇ……数日振りで……あれ以来◯◯も◯◯◯もしてないもん」

 

 ガーランドは驚いた。

 

 「なんつー母親だ……子供が目の前にいるんだぞ……(ドン引き)」

 

 「え、おじさんのママはしないの?」

 

 ガーランドの母は『えっちぃのは……まだ早いです』と言っていた、その裏でリトと何をやっていたかは知らない、知ると何か、親を親として純粋に尊敬できなくなる、そんな気がする……とガーランドは危惧している。

 

 「このお母さん達がオープンなだけだからね、12歳超えるまでその話はするなよ」

 

 何をとは言わないが、好奇心、本能に身を任せて実践される可能性がある……

 

 『終わったか』

 

 桃太郎と朱雀が、いかにもさっきまで喧嘩して、そのまま帰ってきたというような雰囲気を醸し出して帰ってきた。

 両名ともやるだけやって満足したかのような爽やかさが垣間見え、反感……というか、イラッとくる。

 

 『君は……祭里か』

 

 「テメェ……朱雀か、久しぶりだな」

 

 『そうだね、君にはもっと相応しい姿があるだろう?えーい』

 

 朱雀は大きな状態のまま、印を組み祭里に向ける。

 変な矢印の形をした剣の紋様が浮かび反転すると、祭里の体は女になった。その紋様が男のマークと女のマークである事に察しは付くが……髪の色が黒がかった赤から白色に変わる理由は教えてもらいたい。

 

 「すげえ、胸が、急に、バルンって!!」

 

 確かに、大きいか大きくないかと聞かれれば「クソでけえ」と形容する他ない。

 

 「祭里、今元に戻すよ……えい」

 

 そのすずの掛け声と共に、祭里の体が元に戻る。反転した分を反転しているのか?

 

 『えい』

 

 反転した分を反転した分を反転した、また女性の肉体へと変わる。

 

 「えい」

 

 反転した分を反転した分を反転した分を反転した、男の体に戻った。

 オセロの駒をひっくり返すように、気軽に体の性別を変えられている事に対して言い切れない恐怖を覚える。

 

 『何故止める?いつぞやはあいつの体をいつもむしゃぶりつきたそうにしていたくせに』

 

 「今もだけど、祭里をあれこれするのは、私よ!!」

 

 「わかるよ〜好きな人はどんな性別でもいけるよね」

 

 「そんな殿方、いないかな〜?」

 

 「奥様方……お子様、ドン引きしているのですが」

 

 「「じー」」

 

 「私にはまだ、入れない世界ですね」

 

 入れないからといって無理をして入る必要はなく、むしろそのままでいて欲しい。

 

 「すずも朱雀も……人の体で遊ぶな!!」

 

 やはりというか……祭里は怒鳴ってきた。

 

 『今日のところはこのくらいにしておこうか、また来るよ』

 

 「もう来なくていいよ」

 

 『俺もそろそろ去ろう、さらばだ!!』

 

 桃太郎も、どこかへ去っていった。

 

 『良かったのか?』

 

 『考えていた状況と色々違うからね……次こそ、すずもイチゴも手中に収めてみせるよ』

 

 『夏喃、お主の悪い所は脈もない女子が必ずなびくと断言できる、根拠のない自信……いわば傲慢さよ』

 

 『は?』

 

 〜その日の夕方〜

 

 九衛門は、恐れの力を集めていた。

 プロトタイプ・キュウビを、分身を用いてまで出現させたメリットはある、倒されはしたものの高層ビルに並ぶ大きさのロボットが複数、街に襲いかかる、それだけでも放出した恐れの力のリカバリーが効くのだ、こぼれた水を盆に還すようにそっくりそのままではないが……

 

 「予定外の出来事はあれど、嫌、だからこそ収穫は上々……か」

 

 九衛門は送り込んだプロトタイプ・キュウビの分身の残滓を、歯車へと変換する。かなりの枚数が手に入った。

 

 「武器と手は取られたか……まあいい、それより……クックックッ」

 

 桃太郎、朱雀、妖巫女、美しさと怪力を併せ持つ女、銃撃戦の得意なロボット、マスコットのような見た目だがシュリケンジンに引けを取らないスーパーロボット、それらのデータが一度で摂れた事に、九衛門はご満悦だった。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
ゴチャゴチャしてると思ってたらごめんなさい。


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第17話 おもちゃ屋へGO!! Aパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
今回はちょっとバーニングPTっぽい事やったり色々する話です。


 次の日、子供の送り迎えを済ませたすずの案内のもと、イチゴは美柑達と共におもちゃ屋コウロギに行った。一晩寝たぐらいの時間で、驚く程肌のツヤが増しているすずが少し不気味だった。

 美柑達は少し呆れ気味だったが……

 

 「君がイチゴくんね?とっても刺激的!!」

 

 嬉しそうに出迎えてきたのは露出度の比較的高めな作業着を着た女性、ものづくりに長じた一族、香炉木家の一人らしい。

 〇〇アルとか、〇〇ヨとか、〇〇ネとか言いそうな団子型に丸めたツインテールで、ピンクの髪を見てるとナナを思い出す。

 田舎町一つに対して祓忍の、しかも名のある家が3つあるという事実、まるで「目的があってそうなった」感を感じる。王や巫女がいると説明されたせいか余計にそう思えた。

 

 「ご注文は?」

 

 「最近変な奴らに絡まれてるので護身用に何か欲しいんですけど」

 

 「話は聞いてますよ、朱雀に桃太郎、いずれも王という枠を超えた力を持った方々……戦いに備えて護身用に一つ持っておくのも良いかもしれませんね」

 

 万能工具(ツール)では、そういう戦いに向いてないかもしれない。

 注文としては……

 消耗品じゃないもの

 目立たないもの

 

 「イチゴ君は祓忍でないので、装束での対策は難しい……と、目立たない奴なら……」

 

 指し示してくれたのは、かの土佐弁と北辰一刀流と日本の夜明けで有名なあの人の傍らで動いていた炎魔忍軍の忍者が使っていたとされる、由緒正しい紐らしい。

 

 「国宝級じゃないですか」

 

 「何も知らなければ目立たないかと」

 

 かと言ってそのままではただのおもちゃだ。

 鞭にできる程しなりはせず、細くもない。

 コマ?

 昔ながらのコマに使いそうな……

 

 「まさか……」

 

 イチゴは紐を手に取り、先端を放り投げる。

 恋緒に紐を絡め、回す。

 

 忍法独楽廻し!!

 

 「あ~れ~!!」

 

 「イチゴ様、おやめください」

 

 カウンターで恋緒から投げキッス、ヒカルから羽交い締めをくらう。

 直接だったらどうなっていたのか……

 

 「どっかで見た光景……まあ、まだマシか」

 

 美柑は呆れつつも、値段を確認する。美柑が買ってくれる流れになっていた。

 

 「え?」

 

 億を越える値段のため、美柑はドン引きする。

 

 「高っあの……香炉木さん?これ……人に売る値段じゃ……」

 

 「説明文が本当の事であれば大変歴史的価値の高い逸品ですからね、私もなんでここにあるんだろうって疑問に思います。博物館に寄贈した方が良いのかな」

 

 「イチゴ、別のにしよう。わざわざこれにする必要ないよ」

 

 ちょっと高速過ぎて面白かったが、脱線しすぎた。

 

 「そうだね」

 

 「普段お使いのものはありますか?」

 

 「これです」

 

 万能工具(ツール)を恋緒に見せた。

 

 「これを加工するだけならこのぐらいお安くできるのですが……」

 

 ロボットのおもちゃを1体買うより安いような値段となった。

 

 「あ、これなら……イチゴ、これにする?」

 

 「うん」

 

 「ヒカル、これ買えない額ではないと思うのですが」

 

 ノノは、紐を指さして言う。

 

 「業物ならまだしも、あの紐を我が家か王様の財産を使ってまで買うメリットないですよ、ノノ様」

 

 「うーん、では仕方ありませんね……」

 

 「おや、何を悩んでるんだい?」

 

 巫女の衣装を着た女性を連れた若い男が一人、話し掛けてきた。芸術系の人だとなんとなく分かるようなベレー帽と作務衣が、ミスマッチを思わせる。

 

 「誰?」

 

 「歌川画楽っていう……有名な絵師だよ」

 

 「展覧会、あの御方個人のために開いてるぐらいだ」

 

 美柑とヒカルの説明により、記憶の底にあるものをうっすらと思い出した。

 

 「ああ……じいちゃんの家に飾ってあった絵の、て……若っ」

 

 目の前の男はどう高く見積もっても20代後半がせいぜい、昔イチゴがニュースで見た時と見た目が一切何も変わってない。

 

 「……ひょっとして妖?」

 

 「ちょっと、イチゴ……」

 

 美柑に服の裾を引っ張られる、確かに慣れ親しんでいるとはいえすぐ妖怪扱いは言いがかりになるのかもしれない。

 

 「寿命の長い宇宙人かもしれないじゃないですか」

 

 「ヒカル君そっちじゃないから」

 

 「そろそろ付け髭でもしとかないと怪しまれるかな〜」

 

 肯定とも、否定ともとれない……が、違うのならはっきり違うと言うだろうに言わないのは、言外に肯定していると受け取れる。

 

 「それはさておき、君には僕が渡した村正があるじゃないか」

 

 「村正?」

 

 イチゴが首を傾げていると、ヒカルが説明を始めた。

 

 「妖刀の一種です、まあそう呼ばれる前はすごいブランドみたいな立ち位置で、斬れ味、強度、どれをとっても非の打ち所のない性能の高さにて実戦で愛用されてきたのですが、刃の威容、そして何かと徳川にまつわる凶事に関わってきたとかで、災いをもたらす刀と謳われるようになったとか」

 

 「お、詳しいね〜〜〜」

 

 「祖父に影響され、覚えました」

 

 「そんな経緯もありますので、幕府の息のかかった私達では取り扱ってないですね」

 

 「まあとにかく、出そうと思えば出せる筈だ」

 

 持ち主の妖力に感応し、自由に出し入れ可能。

 稀代の天才絵師と謳われた歌川画楽は、書き上げたものをついには紙面という枠組みを越え、創造するに至ったと示す事のできる傑作。

 

 「絵を描きあってボルテージが上がった状態だったから描けたのさ、いわゆる黒閃を放った後みたいなね」

 

 絵を描きあう……やはりそんな事をした覚えはない。

 

 「あの……」

 

 美柑は手を上げた。

 

 「それって本当にイチゴですか?」

 

 「おかしいな〜イチゴ君のドッペルゲンガーみたいなのがもうとっくにそちらに行ったものと……」

 

 「私の施した結界内にはいませんでしたよ」

 

 「なるほどね〜〜〜」

 

 歌川は、当のイチゴ達をよそに全てを知り一人納得したように頷く。

 

 「人違いだった、すまない」

 

 「いえいえ」

 

 「(やはり……イチゴ様と同じ姿の輩がいたんだ)」

 

 「うわ、本当に同じ顔だ」

 

 巫女の衣装を着た女性は、イチゴに顔をずいと近づけた。

 

 「あのー、近いんですけど」

 

 「紹介が遅れたかな、助手の命依だよ」

 

 歌川から紹介を受けるも、端正な顔のその下から感じる圧の方が気になってしまう。そこはかとなく感じる圧迫感、目を瞑っていても存在感を拭いきれない。少々離れてもらいたい。

 

 「イチゴ、どこ見てるの?」

 

 「え?嫌……」

 

 特に何も無いが、あたふたしてしまう。

 

 「(イチゴはああいうのが好みなんだ、ふ~ん)」

 

 美柑からの怪しい視線を感じ、すぐに距離を取った。

 

 「ところで、イチゴくんのそっくりさんに村正を与えた理由は?」

 

 本当なら、得体の知れない相手に、力を与えた事になる。

 

 「あはは……絵の挑戦を受けるなんて何十年振りだったからかな、嬉しくてついね〜〜〜」

 

 「なるほど……」

 

 ヒカルは、どこからか紙と鉛筆を持ち出した。

 

 「そういう挑戦はいつでも受け付けるのか……ハーッハッハッハッハ!!ならば、貴方をギャフンと言わせ、美術キングの称号をいただくとしよう!!」

 

 「いいとも!!」

 

 ヒカルが歌川に絵画で勝負という無謀な勝負を挑んでいるところ、恋緒は話を続けた。

 

 「今日、歌川さん達にも来てもらったのは他でもありません」

 

 「ああ……そうだったね、書きながら聞くから続けて」

 

 前回出現した謎のロボットの解析が終わったらしい。

 胴体の部分はいつの間にか消えていたが、イチゴが腕を切り飛ばした事で、調べる事ができたそうだ。

 

 「結果はそうですね……あれはオモカゲです、しかもダイダラボッチみたいに大きく調整してある訳でもないからリソースも少なくて済むようです」

 

 「なるほど」

 

 「オモカゲ…………って何?」

 

 美柑は質問した。

 早い話が、分身だそうだ。それも影分身に近い。

 

 「問題は、魄力の解析結果です。すずさんと同じ反応、つまり妖巫女の力が使われている可能性が極めて高いと判明しました」

 

 その言葉に、すずが一番驚いた。

 

 「え?私あんなもの出した覚えないよ?」

 

 「そうですね、確かに他の力もブレンドされていました、でも間違いなくすずさんと同じような魄力の波動がそこにがあったんですよね」

 

 「そうなんだ……」

 

 「ていうかこのロボット、私この前も見たよ……ねえ、画楽君」

 

 「そうだね、あれは召喚するものらしいね」

 

 「誰かが呼んでたんですか?」

 

 「十六夜九衛門と自分で名乗っていたよ」

 

 その言葉で恋緒が驚いていた。

 

 「十六夜九衛門……」

 

 マンガの知識レベルでは知っている、祓忍の名門、伊賀崎家に弟子入りし、その後出奔した奴だそうだ。

 聞くところによると、当時の伊賀崎家の後継ぎと比べて出来がよく……と言えば語弊があるが忍者としての才能に溢れ、彼を知る誰もが将来の活躍を信じて疑わなかったとか。

 

 「話は聞いています、十六夜九衛門……今は伊賀崎家改めニンニンジャーと敵対しているとか」

 

 シンケンジャーみたいな名称に聞こえる……流行っているのだろうか?

 

 「さらに彼は自身の身を人でないものへと換えていたみたいだ」

 

 「接触があったならどうして言ってくれなかったんですか?」

 

 「忙しかったからね〜〜〜色々と」

 

 「すず、後で見せたいものがあるんだけど」

 

 「うん、分かった」

 

 すずと命依が会話している所を見ると、造形に微妙な差異がある筈なのに、双子の姉妹を見ている気分になる。

 

 「私、その九衛門って人に会いに行く」

 

 待ってくださいと恋緒は引き止めた。

 

 「すずさんは妖の王ですから、自分の領地でどっしり構えておくのが良いと思います」

 

 「そっか」

 

 妖の王……桃太郎の顔を思い出す。

 

 『ワーハッハッハ!!』

 

 傍若無人さ、思わず引っ張られそうなカリスマ性……The・王様というイメージがある。すずには悪いが、王様感は向こうが上だ。

 

 「長期戦を想定するとなると、ああいうロボットを相手にするには火力が足りませんね……イチゴくん、お願いがあります」

 

 「はい」

 

 「そういう訳です。ニンニンジャーの元へ赴き、この件の報連相、可能ならば彼らをサポートしてください」

 

 「そんな重要そうな………外部の人間であるイチゴ様に頼む理由は?」

 

 ヒカルは猫の絵を描きながら、会話には参加していたようだ。

 

 「ロボットを自前で持っている点……私達祓忍はその手のロボットは未だ開発途中でありまして……旋風神などあるにはあるのですが組織的なものではなく個人個人の所有になってですね……」

 

 「なるほど、猫の手も借りたいと……猫、描けました」

 

 「どれどれ……脚の伸びがもう少しかな〜〜〜」

 

 「後イチゴくんは我々の関係者ですよ」

 

 「どういう事?イチゴ」

 

 「お母様には申し訳ないのですが、イチゴくんの預かり先は祓忍が担当しておりまして」

 

 「え、そうなの?」

 

 美柑は雷が落ちるほど驚いた。

 

 「らしいね」

 

 オカルト関連に適正の高いイチゴが、目を付けられたという事になる。だが週1で血を取られたり、体力測定とか何かしら調べられたり、苦いものを飲まされたり、後継者の技のサンドバッグになったりぐらいしか、らしい事はしていない。ナナシ連中に深手を負わされた時点で何も身に付いていない事になるか……

 その家の後継者に優しくしてもらっても相手は忍者である、演技かもしれないという先入観でいつまでも心を開けず、検査の一環で飼育された黒い人魂の群れに連れてかれ、放置された事をきっかけに出ていってそれっきりになる。

 

 「そんな事が…………」

 

 「え!?ああ……それはこちらの認識不足で……精査しますのでちょっと待っててください」

 

 「まあ忍者だし、後遺症残ってないだけマシなんじゃない?」

 

 怪異専門とはいえ、忍者は忍者……きな臭い事案があってもそういうものと受けとめるしかない。

 

 「まずどうしてお兄様がどこぞへ預けられなきゃいけないのですか?(小声)」

 

 「色々あったんですよ色々(小声)」

 

 「あー、今の話が本当であれば先程の話は忘れていただいても……」

 

 「イチゴ……どうする?」

 

 ただイチゴには、魅力的な選択肢だった。少なくとも美柑達と今日のように行動を共にするよりは……

 

 「オレ……いくよ」

 

 イチゴがそう言うと、すずが苦言を呈してきた。

 

 「イチゴ君……ダメだよ。確かに君はあいつ等を相手にできるぐらい強かった、でも苦戦してたじゃん、そんなんで行ってたらお母さんが心配するよ」

 

 「すずさん、ありがとう……」

 

 美柑が下を向いている。

 不安だろうか?何が不安なのだろうか?望みを叶え、みんなそれを受け入れざるを得ない状況にあるというのに……そこから先を考えると、頭が痛くなる。

 

 「母さん、ごめん……でも、無理しない範囲でオレを必要としてくれるなら……それをやり遂げたいんだ」

 

 シンケンジャーの黒子でいる時、危険かそうでないかの線引はできている……小狼(シャオラン)達が来た時ぐらいにやっとではあるが。

 

 「了解しました。イチゴくんがそう言うのであれば……では、ちょっとテストを行いますね……」

 

 ショッピングモールのゲームセンターで見かけるような、ゲームマシンがある。

 

 「これをこうして…………どうぞ〜」

 

 恋緒があれこれスイッチを押すと、画面が変化していき……

 絡繰機人・測型が複数出現した。

 金属製の光沢を持つずんぐりしたロボットが出てきた。

 メタリックな下駄を見ていると移動しにくそうに見える。カイの方がモチモチして動きやすそうだ。

 

 「なんです?これ」

 

 「私が開発したロボを基にして考案したものです、ですが絡繰木人と比べ必要経費が高く、重要度も低くお蔵入りに……データはできましたのでこのようにシミュレーターで利用できます」

 

 「面白そうですね、後で私がやっても?」

 

 ヒカルが食いついてきた。

 

 「良いですよ」

 

 「チュートリアルにしてもいいですか?」

 

 「あー確かにそうですね……」

 

 カイのように性能が高い訳ではないが、動かし方は画面にいつでも表示してある。これなら動かせそうだ。

 

 武装は…………

 

 格闘

 手裏剣

 ロケットパンチ

 

 格闘は言わずもがな、殴る。

 手裏剣は腹部にあるものを射出するようだ。

 ロケットパンチはワイヤー式で動かすようで、隙ができるがボタン長押しで元に戻るらしい。バネで跳ねないだけマシか……

 

 「だいたい分かりました、いきます」

 

 「よーい、はじめ!!」

 

 画面でも始まりの合図を告げる。

 ほぼゲームをやっている気分だ。




 いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第17話 おもちゃ屋へGO!! Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
今回のパートはほぼあやトラのメンバーで話が繰り広げられています、イチゴ君のバトルは次です次……


 〜一方その頃〜

 

 「先輩…………」

 

 祭里達は、それぞれの家で電話をしていた。

 

 『なんだ』

 

 「恋緒(れお)のところ……いかねえと」

 

 祭里は今現在、立っているのがやっとの状態である。

 

 『お前は休め、その……なんだ、体のケアに努めろ』

 

 「やっぱすずとは1日も離れ離れになっちゃだめだな……(合掌)」

 

 『お前がそこまで言うのか……強敵だな』

 

 「それはさておき先輩、あんまり思いつめるなよ……あれは……そう、仕方なかったって奴だ」

 

 『そう言ってくれるか……だが、俺は自分を許せそうにない……』

 

 〜先日の夜〜

 

 祭里は夜ご飯を振る舞った。

 美柑、そしてイチゴも手伝ったので、その分豪華になる。

 

 「おいし~!!」

 

 「だね〜〜〜!!」

 

 「イチゴ……おいしい?」

 

 「うん」

 

 「お兄様〜〜〜!!食べさせあいっこしましょう」

 

 「はいあーん(棒読み)」

 

 「あーん」

 

 「ダメ、イチゴ……そういう時はふ~ふ~して食べさせないといけないんですよ」

 

 「ココ姉さん、茶化さないで……汁物じゃないんだから別に良いでしょ」

 

 「ひょっとして俺、嫌、私は……とんでもないロイヤルなものを食させてもらっているのでは?」

 

 「天条院家の家の人間が口にして良い疑問か?」

 

 「王族がここに片手で数えられない程いるんですよ、ガーランド様……よもや自分の身分をお忘れか?」

 

 「ハハハ……違いないな」

 

 すごい会話ばかりだった。

 知らないところの王族と付き人らしいが、楽しそうだった。

 

 「何日も場所を貸していただきありがとうございます」

 

 「別に構わねえよ、慣れてるし」

 

 「なるほど……」

 

 ………………………

 

 「じゃあね~~~」

 

 食べ終わってから公務のあるララ、そしてココは母星ヘ帰る。

 ガーランドも……

 

 「俺もそろそろ帰るかな、愚弟の無事は確認したしこれで胸を張ってラッド達に報告できるってもんだ、オーシャンシティの眺めもきっと良い」

 

 「次会った時はもっとカッコいい色にしておけ」

 

 子供の好みは、青とか赤とか、ヒーローの色のようなものを好む。

 

 「悪いな、俺はあの色が気に入ってるんだ」

 

 下手に濁して期待させるよりは良いのかもしれない、だがそうすっぱりとは否定しないで欲しいと祭里は思った。

 

 「あ~アイアンハイド、ブリッジよろしく……何?スペースブリッジをお前如きが気安く使うなだって?仕方ないな……じゃ、またな……姉さん〜〜待ってくれー」

 

 ガーランドはココを追いかけた。

 そして時間が経ってイチゴが風呂に入った後、ノノも突撃。

 十数分後、イチゴとノノは二人揃って出てきた。ヒカルは慌てるも、すぐに落ち着く。

 ノノは、タオルを羽織ってしきりに顔を見せないようにしていた……イチゴ達も見ない、見られないようにしていた。……偶然か何か事情があるのかは祭里には見当が付かない。

 ただ、髪を乾かし終え狐のお面を被ったノノは、顔が隠れても分かる程不服そうだった。

 

 「イチゴ、何したんだ?」

 

 気になった祭里は聞いた。

 

 「ギャグ風に体洗っただけだよ?」

 

 状況を説明してもらった。

 言われた通りに脳内シミュレーションをすると、おそらく「そういう」期待をして入ったノノにとって残念な結果となる。

 

 「マジかよ」

 

 まだ小学生ぐらいの子供相手には良いかもしれない……だが………

 

 「イチゴ君、あの年の女の子がわざわざ男の子と一緒のお風呂に入ろうなんて、理由は一つしかないじゃない」

 

 すずが祭里の思い至った事を先に述べてくれた。だが……

 

 「は?」

 

 そう言ってイチゴはすずに聞き返す。その時の眼光は、どんな妖よりも恐ろしかった。気のせいか、一瞬妖力を感じる程に……人が般若になる瞬間というものをまざまざと見せつけられたようだった。

 

 「……………ごめん」

 

 気圧されたすずは、それ以上の言葉は言わなかった。

 

 「おい」

 

 そんな状態の妻を見て、引き下がる訳にはいかない祭里であった。

 

 「嫌な事があったら聞くぞ」

 

 「あなた方に言っても何も変わらない」

 

 イチゴの返答に思う所はあったが、それ以上の言葉は引き出せないのでやめた。

 そして、時間が経ちみんなが寝静まった後……本題に入る。

 

 「すー」

 

 祭里は二ノ曲と合流後、寝ているイチゴに近づき、風車を一つ、口に挿し込んだ。

 

 「本当にこいつの中に巣食ってるのは人妖なのか?異魂(負の残留思念の凝り固まったもの)が取り憑けば体が不調を起こす筈なんだが」

 

 以前、祓忍組合へとある報告があった。

 「ユウキイチゴ二アヤカシアリ」

 詳しい状況を述べる前に、報告を行った祓忍は死んだ。

 人の纏いきれない量の異魂に取り憑かれて死んだそうだ、偶然として片付ける事はできない。

 だが、近辺でその祓忍がストックしていたと思しき異魂を発見。その祓忍の管理ミスによるものとし、イチゴへの対処も有耶無耶になっていく。

 程なくして、志葉家にいるとの連絡が入った。

 憑かれた際の症状が見られない事、未だ他の黒子に被害なしという事で向こうの気の迷いなのではと見逃されていた。

 

 「正直分からん、ポ之助が狙われた時は人妖の特徴を見せていたが……異魂の反応はない……タイプは自然発生型だな」

 

 だが、式鬼が被害を受けた今、見逃す理由はない。

 

 「それはそうと早いところやった方が良いんじゃないかな?主人格がイチゴ君そっちのけであなたを襲う前に」

 

 「祭里……祭里……ジュルリ♡」

 

 数日とはいえお預けがあった、ご飯を食べた後の力が有り余った状態故か、臨戦状態……今にも獲物を捕食しようとする獣の目をしていた、イチゴの検査の事を言って留まってもらっているが、それも後何分、何秒保つか……?

 

 「おう、そうだな(汗)」

 

 祭里はイチゴを改めて見下ろす。

 

 『あなた方に言っても何も変わらない』

 

 イチゴの呟きが祭里の頭の中でこだました。

 何があるのかは知らない……だが……

 

 「何か変われるよう……祓ってやるぜ」

 

 祓忍法・不浄吸扇

 

 イチゴの口から、人ならざるものの念が吸い出される。

 

 「よし!!」

 

 「ちょっと待て」

 

 吸い出されて出てきたのは、大きな火の玉。

 鬼火の妖か?

 

 「火か……俺にとって最悪の相性だな」

 

 火は風を巻き込み、強くなる。風は巻き込まれるから、火に引っ張られる。

 

 「ならば下がってろ、俺だけでやる」

 

 「冗談」

 

 「タイミングは合わせる」

 

 「OK!!」

 

 二人同時に、攻撃する。

 火の玉から炎が消え、謎の玉が出現した。

 これが本体か?

 

 「これは……」

 

 すると………

 二ノ曲の前に、二人の美女が一糸も纏わずに現れる。

 

 「おい……何故風巻がまた女に、そして弥生も出てくる?」

 

 過去に女体化した祭里、そして二ノ曲の妻が出てきた。二ノ曲は赤面し、目を塞ぐ。

 

 「昔の俺だな」

 

 確かに目を開いてよくみれば、女の祭里は背格好が昔のまま……二ノ曲が最後に見た姿のままだった。

 妖の術である事は分かる、当時……最新の二ノ曲の記憶を再現しているのだろう。

 そうと思えば、やることは一つ……ではあるが

 

 「あなた♡」

 

 「先輩♡」

 

 他の女であれば容易いが、かたや自分を伴侶として選んでくれた人、かたや自分が好きになってしまった相手という……卑怯な人選のせいで、術と断じる事はできても対処の段階に入れない。

 

 「こいつ……」

 

 「先輩!!」

 

 祭里は、在りし日の自分自身を攻撃した。

 ある意味自分自身への攻撃が一番やりやすいか……

 すると斬られた方の祭里の腕から、勢い良く血が噴き出た。

 実物ではない……が、今までの妖にない反応で斬った方の祭里は困惑した。

 女の祭里は倒れて動かなくなる。

 妖の策である事はなんとなく分かる……

 弥生が語りかける。

 

 「切れる?あたしは生身の人間だよ?」

 

 二ノ曲の心臓の鼓動が、加速する。

 頬の皮を薄くとはいえ、人の肉を斬った感触がその言葉を聞いた瞬間鮮やかに蘇った。

 妖を斬る時とは違う、しっとりと刃が血と肉に沈み込むような重さ。

 祓うという行為から逸脱した、むしろ穢れを増やす行為。

 

 「俺は……」

 

 『そ こ だ』

 

 鎖が床から生え、二ノ曲を拘束する。

 

 「先輩!?」

 

 無事かどうかを確認するも、頬に時計のマークが貼り付いてあるだけで、うんともすんとも動かない事しか分からない。

 強力な金縛りで、止められているのか?

 

 「よくも……よくも、ヤヨの姿を利用したな!?風苦な……」

 

 弥生が消え……次に出てきたのは大量のすず。

 

 「祭里♡」

 

 普段着のすず。

 

 「祭里♡」

 

 エプロンのみを着たすず。

 

 「祭里♡」

 

 妖巫女ではなく、神社の巫女装束を着たすず。

 

 「祭里ーバッキュン♡」

 

 カウガール、すず。

 

 「お注射いっくよ~祭里♡」

 

 ナース服のすず。

 

 「逮捕しちゃうぞ♡祭里」

 

 婦警のすず、手錠を持っている。

 

 「祭里♡」

 

 シロガネっぽいきぐるみを着ているすず。

 普段のすずの行動のせいか、何かのプレイの一環にしか見えなくなってきた。

 

 「わあ……すずが、いっぱいだ〜!!」

 

 本当の出来事であればパラダイス……頼めばやってくれる気もしなくない。

 

 「あっちに行こう?」

 

 だが、本物偽物関係なくそんなにたくさんいるのはマズい。経験上言える事だが……一人二人ならまだしも、十数人もいる。さすがに相手にできそうにない。

 

 「おい、CEROを引き上げるな」

 

 すると、別方向から祭里の腕が、強く引っ張られる。

 

 「つ〜かまえた♡」

 

 一際強く香る、嗅ぎ慣れた甘い匂い。そしてこの積極さ、疑うべくもない。今握ってきたのが本物のすずだ。

 

 「待て、すず……まだあいつを祓うのが」

 

 「もう……待てない♡待たなくて良いって、イチゴ君も言ってたから」

 

 もうタイムリミットが来た事を確信した。

 

 「マジか………優しくしてくれよ、人いるんだし」

 

 「……………」

 

 景気付けと言わんばかりに唇と唇の激しく触れ合う音が、家中にこだました。

 その音声をよそに、かなでは絶句した。

 相手にとって困る状況、強く出られない状況ばかり再現している。友達のタヌマロと似たような妖術だが、妖力のキャパと練度はまるで違っていた。

 結界という楔なしにそれを再現している。

 対象、手段、オンオフを即座に切り替えられる。

 加えて第三者である筈の人物を巻き込む……もとい頼る事を躊躇しない狡猾さも併せ持っている。

 危険といえば危険な部類に入る。だが今、身を守る以上の事はしていない。以前接触したイチゴに似た妖とは違う形なのか、それとも……

 一旦捕獲に切り替えて様子見にしようか、決めあぐねていると玉からビームが放射され、窓ガラスに当たる。

 

 「窓ガラスに、何を!?」

 

 窓ガラスに、映像を浮かばせていた。

 破壊されている訳ではないのでかなではホッとしたが、そうは言ってられなくなった……

 その映像は…………

 端的に言えば人と妖が、殺し合う場面が映っている。

 

 『オオーウ!!』

 

 提灯の形をした妖が人に体当たりを仕掛けている。

 何がそこまで虫も殺せないような彼らを駆り立てているのか、妖には異様に目に力が宿っており、目だけで人に危害を加えられそうな程に。

 

 『散れ!!このもののけ!!』

 

 腹を立てた人は鉈を持ち、空を斬る。

 そのまま妖に当たらない事を祈り続けるも、やがて捕まって両断された。

 

 『コノヤロウ』

 

 命の消失、それに呼応するかのように妖は徒党を組んで、人に襲い掛かる。

 

 『コイツめ、コイツめ!!』

 

 ゆるキャラに位置する者達が多いとはいえ、それでもカマイタチやら、人を傷つける手段はあるものが多い。

 

 『グワーッ!!』

 

 その悲鳴が、人間達を呼び寄せる。

 

 『いたぞー!!』

 

 さらに人間の大軍が押し寄せ、妖を倒そうとする。

 

 「やめて!!」

 

 前回見た時はまだ、『痛快な復讐劇』という体に収まるような妄想を見せつけられただけで終わったが、今回は違う。その時に言い含められた時に感じた不安、それを増大させられる気分だった。

 

 「どうして……こんなひどいものを見せるの?」

 

 返答はない、力を制御できないのか?それとも………

 急に、声が聞こえた。

 

 『イメージして』

 

 返答のつもりだろうか?その妖は話を続けた。

 

 『人も妖も、触れてはならない領域というものがある。自分や周りの誰かが攻撃されれば黙って見ている訳にはいかないんだ』

 

 「……そういう事か」

 

 何を伝えたいのかははっきりとは分からない……が、とにかく悪いイメージを連想させたい様子。

 

 『あ、こっちの方が良かった?』

 

 「え……」

 

 新しく、祭里が出てきた。

 

 「ちょ……」

 

 「かなで……好きだ」

 

 屈む祭里から、優しく抱擁を受ける。

 

 「あ……」

 

 術で翻弄された二人を見た後なのに、拒めない……それどころか喜びすら芽生えた……

 すずの一部として産まれたかなで、原初の想いは同じ、しかし目線は違って、考えにも差ができる。まっすぐ好きな人のところに飛び込める自分(すず)と、その様を見守ってしまう自分(かなで)。元からそういう目的で分けた心の筈だったのに……

 

 『君はすずの一部であると同時に、別個の意識……心を備えた人間だ』

 

 すずが受ける愛を、自分にも、一人のかなでとして注いで欲しいのだと付け加えた。

 

 『原初の想いは共に同じ、なら見てるだけで……満足できるかな?』

 

 この妖は相手の心にあるものを抽出、都合の良いように弄り放出する天才、嫌、天災だとかなでの中で結論づく。

 だがしかし、それが分かったところで抗える術はない。

 自分を包める程成長したその腕が居心地良く、とろけそうになっていく。

 

 『そうだ、その想念に、君だけの激情に、身を委ね……』

 

 その時、祭里の偽物に紙で折った鶴が、突き刺さる。

 

 「おいたが過ぎる子は……こうだよ」

 

 妖は、うんともすんとも言わない……が、かなでに対しての干渉をやめたようだ。

 

 「助かった……」

 

 「どういたしまして」

 

 妖の術で出てきた祭里の分身を見たすずは閃く。

 

 「祭里が転がってる……はっ」

 

 生命力を与えれば動くかもしれないというのと、祭里を増やす妄想をしているようだ……

 

 「妖の術だぞ、俺じゃねえ」

 

 「それもそっか……さ、祭里……続きしよ♡」

 

 「…………おう」

 

 以下、描写不能。

 

 〜現在〜

 

 「神速を繰り出す人体を拘束して封じる、風に有利な火を出す……そしてあの幻……」

 

 ハレンチなものばかりで印象を薄めてきたが、自分達に不利になる一手ばかりを打つ強敵だった。

 

 『それ以前の問題だ……何をためらっていたのだ、俺は……』

 

 「まあ、俺は幻でも、先輩が俺やヤヨを斬らなかったのを見てホッとしてるよ……ヤヨだってそういう筈だぜ」

 

 『それだけではない、先日……』

 

 二ノ曲は十臓の件の事を話した。

 

 「マジか……」

 

 『単純な強さもそうだが、あの感触は人のものだった……あの血を見た瞬間……悪党である事に違いはないというのに寒気がした、己の不甲斐なさを痛感している』

 

 「まあ良いじゃねえか、やれなかったのはあれだけど、だから最悪の結果が起きてるって訳じゃない、なら今悩んでてもしょうがねーよ………………それができてしまえたら、俺達は俺達でいられなくなる……だから、そこで留まれて良かったと思うのは……ダメかな?」

 

 『そうだな……そう考える事にしよう』

 

 二ノ曲の言葉から、肩の荷が下りたような、そんな印象を受けた。

 

 「もし次会ったら負けないようにしようぜ」

 

 『……その後、妖の様子は?』

 

 「消えたよ……多分、アイツの中に……不浄吸扇を吸わせねえ限り、表に出てくる事はなさそうだ」

 

 朝になって妖と、その術はいなくなっていた……が、イチゴからすずの魄力を少し感じるとかなでが言っていたので、多分イチゴの中に戻ったと見るべきかもしれない。かなでは祭里を見て、終始顔を赤らめていた。

 

 『そうか……』

 

 「あれ……なんなんだろうな?」

 

 名前も知らない妖。

 ただ、イチゴの中にいる。イチゴの中に入り込んで違和感なく溶け込んでいる。

 インチキじみた妖術を出せる。

 おそらく対象は一人だけだが、触れずとも人体に干渉ができる。

 

 「すずについてく方が良かったかな?」

 

 『すずと恋緒に関して心配はいらんだろう……すずは敵対するつもりはないし、恋緒も深入りはしないだろう……俺達と違ってな』

 

 祭里はともかく、二ノ曲がへばっているのは昨日、イチゴの外へ引っ張った祭里達の自業自得だろうか?だが、自衛目的で祓忍を◯す、◯せてしまう奴を放っておく訳にはいかない。

 それにしては……妖術のキレと、造形、パワーが不釣り合いに見えた。

 単純にそういうものと見れば良いのかもしれない……が、報告にあった祓忍を亡き者にできるようなスペックがあるという風にはとても思えない……

 

 「アイツ……まだ本調子じゃなかったのかもな」

 

 『どういう事だ』

 

 「昨日落ち着いたすずが言ってたんだよ、『私がこの前見た時は、イチゴ君そっくりそのままでもっと強そうだった』って……」

 

 『なるほど…………厄介だな……後その話題を頻繁に出すのは止せ』

 

 「あ、すまねえ」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第17話 おもちゃ屋へGO!! Cパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは


 イチゴはシミュレーターにて絡繰機人・測型なるものを用い模擬戦を行った。

 敵も全て同じ型、色だったが量産機で戦ってると思えばやりやすい。

 近づいて、ゆっくりめになるが左右のラッシュを叩き込む。一機撃墜。

 

 「お見事、ですが前に出すぎです、囲んできますよ」

 

 四方を絡繰機人に囲まれ、徐々に距離を詰められた。

 

 「なら……」

 

 イチゴは腹部の手裏剣を射出。

 床に数発ばら撒き、こけさせる。

 一機身動きが取れなくなったところ、すかさず近づき、ラッシュして撃墜。

 その瞬間、ロケットパンチが数発、飛んでくる。

 一発直撃。

 その攻撃に乗じ、ロケットパンチの勢いに身を任せ後退……距離を取る。

 

 「攻撃後に反応……やはり、祓忍として修行を受けてきた人程の反応速度はないみたいですね」

 

 「……………あの人達と同じ括りにしないで?」

 

 距離を取ってから時計回りして、機会を探る。

 恋緒が動かしてる訳ではないらしい、同じ軌道を描いて追いかけるか、手裏剣を撃ってくるのみ。

 早く済ませたい。

 手裏剣を拾って持ち、斬りつけて撃墜。

 

 「おお……これは」

 

 残り一体……

 

 「最後だし……えーい」

 

 アッパーカットで絡繰機人を吹っ飛ばす。

 すぐさまロケットパンチを射出、飛んでいく絡繰機人を掴む。

 同じタイミングで足を使ってジャンプ、敵の絡繰機人に乗っかる。

 地面とイチゴの操る絡繰機人の二重の重みによって、絡繰機人に大ダメージ、そのまま撃墜。

 イズナ落とし(もどき)、極まった。

 

 「終わったよ」

 

 桃太郎と戦ってきたためか、量産型の絡繰は最初から敵ではなかった。

 それでも「集中」してなければ危なかったが……

 

 「これ反応速度が合わなくて祭里達には不評なんだよね……『遅すぎ』って」

 

 確かにずんぐりむっくりな体型の問題か、機体の敏捷性の問題か……敵味方両方動きがUFOキャッチャー並みにゆっくりで、高速戦闘にはついていけない気もする。忍としての戦闘に慣れていればどうしても『見えているのに対応できない』状態になる。

 

 「今回の成績は、後でフィードバックしておきますね〜〜〜あ、テストは合格です」

 

 「おめでとう」

 

 「息子が思ってた数十倍上手かった件について」

 

 「最後の攻撃が良い感じでしたね……運動性能のアップに期待が持てそうです」

 

 称賛を聞いていると、少しだけ自分を良いものに感じられた。

 イチゴは少し嬉しくなった。

 

 「………」

 

 ヒカルはともかく、ノノが何か言ってきそうだと思ったが何もない。

 違和感を感じ、イチゴは声をかけようとした。

 

 「みんな……終わった……」

 

 「うう……」

 

 ヒカルが泣いていた、滝のように流れるその様を見て男泣きとはこういうものかとなんとなく思った。

 ついでにノノもその勢いではないが涙ぐんでいる。

 

 「どうしたの?」

 

 「イチゴ……様、御二人の話を聞いていると……ついですね」

 

 「幾年(いくとせ)に渡る想い、お話を聞いて感じ入りました」

 

 「?」

 

 「お兄様もお聞きになってください」

 

 ついでにイチゴも、歌川画楽と、比良坂命依の身の上話を教えてもらった。

 そこに美柑も加わる……

 要約すると……彼にとっては悲恋、彼女にとっては悪霊に至るまでの出来事。

 来世の肉体を狙って、祭里達と敵対した事。

 そしてなんだかんだで、今に至る……という話をしてもらった。

 

 「悲しい話ですね」

 

 美柑はそう言う……

 

 「人間を滅ぼすという事は……私達もですか?」

 

 「ノノ様……もしそうであれば、私の後ろへお逃げください……グス、復讐を掲げる者の一念を前に、我らなぞ無力……なれど、その炎にノノ様を巻き込む訳には」

 

 「今はしないよ、ていうか話聞いてそんな風になってる君達を襲えないじゃん」

 

 「うふふ……」

 

 すずはその言葉を聞いて、嬉しそうに笑った。

 

 「何か」

 

 「命依、変わったなって……」

 

 イチゴからしてみれば、顔色とか、雰囲気とか、言われなければ幽霊の類と気付かないような……生きてる人間みたいにしか見えない。変わるほどの何かがあるようには思えなかった。

 だが……当事者がそう言うなら、そうかもしれない。

 

 「そうなんですね」

 

 「イチゴ……仏頂面のまんまでいないで、感想言ったら?」

 

 「では……また同じような事があっても大丈夫ですね」

 

 「!?」

 

 「え?」

 

 名声を手に入れた、それに比例して力を増した。

 力が無いから、水害の人柱として沈められる好きな女の子を助けられなかった。

 であれば、今なら?今同じシチュエーション………人柱として死ぬ運命の誰かを前にすれば?

 どうする?歌川

 

 「オレが歌川先生であるなら、転生後の命依さんの力になる事と……その力で同じような悲劇に遭う誰かを救う事に同じぐらいの意義を感じるのではと思いました。少なくとも、体はそう動く筈です」

 

 それが、後悔を身に刻むという事だろう……

 

 「……………」

 

 投げかけた言葉が予想外だったのか、目を大きく開け……俯く。

 

 「画楽君……」

 

 だがしかし、すぐさま顔を上げて笑顔で両手を叩く。

 

 「あっはっは!!さすがだ、さすがだよ……」

 

 何が流石なのか……イチゴは不気味に思った。

 

 「でも、そういう状況はあの時以来見ていない」

 

 「そうですか」

 

 「それで良いんだよ……あんな事はない方が一番だ……人が人を贄にする事、大勢で一人の人間が死ぬよう見守る事、誰かの大事な人がまた一人消えていく事なんてね」

 

 「……………」

 

 イチゴの言葉が引き起こしたのか、湿っぽくなってしまった。

 言葉が過ぎたと、反省するしかない。

 

 「……………ヒカル君、何か書けた?」

 

 すずがその空気を壊してくれたのは感謝しかない。

 

 「どうぞ」

 

 彼が描いたのは、下半身が魚となり……人魚と成った比良坂命依。

 

 「題目は人魚姫……お話を聞いてつい……インスピが加速して」

 

 たゆたう水の中で悠々と泳ぐ彼女の姿、そこには人柱として沈められた彼女を知る誰かにとって、どんな存在でいても無事であって欲しいという希望が込められている。

 逆を言えば、これは彼女にいなくなって欲しいと願った誰かにとっては絶望そのものだろう……彼女は不滅となったという認識を、否応なく刻みつけられる事になる。彼女が沈められた川、当時の文明レベルならまだたくさん利用するだろうし。

 

 「画楽君」

 

 何かを期待する目線を放っていた。

 

 「待っていてくれ……ヒカル君への返礼をしてからにしたい」

 

 水の中、そして魚の大群を描いている。

 

 「それは……」

 

 「昔見た情景さ、これを君に渡したい」

 

 「身に余る光栄、ありがとうございます」

 

 「ヒカル君、今回はもうこれでおしまいでいいかな?」

 

 「分かりました……キングへの道は遠い」

 

 ヒカルは、戦いを終えて疲れ切ったかのように椅子にもたれた。

 

 「はい、お待ちどう様………」

 

 恋緒から万能工具を返された。

 

 「イチゴ君の武器に我々の武器によく使う術式を施しておきました……前より切れるようになったと思います」

 

 早く終わったようにイチゴは感じた、喫茶店でパスタを頼むのと同じほどの時間しかかかってない気がした。

 

 「どれどれ……」

 

 イチゴが試し切りの台を探すと恋緒は禍々しい色の負念の塊をだしてきた。

 

 「異魂です、どうぞ」

 

 「ありがとう」

 

 イチゴは万能工具を振り下ろした。

 すぐ異魂とやらは真っ二つになる。

 勢いのまま、みじん切りにした。

 もう形は保てないだろう……

 確かによく切れる。

 

 「おお……ありがとうございます」

 

 「では、伊賀崎家の件、よろしくお願いしますね〜」

 

 恋緒はそう言ってイチゴにピースマークを向けた。

 

 「……………」

 

 イチゴもピースマークで返す。

 特に意味はなく、おはようと言われておはようと返すのと変わりはない。

 

 「………」

 

 「ノノちゃん?」

 

 「おば様……私とていつかあれ以上に成長するので、見ててください」

 

 「うん……分かった」

 

 成長したところで、イチゴがノノの事をどう思うかには関係ないだろうが。

 

 買い物も終わり、おもちゃ屋を出る。

 

 「またのお越しを、お待ちしております」

 

 〜帰り道〜

 

 「キングにはなれなかったが見てくれ、直筆のサイン入りの絵をたっぷりもらったんだ、父様に、母様に、妹に、爺様に、他の人達にも土産ができた」

 

 絵画素人には分からないが、価値あるもの揃いなのだろう。

 

 「大丈夫?事実上タダで手に入ったみたいだけど」

 

 沙姫の父にまで会った事はないが、そういういかにも美術的価値の高そうな逸品は高い金を出して手に入れる事に意義を感じていそうなイメージはある。

 

 「…………ありのままを話し、納得してもらう他なく…………」

 

 ヒカルが満足して渡すのが一番だろう、決して価値がない訳ではないし……

 

 「一枚ミミお姉様へのお土産にしてはいかがです?」

 

 ミミ……王と王妃の娘なので、ノノの姉になる。

 

 「なんだよノノ藪から棒に」

 

 「実はミミお姉様と婚約者候補なんですよ、ヒカル」

 

 「そうなの?」

 

 あり得るだろう……

 顔馴染みではあるし、イケメンである。

 王族ではないが大企業の御曹司なので地球の中では地位のある方、デビルークの親衛隊隊長の息子という事もあって実力もある(と思う)、少なくともナナシ連中は生身で倒せる。

 身体の型が同じなのも良い。

 ララの婚約者候補の中には、宇宙人だからかすごい見た目の奴が多いと聞く。

 例えば、アリの姿をしたリア星の王子とか………がいるかもしれないとイチゴは恐怖した時もあった。

 もし、イチゴ達の父親でなく、イチゴの想像したような婚約者と結婚して子供が産まれたら、そいつはデビルーク人とアリのハーフになる。アリまでならトゥーン化して脳内で処理できるがハーフになるとどうなるか想像もつかなく恐怖しかない。多様性もへったくれもない。

 

 「実はそうなんです、イチゴ様」

 

 「へー、姉さんをよろしくね」

 

 「……あはは…………」

 

 ヒカルは苦笑いしつつも、話を変えるようこう付け加えた。

 

 「実は先程聞いた伊賀崎家といえば話すタイミングを逃していた事があるのですが」

 

 「?」

 

 ヒカルの言うには、小狼(シャオラン)達の探している羽根の手がかりが見つかったそうだ。

 

 「本当?」

 

 「伊賀崎家の人が何かを知っているらしく、モコナがめきょっとなっていたようで、その線でいけばもう俺達がでる幕はなさそうです」

 

 何故かは分からないが、モコナはサクラの羽根が近いとめきょっとなるそうだ……ゴールは近い。

 

 「今までも充分よくしてくれたって彼らなら言うよ、オレからも……ありがとう」

 

 志葉家とは別に、天条院家は無関係の人間の相談に乗ってくれた。

 世界で四人、そしてモコナ……強くはあるけど、世界の中で生きるにはそんな人数では不安だらけだろう……

 

 「母様にも、イチゴ様がそう仰った旨、伝えておきます」

 

 伊賀崎家の人に会う事になったし、モコナにまた会えるのではとイチゴは思った。もう羽根を見つけて別の世界に行ってたら叶わないだろうが……

 

 「イチゴ……」

 

 美柑に呼び止められた。

 

 「?」

 

 「聞いてみたかったんだけどさ……」

 

 美柑の声が、うわずっている。

 シリアスな質問がくるという確信を得るには充分すぎる程だった。

 

 「何?」

 

 「イチゴさ……何言われたの?」

 

 ズボシメシの一件の事を言っている。

 聞かれないで済んだら、どんなに楽だったか………母さんのせいだと、言えたらどんなに楽だった事か……

 

 「あ……それ私も聞きたかったです」

 

 ノノまで話に入ってきた。

 黙って逃げ切る事はできなさそうだ。

 

 「……………………」

 

 「教えてくれなきゃ、分かんないよ」

 

 「母さんが想像してる通りだよ」

 

 やっとの思いで、口に出せたのはその一言。

 

 「?」

 

 ノノには分からなかったようだが、美柑には察しがついたらしい。

 

 「………………ごめん」

 

 心外な程に沈痛な表情で美柑は謝る。

 

 「気にしないで」

 

 そう、美柑は昔からの望みを叶えただけ。

 イチゴがそれに賛同できずにいる……言ってしまえばそれだけの事なのだ。

 

 「だから、放っといてよ」

 

 どうしようもなく……認められない。そんなイチゴがいたところで、美柑の……みんなの重荷になるだけだろう。

 

 「…………」

 

 「ダメだよ、イチゴ君……そんな風に言わないで、お母さんなんでしょ?」

 

 何も知らない人がそれを言うなと、美柑のやった事を添えて言ってやろうかという考えが浮かぶ。

 その女は、血の繋がった兄と…………

 そこで、頭の中で反芻したきり……口の先から出てこない。

 

 「どうしたの?」

 

 「すずさん、イチゴ様は実は反抗期を患っておいでなのです……しかも完治する見込みはない、分かってやってください(小声)」

 

 「あ、ごめん」

 

 微妙に誤解を招く発言だが、補足する気力もない……

 

 「イチゴ!!」

 

 昔から聞き慣れた声に、動悸がした。

 

 「お父様!!」

 

 リトがやってきた。

 この星の、この田舎町でも問題なく過ごせるようなスーツ姿で。

 ノノ、ララ、美柑とくればそう来ても別におかしくはない。

 

 「体はもう大丈夫なのか?」

 

 「うん」

 

 「そうか……良かった……急に倒れて、いなくなって、心配したんだぞ」

 

 自分にそこまで心配される価値があるのか、イチゴには分からない。

 

 「ごめんなさい」

 

 「いい、いいんだ……それより話したい事があるんだけど」

 

 「話す事はないよ」

 

 「数年ぶりに会ったんだし、こっちも聞いてみたい事が」

 

 「ないんだ」

 

 冷淡に言ったつもりだが、その分感情が出てしまった……

 

 「頼まれ事があるんだ……早く行かないと」

 

 「イチゴ……」

 

 「オレがいない方が良いでしょ……お互いに」

 

 「そんな事ない!!」

 

 リトはイチゴを抱きしめる。

 

 「イチゴだって大切なんだ、いない方がいいなんて思ってない!!俺が王様だからこうなるっていうなら……俺は……」

 

 「やめてよ!!」

 

 イチゴはそれをふりほどく。

 

 「そうなるからオレがいない方がいいんだってなるんじゃないか!!」

 

 「お兄様!!」

 

 思う事はある、だが……リトが王をやめれば解決する話じゃない……イチゴだってリトとその彼女達がずっと平和に暮らして欲しいと思っている。だがそこに自分がいるべきじゃない。イチゴのために、リトの王様としての云々に支障をきたす事、それが嫌だった。近くにいられると……そればかりを気にしてしまう。

 

 「こい、カイ!!」

 

 カイを呼んだ。

 一目散にカイの中に隠れる。

 

 『皆様揃い踏みですね……会いたか』

 

 「そうだ、だからこれ以上オレをここにいさせるな……(小声)」

 

 一人だけならまだ当たり障りなく応対できる、だが両方来た今……精神がもたない。

 

 『みんな降りてこいとそれぞれ言っておりますが』

 

 「自分の使命を最優先して、今がその時なんだ」

 

 カイはおそらく、『イチゴを守る』ために作られている。だから、今イチゴの削られていく精神を守ってもらう。

 

 『しかし……』

 

 カイは尚もイチゴの要望を渋る、確かに眼の前にいるのは優しい人達ばかり……だがイチゴには約3名、受け入れられない人間がいる。

 

 「ならオレが動かす!!」

 

 レバーを握った途端、すずを追いかけてきたであろう命依達が身構える態勢を取る。

 何がそうさせるのかはイチゴですら知る由もない……が、退散だ。

 

 『マジです?』

 

 「マジだ」

 

 「イチゴ!!」

 

 リトとモニター越しに目が合う……

 彼を見ていると、自己嫌悪で心が侵食されていくのをはっきりと感じる。

 

 「イチゴ……」

 

 美柑とも目が合う……

 これ以上ここにいると、何を言うか分からなくなる。

 

 「では……お元気で」

 

 カイに乗って、東京へ出発した。

 

 「お兄様……」

 

 「イチゴ君……」

 

 「あんなにバッサリいかれるとは、思ってなかったな」

 

 「うん……」

 

 「年月で済む問題じゃないって事でしょう、陛下」

 

 「………………そうだな……嫌がれるので……逃げるので済んだだけ成長した……のか?」

 

 「え……あれで?」

 

 「何よ?あのロボ……プレッシャーだけなら五行仙達より上じゃん、ねえ……画楽く……」

 

 「………………」

 

 歌川は冷や汗をかいていた。

 

 「大丈夫?」

 

 命依は現代に蘇って以降、まともに彼が汗をかく場を見たことのない。それだけヤバいのか……

 

 「ああ……」

 

 そして、こう付け加える。

 

 「想定以上だな」

 

 「イチゴ君……心配だね、ノノちゃん」

 

 「大丈夫です、お兄様が向かう場所は既にホームページで見つけました……折を見て突りにいきます」

 

 ノノはすずにスマホを見せてきた。確かにアロハシャツと麦わら帽子を被った年寄りの男がホームページを開いている。

 

 「あ、本当だ」

 

 「それより、お父様……お兄様と何があったのですか?」

 

 「………………」

 

 言われてリトは黙り込む。

 

 「アハハ、なんて言おうか、出てこないな……」

 

 美柑に目配せをしても、同じような反応ばかり……

 

 「?……二人共……変ですよ?」

 

 「ノノ様、人は口が重くなり語れない事があるのです」

 

 「………そうですか」

 

 「…………………」

 

 「どうしたの?すず」

 

 命依がすずに聞いた。

 

 「イチゴ君そっくりのあの子……どこ行ったのかなって」

 

 「知らない、前に会ってから音沙汰ないし」

 

 「え?どういう事です?あ……すいません、自己紹介が遅れました、結城リトと申します……息子と娘の件、感謝します」

 

 リトはすずに挨拶を交わす。

 

 「あ、どうも……」

 

 「それで……そいつの話を聞かせてください」

 

 命依は、イチゴにそっくりな妖の話をした。

 妖に関わりのある家系ではなさそうだった、だからその能力の話は省いた。

 代わりに、品定めするような……なめまわすようないやらしい目つきで見られた恨みつらみが主流になったが。

 

 「俺も……いえ、私も歩いているところを見ました……歌川先生と絵を描いたのもその方なのでしょう」

 

 「さっきも思ったけどそれ……多分イチゴとは関係ないと思う……ヒカル君は忘れてるかもしれないけどイチゴは絵を描くのが苦手なんだよ、だから率先して絵を描かないの」

 

 「なんだって!?」

 

 歌川のメガネがヒビ割れた。

 

 「それは……克服させねば……」

 

 「女の子をそんな風に見るのができるぐらいなら、俺達はもっと一緒にいられたんだ……」

 

 「陛下………!?」

 

 電子音がした。ヒカルは、スマホを手に取る。

 

 「父様経由か……そろそろ戻ってこいと大臣の人が」

 

 「……マジか、早いな……ノノ、帰ろう」

 

 ノノは、一旦帰った方が良さそうと思い、リトの言葉を承諾する。

 

 「仕方ないですね」

 

 〜日本 某所〜

 

 辿り着いたそこは、かつて国があったとされる場所……

 もはやその面影もなく、ただの道路と化している場所……

 

 「さてと」

 

 それっぽい名前を彫った木彫りの像を掲げた。

 すずという妖巫女の存在は、様々な知識を与えてくれた。

 折神という、命のパッケージを。

 折って形を与える事で、込める命にどういうものという方向性を加えていた。

 妖という存在からしてみれば当たり前だが方向性を定めれば、何にでも化けられるかもしれない。

 邪馬台国、その治世の当事者である視点。

 神の位に当たるものは記憶の持ち越しという形で命の枠を飛び越える、奇跡だ……そんなものを、信仰次第で生み出せるという。

 強力な手足が欲しい、なれば強い妖を捕まえねばなるまい。

 強い妖は、現代からは現れないが……現代まで生きている。

 必然、有名どころの存在を探すしかない。何百年先まで語り継がれるような………

 いるいないは問題じゃない、信仰とは共通認識が生み出す力、いると思われていればそう思う人間達の手で基型は既にできている。

 後は器を作ってかき集めれば良い。

 テストケースにするものは……すずの原点である壱与と同じ時代にいたとされる

 

 「集え……かの国と争った、クナ国の王……クコチヒコ!!」

 

 〜翌朝 東京〜

 

 「待ち合わせ場所はここかな?」

 

 イチゴは多少ふらふらしつつも、伊賀崎家の人との待ち合わせ場に着いた。

 衝動的に飛ばしたせいか、いつの間にか夜が終わって朝焼けが見えている。

 

 『なんでリト様と一緒にいただけでそんな風になるんですか』

 

 カイはステルス状態を続けながらも、イチゴに質問してきた。

 

 「聞いてない?」

 

 『その辺あまり』

 

 「……教えない」

 

 『えー!!今の、教える流れでしたよね!?』

 

 「…………………仕方ないな……………子供ってのはさ………親が道を選んで、選んで、選びまくったその先にいるんだよね……」

 

 選べなかったのもいるかもしれないが、それを言い出すとキリがないので省略。

 

 「反対を言えば、親がそれまで選んだ道を、子供は辿れない」

 

 何を思って、今に至るのか……

 どんな望みを抱けば、それができてしまうのか………どんな挫折を経て、どんな達成感を経て、どんな葛藤があって……

 そこがすっぽり抜け落ちて、結果だけ享受させられる。

 

 「辿れないから分かりっこないんだ……それを選ばせた親の激情なんて……嫌、ついていけないの間違いかな?」

 

 『意味が分かりません』

 

 「だよね」

 

 『今の話で分かったのは、イチゴ様がワガママでララ様達を困らせてるという事です』

 

 「……そうかも」

 

 『しかしご安心を、私はそんなイチゴ様をお守りするために作られたのですから、あんまりな命令以外ならいくらでも付き合います……感謝してくださいね』

 

 「……………ありがとう」

 

 一通り話しきると、紙飛行機がイチゴに向かってきた。

 そのままイチゴに衝突、はらりと紙飛行機は地面に落ちる。

 イチゴは紙飛行機を拾った。

 幼稚園児がイチゴの方へ向かっていく、おそらくこの子が投げたんだろうと察する事ができた。

 イチゴは屈み、紙飛行機を手渡す。

 

 「お兄ちゃんが邪魔しちゃった、ごめんね」

 

 「ありがとう」

 

 その幼稚園児は、先生の所へ向かう。

 イチゴはその子を見守るように、目線を子供に向け続ける。

 先生と思しき人物の隣に、丈瑠がいた。

 

 「殿様」

 

 「イチゴ」




いかがでしたか?
面白いと思っていただければ嬉しいです。
イチゴ君はその……思春期の入り始めぐらいに両親の関係知って拗らせたキャラという事でそこの所よろしくお願いします。
ラストニンジャルートを歩まねば(使命感)


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断章 ある妖の記憶

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
この話は、中盤以降主人公関連のネタバレで構成されております。スパロボな部分はこの話の終盤になりますので、気になる方はスクロール、頼みます!!


 ある暑い夏の日の事だった……………しかし、未だ盆に入ってもいないので、これからしばらく暑さが続くであろう現実にげんなりする。

 私の事は、狼のAぐらいにでも思って欲しい。色々あって故郷のみんなと死に別れ、残された私は一匹、当てもなく人の世を彷徨っていた……一匹狼という言葉があるが、群れあっての一匹だから何か特別感があるのである。一匹しかいないとなるとただただ寂しい……そんな私は、旅先にて彩南町(さいなんちょう)と呼ばれる町に立ち寄った。

 ここは人間と別の星からきた人間の交流が盛んなようで、とにかく人の移動が多く、夜も光に溢れていた。もっと閑静な環境……田舎の方が我らにとっては住みやすいが、恩恵もある。たまにやってくるのだ……外つ国のみならず、別の星から我らと同じ存在が……

 岩石、植物、動物、靴下、絵本の登場人物、珍獣……

 一目だけでは、背も似たり寄ったりで分かりにくいものの、近くにいると気の流れがこの地のものと違う事を感じ取れた。

 別れた後、人の負念の塊に襲われた。このような都会ではたまに見かけるが、田舎は古くからの因習などの概念が熟成され、まろびでるように産まれた人間でいう生ゴミみたいな妖などもいるので良し悪しといった所……そのような妖に限って、そこに住む人間の意識に関わる事だからと祓忍なる人間達は何もしてこないのでそういう所はすぐに見切りをつけるに限る。

 幸い、弱い類のものであるため、爪で引き裂き、なんとか撃退できた。報酬代わりとして、その日は駆けつけた祓忍のお世話になった。主従契約を結ぶ事を提案されたが、何故か気が乗らず、私は去った。毛づくろいは上手かったのに……何故だろう?

 この町で語り草となっている人間は二人いる、その一人……要注意と貼り紙に描かれた人物を次の日実際に目にした。

 年寄の男で髪が一部欠け、狸のごとくでっぷりした肉体を持ち……瞳の見えないメガネを着用して、うら若きおなご、美しきおなごを見てすぐに欲情し走る様は……自分が言うのもなんだがケダモノのごとしと形容できる。

 淫気にあてられているのではと疑わずにはいられないが、驚くべき事にその男は何かに憑かれてはいない。その者の素……という事になる。

 軽く蹴散らされている分、野盗などより遥かに無害と言えるが。

 気を取り直して歩いていると現職の王が、病院の敷地にいた。

 わざわざ住処から出張るのはよほどの理由があるに違いない、すぐに話を聞いた。

 身重の女性から、強大な妖気を感じるという。女性自体から妖気は感じない……産まれる子供が原因だと結論づく。

 仲間として迎えるか、対処にあたるか……

 見極めねばなるまいと、王は言った。

 一つの場所を仕切る王の言葉、軽く扱えるもぼではない、だのにそう言わせるのは何者か気になった私は、その参列に、混ざらせてもらった。

 内心、いざその時が来るまでは私も王もウキウキしていたのではないかと思われる。妖気を持つものは大抵、どこからともなく生えてくるものであって、母の胎内から産まれてくるものは極めて稀だった…………………それだけではない、新たな妖の誕生、それには何よりも勝る喜びがあった。

 人間は、いつの間にか城のごとき威容を放つ、平べったい建物ばかり建造するようになった。良い悪いは個の判断に任せるが、壁を伝って登れない。

 仕方なく、鳥の妖の力を借り、空から立ち合う事にした。

 既に出産は終えていた、後は産声をあげて鳴く顔を見るだけ……

 赤子を見た瞬間、確かに王の言葉通りだった事を知る。

 人間と同じ体をしている………

 人間と同じ産まれ方をしている……

 だが、しかし、感じる気配は妖の持つそれだった。しかも……既に多大な信仰も得ている、それも完全な負念一色……この赤子が、お前達に何をした?と思念を送る奴らに問いただしてみたくなる。今まで見てきたものの中で類似しているものと言えるのは物語の悪党として産まれた妖しかいない。

 妖は一度そういうものとして形成されれば、在り方の矯正は困難……この赤子は、人の世に……自分達に災いをもたらす存在となるのは確定だった。

 王のいる方を見る、まだ赤子、可哀想だが世の安定を望むならここで手を打たねばならない。だが既に王は跪く姿勢を取り、微動だにしない。

 王が跪くという行為の意味は一つ……

 新たな王の誕生、この瞬間を表す言葉にそれ以外のものはない。

 この赤子が長じて、我らを支配しようと、おもちゃにしようと、根絶やしにしようと、この辺一帯の妖ではまず勝てないという事だろう。

 であれば立ち会えたのも何かの縁、この王が誰かの役に立つ(隣で生きていける)道を模索しなければ……それが一匹ぼっちになってしまい、仇も討てぬまま今もこうして生き続けている私の生に意味を与えるものと信じて……後祓忍の誘いを蹴った理由という事にして……手始めに、妖力を体の内に留める術を刷り込んでおかねば……カタチは人間だから、ほぼほぼただの人間になる筈だ。

 考え込んでいると、御母堂と目が合った。

 若い女性で……頭の留め具が気になるのもそうだが……近づいて跳ねたくなりそうな程に料理の匂い……念が手に染み付いている。

 視えるのに別段不思議な事はない……子を宿している間、人は霊感が強まるものだ、いつか我らの王となるものを産む大業を成した御方なら、当然ですらある。

 そんな御母堂は、私と目が合うと、驚きつつも、王と、頭を下げる私に対して微笑みかけてくれた。

 

 「ほら……イチゴ、ワンちゃん達が、イチゴが産まれたのを祝いに来てくれたよ」

 

 そう言う御母堂の目は、語りかける言葉とは裏腹に、悲しみに満ちていた。

 子供について、ただならぬ気配に気づいているのだろうか?もしや……ただならぬ出生の事情があった?

 詮索を試みようと思ったが、美柑と呼ぶ声と共に先程の男……王の父らしきものの影が見えたため、その場を後にした。

 よく見れば、男はこの町の語り草となっている人間の一人だった。結城リト、その昔、ゆく先々でおなごにハレンチな行為をしていた野郎とかどうとか……既に赤子に対しての信仰の下地は整っていたという訳だ。それだけで容易に妖としての力を持てるかは疑問だが……

 旅をしている時は今日と明日の事しか考えられなかったが、今からは明日の先が、思い描けそうだ………

 その日の夜、夢を見た。

 夢に広がる光景は夜、明かりが多いから多分都会の上、

 

 『これがオレの答えだ』

 

 青年の呟きと共に、黒く丸い巨人の背から、多数の腕が生えてくる。青年の御母堂に似た顔立ち……赤子の成長した姿?

 増えた腕の数だけ刀と鞘、剣を持ち、巨人のマスコット的な顔に反して威圧的な雰囲気を押し出していた。

 青年は詠む。その巨人の名を、感情を押し殺したように抑揚のない声で。

 

 『カイ=アンサー』




 いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
 妖怪が想像から産まれるなら、惑星中のみんなからこいつはこうだと見なされたら……
 ロボの進化系の名前は本編でたどり着く気がしなくなってきたので載せました。無理矢理過ぎたような……過ぎないような……


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ラストニンジャルート
第11話 輝くイチバンボシ Aパート


許されよ 許されよ
一年近く経ってからあのネタに乗っかる事を
許されよ


 11話を出すにあたり、スパロボZが誇る嘘つき共に茶番を繰り広げてもらった。ちょっと長い中断メッセージ的な感覚で、どうぞ

 

 僕達は嘘つきその1

 

 ???「どうも皆さん、スパロボ界の完璧で究極のアイドル(大嘘)ことアイム・ライアードです」

 

 アサキム「まず生を受けてからのたまうがいい、君が覚醒し、動くのは千年も先だ(メタ発言)」

 

 「嘘と言えば私、アイドルと言えば嘘、であれば私こそがアイドルであるという事は証明されたも同然なのです、アイという名を刻んでいるのもその証(キラッ☆)、瞳の星も開眼済みです」

 

 なんと彼の瞳には、右の碧眼に黒星、左の紫色の眼に白星が宿り、輝いていた。

 

 「……(無言の知りたがる山羊起動)」

 

 アイムの瞳の星を地へと落とした。

 

 「プロデューサー、僕は……僕はできるんです!僕は最強で無敵のアイドルなんです!あああああ!!い、嫌だっ僕は本当はっ」

 

 「君の嘘は不幸しか産み出さない……もっとも、僕もその罪過を被らねば先に進む事もできないが」

 

 本編開始……

 

 〜御門邸〜

 

 『やめとく、私が行ったらイチゴ……また……』

 

 また……その言葉で、フラッシュバックが起きる……

 

 『なんでオレ……産まれてきたの?』

 

 子供の言っていい言葉ではない……だが、一度絶望した心に何を言っても響く事はなかった。今も……デビルークから、彩南町から、彼を見知った者達から遠ざける事でしか、解決を見いだせずにいる……

 

 「じゃあ、仕方ないか……」

 

 『私、もう休憩終わるから……ガーランドによろしく言っといて』

 

 美柑は電話を切った。

 

 「…………イチゴ……俺の事は良いからそろそろ母さんを許してやってくんないかな」

 

 〜????〜

 

 「羽根の収集は順調ではないか」

 

 飛王は、月日は多少経つのに未だ羽根を入手していない小狼(シャオラン)達の動向を見た。

 

 「はい……」

 

 「そうか……良い、力は与えたが早く済むとは思っていない」

 

 やはり……もう少し、羽根を集めるための人員を増やす必要があると飛王は判断した。

 

 「そうだ……そろそろ、あの者も成長しているな」

 

 飛王は、別室にあるものを見つめる。

 メガネをかけた、黒髪の男の遺体……死の直前の姿を拾い、そのままに保存しているためか、白衣が今でも血で赤く染まっている。

 魂の行方は掴めず終いだったが、それでも餌として十分以上の働きを期待できる。

 

 「アイドルを揃えられなかったのは痛いが……最低限の用意はできた。これを目にして首を横に振れる筈はあるまい、証明させるのだ……願いが、禁忌すら越えるという事を」

 

 メガネをかけた黒髪の男を見ると、クロウ・リードの面影を感じ、実際に似ているかどうかはさておき対抗心が沸々と湧き上がってくる…………

 

 〜東京 某所〜

 

 「ハッ」

 

 体中をまさぐられるような悪寒に、眠りについていたのも覚めてしまった。

 辺りを見回すも、怪しい奴はいない。

 

 「変な声出さないでよお兄ちゃん、今夜中なんですけど……」

 

 今の挙動で妹を起こしてしまったらしい、すぐに謝った。

 

 「ああ……すまんルビー」

 

 「大丈夫?アクア、子守歌歌おっか」

 

 「もうそういう年じゃない」

 

 「じゃあ、私にお願い!!」

 

 もうすぐ高二になるというのに、臆面もなく母親に甘えられる妹が羨ましいような、そうでもないような……

 

 「はーい、じゃあ一曲行っちゃいまーす」

 

 朝になれば、会場に行かなければならない。なのに夜中に歌ってもらうのは、悪い気がするが、断れる訳もなく………

 医者として生きて幾年月……なんやかんやあって死んだ男は、それまでの記憶を有したまま、生前推していたアイドルの子供として生まれ変わった。

 推しのアイドルが輝く様を近くで見ていられる喜びを噛み締めている一方、漠然とした不安はある。

 一般的に言って、数奇な運命を辿っているとは自覚してはいる。何故そうなったか……はこの際どうでも良い……そうなった自分は何をするべきか……やるべき事……それが見えない。大抵そういう奴には何かしらの使命、役割があるような気がするが、アクアにはそれが見えない。

 ある意味、楽で贅沢な悩みかもしれない……それはそれで、一つの目的に縛られずに自分のやりたい事を選べるから。母となったアイドルを推すか、その道を追いかける妹を支えるか、はたまた……

 

 翌日……

 〜東京 武道館〜

 

 「ここが武道館ですか……」

 

 小狼(シャオラン)達は、羽根を探しにライブ会場に辿り着いた。

 

 「そうだな」

 

 黒鋼は月刊誌をめくりながら呟く。

 今尚話題沸騰中のアイドル『アイ』と見出しには乗っている、SNSのフォロワー数などは小狼(シャオラン)達にはちんぷんかんぷんだったが、それだけたくさんみんなに愛されているという事はよく分かった。

 

 「ドキドキ」

 

 「ワクワク」

 

 「だね〜」

 

 サクラの羽根の今現在の持ち主がライブ会場にいれば棚ぼたという試算でやってきた。

 モコナが勢いでポチり、運良く団体分のチケットをゲット。

 千明の話によると、ライブのチケットを入手するのは、遊園地の予約をする行為の遥か上、雲の上をいく難易度、チケット一枚でもファン同士で骨肉の争いとなるのは必至だそうだ。

 

 「サクラちゃんのおかげだね〜〜〜」

 

 サクラは別の世界で、「神の愛娘(まなむすめ)」と表される程、運に恵まれていた。

 

 「みんなと行きたかったね」

 

 「仕方ねえだろ、あいつ等はあいつ等の使命があんだ」

 

 チケットを頼む前に、シンケンジャーのみんなに確認を取ったが断られた。

 丈瑠はバッサリ、千明と茉子はそんなに興味がなさそうで、ことはは惜しみつつもやんわりといった感じで……

 流ノ介の言っていた事が特に印象に残る。

 

 「外道衆の知らせ次第で、いつ抜け出すか分からない私達のために用意してもらう必要はない……楽しみにしている方々にその分届くよう私は願いたい」

 

 元々歌舞伎役者の流ノ介、その辺りのこだわりが強いのか、普段よりキリッととした表情、声色になっていた。

 

 「人がいっぱい……早くいこー」

 

 「うん……あ」

 

 進もうとした先で小狼(シャオラン)は、銀髪の男とぶつかってしまった。

 

 「す、すみません!!大丈夫ですか?」

 

 「大丈夫です、ええ」

 

 男は笑みを浮かべ礼儀正しく応じる、だがその笑顔にどことなく胡散臭さ、嘘臭さを感じるのは何故だろう……

 

 「あ……どうお呼びすれば……」

 

 「私の名前は、アイ……」

 

 アイ……あのアイだろうか?

 

 「あなたがアイさんですか?おれ、あなたのステージを楽しみにやってきました……その……」

 

 男は、小狼(シャオラン)の言葉に多少の動揺を見せつつも、それを肯定する。

 

 「ええ……その通り、私がアイです(嘘)」

 

 だが黒鋼は、小狼(シャオラン)の肩をガッシリ掴んできた。

 

 「落ち着け小僧、アイは女だ、女なんだよ、こんな銀髪のすかしたおっさんじゃねえ」

 

 そう言って、雑誌の巻頭を見せる。

 アイは紫の長髪で服、そして腰の曲線部分から女の人と判別できる、今眼の前にいるアイとは似ても似つかない。

 

 「え?」

 

 「その通りですとも、ええ……彼女は私などと違い、嘘や欺瞞とは無縁のアイドル(大嘘)」

 

 「じゃあ、本当の所はどうなんだよ」

 

 黒鋼の言葉に、男はにっこりと笑顔で答える。

 

 「私はしがない嘘つきの妖精です、アイム・ライアードとでもお呼びください」

 

 「アイ……なるほど、アイ違いか」

 

 どうも早とちりらしい、小狼(シャオラン)は謝った。

 

 「アイを知らないとは……ここにやってきた人間の語る言葉とは思えないですね」

 

 「実は……」

 

 小狼(シャオラン)は探し物がある事をアイムに話した。

 

 「はあ……なるほど、あなたの望みは、アイのライブそのものではなく、ライブのためにここに立ち入る事にあるのですね。いけませんいけません、あなた達がいただいたチケットの分、手に入れられず嘆く方がいるというのに」

 

 投げかけられた言葉は正論の塊で、小狼(シャオラン)達に返す言葉は無かった。

 

 「す……すみません」

 

 「シッそろそろ始まります、急いだ方がよろしいかと」

 

 確かに時間が少し迫っていた。

 

 「アイを知らぬというなら一度見ておくとよいでしょう、数多を魅了する大いなる星をあなたは垣間見る筈です。虜になってはいかが?」

 

 そう言い残してアイムはどこかへ消え去った、まるで使えと言わんばかりにペンライト2本を残して。

 

 「急ぐぞ」

 

 黒鋼の言葉で、やるべき事を思い出した小狼(シャオラン)は会場内に向かった。

 

 〜三途の川〜

 

 今日も、太夫の三味線の音色が、三途の川に響き渡ってドウコクの気を沈める。

 そんな中……一人のアヤカシが現れる。

 

 「おう、伯父貴」

 

 その名はカガミツキ……

 あらゆるものを自分の体の鏡面で映す、そんなアヤカシ。

 

 「見てくれ、伯父貴……アイドルって奴だ」

 

 「ああ?」

 

 アイが歌って踊る一連の映像がカガミツキの体に散りばめられた鏡面に映る。一つ一つの鏡面が途切れているため、アイの細部などが……見にくい。

 

 「嘆きとしちゃ悪かねえが、足りねえな……そんなんで太夫の三味線をかき消そうとすんじゃねえ────!!」

 

 ドウコクの怒号がこだました。

 実際に雷も交えた、強力なものを。

 カガミツキは追い出された。

 

 「ヒーン!!」

 

 おふざけ6割で、泣きじゃくる。

 

 「お前さん、阿呆な事をしたね……あんなもん見せて何になるってんだい」

 

 「シタリか……まあいいや、もう一度見せるぞ〜いいか」

 

 性懲りもなく、シタリにアイの映像を見せる。

 

 「これがアイドルだぜ」

 

 「あたしゃね、外国の言葉にゃ詳しくないのさ……しっかし……見ない間に人間のやる事も変わったもんだね〜」

 

 シタリは太夫の顔をチラリと見る。

 人間の文化というものは、元人間の方がよく知っている。

 

 「ああ、あんなに大勢の前で声を張り上げて……よくやるもんさね」

 

 「だろ〜?」

 

 「まさか……これを見せるためだけに来たんじゃないだろうね?」

 

 「もし何の因果関係もなくアイがやられたら、そいつを崇めてた奴らはどう思う?」

 

 何の因果関係もなく……というのが大事、人間に襲われればあらぬ憶測で襲われて当然だとでもいう風にアイドルを攻撃しようという輩が出るだろう。しかし、化け物と位置づけられる者に襲われれば……人間達は疑いようのない不条理と、星であろうと地に這いつくばる人であろうと一律に降り注ぐ悲劇の存在により、悲しみと嘆きに包まれるだろう。

 

 「大量の嘆きをくれる筈ですぜ」

 

 「お、それならそうと早く言いなよ……で、やれるのかい?」

 

 「おうとも」

 

 「じゃあ行ってきな」

 

 〜ライブ会場〜

 

 人だかりでもみくちゃになりながらも、なんとかステージにたどり着く。

 

 「全員、はぐれてねえな?」

 

 サクラは小狼(シャオラン)にくっつき、モコナはファイの肩に乗っていた。

 

 「はい!!」

 

 「うん」

 

 「点呼は大事だね〜黒鋼パパ」

 

 「ね〜」

 

 「うるせえ……持ち物は無事だな?」

 

 「うん」

 

 「席は合ってるな?」

 

 「大丈夫〜〜〜」

 

 「羽根の反応は?」

 

 「ない」

 

 「マジか……」

 

 黒鋼は小狼(シャオラン)に目配せする。

 

 「アイムさんの言う通り、今はアイさんのステージを楽しみましょう」

 

 一番探したがってるであろう小狼(シャオラン)がそう言うのだ、一同鑑賞に徹する事にした。

 

 「始まるね」

 

 一つのステージを囲むように、大歓声が沸き起こる。

 どこを見ても、誰を取っても、同じものを崇め、"推し"ている。

 そしてその歓声はピタリと止む……代わりに、何かを待つ方向に切り替えたらしい……今か今かと周りの人々は息を呑んでいる。始まる、何も知らない小狼ですら、そう思わせた。

 何を?

 聞いても誰も答えないであろう。

 それをみんな待っているという共通認識の元、動いているのだから。

 今、灯りは点灯する。

 

 「オープン・ゲェット!!」

 

 一人の女性が、ステージに上がってマイクを片手に歌いだす。

 彼女の後ろで巨大な青いロボットがいて、守り神のようにその様を見下ろしていた。

 

 「「「「うぉー!!」」」」

 

 英語で何を描いているのか分からないが字幕が表示される。

 周りの人が、ペンライトを一生懸命に振る。

 

 「ふれ〜ふれ〜ア〜イ、ふれ〜ふれ〜ア〜イ」

 

 モコナもファンに混じってペンライトを振る。

 

 「黒ちゅん」

 

 「白饅頭にやらせときゃ良いじゃねえか、俺はしねえぞ」

 

 「す……すごい」

 

 「うん」

 

 圧倒された……人々の熱気もそうだが、アイと……他の人達の熱唱を聞いていると不思議と胸が熱くなる。

 

 「アイドル……プリメーラさんを思い出しますね」

 

 プリメーラは、異世界へと旅立って初めて訪れた国にいたアイドルだ……歌って踊れて美脚だとファンは言っていた。

 彼女のファンは、彼女が何かを言う度に歓声を挙げていたのを小狼(シャオラン)は思い出す。

 彼女は今も公表している好きな人、笙悟と愉快な仲間達……と一緒にいるのだろうか?

 

 「そうだね、いやーあの音大変だったな」

 

 色々あって彼女と戦った。

 もっとも、相手をしたのはファイだけだが。

 彼女は特殊な力を持っていた、詳しくは割愛するがその国ではみんな何かしらの特殊な力が宿っている。

 彼女の場合メガホンを構え、声を響かせる。

 その声は形になって物理的な攻撃になる、俗にいうコエカタマリンと同じ効果を持つ。

 

 「覚えてない」

 

 「そりゃあ、あの時のサクラちゃんは記憶がほぼない状態だったからね〜」

 

 旅の始まりだったそこではサクラも記憶を失くしたて、失くしすぎてあわや命の危機にまで及んでいた。

 無意識な行動もあったりなかったりで、小狼(シャオラン)達も焦った事もあった……

 

 「丸いメガネのおじさんぐらい」

 

 「ああ、あの人か」

 

 彼は蟹の力を使っていた……サクラを保護してくれていたような……

 

 「また行けたら良いですね」

 

 「そうだね〜〜〜」

 

 「おいしいもの食べたり、楽しい所に行ったりしよう。今度はサクラも一緒に!!」

 

 「うん」

 

 「おい、羽根探しはどうした!?」

 

 「可能性はなくはないんじゃない?ほら、秘妖(キイシム)の国みたいにさ……巧断の国があるかも」

 

 「そんなあるか分かんねえもん当てにすんじゃねえぞ」

 

 「黒りんつまんないの〜!!」

 

 「つまんないの〜!!」

 

 「つまんなくて結構だ」

 

 みんなのいるこの時間……不謹慎だが、小狼(シャオラン)にとってこの時間が楽しいものに思えた。




いかがでしたか、面白いと思っていただければ嬉しいです。
アイムの事は、気にしないでください……


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第11話 輝くイチバンボシ Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは……



 僕達は嘘つきその2

 

 「アイドル……それは民の希望……民の視線を一身に集めるもの……即ち、聖王たる余のオンステージである!!」

 

 「来たか……愛に生き、愛に散る王、ユーサー・インサラウム……だが君がアイドルを語るには、少々眩しすぎやしないかい?」

 

 「………………言う程だろうか?」

 

 「少なくとも、役割を終えた後ですら民は君を愛してくれるだろう……」

 

 「そうか……だがそうなるであろう私は、嘘をつかなければいなかった……まだまだ、心はあの時の意気地なしが抜けきれていない」

 

 「そんな君に、会わせたい人がいるんだ(拍手)……さあ、出番だよ」

 

 「我こそはマルグリット・ピステール!!」

 

 「シュバル・レプテールゥゥゥ!!推参!!」

 

 「……!!マルグ……シュバル、どうした?」

 

 「殿下、化粧で傷を誤魔化そうとしている時にアイドルなぞしている場合ではありません……実力行使でアンブローン様に診てもらいます」

 

 「やめろ!!マルグ……私は民のために立たねばならな……あ~れ~」

 

 「殿下ァァァア!!今はおやすみをぉぉぉおお!!この不肖シュバル・レプテール、あやつの下培った嘘で、陛下の大願の、橋渡しを勤め上げますゥゥゥ!!」

 

 「真偽も欺けない嘘、それしか吐けない者には厳しい世界だ……第一君の顔は一般受けしないじゃないか」

 

 1.・仇討ちのため、祖国の仇に取り入ろうとするも本音がだだ漏れ。

 2.・筋骨隆々で猛々しい感じではあるも、それ故に人を選ぶ。

 3・なんなら弟子の方がモテる。

 

 「確かになァァァァァァァァァア!!」

 

 本編、開始……

 

 〜武道館 内部〜

 

 だが……楽しい時間は、唐突に終わりを告げる。

 

 「!!」

 

 叫び声を聞き、会場内がざわめく。

 通路を通って、怪人が現れた……!!

 

 「いよう、弱い人間のみんな」

 

 黒ずんだ肉体に、鏡のように滑らかで鋭そうな破片が、至るところに刺さっている……一目で近づくのが危険に思えた。

 

 ザワ……ザワ……

 

 最初の数秒は、良くできた仮装とか、何かのサプライズなどの憶測の声が大きく……しかし、向こうが地面を叩き、ヒビ割れした瞬間それらは消え去り、悲鳴に変わる。

 

 「外道衆!?」

 

 ファンの一人が、外道衆のアヤカシに話しかける。

 

 「御宅はアイに何か用で?」

 

 「アイを亡き者にする、そうすればファン達の悲しみと嘆きで水を大量に増やせるって寸法さ!!」

 

 外道衆は、そう言ってファンに向かって己の拳を振り回す。

 

 「ギャー!!」

 

 そのファンは、一目散に逃げていった。

 当たってはいないので怪我の心配はしなくて良さそうなのが不幸中の幸いだが。

 

 「警備員はどうした!?」

 

 「ああん?ほらよ」

 

 外道衆の鏡に、倒れた警備員の姿が映っていた。

 

 「ああ……倒れてる!?」

 

 悲鳴が混じり、周りが何を言っているのか分からなくなってきたが、外道衆の言っている事は聞き取れた。

 

 「アイ、今からこのカガミツキが貴様の命をもらう!!」

 

 カガミツキと名乗るアヤカシは、アイに宣戦布告して、迫ろうとしている。

 

 「させない!!」

 

 人がたくさんいる、緋炎を抜いていられない。

 そう思った小狼は、観客席から飛び降り、まずナナシ連中に飛び蹴りをくらわせた。

 

 「何?わざわざ生身の人間が来るのか!?構わん、やれ!!」

 

 「ガヤー!!」

 

 「俺も行くぞ!!」

 

 黒鋼も加勢しようと息巻く。

 

 「その前に避難誘導だね……はーい、こっちだよ~」

 

 「皆さん、逃げてください!!」

 

 「ちっ仕方ねえな……こっちだ!!」

 

 黒鋼は多少乗り気ではないが、周囲に避難の案内をした。

 

 『はーい、ファンのみんな〜〜〜!!慌てないで安全を確保してね〜〜〜!!』

 

 「みんな、アイの言う通りだ……安全に帰るぞ」

 

 アイドルの呼びかけのおかげで、狭い通路、密集した場所でも案外スムーズに避難が進んでいく。

 

 「人間にしてはやるじゃないか」

 

 その間にナナシ連中は全員小狼(シャオラン)が蹴り倒した。

 トドメをさせてはいないが、しばらくは戦えない筈だ。

 アイ、そして小狼(シャオラン)達、アヤカシだけになったところ丈瑠がやってきた、既にシンケンレッドに変身している。

 

 「小狼(シャオラン)、遅れてすまん……助かった」

 

 突然の外道衆の襲来によって混乱に陥った警備員達の手を借り、丈瑠達は会場の中にすんなり入る事はできた、だが会場周りと会場内のド真ん中ではたどり着く時間にどうしても差ができる。小狼(シャオラン)達がライブの予約をしてなければ、素早い対応ができなかった。

 

 「いえ、戦いはこれからです」

 

 「なら引け……毒を出してくるような奴もいる以上、何をするか分からん」

 

 「…………分かりました」

 

 狙いはおそらくアイ……

 とアイに注視していたら、倒したはずのナナシ連中に攻撃されそうになる。

 

 「しまっ」

 

 「ハッ」

 

 茉子の掛け声と共に、ナナシ連中は斬られた。

 

 「皆さん!!」

 

 「待たせたな」

 

 「遅れてごめんな、小狼(シャオラン)

 

 「我々もいるぞ」

 

 他のシンケンジャー達も到着した。

 

 「観念しろ……外道衆」

 

 「待て!!」

 

 手を伸ばし、遮った。

 

 「アイドルのいる空間って、暑……水切れがここまで早いとは」

 

 確かに、アイと巨大なロボだけいる筈のこの場に注ぐ天井の光、アイの熱唱、ファンの声援が集った場で熱気があるせいか……今更ながら額から汗が流れて止まらない事に気づく。

 そう言って、カガミツキは水切れで去っていった。

 

 「マジかよ」

 

 戦いになり、怪我も多少覚悟してた分拍子抜けせざるを得ない。

 

 「避難誘導だけか……物足りねえな」

 

 「ですが……無事で済んだのは良い事です」

 

 〜武道館内〜

 

 撤退した後、シンケンジャーと小狼(シャオラン)達はプロデューサーの部屋に行く事になった。

 待っていたのはアイと、一組の男女。

 

 「あの人、かわいいなぁ」

 

 「推してる人のいっぱいいるアイドルだからね……あの人が狙われたんだ」

 

 まず名刺を渡された。

 名刺に書いてある名前は斎藤壱護と、妻のミヤコ。

 心なしかミヤコから、邪念を向けられている気がする……

 

 『はえ~男前、カワイイ、外国のイケメン、3人とも手足長っ、そしてちょっとチャラいけどむしろ善玉そうなイケメン、影があるけどイケメン、確か家の都合で突如舞台を失踪した歌舞伎役者……下手なアイドルグループよりヤバい集団じゃない……カワイイ子は隣の女の子ががっちりガード固めてるし年齢的にアウトそうだけど、それ以外なら……今まで社長(この人)についていって良かったー』

 

 と聞こえてくるような何かが透けて見えた。

 だが気にせずに小狼(シャオラン)達は自己紹介した。

 

 「アイを助けてくれてありがとうー!!嫌本当に感謝してるよ」

 

 ギャグ風に泣きながら小狼(シャオラン)に頬ずりしてきた。ところどころ伸びてる髭が、素肌に直撃する。

 

 「いえ、いても立ってもいられなかっただけなので」

 

 「嫌……もうちょっと自分を誇って良いと思うぜ?俺が君ぐらいの時は……て今でも怖いよあんなの……」

 

 小狼(シャオラン)とサクラは、この世界だと中学生という括りに入るようだ。彦馬から教えてもらった。

 

 「シンケンジャーの人達もありがとう!!」

 

 「いえ、外道衆と戦うのは我々の使命ですので」

 

 「そうですか……こんな会場の奥まで、ご苦労さまです」

 

 ドアをノックする音がした。

 

 「社長」

 

 「おう、アクア、入れ」

 

 「失礼します」

 

 社長の声に従い、もう一組……アイにそっくりな男女が入ってきた。どちらも紺色の……別の世界で覚えた、そう、制服……らしきものを着用している。

 

 「あなた達が侍って奴か」

 

 「マ……アイを助けてくれてありがとう」

 

 男の人の方がクールな雰囲気を放ち、女の人の方が逆に話しやすそうだった。

 

 「アクア、ルビイ、怖かったよー!!」

 

 「私も、アイが襲われたって聞いてつらかったよー!!」

 

 「怪我がなくて良かった」

 

 女の人の方が、アイと抱き合う。

 

 「とまあ、そんな感じでアクアとルビイだ」

 

 「シンケンジャーの皆さん……そして」

 

 「小狼(シャオラン)です」

 

 「黒鋼だ」

 

 「オレはファイ」

 

 「サクラです」

 

 「モコナだよ、よろしくな〜」

 

 モコナは全員と握手した。

 こんな奴初めて見るなと男は言いつつ付け加える。

 

 「この度はアイを助けていただいてありがとうございます」

 

 頭も下げてきたので、小狼(シャオラン)達は抑える。

 社長が話すタイミングを待ってられるかとばかりに性急に告げてきた。

 

 「改めてお願いがあります、うちの看板(アイドル)を守っていただけませんでしょうか?」

 

 「俺達も、そうさせていただければと思っていた所です。あいつを倒すまでの間、しばらくよろしくお願いします」

 

 外道衆はよほどの事がない限り、単独犯が殆ど……今回のアヤカシを倒せば、少なくともアイが率先して狙われる事はなくなるだろうと丈瑠は言った。

 

 「殿様、おれ達にも手伝わせてください」

 

 「……頼む」

 

 「ありがとう……本当に」

 

 八人と一人と一匹はアイの護衛についた。

 とはいうものの……改めて何かをする訳ではないので、事情を彦馬に伝える丈瑠を除いてしばらく雑談となった。

 小狼(シャオラン)はそれとなく羽根について聞く事に……

 

 「羽根か……知らないな」

 

 「そうですか……」

 

 「落ち込んじゃダメよ、他の所行って探しましょう」

 

 茉子が励ますのを見て、斎藤社長は首を傾げた。

 

 「つーか君達知り合い?」

 

 「ええ……そうですね……」

 

 「私達の先代が世話になった人の縁者という訳でして……」

 

 流ノ介が説明してくれた。

 異世界とかそういう話は混乱を招くとかで飛ばす。

 

 「強い訳だなー納得」

 

 「そういえば……社長もイチゴさんなんですね」

 

 「ほう……も……という事はこの俺と同じ名前の奴がいるのか、どんな奴なんだ?イケメンか?」

 

 「あなた……どうなんです?」

 

 ミヤコが興味津々で聞いてきた。

 

 「醜くはねえ……ただ、暗いな……プリン食った時以外ちっとも笑わねえ」

 

 「えー黒さがそれ言うんだ〜〜〜」

 

 「言うんだ〜〜〜」

 

 「うるせえ」

 

 いつもファイに弄られる時より声が小さい。叫んではならない場所だから、大声で叫ばないのか?

 

 「暗い奴か……ガキか、大人か知らねえが、暗いのは良くないな……一日一回は笑わねえと……うちのアクアもなーあんまり笑わねえんだよ」

 

 言われてみれば、確かに普段から無愛想にしてそうな雰囲気があった。

 

 「必要があれば笑うが?」

 

 「無くても笑うの」

 

 「今笑ってよ〜」

 

 「そうよアクア、あなたの笑顔をみんなが待ってるのよ!!」

 

 「無茶振りがすぎるぞ」

 

 「お兄ちゃん、ミヤえもんはともかくせっかくアイが頼んでるのにー!?」

 

 「賑やかやなぁ……」

 

 「しっかし……アクアか……」

 

 黒鋼が呟いた。確かに今まで知り合ってきた中では響きが珍しい、日本とは違う国から来たのか?

 

 「字で書くとこうだよ」

 

 アイが板にペンで書き始めた。

 愛久愛(アクア)(マリン)瑠美衣(ルビイ)………

 

 「か、傾奇者もかくやな文字並びだな……」

 

 黒鋼が困惑の表情を見せた。

 確かに、文字一つのために大仰な使い方をしている。

 

 「気にするなって、本人が納得してるならそれでいいだろう(小声)」

 

 「お、おう……そうだな」

 

 逆にファイは、褒めちぎった。

 

 「君達の名前って宝石なんだ〜良いね、その名前は君達のお守りになる」

 

 ファイの苗字はフローライト……蛍石という宝石から来ているらしい。

 ファイの言葉に、アイが一番照れくさそうだった。

 

 「アイ……落ち着け」

 

 社長がアイを抑えた。

 

 「二人はアイにそっくりですね?」

 

 特にルビーと呼ばれた方は、同性である分アイにそっくりな部分がよく分かる。

 

 「あ、ああ……まあな……こいつ達はアイの弟と妹でよ……3人とも俺とこいつの子供だ」

 

 「そっくりだと、よく言われます」

 

 年の離れた兄弟達……だが……社長とミヤコの面影はない……アイにも社長とミヤコの面影はない。

 名付け方のセンスも、アイと宝石では違和感を感じる。

 アイの反応からして、名付けたのはおそらくアイ……何故そうするのか?

 

 「終わったぞ」

 

 丈瑠が話に加わるか加わらないかの辺りで、小狼(シャオラン)は踏み込んだ言葉を言ってしまった。

 

 「てっきり、お二人はアイさんの子供かと思ったのですが」

 

 社長は飲んでいたコーヒーを吹き、ミヤコ、アクア、ルビイは驚いた様子を見せる。

 

 「ハッマズイマズイ」

 

 社長は慌ててコーヒーのかかった机を拭く……そして誤魔化せないと知って肩をすぼめた。

 コーヒーを吹かなければ子どもの勘違いで片付ける事ができたかもしれないがもう遅い。

 

 「……マジ?」

 

 「アハハ……バレちゃったか」

 

 「この事は何卒ご内密に……お願いします」

 

 「知られたらいけないんですか?」

 

 「独身で通してるのに子持ちのアイドルだなんて世間に知られたら」

 

 バッシングを受けるに決まっているそうだ。

 

 「何故……」

 

 千明が説明してくれた。

 

 「ほら……彼氏彼女のいる奴をさ、推したって振り向いてくれる可能性ほぼゼロじゃん?虚しくなるらしくてさ……推す気失くすみたい、ひどい時にはそれまで収集してたもん全部ポイしたりさ」

 

 「そんなの、ひどいじゃないですか」

 

 「やめろ、小狼(シャオラン)

 

 小狼(シャオラン)が身を乗り出したところを丈瑠は制止してきた。

 

 「お前があれこれ言って解決する問題じゃない……」

 

 異世界から来た人間がそういう、他人の観念などに絡んで良い事はない。特に今、デリケートな部分に直面している。

 

 「そうですね……すみません」

 

 「安心してください……俺達があなた方の秘密を暴露するという事は決して致しません……お前達も、いいな」

 

 「そうだぞ、千明」

 

 「分かってんよ(重すぎて何も言えねえ)」

 

 「そうね」

 

 「アイドルって、大変やなぁ」

 

 「俺……この人達の事が神々しく思えてきた」

 

 「私も」

 

 根掘り葉掘り聞こうとしてくるような人達とばかり接していたせいか、小狼(シャオラン)達の対応が新鮮に見えてくる社長達……無論、小狼(シャオラン)にその意図は分かっていない。




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
カガミツキの字は鏡+突きでございます。


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第11話 輝くイチバンボシ Cパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
これから十数行ぐらいスパロボZのネタバレが含まれておりますのでご注意ください。


 俺達は嘘つきその3

 

 「嘘つきの印の最後の繰り手である僕、アサキム・ドーウィンの番か……乞われたなら、道化でも何でもやり遂げよう」

 

 アドヴェント「確かに君なら存在自体が嘘であり、シュロウガの選んだ偶像であるから良い具合に動けるだろう……新たな役割を見つけた瞬間を見られて真に喜ばしい限りだ」

 

 「僕が……偶像……」

 

 己が何者か……それに目を向けなかった……あるいは向けられなかったから、「知りたがる山羊」があっても応える事はなかったのか……

 

 「もっとも……私が君を推す理由など何もないが」

 

 「アドヴェント……少々、その傲慢な口を閉ざす必要があるな」

 

 「事実しか口にしていないよ、私は……籠の中で利用される事しかできない矮小な小鳥に対してね」

 

 火花が生じる……

 

 「キャ──────みんな、こっち、イケメンが二人、睨み合ってる……イケメン過ぎて顔だけで映えそう!!」

 

 気づけば、女性がたくさん群がってきた。

 

 「ビジュアル系の人かな?」

 

 「光と闇のイケメン……」

 

 女性達が二人を囲み、黄色い叫びを挙げている。

 

 「興が削がれた……決着はまたの機会にしよう(CVミラーナイト)」

 

 「ああ……そうだな(CV我は究極生命体、アブソリューティアンの戦士、アブソリュートタルタロス)」

 

 「声も良い……」

 

 本編開始……

 

 「♪」

 

 社長のスマホから電話がなった……

 

 「え?」

 

 彼はすぐ応対に入る。

 

 「すいません、今ちょっとゴタゴタが……あ……はい、分かりました……」

 

 しばらく、そういう会話を続けた後、社長は電話を終えた。

 

 「無茶言うぜ、全くよー」

 

 聞こえなくなったのを良いことに愚痴を吐いた、次の公演の話だろうか?

 

 「スケジュール厳守だってよ、アイが襲われたっていうのに」

 

 移動とか色々ある。一旦解散し、社長が迎えの車を用意して彼らを迎える事になった。

 侍戦隊とて……四六時中アイドルとべったりという訳にはいかない。半分以上、男なのだから……

 

 「では、気をつけて」

 

 もうすっかり暗くなっていた。ライトなしだとキツい……という程ではないが、あるといい……ぐらい。

 

 「ありがと〜じゃあね〜」

 

 全員帽子を被ったり、アクアはフードを被ったりなどして変装した。

 

 「かけるもの変えっかな……」

 

 「社長はもうサングラス外した方が変装になりやすいと思うが」

 

 「それもそうだ……」

 

 「大丈夫か?俺達…………アイと一緒で」

 

 変装込みとはいえ、それでもアイドルと一緒に行動しているのだ。見つかって問題になったら……

 

 「弟達と一緒に帰る(事にしとく)から、問題ナシ!!(えっへん)」

 

 アイは胸をグーで叩き、大丈夫そうに言った。

 

 「(自信満々なアイかわいい)」

 

 「モコナもついてるから、問題ナシ!!(えっへん)」

 

 モコナもアイの肩に乗って、多分胸の部分をマスコットキャラ特有のよく分からない腕、多分グーで叩いた。

 

 「アイがそう言ってるんだから大丈夫大丈夫…………って、えー!?」

 

 「いつからだ?てかなんでそこにいる……?」

 

 「モコナが〜いた方が良いと思ったから!!」

 

 侍達がモヂカラなるものを用い、モコナを基点にワープする事になったらしい。

 

 「へーじゃあモコちゃんよろしくね〜〜〜」

 

 「おー」

 

 「よし、いこうぜ」

 

 社長が仕切って武道館を出ると、その先でカガミツキが待ち構えていた。

 

 「あら〜」

 

 防衛本能か、アクア達は息をしやすいようにマスクを外した。

 

 「どうやってここに」

 

 「人間とは机にロッカー、自動ドアという素敵なものを作ってくれるからな……隙間探しに事欠かなかったよ」

 

 「サインが欲しいなら並んでね……って聞く訳ないか」

 

 「モコナ……今だ、呼べ」

 

 モコナが口を開け、力を溜めるもうまくいっていない。

 

 「異なる力を使って空間を繋ぐから時間がかかるみたい」

 

 「マジか、じゃあ早めにな」

 

 挨拶して今まで、10分あるかないか……

 仮にもワープ穴を1から作るのなら、時間がかかると言われれば仕方ない気もする……

 

 「どこでもドアみたいにうまくいかないの?」

 

 「当たり前だ、あれは道具として手段も理論も確立しているからポンポン使える訳で……」

 

 「お兄ちゃん!!説明してくれてる所悪いけど……アイが危ない」

 

 カガミツキが……アイに近づく。

 

 「アイから離れろ!!」

 

 社長が、カガミツキに突っ込むも……

 

 「邪魔だ!!」

 

 「あー!!」

 

 斎藤社長は、星になった。

 

 「ちょっ迎えに行ってくるわ」

 

 ミヤコはその場を去った。

 

 「社長!!私、あなたの事、忘れないから……」

 

 「勝手に◯すな〜(遠くからの声)」

 

 「アイ!!」

 

 「逃げて!!」

 

 アクアとルビーは、モコナを渡された後、建物の中に押し込まれた。

 

 「あいつの狙いは私!!」

 

 「くらえ!!」

 

 「きゃあっ『私ガード』!!」

 

 アイは、自身の抱き枕(Yシャツと下着で構成されているもの)を盾にしてやり過ごした。

 

 「何ぃ!?」

 

 「あ、ビリビリにされた……やめて、私にひどい事する気でしょ?◯ロ同人みたいに、エ◯同人みたいに!!」

 

 「本人にしか使えない高級な手段じゃないか!?しかしあたふたするアイが良い!!」

 

 武道館内でアイが言われた事、今の情報を集計するに、この怪人はアイを推している……?

 

 「ルビー、ひょっとしてあいつ……」

 

 「あんな奴でも推してるんだね、やはりアイは最強!!」

 

 ある意味、同じ推しを推しているものとして、どこ向きかは分からないが鏡を見せられているように思える。

 

 「以降の接近は禁止だがな」

 

 だが……だからこそ、アイドルを推す者はある種の節度を備えていなければならない……それがアイドルへの礼儀だ。

 

 「私達で殺っちゃう?」

 

 「無理だ……パワーが桁違いすぎる」

 

 「冗談だよ、冗談……全速力であの人達呼ぼう?」

 

 「そうだな……」

 

 アクアは、ルビーとその場を引き返そうとする。

 

 「丸聞こえだ」

 

 ナナシ連中が、別の隙間から先回りして封じ込めようとしてきた。

 これでは彼らのところに行けない。

 多少入り組んでいるから時間がかかるというのに……

 

 「くそっ」

 

 最悪の光景が脳裏によぎる。

 腹部を貫かれ、血を吐き、倒れるアイ。

 何故思い浮かぶ風景がドアの前かはどうでもいい……

 元医者としての知識を活かせず、救えなかった……その場を見た訳でない筈なのに、そのイメージが湧いてくる。

 

 「あ……」

 

 徐々にアイに歩み寄るカガミツキが、衝撃の言葉を放つ。

 

 「◯んでくれアイ、人の母でなく、アイドルとして」

 

 「っどうしてそれを!?」

 

 アイのうっかりやミヤコの育児疲れによる情報のリーク未遂など色々綱渡り的ではあったが、アイが子供を産み、育てている事は秘密にして……できていた筈だ。ノーマークだった小狼(シャオラン)には見破られたが、彼らが敵対している存在にアイドルの個人情報を教えるメリットは存在しない。

 

 「お兄ちゃん!?」

 

 ルビーに口を塞がれた…………確かに今の慌て方では社長の事を何も言えない。

 

 「俺の体は特別でな……見ろ」

 

 途切れ途切れで見にくいが、カガミツキの体に、おそらくアイが赤ん坊のアクア達を育てている頃であろう姿が映っていた。

 

 「俺の体は全てを映す力を持っている、三途の川は今の事しか見れないようだが、俺は過去も映せるのだ」

 

 「(外道衆ってのがどういう奴かは知らないが、こいつが……嫌、こいつだけが今回の頭らしいな……こいつだけで本当に良かった……)」

 

 カガミツキは、おそらく誰かと組んで事を構える方が活躍する……どんな情報だってどこよりも早く知る事のできるその能力は、メディアなどが喉から手が出る程欲しがるだろう。

 鏡で見て、弱点を探られるような戦法を取られるような事はなくて良かった……

 だが、今絶望的な状況に変わりはない……

 

 「ステージの上で、人間に笑顔を振り撒くお前はキラキラしていた……子供と戯れているお前もとてもキラキラしていた……きっと、決して抱いた事のない感情に触れたからに違いないのだ……とても素敵だ、壊したい」

 

 外道と呼ばれていただけはあり、狂っている……普通なら推す理由を、そのままアイの命を狙う理由としてきている……

 

 「全てを晒してアイドルとしてのアイを殺すのもいいがしかぁーし、それでは三途の川の増え方がよろしくない。だからここで◯ね、清く美しい、人間の大好きな偶像のまま!!」

 

 「……」

 

 さすがのアイも後ずさりを始めた。

 

 「(今、アイは自分だけを見ている……良い……その、笑顔慣れしすぎて、本当は恐ろしくて仕方ないところなのについ出ましたというひきつった笑顔……とても良い……初めての感情だろう?これはぁ)」

 

 よからぬ事を考えているであろうカガミツキの注意を引きつけようと、アクアは石を投げた。

 

 「邪魔すんなよ〜」

 

 カガミツキには通じず、手で払い落とされた。そして、手下に抑え込まれる。

 

 「お前達も後を追わせてやるから」

 

 アクアにとって、自分の命はどうだって良かった、アイが生きていれば……だが、ルビーもここにいる。滅多な事はできない。

 

 「誰か……」

 

 「誰でもいいから、アイを助けて!!」

 

 その言葉に呼応し、小狼(シャオラン)と丈瑠が、モコナの口から飛び出てきた、そして、カガミツキの攻撃を止める。

 

 「なんとか間に合った……殿様!!」

 

 「任せろ、小狼(シャオラン)。はぁ!!」

 

 アクア達の周りにいるナナシ連中を蹴散らした丈瑠は、専用の携帯を耳にかけた。

 

 「流ノ介、場所は近くの交差点だ」

 

 『はっもう扉のモヂカラが尽きたので、走ってそこへ参ります!!』

 

 「分かった」

 

 「こちらへ」

 

 アクアより少し下の少年が、アイに避難を促していた。

 

 「貴様……非力な人間が何故アイを庇う」

 

 「人が人を助けるのに……それ以上の理由はいらない」

 

 「何……?アイドルだぞ!?アイドル……もう少し他に何かないのか?」

 

 「え………ないですけど」

 

 「ないのー!!」

 

 ルビーがツッコミを入れた。

 

 「コラ、アイの命の恩人だぞ」

 

 「強いて言えば、アイさんに何かあれば、家族が悲しみますから」

 

 「家族……アイドルには不要なものだ!!」

 

 「いいえ、アイドルだって人です……人がやってるんだ、人に必要なものは全部アイドルに必要だ」

 

 彼の物言いは、彼がアイを特別な星でなく、一人の人間……言い方をもっとひどくすれば、一般人と同じ優先順位である事を悟らせた。

 

 「では問おう、家族とは?」

 

 そしてそれ以上余計な事を言うなとアクアは考えた。アクア達の事は世間的にはアイの弟と妹で通しているが、小狼(シャオラン)は勢いで本当の事を言いそうに思えた。近くで聞いている奴はいない……だがもし、聞かれていたら?

 

 「母か?父か?それとも……」

 

 カガミツキが聞く度に、知らない人間の顔が映った。そういえば、アイの両親については調べる必要もないから調べておらず、知らない事だらけ……プロフィール的な部分しか述べられない。

 そして、彼は答えを述べる。

 

 「プロデューサーの人です」

 

 意外!!挙げたのは、斎藤社長。

 

 「ふん……一番売れるアイドルを、看板として起用してるに過ぎん」

 

 「さっき見て感じました……例え看板でも、アイさんが歌えるよう四苦八苦して……アイさんの活躍に泣いたり笑ったりして……それって家族じゃないですか!?」

 

 ドラマでありそうな解釈だ……

 

 「おれはこの世界で探さなければならないものがあります……大切な人の、大切なものです、だから、あなたが誰かの大切なものを奪うというなら、容赦はしません」

 

 小狼(シャオラン)は刀を振り下ろす。語った決意を示すように、その太刀筋は力強く、まっすぐだった。

 

 「はあああ!!」

 

 「があああああ!!」

 

 カガミツキの体にヒビが入った。切り口からパラパラと漏れ出た破片は名前の通り、割れた鏡のようだ。

 

 「やった!!」

 

 急に破片が、跳ね返ってくる。

 今さっきの砂粒のような大きさではなく、握り拳程の大きさを持つそれは容易に凶器になりうる。

 

 「鏡はな……衝撃を与えれば、飛び散るんだよ!!」

 

 流石に対応しきれないのか、彼の動きは止まっている……このままでは危ない。

 

 「閃竜・飛光撃」

 

 龍を模った気弾が飛び、飛び散る鏡を薙ぎ払う。

 

 「怪我はねえか!?」

 

 黒鋼達が到着したようだ……

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 「後はもうこいつだけだ」

 

 「早く終わらせましょう」

 

 「敵の特性は今さっき見せた通りです」

 

 攻撃に対して、受ける事によって自分の破片でカウンターを放つ。

 

 「後は俺達がやる、下がれ!!」

 

 丈瑠は巨大な武器を、銃のように構える。

 

 「烈火大斬刀・大筒モード」

 

 同じような格好をした四人は、彼の後ろで跪く。そしてオレンジ色のディスクをセットした。

 

 「兜・五輪弾!!」

 

 飛び散るガラスごと吹っ飛ばすような巨大な一撃が放たれる。

 カガミツキに命中した。

 

 「推しよ、お前は偉大だった……」

 

 カガミツキは爆発した。

 気を抜いてはいられない、今までのシンケンジャーの活躍のパターンから見て……奴らは巨大化する。

 

 「おお……推しがアリのようだ……潰すか」

 

 「いきます!!」

 

 小狼(シャオラン)は、多分ほのおタイプのロボットを呼び出しカガミツキを妨害した。

 

 「俺達もいくぜ」

 

 「りょーかーい」

 

 みずタイプ、そして緑のロボットが出てきた。

 

 「小狼(シャオラン)君……頑張って」

 

 サクラは小狼(シャオラン)の無事を祈るようにエールを送る。

 彼が何故、アイをただのアイとして見れたのか……その理由が、理解できた気がする。

 

 「うん!!」

 

 ほのおタイプのロボットは、剣を持ち、構えた。

 

 「折神大変化」

 

 侍達は、各々の式神を呼び出す。

 

 「侍合体」

 

 そして……合体した。

 

 「シンケンオー、天下統一!!」

 

 夜の中、巨大な武者達が揃った。

 ナナシ連中も、ビルからぬるりと増える。

 

 「こういうのなら……やりようはある」

 

 アイはスマホで誰かと連絡を取る。

 

 「準備はどう?」

 

 終わってるようで、アイはコクリと頷く。

 

 「二人とも……行ってきます」

 

 アイはアクア達に手を振った。

 

 「いってらっしゃーい」

 

 「あんまり無理するなよ」

 

 戦闘機が3機、こちらに向かってきた。

 

 「とう!!」

 

 アイはアイドル衣装になり、3機の戦闘機の内1機に乗った。

 

 「いっくよ~みんな!!」

 

 戦闘機が3機、アイの機体を前に一つずつ連結していく。

 

 「チェンジゲッター1!!」

 

 連結した戦闘機は、ロボットに変化した。

 名前は……アイがアクア達を出産してから拾って以降懐いてくるので、ゲットしたロボ……ゲッターロボとなる。

 どういう存在なのかは分かったものではない。

 ただ、そのロボットは、何故かアイだけが動かせる……アイにだけ体を預けている……それもアイの魅力という事だろう(思考停止)

 一風変えたパフォーマンスをする時に便利だった。

 

 「おまたせ、今から野外ライブの時間だよ!!」

 

 アイの声がロボットから聞こえる。

 

 「音響は任せて!!」

 

 「振り落とさないように慎重に行くよ!!」

 

 「ありがと〜〜〜!!私の歌を聞け〜!!」

 

 そしてアイは一曲歌い始める。

 

 「この歌声……」

 

 聞くとテンションが上がってくる。

 普段からアイを推している者には当たり前だが、そうでない相手にもアイの歌は人の心を元気づける。

 

 「アイの生歌だと!?聞かねば!!」

 

 ただしカガミツキも元気付いているので、ダメージを与えるのは小狼(シャオラン)達になんとかしてもらわなければならない。

 

 「ルビー、やるか」

 

 「うん、お兄ちゃん」

 

 二人はアイに捧げる、ヲタ芸を始めた。

 

 「モコナもやる〜」

 

 モコナも添えて

 

 「こいつは………」

 

 「気分もりもりやわ」

 

 「(うちの子きゃわー)」

 

 「はいはい、見とれてないで……いくよ」

 

 「はーい」

 

 アイの熱唱が聞こえる……夜とはいえ、まだ人が寝静まるような時間帯ではない。ギリギリ行けるからヨシ!!

 

 「アイ、楽しそうだね」

 

 モコナはヲタ芸を行いながら、呟いた。

 

 「昔はこうはいかなかったのよ」

 

 ミヤコが社長を雑に背負ってやってきて、モコナに昔の事を語った。

 

 「あ、お疲れ」

 

 昔はグループでやっていた。

 だが、アイのアイドルとしての才能は誰よりもずば抜けていた。

 百人に聞いて、一人アイ以外を挙げれば奇跡というぐらい……アイドルとして完璧だった程だ。

 それはユニットを組んでいた当時のメンバー達からすれば地獄のような環境と言ってもいい。

 どんなに気合を入れて歌っても、踊っても、誰も自分に注目してくれず、喝采を浴びるのは近くのアイばかり。嫉妬もするし、劣等感も湧く。

 

 「まあ、私だってするぐらいだもの……近くにいた()達からすれば……ね?」

 

 そしてその暗い炎が燃え広がっている事に気が付かないまま、アイへのいじめ、嫌がらせが横行し始めていく。

 

 「あの子は何も言わずに、笑っていたから気づかなかったわ……」

 

 辞めるのも時間の問題かもしれなかった時……

 そんな時、救いのヒーローが現れた。

 

 『ええい……ダメだダメだ、そんなものを抱えて誰かの推しになろうなど、天が許しても俺が許さん!!』

 

 突如現れたヒーローのコスプレを着た誰か……強いて言えば桃太郎もどきが、B小町のメンバー全員をどこかに連れていった。

 半日程で帰ってきたが、全員何かしらボロボロだった。だが妙にスッキリして、全員のアイドルというキラキラした仮面の奥底から時折漏れていたものが無くなったのが見えて、何も聞く事ができなかった。

 その日を境に、B小町のメンバーはアイを除いて全員アイドルを辞めた……

 

 「アイにやってた事もさんざん聞かされた時はドン引きよドン引き、夫も腹を立ててたし……でもあの娘達も本気ですまなそうにしてたから、引っ込めざるを得なかったけどね」

 

 そしてある意味開き直った境地に近いメンバーが去り際に言ったのは……

 

 「もうアイ一人で良くないですか?」

 

 セット売りでも、アイに目がいってどうせ他のメンバーが埋もれるくらいなら……

 また誰かが、アイに嫉妬してひどい態度を取るくらいなら……

 アイのアイドル力でゴリ押しした方が良いと。

 

 「そうなんだ……」

 

 「その話、ムカつくからやめてって言ったじゃん」

 

 ルビーがムカつくのは、最後には収まるとしてもアイがやられてる話になるからだ、アクアもキツい。

 

 「まあ……桃太郎もどきがいなかったら、もっと拗れてたかもしれないし……桃太郎もどきには感謝よ感謝」

 

 そのメンバーの内一人は、裏方、今アイが乗ってるロボの中にいる。

 どの面下げて……とは思うが、反省しているのは見てとれたのでそれ以上の追及はしなかった。

 

 「音響調節……いけるよ」

 

 今度は別の歌を歌い始めた。

 

 「さっきとは別種の力が!!」

 

 黒鋼は、一瞬でナナシ連中をなぎ倒していく。

 

 「いつもより力が出やすいな」

 

 「じゃあ、オレはあいつを縛っとくね」

 

 ファイの乗るロボが風を起こし、カガミツキの動きを縛った。

 

 「あの場にいたから見せてもらったよ、これでしばらくは鏡が飛び散る事は無い……殿様、やっちゃって」

 

 「殿!!一気に決めましょう!!」

 

 丈瑠はシンケンマルに兜ディスクをセットした。

 

 「ああ……兜折神!!」

 

 兜折神とシンケンオーが合体する。

 

 「カブトシンケンオー、天下武装!!」

 

 カブトシンケンオーとなったシンケンオーは、早速必殺技でやっつける気だ。

 

 「兜大回転砲!!」

 

 新しく装着したカブトの部分から、大量のビームが発射された。

 

 「お兄ちゃん、あいつって鏡なんでしょ?聞くの?」

 

 「当たり前だ……鏡じゃない部分だってたくさんあるし……」

 

 「葬式の曲は、決まった……」

 

 カガミツキよ、永遠に……!!

 

 「またね〜〜〜!!(キメポーズ)」

 

 「これにて……一件落着!!」

 

 その日はもう遅いので、事務所に連れていって休んでもらった。

 全員、色々あってぐっすり眠り込んだ……

 

 〜明朝〜

 

 「ちょっと良いか?」

 

 シンケンジャー達が帰る前に、アクアは小狼(シャオラン)に聞いた。

 

 「助けてもらった礼がしたい、探してるのは羽根だったな、SNSで聞くとか……」

 

 「いいえ……大丈夫です」

 

 サクラの羽根の話をみんなに聞いて回るという事は、サクラの羽根の起こした奇跡をみんなに知らせる事になるそうだ。

 

 「自分が取ろうってなるのは可能な限り避けたいからね~」

 

 「チケットみたいに奪い合いは良くないよね」

 

 「そうだな…………忘れてくれ」

 

 確かにアイの所属してる事務所……苺プロダクションのコネを使って呼びかけも混じえて探すのは、なんでもいいからアイと接点を持とうとする人達が虚言を言って撹乱する可能性もある。

 モコナが近づかなければ分からない以上、一つ一つの真偽を見極めるのは時間がかかる上に徒労になりうるのはわかり切った話となる。

 

 「また外道衆が来た場合は、駆けつけますので……これ……近くに置いといてください」

 

 隙間センサーの端末をもらった、外道衆襲来の際に役立つそうだ。

 

 「何から何までありがとうございます」

 

 「それじゃあ元気でね」

 

 「またね~~~~!!」

 

 モコナ達は、アクア達に向かって大きく手を振った。

 

 「またね~!!」

 

 ルビーも喜んでいた、アイにまとわりつく、男よりも有害な奴を撃破できた事が大きい。

 

 「社長」

 

 「ん?」

 

 「お父さんって呼んでいい?」

 

 「んーいいぞ、娘扱いするにはこっちが世話になりっぱなしだけどな」

 

 社長は声を出して笑った。

 

 「ミヤコはお母さん」

 

 「やめてよ、一気に老けた気になる」

 

 ミヤコは少々狼狽えた。

 

 「そうだ、アクアはあの子の顔見た?」

 

 アイはアクアに聞いてきた、おそらく小狼(シャオラン)の事だろう。

 

 「人を疑う事を知らなさそうだったな」

 

 だからこそ、そのままでいてほしいとも思う……

 

 「私が思ったのはね………………あの子は私を推す事はなさそうかなって」

 

 何かを言いかけて、別の話題に切り替えた。それが何かを聞くには、無理筋になる程完璧に。

 

 「うそん、未来の顧客が一人減った」

 

 「まあ……あんなかわいい娘が隣にいれば仕方ないわ(近くにいる人達ね、狙い目は)」

 

 「は?なにそれ……ちょっととっ捕まえてアイの素晴らしさについて語ってくる」

 

 「やめとけ……今回ばかりは、それでいい……学校に行く準備始めるか」

 

 アイに言わせるぐらい、特に小狼(シャオラン)の心にアイという星の光は届かなかった。好感度を稼ぎたいなんて、微塵も考えなかったに違いない。

 一種の敗北感と、納得感が湧いてきた。

 彼らだから……アイを守ってもらう事に不安を感じなかった。

 損得を抜きにして、危険を顧みず誰かを助ける。

 アクアは知っている。嘘のない感情で動く、嘘のような存在。

 それをヒーローと呼ぶ。

 アクアは眼を瞑った、幼少の時に見た、その極致と言えるものが鮮やかに脳裏に蘇る。

 

 『ワ〜ハッハッハ!!お前とも縁ができたな!!』




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
この世界線のゲッターロボは高千穂の特級呪物という事で……
前世の記憶と虚憶を両方インストールさせられるのってキツそう(小並感)


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第12話 ブライド・エマージェンシー Aパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
太夫の起こした花嫁攫う事件って、夜明けのヴァンさん絶許案件じゃないか……そして過去知ったら複雑な顔になってそう(それはそれとして手加減はしなさそう)


 結婚式場………

 まだまだ一番定番の月には至っていないものの、新郎新婦が集う場所。

 

 「えー汝、健やかなる時も、病める時も、愛し合う事を誓いますか?」

 

 「はい」

 

 「誓います」

 

 神父の前で……丈瑠と茉子が、二人、白い衣装を着て共に並んだ。

 

 「殿……ご立派になられて……」

 

 彦馬の目にも涙。

 

 「この神聖な空気……なんだかこう……目にくるものがあるな」

 

 「キレイ……」

 

 「サクラちゃんなら、ウェディングドレスきっと似合うわ」

 

 「そんな結婚式も、神父があれじゃあな……」

 

 神父役は、モコナだった。

 ここまでは良い感じには喋っているように聞こえるが、おふざけをどこかで発動するのが見える見える。

 

 「では最後に、誓いのキスをお願いします……ブチューっと!!」

 

 これである。

 しかし、結婚式というイベントの中で、一番重要なのは、新郎新婦のキスである。これを避けるのは、結婚式やる意味あるの?となりかねない。

 

 「…………」

 

 行くか、行かないか……

 見つめあっている、二人の顔と顔……口元と口元が近づいていくごとに全員、息を呑む。

 言い切れない緊張感が、辺りを包む。

 

 「ゴクッ」

 

 誰のとも知れない、唾の飲み込む音が鳴り響く。一人か……複数か……だが、注意する人はいなかった。その場にいる皆、見ている先が全員同じだったからに違いない。

 その時……黒子が伝令にやってきた。

 

 「何だ」

 

 緊張から解放され安堵感を抱く者、何邪魔してんだよと思う者……それぞれがおろそかになっていた呼吸を整えた。それはさておき……

 

 「何!?」

 

 黒子の語る知らせは、ここでの行動は無意味と語るもの……

 ナナシ連中が、別の場所で現れたのだ。

 

 〜屋敷〜

 

 ある日、デカレンジャーからの要請があった。

 最近、結婚式を挙げる最中に、花嫁が攫われる事件が多発しているので協力して欲しいとの事。

 だがただの人攫いというだけでは、シンケンジャーに協力を要請される事態にはならない。それには理由があった。

 監視カメラからの映像などを見るに、花嫁が連れ去られる現場にナナシ連中が写っていたのである。それは外道衆の仕業であると結論づけるのに充分だった。

 シンケンジャーもシンケンジャーで、最近幾度となく花嫁を連れ去るナナシ連中を追っていたが、何度も逃げられてしまう……花嫁を連れ去れば、もう用はないとでもいう風にいなくなってしまうのである……潜入が必要だった、敵に攫われるふりをし、敵の陣地の中枢に入り、救出する……だが、複数ある中で一つだけピンポイントで狙われるのは奇跡に近い。

 そういう訳で、合同で捜査をする事になった。

 屋敷に戻って作戦を練り直す。

 

 「外しちゃったね」

 

 デカレンジャーも、そうらしい。

 

 「そうだな」

 

 「ついてねえな」

 

 今回の場所を選んだのは……

 

 「繋げてったら星になるのでは?」

 

 流ノ介はこれまでの騒動を基に、攫われた場所を繋いでいくと五芒星のようになるのではないかと言う……しかしその案は真っ先にファイに否定された。

 

 「それはないかな〜位置に目的があるなら、土地自体に何かしら魔力があるか、隈なく探せば花嫁が見つかったり……とにかくそれっぽい楔になるものが近辺にあるはずなんだよ、でも、調べに同行させてもらった時、それは無かった」

 

 ファイの言葉に、流ノ介は舌を巻く。

 

 「……さすが、本職の方に言われると説得力が違いますね」

 

 ファイは滅多に力を使う事はないが、元々いた国では名のある魔術師(ウィザード)だったようだ……だから、魔力の探知や、構造について詳しい。

 

 「体系とかは違うけどね〜ある程度共通する所はあるからそこは任せてよ」

 

 「じゃあここじゃないかもって事で……」

 

 そんなこんなで、話し合った結果、今の形となる……結論、当てずっぽうに近い。

 

 「流ノ介が言ってた所でも無かったよな」

 

 「何を言う、千明ィ……だいたいあの場所を選んだのはお前じゃないか」

 

 二人は睨み合った。

 

 「どうどう……仕方ないよ、これと言った手がかりもないまんまだし」

 

 デカレンジャーの方も、その手の捜索のスペシャリストいるが育休中なのでしばらく捜査に入れず、難航しているらしい。

 

 「どこに連れてかれはったんやろ……もし三途の川やったら」

 

 「嫌……」

 

 生きた人間は、三途の川へは通れない。

 

 「別の場所へ連れてかれたのであろう」

 

 とりあえず、次の陣を張る場所について作戦を練る事にした。

 

 「次は………じい」

 

 「こちらですな」

 

 彦馬の声に応じ黒子が持ってきたのは、明日に行われるこの辺りの結婚式の予定表だった。

 

 「うわ」

 

 「ハァッ?」

 

 「マジか……」

 

 「多すぎるわ」

 

 絶望感……とまではいかないものの、表が1ページ丸ごと埋め尽くされる程式場を使う予定がいっぱいあり、若干目眩を覚えた。この中から、外道衆が襲うのは一つか二つ……

 

 「この中から……大変ですね」

 

 「侑子に聞いてみる?」

 

 「誰だよそいつ」

 

 モコナの言葉に千明は疑問をぶつけた。

 

 「おれ達の旅に力を貸してくれる人です」

 

 「願いを叶えてくれるミセの主人だってさ」

 

 「願いを叶える腕は確かだ、ただし対価をとってくるがな」

 

 「おお……そうだな、流ノ介達も気を付けておくが良いぞ。わしらなぞ、志葉家代々に伝わる具足を持ってかれたからなぁ……」

 

 彦馬の語る体験談……一体何を願えば、そのような対価になるのかは気になる所ではある。

 

 「モコナ、侑子には願わない……まだ願うより前にする事があるからな」

 

 丈瑠は彦馬を呼び寄せる。

 何やら話し込んだ。

 

 「という訳だ、頼む」

 

 「はっ」

 

 〜????〜

 

 部屋と成る程の大きな繭の中。

 明かりのないなか、花嫁となるはずだった人間達の、すすり泣く声が聞こえる。

 

 「助けて……」

 

 すがるように延々と繰り返される嘆きに、えも言われぬ恍惚を感じる太夫であった。

 嗜虐心が満たされていく……心が、かの時に舞い戻るかのよう……

 

 「そう、そうやって無様に泣くが良い……それがお前の仕事さ」

 

 「……誰か……」

 

 多少異なる星の人間も混ざっており、外見だけ……でいうなら人間より自分達に近そうな者もいる。

 

 「心地よい悲鳴だ、これならわちきに相応しい仕上がりになる」

 

 そう言って、花嫁達を留め置く場を後にしようとした時、別種の話し声が聞こえた。

 

 「みんな、大丈夫。私の仲間が助けに来るから……元気を出して」

 

 攫ってきた花嫁の一人が、よくわからないが曲を歌い始めた。

 

 「ぼーくらは」

 

 太夫の耳に馴染まない、おそらく明治以降の曲だろう。

 ふんわりした声質も相まって、希望に溢れるような、そんな感じの歌に聞こえた。

 ここに来て絶望していない女を見て、太夫は疑問が湧いた。

 

 「貴様……わちき達が怖くないのか?」

 

 「怖いよ……でも、人間はあんた達になんて負けないんだから!!」

 

 「よくもまあ、そこまで吠えられるもんだね……特等席に連れて行け」

 

 ナナシ連中に言いつけ、その女だけ繭のない別の部屋に移動させた。

 苦しめたくて攫ったのに、元気づけられては意味がない。繭の糸も絶望以外の感情が加わり、仕上がりが悪くなる、この女だけは隔離させておくに限る。

 

 「あいつを攫ったのは誰だい?」

 

 「ガヤッ」

 

 「次は攫う花嫁を選ぶ事だね」

 

 太夫は別の場に向かった。

 そこには打掛が、一着かけてある。

 

 「────────」

 

 打掛に、その人の肌の型を留めた頬で、ゆっくりと転がすように撫でる。

 

 「これでわちきも、昔のように」

 

 昔のように……

 

 「薄雪……」

 

 「新さん……」

 

 〜三途の川〜

 

 「なぁにぃ?花嫁の絶望から紡いだ絹糸で、打掛を作るってぇ?」

 

 「ああ……目ん玉が飛び出るようなもんを作るらしい」

 

 ドウコクは、酒を飲みながらシタリの質問に答えた。

 

 「そりゃあ、幸せで幸せで幸せの絶頂の時を狙って不幸に突き落とすんだ、上等な絶望にはなるだろうけどねぇ……打掛とは、未練じゃないか……昔を忘れられないんだろうねえ」

 

 「まあ、良いじゃねえか、好きにさせておけ、三途の川の足しにはなるんだ」

 

 「お前さん、太夫に甘いねぇー」

 

 「フッ」

 

 上機嫌、もしくは自認しているようで、シタリの言葉に反論、もしくは癇癪も起こさない。

 

 「そういえばね……この前見たんだよ、はぐれものの十蔵が」

 

 「あいつか」

 

 人から外道に至ったものは、総じてはぐれ外道と呼ばれる。

 その場合、殆どが外道の重みに耐えきれずにすぐに消滅する……がしかし稀に、幾星霜を経ても命の灯火は消える事を知らない者もいる。

 十蔵と、太夫のように。

 

 「良い獲物でも見つかったのか?」

 

 「どちらにせよ、めんどくさい事になるねきっと」

 

 〜とある河原〜

 

 「感じるか?裏正……百年、癒える事の無かった渇きを満たしてくれる奴が現れた……」

 

 「シンケンジャーの中にいる……」

 

 丈瑠は、何かに見られた気がして挙動が素早くなる。

 

 「殿様、どうしました?」

 

 小狼(シャオラン)が声をかけてきた。

 だが、感じたのは彼の視線ではない……興味のある対象を物色する視線だった。

 

 「嫌……なんでもない……夜更かしはするなよ」

 

 「はい」

 

 〜明朝〜

 

 朝ご飯を食べ終わり、鍛錬を始めているところで黒子がやってきた。

 

 「話はうまくいったようだ」

 

 話を終えた丈瑠は、皆を呼び寄せた。

 

 「これは……」

 

 例のリストの殆どの欄に、黒線が引いてある。

 

 「殿の指示で、絞り込んでみた……と言っても、デカレンジャーの方も同じ考えに至った者がいるようでな」

 

 「逆立ちして思いついたのかな?」

 

 「そんな変な癖の人はいねえって多分」

 

 各方面に中止の要請を送ったそうだ。

 そして、二組を除いてその通りになった。

 ひとえに昨今の花嫁の事件の話が広まっているのが大きい。

 

 「ここまで絞れるとは思ってなかったがな」

 

 その人達の今後のスケジュールの調整などの問題は、今気にしている場合ではない。

 

 「さて……もう一度お嫁に行きますか」

 

 「お婿様、いってらっしゃ~い」

 

 モコナが手を振った。

 

 「気をつけとけよ……」

 

 「今度はうちが行こか?」

 

 「やめとけやめとけ……殿様がほぼ同じタイミングで別の女と結婚するみてーな絵面になるぞ」

 

 「………………確かに」

 

 「まあ俺達がそっち行って、サクサクっとやっつけてくるからさ」

 

 「千明……この愚か者めが!!」

 

 千明は彦馬に後頭部のタンコブを作られた。

 

 「いってーなにすんだよ」

 

 「もう勝った気でおるとは、外道衆はまだ何をしてくるのか分からんのだぞ」

 

 「じいの言う通りだ」

 

 丈瑠まで乗っかってきて千明はムッとする。

 

 「外道衆もただ罠にかかるとは思えないからな……手はなるべく多く打っておきたい」

 

 丈瑠はある作戦を伝えた。

 

 「いけるか?」

 

 「黒々には難しいだろうね」

 

 ファイは恒例行事のように黒鋼を茶化した。

 だが、今回の秘策は体型、黒鋼では少し無理がある……のかもしれない。

 

 「お前には聞いてねー!!」

 

 「多少不得手ではありますが……そうも言ってられなさそうですね!!」

 

 「残る一組はデカレンジャーが話をつけるそうだ……」

 

 止めさせるか……護衛に回るか……いずれにしろ、現場に向かうのに変わりはない……

 

 「場所は聞いてある、行くか?」

 

 迷う理由はない、小狼(シャオラン)はすぐに返事をした。

 

 「はい!!」

 

 羽根探しもかねて、GO!!




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。


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第12話 ブライド・エマージェンシー Bパート

皆さんこんにちはもしくはこんばんは。
超能力者同士、何も話さない筈はなく……
気になる方は最後まで見ていただけると幸いです。


 警察の人達が迎えてくれた。

 鉄幹以外に、見ない顔がいる……

 

 「話は聞かせてもらった、俺はホージー……よろしくな」

 

 青い制服がのクールガイ、緑の制服の男がいた。

 二人共、普通の警察官の制服とは違う……精鋭部隊のようだ。

 

 「僕は江成仙一……みんなはセンちゃんって呼んでるよ」

 

 小狼(シャオラン)達は自己紹介をした。

 黒鋼が喋ると、二人はボスと言って驚き……モコナが喋ると、これまたウメコという同僚らしき人の名を言って驚いていた。声がそれほど似ているのか?

 

 「よろしくお願いします」

 

 「では皆さん、揃った所で急ぎましょう」

 

 鉄幹ことテツ、センちゃん、そしてホージーという人達が同行するらしい。

 

 「早く手がかりを見つけないと……」

 

 センちゃんという人が、ピリピリした雰囲気を纏っているのを感じる。

 それでも初対面の小狼(シャオラン)達にも優しく接してくれている分、悪い人ではないと思うが……

 

 「センちゃんという方……何かあったんですか?」

 

 「心配なんですよ、連れてかれた人の一人は……恋人……というか結婚相手なんですから」

 

 「え……」

 

 ウメコこと小梅とセンは、結婚相手だった。

 以前に結婚式を行う……

 

 「センちゃん……ウォォォォォォ!!」

 

 山姥と見紛う程、白髪を伸ばした老婆が涙で橋ができる程むせび泣く。

 

 「仙一さん……」

 

 アンドロイドの少女……

 

 「兄ちゃん……」

 

 猫っぽい獣人……

 

 「ウメコさん」

 

 トカーサ星の王女……そして彼らの家族……

 その場にいる一同全員、デカグリーンこと江成仙一と、デカピンクこと胡堂小梅が主役となるその場を祝福した……

 だが、事件は起きた。

 神の祝福の場なぞ外道には知らぬ存ぜぬとばかりに、ナナシ連中が現れたのだ。

 そして始まるのは蹂躙。椅子を蹴散らし、花を植えたツボを壊す。

 センちゃんがみんなに避難を促している最中に、ナナシ連中は一直線にウメコに迫り、連れてかれた。

 すぐにセンちゃんは追いかけたものの、逃げられてしまった。変身はできなかった、衣装を着るからと、変身用のSPライセンスを置いていたのが災いしたようだ。

 式場で、センちゃんの嘆きが、響き渡った。

 幸い(じゃないが)、被害はウメコが攫われただけで済んだようだが、好意で出席してくれた人達に危険が迫る所だった。

 しかも、未だにウメコからの連絡がこない。

 このトリプルパンチが、彼から余裕をなくしているらしい。

 

 「無事だと良いですね」

 

 「そうですね……まああの人の事ですし、同じく連れてかれた人を元気づけてると思いますよ。だからセンちゃんさん、ウメコさんを笑顔で迎えにいきましょう」

 

 「…………そうだね、小狼(シャオラン)君もありがとう」

 

 結婚式場前までたどり着いた。建物前にあるのは関係者以外立ち入り禁止と書かれてあるテープ…………

 

 「強敵ですよ……」

 

 「え?」

 

 「電話の向こうからの申告で半信半疑だったが、向こうにいるのは泣く子もヲタ芸に走るパーフェクトアイドルらしい……」

 

 誰の事だろう……と小狼(シャオラン)はサクラと目を合わせた、急に恥ずかしくなりお互いそっぽを向く。

 

 「誰もウメコみたいな目には遭わせない……」

 

 「じゃあ、いきましょう」

 

 テツは事もなげにテープをくぐり抜けようとする。

 

 「良いんですか?」

 

 「ここで引き返して向こうの人達がナナシ連中に襲われるよりはマシでしょう……通達はしましたし、サクラさん達もこの先に行った方が安全ですよ」

 

 という訳で全員、テープの先へ行った。

 

 「皆さん、中では静かにお願いしますね?特にモコナ」

 

 「は~~い♡」

 

 「言われた瞬間破ってんじゃねーよ白饅頭」

 

 「てへっ」

 

 本番に差し掛かっていると問題なので、建物の中に近づいてそっと覗く。

 

 「あ」

 

 「きれいだね〜」

 

 「あいつらだったか」

 

 ウェディングドレスを着ているアイと……多分、カメラマンがいて何故か式場で忙しくしている。

 

 「皆さん、向こうが気づきました」

 

 アイは小狼(シャオラン)に気づいて、夏の日差しのように眩しい笑顔で手を振った。

 

 「小狼(シャオラン)君、みんな、久しぶり〜」

 

 「久しぶりです」

 

 「モコちゃん、久しぶり〜!!」

 

 「久しぶり〜!!」

 

 アイとモコナがハイタッチした。

 そしてアクアが現れる、今日は黒いパーカーを着た私服姿だった。

 

 「(アイと手のひら大のマスコットキャラがハイタッチしてる……かわいいを通り越して尊い)お前達か……侍に引っ付いて、警察に引っ付いて、大変だな」

 

 「アクアさん、今日はどうしたんですか?カメラマンの人まで引き連れて」

 

 「それはだな」

 

 「知り合いなんですね……ちょっとこむ話をしますので、時間を潰しててください」

 

 「じゃあ、それについて話すから来い」

 

 アクアに別室まで案内された。

 控え室らしく、物がたくさん置かれている。

 

 「羽根を探してるとは聞いたが式場までよく来るな……喉乾いたか?飲んでくれ」

 

 アクアはそう言って、小狼(シャオラン)達にジュースを注いだ紙コップを渡した。

 

 「ありがとうございます」

 

 「どうも」

 

 「こいつはいけるな」

 

 「おいしい……」

 

 「おかわり!!」

 

 「一人二杯までにしといてくれよ」

 

 アクアはモコナの紙コップにおかわり分を注いだ。

 

 「ところで、アクアさん達はどうしてここへ……」

 

 「結婚に関する雑誌の巻頭の撮影にアイが選ばれた、俺は苺プロの人間として、撮影の補助だな……学校も休みだし……(ルビー)はダンスの練習だぞ」

 

 「え……アイさんもう結婚しているのでは?」

 

 少なくとも、アクア達がいるのがその証……

 

 「そういう写真を撮るんだ、いちいち現実の話を持ち出す必要はない。そこから出る旨味もあるが……アイには求められてない」

 

 「黒鋼さん、おれ……アクアさんの言ってる事が分かりません」

 

 「俺もだ」

 

 「オレもさっぱり」

 

 「私も」

 

 「モコナ知ってる、縁者ネタ、中の人ネタって言うんだよ」

 

 「そうなんだ」

 

 「それに俺達の父親はもう……」

 

 そこからは何も言わないが、おそらく亡くなった事を示唆している。

 

 「あ、ごめんなさい」

 

 構わないと、アクアは言って続けた……

 

 「ちょうど俺達が産まれる日だったようだ……何をしていたのかは知らないが、アイのいた病院の周りをうろちょろしていた所を襲われたらしい……」

 

 その場にいた被害者にファンの一人もいたから、アイに何らかのサプライズでも計画していたのか……分からない。

 分からないが、アイはその事についてアクア達の前で触れようとはしなかった。

 

 「母体に影響がでないようアイに知らせないようにした社長の判断には感謝だ」

 

 彼らを診た誰かはこう言っていたそうだ。

 

 『見つけた時、この者達の魂を繋ぎ止めるのは叶わず、早すぎる死を悼む事しかできなかった……』

 

 要は、間に合わなかったという事だろう……

 

 「早いって………そんなにか?」

 

 「中高生ぐらいだ、ファンは大学生ぐらいか?」

 

 「十代半ばか……早いね」

 

 どんな人なのだろうか?アクアを基準にすれば金髪の美形である事は想像に難くないが。

 

 「多分、嘘つき。相手の求める姿をそのまま演じきれる天才」

 

 サクラが何かを視て感じ取ったのか、そう呟いた。

 

 「サクラ?」

 

 「………あれ?」

 

 サクラは自分が何を言ったのか分かっていないようだ。

 

 「アイが認めるぐらいだしそうなんだろうな」

 

 「それはそうと、その警察から話が来たそうじゃねえか……殿様達からもよ」

 

 そうだった、デカレンジャーの人達が今カメラマン達と話をしているかも……

 

 「ああ……だが続行になった」

 

 「マジか………危ねえぞ」

 

 「危ないからって降りられないんだ、納期ってものがあるし」

 

 「大丈夫?スケジュール詰めすぎてない?」

 

 「言えてるな……ていうかさっきから思ったんだが……モコナは異世界出身といっても俺達と文化レベルは変わらんって事か?」

 

 「多分そう」

 

 モコナが仲間になったミセの周りの風景から見て取れた建築様式などは、小狼(シャオラン)達の済んでた所より今いる場所に近い。

 

 「ああ……そうだ、そういえば羽根について俺なりに考えてみたんだが」

 

 「はい、なんでしょう」

 

 「まず芸能界(こっち)にはないだろう、芝居の小道具にしてはデザインが特異すぎるし、そっち方面の怪現象も聞かない……何百年前に拾って、その力を使って偉くなったパターンだったらお手上げだが」

 

 参考までに留めておいた方がいいかも?

 

 「それと……こっちは完璧に懸念ぐらいでしかないんだが」

 

 「構いません」

 

 「様々な奇跡を起こしてきた羽根だって言うじゃないか。そんな代物が、一個人の記憶の一部から成るとすると……」

 

 記憶を失う前からそうなのかは知らないが、サクラの力の証明になる。

 

 「集め続ければ続ける程、奇跡を起こしてきた羽根の力がサクラに戻る事になる。そうなっていけば、どうなるんだろうな?」

 

 「どうなるんだろうな?って、分かんねえのかよ」

 

 「ああ、すごい力を持つようになるかもってだけで、それがどのぐらいかは……それを推し量れるのは、神ぐらいじゃねえかな」

 

 「…………………」

 

 アクアの言う事も、一理はあるのかもしれない……

 

 「だとしても、おれは羽根を探します」

 

 「サクラにとって、苦い記憶が含まれてたとしてもか」

 

 その発想はなかった、小狼(シャオラン)自身の記憶を手繰っても彼女の周りには、兄である国の王、その幼馴染、彼女を愛する国民達と後消えているが彼のみだった筈だ。

 

 「それでもあったかい記憶の方が多いと信じてますから」

 

 それに、記憶が全て抜け落ちた最初の頃は、肌も段々冷たくなっていって命に関わる程だった……治り続けていく今のサクラを見ていても、集め続ける事に間違いはないと思える。

 アクアは小狼(シャオラン)の発言を聞いて、フリーズを起こした。

 

 「あ……あの?」

 

 そしてどんよりした空気が漂う。

 

 「そんなに自信満々に言えるのか、と思ってさ……生きてくと挫折を避けて通れないんだ……」

 

 助けたい女の子を助けられなかったり……とアクアは自虐的に語る。

 

 「おい、テメェまだ十代半ばだろうが……悟った気になってんじゃねえぞ」

 

 「老成してるね〜」

 

 モコナがアクアに近づいてきた。

 

 「ありがと、サクラの心配してくれて」

 

 「あ、ああ……(気遣われてしまった……かわいい)」

 

 社長がやってきた。

 

 「アクア!!」

 

 「終わったか」

 

 「ああ……アイを守ってもらう事になった!!」

 

 「そうか……」

 

 「じゃあ、俺達も陣取っとくか」

 

 アクアの言っていた言葉はひょっとしたら正しいのかもしれない、だがここで止める訳にはいかないと強く思う。

 

 〜別の結婚式場〜

 

 花嫁が、旦那と共に身支度をしていた。

 今回の花嫁は白無垢姿……

 その目の前に千明達が現れた。

 

 「え?あの……」

 

 「すみませんが緊急事態って訳でささっどうぞどうぞ」

 

 「これこれこういう事情で、しばらく奥にいってもらってていいですか?」

 

 奥の部屋に行ってもらって、服の銘柄をチェック……

 奥の部屋に黒子も数人入り込み、数分後……茉子は白無垢姿になった。丈瑠も同じく和装となる。

 そして、再び繰り広げられる結婚式……

 今度はモコナが神父をやっておらず、和装で行う事で、前回より厳格な趣を感じた。

 そこにお邪魔するのはナナシ連中!!

 

 「うわっ!?」

 

 丈瑠は驚いて腰を抜かす演技をする。

 

 「キャー放してー!!」

 

 「大変や、はよ変身せんと」

 

 「おいおい、今のところ手筈通りだからじっとしとこうぜ(小声)」

 

 そうこうしてる間に茉子は連れ去られた。

 そういう作戦とはいえ、彦馬に叱られそうなビビり具合を丈瑠は晒してしまった。

 流石に咎められる事はないだろうが……

 ショドウフォンから音がなる。

 小狼(シャオラン)からだ。

 

 『殿様!!』

 

 「ああ、俺だ……そっちの状況は」

 

 小狼(シャオラン)は、今までの事を説明した。

 

 『という訳です』

 

 以前会ったアイドルが式場にいて、ターゲットになるかもしれないという事だ……

 

 「話は分かった、俺達の所も一段落着いたから小狼(シャオラン)達の所でナナシ連中が来たら、遠慮なくやれ」

 

 『うまくいったんですね?分かりました、では失礼します』

 

 小狼(シャオラン)は電話を切った。

 

 「どうです?殿様」

 

 「小狼(シャオラン)からだ、あいつらも話が一段落ついたみたいだな」

 

 「んじゃあ、経過観察といきますか」

 

 〜小狼(シャオラン)のいる地点〜

 

 ナナシ連中は、さっきのテープをビリビリに剥がし侵入してきた。

 

 「女装の腕を試す機会が減りましたね」

 

 「俺はホッとしてるぜ、ミッションのためとはいえ男とキスをせずに済んだんだ」

 

 「同感です」

 

 三人はライセンスを構えた。

 

 「チェンジスタンバイ!!エマージェンシー!!デカレンジャー!!」

 

 コールを受けたデカベースから、形状記憶宇宙金属デカメタルが転送される。そして、超微粒子状に変換されたデカメタルは、彼らの体に付着し、デカスーツとなるのだbyナレーション

 

 「バンバン……それにニューフェイスもまだいないしな、名乗るのはウメコを助けた後だ」

 

 「あ、二人共、作戦の確認です……こいつらは実行犯である事に変わりありませんので、どれかは生け捕りにしましょう」

 

 「ホージー、頼む……今回は手加減できそうにないんだ」

 

 「オーケー、任せろ」

 

 「俺達も行くぞ!!」

 

 「はい!!」

 

 「あー君達は隠れといてね、危ないから」

 

 ファイは集ろうとするカメラマンを、建物内に留めるよう努めた。

 

 数分後……

 

 「イージーだったな」

 

 特に苦戦しないで終わった。

 

 「小狼(シャオラン)君達も協力ありがとうございます」

 

 小狼(シャオラン)はペコリと頭を下げた。

 

 「おう、それよりこいつらから情報抜き出すんだろ?早くしようぜ」

 

 黒鋼の催促に、テツ達は訝しげな仕草を取る。

 

 「(やっぱりボスとは違うね)」

 

 「(強さもハートも評価できるが、口が悪いな)」

 

 「待ってください……そろそろ、ジャスミンさんの言ってた助っ人が来る筈なんですけど」

 

 「初耳だが、信用できるのか?そいつ」

 

 「ジャスミンさんが言うぐらいですしまあ」

 

 話をしていると轟音と共にバイクが現れた。

 一度見たら忘れようのない、緑の(さか)だったリーゼントとグラサンが目印の見覚えがある男と……その後ろに誰かが乗っていた。

 

 「じゃ、俺は屋台に戻る……粗相はすんなよ」

 

 「いやしねーし……あんがとさん、松」

 

 後ろにいる誰かが降りてきた。

 

 「ちーっす」

 

 やってきたのは、高校生ぐらいの少年。

 逆立てた金髪、上半身をはだけさせたゴテゴテの衣装、骸骨のベルトを巻いたその姿は、己を誇示しているように見える。

 

 「男アキラ、姐さん夫婦から頼まれてやってきたぜぇぇぇ、夜露死苦な!!」

 

 「君は………」

 

 テツの顔がデカスーツで隠れていても分かる、こんな奴が来るなんて予想外という表情をしているのだろう。

 

 「待ってろ、用事は今済ましてやるから」

 

 アキラは超能力者である。触れた相手の、思考を読み取る事ができるのだbyナレーション

 

 「おい、花嫁さん連れ去ってる場所はどこだよ」

 

 ギュウウーン!!(効果音)

 

 『今見えるでっかい建物から出てまっすぐ出た先を右に突っ切って白い線が無くなるまで渡って(以下略)』

 

 「長えな……」

 

 黒鋼はナナシ連中の一体を担いだ。

 

 「せっかくだ、乗り込みついでにこいつ返してやろうぜ」

 

 「サンキューな」

 

 ギュウウーン!!(効果音)

 

 「こっちだ」

 

 「これで見つかるなら儲けもんだな」

 

 「そうだ、殿様に連絡を」

 

 スマホを取ろうとしたらファイに止められた。

 

 「まだ良いんじゃないかな〜情報が確定かどうか確かめるまでさ」

 

 小狼(シャオラン)はサクラと目的地に向かう前に、アクアに挨拶をした。

 

 「ではアクアさん、写真……頑張ってください」

 

 「ああ……任せとけ、撮影が終わったらアイが力を貸してくれるそうだ」

 

 「はい」

 

 「次の番組……構想思いついたかも」

 

 「やめとけ……生身でアクションシーンこなせるあいつら見た後はどれだけやっても物足りなくなる」

 

 アキラは、その話を耳にした。

 

 「え?嘘だろ!?アイいたのかよ……終わったらサインねだっていいか?」

 

 「いいんじゃねえか?知らねえけど」

 

 「サインで良いなら、これが終わった後にベリークールな俺の分をくれてやるぜ」

 

 「おっさんのサインか……あんがとさん」

 

 「おい待てなんだその露骨な態度は!?」

 

 〜おまけ〜

 

 センちゃんはアキラに話しかけた。

 

 「君……ジャスミンといつ知り合ったんだい?」

 

 同じ超能力者同士という縁でここに来たのは察する事ができる……気になったのはいつどのように出会ったかだった。

 

 「去年ぐらいに、ケンカしてた所をあのお姐さんに両成敗されたんだよ……んで、そん時」

 

 〜一年前〜

 

 「お姉さん、ちょっとあっち行っててくれませんかねー」

 

 ちょっと心を読み、考えてる事を当てて怖がらせようという軽い気持ちで彼女の手袋に触れただけのつもりだった。

 

 ギュウウーン!!(効果音)

 

 『この子、私の心を読もうとしてる?』

 

 だがしかし、彼女はアキラと同じ類の人間のようで、見破られたばかりか、同じ事をされたのが分かった。

 

 「げっ!?」

 

 逃げようとしたのも束の間、一気に組み伏せられてしまった。

 

 「逃げようとしても、無駄よ無駄無駄ァ」

 

 力はアキラの方が上だと思って侮っていた……だが勝てない、それもその筈、彼女は警察の中でも特殊部隊的な立ち位置にいる。さらに……共に死線をくぐり抜けてきた仲間であるセンちゃんは歯向かうには相手が悪すぎたのを知っているため、苦笑いをする事しかできなかった。

 ケンカの相手もいつの間にか逃げていた……

 テレポートで逃げようかと迷った、だが当時はまだ使えない事を知らないので、テレポートも一緒にされるかもと二の足を踏まざるを得なかった。

 だが、アキラが思っていたのと対応が違っていた。

 色々と聞かれた。家族、交友関係、などなど。

 特に聞かれたのが、持っている力について……テレポート、読心能力、テレキネシスと多岐に渡る。

 苦労しなかったかと聞かれた。

 ジャスミンは、持ってる能力で人間関係に亀裂が生じたり、能力が暴走したりで苦労した日々があったみたいで、それでアキラに聞いていたようだ。

 アキラも、心を読めるのが原因で始まったケンカもあるから否定はできなかった。

 だが、心配される程じゃないとアキラは言った。変に暴走する事はなかったし読んでもバレないように気を付けてもいる。

 事情を説明すると、心を読まなくても分かる程ジャスミンはホッとしていた、自分と同じ思いをせずに済んでいる事を喜んでいるようだった。

 信用できる相手にアキラは思えた。

 その日を境にアキラに一人、後にもう一人、味方が増えた。

 

 〜現在〜

 

 「本当に大丈夫だったのかい?」

 

 「まあな……ありがてえ事にこの能力の事を知っても変わらずに接してくれる人がいるし……それに、この能力もオレの一部なんだ、あるからって凹んでなんかいられるか」

 

 アキラの言葉にセンちゃんはクスリと笑う。

 

 「そっか」

 

 「……なんすか」

 

 「嫌……なんでもない、頼りにしてるよ」




いかがでしたか?面白いと思っていただければ嬉しいです。
近未来編のクロス先をイメージしてみた。
今回の超能力者繋がりやたい焼き屋の太客ヤミさんはともかく、アキラの妹カオリちゃんを見て、かつての自分を重ねて親身になるルビーと、かつて救いきれなかった女の子を重ねて少しでもなんとかしようとするアクアという元を辿ると悲しい繋がりの話が頭から離れなくなった自分を許してください。


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