一匹狼の大海賊 (篤志)
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一匹狼の大海賊、ウォルフ・D・ヒュー

 世界最大の大監獄インペルダウン。海軍本部マリンフォードのすぐ近く、カームベルトと呼ばれる巨大な海中生物の住処のど真ん中にそれはある。

 

 下に降りるにつれて犯罪重要度は重くなり、その最下層の地下6階、通称レベル6には大犯罪を犯した億越えの海賊達が幽閉されている。ここに入ったが最後、一生日の目を見ることはできない。海軍に捕まった海賊がこの階に連行されるということは死刑または終身刑であるということを意味していた。

 

 レベル6のフロアは静かだ。まるで誰もいないかのように海楼石の手枷を付けられたまま物音一つすることはなく海賊達は息を潜めている。

 

 しかし今、インペルダウンはその機能を果たしていなかった。世界的大犯罪者であった海賊王ゴール・D・ロジャーの血を引くポートガス・D・エースの処刑を阻止するために単身でインペルダウンに侵入したモンキー・D・ルフィを皮切りに、レベル6に幽閉されていた名だたる海賊達が揃ってインペルダウンを脱獄したのだ。

 

 そして、その混乱の中レベル6で息を潜めていた男がいた。

 

周りの囚人達が脱獄していく姿をじっと座ったまま見ていた男。レベル6で一番の古株である。男の名はウォルフ・D・ヒュー。通り名は“虎狼”。20年以上前からインペルダウンに幽閉され、今もレベル6にいる男。海賊王と呼ばれたゴール・D・ロジャー、現在世界最強と称されるエドワード・ニューゲートに並ぶ一時代を築き上げた海賊の一人である。痩せこけ、髭は伸び、服はボロボロだが、体は丈夫そのもの。目はギラギラと生気を帯び、彼が放つオーラは気絶するほどに強大だった。

 

「若造が...俺も血が疼いてきやがったじゃねェか。」

 

海楼石の手枷と足枷を難なく粉々にし、牢屋の檻を捻じ曲げて外に出る。上を見上げると、地上まで続く穴がぽっかりと空いていた。ヒューは足に力を入れると、その穴に向かって飛び上がった。各層を足場に軽い身のこなしで地上まで登りつめるヒュー。

 

 看守達は目の前に現れたヒューを見て固まる。しかしすぐに目つきを鋭くして声を発した。

 

「誰だ貴様!」

 

看守達はヒューの姿を見てもわからなかった。ボロボロの老人が脱獄したように見えていた。それも無理はない。このインペルダウンに幽閉されて20年以上。レベル6の最深部に近い場所でヒューは今まで息を潜めていたのだから。名前は知っていても、顔までは20年以上経っているうえに浮浪者のような容姿は歴戦の海賊とは程遠いものだったからだ。

 

そこに大きなけがを負った大男が入ってきた。

 

「き...貴様は脱獄させんぞ。」

 

満身創痍の男の名はインペルダウン所長マゼラン。体を毒に変えて戦うドクドクの実の能力者である。

 マゼランはヒューを見て一瞬目を見開いたが、すぐに体を毒に変え戦闘態勢を取った。一方のヒューは構えもせずただ立っているだけ。そんなヒューにマゼランは言う。

 

「なぜ今になって脱獄なのだ。ウォルフ・D・ヒュー!」

 

ボコボコと毒が発生する中ヒューは涼しい顔でマゼランを見据えた。

 

「海が俺を呼んでいるのさ。昔俺はお前に言っただろうマゼラン。俺もロジャーと同じように処刑すればよかったってな。海賊はどこまで行っても海賊だ。テメェだってわかってるはずだぜ。」

 

周りの看守達がバタバタと倒れていく。マゼランの毒によるものではない。原因はヒューにあった。その証拠にマゼランも看守達と同じく意識を失いかけていた。

 

「こ...虎狼...きさ...。」

 

限界だったのかマゼランは前のめりに倒れる。その横を何事もなかったように通り過ぎるヒュー。マゼランが倒れたことによって監獄の機能は完全に停止し、インペルダウンが事実上崩壊した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 船着き場に出たヒューは船が一隻もないことを確認する。遠くのほうに海軍の軍艦が見えるが囚人が乗っ取っているのだろうと推測できた。ヒューは久方ぶりの海を見て笑いを抑えられずにはいなかった。心の底から喜び、これからの冒険に想いを馳せる。

...また海に出ることができる。馬鹿共と酒を酌み交わし喧嘩をし、馬鹿をやりあえる...

老体と呼ばれる年齢となった今でも体力はまだ有り余っていた。海を見れば海賊の血が疼いた。

 ヒューは頬を緩める。まずはリハビリがてら世界の中心にでも行ってみようかと画策する。

 

「待ってろ、ニューゲート!ダーッハッハッハ!死に急ぐんじゃねェぞ!兄弟ィ!」

 

世界が変わろうとしている時、一匹狼の大海賊が復活した。




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海軍本部マリンフォード

 ヒューがインペルダウンから脱獄した頃、エースの処刑を阻止するべく白ひげ海賊団はコーティングして海底を進んでいた。マリンフォードの湾のど真ん中に船を着けて戦いに挑む作戦だ。白ひげは船首に近い場所で仁王立ちして立っている。その後ろから1番隊隊長であるマルコが声をかけた。

 

「親父ぃ、船長室に入ってたほうがいいんじゃないかよい。」

 

白ひげは少し笑った後答える。

 

「なァに、年甲斐もなく武者震いが止まらねえんだ。今だったら俺のこのクソッタレな病気も吹き飛んじまうだろうよ。グララララ。マルコ、俺ァこの戦争死ぬ気でやるぜ。」

 

豪快に笑う白ひげの背中を見てマルコは安心する。世界一の親父はその名に恥じない力と豪快さを持っている。病気だからと言って白ひげは白ひげだ。世界最強の海賊であることに変わりはなかった。

 

そして他愛もない会話が交わされる中、白ひげ海賊団の航海士が告げに来る。

 

「間もなくマリンフォード湾内に入ります!傘下の海賊団も無事湾外に着いた模様!浮上します!」

 

白ひげはその言葉を聞き、右手に持った薙刀を甲板に叩き付けた。甲板には白ひげ海賊団の船員が全員集まっている。

 

「オメェ等!わかってんだろうなァ!」

 

その威声と共に海底にいた白ひげ海賊団の船、モビー・ディック号は急浮上を始めた。この時の白ひげ海賊団の思いは一つ。

 

“エースを必ず連れて帰る”その事だけだった。

 

 

 

 

 

【海軍本部マリンフォード】

 

 ポートガス・D・エースの処刑までわずか数時間前。処刑台を中心に戦力の全てを結集し迫る白ひげ海賊団を警戒する海軍。最高戦力の海軍大将をはじめ、中将、王下七武海、錚々たる顔ぶれがこのマリンフォードに集まっていた。この様子は世界中に映像でんでん虫を通じて放送されている。白ひげ海賊団の隊長格である男を海軍本部のど真ん中で公開処刑をする真意とは何かを固唾を飲んで見届けようとする人々。これから起こるであろう白ひげ海賊団と海軍との全面戦争を見逃すまいと海賊達までもがこの様子を世界各地から見ていた。

 

 海軍のトップであるセンゴク元帥が処刑台に上がり、頭を垂れているエースの横に立つ。

 

「諸君等に話すことがある。ポートガス・D・エース。お前の父親の名を言ってみろ。」

 

何の脈絡もなしにそう言い放つセンゴク。エースは声を絞り出すように叫んだ。

 

「俺のオヤジは......白ひげただ一人だけだ!」

 

センゴクはその返答に顔色一つ変えず淡々と話を続ける。

 

「違う!お前が白ひげ海賊団の2番隊隊長であるだけでここにいると思うか。否、処刑される理由は違うところにあるのだ。それはお前の中に流れる血が意味している。知らんわけがあるまい。」

 

センゴクの声が世界中に流れる。人々は固唾を飲み、この公開処刑の行く末を見守る。海軍がここまでしてただ一人の海賊を大々的に処刑するのか実際のところほとんどの人間が理解していなかった。誰の一人も海賊王の血が受け継がれていることは知らなかったのだ。

 

「白ひげではないお前の本当の父親の名を言ってみろ!」

「オヤジは白ひげただ一人だ...ッ!」

 

歯を食いしばるエース。絶対に言うつもりはなかった。生まれた時からその名は付いて回った。海賊王の名前を出すだけで彼は大人、老人、子供までもに蔑まれた。エースが何をしたわけでもない。ただ海賊王の息子というだけで鬼の子と呼ばれた。故に彼に父親というものは物心ついた時から居ないもの、要らないもの、憎むべきものになっていたのだ。

海に出て、自分のの世界を変えた男。息子になれと、豪快に笑いながら言ってくれた世界最強の海賊。エースはその時から父親を知ったのだ。エースはもう一度固い意志で確かめるように小さくつぶやく。

 

「俺のオヤジは白ひげだ......」

 

 センゴクは処刑台の下、ひしめき合う海兵達を見渡した。エースが言わないのならば仕方がないと世界中に向かって声を発する。

 

「ならば私から言おう。エース!貴様の父の名は22年前我々が平和の海で公開処刑を行った大海賊!世界最悪の大犯罪者......。」

 

世界の時が止まる。

 

「海賊王、ゴールド・ロジャーだ!」

 

静寂が辺りを包んだ。誰もが予想だにしていなかった衝撃の事実。理解が追い付かなかった。海兵達も、世界中で映像を見ている人々も、海賊達も、この宣言は言葉を失うほどのものだった。

 

「たとえ白ひげ海賊団と全面戦争になろうとも、我々はお前の首を取る。海賊王の血は絶たねばならん。それが我々海軍の正義なのだ!」

 

その言葉の後に海兵達の歓声が上がった。数万にも上る海兵の声はマリンフォードの地を揺らし、海では大きな波しぶきとなる。海兵の士気は最高潮に達していた。

 

 そんな中一人の通信兵がセンゴクの元へと駆けてきた。敬礼をし、報告する。

 

「センゴク元帥!正義の門が何故か開き始めました!制御室とは連絡が取れず、原因不明です!」

 

無間にしわを寄せるセンゴク。追い打ちをかけるように周りの海兵からも声が上がる。

 

「12時の方向!海賊船団です!その数約50!マリンフォードへと向かって来ています」

「白ひげ海賊団の傘下か!白ひげはどこにいる!」

 

声を荒げる将校。すると突如今まで波静かだったマリンフォード湾内に波しぶきが立ち始めた。警報が鳴らされ、海兵達は全員戦闘態勢に入る。波しぶきが大きくなり、白ひげ海賊団傘下の海賊船団もマリンフォードの湾外に陣を取った。そして、湾内に1隻の巨大な海賊船が姿を現した。

 

 巨大なクジラを模した海賊船。白ひげ海賊団の象徴、モビー・ディック号だった。

 

 そしてモビー・ディックに続きマリンフォード湾内にコーティング船が3隻次々と浮上してくる。水しぶきを上げ、コーティングをしていたシャボンが勢いよく割れた。

 

 海軍が騒然とする中モビー・ディックの船首に一人の大男が立った。白ひげ海賊団船長、白ひげことエドワード・ニューゲートである。その存在感と威圧感は海軍本部のど真ん中でも発揮され、世界最強の名にふさわしいものだった。

 

「グララララララ!助けに来たぜ!エース!」

 

現れた白ひげを見てセンゴクは拳を握りしめた。

 

「白ひげ......!!」

 

 一気に一触即発の状態となったマリンフォード。遂に白ひげ海賊団と海軍が戦争の大舞台へと立ったのだった。




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海の中の脅威

 インペルダウン船着き場。そこにヒューは立っていた。船は一つもなく、この場所を離れないと脱獄の意味がない。腕を組んでしばらく考えた末に思いついたのが、

 

「よし、泳ぐか。」

 

生身の体で海王類達の住処であるカームベルトを泳いで脱出することだった。この場に誰かがいれば必死で止めようとするだろう。しかし、ここにいるのはヒューひとりだけ。誰も止める人間はいない。 

 

 そうと決まればさっそく体をほぐし、入念に泳ぐ準備をし始めた。彼が泳ぐのは実に20数年ぶり。しかもその最初の泳ぎが命を懸けた遠泳である。

 

「ダッハッハ!腕が鳴るぜ!」

 

そう言うと同時にヒューは海へと飛び込んだ。そして水を掻きながらものすごいスピードで進み始める。水しぶきを上げ一心不乱に泳ぐ。インペルダウンが段々と遠くなり、海軍本部へと続く海路へと真っ直ぐ進んだ。

 

 泳ぎ始めてしばらく、インペルダウンが小さくなり始めた頃、ヒューが泳ぐすぐ右横の海面が急激に盛りあがり始めた。轟音と共に顔を出したのはウナギの形をした海王類。口を大きく開け、ヒューの前方の海面を飛ぶトビウオの大群を捕食する。その時に起きる波しぶきが進路の邪魔をする。ヒューが波にのまれて海の藻屑となることは想像に難くなかった。

 

 ヒューはいい加減海王類が鬱陶しく思ったのか、海中から跳び上がって海面から胴体の半分を出している海王類の腹に拳を放つ。ただのパンチではない。覇気と呼ばれる不思議な力により生身の体よりも何倍も硬くなった拳が海王類の腹に刺さった。

 

 拳が入った場所から海王類の胴体は風船のように弾け飛ぶ。残骸が海に落ち、ヒューは何事もなかったかのように泳ぎを再開した。その後、海王類がヒューによって倒された後、海王類が海面上に出てくる頻度が多くなった。そしてそれらは様々な姿をしており、そのほとんどがヒュー目掛けて攻撃をしてくるようになった。まるで、海王類達が仲間の仇を取ろうとしているようだった。

 

ヒューは泳ぐのをやめ、襲い掛かる海王類達を迎え撃つ。

 

「俺の邪魔する奴は容赦しねえぜ...。」

 

海面から出ている海王類の巨体を駆け上がり、拳を硬めて放つ。

 

「『覇拳』」

 

海王類の目が驚愕に染まる。ヒューがそこにいるだけで海王類達の動きが止まる。何故、このようなちっぽけな存在に恐れているのか、海王類達は解らない。得体の知れない恐怖から逃れようと海中に潜ろうとするが海王類の巨体はピクリとも動かなかった。

 

気がついた時には既に海王類の意識は刈り取られていた。

 

ヒューの一撃で例によって爆散する海王類。この攻撃により、荒れ狂ったカームベルトが波を打ったように静まり返る。

何故、今まで止まなかった海王類達の襲撃が一瞬にして治まったのか。それはヒューの覇気を纏った拳が原因だった。

 

この世界には意志の強さによって力を発揮する、覇気という力が存在する。視聴覚とは別の第六感の役割を担う見聞色の覇気、戦闘において自分の力の補助の役割をする武装色の覇気とに分かれている。一般に拳に纏わせるのは武装色の覇気という戦闘に特化した覇気だが、ヒューは違う。二つの覇気の他にこの世界で数十人と扱える者が居ない覇王色の覇気を纏わせて拳を放った。

 

この一帯の海中生物はその瞬間、本能が警鐘を鳴らした。自分達が海の王と呼ばれる存在ならば、この目の前にいる小さな生き物は王の王たる資質を持っている。故に、その存在感と圧倒的な力に負けたのだと。自分達はこの人間に逆らってはいけないと本能がそう告げていた。

 

海王類の脅威を退けた後、静かになった海をひたすら泳ぐヒューの前に今度は巨大な門が立ちはだかった。

 

門のど真ん中にはこの世界最大の組織、世界政府のマークが描かれている。この門は世界政府の船だけが通ることができる回路の入り口にある。通称、正義の門と呼ばれた。

 

この門を開けることができないと、カームベルトから抜け出すことはできない。たとえ抜けたとしても、大監獄インペルダウン、海軍本部マリンフォード、司法の島エニエスロビーを繋ぐ巨大な海流が待ち構えている。各場所に正義の門は存在し、開けることができるのは海軍、世界政府の関係者のみである。

 

ヒューはその門を見上げながらどうやってこの向こうに行こうか考えていると、突如正義の門が開き始める。門の真下には軍艦が見えた。ヒューは口角を釣り上げる。

小さかった波風が大きくなり、大きな海流が発生する。ヒューはその流れに身を任せ、門へと近づいた。

 

間も無く門の向こう側へと到達しようとした時、ヒューの正面に先ほどまでの海王類とは比べられないほど巨大な海王類が出現する。口を大きく開け、ヒューに襲いかかるこの海王類はこのカームベルトの主と呼ばれる存在だった。

 

「全く、次から次へと......。」

 

溜息をついて目の前の主を睨むヒュー。主は微塵も気にすることなく襲いかかった。

 

ヒューの拳と海王類の牙がぶつかり合い、金属と金属がぶつかったような音が響く。武装色の覇気を纏う拳が主には効いていないようだった。間髪入れず海面から飛び上がり、蹴りを放つ。しかしそれは、尾ビレによって阻止された。重く速さの乗った一撃がヒューを襲う。海面に叩きつけられ、主はヒューを捕食しようと口を大きく開けた。

 

グオオオオオオオオ

 

主が今までより速くヒューに攻撃を仕掛ける。海王類から見れば人間なんてものは小さく弱い生物でしかない。自分の腹に入れてしまえばお終いだと言わんばかりに襲いかかった。

 

 

 

 



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世界最強の力

 海中では存分に力が発揮できないと踏み、大人しくカームベルトの主に食われたヒューは丸呑みにされた後、腹の中にいた。まるで洞窟かと思うくらい広く、そして深く続いている肉の壁。胃まで到達し、そこであり得ないものを見つけた。ただの海王類の腹の中と侮ることなかれ。驚くべきことに海王類は船を一隻を丸々飲み込んでいた。しかもそれが3隻。さすがにヒューも苦笑いしかできない。

 

「雑食っていうレベルじゃねえぞ。ガープ以上だぜこりゃ。」

 

胃液の海に浮かぶ船のひとつに乗り込み、何か武器はないかと船室を漁る。すると、なぜか海賊船だというのに海軍コートを着た白骨化した死体を見つけた。首をかしげ、ヒューはそれを見る。

 

「もしかしてこの船に乗り込んだ後に食われたのか。ダッハッハ運悪ィぜ海兵ちゃん。」

 

何の躊躇もなくそのコートを羽織るヒュー。海賊が海軍の服を着るなどと他の海賊が知ったら怒り狂うだろう。プライドはないのかと殴りかかってくるかもしれない。しかし、ヒューは気にしない。この船にある服でヒューが一番気に入ったのが海軍コートだっただけだ。年期の入ったボロボロのコートはヒューにものすごく似合っていた。

 

 その後、手頃な剣を見つけて手に取ったヒューはニヤリと笑い腕を振り上げる。ブゥンという音がして剣に武装色の覇気が纏われた。

 

 肉の壁に向かって剣を振る。刃だけでなく斬撃も飛ばした。血しぶきが上がり、返り血でヒューが真っ赤に染まる。それがヒューの中で眠る虎を呼び起こすことになる。笑みをさらに深くし、斬撃の量が急激に増えた。

 

 しかし突然攻撃を止めた。

 

さすがは海王類。内側からもなかなか攻撃は通らないようだった。息を整えると甲板から海賊船のマストへと飛び移る。

 

「仕方ねえか......。」

 

そう呟くと剣を横薙ぎにする。剣先から放たれる斬撃。先ほどまでとは比べ物にならない威力だった。豆腐を切るように肉の壁が切れる。血が飛び散る間も無くその場に光が差し、気がついた時には海の上だった。

 

それはそのはず。切ったのは胃だけではなかったのだ。ヒューは何気ない一振りで胃の中から尾ビレまで一刀両断していた。

 

頭を残して真ん中から真っ二つになった海王類。何事もなかったように静まり返る海。ヒューはそのまま船に乗って正義の門を突破する。舵取りの必要はなく海流に乗ったまま航行する船。古い船の割によく進んだ。

 

 

 

正義の門の内側へ入ってしばらく、今度は船を飲み込みそうなほどの巨大な波が襲いかかって来た。まずあり得ない光景だ。船のマスト以上の高さの波がこちらへ向かってくる。思わず舌打ちをしてしまう。

 

「チッ、今度はなんだ。クソ野郎が。」

 

船首に立ち、先ほどの海王類を倒した斬撃を波に向かって放つ。轟音が響き、水の塊である巨大な波が左右に割れた。一息つく暇もなく難を逃れたヒューは次の正義の門へと船を進める。

 

ヒューには巨大な波の原因を知っていた。実際に体験したこともある。自然によるものではない人為的に起こされた波だ。この世界でこんなことを起こせる人間は1人しかいない。最強の悪魔の実の能力を持つ男......世界を破壊できるとまで言われるその能力は、

 

「グラグラの身を食べた地震人間。てめェか、ニューゲート。」

 

つまり、あの波はただの波ではなかったということだ。全てを飲み込み破壊し尽くす。船も、島も全て。逃れる手立てが無いに等しいその波はいずれ戻っていくだろう、白ひげの元へと。

 

「津波たァ、面倒臭えことしてくれるじゃねえか。」

 

マリンフォードへと続く正義の門を見上げる。今日は本当に運が良かった。インペルダウン脱獄成功に続き、正義の門の開場。そして今度も正義の門が何もせずに勝手に開いた。

 

 

 

 

 

 

 



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到着、インペルダウンの囚人達

 マリンフォード湾内。白ひげ海賊団と海軍の睨み合いが続く中、白ひげがその沈黙を破った。

 

「海軍!俺の息子は無事なんだろうなァ!」

 

下を向いたまま歯を噛みしめるエース。嬉しさと悔しさが入り混じる感情の中、涙の滴が落ち、何かを決心したように前を向いて叫んだ。

 

「なんで......なんで来たんだ!オヤジィ!俺みたいな奴なんて放っておけばいいだろう!!」

「俺の息子が殺されかけてんだ。助けに行かねえ理由はねェ!待ってろエース......今助けてやらァ!」

 

白ひげはモビー・ディック号の船首で右の拳を握り、何もない空間に叩き付けた。叩き付けたところの空気がヒビが入ったように割れ、そこからすべてが振動し始める。海が荒れ狂い、マリンフォードが崩壊しそうなほどの揺れ。これが白ひげのグラグラの実の能力だった。本気を出せば世界を崩壊させるということは過言ではなかった。

 

 しばらくして海が静かになる。安堵したのもつかの間。沖の方から無数の波がマリンフォードへと向かってきていた。全てを飲み込みそうなほど巨大な波。白ひげが起こした地震によって発生した津波だった。唖然とする海軍。白ひげの能力を目の当たりにし、とんでもない男とこれから戦争するということを改めて実感させられる。

 

「アーララ、不味いなこりゃ。」

 

薄い青色のスーツを着た男がそう呟き、襲い掛かろうとしている波のど真ん中に出現した。

 

男の名は海軍最高戦力、海軍大将の一人である『青雉』ことクザン大将。ヒエヒエの実の能力者であり、すべてを氷に変える氷人間である。

 

 クザンは襲い掛かる津波に向かって手を掲げる。そして呟いた。

 

「『アイスエイジ』」

 

クザンの両手から四方の波に氷が放たれる。するとあっという間に津波が凍った。そのままモビー・ディック号ら白ひげ海賊団がいる湾内、そして白ひげ海賊団傘下の海賊船団が浮かぶ海まですべてを凍らせた。

 

今度は海軍から歓声が飛び、白ひげ海賊団はその能力に言葉を失った。しかし、湾内に氷が張ったことにより白ひげ海賊団はそこを足場に広場へと乗り込むことができるようになった。

 

「氷を足場に広場へ乗り込み、エースを奪還しろォ!」

 

指示が飛び、白ひげ海賊団が動き出す。船から飛び降りて広場へ一直線に駆け出す。海軍は広場に絶対に上げないと湾内に降りて白ひげ海賊団を迎え撃った。

 

世界を変える世紀の頂上決戦がここに始まった。

 

 

 

 

 

 湾内で両者がぶつかり合う中、白ひげは未だに動かず仁王立ちしたままエースがいる処刑台をじっと見つめていた。

 

「オヤジ、とうとう始まったよい。」

 

マルコが隣に立つ。白ひげは笑みを浮かべ答える。

 

「海軍のハナッタレにエースの命はやれねェ。どうせなら立ち直れねェぐらいにブチのめしてやらァ。」

「エースは俺達の命にかけても救い出してみせるよい。だからよオヤジ、あんたはそこで黙ってみててくれよぃ。」

 

いつも冷静な1番隊の隊長であるマルコはその瞳に怒りをにじませていた。その様子を感じ取った白ひげは大きく笑う。

 

「グララララララ!いつになくやる気じゃねェかマルコ。まァ無理もねェ......だが俺だってなァ黙って見てるだけなんざ無理ってもんよ!!!」

「オヤジならそう言うと思ってたよい。」

 

マルコも白ひげの答えに笑い、湾内へと飛び降りた。そして海兵をどんどん倒していく。その姿を見て白ひげは笑みをさらに深めた。

 

「息子が俺の心配するなんざ100年早え。グララララララ!クソッタレな世話焼きはテメエだけで十分だ。なァ...兄弟。」

 

仁王立ちしたまま不動の白ひげはそう呟いた。

 

 

 

 

 次の瞬間、白ひげに向かって一筋の斬撃が放たれる。騒然となる湾内。白ひげ海賊団の船員は白ひげを守ろうとモビー・ディック号へ走り出す。真っ先に斬撃の線上に立ったのは光り輝く巨大な男だった。斬撃を体で受け止めると余裕の表情で耐えた。

 

驚きの声を上げる海兵。驚いていないのは白ひげ海賊団と斬撃を放った男、王下七武海の一角、世界一の大剣豪と呼ばれるジュラキール・ミホークだけだった。

 

「流石、白ひげ海賊団といったところか。」

 

斬撃を受け止めた男の名は白ひげ海賊団3番隊隊長、ダイヤモンジョズ。キラキラと光り、その名の通りダイヤモンドと同じ硬さの身体を持つ能力者である。

 

「親父には指一本触れさせねえ!」

「不甲斐ないネェ。チャッチャと敵の頭を取りゃ終わりでショォ〜。」

 

次に白ひげに襲いかかったのは海軍三大将の1人、『黄猿』ことボルサリーノ大将である。黄色のボーダーのスーツを着ており、目にも留まらぬ速さで白ひげに攻撃を放つ。

 

「『八尺瓊の勾玉』」

 

眩しいほどの光が集まる。海賊も海軍も目が眩んだ。そして、白ひげに向かって光線が放たれた。これが黄猿の能力。ピカピカの実を食べた光人間の力である。

 

無数の光線が白ひげを襲う。しかし、白ひげは微動だにしなかった。まるで自分だけは当たらないと言うかのように。そして、それは現れた。

 

光を包む青い光。鳥のような形をしている巨大な炎が八尺瓊の勾玉を消し去る。その事実に驚く黄猿。

 

「厄介だネェ。1番隊隊長マルコ〜」

「厄介なのはどっちだろうよい!」

 

蹴りを放つマルコ。ボルサリーノはそのまま広場へと飛ばされた。

 

「今の内に広場へ乗り込むよい!」

 

マリンフォード湾内が戦場となる中、白ひげ海賊団は未だ広場に上がることはできていなかった。マルコの声に白ひげ海賊団の声が湾内に響く。これを皮切りに海軍が押され気味になる。

 

ダイヤモンドジョズが湾内に張った分厚い氷を巨大な氷塊にして放り投げる。なす術もなく氷塊が海兵達を襲うかと思ったその時、一瞬にして氷が蒸発した。海軍三大将の最後の1人、『赤犬』ことサカズキ大将だった。

 

「勝手に持ち場を離れおって......誰がこの場を守るんじゃァ!」

 

サカズキ大将の腕がボコボコという音と共に原型をとどめない形になる。水蒸気が発生し、真っ赤に燃え上がった。

 

「ここが死に場所じゃァ!白ひげェ!」

 

岩石の塊が白ひげの視界を埋め尽くす。白ひげは左手に持った薙刀を横に薙いで飛んで来た岩石をぶった切った。

 

「グララララララ!誰かと思えばハナッタレ小僧じゃねえか。」

「派手な葬式は嫌いかァ?」

 

マグマグの実を食べたマグマ人間であるサカズキは体をマグマに変え、湾内の白ひげ海賊団を襲った。

 

 

 

 

 

 

 そしてついに白ひげが動き出そうとしたその時、どこからか誰かの叫び声が聞こえてきた。両者の攻撃がぴたりと止んだ。

 

「おちるーーーーーーーーーーっ!?!?」

「馬鹿野郎!もう落ちてんだよォ!つーか、これぜってぇ死ぬだろーーっ!」

「ニッシシシシシ!俺ゴムだからだいじょーぶだ!」

『お前だけ助かるつもりかよっ!』 

 

その場にいた誰もが声の主を探す。叫び声は一人ではなかった。まるで何人もいるかのような.......

 

「あ、あそこだーーーーーっ!!!」

 

一人の海兵が空を見上げ、指をさす。全員空を見上げると、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 

 海軍の軍艦と一緒に何十人もの人が空から降って来ていた。海軍の奇襲かと白ひげ海賊団は身構えるが、どうも様子がおかしかった。

 

その正体を確かめる間もなく軍艦と共々、落ちてきた人達はそのまま湾内の氷に突き刺さる。状況を飲み込めない海軍と白ひげ海賊団。

 

処刑台にいたエース、センゴク、そして海軍中将で英雄と呼ばれるモンキー・D・ガープの3人も唖然としていた。特に驚いていたのはエースとガープの二人だ。

 

センゴクは苦虫を潰したような顔をして言う。

 

「またお前の家族だぞ!ガープ!」

 

落ちてきた軍艦の船首から姿を現す正体不明の人達。麦わら帽子の少年や、顔が異様に大きいオカマ、魚人や、囚人服を着たピエロまでいた。

 

その光景を見て海軍の顔色が変わる。ガープが異様な集団を見て冷静に言った。

 

「あ奴等はインペルダウンの囚人達か...元七武海サー・クロコダイルに革命軍エンポリオ・イワンコフ。現七武海、海侠のジンベイ...到底同じ目的でこの場にいると考えられんな。」

 

センゴクは拳を握りしめ、ガープの前に行くと頭を思い切り殴った。横にいたエースが目を見開いて驚いている。

 

「奴らの中心におるのはお前の孫だろう!ガープ!鉄壁の大監獄と言われたインペルダウンに侵入し、こうして今、脱獄に成功している!お前が一介の海兵ならばただでは済んでおらんぞ!」

 

ガープは煙が出る頭をさすりながら豪快に笑っていた。

 

「ガッハッハハハハハ!流石わしの孫じゃ!」

「笑いごとで済むか馬鹿者!」

 

もう一発拳骨を落とすセンゴク。ガープの頭に大きなたんこぶがもう一つ追加された。

 

 

 

騒然とするマリンフォード。軍艦の船首に立っている麦わらの少年は大きく息を吸い込んだ。彼は海賊王を目指す幾多の海賊の一人。ルーキーでは数少ない3億の賞金首、英雄ガープの孫でもあるモンキー・D・ルフィ。

囚人たちを引き連れてインペルダウンを脱獄し、ようやくマリンフォードへとたどり着いた。目的はただ一つ。世界でたった一人の大切な家族を助けるため。

 

ルフィは力いっぱい叫んだ。

 

 

 

 

「エーーーーーーーーーーースーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!助けに来たぞーーーーーーーーーっ!」



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泳ぐ大海賊

ルフィ率いるインペルダウン脱獄組は数百人いる中、半数が1人の男についてきていた。その男とは......

 

「麦わらの口車に乗せられてやって来ちまったが......やっぱり地獄じゃねぇかここぉ!おい!Mr.3!早いとこズラかるぞ......こんなところに居たんじゃインペルダウンを脱獄した意味がねぇ......!」

「何言ってるガネ!もう後戻りはできないガネ!」

「キャプテンバギー!指示を!」

「海軍をブッ潰しゃあいいんすよね!」

『一生ついて行きます!!!キャプテンバギー!!!』

 

自分の考えとは違う結果になっていく赤鼻の男。東の海の海賊であり、伝説の海賊王の船員だった過去を持つ。

 

男の名は道化のバギー。懸賞金1500万ベリー、バラバラの実を食べたバラバラ人間である。

 

バギーの隣に居るのはインペルダウンで同じフロアに幽閉されていた元七武海サー・クロコダイルが経営していたバロックワークスの社員だったMr.3。そして、監獄から脱獄させてくれたバギーを慕って同じフロアのほとんどの囚人が後ろに着いている。実力はバギーより強い海賊ばかりである。

 

そんな囚人達に慕われてはバギーも嬉しくないわけがない。調子に乗ったバギーは逃げようとしていたことさえ忘れるほど単純だった。

 

「ヨォーシ!野郎共!俺について来い!」

 

奮起している彼を見てMr.3はため息をつく。

 

「その単純さが羨ましいガネ......」

 

 

 

そんな茶番が繰り広げられている中、白ひげを襲う一つの影があった。

 

「久し振りだなァ......白ひげ」

「懲りねェ奴だなァ......ワニ小僧」

 

周りの海賊達に気付かれることなく白ひげの後ろを取った男、元七武海サー・クロコダイル。左手の鉤爪を白ひげに突き立てようとしたその時だった。

 

「やめろーーーーーッ!」

 

クロコダイルは横から飛んで来た突然の蹴りで吹き飛ぶ。自然系の悪魔の実のスナスナの実の能力者であるクロコダイルは何故か攻撃が効いていた。蹴りを放ったのはずぶ濡れのルフィ。それを見てクロコダイルは口から出た血を拭いルフィを睨む。

 

「俺への対策は織り込み済みと言うわけか......」

 

白ひげは微動だにせず処刑台を見つめたまま立っている。クロコダイルなど目に入っていないようだった。

 

「邪魔をするな麦わら。この場に来た時点で目的は達成されたはずだ。」

「うるせェ!エースはこのおっさんを気に入ってんだ!」

 

ルフィは拳を構えた。白ひげ海賊団の船員もクロコダイルを囲む。その時ルフィを見て白ひげが口を開いた。

 

「小僧、その麦わら帽子、赤髪が昔被ってたやつに似てるなァ。」

「おっさん、シャンクス知ってんのか?これ、シャンクスから預かってんだ。」

 

白ひげがルフィを睨む。普通の海賊なら気絶してもおかしくはないほどの威圧を放っていた。しかしルフィは負けずに白ひげを睨んでいた。

 

「おめェ、兄貴を助けに来たのか。」

「そうだ!」

 

二人のやりとりを見て周りの海賊達が冷や汗をかいていた。大海賊とただのルーキー海賊が対等に話すこと自体異様だった。

 

ルフィは処刑台の方を向き、構える。そして何かを思い出したように白ひげに言った。

 

「俺、軍艦に乗って来たから聞いたんだけどよ、エースの処刑が早まるって言ってた。仕方ねえェからおっさんには教えといてやる!」

「グララララ、済まねえな。」

 

ルフィは白ひげの方を振り向かずに答える。

 

「いいんだ。気にすんな!」

 

そしてエースがいる処刑台へ向かうために湾内へと飛び降りた。一方、白ひげは電伝虫を取り出して湾外で戦っている傘下の海賊団に通信を入れる。

 

「スクアードは近くにいるか。」

『オヤッさん!さっきまで近くにいたんすけど、見当たりません!」

「そうか。だったらお前が他のヤツ等に通信を入れろ......」

 

白ひげは事前に決めていた作戦を変更するべく傘下の海賊団の一つに連絡を入れ、その内容を話した。そして電伝虫を切り、下で戦っているマルコを呼んだ。

 

「オヤジ、さっき下の奴らから聞いたんだがエースの処刑が早まるらしいよい。」

「あァ、さっき聞いた。傘下の海賊の配置を変えた所だ。動き出したな......知将センゴク。マルコ、出来るだけ早く広場に上がれ。」

 

マルコは頷くと再び戦場に戻る。それと同時に白ひげの後ろに野太刀を持った男が歩いて来た。白ひげは誰が来たのかすぐにわかった。

 

「スクアード、無事だったか......湾頭の戦況はどうなってる。」

「傘下の海賊団はえらいやられようだ。」

 

新世界で名をあげている白ひげ海賊団傘下、大渦蜘蛛海賊団船長の大渦蜘蛛スクアード。長髪で鋭い歯を持ち凶悪そうな顔をしており、白ひげ海賊団傘下の中でも最も信頼されていると言っていい海賊である。

 

スクアードは太刀を片手に白ひげの横に立つ。

 

「オヤッさんは海軍の作戦が分かってたのか?」

「センゴクとは長い付き合いだ。あいつなら海軍の戦力を総動員して本気で潰しに来るだろうよ。だから俺達も負けてられねェんだ。エースを助け出すまではな。」

 

白ひげの口調は穏やかでスクアードを家族として接しているのが見て取れた。スクアードは小さく言う。

 

「白ひげ海賊団は家族を死んでも守る......そうだろうオヤッさん。」

 

野太刀を鞘から抜き、戦場を見下ろす。

 

「済まねェな、スクアード......」

「謝るな。俺達は全部分かってここにいるんだ。家族は大切だもんな......」

 

駆け出すスクアード。太陽の光が野太刀の刀身に当たって反射した。戦場の怒号が遠くに聞こえる。大砲の弾が破裂し火薬の匂いが鼻を突く。

 

白ひげもスクアードに続こうと一歩足を踏み出した瞬間、白ひげに激痛が走る。

 

不意打ちで攻撃を受けた白ひげの腹にスクアードの野太刀が貫通していた。

 

 

 

 

「オヤッさんの言う家族の中に......俺達も居ればよかったのになァ。」

 

スクアードの呟きが激痛に襲われる白ひげの耳に入って来る。下に居た各隊長もこの光景を見て驚きを隠せなかった。映像電々虫で世界中に放送されている今、この様子ももちろん人々に知れ渡る。世界中が沈黙した。

 

「テメェ白ひげェ!そんな奴に刺されるなんざみっともねェじゃねえか!」

 

戦場が騒然とする中クロコダイルが叫ぶ。他の海賊達も動揺を隠しきれずにいた。

 

「スクアードてめぇ!何したか分かってるのか!」

 

マルコが飛んで来てスクアードを押し倒す。スクアードはマルコを睨んで言い放った。

 

「マルコおめえだって知らねぇとは言わせねえ!オヤッさんと海軍が話し合って、エースは無事に解放されるのを確約されてるってな!」

「まんまと騙されてんじゃねぇ!スクアード!オヤジがそんなことするわけねえだろうが!」

 

マルコがスクアードを殴ろうとした時白ひげが膝を付いた。マルコがすかさず白ひげに駆け寄る。白ひげは何も言わず、手を上げてマルコを止める。

 

マルコは白ひげが刺されたことに動揺していた。見聞色の覇気を持つ白ひげがスクアードの動きを読めなかったはずはないのだ。わざと太刀を受けたのか、それとも体調が優れないのかはマルコには解らなかった。

 

立ち上がったスクアードは白ひげに向かって言い放つ。

 

「本当のことを言ったらどうだ!白ひげ!お前は......」

 

 

 

 

「おいおい、スクアード。俺が言ったことを忘れたってのか?えぇ?」

 

どこからともなく聞こえて来た声。声の主はモビー・ディック号のマストに腰掛けていた。囚人服の上にボロボロの海軍コートを着ている壮年の男。眼光は鋭く、飢えた猛獣の目をしている。

 

スクアードは男を見て言葉を失う。驚きのあまり声が発せなかったのだ。そしてそれはスクアードだけに限らなかった。マルコも、白ひげまでも驚いている。

 

処刑台の上にいたガープとセンゴクも同じように驚愕していた。

 

「何故だ...何故あの男がこの場所にいるのだ!」

「こりゃあ厄介なことになってきよったぞ......」

 

海兵を殴りながらルフィは男を見て言う。

 

「誰だ?あのおっさん?」

 

海軍三大将及び海軍中将はセンゴク等と同様に驚きを隠せないでいた。

 

「オイオイ......マジか。あのオッサン。」

「誰だい〜?あんな凶悪犯を野に放ったやつはァ〜。」

「老いぼれの1人や2人増えた所で変わらんわい……それよりポートガス・D・エースの処刑準備はどうなっとるんじゃァ!」

 

インペルダウンから脱獄してきた囚人達もまた驚いていた。

 

「まさか、あの方まで脱獄するとは...。」

「インペルダウンにいるって噂は聞いてッチャブルけど、この目で見るのは始めてね。」

 

突如現れた男に再び騒然とするマリンフォード。センゴクが電伝虫を持ち、処刑台の上に立った。この場にあの男が現れた以上知らせないわけにはいかなかった。この場にいる誰よりも重い大犯罪を犯した凶悪犯が野に放たれたことを。

 

『全海兵に告ぐ!たった今突如として現れた男を絶対にこの場で捕らえろ!海軍の名にかけて逃がしてはならん!』

 

一旦息を吸うセンゴク。

 

『奴の名は“虎狼"ウォルフ・D・ヒュー。諸君も一度は耳にしたことがあるだろう。大海賊時代以前より海賊であり、ゴールドロジャーや白ひげと肩を並べた大海賊。グランドラインの前半の海を全て泳いで渡った、たった1人の海賊。22年前、天竜人殺害でインペルダウンに幽閉された大犯罪者だ!」

 

その場にいた全員が固まった。天竜人殺害ということもそうだが、その前だ......()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

誰もが思った。

 

 

 

『このオッサンバカじゃね?』

 

 



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二人のジジイ、暴れる

「な......何であんたがここに居る!?ウォルフの兄貴!」

 

スクアードはマストに腰を掛けているヒューにそう言った。

 

「おう!スクアード!おめェ、ニューゲートに随分でかい口叩けるようになったじゃねェか!」

 

まるで友人同士のような会話。それもそのはず、二人は旧知の仲だった。20年以上前にスクアードが所属していた海賊団が当時最強だったロジャー海賊団に戦いを挑み、結果スクアードを残して全滅。一人になった所をヒューが拾ったのだ。一時期行動を共にしていたが、それから間も無くヒューはインペルダウンへ幽閉。ヒューはインペルダウンに入る前、白ひげにスクアードを託し、今に至るというわけだ。

 

「そりゃあ、白ひげのオヤッさんには大恩がある!だがそれとこれとは話が違うじゃねェか!俺は知らなかったぜ......エースがゴールドロジャーの息子だってなァ!」

 

叫ぶように怒るスクアード。仲間達を殺されたあの時の記憶が蘇る。今になっても怒りは無限に湧いてきた。ロジャーが死んでいても尚、恨みは晴らされないままだった。

そんな時、白ひげがスクアードの目の前に立った。スクアードを見下ろしながら睨む。

 

「アホンダラァ......おめェもエースも俺の家族だろうが。誰が誰の血を引こうともこの船に乗ったその時からそんなもんは関係ねェ。おめェ、スクアード......今までエースと過ごして来た時間は偽りだったって言いてェのか?」

 

スクアードの表情が変わる。白ひげの巨大な拳で殴られると思い目を閉じたが、衝撃は襲って来なかった。代わりにスクアードが感じたのは白ひげの温かい体温だった。膝をつき、スクアードを抱きかかえる。

 

「子が親に刃物を突き立てるってのは許されねェ事だ......おめェは筋金入りのバカ息子だぜ...スクアード。だがな......それでも親は子供を命がけで愛すんだよアホンダラァ」

 

白ひげは立ち上がるとを薙刀を甲板に叩きつけた。視線は処刑台にいるエースに向けられる。そして白ひげはスクアードにしか聞こえない声で言う。

 

「俺ァ白ひげだ。腹を刺されたくらいで痛くも痒くもねェ、ナメんじゃねェぞスクアード!」

 

薙刀の先にグラグラの実の力を集中させる。そして湾内の海兵達に向けて横薙ぎにした。衝撃波が海兵達を襲う。笑みを浮かべる白ひげ。

 

「スクアード、死んでもエースを助けろ......これは船長命令だァ!できねェならここで俺の戦いを見ておけェ!」

 

モビー・ディック号から湾内へ飛び降りる白ひげ。海兵達に緊張が走る。センゴクが叫んだ。

 

「動くぞ世界最強の海賊が!気を引き締めろ!」

 

残ったスクアードは海兵達を圧倒している白ひげを見て固まっていた。

 

 

 

スクアードは下を向き涙をこらえた。白ひげが嘘偽りを言うはずがなかった。海軍の白ひげへの対応を見て確信する。

 

・・・自分は海軍の思い通りに動いただけに過ぎない。・・・

 

その事に気付いた時、海軍への怒りと自分への怒りが入り混じり声にならない叫びをあげるスクアード。これからどうすればいいのか分からなくなっていた。

 

「迷ってる暇があったら海兵の一人や二人ぶちのめして来たらどうだ。」

 

いつの間にか隣にヒューが立っていた。下に落ちている野太刀を手に取ってスクアードに渡す。スクアードからの返事はなく、無言でそれを受け取り、前を向いた。そして戦場へ再び走り出そうとしたその時、前を向いたままスクアードは口を開く...

 

「ウォルフの兄貴の言葉......俺ァ忘れたことなど一度もねェぜ。」

 

そして雄叫びを上げながら戦場へと駆けだした。ヒューはモビーディックの船首にドカリと座り込む。ヒューは戦場を見下ろしながら近くにいたマルコに話しかける。

 

「ダッハッハ!スクアードの奴、昔と全然変わらねェじゃねえか。おい、マルコ。ロジャーの息子ってぇのはあの処刑台の上にいるガキのことか?」

「そ...そうだよい。」

「ダーッハッハッハ!!!なんだァ!あのちんちくりんはァ!ロジャーに全然似てねぇじゃねェか!生意気そうなガキだぜありゃァ!」

 

マルコはエースのひどい言われ様に少し頭にくる。

 

「......母親似なんだろうよい。」

 

マルコの言葉にヒューはじっとエースの姿を見る。

 

「ロジャーもやるこたァやってたんだなァ...」

 

何がしたいのか、この男は何をしにここへやって来たのか訳が分からなくなる。マルコは能天気な言動にため息すらつきたくなった。

 

「これからどうするんだよい?」

 

 ヒューは顎に手を置き、考えるしぐさをする。一瞬にしてその場の空気が変わる。マルコはそんなヒューを見て汗が止まらなくなる。先ほどまでとは全く違うヒューの雰囲気にいつも白ひげの近くにいるマルコでさえ底知れない強大さは肌を伝って感じた。昔もよくヒューと会っていたマルコだったが、これほどまでの男だったのかと驚く。世界中どこを探してもこれほどの男はそうそう居ないと確信できるほどだった。

 

「懐かしい顔もちらほら見えるからなァ......挨拶がてら暴れてやろうか。」

 

笑みを深くするヒュー。ゆっくりと立ち上がると、羽織っているボロボロの海軍コートが風に揺れた。  

 

 湾内に降り立ったヒューがまずしたのは雑兵の排除だった。その場にいる誰もが動きを止めてしまう。海兵も海賊もヒューから発せられる圧倒的な威圧によって立っていることすらままならなくなっていた。

 

 バタバタと倒れる海兵と海賊。数百万人に一人しか扱えないといわれる覇王色の覇気である。残ったのは将校クラスの海兵と隊長クラスの海賊のみ。ヒューは歩みを進める。

 

「てめェら、全員まとめてかかってこい......遊んでやらァ。」

 

 かろうじて倒れなかった海兵達はこれから戦うヒューを目の前に、気絶していた方がよかったと思っていた。なぜヒューに対してこんなにも恐怖するのかそれは誰にもわからなかった。

 

 

 

 

 

 処刑台の上にいたガープ、センゴクは動き出した白ひげとヒューを見て内心焦っていた。

 

「なぜ今になって奴が動き出すのか謎じゃが......この状況はよくないぞセンゴク。」

「わかっている....!止むを得ん...七武海を奴に充てる。白ひげは巨人部隊とボルサリーノに対応してもらう。」

 

そう言ってセンゴクは拳を握りしめたまま、戦場で暴れる大海賊二人を睨んでいた。



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衝突、虎狼vs海軍

 ヒューと白ひげが動き出した一方で、向かってくる海兵達を薙ぎ倒して処刑台へ走るルフィの姿があった。隣に革命軍幹部であるエンポリオ・イワンコフと先ほど王下七武海を抜けた海侠のジンベエが脇を固めている。

 

「イワちゃん!あのおっさん誰だ?!」

 

ルフィは突然現れたヒューを見て叫んだ。イワンコフはウィンクをして海兵を倒すという異色な技で前に進みながらルフィの質問に答える。

 

「ヴぁナ~タが知らないのも無理はないわね。あの男、ウォルフ・D・ヒューは大海賊時代以前から活躍していた海賊で最も海に愛されている海賊と言われていたわ。でも、大海賊時代の始まりとともにインペルダウンに幽閉されたッチャブルけどね。あの男の破天荒さというと伝説になっている程よ。」

 

ルフィは海兵を殴りながらイワンコフの話を聞く。横にいたジンベイもヒューのことを話し始めた。

 

「そうじゃルフィ君。あの男が起こした事件はそのどれもが常識では考えられんほどのものじゃ。バスターコールで召集された海軍をたった一人で壊滅させ、白ひげのオヤッさんとの長きにわたる決闘の数々。一人海賊でありながら新世界のある海域を支配し、そして、極めつけは天竜人の殺害じゃ。」

「天竜人を?!」

 

突如、巨人の海兵が驚くルフィの前に立ちはだかった。手に持った剣を振りかぶり、ルフィに向かって叩き付けようとする。ルフィは立ち止まり、親指を噛む。そして深く息を吸い込んで吐き出た。ゴム人間であるルフィの骨はもちろんゴムであり、空気を吹き込むと膨らんで巨人並みの大きさになる。それを敵に叩きつけるとどうなるかなど想像に難くない。簡単に地に沈む巨人の海兵。

 

しかし、反動が大きいのが難点だった。

 

「くっそ〜、またちいさくなっちまった〜。」

 

骨に溜まった空気が抜けて幼児ほどの大きさになるルフィ。イワンコフもジンベイもその姿を見て呆れる。

 

「ヴァナ〜タも相当規格外ッチャブルね。デス!ウィーンクッ!」

 

隙ありと言わんばかりにルフィに襲いかかる海兵。それをイワンコフとジンベイが蹴散らす。しかし海兵の攻撃は止むことがない。

 

「ルフィ君!お前さんはエースさんの事を考えておくだけでええ。周りの海兵はワシ等が食い止める!『鮫瓦正拳』!」

 

ジンベエの放つ攻撃は向かってくる海兵を吹き飛ばし、その隙にルフィが処刑台へと駆ける。

 

「絶対に助けてやる!待ってろエース!」

 

叫ぶルフィに対し、エースはただ下を向いてこの戦場を見ていなかった。

 

元は自分が勝手な行動をしたばかりにオヤジや仲間達、弟までにも俺のために命をかけている。エースはそんな事を考えながら悔しさで押しつぶされそうだった。俺が弱くなければ、俺がロジャーの息子でなければ、......俺が生まれてこなければ。

 

顔を上げるエース。一心不乱に処刑台へと向かってくる弟を見て思い切り息を吸った。

 

「来るなッ!!ルフィ!!!」

 

走っていたルフィがエースを見る。ルフィはエースと目が合うと満面の笑みになった。

 

「エース!今助けに行くからな!!」

「来るなっつってんだろうが!これは俺のせいで起きた戦争だ!自業自得なんだ......だからお前は関係ねぇんだよ!ルフィ!!!」

 

エースの叫びにルフィは海兵を殴り飛ばしながら負けじと叫ぶ。

 

「兄貴を助けに来て何が悪い!!!俺は......」

 

ルフィの声が戦場に響く。

 

「俺は弟だァ!!!」

 

ルフィがそう言うや否や海兵達の表情が引き締まった。エースの弟と言うことはロジャーの息子かもしれない。ここで逃がす訳にはいかないと、ルフィに襲いかかる。すると処刑台にいるセンゴクが再び口を開いた。

 

「ルーキー1人に何を手間取っているのだ!其奴は幼少期にエースと兄弟杯を交わし、其奴もまた危険因子を引く者。世界的犯罪者、モンキー・D・ドラゴンの息子だ!ウォルフ同様、決して逃がしてはならん!」

 

またも世界中に衝撃が走る。モンキー・D・ドラゴンといえば、世界で猛威をふるっている集団、革命軍のリーダーの名である。ドラゴンは素性を一切明かさず、指名手配されてはいるものの、全くと言っていいほど尻尾を掴めていないのが今の状況である。そんな謎だらけの男に息子がいたことに世界中が動揺していた。

 

「グラララララ、そういうことかガープ。」

 

白ひげは海兵を吹き飛ばしながらルフィを見据える。なす術もなく海兵達は白ひげの餌食になっていた。その反対側ではヒューが豪快に笑いながら海兵を殴っていた。ボコボコに膨れ上がった海兵の顔面を見て怯む他の海兵達。ヒューはそんな彼らに問いかける。

 

「次は誰だ?」

「手合わせ願おうか。」

 

その声に反応するかのように1人の男がヒューの前に立った。ヒューは笑みをさらに深くし、掴んでいた海兵を放り投げる。

 

「海軍じゃねえな?誰だお前。」

「ジュラキュール・ミホーク。一介の剣士をやっている。」

 

ヒューの前に立ったのはミホークだった。ゆっくりと背中に手を伸ばし、黒刀『夜』と言う名の世界最強の剣を持った。一瞬にして空気が変わる。

 

「伝説と言われる其方の実力、見せてもらおう。」

 

ヒューはその剣を見て何かを感じたのか何も言わずミホークを見ているだけ。まるでミホークの攻撃を正面から受けるとでも言うかのようにヒューは微動だにしなかった。

 

「外すんじゃねぇぞ......若造。」

 

次の瞬間、ミホークが放った斬撃がヒューに襲いかかった。ヒューはそれを何ともないかのように手刀でぶった斬る。しかし斬撃の威力は落ちることなく四方に飛んで行き、軍艦、海賊船、氷塊を真っ二つにした。

 

「なるほど......武装色の覇気か。それも練度が並外れているな。」

「ダッハッハッハッハ!いい斬撃だ!ミホークとか言ったな。俺のとっておきも見せてやろう!」

 

そう言うとヒューは軽く息を吐き、拳に力を入れる。

 

「ムッ!?」

 

ミホークの身体が強張った。威圧と共に覇王色の覇気がその場を支配する。ヒューは武装色の覇気を指先一点に絞り上げた。

 

「見ておけ若造共......これが覇王の覇王たる所以だ。覇気を扱う者は平伏し、覇気を知らぬ者は怯え、逃げ惑う。」

 

その言葉通り、周りの海兵や海賊達は皆、膝をついていた。意識を失う者もいれば、怯えたように歯をガチガチと鳴らして泣いている者もいた。ミホーク自身も味わったことのない感覚に驚く。

 

「これほどとは......」

「『覇撃』」

 

ヒューは武装色の覇気を纏った右手を振り上げ、素早く振り下ろした。ただの手刀と呼ぶにはふさわしくないほどの威力を持った嵐のような斬撃が全てのものを巻き込みながらミホークに襲いかかる。手に持つ『夜』でなんとか耐えるが、足場が限界だった。ボロボロと崩れる氷。ミホークは剣を上に振り上げ、斬撃の軌道を逸らした。直後、ドカアァァンという音がするとともにマリンフォードの一角が半壊した。そしてその斬撃は止まらず四方を囲んだ氷の壁までも破壊したのだった。

 

言葉を失う海兵や海賊達。ヒューはその光景を見て大声を上げて笑っていた。

 

「ダーッハッハッハッハ!ダハッ、ダハハハ!!!」

 

何が面白いのか大笑いするヒューの後ろに迫る影。それに気づき、ヒューは後ろを振り返った。

 

「もう下がってなよ鷹の目。」

「そうか......ならば私はあの麦わらの男を追うとしよう。」

 

ミホークはそう言ってその場を離れる。

 

「そうかい......アーララ、あんなにやっちゃって。こうなったらこっちも黙ってられないよ、虎狼のウォルフ。」

 

ヒューの目の前には半分氷の男が立っていた。海軍大将青雉こと、クザン大将である。

 

「やっと見知った顔が出て来やがったか......よりによってテメェか中将のクソガキ。」

 

そう言いつつ拳を放つヒュー。クザンは後ろに飛んでそれを回避した。そして掌の上に氷の槍を作るとヒュー目掛けて発射する。ヒューは最小限の動きで槍を躱すと拳を氷の地面に叩きつけた。盛り上がる氷がクザンを襲う。しかしそこは氷人間、盛り上がった氷をさらに凍らせて動きを止めた。

 

「相変わらず厄介な覇気だこと。アンタ、いい加減死んでくれないかな。」

「フン!クソガキに殺されるほど耄碌してねェぜ。『覇拳』」

 

ヒューは一瞬でクザンの目の前に迫り、拳を放った。氷になり爆散するクザンの身体。そして空中でゆっくりと身体を再構成して行く。

 

「『アイスボール』」

 

クザンの声が聞こえると共に氷がヒューを覆った。一瞬にして氷の塊ができる。クザンはその氷の前に降り立つ。その氷の塊を中にいるであろうヒューと共に叩き壊そうとして拳を振り上げるが氷の中にヒューはいなかった。気配を察して振り返るクザン。しかし迫っていたヒューの拳により吹き飛ばされた。

 

「オゥオゥやってくれるじゃないの全く......アンタ1人にどれだけの海兵が犠牲になるんだろうね。ホント、やってらんねぇなァ...」

「フン!大人しくしてろとでも言うつもりか?悪いな......」

 

ヒューの足がすでにクザンの目の前に迫っていた。回避しきれないと思ったのも束の間、吹き飛ばされるクザン。

 

「俺ァ海賊だからなァ......」

 

吹き飛ばされたクザンはすぐにヒューに反撃しようとするが、1人の男がヒューとクザンの間に立った。

 

「ウォルフの兄貴!後は俺に任せてくれ!」

 

野太刀を手に持ち、構える男。白ひげ傘下の海賊スクアード。ヒューは、何も言わずゆっくりと歩みを進め始める。その背後でスクアードの雄叫びが轟いた。

 

「野郎共!海軍大将青雉の首を取るぞ!俺に続けェ!」

 

 

 

 

 

ヒューの視線の先には同じ容姿をした數十体の巨大な男が口を開けてビームを連射していた。それを見てヒューは呟く。

 

「......ゲロでも吐いてんのかありゃ。」



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苦戦の海軍。虎狼の勢いは止まらない!

 パシフィスタと呼ばれる海軍の最新科学兵器が戦場の海賊達を吹き飛ばしていく。姿は王下七武海、バーソロミュー・くまと瓜二つであり、口から黄猿の能力を模したレーザーが放たれる。並の海賊は為す術もなくパシフィスタの餌食となっていた。

 

「ダーッハッハッハ!」

 

パシフィスタ部隊の前に立つヒュー。その両腕は鈍く黒く光っていた。指揮をしていたお河童頭の鉞を担いだ男がとっさに叫ぶ。

 

「パシフィスタ!即刻この男を取り押さえろ!!急げ!」

「遅ェ!」

 

一瞬にして目の前にいたパシフィスタの頭を握り潰すヒュー。息をつく暇もなく迫って来ていた2体のパシフィスタを殴った。一発目。装甲が固く、体を貫けず終わる。そして、チャンスとばかりにビームがヒュー目掛けて放たれた。まともに喰らい、仰け反るヒュー。しかし倒れるまではいかない。ボロボロの海軍コートがさらにボロボロになり、その下の囚人服までもが破けて肌が露出していた。

 

「うっとうしいわ!」

 

早速服の意味を果たしていなかったコートと囚人服を脱ぎ棄て、パシフィスタに向かって駆け出す。

 

「『覇拳』」

 

そのたった一撃で数体のパシフィスタが起動停止する。

 

「くそ......しかたねぇか。“こちら、戦桃丸。援軍を要請する!強い奴を送ってくれ!中将でも七武海でもいい!パシフィスタだけじゃ手に負えねェ!”」

 

電伝虫で連絡を入れる戦桃丸と名乗った男。彼は海軍化学部隊隊長を務める非正規海兵である。パシフィスタだけではヒューを確保できないと踏み、応援要請を出した。だが、ヒューが大人しく待っているわけがなく、

 

「俺ァ先行かせてもらうぜ海兵のあんちゃん。」

 

ヒューはそう言うと同時に戦火が激しい広場付近へと駆け出した。残ったパシフィスタが追おうにもヒューの足の速さは尋常ではなく、瞬く間に姿が消えた。

 

 戦桃丸は鉞を地面に叩き付け、歯を食いしばりながらヒューが駆けて行った方向を睨みつける。

 

「チッ......伝説か何だか知らねェが、絶対ェ、インペルダウンに送り返してやっからな!ウォルフ・D・ヒュー!!」

 

戦桃丸の決意の叫び声がその場に響いたのだった。

 

 

 

 

 更なる戦いを求めてヒューは強い海兵または海賊を探していた。そんな時、

 

「フッフッフ......オイオイ、これは中々な大物の登場だなァ。そう思わねえか?ワニ野郎。」

 

ヒューは立ち止まり、声のした方を見る。そこには羽毛のコートを羽織り、何かを企んでいそうな笑みを浮かべた大男が山積みになった海賊の上に座っていた。彼の名はドンキホーテ・ドフラミンゴ。王下七武海の一人で新世界の国、ドレスローザの国王でもある。そして、その下にはオールバックで目つきが鋭く、左手にフックの付いた義手を装着している男、クロコダイルがヒューを睨んでいた。

 

「誰だテメェ等。」

 

好戦的な雰囲気を醸し出している二人に対してヒューも笑みを浮かべながら指の骨を鳴らした。

 

「まァ、そう焦るなよ。伝説の大海賊に会えるなんて思ってみなかったからよ。」

「まさかお前がインペルダウンから脱獄するなんてな。どういう風の吹き回しだ?」

 

その場には異様な空気が流れていた。軽口を叩いているにもかかわらず対峙する3人の殺気は尋常ではなく濃いものだった。

 

「ダッハッハッハ!決まってるじゃねぇか。クソ餓鬼共が粋がってるのが羨ましくなっちまったのさ。それにヤツがまだ現役だって聞いてよォ!だったら俺もあんな臭ェ所で燻ってる訳にいかねぇだろう!ダハハハハッ!耄碌してねェようで安心したぜェ!」

 

海兵達がヒューを捕えようとタイミングを見計らっているが、隙などありはしなかった。

 

 そんな時、ドフラミンゴが突然手を振り上げた。不気味な笑みを浮かべて縦横無尽に指を動かすドフラミンゴ。次の瞬間、ヒューの体に無数の血の線が浮かび上がる。

 

「ほう......なかなか硬い体じゃねぇか。ますます面白ェ!」

 

ドフラミンゴはイトイトの実を食べた糸人間。指で不可視の糸を自由に操る能力を使い、ヒューの体を細切りにする勢いでドフラミンゴが操る糸はヒューを容赦無く襲った。予想通りヒューは血まみれになったが、細い糸の線がくっきりと出てそこから血が滲み出ている状態に留まっていた。ヒューは自分の身体を見渡し、そしてドフラミンゴを睨みつけた。。

 

「どうした、ウォルフ・D・ヒュー。傷つけられたことに驚いてるんじゃねェだろうな?フッフッフッフ...次はその身体ブツ切りになってるかもなァ。」

 

再びドフラミンゴの指が動き出す。しかしその瞬間、不気味な違和感を感じ取りドフラミンゴは思わず動きを止めた。不気味な違和感の正体は言わずもがなヒューから発せられる威圧。

 

「フフフフッ......フフフッ......。」

 

一目見た時から規格外だと感じ取っていたドフラミンゴだったが、それ以上に急に様変わりしたヒューの様子を見てドフラミンゴは突然笑い出す。

ドフラミンゴをここまで怯ませた海賊はごく少数であり、王下七武海になってからはそんな感覚すらも忘れかけていた。

 

それまで傍観していたクロコダイルが呆れたように呟く。

 

「無様だなトリ野郎......。」

 

 ヒューはこれでもかというような深い笑みを浮かべ、ドフラミンゴを見る。そして拳を握りしめ、ゆっくりと歩き出した。それと同時に目の前に砂の壁が出来上がっていく。

 

「思い出したぜ...お前インペルダウンの天井に穴開けた奴かァ。」

「思い出した所悪ィがくたばれジジイ!」

 

砂の壁は人の形を構成していき、クロコダイルの姿となった。鉤爪がヒューの喉に襲い掛かる。ヒューはその鉤爪を紙一重で躱すと握り締めていた拳でクロコダイルを殴り飛ばし、ドフラミンゴの方に足を向けた。

 

「糞ガキ共が......。」

 

その場にいる誰もが認識できないほどの速さでヒューは飛び出す。そしていつの間にかドフラミンゴの目の前に立っていたヒュー。喉元を鷲掴み、氷の地面に叩きつける。

 

「俺の身体に傷つけるたァいい度胸してるじゃねェか。まあ、2人相手にしてやるってのも吝かじゃねェが......お前らだと実力不足だァ。」

 

ヒューがそう言いながら口から血が出ているクロコダイルの方を見た。クロコダイルはヒューを見ても動じず、軽く笑みを浮かべている。

 

「チッ、俺は今無性にイラついてんだよ...。俺に背中向けるってことは分かってんだろうなァ、精々後ろからの攻撃に気を付けることだ。」

「フッフッフ...このジジイには中々攻撃が通りそうねェな。こんな力の差があるとはなァ!!面白れェ.......面白れェぞ!」

 

ヒューは笑うドフラミンゴから手を離して周りを睨みつけるように見渡した後、更に戦火が激しい広場付近に目を向けた。

 

 そこでは真っ赤な溶岩が空から降ってきており、足元の氷を次々と溶かしていた。その流れ弾がヒューがいる場所にも飛んできている。その溶岩を呼びつけている人物を特定すると体中を武装色の覇気で覆った。

 

「俺の攻撃にどれほど耐えられるか楽しみだなァ。」

 

立ちはだかる海兵を木の葉のように吹き飛ばしながらまっすぐ進むヒュー。目指すは海軍大将サカズキの元だった。

 

ヒューが居なくなった場所ではドフラミンゴがヒューの背中を見て首を鳴らし、呟いた。

 

「アイツに声かけるってェのも可能性としてはありだなァ......これだから海賊は辞められねェ!フッフッフッフッフ!」

 

笑うドフラミンゴと、クロコダイルの周りは白ひげ海賊団が囲んでいた。

 

「こうして見てみるとあのジジイの規格外さが分かるってもんだなァワニ野郎。」

「黙ってろ...殺すぞ。」

 

その言葉通り、クロコダイルはドフラミンゴに向かって砂の斬撃を浴びせ、ドフラミンゴは糸を使い、クロコダイルの首を刈り取った。

 

 ドフラミンゴは跳び上がり砂の斬撃を逃れたが、クロコダイルは避けることなく首が飛んだ。しかし、ロギア系の能力者であるがためにダメージはゼロと言ってよかった。

 

「フフフフフ......どうだ、俺と組む気になったかワニ野郎。」

 

クロコダイルは答えることなく、舌打ちを一つして砂になって風に乗ってどこかへ飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、戦いとは別に海軍の死刑執行準備が整いつつあった。

 

「準備ができたか。それではポートガス・D・エースの処刑を執行しろ。失敗は許されない。正義の名にかけて必ず成功させるのだ...。」



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早まるエースの処刑!白ひげ海賊団の猛攻!

マリンフォードはかつてない戦いに崩壊の一途を辿っていた。逃げられようもない三大将の能力による攻撃は海賊達を海の藻屑へと変えていく。そんな中、処刑台には新たに2人の処刑執行人がエースの横に立った。

 

センゴクの声が世界中に響き渡る。

 

「これより、ポートガス・D・エースの処刑を行う!」

 

手に持っていた電伝虫の通信を切り、近くにいた赤犬に指示を出す。

 

「サカズキ、手筈通りに頼んだぞ。」

「わかっとります。ヌン!『流星火山』!」

 

サカズキは身体をマグマに変えると、そのマグマを巨大な塊にして凍っている海に向かって放った。無数のマグマの塊は禍々しい拳の形をしており、湾内にいる海賊はなす術もなく氷が溶けた海の中へ落ちて行った。

 

海軍はマリンフォードの広場に海賊を上がらせないように波打ち際に巨大な壁を自動的に構築する。そして逃げられなくなった海賊達を一網打尽にする作戦だった。しかし、ここで海軍の思惑は思うようにいかなかった。正面の壁が一つだけ構築されなかったのだ。

 

それを食い止めているのは、

 

「エーズぐん!だずげにぎだど!」

 

見上げるような巨体。巨人族よりもはるかに大きいその男の名は、リトルオーズ.Jr。伝説になっている、かつて国引きと呼ばれた魔人オーズの子孫であり、白ひげ海賊団傘下の海賊を率いる船長である。

 

湾内が壁に囲まれるのを防いだのはよかったものの、広場にいる海兵からの攻撃を全て受けることになった。オーズにとっては痛くも痒くもない攻撃ばかりだった。しかしそれがオーズの油断を招いた。広場の海兵達を腕の一振りで潰すオーズはそこから、そのまま処刑台へ向けて手を伸ばす。

 

「おでがエーズぐんを助げるんだ......!」

 

目の前にはエースがいた。しかしその表情は助けられると分かっている嬉しそうなものではなく驚愕の表情だった。刹那、オーズの視界が真っ赤に染まった。

 

「オーズッ!!!」

 

ほんの数メートルでエースに手が届いていたはずだがオーズは何かの衝撃で後ろへと仰け反り、処刑台から離れた。エースは横に立つ男を睨みつける。

 

「邪魔じゃァ。処刑時間を早めた意味が無くなるじゃろうが…。」

 

サカズキがマグマの拳をオーズの顔面に叩きつけていた。そして睨むエースに言い放つ。

 

「ワシがこの場で貴様の首を狩ってもええんじゃが、ワシにもやらにゃあいけんことがあるんでのォ……惜しいのォ。」

「処刑は執行人の仕事じゃ。それより、早う白ひげを止めて来たらどうじゃサカズキ。あやつはすぐにでも広場に乗り込みよるぞ。」

 

湾内に少しだけ残る氷の上に立つ白ひげを険しい顔で見ながらガープがそう言うとサカズキは無言で踵を返し、処刑台から降りた。

 

ガープは一点を見つめたまま手から血が出るほど拳を握りしめ、何かに耐えているようだった。

 

 

 

 

オーズの様子を見ながら白ひげは子電伝虫を取り出し、一言呟いた。そして、海賊団の船員を氷が残った少ない一ヶ所に集めるように近くにいたマルコに支持を出す。

 広場に一番近い場所にあったモービー・ディック号はサカズキのマグマによって破壊されていたために白ひげ達は移動手段を失っていた。そして、今まさに残った氷を解かし白ひげ海賊団を襲うかのごとくマグマが目の前に迫っていた。

 

「跳べェ!野郎共ォ!!」

 

白ひげの声に躊躇することなく海賊達は氷のない海へと跳んだ。能力者であれば海の藻屑となってしまう行為だが、その中に白ひげやマルコ達の各隊長までもがいた。

 

 

 

海に飛び込みかけたその瞬間、突如として海面が揺れ始める。小さな波しぶきだったものが徐々に大きくなり、巨大な何かが姿を現した。

 

海兵の一人が叫ぶ。

 

外輪(バトル)(シップ)だァ!!!」

 

白ひげはあらかじめ海底にコーティングしておいた外輪(バトル)(シップ)を待機させ、広場に船ごと乗り込むために用意しておいたのだ。海へと跳んだ海賊達は全員船に乗り込み、あとは広場へ乗り付けるだけとなった。

 

 再び白ひげが叫ぶ。

 

「オーズ!!!わかってんだろうなァ!!!!」

「オ゛ォ!」

 

モクモクと顔から煙を出すオーズにその声が届いたのか、唸りとも取れる声を上げてオーズは広場へ乗り上げようとする外輪(バトル)(シップ)を両側から掴み、壁がない隙間に持ち上げた。

 

「この死にぞこないがァ!!!」

 

船が広場に上がったと同時にドゴオォォォンという爆音が響き渡った。白ひげは何が起きたのか分からないままオーズを見上げる。

 

焦点があっていない眼。何かを言おうとするが声にならない。口からは大量の血が出ていた。オーズの腹には大きな穴が開き、貫通して向こう側が見えていた。普通の攻撃では有り得ない。

 

「エ...エーズぐん...。」

 

オーズは船から手を放すとそのまま後ろ向きに倒れ、海に沈んだのだった。

 

「広場に乗り込めェ!エースを奪還しろォ!」

 

海賊達は倒れたオーズを気にしている余裕はなかった。白ひげの声に反応し、広場に降り立つ。その間、白ひげは船首から一人の男を睨みつけていた。

 

「なんじゃァ、その眼は...。」

 

オーズに致命傷を与えたのは紛れもなくサカズキだった。オーズに風穴を開けた煙の上がる腕は今にも白ひげに牙を剥けようとしている。白ひげは鬼の形相でサカズキを睨みつける。

 

「いずれは倒されるべき存在......お前も道連れじゃァ白ひげェ!!!」

 

マグマの拳を白ひげへと放つサカズキ。白ひげは薙刀を構えてそれを迎え撃つ。そして次の瞬間、轟音がマリンフォードに響き渡った。

 

 煙で視界が遮られ、両者がどうなったのか周りからは見えなかった。そんな中、笑い声が響き渡る。

 

「ダーッハッハッハ!ダハハッ!」

 

立ち込めていた煙が晴れると白ひげとサカズキの間にかヒューが立っていた。ヒューの拳はサカズキのマグマと化した拳に突き刺さっており、驚くサカズキをよそに素早く蹴りを放ち吹き飛ばす。

 

「邪魔すんじゃねェアホンダラァ!」

 

突然現れたヒューに薙刀を振り回して白ひげは叫ぶ。ヒューは笑いながらその攻撃を避けていた。白ひげは何度も振り上げていた薙刀を降ろし、舌打ちをしながら処刑台を見た。ヒューも同じ方を見て口を開く。

 

「ロジャーに全然似てねェなァ。処刑台のあの姿......あいつに似ても似つかねェぜ。」

「あれは俺の息子だ。ロジャーじゃあねェ。」

 

白ひげは白い歯を見せながら笑う。ヒューも処刑台を見てニヤリと笑った。

 

そんな様子を見て海兵達はどよめいていた。2人の大海賊が並ぶことなどそうそうありはしない。巨人族には及ばないものの海兵を見下ろす巨体の白ひげ、白ひげには劣るが決して小さくはないヒュー。白ひげの実力は言わずもがな。ヒューはその実力をあまり知られていないとはいえ、最高戦力である大将を一蹴りで吹き飛ばしている。その光景を見て、これから起こる惨劇を想像せずにはいられなかった。そして、その予想は遠からずとも当たってしまう。

 

船首から飛び降りるヒューと白ひげ。降り立った瞬間から空気が変わる。海兵も海賊もそれが分かるほどの威圧感だった。

 

「覇気垂れ流してんじゃねェぞ。」

「ダハハハ!うるせェ!てめェも人のこと言えねぇだろう!」

 

伝説と言われるだけの存在感は圧倒的だった。体は若くないものの、身体全体から放つ覇気は誰にも負けないものが2人にはあった。

 

 動けない海兵達にヒューと白ひげは問答無用で攻撃を繰り出していく。白ひげの薙刀一振りで吹き飛んでいく海兵。ヒューは誰彼かまわず殴りかかっていた。血の海に染まるマリンフォード。そんな大海賊2人の前に轟音と共に何かが地面に突き刺さった。

 

「いッてててて....着地失敗しちまった。ん?あれここどこだ?」

 

そこに突如現れたのは麦わらのルフィだった。麦わら帽子を大事そうに手に持ち、周りを見回している。

 

「ダハハハハッ!なんでこんなところにガキがいるんだ?」

 

ルフィを見て一層笑い声を大きくするヒュー。ルフィはそんなヒューと横に立つ白ひげを見つけて口を開く。

 

「おっさん!俺は子供じゃねェ!!海賊王になる男だぞ!!!子供扱いすんな!」

 

ヒューは笑うことをやめてルフィを見た。海賊王と言う言葉に反応し、ヒューの表情が消える。白ひげは呆れたようにため息を吐く。

 

「海賊王?あぁ、ロジャーが呼ばれてたあれか。おい、ニューゲート。海賊王ってェのはこんなクソガキにもなれるもんなのか?」

「んなもん知らん。時代が決めることだ。」

 

そう言うと薙刀を振り海兵を吹き飛ばす白ひげ。ルフィは2人に対してまだ何かを言っていたが、ヒュー達は聞く耳も持たず再び周りの海兵を蹴散らし始める。

 

「小僧、海賊なめんじゃねェぞ。アホンダラァ。せいぜい生き延びて見せろ。その気があるんならナァ!!」

 

ルフィが答える間も無く白ひげは空いた腕に力を入れるとそのままグラグラの能力で大気にヒビを入れた。するとマリンフォードは壊れそうなほどに揺れ、海兵達が地震によって割れた地面の隙間に落ちていった。ヒューは白ひげが能力を使うと分かった瞬間からその場から一瞬で跳び上がって運悪く処刑台に着地した。

 

「チッ、野郎、相変わらずバカだぜ。」

「貴様も相当のバカだと思うがな。......虎狼。」

 

ヒューが後ろを振り向くと背後には目を見開いているエースと、今にもヒューに襲いかかりそうなセンゴクとガープがいた。ヒューの笑みが大きくなる。

 

「ダハハハハッ!久しぶりだなァガープ!センゴク!」

「ガハハハハ!まさかここで会うとは思わんかったわい!」

 

指の骨を鳴らしながらガープはヒューに近づいた。そんなガープにセンゴクが待ったをかける。

 

「待てガープ。其奴のことは放っておけ。優先すべきはエースの処刑だ。」

 

戦闘態勢に入っていたヒューはセンゴクの言葉を聞いてすぐに海軍に捕まることはないと確信し、戦闘態勢を解いてその場に座り込んであぐらをかいた。しかし、ガープは止まることなくヒューの胸ぐらを掴み上げ拳を振り上げる。

 

「ワシは止まらんぞセンゴク......。此奴を一発殴るまではのう!」

 

そう言って間も無く、黒く変色した拳がヒューに襲いかかった。生きる伝説となっている海兵の一撃。それをヒューは涼しい顔で見ていた。一方でセンゴクの怒声が響く。

 

「処刑執行だガープ!持ち場に戻れ!!!その男などいつでも捕まえられるだろう!」

 

ガープの動きが止まり、ヒューはガープの腕を振りほどく。

 

「ダハハハハッ!まぁ、俺はここからは動かねェからよ。処刑でなんでもさっさと済ませてくれや。」

「貴様ァ!!!!」

 

ガープの怒りが覇王色の覇気となってヒューに向かった。ヒューは笑みを浮かべたまま拮抗するように覇気で応戦する。バチバチと稲妻が走るように空気が揺れた。処刑台の周りの海兵や海賊達が次々ととてつもない覇気によって気を失っていく。

 

「老いぼれがァ!!!!貴様はここで潰しておかにゃあならん!!!」

「ダハハハハッ!!そう言うお前もジジイじゃねェか!おうガープ、年の数え方も忘れたかァ?」

 

エースは目の前のガープが別人に見えていた。普段はマイペースでルフィの祖父らしく自由なジジイとしか認識がなかったエース。キレると何をするかわからないが、それはエースの幼少期に説教としてであり、今のように怒りに任せて力をふるっているのは見たことがなかった。そして何故こんなにジジイはキレているのかと、エースには分からなかった。

 

ガープがヒューを潰そうとしている中、センゴクは覇王色の覇気の余波を受けて意識を失った執行人を下がらせて、控えさせていた別の執行人を処刑台に呼んだ。

センゴクが目の前のヒューよりエースの処刑を優先するのはヒューにとってエースの処刑など興味も示していないと言う理由だからである。今この時は世界にエースの公開処刑を見せる場。もうすでに準備は整い、あとは処刑執行するだけとなっていた。

 

執行人が2人、エースの横に立つ。エースは歯を食いしばり、下を向いた。執行人が持つ柄の長い長剣の剣先がエースの首元めがけて振り下ろされようとしたそんな時、

 

 

マリンフォードを揺るがす叫びが突風と共に響き渡った。

 

「やめろーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうございます。


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立ちはだかる英雄ガープ!目指すは処刑台!

「やめろーーーーッ!!!!」

 

マリンフォード全体に響き渡るような声がすると同時に、空気が一瞬にして様変わりした。処刑執行人が泡を吹いて倒れたかと思うと、それにとどまらず何人もの海兵や海賊が倒れた。ヒューはその光景を処刑台の上から静かに見ていた。ヒューと対峙していたガープは驚きの言葉を口にする。

 

「やはり持って生まれたか......。」

「覇王色か......あんなガキがなァ。」

 

ヒューは笑みを浮かべて麦わら帽子の少年を見る。ガープもまた振り上げていた拳を下ろし、ヒューと同じ場所を見た。

 

「虎狼、貴様を殴るのは一旦お預けじゃ。ワシにはやることができた。」

「ダハハハハッ、いつでも歓迎だァ!」

 

笑うヒューを無視し、冷静にルフィの方を睨みつけながらガープは拳を握る。そして何かを決心したようにその場を離れた。

 

「最後の説教じゃ......覚悟せいルフィ!」

「待てガープ!」

 

センゴクがガープの行動を予測してか、制止する。しかしガープは止まらなかった。

 

白ひげ海賊団もルフィが起こした今の光景に驚いていた。海兵と戦うのをやめてルフィの方を見る。

 

「グララララ。」

「マジかよい!?エースの弟...!」

「オヤジと同じ覇王色の覇気を?!」

 

白ひげ傘下の海賊団と戦う海軍将校や王下七武海までもがルフィの力に言葉を失っていた。

 

「これはマズイねェ〜。」

「オイオイ、マジか。」

「フッフッフ......面白くなって来たぜ...」

「流石はわらわのルフィ......♡」

 

エースが処刑されるのを見て焦った麦わらのルフィは無意識の内に覇王色の覇気を覚醒させていた。そのため処刑が行われなかったことを幸運にしか思っておらず、ルフィは周りで起こった事を気にすることなく処刑台に向かって駆け出していた。そして、ルフィの後ろにはエンポリオ・イワンコフとその配下であろうサングラスを掛けた男が走っていた。

 

「イナズマ!麦わらボーイの援護をおし!......それにしてもヴァなた、いつの間に覇王色の覇気を?」

 

イワンコフは革命軍の上司であるドラゴンの息子のルフィが覇王色の覇気を扱えることに何ら不思議はなかったが、それでも自覚することなくこれほどの覇気は数百万人に一人と言っても過言ではないことに驚いていた。もし、自在に制御できたなら彼はさらに高みへ登るだろうとも確信した。

 

 ルフィは走りながらイワンコフの言葉に返事をする。

 

「何言ってんだイワちゃん?ハム食?ハム好きだぞ俺!」

「そうそう、ハム美味しいッチャブルわよね......って、誰がハムの話をするかァ!」

 

イワンコフのノリツッコミが炸裂する中、ルフィの前にイナズマが躍り出て地面をハサミ状にした手で切って行く。これがイナズマの能力、チョキチョキの実の能力である。紙のようにペラペラとした石畳がまるで蛇のように動き始めて間も無く処刑台までの橋を作り上げた。

 

「麦わらのルフィ、ここを登っていけ。ここは私達に任せろ。」

「おう!ありがとな!」

 

ルフィは海兵達の攻撃をくぐり抜けてエースがいる処刑台を目指す。そして、それを黙って見過ごすほど海軍は甘くない。走るルフィの目の前に一人の男が轟音とともに降り立った。思わず立ち止まり、ルフィは叫ぶ。

 

「そこどいてくれじぃちゃん!!!エースを助けにいけねェ!」

 

ルフィを足止めした海兵は先ほどまでヒューと戦っていたガープだった。ガープの額に血管が浮かび、巨大な拳がルフィを襲う。

 

「ここを通りたくば、ワシを殺してから行けェルフィ!」

 

間一髪でガープの拳を避けると、ルフィは体勢を立て直した。しかし次の攻撃に躊躇してしまう。

 

「できねぇよじぃちゃん!頼む!そこをどいてくれ!」

 

ガープの拳は勢いを止めることなくルフィに降りかかる。攻撃をする意志のないルフィにとって避けることしかできなかった。頬に掠って血が流れ、当たるか当たらないかのスレスレで躱すためパラパラと髪の毛が落ちる。

 

「貴様らはいつもそうじゃ......ワシの言うことを一つも聞かん。説教じゃルフィ!これがお前が選んだ海賊の道じゃ!じぃちゃんを殺す気がないのならワシがお前を殺すまでじゃァ!!!!」

 

今までで一番鋭く速い拳がルフィを襲った。ルフィは歯を食いしばり、叫ぶ。

 

「『ギア・2(セカンド)』」

 

ルフィの身体から途轍もない圧力と共に蒸気が辺り一帯に立ち込める。ガープの拳が目の前に迫った今、避けることはできないと誰もが思ったが、そうではなかった。

 

ルフィの体が消え、ガープの拳が空を切る。そしてガープが気づいた時には既に真横に移動しており、攻撃の構えをとっていた。繰り出されるルフィの拳。軌道を肉眼で追うことすらできず拳を放ったことさえも分からないほどルフィのパンチは速かった。

 

しかし、ガープは並の海兵ではない。20年以上も前線で戦って来た海軍の英雄。伝説の男。ルフィの攻撃は読めていた。

 

「ワシにそんな攻撃は効かんぞルフィ!!!」

 

ガープの覇気を纏った拳が再びルフィを捉えた。すかさず逃げようとするが、ガープは咄嗟にルフィの服を掴み、逃げられないようにする。そして思い切りルフィを殴った。

 

「じ....じぃちゃん......」

 

ガープは何度も何度もルフィを殴った。掴んだ服を離すことなく、ルフィの戦意を消失させるまで止めようとはしなかった。

 

ガスッ!ゴツッ!と言う鈍い音が響く。

 

ルフィが打撃に強いゴム人間であるにも関わらず血が流れるほどにガープの拳をくらっているのはガープの覇気によるもの。次第に虚ろになっていくルフィの目。もはやどこを見ているのか分からないほどだった。

 

 ガープは次第に動かなくなっていくルフィを直視できなくなっていた。現実逃避するかのように眉間にしわを寄せて目を閉じながらルフィを殴る。ガープに迷いが生まれていた。目の前にいるのは敵である海賊だが、自分の命より大切な孫であり、家族である。そんな矛盾がガープを迷わせていた。

 

「海賊なんぞになりよって!!!なんでワシの言うことを聞かんかったんじゃァ!!!」

 

カッと目を開いたガープの目には溢れんばかりの涙が流れていた。ルフィはこんなにも泣いているガープを見たことがなかった。しかし、ルフィには夢がある。

 

「お......俺は海賊王になる...!いつも言ってるじゃねぇかじぃちゃん!」

 

焦点の合っていなかったルフィの目に光が灯る。

 

「まだ言うかルフィ!!!」

 

 ガープは思う。今となっては仕方のないことかもしれない。ルフィが赤髪に会った時から、ルフィは海軍より海賊に憧れを抱いていた。子供の純粋さは子供の特権だ。ルフィを海賊の道に引き込んだ赤髪を恨むことはあっても、あの頃のルフィを悪くは言えなかった。ある男の言葉が思い浮かぶ。

 

『子供に罪はねぇんだぜガープ。』

 

しかし自分が海軍の素晴らしさを教え、ルフィが海兵になっていれば、エースが海兵になっていればと後悔にも似た感情がガープを支配する。それでもルフィへ攻撃は止むことはない。今現在、自分は海軍でありルフィは海賊だ。ルフィは孫だがもう子供ではないのだ。これはワシらに与えられた宿命なのだと心の中で自分に言い聞かせる。

 

 そして、とどめを刺そうと思い切り振りかぶった拳がルフィに当たる瞬間、突然ガープが横に吹き飛ばされた。思わずルフィから離れ、何が起こったのか辺りを見る。

 

「しっかりしろエースの弟。エースを救えるのはお前しかいないんだよい......。」

 

そこに立っていたのは青白い炎を纏う能力者。白ひげ海賊団1番隊隊長、不死鳥のマルコだった。

 解放されたルフィは咳き込みながらマルコを見た。

 

「ここは俺に任せろよい!」

「あ.....あァ。」

 

マルコは立ち上がったガープと対峙する。体を不死鳥へと変化させガープに攻撃を仕掛ける。ルフィは深呼吸しながら息を整える。

 

「邪魔じゃ小僧!!!」

 

ガープの怒声が響き渡る中、ルフィは2人の戦闘が始まるや否や、ギア2を使って身体能力を上げる。そして瞬時にエースの元へ飛び出した。ガープは逃がさないと言わんばかりに懐をすり抜けようとするルフィに蹴りを放とうとする。

 

 しかし、マルコがそれを許さなかった。ガープの動きを止め、ルフィに向かって叫ぶ。

 

「エースを頼んだよい!!!」

「小賢しい真似をしよって!!!」

 

ガープはマルコを殴り飛ばし、橋から落とす。そして再びルフィに襲い掛かる。ルフィはもう迷わなかった。・・・エースを助けたい!たった一人の兄ちゃんだ。誰にも俺を止めさせない!・・・

 

「『ゴムゴムのォ・・・ジェットバズーカァ!!!』」

 

高速でルフィの両腕が突き出され、ガープの腹を打ち抜いた。ガープはくの字に体を折り、口から血を吹く。そして、橋から落ちて行った。

ルフィは一目散にエースの元へ急ぐ。もう、邪魔をする者はいなかった。ルフィには処刑台の上にいるエースだけしか見えていない。

 

「エーーーーーースーーーーーーーーッ!!!」

 

それまで沈黙を貫いていたエースがルフィの姿を見て叫ぶ。

 

「ルフィ!!!」

 

そしてルフィは処刑台へとたどり着いたのだった。

 

 

 

 

「ポートガス・D・エースの処刑は邪魔させんぞ、麦わら......!」

 

知将、仏のセンゴクが動き出した。



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ついにエース奪還!激突、大将vs怒りの虎狼!

処刑台の上には海楼石の手錠を付けて座る処刑人であるエースとその横に立つ海軍元帥センゴク、そして2人から距離を取るようにこの場に一番似つかわしくない男、海賊ウォルフ・D・ヒューがいた。処刑執行人はエースの横でルフィの覇気により意識を失って倒れている。

 

ルフィを止めるべく飛び出して行った海軍中将であるガープが倒れた今、ルフィが処刑台に到達するのは秒読みだった。

 

「ダハハハハッ!ガープはあんなに弱ェ奴だったか?」

 

ルフィに吹き飛ばされたガープを見ながら笑うヒュー。センゴクは無表情のままだった。

 

「気楽にしているのも今のうちだぞ虎狼。エースの処刑が終わり次第貴様を再びインペルダウンに送ってやる。」

「悪いなセンゴク、俺ァ海賊だからなァ......」

 

ヒューの纏う雰囲気が変わる。

 

二人の鋭い視線が交差した。今はこう着状態であるがヒューは再びいつでも暴れる準備はできており、センゴクもまたヒューを制圧することはいつでもできる状態である。昔からガープ同様海で争ってきた仲であるため互いの思惑は分かっていた。

 

「さァて、天はどっちの味方だろうなァ。」

 

そう言って立ち上がるヒュー。次の瞬間、

 

「エーーーーーースーーーーーーーーッ!!!」

 

ルフィの声が響いた。エースがふと顔を上げるとルフィが処刑台に間も無く到着するところだった。

 

「ルフィ!!!」

「助けに来たぞエース!ちょっと待ってろ!」

 

ルフィはおもむろに懐から一つの鍵を出した。センゴクはそれを見てすかさず能力を開放する。

 

 見る見るうちに巨大化するセンゴク。その姿はまるで大仏である。これこそが海軍トップの悪魔の実の能力、世界でも稀に見る動物系幻獣種ヒトヒトの実“モデル大仏”の能力だった。体全体が黄金に光り、その巨体は巨人族をも圧倒するほどである。

 

「エースの処刑は邪魔させんぞ麦わらのルフィ!貴様もここでエースもろとも処刑してやる.......!」

 

ルフィは急いでエースの手枷に鍵を差し込もうとするが次の瞬間、何者かの光線により鍵が木っ端みじんに砕かれた。

 

「簡単には逃がさないよォ~。砲撃用意。」

 

処刑台に向けて指を向ける海軍大将黄猿。その周りには大砲を設置した海兵達が並んでいた。

 

「狙うは処刑台にいる麦わら、火拳、そして虎狼だ!撃て!!!」

 

中将の号令により大砲が一斉に火を噴いた。処刑台の上ではセンゴクがルフィに襲い掛かる。

 

「くそッ!『ゴムゴムの......ギガント風船!!!』」

 

ルフィはエースを守るようにその体を膨らませた。センゴクの衝撃波を伴った拳と四方からの大砲の弾が風船のように膨らんだルフィを襲う。センゴクの拳には覇気も纏われており、ルフィは血反吐を吐いた。

 

「死ね!麦わら....!」

 

ルフィは耐え切れず膨らませた体を元に戻してしまう。エースを守るものはなくなった。そして、爆音とともに処刑台が火の海になりルフィ達は処刑台から落ちた。

 

ガラガラと音を立てて崩れる処刑台。センゴクは弾に当たらないように回避する。

 

「追撃だァ!まだまだ撃てェ!!!」

 

処刑台が跡形もなく無くなるほどの攻撃が行われる。黄猿の光線もそこに加わり、パシフィスタも追撃する。視界を奪われるほどの強烈な光と耳をふさぎたくなるような爆音が広場を襲った。その光景を見た誰もが生き残れないと思うほどのものだった。

 

どす黒い煙が処刑台があったところから上がる。その爆炎は消えることはない。それもそのはず、海軍は大砲の弾を全て使い切ってしまっていたのだ。センゴクは爆炎を睨みつけるように見ており、その横でボロボロのガープが背を向けて胡坐をかいて座っていた。

 

「油断はできんぞガープ。」

「......分かっとるわい。」

 

 

 

 

 

このような形で処刑が行われるとは誰もが予想だにしていなかった。そのあまりの出来事に世界中が沈黙した。

 

 

 

「エ...エース......。」

 

誰の呟きだっただろうか。それがきっかけとなり海賊達の声が聞こえてくる。落胆の色が隠せないでいた。海賊達の中には涙を流す者、拳を地面に打ち付けて許しを請う者、ただその黒煙を見つめているだけの者が続出する。全員の目的が果たせなかった事に白ひげはただ沈黙していた。

 

「嘘だろ...おい。」

 

白ひげ海賊団が半ば諦めかけていたその時、濛々と上がる黒煙の中に突如として真っ赤な炎が出現する。

 

「な、何だあれは?!」

 

海兵達が驚く。センゴクは能力を発動し、ガープは立ち上がって真っ赤な炎を見つめた。海兵達は再び戦闘態勢に入る。燃え盛る炎を見てカープの表情は何故か安心したようなものだった。

 

「狼狽えるな....!仮に奴らが生きていたとしても返り討ちにしてしまえ!」

 

センゴクの声に答えるように海兵達の雄叫びが響いた。

 

まるで生き物のような炎が蛇のように蜷局を巻き、立ち上っていた黒煙を瞬く間に飲み込んでいく。そして竜巻のように天に向かって伸びて空に一つの模様を浮かび上がらせた。

 

誰もが知るその模様。それが分かった海賊達に思わず歓喜の笑みが浮かぶ。

突如として空に浮かびあがったのは、世界最強の海賊団白ひげ海賊団のシンボルマーク。

 

 

 

白ひげの髑髏がそこにはあった。

 

 

 

 

 炎の柱が一瞬にして消え去る。そこから現れた3人の男。その姿を認識した海賊達は思わず叫んだ。

 

『オォォォオオオーーーーーーーーーーッ!!!!』

 

 

 

 

 

 

「すまねえなウォルフさん。助けてもらっちまって。」

「ありがとおっさん!!エース助けてくれて!!!」

 

満面の笑顔でお礼を言うルフィ。そしてエースはヒューに向かって頭を下げた。ヒューは笑いながら答える。

 

「てめェが生気のない目してたら俺ァその場で殺してたぜ!ダハハハハッ!」

 

エースの海楼石の手錠を外したのは他でもないヒューだった。インペルダウンで自分に付けられていた手枷を木っ端微塵にした要領でエースの手錠も破壊したのだ。攻撃されていた最中だったため時間はかかったがエースの能力を無事解放させた。エースはそのおかげで攻撃から逃げ延び、今に至る。

 

 元々、ヒューにとってエースなどどうでもよかった。マリンフォードで好き放題に暴れ、時を見計らってこの場から脱出しようと考えていたのだ。しかし、エースを見て予定を変更したのだ。

 

・・・ここで助けたら面白ェモンが見れるかもなァ・・・

 

ヒューの気紛れによってエースは助けられたのだった。

 

自由に動けるようになったエースは海兵達に向かって拳を放つ。

 

「『火拳!!!』」

 

燃え盛る海兵達を横目に、ヒューは広場に降り立つと拳を握りしめて地面に突き刺した。

 

「『覇震』」

 

巨大なクレーターが広場に広がる。海賊達をも巻き込みながら広場を揺らす。そしてクレータができた場所の鋭い破片となった石畳が宙に浮かんで四方八方に弾丸のように飛び、周りの人間をを襲った。

 

「ダハハハハハハッ!!!予想外の出来事ってかァ?!海軍!!!これが戦争だぜェ!!!」

 

向かってくる海兵達を拳一発で吹き飛ばすヒュー。目の前に立つ者すべて攻撃対象に入った今ヒューを止める者はいない。

 

「よくもやってくれたのォ......虎狼。」

 

ヒューは笑みを浮かべたまま声を発した海兵を見る。そこにはサカズキが体をマグマに変えて立っていた。

 

「ダハハハハッ!!!かかってこい!返り討ちだァ!!!」

 

両腕を黒く変色させ、サカズキに殴り掛かっていくヒュー。サカズキも同様にマグマの拳をヒューに放った。

 

「問答無用じゃァ!!死ねウォルフ・D・ヒュー!!!」

 

サカズキとヒューの拳が交わる毎に爆音が響く。とても殴り合いをしているような音ではなかった。

 

ヒューの拳がサカズキの頬を掠め、その隙にサカズキがヒューの腹に蹴りを放つ。後方へ吹き飛ばされたヒューだが、体勢を立て直して再びサカズキに拳を放った。

 

サカズキの胸辺りにヒューの拳が突き刺さるが、サカズキはロギア系マグマグの能力であるためにそこだけを空洞にさせてヒューの拳を回避する。

 

「ワシには効かんわい虎狼!!!」

 

勝ち誇ったようなサカズキに対しヒューは構わずサカズキの側頭部を蹴り飛ばした。地面を転がるように吹き飛んだサカズキは頭から血が出ているのを手で触って確認し、ヒューを睨みつける。

 

「海に嫌われた海兵がこの俺に敵うってェのか?悪魔の実が最強ってわけじゃあねェんだぜ......。」

 

ヒューは武装色の覇気を腕一本に纏わせる。そしてその腕を振り上げて笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだなァこの感覚ゥ...。」

 

禍々しいほどの覇気を体中から発するヒュー。サカズキはヒューに攻撃を仕掛けようとするが隙が見つからなかった。何をしても一瞬で倒される未来しか見えないのだ。

 

「舐めるなァ......虎狼!!!」

 

ヒューは動けないサカズキを冷酷ともいえる眼差しで見つめながら口を開く。

 

「俺は海賊、てめェ等は海軍......答えは一つしかねェよなァ!!!!」

 

挙げていた腕を思い切り振り下ろそうとするヒュー。しかし、その腕を撃ち抜く光線がどこからか飛んできた。腕から鮮血が舞い、笑みを浮かべていたヒューの表情が無くなる。

 

「簡単にここは壊させないよォ、ウォルフ・D・ヒュー。」

 

無表情のヒューは攻撃を妨害した人物を睨みつける。そこには海軍大将黄猿ことボルサリーノが立っていた。

 

「サカズキ大将ォここはあっしに任せて火拳を頼んだよォ〜。」

「フン!」

 

サカズキは答えることなく体をマグマに変えてエースの方へ飛んで行った。ヒューと次に対峙するのはボルサリーノ。

 

「厄介だよねェ〜覇気使いは。骨が折れるよォ。」

 

ヒューはボルサリーノへと駆け出す。ボルサリーノの体は光となってその実体を無くしヒューの目の前に現れた。そして実体化すると同時にヒューを蹴り飛ばす。

 

ボルサリーノの速さは光速。到底目では追えない速さだが、ヒューはその蹴りを間一髪で避けた。ボルサリーノは予想していたかのように連続で光速の蹴りを放つ。一度は避けることができたものの連撃となるとヒューの体はまともにくらってしまう。

 

「遅いねェ~。」

 

涼しい顔でヒューを蹴り続けるボルサリーノ。ヒューは何もせずただ蹴りを受けるだけとなっていた。

 

「どうした、そんなもんかい?伝説の大海賊さんよォ~?」

 

抵抗さえしないヒューにとどめの蹴りを放って吹き飛ばし、光線で追撃する。指から放たれた光線はヒューの体を貫いた

 

 

かに見えた。

 

 

何事もなかったかのようにゆっくりと立ち上がるヒュー。

 

「足りねェ......足りねェぞ。どいつもこいつもつまらねェ事ばかりしやがって。殺す気で来いよ...海賊だぞ俺ァ!!!!」

 

ヒューが今までにないほどの怒声を上げる。ボルサリーノの光線でヒューの身体は傷は無数にあるものの致命的なダメージは全く無いようだった。

 

「遊ぶのもやめだァ!!!」

 

声を張り上げてヒューは吠える。目は血走り、いつも笑みを浮かべているその表情は怒りに染まっていた。

 

「怖いねェ~。」

 

ボルサリーノがそう言うが焦りなどは微塵もなかった。再び光線を放つべくヒューに指を向ける。しかし次の瞬間、ボルサリーノが後方に吹き飛んで行った。そしてマリンフォードの建物に突き刺さり、半壊させながらようやく止まった。

 

ヒューは吐き捨てるように呟く。

 

「チッ...面白くねェ。」




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マリンフォード崩壊?!轟け、覇王の咆哮!!

「やってくれたねェ〜。」

 

壁に激突したボルサリーノは何事もなかったかのように立ち上がり、スーツについた埃を払う。そして、指をヒューに向けた。

 

「大人しく捕まっちゃいなよォ〜。」

 

光線が再びヒューを襲う。しかし、それはヒューの身体を身体を貫くことはなかった。ボルサリーノが気がつく間も無く目の前にヒューの拳が迫っており、再び壁へと激突させられる。そして間髪入れることなくロギア系の能力者であるボルサリーノの身体をヒューの拳が襲った。

 

数発、覇気を纏うヒューの拳を喰らったボルサリーノだったがその身体は瞬く間に光となってヒューの間合いから脱出する。そして、瞬時に身体を実体化させて光速の蹴りを放った。その威力はグランドライン前半の海最後の島、シャボンディ諸島の島々を創っているヤルキマンマングローブを根元から破壊する威力であり、生身の人間ならば塵一つ残らない一撃と言っていいほどのものである。

 

ヒューはいつもの笑みを浮かべることなく腕を振り上げ、その指先に武装色の覇気を纏わせた。当たれば無傷では済まない蹴りが迫って来ているのにも関わらず余裕の表情だった。

 

「『豪覇撃』」

 

小さくハッキリと呟く。次の瞬間、ボルサリーノの蹴りから放たれた光線がかき消えたかと思うとヒューの斬撃が威力を増しながらボルサリーノに襲いかかった。それを飛んで避けるボルサリーノ。そのまま止まることなく斬撃はマリンフォードの広場を言葉通り真っ二つにしながら海兵や海賊を巻き込んでいく。そして遂には海軍本部の『海軍』と大きく書かれた建物を破壊した。マリンフォードの象徴というべき要塞が崩れ落ちる。

 

この光景を見ていた全員が動きを止めた。それと同時にほとんどの海軍将校達はヒューを攻撃対象とし、それ以下の海兵達はヒューの力にただ唖然とするばかり。海賊達も隊長格を除いてはヒューの一撃に驚くしかなかった。

 

「止められるモンなら止めてみろ......。」

 

吠えるヒューに対し、将校達が攻撃体制を取る。中将も、エースを追っているサカズキを除く大将2人もヒューを囲んだ。

 

「おいお前ら、このじーさんは絶対に逃がすんじゃねぇぞ。」

「分かってますよクザン大将。」

「殺す気で行かないとねェ〜こいつを野放しにしておくと海軍の名が泣くよォ〜」

「正義の名にかけて虎狼のウォルフはこの場で仕留める......。」

 

全員がヒューを生死を問わず倒すことだけを考えていた。ヒューは自分を囲む将校達を睨みつけたまま動くことはない。

 

「何もかもが遅ェんだよ......テメェ等、俺を忘れたとは言わせねェぞ。」

 

中将達はヒューにとって知っている顔ばかりだった。そして、ニヤリと笑ったヒューの姿が将校達の前から掻き消えた。全員が構え、見聞色の覇気でヒューの動きを感じ取る。

 

「相手は老いぼれ一人だ!我々が力を合わせればどうとでも......ッガハァッ!?」

 

ヒューの動きを覇気で感じていたにも関わらずもろに攻撃をくらい吹き飛ばされるダルメシアン中将。ヒューの攻撃は止まらない。

 

「やれやれ......まったく。アンタ達は下がってな。」

 

ヒューが襲ってくる中、前に躍り出た一人の中将。焦った様子もなく涼しい顔をしてヒューを迎え撃つ。

 

「老けたなァ!おつるゥ!」

 

腕を振り上げ、拳を放つヒュー。つると呼ばれた女性の中将も拳を突き出した。彼女はガープと同期の海軍中将でありウォシュウォシュの実を食べた洗濯人間である。ため息をつきながらつるは呟く。

 

「アンタはいくら洗っても改心しない馬鹿だからね。本当に厄介だよ。」

 

襲い掛かる拳を避け、おつるはヒューの顔に轟音と共に拳を叩きこんだ。吹き飛ぶヒューに追い打ちをかけるように他の中将達が攻撃を仕掛けていく。

 

「何も考えられなくなるまで真っ白に洗濯してあげようかね...。」

 

つるもヒューに向かって攻撃を仕掛けた。ヒューは群がる将校たちを拳だけで応戦していく。

 

「『覇拳』」

 

その一撃で3人の中将が宙を舞う。追い打ちをかけるように拳を振りかぶったその時、ヒューの頭に銃口が突き付けられた。

 

「大人しく死ね。」

 

ヒューが銃を突き付けている中将の一人に目を向けると同時に、銃の引き金が引かれた。

 

確実に頭を打ち抜く距離で発砲されヒューが弾丸を避けることは不可能に近かった。しかし、悲鳴を上げたのは発砲した中将だった。肘が逆方向に曲がり骨が付き出るほどの重症。誰もが目を疑った。

 

「惜しかったなァ......。」

 

ヒューは覇気を垂れ流し、腰を落とし、腕を顔の前でクロスさせて構える。そんなヒューの異変を感じ取ったつるはヒューに攻撃しようとしている中将たちを止めた。

 

「アンタ達!用心しな!虎狼が......牙をむくよッ!」

「ダハハハハァ!!」

 

練り上げられた覇気がヒューの両腕に集まっていく。再びヒューに攻撃を仕掛けようとする中将達だったが、その場にいる全員が蛇に睨まれた蛙のように身動き一つできずに固まった。だがつる一人だけはヒューがこれから放とうとしている攻撃を止めるべく動き出す。

 

「やはり殺しておくべきだったね...あの日あの場所で。当時の上層部はアンタを生かす方針のようだったけど、アンタは今こうして世界に牙を向けている。」

 

ヒューは笑みを浮かべながら答えた。

 

「世界だァ?もう遅ェよ。」

 

狂気とも呼べる眼をギラギラと光らせながら叫ぶヒュー。

 

「俺は俺の意思で死ぬ。邪魔はさせねェ!!!」

「私ら老いぼれはもう出る幕じゃないんだよ...ウォルフ・D・ヒュー!」

 

自らの能力を使ってヒューに攻撃を仕掛けるつる。だが、ヒューが放った腕の一振りでつるは吹き飛ばされた。

 

「覇王の咆哮...。」

 

ヒューはすぐさま勢い良く息を吸い込み、口を開けた。

 

「ガアアアアァァァァァァッ!!!」

 

その場にいる全員が耳を塞いでしまうほどの叫びがヒューから発せられる。

 

そしてヒューの雰囲気がガラリと変わり、その雰囲気に中将達は今まで以上に気を引き締めて攻撃体勢に入らざるを得なかった。

 

「これが海賊王と同じ世代か。」

 

思わず出てしまうヒューに対しての恐れにも似た言葉。

 

「此奴をそこら辺のジジイと同じように考えちゃあいけないよ。今此奴を止められる人間はこの世界で数える程もいない。だけど...。」

 

滅多に焦る表情を見せないつるがこれ以上油断は出来ないといった面持ちでヒューを睨む。刹那、ヒューの体がその場から消える。無差別に海軍将校達を吹き飛ばしながら進んでいき、ヒューに向かって突き出された剣は粉々に砕かれ、打ち出された銃弾は見聞色の覇気で躱されて掠りもしなかった。

 

ヒューの攻撃をなんとか凌いだつるは呟く。

 

「...意地でもこの男を止めないと海軍の名が廃るってものさ。」

 

つるの一言でヒューにやられた中将達の士気が再び上がる。そして海軍の攻撃方法、『六式』を使ってヒューへと襲い掛かった。

 

「覚悟しろ!虎狼!」

 

高速移動の『剃』を使いこなしながらヒューへ一斉に襲い掛かる中将達。覇気を使い、『嵐脚』を放ちながら逃げ場をなくすように八方から攻撃を仕掛ける。たとえ逃げたとしても、待ち構える大将の容赦ない攻撃がヒューを襲う。

 

ヒューは放たれる『嵐脚』を躱しながら大勢の中将の一人の胸ぐらを掴み、獰猛な笑みを浮かべて拳を振り上げる。そして鋼鉄よりも硬い拳が中将の顔面に放たれた。ものすごい衝撃が周りの中将達を巻き込んで広場を揺らす。ボルサリーノが指をヒューに向けて光線を放とうとし、クザンが氷塊を手のひらに生成した時、爆音がマリンフォードに響いた。

 

「そろそろ戦争も終盤だねぇ~クザン大将ォ、あっしは麦わらを追うよォ。」

 

ヒューを狙っていたボルサリーノがその爆音により戦局が変わったことを知り、逃げるルフィに標的を変えてその場から離れた。クザンは頭を掻きながらボルサリーノが駆けて行った方向を見る。

 

そこには無惨な死体で血まみれのエースが倒れており、その先にルフィを担いで走る元七武海のジンベイの姿があった。

 

 

「アーララ、エースもあっけなかったじゃないの。『アイス塊・両棘矛』」

 

クザンは遠ざかるジンベイに向けて氷の矛を無数に放つ。しかし、それはジンベイを貫く前に阻止された。

 

「エースの弟は殺させん!青雉!」

 

3番隊隊長、ダイヤモンド・ジョズの世界最高の硬度を持つ拳によって氷は粉々に砕ける。そしてその巨体に似合わない速さでジョズはクザンの前に降り立った。

 

「終わりそうにないね...こりゃ。」

 

クザンが能力を使い、ジョズを氷漬けにしようとした次の瞬間、何度目かわからない立っていられないほどの揺れがマリンフォードを襲った。その影響によるものか、広場が真っ二つに割れる。今までになく底が見えないほどの溝ができ、溝を隔てた向こう側には世界最強の男が立っていた。

 

「そういうことかァ!ダーッハッハッハ!」

 

笑い声をあげるヒューの元にスクアードが走ってくる。

 

「ウォルフの兄貴!オヤっさんがッ!!」

「ダハハハッ!おうスクアード、オメェこいつらの相手してやれ。俺ァ......。」

 

ヒューが見た先にいたのは笑みを浮かべ、薙刀を地面に打ち付けた白ひげ。ヒューは考える間もなく、掴んでいた中将を放り投げると足に力を込めてその場から跳んだ。

 

「もういっちょ派手に暴れてくらァ!!!」

 

ヒューは空中で、腕に力を入れて武装色の覇気を纏わせると拳を構える。狙うは殺気を垂れ流して海軍本部の巨大要塞を睨みつける白ひげ。白ひげは薙刀を振り回しながら溝の向こう岸から跳んでくるヒューへ向けた。

 

「オメェは引っ込んでろ!アホンダラァ!!!」

「ダーッハッハッハハ!おうニューゲートォ!死に急ぐんじゃねえェぞ!兄弟ィ!!!」

 

次の瞬間、拳と薙刀がぶつかり、マリンフォードに轟音が響いた。




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世界最強の男達、かつて交わしたあの日の盃!

「ダーッハッハッハ!おぅニューゲートォ!死に急ぐんじゃねェぞ!兄弟!」

 

白ひげが振り回した薙刀を、武装色で硬化させた腕で受け止めたヒューは笑い声をあげながら地面へと降り立った。

 

「オメェは引っ込んでろ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

ヒューを睨みつけるその目は闘志を灯していたが、身体は満身創痍の白ひげ。スクアードから受けた傷が体力を著しく奪い、世界最強の男とはいえ第一線で戦い続けた男の体は既に限界だった。

 

肩で息をしながらヒューを睨みつけ、薙刀を再び振り回して地面に柄を立てる白ひげ。そして崩れる瓦礫の中から出てくる海軍大将サカズキの方向へと視線を向けた。

 

「死に損ないが、一人増えたのォ・・・。そんなに死にたいなら貴様等まとめて処刑じゃァ!!!」

 

白ひげに吹き飛ばされ、額から血を流すサカズキはそう叫ぶと身体をマグマに変化させて白ひげとヒューに向かって馳けた。

 

「死ねェ!老いぼれ共が!」

 

白ひげが薙刀にグラグラの実の能力を纏わせ、サカズキを迎え撃とうとする中、ヒューは笑い声をあげた。

 

「ダーッハッハッハ!クソガキがなんか言ってやがる!ダハハハ!お前も笑ってやれェ!ニューゲート!ダハハハハハハ!」

「馬鹿野郎、笑いにもなりゃしねェよ。」

 

ガキィイイン!!!

 

白ひげの薙刀とサカズキのマグマと化した拳がぶつかり合う。間髪入れずサカズキの拳が再び白ひげへと襲い掛かった。

 

「おい、俺とも遊んでくれやァ!」

 

ヒューが高速でサカズキの真横へと移動し、蹴りを放つ。サカズキは焦ることなくヒューの蹴りが通過するであろう軌道を読み、身体をマグマに変化させて回避する。

そして変化したマグマが数倍にも膨れ上がり、白ひげとヒューを飲み込もうとしていた。

 

「死体も残らず、焼け死ねィ!」

 

ドゴォオオオオン!

 

爆炎と共にマリンフォードの広場に煙が立ち込める。白ひげととヒューはどうなったのかと固唾を飲んで見ていた海軍と白ひげ海賊団の両者にどよめきが起こっていた。

 

彼らの視線の先には仁王立ちのまま微動だにしない白ひげと、獰猛な笑みを浮かべたヒューの姿があった。

 

「ダハッ、久々の殺し合いは胸が躍るぜェ!インペルダウンじゃ骨のある奴ァ居なかったからなァ・・・」

 

再びサカズキへと襲いかかるヒュー。

 

「オラァ!まだくたばるなよ!クソガキ!俺ァ、お前に何も恨みはねェが、俺の兄弟がキレてんだ。一発殴らねェと気が済まねェってもんだろ!」

 

ヒューの腕に武装色の覇気が纏われる。そして、ヒューに向かって拳を振り上げていたサカズキの頭を掴み上げた。

 

「なっ!?」

 

ヒューの腕から逃れようとするも、それより速くヒューはサカズキの後頭部を地面へと叩きつけた。そして、ヒューの背後から白ひげの薙刀が出現する。

 

「俺達を処刑だァ?海軍のハナッタレが・・・」

 

ヒューの手が離れ、距離を取ろうとするサカズキだったが、白ひげの薙刀がサカズキに直撃する。

 

「舐めるなァ!」

 

攻撃を受け、口から血を吐くサカズキ。しかし、それを何事もなかったかのようにサカズキのマグマと化した腕が白ひげを襲う。白ひげはニヤリと白い歯を見せると、腕を振り上げ、グラグラの実の能力を腕に纏った。

 

サカズキと白ひげの拳がぶつかり合った瞬間、サカズキのマグマと化した腕が四方に弾け飛ぶ。一方の白ひげはサカズキを完全に捉えていた。

 

白ひげの拳がサカズキの頬を撃ち抜き、グラグラの実の能力によりサカズキの顔が変形するほどの衝撃を与える。その攻撃により、サカズキは成すすべなく地に沈む。

 

「グゥウウウ・・・クソッタレがァ!死にさらせ!白ひげェ!」

「ダハハハハハハァ!さっさと寝とけェクソガキ!」

 

武装色の覇気を纏った拳を振り上げサカズキに狙いを定めるヒュー。白ひげは薙刀から手を離し、両腕にグラグラの能力を纏った。

 

「勘違いしちょりゃあせんか・・・ジジィ共が。貴様等の・・・海賊共の時代は終わるんじゃア!」

 

再びボコボコと身体を煮え滾らせるサカズキ。

 

「死体も残らず焼け死ねェ!『流星火山!」

 

マグマの拳と共に巨大なマグマの塊が白ひげとヒューの視界を覆う。

その状況の中でもヒューは白い歯を見せて笑っていた。

 

「ダハハハハッ、ニューゲート!やっぱり悪魔の実って奴ァとんでもねェな!」

 

白ひげはニヤリと笑いながら答える。

 

「悪魔の実は最強じゃあねェ。どっかのバカタレが言ってたなァ。」

「ダッハッハ!そうさ!そうだぜ兄弟!実を食ったから最強じゃあねェ・・・」

 

笑みを深くしながらヒューは腕を振り上げる。

 

「覇気を使えるから最強ってわけでもねェ・・・」

 

襲いかかるマグマの塊が視界を覆い尽くしているが、逃げる素振りさえ見せない2人は余裕の表情で今の状況を作り出した人物を見据えた。

 

「この世界で最強なのはなァ!ダハハハハッ!ダハッ!ダハハハハハハハ!」

 

この日一番の笑い声を上げながら拳を力の限り振り絞る。

 

「この俺達兄弟(・・・・)しかいねェだろ!!なァ!ニューゲート!」

 

-------------------------

 

〜62年前 偉大なる航路(グランドライン)後半の海、新世界と呼ばれる海のとある島

 

島の船着場で二人の少年が言い争っていた。

 

「お前も来いよ!いいだろ!なァ!」

 

「いや、俺は行かねェ。」

 

黒髪で目つきの鋭い少年が目の前の海に浮かぶ船を指差して叫ぶ。

 

「俺と海に出るんだよ!この船で!」

 

頑なに誘いを拒む背の高い少年は溜息を吐く。

 

「ハァ・・・・お前、どうやってこの船に乗るんだよ。これ、天竜人の船だぞ。」

 

そう、目の前には世界政府のマークが描かれている巨大な船が浮かんでいた。

見上げるほど巨大な船に乗って目の前の少年は自分と二人だけで航海しようとしている。その上、自分達みたいなただの餓鬼が乗れる船ではないことをよく知っていた。・・・溜息しかでなかった。

 

「うるせェ、俺はこの船がいいんだよ!惚れたんだ!お前とこの船で自由に海を旅すんだ!」

 

「だからお前はバカなんだ。行くなら一人で行け。航海するのはいいが、海に出る前に死にたくねェよ。」

 

黒髪の少年が唾を撒き散らしながらさらに吠える。

 

「よっしゃ!決闘だ!俺が勝ったらこの天なんちゃらとかいう奴の船で海へ出るぞ!」

 

「お前一人で行けよ。そして海に出る前に死んどけ。」

 

黒髪の少年は拳を握りしめ、構える。しかし、やれやれと首を振りながら踵を返して船から遠ざかる背の高い少年。暫くポカンとその場に立ち尽くした。そして思い出したかのように叫ぶ。

 

「そんなに船が嫌なら泳いで海に出ようぜ!ニューゲート!」

 

ニューゲートと呼ばれた少年は立ち止まり、今日何度目かの溜息を吐きながら呟く。

 

「そんなこと考える奴なんざお前しかいねェよ。お前一人で行って海王類の餌にでもなればバカも治るだろ。」

 

再び歩き出す彼は、後に世界最強の海賊と名を馳せるようになるエドワード・ニューゲート。

そしてその後ろを何やらわめき散らしながら歩く少年が、後に一匹狼の大海賊と呼ばれることになるウォルフ・D・ヒューである。

 

「海王類のステーキ美味ェだろうなァ〜。・・・想像したらハラ減ってきた。よし!ちょっくら凪の海(カームベルト)まで行ってくる!先帰ってろ、ニューゲート!今日は宴だァ!」

 

ヒューはそう宣言すると着の身着のままその場から海へ飛び込んだ。

 

ニューゲートは振り向きも、返事もせずただ無言で歩き続けるのだった。

 

海王類のステーキを求めて、それから1年ヒューは帰らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに書きました。

読んでくれた人ありがとうございます。

 



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オレ達は家族だ!そうだろう兄弟?

この世界にはいくつもの国が存在している。そしてその国々のほとんどが加盟している組織。それが世界政府である。800年前、わずか20人の王達がその組織を創設し、その権力は800年経っても衰えることなく絶対的なものとなっている。

ヒューやニューゲートが住む新世界のとある国は世界にわずかながら存在する世界政府非加盟国であり、その現状は国の名前こそあるものの、国家として形を成していない無法地帯だった。

 

国の名は『スフィンクス』

 

そんな国の一つの荒廃した街をニューゲートが、鉄くずを片手に歩いていた。

ニューゲートの周りには彼より年下の年端もいかない孤児たちが十数人歩いている。

 

「腹減ったな〜。ヒュー兄ちゃんどこまで行ったのかなぁ。」

「ニューゲート兄ちゃんが言ってただろ。兄ちゃんのハラが減りすぎて海王類の餌になったって!」

「そっか〜ヒュー兄ちゃん死んじゃったか〜。あ〜ハラ減ったな〜」

 

後ろで交わされる会話を聞きながらニューゲートは黙々と進んで行く。

そして、街を抜けた先の海へと繋がる道へと出た先に目に映ったものを見て頰を緩めた。

 

「相変わらずバカヤロゥだなアイツは。」

 

ふと呟いたニューゲートの笑みを見て周りの孤児たちも段々と笑顔になっていく。

 

「今日はうたげだな?だな?」

「あったりめーだろ!待ちに待ったんだ!」

 

彼らの声は歩みを進めるにつれて大きくなっていく。そしてついには歌を唄い出し、孤児たち全員の合唱となった。

 

『うったげだうったげ〜かいおうるいのすてーきだ〜』

 

ニューゲート達が海岸に着くと、砂浜には巨大な海王類が打ち上げられていた。

その傍で一人の少年が骨の付いた肉を一心不乱に食べている。その姿を見てニューゲートは無表情で少年の後ろに立った。

 

「何食ってんだオメェ...」

「ムシャムシャ.....アァ?この声は...?」

 

頭に疑問符を浮かべたが少年は肉を食べるのを一瞬やめたが、そのまま次の肉に手をつけて囓ろうとする。しかし、それをニューゲートが許さなかった。

少年の頭を背後からがっちりと掴み、顔面を砂浜へ叩きつける荒技。

少年はなすすべもなく顔が砂まみれになる。

 

「ぺ〜っぺっぺっ!口に砂が入ったァ!ん?意外と塩っ気があって肉と合うかも!ウマウマ」

 

更に青筋を浮かべ拳を握るニューゲート。少年は肉を齧りながら振り向く。

 

「ニューゲート!お前も食えよ!海王類のステーキだぜ!」

「1年ぶりの挨拶がソレかァ!アホンダラァ!!!!」

 

海王類を屠った少年、ウォルフ・D・ヒューはニューゲートの怒りの鉄槌によってそのまま星になった。

 

「「「「ヒューにーちゃああああああん!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

読んでくれた人ありがとうございます

 

 

 

 

 



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兄弟の決意!歩み始める海賊への道!

ヒューとニューゲート、浮浪児達は海辺に打ち上げられた巨大な海王類を囲んで歌い踊りの宴をしていた。

 

「いやァ〜!危ねぇところだったぜ!ダハハハハハ!お前ェら元気だったか?」

 

ニューゲートに殴られて文字通り飛んで行ったヒューは海王類を屠ったタフさを遺憾なく発揮してピンピンしていた。この1年の冒険を子供達に身振り手振りで語るヒュー。その光景を見ながらニューゲートは青筋を浮かべながら子供達に見せたことがないような笑みを浮かべている。

 

「それでよ!アテもなく泳いでたら出くわしたんだぜ!お前らが見たこともねェでーっけェ海王類がよ!」

 

子供達は目をキラキラさせながら耳を傾ける。その様子にヒューの冒険話はヒートアップしていく。

 

「俺は生まれて初めて死んだと思ったぜ。何せ山のようにでっけェ魚が俺を飲み込もうとしてんだからな!」

「ヒュー兄ちゃん死んじゃったの!?海王類に食われたの?!」

 

チッチッチと舌を鳴らして首を振るヒュー。

 

「俺ももうダメかと思ったその時だ。目の前に迫っていた海王類が一瞬でひっくり返っちまったのさ!」

「「「「ええええええ?!」」」」

「ヒュー兄ちゃんがたおしたのか?!」

「なんで?なんでなんで?!」

「さすがヒュー兄ちゃんだな!」

「かいおうるいさんしんじゃったの?」

 

子供達の怒涛のなぜなぜ攻撃が始まった。ヒューは笑みを浮かべて続きを話す。

 

「俺も何が起こったか分からなかったぜ。何もしてねェのに海王類が一瞬で倒されてたんだからな!それで訳もわからねェままその場で泳いでたんだがよ、現れたんだよソイツが!」

 

ヒューの表情が急に真剣な顔になる。ゴクリと唾を飲み込む音がした。

 

「俺やニューゲートよりも遥かに山のようにでっけェ大男が!」

「「「「うおおおおおお!」」」」

「俺はその山みたいな男が乗っている船に引っ張り上げられて気がついたらソイツの弟子になってた!俺はそこで鍛えまくって海王類を倒せるまでになったのさ!」

 

拳を握りしめて叫ぶ子供達。その無邪気さにヒューは笑い声をあげた。

 

「山のようにでっけー海王類に!」

「山のようにでっけー大男!」

「スッゲー!俺もみてえー!!」

 

白い歯を見せて笑うヒューは子供達に言い聞かせた。

 

「お前ェら!この目の前に広がる海の向こうには俺達が見たことも聞いたこともねェ物が沢山あるんだぜ!男なら!俺の弟なら!心踊らねェヤツはいねェだろ!いつか、俺達は船を手に入れて海に出るぞ!俺とニューゲート、そしてお前ェらがいれば何も怖くねェだろ!どんな奴が来たってイチコロだ!なァ!お前ェもそう思うだろ!兄弟!」

 

静かにヒューの話を聞いていたニューゲートはいつの間にかヒューの後ろに立っており、全力でヒューの頭を鷲掴んでいた。

 

「イデデデデデデェ!!!!!」

「オメェどこほっつき歩いてたって?!えぇ?ガキの世話放っぽり出してなァ!!」

 

ヒューの胸ぐらを掴み上げて怒鳴るニューゲート。この1年の恨み辛みを吐き出していく。

 

「お前が居ねェ間にオレがどれだけ苦労したと思ってる!また一つ隣の国が奴らの手で潰れた!ガキ共はお前が居ないと泣き喚き散らしやがるし!食いモンも満足に食えねェって時にお前は呑気に海王類のステーキだァ?!大男の弟子だァ?!お前なんか海王類のエサになっときゃ良かったんだ!」

「う、うるせェ!海王類がデカすぎて持って帰れなかったんだよ!あんなデケェの引っ張れねェだろ!ここまで引っ張って来るのに1年かかったんだよ!悪ィか!」

「んなこと聞いてねェわアホンダラァ!!!」

 

いつの間にか本気の殴り合いに発展してしまう2人。その様子を特に気にすることもなく子供達は久しぶりのご馳走に舌鼓を打っていた。

 

「ヒュー兄ちゃん相変わらずだなぁ。」

「でも、ニューゲート兄ちゃんちょっと元気になったよな。」

「そりゃそうさ!俺たちの兄ちゃんは2人揃った時が最強なんだ!どんなに強いヤツが来ても2人ならイチコロだ!」

「海王類のステーキウメーッ!」

 

砂浜に子供達の笑い声が響く中、顔をパンパンに張らせた2人は殴りあうのをやめ、同時に子供達の方を向いた。

 

『てめェら何笑ってやがる!』

 

怒りの矛先が笑い合っていた子供達にまで向かう。

 

「ヤッベ!みんな散れえ!」

 

1人が叫ぶとそれまで持っていた骨つき肉を放り投げ、子供達は蜘蛛の子を散らすように散り散りになった。

 

「ダハハハハハァ!ヨォ〜シ!お前ら!この1年どれだけ強くなったか見てやらァ!簡単にくたばんじゃねェぞ!」

 

指を鳴らしながら1歩ずつ歩みを進めるヒュー。1人目をあっさりと捕まえると、それを皮切りに続け様に子供達を捕獲していった。

 

「ダハハハハハァ!俺もこの1年で強くなっただろう!お前達がどこに逃げたか気配が分かるようになったんだぜ!」

 

捕まった子供達はヒューに向かって不満げな声を上げた。

 

「ずりーぞ!それー!」

「そうだーそうだー!」

「ヒュー兄ちゃんとかくれんぼしたら勝てねーじゃんか!」

「そうか……よし!これからかくれんぼするぞ!俺が鬼だ!お前ェら隠れろォ!」

 

子供達に指示を出すヒューにニューゲートの拳骨が落ちた。

 

「俺との話しが終わってねェだろアホンダラァ。」

 

ヒューは頭にでかいたんこぶを作って涙目になりながらニューゲートを見た。その瞬間、ヒューの目が細く鋭くなった。殺気が漏れる。

 

「ニューゲート、話し合いは後だぜ。何か来るぞ。」

「チッ、今日も来やがったか。ガキ共!荷物纏めろ!掃除屋が来やがった!」

 

ニューゲートの声を聞いて子供達は動き始める。しかしその行動は少し遅かった。

 

「ヒュー兄ちゃん!ニューゲート兄ちゃん!奴らだ!」

 

今までとはまるで違う必死の叫び。ヒューは目を細めるとニューゲートの方を向いた。

 

「海兵か?ゴロツキか?ここ1年で何があった。」

「そんなもんじゃねェ。アイツらは人間じゃあねェんだ。」

 

ニューゲートの殺気が鋭くなる。ヒューは目の前の光景に目を見開き、怒りで震えた。

 

「お前が1年前、天竜人の船で旅に出ようと言っただろう……」

 

子供達はその場から脱兎のごとく逃げ出す。

 

「オラオラ!遅ェぞ!クソガキ共がァ!」

 

現れたのは首に鉄の輪っかを付けて足に鉄球を括り付けた数十人の男達だった。

 

「その船に乗っていた奴らがコレだ。」

 

男達は逃げていく子供達に向かって銃口を向けた。

 

「そら!逃げろ逃げろォ!そんなんじゃ死んじまうぞ?」

 

笑いながら銃を撃つ男達。銃弾が当たらないよう回避する子達もいたが、逃げきれず銃弾に倒れる子もいた。

 

「クソがァ!!!早く逃げろお前ェら!」

 

拳を握りしめてヒューは男の1人を殴り飛ばし、一撃で戦闘不能にさせると標的を次の男に決めた。

ニューゲートも棍棒を振り回して男達を蹴散らしている。

2人にとって目の前の男達は脅威になり得なかった。

 

しかし、

 

「ゴロツキ2人に何やられてんだい。まあ、所詮は海賊崩れの現奴隷か。」

 

男達をあらかた倒したところで現れた新手の顔。

白いコートで身を包み、表情は優しげだがその目はヒューとニューゲートが感じたことがないほどの威圧感を放っていた。

 

「あー、お前達がここら一帯の浮浪児達を束ねてる少年か?」

「だったら何だ。」

 

ニューゲートは冷や汗をかきながら笑みを浮かべた。その横でヒューは掴んでいた血まみれの男を放り投げるとニューゲートに話しかける。その表情は無。

 

「コイツら……弟達を全員やりやがった。」

 

その言葉を聞いてニューゲートは薄い笑みを濃く、獰猛な獣のような笑みに変えた。周りを見渡すと血まみれの男達と、さらに血まみれの弟達が倒れ伏している。生気は感じられない。そして2人は目の前のコートの男を見据える。

 

「死ぬ気で行くぞ兄弟。」

「グララララァ、先にくたばんじゃねェぞ兄弟。」

「ゴミ掃除はこれで最後かなあ、大人しく死んでくれよ?小僧共。」

 

悠然と待ち構えるコートの男に向かって2人は駆け出した。

 

 

 

------------------

 

 

 

 

 

 

 

波打ち際でヒューは目を覚ます。

 

「また俺達だけが生き残ったのか。」

 

横を見るとニューゲートも目を開けて空を見上げていた。

 

「俺達は何で家族を守れないんだろうなァ。」

「そりゃお前ェ、俺達が弱ェからだろう。」

 

2人はそれだけ話すと軋む体を起こした。そして、無言で弟達の体を1人ずつ運び始める。

海がよく見える高台へと全員を運び終えた時、空は白み始めていた。

 

1人残らず銃で撃ち殺された。そんな事は生まれてから何度もあった。今2人が居るその高台は死んでいった家族が眠っている場所でもある。そして今日、そこにまた弟達が増えた。

 

 

 

ヒュー達の国に始まり、その周辺の国々までもがその力に屈した。男女、大人、子供、老人関係なく蹂躙する秩序も何も無い組織。世界政府の加盟国から外れた国の人々達だけが知る世界の裏の真実。

天竜人の気まぐれによって奴隷を使い、何ヶ国もこうやって潰して来た。まるでそこに住んで居る人々を人とも思わない所業。

その事を黙認している世界政府。

 

ニューゲートは脳裏に今日のような何度も見た光景を浮かべて呟く。

 

「何人ぶっ倒してもそれ以上に湧いて出て来やがる。この1年、お前がいない間に家族達が何人も殺された。お前の名前を呼んで死んだ奴もいた。」

「クソッタレが・・・」

 

握りしめた拳から血がとめどなく溢れる。ヒューに痛みは感じなかった。

 

「ニューゲート、その天竜人ってヤツは何処にいる。あの胸クソ悪ィ船は何処だ。俺達の家族を殺したヤツは何処だ。」

「お前一人で行くつもりか。」

 

獰猛な笑みを浮かべてヒューは歩き出す。

 

「アホか。俺達は2人で最強の兄弟だぜ。どんな強ェ奴が来てもイチコロだからな。」

 

ニューゲートもその言葉にいつものように笑った。

 

「グララララ。俺達は世界最強だ。なァ、兄弟。」

 

彼らが悲しみに暮れることはない。何度も踏みにじられ、裏切られてもその頬は涙で濡れることは決してありはしない。

 

『おれたちの兄ちゃんは最強だ!』

 

今までも、そしてこれからも、彼らは白い歯を見せて笑いながら生きていく。



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最終決戦?!襲いかかる黒ひげ海賊団!!

「ウォルフの兄貴ィ!!!オヤッさんを止めてくれェ!!!」

 

スクアード始め、白髭海賊団の船員達はサカズキとヒュー達の戦いを見て叫ぶ。

 

「ダハッ!愛されてんじゃねェかニューゲート!」

「俺の息子達だぜ。当たり前だろうがよアホンダラァ!」

 

眼前に広がるマグマの塊を白ひげはグラグラの実の能力を使って粉々に粉砕する。

一方のヒューは振り絞った拳を地面へと叩きつけた。

 

「『豪覇震!!!』」

 

ヒューを中心に地面がひび割れ、その瓦礫が意思を持ったかのようにサカズキを襲う。

 

「効かん!まずは貴様からじゃ!虎狼!」

 

難なく瓦礫を融解させ、拳のマグマがさらに巨大化する。しかし、その先にはすでにヒューの姿はなかった。

 

「オイ小僧、悪魔の実に頼りすぎなんじゃねェか?ダハハハハハァ!下っ端からやり直したほうがいいぜェ!ニューゲートもそう思うだろう?」

「グララララ!死んでやり直せクソガキが!」

 

気がついた時にはすでにサカズキの視界は天地が逆転していた。ニューゲートのグラグラの実の能力を纏った拳とヒューの武装色で硬化した蹴りがサカズキを襲う。

 

「グヌゥ………!」

 

血反吐を吐きながら地に沈むサカズキ。ヒューは逃さんとばかりにサカズキの胸ぐらを掴み、手刀を振り上げた。

 

「ダハハハハハァ!」

 

袈裟懸けにサカズキの体をヒューの斬撃が襲おうとしたその瞬間、ヒューの見聞色の覇気の範囲内に突如として何者かの存在が現れた。

 

「ダハハハ、面白くなって来たぜ兄弟。」

 

その存在がいる方向を見上げ、頰を緩めるヒュー。意識を刈り取られ、ボロボロのサカズキを離すとニューゲートに話しかけた。

 

「まだ暴れる力は残ってるか?ニューゲート。」

「………舐めんじゃねェ。」

 

そう言うものの、ニューゲートの身体は限界を超えている。気力で立っていると言っても過言ではない有様だった。海軍から受けた攻撃はじわじわとニューゲートの体力を奪っている。

だが、ヒューはニューゲートの様子を見て心配などしない。歯を見せて大声で笑う。

 

「ダハハハハハ!!それでこそ兄弟だぜ!だがなァ………」

 

ヒューの言葉に疑問を浮かべたその瞬間、ニューゲートの視界が歪んだ。

鳩尾に深々と刺さったヒューの拳。いつもなら何と言うことはないただのパンチが今のニューゲートにとっては何よりも重い一発だった。

 

「死に急ぐんじゃねえぞ兄弟。まだお前の航海は途中だろうがよ。」

 

ヒューの言葉がはっきりと聞こえたニューゲートはヒューの胸ぐらを掴む。

 

「親が息子達より長生きしてどうすッてんだ………なァ?」

「ダハッ!今更だぜニューゲート!俺達が何人見送って来たと思ってる。まだガキだった奴も居ただろう?俺達は奴らの分生きて来たじゃねェか!これからもそうさ!老い先短い人生?ハッ!まだまだだぜ兄弟!奴らの分の冒険をまだやってねェだろう!」

 

ヒューも負けじとニューゲートに向かって吠えた。

 

「オメェ、散々戦場引っ掻き回しといて俺に生きろだァ?呆れたぜ………さっさと引っ込んどけアホンダラァ!」

「ダハハハハハ!俺は本気だァ!」

 

2人が笑みを深くした瞬間、マリンフォードの一角に巨大な影が現れた。どよめきが起こる。

 

「あら、見つかっちった。」

「あ、あいつは…!?」

 

海軍将校達はその巨大な男を見て驚愕の表情を浮かべた。そして、海賊達もその存在に気付く。

 

「彼奴はインペルダウンに収容されているはず………何故ここにいる?!まさか!?」

 

ふとセンゴクはマリンフォードの防護壁の上へ視線向ける。そこには大男と同じ囚人服を着た集団が立っていた。その全員がインペルダウン最深部レベル6に収容されていた最悪の犯罪者だった。

 

「ゼハハハハハ!久しぶりだなァ!オヤジ!死に目に会えてよかったぜェ!」

「ティーチ………!」

 

中心で笑い声を上げている髭を生やした男。かつて白ひげ海賊団2番隊隊員だったが、一味の鉄の掟である仲間殺しを行い、当時4番隊隊長だったサッチを殺害し白ひげ海賊団を抜けた男。

2番隊隊長のエースは元隊員である彼を追っていた。そしてグランドラインのとある島で交戦し、エースは敗北。身柄を海軍に引き渡した後、王下七武海に名を連ねた。

 

この頂上戦争の引き金を引いた男がまさにそこに居た。

王下七武海の一角。黒ひげ海賊団船長、ヤミヤミの実を食べた能力者。

 

マーシャル・D・ティーチ

 

その場にいる誰もが驚きの表情を浮かべる中、一人ヒューだけは笑ってティーチを見ていた。

 

「ダハハハハハ!そうか!オメェの息子だったか!ありゃア!」

「もう息子じゃねェ。殺された息子達の仇だ。」

 

ニューゲートは自身の薙刀をマリンフォードの広場へ突き刺し、今にもティーチへ襲いかかろうとしていた白髭海賊団の方を見た。

 

「手ェ出すんじゃねェぞ………お前達。」

 

そう宣言すると薙刀を一振りした。斬撃が発生し、防護壁を粉々に破壊する。そして、ティーチを含む囚人達を巻き込んだ。

 

「ゼハァ!容赦ねェな!」

「ここで死ねティーチ!」

 

広場に降りたティーチとニューゲートが対峙する。囚人達もニューゲートを囲んでいるが、動くことはない。否、得体の知れない圧力に動くことができない。

 

「なんだ?オメェ等何で動かねェ?」

「白ひげの隣にいる男のせいですよ。奴が私達を釘付けにしてるんです………まさか、ここまでとは。」

 

ティーチの疑問にシルクハットの男が答えた。黒ひげ海賊団の船員であり鬼保安官の異名を持つ男。ラフィット。普段冷徹な彼がヒューを前にして冷や汗をかいていた。

 

「親子ゲンカに他人が突っ込むなんて野暮なことはしねェよな?オメェ等の相手は俺がしてやらァ………」

「インペルダウンの囚人服?ゼハハハハハ!老いぼれジジィだな!ゼハハハハハ!」

 

笑うティーチだが周りは笑えなかった。囚人達の内の一人、元インペルダウン看守長であり、レベル6に収容されていた雨のシリュウが口を開く。

 

「アンタは知らねェのか船長。奴はインペルダウン最深部で最古参の男だ。俺が看守になる前から今までずっとレベル6で息を潜めていた。」

「何ィ?」

「ムルフフフ………一筋縄ではいかないわよ。船長、助太刀は難しそう。」

 

カタリーナ・デボンがヒューから目をそらさずに呟く。ティーチには目の前のヒューがそこまでの男なのか疑問に思っていた。だが周りの反応は自分とは異なり畏怖を覚え、動けないでいる。その様子にティーチは閃いた。

 

「ゼハハハハハ!そんだけ強ェならアンタも俺の船に乗らねェか!待遇は良くしてやるぜ!」

 

その言葉がきっかけか、空気が変わった。

 

「俺を舐め腐ってるようだなクソガキが………。」

 

暴風のような覇王色の覇気がティーチを襲う。今まで感じていなかったその圧倒的な覇気がティーチを震わせる。

 

「な、なんだ?このジジィ?!」

「アイツを下に置くなんて考えんじゃねェ。俺が知る限り今まで一度も誰の下にも付いたことがねェ男だ。聞いたことくらいあんだろ。虎狼のウォルフだぜ。この男は。」

 

シリュウの言葉にティーチは一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑みに変わった。

 

「ゼハハハハハ!そうか!アンタがあの虎狼か!アンタとは会ったことは無かったが、よく聞いてたぜ!オヤジからなァ!」

 

そう言うや否や腕が闇のように黒く変化した。腕に始まり、ティーチの身体全体、立っている地面までもが闇に変化する。

 

「見ろ!これが最強の悪魔の実の力!ヤミヤミの実を食って手に入れた能力だ!ゼハハハハハ!俺の闇はあらゆるものを引き寄せる!」

 

その闇はニューゲートをも飲み込もうとしていた。

 

「どうだァ?!オヤジ!アンタのグラグラの能力も俺の闇の前では無意味なのさ!」

 

勝ち誇ったように笑うティーチとは裏腹にニューゲートは表情を一切変えることなく仁王立ちで睨みつけるだけだった。

 

「アンタは老いた!一人の息子を助けれねェ程になァ!時代は変わったんだよオヤジ!これからは俺の………ッ?!」

 

ニューゲートの薙刀がティーチの肩を切り裂く。武装色の覇気で纏った薙刀は自然系悪魔の実の能力であっても確実に実体を捉え、ダメージを与えた。

 

「ざまあねェなティーチ。オメェの性根は死んでも治らねェだろうよ。」

「クソがァ!イテェエエエエ!もう関係ねェ!オメェ等やっちまえ!」

 

ティーチは切られた痛みにのたうち回りながら叫ぶ。その言葉に各々が銃を持ち、ニューゲートへと向けた。

 

「ダハハハハハァ!言ったはずだぜ!この俺が相手だァ!」

 

銃口が火を噴く前にヒューはニューゲートの前に躍り出る。

 

「俺の兄弟はもう一人たりとも殺させねェ!」

 

そう言い放ち、ヒューは地面に拳を突き立てた。



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